異世界転"性"黒猫少女、しっぽ付き。 (しぇてめ)
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1.黒猫
「……?」
野草や木々の生い茂る、人の影すらないような……ともすれば秘境とも呼ばれる森の中。布を羽織って座り込む。
木の幹に身を預けるようにして、黒の髪の毛を目の前に垂らすようにいじくりまわしたり、自らの手を太陽に透かすような仕草でまじまじと見つめる。
水溜まりに映る自分を見れば、頭には三角形の、猫のものを模したような耳がついており、腰の辺りには同様に猫のような黒い尻尾が伸びていた。
一見飾りのようにも見える程に綺麗なそれは、ぴくりと動く事、何かを探すようにうねる事から飾りではなく、それらの持ち主が自分である事が嫌でも判る。
そして大きくため息をこぼすと、横目で確認すると水面に映る黒髪の猫少女も同じくため息をついている。それを見て、俺は目を伏せながら両膝を腕で抱え込んで再び呟いた。
「……俺、なんなんだ……?」
――――――――――
口内の違和感。口の中がじゃりじゃりと嫌な感触で満ちている。辺りを確認しようとして目を閉じていた事に気付き、自分が寝ていた事を理解する。
体が
もう一度眠りへと落ちようとする俺だったが、大自然の味と舌に伝わる嫌な感触が、身体を起こすように責め立てる。
「んん……ぺっぺっ」
口の異物を吐き出しながら、まだ眠気の残る目をこすりながら開け、上体のみを起こしながら周りを見渡す。
「き……。……え、森の――えっ!?」
木、木、木。周り一面自然が全てを占めており、目の前に広がる情報が急速に俺を覚醒へと導く。
なんだこれは、どういうことだ。という言葉すら出てこない。自分がなぜここにいるのかすらわからない俺は、言葉を失いながら己の過去を思い出す。
「これは……い、せかい……?」
イセカイ。情報量にパニックを起こしてまともに考えがまとまらない頭が、ふと今の状況を表現しようとする。
「いせ……異世界、なのか……?」
ほぼ無意識で出た言葉ではあるが、口に出せばしっくりくる程に目の前の光景は現実離れしていた。
独り言を皮切りに、自分が次にどうすべきかも浮かんでくる。
「……ス、ステータス?」
そう念じると、座りこんだままの俺の前にボードのようなものが浮かんでくる。事態が
――とにかく、目の前の"これ"を確認しよう。
――――――――――
名称:ツクモ
性別:♀
Lv:1
種族:亜人(猫)
状態:正常
スキル:
【魅力.lv1】【鑑定.lv1】【ステータス閲覧.lv1】
特殊スキル:
【
――――――――――
おお、と少し興奮しながら表示された物を確認するが、すぐにとある項目に気付き、固まる。
「性別……
こんなところにいる経緯は思い出せない。
とはいえ、この項目に違和感を感じるくらいには記憶がある。混乱しながらも確認するように読み上げながら目を動かすと、ふと自分自身の恰好が目に入った。
布というにはあまりにも薄汚く、
そんな代物を肩にかけるようにして羽織っている自分。布から見える腕は、お世辞にも男らしいなどと言えないほど細い。というより、女子供のそれだ。
そして、妙な感触がしてお尻の付け根のあたりをまさぐると、細長い棒のようなものが手に当たる。
お尻の付け根に若干の突っ張りを覚えながら慌ててそれを腰の前に引っ張ると、黒く細長い何か。先程の情報と併せて考えれば、猫のしっぽ――。
「――なんだこれぇっ!?」
俺は、
「今の今まで気付かない俺も俺、だな……。はは」
尻尾から手を離し、口から乾いた笑いを漏らしながら、今の自分が女性であるという事実が現実味を帯び始める。
「俺は……あれ?……まずい、自分が誰なのかも判らないぞ……」
……今更
記憶が
少なくとも、こんなしっぽを自前で生やしているような自分が
だが、残念ながら自分がどうしてこんな所にいたのか、なぜ女性なのか、なんでしっぽが生えているのか。それらを解決する答えは記憶に存在しない。
ふと頭に手をやると、予想通り毛に覆われた三角形の……猫耳であろうものが生えている。考える気すら起きなくなった俺は、近くにあった木へともたれかかる。
