Lineria (白燐乱)
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追記
2020年08月10日 アイリスの魔法の記述を変更、各キャラクターのステータスを追加、出身地の項目を追加


「へぇ……君たちが今年の新入団員…?」

 

「もっと…速く!もっと……強くッ!!加速して威力を高める…!」

 

 

名前 アイリス・ノートン

 

性別 女

 

年齢 17

 

所属 黒の暴牛

 

階級 五等下級魔法騎士

 

誕生日 5月2日

 

星座 牡牛座

 

血液型 A型

 

身長 158cm

 

好きなもの お菓子、掃除、高い所、猫

 

出身地 王貴界

 

魔法属性 炎

 

髪型 オレンジ色の髪を白いリボンで纏めている

 

瞳の色 エメラルドグリーン

 

ステータス

 

 

身体能力 2

 

魔力量 4

 

魔力操作 5

 

魔力感知 3

 

機転 3

 

人間不信 5

 

人物像

平界のとある街のストリートチルドレンだったが、ヤミとフィンラルに発見され13歳の頃黒の暴牛に保護という形で入団。15歳の時に正式に団員として入団。ペットに猫のムーラと言う猫を飼っている。

 

 性格は、人間不信。自身が信頼するに値すると思った人間に対してはフランクに接するがそれ以外はニコニコと敬語で話す。

 

 

魔法(随時更新予定)

属性は、炎。

全体的に攻撃魔法が多い。サポート向きの魔法も覚えたりしているが一部使い方を誤った魔法も存在する。

 

炎魔法

 炎庭の猫(えんていのねこ)

猫耳や爪、尻尾が体に現れ猫みたいに変化する。猫っぽい動きをしたり素早い動きや5感が発達する。

 

 焔の円爆(ほむらのえんばく)

両手に丸い形の炎を作り出し攻撃する。

 

創生魔法

 

 炎槍(そうえん)

炎を纏った槍を召喚して攻撃する

 

 緋来の靴(ひらいのくつ)

くるぶし辺りまでを覆う炎の靴。スピードに特化しすぎたせいで攻撃力は皆無。壁くらいなら破壊できるがそれ以上硬いものは壊せず炎庭の猫と組みあわせて敵の偵察と隠密行動によく使う

 

 

 

拘束魔法

 暖景桎梏(だんけいしっこく)

相手を炎を纏った鎖鎌で拘束する魔法。なのだが鎖鎌で攻撃したりしている

 

 

回復魔法

 燈灼ノ城(ひしゃくのしろ)

対象1人を回復する魔法、ただし回復には時間がかかるし使用中は無防備になると言う弱点あり

 

 

 

 

 

以降、ネタバレ有り

 

 

 

 

生まれは王貴界にある貴族ハーミィ家の三女。好奇心旺盛で順応性が高い性格で虫も素手で触るような子供だっため親からは敬遠され兄弟からも遠巻きにされていた。貴族らしからぬ行いをしていた結果「あそこの家の娘は虫を素手で触る」と言う噂が流れ家の面目を保つため10歳の時家を追放された。

 

 

追放された後は家を追放されたショックで人間不信となり平界のとある街でストリートチルドレンとしてゴミをあさり、盗みをしていたがヤミとフィンラルに発見され黒の暴牛に保護という形で入団。入団後は掃除や洗濯物の家事全般を担当し、掃除をする楽しさを知った。以来趣味に掃除が加わる。

 

15歳で、魔導書を授かり黒の暴牛に正式に入団。

17歳で、アスタやノエルが入団した。

 

 

 

 

 ハーミィ家

王貴界にある貴族。

拘束魔法を得意とする一族で一族の傾向として炎属性の属性を持つ子供が生まれる。子供の名前は花から取るのが伝統。

ヴァーミリオン家(フエゴレオンの方)と親戚関係にある

 

 

 

「黒の暴牛はお前に合っていたんだな」

 

「妹に何かあったら殺すぞ」

 

長男

名前 デイジー・ハーミィ

 

性別 男

 

年齢 29

 

所属 金色の夜明け

 

階級 上級二等魔法騎士

 

誕生日 2月15日

 

星座 水瓶座

 

血液型 AB型

 

身長 185

 

好きなもの 兄妹、末の妹

 

出身地 王貴界

 

魔法属性 炎

 

ステータス

 

 

身体能力 2

 

魔力量 5

 

魔力操作 4

 

魔力感知 3

 

機転 5

 

弟妹たちへの愛 5

 

 

「ねぇ、お前ら帰るぞ」

 

「この空間を拘束した…!!」

 

次男

名前 シャガ・ハーミィ

 

性別 男

 

年齢 26

 

所属 紅蓮の獅子王

 

階級 中級三等魔法騎士

 

誕生日 4月27日夢

 

星座 牡牛座

 

血液型 A型

 

身長 169

 

好きなもの 魔法、国

 

出身地 王貴界

 

魔法属性 炎

 

ステタース

 

身体能力 4

 

魔力量 4

 

魔力操作 5

 

魔力感知 2

 

機転 3

 

国への忠誠心 5

 

 

 

「ゴメンな、このバカな妹共が」

 

「お前らがやったのか?」

 

長女

名前 スターチス・ハーミィ

 

性別 女

 

年齢 24

 

所属 紅蓮の獅子王

 

階級 上級四等魔法騎士

 

誕生日 4月29日

 

星座  牡牛座

 

好きなもの 辛いもの、団長(友人的な意味)

 

出身地 王貴界

 

魔法属性 炎

 

 

ステタース

 

身体能力 5

 

魔力量 4

 

魔力操作 3

 

魔力感知 4

 

機転 5

 

正義感 5

 

 

 

「へぇ…まだまだですわね。アイリスさん?」

 

「あら、すみません。いらしてたんですね、気づきませんでしたわ」

 

次女

名前 カトレア・ハーミィ

 

性別 女

 

年齢 18

 

所属 珊瑚の孔雀

 

階級 中級四等魔法騎士

 

誕生日 10月14日

 

星座 天秤座

 

好きなもの 自分、母親

 

出身地 王貴界

 

魔法属性 雷

 

 

ステタース

 

身体能力 1

 

魔力量 3

 

魔力操作 5

 

魔力感知 3

 

機転 2

 

妹への執着心 5

 

 



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ページ2

「う、うわわわぁぁあああ!!!?」

 

「にゃ……?」

 

 

それはアスタが入団した翌日の朝の事だった。

 

 

朝早く目を覚ましたアスタはリビングへと向かっていた。昨日できなかった案内をマグナがしてくれるためだ。待ち合わせ場所がリビングだったため。

 

そして、ソファに座ろうとしたその時、モゾ、と動いた物体を見てアスタは止まった。

 

オレンジ色の髪にそれを纏める白のリボン、黒のローブを着て寝返りを打つその人物を見てアスタは思わず叫んだ。

 

 

 

「う、うわわわぁぁあああ!!!?」

 

「にゃ……?」

 

 

 

「どうした!?」

 

まず最初にマグナが

 

「何事〜?」

 

次にバネッサが

 

「なになに?」

 

ラックが

 

「て、敵襲!?」

 

フィンラルが

 

「なにごとよ!!」

 

ノエルが

 

「ブツブツブツ……」

 

ゴードンが

 

順に来てそれぞれ叫んだ。

 

そして寝転んでいる人物に目をやるとフィンラルが「おーい」と言い頭をポカポカ叩きその人物を起こした。

 

 

「……?フィンラル?」

 

「そう、おはよう」

 

「おはよ……?」

 

眠気眼でフィンラルを見るその人物は次に周囲の人物を見て「なんでみんないるの…」と小さく言った。

 

「そこの可愛い坊やが朝早くから叫ぶから何があったのかしらって思ったらただ単に寝てた貴女に驚いてたみたいよ」

 

「坊や…?」

 

「そう、今年の新入団員よ。アスタにノエル」

そうバネッサが言うとアスタとノエルに目配せした。要は自己紹介しろ、だ。

 

「ハージ村から来たアスタです!!!よろしくお願いしヤァァす!!!」

 

「ノエル・シルヴァよ。」

 

 

「へぇ……君たちが今年の新入団員…?私、アイリス・ノートン。よろしくね、アスタさんにノエルさん」

 

 

「よろしくお願いします!!!」

 

「よろしく頼むわ」

 

「うん、わかりました。じゃ、私部屋行って寝てくる」

 

コクコクと船を漕ぎつつアイリスは部屋に戻ってしまった。それを見届けてフィンラルが口を開いた。

 

「アイリス、昨日は任務で帰ってきてそのまま寝てたみたいだね。」

 

「えぇ…いい加減部屋で寝ればいいのにね」

 

「環境が環境なんだから無理っすよ」

 

フィンラルがそう言うとアスタとノエルは首を傾げた。

 

「…?」

 

「あぁ…アイリスって少し変わった環境で過ごしてたからね」

 

「変わった…環境すか?」

そう言うフィンラルの顔はどこか暗かった。どことなく部屋の空気も淀んでいる気がする。するとコツコツと威圧的な足音と共に団長のヤミ・スケヒロが現れ、新人二人とマグナにイノシシ退治を命じたのだった。

 

 

 

 

「フィンラル、アンタらしくないわよ」

 

「すみません、バネッサさん。」

 

「謝ることじゃないわ、誰だってあんな話聞かされたら暗くなるわよ」

 

ソファに座りながら酒瓶を飲むバネッサの向こう側に座るフィンラルは未だに顔が暗かった。

 

 

 

「お前ら、何しに来たんだ…!!」

 

「いや、君を保護しに……」

 

「保護…?捕まえるの間違いだろ!!」

 

 

 

「はぁ……」

 

アイリスは一人ベットに寝転び先程の反省をしていた。新入団員だという二人に対して思わず素っ気なくしてしまった。

 

「(どーしよーていうか、あれノエルさまだよね…)」

 

ノエル・シルヴァ、王族シルヴァ家の末の娘でいとこを介して一度だけ見たことがある。キレイな銀髪を持ち兄弟は銀翼の大鷲に所属していた筈…

 

「明日からどーしよー」

 

 

すると部屋で飼っている猫のムーラが近寄ってきて腹の上に乗った。こういう時は部屋の前に誰かいる証拠だ。立ち上がり、扉を開けるとバネッサがいた。

 

「バネッサ…?」

 

「今から闇市(ブラックマーケット)行くわよ」

 

 

 

バネッサに手を引かれリビングに行くと新入二人とマグナがいた。任務帰りなのだろう

 

「お、おかえり。」

 

「おう……」

 

返事をしたマグナもアスタとノエルも顔が暗い。只のイノシシ刈りだったはずなのだが…?

