【完結】がっこうぐらし!RTA/卒業生チャート+α (兼六園)
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【完結】高校編RTA【全員生存】
甲の回 前


 はーいよーいスタート(棒読み)

 

 手洗いをサボったら人類が絶滅寸前に追い込まれたゲームのRTAはーじまーるよー。前作『まちカドまぞく/陽夏木ミカン攻略RTA』を読み終え高評価を入れて感想を書いてくれてるであろうクソホモの皆さんこんにちは。

 

 今回からは数多のホモを失踪に追い込んだ魔のホラーアクション恋愛ゲーム『がっこうぐらし!』を走っていこうと思います。

 バグ・グリッチ無しに加えて学園生活部の四人+淫ピ生存のまま高校脱出を行う比較的オーソドックスなRTAで、計測はキャラクリエイトを終わらせて『はじめる』を押した瞬間から高校脱出後に画面が暗転した瞬間まで。

 

 それではキャラクリを始めましょう。既存・DLC配信のキャラを選択してもいいのですが、今回は一から作ります。年齢は二十で性別は男性、タイトル通りの卒業生であり、設定上は一応聖イシドロス大学に在籍しています。

 

 まあ今回は高校編のRTAなので関係ありませんが。ちなみにこのキャラクリエイトを行った理由は、単純に大学編のとあるキャラが一番好きだからです。(でも高校編には登場し)ないです。

 

 大学編RTAは走らないので趣味ですね。でも『1677万色に発光するゲーミングやつらMOD』でPCをクラッシュさせやがった悪魔よりはよっぽどマシな趣味だと思います(半ギレ)

 

 

 ──などと言ってる間にキャラクターが完成しました。名前は【大上 古木】くん。大学二年で剣道部に所属しており、高等学校の方でもまあまあな成績を残しているので、その道の学生なら名前だけでも知っていると思います。

 

 身体能力も成人男性としての補正で体力・筋力・持久力が高めで、知力も大学に入れる程度なので平均より高いですね。

 このスペックでクリア出来ないのはそもそもの問題になると思うのでその時はゲオれ。*1

 

 キャラ設定の通り、剣術に精通しているので初期段階で【剣術Lv1】を所持していますが、反して刀系の武器はスタミナ消費が他よりDKSGるので……上手く釣り合いは取れていますかね。

 

 尤も【剣術】はレベル2から『刀系統の攻撃力上昇』に『スタミナ消費量軽減』も付与されるのですがね。レベル3からは『攻撃時の耐久力消費量軽減』まで追加されます。はぇ~すっごい強い。

 

 銃より手に入れづらいという欠点さえなければ最っ強これ、最強じゃん! 

 

 ……まあ、現バージョンの『がっこうぐらし!』は初期スキルに伴った設定を自動で行うので、【剣術】を持ってる場合は家とかにそれらしい設定と共に生えてくるんですがね、初見さん。

 

 やーいお前んち彼岸島ー。*2

 

 

 ──はい。ではそろそろゲームを開始しましょう。トイレ、ヨシ! 部屋の鍵、ヨシ! 妹が親フラしてくる心配、ナシ! 

 

 んだらば『はじめる』を押してタイマーを……計測開始、ロードが終わると画面が暗転して操作開始となるので、何処に居るのかを把握して素早く行動を始めます。今回は──家でした。

 間取りからして武家屋敷ですね。自室らしき場所から始まりましたが……枕元には風邪薬と水差しが置かれてます。もしかしてゲーム開始前に風邪を引いていたのでしょうか。

 

 大学生なのに高校編からのスタートである矛盾をどうにかする為にバックボーンが生えてきたみたいですが──このパンデミックの直前に風邪? 妙だな…………(すっとぼけ)

 

 ──とかやってるうちに、外から異音と悲鳴が聞こえてきましたね。主人公こと古木くんも、それを察してか若干ゃストレスと恐怖のゲージが上昇しました。

 私の遊んでいるPC版(R-18)の現バージョンでは、『ストレス』『恐怖』『性欲』の三種のパラメーターが存在しています。

 

 食事を取れない、眠れないといった行動が続くと増えるのが『ストレス』で、やつらが近くに居る時間が長く続いたり、襲われてダメージを負ったりすると上昇するのが『恐怖』

 そして異性と同じ空間に長く居続けたり、そもそも時間の経過で勝手に溜まって行くのが『性欲』です。どのパラメーターでも共通しているのが、『溜まりすぎるとバッドステータスとなり基礎能力が下がる』という部分ですね。

 

 特に面倒なのが『性欲』で、好感度が低いヒロインに性的興奮状態にあるのがバレると余計に低くなったり、逆に高いヒロインの場合はいわゆる『処理』を手伝うロマンスイベントに派生したりでどちらにせよロスが発生します。

 とはいってもデメリットばかりではなく、ヒロインとの性欲の処理は、ストレスと恐怖を一度に回復させることも出来るんですね。

 

 ちなみに性欲は一人でトイレにでも行けばゲーム内時間での数分(リアルでは数秒)で抑えることが可能なので大丈夫でしょう。性欲とは神が与えし大罪……のがれられぬカルマ(滑舌)

 ──当然ですが、ヒロイン側にもこの3つのパラメーターは存在します。本RTAはPC版とはいえ子供のホモも見られる健全作品なので、ロマンスイベントで「ふふふ……セックス!」に発展したら当然ですがリセットとなります。祈れ。

 

 

 説明も程々に、縁側から外を見ることで今現在町が大変な事になっている事実を認識します。それから古木くんを操作して、家からアイテムをかき集めましょう。

 

 押し入れからキャンプ用のデカいリュックを出して、タオルや着替え等を押し込み、服の上のスペースに小さい食料などを入れます。

 台所に置かれていた手のひらサイズの羊羮を入れておきましょう。大分渋い好みですね古木くん……確かに羊羮は甘味であり保存も効くいい食料ではありますけども。

 

 あとは武器になるものを探さなければなりません……が、ここで玄関を叩く複数の音が。やつらが人の気配を察知したのかチュートリアルなのか、乗り込んでこようとしていますね。

 

 包丁……は直ぐ折れる雑魚なので没。

【剣術Lv1】があるので長物があるといいのですが──と、隣の部屋に日本刀……ジャパニーズサムライソードが飾られていました。

 マップを見ると『祖父の部屋』と書かれているので、恐らく古木くんの剣の師なのでしょう。遠慮なく持ち出して装備し、やつらを迎え撃ちます。玄関くんは抵抗むなしくバァン!(大破)してしまいました。もう許せるぞオイ! 

 

 玄関くんの仇を討つべく、侵入してきたやつらを相手取ります。流石の古木くんでも死人(やつら)を見てビビったのか、恐怖の値が上昇してしまいました。ゾンビのSANチェックは累計で8減少するまで何度も行うってそれいち。

 

 

 早速、刀を右手武器の欄に登録して構えます。1!2!3!4! 纏めてタイマン張らせてもらうぜ! それでは戦闘開始。

 

 刀はR1で素早い振り、R2で少し溜めてから重い振り、L1でガード、L2では『峰打ちモード』に切り換えられます。やつら以外を相手にするときの非殺傷用ですが、やつら相手では峰打ちだろうと殴ってると普通に死にます。

 

 古木くんもまだ相手は普通の人間だと思ってるし、初っぱなから刃の方でイヤーッ! するのも違和感あるからね、仕方ないね。

 居間の広い空間で相手をしますが、やつらと戦うときは殴られたら感染の危険性が強まり、噛まれたらほぼ確実に感染します。

 

 なのでまず近付いてきた奴を確実に倒します。設定基準ではやつらことゾンビはバラバラにするか、ガンダムファイト国際条約に基づいて頭部を破壊しないと止まりませんが、ゲーム版では攻撃によって体力を削りきれば倒せるのでご安心を。

 

 現在の持久力──スタミナではR1攻撃が2回、R2攻撃は1回しか振れませんが、【剣術】の攻撃力上昇補正と日本刀の素の攻撃力が合わされば、やつらはキッチリR1攻撃2回で沈みます。

 

 古木くんの攻撃が肩を砕きましたね、やつらAの体力が半分消し飛びます。演出としては、刀が肩に当たったのにケロっとしている事で疑問符が浮かんでいます。──はい、飛びかかってきたので×ボタンで回避。

 

 本格的に『こいつら人間じゃなくね?』という確信に至るので、容赦なくR1を叩き込みます。経験値を獲得し、やつらAは畳に伏せ動かなくなりました。同時に殺らなきゃ殺られると悟った事で古木くんのストレス値が上昇します。

 

 んだらば残りの3体もサクッと片付けましょう。しかしこのゲームは無双ゲーではないので、囲んで叩かれたら秒で死にます(無慈悲)

 それを解消するのが、この動き。素早くやつらの背後に回って──R1! 

 ──お尻にガムが付いてるから取ってあげる。動くな、走者はバイだ。

 

 背後から心臓を一突きし、大ダメージを与える。これが現バージョンで追加された、致命の一撃及びモーション中の無敵時間を利用した攻撃の回避です。執拗に尻を狙う姿は紛うことなきホモのそれですねたまげたなぁ。

 

 では、残りの2体もさっさとケツを掘って差し上げましょう。

 軽装から繰り出される素早い動きに翻弄されるやつらの背後に回って……R1。最後の1体が思ったより近くに居たので、回避で距離を取ってからスタミナの回復を待ってR1を2回。

 

 これで殲滅完了ですね。峰打ちってなんだよ。──るろうに剣心ってさ、剣豪が鉄の棒で人の頭をガンガン叩いて『不殺』って馬鹿じゃねーの。せめてたけのこだよね。

 

 ──おっと、やつら四人分の経験値でステータスを上げられそうですね。曲がりなりにもRTAなので、持久力を上げて長く走れるように、より多く刀を振れるようにします。

 

 ステータスを上げると同時に入手できるスキルポイントで【剣術】をLv2に……といきたいところですが、Lv2に上げるならポイントを2、Lv3(MAX)では3ポイント必要になるので駄目です。

 溜め込んでドバーッ! と最大までスキルを上げるか、満遍なく習得して器用貧乏になるかは……キミタチシダァイ……(社長)

 私は【剣術】以外にとあるスキルを習得したいから今は溜めておきます。

 場合によっては先に【剣術】のレベルを上げるかもしれないので、この選択は間違いではないと思います。きっとたぶんメイビー。

 

 

 ……いやしっかし刀強すぎるでしょナーフ案件じゃん。とか言われそうですが、もう既に何度もナーフされてこれなので許し亭許して。

 初期バージョンの刀なんて槍か? ってくらいにリーチが長過ぎて、R1攻撃がどういうわけか自分の真後ろの敵に当たるとかいう恐ろしいめくりが発生してましたからね。

 まるで葦名弦一郎をハメる時の失礼剣みたいだ……となってました。*3

 

 リーチ、攻撃力、モーション、スタミナ消費がナーフされまくって今こうなってるので、これ以上の弱体化はRTAに支障を来すからNG。

 

 ──改めて、リュックを背負って外に出ます。居間の仏壇にやつらの内の1体が突っ込んでますが、飾られた写真を見る限り両親と刀の持ち主である祖父は全員お亡くなりになられてますね。お前(の家族構成)重いんだよ! 

 

 屋敷から出たら、裏手にある蔵に向かいバールを取り出しておきます。刀に攻撃力こそ劣りますが、耐久力や打撃武器としての優秀さでは勝るので持ってて損はありません。

 学園生活部の面々と合流すれば、成人補正でまあまあの筋力がある淫ピ先生に装備させられるので戦力がアップするでしょう。

 

 準備もそこそこに家の門をくぐります。

 外は大分酷いことになっていました。煙を吹く車、逃げ惑うモブNPC。悲鳴、喧騒、やつらの呻き声。炎の匂い染み付いて、むせる。

 

 一言で言えば地獄ですね。

 

 時折死体の中に警官が。運が良いと事態の収拾にやってきた陸自の死体が混ざっており銃器をドロップするのですが……まあ必要ないですね。何故なら銃は弾薬が限られており、尚且つ音がでかくてやつら誘き寄せ装置と化すからです。

 

 それでいて筋力を上げようが威力は変わらないので……んにゃぴ、非力なキャラが持てば強力な武器となるでしょう。しかし古木くんには銃などという初心者用武器などフヨウラ! 

 道路はやつらと逃げ惑うNPCでごった返しているので、ブロック塀から屋根へと登ります。あとは簡単、屋根から屋根に飛び移りましょう。

 

 先ほど持久力を上げたときのスキルポイントを【跳躍】に振って【跳躍Lv1】を習得します。これは高いところに登る際のスタミナ消費を抑え、落下ダメージを25%軽減するスキルで、加えてダッシュジャンプ力が1m延びます。

 ダッシュからのジャンプで前に跳ぶだけなら、これで3mは行けるようになりました。上に跳躍する際は出っ張りや縁を掴めて且つ登る速度が上がる【登攀】も習得するとよいでしょう。

 

 それでは屋根から屋根へと跳びます。助走をつけて……L3! ×ボタンでは回避に派生しがちで最悪屋根から落ちますので気を付けて。

 

 上手いこと隣の屋根に着地出来ました。

 スタミナを回復したらそのまま次の屋根に跳び、それを繰り返して目的地である高等学校へ向かいますよ~イクイク。それでは長くなってきたので一旦ここまでにして、後編に続きます。

 

 ……まだ原作キャラが一人も出てないってマジ? これが……がっこうぐらし!RTAなのぉ……?(ナナチ)なんか侵されてるよぉ! 

 

 

 

 

 ──屋根の上を駆ける男、大上 古木が見下ろした先に広がっている光景は、凄惨という言葉すら生易しい地獄だった。

 人が人を喰らい、死んだはずの人間が起き上がりまた別の人間を襲っている。

 

「……町がこうなってるなら、大学は──っ」

 

 古木はそこまで言って、頭を振る。

 ここから大学までは電車でも時間が掛かるため、直ぐ様向かうというのはあまりにも無謀である。今すべきことは、かつて在学していた高等学校に向かうこと。

 

「確か発電設備と浄水装置があった筈。籠城するならあそこだ、他に人も居るだろう」

 

 そこで区切って、次の屋根に跳び移る。

 着地の際、瓦が剥げて音を立てながらアスファルトに落ちた。ふと視線を辿ると、その先で、一人の女性が複数の死人に追われている。

 

「────!」

「っ……不味い──!」

 

 即座に降りようとして、踏み留まる。

 腰に差していた祖父の刀──銘を一心。それを抜こうとして、先の居間の戦いを思い出し、やつらの肉の感触を想起する。

 あくまで剣道、あくまで剣術。人を斬るために学んだわけではない技術を、獣に心をやつしたとはいえ人に向けるのか。

 

「……お前ならどうする?」

 

 ポケットから取り出した携帯の待ち受けを見る。仏頂面で、不機嫌さを隠そうともしない女性の写真。古木は深く息を吸って、吐き出した。

 

「──いや、お前なら逃げるか。でも人が困ってるんだ。迷ってる暇は無い」

 

 充電を惜しんで電源を落とし、仕舞ってから刀を鞘から抜いた。あちこちから聞こえてくる、悲鳴と喧騒入り交じる音を無視して呟く。

 

「俺は戦うぞ、──」

 

 屋根からブロック塀を経てアスファルトに着地すると、古木は女性の元へと駆けていった。

*1
ある実況者がダークソウルをプレイしているときに放った造語。要するに『こんなのもクリアできないならゲーム売ってこい』という煽り

*2
彼岸島では島の至るところで刀や丸太を拾えた為、『刀と丸太は群生してる』とまで言われていた

*3
葦名城で弦一郎を扉と甲冑の間に誘い込んだ状態であらぬ方向を向きながら攻撃すると、『狼の向いてる方とは違う方向から攻撃が来ている』と処理されて弦一郎がガードも弾きも行わなくなる現象




次→7月26日00時00分


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甲の回 後

 後編はーじまーるよー。

 

 前回のラスト直後にモブNPCが襲われていたのを発見したので助けに行きます。

 タイム的には微ロスですが、モブ救出イベントは意外とクリア報酬の経験値がイッパイイッパイビューティフル……(普段は真面目で優しいRTA走者)

 

 ──なので、義によって助太刀……致す! 

 屋根伝いに高校まで行く予定でしたが一旦降ります。モブNPC(女)のケツを追い回す卑しいノンケのケツを貫きましょう。しかしえらいゴスゴスロリロリな格好してますね。……()()()()()()()()()()()()()()んですが……ままエアロ。

 

 3体居る内の2体は背後からの一撃(バックスタブ)で処理し、最後の1体が女性に組み付こうとしているので蹴り飛ばしてからガンダムファイト国際条約第1条に則り頭部を破壊します。はい戦闘終了。雑魚が調子に乗るなァ!(闇野)

 

 助けた女性から経験値を貰いサブイベントも無事に完了したのでお暇します。

 名無しのモブNPCは救助すると会話する暇もなくどっかに行ってしまうので高校に避難するように伝えることなどは出来ません。もし仮に出来たとしても邪魔なだけなのでしません。

 

 んだらばまた屋根に登──る前に、ちょうど近くにコンビニがあったので、今日と明日のご飯とカップ麺なんかを頂戴しましょう。

 荷物が増えると移動速度が低下しますが、お握りやカップ麺程度ではさほど問題はありません。水も学校に浄水装置がありますし。

 

 電気ケトルくらいは流石にあるやろ……。

 

 という訳で、全品100%OFFのお買い物です。しかし良心が咎めるので財布からケツを拭く紙にもなりゃしねぇ諭吉を一枚レジに突っ込んでおきますね。ヨシ!(よくない)

 

 屋上に籠城してるだろう原作ヒロインたちと古木くんで二個ずつ食べるとしてお握りを10個くらい。それと保存が効くカップ麺を幾つかと、あとは缶詰でも入れておきますか。

 

 通常プレイでもRTAでも、高校に籠城するメンバーは主人公くんを含めたら余裕で6~7人を超えますからね。それでは荷物の重量が『軽』から『中』になったので漁るのをやめます。

『中』から『重』になるとダッシュ出来なくなるので、荷物の重量管理には気を付けよう!(ゆうさく)ではコンビニを出て屋根へ。

 

 二人も三人もとモブNPCを助けるのは却ってロスなのでこれ以降は無視します。皆自分が一番! 自分が一番ですよ~!(閉廷おじさん)

 

 こうして屋根を伝えばやつらと戦う必要無いし安全じゃーん! とお思いのクソホモが居るでしょうが、公式コラボしていてDL出来るバイオハザードMODを導入してみてください。

 やつら同士が共食いしてリッカーが生まれ、進撃の巨人の対人戦みたいな立体戦闘が始まるのでそんなこと言ってる余裕はありません。

 

 などと言いながらジャンプ、ダッシュジャンプと屋根を跳び回ります。

 ようやく見えてきた学校を前にホッとしつつ、時刻も夕方から夜に差し掛かりました。

 

 今頃くるみ姉貴が先輩を専用武器のシャベルでチェストしている頃でしょう。

 極々たまーに、りーさんやめぐねえが代わりにチェストしているのですが、その場合はかなりの筋力と持久力を持つくるみ姉貴が覚悟完了しなくて戦力にならないのでリセットです。

 

 適当に校庭をうろつくやつらをバクスタしながら校内に入り込み、屋上を目指していざ鎌倉。薄暗くなってきたことでやつらも夜になったと理解したのか、生前の習性から生徒のやつらなんかはノロノロと校内から出ていきます。

 

 発電設備の蓄えた電気が蛍光灯を作動させるので廊下は明るいですね。

 まだ残っている数人の学生やつらを素早く避けつつ、三階に向かいます。職員室から出てきた先生やつらが2体現れたので戦闘開始。

 やつら同士の間に距離があるので、1体を刀のR1二回でさくっと処理。もう一人はいつものケツ掘りで倒します。

 

 ──戦闘終了。

 

 獲得経験値がモブNPCを助けた分と合わせて1つステータスを上げられるので、今回も持久力に振ります。獲得したスキルポイントは【剣術】か【跳躍】がLv2になるように振りたいので、今はまだ取っておきましょう。

 

 職員室をKMRのようにチラチラ覗くとまだ数人残っていたので屈み移動で音を抑えながら進みます。この辺は【消音】を習得すると、Lv2からダッシュ音すら抑えられるのでオススメ。

 尚、初期バージョンでは【消音Lv3(MAX)】で消音器を付けてない銃の音すら消せたので、当然ですが現在はバグとして修正されてます。

 

 ──そんなこんなで屋上に繋がる扉前までやってきました。扉を叩いて開けてもらいます。ねえ助けて! 助けて入れて! (ひで)

 ……開きませんね。とはいえこのパンデミックの最中、日が落ちて夜になった頃に扉が叩かれるとか恐ろしいなんてもんじゃないと思うので仕方ないのかもしれませんが。

 

 ……少し間が空いてからくるみ姉貴の『誰だよ(ピネガキ)』という質問が飛んで来たので、素直に自分の素性を話しましょう。もっと気合い入れて言うんだよ!(自分を売るトラマンZ)

 

 卒業生であることと聖イシドロス大学の二年であることを説明し、この学校が発電設備と浄水装置があることを知っていたから避難してきたと正直に伝えます。

 説得関連のスキルを持っていなくても、これだけの説得力があれば失敗することはまずありません。なにかをどかす音がして、それから扉がゆっくりと開かれました。

 

 手早く屋上に出て、扉に立て掛けていたロッカーを元に戻して塞ぎます。

 一息ついて辺りを見回せば、そこには親の顔より見た原作ヒロインたちが居ました。

 

 猫耳帽子を被った少女・丈槍ゆき。既に先輩の屍を越え無事覚醒した少女・恵飛須沢くるみ。糸目巨乳・若狭ゆうり。

 そしてゲーム中で最もちょろいヒロイン・佐倉慈、通称めぐねえです。

 よく間違われますが『めぐねぇ』ではなく、またくるみ姉貴も『恵比寿沢』ではありません。

 

 ──自己紹介もそこそこに、リュックを下ろした古木くんに四人の視線がぶつけられます。

 めぐねえは卒業生という部分から知ってる人かを思い出そうとし、ゆきちゃんはでけぇリュックに興味津々。りーさんがちょっと警戒していて、くるみ姉貴が腰の刀を見ていますね。

 

 お腹空いてるだろうし、お握りを出して渡します。辛かったろう。さあお食べ(ハク様)というか保存効かないからさっさと食え(豹変)

 

 ゆきちゃんとりーさんが二個ずつ、めぐねえが一個持っていきますが、部活の先輩をチェストしたくるみ姉貴は食欲が無い様子。じゃあ(食欲)立たせてやるか! しょうがねぇなぁ(Z戦士)

 家から持ってきた手のひら大の羊羮を渡して食わせます。甘くて噛みごたえがあって常温保存可能の優れた保存食だ。オラ食え。

 

 持ち物を渡すコマンドで執拗に羊羮を押し付けると、観念したのか食べ始めました。

 食欲が無いとか言ってましたがちゃんと食べたので、ヨシ!(よくない)

 

 ──では、皆が食事をしている裏で、さくっと先輩(古木くん目線では後輩)を屋上から捨てましょう。死体が近くにあるだけでストレス値が増えますし、腐って野菜が駄目になるので。

 黙祷を捧げてからブルーシートでぐるぐると簀巻きにして持ち上げます。

 ……意外と重いな──と思っていると、羊羮を食べ終えたくるみ姉貴が手伝ってくれました。自分が始末した相手に敬意を払う武士の鑑。

 

 それでは校舎の裏側に投げ捨てた辺りで今回はここまで。あとは適当に駄弁って寝るだけなので等速で垂れ流しながら終わりです。また次回。

 

 

 

 

 ──屋上に繋がる扉が開かれ、外に出ると少女と女性が古木の視界に入る。

 二人で退かしたらしいロッカーで扉を塞ぎ直し、目的地にたどり着いた安心感から疲労がどっと押し寄せてきた古木は深く呼吸してから辺りを見る。巡ヶ丘高等学校の生徒らしき少女が三人に、おそらく教師だろう女性が一人。

 

 四人も助かったと言うべきか、四人しか助からなかったと言うべきか。その思考が肩にシャベルを担いだ少女の声で中断させられる。

 

「……そんで、あんたがここの卒業生だってのはマジなのか?」

 

「──ああそうだ。流石に当時の生徒手帳を持ち出す暇は無かったから勘弁してくれ」

 

「ということは、貴方は家からここに?」

 

 おずおずと会話に混ざる女性の言葉に古木は頷く。屋上のフェンスに凭れて座っていた二人が近付いてきた辺りで、古木が名乗った。

 

「俺は大上 古木です。貴女たちは?」

「あたしは恵飛須沢 胡桃。こっちはめぐねえ」

「……めぐねえじゃないでしょ、恵飛須沢さん。

 私は国語教諭の佐倉 慈です」

 

 軽口を叩くくるみを窘める慈が注意をするが、古木もなんとなく、彼女がアダ名で呼ばれるような人間性なのだろうと察した。慈は座っていた二人に目線を向けて、手招きして紹介する。

 

「こちらは丈槍 由紀さんと若狭 悠里さんです」

「こ、こんばんは」

「……初めまして」

 

 会釈するゆきと悠里に挨拶を返しつつ、古木はリュックを足元に降ろす。

 ふと、四人の視線がそれぞれ違う方向に向いた。ゆきはリュックを注視し、悠里が古木を警戒する。慈は古木の顔を見て何かを考え、くるみが腰に差している刀を見ていた。

 

「それ、本物なのか?」

「……オモチャに見えるか?」

 

 刀の柄を指で小突くと、くるみは頬に冷や汗を垂らして苦笑を溢した。屈んでリュックを観察しているゆきが、古木に声をかける。

 

「ねぇ古木さん、大きいリュックだね」

「ん……まあ、色々入れてあるから。ところで、食事なんかはまだだろう? 保存が効かないから、お握りで良いなら是非食べてくれ」

 

 リュックを開いてレジ袋に詰められていたお握りを渡すと、中身を取り出したゆきを尻目に悠里が質問を投げ掛ける。

 

「……どこから持ってきたんですか?」

「コンビニからだよ。町があんなことになったとはいえ盗みは不味いし、レジにお金を入れておいたから安心していい」

「そう、ですか」

 

 それはそれで良いのだろうか、と悠里の脳裏にふと疑問が湧いたが、きっと自分でもそうしただろうと考えてお握りのフィルムを破く。暗くてよく分からなかったが、中身は昆布だった。

 食べ進めるゆきたち三人を余所に、ぼんやりとしているくるみを見て古木が問う。

 

「くるみちゃん。食べないのか」

「……あたしはいい。食欲なくてさ」

「この状態で食事を抜いたら体がもたないぞ。じゃあ、これなら食えるか」

 

 そう言い、古木がリュックから手のひら大の羊羮を取り出して渡す。よ、羊羮……と呟いて、くるみが引き気味に返した。

 

「要らないって、今は何も食べたくない」

「いいから食え。一口でいいから食べろ」

「しつこいなこいつ……もごっ!?」

 

 羊羮の包装を解いて遂には口に捩じ込まれ、渋々くるみはそれを咀嚼する。

 

「……あまっ」

「よく噛んで、ゆっくり食え」

「なんなんだよ……ったく」

「──あいつらに襲われて、殺したんだろ。だから食欲がないと言った。違うか?」

 

 食欲が無い原因を的確に指摘され、口の中の羊羮を飲み込む動きが止まる。

 目を見開いて古木を見るくるみは、腰の刀を一瞥して全てを察した。

 

「……古木さんも、殺ったんだな」

「家に押し入ってきたやつらに襲われて仕方なく、な。くるみちゃんは、どうしたんだ」

「あれ」

 

 つい、と指を向ける。指先を辿った先にあったのは、畑の傍らに倒れている人影。

 立ち上がって近付くと、そこに倒れていたのは男子生徒の死体だった。

 首にある鋭利な切り傷は、十中八九くるみの持つシャベルのモノだろう。引き返してくるみの元に向かい、古木は残酷だがそれでもやらなければならない行動を提案する。

 

「知り合いだったんだな」

「……部活の先輩だよ」

「そうか……くるみちゃん。申し訳ないんだけど、あの死体をそのままには出来ない。ブルーシートで巻いてから外に捨てようと思う」

 

 放っておけば死体は腐り、空気を悪くし、野菜を駄目にする。そうするしかないとは薄々理解していたが、いざその選択肢を突き付けられると、くるみは返答できないでいた。

 

「俺がやるから、無理はしなくていい」

「あっ……」

 

 死体の元に向かい、古木は両手を合わせて黙祷してから畳んで置かれていたブルーシートを広げてそこに乗せ、ぐるぐる巻きにしてビニール紐で縛って持ち上げる。

 

「っ、流石に、重い……!」

 

 完全に弛緩しきった死体はかなり重く、なんとか持ち上げるもよろよろとふらつく。それを、後ろから駆け寄ってきたくるみが支えた。

 

「──あたしの役目なんだ、手伝うよ」

 

 二人掛かりで持ち上げ、フェンスの向こうに呼吸を合わせて投げ捨てる。遅れて聞こえてきた落下音に顔をしかめ、重苦しいため息をついたくるみが、両手を合わせまぶたを静かに閉じた。

 

「気の効いた言葉で慰めた方がいいか」

「なんだよその変な聞き方」

「俺が昔、古馴染みに言われた言葉だよ」

「……そいつ、性格悪いのか?」

「いや……壊滅的に人付き合いが苦手なだけ」

 

 常に眉間にシワを作り、仏頂面の、しかし不器用なだけでその実本当は優しい知り合いの顔を思い出す。思わずフェンスを掴む手に力が入って、皮肉にも雲ひとつ無い空を見上げる。

 

「──死ねないな」

「……そっすねぇ」

 

 満月が屋上を照らし、地上からは呻き声が響き渡る。下を覗けば、きっと、地獄から生者を誘うかのような錯覚を覚えるだろう。

 無意識に片手で刀の鞘を握る古木は、くるみと共に三人の元に戻った。

 

 ──こうして、世界が終わってから最初の夜を過ごして行く。その日、古木は数年振りに両親が出てくる夢を見た気がした。




次→7月29日00時00分


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乙の回 前

 ゲーミングやつらMODに一度パソコンをぶっ壊されたゲームのRTAはーじまーるよー。

 

 エリア上のやつら全員が激しく発光するせいでPCが激重(げきおも)になり、一分も経たずにパソコンがクラッシュさせられる恐ろしいMODでした。

 尚運営に対策され、制作者はMODの削除と垢BANを食らった模様。

 

 

 運営「何でこんなMODを作ったんですか?」

 制作者「偉大なMODというのは、輝いて見えるものだヨ」

 運営「眩しい理由の方は訊いてないんですけど……?(全ギレ)」

 

 

 という話があったらしいっすね。

 それはさておき、2日目です。

 

 本RTAでは3()()()()()()()()()()ので、今日中に三階を制圧して放送室と生徒会室をこれからの活動拠点に利用させてもらいます。

 

 硬い所で寝たせいであまり回復しなかったストレス値を余ったお握りを食べてカバーしましょう。めぐねえの腕枕と乙πを堪能しながら寝ているゆきちゃんを拝みつつ、行動開始です。

 各階制圧の条件は、該当エリアのやつらの総数を8割以上減らし、且つバリケードで道を塞ぐ事が必須となります。

 なーのーで、先ず早朝から古木くんでやつらの数を減らして、皆が起きてから三階を制圧する旨を説明して改めて戦闘を続行します。

 

 そうすることで、『もう始めちゃったんなら仕方ないか』という空気を出して反論を潰せるんですね。あとはヒロインたちにバリケードを設置させる裏でやつらを倒すだけで制圧は完了します。

 とはいえ、バリケードとは名ばかりに、物資が心許ない現状は最低ランクの『積み重ねただけの机』しか用意できません。

 7日目の強制ラッシュまでに頑丈に補強できる素材アイテムを確保しておきましょう。モールに行けばダクトテープや工具を入手出来る為、上位のバリケードを設置出来るようになります。

 

 

 ──それでは刀片手にいざ鎌倉。屋上と三階を隔てる扉を塞ぐロッカーを素早く静かに退かし、開けた扉はしっかりと閉めておきます。

 夜から明け方までに一度帰ったが再度侵入していたのだろう『やつら(生徒)』と『やつら(教師)』を複数目視。最初からサウナパワー全開で行くぞ!(サウナパワーってなんだよ)*1

 

 三階に降りてすぐ左手の教室に居るやつらを真っ先に殲滅します。

 教室の中という狭い所さんでは囲まれたら即オダブツになるのでスピード勝負となります。

 

 尤も、【剣術】をLv2にするか筋力にあと2回ほど経験値を割り振ればR1一回でやつらを倒せるようになります。【跳躍】もLv2にしたいなら、いずれかに3振れば得られるスキルポイント3つと前回残した1つでそれぞれを上げることが出来ます。

 

 

 ──と、攻撃が当たりそうになったので、やつらの一人にバクスタを叩き込み無敵時間で切り抜けます。お尻にガムが付いてるから取ってあげる。動くな、俺はRTA走者だ。

 

 ちなみにバクスタ無双は最悪の場合タイムロスに繋がります。

 1体の尻に回り込みR1を押して致命の一撃を入れ、そのモーションが終わるまでに確定で3秒は掛かるので、無敵時間で逃れられるとはいえ、例えば最終的に20体にバクスタを入れていたとしたら一分もロスする訳ですね。

 

 ガバも積もればロスとなる。尻を掘るのも程々にして、なるべく通常のR1攻撃で倒すのを心掛けましょう。んだらば倍速。教室の出入口を出た直後に襲われないよう気を付けながら、一室一室のやつらを丁重に始末して行きます。

 

 必ずと言って良いほどに教室には先生が一人、生徒が数人残っているのですが、これに加えて食堂等のやつらを視認することで、操作キャラとヒロインたちが『やつらは生前の習慣を元に行動しているのでは』という情報を共有するんですね。

 

 これが7日目のラッシュを切り抜ける伏線になるので、必ずそれまでにこの情報を共有させましょう。

 そうでないと誰か一人は死にます(無慈悲)

 

 三階の教室2-A~Dのやつらを殲滅したので、一旦屋上に帰ります。職員室の方に行くのは皆が起きたあとにしましょう。

 

 ちなみに、やつらはバリケードを見つけるとそちらを優先的に押し通ろうとするAIが組まれています。それを利用して音楽室辺りと2-C辺りに設置すれば、こちらは室内を迂回して楽に通れるので移動がスムーズになります。

 

 

 ……とか言ってる間に屋上に到達。ゆっくり扉を開けて外に出ると────ビッキビキに額に青筋を浮かべたくるみ姉貴が仁王立ちしていました。古木くんの恐怖値が上昇しましたね。

 

 どうやら想定より早く起きていたようで、古木くんが居ない事で心配していたらしいですね。こういった心配を何度もさせると縄で拘束されるので気を付けましょう。

 

 刀の血を洗い流して布で拭いつつ、皆が起きているのを確認してお握りの余りと羊羮を振る舞います。鮭おにぎりと羊羮を同時に食べたゆきちゃんがすごい顔をしていますが、誰が同時に食えと言った!(MUR閣下)

 

 ではぱぱぱっと食事を済ませ、三階制圧の計画を話します。

 いつまでも屋上で暮らすわけにもいかないので、一応全員賛同はしてくれます──が、やつらの相手は危険なので素直に頷けないのでしょう。まあ誰もやらないなら古木くんのワンオペDIYが始まるだけなんですけど。

 

『一人でやるな(8割ギレ)』と忠告したくるみ姉貴の言葉を聞き入れ、今度は皆で三階に向かいます。その際、念のためにバールをめぐねえに渡して装備させましょう。

 バール本来の役割として扱えば、扉をこじ開けたり釘を外したりと用途は多彩です。尚、今回の古木くんは家から刀を持ち出せたのですが、無かった場合は骨董品店などで見つけるまでの代用品として使いましょう。

 

 やっぱ……ゾンビサバイバルのバールを……最高やな! ある意味初手で刀を入手できた古木くんは運が良いというか逆にセコいですね(?)

 では、教室の机と椅子を廊下に積み重ねているめぐねえ・ゆきちゃん・りーさんを見守りつつ、接近してきたやつらを随時対処します。

 ワイヤーなりで縛っておかないと崩れそうなものですが、何個も重なった机はかなり重いので、システム的にもそれこそ十数人のやつらに一斉に押されない限り崩れはしません。

 

 どうせ明日になればモールでバリケード用の素材と道具を持ってくるからこの心配も無縁になるでしょう。有刺鉄線を用意できれば、崩れたバリケードがやつらを足止めする即席トラップにもなるので可能であれば持ち帰ります。

 

 ──雑談もそこそこに、教室奥側の階段から上がってきたやつらの対処をしま…………真ん中の階段からもやつらが来ましたね。

 では中央階段のやつらはくるみ姉貴に任せ、古木くんは奥側のやつらを倒します。数は……3!(ダディ)くるみ姉貴の方は2体でした。

 

 やつらが近付いてくるとNPCは作業を中断してしまうので、一定の距離に近付かれない内に倒しましょう。いつものようにR1を2回……あれ、こいつ死にませんね(もう死んでる)

 

 時々、こんな風に高体力個体が混ざってるんですよね。早く剣術のレベルを上げたいぜ。(向上心土方) こいつの場合はR1攻撃を3回入れないと倒せません。

 一回のチェストで倒せないなら、千回チェストすれば良い。妙案にごつ。

 

 最初の2発と合わせて、最後の一発くれてやるよオラ!*2

 奥の2体目にはタイミングよく片手R2最大タメ攻撃を叩き込みましょう。

 おはんはおねショタは好きか? 

 

 やつら「ショタ優勢じゃないと抜けない」

 

 じゃあ死ね!!!!!(ガチギレ)

 

 

 刀の攻撃は斬撃/刺突で、片手のR2モーションは『突き』です。つまりそれの最大タメ攻撃ともなれば、やつらは面白いくらいに吹っ飛びます。うーん、かなり気持ちいいっすねぇ。

 一方くるみ姉貴のシャベルは全て打撃です。ですが、好感度の上昇で行われるとあるイベントをこなすことで、攻撃属性に斬撃が追加されるようになるんですね。

 

 ……あと1体は適当に処理して戦闘終了。もう少し経験値が溜まればステータスを上げられそうですね、その時は持久力に振って、合計2ポイントで【剣術】をLv2にしましょう。

 

 

 ──スキルポイントの話はさておき、くるみ姉貴もやつらを処理し終え、一ヶ所目のバリケードを設置完了しました。音楽室付近のバリケード設置は……倍速でも……バレへんか! 

 というわけでアクセルフォーム(5倍速)何度も似たようなシーンを映すのは再生数に関わるからね、しょうがないね。

 

 それでは二ヶ所のバリケードの設置とやつらの総数を8割以上減らせたので、三階を(それなりに)安全地帯に出来ました。屋上に置いてきたリュックを取りに行ってから、放送室と生徒会室の鍵を開ける為に職員室に向かいます。

 

 ……おや、ゆきちゃんとくるみ姉貴が取りに行くと名乗り出ましたね。

 リュックだけ持ってくれば良いので、お言葉に甘えてここは分担します。

 

 という訳で、残った古木くんとめぐねえとりーさんの三人で県北の川の土手の下にある職員室に向かいましょう。

 ちなみに、職員室には確率で刺又(さすまた)が設置されており、りーさんのメインウェポンとして装備させるとうまあじです。

 

【槍術】や【薙刀術】を習得していると主人公のメインウェポンとしてもかなり優秀な武器として使えますが、古木くんには刀があるので必要ありません。刺又はりーさんか楔のデーモンにでも使わせとけばええねん(辛辣)

 

 

 ──あくまで8割以上減らしただけなので、職員室にも何人かのやつら(教師)が居ますね。あっそうだぁ、めぐねえもそろそろ……やつらと戦っておかない? 初めは皆嫌がるんだけどさ、慣れたらクセになるから。ネネ、良いだろう? 

 

 ……あ、無理ですかそうですか。

 出来ないって言うのは嘘つきの言葉なんですが、かといってあんまりしつこく強要すると、今度はストレスが爆上がりして終いにゃてるてる坊主になっちゃうので……(オブラート)

 

 根本的に、めぐねえたちは戦うこと自体がストレスなんですね。

 挙げ句『主人公に戦いを任せること』すら罪悪感でストレスになります。あーめんどくせ。なーのーで、PC版で普通にプレイする場合は好感度を上げてロマンスイベントを起こし、適宜性欲の発散を以てストレスと恐怖を下げましょう。

 

 サバイバルの果てに吊り橋効果でヒロインと延々傷を舐め合うドロドロの共依存プレイに移行するのも良いんですが、ぶっちゃけRTAだとそこまでメンタル粉々になる前にクリアできちゃうんですよね。ちょっと残念。

 

 

 戦えないなら仕方がない。こんな雑魚のゾンビなら俺でもやれるぜ。お前らは引っ込んでろ、俺は安全にRTAを走りたいんだよ。完走すりゃあ動画を再生する人数も多くなるからな。

 がっこうぐらし! RTAは走者が全滅状態だが、俺はそこそこの記録を出してスピードラン.comに申請するぜ。

 

 

 ……わざとらしく死亡フラグを立てましたが、残念この程度では死にません。

 視界の端に刺又が立て掛けられているのも確認したので、今回の本走はかなり運が良いですね。R1! R1! リーチを活かしてR2! 逃げようとするやつには誤チェスト(故意)にごわす。

 

 サクサクっと倒して、今ので貯まった経験値を持久力に割り振ります。これでスキルポイントは2ポイントなので、【剣術Lv2】に上げます。これで高体力個体をR1を2回orR2を1回で倒せるようになりました。通常個体なら一撃ですね。

 全スキルをLv1ずつ習得とかいう器用貧乏を極めたプレイは通常プレイだろうとRTAだろうと非効率なので……やめようね! 

 

 そろそろ戻ってくるだろうゆきちゃん達を待つために、刺又を取得してから放送室と生徒会室の間辺りで鍵を手に待機します。めぐねえは既にバールがあるので、りーさんに装備させましょう。

 

 ──ところで、なんでりーさんは申し訳なさそうな顔をしながらこっちを見てるんですか………………んぇえ゛(軍師)

 

【サイドミッション/るーちゃんの救出】が発生しました。メインクエストに指定しますか? 

 

 ──YES・NO──

 

 

 

 

 ──職員室から鍵を持ち出した三人が、それぞれ得物を構えて廊下を歩いている。

 刺又の柄を両手で握り、半ばを肩に置いて支えるようにして持ち歩く悠里が、暗い表情で足元を見ながら歩みを進めていた。

 

「若狭さん、どうされたんですか?」

「──あ、いえ、その……」

 

 歩みが遅れていることに気付いた慈が問い掛けるも、悠里は顔色を悪くするだけで黙り込んでしまう。振り返って二人を見る古木が駆け寄り、慈と並んで悠里を心配する。

 

「悠里ちゃん、どうした? もしかしてバリケード作りの時にどこかぶつけたのか?」

「……いえ、あ、の……」

 

 カツ、と柄の先を床にぶつける。口を開いて、閉じて、何かを古木に言おうとして──唇を一文字につぐんで見上げるだけに留まった。そんな悠里の肩に手を置いて古木が言う。

 

「──もしも悠里ちゃんが今言わなくても後悔しないなら、黙っていればいい。俺も佐倉さんも、誰も責めたりはしない」

「っ…………」

「若狭さん。先生と大上くんでは、頼りになりませんか?」

「……そうじゃ、なくて……」

 

 ぐっと刺又を握る手に力が入り、重くなったかのように開かない口をゆっくりと開いて、すがるように声を出した。

 

「──妹が、居るんです」

「妹……」

 

 おうむ返しのように呟く古木に頷いて、慈をちらりと一瞥して続ける。

 

「ここから少し離れた場所に、鞣河(なめかわ)っていう小学校があって、昨日も、学校にいくのを見送って……。助けに行かなきゃいけなかったのに、私……あの光景を見てたら、怖くなって……」

「……その子の名前は?」

「──瑠璃です。若狭瑠璃(るり)

「そうか」

 

 まぶたを細めて、古木は思案する。

 鞣河小学校なら、名前と場所だけであればぼんやりと記憶に残っていた。

 

「怖くて、動けなくて、なあなあにして屋上で寝て……しかもバリケードまで作って三階をこれからの拠点に使おうなんて時に──見捨てた妹を助けたいだなんて、私、凄く醜いですよね」

「──若狭さん……」

「ごめんなさい古木さん。忘れてください。きっと、妹──るーちゃんだって、もう」

 

 ──不意に、ぱん、と乾いた音を立てて古木の両手が悠里の両肩に置かれた。

 言葉を紡ぐ度に俯いて行き、呼吸が荒くなっていった悠里は、跳ねるように顔を上げる。

 

「じゃあ、助けにいくか」

「…………えっ?」

「瑠璃ちゃんを、助けに行こう」

 

 その目は悠里を真っ直ぐ見下ろし、その手はじんわりと熱を持っている。

 生きる屍と化したやつらを掻い潜って高校から小学校に向かい、生きているかもわからない妹を探して戻って来なければならない。

『無茶なんだから諦めた方がいい』と、仕方ないとして心を殺そうとした悠里にとって、それはあまりにも都合の良い救いの言葉だった。

 

「悠里ちゃんにとって残酷な結末を見せつけることになるかもしれない。瑠璃ちゃんはもう死んでしまっているかもしれない。

 それでも、行かずにただ見捨てた事実だけを心残りにして生きるのは──酷い話だ。誰も救われない。だから助けに行こう」

 

「──古木さん」

 

「これは……凄く難しいことかもしれないけどね、悠里ちゃん。

 助けて欲しかったら、助けてくれって言って良いんだよ。無理やり『手遅れかもしれない』で、気持ちに蓋なんてしなくて良い」

 

「────っ」

 

 悠里は目尻に涙を溜めて、一筋の雫を頬に流し、唇をわななかせてポツリと呟いた。

 

「……助けて、古木さん」

「わかった。俺が力になる」

 

 即答し、慈に向き直って小さく頷く。ふぅとため息を漏らした慈は、自分の生徒を古木に預ける事もあって、教師として口を開く。

 

「若狭さんと妹さんを、お願いします」

「命に変えても────いえ、必ず3人で戻ってきます。やつらに気を付けながら、生徒会室でゆきちゃん達と待っててください」

 

 タイミングよく戻ってきたゆきとくるみに妹の事を話してから、二人は素早く一階に向かう。

 ──えっ、妹居たの!? という言葉がゆき達から同時に放たれた事を思い出しながら、古木と悠里は、顔を見合わせて口許に笑みを作った。

*1
7DTDでゾンビの迎撃が出来るサウナを作ったホモが居るらしい

*2
弐撃決殺じゃない-1919810デルフィンキルポイント




次→8月2日00時00分


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乙の回 後

 前回のビーストウォーズリターンズはァ!! 

 

 変態走者の集うSNS「Hasitter(はしったー)」で知人とRTAのデータを交換した走者兄貴。

 しかしそのデータのガバは凄まじく、ケツワープが光の速さを突破してしまう。

 そしてたまたま居合わせた妹と共に激しい光に呑み込まれ、別世界へと転移してしまった。

 

 相対性理論「ファッ!?」

 

『ホラゲーみたいな学校で暮らしてる大学生(わたし)はどうすりゃいいですか?』はーじまーるよー。

 

 

 

 

 ──うそだよ(偽MUR)

「ケツワープが光の速さを突破してしまう」ってなんだよ。相対性理論くんは仕事して。

 

 そんなわけで(どんなわけで?)後編です。

 やつらの挙動に気を付けながら、りーさんと共に学校の外に出た辺りから再開です。でもぶっちゃけりーさんはお荷物ですね(辛辣)

 なにせNPCを連れていると屋根の上を走れないんですもの。やつらと出くわす危険性がある道路を歩かなきゃいけないのはキツいですよ。

 

 まあ、るーちゃんの為なら仕方ありません。三階の安全地帯化(絶対安全とは言ってない)も済ませてあるので、あとは実質自由時間です。

 2日目の残り時間はヒロインたちとの交流による好感度上昇に費やそうと思っていたので問題ありません。

 るーちゃん救出でりーさんの好感度はかなり上昇するでしょうし、本来りーさんに使うはずだった交流の時間を減らせるのはうまテイスト。

 

 スタミナを回避1回分だけ残してダッシュし、やつらが居ないのを確認して歩きに戻り回復を待つ。これを繰り返して道を駆け抜け、鞣河小学校へと急ぎましょう。

 

 バリケード設置時の戦闘後に刀を手入れできていませんが、ラッシュでもないなら何十体も相手にすることは稀なのでへーきへーき。

 刀の手入れ──耐久値の回復は、リアルのように目釘を抜いて刀身を柄から外して打ち粉をポンポンしたり油を塗ったり……といった面倒くさい手順は踏みません。コマンドから選択すればゲーム内時間を数分消費して回復されます。

 

『リアリティ』というのは凝りすぎて『面倒くさい』になっちゃ駄目なんですよ。『面倒くさい=難易度が高い』にはなりませんから。

 

 では見所もないので鞣河小学校まで5倍速します。ミニマップの端の方でNPCのランダム救出イベントが起きていますが、小学校とは真逆の方向なので無視しましょう。

 これはいわゆるコラテラルダメージに過ぎない。RTA完走の為の致し方ない犠牲だ。

 

 ──そんなこんなで鞣河小学校に到着。

 巡ヶ丘高等学校とは違いシェルター化はしておらず、時間にしてお昼時の校庭には、生前に体育の授業をしていたのか何人かの『やつら(小学生)』が居ました。やつらの中では最も体力が低く、今の古木くんなら片手R1一撃で倒せます。

 

 しかし体格差があるためバクスタでケツを掘ることが出来ません。無敵時間を利用した回避が使えないので気を付けましょう。んだらば迅速に行動、るーちゃんをさっさと見付けます。

 るーちゃんは一階にある職員室のデスク下か女子トイレに隠れており、小柄故に隠れる際の潜伏能力が我々より高いので、職員室にやつら(教師)が居ようが余裕で隠れていられます。

 

 ですが職員室に居る場合はやつらを一掃しないと、りーさんが居ても出て来ません。

 場所的に一階廊下は手前に職員室、奥にトイレなので奥から探索しましょう。屈み移動で音を極力出さないようにしながら職員室を横切り──。

 

 ──パキ!(ガラスくん迫真の演出)

 

 ンー、アッ、マ゜ッ!! 

 鳴子よろしく撒かれていたガラスを踏んづけて音が出ました。静寂だったが故に廊下に響いた音は、職員室のやつらが反応するのに十分です。こうなったらこそこそ移動する意味もないので、ダッシュで女子トイレに入りましょう。

 ……トイレの一番奥、唯一閉まっている扉にりーさんが声を掛けると、遅れて開かれた中からるーちゃんが現れました。生存を確認したのであとは高校に帰るだけですね。

 

 

 私はやりました、やりましたぞ! 投稿者:変態糞処刑隊。8月16日水曜日7時14分22秒。

 いつもの狩人の兄ちゃん(地底人)と先日招待状を渡した汚れ好きの処刑隊の兄ちゃんとアンナリーゼ様の3人で、県北にあるカインハーストの城の中で盛りあったぜ。

 

 ……ヨシ!(よくない)

 

 申し訳ないが車輪を調子に乗って回してたら服が巻き込まれて死んだ説が有力な自分を処刑隊の一員と思い込んでる精神異常者はNG。

 

 るーちゃんの保護さえ出来ればこんなところに留まる理由はありませんし、さっさと小学校から脱出します。あとは高校に戻るだけなので尺の為にも10倍速で──

 

 

 ……なんで倍速にならないんですか。

 

 

 ──エ゛ッ゛!(ガバ穴)

 女子トイレから出たその瞬間、おそらく職員室から出てきたのだろうやつらの一人に組み付かれ押し倒されました。しかも古木くんとやつら(教師)が邪魔になっててトイレの扉が開かねえ! 

 

 何すんだお前!?(がっこうぐらしRTA)流行らせコラ、流行らせコラ! 

 んーにゃーごお前! 男のチャート壊して喜んでんじゃねえよお前! 離せコラ、流行らせコラ…………なんだお前!?(2匹目)

 

 ──あかんこれじゃ古木くんが死ぬぅ! トイレの中に残ったりーさんの刺又に期待は出来ませんのでまずレバガチャで拘束から逃れ、接近してきた二匹目にぶつけるように蹴り飛ばします。

 抜刀さえ出来れば勝ちは確定────職員室から更に5体!? うせやろ……? 

 

 …………仕方がないのでトイレ内のりーさんとるーちゃんを『待機』のコマンドで留まらせ、合計7体に増えたやつらを相手にします。

 ラッシュ時は当然のように10体以上と戦うので、練習には丁度良いですね……(半ギレ)

 

 刀は片手R2が突き、両手R2が凪ぎ払いなので、上手いこと何人かを巻き込めば一気に数を減らせます。手前の2体を片付け、なんとか隙さえ作れれば奥の5体も倒せるでしょう。

 

 ナーフされまくり何度も変動した刀のリーチを把握している私にとって、切っ先を掠らせるように当てることなど雑作もありません。

【剣術Lv2】になった刀はR1一撃で倒せるだけの威力があり、こうして落ち着いて対処すれば私が負けることなどありえん(MUR閣下)

 

 あとはヒ(当て)ト&アウェ(逃げ)イで数を減らすだけ。ぺっ甘ちゃんが! 

 最初の組み付きで古木くんを噛めなかった時点でお前らの負けなんじゃい!(震え声)

 

 ──などと言っていると、不意に古木くんに向かって歩いてきていたやつらの背後でガラス製の何かが砕ける音が聞こえてきました。

 何体かが意識をそちらに向けたのでチャンスです。ダッシュで近付き、スタミナの続く限りR1連打で切り刻みましょう。

 

 ケツ穴は(枕詞)そりゃあ無双ゲーよろしくバッタバッタとなぎ倒せるのは気持ちええですよそりゃあねぇ(NKTIDKSG)

 

 俺の勝ち! なんで負けたのか明日までに考えといてください。そしたら何か見えてくるはずです。ほな、(経験値)戴きまーす。

 しかし突然何かが都合よく割れるなんてことはありえないので、誰かが助けてくれたのでしょうが……こんなイベントあったかなぁ。

 

 ……と、古木くんが立っている廊下近くの窓の外から、何者かが声を掛けてきました。上が白いシャツで下が黒いスカート、片手にはオシャレな傘とこの独特のシルエットはまさか……。

 

 

 このゴスロリ衣装は間違いなくコブラじゃ────スミコじゃねーか! 

 

 

 …………いや、えぇ……(困惑)

 お前、大学編で名前しか出てこないキャラじゃん。なんで高校編のエリアにさも当たり前かのように登場してるんですかね……。

 

 ──あれ、こいつ、そういえば高校に向かう時の救出イベント*1で助けてましたね。あの時はなにも言わずに去ってしまったから無名のモブNPCなんだと思って気にしませんでしたが、まさかスミコだったとは思いもしませんでした。

 

 ──はい。そろそろ説明しますと、このゴスロリは大学編のとあるグループに混じっていた女性で、交流ノートに残していた名前が『墨子』『澄子』『スミ故』『スミ狐』『角子』『ス観コ』と一貫していなかったため、統一して『スミコ』と呼ばれているキャラクターです。

 

 原作では布地を探すと言って大学から姿を消したため死んだと思われていたけど、最終話の1コマにしれっと写り込んでいてなんだかんだで生存してたことが判明した人物ですね。

 性格は酔うと歌い出す酒豪。あとは……厨二ですね、ノートの中の一人称「小生」だし。

 

 ……スミコ。スミコかぁ……。高校編RTAとかアニメしか見てない人からすれば『誰だよ(ピネガキ)』案件だし、下手したら最終話まで履修済みなのに存在を忘れてた人とか居るでしょ。

 編集しながらwikiで検索したけど、高校編にスミコが登場する情報が全く無い辺り、どうやらかなりレアなイベントみたいですね。

 

 1日目でランダムエンカウントしたあとに2日目以降確率で遭遇……とかでしょうか。これ、スミコにRTAの運全部吸われましたね。

 おそらく出くわす方が珍しいのでしょう。仮にもふら~っと大学から出ていって最終話まで生き延びてた猛者ですし。

 

 そんなスミコですが、古木くんはあちらを知らないけど、あちらは古木くんを知ってるようです。昨日助けたとき碌に会話しないまま去ってしまったことを謝り、今度は避難できそうな場所がないかと聞いてきていますね。

 こんなレアイベントを逃すのは一人のプレイヤーとしても惜しいので、折角ですし高校に誘いましょう。女子トイレに避難させたままのりーさんとるーちゃんを呼んで、4人で帰ります。

 

 ……2日目にして生存者が二人追加。食料の問題もあるので、やはり3日目にモールに向かうのは正しかったか……。

 まあその3日目に更に二人増えるんですけども。ともあれ成人NPCが増えるのは戦力の増加に繋がるので、それで釣り合いを取ります。

 

 スミコは傘を武器の代わりに使っていたようでした。傘の攻撃は打撃/刺突ですか。

 見た目のわりにかなり頑丈みたいですね。キングスマンかな? 

 

 では外に出ましょう。

 廊下を歩く途中で床に転がっている割れた破片に気を付け──この僅かに見えるフィルムからして、割れてるのワンカップ大関の瓶ですね。こいつ呑み終わった酒瓶を投げ込んでたのか……こんなのに助けられたってマジ? 

 

 

 ──んだらば今度こそ10倍速。

 だかだかだかーっと走って高校に戻り、三階の生徒会室に向かいます。時間は昼から夕方になり、夕陽が我々を照らしていますね。

 数回ノックすると、中からエプロンを着ためぐねえが出てきました。

 

 はぇ~すっごい母性……。

 内なるシャアもこれにはにっこり。これはアクシズを落とさないシャアですわ。

 古木くん達が小学校に行っている間に留守番してた三人で購買や食堂に行ってきたようですね。自由行動のAIが初期バージョンから強化されているとはいえ、今回の学園生活部は有能揃いです。

 更には放送室に保健室の布団を運んでおいたらしく、帰ってきてからやろうとしていた事を先んじてやっておいてくれていました。

 

 すげぇ……まるでRTAみたいだ……。

 

 本来は自由行動に任せるのはわりと危険なんですが、今回は待機命令を出すのをド忘れしていたお陰でタイムも縮まりそうですね。

(記録更新の可能性)濃いすか? 

 そもそもチャートに書き忘れたからってド忘れするな(逆ギレ)モシャモシャセン……。

 

 それでは新メンバーのるーちゃんとスミコを安全地帯に迎え入れた辺りで今回はここまで。

 次回は3日目、モール、戦闘、出会い。アルコールの臭いしみついて、むせる。

 

 

 

 

 ──鞣河小学校、一階の女子トイレに訪れた古木と悠里。生きていると信じて声をかけた悠里に反応して、一番奥の個室が開かれる。中から現れたのは、悠里にどことなく雰囲気や顔付きの似通った少女──若狭瑠璃その人であった。

 

「るーちゃん!」

「……りーねー」

「ごめんね……! すぐに助けられなくてごめんね……っ!」

「んーん、へいき」

 

 屈んで瑠璃を抱き締め嗚咽を漏らす悠里。

 そんな悠里を抱き締め返して、瑠璃は肩に顔を埋めた。頬を緩めてその様子を見ていた古木は、廊下から発せられた異音に表情を固くする。

 

「──急いでここを出よう」

「っ、そうですね。るーちゃん、歩ける?」

「歩ける」

 

 こくり、と頷いて瑠璃は手を握る。きゅっと優しく握り返して、悠里が古木に目配せした。

 

「出るぞ、音を立てないように────」

 

 扉を開けて、廊下に出る。油断をしていたつもりはなかったにも関わらず──古木は横合いから飛び掛かってきた教師に押し倒される。

 

「っ、ぐッ!」

「古木さん!?」

「出てくるな!」

 

 古木は咄嗟に半開きの扉を蹴ることで閉め、片腕で死して尚動く教師の首を押さえ込んで噛み付かれることを辛うじて避けていた。

 奥から更にもう一人現れるのを目視して、跳ね上げるように押し退ける。

 

 即座に立ち上がり、自分を押し倒した教師の立ち上がろうとする最中の横っ腹を蹴り飛ばし、奥のもう一人にぶつけて転ばせる。

 腰の鞘から刀を抜く頃には、職員室から遅れて5人現れるのを一瞥した。

 

「……不味い」

 

 計7人。誰でも理解できる。下手を打てば、自分だけでなくトイレの中に居る二人すら死ぬ。古木は手汗が柄を濡らすのを感じる。

 もう既に数人を斬り伏せているのに、いざ面と向かって刃を向けると、どうしてか躊躇が生まれる。耳の近くに心臓があるかのように爆音を奏で────不意に知り合いの顔が脳裏を過った。

 

「──ッ、シィッ──!」

 

 半ば反射的に、鞘から滑り放たれた切っ先が死者の頭部にぞぶりとめり込み、右のこめかみから左へと斜めに上に抜ける。脳を抉られた一人が膝から崩れ落ち、もう1人の死者には返す刀で逆手に持った柄の頭を胸に打ち体勢を崩す。

 持ち直して振った刀の真ん中から切っ先の間が首に深く突き刺さり、包丁で豆腐を斬るよりもあっさりと頭と胴体の繋ぎ目を絶ち斬った。

 

 呼吸を整え、奥の5人を見やる。異様なまでに感覚が冴え渡り、まるで走馬灯を見ているかのように『やつら』の動きを遅く感じる。

 ──直後、ガラスが割れる、というよりは砕ける音が古木の眼前に居る死者達の背後から聞こえ、幸いと弾かれたように飛び出す。

 

 1人、首を断つ。2人、額に刃を差し込む。

 3人目を蹴り飛ばし、4人目のうなじに刀身の地の辺りを添え、研ぐように滑らせて頚椎を切り離す。そして倒れた3人目の喉仏を貫くように切っ先を突き入れ、ぐり、と捻り頚椎を破壊する。

 

 最後の1人が両手を伸ばして古木に迫るが、それを刃先で押さえる。ぐじゅぐじゅとトマトを潰すような感触が刃から柄、手に伝わる。死んでも尚動くという矛盾した生物は、痛みを感じていないのか刃が胸にめり込むのも構わない。

 

 最早()()は、人の姿をしているだけの怪物に他ならない。ちり、と脳裏に火花が散る。ちりちりと、炎が燻る。

 じっとりと冷や汗が頬を流れ、奥歯を噛み締めて眼前の死者から刀を抜くと、古木はふくらで引っ掻くように腕を斬り、回り込んで膝裏を蹴り姿勢を崩して──首に刀を一閃した。

 

 廊下に静寂が訪れ、それでも気を抜かずに辺りを見回す。死者達(やつら)の声、臭い、足音の全てが近くから感じられない事を確認して、トイレの悠里達を呼ぼうとする。

 

「──お見事」

「ッ……!」

 

 ──ふと、そんな称賛の言葉と拍手の音が控えめに聞こえる。咄嗟に振り返って窓の外を見ると、そこには一人の女性が立っていた。

 

「極限状態で研ぎ澄まされ、より洗練された剣術には惚れ惚れするよ」

「……確か……昨日追われていた」

「…………嗚呼、うん。そうだね、あの時は礼も言わずに立ち去って申し訳なかった。なにしろ小生もあのような事態は初めての体験だったんだ、混乱するのもやむなしとは思わないかい?」

 

 黒い傘をくるくると回しながら微笑を浮かべてそんな事を言っている女性に、古木は妙な既視感を覚えていた。昨日とはまた別の場所で見たことがあるような、そんな違和感。

 それはそれとして、トイレに目線をやってから女性に対して提案する。

 

「話はあとでいいか、トイレから出ないように言っておいた相手がいるんだ」

「──おや、ツレが居たのかい」

 

 どうぞ、と片手で傘を握り空いた手のひらを窓の外からトイレへと向ける。

 どこか不可思議な言葉遣いに眉をひそめながらも、悠里と瑠璃を呼びに行く。

 

「悠里ちゃん、もう出てきていいよ」

「……古木さん、大丈夫ですか?」

「少なくとも噛まれてないし引っ掛かれてもいないよ。……ちょっと変な人が居るけど、悪い人ではないだろうから気にしないでね」

 

 はい? と言って小首をかしげる。

 疑問符を浮かべながらも瑠璃の手を引いてトイレから出てきた悠里は、廊下を赤黒く染める死者を見ないように言いながら下駄箱の方に向かおうとして、件の女性と目線をかち合わせた。

 

「や。こんにちは」

「……あ、はい。こんにちは……?」

「こんにちは」

 

 ゴシック&ロリータという嫌でも目立つ服装を着こなす女性は二人にひらひらと手を振っていた。挨拶した悠里に習って会釈する瑠璃に表情を緩めて、女性が続ける。

 

「こんなところに危険を冒してまで訪れた理由は──嗚呼、成る程。そちらのお姫様を探していたわけだね」

「……そんなところだ」

 

 窓越しに廊下と外で話すのを止め、校門近くに集まって対面してから、悠里と古木が女性に今までの行動を全て語る。

 どこに隠していたのかビニール袋を片手に持ち、畳んだ傘を手首にぶら下げていた。

 

小さな妹君(リトル・シスター)を助けに死者ひしめく道を往く──か。ふふ……中々どうして、素晴らしい姉妹愛じゃないか」

「いえ、そんな……」

 

 謙遜しなくてもいい、と頭を振る女性。

 

「小生はこの1日2日で、人間の醜さというものをこれでもかと見てきたよ。

 それに比べたら君たち姉妹の行動は素晴らしいではないか。心の底から、助かって良かったと他人事ながらホッとしているものだ」

 

 ブーツの踵を鳴らして舞うようにステップを踏んで、女性は古木と悠里、瑠璃の周りを回る。ああ! と、わざとらしく演技的な動きで古木の前に立つと──ばさりと傘を広げて微笑んだ。

 

「小生のことは──スミコ、と呼ぶといい。真名(まな)を明かすことは禁忌(タブー)とされているものでね」

「はぁ。なるほど、よろしく」

 

 ただ定型文の返事をしただけで、当然だが古木はスミコの言葉遣いを理解していなかった。

 

 

 

 

 ──巡ヶ丘高等学校に戻ってきた四人は、死者達の目を掻い潜って三階に上がる。積まれただけだが十分な重量で壁となっているバリケードを見て、スミコが感心するように見上げた。

 

「学舎を城塞と見なすその発想には脱帽せざるを得ないね。

 我らが聖なる学舎もまた、このように防壁を築き上げていることを願うばかりだ」

「……そうだといいな」

 

 古木の脳裏に『彼女』の顔が浮かび上がる。そして、ちりちりと炎が燻った。

 

「他の生存者とはここで生活を?」

「ああ。生徒会室に待機してる……筈だ」

 

 まさか自分達が居ない間に襲われて全滅──なんてことにはなっていないだろう。

 数回のノックの後にガチャリとドアノブが捻られると、中からエプロンを身に付けた慈が現れた。古木と悠里の顔を見て、無事を確信したのかホッとした様子で声をかける。

 

「大上くん、若狭さん。おかえりなさい、瑠璃ちゃんは無事でしたか?」

「ええ、助けられました」

「ほらるーちゃん、ご挨拶して」

「……こんにちは」

「はい、こんにちは」

 

 悠里の脚に隠れる瑠璃が顔を覗かせ、慈は屈んで目線を合わせる。

 人懐っこい笑みが警戒心を薄れさせたのか、瑠璃はおずおずと前に出てきた。

 

「──あ! 古木さんとりーさん!」

「おっ、お帰り。無事だったんだな」

 

 バリケードを迂回して生徒会室に合流してきたくるみとゆきが、部屋の前で会話をしていた五人と遭遇する。その手には購買のレジ袋に入れられた調味料類が詰め込まれていた。

 

「その荷物はどうしたんだ?」

「食堂から持ってきたの。パスタとかが無事だったから、今日はスパゲティだよ!」

「古木さんが持ってきたのと購買にあったカップ麺は非常用にして、米とかパスタを先に消費しようと思ってな。

 あと、放送室に保健室の布団引っ張ってきたからそこで寝られるぞ」

 

 赤黒い液体が乾いて張り付いたシャベルを肩に担ぎ、口角を上げて笑う。

 そのまま目線を古木の背後で手持ち無沙汰のスミコに向けて聞いてきた。

 

「……んで、その人誰?」

「ふふ、このまま空気となって消えるところだったよ。しかして風とは自由なものだ、それもまた悪くない」

「は?」

 

 窓から射し込む夕陽をバックにそんな事を言うスミコに疑問符を浮かべるくるみ。

 ゆらゆらと片手のビニール袋を揺らして、その中の瓶がカチャカチャとぶつかる。杖のように傘を床に突いて、初対面の慈とゆき、くるみの三人に顔を向けると改めて自己紹介をした。

 

「──小生はスミコ。そちらの一匹狼(ロンリーウルフ)と同学年のしがない大学生さ」

「誰がなんだって?」

 

 まぶたを細めて睨むように顔を向ける古木に、すっとぼけたような顔で首をかしげるスミコはあっけらかんとした表情で続ける。

 

「高校当時から大学までの数年間で剣道の試合の勝率は九割五分。それでいて他者を寄せ付けない修羅がごとき雰囲気。『一匹狼』と呼ぶに相応しいじゃないか、なぁ。古木くん?」

「……高校の時の同級生だったのか」

「──なんだ、覚えていないのかい」

 

 酷いなぁ、と言って肩を竦める。

 それもそうだろう、古木からすればスミコという存在は派手なゴスロリ衣装の女性としてのインパクトが強いのだ。制服で統一されていた高校時代の赤の他人など覚えていられるわけがない。

 

「まあ、それは良い。重要なのは小生の今後だ、そうだろう? 

 嗚呼──先に云っておくと、小生は生ける屍、子供に配慮して『やつら』とぼかそう。やつらに襲われこそすれ、怪我をさせられた訳ではない。朝陽が差した頃には呻き声しか出さない怪物に成る……なんてことはあるまいよ」

 

 身体検査でもするかい? 

 そう言って両腕を広げたスミコに、やんわりと拒否した慈が対応する。

 

「いえ、()()()()のではと疑っているわけではありませんよ。ただ……この人数では近い内に物資が足りなくなってしまうんです」

 

「成る程。それもそうだね、疑わしきは罰せよ──魔女裁判なんてやろうものなら、小生は暗がりを照らす松明となってしまう。であれば、明日は此処に向かうというのはどうかな?」

 

 ビニール袋から取り出した丸められたチラシを見せる。表には『リバーシティ・トロン館内案内』と書かれており、簡易的なマップも描かれていて、地下1階が食料品フロアとなっている。

 

「──そうですね。でも、そうなると誰が向かうか、という話になってしまいます」

「それは勿論、言い出した小生、加えてあと二人ほど。移動手段も見つけなければね、はは。流石に空を飛ぶのは難しいだろう?」

「……あははー……」

 

 不可思議な言い回し、冗談か本気なのかわからない態度。それでも慈は、スミコが『これから』を生きようとしていることだけは理解できた。

 

「……あ、自己紹介がまだでしたね。

 私は佐倉 慈。巡ヶ丘高等学校で国語の教諭をしています」

「これは丁寧に、佐倉女史」

 

 差し出された右手をスミコは握り返す。──ふと、ぐぅ、という音が廊下に響いた。

 振り返ると、腹を押さえて頬を染めたゆきが立っている。

 

「えへへ……お腹空いちゃった」

「ああ、ごめんなさい丈槍さん。生徒会室に入りましょう、パスタも茹でちゃいますね」

 

 その言葉を皮切りにゆきが生徒会室に入り、後を追って悠里と瑠璃が入る。腹減った~と言ってシャベル片手に続いたくるみと共に、古木が刀を腰から外して付いて行く。

 残された慈が入ろうとして、背後から掛けられたスミコの声に振り返り対応する。

 

「──時に、佐倉女史」

「はい、どうしました?」

「国語教諭であれば、こんな言葉を知っているだろう。『首の皮一枚』」

「……ええ、知っていますよ」

 

 突然の質問に小首をかしげる慈。つい、と流れるように動いたスミコの目線が、シャベルを雑巾で拭うくるみと話をしている古木に向かう。

 

「『首の皮一枚で繋がった』などと、所謂(いわゆる)ギリギリの状態でなんとかなった──そんな意味でよく使われるが、佐倉女史なら、その語源がどういった話か知っている。違うかな?」

 

「……そうですね。元は斬首の際、前のめりになって切腹者が死ぬようにする配慮から来ている──本来の意味で言うなら、スミコさんの例えは正しい表現ではありませんが……」

 

 ──それがなにか? 

