ツンデレツインテの君はガールズバンドのキーボード (鮫肌伍長)
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出逢いは衝突に
クドイ文章にならないかと不安で、読み返してみて既に詰みを感じて頭を抱えてますが、頑張ります
思い立ったが吉日なんて言葉がある
その日に妙案が浮かべばすぐに実行に移すことで、良い方へ転がるとかそんな感じの言葉だったはずだ。
逆に言えば、色んな考えが浮かんで動けず実行できないまま終わるパターンがあり、自分なんかは特にその括りに入ると、嫌になる程感じている
小学生から始めた趣味、習い事、勉強はとても必要性を感じることができず、怒られない範囲で中途半端なとこで実力を出し、終わっていったものばかりだったからだ。
「やめようかなもう……」
そして大学生になった6月の今でも、同様のこんなナイーブな感じを醸し出している真っ只中。大学のカフェテリアのカウンター席でタブレット片手にテーブルに突っ伏していた
周りではある学生が友達らしきグループのいくつかがこの後の予定を話し合い、またある学生カップルはイチャイチャと会話を続けている。
とりあえずカップルは特に目に毒なのではよ帰って欲しい
ちなみに今自分がやってるのはネットサーフィン……もしてなくもないけど今やってるのはイラストだ。
アプリも有料のとかじゃなくて無料のアプリを使用というセコい方法で描いている
かれこれ高校3年後期から主にアニメやゲーム、俗に言う萌え絵の制作に取り組んでいる。が、まるで精進できてる気がしない。
線画のバランス、描き忘れ、機能を生かせないなど、ネットにあるイラストを比べても酷いったらありゃしない。
主観的に見て完成したと思いきや、数日経って見てみると粗が目立ち可愛いらしい雰囲気を持たせることができていないのをいとも容易く感じてしまう。
堅物の印象が強い感じと誰かに言えば伝わるだろうか、いや伝わらない
投稿サイトにもSNSにも、完成する度に出してもいるがまるで見てもらえていない。
ネット上のボタン形式の評価に惑わされないべき、なんて意見がネットでよく見かけるが、近くに見てもらえる交友関係がない以上ネットに依存せざるを得ないのだ
そんなわけで現在まで続けてきたこの趣味も、名の知れない引退に傾きつつあった
「……とりあえずもう帰るか」
描く気力も失いかけてたので描きかけのタブレットをしまい、帰宅の途につき始めたのであった
友達と呼べるものはいない。
小学生、中学生の時に話せる人は地元てこともあったのでいた。けど、どこのタイミングだったか。まるで実際自分から話しかけたことは無いてことに気づいた。
周りの意見に流されていたせいか、強い主張はしたことは考えてみればしたことなかったのだ。そんな不安は的中し、距離の離れた高校入学となると1人でいることがほとんどに。
結果、ラノベやらドラマで見かける青春物語は起こらず、高校3年間は何の出来事もないまま淡々と卒業してしまった
大学生になっても相変わらず交友関係が発達できず、のそぼそと過ごすことがデフォルトだった
「今日も帰ったらゲームしてよ……」
家に帰ってもモチベーションが変わりそうにない以上、別の時間消費で紛らわすことしかない。電車に揺られる中でもアプリゲームをしながらそう考えていた
……それからどれくらい経ってからだろうか
「ってあれ」
キリのいいとこまで続けて顔を上げてみると、何か違和感が
たまにしか見ない電車の外の景色が、あまり馴染みのないものだったのだ。すぐスマホの乗り換えアプリで確認してみると、時間通りならばいくつかの駅を通り過ぎた後の状態だった
(思っていた以上にのめり込んでちまってたか……今日に限ったわけじゃないんだけど)
多くても一駅や二駅だったので、それを超える降りそびれは初めてだったしな。とりあえず到着のアナウンスが流れたので足早にそこを降りる
降りた駅は、他の路線にも乗り換えが利く準主要駅て感じのとこだった。
反対方向の帰り道の路線のホームは、今のホームの階段上がってすぐ近くの階段を下りてけば行けそうだ
周囲を確認しつつ歩いていた俺だが、階段を上がり切ったところであるものが目に入る。
まだ帰る人が疎らな中、二人の年上の男性が誰かに執拗に話しかけていたのだ
誰か、というのも、背の高い男二人は自分の方に背を向けてその人に話しかけていたので、顔は塞がれて見えなかったからだ。
まあチラチラ見えた感じ、女性物のスカートだったので誰か、というのは女性だろうか
どうせナンパの類か何かなんだろう。駅員さんが女性を手助けしてくれるのを細やかに祈りつつ俺は通り過ぎる
つもりだった
「ですから……とにかくそういうお誘いはお断りしてますので、これで失礼します……!」
そんな大きな声が聞こえ、スルーしようと決心したにも関わらず、思わず柄にも無く立ち止まって振り向いてしまった俺
目に飛び込んできたのは、俯き気味にこっちへ足早に向かってくる女性。その女性の目線はこっちを見てなかったものだから
ドンッ
「おわっ⁉︎」「ちょま⁉︎」
思いっ切り衝突してしまった
しかもかなり強めだったので、バランスを崩し女性も俺にもたれるように一緒に倒れてしまった
「痛ってぇ……」
「痛たたた……」
こ……これはキツイ……!