 

「任務先の村で過激派か思想犯の犯行に出くわして倒したんだけど犯人が自害したのよ」

 

「なる程…ちなみになんで私連れてきたの」

 

それで浮かない顔をしていたのか、と納得しバネッサを見ると笑顔を浮かべていた。何か良からぬことを企む時の顔だ。

 

「だってさっきから浮かない顔してるもの。気分転換?」

 

「わかった、ちなみにアスタさんたちも?」

 

「えぇ、ほら行くわよ」

 

連れてこられたのは平界の上部中央にある城下町キッカ。

訪れる者のほとんどが平界に住む平民でたまに貴族がその更にたまに下民が訪れる。

 

 

アスタは先程から物珍しそうにはしゃいでいる。一方、ノエルは関心がないのかすましている。

 

「ノエルさん、キッカは初めてですか?」

 

「えぇ、こんな街来たこともないわ」

 

アイリスが話しかけるとノエルは目を見開くがすぐにすました表情になるが少しだけ顔が嬉しそうだ。

 

キッカの街で体力回復の薬草や消耗品の魔導具を買ったあとは目的の場所に行くのだろう。

 

 

路地裏の壁にバネッサとアイリスが入り、アスタとノエルも恐る恐る入る。そこは闇市だ。

 

「危ないお店もありますが、効果がすごい商品とかおいてたりするんですよ」

 

 

それから4人は賭博場など様々な場所をめぐるとナンパされた。

 

 

 



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ページ3

 

 

「おやおや、こんな場所にどうしたんだい?」

アスタと別れた女子3人はノエルの魔導具選びをしていると知らない男に声をかけられた。

 

「ここはあなた方のような美しいレディーが来るような場所じゃない。道に迷ったのかな?魔法騎士団のエリートのこのオレが外に案内してあげましょう」

 

「失せなさい、羽虫」

 

「消えてもらっても?」

 

「(え、えぇーーー)」

 

その後、アスタが来るもこのナンパ男基セッケは入団試験でアスタと戦った男だそうだ。するとお婆さんの叫び声と共に強盗が戦利品を盗んで逃亡。これをアスタが剣で止めたと思ったらセッケが強盗に毒を塗られた。

 

「炎拘束魔法 “暖景桎梏”」

 

アイリスは魔法を発動すると炎を纏った鎖鎌で敵を拘束した。

 

「バネッサ、ナンパさんは大丈夫?」

 

「ええ、一時的な刺激毒ね」

 

「そっか、じゃあ私この強盗突き出してくるね」

 

「じゃ、私達は先に帰ってるわね」

 

バネッサの言葉に適当に返事をしたアイリスは鎖鎌を引っ張った。強盗が悲鳴を上げるが彼女はお構いなしに引っ張っている。

 

 

 

 

「あ。あれは……」

 

詰め所の近くまで来ると金色の夜明けのローブを着た団員を目にしたアイリスは少したじろいだ。別に金色の夜明けを見たからではないローブを着ている人物に対して驚いたのだ。

 

「デイジー……兄さま」

 

王族と関わりのある家の長男、そして重度のシスコンがこちらに向かってきている。

 

 

「あ、アイリス…!!」

 

自分の名前を呼びながら来た彼に対しアイリスはプイッと顔を背け道を進む。が、兄は諦めていないのか金魚のフンの如く付き纏う。

 

「デイジーさん!!いい加減にしてください!!」

 

「いや、君はアイリスだろ?俺の妹の」

 

「貴方のような貴族の方を兄に持つなど恐れ多いので!!失礼します!」

 

半ばヤケクソで叫びデイジーを置き去りにする。詰め所に入り担当の魔導士に渡す。その顔は恐怖でいっぱいいっぱいだ。

 

「キッカの街の闇市で強盗をしていたので連れてきました」

 

「お、おう。黒の暴牛にしてはよくやったな。」

 

「そうですね、では失礼します」

 

「あぁ………」

 

 

デイジー・ハーミィはアイリスが黒の暴牛に正式入団した時から彼女につきまとってきた所謂ストーカーの部類に入る人物だ。そのストーカーが逮捕されないのは一概に彼と血の繋がった兄弟であることそして互いの団長がそれを知っているから、という理由。はっきり言おう、迷惑である。

嫌なら嫌といえば言えばいいのに言わないのはこうやって構ってくれる人がいる、という自己顕示力の塊なのだろう。

 

「あ?構ってくれるなら甘えれば良いだろう」

 

「デイジーはいつも君のことを嬉しそうに話すんだよ」

 

と、互いの団長は何時だったかそう言っていたのを思い出した。ちなみにヤミは心底鬱陶しそうにウィリアムは嬉しそうに話していた。

 

「アイリス、少し茶でもしないか?」

 

「シャガがこないだ任務で大手柄を上げてな」

 

「スターチスは後輩に手ほどきをしててな」

 

「カトレアは少し無茶をして怪我してしまったんだ」

 

 

などと、強引に茶に誘い聞いてもいない家族の話をしてくる兄に対して表面上は顔を歪めるが内心嬉しかったりする。

 

 



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魔宮編
ページ4


「トリタロウだな!」

 

「いえ、シルヴァンタスシュナウザーよ」

 

「トリタロウ!」

 

「シルヴァンタスシュナウザー!」

 

後輩二人の言い争いの声をBGMに魔宮(ダンジョン)を進む。

先程のネーミングセンス皆無の言い争いはアスタにつき纏うアンチドリの名前の言い争いである。

 

「ていうか、トリタロウもシルヴァンタス…なんちゃらも気に入ってないんだね。」

 

そう呟くアイリスはアスタの頭を突くアンチドリを見た。

カカカカカカカカカカカカカカカ

「あだだだ何すんだトリタロウ…!!」

 

「ほら見なさい!シルヴァンタスシュナウザーがいいわよねっ!ねっ!?」

 

(ネロ)でいいんじゃない?」

 

しゅばっ…!とラックの言葉に反応しアンチドリは翼を広げ後輩二人は絶句した。

 

 

「(か、かわいい…)」

 

数時間前

 

それは団長のヤミの一声で始まった。

「ハイ注目〜〜〜ついさっき、新しい魔宮か発見されました。」

 

 

 

「魔宮んんんんん!?」

 

「マジっすかヤミさぁぁぁん!!」

 

「うおおぉ!!」

 

「魔宮かぁ……行きたくいなぁ……」

 

それぞれが反応を示す中アスタは一同を驚かす言葉を放った。

 

「所で魔宮って何ですか?」

 

「マジかてめぇぇぇ!?魔宮も知らんのか!?」

 

「何で驚いたの!?」

 

「いやノリで」

 

「バカのかなぁ……」

 

「バカなのよ」

 

独り言で言ったはずの声はどうやらノエルに拾われアイリスは慌てて顔を覆った。

 

「(き、聞いてたぁ…!それもよりによってノエルさまぁ!?え、やばいすッごく恥ずかしいんだけど…!!)」

 

「?」

 

 

「魔宮っつーのはむかーしの人間たちが遺した遺物が眠る古墳のようなモンで強力な古代魔法の使用法や貴重〜〜〜な魔道具なんかが眠ってるスゲーとこなんだよォォ!!」

 

「うおおおおお」

 

「だけど当時の人たちが自分たち以外の人間に悪用されないようにとんでもない(トラップ)魔法を設置してる超危険な面白い場所でもあるんだよ〜♪」

 

「うおおおお……?」

 

「その危険性の高さと邪な理由で遺物が奪われない為に常に魔法騎士団が調査してるのよ〜ちなみにそこで項垂れてる娘も魔宮に行ったことがあって死にかけたこともあるのよ〜〜」

 

「ほうほう!」

 

マグナ、ラック、バネッサの順に説明をするとアスタは頷いた。どうやら理解したようだが最後のバネッサの言葉にアスタとノエルは一斉にアイリスを見た。

やめてくれ、そんな目で見ないでくれ

 

「そういえばそんなのあったな、どこかのアッシー君が慌てふためいて面白かったな。」

 

「面白くもないですよ、あん時なんか変な罠魔法発動したとおもったら宝物殿に飛ばされて古代文字の解読方法のページ増えてあれから私只の便利屋扱いですもん」

ぷんすか怒るアイリスにヤミは豪快に笑った。今頃アッシー君がいれば頭を撫で慰めていただろう。

 

「(なんだかんだで、頼られるのが嬉しーんだろ)

さて、特に今回の魔宮は非友好国との国境近くに出現した…!ヤツらに奪われない為にもより確実な任務遂行が望まれる…!」

その言葉に一同は気を引き締め顔を強ばらせる。特に新人二人は真剣だ。

 

「ちなみに過去魔宮からは文明のレベルそのものを変えちまう魔道具を見つけた者や最強の魔法を使えるようになった者もいたとか」

ヤミの言葉にアスタが「オレに行かせてくださぁぁい!!」と声を上げるとどうやら魔法帝がアスタをご指名だったようでアスタを加えたノエル、(マナ)の感知能力が上手いラック、偵察能力が高いアイリスが選抜され未踏の魔宮へと向かった。

 

 

そしてアスタ達が去った黒の暴牛

「何で魔法帝はアスタの事知ってんスかね?」

 

「あのダンナにはオレ達とは違うモノが見えてるからな…変人だし」

 

と、マグナの言葉にヤミが笑いながら答えるとバネッサが酒を飲みながら口を開いた。

 

「ノエル、大丈夫かしら〜〜」

 

「危険で重要な任務でこそ新人は限界を超え成長する。ま、ラックがいるから大丈夫だろ。

アイツの魔の感知能力はズサ抜けてる。貴族以上だ。性格さえ破綻してなければどの団でも引く手数多だったんだからなァ」

 

「その破綻した性格が心配ですけどねー。そしてその中に放り込まれたアイリスは大丈夫かしら〜」

 

「アイツは自分の役割を自覚して動ける人間不信だ。」

 

「団長、言ってることなんか矛盾してますよ〜〜」

 

 

 

 

 



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ページ5

ガコッとラックが壁を押すと壁が抜けた。

そこはどこか神秘的な美しさを持った空間だった。

 

「すっ…すっげええええ!?」

 

「魔法で空間が歪んでるみたいだね」

 

「どうしよう……ホントに来ちゃった………」

アスタは驚き、ラックは感心し、アイリスは目が死んでいる。それを見てノエルが驚いている。そして呑気にラックが口を開いた。

 

「ココは外よりも濃〜〜い魔が漂ってるねー」

 

「こんなに魔に満ちた場所初めてだわ…!」

 

「そうなのかい?」

 

ラックの言葉にノエルが続くとアスタがきょとんとして言った。

 

「まさかアナタこれだけの魔を感じないの!?」

 

「全然」

 

「ってまさか、魔も知らないなんて言うんじゃ……」

 

「魔ぐらい知っとるわァァ」

 

そんな会話をニコニコしながらアイリスは見守る。

「(さて、そろそろ偵察を……)」

 

炎魔法 “炎庭の猫”

 

偵察に必要な猫耳だけを発生させその猫耳の感覚を発達させた状態で魔法を発動する。

 

「(私達入れて13人…そのうち敵は……6人、あと3人…2人は感じたことのある魔力…)ミモザ…?」

 

呟いた声は誰にも拾われなかったようで3人は罠魔法に先程から翻弄されている。と言うかラックがわざと罠魔法にひっかかっているだけなのだが。

 

「何やってるの…?(…そういえばミモザは金色の夜明け団に入ったって聞いてるから…来てるのは金色の夜明け……?)」

考えにふけっていたアイリスにラックが後ろから近づき声を掛ける。

 

「アイリス」

 

「はい、何用で」

 

「敵の正確な位置教えて!」

 

「敵は全員で6人、うち4人がここから近いです。」

 

「そっかぁ!!」

 

