ハイスクール・フリート Beyond the Mirror (明日をユメミル)
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プロローグ

西暦204X年 4月2日

 

 

海上自衛隊横須賀基地は喧騒に包まれていた。

 

 

 

「出港用意っ!舷い放て!錨鎖詰め方、錨挙げ!」

 

 

 

スピーカーから響く掛け声と共に、岸壁に停泊していた護衛艦の甲板に居た乗員が岸壁と船体を繋ぐ舷い綱を解き、甲板に引き上げ、巻き上げられる主錨を真水を使った洗浄作業を開始し、出港用意のラッパが鳴り響く。

 

 

 

『えぇ間も無く、アメリカ軍との合同演習のため、この横須賀基地より護衛艦隊が出港します!私の目の前の護衛艦ゆうひも出港準備に入った模様です!』

 

 

 

岸壁の開けた所でレポートするニュースキャスターの後ろに居た艦首に大きく白色で「121」と描かれた艦番号を持つ、護衛艦『ゆうひ』は今、出港準備に入っていた。

艦橋には、艦の指揮を執る幹部乗員が出港指揮を執っている。だが、この場には屈強な男性自衛官に混じって、複数人の女性自衛官が居る。

 

 

『政府による女性社会起用促進政策により、女性艦長と女性幹部を中心に6割の乗員が女性という護衛艦ゆうひは、米軍との合同演習に参加のため横須賀を出港します!』

 

 

 

今日、女性の社会参加が当たり前となった2040年代は、女性自衛官でも国防の最前線配備が普通となり、政府の女性社会起用促進政策に基き女性自衛官入隊規則が大幅に改変され、一等海佐の女性艦長を筆頭に女性幹部を中心とした、あさひ型護衛艦3番艦の『ゆうひ』は、今横須賀を旅立とうとしていた。

 

 

 

 

 

タグボートに引っ張られたゆうひの船体が岸壁を離れ、スクリューが回り始めると、船体はゆっくりと前に進み出す。

 

 

 

「航海長操艦。両舷前進原速、赤黒なし、針路150度」

 

 

 

ゆうひの艦長を勤める『岸晴乃(きしはるの)』1等海佐は、航海の指揮を執る航海長『松前鈴子(まつまえりんこ)』2等海佐に操艦指揮を渡す。

 

 

 

「航海長戴きました。両舷前進原速、赤黒なし、針路150度」

 

「了解」

 

 

 

松前の指示で補佐役兼操舵手の『勝新次郎』3等海尉が指示に合わせて舵輪を操作する。

 

 

 

「左舷後方、護衛艦隊旗艦が通過します」

 

「登り方用意、登れ!」

 

 

 

岸は左後方から向かってくる護衛艦隊旗艦へ向けてと登舷礼の指示を出し、制服姿の乗員達が左舷に集合する。

 

 

 

「副長、左舷へ」

 

「了解」

 

 

 

岸は自身のサポート役を勤める副長の男性自衛官『室戸昌(むろとあきら)』2等海佐と共に、艦橋左舷のウイングに出る。

左後方から左舷を通過しようとする、護衛艦隊司令官が座乗する艦隊旗艦へ向けて視線と首を向ける。

 

 

 

「護衛艦隊司令に敬礼する!左舷気を付け!」

 

 

 

ラッパが鳴り響き、旗艦が左舷に差し掛かったと同時に乗員が一斉に敬礼し、旗艦側の乗員も敬礼で返す。

 

 

 

「両舷前進半速」

 

 

 

旗艦が遠ざかり前方に出ると、他の護衛艦も各々の位置に就く。

艦隊航行序列を取りながら、護衛艦隊は米海軍とのリムパック演習に向けてハワイ沖へと目指し横須賀を出港していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く



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第1話

横須賀出港から2日後、艦隊は演習に向けての訓練を行っていた。

 

 

「教練合戦用意!」

 

 

 

岸の号令で艦橋に居た幹部と隊員が戦闘訓練に向けてライフジャケットと鉄帽を被りだす。

同時に岸がCICに入り、宛がわれた席へと座る。

 

 

 

『レーダー目標探知、120度に2機。まっすぐ近づく!』

 

 

 

電測員の『宇田恵(うだめぐみ)』2尉からの報告により、砲雷長の『佐田恵衣(さためい)』3等海佐が岸に一瞬だけ視線を向けて、指示を出す。

 

 

 

「配置に就けます」

 

「了解」

 

「教練対空戦闘用意!」

 

 

 

艦内に警報が鳴り響き、全乗員は水密扉を閉鎖し、各々の配置につく。

 

 

 

 

「各部配置完了。艦橋。面舵、第3戦速、30度ヨウソロ」

 

『了解。面舵、第3戦速、30度ヨウソロ』

 

 

 

佐田の指示で、ミサイルが向かってくる方向へ向けて射線確保のため転舵する。

 

 

 

「敵ミサイル、更に接近」

 

「対空戦闘。近づく目標、シースパロー攻撃始め」

 

 

 

ミサイル担当員の『八重山光(やえやまひかり)』1等海曹が発射警報を鳴らし、数回警報が鳴り響いてから、発射ボタンが押す。

 

 

 

「バーズアウェイ」

 

 

 

無論、これは訓練のためVLSからミサイルは出ないが、メインディスプレイ上には、ゆうひから放たれたESSM(発展型シースパロー)の光点が、仮想敵に向けて真っ直ぐ飛翔していき、2つの光点が重なると同時にディスプレイから消えた。

 

 

 

「マークインターセプト。目標1撃破、残り1は真っ直ぐ接近!」

 

「主砲、CIWS、攻撃はじめ!」

 

 

 

艦首のMk45が左に向けて旋回し、OPY-2による射撃管制を受けて、目標へと船体の揺れに合わせ砲身を上下させる。

 

 

「撃ち方はじめ」

 

 

 

砲術員『武山瑞希(たけやまみずき)』1等海曹が主砲の発射ボタンを押し、ディスプレイ上に写し出された砲弾が残りのミサイルに向けて飛翔し、見事命中した。

 

 

 

「全目標撃墜確認。周辺に脅威なし」

 

「教練対空戦闘用具収め」

 

『教練対空戦闘用具収め』

 

 

 

戦闘訓練が終わり、配備が解かれる。

 

 

 

「ふぅ~……いつも思うけど、訓練は気が引き締まるね」

 

 

 

緊張から解かれた岸が椅子にもたれる。

 

 

 

「艦長、あんまり緊張しすぎて本番でミスしないでよ」

 

 

 

そこへ、佐田が声をかける。

 

 

 

「分かってるけど……やっぱりね……」

 

「まぁその気持ちは分かるよ。私だっていつ、実戦に就く事になるか不安でしょうがないよ」

 

「それが来ないように訓練するんでるよ砲雷長」

 

「そうそう。訓練は嘘つきませんからね」

 

 

 

 

武山と八重山が話に入り佐田を励ます。

 

 

 

 

「じゃあ艦橋戻るから、後よろしくね」

 

「了解」

 

 

 

岸は佐田に後を任せてCICを出て、艦橋へと戻る。

 

 

 

 

 

 

階段を登り窓の外を見ると、まだ昼間なのに空に雨雲が発生し、辺りが薄暗い。

 

 

「艦長、気象庁から、この辺一帯に低気圧が発生しているとの事です」

 

 

室戸が急いで岸に報告する。

 

 

「規模は?」

 

「940ヘクトパスカル、風速20メートル、尚勢いを増してるとの事です」

 

「予報には無かった筈なのに………取り敢えず時化に備えよう。荒天準備」

 

 

荒天準備が発令され、乗員達は危険物等の物品や破損しやすい物の固定作業に入った。

艦隊は低気圧に突入し、直後から波が荒れだし、船体が大きく揺さぶられる。

 

 

 

「結構キツいですね」

 

「うん。このまま何も無ければいいけど」

 

 

 

艦が低気圧の中心に差し掛かかる。

波が一瞬だけ穏やかになったと思った瞬間………

 

 

 

 

 

 

ピカァァ!!ゴロロロロロロロロロッ!

 

 

 

 

 

 

雲から電が落ち、マストに直撃した。

 

 

 

「うわぁっ!」

 

「落雷?」

 

 

左右のウイングに居た、艦橋員の『内海真(うつみまこと)』1等海曹と『山上清美(やまがみきよみ)』1等海曹が尻餅をついた。

 

 

 

「応急指揮所、損傷箇所を報告せよ!」

 

 

 

室戸が急いで応急指揮所に報告を求め、異常無しとの返答が来た。

 

 

 

『こちらCIC!対水上レーダー、僚艦を失探(ロスト)!』

 

「ロスト?出力を最大に上げてみて!通信も確認!」

 

 

 

直ちに確認が行われるが、レーダーは他の艦を捉えられず、通信も出来なかった。

 

 

 

『先行艦「いずも」との交信不能!「あきづき」「まや」応答ありません!』

 

 

 

通信担当員『八木真依(やぎまい)』2尉からの報告に岸は直ぐに次の指示を出す。

 

 

 

「衛星通信は?」

 

『衛星も軌道上に確認できません!GPSも機能が停止しています!現在位置確認不能!』

 

「衛星追尾アンテナは?」

 

『故障していません。全艦からの応答がありません!』

 

「左右ウイング、目視にて僚艦を確認せよ!」

 

 

 

目視確認が行われるが、何処を探しても僚艦は見当たらない。

 

 

 

「艦長駄目です!目視確認できません!何処にも僚艦は見当たりません!」

 

「艦長、羅針儀が破損した模様!方向確認できません!」

 

 

 

更に追い討ちをかけるように、羅針儀まで狂ってしまった。

 

 

 

「目視確認も現在位置の確認も出来ない………何が起こってるの?」

 

 

 

突然の事態に全員が困惑する。

僚艦を見失い、通信も出来ず、GPSも頼みの綱のコンパスも狂って使用不能、おまけに曇り空せいで太陽の位置確認もできない。これでは状況把握も出来ない。

 

 

 

「艦長!前方12時方向、アンノウンが!」

 

 

 

山上からの報告に、岸と室戸が双眼鏡で前方を見る。

 

 

 

「何?あれ………」

 

 

 

艦首の鼻先から向こうの空間が、黒い穴を中心に渦巻いており、回りにある物を飲み込もうとする勢いで大きくなっていく。

 

 

 

「航海長、回避航行!取り舵一杯っ!」

 

「え……あ……」

 

「早く!」

 

「り……了解!回避航行、取り舵一杯ぃぃぃ!!」

 

 

 

松前の弱々しくも、悲鳴に近い声の指示にビックリした勝が「了解ぞな!」と思わず伊予弁で応え、舵輪を勢いよく回す。

 

 

 

山ちゃん(山上)うっちゃん(内海)!艦内に退避!」

 

 

 

岸は慌てていたのか、他人をあだ名で呼ぶ癖で山上と内海の2人をあだ名で呼んで退避を促し、2人は急いで艦内に退避しドアを閉める。

 

 

 

 

直後、ゆうひの艦首が穴に入り込み、船体が大きく吸い寄せられていく。

 

 

 

「機関後進一杯!」

 

「後進一杯ぃぃ!!」

 

 

 

ギアをバックに入れるが、船体は穴にどんどん吸い込まれていく。

 

 

 

「駄目だ!逃げられない!」

 

 

 

室戸が叫ぶ。

 

 

 

「全員、衝撃に備えて!」

 

 

 

岸がそう叫び、全員が床に伏せた。

 

 

 

そして、ゆうひは完全に穴に吸い込まれて、海上から忽然と姿を消してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く



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第2話

穴に呑み込まれたゆうひは、真っ暗な空間に居た。

 

 

「各部状況報告!」

 

 

衝撃態勢から起き上がった岸は直ちに、艦内各部署の確認を行う。

 

 

『こちら砲雷科、全隊員異常無し』

 

『こちら機関科、機関ならびに発電機異常なしでぃ!』

 

『こちら補給科、全員と物資の無事を確認』

 

「こ、航海科も皆無事です!」

 

「了解。艦長、各部署異常ありません」

 

 

 

室戸からの報告に岸は安堵する。

 

 

「それにしても……ここって……」

 

 

回りは真っ暗で、何処を見渡しても、あさひ以外の物は何も無い。海水が船体にぶつかる音や、潮の匂いも無く、太陽光も無い筈なのに、自分の回りの物や他の乗員の姿は昼間のようにはっきり見える。

 

 

「不気味ですね……何かこう……何処かに迷い込んだような感じです。艦長、これからどうしますか?」

 

「何とか状況把握しないとだけど、これじゃ何も出来ないよ」

 

 

未だに羅針儀は狂ったまま、GPSも機能せず現在位置不明、通信不可能、レーダーも機能しないとなると、殆ど漂流してる状態である。主機関と発電機が無事なのがせめてもの救いである。

 

 

「取り敢えず動いてみよう。両舷前進微速、針路0度」

 

「了解。両舷前進微速、針路0度ヨウソロ」

 

 

その場から移動して、この空間の出口を探すため、艦を前進させる。

 

 

 

「周囲の目視確認を怠るな!目を見開いて、入り口らしきものを発見次第報告せよ!」

 

 

 

室戸も、輪とした表情で冷静に指示を下す。

 

 

 

「周囲の目視確認って言ってもねぇ……」

 

「こんなに真っ暗じゃ何も見えないよ…」

 

 

 

山上と内海も双眼鏡や肉眼で、遠距離と近距離にめを配るが、真っ暗な空間内でさ遠近間隔が分からない。

 

 

 

「真理子さん、何か聞こえる?」

 

 

 

岸は、ソナー担当員の『四条真理子』に尋ねる。

 

 

 

『何も聞こえません。海流の音も波の音も…』

 

「分かった。取り敢えず警戒は続けて、何か音が聞こえたら教えて」

 

『了解しました』

 

「シマちゃん、一応だけど魚雷とアスロックを使えるようにしてて」

 

『了………解………』

 

 

 

水雷長の『豊津志摩』1尉が、言葉足らずと言った小さな声で呟き、アスロックと短魚雷のロックを外す。

 

 

 

「さて……後はどうなるか」

 

 

 

どうなるか分からない状況に、乗員達の不安は募っていく。

 

 

 

一時間が経過した頃、事態が動いた。

 

 

 

「前方に光が!」

 

 

山上の報告に、艦橋に居た全員がその方向に目を向ける。

 

 

「あの光に向かって全速!」

 

 

 

ゆうひはそのまま光に向かって走る。

 

 

 

 

「出た!」

 

 

 

嗅ぎ慣れた潮の香りと、海面、深い霧を見て皆は安堵した。

 

 

 

 

「羅針儀は?」

 

「えぇと……元に戻ってます」

 

「良かった。取り敢えず僚艦を探しながら、現針路を維持して」

 

「了解」

 

 

取り敢えず、警戒しつつも僚艦の捜索に入ろうとした矢先。

 

 

 

『艦長!前方より大型艦艇接近!』

 

「距離は?」

 

『2000を切ってます!』

 

「2000!?回避!」

 

 

急いで回避行動に入る。

深い霧の向こうから、大型船のシルエットが見えてきた。

 

 

「空母じゃない?」

 

「あのシルエット……まさか!」

 

 

 

船務長『納谷由紀子(なやゆきこ)』が記録用タブレットを開く。

 

 

 

「そんなまさか………あれって……」

 

 

 

霧を抜けて見えてきた、大型船の姿に皆の表情が固まった。

 

 

それは日本人なら誰でも知っている、伝説の巨大戦艦と寸分違わぬ威容と迫力…………

 

 

 

「艦長、コイツは……」

 

「うん………私の目も可笑しくなってるのかも……だって………あの艦は…………」

 

 

 

巨大な3連装主砲塔2基と3連装副砲1基、ビルのような鐘楼に、その頂上に据え付けられた測距儀……

 

 

 

「戦艦大和…………!?」

 

 

 

 

続く



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第3話

「戦艦大和……!?」

 

 

目の前に現れた戦艦大和の姿に全員が驚く。

 

 

 

「何だ?あの赤いラインは?それに測距儀上にはウチと同じ対水上レーダーがある?」

 

 

 

よく見ると、大和の船体中央部から艦橋前面に掛けて大きい赤いラインが描かれ、左右に延びる測距儀の上にはOPS-28航海用レーダーが備えられ回転している。

煙突にも、見たことのないエンブレムが大きく描かれており『YOKOSUKA』とローマ字もある。

 

 

 

「艦長、何なんでしょうかあの艦は?それに、回りににも旧海軍の陽炎型駆逐艦が多数います!」

 

 

 

回りには、同じように赤いラインとエンブレムが描かれた複数の陽炎型駆逐艦が布陣している。

 

 

「どうしますか?艦長」

 

「今は逃げに徹しよう。取り敢えずこの艦隊を抜けないと」

 

 

 

その時、CICから報告が入る。

 

 

 

『艦長、前方12時方向に小型艦が接近!』

 

 

 

前方から一隻の駆逐艦が迫ってくる。突然目の前に現れたゆうひに対して驚いているのか、回避する様子が見られない。

 

 

 

「艦長、ここは突っ切るしかありません」

 

「出来そう?」

 

「あの排煙からして向こうはボイラー艦ですから、本艦の加速にはついて来れません。回避する様子がないので、フェイントを掛けて脱出路をこじ開けます」

 

「分かった。操艦指揮はあき君(室戸昌)に任せるよ」

 

「了解!………向こうにフェイント仕掛けるぞ!操舵手、面舵10」

 

「了解ぞな!面舵10度!」

 

 

 

勝が舵輪を左に回し艦首を左に回した瞬間、相手側が全く同じタイミングで右に舵を切った。

 

 

 

「タイミングが被った!?……面舵一杯、機関最大戦速!向こうの左舷を突っ切れ!」

 

「了解!」

 

 

 

急いで舵輪を左に回し、機関出力を最大に上げ、高い加速力に物を言わせ、相手側の左舷に差し掛かる。

 

 

「!?」

 

 

左舷に居た見張り員の『野上真千子』3尉が近視眼鏡を外し確認する。その瞬間に向こう側のマスト上に居た見張り員と目が合った。

 

 

 

「女の子?」

 

 

 

目の良い内海は、目が合った女の子は自分と同じように眼鏡を掛けて、こっちを見て驚いてる姿を見た。

そして、艦尾に平仮名で艦名が描かれていた。

 

 

「はれかぜ………」

 

 

 

だがそれも一瞬のうちで、相手は遠ざかっていく。

 

 

 

「このまま速度を維持!逃げきるぞ!」

 

 

 

最大戦速のまま、ゆうひは艦隊の真ん中を突っ切り距離を取った。

 

 

『対空、対潜、対水上、共に感なし。アンノウンそのまま離れます。距離30000』

 

 

 

不明艦隊は霧の向こうへと消えていき、追ってくる様子もなくレーダー探知範囲外へ出ていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、日が暮れて、日没時刻を回ってから艦橋に居た全員が集まる。

 

 

「僚艦のロストに衛星通信不能から始まった、あの空間………そして旧海軍艦艇との遭遇。我々の回りに理解し難い事象が起きた」

 

 

室戸の言葉に勝が意見を飛ばす。

 

 

「理解し難い?誰が見たってあれは戦艦大和でしたぞ!」

 

「じゃあ……あれは……幽霊船!?」

 

 

松前が恐怖に怯えてしゃがみこみ、岸が慌てて駆け寄り宥める。

 

 

「落ち着いて。さっき野上さんから聞いたけど、大和とあの駆逐艦には乗員達が居て目が合ったって聞いたよ。少なくても幽霊船じゃないのは確かだから」

 

「ですけど戦艦大和や、他の駆逐艦艇は全部戦没したか解体されたかで1隻も残ってない筈だが」

 

「もしかしたらハリウッドが映画撮ってるとか?」

 

「だったら向こうから宣伝してくるし、海上で撮影してるなら事前に届け出が出てる筈ですよ」

 

「ならマニアが再建したとか?」

 

「そんなのニュースになりそうだよ。ドッキリでもなさそうだし…………」

 

 

皆、頭を抱えてしまう。

 

 

「誰か旧海軍に詳しい人居る?」

 

 

岸の質問に、納谷が名乗り出る。

 

 

「上がってきた報告を基にした私の推測でよろしいですか?」

 

「いいよ」

 

 

納谷は一呼吸置いて、説明を始めた。

 

 

「あれは間違いなく大和型戦艦と陽炎型駆逐艦です。最初に現れた大和型は艦橋後ろの階段の向きと射撃指揮所の色から、姉妹艦の武蔵と思われます。そして次の陽炎型駆逐艦は野上さんからの報告では艦名は『はれかぜ』だと言う事なんですが、史実の陽炎型にはそんな名前の艦は存在しません」

 

「ちょっと待って!存在しない筈の艦が何で……」

 

「それは分かりません。ただ言えるのは、我々は未知の現象に巻き込まれて、旧海軍の連合艦隊と遭遇したと言う事だけです」

 

「まさかタイムスリップしたとか?」

 

 

 

内海の言葉に艦橋が不安に包まれた。

 

 

 

「問題はこれからどうするかだが………」

 

「群司令からの命令変更も無いし、ロストした僚艦も探さなきゃならないから戻る事は出来ない。ゆきちゃん(納谷由紀子)の言う事が本当なら、旧海軍に酷似した謎の艦艇が太平洋に姿を表したって事かな?」

 

「だと良いですけど、逆だと思いますよ」

 

 

そこへ野上が話に入る。

 

 

「野上さん、どういう事?」

 

「夕部の月齢と日時覚えてますか?」

 

「確か……6月1日で満月の夜だよ」

 

「じゃあそこにあるメインディスプレイに表示されている、西暦と日付と今の外を見てください」

 

 

 

皆が艦橋の天井から提げられているモニターに目を向ける。

 

 

「2016年4月2日!?」

 

「何で24年前に?」

 

「それに月だって新月だし!」

 

 

 

外を見ると、月も満月ではなく新月となっている。

 

 

 

「つまり、現れたのは向こうではなく我々の方だと」

 

 

 

皆の不安が頂点に達した。重苦しい空気の中、室戸は岸に指示を仰ぐ。

 

 

「艦長、指示を」

 

「群司令からの命令変更がないし、取り敢えず僚艦を探しながらハワイに行こう。このまま予定通り、真珠湾に針路を!」

 

「「「「「了解!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く



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第4話

夜が明けて、辺りが明るくなる。

 

 

「艦長、間も無く小笠原諸島近海に到達します」

 

 

夜通しで、元の航路を往復し僚艦の捜索に当たっていたゆうひは、小笠原諸島近くに到達していた。

 

 

「状況に何か変化は?」

 

「今の所は何も。衛星通信も機能しませんし、データリンクも同じく機能していません。無線通信で予備の周波数帯を使って艦隊司令部や米海軍とも通信を試みていますが連絡がとれていません」

 

「漂流状態って訳だね……小笠原諸島付近に行けば何か分かるかもしれないけど、引き続き警戒を厳に」

 

「了解」

 

 

 

しばらく辺りを周回しながら航行していると、対水上レーダーが船舶らしき反応を捉えた。

 

 

 

『艦橋、CIC。本艦前方11時方向、距離50000に対水上目標複数探知』

 

「数は?」

 

『概算で10隻』

 

「10隻……昨夜の不明艦隊と同数か。艦長、どうしますか?」

 

「取り敢えず、向こうのレーダー探知範囲ギリギリまで接近してみよう」

 

「了解」

 

 

 

ゆうひは、そのまま速度を上げて目標に接近する。

 

 

 

だが、目標との距離が縮まっていくと、CICで異変が起きた。

 

 

「あれ?」

 

 

宇田の目の前にある、レーダーディスプレイの画質が急激に悪くなっていく。

それと同時に、他のディスプレイ画面がどんどん画質が悪くなっていき、メインモニターも含めて完全に砂嵐となってしまった。

 

 

 

『艦長!各種レーダーシステム、火器管制システムに異常発生!』

 

「異常?」

 

『はい!CIC内の全ディスプレイが写らなくなりました!火器管制装置も機能不全を起こしてます!』

 

『こちら応急指揮所!艦内の各計器にも異常発生!』

 

「何が起きて………っ!!」

 

 

ふと自分のデジタル腕時計を見ると、表示がメチャクチャになっていた。

 

 

「艦長!前方に水柱を確認!」

 

「え?」

 

 

野上からの報告に、岸は双眼鏡で確認すると水平線上に、多数の水柱が上がっていた。岸は直感で、訓練ではない事を悟った。

 

 

「対水上戦闘用意!」

 

 

不測の事態に備えて、戦闘配置の指示を出す。

 

 

「野上さん!他に何か見えます?」

 

「はい!陽炎型駆逐艦1隻と…………米海軍のインディペンデンス級を確認!インディペンデンス級が陽炎型に砲撃してる模様!」

 

「インディペンデンス級……たしか今回の演習には参加していない筈」

 

「あ!陽炎型に1発被弾した模様ですが、回避行動を続けています!」

 

 

 

この発言に、岸は実際に戦闘が行われていると悟った。

 

 

「艦長、我々はどうしますか?」

 

「戦闘に介入は出来ない。救助目的以外じゃ、このまま見守るしかできないよ」

 

 

防衛出動や海上警備行動で海上自衛隊は、相手側からの攻撃を受けた場合の自衛権を除き、武器の使用と戦闘介入を極力避けなければならない規定がある。

今の岸達に出来る事は、この状況を静観するしかない。

 

 

「艦長!陽炎型が回避行動から攻撃態勢に入りました!」

 

「攻撃!?」

 

「はい!インディペンデンス級の右舷に回り込んで………今、魚雷を発射しました!」

 

 

野上の優秀な視力による実況で、陽炎型から放たれた魚雷はインディペンデンス級の舷側に直撃したが、爆発的していないのか、水柱は上がらず、速力が落ちていく。

 

 

「陽炎型、全速で現場海域から離れていきます!」

 

「あの駆逐艦を追って!」

 

「艦長!被弾したインディペンデンス級の救助は?」

 

「下手に接触すれば何が起こるか分からない現状での救助作業は危険すぎる。あの駆逐艦を追って、接触できれば何か分かるかもしれない」

 

