フェイト・オブ・ストラトス~世界に描く軌跡~ (シューティング☆)
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プロローグその1 描かく剣の軌跡

 どうもこんにちは、シューティング☆です。遊戯王のほうどうしたんだよと思う方もいるでしょうが、進んでなかった上にパソコンがいかれ、しばらくは進められそうにないのに他のに手を出しました、すみません。
 実は言うと、他のインフィニット・ストラトスの二次見てたら書きたくなりました、それだけです。そんでもってインフィニット・ストラトスとソードアート・オンラインのクロスオーバーもの読んで相性いいほうだし組み込むかとやらかしております。

では、これよりプロローグとなります。どうぞ


 赤味のあるオレンジ色の夕焼けが、日暮れ間近の世界を包む。場所はVRMMO、SwordArtOnline、通称SAOと名付けられた仮想現実の世界の舞台、アインクラッド。

 脳に信号を送受信する通称フルダイブを採用したVR機器ナーヴギア、それを使うVRゲーム初のオンラインゲームの世界は、現実の日本と時間がある程度同期しているため、現実の日本もまたこの世界と同じように夕暮れ時だ。

 

 そしてSAOは、100層様々な要素が盛り込まれたフィールドからなる、空に浮かぶ巨大で広大な鉄と石の城、アインクラッドを舞台に様々なモンスターなどと戦うゲームだ。

 その第1層、始まりの街にある広場には、サービス開始当日である今日でも異様と言えるほどに人が詰められていた。

 ナーヴギアとSAOの初期生産分のパッケージを購入できた1万人、僅かにそこまで満たないが、そのほとんどがそこに揃っている。

 

 その場にいる全員が驚きと不安を隠さずにいる。何せ、この世界から現実に戻るための手段、ログアウトの表記がどこにもないことに加え、突然この広場に集められたのだ、無理もない。

 そしてその驚きと不安は、突如として空に現れたドロリとした血のような液体から形を変えた肉体のない赤ローブの言葉と行為から、大きな混乱へと波及する。

 

「プレイヤーの諸君、ようこそ、私の世界へ」

 

 それが最初であった。その赤ローブは、自身をこの世界、つまりSAOの製作者である茅場晶彦と名乗る。

 彼が言うにはログアウトできないのはこのゲームの仕様であり、ログアウトを試みる外部からの操作…外部電源の喪失、ネットワーク回線の切断、そしてナーヴギアをロック解除か分解、その他をすれば、前2つの場合は猶予があるが…死ぬ。

 猶予があるものはそれを過ぎれば、そして残りは猶予すらない。そして今まさに現実の要因によって死人が出ていると言った。

 

 実在、プレイヤー達がこのゲームをプレイするためのVR機器、ナーヴギアはヘルメット状であり、大容量のバッテリーを内蔵していること、信号素子から信号を放てることから、その信号の出力をあげることで電子レンジの要領で、頭を急速に振動させ脳を熱で破壊することも可能とのことだ、やるかどうかは別だが。

 

 そんな話しを聞いて動揺しないわけもなく、プレイヤー達は様々な言葉を口にする。主に罵倒だ。だがそんなことを気にも留めない赤ローブは、このゲームを恐ろしいものに決定付ける言葉を放つ。

 

「しかし、充分に留意してもらいたい。諸君にとってソードアート・オンラインは、既にただのゲームではない。もう一つの、現実となる。今後、あらゆる蘇生手段は機能を停止し、役目を終える。そしてヒットポイント、HPが0になった瞬間、諸君のアバターは永久に消滅し、諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される」

 

 一瞬にして、小さく短い悲鳴が僅かだが広場中に聞こえるほどに静まり返る。言った通りであるなら、それはつまり、このゲームでの死が現実のものになるのだ、と。

 

「うそ……だろ…」

「馬鹿馬鹿しい…」

 

 赤ローブは気にするつもりはないと言わんばかりに解放条件として、100層にいるこのゲームのラスボスを倒すことだと伝える。それは、あまりにも長く永く、途方もない数字だ。

 

 100、言うだけなら簡単だが、100層となると難しい。正式サービス開始前のβテストは2ヶ月間行われたが、その2ヶ月でもβテスター達は何度もHPを0にして復活したということを踏まえても、6層までしか行けなかった。

 復活できず、死んでしまう今だと戦うプレイヤーがどれほど現れるか分からない中、同じ期間で6層に行けるかと言われれば、無理であろう。

 

 そんな途方もなさにうちひしがれるプレイヤー達に、最後にと称して贈り物を送った。それは手鏡、そして…各プレイヤーの現実の自分の体だ。各々で端正込めて作ったアバターが崩れ、現実の顔に、体になる。誰もが混乱し驚愕する。人が別人に変わるのだ、驚かないほうが無理がある。

 

 そしてやることはやり、伝えることは伝えたのか、目的は達成されたと、このゲームの仕様が、この状況が自分の望んでいたことだと言い放ち、健闘を祈る言葉の後、赤ローブは消えていった。そして僅かな時間を置いて、プレイヤー達は混乱と狂乱に呑まれ、叫び声をあげる。

 

 そんな中でも数人は混乱が一週二週何周も回って冷静になり、すぐに広場から離れた。そんな数人のうち、悪趣味なバンダナをつけた少しガラの悪そうな野武士面な男性、クラインと、整った顔の少年キリト、人の良さそうな顔の少年ワンズは、選択を迫られていた。

 

 キリトはこのゲームの前段階、βテストに参加した数少ないβテスター、知識も経験もクラインとワンズより多い、一緒のほうが安全と言える。

だがそんな彼はβテストではソロプレイ、つまり一人で行動していたことが多かったため、大人数で安全に進むやり方は不得意だった。

 先に進むことを前提とし安全を考慮すると、後一人が確実、二人でギリギリだ。キリトと一緒に行くか行かないか、それが迫られた選択だ。

 

 クラインは他のゲームでも一緒で、SAOも徹夜でソフトを買った友人達と一緒にプレイする予定であり、あの場にいるであろう彼らを見捨てることできないと、行かない選択をした。そしてワンズは、現実の友達や知り合いは誰もいないからと一緒に行くことを選択した。

 

 

「そんな辛気くさい顔すんなって。生きてりゃまた会えるさ」

「でも、その、もしもを考えたら…」

「簡単にくたばってたまるかよ。初歩はキリトに教わったしな」

「あれ初歩中の初歩なんだが…」

「まあだろうな…」

 

 3人は別れる前に言葉を交わす。必ず生きて帰ろうという想いを胸に抱き。

 

「…じゃあな、クライン」

「……クラインさん、必ずまた会いましょう!そして、生きて帰りましょう!」

「おう!またな二人とも!…頑張れよ」

 

 ワンズは、最初はクラインも一緒にと言っていたが、まだあの場にいる仲間を見捨てられないと言うクラインの気持ちを理解し、身を引いた。

 クラインと一緒に、という気持ちもなくはなかったが、それでも、早く強くならなければという気持ちが、その選択を拒んだ。

 

「…おいキリト!ワンズ!」

「「…ん?」」

「キリトは案外かわいい顔してるし、ワンズは優しそうな顔してんだな!そっちのほうがずーっと!似合ってるぜ!」

 

 去っていく二人を呼び止め、朗らかな笑みを浮かべるクライン。別れるのが辛いのか、暗い顔をしていた二人は思わず呆けた顔をしてから、その意図が分かったのか少し笑う。

 

「…ハハハ。お前もその野武士面のほうが十倍は似合ってるぜ!」

「…アハハハ。クラインさん、ありがとうございます!また、また会いましょう!!」

 

 そうして二人は走りだし…それでも気になって後ろを向いたときには、クラインの姿はなかった。それを確認した二人は再び走り出す。この世界を、ゲームを、終わらせるために。

 

 

 

 

 

 後にキリトとは別の道を歩んだワンズは、ギルドを作るも、初期メンバーは自身を除いて殺され、その犯人に溢れるほどの憎しみと怒り抱き、それを犯人達にぶつけるもそのリーダーには及ばず、返り討ちにあった。

 届かなかったことで怒りも憎しみもより溜め込み、歪みは大きくなり、いつしかワンズは一人でいることが増えた。

 そんな彼を変えたのは、一人の少女だった。

 

「…私は、その…あなたに、救われた。それに救われたのは、私だけじゃない…あなたが思っているより、あなたが救った人は、意外といるよ」

「…こんな、オレでもか?」

「…今も昔も、あなたはあなた。今は違っても…昔やったことも今も、全部含めて…あなただと思うけど」

 

 彼女、カンザシがワンズの側に来た。半ば自暴自棄のように戦いに明け暮れ荒み、怒りと憎しみ、悲しみ、後悔で傷ついたワンズの心に、カンザシは少しでも寄り添った。ともに戦い、時に笑いあい、時にぶつかりもし、二人の心と想いは、近づいていった。

 

 

 

 

 そして運命の日、第3クォーターという強さと難易度のランクが明確上がる、100の4分割地点の3番目、75層。

 そこでのボス攻略を多くの犠牲者を出しながらも成し遂げた直後、前に決闘した時に感じた違和感と、ふとした疑問から、もしやと思ったキリトが試した結果、トッププレイヤーで攻略組主力のギルド、血盟騎士団団長のヒースクリフがラスボスであり茅場晶彦であったという、恐ろしい事実が判明した。

 

 この事態に対しラスボスであるヒースクリフは、管理者権限によりキリト以外を動けなくし、彼と一騎討ちの決闘を望んだ。明らかな罠に仲間達はキリトを止めたが、ラスボスであるヒースクリフを倒せば解放されるため、この千載一遇のチャンスを絶対に逃すわけにはいかないと意気込むキリトは、仲間達それぞれに感謝を告げ、その決闘を受ける。

 

 

 戦いはキリトが押された。互いにユニークスキルを持つが、攻撃型の二刀流のキリト、防御に長け、さらには攻防一体の特性のある神聖剣に加え、この世界の技であるソードスキルの生みの親であり、その全てを把握しているヒースクリフでは、ソードスキルを対処されてしまう関係からキリトのほうが決定打に欠けていた。

 その焦りが募り、迂闊にもソードスキル、それも二刀流最大の連続攻撃数を誇るソードスキル、ジ・イクリプスを使ってしまう。それをヒースクリフは涼しい顔で冷静かつ完全に対処、その結果、耐久値の限界によりキリトの剣の一つ、ダークリパルサーが折れてしまい、さらにソードスキル特有の硬直時間、それも最上位のソードスキルだったために大きな隙を晒してしまう。

 

「っ!」

「さらばだ、キリトくん」

「キリトさんっ!!」

「キリトっ!」

 

 ヒースクリフの剣が、キリトにトドメをさすために迫る。だが、そこで奇跡が起こった、否、起こってしまった。ヒースクリフの権限により動けないはずのキリトの恋人、アスナがキリトの前に出て、彼を庇い、決闘前のボス戦で減っていたHPが0になってしまう。

 

「なっ…アスナさんっ!」

「そんな…」

 

 アスナは最後、キリトに顔を向けて微笑み、ポリゴンの粒子になり、消えた。奇跡は起き、キリトの代わりに死んでしまった。

 

「…あ、アスナ…そんな」

 

 遺されたアスナの細剣、ランベントライトを手にしたが、アスナが死んだ事実にキリトは絶望し、戦意を失う。そんなキリトの体を、まだ決闘は続いていると言わんばかりにヒースクリフの剣が貫く。その場の誰もが、今度は声に出ない悲鳴をあげる。

 

「よくありそうな展開で少し観ていたかったが、君が相手だ、容赦はしない」

 

 キリトのHPも0になり、ポリゴン粒子となって消える。アスナの二の舞になるかと思われた。だが。

 

「うぁぁああああああっ!!!!」

 

 最後の最後、手にしたランベントライトをヒースクリフに突き刺した。そして、ヒースクリフのHPも、少しばかり時間をかけながら0となり、ポリゴン粒子となって消えた。

 

「……これで…」

 

 そう言い残し、キリトも同じようにポリゴン粒子となり消える。2年続いたこのデスゲームは奇跡と言える現象により、75層という半ばでクリア、生き残った6300人近く、それと奇跡的にもキリトとアスナは、無事生還した……はずであった。