淡々と告げるアイリスにラックは笑顔で応え魔法を発動させた。

 

雷創生魔法 “雷神の長靴”

 

 

「え!?」

 

「ちょっと大事な用出来ちゃった。とゆーワケで魔宮攻略よろしくー!」

 

そう言うととんでもないスピードでその場を離れるラックに後輩二人は唖然とし、アイリスは興味がないのかアスタの頭から飛び去ったネロを追いかける。

 

「な、何考えてるのよ、あの人ーーー!!」

 

「かっ……かっけえええ」

 

 

「(本当は自分で強そうな相手いるの感知して知ってるのに、何でわざわざ他人に聞くんだろ)」

 

周りを物珍しそうに見渡すアイリスは二人から距離が離れているために植物魔法に捕まった後輩2人に気づかない。いや、もう気づいていた。

 

「私が出たところで二人はなんとかするよね(さっきの偵察だと外に何人かいた。半分以上は敵だけど…1人馴染みのある魔力があったなぁ……)」

 

目が死んでいくアイリスは近づいてくる魔力に気づきそれまで下げていた顔を上げ、顔を歪めた。コツコツと3人分の靴音が響きそして止まると魔導書のページを捲る音が耳に届いた。

 

 

 

「うーわ、マジでアナタ達なんだ」

 

 

「さて、暴牛からアイリスも来るって聞いて後輩たちの送迎に来るっていう名目で来たけど、大丈夫かな?」

 

 

 

 

 

 



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ページ6

「これで、借りを返したぞ。アスタ……!!」

 

「ユノ…!!」

 

植物魔法の罠にかかったアスタとノエルを助けたのはアスタと同郷であり親友でありライバルのユノだった。

彼の後ろにはメガネをかけた青年と見覚えのある少女が控えておりメガネの青年が腰に手を当てユノに対して口を開いた。

 

「ユノ、なぜこんなヤツらをわざわざ助けたのだ。我々の任務はあくまでこの魔宮の攻略、つまりは宝物殿に速やかに辿り着くことだ。こんなヤツらにかかずらっている時間などない…!」

 

「オイユノ!いきなり何だこの失礼なメガネは!!」

 

「先輩」

 

「メガ…失礼なのは貴様だ!貴族の私と対等な口を訊くな!」

 

 

「あぁ…リュネット家の」

 

アスタと金色の夜明け団、クラウスとユノが騒ぐ中ノエルと金色の夜明けの新人、ミモザが二人で話していた。

 

「私達、先日このメンバーでの任務で魔法帝に星を授与されましたの…!」

 

「オレ達だってこの前星もらったもんね!!」

 

ミモザの言葉にアスタが胸を張って答え、ノエルが済ました顔で髪を弄り、アイリスはふと疑問に思ったことをアスタに問いかける。

 

「あぁ…初めての任務のあれですか?」

 

「はい!!」

 

アイリスの問いにアスタが元気返事をするとクラウスが口を開いた。

 

「ウソをつけ、黒の暴牛の新人ごときがそう簡単に星を授与されるワケないだろうが。今回の任務を任されているのもおこがましい」

 

「魔法帝直々に任されたっつーの!」

 

「また、見え透いたウソを……」

 

「ウソじゃねぇぇぇ」

 

「まぁまぁ、アスタさんもメガネさんもうるさいですよ。敵がいるかもしれないのにそんなに騒ぐと気づかれますよ。それに………」

 

低レベルな会話が続けられてる中アイリスが二人の間に入り仲裁した、仲裁されてクラウスの眉間にシワがよりアイリスを睨む。そして不自然に言葉が途切れたアイリスをアスタとノエルが心配そうに見る。

 

「金色の夜明けに入っている貴族が下民に対して馴れ馴れしい態度を取るのは一族の恥では…?」

 

その言葉を受け取ったクラウスはアイリスをまたもや睨む。

 

「キサマっ…!貴族の私を愚弄するか!!」

 

「あら、そんなつもりはないのですが…。」

 

アイリスが口元に手を当てクスクスと上品に笑うそれが相手を挑発しているのかはたまた天然なのか何れにしろクラウスはますます睨みを利かす。その姿にミモザが小さく反応した。

 

「っ……そういえば…!!」

 

もはやヤケクソになりながら青年は言う

 

「貴様らは4人で来ていると聞いてたがもう一人はどうした?まさか、貴様らを置いて逃げ帰ったなどとと言うまいな。それとももう罠魔法の餌食にでもなったか?」

 

「((オレ達ほっぽってどっか言ったなんて言えねー))」

 

 

 

「あ、あの……」

 

クラウスとアスタが揉める中ミモザがアイリスに近づき声を掛けた。その顔はどこか不安そうでそれでも嬉しそうな顔。

 

「ハーミィ家の…方ですよね?」

 

「っ……」

 

「ですわよね、あの後レオポルドさんや私達皆心配していました…!」

 

「ミモザさん、……私はハーミィ家の者ではありませんよ。」

 

「ですがっ…!先程のあの仕草スターチスさんやカトレアさんのようでした。私はいつも貴女のことを尊敬していました…!見間違えるはず…!」

 

「……人…違いですよ。そんなハーミィ家の方と間違われるなんて私もついてますね」

 

「アイリス…さん」

 

お互いがお互いの顔を見、背けることができず固まっているとクラウスがミモザを呼んだ。

 

 

 

「ミモザ…!!ミモザ!!!」

 

「は、はぁい!」

 

植物創成魔法 “魔花の道標”

 

クラウスに呼ばれハッとし返事をしたミモザは魔宮の構造を把握する魔法を発動した。その間クラウスはアイリスの顔を見た。

 

「(こいつ、デイジーさんに顔が似ているな。雰囲気もデイジーさん、いやスターチスさんに似ている。あの人はいつも人を小馬鹿にし、相手をわざと怒らせるのが得意だと聞く。こいつも…先程は私をわざと怒らせた。黒の暴牛にこんな奴がいたのか)」

 

 

「この魔宮の大体の構造はわかりましたわ」

 

「ユノーー!!」

 

「はい」

 

ミモザの報告でクラウスはユノに命令をし、ユノは自身の魔導書を開き魔法を発動させる。

 

風創成魔法 天つ風の方舟

 

 

それは、人3人を余裕で乗せる風の舟、金色の夜明け団はそれに乗り黒の暴牛団を追い越していった。

 

 

 



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ページ7

「って、どうするのよ!?私達、探索系の魔法なんて使えないのよ!?」

 

「しらみ潰しにすべての道を行くーー!!!」

 

「馬鹿じゃないの!?このままじゃ宝物殿に行くどころか迷子になるわよ!?あと、貴女も手伝いなさい!!」

 

「あー、魔力感知下手なんですよねー(実は探索系の魔法使えるんだけどねぇ……ま、だんちょーに新人しごけって言わてるしもしもの時には助けますか……)」

 

「はあぁぁ!?このままじゃ本当に迷子じゃないの!!」

 

魔力がないアスタ、魔法がろくに使えないノエル、使えるけど団長命令に従うアイリスたちは罠が発動しまくる魔宮を延々と歩いていた。するとアスタの頭の上にいたネロが頭から飛び去り翼を広げしゅばっと道案内をしてくれた。

 

 

 

「何、…ここ」

ネロが案内してくれたのは重力が滅茶苦茶な場所。臓器が入った宝物をアスタが見つけたりと新人二人は興奮しながらも楽しそうに行動している。

 

 

「アイリス先輩…?」

 

「え、な、何?」

 

「先輩、何かあったんすか?」

 

「どうして、そう思うんですか?」

 

「何か楽しそうな顔じゃないんで不安に思っただけっす!!!」

 

「そ、そう……(ラックが戦闘を開始した、それに金色の3人もラックのところ以上の魔力の人と戦ってる。私はどこに行けば……)」

 

 

重力が滅茶苦茶な場所を抜けた3人は走っていた。

 

「よっしゃァァー!!この道は行きやすーい!!」

 

「もしかして、本当にこの先に宝物殿が…!!」

 

ドォォン

 

「ラック…!」

 

「何だ何だ!?」

 

「この魔力、おそらくラックが何者かと交戦してる!」

 

ノエルの読みどおりラックは今ダイヤモンドの敵と戦っている。

 

「マジでか!加勢しに行かねーと!」

 

「別に行く必要ないんじゃないかしらあの人が勝手な事してるだけだし。それに他にこの魔宮の宝物殿を狙ってる者達がいるのなら急がないと」

その言葉にアスタがグッ、と押し黙る。確かにと、ユノとどっちが宝物殿に行くか勝負をした。けれど仲間を助けたい、その思いがアスタを揺さぶるのだ。

 

「あ、あの!!」

 

「アイリス?」

 

「アスタさん、今この魔宮ではラックが一人で戦ってる。後は金色の3人が誰かと戦っています。

あなたは、どちらを助けたいですか…!」

 

「あなた、何を言って!」

 

「本当なら…この先に宝物殿があります。そしてその付近で金色の3人が戦ってる。攻略を優先するなら金色の方へ行ったほうが確実です。

 

でも、私にはどちらを選択すればいいのかわからない。だから、あなたに問います。アスタさん」

 

その言葉にアスタは顔を俯かせるがそれも一瞬だった。するとノエルが声を荒げアイリスに食いついた。

「ちょ、ちょっと待って!あなた、探索系の魔法が使えるっていうの?」

 

「はい、だんちょー命令で新人二人をしごけって言われてわざと言いませんでした。」

 

「使えるなら最初から使ってよね!?」

 

「以後、気をつけます。」

 

「(ユノはきっと大丈夫だ!!そして俺は仲間を救いたい!!)

アイリス先輩!!ラックのところへ!!」

 

その言葉に一瞬驚くアイリスだったがすぐに魔導書を構えた。

 

「わかりました。私のこの魔法はスピードに特化し過ぎたせいで壁を破壊する程度の攻撃力しかありません。アスタさん!ラックの所へついたら攻撃できる準備お願いします」

 

「わかりましたぁぁ!!!」

 

 

炎創成魔法 “緋来の靴”

 

 

 

 

「アスタさん、ノエルさん!捕まってください!!」

 

アイリスのふくらはぎを覆うように炎を纏った靴が現れ装着される。二人は言われたとおりアイリスに捕まると「行きますよ」と言う声でアイリスは宙を蹴った。

めまぐるしく変わる風景に二人は目を回るすがそんなことはお構いなしにアイリスはスピードを上げる。

 

 

 

そして猫耳が反応し、アスタに向かって声を上げた。

 

「(この先にラックが…!)この先にラックがいます!!!」

 

「任せてくださいぃぃ!!!」

 

 

それを聞きアスタは剣を構える。スピードはそのままにアイリスの靴は壁を破壊して進んだ。ドコォンと到底女子が放つ音とは無縁の音を放ちながら壁を破壊しアスタはアイリスから離れると敵の魔法を斬りつける。

 

 

「こりゃまた、威勢のイイのが来たね〜〜〜、何だい君は……?」

 

 

 

「仲間だ!!!!」

 



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ページ8

「いやぁ〜〜〜、お仲間の登場とは参ったねぇ」

 

「オレ達が相手だ!オッサンんん!!」

 

敵の言葉にアスタが反応し、答える。すると後ろにいたはずのラックがヨロヨロと起き上がり

 

「アイツは…僕の獲物だ……!