「了解。航海長、あの小型艦の後方に就け!」

 

「了解!取り舵20度ヨウソロ!」

 

 

 

ゆうひは、離脱していく陽炎型駆逐艦の後を追うように現場海域から離れる。

小笠原諸島海域から離れると、今まで機能不全だった全システムが徐々に復旧していく。

 

 

『艦橋、CIC。各種レーダー、通信、火器管制システムが復旧しました』

 

『こちら応急指揮所、艦内の各種計器正常に戻りました』

 

 

岸は腕時計を確認すると、表示は通常通りに現時刻を指していた。

 

 

「何だったんだろう?艦の各電子機器の不調に水上戦闘………」

 

「恐らく電子機器の不調は、あのインディペンデンス級がECMをしていたものと思われますが、旧海軍の駆逐艦に対する攻撃はどうにも説明がつきません」

 

「もしかして私達、とんでもない事態に巻き込まれたのかな」

 

 

 

そこへ、八木から報告が入った。

 

 

『艦長、日本本土方向からの広域通信を捉えました!』

 

「広域通信?通信の内容は?」

 

『はい「海上安全整備局から航行中の船舶ならびに全艦艇へ。横須賀女子海洋学校所属の学生艦晴風が叛乱、猿島を攻撃、乗員は全員無事を確認。海上安全整備局は晴風を叛乱艦と見なし追跡」との事です』

 

「晴風…昨日の駆逐艦だね」

 

「その駆逐艦が叛乱逃亡……しかもその艦にのってるのが学生?それに海上安全整備局とは何なんだ?」

 

 

 

室戸や他の艦橋員も聞き慣れない単語に頭を傾ける。

 

 

 

「艦長、もし追跡中の艦が叛乱艦の晴風と言う艦なら、我々は関わりを持つべきでは無いのでは?」

 

「そうなんだろうけど………戦闘中だったあの艦から敵意が感じられなかったんだよね。攻撃を受けても逃げてばっかりだったし、あの魚雷攻撃も身を守るためにやっただけにしか思えないよ。」

 

「じゃああの艦の叛乱疑惑は濡れ衣?」

 

「多分ね。さっきの通信内容にあった海上安全整備局って所が早とちりした可能性だってあるし、もしそうなら、あの艦に乗っている学生を保護する必要があると思う。上手く行けばあの艦から情報が得られるかも」

 

「分かりました。ですがそうなると我々も追われる身になりますが」

 

「何を信じたら良いのか分からない現状じゃ、この選択肢が懸命だと思う。もしそうなったらその時に考えればいい」

 

「分かりました。貴女を信じます」

 

「ありがとう、あきちゃん」

 

 

 

 

ゆうひは晴風の追尾を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く



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第5話

ゆうひは、晴風の後方に位置しつつ、レーダー圏内ギリギリを維持しながら追尾を続けていた。

 

 

「艦長、晴風には何時接触を?」

 

「タイミングを見誤ると、向こうがパニックを起こすかもしれないし、何とか接触できるタイミングを見つけるしかないよ」

 

「しかしこのまま追尾も限界があります。燃料の余裕があるうちに接触しないと」

 

「………………無線で呼び掛けてみよう」

 

 

八木が無線の周波数を特定し回線を開く。

 

 

「艦長、無線交信用意よし」

 

「うん………」

 

 

岸は無線マイクを手に取り、ストークボタンを押す。

 

 

「こちら護衛艦ゆうひ、晴風へ応答されたし」

 

『……………』

 

「こちら護衛艦ゆうひ、晴風へ応答されたし」

 

『………………こちら、航洋艦晴風、副長の宗谷真白です』

 

「よかった、聞こえてるね?」

 

『あの……我々は』

 

「言わなくてもいいよ。私達も貴女達と同じ穴の狢だから」

 

『味方……と言う事ですか?』

 

「そうなるかな。取り敢えずそちらと接触をしたいんだけど……」

 

『少しお待ちください』

 

 

 

一旦無線が切られる。

 

 

 

「さて、どんな返答が返ってくる?」

 

 

 

数分してから、再び晴風からの無線通信が入った。

 

 

 

『こちら晴風、そちらの意見を受け入れます』

 

「そちらの判断に感謝します。接触に関して、そちらの代表者を本艦に招きたいと思います」

 

『了解しました』

 

 

 

無線を切り、岸は晴風との接触のための準備を始める。

 

 

 

「艦長、念のため武器は」

 

「いや、武器は必要ないよ。相手を刺激しないためにも、武器は見せず持たず、敵意が無い事を示すためにオープンな感じで接触しなきゃ」

 

「了解。向こうと接触した場合、情報交換する際には相手の代表を本艦へ招きますか?」

 

「そうだね。取り敢えず私以外にはあきちゃんとメイちゃん、トヨちゃん(豊津志摩)松ちゃん(松前鈴子)、ゆきちゃん、機関長のにも同席してもらうから」

 

「了解」

 

 

急いで、士官室の準備や資料作成などの準備が行われる。

 

 

「艦長、前方に晴風を視認」

 

「来たか」

 

 

晴風が目視圏内に入る。晴風は海上で停止したままで、砲を向けてくる様子もなく、ゆうひを見続けている様子だった。

 

 

「両舷停止」

 

 

ゆうひはその場で停止する。

 

 

 

「艦長、晴風より高速艇接近!」

 

 

 

暫くすると、晴風から高速艇が近付いてくる。

 

 

「早いね」

 

「えぇ、あの高速艇はかなり洗練されてますね」

 

 

近付いてきた高速艇の速さと洗練された見た目に驚く中、右舷に接触した高速艇に向けて梯子が降ろされる。

降ろされた梯子を、3人の女子学生が上がってくる。

 

 

岸は甲板に降りて、上がってきた3人の顔を見ると少し驚いた。

 

 

(似てる………)

 

 

3人とも、自分や室戸、納谷と少し見た目と雰囲気が似ている事に心の中で驚いた。

 

 

 

「ようこそ。私は当艦の艦長をしている岸晴乃1等海佐です」

 

「副長の室戸昌2等海佐です」

 

 

 

最初に岸達が自己紹介し、続いて彼女達が名乗る。

 

 

「横須賀女子海洋学校、航洋艦晴風艦長の岬明乃です」

 

「副長の宗谷真白です」

 

「記録員の納沙幸子です」

 

 

 

 

互いに紹介を終えて、3人を士官室へと案内する。

 

 

 

 

 

 

3人通された士官室は、既に松前、佐田、豊津、機関長の『柳田真鈴』1等海尉が集まっており、岬達は彼女達が居た席の向かい側に座り、互いに見合う形となった。

 

 

「では、互いが持っている情報についてお話しましょう。先ずはそちらから…」

 

 

室戸の問いに岬達は現状がに至るまでの経緯を包み隠さず話す。

 

 

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

 

 

岸達は岬達の説明に、ここは自分達が知る世界ではない事を認識した。

 

 

それとなく質問したこの世界の歴史は、自分達の知る歴史とは大きく異なり、暗殺を逃れた坂本龍馬が日本を一大海洋大国に押し上げ、第二次大戦も太平洋戦争も起きず、ブルーマーメイドやホワイトドルフィンと言う国際組織が海の安全と安定を保っている。

 

 

 

「分かりました。ではこちらの説明を行います」

 

 

資料が配られ、岬達はそれに目を通す。

 

 

「これって……」

 

 

資料に書かれていた岸達の世界の歴史について、岬達は驚く。

 

 

 

「それに書かれている通り、私達は異世界からやって来たのよ」

 

 

 

岸の言葉に3人は一斉に視線を彼女に向ける。

 

 

 

 

「信じられないでしょうけど、それに書いてある事と今言った事実は本当よ」

 

「そんなまさか……」

 

「異世界からなんて、信じられない……」

 

「…………貴女達、ちょっと聞いて」

 

 

岸は突然立ち上がり、ホワイトボードに2本の線を書いた。

 

 

「この線がお互いの知る世界だとする。その過程で、2つの世界が繋がれる切っ掛けが起きれば2つの世界がつながる……これを何と言うか知ってる?」

 

「並行世界…ですか?」

 

 

納沙が答え、岸は頷く。

 

 

「そう。私達はハワイ沖で謎の低気圧に逢って、雷に打たれた直後に謎の歪んだ空間に呑み込まれ、気がついたらこの世界にやって来た……私は貴女達にとったらパラレルワールドの人間て訳。パラレルワールドの存在はアインシュタインも証明しているわ。一応私達が別世界の人間であるという証拠もあるから明日の朝にでもみせてあげるけど」

 

 

宗谷は顎に手を当てて資料を読み通す。

 

 

「パラレルワールド……確かに有り得なくは無いが、まさかそんな事が起こり得るなんて。艦長、どうしますか」

 

 

宗谷は岬に指示を仰ぐ。

 

 

「シロちゃん、ここは岸さん達を信じてみよう。この人達が嘘を言ってるとも思えないし、証拠もあるって言ってるから」

 

「……分かりました。艦長の判断に任せます」

 

 

 

取り敢えず岬達は岸達の言葉を信じて見ると言う決断を下した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く



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第6話

晴風とゆうひとの間で行われた会談は、大きな混乱もなく終わった。両者の間では当面の間は行動を共にしつつ情報交換を行う事が取り決められた。

 

 

「艦長、今さらですが、本当にあの人達を信用するんですか?」

 

 

晴風に戻った岬に真白が問い掛ける。

 

 

「取り敢えずはね。私もあの人達が異世界から来たって聞いた時はびっくりしちゃったけど………」

 

「けど……何ですか?」

 

「感じたんだよ………岸艦長は私達とは違う何かを」

 

「何か………?」

 

「言葉では言えないけど、存在感が凄いんだけど、言葉と表情、話し方に親近感と言うか、他人とは思えない何かを感じてね。それに表情や目にも真剣さに混じって不安と焦りも混ざってた……」

 

「それが、あの人達を信用する判断材料になったんですか?」

 

「うん。シロちゃんはどう思った?」

 

「………………私も艦長と同じように、何かを異質的な物は感じました。けど、それだけじゃあの人達を信用するに足るかは」

 

 

 

真白はこの時、ゆうひに対する疑惑を感じていた。直感だけではなく、確実に信用に足る判断材料を求めている所は、真面目な性格の彼女らしいと言える。

 

 

 

「皆にも説明しとかないと」

 

「何て説明するんですか?」

 

「………皆が集まるまで考える」

 

 

 

 

 

 

その頃、ゆうひの士官室でも、岸達が夕食を摂りながら今後の事を話し合っていた。

 

 

「当面は晴風と行動を共にし、互いに情報交換すると言う事になったけど、皆の意見を聞かせてくれる?」

 

 

岸の問い掛けに、佐田が意見を述べる。

 

 

「艦長、晴風は指名手配されてるんでしょ?もしこの世界の警察や治安機構による追跡があった時、私達はどうする?」

 

「たとえ此処が異世界とはいえ私達は自衛官。追跡があった場合は晴風と一緒に逃げに徹するしかないよ」

 

「もし向こうが撃ってきたら、武器とかの使用制限は?」

 

「海上警備行動と同じ、向こうが撃ってきて被害が出た時、被害が避けられないと判断した時に緊急回避目的にだけ使って、後は可能な限り逃げに徹して、こちらから決して手を出さないように行動する……これだけは何としても貫かないと」

 

「じゃあ、晴風が危機に晒されそうになったらどうする?向こうからは今の所、完全に信用されてないみたいだし、信頼を得るためには晴風を守る事に重点を置いた方が」

 

 

佐田の意見に室戸が反論する。

 

 

「晴風を守って本艦と向こうに死者が出たらどうする?只でさえ我々はこの世界のどの国家とも接触出来ていない漂流者で、自分達の身を守るのに手一杯な状態なんだ。乗員の不安が広がってる中、いらない戦闘で被害が出たら責任は取れるのか?」

 

「私は、晴風からの信頼を勝ち取るのを優先しようって言ってるの。岬艦長だって、自分達は前触れもなくいきなり攻撃されたから反撃したって言ってるし、海上安全整備局とかが誤解だって認めてくれれば彼女達を通じて、その組織にだって接触できるかもしれないし……」

 

「だがその誤解が解けるのは何時になる?明日か明後日か来週か来月か分からないんだ。補給の心配だってある今は下手に行動は出れない」

 

 

 

海上自衛官としての役割と、この世界で自分達が置かれた立場の板挟み状態となった今、どちらを優先すべきか意見は中々纏まらず、平行線を辿る。

 

 

 

『艦長、艦橋』

 

 

士官室からの艦内コールが鳴り響き、岸が出る。

 

 

「こちら艦長。どうしたの?」

 

『たった今、晴風から緊急電で、海上の遊弋する小型船の残骸と漂流者を発見したとの事です』

 

「了解!……これより救助作業を開始する!配置に就いて!」

 

「「「了解!」」」

 

 

 

ゆうひは救助作業に向けて、医務班が待機させ、内火艇を降ろす準備開始し、岸は漂流者の救助指揮を執るため数人の班を率いて内火艇に乗り込もうとする。

 

 

「艦長……いや、晴乃」

 

 

そこへ室戸が声を掛ける。

 

 

「お前は怖くないのか?違う時空の我々がこの世界の人間とこれ以上関わる事に」

 

「あきちゃん、私は幽霊じゃない。一介の海上自衛官としてここに居るんだよ。たとえ此処が異世界でも人を助ける事に迷いや躊躇いは無いよ」

 

 

 

そう言いきって内火艇に乗り込む。

 

 

 

「探照灯照射!」

 

 

 

状況確認のため、晴風と共に漂流者が居る地点に向けて探照灯を照射する。

 

 

「確認しました!小型船の残骸に漂流者1名を確認!」

 

「内火艇降ろし方用意!」

 

 

回収員を乗せた内火艇がクレーンが下ろされ、晴風から降りてきた岬が操縦する高速艇と共に漂流者の基へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く




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第7話

暗闇の夜の海上を、ライトを照らしながら内火艇と高速艇が漂流者へと近づく。

 

 

「漂流者視認」

 

 

ライトに照らされた漂流者は、転覆し空気が抜けて萎んでいるゴムボートに捕まりながら項垂れている。

 

 

「気絶してるのかな?」

 

「多分ね。ボートの状態から、何らかの強い衝撃を受けて吹き飛ばされたのかも。取り敢えず収容するから、もう少し近付けて」

 

 

内火艇を近付けようとした時、突然ボートの回りの海面から大量の気泡が浮かんできた。

 

 

「不味い!ボートの中に水が入り込んだんだ!」

 

 

穴から水を吸い込んだゴムボートは、漂流者の体重により一気に沈んでいき、海面から消えていく。

 

 

誰もが助けられないと思ったその時……

 

 

「艦長っ!?」

 

 

岸はライフジャケットと鉄帽、ブーツを脱ぎ海に飛び込み、後に続くよう岬も同時に飛び込んだ。

 

 

(岬さん!?)

 

 

着いてきた岬に視線を向けながら驚きつつも、2人は海上からの僅かな光を頼りに沈んでいくボートを追いかける。

 

 

(間に合って!)

 

 

沈降速度が速く、漂流者に手を伸ばす。

 

 

(掴んだ!)

 

 

運良く、同じタイミングで2人の手が漂流者の着ていた服の襟を掴んだ。

互いに視線を合わせてから頷き、同時に両足で海中を蹴り上に向かって登っていく。

 

 

「ブハっ!」

 

 

海面に上がり息を吐き、内火艇に泳ぎよる。

 

 

 

「艦橋に報告!生存者を救助、艦内で手当てするから医務班を待機させて!」

 

「了解!」

 

 

救助された、漂流者はゆうひの内火艇にあげられ、横にされ、岸は艦に報告を入れる。

 

 

「漂流者は10代後半の外国人と思われる!意識不明の重体、所持品は制帽と手帳のみ!」

 

 

救助された外国人の少女は、取り敢えずはね状態確認と応急処置を受けるため、設備が整ったゆうひに収容された。

 

 

 

 

 

 

それから数時間後………

 

 

士官室に、カルテを持った医務官の『冠城美里』1尉が報告にやって来た。

 

 

「冠城1尉、入ります」

 

 

一言そう言ってから入室許可が降り、中へと入る。

そこには岸を始めとした幹部と岬に加えて、晴風の保険医を勤める『鏑木美波』の姿があった。

 

 

「ご苦労様。 で、救助した溺者の容態は?」

 

「外傷は認められませんが、胸部に強い衝撃を受けた時によるものと思われる打撲と、強い脳震盪が見られます。体温も低く、血圧も下がっているため安静が必要です。現在は点滴による鎮静剤と栄養剤の投与をしていますが意識が戻るまで少し時間が掛かります」

 

「全治にどれくらい掛かりそう?」

 

「重傷ではないので、大事を執って一週間程」

 

「じゃあ彼女は晴風に移しても?」

 

「安静にしてれば晴風に移しても問題はありません」

 

「分かった。じゃあ岬さん、お願いできる?」

 

 

岸はそう問い掛け、岬は迷い無く「はい」と応え、美波も頷く。

 

 

「それでは私は彼女を晴風に移す準備を。失礼します」

 

 

 

士官室を出た冠城は医務室へと向かう。

 

 

 

「目が覚めたら異世界の、しかも24年後の艦の中か………夢にも思わないでしょうね」

 

 

 

医務室へと戻るとストレッチャーを準備し、溺者を他の衛生員と共にストレッチャーへと移され、後の事は晴風に引き継がれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃………………ゆうひと晴風の遥か後方に位置する海中に潜む、一隻の潜水艦の姿があった。

葉巻型の船体に据え付けられたセイルから延びる、潜望鏡は2艦に向けられていた。

 

 

 

「艦長、目標視認しました」

 

 

 

赤色灯で赤一色に染まった艦内に静かな声が響き、制帽を被った艦長らしき人物が潜望鏡を覗き込む。

 

 

 

「間違いない……情報にあった日本の航洋艦とアキヅキ級だな」

 

「艦長、我々は上からの命令通り……」

 

「あぁ……晴風は事故を装って撃沈。あきづき型は捕獲だ」

 

「了解。魚雷戦用意!」

 

 

 

艦首の魚雷発射管に、巡洋艦級の船体を一撃で引き裂く威力がある大型の長魚雷が装填される。

 

 

 

「恨むなよ、japan highischool girls……偶然とはいえ、我が国の秘密に関わったのが運の尽きなんだからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く




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第8話

「艦長、魚雷装填完了!諸元入力完了」

 

「撃て!」

 

 

潜水艦の艦首から長魚雷4発が発射された。

 

 

 

 

その発射音は、ゆうひのパッシブソナーも捉えた。

 

 

「ん?」

 

 

四条はメインディスプレイの表示とヘッドセットから聞こえてくる航走雑音から、魚雷が向かってきていると判断し、艦橋に報告を入れる。

 

 

『魚雷音聴知!左舷後方280度より魚雷2、速度44ノット、距離3900!』

 

「魚雷……!?」

 

「対潜戦闘用意!」

 

 

警報が鳴らされると、訓練通り全乗員が素早く配置に就く。

 

 

「何でソナーに引っ掛からなかったの!」

 

 

 

佐田と岸が戦闘指揮のためCICに駆け込む。

 

 

 

『申し訳ありません。どうやら表面層のダクトに居た様で、機関停止をしていたのでギリギリまで探知出来ませんでした!』

 

 

「分かった!距離は?」

 

「2000を切りました!」

 

「了解!艦橋、機関最大戦速!」

 

『了解!機関最大戦速!』

 

 

ゆうひの主機関であるガスタービンエンジンが唸りをあげ、一気に加速していく。

ほぼ同時に晴風もエンジンの回転数を上げて、ゆうひ程ではないが低速から一気に加速する。

 

 

『魚雷、本艦と晴風に向かってきます!』

 

「MOD発射!」

 

 

ゆうひの右舷通路扉が開かれ、中から自走式デコイ発射装置から囮魚雷が2発発射され、音源を放ちながら別方向へ進んでいく。

 

 

『魚雷2、デコイに喰い付きました!残り2、更に接近中!』

 

「FAJ投射!」

 

 

次に、投射静止型ジャマーから音響装置が撃ち出され、海面に着水すると同時に魚雷に向けて艦の音と同じ音を放つ。

 

 

「魚雷2、FAJに喰い付きました!全魚雷、回避成功!」

 

「よしいいよ!四条さん、アクティブを使って目標の捜索と補足!」

 

『了解!』

 

 

艦首に装備されているOQO-24ソナーからパッシブ波が連続して放たれ、潜水艦の捜索を行う。

 

 

『艦長!捉えました!本艦後方280度、水深20メートル付近です!』

 

「動いてる?」

 

『はい。20ノットの速度で追尾してきます!』

 

「了解!シマちゃん、アスロックと短魚雷用意!」

 

「了……解……!」

 

 

豊津は指でタッチコントロールパネルを操作し、アスロックと短魚雷に目標のデータ入力を行う。

 

 

「用意……良し」

 

「そのまま待機!機関半速、目標の特定急いで!」

 

 

速度を落としパッシブソナーが拾う音をコンピューターに入力し目標艦種の特定が行われる。

 

 

『艦長、目標の反射波からロシアのヴィクター型に酷似、機関音はディーゼルと思われます』

 

「原潜じゃないの?」

 

『エンジンの音響特性が原子力機関の物とは違いますから、ディーゼルと見て間違いありません』

 

「了解……ディーゼルエンジンを乗せた大型潜水艦てところかな?」

 

「艦長、どうする?」

 

 

岸は反撃するか有無を考える。

 

 

 

「………………シマちゃん、アスロック発射!」

 

「え?撃っちゃうの?本当に相手を…沈めるの?」

 

「このまま回避を続けてもデコイを無駄にするだけだし、まともな対潜兵器を持たない晴風が危険になる」

 

「だけど……もし撃っちゃったら相手を死なす事になるよ!艦長だってさっきの会議で、武器の使用は」

 

「今がその時なの。それに私は相手を沈める気はないよ」

 

「どう言う…………………あ、そう言う事?」

 

「うん。シマちゃん、お願い」

 

「了……解……。前甲板VLS、アスロック発射!」

 

 

 

豊津が発射ボタンを押すと、艦首のVLSからアスロックが1発放たれ、潜水艦が居る方向へと飛んでいく。

 

 

 

 

 

『晴風』

 

 

「ゆうひ、噴進魚雷を発射!」

 

 

晴風のマストに居た、見張り員『野間マチ子』からの報告に艦橋に居た岬達は驚いた。

 

 

「噴進魚雷!?でもあれは水上艦用じゃ」

 

 

アスロックのようなものが存在しないこの世界の人間的から見れば、アスロックは水上艦攻撃用の噴進魚雷と言う兵器に見える。

 

 

『こちらソナー、噴進魚雷、着水後に潜水艦が居ると思われる方向へ指向していきます!』

 

 

 

ソナー担当の『万里小路楓』から報告が入る。

 

 

 

「対潜魚雷だったのか……ゆうひは相手を撃沈するのでは」

 

「それって…不味いんじゃ」

 

「うぃ……」

 

 

 

真白の予想に、水雷長の『立石志摩』、砲術長の『西崎芽以』が驚く。

 

 

「岸艦長………」

 

 

岬は心配そうな声で、ゆうひを見つめる。

 

 

 

 

 

その頃、アスロックは敵潜水艦を追尾していた。追尾用のアクティブソナーを放ち、その音は潜水艦側からも補足された。

 

 

「艦長!対潜魚雷接近してきます!」

 

「何!?」

 

「距離2900を切ってます!」

 

「反転180度!機関全速!」

 

 

 

潜水艦はその場で反転し、その場から離れていく。

 

 

 

 

 

 

『ゆうひ』

 

 

『敵潜水艦、その場から離れていきます!』

 

「そのまま待機。アスロックが目標の後方200に達したと同時に自爆」

 

 

メインディスプレイに表示されるアスロックの光点と潜水艦の光点の距離が急速に縮まっていく。

 

 

『アスロック、目標到達まで後500……400……300……250……………200!』

 

「シマちゃん、アスロック自爆!」

 

「了解!」

 

 

 

豊津が自爆ボタンを押すと、アスロックは潜水艦の後方で爆発し、強烈な水圧と衝撃波が襲い掛かる。

 

 

 

「四条さん、目標は?」

 

『はい。圧搾空気排出音が聞こえます。浮上してる模様』

 

「艦橋、機関最大戦速で現場海域を離脱!」

 

『了解!』

 

 

ゆうひはその場で加速し、晴風も後に続くように現場から離れていく。

 

 

 

 

 

 

数分後、潜水艦は浮上した。

セイル上部に、見張り員と艦長が上がり、去っていく2艦を見つめる。

 

 

 

「艦長、耐圧船殻が損傷。潜航不能です」

 

「応急修理は出来そうか?」

 

「はい。1時間もあれば潜航可能なまでには」

 

「修理を急がせろ。それと、暗号で本国に作戦は失敗したと報告だ」

 

「了解」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く




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第9話

夜が明けて謎の潜水艦の追尾を振り切った晴風とゆうひ。

朝日によって辺りが照らされる頃、ゆうひのヘリ格納庫は喧騒に包まれていた。

 

 

『航空機即時待機。準備出来次第発艦』

 

 

艦内放送でヘリの発艦命令が下り、第5分隊のヘリパイロットや整備員がヘリの準備を行う。

 

 

「RAST(ヘリ拘束装置)固定確認!」

 

 

RASTに固定された、海上自衛隊の主力ヘリSH60Kシーホークが格納庫から甲板へ移動される。

 

 

 

 

 

『晴風』

 

 

「何なんだろうね。岸艦長の言ってた異世界から来た証拠って」

 

 

岬達は艦橋からゆうひの飛行甲板を見つめている。

 

 

「さぁ……異世界から来た証拠って言ってましたから、それは凄いものなんでしょうけど、想像がつきませんね」

 

 

ふと甲板を見ると、手空きの乗員達も甲板でゆうひを見ている。

 

 

「艦長!ゆうひの格納庫から何か出てきました!」

 

 

見張り員の『山下秀子』が叫ぶ。

ゆうひの格納庫から、シーホークが現れる。

 

 

「何あれ?」

 

「何なんでしょう?」

 

「高速艇……では無さそうですね」

 

 

航空機やヘリと呼べる乗り物が存在しないこの世界に於いて、晴風の面々は皆シーホークを見ても乗り物なのか何なのか分からない。

 

 

「あ、何か開きましたよ」

 

 

折り畳まれていたメインローターが開かれると、2基のターボシャフトエンジンが唸りを上げる。

 

 

「何が始まるのかな?」

 

 

 

皆、何が起こるのか少し身構える。

その直後、メインローターがゆっくりと回り始め、エンジンの回転数に合わせて回転速度が早まり、ダウンウォッシュが吹き荒れる。

その間にも、甲板作業員が機体を固定していた紐を外していき、管制官とやり取りをしながら発艦準備を進めていく。

 

 

『航空機、発艦用意よし!』

 

発艦!(take off!)