止まった俺も俺だが、女性が止まらず突進してくるから身構える暇も無かった……!
「ご、ごめんなさい!すぐに、起き上がりますので……」
女性の声が倒れてる目の前で聞こえてきたが正直それどころじゃない。
結構モロに倒れたのでそれなりに痛みが走ってて、地味に身体にくる。
とはいえ尻餅でもそう重傷ではないはずだったから、サッサと起き上がる必要がある。同じように痛そうにもたれかかってる女性に起きてもらおうと、尻の痛みに目を瞑りながら、女性の肩の方へ手を伸ばしながら女性に声を掛ける
「あの、こちらこそ、その、すいませんが大丈夫か、あ、ですか?立てま」
モニュン
「ひゃあ⁉︎」
……柔らかい何かに手が埋まると同時に、女性の甘ったるいような甲高い声が聞こえた
(いや……まさか……そんな)
今の事象にある予想を超高速で頭隅々に巡り巡った俺は、痛みに耐えつつ恐る恐る目を開けてみたら
黄色味ツインテール、黒茶のオフショルダーのトップス、薄紫の花柄スカートの女性の二つの膨らみ、すなわち、男性の大多数が憧れを持つ女性の魅力的身体要素の一つ、つまりはおっぱいを俺の両手が捉えていた
これ、俗に言う、ラッキースケベだよね
「あ……あぁ……」
目の前の女性は、ワナワナと声を震わせながら自分の胸の惨状を見た後、ゆっくりこっちに目を向ける。
その顔は一瞬怯えた表情になったかと思うと、段々赤面、そして歯を食いしばりながらの睨み顔になっていく
正直俺もお話の中でしか無い、生涯無いと思っていたシチュエーションに、内心激しい動悸が起きつつ平静を装ってるがこれは……その
とりあえずあれだ。誤解を解こう
「これは誤解d「触んじゃ、ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ‼︎‼︎」
ボグゥ‼︎
漫画みたいな豪快な効果音が聞こえそうなぐーパンが、俺の頬に直撃したのだった
んでこれが
捻くれた男子大学生1年の俺、
ツンデレのツインテールの女子大生1年のこの子、
しょうもない最初の衝突の出逢いのエピソードとなる
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話し合いは公平に(?)
こんな感じで遅いことが多いかと思いますがよろしくお願いします
駅での騒動があった日の週末
俺はというと
「ここ……だよな?」
ある紙切れとハンカチを片手に、普段寄らないある建物を前に
建物の近くでは、開始時間が近いのか、一般人がそれぞれで集まって雑談している
「あの子はまだいないみたいだけど……正直帰りたい」
そう思いながらなんとかここに来たのも、ある目的があるからだ
それはあのグーパンの時に戻る
ツインテのグーパンに見舞われた俺は、しばらく痛みに耐えながら倒れていたものの、駅員が数人やってきてその場で事情聴取されることとなった
他の通行人に呼ばれたのかどうかは知らないけど、とにかく何があったのかしつこく聞かれた
駅員に起こされる中、動揺していてまともに話せるか不安だったけど、出会い頭の衝突であることをひとしきり説明するしかなかった
グーパンのことはややこしくなりそうだったから伏せといたが
女性はというものの、グーパンの後は気が付いたかのようにあたふたしながらも、倒れた俺に申し訳なさそうな顔をしながら声を掛けてくれていた
逃げようともせず、駅員からの問い詰めにも、ないことを言うことはなく、自身の不注意の転倒で起きたことを懸命に説明してくれていた
ナンパ組?駅員に質問される中見回してみたけど、大事に巻き込まれると思ったのだろうか、既に跡形もなく消えていた
それで数十分経ってようやく解放。クドクド厳重注意をしてから、駅員は戻っていった
……とりあえず女性に謝ってから帰らないと
