東方花梨 IN 3部(パラレルワールド) (蜜柑ブタ)
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プロローグ うっかり孫娘

勢いでやっちまいました……、はい。


連載するかは別にして、とりあえずパラレルワールドの3部での、花梨と承太郎達の出会い。


 

 ケンタウロス。

 一言で言い表すならそんな見た目のスタンドだった。

 東方花梨は、そう記憶している。

 

 

 やってしまった……っと思った時には時すでに遅し…。

 

 

「むぐぅ……。」

 座り込んでいる自分の下には、見知らぬ青年。

 

「てめぇ…、なにもんだ?」

 

 前を向けば、ある人物の面影を強く残した、がたいが良い青年。

 

「……承太郎さん…?」

「あ?」

「あっ。」

 また、うっかり。小さく呟いたつもりだったが、ハッキリ聞こえていたらしい。相手の目つきが更に悪くなる。

「……どけ!」

「わっ。」

 下にいた青年が、無理矢理花梨をどかして起き上がった。

 どかされた際に体制を崩したのだが、その花梨の背中をムーディー・ブルースが支えた。

「! おい、お前…、スタンド使いか?」

「空条承太郎、貴様の仲間か?」

「…いいや。」

「なら、部外者か。だが、見られたからには始末させて貰うぞ!」

「チッ!」

 花梨が知っている承太郎よりも、ずっと若い承太郎が自分を守ろうと動こうとしているのを感じたので。

「『ザ・ハンド』。」

 ムーディー・ブルースが消え、背中から生えた白い炎のような花弁から、コピーしたザ・ハンドを出し、右手を振らせた。

 ガォン!っと空を切る音が鳴る。

「なんだ? ぐお!?」

 緑の制服の青年の背後から、空間を削ったことで引っ張り寄せられた保健室の棚が飛んできて背中にクリーンヒット。

「な…なんだとぉ…?」

 青年は、そのまま前に倒れた。そして気を失った。

「あれ?」

 よくよく見ると、どこかで見覚えがある面影がこの緑の青年にあるような…っと思った時には、スッと影がさした。見上げると若い空条承太郎が自分を見おろしていた。

「おい、アマ…、何者だ?」

「……場所を…変えませんか?」

「はっ?」

「ここだといずれ騒ぎに気づいた人達が集まってきますよ?」

「……逃げんじゃねーぞ?」

「逃げません。」

 花梨はキッパリ言い切って、立ち上がった。

 花梨の身長の高さに、承太郎は、一瞬驚いたのか目を少し見開いていた。

 そして緑の青年を承太郎が抱えて、保健室から逃げた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 そして、場所を空条邸に移し……。

 やはりというか、花京院典明……、花梨が知っている人物の若い頃の彼から、肉の芽なるものを引っこ抜き助けたまではよかった。

 その後が気まずい……。

 だが花梨は顔と態度に、そういうのが出ない。それが場の空気を余計に悪くする。花梨が心に思ってもいない方向に。

「で? てめーは何者だ?」

「……高校生です。」

「名前は?」

「花梨。東方、花梨です。」

「ひが…し…!?」

「やはりそうでしたか。」

 その反応で確信が持てた。

「どういうことですか?」

 アフリカ系らしい褐色の肌の男性が動揺する老人に聞いた。

 花梨は、ススッと机の横へ行き、ジョセフに深々と頭を下げた。まあ、いわゆる土下座みたいな感じであるが。

 

「お初にお目にかかります。私は、東方朋子の孫娘でございます。ジョセフ・ジョースターお爺さま。」

 

 ビシッと場の空気が凍った。

 

 

 やっちゃった……っと思った時には時すでに遅し。

 だって、物心つく前には、すでに祖父のジョセフ・ジョースターは……だったからだ。写真でしか見たことがなかった母の父親に会えて内心嬉しかったのだ。

 

 

 周囲からは、だいたいドライだの、しっかりしてそう、だのと言われる花梨であるが……致命的な欠点がある。

 

 

 それは、うっかり者であること。それに尽きる。(友人の野乃佳曰く、おバカとのこと)

 

 

 




外見がいかにもドライでしっかり者風に見えて、実は中身はただのうっかり屋さんという設定にしました。


人相とかで誤解されがちっていうのは、創作の世界だけの話かな?って思ったりもするが、現実にも実際にいるんだろうか……。


なお、このパラレルワールドの3部には、ミナミが存在しない世界ということにしています。つまり仗助は一人っ子。
次回でそれを花梨が理解します。


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※東方花梨の設定(2020/06/26現在)

一応設定。


時間軸は、SBR世界に飛ばされる前ぐらいとしています。



※2020/06/28
設定一部追加。


●仗助の双子の姉の人の子供

 

◇名前

・東方花梨(ひがしかた かりん)

・orカリーヌ・ギルガ

 

 

 

◇ネタでの立場

・東方ミナミと、ナランチャ・ギルガの間に生まれた娘。16歳。

・双子の弟と妹がいる。(乗上(のあ)と、ローゼ)(※アンケートで惜しくも同票で落ちた名前をもらいました)

・異常なレベルの霊感能力と感応能力の持ち主で、本体が死亡したりしたスタンドの力を借りることができる。

 

 

 

◇能力など

・霊感と感応能力が高い。

・そのため、生まれつき死者と普通の人間と同じように接することが出来たり、本体が死亡したスタンドの力を借りることが出来る。その数に限りは無く、ほぼ無限大に近い。

・ただし、一度に使えるスタンド能力は、スタンド一種類に限り、スタンドの能力発動中は入れ替えることもできない。

・本人は気づいてないが、生まれついてのスタンド使いでもあり、そのスタンド能力がコピー能力。そのため長らく接していた相手のスタンドをコピーして使うことも出来る。このコピー能力こそ、異常な霊感と感応能力の原因だと考えられる。

・ただし、母・ミナミのスタンドだけは使えない。(使えるときは、母の許可が要る)

・当人曰く、あくまでも“借り物”なので、借りたスタンドには成長性はないとのこと。

・つまり、応用が利かず、花梨が成長しても本体が違うためスタンドは成長しない。

・また、レクイエムなどの特殊条件下で使える能力も使用不能。また、精神力の強さが問われるスタープラチナなどの強力すぎるスタンドも使いこなせない。

 

・スタンド名:まだない。(アンケート中)

 

・カラスサイズの白い炎の鳥のような姿と、背中から咲くように広がる白い炎の花弁の二つの姿を持つ。

・白い花は、イースターカクタスに似ている。(サボテンの花。花言葉は、「復活の喜び」「恋の年頃」「情熱」「熱情」)

 

・カラスサイズのスタンド体が、本体が死んだスタンドを勝手に探しに行き、本体である花梨のところへ導いてくる。

・本体が死んでいるスタンドは、本体が死亡している影響か色が抜けている。白い。

・能力は一度に1体しか使えず、本体が生存している場合、スタンドは30秒間しか使えず、1分45秒ほど間を開けないと再度使えない。

 

・コピーした死者のスタンドに意識があるのかないのか分からないそうだが、意識していないと、なぜかムーディー・ブルースが率先して出てくる。(これは、幼いときに初めて遭遇した死者のスタンドで、人外に連れて行かれかけても追跡できて家に連れて帰ってもらったり、ムーディー・ブルースの巻き戻しと再生の再現能力によって子守をしてもらっていたりしていて無意識下で最初のスタンドのオトモダチと認識しているためだと思われる)

 

 

・スタンドそのものとコピー能力を分けて、

【破壊力 - D(E~A) / スピード - B(E~A) / 射程距離 - C(E~A) / 持続力 - A / 精密動作性 - B / 成長性 - なし】

 

 

・ラッシュ言葉

「ボラボラボラボラ…… ボーラ・ヴィーア!」

(※ナランチャファンの方はご存じ、『ボラーレ・ヴィーア』は、実際のイタリア語の文法としては間違っているとのこと)

 

 

 

 

◇性格

・自分が特異な存在であることを気にしていない。

・物心ついた時から霊能力を発揮していたため、死生観にドライな感じ。

・勉強は出来るが、うっかりさん的な意味でおバカ。

・その特異性をゆえに必然的に精神的に図太く、暢気になっている。

 

 

 

 

◇容姿など

・ミナミと同じブルネットの髪と、青い瞳。

・鼻筋などは、ナランチャ似。

・身長182センチ。(まだ成長中)

・ミナミと比べると胸は小さいが、美乳タイプ。

 

 

 

 

 

 

・・・思い付いたりしたら、増えたり消えたりします。

 




色んな方からアイディアを貰って、徐々に完成しつつあります。

本当にありがとうございました。


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過去は過去でも、パラレルワールド

花梨が、東方家のご先祖様の幽霊から、この世界がパラレルワールドだと理解する。


最後の方は、承太郎視点。


 

「失礼しました。」

「てめー、見かけによらずうっかりか?」

 

 花梨、土下座中。

 

 ジョセフ、日本での浮気がバレて、目の前に立っている承太郎の前で正座中。足が痺れてプルプルしている。

 

「しかし…、ジョースターさんの浮気はともかく…、孫娘とは…。つまり君は未来から来たということかい?」

「そういうことですね。でも……。」

「でも?」

「………違うかもしれません。」

「違う? どういうことだ?」

「そろそろ…。あっ、帰ってきた。」

 庭の庭園へのふすまが開かれていて、そこへフワフワと白い炎のような、カラスほどの大きさの鳥が入って来た。

 起き上がった花梨は、起き上がり、手を伸ばして鳥を迎える。

「!?」

 承太郎達が驚きで目を見開いた。

 というのも、鳥の驚いたのではない。鳥の後ろからフヨ~ンと着いてきた白い人型のような、半透明なのっぺらぼうに驚いたのだ。

 承太郎達の視線を気にせず、花梨は、腕に鳥を止まらせた状態で、半透明ののっぺらぼうに話しかけていた。

「おい…。」

 話を終えると、のっぺらぼうは消えた。

「やっぱり…、違う。」

「はあ?」

 花梨は、顔を承太郎達に向けた。

 そして。

 

「この世界は…、過去は過去でも、パラレルワールドみたいです。」

 

 なんかぶっとんだことを言った。

「ぱ、パラレルワールド? なぜ、そう言いきれるのかね?」

「この“ヒト”から聞きました。」

「………………ひと?」

「そこにさっきまでいた半透明ののっぺらぼうか?」

「はい。東方家のご先祖様の幽霊さんです。」

「ゆうれい!?」

「スタンドじゃないのか?」

「私、幽霊さんとお話が出来ます。この子(鳥)が、連れてきてくれるんです。」

「お前のスタンドは、どうなってるんだ? あの妙ちくりんなラジオのスピーカーみたいな目の奴じゃないのか?」

「あのスタンドも“オトモダチ”です。死んだ方から借りたものですから。」

「借りる?」

「はい。それが私の力です。死んだ方……、そしてもう一つは、生きているスタンド使いの方と長く接して、そのスタンドをコピーしてお借りすることです。」

「なんと…!」

 アヴドゥルが驚いていた。

「先ほど、東方家のご先祖様から聞きました。私の伯父にあたる、東方のお子さんは、一人っ子で、私の母はいないと……。」

「だからパラレルワールドだと?」

「私から見れば、そういうことになります。」

「……君の母親が存在しない、と?」

「私の母は、東方朋子の双子の子でした。」

「そうか…。」

 そう言われるとなんとも複雑な気になる。自分の親にあたる人物が存在しない世界……。つまり自分が生まれてはこないというもしもの世界なのだから。

「花梨…って言ったか? お前は、これからどうする?」

「元の世界に…帰りたいと思います…。でも…。」

「帰り方が分からない…か。」

「はい。」

 花梨は頷いた。

「そもそも、お前はどうやってこの世界へ来た?」

「分かりません。ただ…知らないスタンドがうろついていて、ソレでつい…。」

「うっかりか…。」

「はい。」

「お前…、馬鹿だぜ。」

「友人からはよく言われます。」

 花梨は、そう答えながら友人・野乃佳のことを思い出した。

 その時。

「あっ。」

「?」

「今…いた。」

 花梨は、庭先を指差す。承太郎達も見たがそこにはスタンドはいなかった。

「…どんなスタンドだ?」

「ケンタウロスのような……、変わったスタンドです。」

「そいつを見つけりゃ帰れるかもしれねーか?」

「たぶん。」

「だったら、ソイツの本体を見つけりゃいい。スタンドってのは、本体がいるんだろ?」

「あ、ああ。その通りだが。」

「たぶん、それは無理です。」

「なぜ?」

「あのスタンド…、本体がもう死んでいますから。」

「分かるのか?」

「はい。」

「……そいつは困ったことだな。」

「とても、困ってます。」

「あの………、わし、いつまで正座……。」

「浮気ジジイは黙ってろ。」

「はい…。」

 

 

 そんなこんなであったが…、花梨はひとまず空条家でお世話になることになった。(ホリィ案)

 温和で、深くは考えないらしいホリィは、パラレルワールドの姪っ子とはいえ、可愛い可愛いっと花梨に笑って言っていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 side:承太郎

 

 

 

 

 パラレルワールドのジョースター家の親戚?

 とんだ乱入者であった。

 

 美しい女だった。

 特に目が印象的だ。

 澄んだ、青い目…。だが、どこかで見覚えがある印象があるとは思ったが……、まさかジジイの浮気で出来た子の子だったとはな。

 それもパラレルワールドの…。

 信じがたい事実だが、なぜか信じる気になれたのは、パラレルワールドとはいえ、同じ血が流れているからか?

 

 足が痺れに痺れて悶絶しているジジイを放っておいて、縁側に行くと、その問題の女である花梨が縁側に座ってやがった。

 ぼんやりと…なのか、どこか憂いを感じさせる横顔が美しい。

 憂いるのも無理もないだろうがな。いきなり余所の世界に飛ばされ、知っているようで知らない同じ人間のいる場所にいるのだから。

 ひとまずソッとしておいてやろう…、そうでなければ、考えもまとまらないだろうから。

 すると、花梨は、ポツリッと小さく。

 

「……お腹すいたなぁ…。」

 

 ……前言撤回。

 コイツ、図太く、馬鹿で暢気な女だ。

 とりあえず、台所にいるお袋には、腹が減ってるっとだけ伝えておいた。

 

 

 




花梨ちゃんは、精神的に図太いっという設定追加。
まあ、霊感少女だし。


本当は、アゲパン…っとか、好きな物食べたいみたいに呟かせるつもりでしたが、好きな物が思い付かなかった。


次回辺りで、旅立ちかな?


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死者を見る娘は、旅立ちへ

旅立ちへ。


ほぼほぼ、原作通り。




 

 余命、50日。

 

 それが、ホリィに架せられた死の呪いだった。

 

 幸いだったのは、呪いの発生源を消せば命が助かることだっただろうか。

 

 呪いの発生源は、DIO。

 

 星のアザを受け継ぐジョースター家とは、因縁深い吸血鬼。ジョセフ・ジョースターの祖父である、ジョナサン・ジョースターの肉体を奪い復活した存在。

 

 花梨が来て翌日のことだった。ホリィがその呪いで倒れたのは。

 

 ヘビイチゴの茨のスタンドが背中に生え、やがて全身を包み込み死なせるのだ。

 

 闘争心などがないホリィは、呪縛にやられるのではないかと、ホリィの父であるジョセフは心配していたが現実となってしまった。

 

 そういえば…っと、花梨は思い出す。

 伯父の仗助も、幼いときに50日もの間、病に伏せていたことがあるとか……。

 

「もしかしたら、仗助おじさんも……。」

「!」

「この年代だと、4歳のはず…。大人のホリィさんが倒れるぐらいなら…。子供は?」

「お、おお! なんてことだ!!」

 

 ホリィだけじゃなく、ジョセフの血を引く東方家の子にも間違いなく呪縛は行っている。

 守るべき、救うべき存在は、ホリィだけじゃない。それを花梨が教えた。

 花梨は、パラレルワールドとはいえ、親戚の死の呪いを憂いて俯いた。そんな花梨の頭に承太郎が手を置いた。

「安心しな。そいつも必ず…。」

「承太郎さん…。」

「それで? DIOは、どこにいる?」

「分からん! 念写にはいつも暗闇しか映らんのだ!」

「見せな。」

 承太郎がジョセフに念写した写真をもらい、スタンドを出してそのスタンドの目で念写した写真を見た。

 すると何かを暗闇の中に見つけた。

 それを銃弾をもつかみ取る精密精度を誇るスタンドの手で、スケッチさせてみると、一匹のハエが描き出された。

 アヴドゥルは、そのハエが、エジプトに生息するナイルウェウェバエであることを言った。

 つまり、DIOは、遙か遠く、エジプトの国に潜んでいるということである。

 

「やはり、エジプトか…。いつ出発する? 僕も行かせてくれ。」

 

 そこへ、花京院がやってきた。

 花京院は、エジプトに家族旅行に行った際に肉の芽を植え付けられたと言った。

 同行する理由であるが、よく分からんと言っていた。承太郎のおかげで目が覚めたからかもと言っていた。

「花梨。お前はどうする?」

「私は……。」

「私からハッキリ言わせて貰えば…、君のその強大な力はきっと役立つ! しかし…、君はパラレルワールドに迷い込んだだけの迷子であってこの旅には何の因縁もないのだ。」

「…できうることなら、力を貸して欲しいが……。」

「いいですよ。」

「えっ?」

 花梨の早い答えに、視線が集まる。

「パラレルワールドとはいえ、目の前で苦しみ、死んでいこうとしている人を…見捨てられるほど、私は冷酷じゃない。私でよければ、行かせてください。」

「そうか…、ありがとう!」

 ジョセフは、花梨の両肩を掴んで涙ぐんでいた。

「この旅が終われば、君を元の世界に戻す方法を探す! 必ずだ! 約束する!」

「ありがとうございます。」

 

 

 この後、アヴドゥルがタロットカードで承太郎のスタンド名を決めていた。

 星のカード。

 スタープラチナ。

 

 

「ああ…、そういう意味だったんだ。」

「?」

「いえ…、こっちの話ですから。」

 

 

 花梨の返事がこんなに早かったのは……。

 

 あのケンタウロス…、謎のスタンドに会うには、この旅の先に行かなければならないという直感だった。

 

 

 

 こうして、東方花梨のパラレルワールドでの過酷な旅が始まった。

 

 

 




決断早い花梨ちゃん。

実は、この旅をしなければ、メイド・イン・ヘブンに届かないと直感しています。

その直感が当たるかどうかは……。


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舌、喰らう、虫

フリーゲーム、『7人目のスタンド使い』を参考。


vsタワー・オブ・グレー。



死ぬ人は死にます。運命故に……。


 黒い黒い。暗い暗い。

 

 黒い泥の中を、歩いているような重たい感覚。肌を刺すような冷たい空気。

 

 天を見上げれば光の穴が見える。まるでそれは、昔、本で読んだ蜘蛛の糸の話に出るようなお釈迦様の蜘蛛の糸が垂れてきそうな、そんな希望を抱かせるような温かそうな光であった。

 

 独りぼっちでこんな寒い中、見上げていると、まるで想像していた通りのか細い糸がスルスルと光の方から降りてきた。

 

 掴んでいいものか……。あの物語の最後を思うと易々と掴むのは恐ろしい。

 

 それに、こんな場所に他に誰かがいるなら、譲ってもいいと思えた。

 

 その方が良い。自分はこんな場所にはいたくはないが、他人がいたら譲るだろう。

 

 だって……、こんなに辛い場所なんだから。

 

 やがてその糸を掴んだ者がいた。

 

 ああ、よかった他に誰かがいたんだ。っと思った時、目の前にいたのは……。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「……りん…、花梨ちゃん。」

 

「…ん?」

 

 自分を呼ぶ落ち着いた青年の声が聞こえた。

 目を開けると、花京院が心配そうに花梨の顔をのぞき込んでいた。

「ああ、よかった。だいじょうぶかい?」

「か…きょういんさん…?」

「悪い夢でも見てたかい? なんだか胸騒ぎがして起こしてしまったよ。」

 花京院は、ホッとして座席に座った。

 今、ジョースター一行である自分達は、飛行機に乗っている。エジプト行きの。

 正直な話…、飛行機に乗るに当たって花梨は、イヤな予感しかしていなかった。

 なぜなら飛行機というひとっ飛びで移動できる手段を、敵が見通していないはずがない。なぜなら相手は、同じ場所から動こうとせず、わざわざ日本から旅行に来ていた花京院を敵の刺客として洗脳してから利用するような輩だ。花京院が失敗することは前提として、対策を取っていないはずがないだろう。何重にも……。

「どうしたんだい?」

「……。あっ。」

 見れば、ムーディー・ブルースがウロウロと機内をうろついていた。

「おい。アレを引っ込めとけ。」

 後ろの座席にいる承太郎が小声で言ってきた。

「そんなこと言われても……、きっと敵がいるんじゃないですか?」

「なに?」

 

 その時。

 

 ブ~~~ンっと、羽音が聞こえて、反応したムーディー・ブルースが顔を手でガードすると、その手に穴が空いた。

 

 

『チッ! 口のねぇ奴はこれだから!』

 

「敵か!」

 ムーディー・ブルースの頭の後ろに、大きなクワガタムシが羽ばたいていた。クルッと即座に反応したムーディー・ブルースが拳のラッシュをクワガタムシに当てようとしたが、すべて避けられた。

「避けやがった!」

「あの速度は、スタンドで間違いないだろう! 今、口と言ったな! 舌を好むスタンドがいると聞いたことがある、タロットカードの『塔』の暗示…、タワー・オブ・グレーだ!」

『ククククク! その通りよ! 破壊と災害…、そして旅の中止を暗示する、このタワー・オブ・グレーがお前達を皆殺しにしてやるぜ! こーやってな!』

「なにを!?」

 次の瞬間、瞬間移動のようなスピードで移動したタワー・オブ・グレーは、機内の真ん中、四つほど後ろの方へ移動し、そのまま座席頭部を貫きながら客の口を貫いて舌を抜いて殺した。

「!」

 そして舌から滴る血で、『マサクゥル!(皆殺し)』と壁に書いて見せた。

「なんてことを…、焼き殺してくれる! マジシャンズ・レッド!」

「待て、待つんだ、アヴドゥルさん!」

 

 すると、前の方に座っている老人がムニャムニャと目を擦りながら立ち上がり、トイレに行こうとしていた。

 そして壁に描かれた血文字に気づき、騒ぎかけて…。

「静かに。」

「アガッ!?」

「あっ。」

 っという間に、花梨からの指示を受けたムーディー・ブルースが老人の鳩尾を容赦なく殴って気絶させた。すると、口から出ている串に数枚の舌を刺していたタワー・オブ・グレーが消えた。

「あれ?」

 花梨がびっくりして、また、何かやってしまったかと口元に手を置いた。

「……………どうやら、その老人が本体だったようだな。」

「えっ? 終わり? もう終わり? あっけなさすぎじゃぞ?」

「いいじゃねーかよ、面倒じゃねーし。」

「えっ? えっ? ダメでした?」

「いいや。よくやったぜ、花梨。」

「そうだね。よくやったよ、花梨ちゃん。」

 このラッキーうっかりめっと承太郎が、軽くオロオロしている花梨の頭をワシワシとなで回し、花京院がポンポンッと背中を叩いた。

 しかし、突如として飛行機そのものが傾きだした。

「まさか!?」

 イヤな予感が走り、ジョセフと承太郎がコックピットに走って行った。

 花京院は、気絶しているタワー・オブ・グレーの本体を解いたハイエロファント・グリーンで縛り、それからコックピットを目指して移動した。

 花梨は、それを見てから手を合せ、背中を向けてコックピットを目指して移動した。

 コックピットには、ムワッと凄まじい血の匂いで満たされていた。

 舌を抜かれ、惨殺されたパイロット達。血塗れのコックピット内部は、破壊されており、自動操縦装置も使えない有様だったが。

「『クレイジー・ダイヤモンド』。」

 花梨の後ろに着いてきていたムーディー・ブルースが消え、伯父の仗助のスタンドを出し、破壊されたコックピットを直した。

「おお! よし、このまま香港に着陸じゃ!」

「えっ?」

「このままエジプトを目指せば、先ほどのように無関係な人間が巻き込まれるということさ。」

 

「ギャアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 後ろの方で、凄まじい老人の断末魔が聞こえた。

 ハイエロファント・グリーンを引きちぎって逃げようとしたタワー・オブ・グレーの本体が、引きちぎられて怒ったハイエロファント・グリーンに殺されたのだ。

「やっぱり…。」

「……君は予言者かい?」

「違います。死相が見えたので…。」

 酷く落ち着いている花梨の様子に、少し訝しんだ花京院が聞くと、小さく首を振った花梨がそう答えたのだった。

「…そうか。」

 花京院は、花梨の落ち着きすぎているようにしか見えない綺麗な横顔を見つめ、そう呟いたのだった。

「あなたも…。」

「!」

「…なんでも…ないです。」

 花梨が不意に花京院を見てそう言ったので、不意を突かれてビクッとなった花京院に、花梨は変わらず落ち着いた様子でそう言い、視線を外したのだった。

 花京院はドキドキする心臓を抑え、落ち着こうと深呼吸したのだった。

 

 

 こうして、飛行機によるエジプト上陸は断念せざる終えなくなったのだった。

 

 

 




休みに実家に帰ってる間に思い付いた展開です。
基本設定は、フリーゲーム『7人目のスタンド使い』のカオスモードを参考にしました。

なぜか花京院にフラグ?