 慈は暗にそう返していた。スミコはただ、まぶたを細めて薄く微笑む。

 

「──いいや、国語教諭と言うからには、それなりの知識を蓄えていなければ勤まらないだろうと思ってね。手前勝手ながら試すような真似をして申し訳ない。さっ、明日のためにも、英気を養えるような料理を期待しているよ」

 

 そしてパチリとウィンクを一つ。

 奇妙な剣呑さが嘘のように消え、生徒会室に向かったスミコの背中を目で追う。

 

 故に、慈は先の言葉の真意に気付けなかった。スミコの問いが古木の事を指していた事を。

 静かに燻り、確かに精神(こころ)を蝕む炎が、彼の中で燃え盛っている事を。

 

 ──慈は気付けなかった。

 

 人を斬る感触を知ったその手が、寒さに凍え震える子供のように揺れていた事を。

*1
甲の回 壱のラスト~弐の冒頭を参照




次→8月5日00時00分


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丙の回 前

 大学編キャラ登場で走者の運気を吸い取られたゲームのRTAはーじまーるよー。

 

 前回はるーちゃんを救出し、酒豪でしかも酔うと六甲おろしを歌い出す系ゴスロリ女ことスミコが仲間になった所で終わりましたね。

 今回は2日目夜から再開です。といっても寝るだけなのですぐ3日目に移りますが。

 

 保健室から持ってきたベッドのマットレス×4は、サイズでいえば一つにつき二人までなら寝られる程度には大きいのです。

 しかし問題は寝るポジションで、異性と眠ると否応なしに性欲の値が上昇するので誰が古木くんの隣で寝るかがわりと重要なんですよ。

 

 寝る場所が離れるほどに上昇値は低くなり、近いと高くなります。

 しかも一度決まると違う位置で寝る確率はかなり低くなるため、好感度によっては……まあ……んにゃっぴ、抱き枕にされますよね。

 

 別にヒロインと結ばれることは非推奨ではないんですが、恋人になった事で確実に発生するベッドシーンのゲッターチェンジが避けられないので、RTA的にはリセット案件の大問題ですね。

 一番端で寝る古木くんの隣に来るのは誰だ? せめて性欲の上昇値が低いゆきちゃんかるーちゃんでオナシャス! エッセンシャル! 

 

 

 ……めぐねえ。

 

 

 ──この淫ピィ!!(闇野)

 よりにもよって高校編ヒロインでりーさんと同等かそれ以上に性欲の値が高まりやすい人を隣に置くんじゃねえ! やっぱ確実にスミコに運気吸われてんじゃねえか! 

 

 真逆の端にスミコが陣取り、るーちゃん、りーさん、ゆきちゃん、くるみ姉貴、めぐねえ、最後に古木くんで並んでいる状態です。

 スミコと場所を交換したいのですが、睡眠時間に入ったNPCは起こすとストレス値が上昇するのでもう無理ですね。今回は諦めてめぐねえと横並びに眠りましょう。

 

 好感度0の状態からでも押せ押せであっさり堕とせるチョロインのめぐねえですが、実は彼女を最初に攻略してから他ヒロインに浮気しても一切責められないんですよね。

 逆にりーさんやくるみ姉貴を攻略してからめぐねえに手を出すと、私の口からはとても言葉に出来そうにない凄惨な事になります。

 

 一度だけ『離婚調停×葬式÷浮気現場』みたいな空気になってリセットしたことがあります。三角関係には気を付けよう!(ゆうさく)

 

 ではもう色々と面倒くさくなってきたのでさっさと寝ます。3日目はやることがイッパイイッパイ(内なるガバ穴)なので、疲労を溜めないようにしましょう。……枕投げしない?(手のひらドリル)

 ──いや、やめておきましょう。不意に試走の時くるみ姉貴の豪速球に体力を6割も削られた記憶が突如として想起されたので。

 

 

 

 

 ──3日目の朝です。

 何故か窒息ダメージで体力が0.5割ほど削れていますがなんでですかねぇ(すっとぼけ)

 めぐねえはさぁ……もしかしてRTA完走する気ゼロの人? 人を抱き枕にして寝ぼけながら乙に顔を埋めるのはやめようよ! ねぇ! ぞいぞい言ってないでさぁ!(別作品)

 

 めぐねえの乙で窒息死とかいう誰もが羨む終わりを迎えるのも良いんですが、モールに行かねばならないので起きましょう。

 こ、この教師……大学に友人を置き去りにしてしまい内心気が気でない純情な学生をたぶらかしやがって……! うわぁ髪によだれ付いてる。

 

 それでは朝の運動も兼ねて、三階に上がってきているやつらの殲滅をしつつ職員室から車の鍵を探します。三人でリバーシティ・トロンに向かい物資プラス生存者二名を連れ帰るので、めぐねえのミニカーではスペースが足りないんですよ。

 

 

 ……と、ラグがあったのか、今になってるーちゃん救出サブクエ報酬の経験値が入りました。もっと早く来いよ、遅い遅い遅い(軍畑)

 

 いやぁ【剣術Lv2】のお陰でやつらがTDN経験値にしか見えませんね。さっさと【跳躍】もレベル2に上げたいし、遠距離攻撃用に【投擲】が欲しいのでモールではちょいと多めにやつらを狩った方がいいかもしれません。

 

 ……お、6人乗りのキーが落ちてました。ラッキー、懐に納めておきます。

 そろそろ皆が起き始める頃なので戻……る前に、ステータスから『ストレス・恐怖・性欲』の通称3値(さんち)のチェックをしましょう。

(SAN値では)ないです。

 

 それぞれを10段階で表示しますとストレスは4。恐怖は3。性欲が5ですね、めぐねえの抱き枕にされながら寝てたんだしこれはしゃーない。

 出掛ける前に『処理』しておいた方が無難だと判断したので、あとでトイレに入っておきます。へぇっ!? ホ、ホナニーですかぁ!? 

 

 このゲーム、トイレで処理するときは画面が暗転してゲーム内時間が数分経過するだけで終わりなのに、恋人とベッドシーンでパイルダーオンするシーンは飛ばせないのおかしくない? 

 

 確かにPC版はR-18のエロゲー仕様だけど、RTA(こっち)の事情も考えてよ(DRVS)

 

 ……などと言っている裏で古木くん以外の皆が起きました。

 前日のスミコの提案通りに、モールに行く方面で話が進んでいますね。

 言い出しっぺのスミコと、付いて行く事になる古木くん。そしてくるみ姉貴という現段階で最強のチームをアッセンブルします。

 

 原作では一夜跨いでようやく到着したくらいの長い道のりを行きましたが、ゲームでは当然短い時間で到着します。

 朝から行けば昼には到着するので、中でやることを終えれば帰りで夕方から夜となり、ちょうど1日使い切る計算となっていますね。

 

 すげぇ、まるでRTAみたいだ(n回目)

 

 んだらば食事を済ませて出発(でっぱつ)すっぞ。運転は免許持ちの古木くんがします。スミコにやらせたら"不運(ハードラック)"と"(ダンス)"っちまいそうなので、運転しながら二人に教える形でいきましょう(未来視)

 

 めぐねえ、りーさん、るーちゃん、ゆきちゃんの四人を残していくのは少々不安ですが、今回のめぐねえたちは自由行動で食料やマットレスを持ち帰ってくる有能AIなので大丈夫でしょ。

 るーちゃんが居ることでりーさんもクソ雑魚メンタルを卒業しましたし、めぐねえもバールがありますからね。

 それにゆきちゃんとるーちゃんは幼い生存者として、周りのストレス・恐怖を微量ながら癒す効果もあります。マイナスイオンかな? 

 

 

 ──四人の見送りを背に、手早く階段を降りて外へ。あらかじめ見付けておいた鍵は遠隔操作でロックを解除できるタイプなので、該当する車を探すのは容易です。

 ロックが外れる音をイヤンホホで聞き逃さないようにして、鍵の開いているミニバンに乗り込んでいざ鎌倉。

 なお車はやつらにぶつけると耐久力が減ります。やつらと黒塗りの高級車に気を付けながら安全運転でいきますよーイクイク……ヌッ! 

 

 古木くんのオカズはなんだったのか。

 その謎を探るべく、我々は南米のジャングルへと向かった。

 

 

 

 ──不幸にもブロック塀に追突してしまった乗用車、倒れた電柱、やつらの死体をのらりくらり避けて数分。モールに向かう途中、くるみ姉貴の声で車を止めます。

 くるみ姉貴をパーティに入れた状態で発生する自宅を訪れるイベントですね。

 

 中には誰も居ませんが、ここで様子を見てくるよう提案すると好感度が上昇するので行かせましょう。たったの1分を好感度と交換できると考えればなんともうまあじです。

 

 ……はい、くるみ姉貴が戻って来たので車を発進します。なんか無音なのも寂しいのでSPITFIREでも流しておきます。これがブレンド・Sちゃんですか。違うだろぉ?(内なるガバ穴)

 そんなことを言っていると、件の目的地、リバーシティ・トロンに到着しました。

 下が地下1階、上が5階まである大型のショッピングモールですね。先ずは地下に向かって食料品を確保しましょう。では、散! 

 

 無洗米、缶詰、レトルトを優先的に集めます。しかし地下シェルターを調べられるようになれば物資は事足りるので、この辺の回収なんかは必要最低限で良いです。

 地下1階は生鮮食品なんかもあって腐った臭いが酷いため、なるべく手短に収集を終わらせます。詰め込めるだけツメッ、詰め込もうぜ(KBTIT)

 

 時折ふらふらと接近してくるやつらは片手間で膾切りにしておきます。るーちゃん救出サブクエの経験値が結構あるので、やつらをあと十数体倒せばステータスを3つ上げられそうですね。

 スキルポイントは【跳躍】をレベル2に上げるのと【投擲】を習得するのでちょうど3ポイント使い切ります。RTAという都合上、あれもこれもとスキルを習得出来ないのでこの辺は走者によって千差万別でしょう。

 

 感染による怪力を利用して道路標識を振り回す奴も居れば盲目なのを気にせず走る奴も居る。走者が違えば操作キャラも違う。

 十人一一四五一四(いいよこいよ)色と言うでしょう? *1

 

 

 などと言ってるうちに、散開して回収していたくるみ姉貴とスミコが戻ってきました。

 数回戦闘を行ったらしく、シャベルと傘にそれぞれ血が付いています。

 シャベルはともかく傘頑丈過ぎひん? 

 と思ったのですが、完走後の編集の合間に調べたところ、スミコの傘は護身用の頑丈なモノに、ゴスロリに合うようなフリルなどを付け足した物のようでした。

 

 殴ってよし突いてよし、加えて乗っても平気な耐久性に、広げて入れば降ってくる破片なんかも防げるという。この酒豪、もしかしてNPCの中じゃかなり強い方なんですかね……? 

 

 古木くんが米、くるみ姉貴がレトルトのパック、スミコが缶詰を調達する手筈だったのですが……なんかスミコの荷物多い……多くない? 

 

 その荷物はなんだぁ? 証拠物件として押収するからなぁ? 

 ……離せコラ、流行らせコラ! んーにゃーごお前! どうせ酒持ってきたんだろ! 料理酒で誤魔化せると思ってんじゃねえよお前! 

 

 大学生同士の醜い争いにくるみ姉貴も呆れていますね。あーもう(大人の威厳が)めちゃくちゃだよ。日本の未来を憂うわ。

 ……仕切り直して1階に戻り、使い捨てのサイリウム*2を三人で2つずつ確保します。これは今のような暗がりなどでやつらを誘導するのに使う投擲アイテムですね。

 

 早速サイリウムくんをしゃかしゃかしてポイ。釣られるやつらを背後忍殺しながら三階に向かって、防犯ブザーを回収。これはこのあと脱出時に現れる小規模ながらそれなりに数が多いやつらを捌くのに使います。

 更に女性キャラクターが二人以上居るときに訪れると発生するファッションショーイベントをさっさとスキップ…………しようと思いましたが大したロスにならないので見ていきましょう。

 クソホモたちもきっとそれを望んでいる。俺もそれを望んでいる(アナザーゲイツ)

 

 くるみ姉貴のボーイッシュな短パンはいつぞやのイケ魂の青年*3が反応しそうですが、シリーズが違うので帰りたまえ。

 そしてスミコはガチガチのゴスロリから一転、清楚かつシンプルな白ワンピースへ。

『男の子ってこういうのが好きなんでしょ?』って感じですね、先輩! 好きっス! でも僕は青襲椎子さんが一番好きです(大告女権)

 

 んだらば適当に褒めておき、元の服に着替えるのを待って5階に上がります。5階には寝具や電化製品などが売られており、自分で組み立てる場合もあって当然のように工具セットも一緒に売られているんですね。

 

 残念ながら最強の接着剤ことダクトテープはありませんでしたが、工具の傍らにワイヤーがあったので妥協します。回収しましょう。

 そして、現バージョンでは寝具と反対の位置に、なんとキャンプ用品及びテントが売られているのですが──ここに最強の投擲武器が置かれています。それがこれ、『ペグ』ですね。

 

 本来はテントを固定する為に地面に刺す物なのですが、その用途の都合上先端が尖っており、程々に小さく細長いので、()()()()()()()()()。加えて金属製なので頑丈であり、やつらに刺したあとも再利用出来るんですよ。

 

 ちなみに『物を投げる』という行動は、スキルの【投擲】が無くても出来ます。

 投げて当たればダメージも入ります。しかしとんでもなく当てづらい。

 FPSで言うとでかい円のレティクルの何処かに弾が飛んで行くような感じで、中央に的があっても掠めるか大きく逸れてしまうんですね。

 それを真ん中に飛ぶよう修正するのが【投擲】スキルの補正なわけです。

 

 

 ──説明もそこそこに、工具箱とワイヤーの束をそれぞれ二人に持たせ、早速と既に『軽』から『中』になっている所持重量が『重』にならない程度にペグを回収します。

 ……所持重量ギリギリまで拾おうとしたけど20本目で無くなったので、あとは生存者である親の顔より見たヒロインたちを助けに行きます。

 

 それと、サブクエの経験値とモールで倒したやつらの経験値を合わせてステータスで今のうちに持久力と筋力に1ずつ振り、獲得する2ポイントで【跳躍】を【跳躍Lv2】に上げましょう。

 これで落下ダメージ減少の数値が25%から50%になりました。やはり跳躍……跳躍は全てを解決する……!*4

 

 余った経験値からして、あと少しで更に1割り振れるのでその時は【投擲】を取ります。……おや、飾られていたベッドの上にバールが落ちていますね。誰かが武器として使っていたのでしょう、折角なので持って行きます。

 

 それでは宿直室に向かい、ノックして声を掛けます。すると中から慌てた様子でドタバタと足音が鳴り、少しして扉が開かれました。

 ──3日目ではまだ『みーくん』こと直樹美紀(なおきみき)と共に生活していた少女、祠堂圭(しどうけい)が顔を出してこちらを見てきます。ハァイ女児(ジョージ)ィ……。

 

 死にたくなければついて来い(シュワちゃん)

 

 

 

 

 ──三階、女性用の衣服売り場で、古木は突如として開催されたファッションショーの相手をさせられていた。女性特有の長い買い物に付き合わされ、露骨にげんなりとした顔を見せる。

 

 当然ながらショッピングモールを徘徊する『やつら』が近くにいないことを確認しての行動であり、やはり年頃の高校生(しょうじょ)大学生(じょせい)であればオシャレには気を遣うのだろう。

 

「女とは……」

 

 ふう、と小さくため息をつく。

 古木にとって唯一の知り合い──幼少期からの付き合いになる人物は予めメモした内容以外には目もくれず買い物を終わらせる為、こうして待たされることは一度として無かったのだ。

 

「……いかんな」

 

 こうも思考を纏められるだけの時間が出来ると、胸の奥に押し留めていた不安が溢れそうになる。叶うことならこんなところで時間を潰していないでさっさと大学に戻りたい、というのが古木の心からの本音であった。

 

 それには、動く死体があまりにも邪魔であり──やつらを斬る為にと、無意識に思考がイメージトレーニングにずれて行く。

 もっと深く、もっと鋭く、慈悲など与えず、より速く一撃で首を──「古木くん」

 

 しゃん、と。

 

 鈴が鳴ったような声色が、古木の思考を中断させる。面を上げた古木が見たのは、数分前までゴスロリの衣服に身を包んでいたスミコの、一切の汚れが奇跡的に見当たらない、純白のワンピースを着込んだ姿だった。

 

「──どうかな?」

「………………」

 

 一言で言えば、『清楚』に尽きる。

 元々ゴスロリというファッションを選んでいたスミコなのだから、大抵の服は着こなせる。ぐらりと精神的な支柱を揺らされた気分になり、動揺を悟られないように、古木は平坦に返した。

 

「良いんじゃないか」

「……ふぅん」

 

 どこか不服そうに呟くと、ひらりと裾を翻して試着室に戻る。すれ違うように隣から出てきたくるみのボーイッシュな服装にも同じように返して、数回繰り返したのち、それからはただ刀の調子を確認するだけだった。

 女子物の下着の予備を確保すると言われても、そもそも古木に女子高生や女教師の下着のサイズなど分かるわけがないのだから仕方がない。

 

 

 

 ──ベンチに腰掛け辺りから近付いてくるかもしれない気配を警戒する古木を余所に、くるみとスミコは下着とついでに各サイズのブラトップを買い物カゴに入れていた。

 

「遠征の前に、佐倉女史や悠里くんのスリーサイズを聞いておくべきだったかな」

「なんで……あー、なるほど」

 

 豊満なそれを思い浮かべ、くるみは苦笑をこぼす。客観的に見てもやや平均的な自身のそれと比べて、苦笑はため息へ。

 

「にしても古木さん、どの服装にもバグったみたいに『良いんじゃないか』としか返さなかったなあ。興味ないのか?」

「──ふ、きっと、比較対象が居るのだろう。小生やくるみくんを歯牙にも掛けないくらいの相手が……ね」

 

 くつくつと小さく笑い、ハンガーを外した服を畳んでカゴに入れる。

 

「しかして彼の顔を見ればよく分かる。淡い恋心というものだ。なんともいじらしく、それでいて、青春を感じさせる。

 だからこそこう言わざるを得ないのだよ、「全く男の子ってやつは……」とね」

 

 演劇でもしているかのように、片手を胸元に置いてもう片方を天井へと向ける。ほう、と熱が含まれた吐息が漏れ、いわゆる女の勘がスミコの感情を見抜き図星を突く。

 

「──もしかして、古木さんのことが」

 

 ふに、と指先が唇を押さえた。常に飄々としていた顔が、悲しげに、仕方ないと諦めたかのように、寂しそうに歪む。

 

「馬に蹴られたくないだろう? 

 余計な勘繰りは程々にしたまえ、小生と彼は単なる同学年というだけさ」

 

 踵を返して着替えを探しにいったスミコの背中を見ながら、くるみはポツリと呟いた。

 

「……いや、それもう答えじゃん」

 

 全く大人ってやつは……。まるで示し合わせていたかのように、ついポロっと、くるみの口からそんな言葉が飛び出していた。

 

 

 

 ──5階、寝具や電化製品、キャンプ用品が置かれているコーナーに訪れた三人は、別売りの工具箱と傍らのワイヤーを拾い上げる。

 無洗米をリュックに詰めている古木の代わりにそれぞれを抱える二人の横で、ふとキャンプ用品の一つを拾い上げた。

 

「……ペグか」

「えっと、テントを固定するやつだっけ」

「ああ。しかし、この重さと長さなら……」

「どうした?」

 

 釘のような形の、先端とは逆の端が円形になっているそれを指先で器用に回す。そして不意に、ひゅんと空気を裂くように勢いよく投げた。

 

「うぉっ!?」

「──使()()()な」

「……すげー」

 

 壁に真っ直ぐ水平に突き刺さったペグを見て、くるみがそう声を漏らす。

 足元に転がるペグを纏めて円形の部分に紐を通し、魚を吊るすようにリュックにぶら下げている古木に気になったことを聞いた。

 

「古木さん、なんでも出来るんだな」

「……そういうわけでもない。

 生前俺に剣を教えていた師──叔父上が剣以外も得意だっただけだ」

「生前……?」

「病で去年亡くなった」

「──ごめん」

「いや、いい」

 

 あっけらかんとした口調で言われ、反射的に謝る。(かぶり)を振って短く返した古木の後ろから、スミコが顔を覗かせた。

 

「剣以外も、とは?」

「……叔父上は弓術や投擲術にも優れていてな。だが、先ず剣術を、と言われていた。あれもこれもでは中途半端になるからと」

「ほう……つまり弓も物を投げるのも、やろうと思えば出来る訳だね」

「基礎の基礎だけは聞き齧っているから、出来んことはない。所詮は二足のわらじに過ぎないし、練習あるのみだけどな」

 

 あまり良い思い出のない記憶が脳裏を過るが、なるべく顔に出さないようにしている古木は苦虫を噛み潰したように口角を歪める。

 

 剣では敵わず、離れれば鏃の付いていない矢が舞い、気を緩めると顔面に石が飛んで来る。おおよそ余命宣告をされた病人とは思えない動きをする老人にこれでもかと扱かれたのも今は昔。

 

 唯一の血の繋がりが途絶え、家に一人きりになった今なら、あれこそが不器用な武人なりの孫とのコミュニケーションだったのだと理解できる。そして剣の教えで人を救えているのなら、あの日々は間違いではなかったのだ。

 

「剣、投擲、弓。近中遠の全てに通じるとは──ははぁ、狼流とでも呼ぶべきかな?」

「……『狼』ではイントネーションが違う。『大上』は父方と祖父の名字で、母方の名字が──いや、なんでもない」

「気になるじゃん。なんて名字なんだ?」

 

 暇そうにテントを覗いていたくるみがスミコに代わって問う。視線を斜め上に動かしてから、古木は間を空けて答える。

 

「俺の友人なら知ってるが、教えない」

「ケチ」

「ケチで結構」

 

 ぶーぶーとブーイングを飛ばすくるみを窘め、荷物の重さを確かめてリュックのずれを背負い直すと二人に言う。

 

「そろそろ帰ろう。長居すればやつらに勘づかれるし、学校に残してきた皆も心配だ」

「一人くらいは生存者が居てもおかしくなかったけれど、どこもかしこも死臭にまみれている。あながち『地獄が満員になった』という説も馬鹿に出来なくなってきているようだ」

「なんですかそれ」

「確か、何だかの映画のフレーズ」*5

 

 疑問符を浮かべたくるみに淡々と返し、階段の方角に足を向けた古木だが──ふと、5階の隅にある個室から音が聞こえてきた。

 咄嗟に振り返りながら親指で鯉口を切り、柄に手を沿えて耳に意識を集中させる。

 

「古木くん、どうかしたかい」

「音がした。誰か、あるいはやつらが居る。確かめるか……どうする?」

「……あたしは確かめてみても良いと思う」

「一応リーダーは古木くんのつもりなのだがね、小生としても生存者は居るに越したことはない。尤も、中に居るのが『誰』なのか『何』なのかはまだ分からないわけだが」

 

 まるで、シュレディンガーの猫だ。あまり冗談になっていないそれに頬をひくつかせるくるみと顔を見合せ、ベッドの上に落ちていたバールを拾い上げ刀の代わりに握る。

 

 ハンドサインで簡潔に柱の裏に隠れるようくるみとスミコに伝え、バールを片手に扉をノックする。生存者が居るかもしれないとは言うものの、それが善人であるとも限らない。

 場合によっては死者だけでなく生者をも──そこまで考えて、開かれた扉の奥からこちらを覗いてきた顔を見て古木の毒気が抜ける。

 

「──だ、誰、ですか……?」

「……あー、えーっと」

 

 ワインレッドの瞳を不安そうに揺らし、茶髪をハーフアップにした少女が、古木を見上げて声を震わせる。出入口にばら蒔かれていたチラシを見せると、古木は苦笑を浮かべて言った。

 

「……参加者だ」

「あ、はい。…………はい?」

*1
多すぎるっピ!

*2
ライブとかで使う振ると明るくなるやつ

*3
前作『陽夏木ミカン攻略RTA』の主人公が足フェチだった

*4
このゲームはTRPGではない

*5
ジョージ・A・ロメロの作品『ゾンビ』から抜粋




次→8月9日00時00分


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丙の回 後

 3日目後半です。

 

 5階にて二本目のバールと現バージョン最強の投擲武器・ペグの回収も済ませ、みーくんとKも無事でした。そして灰色の大狼シフことヘイト管理の鬼・太郎丸もみーくんが抱っこしていました。ヨシ! あとは脱出するのみだな! 

 

 ──となれば良かったのが今までの『がっこうぐらし!RTA』です。なんと現バージョンでは脱出時に強制的にやつらの襲撃に遭います。

 

 1階から5階へと時間経過で集まろうとするやつらの対処をしなくてはならない為、さっさと2階まで降りましょう。2階から1階までは階段ではなくエスカレーターで繋がっているので、そこで対処出来れば脱出自体は楽勝です。

 

 左右それぞれに上りと下りのエスカレーターが備わっている事もあり、防犯ブザーで片方を上るように誘導すれば良いだけです。なぁにが襲撃だよ、ぺっ甘ちゃんが! 

 7日目のコミケがごときラッシュの事を『襲撃』って言うんだよ! 

 

 ほらいくどー。さっさと階段降りてほら。

 AIの自動行動はかなり優秀と以前にも話しているのでわかるでしょうが、結構命令にも幅があるため『どこ』で『なに』をさせるかは細かく設定できます。

 そんなわけで今のうちに、四人にはモールを出て車の近くに向かうよう設定しましょう。みーくんとKには古木くんの荷物を持たせておきます。金属製のペグ15本と無洗米のせいでクソ重いだろうけど二人で折半すればへーきへーき。

 

 2階まで向かえばあとは簡単、適当な店の中にでも防犯ブザーを数個投げ込んで──

 

 

 ………………?(TRICKのSE)

 

 

 ──なんか数多くない? 

 

 ……うーん? このイベント時にスポーンするやつらの数はプレイヤー含めてキャラクター×6体だから、この場合古木くん*1と太郎丸*2とスミコ*3込みで六人居るので36体だと思うんですが……なんか50体くらい居ますね。

 

 これは無双ゲーではないし、【科学知識】のスキルが無いので爆弾も作れません。やつらを一網打尽(ののじ)にするのは無理です。

 どうあがいても戦闘は回避不可ですが、しかして前述した通りに片方のエスカレーターを上るように誘導させればどうにかなります。

 四人に改めて車に向かうよう命令し、ルーチンに従って移動を始めたのを見計らって防犯ブザーを2つ、2階の店内に投げ込みましょう。

 

 囮は勿論俺がやる(アナザー卑劣)

 

 ピヨヨヨヨヨという間の抜けた爆音が響き、やつら×50はまるで現代人のように律儀にエスカレーターへと列を作って上がってきました。

 反対のエスカレーターを屈み移動でスニークしながら降りて行く四人+一匹を尻目に最初の数体が上りきり店内に向かったので、恐らく数分もしないで防犯ブザーは踏まれるなりなんなりで破壊されるでしょう。

 

 ですがやつらは一度音がした方に向かうと、音がしなくなっても生前の習慣からか確認しようと最後まで行動するので、放っておけば2階はやつら×50に埋め尽くされます。

 15……いえ20体程が2階に上がって来て、残りがエスカレーターをノロノロと上っている辺りで、もう1つの防犯ブザーを投げ──た瞬間に武器を振って投擲キャンセル! そうすることで、本来なら投げるはずだった道具を手元に残せます。

 

 この小技は防犯ブザーなら音が鳴っている状態で手元に残せて、手榴弾ならピンとレバーが外れた状態で手元に残ります。当然後者は自爆するだけなのでしないようにしようね! 

 

 ……はい、やつらの半数が上がってきましたね。残りに上がり切られる前に、店内ではなく古木くんの手元の防犯ブザーに反応してきたやつらの対処をします。先ほどみーくんたちに持たせた荷物には『15本の』ペグがあります。

 

 残りの5本は古木くんが装備しているので、()()5()()()()()()()()()()()()()

 

 やつらの行動ルーチンは『音のした方に向かう』とか『攻撃を当てた人を追いかける』などが基本的に備わっているのですが、後者のルーチンは追った相手を見失うと見失った地点に向かってから少しして引き返すように設定されています。

 

 ──ですが、仮に、例えば……()()()()()()()()()だったら? やつらはそこに向かおうとするので、手すりなどが無ければそのまま落ちるでしょう。落下ダメージはプレイヤー、NPC、やつら問わず平等に発生します。

 

 やつらは落下ダメージには耐えられません。原作では普通に高所から落ちても生きていますが、ゲーム版では体力(HP)という絶対のルールにより、グシャッとなって完全に死亡します。

 

 

 ──それでは戦闘開始。

 

【投擲】が無い場合、どこに飛んで行くかのガイドすら表示されませんが……私にそんなものはフヨウラ。ガイド無しでも当たるようになるまで練習すれば命中率100%ってそれ一番言われてるから。

 

 1本、2本、34を当てて5本目。はい余裕。投擲武器が命中するとやつらの挙動は若干遅くなるので、それらを追い抜いて接近してきた他のやつらには刀の錆になっていただきましょう。

 尤も血と油で錆びるまで手入れを放置したら元の持ち主(故人)にぶち殺されますが。

 

 35体が店内に引き寄せられ、15体がこちらに来ています。ので、ペグを当てた5体を抜いて6体程を膾斬りにし、更に武器をバールに持ち変えます。まだ無傷の4体が1列に並ぶよう立ち位置を調整して──ここ。

 両手R2最大溜め攻撃による突きで、串焼きが如く纏めて貫きます。これで脱出の準備は完璧に整いました。それでは突然ですが問題。

 

 

 Q.なぜ私は【跳躍】を習得したのでしょう

 

 

 右枠に問題を出し、そこら辺に転がっている子供大の案内板を持ち上げて、2階の入口側にはめ込まれた大きな板状の窓ガラスにぶん投げて粉砕します。問題のヒントは『跳躍の効果』ですね。

 

 ……では答え。

 

 バール処女を奪われた哀れなやつら×4(全員男)を割れた窓に向け、刺さったままのバールを握って……突撃ィィィ!!(にほんへ)

 画面を後ろに向けてペグの刺さってるやつら5体がちゃんと付いてきているのを確認して──やつらごと2階から外へと落下します。

 

【跳躍】の効果はダッシュジャンプの飛距離を伸ばす他に、落下ダメージを軽減できます。レベル1で25%減、レベル2で50%減、次のレベル3(MAX)ではなんと75%減になります。

 

 レベル2の50%減ですら、2階から落ちるだけでほぼ即死の大ダメージをも重めの打撲且つ体力6割減程度に済ませられるんですね。

 そして、この脱出方法こそが【跳躍】を習得した最大の理由です。

 

 元々みーくんとKと太郎丸の救出が終わればさっさと1階まで駆け降りてそれで終わりだったのですが、今回のような想定外でプレイヤー操る主人公が囮にならざるを得ない場合があった場合を考慮して習得していました。

 

 更に更にだめ押しでやつらをバールで貫いて一緒に飛び降りることで、クッションとなり落下ダメージを追加で軽減出来るんですよね。確か1体につき2%なので4体で8%。合計58%の落下ダメージ減少ならまず死にはしないでしょう。

 

 

 ──なぜ鳥は空を飛ぶのだと思う? 

 ……鳥はね、飛びたいから空を飛ぶの。まあ……人間は……飛べないんですけどね。

 

 ──オゴォオッ!?!?(着地(ついらく)

 

 

 では、無事(無事……?)車の前までショートカットに成功したので、落下ダメージの大半を肩代わりして即死したやつら4兄弟から(バール)を引き抜き、その場から避難します。

 遅れてグシャ! と音を奏でて、古木くんが先ほどまで居た場所に5つの肉塊が落下してきました。

 

『1ダメージでも与えておけば他の要因で死んでも経験値を貰える』という仕様の犠牲者となった5体に内心で黙祷を捧げつつ、ペグを引っこ抜いて回収し、車に乗り込み発進。運転手は……くるみ姉貴ですか。ままエアロ。

 

 くるみ姉貴、スミコ、みーくん、K、太郎丸は無事なので、実質無傷ですね。いやそうはならんやろ……(マジレス)

 んだらば学校に戻るまで倍速。決して少なくない落下ダメージは早めに回復しておかないと後に響きますので、生徒会室に戻る前に保健室から打撲用の湿布を頂戴した方が良さげですね。

 

 ──ただいま帰ったゼーット(水木一郎)

 

 自動行動の優秀さにかまけてめぐねえとりーさんの戦闘力関連でしれっと運ゲーしていましたが、四人とも無事でしたね。3値の確認をしたところ二人のストレス値が増えていたので、やつらを数体片付けたのかもしれません。

 

 ゆきちゃんとるーちゃんの癒し効果は太郎丸が加わることで乗算され、ヒロインたちのストレス値と恐怖値はそこそこ放置しても問題なくなるため、ここからはいかに7日目のラッシュこと『あめのひ』を乗り越えるかを考えましょう。

 

 これにて、ゆきちゃん、めぐねえ、くるみ姉貴、りーさん、るーちゃん、みーくん、K、スミコ、太郎丸、そして古木くんの合わせて九人+一匹で最後まで走り抜けることになります。

 学園生活部の四人とめぐねえ以外は死んでも問題ないのですが、ここまで来たなら全員で生き残るのが『筋』というものでしょう。

 

 それでは晩御飯の用意をしているエプロン姿のめぐねえとりーさんを見ながら終わりにさせてもらいます。イベントなんかは等速で垂れ流すのではい、夜露死苦ゥ

 ……あ、今日の晩御飯もスパゲティですか。でも屋上のトマトを使ったなんか本格的っぽいやつですね。うん、美味しい! (ナイナイ岡村)

 

 

 

 

 ──ショッピングモールの1階広場で蠢く死人の群れ。パッと目視して50人程と即座に判断した古木が、エスカレーター横のガラス張りの柵の側に全員を屈ませる。

 隙間からやつらを覗いて小さく声を上げた圭に振り返ることなく古木が呟く。

 

「ど、どうするんですか!?」

「防犯ブザーを鳴らして誘導……とはいえ50人程を纏めて移動させられるか……。

 全員で移動は危険、であれば──」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()急所(首から上)を斬るなら一息で仕留められるのは10~15人。

 

 2階と1階を繋ぐエスカレーターが上りと下りのワンセットで左右に二つ作られていることを、地図と実際の光景を見て確かめる。

 よし、と思考を纏めて背後の四人と一匹に振り返ろうとした古木の頬に、後ろで屈んでいた一人の指が当たった。

 

「……なんだ」

「しっかりしたまえ、酷い形相だ」

 

 ガラスに反射した顔は言われた通りに暗い表情をしている。古木はふぅとため息をつくと、自分の顔を覗き込んでいたスミコの後ろで不安そうにしているくるみと美紀、圭に向き直る。

 

「──手元に防犯ブザーがある。これを2階で鳴らせば、やつらは(うえ)()がってくるだろう。二つのエスカレーターのうち片方を使わせるために、今から奥の店に投げ込む」

 

「そのあとは……?」

 

「こちら側のエスカレーターに隠れながら入口に向かってくれ。外に車があるから、俺が行くまで隠れていろ」

 

 美紀の問いにそう返すと、二つの防犯ブザーの紐に指を掛ける。古木の言葉に疑問を抱いたくるみが、ふと聞いた。

 

「『俺が行くまで』……? ちょっと待て、あんたまさか……」

「上で囮になる。それしかない。スミコ、三人……と一匹を頼むぞ」

「──仕方ないな、男の意地を無下は出来まい。だが約束だ。全員で帰ると」

 

 頷く古木に肩を竦め、やれやれと呟く。

 古木は引きちぎるように紐を抜くと、轟音を奏でるそれを視界の奥にある店の中に投げ入れる。少しして上がってきた死者達はノロノロと店内に入って行き、遅れて数十もの死者が文字通り列を成して2階に上がってきた。

 

「エスカレーターに隠れながら1階に行け。外にもやつらが居る筈だから気を付けるんだぞ」

「あの……古木、さん?」

「確か……美紀ちゃん。どうした?」

「ああ、いえ、その……」

 

 口ごもる美紀の顔を見る古木と、青い瞳が交差する。意を決したように、美紀は言葉を紡いだ。

 

「──気を付けてください」

「……わかった」

 

 さあ、行け。短くそう言われ、美紀達は行動を開始する。距離もあってか見付からずに1階まで降りる頃、四人と一匹が耳にしたのは、三つ目の防犯ブザーの甲高い音であった。

 

 店内の音に大半が釣られ、残りが古木を見付けて迫り来る。手元に残しておいた5本のペグを握り、一瞬手首がぶれたような動きをして投擲し、胸に深々と突き刺さった。心臓ど真ん中に命中するも、死者は動きを止めない。

 

「っ、やはり首か頭──頚椎の破壊で神経の伝達を断つか、脳の破壊でそもそも受信と送信を出来なくするか……か。面倒な」

 

 舌を打ち、苛立ちを露にする。

 ちりちりと、胸の奥で何かが燻る。

 2本、3本と続けざまにペグを投げ、5人に当てた。異物が刺さっているからか、ペグが当たった5人は若干動きが鈍くなっている。

 しかしそれを追い抜いた10人が、呻きながらも腕を伸ばして我先にと殺到してきた。

 

 勢い良く躍り出た1人の躓いた動きに合わせて、鞘から半ばを抜いた刀の刃を押し当てると抜きながら首を裂く。べろんとジッパーを開いたように首が傾き、力を失い床へと倒れ伏す。

 動きは鈍く、それでいて膂力が強い。捕まればそれまでだが、捕まらなければいい。

 

 2人目にわざと刀身を握らせ、滑らせるように引く。するとすんなり手のひらが切り裂かれ、指がボトボトと音を立てて落ちる。

 そしてひゅんと振れば、首の皮一枚を残して頚椎が絶たれる。べったりと張り付いた赤黒い液体を払い、懐の布切れで拭った。

 

「……(ひい)(ふう)(みい)……残り十三。店内のやつらが戻るのも時間の問題────」

 

 下に逃げればやつらを引き連れる事になる。50人もの死者の相手を出来るほど自惚れてはいない。であれば、自ずと、逃げ道は限られる。

 外の景色が見える2階のガラスを見やり、近くに落ちている金属のパーツで組み立てられた子供程の案内板を確認し、逃走経路を構築した。

 

 チャンスは一回きり。故に、自身へと迫る4人という障害を排除すべく、古木は柄を握る手により一層力を込めた。

 刀──祖父の形見【一心】を星眼に構え、3人目と4人目を同時に視界に捉え相手取る。

 

 片方の飛び掛かりを避け、床に転ぶ様子に目もくれずもう1人の大振りの殴打をかわし、脇に刀を差し込んで筋を斬る。

 力を入れられずだらりと下がった腕に違和感があるのか、死者であるにも関わらず首をかしげる動きをした相手の頚椎にふくらを刺した。

 

 倒れた方も同じように切っ先でうなじを斬り、短く呼吸して5人目と6人目に刃を突き付ける。死臭が漂い、呼吸が浅くなる。

 思考が最低限に留まり、耳がやつらの唸り声だけを捉え──()()()()()

 

「ふ────っ」

 

 一息吐くまでの間に柄頭で1人のこめかみを叩き、もう1人の首筋に刃をするりとなぞらせるように通し、筋肉と骨を物ともせず切り落とす。

 こめかみを叩かれた方のぐらりとよろめいた体に、古木は二度突きを入れ、三発目を喉に捩じ込む。鳩尾と心臓、喉に穴が空いて倒れる死者を一瞥し、残り9人のうちペグが刺さっている5人以外を1列に捉えるように立ち位置を変える。

 

 刀を鞘に納め、腰のそれと同程度の長さを保ったバールを代わりに抜き、先端をやつらの腹に合わせてタイミングを待つ。

 ──そして、バールを突き出し、やつらを一纏めに貫いた。

 

 深々と突き刺さるそれを引き抜こうにももがくことしか出来ない死者を一旦置いて、急いで案内板を持ち上げ、ガラスに向かって放り投げる。

 ガシャンと大きく音を立ててガラスが砕け、外に破片が降り注ぐ。車は出入口のすぐ側に止めたため、少なくともガラスと案内板は離れた場所に落ちるだろう。

 

「……やるぞ、俺はやるぞ──ッ!」

 

 すぅ、と息を吸い、ふぅ、と吐いてやつらを貫くバールを握る。

 成人男性4人を纏めて貫いているにも関わらず異様に軽い──ダンベルを持ち上げたときのような負担しかない事に背筋がぞっとする古木は、その怖気を振り払うように形振り構わず全力で走り、割れた窓ガラスの外目掛けて飛び出した。

 

 

 

 ──外に逃げ出すことに成功した四人は、出入口の陰でモールの中を確認していた。

 2階に上がっていた無数の死者が少しずつだが1階に戻りだしているのを見て、スミコとくるみが内心で車のエンジンを起動するか逡巡する。

 ぽつりと呟いた圭の言葉に、スミコが反応して声を返した。

 

「あの人、大丈夫かな……」

「彼は強いから問題ないよ、寧ろ小生たちがこの車を死守せねばならないくらいだ」

 

 あっけらかんとした顔でそう言い、会って間もない美紀が疑問符を浮かべて聞き返す。

 

「強い……とはいっても、一人で残らせるのはやっぱり不味かったのでは?」

「……ふ、ふ。美紀くん、キミは古木くんの事を分かっていないようだね。彼は強いんだよ、なにせ土壇場で迷わないのだから。

 少なくとも町がこうなって2日目の時点で古木くんはやつらを斬ることに躊躇していなかったんだ──彼の言う『剣術であって剣道(スポーツ)ではない』をあの時ようやく理解したものさ」

「は、はぁ……」

 

「スミコさん、古木さんの事になると急に早口になるんだよな」

 

 スミコの言動に慣れ始めたくるみがそんなことを言った──直後、車を前に古木を待つため立っていた四人と抱えられた子犬の真横に、金属製の案内板が落下してきた。

 

「っ──危ねえ!」

「えっ、ひゃっ!?」

「──こちらへ、お嬢さん(マドモアゼル)

「ぅぇえっ!?」

 

 子犬を抱えている美紀をくるみが腕で腹を引っ掻けるように持ち上げて下がり、スミコが圭の肩を抱き寄せると防刃素材の傘を開く。

 車を盾に隠れたくるみ達と傘を盾にしたスミコ達の近くに遅れてガラスが落下し、破片がパラパラと傘を叩いた。

 

 一瞬の混乱。次いで、肉の塊を床に叩きつけた音を何倍にも膨れ上がらせたような轟音が響き、その塊の一番上に居た何かが弾かれたようにモール入口前の石畳を転がり受け身を取る。

 

「──がっ、ぐ、ぉ……っ!」

 

 衝撃を逃がすために大袈裟な程に転がると、車の陰に隠れていたくるみの近くで止める。2階から落下してきたのは、死者をクッションにするという荒唐無稽な策を講じた古木だった。

 

 更に遅れて落ちてきた体の何処かにペグが刺さった5人の死者が石畳の染みになる裏で、骨が軋むのか呻きながら立ち上がる古木が車のボンネットに手を置いて一息つきながら言う。

 

「……待たせた。さ、帰るぞ」

「──なんであたしの周りの大人は変な行動を取るか変な言動をする人ばかりなんだ……助けてくれめぐねえ……」

 

 そんなくるみの切実な言葉が通じたのか否か、何かを察して哀れむような表情を浮かべる美紀の腕の中で、子犬がワンと吠えていた。

 

 

 

 ──長く、濃い一日だったと、学校の敷地内にある駐車場に車を停めた古木を含む全員がそんな事を考えていた。

 

 特に疲労が重くのし掛かる古木の為に保健室で打撲に使う湿布を回収し、改めて三階に向かう。粗末だがバリケードの積まれた廊下をしげしげと観察する美紀と圭を生徒会室に招き入れるべく、荷物を背にして扉をノックする。

 中から現れた慈が、その場の全員を一瞥してからホッとした様子で口を開いた。

 

「──皆さん、お帰りなさい。怪我はしていませんか?」

「怪我人ならそこに一人」

「……俺か」

「あんた以外に誰が居るんだよ……」

 

 思い出したようにぶり返してきた脇腹や背中の痛みに表情を歪め、それを見た慈は表情を一転して慌てて古木を部屋に押し込む。

 

「どっ、何処を怪我したんですか!?」

「モールの2階から落ちただけです」

「今なんて!?」

「……湿布貼ってもらえますか」

 

 慌て、狼狽え、表情を二転三転させる混乱した慈を見て冷静さを保つ古木が、保健室から持ってきた湿布を渡してワイシャツを脱ぐ。瑠璃と遊ぶゆきとそれを見守っていた悠里の三人に会釈する美紀の傍らで、圭がくすくすと小さく笑う。

 

「圭、どうかした?」

「あっ、ううん。

 ……学校に避難してきたのに『お帰り』って、なんか変な感じだぁって思っちゃって」

 

 まあ、確かに。そう言って圭と顔を見合わせ笑みを浮かべる。モールの5階に避難して、それからスタッフの宿直室に逃げ込んで、圭は笑わなくなっていた。

 それが今はこうして笑顔を見せているのだから、美紀はここに来て良かったと心の底から思っている。その目線が古木と横に座るスミコに向いているのは、恩人だからか、はたまた。

 

 

 

「体の調子はどうだい」

「叔父上に木刀で殴られた時よりはましな程度だ。やつらをクッションにしたのは、正解だったらしい……っ、まだ痛むな……」

「キミのお祖父様は病人だったと聞いているのだけどね」

 

 さしものスミコにすら呆れた顔をされる古木は湿布を貼り終えた脇腹を擦る。

 生徒会室の机を挟んで向かいに立ち料理をしている慈と悠里、それを横で見ているゆきと瑠璃を一瞥し、視線を扉の近くで会話しているくるみと美紀、圭達に向けた。

 

「増えたな」

「そうだね──こうも学生が多いと、おいそれと晩酌出来ないのが残念だ」

「お前まさかまだ酒を隠してるのか」

「別に良いじゃないか……結局キミや佐倉女史も呑むだろう?」

「…………はぁ」

 

 古木の眼前の女性、スミコは見た目の優雅さに反してかなりの酒豪である。スカートのまま床に座る古木の隣で体育座りしているスミコが、不意に顔を覗き込んできた。

 

「死者の相手にも随分手慣れてきているようだね。元から剣の腕が優れていたとはいえ、()()()()()()()()()()()なんてよくやれたものだ」

 

「──それは」

 

 そうするしかなかったのだから仕方がない。そう続けようとした古木の唇の端を指で押し、歪な笑みを作らせながらスミコは言った。

 

()()()()()()()?」

「────」

 

 質問の意図を古木が察したのかそうでないのかは、眼前のスミコしか知らない。

 少しずつ、しかして確実に──古木の中で決定的な何かが歪み、亀裂を作っている。それに本人が、周りが気付くのはもう少しだけ先の話。

*1
主人公

*2
ペット

*3
酒豪




次→8月12日00時00分


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丁の回 前

 ──はい。いやはいじゃないが。

 

 走り終えた録画の編集中に行われたバージョンアップでバールくんとペグくんが物の見事にナーフ食らったゲームのRTAはーじまーるよー。公式運営はRTAなんて見てないで仕事しろ。*1

 

 まあ日本刀カテゴリのナーフは伝統芸というか、弱体化する度にめげずに私含め刀好きどもが異次元めいた挙動をしてるせいでせざるを得なくなっていると言いますか。

 

 流石に『攻撃と同時に当たり判定が数メートル延びるせいで斬撃が飛んでるように見える』とかいうバグが発生したのは笑いましたが、ラッシュ時に無類の強さを発揮したのでちょっと残念に思ったり思わなかったり。

 

 しかして弱体化を補って余りある攻撃力の高さは目を見張るものがあります。

 たまに【弓術】も習得して弦ちゃんごっこする位には好きですよ、ええ。

 

 んだらば本日から4日目。今回はコミュ回として、丸一日使って学園生活部の皆々様の好感度を稼ぎましょう。あとは昼に食堂に向かってやつらの生前エミュを拝みラッシュを捌くフラグ立てもしておきます。しないと死にます。

 

 では早朝、何時ものように誰よりも早く起き、何時ものように三階に上がってきているやつらをぶった斬ります。阿弥陀流ではありません。

 先日の経験値と合わせて持久力に1、筋力に2振り、3ポイントで【投擲】を習得してそのままレベル2に上げます。

 これでのちに弱体化されるペグくん最期の煌めきを拝むことが出来るでしょう。

 

 試運転も兼ねて2本だけ持ち出していたペグをやつらの頭に投擲。

 ガイドラインが表示されるようになり、構えから投擲までの速度及び威力も向上。投擲縛りでも充分クリア余裕なだけはありますね。

 尤も、ペグくんはこのあと亡くなるんですが。惜しい奴を亡くしたよ(原因)

 

 スコーン! と小気味良く頭にぶっ刺さるペグくんは、金属製なだけあって回収して再利用が出来るのが強いですね。ほいズボっと。

 投擲武器の面白い所は顔の下半分を狙うと顎に刺さり噛み付きを阻止でき、脚でも特に膝を狙うと歩けなくする事が出来る仕様でしょう。

 ラッシュ時はこれでやつらの群れの前線を転ばせ、後続をつっかえさせる事が必須です。

 

 

 ……やつらのお掃除も完了しましたね。あとは皆が起きてから朝食を取って行動の再開、そして好感度稼ぎが必要なのはめぐねえとゆきちゃん、あとはみーくんでしょうか。

 くるみ姉貴は行動を共にしてるから勝手に仲良くなりますし、りーさんはるーちゃんを助けた時点でかなり好感度を稼げている筈なので。

 

 スミコ? いやあいつはイレギュラーだからどう扱えばいいのかわからん。

 古木くんに対して()()()()()()()()()()()のが怖いんですよね。

 誰が藪をつついたらヒュドラが出てくると想定するよ、ハブ酒にするには毒素が強すぎる。

 

 あとはKなんですが……残念な事にこの子、原作で死亡してるので『学園生活部のメンバー』には含まれてないんですよ。めぐねえは関係者なので数に含まれていますが、Kはそうではないので今後はスミコ共々やや放置気味になります。

 

 これも記録のため……卑怯とは言うまいな。

 

 

 ……と、皆が順番に起きてきましたね。

 みーくんの起床を皮切りにりーさんやくるみ姉貴、ゆきちゃん、るーちゃん、Kが起きてきて、一番端で棺桶がベッドなのかってくらいの一文字に横たわるスミコが起き上がります。お前たまちゃんみてぇだな? *2

 

 さっさと朝飯を食って学校内のやつらを減らしつつ好感度稼ぎ用のイベントを発生させたいんですが……めぐねえ、朝弱いんすね。しゃーない。行け、るーちゃん!(チョッギップルルルリリリィィィ)

 ちょいと起こすよう指示を出せば、るーちゃんはめぐねえの鼻をつまんで呼吸を止めます。子供の無邪気な無慈悲さを食らえっ! 

 

 ……起きましたね。ヨシ!(よくない)

 

 九人も揃えば布団はぎゅうぎゅう詰めですし、古木くんにはそろそろ寝袋でも使わせましょうかね。なぜか1階の学食兼購買部倉庫にあるのであとで持ってきます。

 

 早速朝食を作りますが……材料を持ち合わせて○ボタンで即完成なので問題ないです。まさか料理で突然音ゲーが始まるわけでもなし。

【剣術Lv2】だからって刃物の扱いならなんであれ長けている等と言うナイーブな考え方は捨てろ(ラーメンハゲ)

 

 朝食は炊きたての無洗米に缶詰、デザートはマルチビタミンのサプリとなっておりまぁす。なんちゅうディストピア飯じゃ……。

 余談ですが私は亜鉛と鉄分のサプリを同時に服用して黒いゲロを吐いたことがあります。

 

 健全な精神とは豪華な飯で構成されるので、欲を言えば肉が食べたいですね。

 そんなおにく(天野浩成)は現在地下室で冷凍保存されており、めぐねえの好感度を上げて発生する緊急避難マニュアルの閲覧でようやく向かうフラグが立つのですが……まあ早くても明日には閲覧できるようになるでしょう。

 

 それでは食後の運動にあることをしましょう。皆も分かるかな? そうだね、バリケードの強化だね。行くぞ野郎共!(男性一名)

 ただ積み重ねただけの机と椅子はワイヤーと工具箱を用いることで『頑丈なバリケード』に強化でき、ラッシュ時のやつらに押されても崩れることはないでしょう。

 

 ただ工具箱があり人数が増えたとはいえ、強化にかなり時間が掛かります。古木くんとくるみ姉貴とスミコの三人体制で見張り、万が一にも作業中のヒロイン達が襲われないように気を付けます。まあ倍速でかっ飛ばすんですが。

 

 まるで回線がクソ雑魚な時にダウンロードするようなゲージの遅さにイラつきつつ、片方が終わったらもう片方も終わらせます。

 ……と、1体エントリーしてきましたね。スミコが担当してる側から来たので、【投擲Lv2】のガイドに沿ってバリケードの隙間から膝に向けて投げ付けます。

 

 膝に突き刺さって片膝を突いたやつらに、スミコの傘によるフルスイングが叩き付けられました。まるでやきう選手みたいなフォームしてるけどなんかスポーツとかやってたの? 

 

 その後は特に問題なく3階のバリケードの強化も終わりました。ワイヤーで補強され、より崩れにくくなっていますね。

 そして強化するのに時間が掛かり、現在時刻は朝から昼へ。

 昼食を挟んで休憩しましたらヒロインたちの行動を待ってから屋上に行きましょう。行きますわよ……行きますわよイクイク……おヌッ!(上品)

 

 屋上にはくるみ姉貴とみーくんとKが居ました。野菜のストックの確認をしたいから相手するのは後でね……うーんトマトがあるからまあ……大丈夫かな? 最悪キャベツは千切りにして酢漬けにすれば暫く持つでしょうし。

 

 確認も終わったし食堂行くべ……と思っていると、くるみ姉貴から話し掛けられ、「ちょっと手合わせやらないか♂」と誘われます。

 ……いえ、やりませんがね。決闘イベントなんてやらなくてもくるみ姉貴の好感度は十分稼げているでしょうし、そんなタイムロスなだけの戦闘に付き合うわけ…………。

 

 えっなに、「負けるのが怖いのか」って? 

 これもしかして、挑発……? 

 

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

 

 ──カッッッチィ──ン(ニノマエ)

 

 久しぶりに……キレちまいましたわよ……。やってやろうじゃねぇかよこの野郎! 磯野ォ!決闘(デュエル)の開始を宣言しろォ! (BGM:攻撃戦だ)

 

 まさか手合わせを断ると挑発されるパターンがあるとは思いませんでしたが、ここまで言われては戦うのもやぶさかではありません。

 決闘イベントは読んで字のごとく、くるみ姉貴と戦うイベントです。あくまで手合わせなので、どれだけ攻撃力が高い武器で開幕10割を狙っても必ず体力が1割残る形で終わります。

 

 最高難易度のランダル編トゥルーエンドを迎えることで入手できる最強近接武器『血刀』で10割どころか50割いける威力の攻撃を叩き込んだのに必ず1割残ったので間違いありません。

 

 ──それでは戦闘開始。

 

 くるみ姉貴は筋力*3と持久力*4に高い数値が割り振られたシンプルなアタッカーで、普段からクソホモ達にゴリラゴリラとウホウホ言われているからといって元陸上部なのを忘れていると、思った以上の速さで肉薄されてシャベルでぶん殴られ体力が半分以上消し飛びます。

 

 こちらも体力が1割まで減ると敗北です。死にはしませんが、負けたらなんか悔しいので意地でも勝たせてもらいましょう。

 

 戦闘開始直後のくるみ姉貴の行動パターンはシャベルを構えて様子を見てくるか全力で突っ込んでくるかの2パターンですが……後者を選びましたね。ダッシュ攻撃の大振りの振り下ろしを避けて──R1。カウンター攻撃扱いとなり、がっつり体力を削れました。

 

 カウンター攻撃の判定というのは相手の攻撃が()()()()()()()()()()()なので、例えば相手が攻撃し始めた瞬間に一撃、終わるまでに一撃と二回も攻撃を挟めます。

 しかしくるみ姉貴の攻撃は時折アサルトアーマー*5が発生するため、逆にカウンターされて一撃で負ける場合もままあります(三敗)

 

 ですが悲しいかな、シャベルと刀ではリーチが違うんですよね。『くるみのシャベル』は長さにして約65センチですが、古木くんの刀──打刀は柄を含めると大体95センチ。

 30センチも差があれば、こちらの攻撃は届くけど相手の攻撃は届かないという一方的な場を作れます。あとは簡単くるみ姉貴の攻撃に合わせてチクチク切っ先を掠らせるだけ。

 

 ──俺の価値!(メンヘラHND△)

 

 なんで負けたのか明日までに考えといてください。そしたらなにか見えてくる筈です。ほな、(経験値)いただきまーす。

 ……こんな勝ち方で好感度上がんのかよ、とは私も疑問に思いましたが、くるみ姉貴は文字通りの体育会系なので剣を通じて相手の気持ちを理解したとかそんな感じでしょう。

 

 

 それでは古木くんの3値*6を確認して4日目前半を終わります。

 飯も食ったしやつらの攻撃も受けてないし決闘イベントでスッキリしただろうし、少なくともストレスはそんな高くないでしょ──

 

 ・ストレス/7【バッドステータス/直感↓】

 ・恐怖/3

 ・性欲/2

 

 ……なんで? 

 

 

 

 

 ──なんとなく、調子に乗って、くるみは古木に言った。「負けるのが怖いのか?」と。

 屋上から出ていこうとして、そのあと振り返った古木の顔が、まるで能面のようだったと──(のち)にくるみと美紀、圭は語る。

 

「──うぉおらァ!」

「脇を締めろ、力任せに振るな」

「いでっ」

 

 刀を振るう古木の見よう見まねは所詮付け焼き刃だったらしく、くるみのシャベルはあっさりと避けられ、肘と膝に装着したプロテクターを峰で叩かれる。音にして『ゴンッ』と鈍く響き、鈍痛からシャベルを落としかけた。

 

「俺の真似なんてするな。それは刀じゃない」

「っ、よいしょお!!」

「……うん、さっきよりは良いぞ」

 

 ギャリリ、とシャベルの刃と刀身が擦れて火花が散る。じっとりと汗を滲ませ、短く呼吸をして最低限の動きでシャベルを振るう。

 しかしそれでも、峰で柄を受け止めて流される。よろけた背中を指で押されてくるみは転びそうになるが、たたらを踏んでなんとか耐える。慌てて振り返ると、古木は既に刀を振っていた。

 

「────」

 

 カンッと乾いた音がして、とっさに一文字に構えたシャベルが弾き飛ばされる。

 弧を描いて畑の土に突き刺さったそれをつい見届けてしまったくるみが、はたと見上げる。そこにあったのは、薪を割る斧かのように上段で構えられた刀と、くるみを写していない古木の瞳。

 

 

 ──やべぇ、死んだ。

 

 

 ただ直感がそう理解し────刀身は前髪に触れる寸前で停止していた。そして、くるりと刃を反転させてゴンと峰で額を叩く。

 

「あだっ」

「……チャンバラはここまでだ」

 

 鞘に刀を納めてそう言い、古木は踵を返して屋上から校内に戻る。それを見送ってからくるみは自分の腕が粟立っていた事に気付き、遅れてぺたんと尻餅を突いた。

 

「くるみ先輩、大丈夫ですか?」

「おー……おう、へーきへーき」

 

 美紀の言葉にひらひらと手を振って、ふぅと息を吐いてジンジンと痛む額をさする。

 加減はされていたが、刀を振り下ろす直前のあの眼差しは──そこまで考えて、くるみは屋上に誰かが向かってくる足音を聞く。

 

「──あっ、スミコさん!」

「やあ圭くん。それにくるみくんと美紀くん。なにやら楽しそうな事をしていたようだね」

 

 ぱっと表情を明るくした圭の視線の先に居たスミコが、日差しを見上げて傘を開く。

 やけにスミコに懐いている圭に犬の尻尾か何かを幻視しつつ、くるみはシャベルを引き抜いて土を水で洗い流した。

 

「古木くんと立ち合ったのだろう? 先ほどすれ違ったが──ふふ、彼は強かったかい?」

「……まあ、そっすねぇ。

 手も足も出ませんでしたよ」

「ふ、ふ。そうだろうとも、彼は伊達や酔狂で剣道の試合・大会で勝率九割五分だったわけではないのだからね。叔父に習ったという剣術は全てが急所を突く事に繋がると聞いたものだ」

 

 水を得た魚が如く饒舌になるスミコに対し、圭は恋は盲目とばかりに目を輝かせ、くるみと美紀はげんなりとした顔をする。

 

「突然語り始めましたよこの人」

「壊れたペッパーくんかよ」

「……あれ、勝率九割五分ってことは、古木さんって負けたことあったんですか?」

「おい馬鹿オタクに語る機会を与えるな」

 

 圭のふとした疑問に、待っていましたと言わんばかりにスミコは言葉を繋げた。

 

「そう、九割五分。彼は高校時代の剣道大会で負けたことはなかったにも関わらず、最後の大会の勝利を剥奪された。何故だと思う?」

「えっ、うーん……なんででしょう?」

 

 小首を傾げる圭にスミコが微笑を浮かべると、傘をくるくる回しながら唄うように声を張る。まるで()()()()()()()ような声色は、嫌でもその場の三人を釘付けにしていた。

 

「八百長だよ。ああ、勘違いしないように。彼は提案()()のではなく、()()()のさ。

 小生は当事者ではない故に新聞部からの又聞きになるが──なんてことはない、彼は他の部員に出番を与えないくらいに強かったんだ。

 

 試合に出れば無敗。巡ヶ丘の勝ち抜き形式の大会に出れば一人で全戦全勝。そんなことを三年連続でやられれば、部員からすれば──」

 

「……面白いわけがない、と」

 

 美紀の答えに、その通り。そう言ってふわりと笑い、スミコは続ける。その瞳に熱を持ち、言葉にもまた熱が入る。

 

「なればこそ、古木くんは部員と大会の対戦相手に『わざと負けてくれ』と提案されたのさ。他の連中に花を持たせてやってくれ──なんていうあまりにも傲慢な理由で、ね」

 

 運動部だからこそ、くるみは突出した才能を持つ者のワンマンチームが()()()()()ことを理解できる。しかして古木の実力が膨大な努力に裏打ちされたものだからこそ、口を出せる領域の話ではないと眉をひそめるだけに終わっていた。

 

「小生は見ての通りスポーツには……まあ、多少の関心しかなかったのだけれどね、1年生の頃に見た古木くんの剣術と剣道(スポーツ)らしからぬ殺意に魅せられたんだ。

 だからこそ分かった。あの最後の大会で会場に顔を見せた彼は、本気で怒っていた。顔こそ無表情ではあったが──彼は恐らく激情を内側に溜め込むタイプなのだろう」

 

 うっとりと頬を染め、彼女は滔々と語る。

 

「古木くんは会場に一人だけで現れ、対戦相手に言っていたよ。『剣を振るう人間として恥ずかしくないのか?』とね。そして味方と敵の全員に八百長を持ち掛けられたことを暴露した上で対戦相手の全員を叩きのめした。

 

 ふと思うんだ。もし彼がその手に握る剣が竹刀ではなく真剣だったら──と」

 

「…………」

 

 八百長を持ち掛けられた被害者だったが、それはそれとして、試合とは思えない熾烈な攻撃が原因となり、古木は大会三連覇及び勝率十割の記録を逃したのだ。

 壮絶だな、とはくるみの呟きか。

 

 ──一転、不意に冷静さを取り戻したかのように表情を整えたスミコが言った。

 

「君たちがどう思っているかは兎も角として、これだけは覚えておきたまえ。

 彼は剣士だ。英雄ではないし、偶像(ヒーロー)でもない。彼はただ、生粋の剣士なんだ。期待なんてしてやるな」

 

 ぱたん、と傘を閉じて、足元から伸びる影に視線を落としてスミコは淡々と告げる。

 その瞳はまるで、炎に魅せられるように揺れていて──その炎は、男の中で燻っていた。

 

「古木くんは人を斬る技術を磨きながら、その実人を斬る事を是としない。故にこそ──その愚かさが堪らなく面白いのだよ」

 

 言いたいことを言い終えるや否や、スミコはくつくつと小さく笑いながら屋上から校内へと戻っていった。残されたくるみは、美紀と顔を見合わせてなにか恐ろしいものを見てしまったとでも言いたげに目頭を指で揉む。

 

「……なんか、突然現れて『自分だけは彼の事を理解してるんだけどね』アピールをするだけして帰りましたよあの人」

「分かりやすすぎる……。スミコさんどんだけ古木さんのこと好きなんだよ……」

 

 圭に至っては「古木さんのことを語るスミコさん、素敵だよね……!」と言っていた。美紀は静かに情操教育……と呟き、くるみは聞かなかったことにする。

 

 嵐が訪れる直前であるような晴天が、屋上の三人を燦々と見下ろしていた。

*1
した結果定期

*2
スロウスタートの百地たまては和服を着たまま寝相を変えずに眠れる

*3
攻撃力や物を持ち運ぶ能力に該当

*4
スタミナと移動の素早さに該当

*5
攻撃に攻撃を被せてものけ反らない、能動的なスーパーアーマー

*6
ストレス・恐怖・性欲の総称。SAN値ではない




次→8月16日00時00分


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丁の回 後

 前回のラブライブ! 

 

 走者兄貴「ハァ……ハァ……敗北者……?」

 太郎丸「乗るなエース! 戻れ!」

 古木くん「レッドファイ!」

 

 

 ──後編はーじまーるよー。

 

 前回は小生意気なメスガキを""理解(わか)""らせたところで終わりましたね。

 それでは学食兼購買部倉庫に向かい、フラグを立てつつ寝袋を取りに行きましょう。

 

 保健室のマットレス×4は合計八人までは寝られますが、現在は九人いるので一人余ってしまい、無理やり押し込めば窮屈さからストレスが上昇してしまうので、古木くんには寝袋で寝てもらいます。いいだろお前唯一の男子だぞ。

 

 ……ストレスといえば、古木くん、なんでかストレスが7もあるんですよね。最大で10なので限界寸前だとわかります。

 今回は直感の数値がダウンするだけで済んでいますが、これで『不眠』や『拒食』を引いていたらメンタルヘルスが必須になるでしょう。

 

 とは言っても難しい話ではありません。治し方は簡単です、ヒロインにバブみを感じてオギャれば良いだけなので。要するにヒロインに甘えてゆっくり休めってことです。

 

 成人男性が年下の学生や高校教師、酒豪に甘えるのは難しい……だって? そうか? 私には相手がネカマだろうとバブみを感じさせるならオギャれるだけの自信がある。

 

 フルダイブVRでアホほどネカマに絡まれて鍛えられた観察眼を舐めるな……。

 精度の高いボイチェンで迫ってきたあの野郎が……むぎゃおおおおお!?(発作)

 

 ……がっこうぐらしのフルダイブVR版とか出ねーかなーとは思ってますが、私はフルダイブ系ゲームでは基本的にアバターを敏捷特化の黒い格好の女の子に固定してるので、同じサーバーの人から「シンプルに動きがキモい」「お前の重力どこに向いてんの?」「必要とあらば関節を逆に曲げる奴」「マネキンが操作してんのか?」「黒くて小柄で素早いとかゴキブリじゃねえか」という数々の応援メッセージを頂いてるんですよね。

 

 つまりVR版がっこうぐらしが発売したとして、RTAなんてやったら確実に見た人がえげつないくらいに酔うと思います。よって没。そもそも出るわけねーじゃん、はっはっは……(藤岡弘、)

 

 

 ──んだらば話を戻しまして。

 

 食堂に向かうイカれたメンバーを紹介するぜ! ストレス爆上げ剣士、古木くん。危機察知能力全振り、ゆきちゃん。固有スキル【威嚇】で怯ませられるがっこうぐらし界のDD(ダイヤモンド・ドッグ)、太郎丸。そして楔のデーモン、りーさんです。

 

 ……なんか犬っぽくねぇよなあ? ままええわ。そんなわけで1階へとやってきたのだ。

 ヒロインは、直感の数値によって、時間経過で食堂に集まるやつらの挙動から『もしかしてあいつら……生前の行動をトレースしてるんじゃねえか?』と億泰のような鋭い指摘をしてくれます。

 

 そのテキストが発生するまでの間に、倉庫から寝袋を取ってきます。この辺に卒業生チャートらしさが出ていますね(適当)

 寝袋を確保して戻ってくると、ゆきちゃんとりーさんが話し掛けてきました。

 椅子に座ってぼけーっとしているやつやトレーを掴んでうろうろしているやつらを見て、上記の話題を出してくれます。

 

 これで7日目に利用するフラグが立ったのでもうここに用はありません。邪魔になる奴だけ排除して、さっさと3階に戻りましょう。

 ……やることねーなー、やることねーなー。どうするよ暇だぁ。金もねぇしなぁ~。

 

 スミコのお陰でお酒があるのでめぐねえとの交流は夜に回せるんですが、今みーくんたちは屋上に居るんですよねぇ。くるみ姉貴、りーさんの好感度は多分上々。

 ゆきちゃんもまあまあ高い筈なのであとは加入したばかりのみーくんの好感度を上げれば、8日目に手紙を飛ばすイベントが発生し、2日後にヘリが飛んできて最終イベントに繋がるのですがね。

 

 とはいえまだ4日目だし7日目のラッシュを切り抜けさえすれば全員の好感度が一定数上昇するので、この辺は難しく考えなくてよいかと。

 

 

 ──本格的にやること無くなってきたので倍速します。夕方頃まで進めて、イベントが発生しないか確かめつつ全員が生徒会室に集まるのを待ちましょう。ゆきちゃんの好感度が一定を越えていると……来ましたね。

 

 はい。なんだかんだで誰も犬の名前を知らないため、全員で名前を考えるイベントです。そう、実は今まで誰もこの犬の事を『太郎丸』とは呼んでいないんですよ。原作知識で私が勝手に太郎丸と呼んでいるだけなんです。

 

 といっても、誰がどう名付けても結局はゆきちゃんのネーミングで太郎丸に決定されるんですけどもね、初見さん。尚この時点でゆきちゃんの好感度が8割を越えている場合、プレイヤーが名付け親になる場合も御座います。

 

 ……なんだ? 私のムナンチョヘペトナス太郎川くんになんか文句でもあんのか? 