僕が一人でヤる…!」

 

「な……ちょっと何言って…!」

 

ラックはそれだけ言うと敵に攻撃を仕掛けた。それを見てノエルが驚き、アスタらしくもない言葉を吐く。

 

「勝手にしろ……」

 

「アスタさん…!」

 

 

咎めるようなアイリスの声を無視しアスタはその言葉を言うと同時に敵に向かって走り出し敵の攻撃が当たる寸前のラックを助け、叫んだ。

 

「オレも勝手にアンタを助ける!!!一人になんかさせるかァァァ!!!

アンタがオレをどー思ってても知らん!!アンタはオレの仲間だ!!!」

 

 

その言葉を聞いたラック、俯いていた顔を上げるとその顔はさっきまでの歪な笑顔ではなく純粋な笑顔だった。

 

「たしかに、みんなで戦ったほうが楽しそうだね♪」

 

 

「マズいね、どーも。こりゃもうオジサンも本気で行くしかないね……!」

 

敵の煙魔法による壁がアイリス達を囲む。四人で固まるとアスタが叫んだ。

 

「誰が相手だろーとオレ達黒の暴牛が勝ァァァァつ!!!」 

 

 

 

炎創成魔法 “炎槍”

 

「って!埒が開かないよ!!」

 

それぞれの魔法で煙を攻撃するが埒が明かず、煙を吸うとクラクラする。現にアスタがその状態だ。この空間に長居いるのは得策ではないだろう。

 

「どーします、これ。」

 

煙を攻撃するのをやめ、ラックに問いかけるアイリス。するとラックは隣のアスタを見て一つ閃いた。それを聞いたアイリスは笑顔を浮かべ炎槍を解いた。

 

 

「なるほど、それいいですね。私とラックが敵を追い込むから後はタイミングを計って二人に任せますね」

 

ラックの魔力感知で敵の大体の居場所はわかった。後はラックとアイリスで敵を誘導する。

 

炎魔法 焔の円爆

 

雷魔法 迅雷の崩玉

 

アイリスの両手には丸い形をした炎が現れ、ラックの腕から雷を纏った球が煙をかき消すかのように攻撃をし、敵への牽制をそして仕上げは…

 

 

「(いくら、凄腕の魔道士だって魔力のない魔道士には会ったことないでしょ)」

 

 

ラックとアイリスが敵を誘導しノエルが魔力を絞り瞬間的に魔法を発動し、それをバネに魔力感知されないアスタが攻撃する、それがラックが思いついた作戦だった。

 

 

 

「確かに大事だね、チームプレイ……!」

 

 

アスタの攻撃を喰らった敵を拘束しようと魔導書を構えたアイリス、ページを捲り構えたその瞬間

 

炎拘束……「あっ…!」

 

「アッ、待てオッサン!!何その車!?」

 

「ちょっ、!?」

アイリスの拘束魔法よりも先に敵の魔法の展開が早く敵は魔法で逃走してしまった。

 

「くそォ〜〜〜、見失った…!」

 

「とどめを刺したかったけどそれどころじゃないよね、宝物殿に行かないと!」

 

「アナタがそれ言う!?」

 

「そうだったァァ、とにかく行こォー!!!!」

 

元気な三人に苦笑しつつ続こうとしたアイリスは膨れ上がる魔力を感じ、頭を抱えラックの名を呼ぶと彼を感じたらしく魔力を感じる方向を向いた。

 

「っ、ラック……!!」

 

「どうやら、最強が他にいたようだね…!」

 

 

 



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ページ9

仮面とは

 

 

それは演劇などで用いられる道具のこと

 

或いは

 

内面的な物を指す場合もある。

 

 

 

 

「あの子は、道化なんだ。出会ったときから」

 

その人はそう言った。彼女は常に笑顔を薄く浮かべ相づちを打ち、決して本心を見せない。

それは見る人によって印象が違う。

 

 

優しそうなイメージを抱く人や胡散臭いとイメージする人、恐らくそれは千差万別であろう。

 

 

 

 

 

「だって、みんな他人だもん。他人なのに本心を見せて信頼を寄せるなんてバカバカしい。わたしには理解ができない。

 

他人との馴れ合いほどつまらないものはないでしょ」

 

 

 

ーーーー

 

 

 

「この魔力……宝物殿の方、金色の夜明けの3人と交戦中?」

 

「だね、宝物殿なら急いだほうがいいね」

 

とてつもない魔力を感知すればその付近に先程会った金色の夜明けの3人の魔力も感じた。

 

「ユノが戦ってる!?」

 

「多分、先を急ぎましょう」

 

 

アイリスの魔法にアスタとノエルがくっつき、ラックも自身の魔法を発動し、宝物殿へと急ぐ。

 

 

「この先、アスタさん!!」

 

「おう!!!」 

 

魔導書から剣を出すとアスタは敵の攻撃を受けそうだったユノの前に立ち魔法を斬った。

 

「おい、そこの顔色悪いの…勝手に手ぇ出してんじゃねー、ユノはオレのライバルだ!!!!」

剣を構えアスタは敵にそう言った。それを見てアイリスは顔を強張らせる。

 

「危機一髪って感じですかね……(ダイヤモンドの秘密兵器、確かにあの敵の魔道士はそう言ってた。気を引き締めなきゃ…)」

 

 

「追いつけたと思ったら何やってんだユノ、テメーこらぁァァ勝手にやられてんじゃねぇぇーー!!!」

 

「余計なことを…もう少しで倒せたのに……」

 

「ええええ!?ウソつけェェ!ボロボロじゃん!今にも死にそーだったじゃん!」

 

「今から怒涛の反撃が始まるとこだった」

 

「ぜってーウソじゃんんんん!!オマエそーゆートコあるよね

 

しょうがねぇーどっちが先にアイツ倒すか……勝負だァァァ!!」

 

アスタとユノの会話が終わるとそれぞれが動き出す、ラックとアイリスはクラウスのところ、ノエルは怪我をしたミモザのところ、そしてアスタは敵に攻撃を仕掛けようとしている。

 

「ほいっ」

 

 

「はっ!」

 

ラックとアイリスがそれぞれ魔法でクラウスの前に現れた魔法を倒し、槍を片手にアイリスがクラウスに問いかける。

 

「キミ、大丈夫ですか〜?」

 

「私としたことが黒の暴牛に助けられるとは………!!!」

 

ぐぬぬぬぬ、と頭を抱えるクラウスにラックは?を浮かべ、アイリスは「それだけ感情豊かなら平気ですね」とクラウスに向けて言うが当の彼は未だに頭を抱えて唸っている。

 

敵とアスタが会話をしていると敵は唐突に凄まじい数の自身と同じ姿の人形の魔法を発動した。

 

「な……!なんと言う数を同時に……!」

 

「あちゃー………アスタさん!人形は私達が引き受けます!貴方は敵を…!!」

 

「はいっ!!!」

 

「貴様っ!何を…!」

 

アイリスに対してクラウスは噛み付くように言うが、当のアイリスは走っているアスタに視線を向けながら口を開いた。

 

「アスタさんなら、大丈夫。彼の魔法は防げませんから。それよりもこっちはこっちで仕事残ってますよ…!」

 

ようやくアスタから視線を外したアイリスは槍を握り直しそう言った。それに対してクラウスは納得の行かない顔をするが彼はしばらくして戦闘を開始した。

そして敵の攻撃を避けながらアスタは敵に対し一撃を喰らわせた。

 

(強い……!!!)

 

それはこの場にいる全員が同じことを思った事だった。

 

 

「ありえん!魔力が希薄な下民如きがこんな……」

 

「アナタさっきからつべこべうるさいわね!!魔力の無効化……それがアスタの能力なのよ」

 

「無効化……だと……?ただの幸運(ラッキー)で能力に恵まれたってことか……!」

 

幸運(ラッキー)かどうかは…見てればわかるわ!」

 

 

「オイコラァー!もう終わりかコノヤロォォー!!!」

 

アスタの言葉にアイリスは内心ヒヤヒヤしながらも魔道士のページを捲り拘束魔法を発動しようとした瞬間、敵は起き上がり攻撃を仕掛けてきた。突然のことなのにアスタは剣で攻撃を斬っていく。が、敵の魔法の攻撃を喰らった。

 

「アスターー!!!」

 

ユノが叫んだ。すると敵は口を開いた。

 

「何なんだ?オマエは…………!」

 

 

「オレは生まれつき魔力が全くない人間だ」

 

「魔力が全く無いだと!?やはり、運良く能力を得ただけ………」

 

敵の攻撃を喰らっても起き上がったアスタは敵の言葉に対しそう返した。それを聞いたクラウスは嫌味を言っていたが、それは途中で途切れた。なぜなら彼は攻撃によって破れたローブから晒されたアスタの腕を見たからだ。

 

 

「それでも魔法帝になってみせる。それを証明する為にオレは生きている!!!」

 

その言葉にクラウスは息を呑んだ。それは近くにいたアイリスも同様に。

どんな鍛錬を積めば年齢に似合わない筋肉がついた腕になるのか、彼と出会ったときからの疑問の一つだった。

 

人づてながらも、彼は魔法帝になる夢がある。と言っていたそうだ。それを聞いてアイリスは特に何も思わなかった。否思った。魔法帝には到底には成れないだろうし魔力がないのなら諦めて他の道を歩けばいいのに。そう思ってしまった。

 

それはすぐに後悔に変わった。

 

 

目の前でラックを助けるために必死で攻撃を仕掛けた彼を見て一瞬でもアイリスは思ったのだ。 

 

「(彼なら……なれるかもしれない。魔力がないのなら体を鍛えればいい。そう考えたのかな。……私には考えつかなかった………)」

 

 

一生懸命真っ直ぐにひたすら真っ直ぐに走る彼を見て、思ってしまったのだ。

 

魔法帝になれるかも、と

 

 

「何事にも一生懸命なあなたをわたしは尊敬するよ。

アスタさん」

 

 

 



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ページ10

「オレはすべてを壊すだけだ……!」

 

「すべてを壊すだァー!?魔法帝はすべてを守る存在だぞ!!そんなヤツに負けてたまるかァァー!!!」

 

「邪魔だ………消えろ、石コロ!!!」

 

 

「石コロは石コロでもオレはァァダイヤモンドを砕く石コロだ!!!!」

 

 

敵が攻撃を仕掛けるよりも早くアスタの剣の攻撃が早かった。攻撃は敵を気絶させるほどの威力を持ち、同時に敵の魔法の人形は敵が倒れたことにより停止し崩壊した。

 

「宝物殿に行くのはオレ達クローバー王国の魔法騎士団だァァー!!!」

 

 

宝物殿の入り口でクラウスの拘束魔法により拘束された敵の周りを取り囲むアスタたち。

 

 

「動いて大丈夫なの?」

 

「だいぶ回復しましたわ」

 

「うおおお、オレのローブがァァァ」

 

「帰ったらバネッサが直してくれるさ」

 

「これでよし…!」

 

「わたしの拘束魔法じゃあ、縛るだけですしねー」

 

各々が好き放題に喋る空間でユノは目が死んでいる。と、クラウスに対しアスタが疑問を投げかける。

 