 

 生還者6272人のうち、300人の意識が戻らなかった。その中にアスナも含まれていたことをキリトこと桐ヶ谷和人は、自分のところによく来る菊岡という男から聴き、彼がSAO事件の対応をしている部署の人間であることから彼女のいる病院についても聴いて、会いに行った。痩せ細っていてもなお、アスナ…結城明日奈をきれいだとキリトは思った。

 

 だが彼女が目覚めないうちに事態が進む。アスナが、事実上結婚させられるというのだ。それも彼女の父親の経営する会社、レクトのVR部門で働く優秀な男、須郷伸之という男と。

 

 この須郷という男は相当猫を被るのが得意なのか、親の見る目がないのか、前者は確実で本性は悪辣で変態のような一面も見られるが、猫を被ることで親のほうには気に入られている様子。

 

 そんな須郷とアスナがもうすぐ事実上結婚させられることを聴いたキリトは、呆然となりながらも足掻き、アスナを助け出すための手掛かりと思える物を掴んだ。

 

 それは、そんなアスナの事情を家柄から知ることができたワンズの恋人、カンザシこと更識簪が、なんとかできないかと現実に帰還したワンズこと織斑一夏と会ってなんとか見つけた情報…VRMMO、アルヴヘイム・オンライン、通称ALOにある世界樹に、アスナによく似た人が鳥籠に囚われているという画像だった。

 

 なお、我が女神と称されていたその画像は、すでに元のものは削除されていたが、ネットに出回った無加工版と無駄に鮮明な鮮明版の2つがあり、無加工版は解像度が低いが、鮮明版は間違いなくアスナであったため、思わず恐怖を感じずにはいられなかった。

 

 そのことを現実で店を経営しているエギルことアンドリュー・ギルバート・ミルズを通じてキリトと会いつつ伝え、親や保護者という壁をなんとか乗り越え、ALOでアスナを探す。

 

「リーファよ、よろしく」

「オレはキリト、よろしく」

「ユイです!よろしくお願いします!」

 

 ALOはいくつかの妖精の種族が、飛行の制限が取り払われた種族、アルフへと種族単位で転生するのを目標に世界樹を目指しているプレイヤーキラー、PKも推奨されているVRMMO。

 そのため初回ログインは必ず選んだ種族の首都に飛ばされる…はずなのだが、スプリガンを選んだにも関わらず、キリトはスプリガンの首都、ではなくシルフの首都近辺のフィールドに飛ばされた。

 

 人がいないのを幸いにステータスやアイテムをチェックをしたら、どうやらSAO時代のものを引き継いだらしく、ステータスはほぼそのまま、アイテムは全ての表示がおかしく明らかに使えなかったが、それでも辛うじて使えるものがあった。

 それはギリギリで保存できていたアスナとともに娘とした、SAOに用意されていたメンタルカウンセリングAI、ユイ。自身のナーヴギアのメモリーに保存し、さらにアイテム化していたそのデータは使え、数ヶ月ぶりに違う世界で再会を果たした。

 

 ユイにALOでは飛行が重要なため、コツを調べてもらい、キリトはその場で訓練したが途中で失敗、盛大に突っ込んで墜落した先でシルフの少女とサラマンダー数人が戦っており、シルフの少女に肩入れをしてサラマンダーを1人残して倒し、その1人は戦ってやられることを拒否して降参したことから見逃した。

 

 

 キリトがそんな感じで結果的に助けたシルフの少女、リーファを案内人として世界樹を目指していた頃、ワンズもログインしていた。サラマンダーとして。速さが売りのシルフでもよかったのだがパワーが欲しかったためこちらにした。

 

 なお、カンザシは自らの髪色や魔法のことを考え、回復要因は必要だと回復魔法を得意とするウンディーネを選択、ワンズとは下調べにより合流ポイントを決めた。

 

 そしてワンズは合流ポイントへ向かうため飛び立とうとするもうまくいかず、それを目撃したサラマンダーの少女、ハレーが放ってはおけぬと同行すると言ってきた。

 

「いや悪いですって。勝手に種族の領を離れるのって悪いってありましたし」

「今のサラマンダーの空気や風潮はあまり好きではない、だから離れるのだ。お前のことはそのついでだ、気にするな」 

「…なら、よろしくお願いします」

 

 なお、ハレーには恋人と合流することは伝え、カンザシがモンスターから逃げていたとはいえなんとか合流しそのモンスターを倒した。その後、自分以外の女と一緒にいたのが気にくわないカンザシの機嫌はあまりよくはなかったため、ワンズは少し苦労した。

 

 

 

「…あれ?パパ、リーファさん、ちょっと待ってください」

「?どうした、ユイ」

「?何?」

「先ほどの3人組、サラマンダーの男性とウンディーネの女性がいましたよね。もしかしたら、ワンズさんとカンザシさんかもしれません」

「え?その3人はどこに…ああ、いたいた。おーい!そこのサラマンダーとウンディーネのパーティー!」

「え?知り合い?」

「もしかしたらだけどな」

 

 その後は地下の鉱山街で二組がすれ違いかけるも、ユイが気づいたおかげで合流、ユイも含めた6人で、シルフ・ケットシーの同盟締結のための会議襲撃を防ぎなんとか無事に治めたり、地下世界に落ちたりと騒動に巻き込まれつつ、危ない橋も渡りながら世界樹の元へと向かう。そして苦労の末に世界樹の麓、アルンへとたどり着く。

 だが世界樹の頂上に向かうのは生半可なことではなかった。

 外からは飛行制限や高度制限により行くことが出来ず、キリトが試したものの届かず、ユイが精一杯システム含め大きな声を出すことしかできなかった。それでも、謎のカードが上から落ちてきたことからアスナがいると確信ができ、正攻法、世界樹の中からの攻略に乗り出す。

 かといって普通に中から行こうにも専用のモンスター、ガーディアンの出現率が異常に高い上に進めば進むほど出現率とその速度も異常にあがる。

 

「がっ!」

「しまった、キリトさん!!」

「ワンズ右!」

「!危なっ!」

 

 そうして無理をしたキリトのHPは0となり、SAO生還者2人は一瞬動揺する。

だがこれは普通のゲーム、現実でも死ぬわけではないと慌ただしい中だがすぐ落ち着きを取り戻し、ALOでプレイヤーが倒された後にできる炎、リメインライトを抱えたリーファを、ハレーとともに援護しつつ離脱した。

 

 外に出てリーファに復活させてもらったキリトは、すぐに再挑戦しようとするが、リーファに止められた。また今度挑もうと。だが、その今度を待つには残された時間の少ないキリトは行こうとする。

 

「キリトさん少し落ち着きましょう!我武者羅に行ってもさっきと同じです!」

「あれは明らかにおかしいです。作戦を立てないと」

「後少しなんだ!後少し、後少しで届くんだ、もう一度、アスナにっ!」

「……えっ……うそ、ま、まさか………お兄、ちゃん…なの?」

 

 キリトが必死のあまりに呟いた恋人の名前を聴いたリーファが固まり、驚愕の表情のままキリトに呟く。リーファ、現実では、桐ヶ谷直葉。キリトこと和人の妹だ。実際の血縁関係は違うそうだが、今の二人は兄妹だ。

 

「えっ……スグ、直葉、なのか?」

「?…あ、そういえば、キリトさん、妹がいるって」

「なんて偶然」

「兄妹でやっていたことを知らなかったのか」

 

 リーファは、直葉は現実において戻ってきた後とはいえ、兄のことを異性として意識し始めてしまっていた。

 だが気づかない振りをし、兄にアスナという恋人ができていたことから諦め、ALOで出会ったキリトに恋をした。だがそれは兄であった。それを知ったリーファは取り乱した様子でログアウトし、後を追うようにキリトもログアウトした。

 

「心配。私、姉さんとは険悪だったから」

「そうなのか…あのまま、関係が悪くならないといいが。…失ってからでは……何もかも、遅いからな」

「?…とりあえず、一旦ログアウトして情報を集めましょう。あそこの攻略は、かなり理不尽が伴うみたいですから」

「なら、お昼を済ませてからで、どう?」 

「だが彼のあの焦り様、急ぐ必要があるか」

 

 こうして一旦解散、昼食を挟み情報収集後、ログインした3人は、3人を待っていたキリト達とリーファの知り合い、レコンととも作戦会議後に再び世界樹の頂上を目指す。

 二回目の戦いの途中、レコンが現状を切り開くために非常にリスクの多い自爆魔法を使うも、時間稼ぎにしかならず、圧倒的数の暴力に押し潰されかけた。

 だが、レコンの犠牲が、残った者の足掻きが実る。アルンへ向かう途中、同盟締結のための会談中、シルフの裏切り者が漏らした情報を元にサラマンダーの部隊に襲撃されかけるも、危ない橋を渡りつつ助け、資金援助したシルフ、ケットシー両種族の長が、精鋭部隊を連れて駆けつけたのだ。

 

「ドラグーン隊!ブレス攻撃ヨーイ!!」

「シルフ隊、エクストラアタック用意!」

 

 心強い援軍に、士気は一気に上がる、ドラゴン達の放つ炎のブレスとシルフの放つ強力な魔法により多くのガーディアンが倒されるも、どんどん増えていくガーディアン達。

 だがここには、ALOの精鋭だけではない、SAOという地獄で鍛えられた猛者達の精鋭がいる。キリト、ワンズ、カンザシは突き進み、リーファやハレーはその後ろを守り、進んでいく。

 

「キリトくん!」

「!…うおおおお!!!」

「これが、ラストスパートだぁ!」

「はああああ!!」

「まだ、負けない!!」

 

 そして頂上へ向かう扉間近、扉に群がり進めなくしたガーディアンを見たリーファは、自分の持つ刀をキリトへ投げ渡す。受け取ったキリトは二刀流にて本領を発揮、それにともないワンズもカンザシも最後の力を振り絞り、扉に群がっていたガーディアンも、その周囲のガーディアンも凪ぎ払い、とうとうキリトがたどり着く。

 だが先に進もうとしても、余程通らせたくないのか扉にはシステムロックがかかっていた。無理かと思われたが、ユイの呼び掛けに答えるように落ちてきたカードキーが、最後のピースをはめた。キリトとユイが、扉の先へと消える。

 

「…オレ達は、ここまでか」

「ワンズ早く!」

「囲まれる前に脱出するぞ!」

「ああ!」

 

 キリトとユイ以外は扉の先に行けなかったものの、思いを託し、全員大急ぎで離脱していった。

 

 

 

 その後、須郷の悪事は暴かれ逮捕された。VR技術を使った記憶改竄や洗脳の研究は、意識の戻らなかった者達を使い行われていた。ナーヴギア以外ではできないが、それでも研究はほぼ完成していたことから、彼の恐ろしさや技術力が分かる。

 

 そしてそんな悪事に知らぬ間にかかわっていたレクトプログレスとレクトは世間から非難を浴び、経営者幹部全員が責任をとり辞職、VR部門はとある企業の系列にあるベンチャー企業にまるごと買収されたがそれはまた別の話し。ともかくSAOから始まる大きな騒動は、生還者全員の意識が戻ったことで、終わりを迎えた。

 




大分駆け足省略しましたSAO編からALO編、いつか詳しくやりたいと思います。
それと多分ISへの導入部分無駄に長く拙い文章だと思います。

それではこれから、よろしくお願いします。


※やっぱり長いよなと思い、IS部分の導入をプロローグ2に移動、それに伴いサブタイトルを変更しました。


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プロローグその2 始まりは嵐のように

どうも、シューティング☆です。今回はすごく長い説明回です。無駄な話しもたくさんです。


それでは、どうぞ。



ALO事件から数ヶ月。あれだけの事件が明るみになったとは言え、数ヵ月経った今、世間は受験シーズン。一つのことばかりを気にかける余裕などない。

 

 本来ならば16歳のワンズこと織斑一夏も受験生なのだが、SAO帰還者は一部を除き、帰還者を集めた学校に通うこととなっている。一夏やキリト、アスナもその中に入っている。簪は自身の都合上、違う学校の受験もしており、落ちるつもりはないが複雑な心境だ。