痛みはまだ引いてないものの、自分の非であるのは間違いないし
「あの!……先ほどはすみませんでした」
お辞儀をしながら女性にそう謝ると、女性も
「いえ、そんな……こちらも前を見ずにぶつかってしまいすみませんでした」
深く頭を下げて謝り返してくれた
「で、でもその……胸を、あの、ふ、触れてしまったし。俺、女性にあるまじきことを……!俺、何かお詫びします!」
「……それについても、もう大丈夫ですから」
女性はしかめ面でため息をつきながら続けて
「確かに社会的には、まあ、良くないですけど。私の不注意が発端ですし、予期せずに起きたことですから」
「そ、そうはいっても……」
「ホントに大丈夫ですから、気にしないでください」
それからも食い下がる俺に対し、女性は制止し続けてて、譲ろうとはしなかった
これ以上は何を言っても聞かないのだろう。そう思いながら、俺は帰ることにした
「ホントにすみませんでした……じゃあ、俺はこれで失礼しますね……」
「あ、ちょっと待って」
その場から離れようとした俺は唐突に呼び止められた
「頬、私からしたらそれも申し訳ないので。ここで待っててください」
そう言い、彼女はどこかへ向かっていった
何されるか不安な中、何となく逃げられないまま待つこと数分、ハンカチを片手に戻ってきた
「殴ってしまったとこ、これで冷やして下さい」
「え!何で⁉」
「トイレのお手洗いでハンカチ濡らしてきたんです。さっきから見てましたけど、物凄く腫れてきてますよ」
そんなひどくなってるのだろうか。確かに痛みはまだ和らいでないけど、これは自業自得のようなものでは
「そんな……!お、俺が一番悪いんですし!」
「でも殴ってしまったことに変わりはないですから。正直見ていられないくらい腫れているので、これくらいのことはさせて下さい」
なんか思っていた以上に律儀な人だ
しかしますます逆に、申し訳なささが半端ないのだが
「それこそ、これくらいのは大丈夫ですから!失礼してしまった人からそんなことまで、今日は俺、自分のハンカチ……あ、ない。えっと、持ってないですけどこのくらいは家まで我慢すれば……!」
「良いですから、素直に受け取って下さい」
「う……」
物心ついた頃からの押されの弱さで押しに負けつつ、女性のハンカチを素直に受け入れることにした
こんなシチュエーション生涯ないのが当たり前だと思っていたので未だに信じられない
無茶苦茶緊張している
心臓バクバクしている
同時に、人との関わりが無くなっている俺からすれば、失礼だけどこうやって気にかけてくれることに、非常にありがたみを感じていた
「じゃあ私、これから用事ありますので。そのハンカチそのまま持ち帰って下さい」
「あの、洗ってお返しますよ!」
「いえ、それ、安いお店で買ったものですから」
何故ここまで淑女なんだろうかこの人は。俺はまだ何も返せてないのに。失礼なことをしたのに
俺にしては珍しく、譲れない気持ちができ始めていた
「ここまでしてくれてそれで終わりだなんて、逆にそれこそあなたに、し、失礼ですから!お願いです、何でもしますから!」
「そう言われましても……」
さすがに引かれただろうか……?
女性がしばらく考え込むと、思い出したかのように手提げ鞄の中を漁り始めた
そうして出してきたのは、何かの紙切れ1枚
「これ、差し上げます」
「え、これは……?」
「今週末にあるライブのチケットです」
そう言われながら見ると、チケットには英語で書かれた名前と何かの表題、時間などが書かれていた
「私、その日のライブに行きますので、その時にハンカチを返してくれれば結構です」
「ライブ……ですか?」
「はい……ってやば!もうこんな時間⁉」
「え?」
今、口調が変わってたような?