 

 まあそんなことはどうでも良いのです。スミコの†ケルベロス†とかいう頭が2つほど足りてないえげつねぇネーミングは無視して、太郎丸という名前に賛同してゆきちゃんに媚びましょう。

 

 無事太郎丸の名前が『太郎丸』に決定しましたので、夕食の準備をしましょう。太郎丸は……太郎丸だった……?(ゲシュタルト崩壊)

 

 

 ……はい。馬鹿な発言もそこそこに、本日の食事を決めます。缶詰と無洗米、レトルトのパックをモールから持ち帰っているためメニューは気にしなくて問題ありません。

 

 ……おや、今回はめぐねえとりーさんではなく、古木くんとみーくんが料理をするようです。一緒に料理をすると好感度が少しだけ上昇するのでこれはうまテイストですね。

 

 屋上の野菜を適当に刻んでドレッシングを回し掛け、お手軽にサラダを作り、複数のカレーのレトルトを鍋に混ぜ込んで鍋いっぱいのカレーにします。レトルトとはいえスパイスがしっかり入っているので混ぜるとこれが意外に旨い。

 

 炊飯器2つ体制で炊き上がった九人分のお米をよそい、いざ鎌倉。うん、美味しい!(岡村)

 太郎丸にはしれっとKとみーくんが確保していたらしいドッグフードを食べさせます。ゲームだからか仕様なのか、ドッグフードはなぜか購買部にあるため明日予備を取ってきましょう。

 

 食事も終わり、ビタミンサプリも飲み、満腹になり──次にやることと言ったらもう決まっています。でん!缶のやつ。

 

 ──そうだね、大人組で酒盛りだね。

 

 スミコがどこから引っ張り出したのか生徒会室の隅に置いていたクーラーボックスからひょいひょいと酒を取り出し、机に並べます。

 完全に乗り気のスミコ、久しぶりのお酒をチラチラ見てるめぐねえ、呑めなくないけどさほど好きでもない古木くんで三者三様ですね。

 

 持久力によって酔う酔わない、悪酔いするしないが決まるお酒ですが、古木くんはかなり持久力が高いので1~2本は平気でしょう。

 子供の見ている手前、泥酔してダル絡みでもしようものなら好感度が地に堕ちるのは確定的に明らか。意地でも古木くんは酔わせません。

 

 ……しかし酒なんてあんまり美味しくないものをよくもまあグビグビ呑めますね。

 私は妹と二人暮らしなので酒は呑みませんが、フルダイブVRゲー仲間は頻繁に呑みながらプレイしてゲロ吐いてログアウトしてますし。

 

 ワインは美味しいのを選ばないと不味いやつはマジで不味いし、ビールは苦いし、呑むならやっぱり果実のチューハイですわよ(子供舌)

 1缶をちびちびと呑む古木くんの傍らでは、スミコが既に3本目に手を出しており、めぐねえがたった今2本目を飲み干しました。

 

 久しぶりに呑む酒は旨いか? 明日は二人とも二日酔い確定ですね。

 まあたまにはこんな贅沢も良いでしょう。酒は百薬の長なんて呼ばれるように、程々に嗜めばストレス発散のよき相棒となります。

 

 ──悪い例が目の前に二人ほど居るのは気のせいです。スミコが壁にへばりついて何か言っているのも気のせいだし、めぐねえがもたれ掛かってきて謎の言語を話しているのも気のせいです。

 

 いち教師として子供を守護(まも)らねばならぬ立場なので、こうして愚痴を言う機会を設けなければ、彼女のように溜め込むタイプはいずれ爆発します。今回は仕方がないので古木くんが会話の相手になりましょう。それはそれとして3本目の缶を開けるのはやめた方が良いと思う。

 

 つまみ代わりのきゅうりのスライスをポリポリかじり、太鼓の達人よろしくTNPよく会話を聞き流しつつ、時間も遅くなってきて眠いだろうゆきちゃんやるーちゃんを寝かせるようりーさんたちに指示を飛ばしておきます。

 

 ……と、寝室に使っている放送室から戻ってきたのはくるみ姉貴とみーくんでした。あんたたち本当に仲良いわね~。

 

 ……ダル絡みされてる古木くん、呂律が回らず言葉を聞き取れないめぐねえ、壁抜けしようとするプレイヤーのように壁に対して直立不動のスミコ。まるで地獄絵図みたいだぁ……。

 

 よし、仕方ないのでいっちょ私の自分語りでお茶を濁しますか。(隙自語)

 そうですね……私がフルダイブVRで遊ぶ時は女の子のアバターを使うと話しましたが、大抵のゲームは声がリアルのままなので、ネカマやネナベをするにはそれなりに高価なボイスチェンジャーを使わなければならないのですが……。

 

 私の場合、見た目はめちゃくちゃ可愛い美少女アバターなのに声がめちゃくちゃ低音なので、初見の相手は先ずビビります。

 

 仲間からは『喋るな』だの『声帯取り換えろ』だの『黒い流星(ゴキブリ)』だのと好評でしたね。

 一時期のアダ名は『幻想殺し(ゆめをこわすな)』でした。

 なんでやろなぁ……(すっとぼけ)

 

 さて、そろそろ寝る準備に入りたいので無理やりにでもスミコとめぐねえを担いで放送室に戻りましょう。あとは大人組のステータスチェックもしておきます。酒呑んどけばストレスは多少なりとも軽減される筈なのですが……。

 

 

 大上 古木

 ・ストレス6【直感↓】

 ・恐怖1

 ・性欲3

 

 佐倉 慈

【状態異常:泥酔】

 スミコ

【状態異常:泥酔】

 

 ……うーん左スワイプ。

 

 

 

 

 ──食後の晩酌とばかりに酒を取り出したスミコに注意しようとするも、気分転換は必要だろうと大目に見た古木が後悔してから数分。

 

「──でぇすぅかあらぁ、わりゃしだってきょーしとして出来ることはなんでありぇ精いっぱい頑張ってるんでしゅよぉ~~~!?」

「そうですか」

「きいてますか古木くぅ~ん??!」

「聞いてますよ慈さん」

 

 缶の中身を右手で呷り、左腕に抱きつく形でしな垂れかかる慈の話を聞き流す。

「めぐねえ呼びも嫌ではないけど教師としての威厳○△□×△◎!?」といった様子で何を言っているのか聞き取れなくなってきた辺りで、生徒会室に戻ってきた二人に目線を向ける。

 

「……うわ。めぐねえ完全に出来上がってんじゃん。スミコさんは……なにあれ」

 

 九割ほど飲み干された日本酒の瓶を抱えながら額をゴリゴリと壁に押し当てるスミコ。

 ぶつぶつと何かを呟きながら、酔いからかその美麗な顔を真っ赤に染めていた。

 

「ふふふ……聞いているかい古木くん。古木くん? 古木くん、今日の君は……固いじゃないか……固いな……なんでだい……?」

「スミコさん、それ壁です」

 

 呆れた顔で美紀が言う。

 ほっとけほっとけとくるみに言われ、スミコをそっとしておく事にする。二人で古木と慈の向かいに座ると、くるみはのらりくらりと慈の言葉に相槌を打つ古木に気になったことを聞いた。

 

「めぐねえのこと『慈さん』って呼んでんだな」

「会話がループし始めた辺りで名前で呼べとしつこく迫られた」

「……お疲れさん」

 

 ちなみに何回目? と聞けば、三回目、と返ってくる。さしものくるみでも、流石に同情を禁じ得なかった。カシュ、と音を立てて二本目を開けた古木の手元の缶ビールを見て、美紀が問う。

 

「お酒って美味しいんですか?」

「……呑んでみるか?」

「堂々と飲酒を勧めてきましたね」

「舐めるだけにしておけ」

 

 まだ口をつけていない手元のそれの中身を、紙コップに移す。底にうっすらと張る程度の少量を美紀に渡して、缶の方を一息に煽る。

 すん、と匂いを嗅いで、鼻に刺さる苦味から顔をしかめる美紀は、決心して紙コップを傾け舌先でビールを数滴舐め──眉を潜めた。

 

「……うぇ」

「くっ」

 

 予想通りの反応で小さく笑った古木へと、じとっとした目付きを向ける。美紀は反抗のつもりで嫌みったらしく言葉を返した。

 

「よくこんな苦い物を呑めますね」

「そうだな。俺も、旨いと思ったことはない」

「じゃあ、どうして?」

 

 缶ビールを揺らして、古木は言う。

 

「苦い思い出を、苦い味で洗い流したいんだろう。俺も時折こうして酒を呑む」

「古木さんにも、苦い思い出が……」

「あるとも」

 

 腕にしがみつく(酔いどれ)を引き剥がそうとして結局諦めつつ話を締めると、深くため息をつく。

 

「慈さんだって人の子だ。愚痴だって吐きたくなる。しかしてお前達が生徒である以上、おいそれと吐き出すわけにもいかない。

 俺も、壁と話してるそいつも、酒でも呑まないと弱音を吐くことが出来ないんだ」

「……あたしとか、美紀とか、先に寝たあいつらじゃあ力不足か?」

「プライド、だろうな」

 

 相談してしまえばいいのに、という言葉には『言うは易し』と返さざるを得ない。

 

「難儀ですね、大人って」

「そうだな。とはいっても、やはり、『酒は飲んでも呑まれるな』とはよく言ったものだ。悪い例がここに二人いる」

「ははは、確かに」

 

 美紀に言われ、古木が返し、スミコと慈の醜態を見てくるみが笑う。

 

「──あっ、そういえばさぁ。古木さんってめぐねえのことどう思ってんの?」

「突然男子学生めいた話題を切り出したな」

「『そういえば』は会話をバレルロールさせていい免罪符にはなりませんよ先輩」

「すげーボロクソ言うじゃん」

 

 膝の上に置いていたシャベルをコツコツと小突きながらくるみは続ける。

 

「いや、だってさ、気にならない? 

 古木さんめぐねえに抱き枕にされてるし、めぐねえ胸でかいし」

「だから寝袋を取りに行ってきたのだが。それと、胸の大きさだけが女性の魅力にはならないと思うぞ。少し失礼じゃないか?」

「でも男って胸好きでしょ」

「否定はしないが……」

 

 あ、しないんだ。とは、美紀の呟きだった。

 いつの間にか腕にしがみついたまま寝息を立てていた慈を机にうつ伏せに寝かせると、汗で額に貼り付いた髪を耳元に梳して言う。

 

「慈さんは素敵な方だ、と思う。これほどまで子供に愛情を向ける大人は、これほど魅力的な女性は他に………………居ないだろう」

 

「今脳内のデータベースと比べましたよね」

「……もう寝た方が良いな。スミコを連れていってくれ。俺が慈さんを運ぶ」

「あ! 誤魔化した!」

 

 器用に小声で叫ぶくるみの言葉を無視して退席を急かす古木。やれやれとでも言いたげな顔をする美紀に窘められ、くるみは渋々スミコを二人掛かりで両腕を肩に回して運ぶ。

 

 古木くんが……増えた……? 増えてませんよ。酒くさっ! という声が部屋から出て行く際聞こえ、扉が開かれたままになる。

 夜は大人しくなるとはいえ、一応『やつら』が来ないとも限らない。手早く慈を抱き上げ、足で扉を閉めると、廊下を歩く最中に古木は慈の顔を見てふと気付いた。

 

「慈さん、()()()()()ですよ」

「……ぁぃ、大丈夫れす」

「寝る前に、水飲みましょうね」

「…………」

 

 腕の中で静かになった慈を抱える古木。廊下に誰も居らず、あまりにも静寂が続いているからか──不意に、思い出したように母親の言葉が、顔が──優しい声色が想起される。

 

 

『■■、私とお父さんは、いつか必ず、貴方より先に()()へ行ってしまうでしょう』

『でもね、貴方の名前の通りに、私たちは■■を永遠に想い、無償で愛し続けます』

『ですから貴方も、いつか出会うだろう好きな人の事をいつも思う、優しい人になってね』

 

 

 ──まぶたを細めて、古木は口を開くと、絞り出すように声を出す。

 

「……ままならないな」

 

 優しい人になれと言われたが、今の自分を見て、母はどう思うのだろうか。

 胸の奥でちりちりと燻る炎が日に日に大きくなっている。そんな錯覚を覚えながら、古木は放送室へと戻っていった。




次→8月23日00時00分


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戊の回

 古木くんのストレスがマッハなんだが? なRTAはーじまーるよー。

 

 これについては、コメントにも書きましたが、このゲームってキャラ設定の際に性格や境遇、人間関係によって3値の『上がりやすい・づらい』、『下がりやすい・づらい』が変化するんですよね。例えば怖がりは恐怖が上がりやすく、田舎少年は性欲が上がりやすいなどですね。

 

 両親と祖父を亡くして友人一人以外に仲の良い相手はおらず年がら年中剣を振っている古木くんは、ストレスが上がりやすく下がりづらいみたいです。その代わりにステータスの【直感*1】がダウンするだけで済んでいるようでした。

 

『拒食*2』や『不眠*3』、『幻覚*4』なんかを戦闘能力トップクラスの古木くんが引いたら再走は確実なので……なんとか致命傷で留まってます。

 

 尤も、直感の数値が低いと【弾き】という適切なタイミングでガードすると相手の攻撃を弾けるスキルが習得できないので、大学編、ランダル編の武器持ちの敵と戦う際に苦労しますが。

 ──Lv3でランダル兵士の銃弾を弾けるようになるのは流石におかしい……おかしくない? 

 

 

 

 ……ままええわ(寛容)

 

 そんなわけで今日から5日目。いつも通りの朝の行動で、今回は酔いどれ二人の為に保健室に市販の胃腸薬を取りに行きます。いくら保健室だからってキャベジンはありませんからね。

 飲ませてからゲーム内時間で3時間もすれば【状態異常:二日酔い】が治るので、それまでじっとさせておきましょう。

 

 朝食を取り、胃腸薬を飲ませたら回復するまで暇なので時間を潰すついでに刀の手入れコマンドを選び数分消費しておきます。

 めぐねえの好感度が……今までの行動を見ていればわかるように高いです。ので、おそらくこの後最重要イベントが発生するでしょう。

 

 では昼まで倍速。超スピード!?(レ)

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

 ──あ、手紙イベントに必要な風船を持ってないですね。4日目の内に取りに行くべきでしたが、今現在やることないので取りに行きましょう。太郎丸の餌を取りに行くのを名目にすれば誰も止めたりはしません。

 

 馬鹿正直に風船を取りに行くと言ったら間違いなく頭があっぱらぱーになったと疑われるでしょうしね。されたことはないです(二敗)

 

 そいだば昼飯までに行きましょう。だかだかだかーっと走って、餌の袋と風船の袋を確保し、びゃーっと帰ってきます。荷物を纏めてある所に風船を起き、太郎丸にはちょいとお高めのドッグフードをプレゼントしました。

 

 戻ってくる頃には時間も程よく消費されているので、お昼を済ませてから少し待機して──はい、めぐねえから誘われましたね。

 別に蜜月の関係ではないので空き教室でカミーユ(動詞)するわけではありません。

 

 原作履修済みのクソホモならお分かりでしょう、緊急避難マニュアルを取りに行くイベントです。めぐねえが『緊急時にのみ閲覧するように』と言われて渡されていたやつで、世界が()()()()()時の対処法が書かれています。

 

 

 ──そう、実はこのゾンビパンデミックは想定されていたモノなんだよ!(KBYS)

 

 

 ……などと言っている間に、他のメンバーには万が一に備えて室内に留まるよう命令しておき、それから職員室に到着しました。

 るーちゃんとくるみ姉貴がお花摘に行っていますがまあ……大丈夫やろ。多分。

 

 職員室内は車の鍵を探すときに殲滅済みなので警戒は最低限に、マニュアルを入れてある棚を漁りましょ──なんだこの淫ピ!? どけこらさ!(田舎っ子)にゃーめーろお前! 

 棚と古木くんの間で立ち止まるんじゃねえよお前! どけこら、流行らせこら! 

 

 ……やっと退きました。素直に行動指示で扉の前にでも移動させておくべきでしたね。AIが変なところで立ち止まって動かなくなるとかレトロゲームじゃねえんだぞ。

 

 避難マニュアルは読むとこの世界の真実に気付き正気度チェック0/1d3……ではなく、ストレスと恐怖の値が上昇します。

 ただし一定以上ストレスが上昇している場合は恐怖の上昇のみに収まります。これを幸と呼ぶか不幸と呼ぶかは人それぞれでしょう。

 

 それでは早速ですが、古木くんには犠牲になっていただきます。予め斜め読みしておくことで、又聞きするヒロインたちのストレス・恐怖の上昇を抑えることが出来るからですね。

 

 好奇心が勝りつつあるめぐねえの興味津々の目を余所に、古木くんは真実を知りました。細菌兵器、地下シェルター、ドラゴヴィッチ、クラフチェンコ、シュタイナー……(CoDBO)

 

 あ^~古木くんが恐怖する音ぉ^~! 

 

 古木くんは熟達の忍ではないので『怖じ気づくと人は死ぬ(無慈悲)』とはなりませんが、あんまり数値が高くなると状態異常付与ガチャが始まるのであー困りますお客様。

 

 ぱらぱらと雑に読み進めたので、残りは生徒会室に戻ってから皆と読みましょう。全員にストレスと恐怖の上昇を分散させればメンがヘラることもありませんしね。

 

 では倍速で部屋に戻り夕食後まで進めてしまいましょ──なんで等速にならないんですか。

 

 ──ヌッ! イヤンホホ感覚に反応あり、部屋の外にやつらが居ますね。直感が低下していてミニマップに表示される範囲と数が減っていますが、音からして2体……あれ、NPCの反応も二つ。

 

 ……表示が重なってるってことは戦闘中……? 大急ぎで確認しましょう。

 いやちょっとまて部屋に居た連中には待機命令出しておいたのに誰が行動──あ。

 

 

 

 ────部屋の外に居たのは、くるみ姉貴に左腕で小脇に抱えられたるーちゃんと、やつらに右腕を噛まれているくるみ姉貴でした。

 

 

 

 ……??? なんで? なんで? なんで? 

 

『るーちゃんとくるみ姉貴がお花摘に行っていますがまあ……大丈夫やろ。多分』

 

 あっ、これかぁ! フラグ回収早すぎるだろガバにも限度あり、しかしるーちゃんを庇う姿勢誉れ高い。なんて言ってる場合じゃねえ! 

 うわぁぁぁやっちまったぁぁぁぁぁ!! こんなことなら戻ってきて全員揃うの待てば良かったじゃん! バカバカちんこ! 

 

 再走……リセット……うごごごごご……光が……逆流する……っ!? 

 

 

『なんでお前さんは人のチャートをパクるんだ。しかもあれほどRTA初心者の我々に優しくしてくれたお方から……』

『WR兄貴は見て見ぬふりをしてくださっているが私が許せぬ。今からspeedrun.comへ行く』

『私が悪いのではない! この有線コントローラーが悪いのだ!』

『このコントローラーが勝手に!』

 

 ──なんじゃ、これは……? 

 

『別のRTAでも貴様はチャートをパクった癖にガバガバだったようだな。同情の余地なし』

『滅相もない、私には無理でございます。このようにRTAの技術も……』

『貴様は独自チャートを持っているだろう』

『コントローラーが悪いと申すか! ならばその有線を切り落とす!』

『以前壁抜けをしようとした走者は、ヒロインが話し始めるまで壁の方を向いていたぞ』

『貴様がどう繕おうとガバガバRTAな事実は変わらぬ。再走したところで無駄だ』

 

 ──RTAを始めた頃の私か、これは……? 

 ──んがあああああああ!?(黒歴史)

 

 

 ……兎に角やつらを倒します。ペグを投げて頭部に命中。後ろ──更衣室の向こうの階段から来たのだろう2体目は即座に抜刀して一撃。

 

 ここからは時間の勝負となります。

 怪我人のくるみ姉貴を抱えて大急ぎで放送室に戻り全員を集めます。原作では空き教室を使っていましたが、距離的にも寝室代わりのここの方が近いし速いでしょう。

 

 ──本来であれば夕食後の夜に知らせるはずだったマニュアルのことをこの段階でバラし、地下シェルターの存在を明かして治療薬があることを知らせ、イベントフラグを進行させます。

 

 マニュアルを入手し閲覧することが地下シェルター解放の条件になるため、このまま続けて治療薬──実際は単なる栄養剤と抗生物質しか入っていない注射を取りに行きます。

 

 くるみ姉貴の看病をしなければならないため、地下シェルターに向かうメンバーは古木くん含めてスミコとみーくんで良いでしょう。

 残り全員には『くるみ姉貴の』『看病を優先』と命令し、あまり動かないようにしておきます。しかしるーちゃんとくるみ姉貴は何故廊下に居たんですかね……? 

 

 もしやトイレから戻ってきたるーちゃんが職員室にいる古木くん達を見に行こうとしたら、更衣室側の階段から来たやつらに襲われて、咄嗟にくるみ姉貴が庇った……とかでしょうか。

 

 どちらにせよ今はそんなことを言ってる場合ではないですね。主人公orヒロインの感染イベントは噛まれた瞬間からリアルタイム30分、ゲームでは1分=10分なので、300分。

 

 ゲーム内で5時間経過するまでに薬を取りに行かなければなりません。意外と耐えるな……とお思いでしょうが、原作メインキャラ達はゾンビパンデミック初期の空気感染に対する免疫力があったので不思議ではありません。

 

 移動しながらの説明になりますが、この騒動の原因となっている細菌は()()()()()()()()()ものなんですよ。この学校の浄水器は朽那川と地下水を利用しているのですが、この川の源流にある那酒沼という沼の中にあったのが──何を隠そう、件の細菌だったのです。

 

 かつて那酒沼の魚を釣った男がその魚を食った夜に死んだ(超要約)という昔話があります。これはつまり、沼の中で沈静化していた細菌──ランダル曰くΩ(オメガ)と呼ばれているそれが魚に付着したまま外に出て、活性状態になったそれを魚と共に食べてしまい……ということなのでしょう。

 

 ──つまり、この一件はもう既に何度も起きた事件なのです。街が滅んでいないということは解決策がある、ということにもなります。人知れず何度も発生してるとかSCP2000かよ。

 

 そして、那酒沼から朽那川を通り、学校で簡易的に浄水された際に本来失われる筈だったΩを抑える成分の残った水を飲んでいたから、感染に対する抵抗力があったんですね。

 

 

 Ω(メスガキ)「クソザコ人類♡ よわよわ抵抗力♡ 免疫負けちゃえ♡」

 市民「うぅ……(感染)」

 浄水器「は? 負けねぇ……っ!(アンチΩを水道に残して反旗を翻す)」

 

 

 というわけです。わかりやすいね。

 逆に言うと抗生物質と栄養剤ぶちこめば回復できるくるみ姉貴やべぇな。

 

 ──などと説明している内に、一階奥にある地下へのシャッターを発見しました。

 説明しながらの道中に居た一階廊下のやつら全員にペグを命中させる神プレイは誰も見ていないと思います。泣けるぜ。

 イベントフラグが立ってないと壁抜けする以外じゃ入る方法が無いので、通常プレイの時はめぐねえの好感度を上げて私のようにイベントを発生させましょう。

 

 マニュアル通りに学校の電話番号を逆にした番号を入力してシャッターを解放します。

 内側には当然ですがスポーンする座標がずれていない限りやつらは居ないので、さっさと薬を確保しましょう。地下2階の医療品を備え付けのリュックに一通り詰め込んで、終わり! 

 

 んだらば行きと同じルートで悠々と3階に戻り、リアルタイム6分以内にくるみ姉貴に注射を済ませてイベントも無事完了。

 ただ、感染イベントは感染者に注射したらその時点で1日が強制終了します。ピクミンですらもう少し猶予があるんだよなぁ……。

 

 そんなわけで速いけど5日目はここまで。

 なお、ヒロイン達の好感度が低いと感染したキャラが誰だろうと映画『ミスト』の軍人のように追い出されたり、最も恐怖値が高いヒロインに隠し持ってた包丁でコノメニウーされたりします。されたりっていうか3回くらいされました。

 

 

 

 

 

「──古木くん、ちょっといい?」

「慈さん。まだ酔いが残ってるんですか?」

「いえそうじゃなくて……」

 

 生徒会室にて痛いところを突かれて顔をしかめる慈は、否定しつつ刀身を布で拭っていた古木を手招きする。不思議そうな顔をしながらも、刀を鞘に納めてから古木は慈の下に向かった。

 

「それで、どうかしましたか」

「実はですね……以前、学校の方から『何かあったら読むように』と言われて封をされた冊子を渡されていたのを思い出したんです」

「ああ、それを取りに行きたいんですね」

 

 わかりました。そう言って腰に鞘を吊るし、部屋から出ようとする古木の後を慌てて追う。念のためにと両手でしっかりとバールを握るが、その手に力が加わる。

 そして、ふと、慈は違和感を覚えた。

 

「……あれっ」

 

 古木くんって、こんなに淡白だったかしら、と。そんな疑問を問う間もないまま、慈と古木は職員室に到着する。事前に片付けられて誰もいないそこにある棚をキョロキョロと見渡して──。

 

 慈が見ている棚の一番上の段に、薄い冊子が挟まっているのを見つけた。

 

「慈さん」

「は…………いっ!?」

 

 振り返れば、眼前に古木が居た。退いてくれと一言言えば済んだ話だが、慈の身長の都合で退かすより手を伸ばした方が早いと判断した古木がそのまま上の段に手を伸ばそうとしていたのだ。

 

 その結果、古木と棚に挟まれた慈が豊満なそれを古木の鳩尾の辺りに押し付ける形となっていた。冊子を取り出そうとする古木がそれを気にする事もなく、ただただ慈が恥から顔を赤くする。

 

「……よし」

 

 冊子を取り出せた古木が、手に取りその場から離れる。それから表紙を見てから俯いている慈に視線を向けて声を掛けた。

 

「緊急避難マニュアル……ん、慈さん?」

「──いえ、なんでもありません……」

 

 一人で盛り上がって馬鹿みたいではないか、と内心で愚痴るように独りごつ。

 表面のフィルムを破いて捨てると、パラパラと斜め読みする古木。興味からか横から覗こうとつま先立ちをする慈だったが──

 

「っ……!」

「うーん……古木くん、何が書かれているんですか? 私にも貸してくださ──」

「駄目だ」

「ひっ」

 

 覗こうとしていた慈の肩を片手で押さえて静かに言う。ぐっ、ぐっと力が込められ、慈が顔を強張らせるのを見て、古木は冷静になる。

 

「──すみません。ただ、これは、皆と読んだ方がいい。あまりにも……おぞましすぎる」

「そ、そう……ですか」

 

 鬼気迫る表情を向けられ、思わず反射的に頷く慈。目的の物は見つかったため生徒会室に戻ろうかと提案しようとしたその時、不意に職員室の閉じられた扉の向こうから音が聞こえてきた。

 

「……やつらか。慈さん、下がって」

 

 器用に冊子を抱えたまま片手で刀を抜き放つと、静かに、それでいて素早く扉を開ける。しかし迷わず首を撥ねようと刀を構えて飛び出した古木が見たのは、瑠璃を庇うようにして、右腕を死人に噛みつかせているくるみの姿だった。

 

「っ、ぐ、ぁあぁ……っ!!」

「──くるみッ!」

「恵飛須沢さん!?」

「古木、さん、めぐねえっ……!」

 

 ブチブチと、嫌な音を耳にする。くるみの右腕の肉が今まさに噛みちぎられようとしているのだ。()()()()()()()()()()()──再起動。

 

 懐から取り出したペグを即座に投擲し、くるみに噛みついている方の頭部に突き刺す。

 職員室の隣、更衣室の奥から現れた2人目に肉薄して、抜刀と同時に首へと一閃。

 

 首を断ちながら皮一枚で胴体と繋ぐ腕に、慈が僅かに目を見開いて驚愕していた。

 

「……くるみ」

「へ、へへ……」

 

 腕に噛みついていた死者の顔を引き剥がして床に倒すくるみは、頬をひきつらせて笑うが、明らかに顔色を悪くして額に冷や汗を浮かべる。

 

「恵飛須沢さん、なにがあったんですか?」

「いやぁ、トイレから生徒会室に戻るときに……更衣室の方から音が聞こえてさ。

 念のため様子見だけしておこうと思ったら突然こいつが飛び出してきて、逃げようとしたら……るーちゃんが転んじゃってな……」

「……俺と慈さんが職員室に居ると知らなかった──いや、あのとき生徒会室には居なかったのか……。──なあ、くるみ」

 

 膝をついてうずくまり、だらだらと冷や汗を流して右腕の傷を押さえるくるみは、古木の手に握られた刀の刀身に反射する自分を見た。

 

「……やってくれるのか?」

「馬鹿を言うな。放送室に行くぞ」

 

 立てるか。そう聞いて、動けないと悟りくるみに肩を貸す。慈に全員を集めるように言うと、放送室のマットレスにくるみを寝かせる。

 

「──くるみちゃん!」

 

 扉を押し退けて入ってきたゆきを筆頭に、全員がその場に集う。くるみの腕にある歯形の裂傷を見て、何が起きたのかを嫌でも察した。

 

「くるみ先輩……噛まれたんですね」

「ああ……ちょっとドジってな」

「くるみ──るーちゃん? どうしたの?」

 

 足にしがみついて何も言わないでいる瑠璃の背中を擦る悠里は不思議そうに首を傾げた。

 ──その直後、腹の底から絞り出すような呻き声を上げて、横になっていたくるみが患部を握り締めるようにして悶え始める。

 

「がっ、っ……ぁあああっ……」

「恵飛須沢さん!」

「くるみくん……ん、古木くん。その冊子はどうしたんだい?」

 

 さしものスミコでも渋い顔をするなか、ふと古木に向けた目線が手元の冊子を捉える。

 

「これか。これは、この事件の真実だ」

 

 悶え苦しむくるみに顔を向け、冊子を開く。まぶたを閉じながらも、それでもくるみは読んでくれと言わんばかりに強く頷いた。

 

「……読むぞ」

 

 

 

 

 ──一分か二分か、少ないページ数の冊子を読み終わるのに時間はそう掛からなかった。

 それ以上に……この事態が()()()()()()()ことだという事実に、その場の全員が驚き、呆然とし、表情を歪めて苦い顔をする。

 

「そんな、ことって……」

「浄水器に発電装置……道理で学校の設備にしては都合が良すぎる訳ですね」

「──それよりも、その冊子の通りなら地下にお薬があるんですよね? 

 くるみ先輩、助かる……よね?」

「……っ、めぐねえ! 古木さん!」

「丈槍さん?」

「くるみちゃん、呼吸が浅いの……ど、どうしよう……!」

 

 はっはっはっと浅く短い呼吸を繰り返し、水の染みたスポンジを握るかのように汗を流す。意識が朦朧としているのか、その目は虚ろになっている。あわてふためく少女らの注目を、手を叩いてスミコが自分のもとに集めた。

 

「落ち着きたまえ。悠里くんとゆきくんでお湯を沸かしてくれ。

 圭くんと佐倉女史は保健室から持ってきてある消毒液とガーゼ、包帯を出すように。

 水で傷口を洗うのを忘れるんじゃないぞ」

 

 凛とした声で指示を出し、再度手を叩いて行動を急かす。慌てて動き出すのを見て、古木と美紀に顔を向けてパチリとウィンクを飛ばした。

 

「さ、古木くん。先導は頼めるかい?」

「──ああ。道中に気を遣うな、ただ走れ。俺がやつらをどうにかする」

「くるみ先輩、もう少し、耐えてください」

 

 古木が刀を腰に提げてベルトホルスターにペグを詰める裏で、スミコが護身用の傘を手に取り、美紀が2本あるバールの内の1本を握る。

 じくじくと、傷口を何かが蝕むように血管が浮き出ている痛ましい様子を見て、古木は胸の奥で炎が燃え盛るのを自覚していた。

 

「──行くぞ」

 

 ガチャリとドアノブを捻り廊下に出た直後、古木は即座に階段へと駆ける。

 

「えっ、ちょ、速っ──!」

 

 美紀の声が、後方から聞こえた。

 

 

 

 

 ──周囲を警戒しながら階段を降りて行く美紀は、古木の仕業だろう頭部にペグの刺さった死体を跨ぐ。時折首に一筋の線のような傷がある死体もあったが、恐らく、斬ったのだろう。

 

 清々しいまでに無駄のない動作ですれ違い様に殺したのだろう事が理解でき──()()()()()()()()()()()()スミコに声を掛けた。

 

「そんなに古木さんがかれらを斬ることが楽しいんですか? ……悪趣味ですよ」

「そうだろうね。しかして──仕方ないだろう。好きなんだ、古木くん()()()

「でしょうね────ん?」

「なにかな?」

「……好きって、古木さんの……()()?」

 

 地下室に直接向かえる奥の階段を降りながらの会話で、美紀は違和感からおうむ返しする。

 

「小生は剣術に並々ならぬ熱意のある古木くんの剣を、腕前を見るのが好きなだけなのだけどもね。なにか勘違いをしていないかな?」

「えぇ……いや、えぇ……?」

 

 ──そっち!? と叫ぶことだけは、なんとか抑え込む。呆れた顔であんぐりと口を開く美紀は、くるみがスミコを『オタク』と呼んでいた理由をようやく察した。

 

「……今はこんなこと言ってる場合じゃないか。そろそろ一階ですけど、古木さんは……」

「──こっちだ」

 

 声のした方向に顔を向けると、古木がシャッターの近くにあるパネルに番号を入力していた。冊子の通りに学校の電話番号を逆から入力し、ロックを解除して解放する。

 

「この先に薬が……!」

「誰も開けていない以上、この先にやつらは居ない。手分けして探すぞ」

「……ふぅん。それなら美紀くんと古木くんは地下2階を、小生は1階を探しておこう。やつらが入り込んできたら知らせられるからね」

「ああ。頼む」

「…………」

 

 わかりやすく口角を歪めるが、なんてことはない。死者を相手に剣を振る機会が無さそうだから近くにいる意味が無いだけなのだ。真意を悟っているが故の微妙なもどかしさを胸に、美紀は古木と共に地下2階へと降りて行く。

 

 

 

 

 ──水で傷口を洗い、消毒液を染み込ませたガーゼで赤黒い血を拭う。別のガーゼを当ててから包帯で巻くと、ようやくその場で慈や圭、ゆき、悠里が一息ついた。

 

「わ、りい、な……皆……」

 

 ぜえぜえと荒く呼吸するくるみが、そんな言葉を絞り出す。しかし、先程よりは多少ましになったが改善はされていない。

 

「いいのよくるみ、今まで貴女や古木さんに頼りっきりだったんだから…………?」

 

 手拭いで額の汗を拭き取る悠里は、くるみの体の異様な冷たさに違和感を覚える。

 それは、まるで、死人のような。

 

 ばっ、と手を引いた悠里に代わって、今度は瑠璃が太郎丸を抱えてくるみの傍らに座った。

 左手をそっと握り、ポロポロと涙を流して瑠璃はくるみに声をかける。

 

「……くるみちゃん。ごめんなさい……」

「……はっ、お前、()()()()()()()?」

 

 熱のこもったため息をつくと、左手をなんとか瑠璃の頭に持って行き数回撫でて続けた。

 

「……あのなあ、るーちゃん。誰が、悪いとかじゃ、ないだろ? 

 いや、まあ、細菌兵器(こんなもん)作った奴が……悪いけどさ……。だから…………あー、えー……っと」

 

 虚ろな目をぐりぐりとあちらこちらに向け、言葉をひねり出そうとするくるみ。

 

「……だめだ、頭がまわんねえ……」

「恵飛須沢さん、今は少しでも休んでください。眠っても良いんですよ?」

 

 ゆらゆらと力無く首を振って否定すると、呂律の回らない舌でなんとか自分の中を蝕んで行く感覚を皆に説明しようとする。

 

「…………ちがう、ぎゃくなんだ……いま寝たらまずい……あたまん中がぐちゃぐちゃでさ……たぶん、つぎ寝たら、もう起きられない」

 

 なるほど理性を失うとはこういうことを指すのか、とくるみは理解する。()()()()()()とでも言えばいいのか。

 

 直前までの思考が纏まらない。

 記憶が薄れる。

 自分が何を言おうとしたか、何を言ったのかが思い出せない。

 段々と、自分が自分じゃなくなる。

 

「……たのむ、寝そうになったらたたき起こしてくれ。それか……ばくしょうネタとかで、もり上げてくれ……」

「病人特権で無茶振り出来るなら大丈夫ですよねくるみ先輩!?」

 

 圭のツッコミに力無く「うへへ」と笑う。少し迷ってから一発ギャグやります! と宣言した直後、放送室の扉が開かれた。

 

「……薬を、取ってきた」

「救世主……!!」

「──なんだって?」

 

 勢いよく挙手した体勢のまま振り返り、目尻に涙を浮かべる圭。

 首を傾げる古木の後ろから、汗を流して息も絶え絶えの美紀とスミコが現れる。

 

「……ぜぇっ、は、ぁ……」

「…………し、死ぬ……っ」

「スミコさん、みーくん、大丈夫?」

「……み……ず……っ……!」

「まさかこの歳で、全力で走ることになるとはね……。古木くんは、さ、流石は運動部……と言った、ところかな……」

 

 入ってくるなり床に倒れるようにして呼吸を整える二人に悠里たちが水を用意する傍らで、荷物に入れていたケースから注射器を取り出す古木が慈に目線を向けて言った。

 

「慈さん、くるみを押さえて」

「え──あっ、はい!」

「……おてやわらかにたのむぜぇ……」

 

 気だるげにそう言って大人しく慈に押さえられるくるみは、傷口の近くに注射針を刺されて異物感から顔を僅かにしかめる。同時に、あんま痛くねぇな──と、ぼんやりそんな思考を巡らせて、ゆっくりとまぶたを閉じた。

 

「……あとは経過を見守るしかない」

「恵飛須……いえ、くるみさん。大丈夫ですよ、絶対に良くなりますからね」

 

 ハンカチで額の汗を拭いながら、慈は優しい声色で言う。誰も、何も言わないが、それでもほんの少しでもこう考えるだろう。もし間に合っていなかったら──と。

 不意に、鞘で床を小突いて古木は視線を纏めると、神妙な面持ちで古木は言った。

 

「──くるみを助けられなかったとしたら、その時は俺が斬る。恨んでくれていい」

 

 言い終えるとくるみから少し離れた位置に座り、肩に刀を立て掛ける。

 ──仕方がなかった。誰が悪いとかではなく、ただただ、運が悪いだけなのだ。

 

 そうして、緊張が解けないまま、極限状態の5日目がくるみを見守りながら終わる。

*1
アイテム発見時のアイテム数の増減に関係。また、ミニマップに表示される敵の範囲・数にも影響する

*2
食事が出来ない。物を食べられないので更にストレスが溜まる

*3
眠れない。睡眠不足でストレスと恐怖が同時に微上昇する

*4
味方NPCを敵と誤認する。殺害もしくは体力を一割以下まで減らさないとやつらか味方かの判別が出来ない




次→8月30日00時00分


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己の回

 前回までのあらすじ

 

 ガバ「なんだこいつぅ~~~wwwww草wwww草wwww草wwww草wwww」

 記録「んぴゅ……。(絶望)」

 

 

 実は感染も想定内なRTAはーじまーるよー。

 

 確かにこのRTAはゆきちゃんが幼児退行しようがりーさんのメンがヘラろうがみーくんがマジレス厨になろうがくるみ姉貴が感染しようが問題なく高校を脱出することは出来ます。

 

 でもそれはガバる理由にはならないよね。罰として芸術になれ、ライナーお前なら出来る。

 

 ──ええ、はい。感染は想定内ですね。そもそも、何十とある『がっこうぐらしRTA』にも感染者チャートはあるじゃないですか。

 それを原作ヒロインに当て嵌めればどうとでもなるんですよね。ついでに言うと、あくまで高校編RTAなので大学編から徐々に戦力にならなくなるとしても全く問題ないんですよ。

 

 寧ろ高校編だけに絞れば、感染者ボーナスでステータスが上昇してるのはうまあじです。

 7日目と脱出イベントの強制ラッシュでの良き戦力となるでしょう。

 

 そいだら地下室の調査に行こう!な6日目です。とはいっても地下室はまあまあ広く、物資を一人で持ち帰るのは無謀なので、今回は既に地下室の構造を把握している三人に加えて……Kでも連れていきますか。

 

 残りにはくるみ姉貴と待機してもらいます。原作同様に薬を打って翌日に回復とかいう恐ろしい生命力をしているくるみ姉貴ですが、昼飯を食うまでは部屋から出られません。他ヒロインが見張っているからですね。

 

 今からいいもん持って帰ってきてあげるからちょっと待っときや、大人しくしてないとご褒美は無いんだぞ?(ガバ穴の御霊降ろし)

 薬を取りに行っただけで碌に調べられていない地下室には冷凍室があり、そこにはステーキの冷凍食品などが配置されています。

 

 好感度上昇、空腹解消、ストレス減少と、とりあえず出しとけば得な料理ですね。

 

 そんなわけで再度地下室を調べる裏で──このpartを編集するついでに、この段階での古木くんに対する各ヒロイン達の感情なんかを調べておきましたので解説します。

 

 先ずはスミコですが、こいつの感情は意外なことに、今のところ恋愛感情皆無です。スミコが向けている感情は『執着』で、古木くんの剣術に惚れ込んで限界オタクと化しているんですね。

 

 次いでゆきちゃん。この子は『友人』で、若狭姉妹は『恩人』です。そしてみーくんが『同情』で、Kは『恩人』

 めぐねえが『愛情』、最後にくるみ姉貴が『相棒』ですね。太郎丸? いやあの犬オスだしそもそもヒロインじゃないから(辛辣)

 

 一番警戒するべきなのは、当然ですがスミコの『執着』です。

 古木くんの剣術オタクなので上手いこと説得や誘導をしておかないと、7日目のラッシュ時に古木くんには2階で迎撃させるので、3階の防衛をやらせたとき動かない可能性があるんですよね。

 

 逆にめぐねえの『愛情』は今のところ恋愛感情ではなく友愛の類いなので放っておいても問題ありません。更にはくるみ姉貴の『相棒』も恋愛には発展しなさそうなので安心できます。

 

 

 ──えっ、古木くんのストレス値? 

 

 ……なんのこったよ(白目)

 

 

 古木くんのストレスに関しては、間違いなく一番最悪だろう状態異常を引かなければ良いだけなので……。ストレスが高いけど恐怖や性欲が高くならないことだけが救いとも言えますが、んにゃぴ……間違いなくこの先もガバりますよね。

 

 ──と、地下の冷蔵室に到着しましたね。明かりのスイッチをON(オォン!)にして扉をオープンしますと、中にはカチカチに冷凍された食品がいくつも並んでいました。

 

 棚のチョコレートや他の栄養サプリと一緒に持ち帰りましょう。余談ですが、プレイヤーが開けるまで無人の地下室には、原作に居た謎の首吊……てるてる坊主兄貴は存在していません。

 

 そりゃそうだって感じですね。前までのバージョンでは何故か存在したてるてる坊主から生存者が全員入るだけの車のキーが入手できたのですが、当然ながら居ないので手に入りません。

 

 ──その代わりに、最終イベントを終わらせたあと駐車場に代わりの死体くんが配置されるようになりました。それでええんか……。

 

 などと言っている間に生徒会室に到着。完全復活したくるみ姉貴の様子を見つつ、るーちゃんやゆきちゃんにチョコを振る舞いつつお昼まで加速します。

 昼食でステーキを振る舞えば感染イベントのガバは帳消しになるのでしょう──が。

 

 この後ほぼ確実に発生するだろうイベントがですね、やりたくないんですよね。

 以前発生した4日目の決闘イベント、くるみ姉貴が感染していると、難易度が高くなった2回戦目を行うフラグが立つんですよ。

 

 しかも2回戦目は体力が1割残る仕様が無いガチの殴り合いになるので、『時間経過でイベントフラグが進行する』ことを知らない初見の時は、殺されるか殺すかを何度か繰り返す嵌めになります。基本的に殺される割合の方が高いです。

 

 その理由は後述しまして、早速とくるみ姉貴に「まずうちの高校さぁ……屋上、あんだけど」と誘われるのでホイホイ付いていきましょう。

 持って行く武器は日本刀だとくるみ姉貴がうっかり死にかねないのでバールくんにします。長物なので微妙に【剣術Lv2】の恩恵を与ってしまいますが、感染ボーナスが付与されたくるみ姉貴は頑丈なのでまあ……大丈夫でしょ。

 

 屋上に上がると、イベント発生の画面暗転が挟まり、くるみ姉貴の独白が始まります。今回のイベントが発生する意味でもある、すなわち『くるみ姉貴は生者か死者か』という話です。

 

 死んでないなら生きてるやろ、といった簡単な話ではないのが、現在進行形で外をうろつくやつらを見れば分かることでしょう。

 確実に感染し、それでいて薬で助かった*1とはいえ、逆に言えば半端ですがやつらに近づいているということ。

 

 要するに『私は……最後まで生きるよ……』ということです。ドエレ──"COOL"じゃん……? 

 

 

 ──ということで戦闘開始。

 

 

 時間経過でイベントフラグ進行、つまり耐久戦です。死んではいけないし殺してもいけない。

 だから、くるみ姉貴のシャベルを防ぐという意味でも頑丈なバールを持ってきたんですね。

 

 ただし、特筆すべきはくるみ姉貴のステータスです。元々筋力と持久力、体力が高いくるみ姉貴は、感染ボーナスで直感や知力が減少する代わりに上記3つのステータスが上昇します。

 

 上昇値は計算が正しければプラス1.8~2.1倍です。このゲームは各ステータスの最大値は経験値を割り振る際に必ず50でカンストするのですが……その後でも感染ボーナスは適用されるため、感染後は余裕で数値が50を突破します。

 

 そして現在のくるみ姉貴の筋力は38だったのが72になっているので、1.9倍されていますね。これに塹壕戦も真っ青な示現流シャベルのチェストが加われば──仮に防御を挟もうが古木くんであろうと重傷or即死でしょう。

 

 

 ……なんでオワタ式決闘イベントなんて始まるんでしょうかね。どうしてこうなるんだ……私はただRTAを走っていただけなのに……。

 ──見るがいい! ガバが溢れ出している。チャートなど通用しない!(頭平成)

 

 仕方がないので、貯めた経験値で筋力を上げ、スキルポイントで【弾き】を習得します。

 レベル1では適当なタイミングで弾かないとスタミナを消費するし上手く体勢を崩せないのもあって、さっさと判定が緩くなるレベル2に上げた方がいいのですが、まあ無いよりマシですね。

 

 といっても、全攻撃をジャスト弾きすれば良いだけなので(熟達の忍の風格)

 

『くるみ(感染後)』の攻撃パターンはやや攻撃的になっており、それでいてシャベルによる攻撃は全てに僅かなディレイが掛かっています。

 更には刃先と棒の部分はそれぞれ当たり判定が異なる為、近距離で刃先を受け止めようとすると棒の部分にめくられダメージを受けます。

 

 くるみ姉貴は破戒僧だった……? 

 

 とか言いながら、大振りの上段をバールで弾きます。そして直後の上段振りの軌道を逆再生するような振り上げをステップ回避し、水平に薙ぐのでそちらも弾きます。

 

 半ゾンビみたいな状態のくるみ姉貴は、耐性で言うと斬撃より打撃に強いので、強化されたステータスも相まってバールで殴っても大してダメージを与えられません。

 

 逆に言うと古木くんのステータスでも容赦なく殴れるということになります。そんでもってこの時間経過イベント、くるみ姉貴の残り体力で耐久時間が変わるんですよね。

 

 体力がMAXだとリアルタイムで4分。半分だと3分。残り3割を切ると1分で進行します。曲がりなりにもRTAなので、当然ですが体力3割を目指して殴りましょう。

 ポケモンの捕獲みてぇだなとは口が裂けても言わないように。サーッ!(キノコの胞子)

 

 弾き、様子を見て適宜反撃し、更に弾く。ジャスト弾きなら耐久値の減少はほぼ無いのですが、くるみ姉貴のシャベルがユニーク武器だからか耐久値一切減らないのはズルいと思います。

 

 んだらばさっさと3割まで体力を減らしたいので一転攻勢しましょう。オラッ、これは枕投げイベントで顔面に直撃して骨折した分! これは全ヒロイン恐怖値MAX状態で仲間内で感染者が出てライアーゲームになった分! 

 

 そしてこれが……まちカドまぞくRTAの試走で胃に穴が空いた私の胃薬の分だーっ!! 

 

 グワラゴワガキーン!! とおおよそ人体から発せられるべきではない音と共に、くるみ姉貴の体力がようやく3割を切ります。

 そして、突き放すようなノックバック攻撃の後に──イベントが進行したため、最後のラッシュが始まりました。

 まるで桜竜が七支刀を振り回すような動き……がっこうぐらしの舞台は源の宮だった? 

 

 ──といった冗談を言える暇はありません。何故ならこのラッシュは7~10回のシャベルによる連続攻撃(当然ディレイ込み)で、これを捌いた直後に、互いの武器が手元から弾き飛ばされくるみ姉貴に掴みかかられるからです。

 

 そして筋力72とかいうバイオゴリラのスゴイヤバイ握力にマウントを取られています。

 これ連打ミスったら屋上の床の染みになりませんかね……? 

 

 ──はい恥も外聞も捨てて本気の連打をします! 前にこのイベントでコントローラーの○ボタンを陥没させて買い換えたのは余談!! 

 

 ボタンを必死に連打して十数秒、かろうじて抵抗に成功し、イベントが進行します。

 この戦闘で何か踏ん切りがついたのでしょう、くるみ姉貴は古木くんを引っ張って起こすとシャベルを肩に担ぎ──わりとレアなイベントスチルが挟まりました。

 

 これにて決闘イベント2回戦目は無事終了となります。ウーン太いシーチキン(イベントクリア報酬の経験値)が欲しい! 

 そいだら明日の雨の日に備えて早めに休むので6日目はここまで。次回、防衛戦。

 

 修羅の炎の匂い染み付いて、むせる。

 

 

 

 

 

 ──古木達が持ち帰った冷凍食品のステーキを解凍して数分、久しぶりの肉類を食べられるということもあって、全員が示し合わせたように無言で食べ進めていた。

 

 米を山盛りにお代わりする者とステーキのソースを米に掛ける者を咎める相手は居ない。

 だが、最後の一切れを食べ終えたくるみがため息をついて小首を傾げる。

 

「……くるみ、どうした」

「ん? ああ、いや……なぁんか()()()()()()さ。ステーキってまだある?」

「──また下に取りに行くしかない。足りないなら、握り飯でも作っておくが」

「うーん、いいよ別に。我慢できるから」

 

 物足りない。その言葉に、ほんの一瞬だけ古木はスミコと慈に視線を移した。

 万が一を考えるが、なんてことはない。昨日の一件で体力を使い果たして、体が栄養を欲しているだけだろう。まさか()()()()()()なんてことにはなるまい。

 

「──なあ古木さん、ちょっと食後の運動がてら屋上で手合わせしてくれない?」

「なに……?」

「丸一日寝てたから体が鈍ってるし、色々と確かめたいからさ。頼むよ」

「──良いだろう」

 

「ふ、古木くん……」

 

 シャベルを担いで生徒会室から出るくるみの後ろ姿を見て、刀ではなくバールを握る古木に、慈は心配そうに声を掛ける。

 

「大丈夫ですよ。無茶はしないし、させません。軽く運動して戻ってきます。

 瑠璃やゆきが勝手に刀を触らないように見ていてもらえますか」

 

「……何故(なにゆえ)小生まで見るんだい?」

 

 目を逸らし、古木はバール片手に部屋から出る。バチ、と慈とスミコの目線が交わった。

 

「……触っちゃ駄目ですよ?」

「触らんよ。()()興味は無いのでね」

 

 

 

 

 

 ──屋上に到着した古木は、プロテクターを肘と膝に巻き、シャベルを片手でヒュンと振るうくるみを見つけた。

 まるで2日前のようだ、と考えながらバールを握る手に力を入れる。

 

「──古木さん、昨日は助かったよ」

「気にするな。誰が相手でもああした」

「そうかもな……まさか、あたしが噛まれるなんて想像もしてなかったよ。どこか楽観視してたんだな、『まあ大丈夫だろう』って」

 

 天を仰ぎ見るくるみは、自分の行いを思い返して呆れからかため息をつく。

 

「──すまなかった、俺がもっと、注意深く辺りを警戒しておくべきだった」

「……あ?」

 

 その言葉は、あっけなく、くるみの琴線に触れる。自分(くるみ)のミスをまるで自身の実力不足であるかのように語る古木の言葉は、良くも悪くも力を持つ者の責任感が表れていた。

 

 誰のせいでもないと考えた不運な事故を、まるで、古木は自分の責任かのように語る。そんな態度に、ただただ、くるみはイラッと来た。

 

「──なんだそれ。自分がもっと強ければこうはならなかったって言いたいのかよ。

 違うだろ、誰のせいでもないし、あんたに責任は無い。ただ運が悪かっただけだ」

 

 くるみは不運と捉え、古木は自身の注意不足と捉える。それこそ誰が悪い、どちらが悪いという話ではないが、今のくるみにとって問題なのはそちらではない。

 

「……あのさ、古木さん。古木さんたちに薬を打たれるまでの間、あたし……確実に死ぬんだなって思ってた。頭の中が溶けるみたいな、何かが侵食してくるみたいな、そんな感じがしてて」

 

 ガツ、とシャベルの刃先で床を突く。

 一部がえぐれ、先端が突き刺さる。

 

「──今のあたしって、どっちなのかな。あいつら? 人間?」

 

「……それは」

 

 どう答えればいい。そんな自問自答が古木の脳内を過り、くっ、と小さく笑ったくるみがシャベルを両手で掴み構える。

 

「……答えらんねえなら、手っ取り早く確かめようぜ──っ!」

 

「くるみ──ッ!」

 

 だんっと踏み込み、シャベルを上段から振り下ろす。頭部を叩き潰さんとする軌道からバールで逸らすが、両手にビリビリと衝撃が残る。

 

「っ……ぐ、ぅ」

 

 逆袈裟斬りを避け、水平に薙ぐ動きに合わせてバールの側面を滑らせる。

 しかし、重い。あまりにも膂力がおかしい。成人男性の古木をも大きく上回る筋力は、くるみのシャベルを明確に凶器足らしめた。

 

 だが古木も伊達に剣術を学んではいない。大振りだが素早く、それでいて鋭い一撃を刀に見立てたバールで逸らすと、鞭をしならせるように腕を振るい得物の先端で脇腹と太ももを叩く。

 

「がっ──!?」

 

 鈍く鋭い感覚に意識が一瞬途切れ、即座に腹にめり込んだ古木の膝が呼吸を止める。

 

「ぐっ……ぅおおッ!!」

 

 ぶんぶんとシャベルを振り回し距離を取る。うぇ、とえずいて、くるみは昼飯出そう……と呟いた。浅く呼吸をして、()()()()()()内臓に響く鈍い感覚に顔をしかめる。

 

「お前は人間だ、恵飛須沢くるみ。しかしそう断言できないのは俺のせいだ」

「だから、違うって言ってんだろ! あんたのせいじゃない、なんでそれが分からない!」

 

 歳上として、武人として、責任感が古木にのし掛かる。逆に言えば──例え相手がくるみだとしても、古木は身勝手に、全員を守る対象として見ていることに他ならない。

 

 シャベルを振るい、バールで受け流し、くるみの脛への蹴りを片足立ちになって避け、返す刀で肩にバールを叩き付ける。

 意に介さないくるみはそれでも尚シャベルを古木に叩きつけようとし、脱力したようにぬるりとバールの上を滑らせた。

 

「……なぁにが『俺のせい』だよふざけやがって……勝手に責任感じてんじゃねえよ。勝手に全員まとめて守ろうとすんなよ」

 

 ゆらり、とシャベルを構えながら前頭姿勢に──さながらクラウチングスタートのように体を傾ける。ぞわりと背筋に怖気が走り、古木は警戒心からくるみを注視する。

 

「────古木ィィ!!」

 

 ぐん、と加速したような錯覚。突き出されたシャベルを受け止め、弾く。続けざまに縦、横、斜めと振るわれるシャベルの刃先をバールで弾くと、ギャリリと耳障りな音を奏で、決して少なくない火花が辺りに散らばる。

 

「頼まれてもいないのに、勝手に主役面してんじゃねえッ!」

 

「────っ」

 

 ガキィン! と甲高い音が鳴り、二人の手元からそれぞれシャベルとバールが弾き飛ぶ。カラララと床を滑り視界の端にすっ飛んでいった得物を見送るより早く、くるみは古木に飛び掛かり、胸ぐらを掴みながら押し倒し馬乗りになった。

 

「なんで全部一人でやろうとするんだよ! あたしと一緒に戦ってたのに、あたしまで守る対象に入れてたのかよ!!」

 

「……ああそうだ。お前と、皆を、全員を守ろうとした。俺にはそう出来るだけの力があって、そうしないとならない義務があった」

 

「──対等のつもりだったんだぞ……っ」

 

 ギリギリと胸ぐらを掴む手に力が入り、古木もまた息苦しく感じた刹那、ぽたりとくるみの目から垂れた雫が頬に当たる。

 

「────」

「あんたとは……対等のつもりだったんだ。仲間だって……相棒だって思ってたのに、あんたにもそう思っててほしかったのに……」

 

 ガツンと、頭を殴られたような衝撃。考え方の違いと、意識の違い。『守りたい』と『守らないといけない』は、同じようで違う。

 他者を守るためにと教わった力を、いつしか死者を斬るために振るっていた男は、驕り、間違えたがために眼前の少女を泣かせた。

 

「……そうか。そうだな。俺が、間違えていたんだな、くるみ」

 

「古木さん……?」

 

 胸ぐらを掴む手を払い、起き上がって座ると、ゴツゴツとした指で目尻の雫を拭う。

 右腕に出来た傷が塞って出来た古傷を見て、膝の上に乗るくるみに言った。

 

「俺はくるみの保護者じゃない。兄でもないし、親でもない。いや──きっとなれない」

「……ああ。あたしだって、あんたの妹でも娘でもないんだよ。頼れ。頼ってくれ。もっと皆を──あたしたちを信頼してくれ」

 

 ふ、と。憑き物が晴れたように、くるみは古木の肩に顔を埋めて深く息を吐いた。

 それから立ち上がり、シャベルを拾い上げ肩に担ぐと、振り返ってふにゃりと笑う。

 

「あたしは人間として、最後まで足掻くよ」

「それがいい」

「……はぁ、腹減ったー。やっぱお握り作って食べようぜぇー。晩飯の缶詰の中身入れてさ、皆でギャンブルすんの」

「……変なものは入れるなよ」

 

 へっへっへ、と怪しく笑うくるみに苦笑を返す。バールを拾う古木は、ごうごうと燃え上がる胸の内の炎を悟られないように、必死に表情を取り繕っている。

 

 脳裏で先のくるみを()()()()()()──。そんな想定をして、シミュレートしながら古木は屋上から廊下へと戻って行く。

 仮に持ってきたのが刀だったら。もし、くるみが人間でいることを諦めていたら。

 

 屋上から戻ってきたのは、二人ではなく一人だったのかもしれない。

 そうなっていたかどうかは、神のみぞ知る。

*1
厳密にはただの栄養剤と抗生物質




次→9月6日00時00分


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庚の回

 普段は真面目で優しい大上 古木くん……。

 しかし、ある時目が覚めると──グラフィックが中馬大蔵になっていた!!! 

 

 ──誤チェストでごわ……じゃなくて、お侍様の戦い方じゃない……なRTAはーじまーるよー。

 いえ別にグラフィック変更MODを使ったわけじゃないので、今partから突然古木くんが中馬大蔵になるわけではないです。

 

 今日は朝から外が雨なんで、昼からのラッシュに備えて武器を磨いてたんや。

 食堂でフラグを立て、戦闘可能キャラを確保し、くるみ姉貴もバイオゴリラとしてスーパーパワーを発揮してくれることでしょう。

 

 まるで最後の晩餐がごとき食事をし、サプリをキメて部屋で待機します。

 そんなわけで7日目、がっこうぐらしRTA名物の校内強制ラッシュが始まりますね。

 

 他ハードやバージョンではやつらの数が多いため補正で経験値が少ないですが、私の遊んでいるバージョンの獲得経験値は普通なので、今日でがっつりポイントを稼ぎます。

【剣術Lv2】と【投擲Lv2】を最終イベントに備えてレベル3に上げたいのと、あるスキルを習得したいので、ステータス値を9上げる分すなわち9ポイント分の経験値を稼ぎましょう。

 

 このゲームのスキルはレベル3に上げるのに3ポイント必要なんですよね。なので剣術と投擲分に6ポイント、そしてあるスキルの初期費用に3ポイントの合計9ポイント。

 

 最初に3ポイントも必要ならさぞや強いのだろうとお思いでしょうが、実際スゴイツヨイ(こなみ)です。まあその、絵面が少々あれですが。

 

 んだらば開戦するお昼まで加速。

 

 こうして休みつつ各キャラの待機モーションを眺めるのも結構楽しいですね。それぞれの性格と今までの行動、現在どこに何があるかで事細かにモーションが変わるので飽きません。

 

 古木くんの待機モーションは『座って刀を磨く』のようですが……くるみ姉貴が真横でガン見してますね。というか距離が近い。

 夕日の河川敷で殴り合うがごとき決闘イベントを乗り越えたからか、好感度が上昇して完全に懐いているようですね。

 

 くるみ姉貴は同級生の男子にも似たような接し方をして『あいつ絶対俺のこと好きだろ……』という悲しい勘違いをさせるタイプと見た。

 

 他のキャラは、りーさんがめぐねえと一緒に帳簿を見ており、みーくんが本を読み、Kとゆきちゃんがるーちゃんの相手をしています。

 最後にスミコが鼻唄を奏でながら私服のゴスロリのほつれを縫い直していますが、その鼻唄ガッツリ六甲おろしじゃねーか。

 

『スミコの鼻唄(六甲おろしver)』というレアBGMを聞きつつ時間の経過を待っていますと、午後になるにつれ、どんどん雨足が強くなってきました。どしゃ降りと言っても差し支えません。

 

 ──はい、画面が暗転しイベントが発生しました。ゆきちゃん達がやつらの群れが学校に入ってくるのを見ると「雨宿りしてるみたいだね~」と言うので、全員生存に必要なフラグが建設されていることはここで確認しましょう。

 

 それでは『あめのひ』開幕です。古木くんとくるみ姉貴、そして若干ゃ空気が薄い太郎丸を2階に配置し、防犯ブザーと太郎丸の威嚇で廊下の真ん中に陣取る二人へとやつらを注目させます。

 

 残りの面子のりーさんとK、ゆきちゃんとるーちゃんを放送室に押し込み、スミコとめぐねえ、みーくんを三階に配置します。

 やつらは全員2階で捌く予定ですが、万が一にも数体に突破されたらひでのようにバリケードや扉が叩かれますので。

 

 ──では、ペグ20本を持っているのを確認し、防犯ブザーを鳴らして廊下の奥の階段から上がってきたやつらの群れを引き寄せ、もう片方の廊下奥に太郎丸の吠える声を届かせ引き寄せます。

 えっ、古木くんとくるみ姉貴だけで大丈夫なのかって? 廊下はそこまで広くなく、古木くんの刀のリーチもまあまあ長い。加えてハーフゾンビ……B(バイオ).O(オーガニック).G(ゴリラ).ことくるみ姉貴が怪力でやつらを清々しいほどにぶっ飛ばしてくれるので、寧ろ他に人が居ると邪魔なレベルですね。

 

 ──充分に引き寄せた辺りで戦闘開始。真ん中の階段から上がってくるやつらは適宜ペグで頭を打ち抜いて転倒させ、先頭の倒れたやつらで後続をつっかえさせます。

 

 廊下奥から歩いてくる方も足に投げて転倒させます。物理エンジンがしっかり作られている為、やつらとて『足がもつれて転びそうになる』という隙を晒してくれるのは良いですねぇ。

 

 下手に生前の行動を繰り返そうとするから()()()()()()()()()()()()んだよなぁ……。

 これフルダイブVRだったらやつらの足とか掴んで振り回せて武器に出来そうですね。

 

 ──などと、古木くんの背後で()()()()()()()()()()()()やつの襟首を掴んでやつらの群れにぶん投げているくるみ姉貴を見ながら言いつつ、負けじとやつらを刀で切り刻みます。

 

 Foo↑気持ちいい~!(リッパーモード)

 

 なんて調子に乗っていますが、経験値稼ぎのため、防衛のため、ヒロインたちを守るため、理由はあれど刀を振るう古木くんは当然その分のストレスが爆発的に膨れ上がります。

 ストレスを与えるプレイを強要するとどうなる? 知らんのか、状態異常付与ガチャ(☆5確定)が始まる。つまりは死ゾ。

 

 

 ──人によっては「なんて酷いプレイングなんだ……」と憤ることでしょう。

 私はそうは思いません。RTAというのは勝負で成り立っている世界です。

 与えられたチャートで予定された時間内にまっとうすれば勝負は完了しています。

 

 それで対価としての満足感が得られる。自分と他走者はそれ以上の関係でもないしそれ以下の関係でもない。……どこか間違っていますか? 

 私はRTAでのチャートの使い方は他走者を無慈悲する手段だと割りきっています。

 

 少なくともこのやり方で私はこのRTAを完走している。──「ガバに染まったRTAが君自身を害している」……? 

 そんなことはオリチャーに活路を見出だすようなもの(ガバ ノブ マイ ビジネス)です。

 "WRありき"という考え方には与しません、まず"完走ありき"です。

 

 ──皆それぞれ個人のチャートがあって、そのエゴの押し付け合いがRTAというものではないんですか? だから自分の記録を中心に考えていきたい。────ギアを1つ上げて行くぞッ

 

 

 ──コラ画像のパロディとかいう三次創作なんかやってねぇで、RTAしろ! 

 

 はい……。

 

 ゲーム画面では現在、シャベルを振ってはやつらをぶっ飛ばし、持ち上げてはフルスイングでぶん投げるくるみ姉貴と、3階に上がろうとするやつらにピンポイントでペグを投擲しつつ手近のやつらを斬る古木くんの姿が映っています。

 

 ……自分で操作と指示をしておいてなんですけど、こいつら人間でしたよね? いやまあ片方は半分だけゾンビィですけども。

 

 

 クソみたいな茶番を始める程度には暇な戦闘シーンが続いててだれるので、イベントの解説でお茶を濁しましょうか。このイベントは時間経過且つフラグを回収したか、またはしてないかでルートが分岐する耐久イベントです。

 

 食堂などでやつらが生前の行動を繰り返していることを確認すること、そしてやつらを一定時間倒し続けるかバリケード等で動きを止めていることで、全員生存ルートにイベントが分岐します。放送室から校内放送で下校を促すアレですね。

 

 反して、上記のイベントフラグを回収できていないと、一定時間後に強制的にイベントが進行し、放送室に逃げ込んだキャラクターたちの中から誰か一人が、ランダムで自分を犠牲にやつらを外に誘導する死亡イベントになってしまいます。

 

 殆どの場合はめぐねえが囮になるのですが、時折くるみ姉貴が犠牲になったりします。当然ながら死亡ルートだと最終イベントまでお通夜状態になるし、このルートでくるみ姉貴が死ぬと最後のラッシュ+火災の難易度が高くなります。

 RTAなら絶対に、このイベントで下手を打たないようにしようね!(注意喚起土方)

 

 ──と、追い防犯ブザーで再度注意を引いた辺りで、イベント進行が挟まり特殊演出による校内放送が流れ始めましたね。

 やつらがピタリと動きを止め、それから踵を返して階段を降りて行きました。

 

 ここから2分ほど時間が経ってから画面が暗転して1日が終了するのです……が、ここでステータスチェック。経験値が9ポイント分貯まっているか、状態異常が付与されたかを確認します。

 

 ……おっと、あと1ポイント分足りてませんね。すぐに外へ向かって帰ろうとするやつらのケツを適当に掘りましょう。それと、問題の3値の増減具合と状態異常ですが…………。

 

 

 大上 古木

 ・ストレス/10【直感↓】【快楽主義*1

 ・恐怖/0

 ・性欲/1

 

 

 ──草。*2

 

 これついての良い知らせは、よりにもよって一番最悪な状態異常が付与されたけど【直感↓】以外の状態異常が無かったことですね。

 悪い知らせは【快楽主義】を治すイベントが高校編では発生しないことです。──厳密には発生させる条件を達成できません。

 

 治療イベントは『知力40以上(上限数値は50)のNPCが3人以上存在するとフラグが発生し、その後該当キャラたちを連れて個室で会話を行う』ことが条件なので、高校編のこの段階ではどう頑張っても3人用意できないので発生しません。

 

 一番厄介なのが『知力40以上』の部分で、このゲームでの各ステータスが50でカンストするということはつまり、40以上というのはかなり頭が良いことを意味しています。

 具体的には高校教師のめぐねえが知力42なので、あと二人をどこで調達するのか? ということになるのですが……。

 

 知力40以上のキャラは、大学編に登場するキャラクターである『青襲(あおそい)椎子(しいこ)』、『喜来(きらい)比嘉子(ひかこ)』、『稜河原(かどかわはら)理瀬(りせ)』が該当します。

 逆に言うと、大学編に3人居る=めぐねえが居なくても数が足りるということです。

 

 

 ──なので、とどのつまり、残りの3日間は古木くんがやつらをぶった斬るの大好きマシーンと化します。んだらばさっそく窓から外まで飛び降りて、落下攻撃でやつらを倒しましょう。

 

 人を襲う行動より学校から出て帰る行動ルーチンが優先されているので、ラッシュ後のここではどう暴れても反撃されません。

 あと少しだけ倒せばぴったり9ポイント分の経験値を稼げたことになりますので、7日目終了の合図である画面暗転までザクザク斬りましょう。【快楽主義】が悪化しそうな行動ですが、なぁに却って免疫がつく。

 

 それでは今後が面倒になった辺りで7日目はここまで。とほほ~ガバはもう懲り懲りだよ~

 

 

 

 

 

 ──外の雨音。防犯ブザーの高音。水に濡れた腐臭。廊下奥の両側にある階段から3階に上がられないようにしつつ、2階中央で食い止めるというあまりにも無茶な作戦で戦い始めて暫く。

 

 片方をくるみに任せた古木は、胸の奥で燃え盛る炎に顔をしかめていた。

 

 ──刀を振る。首が飛ぶ。

 ──刀を振る。胴を分かつ。

 

 学んだ通りに刀を振り、想定通りの結果を生む。それだけだった、筈だった。

 古木の剣は前よりも洗練され、鋭く、一太刀で死者の2度目の命を切り落としている。投げるペグは一直線に標的の頭部に吸い込まれる。

 

「くるみ、3階には行かせるな」

「わかってるっつーのッ!!」

 

 ()()()くるみを素通りする死者の足を掴むと、さも当然のように片手で持ち上げて振り回し、3階に上がろうとする数人目掛けて放り投げていた。古木の表情が強張るのも無理はない。

 

 (かぶり)を振って意識を切り替え、古木は眼前の1人を即座に斬り捨てる。

 一振りで首を絶ち、その後ろから近づいてきたもう1人にペグを投げ眼孔から脳へと突き刺さり、倒れるのを見送るより速く、たんっと一足で()()と横の2人目に肉薄して一閃した。

 

 そして、懐から防犯ブザーを取り出して鳴らすと、足元に落としてから【一心】を星眼に構える。何度も死者を斬っていながら、その刀身には、一滴の血液も付着していなかった。

 

 

 

「──速すぎんだろ」

 

 シャベルで凪ぎ払うようにして死者の群れを弾き飛ばし、空いた僅かな時間で呼吸を整えるくるみは、遠目から古木の戦い様を見ていた。

 真っ正面から迎え撃つにも関わらず、気が付けば相対した死人が事切れている。

 2人目、3人目と続けて斬り捨てているのだが、くるみには斬る際の刃の動きが見えないでいた。首の皮一枚だけを残す理想的な斬首を、まるで流れ作業かのように淡々とこなしている。

 

 ──あれが頂きに立つ武人か、と。

 

 そんな事を考えて、くるみはぶるりと身震いする。違和感があったのだ。あまりにも淡々とし過ぎている。自分はシャベルで人肉を斬る感触にいまだに慣れないのに、古木の動きは嫌悪感を覚えていないように一切揺るがない。

 

 違和感があった。

 

 古木の雰囲気に違和感があった。

 

 しかし、違和感の正体が分からなかった。

 

 

 気付けないまま、死者との戦いは、ついに放送室からの下校を促す校内放送のお陰で終わりを迎えた。防犯ブザーを拾って紐を付け直していると、古木が窓の外を見ていることに気付く。

 

「古木さん、終わったな。お疲れ」

「────」

「……古木さん?」

 

 くるみの声が聞こえていないのか、古木は微動だにしない。窓の外を──のろのろと帰路を歩く死者を、じっと見ている。

 

「古木さん、もう終わったんだ、上に戻ろう。もしかしたら1人か2人見逃した、か……も……」

 

 ふ、と。くるみは窓に視線を移す。ただなんとなしに、視線を向けた。そして気付いた。

 

 ──古木の目が据わっている。

 ──古木の口許が、歪んでいる。

 

 嗤っていたのだ。

 

「────ッ!!」

 

 ()()()()()()()()()()()とシャベルを振りかぶったくるみの判断は正しく、しかして遅すぎた。

 

 くるみのシャベルは空振りに終わった。ダッキングのように屈んで避けると、古木はそのまま片手で窓の枠を掴んで飛び降りる。

 片手の刀で真下の死者の頭を刺し貫きつつ足場にして着地し、飛び降りて足払いするように別の死者の両足を切り落とす。

 

 倒れた頭に一突きして、流れる動作でただ帰ろうとしているだけの死者たちを次々に斬って行く。窓から見下ろすくるみが、舌打ちしてから太郎丸に一声掛けて、階段を駆け降りる。

 

「太郎丸、3階に戻れ。わかるな?」

 

 返事をするように鳴いた太郎丸に一瞥して、くるみは走る。段を飛ばして半ば飛び降りるような動きをするくるみが一階から外に出ると、どしゃ降りのなかで濡れながらも斬ることをやめようとしない古木を見つけて大声を出す。

 

「古木さん! もうやめろ!!」

 

 雨粒がバチバチバチと弾丸のように地面を叩く音が、くるみの声をくぐもらせる。それでも尚、刀の範囲に入らないように慎重に近付いてから、くるみは再度怒鳴るようにして声を上げる。

 

「古木さん!!」

 

 瞬く間に十数人の死体を築き上げた古木が、ようやく振り返る。

 能面のような、表情を削ぎ落とした顔が振り返り、シャベルを握る手に力が入る。古木はくるみをじっと見て、刀を納めた。

 

 

 ──古木は胸の内の炎が、雨でも消せないのだなと、そう考えながらくるみを見やる。

 気付いてしまえば、受け入れてしまえば、自身の悩みというのはあまりにも呆気無かった。

 

 簡単な話である。

 

 ──楽しいのだ。剣術を磨くのが楽しい。剣術を対人戦で披露できるのが楽しい。

 自身の腕前が上がっているのが嬉しい。()が向こうからやって来るのが嬉しい。

 

 楽しくて、嬉しくて、面白くて、愉快で──それがたまらなく、苦しい。

 

 

「……くるみ」

 

 

 皆が無事で嬉しい。

 くるみが無事で嬉しい。

 死者を斬るのが楽しい。

 

 楽しくてたまらなくて、だからこそ、楽しいから苦しい。古木の頬に流れたのは、涙なのか雨粒なのか、それはわからない。

 

「古木さん……っ」

 

 くるみは口を開く。しかし、なんと言えばいい? どんな言葉を掛けてやればいい? 

 

 どんな言葉が正解なのかわからない。

 最後まで、くるみは何も言えない。

 

 ──何も、言えなかった。

*1
ストレスから逃れるべく、やつらを斬ることに悦楽を見出だす状態異常。恐怖が0になり上がらなくなるが、これまでに付与された状態異常が治らなくなる

*2
まるで胃に穴が空いた激痛を我慢するが如く、あまりにも悲痛な、絞り出すような声




次→9月13日00時00分


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辛の回

 あ~あ、人生が5回くらいあったらいいのになあ! そしたら私、5回とも違うゲームを遊んで、5回とも違うRTAを走って、5回とも違うチャートでプレイして……それで5回とも……同じようなガバをする。なRTAはーじまーるよー。

 

 前回は『卒業生チャートレ■プ! 修羅剣士チャートと化したガバガバRTA』なところで終わりましたね。今回で8日目、全員生存の対象者5人の好感度が一定のラインを超えていれば、手紙を出そうと提案される筈です。

 

 いわゆるお手紙イベントですね。私たちは元気でーす!(やけくそ)とはよく言ったものよ。おいなにわろとんねん。

 

 朝の日課ことやつら掃除は流れ作業なので倍速します。そのついでに、7日目に使ったペグがやつらの死体の消失と共に床に落ちているので拾っておきましょう。最終日に使う投擲武器の数が足りなくなる事がありますので。

 

 前回で不幸にも【状態異常/快楽主義】に追突してしまった古木くんですが、最終日の火災ラッシュ時はくるみ姉貴以外は近くに居ない──他全員を地下室に避難させるので、戦ってる様子を見られてドン引きされるとかはないです。

 

 ではペグの回収もしましたので、刀を手入れしてから昼まで倍速(いつもの)

 

 今日の待機モーションは壁を背もたれにして片膝を立て顔を項垂れていますね。井戸の底でふてくされてた時の狼みたいだぁ。

 そんでもって、るーちゃんが古木くんの顔を下から見上げてきたり眉間のシワを指でぐりぐりしてきました。にゃーめーろお前! コットンで殴られてぇかあ!?(ソフトタッチ)

 

 画面端ィ! ではりーさんと古木くんの剣術限界オタクことスミコがじ──っとこちらを見ています。ハシビロコウかおめぇはよぉ! 