 

 

 

「それにしても、会場ってあそこだろ?デカイな」

 

「確か実技も同じところでやるってカンザシが言ってましたから、まああれぐらい広くないといけないでしょう」

 

「でも、一緒にお弁当食べても大丈夫?今年は去年にカンニングで大きな問題があったから対策が厳しいってテレビで言ってたけど」

 

「だからこそ、ある程度中身の分かるタッパー指定なんです。それに今日は午前中に筆記試験が終わって後は実技試験だから、中に入らなければ問題ないってカンザシが言ってました」

 

「それならまあ、大丈夫ね」

 

 そして現在、一夏、キリトこと和人、アスナこと明日奈は、カンザシこと簪と一緒にそれぞれのカップルでお弁当を食べるダブルデートついでのリハビリをするべく、簪が試験を受けている会場、IS学園入試会場へと向かっていた。

 

 

 

 10年ほど前に篠ノ乃束博士によって発明、発表されたIS、正式名称インフィニット・ストラトス。宇宙空間での活動を可能としたこのマルチパワードスーツは、性能こそ既存の数多の機械を大きく上回るとんでもない代物だが、大きな欠点としてほぼ女性しか使えないのだ。

 一応男性も使う方法があるがそれでも女性のほうがかなり多く使えるため、それが女尊男卑という思想に繋がり今でも問題を残している。

 

 

 そんなISだが、10年ほと前に日本に迫るミサイル群を、さらにその3倍以上は余裕であった破片を2機で全て破壊、被害はあり重軽傷者を出したものの、行方不明一人とそのIS一機以外は辛うじて死者を出さずにはすんだ。

 

 このことからISは兵器としても認識、アラスカで条約が結ばれ、今や宇宙開発以外に一応軍事、救助、深海探索、さらにはISバトルという軍事の延長線上とは言え、スポーツの用具として認識された。

 

 

 そんなISを学べる国際教育機関が、日本に建てられた高等専門学校IS学園だ。

 そこに簪が受験しているのは、自身の姉への対抗意識からそんなスポーツとしてのISの日本国家代表の候補生になっていたことと、さらに当時優秀(政府側の意見)であったために簪専用にISが作られることになっており、2年の月日を経て専用機は作られほぼ完成していたことから、一応受験しておいてほしいのと日本政府の意向だ。

 

 

 とはいえ、彼女が代表候補生になったのはSAO事件の始まる数ヶ月前、知識学力は多少どうにかなるが身体能力はかなり落ちている。

 

 よほどのことに含まれていないのかそれとも日本国家代表になれないと高をくくっているのか、未だ代表候補生な簪は、合格すれば一夏に自由に会えなくなることが不満であるし、かといって手を抜くのは姉に負ける気がして嫌という、複雑な心境だ。

 

 

「それにしても、ISって空を飛べるんだよね。どんな感じなのかな」

「確か、PICっていう、慣性を抑えて宙に浮いているとかなんとかだったから、ALOとは違うだろうな…全然分からない」

「まあ、束さん、千冬姉の友達ですから交流はありましたけど、ISについては…難しくてオレも分かりません」

 

 篠ノ之束、ISの開発者である天才、あるいはその破天荒さから天災とも呼ばれた女性だ。

 

「だよな…しかし、意外だよな~。まさかワンズが織斑千冬の弟とは」

「でもよく見たら似てるよね」

「まあ、よく言われます」

 

 

 織斑千冬、一夏の実姉でありISバトルの世界大会、モンドグロッソ第一回大会で総合優勝を果たしてブリュンヒルデの称号を得た、IS業界にその名を轟かせる超有名人だ。

 

 

 第二回大会については個人の部、決勝に代理を立てて本人は試合に出ず、第二回大会はイタリア代表と代理人が戦い引き分け、第二回から団体戦も追加されその団体戦で日本が優勝。個人の部では引き分けだったことから総合優勝は逃した。

 

 なお、つい最近モンドグロッソ第三回大会が行われ、男性の日本代表が優勝した。

 

 

 

「えーっと、待ち合わせ場所はこの辺り、だよな」

「時間もちょうどいいね」

「お、いたいた。おーいカンザシー!」

 

 

 水色という日本人にしても人としても目立つ髪色なので人がいても分かりやすい簪。現に周りに人がそこそこいる中、すぐ分かる。

 名前を呼ばれたことでビクゥ!と全身で驚いているのが分かるくらいには驚いた様子の簪。一行を見つけると急いで合流する。

 

 

 

「い、いきなり大声で呼ばないでよワンズ…」

「ごめんごめん、こっちじゃ全然会えてなかったからな。お疲れ、カンザシ」

「久しぶりね、カンザシちゃん。試験お疲れ様」

「いろいろ事情があるんだよな、お疲れ様」

「…は、はい」

 

 

 少々引っ込み思案で人見知りの傾向がある簪、周りは知らない人ばかりな上に一夏と和人以外は同性、その上で一夏、和人、明日奈はイケメンだったり美形だったり美人だったりする上に自分の容姿は目立つ。さすがに人の目が気になるのだ。

 

 

「じゃあ、早く場所見つけて食べようか、場所は……お、あそこ空いている」

 

「う、うん」

 

「キリトさんとアスナさんもどうですか?」

 

「どうするアスナ」

 

「いいんじゃないかな」

 

 

 

 昼食は一夏と明日奈がそれぞれ用意しており、一夏は和食を中心としたもので、彩り豊かで消化にいい物を使っている。

 

 明日奈はサンドイッチだ。とはいえ、彼女はSAO生還者の中でも一段階遅く意識が戻った中の1人、先に戻ってきた人達よりもリハビリが進んでおらず、相当頑張ってはいるが和人、一夏よりは遅れている。加えてずっと食事をしていなかったことから消化器官も弱っているため、こちらもやはり消化にいい食材を使っている。

 

 

 

「現実でもおいしい」

「これでもここまで戻すのに結構かかったからな。でもよかった、おいしく作れて」

「ありがとうワンズ」

「どういたしまして」

 

 

「…うん、うまい」

「良かった…まだまだあっちでの味には及ばないけど、そこは我慢してね」

「アスナが頑張って作ったんだ、うまいに決まってるだろ?」

 

 

 とまあこんな感じでイチャイチャして周りは舌打ちしたり嫉妬したり、なぜか目を怪しく輝かせたりしている者がいる。

 

 当人達は気にせず食事中。互いの昼食を少し交換したり恋人同士で食べさせっこしたりと周囲の目を集める。簪は気にしているがそれでも一夏と一緒で幸せだから耐えられる。

 

 そして食べ終わる頃には人はいなくなっていた。他人のイチャイチャをずっとは見ていられないのだろう、当人達はもう気にしていないが。

 

 

 

「ごちそうさま。やっぱり料理上手だね、おいしかったよ、ワンズ」

「ごちそうさま。ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいよ」

「お粗末様でした。やっぱりまだまだだな~。さすがワンズくん、私の師匠だね」

「ごちそうさま。どっちでも料理うまいとかすごいな」

「まあ、アスナさんに料理スキルのイロハ教えましたけど、醤油味とかはアスナさんオリジナルじゃないですか」

「ワンズくんも結構やったよね、味噌とかお酢とか」

「さしすせそで醤油だけ中々できませんでしたよ」

「先を越されたって悔しがってたね」

 

 

 SAOには食事アイテムを作る料理スキルというものがあり、それを熟練度最大値まで上げたのは数少なく、そこにワンズとアスナが該当し、特にワンズは最初に最大値まで上げたプレイヤー。現実とは違う味や細かい数値のことを気にして調整、悪戦苦闘の末様々な味を作り上げたレジェンドだ。大手ギルドに依頼され料理を作ったこともあるぐらいで、その関係からアスナに懇願され料理スキルのイロハを教えたのだ。

 

 

 

「そういえば、試験の時間っていつ?」

「えーっと…あ。残り15分」

「あー、ならもう行ったほうがいいな」

「試験だから厳しいでしょ?準備もあるだろうし急いで」

「はい。キリトさん、アスナさん、わざわざありがとうございます。ワンズ、また後で」

「ああ。カンザシ、ファイト」

「頑張ってね」

「しっかりな」

 

 

 そうして簪は試験会場へと向かい、残った3人はというと…。

 

 

 

 

「へ~、ISの適性検査…行ってみる?」

「受験会場知らされたの直前なのにできるなんてすごいですね」

「実技は今日だからだろ。実技ってことはISを使うってことだからな。まあ、記念に行くか」

「あー、そっか、使うなら用意しますからね…ではお邪魔なオレはここで」

「ここまで来たんだからワンズくんも一緒だよ」

「あ、はい」

 

 

 明日奈主導の元、IS学園受験会場なためか設営されたIS適性検査場にいる。検査としては簡易だが 

 

起動しないよう処置が施されたISへの反応速度がどれくらいなのか、さらに言えば、反応するかだ。このISを動かせるのはほとんどが女性だが、男性でも動かせないわけではない。

 

 女性はほとんどがISを起動させ動かせるのに対して、男性は(女性ならほぼ)誰でも使える汎用設定では反応させても起動させることができず、その人専用に設定しなければ起動させ動かすことができない。

 そのため既存の兵器を上回れるISを誰でも使える女性のほうが偉いという女尊男卑の思想が流行り、影響は今もある。

 

 

「そういえば、ここで男性がIS動かしたらどうなるのかな」

「ここにあるのは動かせないタイプだぞ。だよな、ワンズ」

「さすがに動かせないようにはしてあるでしょうし、まあ、男性は個人専用のものじゃないと動かせないですから、検査で使うものにそういうものは持ってこないでしょう。反応はさせられるかもしれませんけどね」

 

 

 

 この時間で検査を受けにきた人は結構いるようで、列は長い。この適性検査は最終的な評価を最低評価Eから最高評価A、それとS。最高評価はSなのだがそれはある程度ISに乗った上でモンドグロッソの部門ごとの優勝者、ヴァルキリーレベルの実力者がほとんど、例外こそいるがその例外は極端に少ないため、基本はAが最高評価扱いなのだ。

 

 

 

「お、次アスナだな」

「その次はキリトくんだね」

「オレとキリトさんが同じくらいですね」

 

 

 そうこうしているうちに明日奈の番がくる。明日奈の前には深緑のIS、ラファール·リヴァイヴというフランス産のISがあり、その前にある計器に明日奈か触れると、近くの画面にいくつかの文字が浮かび、最終的にAと表示された。

 

 

 

「あ!キリトくん私Aだって!」

「アスナがAか、すごいな。じゃあオレだな」

「オレもですね。よーし」

 

 

 一夏の前には日本の甲冑を模したIS、打鉄があり、一夏、和人は計器に触る前に、なんとなく、ISそのものに触ってみた。計測後はすぐ離れる必要があるがその前なら少し触っても良さそうと見ていて思ったから、どうせならと触った。だが、直後に異変が起こる。ISが光を放ち始め、二人の頭に様々なデータが流れてくる。

 

 

 

「っ!?な、なんだこれ」

「こ、これはいったい」 

「えっ!?キリトくん、ワンズくん大丈夫!?どうしたの!?」

「え!?離れてください!これは…」

 

 

 

 そうこうしているうちにISが光になって分解され、それぞれ一夏、和人に纏わりつく。そして…。

 

 

 

「…やっと治まった……ん?あれ?なんか、視界が高いような」

「いったいなんだった……いっ!?ワンズお前、それ…」

「え?……え!?いやキリトさんなんで、ISを」

「え?!…いやお前もだよ!」

「ん?………は?え、えっ!?」

「…き、キリトくんと、ワンズくんが、ISを、動かしちゃった…?」

 

 

 

そう、一夏が打鉄に、和人がラファール·リヴァイヴに乗って動かしている。それを認識した人達は皆パニックになり、叫ぶ人もいれば冷静になるよう呼び掛ける人もいる、唖然としている人もいるなどだ。

 

 

 

「……これからどうする?」

「むしろこれからどうなるか、ですよね…」

「「はあ…」」

 

 

 こうなってしまった以上、もう何が起こるか分からない。先が見えない不安と明らかに面倒なことに巻き込まれると分かるため、二人でため息をついた。

 

 