「……これから、どうしろと?」
か細い声で呟いたその質問は、森へと吸い込まれる。当然返答など、あるはずもなかった。
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2.世界
「……まず、ステータスだ」
時間をおいた事で多少の余裕は出来たので、改めて現状を確認する。どちらにせよ、一生を座って過ごす訳にはいかない。
――――――――――
名称:ツクモ
性別:♀
Lv:1
種族:亜人(猫)
状態:正常
スキル:
【魅力.lv1】【鑑定.lv1】【ステータス閲覧.lv1】
特殊スキル:
【
――――――――――
まず、自分は『ツクモ』という名前らしい。らしい、というのも元の世界の記憶が曖昧だからか、俺は自分がなんと呼ばれていたか思い出せないからなのだが。
ツクモという名前にしっくりくるような感覚はあるが、少なくとも俺が元いた世界にツクモなんて名前がいたらよっぽどのキラキラネーム……その場合なら、名前の可能性はあるのかもしれないが。
とはいえ、普通もうちょっと、それこそ苗字なりのある名前のはずだ。ステータスがどこまで名称と判断しているのかは判らないが、自分の母国語的にも3文字で済まされるような所に住んでいた可能性は薄い。
佐藤や田中、は適当かもしれないが……名前がツクモ、なんて妙ちくりんなものだけ、なんて事はないだろう。少なくとも俺は三文字で完結する名前の国の出身ではないと思う。
(……まあ、覚えて無いものは仕方ないか。それより気になる事もある)
そう独り
当人が言うのもなんだが、普通はネコミミなんぞ生やしてる奴はいない。間違い無く俺は転生したのだろう。
「……しかも、異世界、に」
もし仮にそうでなくても、こんな森は俺にとっては異世界だが。
(『Lv:1』って言うのはレベルのはず。俺は1レベルなのか――って、弱くないか)
ステータスの詳細が載っていないかと探るものの、攻撃力や防御力といった欄が無い。スキルが【ステータス閲覧.lv1】って事は、レベルが上がれば変わるのかもしれないが……情報は圧倒的に少ない。
せめて、記憶喪失になるにしても、なんでこんなところに居るのかくらいは覚えていて欲しかった。
「なんでステータスなんて確認出来たんだ。覚えてる知識がロクでもねえ……」
転生した今なら少しは役に立つが、こんな事より名前とかを覚えておくべきだと思う。
現状、ゲームみたいなサブカルチャーな知識よりも、必要な事は沢山ある。サバイバルの知識とかの方がよっぽど役に立ちそうだ。
……まあ、そんな現世の知識は注目すべきがこの『特殊スキル』という欄だと教えてくれてはいるのだが。
「まあ、チートって奴だよな。とはいえ、なあ……」
【
【道連れ.lv1】。どう考えても自爆技。使用方法に察しは着くが、試すにしても怪我は
「……これ使う前に死ぬ――」
――ガサッ。
ふと、背もたれにしていた木の裏からそんな音が聞こえた。
「っ!?」
何か、いる。叫びそうになった言葉を飲み込み、押し黙る。
ここが森だと言うのなら、生物がいる可能性は高い。だからといって、森の中で友好的な生物を期待するのは少し無理があるだろう。
俺は音を出来るだけ鳴らさないように立ち、木の影から後ろを確認する。
「っ」
俺が言えた義理ではないが、子供と同じような大きさ。そして二足歩行。手には粗雑な造りだと一目で分かる棍棒のような武器。そして緑色の肌。
生前の世界でも知識さえあるなら、十人中の十人がゴブリンと答えるであろう生物がそこにいた。
「――。……はぁ……」
俺はそれを目にして息を飲む。野生動物くらいは覚悟をしていたが、こうも『魔物』と呼ぶしかないような生物を見てしまうと、間違い無くここが異世界であると認識させられる。
(やっぱりそう、なのか。ここは)
なあなあで出したとはいえ、
……兎に角、こういう時に
――――――――――
Lv:4
種族:ゴブリン
状態:正常
戦闘スキル:
【兜割り.lv1】
スキル:
【鈍器使い.lv2】【武器作成.lv1】
――――――――――
(ゴブリン。見た目のまんまって感じだな……)
気を付けるべきはこの戦闘スキルとかいう