「この拘束魔法、大丈夫か?」

 

「大丈夫に決まっているだろうが!手負いの者に解かれるほど脆くなどないわ!それにデイジーさんにお墨付きを頂いた魔法だぞ!」

 

「まぁ、そうカリカリしなさんな。所でデイジーさんって誰だ?」

 

「金色の夜明け団で古参のメンバーに入る実力者ですよ。王都に行く度にわたしにまとわりつく迷惑な方ですけどね」

 

「なっ!貴様、デイジーさんと知り合いか!!」

 

「あんな人、知り合いとは思いたくありませんけどねっ!」

 

心底羨ましいという表情のクラウスに対してアイリスはそっぽを向きながら言葉を放つ。それを見てミモザは既視感を覚え顔色を悪くし、ノエルがそれを見て心配している。

 

「古参ってことは強い人なんすね!!」

 

「そ、そうだ!!あの人の拘束魔法からは誰も逃れなれないのだ!!」 

 

そんな空気の中アスタがデイジーと言う人物に対しクラウスに質問をすると嬉しそうにクラウスが答える。

 

「ハッ!さ、先に宝物殿に辿り着き勝負に勝ったのは我々だが特別に宝物殿に入ることを許そうーーーー!」

 

「何でそんなエラソーなんだこのメガネはァァ!?どーもありがとうございますコノヤロォォー!!!」

 

「(君たち、いちいち大声出さないと死ぬ気病なわけ……)」

 

 

 

「いざ、宝物殿へーーーー!」

 

 

 

と、歩を進めたはいいが

 

 

(どうやって、入るんだろう………)

 

 

 

「おそらくどこかに暗号か何か…………」

 

「ガンバレ!考えろ!メガネ!」

 

「やかましい!」

 

アスタとクラウスがぎゃあぎゃあと騒いでいるとラックが宝物殿の扉を触ると、アスタの方へ向き口を開けた。

 

「この扉、魔法でできてるからアスタ。斬っちゃいなよ」

 

 

 

「うらァァーーーー!!」

 

ラックの言葉通り、アスタが扉を斬ると魔法でできた扉は消滅し、宝物殿の内部が見えた。それはキラキラと光る宝物の山だった。

 

 

「うおおおぉ!!すげぇぇ〜〜〜〜お宝の山だァァァァ!!!!」

 

宝物の山を見ると皆が思い思いに好きな場所へと行き、魔道具を触っている。アイリスはそれを苦笑いで見ながら歩を進める。

 

見たこともない魔道具に視線を向けながら自身は書物を探す。古代の人が残した貴重な書物を持ち帰り解析する。それが本職である魔法騎士団の仕事以外の内容、最も無理のない範囲での労働なのでそこまで苦ではない。

そして、ポツンと置かれた一つの書物を見つけ手に取る。それを慎重に仕舞う。そういえば、と思い炎庭の猫を解除しようとした矢先膨れ上がる魔力を感じ解除を辞めた。

 

「みんな、逃げ…………」

 

ラックの言葉よりも早く拘束されていたはずの敵が魔法で攻撃を仕掛けてきた。ユノ、ラック、クラウス、アイリスは敵の攻撃で身動きが取れなくなった。そして敵は炎属性の回復魔法を使いながら攻撃を仕掛けていた。

 

 

「うそ…!何あの高度な回復魔法は…それに炎属性!?」

 

魔道士には、火、風、水、地の四大原則のいずれかの魔が宿っていてその魔からもしくはそこから派生した属性の一種類しか使うことができない

 

 

 

「(さっきのダイヤモンドの秘密兵器、あれは単に強いから言ってたのかと、でも違う!あの人は…これがダイヤモンドの研究結果ってこと……)」

 

クラウスとアイリスが敵について考えをしていたその時ノエルが水魔法で炎の回復魔法を消そうと前に立った。ただあらぬ殺気を感じて止めようと口を開く

 

「待っ…!」

 

「その炎、私が消すわ!!」

ノエルは敵の攻撃で胸元から大怪我を負い、ミモザの目の前で倒れた。

 

 

「ノエルさん!!」

 

「ノエルーー!!!!」

 

「ノエルさま…!!!」

 

 

仲間を傷つけられたアスタは無我夢中で攻撃を仕掛けよと走る

 

「オマエの能力はわかった、

その剣があらゆる魔法を砕くなら剣より速い魔法はどうだ?」

 

剣で相殺できないほどに速い敵の魔法、それを必死に躱していたが敵の魔法のほうが早くアスタは壁に向かってぶっ飛ばされ壁が崩壊した。

 

 

「アスタさん…!」

アイリスの悲鳴に近い声とミモザの声で敵はアスタから興味を外しミモザとノエルに狙いを変え歩いていく、その間にミモザはノエルに回復を魔法をかけている。それを見てアイリスは敵に向けて口を開いた。

 

「ねぇ!」

 

「何を…!」

 

突然のアイリスの奇行にクラウスが驚きの声を上げる、それを無視しアイリスは敵に向けて話す。

 

「そこ、危ないよ…」

 

何を言っているのかわからないのは味方も同じで訝しげにアイリスを見ている、そうしている間にも敵はノエル達に向けて歩いている。

と、突如敵の足元に魔法陣が出現し、炎の渦が敵を呑み込んだ。

 

 

「引っかかってくれて、ありがとう…!」

 

 

 



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ページ11

「何が起きて…!」

 

(トラップ)魔法、成功ですね…!!」

 

「いつの間に、あんな罠を」

悪戯が成功したかのような笑顔を浮かべるアイリスに流石のユノも驚きの声を上げた。

 

「念には念に、罠を仕掛けておきました。」

 

「だが、成功するかどうかは…それに我々は魔導書を封じられている。あんな高度な罠魔法を」

 

「皆さんが、宝物に夢中な間一定の条件下で発動するように仕掛けました、ただ魔力の消耗も激しいし、足止めにしかならないから状況的にはあんまり変わってないんですけどね…!これがホントムカツク…!!!」

 

心底鬱陶しいと言わんばかりにアイリスはそう吐き捨てる。

 

 罠魔法とは、一定の条件下で発動する魔法のことを指す。最悪の場合を想定し、アイリスは宝物殿に入った直後『敵がとあるポイントまで来たら発動する』と言うアバウトな条件で罠を設置した。ただし、不慣れな罠魔法に加え広範囲に魔法を設置したおかけで回復魔法とこの拘束を解く魔力しか残っていない上に炎庭の猫を今度こそ本当に解除してしまった

 

 

「(クラウスさんの言うとおり、この拘束は魔導書じゃ壊せない、それにもう罠も突破される…!!)」 

 

その考えは当ったのか敵を呑み込んでいた罠魔法は鉱石魔法により跡形もなく消え去り、敵の姿が見えた。

 

 

「オレは一人でいい……オレには強大な魔力があるのだから……魔力のないヤツは弱い……弱いヤツはいらない…!弱いヤツは…………消えるんだ…!!」

 

治療途中のノエルとそれを施していたミモザの前に敵の攻撃が迫ってくる、が、衝撃は来ず代わりにアスタが二人の前に立ち攻撃を斬った。

 

 

「オマエの相手は……オレだァァ!!!!!」

そう言いアスタが敵に向かって走り、攻撃を捌くしかし回復魔法がある限り自分には勝機がない、とアスタが考えていたときノエルがか細い声でアスタに向かって声を出す。

 

「……なにやってるのよ…バカスカ………」

 

「ノエルさん…!」

 

「ノエル…!!」

 

「アンタは王族の私が……認めてあげた下民よ、あんなヤツ……さっさと倒しちゃいなさいよ…アスタ…!!!」

 

 

「おう、任せとけ」

 

 

「どけ……そいつを消してやる…!!」

 

「そんなことさせるかァァ!!」

 

「オレには魔力がない…!!だけどオレには………仲間がいる!!!!」

 

水の魔力の斬撃で敵を攻撃したアスタ、その事実に皆が驚く。本人を含めて

 

 

「((どういう事だ…!?ヤツには魔力が無いはず…!!)」

「(これは……ノエルの魔力を借りた……!?何なんだあの剣は………)」

 

 

敵は敵で必死で攻撃を止めようとするが歯が立たずまともに攻撃を喰らった。

 

「へへ、よくわかんねーけど、やったぜ…………!!」

 

アスタは途中で自身の異変に気づいた、腹部に刺さる敵の魔法の破片が刺さり血を流す。そうして彼はそのまま倒れてしまいノエルが彼の名を叫んだ。

皆がアスタが倒れたとことに驚く間もなく敵はノロノロと起き上がってしまう。

 

「ダメだ……オマエみたいな甘いヤツが……オレに勝ってはダメなんだ…!!死ね…!!」

敵の攻撃に対しこちらは拘束それ身動きができず何もできない、しかし無情にも敵はアスタを殺そうとする

 

「(ヤツの炎回復魔法は先程の斬撃で解除されている…!今なら止めを指せるというのに……!!)」

 

「(もう少し…!もう少しでこの拘束を解ける…のに………!!)」

 

「(仲間なんでしょう…!あと少しでこの魔法を解けるのに……これじゃ…!!)」

 

(((間に合わな…………)))

 

 

振り下ろされる剣に対して間に合わない、追いつけない、しかしユノだけは無理矢理拘束を解いた。

 

「アスタぁぁーーー!!」

 

 

 

「(オレの魔導書のどの魔法を使っても間に合わない……こんなところで……死なせない!!!!)」

 

 

ユノの気持ちに答えるかのように小さな女の子が現れ、そして息をふぅと敵に向けて吹きかけるととてつもない威力の攻撃が敵を襲った。壁にはクレーターが出来敵はそのまま気絶した。

 

 

「ユノがやったのか…!?一体何を……!!」

敵が倒されたことにより拘束魔法が解け3人は開放された。

 

「今度こそ、倒した…!!」

 

「何なの、あのデタラメな強さは……(これがダイヤモンドの力、これに毎回手間取ってちゃクローバー王国は負ける……)」

 

 

ユノとアスタの魔導書にはそれぞれ新しいページが追加された、それ自体は喜ばしいのだが…。魔宮全体が地響をお越し、亀裂が地面を走り始めた。

 

「ミモザ…!私はもういいから…アスタをお願い…!」

 

「は、はい!」

 

ミモザはアスタの治療のために走り出すその瞬間、浮いていた岩が崩壊を始めた。

 

「これ……は…!!」

 

「魔宮が……崩壊する…!!」

 

 

風創成魔法 “天つ風の方舟”

 

「みんな乗れ…脱出する!!」

 

ラックがアスタを抱え、アイリスがノエルを運びユノの魔法が浮上を始めた。アイリスはノエルの側で治りかけのケガを見た。

 

「ノエルさん、まだケガを…!」

 

「アスタ程じゃないわ、平気よ…」

 

「いえ、ケガを甘く見ないでください!!」

 

炎回復魔法 “燈灼ノ城”

 

ノエルを包み込むように薄い膜が張られノエルを治療し始めた。

 

「これは回復魔法…?」

 

「はい、ミモザさんよりは劣るけどこのケガなら治せますっ」

 

安心させるために笑うアイリス、その隣では治療をしているアスタがいる。アスタは辛うじて残っている意識で敵である筈の彼を心配する旨の言葉を発する。

 

「あ……いつを……」

 

「喋らない方が……!」

 

「…アイツも助けてやってくれ………」

 

「な…何を言っているのだ!?ヤツは我々を殺そうとした敵国の者だぞ…!?」

 

「……オレ達は……魔宮を攻略しに…来たんだ…敵を……殺しに来たんじゃ……ない……」

 

それだけ言うとアスタは寝息を立てて寝てしまった。ユノがこちらに向けて視線を向けるがアイリスは「ムリ」と言う意味で視線を向けて首を振る。それだけで頭のいい彼は前を向いて魔法を進ませた。

 

「もうムリだ!間に合わん……行くぞーーー!」

 

しかしクラウスの声も虚しく魔宮は崩壊を始めどこへ行けばいいのかわからないほど崩壊が進んでいた。

 

「右だよ…!!僕が案内する!!」

 

「はい!」

魔力感知が得意なラックの元ユノは魔法を操作する。崩壊する瓦礫がアイリス達を襲うが、それを前に立つクラウスとラックが魔法で壊す。

 

鋼創成魔法 “旋貫の激槍”

 

雷魔法 “迅雷の崩玉”

 

 

 

((((絶対に………アスタを……死なせまん………!!生かしてここから出る…………!!!!))))