「「…」」

 

 …とまあ、あるから記念にという感覚でISの適性検査しようとして、検査前に触って、ISを動かしてしまった一夏と和人。騒ぎになってすぐに人が来て、あれよあれよと言う間にホテルへ連行され軟禁される。

 それが一週間前のことであり、一週間はIS触らされたりよく分からない検査を受けたりする以外、二人でずっと同じ部屋にいる。見張りの人は定期的に変わっているのが羨ましいとも思えてしまう状態だ。

 

「…うちの家族、みんな心配してるよな…」

「うちは三春姉が一番心配ですよ…千冬姉も、戻ってくる前には充分心配かけたとは言え、三春姉、かなり責任感じているようですから」

「帰ったら、謝らないとな…」

「でもなんて?不用意にIS触ってすみませんとか?」

「…うーん…それは、ちょっと……でもな…心配させてすみません、か。今回だと」

「まあ、確かに…」

 

 一応リハビリ中のため、室内用にと調整されたリハビリメニューをこなしてはいるものの、あまりに代わり映えしない一週間、やることがなければ話しの内容も減る。

 テレビでは連日自分達のことを名前を伏せて報道しているが、まあ情報化社会の嫌な面というべきか、ネットのほうでは間違いなく個人情報突き止められているだろうなと、二人は心の中では何度もため息を溢している。

 和人の娘のユイはAiのためできる限り動こいているようだが人は数が多い、処理するには限界がある。和人としてはそれより無茶しないかどうかが心配である。

 

 代わり映えのしない一週間、だがそれが変化を遂げる。不意に部屋の扉が開く。今度はなんだと思っていた一夏や和人、扉が開いたとき、不意に和人目掛け誰かが…いや、和人はしっかり見えた。長い栗色の髪を持つ彼女の姿を。

 

「アスぐふ!」

「キリトくん!よかった無事で…いきなり連れていかれて、連絡もつかないで心配で…でも、無事でよかったっ…」

「し、心配させてごめん…」

「アスナさん落ち着いてください少し絞まってます」

「…災難だったね、ワンズ、キリトさん」

「カンザシ!…と、その人は……あれ?」

 

 明日奈の後ろからは簪、そしてその後に……何故か白衣にダイビングスーツ着た女性がいる。

 

「…えっと、なんでいるんですか、篝火さん」

「うわー、嫌そうな顔、傷つく~。久しぶりだね一夏くん。前に会ったのは…ああ、うちに千冬の弁当届けに来たときだから…小学生のときか」

「…ワンズ、この人誰だ。というかお前、そんな顔できるんだな、すごい顔だぞ」

 

 嫌悪がダッシュして顔面崩壊している一夏は、渋々説明をする。

 

「…篝火ヒカルノさん、倉持技術研究開発機構ってところの第二研究所の所長さんで、千冬姉の知り合いです。本人もまあ、技術者って確か千冬姉が言ってました。それと変態」

「まあ、うちは何故か変人変態ばっかりだからね、私含めて」

「…一応、こんな人でも私の専用機の開発チームのリーダー」

「えっ、マジ?こんな人が?」

「…うん」

 

 えぇ、この人がと簪以外のその場にいる全員が引いている最中、何も考えていないのか何か考えたのか、自分に背を向けていたアスナのお尻を目にも止まらぬ早業で何の迷いもなく触る。

 

「ひゃあ!?な、何を」

「あっ!しまった!その人尻フェチだった!」

「!ごめんなさい、止められなかった」

 

単なる性癖だった。

 

「んー……SAO生還者とはいえ、そこそこ鍛えられてるじゃん、関心関心」

「いったい何がしたいんだよあんた!いきなりアスナの、その、お尻触って!!」

「キリトくん恥ずかしいから大声で言わないでよ…」

「話し完全に脱線してるじゃないですか篝火さん!さっさと本題入ってください!!」

「えー。じゃあ一夏くんのお尻も久々に」

「いい加減にしてください」

「あだっ!」

 

 話しが完全に脱線して一夏のお尻をロックオンして手をわきわきと握って開いてをしているうちに、簪によってどこからか取り出したハリセンで頭を叩かれた。そして簪は2回目ができるよう構える。

 

「痛いなもー……はいはい分かりましたわーかーりーまーしーたー、説明しーまーすー。まあ、簡潔に言えば、あんた達の専用機、うちで作るからよろしく」

「えー……」

「せ、専用機?」

「そ、専用機。そこの簪ちゃんみたいに、個人専用にチューニング施したISをプレゼント、バンバンデータ採らせてもらうから。そこのお嬢さんはまあ、ちょうどいいから一緒にね」

「どうして、そんな」

 

 困惑する和人の呟きに、ヒカルノは少し笑みを作り理由を語る。

 

「そんなって、あんた達、特に男子二人は貴重だぜ?なんせ汎用設定のやつ、動かしたんだから。本当なら女性しか動かせないし、男性なら反応させるのが精一杯。だから貴重。

あ、そのこととは別になるけど、あの検査用のやつ、本当なら展開、装着しないようになってたんだよね、で、これはまだまだ調査中なんだけど、どうも思考反応速度が前列にないレベルで速かったのが理由じゃないか~って結論出たんだ」

「「「思考反応速度?」」」

 

 何それ?と言わんばかりのいいように、ヒカルノが口を挟もうとしたが、その前に簪が口を開く。

 

「ISには、イメージインターフェイスって言う、思考をISの動作に反映させて操縦する機能があって、思考反応速度はどれだけ早く思考に反応して動かせるか、ということです」

 

 ヒカルノに話させると脱線すると考えた簪がさっさと説明をする。当たりなのかヒカルノは唇を尖らせ不満げだ。

 

「えー、説明させてくれてもいいじゃん。あ、それと思考反応速度以外に、単純に体動かすとか一部除いた道具使う場合の反応速度は、接触反応速度って言うから」

「…まあ、脱線しないなら」

「普通じゃつまんない…わー、暴力反対ー!」

「…苦労したんだな、カンザシ」

「慣れたけど慣れたくなかった」

「カンザシちゃん、今度どこかお茶いく?」

「じゃあ私も」

「篝火さんはダメです。そして話し脱線してます」

 

 脱線させたのそっちじゃんとヒカルノは小さく言うものの、それ以上はハリセンは嫌なのだろう、話しを本筋に戻していく。

 

「でまあ、どうしてそういう結論かと言うと、検査用って、検査のためにある程度は起動していて、検査機器を通じて検査する。そんでもって検査のために触っただけでもそこから展開、装着までできるようになっている。

でもまあ、そこまでされるのは困るから、途中で展開も装着も止まるようロックが作動するようになっていた。ここまでOK?」

「はい」

「まあ、分かります」

「とりあえず、簡単に動くようにはなっていたけど、動いたら困るから、動かないように途中で止まるようになっていた、ということでいいんですよね。合っているなら脱線しないうちにどうぞ」

 

 一夏が分かりやすく言った上で、すかさず釘を刺す。ヒカルノが頷いているため、それで合っているのだろう。

 

「OK、まあそういう認識で合ってるよ。でまあ、そうなっていたんだけど、どうも検査機器にじゃなく、直接触った結果、ロックが作動するより早くに信号が送られて、その弾みでロックが解除、本格的に起動して展開、装着された、というのが大体の見解。分かる?」

「つまり、反応がロックよりも早かったってことです?」

「まあ、そういうこと。ついでに、思考反応速度が速いことについてだけど…って、これは脱線じゃくて必要な説明だから構えない」

「脱線しないでくださいね、篝火さん」

 

 話しが脱線すれば叩くと、ハリセンを下ろさない簪、軽いため息がヒカルノから出るが、もう仕方ないと思ったのか、話しをする。

 

「まあ、調べてみたら男子2人だけじゃなく、どうもそこのアスナお嬢さんも二人ぐらい速い、簪ちゃんもそう言えば前より早くなってたのよ。でまあ、共通点とすれば、SAO生還者、超長期間VRゲームを強いられていたってところ」

「まさか、VRゲームやっているとその思考反応速度が上がるって考えですか?」

 

 和人の質問に、ヒカルノが首を振って答える。

 

「そんなわけなーいじゃーん。ただVRやっても休日に1日中で10時間以上できるかできないか、平日はもっと短い、これじゃ10年以上かけてもどうなるやら。でもこう言っちゃ悪いけど、SAO生還者なら話しは大きく変わる。

 不幸な偶然で約2年の間、ほぼ毎日24時間ぶっ続けで、現実じゃほぼ無理な超長期間連続プレイをさせられていた。その過程で何かあってもおかしくないかもとは思う。

 ただまあ政府のほうでSAO生還者の男性数名検査やったけど、だーれも動かせないし、反応させたやつもいなかったから、検査用ロックが作動しなかったことはともかく、汎用設定のやつ動かせた件はまったくもって不明よー」

 

 謎は確信がないため完全には解けず、それ以上の謎は解けない。これ以上このことを聴いても無駄に話しが長くなるかもしれないと考えたキリトは、話しを戻しつつ、さらっと流していたことを聴く。

 

「…で、まあ、どうしてそちらで専用機を作ることになったんですか?それ以前に、さらっと流しましたけど、オレやワンズ、アスナのこと、SAO生還者って知っていましたね?どこでそれを?」

 

 簪以外から訝しげな目で見られている篝火。本人はその視線を気にしていないのか、そこら辺の椅子に座り顔の前で手を組み無駄に真面目そうな雰囲気をなんとなく出し始める。

 

「そうね、まあ、話し長くなるから話さなくても…あー分かった分かった、話すからハリセン構えないで。さて、まずは…ALO事件は知っているね」

「はい」

「もちろん」

「あれだけの騒動ですからね」

「奔走した当事者ですし」

 

 被害者の一人がいるが、知らなそうなら言わないほうがいいなと4人は思う。

 

「あの後、ALOを運営していたレクトプログレスを中心としたレクトのVR部門が別のベンチャー企業に買収されたでしょ?買収したとこ、うちの研究所とは同じ企業の系列会社で、どうにかのこうにかなんとか頼んで買ってもらいつつ、一部のデータをうちでも使えるようにしてもらったんだ♪うちも出資したし♪」

 

 上機嫌な様子で語るヒカルノ。一部データが欲しかったのだろう、その辺りのフレーズで弾んでいた声がさらに弾む。

 

「んで、レクトと言えばソードアート・オンラインの開発部門も買収したところ、そのVR部門全部と来たらそのデータもある!」

「要約すると、ソードスキルを使えるISを開発したい。本来ならそのISの被験者は私だけだったんだけど、2人がIS動かして、その、この人と話しているときに2人だって知って、思わず、驚いて」

「よーし、この後は私のターン!それでまあ、簪ちゃんは生還者だからその反応からもしやと思って根掘り葉掘り深堀りで聞き出そうとしたけど失敗、でも、総務省の、えーと、確か仮想課の」

「……菊岡、誠二郎…ですか?」

 

 総務省、仮想課と聞いた途端に苦虫を潰したような顔をした和人が名前を出すと、そうそうそんな名前!と笑いながら言うヒカルノ。菊岡誠二郎、総務省の仮想課(仮想課は通称。正式名はかなり長い)所属のエリートだ。和人に明日奈の情報を伝えたりいろいろ便宜を図った、隠し事が多そうなメガネな男性だ。

 彼に助けられたとは言え、よりによって一番個人情報守らないといけない人物が出てきたことで、さらに怪しむ。

 

「その菊岡って人が、うちがソードスキルを使えるISを作ろうとしていることをまあ、なんかで知ったんだろけど。買収したのはうちとは同じ企業の系列にあるベンチャー企業、調べれば繋がりは見えてくるなら、そう考えられるだろうし。後うちも出資してるし。

 それで、あんたたちともう一人、レクトの元CEOの娘であるお嬢さんのこと紹介してくれた。あれ、これさっきので私やばくないか?どうか訴えないでくださいお嬢様」

「え、えー…」

「…さっきのって、あれですよね…ならやらなければよかったじゃないですか」

「やらねばならぬ時だった」

「うそつけ」

「あだっ!」

 

 この場にいる全員に警戒されているヒカルノ。無理もない、早々に変態と紹介されいきなりのセクハラだ、しないほうが無理がある。

 

「続きお願いします」

「OKOK、そのハリセン納めようか…それで教えてくれたのよ、三人ともそこの簪ちゃん同様にSAO生還者で、尚且つ、トップクラスの実力者だってね」

「あいつ…」

「よりによってこの変態に…」

 

 一夏は菊岡とは面識がないものの、和人から話しは聞いているため、信用はさらにできなくなる。

 

「そんなこと聴いたら飛び付かないわけにはいかないじゃん?というわけで、まあ、二人に専用機作ろうって政府の話しに手をあげたわけ。危うく取られかけたけどプレゼンで勝ったわ!ハッハッハッハッハー!」

「(なんで勝っちゃったかなー、この人)」

 

 うんざりした表情の一夏を気にしていないヒカルノ。少し長めの高笑いを終わらせると一夏達を改めて見る。

 

「というわけで、一夏くんと、えーっと、桐ヶ谷くん、それと明日奈お嬢様にはうちのテスターになってもらいます」

「全力でお断りします」

「残念、政府の決定は覆らないのでーす!」

「畜生!」

 

 そう叫ばずにはいられなかった一夏であった。




無駄にいろいろ詰め込んだ感じが酷い気がするシューティング☆です。
反省はしているし若干の後悔もありますが、これ入れたほうがいいんじゃないとか言われて良さそうだったら入れると思います、その前に感想来るか分からないんですけどね!