 

 

RASTによる固定が解除され、パイロットがスロットルを使ってエンジン出力を徐々に上げていくと、シーホークはゆっくりと浮き上がる。

 

 

「浮いた!?」

 

 

甲板から浮き上がったシーホークは、高度を上げてから水平飛行に入り、見せつけるように晴風の右舷から真上をフライパスしてからその場で反転し、また左舷からフライパスして通過する。

 

 

「凄い……」

 

「あんなに速く飛べるなんて」

 

 

シーホークを眺めていた岬達が居る艦橋に、無線のコールが鳴り響く。

 

 

 

『こちらゆうひ。岬艦長、驚いた?』

 

「はい。あれは何なんですか?」

 

『ヘリコプターよ。あれは私達の世界で使われてる空飛ぶ乗り物で、今飛んでるのはシーホークって対潜水哨戒機なの。一応これしか証明できる物しかないけど』

 

「充分です。ありがとうございます」

 

 

 

シーホークは彼女達にとって大きな衝撃となった。これには、真白を含めた他の乗員達も岸達の話を信じるという意見で一致したのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く




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第10話

ゆうひと晴風が合流してから2日が経過した。

晴風の医務室では、意識を取り戻した漂流者へ岬が事情を聞いていた。

漂流者はドイツからやって来た小型直接教育艦『アドミラルシュペー』の副長の『ヴィルへルミーナ・ブラウンシュヴァイク・インゲノール・フリーデブルク』で、二日前の夕方に艦内で起きた異変を知らせるために脱出した直後に、砲撃を受けて気絶していたと語った。

 

 

「そう……貴女の艦でそんな事か」

 

「あぁ。帽子も拾ってくれた事には感謝する。これはシュペーの艦長から預かったものだからな」

 

「気にしないで。それに貴女を助けたのは私と、となりを航行してる護衛艦の艦長さんだから」

 

「そうか。ならその人にも感謝せねばな」

 

 

 

岬は彼女を連れて、乗員達が集まってる講堂へと案内し、皆の紹介してから、今朝届いた学校からの全艦帰還命令の内容と戦闘停止命令も出ていてこれ以上戦闘が起きない事を説明した。

 

 

「だが晴風に対する警戒は続いている。そして我々は何処にも帰港できない状態だし、それにゆうひの事もある……可及的速やかに横須賀へ戻る必要がある」

 

 

真白の言う通り、只でさえ無実の罪を着せられてる上に、異世界から来たゆうひと言うとんでもない"爆弾"と"パンドラの箱"を抱えてるため、より慎重に動かなければならない。

 

 

晴風とゆうひは共に横須賀への帰路に就いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、岬達、晴風乗員の母校である『横須賀女子海洋学校』の校長室では、校長の『宗谷真雪』が""ある報告

を受けていた。

 

 

「謎のあきづき型…………」

 

 

真雪が手にしていたファイルには3日前の深夜に、教官艦と晴風を含めた教育艦らが確認した、ゆうひの件についてだった。

 

 

「東舞鶴校とホワイトドルフィンにも確認を取りましたが、121と言う艦番号を持つ艦は無いとの事でした」

 

「灰色一色の船体塗装に、識別帯もなし」

 

「古庄教官のさるしまに残されていたログから、当該艦は晴風を追いかけるように現場海域から去っています。最後に確認された小笠原諸島西方地点で両艦が接触している様なので、共に行動してると見るべきでしょう。現在、ブルーマーメイドが予想航路上に展開しています。それともう1つ………」

 

 

そう言って秘書官がもう1つのファイルを差し出し、真雪は中を見る。

 

 

 

「………これは!?」

 

 

そこには、2日前の夜に晴風とゆうひを雷撃した謎の潜水艦に関する事だった。

 

 

「付近を航行中だった東舞校の教員艦が現場から離れた地点で爆音を確認したため、駆けつけ臨検した所、かの潜水艦は東亜連邦の所属でした。航行目的については乗員全員は口を閉ざしています」

 

「東亜連邦……厄介ね」

 

 

 

『東亜連邦』

それはフィリピンの北東から北西に掛けてに存在する群島が独立して出来た東南アジアの群島国家であるが、過激な民族主義と独立に際してのいざこざにより付近の国家と対立している。しかも独立直後より強引な領土拡張政策の基、周辺国の領海や領土に関して軍事的なトラブルを起こしている。

それは日本も例外ではなく太平洋地域の、取り分け沖縄南海域や小笠原諸島にも自国の領土として度々不法侵入している。

 

 

「ですが例の潜水艦には破損箇所があり、どうやら魚雷の爆発による物と思われます。気になるのは潜水艦が居た地点が、晴風と不明艦が最後に確認された位置が近いのが気になります。もしやこの潜水艦の破損と不明艦と晴風に何か関係が……」

 

「………………可能性は否定できない。出来れば偶然であって欲しいわね。2艦の現在位置は?」

 

「富士の遠水平線レーダーにビーコンを発していない不明艦を捉えています。現在、高知県沖に針路を向けている様です」

 

「なら……」

 

 

そう言って真雪はある場所へと電話を掛ける。

 

 

「私よ。例の晴風と不明艦の件でね…………えぇ………分かったわ」

 

 

電話を切ると、真雪は外出用コートを着る。

 

 

「暫く席を外すから、後をお願い」

 

「分かりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く




皆様からのご意見とご感想お待ちしております


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第11話

学校に帰還する事になった晴風。その途上で、艦内の倉庫では応急長の『和住媛萌』、応急員の『青木百々』の2人が補給品の確認を行っていた。

 

 

「まだまだ余裕っスね」

 

「うん。この分なら学校までは保ちそう………あれ?」

 

 

棚の一角にあるトイレットペーパーが入った箱には、トイレットペーパーが1個も残って無かった。

 

 

 

 

 

ゆうひ艦内でも物資のリスト確認が行われていた。

 

 

「武器弾薬は普段搭載してる分と演習で使うための追加分を含めてまだ余裕はあります。食料と燃料はハワイで補給する予定でしたから心もとありません」

 

 

第4分隊補給長の『等々力美香』3佐がリストを手に、岸に報告する。

 

 

「何とか燃料と食料を確保しないと……他に何か足りない物は?」

 

「日用品、特に消耗品はかなり不味いです」

 

「何処かで補給出来れば良いけど……今何処の港にも寄れないし」

 

「艦長、確か晴風からこの近くにオーシャンモール四国沖店に補給しにいくとの連絡がありましたよね?それに我々も同行すると言うのはどうですか?」

 

「成る程……よし!皆を士官室に集めよう!」

 

 

 

岸は早速召集を掛けて士官室に幹部達を集める。

 

 

 

「と言う訳なので、我々も出来る限りの補給品調達のため晴風に同行しようと思うんだけど、何か意見はある?」

 

「はい!」

 

 

佐田が早速意見を述べる。

 

 

「買い出しに行くのに誰連れていくの?」

 

「一応、私とミカちゃん(等々力美香)と後3人くらい連れて行こうかなって。」

 

「じゃあ私が……」

 

「砲雷長はいざと言う時の備えとして残って欲しい」

 

 

室戸の言葉に佐田は不機嫌そうな表情で諦める。

 

 

「艦長、野上さんと武山さん、内海さんを推薦します。この3人は射撃と体力は沙汰さん次に優れているので、艦長の護衛と物資調達でのサポートとして心配は無いと思います。それと、護身用として拳銃を何丁か」

 

「あきちゃん、流石に拳銃はいらないと思うけど」

 

「ここは元の世界じゃないんです。晴風と共に行動してる以上、もし艦長の身に何か起きてからでは遅いんです。拳銃だけは持っていってください」

 

「あきちゃん…………分かったよ。取り敢えず1人1丁で持っていくよ」

 

 

 

直ちに出発準備が行われる。

岸、野上、内海、武山の4人は私服に着替え、バックやら武器庫から搬出された人数分の9㎜拳銃SFP9のマガジンに弾を込める。

 

 

「訓練以外で武器持つなんて初めて」

 

 

海上自衛隊では陸上自衛隊と違って、拳銃も小銃も臨検作業や海賊船と不審船事案以外では訓練でしか使用されておらず、彼女達も訓練以外で武器庫から銃器を取り出した事は無い。

弾倉を込め、セーフティーを掛けてからバックの底にあるカバーの裏側に隠しその上にタオルや飲料水が入ったペットボトルで隠す。

 

 

「じゃあ行こうか」

 

RASTによりシーホークがヘリ甲板へと引き出される。

 

 

「あのー!すいませ~ん!」

 

 

そこへ、晴風買い出し班の岬と和住と鏑木、給養員の『伊良湖美柑』が現れる。皆私服姿で岸達の基へとやって来ると、甲板に駐機しているシーホークに目を向ける。

 

 

「本当に乗せて貰っても良いんですか?」

 

「いいよ。別々に行くより一緒に行った方が楽しいからね。じゃあ乗ろうか」

 

 

 

現在位置から目的地までは数百キロ近く距離があるため途中まではシーホークで移動し、近くまで来た時にゴムボートへと乗り換える事になる。

岬達は初めて見るシーホークの機内に興味津々だった。

 

 

 

「思ったりより狭い?」

 

「ソナーとか載せてるからね。じゃあヘッドセット配るから、機内での会話はそれを使ってね」

 

 

機内での会話用に全員分のヘッドセットが配られ頭に装着する。キャビンのドアが閉められ、パイロットも準備を終えてからエンジンを始動させる。

 

 

『セイバーホーク1、take off』

 

ラジャー(了解)。take off』

 

 

シーホークは8人を載せてゆうひから飛び立って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く



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第12話

オーシャンモール四国沖店より南約20キロ地点

 

 

水飛沫をあげながらホバリングするシーホークからゴムボートが降ろされ、ロープを伝いながら岸達が降りる。

 

 

「艦長、期待してます!夕方に艦で!」

 

「そっちも気を付けて!見つからないように!」

 

 

機長の声に岸が敬礼しながら答えると、シーホークは元来た方向へと飛び去っていった。

 

 

 

「音は凄いけど速いね~……」

 

 

 

去っていくヘリの速度に目を回す岬達を余所に、岸らは地図を広げる。

 

 

「ここから北へ向けて進めば目的地ね」

 

「全速で飛ばせば1時間て所です」

 

「じゃあ行こうか」

 

 

 

岸達は目的地へ向けてボートを発進させた。

 

 

 

 

 

そして予定通り、1時間で目的地であるオーシャンモール四国沖店へと到着し、ゴムボートを目立たない場所に隠した後に、フロートへと上がった。

 

 

 

「凄い。本当にここフロートの上なの?」

 

「みなとみらい並だな」

 

 

初めて見るその場に岸達は驚く。フロートの上に大型のデパートや商店街が整備され、ちょっとした地方都市並の規模を誇るオーシャンモールは岸達にとっては驚きや興奮の連続だった。

 

 

 

「お茶する時間くらいあるよね?」

 

「無いから」

 

 

一方で、伊良湖が暇潰の提案を出すとマスクとサングラスで変装した和住が否定する。

 

 

「じゃあ行こっか」

 

 

 

 

 

 

その頃、晴風とゆうひでは、ちょっとした交流会が開かれていた。

 

 

 

「ここが本艦の艦橋となります」

 

 

納屋が、晴風からやって来た砲術科の『小笠原光』『武田美千留』『日置順子』、水雷科の『姫路果代子』『松永理都子』の5人をゆうひの艦内を案内していた。

 

 

「ここは普通のあきづき型と変わらないんだね。て言うか、この艦てあきづき型とどう違うの?」

 

「本艦はあきづき型をベースに対潜能力を重視した改良型、あさひ型護衛艦の3番艦になります。そちらの世界のあきづき型が私達の世界のあきづき型と同じかどうかは分かりませんが、対潜能力重視の艦と言う認識で構いません」

 

「へぇ~……じゃあ魚雷とか沢山積んでるの?」

 

「はい。本艦に搭載されてる対潜装備としてVLSに07式アスロック、左右の通路の3連装短魚雷発射管に27式対潜短魚雷が搭載されています」

 

「はい!アスロックって……何なんですか?」

 

「アスロックと言うのは、Anti Submarine Rocket Systemの頭文字を取って付けられた名前の対潜攻撃用の魚雷を搭載した誘導ロケットで、短魚雷の射程距離外に居る敵潜水艦に向けて可及的速やかに投射する目的で開発された物です。そちらの世界に於ける噴進魚雷の対潜艦用と言ったところですね。ちなみに、2日前の夜に敵潜水艦に向けて1発撃ってますよ」

 

「あ~………あの時のアレだね」

 

 

小笠原は2日前の夜に、ゆうひから発射されたロケットの事を思い出した。

 

 

「魚雷以外にどんな武装があるの?」

 

「はい。艦首にMk45速射砲が1基、Mk15バルカンファランクスが1基、艦後方のヘリ格納庫上にSeaRAMが1基、17式対艦ミサイル4連装発射筒が2基の煙突の間の左右に1基ずつ、後は個艦防空用の発展型シースパローがVLS内に搭載されています」

 

「対艦ミサイルとシースパローって何?」

 

「対艦ミサイルとは遠方の敵艦船を直接攻撃するための誘導ロケット、シースパローは敵から放たれたミサイルを迎撃するための誘導弾です。それらを管制するCICに今からご案内します」

 

 

納屋は5人を下層のCICへと案内する。

ドアが開けられ、中から電子機器を冷やすための冷房の冷気が漂ってくる中、歩みを進めていく。

 

 

「うわぁ~……本物のCICだ!」

 

 

奥に1基の大型メインモニター、全てのオペレーターコンソールがタッチパネルとなっている近未来的なCICに、5人とも目を輝かせる。

CIC要員達は、タッチペンを使ってタッチパネルを操作しながら機器と向かい合い各種のレーダー情報を見ていたり、点検操作をしている。

 

 

 

「本艦は近代化改修でタブレットのようなタッチパネルを多用したグラス化が行われていて、素早い火器管制や射撃管制に対応し、進化しつつある近代戦に柔軟に対応出来るようになっています」

 

「まるでSFみたい…………」

 

「晴風もこんなのがあったら、射撃も雷撃も楽なのにね」

 

 

 

こんな感じで互いの信頼関係が築かれていく中、2艦に危機が迫ろうとしている事にまだ誰も気がついていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く



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第13話

夕方近くになり、物資調達を粗方終えモール内を移動していた岸と岬達。

 

 

「……………」

 

 

後ろに居た野上が、岸に近づき耳打ちする。

 

 

(艦長、つけられてます)

 

(何人?)

 

(6人です。一定の距離を保ちながらずっと。どうしますか?)

 

(知らない振りしてて。多分人目につかない所で行動に出ると思うから。それとヘリと艦に状況を伝えて)

 

(了解)

 

 

野上は鞄の中からハンカチを取るフリをして、底にあるSFP9を鞄の直ぐに取り出せる位置に移動させる。

 

 

「岬さん、つけられてるわ」

 

「え?」

 

 

慌てて後ろを振り向こうとするのを岸は止めた。

 

 

「振り向かないで。取り敢えず静かに逃げるから、気付かないフリをしてて」

 

「はい」

 

 

 

取りあえず固まって歩きながら人混みの中を歩き続ける。

 

 

「不味いな……この先って人通りも少ないエリアの筈」

 

 

 

夕方で、あちこちの商店が店を閉め始め、人通りが少なくなってくる。おまけに明かりが入りにくいエリアのため余計に人目がつかなくなる。

そしてそのエリアに入ると、歩くスピードを上げる。

 

 

 

「仕方無い………何処かに空き家で」

 

 

 

そこへ背後から複数の足音が近付いてくるのが聞こえてきた。

岸らは回りに人が居ないのを確認して鞄の中からSFP9を取り出し、追い掛けてきた黒服の男達に向ける。

 

 

 

「動かないで!」

 

 

 

突然拳銃を向けられた黒服達は足を止める。

 

 

 

「貴方達、さっきから私達を追い掛け回してたけど、ブルーマーメイド?それともホワイトドルフィン?」

 

 

 

岸の問いかけに、黒服の1人が話し出す。

 

 

 

「我々ガ用ガアルノハ、ソコノ晴風乗員ダ。ココハ、大人シク我々二彼女ヲ引キ渡セ」

 

「(日本人じゃない?)何故、彼女らを付け狙うの?」

 

「ソレハ知ラナクテモ良イ。大人シク従エ」

 

「断ると言ったら?」

 

「ソノ時ハ実力ヲ行使スル」

 

 

 

男達は懐に手を入れる。

 

 

 

(不味い……相手は6人。拳銃を持ってるのは私を含めて4人だけ。どうする?)

 

 

 

ヘリの応援を呼んであるが、いつ到着できるか分からない。警察を呼ぼうにも自分達の立場を考えると、呼ぶに呼べない。

 

 

「サア彼女達ヲ」

 

 

マカロフ拳銃を片手に黒服が迫ってくる。岸は岬達の安全を考えて引き金に指を掛けようとする。

 

 

「そこまでよ!」

 

 

そこへ、黒服達の後ろから女性の声が聞こえてくる。

そこには、白地に青のラインが入った制服と女性自衛官用の制帽を被った3人の女性が立っていた。

 

 

「中々荒っぽい事してくれるじゃない、東亜連邦国家安全部さん」

 

「貴様ラ!」

 

 

 

黒服達は彼女らにターゲットを移した。

 

 

 

その瞬間を狙って野上と内海が走り出し、黒服達2人を柔道と格闘戦を挑む。

 

 

「はぁっっ!」

 

 

内海は居合投げで体格の大きい黒服1人を投げ飛ばし、野上は近接格闘術で1人ずつ地面に組伏せる。

 

 

「コイツラ!クソッ!」

 

「甘い!」

 

 

1人が拳銃を野上に向けるが、咄嗟に射線から逃れ、右片足を振り上げて拳銃を払う。

 

 

 

「何ッ!」

 

 

 

そのまま黒服の腹に蹴りを入れて倒す。そして1分もしないうちに黒服全員を倒した。

 

 

「17時15分、恐慌、恫喝、銃砲等違反、不法入国の疑いで逮捕ね」

 

 

白服の指揮官らしき女性が黒服全員に手錠を掛ける。

部下の2人によって連行されていくのを見届けると、次に岸達に話し掛ける。

 

 

「あなた達は晴風と不明艦の乗員ね?」

 

「えぇ。貴女は?」

 

「ブルーマーメイド、安全監督室情報調査隊の平賀倫子ですす。横須賀女子海洋学校からの要請で貴女達の捜索と保護を担当してるわ」

 

「そうでしたか」

 

「取りあえず事情を聞きたいので、貴女達の拳銃を預からせてもらいます」

 

「はい」

 

 

岸に促され、野上、内海、武山は手にしていたSFP9を手渡す。

事情聴取のため別の場所に行こうとした時、岸が手にしていたトランシーバーのコールが鳴る。

 

 

「艦からです。出ても?」

 

「どうぞ」

 

 

平賀からの許可を貰い、岸はストークボタンを押しながら応える。

 

 

「こちら岸、どうしたの?」

 

『室戸です!艦長、緊急事態です!』

 

「どうしたの!」

 

『正体不明の艦船より接近と火器管制レーダー照射を受けました!』

 

「相手は攻撃してきそう?」

 

『はい!艦長、指示を!』

 

「晴風を守りながら回避に努めて!相手が撃ってきても艦の防御以外で武器は使わないで!」

 

『了解!』

 

 

トランシーバーを切り、平賀に顔を向ける。

 

 

「平賀さん。本艦と晴風が待機している海域に艦船を派遣しましたか?」

 

「補給艦1隻と護衛艦艇1以外は心当たりはありませんから………もしかして東亜連邦が!」

 

「東亜連邦?」

 

「はい。3年前に東南アジアで一方的に独立宣言をした独裁国家です……やっぱり今回の件は彼等が関わってるみたいですね」

 

 

 

 

平賀の予測に岸の心中に不安が押し寄せる。

 

 

 

「取りあえず直ぐに艦に戻りたいと思います!迎えを呼んであるので我々と共に来てください!」

 

「え……あ、はい!」

 

「野上さん、ヘリの到着は?」

 

「もう直ぐ…………来ました!」

 

 

野上が指差した方向を見ると、迎えのシーホークがサーチライトを照らしながら向かってくる。

 

 

「あれは!?」

 

 

平賀は空飛ぶシーホークを見て驚くが、それを余所にシーホークは真上でホバリングすると、着陸できる公園に着陸する。

 

 

「艦長、迎えに来ました!」

 

「ご苦労様!お客様が3人増えるけど乗れそう?」

 

「詰めれば大丈夫です!」

 

「了解!じゃあ皆、急いで艦に戻るから乗って!」

 

 

皆がシーホークへ次々と乗り込む中、平賀達は少し躊躇っていた。

 

 

「乗ってください!船よりこっちの方が速いですよ!」

 

「え、えぇ」

 

 

岸は平賀をヘリに押し込むように載せて、自分も乗り込む。

 

 

「狭っ!」

 

「キツい」

 

 

3人は狭い機内にすし詰めにされる。

 

 

「流石に狭い…飛べそう?」

 

「はい!ポンコツですが、何とか飛ばせます!」

 

 

パイロットは操縦桿とスロットルを絶妙に操作をしながら定員オーバーで重くなっている機体を何とか浮き上がらせる。

 

 

「飛んだ!?」

 

 

浮き上がったシーホークは、海面スレスレの低空飛行に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く



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第14話

オーシャンモール四国沖店、南25キロ地点

 

 

「機関出力最大!」

 

 

突如として現れた東亜連邦軍の駆逐艦1隻から接近と火器管制レーダー照射を受けたゆうひは、室戸の指揮で戦闘態勢に入ろうとしていた。

 

 

「副長、不明艦より通信」

 

「内容は?」

 

「『晴風乗員を即刻我々に引き渡せ』との事です」

 

「断わると伝えろ。対空、対水上戦闘用意!」

 

 

八木が東亜連邦艦隊にその旨を伝えると、再び火器管制レーダーによる照射を受け、CIC内に警報が鳴り響く。

 

 

「副長、レーダーロックされました!」

 

「慌てるな!向こうには対艦ミサイルは無い。アスロックと似た奴を撃ってくる。向こうが撃ってきたらシースパローで撃ち落とせ!」

 

「了解!シースパロースタンバイ!」

 

 

ゆうひに搭載されている火器管制レーダーのOPY-2レーダーが目標の追尾に入る。

 

 

「副長、撃ってきました!目標はアスロ……いえ、噴進魚雷を発射しました!」

 

「幾つだ!」

 

「6発です!」

 

「よし!砲雷長、シースパロー発射!」

 

「了解!シースパロー発射始め!」

 

 

ミサイル担当員が発射ボタンを押すと、艦首のMk41VLSから、2セルから6発のESSMが放たれた。

対潜能力重視設計のゆうひであるが、就役後からのアップグレードで前型のあきづき型に搭載されているFCS-3に近い能力を有しており、1つの火器管制レーダーにつき6発、2基あわせれば同時に12発のESSMを誘導できる機能を持つ。

 

 

「インターセプト5秒前!」

 

 

 

慣性航法装置により目標に接近したESSMは自身に搭載されているレーダーを起動させセミアクティブモードで最終誘導段階に突入し、噴進魚雷が海面近くにダイブしよとしたのと同じタイミングで、下から突き上げるように全弾に命中した。

 

 

 

「マークインターセプト!全弾迎撃成功です!」

 

「よし!このまま晴風を守りつつ、再度の攻撃に備え!」

 

 

 

晴風を後方に、ゆうひは相手側の次の攻撃手段に備える。

 

 

「いったい誰なんだ相手は……艦長へ通信を繋げ」

 

「了解………どうぞ」

 

「こちら室戸、本艦は国籍不明艦から攻撃を受けました」

 

『攻撃!?皆と晴風は無事なの?』

 

「はい。向こうは噴進魚雷を撃ってきましたが、シースパローで全弾迎撃しました。現在は戦闘態勢を維持したままで次の攻撃手段に備えて待機しています」

 

『良かった………』

 

「艦長、相手は東亜連邦と名乗ってきましたが…」

 

『それに関してブルーマーメイドから接触してきた人達と今一緒に居るから、変わるね』

 

 

 

一瞬だけ無線に雑音が交じり、平賀の声が響く。

 

 

 

『こちら、ブルーマーメイド安全監督室情報調査隊の平賀倫子と申します』

 

「こちらは、護衛艦ゆうひ副長の室戸昌です。早速ですが、東亜連邦が我々に対して武力行使をしてきた理由を推測で構いません。お聞かせ願いますか?」

 

『はい。こちらで確保した東亜連邦の関係者からの証言では晴風の乗員の確保を目的としているようです』

 

「何故?」

 

『現時点では………何ともお答えできません』

 

「………艦長に変わってください」

 

 

 

再び無線の向こうから雑音が聞こえ、岸の声が聞こえてくる。

 

 

『あきちゃん』

 

「意見具申よろしいですか?」

 

『うん』

 

「これ以上の状況悪化を避けるために、目標への直接攻撃を具申します。火力と数は同等ですが、こちらには対艦ミサイルと言うアドバンテージがあります」

 

『……………』

 

「艦長、状況は一刻を争います!」

 