あと、最終決戦の展開も思い付いたけど、その通りに書けるかどうかは別問題で……。
花梨があーなってこーなって、花京院が……って展開を考えております。(2020/06/28現在)

なお、花梨は美人過ぎて(眼力があるように見える)真顔だと妙な迫力があります。


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銀の騎士に宿りし、美しき少女の霊魂の頼み

vsポルナレフ編だけど、オリジナル展開。



ポルナレフのために、花梨にとある幽霊が頼み事をします。


 

 香港のとあるレストランで、今後の旅路について話し合い。

 飛行機でエジプトにひとっ飛びで移動が中断された事が悔やまれるが、これ以上無関係な人間を巻き込まぬ為にはやむを得ないことではある。

 50日。されど50日。

 決して短くは無く、だが長くは決してない。けれど日本からの距離から見れば悔やまれる距離にその死の呪いの元凶がいるのだ。1日たりとも無駄にはできない。しかし、焦っても元凶には手は届かない。

 そのための英気を養うためにも食事と休息がきちんと必要なのである。急ぐ旅ではあるが。長い旅路に疲労・空腹などは一番の敵だ。

 花梨は、ソワソワとしていた。

「どうした?」

「う…ん…なんでもない、です。」

「嘘をつけ。」

「…すみません。ちょっと席を外します。」

「待て。ひとりで離れるな。」

「僕が行きます。」

 席を立つ花梨に、花京院が付き添った。

 そして、店を出て、建物の間に入る。薄暗く、生ゴミのにおいが漂う裏道だ。

 花梨は、不意に立ち止まって中空を見上げた。

 そこそこ離れた箇所で立ち止まった花京院は、その様子を見た。

「あなたは?」

 花梨が誰かに向かって話しかけている。花京院には見えていない。

 旅立つ前に、アヴドゥルからチラッとだけ聞いてはいた。花梨が霊能力者であることを。

「?」

 ふと花京院は、気づいた。

 日の光が遮断された薄暗い裏道に、フヨフヨと、小さな光が舞っていることに。

 一瞬、虫かと思ったが違った。目で追うと、花梨の周りにその光の粒が多くあった。

 まるで…、そこだけが、天から差し込む優しく慈悲深い光にキラキラと愛されているかのように……、そんな錯覚を覚えた。

「……分かった。」

 ぼう然とみていた花京院は、その花梨の声でハッと我に返った。

「? どうしました?」

「あ…、いや…なんでもないよ。それで? 誰と喋ってたんだい?」

「……綺麗な…すごく可愛い女の子…。私と年が近いかもしれません。」

「その子がいったい?」

「……お兄ちゃんに、力を貸してあげてって。頼まれました。」

「おにいちゃん?」

「帰りましょう。」

「えっ? あっ。」

 花梨は、さっさと花京院の横を通り過ぎ、店へと戻っていく。花京院は慌てて後を追った。

 店に帰ると、すでに戦いが始まっていた。

 炎の鳥人と、銀の騎士のスタンドの戦いが……。

「あっ…。」

「どうしたんだい?」

「あの人だ…。」

 花梨が銀の騎士のスタンドを持つ銀髪の男を指差す。

「あの人が…、あの子の…お兄ちゃん…。」

「えっ?」

 

「外へ出ろ。全員切り刻んでやる!」

 

 銀髪の男、ジャン(J)・ピエール(P)・ポルナレフが、そう叫んで店の扉を示した。

 

「ジャン…お兄ちゃん。」

「っ…?」

 花梨の口から出た声は、花梨の声じゃ無かった。だが、同じぐらいの声の高さだったため、銀髪の男がピクッと一瞬反応しただけに終わった。

 

 

 そして一行は、ポルナレフという男を追って、店を出た。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 場所は、タイガーバームガーデンという観光名所。

 そこの広場のように開けた場所で、決闘が始まる。

 ポルナレフと、アヴドゥルのだ。

「アヴドゥルさん…。お願いします。」

「ああ。分かっているとも。」

「違います。」

「?」

「……あの人を…殺さないでください。」

「なぜ?」

「あの人は、花京院さんと同じように操られてるだけですから。」

「…分かった。善処しよう。だが…正直なところ、手加減できる相手ではない。」

「……クレイジー・ダイヤモンドで治します。必ず…勝ってください。」

「分かった。」

 

「最後のお喋りは終わりかい?」

 

 ポルナレフがクスッと笑って待っていた。

「……。」

「花梨ちゃん?」

 花梨は、ジッとポルナレフを見ていた。

 花梨にしか見えていないのだが……。

 

 このポルナレフという男に宙に浮いた状態で寄り添っている、美しい少女の姿が見えていた。

 彼女は泣いていた。

 その悲しみがなんであるかは聞いていない。

 そして、ポルナレフという男が、なぜ肉の芽を植え付けられたのか、その経緯も分かっていない。今は、ただの敵でしかない。

 勝ってもらわないといけないのだ。アヴドゥルに。

 そうしなければ……、あの少女の霊は救われない。花梨はそう感じ取った。

 

 

 

 




たぶん、分かると思いますが……。

幽霊の正体は、シェリーです。

シェリーは、兄の復讐を止めたいわけではないです。ポルナレフを助けるために、力を貸してくれないかと花梨に依頼したんです。

……生きていて欲しいから。


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銀の騎士の事情

まったく眠れないので、執筆。投稿。(2020/06/29)


戦いの場面は、はしょりました。勝敗は、原作通りです。


花梨が、シェリーの想いなどをポルナレフに伝える。



最後の方は、花京院side。


 

 アヴドゥルとポルナレフの戦いは、アヴドゥルの勝利で終わった。

 炎に焼かれて死ぬことが礼儀だとして、そのまま焼死しようとしていたので、アヴドゥルが炎を消し、肉の芽を承太郎が抜き、花梨がクレイジー・ダイヤモンドで怪我を癒した。

「なぜ…?」

「あなたの…大切な人からの頼みです。」

「……俺は、孤独の身だが?」

「………シェリー…。」

「!?」

「彼女は、あなたの…、っ。」

「どうしてその名を!」

「やめろ。」

 名前を口にした花梨に、ポルナレフが目を大きく見開き、そして怒りの形相で掴みかかったため、承太郎達が助けた。

「彼女から…、頼まれました。あなたに、力を貸すようにと。」

「なぜ、妹の名を知っている!? お前は何者だ!」

「私は、いわゆる霊能力者…という奴です。」

「なっ…。」

「ですから、あなたの傍にいた…、シェリーという方とお話が、できました。」

「そんなことが…?」

「本当のことだ。彼女は、強大な力を持つ霊能力者だぞ。」

「…い、妹は…、シェリーは…、俺の傍に?」

「ええ。いますよ。あなたに寄り添うように漂っています。」

「…く…ぅうう!」

「おい、どうした?」

 ポルナレフが急に下を向き、拳から血が出るほど握りしめて震えだした。

「シェリーは…、天国にすら行けていないのか! 奴のせいで!」

「どういうことだ?」

「なにか事情があるようじゃのう。」

 それから、ポルナレフに何があったのか事情を聞いた。

 

 話は、こうだ。

 

 3年前に、学生だったシェリーは、友人と雨の中下校中だった。

 だが、不可解な現象を起こしているひとりの男に出くわした。

 そして友人の少女が突如、何もない、なにもされていないのに胸を切り裂かれ。

 ……ポルナレフの妹であるシェリーは、辱めを受けて、殺された。

 九死に一生を得た友人の証言を誰も信じなかったそうだが、ポルナレフは、犯人がスタンド使いであると確信した。

 そして、DIOからその犯人を捜してやるという取引を持ちかけられ、それに応じてあえて肉の芽を受けたのだそうだ。

 

 妹の魂の誇りと尊厳とやすらぎは、その男の死で、償わせなければ取り戻せない。

 

 そのためにポルナレフは、復讐のために故郷を捨て、妹の仇を探し続けていたのだ。

 

 

「許せん…。俺はより奴への怒りが強まった! 先立った両親のいる天国にすら、シェリーは行けていないなんて……。」

「うーん……、シェリーさんがあなたの傍にいるのは、仇討ちをして欲しいからじゃないと思いますよ?」

「なに!?」

「復讐に身を焦がす…、あなたを心配しているのです。自分が死んで、たった一人残してしまったことへの懺悔と、どうか…無事に生きていて欲しい。それが未練でしょう。」

「なぜ分かる!? あっ…、そうか、話せるんだったな? シェリーは…、復讐を…望んでいないと?」

「ソレは違います。」

 声を震わせるポルナレフに、花梨がキッパリと言った。

「相手が、ただの人間で無いことを…、あなたの妹さんは、あなたを見ていたからすぐ理解できた。だから警察や他の大人達では、犯人を捕まえることも、死刑にすることもできないってことは、分かっていた。あなたなら、自分の死の真実にすぐに気がついてくれると信じていた。そして、これ以上自分のように酷いことをされる人間が現れないようにしてくれると、信じています。」

「……それは…。」

「あなたの手で……、あなたの妹を殺した犯人を…っと…。けれど、あなたひとりでは辿り着けないから、私を通して、あなたに力を貸してあげてほしいと。それが、彼女の願いです。」

「そう…か…。シェリー……!」

「…どうするかね? 我々と共に来るか?」

「……ああ! 行かせてくれ!」

 ジョセフが聞くと、グッと涙を腕で拭ったポルナレフは、力強く頷いた。

 それと…っと、ポルナレフが花梨を見た。

「……ありがとう。妹の想いを聞かせてくれて!」

 ポルナレフは、花梨に深く頭を下げた。

「お礼は…、復讐が完遂してからにしてください。」

「ああ。そうだな。」

 

 

 こうして、ポルナレフが旅の仲間になったのだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 side:花京院

 

 

 

 霊能力者。

 胡散臭い代名詞だと思っていたし、考えていた。

 

 霊能力者を名乗る男がいたが、生まれた時から共にいるハイエロファント・グリーンすら見えていなかったのだ。だから、そう名乗る人間達は嘘っぱちだと思っていたんだ。

 

 だが……、それまでの常識が覆されていく。

 

 花梨のいうとても綺麗な女性によって。(自分より背が高いが、歳を聞いたら、1歳下だったことにビックリした)

 

 港までの道中、何気なく聞いてみた。

 霊能力があって、不便は無いのかと。

 

 

「特にないです。私は、そう思ってました。けど、周りはそう思ってません。」

「っというと?」

「私…、幽霊と普通の人間の区別ができないぐらいよく見えるし、聞こえるんです。」

「それは…、不便じゃないのかい?」

「私にとって、これが生まれた時から当たり前でしたから。当たり前のことを否定されても変えようがありません。」

「そうか…。」

 

 

 なんというか…、ドライというか…。

 承太郎から言わせれば、相当なうっかり者の、おバカだと言っていたが…。

 

 自分にとって当たり前のことを否定されること…。

 それがどれほど辛いか…。

 僕は、自分が一番よく分かっていると思っていた。思い込んでいたのか。

 彼女…、花梨に比べたら…、僕の辛さなどちっぽけに思えてしまう。

 

 

 そういえば…、飛行機では変な夢を見た。

 

 

 黒くて、暗くて、寒い、泥の中を歩いている夢のような……。

 

 暖かな光を漏らす穴から蜘蛛の糸のような糸がスルスルと降りてきて……。僕は、いつの間にかいた花梨に糸を……。

 

 あれが、花梨の世界なのだとしたら、救われるべきは花梨だと思ったから糸を持たせたかった。

 僕は、夢の中でそう思ったんだ。

 

 

 




シェリーは、自分を殺した犯人を許さないでという想いと、兄を心配する気持ちで板挟み。
たったひとりではなく、誰かとなら生き残れる可能性が高くなるから、花梨に助けを求めたのです。


そして、花京院。なぜか花梨と同じ夢を見ていた。


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月、瞬殺

書ける内に、一気に書く!
じゃないと、詰るからね。


月のカード編だけど……?


 

 J・P・ポルナレフ。

 戦車のカードの暗示を持つ、針剣の騎士の姿をしたシルバー・チャリオッツの使い手。

 騎士道の精神を持つ、敵ながらあっぱれな奴であるとアヴドゥルはコメント。

 

 が……、その素の姿は、女好きな明るいフランス人である。

 

「花梨ちゃ~ん、どうせだから泳がねぇ?」

「……。」

 海を眺めていたらポルナレフが笑顔で近づいてきた。

「お? お?」

 馴れ馴れしくポルナレフが花梨に近づくと、ムーディー・ブルースが出てきて、壁になる。向きを変えても壁になる。

「花梨ちゃん…、俺のこと嫌い?」

「嫌いでは無いけど、ナンパ好きな人はちょっと…。」

 ミナミと同じく、女好きなタイプが苦手な花梨である。16にしてこの容姿なのだから、声を掛ける人間も山ほどいる。

「ヒヒヒ、嫌われてやんの。」

 ジョセフがイタズラっぽく笑っていた。

「そりゃ悪かったな。けど、美人には声を掛けなきゃ失礼って言葉があってな~。ま、挨拶みたいなもんだと思ってくれよ。なにも変質者じみたこと目当てってナンパじゃねーんだからな。」

「……私、綺麗ですか?」

 花梨がポルナレフを見た。

「そりゃもちろん! こんな美人さんはそうそういないって話だぜ!」

「ふーん。」

「あり? 興味ないって感じ?」

「はい。」

「……もうちっと笑った方が可愛いぜ?」

「よく言われます。」

 花梨はそう言うと、また海を眺めることにした。

「う~ん、こりゃ難攻不落だぜ。」

「言っておくが、彼女は、16歳だぞ?」

「へっ?」

「そうですよ、僕らと歳同じぐらいですよ?」

 そう言われて、ポルナレフは、花京院と承太郎と花梨を見比べた。

「まあ、よく言われますよ? 育ちすぎって。」

「あっ、いや別に、老けてるって言いたいわけじゃ…。」

「分かってます。」

「……なんかドライだよな。」

「よく言われ…。」

 

 その時、船の後方の方から騒ぎ声が聞こえた。

 なにがあったんだとジョセフが船員に聞くと、密航者がいたということらしい。別の船員が密航者である子供を引っ張ってきた。

 子供は、シンガポールにいるお父さんに会いに行きたいだけだと言っているが、密航は許せないと船員は聞き入れない。

 すると子供は船員を振り切って海に飛び込み、泳いで港へ戻ろうとした。

 それを見た船員が焦る。この海域はサメの巣窟だと。

 そして空気読んだサメが子供を襲おうと迫ってきた。それを海に飛び込んだ承太郎が救った。

 ついでに子供が男の子ではなく、女の子であることが分かった。帽子が取れて長い髪の毛が露わになった上に、承太郎がうっかり胸に触ってしまったのだ。

「承太郎! 早く上がれ! 何かがいるぞ!」

 ふと見ると、先ほど承太郎のスタープラチナで殴られ気絶したサメが、海に潜む何かに引き裂かれて真っ二つになっており、承太郎と女の子に迫ってきていた。

 この距離ならと、花京院がハイエロファント・グリーンで二人を甲板に引っ張り上げた。

 ゼーゼーと荒い呼吸をする女の子に視線が集まる。

 この船は、チャーター船であり、船員はスタンド使いでないはずであるから、この中で怪しいのはこの女の子だった。

 だが花梨は違った。

 花梨は、余所を見て、ヒソヒソと何か、見えない誰かと話をしていた。

「花梨?」

「……その子…違いますよ。」

「けどよぉ、一番怪しいのはこん中じゃ…。」

 

「この子が密航者かね?」

 

 そこへテニール船長。

「あっ、この人です。」

「はあ!?」

「?」

 船長が現れた瞬間に、花梨が指差したので、ジョースター一行はビックリした。

「待ちなさい! なぜそう言い切れる? テニール船長は、SPW財団を通じて身元はしっかりと分かっている人間じゃぞ!」

「入れ替わっていますよ。」

「なにーーー!?」

「港で……、本物を殺し…、海に投げた…。」

「なにを…言っているのかね?」

「うっ…。」

「???」

 ジョースター一行の顔色が悪くなった。船長を見て。その視線にわけが分からないと船長は不思議がる。

「せ、船長…あんた…。」

「どうしましたかね? そんな…幽霊でも見たようなお顔をされて…。」

「う…後ろ…。」

 後ろ後ろっとポルナレフが指差す。船長の後ろを。

 言われて、船長が後ろを振り返る。

 そこには……。

 

 

『よくも……、私を殺したな? うらめしや~~~。』

 

 

「うわあああああああああ! 海に捨ててサメのエサにしたはず…、あっ!」

 血塗れで、スプラッター映画顔負けの有様の本物の船長の霊に、思わず悲鳴、そして白状。

 ハッとして口を塞いだときには遅し。

「ごめんなさい。そんな有様でわざわざ出てきてもらって。」

『いえいえ、私を殺した真犯人を捕まえてもらえるなら。』

 スイ~と花梨の方へ移動した本物の船長の霊が、花梨とペコペコと頭を下げあった。

「えっ、えっ? なに? なにが起こってるの?」

 女の子だけは分かってなかった。というか見えてない。

「ちくしょーーー!」

「きゃあああああ!」

「しまった!」

 自棄になった贋物船長が半漁人のスタンドを出し、女の子を捕まえた。

「水のトラブル! 嘘と裏切り! 未知の世界への恐怖を暗示する月のカード、このダークブルームーンがひとりひとり始末してやろうと思ってたが…、とんだ伏兵がいたぜ!!」

 贋物船長は、忌々しそうに花梨を睨んだ。

「海の中なら6対1でも戦える! このガキの命が惜しけりゃついてき…。」

「『ザ・ハンド』。」

 次の瞬間、背中に咲いた白い炎の花からザ・ハンドが出てきて、右手を振った。

 その瞬間に、船長がジョースター一行の傍まで一瞬で引き寄せられた。

「なっ!?」

「オラァ!!」

「ゲボォ!?」

 近くに引き寄せられて混乱した贋物船長を間髪入れず、承太郎がスタープラチナで殴って反対側の海の方へ殴り飛ばしたのだった。そしてボチャーンっと音が鳴った。

「承太郎さん。」

「ふんっ。」

 花梨と承太郎は、拳をコツンと合わせあった。

「君ら…、いつの間にそんな息ぴったりに…?」

「いいや。花京院が襲ってきたときに披露した技だったからな、すぐになにをするか分かっただけだぜ。」

 アヴドゥルに、承太郎がそう答えたのだった。

 殴られダメージフィードバックで同じ傷を負ったダークブルームーンは、女の子を手放し、スタープラチナが女の子を掴んで海に落とさないようにした。

 

 

 

 




ザ・ハンド……、便利すぎる。


それにしても、花梨自身がラッシュするほど戦ってないなぁ。
そろそろ、戦わせたいが……。誰と戦わせようかなぁ?


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死を乗せたタンカー

『力(ストレングス)』編。



ここでやっと花梨のラッシュをやらせました。
使ってるスタンドは、借り物ですが。



 

 ボガーン、ドガーンっと船が爆発していく。

 

「……映画?」

「どこのB級だ。」

 まるで映画のお約束のように、爆弾を仕掛けられていて、起爆を許してしまった。

 花梨が映画みたいだと言うと、下手なつまらない映画だと承太郎がツッコむ。

 自分達と、船長以外の船員達を含めて救命ボートに乗り、SOS信号も出して、あとは救助を待つばかりとなった。

 もちろん、密航者の女の子もいる。

 静かに黙って全員がボートに乗っていたが、女の子は落ち着かない様子だった。

「水…、飲む?」

「う、うん。」

 花梨が気を利かせて水の入った水筒を女の子に渡した。

「あ、あのさぁ…。」

「なに?」

「あんた達…何者?」

「旅を急いでいるだけの旅人だよ。」

「へ?」

「色々と事情があるの。あなたには、関係の無いことだけど。」

「あっそう…。ブッ!?」

「あ! こりゃ、貴重な水を!」

「そ、そうじゃねーよ! あ、あれ!」

 水を吹き出した女の子が指差す先には、霧を切り裂くように現れた大型タンカーだった。

 さっきまでなかった霧に隠れるように現れたタンカー……。

 怪しすぎる。

 っとは口に出せない、花梨である。

 そしてなにより……。

 花梨は、別のボートに乗っている船員達を見た。

 

 ほぼ全員…、死相がメチャクチャ見えているとも言えない。

 

 けれど…っと、花梨はフウッと息を吐いた。

 

「死ぬ時は……、死ぬ。」

「花梨ちゃん?」

「ん…、なんでも、ないです。」

「嘘を吐いたらいけない。」

「……。」

「このタンカーについて…、君はどう考える?」

「怪しさ、100パーセント。」

「そうだね。タラップは降りてきたのに、誰も顔を出していない……。罠だとしても行くしかないんだ。」

「はい。」

 こうして、怪しさ満点過ぎるタンカーに、一行は乗船した。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 乗船してみると、もっと怪しかった。

 なぜなら甲板に通じる操縦室にも、内部にも誰もいないのだから。

 それなのに、船として機能しており、勝手に計器が動いていた。

 唯一生きているモノとして、甲板にある別室に、檻の中に入ったオラウータンがいたが……。

「どうします。このオラウータン。」

「君は、このオラウータンが怪しいと思うのかい?」

「スタンド使いの動物を知っています。」

「あり得るな。」

「ふむ…。誰かがこのオラウータンの挙動を見張って、本当に誰もいないのか探すべきか。」

「船員さん達は?」

「会議室を見つけたので、そこに集まっておるようじゃぞ。」

「……。」

「あー、シャワー浴びたいわ。塩水でベッタベタ。」

「シャワー室なら、船内にあるぞ。」

「私も行きます。」

「えっ? なぜだね?」

「…ボディーガード。」

「ふむ…。では、頼むぞ。」

 ジョースター一行に見送られ、花梨は女の子と一緒に船内に入った。

 船内の会議室で地図を広げ、会議をしている船員達を見て、それからその横を通り過ぎてシャワー室に。

「私が見張ってるから、安心して。」

「分かった。ありがと。」

 そう言って女の子はお先にっと、シャワー室に入った。

 シャーーっと、微かな水音が扉の向こうから聞こえる。花梨は、その横の壁に背を預けて待った。

 やがて……。

 船員達の霊魂がフワフワと飛んでいるのを見た。

「ああ…。」

 花梨は、頭をかきむしり、それから招かざる客を見た。

 

 檻にいたはずの、オラウータン……。

 ゲヘゲヘと下品な声を漏らしながら近づいてくる。オラウータンのずっと後ろの方に、船員達の死体の山があった。

 

「殺す…ということは、殺される覚悟もある?」

「!」

 花梨が薄ら笑ったのを見て、ゾッとするオラウータン。

「花梨? どうし…。」

「出てきちゃダメ。」

「えっ?」

 シャワー室内部にいる女の子が異変に気づいて出てこようとしたので、花梨がそう言った。

「さてと…。」

 花梨は、オラウータンを見る。オラウータンは、先ほどついゾッとしたのもあり、花梨を警戒した。

 花梨は、スッと右手の指をオラウータンに向けた。

「?」

 オラウータンは、その動きを不思議に思っていると。

 花梨がまた薄ら笑った。

 

「死人がなにもできないと思う? ……『リンプ・ビズキット』。」

 

 背中にフワッと白い炎の花が咲き、その言葉が吐かれたとき、オラウータンは、野生の勘で咄嗟に後ろを振り返る。

 そこにあったはずの船員達の死体の山が消えていた。

 そして…、直後に、オラウータンの両腕の肉に人間の歯形が無数にできて出血した。

「ギャアアアアアアアアア!?」

 オラウータンは、見えぬ存在に本能から恐怖しデタラメに暴れた。すると腕に食らい付いていた見えぬ死体が壁に叩き付けられ、潰れたのを気配で感じた。

 それでオラウータンは、瞬時に理解した。消えた死体達は、自分の力で難なく倒せると。

 それに気づいてからは、オラウータンは、動物として発達した嗅覚と勘で襲ってくる死体を撃退していった。

「見えない死体に気づくなんて…、頭良いね。でも……。」

 

 ハッとしたオラウータンの首を、『キッス』が掴んだ。

 

「これは…、あなたが殺した船員達の分だよ。」

 ピッと、シールがオラウータンの頭に張られ、その瞬間にオラウータンの頭が二つになった。

 その現象に混乱したオラウータンの頭からシールを剥がすと、バチーンと頭が戻り、頭が割れるように出血した。

「ギエエエエエエエアアアアアア!?」

「ボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラ! ボーラ・ヴィーア!」

 キッスによるラッシュがオラウータンを襲い、ボコボコにされたオラウータンが倒れた。

 オラウータンの霊魂が抜け、それとともにタンカーがグニャグニャと変型を始めた。

「………『力(ストレングス)』か。」

 コピーしたとて、使う機会はおそらくはないだろうと、花梨はそう思いながら、混乱している女の子を引っ張り出し、甲板へ飛び出して、承太郎達と合流し、ボートに飛び乗ったのだった。

 

 

「信じられん! あの猿は、自分の精神力だけで海を渡ってきたのか!」

「タンカーが…、あんな小さな船に…。」

「物質同化型スタンド。ってところでしょうか。」

「詳しいね。」

「ええ。色々とありますから。」

「これから先…、あんなスタンド使いと戦わなければならないのか…。」

 その言葉に、場の空気が悪くなる。

「ガム…噛むかい?」

 空気を変えようとポルナレフがそう言ったのだった。

 

 

 その後、運良く、船が通りがかり、救助され、シンガポールに上陸することになった。

 

 

 




タンカー型のスタンドって……、使いにくくね?って話。
でも、今まで出てきたスタンドじゃ、大きさだけなら最大級かなって思ってます。


花梨、なんやかんやで怒っております。顔にあんまり出ないけど。



次回は、怨みで強くなるアイツ。


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怨み深く、悪魔人形

エボニーデビル編。



花梨。花京院となんかフラグ?


若干、グロイかも。



 

 

 シンガポール。

 そこは、西洋と東洋が溶け込む、多民族国家。観光地として有名どころである。

 

「世界三大、残念…。」

「なんだいそれは?」

「マーライオンとか?」

「くだらねー話してないで、ホテルに行くぜ。」

「あの子は?」

「ん? おい、お前いつまでついてくる気だ?」

 見れば、あの女の子が近くにいた。

 女の子は、5日後に父親と会うんだからどこを歩こうと勝手だろと強気に言う。

 あの様子では、このままついてきそうな予感がするものの、これからの旅路を考えたらついてくるのは危険すぎる。だが金がないのかもしれないということで、ホテル代を恵むことになった。

 

 

 で…、そんなこんなでホテルであるが。

 とりあえず、ジャンケン。というのもホテルの部屋が限られていて、同室になる人間を分けなければならなかったからだ。

 

 

「着替えるときは、言ってくれ。」

「分かりました。」

 ジャンケンの結果、花京院と花梨が同室に。ポルナレフは、花梨と同室になれず酷く残念がっていたが。

 花京院は、自分のベットの傍に荷物を置いて、フウッと息を吐いていると、隣のベットから、微かな寝息が聞こえてきた。

 見ると、花梨がそのままの格好でベットの上で横になって眠っていた。

「着替えぐらいしたらいいのに…、疲れてたのかな?」

 布団をかけてやりながら寝顔を見る。

 ……改めて見ると、本当に綺麗だ。

 あの眼力を感じさせる澄んだ青い瞳は瞼で隠れていても、顔の造形はとても綺麗で、眠っているせいか年相応のあどけなさを感じさせる。

 普段のドライな状態から気が抜けるとこんな感じなのか……、っと、つい思ってしまう。

 不意に、鼻をくすぐる、微かな甘い香りがしたような気がした。

 その匂いを辿っていくと…、花梨にたどり着く。

「香水…じゃないな。」

 花梨が香水をつけている姿はない。顔だってスッピンだ。

 もしかして体臭か?っと思い、確かめるために、少し鼻を近づけた。するとフワリッと強すぎない軽やかな甘い香りがした。

 お菓子の匂いとも違う…、むしろ花に近いような……。

「ん…。」

「!」

 微かに呻いた花梨の声に花京院は我に返り、慌てて花梨から顔を離した。

 顔がひとりで紅潮し、心臓がバクバクした。

「な…何をやっているんだ、僕は…。」

 らしくないことをしていると、花京院は胸を押さえながら落ち着こうと努めた。

 すると、花梨がムクリッと起き上がった。

「あっ。」

 ヤバいと思ったが、花梨の様子が少しおかしかった。

 ボーッと、中空を見上げ、眠たそうに半目を開けた状態でいる。

「花梨ちゃん?」

「……。」

 そしてベットから降りた花梨の前にムーディー・ブルースが現れ、その手を握り、フラフラと引っ張られながら部屋を出て行ってしまった。

 花京院は慌ててそれを追いかけた。

 やがてあるホテルの部屋の前に来た。

「ここは、ポルナレフの…。」

「……ん?」

「あっ。」

「かきょう…いん、さん?」

「目が覚めたのかい?」

「……ポルナレフさんが…。血のにおい…。」

「えっ?」

 すると花梨が、一蹴りでホテルの部屋を蹴破った。華奢そうに見えてなんて脚力である。

 蹴破った瞬間、ムワッと濃い血の匂いが鼻についた。そして、扉の前で倒れているホテルのボーイの死体…、顔が無かった。

 

「来るなーー! 殺されるぞ!」

 

「ポルナレフ! どこだ!? 敵か!?」

「ベットの下。」

「なっ…。」

 

『ケケケケケケケ! 邪魔が入った!』

 

「人形!?」

『俺の名は、エボニーデビル! 悪魔の暗示を持つスタンドだぜー! 相手を恨めば恨むほど強くなるのよぉ! ポルナレフをぶっ殺すのを邪魔しやがったテメーらを、う・ら・むぜ~~~~!!』

 カミソリや、尖った棒きれを器用に回しながら構えるぬいぐるみぐらいのサイズの人形。

「敵の刺客か! 始末する! エメラルド・スプラッシュ!」

『ギャハハハ! へたっぴー!』

 エボニーデビルは、その小ささを生かしてエメラルド・スプラッシュを避けた。

「くっ! 的が小さい!」

「『マン・イン・ザ・ミラー』。」

 するとエボニーデビルが消えた。

「消えた! 何をしたんだい?」

「ちょっと鏡の中に。」

 花梨は、そこらに転がっていた手鏡を拾い、鏡を見せた。鏡の中には、エボニーデビルがおり、焦っている様子だった。

 手鏡を降ろした花梨は、ベットの下に封じられているポルナレフを助け出そうとしたので花京院も手伝い、助け出した。

「危なかったぜ…。お前らが来なかったらと思うと…。」

「怪我してる。『クレイジー・ダイヤモンド』。」

「エボニーデビルは、どーしたんだ?」

「ここ。」

 治療したポルナレフに、花梨が手鏡を見せた。鏡の向こう側では、エボニーデビルが必死に鏡を叩いていた。だが無駄に終わっているようだ。

「どーすんだ、コイツ?」

「さあ? このまま閉じ込めておくことは?」

「持続力はそこまでないから……。出した瞬間に倒すか…、本体を探すか…。」

「よし、なら出せ。出した瞬間に、タマキンを切り刻む。」

「おい、ポルナレフ…。彼女の前で下品だぞ。」

「あ、すまん。」

「出しますよ。」

「あ、ああ。」

 ポルナレフと花京院がそれぞれのスタンドを出して構えた。

 そして花梨が手鏡をベットの上に置いて、マン・イン・ザ・ミラーを解いた。

 そして飛び出してきたエボニーデビルを、二人が同時に攻撃し、破壊した。

『グゲゲ…。』

 だがまだ息はあった。

「おい、デーボとか言ったな? お前、両手が右手の男を知っているか? 知っているなら、教えな、名前とスタンドを!」

『…馬鹿か? スタンドを見せるときは、相手が死ぬか自分が死ぬ時だぜ…。』

「そーかよ…。花梨、顔を背けてな。」

「はい。」

 花梨が顔を背けた直後、ポルナレフがエボニーデビルにトドメを刺した。

 

 

 そしてその後、別の階のトイレに本体であるデーボという男の惨殺死体が見つかり、あとポルナレフの部屋でボーイが死んでいたことから警察に捕まりかけたが、ジョセフが金を積んだり、SPW財団を利用して保釈してもらったのだった。

 

 

 




エボニーデビルの暗殺は、正直非効率的に思えてくる……。あの人達見てると。(※5部の暗殺チーム)
まあ、この頃は、まだそこまでスタンドが多種多様化してなかったからなぁ。贅沢か。


花梨は、幽霊関係で夢遊病をたまに併発します。たぶん、デーボに殺された人の霊が導いたかも。


あと、花京院、花梨に対して、なにかフラグが…?