※やっぱり長いと思ったので、プロローグ3の設置に伴い、文章の移動を行いました。


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プロローグその3 無限の成層圏へ

 本当なら最新話を投稿するべきなんですが、プロローグ2つに押し込めるには文字数が多いかなと考え、3つに別けました、すみません。

それでは、どうぞ。


「とまあ、うまく行った…は、いいんだけど、この後がね…」

 

 と、(前回終わりの)ハイテンションからいきなりトーンダウンした様子に、簪以外はなんだ?と言いたげに首を傾げる。

 

「まあ、ね…さすがに三人分の専用機用意するとなるといろいろかかるのよ。一応一夏くんは知り合い補正で開発中止していたやつを再利用するからまだいいけど、桐ヶ谷くんと明日奈お嬢様はね…」

「あんたに世話になるくらいならそんな補正いらなかったです」

「どんだけ嫌いなんだよ…」

「思い出させないでください忘れようとしてるんですから」

「そ、その、スマン」

「…」

「あだっ!さっきより痛い!」

 

 簪が明らかに怒りを込めてハリセンを振り下ろした。一応専用機の開発チームのリーダーではあるのだが、それとこれとは別なのだろう。

 

「だー、痛みが癖になったらどうすんのもー…」

「今ので終わりと思わないでください。さあ、続けて」

「はいはい。とまあ、元々ソードスキル使えるISは、簪ちゃんが生還者だから使えたら強いそうだし、いいデータとれそうだなと思ったのが始まりだったから、簪ちゃんの専用機改修しないといけないのがね…いろいろやるから今あるものを使って急ピッチで仕上げてもかかるのよ。でまあ、あなた達にすこーし協力してほしいのよ」

「…何を、ですか」

 

 少し悪そうな顔をしたヒカルノに、明らかに信用していない和人が質問する。その側で明日奈がなんだか罰の悪そうな顔をしているのに気付かず。

 

「とまあ、ここまで言っておいてあれだけど、SAOのローカルメモリーのデータ使わせてもらいたいってことなんだけどね」

「何故です?」

「ソードスキルを使えるようにするって言ったって、ソードスキルはまあ、武器の種類以上はあるだろからね。

詳しく知らないにしても、武器の種類名を冠したスキルとそうじゃないのがあるだろうから、専用機作るなら、慣れ親しんだ自分のデータのほうがやり易いし時短になるっしょ?ついでに言えばそれが入っているものは持ってきたから。桐ヶ谷くんのは明日奈お嬢様が持ってきたよ。ご家族だってOK出したし」

「え?」

「ご、ごめんねキリトくん、時間もて余しているだろうからってこの人が言ったから、なら持っていこうって思って…まさかこんなことになるなんて」

「あれ、オレのは…まさかカンザシが?」

「ううん。それは」

 

 簪が伝えようとしたその時、閉まっていたドアが勢いよく開き、何者かがヒカルノに襲いかかり滑らかな動作で組み伏せた。

 

「いだだだだだだ!?腕折れる折れる!!ほんと折れる!シャレに!シャレにならいだだだだ!?」

…篝火さん?私、言いましたよね。今後、一夏に近づくなら容赦はしないと。

まったく姉さんから話しを聞いたときは心臓が止まったかと思いましたよ?あなたのところで一夏達の専用機を作ることになったって。国も姉さんもあなたも何を考えているか分かりませんよ、全然。あ、一夏、お姉ちゃんがいるからもう大丈夫」

「……はっ!いや三春姉ストップストップ!本当に折るのはまずいって!いくらなんでもダメだからもうやめて!!」

 

 一夏以外襲撃者のあまりの速さと行動に唖然としていたが、一夏が襲撃者を止めに入る。その際、呼び方からして和人に言っていた三春姉が、この襲撃者であるようだ。よく見れば、どことなく一夏に似ている。

 

「…一夏に、セクハラ、しませんね?」

「いたたた……はーい」

「…さすがに、私もやり過ぎました、すみません」

 

 よく見れば一夏、というよりも女性だからか一夏の姉、織斑千冬のほうに少し似ている。

髪色こそ濃い茶色で目元が優しげだが、顔立ちが似ていることに加え、先ほどヒカルノを組み伏せた際の目付きは織斑千冬によく似ている。目に光がなかったのを除けば。

 そして、そんな織斑千冬が部屋に入ってきた。

 

「千冬姉!」

「一夏、大丈夫か?何か変なことはされてないか?」

「まあ、オレは平気だけと、アスナさんが、まあ、篝火さんの魔の手に…」

「…無事か、篝火」

「痛い以外は。折れてないし」

「そうか、これからはやるな」

「…」

 

 切れ目でクールビューティーな千冬、有名人の登場に和人や明日奈は驚いている。簪は知っていたようだがそれでも少し驚いている。まあその前にいきなり人が組み伏せられたのを見れば少しの間、驚いているのも無理はない。

 

「…んん、ほとんど始めましてですね。織斑一夏の姉で、織斑千冬の妹、織斑三春です」

「三春、一夏の姉、織斑千冬だ。初代ブリュンヒルデと言ったほうが知っているかもしれないがな」

「あ、えっと、結城明日奈です」

「更織簪です」

「…ほら、キリトくんも」

「あ、え、えっと、桐ヶ谷和人です、どうも」

「そして私は!篝火…すみません」

 

 家族である一夏以外自己紹介する際、さりげなく自己紹介をしようとしたヒカルノだが、先ほどのがよほど効いたのか、三春の目付きが鋭くなり、お前はいいと言わんばかりの視線を突き刺すと、あっさり引いた。

 

「…それで、あの、そこの篝火さんと、姉さん以外は…SAOで知り合った、一夏のお友達で、いいでしょうか?」

「!…はい」

 

 三春の言葉に、和人は思わず強ばる。先ほどのヒカルノへの襲撃から、一夏に対してかなりの過保護と考えられるし、何かあったのも分かる。それに加え一夏の言っていたことからも一夏のことを大切に思っているのは予想できる。

 そんな過保護な人物ならSAOのことを毛嫌いしていてもおかしくない。実際、被害者家族でSAO事件からVR全般に嫌悪を表すものは多い、和人の家族がかなり珍しいぐらいだ。

 そんなことを考え強ばっていた和人だが、三春は深々と頭を下げると、思いもよらなかったためか、少し驚く。

 

「SAOで、一夏を助けていただき、ありがとうございます」

「……え?」

「あの、三春さん?」

「三春姉…」

「…あのようなことになり、一夏が死んでしまうんじゃないかと、毎日不安で、不安で…でも、一夏はこうして、生きて帰ってきてくれました。一夏も頑張ったのは分かりますが、それでも一人ではどうなっていたか分かりません。一夏が生きて帰ってきたのも、皆さんのおかげです。本当に、本当に…ありがとう、ござい、ます!」

 

 最初は一夏がSAOが囚われていた頃のことを思い出したのか体が震えていたが、それもすぐ治まり、途中から泣いて、もう一度お礼を言った後は泣きながら嗚咽を溢し、近くのイスに座る。

 

「…そうだな。先を越される形になったが、私からも、お礼をさせてもらいたい。一夏を助けてくれて、本当にありがとう。そして、今のような状況に置いて、すまない」

「…助けた、か。まあ、本人の前で言うのは少し恥ずかしいところもありますけど…オレ達だってワンズ…一夏に、助けられましたよ。戦いでも、日常でも」

「私もそうですよ。呆れて笑っちゃったこともありましたけど、大変なときにみんなを勇気づけることもありました。それに、ワンズくんは私に料理を教えてくれた師匠なんですよ」

「彼に助けられました人は、私達以外にもいます。確かに、彼も助けられましたけど、でも、彼が助けた人も確かにいます」

「みんな…」

 

 さすがに照れるのか、少し恥ずかしそうにする一夏。それに対して、少し誇らしいのか嬉しいのか、顔が緩む千冬。だが仕事モードに入ったのかキリッと表情を締める。

 

「さて…さすがにそこの篝火から聞いたとは思うが、織斑一夏、桐ヶ谷和人、結城明日奈の三名には、専用機が与えられる。それに加えさらに織斑一夏、桐ヶ谷和人の二名は話し合いの末、IS学園に保護の名目の元、入学してもらうことが日本政府によって決定された」

「…え?IS学園…って、あの?」

「女子校、ですよね…?」

 

 IS学園、日本にあるISを学べる高等専門学校であり、国際教育機関だ。そしてISは女性のほうが圧倒的に多く扱えるのもあって、IS学園に在席しているのは女子生徒だけ、そんなところに入学するのは、彼女持ちの二人としては不安ばかりだ。

 

「既に入学予定だった帰還者学校のほうにも話しがつき、さらに定期的なカウンセリングを受けることを条件に入学となる。そして、そこの結城明日奈さんは、編入試験にて合格すればカウンセリングを条件にIS学園への入学を許可することに決まった」

「え!?」

「やった!ありがとうございます!」

「えっとアスナ、これはどういう…」

「兄さんが言ったの、多分2人はIS学園に保護の名目で入学するんじゃないかって。IS学園は他の国からの干渉をあまり受けないからって」

 

 IS学園は様々な国が出資しており、それをダシにいろいろされて下手に問題が起きても困るため、IS学園は国際教育機関でありながら、他の国からの干渉をあまり受けない、小さな自治区のような少しだけ独立した場所となっている。そこなら下手に誘拐されることもないという日本政府の考えだ。

 

「それに、IS学園って、トレーニング設備が充実しているからリハビリにもいいよ」

「なるほど」

「カンザシも、一緒にリハビリするか?」

「もちろん。まだまだ鍛えないと」

「学園側からも、いい人を寄越すそうだ」

 

 ついでに言えば、リハビリをするにはとても充実したトレーニング設備があるため、リハビリとその後の筋トレにはちょうどいいのだ。そして一通りの説明が終わったところで、千冬が思い出したかのように手に持っていた謎の手提げを一夏の側に置く。

 

「それと、忘れていたが、これはそこの変態に頼まれて持ってきたものだ」

「え?…オレのアミュスフィア…」

「よーし準備は整った!さあさあさあ!メモリーをプリーズ!ハリーハリーハすみません…」

 

 いよいよと三春に睨まれていたヒカルノがテンション高めに要求した結果、再び睨まれてた上に構えられて大人しくなる。

 

「…はあ……まあ、決定が覆らないなら、仕方ない…会う時間は少ないほうがいいので早く返してくださいね」

「もちろんだとも!なんのためにこの特製ノーパソを持ってきたと思う?この場でコピーするからだ!」

「んー…大丈夫、ですよね、セキュリティとか」

「ネットワークも何も繋がらないから平気平気」

「まあ…なら、どうぞ」

「…早く返してくださいね。絶対ですよ」

 

 三人とも承諾したところで、一夏は簪がメモリーを持っていないことに気がつく。

 