「あの、今のは」
「それじゃ私はこれで!一応ネット検索すれば、すぐに名前がトップに出てくるはずなので!代金もその日に!」
そう言いながら女性は、「練習に遅刻しちまう~!」と声を上げながら、目的の路線であろうホームに向かって行ってしまった
1人取り残された俺は、女性の走って行った先を見て呆然としながらもう一度チケットを見返した
ライブ会場に聞き覚えは無かったが、バンド名……popin何とかには、聞き覚えがあるような無いような
「というか、こんなリア充が蔓延してそうなとこに、行けと……?」
そう呟く俺に対し、返ってきたのは電車到着のアナウンスが駅内に鳴り響くだけだった
で、今日に至る
「こんな人ごみの中あの人見つけるの、苦労しそうだ……」
あの後アパートの一人暮らしの家に帰って、あの子のハンカチを片手にチケットのライブについて調べた
女性が言っていた通り検索にかけたら、すぐに目についたとこにリンク先が表示された
開いてみると、ライブは名も知れぬ何組かのバンドが出演予定で。ライブハウスの名前はCIRCLE。一応自分ん家からでも行けなくもない距離だ
そこはまだ良いのだが、問題は出演してるバンドの写真を見ていて、その中のPoppin'Partyというバンドの写真だ
5人のメンバーでキーボードを前に立っている人が、どうも駅であったあの女性にそっくりなのである
もし本人なら、あの人バンドマン……というかバンドウーマンだったんだな
そういえば練習に遅刻~とか去り際に言ってた気もする
どの道このハンカチを返すには、このライブ会場に行くべきなんだろう
電話番号でも聞いて待ち合わせして返すのが常識なんだろうが、コミュ障の自分にとっては最難関の一つだし、とても聞くタイミングがあの時は無かったからな
それで諦めて当日。ライブに訪れてみたものの
「多分一人で来てるの俺だけだよな……」
それぞれが同伴者込みで来ている中、交友関係なくて一人でいるのは物凄くきつい
人の密集に対するプレッシャーに押しつぶされそうになりながら、まだ開場時間前にも関わらずライブ会場の受付前に立ってしまった
「あ、あの……」
「あぁ、こんにちは!」
受付にいたのはセミロングの髪のお姉さんだった
横ボーダーのtシャツに上に黒のジャケット、下にはジーンズをはいていて、しっかりしてそうな人だ
おどおどした自分にもハキハキと挨拶してくれたので、とりあえず警戒はしなくていいのかな
「君、初めて見る顔ですね?ライブ初めて?チケットはあります?無いなら当日券も売っててますよ?」
駅員以来の質問ラッシュにたじろぎつつも、俺はおそるおそるチケットを出す
「こ、これで大丈ば、ですか」
やば、慌てすぎて思い切り噛んだ……!
「あ!前売り券あったんだね!ありがとうございます!じゃあ開場時間まで待っててもらえますか?もうすぐですので!」
「はい……ありがとうございます」
待つといっても果たしてどこで待ったら良いものか……見回してみたけど既に座れそうなとこもなさそうだし、非リア充の俺にとってこのどよめきはつらい、てか女子多い
「ところで前売り券はどこで買ってくれましたか?ネット?」
と、ここで受付の女性から続けて質問が
「いえ、あ、えっと……!も、ラったんです、これ……!」
相変わらず噛む俺、泣きたい
「もらった?お友達に?」
「いや友達じゃなくて、多分ですけど、今日出るバンドの子かと……」
「え?そうなの?」
「め、珍しいんですか」
「というか、今日初めてライブ来るような見知らぬ人に渡すなんて話、私は聞いたことないからね!」
まあ普通はそうか、普通は
「どのバンドの子からもらったの?」
「わからない、んです。その時、い、色々あって名前聞きそびれてしまって。あの、髪がそのこう、ツインテールな子なんですけど」
とりあえず思うままの第一印象を伝えたけどこれ伝わるんだろうか
ツインテールしてる人なんてそこら中にいそう
「あ!それならあの子かも!」
いるの⁉というかこの前の予想合ってたり?
「Poppin'Partyていうバンドのキーボードの子!今日の出演者の中でも、ツインテールしてるの、その子だけだから!」
「まじか……」
どうしよう……俺の中でますます会うことがプレッシャーになってきた……
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胸熱な演奏が目の前に
その後も受付のお姉さんから
「君はバンドやったりしない?」
「こういう催しにはいつも一人で来るの?」
「市ヶ谷さんからどんな経緯でハンカチ借りることになったの?」
など、質問攻めという名の雑談が続き、まるで落ち着かせてくれなかった
当然コミュ症なので、ほぼ空返事で済ませていたら、瞬く間にライブの開場時間に