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黒く寒い夢と、節制のカード

また、夢を見る花梨。


vs節制のカード。


イエローテンパランスの本体が化けたのは…?


※7人目のスタンド使いを参考にしています。


 

 黒くて、暗い、泥の夢。

 

 まただ…っと思って、上を見上げれば相変わらず希望の光を思わせる温かな光の穴が上にある。

 

 あの時…、糸が降りてきた時…。

 

 あの時、糸を掴んだのは誰だったのか、花梨は思い出せなかった。

 

 ここは、とても暗くて、寒い。

 

 あの天の上にあるような穴の先は、きっと暖かいのだろう。容易に想像できた。

 

 想像したら、ブルリッと寒さに身が震えてしまう。

 

 そもそも…、なぜ自分はこんな夢を見ているのだろう?

 

 気候の暑いシンガポールの快適なホテルの部屋で寝ているにもかかわらず。

 

 そして、ここはいったいどこなのだろう?

 

 糸が降りてきたということは、あの物語のように地獄なのだろうか?

 

 ……自分が地獄に落ちることになる心当たりはありすぎる。

 

 正直、小さい頃を含めるときっと地獄に行くのは避けられないと思えた。

 

 たくさん……、見捨ててきたから。分かっていたのに手を差し伸べなかったから。死に行く者達にも、そして死んだあとの者に対しても。

 

 ………ああ、寒い。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 花梨は、目を覚ました。

「……朝? あっ、お昼…。」

 時間を見れば、もう昼時。

 どうやら寝過ぎしたらしい。

 同室の花京院はいなかった。

 そういえば…、たしかインド行きの列車に乗るためのチケットを買いに行くと話し合ったはずだった。けれど、自分はここにいる。

 つまり……。

「遅刻…。」

 急いで着替えて顔を洗い、部屋を飛び出したのだった。

 しかし、ホテルを出てから花梨は困った。っというのも、承太郎達がどこにいるか分からないからだ。

 けど、そういう困ったときに頼りになる、オトモダチがいる。

「『ムーディー・ブルース』。」

 ホテルの出入り口から花京院を対象にして、再生。

 そしてやや早送りの再生に沿って動く花京院を追って行けばいいのだ。

 ムーディー・ブルースがオトモダチになってくれてからというもの、突然知らない場所に来てしまっても迷わなくなった。

 花梨は、顔には出ないが内心でルンルンと歌いながら再生中のムーディー・ブルースを追いかける。

 やがて飲み物売り屋のところで、花京院の挙動がおかしくなる。っというか、なにかトラブルがあったらしい。

 早送りを止めてみた。

 

『花梨ちゃん? なにを食べて…。』

 

「?」

 花梨はここにいる。そもそも花京院とは移動していないはずだ。いや、移動していない。

 イヤな予感が過ぎった。

 再生を続けて花梨は、花京院を追跡した。そして、ケーブルカーの乗り場にたどり着くと…。

 

「私?」

 

「花梨!」

 密航者だった女の子が驚く。

「あれ? 僕?」

 花京院は、花梨が現れたことより、自分そっくりになっているムーディー・ブルースの方に驚いた。

『チッ、本物のご登場か。』

 贋物の花梨が下品に舌打ちした。

「敵?」

『そうさ! お前さんに化けて先にガキ共を始末しようと思ったけど、まさかご本人様の登場じゃな…。まあ、タネもバレたことだし、ほーれ、俺の素顔だ!」

 贋物の花梨の頭が解けるように割れ、見知らぬ男の顔が出てきた。

「オラァ!」

「なーにが、オラァ!っだ。無駄だぜ!」

 ドロドロと蠢く黄色い肉塊が承太郎の一撃をガードした。ガードした際に肉片が一部、承太郎の腕に飛び散った。

「俺のスタンドは、イエローテンパランス! 節制のカード、イエローテンパランス(黄の節制)だぜ! ほーれほれ、アホ太郎君? 君がさっき殴ったからスタンドの肉が飛び散ったじゃねーか。自分の腕を見ろよ。」

「!」

 グジュルグジュルと動く肉が、承太郎の腕に張り付き、服を溶かそうとしていた。

「言っておく! くっついちまったモンは、どうやっても剥がせねーからな! ジワジワ喰われて成長する! そのまま喰われ死ねよぉ!」

「オラオラオラオラオラ!!」

「だーかーらー! 無駄だっての!」

「ぐぅ!?」

 イエローテンパランスが承太郎の腕に絡みつき、停車しているケーブルカーに引っ張り込んだ。

「承太郎!」

「承太郎さん!」

 ケーブルカーに引っ張り込まれた承太郎を追って、花京院と花梨が飛び乗った。そしてケーブルカーが動き出した。

「へーへへ! こんな狭苦しい中に、雑魚がついでに二人も入って来やがった! バーカ!」

「イエローテンパランス……、食べて成長するスタンド…。」

「ああ、そのとーりさ! 花京院のエメラルド・スプラッシュも、承太郎のスタープラチナの打撃も効かねーの! まさに無敵! ヒヒヒ!」

「『クレイジー・ダイヤモンド。』

「はっ?」

「何かを食べて成長したなら…、原材料まで戻せばいい。」

「だとよ。」

「ハッ!? お、おおおおお、俺のスタンドが!? 消え…、ブゲェ!?」

 上半身裸も露わになって、無防備になったイエローテンパランスの本体を、承太郎がスタープラチナでぶん殴った。

「ハヒーハヒー…! もうやめちくりー…、鼻が折れたー、顎が砕けたー…、歯が折れちまったよー…、全治数ヶ月だー……降参するからこれ以上は…。」

「教えな。この先、あと何人のスタンド使いが待ち構えている?」

「そ、そいつは言えねぇ…、プライドが…ある。」

「ほう?」

「そうかそうか。花梨ちゃん。治してやってくれ。拷問だ。」

「……。」

「ヒッ!? は、話す! 話すから! やめちくりー!!」

「それで?」

「『死神』、『運命』、『女帝』、『吊られた男』…が、いる。」

「なるほど…、どんなスタンドだ?」

「し…知らねぇ…、こ、これは、本当に知らねぇ!! スタンドを見せるって事は弱点を晒すことと同じだ! ただ……、DIOにスタンドを教えた魔女の息子がいる…。『吊られた男』の暗示だったはずだ。あと…、両手が右手で、名前は『J・ガイル』! 鏡だ…、鏡を使うらしい…。それ以上は…、本当に本当に知らねぇ…。」

「両手が右手…。」

 花梨は、ハッとした。

 ポルナレフの妹の仇…、その大きな特徴は、両手が右手だということだ。

「つまり、ポルナレフの身内の仇か。」

「そ…そう…らしいですね?」

「ポルナレフに伝えよう。」

「……………今だ!」

 三人が同時にイエローテンパランスの本体から目を離した瞬間だった。

 イエローテンパランスの肉が伸びて、花梨に襲いかかろうとしたのだ。

 しかし…。

「『ホワイト・アルバム』。」

 一瞬にしてケーブルカー内部が凍り付くほどの冷気が発生し、イエローテンパランスの肉が凍る。

「ぎゃあああああああ! スタンドが凍って尖っちまった!」

 自分に繋がっている部位が凍って尖り、その尖りが自分に刺さって本体がパニックを起こした。

「エメラルド・スプラッシュ。」

「ぎえええあああああ!?」

 ケーブルカー内部に張り巡らされたハイエロファントグリーンの結界から、エメラルド・スプラッシュが飛び交って、氷を破壊しながらイエローテンパランスの本体を攻撃した。

「ったく……、肉の芽もねーくせに、その執念深さはどこから来てんだ?」

「は…アハ…、アハハハ…、ほ、報酬として……大金を…。」

「……もう何も言えねーな。クソ野郎が。」

 そして承太郎は、スタープラチナで凄まじいラッシュをイエローテンパランスの本体に喰らわし、再起不能にしたのだった。

 それから。

「おい。寒いぜ。」

 シンガポールの暑さに反して、ケーブルカー内部で使ったホワイト・アルバムの絶対零度に三人揃って震えたのだった。

 

 

 

 

 その後、無事にチケットを買い、ホテルに待機していたジョセフとアヴドゥルとも合流して列車に乗った。

 いつの間にか、あの女の子がいなくなっていて、花京院はきっとお父さんが来たんだろうと言っていたが、ポルナレフはホームレスじゃね?っと言っていた。

「……。」

 花梨は、列車の食道の窓を眺めながら、フウッと息を吐いた。

 彼女は知っている。

 この列車に、あの女の子が別の車両に乗っていて、グーグーと暢気に寝ていることを。

「それに驚いたよ。花梨、君がいただけじゃなく、次に僕が現れたんだから。」

「『ムーディー・ブルース』は、対象が辿った時間を遡ったりして再現できるんです。過去の情報入手では、これ以上はいないオトモダチです。」

「おともだち?」

 向かいの席に座っている承太郎が訝しむ。

「私は…、死んだスタンド使いのスタンドのことを、そう…呼んでます。」

「お前の能力は、いったいなんだ? 明らかにおかしいぜ。」

「一言で言い表すと…、コピーです。」

「つまり、テメーは、知ったスタンドならいくらでもコピーして使えるって事か?」

「いくらでもはできません。一度に1体しか使えません。」

 しかし、花梨は、すべてを打ち明ける気にはならなかった。

 生きているスタンド使いなら、30秒間しか使えず、あと1分45秒の間を開けないと再度使えないことを。

 おそらく、それが自分にとって一番の弱点だろうから。慎重にいかないといけないと思ったからだ。

「…そうか。」

 承太郎はそれ以上は聞かず、コース料理のデザートを食べ始めた。

 

 この人は…、察している。

 

 花梨は、なんとなくそれを感じた。

 

 

 




ホワイト・アルバムは、本来は全身を包み込み、中はあったかぬくぬくだそうですが、この時花梨は、冷気のみを発射しているので三人で凍えることになりました。


花梨は、パラレルワールドの知人とはいえ、自分の力の全てを打ち明けるのは危険と判断しています。信用してないわけじゃ無いけど……念のためですね。


次回、皇帝と吊られた男……。
花梨がキレる予定。


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燃え上がる、イースターカクタス

vs皇帝と、吊られた男。


花梨ちゃん、ちょいキレる。


 

「ところでよぉ。花梨。」

「はい。」

「お前のスタンドって、結局のところナニ? 背中からなんか炎みたいなもんが出てるのは見えるんだが…。」

「背中から咲くように現れる白い炎が、私のスタンドです。」

「そうそう、花だ花。なんかの花に似てるんだよな~。え~と? イー…、いー?」

「『イースターカクタス』だ。」

 博識なアヴドゥルが言った。

「そうじゃな、なんかの花に似てるとは思ったが、イースターカクタスじゃったか。」

「イースターカクタス?」

「サボテンの花だ。花言葉は、「復活の喜び」、「恋の年頃」、「情熱」、「熱情」…。」

「恋の年頃~? 花梨にぴったりじゃねーか。」

「……。」

「まったく似合ってねーがな。人形臭い顔しやがって。」

「顔は生まれつきですので。」

「君ら、そろそろ現実を見ようよ…。」

「現実逃避…、したくもなるわ。」

 花京院のツッコみにポルナレフがやっと現実に目を向けたのだった。

 

 インド。

 カルカッタ。

 そこについて、過去英国の人間がこう言った。

 『この宇宙で最悪の所』。

 

 牛は野放し。

 浮浪者だらけ。

 道は舗装されておらずとんでもなく渋滞。

 押し売り、わんさか。

 

「インドは、不衛生だとは聞いていましたが…。」

「ガンジー川の水は絶対に触らない方が良い。ありとあらゆる汚物や汚水で汚れきっているからね。」

「は、早いとこホテルに行くぞ!」

 そんなこんなで避難するようにホテルへチェックイン。

 移動する途中、花梨は、ポルナレフの傍にいるシェリーの霊の様子がおかしいことに気づいた。

「どうしたの?」

 っと聞いてみると。

『……アイツが…いる。』

「あいつ…、あっ。」

「おい、牛のクソを踏みかけたぜ。足下に気をつけな。」

 グイッと腕を承太郎に引かれて踏まずにすんだのだった。

 それを見た花京院は、複雑そうな表情を少し浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 ホテルにあるレストランでインドのミルクティー、チャイを飲みながら休憩。

「要は、慣れですよ。」

 そう言うアヴドゥル。

 ジョセフは、うんざり顔で、とてもじゃないが無理だと言うが、承太郎は気に入ったと言っていた。

「マジか! 承太郎、マジで言ってるのか!?」

 ジョセフが孫の言葉に驚いていた。

「君は、どうだい? 花梨ちゃん。」

「……。」

「花梨ちゃん?」

「はい? なにか言いました?」

「どうしたんだい? ボーッとして。」

「ポルナレフさん。」

「ん? なんだ?」

「……仇の存在が近いかもしれません。」

「なに!?」

 ポルナレフが身を乗り出した。

「シェリーさんがそう言っていました。」

「どこだ!?」

「いえ…、ただ気配を感じているだけです。敵の刺客になっているのなら、いずれ現れるかと思います。」

「…そうか。なら不審な奴を見かけたら教えろよ?」

「分かりました。」

「トイレ行ってくるぜ。」

 そう言ってポルナレフは、トイレに行った。

 ところが、少しして。

 

「ぎにゃあああああああああ!!」

 

「どうした、ポルナレフ!?」

 トイレの方からポルナレフの悲鳴が聞こえた。

「し、信じられん! ぶ、豚…豚が…、便器から!」

 ベルトを外してずれるズボンを掴んでいるポルナレフがトイレの中を指差す。

「あー、ここのトイレは設計ミスで豚小屋につながっとるんですわ。こうやって…、棒で豚を突いて、さあ、どうぞ。」

 慣れた様子で店員が豚をどかし、ポルナレフに促す。

「……俺、ホテルの部屋まで我慢するぜ…。」

「その方がいいですね。」

「……ウォッシュトイレなら知ってます。」

「ウォッシュ? 洗うのか?」

「いえ…、ウォッシュとは、文字通りの魚…、『ウオ』と、『Fish』(フィッシュ)です。ベトナムで見ました。宿便を目当てに魚が便器から…。」

「……潔癖そうに見えて、お前も意外と経験値高いな。」

「そのあと、トイレを貸してくださったお宅で、ウォッシュ魚を焼いたのを…。」

「あーーー! この話は止め! やめだ!!」

 花梨の言葉の想像を振り払うように手を振るポルナレフであった。

 その時だった。

『危ない!』

「!」

 シェリーの霊が叫んだとき、花梨はトイレの鏡に映る包帯男の存在に気づいた。

「『マン・イン・ザ・ミラー』!」

「花梨!?」

 マン・イン・ザ・ミラーのスタンド象を出し、鏡を攻撃させて割った。

「……どうやら…、来たみたいですね。『吊られた男』が。」

「!」

「鏡を利用する…、節制のカードのスタンド使いが言っていました。包帯男のような…スタンドです。」

「やろう…ついに、ついに!」

「落ち着けポルナレフ!」

「邪魔すんじゃねーよ!」

「落ち着け! 敵は我々が分断するよう、わざと仕掛けてきた可能性があるのだ! ここでひとりで飛び出してしまったら…。」

「香港じゃ、お前におくれを取ったがよぉ! 俺は長年探し続けた妹の仇を見つけて、怒りで煮えくりかえってんだ! DIOが怖くて逃げた臆病者のてめーにゃ分かるわけねーよな?」

「なっ…なんだと?」

「ほー? プッツン来るかい?」

「……行きましょう。」

「花梨? なんでお前が…。」

「ポルナレフさんは、仇の顔を知りません。」

「両手が右手だってことが分かれば…。」

「シェリーさんは…、間近で顔を見ています。それに約束しました。あなたに力を貸すことを。だから、行きます。邪魔はしません。それに、敵がたったひとりで6人組の私達を倒しに来たとは思えません。別に敵にいたら、私が相手をします。」

「そうか…。邪魔、すんなよ?」

「花梨、それだと君が危険じゃ!」

「承知の上です。それに……、追跡については…。」

 するとムーディー・ブルースが現れた。

「人間だけじゃなく、スタンドでも可能です。」

 ムーディー・ブルースが、吊られた男……ハングドマンになり、鏡にくっつく。

 そして巻き戻しすると…。

「? なんだ? 消えたぜ。」

「……どうやら、鏡の中の直接入り込むタイプのスタンドではありません。おそらくは、鏡の反射でしょう。ほら、薄っぺらい。」

「あっ、マジだ!」

 時間を鏡に映っていた時に戻すと、砕いた鏡があった壁の部分に極限までなんてレベルじゃないほど平たくなったハングドマン(ムーディー・ブルース)の姿が鏡の厚さ分離れた状態で浮いていた。

「ありがとよ、花梨! 恩に着るぜ!」

「いえ、まだ終わっていません。」

「ここまで分かりゃ、勝て…。」

「私は、あくまでも復讐の邪魔をしないというだけで、“追跡”をしないとは言っていません。このまま追跡し、スタンドが消えたら、そこの場所に誰がいたのかを再生します。そうすれば…。」

 直後、花梨の首の左側が切れて出血した。それに続いて、右足に穴が空いて出血した。

「ぁ…。」

「花梨!」

 

『くっそ…、なんて能力のある女だ…! 予定外にもほどがある!』

 

「J・ガイルか!?」

『ククク! これで俺を追跡するのは難しくなったなぁ? 来いよ、ポルナレフ。』

 砕けて床に散らばっていた鏡にハングドマンがいた。ハングドマンの手首に付いている刃に、血が付いていた。

「てめーーー!」

「待て、ポルナレフ!」

 怒りの限度を超えたポルナレフがレストランから飛び出した。アヴドゥルがそれを追って行った。

「だいじょうぶか!?」

「花梨ちゃん!」

「…『ゴールド・エクスペリエンス』。」

 花梨は、ゴールド・エクスペリエンスを出し、砕けた鏡を拾わせて部品を付くって傷を塞いだ。

「いたたたた…。」

 傷は治るが、痛みが残る。それがゴールド・エクスペリエンスの治療。

「追います…。」

「無理をするな!」

「傷は治りましたから。」

「敵は、君が一番の脅威だと分かってしまったんだ! わざわざ敵の懐に入るようなマネはしてはいけない!」

「……それでも…。」

 花梨は立ち上がった。

「約束は…、守りたいんです。」

 そう言って、どこか悲しげに微笑んだのだった。

 その微笑みの承太郎達が言葉を失っていると、花梨は背を向けてレストランを出て行った。そして我に返った承太郎達は、花梨を追った。

 

 

 そして、ムーディー・ブルースを使ってポルナレフの動きを追跡し、見つけたときには……。

 

 アヴドゥルが、銃のスタンド、エンペラー(皇帝のカード)で額を撃たれた瞬間だった。

 

 

「アヴドゥル!!」

「ヒヒヒ! コイツはラッキーだぜ。俺達の攻撃にアヴドゥルのマジシャンズ・レッドが一番の敵だったからな。」

「アヴドゥルさん…。」

「……これだからお人好しは嫌いなんだ。説教垂れてよぉ…。これだから…、俺は…!! 俺の周りで勝手に死なれたくなかったんだ!!」

 ポルナレフが大粒の涙を零しながら叫んだ。

「カモ~ン、ポルポルく~~ん?」

「……嘘ですよね? アヴドゥルさん…。」

 追いついた花京院が倒れているアヴドゥルに近づき、脈をみた。

「……なんてことだ。」

 花京院は辛そうに顔を歪め首を振った。

「……アヴドゥルさん…。」

 花梨は、アヴドゥルの傍に座り込み、その手に触れた。

 そして、ゆっくりと、立ち上がる。

 そして、ジィっとエンペラーの使い手、ホル・ホースを見た。

「おう…、こりゃ、とんでもない美人さんじゃねーか。危ないからどいててくれるかい?」

「……あなたは。」

「?」

「殺すなら……、復讐される、覚悟も、ありますよね?」

 次の瞬間、背中に咲いた白い炎の花から、凄まじい火炎を纏ったマジシャンズ・レッドが飛び出した。

「なにーーーー!?」

「花梨ちゃ…。」

 ビックリ仰天するホル・ホースと、花京院だったが、花京院は、花梨の横顔を見て気づいた。

 

 キレてる…! メチャクチャ怒ってる! っと…。

 だが顔には出ていない。雰囲気で分かったことだ。

 

 そして、花梨は背中にマジシャンズ・レッドを浮かばせた状態でホル・ホースに突撃するように全速力で走り出した。もう、なんていうか、100メートル走世界チャンピオン顔負けの超スピードなダッシュで。

「ひ、ひいいいいいいいいいいいい!!」

 その迫力に恐れをなしたホル・ホースが背中を向けて、一目散に逃げ出した。

 残された花京院とポルナレフは、ポッカーンである。

 

 

 

 

 




生きてますよ?
アヴドゥルさんは。

ただ元の世界ですでにコピーしていたのを、30秒間使うだけです。
アヴドゥルが生きていることを隠すために、花梨は敵を脅すことにしたのです。

殺したはずのスタンド使いのスタンドが出てきたら、あとほぼ無表情で全力ダッシュで突撃してきたら、そりゃ敵であろうともビビると思う。


花梨は、父親がギャングとはいえ、普通の家庭で育ったので感情のブレがジョルノより激しいです。(顔に出ないけど)


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銀の騎士の復讐の完遂

花梨は、ホル・ホースを。


ポルナレフと花京院は、J・ガイルを。


オリジナル展開です。


 

 ハーハアー、ヒューヒュー…っと、大汗をかいたホル・ホースが呼吸困難寸前で、路地裏にへたり込む。

 次の瞬間、後ろの方で、ザリッ…と音が鳴り、ホル・ホースは、ビクーン!となった。

 ガチガチと、震えて歯を鳴らしながら、恐る恐る振り返る。

 路地裏へ差し込む表通りの光を背にした、花梨が息一つ乱さず、そこに佇んでいた。

「ま……、負けだ…。俺の負けだ…! い、命だけは…勘弁してください…。」

「……肉の芽がない。」

「あ、ああ! 俺は大金で雇われただけだ! それでいて俺の座右の銘は、『No.1より、No.2』! ひとりじゃ戦わねぇ! それにあんたは、女だ! 俺はよぉ…、信じて貰えないかも知れねーが、女を尊敬してんだ…! ブスだろうが、なんだろうが、女ってモノを尊敬している! だから、戦わねぇ!」

「ふーん…。」

 花梨の興味なさげな声に、ホル・ホースは、フウッ…と意識が遠のくような気がした。あっ、死ぬって思って。

「ところで。」

「は、はいぃ!」

「J・ガイルは…、ポルナレフさんの妹を惨殺している。それでもあなたは、彼とコンビを組んでいる。女を尊敬していながら、ただの欲望のはけ口にして、蔑ろにしている男と組むのは…、あなたの流儀?」

「そ、それは…。」

「結局、あなたは、尊敬よりお金が大事。それが、あなたの心。だから……、殺さない。」

「…へっ?」

「殺す価値もない。でも……。」

 フワリッと花梨の背中から白い炎の花が咲いた。それを見たホル・ホースは、やっぱ殺す気だ!っと身構えたが。

 花梨は、背中を向けて、去って行った。去るときにスタンドは消した。

「……た、助かった?」

 去って行く姿に、ヘナヘナとなるが、直後。

 ガブリッと、ホル・ホースの左肩に見えない何かが食らい付き、肉に歯形が付いた。

「ぎ…!? ギャアアアアアア!? なんだーーー!?」

「そこで死んでた、浮浪者の死体。J・ガイルがポルナレフさんに殺されるまで…、遊んでて。」

「死体!? ど、どどど、どこだ、イギギギギ!? ひぃいいいい!」

 花梨は表通りに去って行き、路地裏には見えぬ死体と戦うホル・ホースの悲鳴とエンペラーの銃声だけが木霊した。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「……疲れた。」

 

 

 表通りをしばらく歩いて、人がほとんどいない場所で、壊れかけた廃墟の壁を背に、花梨はへたり込んだ。

「お姉ちゃん…、だいじょうぶ?」

 そこへ、この辺りに住んでいるらしい子供がやってきて、心配してくれた。

「うん…、だいじょうぶ。ちょっと、疲れただけ。」

「お水いる?」

「ありがとう。でも、いらない。」

 その時、キラッと小さな光が子供の目に移動したのを見た。光は先ほど通りがかったトラックから移ってきた。

「どうしたの?」

「ううん。なんでもない。」

 花梨は懐から、手鏡を出した。

「マン…イン・ザ・ミラー。スタンドだけが入ることを許可する。」

「?」

 

『なんだこれはーーー!?』

 

「……馬鹿な人。まんまと引っかかった。」

 花梨は手鏡の向こう側の世界に閉じ込められたハングドマンに言った。

「ちくしょおおおおおおおおおお!! このアマがああああああああああああああ!!」

 直後、横の隙間からJ・ガイルらしき醜い男が出てきて、花梨の首を羽交い締めにした。

 

「花梨!」

「花梨ちゃん!」

 

 そこへ、ポルナレフと花京院が駆けつけた。

「動くなーーーーー!」

 J・ガイルは、ナイフを花梨の首に突きつけ、叫んだ。

「おい! ぶっ殺されたくなかったら、俺のハングドマンを解放しろ!」

「イヤです。」

「顔に消えねー傷跡が残るぞ!?」

 J・ガイルは、ナイフの先を花梨の頬に軽く刺した。

「…別に。」

「J・ガイル! 彼女を離せ!」

「来るんじゃねーぞ!」

 J・ガイルは、花梨を捕えたまま後ろに下がろうとした。

 花梨は、自分の腕時計をチラッと見た。

 

 1分45秒。

 

「J・ガイル。あなたは、殺す気持ちがあるのなら……、復讐される覚悟もある?」

 次の瞬間、白い炎の花が咲き、炎を纏った拳を下から振るうマジシャンズ・レッドの腕が、J・ガイルの顎に決まった。

「ブギャアアアアアアアア!?」

 高く飛ばされ、背中から落ちたJ・ガイルに、ポルナレフの影が覆う。

「まっ…!」

「待たねーよ。てめぇに嬲り者にされ殺された妹の魂の誇り…、そして我が友アヴドゥルの仇…、この時を…待ってたぜ!! 針串刺しの刑だ!!」

 シルバー・チャリオッツの凄まじい突きが、J・ガイルの全身を襲い穴だらけにして、吹っ飛ばした。吹っ飛ばされて瓦礫に足が引っかかった状態になったJ・ガイルの姿は、まさにハングドマン(吊られた男)、そのものであった。

「これが本当のハングドマン(吊られた男)か。心底クソ野郎だった。……シェリー。」

 

『お兄ちゃん…。』

 

「!?」

 その少女の声を聞いてポルナレフは、ビックリした。

 横を見ると、中空に浮かんだ、美しい少女がいた。

「しぇ…シェリー…!」

『ありがとう…。お兄ちゃん…。』

「すまない…! 本当にごめんな! もっと早く……。」

 ボロボロと涙を流すポルナレフに、シェリーの霊は首を横に振る。

『これで…、やっとパパとママの所に行ける。お兄ちゃん…、私こそごめんなさい。たったひとりぼっちにしちゃって…。』

「そんなことは…ないさ。さあ、早く…天国へ。父さんと母さんが待ってる。」

『うん…!』

 シェリーの霊は、泣き笑いながら、ポルナレフの額にキスを落として、そして、光の粒になって天へと昇っていった。

「……終わった。」

「ポルナレフ…。」

「これで、俺の復讐の旅は終わった。次は、お前らに恩を返す番だぜ。」

「それは、エジプトまでの旅についてくるってことかい?」

「ああ。ここまで来たんだ。最後まで行かせてくれよ。断られたってついていくぜ?」

「そうか。」

「ふふふ…。」

「あっ!」

「?」

「花梨…、お前笑えるんじゃねーかよ!」

「そうですか?」

「あー、やっぱ笑った方が可愛いぜ! ほら、もっと笑顔だ笑顔!」

「難しいです。」

 

 

 その後、承太郎とジョセフとも合流し、アヴドゥルの遺体を簡素ではあるが埋葬したと言った。

 ポルナレフは、俯き悲しみに震える。

 そんな彼の様子に、他の者達は何も言えなかった。

 

 本当は…、生きてます…とは。

 

 




ホル・ホースを殺さなかったのは、ホル・ホースに死相がなかったことと、敵勢力に自分の脅威を伝えさせるためです。
敵のヘイトを自分に向けることで、死相が濃い承太郎達を守ろうという腹です。
ホル・ホースは、あの後、見えない死体に勝って逃げ帰りました。


花梨は、笑えないわけじゃなく、ちゃんと笑えるんだけどあんまり笑わないだけ。


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女帝と、片鱗

体調崩す、花梨ちゃん。


あと、女帝のカード。


オリジナル展開。


ちょい、グロ?