 

 

 

 

 

 

 



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ページ12

「助かったーー………!!」

 

ドゴォン、と言う破壊音と共に彼らは脱出を果たした。ユノの指示のもと安全な場所へ運ぶ。運んだ先ではミモザの治療の甲斐あってアスタは意識を戻した。

 

「あいたたた………」

 

「フン、無事ならいいのよ、バカスカ」

 

「信じられませんわ、とんでもない回復力」

 

「丈夫なとこだけがコイツの取り柄だから」

 

「何だとユノぉ〜〜〜!他にも何か言うこといろいろあるわぁぁ、いででで」

 

アスタの同期が思い思いにアスタの無事を驚き、安堵するのをクラウス達は微笑らしく見守っている。

 

「魔法帝になるまで死んでたまるか…!」

 

「魔法帝になるのはオレだ…!」

 

誓いの言葉のように言う二人にクラウスが声を掛け近寄る。また小言を言うのでは…と心配をする周りをよそに彼は距離を詰めた。

 

「オマエら……」

 

 

「クラウス先輩」

 

「本当に………

 

すまなかった!!」

 

そう言いながらクラウスは二人を抱きしめた。そのあまりにも彼らしくない行動にミモザは手で口元を押さえ、残り3人は口を開きポカンとしてしまう。

 

「下民だのとオマエらを認めなかった自分が恥ずかしい…!!オマエ達はクローバー王国の素晴らしい魔法騎士だ…!!」

 

 

「メガネのダンナ…イタイ…」

 

「先輩、暑苦しいです…」

 

クラウスの渾身の叫びはどうやら後輩たちには届かなかったらしくそれぞれ的はずれな言葉を口にした。それに対しクラウスはやはりと言うか反論を繰り広げ、それはやがて周囲を巻き込んで行った。

 

「よし……」

 

 

それだけ言うとアイリスはいるであろう人物を探す。先程感じた魔力、あれはシスコンを拗らせた金色の団員のモノだ。うろうろと瓦礫の山を器用に歩き進める、お目当ての団員は瓦礫の山に行儀悪く胡座をかいて座っていた。それを視認しアイリスは彼に向かって口を開いた。

 

 

「金色の…それも古参の方がこんな外れの魔宮に何か御用でしょうか…?」

 

「ん…?やぁ、アイリス」

 

「ご質問にお応えください、デイジー・ハーミィ殿」

 

「そんな硬っ苦しく呼ばないでくれよ、愛しの妹よ」

 

あぁ…どうしようどこかのナルシストを思い出して腹が立ってきた。

 

そんな彼女の思考に気づかない彼にアイリスは更に腹が立ってきた。最早やけくそでアイリスは叫んだ。

 

「あぁーー!!貴方がどうしてここにいるのかこの際知りません!こちらには重症者がいます、ついてきてください!!!」

 

「そうか、案外してくれ」

 

真面目な回答をしたデイジーにアイリスは意表を突かれるが「こちらです」と言い彼を案内する。未だ賑やな談笑の声がしている彼らの元へつくと初めにクラウスが反応した。

 

「デイジーさん、どちらにいらしたのですか…!」

 

「やぁ、クラウス。任務達成おめでとう」

 

柔らかな笑顔を貼り付けた彼はクラウスに言う。その隣に座るミモザとユノに対しても彼はにこやかに言い、次にノエルとラックに向けても同様に、そして最後にアスタに視線を向けた。

 

「キミが黒の暴牛の新人か。始めまして、デイジー・ハーミィだ。クラウス達と同じ金色の夜明け団所属の団員だ。」

 

「金色の…ってことはユノの先輩ってことですかぁぁ!?」

 

「そうだね、今年は優秀なこたちが沢山入ってくれて嬉しいんだ。さて、アイリス。君の言う重症者はそこの彼だね?」

 

アスタが下民だとすぐに気づいていたはずなのにデイジーは顔色一つ変えることなくアスタに接し、そして怪我人を確認した。

 

「…あ、はい。そこのアスタさんとノエルさん、他はみんな軽傷なので…自然完治でも問題ないと思います。」

 

「報告、ありがとう。これより金色の夜明けはアジトへ戻り休息取り次第報告書を纏め提出してくれ。黒の暴牛の諸君、君たちはどうする?」

 

「わたしたちもアジトへ戻ります」

 

デイジーはクラウス達に支持を飛ばし、アイリス達に視線を向けるとそう言った。それを聞きアイリスは即答するとデイジーは笑いながら魔導書のページを捲る。

 

炎創成魔法 “業火ノ白鷺”

 

綺麗な白鷺が現れ、軽々とアイリス達を乗せる。乗せ終わるとデイジーがトントンと白鷺の体を叩く。すると白鷺は羽を広げ天空を飛んだ。

 

 

天空を飛ぶ白鷺の先頭にはデイジーが真ん中にはアスタ達がそれぞれ天空の旅を満喫していた、中々味わえない空の旅をアスタは「うおおぉぉぉ!!」と叫んでいるとクラウスが「傷に触るぞ」と注意をしてそれを他の面々が楽しげに見ている。団の垣根を超えて楽しむ彼らを横目にアイリスは前にいるデイジーへと話しかけた。

 

「デイジーさん、どうして今回貴方はここにいらしてたんですか、」

 

「ん?」

 

「答えて…!いっつもわたしを追いかけ回して、何がしたいんですか!」

 

泣きそうな、しかしどこか悔しそうな表情で自分を見るアイリスにデイジーは心の中で悔しさを滲ませる。これが自分たちが招いた行いの結果なのか、と同時にもう自分を許していいのだ、と彼女に向き直り微笑んだ。

 

「妹に似ている、と最初に言っただろ?いい加減君も気づいているはずだ、オレと君は血の繋がった兄妹だと…」

 

「さぁ…ね……知らないよ…貴方なんて」

 

 いつもとは違うデイジーの言葉、軽はずみな言動と突拍子もない行動で煙たがっていたが彼が自分の兄だと言う事実は昔から気づいていた、気づいていながらそれを事実だと認めなくなかった。認めたら今までの悔しさ、怒り、悲しみ、その感情の行き先を失ってしまう、そういう自分の我儘がもしかしたら彼を悲しませていたかもしれないと今になって気付いてしまった。

 

 

デイジーに背を向けアイリスはそう口にした。

それを聞きデイジーはにこやかに笑うと纏まった彼女の髪を強引に撫でた。纏まっていた髪はデイジーが触ったおかけでリボンが取れデイジーの手元に落ちオレンジの綺麗な髪は風に揺られはためている。

 

「兄さまは…昔から強引だよ……」

 

ポツリと溢れた声は気づかないふりをしよう、リンゴのように真っ赤な妹の姿を

 

 

 

ー ー

 

 

 

「ここでいいわ」

 

そのノエルの言葉でデイジーは白鷺の体をトントンと叩き停止させた。優雅な天空の旅は終わりを迎え白鷺は地面へと足を付いた。

暴牛のメンバーは白鷺から降りて別れの言葉を言ったあと、白鷺は地から足を離れ再び天空へと舞い戻った。

それを見送り彼らは黒の暴牛のアジトへと入った。

 

 

いつものメンバーがいつものように寛ぐのを見て彼らは家に帰ってきたかのような安心さを貰う。

 

「あ、おかえりぃ〜〜」

 

酒瓶片手にバネッサがソファから身を乗り出し、チャーミーが「おかえりなのら〜〜」と言いながら自身の魔法で料理を作り始め、マグラが「お前らァー!よく帰ってきたなァァ!!!」と叫び、ゴードンが聞き取れないくらいの声でブツブツとグレイがプシュゥゥと巨漢の体で立っている。

 

 

「アイリス!!」

バタバタと騒々しい音を立てながら彼は階段を降りてきた。あまりの騒々しさに周りの面子も顔をしかめる。やがて騒々しさの原因は姿を表しこちらの様子を見ると抱きつく勢いで走ってくる。

 

「フィンラル……」

 

アイリスの口から己の名を聞くと彼は走り出し彼女に抱きついた。フィンラルがアイリスに抱きつくのを彼らは日常の光景の如く普通に見ていると新人二人は「はっ?」と言いたげな目で周りを見る。

 

「アイリス!!心配したんだ…!」

 

「フィンラル……い、痛いってば」

 

「あ、ご、ごめん……」

 

どうやら力いっぱい抱きしめていたらしくアイリスから苦情を言われたフィンラルは早々に彼女を離した。その横でアスタとノエルがバネッサに詰め寄っている。

 

「ちょ、ちょっと、あの二人付き合ってるわけ!?」

 

「え、えぇぇえええ!?マジっすか!?」

 

「違うわよ。あの二人あんないい雰囲気出してるけど別に付き合ってないわよ。アイリスが黒の暴牛(ウチ)に来てからあんな感じなのよ、ていうか、毎回アイリスが任務から帰ってくるとあんな感じだからいい加減付き合いなさいって感じなのよねぇ…」

 

新人二人に説明をするバネッサは明後日の方を向きながら酒瓶をグビッと飲み干す。納得の行かない顔の二人は目の前でバネッサが戻しているのを見て退避を開始した。

 

途端にカオスな状況に陥るアジトでチャーミーが「ご飯、できたのら〜〜」と場違いな感じで現れた。

 

 

 



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王都襲撃編
ページ13


1週間後

 

 

「アイリスさん、そろそろ休憩を入れませんと」

 

「いえ、これが終わったら休憩を入れます」

 

王都、それも魔法騎士団の本部にある一室で大量の書物に囲まれメガネを掛けた一人の少女が1週間その一室に引きこもり古代文字と格闘していた。

 

 

 

 

カオスな暴牛アジトにこれまたカオスな人物が現れた。その名もヤミ・スケヒロと言う。

 

またの名を破壊神の異名を取る彼は帰還してきた4人に向け「お疲れさん」と言いアイリスの頭を掴むとフィンラルに空間、出せと迫った。

 