チケット代も特殊ではあるが、前売り値で会計してもらったのでこれでチケット代の件は解決したのだが
「借りたものを返しに来たんだったら、直接渡した方が本人も嬉しいと思うけどなぁ。こうして律儀に返しに来てくれたわけだし。話してみた感じも、君はそんな不埒には見えないしね。ライブ後に本人に話付けとくよ!」
なんてことを言いだした
ライブ前にスタッフへお預けしてそのまま帰るつもりが予想外の展開になってしまった
返す言葉を考えているうちに、開場時間で入場してきた一般客に流されてしまい「楽しんできてね~」という言葉を残され、話はそれっきりに
薄暗い会場で最前列から2、3列目に立っていた俺は、とんとん拍子で進んでしまった話にこの後どうこの面倒事を終わらせようか、ひたすら試行錯誤をしていた
まあ妙なタイミングで馬鹿真面目な自分は、善意と悪意のせめぎ合いでまともに結論を出せるわけがなかったので、とうとう開始時間が回ってきてしまい、ゆっくりと照明がほぼ消灯
俺の周りの一般客はほとんどが常連客のはずだが、待ち望んだライブスタートの気配に湧き上がる歓声が
テレビ越しにしか聞かなかった歓声が間近で、余りにも大きくびくつきながらも沈黙を貫いていた俺はただひたすら待つ
そして複数人がステージに上がってきたのを感じ、一般客のボルテージは急上昇
続けて一気にステージ上の照明が点いてバンドメンバーの姿が露わになった途端、一般客のテンションがMAXとなりまた一段と歓声が、恐らく今日現時点で最大音量でライブ会場に響いた
「皆さんこんにちは……今日のライブ最初のバンド、Afterglowです」
最初にステージ上で声を発したのは真ん中のマイクを前に赤いギターを下げた女性だった。慣れないステージ上の照明と前列の客の頭ではっきり見えない
が、その女性は黒髪の短髪に一筋の赤メッシュ、メンバー全員が黒と白のパーカーの、いかにもロックといった感じの服装、きりっとした目で客側を見据えていた
「早速一曲目行きます。『That Is How I Roll!』!」
その掛け声と共に、再び客席から歓声が上がり、曲がスタートした
(これが生のライブ、なんだ)
何組かのグループの曲が終わり、たった今歌い終えたバンドがステージ外にはけた後、ようやく俺はライブの興奮でボヤけていた思考回路がはっきりしだし、ここまでのバンドたちの曲に高揚感ていうヤツを感じてた
まず最初のAfterglow、軽快なロックサウンドと共に赤メッシュのボーカルがそれに合わせるように歌っていた
時折、他の演奏者が合いの手を入れ、はたまた5人でボーカルに参加しだしたりと、絵に描いたかのようにブレのない息の合わさったバンドだと思った
別のバンドでは、ハロー、ハッピーワールドというマーチングバンドな装いに、メインボーカルの金髪の子がただ歌うだけでなく、バク転したり飴を投げたりと、かなり大胆なサービスを催してくれていた
そのサポートに何故かキグルミでDJというカオスな奏者が、メインボーカルが前に出すぎないよう、絶妙なタイミングでさりげなく抑えていた。
今俺がいる立見席でさえそれなりに熱気を感じているし、ステージはそれ以上の熱さは効いてくるはずなのに、どういう神経をしているのだろうか。熱すぎではないだろうか
その後の2バンドの演奏も終え、あれこれ思考を巡らせていると、再び消灯
今日のライブチケットには、5組のバンドが出演予定だから、次が最後……例のツインテールの子の所属バンド、Poppin'Partyだ
「皆さんこんにちは!」
今日一だったんじゃないかと思う、元気な声が響き、ステージ上が一気に明るくなる
「「「「「Poppin'Partyです!」」」」」
5人が同時にバンド名を名乗り上げ、客席は何度目かの歓声に包まれた。今の名乗りだけでも、Afterglowに怠らない息の合ったものだった
そして
(ハンカチのあの子……!)
ステージの奥で、あのツインテールを下げ、キーボードに手を添えて、笑顔で客席を見ていた
5人の衣装は、シロップのような模様を描いたもので、ハロー、ハッピーワールドのようにお揃いの衣装を着ていた
「皆元気で良いね~!この調子で最後まで楽しんでいってね~!では聞いて下さい!『Happy Happy Party!』!」
ボーカルの子が元気な声のまま客席に呼びかけ、Poppin'Partyの曲がスタート
Poppin'Partyから出される元気ハツラツなポップサウンドは、今までのバンドとはまた違った盛り上げを見せてきた
ツインテールのあの子も含めて、5人がノリノリの気分で客と同時に楽しもうという気持ちが伝わってくる。いや、さっきまでのバンド達も楽しませようとしてくれてたのだけども、このバンドはまた違った盛り上がりがあるというか。うまく言い表せられない
その後に続いた曲も、まさにポップな曲が続き、今日最後のバンド演奏でもあるせいか、最後の曲もここ1番の盛り上がりを感じた