 

 ……とか言っていると、時間が昼になったので等速に戻します。いつしか雨は止み、そこには虹が架かるんだよなぁ……という事で、ゆきちゃんが手紙を書こう! と提案してきます。

 

 どうせなら座標も書いて救助を期待してみようというめぐねえやりーさんの考えもあり、風船にヘリウムをドバーッ! とつうずるっこもうとボンベを取りに行くことになりました。

 

 力仕事は何時だって男の役目よな……と思いきや、くるみ姉貴がヘリウムガス入りのボンベを担いでくれました。木こりのテーマの流しどころさん!? もー、パパったら古いんだ。

 

 ──風船、ヨシ! 

 

 ──手紙、ヨシ! 

 

 ──ガス、ヨシ! 

 

 ガバガバだけど予定通りに事が進んでいるので、取り敢えずまあヨシ!(RTA猫)

 ちなみにタァイムの都合でハトを捕獲する方のイベントには発展♂しません。

 

 それと余談ですが、このゲームはオンライン接続していると、他プレイヤーが書いた手紙が道端に落ちていて拾えたりするんですよね。

 大体は怪文書だったり謎ポエムだったり攻略wikiには載ってないアイテムの隠し場所だったりと、かなりギャンブル性が強いです。

 まず信用しない方が良いですね、ソウル系でいうパッチくらい信用なりません。

 

 時にはAVの内容を文章で書き起こした官能小説風の手紙が紛れており、生配信中にうっかり拾い上げた日には文字列の段階でアウト判定を食らい配信停止させられるトラップもありました。

 

 私はこれをセクハラ地雷と呼んでいます。

 

 ……なんというか、魔法の詠唱にAVの説明文やタイトルを設定しやがった某ゲームの変態野郎を思い出しますね。最終決戦でデスメタル熱唱で対抗してた彼は元気にしているのでしょうか。

 

 

 ──それはさておき、問題はここからですね。RTA的には休憩タイム。通常プレイ的には退屈タイム。つまりもうやること無いんですよ。

 

 手紙イベントを終わらせた日から2日後、今日が8日目なので、10日目に最終イベントが始まるのですが……それまでが準備期間となってしまうので、(ぶっちゃけもうやること)ないです。

 

 本来なら大学編に向けて物資を集めたりするのですが、RTAだとその必要がないのでね……。そんなわけで短いですが今回はここまで。

 尺が短いからって手抜きだ等というナイーブな考え方は捨てろ(ラーメンハゲ)

 

 

 

 

 

 ──若狭瑠璃は好奇心旺盛な小学生である。

 そんな瑠璃の興味は、生徒会室の一角に座り、立てた片膝に顔を押し付けて眠っている古木に向いていた。そろりそろりと近付いて、眉間の深いシワを指で伸ばす。

 

「……むっ」

 

 シワが戻る。

 指で伸ばす。

 

「……むむ」

 

 シワが戻る。

 再度伸ばす。

 

「むむむっ」

 

 シワが戻る。再度伸ば────そうとした所で、瑠璃の行動を姉の悠里が窘める。

 

「もう、るーちゃん。古木さんは疲れてるのよ、そっとしてあげて?」

「姫君は何をしているのかね」

「……古木さんの眉間のシワを伸ばそうとしているみたいです」

「…………なるほど」

 

 ……なるほど? と、悠里の隣に座ったスミコは小首を傾げる。

 件の瑠璃は、膝の間にすっぽりと収まりながら古木の顔を覗くように見上げていた。子供ながらに心配なのだろう。子供とは、大人が思っているよりも感情の機微に敏感である。

 

「……ふぅん?」

「……スミコさん?」

「──ああ、いや」

 

 床に座り、片手に刀の鞘を握り、柄を肩に立て掛けて眠っている古木をじっと見やる。──纏う雰囲気が変わった、と直感していた。

 

「昨日、何かがあったようだね」

「──何か言いました?」

「いいや。気にしないでくれたまえ」

 

 口許を片手で被いながらの呟きは、悠里には聞こえなかったらしい。

 そんな折、不意に生徒会室の扉を開け放つ音に驚いて、スミコは脊髄反射で机に立て掛けていた護身用の傘を握る。

 

「っ──ああ、なんだ、ゆき君か。

 せめてノックをしてくれると我々は不必要に驚かなくて済むのだよ」

「あっ……ごめんなさーい」

「許すとも」

「それで、ゆきちゃん。そんなに楽しそうに……どうしたの?」

「──雨も止んで外も晴れてるし、お手紙出してみない?」

 

 手紙……とおうむ返しする悠里とスミコは、ゆきの背後から部屋に入ってくる慈に視線をずらした。やや困ったような顔で微笑を浮かべる慈は、二人に近付いてこっそりと耳打ちする。

 

「理科の授業に使うヘリウムガスがあるので、風船に入れて飛ばしてみるのはどうかと提案してみたんです。それに、例えばここの座標を書いた手紙を混ぜたら、誰かが拾ってくれるかと」

「なるほど、佐倉女史も考えるじゃないか……やって損はないだろう」

「そうですね、何枚か書いてみましょう。やるだけならタダですし」

 

 二人の肯定にホッとする慈は、それとなく眠っている古木を見る。

 朝からペグを回収して刀の汚れを拭ってから、今に至るまでずっと眠っている様子を見て、なんとなく──何かを怖がっている子供の駄々にも見えて心配だった。

 

「ところでくるみ君たちは何処に?」

「美紀さんが本を探していたので、圭さんと三人で図書室に行っています」

「くるみが一緒なら大丈夫ですね」

 

 感染を乗り越えて以前より力が増しているくるみが片手でゆきや瑠璃を持ち上げてダンベル代わりにしていた朝の一幕を思い返して、三人はほぼ同時に苦笑を浮かべる。

 

「それなら風船取りに行こうよ! 確か、購買に置いてあったよね?」

「そうですね……であれば、念のためスミコさんか古木くんに付いていってもらい──」

 

 ちらり、と古木を見る。ふと据わった瞳と目が合い、慈はびくりと肩を跳ねさせた。

 

「……風船なら、ある」

「おや、おはよう古木くん」

「そこに埋まってる筈だ」

 

 古木の所持品であるリュックが部屋の角に置かれており、ゆきがそこを探ると未開封の風船入りの袋が置いてあった。古木自身は、寝ぼけまなこで瑠璃の頬を撫でている。

 

「どうして持っているんですか?」

「……子供の遊び道具になると思って、持ち帰っただけだ。渡す機会を逃していて放置していたわけだが……」

 

 固まった体をほぐすように関節を鳴らして立ち上がると、無言でねだる瑠璃の頭を軽く撫で、腰に刀を差していた。

 

 

 

 

 ──紙とペン、風船とヘリウム入りのボンベ、紐と手紙を入れる袋と、幾つかの道具を持ち込んで、全員で屋上に上がっていた。

 

 早速とお絵描きという名の落書きをしている瑠璃に付き合う圭と悠里に、手紙を書くゆきとその傍らで学校の座標を調べて書き記す慈。

 風船に慎重にガスを注入する美紀をスミコが手伝い、くるみはボンベを支える。そして警戒をしつつ、太郎丸の相手を古木がしていた。

 

 ある程度風船にガスを入れ終えて休憩している美紀の横で手すりに背中を預けて天を仰ぐスミコが、露骨に深くため息をついている。

 

「……どうしたんですかスミコさん」

「おや、聞いてくれるかい共犯者君」

「性癖暴露したからってさも当然のように人を共犯者扱いするのやめません?」

 

 ゲンナリした顔でスミコを見上げる美紀だったが、普段の飄々とした態度のスミコがどこか弱って見えて、態度を改めた。

 

「なにか?」

「……古木くんの剣が、少し変わった気がするのだよ。気付いたかな、屋上に上がる前、3階の廊下に上がってきた死者に()()()()()、適当に投げるようにペグを頭に打ち込んでいたのだが」

「ああ……見ましたよ、すごかったですね。武人って気配を探れるらしいですし、古木さんがそれだけ強いというだけでは?」

 

 その言葉に、スミコはまるでフレーメン反応を起こした猫のように口を開け、呆れた顔で頭を振ると言い返した。

 

「はぁ……美紀君、キミはいつも古木くんのどこを見ているんだい。むしろ、あの動きは古木くんらしくなかったのだよ」

「オタクってすぐマウント取りますよね」

 

 膝立ちで屈み、腹を見せる太郎丸を撫で回す古木は、心ここに有らずといった様子でぼんやりとしている。

 

「古木くんは剣士だろう。相手と面と向かって対峙するように訓練している者だ。

 そんな者が、なぜ、やつらを見ずに片手間で済まそうとする?」

「それは……まあ、言われてみれば」

 

 スミコはかつて古木に問うた。『楽しかったかい?』と。まさか、本当に、()()()()()()()()のだろうか? 古木がそれで強くなるのなら、スミコの願ったり叶ったりと言う他ないが──

 

「……つまらんな。見ていてまったく楽しくない。()()()くんのあんな姿が見たかったわけではないのだけどもね」

「──うん?」

「なにかな?」

「いえ、今……んん?」

 

 ポツリと呟いたスミコの言葉の何かが引っ掛かり、美紀は疑問符を浮かべた。

 黒いロングスカートを風に(なび)かせ、見上げた先で、片手で耳元の髪を一房押さえる手つきは、間違いなく人を魅了する美しさがある。

 

「……スミコさん、顔だけは美人ですよね。言動が少しばかりアレですけど」

「それが褒め言葉では決してないと言うことだけは小生でも理解しているよ」

「ふふ。ええ、まあ」

「……まったく」

 

 スミコは苦笑し、美紀はあっけらかんとした顔で笑みを作る。珍しく、今日は比較的平和だったな、などと頭の片隅で考えていた。

 

 とはいえ、本当の平和とは程遠く──今が平和な分、それだけのちに荒事が起きることは当然理解している。

 しかしそれでも、少女と女性、子犬と青年が眼前の小さな幸せを享受する事を許してくれないほど、この世界は厳しくないのだろう。

 

 

 ──尤も、甘くもないのだがね。

 

 

 スミコはそう付け加えてまぶたを閉じる。風の音が耳に届き、風が乗せた腐臭が鼻を過る。それから少しして、古木の顔が脳裏に浮かぶ。

 

「……()は──」

 

 古木に対して、どんな感情を抱いているのか。憧憬? 執着? それとも、と考える。

 高校生の時からの感情に、スミコはいまだ答えを出せていなかった。




次→9月20日00時00分


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壬の回

 RTAを終えてベッドへ向かう走者兄貴。

 しかし疲れからか、不幸にも黒塗りの新作情報に追突してしまう。

 他走者をかばいすべての責任を負った走者兄貴に対し、新作ゲーム、『フルダイブVR版がっこうぐらし!』が言い渡したRTAの条件とは……

 

 フルダイブVR版が発売決定して走らざるを得なくなったRTAはーじまーるよー。

 えっ、追加敵対NPC『バンディット』の50人斬りRTAを!? できらあっ! 痛覚100%再現だと尚良しですね(封鎖された島への執着)

 

 そんなわけで(?)今日で9日目。明日で終わるのかーと思いつつ、やることが一切無いため退屈な日となってしまいました。

 やることねーなー(ニャーン)やることねーなー、どうするよ暇だぁ。金もねえしなぁ。

 

 このまま一日が終わるまで20倍速で流すのもなんですし……折角ならスミコの好感度上げてみましょうか。高校編で遭遇するなんて想定できていなかった超絶レアキャラですしね。

 

 1ゲーマーとしての血も騒ぎます。それに9日目は暇だからね、しょうがないね(免罪符)。良いだろお前成人の日だぞ。

 

 という事で、早速貯めに貯めた経験値をドバーッとステータスに割り振ってスキルポイントを獲得します。筋力に5と持久力に4、合わせて計算通りに9ポイントです。

 はぇーすっごい、まるでRTAのチャートに沿ってるみたいだぁ。

 

 んだらば6ポイントで【剣術Lv2】を【剣術Lv3】にして、【投擲Lv2】を【投擲Lv3】に上げます。これで刀剣類の攻撃力上昇・耐久値の消耗軽減・スタミナ消費軽減が付与され、投擲武器の攻撃力上昇・耐久値の消耗軽減・確定で再利用可と、より私の武器が強力になりました。

 

 残りの3ポイントでなんのスキルを習得するのかについてですが、これは最終日に習得するのであとでのお楽しみとします。

 

 なろうみたいにスキルを羅列して尺稼ぎするのは嫌いなのでこの辺はサクッと流しまして、同行キャラをスミコに設定して行動を始めましょう。今回はきちんと各キャラの行動設定をして変な行動を取らないようにしておきます。

 

 ……ヨシ!(RTA猫)

 

 ほいじゃあ外に行きますよーイクイク。

 今日は古木くんの家に戻ります。このままストーリーが進行すると家に帰れるのはランダル編終了後なので、その前に家から家族の写真なんかを確保しておきたいんですね。

 

 まあ高校編でRTA終わりますけど。でもなにもしなかったらもにょるじゃないですか。その辺の感情移入は前科ありますよ私*1(開き直り)

 

 そんなこんなで久しぶりの学校の外です。

 そもそもの生存者が居ないのでやつらの数もまたそう多くありませんが、住宅街は死角が多いので気を付けましょう。私の資格は特にありません。無敵です。とりあえずゲーマー名乗っとけばセーフなのでまあ、多少はね? 

 

 スミコは酒ばっか呑んでるわりにスタミナがあるので、古木くんの長距離ダッシュに付いて来れていますね。屋根を跳べたら楽なのですが──最悪スミコを抱えて跳ばないといけないのでキャンセルだ。じゃけん道路を走りましょうね~

 

 走りながらペグを投擲し、倒れたやつらから手早く回収。それを数回繰り返して、走る。2分もしないうちに古木くんの家が見えてきました。いやしかしデケェなこの武家屋敷。

 

 古木くんとスミコが家に入り、室内を探索します。初日に現れたやつらの死体ですが、日を跨ぐと消えるようになっているので、畳に染みが出来ているだけですね。作中では共食いしたとかそんな感じに処理されるのでしょう。

 

 あとは古木くんの私物を持ち出すだけ。

 仏壇から祖父と両親の写真、自室から幼馴染の写真をそれぞれ持ち出します。キャラ設定と背景設定を細かく指定しているため、この辺もアイテムが変化していますね。

 

『思い出の写真/祖父』『思い出の写真/両親』『思い出の写真/幼馴染』の三枚を確保し、このあとを少しだけ自由時間とします。

 スミコにも好きに動くよう指示しておき、古木くんは少し家の回りを見ておきましょう。やつらが入り込んでいたら処理しておく必要がありますし、自宅にやつらが居るのは嫌ですので。

 

 ……しかし古木くん、ガチガチの武人の家系のわりには服装は現代的ですよね。ワイシャツにスラックス、おまけに靴はブーツだし。

 

 DLCやクリア特典、初回購入特典で主人公とヒロインには着せ替え可能の服が幾つか用意されているので、どうせならお着替えするのもやぶさかではないでしょう。

 

 よくも悪くもゲームなので、和服を着込んでいても動きづらくなるとかそういった制約はありませんからね。たぶんフルダイブ版でそれやったら動きづらくて死にますが。

 

 ちなみにDLCコスチュームには、きらファンコラボの☆5衣装があります。

 更には高難易度クリア特典にヒロイン用のバニーガール衣装があるのですが、服に対するコメントは無いため……なんというか集団催眠モノみたいになるんですよね。マトモなのは僕だけか!?(ボートを用意しろ)

 

 とか言いつつ、外に出て縁側から裏に回り蔵を見ます。古木くんは直感にデバフが掛けられていますが、私には分かります。

 出ておじゃれ、隠れていても獣は臭いでわかりまするぞ(リアル直感)

 

 ──開けっ放しなのを忘れていた蔵の奥からやつらが2体現れました。手前の方にペグを投げ、死体に変わったやつらを倒れる前に蹴ることでお手軽質量武器として扱い、ぶつかって倒れた奥のもう1体を切り捨てて終わり。

 

 古木くんの家が仮に猟師の家だったら蔵にマタギの銃が置かれているんですかね。

 私は銃も扱えます。兵隊さんのその銃は5発入るんだっけ?(変態勃起猟師)

 

 以前、とあるゲームの無人島で幼女に切り刻まれまくったり別の島に移り住んだりしましたが、移った島に居たある人物がイカれたレベルの発砲(ぐるい)でして、そいつに襲われたり教わったりで腕を磨かざるを得なかったと言いますか。

 

 秘伝の技も伝授させられ、今では私も立派な幕末維新志士ですよ*2。あちらの方でもつい最近イキのいい奴が入ってきたので今後に期待ですね。

 というかあの子って有名な剣術道場の娘さんですよね。本人も隠す気無いのかベラベラ喋ってはその間に天誅されてたし。

 

 

 ……はい。世間話もそこそこにします。良い時間になってきたのでそろそろ学校に戻りましょうか。今更になってスミコを大上宅に野放しにしている事実を後悔してきました。

 

 これはフレーバー程度のキャラ設定なので別に重要でもなんでもないのですけど、古木くんの名前って実は大上 ()()ではないんですよね。

 

 いやまあ、まさかピンポイントであのスミコに大上家の家系図を見られるわけないし、大丈夫だって安心しろよぉ! へーきへーき。

 

 

 ──クゥーン(子犬先輩)

 

 

 なんだってテメーはそうフラグ回収が爆速なんだ。阿部寛のホームページかなんかか。

 仏壇の近くに置かれていた家系図をスミコが熟読していますね。隠していたわけではありませんが、これで古木くんの本名が割れました。

 

 残りの時間は9日目終了まで倍速してかっ飛ばすつもりでしたが……スミコくんさぁ……桜の木の下には死体が埋まってるっていう逸話のこと知ってる? ちょっと実践してみない? 

 

 

 

 

 

 ──武家屋敷の広い室内を歩くスミコは、ストッキング越しに畳の感触を確かめる。

 台所、浴室、廊下。念のためにと傘を構えていたが、特に死者が我が物顔で大上家を練り歩いているということだけは免れていた。

 

「……荒れた様子はなし、か」

 

 居間に戻り、部屋の隅に置かれた仏壇の前に座ると、線香を一本抜き出して火を点す。

 動く死人に嗅覚があるか、嗅ぎ付けてくるのかはともかく、なにもしないでおくほどスミコは人非人ではなかった。

 

「──まあ、こんなものだろう」

 

 短く黙祷を捧げ、まぶたを開いて仏壇を見やる。古木が写真を抜いていたが、一瞬だけ老人と夫婦の三人を視認し、スミコは察していた。

 

「天才剣士だが、天涯孤独……ねぇ」

 

 万が一にも身内を斬らなくてはいけないということにはならない事だけが僥倖なのか、と思案して、ふと視線が薄い冊子に向く。立ち上がり、それを拾い上げた。

 

「む──和紙の……家系図?」

 

 大上家の家系図を見つけたスミコは、逡巡し、それから好奇心に従うことにした。

 駄目だったならこんなところに置かなければいいだけであり、何かあったら謝ればいい。そんな風に、人間とは都合良く言い訳をする。

 

 冊子を開いて中を覗けば、そこには名前と線が描かれ繋がっている。上から下へと読み進め、スミコはある名前を目にした。

 

「『大上 一心』、祖父。『大上 柳』、父…………『()() 菖蒲』、母……? 

 ──どういうことだ、『古木』とは彼の名前じゃなかったのか……?」

 

 柳と菖蒲、両親の下に、古木の欄がある。そこを見ればわかるだろう、古木の本当の名前が。しかし、目線が固まる。両親の部分から下にずらせない。まるでホラー映画の山場を見るかのような緊張がスミコの心拍数を早める。

 

「古木くん、君は、いったい……」

 

 ──誰なんだ。

 

 意を決して、目線を下げる。古木の本当の名前を見て、スミコは目を見開き、そして背中にごりっと固いものを押し当てられた。

 正体を刀の柄頭と理解したスミコが手に持つ家系図を閉じると、それが後ろから素早く、思いの外強い力で奪い取られる。

 

「──礼儀が成っていないな」

「……君こそ今まで小生たちを騙していたみたいじゃないか、古木くん。いや──こう言うべきかな? なあ、『大上 御形(ごぎょう)』くん」

「────」

 

 振り返ったスミコが見たのは、騙していた事実をわかっているが故の、罪悪感が表情に出ている古木──御形の渋い顔だった。

 

 

 

 ──縁側に二人並んで座り、外を見るスミコたちは互いの顔を見られないでいる。

 

「小生は君をどちらで呼べばいいのかな?」

「……古木、と呼べ。もう、小学生の時から()()()を使っている」

「どうしてだい」

「両親が死んだからだ。尤も、戸籍上は『御形』のままだがな。

 ある種の、単なる自称だ」

 

 なぜ、とスミコは聞く。

 傍らに置かれた刀の柄を撫でて、庭を見ながらあっけらかんとした声色で、写真を取り出すとスミコに渡して言う。

 

「忘れるんだ。父と母の声を、匂いを、思い出を。写真を見て顔を思い出せても、どんな事をしていたかを忘れて行く。だからせめて、両親の名字を繋いで……継いでいたかった」

 

 写真には若い男女が居る。どちらも質の良い和服を着込んでいて、スミコは首を傾げた。

 

「……まさかとは思うが、御──古木くんのお母様もまた、武人の家系なのかい?」

「ああ。それどころか、大上家とは好敵手の関係にあったそうだ」

 

 呆れたように頬をひくつかせるスミコから写真を返してもらい、古木は尚も続ける。

 

「家の関係なんて知った事ではないとばかりに惹かれ合い、恋愛の末に俺が産まれたらしい。当然、大上家に嫁いだ母を古木家は好く思わず、勘当されたと両親の死後に祖父から聞かされた」

 

「……嗚呼、それは、凄まじいな」

 

 感慨深そうに吐息を漏らし、ブーツの踵で地面を叩く。ほんの僅かに迷ってから、古木はスミコに更に続けた。

 

「──俺には姪が居るんだと」

「姪? ……古木家の方にも娘がいる、ということかい?」

「ああ。その事を知ったのは、祖父の葬式の時に、そんな話を耳にしたからだが」

「……無事だと思うかい」

「どうだろうな。無事だとしても、会うには少しばかり遠すぎる」

 

 諦めたようにため息をつき、顔を下に向ける。均された地面が見えて、平坦なそれが、まるで自分の心のようで、事実──()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……少し、疲れた」

「古木くん……?」

「朧気な両親の記憶の中で、確かに言われた。『優しい人になれ』と。そして祖父から剣を教わった。『守れる人になれ』と」

 

 片手で置かれた刀を握る。

 鞘を掴む手に力が込められ、スミコの耳に届く声が、懺悔のように聞こえる。古木の顔を見ると、それはそれは酷く歪んでいた。

 

「なるべく優しくなろうとしたし、出来るだけ守ろうと思った。

 誰かの為にと剣を振ってきたが、敵であっても人は人。斬るほどに、怨嗟が募って行く」

 

「────」

 

「楽しくなってくるんだ。斬れば斬るほど、やつらを斬るのが楽しくなっている」

 

「そうかい」

 

 そうかい。そう呟く。

 スミコは胸がざわついていた。高校の頃から惚れ込んでいた古木の剣が極まりつつあるのに、それがどうにも楽しくない。

 

 ──()()()()()()()

 

「辛くて、苦しくて、それでも皆を守らなければならなくて──少しだけ、疲れた。大丈夫、少し休めば、また剣を振れる」

「…………っ」

 

 疲れた顔で力なく呟く古木を見る。そして、縁側から庭に降りると、前に回り込んで決心したように古木の頬を両手で包み顔を覆った。

 

「なにを」

 

「なあ、古木くん。君は矛盾しているのだろう。人を斬る技術を磨いているのに人を斬りたくなくて、幼い頃の……幻にも近い親の言葉に呪われている。()()()()()しか見ていなかった小生の言葉に説得力はないのだろうが────」

 

 目尻を親指でなぞり、じんわりと、両手のひらが古木の顔を暖める。その時きっと、出会ってから初めて、古木はスミコの『顔』を見た。

 変な言葉遣いをして、飄々とした態度を取る女性。しかしその顔と声は優しかった。

 

「──君はもっと、好きに生きるべきだ。両親に望まれたからではない、祖父に頼まれたからでもない、君が決めた生き方をするべきだ」

「俺の、好きに」

「古木くん。私も彼女等も、誰も君に戦い続けることを望まないだろう。

 どうして自分だけで全てをやろうとするのかが不思議だったが、成る程、無意識に家族との約束を守ろうとしていたのだね」

 

 再度、呆れたようにため息をつく。そんなスミコを前に、古木は、くるみに対等だと思っていたと切に言われた事を思い出した。

 一人で抱えていた悩みがすっと晴れたような気がして、古木は呟くように言う。

 

「──優しくありたいのも、守りたいのも、斬りたいのも苦しいのも楽しいのも、全部ひっくるめて俺なんだな。ああ、簡単な話だった」

「それでいい……のだろう」

「もう、大丈夫だ」

「そうかい?」

「そうだ」

 

 くっ、と小さく笑って、古木はスミコと並ぶように立ち上がる。スミコが添えていた手を握り直して、僅かに表情を緩めた。

 

「ありがとう、スミコ」

「────」

 

 それから刀を腰に差して、古木は帰ろうかと提案する。しかし背中を向けた古木には見えなかったのだろう。酒を呑んだ時よりも鮮やかに、彼女が頬を朱に染めていたことに。

 

「──ぇぅ」

*1
前作参照

*2
銃はどこ……




次→9月27日00時00分


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癸の回 前

 長いようで短かった気がするRTAはーじまーるよー。前作がpart30超えてたので短いですね……これは短いRTAなんだ……(昼飯の流儀)

 

 前回は古木くんの名前が明かされたところで終わりましたね。今回で10日目、すなわち最終日となります。お昼になるとイベント発生の合図としてヘリコプターの音が聞こえてくるため、それまでに武器をしっかり装備しておきます。

 

 それと、残りの3ポイントで最後のスキルを習得しましょう。その名は【窮鼠猫噛(きゅうそねこをかむ)】です。

 このスキルは『体力が1割未満』の時に『体力を除く全ステータスを1.5倍』にし、『攻撃速度を2倍』にすることが出来ます。

 

 ただし、デメリットとして『披ダメージも2倍』になります。

 体力1割未満で披ダメージ2倍は実質オワタ式と言っても過言ではありません。

 

 通常、攻撃速度は体力の低下で徐々に下がって行くのですが、【窮鼠猫噛】があると逆に上がるんですよね。具体的には、ぶん……ぶん……からシェイシェイハ! シェイハ! シェシェイ! ハァーッシェイ! くらいになります。

 

 ロウソクは消える瞬間に最も明るく輝くということですね。

 

 体力調整は確定で1割未満に出来るタイミングがあるので、それまではマックスを保ちます。それでは刀の手入れをして耐久値を回復させ、ペグが20本あることを確認。

 

 ペグはどうせ弱体化確定してるしここで使いきってしまっても構いません。仮に大学編までプレイする場合はボウガンの矢が代替品として使えますが、手で投げるくらいなら普通に使う方が強いだろとは言ってはいけない(戒め)

 

 では最終日だろうと容赦なく倍速。お昼手前まで飛ばして、二度目の最後の晩餐がごとき食事をします。今日は冷凍ステーキだ……おかわりもあるぞ!(毒ガス訓練)

 

 ──はい、改めて倍速。昼の時刻を合図に若干のロードを挟んでからイベント発生。全員連れて屋上に向かい、太陽を背に現れたヘリコプターを拝みましょう。

 うるせえ! ちんちん亭スイッチONだ! 

 

 ──開戦(はじま)る……ッ! 

 

 こちらに向かってくるヘリコプターですが、何やら様子がおかしいですね。フラッ♡フラッ♡ロスッ♡振り飛車っ♡と不安定に飛んでおります。それもその筈、パイロットは感染しており、症状が進行しているんですね。

 

 薬も打たずに救助に来るなんて各方面に失礼だよね。本当はランダル過激派なんじゃないの? 正体見たり! って感じだな。

 なに? ランダル過激派か疑ってんの? お客さんが疑うことは許されないんだよ? 

 

 オ゛ッ、ヤッベ、ちょっと墜落(おち)る♡ヴロロロロロ♡(ヘリローター音)

 

 オラッまだ墜落するな! 頑張れ頑張れ変態パイロット! ──という応援もむなしく、ヘリコプターくんは墜落してしまいました。

 柿崎ぃぃぃぃぃ! メーデー! メーデー! なんてことだ……もう助からないゾ♡ブラックボックスを真水に浸けるんだよあくしろよ。

 

 

 ………………はい(賢者タイム)

 

 

 いえ、ちょっとピトー菅にレバノン料理が詰まっていただけです。それでは最終イベント開幕。くるみ姉貴を連れて、他全員を地下室に避難するように行動を設定しておきましょう。

 

 校舎裏の駐車場付近に墜落したヘリコプターの元に向かうとイベントフラグが進行し、その後に時間経過でヘリが爆発します。

 程々に距離を保ってから爆発で吹っ飛ばされると、爆破ダメージと吹っ飛ぶダメージでちょうど体力を1割未満に減らせます。だから、【窮鼠猫噛】を習得する必要があったんですね。

 

 近くに立つくるみ姉貴も巻き込まれますが、爆発の直前で蹴り飛ばすことで爆発のダメージより蹴られた際のダメージ判定が優先されて無敵モーション中に爆発をやり過ごせるから安心! 

 

 

 爆発後からのイベント終了の条件は『学園生活部部員の地下室への避難』&『一定数のやつらの討伐』なのですが、やつらは燃えており、そのまま校内に入っていってしまうため、更なる時間経過で辺りは火の海になります。

 

 しかも燃えていると攻撃の威力が上がって何故か体力が増えます。

 焦げたフェラルグールかなんか? と疑うレベルですので、【剣術Lv3】と【窮鼠猫噛】の恩恵をフルに活かしましょう。

 

 兎に角……これ以上のガバは認めん。biim兄貴ブランドに傷が付くからな(搾精病棟)

 

 このあとの予定は爆発ダメージで【窮鼠猫噛】を起動してくるみ姉貴と一緒にやつらを殲滅、そしてくるみ姉貴を地下室に行くよう指示してイベント終了の暗転を待つ。これでFA*1

 

 ……等と言っている間にヘリに到着。

 やつらが群がっているのを見ながら一定の距離を保ち、背後に車があることを確認。あと5秒で爆発します。3、2、1……ここ! 

 

 ヘリが爆発する直前にくるみ姉貴を蹴り、倒れたのを確認して爆発に巻き込まれます。

 背後に車があるのを確認した理由は、ここで必要以上に吹っ飛ばないように壁になってもらうためです。リアルで車に叩きつけられたら死ぬので爆発には気を付けよう! (ゆうさく)

 

【窮鼠猫噛】の起動確認、ヨシ! (RTA猫)

 

 

 

 

 

 ──屋上に向かった全員が見たのは、空を飛ぶ鉄の箱。すなわちヘリコプターであった。

 

「ヘリだな」

「ヘリですね」

「まさか本当に来るなんて……」

 

 くるみ、美紀、悠里が続けざまにそう言い、上空を旋回するヘリコプターを見上げる。しかし、本能的に()()()を感じ取ったのか、それを見たゆきや瑠璃が震えながらに言った。

 

「なんか……怖い」

「……んー、こわい」

「だ、大丈夫だよゆき先輩」

 

 屈んで瑠璃をあやすように抱き締める圭はゆきに言う。それらを一歩引いたところで立っていた古木が、それとなくスミコと慈に伝えた。

 

「確かに、恐ろしくはある」

「そう、ですか?」

「そうとも。あれが味方であるか……それ以前に軍人である可能性すら低い」

 

 古木の言葉に繋げて語るスミコは、キョトンとした慈を見てヘリコプターに指を向ける。

 

「アレがもし、今回の事件の原因であろうランダルコーポレーションが向かわせた存在だったとしたら、最悪のパターンになる。

 軍と同等の戦力が、或いは軍を味方にしていることになり、更には──まあ、小生なら想定外の事故の生き残りは消そうとするだろうね」

 

「──待て、様子が変だ」

 

 慈を脅かすように大袈裟な手振りでそんな事を言うスミコは、古木の声に意識を向けた。古木が見やるヘリコプターの動きが、まるで風に煽られたかのように左右に揺れている。

 

「……これ不味くね?」

「ああ、操縦士の動きがおかしい」

「……見えんの? 視力幾つだよ」

「最後に計ったときは両方5前後」

「マサイ族かなんか?」

 

 その会話を皮切りに、ヘリコプターは校舎裏の駐車場付近に墜落してしまう。派手に轟音を奏でて、それから静かになった。

 

「墜落、したのか」

「……見に行くぞ」

「待ちたまえ」

 

 踵を返した古木の腕をスミコが掴む。視界の端では煙が上り、最悪の想定をしているが故に、スミコは古木に行かれては困るのだ。

 

「敵の可能性の方が高い」

「ああ」

「見に行く必要なんて無い」

「そうだな」

「──それでも、行くんだな」

「……ああ。お前の推察通りなのかもしれないが、どちらにせよ誰が乗っていて、何処の所属なのかを確認しなければならない」

 

 スミコが手を離すのを確認してから、古木はくるみ、と短く発してそれぞれ刀とシャベルを握って準備を整える。

 

「何かあったら全員で地下室に行け。なるべく奥の方に隠れて、俺たちが戻るまで絶対に出てくるな」

 

 断言して話を切ると、くるみに目配せして二人で屋上から駆けて出て行く。

 二段飛ばしで階段を駆け降りる古木に追従するくるみは、どこか異様に落ち着いている古木を横目で見て、決心したように口を開いた。

 

「あのさあ、なんかあった?」

「なにも」

 

 会話が終わった。

 

 思春期の子との会話のような気まずさがあり、しかしその気まずさも、外に出てすぐに煙の臭いが漂うことで意識を切り替える。

 

「──古木さん」

「……急ぐぞ」

 

 表に出て裏に回ろうと走る。駐車場の車を幾つか横転させながらその鉄の体を滑らせたのか、地面を抉るようにして転がっているヘリコプターが煙を吹かして静かになっていた。

 

 中を覗こうにも、ヘリコプターに死者が群がっていて近付くに近付けない。

 

「どーすんだこれ」

「石でも投げて一人ずつ誘うか」

「もう、がーっと行ってなぎ倒そうぜ」

「……出来るが、万が一がある」

 

 あっ出来るんだ、と呟いて、横に立つ古木を見上げる。そんな折、古木はふと、死者の群れの足元で何かが弾けたのを見た。

 

 ──パチパチと、火花が飛んでいた。

 じわり、じわりと液体が広がって、その火花に向かっていた。腐臭に混じったそれがヘリコプターの燃料だと理解し、古木は「引火」の二文字を思い浮かべる。

 

 

『爆発の対処法? 伏せるか隠れろ』

 

 

 まるで天啓のように幼馴染の言葉が脳裏を過り、古木はほぼ脊髄反射でくるみを蹴り飛ばす。──直後、閃光、衝撃、爆発音。顔を庇った腕やむき出しの胴体に熱が伝わり、凄まじい衝撃が古木の体を後方に弾くように吹き飛ばす。

 

「が────」

 

 肺から空気を強制的に絞り出され、背中から強かに車へと衝突し、バツンとブレーカーを落としたかのように、古木は意識を失った。

 

 

 

 

 

『安っぽい映画だこと』

 

 そう言って、白衣のポケットから煙草を取り出した女性が一本取り出して火を点ける。

 

『そう言うな。出口に押し付けられ……善意で渡されたんだ、一度は見るのが礼儀だろう』

『嫌なら断れ。……まったく』

 

 薄暗い理学棟の室内でテレビを前に二人横並びに座って見ているのは、雑な爆発に雑な演出、露骨に予算が少ない所謂(いわゆる)B級映画だった。

 紫煙(しえん)(くゆ)らせる女性が、テレビの中の演出に、知識から来る正論を真っ当にぶつけて行く。

 

『あんな至近距離で爆発が起きたら、主人公達(こいつら)は吹っ飛ばされるに決まってるでしょ。

 そうでなくとも衝撃で骨と内臓がやられて、最悪鼓膜も破けるじゃない』

『そうは言うが、結局は映画だ。面白いと思う人が居るのだから、これでいいんじゃないか? 事実として出口は絶賛していた』

『貴方はどう思ってるのよ』

『……予算が少ないわりに爆発は派手だ』

『それ作品への感想じゃないでしょ』

 

 女性の横に座る男は答えずに音量を上げる。紫煙の向こうから覗き込む瞳を見ないようにしつつテレビを見る男は、女性に聞いた。

 

『……こんな風に、研究しているモノが外に溢れ出すなんて事はあり得るのか?』

 

『はっ……馬鹿言わない。ウイルスなんてものは、P3施設という段階的に隔離された部屋の中で慎重に研究するものよ。この映画の馬鹿共みたいに初歩的なミスでもしない限り、ウイルスが漏れ出すなんて万が一にもあり得ないわよ』

 

 国内で幾つこういう施設が稼働してると思ってるんだ……と吐き捨てるように呟いて、ぼんやりと2本目の煙草を点けて口に咥える。

 

『──そう。あり得ない筈なのよ』

 

 プツンと、テレビの電源が落ちる。

 薄暗い室内に、煙草の火だけが灯る。

 女性は男──古木を見ると、その顔に煙を吹き掛けて呆れたような顔で言った。

 

『それで、御形。

 貴方は()()()()()()()()()()()()? 御形も、貴方が大事にしてる奴らも、全員死ぬわよ』

 

『……ああ。そうだな』

 

『ほら、さっさと起きなさい』

 

 コツンと、曲げた指の関節で小突かれる。それから意識が浮上するような感覚があり、古木は微睡みから抜け出す。それはあまりにも都合のいい、今際の際の走馬灯(ゆめ)であった。

 

 

 

 

 

 ──片手で古木の襟首を掴み、片手でシャベルを振るい、爆発の現場から遠ざかるべく、くるみは迫り来る死者を薙ぎ払っていた。

 

「あ゛ー! どけチクショウ!」

 

 シャベルの刃ではなく面の部分で叩くようにぶっ飛ばし、完全に脱力して重い成人男性を片手で引きずるくるみは、玉の汗を浮かべては垂れ流して熱で蒸発させる。

 

「起きろ古木さん! 死ぬぞ!!」

 

 ()()()()()()()古木に掴み掛かろうとする1人を蹴り飛ばして、爆発に捲き込まれ炎上した車に叩き込む。死んでる割には良く燃える……と考えて荒い呼吸を整える。

 

「はっ、はっ、はっ、古木さん……?」

 

 ぴくりと、古木の体が反応した。

 手を離して座らせると、古木は小さく呻いてからゆっくりと立ち上がる。

 

「古木さん、大丈夫か? 早く地下室に避難しよう。あいつら燃えたまま学校に入っていきやがったから、直にそこらで火災になる」

 

 額を切ったのか、ぽたりぽたりと血を流し、古木は立ったまま動かない。

 

「……マジで大丈夫か?」

 

 ──古木の視界は真っ赤に染まっていた。体は痛み、熱くて、寒くて、息苦しい。

 

「────」

 

 痛みと熱さと冷たさと使命感と殺意と敵意が渦巻き、痙攣する左手で無理やり柄を握り、震える親指で鯉口を切る。下を見て血を見る。

 

「────」

 

 痛い。苦しい。どうすればいい。寒い。熱い。眠たい。気を失ってしまいたい。止まりたい。斬りたい。守りたい。斬らなければ──

 

「────」

 

 

 ──不意に、カチリと。噛み合わなかった歯車が、綺麗に嵌まったような。

 

 それから、くるみの横に飛び出した死者の頭にペグが突き刺さり、古木は背後から迫るもう1人に2本目を投げ、そして()()()()()()()()()()()()()3人目の首を撥ねた。

 

 ほんの一瞬で3人を片付けた古木はゆらりと枯れ草のように揺れ動き、足元に転がっていたビニール傘を左手に握り、右手の刀の切っ先で傘の留め具を外してばさりと広げる。

 

 炎に身を包みながら接近してきた死者の爪で引っ掻く動きを傘で受け止め、ぐるりと回して腕を巻き込みながら横に捨てて、崩れた体勢の首を撫でるように刃を滑らせた。

 

「……なんだよその動き」

 

 見るからに、古木の動きが、キレが変わった。風に煽られればそのまま倒れて死んでしまいそうなのに、それでも尚──刀を振るう古木の動きから淀みが消える。

 

 ──日常を歩むのであれば確実に遭うことのない絶対的窮地。気を緩めたらそのまま死んでしまいそうな程に濃厚な敗色。

 それらの全てが、この土壇場で、古木の才能を十全に開花させるに至った。

 

 とんっ、と一足でくるみに肉薄した古木は、血の気が薄い顔で言う。

 

「このまま地下室に逃げたらやつらが殺到する。逃げる前に数を減らそう」

「──それは、いいけど、古木さんは大丈夫じゃねえだろ……隠れてた方が」

 

 突如としてひゅんと手を振り、数本のペグをそれぞれ1本ずつ均等に死者の頭部に投げて突き刺してから古木は更に続けた。

 

「問題ない」

「……だろうな」

 

 頬をひくつかせて、有り体に言えばドン引きしながらも、くるみは古木の背後に立ってシャベルを構えた。古木も滑らかな動きで刀を構えて、炎を纏う死人を真正面に見据える。

 

 ──二人の長いようで、それでいて短い最後の戦いが幕を開けた。

*1
ファイナルアンサー




次→10月4日00時00分


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癸の回 後

 修羅剣士に炎の匂い染み付いてむせるRTAはーじまーるよー。10日目後編もう始まってる! 

 

 前回ラストで【窮鼠猫噛】が発動したので、そのまま現場のやつらを一掃しましょう。

 体力1割未満とかいう死ぬ寸前!(KBTIT)な見た目なのに、古木くんがボロボロのまま機敏に動いてるように見えるわけですが、これもうどっちがゾンビなのかわかんねぇな? 

 

 攻撃速度まで2倍というかなりピーキーな状態なのでタイミングを間違えてカウンターを食らったり……しないようにしようね。

 これがシャア専用ダークソウルですか。ゴミトリウスがよぉ! 

 

 ──そんなわけで戦闘開始。

 

 タワーディフェンスの最終waveのようにわらわらと集まるやつらを切り捨てます。

 しかし一定数倒したらはいクリアとはなりません。前回も言いましたが、やつらを一定数倒して且つ『学園生活部部員の地下室への避難』を完了しないといけません。

 

 今回、戦力の為に感染バフゴリラことくるみ姉貴を連れてきましたが、古木くんとくるみ姉貴に劣るとはいえまあまあ戦えるスミコを連れてくれば『地下室に部員を避難』の条件を先にクリアできるので、やつらを倒す方に専念すれば恐らく今頃このイベント終わってました。

 

 ──とどのつまり、区間タイム通りに進んでいるように見えて、現在進行形でタイムロスしてます。はぁ~、あ ほ く さ

 

 スミコというイレギュラーが居たのに手元のチャートを遵守した走者の鑑にしてアドリブが効かない頭でっかちがこの野郎醤油瓶……! 

 

 

 …………記録レ■プ! WR狙えた筈だったRTAはーじまーるよー! (やけくそ)

 

 まるで()()主義かのように赤いタイムを一瞥しつつ、画面のあちこちからアンブッシュしてくるやつら(燃焼)にペグを当てて行きます。

 まるでパリみたいだぁ。まあ、パリは可燃物みたいなもんやし……。

 

 んだらばペグを使い切る勢いで一体ずつに当て、残った体力を刀で削りきります。

 筋力70超えのバイオゴリラことくるみ姉貴はシャベル片手に大暴れしており、古木くんの背後でやつらを刃先でぶった切るか足を掴んで振り回してはぶん投げていました。はぇ~(恐怖)

 

 イベントクリア条件の一定数とは、厳密にはイベント発生後に30体前後のやつらを倒すことが条件になっております。

 ペグを当てたやつらをきっちり倒しているなら最低でも20体は倒せているため、あとはくるみ姉貴が何体倒しているか……なのですが、医者志望のインテリゴリラことくるみ姉貴にも避難してもらわないと困るのでここらで指示を出します。

 

 好感度が高いことが逆に原因となりこの場に留まろうとする場合がありますが、一回の指示で聞かないなら千回の指示をすれば良い。

『チェスト』とはすなわち『知恵捨て』と心得たり、ということです。今回の将来の夢がお嫁さんなウェディングゴリラことくるみ姉貴はえらく素直ですね。偉いゾ~♡

 

 だかだかだかーっと校内に戻った感染していなければわりと甘々な恋人ルートに入れる乙女(Maiden)ゴリラことくるみ姉貴を見送り、死にかけの修羅剣士くんは燃え盛ることで何故か体力が増えているやつらを叩っ切りましょう。

 

 燃えてて攻撃力が上がるのはわかるんですが、なんで体力まで増えるんですかね。これバグでしょ、うちのシマじゃノーカンだから。

 親方(うんえい)に連絡させてもらうね。

 

 やつらの攻撃が掠るだけでも致命傷なので当たらないように気を付けつつ、攻撃速度が2倍すなわち本来の1発分の時間で2発叩き込めるDPSを活かしてきっちりぶち転がします。

 

 殿を勤めますが、別に全滅させてしまっても構わんのだろう? 修羅剣士の剣術見たけりゃ見せてやるよ(迫真剣道部)。あっしのヒテンミツルギー!(殺戮スイッチON)

 

 一撃もらえば即終了、やつらの動きはランダム。アドレナリンどばどばでなんか興奮してきましたね。VR版なら心拍数の急上昇でゲームを強制中断されるタイプ。

 

 体感でフラグ進行に必要なのは残り5体と仮定、念のため6体は倒すつもりで立ち回り、適宜近寄るやつらの首にチェスト関ヶ原します。

 明確な隙を作るには振りかぶりに合わせてガードして【弾き】ましょう。そのための【弾き】……あとそのための剣士チャート? *1

 

 1体目、背後に回り込んでバックスタブ。2体目、引っ掻きを弾いてから胴体を両断。そして3体目の大振り且つ上段の引っ掻きに対して、ギリギリで攻撃範囲から出つつ刀のリーチを最大限に活かし渾身の最大溜めR2! 

 

 ──と、流れで4体目を切り捨てたところで画面が暗転。思ったよりもくるみ姉貴がやつらをぶっ飛ばしていたようです。くるみ姉貴が地下室に避難できたようで、最終イベントのフラグが進行して無事クリアとなりました。

 

 それではちぃとばかし早いですが、イベントスキップを連打した辺りで10日目はここまで。次回、ついに最終回。

 

 ……といってもイベント飛ばしてタイマー止めたら後付けで飛ばしたイベント垂れ流すだけなので、実質今回が最終回で次回はおまけパートみたいなもんです。ではまた来週。

 

 

 

 

 

 ──最早汗が出ないほどに憔悴し、暗い顔色を青白く染める。呼吸が浅く短くなり、古木の耳はただ耳鳴りを聞くだけとなった。

 手に取ったペグを落としそうになり、誤魔化すように、しかしそれでいて正確に死者の頭部に向けて素早く投擲する。

 

「っ」

「古木さん!?」

 

 不意にカクンと膝から力が抜けた。ドロリと鼻から血が垂れ、手の甲で拭い立ち上がる。

 ぼんやりと霞む視界からまぶたを細めた古木は、背後でシャベルを構えるくるみの背中をとんと押して乾いた唇を開けて声を出す。

 

「……くるみ、地下室に行け」

「──なに言ってんだ、古木さんも」

「火は校舎にも回っている。こんな怪我人を連れてやつらから逃げ切れると思うか」

 

 ごうごうと燃え盛る炎が校舎を焼き、辺りには火炎が充満している。

 その場で立っているのも奇跡に等しい古木に歩幅を合わせて歩かせていたら、くるみは確実に逃げ遅れてしまうだろう。

 

「なんで──駄目だろ、あんただけ置いて逃げろって……馬鹿言うなよ!?」

「くるみ」

 

 ──くるみの胸ぐらを掴んだ古木は、無理に力を入れてブルブルと震える手で引き寄せ、額をコツ、と合わせて眼前で言う。

 

「……必ず合流する。帰ってくる。約束だ、俺は死なない。だから……向こうで待ってろ」

 

 ──嘘だ。そう、断言できるだけの雰囲気があった。今の古木は、まるで死期を悟られたくない野良猫のようで──額を合わせたままのくるみは目尻に涙を浮かべる。

 

 唇を噛み締めて、古木を見上げる。

 それから、すり──と頬を寄せ、声色を震わせながら古木へと言葉を返した。

 

「ごめん、ごめんな……相棒だ、って、言ったのに……今から、見捨てるんだ……っ」

「──絶対に、振り返るな」

 

 肩を押され、古木と距離を取るくるみは、言われた通りに走り去る。暑さで頭がくらくらして、視界が潤む。僅かな生前の感覚が残っているのか、火に覆われて慌てるように右往左往する死者を横切り、走って行く。

 

「──くそっ、くそ……っ!!」

 

 ぼろぼろと、涙が溢れる。満身創痍の古木を置き去りにして逃げている事実に、言葉に出来ないくらいの無力感を覚える。

 ()()()()()()()()死者を尻目にくるみは走る。古木への迷いを、振り切るように。

 

 

 

 

 ──地下室のシャッターをこじ開ける音が聞こえ、手前で待機していたスミコと慈はそれぞれ傘とバールを構える。

 ──が、死者たちがこじ開けようとするなら持ち上げようとするより叩こうとするのでは、と考えて得物を下ろす。

 

 そして外からシャッターを上げて入ってきたのは、シャベル片手に空いた片手で縁を掴んでいるくるみだった。目を赤く腫らし、険しい表情には悔しさを滲ませている。

 

「くるみさん……良かった、無事だったんですね。──古木くんは……どこに?」

「──ごめん」

 

 ホッとした様子でくるみに近付く慈は、シャッターの奥を覗いたりするが、古木の姿を見付けられない。しかしただ一言謝るくるみに、何かを察した様子で顔を向けた。

 

「……そんな……」

「佐倉女史、くるみ君を下に。()が彼を探してこよう」

「……やめとけ。火の手があちこちに回ってる。出ていったら、戻ってこられない」

 

 諦めたようにそう吐き捨て、片手で上げたシャッターを下ろす。熱で指が焼けているようだったが、くるみは痛みを感じていないかのようにそれを無視している。

 

「……ヘリが爆発して、古木さんが吹っ飛ばされて、死にかけのまま戦ってた。

 あたしは……逃げてきたんだよ、古木さんに言われた通りに尻尾巻いてさ」

 

 熱に体力を奪われふらりとふらついたくるみの体をスミコが支え、慈が持ってきた水を受けとる。頭から被って、残りを一息で呷った。

 

「逃げた、か。きっと()でもそうしたさ。君が悪いのではない、それに……彼は強い。知っているだろう? きっと、どこかに隠れてやり過ごしているかもしれない」

 

 だから大丈夫。したり顔でそう断言するスミコは、それでいてくるみの肩に置いた手を震わせる。不安なのだ。まさか彼に限って、死ぬわけがない、だがもしかしたら、と。

 

 ──壁にもたれ掛かり座り込む二人は、肩を寄せる。くるみが肩に頭を置き、スミコは保存食の徳用ドライフルーツを開けてつまむ。

 火が消えるのを待つしかない現状、古木を探しに行こうとすれば、ミイラ取りがミイラになりかねない。大人しくしているしかなかった。

 

 まるで現実逃避するように、スミコは無心で甘味を貪り、時折くるみの口に放り込む。慈は地下室の奥に戻り、生徒たちを見ている。

 

 ──ふ、と。

 

「────!」

 

 シャッターを叩く音が聞こえ、二人は即座に立ち上がる。傘とシャベルを手に、ガシャ、ガシャ、と叩かれているシャッターを見た。

 

「やつら、か?」

「であるならば、それにしては──1人だけにしては叩く音が周期的過ぎないだろうか」

 

 まさか、と呟くスミコ。まさか、と思考するくるみ。音を聞いて再度戻ってきた慈に、スミコは吠えるように伝える。

 

「どうしました?」

「佐倉女史、包帯を持ってきてくれ! 大至急だ、急いでくれたまえ!」

「は、はいっ!?」

 

 びくっ、と体を跳ねさせた慈は大急ぎで薬品置き場に包帯を取りに行く。

 

「……古木さん、なのか……」

「かもしれない。

 ……が、シャッターが過熱されている。手に包帯を巻いてからシャッターを開けよう」

 

「──持ってきました!」

 

 よし、と言い、スミコは手早く手に包帯を巻く。くるみもまた、ぐっと手を握り、開いて、小さくため息をついてから同じように包帯を巻いてシャッターに近付く。

 

「──良いかい?」

「……せー、の!」

 

 縁に手を置いて、指に力を入れる。包帯越しでも伝わる激しい熱に顔をしかめるスミコは、しかし力を更に込める。くるみの助力もあって開けられたシャッターの奥には────

 

 

 

 

 

 

 ──ぜ、ひゅっ

 

 掠れた呼吸が廊下に響く。

 

 ──ぜ、ひゅう

 

 燃えた死人が廊下を歩く。

 

 ──ぜぇ、ひゅ

 

 死人が死にかけに襲い掛かる。

 

 ──ひゅん。

 

 ふらついて前のめりになる動きのまま、刀を翻して死人の首を撥ねる。

 

 ──ぜぇ、ひゅ

 

 廊下の端の地下室への入口、シャッターで閉じられたそこに古木は向かう。カラカラカラ、と、下がった刃先が廊下を擦る。

 脇の部屋から廊下に飛び出してきた死人を返す刀で撫で斬りにし、奥から現れたもう1人の胸と喉、顔を三度突いて目もくれずに歩く。

 

 ふらふらと歩き、カラカラと刃先を擦らせ、古木は廊下の奥にたどり着く。

 柄頭でシャッターを叩くと、ガシャンガシャンと滑稽な音が響く。

 

 

 ──ぜ、ひゅ、ぜぇ、ひゅー

 

 

 鼻の奥で血の臭いが充満し、古木の意識は重度の眠気から途切れ途切れになる。

 押し掛けた死者だと思われないように、なかば無意識に叩くテンポを同じにしている古木は、叩きながらもうつらうつらと船を漕ぐ。

 

 このまま開けられなかったら、煙に巻かれて消えてしまおうか。ガシャン、とシャッターを叩いたのを最後に、古木は手を止める。

 

 その直後、閉じられたシャッターがギシギシと音を立てて少しずつ開かれる。

 完全に開け放たれた先に、手に包帯を巻いたスミコとくるみ、二人の手を水で濡らして冷やす慈が立っていて──ふらりと倒れ込んだ古木を、咄嗟に慈が抱き留めた。

 

「ふ、るき、くん」

「……めぐみさん」

 

 ドク、ドク、と心音が古木の耳に届く。

 傍らに立ち、気まずそうに顔を逸らすくるみの頬に手を伸ばして、今にも途切れて消えてしまいそうな声で言う。

 

「やくそく……した、だろう」

「…………バカ野郎」

 

 だらりと落ちそうになった手を、くるみが掴んで頬に押し当てる。カサカサに乾いた手に、くるみの涙が染みて──役目を終えたかのように、カランと刀が床に落ちた。

 

「──おかえり」

 

 くるみのその言葉を最後に、古木はそっとまぶたを閉じる。慈に抱き締められたまま、膝を突いて、床に座り込むように眠る。古木の手を握るくるみの手のひらは、赤く焼けていた。

*1
タイトル読み返してこい




最終回→10月11日00時00分


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最終回

 イベントスキップを連打して連打して連打して……ここでタイマーストップ。

 記録は3時間48分56.2秒でした。

 

 換装した完走ですが、同行キャラをスミコにしてさえいれば、イベント終了までのタイムを8分は減らせたのでWR取れてましたね。

 それに記録を狙うなら学園生活部以外を助けるのは単なるロスなのですけど、ついついNPCに甘くなってしまうのが僕の悪い癖(杉上左京)

 

 もう既に違うゲームハードとレギュレーションで走るのが決定してるので再送はしませんが……皆もがっこうぐらし!RTA、走ろう! ウチもやったんやからさ(同調圧力先輩)

 

 それでは『がっこうぐらし!RTA/卒業生チャート』はここまでとします。そのうち次回作がしれっと投稿されてると思うので、登録して高評価を入れておくと得かもしれない。

 

 ほな、また……(粒子になって消える)

 

 

 

 

 

 

 ──ヘリコプターの爆発も校舎の火災も無かったかのような晴天の下、鎮火したヘリコプターの残骸を見ながら、ボロボロの男が比較的無事だった車の屋根に胡座を掻いて座っていた。

 

「おーい」

「……ん」

 

 車の下から聞こえた声に顔を向ける男──古木は、ボンネットを足場に屋根に登ってくる少女──くるみの手を引いて手助けする。

 

「さんきゅー」

「どうした」

「いや、様子を見に来たんだよ。昼飯まだだろ? おにぎり持ってきたぜ」

「ああ、助かる」

「……それで、なんか変化はあった?」

 

 ラップされた無洗米の握り飯を二個手渡し、包帯の巻かれた右手にはシャベルを握る。古木の横に座ると同じように残骸へ視線を向けた。

 

「中から人が出てくる様子は無い。それにこの辺りにはやつらの気配が感じられない、先日の火災と爆発で殆どが燃え尽きたのだろう」

「……ふーん」

 

 気だるそうにそう呟いてくるみは黙り込む。火災と共に、やる気もまた燃え尽きたのかもしれない。ラップを開けて握り飯を頬張る古木は、中に缶詰の肉が入っているのに気付く。

 

「慈さんたちは」

「あー、生徒会室とか放送室に置いてあった中から無事な荷物をかき集めたり、地下室から物資を取り出してる。あとはこの人数を詰め込めるデカい車でもありゃ完璧だな」

「……なら、これを食べたら手伝おう」

「いや手伝うなよ。……言い忘れてた、あたしとあんたは何もすんなって言われてるんだ、仮にも怪我人だからな」

「怪我……か」

「剣士にとっちゃあの程度は掠り傷だ、とか言うようなら今すぐトドメ刺すぞ」

 

 まさか、と返して、古木は握り飯の残りを口に投げ入れる。ほんとかよ……と言いながら、くるみは呆れた顔で古木を見た。

 

 頭に、首に、肩に腕にと包帯を巻き、どこか枯れた古木(こぼく)を思わせる。

 なんてことはない。やる気が燃え尽きているのは、くるみだけではなかったのだ。

 

 はぁ。とため息をついて、くるみは古木の肩に頭を乗せて言う。

 

「……無事でよかった。本当に」

「……そうだな」

「あとでめぐねえたちに顔見せておけよ、皆も安心するだろうし……な?」

「ああ」

「──ところでさぁ」

 

 そう言って切り出したくるみが、古木の肩から頭を離すと顔を見ながら続ける。

 

「古木さんってその……ぶっきらぼうっていうか、仏頂面なのが素なんだよな?」

「……まあ、そうだな」

「いやあ、ほら、初めて会って暫くはなんか妙に明るいっていうか──あたしの事なんて『ちゃん』付けで呼んでたしさ」

 

 古木は脳裏に当時の事を思い返して、確かに、と内心で独りごつ。

 

「俺は……見ての通りのつまらん男だ。幼馴染みからも『貴方は誤解を産みかねないくらいの仏頂面なんだから、初対面の相手にはせめて明るく接しておきなさい』と言われていた」

「うーん、正しいな。でもあたしは、今みたいな古木さんの方が好きだぞ?」

「そうか」

「…………他意は無いぞ」

「わかってる」

 

 事実としてくるみに古木への恋愛感情は無い。よくも悪くも、距離感は兄弟や親子のそれであり、相棒という言葉は嘘ではなかった。

 屋根からとんっと飛び降りたくるみは、体を伸ばして関節を鳴らすと古木を見る。

 

「大学に行ったらさあ、古木さんの幼馴染紹介してよ。是非会ってみたい」

「感染を克服したお前は真っ先に研究対象にされると思うがな。あいつは学者だ」

「うげ、マジ?」

「嘘はついてない」

 

 嫌そうに表情を歪めたが、くるみは頭を振って思考を切り替える。

 

「……そんじゃ、あとでな」

「ああ」

 

 シャベルを肩に担いでひらひらと後ろに手を振り歩き去ったくるみを見送り、古木は木の葉を揺らす風を浴びる。撫でるような優しい空気が、脱力した体に心地よい。

 

 胸の奥にあった筈の炎はすっかり消え失せ、ポッカリと穴が開いている感覚。

 

 燃え盛る戦場で修羅は死に、ここに残されたのは、家族の呪い(ことば)にすがる抜け殻だけである。

 

 車の屋根から降りた古木が、ガラス越しに自身の顔を見る。

 そこに映るのは、どことなく窶れたような、それでいて憑き物が晴れた顔をした──

 

「──酷い面だ」

 

 ──そんな、男が居た。

 

 

 ──左手に鞘を握って親指を鍔に添えながら、古木はヘリコプターに近付く。

 爆発でめくれた装甲を足場にひょいひょいと上り、操縦席の中の死体に片手で礼をしてから、傍らに置かれていたアタッシュケースを取り出して地面に降りる。

 

「……ん」

 

 それを持って校舎に戻ろうとした古木は、壁に寄りかかるようにして亡くなっている死体を見つける。その手には、鍵が握られていた。

 

「……大型車の鍵か」

 

 端に停められていて爆発の被害から免れていた車──古木は詳しくないが、車種で言うところのハイエースのものである。鍵がきちんと刺さり、更にはエンジンが掛かることを確認して、それから改めて校舎へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 ──生徒会室に戻ってきた古木は、かろうじて無事だった自分の荷物を引っ張り出す。

 

「あっ、古木さん」

「……ゆき」

 

 猫耳の帽子を被っている少女──丈槍ゆきが部屋に入ってくると、その両手で子犬──太郎丸を抱えていた。

 

「古木さんの荷物、無事だった?」

「ああ。なんとかな」

 

 中には着替えも入っているため、燃えていたら今着ている一張羅を着回さないといけなくなる。その懸念が解消されて、ホッと一息つきつつ太郎丸に手を向けて撫でた。

 

「他の皆は何処に居る」

「え? うーん……りーさんとるーちゃんは屋上に居るけど、どうして?」

「全員と会っておこうと思ってな。今まで、なんとなくだが──俺は皆と()()()()()()()()()()()ような気がするんだ」

「……そうかな? そうかも?」

 

 守らなければと躍起になっていたがばかりに、回りを見ているようで、その実古木は誰のことも見ていなかった。

 精魂尽き果て枯れたかのような気配を漂わせる古木を見て、ゆきは不意に古木の裾を掴む。

 

「どうした」

「……何処にも行かない?」

「──行かないよ。約束する」

 

 ()()を察する、という能力が高いのだろう。少し考えと行動が違えば、ゆきの察した通りに古木は出ていっていたのかもしれない。ゆきの頭に手を置いたあと、古木は部屋を出た。

 

 カツカツと屋上への階段を上がり、扉を開けた。古木の気配に気付いた悠里が振り返り、近くにいた瑠璃が駆け寄ってくる。

 フェンスに寄りかかって何かを話していたらしい美紀とくるみが同じように近づき、口角を緩めたくるみは口を開く。

 

「よっ、さっきぶり」

「ああ」

「古木さん……そのケースは?」

 

 聞いてきた美紀にアタッシュケースを渡して、刀を腰に差すと瑠璃を抱き上げて言う。

 

「墜落したアレの中にあった」

「じゃあ、あたしと美紀で確認しとくよ」

「頼む」

 

 美紀の背中を押してフェンスの方に走っていったくるみたちを見て、その後に古木は近寄ってきた悠里と顔を見合わせる。

 

「古木さん、少しお話し出来る?」

「悠里。別に構わないが……」

 

 憂いを帯びた顔で、悠里は古木──と古木の抱き上げている瑠璃を見てから続けた。

 

「まずは、るーちゃんのことで……ちゃんとお礼を言えてなかったなって」

「そうだったか」

「ええ。……ありがとう、妹を助けてくれて。貴方が居なかったら、助けられなかったか私だけで行こうとして共倒れしてたかも」

「……否定はしない」

 

 まさか悠里一人で瑠璃を助けに向かったとして、生きて帰ってこられるとは誰も思っていない。苦笑を浮かべる悠里は更に言う。

 

「るーちゃん、数年前に事故に遭いそうになったの。飛んでいった帽子を追いかけて車に轢かれそうになって──車はかろうじて脇を通りすぎていって、あの時は……凄く、ゾッとした」

 

「りーねー……」

 

 当時の事を思い出したのだろう。不安そうに声を震わせる瑠璃を、古木は悠里に抱かせる。

 ずしりと腕に掛かる重さは、それこそが瑠璃の命の重さなのだ。

 

「……私はね、こう考えてるの。

 るーちゃんが助かったのも、古木さんに助けられたのも、めぐねえやくるみ、ゆきちゃんが無事なのも、美紀さんや圭さんやスミコさんが居るのも、その全てが──あらゆる偶然が繋がって出来た結果なんだって」

 

「偶然、か」

 

「もしかしたら、るーちゃんは居なかった。古木さんは大学に行っていた。噛まれたくるみは助からなかった。何かが少しでもずれていたり遅かったり、タイミングが悪かったら……誰かが一人でも欠けていたら。そう考えなかった日は無い」

 

 古木は視界の端でL字状のなにかが宙を舞っているのを見届けながら話を聞き、瑠璃の頬に手を添えて指で目尻を撫でてやる。

 

「……もう、手放すな」

「──ええ、そうね」

 

 瑠璃に頬を寄せ、額を合わせて、しみじみと悠里はそう言った。

 

「ところで、慈さんやスミコ、圭は地下室に居るのか?」

「確かその筈ですよ。保存食と水を運び出してるんだと思います」

「そうか、わかった」

 

 瑠璃から悠里に手を置き直し、優しく撫でてから、古木は踵を返して校舎に戻っていった。

 

「おっ、話終わった?」

「くるみ。美紀さんも……そういえば、さっき何か投げてなかったかしら」

「くるみ先輩とケースを確認してたら拳銃が入っていたので、投げました」

「そう、投げ…………なんて?」

「あっそうだ、そんなことより」

「そんなことより…………?」

 

 パンパンと手を打って話題を無理やり切り替えるくるみが、古木が戻っていった校舎への扉を指差して悠里たちに提案する。

 

「あの人めぐねえ達の所に行ったんだろ? ()けてみようぜ」

「はあ、何故です?」

「古木さんダービーの出馬でさ、こう……トトカルチョをさ……」

 

 手を轆轤(ろくろ)を回すようにまごつかせるくるみはニヤニヤと愉快なものを見るような顔をする。美紀と悠里は呆れたような顔をして、瑠璃は不思議そうに顔を傾げた。

 

「まったく、人の恋愛事情を盗み見して楽しむなんて酷いと思うわよ?」

「でも気になるだろ? あたしは気になる。美紀も気になる。つまりりーさんも気になる」

「…………否定はしないけど」

「よしきた、行くぞっ!」

「テンション高いですね」

 

 瑠璃を抱っこしながら、そんな風に呟く。悠里もまた、他人の──特に大人の恋愛に興味がある多感な年頃なのであった。

 

 

 

 

 

 ──一階廊下奥、地下室に繋がる一角に赴くと、古木は段ボール箱を地下から廊下へと運んでいる女性を見つける。

 紫のロングワンピースを来た女性──慈である。ふと古木を視界の端で捉えると、ぱあっと表情を明るくして駆け寄ってきた。

 

「古木くん、体調はどうですか?」

「悪くありません。あれだけ無茶をして生きてるだけでも儲けものですし」

「……そうですよ、心配したんですから」

「……すみません」

 

 腕の包帯に手を置き、胸板に額を押し当てた。自分に非があることを理解している古木は、そっと慈の背中に手を置いて擦る。

 顔を服に押し付け、ぐり、と鼻を押し当てる。ぐっと一度強く抱き竦めてから、古木が慈の肩を押して僅かに距離を取った。

 

「……やはり、ここを出るべきですか」

「はい、火災であちこちが駄目になっているので、ここを拠点にするのはもう無理かと。幸い地下の物資が無事なので、あとは全員で乗り込める車さえあれば……」

「──慈さん、これを」

「……車の鍵……?」

 

 渡されたそれを観察する慈に古木が言う。

 

「駐車場の端に置かれていた大型車の鍵です。使えることは確認してあるので、それに荷物を載せましょう」

「そうですか…………いえ、古木くんは休んでいてくださいね? ナチュラルに手伝おうとしないでください」

「そうは言っても、体が痛むわけではありませんし……人手は多い方が──」

「休んでいてください」

 

 きっぱりと断言され、言い返そうとした口を流石に閉じる。困ったように眉を潜めて眉間にシワを作る古木に、慈はくつくつと笑みを浮かべて続けて言った。

 

「頼んでいても、頼んでいなくても、貴方は必ず無茶をする。男の子、ですね」

「褒めていないことは理解できます」

「ふふっ、そうですね。でも、だからこそ──私は……貴方の事が……」

 

 頬に手を添え、古木を見上げる。慈の心臓はバクバクと早鐘を打ち、意を決して口を開き────頬を染めながら、小さくため息をついて微笑を浮かべて続けた。

 

「──心配なんです。もっと、私を頼ってほしいです。皆がめぐねえめぐねえって言うから忘れてるかもしれませんけど、私一応この場では年長者なんですからね?」

 

「………………いえ、忘れたわけでは」

 

「なんですか今の間は」

 

 じとっとした目を向けると顔をそらす古木。むむむ……と唸るが、直ぐに表情を緩める。

 

「……まあ、いいです。下に圭さんとスミコさんが居ますし、挨拶をしていかれては?」

「そうします。ではまた後で」

「はい」

 

 慈は地下室に降りて行く古木に手を振り、傍らに積まれた段ボールの確認をする。そんな時、不意に廊下の奥から声をかけられた。

 

「めぐねえ」

「ピィ!?」

「ヤカンかな?」

 

 ビクッ! と肩を震わせて、声の正体に顔を向ける。視線の先に居たのはくるみたちで、三階で合流したのかゆきも混ざっていた。

 

「く、くるみさん! 脅かさないでください!」

「めぐねえはさぁ……なに、ヘタレなの?」

「はい!?」

 

 唐突にそんな事を言われ、慈は驚愕と困惑を同時に頭に浮かべた。それから少しの間を置いて、先の会話を聞かれていたのだと察する。

 

「めぐねえ……あんなにいいタイミングをどうして逃すんですか……」

「悠里さん!?」

 

 悠里は心底呆れたようにため息をつく。

 

「もう完全に告白する流れだったじゃないですか。なぜそこで日和るんです?」

「美紀さん、大人にだって出来ることと出来ないことがあってですね?」

「それは今先生が想いを伝えなかった理由にはならないのでは?」

「うっ」

 

 慈は崩れ落ちた。

 ついでに泣いた。

 口許を押さえてさめざめと泣く慈に、若干の罪悪感を覚えながらもくるみが話す。

 

「ぶっちゃけると、めぐねえはこのままじゃスミコさんに負けるし、古木さんの幼馴染相手じゃ戦力不足になると思うぞ」

「うっ」

「スミコさんなんて最初の頃は言動がアレでしたけど、最近は目付きが恋する乙女ですし」

「うっ」

 

 段ボールにしなだれかかるようにして脱力する慈を見て、悠里はただ一言「むごい……」と呟いていた。地下室から上がってきた圭が、そんな一幕を見て頭に疑問符を浮かべる。

 

「……な、なにやってるの?」

「けーくん、どしたの?」

「ああ、その……下に古木さんが来てて、スミコさんが二人で話したいって言うから上がってきたんだけど──」

「う゛っ」

 

 その言葉が遂に止めとなって、慈は段ボールに突っ伏してしまった。

 

「えっ、えっ……これ私が悪いの?」

「いや、自業自得が7割くらい」

「いっそのこと個室に二人にして閉じ込めるでもしないと話が進展しませんよねこれ」

「でも、やっぱりファッションにも気を遣った方が良いんじゃないかしら?」

「水着でドーン! と迫るとか?」

「どーん?」

 

 圭の困惑にくるみが返し、美紀の提案に悠里が返してゆきと瑠璃がドーンと言いながら手を上げる。やいのやいのと提案が続き、慈の調子が回復するのには、かなりの時間を要していた。

 

 

 

 

 

 ──手に包帯を巻いたスミコと古木が相対してから数分、双方の間には奇妙な緊張があった。シャッターを持ち上げた際、手に軽い火傷を負ったスミコは、ピリピリと痛む手を片手で揉む。

 

「その手、火傷か」

「ああ、そうだね。ただ事前に言っておくと、怪我をするなんて百も承知だったんだ。自分のせいだ等と言って自己嫌悪に陥られたら流石の小生でも君との喧嘩は避けられまい」

「…………すまない」

「ふ、ふ。君のややお堅い性格は理解しているとも。君の剣ばかりを見ていた小生からすれば……まあ、可愛いものだ」

 

 指先を口許に持って行き、くすくす、と上品に笑った。そうしてスミコは、疲れたように息を吐き、口角を緩めて古木を見る。

 

「剣ばかりを、見ていた。君の剣だけを。ずぅっと……君の事は、見ていなかった」

「────」

 

 自分の事を言っているようで、一瞬、古木は内心でどきりとした。

 蓋をされた段ボールを指でなぞり、それから、軽快な足取りで古木に近付く。

 

「でも今は違う。古木くんの事を知って、知れて良かったと、心から思っている」

「スミコ」

 

 しなだれかかり、ずいっと顔を寄せて古木を見上げる。そんなスミコの顔が、生き生きとした顔が輝いて見えて──やはり、自分は誰のことも碌に見ていなかったのだな、と考えた。

 

 ──バチ、と視線が交わり、照明を反射してキラキラとハイライトが輝く瞳を見て、

 

「……綺麗な瞳だ」

「────ぁぇ」

 

 そう、古木が言う。

 

 スミコの動きが完全に停止し、褒められた瞳だけが左右に動き、寄り掛かっていた体を離して古木に背中を見せるように振り返る。

 

「…………うん」

「スミコ?」

「……いや、ああ、なんだ──嗚呼……不意打ちは、やめたまえ。死ぬかと思った」

 

「何を言っているんだ……」

 

 小首を傾げる古木は、黒いロングスカートを左右に揺らして何かに悶えているスミコを見ながら呟いた。ふと深く呼吸をした際にズキリと胸が痛み、背中を向けていて見られていないことを確認する。まだまともに動けないだろう。

 

 刀を振れるようになるのは何時になるのか──そんなことを考えながら、ここで出会った皆の顔を脳裏に思い浮かべて頬を緩める。

 守りきれてよかった、と安堵し、それでも詰めが甘かった部分もあることを自覚する。

 

「……色々とあったな」

 

 もう、この校舎とはお別れになるのだと考えると──少しだけ、寂しいと思った。

 

 

 

 

 

 ──進学か、就職か。ケースの中から現れたパンフレットと地図を参照して、ゆきがそんな事を言ったのも先日の話。

 

 使えることを確認しておいた車に荷物が詰め込まれて行くのを傍目で見ながら、古木は怪我人仲間のくるみと横並びに立っていた。

 

「……これが幼馴染の写真だ」

「ほー、すっげぇ美人じゃん。こらめぐねえ勝てるかなぁ?」

「なんの勝負だ」

「気にしなくていいよ。んで、名前なんていうの?」

「青襲椎子。小学生の時からの付き合いだから、もう十年以上になるな」

 

 長らく電源を落としていた携帯と、家から持ち出した写真を見せて暇を潰す。幼い頃の自分や、存命だった頃の祖父と両親、幼馴染の写真を見るくるみは、感慨深そうに眺めている。

 

「あっ、古木さんってお母さんと目元が似てるんだな。顔つきはお父さん寄り? なんか雰囲気はじーさん由来って感じだけど」

「……そうか」

「嬉しいのか?」

「親に似ているのは、嫌ではない」

 

 写真を懐に仕舞い、携帯をポケットに入れる。出発の準備が終わったのだろう、慈が二人に手を振ってきたのを一瞥して、くるみがシャベルを担いで駆け寄って行く。

 

 その後ろを歩く古木が、なんとなしに、頬を撫でる風に両親の名残を覚えた。母と父の会話を思い出す。それはかつて、古木が、自分の名前について聞いたときの事である。

 

 

 

『──菖蒲さん、やはり子供の名前は俺が付けたかったのですが……』

『駄目ですよぉ柳さん、一戦立ち合いをして勝った方が名付けると約束したのをお忘れですか? 産後だからと舐めてかかった柳さんが悪いんですからねぇ?』

『うっ』

『それに(つるぎ)だなんて、名前の通りにつんけんした子に育ってしまったらどうするのですか? 嫌ですからね私』

 

 幼い子を膝に乗せ、和服を着込んだ女性が淡々と語る。傍らで居心地悪そうに、気まずい顔をする男が、がしがしと子の頭を撫でた。

 

『私も柳さんも草花を名前にしているのですから、この子にだってそう名付けてもよいでしょう? 良いのですよ、甘い人に育っても』

 

 子の頭を撫で、そっと抱き寄せて菖蒲は言う。

 

『ね、御形。人に優しくなりなさい。好きな子に優しくなりなさい。剣を握る必要なんてもう無いのだけど、それでも誰かを守りたいと言うのなら──その為だけに振りなさい。

 決して、傷付けたい、殺したい。そう考えて剣を振らないでください。そんな時代は終わりました。私たちの代で終わらせました。

 

 ですから──ねえ、御形』

 

 あやすように、菖蒲は言う。

 

『──椎子ちゃんとの結婚式には呼んでくださいね? 約束ですよ』

『菖浦さん今私情が……』

『柳さん、お静かに』

『えっこれ俺が悪いの』

 

 

 

 そういえば、と古木は想起する。両親が亡くなったのは、その後だったなと。殺意のままに剣を振り、ついぞ、約束は果たせなかった。

 しかしそれでも、やり直せる機会があるのなら、これからは間違えずに生きていこう。

 

「もう、私情で剣は振らない」

 

 それに、きっと──この学校で出会った彼女たちにだけは、優しく出来たのかもしれない。

 

「──古木さーん! 出発するぞー!」

「……ああ、今行く」

 

 腰に刀を吊るした卒業生は、少女たちの元に行く。世界は終わりを迎えつつあり、人類は衰退を迎えている。それでも、古木たちの心が折れることは決してないのだろう。

 

 ──全てが終わったら、墓参りに戻ろう。

 

 古木は慈の運転する車の助手席で、静かにそう考えてドアを閉めた。

 

 

 

 

 

『完』




次→11月8日00時00分


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【Any%】バンディット50人斬りRTA【WR】
漸ノ篇


・難易度/ノーマル
・キャラクリ/自由
・周回武器/使用可
・ゲームハード/フルダイブVR

前日譚↓
https://syosetu.org/novel/239068/


 はーいよーいスタート(棒読み)。素描(そびょう)より素猫(すねこ)がいいRTAはーじまーるよー。

 

 前作『まちカドまぞく/陽夏木ミカン攻略RTA』と『がっこうぐらし!RTA/卒業生チャート』を読んで高評価をぶちこんでくださったクソホモの皆さん、どうもこんちはーす(GO)

 

 今回は宣言通りフルダイブVR版がっこうぐらし! にて追加された敵対NPC『バンディット』を50人殺害するまでをAny%で走ります。

 

 えっ、学園生活部? 聖イシドロス大学? ランダルコーポレーション? 