何をされるのか見当がつかない一同にヤミが「コイツの力が必要なんだと」と一言いい開かれた空間に投げ飛ばした。空間の転移先は最早見慣れてしまった国民の憧れ魔法騎士団本部。

 

そこの一室に数年前から使っている部屋がある、最早彼女だけの部屋と言ってもいいその部屋には数人の人間が頭を抱え彼女の姿を見て喜んだ。曰く、自分たちでは解読不明な古代文字に苦しめられ助けを求められたと言うこと。

 

 

 7割型終わり、部屋にはアイリスと魔法帝の側近、マルクスがいる。無言の空間にペンを走らせる音だけが響く部屋にとてつもない音を纏わせながらその人物は入ってくる。突然の訪問者にマルクスは座っていた椅子から立ち上がり警戒するがアイリスは無視を決め込み口を開いた。

 

「なんの御用でしょうか、デイジー兄さま」

 

「アイリス、今日暴牛の子たちやクラウス達が魔法帝に魔宮の報告をするんだ。で、その後戦功叙勲式をするのだが来ないか?」

 

兄の来訪に進めていたペンを止め、振り返る。その顔には不機嫌です、と書いてある。

 

「黒の暴牛は出ないけど、なんでよ」

 

「いや、その…式にはレオが来るんだ。」

 

「うわぁ………まじで?」

 

「大真面目だ、式の前にこの部屋に来るとフエゴレオンさんが先程言っていてな。恐らくもう来るだろう………」

 

兄妹の会話にマルクスは入る気がないのか、視線をそれぞれの団から来た報告書に戻し、開けられっぱなしの扉はそのままになっている。先程から何やら騒々しい音と感じたことのある魔力にアイリスは頭を抱える。

 

「アイリスはここかぁぁぁぁ!!!」

 

叫びながら入ってきたのは紅蓮の獅子王団団長の弟で王族ヴァーミリオン家の一人、レオポルド・ヴァーミリオンだ。自身の名を叫びながら入ってくる辺り用事があるのかわたしだろ、と早々に逃げることを諦めた。

 

「なんのよう、レオ」

 

「おぉ!我がいとこアイリスよ」

 

彼の強引な行いには慣れているのかアイリスは椅子から立ち上がる。1週間前、目の前の人間を兄と改めて認識したあと諦めたのか、はたまたけじめなのか彼女は訪れるいとこや同僚たちに以前のような冷たい目を向けず話すようになっていた。その事実にデイジーは感極まっている。その目が若干潤ってるのは恐らく幻だろう、いい年した男が泣くとかキモいので。

 

 

「これから戦功叙勲式なのだが、お前も来い!!」

 

レオポルドが部屋を訪れた、いや訪れる前から言われるであろうと予想していた言葉にアイリスはため息をついて「わかったから、ちょっと待って」と言い片付けをし部屋を出た。

 

 

「そう言えば、ミモザは金色の夜明けに入っと聞いた、この前の任務で一緒だったのだろう!どうだった」

 

「元気にやってましたよ、仲間とも仲がいいみたいで任務もちゃんとやってましたよ。まぁ、予想外なことだらけでしたけど……」

 

「おぉ!それと黒の暴牛には面白そうな奴が入ったんだと耳にした!」

 

前を歩く赤のコートに黒のローブを着た少女と紅蓮のローブを着た少年が楽しげに話すのを見てデイジーは過去を懐かしむように見ていた。幼い頃はよく二人で追いかけっ子をし彼の姉に一緒になってしごかれていたのを思い出す。

 

ヤベ、思い出しただけでなんだが気分が悪くなってきた。

 

 

そう言えば、と思い出す。1週間前は暴牛のローブを着ていた妹だが今はローブの下に赤のコートを着ている。何かあったのだろうか。それは妹の隣を歩くレオポルドもだったらしく彼女に問い掛けている。

 

「アイリスよ、以前会った時はコートなど着ていたか?」

 

「家的には、追放されてるけど……まぁ一応……わ、わたしも家の1人なのかなぁ…って貴族だし……」

少し困ったように笑うアイリス、その質問の問いはあまり予想していなかったらしくレオポルドは「なるほどな…」と首を縦に振り自分は、というと彼女に詰め寄った。

 

「アイリスのその格好、似合ってるからやめないでくれ!!!」

 

「来るな!!!!兄さまのバカーーーッ!!!!」

 

 

 突然現れた兄の姿と自分に詰め寄り話しかけるデイジーを見て思わずアイリスは炎魔法 “焔の円爆”で彼に攻撃をしてしまった。ハッ、と気付いたときには口から煙を出していた、がそれも一瞬で彼は頭を横に何回か振ってすぐに元通りになった。

 

((うわ、気持ち悪い…))

 

 

いとこ同士、同じ思考だった。

 

 

 

「お前たち、何をしている」

 

この収集がつかない空間に凛とした声が前からした。

その声を聞きレオポルドがいち早く反応し、「兄上!」と嬉しそうに言った。

 

「フエゴレオンさん、すみません。妹に会えて羽目を外しすぎました。」

 

「そうか、アイリス。久しいな」

 

途端に纏う空気が変わるデイジー。言ってることがアレなので今すぐ蹴飛ばしたい衝動に駆られた。が、フエゴレオンに話しかけられ慌てて背筋を伸ばした。

 

「は、はい。フエゴレオンさまにお会いできて光栄ですっ!」

 

 

裏返ってしまった声に隣にいるレオポルドが豪快に笑い、アイリスがそれに対し噛み付く、

彼らが幼い頃、よく見た光景だ。と兄たちは感慨深くなる。が時間が時間なので急ぎ部屋へと向かった。

 

 

戦功叙勲式をやるための会場には式に参加する団員とその団の団長が集まる仕来りだ。

ほぼ全員が実力者の集まりのこの空間にあとは魔法帝、ユリウス・ノヴァクロノが来れば式は始まる。

 

 

「あれは黒の暴牛、あんな野蛮な所がなぜ来ているんだ」

 

「今日も黒の暴牛は来ないはずじゃなかったかしら?」

 

魔法帝を待つ間、参加団員がアイリスを見るやいなや嫌味を彼女に向けて言う。当の本人は気にしていないのか済ました顔でその場に立っている。

 

「気にしていないのか?」

 

「別に、あんなの言わせておけばいいよ」

 

レオポルドの問にアイリスが淡々と答える。感心するレオポルドを見て何も変わってはいないなぁ…としみじみしていると閉じられていた扉が音を立てて開いた。

 

 

 

 

 



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ページ14

等級

 

クローバー王国の魔法騎士にはその者の実力を示す「等級」がある。等級は魔法帝をトップに大きく五つに分けられ、その中でさらに一等から五等の五つに分けられる。年一回開催される叙勲式の際までに規定数の星を取得していると等級が上がり、魔法帝より新しい等級が授与される仕組みとなっている。

 

黒の暴牛は、もれなく全員、最低の五等下級魔法騎士である。

 

 

「では、戦功叙勲式を始めよう…!」

 

「星取得数7、紅蓮の獅子王団。レオポルド・ヴァーミリオン!!君にニ等中級魔法騎士の称号を授与する!!

兄である獅子王団団長と同じく君の炎魔法の威力は圧倒的だね〜〜〜!やりすぎには要注意かな」

 

「悪に容赦など必要ありません」

 

 

「星取得数6、碧の野薔薇団。ソル・マロン!!三等中級魔法騎士の称号を授与!!男性に負けない行動力と独創的な土魔法は凄いけどちょっと自由すぎるかもね!!」

 

「私を縛れるのは姐さ……………団長だけです」

 

 

「星取得数9、銀翼の大鷲団。ネブラ・シルヴァ。五等上級魔法騎士の称号を授与する!!君の霧魔法でつくる巧みな幻はすごいね〜!ただその幻で敵を必要以上に弄んで噛みつかれないようにね」

 

「ご忠告有難うございます…フフ」

 

 

「星取得数6、銀翼の大鷲団。ソリド・シルヴァ。三等中級魔法騎士の称号を授与する!!魔法の操作性の高さは流石だけどあんまり自分の力を誇示せずまわりと協力できるともっと良いんだけどね!」

 

「肝に銘じておきます…クク」

 

 

「星取得数11、金色の夜明け団。アレクドラ・サンドラー。四等上級魔法騎士の称号を授与!!君の勤勉さと柔軟な魔法には驚かされるよ!たまには肩の力を抜いてみてもいいかもね!」

 

「有難きお言葉!」

 

 

「星取得数8、金色の夜明け団。シレン・ティウム。一等中級魔法騎士の称号を授与!!雄弁に語る君の魔法とは裏腹に無口な君はもう少し自分の意思を口に出せたら尚グッド!!」

 

「………御意…………」

 

 

「星取得数7、金色の夜明け団。ハモン・カーセウス。二頭中級魔法騎士の称号を授与!!見た目からは想像できないあの魔法にはさぞかし敵も面食らったろうね!!」

 

「感謝でございます。オホホホ」

 

 

「みんな、大義だったね。さて、これから簡単な席を設けてるから楽しんでいってくれ

あ、そうそう…今日は特別ゲストも呼んであるから大いに交流してくれたまえよ!」

 

 

魔法帝による団員の式が終わると彼は参加した団員たちに対してそう言った。魔法帝の言葉によって参加団員たちは揃ってこの場には似つかわしくない者たちに視線を向けた。

 

 

「「はぁ………」」

 

デイジーとアイリスは揃ってため息を吐くと魔法帝は「用ができたから抜けるね〜、みんな楽しんでねくれ!」と言い残し後にした。

 

 

「せっかくの式なんだ、どれが食べたいんだ?」

 

「では、軽いものを」

 

デイジーは皿を片手に食べ物を取りに行く。

 

「ノエルさん、この果物美味しそうではなりません?」

 

一人浮かない顔のノエルに声を掛けるアイリス。声を聞いてノエルははっと顔を上げた。

 

「あ、アイリス!あなた、一週間もどこにいたのよ!」

 

「野暮用ですかね…今兄が食べるものを取りに行ってるので来たら分けませんか?」

 

「しょ、しょうがないわね!私は王族だから許してあげるわ!」

 

照れるノエル、それを見て笑うアイリス。横ではアスタがガツガツと食べ物を食べている。

 

 

「卑しい下民が…!」

 

「なぜ魔法帝はあのような低俗な者を……」

 

「まったく魔力を感じない……魔宮攻略も運が良かったにちがいない」

 

「なんと汚い食べ方…オホホホ」

 

「ここにいることが不自然だ。場違いなネズミめ」

 

金色の団員が口を開くと次々とアスタへと向けられた言葉が彼を襲う。が、当の本人は然程気にしてはいないらしい。

 

「うーーん、散々な言われようですな。まぁ、もう慣れてるけど」

 

 

「下民なら貴殿らの団にもいるではないか

 

四つ葉の魔導書を持ち祭り上げられ図に乗っている下民がな………!」

 

 

 

「レオ……何やってるのよ…」

 

「アイリス、戻ったぞ…ってやっぱりこうなるか」

 

「だから、来たくなかったのよ」

 

皿に料理を盛り付け帰ってきたデイジーはその場に流れる空気に小言を漏らしながら皿をアイリスとノエルに渡す。

 

「え…わたし」

 