「カンザシはいいのか?」

「私はもう渡した後。改修プランを建ててるときにこの騒動だったの」

「その、なんだかごめん」

「ううん、気にしないで」

 

ヒカルノがテンション高めに作業を進める横で、ヒカルノの話しが終わったからか、千冬が別の荷物を取り出す。それは分厚く大きい本だ。

 

「それとこれが、授業でも使う参考書だ」

「…電話帳?」

「デカイし、分厚いですね」

「本なら電子書籍でいいと思いますけど」

「…まあ、ともかく、入学が確定している一夏、桐ヶ谷は確実に全部を、結城は転入試験に落ちたくなければ基礎部門を覚えろ」

「姉さん、誤魔化さないで。電子書籍のほうが授業で使うときも範囲が分かりやすいはずよ」

 

アスナの指摘に誤魔化すように覚える範囲を教えた千冬だが、それを三春が容赦なく指摘をする。

 

「…まあ、そうだが…電子書籍だと容量が大きすぎる。あれだけの容量、専用の端末を用意してもらわなければ影響が大きいのが難点だ…見てみろ、このページだけでうんざりする文章量だ」

「あー…」

「うわー…」

「こ、こんなに…」

 

千冬か軽く捲り、見せたページには図形や絵があるものの、それの比較にならないレベルで文字がびっしりと詰まっており、捲り捲って何ページが見せるがどのページも多少差はあるが大量の文字が詰め込まれている。

 

「いくらIS学園でも、教室の机にデータは入れてあるが、それは学園の備品、個人に端末の支給はしていない。個人の端末にこれ一冊の容量を入れるのは、な…全員が全員複数の端末を持っているわけではない。その上で、これは日本語版、海外ならもっと量が多いところもあるぞ」

「姉さんごめんなさい。まさかこんなに文字ばかりだなんて…」

「…えーっと、この量、いつまでに全部を?」

「一夏、桐ヶ谷は入学までに、結城は…まあ、まずは試験前に基礎の部分を、合格したなら二人と同様だ」

「は、はい……えっと、基礎ってどの辺りです?」

「えーっと…ここから…………ここまでだ」

 

 と、分厚く大きい本を大雑把に捲り目的のページを見つけ、さらに捲って目的の範囲を指で摘まむ。紙のため薄いのだが、それでもあの文章量を考えると見た目以上に厚みがあるように見える。

 

「そ、そんなに…」

「教わりたいのなら、そこの更識に頼むのが早いか?」

「…アスナさん、がんばりましょう」

「そ、そうだね、う、うん。よ、よーし…」

「カンザシ、オレもいいか?」

「できれば、オレも」

「うん。教える側も勉強になるからいいよ」

 

 事前に学習しているため、この際、簪の試験の合否は置いておき、教わらなければ遅れるのは間違いないだろう。

 

「ありがとうカンザシ、さすがにこの量全部は自力じゃ厳しい」

「分かる人が確実に一人いるのといないのとじゃ違うからな」

「ありがとうカンザシちゃん。あ、そうだ。カンザシ先生はどうかな」

「先生…」

 

 先生と言われて照れているのか嬉しいのか、簪は頬を赤くしている。嫌そうな感じではないため、満更でもないのだろう。そんなやり取りを微笑ましそうに見ている三春と千冬。

 

「まあ、後は一夏、桐ヶ谷は、本来なら寮に入ってもらうところだが…何分話しが急だ、部屋が用意できるまで自宅通学になる」

「ああ、そっか。IS学園って全寮制か…でも今の時期だと新入生がまだ寮にいないだろうし、部屋ならすぐ用意できるんじゃあ」

「本来、女子寮に男子がいること自体、あまり言いとは言えん。だが、男子寮があるわけではない以上は、部屋割りを気にしなければならない。それに、男性で動かせるやつが、二人だけとは限らない」

 

 その千冬の言葉に、一夏や明日奈、おまけに三春ははっとなり、和人はなるほどと言いそうな顔をする。簪は事情をちゃんと知っているのか特に反応しない。

 

「日本じゃあ立候補した人だけとは言え、男子も検査対象、近いうちに検査をする学校もあるから、それが終わってから最終調整をする、ということですか」

「ああ。すまない…日本以外も検査を行っている以上、どう転ぶかは分からん。状況次第ではギリギリ間に合うかどうかもあり得る」

「えっと、私は」

「まずは試験を行ってからになる」

「は、はい…がんばります」

「しっかり教えます、先生ですから」

 

 案外、簪は先生と呼ばれたことが嬉しいのか、かなり乗り気だ。あまり変わらない表情でも、なんだか嬉しそうに見える。それを見て一夏も嬉しそうだ。

 

「…さて、早ければ明日、明後日には解放されるはずだ。そのときまで、寛ぐなり勉強するなりしていてほしい。篝火、終わったか?」

「もーちょい」

 

 先ほどから口を挟まないヒカルノは、パソコンの画面を見つめ作業中。そしてもうちょいの言葉通りに少ししたら3人から受け取ったメモリーを読み取り装置から取り出した。

 

「作業完了っと。はい、しっかりお返ししまーす」

「大丈夫ですよね…変なことしないですよね」

「その時は報復するから安心しろ」

「そんなことになったら殴り込みしないと、ね」

「徹底して管理します!」

「千冬姉も三春姉も落ち着いて」

 

 目が明らかに本気のため、冗談ではなく本当にそうなったらヒカルノの元に突撃しかねない。

 

「…では、私は行くぞ。さすがにまだまだやることがあってな…篝火、お前ももう用事はないだろ、戻って仕事をしないと間に合わないぞ」

「OK。じゃあ諸君、楽しみに待っていたまえよ~!」

「三春、お前もだ。積もる話しもあるだろうが、私の身内なだけで、特別に通してもらったお前を置いていくのはまずい。心配なのは分かるが、頼む」

「……分かった。一夏、何かあったらお姉ちゃんに言ってね?」

「う、うん」

 

 

 

 

 

「…それにしても、お2人さんはよーく平気だねー。SAO事件の被害者家族、結構SAOのこと、嫌悪するとこが多いって聞いてるよ?そこでてきた交友関係まで及ぶとこもあるんだとか」

 

 部屋から出て別れる前に、ヒカルノが千冬と三春に質問する。そんなことを知っているためかやはり気になるのだろう、ヒカルノの気質含め。

 

「平気ではない。今でもSAOのことは嫌な記憶だ。私より三春のほうが嫌っているだろう。だがそれでも、一夏の友達なら、それまで嫌いになるのはな…」

「そうですね…正直、あなたよりもSAOのことは嫌いです。過去に戻れるなら、SAO開始前に戻って、ナーヴギアを壊して一夏を止めます」

「おいおいまさか私、比較対象に選ばれちゃった?はー、嬉しくないなー…はい、失礼しました」

 

 やはり余程効いたのか、三春の一睨みに脅えるヒカルノ。この分なら千冬の場合でも同じになるだろう。

 

「…でも、SAOでできた友達まで、嫌いになれません。地獄の中で、一夏を支えてくれた人達です。それに、一夏も支えになっていた…それは姉として、家族として、嬉しいことです」

「なるほどね…にしても千冬、大丈夫だと思う?今年」

「何か起こるのは確かだろうな。こういう大きな変化の始まりになりそうなときに、何かが起こるのは定番だ」

「一夏に何かあったら姉さんでも許さないから」

「落ち着け三春」

 

 そうして話しているうちに、ホテルのロビーの目の前までつく。3人とも帰る方向が違う。千冬とヒカルノはそれぞれの職場、三春は家だ。

 

「それではこの辺でしっつれー!次があったらお手柔らかにー!」

「今すら嫌なのに次があるとでも?」

「ヒェ」

「三春、やり過ぎるなよ。例外は認めるが」

「そこ認めないでほしかったな畜生ー!」

 

 そう言い残し、ヒカルノは去った。千冬、三春もそれぞれの向かう先へと向かう。

 もっとも、これから起こる様々な出来事は、予想外の連続であると、知る余地もなかった。

 

 

 

 しばらく時が経ち、世界に変革が起き始める。

 

「…如月坊っちゃま、ご準備はよろしいでしょうか」

「…これ以外はいい」

「左様ですか…しかし、坊っちゃまもここを去ってしまうと思うと、寂しく、不安に思います」

「…必ず戻ってくる」

 

 かの者は心の折れた生者、柱となる生きる意味を喪い、それでもなお生きる者。

 

 

 

「な、なあ、本当に、だ、大丈夫?学費とかとんでもない金額だと思うんだけど、ほ、本当に大丈夫?」

「国が出してくれるそうだから大丈夫。なんでも、データを録るためだから、とか」

「国に借を作るようであれだが…出してくれるなら、精一杯勉強しろよ、カズ」

「も、もちろん!でも、なんか落ち着かない…」

 

 その者は希望を抱く者、かつての夢に背を向け、己の未来を見ている者。

 

 

「おーい!宗輝ー!」

「なんだよヨネ」

「いやー、IS学園に入学するでしょ?双子で入学とか世界初でしょ?緊張してる?気負いしてる?」

「女子校だから気が重いし怖い」

 

 その者は臆病な者。傍に太陽のいる彼は果たして月か、それとも…。

 

 

「もうすぐ日本か。わくわくする」

「そう。でもジョー、だからってキモノはないんじゃない?」

「アレン、キモノは日本の伝統的な服、つまり正装だ。ならしっかり練習して着れるようにならないと。郷に入れば郷に従え、だったかな、そこに住むならそこにあるルールは守ろう、という言葉が日本にある」

「ジョー、キモノは確かに伝統的よ、でも正装かはケースバイケース、正装ならスーツでいいんだから」

「む?そうか?」

「そうよ。日本好きなのに妙にズレてるの、なんとかしなさい」

 

 彼は前に進む者。どこかズレているから、真っ直ぐではないが確実に進む。

 

 

 もうすぐ彼らは出会う、そして、騒乱の時が訪れる。

 世界は変わる、それが既知か未知かは、進まなければ分からない。




 ラストには入学する男子について断片的な情報を出しました。
 これにて、本当にプロローグは終わりになります。改めて、よろしくお願いします。


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第01話 桜吹雪は最中か後か

どうもこんにちは、シューティング⭐です。全然書き進められず、今日に至りました。パソコン、そろそろ買うべきか…。



それでは、始まります。


 4月1日、この年は火曜日となった今日は、世間では嘘をついてもいい日、エイプリルフールという日だ。

 この日には各地多彩な場所で軽い嘘やジョークが飛び交う、そんなちょっとしたイベントのようなものになっている。行き過ぎ、やり過ぎは厳禁、ルールとマナーを守ってエイプリルフールを楽し…む、ものなのだろうか。

 そんな4月1日、エイプリルフールなど気にも止めずに、国際IS学園では入学式が手早く行われた。やることが多いから早い、とのこと。

 

 少し早めの入学式を手早く終えた学園の、1年1組、所属生徒総勢30名、簪の協力と努力の末に合格できた結城明日奈含む、27名の女子新入生と、織斑一夏、桐ヶ谷和人含む3名の男子新入生がクラスに揃っている。そう、男子3名。

 

 あれから新たな検査方法を導入し検査を行った結果、日本でさらに3名が汎用設定のISを動かし、アメリカでも1名が動かし、世界でも僅かだが動かしたものが現れ大騒ぎ、その数は多くはないが、世界中の男全てを調べ尽くしたわけではないので、少しずつ増えていくだろう。

 そうして判明したもののうち、日本の3名と、アメリカの1名、先の一夏と和人も含め6名の男子がIS学園に入学することとなり、一夏と和人に日本の1名が1年1組に、残り3名の男子は1年3組所属となった。

 

「では皆さん、改めて、入学おめでとうございます。私はこの1年1組の副担任、山田真耶です。よろしくお願いします」

 

 そう挨拶したのは、緑髪にメガネをかけた童顔で小柄、服はサイズが少し大きめなためダボついており、教師ではなくここの生徒では?と冗談を言っても、知らない人ならもっと年下では?と言われかねない。間違いないなく教師で生徒より年上だ。

 もっとも、そんな幼げな見た目ではあるが、服のダボつきの原因かもしれない、自己主張の激しい豊満な胸を持つ。

 

「ではまず、お互いのことを知るために、自己紹介をしてもらいます。えっと…順番は、名字の頭文字、場合によってはその次の文字を参照する、日本のあいうえお順になりますが、よろしいですか?」

 

 山田先生の言葉に、特に異議は出ず、自己紹介が始まる。あいうえお順ということは、おの一夏は早くに順番が回ってくる。だがそんな一夏はというと、今までにない周囲一部除いて女子の視線からできる限り逃れるため、現実逃避としてどうしてこうなったかを、思い返していた。

 

「…恵室如月。以上」

「あ、えっと、恵室くん、さすがにそれは短いって、先生思いますけど…その、も、もう少し、できますか?」

「……趣味、将棋、好きなもの、特になし。以上」

「あ、えっと、は、はい、ありがとうございます…(はあ…)」

 

 少し色素の薄い茶髪で跳ねた前髪が少し特徴的な、愛想の悪い男子、恵室如月の自己紹介が済む。次は一夏の番だが、現実逃避中の一夏はそれに気づかない。

 

「では次の織斑くん、お願いしますね」

「…」

「あ、あの、織斑くん?織斑くーん?」

「はあ…」

「織斑くん?織斑くん!!