(俺には戦闘スキルなんて欄は無かったが……いや、俺が弱いってことか)
現状、戦闘スキルもない黒猫少女。装備はボロ布。手を通す穴だけはあるが、武器となる物は何も無い。レベル差は3。
ふと見ると、ゴブリンが何故かきょろきょろと辺りを見回していて、勘付かれているようにも見える。
――よし、逃げよう。
今は勝機は薄いと踏んで、逃げようと腹を決めた俺はそっとその場を離れる事にした。
抜き足、差し足、忍び足。幸か不幸か音を立てるような物を身に付けてはいないため、集中さえすれば音は鳴らないだろう。
そういや自分、
いけると思い数歩進んだその時、事件は起こった。
―――スキル【隠密】を取得しました。
「にゃっ!?」
全身の毛が逆立ち、
システムメッセージ、とでも呼ばれそうな事務的な文。
普通なら喜ぶべきであろうスキルが増えたというお知らせなのだろうが……今の自分にそれを喜ぶ余裕など、あるはずもなかった。
突然脳内に響いた声のせいで、変な声が出てしまった俺は、その場で停止する。
(……そりゃびびるだろ!周り誰もいないのにいきなり変な声聞こえたら……!くそっ)
とにかく、今はもっと確認すべき事があると思考をそちらに向ける。ゴブリンはさっき、周りを警戒していた。そんな状況でこんな声を出せばどうなるかは想像するまでもない。
それでも未練がましく予想が外れてくれと思いながら振り返ると、そこには木の塊を手に笑みを浮かべるゴブリンがいた。
「……畜生っ!」
その姿をこちらが視認した瞬間、ゴブリンは俺に飛びかかりながら棍棒を持った右腕を振る。
半ば反射的に思い切り右へステップ。足場の悪さによろけながらも避けると、空中にいるため方向転換の効かないゴブリンの放った一撃は、勢いのまま先程まで俺が立っていた地面を抉る。
続け様に横薙ぎで振るわれた棍棒を後ろへ引いて避け、そのまま緑の小鬼と睨み合う。
説明されなくたって判る。地面を抉るような攻撃をこんな柔い体に喰らえば、動けなくなるに違いない。痛みを我慢できるか、それを確かめるには当たるしかないだろう。
「怪我じゃ済まないよな……っ!」
ゴブリンが跳ぶようにして、棍棒で殴り掛かってくる。振りかざされた棍棒をギリギリで躱しながら、左手に握りこぶしを作る。
――ゴッ。
そしてそれを、全力でゴブリンの顔面にぶつけた。構えも何もあったものじゃない、やけくそとはこういう事を言うのだろう。
「ギ……」
それでも顔面への衝撃で精神的な勢いを失ったのか、ゴブリンは力なく顔を抑える。そして、隙があるならそれを付かない理由は無い。辛うじて2足で立ったままの魔物に対して、未だ痺れの取れない手で拳を作り、その頭へ振り下ろした。
「ギシャ……!」
「――らっ!」
言葉とは思えない声を上げ
這いつくばるように伏せる背中に、膝から落ちるようにして全体重をかけ踏み潰す。体勢を整え、足で緑色の頭や背中を踏みつける。
動かなくなったゴブリンを後目に、近くにあった手の平大の石ころを見つけ、拾ってゴブリンの後頭部に勢い良く振り下ろす。
ゴブリンの両腕は両足で地面に挟み、自由を奪いながらマウントを取り、頭と石で鈍い音を鳴らし続ける。
「死っ……ねっ……!早くッ……!」
自分の出来る精一杯、そして恐怖を込めつつぶつけていると、やがてゴブリンがぴくりとも動かなくなり、脳内にメッセージが響いた。
―――Lvが2になりました。
―――スキル【鈍器使い】を取得しました。
頭の中に流れた情報が俺を冷静にさせる。手に残る、殴る時の嫌な感触を意識から取り除く為に、布を少しまくるようにして腰の前に自分の尻尾を持って握る。
「ふ、ふふ。やった、やってやったぞ……!」
綺麗な戦いなどでは無かったが、勝利には違いない。俺は、疲れと興奮が混じった震える声を絞り出した。
――――――――――
震えながら手や所々に血が付着している布を纏う少女が、やった、だのと呟いていたらどう思うだろう……そんな事を思うと、気分が少し落ち着いてきた。興奮が冷めた、とも言う。
「ふう……」
現在はゴブリンがいるくらいなのでもしかしたら、とは思って適当に水場を探索していたところ、本当に綺麗な川を見つけたため血を流している。