 

 妹であるシェリーの仇討ちを無事に終えたポルナレフは、DIO討伐のたびにこれからも同行することになった。

 

 なのだが……、バスの中で、ポルナレフ……絶賛ナンパ中。

 

 ナンパしているのは、ネーナというインド人の美女。

 

「まったく…、アヴドゥルさんが知ったら呆れ返るだろうに。」

 やれやれと花京院がため息を吐く。

「……寒い…。」

「寒い? おいおい、インドのこの暑苦しい気候で寒いってのは…、花梨?」

「……寒い…、寒い…。」

 花京院の隣の席に座っていた花梨は、窓側に体を寄せて眠っていたが、寒い寒いっとうわごとを言っていた。

 その体がガタガタと震え、顔色は青く、変な汗をかいている。

「様子がおかしい! 花梨ちゃん! 起きろ、花梨ちゃん!」

「こりゃ、いかん!」

 花京院達が尋常じゃない花梨の様子に焦る。

「ベナレスで一旦降りましょう!」

 花京院が花梨を背負うが、花梨の口からポタリッと黒い液体のようなドロリとしたモノが一滴落ちた時…、バスの床がジュッと溶けた。

 そして黒い穴のように黒い影のようなモノが広がり、少しずつ少しずつ穴が大きくなっていたが、誰も気づかなかった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 その後、ベナレスの病院に行ったが…、診察結果は、異常なしであった。

 ただ、寒気を感じているということは、風邪を引きかけているのかもしれないと、処方箋として風邪薬だけを貰うことになった。

「インドは不衛生だからな~。変な病気がついちまったのかも…。」

 ナンパを中止し、花梨を心配するポルナレフ。

「薬は貰ったことだし、ひとまず様子を見よう。」

「……すみません。」

「別に良いぜ。謝るな。」

 ベットで寝ている花梨が謝ると、承太郎がそう言ったのだった。

「まだ寒いかい?」

「…マシになりました。」

「そうか。よかった。」

「なんか買ってきてやろうか?」

「………だいじょうぶ、です。」

「花梨。こーいうときは、ワガママ言っていいんだぜ?」

「……ラスグラ。」

「らす?」

「インドのお菓子…。」

「へ~、甘いの好きなのか?」

「私…、甘党…。」

「意外だぜ。」

「じゃ、俺らの分も買って帰ろうぜ。」

「……。」

 ポルナレフ達は知らない。

 

 ラスグラ。

 

 それは、インドの菓子にして。

 

 世界一甘いと評される凄まじい物であることを。

 

「じゃあ、誰かが残って…。」

「私が…見ています。」

「ネーナ?」

「ベナレスまで送っていただいたご恩ですから。」

「そうか、そりゃ悪いな! じゃあ、お言葉に甘えるぜ。」

「……いや、僕が残るよ。」

「花京院?」

「見ず知らずの方にお任せするのは…。」

「花京院さん…。だいじょうぶですから。」

「そーだぜ、花京院。ネーナは悪い子じゃねーよ。なあ、承太郎。」

「……。」

 ノーコメントの承太郎。

「まあまあ、すぐに戻ってくるんじゃ。少しの間だけならだいじょうぶじゃろう。さあ、早く行こう。」

 ジョセフがそう言い、一行が出て行く中、花京院は後ろ髪を引かれる思いで出発した。

 ホテルの部屋には、横になっている花梨と、椅子に座ったネーナが残された。

「………二人きりに…なりましたね。」

「ええ。そうね。」

 するとネーナが、花梨が寝ているベットに乗り上げた。

「…なんですか?」

「ポルナレフ様には悪いですが…、私…、貴女の方が好みで…。」

「ふーん…。」

「お近づきに……、口づけを…。」

「……お断り、します。」

「ーーっぐ!?」

 次の瞬間、ネーナの後ろに現れたムーディー・ブルースがネーナの首を掴み、花梨から引き離した。

 

『やはり、ポルナレフの言うことは信用ならないな。』

「!」

『僕が見えているということは…、ネーナ、お前は刺客と見ていいんだろう。』

 

 そこへ花京院のハイエロファントグリーンが現れ、それに驚いたネーナが反応した。

 見えるということは、ネーナがスタンド使いであることを意味する。

「ちぃっ!」

 ネーナがムーディー・ブルースをその細い腕で振る払い、部屋から飛び出そうとしたが、ハイエロファントグリーンが立ちはだかった。

「ハッ!」

 ネーナが体術でハイエロファントグリーンを撃破しようとする。

「花京院さん…、その人のスタンドは…、物質同化型…。アイツと…節制と同じ。でも…。」

「!」

「こっちの方が虚弱。」

『なるほど。なら…。』

「きゃあああああああ!」

『!』

 次の瞬間、ネーナが大きな悲鳴を上げた。

 

「どうした、ネーナ!?」

 

 そこへ買い物を終えたポルナレフが駆けつけた。

「なっ、ハイエロファントグリーン!? 花京院、てめーなにやって…。」

『コイツは敵だ、ポルナレフ! スタンド使いだ!』

「ポルナレフ様、助けて!」

「えっ、えっ? わっ!」

 混乱するポルナレフの後ろへ隠れたネーナは、素早くナイフを取り出し、ポルナレフの首に当てた。

 さらにその腕から肉と同化したスタンドを出す。

「まったく、油断しちまったよ…。ひとりひとり…このエンプレス(女帝)で喰らい殺してやるつもりだったが、予定が狂っちまったじゃないかい!」

『ホレホレ! ポルナレフの命が惜しかったら動くんじゃないよー!』

 本体とスタンド、両方で喋るネーナ。初めて接触したときとは違い、ガラの悪さが浮き彫りになっている。

 その時であった。

 

 

 ゴルルル…

 

 

 何か…獣の唸り声のような音が聞こえた。

「?」

 花梨は、ブルッと寒気に襲われた。

 そして、ホテルの部屋の窓ガラスが割れ、何かが飛び込んできた。

 黒く、ドロドロの表面。

 四本足なので辛うじて動物を彷彿とさせるが、その匂いは最悪で、下水も脱兎で逃げ出しそうな悪臭を放っている。

『ゴルル…、ぶぐゴボ…!』

 獣の唸り声のような音に混じって、何かが湧き出すような奇怪な音が混じっている。

「ひっ!」

 その得体の知れないナニかに恐怖したネーナが短く悲鳴を上げた瞬間、ポルナレフは隙を突いてシルバー・チャリオッツでネーナを弾き飛ばした。

『ゴボボボーー!!』

「あっ…、ぎゃあああああああああああああああああああ!?」

 壁に叩き付けられたネーナに、その得体の知れないナニかが飛びかかった。

「な、なんなんだ、コイツは…!?」

 

「おい、なんのさわ…、うっ!」

「うえええ! なんじゃ、この匂いは!?」

 

 後から追いついた承太郎とジョセフが、ナニかの匂いに鼻を塞いだ。

 ホテルの部屋の中に、バリボリ、バキブチャ…っと、貪り食う音が鳴る。

「ぁ…っ…う…ぁ…。」

『花梨ちゃん!』

 寒気に震え、ベットの上で蹲る花梨に気づいたハイエロファントグリーンが駆け寄る。

 すると、ネーナを喰っていたナニかがあり得ない角度で首を回し、そちらを見た。

「オラァ!」

 承太郎がスタープラチナで、その得体の知れないナニかを殴った。

 その瞬間。

「ぐっ!?」

「承太郎!?」

 突然白目を剥いて倒れ込む承太郎にジョセフが焦った。

『グ、ギ…ギャ、ォォオオオ!』

 ソレは、奇妙な鳴き声を上げながら、花梨とハイエロファントグリーンの方へ飛びかかろうとした。

「ーーーオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!」

 グルンッと目が戻った承太郎が立ち上がり、スタープラチナで、ソレをメチャクチャに殴った。

 ドロドロの体は、みるみるうちに飛び散っていき、部屋中に飛び散って、壁や床、家具を溶かして、やがて黒い煙となって蒸発した。

 承太郎は、フラリッと倒れそうになったのでジョセフが支えた。

「承太郎、なにが起こったんじゃ!?」

「わ、からねぇ、だが……アレは………、生易しいモノじゃ…。」

 承太郎は意識を失った。

「承太郎!」

 気絶した承太郎にジョセフが叫ぶ。

 あと、花梨も寒気のあまりに気を失っており、ホテルの部屋を変えて、看病した。

 ベナレスを離れたのは翌日であった。

 

 

 なお……、ラスグラについては、花梨が目を覚ましてからあげたが、平然と食べている花梨を見てからジョセフ達も食べて、その激甘に悶絶、悲鳴モノの阿鼻叫喚になったのだった。

 

 

 




筆者は、女という身を利用して悲鳴を使って陥れるやり方のアレは、大嫌いです。


ラスグラのネタは入れたかった……。
花梨、実は甘党っという設定追加。

世界一甘いと言われているインドのお菓子で、白くて丸い形をしたシロップ漬けみたいな菓子です。


ネーナを喰った謎の存在の正体とは……?


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霊能娘と、家出少女

運命のカードとの接触?と、家出少女との再会。


好奇心旺盛なあの子から、花梨を恐れないんじゃなかな?


 

 ベナレスで、四輪駆動車を買い、荒れた道をひたすら走っていた。

「かりーん? お前あんなモン(ラスグラ)喰ってよく平気だな!」

「別に。」

「うえええ…、思い出すだけで歯が痛くなるわい。」

 とりあえず回復した花梨は、相変わらず淡々としている。

「究極のジャンクフード、トゥインキー(クリームを挟んだスポンジ菓子)よりヤバいお菓子が存在するとはのう…。」

「あれも美味しいですよね。」

「喰ったことあった!?」

「和菓子の洗礼された上品な甘さも、ジャンクで下品な甘さも好きです。」

「それだけ甘いものが好きならよー、ひょっとして辛いのとか、苦いのが苦手とか?」

「いや、コイツ普通に激辛のカレー喰ってただろ。」

「魚の胆嚢も飲めますよ?」

 

 ※魚を捌いた際に内臓の胆嚢を破ると、身まで苦くなります。

 

「お前に弱点はないのか!?」

「……。」

 思わずツッコむジョセフに花梨は、腕組みして考えてみた。

「家族と友達ですね。」

「そりゃまあ…、普通っちゃ普通じゃのう。」

「花梨、お前友達がいるのか? 意外だぜ。」

「承太郎、そりゃ失礼じゃぞ。」

「私に…普通に接してくれる友人は、その子くらいですけど。」

「…大事にしな。」

「はい。」

 そんな会話をしていると、やがて前方をトロトロと走っているボロ車が見えてきた。

「前の車、チンタラ走ってんじゃねーぜ。追い抜くぜ!」

 そう言って運転手のポルナレフが荒い運転で幅の狭い道の横から無理矢理追い抜いた。

「へへー、さすが四輪駆動車だぜ、荒れ地でもへいっちゃらさ。」

「ポルナレフー、この旅はとにかく急ぐ旅なんじゃ、無用なトラブルは避けたい。」

 ポルナレフに対し、ジョセフが怒った。

「しかし…、インドとも、もうお別れか…。」

「うむ、インドに着いた時は、なんじゃー、このガラクタをぶちまけたような国は!っと驚いたがのう。早くも懐かしくなるわい。」

「俺は…、もう一度インドへ戻ってくるぜ。アヴドゥルの墓をキッチリ作りにな。」

 ポルナレフの言葉に、車の中が静かになった。

 ポルナレフは、それを皆がアヴドゥルに対して悲しんでいると受け取っただろう。

「うおおおおお!」

「どうした!?」

 突然ポルナレフが急ブレーキを掛けた。

「あいたた…、こりゃポルナレフ! 事故は困るって言ったじゃろうが!」

「あっ。」

「み、見ろ…。あそこに立ってやがる! 信じられねぇ!」

「…やれやれだぜ。」

 承太郎が呆れた。

 

 前方の道の脇に、子供がいた。

 問題は…、その子に見覚えがあったことだ。

 

「あの密航者の子。」

 そう、シンガポールで別れたはずの女の子だったのだ。

 

 女の子はこちらに気がつくと、ニコニコ笑いながら、帽子を取った。

「よっ! また会ったな! 乗せてってよ!」

「き、君…シンガポールでお父さんと会うって言ってたんじゃ…?」

「ちげーよ! あたしゃただの家出少女さ!」

「こりゃ、狭いのに入って来るな!」

「いいじゃーん、乗せてって!」

「ダメ、ダメじゃ!」

「かりーん? 久しぶり! ん~、やっぱ良い匂いする。なんの香水つけてんの?」

「香水は、つけてない。体臭だよ。」

「へー! それすごくね?」

「こりゃー! 乗せるとは言っとらんじゃろ! 降りなさい!」

「ケチー、乗せてって!」

「やかましい! うおとしいぜ!」

 承太郎の怒鳴り声で鎮まる。

「香港…だったな。国境までだ。そこで飛行機代を渡して帰す、それでいいな?」

 っというわけで、家出少女と一緒にひとときのドライブとなった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「なー、花梨。」

「ん?」

「花梨って恋人っていんの?」

 車内での会話は、ほぼ全部花梨が引き受ける(?)ことになった。

 助席に乗っている花京院は、それを聞いてピクリッと聞き耳を立てた。

「……いない。」

「へ~、花梨ほど美人だと男に全然困りそうにないのに、意外~。」

「そうでもない。」

「そうなのか?」

「…不気味って言われるから。」

「えっ? なんでさ?」

「幽霊が…見えてたら、気持ち悪いでしょう?」

「えっ?」

 家出少女は、キョトンとした。

「私は、普通の人間と幽霊の区別もできないほどよく見える。気味が悪い、気持ち悪いって普通の人は…。」

「へー! 幽霊見えるんだ!? すっげー! なあなあ、幽霊ってどんなの? やっぱ足無いの?」

「……気持ち…悪くないの?」

 目をキラキラさせて言い寄ってくる家出少女に、花梨はポカンッとした。

「え? なんで? あたしは気持ち悪くなんて思わないぜ?」

「………………野乃佳と同じこと言うんだね。」

「ののか?」

「私の、唯一の人間の友達。」

「じゃあ、幽霊の友達はいっぱいいるんだ?」

「まあ……ね。」

「すげー、すげー!」

「………貴女って、怖い物知らず?」

「だって~、私だってもういい歳の女の子よ? もう少しすれば、ブラジャーもつけるし、爪とぎだってするわ。そんな年頃になってから世界を放浪したり、不思議なことに首突っ込むなんてみっともないって言うかもしれないけどさぁ。家出して、世界中を見て回るのも。不思議に突っ込むのもさぁ、ピーターパンだって、子供のうちだけしか飛べないとか言うじゃん。あれって不公平じゃん。だ・か・ら、あたしは、花梨のこと気持ち悪いなんて思わないよ!」

「……ありがとう。」

 花梨は、微笑んだ。

「あっ…、笑った! 花梨って表情あんましないから、笑えないのかもって心配したじゃん!」

「そうでもないよ。」

「もっと笑いなよ! そしたら誰も気持ち悪がらなくなるって!」

「うーん。」

 言われて花梨は、自分のほっぺたを両手で包む。

 そうやって会話が弾んでいると…。

「? おいおい、あのトロトロ運転の車じゃねーか。」

 自分達が乗っている四輪駆動車の真後ろに、煽るようにぴったりとくっついて走ってくるあのボロ車がいた。

 スピードを上げてもついてくるため、ポルナレフが窓から手を出して前へ行けと合図を出すと、後ろの車は前へ行った。

 すると、今度はスピードを落としてきた。

「なっ! またトロトロ運転してきやがった!」

「煽り運転?」

「ポルナレフ、あの時の乱暴な運転で相手が怒ったのかもしれないぞ。」

「車の運転手の顔は見えたか?」

「いいや、曇ってて見えないぜ。」

「どう思う? 敵だと思うか?」

 承太郎が花梨に話を振った。

「おっ? 前に行けってよ。ったく、最初から…。」

 前のボロ車の窓からたくましい腕が出て前に行けと合図したのでポルナレフが前に行こうとした。

 その直後、前から走ってきたトラックが……。

「なにーーー!?」

「スタープラチナ!!」

 ぶつかる直後、承太郎がスタープラチナでトラックを殴り、その反動で四輪駆動車とトラックが道の両端に弾かれた。

「だ、だいじょうぶか?」

「うう…。」

「ふざけた野郎だ…! もう少し遅かったら死んでたぜ!」

「どこじゃ! あの車はどこへ!?」

「花梨。お前のオトモダチ(※ムーディー・ブルースのこと)で、相手の正体を探れるか?」

「可能性は低いです。ムーディー・ブルースは、その時、その場所で対象が何をしていたかを再現するだけ。今、早戻しをしたら、なにか正体になる単語を喋ってない限りは、ただ運転しているだけの運転手が車に乗った状態という設定で逆走してしまいます。」

「なるほど…。」

「来た道を戻るわけにはいかない。どうしますか?」

「警戒を怠らず…、注意していこう。」

「あのトラックはどうします? スタープラチナでグシャグシャになっていますけど?」

「直しておきます。」

 花梨が車から降りて、トラックをスタンドで修理した。

 

 

 




次回で、ホイールオブフォーチュンとの戦いかな。


花梨は、その能力のせいで野乃佳以外に友達がいない。

普通の人に無い力を持つ者の宿命か……。


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容赦なし

ホイールオブフォーチュン戦。


でもかなり一方的。


花梨の母・ミナミにとってはトラウマの、あのスタンドを…花梨は?


 

 途中の道にある、茶屋で休憩。長い運転では、事故を防ぐため適度な休憩が必要である。

 まだインド圏内であるため、チャイを売っている。

 さらにサトウキビジュースはいかが?っと勧められたので、それを飲んでいると…。

 

 あのボロ車が木陰にいた。

 

「あの車!」

「おい、店主! あの車、いつからいた!?」

「さ、さあ?」

「って、ことは…、この茶屋の客の中に運転手が?」

「…花梨、あの車から降りた奴を再生できるか?」

「降りて…ないんじゃないですか?」

「?」

「さっきから、やってます。」

 花梨の傍に立っているムーディー・ブルースは、できないできないっと言いたげに手を振っていた。

「なるほど。なら…。」

 花京院が合図を送るように花梨に視線を送った。

「エメラルド・スプラッシュ!!」

「『キラー・クイーン』。」

 ハイエロファントグリーンがエメラルド・スプラッシュを撃ち、花梨がキラー・クイーンを出してコップを掴み、ボロ車に向かって投げ、起爆スイッチを押して爆破させた。

『ぎゃあああああ!』

 攻撃を受けた途端、ボロ車から男の悲鳴が聞こえ、車は一目散に走り去っていった。

「……あれだけ攻撃を受けて、割と無傷でしたね。」

「なら、車そのものがスタンドという可能性があるか。タンカー型のスタンドがいたぐらいだ。」

「どうします?」

「ダメージが残ってるうちに追撃するぜ!」

「あっ、待ってよー!」

 急いで自分達の車に乗り、スタンド車(?)を追撃することになった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 外見に似合わず荒れ地をスイスイと走るボロ車。

「くそ、あのボロ車、この荒れ地でも四輪駆動車並みに平然と走りやがって! スタンドで間違いないか!?」

「おかしいな? この道はパキスタンに…。」

「! うおおおおお!?」

 霧が濃くなり、視界が悪くなったとき、ポルナレフが急ブレーキをかけた。

 そのすぐ先は崖だった。

「ば、馬鹿な! あの車、どこへ!?」

「後ろ。」

「はっ?」

 花梨がバックミラーを見て言った瞬間、真後ろからあの車が突撃してきた。

 凄まじいパワーで押し出され、崖へと落とされそうになる。

「なんて馬力だ! 承太郎、スタープラチナで…。」

「いいや、ダメだ。反動でこっちが崖から落ちちまう。」

「……この霧なら…、『アクア・ネックレス』!」

 窓を開けた花梨がアクア・ネックレスを発動し、霧に混ぜ、後ろのボロ車へと行かせる。そして。

『ギャヒィ!?』

「今です。ランクルを。」

「ああ!」

 不意に押し出す力が萎えた瞬間、花梨が花京院に車のランクルを引っかけるように指示、それを察した花京院がハイエロファントグリーンでランクルの先をボロ車に引っかけた。崖が車の重みと重力で欠けて車を落とすと、ボロ車に繋がったランクルがボロ車を引き寄せようとしたため、ボロ車は必死で耐える。

「スタープラチナ!」

 そのランクルのロープ部分を掴み、スタープラチナがボロ車と自分達の車を入れ替えるようにして崖の上へ戻し、ボロ車は崖の下へと落ちた。なお、ランクルはその際に外した。

「……終わったのか?」

「この高さじゃ。無事じゃすまんだろう。」

「いいえ…、まだです。」

「えっ?」

「車から逃げましょう!」

「はっ?」

「いいから逃げるぞ!」

 察した承太郎と花京院が叫び、全員が四輪駆動車から飛び出した。直後、真下からあのボロ車が地面を掘りながら現れ四輪駆動車を破壊した。

『こんの野郎共がーーーー! 好き勝手しやがって! もう許さねーぞ!』

 ドスンッと地面に着地したボロ車の外見がみるみるうちに変わる。攻撃的な凄まじい外見へと。

『この運命のカード! ホイールオブフォーチュンが、ズタズタに轢き殺してやるぜ!!』

「パワー対決なら相手してやれぜ。」

「待て、承太郎! 相手の能力が分からんうちは…。」

 前に進み出ようとすると承太郎をジョセフが止めた。

 その時、キラッと何かが光り、承太郎の体に傷が出来た。

「なっ…!」

「なんじゃ、見えなかった!?」

『ククク! さあさ、逃げ惑え逃げ惑え、行くぜ~。』

「……。」

 花梨は、背中に白い炎の花を咲かせ、キラー・クイーンの手を出した。そしてそこらに落ちていた石を掴み、ホイールオブフォーチュンの進行方向に転がす。

 そして、ホイールオブフォーチュンの車輪がその石を踏んだ瞬間。

 

 カチッ

 

『?』

 ホイールオブフォーチュンには聞こえたらしい。

「とっておき。」

 花梨がそう呟く。そして、大爆発。

『ギャアアアアアアア…。』

「花梨…、今のは?」

「石を爆弾に変えました。触ったら対象が爆発する接触爆弾に。」

『クソがあああああ!!』

「あ、まだ生きてた。」

 しかし、すでにスタンドの車は焦げてボロボロだ。それでも執念でこちらを轢き殺そうと迫ってくる。

「さっきの爆風に乗せて、『キッス』のシールを飛ばしました。」

『!?』

「うお! 車の前部分が二つになってる!」

「車体の前に張り付いています。シールが剥がれかけていますので…、それが剥がれれば…。」

 そしてシールが剥がれた。

 その瞬間にバチーンッと二つになった車体がひとつになり、中央に大きな亀裂と共に、車が破壊された。

「ぎゃあああああああ!?」

 破壊される衝撃によって運転手である運命のカードの使い手が放り出された。

「おおお! コイツは…。」

「OH! こりゃーまた、ヘンテコりんじゃのう! ギャハハハ!」

 笑う理由は至極簡単。

 両腕だけモリモリマッチョで、胴体や足などは貧弱という妙ちくりんな体つきだったからだ。

「ひっ、ひいいいいい! お助けを~~、金で雇われただけなんだよ~~!!」

「あっ、見て! 車が…!」

「こんな小さな車にスタンドを被せていたのか。」

「まるで毛刈りされた羊じゃのう! ハハハハ!」

 

 

 その後……。

 

 

「ウグググーーー!」

 背中の下に大岩で、無理矢理のけぞった状態でロープレで固定された敵スタンド使い。

「えーと、なになに? 『私は、聖なる苦行の最中です。話しかけないでください』?」

「もう追って来ることはないだろうが、念には念だ。」

「パスポートも奪っておきましょう。」

「エ…ルフ(HELP)! フェルフ(HELP)!」

「……殺しに来たなら…、反逆される覚悟もないといけません。」

 塞がれた口で必死に助けを求めてくる敵に、花梨が目を細めてそう言い捨てた。

 敵スタンド使いは、ヒッ!と悲鳴を上げ、ガタガタと震え上がった。

「あとは…、貴女を香港に。」

「ええー! 私も行きたいよ~。」

「お前な~、足手纏いになっとるのが分からんのか! 飛行機代ぐらい恵んでやるだけラッキーだと思え!」

 壊された四輪駆動車の代わりに、敵が使っていた小型車で国境の空港へ。

 そして女の子に飛行機代を握らせて置いていった。

「……。」

「花梨?」

「まあ、仕方がないですよ。あんなに仲良くしていたんだから。」

 新しく買い直した四輪駆動車に乗りながら、花梨が空港を見ている姿に花京院が察してそう言ったのだった。

 

 

 そしてパキスタンへの道中、霧はますます深くなり、不気味なほど視界を悪くさせた。

 

 




花梨、キラークイーンを自分の物にしていた。
たぶん、子供の頃にやったと思われるが、きっと母・ミナミは、卒倒していたと思われる。
なお、キラークイーンは、花梨のスタンドによって情報をコピーされただけに過ぎないのでミナミを見ても暴走はしません。完全制御下に置かれています。

3部は、スタンドの先駆けだから、シンプルスタンドが多く、後々の複雑な能力スタンドだと圧勝できる気がする……。でもシンプルなスタンドほど強いとも言いますしね。例えばアヌビス神とか。

エンヤ戦が近づいてますが…、活動報告でも書いたけど、花梨がとあるスタンドを使っちゃってうっかりをやらかします。


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やらかした娘

vsエンヤ編だけど……?