ちなみに俺はというと、各メンバーを目にしつつ、その目はあのキーボードの子に魅かれていた
ボーカルギターやもう一人のギターのはっちゃけたMCにツッコミを入れつつ、途中こっちと目が合ったような気がしつつも、特に変わった素振りは見せず、また時々サブでボーカルに入りつつ演奏をしていた
そして何より満面の、とは言えないが、メンバーに負けないくらい楽しく、ツインテールを揺らしながら笑っていた
そんな彼女の演奏姿は、更に輝いて見えた
「ライブハウスのライブってのも、まぁ、悪くないですね、はい」
「うんうん。その感じだと満足してもらえたようで、何より何より」
ライブ後、会場から遅れがちに退場した俺は、あの受付のスタッフに捕まり、初めてのライブハウスの感想を聞かれていた
周りや外では他の客が、今日のライブの感想をお互い言い合っているのが聞こえてくる
「あの、割りかしぶっきらぼうな感想を言ったんですけど、ホントにそんな風に見えてます?えっと……」
「まりな。月島まりなだよ」
「そう、月島さん」
今更ながら受付さんの名前まだ聞いてなかった
「こんな微塵の興味も示してなかった初心者丸出しの感想なのに、参考にはならないんじゃ」
「初心者、だからよ。むしろライブに初めて参加して、例えお世辞でもいの一番に不評を言わないなら、僅かでも楽しんでもらえたって分かるからね!」
「そんなポジティブに捉えられるもんですかね……」
巷じゃ分かり易い人の方が好まれるってもんな筈だし。俺とは真逆の性格の人とか
「それでどう?これからもライブ見に来てくれる?くれる?」
「……他の予定も重なるかもですが、考えときます」
「もう素直じゃないんだから〜」
「若干、学校や家からも距離もあるのでそう頻繁にはちょっと」
あの子の演奏に惹かれたのはあるが、嘘ではない
まだ一度来ただけでもあるし、これまでの経験上そう簡単に長続きしなさそうにしか思えないのだ
「というかホントに直接渡さなきゃダメですか、ハンカチ」
「何度も言うようだけど、渡さなきゃじゃなくて渡していいの!お客様からのプレゼントは隈なく預かるのが決まりだけど、あんまり見かけない男の子がご足労かけて出会った女の子に物を返しに来るなんて珍しいし。素敵なことじゃない!ポピパの有咲ちゃんも喜ぶよ!」
「CIRCLEに警戒心という概念あります?」
俺がそう返すも、まりなさんはニコニコ笑うだけで膠着状態だ。どちらにせよ預かってもらえないんじゃ、自分で渡すしかないのだろうか、意外と強引だよこの人
ちなみにポピパとはPoppin'Partyの略称で、メジャーな呼び方だとか
「ホントに珍しいんだよ」
「え?」
「君が返そうとしてるハンカチの持ち主、最近は知り合いも増えてるけど、どことなく不器用でね。君みたいな男性が来てくれることなんて、そうそうなかったのよ」
突然落ち着いた言動になり澄んだ顔で、そう呟くように話した
「あんな含みのある感じで急に言われたら帰れなくなるホント」
らしくもない行動してる自分に戸惑いつつ、俺はCIRCLEの椅子で座っていた
端的に言えば、あのPoppin'PartyのメンバーがCIRCLEから出てくるのを待っている最中である
元々ハンカチをスタッフに預けて帰るつもりが、とんだ長丁場になってしまったものだ
ライブ後の周りや外は既に客はいないも同然で、まばらに雑談してる人が数人いるぐらいでただ1人俺は待ちぼうけてる
実際今日は予定があるというわけでも無かったし待ち始めは余裕だったが……こうも律儀に待ってると後片付けを終えたバンドがいつ出てくるかと思うと無駄に緊張してくる
ツインテの子は名前、市ヶ谷有咲さん……だったよな
俺の中でツインテで呼び名が固まりつつあるから、言動には気をつけないと
そう無駄に緊張で思考を巡らせていると
「あ!皆お疲れ様!」
まりなさんのそんな声が聞こえてきて、前屈みに座ってた背筋が一気に伸びた
「お疲れ様ですまりなさん!本日もありがとうございました!」
「ポピパの皆今日も絶好調だったよ〜!大学行ってからも更に成長してたんじゃない?」
「いや〜!それほどでもぉ!」
そんな会話が聞こえる中、俺は未だ勇気が持てずポピパのメンバーがいるであろう場所に目を向けれていない
いかん。長年異性に話しかけるシチュエーションが無かったせいか、その時が近づくとますます動転してくるコレ……!
「それで実は君達にお客さんがね……」
とりあえず何か聞かれたら……ハンカチ持ち主に渡してサッサと帰ろうか?いや今後接点無いようなもんとはいえ、失礼すぎるか?
ぶっきらぼうと丁寧で後味が違うのは人生観でいやというほど味わってるわけだし
でも今日ライブハウスの演奏聴いたぺーぺーが、そんな信用とか考えてもらえる訳ないだろうか
流石に人間不信過ぎ?