ついでに、俺は休憩も兼ねて先程の戦いとその他で成長したであろうステータスを眺めていた。
――――――――――
名称:ツクモ
性別:♀
Lv:2
種族:亜人(猫)
状態:正常
スキル:
【魅力.lv1】【鑑定.lv1】【ステータス閲覧.lv1】【隠密.lv1】【鈍器使い.lv1】
特殊スキル:
【
――――――――――
新しく覚えたのは【隠密】と【鈍器使い】。隠密の習得タイミングから考えたが、スキルは行動とレベルアップで入手出来ると見ていいはずだ。
「隠密を入手したせいで隠密じゃなくなった、なんてとんだ皮肉だな……」
……ビビって声を出した自分にも問題はあるが、タイミングの悪いスキル習得にも問題はある。
そして【鈍器使い】。あの時使った物を考えれば、石が鈍器として扱われていたようだ。一応さっきのゴブリンの棍棒らしき物も持ってきたが……使い辛そうだし、後で捨てよう。
そしてさっき確認しなかった【魅力】【鑑定】の2つ。魅力はともかく、鑑定は今でも使えそうなので試しに棍棒に使ってみると――。
――――――――――
【武器】
武器。
――――――――――
「……ん?」
あまりの雑な説明に嫌な予感がしつつも、他の物にも使ってみようと、その辺りの草を積んだり、恐らく木になっていたであろう丸っこい実を拾う。
――――――――――
【草】
植物。
――――――――――
――――――――――
【草】
植物。
――――――――――
――――――――――
【果実】
実。
――――――――――
―――スキル【鑑定】がlv2に成長しました。
「……」
若干諦めかけていた所にシステムメッセージが飛んでくる。やはり、スキルを使うとレベルは上がるようだ。
当のスキルについては期待はしてないが、改めてさっき鑑定したものにスキルを使う。
――――――――――
【武器】
棍棒。
――――――――――
――――――――――
【草】
地面に生える植物。
――――――――――
――――――――――
【草】
地面に生える植物。
――――――――――
――――――――――
【果実】
木になる実。
――――――――――
「……さっきよりは、さっきよりはマシかな。スキルが成長する可能性も考えれば無駄では――」
――きゅるうううぅ。
使えないスキルで気が抜けたのか、腹の虫が一帯に鳴り響く。そういえば何も食ってない事を思い出し、鑑定結果をちらりと見つつ、丸っこい果実を川で洗う。
野球ボールくらいの大きさがあり、ぎっしりと詰まっている事が判る重さ。鮮やかな赤色をしていて、りんごのようにも見える。
「とはいえ木の実……。ぐ……食べよう、うん」
野生の木の実という事で未だに食べるか迷っていた俺だったが、見ているとまた腹の虫が鳴いたため、惹かれるようにかぶりついた。
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3.寝床
――しゃくっ。しゃりしゃり。
果物を
「……ファンタジーで言うなら奴隷か、蛮族だな。いや、浮浪者か?はは……はぁ」
汚れこそ先程見つけた川で流してはいるが、布に腕を通す穴が空いているだけなので、ファッションと呼ぶにもギリギリのラインだという自覚はある。
水面に映る自分を見た時、全裸の方がまだマシじゃないかと本気で思ったくらいだ。乾かす事も出来ないが、そもそも水を含む程いい布でも無いのがまた悲しい。
「……んぐ。美味い……」
そしてさっきからずっと食べている赤い実だが、なかなか美味しい。今食べているのはあれから探して見つけた2個目だ。
ほのかな甘みと咀嚼を促す食感。空腹ならなんでも美味しく感じるのだろうが、森に生えているような実にこれだけ甘味があるのは十分凄いと思える。
「……【エプの実】、だっけか」
あれから、道行く物に鑑定を使って【鑑定】をlv4まで上げた。その結果が――。
――――――――――
【エプの果実】
魔力が豊富にある土地でのみ育つ【エプ】の果実。
実をつけてすぐは毒性が強いが、熟れる程に毒性は弱くなり、それに伴い甘味が強くなる。
――――――――――
――なんと、物の名称や詳細まで判るようになり、非常に便利になった。