展開は、ムチャクチャかも。


流血注意。


 

 車内に、スピー…、スピー…っと微かな寝息が響く。

 花梨が窓側に身を寄せて熟睡しているのだ。

「かーわいいイビキかいちゃって、まあ。」

「それにしても霧が深くなってきたのう。ポルナレフ、運転はだいじょうぶか?」

「危なくなってきたぜ。おっ? あそこに町が見えるぜ。」

「おかしいな? 地図だとこの道には町は無いはずじゃ…。」

「その地図古いんじゃねーか? この霧じゃこれ以上は危ねぇし、あそこの町で一泊しようぜ。綺麗なトイレのホテルがあればいいが。おりゃどーもあのフィンガーウォッシュトイレは馴染めねーからよぉ。」

「……闇より…。」

「?」

 承太郎が、花梨の小さな寝言に気づいた。

「リンプ…。ムグッ…。」

 何か言いかけた花梨の口を承太郎が手で塞いだ。

「どうした承太郎?」

「……コイツ…、なにかヤバいことをやらかしかねねぇ。」

「いくらうっかり者でも、そこまでのことは…。」

「うっかりで世界を越えて来るような女だぜ? それにコイツがいくつのスタンドをコピーしているかは分からないが、何かヤバいスタンドを持っている可能性はある。」

「世界を越える?」

「ああ、ポルナレフは知らないんだったな。」

「ホテルで彼女の事情を話す。」

 

 そして一行は、霧の深い町中に車を入れた。

 広々とした路上の回りには古い建造物が建ち並び、人々が行き交っている。

 霧さえ濃くなければ、普通に賑わっている綺麗な町であった。

 

「ふむ、中々綺麗な町じゃ。まずはチェックインするホテルを探そう。」

「あそこのレストランで聞きましょう。」

「アッサラーム。」

 ジョセフが店の前にいる男にそう挨拶をした。

 しかし、男は無愛想な無表情で佇んでいるだけだった。

「聞こえんかったか? アッサラーム、ちょいと聞きたいことが…。」

 すると男は突然レストランの営業中の立て札をクローズ(閉店)に変えてしまった。そしてそのまま無愛想なままレストランに入ってしまった。

「おいおい…、なんなんじゃ? わしゃなんもしとらんぞ?」

「ん?」

 男がレストランに入って行く際に、首筋に大きなゴキブリが這い、服の中へ入って行くのが見えた気がした。

「……妙ですね。」

 眠い目を擦りながら花梨が呟く。

「あんたの発音が悪かったんじゃねーの? あそこに座ってる男に聞いてみよーぜ。」

 そう言ってポルナレフが近くの街灯の柱に座っている男に近づく。

「すんませーん。ちょいと聞きたいことが…。」

 しかし男は無反応だった。

「もしもーし、聞いてます?」

 訝しんだポルナレフが男の顔を見た。

 その顔は、とてつもない恐怖で歪んで固まっていた。

「なっ!? おい、どうしたんだ!?」

 ポルナレフが驚いて男の肩を掴むと、男はそのまま横に倒れ、口からトカゲが出てきた。

「ば、馬鹿な…、し、死んでいる! 恐怖の顔のまま死んでいる!」

「……銃が。」

「えっ?」

「……コイツは、ただの事故死ってわけでも自然死ってわけでもねーな。見ろ。」

 花梨の言葉に承太郎が指で示した。

 死んだ男の手には、銃が握られており、さっき発砲したことが窺える小さな煙が出ていた。

「かなり最近の時間に発砲したのか? 2分か、5分前か? わしらが来る前に? しかし、この表情……、ただごとではない! いったいなにを撃ったのか!? それが問題じゃ!」

「2分…、5分…。」

「花梨。オトモダチの出番だ。」

「承太郎? なにを?」

「花梨のオトモダチの力で、この男が死ぬ前に状況を再現させる、それで分かるはずだ。」

「『ムーディー・ブルース』。」

 ムーディー・ブルースが出てきて、早速と巻き戻しを始めた。

 額に経過した時間が表示された状態の、死んだ男の生前の姿へと変わったムーディー・ブルースが町の奥から走ってくる姿へと再現される。

 ヒーヒー!っと息を切らしながらやがて男は地面を転がった。

 銃を取り出し、ムチャクチャに何かに向けて周りを撃っている。その顔は、恐怖のどん底に歪められている。

『ひいいいいいいい! か、体がいうことを……。』

 そして男は、恐怖に顔を歪めたまま、恐怖に心臓が耐えきれなかったのか事切れた。そして男の姿がムーディー・ブルースへと戻った。

「体がいうことを?」

「これだけじゃあ、わからねーな。」

「……。」

「花梨ちゃん? なにを…。」

「穴が…空いてる。」

 死んだ男の姿へと再度、ムーディーブルースに変わってもらうと、死ぬ寸前の時に戻し、花梨がそのムーディーブルースが変化した男の服をはだけさせて示した。

 男の体には無数の穴が空いており、だがどれも出血はしていない。それがあまりにも不自然だった。

「なんだ、これはーー! こんな大怪我してるってのに、血の一滴も出てねーなんて!」

「花梨。コイツは、そういうところまで再現できるのか?」

「はい。感触や、温度、そして生きているか死んでいるか…、そこまで再現できます。」

「なるほど。心臓は、この時間の時点で止まってるな。そしてこのまま倒れて、座り込むようになっちまったのか。」

 承太郎が、死んだ男に変化しているムーディーブルースの心臓当たりを触ってそう判断した。

「だとしても、分からん! なぜこの男が殺された? なにに遭遇した? 敵の仕業だとしたら、なぜこの無関係の男を殺す必要があった?」

「それにしても…、こんな町中で人が死んでいるというのに…、誰も騒いでいないし、見ていない…。なんなんだ? ニューヨークや東京でもこんなことは無い。」

「呼吸が…ない。」

「えっ?」

 花梨の言葉に花京院がそちらを見ると、花梨は、宙を見上げていた。その片目に何か計器のようなモノがひっついている。

「私達以外…、呼吸が見つかりません。」

「どういうことだ?」

「『エアロスミス』。」

 すると空から小型プロペラ機が降りてきた。

「このスタンドは、生物が吐き出す二酸化炭素を感知できるんです。そこら辺を歩いている人々から…、呼吸が感知できません。」

「それって……。」

「あっ…。」

「どうした?」

「二つ…、呼吸を見つけました。」

「なに?」

「ひとつが移動しています。こちらに。」

「えっ!」

「あそこに…。ひとり…。」

 花梨が指差した先に、霧の向こうから現れたのは、大きな杖を持つ腰の曲がった背の低い老婆だった。

 一行は、平静を装う。

「旅の御方…。今日の宿は決まっていますかね?」

 老婆は、気安く話しかけてきた。

「いいえ。」

 花梨が答えた。

「そーでしゅかー。よろしければ、わしが経営する宿にお泊まりしませんか? 古い宿ですが、精一杯おもてなしをさせていただきますゆえ。」

「そうですか。どうします?」

「うう…む…。では、お言葉に甘えるとしようか。皆もそれでよいな?」

 ジョセフが汗をかきつつそう聞くと、全員が頷いた。

「では、ご案内いたします。こちらへ。」

 老婆は笑顔で、花梨たちを案内した。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 そして古い歴史を感じさせる宿へ着いた。

 宿に着き、チェックインしてから、部屋に案内された。

「夕食が出来るまでごゆっくり…。」

 老婆はそう一礼をして去って行った。

 残された花梨たちは、お互いに顔を見合わせた。

「どう思う?」

「……呼吸がもう一つ…、この宿に近づいています。」

「どっちかだな。どっちかが、敵って可能性があるぜ。」

「両方という可能性もありますよ。J・ガイルが、ホル・ホースという男と組んで来たように。」

「あ、そうか…。」

「お婆さんの呼吸が酷く乱れています。興奮しているのか…、それとも別の理由…。」

「…DIOにスタンドを教えた、魔女がいるとは聞いたがな。」

「あの婆さんが?」

「可能性は否定できませんよ。だとしたら、とてつもないスタンド使いである可能性が…。」

「……。」

 すると花梨があくびをした。

「まだ眠いのか?」

「眠い…です。」

「何かあったら起こすから、寝とけよ。」

「そう…します。」

 そして、花梨は返事をしつつ、ベットに横になった。そしてすぐ寝た。

「見かけによらず、かなり消耗しているようですね。やはり、複数のスタンドを使いこなすせいでしょうか?」

「かもな…。反則的なスタンドってのは、やっぱ致命的な弱点があるみたいだな。部屋にいても暇だし、俺、ホテルの中を歩いてくるぜ。」

「気をつけろよ、ポルナレフ。」

 そして、ポルナレフが部屋を出ていった。

「ぅ…ん…。」

「うなされとるのう…。夢見が悪いのか?」

「僕が見ておきますから、ジョースターさん達も外に出てていいですよ。」

「……のう、花京院? この子のことが気になるなら遠慮無く相談しなさい。」

「なっ!?」

「ヒヒヒ…、せいぜい襲わんよう自制しなさい。」

「違いますってば!」

「まっ、頑張ることだな。」

「君まで!」

 二人にからかわれ、花京院は顔を赤くしながら怒った。

 その時。

 

「う~ん…、り、『リンプ・ビズキット』……。」

 

「あっ。」

「えっ?」

「コイツ!! やらかしやがった!!」

「承太郎!?」

 小さいうわごとだったがハッキリと聞こえたソレに、承太郎が表情を歪め、部屋から飛び出していった。

 それから、下の階の方で、老婆の悲鳴と、男の悲鳴が聞こえた。

「花梨! 花梨ちゃん! 起きるんだ!」

「……ん? かきょういんさん?」

「君…何をしたんだい!?」

「えっ?」

 花梨は分かっていなくてキョトンとした。

「リンプ・ビズキットっと、今…。まさか…?」

「えっ…? あっ…。」

 花梨は、口を押さえた。

「まさか、スタンドを使ったのか!? リンプ・ビズキットっとは!?」

「……死…。」

「し?」

「死体を…蘇らせて…見えないゾンビにする…スタンドです。」

「ゾンビ!?」

「見えないだって!?」

「しかも…、上とか壁とか…も、無視します。空腹と乾きに飢えて…、生き物の脳を食べたがります。」

「そんな…、まさか…、そんなことが…呼吸が無いこの町の人間達がすべて死体だと仮定して…、それを変えたら…。」

「町……ひとつぶんの見えないゾンビが…。」

「ばかものーーーーー!!」

 ジョセフ絶叫。

 そうこうしていると、下の階の方で、凄まじい破壊音とかが聞こえだした。

 

 下の階に降りると、見えないゾンビに襲われたのかボロボロの老婆や、ヒーヒーっと悲鳴を上げながらエンペラーを連射するホル・ホースと、見えないゾンビにわけ分からず、だが身を守るために戦っているポルナレフがいた。

「ぐ、ギギギ…、こんな…こんなことがぁ…!」

 ボロボロの老婆は、身体のあちこちを噛みちぎられたことで血を垂らしながら恨めしげに声を漏らす。

「ばーさん! てめーの霧のスタンドを使え!」

「ぐぎ…?」

「見えないなら、霧で形を浮き彫りにしろ!」

「!」

 承太郎の叫びに、その手があったかと気づいた老婆は、自らのスタンドを発動させ、濃い霧を発生させた。

 すると、見えないゾンビの姿がうっすらと浮き彫りになり、攻撃しやすくなる。

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!」

 姿が見えたゾンビをすべて殴り、破壊するスタープラチナ。

 しかし次から次に窓やドアなどから入ってくるゾンビ。

「ばーさん…てめぇ…何人…何人殺した!?」

「ひ…ヒィ…。」

「おい、花梨! この状況はてめーのせいだぞ! なんとかしろ!」

「……。」

「花梨ちゃん!」

「花梨!」

「……っ、『アンダー・ワールド』!」

 背中に白い炎の花を咲かせ、アンダー・ワールドを出した花梨は、『町の記憶』を掘り起こした。

 その瞬間、霧によって表面上は形作られていた町が、押しつぶされるように本来あった昔の記憶に塗りつぶされていった。

 そして、見えぬ死体が生きていた頃の姿へと戻り、やがて町の記憶と共に消えていった。

 霧が晴れ、あとには廃墟だけが残された。

「うまく…いった…。」

 花梨は、ヘナヘナとへたり込んだ。

 承太郎が、ズカズカと花梨に近づき、その胸ぐらを掴んだ。

「承太郎! やめるんだ! 彼女は故意にやったわけじゃないんだ!」

 花京院が慌てて止めに入る。

「……ごめんなさい…。」

 震える消えそうな声で、俯いている花梨が謝罪した。

 

 それから、老婆こと、エンヤを治療し、気絶している彼女からDIOの能力などの秘密を吐き出させることになったが、DIOに忠誠を誓う者がそう簡単に口を割るはずがないので、テレビを使ってハーミットパープルを使うことになった。

 だがここにはテレビは無い。なので次の町で…っとなった時。

 ホル・ホースが車を盗んで逃げた。

 逃げる際の捨て台詞に。

 そのばーさんを殺しておけ。でないと、DIOの恐ろしさを知ることになるぜと言っていた。

 

 その後、徒歩で移動し、馬車を見つけてそれに乗せて貰うことになったのだった。

 

 

 




いつのタイミングでやらかすかを、悩みに悩んでこの展開……。

最初の段階では、原作通りに事が進んで、エンヤが本性を出したときにうっかりでリンプ・ビズキットを使っちゃったってのをやろうとしましたが……。
花梨の能力だと早々に町の人間が死体だって気づいてしまうので、悩みに悩んでこの展開になってしまいました。


さて……、次の敵は、どう料理してやろうかな?


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自爆スタンド

展開は、ほぼオリジナル?



仲間(特に承太郎)から失望を買ったと思い込んだ花梨は……。


一部流血表現有り。注意。


 

 馬車に乗って、パキスタンのカラチという土地へ。

 馬車の席の後ろの方で、正座して猛反省する、花梨。俯いて背中を丸めている姿は、非常に暗い。頭からキノコ生えてそう。

「な…なあ、そろそろ許してやれよ、承太郎。」

 さすがに見てられなくなったポルナレフが言う。

 承太郎は、腕組み足組みして、ブスッとしていた。

「俺ら、こうして無事なんだしさ~。」

 しかし承太郎は何も言わない。

「ま、まあまあ! ひとまず腹ごしらえでもせんか? ほれ、あそこに名物のドネル・ケバブを売っておるわい。」

 悪い空気を変えようと、ジョセフが明るく言い、馬車を止めてドネル・ケバブを買ってきた。

「はい、花梨ちゃん。」

「……。」

 花京院が花梨にドネル・ケバブを渡す。花梨は顔を上げずそれを手で受け取り、モソモソと食べた。

「美味しいかい?」

「……。」

 花梨は返事をせず、コクリッと頷いた。

 これは、相当堪えているな…っと、花京院は知られないようにひっそりとため息を吐いた。

 パラレルワールドとはいえ、ジョースター一族の子である花梨。彼女の元の世界では、ジョセフが祖父にあたるのなら、当然その孫である承太郎のことも知っていて顔を合わせているはずだ。ジョセフの浮気で出来た子の子だから、承太郎から見て、母親の異母兄弟の子で、従兄弟という関係になる。実にややこしいが。

 血筋は遠からず、近からずという関係……。

 そういえば、日本の法律では、従兄弟同士は結婚でき……。

 瞬間、花京院はムカッときて、ハッと我に返りブンブンと頭を振った。

「?」

 花梨は、その気配を感じてふと顔を上げた。

 すると。

「あっ、起きてる。」

「えっ?」

 見るとエンヤが起きていた。

 なぜか大汗をかいてガタガタと震えている。その視線の先を花梨は辿ると、ケバブの店の店主に行く。

「な、なぜお前がわしの前に来る!? このエンヤがDIO様の秘密を喋るとでも思ったか!?」

「?」

 

「ふふふ…。」

 

 するとケバブの店の店主がクスクスと笑い、そしてアラブの衣装を取った。

 現れた男は、ニヤニヤ笑いながらエンヤを見る。

「エンヤ・ガイル殿。口封じさせていただきます。」

「なにーーー!? あ…? あ、ああ、アババババ!?」

 直後、エンヤの顔や頭から無数の触手が突き破ってきて生えてきた。

「な、なぜ、わしを…!?」

「ばーさん!」

「DIO様は、何者にも心を許していないということだ。残念でしたね。」

「ばーさん! 花梨! 治してやれ!」

「はい、クレイジーダ…。」

「おおっと、そうはさせませんよ?」

 クレイジー・ダイヤモンドで治そうとした花梨だったが、直後その両手に傷が出来て出血した。

「!」

「花梨!」

「ぎぎぎ、ぶげぇ……、D…IO…様…、なぜ……。」

「婆さん!」

 血と涙を流しながら、エンヤは死んでいった。

「フハハハハ! 最後の最後まで哀れな老婆だ! まあ、それこそがDIO様の魔の魅力と言えますかね?」

「てめぇ…!」

「花梨…、せめて綺麗にしてやれ。」

「はい…。」

「それより、花梨! おまえさっき…。」

「どうやら、敵の術中にはまっているようだね…。敵はすでにコチラの一番の戦力を知っている!」

「ええ、そうですとも。そちらの女…。その女が一番の脅威だと漏れ聞いていますよ! だからこーして、封じさせて貰いました。」

 男は、自身の両手を見せた。そこにはナイフで傷つけたような傷が出来ていた。

「なにをしやがった!?」

「奴のスタンドか?」

「どこを見ている? 戦いはすでに始まっているんだ。おい、そこのガキ。駄賃をやるから、その箒で私の足を叩いてくれ。」

「!」

 花梨は、ハッとした。

 直後、子供に足を叩かれた敵の男と同じ箇所が痛くなった。

「っ…。」

「花梨ちゃん! まさか…!?」

「そう、その通り。スタンドとは本体と一心同体だ、それは、捉え方によっては、こういった芸当も出来るのだよ。自分の痛みや苦しみを何倍にも相手に与えるということをね。」

 すると男の足をもう一度子供が殴った。

「誰が…、もう一度殴れと言った?」

 男は子供を蹴り飛ばした。

「まっ、私…スティーリー・ダンのスタンド恋人の暗示…、ラバーズは最弱だ。髪の毛ひとつ動かせないほど脆弱で小さいスタンドだ。だがね、人を殺すにはその程度の力も必要はないんですよ? そうそう、私のスタンドは先ほどエンヤにやったように肉の芽を持って、その女の脳内に入っている。つまり、あと、十数分でエンヤのように死ぬのです。」

「なんてことを!」

「てめぇ!!」

「おいおい…、下手に私に攻撃してみなさい? そしたら何倍にもなってそっちの女もダメージを受けるのですよ?」

「!?」

「ふーん…。」

 すると花梨が興味なさそうに声を漏らす。それを見てダンが眉間を寄せた。

「おい、聞いてないのか? あとお前は十数分で…。」

「じゃあ、あなたは、これも予測していた?」

「はっ?」

「花梨ちゃん?」

 すると、花梨がケバブの店に置いてあった肉切り包丁を取って、それを左手首に当てた。

「っ…!」

 そしていきなり手首に刃を食い込ませ出血させた。

「なにやってんだよ!?」

「おいおーい? まさか自傷趣味が…、……えっ?」

 ダンは、自分の左手首の激痛に気づいて一瞬呆けた。

「ぐっ…くっ…。」

 花梨は、構わず歯を食いしばり手首をざくざくと切っていく。すると傷口は広がり、出血量も増えていった。

 それとともに、ダンの左手首にも同様の傷と出血が起こった。

「なんだとーーーー!? いでぇぇぇぇ!」

「あっ、よく見ろ! 変なプロペラみたいなのが…!」

「……は、…『ハイウェイ・トゥ・ヘル』。」

 ダンの腕から生えている複数のプロペラのような物体に気づいたポルナレフが叫び、花梨がスタンド名を言った。

「どうやら…、こっちの方が強いみたいですね…。よく分かりました。なら…、あなたも道連れです。」

「なに!?」

「このスタンドは…、自死することで、道連れにしたい相手を同じ死に方をさせて殺すスタンド…。私が今、手首を切って自殺しようとしたら、あなたも同じ傷が出来た…。だから、あと十数分で私が死ぬと分かっていれば、自死を選べば、あなたも道連れになる。」

「ば…、馬鹿な…、そんなスタンド…聞いたことがないぞ? お、お前…、まさか本気で自死…、いや自殺するつもりで?」

「そうですけど?」

 なんてことないように言う花梨に、全員が言葉を失った。

「は、ハハハハ! もっといい脅しをしろよ! クソアマ! 手首切ったぐらいじゃ、中々死なねーよーだ!」

 本気じゃないと思ったダンがそう言って引きつった笑みを浮かべる。

 だが。

「そうですよね。なら…。」

「…………えっ?」

「花梨ちゃん!?」

 花梨が、建物の傍に置かれていた水の溜まった樽を見たので、ダンは、ハッと察し、花京院達が慌てて止めようとしたが、途端に花梨の背中から咲いた白い炎の花に遮られ、花梨は樽の中に頭を突っ込んだ。

「ガボボボボ!?」

 すると今度はダンの顔の周りに水が発生し、ダンは、溺れた。

「オラァ!」

「ボボッ!?」

 承太郎がダンをど突いて胸ぐらを掴んだ。

「選べ…、このままてめーのスタンドを解除せず、肉の芽を持って外へ逃げ出すか。それとも、アイツと不本意の無理心中をするか!」

「ガボ…。じにだぐな…。」

 息ができず白目をむきかけていたダンは…、やがてラバーズと肉の芽を外へ出し、解除した。

「花梨ちゃん!」

「やめろ、馬鹿!!」

 花梨を花京院達が樽から引っ張り出し、花梨はゲホゲホと必死に息を吸った。

 同時にダンの方も息が出来るようになるへたり込んで、必死に息を吸っていた。

「た、助かった…! 助かったぁ! 死ぬかと思った…。」

 ダンは、やられる側になってやっと死の恐怖を理解したらしい。

 すると、複数人の影が彼を覆った。

「ハッ?」

 影の正体は、承太郎達だった。

「肉の芽は…、本当に外へ出したんだろうな?」

「えっ? あっ、はい! 出しました! さっき私のスタンドが外へ出しましたとも! 彼女の脳内には欠片もありません! 誓います! 本当です!」

「ジジイ。」

「念のため…、波紋を流しておこう。」

 そう言ってジョセフが、波紋を使っておいた。

「ばーさんには、あのJ・ガイルの件で因縁があるがよぉ…。あんな死にかたされたら、さすがに複雑だぜ。」

「よくも、花梨ちゃんに…。」

「えっ、えっ? あ、あの……、スタンドも、肉の芽もとりましたよ? 見逃しては…もらえないんですか?」

「俺は、一言も言ってねーぜ。見逃すとはな…。」

「ヒイイイイイイイイ!?」

 

 

 カラチの地に、ダンの悲痛な断末魔が響いたのだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 その後…、花梨は、ゴールド・エクスペリエンスで治療し、絶賛、正座中。

「言うことは?」

「……ごめんなさい。」

「謝罪じゃねー。なんで、あんなマネをした?」

「……。」

「俺への贖罪のつもりでやったんなら、良い迷惑だぜ。」

 ケッと承太郎が吐き捨てるように言った。

 花梨は、シュンッと項垂れる。

「いいか? 二度とあんなマネはやるな。いいな?」

「はい…。」

「もっと大声で。」

「はい!」

「誓え。」

「誓います!」

「……。」

 すると承太郎が右手を伸ばしてきた。

 花梨はそれを気配で察して身を縮めた。

 花梨の頭にポンッと承太郎の手が乗る。

「……?」

「無事で何よりだ。…やれやれだぜ。」

「……ごめんなさい…。」

「もう謝るな。」

 頭を撫でられながら謝罪する花梨に、ヤレヤレと承太郎が言った。

 

 

「寿命が縮むかと思ったよ。頼むから二度とやらないでくれ。」

「はい。」

 立ち上がった花梨に、花京院が胸をなで下ろしながら言った。

「それにしても、君はなぜあんな危険極まりないスタンドを?」

「……私のスタンドが、勝手に連れてくるんです。」

「あのスタンドも…、すでに本体が?」

「死んでいます。」

「あの霧の町でもそうだが…、君は自分のスタンドをちゃんと把握しているのかい?」

「……正直、とても難しいです。」

「消すことってできないのかい? 整理整頓。」

「できたら…、苦労はしません。」

「そうか…。」

 会話が続かない。

 そして解決策も無い。

 花梨のスタンドは、完全に味方では無いらしい。自爆を想定したスタンドを覚えられる時点で。

「私のスタンドそのものが、無限にある本棚みたいなもの…、記憶の媒体と言えばいいんでしょうか?」

「うん。」

「……連れてくるんですよ。鳥が…。」

 すると、どこからともなく、白い炎の鳥が飛んできた。

「こうやって…。」

「なにを…連れてきたんだい?」

「『ラバーズ』です。」

「奴(ダン)のスタンドを? もう?」

「あと、ジャスティス(正義のカード)を。」

 すると、花梨の前に霧の髑髏のスタンドが現れた。

「あのエンヤのスタンドか?」

「はい。」

「それだけじゃない、運命、吊られた男……も。」

「…ポルナレフには見せない方がいい。」

「はい。」

 花京院は、花梨の横顔を見た。

 花梨は、鳥が連れてきたスタンドと戯れながら、どこか悲しげである。

 やはり、堪えるのだろう。死者のスタンドを連れてきて、自分のモノとして扱うというのは……。

 彼女は、16歳だと言った。

 なら、たった16年の間にどれだけのスタンド使いのスタンドと接触したのだろうか?

 その苦しみと悲しみは、どれほどのものか…、それは想像できない。

 生まれた時からハイエロファントグリーンと共にいた花京院の孤独や悲しみなど霞なるほどだろう…っと花京院は思った。

 そう考えていると花京院は…。

「?」

 無意識に花梨の腕を掴んで、引き寄せ、そして…。

 その手首に口づけをした。

「……花京院…さん?」

「………ハッ!」

 我に帰った花京院は慌てて離れたが、顔が真っ赤になっていた。

「ぼ、僕は…その…。」

「……。」

「花梨ちゃん? …わっ。」

「お返し。」

 腕を引かれた花京院のおでこに、花梨がキスをした。

「あなたにも…良いことがありますように。」

「………あ、りがとう。」

 花京院は紅潮する顔を抑えきれず、そっぽを向いた状態でオロオロした。

 花京院は見ていなかったが、その時花梨が、クスッと可愛らしく笑っていた。

 

 

 

 




原作じゃ、なんでジョセフだったんでしょうかね?
ジョセフのハーミットパープルを警戒してのことかな?