 ……なんのこったよ(すっとぼけ)

 これは悪人ぶっころ──ぶっ天誅RTAなので……全員生存レギュはもう走ってるので……。

 

 というかこれ普通にプレイしててもPC版より全員生存目指すのムズいんすよ。下手なゲームより上等なAI積んでるせいで、そこらの恋愛ゲームより難しくなってるってそれ一番言われてるから。

 

 

 ──ともあれ、計測区間はキャラクリを終わらせ『はじめる』を押した瞬間からバンディット殺害数が50に到達した瞬間まで。

 RTAの内容の都合上、バンディットが現れ始める5日目からスタートさせていただきます。なーぜーか先駆者が居ないので、ルールは自由に決めさせてもらいます。どうせ追走者おらんし(煽り)

 

 ので、今回はPC版とデータを同期させて周回武器を使用します。卑怯とは言うまいな。

 んだらばキャラメイク開始。キャラの人物から背景の描写までわりと事細かに設定できるあたり最近のゲームは進んでますよねぇ。

 

 名前、出自、家族関係、友人関係、性格から思考回路まで細かく設定。アバターは何時も通りに黒髪長髪美少女の『男ってこういうの好きでしょデッキ』を使用させてもらいまして…………

 

 最後に周回武器の項目からアイテムを二つチョイスして……ヨシ!(RTA猫)

 

 

 名前は【古木(ふるき) 紫陽花(あじさい)】ちゃん。年齢は15歳の高1で、武人の家系の孫娘ですね。祖母は自分の姉がライバル視していた別の武家の人と結婚して出ていった事を気にしているらしいです。

 ははは、いやまさか、産後すぐに夫を薙刀でボコボコにして息子の命名権を奪取したパワフルママなんて居るわけ……ないない。ははは。

 

 ──お前(の家族関係)重いんだよ! 

 

 どっかで見たことあるような設定ですが、これは前に完走したRTAのデータが入ってるソフトと同期させてるから、どうせなのでセルフコラボさせちまおうという魂胆があるんですね。

 ネタバレしますと、古木くんこと【大上(おおかみ) 御形(ごぎょう)】くんは大学生なので、高校編を舞台とした今回は登場しません。

 仮にVR版を大学編まで進めた場合は、NPCとして登場する可能性はあります。

 

 前作主人公が先輩(ダブルミーニング)として登場するなんて……うわぁ、これはデビルメイクライですね間違いない。

 

 

 それでは早速始めましょう。

 周回武器はゲーム開始と同時にインベントリに収納されているので装備時に説明します。

 

 ……このRTA始める前に別ゲーで知り合いを裏切り爆破されるのを尻目にログアウトしてきたのでほとぼりが冷めるまで暇だからこっちを起動したとかそういうわけではないです。

 

 ……はーいよーいスタート(早口)

 

 

 

 

 

 ──ローディングが終わり、視界が晴れて現実世界とそう代わりない、しかして荒れ果てて血の臭いが充満する住宅街に紫陽花ちゃんこと私が現れました。早速とインベントリから、高難易度クリア報酬の周回武器を取り出しましょう。

 

 一つは【妖刀・血狂(ちぐるい)】という日本刀で、黒をベースにしつつ血のような濃い赤色が葉脈のように広がっている鞘に納められています。

 これは装備するだけで強力な筋力バフがプレイヤーに付与されるようになっており、その効果は鞘から抜かずとも反映されます。

 

 二つ目は【狐憑きの面】といい、そのまんま狐のお面です。こちらも装備すると、人間の限界を超えた持久力(このゲームにおいてはスタミナと素早さを兼ねている)を与えてくれます。

 

 妖刀くん共々フレーバーテキストの時点で性格に悪影響を及ぼすナニカがありますが、RTA中に困ることはないので続行します。

 バンディットを50人地獄に叩き落とせさえすればいいので、最終的に死のうが感染しようが紫陽花ちゃんのその後の人生がどうなろうが関係ないからね、しょうがないね。

 

 今回の私は(なるべく)非情に徹します。

 

 前回の二つのRTAでは主人公のキャラと原作ヒロインに絆されてのガバをやらかしましたので、今の私に精神的動揺によるミスはないと思っていただこう(ガバらないとは言ってない)

 

 

 ──では行動開始。最速でインベントリを操作して妖刀とお面を装備。完全に視界が塞がるタイプの装備品なのに何故か前が見えることに関して私はなにも言いません。

 

 腰に刀が納まり、僅かな重さで重心が傾きますが、それを補って余りある凄まじいパワーを感じます。なんというか強化外骨格を纏っているような絶妙な違和感ですけど。

 

 ちなみに今の紫陽花ちゃんの見た目は黒髪ロングヘアーで顔に狐の面を付けて腰に刀を吊るした黒いセーラー服少女です。高1でこちらに引っ越してきて転校する筈だったのに事件が始まってしまい……という設定ですね。

 

 

 ……話も程々に、さっさとバンディットをぶち殺しに行きましょう。やつらの他にも敵が増える辺り難易度が向上していますが、バンディットの存在は設定でオンオフ切り替え可能なので難しく感じたら設定を弄ってしまえば良いかと。

 

 狐憑きの面による持久力バフと妖刀の筋力バフを利用した超高機動をお見せします。

 体が引っ張られるような感覚と共に住宅街のブロック塀に跳び、屋根の上へと跳躍。

 

 御形くんがスキルを習得しないと出来ない動きが素でやれるという時点でヤバさが分かるかと思います。そこから更に次々屋根へと飛び回り、チャート通りにバンディットが根城としているコンビニに向かいましょう。

 

 50人殺害という途方もない数字故に、固まって行動している連中を狙わなければなりません。自らの手で始末しないとカウントされませんが、まあ抜け道はあります。

 

 ともあれダンッダンッダンッと瓦を踏み砕いて一息で跳躍。やがて見えてきたコンビニを目安に軌道を修正してからアスファルトに着地。

 鞘を左手で握──ろうとして、気配を感じ取り曲がり角のブロック塀に顔(お面)を向ける。そこには見づらいですが、原作ヒロインことくるみ姉貴の姿がありました。

 

 ──そう、VR版の学園生活部って、高校スタートで合流してない場合は自由に外に出て物資の回収を行おうとするんですよね。しかもメインキャラのAIは主人公である操作キャラが関わっていない時のランダム性が強く、試走の時はここ以外で出会ったことが数回あります。

 

 彼女らとは高校スタート以外のキャラで始めた際に外で出くわし、なんやかんやと話をして学校に向かうことになるのが大体の展開なのですが……50人斬りRTAはゲーム開始時点の5日目だけで終わるので会話するだけロスとなります。

 

 いえーいピースピース、と適当に意識を向けてから、改めてコンビニへといざ鎌倉。

 

 自動ドアのガラスは割れ、食品や飲み物は好き放題に盗み出されている。入口を見張っていたのだろう武装した男が紫陽花ちゃんを見て近付いて来ますが、その顔は不審者を見るそれでした。

 

 なんで?(殺意)……なんでやろなぁ(狐面黒髪黒セーラー服武装少女並感)

 

 まあこれから死に行く竿役に興味はありません。即座に抜刀し、小柄なのを利用した下半身への一閃を叩き込みます。

 妖刀・血狂はフレーバーテキストと設定の時点で『刃こぼれせず決して折れない』とされているため、多少無茶な振り方をしても問題ありません。御刀かなんか?(とじみこ並感)

 

 ……はい、膝を両断されて倒れたバンディットくんは、一拍置いて叫び声を挙げます。

 さあ叫べ、そして中に居る他の三人──通称KBSトリオを呼ぶのだ。呼んだら楽にしてあげるからもっと声を張りなさい傷口抉るぞ。

 

 ──ヨシ!(妖刀猫)

 

 やんややんやとコンビニの奥──スタッフルーム? から現れたKBSトリオことバンディットB.C.Dも叩っ斬りましょう。

 店内に入りながら片手間で妖刀を薙ぎバンディットAくんをゆっくり饅頭に加工しつつ、ボウガンを構えるバンディットDくんに警戒を向けながらBとCを見ます。──戦闘開始。

 

 金属バットとバールを振り回す二人を盾にボウガン持ちに撃たせないようにしながら、妖刀の峰と刃を使ってそれぞれを捌きます。

 お面によりアホみたいな量のスタミナを獲得している紫陽花ちゃんこと私は、基本的にスタミナ切れになることはありません。

 

 ですがやつらを除くNPCにも設定されているスタミナはいずれ切れます。

 ほら早速金属バットを振り回し疲れてバンディットBくんが動きを止めました。

 目の前で隙を晒したら命取りってそれ幕末江戸で言われてるから。スパーンと妖刀を振って、逆袈裟に刃を通して斬り裂きます。

 

 真横で仲間が斬られた事で動きを止めたバンディットCくんも返す刀で斜めに斬り、まだ息があるので喉を一突き。

 これで三人、順調ですね。あとはパパパッとバンディットDくんを切り捨てて、終わり! いいよ、こいよ! 胸に射掛けて胸に! 

 

 ──ズンズンと迫る私に撃ってきますが、結局あらぬ方向に矢が飛んで行き、バンディットDくんは刀の錆となりました。

 

 コンビニに入ってくるや否や仲間三人を一瞬で斬った狐面の女の子(無言で刀を振り回してくる)に襲われるとかいう悪夢以外のなにものでもない光景は、んまぁそう……同情はしますよ。

 

 

 開始数分で早くも殺害数が4/50となりましたね。幸先良いですが呆気なく死ぬバンディットくん達も情けないですねぇ。君らエロ同人じゃ竿役でしょうがなにくたばってんの(犯人)

 

 まあいいか……。コンビニを根城にしてるバンディットくんたちは大していい物は持っていないので、じゃけんさっさと次の住処(すみか)を襲撃しましょうね~。まるでゴブリン退治みたいだぁ。

 

 コンビニから出る前に血を払って納刀しようとしますが、血狂くんの刀身にはバンディットくんたちの穢れた血が付着していません。

 実は彼らがマグルじゃない可能性が微粒子レベルで存在していますが、単純に血狂くんが血液を吸い取っただけです。この刀もしかして……普通の日本刀じゃない……!? 

 

 ──はい。次行きましょう。コンビニを出てまた屋根に登り…………あれ、まぁだくるみ姉貴がこっちを見てますね。|0M0)(ダディナヤザァン)かな? 

 

 動かないということは私の行動を観察していたということでしょう。折角なのでちょっと脅かして紫陽花(わたし)の邪魔をしないように忠告しておきますか。ひょいひょいと住宅の屋根に跳び、遠回りをしてくるみ姉貴の真横に着地しましょう。

 

 ──おコンバンハァ!! 

 

 お前さっき私が殺戮してたときチラチラ見てただルルォオ!? 我が声に答えよ? 

 

 

 ……って、なんでここにりーさんが!?(くぅ疲)てっきりくるみ姉貴の単独行動だと思っていましたが、この見間違えようもない茶髪巨乳は紛れもなくりーさんですね。

 

 ……コンビニから出て来て屋根に跳んで消えた狐面の女が突然真横に着地してきては誰だってビビるでしょうが、シャベルを振りかぶるのはやめよ。片腕で防いでずいっと顔を近づけます。

 

 ──あ、ブチャラティごっこしようとしたけどお面のせいで『この味は嘘をついてる味だぜ!』が出来ませんね。ゴン、と狐面がくるみ姉貴の頬にぶつかるだけで終わりました。

 

 そんなわけでプレイヤーと原作キャラがかち合った事で会話イベントが発生。会話は選択肢が現れてその中からを選ぶのですが、主人公(プレイヤー)こと紫陽花(わたし)のキャラ設定、今までの言動・行動によって内容が変わります。

 

 基本的に選択肢は『肯定的意見』『否定的意見』『無視』に分かれ、そこから更にキャラとの好感度によって気を遣った嘘をついたり逆に質問したりと分岐して行きます。

 

 ですが、厄介な部分として、操作キャラは武器なんかの装備で性格が変わるんですよね。言うなればドラクエ3の装飾品みたいに。

 

 例えば軍人キャラが銃を持っている状態ならここでくるみ姉貴と会話をしても『守ってあげなければ……』と使命感に燃えるでしょう。しかし、単なる学生が銃を持っていたとしたら、気弱だったとしてもほぼ確実に調子に乗りますよね。そういうものなんですよ人間ってのは。

 

 であるならば、明らかになんかヤバそうな妖刀とお面を装備している紫陽花ちゃんはどんな性格になりどう思われるか……なのですが。

 

 ──まず妖刀の補正で正義感が歪になり、お面の補正で倫理観が破綻します。

 とどのつまり、今の紫陽花ちゃんは『悪人を殺す事に罪悪感を抱かないどころかそれを自分の正義であると確信している』んですね。

 

 そんな奴がまともに会話なんて出来るわけないので、今現在、目の前に浮かんだウィンドウには思いっきり周回武器の悪影響が表れた選択肢が提示されております。

 

『お前なんなんだよ……(ドン引き)』というくるみ姉貴の質問には『自己紹介をする』と答えておき、続いて『……人を殺したのか』という質問には──そうですね、肯定しておきましょう。

 

 否定してもどうせこの後確認されてしまいます。そうすると肯定したとき以上に大幅に好感度が下がり、次会ったときに敵対する可能性があるんですね(一敗)。

 くるみ姉貴と敵対したときに言われる『知恵があるだけあいつらより厄介だよ』は正論過ぎて反論できないのでNG

 

 ──自分より年下の女の子がこんなことをしてる事に関して胸を痛めたのかりーさんに『学校に来ないか』と誘われますが、悪人退治に忙しいので断っておきます。

 どうせバンディットをぶち殺して回る過程でヒロイン達の好感度は地に落ちるし、関わるだけタイムロスなので会話も程々にしましょう。

 

 人助けという形でバンディットを殺害すれば多少は好感度が上がりますが、このゲームのNPCのAIはかなり優秀なため、『プレイヤーがなんの躊躇もなくバンディットを殺害する行動』を『主人公は殺人に躊躇いの無い人物』と捉えるんですよね。助けてくれた事は嬉しくても、普通は誰であれドン引きします。

 

 という事で次の拠点の襲撃に行かなくてはならないため会話を切り上げましょう。

 一瞬お面をずらして素顔を見せ、アイウィル撤収! ジュワッ!(ウルトラマン)

 

 ブロック塀を足場に屋根に飛び、軽く手を振ってから先を急ぎます。ファンサービスを忘れないRTA走者(エンターテイナー)の鑑がこの野郎……(自画自賛)

 ちなみに顔を見せたのは単なるサービスです。お面の奥に美少女の顔があるんだから見れたらラッキーでしょ。嬉しいだルルォ~?(MUR)

 

 

 屋根を飛んで2分、そんなわけでバンディットが(たむろ)しているアパートにやって来たのだ。

 上下に三部屋×三部屋の計六部屋に一人ずつ住んでおり、この時間帯は上と下それぞれの一部屋に三人ずつが集まっております。

 

 そこでブロック塀をぶん殴って一つひっぺがし、上の真ん中の窓に思いっきり投擲して、割れた窓に突入してアンブッシュをキメます。当然ですがこいつらはここの住人ではなく、誰も使っていないからと勝手に部屋を私物化している連中なので、遠慮無く倒してしまいましょう。

 

 真っ先に正気に戻ったバンディットAが振りかぶった斧の柄の部分を腕で受け止め、筋力バフで強化された蹴りを膝に叩き込んで逆関節にしてやります。そしてもぎ取った斧を、運悪く投げたコンクリートブロックに直撃してもんどり打ってるバンディットBに全力で投擲。

 

 ──ゲッタートマホォォォォォク!! 

 

 ……うわぁ、まるでトマトに包丁を突き刺した時の状態みたいだぁ(オブラート)

 

 逆関節ACと化したバンディットくんは動けないので放っておき、寝ていたらしく今ようやく起きたバンディットCくんの顎を蹴り飛ばしてスタンさせます。どったんばったん大騒ぎしてると下の連中が上がってくるのでここからは迅速に。

 

 落ちているブロックでバンディットCくんを撲殺し、バンディットAくんは後ろに回り込んで首を押さえ込み──ゴキッと捻ります。これでバンディット殺害数は7/50

 下の連中も片付ければ、part1にして達成度20%の好調な滑り出しとなるでしょう。

 

 ……んだらば下の連中が来る前に手早く物色しましょう。二階真ん中の元の住人は……んにゃぴ、結構やべー奴だったようで、違法スレスレどころかガッツリアウトな物を仕舞い込んでいます。

 

 押し入れを開けて底の板をひっぺがすと、中からは大量のベアリングボールとどこから仕入れたのかわからん袋詰めされた火薬、何故か完成している時限発火装置が現れました。更にキッチンには圧力鍋、あっふーん……(察し)

 

 しかも押し入れの上を開けた先に繋がっている屋根裏にもボウガンと矢が置かれており、仮に生きていたら有用な戦力になることがわかります。まあ性格に難がありそうなので嫌ですけど。

 

 そいだばベアリングボールと火薬、発火装置、圧力鍋をインベントリに仕舞って玄関から外に出ます。ちょうど上がってきていたバンディットD.E.Fと鉢合わせました。──戦闘開始。

 

 二階の廊下という狭い空間では刀を振るのは不利なのではとお思いでしょうが、それはモーションが決まっている古いゲームの話で、フルダイブVRという特性上武器の振り方は自由なんです。

 

 つまり振り下ろされた金属バットを逆手に持った妖刀の柄頭で弾くことも出来るわけです。そのまま妖刀を足元に突き刺してバンディットDくんの膝を貫き、片手でインベントリ操作をして一個だけベアリングボールを取り出しましょう。

 

 足を切断しながら片手間でベアリ……なげーよ、以下パチンコ玉を指で弾いて後ろのバンディットEくんの顔面にぶち当てて怯ませます。

 バンディットDくんのバットを奪い取りながらざくりと心臓を刺し、バンディットFくんにバットを投げつけて防御させましょう。

 

 そして牙突っぽいモーションで飛び込み、胸に妖刀を突き刺して床に倒れさせます。

 先輩、"隙"ッス!先輩(悪人であり盗人とはいえ人を殺すという罪を)犯して良いっすか! 

 

 玉を当てられたバンディットEくんは怯みから回復して、凄惨な現場を見るや『俺たちが悪いことしたのかよ……』とかほざいてますが、逆に聞くけど一回でも良いことをしたんですかね。

 

 君らは物を盗み他人の部屋を勝手に使い、表現が規制されてるだけで盗み聞いた会話から察するに戦えない女子供に竿役(直球)してるじゃん。罰として芸術になれ、ライナーお前なら出来る。

 

 じゃあ取り敢えず今から初手ジャッジで9をキメるゲムヲの真似をするから、バンディットEくんはそれを食らってバーストした桃玉の真似をしてね。じゃあ行くよ~。じゃーんけーんぽんっ

 

 ──音にして『ドゴォ!!』或いは『ぐしゃあ!!』でしょうか。

 

 18禁とはいえ四肢欠損なんかは規制されているので原型を留めてはいますが、本来なら壁にトマトを叩き付けた的なサムシングになってるだろうバンディットEくんは、全力で蹴り飛ばされた結果二階廊下からぶっ飛んで行きブロック塀を粉砕して瓦礫の山に埋まっています。

 

 かろうじて見える下半身はピクリとも動かず、バンディット殺害数が10/50となっているので、んまぁそう……今のところはチャート通りですね。そんなわけで今partはここまで。

 

 次回、圧力鍋爆弾。お楽しみに。

 

 

 

 

 ──────────────────────

【妖刀・血狂(ちぐるい)】

 ・使い手の肉体の限界を取り払い、人知を越えた力を与える刀。その刀身は決して折れず曲がらず毀れず、鞘に広がる葉脈のようなひび割れはまるで血管にも見え、夜な夜な脈打っては刀が浴びた血を啜っているのだとか。更にはその刀を振るう度、使い手の心は歪んで行く。故にこそ、人はその刀を【妖刀】と呼び、返り血を浴びながら狂って行くからこそ、【血狂】と名付けた。

 ──────────────────────

 

 

 

 

 ──恵飛須沢胡桃がコンビニの近くに隠れるようにして観察していたのは、大人の男が屯しており近付くに近付けないからだった。

 

「……ったく、ここにもああいうの(バンディット)が居やがる」

 

 コンビニだけでなく、薬局やスーパーにもちらほらと存在が確認される連中。生きる屍とはまた違った厄介な存在である。

 

「どうする? 居なくなるのを待つ?」

「いや、あいつらあそこを拠点にしてるんだろうよ。迂回して違うルートを探ろう」

 

 背後から声を掛けられ、一度振り返りそちらを見る。同学年にして学校の数少ない生き残り──若狭悠里に言い返し、それから視線をコンビニに戻した瞬間、くるみは信じられないものを見た。

 

「……なんだありゃ」

「どうしたの、くるみ」

「いや、なんか、顔にお面付けた子供が屋根から跳んできてコンビニの前に着地した」

「今なんて?」

 

 あたしが聞きてえよ……と呟き、こっそりと住宅街の一角、ブロック塀から顔を覗かせて件の子供──少女を見やる。腰には刀を提げ、顔には狐を模した形のお面を付けている、おおよそ普通とは遠くかけ離れた風体であった。

 

 そして、ふと、少女は最初から知っていたかのようにくるみの方に顔を向けてきた。

 

「っ──!?」

 

 数秒くるみをじっと見たあと、少女は指を二本立てた手を向けてくる。それからコンビニの中に入ったあと、男の悲鳴が辺りに響いた。

 

 あらかじめ辺りの殲滅を済ませているために()()()が近付いてくることはないだろうが、それはそれとして、何人もの悲鳴が耳に届いてはさしものくるみや悠里も顔をしかめる。

 

「あいつ……まさかコンビニの連中と戦ってるのか……? しかもあの指は……」

 

 指を二本。ピースサイン。或いは──二人? 

 

「──バレてる、のか。それにしたって……あいつ、敵か味方か以前に()()()なのか?」

 

 そんな呟きを最後に、ピタリと店内の悲鳴や破壊音が消えた。割れたガラスを踏み砕きながら中から出てきた少女は、再度くるみたちを一瞥してから軽やかに屋根へと跳躍する。居なくなったか、と。くるみがそう思った次の瞬間。

 

「ばあ」

 

 真横から声が聞こえた。

 

「くる──」

「──っおお!?」

 

 反射的に握っていたシャベルを振りかぶったくるみを誰が責められるだろうか。

 しかし、思い切り振り抜かれたシャベルをぱしっと片手で受け止めた少女は、お面を付けた顔をくるみに近付ける。ぶに、とお面の口の辺りがくるみの頬に押し当てられ、微妙な空気が流れた。

 

「な、なんなんだよ、お前」

「なに、とは?」

「……貴女は誰なの?」

 

 お面の奥から聞こえてきたのは、ころりと鈴を転がしたような幼くも儚い(やわら)な声。

 シャベルを押さえている手が右手であり、鞘が腰の左側にある以上、即座に抜刀することは出来ないが大の大人を相手に無傷な時点で警戒は最大レベルに上昇する。手を出せないでいた悠里がおずおずと問いかけ、一拍置いて声を出した。

 

「……古木、紫陽花」

「紫陽花、か。一応言っておくと、あたしはくるみ。こっちが悠里だ」

「よろしくね、ええと、紫陽花……ちゃん?」

「んー、んー。うん」

 

 するりとシャベルから手を離しながらくるみと距離を置く少女──紫陽花。

 指で腰の鞘に収まった刀の柄をなぞりながら控えめに肯定するが、二人の視線は葉脈のように広がっている鞘のひび割れに向かっていた。

 

 ぎしりとシャベルの柄を握りながら、くるみは悠里とアイコンタクトを交わして、それから紫陽花に単刀直入に質問するべく口を開く。

 

「紫陽花、お前、コンビニに居た連中を……っ、殺したのか……?」

「…………? うん。そんなの当たり前」

「────」

「物を盗み、他者を傷付ける奴なんだから、死ぬのは因果応報。誰もやらない──やれないなら、私が代わりにやればいい。違う?」

「────」

 

 なにをそんな当然の事を? 

 

 まるでそう言いたいかのように首を傾げる紫陽花を前に、くるみと悠里は絶句した。

 声から察するに暗い感情は無く、それこそ、善意で行っているきらいすらある。紫陽花は、静かに、淡々と──いびつに狂っている。

 

「…………ねえ、紫陽花ちゃん」

 

 しかして、そんな少女を放っておけないのは、()()()()()()()()()(さが)故か。

 

「もし良かったら、私たちと一緒に来ない?」

「え、やだ」

「──!?」

「即答されてんじゃん」

 

 柔らかく微笑んだ顔のまま、即答で否定されたショックから固まる悠里。それを見て若干呆れたような顔を見せつつ、曲げた指でコツコツと刀の柄を叩いている紫陽花に向き直る。

 

「個人的に学校に招くのは反対だけどさ、参考までに何が嫌なのか聞いても良いか?」

「やることがある。急いでる私には、仲良しごっこをしている暇は無い」

「仲良しごっこねぇ」

 

 そう見えんのか、と独りごち、くるみは紫陽花の次の言葉を待つ。

 

「私は悪人を斬らないといけない。悪人を殺さないといけない。それが、私の正義」

 

 でも──そう続けて、お面の奥のくぐもった声はほんの僅かに震える。

 

「私の行いは、善ではない」

 

 断言し、紫陽花はおもむろにお面の位置をずらす。その奥から覗く瞳は、一切の光を反射しない程に濁り、ギョロリと動かして二人を見る。

 お面の位置を戻した紫陽花は、それからタンッとブロック塀から電柱、民家の屋根へと軽やかに動いて跳躍し、ひらりと手を振った。

 

「全部終わって、それでも私が生きていたらその時は────また、お話ししよ」

 

 屋根から屋根に、瓦を踏み砕いて力強く跳んで行く。そんな紫陽花の最後の言葉は、不思議と、消え入りそうな程にか細かった。

 

「……ねえ、くるみ」

「『やっぱり意地でも連れていこう』だろ」

「──!」

「分かってるよ。ほっとけないよな、あんなに危なっかしいとさ。あいつ年下だろうし」

 

 シャベルを担ぎ直して、悠里をちらりと見る。そして、面倒なことになりそうだという確信にも似た直感から、深くため息をついた。

 

「めぐねえとゆきにも相談しないとなあ。紫陽花がすっ飛んでった先、方角的にあたしらの目的地でもあるショッピングモールだろ?」

「……案外、すぐに再会できそうね」

 

 悠里はげんなりした顔のくるみを見て、紫陽花が駆けていった屋根を見上げて小さく笑う。年下だからか、どことなく猫のような雰囲気をしているからか、紫陽花を放っておけないのだ。

 

 それはまるで、狂気染みた執着。静かに狂っているのは、なにも──紫陽花だけではない。




次→11月15日00時00分


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誅ノ篇

 狐面剣士少女が個人的正義感から悪人をぶった切るRTAはーじまーるよー。

 

 ……このゲーム原作なんでしたっけ? 

 美少女たちがゾンビアポカリプスの世界を生きるゲームだった気がするんですが、一人だけパニッシャー時空から参戦してるんですけど。

 

 ままええわ。そんなわけで今回でpart2

 前回までの記録は10/50となり、今partでは12人の殺害を目標としています。

 

 くるみ姉貴たちと別れてから数分、近所のデカめのスーパーを目指して屋根の上を跳んでいると、バンディットの実装で相対的に数が減っている『やつら』──初見のホモは居ないだろうけど、あえて説明すると生ける屍のことですね。

 

 屋根から見下ろす先で、やつらとバンディットが戦っていました。二人のバンディットがボウガンを使って、交互に3体のやつらに向けて矢を撃っています。肩や胸、腹に刺さっては一瞬怯みますが、やつらは死にません。

 

 ──そう、VR版はPC版と違ってやつらの生態が原作順守になってるんですよ。要するに、こちらでは頭を破壊したり首を切ったりしないと死にません。まるでゾンビみたいだぁ(すっとぼけ)

 

 住宅街の道路を利用して後退しながら交代で撃っているようですが、動きながら遠距離武器を当てるのは難しいんですよねぇ。

 

【スキル】という形で能力を向上させれば走りながら頭に投擲武器を命中させたり、あらゆる攻撃を弾けるようになったり、落下ダメージを軽減できるPC版の主人公がおかしいってそれ一番言われてるから。おみゃーの事だよ御形くん。

 

 御形くんが大学を出てこっちに来ている乱数の場合、道徳倫理が菩薩のそれなので姪である紫陽花ちゃんの凶行を止めようとしてきます。

 実力差が剣聖と初見の(チワワ)くらいかけ離れているため、中身(プレイヤー)が私だとしてもまず勝てません。攻撃も全部弾かれます。リセ!(半ギレ)

 

 一度ガチでぶち殺すつもりで上空落下忍殺キメようとして迎撃された時は『なんて恐ろしいモンスターを産み出してしまったんだ……』と今際の際に自分の行いを悔いるマッドサイエンティストみたいな顔をしてしまったものです。

 

 誰だよこんなクソ強キャラ作ったやつ……。*1

 

 

 まあそんなことはどうでも良いんだ、重要なことじゃない(ミストさん)。大事なのは眼前で鴨がネギを背負って歩いてるどころか懐に白滝も入れているということです。

 ここで2人片付ければ、スーパーに屯してるバンディットたちの数が乱数により最低人数の10人だとしても目標に届くのです。

 

 ──さて、前回お話ししましたが、バンディット殺害数カウントの定義はプレイヤーである紫陽花ちゃんこと私が倒すことです。

 ……が、ここに抜け道があります。御形くんがモールでやつらを落下死させても経験値を得られたシーンを思い出してください。*2

 

 そう、『先にダメージを与えておけばやつらに食い殺されてもバンディット殺害数は増える』んですよね。修正されてないのでバグではありません。では実()しましょう(HHEMギャグ)

 

 やつらK.B.SとバンディットA.Bの間に着地し、丁度やつらのうち1体の頭に刺さる所だった矢の棒部分を掴みます。ボウガンの矢は金属製ですが、妖刀の筋力バフならこの通り。

 

 ──ふんはァ!! 

 

 このようにして曲げるのじゃ。そして全速力でバンディットの間を駆け抜け、すれ違い様に一閃──二人の片足を一息で両断します。

 そして叫び声をバックに屋根へと跳躍。逃げながら殺害数の変動を待ちましょう。

 

 ……ヨシ!(狐面猫)

 

 殺害数が10/50から12/50に増えていますね。しかし……やってることは完全に邪悪のそれですが。逃げられないように足を切り落としてから食い殺させるなんて、これが……正義なのぉ? なんか(精神が)冒されてるよぉ! 

 

 まあお面に精神汚染されてるのはクソホモたちも察していることでしょう。

 でもこれが無いと紫陽花ちゃんは単なる陰キャボッチとなってロックで食っていかないといけなくなるので……(ぼざろRTA)。許せサスケ、このRTAに優しさは無いんだ。

 

 というわけでスーパーに到着。冷凍食品から保存食に水まで選り取り見取りの籠城にうってつけな場所ですが、まあまず生鮮食品の消化が追い付かなくなるので数日で食べ物が腐り始めて臭いで士気がだだ下がりになります。

 バンディットたちは無駄に数だけは多いので連中が拠点に使うのには丁度いいのでしょう。

 

 スタッフの休憩室がある裏手に回り、前回入手したお手軽テロセットことベアリングボール、火薬、発火装置、圧力鍋を取り出します。

 ざらざらざらーっと材料を入れて、発火装置が十秒後に点火するようタイマーを設置。圧力鍋に蓋をしてから、筋力バフに物を言わせて窓から休憩室に投げ込みましょう。

 

 この時間帯はバンディットたちがタバコ休憩をしに休憩室に集まっているので、確実に四人葬り去れます。十秒経過し、発火装置が作動。

 

 圧力鍋の内側で爆発した火薬によるエネルギーが鍋を破裂させながら辺りにベアリングボールを弾けさせ、破片と共にバンディットたちを八つ裂きにしていきます。悲鳴を上げる暇もなく、休憩室は吹き飛びカウントも16/50に。

 

 ──手榴弾は爆発ではなく破片で殺す、というのは皆さんご存じでしょう。

 休憩室という閉鎖空間には逃げ場なんてありません。伏せて避けろ!(メイドインワリオ)ともいかないんですよね。

 

 そして休憩室で爆発が起きたことでスーパー内のバンディットたちはそちらに向かおうとします。即座に入口側に回れば……挟み撃ち、という形になるな(承り太郎)

 

 んだらばいらっしゃいませー!(ソルジャー1st)と扉を粉砕していざ鎌倉。*3

 音と気配からして人数は六人、合計十人とスーパーに現れるバンディットの最低人数な辺り乱数はおクソ(上品)だけど、道中に二人居たので運でギリギリ帳消しですね。

 

 ──では戦闘開始。爆発音に釣られクマーしてるバンディットを順に後ろから片づけます。血狂を鞘から抜いて低姿勢から一気に肉薄。

 

 冷蔵の棚を足場に三角飛びして振り返ったバンディットAの首をスパンと斬り飛ばし、音に気付いて近付いてきたバンディットB目掛けて空中で身をよじり捻り、落下中のゆっくりバンディットをシュートしてぶち当て怯ませます。

 

 床に着地する前に反対の棚を蹴り更に加速し、頭と足を上下反転した状態で血狂を振るってバンディットBもゆっくり饅頭に加工しました。

 

 容赦の無い首斬り……うわぁこれがナウなヤングにバカウケな鬼滅の刃ですか。紫陽花ちゃんだって霹靂一閃くらい出来ますけど……(森久保)

 ──おっ、タオル持ってんじゃんじょん。止血から目隠しにと使えるので回収します。

 

 

 さて残り四人……ですが、ここから逃げようと考えたのか想定より早く休憩室から店内に戻ってきましたね。首なしバンディットくん×2を見て私を敵だと判断するのは良いです──が。

 

 四人中二人が逃げようとしてる辺り仲間意識は無さそうですね。所詮は竿役の集いよ……じゃあ逃げた方を真っ先に狙います(無慈悲)

 死んだバンディットくんが持ってた鉄パイプをぶん投げて背中を向けて逃げた二人のうち出入口に近い方に当て、肘打ちで棚のガラスを割って破片を掴みスリケンのように投擲。

 

 ガラスは反射的に振り返った手前のバンディットくんの首を掠め、遅れてスパッと頸動脈から血が噴き出します。首を押さえて膝を突くバンディットCの手からナイフを奪い取り、倒れてから起き上がろうとしたバンディットDの後頭部を蹴り飛ばして顔面を床に叩き付けましょう。

 

 血の池を作り死亡したバンディットCの死体を傍らに蹴り飛ばしながらバンディットDの頭を掴んで引きずり、紫陽花ちゃんと戦おうとしたバンディット二人の元に戻りまして……さあ、バンディット解体ショーの始まりや。

 

 

 ──これは打ち切りっぽい終わり方をしたアニマエールの分! これは浪人生だったことを打ち明けた花名ちゃんの分! そしてこれが、完結したのに二期をやらないアニメの分だ──っ!! 

 

 

 何度か柄で顔面を殴り、刃で首を刈り、顎に突き刺し髪とナイフの柄を全力で握ってメキメキメキメキ! と首を90度傾けます。

 逃げたらこうなるぞ、と無言で伝えて、死体をぶん投げて空の野菜の陳列棚に捨てておき──じゃあオラオラ来いよオラァ!(半ギレ)

 

 バンディットくんは乱数やAIの行動次第では警察あるいは軍隊の銃器を所持していますが、地理的にもこの辺には交番すらないのでこいつらは銃を所持しておりません。

 

 ので、こいつらを相手にするとき恐れるべきは時折生身の人間かと疑うレベルで狡猾な戦法を取る場合ですね。現にこうして、バンディット二人は片方に飛び掛からせながらもう片方が突然懐中電灯でフラーッシュ! してきました。

 

 

 ──ブモーッ!(レイスくん)

 

 

 ……このハゲドワーっ!! 

 エンティティ警察だ! ハゲドワ屈伸煽りライトマンは憲法第810条で禁止されている。性技の刃(立ちメメ)を覚悟しろ、〆鯖ァ!! 

 

 ──突然の目潰しで視界が真っ白になりましたが、耳が無事なら問題ありません。

 息遣い、武器を振る音、そして足音があれば──ガギィ! と構えた血狂の刀身にぶつかるバールの衝撃。このように、防ぐことは容易です。

 

 バンディットくんも流石にたじろいでいますね。何故防げたか……ですって? 平成ライダー自体に意味が無いからな。*4

 

 切っ先で巻き込むようにバールを弾き飛ばして、返す刀で腹をかっ捌きます。……やっぱり必要以上のグロ描写は規制されてるのか、腸がでろんと溢れてくることはないですね。残念。

 

 ──んで、私に懐中電灯を当ててきやがった奴は……スーパーから出ようとしてますね。

 おっ待てゐ(江戸っ子)。お面の持久力バフを生かして即座に回り込みますが………………なぁんでくるみ姉貴達が居るんですかね。ちょっと再会が早いんじゃないこんな所で~!(半ギレ)

 

 りーさん、めぐねえ、ゆきちゃんと他のメンツも勢揃いですか。ここはパーティー会場ではないんですがねぇ……ほら最後のバンディットくんも面食らって…………いや、あの顔は人質にでもしようかと考えてる顔ですね。

 

 そもそもなんで彼女達が──と思ったけど、前回りーさんも居た時点で疑うべきでした。

 この子ら、もしかしなくても今日モールに行くつもりだったのでしょう。

 その予定に私が割り込んできて、更には道中のスーパーの一角が爆発と。

 

 そりゃ気になって見に来るよね、怪我人がいるかもしれないとか考えるよねぇ~~~。

 なんだお前ら!? 男のチャート壊して喜んでんじゃねぇよお前! ドロヘドロ!(名作)

 

 

 ──思考は一瞬、行動は刹那。紫陽花(わたし)の凶悪さをこれでもかと目の当たりにしている以上、ラストバンディットくんの取るべき行動はいかにして私から逃れるべきか……すなわち誰を人質に取って逃げるか、ですが。

 

 まあ狙うよね、ゆきちゃんを(倒置法)

 

 ひとまず良質タックルで引き離して、物陰でトドメを刺せばよい。そう考えて真っ直ぐ突っ込みますが──このバンディットくん、最初から私へのカウンターを狙っていたようですね。

 

 そんなんじゃ甘いよ、遅い遅い遅い。狙いが見え見えなんですよね。

 ギリギリまで引き付けてから、カウンターで振り抜かれたバールを避け──蹴り飛ばすと同時に顎を掠めてお面が外れますが、筋力バフは妖刀由来なので問題ありません。

 

 ゆきちゃんを庇うような立ち位置に居たしくるみ姉貴達とは楽しく会話したので、まあ後ろからシャベルでどつかれたりはしないでしょう。

 ……ああそうだ、ちょっとここからは子供への刺激が強いので、先程のタオルをインベントリから取り出して後ろ手にゆきちゃんの顔に投げつけておきます。冷蔵の棚に背中から突っ込んだバンディットくんの足を掴んで、皆の視線から逃れるように裏へと回り──はいじゃあ首の可動域の限界を超える運動行くよーっと。

 

 ──ヨシ!(草加猫)

 

 これにてバンディット殺害数も22/50となり、残りは28人。原作ヒロインが介入してくるというイレギュラーはありますが、バンディット関連はチャート通りに進んでいますね(キレ気味)

 

 さて落としたお面を拾い……あれ、無い。ちょっと! 不味いですよ! メガネメガネ……と足元に視線を向けていると、不意に会話イベントが発生。お相手は──ゆきちゃんですか。

 

 その手には私の顔から弾き飛ばされたお面が。どうやら拾ってくれていたようですが……あのですね、紫陽花ちゃん、実はお面がないと碌に会話できないんですね。

『ふえぇ恥ずかしくて話せないよぉ』とかそういうレベルではなく、ガチのコミュ障なので目線は合わないし言葉も詰まります。そこに妖刀の補正で性格やらなにやらが歪むと──はい。

 

 選択肢が『返せ』か『黙る』だけになりました。まあ紫陽花ちゃんがコミュ障なのは彼女の祖母が自分の姉にコンプ拗らせてるのもあって武人に育てようとしたのが原因なんですけども。

 

 ライバル視してた武家に嫁いだ姉。薙刀術を途切れさせないように孫に強要した祖母。嫌で家出した先で出会った姉の旦那の祖父。薙刀術より楽しい剣術。刀の才に目覚めた紫陽花──これがっこうぐらし! でしたよね、朝ドラではなく。

 

 

 ──取り敢えず『返せ』で良いですね。今回は原作ヒロインに好かれる必要はありません。バンディット殺害は最悪相討ち覚悟で殺るため、下手に好かれるとやめさせようとしてきますし。

 

 じゃけんお面返してもらいましょうね~。返せ! 俺の顔を返せ!(ロールシャッハ)

 

 紫陽花ちゃんが顔を片手で覆いながら片手に刀を握って呼吸を荒くしてるのは先程まで殺して回ってて興奮したからとかじゃなく、単純にコミュ障が頑張って会話しようとしてるだけです。

 

 お面がないと紫陽花ちゃんはTDN美少女になってしまうので、特に疑う様子もなくあっさり返してくれたゆきちゃんから受けとりましょう。

 この丈槍由紀って人、もしかして天使なのでは……?(すっとぼけ)

 

 受け取ったお面を顔に被せて後ろに回した手で紐を結びます。メニュー画面操作でポンと装備できるPC版と違って、VR(こっち)ではインベントリから手元に出したのを実際に取り付けないと装備したことにはなりません。

 

 ──完全復活・グレートハイドレンジアと化した紫陽花ちゃんBB。といった感じでお面も装備したので、ここから立ち去るのをオススメしてからスーパーを出……なんだこの淫ピ!? 

 

 出入口にめぐねえが仁王立ちして立ち塞がってきました。なんか妙に距離感が近い気がする……あっ、そっかあ……。

 紫陽花ちゃんは背景設定で『こちらに引っ越してきたばかりで転校してくる予定だった』ので、多分パンデミック前に学校の見学で顔を合わせたことがあるのでしょう。

 

 さっきお面が取れたのに加えて名前から私がその時の子だと理解して、何故バンディットを殺して回ってるのかと聞いてきます。

 だってそういうRTAだし……と言っても理解はされないので、『正直に答える』か『答えない』か『押し退ける』から選びます。

 

 3つ目は多分めぐねえが壁の染みになっちゃうからやめようね! 

 ……しゃーない切り替えていけ。正直に答えてさっさとこの場から逃げましょう。

 

 それでは適当に会話をしてからスーパーを出た辺りで今回はここまで。

 次回、薬局&バンディットマンション。来週もキリコと地獄に付き合ってもらう。

 

 

 

 

──────────────────────

【狐憑きの面】

 ・被った者に山を駆け回る獣がごとき俊敏さと体力を与える奇妙なお面。本来なら前を見るための穴が目元に空いている筈なのに、このお面にはそれがない。にも拘わらず、どういうわけか着けた者は視界を確保することが出来る。

 更には奇妙なことに、このお面を被った者は、例え村一番の乱暴者であろうと、借りてきた猫のように大人しくなってしまう。

 まるで何かに取り憑かれていたようだ──。

 ある者が、ふと──壁に飾られたお面を見て、震えた声色でそう言った。

──────────────────────

 

 

 

 

 ──スーパーの一角で起きた爆発は、くるみたちが乗っていた車に轟音を届かせた。

 もしかしたらガスが漏れたのか。怪我人が居るのかもしれない。どちらにせよショッピングモールに向かう道にあるのだから、確認することは自然である。そう考えて、砕けた扉を跨いで中に入った彼女達が見たのは──。

 

「っ……! くっせぇ……!」

「血の、臭い……っ」

 

 噎せ返る鉄錆の臭いに、くるみと悠里は咄嗟に鼻を押さえた。遅れて入ってきたゆきと慈が、顔をしかめて惨状を目の当たりにする。

 暗がりで良く見えないが、首の無い男の死体。首を押さえて動かない男に──何かから逃げてきたかのように焦燥した顔で走ってきた男。

 

 そして、棚を挟んだ反対から現れた黒衣の少女。見覚えのあるお面には、べったりと赤黒い液体が付着していて──男と少女はつい立ち止まる。──あとから来た彼女たちは、男の仲間が皆殺しにされたことを知らない。

 

 故に、ゆきを狙ったように走った男が、凄まじい速度で駆け寄ってきた紫陽花目掛けてバールを振り抜き、避けた紫陽花が男を蹴り飛ばす様子を見ていることしか出来ない。

 

「えっ──!?」

「いったい、なにが……?」

「──紫陽花」

「紫陽花? ……じゃあ、やっぱり……」

 

 黒いセーラー服を着た少女、古木紫陽花を見て、くるみの呟きを聞いて、慈は口を開く。

 彼女は懐から取り出したタオルを後ろに投げ付けると、それはふわりと宙を舞ってゆきの顔を覆った。棚に背中から突っ込んで動かない男の足を掴むと、ポツリと呟いてから裏に消える。

 

「………………見るな」

「わぷ、なっ、なになになに!?」

「落ち着いてゆきちゃん、ただのタオルよ」

 

 暴れそうになったゆきを押さえたくるみと、顔のタオルを取った悠里。なぁんだ、と言ったゆきは、不意に足元に転がっていた狐のお面を見付ける。それを拾い上げると、くるみが言う。

 

「それ……あいつのお面だな」

「さっきの男の人が振ったバールに当たったのね……不思議なお面。見てるだけで……惹き付けられる、というか……」

「おいりーさん、あんまり見るなよ。呪われたらどうすんだ」

 

 ゆきが両手で持つお面を悠里はまじまじと観察する。呆れた顔で忠告したくるみは、彼女達が『めぐねえ』と呼び慕う女性──慈に視線を向けた。考え込んだ様子の慈に声を掛ける。

 

「めぐねえ、どうした?」

「っ! ああ、いえ……その」

 

「あっ、あの子戻ってきたよ」

 

 ゆきの言葉に、一斉に視線が件の少女、紫陽花へと向く。もはや『なにをした』のかについての質問はしない。だが、四人は紫陽花の様子がおかしいことに気付いた。

 

「…………ふーっ、ふぅーっ……!」

 

 呼吸を荒くして、足元を見ていた。片手で顔を覆い、片手に握る刀はガタガタと震えている。四人が見えていないかのように、紫陽花は一心不乱に足元をキョロキョロと見渡す。

 

「……紫陽花、もしかしてお面を探してるのか? なんであんなに……()()()()んだ?」

「じゃあ私、返してくるねっ」

「っ、馬鹿、ゆき!」

 

 ゆきは単純に、親切から、紫陽花の持ち物であるお面を返そうとして彼女に近付く。ただ──くるみと悠里は紫陽花の言動と行動が、俗な言い方をすれば()()()()()()事を知っており、二人から注意を受けていて慈もそれを知っている。

 

 しかし『あいつは人を殺してるから近付くな』と精神が若干幼いゆきに言うわけにもいかず、自分達で気を付けておけば大丈夫だろうと、そう油断して──ゆきの行動力を甘く見ていた。

 

「えーっと、大丈夫?」

「ッ!! そ……れ──!」

 

 びくりと体を震わせて、顔を覆う指の隙間から、紫陽花はゆきの手にあるお面を見た。

 

「────返せ」

「……へっ?」

「返せ……! それは、()()()だ……っ!!」

 

 獣が威嚇するように紫陽花は幼い声を低く唸らせる。はぁ……はぁ……と息を荒くさせ、ぎしりと刀の柄を強く握った。

 

 ──暴れるようであれば、最悪の場合は紫陽花を殴る。そう決意して静かにシャベルを構えたくるみの前で、ゆきは少し考えてからあっけらかんとお面を差し出す。

 

「はい、どうぞ?」

「…………あ?」

「大事なものなんだよね、大丈夫だよ」

「…………っ」

 

 顔をうつむかせて、覆っていた手でお面を奪うように受け取り、顔に着けて紐を結ぶ。

 ──紫陽花は、一転して先程の激情など無かったかのように背筋を正して刀を納めた。

 

「……ここから出て、帰った方がいい」

「ど……どうして?」

「貴女が知る必要は無い」

 

 なんでなんでと聞くゆきをあしらい、感情の振れ幅に違和感を抱き呆気に取られるくるみと悠里を余所に、紫陽花は出入口に向かう。

 

「……紫陽花さん、待ってください」

「誰」

「知りませんよね、学校で顔を合わせている筈なんですけれど、あの時の貴女は──何に対しても興味を抱いていなかったんですから」

「ああ、居たね、そういえば」

 

 悲痛な顔で、慈は紫陽花に問う。

 

「彼女たちから聞きました。どうして──どうして、貴女が人を傷付けないといけないのですか。貴女がする必要はあるのですか?」

 

「誰もやれないのなら、私がやらないといけない。人を傷付け、物を盗むことしかしない、あまりにも生産性の無い害虫。何も考えず人を食らう死人よりも、物を考えたうえで人を傷付けるあいつらこそ、もはや人間ではない」

 

「──紫陽花さんっ……!」

 

 貴女は──! そう続けて肩を掴もうとして、するりと横に抜けられる。つんのめる慈を悠里が支え、振り返った先に居た紫陽花は、出入口の扉があった部分に立ち、一言言ってから去った。

 

「私は、今が、一番楽しいよ」

 

 

 遅れて追いかけるようにスーパーから出た四人は、既に姿を見せない紫陽花を探して建物の屋根を見る。深くため息をついた慈に、悠里がおずおずと質問を投げ掛けた。

 

「めぐねえ、あの子の事を知ってるんですね」

 

「……ええ、彼女はつい最近こちらに引っ越してきて、町がこうならなかったら転校してきている筈だった転校生です。

 皆が下校したあとに見学に来ていて、顔を合わせたことがあるのですが──凄く退屈そうに、生きていて楽しいことなんて無いかのような顔で学校を見て回っていました」

 

「そうだったんだ……」

 

 後輩になる予定だった少女だと知り、悠里とゆきが表情を暗くする。

 その横で、くるみが口を開く。

 

「皮肉だな、今あんなことをしてる方が楽しいなんてさ。わかるだろ、あれ本心だぜ。あいつをどうにか出来そうな人って居ないの?」

 

「紫陽花さんは……引っ越してくる前に、家族とのいざこざで家出してこちらに来たことがあったそうです。こちらに紫陽花さんの祖母のお姉さんが嫁いでいて、便宜上『叔父』と呼んでいる学生さんが大学の方に居るのだとか」

 

「その人が居たら説得できたんかねぇ」

 

 ……どうかしらね。遠い目をして、慈は諦めたようにそう言った。

 真昼時の太陽が、四人を炙るように照らしている。紫陽花の凶行は──止まらない。

*1
お前じゃい!

*2
『丙の回 後』を参照

*3
客が言うのか……(セルフツッコミ)

*4
そっちのバールではない




次→11月18日00時00分


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ある日、ある時、ある邂逅


十三歳、十八歳、――歳



十五歳、二十歳


 黒いセーラー服の上にパーカーを羽織り、フードで顔を隠す少女が、縁側で片手に湯呑みを持ちながら片手に大福を握り頬張っていた。

 

「……あの家は息苦しい」

「カカッ、薙刀を振るのは退屈か」

「儂は『やれ』言われてやるんは気が乗らん」

 

 大福の欠片を口に放り込み、熱い緑茶を啜る。

 お茶請けを乗せた木製のトレーを挟んで横並びに座る老人が、骨と血管の浮いている痩せた手でそっとフードを取らせると、長い髪が露になった少女に愉快そうに問う。

 

「それにしても、良く此処が分かったものだ。古木(そっち)大上(こちら)を毛嫌いしている、住所なんか聞いても答えない筈だが」

「ばーちゃんのねーちゃんが嫁いだ先を知りたいと母上にしつこく聞いた。母上は儂が滅多にワガママを言わんからと感動しておった」

「……ううむ。そうか」

「──ので、今日も稽古を強要してくるばーちゃんから逃げてきた。家出じゃ」

「……くっくっ、お転婆よな」

 

 喉を鳴らすように笑う老人は、カラカラと玄関を開ける音を聞いて、孫の帰宅を理解した。おおいと声を掛け、縁側に呼び寄せる。

 

「お祖父様。見知らぬ靴がありましたが──」

「おう……()()、紹介しよう。紫陽花だ」

「…………こん……にち、は……」

「──お祖父様、出頭しましょう」

「誰が誘拐なんぞするか。家出してきた娘を匿ってやってるだけじゃ」

「それを犯罪と呼ぶのですよ」

 

 荷物らしきリュックを畳に投げ捨て、無駄に優しい声色で自分の祖父に出頭を勧める青年──大上 御形は紫陽花の顔を見て既視感を覚える。

 

 そう、どこか、見覚えのある顔立ち。

 

「……家出とはまた、穏やかではない。親御さんへの連絡は済ませたのか? 

 心配しているはずだ、怪我をしてないことが僥倖だろう、早く帰った方がいい」

 

「──御形、やめておけ」

 

 親を亡くしているからか、眼前の少女に対する言葉に熱が籠る。それを窘めるように、老人──大上 一心が短く口を開いた。

 

「………………う、その……」

「済まない、差し出がましい真似をした」

「…………いえ……儂も……はい」

 

 うつむき湯呑みを手元で回しながら黙り込む。会話が苦手なのだろうと察して、一旦荷物をお気に席を立つ。戻ってきた御形は、普段着のワイシャツの袖を捲り片手に刀を二本握っていた。

 キョトンとした紫陽花の横で、一心が獣のように凶悪な笑みを浮かべる。

 

「さて────()るか」

「朝高校に行く前に稽古、帰ってきたら稽古。誘いに乗る俺も俺ですが、お祖父様はご自身の体の事を理解しておられるのですよね?」

「ハッハ、自分の事は自分が一番よく分かっておるわ。さあ、表に出ろ」

「言われなくとも」

 

「……じっちゃ」

 

 チリチリと肌に刺すような気配。

 それが殺気だと理解した紫陽花は、自分の頭に手を置く一心の顔を見上げた。

 

「よぉく見ておれ。きっと、()()こそが、お前の目指したい道だ」

 

 縁側に置かれた草履を履き、庭に立つと、御形の投げた刀のうち一振りを受け取り腰に納める。同じように納め、二人は間隔を空けて親指で鯉口を切り────音もなく抜刀した。

 

 限りなく本物に近い模造刀を構え、一拍。──直後、ガキィンと金属音が鳴り響いた。

 攻め立てる御形の刀を片手で捌き、踏み込みながら振るう刀と御形のそれがぶつかり、火花が散る。御形を数歩下がらせるようにひゅんと振るい、それから一心は両手で柄を握り──

 

「ッかァ!!」「──っ!!」

 

 ──凄まじい勢いで振り下ろした。

 

「………………う、ぁ……!」

 

 受け止めたらへし折られる為にと刀身で斜めに逸らしつつも、余りある威力から踏ん張った足を下がらされる。ぶわりと土埃が舞い、眺めていた紫陽花の髪を風圧で揺らす。──その剣の鋭さを前にして、心臓を高鳴らせた。

 

 古木家で代々続く薙刀術を学ばされる時の退屈さを消し飛ばすような、カチリと歯車が噛み合うような。おおよそ人間同士の立ち合いなのかと疑う程の熾烈な剣戟が、紫陽花を惹き付ける。

 

 ──突き、凪ぎ、払い、袈裟斬り、逆袈裟。突いた直後に腕を引き、同じ軌道で更に速く刺突する。刹那の内に刀身を重ね、甲高い金属音を奏でて弾いた御形が体勢を立て直す間に、一心は刀を鞘に納めて肉薄すると二度振るった。

 

 縦と横に振るわれた刀の残像が十字を描き、咄嗟に下がりながら当たるところだった一撃を防いだ御形の握る刀に衝撃を伝わらせて両手に痺れを残す。そんな御形を前にして、一心は──再度鞘に納めた刀を構え、ギチギチと柄を握り潰さん勢いで鬼気迫る気配を向けてくる。

 

「っ、お祖父様、それは──」

「我が剣術の神髄、その一端を見よ!」

「本気か、これは……不味い……!」

 

 (しわが)れながらも覇気のある凛とした声色。

 まるで鞘から飛び出そうとする刀身を押さえ込むかのような動きに、横で見ていた紫陽花に注意を向けた御形が口を開く。

 

「──紫陽花、絶対にそこを動くな」

「…………えっ」

 

「ッ────シィィイッ!!」

 

 ──御形が言い終わるや否や、体を捻りながら上に抜き放った刀を下へと振り下ろす一心。明らかに間合いが離れているにも関わらず行われた行動に首をかしげた紫陽花は、その刀身を中心に空気が渦巻いている事に気付き────

 

 ボンッ! という空気の破裂する音と共に、間合いの外にいた御形に()()()()()。それは柄を握り締め、片手を峰に添えて構えていた御形の模造刀を砕き、飛来した斬撃は頬を裂いて髪を数本切り落とし、背後の壁に小さな亀裂を作った。

 

「──ふぅぅぅっ」

 

 肺の空気を絞り出すような深い吐息。

 技と一心の握力に耐えられなかった模造刀は御形のそれと同じように砕け、ぱちくりと呆けたようにまばたきする紫陽花に向き直った。

 

「……さて、どうだった。紫陽花よ」

「………………凄かった」

「カカッ、そうだろうとも」

「お祖父様、()()は最悪死人が出るから禁止だと言ったはずなのですがお忘れですか」

「許せ孫よ、子供の前だ。老骨にも格好をつけさせろ。──して、どうじゃ? 紫陽花」

 

 ──剣は面白いぞ。

 

 一心の言葉に、紫陽花は頷いて答えた。カカッと快活に笑い、一心は、二振りの模造刀を持ち出して御形と紫陽花に渡す。

 

「基礎を教えて、素振りをさせてやれ。向こうに帰っても反復できるようにな。今から連絡を入れるから、夕方には帰るのだぞ」

「………………あの、じっちゃ」

「安心せい、またすぐに遊びにこい。今度は家出じゃなく、友人としてな」

「──! ……うん」

 

 興奮冷めやらぬ様子で頬を紅潮させる紫陽花は、それから御形に刀の振り方を教わる。

 しかし退屈な時間が一向に終わらないように、楽しい時間は一瞬で過ぎ去って行く。

 

 連絡を済ませて数時間、そろそろ時間か、と呟いた一心は、武家屋敷の前にタクシーを呼ばせた。御形が交通費を渡し、紫陽花を見送る。

 

「不幸を自慢するわけではないが、俺には親がいない。だからこそ……話せる内に、話したいことを伝えておいた方がいい」

 

「…………うん。ありがとう」

 

 タクシーに乗り込み扉を閉める直前、紫陽花は、御形を見て笑いながら言った。

 

「──またね、()()さん」

「────。お、おじ……」

 

 ピシリと固まる御形を余所に、紫陽花はタクシーで去って行く。覆うように四角の絆創膏を貼った頬を指で掻き、口角を緩めた。

 家に戻り、砕けた模造刀を纏めた袋を捨てた御形は、ふと気になったことを一心に問う。

 

「──時に、お祖父様」

「なんじゃ」

「何故今になって俺のことを『古木』ではなく『御形』と呼んだのですか」

「アレが()()だからだ」

「……嗚呼、成る程。あの子が古木家の──、道理で顔付きが母に似ている訳だ」

 

 紫陽花の顔を思い返して、小さく微笑を浮かべ、頬の切り傷の痛みに表情を歪める。

 

「っ、顔に傷……椎子にどやされるな」

「椎子──ああ、あの子か。ここのところ顔を見ないが、なんじゃもう来ないのか」

「学者志望なので勉強漬けなだけですよ」

 

 身内にえらく気に入られているな──と思案して、ああそうだ、と続ける。

 

「紫陽花に『おじさん』と呼ばれたのですが、俺の顔はそんなに老けて見えるのですか」

「…………さて、どうだかな」

「お祖父様」

「ううむ……昨日の飯はなんだったか」

「何故ボケたふりをするのですかお祖父様。お祖父様、お祖父様?」

 

 カッカッカッ──そう笑いながら、一心は自室へとつかつか歩き去った。

 否定も肯定もしない一心を見送った御形が、幼馴染に同じ質問をして同じように否定も肯定もされなかったのは、また別の話。

 

 

 

 

 

「紫陽花、もう二度とこんなことはしちゃ駄目だからね? 心配したのだから」

「申し訳ない。もうやらん」

 

 駅前で合流した母と共に電車に乗り込んだ紫陽花は、ぼんやりと窓の外を見る。

 

「母上、儂はばーちゃんを好かん。自分のやりたかったことをさせられても、儂には出来ん」

「ええ、そうね」

「……此処が良い。儂は此処で剣を振りたい。高校も此処で通いたい」

「こっちと言うと……確か巡ヶ丘だったわね。紫陽花は、それで良いの?」

「うむ」

 

 そう断言する紫陽花の顔は、見たこともないほどに生き生きとしていて──母親は自分達が、どれだけ抑圧させてきたのかを理解する。

 

「それと、叔父にも会ったぞ。儂らの血が半分(かよ)っとるとは思えんくらいに良い()の子じゃ」

 

「……あらあら」

 

 ──こんなにも楽しそうに話す姿を見ていると、本当に、酷い親だと、そう思わずにはいられない。紫陽花の体温が低い故の冷めた表情は、興奮から火照ったように朱に染まっていた。

 隣に座る紫陽花をそっと抱き寄せると、母親は、静かに語り掛けるように言う。

 

「中学を卒業したら、ここに来ましょう。ごめんなさい、紫陽花。私はずっと、貴女に我慢ばかりさせてきたわね。恨んでいるでしょう、怨めしいでしょう。決して許してとは言わない」

 

 けれど、と続けて口を開く。

 

「これからの貴女を、幸せにしてみせる。帰ったらお父さんにも相談しましょうね」

「──ああ、嗚呼。分かっておる。それに母上、儂はそもそも貴女を恨んでなどおらん。けれども──あえて言葉にするのなら」

 

 紫陽花は抱き締め返して、きっと初めて見せる笑顔を向けて、静かに言った。

 

「儂は既に幸せ者じゃ。ありがとう────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────母上」

 

 父だったモノを喰い漁る母だったナニカを、日がな一日ずっと見ている。

 

「……母上」

 

 やがて紫陽花は、包丁を手に取った。

 

「──母上」

 

 ──血の海に、両親が沈む。

 

「母上」

 

 母を手に掛けた自分の行いは正義だったのだろう。自分の行いは間違いではないのだろう。

 ──そう思いたい。だって、そうでないと自分の正義(つみ)に押し潰されてしまいそうだから。

 

 ──だから、紫陽花は感情に蓋をして、悪を断じる仮面を被った。

 剣術を学んだ楽しさも、叔父と祖父の優しさも、思い出すのは辛いから。

 

 

「………………おかあさん」

 

 

 行き場の無い憤りは、やがて町を屯する盗人へと向き、間違っていると分かっていながら────刀を振るう決意をする。

 ぎゅう、と刀を握るその手は、いつまでも、赤黒く染まっていた。




次→11月22日00時00分


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爻の篇

 愛情越えるような誠実さで突っ走るRTAはーじまーるよー。変身!(幻聴)

 

 今回でpart3!(ダディ)。前回までの殺害数は22/50となり、今回13人、次回で15人始末して合わせて50人という計算なんですね。

 

 んだらば早速薬局へと突撃。屋根と電柱を利用して飛び回る姿はまごう事なき天狗のそれですね、うわあこれが鱗滝さんですか。長男に理不尽な質問してはビンタしてそう(熱い風評被害)

 

 

『ガバをやらかしたらどうする』

『オリチャー発動で続行します』

 

 パアン! 

 

『再走しろ』

 

 

 ──試走で何回かやらかしてからの本走でようやくこれなんだよ!(半ギレ)

 

 という怨嗟を募らせつつ、薬局に到着。

 包帯や鎮痛剤などの体力回復アイテムや、カロリーメイト的な保存食もあります。

 

 ここにはバンディットが4人おり、近くの10階建てマンションの8~10階に謙虚な数(きゅうにん)の連中が住み着いています。ここで13人仕留めてから、ショッピングモールに向かって15人ぶち殺す。完璧な調整ですね、まるでRTAみたいだぁ……。

 

 それではカチコミ仕掛けます。

 喧嘩の話の時間だ! コラァ!! と扉を蹴破り、突然のアンブッシュに驚くバンディットAに飛び掛かります。背中から倒れたバンディットAに跨がり、聖剣『月』……ではなく正拳突きを顔面に放って怯ませ、髪を掴んで床に叩き付けてから顎も掴んでそれぞれを逆方向に捻りましょう。

 

 ゴキリ。はい次──と顔を上げた瞬間、破裂音と共に真横を弾丸が通りました。

 どうやら拳銃持ちのバンディットが居るみたいですね、遠距離武器は『やつら』のアウトレンジから一方的に攻撃できるメリットがありますが、筋力が上がれば強くなる近接武器と違い威力が常に一定というデメリットがあります。

 

 そしてあんな素人が撃つ弾なんざまず当たりませんし、当たる場合でも────バチィン! と血狂で弾く。このように、銃口の向きと引き金の指を見ておけば、あとは拳銃の弾速を把握して避けるないし弾くことは容易なんですね。

 

 刀を槍投げのように投擲して壁に縫い付けます。これで2人。

 残りの2人は──おおっと、後ろから振りかぶられた金属バットを避けつつバンディットBを縫い止めた壁に近づき、血狂を引き抜いて不意打ちかましてきたバンディットCと相対します。

 

 こんな美少女に殴りかかるなんて……ドエレ──"COOL"じゃん……? 振りかぶったバットを刀身の腹で滑らせるように受け流し、がら空きの腹をかっ捌きます。

 

 ……のーこーりーはーどーこーだー? バンディットくんの匂いがするよぉ~(校長先生)

 

 こ↑こ↓には確実に4人居る筈なので、どっかに隠れてますねクォレハ。──んー、ここかな? とレジの台に血狂を突き刺す。

 刃に肉が引っ掛かる感触があり、殺害数が26/50となったのでドンピシャで当たりました。ガリガリ君ならもう一本くれてましたね。

 

 んだらばもう用が無いので少し歩いた先のバンディットマンションを襲撃しましょう。

 まるでアマゾンでも住み着いてそうな見た目をしていますが、マンションの階段部分はベッドやソファーが詰まってて上がれません。

 エレベーターも電源が機能していないのでワイヤーをSASUKE最終ゲームよろしく昇る必要があります。ですがそれではバンディットくんたちも移動に不便です。そこで、彼らはベランダにある非常用ハシゴで出入りしているんですね。

 

 なので本来なら上からの待ち伏せを警戒しながらハシゴで8~10階に向かうのですが──壁に突起があるじゃろ?(アサシン並感)

 紫陽花ちゃんパワーがあれば壁に指をめり込ませることも可能なので、直接よじ登って8階に向かいましょう。壁を高速でカサカサと登って行く様はまごうことなき……いや、やめておこう。

 確かに私は別ゲーで例のあの名前で呼ばれていますが、言葉にするべきではない。

 

 しかし……私はなんでがっこうぐらし! のゲームで壁をよじ登っているんですかね。わかんねーだろ、俺もわかんない(ひでん)

 

 ……6階7階……8階。そろそろバンディットくんとエンカウントしますね。

 まるで英傑のように壁からベランダに移ろうと横にカサカサ動いて────タバコ休憩してたバンディットくんと目が合いましたね。はぁい、ジョージィ……死ぬ覚悟してる? 