lv3の【鑑定】ですら『魔力のあるところに生える』としか出なくてもめげなかった、その分くらいは報われたはずだ。欲を言えば毒性についてはもっと早く知りたかったが。
「いくつか味のしない奴も噛んだけど、平気だよな?」
美味しくないから捨てたが、こんなサバイバル下で選り好みをしないで食べてたら毒を食ってたかもしれなかったなんて……キツすぎる。
いっそ熟れてるかどうかも【鑑定】出来れば良いのにとは思ったが、そこまではカバーしてくれないようだ。レベルが上げれば変わるのだろうか。
――――――――――
【棍棒】
木製の鈍器。
――――――――――
だが、ゴブリンの遺品に対して使った場合がこれだ。
「変わってないんだよな……」
棍棒はlv4でも説明は変わっていない。説明するような情報がないのか、この太めの棒切れに対して棍棒と呼ぶだけでも
いずれにせよ、殴り倒したゴブリンが【武器作成】とかいうスキルを持っていたし、自分で作った物なのだろう。
――しゃり、ごくん。
2個目のエプを食べきり、ふと近くを見ると、一際大きい木の根元に空間がある事に気が付いた。木の
元々木の葉で空が遮られ薄暗かった辺りは、ゴブリンを倒した時に比べると少し暗くなり始めていた。
「あれ、人1人くらいは余裕で入れそうだけど。中に誰も……あ」
持ってきた棍棒を見て、索敵方法を思いつく。普通に使うと壊れそうなので、こうした方が有効活用出来るだろう。
(振り上げて、木の洞に狙いを定めて……
動作を終えて、すかさず茂みに隠れる。何も出てこないので、生物は居ない……事にして、中を覗き込む。
中にはさっき投げ込んだ棍棒に似通った棒と、布団。そして枕がある。
正しく表現するなら、薄い布と枕のようなものだろう。布に砂か何かを詰めたと思われる物は枕と言うには少々硬い。とはいえ、恐らくは寝床だと推測して辺りを物色すると、太めの枝を発見した。
「これ、棍棒の材料か……?」
さっき雑に投げ込んだ棍棒の太い部分と同じ直径。試しに棍棒の先と折れた部分に合わせるとぴたりとくっつく。どうやら、ここは間違いなく殴り倒したゴブリンの住処らしい。
布団らしき物も1組しかないし、少女が1人いて満員だ。いくらゴブリンでも何匹も入れるとは思えない。これも、あの魔物が自分で作った物なのだろう。
……色々ありすぎて疲れたし、ここで寝てしまおうか。どうせここの持ち主は帰ってこない。
「帰らぬ人にしたのは俺だけど……」
化けて出ないよう祈りつつ、枕と布団を隅に寄せて仰向けに寝転がる。そのままステータスを開くと――。
―――スキル【ステータス閲覧】がlv2になりました。
――――――――――
名称:ツクモ
性別:♀
Lv:2
種族:亜人(猫)
状態:正常
HP:42/42 MP:55/55
スキル:
【魅力.lv1】【鑑定.lv4】【ステータス閲覧.lv2】【隠密.lv1】【鈍器使い.lv1】
特殊スキル:
【
――――――――――
「ステータス閲覧、伸びるのか」
てっきり鑑定と同じで色々見ないと伸びないと思ったが、回数による物だろうか。
HPとMPが追加されている事が判る。ゴブリンとかのものを知らないため、高いのかどうかは分からないが。
他は変化無しか、と思いながらステータスを掴もうとするとすり抜ける。実体が無い。
「そりゃそうだ、こんなの触れたら邪魔だよな……ん?」
なんとなくステータスを掴む事に挑戦していると、丁度一番下にあった【道連れ.lv1】の上に親指が触れる。すると、その瞬間新しくボードが現れた。
――――――――――
【道連れ.lv1】
自身が5秒以内に受けた身体的欠損を指定した1体と共有する。同じ身体的欠損に対して使用する事は出来ない。
――――――――――
「えっ。……あ、まさか……」
突然の事に驚きながらも、少し嫌な予感がしつつ【
――――――――――
【
複数の魂を持つ。生命力を失った時、魂を生命力と魔力に変換し、在るべき形へと戻す。
――――――――――
「……これ、前も出来たのか?」
そう思って【鑑定】にも触れると同じようにボードが出てきた。
「タッチパネル式……ってこんなのが……!」
――こんなのが出るなら、スキルの考察とかしなくて良かったじゃないか!