もっとボコボコにした方が良かったかな?
まあ、死の恐怖は十分味わったと思うけども。
ハイウェイ・トゥ・ヘルって…、使いにくいけど、怖くね?

花梨は、ちょっとばかり先走りやすく、自分の命を軽く見ている節があるってことにしました。


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お間抜け太陽

ジョジョ作品で一番お間抜けかもしれない、ある意味で可哀想な敵スタンド。



ほぼほぼ原作通りだけど、花梨が自動操縦型スタンドの説明をするなどオリジナル部分もアリ。


 

「暑い…。」

「我慢しとくれ。お国柄の問題じゃから。」

 アラブの宗教上の理由で、女性は全身を包むような布の服を身につける決まりになっている。男性の前で髪の毛や肌を晒してはならないのだ。

 

 一行は、カラチから船に乗り、治安の不安からイラン、イラクを横断せず、アラブ首長国連邦に入国した。

 アラブに入って車を購入し、道路をひた走る。

 その途中で見渡せる家々は、どれもこれも豪邸だった。東京ならば相場で30億や40億はするような豪邸だ。この国は、石油ショックでこのような状態らしい。

 

 ジョセフがこれからのルートについて地図を広げて説明をした。

 まず、砂漠を横断し、そして砂漠の町でセスナを買ってサウジアラビアの砂漠を横断するというルートである。

 承太郎は、セスナと聞いて、生涯に3回も墜落を経験した男(3回目はギリギリ)と一緒に飛行機に乗りたくないっとコメント。ジョセフは、それについて不服そうにしていた。

「私の世界の祖父は…、母の話だと、飛行機に乗るのを諦めてもっぱら船を利用していたそうです。」

「だ、そうだ。」

「こりゃ! まだ決まったわけじゃないわい!」

 孫×2(ひとりパラレルワールド)に言われ、ジョセフがプンプン怒った。

「まあ! とにかく! まずヤプリーンという村へ行くため、砂漠をラクダで横断する!」

「ちょ、ちょい待てよ! セスナはともかく、ラクダは…。」

「ふっふっふっ…、それはわしに任せておけ。」

「……。」

 すでにイヤな予感しかしないが、花梨も承太郎も黙っていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 人数分のラクダが、ブフーっとヨダレと鼻息を吐く。

「くっせ~!」

 動物特有の悪臭に、ポルナレフが鼻を摘まむ。

「どうやって乗るんですか?」

 花京院が聞くと、ジョセフが自信満々に胸を張る。

「まあ、見ておけ。こう…、こうやって…、こりゃ! 座れ! 座らんか!」

「おい、ジジイ。実は知らねーな?」

「知っとるわい! わしゃ、あのクソ長い映画『アラビアのロレンス』を三回も観たんじゃぞ! 乗り方くらい…、ブッ!?」

 悪戦苦闘するジョセフに、ラクダがヨダレをぶっかけた。顔に。

「そのラクダ…、オスですね。オスのラクダは、威嚇行動としてヨダレを飛ばすそうです。」

「よく知ってるね?」

「変なことするから、怒るんですよ。この子達は、売り物なら、人慣れさせてあるはずです。」

 そう言って花梨が、自分に宛がわれたラクダを座らせ、要領よく乗って見せた。

「………負けたな、ジジイ。」

「うっさいわい!」

「乗るときが肝心です。後ろ足から上げるので、前のめりになって振り落とされないように。あと乗ってからも、ラクダ酔いに気をつけてください。」

「ラクダ酔い?」

「車酔いと同じです。」

「あっ、そういうことね。」

「それにしても、随分となれてるな、花梨。誰かから教わったのか?」

「はい、シーザーさんって方から。」

「!?」

「どうした、ジジイ?」

「あ、いや…なんでもないわい。」

 ジョセフは慌てて首を振る。

 そして全員がラクダに乗り、出発。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 ラクダの後ろに木の枝と葉を吊るし、足跡を消しつつ、進んでいく。

 しかし、花京院はしきりに後ろを気にしていた。

「花京院、だいじょうぶか? そんな後ろを気にする必要ねーぜ?」

「いえ…、しかし、さっきから視線を感じる気がするんです。」

「数十キロ先まで見渡せるんだぜ? 何かいたらすぐ分かるだろ?」

「いや…、俺も気になっていた。」

「私もです。」

「承太郎、スタープラチナの視力で調べろ。」

「ああ。」

 承太郎がスタープラチナを出し、周りを見回す。

 しかし、なにもいない。

 だが気配はあるのだ。

 花梨は、アッと気づいて、声を漏らした。

「どうした?」

「時計が…。」

「へっ? ……なっ、午後8時!?」

「お、俺の時計もだ! 8時10分だぜ! どういうことだ!?」

「太陽が…。」

 花梨が指差す。

 その先を見ると、本来なら沈むはずの太陽がグングン昇ってきて自分達を暑く照らし始めたのだ。

「ぐわ、あっちーーー! 温度が急上昇してるぜ! このまま俺達を時間を掛けて焼き殺す気か!?」

「いや、そんな時間はかからん。サウナでも30分もいれば命の危険になる。」

「まずい、ラクダが熱でやられそうだ…。」

「手っ取り早いのは…、本体をぶっ飛ばすことだが…。」

「遠距離型って可能性があるんじゃねーか!?」

「それはない! このパワー…、間違いなく本体は近くにいる!」

「『ホワイト・アルバム』。」

「うお! 涼し!」

「マイナス200度以上までいけますけど?」

「そこまでせんでいい!!」

「せめて距離だけでも測ってみます! ハイエロファントグリーン!」

「花京院、気をつけろ!」

 花京院が挙手し、ハイエロファントグリーンを出して敵のスタンド『太陽(ザ・サン)』に近づいた。

「10…、40…、50…、80…100…!」

 その時、太陽がカッと光った。

「気をつけろ! 仕掛けてくるぞ!」

 その叫びが遅かったか、太陽から放たれた攻撃がハイエロファントグリーンを襲った。

「ぐあっ!」

「花京院さん!」

「げっ、ラクダが!」

 太陽から放たれる光線のような弾丸が、ラクダを撃ち抜いて殺した。

「穴を掘るぜ! 避難しろ!」

 承太郎がスタープラチナで砂漠に穴を掘り、そこに全員が逃げ込んだ。

「だいじょうぶか、花京院?」

「え、ええ…、なんとか。」

 ホワイト・アルバムで穴の中を涼しくしながら、花梨がジッと穴から太陽を見た。

「……自動操縦型ではないみたいですね。」

「じどう…?」

「スタンドの中には、本体の意思に関係なく何らかの条件が揃えば動くスタンドがあります。本体がありながら、ダメージフィードバックがなく、そして、目的を達成するまで永遠と動き続けるという特性があります。ただし、自動…オートで動くので、本体はスタンドの動きをまったく把握できないという弱点はありますし、シンプルなため、攻撃力も防御力高いですが、決まっている単純行動しかできないという欠点もあります。」

「でも…、あの太陽は違う。明らかに僕のハイエロファントグリーンが近づいたから攻撃をした。」

「はい。だから、自動操縦型ではありません。間違いなく…本体が目で見て行動しています。」

「何らかの方法で、姿を隠しながら、俺達を追跡してきたってわけか?」

「これだけのパワー…、やはり近いですね。自動操縦型は例外として、近ければ近いほどパワーは強まる。……あっ。」

「どうしたんだい?」

 何かに気づいた花梨が、グイッと花京院の袖を引っ張って、指差した。

「……プッ…、は、ハハハハハ、アハハハ、クヒヒヒ、ノォホホホ!」

「おい、花京院、どうした!?」

 急に笑い出した花京院に、ジョセフが焦った。

「…クッ…、ふふ…ハハハハ。」

「承太郎!?」

「ブフッ! く、ククク! ギャハハハハ!」

「ポルナレフ!? オーノー! お前達、暑いところから急に涼しくなったから頭がいかれたか!?」

「違うぜ、ジジイ。見ろ、アレを。」

「なんじゃ? 岩しか無いぞ?」

「ボケるにゃまだ早いぜ。見てな。オラァ!」

 承太郎がそう言いながら石を拾い上げ、スタープラチナで投げた。

 するとガシャーン!と景色がひび割れ穴が空いた。

「なんじゃ!? 一方の岩の傍にひび割れが…。」

「ここまできても分からねーか? 太陽は…消えたな。」

「単純なスタンドほど強いとは言うが、スタンドじゃなくても単純な仕掛けも脅威になるものなんだね。」

「特にこんな砂漠じゃな。」

 

 そして、一行は、割れた景色の部位に行ってみる。

 そこには、小型の車があり、鏡を前に設置して移動していた事が分かり、そして投げた石でノックアウトした太陽のスタンド使いらしき男が倒れていた。

 

「見てください、冷房に、水…食料…、なんて快適な旅をしていたんだか?」

「おそらく、あの太陽のスタンドは、本体まで巻き込んでしまうのでしょう。だから万全な状態でなければ自分もやられていた。」

「位置からすると…、あの太陽の真下か…。真上に出現するじゃ、そうするしかねーな。」

「えっ? コイツ、もー終わり? あの凶悪な太陽のスタンドだったというのに?」

「コイツ…律儀に免許持ってるぜ。名前は、アラビア・ファッツ。」

「それよりか、早いとこ砂漠を越えようぜ。夜の夜中で寒くってよぉ…、はっ…ハーっクション!」

 

 

 最悪氷点下まで温度が下がる夜の砂漠に、ジョースター一行の笑い声が響いたのだった。

 

 

 




3部じゃ、まだ自動操縦型スタンドは出てませんよね?


次回は……、ホラーっぽい展開を予定します。
マニッシュボーイが……?


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DEATH

デス13編。


オリジナル展開です。


どうしても、花梨にデス13が勝てるビジョンが出なかった……。


 ジョースター一行を殺す上で一番の障害になるのは、花梨という女だ。

 

 マニッシュボーイこと、赤ん坊は、そう考える。

 

 マニッシュボーイは、生まれながらに大人顔負けの発達した頭脳を持っていた。

 

 生まれながらのスタンド使いで、しかも犬歯が鋭く、そのため不気味がられた。

 

 自分を捨てた両親のことなどもう記憶に無いし、思い出す気は無い。

 

 自分を拾ってくれたDIOからの報酬金でこれからの人生計画を立てること、それが彼の目的だった。

 

 死神の暗示。

 

 その名も、デス13(サーティーン)。

 

 夢という精神が無防備になる状態をスタンドで包み、夢の世界で殺した者を現実でも死なせる能力。さらに恐ろしいのは、このスタンドの夢から覚めると、特定の条件を持っていない限り目を覚ますと夢のことを忘れる。つまりデス13の存在を知る術は無い。

 

 特定の条件とは、スタンド使いがスタンドを出した状態で眠ることだ。そうなると夢の世界にスタンドを持ち込まれてしまい、夢から覚めても記憶を保持してしまう。それが唯一の弱点であった。

 

 だがそれは自分がよく分かっていることだ。それを考慮した上で策を巡らせ、夢の世界へ誘って殺すのだ。

 

 まずは、花梨という女からだ。

 

 情報では、あの女が一番の脅威だと聞いている。なら、早々に排除すべきだろう。

 

 夢を通じて暗示を掛けた人間を利用し、ヤプリーンという村まで来た。

 

 一晩、過ごすことになったジョースター一行の夢に潜入するには好機だ。

 

 早速と、マニッシュボーイは、デス13を使って花梨の夢に潜入する。

 

 

『ラリホ~。……?』

 

 

 夢の世界に潜入した瞬間、デス13は、訝しんだ。

 自分が創り出すよう設定した世界観は、遊園地だったはずだ。だが、どうだ? ここは……、黒い…黒い、どこまでも暗闇しか無い暗闇だった。

 しまった!っとデス13は、慌てた。

 そういえば、情報では、花梨は、死んだスタンド使いのスタンドを使うことが出来ると聞いている。

 つまり、常時スタンドが発動状態と考えられた。

 

 

 シクシクシク…

 

 

 どこからか女のすすり泣く声が聞こえた。

 その音が気になって振り返ると、そこにはさっきまでなかった、大きな門のような物があった。

 門と言っても、扉のような…、表面の左側に天使のような翼を持つ女、右側に悪魔のような翼を持つ男性的な異形が掘られた赤黒い鉄板?

 

 

 シクシクシク…

 

 

 泣き声は、扉の向こうから聞こえていた。

『ここに…いるのか~?』

 女の泣き声が花梨と仮定したデス13は、このチャンスを逃すわけにいかないと大鎌を握りしめ、門に近づいた。

 片手を鎌から手放し、門を押す。だがびくともしない。

『か、固い…。』

 両手を使って押してもまったく動く気配が無い。

 こ~りゃ、参ったな~っと考えていると。

 カッと天使と悪魔の掘られた部位の目が輝き、それぞれ白い色の天使と、黒い悪魔が門から上半身を出して飛び出してきて、デス13の左腕、右腕とそれぞれが噛みついた。

『ぎゃああああああああああ!?』

 いきなりのことにデス13は、悲鳴を上げた。

 ギリギリ、メキメキと天使と悪魔の歯が食い込む。

『イダイダイイダイ! やめて、やめろ!』

 懸命にデス13は、天使と悪魔を振り払おうと暴れる。

 

 

 そこに…いるのは、ダレ?

 

 

 すすり泣く声が不意に消え、代わりに不気味な響きを持つ女の声が門の向こうから聞こえた。

 すると天使と悪魔が口を離した。

『ひぃ…、痛い…痛いよぉ…。早く、早く逃げないと…!』

 そう思って夢から脱出しようとすると、ゴンッと見えない壁のようなモノが背中にぶつかった。あとついでに頭もぶつけた。

『っ~~~!』

 頭と背中を押さえて悶えると、何かイヤな気配を感じて、門を見た。見てしまった。

 天使と悪魔の口や目などから、ドロドロと、赤黒いような泥が吐き出されていた。

 それは、門の下の方に溜まり、やがてムクリッと形を持って起き上がり……。

『あっ…、あぁ…、うっ…!』

 デス13は、いや、マニッシュボーイは、後悔した。見てしまったことを。

 

 

 これは。

 

 絶対に。

 

 見ては。

 

 いけないモノ。

 

 

 それを理解したときには、マニッシュボーイの精神は砕けていた。

 

 

 

 

 

 

 その翌朝。

 ヤプリーンの村に、身寄りの無い赤ん坊が捨てられているのが見つかった。

 なぜか両腕に噛み跡のような傷が出来ており、泣いていた。

 すぐに村の医師に診せ、傷は手当てされたが、両親が見つからず、その後子供のいない夫婦に拾われ、育てられることになったのだった。

 ……ただの赤ん坊として。

 

 

 




門については、後々に…伏線となる予定。


マニッシュボーイは、精神崩壊してただの赤ん坊になりましたとさ。

彼が見たのは、たぶん、SAN値チェックがいるヤバいモノだと…思われる。(クトゥルフ的な)


ミナミの時は、死体も残らず花にされたので、どっちが幸せか……?


とりあえず、無事にセスナで移動するか。それとも、7人目のスタンド使いのように虹村の父親らしき人物を出すか……。


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冷静でも…?

オリジナル展開?


7人目のスタンド使いは、参考にはしていません。


インドで登場した、泥のようなナニか再登場。


おや? 花京院の様子が……?


 

 ヤプリーンの村で予定通りセスナを買い、ジョセフの墜落経歴を疑いながらも一行はセスナに乗ったのだった。

 花京院は、固まっていた。ガッチガチに。

 そんな花京院の右側には、花梨が花京院にもたれて眠っていた。

 以下、花京院の心境。

 

 か、可愛い…。

 改めて見ると、とても綺麗で可愛い!

 なにより…、なんかものすごく良い匂いがする!

 笑顔が少ないからと不気味がる要素がどこにある?

 これだけ可愛けりゃいいだろう!

 花梨の周りは、見る目の無い男しかいないのか!?

 でも…、まっ、その方が変な虫もつかないし…こーして…、って自分はなにを考えている!?

 

 

「おーい、花京院。酔ったんなら言えよ?」

 花京院は、ポルナレフの声で我に帰った。

 ふとポルナレフを見ると、ポルナレフは、ニヤニヤ笑っていた。

「な…なんだい?」

「お前も年相応なんだな~って思ってよ。」

「馬鹿なこと言うな。」

「素直になれよ。じゃないと、花梨には伝わらないと思うぜ?」

「そんなんじゃない。」

「俺見たんだぜ? お前が花梨の手首にキッスしたのを。」

「!」

「花梨からもお返しでキッスもらえたんならよぉ、押せばいけんじゃね?」

「馬鹿なこと言うな!」

「大声出すなよ。花梨が起きるぜ?」

「っ……。」

「…ん。」

 すると花京院の肩に花梨がグリグリとほっぺたをすり寄せてきた。

「~~~!」

「ん~……。」

 花京院を抱き枕とでも思っているのか、花梨は花京院を掴んで引き寄せようとする。というか、体をまさぐってくる。

「…花京院、耐えられるか?」

「……。」

「耐えろ…。まだ告白もしてねーのに進んだらダメだからな。まっ、爆発しそうって思ったら俺を頼りな。」

「もう、黙っててくれ…。」

 俯くように下を向き、プルプルと耐えている花京院であるが、暢気に寝ている花梨はまったく気づいていなかった。

「……う…ぅ…。」

 すると花梨が不意に呻いた。

「花梨…?」

 様子がおかしいことに気づいたポルナレフが花梨を見た。

 その時、花梨の口からポタリッと黒い泥のような水滴が落ちてセスナの床に染みて消えたのだが、ポルナレフはちょうど見えなかった。

「…さ、むい…。」

「花梨ちゃん?」

「…寒い…寒い…寒い寒い…。」

 眠りながらうわごとを言う花梨にさすがにマズいと感じたときだった。

 ガクンッとセスナが揺れた。

「ジョースターさん! 安全飛行頼みますよ!」

「ち、違う…、エンジントラブルじゃ!」

 ジョセフがそう叫んだ時、前方の部分からセスナの装甲を突き破って、まるで悪魔のような爪を持つドロドロの表面をした腕が伸びてきた。

「なにーーー!?」

 一行が驚いていると、悪魔のような爪は、ブンッと振られ、操縦席の窓を引き裂いて破壊した。

「ぐあ!」

「ジジイ!」

 飛び散るガラスを咄嗟にジョセフが腕で防いだ。

 そして降下していたセスナが、砂漠のオアシスに生えていたヤシの木にぶつかった。

「やっぱこーなるのねー!! 俺らが乗る飛行機は!」

「花梨ちゃん! 花梨ちゃん、起きろ!」

「うぅ…。」

「ダメか…。」

「花梨を引っ張り出せ! ドロドロが来るぞ!」

 墜落したセスナのエンジン部分から這い出てきたものの表面は、泥のようにドロドロとしたような、無数の細かい触手が絡み合ったような異形で、蜘蛛のように八本足を出して迫ってくる。

 砂漠の砂の上へ飛び降りた承太郎達は、ドロドロのソレから距離を取る。

 セスナから降りてきたソレがオアシスのヤシの木の傍を歩いただけで、ヤシの木があっという間に黒々と黒ずみ、腐って倒れた。それだけでアレに触ればどうなるかというのが分かってしまう。

「さ、触れないぜ! ありゃあ! 触ったら死ぬ! どうする!?」

「遠距離からなら…、花京院!」

「分かっている! エメラルド・スプラッシュ!!」

 早速と花京院がハイエロファントグリーンからエメラルド・スプラッシュを放った。

 エメラルドのような破壊のビジョンがドロドロそれに当たると、ブチュブチュとイヤな音が鳴る。しかし、まったく堪えていないのか、ジリジリとこちらに迫ってくる。

「だ、ダメだ…! 僕のスタンドじゃ、破壊力が足りない!」

「諦めんなよ!」

「このまま砂漠でコイツと鬼ごっこして逃げ惑うわけにはいかん! なんとしてでもここで勝つしかないんじゃ!」

 そうしていると、ドロドロのソレが消えた。

 それに気づいた時、自分達の上に影が…、どうやら跳んだらしい。

「散開!」

 大慌てで散開して逃げると、さっきまで自分達がいた場所にソレが着地した。

 ブワッと砂が舞う中、花梨を庇う花京院。

 その後ろを姿を見たソレが、花京院と花梨に迫った。

「逃げろ!」

「くっ!」

 花京院が花梨を抱きしめたまますぐ傍まで迫ったソレを見上げ、振り下ろされる足を見て、固く目を瞑った。

「ーーー。」

 その時、花梨の口から聞き取れない何かの詠唱が聞こえた。

 すると、花京院に迫っていたソレが急にピタッと止まり、後ずさった。

「?」

 花京院が目を開けると、ソレは、体の下に出現した大きな穴のような黒い影に吸い込まれるように消えていった。

「……な、なにが?」

「み、見ろ! 花梨を見ろ!」

「えっ?」

 呆ける花京院にポルナレフが焦った声で言ったので、花梨を見ると、花梨の背中の方から、白い炎の中に揺らめくように、女性的な天使のような形があった。

 その天使のような姿は、やがて白い炎と共に消えていった。

「なんだ? 今のは…?」

「天使?」

「……妙だぜ。」

「承太郎?」

「……インドの時と、今回…、似てると思わねーか?」

「はっ?」

「あのドロドロの何かだ。あの時も花梨は、寒い寒いってうわごとを呟いてうなされてやがった。」

「ネーナを食い殺したアレと、今回のアレが同じだって言いたいのかよ? そりゃ早合点じゃ…。」

「だとしても…、むしろ…、だとしたら…、矛盾が生じるがな。なんで自分から出したモンを、自分で退治する? 花梨のスタンドの一面だとしても、妙すぎるぜ。」

「ううむ…。」

 承太郎の言葉に、ジョセフは唸る。

「ま、まあ! とにかくよぉ! アイツもいなくなったことだし、SOS信号出して救助を待とうぜ! 食料と寝袋もあるし、ここはちょうどオアシスだ!」

「…う、うむ、そうじゃな。」

「花梨は…、寝てるか。ったく、こんな騒ぎがあっても寝てるとはな。図太い神経してるぜ。」

「う~ん…。」

「あっ、起きた。」

「…あれ? もう着きました?」

「……墜落だぜ。」

「……そうですか。」

「おい、花梨。お前…心当たりはないか?」

「おい、承太郎。」

「?」

 承太郎に聞かれたが、花梨は、分からないのか首を傾げた。

「承太郎、お前の気持ちも分からんでもねーが、花梨のせいだなんて俺は思わねーぜ。」

「……ふん。」

 責めるように言ってくるポルナレフに、承太郎は、プイッと背中を向け、ジョセフを手伝いにセスナの方へ向かった。

「あの…、私…何かしましたか?」

 またうっかりをしてしまったのかと、不安に思う花梨に、ポルナレフが近づいて頭を撫でた。

「俺は、オメーが何者でも構わないぜ。俺は味方だからな?」

「……ポルナレフさん…。」

「僕もだよ。」

「花京院さん…。お二人とも、ありがとうございます。」

 花梨は、二人にペコッと頭を下げた。

 

 その後運良く救助が早く来て、無事に砂漠を越えることが出来たのだった。

 

 

 




承太郎は、物言いがキツいけど、本音としては花梨を心配しています。そして仲間のことも心配している。


セスナを墜落させるのは決めてたが、どうやって墜落させるか考えて…、泥、再登場。

今回の泥の見た目は、ジ●リのタタリ神を想像してもらえればいいかな?


あと、花京院だって普段冷静沈着だけど、なんだかんだで年頃の男の子だってことを書きたかったんだ……。


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ひとときの夢?

ジャッジメント編。


オリジナル展開。


ジャッジメントに遭遇したのは、ポルナレフじゃなく……?


 

 紅海(こうかい)。紅(あか)い海と書いて、紅海と読む。

 しかし、海が紅いのではない。

 東と西の砂漠が赤くて、これに挟まれるように存在する場所であることから、この名が付いたのだ。

 実際の紅海は、まさに穢れの無い、世界で一番美しいとダイバー達が言うほどの澄んだ海なのである。

 しかし…っと、花京院はボートの上で思う。青く海の底まで見えそうなほど澄んだ青い海を見つつ、チラッと花梨を見た。花梨も海を眺めていた。

 横顔が見えるが、彼女の澄んだ青い瞳……の方が綺麗だな…、なんて言えるか!っと、花京院は身を縮めて己の膝をバンッと殴った。

「?」

 花京院の挙動に気づいた花梨が、ハテナマークを浮かべて訝しんだ。

「おい、ジジイ。方角がおかしいぜ。どこへ向かっている?」

「ああ、このボートではエジプトには向かわん。とても大事な男がいる島に行く予定でな。」

「大事な男ぉ?」

 ポルナレフが訝しんだ。

「ほれ、見えてきた。あの島じゃ。」

「あんなちっぽけな小島に?」

 紅海の青い海に浮かぶ、うっそうと草木が茂った小島にボートは停泊した。

「こんな所に誰が住んでんだ~?」

「この島にたったひとりで住んでいる人物じゃ。『彼』がインドでそう教えてくれた。」

「えっ?」

「なに? インドのカレー?」

 花梨、花京院、承太郎がジョセフの言葉の意味を理解したが、ポルナレフだけは分かってなかった。

 無理も無い……。

 

 この島で、実は生きているアヴドゥルと再会するということなのだから。

 アヴドゥルが死んだと思っているポルナレフが気づくわけが無い。

 

 その後、アヴドゥルに似た白髪の男を見つけ、逃げられ、島にあるボロ小屋に逃げ込まれた。

 ポルナレフには、彼がアヴドゥルの父親だと言っておいたのだが、ポルナレフは、自責の念から俯いた。

 ポルナレフがひとりで浜に行くと言って、いなくなった後、ボロ屋に変装したアヴドゥルが残りの面子を招き入れた。

 

「それで? 予定通りいったか?」

「ええ、言われていた買い物は終わりました。」

「買い物?」

「かなり大がかりで金のかかる物を頼んでたんじゃよ。」

「それにしても…、ジョースターさんもお人が悪い。いくらDIOの手下の目を欺くためとはいえ、こんな台本まで用意して…。」

 アヴドゥルは、そう言ってジョセフが用意していた台本をテーブルに置いた。

「ポルナレフの奴は、完全に信じこんじまってたな。」

「ふふふ。私の演技もそこまで悪くは無かったかな?」

「それにしても、ポルナレフさん…、来ませんね。」

「仕方ない。僕が探しに行きます。」

「気をつけろよ。こんな小島でも敵の目がどこにあるか分からんからな。」

「分かってますよ。」

 そして花京院は、小屋から出てポルナレフを探しに行った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 花京院は島の浜辺で、ポルナレフを探した。

「どこにいったんだ?」

 浜に行くと言っていたが、姿が見えない。

 浜の砂を見た時、何かがキラキラと光っているのを見つけた。

「これは…、ランプ?」

 フジツボだらけで、いかにも漂着したゴミであることを伺わせる、まるでアラビアンナイトの物語登場するような形のランプだった。

「……錆びてはいないな。フジツボを剥がせばそこそこいい値がつきそうな…。」

 そう呟きながら、カリカリとフジツボが付着している表面を爪で引っ掻き擦った。

 その瞬間。

 ボワンッ!と、ランプの先端から煙が吐き出された。

「うわっ!」

 

『願いだ! 願いを言え! 三つ叶えてやろう!』

 

 ランプの魔人というには、あまりにもメカメカしい見た目のソイツが煙の中から現れた。

「ま、まさか…! 本物だったのか!?」

『さあ、願いを言え! 叶えてやる!』

「そう言いながら、叶えられない願いもあるんじゃないのか?」

『そーんなことはない! さあ、言ってみろ! お前の願いを!』

「……。」

 花京院は考えるフリをして、思う。

 

 胡散臭い。

 

 どう考えてもスタンドじゃないか?っと。

 コイツに出くわしたのが、馬鹿正直なポルナレフだったら、コイツの術中にはまっていただろう。

 自分で良かった…っと思う反面、少し欲が出てしまったのは自分が若すぎるからなのだろうっとも冷静に考えた。

 

「例えば…、気になる女性に告白してそれを叶えるといったことも可能なのか?」

『んん~。女への愛の告白か! つまり意中の女とい~い仲になりたいのか? それがお前の一つ目の願いか!』

「大声で言わないでくれ。彼女は僕の好意に気づいてないっぽいんだから。」

『失礼失礼。では、それがひとつめの願いなら、叶えてやろう! Hair 2 U!』

 

「花京院さん。」

 

「か、花梨ちゃん…。」

 茂みから花梨が出てきてた。“笑顔”で。

「嬉しいです。」

「花梨ちゃん、僕は…。」

「私も好きです。貴方のことが。」

「ああ…、嬉しいよ。そういってもらえるなんて夢のようだ。」

「花京院さん。」

 抱きついてきた花梨を、花京院が受け止めた。

 しばし抱き合い、そして。

『ヒューヒュー!! さあさ! 浸ってるところ悪いが、次の願いを言え! あと二つだ!』

「……本当に、夢のようだ。お前の、上っ面だけの能力は。」

『!?』

 ギロッと花京院の目が魔人を見る。

「僕が気づかないとでも思ったか? こんな都合の良い話なんてあることを信じると思ったか? ……お前は、どうやら観察眼が足りないようだな。花梨が、こんな笑顔でいるなんて不自然にもほどがある。」

『チッ! 気づいてたか! そうさ、俺の名は、ジャッジメント! 審判のカードの暗示さ! 抱きついている花梨の土人形に喰われろ、Hair 2 U!!』

「ふっ…。」

『? ………………!?』

「僕のスタンド…、ハイエロファントグリーンは、気づかれること無く、周囲を探れるんだ。そう…、間抜けな形で隠れている、お前の本体をすでに見つけている!」

『あ…! あぁ…!!』

「……ほんのひとときでも、素敵な夢を見せてくれたことだけは感謝するよ。エメラルド・スプラッシュ。」

 

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

「おい! なんの騒ぎだ!? って、花梨!?」

 ジャッジメントの本体を倒したと同時に、土人形の花梨がボロボロに崩れて消えたのを、ズボンの端を掴んで走ってきたポルナレフが見て困惑した。

「……ポルナレフ。なにやってたんだ? まあ、その格好からすると聞くまでも無いし、聞きたくない。」

「お、おいおい…、ちゃんと穴は掘ったぜ? 急に腹が痛くなったもんだからさぁ…。」

「こっち来るな。手を洗ってこい。」

「辛辣!」

 

 

 その後、花京院に連れられ、島の反対側で待っていた承太郎達と合流し、アヴドゥルが生きていたことを伝え、ポルナレフは号泣すると同時に、自分だけ仲間はずれだったことに拗ねたのだった。

 

 

「ところで、花京院さん…。」

「ん? なんだい?」

「……。」

「えっ…? なにかな?」

「なんでも…ないです。」

「えっ?」

 花梨は、プイッとそっぽを向いてしまい、花京院は自分が何かしたか?っと考え、思い至る。

 

 もしかして…、見られたか、聞かれたか!?っと。

 

 ザーッと青ざめて顔を覆った花京院は、気づいてなかった。

 花梨の耳がほんのり赤く染まっていたことに。

 

 

 

 




ジャッジメントって、強いんだか、弱いんだか?
もしかして、普通の人にも見えるタイプだった?
能力的に。

花京院、気づいてて、つい欲が出て利用。
愛の告白と聞いてついノリノリのジャッジメントは、つい叶えちゃって(贋物だけど)、残りの願いを叶え終えたら殺すってなってたが…、本体を探すためのブラフであったため、あっさり退場。

で、花京院のその行動を見てたか、聞いていたか?
花梨の様子が…?