『私達はこの世界の住人じゃない。相手を攻撃して死人が出たら相手に攻撃の口実を与える事になるんだよ。異世界から来たなんて言い訳なんて通る訳ない。相手は晴風の乗員を捕らえるためなら手段を選ばないと思う』

 

「だったら尚更……」

 

『だけど……感情に囚われて過ぎて、自分の持つ力の使い方を誤まったら元も子もないよ。私達が持つ力は武力の脅威から日本国民を守るための物であって、私達の判断の誤りで国民を戦火に晒すような事になったら自衛隊員としての存在意義を無くしちゃう事になる。先に仕掛けられたとは言え、こっちも向こうを沈めるような事をすれば相手はそれを良い事に間違いなく戦争を仕掛けてくる。そうなれば戦線は拡大していく……………戦争を望まず、日本国民と財産を守るために存在する自衛隊員として、私達は必要最低限の武力行使で何とか晴風を守るしか出来ないんだよ』

 

 

岸の言葉に皆、黙り込んでしまう。

室戸はそんな中で、ハッキリとした声で返答する。

 

 

「……………………分かりました。引き続き火気使用は向こうからの攻撃が行われた際の防衛と、晴風の安全が脅かされると判断された時の使用に留め、全力で晴風の防衛に努めます!」

 

『ごめんねあきちゃん、苦労掛けると思うけど、今そっちへ向かってきているブルーマーメイド艦が到着するまでだから』

 

「了解。それでは」

 

 

 

無線が切られる。

 

 

 

「よし!後30分の間、我々は何としても晴風も守り切るぞ!」

 

「「「「「了解!」」」」」

 

「時間を稼ぐ!ECM開始!」

 

「了解!ECM、出力最大!」

 

 

 

ゆうひに搭載されているNOLQ-3D-2電波妨害装置が作動し、東亜連邦艦へ向けて強力な妨害電波が放たれる。

 

 

 

「東亜連邦艦の動きが変わりました!回避行動に入りました!」

 

「電波妨害が効いたな。こちらからの攻撃を警戒してるな」

 

 

東亜連邦軍の駆逐艦は全速力で、ゆうひの射程圏外から離脱していく。

 

 

「目標、全速で当海域から離脱していきます」

 

「本艦の射程圏外へ消えるまではレーダー追尾続行」

 

「了解」

 

 

 

相手は逃げに集中してるのか反転してくる事なく、レーダーと対艦ミサイルの射程圏から離脱していき、姿を消した。

 

 

 

「目標、レーダー探知圏から出ました」

 

「対水上戦闘用具収め。第2警戒配備」

 

「了解。対水上戦闘用意収め、第2警戒配備」

 

 

 

戦闘態勢が解かれ、不則の事態に備えて警戒配備が行われる。

 

 

「副長、対水上レーダー探知(コンタクト)

 

「戻ってきたのか?」

 

「いえ。反対方向からです。大型艦と小型艦と思われます」

 

「もしかしてさっき艦長と平賀って人が話してたブルーマーメイド艦では?」

 

「確認せよ」

 

 

直ぐ様、無線で確認が行われようとした時、向こうから無線コールが来た。

 

 

「副長、相手から無線が」

 

「繋げ」

 

「了解…………どうぞ」

 

 

一呼吸置いてスピーカーから相手の声が聞こえてきた。

 

 

『こちらブルーマーメイド横須賀基地所属『みくら』。不明艦へ、応答されたし』

 

「こちら海上自衛隊横須賀基地、第1護衛隊群第1護衛隊所属、護衛艦ゆうひ。そちらが本艦へ接近する目的を知らせよ」

 

『現在本艦は貴艦と晴風の安全確保と保護の任務中である。本艦に戦闘の意思なし』

 

「了解した。本艦も戦闘の意思なし」

 

 

 

互いに戦闘の意思無しの確認が行われ、自艦への接近の許可を与える。

 

 

「ヘリが間も無く帰艦します」

 

「大黒柱のお帰りと来客か。出迎えてくる」

 

 

 

室戸はCICを出て、ヘリ格納庫へ向かう。

 

 

 

 

甲板へ出ると岸達を載せたヘリが着艦を終えて、甲板作業員達がヘリをロープで固定作業を行っていた。

サイドドアが開かれ、岸と平賀達が降りてくる。

 

 

「艦長、お帰りなさい」

 

「ご苦労様。ごめんね、色々無茶言っちゃって」

 

「いつもの事ですからね。で、そちらが先程の」

 

「うん。平賀さんには危ない所、助けてもらったの」

 

 

 

平賀はその場で一歩前に出ると、室戸に敬礼する。

 

 

 

「改めて、平賀倫子です」

 

「室戸です。本艦の事については……」

 

「道中、岸艦長からお聞きしました。異世界から来られたとか」

 

「はい。信じられないでしょうが、正直我々も未だに信じられないでいます」

 

「心中お察しします」

 

 

そこへ、みくらと補給艦が目に入る。

 

 

 

「ではこれより接舷作業に入りますので」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く



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第15話

東亜連邦の魔の手から晴風を守りきったゆうひは、ブルーマーメイド関係者との接触に成功した。

ゆうひの右舷に接舷したみくらから、艦長の『福内典子』と真雪がタラップを伝って、あさひの甲板へと降り立つ。

 

 

「ブルーマーメイド横須賀基地所属、福内典子です」

 

「横須賀女子海洋学校校長の宗谷真雪です」

 

 

 

紹介を受けた岸は真雪の名字に疑問が浮かんだ。

 

 

 

「失礼ですが、晴風副長の真白さんとは」

 

「はい。真白の母です」

 

「成る程。確かにソックリですね」

 

 

 

そこへ、室戸が駆け寄ってくる。

 

 

 

「艦長、士官室の準備完了しまし……………」

 

 

 

室戸は真雪の顔を見て固まった。

 

 

 

「母さん………………あ、失礼しました。私の母によく似ていたもので」

 

 

その言葉に真雪は室戸に話し掛ける

 

 

 

「あの、貴方のお母様は?」

 

「はい………自分が小学生の時にガンで」

 

「………ごめんなさい。私も貴女が真白によく似ていて驚いたわ」

 

 

真雪、室戸が娘の真白によく似ていた事に驚く。室戸本人もそう言われて何処か嬉しさと恥ずかしさがあった

 

 

 

「では士官室へとご案内します」

 

 

岸に案内され、士官室へと通された平賀と真雪。

既に平賀を初めとして、ゆうひの幹部全員が集まっていた。宛がわれた席へと座ると、早速会議が行われる。

まず最初に岸から日露戦争から始まる近代史の説明を交えて自分達が異世界からやって来た事への説明に始まり、次に物資補給、安全保証の確約についての日本政府への仲介を求めた。

 

 

「……以上が本艦が貴国へ求める要求です」

 

「分かりました。この件につきましては私が政府へ直接お伝えします」

 

「ありがとうございます」

 

 

 

一先ず要求を伝え、細かい確認して会談は終了した。

 

 

「所で宗谷校長、先程貴女は本艦へ来られる前に晴風へ寄っていましたが、彼女達が東亜連邦に狙われてた理由について何かご存知なのでは?」

 

「はい。実は………」

 

 

真雪は、小笠原諸島沖で教官艦が晴風へ砲撃した事への調査で判明した新たな事実を説明する。

 

 

「ウィルスですか?」

 

「はい。教官艦さるしまの艦内から妙なウイルスが検出されまして、その発生母体が」

 

 

真雪は懐から1枚の写真を出して、岸達に見せる。

 

 

「ネズミ………いやハムスターですか?」

 

「どちらでもありません。この生物の体内と血中から、人工的に精製された特殊なウイルスが検出されました」

 

「ウイルス?」

 

「はい。晴風は小笠原諸島沖へ向かう途中に、その生物を偶然にも捕獲していたのです。晴風保険医の鏑木美波の調査で、そのウイルスは感染すると人間の精神を混乱させ、電子機器が不調を起こす事が判明しました。体内からは発信器と思われるマイクロチップも発見されました。この生物とウイルスを精製した組織と東亜連邦との関係は不明ですが、ウイルスの存在と東亜連邦に深い繋がりがあるのは間違いないかと」

 

「成る程。教官艦居た教員もそのウイルスに感染して晴風を攻撃した訳で、彼女達には非は無いという訳ですね」

 

「はい」

 

 

 

それを聞いた岸達は少し安心した。

 

 

 

「良かった。あの娘達の疑いが晴れて」

 

「岸艦長、貴方達はこれからどうしますか?晴風には他にウイルスに感染したと思われる艦の捜索を指示してありますが、もし貴艦が日本へ行きたいのなら私たちが護衛いたしますが」

 

 

 

その申し出に、ゆうひの幹部達は岸に視線を向け、皆と眼を合わせてから、返答する。

 

 

 

「我々は晴風と行動を共にしたいと思います。何故かあの娘達は放っておけないので」

 

「………分かりました。では当面の間、晴風の護衛と他の艦の捜索をお願いできますか?」

 

「はい。因みに貴女方はこれかどうされるのですか?」

 

「私たちはウイルスに感染した他の艦の捜索に全力を尽くすつもりです」

 

「そうですか。では我々にも出来る事があれば何でも仰ってください」

 

「ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く



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第16話

士官室で岸と真雪との間で会談が行われている頃、工作艦『明石』は晴風への物資補給と修理と平行して、ゆうひへの燃料補給が行われていた。

 

 

「パイプ接続確認!」

 

「了解!送油開始します!」

 

 

明石から延ばされた送油パイプを伝って、軽油の補給が開始された。

同時に明石乗員からゆうひへの食糧や日用品の積み込み作業も行われる。

 

 

「野菜と肉類、魚類は新鮮だが、米だけは丁度去年の日付になってるな」

 

「新米のコシヒカリが食いたいっスね」

 

「贅沢言うな。古米でも食えるだけでありがたいし、この世界にコシヒカリがあるのか分からねぇんだぞ」

 

 

 

普段から食べ慣れた米が無いのに文句を言いつつも米が詰まった袋を艦内に運び入れていく男性隊員。

作業の指揮をしていた、ゆうひにたった一人しか居ない先任伍長『朝生保』は、胸に光る先任伍長特別章を輝かせながら補給品の積み込みを見守りつつ、手にしていたタブレットに補給品のリストを記入していく

 

 

「食糧の積み込みは後10分、燃料は後30分てトコだなぁ……」

 

「先任」

 

 

そこへ岸が真雪、平賀、福内を連れてやって来た。

 

 

 

「艦長ですか?どうも。ところでそっちの3人は例のお客様ですか?」

 

「うん。こちらが横須賀女子海洋学校の校長の宗谷さんで、後の2人は横に停まってる艦の艦長の福内さんと、情報調査隊の平賀さんだよ」

 

「そうですか………では本艦の艦内をお楽しみください。では私はこれで」

 

 

 

そう言って朝生は立ち去っていく。

 

 

「では本艦のCICへご案内します」

 

 

階段を使って3人を艦内第2甲板へと通し、CICへと案内する。

 

 

「ここが本艦のCICです」

 

 

CICの入り口前に到着した。扉には『関係以外の立ち入りを禁ずる』とのプレートが貼られている。

 

 

「立ち入りを禁ずる…………ここに関しては何処の世界でも同じなのですね」

 

「えぇ。普段なら内部へは防衛省の許可無しには入れないのですが、今回は私の判断で特別にCIC内部へご案内します」

 

「よろしいのですか?艦の機密に関わる物を私達に見せて」

 

「はい。相互の信頼を得るために必要な事なので。ではどうぞ」

 

 

扉が開けられ、岸を先頭に中に入る。

中には砲雷科の隊員がコンソールに向かって、レーダー監視をしていた。

 

 

「本艦はOYQ-13戦術情報処理装置を中心に対空、対潜、対水上戦闘指揮を行います。本艦は元となったあきづき型よりも対潜能力を重視した設計となっており、艦首のソナーによるアクティブ捜索能力が非常に高く静粛性の高い潜水艦を高い精度で捉える事が可能で。艦橋上に搭載されているXバンドレーダーで海面の潜望鏡も捉える事も出来ます」

 

「まさに潜水艦キラーね。となると武装は対潜兵装に重きを?」

 

「いえ。搭載している兵装はあきづき型と同様で、対魚雷防御用の3連装デコイ発射管、音響デコイのFAJ発射器も、あきづき型を踏襲しています」

 

「成る程。ホワイトドルフィンが使っているあきづき型の発展型だけあって、あらゆる部分で柔軟に対応できるのね」

 

「はい。私はこの艦を世界で最も、バランスの取れた戦闘艦だと自負しています。ではこれより特別プログラムとして、本艦ならではの対空戦闘訓練をお見せしましょう」

 

 

岸はサプライズとして、この世界の人達が決して見る事の出来ない近代的な対空戦闘の様子を公開するため、訓練の指示を出した。

 

 

「教練対空戦闘用意!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く



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第17話

「教練対空戦闘用意!」

 

その指令と同時に、CICに居た全員の雰囲気と表情が一瞬で変わった。

皆この世界に来てから表情が何が起きるか分からない状況下に晒されているせいか、何時も以上に雰囲気が険しくなっており、このように唐突に行われる普段の訓練でも、この様相を呈する。

 

 

「何か凄く重苦しいわね……」

 

「うん。ピリピリしてるような、敏感になってるような

……」

 

 

福内と平賀はCICの雰囲気に少し気圧されるが、真雪だけは凛とした表情で無言のままを貫く。

 

 

 

「レーダー探知(コンタクト)!320度より4機接近、真っ直ぐ近づく!」

 

「艦橋、第3戦速、面舵一杯」

 

 

佐田は普段の訓練通りの指示を出し、淡々とした感じで訓練を進めていく。

 

 

「対空戦闘!近づく目標、シースパロー攻撃始め」

 

「了解。目標データ入力完了、発射用意………撃て!」

 

 

ミサイル発射警報が鳴らされ、武山が発射ボタンを押すと、メインモニターに投影されている訓練シュミレーター上の目標に向けてESSMの光点が向かっていく。

 

 

「インターセプト10秒前………5、4、3、2、1…マークインターセプト。第1・第2目標に命中確認。第3目標、更に近づく!」

 

「主砲、CIWS攻撃始め!」

 

 

八重山が主砲コントロールパネルを操作し、目標に向けて速射砲による攻撃を開始する。

 

 

「主砲命中!全目標撃墜確認」

 

「周辺クリア。脅威目標無し」

 

「教練対空戦闘用具納め…………以上が本艦の対空戦闘訓練です。如何でしたか?」

 

「はい。この艦もそうですが、皆さんの練度が非常に高い物が感じられました」

 

 

真雪は始めてみる対空戦闘訓練に率直な意見を述べる。

 

 

「それで、今の訓練に出てきたシースパローと言うのは、どのような火器なんでしょうか?」

 

 

彼女からの質問に岸は笑顔を崩さずに答える。

 

 

「シースパローとは、本艦に向かってくる対艦攻撃兵器を迎撃するための誘導弾です。発射から目標までの中間はミサイル本体内の慣性航法装置と射撃指揮装置による自律誘導で、目標近くに接近すると本体内のレーダーによるセミアクティブによる終末誘導で目標に接近し命中する方式です。本艦に搭載されているのは最新型の発展型シースパローです。報告では昨日の東亜連邦軍の駆逐艦から放たれた噴進魚雷を8発を、これを使って全て迎撃しています」

 

「迎撃!?8発もの噴進魚雷を着水前に、遠方から撃ち落としたのですか?」

 

「はい」

 

 

 

福内が驚きの声で問い掛けて、岸は当たり前と言った表情で返した。

 

 

 

「この世界では、噴進魚雷の迎撃手段は無いのですか?」

 

「デコイと音響ジャマーによる撹乱か、マスカーを展開してからの回避航行しかありません。状況によっては、速射砲とCIWSを海面に撃ち込んで直撃寸前で魚雷を破壊する手段もあります」

 

「成る程。ではミサイルと言う兵器は実用化されていない訳ですね」

 

「はい。昔、アメリカが噴進魚雷の誘導装置を代用した誘導迎撃弾や対艦誘導弾の研究していて、技術面と予算の問題から結局実用化はされなかったと聞いています」

 

 

 

 

ミサイルは、元々ドイツが開発していた有線誘導弾やV2号ロケットの技術を発展させ本格的な誘導兵器として実用化した物であり、第2次大戦でそれらの技術を手に入れたアメリカとソビエトによる東西冷戦で、ミサイルは驚異的な発展を遂げてきた歴史がある。

しかし、第2次大戦も東西冷戦も起きなかったこの世界ではミサイル自体の必要性が求められなかった事と、開発に莫大な費用が掛かるため実用化されていなかったのである。

これらの歴史の違いが兵器や技術形態に大きな差を産み出している事に岸は、改めてここが本当の別世界であると痛感した。

 

 

 

 

(この世界に於ける私達の持つ技術的アドバンテージを上手く活用できれば………)

 

 

 

岸はミサイルの他に、この世界には無いもう1つの技術を見せようと考えた。

 

 

 

「皆さん、実は私からもう1つ、お見せしたい物があります」

 

 

 

そう言って、CICからヘリ格納庫へと移動する。

 

 

 

「ここが本艦の航空機格納庫です」

 

 

 

格納庫には整備を終えたばかりのシーホークが鎮座していた。

 

 

「私達の世界に於いて実用化されている航空機と呼ばれる空を飛行する事が出来る乗り物で、目の前のこれはヘリコプターと呼ばれる種類です。聞けば、この世界では航空機と呼ばれる乗り物は無いとか?」

 

「はい。空での移動手段は飛行船か気球しかなく、このような物は始めて見ます。このヘリコプターの最高速度と使用目的は?」

 

「速度は航空機の中では遅い部類に入りますが、この機体は最高で333キロ。用途は主に、吊り下げソナーによる対潜哨戒と魚雷による攻撃、救難、輸送が主となります。特にこの機体と艦はデータリンクで繋がってますから、ヘリが収集したソナー情報をリアルタイムで艦に伝達でき、効率的な探索と攻撃が可能となります。この機体はゆうひにとっては第2の目と鼻と言う訳です」

 

「成る程………運用法は飛行船と同じでも、飛行船よりも早く迅速に現場に向けて展開できるのが飛行船と大きく違いますね。因みに貴女はこれに乗って、どう思った?」

 

 

真雪は平賀にヘリに乗った感想を尋ねる。

 

 

「はい。特に速度に驚きましたね。機内は少し騒音が気になりますけど、ヘッドセットを付けてれば気になりませんし、会話も問題なく可能です」

 

「やっぱり飛行船よりも速度が出るのは大きいわね。もしこれを実用化できれば海難救助や艦隊行動にも大いに活用できそうね」

 

 

 

真雪はヘリの長所を理解し、実用化出来た場合の活用方法についても様々な考えが思い浮かぶ。

 

 

 

「岸艦長、よろしければこのヘリコプターの写真と、簡単な機体構造の資料があれば提供して頂けないでしょうか?もし提供が無理であればそれで構いませんが」

 

 

 

平賀がそう提案し、岸はどうすべきか少し考えた後、直ぐに返事を出した。

 

 

 

「分かりました。機体の写真撮影については防衛機密に当たらない箇所に制限を付けさせても良いのでしたら、一行に構いません」

 

 

 

岸は、この世界に於ける貴重な先行投資と考え、この世界への日本政府に対する新書の変わりとしてヘリコプターの資料提供を了承した。

 

 

 

その後、艦内の案内を一通り終え、提供されたヘリコプターの資料を携えた真雪と政府との仲介を再確認した後、横須賀へと帰っていた。

 

 

 

 

それから2日後、海上安全整備局から晴風に対する反乱嫌疑の払拭、行方不明となった学生艦についてはブルーマーメイドとホワイトドルフィンが合同で大規模捜索を行う事が決定されたと発表される。

 

一方で、東亜連邦と謎のウイルスの関係性、ゆうひの存在については政府内で機密指定を受け、今回の公式発表では明かされなかったが今後は水面下で調査の後、結果発表は時期を見て段階的に、外交に差し障りの無い範囲で公表される事も同時に決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く



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第18話

物資と燃料の補給を済ませた晴風とゆうひは、オーシャンモール四国沖店から横須賀へ向けて出港しようとしていた。

 

 

「岬艦長、岸艦長、双方へ行った補給物資と整備リスト渡しとくね」

 

 

『明石』艦長の『杉本珊瑚』は岬と岸にUSBメモリを渡す。

 

 

「確かに受けとりました」

 

「で、明石はこれからどうするの?」

 

「行方不明になってる武蔵への補給を兼ねて調査に行くつもり。何せ武蔵を含めた他の艦もビーコン切っちゃってるからね」

 

 

武蔵と言う言葉を聞いて岬は少し表情が暗くなる。

 

 

「どうしたの?」

 

「え……いや、別に」

 

 

岬はそう言って何時もの表情に戻った。

 

 

「じゃあ後は頑張ってね」

 

 

杉本は明石に乗り込んでいき、2艦から離れていった。

 

 

 

「さて、我々も行きましょうか」

 

「はい………と言いたいんですけど、ボイラーが暖まって無いですから動けません」

 

「そっちはボイラー艦だったね………じゃあ半日はここで立ち往生か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃、アスンシオン島近海を、16隻のあきづき型で編成された東舞鶴男子海洋学校の教員艦隊が隊列を組んで航行しており、艦隊旗艦『あおつき』に乗り込む教頭は、副長から報告を受けていた。

 

 

「教頭、哨戒船より連絡です。『発5分隊2号船、宛あおつき。北緯19度41分、東経140度0分の地点にて横須賀女子海洋学校所属の武蔵を発見。無線で呼び掛けるも応答なく、ビーコンも反応無し』との事です。恐らくは電子機器の故障か、海上安全整備局から内密の通達にあった例のウイルスが原因かもしれません」

 

「となると、向こうから撃ってくる可能性があるな。動いてると言う事は少なくとも向こうの生徒達は無事だと言う事か」

 

「教頭、万が一武蔵から攻撃があった場合は」

 

「あの艦の戦闘能力と防御力を考えれば、我々が装備している火力では止められんだろう。我々は有事の際を除いて噴進魚雷は演習弾しか使えんからな」

 

 

 

彼の言う通りで、日本各地にある海洋学校に配備されている教員艦はホワイトドルフィンやブルーマーメイドと装備共有のため、旧式のあさぎり型から最新鋭のあきづき型やインディペンデンス級を装備している。海洋学校に配備されている教員艦は基本的に実弾は装備されておらず、装備するには日本政府や海上安全整備局からの許可が必要になり、それ以外では実弾の装備は許されていない。

今回の海上安全整備局による、教育艦捜索任務に於いては、たとえ例のウイルスに教育艦の生徒が感染していようと、非戦闘員である学生相手に実弾の使用は過剰だと判断され、平時の装備のままなのである。

 

 

 

「兎に角、武蔵の生徒達が無事である事を祈ろう。これより武蔵の保護へ向かう」

 

「了解!全艦、取り舵20度、機関最大戦速!」

 

 

 

教員艦隊は、武蔵が発見された場所へと急行していく。

 

 

 

 

 

 

 

続く



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第19話

オーシャンモール四国沖店沖20キロ地点

 

晴風のボイラーの蒸気圧が上がるまで海上で停泊状態となっている中、2艦の乗員は動けるまで各々の仕事や、暇潰しをしていた。

岸は艦長室の机で片手で万年筆を持ちなが、航海日誌と向き合っていた。

 

 

「今日で7日目か………向こうじゃ心配してるだろうな」

 

 

今日で自分たちがこの世界に来てから一週間が経った。

既に乗員達の大半が異世界に来たと言う非現実的な状況を受け入れつつある一方で、一部の乗員中には未だに現実を受け入れられず、課業に支障が無い範囲で少しずつだがメンタル的に影響が出始めている。

 

 

「やっぱり乗員のメンタルが問題か………もしこの先に戦闘が起きたらどうなるんだろう」

 

 

頭を抱えつつ、元の世界に帰還できた際に群司令や司令部に提出する報告書に、今までの経緯をどうやって記入していこうか考える。

 

 

『艦長、よろしいですか?』

 

 

そこへドアが数回ノックされ、室戸の声が聞こえてきた。

 

 

「どうぞ」

 

 

そう言うと、ゆっくりとドアが開けられ室戸が入ってきた。

 

 

「艦長、昼食です」

 

「ありがとう」

 

 

机に昼食が置かれる。

 

 

「あきちゃん、乗員達の様子はどう?」

 

「はい。大半は何とか………ですが一部の乗員は浮き足立ってます」

 

「やっぱり……皆、どんな話をしてた?」

 

「えぇ………主にですが、元の世界に残してきた親族や友人、恋人の話が中心になってます……このままこの状態が続けば、ほんとに事故に繋がる可能性が」

 

「油断は出来ないね。乗員のケアや息抜きも考えないとね」

 

 

 

内容が内容なだけに難しい課題である。

 

 

 

「そう言えば岬艦長から、ヴィルヘルミーナさんの歓迎会をやるそうなので岸艦長や暇な乗員がいれば来てくれとの事です」

 

「そうなんだ……じゃあ呼ばれようかな」

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、東舞校教員艦隊は武蔵を目視圏内に捉えていた。

 

 

「武蔵、安定して巡航中ですね」

 

「皆、無事なら良いが」

 

 

その時、武蔵の主砲が旋回し教員艦隊に向けられた瞬間、一斉射撃をしてきた。

 

 

「撃ってきました!」

 

「何っ!?」

 

 

直後、放たれた6発の砲弾が艦隊を覆うように着弾し、教員艦1隻が至近弾で損害を受けた。

 

 

「4番艦から報告。機関部に被害あり、航行不能との事です!」

 

「やはり例のウイルスに………2番艦を接近させて音声で呼び掛けてくれ!」

 

 

2番艦が武蔵へ向けて接近しLRADで武蔵に呼び掛ける。

 

 

『武蔵の生徒諸君、我々は東舞校の教員だ!君達を保護するために来た!こちらの指示に従ってくれ』

 

 

だがその呼び掛けを無視するように、武蔵は2番艦に向けて砲撃する。

多数の至近弾を受けた2番艦も大きな被害を受け、一旦武蔵から距離を取るため離脱した。

 

 

「……」

 