という愚痴の後半も言う余裕が無いくらいに、疲労が押し寄せてくる。
流石に、今日はゆっくり身体を休めよう。そう結論付けた俺はステータスから意識を背けてボードを閉じ、ふと外に目をやると暗くなっていた。この世界で初めての夜だ。
「先行きが不安になってきた……」
そのまま目を閉じると、すんなり意識は闇へと落ちていった。
――――――――――
「……痛ぇ……」
取り除き損ねた石に頭蓋骨を抉るように刺激され、目が覚める。
「ゴリッつったぞ……やっぱり、土の上で寝るのはまずかったか……」
――おまけに身体も痛い。せめて何か敷けば違ったのかもしれないが、敷けるような物があったら先に着ている物をどうにかしている。
俺は強制的に睡魔を吹き飛ばしてきた石を端に転がし、座ったまま外へと這い出る。
こんな粗末な寝床でも時間だけはしっかりと潰せるようで、外は葉の隙間から差し込む光で明るく照らされていた。
「……スキル、確認するか。後回しにしてたし。またゴブリンに襲われてタイミング逃しても困る」
一人言を呟きながらステータスを開き、スキル欄を1つ目から順に触れていく。
――――――――――
【魅力.lv1】
悪印象を抱かれ辛くなる。
――――――――――
――――――――――
【鑑定.lv4】
素材の詳細を表示する。
――――――――――
――――――――――
【ステータス閲覧.lv2】
ステータスを表示する。
――――――――――
――――――――――
【隠密.lv1】
気配を消す。
――――――――――
――――――――――
【鈍器使い.lv1】
鈍器の扱いを理解している。
――――――――――
どうせ大した事は書いていないなら、こういうステータスの詳細の見方くらい最初に教えてくれてもいいだろ……と、少し愚痴を吐きつつ特殊スキルの欄に指を滑らせるように移動すると、同様にスキルの詳細が表示される。
――――――――――
【
複数の魂を持つ。自身が死亡した時に魂を生命力と魔力に変換し、在るべき形へと戻す。
――――――――――
――――――――――
【道連れ.lv1】
自身が5秒以内に受けた身体的欠損を指定した1体と共有する。同じ身体的欠損に対して使用する事は出来ない。
――――――――――
特殊スキルは2つ。この2つは他のスキルと説明文の雰囲気も少し違うように感じる。雰囲気を察せる程、他のスキルの説明がちゃんとしていないとも言える。
(でも、これで推測の域を出なかったスキルの効果は確定した)
【複魂】というのは、恐らく復活スキル。そして後ろについている数字は使用回数だろう。
もう1つの【道連れ】は自分が食らったダメージを返すスキルのようだ。5秒という制限こそあるが、強力なスキルのはず。
――これ、2つ組み合わせれば。ふとよぎった凶悪なコンボを、冷静に頭から追いやる。
死ぬ程の自傷行為を当たり前に出来る奴がいるなら、是非とも教えて、そして代わって欲しい。仮にいたとしても、自分がするのは
(特殊スキル……は、戦闘スキルとは違うよな)
思い返すと、ゴブリンのステータスには戦闘スキルという欄があり、そこには【兜割り】といういかにもな技名のスキルがあった。スキルが何かしらあれば、そういう欄が出来るという事だ。
つまり、そんな欄が無い俺にはそういったスキルはない。戦闘スキル、覚えられないとかはないよな。
「……うん。まず、食料探しに行かなきゃな。無いものねだってもしゃーないし」
俺は立ち上がり、腕を上に伸ばし、身体全体で凝りを解す。
――取り敢えず【エプの果実】探しをしよう。栄養バランスとかは分からないが、空腹さえ満たせるなら当面はどうにかなる……はずだ。
俺は見通しが甘いのを自覚しつつも、
――――――――――
「なんだ、これ」
エプの果実を見つけ適当に歩いていると、地面が平らになっている場所を見つけた。
それを中心にして、同様に
「道……?魔物のものでは無いな……幅も広いし」
辺りを見て、取り敢えずは道に誰も居ない事を確認する。
ゴブリンと遭遇し戦って以来、周りを警戒しながら歩いていたからか、精神的な疲労が溜まっている。そのため、俺は道の端に抱えていたエプの実をそっと置いた。
「ここらで休憩するか。……道って事は、この辺で待ってれば誰かが通る事もあるだろ」
肉体的な疲労が少ない時に休憩を取る免罪符のような理屈を漏らし、その場に座り込む。
明らかに人の手が入った場所。知らない土地で不安はあるとはいえ、期待に胸を踊らせずにはいられない。というより、俺も森暮らしなどいつまでも――。
――ガサッ。
「がッ……」
後ろから聞こえた物音に驚き、食べようとしたエプの実を放り慌てて立とうとすると、背中に強い衝撃が伝わるとともに体制を崩される。
同時に、左肩に鋭い痛みが走る。俺は突然の事に驚きながらも、がむしゃらに左腕を振り回してそれを振り払った。
(っ……噛まれた!)
そいつ
大型犬程の大きさ、尖った牙が生え揃う、大きく横に裂けた口。口から涎を
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