 

 なんで腰を抜かす必要があるんですか。失礼な奴め、貴様には死んでもらう。仲間を呼ばせる必要は無いので、抜いた血狂で喉を一突き。

 ここから一気に9人片付けるのでよーく見とけよー? 火の点いたタバコを奪い窓に死体を叩き付けて割って中へと入ります。

 

 侵入者に気付いたバンディットBにタバコを弾いて飛ばし、顔に当てて怯ませてタックル。玄関までぶっ飛ばし、扉ごと腹をぶち抜く勢いで蹴り飛ばして通路にで、出ますよ……。

 

 片手間に血狂を振って首を斬り、残り7人。8階にはもう居なさそうなので9階に登って次の獲物を探しましょう。もっと返り血頂戴……我慢できぬ!(普段は真面目で優しい女子高生)

 

 一部屋一部屋探るのは面倒なので、ここいらでいたずら心(変化技先制)を発揮。各部屋を素通りしながらピンポンダッシュしましょう。

 当然『やつら』にインターホンを押す知能なんて無いので、バンディットくんは疑問に思いながらも必ず出てくれます。

 

 4つ並んだ部屋の内2つ扉が開きましたので、手前の扉を開けたバンディットくんが顔を通路に出すのを見て、駆け寄って扉を蹴り勢いよく閉めて顔を挟ませます。

 

 ゴシャア! と音がしたのを確認して奥の扉に向かい、紫陽花ちゃんこと私を見てバンディットくんが出てきたので戦闘開始。

 後ろの話し声からして扉と壁に頭を挟まれた奴は死んでますね。

 紫陽花ちゃんの筋力で蹴られた扉に挟まれたら頭も潰れたトマトになりますよそりゃ。これで残り6人。殺害数も29/50になりました。

 

 さて眼前のバンディットくんなのですが……武器が雑誌を束ねた即席の籠手と研がれた包丁でした。はぇ~すっごい洗練されてる。

 ナイフのリーチに刀で挑むのはやや無謀ですが──勝負は一瞬。血狂を引き、峰に手のひらを添えて突きの構えを取ります。

 

 ────突くぅ^~! 

 

 ナイフを振り下ろしたバンディットくんの一撃を避け、即座に刺突。

 ぐじゅっ、と肉を貫いた血狂の先端が背中から生え、哀れそこそこ戦えたであろうバンディットくんは死亡します。さぁて扉に頭を潰されたバンディットくんの方に向かい、もう1人居る筈なので扉に手を掛けます──と。

 

 バァン! と開け放たれた扉の奥からバンディットくんが飛びかかってきますが、避けて脇腹を一発ぶん殴ってからバックドロップのように通路から外へと投げ捨てます。高いところから人が落ちると爆発したような破裂音がするんすねぇ。

 

 これで残り4人。殺害数は31/50。あと4人は上の階……あるいは屋上でしょう。

 さくっと上の階に向かい、気配を探りつつ屋上に。10階には誰もいませんので行きますよーいくいく。ゆっくりバンディットくんを揃えて持っていきたいところですが、プレイヤーはNPCの生首を持ち歩けないんですよねー。

 

 狐面で刀引っ提げた美少女が扉を開けてやってきては驚くことでしょう、案の定たまげてるバンディットくん×4は、一拍置いて冷静になると傍らの武器を握ります。

 

 1人が鉄パイプ、1人がバール、2人(ににん)がシノブ伝……ではなく警察からかっぱらったのだろう拳銃持ちと。近距離2人と遠距離2人とかいうドラクエみたいなパーティですが、男は黙って勇・戦・僧・魔ですよね(ドラクエ3並感)

 

 ──では戦闘開始。

 

 拳銃を構えたバンディット2人の射線と被るように鉄パイプバンディットくんと相対し、誘導しながらわざと峰で打ち合いましょう。

 NPCもまあまあ頭が良いので、撃てないとわかれば場所を変えようとします。踵を返した拳銃バンディットくんの1人に即座に肉薄。

 

 ビビって発砲してくるので、当たらない弾丸は放っておき、当たりそうな奴は血狂で弾きます。カスが効かねぇんだよ!(天下無敵)

 腰を低く落とし、すれ違い様に一閃。ずるりと胴体から真っ二つになるバンディットくんを尻目に、鉄パイプ持ちに再度接近。

 

 峰で打ち合ったことで調子づいた振り下ろしに血狂の刃を当てると、鉄パイプは豆腐を切るように呆気なく切断されました。

 

 呆けたバンディットくんの足に腕を回して合気ッ!(NKDK)してひっくり返すように転ばせ、髪を鷲掴みにして数回床に頭を叩き付け、とどめに斜めに切断され竹槍のようになったそれを喉に突き刺します。──あと2人。

 

 もう1人の拳銃持ちに気を付けていましたが……手元でガチャガチャと弄んでいる辺り、2~3発撃ってジャムらせましたね。じゃあ次の犠牲者は……君ですね……(暗黒微笑)

 

 立ち塞がるバール持ちに跳躍しつつラリアットを食らわせてスタンさせ、ジャムバンディットくん(アンパンマン)の顔面を掴んで手すりに叩き付け、血狂を腹に数回突き刺して魚を開くように思い切り力任せに切り捨てます。

 

 ──最後の1人がスタンから回復する前に足を掴み、バフ任せの筋力で隣の階層がこちらより低い別のマンションの方にぶん投げます。

 

 追従するように手すりを足場に飛び──空中で血狂を鞘に納め、身をよじり姿勢を変え、バンディットくんに向けてひゅひゅんと2度振るいます。隣の屋上に着地すると、遅れて四等分のバンディットくんと血の雨が降り注ぎました。

 

 ダン! と力を受け流さずに着地しちゃって少し足が痺れたので、痺れが取れるのを待つついでに脱獄に成功した某主人公のように両手を広げて血を被っておきます。

 これだけ血みどろなら原作ヒロインたちにドン引きされるだろうし、わざわざ私を助けようなどとは思わないでしょう。

 

 ……回復しましたし、そろそろ最後の戦場、ショッピングモールに向かいます。髪も服も真っ黒だから血の赤色が目立ちませんが、VR補正で嗅覚が鈍いとはいえだいぶ鉄錆び臭いっすね。

 

 ──血狂を鞘に納めてタタンッと跳び、いつもの通路と化した屋根を跳びはねて数分。見えてきたショッピングモールの駐車場に降り立ち、軽く索敵ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ………………? 

 

 ──駐車してある車に突っかかってるバンディットくんが銃を向けてるの、運転席なんですが……なんだあの見覚えがあるピンクはぁ? 

 

 

 ……なんで律儀に駐車場に車停めてんだYO! 助手席のくるみ姉貴も動けてないし……仕方ない。先んじて1人仕留めましょう。

 すすすす……と足音を消して歩き、背後の足元からにゅっと場に入ります。

 

 そのまま後頭部を掴んでドアのガラスに顔面を叩き付けて、倒れたバンディットくんに跨がり顔面を殴打。取り敢えず死ぬまでぶん殴り、慌てて止めようとして降りてきたくるみ姉貴に羽交い締めにされます。

(がっこうぐらしRTA)流行らせコラ、離せコラ! んーにゃーごお前! 

 

 ……本気なら振りほどけますが、まあ従いましょう。えげつねえ血の臭いに顔をしかめるくるみ姉貴と、後ろで様子見しているめぐねえたちを余所に、くるみ姉貴から離れてバンディットの死体を物色。銃も軍用の89式小銃でしたね。

 

 腰のナイフを剥ぎ取り、小銃の方は銃身を曲げて撃てなくしておき、5.56mm弾を一発抜き取っておきます。ここ伏線ですよ。

 

 そんなわけで今回はここまで。

 次回、最終回。悪鬼羅刹蔓延るショッピングモールに、狐の鬼神が現れる。

 

 

 

 

──────────────────────

【古木 紫陽花】

 ・彼女は武家の末裔であった。古木家はかつて『狼』と呼ばれ、今では『大上』と呼ばれる家と敵対し、好敵手として競いあっていた。

 しかしある時、古木家の子孫が大上家の子孫と惹かれ合い、やがて嫁いだことで、あっけなく敵対関係は終わりを迎える。

 だが、それを許せない者が居た。大上家に嫁いだ女性の妹は、古木家の武家としての歴史に並々ならぬ執着を抱き──その執着を、孫娘に押し付けようとした。故にこそ、少女はそれから逃れるように剣の道を歩んだ。

 

 少女は、紫陽花は、この町に引っ越す際、蔵から不思議なお面と刀を持ち出した。

 それが彼女の意思によるものなのか──はたまた、不思議な魅力に取り憑かれたのか。

 

 それは、神のみぞ知る。

──────────────────────

 

 

 

 

 ──血の雨を浴びる。

 ──血の池を見下ろす。

 

 紫陽花は、あまたの死体を積み上げた道を歩き、罪を犯し続けている。ジクジクと、胸の内を、何かが蝕む感覚がある。

 

 そのうち自分もまた、誰かの手でその生涯を終わらせるときが来るのだろう。そう考えては、自身を殺めんとする相手を殺して行く。

 

「──ああ、嗚呼……」

 

 手を顔に這わせ、固い材質のお面に指が当たる。まるでこれこそが己の顔なのだと言わんばかりに、紫陽花の顔に合っていた。

 

 ──悪人だからと人を殺す人間が、正義なわけがあるか。私が、正義なわけがあるか。

 ──なにより、この凶行を楽しいと思う人間が、まともなわけがあるか。

 

 手のひらを見れば、べったりと赤黒く染まっている。人を食らう鬼と化していたとはいえ、母を手にかけたその時から、紫陽花の決意は揺らがない。一度たりとも、揺らいでいない。

 

 ──悪人は殺す。死人も殺す。そして──。

 

「……私が()()だ」

 

 ──だからどうか、最後に私を(ころ)してほしい。

 

 それだけが──人を傷付けることでしか正義を成せない少女の、小さくも切なる願いだった。

 

 

 

 

 

「──なぁにやっとるんじゃ」

 

 草場から駐車場に顔を覗かせた紫陽花は、思わず素を出してしまうほどに動揺する。

 どこかから鹵獲したのだろう軍用の小銃を手に車に乗っている女性に脅す男を見て、それから車の中に目線を移せば、中に居たのは教師である女性と、その生徒三人。

 

 小さくため息をつき、紫陽花は音を立てずに駆け寄り──車のドアのガラスに男の顔面を叩き付ける。倒れた男に跨がると、顔面に握り締めた拳を何度もぶつけ、抵抗しなくなるまで殴り続けて、動かなくなっても何度も何度も殴る。

 

「──やめろ!」

「………………」

 

 後ろから羽交い締めにして男の死体から紫陽花を引き剥がす少女──くるみは、紫陽花から放たれる鼻を突くような鉄錆びの臭いに顔をしかめる。拘束をほどいた紫陽花が死体の物色を始める様子を、くるみは見ていることしか出来ない。

 

「……おい、紫陽花」

「馬鹿者。私は帰れと言った」

「──それは、今みたいに襲われるからか」

「わかっているのなら、抵抗くらいして」

「……いや、銃持ちに抵抗とか無理だろ」

 

 ──情けない、と呟きそうになった口を必死に閉じる。叔父なら出来た、じっちゃなら出来た、現に私なら出来る。とはいえ、彼女らが出来るとは限らない。そのため、押し黙るしかない。

 

「………………はあ」

「た、ため息……!?」

 

 ギギギギッ──! と銃身を素手で曲げながらため息をつく紫陽花。

 彼女は弾倉から弾薬を一発だけ抜き取り、ナイフをベルトごと剥ぎ取って腰に巻き付ける。

 

 そしてそのままショッピングモールに入ろうとするのを、咄嗟に悠里が止めた。

 

「っ、待って、駄目よ紫陽花ちゃん!」

「──ん」

「……え、えっ?」

 

 振り返った紫陽花が、足元の死体を指差して、それからモールの方にその指を向ける。意図を察した慈が、確認するように呟いた。

 

「……もしかして、あの中に、この人の仲間が居るんですね?」

「うん」

 

 一拍置いて、紫陽花は言う。

 

「──私が入って十分経っても戻らなかったら、大人しく帰った方がいい」

「…………ど、どうして?」

 

 車の影に隠れているゆきが、顔を覗かせて紫陽花に問う。それから、あっけらかんと返した。

 

「帰ってこなかったら私は間違いなく死んでいるから。彼らを殺せない貴女達と違って殺せる私が戻ってこないということは、そういうこと」

 

 言うだけ言って、紫陽花はその場から飛び退き、街灯を足場にモールに向かって行く。

 見送ることしか──見ているだけしか出来なかったその場の四人を代表して、くるみが言う。

 

「……十分か、待つしかないな」

「くるみ!」

「わかってくれりーさん、ついさっき銃を突きつけられて分かっただろ。あたしらには人を殺す覚悟なんてない。もし紫陽花が助けてくれなかったら──あんな男連中にあたしらが何されるかなんて想像するまでもないだろうよ」

「だからって……!」

 

 ──紫陽花に言われた通り放っておくべきなのか? 助けにいくべきではないか? 

 そこまで考えて、しかして言われたように人を殺す──傷つける決意すらない悠里たちには何も出来ないことを嫌でも理解する。

 

 ──しかし、しかし。それで『なら仕方ないな』と諦めるには、彼女たちは善人過ぎた。

 

「……くるみさん、悠里さん、ゆきちゃん」

「どうしたの、めぐねえ」

 

「──紫陽花さんは強い人です。私たちの助けなんて必要ないのかもしれません。

 ですがそれ以前に、あの子は私の将来の生徒で、貴女達の後輩なんです。──私は、今この瞬間の選択で後悔をしたくありません。ですから、みんなで話し合いましょう」

 

「…………ああ、そうかもな」

「そうね、皆で考えましょう」

「うん、頑張ろう!」

 

 ──モールの方角から、けたたましい銃声と喧騒の声が聞こえてくる。時間が迫るなか、四人は、その咄嗟の判断で話し合いをするべきだという選択を取ることが出来た。

 

 助けるにしてもどう助けるか、どのルートで逃げるべきか。『やつら』だけでなく武器を持った悪人にどう対処するか。

 

 四人は考える。話し合い、考える。

 紫陽花が作った『十分』を、紫陽花を助ける方法を考えるために使う。

 

 

 くるみは荒事を任せた判断を後悔して。

 悠里は少女の面影を妹に被せて。

 ゆきは少女と友人になりたくて。

 

 慈は──自ら未来を閉ざした少女に、まだ『これから』があるのだと教えてあげたくて。

 

 

 こうして、紫陽花の戦いは終わりに近づき──反して、四人の戦いが、静かに幕を開けた。




次→11月29日00時00分


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最終回

 戦の鐘が鳴るぅ~(コロシアエー!)なRTAの最終回、はーじまーるよー。

 

 前回ラストで余分に1人殺したため、現在の殺害数は36/50となり、今回で14人殺せばタイマー計測が終了します。このあとの目標は至ってシンプル、皆殺しにしろ!(メイドインワリオ)

 

 5日目からスタートしたのはバンディットが湧き始めるからというのもあるのですが、この時間帯に向かうと、確定でショッピングモールinバンディットvsやつらの群れが始まるんですよ。

 

 地下一階から五階までのモール内には約20人のバンディットが散らばっており、地下一階に5人配備されているのですが、地下一階に下ってバンディット5人を片付けてから一階に戻り五階を目指すのは単純にタイムロスなので、一階から五階までの15人を狙うチャートだったんですね。

 

 万が一やつらとの戦いでバンディットが5人以上死んでいたらここにきてまさかのリセットとなりますが、町がこうなってからショッピングモールを狙える程度には強いバンディットたちなので、まずやつらには殺されないでしょう。

 

 お前たちは私が殺すんだ、やつらなんかに殺されるんじゃないぞ!(ライバル並感)

 

 

 ということでいざ鎌倉。

 一階の自動ドアは私が粉砕する前に既に壊されているのでちょっと残念。

 やつらを囲んで棒で叩いてるバンディットに気づかせるために、血狂の刃先を床に当てて火花を散らしながらカリカリと音を立てます。

 

 バンディット……やつら……返り血まみれで狐面を付けた日本刀を握る女子高生……何も起きない筈がなく……。バーバ・ヤーガだ!(蟻男)

 

 ──それでは最終決戦。1人目の犠牲者は……やつらの1匹を殴ったことでバールを振り抜いた体勢となったバンディットくんでした。

 振り返る前に素早く近付き、後ろからぐさり。真っ直ぐ背中から腹へ突き刺し、マグロを捌くように脳天まで刃を通して開きます。

 

 壊れた噴水のように噴き出した血を浴びながら、違う標的に目標を定めます。

 普段は真面目で優しい走者兄貴……しかし、いったん返り血を浴びると「もっと返り血頂戴……我慢できぬ!」と殺戮をねだる孤島(さばがん)帰りのスラッシャーホラーに大変身! 

 

 ()^~()()()()()()ズォオ!(血狂くんが刀身の血液を啜る音)

 

 

 2人目を狙おうと鎌首をもたげてシャフ度すると──眼前に詰められた布の先端が燃えている瓶が宙を舞っていました。

 そこいらの野良バンディットとは違い敵と見るや即攻撃、いいぞ^~(エボルト)

 

 だがしかし、まるで全然、この私を倒すには程遠いんだよねえ! こちとら投げた花火玉の導火線を切断して鎮火させる頭おかしい奴と日夜乳繰りあっとんじゃい! たかだか火炎瓶の燃えてる布部分だけを斬るなんて誰でも出来るわ! 

 

 炎を纏う布を切断して切っ先に巻き付け、落ちてきた瓶をサッカーボールをリフティングするように踵に乗せて受け止めます。しかし足を上げて瓶を受け止めようとすると、ミニスカートのセーラー服なのでこう……チラリズムがね。

 

 やだぁ恥ずかしい(大蛇丸)

 っつっても私は男なので羞恥心はない。でもアバターは女だし……私は……いったい。俺は、僕は、私は…………男、女になっちゃう! 

 

 ──さて、反撃といきますか(賢者タイム)

 

 踵に乗せている瓶を蹴り返しつつ、空中に舞ったそれへと体を捻らせて刀身を振り上げ、刃を滑らせて真っ二つにし、中身をぶちまけながら切っ先の炎で引火させます。

 

 ただ爆発するのとは違い『液体が燃えている』という特性上、火炎瓶は体に付着したら中々鎮火させられません。

 しかも私の攻撃によって、今まさに『空中から燃えた液体が降り注いでる』ので、結論として一階に3人配備されているバンディットくんのうち残り2人は落ちてきた炎に包まれました。

 

 おぉ、めけーも!めけーもぉ!! している2人と、少しだけ液体が付着して引火したことで意図せずして壱の秘剣・焔霊と化した血狂くんを一瞥し、それから二階に向かいます。*1

 

 エスカレーターが離れた位置にあるので、落ちているバールを壁に投擲して突き刺し、それを足場に二段ジャンプ。片手でも縁に置けたら腕力にものを言わせて登れるので楽でいいっすね。

 

 着地したらびゅんと振って刀身の炎を払い、二階の店内から悲鳴を聞き付けて顔を覗かせる3人にアンブッシュ。

 横合いから飛び込んでスパーンと首を撥ね、気付いてボウガンを向け即座に矢を発射したもう1人には、デュラハンくんを盾にして接近。

 

 死体を両断してその間から飛び出しボウガン持ちの胸ぐらを掴んで、相手の膝を足場にしてこめかみにシャイニングウィザードを叩き込みます。血狂の筋力バフで頭蓋を砕き、倒れたので後頭部を踏み砕きとどめを刺しておきましょう。

 

 ……さぁて、二階にも3人居る筈なのですが……隠れてるのかな? こんな美少女を前に隠れるなんてシャイな奴だぜ。──うーん、そこ。

 

 店内に続く扉の裏に隠れているのは僅かな足音と呼吸を押さえようとする声で分かりましたので、薬局でやったように血狂くんをズドンと突き刺しておきます。いちいち扉を開けて確認するのは面倒なので殺害数でチェック。

 

 数にして42/50となっていますね。残り8人なので、とりあえずヨシ!(殺戮猫)

 

 では三階へ。この辺はもう流れ作業なので実質ボス戦となる五階まで倍速で良いでしょう。シェイシェイハ! シェイハ! シェシェイ! ハァーッシェイ! と三階の連中を叩っ斬り、四階に向かって更に2人切り捨てます。

 

 モール内の人数は乱数によっては合計19人で1人足りないパターンがあるのですが、もしかしたら前回駐車場に居たのは本来モールの中に居るはずだったバンディットくんなのかもしれません。ともあれこれにて五階、時間軸的にはおそらくまだみーくんとKが籠城している筈ですが……

 

 三階と四階で5人ぶち殺したので殺害数は現在47/50。五階の3人を片付けて、さっさと計測を終了させましょう。

 ……と言いたいところなのですが、実はモールに現れた20人のバンディットグループ、五階にリーダーとその側近が居るんですよね。

 

 リーダーは確定で陸軍の89式を所持しており、側近も両方がマチェット使いで、全員が映画『ザ・レイド』から飛び出してきたのかと疑うレベルで強いです。私ですら少しだけ苦戦します。

 

 ──更には、最悪のパターンで89式の流れ弾が隠れてたみーくんたちに当たる場合もあるので……その辺も気を付けつつ1対3で戦わなければなりません。別に死のうがレギュレーションには引っ掛かりませんが、いやあ死なれたら寝覚めが悪いのでね、ここまで来たら全員守った上で完走してやりますよそりゃ。

 

 では戦闘開始。みーくんたちが籠城している部屋に行かれると困るので、壁を血狂くんの峰で叩いてわざと発見されましょう。

 3人がこちらを見たので、全力ダッシュで接近します。バンディットリーダーが89式を構えるのを見て、即座に手近のベッドを片手でひっくり返すような勢いでぶん投げます。

 

 3人がそれを避けるのでその隙に五階の支柱に体を隠しつつ、スライディングで別のベッドの陰に潜り込みます。そしてベッドを足場に89式を構えるリーダー向けて跳躍、一直線に首を刈──ろうとして側近組のマチェットに阻まれました。

 

 ぬう……小癪な。着地と同時に足元に撃ち込まれた5.56mm弾を避けつつ距離を取り、腰を低く、刀の峰に左手を添えて両手で構えます。

 貴様らは知らんだろうが、紫陽花リバイブ疾風はスピードに加えて古木リバイブ剛烈のパワーを併せ持つ……ギアを1つ上げて行くぞッ! 

 

 マチェットブラザーズを相手取りつつ2人を89式の射線に被せ、迂闊に撃てないようにしながら切り刻みます。マチェットブラザーズのMの方の脇腹を抉るように殴り、Lの方のマチェットを足の裏で受け止めます。ずぐっ、と靴を貫通して足の裏にめり込みますが、対して痛くないので問題ありません(半ギレ)

 

 逆手に持った血狂でMのマチェットを受け流し、足の裏から引き抜かれたLのマチェットの首刈りを避け、敢えて血狂を上空に放り投げることで視線を誘導(ミスディレクション)し──Lの親指を掴み手首をへし折るつもりで捻り、手元から離れたマチェットを握り逆に首へと叩きつけます。

 

 念入りに二度三度と首にマチェットを叩き付け、マチェットブラザーズのLの方を殺害。

 落ちてきた血狂を受け止めて、振り下ろされたマチェットの側面に頭突きをして軌道を逸らしつつ同じ軌道で振り下ろした血狂でMの方を斜めに両断。射線が通るようになったリーダーの89式の射撃から逃れるべく再度ベッドの陰へ。

 

 89式の箱型弾倉の弾数は20発あるいは30発ですが、一瞬視認した限りでは20発入りの方なので、18……19……20……使いきったな? 

 であればここがチャンス。マガジン交換をさせる暇なんぞ与えません、先程と同じように跳躍して接近。ゆっくり饅頭に加工してやります。

 

 避けるには遅く、89式で防御しようがその上から斬るのみ。

 これでタイマー停止じゃい──────、えっなにそれは…………? 

 

 リーダーが手に握っているのは弾薬が尽きている89式と、マグナムリボルバー……!? 

 おいちょっと待て今まで散々試走してた時はそんなもん持ってなかっただろここに来てクソ乱数引くのやめろ不味いこの距離だと身をよじっても当たる────あばっ!!?(かおす先生)

 

 

 ──ドンッッッ!! という轟音と共に、顔に凄まじい衝撃が走り、壁にぶつかったように急ブレーキした体は背中から落ちる。

 

 

 床に黒髪が扇状に広がり、紫陽花というアバターの体力は────全損してないんだなぁこれが。亀裂が縦に入って真っ二つになり、顔左半分のお面部分が粉々に砕けたその奥で、私の瞳は殺意に満ちたギラギラとした輝きを持っています。

 

 このゲームはなあ! 頭装備を着けている時に頭から顔にかけて攻撃が入るとダメージを肩代わりしてくれるんだよ! 装備品壊れるけど! 

 なので、例えば銃弾が顎を砕くとして、帽子型のヘルメットを被っていると何故かそっちが砕けるんですよね。システム上の仕様とはいえ絵面はものすごく間抜けです。

 

 それにしても、ああもう全く()()()()。システムに保護されて無事とはいえ、マグナム食らって衝撃が走っただけで一切痛みが無いのはどうなんですかねぇ!? 近年のゲームの痛覚表現は規制がキツすぎるんだよなぁ! 

 

 ……まあそれは兎も角、むくりと起き上がりつつ、()()()()()()()()に脚を縫い止められたバンディットリーダーに目線を向けます。

 

 筋力バフ全開のフルパワー投擲で膝とふくらはぎを貫通して床に切っ先が突き刺さった刀はさぞや痛いだろうな。バンディットとして奪う側だったが故に、その痛みは未体験でしょう。

 

 私としても痛みを我慢してマガジン交換とかされたら死ぬので、さっさとトドメを刺します。はい取り出したるは~、前回ラストで回収したナイフと89式の5.56mm弾~。

 

 左手の中指以外を閉じてファ■キュー! ……ではなく、中指で包むように薬莢を握り、人差し指と薬指を台座として使い弾を固定します。

 

 左手を弾倉兼バレルに、右手のナイフをハンマーに。本来なら拳銃の弾を指に挟んだ左手を相手の胸に押し付ける技が故にセクハラテロとまで呼ばれた、孤島秘伝の伝承奥義……ッ!! 

 

 

 ──シー・ヴィス・ベラム(汝平和を欲するならば)パラベラム(戦への備えをせよ)!! 

 

 

 カンッと左手の薬莢の雷管(ケツ)をナイフの切っ先で叩き、直接弾丸を発射する。これが私の戦への備え、すなわち最終手段ならぬ最終手()

 血狂が手元になくて筋力バフが発揮せず、左手に発生した爆発の勢いで跳ね上がった腕がゴキリと音を立てて脱臼しますが──寸分違わずバンディットリーダーの胸に撃ち込まれた弾丸が致命傷となり、リーダーは片足が血狂に固定されたまま不格好に倒れて絶命しました。

 

 

 ナイフを適当に捨ててメニュー画面を操作し、殺害数の確認を行い……50/50となっているのを確認した辺りでタイマーストップ! 

 記録は2時間28分45秒。密かに目標としていた2時間半切りを達成しつつ、誰もこのレギュで完走していないのでつまり私が世界一位です。

 

 

 完走した感想ですが……最後の最後でマグナムを取り出されるとは思いませんでした。完全に油断していたので顔面セーフになるように体を捻らなければ死んでいましたね。反省。

 

 あとは……痛覚表現辺りの規制のせいであまりにも痛みに鈍いのが不満でしたね。

 避けられるのにわざと足の裏でマチェットを受け止めたときも、言葉にするなら痺れた足をつつかれたような違和感しかありませんでしたし。

 どうせZ指定なんだからオンオフ機能を搭載して、どうぞ。痛覚関連は非公式のMODを入れると最悪違法判定なので公式あくしろ。

 

 

 ──さて、このあとどうすっぺ……もうここらで終わりにしても良いんですが……RTAを完走した疲れからか、ちょっと腰が重いんですよね。あと左腕がぷらんぷらんしておられる。

 

 右手で肩を叩いて関節を嵌め直して怪我の調子を確かめ──()()()()()()()()()()()()()()()()()()を拾い上げます。いや要らねーわきったねぇ。適当に弾き飛ばしておきます。

 

 いやあ、そら吹き飛ぶよね。弾薬を直接握るんだから。本来なら手がブロッコリーみたいになる技なんだし中指一本で済むなら死な安よ。まあこのゲーム欠損した部位は治りませんがね。

 

 顔に弾丸が叩き込まれた衝撃で鼻血も出てきたし、出血がスリップダメージになるとこのまま死にかねないのでちょっと誰かティッシュくれねーかな…………と思っていると。

 

 ──来たわね、学園生活部のヒロインズ。それと部屋の奥からこっちをちらちら見ていたみーくんとK……これで紫陽花ちゃんのこれからの人生に必要な人たちが揃いましたね。

 

 

 この先の紫陽花ちゃんの行く道に私はもう必要ありません。残るは憎まれ役の幕引きだ。

 私が生きた証を……走者として生きた証を、最後に残させてくれ……。そうだ、私はRTA走者だ。それ以上でも、以下でもない。

 

 そんなわけで『がっこうぐらし! バンディット50人斬りRTA』はここまで。

 更新する度にえげつねえ数のお気に入りが減少したりしたけど、完結したのでヨシ! 

 

 ほな、また……(粒子になって消える)

 

 

 

 

 

 

 ──カラン、ぴちゃ。

 そんな音がして、紫陽花の顔から真っ二つに割れたお面が落ちて血溜まりへ落ちる。

 

「──づ、ぁ」

 

 外れた肩の関節を嵌め直し、左腕の調子を確かめると、おもむろに傍らに落ちていた──自身の中指を拾い上げる。煙をくゆらせる薬莢とそれに巻き付くように貼り付いた中指をじっと見て、興味が無いかのように捨てた。

 

「………………誰ぞ」

「ひっ、あ、あの……」

「えっと……大丈夫?」

 

 紫陽花が鎌首をもたげた先に立っていたのは、真珠のような白みがかった髪と茶髪の、二人の少女だった。気配だけは感じていたが隠れていたのだろう二人は、心配そうに紫陽花を見る。

 

「…………大丈夫に見えるか」

「そ、うだね、どうしよう……ねえ()()、あの部屋に救急箱あったっけ」

「どうかな。()、ちょっと見てきて──」

 

 最後まで言う前に、紫陽花は圭と言うらしい少女に美紀と呼ばれた方の少女へと手を伸ばす。血まみれの手のひらで足首を掴まれびくりと体を跳ねさせた美紀が悲鳴混じりに足元を見る。

 

「ひぃいっ!? な、なにっ!?」

「ちょっ……美紀っ!」

「……美紀殿、圭殿。放っておいてくれ。儂は、別に、助かりたいわけではない」

「──な……なんで……!?」

 

 ボタボタと鼻血を垂らしながら見上げてくる濃い鉄錆の臭いが漂う少女を前に、美紀の思考は徐々に恐怖に支配されつつある。その時、何人もの足音が五階に上がってくるのを耳にした。

 美紀と圭、紫陽花は、シャベルを担ぐ勝ち気な雰囲気のツインテールに髪を纏めた少女が先頭の、女性一人を交えた四人と鉢合わせた。

 

「っ──紫陽花! ……と、あんたら……もしかしてうちの後輩か?」

「……あー…………」

 

 駆け寄ってきた少女──くるみは、美紀の足に掴みかかる紫陽花の様子を見る。

 

「……馬鹿者。儂は、帰れと言ったぞ……」

「馬鹿はお前だろ! なんでこんな無茶をしたんだ! 死んじまったらどうすんだよ!」

「…………」

「さっさとここを出るぞ、まだあいつらが居るかもしれない」

「────ああ、悪人なら、此処に居る」

「は?」

 

 ぐっとくるみを押し退け、紫陽花は血溜まりに尻をつくように座り込む。

 真横に倒れている死体の足から刀を引き抜き、そして──刃を己の首に添えた。

 

「っ、おい!!」

「紫陽花ちゃん!?」

 

 くるみと後ろで見守っていた悠里が息を呑み、美紀たちは突然の行動に呆然とする。

 

「儂で最後だ」

「──馬鹿言うなよ」

「……儂は人を殺した。散々殺してきた。気の迷いから楽しいとすら思った。故にこそ──なんの罰も無しでは釣り合わんと思わぬか」

 

 こうなるまでに戦い続けたのだろう、疲労困憊とはいえ、血と油を被っていながらも衰えない切れ味なら──少し力を入れるだけで頸動脈から呆気なく鮮血を噴き出させるだろう。

 

 下手に刺激は出来ない。だが、ここで説得できなければ恩人の自決を拝むこととなる。

 

「死んで終われば、責任を果たせるってか……ふざけんなよ紫陽花……っ!」

「ああ、責任だ。でもなくるみ殿、それ以上に……儂は少し、疲れてしまったんだ」

 

 心底疲れきったような、口角をひくつかせるいびつな笑み。その歪んだ顔を、ずっと、お面の奥でさせていたのかとくるみは思考する。

 ──その横を走り抜けて、不意に紫陽花の眼前に座り込んだ女性がいた。女性──慈は、刀を握る紫陽花の手を包むように触れた。

 

「紫陽花さん」

「…………慈女史」

「死んではいけません、命は尊いのです。そんなありきたりな言葉では、きっと貴女は留まらない。だからズルい言い方をしますね」

 

 鼻血と血溜まりと返り血でぐちゃぐちゃの顔に片手を伸ばし、頬に手のひらを添えると、慈は紫陽花をじっと見て──それから言った。

 

「紫陽花さんが死んでしまったら、私たちは悲しいです。だから生きてください。

 私たちにはその苦しみが分かりませんけれど、一緒に背負うことなら出来ますから」

 

「──────、ぁ、あ」

 

「紫陽花さん、良く……頑張りましたね」

 

 慈の顔が、親のそれと重なる。大好きだった母親を最初に手に掛け、まず最初に逃げる選択肢が潰れ、悪人の成敗という現実逃避をして──止まれなくなり、もっと早く、速くと生き急いだ紫陽花の肩から、重荷が取れた気がして。

 

「ぁあ、ぁあぁあっ──ああぁあ……!!」

 

 床の血溜まりに、刀が落ちる。とっくに枯れたと思っていた涙腺から、ボロボロと熱い雫が流れて落ちる。死体と、少女と、女性の居る五階に、慟哭が響き渡っている。

 

 ──まさか人を殺した少女を誉める日が来るなんて。そんな事を、紫陽花を抱き締めてあやす慈は考える。けれども慈は、たった一人で戦い抜いた子供を責める事が出来なかった。

 

 世界がこうなってから、慈は──否、慈たちは人の死に慣れてしまっていた。

 泣き疲れたのか、血を流しすぎたのか、どちらにせよ気絶するように眠った紫陽花を抱き上げて、その場の六人はその場から離れる。

 

 先にショッピングモールに来ていた連中が本来乗っていたのだろう、大型の七人乗りSUVを拝借した紫陽花を除く六人が、集めた物資を後ろに詰めて乗り込む。

 

 すぐに逃げられるようにと考えてか、鍵が刺さったままだった為、慈から運転方法を教わったくるみが運転席に乗っている。

 後部座席に紫陽花を抱えた慈と救急箱を持った悠里が座り、助手席にはゆきが。

 一番後ろに荷物と共に美紀と圭が押し込まれていた。狭そうにしているが、緊急事態故に二人は文句を言わずに我慢している。

 

「──酷い怪我……中指が……千切れてる、どんな戦い方をしたらこうなるの……?」

「悠里さん、とにかく包帯と消毒液とガーゼを出せるだけ用意してください」

 

 てきぱきと怪我の治療を進める二人をバックミラーで見つつ、その奥の美紀たちに目線を向け、地図とにらめっこしているゆきを余所に重苦しく口を開いてくるみは問う。

 

「あんたら、ずっと隠れてたのか?」

「えっ? あ、はい。見ていることしか出来なくて……すみません」

「……あーすまん、言い方が悪かったな。ずっとあそこに籠城してたんだよな?」

「……は、はい」

 

 そっちか……と呟いて、恥から美紀は色白の肌を朱に染める。それから少しずつ、町がこうなった最初の日から今までの事を話した。

 最初は何人も居たこと、噛まれたことを隠した人が暴れだして逃げざるを得なかったこと。そして先程の紫陽花の()()()()()を。

 

「──こんなところです」

「はっは、やっぱすげぇなこいつ。あんま思い出したくないけど、紫陽花の奴、この日だけで何十人も斬ってるんだよなぁ」

「……もしかして、ここに来るまでにこの子に会ってるんですか?」

「何度かね」

 

 へぇ、と呟いて、圭は3列目のシートから真ん中のシートに身を乗り出し、慈と悠里に看病されている紫陽花を見やる。

 紫陽花は、見れば見るほど普通の子供である。こんな子供が、ショッピングモールで、更には外で殺戮を行っていたのだ。

 

 どんな心境で行ったのかなど、察することなど出来まい。一拍置いて、ああそうだと声を出し、懐から物を取り出す。それは、縦に割れて左半分が砕け散った狐のお面だった。

 血で赤黒く染まったそれを布で拭ったのだろう、所々に染みが付いたそれを、真ん中のシートで寝転がり眠っている紫陽花の腹に乗せる。

 

「……お面で顔に、感情に蓋をして……まるで戦士のように振る舞った……のかな」

「どちらにしろ、起きたらお礼を言わなきゃね。理由はどうあれ助けてくれたんだし」

 

 圭の言葉に美紀が続き、慈が飲料水で濡らしたハンカチで顔の血を拭って行く。

 ふと悠里が紫陽花の足に目を向け、靴が切れていることに気が付く。

 靴を脱がせると、続けて脱がせた靴下にべったりとダマになった血液が付着していた。

 

「──もう、こっちにも怪我が……」

 

 足も同じようにタオルで拭い、刃物で出来た線の傷を消毒してガーゼをあてがい包帯を巻く。慈しむような、それでいて若干の狂気が混じった眼差しを紫陽花に向け、薄く笑みを作る。

 

「……仕方のない子ね」

「…………?」

 

 ()()()()()()()()ような声色の悠里に疑問符を浮かべた慈だったが、質問する前に、眠っていた紫陽花が呻きながら身をよじる。

 

「あっ、紫陽花さん。大丈夫ですか?」

「…………が、んー…………?」

 

 ピントの合わないぼやけた目で、自分に膝枕をしてくれている慈を見上げた紫陽花は──見下ろす慈の顔を見て疑問の声を向けた。

 

「────おかあさん……?」

 

「おか──!!?」

 

「ゴブッフォア!!」

 

 寝ぼけ眼の紫陽花はそれだけ言うと再度眠りに就く。不意打ちを食らったように笑うくるみのハンドル操作が狂い左右にフラフラとSUVが揺れ、助手席から抗議の声が飛ぶ。

 

「ちょっ、あーっ! くるみちゃん!」

「すまん、でもそれは……ズルいって……めぐねえがお母さんって、くっ……くくく」

 

 車内にくるみの笑い声が響き渡り、呆れたような顔を美紀と圭が向け、それとなく慈が眠る紫陽花の耳を塞ぐ。窓の外をぼんやりと悠里が眺め、ゆきが地図片手にナビゲートをする。

 

 ──たったの一日で、たくさんの人が死んだ。それでも無情に時間は過ぎて、死人には襲われ、そして人の悪意は尽きないだろう。

 しかして、紫陽花の長いようで短い一日はようやく終わりを迎えた。

 

 ここからが彼女のスタートラインであり、これからが紫陽花の大変な時間の始まりとも言える。だが、車に揺らされながらも眠る、そんな穏やかな時間をほんの少しだけ過ごすくらいならば……きっと許されるのかもしれない。

 

 割れたお面をお守りのように抱き締めながら寝息を立てる紫陽花を見て、佐倉慈は、心の内で少女の細やかな幸を願うのだった。

 

 

 

 

 

『完』

*1
血狂くん「アツゥイ!」



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後日談 前

「──よし、傷は塞がったわね」

「あれからたったの2日で完治って……マジの野性動物みたいだなこいつ」

 

 生徒会室のパイプ椅子に座り、若狭悠里に露出した右足を見せていた古木紫陽花は、そんなツッコミを恵飛須沢くるみに入れられていた。

 

「獣の面を着けていた小娘を野性動物と揶揄するとは、いとをかし」

「くるみっ、失礼でしょ」

「いや、すまんすまん」

「気にしておらんよ、悠里殿」

 

 マチェットを受け止めた足の裏の傷も塞がり、念のためにと包帯が巻き直された足を下ろして来客用のスリッパを履く紫陽花にそう言われ、納得のいかない顔で悠里が返す。

 

「もう、気軽に『お姉ちゃん』で良いのよ?」

「断る……」

「なんで? 頼っても良いのよお姉ちゃんを」

「断る……」

 

 ──ふふ、うふふふふ。と妖しく笑いながら光の灯っていない瞳を向けられる紫陽花が、するりと逃げて対面に座るくるみの後ろに隠れた。

 

「やーい嫌われてやんの」

「……むむむ」

「儂は他人にベタベタされるのは好かん」

 

 頬を膨らませてふてくされる悠里を前に、紫陽花に盾にされながらシャベルを磨くくるみは不敵な笑みを浮かべる。それから生徒会室と廊下を隔てる扉が開かれ、その奥から佐倉慈を筆頭にゆきと美紀、圭が入ってきた。

 

「む……佐倉女史」

「お母さんじゃん」

「──くるみさん!」

「……?」

 

 新しく得たからかう用のネタでさっそくと弄るくるみに慈は声を荒げる。原因であるが意識が朦朧としている時に発した言葉を覚えていない紫陽花は、疑問符を浮かべつつ首を傾げていた。

 

「……ごほん。それはそれとして、紫陽花さん。セーラー服が乾きましたよ」

「そうか、かたじけない」

 

 畳まれた黒い衣服──数日前に着ていたセーラー服を手渡され、()()()の紫陽花はそれを広げて感触を確かめる。

 愛着があるのだろう目尻の緩んだ紫陽花を見ながら、反して洗濯に四苦八苦していた美紀たちは疲れたようにため息をつく。

 

「いやあ、大変でしたね。あの制服と紫陽花ちゃん、返り血を浴びすぎたのか洗っても洗っても汚れが落ちないんですから」

「シャワールームの床一面が真っ赤に染まったときは本気でビビったもんな」

「そうであったか」

 

 気絶している内に洗ってしまおうと親切心を向けたが最後、数時間に及ぶ洗濯大会が開催された事を思い出して、その場の紫陽花を除いた参加者全員が渋い顔をする。

 

 ──そして、おもむろに自身の体操服を掴んで脱ぎ捨てようとする紫陽花をくるみが見た。

 

「では早速」

「──ってあーあーあー! 馬鹿野郎こんなとこで服脱ぐなって!」

「む、む」

「女同士でも恥じらいをだな……」

「なんじゃ……別に減るものは無いぞ。ああ、中指が欠けて体重が少し減ったがの」

「弄りづらいジョークはやめろぉ!!」

 

 

 

 

 

「──ふ、腹筋で負けた……」

「くるみ殿もいい線を行っておるぞ」

 

 着替え終えた紫陽花は、打ちひしがれるくるみを横目に体操着を畳んで長机に置いた。

 見慣れた黒いセーラー服姿の紫陽花が椅子に座り直し、それなら左手をぐっと握り込む。

 その手には包帯が巻かれ、中指があるべき部分がポッカリと空いている。

 

「……まだ握れるかの。ところで儂の刀はどこにある? それとお面を返してほしい」

「あー、えー、その……」

 

 口ごもる慈を見やる紫陽花は、代わりに口を開いた美紀に目線を向ける。

 

「あの刀は隠してあります。助けてくれたことには本当に感謝をしているけど、それでも警戒をしておくに越したことはないので」

「──妥当じゃな、理解はしておる。ならばお面だけでよい。二度は言わんぞ、返せ」

「……アレ、割れたの知ってます?」

「顔面に銃弾を叩き込まれたのだから割れるに決まっておるじゃろ」

 

 くぁ……と小さくあくびを漏らしながらも言い切った紫陽花に、今度は向かいに座っていたゆきが声を出した。その手に握られていたのは、割れた狐のお面の右半分。

 

「じゃん!」

「……紐?」

「そう、また頭に結べるように千切れた紐を接着剤でくっつけたの!」

「……どれ、貸してみろ」

 

 受け取ったそれの断面はヤスリ掛けされたのか滑らかになっており、眼帯のように斜めに接着された紐が伸びていた。

 右側頭部に被せたそれを隣で復活したくるみに押さえてもらいながら、後ろ手に紐を結ぶ。落ちないように固く縛った紐から手を離し、落ちないことを確認して紫陽花は辺りを見渡す。

 

「──でん」

「なんの効果音だよ」

「……ふむ、ううむ……」

「あん? どした」

「──いや、なんでもない」

 

 ──あの獣じみた力をいまいち感じない、と内心で独りごつ。感覚で言えばおおよそ五割。文字通り半分といった所だろうか。

 とは言え、もう必要は無いのだろうかと、燃え尽きた殺意と自殺願望を燻らせながら思う。

 

「……紫陽花さん」

「なんじゃ」

「そろそろ、話してくれませんか」

「何を──と、とぼける必要は無いかの。あまり気分の良い話では無いぞ。代わりに、そちらも隠していることを話せ」

 

 こくりと頷いた慈を見て、それから紫陽花は全てを話した。祖母との不和から一度ここに来たことがあることや、この町の事件に巻き込まれて感染した母親を殺したことまで、その全てを。

 

 そして紫陽花もまた、この一連の事件には原因があることと、その一件に巡ヶ丘の高校が関わっていることを知る。緊急避難マニュアルを読み終わった紫陽花は、目頭を揉みながら呟いた。

 

「──からくり屋敷か何かか」

「言いたいことはわかる」

「発電機に浄水装置……以前ここに見学に来たときから違和感があったが……なるほど確かに、避難所にするには頑丈な出来ではある」

 

 呆れた声色でそう言い、信用に値するとして返された刀の鞘を指でコツコツと小突く。ああそうだ──と呟いて、ふと慈に顔を向ける。

 

「佐倉女史」

「その呼び方は呼び方で、なんだか違和感がありますね……」

「…………ああ、ああ。そうか」

「──紫陽花さん?」

 

 紫陽花が慈の顔をじっと見てから、合点が行ったようにしみじみと息を吐いた。

 

「佐倉女史は、母上に面影が似ておる」

「────え゛」

「……それでな。佐倉女史、儂は行きたいところがある。車を出してほしい」

「えっ、どこに行きたいのですか?」

 

 疑問符を浮かべて首をかしげる慈に、紫陽花は一拍間を置いてから声を出す。

 

「親戚の家じゃ」

 

 

 

 

 

 ──薄暗くなってきた夕焼けを背後に、『大上』という表札が飾られた武家屋敷を前にして、車から降りた慈は紫陽花の後ろ姿を追いかけて門をくぐり敷地の中に入った。

 

「大上……って、確か紫陽花さんの家と関わりのある……紫陽花さんの叔父さんが居る家、だったと記憶しているのですが」

「厳密には叔父ではないし儂も姪ではないが、まあそんな所じゃ。靴は脱がんでいい」

 

 緊急時だからと土足で上がった二人は、不思議なことに荒らされていない部屋を見渡す。

 そして、部屋の隅に置かれた仏壇に向き合い、線香を上げて手を合わせる。

 

「叔父さんの両親は若くに亡くなっておる。じっちゃも……そうか、亡くなっておったか」

「紫陽花さん……」

 

 ──生きていればのう、と呟く紫陽花の背中に哀愁が漂う。そっと背中を撫でると、静かに鼻を啜る音が居間に染み渡っていた。

 

 ──次いで、不意にその肩を跳ねさせて玄関の方へと振り返る。紫陽花は、傍らに置いていた刀を掴んで敵意を露にしていた。

 

「紫陽花さん?」

「誰かが来た。不意を打つからそこに()れ」

 

 言い方は酷いものだが、紫陽花には野生の勘じみた感性がある。

 ()()が"死"を訴えかけてくることは初めてであり、故にこそ、素早く天井の隅に跳躍して張り付くと器用に腰から鞘を抜いて構えた。

 

「あ、あの……!」

「気配は一つじゃ。やつらの生き残りなら即座に首を撥ねる。だからこちらを見るな」

「そんなこと言われても──!!」

 

 ガタ、という音が玄関から聞こえる。閉じた扉をスライドさせる音がして、慈の体が緊張で強張り、どうしてこんな目に……という真っ当な疑問が脳裏を掠めていった。

 

「──おい」

「ひっ」

「こんなところに盗みに来ても、金目のものは無いぞ────」

「────ッ!!」

 

 緊張、敵意、恐怖。

 そんな感情がない交ぜになり、びくりと体を硬直させる慈に男が声を発しながら近付き、半ば反射的に紫陽花はほんの数日前に行ったような人を殺める動きを、()()()()()()これ以上無いほどに滑らかに行う。()()()()()()()

 

 ぐっと足の裏に力を入れ、居間の柱が軋ませた音を聞いたその僅かな時間で紫陽花の存在に気付いた男が、腰に挿していた刀を抜き、紫陽花の体を刀ごとちゃぶ台の奥へと弾き飛ばす。

 

 着地して再度飛び掛かるように斬りかかる紫陽花の刀を弾きながら、男は片手で顔面を掴んで畳に後頭部から叩きつけた。

 

「がっ──」

「物騒な……誰だ、お前たちは」

「っ、ま、待って! ……くだ、さい」

「──貴女は」

 

 男は薄暗い部屋の中で目を凝らして慈を見ると、それから慌てて畳に押さえつけた紫陽花の顔を確認する。そして、小さくため息をついた。

 

「……紫陽花」

「…………おじさん」

 

 

 ──大上 古木あらため、大上 御形。彼は帰宅して早々に、面倒事の気配を察した。




大学編は元気があったら来年書きます。多分きっと恐らくメイビー。


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後日談 後

「──という訳で、卒業生の大上さんです」

「どういうわけで?」

 

 戻ってきた慈と紫陽花の後ろに追従してきた男が、空き教室に招かれる。すっかり暗くなった外を一瞥して視線を戻したくるみたちが、疑問符を浮かべて返した。

 

「えっ、いや、マジで誰だよ」

「ご紹介に預かりました、大上……御形と申します。一応はここの卒業生なので、証拠の当時の生徒手帳がこちらに」

「はあ……それはまあ、ご丁寧に」

 

 名刺でも渡すような動きに、くるみもまた畏まりながら生徒手帳を受けとる。仏頂面の顔写真は、眼前の御形と同じ顔をしていた。

 

「それで、御形……さんは、何でここに?」

「大学から実家に一度戻ったらこの二人が上がり込んでいて、一悶着あってな」

「なんで???」

「夕暮れの薄暗い部屋に他人が居たら、盗人と勘違いするのも仕方あるまい」

「あー……なるほど」

 

 横目でちらりと、()()()()抱えている紫陽花を見て得心がいく。

 手帳を返して、それからくるみはしれっと代表として会話担当を押し付けられていることに気づき小さくため息をついた。

 

「もう夜だけど、まさか今から帰るのか?」

「家がここから近い。朝まで待機して、それから改めて大学に戻るつもりだ」

「さいで」

 

 悪い人ではない。が、男を招き入れるにはいささか抵抗がある。御形もそれを察したのだろう、僅かな罪悪感を胸に、話題を切り替えた。

 

「紫陽花とはどんな関係なんだ?」

「俺の母が紫陽花の家──古木家の出身でな。一応は血の繋がりがある。

 便宜上姪として扱ってはいるが、厳密には母の妹の娘の娘だ、ややこしいだろう?」

「……うーん、すげーな」

「──ほら、紫陽花」

 

 慈の背後に隠れていた紫陽花に手招きをすると、近寄ってきた彼女の頭に手を置く。

 

「お前も、大変だったようだな」

「…………おじさんこそ」

「俺は──そうでもないな。大学では知り合い数人と一緒に籠城している。と言っても、あちらはあちらで厄介なことになっているがな」

「…………どうして?」

 

 一瞬、御形は言うべきかと悩み、それから言葉を選ぶようにゆっくりと語り始める。

 

「手荒な手段を取ってでも生き残ろうとする連中と、追い出され、或いは自ら手を切った連中とで、二つの派閥が出来ているんだ」

「…………手荒、な?」

「ああ。俺は後者の連中と大学の一角で暮らしている。人と人との醜い争いが、生存競争があった。……そういう意味では、ある意味、お前たちは運が良かったな」

「は──ぞっとしないな……」

 

「……あ、あの、大上さん」

 

 おずおずと声を掛ける慈が、その手に冊子を抱えていた。緊急避難マニュアルと書かれているそれを御形に見せると、更に続ける。

 

「そちらの大学に、こういった物が置かれていませんでしたか?」

「それは?」

「……読んでみてください」

 

 マニュアルを渡された御形はそれをパラパラと捲る。内容を理解して眉間に皺を寄せると、片手を口に手を当てて文字通り絶句した。

 

「これは、いや──なるほど。道理で発電機と浄水装置なんてあるわけだ。佐倉先生、この設備は、()()()()()()()()()()

「──!!」

「……ここの電気が生きているなら、この冊子を複製してもらえませんか」

「……あ、コピーですね」

「はい。大学で生き延びている俺の幼馴染が、この手の知識に精通しているので。これを読ませれば専門的な意見を貰えるかと」

 

 マニュアルを返し、御形はそう言う。頷いた慈は、早速と職員室へと向かった。

 

「すぐ、戻りますね!」

「あっ、私も行くー」

 

 慈とゆきが教室を出て、その場にはくるみと紫陽花、悠里、美紀と圭、そして御形が残った。気まずそうな雰囲気が残り、御形に助け船を出すようにくるみが口を開く。

 

「なあ、御形さんも……刀で戦うのか? なんか、凄いよな。カッコいいし」

「『やつら』を斬る以外ではそう滅多に抜かないがな。手入れを怠ると刃毀れしやすくなるし、最悪の場合折れかねない」

「…………ん、おじさんが家に帰ってきてたのも、手入れ用の道具を取りに来たから」

 

 へぇ~、と言って、紫陽花の物とは違う刀をまじまじと観察する。好奇心からかどことなくウズウズしているくるみに、御形が言った。

 

「持ってみるか」

「えっ……い、良いの?」

「気になるのだろう、それに刀の振り方は、お前の得物(シャベル)に応用出来るかもしれん」

 

 傍らに立て掛けられていたシャベルにちらりと目線を向けて、それから紫陽花に預けていた自身の刀を受け取ってくるみに持たせる。

 そう言えば、と口を開き、ふと気になったことを美紀が問い掛けた。

 

「どうして紫陽花さんに自分の刀を?」

「佐倉先生から、ここに居るのは女性だけと聞いていた。紫陽花の知り合いだからと言っても、武器を持った男は恐ろしいだろう」

「……ああ、だから紫陽花ちゃんに預けていたんですね。すみません、配慮してもらってしまったみたいで……」

 

 美紀に続けて言った悠里に、気にするなと片手を振る。改めて刀の鞘を掴むくるみに、持ち方や構え方を教えて行く。

 

「おお……結構ズシッと来るな」

「……そう、腰の横に構えて、鍔を親指で押すんだ。ぐっと力をいれないと、きちんと鞘から抜けないから気を付けろ」

 

 言われた通りにしたくるみは、カチッと音を立てて刀を鞘から押し出す。感心したような歓喜の声を見せ、刀身を僅かに外へ出した。

 

 

「──ああ、そうだ。時に紫陽花、お前……こんなことを言っていたな」

「…………?」

 

 ふと。御形はそう呟いて、横に立つ紫陽花へと語り掛ける。お面を頭に、刀を腰に携えた紫陽花は──ちり、と、嫌な予感を覚えた。

 

「──人を殺した自分は、死ぬべきだと」

「────ッ!!」

「えっ」

 

 御形はくるみが鯉口を切った刀の柄を握り、しゅるりと抜き放ちながら突如として紫陽花に斬りかかった。下から上に掬うように放たれた一閃を、紫陽花は横に体をずらして避ける。

 

「……っ、おい、御形さん!?」

「どうした。何故避けた?」

「…………っ……ふっ、ふっ……」

 

 紫陽花は短く浅く呼吸を繰り返し、頬に冷や汗を垂らして腰の刀に手を添えた。

 御形は逆手に掴んでいた刀を順手に握り直し、切っ先を紫陽花へ向けて更に語る。

 

「お前は自分は死ぬべきだと語ったな。だったら何故、今の一撃を避けた?」

「…………おじ、さん」

「──刀を抜け。剣士として死なせてやる」

「だから待てって、御形さん! 紫陽花!」

「…………くるみ殿」

「──!」

 

 中身を抜かれた鞘だけを握り、背後の壁のシャベルに手を伸ばしながら、くるみは二人に叫ぶ。しかし遮るように紫陽花が言った。

 

「…………手を出すな」

 

 滑らかな動きで腰の刀──血狂を抜き、上段に持ち上げ霞の構えを取る。そして腰を屈めて足に力を入れ、床を踏み砕きながら肉薄。

 右から左への袈裟斬りを弾き、返す刀で放たれた逆袈裟をも弾く。焦る紫陽花は、一旦下がり、直後に再度接近して突きを放つ。

 

「…………っ!!」

「動きが単調だ。もっと緩急をつけろ」

 

 しかし、真っ直ぐ放たれた突きを避けた御形に刀身の峰に足を置かれて動きを止められる。

 

「っ、シィッ──!」

「その膂力にその刀──妖刀の類いか」

 

 無理やり置かれた足をはね除けて、紫陽花は更に血狂を振り上げる。御形の刀とぶつかり、火花が散って、窓側と廊下側の端に下がって動けないくるみたちは静観に徹している。

 

 何もしないのではない。何も出来ないが正しい。剣の腕を磨く者同士の衝突は、町を荒らす悪人や生ける屍とも違う威圧感を放っていた。

 

「────ぁあァ!!」

「刀を、力任せに、振るな……!」

「ぁ、ぐぉっ」

 

 カリカリカリッと刀身が擦れ合い、不快な金属音を奏でる。そしてわざと脱力して紫陽花の勢いを利用すると、つんのめる彼女の襟首を掴んで御形は容赦なく黒板まで投げつけた。

 

「──ぐ、ごほっ……ぉえ」

「……紫陽花。活人剣(かつにんけん)殺人刀(せつじんとう)を知っているか」

 

 肺から空気が抜けてえずく紫陽花に、おもむろに問い掛ける御形。疑問符を浮かべた圭が隣で大人しくしていた美紀に問う。

 

「……って何? 美紀」

「殺人刀は、要するに人を殺す剣のこと。活人剣は……その、人を殺す剣を、人を生かすために振るうこと……って言えばいいのかな」

 

「解説どうも」

 

 ──それで、と言葉を続けて、御形は紫陽花に刀を構えながら問い掛ける。

 

「お前は人を殺したのだろう。それは何の為だ? お前はそもそも……何の為に(それ)を握った?」

「…………それ、は……」

 

 教卓に体重を預けて立ち上がる紫陽花は答えを喉に詰まらせる。紫陽花が剣を握ったのは、母を手に掛けた罪悪感を誤魔化すため。それが悪人退治という大義名分になり、()()()()()くるみたちや美紀たちを助けるに至った。

 

 罪悪感があって、正義感があって、被害者であり加害者で、それらが全てぐちゃぐちゃに混ざって──どうすれば良いのか分からなくなって。そうして、紫陽花は『死』に逃げたのだ。

 

「紫陽花、お前の剣は人を殺したが、しかし彼女たちを守った。生かした。どうしてその結果に目を向けないんだ」

「…………黙れ」

「死は救いではない。ただ終わるだけだ。そして、彼女たちを傷付ける」

「────黙れッ!!」

 

 紫陽花は叫び、ガンッと教卓を蹴り飛ばす。

 血狂がもたらす怪力により簡単に宙を舞う教卓を見て、それから周りを一瞥した御形は、舌を打ってから()()()()()()()()()()()、飛んできた教卓を割るように斬った。

 

「儂は母を殺した! 人を斬った! 結果的にこやつらを助けられたのだとしても、それが人を殺した罪を清算する事にはならん! 

 他ならぬ儂が自分は死ぬべきだと思うことの──何が悪いッ!!」

 

 教卓を真っ二つに切り裂いて、その隙に接近した紫陽花は御形の刀と血狂をぶつけて鍔迫り合いに持ち込む。その体勢から血狂を弾いた御形は、叩き付けられる刀身に刃を折られないようになんとか受け流し、その慟哭をただ清聴する。

 

「……儂はもう、疲れたのだ」

「──お前の言いたいことはわかった」

 

 ボロボロと涙を流しながら、峰に額を叩き付ける勢いで御形に斬りかかる紫陽花。

 彼女は更に弾かれた血狂が手元から落ちて床を転がる様子を見送ると、御形に脇腹を蹴り飛ばされて血狂とは逆方向に床を転がった。

 

「お前は死にたいんじゃない、罰を受けたいだけだ。『紫陽花の行いは許されることじゃないが、死んだのなら仕方がない。もう終わったことだ、許してあげよう』と言われたいだけだ」

 

「それ、は──」

 

 ──そんなわけがない、と否定することが出来なかった。紫陽花は、御形のその言葉をストンと受け入れる事が出来た。図星だからだ。

 

「……じゃあ、終わりにするか」

 

 尻餅をついて座り込む紫陽花の体からは、抵抗する力がするりと抜け落ちていた。

 眼前に立って刀を最上段に構えた御形の纏う気配が強くなり、素人目で見ても、そのまま紫陽花を先程の教卓のように真っ二つにするつもりなのだと察することが出来る。

 

「大上さん、コピー終わりまし、た……」

 

 そこにちょうど冊子のコピーを終えた慈とゆきが戻ってきて、荒れた光景に絶句した。そして、刀が、紫陽花に振り下ろされ────

 

「紫陽花さん!!」

「…………っ」

 

 

 慈の叫びが耳を貫き、半ば無意識に、咄嗟に両腕で頭を防御した。そんな紫陽花の頭上スレスレで、振り下ろされた刀が止められる。

 

 

「…………ぅ、あ、ぇ……?」

「──()()が答えだ、古木 紫陽花」

 

 刀の圧力からぶわりと空気が乱れ、教室の埃が舞う。刀を下げてくるみに歩み寄り、呆然とする彼女から鞘を取り返して納めると、納めたままの切っ先で紫陽花の頭を小突くと言った。

 

「おじさ、えっ、どう……して……」

「……土壇場にこそ、人の本性が出る。お前は確かに罰を受けたくて、その方法に自分が死ぬことを選んだ。しかし、それでも──」

 

 隣に屈んで、頭の上に伸ばされた両腕のうち片方の手を取ると、御形は尚も続ける。

 

「──それでもお前は死にたくなかった。だからそうして防御しようとした。それがお前の本音なんだよ、紫陽花」

「…………儂は、だって……!」

「根本的な話として、そもそも、俺が可愛い姪を斬るわけが無いだろう?」

 

 ──いや本気だっただろ、とくるみが指摘しなかったのは、場の雰囲気を尊重してのこと。せめてもの抗議のつもりでしかめっ面をするくるみや美紀は、紫陽花を妹のように可愛がっている悠里のとてつもない顔を見てぎょっとしていた。

 

「えっ、あの、な……なにが……?」

「……後で話すからちょっと静かに」

「……えっ……えぇ……?」

 

 困惑する慈に、美紀が唇に指を当ててジェスチャーする。視界の端でそんな事をしているのを余所に、御形は紫陽花の頭に手を置く。

 

「──両親が居なくて、お祖父様まで逝ってしまった俺が、どうしてお前を殺さなくてはならない。なあ……死ぬなよ、紫陽花」

「…………おじさん」

「俺にまた、大事な家族の死を受け入れろと言うのか? 頼むから、勘弁してくれ」

「…………ぁ」

 

 緩んだ涙腺が、再び涙を流させる。紫陽花は自分の死が人を傷付ける事の意味を悟り、屈んだ御形に飛び付くようにしがみついた。

 

「────ごめんなさい。ごめん、なさい……儂は……酷い選択を……っ」

「……生きろ、紫陽花。どうせ死ぬのなら、せめて俺より長生きしてくれ」

「…………うん……」

 

 嗚咽を漏らす紫陽花の背中をさすりながらそう言って、御形は彼女に胸を貸す。

 

「大上さん、紫陽花さん……」

「ああ、佐倉先生」

「大上さん……私は、今、流石に本気で怒っているのですが……?」

「……はい」

「いえ、はいではなくて」

 

 紫陽花が泣き止むのを待つ御形と彼女の二人に待ち受けているのが、笑顔のまま行われる慈の説教だったことは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

「──良かったのか、俺をここに泊めて」

「とんでもねぇ荒療治だったことには目を瞑るとして、紫陽花を救ってくれたんだ。もう誰もあんたが悪人とは疑ってないよ」

 

 くるみは、それに、と続ける。

 

「御形さん、さっき教卓を斬ったとき、あたしらにぶつからないか気にしてたろ」

「……はて、そうだったか」

 

 生徒会室の椅子に座る御形は、30分以上続いた説教を正座で聞いていたせいで痺れた足を揉んでいた。紫陽花は泣きつかれたのと、同じく足の痺れが祟って、一足先に眠っている。

 

 出されたコーヒーを啜りながら、御形はコピーされてホッチキスで纏められた冊子の複製を片手間に眺めている。向かいに座るくるみが、疲れたように重く息を吐いた。

 

「……あーでも、りーさんには気を付けた方が良いぞ~。あの人紫陽花にお熱だから、さっきの行動で大分キレてると思うし」

「りー……あの茶髪の少女か。言わんとしていることはわかる、あの子は俺と同じだろうな。恐らく()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……えっ、マジで?」

 

 こくりと頷いて、脳裏に悠里の顔を──紫陽花に執着している暗い瞳を思い出す。

 

「紫陽花に構うということは、姉か妹か。どちらにせよ、あの子は心が壊れそうなのに見ない振りをしている。酷だろうが……現実を受け入れさせた方がいいだろう」

「……そう、か。わかった、これに関してはあたしらがどうにかするよ」

 

 当然だと言わんばかりに、くるみは悠里の──部員の過去を受け止める覚悟を背負う。

 ──この子は苦労するだろうな、と確信めいた予感を胸に秘めて、御形も薄く笑う。

 

「そうしろ。友達なのだろう?」

「そうだな──ああ、そういや、さっき幼馴染が~って言ってたよな。御形さんって、大学ではどんな人たちと暮らしてるんだ?」

「うむ。そうか、知りたいか」

「あっ……これ長くなるやつだ」

「さて……?」

 

 少し考える素振りを見せて、一拍置いてから御形はくるみに向き直りあっけらかんと話す。

 

「──じゃあ先ずは馴れ初めからだな」

「絶対長くなるやつだろ!!」

 

 

 

 

 

 ──翌日、生徒会室の机に突っ伏して熟睡している二人が発見されたのは別の話。



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【ゆっくり】大学編【実況プレイ】
卒業旅行 前


 はーいよーいスタート。まだ誰も挑戦してない大学編の実況プレイはーじまーるよー。

 

 まぞくRTA、地下鉄ぐらし、ステま実況、そして前作こと卒業生チャートRTAおよびバンディット50人斬りRTAをご覧のクソホモの皆さんこんにちは。今回からは完走した高校編の続編である大学編をプレイしてイキたいと思います。

 

 しかし誠に残念ですが、大学編からはRTAではなく通常プレイで遊ばせていただきとうございます。何故なら色々と忙しいからですね、チャートを作る余裕と試走する余裕が無いねんな。

 

 ついでに言うと今回含め3partくらいは高校脱出後から大学に入るまでの間を描写していくので、本格的な大学編プレイはしばらくあとになります。今は単行本で言うと6巻の辺りですね。

 

 そんなわけで行動開始──の前に簡単なキャラ紹介をしておきましょう。なぜか大学編から見始めるホモも居るかもしれません。

 

 

 

 先ずは大人組から行きましょう。最初は本作の主人公こと【大上(おおかみ) 古木(ふるき)】くん。20歳男性、聖イシドロス大学の二年。

 病気でパンデミック前に亡くなった祖父から剣術を教わっており、日本刀片手に暴れ回る生まれてくる時代を間違えた系剣士です。

 

 次はめぐねえこと佐倉慈。原作では1話の時点で亡くなっている高校教師で、ゲーム版ではチョロさを遺憾なく発揮する淫乱ピンクですね。

 

 最後に酒豪ゴスロリことスミコ。大学編でちょろっと話題に出たり最終話でコマの奥の方に居る程度の出番しか無いはずでしたが、本実況ではなぜかメンバー入りしているレアキャラです。

 

 

 お次は原作メンバー。サクサク紹介してゲームを進めたいので巻きで行きます。

 高校編で脱出したのは原作主人公こと丈槍ゆき、原作ではGNめぐねえの幻覚で精神を保とうとしていたやべーやつですが、今回はみんな生きてるのでただの癒し担当。

 

 お次はバイオオーガニックゴリラこと恵飛須沢くるみ、今回は原作通り感染してしまっているので、大学編以降はお荷物になります。

 

 続いて原作ではゆきちゃんの次くらいにやべーやつこと若狭ゆうりと妹のるーちゃん。

 原作では妹を亡くしており大学編からゆきちゃんに代わり頭がどうにかなってしまうキャラですが、本作ではるーちゃんが生きているので特に問題はないでしょう。

 

 最後はある種第二の原作主人公である直樹美紀とMrs.Kこと祠堂圭。RTAでは大体セットで救出される二人ですね。あと太郎丸も居ます。こっちではドッグミー……ジャーマンシェパードではなく豆柴なのでご安心ください。

 

 

 

 今回の実況プレイはこのイカれたメンバーでお送りします。んだらば早速、前回ラストで高校を脱出した辺りのデータから続行しましょう。

 

 ヘリの爆発やらなにやらで駄目になった高校から出発(でっぱつ)して暫く、めぐねえと交代で車を運転している古木くんは、背後のガヤを聞き流しつつそろそろ休憩するかとコンビニに停車。

 

 中の様子を見るべく車を降りた古木くんに、くるみ姉貴とゆきちゃんが手伝いを名乗り出ました。ゆきちゃんはあわよくば漫画を収集したいだけですので店内の掃除でもさせておきましょう。

 ……なんかしれっと着いてきたスミコはどうせバックヤードに酒でも探しに行くつもりでしょうから放っておいて良いです。

 

 作中の10日目から時間があんまり経過していないので古木くんもくるみ姉貴も体のあちこちにガーゼや包帯が巻かれていますが、体力は全快しているので気にせず行きましょう。

 

 投擲用のペグを数本とバールのようなものを装備した古木くんと、シャベルを肩に担いでいるくるみ姉貴で棚の裏やレジの裏を探索し……お、1体居ましたね。はいペグをスコーンと投擲。

 

 大学編からゾンビこと『やつら』の体力や攻撃力も増えてくるのですが、古木くんの筋力の高さや【剣術Lv3(MAX)】と【投擲Lv3(MAX)】などのスキルがあってかめちゃくちゃ楽ですね。

 

 経験値も微妙に増えていますが特に欲しいスキルは無い……というか高校編で習得したスキルだけでランダル編クリアまで行けるビルドなのでないはないでも必要ないって感じです。

 

 まあ、どうせなら感染くるみ姉貴との模擬戦(己の回参照)で習得した【弾き】をカンストさせてみるのも面白いので、あと5ポイントすなわち5レベルは上げましょうかね。*1

 

 とかなんとか言いながら店内の探索を終わらせ、入口付近に戻ってゆきちゃんが行っているお掃除の手伝いをしておきましょう。オラッ! スミコもやれ! ワンカップ大関片手に寛ぐな! 