「うぇあ!?」

「うひゃあ!?」

 

 順番だが反応のない一夏が、何やら考え込んでいると思った山田先生は、徐々に近づきながら声をかける。それでも反応しない一夏を見かねて、より大きな声を出した結果、一夏は驚き、それに釣られてか、山田先生も驚いてしまう。その光景に周りは思わず苦笑いをする。

 

「ご、ごめんなさい織斑くん。か、考え事してました?あ、えっと、織斑くんの一つ前の、恵室くんの自己紹介が終わったから、次の織斑くん、自己紹介、いいですか?」

「は、はいぃ…」

 

 気がつけば一夏のほぼ目の前に山田先生という豊満な双球を誇る(本人は誇っていない)胸の持ち主、思春期まっさかりの一夏にとってはいろいろと目に毒、返事はしたが視線を泳がした一夏は、和人や明日奈、簪以外に確実に見覚えのある顔を見つける。

 

「(あれは…箒!)」

 

 長い黒髪をポニーテールにした幼馴染みの少女、篠ノ之箒。自分がSAOで囚われている間に非常に大変なことになっており、現実に戻ってから連絡がつかなかった。そんな幼馴染みが同じクラスであることに、一夏は嬉しく思う。

 なお、その幼馴染みは恥ずかしいのか、一夏に見られていると分かった途端、顔を赤くし辺りを見て、それからそのまま顔を反らす。その反応はさすがに寂しい一夏であった。

 もう少し見回したいところだが、さすがにこれ以上待たせるのは申し訳ないため、一度深呼吸をした。

 

「スゥ…ハァー…(よ、よーし…)織斑一夏です。好きな食べ物は、ラーメンで、趣味は家事、えーっと、まだまだISについては分からないことだらけですけど、よろしく」

 

 まあ自分なりに問題なさそうな自己紹介をする一夏。ただ、一夏のことを知らない女子生徒は如月が自己紹介を短くした反動か、もっと知りたいという表れか、視線の圧がさらに強くなる。

そんな空気の中、教室のドアが開く。

 

「ほう…それで、他には何か言うことはないのか、織斑」

「へっ…あ、千冬姉!」

「織斑先生だ。公私の区別をつけろ」

 

 黒髪クールビューティー、織斑千冬が入ってきた。IS界隈における有名人が突然やってきたことで空気もろとも急激に静まる。

 

「…まあいい。あまり長くても良くはないからな」

「織斑先生、会議は終えられたんですね」

「中々長引いたが、なんとか。クラスへの挨拶、任せてしまってすまない」

「いいえ、そのための副担任ですから」

「そうか、ありがとう。さて…自己紹介の途中で済まないが、私がこのクラスの担任、織斑千冬だ。まあ、知っているもののほうが多いか」

 

 ISバトル国際大会、モンド・グロッソの初代日本代表にして、圧倒的な実力を持って他国代表を破り優勝、ブリュンヒルデの称号を獲得、第二回大会で個人戦こそ決勝を代理に任せ欠場したものの、団体戦でも優勝のために多大な貢献をした女傑。

 第三回は今までの専用機、暮桜が使用不可能、家族のこともあり出場しなかったものの、その名声は未だに衰えていない。

 

「さて…私の仕事としては、担任としてお前達をこの1年でISパイロットとして使えるレベルにすることだ。今の段階でも使えるものもいるであろうが、関係はない。ISを扱うこと、ここに入学したという意味、しっかり理解してもらう。不満があるなら私や山田先生が相手をしてやる。以上だ」

「あ、あまり、遠慮しなくても、いいですからね?」

「……んん!自己紹介、よろしいで」

 

 千冬の宣言から少しの間を置いて、一夏の次の金髪ロールな長髪碧眼の少女が自己紹介をしようと口を開いた直後。

 

「きゃああああ!!千冬様!千冬様よ!!」

「本物!本物の千冬様だーー!!生まれてきてよかったー!」

「私!千冬様に会うために青森から来たんです!」

「私福島!」

「岩手!」

「あ!私も福島です!」

「秋田から来ました!」

「東北多っ!」

「ちょっと待ってさっき織斑くん千冬様のこと千冬姉って!」

「名字同じだからもしかしてとは思ったけどやっぱり千冬様の弟!いいなぁ~!」

 

 静まり返っていたのが一転、高音の黄色い絶叫が響き渡り、思わず耳を塞ぐ人が続出する。

 そして千冬には、そんなやつらの対処法は分かっていると言わんばかりに行動に移る。具体的には、出席簿を教壇に叩きつけ折った。バキィ!という音が響く。

 それを見た生徒から黙り、折れた出席簿の半分が落ちたときには全員が黙っていた。

 

「…さて…この出席簿自体は私が弁償し、ついでに予備を用意してある。その前提で、先ほどのような騒ぎを起こすというのなら、折りはしない、これを叩きつけるぞ

 

 そう言いながら懐から別の出席簿を取り出す千冬。目が本気だ。それでも「千冬様に、調教」「…いい」とほざいている生徒は多分手遅れだ。

 

「…さあ、自己紹介はまだ終わっていない、私の分と先ほどの騒ぎの分、時間はあるが無駄にすればするほどやることが遅れる。次は…セシリア・オルコットだな」

「は、はい…」

 

 先ほどの絶叫が響いたか、耳を押さえながら立ち上がるセシリアと呼ばれた少女。彼女の自己紹介は長く、長いと途中で終わらせられた。なお、イギリスの代表候補生とのことだ。

 そして自己紹介は進み、女子生徒達の気になっているクラスの男子の1人、和人の番が回ってくる。

 

「あー、えーっと、桐ヶ谷和人です。機械いじりが得意で、パソコンを自作したことがあります。それと、趣味でアルヴヘイムオンライン、通称ALOっていうVRMMOをやっていて、やってる人いたら一緒にやりましょう」

「桐ヶ谷くんって、ゲーマー?」

「ALOって、確か、あの問題のあった?」

「今は問題起こした企業とは別のところが運営してるよ。私もやっているんだ~」

「ふふふ、同じVRでも、虫の世界は奥が深いぞ~」

 

 ALOをやっていることに周りが少しざわつく中、何故か少し反応を見せる箒。それを見た一夏は少し疑問に思う。自分の知る箒は剣道少女、ゲームよりも剣道と、言動含め固い侍少女のようであった。

 

「(でもまあ…オレも変わったし、箒も少しは変わるか。もしかしたら、興味があるのかもしれないし)」

 

 確か和風のVRMMOがあったから、後でそれを薦めてみることにした一夏。なお、周りのざわつきは千冬が目を鋭く、出席簿を振り上げたことで静まる。

少し騒ぎになった和人の自己紹介。さらに一夏が気になる簪の自己紹介は…。

 

「さ、更識、簪、です。え、えっと、機械調整と、プログラミングが得意です。よ、よろしく、お願いします」

 

 かなり緊張気味。日本代表候補生になったとは言え人前で話すのは緊張する。それでもなんとか終わらせ、箒が無難な自己紹介を終える。

 それから順番か進み明日奈の番。その明日奈が大きな爆弾を落とす。

 

「結城明日奈です。少し事情があってしばらく杖をついていることがありますけど、よろしくお願いします。あ、それとキ…桐ヶ谷和人くんの、彼女です!」

「え~!!」

 

 軽快なスパーンという音が連続して響く間に強制終了、その後の僅かな人数もさっさと終わらせたことで、自己紹介が終了する。

 

「…では自己紹介が済んだところで、クラス代表について話しをしよう」

「その前にちふ…織斑先生、さっきのあれは、体罰では…」

「言って脅して聞かないのならやるしかあるまい。安心しろ、さっきのは折ったときの10分の1以下だ」

「(それでも充分痛そうなんですが…)」

 

 実際加減はしたのだろう。悶絶している人はいない。まだ痛みを感じ涙目な人はいるが。

 

「とは言え、納得していないもののほうが多いか。なら、少し話そう。さすがにそれくらいの時間はある」

 

少しばかり目を閉じ、開く。それがルーティンかは分からないが、真剣な目と表情、声で語り出す。

 

「現在、インフィニット・ストラトス、通称ISは、本来の開発された目的である宇宙開発用の他に、救助、警備、探査、何より一番需要のある戦闘、並び競技用、といった形の用途で用いられている。

特に戦闘用に関しては、10年ほど前のミサイル事件における防衛の成功に加え、その後の演習の結果により、大きな軍事力になると判断されたからだ。まあ、同時に危険と見なされ、使用、保持に制限をかけるアラスカ条約が制定された」

 

 膨大な数のミサイルとその倍以上はある破片をIS2機でほぼ全てを撃墜・破壊した、演習において数多の兵器全てを1機のみで圧倒した。

 この事実がISは兵器として既存を超える力を持つと判断され、制限・規制するべくアラスカにて国際IS運用条約、アラスカ条約が制定され、今年で10年が経とうとしていた。

 

「故にこのIS学園は、種類によっては兵器として運用できるISを…命を容易く奪うことも可能なものを扱う関係上、軍の士官学校レベルとは言わないにしても、通常の学校よりはそれなりに厳しくするつもりだ。さっきのも、騒ぐなと前もって言い、どうするかも教えた。その上で騒いだから実行した」

 

 千冬の目は変わらず真剣だ。彼女はギリギリを経験している。何せ、ミサイル事件にて現れたISの片方、白騎士に乗っていたのは彼女であるというのは有名だ。その後の演習で乗ったのも彼女である。

 

「ここは士官学校ではないが一般の高校ではない、IS学園だ。甘く見ることもあるかもしれないが、緩くはさせんぞ」

「あ、で、でも、さすがに体罰はあまりしませんよ?やり過ぎるとやっぱり問題になりますから。ISを実際に扱うときは別、なんですけどね」

「な、なるほど」

 

 千冬の鋭い宣言と山田先生のやんわりとした捕捉が合わさり、僅かに固くなった空気も和らぐ。ほんの僅かだが。

 

「…さて、少し長くなったな。ではクラス代表についてだ。このクラス代表とはまあ、一般的な学校におけるクラス委員長のような役目に加え、学年別クラストーナメントのリーダー的ポジションを担ってもらう」

「学年別クラストーナメントは団体戦の形式で、トーナメントごとにルールは変わりますが、クラス代表は必ず参加、同じクラスからルールによって変わりますが、少なくとも1人、多くて2人に参加してもらいます」

「ということだ。さて、クラス代表だが、自推他推は問わん、やりたいものはいるか!」

「はい!織斑くんがいいと思います!」

「桐ヶ谷くんとかどうでしょう!」

「私で!」

「私やりたいです!」

「じゃあ、更識さん推薦ー!」

「私は感じる、彼のダークなオーラを…恵室くん、君を推薦する!」

「織斑くんがいいです!」

「織斑くん!」

「桐ヶ谷くん!」

「ねえねえ、ホッピーやってみない?」

「なっ!?」

 