教頭はどうするか考え、直ぐに答えを出した。

 

 

「砲撃を止めさせよう。噴進魚雷を使って何処かに穴を開けて艦を傾斜させれば、砲は使えなくなる」

 

「生徒の艦を撃つ事になります!」

 

「砲を使えなくしてから、彼女達を保護する」

 

「了解…………対水上戦闘用意!」

 

 

 

全艦戦闘配備につき、武蔵に向けての噴進魚雷攻撃の態勢を取る。

 

 

「非常閉鎖よし!全艦、対水上戦闘用意よし!」

 

「対水上戦闘、噴進魚雷攻撃始め!」

 

「発射用意…撃て!」

 

 

教員艦全艦のVLSから2発ずつ噴進魚雷が発射され、アスロックと同じ要領で武蔵近くでロケットブースターが切り離され、着水した魚雷は武蔵に向けて突き進み、全て命中した。

 

 

「命中確認。速力……………変わらず。主砲動いてます!」

 

「やはり演習弾では無理だったか!」

 

 

 

 

 

 

 

場面は再び晴風とゆうひに戻る。

 

 

 

「それではこれより、新しい仲間になった、ミーちゃんの歓迎会を始めたいと思います!」

 

 

 

天幕が貼られた晴風の艦尾甲板で、岬の提案によりミーナの歓迎会が始まった。

 

 

「あれ?岸艦長達が来てませんね」

 

 

納沙は招待した筈の岸やゆうひの乗員が居ない事に気がつく。

 

 

「準備してからくるって言ってたけど…」

 

 

そこへ何処からか岸の声が聞こえてきた。

 

 

「お~い!」

 

 

桟橋を駆け足でやって来る岸と佐田と豊津と納屋の4人は女性用の第3種夏服、室戸と勝と内海の3人は男性用の第3種夏服を着用していた。

 

 

「ごめんなさい。支度に手間取っちゃった」

 

「艦長がアイロンがけに手間取りましたからね」

 

「あきちゃんが手伝ってくれなかったら、遅れる処だったよ~」

 

「まったく…だから普段からアイロンがけの練習してくださいって言ってるのに、全然直ってませんね」

 

「でも間にあったから結果オーライって事で良いんじゃない?」

 

「…………ケーキ……食べたい………」

 

 

岸達は息を切らせながらも会場へと入った。

 

 

 

「制服で来てくれたんですか?」

 

「うん。やっぱり自衛官やってると、こう言う行事になるとつい制服着なきゃって……自衛官の性だね」

 

 

 

岬達は岸らの制服姿に憧れのような目線を向ける。

 

 

 

「岸艦長、その服似合ってるよ!」

 

「如何にも艦長って感じですね。貫禄が感じられます」

 

「うん!何か、プロって感じするよ!」

 

「室戸副長も中々様になってますね!まるでウチの副長が男になったみたいです!」

 

 

岬と真白に加えて、納沙もタブレットで写真を撮りながら室戸を撮る。

 

 

「じゃあ皆揃った事だし、始めよう!じゃあ始めにミーちゃんから一言お願いします!」

 

「うむ………晴風諸君にゆうひ乗員一同、此度はワシのために、こんな大変な時に催しを開いていただき感謝する!ワシは不器用じゃから、簡単な事しか伝えられないが、皆には大変感謝してる!特にアケノとキシの2人には命を救って貰っておる!じゃから2人には感謝しきれん!言葉は見つからんが、本当にありがとう!」

 

 

ミーナの言葉に全員が拍手し、隣のゆうひの甲板で作業していた隊員や非番で甲板に集まっていた隊員からも拍手が贈られる。

 

 

「じゃあ皆でケーキ食べようか!」

 

 

 

 

 

 

続く



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第20話

「そう言えば、今思ったんですけど岸艦長達って何処と無く私達と名前が似てません?」

 

 

歓迎会の最中、納沙が放った一言に回りの空気が変わった。

 

 

「そう言えば……岸艦長の岸の私の名字の岬は海に接する陸地の用語だし、室戸副長の室戸とシロちゃんの名字の宗谷はどっちも北海道にある岬の名前だし、後の人達はウチの乗員と一文字違いで性別が違ったりするしね」

 

「偶然なんでしょうか?」

 

「もしかして運命だったり?」

 

「それは神のみぞ知る………なんてね」

 

 

 

現時点ではこれらの偶然は誰も知るよしもない。

 

 

「艦長!学校から緊急電です」

 

 

そこへ晴風通信長『八木鶫』が慌てた走って来て再びその場の空気が変わった。

 

 

「内容は?」

 

「武蔵を捜索していた東舞校教員艦隊との連絡途絶。周辺で最も近い位置にいる晴風とゆうひは現地に向かい、状況報告せよ。ただし、自艦の安全を優先し、危険と判断された場合は待避せよとの事です」

 

「よし!総員、定位置に就いて!」

 

「副長、ウチも行くよ!」

 

「了解!」

 

 

岸と岬達は急いで片付けて、各々の配置に就いた。

艦へと戻った岸はその足でCIC、室戸は艦橋へと走り緊急出港を指示する。

 

 

「機関始動!アスシオン島近海へ針路を取れ!」

 

「了解!取り舵30、機関最大戦速!」

 

 

 

ゆうひが先に動き、晴風も後を追うように現場に向かっていた。

 

 

 

 

 

 

その頃、教員艦隊は……

 

 

「教頭、増援8隻到着!陣形整いました!」

 

 

教頭は武蔵を止めるため、付近を航行中だった別の教育艦を捜索中だった教員艦を呼び寄せて万全の態勢で武蔵を補足する。

武蔵は射程圏内に居る主砲で砲撃を続け、教員艦隊に対する攻撃の手を緩めなかった。

 

 

「何としても武蔵を止めなければ………噴進魚雷、攻撃はじめ!」

 

 

再び噴進魚雷が放たれたが、その直後に噴進魚雷は空中は見当違いの方向へ飛んでいく。

 

 

「教員!誘導システムにエラーが起きました!データリンクも止まってます!」

 

「やはり例のウイルスの仕業か…電子機器が狂うとは言っていたがここまでとはな」

 

 

ウイルスが放つ電磁波に、教員艦隊は通信も火器管制も不可能となり、大混乱に陥り、被害は徐々に拡大していく。

 

 

 

 

 

 

「艦長、前方の海域は戦争状態です」

 

 

 

既に現場近くに到着したゆうひと晴風。2艦の対水上レーダーはこの戦闘を捉えており、ゆうひのCICにあるメインモニターにも戦闘の様子がリアルタイムで投影されていた。

 

 

「教員艦隊が圧倒的に不利か……既に14隻の足がとまってる」

 

 

この時点で教員艦隊は9割の艦が航行不能に陥り、残っていたのは、艦隊の後方に居て砲撃を免れた教員艦だけだった。

 

 

「艦長、このままじゃ……」

 

「うん。でも今は状況把握に勤めなきゃ……メイちゃん、対空、対水上戦闘用意」

 

「了解」

 

 

万が一に備えて戦闘配置が下命され、艦内の緊急閉鎖が行われる。

 

 

「各部配置完了」

 

「もし武蔵が主砲を撃ってきたら、シースパローで撃ち落とせる?」

 

「理論上、音速で飛んでくるからシースパローなら迎撃できると思うけど」

 

「もし向こうが撃ってきたら迷わず撃って」

 

「了解。タケちゃん(武山瑞樹)八ちゃん(八重山光)、何時でも撃てるようにしといて」

 

「「了解!」」

 

 

二人は火器のロックを解除し、自動目標識別システムをONにして、武蔵からの砲撃に備える。

 

 

『艦長!晴風から高速艇が!』

 

 

艦橋からの報告に皆驚いた。

 

 

 

「誰が乗ってるの!」

 

『岬艦長です!武蔵に向かっていきます!』

 

「武蔵に!」

 

 

岸はコンソールパネルを操作して艦外のカメラを投影させる。

すると、岬が乗った高速艇が武蔵に向かっていくのが見える。

 

 

「艦長、晴風が速度を上げました。本艦右舷を通過していきます」

 

「岬艦長を守るつもりだね。本艦は晴風を援護する!機関最大戦速!」

 

 

 

ゆうひも速度を上げて、晴風を守るように展開する。

 

 

 

「艦長!武蔵より砲撃!後10秒後に本艦と晴風に着弾します!」

 

「シースパローで迎撃!」

 

「了解!データ入力よし、シースパロー攻撃始め!」

 

 

 

艦首のVLSからESSMが9発が放たれた。

 

 

「インターセプト5秒前…………マークインターセプト!」

 

 

放たれたESSM9発のうち、主砲弾8発を撃ち落としたが、残り1発が外れて晴風に向かう。

 

 

「艦長!1発が晴風に向かって行きます!」

 

「CIWSで対応!」

 

「駄目です!晴風が射線に入ります!」

 

 

 

射線上に晴風がいるためCIWSによる自動迎撃が出来ない。

 

 

「交わして!晴風!」

 

 

 

岸が叫ぶ………

 

 

その時、晴風の長10センチ砲塔が旋回し主砲弾が飛んでくる方向に向けられる。

そして長10センチ砲が連続で射撃を開始し、第1弾は外れ、続いて第2弾が放たれた瞬間、晴風右舷に巨大な爆発が起きた。

 

 

「嘘でしょ………火器管制システムの補助なしで、目視照準で撃ち落とした?」

 

「あの立石って娘、ウチの砲雷長並の実力じゃない?」

 

 

 

目視照準だけで武蔵の主砲弾を撃ち落とした、立石の実力に開いた口が塞がらない。

 

 

 

「あ……艦長、岬艦長の高速艇が岩礁地帯に激突!投げ出された模様!」

 

「ヘリを飛ばして岬艦長を救出して!」

 

「了解!航空機即時待機、準備出来次第発艦!」

 

 

 

散々暴れまわった武蔵は、現場から逃げるように離れていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く



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第21話

ゆうひから飛び立ったシーホークは、全速力で岬が漂流している地点へ急行する。

 

 

「波が少し高くなってる。目を見開いて探せ!」

 

 

パイロット達は必死に辺りを見回し、機種のFLIRカメラもフル活用しながら岬を探す。

 

 

「ん?……要救助者発見!」

 

 

副操縦士が海面を漂流していた岬を発見しホバリングを始めた。

 

 

 

 

 

 

「艦長、岬艦長を救助しました」

 

「岬艦長を本艦に収容する。ヘリは直ちに帰還」

 

 

岬を回収したシーホークはゆうひへと帰還し、岬はゆうひの医務室で手当てと検査を受ける事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、東舞校教員艦隊壊滅の報告は海上安全整備局を通じて横須賀女子海洋学校へともたらされた。

 

 

 

「教員艦16隻が航行不能!」

 

「はい。報告では武蔵に接近した直後に攻撃を受けたとの事です」

 

「やはり例のウイルスに……となると、他の艦もウイルスにやられていると見て良いわね。向こうの状況は?」

 

「はい。ゆうひと晴風からの通信で、現在は教員艦の救助作業に従事しているとの事ですが、武蔵はロストしたとの事です」

 

「2艦に被害は?」

 

「武蔵から砲撃を受けたそうですが、ゆうひが噴進弾を使って迎撃したとの事です」

 

 

秘書官はタブレットを使って、ゆうひから送られてきたカメラ映像を見せる。

映像には、武蔵から放たれた砲撃をゆうひから放たれたESSMが迎撃し、残った一発を晴風が主砲の2斉射で撃ち落とす様子が克明に記録されていた。

 

 

 

そこへ、教頭が慌てた様子で駆け込んできた。

 

 

「校長!新たに比叡と鳥海との連絡が途絶えました!」

 

「比叡に鳥海……これで連絡が取れなくなった学生艦は9隻…………今動かせる艦は?」

 

「現在補給と捜索活動中の間宮、明石、風早、護衛の秋風、浜風、舞風。偵察中の長良、晴風、浦風、谷風、萩風、ゆうひです。主力艦は全てドックでメンテナンス中です。後半年は出せません」

 

「晴風とゆうひ以外に武蔵との遭遇地点に急行できる艦は?」

 

「他の艦は捜索に出ていて、少なくとも数日はどうしても掛かります」

 

「ビーコンも切ってるから、完全に見失った事になるわね。これ以上の状況悪化は何としても回避しないと。それに東亜連邦の動きも気になる……」

 

 

ここ数日、不審船の往来が急増しておりブルーマーメイドやホワイトドルフィンもその対処に追われており、国内で有事に動かせる艦艇の数が少なくなってきている。

真雪は、不審船が全て東亜連邦に関係している報告が気になっていた。

 

 

(もしかしてこれも、東亜連邦が?)

 

 

一抹の不安が脳内を駆け巡り、最悪の事態となる結果も予測してしまう。

だが全ては憶測の域を越えないため、その考えは一旦忘れて、生徒達の安全をどうやって確保するかに全神経を集中させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

場面は再び戻る

 

 

「はい。これでいいわ」

 

 

医務室で手当てを受けていた岬。蕪木は額に出来ていた小さな擦り傷に絆創膏を貼る。

 

 

「ありがとうございます」

 

「いいえ。…………聞いたわよ。貴女、宗谷副長の静止を振り切って飛び出したんですって」

 

「…………………はい。武蔵には私の大事な友達が居て、そしたら居てもたってもいられなくて」

 

「厳しい事言うようだけど、友達を思う気持ちは分かるけど、自分の艦を放り出して飛び出したのは指揮官のする事じゃないわね。一時の感情に囚われた突発的な行動は自分も当然だけど、仲間も命すらも危険に晒す事になるわ」

 

「………………」

 

「まぁ私は艦長とかやった事が無いから分からないけど、一応看護長として仲間率いる立場だから言わせてもらったわ。帰ったら皆に謝りなさいよ」

 

「はい」

 

 

岬は蕪木から渡されたカルテを持って医務室を退室していった。

 

 

 

「ウチの艦長の若い頃ソックリね。昔を思い出すわね」

 

 

 

そう呟き、器具を片付ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く



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第22話

その日の夜、ゆうひの科員食堂では非番の隊員と当直の隊員との間で、今日起きた武蔵との戦闘の様子がどうだったのかと言う話で盛り上がっていた。

 

 

「それでさ、武蔵が撃った主砲弾をウチのシースパローで撃ち落としたんだけど、最後の最後で一発が外れて晴風に落ちようとしてた訳よ。そしたら晴風が主砲を打ち上げて、2斉射目で武蔵の砲弾に撃った砲弾が当たって大爆発が起きた訳よ」

 

「本当かそれ?」

 

「本当だって!真だって見たよね?」

 

「うん。あの時は流石に当たると思ってなかったからね。晴風の砲術長は良い腕してるよ」

 

 

 

武山と内山から語られた話に、他の隊員達も信じられないと言った表情である。

 

 

「普通は有り得ないよな」

 

「あぁ……だって晴風にそんな高性能な火器管制システムなんて積んでないんだろ?だとしたら晴風の砲術長はレーダー情報から向かってくる砲弾の速度や角度を瞬時に計算して射撃を指揮したって事になるぞ。並みの人間ならそんなの出来ないぜ」

 

「もし本当だとしたら、その娘かなりの才能を秘めてる事になるな」

 

 

 

皆、閉鎖された空間の中で刺激を求めており、食堂に居た全員が静かに聞き入る。

 

 

 

「にしても、この目で武蔵を見たかったな」

 

「だな。何せあの大和型戦艦だからな。船乗りなら誰もが憧れる船がある世界なんだぜ。もしかしたら長門とか金剛とかも見れるじゃね?」

 

「それよか、三笠だって浮いてる姿が見えるかもな」

 

「なら俺がスマホで撮った奴があるけど見るか?」

 

 

 

そんな盛り上がっている光景を遠目で見ていた岸は、乗員に戦闘の余波が深刻ではないのを見て安心すると、その場を後にして艦橋へと向かった。

 

 

 

 

 

「艦長、搭載弾薬の残弾数についての報告が纏まりました」

 

 

 

そこへ室戸がタブレットを持ってやって来た。

 

 

 

「短SAMが64発のうち2回の戦闘で15発消費して現在は49発、アスロックは16発のうち1発使って現在15発、デコイが3発消費して予備弾が後12発、Fajは装填されてい分を撃ち尽くして予備弾薬が12発、残りの火器は使用していないので横須賀で搭載した時の状態を維持しています」

 

「やっぱりシースパローの消費が激しいね。デコイも心もと無いし」

 

「偶発的な戦闘だったとはいえ、弾薬の使用には注意を払うべきですね。この世界の日本が我々を受け入れてくれたとしてもシースパローと対艦ミサイル、seaRAMの補充は期待できそうにありませんし、この世界のアスロックが本艦の火器管制システムに対応できるか不安です。速射砲やCIWSの弾薬についても規格が合っていれば使えるかもしれません」

 

「一応、横須賀に帰れる目処がついたとはいえ現状じゃ何時横須賀に戻れるか分からないし。今後も戦闘が続けば何時か手詰まりになるし…………」

 

 

 

元の世界と技術面は同等でも、アドバンテージとなるミサイルが無ければゆうひは何も出来ない。

今後の事について、二人は頭を抱えてしまう。

 

 

 

 

 

 

続く



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第23話

日も暮れて、時間が午前0時を回り日付が変わった。

静かな海の上を進む晴風とゆうひ。満月の光のお陰で辺りはよく見える。

 

 

「しかし……何も無いね」

 

「うん」

 

 

内海と、もう一人の当直員はウイングで見張りをしていた。

 

 

「波が穏やかだね」

 

「うん。でも何だか不気味だね………月夜の夜の海って、波の音しか聞こえないから」

 

「確かに…………ん?」

 

 

ふと見ると、右前方の海面に黒い球体が浮いており、海流でまっすぐ向かってくる。

 

 

「2時の方向、海面上に浮遊物確認」

 

 

内海は艦橋に居た室戸に報告する。

 

 

「浮遊物の詳細は?」

 

「丸い球体状の物体です」

 

「操舵手、取り舵20」

 

「ヨウソロ。取り舵20」

 

 

操舵手が舵輪を回そうとした瞬間、左舷を航行していた晴風から爆音と水柱が上がった。

 

 

「何だ!?」

 

「晴風の左舷より爆音を確認!」

 

「爆音………………いかん!両舷停止!機関後進一杯!」

 

「り、了解!両舷停止!機関後進一杯!」

 

 

 

操舵主がレバーを手前に一杯まで引くと、スクリューの回転が逆となり船体が急停止し、その反動で前に沈み込み、艦内に居た乗員も衝撃で前のめりになったり、寝ていたベッドから転落しそうになったりする。

急停止した船体はゆっくりと、後ろへ向けて後進を始める。

 

 

「浮遊物は!」

 

「海流で右へ流されました!離れていきます」

 

「機関停止」

 

「了解。機関停止」

 

 

 

機関が止められ、ゆうひの船体が停止した。

同時に、岸が艦橋に上がってきた。

 

 

「あきちゃん!何があったの?」

 

「艦長、機雷です。本艦前方より海流で流れてきたので回避のため艦を停止させました。それと本艦が回避する直前に晴風も機雷と接触したようです」

 

「晴風に無事かどうか確認をとって!それと、付近にまだ機雷があるかもしれないから、探照灯と目視で機雷捜索!」

 

「了解!」

 

 

 

直ちに機雷捜索が始まった。だが、ゆうひには機雷探知機が搭載されていないのと、機雷の種類が不明なためアクティブソナーは使えないため機雷捜索は探照灯と目視確認に頼るしかなかった。

 

 

 

 

 

そして翌日

 

 

夜が明けて、辺りが朝靄に包まれる。

晴風の後部甲板では、晴風給養員の伊良湖と、『杵崎ほまれ』『杵崎あかね』の3人が、竹を使って浮遊機雷を退かしていく。

 

 

「機雷を突っついて大丈夫なの?」

 

「古い触発機雷だから、突起を押さなければ大丈夫だよ」

 

「全部爆破すれば」

 

「靄が晴れないと周りにどれだけ機雷があるか分からないし、1つ爆破しちゃってそれが連鎖したら怖いから」

 

「「大変だね~」」

 

「そう言えば、ゆうひも私達と同じ事してるみたい」

 

 

 

伊良湖がゆうひの方向を見る。

ゆうひの甲板には、手空きの乗員達やヘリのパイロットや整備員も総動員で、棍棒や長い角材を使って浮遊機雷を押し退けていく。

 

 

 

「気をつけろ~……絶対に突起は押すなよ」

 

「分かってるって…」

 

 

隊員達は慎重に、近づいてくる機雷を押して遠ざけて行く。

 

 

「まさか護衛艦配備で機雷に関わるとは思わなかったな」

 

「でも、これからどうするんだ?ウチには機雷掃海の機材や専門要員は居ないんだぜ」

 

「今、ウチの艦長と向こうの艦長達が話し合ってるってよ」

 

 

 

 

その頃、晴風の講堂では岸や岬達が、付近の機雷の分布状況についての報告と説明を行っていた。

 

 

 

「夜のうちに、ソナーで周辺の捜索を行いました。付近の機雷は航路阻止を目的としているので、範囲はそう広くはありません。機雷の種類についてはソナーに反応しなかったの感応機雷は無いと推測されます。付近の水深から系維機雷、短系止機雷、沈底機雷と思われます」

 

 

 

晴風ソナー員の『万里小路楓』が詳細を報告する。

 

 

「系維機雷って何?」

 

「ほらアレでしょ、ワイ……」

 

「ワイヤーを使って複数の機雷を繋げた奴で、一発が爆発するとワイヤーで繋がれた別の機雷も連鎖して爆発する構造になってるんだよ」

 

「それ、私のセリフ~」

 

 

アドバイザーとして岸と共に来ていた佐田に説明の役割を取られて、頬を膨らませて拗ねてしまう西崎。

 

 

「先へ進むには掃海する必要がありますね」

 

「でも私達は機雷掃海に関しては全くの素人だし、2艦の乗員の中に機雷掃海の経験者は居ない。どうする?」

 

「それについては私が説明致します」

 

 

 

納沙はタブレットを使って、掃海手順の説明を始めた。

 

 

 

「先ず、本艦に搭載されている掃海具を掃海柵で繋ぎ、スキッパーに接続し展開器を水中に落として進めば、切断機が機雷のワイヤーを切断します。浮いてきた機雷を機銃掃射して爆破でどっか~んです!」

 

「それなら危険な手作業をしなくてもいいな。でも範囲は狭いとはいえ、2隻が通れるくらいの範囲の機雷を除去となると骨が折れますね」

 

 

真白がそう言うと、岸がある提案をしてきた。

 

 

「それなら範囲を分けよう。晴風が左、ウチは右の範囲をやるよ。掃海具を貸してくれたら、こっちもボートを使ってやるから」

 

「それが早いですね」

 

 

 

直ちに機雷掃海のための準備が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く



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第24話

機雷掃海のため、晴風とゆうひでは準備が進んでいた。

左側の機雷掃海を担当するゆうひでは、晴風から借り受けた掃海具を内火艇に取り付ける作業が行われていた。

 

 

「よし、固定完了」

 

「しっかり確認しといてくれよ。借り物なんだからな」

 

 

内火艇の操作を担当する機関科の『黒田博美』と『門脇留奈子』の二人は入念なチェックを怠らない。

 

 

 

一方で、砲雷科は機雷の爆破除去のための準備をしていた。

 

 

「持ってきました」

 

「よし。設置急げ」

 

 

砲雷科の隊員達が、細長い緑色の箱を明けると、中から対不審船対策用として弾薬庫に仕舞われていたブローニングM2重機関銃を取り出し、銃架に乗せて固定し、ベルトで繋がれた12・7㎜弾をセットする。

 

 

「まさか、こんなポンコツがこんな時に役に立つなんてな」

 

「コイツもまだ捨てたモンじゃないな」

 

 

 

他の隊員も同じく、武器庫から取ってきた64式小銃に実弾が入った弾倉を装着すると、その場で伏せて2脚を広げて、照門を立てる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「艦長、掃海準備完了しました」

 

 

 

準備が整い、早速作業が開始された。

 

 

 

晴風とゆうひから発進したスキッパーと内火艇が発進し、左右の機雷源へと分かれる。

 

 

 

「留奈子、ちゃんと前見て操作しなさいよ」

 

「分かってますよ!」

 

 

門脇は慣れた手付きで内火艇の舵を操作し、機雷の間をすり抜ける。すると、掃海具の切断機が機雷のワイヤーを切断していき、機雷が浮き上がってきた。

 

 

 

「機雷、浮遊確認。海流でこちらに流されてきます」

 

「数は?」

 

「右舷前方より2…3……5……6個です!」

 

「射程距離に入り次第、射撃開始!」

 

 

 

機雷が射程距離に入ると同時に、M2による射撃が始まった。

最初にバースト射撃で放たれた5発が1個目の機雷に命中すると、大爆発を起こし、連鎖で近くにあった2個も爆発した。

 

 

「機雷3、爆発確認!」

 

 

残り3個の機雷に向けても射撃が開始され、一個ずつ爆破していく。

 

 

 

「この分なら1時間で終わりそうですね」

 

「うん」

 

 

 

そう安心し、胸を撫で下ろした直後…………

 

 

 

 

ドォォォォォォォォォン!!!