 

 

 

 ──夜、店内の一角にマットを敷いた即席の布団にみんなが眠った裏で、古木くんは唯一の男なので見張りを兼ねて車に残っています。

 大学編の夜のターンはヒロインの内の誰かと会話をするイベントが挟まりますが……今日は誰が来るかな…………おや。

 

 選ばれたのはめぐねえでした(綾鷹)。てっきりスミコかくるみ姉貴辺りだと思っていましたがさすがゲーム版のチョロインは格が違った。

 

 車の屋根に座っていた古木くんにめぐねえを引っ張り上がらせ、横に座らせます。

 好感度やキャラの性格などで変化する無駄に多彩な選択肢から適当に選んで会話をし、時間を経過させ翌日に備えて古木くんも寝ましょう。

 

 

 続けて翌日。大学目指して頑張(けっぱ)るベーと古木くんがハイエースを走らせていると、助手席のゆきちゃんがウズウズしています。触るなよ? 絶対触るなよ? とダチョウ倶楽部しながらも、マジで余計なところを触られたら困るので、音楽を掛けさせる任務を課しておきましょう。

 

 ──すると、音楽を点けようとしてラジオが起動し、おもむろに音声が聞こえてきました。

 

 エッ……それって……『まだ生きてる人がラジオを流してる』……ってコト!? ということに気付いた辺りで今回はここまで。

 次回はさっそくラジオを流している人の所へ向かいます、ではまた。

 

 

 

 

 

 ──少女らが寝静まった深夜、大上古木が乗ってきた車の屋根の上に座り、ぼんやりと空を見上げている。それからふと、店内から聞こえてきた足音に意識を傾けた。

 

「──古木くん」

「……慈さん」

 

 ぺたぺたとサンダルで地面を踏みながら近づいてくる女性──慈を、古木はぐいっと引っ張り上げる。屋根に並んで座ると、少しの間を空けて慈が古木へと口を開く。

 

「お体の方は、どうですか」

「悪くありません。もう少し体を休めれば、ぎこちなさも消えるでしょう」

「そう、ですか。あまり無理はしないでくださいね、古木くんが回復するまでは、私たちの方でも頑張りますから」

「……貴女こそ無理に戦う必要は無いんですよ」

 

 無理に握り拳を作り自分に喝を入れる慈に、古木はそう言って顔を上へと向ける。

 

「それより、上を見てください」

「えっ? ──わ、ぁ」

 

 話題を切り替えようと、古木は慈の前で指を上に向ける。それに釣られて天を見上げた慈の瞳に、星の海が反射していた。

 ──正に、皮肉にも。パンデミックにより文明の光が失われた街中で、二人は雲一つ無い空に映る星々の煌めきを視界に納める。

 

「あまり殺気立っても良いことはありませんよ。とりあえず今は、星でも見て過ごしませんか」

「──ふふ、そう……ですね」

「────」

 

 慈がそれとなく、古木の肩に頭を置く。

 古木はそれに対して何を言うでもなく──少し困ったように眉をひそめて、無言を貫いた。

 ほんの少し勇気を出した慈の顔が真っ赤であったことは、暗がりゆえに気づいていない。

 

 

 

 

 

 ──翌日の朝、荷物を纏めて車に乗り込んだ古木たち。運転役を買って出た古木を助手席のゆきが眺めていると、段々とウズウズし始める。

 

「触るなよ」

「──さ、サワラナイヨ」

「本当か?」

「……あっ、あーっ、ちょっと変なところ触っちゃいそいだだだだだ!!」

 

 ハンドルに片手を置きながら片手でゆきの手の甲を緩くつねる古木は、小さくため息をついてから妥協案を口にした。

 

「なら、音楽でも掛けてくれ」

「──! ラジャー!」

 

 意気揚々とグローブボックスを開けて中を漁るゆきは、奥の方からCDのケースを見つける。それを入れて早速と再生しようとしたが、彼女は勢いで押したボタンを間違えてラジオを点けた。

 

 

『──ねぇねぇ誰か聞いてる~? こちらは巡ヶ丘ワンワンワン放送局! この世の終わりを生きてるみんなー! 元気か~い?』

 

「……ゆき、今何を入れた?」

「え、これ」

「────」

 

 古木が横目でちらりと確認したCDの内容とは思えないフランクな声色が、続けて聞こえてくる。

 

『聞こえてない人返事してー! なんつって、ノリが悪いぞぉ~! ……まあいいや、そんじゃあワンワンワン放送局、はーじまーるぞー』

 

「──古木くぅん、それはどうやら、公共の電波に乗せられた言葉なようだね」

 

 後ろからひょこりと顔を覗かせたゴシックロリータの衣服を着た女性──スミコが助言する。音楽ではなくラジオが起動されたことを認識して、ぽつりと呟いた。

 

「……生きている人が、居るようだな」

 

 

 

 

 

 

 

『ご清聴ありがとーう。いやほんと、静かだよね。静かすぎ。もうちょっと騒いでもいいぞ~、こちらはワンワンワン放送局」

 

 女性は淡々と、しかして朗らかに語る。

 

『どんなに辛い日々でも、希望と音楽をお届けするよっ! じゃ、また明日!」

 

 女性は音楽を流す。偶然でも繋がったものに、希望を届けられたらと考えて。

 

 

 

「──ゲホッ、ゴホッ」

*1
【弾きLv3(MAX)】になると銃弾も弾けるので、ランダル編終盤で軍人と戦うことになった時に多少楽になります




次→10月21日00時00分(予定)


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卒業旅行 中

 前回の続きはーじまーるよー。今回はワンワンワン放送局を探しに行くところから再開です。

 

 ラジオを付けながら車を走らせていると、時間経過でDJ姉貴が住所を言ってマップにマークが点灯するので、あとはそこを目指して走らせるだけです……と行きたいところさんですが、そうは問屋が卸さないのががっこうぐらし。

 

 パンデミック直後から今に至るまでで乗り捨てられた車浮浪者のおっさん折れた電柱疲れからか不幸にも黒塗りの高級車に追突してしまったワゴン車などが道を塞いでいるため、どうしても迂回しないといけません。*1

 

 だから、助手席のスミコに地図を見てもらう必要があったんですね……ややこしくなるからぐるぐる回すのはやめろぉナイスゥ! 

 

 

 

 ……はい。なんとか大通りに出たので、酔っぱらいの運転のようにジグザグに動いて廃車を避けて通り、休憩がてら別のコンビニに停車。

 本来ならめぐねえの車略してめぐカーなのですが、古木くんたちの乗っているのはハイエースなので余計につっかかるんですよね。*2

 

 コンビニの物色とやつらの確認はくるみ姉貴たちに任せて古木くんには休憩しておいてもらいましょう。……と、るーちゃんが遊んでほしそうにしていますね。

 

 ほーら高い高~い、空中3回転半捻り~というのは無理ですが、るーちゃんやゆきちゃん、太郎丸は癒しキャラというのもあって、こうして古木くんのストレスが癒され……ないなこれ。

 

 そういえば古木くん、『あめのひ』に【快楽主義】を引いて以降ずっと【恐怖】が上がらないけど【ストレス】も常時MAXでした。

 

 治すためにも早く大学いかないとなあとかなんとか考えながらるーちゃんの相手をし、ついでにりーさんとも会話をしておきましょう。

 本実況では穏やかなりーさんですが、原作ではもうこの時点でだいぶ危ういです。

 

 というのも、りーさんは原作だと既にるーちゃんを失っていることもあってか、幼児退行しているゆきちゃんの世話をすることで平静を保っている側面があったんですね。

 

 そのせいで、高校卒業辺りからしっかりし始めたゆきちゃんの世話が出来ない事が原因で今度はこっちが憔悴し始めるという最悪の連鎖が発生してしまうんですよ。

 それが極まった結果、大学編でGNるーちゃんの世話を始める……というのが本来の筋書きです。今回? 何も失ってないからめちゃくちゃメンタル安定してる。SAN80くらいありそう。

 

 ──と、探索組が戻ってきたので休憩終わり。さっさとワンワンワン放送局に行きましょう。

 

 

 

 ここでちょっとDJ姉貴について言及。

 彼女は『がっこうぐらし!』という作品における地味なキーパーソンです。DJ姉貴はシェルターに閉じ籠ってからずっとラジオ放送をしているキャラなのですが、なぜか感染していてやつらになってしまうという謎を残しています。

 この謎はのちに大学編で解明され、世界を救わなくてはならない理由となるんですね。

 

 ちなみにRTAで言うと助ける意味は……んにゃぴ、ぶっちゃけ無いですね。大学編まで進めるなら道中で必ずここに来ますし、高校編だけで終わらせるにしても来るだけタイムロスですし。

 いやあ、流石に、RTA中にDJ姉貴に会いに来る兄貴姉貴なんかおらんやろ。*3

 

 

 ──運転から数十分後、あれ~おかしいねラジオが流れなくなったね~と訝しみながらもそれらしい場所へ到着。まるで初心者の作った豆腐小屋みたいなデザインのシェルターがありました。

 

 中にはもちろん古木くんが行く(アナザー卑劣)。あとは適当に近くに居るやつ……みーくんとくるみ姉貴のいつメンで行きますか。といったところで今回はここまで。

 

 次回、卒業旅行もラスト。お楽しみに。

 

 

 

 

 

 ──梯子を上り、屋上に向かう古木たち三人は、積もった埃に足跡を残しながら歩く。

 

「……お、あれか」

「ハッチとは、厳重ですね」

 

 くるみと美紀がハンドルに手を掛けて回そうとし──錆びているかのように硬い。

 古木が加わり、ようやくギギギと音を立てて回り出して、重い蓋がなんとか開けられた。

 

 中に繋がる梯子を先に降りた古木が周りを警戒し、二人を招く。三人が中に入ると、古木がポツリと呟くように感想を言う。

 

「──まるで潜水艦めいているな」

「シェルター……だとして、やっぱり用意が良すぎますね。まるで世界がこうなることを想定していたような不気味さ、というか」

「おい二人とも、この先っぽいぞ」

 

 狭い廊下のような通路にある扉に目を向け、くるみが二人に伝える。バールとシャベルを構えた美紀たちを手で牽制し、古木は扉の近くで刀の鞘を握りながら口を開く。

 

「扉を開けてくれ、中から誰かが襲ってくるつもりなら俺が対応する」

「……気を付けろよ古木さん」

 

 こくりと頷いて、くるみが代表で扉のノブに手を伸ばし──さっと開け放つ。

 ……しかし、中には誰も居なかった。部屋に顔を覗かせて四隅の死角に目線を辿らせて、それから古木は中に入り、二人も追従する。

 

 室内の棚には様々な楽曲のCD、壁には映画か何かのポスター。机にはコンポーネント、その下にマイクスタンドと音量の調整をするつまみが幾つも備わった機材。

 

 ──そして、一枚の書きなぐったような乱雑で荒々しい書き置きと、入ってきた方とは別の扉から聞こえてくる内側からの引っ掻く音。

 

「っ! ……ふ、古木さん、くるみ先輩」

「……ああ、わかってる」

「──これは……、そうか」

 

 書き置き──否、()()を古木が見る。

 

 

扉を開けるな! 

 

 扉の先には私がいる。なるべく自分で始末をつけるつもりだけど、うまく行くかわからない。

 音がしたらそういうことだと思ってくれ、この手紙を見つけた人にこの家とキーを預ける。

 

 で、あなたと一緒にお茶を飲みたかった。できれば、なたと一緒にここを出たかった。

 

れば

 

「────」

 

 ぐらりと目眩のように視界が揺れる。ほんの数時間前まで生きていたのだろう女性は、きっと自分達のような誰かが来ることを期待していたのだろう。きっと、誰かと面と向かってお喋りする日を楽しみにしていたのだろう。

 

 きっと、きっと──この遺書を書きながら、もっと生きていたいと思っていたのだろう。

 そう考えるだけで、ツンと鼻の奥が、目頭が熱くなる。古木は顔を背け、カリカリと引っ掻く音が鳴り続けている扉に向かいながら言った。

 

「送ってくる」

「……そっか。頼んだ」

 

 古木が置いた遺書を読んで顔をしかめながらくるみは返す。美紀もまた彼女の横から紙を覗き込み、女性の結末を察して口許を押さえた。

 

 

 

 

 

 ──暫くして、外に戻ってきた三人は神妙な面持ちで皆の下に向かう。

 

「古木くん、くるみさん、美紀さん。中は……どうでしたか?」

「────」

 

 古木が首を振り、問いかけた慈は察した様子で、そうですかと一言呟く。

 車のドアを開けて外に体を向けるように座り込んだ古木に代わって、くるみと美紀が中の様子と託されたキャンピングカーの鍵のことを話していると──おもむろにスミコがドアに寄りかかるように背中を預けながら口を開いた。

 

「──背負う必要はあるのかい?」

「あるさ。関わってしまった」

「それは小生たちの一方的な意味であって、彼女は我々のことなど知りもしない」

「……背負うことは、悪いことか?」

「さぁねえ」

 

 肩をすくめるスミコは、だが──と続けて古木の顔を覗き込むように顔を傾ける。

 

「君は少しばかり責任を背負い過ぎる。そのくせ、誰かに分担させようともしない。それで潰れてしまったら、今度は誰が古木くんの行動の責任を背負えばいい?」

 

「──それは、そうだが」

 

「もっとも──その時が来たら、このスミコが君の全てを背負うのもやぶさかではないがね」

 

 そう言って締めくくり、スミコはパチリとウィンクを一つ。面食らったようにしながらも、古木は気分が軽くなったように表情を和らげた。

 

 しかし、それでも、脳裏の片隅には些細だが恐らく無視してはならない問題が過る。

 

「──あの女性は、()()()()()()()()()()()

 

 長らく人の出入りが無かったのだろう、積もった屋上の埃。厳重に外界と隔離されていながら、あの女性は感染し、発症していた。彼女を()()()()古木は、少なくとも見えるところに噛み傷や引っ掻き傷は無かったと断言できる。

 

「……まさかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

「めぐねえに足りないのってああいうところだよな。ヘタレっつーかパワー不足っつーか」

 

「で、でも……昨日ちょっと……肩に頭を……預けてみたり? しましたけどぉ!?」

 

「そこはキスまで行きましょうよ……肩に頭とかそんなの誰でも出来ますよ」

 

「うっ」

 

「……えっ? もしかしてめぐねえ、まだ古木さんになにもしてないんですか?」

 

「うっ」

 

「めぐねえ! ファイトだよっ!」

 

「……ゆきちゃんの優しさが……辛い……!」

*1
モンハンの運搬クエスト定期

*2
モルカーかよ

*3
多方面に喧嘩を売るな




次→10月28日00時00分(予定)


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卒業旅行 後

 前回の続きはーじまーるよー。今回はキャンピングカーを入手した所から再開です。

 

 ハイエースとキャンピングカーで物資運搬量も運べる人数も倍になりましたね。

 ぶっちゃけ車2台で日本一周旅行編でもやれるんじゃないかってレベルの重装備なんですが、それやると核発射(人は過ちを繰り返す)エンドになるので……。

 

 これでは人が住めなくなる! 核の冬が来るぞ! に展開が転ぶと……んにゃぴ……作品がFalloutになっちゃうからね、仕方ないね。*1

 

 

 そんなこんなで発進。ハイエースに古木くんとスミコとくるみ姉貴とみーくんが乗り込んで先行し、後ろではゆきちゃんとりーさんとるーちゃんと圭と太郎丸が乗っており、めぐねえがキャンピングカーを運転しています。

 

 今頃は備え付けられたトイレを堪能したゆきちゃんが「水洗最高──!」と言っている頃でしょう。ま!はしたないですわよ(フレン)

 

 そんで相も変わらず大学目指してバクシンバクシ──ンしてる古木くんたちですが、どうやら女性陣は匂いが気になるご様子。

 じゃあ今日の車中泊は川沿いでやるとするか、しょうがねえなあ(サイヤ人)

 

 んだらばパパパッと周囲を警戒して、停車。キャンピングカーの方で着替えたらしいゆきちゃんとくるみ姉貴と圭……とおまけにスミコが水着姿になって川に突撃(にほんへ)するも、今の時期では川の水は冷たいので普通に凍りかけます。

 

 四人できららジャンプして川に飛び込んで、数秒後にはシワシワのピカチュウみたいな足取りで戻ってきましたね。沸かした白湯を啜るゆきちゃんたちをよそに、しかし、くるみ姉貴はなーぜーかーピンピンしていました。

 

 なんでやろなあ……とかすっとぼけつつ、一緒に冷水で服を手でもみ洗いします。

 川に洗剤混じりの水を流すのは環境破壊(デデデ陛下)なので……リアルではやめようね! 

 

 古木くんの良心ロールプレイも兼ねて、洗剤水は排水溝の方に流しておきましょう。あとは服の水気を絞ったらキャンピングカーの中にでも干します。くるみ姉貴の怪力で制服がギチギチ言ってましたがまあ、大丈夫やろ。

 

 ちなみに男キャラで女物の服を触ると好感度が低い場合はいわゆる『パパは私の服触らないでよ!』的なアレになりますが、古木くんは全員からの好感度が平均以上なので大丈夫です。

 

 流石に下着は恥ずかしがられますがね、ともあれ制服を干しちゃいます。おや、めぐねえとスミコの下着……うわあすげぇデザイン。*2……*3

 

 ……うるせえ! 田舎少年はスケベな事しか考えないのか(呆れ)。それではやること終わったので夜まで倍速、今日も誰かヒロイン候補とお喋り……とはならず、川辺で寝泊まりしたことで原作通りのイベントが発生します。

 

 ハイエースの方で寝ていた古木くんが開眼!(ゴースト)して目を覚ますと、外で誰かが住宅街の方に歩いて行くのを視認します。みーくんはキャンピングカーの方で寝ており、こちらにはスミコと古木くんしかおりません。

 

 音も無く運転席のドアを開け……視線ッ! 

 

 ……助手席で寝ているスミコに(がめん)を向けると──目が合いました。怖すぎで草。

 5秒ほど視線が交わりますが……すっとまぶたが閉じられましたね。ゆ、許された。

 

 では改めて出発(でっぱつ)。くるみ姉貴を追いかけて住宅街に向かうと、そこではなんと、くるみ姉貴をスルーする『やつら』の姿がありました。

 

 そう、実はくるみ姉貴は感染を克服したのではなく、進行が遅れているだけなんですね。着実にやつらに近づいているせいで、今のくるみ姉貴は仲間認定されスルーされているのです。

 

 だから、近づいてきた古木くんには反応して襲いかかってくるんですね。……レッドファイ! 

 

 うっかり日本刀を持って来なかったので、手癖で持ってたペグ数本とその辺の鉄パイプでどうにかしましょう。くるみ姉貴が驚きながらも参戦するので……纏めてタイマン張らせてもらうぜ! 

 

 

 ──まあ、カットしますがね。これRTAじゃないし、普通に楽勝なので。

 そこそこの経験値をゲットしたので戻り、汚れた服を改めて洗い直します。

 

 ペグも洗って汚れを落としておきます。

 ついでに古木くんがくるみ姉貴の顔の汚れを手で拭うと、恐らく死人じみたひんやり触感を味わうでしょう。(つめ)てえ……(AtoZの左翔太郎)*4

 

 などといったところで、夜間のお散歩がめぐねえとりーさんにバレたところで今回はここまで。とほほーお説教はこりごりだよーとなりつつ、次回から本格的に大学編開始です。お楽しみに。

 

 

 

 

 

 ──深夜の車内で、パチリと古木のまぶたが開けられる。なにか嫌な予感とでも言うべき感覚に突き動かされ、窓の外に目を向けると。

 

「……くるみ?」

 

 キャンピングカーで寝ている筈だったくるみが、あろうことかシャベルを手に住宅街へと向かっていた。小さくため息をついてから運転席のドアを開けようとした古木は──隣から視線を感じて、おもむろに顔をそちらへと動かす。

 

「…………」

「────」

 

 ふと、こちらを見やるスミコの爛々とした瞳と視線が交わった。さしもの古木ですら僅かに動揺して肩を跳ねさせ、それから、彼女は何も言わずにまぶたをそっと閉じる。

 見逃されたのか、と脳裏で思案して、古木は静かにドアを開けて住宅街へと駆けて行く。

 

 咄嗟の行動で刀を後部座席に置き忘れたが、投擲用のペグはベルトに挟まっている。

 なんとかなるか──と思考した古木の眼前に、制服を着たくるみの背中が映った。

 

「くるみ」

「っ──!? ばっ、ちょ、来るな」

「──どうなっている……」

 

 驚きながら振り返ったくるみ。

 それもそうだろう、なぜならくるみは、感染した連中の真ん中に立っていたのだから。

 

 自分には反応しない『やつら』が、追い付いた古木には反応する。その光景に古木とくるみはそれぞれ違う意味合いで驚愕しつつ、双方で得物を構える。足元を転がっていた鉄パイプをつま先で蹴り上げてその手に握りながら、一言。

 

「……今はこいつらを」

「────、ああ。わかってる」

 

 

 

 

 

 ──ざばざばと、川の冷水でくるみは制服を洗う。安物のシャツとジャージを着ているその傍らで、古木はペグの先端から半ばにかけての血を水に浸してから雑巾で拭っていた。

 

「くるみ。頬に血が」

「わりい、拭いてくれ」

「ああ……、っ──!」

 

 水で濡れた指で血を取ろうとして頬に手を伸ばす古木は、指に伝わる、くるみの異様な冷たさに声に出さずとも目を見開いて動揺する。

 

「……薬は、効かなかったのか」

「効いてるから、こうやって生きてるんだろ? 古木さんは心配しすぎだって」

「するさ。……させてくれ」

「……ん」

 

 わかった。と続けて、くるみは古木の肩に額を置く。気心の知れた猫のような甘え方に古木は口角を緩めて────背後の悪寒に反射的に首を傾けて視線を辿らせる。遅れてくるみもまたそちらへと顔を向け、そして表情が固くなった。

 

「くーるーみー?」

「古木くん……?」

 

「ひぇっ」

「……、スミコか」

 

 そこに立っていたのは、怒りを取り繕おうとするも笑顔が痙攣している悠里と、逆に美しいまでの笑顔で古木を見下ろす慈だった。

 ちらりと視線をハイエースの方に動かせば、助手席で優雅にお湯で溶いたココアを啜りながらも、こちらを見てにこやかに手を振るスミコの姿がある。ちゃっかりしている、と独りごちて、古木はくるみと顔を見合わせて小声で笑った。

 

「くくっ……やられたな」

「はははっ、スミコさんにチクられたのか」

 

 お説教大会が開催された川辺で、どこか懐かしさを覚えながらも、古木はくるみ共々悠里と慈の言葉を大人しく聞き入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし……この歳で説教されたのは初めてですよ、慈さんはどこか、母親のようだ」

 

 古木の無慈悲かつ無自覚な何気ない言葉に、慈は、胸を押さえて背中から芝生に倒れた。

 

「うぐぅ──っ!!?」

「め、めぐねえ──っ!!」

「…………むごい……」

 

「……? な、なぜ……?」

*1
セリフは逆シャアなんだよなあ

*2
モザイク外せコラ!

*3
表現の自由はどうした!

*4
細かすぎて伝わらないやつやめろ




次→11月4日00時00分(予定)


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一時限目 朝

 なんで続編を作っちゃったんだ……な前人未到の大学編はーじまーるよー。失踪したい(本音)

 

 前回はバイオゴリラことくるみ姉貴の感染が治っていないことが判明したところで終わりましたね。今回からは新たな舞台、『これ高校編とランダル編の間に急遽挟まった話だよね』と噂の聖イシドロス大学から再開です。

 

 本来ならこの時点でGNめぐねえと部活ごっこをしていたゆきちゃんの幼児退行が治ってくるのと、小学生の『やつら』とエンカウントしたことで、本格的にりーさんのメンタルが壊れちゃ^~う寸前まで行ってる筈なんですよね。

 

 小学校に行くイベントを経て今度はりーさんがGNるーちゃんと姉妹ごっこを始める……というのが大学編で乗り越える課題の一つなんですが────高校編RTAの時にフラグ全部へし折ったので単行本6巻の半分が消し飛びました。

 

 

 

 ……はい。古木くんとスミコの第2の母校であるイシドロス大学も、今では無惨な姿になっています。ショーモン……正門も塞がれており、壁に梯子が立て掛けられていますね。*1……*2

 

 んだらば偵察にイキましょう。メンバーはいつもの古木くんとくるみ姉貴とみーくんです。

 ハンバーガーにコーラくらいの鉄板パーティと化していますが、戦力的にこの三人で十分すぎるんですよね。他が弱すぎるとも言えます。

 

 ちなみに古木くんと同級生であるスミコを連れていかないのは、テストプレイの時に10回中10回スミコが射られたからです。

 普段から言動と行動がアッパラパーだからだと思うんですけど(名推理)。私が武闘派だったら躊躇い無く撃ちますよそりゃあねえ。

 

 

 とか言いつつ行動開始。みんなも忘れてると思いますが、古木くんはジャンプ力強化+落下ダメージ軽減が複合された人権スキル【跳躍】を持っているので、壁くらいは余裕で乗り越えます。

 

 古木くんを操作して、先に壁の上に登ってから二人を引っ張りあげましょう。

 ヒロインのパンチラを拝みたい田舎少年がプレイするときは、警戒しておくとかそれらしい言い訳をして最後に上るといいと思います。

 

 先んじて降りて辺りを見渡し、二人が降りてくると、フラグの進行でイベントが発生。

 草むらから拡声器で、こちらに動くな!(イシドロス板倉)と警告してくる声が。

 

 持ってるものを捨てろと言われるので、大人しく古木くんの装備から刀を外して地面に置きます。横ではくるみ姉貴とみーくんがシャベルやバールのようなものを置いていますが…………あ、ベルトのペグを仕舞うの忘れてた。

 

 どうやら向こうにとっては言うことを聞かなかった判定になるようで、容赦なく撃ってきましたね。フン、カスが効かねえんだよ! ──二指真空把ァ! とタイミングよくボウガンの矢をキャッチして、その辺に投げ捨てます。*3

 

 向こうもドン引きしてますが横の二人もまあまあ引き気味だからいい勝負してますよ。

 あとはパパッと会話イベントを挟んで装備を広い素直にこの場をあとにします。

 

 ──古木くんって大学生だし向こうも知ってるのでは? とお思いのホモも居るでしょうが、よくも悪くも目立つスミコはともかくとして、古木くんは別に大学で暴れてるわけでもないから、そんな皆が皆知ってるとかではないです。

 

 なので、武闘派のホモ達も知ってるかどうかは運です。今回のデータでは知らないみたいなので中吉ですかね、それではアイウィル撤収。

 

 ではハイエースとキャンピングカーを停めている所に戻って情報共有しましょう。

 やっぱり話し合いした方が良いよなぁ~という方向性になるので、じゃあ誰が行くかという流れになるのですが……同じ大学生ということもあって、余計な警戒心を呷るだろうということで古木くんとついでにスミコは却下。

 

 ゆきちゃんと圭はトロいしめぐねえは論外だしりーさんに何かあったらるーちゃんが悲しむので、今度はくるみ姉貴とみーくんの二人だけで行くことになります。

 

 ブラック企業も真っ青な酷使具合ですが、わりと真面目に、RTA・通常プレイ問わずこの二人が使いやすいのも悪いんですよ。まあゾンビアポカリプスには家庭的なスキルも必要なので、戦えれば良いというわけでもないのですが。

 

 

 

 そんなこんなで改めて二人に行かせます。暫くすると『みんなー』のAAみたいな動きの武闘派コンビに追いかけられながら戻ってくるので、スミコにハイエースを運転させてめぐねえにキャンピングカーを動かしてもらいます。

 

 ……はい、二人が乗り込んだのを確認して逃走。向こうも負けじと車を出して追ってくるので、ちょっとしたカーチェイスになりますね。

 では、おもむろにキャンピングカーの天井から外に出て車を確認して──ペグを投擲します。

 

 タイヤを狙ってスリップさせれば武闘派の後々死ぬやつと最終的に死ぬやつを今殺せますが、今回はRTAじゃないし穏健派の好感度がぶっちぎりで低下するのでやめましょう。どのルートでも死ぬくせに厄介な連中だよ君らは。

 

 そいだば動きを止めるために、フロントガラスの真ん中を狙って弱めに……弱めに……ヨシ! 流石にペグがフロントガラスにぶっ刺さってる状態でも追い掛けてくるほど殺気立ってるわけでもないので、武闘派たちも車を止めました。

 

 ペッ、甘ちゃんが! と吐き捨てつつキャンピングカーの中に戻ります。

 そんなことをしている裏で時間経過のイベントが発生していたようで、謎の音声をラジオが受信していました。女性の声で『裏門に来い』とお誘いされたのでホイホイ乗っかりましょう。

 

 先行しているハイエースの方でもラジオを聞いたのか、キャンピングカー共々裏門に向かってくれていますね。などといったところで今回はここまで。次回、自堕落同好会。お楽しみに。

 

 

 

 

 

 ──急発進するキャンピングカーの中で、慣性によって体が傾く古木は、たたらを踏んだ美紀の肩を支えて倒れないようにする。

 

「っ、ありがとうございます」

「ああ」

「……あれ、ゆきと圭とるーちゃんはどこ行った? もしかしてハイエースの方か?」

 

 キョロキョロと車内を見回すくるみが小脇に太郎丸を抱えて言うと、突然の行動とはいえなんとかハンドルを握る慈の横で悠里が返答した。

 

「ええ。すぐに車を出さないといけないとなったときに、近くに居た二人とるーちゃんをスミコさんが引っ張り込んでいたのを見たわ」

 

「なら大丈夫だろう、俺は少し上に出る」

 

「は?」

「なんて?」

 

 刀をキャンピングカーに備え付けられたソファに置いて、天窓を開けながらそう言った古木に、くるみと美紀はすっとんきょうな声を出す。

 

「先の矢も俺だから止められたが、二人に向いていたらどうなっていた? それに、連中の縄張りに踏み込んだ俺たちも悪いが、それにしたって車で追いかけてくるとはやりすぎだな。だから、少しばかりお灸を据える」

 

「…………なるほど」

 

 何か上手い返しで古木を止めようとしたくるみだったが、その前に外に出ていったためそれ以上何も言えなかった。

 

「……タイヤパンクさせたりしないよな」

「流石にしないと思いますよ…………多分」

 

 

 キャンピングカーの天井で片膝を突いて座り、古木はベルトから金属製のペグを取り出す。

 ()()()()()()()タイヤか運転手に当てる事は出来るが、古木としても『やつら』でないならば対話もせずに殺すのは忍びないと考えている。

 

 ゆえに、わざとフロントガラスの真ん中を狙う。タイヤでもなく運転手でもないが、当てることは出来るぞと、威嚇するために。

 

 

「すぅ────、ふっ」

 

 

 息を吸い、吐きながら腕をしならせる。

『投げる』という動作は、なにも腕だけで行うものではない。不安定な体勢でも腰から肩、腕と力を伝達して、それからペグの着弾地点を予想してやや手前に投げた。

 

 ──ドッ、と鈍い音を奏でて、ペグは丁度フロントガラスの真ん中、運転席と助手席の中間に突き刺さっていた。追い掛けてきていた車は急停車し、キャンピングカーはどんどん距離を空けて行く。中に戻った古木が車内に着地すると、後ろの窓から車が停まる様子を見ていたくるみ達が振り返って彼を見る。

 

「古木さん……殺っちまったのか?」

「お前は俺をなんだと思ってるんだ」

「あだっ」

 

 おずおずと問い掛けたくるみに、古木はため息をこぼしながらデコピンで返した。そうしていると、おもむろにラジオが電波を受信する。

 

「──! ふ、古木くんっ、皆さん!」

「慈さん、どうしました」

「ラジオが音を……」

 

 運転席に向かった古木達が、慈の言うとおりにラジオに注目する。代表して悠里がダイヤルを回してチャンネルを合わせると、ノイズが鮮明になり、若い女性の声が聞こえてきた。

 

『ねえ、ハイエースとキャンピングカーの人~。聞こえてるー? 聞こえてたら裏門に来てくれない? 待ってるよー』

 

「……裏門か」

「古木くん、どちらに行けば?」

「次の角を右……いや、スミコがこれを聞いているならそちらに向かうはずなので、着いていってください。──無線でもあればな」

「車が2つだと、連絡が難しいですよね……」

 

 慈は古木と会話をしつつ、前を走るハイエースの動きに合わせて右へ左へと曲がる。

 門のある所へと出た車2台を迎え入れたのは、古木と年代の近い三人の女性だった。

 

「お疲れ様、大変だったっしょ」

「……あの、貴女方は?」

 

 ハイエースとキャンピングカーを並べて停めて、古木を先頭に慈達が表に出ると、門を閉めた女性が待っていた。古木の背後から顔を覗かせて問い掛ける慈に、女性たちは困ったように返す。

 

「うーん、生き残り?」

「違うっしょ。アタシたちはさっきの車のグループとは別の……派閥? 的な」

「そそ、武闘派の連中とはどうもねぇ~、合わないっていうかさ」

 

 飄々と語る眼鏡をかけた女性と派手な雰囲気だがフランクな女性、そして内向的なのか無口な女性と、それぞれが古木の横に集まっていたくるみたち高校組を見やり、それから眼鏡の女性が一歩近づくと、ニッと笑いこう言った。

 

「そんなわけで、ようこそ聖イシドロス大学へ」

「──あっ、私は巡ヶ丘高校の教師をしている、佐倉慈です。これからお世話になります」

「おー先生かぁ、こっちはもうそういうの居ないから新鮮だなあ」

 

 珍しいものでも見るように慈を観察する女性。恥ずかしさが勝ったのか、慈は古木に目線を送り──古木が代わって女性に対応する。

 

「……出口、あまりジロジロ見るな」

「おっとゴメンゴメン、ほら……もう女教師って属性だけで色々と盛り上がるから」

 

 古木が女性の名前らしい言葉を放つと、ピシリと慈が固まる。──知り合いなんですか? そう問い掛けるよりも早く、出口と呼ばれた女性は、感極まったように古木へと抱き付いた。

 

「──()ぃっ! 生きてて良かったぁ!」

()()、だ。発音に気を付けろ」

 

「ヌッッッッッ────」

「めぐねえ? めぐ……し、死んでる……」

*1
テ、テイオーさん……(スペ)

*2
マチガエテヤッタダケダモォン!

*3
ボウガンの初速って秒速100mくらいなんですけど……




次→11月11日00時00分(予定)


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一時限目 昼

 武闘派壊滅RTAな大学編はーじまーるよー。

 

 前回は聖イシドロス大学にて二つに別れた派閥の一つ、穏健派の方々と出会ったところで終わりましたね。今回はその続きからです。三人は……どういう集まりなんだっけ? 

 

 そんなわけで大学のとある個室へと案内されました。ボクっ娘メガネ曰く、サークルにようこそ~とのこと。最初は『自堕落同好会』とか呼んでたけど最終的にサークルになったらしいです。

 

 中は……彼女の自室なようで、なんかこう汚な……掃除しがいのあるお部屋でした。

 メガネの部屋ではなんとゲームで遊べるらしく、早速とくるみ姉貴がイカがナワバリバトルするアレで遊ぼうとしています。

 

 ……楽しそうなところ悪いんですが、話を進めたいので電源をオフッさせてもらいます。*1

 

 メガネは大学の電気が生きていることを自慢しますが……高校も電気点くし水道生きてるしでドヤ顔も丸つぶれですね。

 とはいえシャワーを浴びる機会が高校脱出以降無かったので、温水を浴びることが出来るのはいいのでは? (適当)

 

 

 ──それはそれとして、改めて別のお部屋に集まって自己紹介となりました。

 

 ボクっ娘丸メガネがサークル代表の出口(でぐち) 桐子(とうこ)、24時間耐久でゲームをやったり映画を見たりと楽しいことが好きなオタクちゃんです。

 

 お次はギャルっぽい雰囲気の明るいお姉さん、彼女は光里(ひかりざと) (あき)。あとでわかりますが元武闘派の所属だった人です。

 

 最後が内気っぽい感じの喜来(きらい) 比嘉子(ひかこ)、冷静に見返すと作中トップクラスにドスケベなデザインをしているエンジニアです。*2

 

 そんでもってこちらも自己紹介。俺が鎧の巨人で、こいつが超大型巨人ってやつだ……この自己紹介はステまの方でやったので割愛。

 

 ……と、どうやら穏健派のうち、桐子と比嘉子は古木くんのことを知っているようですね。友好度も結構高いな……。キャラ設定の段階で勝手に決まるバックボーンによって、二人は古木くんに良い感情を抱いているのでしょう。

 

 ついでに桐子とスミコも顔見知りらしいっすね。まあ片やオタク、片や中二病。相性も悪くなさそうだし、原作でもサークルのノートでよくお話ししてますしね。

 

 

 

 自己紹介も終えると、晶から高校での生活について聞かれるので、ここで緊急避難マニュアルを読ませましょう。高校編で読むとストレスが上がる魔導書ですが、生活水準が他より安定している大学編で穏健派トリオに読ませる場合はそこまで気にしなくて大丈夫です。

 

 逆にこちらからも今までどうやって生活していたのかを聞き返しましょう。武闘派も悪いやつらじゃないんだけどね~と擁護する桐子の話では、大学も最初は電気なんかが無く、人がどんどん犠牲になっていってヤバかったそうです。

 

 そこで規律第一で仕切り始めたのが武闘派なんだとか。戦える人間は優遇するけど怪我をしたら…………という厳しい所みたいですね。そんなんだから残存してるメンバー5人しか残らなかったんじゃないの? というマジレスはNG。

 

 ──この話、原作ではパンデミックから数ヶ月経ってるから悲惨さが垣間見えるけど、ゲーム版だとほんの十数日で壊滅した間抜けなグループになるんですよね。

 

 それに大学編に教師が登場しないのもまあまあ謎ですが、めぐねえレベルの人気キャラになるか死ぬかのどちらかだろうし、その代役ならあの人が居ますし、まあいいでしょう(マスロゴ)

 

 そんなこんなで嫌気が差して武闘派から離れたあと、いよいよ食料や水が無くなりかけた頃に比嘉子が非常用電源を見つけて使えるようにしてくれたのだとか。そのお陰で地下の食料庫も見つかったそう、はえーすっごい有能……。

 

 ──とまあ、水も食料も電気もどうにかなって、ゲームをする余裕も生まれたということですね。

 その余裕にあやかって武闘派も休めばいいのに……とゆきちゃんや圭が語りますが、そう簡単に始めたことは曲げられませんからねぇ。

 biimシステムRTAの投稿を始めたが最後、完結を義務付けられるようなもんです。

 

 

 とかなんとか言いつつ、時間も経過し夜。穏健派のテリトリーにある個室を賜った高校組とめぐねえ、スミコ、古木くんはお部屋で休みます。そんなわけで初日が終了した辺りで今回はここまで──なわけねーだろぉい!!(修造)

 

 大学に来た古木くんがやらなければならないことがまだ一つ残ってるでしょうが! ……そうだね、幼馴染の勧誘だね! 

 勧誘イベントは来週に回すので、大学編初日はもうちょっとだけ続くんじゃ。ではまた。

 

 

 

 

 

 ──夜も更けてきた頃、聖イシドロス大学の一角、穏健派のテリトリーである個室の一つにノックの音が響いた。部屋の主こと出口桐子は、遠慮無く開けられた扉の奥から顔を覗かせる晶と比嘉子、そして──慈とスミコを見る。

 

 その手には、酒と菓子が握られていた。

 

 

 

 それから一時間と経たずに宴会場と化した桐子の部屋で、正座をしながら握られたコップに注がれている酒を呑み進める慈が、おもむろに口を開くと桐子に問いかけた。

 

「…………ところでその、出口さん?」

「んー、トーコでいいですよ。なんですか?」

「いえ……古木くんとは、どういった関係なのかな~と。ほら、裏門で会ったとき、嬉しそうに………………抱きついてましたよね」

「ヒエッ」

 

 一拍置いて続けられた言葉だけが、氷点下のように冷えきっていた。酔っぱらいの戯言と切り捨てようにも、晶、比嘉子、スミコも気になっているのか、爛々とした視線がぶつかる。

 

「……あ~~~、いやあまあ。生きてて良かったー! ってなって勢いでやっただけだよ。てゆーか狼のことは人として好きってだけだし。

 ……それを言うならヒカもでしょ、お熱い視線をチラチラ向けてたじゃん」

 

「……私も、トーコと同じ。あの人は……私の鈍くささを馬鹿にしないから」

 

 もごもごと言い淀み、誤魔化すように比嘉子は酒を呷る。ふと、桐子の古木の呼び方に違和感を覚えた慈は、更に質問を飛ばした。

 

「……狼? 大上、では?」

「そりゃ狼は大上でしょ。……ああ、この辺はスミコのが詳しいよ。──あ、やべっ」

「ふむ……古木くんの名字の話だね。彼の名字の【大上】は、元は動物の【狼】だったと言われているんだ。その理由は戦国の時に活躍していた武人、或いは忍の名を時代の変化に伴い世に残さないようにした──という説がある」

 

 酒が回って舌が滑らかに動くようになったスミコが、空の酒瓶をマイク代わりに使い、立ち上がりながら演説のように話始める。

 

「なんかこの人急に饒舌になったんだけど……トーコ、トーコ? この人なんなの?」

「スミコは…………なんだろう、ボクもこの人のことよくわかんないんだよね」

 

「古い歴史書には【狼】と名乗る凄まじく腕の立つ忍が居たとされ、また別の歴史書には【狼】という名前の武将が居たともされている。

 真偽はどうあれ、古木くんの家系は武家の繋がりがあるんだ、とどのつまり……、……? 何の話をしていたのだったか。ああそうだ、世界の名酒についてだったね」

 

「全然違いますよ?」

「……トーコの同類、ってこと?」

「まあ、そんな感じ」

 

 酔いから色白の肌を朱に染めているスミコは、ふらふらと室内を歩き、やがて壁に額をぶつけながら誰に言うでもなく会話を再開していた。

 

「──そんで、佐倉せんせは愛しの狼に告らないの?」

「いいい愛しの!?!?」

「トーコじゃないにしても、たぶんみんなわかってますよ。ねえヒカ?」

「……うん、先生、わかりやすい」

 

 スミコとは違う理由で顔全体を茹でられたように真っ赤に染める慈を見て、三人はおもちゃを見つけたように口角を緩める。そんな折、ふと、慈は影も形もないくだんの相手を思い出す。

 

「──あの、ところで古木くんはどこに?」

「さあ……? もう寝てるんじゃない?」

 

 首をかしげる桐子に、慈も釣られて首をかしげる。──届きそうで届かない慈の恋路が更に遠退くことを、本人はまだ知らない。

 

 

 

 

 

 ──同時刻、トイレから戻ったくるみを、廊下に立っていた古木が見つける。

 

「くるみ」

「お、古木さん。どしたん?」

「少し、付き合ってもらいたくてな。部屋に行っても居ないから、探す手間が省けた」

「ああ(わり)い、部屋が広くて落ち着かなくてさ、ゆきの部屋でみんなで雑魚寝してたんだ」

「そうか」

 

 与えられた部屋に居なかった理由が可愛い気のあるモノで、古木は小さく笑みをこぼす。

 それから手元に畳んでいたコートを投げ渡すと、外に繋がっている方に指を向けた。

 

「行くぞ。夜は寒いからそれを羽織れ」

「いいけど……どこに?」

「幼馴染を誘いにいく」

「マジ? それを先に言えよ」

 

 年頃の乙女は、その手の人間関係に敏感である。乗り気になったくるみを連れて、古木は、理学棟にいるだろう幼馴染の元に向かうのだった。

*1
side:DIYUSIをすこれ

*2
一人だけ紹介酷くない? 




次→11月18日00時00分(予定)


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一時限目 夜

※小説パートのみ


「──くるみ、寒くないか」

「いや、そんな寒くねえな。古木さんこそ薄着で寒くないのか?」

「……鍛え方が違うからな」

「あんたの場合本当に違うんだよなぁ」

 

 非常用の最低限の明かりだけが灯った、大学内の道を歩く古木とくるみは、それぞれが手元に冊子とシャベルを握っていた。

 腰に刀を吊るしている古木は、勝手知ったる鋪装された道を先行し、その背後からくるみが質問を投げ掛けてくる。

 

「というか、古木さんの幼馴染の──」

青襲(あおそい)だ。青襲 椎子(しいこ)

「そう、青襲さん。その人生きてんの?」

 

 くるみは根本的な疑問を古木にぶつける。パンデミック発生からたかが半月とはいえ、その半月でほぼ全滅状態の大学校内に、そう都合よく知り合いが生き残っているものなのか……と。

 

 事実として古木を知っている人物は居たが、それはあくまでも偶然。狙った人物が狙った場所に居るかどうかは、わからない。

 

「生きている」

「へ?」

「でなければ、大学(ここ)に来た意味がない」

「────おぉう」

 

 あっけらかんとそう言って、古木は歩みを進める。えげつないものを見てしまったかのような表情を作るくるみの気配を感じ取ったのか、振り返ると眉を潜めながら続けた。

 

「……ここに来るためにお前たちを利用した、という意味ではないからな」

「いやまあ、そこを疑った訳じゃないけど」

「そもそも大学に戻るだけなら、街がこうなった最初の日の時点で可能だった」

「でしょうね」

 

 ──とどのつまり、自分がいなくても幼馴染は生き残れるはずだと、そう考えていたから古木は巡ヶ丘高校に残ったのだ。

 

「重てぇ……」

 

 ──と、くるみは呟いていた。

 

 

 

 

 

 ──二人の眼前には、聖イシドロス大学校内に立てられた理学棟へと繋がる出入口があった。

 

「閉まっているな」

「扉も……有刺鉄線あんじゃん」

 

 だが、中に入るための出入口は固く閉ざされ、挙げ句扉の取っ手には開けるなと言わんばかりにロープや有刺鉄線が巻かれている。

 

「どーすんだこれ。あっそうだ、古木さんの刀でこう、スパッとやれないの?」

「紐と有刺鉄線では斬る場所や適切な角度が違うからな、流石に少し難しい」

「『出来ない』とは言わないんだな……」

 

 呆れと驚愕の混じった表情を浮かべるくるみをよそに、古木はおもむろに扉横のインターホンを押した。電気が生きているからか、ピンポンという気の抜けた音が鳴る。

 

 それから少しの間を空けて、インターホンの奥からくぐもった女性の声が聞こえた。

 

【……誰】

「俺だ、椎子。遅れて悪かった」

【……チッ。半月もどこをほっつき歩いていたのかしら、重役出勤とはいいご身分ね】

「めっちゃ苛立ってますけど」

「研究が行き詰まったか煙草を切らしているんだろう」

「ぜってぇ違うと思う」

 

 苛立ちを露にした露骨な態度に、くるみと古木は小声で会話を交わす。

 インターホンに備わったカメラを通して、女性──青襲 椎子は、皮肉気味に声を出した。

 

【それで、そちらの彼女さんは誰かしら】

「いえ違います、マジで違います。頼むから戦争に巻き込まないでくれ……!」

【…………?】

「この子はそういう相手じゃない。椎子、単刀直入に言うが、ここから出て来てくれないか」

【……お断りするわ。今になってようやく来たと思ったら、言うに事欠いてそれ?】

「返す言葉もないな」

「もうちょい粘れよ」

 

 大学の生き残りが勝手に危険地帯扱いをして近寄らない空間から出てこい、と言われているのだと考えれば、古木の言い分が如何に身勝手かをくるみは隣で理解していた。

 

 ──()()()()()()()()()()()からこそ、古木は冊子を手に、更にはくるみを連れてきたのだ。

 

「椎子、簡潔に紹介するとこの子は恵飛須沢くるみと言う。そして……この間まで避難していた高校で、『やつら』に噛まれて感染した」

【へえ。それはお気の毒…………、──待って、それは何時の話?】

「一週間以上も前……と言ったらどうする」

 

 カメラ越しにくるみの気まずそうにしている顔を見ながら言葉を返していた椎子は、気づいたのだ。感染したにしては()()()()なことに。

 

【一週間以上……つまり感染を克服した? それはまた、どうやって……】

「その方法も含め、この感染の内容についてがここに載っている」

【──! なるほど、読みたかったらここから出てこい、ということね】

 

 ぴらっ、と冊子をカメラの前に持って来ながら古木は言う。椎子もまた、画面に写る『緊急避難マニュアル』という文字列に事の重大さと、古木の言いたいことを悟る。

 

 ──安全地帯から出なければ研究は進まないらしい。と他人事のように内心で独りごちる椎子は、理学棟から出るメリットと出た後のデメリットを天秤に掛け、ふと思い至った。

 

【御形なら私を守れる。何を疑っているんだか】

「……? それで、返事はどうだ」

【──わかった、準備をするから待ってて。それとドアのロープなんかを外しておいて】

「──そうか」

「うわすっげぇ嬉しそう」

 

 古木の声は低いが、そこに含まれた感情の大きさを察してかくるみが苦笑を浮かべる。

 

 

 

 ──有刺鉄線で手を切らないようにと気を付けながら外した数分後、ガチャリと音を立てて、理学棟の扉が開かれる。

 

「……外に出たのはいつぶりかしら」

 

 中から出て来たのは、青みがかった灰色の髪を腰まで伸ばし、赤いニットのセーターと青いジーンズを着込み、その上に白衣を羽織った女性だった。肩には荷物を詰めた大きなボストンバッグが提げられ、口に煙草が咥えられている。

 

「久しぶりだな、椎子」

「そうね。……で、あなたが例の」

「……うっ……は、はい」

「身構えないで、なにも解剖しようっていうんじゃないの。少し検査を──」

「椎子」

 

 ずい、と顔を近づけてくるみの瞳を覗き込もうとする椎子を見て、古木が口を開く。

 

「──まあ、検査と冊子の読み込みは明日にしましょうか。あの武闘派とかいう面倒な連中に見つかると不味いでしょう?」

「武闘……あの小僧共か。話の通じなさそうな辺りは()()派と呼ぶべきだろうがな」

「『かれら』に加えてあいつらが居るから出たくなかったのよ。知識を提供する代わりに、ちゃんと私を守ってちょうだい」

「無論だ」

 

 軽口を叩き合う二人を見ながら、くるみは居心地の悪さを覚えて咳払いをする。

 

「……そろそろ部屋に戻んないっすか」

「そうだな。……ところで、その大荷物は何が入っているんだ?」

「着替えとノートPCと資料と……あとは、御形の私服よ」

「──? 何故俺の服を……?」

「逆に聞きたいのだけれど、まさかその格好(スーツ)で戦っていたワケ? よく生きてたわね、それだと動きづらいでしょうに」

 

 信じられないものを見るかのような顔で、椎子は呆れながら古木に言う。

 刀を振るう為のモノではない服装でも戦えていたからこそ、古木自身はあまり気にしていなかったが、言われてみれば確かにと思案する。

 

「古木さんの私服ってどんな感じなんだ?」

「……御形の服は大体が小袖と袴と羽織よ」

「武士か?」

「武家の末裔だとは聞いているんじゃない?」

「……武士だな」

 

 ──悪いか、とは、古木も口にはしなかった。在学当時は周りから奇異の目を向けられないようにとスーツを私服にしていたが、本来の私服は『和装(そういうもの)』なのだ。

 

「……つっても、和服って余計に動きにくくなりそうなイメージなんだけど」

「きっちり着込んだ上でパルクールをやれるようなおかしいのが御形なのよ」

「はえ~」

「話し込んでいるところ悪いが、着いたぞ」

 

 自分を話題に出されている会話にむず痒さを感じつつ、誤魔化すように古木は二人に伝える。

 

「おっと。そんじゃあ、あたしも部屋に戻らないとな。ずっと帰ってこないと怒られる」

 

 くるみはそう言いながら、着ていた古木のコートを脱いで畳むと本人に返す。それから、思い付いた疑問を椎子と古木に問う。

 

「青襲さん、どこで寝るんだ?」

「……? 御形の部屋でいいわよ」

「そうだな。下手に空き部屋を使ったら、泥棒かと疑われるかもしれない。椎子の紹介は明日に回すことになるだろうからな」

「へぇ~~~~~…………」

 

 相部屋になることを全く疑問に思っていないどころか、抵抗すら一切ない二人が部屋へと消えて行く光景を見送ったくるみは、目頭を押さえるように指を当てると──

 

「…………寝るか!」

 

 ──思考を停止させて、高校組が雑魚寝しているだろう丈槍ゆきの部屋に入るのだった。

 

 

 

 ──予備の布団を部屋に敷いている古木を尻目に、バッグを床に置いて、その上に畳んだ白衣を被せると、椎子は呟く。

 

「……あの制服、巡ヶ丘のモノね」

「ああ。俺たちの母校に避難していた子だ、他にも何人か居るし、教師も一人居る」

「そう」

 

 椎子は古木が敷いた布団の上に座り、渡された掛け布団を受け取る。

 その横に敷かれた布団に寝そべる古木は、まぶたを閉じる直前、椎子を見て言った。

 

「──無事でよかった」

「……ええ。それと以前、お爺様の葬式に行けなくてごめんなさい」

「気にするな。受験勉強には代えられない」

 

 ふっと口角を緩めた古木に、椎子もようやくと仏頂面を崩す。部屋の電気が消え、古木に習って同じように寝転がる彼女は、無意識のうちに体を古木に近付けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──翌朝、目が覚めた古木は、自分の頭を掻き抱きながら穏やかな寝息を立てている椎子の寝相に小さく文句を言っていた。

 

「……猫のような寝相は治ってないのか」




次→11月25日00時00分(予定)


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二時限目 朝

 あたーらしーいーあーさがっきたー、な大学編はーじまーるよー。

 

(おおよそ希望は)ないです。前回は幼馴染こと青襲椎子をスカウトしたところで終わりましたね、今回は翌日の朝から再開です。

 

 幼馴染同士、個室に二人きり、何も起こらない筈がなく……とお思いでしょうが、特に何も起こりません。とはいえデータ上の椎子姉貴の好感度はカンスト寸前なので、一歩踏み込めばめぐねえが負けヒロインになりますね。

 

 そんなわけで二日目の朝、隣で寝ていた椎子姉貴に寝ながら頭を抱えられているので拘束から逃れましょう。頭の上で丸まって寝ている辺り、まるで縁側で昼寝してる猫みたいだぁ……

 

 まだ睡眠中なので、元の位置に戻してそっとしておきましょうかね。ツレを起こさないでくれ、死ぬほど疲れてる(コマンドー)

 

 椎子姉貴の持っていた古木くんの私服は、またそのうちお着替えします。

 部屋から出るとくるみ姉貴と鉢合わせますが、なんかニヤニヤされてますね。

 

 昨日はお楽しみでしたね……とでも言いたいのでしょうが、そんな顔が出来るのも今のうち。大学に進学してもやることは変わりません。

 

 ──B(勉強)! B(勉強)! B(勉強)! いいからお勉強だ! 

 

 空き部屋を使ってめぐねえ主催の勉強会が始まるので、古木くんは小学生のるーちゃんを相手に簡単な計算問題を作ってワクワクします。

 

 

 

 ──暫くすると、疲れてぐったりしているゆきちゃんとくるみ姉貴が大学に上がったからには自主性で勉強したいんですけど! 聖いしどろす? の大学に通ってるんですけど! と抗議。

 

 それもそうね……と丸め込まれためぐねえもといチョロインピも納得。*1

 何の勉強をするかについてのレポートを纏めてくるようにと言われ、授業も終わります。

 

 みーくんとゆきちゃんに混ざって話をしていると、どうやらゆきちゃんはやりたいことと言われても具体案は湧かないようです。先のことを考えてみては、とみーくんに言われ、先のことすなわち将来についての話題になりました。

 

 ちなみに古木くんは【弾き】のシステム上、先の先より後の先の方が得意です。*2

 ともあれ、ゆきちゃんも将来何になりたいかを決めたようです。原作完結してるしなれますよ……というメタ発言は置いておき、レポートの為には資料が必要でしょう。

 

 だから、図書館に行く必要があるんですね。

 

 早速図書館が使えるかを穏健派の一人ことアキに訪ねると、一応無事であると聞けます。

 と、喜ぶ二人をよそに、彼女は古木くんにヌシに気を付けろと忠告してきました。*3……*4

 

 それを聞いた古木くんは……なにやら正体を察しているのか微妙な表情をしていました。いったい誰なんやろなあとすっとぼけつつ、護衛も兼ねて帯刀してんだらば二人を送りましょう。

 

 

 

 ──なんか静かですね~と詠唱開始したくなるほど人も『やつら』も居ない図書館に到着。

 本が日焼けするからと薄暗くなるように設定されている室内は、最低限の明かりすら無い状態でしたが、古木くん(とヘッドホン装備の私)は人の気配を感じ取っております。

 

 出ておじゃれ、隠れていても獣は臭いでわかりまするぞ。二人を待機させて隠密行動し、隠れている何者かの裏を取ります。

 息遣い、消しきれていない気配、お粗末な隠密……そこだァ────ッ!!(肩ポン)

 

 古木くんに逆ドッキリされたヌシは飛び上がって驚き、その声に反応して二人は懐中電灯をこちらに向けてきました。

 それにより、我々を驚かそうと隠れていた部屋のヌシ──もとい、図書館を寝床にしている本の虫の姿が露になります。

 

 彼女は稜河原(かどかわはら) 理瀬(りせ)、食事の時以外は基本的に図書館を根城にしているへんた…………変人です。

 図書館の本を全て読破することが夢らしいのですが、そもそもの話として、リセは世界中の素晴らしい本は全て読み通したいのだとか。

 でも本は年々どころか日々新刊が出てしまう。だから世界がこうなって、もう新しい本が出ないことに少し安心している……と。

 

 …………ですね!(適当)

 

 やっぱり変態なんじゃないかなぁと危惧しながらも、それはそれとして図書館のヌシらしく、みーくんとゆきちゃんの探している資料の棚に案内してくれましたとさ。

 

 

 などといったところで今回はここまで。次回、椎子姉貴を高校組と大学組に顔合わせさせます。お楽しみに……うわ古木くんとリセの関係って友人なんだ……相手は選んだ方がいいと思う。

 

 

 

 

 

 ──大学構内の一角、図書館に訪れた古木と美紀、ゆきは、薄暗いを通り越してほぼ暗闇と化した室内に訪れていた。

 

「図書館のぬしってなんなんでしょう」

「…………ああ、そうだな」

「その反応からして知り合いですね?」

「まあ……悪い奴ではない、大丈夫だ」

 

 刀の柄頭を手のひらで擦りながら、古木は渋い表情を作って美紀に返した。

 

「漫画とかあるかな~」

「違うでしょゆき先輩。えーっと、300番台の棚はあっちですかね……、ん?」

「? どしたのみーくん」

「いえ、今誰かが……」

 

「──ここに居ろ」

 

 美紀の言葉に、古木は言葉少なに指示を出して腰を屈める。それから足音も無く脇道に逸れると、先ほどまであった存在感がふっと消えた。

 

「……気配消せるんですねあの人」

「凄いねぇ、ニンジャみたい」

 

 

 

 万が一にも『やつら』が紛れ込んでいたら大事であるという警戒心もあるが、それはそれとして、古木はこれからこちらにイタズラを仕掛けようとした知り合いの背後を取っていた。

 

 美紀やゆきなら誤魔化せるだろうが、ただ息遣いを押さえただけでは、ただじっとしているだけでは隠れることは出来ない。

 ゆえに、古木は、おもむろに横合いから肩を叩いて女性の耳元で声をかけた。

 

「──何をしている」

「うわ──っ!? ……あだっ!」

 

 ビクッ! と肩を跳ねさせて、女性は驚いた拍子に後頭部を本棚にぶつけた。

 

「古木さん!?」

「どうしたの?」

 

 声の主を探ろうとこちらに懐中電灯を向けた二人は、頭を押さえてうずくまる女性と、呆れたようにそれを見ている古木を発見した。

 

 

 

 図書館内を移動しながら、女性──稜河原 理瀬は美紀とゆきの目的の資料がある棚まで案内をしながら談笑している。

 

「いやあお恥ずかしいところを」

「いえ……それで、先輩は……」

「ああ、リセでいいよ」

「リセ先輩はここで暮らしているんですか?」

「うん。食事の時とかは戻るけどね、基本的にこっちで寝泊まりしてるかな」

 

 美紀の質問にリセが返し、更にゆきが問う。

 

「すごーい! 本が好きなんですねっ」

「この図書館の本を全部読むのが夢なんだ」

「お前ならやりかねん」

「そうだねえ。というか御形くん、暫く見てないと思ったら高校の方に籠城してたんだ」

「ああ。色々とあってな」

「ふぅ~~ん」

 

 くつくつと喉を鳴らして笑うリセに、古木は眉をひそめる。それから本の素晴らしさを語りつつも、本がこれ以上増えないことに小さな喜びを覚えている様子のリセを変人か何かを見るような目で見ると、彼女が二人を目的の本の棚に案内する光景を見届けた。

 

 レポート作りの資料を持ち帰った美紀たちと別れ、図書館に残った古木は、まるで自室のように寝袋とデスクが置かれた一角で、ランプを点けて栞を挟んでいた本を読み返しているリセの傍らに立ちながら会話を交わしている。

 

「君も意外と本が好きだよねえ」

「そうだな。学者志望が近くにいたのもあるが、読書は嫌いではない」

「ああ……幼馴染さん。青襲さんだっけ、あの人も最近見てないなあ」

「理学棟に籠っていたらしい」

「──そっか、生きててよかった」

 

 リセは一度本から目を離して古木を見て、目尻を緩めて微笑を浮かべる。そんな彼女に、古木は一拍置いて口を開いた。

 

「本が作られることはなくなったから、読んでも読んでもキリがない状況ではなくなった……と、リセ、お前はそう言いたいんだろう」

「そうだね」

「……本気か?」

「ふふ、そう見えたかい?」

「お前の態度は少しわかりづらいからな」

 

 かぶりを振ってそう言うと、不意に気配を感じて視線を向ける。そこには、クリップで纏めた紙束を片手に持つ美紀が立っていた。

 

「美紀、どうした」

「ん、やあ! また来てくれたね」

「……あの、これを読んでください」

「んん? これは……卒業アルバム」

「お前たちで作ったのか」

「はい、コピー機をお借りして」

 

 パラパラと捲り、それからリセは顎に指を当てて思考を巡らせる。

 

「卒業アルバムか。915-日本文学 日記 書簡 紀行……あたりかな。うん、ありがとう。じっくり読ませてもらうよ」

「……あの、私も本が好きです。でもやっぱり、新しい本も好きなので読みたいです。だから、これからもっと本が増えたらいいなって……そう、思うんです」

 

 それとなくその場から数歩離れながらも、古木は美紀の言葉に口角を緩めた。

 

「……うん、私も、このアルバムの続きを読んでみたくなったよ」

「まだ一冊ですけど、もっとたくさん読めるようにしていきたいですよね」

「そうだね……それにはまず書く人が増えないとね。つまり人口増大だ、その為には食料の安定供給、衛生、教育、文明復興……大変だよ?」

 

 リセはそう言い、美紀は肯定しつつも、辺りを一瞥してから返す。

 

「──でも、その為の本ですよね」

「────」

「あ、すみません……偉そうでしたよね。ではその、失礼します」

「いやいや楽しかったよ、足元気をつけて」

 

 その場をあとにした美紀を見送るリセに、陰から会話を聞いていた古木は呟いた。

 

「一本取られたな」

「ふふっ、そうだね。……そのための本、か」

「美紀は聡い子だ、周りの子達もな」

「道理で、御形くんがちょっと過保護な訳だ」

「……そうだろうか」

「そう見えるけどねぇ」

 

 パタンと、本を閉じて、リセは古木に視線を向けて笑いかけていた。

*1
逆だ逆

*2
先のことってそういう意味じゃねえから

*3
ヌシ……ヌシ……イズコ……ウオオオオオオン!

*4
ぬしの世話係は源の宮に帰れ




次→12月2日00時00分(予定)


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二時限目 昼

 バラン……原作ブレイクで来い……! な大学編はーじまーるよー。

 

 前回は図書館のヌシことリセと交流したところで終わりましたね。今回は武闘派メンバーとお話をするところから再開です。

 

 図書館から出て大学に戻ると、トーコから武闘派と話をするから着いてきてほしいと頼まれるので、とりあえず了承しましょう。

 

 構内の一部を武闘派と穏健派の共有スペースにしているらしく、そこで外からやってきた我々の事で話し合いをするとかなんとか。

 そこで当事者連れてこよう! ってなるのは……その……ルールで禁止スよね。

 

 そんなわけで会議室に到着。喧嘩の時間だ、コラァ! ……とはせずに普通に開けます。すると、中には三人の武闘派が待っていました。

 

 頬杖ついてる偉そうなのが頭護 貴人(たかひと)、武闘派でリーダーやってるだけあってかろうじて理知的ですが、どこか驕りを感じます。

 

 その横に座っている神経質そうなのが神持 朱夏(あやか)、パンデミック初期のときに生き残れたことで、自分こそが特別な存在であると思い込んでいる精神異常者です。ちなみにこんなんでも巡ヶ丘の卒業生なんですよね。*1

 

 最後にお茶を淹れているのが右原 篠生(しのう)、武闘派最高戦力にして恐らく最も古木くんといい勝負が出来るヒロインです。

 

 

 そんなこんなで話し合いが始まります。タカヒトとアヤカは我々高校組の情報と物資を穏健派が独占していることに苦言を呈していますが、初手のコミュニケーションでボウガンで射たれた時点でもう決裂してるようなもんですからね。

 

 むしろ正当防衛でボウガンの眼鏡くん含めて皆殺しにされなかっただけありがたいと思って欲しいくらいです。口だけが達者なトーシロばかりでよく生き残れたもんですな。全くお笑いだ、椎子姉貴が見たら笑うことでしょう。

 

『新しい発見物は分け合う約束だ』じゃねえよピアス千切るぞ。情報ならどうだとか言われても、その情報を知ったら君ら内ゲバ始めるだろ。騙されんぞ(ジョージィ)

 

 情報で人を殺せるとはいつぞやに世紀末VRゲーで王朝を築き上げた鉛筆野郎のセリフ。

 おいそれと緊急避難マニュアルの内容については教えられないので、無いものは無いときっぱり断りましょう。

 

 敵対的な態度を取り過ぎるとシノウ辺りとも敵対してしまいますが、このくらいなら平気です。むしろ既に椎子姉貴が手元に居るので、さっさとランダル編に入るためにも空気感染イベントを早めたいまであります。

 

 なぜならランダル編開始の条件は大学編での武闘派の全滅とシノウの謀反が起きた翌日以降だからです。悪いけどこれ、実況プレイなのよね。

 

 そんなわけで話は終わり。茶をしばいてから部屋を出ましょう。そういえばアヤカとは恐らく同期だろう古木くんとの間に、とくに反応とかはありませんでしたね。

 

 古木くんは知らないか忘れてる、アヤカは……今になって中二病患ってるから興味がないか、こちらも古木くんを覚えてないかですね。

 …………まあいっか! いざ敵対したときの後顧の憂いは無いに限るよなぁ!?*2

 

 

 

 んだらばアイウィル撤収。その後はみんなを集めて、『やつら』に関する作戦会議を始めます。やることが……やることが多い……! 

 みんなが集まるなかで、一度部屋に戻って椎子姉貴を連れてきましょう。突然の新メンバーに『?』となってる人が多いですね。

 

 俺が鎧の巨人で……っていうのはもういいか。適当に椎子姉貴の紹介をして、さっさと本題に入りましょう。タバコを吸おうとするな。

 るーちゃんが居るでしょうが! と注意すると、すげぇデカい舌打ちをされました。

 

 それでは高校組、穏健派、スミコ、椎子姉貴、古木くんのリセを除いたフルメンバーで会議を開始。コピーしたマニュアルを読んで、椎子姉貴も色々と考えています。

 

 生物兵器ということで、ウイルスが原因ならばやはりランダルコーポレーションに行く必要が出てくるのですが、それはそれとしてあれはウイルスが原因なのかとも意見が出ています。

 

 まあそりゃ、死人が動いているなら『待ってれば腐るでしょ!』と思ってたのに、なんか普通に活動し続けてたらそうなりますよね。これはのちのち『おたより』で考察されていましたが、生物兵器Ωは実は死なない人間を作る実験の産物だったんじゃないかと言われていました。

 

 というのも、『やつら』って代謝してないんですよ。バイオのTウイルス産ゾンビは代謝が高くて体がどんどん腐って行くから肉を求め、それを乗り越えてリッカーなんかに変異するんですが、やつらは逆に代謝が停止しています。

 

 代謝しない=腐らない、だけど活動は続いているという矛盾がやつらの身に起きているんですね。それがまだ人間のくるみ姉貴の体で起こったらどうなるかはランダル編をお楽しみに。

 

 などといったところで今回はここまで。幼馴染の参戦で更に複雑となった古木くん包囲網……めぐねえの明日はどっちだ!? また次回!*3

 

 

 

 

 

 ──個室にほぼぎゅうぎゅう詰めとなった状態で、最後に見慣れぬ女性を連れてきた古木に()()が驚愕しているのをよそに、桐子が代表して古木へと質問を飛ばした。

 

「えーっと、狼? そちらさんはどなた?」

「ああ、昨日の夜中に理学棟から連れてきたんだ。椎子、皆さんに挨拶しろ」

親か。……青襲よ。青襲椎子」

「あー……幼馴染だっけ」

「そんなところだ」

「────!!?」

 

 十人以上が集まって狭い個室の端で、当然のように古木の肩に体を寄せて密着している椎子に、反対側に座る慈は誰に気付かれるでもなく驚愕と嫉妬を混ぜたえげつない形相をしている。

 

「……あれ、理学棟って封鎖されてなかった? もしかしてずっとあの中に居たの!?」

「ええ、もう既に封鎖されているなら、誰も中を確認しようなんて思わないでしょう?」

「うわ~、灯台もと暗しってやつ」

 

 晶の言葉に返す椎子はそのままの流れで自然と懐からタバコを取り出し、口に咥えて火を点そうとして──すっ、と口許のそれを古木に没収される。眉を潜めて抗議の視線を向けるが、無言で手のひらを差し出されて、逡巡した椎子は舌打ちをしながらも箱とライターを手渡した。

 

「椎子、子供の前だ」

「──チッ」

 

 

 

 ──手元のマニュアルをコピーしてクリップで纏めた冊子を、頬杖を突きながら片手でぺらぺらと捲る椎子の隣で、話が終わりまばらに何人かが部屋を出て行く光景を見ている古木が、ホワイトボードの絵を見ながらポツリと呟いた。

 

「……悪の組織、か」

「なに?」

「この一連の騒動は悪の組織が作った生物兵器が原因で、そんな連中を退治すれば世界は平和になる。──()()()()()()()()んだがな」

「──まあ、そうね」

 

 ゆきの描いた『悪そうな組織の人物像』を見て、古木は冊子を閉じた椎子と向き合う。

 

「この世に『悪人』は居ても、『悪役』なんか居ない。それでも()()()()()のだろう。誰しもが、恨み辛みをぶつけていい相手が欲しいんだ」

「それが私たちにとってはランダルコーポレーションだった、って言いたいの?」

「……どうだろうな。仮にそうだったとしても、恐らく元凶は真っ先に死んでいる可能性の方が高い。恨み損にならなければいいが」

 

 机の傍らに置いてあった没収したタバコとライターを椎子に返すと、不意に数十分前にした武闘派との()()()()()を思い返しながら、古木は刀の柄に手を置いて重苦しくため息をつく。

 

「────邪魔だな」

「……なにが?」

「──いや、くだんの本拠地に向かうにしても、『やつら』が邪魔だと思っただけだ」

 

 それにしても──と続けて、古木はおもむろに椎子に顔を近づけ小声で続ける。

 

「てっきり、この場でくるみの感染についての言及をするものとばかり思っていた」

「馬鹿ね。どうして私が、貴方の不利益になるような話題をしないといけないのよ」

「……そうか。それは、助かる」

 

 ここで大学内に感染者が混じっていることを明かせば、穏健派と高校組が心優しい連中ばかりとはいえ余計な不和を生むかもしれない。そうなることを、椎子はきちんと理解していた。

 

「どちらにせよ、ここも連中の避難所であるなら、なにか食料以外の設備や道具が見つかるかもしれん。その辺りは、比嘉子なんかの方が得意だ。任せてみよう」

「適材適所ね。私の方も、『かれら』とあの後輩(かんせんしゃ)について調べてみるわ」

「ああ。頼む」

 

 ──早いところ武闘派をどうにかしなければな……と古木が思考しているのを、椎子が見抜くことはなかったのだが、それは余談である。

 

 

 

 

 

 ──桐子の個室にノックの音が響き、一拍遅れてくるみが中に入ってきた。桐子にタメ口を許されてフランクに接するくるみは、対戦ゲームをしていた彼女の言葉に目を見開く。

 

「実は、さっきの会議の前に武闘派たちと狼連れて話してきたんだけどさ」

「えっ……!? ……武闘派、生きてる?」

「生きてる生きてる」

 

 ──(あいつ)、どういう人だと思われてるんだ……? とは口に出さなかった桐子は、まあ確かに、と納得したように改めて口を開く。

 

「狼にさあ、武闘派との話を終わらせて会議室から出たあとにこう言ったんだよね」

 

 

『武闘派に知り合いは居たの?』

『……いいや、居なかった』

『そっか。残念だったね……』

 

 

「って言ってたのよ」

「……それで?」

「いや、こっからが問題」

 

 数時間前にした会話と、古木の顔を思い出して、手元のコントローラーをカチャカチャと弄りながらも冷や汗を垂らして桐子は続けた。

 

『残念では無い。むしろ良かったくらいだ』

『へ? なんで?』

『──()()()は、無いに越したことはない』

『────』

 

 

 画面の奥のキャラクターが負けたことを気にする余裕もなく、くるみは古木の言葉の意味を、否応なしに理解してしまう。

 

「いやあ、おっかねぇ~って思ったね。『あ、この人いざとなったら殺る気だな』って」

「いや、いや……古木さんはそこまでは…………するわあの人。古木さんなら絶対やる」

 

 感染した時にも間に合わなければ自分を斬ると判断し、雨の日にはやつらを斬り捨てながら嗤っていた古木ならやりかねない。

 

「まあ……君らを守りたい一心なんだろうけどねぇ。その枠に幼馴染さんまで混ざったら、そりゃあもう必死になるさ」

「……ああ、そうか」

 

 得心が行ったくるみは、コントローラーを握り直すと、再戦を選択する。

 

「無くす筈だった命だ、無駄にするかよ」

「え?」

「なんでもねー」

 

 自分もまた、コンテニューをしたようなものだと、皮肉気味に苦笑をこぼしていた。

*1
ついでに言うと特別感に浸るために武闘派メンバーを何人か裏で殺してるので、壊滅した原因の4割くらいを担ってたりする

*2
ぶち殺す気満々で草

*3
これ恋愛ゲームじゃないんだわ




次→12月9日00時00分(予定)


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三時限目 朝

 不穏になってきた大学編はーじまーるよー。

 

 前回は武闘派と袂を分かつところで終わりましたね。今回は三日目朝から再開です。

 のちの展開でとあるキャラを味方に引き込める可能性を上げたいので、接点を作るためにも部屋を出て外をうろつきましょう。

 

 人のことを抱き枕にしている椎子姉貴から脱出して、早速外へいざ鎌倉。

 刀を持ってゆくと余計な警戒心を煽るかもしれないので、ペグを数本だけ装備。

 

 大上流は刀がメインですが、古木流には短剣術もあるという設定みたいなので、実はペグのみでも古木くんは強いです。

 明らかに外国のナイフ術とCQCをベースにしているようにしか見えない動きを武術と言い張りながら数体の『やつら』を倒していると、しばらくして誰かがやって来ました。

 

 フルフェイスのヘルメットにバイクのスーツ、腰には古木くんと同じように装備された数本のアイスピック……驚いたねえボウヤ、奇しくも同じ構えだ。まあボウヤじゃないですが。

 

 ライダースーツでも隠しきれないめぐねえ並のπからして女性、そして武闘派でまともに戦える女性は一人しかいない。

 そう、彼女は右原篠生です。頑丈なライダースーツに噛みつかせてからアイスピックで頚椎をブスリ♂……合理的な戦い方ですね。

 

 しかし何体ものやつらに囲まれていては苦戦は確実。義によって助太刀……致す! 