 千冬の言葉を聞き、クラス一部を除いて手を挙げ声をあげる。自推より他推が多く、一夏だったり和人だったりと、男子ばかりだ。

 

「え!?ちふ、織斑先生!オレこのクラスでも素人なんですけど!それでやれとか無理ですって!それと、ええっと、カンザシ推薦!」

「その関係でオレも素人なんですが!あ、オレは、オルコットさん、推薦で」

「取り下げは無理だぞ?」

「えー…」

 

一夏、和人の言葉は聞き入れられず、クラスが一通り言って少し静かになったところで、セシリアが静かに、険しい顔で手をあげる。

 

「このセシリア・オルコット、私自身の立候補を致します。そして、少し皆さんに申し上げたいことがあるのですが、発言、よろしいでしょうか」

「…まあ、構わんが…下手なことを言うようなら止めるぞ」

「ありがとうございます」

 

そう言うと、険しい表情と目付きで少し辺りを見渡し、口を開く。

 

「ではまず…私、皆さんに失望しました。なんですか、自分で立候補する方は少なく、珍しいかどうかは分かりませんが、つい最近になりISを動かせることが分かった、ISに乗った経験の少ない、あるいは無い、実力のない男ばかりを推薦する。

 私はここで学べることがあると思い、わざわざ、祖国イギリスから異国日本へと来たというのに、共に高め合うべきクラスメートがこのような体たらくでは、無駄に終わりますわね」

 

 セシリアの表情は険しく、目も険しく瞳は冷たい。そして失望と侮蔑を隠さない声色でクラスメートを見下した。生徒の多くが何か言いたそうにし、さらに困った顔の山田先生が何か言いたそうだがそれを千冬が視線と手で遮る。

 

「ほう。十代の小娘にしては、分かったようなことを言うな。まあ、これほど腑抜けが多いなら、失望もするか」

「二十代の先生方にはまだまだ及びませんわ。それでも一般の十代よりは経験があるほうだとは思っています。何より私はイギリスの国家代表候補生にして、専用機を持っています。最新鋭の、第三世代ISを。このクラスで他にはいませんよね?」

 

トゲのあるセシリアの言葉にクラスの雰囲気は少し悪くなるが、千冬は不敵な笑みを浮かべる。

 

「今はな。今後、男子全員には専用機が支給されることになっている上に、私が把握している限り、ほとんど第三世代だ」

「なっ!?」

「それと、今この場でクラス代表を決めるつもりはない」

 

 セシリア含むクラス全員がえぇっ!?と声を出し驚く。専用機のことも驚きだが、クラス代表はこの場で決めるものだと思っていたため、千冬の発言には驚きを隠せない。

 

「この場ではまだ実力がよく分からないからな。来週、このクラスの専用機持ちと代表候補生で戦ってもらい、その結果を見届けてから、民主的な投票で決めてもらう。

 参加者は後に支給されるものも含め、恵室、織斑、オルコット、桐ヶ谷、更識、篠ノ之、結城の7人だ。まあ、それ以外で、参加したいなら今からでも立候補していいぞ?」

「え!?」

「じゃあなんで聞いたんですか…」

「!?わ、私もですか?!」

 

 和人の呆れた声に重なるよう、自分の名前が出たことに驚いた様子の箒が、思わず声を出す。その箒に対し千冬は鋭い視線を送る。

 

「聞いたのは諸君の積極性の確認だ。積極的なほうがうれしいからな。それと篠ノ之、専用機は持っていないが、お前も日本代表候補生だろう?実力を示せ」

 

 和人の声に答えた後、箒に当たり前だと言わんばかりに告げる。そうして、クラス全体を見据えて口を開く。

 

「他の者もそうだ。いないのか?代表候補生相手でも、戦ってみせる者は。ここにいるのは過酷な受験競争を突破した、エリートのはずだが?」

 

 その言葉に答えたのは、恐る恐ると手を上げた1人。ヘアピンをつけた青みのある髪の少女だ。

 

「や、やります」

「…鷹月か。他には………いない、か。では、恵室、織斑、オルコット、桐ヶ谷、更識、篠ノ之、結城に加え、鷹月の8人で、1週間後の火曜に模擬戦を行う。さすがに人数が人数だ、全員が全員と戦えるわけではないぞ」

「あ、クラス代表は、模擬戦後に投票で決めます」

「……その前にち…織斑先生、拒否権は?」

「模擬戦自体への辞退は認めん、それとクラス代表は投票で決まる、それで選ばれたら拒否は許さん」

「そんな~」

 

 一夏の言い分は容赦なく切り捨てられ、チャイムが鳴る。

 

「では今回のHRはここまでだ。山田先生の言った通り、クラス代表は模擬戦後に投票で決まる。選ばれたら運が悪かったか、運が良かったと思うことだ」

「えっと…この後の授業は、ISの基礎部分について行いますから、準備をしておいてくださいね!」

 

 そう言って、2人とも教室を出る。少しして空気が緩み騒ぎ出す。

 ついでに教室の外に人が集まりだす。

 

「千冬様が担任なんて最高!」

「でもなんだか厳しそう…」

「当たり前でしょ?それも込みで、最高!」

 

 主に騒いでいるのは千冬関連。とはいえ騒いではいるが、さすがにまだ初日、話している人は決して多くはない。ないが…。

 

「…はあ、これからどうなるんだ…」

「はは、なんというか、いろいろ予想外ですよね…」

「まさか、私もやることになるなんてね…」

「負けないからね」

「カンザシにあっちで負けたことなくてもこっちじゃ厳しそうだな…それに、まだちょっと、な…」

 

 仲のいいこの4人はさっそく話している。模擬戦で戦う8人のうちの4人が集まっていることで注目されている。

 

「どうだろ。みんな、私より強かったし…」

「って言ってもゲームの話しだしな…現実じゃあ、まあ、体、貧弱だしな」

「しっかり鍛えないとな」

「そうね…私も、いつまでも杖を使っているわけにもいかないからね…」

 

 無理矢理とは言え、戦うとなれば一夏を除いてやる気だ。体は万全とは程遠いのが本人達にとって残念なことだが、来週に備えリハビリをしっかりこなしていくしかない。

 

「ところでアスナ、なんで自己紹介のとき、その、オレの彼女だって、言ったんだ?」

「ここ実質女子校だよ?周りは女の子ばっかり。それなら今のうちに釘を刺さないとね、私は、キリトくんの恋人ですって」

「アハハ…」

 

 和人は案外モテるのだ。本気で好きになった人こそ少ないものの、顔は整っているため、SAOでは密かにファンクラブがあったとかなかったとか。

 もっとも、そんな和人に関わる女子陣の中にも例外はいる上に、和人のさらに上が側にいる。

 

「確かに。それにキリトさん、悪評あってもそこそこモテていましたからね」

「…ワンズは一番人のこと言えないでしょ?」

「そうよ。ワンズくんのほうがずっと酷いからね」

「ごめんワンズ、お前には言われたくない」

 

鈍感野郎一夏だ。SAO時代、ファンクラブ(非公式)がいくつか作られたレベルだ。

 

「え~…そりゃあまあ、女性プレイヤーとは結構フレンド登録してましたけど、あれはお得意さんだったり助けた人がほとんどで」

「ワンズのこと、異性として好きな人は私だけじゃないよ。…恋人は、その…私、だけど

 

 そんな会話をしている4人に近づくのは、動きが固く、右手右足、左手左足と同じ側の手足を同時に動かして歩く篠ノ之箒だ。

 

「す、少し、いいいいいいだろうか!」

「…いや、落ち着けって、箒」

「!わわ、私が、分かるか、いい一夏!」

「髪型変わってないからすぐ分かったよ。それに自己紹介していたじゃないか」

「あっ…そ、そうだな!」

 

 一夏と箒は幼馴染みだが、一夏がSAOに囚われてからすぐに大きな事件で篠ノ之家は離散、今日まで再会できていなかった。一夏は簪伝手で、箒の状況を辛うじて知ることができた。

 そんな幼馴染みと久々、とは言え再会したがここまで緊張するということは…と、他の3人はなんとなくその理由を察した。彼女もか、と。

 

「えー、さっき自己紹介しましたけど、篠ノ之箒、オレの幼馴染みなんです。箒、キリトさん達の紹介はいるか?」

「い、いや、また時間のある時にし、しよう。そ、それで、その、ひ、久しぶり、だな、一夏」

「ああ……っと、忘れるところだった。箒、剣道の全国大会の優勝、おめでとう」

「!…知って、いたのか…どうやって」

「か…あー……お、おばさんが教えてくれたんだ、新聞に載ってたって」

「そ、そうか、珍しいな」

 

 大会優勝を祝われたというのに、箒の表情はあまり優れない。それどころか落ち込んでいる。

 そんなときに和人は、少し思い当たることを思い出していた。

 

「(…そう言えば、全国大会で直葉、篠ノ之って相手に滅多打ちにされたって…)なあ、その大会の決勝、相手は桐ヶ谷じゃなかったか?」

「うっ…や、やはり、あの彼女の…すみませんでした!」

 

 突然の箒の謝罪に、一夏と明日奈は呆気に取られ、簪は一夏達ほどではないが、目を大きく見開き驚いている。

 そんな事情を知らない3人のうち、一夏と明日奈が聞く。

 

「…え?えっと、キリトさん、箒、いったい何を?」

「何かあったの?」

「…妹が剣道やってて、全国大会決勝で、篠ノ之って相手に滅多打ちにされて負けた」

「…つまり今、修羅場?」

「あっているような、あっていないような…」

 

 簪のあっているのかいないのか微妙な指摘には、明日奈でなくとも困る。そんな中、箒が罪の告白かのように語り始める。

 

「…あの時の私は、自分しか見ていなかった。自分の事情を押し付け、相手を見ず、傷つけてのしまった。謝って済むことではないが、今は」

「やめてくれ。オレは兄だか本人じゃない。オレに謝るより、妹に謝ってほしい。それに、妹も妹で、あんなにボコボコにされたのは弱かったからだーって、稽古に身が入ってたようだし。それと…」

「…それ、と?」

「……周りの視線が、きつい」

「…あっ」

 

 いきなり大きな声で謝っては、周囲はなんだなんだと気にしてしまう。そんな単純なことに気づかず謝罪を行った結果、声をかけられないにしても、周囲の視線をほとんど釘付けにした。

 そのことに気がつき、みるみる顔を赤くする。少なからず恥ずかしいようだ。

 

「す、すみません。わ、私は、私は…」

「…気にしているのは分かった。とりあえず、まあ、後で妹に連絡して聞いてみる。」

「…ごめん、箒。オレ、そんなことになっていたなんて、知らなくて…」

「いや、いい…いずれ、言わなければならないことだったからな」

 

 箒本人は相当後悔し、反省している様子だ。未だに落ち込んでいる。

 そんな箒に、一夏がそうだと提案をする。

 

「そうだ。箒、VRゲームやってみないか?」

「へ?」

「キリトさん、ALOってゲームやっているって言っただろ?キリトさんの妹もそのゲームやっているんだ」

「…そのキリトという呼び方は、そのゲームの…?」

「まあ…ずっとそう呼んでいたから中々抜けなくて…」

 

 なんとなく箒の目が泳ぎ始めているような気がする。主に、和人から反らす方向で。

 一夏は泳いでいることには気がついても、その意図はまったく理解していない。

 

「か、考えておこう」

「?お、おう。あ、オレとカンザシもやっているから、やるならプレイヤーネーム教えるからな」

「あ、ああ…か、カンザシ…」

「…呼んだ?」

「え!?あ、いや」

 

 箒が狼狽えていると、予鈴のチャイムが鳴り、席を立っていたものが席に座り始め、教室外の野次馬は慌てて去っていく。

 

「あっ、も、もう時間か!あまり悠長にしていたら千冬さんに叱られてしまうな!ま、また後でな!」

「あっ…」

「うへぇ、確かに。叩かれるなら勘弁だ」

 

 気まずいからなのか急ぎたいと思ったのか、慌てて自分の席の方へ戻っていく箒。そうして各々、席へ戻り、授業の準備を済ませ、備えた。




どうでしたでしょうか。まだまだ始まったばかりですが、よろしくお願いします。


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