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歯は大事に

vsハイプリエステス編。


前半は、花京院と花梨が……?


 

「かきょーいーん? そんな落ち込むなって。なっ?」

 一旦離脱していたアヴドゥルが買ってきたという、潜水艦に乗り、エジプトを目指す中、隅っこで膝を抱えて背中を向けている花京院に話しかけるポルナレフ。

 ポルナレフは、チラッと潜水艦の計器を見ている花梨を見た。花梨は相変わらず淡々としている様子だ。

「ほれ、花梨も気にしてないみてーだし。むしろ、ラッキーだったて思おうぜ? お前の気持ちが伝わったんだし…、ブッ!」

 理不尽なエルボー(肘打ち)がポルナレフを襲う!

「……土人形を利用して、ちょっとでも邪なことをやらかしたことを、見られて、知られた時のショックなんて君にゃ分からないさ。」

「あ…あれか? エロ本を妹に見られた時のような…、ウゲっ!」

「穢らわしいことほざくな! いや…、この場合僕の方が穢らわしいか……。」

「殴ってから反省するな…。うっ…。」

「まあ、落ち着くんだ。」

 そこへアヴドゥルがコーヒーを入れたカップを花京院に渡した。

「そんなに気になるのなら、本人に聞けばいいではないか? イヤだったのかどうかを。」

「……。」

「君も年頃の青年なんだ。年長の私が色恋沙汰に口出ししないようにしたいが、だが、時に勇気は必要だと思うがね。」

「………無理です。」

 花京院はコーヒーのカップを両手で持ちつつ、泣きそうな声で言う。

「おい、花梨。お前としてはどー思ってんだ?」

「承太郎!?」

 承太郎が花梨に聞いていた。

「…どう…って……。」

「花京院まで戻ってこねーから、探しに行ってみれば敵の土人形に抱きつかれてるアイツ(花京院)を見つけたんだろ? それについてだ。」

 ストレートに聞く承太郎に、花京院は気が気じゃ無かった。

「……。」

 花梨は、手元でモジモジと両手の指を絡ませたりする。

「………イヤじゃ無かった…です。」

「だ…そうだぜ? 花京院。」

「き、君って奴は…。」

「むしろ…、なぜ、私だったのかが、分からないですけど。」

「って、言ってるぜ? てめーが招いたことなら、ハッキリ言えば良いだろうが?」

「そ…れは…。」

「でも…、土人形だったとはいえ、パパと、弟以外に男の人に接してる私が見れたのは、なんだか不思議でした。」

 花梨は、そう言って俯く。

「私みたいな笑わない女に接してくれる男の人なんて…。」

「っ…、君を避ける男達が見る目がないんだ!」

「?」

「笑わないからなんだっていうんだい? 人に無い力があるからってそれが嫌われる理由にする方が問題だ!」

「花京院さん…。」

「あっ…。」

 立ち上がって勢いよく言った花京院は、我に帰った。

「ヒューヒュー。花京院、お前、言うときは言うじゃねーか。」

「こんな大変なときで無ければ、祝福してやりたいところだ。」

「あの…えっと…。」

 焦る花京院は、恐る恐る花梨を見た。

 花梨は、目を見開いていて、ポカンッとしていた。

 しかし、やがてその顔がほんのり赤く染まる。

「……嬉しい…です。」

「花梨ちゃん?」

 すると花梨が花京院に近づくので、ポルナレフとアヴドゥルがどいた。

 そして、ギュッと抱きついてきた。

「えっ!?」

「……本物の私じゃイヤですか?」

「そ……!」

 花京院の顔がぶわーっと赤くなった。

 するとポルナレフがものすごい嬉しそうな顔で、パチパチと拍手してきた。

「…おーい、盛り上がってるところ悪いが、そろそろエジプトが見える頃合いじゃないかのう?」

「あっ。そうでした。…ん! 見えた、エジプトです!」

 潜水艦の望遠鏡でエジプトの陸地を確認したアヴドゥルが言った。

「ついにこの旅も…、終盤ってわけか。」

「おい、お前ら聞いてるか?」

「聞いてますよ。」

 花梨が振り向き、花京院はガッチガチに固まっていた。

 ところが。次の瞬間。ムーディーブルースが突如出現した。

「えっ?」

 花梨が驚いていると、ムーディーブルースが花京院ごと花梨を突き飛ばし、シュパンッ!とムーディーブルースの首筋が深く切れた。

 

『チッ!』

 

 下品な女の舌打ちが聞こえ、花京院の後ろにあった計器が不気味な顔のスタンドに変形していた。

「なにーーー!? いつの間に!?」

『ムキャナハハハハ!』

 計器から剥がれ、カサカサと移動する小型スタンドは、別の計器に溶けるように姿を消した。

「だいじょうぶか!? 二人とも!」

「え、ええ…。」

「今のは…。」

「敵だ! 今の現象を見た限りでは、相手は無機物に変身できる! …おそらく、ハイプリエステス(女教皇)だろう!」

 アヴドゥルの説明によると、遠距離型スタンドで、プラスチックや鉱物などに変身でき、触っても動き出さない限り分からないという変身能力の持ち主らしい。

「け、けどよぉ! どうやってこの潜水艦に?」

 するとバシャーっと水が入ってきた。

「なーるほど、単純に穴を開けてきたのか…。」

「呆けてる場合か! 奴のことだ、おそらくもう潜水艦のアチコチに穴が…。」

「いかん! 潜水艦の浮上システムが破壊されておる! 沈没するぞ!」

「結局こーなるのねー! 俺らが乗る乗り物は!!」

「クレイジー…。」

「ダメだ! 酸素の残り残量が!」

「衝撃に備えろ!」

 そして潜水艦は海底にぶつかって止まった。

「だ、だいじょうぶか?」

「この潜水艦はもうダメじゃ! 放棄してこのまま海面へ逃げるぞ!」

「けど、ここは、深度40メートルだぜ!?」

「急げ! 隣の部屋へ逃げるぞ!」

 アヴドゥルが隣の部屋への扉を掴んだとき、ハイプリエステスが扉から出現した。

「しま…。」

「オラァ!」

 それを承太郎のスタープラチナが掴んで止めて捕えた。

「よくやった! そのまま握りつぶしちまえ!」

「アイアイサー。」

 そう言ってスタープラチナでハイプリエステスを潰そうとすると、ブシュッと血が零れた。

 慌てて手を開くと、ハイプリエステスは、カミソリの刃に変身していた。手を開いた隙に、ハイプリエステスは逃れ、そのまま別の計器に化けて消えた。

「くっ…。」

「治します。」

「頼むぜ。」

「急げ! 襲ってくる前に、奴をこの部屋に閉じ込める!」

 花梨が承太郎の傷を治してから、一行はすぐに隣の部屋へ逃げ込み扉を固くロックした。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 緊急脱出用のために用意されていた、ダイビング用の酸素ボンベを使い、海面を目指す。

 ポルナレフと花京院が、ハンドシグナルで、ちょっとふざけて怒られたりもしたが、全員準備を終え、海水を部屋に注入。そして、あとは脱出だっとなった時、花梨の口につけていたボンベのマウスがハイプリエステスになり、花梨の口の中へ入り込んだ。

「花梨!」

「ハイエロファントグリーン!」

「ハーミットパープル!!」

 花京院とジョセフが急いでスタンドを発動し、喉の奥へ移動したハイプリエステスを捕え、花梨の体内から引っ張り出した。

「あ…ありがとうございます…。」

「礼には及ばないさ。」

「急げ! 奴が水中銃に変身したぞ!」

 引っ張り出されたハイプリエステスが水中銃に変身し、銛を発射してきたが、すんでの所で扉を閉めて全員脱出した。

 

 ゆっくりと、だが急いで海面を目指す。

 急いではいけないのは、水圧で肺が破裂するからだ。

 必死に泳ぐ一行だったが、実は泳ぎがそこまで得意じゃない花梨が遅れる。それを花京院がハイエロファントグリーンで引き寄せて一緒に泳いだ。

 陸地まであとすこし…っとなった時。

 海底に、ハッと花梨が気づいたが、遅かった。

 海底に化けたハイプリエステスが巨大化した口で一行を吸い込んだ。

 そして一行は、口の中に閉じ込められた。

 

『このままハイプリエステスの胃液で消化してあげるわ! あ~ん、でも残念ね~、承太郎、あなたとっても好みだからこのまま殺すのは惜しいわ…。』

 

 っと、ハイプリエステスの本体ミドラーの声が響く。

 すると、何か名案が思い付いたポルナレフが承太郎にヒソヒソと語りかけていた。

「やるのか…?」

「やれ。ほれ、早く。」

「やれやれだぜ。この空条承太郎…、ここで死んじまうのか。短い人生だったぜ。ミドラーって言ったか? あんたの顔を見ずに死ぬなんてよ~。もしかしたらタイプかも知れねーしな。恋に、お・ち・る・か・も。」

『……。』

 棒読みだが効果は抜群のようだ。

 花梨がスタスタと、歯の方に近づいて、コンコンッと歯のひとつを叩いて確かめていた。

『あ~ん、叩いても無駄よ? この歯はダイヤモンド級の硬度はあるんだから。』

「ふーん…。アヴドゥルさん。ちょっと試したいことがあります。」

「なんだね?」

「今から、この歯を絶対零度で凍らせます。そこを焼いてみてください。数千度で…。」

「? ……ああ。分かった。」

『?』

「ホワイト・アルバム!」

「マジシャンズ・レッド!」

 ホワイト・アルバムをフルパワーで使い、歯のひとつを凍らせ、冷やす。そこへアヴドゥルのマジシャンズ・レッドの灼熱が当たった。その瞬間、温度差により、歯に亀裂が走った。

『なにすんじゃ、コラーーー!』

「えいっ、ホワイト・アルバム。」

『あギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?』

「んっ? どうしたんだ?」

「あー、そういうことか…。」

「なになに?」

「歯には神経が入っているんだ。そこが露出していると……、冷たい物を食べると恐ろしく染みる。」

「ホワイト・アルバム、ホワイト・アルバム、ホワイト・アルバム、ホワイト・アルバム、ホワイト・アルバム、ホワイト・アルバム、ホワイト・アルバム…。」

『アアアアアアアアアアアアアア!! やめんか、ゴラーーー!!』

「うお! 舌が!?」

『潜水艦でもイチャコラしやがって、このクソアマが!! てめーからぶっ殺す!!』

「口内炎発見。」

『!?』

「『バット・カンパニー』。」

 舌の下に、口内炎を見つけた花梨は、小型戦車や、小型のヘリを出し、砲撃させた。

『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!! やめ! やめて!! もう…勘弁して…、お願いします…。』

 最後の方はひっぐえぐっと泣き言が混じるミドラーの懇願。

「待て、花梨。」

「承太郎さん。」

「歯ってのは、大事だぜ。そんな攻撃してたら、さすがに…なぁ。」

『じょ、承太郎…。』

「だから…。こうだ。オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!」

 承太郎のスタープラチナが、凄まじい打撃を一部壊れた歯を攻撃し、さらに他の歯を攻撃して破壊し始めた。

「いっそ、全部ぶっこ抜いてやるんだぜ。そーすりゃスッキリだ。分かったか?」

「あなたが一番、容赦ないです。」

「ふんっ。」

 そして一行は、歯を破壊したハイプリエステスの口から脱出したのだった。

 

 

 浜辺に上陸すると、倒れている女を見つけた。

 アレがミドラーらしい。

 ポルナレフが美人かブスか見てくるっと言って、近づいた。が…、歯が全部折れていて見れた物じゃないとすぐ戻って来たのだった。

 

「よーやく、エジプトか…。」

「DIO…。」

「長い旅だった…。」

「……?」

「花梨ちゃん? どうかした?」

「なんでも…ないです。ちょっと立ちくらみが。」

 花梨は、腕で濡れた額を拭った。

「だいじょうぶかい?」

「はい。」

「辛いなら、僕が…支えるよ。」

「…はい。」

 花京院と花梨は、手を繋いだ。

 

 

 

 

 その後、浜辺の近くの村に行ったが。

 その夜、花梨は白い炎の鳥が連れてきたハイプリエステスを見て…、ああ…っと、切なく声を漏らしたのだった。

 

 

 




アヴドゥルの出番がイマイチなので、次回辺りで、7人目のスタンド使いを交えてちょっと活躍させたい。
7人目のスタンド使いをプレイした方なら、分かると思いますが…、エジプト初上陸時に立ち寄った村には、7人目のスタンド使いオリジナルキャラがおります。
しかも、炎関係なので、いいかなぁって思ってる。


ミドラーは、ジョースター一行の始末に失敗したため、処刑されました。


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火、宿す、ハエ

7人目のスタンド使いを参考。


っというか、ゲームオリジナルの敵登場。


アヴドゥルvsフェイス(ファイヤライズ)。


 

 その村…、強いて言うならなにもない漁村で一泊し、砂漠を越えるためのランドクルーザーを手配した。

「それにしても、ハエが多い村じゃのう。」

「ここは漁村だぜ? 魚のにおいにハエがたかるんだろうぜ。」

 たまに来る旅人のために用意されていると思われる、村にある民家を改良した食堂で、夕食を取っていたが、ハエがブンブンと飛び回る。

「ええい! しかし、うっとおしいわい!」

 義手の方の左手で飛び回るハエを払っていると、一匹のハエに手が当たった。

 直後。

 ボッ!と義手を隠している手袋が燃えた。

「なにーーーー!?」

「なんだ!? なにが起こって…。」

「それより、水! 水!」

 すぐに鎮火されたが、緊張感が一気に走った。

「どう思う?」

「どうって…、敵じゃねーのか!? 突然燃えるなんてありえねーぜ!?」

「先ほどの炎…、僕が見た限りでは、ジョースターさんが義手でハエを潰した瞬間に燃え上がったように見えましたが。」

「ハエ? ってことは、ハエのスタンド使いか!?」

「ヤレヤレだぜ。休ませる気はないらしいな。」

 その時、店の奥から悲鳴が聞こえた。

「火事だーー!」

「なにーー!?」

「マジシャンズ・レッド!」

 店の奥から転がり出てきた店主と共に煙がモクモクと。

 簡素な作りの見せにあっという間に燃え広がろうとしていた火を、炎使いであるアヴドゥルが消し去った。

「店を出るぞ!」

 急いで店を飛び出した一行が見たのは…。

 

 口当たりから火をプスプスと漏らす、巨大なハエ達だった。

 

「でかっ!」

「これが、敵のスタンドか!」

「待て、おかしいぜ、見ろ。」

 見ると、騒ぎに気づいたらしい村人達が家から出ていて、巨大なハエ達を見て驚いていた。

「コイツらは、実体がある。スタンドじゃねぇ。」

「じゃあ、どー説明すんだよ!? 口から火を出してるし、デカいし!」

「おそらく…、ハエを触媒にして発動するスタンド…ってところでしょうか。船や車のように。」

 花梨がそう分析すると、巨大ハエ達がブンブンと飛び、一斉に炎を吐いてきた。

「マジシャンズ・レッド!」

 それをアヴドゥルがスタンドで防ぐ。

「火は本物のようだな。ハエ達に火種を与えて、我々を攻撃しようという魂胆のようだが、私がいる限り無駄だ。」

「本体を探し出さねーと! いくらなんでも数が多いぜ!」

「いました。」

「なに!?」

「こんな異常な状況だというのに、暢気にしている呼吸を。あの男です!」

 花梨がエアロスミスを飛ばし、弾丸を人混みの中に潜む、ひとりの男に浴びせた。

 

「くっ!」

 

 男の格好は、村人達の衣装と違う。どうやら海外からの旅人らしい。

 咥えタバコをしている男は、咄嗟に攻撃を避けたものの、肩に数発喰らった。

「末恐ろしい女だ…。まさか呼吸だけで俺を見つけるとはな。」

「てめー何者だ!」

「俺の名は、フェイス。スタンド、『ファイアライズ』を使う。いくら、炎使いとはいえ、この数のハエには対応できるか? やれ、ハエ共。」

 すると村中にいた、ハエ達が巨大化して、炎を吐いてきた。

「これほどの数を!」

「俺のスタンドは、髪の毛をハエに括り付けて火種を与えるスタンド。ハエはそこら辺から調達だ。いくらでもまだいるぜ?」

「どうやら…、私を見誤っているようだな。火を使うという点では同じではあるが。」

「?」

「私のスタンドは、炎そのモノを操るスタンド。この世の始まりは、炎に包まれていたと言われる。『魔術師』…、始まりを暗示するスタンド。それが私のマジシャンズ・レッドだ!」

 マジシャンズ・レッドが咆吼する。

 するとハエ達の口から火が消えた。

「!?」

「この程度の火種を消すなど、私には造作でも無い。そして!」

 マジシャンズ・レッドの両手に、ハエ達から吸い取った火種が集まり、大きな火球となる。

「お前自身は炎を扱えないということ。それがお前の敗因だ! 喰らえ!」

 マジシャンズ・レッドが火球をフェイスに投げつけた。あっという間に火だるまになるフェイスだったが、一瞬地面転がったものの、すぐに転がるのを止め、こちらを睨んでくる。

「……これで…安心して夜を過ごせると…思わない…こと、だな…。お前達は…DIOさま…に、見張られている……のだから。」

 そして、フェイスは、懐から銃を取り出し、自分の頭を撃ち抜いて自害した。

「……騒ぎが大きくなり過ぎましたね。この村から出ましょう。」

「うむ、そうじゃな。」

 

 

 一行は、逃げるようにクルーザーに乗って、村を出たのだった。

 

 

 




イギー登場は、次回ですね。


アヴドゥルの出番がないという感想を貰ったので、アヴドゥルをちょい活躍させる回を作りました。

なお、ゲームでは、フェイスとアヴドゥルは、戦えません。(隠しキャラな敵で、ジョセフ同行じゃないと戦えないため)


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愚か者の暗示は、賢く誇り高い犬

イギー登場。


ミナミの時は、ミナミに媚びたイギーだったが、花梨には……?


 

 敵の襲撃で漁村から逃げるように砂漠へと出発した一行。

 氷点下に及ぶ夜の砂漠はやがて太陽が上がり、灼熱の砂を晒す。

 砂漠と言えば、まずイメージに浮かぶのが、エジプトかもしれない。それだけ砂漠という地形が定着している。スフィンクスや、ピラミッドなどの、古代の文明の強大さを表わすようなすごい建造物が砂漠にあるという圧巻な景色がそうさせるのだろうか。

「スフィンクスって、元々は、砂に埋もれていて、それを掘り起こす作業を繰り返していたそうですが、完全に掘り起こしたせいで砂風で顔が風化しつつあるとは聞いたことがあります。」

「観光地の名所として利用するのはいいが、そのせいで古代文明の遺産が失われるのは痛いことだね。」

「かつて、日本の侍達がスフィンクスの前に来たことがあるという歴史もあるほどですし…。」

「ほう! ソイツは初耳じゃな。ジャパニーズ・サムライが、エジプトに!」

「ひとりスフィンクスに登ろうとして、転がり落ちた瞬間の写真が集合写真として残っているのが見つかったんです。」

「ダハハハ! そいつは、間抜けじゃのー!」

「ジジイも同じ事やりそうだがな。」

「わしゃ、落ちんわ!」

「登らないって選択肢はねーのかよ。ジョースターさんなら、やっちまいそうだぜ。」

「同感だ。」

「ポルナレフ! アヴドゥルー!」

「それにしても随分と詳しいね。そういうの好きなの?」

「はい。日本と海外の交流の歴史が好きなんです。」

「へー、歴史文学が好きなんだ。」

「面白いのが、日本から伝わった英語って言うのもあるってことですね。」

「例えば?」

「ShogunとかTycoonなどですね。あれって、Shogunは、Generalとも言うけど、そのままの意味で日本の幕府を治めていた将軍を意味するみたいです。どっちを使っても伝わるみたいですし、Tycoonは、経済的な大物、実力者を意味しますが、元は日本語で、日本国大君(にほんこくたいくん)…、略して大君、もしくは征夷大将軍の外交称号のことを指していて、朝鮮とのやりとりで利用され、その後ドイツ語のTycoon(タイクーン)の語源になったとされています。」

「へー! Shogunと、Tycoonって日本語なのかー!」

 意外だ意外っと、ポルナレフが驚いていた。

「ジジイも知らねーことだな。」

「し…知っておったわ!」

 意地になるジョセフであるが、本当は知らないのであった。

 やがて車は、砂漠のある地点に到着する。

 すると空からヘリコプターが降りてきた。

「あのマーク…、SPW財団ですね。」

「そうじゃ。助っ人を連れて来てもらったんじゃよ。」

「助っ人?」

「じょ、ジョースターさん! アイツは、助っ人にはなりませんよ!」

「知ってるのか、アヴドゥル?」

「ああ…、よーくな。スタンド、『愚者(ザ・フール)』の使い手だ。」

「ザ・フール? へへへ、間抜けそうな名前。」

「ポルナレフ、おまえじゃ勝てん。」

「なんだとー?」

「おい、ヘリコプターの扉が開くぜ。」

 そして着陸したヘリコプターの扉が開かれた。

 二人のSPW財団の制服を纏った男が出てきた。

「どっちだ? どっちが助っ人だ?」

「いいえ、我々は、助っ人の方をお連れしに来た使いの者です。助っ人の方は、後ろの席に…。」

「ん? 誰も乗ってねーけど?」

「あっ! 近づかないでください! ヘリが揺れてご機嫌斜めなんです!」

「ポルナレフ、お前では勝てん。」

「お…? お、おお、おおおおおおおおおお!?」

 

「ワンワンワンワンワンワンワンワン!!」

 

「犬ーーー!?」

 小型の犬がポルナレフの顔に飛びかかってきた。

「ボステリアン…ですか。」

「君は淡々としてるね…。」

「ポルナレフの髪をむしってやがるぜ。」

「あっ、そうだ。コイツは人の髪をむしるとき…、顔に屁を…。」

 

 プッ

 モワ~ン

 

「このどちくしょうが!! 懲らしめてやる!!」

 キレたポルナレフが、シルバー・チャリオッツを出した。

「!」

 すると、ボステリアンが反応し、後ろの砂から自らのスタンドを出した。

 まるでネイティヴアメリカンの仮面のような顔に、後ろ足がタイヤの奇妙なスタンドだった。

 スタンド、ザ・フールは、砂のようになると、シルバー・チャリオッツの針剣を包み込み、そのまま固めて固定した。

「なっ! 砂が固まって…、動かねぇ! ひ、ひぃ! た、助けてくれー!」

 動けなくなったポルナレフの頭を再びむしりだすボステリアン。

「ほれ、コレが目の入らないか?」

「! ワンワン!!」

「それは?」

「コーヒーガムだ。コイツはコレが…。」

「アヴドゥル! 箱を見せるな!」

「あっ!」

 っという間に、ボステリアンはアヴドゥルの手から箱の方を奪い取ってクチャクチャと食べ始めた。

「こいつの名前は、イギー。どこかの血統書付きの飼い犬だったらしいが、野良犬の帝王として君臨していたところを、わしとアヴドゥルが捕えたのじゃ。見ての通り、人に懐かん、媚びん奴じゃ。」

「なんて奴だ…、シンプルな奴ほど強いとはこのことか。俺でも倒せるかどうか分からないぜ。」

「紙ぐらい取って食え! ちくしょー! 俺の髪が…。」

「花梨ちゃんは、どう思う? 花梨…ちゃん?」

「……。」

「……ワン…? ヒッ!」

 ジーッとイギーを見ていた花梨に気づいたイギーがビクーンっと震え上がり、距離を取って威嚇体制になった。

「やっぱり…。」

「なにかしたかい?」

「いいえ。私…、動物から嫌われるんです。」

「あのイギーが……。あそこまで恐怖に震えるとは…。」

「この中で一番やべぇ奴が誰なのか動物の勘が警告をするんだろうぜ。」

「承太郎、そんな言い方は…。」

「いいんです。」

「でも…。」

「たぶん…、そういう運命ですから。」

 花京院が花梨を見ると、花京院を見た花梨は、どこか切なそうに微かに微笑んだのだった。

 

 

 その後、ヘリコプターに積んでいた水と食料などを車に積んでもらった。

 するとジョセフが聞いた。

 ホリィの容体はどうかと。

「……言いにくいですが…、我々にSPW財団の医師団の診断では…、もって、あと、2週間…です。」

「2週間…。」

「それと、カイロ市内にいる、DIOと思われる人物を密かに調べていましたが、報告によりますと…、2日前に9人の男女がDIOが潜伏していると思われる建物に集まって、そしていずこかに旅立っていったとのことです。」

「9人の男女!?」

「何者かは分かりません。それ以上の追跡はスタンド使いではない我々には不可能のことです。遠くから写真を撮ることさえ危険です!」

「新手のスタンド使いか!」

「ちょっと待ってください。タロットカードの暗示は、逃げ去った皇帝の暗示のホル・ホースを除けば、残すは、『世界(ザ・ワールド)』のみです。このザ・ワールドがDIOのスタンドかと思いましたが…、アヴドゥルさん?」

「わ、分からん…。9人だと?」

「……もしかしたら、量産したとか…?」

「えっ?」

 思わぬ言葉が花梨の口から出たので全員の視線が集まる。

「私もあくまで聞いた話です。スタンド使いを人工的に生み出す手段があると。ただし、非常に危険で、素質がなければ死にます。」

「その方法とは!?」

「矢です。」

「や?」

「太古の時代に作られたとされる、ルーツ不明の矢です。それに射貫かれたり、傷をつけられると、スタンドを身につけるか…、死にます…。聞くところによりますと、犯罪者が覚醒しやすい傾向があると。」

「つ、つまり、なにか!? DIOってやつにはスタンド使いを量産する手段があるってことか!」

「私自身、矢を見たことも、もちろん矢で射られてスタンド使いが生まれたのも見たことがありません。すべては、聞いた話です。それに、覚醒したとしてもそれを扱えるかどうかは、やはり本人次第ですから…、場合によっては自分のスタンドに殺された方もいらっしゃったみたいです。」

「それは、そうなった幽霊から聞いたのか?」

「はい。」

「なんて…ことじゃ! そんな手段が敵側にあるとなると…、これから先、どれほどのスタンド使いが…。」

「……余計なこと…言ってしまいました。」

「いや…、むしろそんな手段があることを教えてもらえたんだから、用心することが出来るんだよ。」

 またうっかりしたかと、落ち込む花梨に、花京院が落ち着かせようと肩に手を置いたのだった。

「そういや、花梨。お前が使う死んだ奴のスタンドも、アヴドゥルが知らねーのばっかみたいだが…、そいつらも元は矢を使って覚醒したって口だったのか?」

「分かりません。鳥は、スタンドを連れてきて、花がそれを取り込んで使い方を学ぶだけで、ルーツとなる魂に辿り着けることは少ないんです。」

「そうか…。」

「……?」

「どうした?」

「……今、誰か、私を呼びました?」

「いや?」

 花梨がキョロキョロと周りを見回した。

「聞こえる…。」

「どうしたんだい?」

「あっち…から…、呼ぶ声が聞こえる気がする。」

「んん? その方角って…。」

「カイロ?」

「えっ?」

 言われて方角を指差していた花梨は驚いた。

「なんか聞こえるのか?」

「……喰え…。」

「?」

「数多の罪人の魂を喰らいて、蓄えろ、その時が…、っ…。」

「花梨ちゃん!」

「だいじょうぶ、です…。なんか立ちくらみが。」

「この気温じゃ。熱中症を起こしかけておるのかもしれん。ほれ、冷たい水じゃ。」

「ありがとう…ございます。」

 冷たい水と氷をもらい、花梨は一息吐いたのだった。

 

 

 不穏な…先の見えない旅路に大きな不安を覚えながらも、一行はエジプトのカイロを目指して旅立つことになる。

 イギーは、花梨にビクビクとしながらも渋々といった様子で車に乗ったのだった。

 

 

 

 




イギー、花梨が一番ヤバいと感じて怯えてしまう。
花梨は、自分が動物に嫌われていると知っている。なお本人は、動物好きです。


そして、花梨の身に起こり始める異変とは……?