けどやっぱこうどうしても初対面と会うと気まずいしなぁ、いやしかし……
「あの……」
「びゃ!あ、はい!」
突然の背後の声で変な声出た、あかんもう帰りたい
よし、大事にせずに帰ろう、そう思いながら声の主へ振り向き、若干声を震わせながら言葉を絞り出す
「あの……こないだはご迷惑をおかけしました」
「あ。もしかして駅の」
声を掛けてきた女性ツインテール 、もとい、市ヶ谷有咲がハッと驚くように声を上げた
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待ち望みの再会はあっさりに
夜更けに差し掛かる時間帯のライブハウス、CIRCLE
その室内にて、大げさに言えば、夢の対面に匹敵する状況が起きていた
あの駅で唐突に出会った、ハンカチのツインテール少女、Poppin'Partyのキーボード、市ヶ谷有咲である
(本人に会えてしまった……)
訳分かんない事を脳内で呟いたが、それくらい自分でも分かんないくらい興奮している。晩年コミュ障の可能性がある自分にとっては、一人の少女に会うだけで大スターご対面と同等の緊張が起こっているからだ。背中なんかは汗グッショリに違いない、自分のが
もちろんバンドウーマンの彼女はそれなりに有名な存在だとは思うのだが
そして今日の服装も、駅で遭遇した時とは違っていた
上は袖口にフリルが付いた襟付きのチェック模様のノースリーブ……のような。下は濃い黄色寄りのスカートだけど、ボタンの他にスカートと同じ生地のベルトが腰回りに付いている。ツインテールはあの時と同じ、若干カールさせた状態で下側に両サイドにまとめていた
演奏時のシロップの衣装の時とは違い、汗一つ掻いていないお淑やかな装いの印象だ
同時に、半ば突然現れた俺自身にどう話せば良いか分からないためか、終始俯き加減にこちらをチラチラ見ながら恥ずかしそうにしている
その姿がまたとても一般的な女の子な感じで可愛らしい(断じて俺は変態ではない)
と、見とれてる場合じゃない
「あー……えー……これハンカチ、返します。駅では本当にすみません、でした。それとハンカチ、ありがとうございました」
そう言いながら彼女に、しっかり洗濯したハンカチを差し出す。断じて別のことに使ってなど、いない
「あぁ……ありがとうございます」
ツインテの女性は……市ヶ谷有咲さんは少々たじろぎながらも、それを受け取ってくれた
「あの、ハンカチにまだ汚れでもあり、ましたか?」
「あ。いえ、そうではなくて……すみません。正直、本当に返しに来てくれるとは思えなくて、半ば諦めてたものですから。ちょっと意外で」
「なるほど、そういう……その考え分かりますよ。見ず知らずの人ですしね」
「はい、まあ……」
「「…………」」
お互いこういう初対面の会話に慣れないせいか沈黙が起こる。こないだの駅では必死だった分、言葉が流暢だったが、今はいかんせん状況が違うのだ
気不味い
「と、とにかく駅ではホントにすみませんでした。自分ももう少し注意しながら歩きますので」
「そんな。こちらこそ突然手を上げてしまったりして……あれからお怪我は?」
「はい、おかげさまで何とかほぼ完治しました」
「そう、ですか。それは良かったです……」
多少会話が続くものの、やはりすぐに沈黙になってしまう
というか、伝えるべきことは伝えたのだから。さっさと帰れば良いのに何を躊躇っているのだろうか、自分は何か他に伝えることが……
「あーりさー!」
「うわ⁉︎」
会話にもたもたしていたら、ポピパの一人が市ヶ谷さんに抱き着いてきた。この人は確か、演奏でメインボーカルを務めていた女性だ
市ヶ谷さんにばかり演奏時は見惚れていたが、この人もライブでは中々印象があった。理由としては、ライブ時のMCもだが、猫耳みたいな髪型が特徴的だった
「だー!香澄ぃ、急に何すんだ!」
「もー!ちゃんといつもみたいに会話繋げていかなきゃダメじゃん!この男の人も困っちゃってるでしょー!」
「い、いやあのなぁ!いつもならまだしも、相手が相手だからどう話せば良いのか……というかその会話中に急に抱き着くなお前は!」
「そんなこと良いじゃーん!有咲が困ってそうだったから緊張してんのかなって思ったからさ!落ち着いた?」
「落ち着くか!今のでせっかく整いそうだったペースが乱れてちまったじゃねーか!とりあえずお前はあたしから離れろ!」
「えー何でー!」
「何で、じゃねぇ!あぁもう折角取り繕ってたのに……!」
な……何か始まった
急なこの2人の軽快な会話に呆然するしかない俺
おかげで3人以上の会話に入れなくなるコミュ障特有棒立ちになってしまい、ただただ2人のマシンガントークに流されている
猫耳のこの人の軽快さにも度肝を抜かされたが、市ヶ谷さんの口調が丁寧だったのがガールズトークの声の高さと大きさになっている
ひょっとしてこれが素の市ヶ谷さんだったりするんだろうか
「あのーすいません。初めてライブ見に来てくれた方、なんですよね?」