 

 

 

「左舷方向前方に機雷爆発確認!スキッパーが巻き込まれました!」

 

「え……確かアレに乗ってたのって」

 

「晴風水雷員の松永、姫路の2人です」

 

「掃海作業中止!航空機即時待待機、準備出来次第発艦!それと、ヒロちゃんとワキちゃんを現場に急行させて!」

 

「了解!」

 

「艦長、晴風からスキッパーが一隻出ました!岬艦長が乗ってます!」

 

 

見ると、確かにスキッパーを岬が操作しているのが見える。

 

 

「艦長、危険です。止めさせましょう」

 

「もう間に合わないよ。それにあの娘は止めたところで聞かないよ。まるで昔の私みたい」

 

 

 

岸は岬の姿を、新人だった頃の自分と重ね合った。

 

 

 

 

それから数分後、現場に到着した岬は、2人の救命装置に内蔵されている筏を探す。

 

 

「あった」

 

 

目の前に2つの球体がが浮かんでおり、波に流されないようゆっくりと接近する。

 

 

「お~い!」

 

 

そこへ、黒田と門脇が到着する。

 

 

「えぇと……」

 

「ゆうひ機関科の黒田よ。こっちは同じ機関員の門脇よ。あそこに浮いてる球体がそうなの?」

 

「はい!あの中に2人が居ます」

 

「分かった。貴女は右を、こっちは左の娘を助けるから」

 

 

 

黒田はそう指示して右の球体に向けて内火艇を進める。

 

 

「これね…………」

 

 

黒田は球体の正面にあったファスナーを空けて、中を確認する。中には松永が居た。

 

 

「貴女、大丈夫?」

 

「う………うん」

 

「よかった。早くこっちに乗り移って」

 

 

黒田が松永に手を差し出し、松永を内火艇に引き上げる。

 

 

「こちら黒田、溺者救助。岬艦長ももう一人の溺者を救助確認しました」

 

 

 

岬も姫路を救助を完了しており、黒田は無線で報告を入れてから、共に艦へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

続く



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第25話

機雷原を突破した晴風とゆうひ。今は武蔵を含めた他の学生艦捜索を優先し、東亜連邦による何らかの武力攻撃や接近を警戒しつつ南方海域を航行していた。

 

 

「海上安全整備局から横須賀女子海洋学校の宗谷校長経由で届いた例のウイルスについて情報が届きました。今回はこの情報を2艦で共有するために、この場を設けました」

 

 

テレワークのライブ映像で、ゆうひの士官室晴風の講堂を繋いで、2艦の幹部による会議が行われていた。司会役の室戸は、プロジェクターと繋がれたパソコンを操作して、ある報告書の写しを投影する。

 

 

「今回の事件に関与していると思われる例のウイルス。この書類に書かれている内容から、このウイルスには感染すると人間の精神を大きく混乱させると同時に、周囲にある電子機器を破壊させる効果がある事が判明しました。海上安全整備局の調査では、海洋医術大学の研究室における実験で偶然産み出された特殊ウイルスで、その後極秘に研究が進められていたようです。そしてその後、ウイルスのサンプルと資料を乗せた潜水艇は事故により小笠原諸島に沈没した……とあります」

 

 

室戸は報告書の内容を簡潔に分かりやすく読み上げる。

読み上げられた内容に、宗谷が質問した。

 

 

 

『極秘研究なら何故、東亜連邦が関わってくるんでしょうか?』

 

「そこです。ここからが本題なのですが、この資料によると、例のウイルスに関わる海洋医術大学の研究員の中の複数の人物が、情報を東亜連邦に流していた様です」

 

『つまり……機密漏洩』

 

「この文面からはそう判断できます。そしてこの情報を得た東亜連邦は、裏取引でこのウイルスのサンプルを引き渡すため、海洋実験と言う名目で潜水艇を小笠原諸島に派遣しました」

 

「潜水艇……あ!」

 

「はい。恐らく何らかの事故で潜水艇は沈没しサンプルの回収は不可能。ですが、沈没地点で起きた海底火山による隆起で潜水艇は海面に上がり、そこから漏れたウイルスがウイルスの回収と処分のため海洋医大の研究生を乗せた横須賀女子海洋学校の教員艦艇が汚染され、そこから感染が広がった………東亜連邦はサンプルの回収のため動き出した。しかも事件に関わった晴風も同時にあんな姑息な手を使って」

 

 

それを聞いた双方の乗員のは驚きを隠せなかった。

 

 

「俺らとんでもない事に関わっちまったって事か」

 

「リアルバイオハザードか?」

 

「映画かよ」

 

 

皆、まだ実感が沸かない様子である。

 

 

『そのウイルスについて、朗報がある』

 

 

そこへ、鏑木が会話に入ってきた。

 

 

『実はオーシャモール沖でウチの乗員が回収した箱の中に例のウイルスに感染したネズミを発見した。このネズミから採取したウイルスを私が独自で調べ、今朝ワクチンが完成した』

 

 

そう言って鏑木はワクチンが入ったビーカーを見せる。

 

 

「ワクチンだって!」

 

『あぁ。それにこのウイルスは塩分に弱い特性があって、感染から数時間から1日の場合、海水を掛ければウイルスは消滅する事が確認された。もし感染から数日が経過した場合はこのワクチンを使えば、ウイルスに感染した者は完治できる』

 

 

とんでもない朗報に皆、今度は違った意味で驚き、鏑木の底知れない能力に少し戦慄した。

 

 

「しかしよく作ったね」

 

『偶然だ。元々晴風の設備でまともな研究が出来ると思ってなかったんだがな』

 

「でも、そのワクチンがあれば他の艦の娘だって助けられるね」

 

『だが晴風と、ゆうひの設備で生産できるワクチンの数は限られる。このワクチンのデーターを学校に送らなければ』

 

「じゃあ直ぐにでも送らないと」

 

 

 

 

ワクチンのデーターは直ちに、学校と海上安全整備局へと送られた。

 

 

 

「今後の行動方針についてだけど、もし行方不明になってる他の艦を発見した場合は、2艦の設備で製造できるワクチンを使って出来る限り艦の乗員の救助に勤めたいと思うんだけど」

 

「それについては私は賛成です」

 

『私もです。他のクラスの娘達やミーちゃんのシュペー、そして武蔵だって救いたいし』

 

『私も艦長の意見を尊重します』

 

 

 

他の乗員も賛成の意思を示し、2艦との間で意思統一が行われる。

 

 

「では、今後は自らの安全と海上安全整備局、海洋学校からの指示に従いながら、他の行方不明艦と遭遇した場合は自らの安全を確保しつつ、行方不明艦の乗員への被害を可能な限り避けながら無力化を図る事で意思統一を行います。以上。解散!」

 

 

 

 

 

続く



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第26話

「こりゃ時化るな」

 

 

この時期、南方海域特有の低気圧に遭遇した晴風とゆうひ。波が荒れ、大雨が振り、風も強い。2艦の船体は海面のうねりによって大きく揺さぶられる。

 

 

「艦長、この低気圧は小規模のようで、数時間もしたら温帯低気圧に変わるそうです」

 

「了解。でも凄いね、この低気圧は」

 

 

艦橋の窓ガラスに大量の雨粒が叩きつけられ、ワイパーが必死で雨水を退かせているが、全く追い付いていない。

 

 

「松ちゃん。視界が悪いから、操艦には注意を払って」

 

「了解」

 

 

見張り員とソナー員、CICと連携しながら、他の船や岩礁地帯に注意しつつ進路を進めていく。

 

 

 

「思い出すね。この嵐……」

 

「はい。もう2週間になるんですね…私達がこの世界に来たのは」

 

 

目の前で起きている低気圧による雨や風、荒波は何処か、最初にこの世界に来る以前にハワイ沖で遭遇した低気圧に似ている。2人は思わずそんな事を思い出した。

 

 

「もし……もしもだよ。この低気圧の中に、元の世界に帰れる穴や手掛かりがあったら、あきちゃんはどうする?」

 

「私は艦長が出した意見に従います」

 

「そう言うのじゃなくて…あきちゃん個人の意見を聞かせて」

 

「……………………分かりませんが、もし私が艦長と同じ立場なら、元の世界に帰るのを選択するか、この世界に留まるか、迷ってしまいますね」

 

「どうして?」

 

「晴風ですよ。あの艦、そしてその乗員達………他人じゃない気がするんです」

 

「確かに…他人じゃない気がするのは私も薄々感じてるけど……」

 

「それに、宗谷校長は実家に居る母親と瓜二つですし、真白さんも私の死んだ妹に良く似てるんです」

 

「そう言えば、宗谷校長が来た時にあきちゃん、ちょっとビックリしてたもんね」

 

 

 

岸は真雪が来た時の室戸の反応を思い出す。

 

 

 

「率直に言うと、あの艦と乗員達は、何処か放っておけないんです。もしこのまま別れる事になったら、自衛官である以前に、何かを失いそうな気がするんです」

 

「同じだね。私もあきちゃんと同じ考えだよ………もしかしたら、岬さん達は私達が歩む筈だった、もう一つの姿なのかもしれないね」

 

 

 

揺れる艦橋内で晴風を見つめる2人。

 

 

 

その時………

 

 

『艦長!』

 

 

そこへ艦内電話でのコールが掛かり、出てみると八木大慌てな感じで報告を入れてきた。

 

 

『大変です。晴風が救難信号を受信した模様です』

 

「救難信号!」

 

『はい』

 

「何処から?」

 

『この先にあるウルシー環礁からの様で、商店街船が座礁して転覆の危険があるそうです!』

 

 

 

突然舞い込んできた海難事故の報告に岸達の表情が変わった。

 

 

「あきちゃん、この低気圧の中でヘリが飛ばせられるまで何れくらい掛かる」

 

「えぇと………後10分少々進めば低気圧の端に到達できるので、そこを抜ければヘリの発艦は可能です」

 

「機関最大戦速!このまま低気圧の端に向かう!」

 

「了解!」

 

 

ゆうひは速度を上げて、低気圧の端へと向かう。

 

 

 

そして、間も無く低気圧の端に到達し、波と風が緩やかになっていく。

 

 

「航空機即時待機!準備でき次第発艦!」

 

 

格納庫からシーホークが出され、ローターが回り出す。

 

 

『take off』

 

 

直ぐ様、シーホークはゆうひの甲板から離れ、状況確認のため現場へと向かった。

 

 

「艦長、晴風から我々を除いて付近に艦艇は居ないとの報告が来ました!晴風は直ぐに現場に向かい救助作業を行うそうです」

 

「私達も行こう!このまま現場へ急行する!面舵一杯、最大戦速!」

 

 

 

ゆうひと晴風は最大戦速で現場へと急行していく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く



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第27話

ゆうひから飛び立ったシーホークのカメラ映像は、データリンクにより、ゆうひのCICのメインモニターへリアルタイムで送信される。

現場に到着したシーホークから送られてくる事故現場の状況は想像以上に深刻だった。

座礁している新橋の甲板からは、乗組員や民間人が我先へと飛び込んでいき、救命ボートに乗り切れない人がライフジャケットにより海面に浮いている状態だった。

 

 

「現場は予想以上の被害ですね」

 

「何とか早く駆けつけないと」

 

 

晴風とゆうひは全速力で航行しているが、低気圧の影響により波が高く、思うように速度が上がらない。岸達は手遅れになる前に早く現場に到達しなければという思いが強くなっていき、やがてそれが焦りに変わっていく。

 

 

「現場への到着予定時刻は?」

 

「後10分です」

 

「現場は浅瀬になってるから、艦を現場から少し離しましょう。救助作業は内火艇とゴムボートをありったけ使いますか?」

 

「勿論。ヘリも使って全力で救助作業に当たって」

 

「了解。衛生班も待機させます」

 

 

室戸の指示で、搭載されていた全てのゴムボートと球場機材、医療機材が格納庫に集められ、衛生班の隊員は医務室や士官室に負傷者用のベッドを設営していき、手空きの隊員達は救助に向けた準備を始める。

 

 

 

「目標視認!」

 

「両舷停止、後進一杯!」

 

 

やがて現場近くへ到着すると、浅瀬に艦が座礁しないよう注意しつつ、水深が浅くなるギリギリにまで艦を寄せていく。

 

 

「内火艇、降ろし方用意!」

 

 

艦が停止すると同時に、ライフジャケットを着用した救助班が内火艇に乗り込んでいき、クレーンにより海面に降ろされると、現場に向かって急行していく。

先に現場に到着していたシーホークも、ホバリングしながら搭乗員が新橋の周囲に漂流していた生存者を救助していく。

 

 

「副長、晴風も救助作業を開始しました」

 

 

晴風からも、スキッパーやボートが出発していく。

 

 

「分かった。艦の安全を確保しつつ救助に全力を注げ!一人残さず助けろ!」

 

「了解!」

 

 

救助作業の指揮をしていた室戸は、トランシーバーを使って全隊員に救助作業に怠りが無いよう徹底させる。

 

 

 

「副長!内火艇1号が救助者第1陣を収容完了したとの事です!」

 

 

 

早速、内火艇が新橋の生存者を収容して帰還してくる。

タラップが降ろされ、隊員に誘導されながら多数の民間人がタラップを上がっていき、ヘリ格納庫へ誘導され、待機していた衛生班がバイタルチェックと怪我の確認を行う。

 

 

 

「負傷者を優先に艦内の医務室に収容し、怪我の無い者には食事を!内火艇は救助者を降ろし次第、再救助に向かわせろ!」

 

 

救助者を降ろした内火艇は、また離れていき、現場へと戻っていく。

 

 

「副長、ヘリが戻ってきます!」

 

 

漂流者の救助収容したシーホークが戻り、甲板に着艦すると、機内から毛布を被せられた生存者が艦内に誘導されていく。

救助者を降ろし終えたシーホークはエンジンをアイドリングさせたまま、素早く燃料を補給し、それを終えると間髪入れずに又、飛び立っていく。

 

 

 

「しっかりしてください!もう大丈夫ですよ!」

 

「毛布が足りない!追加で持ってきてくれ!」

 

「怪我のある人は申し出てください!」

 

 

格納庫は救助者と、対応に当たる隊員で埋め尽くされており、負傷者は艦内の医務室へと誘導され、怪我の無い者は毛布を羽織ってうつ向いている。

 

 

「副長、新橋に向かった晴風の調査班が艦内の捜索を行うので人手が欲しいとの連絡がありました!」

 

「分かった。現場へは私と数名が向かう。後の指揮は砲雷長に一任する」

 

 

 

室戸は隊員3人を伴い、内火艇で新橋へと向かった。

 

 

 

 

 

新橋のブリッジに上がると、晴風側で救助指揮をしていた真白とミーナ、砲雷科3名が居た。

 

 

 

「宗谷さん、状況は?」

 

「はい。船内にはまだ乗員が残っているようです。我々は船内の確認を行います」

 

「了解した。我々も船内確認に参加する。船長、船内図をお願いします。」

 

「はい。こちらです」

 

 

船長が船内図を広げる。

 

 

「成る程……船内はそう複雑では無さそうだ。ここは3つに班に分かれて避難誘導と船内の確認に入る」

 

 

室戸は班を3つに分けた。室真白とミーナの2人、日置・武田・小笠原の晴風砲雷科3人、室戸以下の隊員3人に分かれて船内確認に入った。

 

 

 

「スプリンクラーと非常システムが動いてない?」

 

 

電気がついていない廊下の天井や壁を見ると、スプリンクラーは機能している様子はなく、火災報知器のランプも消えている。

室戸は近くにあった配電盤のスイッチ類を取りあえず操作してみるが、何も起きない。

 

 

 

「電源が止まってるみたいだ。恐らく座礁した時の衝撃か、浸水で主発電機も予備発電機もやられたらしいな」

 

「不味いですね。こんなに暗いと、身動きが取れていない人も居るかもしれませんよ」

 

「だとしたら手遅れになる前に早く何とかしよう。艦に報告せよ」

 

 

 

室戸と真白は各々の艦に向けて状況報告を入れてから、船内の確認を行う。その間にも、船内からは多数の民間人達が上甲板に向けて避難していき、室戸達は上甲板に上がる近道と階段の位置を教えながら誘導していく。

 

 

「こちら室戸、艦長へ」

 

『こちら岸、副長どうぞ』

 

「間も無く船内の避難誘導は終了する。終了次第、我々も下船する」

 

『了解。あきちゃん、気をつけてね』

 

「はい」

 

 

トランシーバーを切り、船内に人が居ない事を確認した後、自分達も避難しようとした時……

 

 

 

「あの……」

 

 

一組の夫婦が声を掛けてくる。

 

 

「どうしました?」

 

「多聞丸が居ないんです!」

 

「気付いたら傍に居なくて」

 

 

心配そうな表情の夫婦に真白が駆け寄る。

 

 

「その子は小さいんですか?」

 

「はい」

 

「分かりました!私が探してきますから、貴方達は避難してください!」

 

 

 

真白はそう言って、船尾方向に向かって走っていく。

 

 

 

「宗谷さん!…………仕方無い!」

 

 

室戸も真白の後を追おうとする。

 

 

「副長、我々も」

 

「お前達は先に戻ってろ!要救助者を見つけ次第、合流する!艦長への報告は頼んだ!」

 

 

 

室戸はそう言い残し、真白の後を追いかけて行ってしまった。

 

 

 

 

捜索隊から、その旨の報告を受けた岸は不安そうな表情となる。

 

 

「あきちゃん………」

 

 

無論、岬も岸と同じように不安そうな表情を浮かべながら新橋を艦橋から見つめる。

 

 

「シロちゃん………無事で居て……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く



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第28話

新橋の船尾にある第5区画を隈無く捜索する室戸と真白。

 

 

「居ない………何処に居るんだ?」

 

「小さい子供らしいから、どこかの隅に隠れてるとは思うんだが」

 

 

回りにある商店内の棚から倉庫から隈無く探し続けるが、気配は無い。

 

 

「不味いな……」

 

「何が不味いんですか?」

 

「船がさっきより傾いてる」

 

 

真白は気付いてなかったようだが、新橋の船体は、室戸達が乗り込んだ時より若干傾いている。

 

 

「早く見つけないと我々も閉じ込められるな」

 

「でもこの辺りの店は探し尽くしたし、後はそこにあるコンビニだけです。もし見つからなかったら…」

 

「いや、見つかると信じて探すんだ。見つからないうちから諦めちゃ駄目だ」

 

 

室戸は真白にそう言って、斜め前にあるコンビニの自動ドアのガラスをハンマーで叩き割り、衝撃と傾斜で物が散乱している店内へと入る。

 

 

「多聞丸ちゃん!居るのかい!居るのなら返事を…」

 

 

店内でそう呼び掛けて、耳を澄ませる。

 

 

「…………………ん?」

 

 

その時、真白が何かに気がついたのか、レジの裏側へ回り、机の下を見る。

 

 

「猫?」

 

 

 

そこに居たのは一匹の猫だった。

白と黒色の毛色に、首には赤い首輪と名前が掘られたプレートがある。

 

 

「たもんまる…………間違いない。あの夫婦が言ってた小さい子はコイツだな」

 

「猫だったんだ………でも、見つかって良かった」

 

 

 

真白が猫を抱き上げる。

 

 

 

「よし、じゃあ早く外へ」

 

 

 

その時、回りから金属が軋むような音が聞こえてきた。同時に傾斜が掛かる。

 

 

「!?」

 

 

上を見ると、真白の真上にある天井から鉄板等の残骸が落ちて来ており、室戸は咄嗟に駆け出した。

 

 

「危ない!」

 

 

真白を突き飛ばしたと同時に、室戸は真白の目の前で残骸の下敷きとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「艦長、新橋が!」

 

 

見張り員の叫びに岸は、傾斜していく新橋を見る。

 

 

「あきちゃん!」

 

 

転覆しかけた新橋は、船体中央部から前と後ろに引き裂かれ、完全に裏返ってしまった。

 

 

「該船、転覆!」

 

「艦長!捜索班から、副長と宗谷さんがまだ船内に残っている様です!」

 

「え……………生存者の収容は?」

 

「全て完了しました!」

 

「ありったけの機材を直ぐに内火艇に積み込んで!直ぐに副長の救助を!」

 

 

岸は直ぐにでも室戸の救助に向かいたい感情に駆られるが、艦長である自身の立場から艦を離れる訳にはいかないと、足が固まって動かなくなる。

 

 

「艦長、行って!」

 

 

そこへ佐田がやって来た。

 

 

「ここは私に任せて大丈夫だから、艦長は早く副長を助けてきて!」

 

「でも………」

 

「良いから、行って!」

 

 

佐田の強い言葉を受けて、岸はライフジャケットとヘルメットを被って艦橋から降り、内火艇へと乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、新橋船内

 

 

 

「……さん………戸さん………室戸さん!」

 

 

耳から真白の声が響いてくるのに、意識を取り戻した室戸は目を開ける。

 

 

「宗谷さんか……」

 

「良かった……」

 

 

真白は意識を取り戻した室戸の様子に安心する。

 

 

「多聞丸は……?」

 

「ここに居ます」

 

 

多聞丸は真白の腕の中に抱かれている。

 

 

「良かった。宗谷さんも無事みたいだな…」

 

「はい………でも、私を庇って貴方が……」

 

 

室戸は身体半分が残骸に埋もれ、額からも出血して、血が垂れている。

 

 

「私の不幸のせいで…………他人まで………不幸に………」

 

 

子供の頃から不幸体質の真白は、自分の不幸のせいで他人まで巻き込んでしまった事に、罪悪感と責任感を感じて、落ち込んでしまった。

そんな彼女の様子に、室戸は思わず話し掛ける。

 

 

 

「宗谷さんも同じみたいだな」

 

「え?」

 

「私も君……いや、君以上に不幸者なんだ。子供の頃から何をやっても失敗ばかりで、友達からも疫病神と呼ばれる始末だった。そんな私に比べれば君はまた幸せ者だな」

 

「……………私が、幸せ者?」

 

「あぁ………君は自分の不幸で私が傷ついたと思ってるみたいだが、私は自分の不幸で君が助かった事が何よりも良かったと思ってる。今まで私の不幸は人を傷つけたり、あるいは大事な物を失ったりしてばっかりで、自分の不幸を呪ってたりもした。だが、その不幸で初めて人が助ける事ができた……こんなに嬉しい事はない。君だって天井から残骸が降ってきた時に多聞丸を庇おうとしたろ?結果的に私と君の2人は多聞丸を守る事が出来たんだ」

 

「………………はい」

 

 

 

真白は自分を見つめる多聞丸を抱き寄せる。

 

 

 

「今日はお互い幸せ者だ………君は多聞丸を守れて、私は君を守れた。そうだろ?」

 

「はい!」

 

 

 

2人の表情には僅かな笑みが生まれる。

 

 

 

「さて……これからどうするか。この残骸を退けようにも、大人の力では無理だ。助けを呼ぶしか無いが…」

 

「助けを呼ぶなら、私が行きます!船底に続く排気口がありますから、そこを伝って行けばそこから助けが呼べます」

 

「しかし、船底にたどり着けたとしても、助けが来るかは分からないぞ」

 

「必ず呼びます!艦長達が私達を見捨ててないのなら、必ず!」

 

 

真白の自信に、室戸は笑みを浮かべる。

 

 

「分かった。宗谷さん、すまないがお願いするよ」

 

「了解!」

 

 

真白はそう言って、多聞丸と共に懐中電灯を手にして、排気口へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く



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第29話

船内の排気口の中を、真白は真上にある船底に向かって進んでいた。

 

 

「暗い」

 

 

手にしている懐中電灯以外に光が無いため回りは真っ暗だった。上に向けて光を向けても、先は光が届かない程真っ暗である。そんな中でも真白は、多聞丸と室戸を救いたい気持ちで必死に上がり続ける。

 

 

(人を助けたいか………こんな私でも人が救えるのだろうか?いざと言う時、艦長みたいに飛び出せるだろうか?)

 

 

真白は心の中で、岬が何時も人が助けを求める時に、艦長の任務を放棄して飛び出していく様に、自分が求めるブルーマーメイド像が重なる。

生真面目な性格の真白は、そんな岬の姿に何時も怒鳴ったしたりして止めようとしたり、どうしてあの人が艦長なのかと、怒りと嫉妬の両方が渦巻いて自問自答していた。今回だって岬が救助の指揮を取ろうとして出ていこうとした時に、また強い口調で艦に残って指揮するように強く念を押してから出てきた。

 

 

(そうか……自分の与えられた仕事をこなすのも大事だが、人を助ける事に迷いや躊躇いがあってはならないんだ。何でそれに気がつかなかったんだ!)

 

 

この時、真白はようやく岬の行動理念に対する考えを理解した。

人を助ける事に迷いや躊躇いが無い彼女を支えなければならない立場に居ながら、自分の価値観を押し付けて岬を束縛していた事に、一気に罪悪感が涌き出てきた。

 

 

(どうすれば良いんだ!?どうすれば私は………私は………)

 

 

自問自答しながらダクトを上っていくと、行き止まりにたどり着いた。

 

 

(………私も艦長のように、人を助ける事への迷いや躊躇いを無くせば良いんだ!)