「あなたにもと思いましね。妹はあなたと食べたいようなのですが」

 

「ノエルさんも一緒に食べませんか?」

 

「いや、この空気で…?」

 

空気の読めない彼らにノエルは思わず突っ込んてでしまう、横ではレオポルドと金色の団員、アレクドラが睨み合っている。

 

「先の魔宮攻略任務……オレの方が上手くやれた!」

 

「大した自信だな……紅蓮の小僧。別に我々はあのような下民に期待などしていない、ヴァンジャンス様の……金色の夜明け団の理想を体現するのは我々だ………!」

 

 

「お言葉ですか……」

 

「オマエもだ、クラウス!オマエ程度の実力の者がここにいて恥ずかしくないのか」

 

「はっ…」

 

「ミモザ!オマエは魔宮では早々に負傷し戦線から離脱したそうだな。王族であるヴァーミリオン家の者が笑わせる……!」

 

「申し訳ありません……!」

 

 

「そしてオマエが一番気に食わない!」

 

クラウス、ミモザと立て続けにアレクドラは二人の事を罵倒すると彼はアイリスを指差しこう言った。

 

「王族でも貴族でもない貴様がなぜデイジーさまと親しくしている!!!おまけにこの騎士団本部に出入りしているだと!?自分の身分を弁えろ!!黒の暴牛の娘!!」

 

「(まぁ……前々からそう思う人は結構いたよね。わたしが言ったところで誰も信じないだろーし。ここは穏便にっと……)……」

 

ニコリと無言で微笑む。それだけでアレクドラはグッと押しだってしまう。得体のしれない化け物が何も言わずにそこに鎮座している、そういう風に感じてしまうのだ。

 そんな事を考えてしまったアレクドラの目の前ではアイリスの隣にいるシスコンが今にでも飛び出しそうな勢いなのをアイリスが彼の靴を踏んでギロリと睨んだ。

 

「少しは抑えて、こんな所で問題を起こしたら大変だよ」

 

「あ、あぁ……わかってはいるんだかな」

 

アイリスの言葉にそう返すデイジーだが、何かに警戒しているのかその顔はいつものおちゃらけた顔ではなく眉間にシワがよっており、アイリスは驚き顔をしかめてしまった。それを見てデイジーが慌てて「すまない」と言うのと同じタイミングでノエルに向かって嫌味たっぷりの声が聞こえた。

 

 

「ククッ…、いやいや一番の場違いな役立たずはァ〜〜オマエだよなァァ〜〜〜??なァァ、ノエル〜〜〜。魔力の操作(コントロール)もロクにできない前代未聞の恥晒しがよォォ〜〜〜!」

 

「ソリド……兄様……」

 

 

「シルヴァ家から追放同然だったっていうのによくノコノコと王貴界に戻って来られたものねぇ……!」

 

「ネブラ姉様………」

 

 

「一回程度の成功で舞い上がってわざわざシルヴァ家の名に泥を塗りに来たのか……?この場はお前に相応しくはない。去れ、出来損ないめ…!」

 

「ノゼル兄様」

 

ノエルの兄、姉が彼女に向かってそう言う。それを聞きノエルはだんだんと顔を青くさせ長兄のノゼルの言葉に彼女は振り返り来た道を戻ろうとする。が、その腕をアスタが捕まえこう言った。

 

 

「こんなヤツらから逃げる必要ねー………!!」

 

「アス……タ」

 

「こんなところに呼ばれるくらいだからスゲー奴らだと思ったのに他の奴らと変わらねぇじゃねぇーか…!!!」

 

この場にいるのは大半が貴族か王族である。対して彼は最果ての村出身の下民、それも魔力が全くない下民(アスタ)。そう、普通なら怯えて逃げてしまうかもしれないのに彼は貴族に対して声を上げた

 

「相応しいとか相応しくないとか知るかーーー!見とけよ、オレは必ず………」

 

砂拘束魔法 “砂の匣”

 

アスタの声は続かなかった。代わりにアレクドラの拘束魔法が彼を拘束した。

 

「そこまでた、不届き者めが……キサマは喋ることも許されない。黙れ……!」

 

アスタの武器は魔力を消費して魔法を放つことではない、アスタの武器は魔法を打ち消す剣だ。

ズッ、と剣を振り回し拘束魔法を解いたアスタは高らかに宣言した。

 

 

「黙らん!!!!!」

 

「コイツ……!?」

 

 

 

「いいか、コンチクショー!オレは必ず“実績”を積んで……魔法帝になってオマエら全員黙らせてやる!!!!」

 

 



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ページ15

「魔法帝に……なるだと……!?」

 

そう高らかに宣言したアスタだが彼を知る人間、特にクラウスは顔にバカモノ、と書いてある。横にいるユノは「やっぱり……」と口にしミモザは驚きの表情を顔に出し、デイジーは呆れ、アイリスはニコニコと笑っている。

 

「(面白いなぁ…アスタさん。けど、プライドの塊にとっては結構屈辱的かな……)」

 

隣のデイジーと目配せし、いざという時に助けられるように準備をする。

 

「クッ……クク……クククク」

 

「フフフ」

 

 

「「「笑わせるな!!!」」」

 

ソリド、アレクドラ、ネブラはそう言うと魔法を発動させた。

 

水拘束魔法 “海蛇の巻縛”

 

霧拘束魔法 “霧蜘蛛の縛糸”

 

蛇の形をした水魔法と細かい蜘蛛の霧魔法がアスタを襲うが剣でそれを斬る。それを見てアレクドラは拘束魔法ではなく創成魔法でアスタを拘束した。

 

砂創成魔法 “砂剴の番兵”

 

砂の鎧がアスタを拘束した。ハっとしアイリスはデイジーを見ると彼は柔らかな笑顔を浮かべ頭を撫でてきた。

 

「兄さま、アスタさんが…!」

 

「いいから、後輩を信じろ。アイリス。仲間だろ?」

 

「でもっ……」

 

「大丈夫。彼は平気だ」

 

なんで、そんなに信頼できるの……。喉まで出かかった言葉を飲み込みアスタを見る。

 [仲間なんて、結局他人じゃないっ!!]

仲間も、友人も、家族だって結局はどこまで行ったって『他人』だ。それを同じ騎士団の仲間、という認識のアイリスとは違い彼らは仲間というくくりの上に新たなくくりを作り『家族』のように接してくる。

それが昔から苦手で、一線を引いてきた。

 

 

 

 [仲間だ!!!!]

 

 [オレも勝手にアンタを助ける!!!一人になんかさせるかァァァ!!!

アンタがオレをどー思ってても知らん!!アンタはオレの仲間だ!!!]

 

あの時、彼はそうラックに対して言っていた。それはまるで自分(アイリス)に対しても言われてるかのように感じてしまった。

 

 

 

「わたしはっ……」

 

少しは歩かなきゃ。そう思ってもすぐには動き出せないかもしれない。けど、

 

「お前の気持ちも…少しは分かる。けど、彼はお前と一緒の団の仲間だろ?今すぐにとは、言わない。けど、信じろ」

 

「はいっ……!!」

 

 

頑張らなきゃ、と思う。

 

だから、まずやらないといけないのは…

 

すっ、と手をかざす。誰にも気づかれない程度に魔力を絞る。

 

「オイオイ〜〜〜、何生温いこと言ってんだ金色さんよォォ、こういう図に乗ったヤツには身体に覚えさせないとなァァ。二度とおいたできないように………!」

 

水創成魔法 “聖水の凶弾”

 

 

砂の鎧に拘束されたアスタにソリドが水の弾を創り攻撃した。それを見てノエルが「アスターー!」と叫ぶが、アスタは魔導書からもう一つの剣を出し聖水の凶弾をソリドに向かって跳ね返した。

 

「ノエルに……謝れ!!!」

 

自分の魔法を喰らったソリドはそのまま地面に叩きつけられる、と皆思ったその時アイリスはかざした手を握りソリドを炎の渦が拘束した。拘束された本人はキッとアイリスを睨む。深呼吸をし、ソリドを睨む。

 

「グッ……!これは貴様か!!」

 

「王族ともあろうお方が下民一人に対してそこまでムキになる必要性あります?」

 

「貴様っ!!この拘束魔法を解け!!」

 

「あら、わたし今拘束魔法なんて使ってないですよ。まぁ……魔法帝が折角設けて下った場を汚したあなたたちはこれから先大変そうですね。」

 

「(確かに、魔導書なしの拘束魔法だけでもそこらの魔法騎士よりかは腕が上がっている。さて、どう止めるか……言ったオレも同罪かな…これ)」

 

「これ以上わたしの仲間に対して手を上げるのでしたら、わたしもそれ相応の対応を致します」

 

 

「この下民風情共がァァーー!!!!」

 

 

スッ、と表情が消えソリドに言う。彼はそれだけでぶるりと震え叫んだ。彼は拘束されている中で魔法を発動しようとし、アスタも来る攻撃に構えた。その瞬間、空気がピリつく程な圧倒的なオーラが場を支配する。

 

「ソリド」

 

 

「(あの方は……)」

 

 

「ノゼル……兄様……!」

 

「下民如きにそう容易く魔法を使うな……!王族に逆らいし下民。どう捌いてやろうか」

銀翼の大鷲団 団長ノゼル・シルヴァ

 

「そこまでにしておけ……!少年一人に恥ずかしくないのか……!?シルヴァ一族よ……!!」

紅蓮の獅子王団 団長フエゴオン・ヴァーミリオン

それまで傍観していた団長二人が対立するかのように向かい合い会話をする。のと同時に安堵のため息を吐く人間もいたりする、ミモザも安心するかのようにフエゴオンの名を呼び、クラウス達はほっとした顔になる。

 

「フエゴレオンさん…!」

 

 

「ミモザとアイリスから聞いて追った通り、貴様なかなか面白いではないか…!よし、喜べ!!このレオポルド・ヴァーミリオンのライバルにしてやろう!!」

 

「へ……」

 

「ヴァーミリオン……」

 

「ええ、フエゴオンさんとレオポルドさんは私の従兄ですの。」

 

ヴァーミリオン、という名に反応したユノにミモザが答える。周りは周りで言いたい放題な状況になった。

 

「やっぱり男ってバカですね!姐さん!」

 

「はしたないぞ、ソル」

 

「すみませんっ、姐さん!」

 

「団長と呼べ、ソル」

 

「すみませんっ!」

 

「騒々しい方ばかりですね、まったく〜、オホホホ」

 

「………」

 

 

「ユリウス殿がこの場にいることを許した者だ、下民とは言えど多少は認めてやってもよいのではないか?」

 

「…まさか王族のものからそのような言葉が出るとはな……ヴァーミリオン家もお優しくなったものだ。天空を舞う鷲が地を這う虫ケラをどう認めろというのだ……?」

 

 

 

和やかな空気が流れる中で団長二人は未だに殺伐とした空気を醸し出している。壁が、窓が悲鳴を上げるかの如くガタガタと揺れ一切の言葉を放つ事もできない空間がそこにはあった。さて、どうしたものか……とデイジーが考えていると外から扉を壊す勢いで一人の魔道士が入ってきて、こう言った。

 

 

「たっ…大変です!!!王都が、王都が襲撃されています!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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