 シノウを後ろから掴もうとしてるやつらの1体にペグを投擲し、空いた手で彼女が頚椎に突き刺して放置したアイスピックを引き抜き装備。

 VR版みたいに自由なアクションが可能なら、顎を切って噛めなくする事も出来るんですが、まあそれはそれとして。

 

 古木くんの筋力なら普通にぶっ刺せるので、シノウを囲むやつらを倒してからお返ししましょう。敵対しない為の最低限の好感度も稼げたでしょうし、そろそろ部屋に帰ります。()()を放置してるので愚痴を言われたら敵いません。

 

 ちなみに、シノウは好感度を上げまくるととあるイベント後から攻略出来るようになります。メガネくんの脳が破壊されますが。*1

 

 おっと、帰る前にペグの回収はお忘れなく。

 

 

 

 

 

 ──とかなんとか言いつつ大学内に戻ると、トーコの部屋に入ろうとしているみーくんを発見したのでついでに混ざります。

 警察だ!(RTA板倉)と中に入ると、トーコとくるみ姉貴がゲームで遊んでいました。

 

 みーくんの用というのは、外に遊びに行きたがるゆきちゃんやるーちゃんたちの為に行ける範囲を聞きたかったというものらしいです。

 じゃあ説明してやるか、しょうがねえなぁ……と、腰を上げたトーコ主催の説明会が始まりました。皆への説明として、ホワイトボードに校内の図を描いてくれます。

 

 部室棟、図書館、武闘派と穏健派の使う校舎と共有部分、そして椎子姉貴が居た理学棟と、その間に区画が小さくあります。

 その小さい部分にバツマークを加えて、トーコはここに近づかないようにと忠告します。曰く、この部分はお墓とのこと。

 

 

 

 ──そんなわけでグラウンドへ。捕まったら罰としてスポンジバットでケツをぶっ叩く地獄のレース、しよう! ウチもやったんやからさ! 

 

 ……あ駄目ですかそうですか。

 じゃあ仕方ないのでゆきちゃんとるーちゃんを抱えてグラウンドを走ります。

 

 そのうえで全力疾走するスミコとくるみ姉貴に追い付く古木くんの素早さに驚かれつつも、こうして(ほぼ必要ない)好感度稼ぎに勤しみます。ぶっちゃけ時間進行で発生する空気感染イベントまでやることないんですよね~。

 

 なのでこうして全員を鍛える。おらっ、りーさんとめぐねえも走るんだよ! おっぱいに栄養持ってかれてる貧弱フィジカル共がよ……! 

 

 本来ならGNるーちゃんを生きていると思い込んでる精神異常者なりーさんの気を遣うイベントなのですが、実妹が生きているのでまるで健全な学園アニメみたいな光景になっていますね。

 

 などといったところで今回はここまで、次回は事態が進展します。お楽しみに。

 

 

 

 

 

 ──大学構内、グラウンドにて、古木は駆けていた。その身に少女二人分の重さを文字通り抱えながら、眼前を全速力で走る少女と女性の背中に追いつく勢いで駆けていた。

 

「ぎゃああああっ来んな来んな来んな!!」

「ふ、ふ。まるで風がごときその俊足、素晴らしいものだ……っ!」

 

 悠里の妹、瑠璃を肩車し、ゆきを片腕で抱えながらも、古木はその足を更に加速させる。二人──くるみとスミコを追い抜いて眼前に躍り出ると、息を切らす様子もないまま淡々と言った。

 

「反対を向いて、もう一本走れ」

「いや無理だって500mは走ったぞ」

「せめて……き、休憩させてくれないか……」

「ならん。お前達の体力なら問題ない、走れ」

 

 刀を持っていないにも関わらず、まるで刃物のような鋭い雰囲気が突き刺さり、くるみたちは疲れとは別の意味で顔を青くして踵を返す。

 

「くそっ! 鬼! 悪魔! 古木さん!」

「くるみくん……それは鬼と悪魔に失礼だ」

「そんなに元気なら二本に増やすか」

「やめろォ────ッ!!」

 

 悲鳴混じりで再度疾走する二人を追いかける瑠璃とゆきを抱えた古木という珍妙な光景を見ながら、グラウンドの端で、本来であれば野球部辺りが使っていたのだろうベンチに座る三人──瑠璃の姉、悠里と美紀、慈は会話を交わす。

 

「元気ね、あの人たち」

「馬鹿と天才って本当に紙一重なんですね」

「……あんまりそういった事は言わないであげてくださいね、美紀さん」

 

 心の底から呆れきった表情を浮かべる美紀に、慈は窘めるように口を開く。一拍置いて、おもむろに悠里は呟くように続けた。

 

「でもね、ちょっと心配なの」

「何がですか?」

「るーちゃん。実はああやって楽しそうに笑うことって、少なかったのよ。でも今はゆきちゃんたちに影響されてか、よく笑うようになったし、元気に走り回るようにもなった」

「よかったじゃないですか」

 

 そうね……と言って、悠里は言う。

 

「あの子が今よりも元気になって、どこまでも……どこへでも行けるようになったら……」

「さみしい、ってことですか」

「それもあるけど、怖いのよ。もし目が覚めたら、全部が夢だったら……とか、これが夢で、本当はもっと辛い現実が待っているんじゃないか……とか、どうしても考えてしまう」

 

「──悠里さん」

 

 不安そうに胸の内を吐露する悠里に、慈はそっと伸ばした手を肩に置くと笑いかける。

 

「大丈夫ですよ。これが現実で、あの子はきっと、貴女の元から居なくなったりしません」

「……めぐねえ」

「当然、悠里さんも妹の為だからって無茶なことをしないように……ね?」

「……約束します」

 

 悠里はこくりと頷いて、それからすくっと立ち上がると、決心したように宣言した。

 

「──私、体を鍛えるわっ!」

「めぐねえの話聞いてました?」

「聞いてたわよ。そのうえで、考えたの。もしもるーちゃんが居なくなってしまったら、私が自分の足で追いかけたい。それに……足手まといにはなりたくないから」

 

「──なるほど。それなら、体を鍛えるというよりは体力作りが必要だな」

 

 美紀に視線を向けた悠里の言葉に、戻ってきた古木が瑠璃を肩から下ろしながら返した。

 

「古木くんっ」

「どうも、慈さん」

「あら、ゆきちゃんは?」

「あの二人と混じって走り込みをしています」

 

 ちら、と古木が向けた視線の先には、グラウンドの端を駆けるくるみとスミコ、ゆきの姿があった。ふと、悠里は古木に質問をする。

 

「体力作りの方がいい、というのは?」

「『やつら』の足は基本的に(のろ)いからだ。走れさえすれば、逃げきれる。重要なのはそれを長時間行える体力……ということだな」

 

 腰に抱きついてじゃれてくる瑠璃の頭にゴツゴツとした手を置く古木の言葉に、悠里は得心が行ったように納得する。

 

「なら、私もあれに混ざろうかしら」

「それがいい。大事なのは早く走ることではないからな、自分の流れで走れ」

「あ、そうだわ。めぐねえもやらない?」

「…………えっ?」

「いいじゃない、めぐねえくらいの歳で出来た脂肪は減りにくいですよ」

「────」

 

 悠里の何気ない言葉に、慈はピシッと固まる。それからぎこちなく古木に向き直ると。

 

「……古木くんは、太っている女性のことを、どう思ってます……?」

「慈さん、もしかして体重が」

「私は太ってないですよ!? ……けど、まあ、その……やはり、男の人はスレンダーな女性の方が好みですよね……と思いますか」

「はあ」

 

 指と指を突き合わせてもじもじと身をよじる慈に、古木は不思議そうに疑問符を浮かべる。いまいち乙女心を理解していない古木に、それとなく美紀が助け船を出した。

 

「古木さんの美的感覚が平安貴族でもないなら、太っている女性よりも、痩せている女性の方が好ましいですよね?」

「誰が平安貴族だ……。確かに健康面でも痩せていることに越したことはないが……そんなに見た目というのは大事か?」

「古木さんはそうでしょうけど」

 

 最後まで要領を得なかった古木だったが、くるみたちに混じった悠里と──周回遅れの早さで走る──慈を見送りつつ、古木と美紀は並んで立っていた。

 

「スミコさん、あのゴスロリ衣装でよく元陸上部のくるみ先輩と並走できますね」

「見た目のわりに動きやすいらしい」

 

 普段の痛々しい言動が鳴りを潜めた、真剣な表情での運動を行うスミコに、珍しいものを見るような目線を向ける美紀と古木。

 

「それにしても、古木さんってとことん女性に対して()()()みたいですよね」

「そうだろうか」

「……もし仮に、めぐねえの顔に火傷があったとして、それでも好ましいですか?」

「当然だろう。例え火傷の痕が顔にあったとしても、きっと慈さんの心は今と変わらずに美しいと思うが」

「それ、あとで本人に言ってあげてください」

 

 少なくとも、古木は人の魅力を表ではなく内面で判断するタイプであった。へぇ……と呟く美紀に、古木は続ける。

 

「それで、気になることでもあるのか?」

「ええ、さっき桐子先輩が言ってた立ち入り禁止の区画が気になっていて」

「なら、俺と行けばいい」

「……では、さっそく」

 

 その場から離れて、立ち入らないようにと言われていた"墓"に、二人は訪れる。

 

「……ここ、まさか」

「墓……とはそういうことか」

 

 そこにあったのは、コンテナだった。

 中から聞こえてくる呻き声から、そこが感染者を隔離する檻であると理解していた。

 

 ふと視線を上げると、窓の奥から誰かが花を落とす光景を視認する。美紀は知らないが、古木はその女性が、武闘派に居た一人だということを覚えていた。

 

「今のは……」

「──かつて仲間だった者も、この中に居るんだろう。やりきれんな」

「…………ですね」

 

 二人は手を合わせて、静かに黙祷すると、その場をあとにする。

 ランニングのやめ時を見失ったくるみ達が、グラウンドを『やつら』のようにノロノロと歩いている様子を古木と美紀が発見したのは、それから数分後の話である。

*1
NTR(ナリタトップロード)やんけ~~~!




次→1月13日00時00分(予定)


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三時限目 昼

※小説パートのみ


「──外の世界に、行こう!」

 

 穏健派リーダー・桐子は、ランニングから戻ってきた古木たちを一部屋に集めてそう言った。息も絶え絶えのくるみやスミコ、慈たちに飲み物を渡す晶と比嘉子を尻目に、古木は言葉を返す。

 

「今までは外に行かなかったのか」

「だいたい学内で賄えたからねぇ」

 

 紙コップに飲み物を注ぐ晶が横合いから答え、続けて桐子が口を開く。

 

「ぶっちゃけ怖かったからね。ほら、大学に居る間は『もしかしたら救助が来るかも』って思えたし、外に出ても誰も居なかったら……って考えちゃうとさ」

 

「そんな時に、俺たちが来た……と」

 

「そっ。救助隊は来なかったけど、狼たちは生きていた。きっと他にも生存者は居るよ」

 

 にっ、と笑い、桐子はホワイトボードに向き直ると絵を描き始める。

 古木の隣でタバコを奪われていた椎子は、小声で「どうだか」と呟いていた。

 

 椎子の言葉に苦笑で口角を歪める古木は、桐子の描いた絵を見て眉をひそめる。

 

「ほいっ」

「『サークル合宿計画』……まあ、子供に合わせるならその表現になるか」

 

 ホワイトボードには、大学とビル、その間を移動する車の絵が描かれ、その上には『悪そうな男』をイメージした顔があった。

 

「まずはランダルの本社を目指す。そのために準備をして……あとはランダルについての情報も集めないとね。なにか質問はあるかな?」

 

 その問いに、いまだに額に汗を滲ませているくるみが挙手をしてから答える。

 

「はい」

「はいくるみ君」

「遠征には何人で行くんだ? 全員となると車2台とも使うことになるけど」

 

「いやあ全員はまずいっしょ」

「……ここの維持も必要」

「んじゃ二手に分かれるか」

 

 当然の疑問に、飲み物を配っていた晶と比嘉子が返す。尤もな意見に言葉を漏らす桐子だが、なら、とおもむろに古木が繋げた。

 

「──本社には最低でも俺と椎子が行くことになるが、悠里は残れ」

「えっ……」

「当たり前だろう、妹を置いてまでお前がやらないといけないことではない」

「────」

 

 つい、と古木が指を向けた先に居る、悠里の膝の上に座る瑠璃(いもうと)

 

「安心しろ、番犬に太郎丸を置いていくし──ゆきと圭、慈さんにも残ってもらう」

「えーっ!」

「めぐねえはともかく私も!?」

(めぐねえ)はともかく……!?」

「非常に残念だが、今回はご縁がなかったと言うことで納得してくれ」

「就職じゃないんですよ」

 

 美紀の指摘(ツッコミ)を耳にしつつ、古木はそれぞれ違う意味でショックを受けている圭と慈に目を向けて更に続ける。

 

「今朝の走り込みで確かめましたが、やはり体力の問題です。高校や大学(ここ)のような場所なら足の遅い者を守りながらでも戦えるとしても、外で同じ事をやるのは難しい」

 

「……まあ、古木くん程の実力者がそう言うなら……仕方ないですよね」

 

 しゅんとする慈に、申し訳なさげにしながらも、古木は手短に纏めるべく言った。

 

「俺と椎子、あとはくるみと……美紀とスミコ。少数精鋭で手早くやろう」

「──このスミコを戦力に加えるとは……中々どうして、わかっているじゃないか」

「頼りにしている」

「……! ふ、ふ。わかっているとも。このスミコ、十二分に成果を挙げてみせよう」

 

「犬みてぇだな……」

 

 ゴスロリ服を揺らして胸を張るスミコと、傍目から端的にスミコの様相を例えるくるみ。

 古木は彼女に淡々と告げてから視線を前に戻し、桐子と顔を見合わせた。

 

「それじゃあボクも行くよ。一応は発案者だし、運転係が居れば少しは楽でしょ?」

「ああ。六人だけなら、車も1台だけで済む。みんなも、それでいいか」

 

 最後の確認で周囲を見回す古木。そんななか、どこか不安そうな表情をしている美紀を視界の端に納めて、彼は小さく吐息を漏らした。

 

 

 

 

 

 ──ぜえはあと息を荒らげながらグラウンドを走り込んでいる悠里と圭、慈を見下ろしながら、美紀は屋上でくるみと会話を交わしていた。

 

「ははぁ、要するに、美紀は『なんとなく不安』ってことなんだろ?」

「……そう、ですね。ここに来て、高校では一緒だった皆と違う道を歩くことを、自覚させられたと言いますか……」

「──まっ、そーゆーもんだろ」

「何がですか」

 

 くるみはポンと美紀の肩を叩きながら、からからと笑って空を見上げて言う。

 

「出会いがあれば別れもあるってこった」

「別れ、ですか」

「今すぐってわけじゃねえけどさ、例えばほら、世界が平和になったら……あたしらはいずれ、嫌でも違う道を歩くことになるだろ?」

 

 そういうもんだよ、と、くるみはどこか──悟ったような顔で呟く。それからふと、背後の屋上と室内を繋ぐ扉が開かれて、外へと誰かが出てくる気配を感じ取る。

 

 振り返った二人は、取られていたタバコを片手に、既に一本を咥えていた椎子と──小袖に袴、上に羽織を着た和装の古木を視認した。

 

「……???」

「くるみ先輩、しっかり」

「──先客が居たのね」

「二人とも……どうかしたのか?」

「同じセリフを返していいですか」

 

 先程までの不安はどこへやら。古木の和装のインパクトに悩みを持っていかれた美紀は、服に指を差して、隣の椎子がああと声を出す。

 

「こいつの私服は和装なのよ。むしろスーツの方が違和感あったくらい」

「はぁ……」

「端から見たら単なるコスプレみたいなものだけど、この格好の方が御形は動けるわ」

「えっ、そうなんですか?」

「ああ。正直なところ、今までの格好はかなり動きづらかった」

 

 ぐるんと肩を回し、腰に吊るした刀の柄に手のひらを置く古木。へぇ~~~と半ば思考を停止させた返しをする美紀と正気に戻ったくるみは、少しして離れた位置でタバコに火を点けて煙をくゆらせる椎子に不意打ちのように言われる。

 

「あの眼鏡は生存者は居る──なんて希望的観測を口にしていたけれど、はっきり言ってその可能性は限りなく低いのよ」

「……っ、そりゃまた、どうして?」

 

 くるみは反射的に反論しようとして、しかして椎子の濁りながらも理知的な瞳を見て堪える。なるべく冷静な声色で問うと、タバコの先端の火に息を送る椎子が、煙を吐きながら呟いた。

 

「ふぅ──っ。……国が残っていれば、救助が遅れても放送くらいはやるはず。

 だけど、ラジオから衛星携帯まで試したけど大規模な放送はどもこやっていなかった。とどのつまり、日本全土と周辺国……世界の全域で、国家に準ずる組織は消滅したと考えた方がいい」

 

「椎子、全て試したのか?」

 

「ええ。思い付く限りの通信手段は全て。……ああ、流石に、屋上に大きく『SOS』を書くとかは試したことはないわね」

 

 椎子は言わずとも、やってみる? という視線を古木に向ける。まさかと呟くと、古木は難しい顔をしている美紀とくるみの頭にぽんと手のひらを置いて優しい声色で二人に伝えた。

 

「そう悲観するな。そこのお姉さんは、ただ憎まれ役を買って出ているだけだ」

「あ、そうなのか?」

「誰が憎まれ役よ。……何が起きて、何が出来て、何をやるべきかを考えるためには、『現状を嘆く』という方法は無駄じゃないのよ」

 

 短くなったタバコを携帯灰皿に捨てると、椎子は二本目を取り出して手早く点ける。

 

「……ランダル本社に行くことと、このパンデミックの原因を突き止めることは無駄ではない。もし生き残りが居るなら、本社に向かうことでコンタクトを取れる可能性もあるでしょう?」

 

「──あー、つまり…………必要以上の期待をするな、と言いたいんですか?」

 

「そう聞こえるなら、そうなんでしょう」

 

「ふ、素直じゃない奴だ」

 

 くつくつと喉を鳴らすように笑う古木に、椎子が手元のタバコをピンと弾いて飛ばす。

 簡単にそれをキャッチした古木は、壁に擦り付けて火を消すと、椎子に近づき灰皿にそれを入れて踵を返しながら口を開いた。

 

「そろそろ戻ろう。悠里たちにも、更衣室で汗を流すように言わないといけない」

「そうですね」

「なあ古木さん、めぐねえたちに青襲さんと一緒に寝ること伝えなくていいのか?」

「──? ……私と御形が一緒に寝て何か問題でもあるのかしら」

「つ、強ぇ……!」

 

 なにと戦ってるんですか……と美紀に呆れられながら、古木を先頭にくるみは階段を降りる。殿の椎子が扉を閉めると──不意に、首の辺りに手のひらを添えて彼女は呟いた。

 

「……嫌な予感がする」

 

 

 

 ──椎子はその直感が正しかったと理解する事件がこれから起きることを、まだ知らない。




次→1月20日00時00分(予定)


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四時限目

 楽しい時間が終わる大学編はーじまーるよー。

 

 前回はランダルコーポレーション本社に向かう話をしたところで終わりましたね。今回からは単行本8巻、不穏な大学編も後半戦にやって参りました……と、同時にイベント発生。

 

 ……さっそくですが残念なお知らせです。

 武闘派の眼鏡こと高上くんが、感染していたことが判明しました。

 CDプレーヤーで誘導して窓からコンテナで囲った通称『墓』に蹴り落として、終わり! いやあなんで感染してたんやろなあ(すっとぼけ)

 

 眼鏡くんは身体検査もしたし自殺をするような奴でもないしおまけに仲間が殺すわけもない。

 

 と来れば……そう、犯人は穏健派、或いは部外者の古木くんたちに決まってるね! 

 

 

 …………?????? 

 

 

 ・眼鏡くんは身体検査をしてた←わかる

 ・自殺をするような奴ではない←わかる

 ・だから穏健派が殺ったに違いない←!? 

 

 そこから一気にわからない! となっている視聴者のホモも居ることでしょう。

 安心してください、私もわかりません。リーダーさぁ……疲れてんだよ(ライナー)

 

 ──と言いたい所さんですが、そもそもの問題として、武闘派は緊急避難マニュアルを読んでいないので、この一件がウイルス由来のパンデミックであることを一切知りません。

 今まで相手にしてきたのは既にゾンビ化した感染者だけでした。だから、空気感染を疑うことが出来なかったんですね(メガトン大学)

 

 

 

 

 

 一方その頃、穏健派では明日の遠征に備えての荷造りをしておりました。

 武闘派が雑魚狩りピエロよろしくそろそろ狩るか……♡しているのも露知らず、まるできらら作品のようなほのぼのさを見せています。*1

 

 と、荷造りついでに物資の整頓をしている大学組に家計簿を付けろと迫るりーさんとめぐねえの形をした妖怪をよそに、古木くんと椎子姉貴はやることがないのでぼけーっと座っていました。

 

 ……いや、だって、ねえ? みんなでわちゃわちゃしてたって邪魔なだけでしょう? 

 つまり私は悪くない。刀身を磨く待機モーションの古木くんとるーちゃんが居るから煙草を吸えない椎子姉貴、太郎丸を膝に伸せていじり回してるスミコ……我ら役立たず三銃士!*2

 

 とか言いつつも、本来であれば、ここで高校組が自堕落同好会もといサークルノートを発見し、その段階でようやくスミコの情報が明かされるイベントが挟まります。

 しかし最終回以外で登場しないうえ、普段着がゴスロリで酒豪で酔うと六甲おろしを歌いだすやつとしかわからないので、『そいつもしかしてヤバいのでは?』としか思えないんですよね。

 

 実際はまあまあ愉快な奴なので問題ありません。おまけにそこそこ戦力になる。では無駄話は終わらせて、翌日の遠征準備完了の記念パーティを始めるまで倍速しましょう。

 

 

 

 ──先んじて武闘派を潰しておくべきでは? とお思いのホモも居るでしょうが、武闘派の方で感染者が出たことやこれから戦いが起こることは神の視点の我々しか知り得ません。

 そんなときに武闘派を皆殺しにしたところで、殺人鬼の称号を得るだけですからね。

 

 だからこそ、向こうからトラブルを起こしてもらう必要があったんですね。

 貴様見ているな!(DIO)と画面を窓の外の奥でこちらを監視しているシノウ姉貴に向けつつ、なぜか鼻眼鏡を掛けている比嘉子から炭酸ジュースを注いでもらいます。

 

 ついでに古木くんの横で一口飲んで何かを訝しむくるみ姉貴に注視してフラグを建てて、時間経過でイベントを進めます。

 それからるーちゃんや圭たちからお土産を期待されますが……どうしましょう、精々パンデミックの解決策しか持って帰れないんですよ。*3

 

 ジョークを挟んでから席を移動。みーくんの右隣に移動すると、反対の左側に座っていた(アキ)に、この段階では着いてくる予定の桐子を頼まれます。晶は自分が残らないと大学組が比嘉子とリセだけになってしまうことを懸念していました。

 比嘉子もリセも、壊れ物の修理や読書に没頭して食事を忘れてしまうのだとか。

 

 不満げにこちらにジト目を向けてくるリセを見ながら今回はここまで……と言いたい所さんですが、もうちっとだけ続くんじゃ。

 

 

 

 ……一方その頃(2回目)、パーティも終わった辺りで、武闘派の方ではこちらの行動の報告が行われております。古木くんたちが明日ランダル本社に向かうという状況と眼鏡くんの感染のタイミングが悪い意味で噛み合ってしまい、完全に我々が犯人だと思い込まれていました。

 

 当然ですが我々が眼鏡くんを感染させた証拠は無いし、逆に我々が犯人だとする証拠は向こうにはありません。しかしロジハラで責めたら逆ギレからの戦闘開始となるので、このタイミングで対話をするのは不可能だと考えましょう。

 

 全員の居場所を報告したシノウ姉貴に†私は選ばれた†の人が敵討ち出来るのに嬉しくないのかと問いますが、シノウ姉貴はどこか疑念の表情を浮かべています。

 

 あれーおかしいね何か疑ってそうな顔だね~、といったところで改めて今回はここまで。

 次回、武闘派全滅RTA開始をお楽しみに。

 

 

 

 

 

 ──夜も更けてきた時間。穏健派のテリトリーの廊下を歩く古木と椎子、美紀は、窓に体を預けて口許に煙をくゆらせる晶を見かけた。

 

「──あ。……内緒ね?」

「別に気にしないわよ。私も吸いに来たの」

「俺は念のための付き添いだ」

「私は……そこでばったり偶然」

 

 煙草の箱とライターを掲げる椎子、腰に刀を吊るした和装の古木、背後の廊下を指差す美紀。その三人を見て、晶は苦笑をこぼす。

 

「……もうずっと前にやめたんだけどさ、たまーに吸いたくなるの」

「それって、美味しいんですか?」

「うーん……いや、美味しくはないかな。健康にも良くないし」

 

「言われてるぞ」

「うるさい」

 

 晶と美紀の隣で吸っていた椎子は、遠回しの小言に手の甲で叩くことで文句を言う。

 べち、と無抵抗で額を叩かれた古木は、椎子が半ばまで燃え尽きた煙草を携帯灰皿に入れる様子を見ながらも、視線を武闘派の縄張りである反対の校舎に向ける。

 

「──まだ向こうも起きているのか」

「あ、ほんとだ。消灯時間厳しいのに……なにかあったのかな?」

「……アキさんは、向こうに居たんですよね」

「うん、そうだけど」

 

 古木の呟きに反応した晶に、おもむろに美紀が声をかける。質問があるのだろうと察した古木と椎子はそれとなく口をつぐんだ。

 

「どう、でした?」

「どうって?」

「私たち、向こうの人をよく知らないんです。そりゃ、ボウガンで射たれたり追いかけられたりで、印象は良くないですけど……もしかしたら、出会い方が悪かったのかなって」

 

『そんな事があったの?』とでも言いたげな、眉を潜めた表情の椎子の視線に、古木は小さく頷いて肯定する。晶は美紀の言葉に、うーんと唸るように呟いてから返した。

 

「……気を許さない方がいいかもね」

「怖い人……なんですか?」

「誰も彼もがって訳じゃないけど、アヤカって奴が居てさ。ああ、君は会ってないか。古木は見たでしょ? 『女帝』って感じのやつ」

「ああ、あの斜に構えたような小娘か」

「小娘て」

 

 いや同年代でしょ、とツッコミを入れる晶は、煙草をしまいながら続ける。

 

「あいつ、いっつもつまらなそうな顔しててさ、近くに居ると息が詰まるっていうか……でも嫌いになれなくて、なんかしてやんなきゃって気になるの。まあでも、同じほっとけないならトーコの方がマシだわ。ほんとに」

 

「アキさんは、その……アヤカさんが苦手で、こっちに来たんですか?」

 

「あー、ううん。ちょっと違う。……あいつがさ、笑ったのを見たの。うちらの、お墓が見えるところで──くすって、笑ったんだ」

 

 その時のことを思い出してか、晶の煙草と灰皿を握る手に力が入る。

 

「……アタシの見間違いかもしれない。何か理由があったのかもしれない。でも、あんなのを見たら、一緒に居られないよ」

「────」

「ごめん、変な話しちゃったね」

「ああ、いえ、参考になります」

 

 晶にそう言うと、美紀は続けて問う。

 

「不安じゃなかったですか?」

「……不安、って?」

「ずっと一緒だった人から離れるのって、怖くないのかなって」

「そうね~、確かに怖くて、しばらくはやっぱり戻るべきかって考えた」

「じゃあ、どうしてここに」

 

 美紀の踏み込んだ問いかけに、晶は、どこか哀愁の漂う表情で言葉を返した。

 

「一緒に居ると、ダメになると思ったわけ。アヤカは本当にヤバかったけど、武闘派にもいいやつは居たわ。でもあれ以上あそこにいたら、お互いにダメになるって思って……まあ、アタシもあいつらも、そういうもんなのよ」

 

 そう言い切った晶の笑みに、美紀はそうですか、と口にする。複雑な人間関係があるのだな、と脳裏で独りごちて──唐突な古木の低い声に背筋を跳ねさせるように驚いた。

 

「誰だ」

「っ、古木さん?」

「御形、どうしたの」

「……いや、誰か居たのだが……気配がおかしくてな。冷たい、嫌な感覚だ」

 

 刀に手を置いて腰を下げた、即座に抜刀できる姿勢の古木は、そう言いながら構えを解く。振り返った瞬間に僅かに見えた長い黒髪の持ち主は、一人しか居ないだろう。

 

「……少し、見回りをしてくる」

「──、これから遠征だってときに、無駄に疲れないでちょうだい。すぐ戻るのよ」

「わかっている」

 

 ()()()()()()()()()──とは言わず、古木は椎子にそう返してからその場を去る。

 

「……あんた達も、早く部屋に戻りなさい」

「……青襲さん、何かあったんですか?」

「どうかしら。ただ──こういうときの私達の嫌な予感ほど……的中するのよね」

 

 椎子の言葉と、古木の行動。

 その二つを目の当たりにして、美紀の胸にはなんともいえない感覚が渦巻いている。

 

 

 

 ──隔離された空間で発生した感染者という爆弾。それによる武闘派との衝突。

 こうして──誰もが想定できなかっただろう、今までで最も長い夜が始まった。

*1
きらら作品定期

*2
誇るな

*3
十分過ぎるわ




次→1月27日00時00分(予定)


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五時限目

 地獄の大学編はーじまーるよー。

 

 前回はランダル本社に向かう準備を済ませたところで終わりましたね。

 今回から本格的♂に武闘派との抗争(実力が互角とは言ってない)が始まります。

 

 現在くるみちゃんを追って外のキャンピングカーに向かっている最中の古木くんですが、この時点で既に行動を起こしている武闘派のせいで色々と厄介なことになっています。

 

 先ずくるみちゃんを確保しに向かっているタカシゲ……帽子を被ってるタバコの人、そして図書館に向かっているタカヒト、シノウ姉貴、アヤカ……†私は選ばれた†の三人です。

 

 マップによれば図書館に居るのはリセとスミコ、ゆきちゃんの寝室にめぐねえ、圭はみーくんと一緒、椎子姉貴は古木くんの寝室、他は原作通りですね。

 イベント進行が同時に発生しているので、最初にリセとスミコは確実に捕まるでしょう。

 

 下手にAIが好戦的だとここで誰かしらが死にますが、こちらの陣営から死人が出たらデータをロードしてやり直すだけだから安心! ちなみに動画化したこれがtake1です。意味は分かるな? 

 

 んだらば外に出てキャンピングカーを目指します。ちなみにくるみ姉貴がキャンピングカーで寝ている理由は単純、感染が進行していて眠れたり眠れなかったりしているからです。

 

 おまけに前回のラストで逃げていたのは、こちらが獲物に見えていたからでした。そんなときに武闘派がやって来てさあ大変! という話ですね。こいつら余計なことしか出来んのか。

 

 まあ向こうも仲間が感染者になったりで余裕の無さが限界に達したという事情もありますからね、同情はします。それはそれとして、お前たちにはこれから死んでもらう(無慈悲)

 

 そんなわけでキャンピングカーに到着、するとそこにはシャベル装備のくるみ姉貴とバール装備のタカシゲが。おっと本日の犠牲者発見伝。

 

 ──と、遭遇と同時にイベントが発生。

 逃げるくるみ姉貴を追うタカシゲ……を全力疾走で追いかける古木くんの恐怖映像を見つつ、ここで一段階目の戦闘開始。

 

 このイベントはくるみ姉貴を追いかけながらの『やつら』数体で一回、道中の駐車場でタカシゲで一回、そして追い詰められたくるみ姉貴がやつらを音で呼び出すことでのラッシュの計三回の戦闘があり、好感度の数値によって三段階目のラッシュ時のタカシゲの生死が決まります。

 

 当然ですが高校編からの地続きだと交流時間が無さすぎて武闘派の好感度は先ず稼げません。なので本動画での武闘派は…………んまぁそう。

 

 

 

 ──はい倍速入りまーす。

 

 今さらやつらごときに遅れを取る古木くんではありません。ペグ投擲と日本刀の通常攻撃でオーバーキルの威力を叩き出せますのでね。

 

 続けてタカシゲ戦ですが、これも一撃で体力を半分近く減らせてしまうので一瞬で三段階目に以降します。古木くん鬼強ええ! このまま逆らう武闘派ぶっ殺しにいこうぜ!(デンジ)

 

 そして問題の三段階目。

 原作では感染の進行でやつらに近づいている自分でいっぱいいっぱいのくるみ姉貴が、襲い掛かってきたタカシゲを音で引き寄せたやつらに殺させる……というものなのですが、オリ主の存在するゲーム版でも原作通りに進むせいで、くるみ姉貴が二人纏めて殺そうとするイベントになってしまってるんですよね。

 

 オリ主の安否を気にする余裕すら無い、或いはわざとやつら側と認識させて殺されようとしているのか。まるでエレンみたいだぁ……

 

 ──今さら止められねえよ! 進撃スイッチONだ! となっているくるみ姉貴の騒音攻撃により、辺りからわらわらとやつらが集まってきました。こうなってはやるしかないので、逃げ行くくるみ姉貴を追いかける前にやつらを殲滅しましょう。タカシゲ? ああ、あいつは良い奴だったよ。

 

 うう……チノちゃん、武闘派が踊り食いされてるところ見てて……となったところで今回はここまで。悲鳴を聞き、間接的に殺してしまったことを自覚するくるみ姉貴ですが、涙はお前にゃ全く似合いません!(哀叫拓也シリーズ)

 

 ではまた次回。

 

 

 

 

 

 ──まるで恐怖を煽るような、ざわざわと蠢く木々が窓の外に映る。

 ボウガンを突き付けられて歩かされる二人──スミコとリセは、背後を歩く武闘派の三人を尻目に小さくため息をついた。

 

「面倒なことになったものだ」

「そういえば御形くんはどこに?」

「わからない。ただ、仮に古木くんが校舎に居たら小生たちはこうなってはいない。つまり……何らかの事情で外にいるのやもしれん」

 

 悟られないように小声で、古木の所在を確認する二人。それからスミコは、武闘派に()()()()()()()()と判断されて没収されていない傘をリセに見せながらふと提案をした。

 

「この場から外の古木くんにこちらの状況を知らせる画期的な方法がある」

「──なるほどね」

「リスクはあるが……まあ、古木くんの足枷になるよりは遥かにマシと言える」

 

 そう言い終えたスミコが突如として窓目掛けて傘を振りかぶるのと、武闘派の一人、アヤカが反射的にボウガンを射つのは同時だった。

 

 

 

 

 

 ──大学の校舎から離れて暫く、武闘派の一人に終われて逃げるくるみとそれらを追う古木が、施設の一角の壁際で立ち止まる二人に追い付いた。バールを握る帽子の男は、呆れたような表情でおもむろに口を開く。

 

「……ったく、なんなんだお前ら。感染者に、コスプレ野郎が」

「これは私服だ」

「マジかよ」

 

 抜き身の刀を片手にそう言い返す古木に、男──タカシゲは信じられないものを見るような顔をする。フェンスに向かって項垂れていたくるみが振り返ると、不意に問い掛けてきた。

 

「……これしかないのかよ」

「あぁ、まあ、しょうがねえよな。安全第一だ、こっちも一人死んでる」

「えっ?」

「なに……?」

 

 タカシゲが面倒臭そうに言い捨てながらバールを振りかぶる。()()()避けようともしないくるみとの間に割り込んで刀で受け止めた古木が、彼の言葉に質問で返そうとした。

 

「どういう意味だ、死んだというからには誰かに殺られたのだろう」

「とぼけんじゃねえっ! うちの仲間は噛まれてもいないのに感染していた。そのガキが感染者なのと! 関係ないわけねえだろ!」

「────!」

 

 古木と背後のくるみは、タカシゲが──武闘派が強行に出た理由を察する。

 しかし、それでも、古木がタカシゲに刀を向ける理由もまた、()()()()

 

「……こちらに無実の証拠は無いが、そちらに事実の証拠も無い。だが子供を手に掛けようとしたんだ、殺されても文句は言えまい」

 

 バールを弾いて後退させた古木。カチリと殺意にスイッチが入りそうになった──刹那、背後から横へと駆け出したくるみが、あろうことか、シャベルでフェンスを叩きながら走り出した。

 

 カンカンカンカンと甲高い音が辺りに響き、夜間に大人しくしていた感染者たちが起き上がる。くるみには目もくれず古木とタカシゲに迫ってきた『やつら』は、二人を標的に定めてのろのろと、しかし大量に歩み寄ってきた。

 

「っ、くるみ!」

「おい! お前の仲間だろ、なに考えてんだ!?」

「黙れ、今はこいつらを捌くのが先だ」

 

 怒声をあげるタカシゲに静かに返す古木。刀を握る反対の手で掴んだペグを、タカシゲを後ろから噛みつこうとしていた1人に投げつつ、それでいて頭をフルで回転させる。

 

 

 

 ──この男は庇いきれない。

 ──くるみを追うのが先決。

 ──ここで見限るか? 

 ──それはするべきではない。

 ──殺そうとしたじゃないか。

 ──(おまえ)はそれを誇れるのか? 

 

 

 

 脳裏で問われる是非。増えて行く感染者(やつら)。思考とは裏腹に、自分だけを守ることが精一杯で──やがて少し離れた位置で戦っていた男の悲鳴と、肉を喰い千切る音が聞こえてきて。

 

「……すまない」

 

 古木は小さく謝罪の声を漏らして、手近のやつらを数体切り捨てると、くるみを追いかけるべく足を動かす。苦虫を噛み潰したような表情をする古木の耳は、大学の方から聞こえてきた、ガラスの割れる音を鮮明に捉えていた。




次→2月3日00時00分(予定)


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六時限目

※小説パートのみ


 大学構内の個室、取調室のように隔離されたそこに座らされた女性──リセは、中に入ってきた男性・タカヒトに意識を向ける。

 

「カツ丼が欲しいところだね」

「……面倒な奴だ」

「ところでスミコは大丈夫かな」

「矢は当たっていない。突然傘を投げて窓を割ったんだ、当たらなくて幸運だったな」

 

 吐き捨てるようにそう言うタカヒトに、小さくため息をついてからリセは続ける。

 

「一応言っておくと、私はずっと図書館に居たよ。アリバイはないけど、私たちが君らを襲う理由もないよね?」

「だとすればお前たちは愚か者だ」

「──?」

「食料は無限ではない。何時かは尽きる。仲間が増えた分、俺達を間引こうとしたのではないのか?」

「……なるほど、そう考えるんだね」

 

 タカヒトの鋭い目付きに、リセは考える素振りを見せ、諭すように冷静に返した。

 

「でも、人手が増えた分、食料の増産とか出来る可能性があるよね?」

「現実から目を逸らした楽観論だな」

「どうして?」

「確度の低い投資を行えば全滅の確率が上がる」

「全滅しないことが目的ならいつかは負けるよ。だって私たちはいつかは死ぬし、人類だっていつかは滅びるんだからね」

 

 淡々と進む会話の中で、リセがタカヒトを見て更に続けた。

 

「問題は何をするか、じゃないかな」

「──図書館に引きこもってる奴がよく言う」

「それを言われると辛いね。生き残る為に色々な方法を試す、私はそれでいいと思うんだけど」

「リソースが潤沢なら、それもまた一つの解だ。だが今はそうではない。貴様らを遊ばせておく時間は終わった」

 

 最後に立ち上がりながらそう言ったタカヒトは、部屋から出て鍵をかける。

 近くに待機していたアヤカが、おもむろにタカヒトへと問いかけた。

 

「どうだった?」

「あいつは何も知らん。出る前に縛っておけ」

「わかったわ」

「それと、出発の準備だ。タカシゲが戻ってきたら行くぞ」

「……了解」

 

 アヤカはタカヒトの背中を見ながら、目尻を細めてポツリと呟く。

 

「……難しい顔。なんで笑わないのかしら」

 

 ──こんなに素晴らしい世界なのに。

 自分は選ばれた。そう驕る女性は、一人、静かに、万能感に酔いしれる。

 

 

 

 

 

 ──穏健派の拘束に動くタカヒトたちをよそに、一人個室で椅子に縛られたリセは、扉の前で声を発して人を呼ぼうとしていた。

 

「おーい、ちょっと、誰か居るかい? 人間には生理的欲求というものがあってだね。頼むよ、誰か居ないのかい? ……ふむ」

 

 これだけ声を荒らげても、誰も反応しない。扉の外に気配がしないことを確認すると、パイプ椅子をガシャガシャと鳴らしながら室内を歩く。

 

桐子(トーコ)比嘉子(ヒカ)(アキ)に、青襲さんとスミコと御形くん。新しい子達を含めて十三人……私とスミコを除けば十二人、それだけを取り押さえるには人手が居るから、見張りを残す余裕は無いはず」

 

 室内をぐるぐると歩き回りながら、言葉にして思考を纏めるリセ。

 

「ないといいんだけどね……うーん」

 

 それから窓を見て、器用に助走する体勢を取りながら、あっけらかんと言う。

 

「行けるかな?」

 

 ──直後、二度目の窓ガラスの割れる音が外に響いていた。

 

 

 

 

 

 ──シノウにアイスピックを添えられた晶は、アヤカとタカヒトに捕まりテープで口を塞がれた桐子を見て、抵抗する事が出来ないでいる。

 

「っ……トーコを離して!」

「騒ぐな」

「! ……それ、ヒカのオルゴール」

 

 アヤカが片手に持っている箱に意識を向けると、タカヒトは晶に告げた。

 

「騒ぎを起こせば喜来を殺す」

 

 深夜の廊下での一幕に、晶も桐子も抵抗が出来ない。そんなとき、誘き寄せる餌のように鳴らされるオルゴールに引き寄せられた人影が、廊下の角からひょこりと現れる。

 

「……先輩?」

「なんの音です、か」

 

 ──それは、トイレのために起きたゆきと、偶然廊下で鉢合わせた慈の二人だった。

 

「っ、声を出すな!」

「これで四と五人目」

 

 そして互いに不意打ちのように出会した状態で、反射的に大きく息を吸うゆき。

 

 

『──────!!!』

 

 

 言われた通りに黙ることは難しく、ゆきは廊下に悲鳴を響かせる。後退りする慈に引かれて数歩下がりながら、彼女に耳打ちされた。

 

「ゆきちゃん、古木くんを探してきて」

「えっ!? で、でも……」

「私は大丈夫だから、いい?」

 

 慈はゆきを後ろに下がらせながら、背中を押して強く言った。

 

「──行きなさい!」

「っ! は、はいっ!」

「おい、待て──」

 

 体を跳ねさせ、慌てて踵を返して走り去るゆきを追おうとするタカヒトに、慈は立ち塞がるように両手を広げて廊下の真ん中に立つ。

 

「…………っ」

 

「──ちっ」

 

 最悪殺されるかもしれない。そんな想定が脳裏を過って体を強張らせる慈に、タカヒトは心底面倒くさそうに舌を打った。

 

 

 

 

 

 ──ゆきの悲鳴を聞き、悠里と瑠璃の部屋に慌てて駆け込んできたのは、美紀と圭だった。

 

「りーさん! 起きてください!」

「様子が変です!」

「起きてるわ。さっきの悲鳴は……」

「はい。ゆき先輩の声でした、それとくるみ先輩も部屋に居ないんです」

「あとめぐねえと古木さんも居なくて……」

 

 しどろもどろで話す二人に、悠里は瑠璃を抱き寄せながら静かに考える。

 

「わかったわ。先輩たちも探したいけど、無闇に動くのも危ないから一旦隠れましょう」

「はい、でも……どこに──」

 

「──地下の倉庫ね」

 

 四人のもとに、第三者が語りかけてくる。扉に振り返ると、そこに居たのは、白衣を身に纏い、苛立たしげに煙草を咥えた椎子だった。

 

「青襲さん、古木さんはどこに!?」

「知らん。大方ここに居ない奴と外に居るんでしょう。こっちも仕込みをしてたから初動が遅れてしまったわ」

「仕込み……?」

「ちょっとしたトラップよ。放送室付近には絶対に近づかないこと」

 

 ふぅ、と煙を吐くと、瑠璃をちらりと一瞥してため息混じりに携帯灰皿に煙草をねじ込む。

 それから首を廊下の方にくい、と曲げて、口にせずとも『さっさと動け』と語っていた。

 

 

 

「マニュアルで見たけれど、ここが巡ヶ丘と同じ構造なら地下に籠城できる。あとは御形が連中をみなごろ……制圧するのを待てばいい」

「今すごい物騒なこと言いましたよね」

 

 四人を先導して前を歩く椎子に、圭が頬をひくつかせて問いかける。そういえばと、気になったことをそのまま質問した。

 

「さっき言ってたトラップっていったい」

「あいつらなら、最悪の場合警報かなにかでやつらを呼び出す危険性があるから、まあ……ちょっとした爆弾を仕込んだのよ」

「えぇ……」

「こっちに持ってきてた薬品を使いきってしまったから、私としては理学棟に向かって補充したいのだけれど」

 

 ストレスからか反射的に、白衣のポケットに入れた煙草を取り出そうとする手を押さえ、椎子は灰がかった色の髪をガシガシと掻く。

 

「……武闘派の人たち、なんですよね」

「感染者に音を立てる知能は無いわ」

「何かの間違いだと……いいんですけど」

 

 美紀の言葉に淡々と返す椎子。

 呟いた美紀に続けて何かを言おうとして視線を後ろに向けた椎子は──上から階段へと降ってきたシノウに捕まる様子を視認する。

 

「美紀くん──」

「ぐっ……」

 

 首に腕を回され動けなくなった美紀は、椎子と悠里、そして圭と瑠璃に咄嗟に叫ぶ。

 

「──走って!」

「ちっ……走れ!」

「ひゃっ」

 

 まず美紀を拘束しなければならないシノウは、椎子たちを一旦見逃すしかない。

 

「美紀さん……」

「美紀、ごめん!」

 

 瑠璃を小脇に抱えて駆け出した椎子とそれを追う二人は、ちらりと美紀を見て、床にうつ伏せにされた彼女が頷く姿を見ていた。

 

 

 

 ──大教室に駆け込んだ四人は、机の陰に座って息を整える。

 

「……さて、これで地下室に向かう事が出来なくなった……と。御形がこっちに戻ってくるのが何時かはわからない……この場の私たちしか動けないと仮定して……」

 

 ぶつぶつと小声で状況を纏めようとしていると、抱えられた流れでそのまま横に座っていた瑠璃が、時間帯と疲れが重なり船を漕ぐ。

 

「……んう」

「──なんで私に懐くのよ……」

「ふふ、青襲さんがいい人だってわかっているからだと思いますよ」

「は──、冗談でしょう」

 

 呆れた声色で悠里に返す椎子は、白衣にしがみつく瑠璃を見下ろしてため息をつく。

 

「古木さんも懐かれていたので、たぶん、そういうことですよ」

「……そんないい人は、これから、残酷な選択を取らないといけないわけだけど」

 

 悠里と圭の顔を見て、それから、椎子は眉をひそめて二人に言った。

 

「どちらかには武闘派に捕まってもらう」

「えっ!? ……あの、その心は?」

「あいつらは私たちを捕まえようとしている。つまり殺す意図はない。けれど、私たち四人がここから逃げ切れたら、残った子達が何をされるかわかったもんじゃない」

 

 一拍置いて椎子は続ける。

 

「──向こうに戦果を渡しつつ、私はこの子を連れて理学棟まで逃げる。恐らく外に居る御形と合流できる可能性もある以上、これより良い策は思い浮かばないわね」

 

「じゃあ……私が残りますよ? 美紀も捕まってるし、瑠璃ちゃんには姉のりーさんが残った方がいいんじゃないかなー? って」

 

「──いいえ」

 

 控えめに挙手して立候補する圭の手を、悠里が優しく下ろさせながら言う。

 

「私が捕まります。圭さんは青襲さんとるーちゃんに着いていって?」

「なんで!?」

「……そうね、強いて言うなら……私が瑠璃(このこ)に、甘えていたから……かな」

 

 自分以外に懐く瑠璃を見て、悠里は、無意識に妹に依存していたのだろうと察する。

 加えて、妹が心配だからと圭を犠牲にするのも違うだろう。この場での最適解は、自分が捕まること。それはきっと、椎子もわかっている。

 

 悠里にじっと顔を見られた椎子は、ガリガリと頭を掻いて、何度目かも忘れるほどに深いため息をついて誰に言うでもなく独りごちた。

 

「こういうのは御形(あなた)の役目でしょう」

 

 

 

 ──大教室の窓を開け、圭を先に出してから瑠璃を抱えさせて、最後に椎子が出る。

 閉められた窓の奥、教室から出ていった悠里が捕まる光景を横目に、椎子は圭から受け取った瑠璃を抱き抱えて理学棟に走った。

 

「あの、青襲さん」

「……なに?」

「本当に武闘派は殺すつもりは無いんでしょうか。食料も限られてる状況で切羽詰まってるのに、そんなことする余裕って無いんじゃ」

「賢いわね」

「えっ、はい」

 

 唐突に褒められた圭は状況ゆえに喜びを抑える。しかし、椎子が続けて言った言葉に、彼女は心の底から困惑した。

 

「殺せないわよ。誰だって──御形と殺し合いなんかしたくないでしょ?」

「…………いやあ流石に古木さんも生身を斬ったりは……あの、しませんよね?」




次→2月10日00時00分(予定)


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七時限目

 終盤戦な大学編はーじまーるよー。

 

 前回は穏健派と高校組が捕まるところで終わりましたね。今回は古木くんの視点に戻ったところから再開です。ちなみに味方の場所はマップに記されているので、ひと塊になっている=捕まっていると判断できるんですね。

 

 ついでに言うと……現在、くるみ姉貴を見失っています。ムービーとムービー明けの間にある暗転を挟むと、強制的に見失うんですよね。

 ──くるみ姉貴鬼速ええ! このままくるみ姉貴にRTA走ってもらおうぜ!*1

 

 

 そんなわけで、キャンピングカーの辺りに戻ってきたのだ。すると、ちょうど現れたゆきちゃんと鉢合わせました。

 話を聞くに、本来ならゆきちゃんが捕まる場面でめぐねえが庇ってくれたらしいです。

 

 ドエレ──……"COOOL"じゃん……? 

 生徒を庇う教師の鑑がこの野郎……! 誰だよ淫乱ピンクとか負けヒロインとか言ったやつ。

 

 んだらば、車内にくるみ姉貴が書き置きを残しているかもしれないということで、その手の痕跡を探しましょう。書き置きはありませんが、ベッドの中に手錠があるのを確認すると、構内のイベントフラグが進行して武闘派に捕まった高校組がやってきます。

 

 今回はみーくん、りーさん、めぐねえの三人ですね。マップを見る限り椎子姉貴と圭とるーちゃんは理学棟に避難しているので、こっちは放置で良いでしょう。【科学知識】のスキルを持つ椎子姉貴は、その気になれば混ぜてはいけない薬品で爆弾を作れますからね。*2

 

 ではさっそく作戦会議をば。作戦は大きく分けて二つ、一つはみーくんがくるみ姉貴を探しに行く原作ルート、もう一つは古木くんで武闘派を皆殺しにするルートです。

 

 当然ですがここで武闘派全滅RTAを始めた場合は、くるみ姉貴を連れ戻すイベントが中断されてしまうので、くるみ姉貴が大学編で永久離脱からの終盤で完全に転化した彼女と戦うイベントに派生してしまいます。だから、ここは原作通りに進める必要があったんですね。

 

 行け! みーくん!(ピッピカチュウ)、と見送りつつ見所まで倍速。

 

 

 

 描写の外ではおそらく、武闘派の苦労人ことリーダーがロジハラで虐められている頃でしょうか。まあ向こうの言い分って『事故死を殺人事件だと騒いでる』みたいな感じですし。

 

 普通に考えて穏健派に武闘派のメンバーを暗殺とか無理に決まってるじゃんアゼルバイジャン。ですが……恐らく古木くんならそういうことが出来ます(トリオンモンスター)*3

 

 ──と、みーくんがくるみ姉貴を探しに出ていってから数分でイベントが進行。

 まるで脱走した犬が帰巣本能で帰ってくるみたいにあっさりと塀を飛び越えてくるみ姉貴が戻ってくるので、ゆきちゃんと一緒に追跡しましょう。りーさんとめぐねえは…………留守番で。

 

 などといったところで今回はここまで。

 あと1……か2partくらいで大学編も終わります、お楽しみに。

 

 

 

 

 

 ──美紀がくるみを探しに出ていったあと、キャンピングカーの中で、古木は湯気の立つ白湯をすすっていた。コップを流しに置いてから、重いため息をついて目頭を指で揉む。

 

「古木くん、大丈夫ですか?」

「……俺は大丈夫です。早いところくるみを探して、武闘派の連中も制圧したいところですが……リセたちを人質にされては困りますから、今はまだ機を待たなければ」

 

 慈の労うような声にそう返し、古木は腰の刀の柄頭に手のひらを添える。

 妙な迫力にぞわりと背筋が粟立つ慈だが、それでも肩に手を置いて続けた。

 

「──無茶は、駄目ですよ」

「わかっています。俺が死んだら戦力の低下が著しいことは理解して「そうではないです」

 

 不思議そうに眉をひそめる古木の肩に置かれた手を腕にずらして、手に移動してそっと手のひらを包むように握ると、慈は言う。

 

「みんなで、です。貴方も揃って、ようやく『みんな』なんですよ」

「────」

「だから……自分が犠牲になってでも、なんて、それは絶対に許しません」

 

 じっと見上げてくる慈の目から逃げるように視線を右往左往させる古木は、やがて観念したかのように小さく頷く。

 

「はい」

「……わかればよろしい」

 

 ふふ、と笑って、慈は歳上らしい口調で締める。それからふと、視界の端──窓の外でなにかが動いたのを捉えて古木の顔がそちらを向いた。

 

「──、くるみが居た」

「えっ」

「美紀とは入れ違いか……俺が行きます、今度こそ連れて帰りますから」

「私もっ!」

「ゆき……」

 

 ばっ、と手を上げてアピールをするゆきに、古木の目尻が細まるが。

 

「……わかった、来い。お前も居れば、くるみも話を聞き入れるかもしれん」

「──!」

「悠里と慈さんはここで待機を。出口たちがここに来るかもしれないので」

 

 リュックをゆきに渡しながら指示を出す古木に、悠里と慈は頷いて返した。

 静かに素早くキャンピングカーの扉を開けて出ていった古木たちを見送ると、二人は車内のベンチに座って向き直る。

 

「めぐねえ、今日は頑張りましたね」

「今日は…………?」

「すみません。いつも頑張ってましたね。一歩前進ですよ、たぶん」

「たぶん…………?」

 

 慈の恋路はまだまだ遠いと、内心で独りごちる悠里は、現状に対して不謹慎だなと思いながら、くつくつと喉を鳴らして笑っていた。

 

 

 

 

 

 ──くるみを探しながら走っていた美紀は、理学棟を訪ねていた。

 

「青襲さん!」

『……君か。抜け出せたようね』

「はい、そちらは……」

『私たちも居るよ!』

『いるよー』

 

 インターホンの奥から聞こえてきた椎子の声と、更には圭と瑠璃の声。

 無事であることを知ってホッとする美紀だが、かぶりを振って続ける。

 

「実は、くるみ先輩が居なくて……こっちに来ていないかと思ったんですが」

『残念だけれどあの子はここには来ていないわ。……それと、逆に聞くけど、この一件が起こった原因を知っていたりはしないかしら』

「…………それは──」

 

 ポツポツと語り始めた美紀の話を聞く椎子。武闘派の仲間が感染した、という部分で彼女は「なるほどね」という言葉を漏らす。

 

『──わかった、その件での説明を連中にする必要があるでしょうし、私も着いて行ってあげる。ちょっとそこで待ってなさい』

「は、はい」

 

 インターホンのマイクの奥で圭と瑠璃に何かを話す椎子は、それから数分してバッグを肩に提げて煙草を口に咥えながら現れた。

 

「……くるみ君とやらはどうせ御形たちが見つけてくれる。私たちは一旦戻りましょう」

「──あの、なるほど……というのは」

「まあ、貴女には先に説明しておいた方がショックも少なく済む……ん」

 

 煙を吐きながら、椎子は足音を耳にして顔を向ける。そこに立っていたのは、武闘派のリーダーことタカヒトであった。

 

「……どこへ、行く……!」

「どこって──どこに行けばいいんですか! 貴方たちが、追いかけてくるから……っ」

「ふざけるな! 仕掛けてきたのはお前たちの方だろう……!!」

「っ──、?」

 

 すっ、と美紀を下がらせて、椎子が前に出る。タカヒトを真正面に捉えて、灰を地面に落としてから、静かな声色で言った。

 

「武闘派のお仲間が感染して転化した、だったわね。それならこの子達じゃないし、私たちでもない。……予想は出来ていたけれど」

 

「なに……?」

 

「まず、世界がこうなった原因がただの接触感染だけとは思えない。例えば世界同時多発テロを想定したところで、世界を一度に沈黙させるのは難しいの」

 

 椎子の言葉で冷静さを幾ばくか取り戻したタカヒトは、荒く呼吸しながらも話を聞く。

 

「少なくとも、初期の感染ルートは空気感染じゃないとこうはならない。私たちが今まで無事だったのは単なる偶然ね。

 その上で一つ質問をするわ。なぜ、インフルエンザワクチンを毎年接種するか知ってる?」

 

「……それは……、ウイルス、は……変異する……から……っ」

 

「そう、ウイルスは変異する。免疫があるからといって、それがずっと続くとは限らない。おまけにもう一つ言わせてもらうと──」

 

 椎子は携帯灰皿に煙草をねじ込んで、懐からもう一本を取り出しながら、あっけらかんと──状況を鑑みたが故の事実を述べる。

 

 

 

「あなた、感染してるでしょ」

*1
ただの本編定期

*2
あっ、ふーん……(察し)

*3
推理小説の犯人が魔法使いでしたレベルのルール違反やめろ




次→2月24日00時00分(予定)


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八時限目

 そろそろ終わる大学編はーじまーるよー。

 

 前回はくるみ姉貴の捜索に出たところで終わりましたね。今回は古木くんとゆきちゃんの視点から再開です。

 

 現在、くるみ姉貴を追って外を走り回っている古木くんですが、ゆきちゃんの遅さに合わせないといけないので少し遅いですね。

 今は色んなところでイベントが同時進行しているため、恐らくみーくんは武闘派のリーダーとこの事態が空気感染によるモノだというところに行き着いてる頃でしょう。

 

 すると、時間経過で感染の進んだリーダーがヤケクソで正門を開けて『やつら』を中に招き入れるので……おおっとシャベル姉貴のくるみ……ではなく、くるみ姉貴のシャベルを発見伝。

 

 つまり──くるみ姉貴は近くにいる……ってコト!?(ガバ推理)

 

 というわけでやつらをぶちのめしながら進軍する、カァ……といきたいところですが、そうは問屋がおろしません。

 やつらを招き入れるリーダーを見た武闘派壊滅の原因の7割ことアヤカ姉貴が──なんと見切りをつけて更にやつらを招き入れようとして、放送室で警報を鳴らしてきます。

 

 ほうらお聞きなさい、ウー☆ウー☆というやかま【ドン!!!】しい音が────なんて? 

 

 

 

 …………?????*1

 

 

 

 ん? え? は? なんで? 

 なに今の……爆発音は……。

 

 ──タイミング的に、放送室で警報を鳴らしたアヤカ姉貴が爆発したのでしょうが……あの人リア充でしたっけ。……まま、ええわ。

 たぶん椎子姉貴がレインボーなシックスよろしく罠を仕掛けておいてくれたのでしょう。

 味方NPCのAIが優秀で助かりました、これで一人減りましたね……(蟹刑事)

 

 んだらば行動再開。

 警報がフラグとなって画面端ィにくるみ姉貴が現れるため、ゆきちゃんと一緒に追いかけます。やつらの数が徐々に増えていくので、頃合いを見て塀の上に登ってから追跡を続行しましょう。

 

 

 

 ──ここからは選択肢を間違えないように。塀の上を走ってくるみ姉貴を追いかけていると、選択肢が数回出て来ます。【声を掛ける】と【諦める】が出て来るのですが、ここでは三回連続で【声を掛ける】を選んでください。

 

 するとイベントが進行して……はい、ゆきちゃんが足を滑らせて落下します。ここでも選択肢がありますが、【助けに行く】と【くるみに任せる】でも【くるみに任せる】を選択。

 

 やつらから庇うべくゆきちゃんに覆い被さるので、そのままイベントムービーへ。

 これでくるみ姉貴を引き留めることに成功したので……あとは武闘派の残りをチェスト関ヶ原して行くだけですね。

 

 などといったところで短いですが今回はここまで。次回、大学編最終回。お楽しみに。

 

 

 

 

 

 ──美紀と椎子に逃げられ、感染が進行し、おぼつかない足取りでふらふらと、頭護貴人(タカヒト)は木の幹を背に倒れ込む。

 

 居ない犯人を探し、存在しない解毒薬を求め──リスクを恐れて散々人を切り捨ててきたが故の、自分の番が来ることへの恐怖。

 

 それが、タカヒトの掠れた視界にかつての仲間の幻覚を生み出す。

 

「……お前らか。俺が憎いか……?」

 

 ひゅうひゅうと辛うじて酸素を取り込みながら、タカヒトは声を荒らげる。

 

「──くそっ! 何のために俺は生き残った! 何のために俺は殺した!? 

 ──生きるためだ! 生き残る為だ!! 俺は……絶対に諦めん……!」

 

 タカヒトは半ば自棄になりながら、正門を塞ぐ土嚢を退かし、釘を捩じ込んだバットで門を叩いて鳴らす。感染者(やつら)を招き入れるという凶行に出たタカヒトを、構内で──アヤカが見ていた。

 

「ここも面白かったけど、そろそろ潮時かな」

 

 踵を返して、アヤカは放送室へと足を運ぶ。タカヒトの行動に便乗して場を荒そうと、室内にある警報のスイッチに指を伸ばし────押すと同時に、足がセンサーに引っ掛かる。

 

「……ん?」

 

 けたたましい警報が鳴る音に紛れて、足元で動体検知により起動したカメラのフラッシュが光り──それが信管となって液体爆弾を起動。意図的に量を減らしたそれが炸裂し、アヤカを壁まで吹き飛ばしていた。

 

 

 

 

 

 ──ゆきを庇うくるみの周りから『やつら』が消え、古木は塀から降りて二人に近づく。

 くるみもまた二人に意識を向けながら、呟くように口を開いた。

 

「……お前ら、本当に馬鹿だなあ。こんなんじゃ……安心していけないだろ」

「どこへ行くの?」

「どこだろうな。もう、意識があんまりないんだ。今だっていつまで保つかわからないし……だからこれでいいんだ……ごめんな」

 

 力無く微笑を浮かべるくるみに、ゆきは起き上がって言葉を返す。

 

「──ごめんじゃないよ! それってつまり……自分が足手まといとか、居ない方が良いとか……そういうことだよね? そんなの許さないよ!」

 

「……聞き分けの悪いこと言うなよ。あたしだって…………好きで逃げたいんじゃねえよ!! 今日は大丈夫だから明日も大丈夫だなんて確証もない、いつかは駄目になる、だから出ていこうとしたけど出ていけなくて……っ!!」

 

 感染の進行を感じ、自分が自分では無くなって行く感覚を覚え、それでも尚、くるみは全てを切り捨てることは出来なくて──ゆきはそれに、あっけらかんと言い返す。

 

「じゃあ逃げなきゃいいよ!」

「無理だろ!」

「無理じゃない!」

「わかってねえんだよ!!」

「──わかってるよ!」

 

 くるみの否定的な声に被せるように、ゆきは大きく言って、それから優しく続ける。

 

「ずっと同じ日は続かない、いつかお別れだってある。でもさ……知らないうちに居なくなって、生きてるかどうかも分からないなんて、そんなの──ズルいよ」

 

「────!」

 

「みーくんもりーさんもめぐねえも、けーくんもるーちゃんも皆も心配してるよ。くるみちゃんがどうなっても、ぐるぐるに縛ってでもつれてくからねっ!」

 

「お前物騒になったな」

 

 だから──と続けて、ゆきはひやりとするくるみの頬に手を添えて締めくくった。

 

「だから、絶対……最後まで一緒だよ」

「……わぁーったよ、あたしが悪かった」

 

 意固地になることを諦めたように、くるみはため息混じりに表情を緩める。──そんな二人を、背後で見守っていた古木が声をかけた。

 

「そろそろいいか」

「うわ──っ!!?」

「うおおおっ!!?」

 

 完全に存在を忘れられていた古木に驚いて体を跳ねさせる二人。その内のくるみは、おずおずと古木に向けて言葉を投げ掛けた。

 

「……悪い、気付かなかった」

「この空気に割り込む度胸は無いからな。意図的に気配を消していた」

「気配って意図的に消せるんだ……」

 

 相変わらずの仏頂面。しかしてどこかホッとした様子の雰囲気を見せる古木は、二人を立ち上がらせると腰の刀に手を添えて続ける。

 

「さて……武闘派もやってくれたな。警報まで鳴らすとは、よほど追い詰められているのか」

「ああ、なんか爆発もしてたし」

「あれは武闘派の仕業ではない」

「えっ?」

 

 くるみとゆきは、古木の否定に疑問符を浮かべる。正門の方へと向かいながら続けた古木の言葉に、二人は口角をひくつかせた。

 

「恐らく椎子が爆薬でも仕込んでいたんだろう。まあ、殺傷力は落としているはずだ」

「…………はい?」

「ごめんなんて?」

「………………。ほら、行くぞ」

 

 ──いや誤魔化すなよ……というくるみの言葉を背中にぶつけられながら、古木は先導して、駆け足気味にその場を後にするのだった。

*1
思考止まってて草




次→3月3日00時00分(予定)


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九時限目(終)

 明けない夜はない大学編はーじまーるよー。

 

 前回はくるみ姉貴を引き留めることに成功した辺りで終わりましたね。今回は武闘派とのケッチャコをつけるところから再開です。*1

 

 くるみ姉貴も魔大陸に取り残されたシャドウ√には行かずに無事生存したので、あとはパパパッと武闘派を始末して……終わり! 

 

 なんか一人爆死してたけど誤差です誤差。んだらば二人にはゆっくり来てもらいつつ、古木くんを操作してダッシュします。

 校舎の方でみーくんたちと合流する傍ら、道中で『やつら』との連戦で疲れているシノウが居るので拾っていきましょう。

 

 アヤカ姉貴が生きてたらついでに始末しておこうかと思ったけど居ないようですね。まあええわ、義によって助太刀……致す! 

 

 ──はい倍速入ります(無慈悲)

 

 さくさくさくっと倒して、シノウ姉貴が味方になるように選択肢に気をつけて会話をしましょう。生きることから逃げるな! (神喰い)とかなんとか言っておけば彼女は立ち直ります。

 

 強力な助っ人を確保したので……あとはリーダーをぶっころ……ぶっ天誅するだけですね。合流しようと校舎の方に向かうと、そこでもイベントが進展しています。

 

 ──なんと、武闘派のリーダーことタカヒトが、椎子姉貴とみーくんとアキ目掛けて車で突っ込んでいました。壁にぶつかって未遂に終わりましたが、一線を越えたのなら殺すだけです。*2

 

 臨時助っ人のシノウ姉貴に命令して後ろから襲いかかるように指示を出し、古木くんはみーくんにボウガンを突き付けるタカヒトに横合いから接近、またしてもレスバに負けているタカヒトさん(大泉洋)に強襲を仕掛けましょう。

 

 射つ寸前のボウガンを抜刀しながらの踏み込みからの逆袈裟で掬い上げるように真っ二つにし、おまけにシノウ姉貴がタカヒトの腕をアイスピックでぶすり♂しました。

 

 さらにはカーテンを繋いだ紐で上から降りてきたスミコ、みーくんを下がらせた椎子姉貴、古木くん、シノウ姉貴、合流したゆきちゃんとくるみ姉貴に囲まれて、タカヒトはついに観念したようにその場から逃げ去ります──

 

 

 

 ──が、どうせこのまま転化するくらいなら、古木くんにその命預けてみないか? 今なら痛みもなく死ねますよ(マーケティング)

 

 騒ぎを聞き付けてか、キャンピングカーに避難していためぐねえとりーさんもやってきたので、その場を彼女らに託してタカヒトを追いましょう。あははー待て待てー(全力疾走)*3

 

 勝ち取りたいものもなさそうなダッシュで転化寸前のタカヒトに追い付くと、大学編最後のイベントが発生。一定以上の武術系スキル(剣術や格闘術)を持っていると発生する、感染したネームドNPCへの介錯イベントですね。

 

 夜も明けてきて徐々に朝陽が顔を覗かせる頃、古木くんはタカヒトとの会話ののちに、刀を抜いて側に立って構えます。介錯する前に悲しき過去を聞くんは女々か? 

 

 ──いいかい学生さん、相談でをな、相談をいつでもできるくらいになりなよ。それが人間、偉過ぎもしない貧乏過ぎもしないちょうどいいくらいってとこなんだ。

 

 つまりはそういうことです、タカヒト……お前の敗因は素直にみんなで協力しましょうと手を取り合えなかったことだ。あとアヤカとかいう死神を武闘派に入れていたことだ。*4

 

 それでは、タカヒトの介錯を最後に、大学編を締めさせていただきとうございます。

 などといったところで今回はここまで、前人未到のランダル編を震えて待て。

 

 

 

 

 

 ──ぜぇ、ひゅう、と、タカヒトの呼吸は荒くなり続け、酸素を取り込めていないかのようにだんだんと思考が怪しくなってくる。

 

 

『──生きていればそれでいいんですか?』

 

 

「……は──っ、はぁ──っ……」

 

 追い詰めて、解毒薬を奪おうとし、それでも失敗に終わった。美紀の言葉は、大学内での問題に関わらなかったが故の()()()()()なのだろう。しかし──感染者を殺し、仲間内だろうと危険であれば害する、そんな生活が続くわけがない。

 

「──お前たちの生き方は、否定はしない」

「…………っ」

「だが、だがな。お前たちは手を取り合おうとはしなかった。武闘派だ穏健派だと、立ち位置に固執して──他者を害してきたお前たちは自分の番を恐れていただけだ」

 

 ざり、ざり、と地面を踏み締める音。掠れてきた耳に、不思議と鮮明に声が聞こえてくる。

 ──シュリンと鞘から刀を抜き放つ音が静寂な空間に響き渡り、振り返ったタカヒトの視線の先にある建物の影の奥から、大上古木が現れた。

 

「──お前が苦しんでいる一人の人間であると言うのなら、俺はお前を救ってやる」

 

 一歩一歩近づく古木の右手にある刀が、陽光を反射する。タカヒトの目を焼くそれは、ただ眩しいだけではなく──古木の言葉の通りに、どこか、救いのように見えた。

 

「…………俺は、何を間違えた」

 

 膝をついて座り込み、タカヒトは地面に視線を落としながらそう呟く。

 

「…………切り捨てる必要があって……その決断をする誰かが必要だった……」

「──ああ」

「……全員を生かそうとすれば物資が無くなり……結局は全滅のリスクが上がる……」

 

 ──俺は何を間違えた。タカヒトはそう言って、血を吐きながら古木を見上げる。

 古木もまた、タカヒトを慈しむような眼差しで見下ろすと、しみじみと呟くように返した。

 

「──どうしてその言葉を、仲間に言ってやれなかったんだ。どうして、出口たちに助けを求めようとしなかった。自分達だけで戦おうとしたその考えは矜持ではない、ただの意地だ」

「…………ごほっ、ごぶっ……」

「もう疲れただろう。項垂れて、首を差し出せ」

 

 タカヒトは古木の言葉を思考の掠れた頭で反芻して、言われた通りに頭を垂れる。側に立つ古木が刀を振り上げると──ポツリと呟く。

 

「よく、頑張ったな。ゆっくり眠ると良い」

「────」

 

 ひゅん、と首もとに風が駆け抜け、プツリと意識が途絶える。眠るように視界が暗くなって行く最中、最期にタカヒトが見たのは、祈るようにまぶたを閉じる古木の表情だった。

 

 

 

「…………流石に、疲れた」

 

 チカッと古木の顔に、暖かな光が射し込む。まぶたを開けた古木は、夜明けの陽を見て──長いようで短い争いの終わりを実感するのだった。

*1
戦う前から壊滅寸前だったんだよなぁ……

*2
判断が早い!(天狗)

*3
怖すぎで草

*4
武闘派壊滅の原因の7割を担う女やぞ




次→暫く休載します。ランダル編をお楽しみに


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