 

 

真白は壁に耳を当てて、外の音を聞く。

微かにだが、人の声と歩く音が聞こえてくる。

 

 

「人が居る!」

 

 

手にしていた懐中電灯を見て、決断した。

 

 

「頼む!気付いてくれ!」

 

 

懐中電灯を壁に思い切り叩き付けて、音を立てる。

一度叩くのではなく、何度も何度も叩きつけて、懐中電灯を壊す勢いで何度も叩きつける。

 

 

「私は諦めないぞ!諦めてたまるか!!」

 

 

心を強く持つため、そう叫びながら必死に叩き付ける。

 

 

「頼む!!誰か気が付いてくれ!!」

 

 

 

 

 

 

 

その頃、新橋船外では、救援に駆けつけたブルーマーメイド保安即応艦隊所属の『岸間菫』以下の救援部隊と、ゆうひの乗員達が艦内に取り残された3人を捜索していた。

 

 

「ん?」

 

 

岸間が何かに気が付き、船底に耳を当てる。

 

 

「これは………要救助者発見!」

 

 

大声で回りに呼び掛け、船底を3回叩いて話し掛ける。

 

 

「大丈夫!聞こえる?」

 

『はい!聞こえます!』

 

 

 

船底の向こうから真白の声が響く。

 

 

 

「そちらの状況はどうなの?」

 

『私は無事ですが、ゆうひの室戸副長が重傷です!一刻は争う状況です!』

 

「分かった!直ぐにそっちに行くから少し離れてて!」

 

 

そう言っ岸間は、部下から壁を溶接する機材を受け取り、火花が底の向こうに居る真白に当たらないよう、慎重に船底を溶接し、広い穴を開けた。

 

 

穴を覗くと、真白と多聞丸が居た。

 

 

「大丈夫!?」

 

「はい!このダクトの一番下に、室戸副長が居ます!瓦礫に埋もれて危険な状態です!」

 

「了解!後は任せて!」

 

 

岸間は真白を引き上げてから、ダクトを奥に進んでいった。

 

 

「室戸さん………」

 

 

真白は、心配そうに穴の奥を見つめる。

 

 

 

 

そして数分後、岸間は室戸の救助に成功し、動けない室戸を引っ張りあげてきた。

 

 

「室戸さん!」

 

「宗谷さん…………」

 

 

担架に乗せられた室戸は応急手当を受けるため、一度、岸間達が乗ってきた保安即応艦隊所属の艦に搬送された。

 

 

 

 

 

救助作業は終了し、真白は例の夫婦と合流した。

 

 

「多聞丸ちゃんは無事でした」

 

「ありがとうございます。多聞丸、こっちおいで」

 

 

夫婦の呼び掛けに多聞丸は、何故か真白から離れようとせず、真白の制服に爪を立ててしがみつく。

 

 

「どうしたんだ?お前のご主人だぞ」

 

 

そう呼び掛けるが多聞丸は真白から離れようとはしなかった。

 

 

「随分懐いてるな」

 

「あの………もしご迷惑でなければ、その子の面倒を見てもらえないでしょうか?その子、貴女の事を気に入ってるようですし。その子も喜ぶと思うのですが」

 

 

突然の申し出に真白は一瞬だけ戸惑ったが、短い時間とはいえ、一緒に居た多聞丸に情が沸いた真白は、快く承諾した。

 

 

 

そして鏑木は、例のウイルスの抗体サンプルとネズミ、抗体の資料が入った封筒とケースを岸間に手渡す。

 

 

「これを直ぐに横須賀女子海洋学校に届けてください」

 

「任せて。必ず届けるわ」

 

「お願いします」

 

 

それらを受け取った岸間は、自艦へと戻っていった。

 

 

 

 

そして、岸間達の艦で応急手当を受けていた室戸は、岸と話をしていた。

 

 

 

「よかったね、あきちゃん。両足骨折だけで済んで、後遺症も残らないみたいだって」

 

「はい、心配をお掛けしました」

 

「船内での話は宗谷副長から聞いたよ。あきちゃんはやっぱり、立派な船乗りだね」

 

「いえ、自分は当たり前の事をしたまでです」

 

「それでも、自分の身を危険に晒しても、他人を救うなんて簡単には出来ないよ」

 

「恐縮です………で、艦長」

 

 

 

室戸は真剣な面持ちで、話を切り出す。

 

 

 

「ん?」

 

「さっき、この艦の医官から、一度本土にある設備の整った病院への入院を薦められました。両足以外に深い傷が無いか精密検査の必要があるみたいで」

 

「やっぱり………」

 

「はい、この身体では副長の任を全うできません。艦長の許可があれば、私は本土の病院に行こうと考えてるのですが、私が居ない間の副長の任を誰に任せるかで相談が」

 

「心配しないで!副長の代理はメイちゃんに頼むつもりだし、あきちゃんには早く艦に戻ってきてほしいから、入院は全然構わないよ」

 

「そうですか。佐田さんなら安心です………では艦長、お手数を掛けますが、どうか宜しくお願いします」

 

「うん!しっかり治してきてよ」

 

 

 

室戸も入院が決まり、ウイルスの抗体と資料と共に、一度ゆうひと別れて、岸間達と一足先に本土の病院へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く



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第30話

室戸が怪我の治療のため一時的に艦を降り、佐田が副長代理としたゆうひは、ウルシー環礁を離れ、トラック諸島近海の海域を航行していた。

 

 

「副長、大丈夫かな?」

 

 

 

艦橋に居た、佐田が呟く。

 

 

 

「何か心配事?」

 

「いや、心配って程じゃ無いんだけど……副長、向こうに人質に取られないかなって」

 

「人質って……」

 

「だって、この艦と私達は全く別の世界からやって来た人間で、別世界の技術が使われてるこの艦の戦闘能力や今までの実績の事を考えたらって思うと、少し」

 

「大丈夫だと思うよ。あきちゃんは宗谷校長やブルーマーメイドが、しっかり守ってくれるらしいから」

 

「……………まぁ、杞憂であってくれればいいんだけど」

 

 

 

岸も佐田には見せなかったが、内心は彼の身を案じている。異世界の24年後から来た戦闘艦のデータは、海洋大国であるこの世界の日本は喉から手が出る程に欲しがってるのは目に見えてる。

怪我をして身動きがとれない室戸を人質に、日本がどのような要求をしてくるのか分からない以上は、たとえ真雪の庇護下にあると言えど迂闊に信用はできない。

 

 

そのような事態になった場合の対策を考えなければと思った岸は、目を閉じて考える。

 

 

 

「……………………」

 

『CIC、艦橋』

 

 

暫くすると、CICから内線が掛かってきた。考えるのを止めた岸は、内線電話を取る。

 

 

 

「こちら艦橋」

 

『艦長、水上レーダーが大型目標を補足しました。無線で呼び掛けましたが、応答ありません』

 

「向こうの規模は?」

 

『中型戦艦級と思われます。速力20ノット、針路20度』

 

「対水上戦闘用意!」

 

 

咄嗟に、行方不明の学生艦と判断して戦闘配置を命じ、全員配置に就く。

 

 

 

『各部配置よし』

 

「目標を補足し続けて。目視で確認でき次第報告して」

 

「了解!」

 

「分かりました!」

 

 

 

見張り員は双眼鏡を使って、前方に視線を向ける。

 

 

「目標視認!」

 

「艦種は?」

 

「待ってください……………目標、金剛型と思われます」

 

「行方不明艦の金剛型は………比叡だったね?」

 

「うん。35.6センチ砲8門と15センチ砲が14門、速度30ノットの巡洋戦艦。厄介だよ」

 

 

 

この世界では現役で使われている学生艦では最高齢となるが、使い勝手が良いため、メンテナンスをしつつも練習艦として使われている。火力面では晴風の倍、ゆうひとはどっこいと言った所であるが、防御力は遥かに上回る。相手にするには、かなり厄介な相手である。

 

 

 

直後、比叡から一瞬だけ光が見えた。

 

 

 

「閃光視認!目標、発砲しました!」

 

「回避!取り舵一杯!」

 

「了解ぞな!」

 

 

勝が舵輪を回して、艦を旋回させる。

回避した瞬間、晴風との間に水柱が上がった。

 

 

「艦長、晴風が比叡の現在位置を横須賀女子海洋学校に報告し、ブルーマーメイドの出動要請を出したとの事ですが、到着に数時間後は掛かるようです!」

 

「数時間も!?」

 

「数時間も補足し続けられるかな………」

 

 

 

火力と防御力がある相手に数時間も補足し続けるのは至難の技であるが、ここで見失えばまた補足が困難となる。取りあえず横須賀女子海洋学校からの指示通りに、比叡の補足を続ける事にした。

 

 

「ちょっと待って!比叡がこのままの針路を維持したら、トラック諸島に向かうんじゃ……」

 

 

佐田がそれに気が付き、艦橋内が静かになる。

 

 

「比叡が例のウイルスに感染してるなら………艦長、比叡は後3時間でトラックに到達します!」

 

「不味い。ウイルスがトラック島に広がれば、出入りする船舶を通じて周辺地域、やがては世界に広がる事になる!そうなればもう手がつけられなくなる!しかもブルーマーメイドが到達するのは数時間後………救援は間に合わない」

 

 

 

岸は我々で止めるしか無いと考える。

 

 

 

「艦長、どうする?」

 

「私達で止めるしかないよ。このまま見過ごしてたら、取り返しのつかない事に」

 

「……………そう言うと思ったよ。艦長、いつもそうだからね。やろうよ!」

 

 

佐田のその言葉を聞いてから、回りを見渡してみると、他の乗員も無言で、賛成の表情を浮かべていた。

 

 

「ありがとう皆」

 

「で、何か作戦はあるの?」

 

「作戦て程じゃ無いけど」

 

 

そう言ってタブレットを手にして、トラック島近くの海図と海流図、海底図を表示させて説明する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く



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第31話

今回はちょっと短いです。


岸から語られた作戦内容に、ゆうひ、晴風全乗員が驚く。

 

 

「そんな方法が………」

 

「火力が少ない私達で、確実に比叡を止めるにはこれしかない。大きな賭けになるけど」

 

 

岸が立てた作戦内容は、トラック諸島の近くにある無人島の浅瀬に比叡を誘導し座礁させると言う内容だった。喫水の浅い晴風には比叡を所定の場所へと誘導し海底が浅くなっている出口で比叡を座礁させ、ゆうひは浅瀬の入り口にある岩を破壊し退路を絶ち、万が一に比叡が座礁せずに晴風に危険が迫った場合に備えて、ゆうひは晴風の脱出援護と、出口にある岩を破壊して比叡を閉じ込めるという二重構えである。

 

 

「岬さん、どうする?この作戦には危険が伴うから、立案者の私が言うのもなんだけど、自信がないなら私達だけでやるけど」

 

 

無線で岬に問い掛ける。

岸自身も、出来れば晴風にこんな危険な役目をさせたくないと言うのが本音で、自分の作戦立案能力の無さに後悔の念も抱く。

 

 

暫くの沈黙の後、返答が返ってきた。

 

 

『ごめんなさい。少しだけ時間をください』

 

 

岬は自分だけでは決められないため、一旦皆に作戦に参加するかの是非を問うため無線を切った。

 

 

 

「………………」

 

 

岸達は緊張した面持ちで返答を待つ。

 

 

 

『岸艦長』

 

 

10分後、返答が返ってきた。

 

 

『私達、やります!』

 

「岬さん……………本当にやるの?」

 

『はい、学校には私の提案と言う事で報告し、校長先生からも許可を貰いました』

 

 

 

10分の間に岬達は意思を固めただけではなく、岸達に責任が及ばないように、作戦を自分達だけで立案したとも報告を済ませていた。

しかしここまで来て、すんなりと話が纏まった事に岸は違和感を感じて岬に問う。

 

 

 

「岬さん、もしかして貴女も同じ事考えてた?」

 

『え?』

 

「貴女も私の作戦と似たような事を考えてたでしょ?」

 

『どうして分かったんですか?』

 

「最初に私が作戦を立案した時に貴女、特に反対もせずに直ぐ賛成してくれたし、学校へも自身が立案したって報告したって言ったし、もしかしたらと思って」

 

『…………………はい。晴風で浅瀬に誘導して比叡を座礁させる事を考えてました』

 

「同じ事考えてたんだ」

 

 

 

考え方が似ていた事に岸も岬も驚くが、互いに偶然だろうと深くは考えなかった。

 

 

 

「比叡の誘導、行けそう?」

 

『はい。私達は何時でも行けます!』

 

「分かった。でも無理はしないでね。もし危険を感じたら直ぐに逃げて、私達も必ず援護するから」

 

『はい!』

 

 

互いに確認を終え、比叡に視線を向ける。

 

 

 

「作戦開始10秒前」

 

 

 

各員、腕時計の時刻を合わせカウントが始まる。

 

 

 

「作戦開始!」

 

 

カウントが0と同時に作戦が開始された。

 

 

 

 

 

 

続く



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第32話

「各自、時刻合わせ」

 

 

作戦開始前に岸と岬達は艦内時計と腕時計の時刻を合わせる。

 

 

「3……2……1、今!作戦開始!」

 

 

作戦開始と同時に、晴風が速度を上げ、ゆうひは比叡の目を晴風から逸らすため、比叡の右舷へと出た。

 

 

「対水上戦闘、左砲戦。目標、比叡の右舷海上」

 

 

CICからの遠隔操作でMk45が左へ旋回し、比叡の右海面へと向けられる。

 

 

「撃ち方始め!」

 

 

合図と同時に、Mk45が射撃を開始した。

1発目は予定通り、比叡の右舷手前の海面に着弾した。

そこからMk45による連続射撃により、比叡の視線はゆうひに向けられつつあった。

 

 

「比叡の主砲、本艦に指向中!」

 

「回避航行、取り舵一杯!CIWS、SeaRAMスタンバイ!」

 

「取り舵一杯!」

 

 

ゆうひが回避しようとした瞬間、比叡の第3と第4主砲から斉射で砲撃が開始された。

 

 

「敵弾4接近!」

 

「CIWS、SeaRAM射撃開始!」

 

 

Mk15ファランクスとSeaRAMに電源が入ると、飛んでくる4発の砲弾に向けて射撃を開始した。

SeaRAMは2発の砲弾を捉え2発の小型ミサイル、Mk15は2発砲弾を補足しながら毎分3000発の発射速度で射撃を開始した。

 

 

その直後、4発の砲弾が空中で爆発した。

 

 

「敵弾4、迎撃成功!」

 

「晴風は?」

 

「比叡の左舷を通過中!間も無く前に出ます!」

 

「主砲、射撃続行!」

 

 

 

ゆうひは晴風が比叡の前に出るまで射撃を続ける。

 

 

 

「晴風、比叡の前に出ました!」

 

「主砲射撃やめ!比叡の後方へ待避!」

 

 

ゆうひはその場から比叡の後ろに下がる。

 

 

「比叡、速力上がりました!晴風の追尾を始めた模様!」

 

「本艦はこのまま比叡を追尾!」

 

 

ゆうひは予定通り比叡の追尾を始めた。

比叡は晴風に向けて攻撃を開始し、ゆうひへの攻撃は止んだ。

 

 

「航空機発艦!」

 

 

続けて、シーホークがゆうひより飛び立った。

シーホークはその場から、座礁予定地点へ向けて飛んでいった。

 

 

「メイちゃん、上手く行くかな?」

 

「分からない。対艦ミサイルをヘリからのデータリンクでピンポイント誘導攻撃は訓練で散々やったけど、ウチの17式の弾頭重量で当たっても入り口にある岩を破壊できるかどうかは何とも言えないね」

 

「でも、やるしか無いよ……いざって時はミサイル全部使ってでもやるしか」

 

 

 

それから暫く、比叡の追尾は続く。

比叡の晴風に向けての攻撃は止まる事を知らず、砲撃される度に晴風は紙一重で避け続ける。

 

 

「艦長!予定地点を視認しました!」

 

 

見張りからの報告に、岸は双眼鏡で予定地点である岩礁地帯を目視で確認する。

現場は、大小様々な岩が海面に突き出ており、比叡級の艦がやっと航行できる程の浅瀬しかない。

予定地点上空にはシーホークがホバリングで待機していた。その下には比叡を座礁させる浅瀬の入り口と出口にに、横に向けて扇状の一枚の巨大な岩がある。

 

 

「晴風、針路変更!座礁予定地点入り口へ針路を取りました!比叡も続きます!」

 

「メイちゃん」

 

「了解。CIC、対艦ミサイル発射用意」

 

 

ゆうひはその場で、艦中央の右側の対艦ミサイル発射筒を岩礁地帯に向けるためその場で面舵を取り、船体の右側面を向けて停止した。

そして晴風が予定地点の入り口を抜けて、追い掛けるように比叡も入り口を抜けた。

 

 

「1番発射筒……撃て!」

 

 

合図と共に17式対艦ミサイルが放たれた。

打ち上がった17式はゆうひとヘリからのデータリンクにより目標に向けて飛翔し、ピンポイントで岩に命中した。

 

 

「命中確認!」

 

 

17式が命中した岩は爆発の衝撃により、大きな音を上げながら崩れ落ち、入り口の海底に積もり上がった。

 

 

 

「このまま待機」

 

 

ゆうひは不足の事態に備えてその場で待機する。

 

 

 

 

 

その頃、晴風では…

 

 

「入り口、塞がりました!」

 

「よし!機関出力最大!全速で出口に向かって!」

 

「はいぃっ!」

 

 

晴風はその場で全速を出し、急いで出口に向かう。

 

 

「バラスト排水!」

 

 

バランス用のバラスト水が排出され、軽くなった晴風の船体の喫水が急激に浅くなる。晴風はそのまま、出口を抜け、比叡も出口に差し掛かる。

 

 

(お願い!)

 

(座礁して!)

 

 

岬と岸は祈る思いで比叡を見る。

 

 

 

そして比叡が出口から出ようとした瞬間、巨大な船体が真下から突き上げられ、その場で右に傾きながら停止した。

 

 

 

「やったぁ!」

 

「よし!」

 

 

 

無事に比叡は座礁し、2艦の乗員達は大喜びで飛び上がり、岬と岸は緊張感から解かれたのか、その場で力無く座り込んでしまった。

 

 

「上手くいったぁ~」

 

「良かったぁ……本当に良かったぁ~……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く




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第33話

夕方に差し掛かかり、晴風とゆうひは比叡の救護作業を行っていた。

晴風の鏑木、ゆうひの冠城を中心とした医務班が、ウイルスに感染した乗員へのワクチン投与や、比叡艦内の簡単な除染作業が行われていた。

 

 

「私たち、やったんですね……」

 

「えぇ………」

 

 

晴風のウイングから作業を見守っていた岸と岬は、世界的なパンデミックの危機を紙一重で止めた事に、未だ信じられないでいた。

 

 

「岬さん、あの時、もし比叡が座礁しなかったらどうしてた?」

 

「え?」

 

「もしかしたらの話だよ」

 

「………………止めるまで、続けてたと思います」

 

 

 

その返答に岸は少し笑みを見せた。

 

 

「同じね。私ももしそうなったら貴女と同じ選択をしてたかもしれない」

 

「………でも私は、他の皆も危険に晒していたかもしれないとも思ってます。ウイルスの感染は止めないとだし、でもそれで他の皆が怪我をしたりしたらと思うと………今になって怖くなってきました」

 

 

ふと見ると、岬の手が震えている。

 

 

「それが普通の反応だよ。海の仲間を思う気持ちは同じだけど、背負ってる責任が重ければ重い程、プレッシャーに押し潰されちゃうからね」

 

 

岸も自衛官になってから国内外の災害に派遣されたり、海賊対処任務にも出動している。階級が上がるに連れて自分に掛かる責任の重さもその都度変わってくる。岬以上に経験を積んでいる岸は彼女の気持ちは痛い程に感じるのである。

 

 

「でもその気持ちを忘れなければ、いつか同じ事が起きた時に冷静になれると思うよ」

 

「はい」

 

 

2人は沈んでいく夕日を眺めながら、水平線に視線を向ける。

 

 

「ん?」

 

 

水平線の向こうから、1隻の艦影が見えた。

 

 

「艦長!」

 

 

同時に、八木がやって来た。

 

 

「前方の艦影はブルーマーメイド艦です。『べんてん』と名乗っています」

 

「『べんてん』だとっ!?」

 

 

後ろに居た真白が叫んだ。

 

 

「シロちゃん、どうしたの?変な声あげて」

 

「いや……その…」

 

 

真白は接近してくる、べんてんに複雑な表情を向けた。

 

 

 

 

真っ黒く塗装されたインディペンデンス級『べんてん』が晴風とゆうひの間に入ると、甲板から一人の乗員が晴風に降り立った。

 

 

「私はブルーマーメイドの宗谷真冬だ!此処の責任者は誰だ?」

 

 

 

男勝りで尚且つ爽やかな印象を受ける強制執行課に所属する『宗谷真冬』。そんな彼女に岸と岬が名乗り出た。

 

 

 

「横須賀女子海洋学校、航洋艦晴風艦長の岬明乃です」

 

「海上自衛隊、第1護衛隊群第1護衛隊所属、護衛艦ゆうひ艦長の岸晴乃1等海佐です」

 

 

岸と岬は自身の階級と所属を名乗った。

 

 

「おう。私ら通報を受けて来たんだ、比叡の事については後は私らに任せろ。取りあえず現在までの状況を聞かせてくれ」

 

 

2人は真冬に戦闘の流れと、比叡の除染作業の状況について口頭で説明した。

 

 

「分かった。後の事は任せろ」

 

「お願いします」

 

 

業務的な話を終えると、 真冬は辺りを見渡す。

すると、岬の後ろで目立たないように隠れていた真白と目が合った。

 

 

 

「お!シロじゃねぇか!」

 

 

そう叫び、真白に近づく。

 

 

「姉さん…」

 

 

真白が呟いた言葉に回りに居た全員が驚いた。

 

 

「姉さん?」

 

「もしかして副長のお姉さん?」

 

「そう言えば名字が同じだね」

 

 

 

そう、真冬は真白の姉であった。

仕事柄、中々合えなかった妹との再開に真冬は喜んでいるが、当の真白本人は何処かよそよそしかった。

 

 

「どうしたシロ、シケた面しやがってよ。気合いが足りてねぇんじゃねぇか?久しぶりに根性注入してやろうか?」

 

「止めてよ!あんなの……」

 

「遠慮するなって………」

 

 

何やら不適な笑みを浮かべながら真白に近づこうとするが、寸前で歩みを止めた。

 

 

「と、何時もなら根性注入してやるところだが、今日は別の目的があるんだ」

 

 

そう言って真冬は岸に顔を向ける。

 

 

「岸艦長、すまねぇが、アンタの艦にあるって言う空飛ぶ乗り物………えぇと……何だっけ?」

 

「ヘリコプターですか?」

 

「そう、それだ!それを近くで見せてくれねぇか?」

 

「別に良いですけど……理由があれば聞かせてくれますか?」

 

「オーシャンモールやしんばしの件でヘリコプターに関する報告や証言が上がってきていたから、上から比叡の保護のついで出来る限り調べてこい言われてな」

 

「成る程………防衛機密に関わる以外の部分でならお見せできますよ。勿論、携帯とかカメラとかでの撮影禁止の条件付きですけど」

 

「いいぜ。見せてくれるだけでもありがてぇよ」

 

 

 

真冬は懐からスマホとトランシーバーを取り出して、岸に預ける。

 

 

 

「じゃあ格納庫へ案内します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く




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第34話

桟橋を経由して、ゆうひ艦内に通された真冬は岸の案内で格納庫に来ていた。

 

 

「コイツがヘリコプターか」

 

 

真冬の目の前には、整備中のSH60Kシーホークが鎮座していた。第5分隊の隊員が機体からエンジンを取り外し、機内で計器の点検を行っている。

 

 

「艦長、お疲れ様です」

 

 

キャビン内から点検作業をしていた、シーホーク機長の『佐山守』1尉がやって来た。

 

 

「ん?お客様ですか?」

 

「うん。こちらはブルーマーメイドの宗谷真冬さんで、ウチのヘリの見学に来たんだ」

 

「そうでしたか。当機の機長を努めています、第21航空群の佐山守1等海尉です」

 

「宗谷真冬だ!よろしくな!」

 

 

 

自己紹介を軽く済ませると、佐山は岸からヘリの説明をするように言われ、真冬にシーホークの説明を始める。

 

 

 

 

「コイツの正式名称はSH60Kシーホークと言って、アメリカ海軍のSH60をライセンス生産したSH60Jの発展型です。主に対潜哨戒や海難救助、人員輸送等に使われる機体です」

 

「中々使い勝手がよさそうだな。武装は?」

 

「固定武装はありませんが、状況に合わせて機関銃、短魚雷、対潜爆弾、対戦車ミサイルを装備できます」

 

「武装も強力だな……コイツ飛ばせるまで何年掛かるんだ?」

 

「まぁ飛ばせるまでに1~2年、完璧に飛ばせるまでに4~5年て言った所ですな」

 

「成る程な。ちょっと中を見せてもらっても?」

 

「どうぞ」

 

 

真冬は整備員達の邪魔をしないよう、キャビンに入る。

 

 

「結構狭いな」

 

 

機内にはソナーや火器管制システム、データリンクシステム、各種レーダーやセンサーシステムが搭載されているため、機体設計の大元であるUH60ブラックホークのキャビンに比べたら非常に狭くなっている。

 

 

「なぁ、コイツって何人で飛ばしてるんだ?」

 

「私と副操縦士、機関士、センサーマンの計4人で運用します。そこにコックピットがあるので座ってみてください」

 

 

真冬はコックピットへと移動し、右側の機長席に座る。

 

 

 

「うわぁ……計器がゴチャゴチャしてやがる」

 

 

 

目の前に広がる各種計器類やセンサーのスイッチに囲まれた真冬はお手上げと言わんばかりの表情となる。

 

 

 

「どうやって操縦するんだ?」

 

「貴女の目の前にあるその棒が操縦桿で機体の姿勢制御、左側にあるスロットルレバーでエンジン出力やトリム調整をしながら飛行させます」

 

「これか?」

 

 

 

真冬は右手で操縦桿、左手でスロットルレバーを握る。

 

 

 

「こうしながら他の計器も見なきゃならねぇんだろ?大変なんじゃねぇか?」

 

「最初のうちはそう感じるものですけど、訓練で慣れれば感じなくなりますよ」

 

「そういうモンなんだな。分かった、ありがとうな」

 

 

真冬は機体から降りる。

 

 

「真冬さん、良ければ艦内見学をされますか?」

 

「良いのか?」

 

「せっかくですから」

 

 

再び岸の案内で格納庫から出ると、その足である場所へと向かった。

 

 

 

「ここは、本艦のCICになります」

 

 

 

岸は、ゆうひのCICに案内した。

 

 

 

「良いのか?私は部外者だぞ」

 

「良いですよ。ここには真霜さんや真雪さんも入ってますから」

 

 

そう言ってCICに入る。

 

 

「おぉ…こりゃスゲェな」

 

 

 

2040年代の近未来的なレイアウトを持つCICは、真冬のべんてんCIC以上の能力を持っている。

 

 

 

「アナログなスイッチ類が何処にも無いぜ」

 

「この艦のCICはタッチパネル式が基本になっていて、アナログ計器類は緊急用の最低限のものしかありませんから。信じられないかもしれませんけど、ゆうひは自衛隊内では退役前の旧式艦なんですよ」

 

「嘘だろ!こんなスゲェのに退役前の艦なのかよ」

 

「もう造られてから30年近く経ってますからね。能力向上に割けるリソースはもうこの艦には無いんです」

 

「へぇ…………」

 

 

 

暫くCIC内の見学の後、2人はCICから出た。

 

 

 

 

 

続く




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第35話

ゆうひの艦内見学を終えた真冬は岸と岬と共に今後について話し合っていた。

 

 

「艦長!」

 

 

 

八木が慌てた様子で走ってきた。

 