目の前の光景に目を囚われていると、ポニーテールの女性が横から申し訳なさそうに声を掛けてきた
「え?は、はい……」
「わぁ、ありがとうございます!男性のお客さんっていないわけじゃないんですけど、比較的女性が多いものですから、曲が男性に伝わってるか分からないんですけど。どうでしたか?」
先ほどの2人とは違い落ち着いた話し方で、こちらの様子を伺いながら聞いてくる
大人だわ
「えっと……とても良かった、です。聞いてて楽しかったていうか」
「ふふっ、それは良かったです。ありがとうございますね」
スタッフの月島さんと話した時と同様に拙い自分の感想だったが、嫌な顔せず、笑みを浮かべながらお礼を言ってくれた
この人もPoppin'Partyで、確かドラム叩いてたはず
「ねぇ君。私のギターどうだった?」
「うぇ⁉」
今度は腰まで伸びた髪の女性が、ポニーテール女性の反対側から飛び出すかのように現れたから、変な声出ちまった
両目をパッチリとさせながらこちらをじっと見据えてくる
「ど、どうとは?」
「感想。キラキラドキドキした?」
「キ、キラ?ドキ?」
突然な上に、慣れない単語が聞こえてきて戸惑うしかないのだが
「おたえちゃん。その人困っちゃってるから、もうちょっとゆっくり話してあげないと」
長髪の子を制止したのは、首元まで髪を切りそろえ、どこか言葉に訛りを感じさせる女性だった
「でも、初めて聴きに来てくれたお客さんだよ?ちゃんと私達一人一人の演奏の感想を聞いた方が良いと思うよ?こんな機会滅多に無いよ?」
「うん、それはそうなんだけど。やっぱりゆっくり聞いてあげた方がこの人も落ち着いて話せるはずだから」
「と、とりあえず、おたえ!思い出してもらうにしても、私達から改めてまだ自己紹介もしてないから……!」
「あーもう、香澄ぃ!お前が飛び付き始めてから、もう滅茶苦茶じゃんか!」
「えーそんなぁ!私のせい⁉」
「あ、あの!」
あ、やばい
カオスな場になりそうで、ますます自分自身が戸惑い放っしになってしまったから、思わず叫んでしまった
かなり大きな声だったから、周りが話すのを止めて、驚きながらこっちを見ていた。けどこうなったらままよ。俺はそう思いながら、いの一番に言うべき人に近づきながら、その名前を口に出す
「い、市ヶ谷さん!」
「へ⁉はい!」
「キーボードの演奏、凄く良かったです!」
「は……」
市ヶ谷さんが驚いた顔をこっちに向けるが、興奮している俺は構わず続ける
「詳しい技術や経験はてんで素人で、プロぶったことは言えないんですが。なんか、こう、とっても惹かれました!別にハンカチの件があったからってわけでもなく、その」
くっ、短いことしか話せてないのに、頭ン中が上手く動かせなくて気分的にもう無茶苦茶になってる気がする……!けど言わないと
そう思いながら、拳をぐっと握りつつ俺は
「また機会があれば、あなたの演奏が聴きたいです!」
赤面してる彼女に向かって、そう声を張り上げた
その翌週の金曜、大学終わりの電車内で
「何であんな風に言っちゃったかなぁぁぁぁぁぁもぉぉぉ」
俺は周りに乗客がいるにも関わらずに、盛大に俯き呟きながらため息をついていた
周りからは何事かと、チラチラこちらを見てる気もするが、そんなのもお構いなしである
昨日からこんな状態だし
あの自分の発言の後はというと、我に返った俺はその場に居た堪れなくなり、半ば飛び出しながら帰ってしまって、それっきり
なので自分の言葉にPoppin'Partyの面々がどういう顔をしていたのか、よく確認する暇もなく
誠に、失礼極まりないとしか言いようがなかった
帰った後もそのことが離れず、飯食っててもテレビ見てても、あの瞬間が脳内をずっとリピート
しまいには表情も酷かったのか、親からは「顔死んでるぞ」的なことを言われるくらい気分が優れなかった
もう会うことないんだろうけども……あんな言い方と別れ方したらライブまた見に行くどころか、不審者扱いされるよね、されるわこれ
また聴きに行きたいどころの話ではない
今すぐ忘れたい……なんて思いたいわけではない。別れ際にあんなことがあっても、ライブで魅せられた記憶も印象的で、そうおいそれと手放したくない
「もう今日はサッサと買いたいもの買って、家でふて寝しよう……それでも傷は深いままなんだけど」
こんな調子ではあるが、今日は読んでる漫画がコミックスで発売されたので、専門店の特典付きを買うために、市ヶ谷さんと初対面となったあの駅まで出向く必要があった
とりあえず市ヶ谷さんに言ったことあんまり深く考えないようにしよう……買う漫画のことを考え続けていれば、大丈夫、多分
「あ!こないだの!」
なのでまた行き先で、市ヶ谷さんにこうもあっさり会えるとは心底思わなかったので、俺が再度、精神や内臓がキリキリするとは完全に想定外だったのである
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