 

「広域通信に正体不明の大型艦の目撃情報が多数入っています!」

 

「場所は何処?」

 

「南方200マイル、アドミラルティ諸島とトラック諸島方面の海域です」

 

 

詳細が書かれた通信内容を見ると、それぞれの目撃情報が寄せられた日時に大きな差異がある事から、これらの艦艇は別物であると思われた。

 

 

 

「アドミラルティ諸島とトラック諸島は距離が離れすぎているから、この目撃情報で目撃された大型艦のどちらかが武蔵の可能性がありますね。艦長、どうしますか?」

 

 

真白は岬に尋ねる。

 

 

 

「学校からは不明艦の捜索が指示されてるから、このまま捜索続けようと思う」

 

「ゆうひも晴風と行動を共にするよ」

 

 

 

2人は迷いなく今後の行動指針を示す。

 

 

 

「だそうです、姉さん」

 

「分かった。じゃあ私らはこの辺調べるから、アドミラルティ諸島を頼む」

 

「了解!」

 

 

 

岸と岬は善は急げと言わんばかりに艦に戻り、艦を出港させ、アドミラルティ諸島へと向かった。

 

 

 

 

 

翌日

 

 

 

「こちらセイバーホーク1、αポイントに到達。現在の所不明艦との接触はなし」

 

 

 

アドミラルティ諸島近海上空を飛行していたシーホークは、目撃情報があった地点の付近を捜索していた。

 

 

『了解、引き続き捜索せよ』

 

「セイバーホーク1了解。しかし目撃情報のあった艦が武蔵じゃないのは少し残念だったな」

 

 

佐山は懐から目撃情報のあった艦の写真を見る。

写真に写っていたのは、白と黒とラインが描かれた武蔵よりも一回り小さい艦だった。

 

 

「アドミラル・シュペー………ウチの艦長と晴風の艦長が助けたあのドイツの娘の艦だったとはな」

 

「武蔵程じゃないですけど、ヤバイ相手ですね」

 

 

 

左側の席に座っていた副操縦士『林克敏』2尉がそう言う。

 

 

 

「確かに。小回りが効く上に火力は戦艦並、厄介な事この上ないな。もし直接戦闘となれば近づく前に砲弾の雨だ」

 

「でも装甲と火力は比叡の半分くらいでしよ?何とかなるんじゃないんですか?」

 

「そう甘い話じゃないだろ。実際に接触したらどうなるか分からねぇもんさ」

 

 

 

雑談を挟みつつ、シュペーを探す。

 

 

 

「1尉、そろそろ燃料ヤバイです」

 

 

 

機関士の『林原一樹』2尉が報告を入れる。佐山は燃料計を確認する。

 

 

 

「限界だな。そろそろ戻る……」

 

「1尉!レーダーに反応あり!反射波から大型艦と思われます!」

 

 

ソナーマンの『柿崎宏』3尉が報告を入れる。

 

 

「了解。……確認した」

 

 

佐山は能力向上改修でフロントガラスに装備されたHUDでレーダー情報を確認して、ゆうひに報告を入れる。

 

 

「こちらセイバーホーク1、目標らしき反応を捉えました」

 

『了解。直ちに現場に急行し確認せよ』

 

「了解。行くぞ!」

 

 

 

シーホークは現場に向かって針路を取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く




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第36話

 

 

 

「不明艦、目視にて確認」

 

 

不明艦を捉えたシーホークは現場に到着し、海上を航行する不明艦の真後ろ上空に位置していた。

 

 

「柿崎、目標を確認せよ」

 

「了解」

 

 

柿崎は手にしていた写真を見ながら、機首のセンサーカメラをズームさせ、不明艦とシュペーの特徴を照らし合わせる。

 

 

「1尉、不明艦はシュペーと特徴が一致します」

 

 

遠くからでも分かるドイツ艦特有のシルエットに白黒のライン、2基の3連装主砲に15センチ副砲の装備位置からシュペーの特徴と一致する。

 

 

「分かった。こちらセイバーホーク1、不明艦はアドミラル・シュペーと思われる。これより接近して、確認する」

 

『了解。速射砲と機関砲による攻撃に注意せよ』

 

「了解」

 

 

佐山は高度を下げて、目視とカメラによる確認をするため、シュペーに接近する。

すると、柿崎が操作するコンソールのカメラディスプレイの画質が急激に悪くなっていく。

 

 

 

「1尉、カメラの映像が徐々に荒くなっていきます」

 

「画像処理は掛けたか?」

 

「はい。ですが全く効いていません、砂嵐寸前です」

 

「やっぱり、例のウイルスが放ってる電磁波の影響でしょうか?」

 

「間違いないな。これ以上の接近は危険だ」

 

 

電子機器の塊であるシーホークに電磁波による長時間の照射は計器類だけではなく、エンジンや飛行制御システムに重大な影響を及ぼすため、佐山はこれ以上の接近は危険だと判断し、シュペーから離脱する判断をとり、機体を待避させる。

 

 

その時、機体が激しく揺れた。

 

 

「うおっ!」

 

「クソ!」

 

 

佐山と林は慌ててスロットルを調整し機体の飛行制御を行うが、エンジンの出力が上がらない。

 

 

 

「1尉!直ぐに目標から離れてください!飛行制御システムに異常が起きてます!」

 

「分かった!」

 

 

急激に下がるエンジン出力に機体が揺れる中、佐山と林は何とか機体の姿勢を維持し、シュペーと距離を取った。

するとエンジンの出力が徐々に上がり、機体の飛行制御システムは何事もなかったかのように元に戻った。

 

 

 

「助かった……」

 

「…………しかしウイルスの電磁波の影響がここまで酷いとはな」

 

「飛行制御システムが機能停止寸前でした。下手に接近すれば電子機器がショートしますよ」

 

「あぁ……直ぐに戻るぞ!」

 

 

シーホークは残り少ない燃料を節約しながら帰路に就いた。

 

 

 

帰還後、佐山から上がった報告に、ゆうひと晴風、ミーナ達は予定していたシュペー救出作戦の建て直しを迫られる。

 

 

 

「ヘリの飛行制御システムが機能停止寸前になる程の電磁波となると、ウチのFCS-3や全ての電子機器は近づく前に役に立たなくなるよ」

 

「そうなったら晴風もゆうひは圧倒的に不利じゃな」

 

 

 

皆、表情が暗くなる。

 

 

 

「でも、先日の比叡の時は何ともなかったのに、どうしてシュペーだけこんなにウイルスの影響が強くなってるんだろう?」

 

「比叡は比較的に遅い時期に感染したからだと思います。シュペーはさるしまと同じく、一番最初期に感染したから、今までの間にウイルスの影響が強まったと考えるべきです」

 

「となると、防疫関連の事を考えて作戦を練り直すしかないね」

 

 

全員、頭を抱えて考える。

 

 

 

「電子制御されてなかったら良いんじゃないかな?」

 

 

 

そこへ岬がふとそう呟く。

 

 

「晴風ならレーダーと無線機以外は電子制御されてないから、電源さえ切ったらシュペーに接近しても何とかなるんじゃないかな?」

 

「確かに………ですが接近できたとしても、ヘリが確認した位置からレーダー探知範囲外に居るシュペーにどつやって接近しますか?」

 

「方法はあるよ」

 

 

その一言に、真白、ミーナ、岸が反応する。

 

 

「いったいどんな方法ですか?」

 

「それはね…………」

 

 

 

岬は皆に方法について話す。

 

 

「国際海中監視システムの海底ソナーと国際気象観測システムの津波ブイを使えば、レーダーが使えなくても、凡その位置は掴めると思う」

 

「成る程………海中なら電磁波は通らないし、津波ブイが電磁波を受ければシステムが異常を示すから、それらの位置からシュペーの位置を特定する訳ですか」

 

 

岸は初めて聞く単語に頭を傾ける。

 

 

「国際海中監視システムと国際気象観測システムって何なの?」

 

「国際海中監視システムは簡単に言うと、太平洋全域に設置された海底ソナーによる潜水艦などの潜水目標へ対する警戒システムで、国際海洋気象システムは海上に設置されたブイにより津波や潮の満ち引きをリアルタイムで観測できるシステムです」

 

「成る程…………確かにそれを活用できれば、何とかなるかもしれない」

 

「でもその2つのシステムにアクセスするには、学校からだけではなく、情報監督室からの許可が必要ですが」

 

「だったら、校長先生に頼んでみよう」

 

「私も一緒に頼んであげる。緊急事態だから直ぐにとは言えないかもしれないけど、許可は降りると思うよ」

 

 

 

 

岸と岬は、善は急げと言わんばかりに学校との直通無線通信を使って学校との連絡をとった。

 

 

 

 

 

 

続く




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第37話

ゆうひと晴風からの要請は、真雪を通じて情報監督室へと届いた。

 

 

「成る程……電磁波の影響で近づけないなら、こう言う手段に出た訳ね」

 

 

真霜は真雪とスマホを通じて話ながらパソコンに投影された要請書と、作戦計画書を見て呟く。

 

 

 

「これなら電磁波の影響を受けないでシュペーの追尾が可能だけど……」

 

『何か問題があるの?』

 

「上は正式なブルーマーメイド所属じゃない晴風と、異世界から来たゆうひに対してまだ不安を感じてるみたいなの」

 

『事を荒立てないつもりなんだろうけど、もう事態は小さくないって分かってる筈なのに………』

 

「兎に角、今回の要請については私の独断と責任で許可すると伝えて」

 

『分かったわ。ごめんなさいね………』

 

 

電話が切られると、次にシステム管理部へ電話を掛けた。

 

 

「情報監督室の宗谷よ。今から指定する場所に、海中監視システムと気象観測システムを繋げてちょうだい」

 

『ですが海上安全整備局からの正式な許可書を送付していただかないと……』

 

「許可?私の独断じゃダメかしら?」

 

『ですが、責任問題が……』

 

「事態は一刻を争うのよ!責任なんて私がいくらでもとってやるわ!良いから早くしなさい!」

 

『はぃぃっ!』

 

 

相手は真霜の声から感じ取った静かな怒りや覇気に慌てて電話を切ってしまった。

 

 

「ふぅ………こんな事でもしなきゃダメだと、私もまだまだね」

 

 

 

 

 

 

 

 

システム管理部から、海中監視システムと気象観測システムのリアルタイムデータが、ネットワークシステムを通じて、ゆうひのCICに送られた。

 

 

「艦長、来ました」

 

 

ゆうひのCICにあるメインディスプレイパネルに、海中監視システムのソナーが拾う音響グラフと、シュペーが確認された周辺海域の津波ブイによるリアルタイムデータが表示された。

 

 

「こりゃスゴい………これならレーダー使わなくてもシュペーが追えるね」

 

 

佐田も、リアルタイムで表示されるリアルタイムデータに感心する。

 

 

「まずは海中監視システムのソナーが拾ってる音をシュペーの機関音とスクリュー音を絞り混もう。頼むよ四条さん」

 

「任せてください」

 

 

ソナーマンの四条はヘッドフォンを装着し、目の前にある最新型のソナーシステムを使って、シュペーの機関士音とスクリュー音の音響特定作業を開始する。

 

 

 

「先ずは、ブルーマーメイド本部から提供されたシュペーの機関音のデータを、海中監視システムが拾っている周辺海域の音響データと照合します」

 

 

四条は岸と岬に分かりやすく説明しながら作業を進める。

 

 

「見てください、これがシュペーの機関音とスクリュー音をグラフ化したもので、こちらが周辺海域の海中に存在する音のグラフです。このグラフの中から海流音、波の音、イルカやクジラなどの生物の鳴き声、他の船舶の航走雑音を取り除きます」

 

 

カーソルを操作し、不必要な音を取り除いていく。

 

 

「何とか絞り混めました。残ったこの2つの音のグラフと、事前のデータと照合します」

 

 

残ったグラフに、シュペーの音を照らし合わせる。四条はヘッドセットから聞こえてくる音を静かに聞く。

 

 

 

「…………………………………艦長。シュペーの音を拾いました」

 

「位置は」

 

「この音を拾ってるのは、この位置にある海底ソナーで

す」

 

 

四条は音を拾ってる海底ソナーの位置を確認し、次の作業に入った。

 

 

「ユキちゃん、御願いね」

 

「分かりました。ではこれより津波ブイからのリアルタイムデータを基にシュペーのより詳細な現在位置を割り出します」

 

 

ゆうひ屈指のコンピューター使いの納谷が、ヘリが確認した位置とソナーから得られた凡その位置情報を頼りに、周辺の津波ブイからリアルタイムで送られる波浪情報に目を向ける。

 

 

「この津波ブイは海上で発生した波が自然に発生したものか、海上を航行する船によって発生したものなのかを見分ける機能がついています。ヘリとソナーが特定した位置には3キロから5キロ間隔で津波ブイが数百程度設置されていますから、シュペーの詳細な位置確認が出来るのは時間の問題かと」

 

 

納谷はデータを見分けながら、不自然な波が起きているのを示しているブイを絞り混む。

 

 

「シュペーの船体の大きさと速力から見て、通常の大型船舶と同等の波を発生させますから、高い波浪を示しているブイを中心に絞り込みます」

 

 

素早い操作で津波ブイを絞り込んでいく。

その数分後、納谷は笑みを浮かべ、岸と岬、ミーナに振り返る。

 

 

「艦長………当たりがでました。シュペーの足音を捉えましたよ」

 

 

ディスプレイに津波ブイの分布情報が投影され、その中でシュペーが航行している付近の津波ブイの位置が表示される。

 

 

「本艦から南東方向を航行しています。ヘリが最終確認した位置からそう遠くへは動いていないみたいです」

 

「本艦からはそんなに距離は離れいないみたい………何とかギリギリまで近づいてみよう。ユキちゃん、四条さん、シュペーを出来る限り補足してて」

 

「「了解!」」

 

「岬艦長、早速準備に」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

続く




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第38話

シュペーの追尾に成功したゆうひと晴風は、シュペー鎮圧作戦に向けて準備を始めていた。

今回の作戦では、電子機器の塊であるゆうひはシュペーに接近できないため、電子制御されている部分が少ない晴風がシュペーに接近しなければならない。

ゆうひはシュペーの位置の把握と情報伝達、シュペーから放たれる電磁波の影響範囲ギリギリまで晴風のシュペー接近と突入の支援を行う事になる。

 

 

 

「水鉄砲と突入装具の確認は怠るな」

 

 

晴風の講堂ではシュペーに突入する突入班が準備を行っていた。

晴風からは岬・野間・万里小路・青木・勝田・鏑木・ミーナの7人、ゆうひからは海上自衛隊の特殊部隊である特別警備隊に所属経験がある野上を含めた隊員と、蕪木を含めた3人が参加する。

 

 

 

「しかし、水鉄砲を持って臨検するなんて思いもしませんでしたよ」

 

「あぁ………」

 

 

紺色の繋ぎ服の上からプレートキャリアにヘルメット、ガスマスクを装着し、武器は海水が注入された即席の水鉄砲を手にしている。

無論、岬達もゆうひから貸し出されたヘルメットとガスマスクを装備する事となる。

 

 

「岬艦長、我々は準備完了した。いつでもいいぞ」

 

「はい。よろしく御願いします」

 

 

 

装備を整えた突入班は上甲板に続く通路で待機する。

 

 

 

 

 

 

「艦長、突入班準備は完了との報告あり」

 

「よし。これより本艦は晴風のシュペー接近と突入班の援護を開始する!作戦開始秒読み始め!」

 

 

岸達は腕時計で秒読みを始める。

 

 

「3、2、1、作戦始め!」

 

 

作戦開始と同時に、2艦はシュペーが航行している方向へ向けて針路を取った。

 

 

 

「ユキちゃん、四条さん、シュペーからの電磁波に注意して。シュペーとの距離は1キロ間隔で報告して」

 

『了解』

 

『任せてください!』

 

 

 

納谷と四条に念を押して、岸は艦長席に座る。

艦内通信を通じて、シュペーとの距離が1キロずつ近づく度にCICから報告が入る。

 

 

『目標との距離、間も無く20キロに達します』

 

「もう見えてくる筈………」

 

 

見張り員達は双眼鏡を使い水平線に視線を集中させる。

 

 

「シュペー、目視で視認!」

 

「来た!」

 

 

距離が20キロを切った瞬間に、シュペーが視界に入った。

 

 

『艦長、シュペーの方向から電磁波が来ます』

 

「電磁波の出力レベルは?」

 

『1キロ間隔でレベルが上がっています』

 

「どれくらいまで近づけそう?」

 

『恐らく10キロまでが限界かと……』

 

「10キロなら何とか晴風の支援が出来る……シュペーとの距離は10キロを維持して!晴風に突入を指示!」

 

 

ゆうひからの合図と共に、晴風が速力を上げて突入を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

その頃、晴風の艦橋では………

 

 

「シュペーとの距離、15キロ!」

 

「このまま最大戦速で突入!」

 

 

岬に変わって真白が晴風を指揮する。

機関が唸りを上げて、シュペーに向かって突入を開始した。

 

 

「内田さん、シュペーの主砲に動きは?」

 

「ありません」

 

「よし、このままシュペーの死角から接近する。現針路を維持して!」

 

 

晴風はシュペーの主砲の死角となる真後ろから接近を仕掛ける。

やがてシュペーとの距離が10キロを切った瞬間、シュペーが突然左に向けて旋回し始めた。

 

 

 

 

 

「シュペー転舵!」

 

「流石に気付かれたか………シュペーの主砲に射線に入らないよう、向こうの動きに合わせて!」

 

「はい!」

 

 

晴風も艦首の動きをシュペーに合わせ、射線に入らないよう必死に食い付く。

 

 

 

「シュペー再び転舵!」

 

「合わせて!」

 

「はい!」

 

 

シュペーも追いかけてくる晴風を振り払おうと船体を左右に揺らすが、晴風もスッポンのように齧り付きながら距離を一気に詰める。

 

 

 

「シュペーとの距離、1キロを切りました!」

 

「相手の懐に入った!このまま左舷に接舷!」

 

 

 

相対距離が1キロを切ると同時に、シュペーの左に出る。

 

 

「機関最大戦速!このまま食らい付け!」

 

 

一気に最大戦速に加速し、シュペーの左舷に接近する。

 

 

 

「衝突警報!衝撃に備え!」

 

 

 

衝突警報が鳴り響き、晴風の右舷がシュペーの左舷側に衝突し、衝撃が走った。

 

 

「やった!」

 

「よし!」

 

 

真白はトランシーバーを手に取る。

 

 

「艦長、今です!突入してください!」

 

 

彼女の合図と共に、野上を先頭にした突入班がワイヤーガンをシュペーに打ち込み、ワイヤー伝ってシュペーに乗り込んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く




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第39話

無事にシュペーに乗り込んだ、突入班は甲板に上がり点呼を取る。

 

 

「全員居るな………これよりシュペーの艦橋に向けて突入する。各員は決して一人にならずに、ペアを組んで行動するように」

 

 

班を率いる野上は全員に念を押してから、行動を開始した。

 

 

「お、早速来たな」

 

 

突入班の目の前から、ウイルスに感染したシュペーの乗員が姿を表した。

 

 

「行くぞ!」

 

 

野上はその場から一気に駆け出し、水鉄砲に装備してあるダットサイトのレクティルを合わせて、素早く海水を浴びせかける。

 

 

「はぁっ!」

 

 

後に続くよう、野間が水鉄砲を両手に持ちながら、襲いかかってきた5人を一瞬で仕留めた。

気を失った乗員に、鏑木と蕪木の2人がワクチンを投与する。

 

 

「これで良い」

 

「8人を保護、後は23人だな」

 

 

8人を保護し、艦内へ続くハッチを開けて、艦橋がある場所へ向けて走り出す。ミーナが案内のため先頭に立ち、通路を走る。

 

 

「!?」

 

 

角を曲がろうとした時、奥から3人の乗員が姿を表した。

 

 

「レターナ………お主まで」

 

 

3人の中にミーナの友人が居たため、彼女の表情が曇った。

 

 

 

「ここは私が」

 

 

 

そこへ、万里小路が前に出ると、手にしていた木製の薙刀を構えると、その場が一気に駆け出し、相手の懐へ飛び込み薙刀で3人を吹き飛ばした。

 

 

「おぉ……」

 

「凄いな」

 

「万里小路さん強かったんだね」

 

 

野間と野上、岬は普段から彼女に抱いてるイメージとかけ離れた、達人級の戦闘能力に驚いた声をあげる。

 

 

「兵は敵に因みて勝ちを制する」

 

 

鏑木がそう言いながら彼女達にワクチンを投与する。

彼女達を横にして、突入班は艦橋へと向かい、やがて階段がある場所へとたどり着いた。

 

 

 

「この階段を昇れば艦橋じゃ!」

 

 

艦橋へ続く階段を登っていく。

 

 

「後ろから来たよ!」

 

 

岬が指差した方に視線を向けると、多数の乗員が走って来る。

 

 

「数が多い……10人以上は居るな」

 

「ここは我々が食い止めます!野上3尉達は上がってください!」

 

 

野上の部下の隊員2名と万里小路、野間が追手達の前に立ちふさがる。

 

 

「ありがとう!」

 

 

野上と岬達は4人に後を任せると、艦橋へと上がった。

 

 

「この先に!」

 

 

露天艦橋へと通じるドアを抉じ開け、外へ出る。

 

 

「艦長!」

 

 

目の前には、シュペー艦長の『テア・クロイツェル』が立っていた。

ミーナの声に反応して振り返ると、目は赤く染まり、表情が固まっていて感情が読めない。

 

 

「やはりな………テア!助けに来たぞ!」

 

 

ミーナの声にテアは、突然襲いかかり、回し蹴りを仕掛けてきた。

だがミーナは、回し蹴りを避けようとせず、左頬に蹴りを受けた瞬間にテアを抱きしめた。

 

 

「今じゃ!ワクチンをテアに!」

 

 

鏑木がテアにワクチンを投与する。

その直後、テアはワクチンが効き始めたのか、動かなくなった。

 

 

「すまない………だがもうこれで大丈夫じゃ」

 

 

気絶するテアにミーナは母国語でそう話しかける。

艦橋を制圧し、機関を停止させてから、マストに白旗が上がった。

 

 

 

 

「白旗を確認!シュペー停止しました!」

 

「よし!」

 

 

 

作戦が成功した雰囲気に、晴風とゆうひの艦橋は歓喜に包まれた。

 

 

 

 

シュペー停止後、直ちに全乗員に対してワクチン投与が行われた事と、感染源であるネズミを捕獲した事により、電磁波は完全に停止した事により、ゆうひも晴風とシュペーに合流し除染作業を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

続く




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第40話

シュペー制圧作戦を終えて、除染作業と乗員へのワクチン投与が終わると、シュペー・晴風・ゆうひの間で短い時間ではあるが親睦会が開かれる。

 

 

「アケノ、岸艦長、紹介したい人が居るんだ」

 

 

ミーナは岸と岬の前に、テアを連れてきた。

 

 

「我がシュペー艦長の」

 

「テア・クロイツェルだ。今回は本艦の危機を救ってくれた事と、副長が世話になったようで、感謝に堪えない」

 

 

テアは2人に礼を述べる。

 

 

 

「いえ。我々は当たり前の事をしただけですから」

 

「そうだよ。海の仲間は家族だからね。助け合うのは当然だよ」

 

「そうか。そう言って貰えると幸いだ。では短い時間だが、親睦会を楽しんでくれ」

 

 

 

3艦の乗員の間で行われた親睦会は、お互いの文化や得意分野を披露しあい盛大に行われる。

途中で真白の分のウインナーが五十六に食べられたりするトラブルがあったり、野上と野間と万里小路がシュペーの一部乗員から表彰されたり、シュペー給養員が少しズレた日本食を披露したりと親睦会は日暮れまで続いた。

 

 

日が暮れて夜が来るとシュペーは近くにあるゼーアドラー基地へ一時寄港し全乗員が精密検査を受けるため、親睦会は名残惜しつつも終了した。

 

 

 

「テア艦長、ここに全員分のカルテがある。ゼーアドラー基地の病院でこれを担当医に渡してくれ」

 

「感謝する」

 

 

カルテが入った封筒を受け取ったテアはミーナと共に別れのを言葉を述べてシュペーへと戻っていった。

 

 

 

「そう言えば納沙さんはどうしたの?」

 

 

岸は納沙の姿が無い事に気がつく。

 

 

「そう言えば姿が見えないね」

 

「恐らく、ミーナさんと別れるのが辛いんでしょう。さっき艦内ですれ違った時に悲しそうな表情でしたから」

 

 

 

晴風艦内では、納沙とミーナは同じジャンルの映画好きと言う事で非常に仲良しだと言う事は共通認識とされている。

そんな2人が互いに別れるとなると、寂しいと感じるのは想像に難くない。

 

 

 

 

 

 

そして別れの時がやってくると、シュペーが汽笛を鳴らし、晴風とゆうひから離れていく。

 

 

「さよならぁー!!」

 

「また会おうねぇー!!」

 

 

晴風の面々は手を振り、ゆうひの乗員達は甲板に並んで帽子を片手に持ちシュペーに向かって振る。

 

 

「おーい!」

 

 

そこへ、晴風艦内から駆け足で甲板に登ってきた納沙がミーナへ向かって大きく手を振る。

 

 

「わしゃあ……わしゃあ……旅行ってくるけん!」

 

 

 

(推奨BGM 『ファイナルヤマト 斗い』)

 

 

 

広島弁独特の別れのを言葉を述べ、それを聞いたミーナも大きく手を振ってから、こう返してきた。

 

 

「体を厭えよ~!」

 

 

ミーナも同じように返した。

互いに姿が見えなくなるまで手を振り続けた。

 

 

 

「………………」

 

 

 

シュペーの姿が見えなくなると、納沙の表情が暗くなった。

 

 

「門尺に合わん仕事をしたのぉ」

 

 

 

彼女を元気付けようと、真白は覚えたての広島弁で話し掛ける。

 

「もう一文無しや………」

 

 

 

そう呟き、シュペーが去った方向を見続ける納沙。

 

 

 

 

 

 

続く




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