あと、花梨のトリビアは、筆者がテレビなどで得た情報と、Wikipedia参考にしました。


次回が、ゲブ神かな。


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砂漠の上の、水の恐怖

エジプト9栄神編に突入。


原作展開と、オリジナル展開入り乱れ?


人体の一部を切断描写有り。注意。


 イギーは、ビクビクしてアヴドゥルの膝の上に乗っている。イギーの視線の先には、花梨がいる。

 ウ~だの、グルル~だのっと、唸ったりしているイギーは、気が気じゃないのだろう。

 花梨は、いつものように淡々とした様子でいるが、花京院には分かる。これは、好きな動物に嫌われて落ち込んでいると。

 花京院は、イギーを睨んだ。イギーは、なんだよ?と言わんばかりににらみ返してくる。

「…彼女に何かしてみろ。僕が許さないからな?」

「ウウウ…。」

 そう警告する花京院に、イギーは唸る。

「落ち着け、花京院。」

「ですが…。」

「イギーもだ。言っておくぞ。イギー、お前では花梨には勝てん。」

「グルルル!」

 そんなことは分かっとるわ!っと言わんばかりに、アヴドゥルを睨んで怒るイギー。

「ざまーねーな。」

「ワン! グルルルルル!」

「へん、オメーにはしてやられたがよー。花梨に勝てねーって分かったら怖くなくなったぜ。でも、ま、なんでそこまで怯えんだ?」

「フンッ!」

「まっ、犬のお前に聞いても理由を喋れるわけねーもんな。」

「……。」

「おい、なんだその目は? いかにも何か言いたげだな?」

 イギーが何か言いたげにポルナレフを見る。

 だが、その時。

 運転したジョセフが突然急ブレーキをかけた。

「わっ。」

「危ない!」

「どうした、ジジイ?」

「あ、あれを…!」

 ジョセフが指差す先、そこには、ヘリコプターが砂漠に墜落していた。

 車から降りてヘリコプターに近づくと、そのヘリコプターには、SPW財団のマークが書かれており、つい先ほどイギーと荷物を持って来てくれたSPW財団の使者の物であることがすぐに分かった。

 だが不自然だった。

 通常、墜落すれば火が上がるものだし、ヘリコプターという飛行物の形状の都合、前か後ろかがグシャグシャになってしまうが…、まるでドスンッと真下に落とされたような壊れ方をしており、斜めになっていた。

「…! 見ろ。」

 承太郎がヘリコプターの反対側の、砂に生まれてしまった扉の所に挟まれる形で死んでいる財団の使者の一人を見つけた。

 だが死に方が妙であった。

 ヘリコプターの装甲を引っ掻いたように爪を立てており、大きく口を開いた状態で固まって死んでいた。

「水が…。」

「どういうことじゃ? 小魚が入った水で死んでおる! この者の死因は溺死じゃ!」

「この砂漠のど真ん中でか!?」

「ジョースターさん! こっちの財団の人間は生きています!」

 反対側で倒れていたもうひとりを、アヴドゥルが見つけた。

「いったい何があった? 喋れるか?」

「うぅ…、み、水…。」

「水? ほら、水ならここに…。」

「ひ…! ひぃぃいいいいい!! 水が襲ってくるーーーーー!!」

 傍に落ちていた水筒を拾い与えようとしたアヴドゥルを見た彼は、そう悲鳴を上げた。その直後、水筒から悪魔のような爪を持つ水の手が出てきて、彼の顔を掴み、首をねじ切ってそのまま頭部を小さな水筒の中に引きずり込んでしまった。

「なんだとーーー!?」

 ソレを見てしまった全員が慌てて水筒から離れて、砂に伏せた。

 水筒からはドクドクと、血と水が流れ出ている。

「み、水だ…、水のスタンドだ! 水を触媒としたスタンドだろう!」

 スタンド使いじゃない財団の人間に見えたということは、そういうことだ。

「ヘリコプターひとつ落とす…ということは、アクア・ネックレスより強い…。」

 花梨は、そう冷静に分析する。

「承太郎! 本体を探せ!」

「今やっている。どうやら敵はそーとーな距離離れてるぜ。太陽みたいに間抜けな鏡も無い。」

「な、なあ、花梨…、あの水筒、攻撃してみてくれよ。」

「えっ?」

「おい、ポルナレフ。」

「分かってるって。何かあったらすぐ対応するさ。けど、こん中で安全に攻撃できるスタンド持ちって、花梨ぐらいだろ?」

「もう、やってます。」

「えっ?」

 見ると、砂漠の砂の上を行軍する、小さな軍隊と戦車とヘリコプターが水筒に近づいていた。

「バット…。」

 バット・カンパニーに攻撃指示を出そうとしたとき、花梨の顔の下辺りから、水たまりが出来ていた。

「花梨ちゃん!」

「!」

 隣にいた花京院が気づき、右腕を花梨の顔の前に延ばすと、水たまりから出た悪魔の爪が花京院の右腕を切断した。

「ぐああ!!」

「花京院さん!」

「花京院!」

「しまった! 敵はすでに水筒から出て砂に染みこんでいた!!」

 花京院の右腕を切り落とした後、すぐに砂に染みこんだ悪魔の爪は、すぐにポルナレフの頭を狙って伸びようとした。

 その時だった。

 ヘリコプター内にあるアラームが鳴り、そちらに悪魔の爪が移動した。

「なっ…。」

「これは…、音…。あのスタンドは、音を頼りに…!」

「音だって?」

 その時、ポタポタと花京院の切断された右腕から血が砂の上に垂れる。アラームを破壊して止めた水のスタンドがこちらへ移動してきた。

「うわあああああ! やべぇ!」

「早く! こっちじゃ!」

 車に近いところにいた承太郎、ジョセフ、アヴドゥルが手招きする。

 花梨とポルナレフは左右で、花京院を支えて走った。

 水のスタンドの動きは早く、すぐに追いついてきた。

「ホワイト・アルバム!」

「シルバー・チャリオッツ!」

 襲ってくる寸前にホワイト・アルバムの絶対零度で、凍らせ、それをポルナレフがシルバー・チャリオッツで破壊した。

 そして、急いで車に飛び乗る三人。そうこうしていると、砂漠の熱で凍った水のスタンドが溶けて砂に染みこんで消えた。

「凍らせて砕いてもダメか!」

「花京院の右腕置いて来ちまった…。なんとかなるか?」

「クレイジー・ダイヤモンド。」

 クレイジー・ダイヤモンドを発動すると、離れた位置に落ちていた花京院の右腕が飛んできて、花京院の右腕の切断部位に引っ付いた。

「便利だな~、ソレ。」

「花京院さん…、花京院さん。」

「う…、だ、だいじょうぶだ。ありがとう。」

「よかった…。」

「しかし、どうします? 敵は音を探知して我々を攻撃してくる。しかも、砂に染みこめる水そのもののスタンド。」

「このままでは、ジリ貧じゃ…、水に対抗できる手段は……、アヴドゥルのマジシャンズ・レッドか。」

「なーるほど、水さえ蒸発させりゃ勝ちか。」

「……砂漠の水脈って…、どれくらいの規模あるんでしょうか?」

「さあのう? …まさか……?」

「もし…、操られる水の量が考えられる以上だとしたら…、この辺り一帯の水源を掌握されている可能性があります。」

「おいおい、いくらなんでも…そりゃ…。」

「いや待て、町一つ分を霧で再現していたバーさんのことを思い出せ。相当な精神力の持ち主ならそれぐらいは可能じゃろう。」

「財団の人間を溺死させた水に魚が入ってたってことは、オアシスひとつ分か?」

「それほどの規模となると…、すべての水を蒸発させるのは難しいですね。」

「蒸発した水に混ざれるタイプ…ではないのがせめてもの救いでしょうか?」

「ああ! そういうことも考えられるか!」

「あっ、ごめんなさい…。」

 余計な不安を与えたので、花梨は反省した。

 花梨は、落ち着こうと深呼吸してから考える。

 アクア・ネックレスは、水分と水分から生まれる水蒸気や湯気といった液体関係全てを触媒に出来た。しかし、その代わり破壊力自体は低く、相手を攻撃するにしても体内に入るなどして内部から破壊するなどが常套手段となる。しかも、ゴム手袋さえ破れないほど弱い。つまり、今襲ってきている敵ほどのパワーはないのだ。

 アクア・ネックレスが器用さ重視なら、敵はパワー重視…、それも遠距離パワー型だろうか。

 エアロスミスで周辺を調べているが、人間の呼吸が自分の周りにいるジョースター一行の物しか見つからない。いったい、どれくらい遠くにいる!?っと思わざる終えないほどだ。

 だが遠くであればあるほど、こちらの動きを把握するのは難しいだろう。自動操縦型スタンドではないのは間違いないが、どうやってこちらの動きを……。

 そこで花梨は、ハッとした。

「音…。耳…。そもそも、視力に頼っていない…。」

 五感の内の視力が無いから、目で見ることがない。それ故の射程距離なら納得がいく。そして視力の代わりは、発達した聴覚だ。だから、砂の僅かな音さえも拾えるのだろう。

 その時、車の前輪が大きな水たまりに沈んで傾いた。

「ぬあ! し、沈む! 全員後ろへ行け!」

「ダメです!」

「なぜじゃ! 砂に落ちたらお終いじゃぞ!」

「これで、前輪を切られて軽くさせられたら、テコ原理で砂に放り出されてしまう。こうします。『ゴールド・エクスペリエンス』! 車を大樹に!!」

「その能力は、治療用じゃ…。」

「これが本来の使い方です! 無機物から生命を生み出す!」

「うおおおおお! 車が木になっていく!」

「枝に掴まれ! 木に登るのだ!」

 そうして、砂漠に合わない緑の大樹が1本そびえ立った。ジョースター一行を守るように枝を広げて。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 一方その頃。

「…ぬぅ? 車が消えた? そしてなんだ、砂をかき分けるように枝分かれするように伸びていくコレは…、根っこか!? 馬鹿な、この砂漠のど真ん中に植物を即席で成長させただと!? いかん、スタンド戻さなければ植物に水分を吸い取られる!」

 慌てて砂に染みこませているスタンドを戻す。

 しかし、一瞬焦ったものの、すぐに落ち着いた。

「植物の上に逃れたか…、車を失ったなら移動手段も無くなったということ…。逃れたはずが、自ら逃げ場を奪うとは…。ならば、この砂漠の中で持久戦と参ろう。降りてきた瞬間に、仕留めてやる。」

 砂の上に座り込んで、杖を耳に当てている男は、そう呟いて笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「……吸い取られてない。」

 大樹の上の方の幹に、両手と右耳を当てた花梨が呟く。

「分かるのかい?」

「植物の気持ちぐらいは分かります。感応能力と言われています。」

「花梨。お前、どんだけハイスペックだよ…?」

「……失敗してしまったかも。」

「どうした?」

「……逃げ場がねぇ。車をそのまま木にしちまったからな。」

「能力を解除すれば、車には戻せます。」

「そしたら、俺達は砂の上か?」

「…はい。」

「食料と水のタンクや、他の荷物は、枝が上に持ち上げてくれたからよー。こうなりゃ、持久戦だな。」

「ごめんなさい…。」

「幸い、枝と生い茂る葉っぱが太陽を遮ってくれているから、まあまあ快適ではある。自分を責めすぎるな。」

 ションボリする花梨に、アヴドゥルがそう慰めた。

「どうします? せめて敵の顔だけでも把握できればいいんですが。」

「砂を使えばハーミットパープルで、敵の位置を探知できるかもしれんがのう…。じゃが…、みろ。」

 そう言ってジョセフがポケットからコーヒーガムを1枚出し、木の根元に投げた。

 砂の上に落ちた瞬間、水のスタンドがコーヒーガムを切断し、再び砂に染みこんだ。

「あの通り、わしらが下の降りた瞬間、仕留めるつもりのようじゃな。」

「あっ。」

「どうした?」

 急に声を上げた花梨。

「もしかしたら…、位置を追うぐらいならできるかもしれません。」

「どうやって?」

「この大樹の根を水分に向かって伸ばさせます。植物というのは、凄まじいです。種から育ったカボチャの芽ですら光りを求めて、暗闇の中を唯一照らす穴に向かって伸び続ける執念を見せますから。」

「やれるのか?」

「やるしか…ないんです。今の私は、他のスタンドが使えません。今の状態を解除しない限り。」

 

「ク~~~ン。」

 

「ん? イギー? アイツ、なんで下に!?」

「もしかして、攻撃された際に自分だけ外へ逃げたのか?」

「なら、自業自得じゃねーかよ。」

「……花梨、根っこを伸ばす手間は必要ねーかもな。」

「えっ?」

「おい、承太郎?」

 すると、承太郎が、スルスルと枝を降りていき、根元で困っていたイギーの元へ行った。

「おい! 砂の上は危険じゃ!」

「分かってるぜ。」

「ワン?」

「おい、イギー。てめー匂いで敵の接近を感知しただろう? なら、敵の本体の位置も分かるんじゃねーのか?」

「グゲッ!」

 イギーの首を掴んで持ち上げた承太郎がイギーにそう言うと、図星だったのかイギーの顔が歪む。

「この砂漠のど真ん中で救助もないまま俺らにほっとかれて干からびるか…、それとも協力するか、選びやがれ。」

「ウウウ…。ワオオオオオオオン!!」

「!」

 イギーがザ・フールを出した。

 ザ・フールの背中には大きな翼が出来ており、承太郎を掴むと、イギーごと大樹の根元から飛び立った。

「あの犬! 飛ぶこともできんのか!」

「器用な奴じゃわい。」

「でも……。」

「どうしたんだい?」

「見てください。高度が…。」

 見ると、高く飛び上がったザ・フールが徐々に高度を落としていっていた。

「紙飛行機のように滑空するしかできないみたいです。」

「ちょっと、待てよ! このままじゃ、承太郎の体格じゃ足を砂に当てちまって、敵に気づかれるぜ! 俺らが敵の注意を引けば…。」

「そうか! せめて距離を詰めることはできるか。」

「頼むぞ、我が孫よ!」

 ジョセフ達は、とにかく敵の注意をコチラに引き付けることにした。

 

 

 

 

 

 




思ったより長くなってしまった。

ゲブ神に対抗できるスタンドって……なんでしょうね?

ゴールド・エクスペリエンスなら、水分を吸収する生命を使うことで封じることはできるかな?

7人目のスタンド使いだと、音を使うオリジナルスタンドをプレイヤーが選択次第で使えるからなぁ。

聴覚頼りの盲目のンドゥールをどう騙しながら、承太郎を接近させるか……。
難しい展開にしちゃったので、書き直すかも…。(そう言いながら書き直したことは無いが)

今回の花梨のうっかりは、全員を助けるために焦って、車を大樹にしてしまって逃げ場と、移動手段、あと自分がスタンドを解除したらヤバくなったこと。


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ンドゥールの最後の謎の言葉

vsゲブ神。終わり。


悩むかと思ったが、案外ネタが出てくるものでした。


オリジナル展開だけど、決着のつけ方は、ほぼ原作に近いかも。


ただ、ンドゥールは、最後に?


「ふふふ…。」

 水のスタンド使いである盲目の男は、杖から伝わる音に笑っていた。

 

 

『うぅ…。』

『花梨? どうした?』

『もう限界です…。』

『おいおいおいおい! どうしたこった!?』

『私の精神力じゃ…、もう限界です…。木が…車に戻る…。』

『もうちょっと踏ん張れ! 頑張らんか!』

『ぁ…無理…です。』

『わああああああああああああああ!!』

 

 

 そして、悲鳴と共に上から人間が落ちてきた衝撃音が杖を伝わった。

 

「ふふ…、あの女がもっとも要注意すべき相手だとは聞いていたが、この程度とは。砂の上に落ちたのなら、あとはじっくりとひとりひとり…、貫き、この砂漠にぶちまけてくれる!」

 

 

 男がスタンドを使い、落ちたジョースター一行を襲わせようと操作した時だった。

 自分とジョースター一行との間の中間点ぐらいだろうか? それぐらいの距離のところで、大きな衝撃音があった。

「?」

 

 

 

『キュオーン!』

『シャー!』

 

 

 

「……なんだ、ホルス(鷹)が、ヘビでも捕えたか。」

 

 そう思ってホッとした直後だった。

 

「オラァ!!」

「なにぃ!?」

 その声と、風を切る音を聞いた男は、咄嗟に伏せた瞬間、自分の上を通り過ぎる人間の存在を感じた。

「よくやったぜ、イギー。あとでコーヒーガム、箱いっぱい用意してやる。」

「ウウウ…。」

「その声は…、そしてこの歩幅…、若い男の声ということは、空条承太郎か!」

「たいした野郎だぜ。空中からの奇襲を、盲目でありながら避けるとはな。しかし、スタンドは、いまだにジジイ達のところだ。上手いことあっちの策にハマっちまったな?」

「策だと? ハッ! まさかわざと植物を…。」

「正直、俺も驚いたぜ。花梨が今使っているスタンドは、無機物を生命にする力を持つらしい。俺がイギーの滑空の手助けをしたときに、同じタイミングで鷹とヘビを、ほぼ同じ位置に用意していたんだからな。いつの間に補給物資を生命に変えていたんだか…。」

「ぬう! やはり、あの女が要注意人物だったか!」

「出しな。てめーのスタンドを。」

「……。」

「……。」

「ここまで…追い詰められたのだ。この杖でもう音を探知する必要は無い。だが、帰る時に…必要。」

 男が杖を手放した。

 直後、男の周りに水が発生した。

「シュートヒム!!」

「オラァ!!」

 それは、まさに西部劇のガンマンが早抜きで勝負するソレのような、スピード対決だった。

 伸びてきた悪魔の爪が承太郎の帽子と共に、額の一部を切り裂き、スタープラチナの一撃が敵の男の胸に打ち込まれた。

「ぐぉあ!」

 男は血を吐いて倒れた。

「安心しな。手加減はしてある。」

 承太郎は、表面が少しキレた額を触って確かめてからそう言った。

 しかし、倒れている男が、ニヤリッと笑った。

 そして、水が男の頭を貫いた。

「なっ、てめー、何してやがる!?」

「…ふ、ふふふ…。承太郎…、お前達は…この俺から…これから襲ってくる敵のことを聞き出そうとしていただろう? ジョセフ・ジョースターの、ハーミットパープルは、相手の考えることを読める……。あの方に…、DIO様に…不利になることは…させん。」

「…なんだって、てめーらは…、そこまでやつに?」

「ふふふ…。承太郎…、俺はな、死ぬのは…これっぽちも怖くない…。子供の頃からスタンド能力のせいで…なにも怖くなど無かった…。だが、あの方だけは…あの方にだけは、見捨てられ、殺されるのだけはイヤだと…初めて思えたのだ。あの方は、美しく…そして強い…、この俺を、初めて…認めてくださったんだ……。お前達が……黄金のような精神と希望を持つように…、悪には…悪の救世主と希望が……必要なのだ。あの方こそ…俺にとって……。」

「……。」

「俺の…名は、ンドゥール…。スタンドは…、タロットカードの…起源……、エジプト9栄神…『ゲブ神』の暗示を持つ……!」

「エジプト9栄神…!」

「それと……、俺は、どのみち…死ぬ……つもりだったのだ……。」

「なに?」

「白き炎に……、数多の…罪人の魂を……くべて………。」

「おい? おい! どういうことだ? 白い炎だと!? まさか、花梨が…。おい! ……チッ。」

 ゲブ神の使い手、ンドゥールは、死んだ。謎を残して。

 

 

「おーーーい! 承太郎!」

 

 

 そこへ、木から車に戻った車に乗って、ジョセフ達が駆けつけてきた。

 車が到着し、止まるとすぐに承太郎が花梨に近づいた。

 花梨は、ぐったりとしていた。

「どうした?」

「本当に限界だったんだって…。」

「演技じゃなかったのか?」

「承太郎、お前、怪我…。」

「かすり傷だ。それより、花梨、聞こえるか?」

「……ん。」

「お前…、この旅で何か自分の体やスタンドに変化があったりしなかったか?」

「……?」

「どういうことじゃ?」

「……少しな…。気がかりだが…、それどころじゃなさそうだな。」

「このまま砂漠を横断するのは心身共にもたんじゃろう。進路を変えて、アスワンを目指す。みんな、それでよいか?」

「ええ、構いません。むしろ行くべきです。」

「俺もいいぜ。」

「同じく。」

「……ジジイ、急げ。」

「分かってる!」

 そして全員を乗せてから、車を発進させアスワンを目指したのだった。

 急ぐ車に、どう見ても追いつけなさそうな白い炎の鳥が飛んできて、花梨の肩に乗り、それを見ていた承太郎は顔をしかめたのだった。

 

 白い炎の鳥が、勝手に死者と、そのスタンドを連れてくる。

 そう聞いていたし、目撃もした。

 だが、ンドゥールが言っていたことが気になる。

 

 東方花梨が、自分達の元へやってきたのは、そして今、共に旅をしているのは、本当に偶然なのだろうか?

 

 そんな疑問を承太郎は抱いたのだった。

 

 

 

 




ンドゥール。気になる謎を残して死ぬ。


最後に白い炎の鳥が連れてきたのは、見えてないけどゲブ神です。


どんどん敵スタンドを吸収していく花梨。(本人は望んでいない)
そんな花梨に疑惑を持ち始める承太郎。


さて、次回は、あの兄弟だから…どーしようかな?


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変化する夢と、知らず知らずの危機一髪?

オインゴ&ボインゴ兄弟編へ。


最初の方、流血表現有り。注意。



あと、ちょっとだけ、うろジョジョを参考にした描写がちょびっとだけあります。


 

 夢を見た。

 

 黒い黒い、暗い暗い、寒い世界の泥の夢。

 

 ふと気づいた。

 

 泥の色が違う。

 

 赤っぽく、固まる直後のような赤黒い血の色に近いような、そんな色。

 

 泥は、こんな色をしていたのか?

 

 なんで今まで気づかなかったんだろう?

 

 それにしても、寒い…。

 

 寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い…。

 

『花梨ちゃん。』

 

 泥の中で身を震わせていたら、花京院の声が聞こえた。

 

 花京院さん…!

 

 そう思って、目の前を見た。

 

 後悔した。

 

 

 今まで見たことがない門があって、その門に、十字架に張り付けにされるように血塗れの花京院が張り付けられていて目を瞑っていて。

 

 その両手首を、扉に掘られた天使と悪魔が噛みついて支えていた。

 

 泥を染める赤い色は…、花京院の血と…、気づかなかったが、泥に浮かぶたくさんの…死体の血の色……。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「…りん…ちゃん。花梨ちゃん。」

「……ぁ。」

 花梨は重たい瞼を開いた。

「うなされてたから、起こしたけど、だいじょうぶかい?」

「…生きてる?」

「えっ?」

「花京院さん…、生きてる…よかった……。」

「…だいじょうぶ?」

「……酷い夢を見た気がします…。」

「もうすぐアスワンだ。そしたら、病院に行こう。」

「…病院より……、甘いのが欲しいです…。」

「君の血糖値が心配だよ。」

「うわっ! 交通事故か…。トラックとバスが正面衝突で、外にまで人が飛んじまってる。」

 途中の道で交通事故があったらしく交通整理が行われていた。

 外まで吹っ飛んだらしい乗客らしき男がひとり…、道路脇の電柱のでっばり部分が首に刺さって血塗れで死んでいた。

「……っ。」

 花梨は、その死に様を見て、夢と重ねてしまい思わず目をそらした。

 それを見ていた承太郎は、何も言わないでいた。

「甘いのが欲しいならよー。病院じゃなくてカフェでも寄るか?」

「お菓子屋もいいぞ。エジプトでは、砂糖を大量に消費する。お茶に砂糖をスプーンで、3、4杯など当たり前だ。お菓子も甘いが、美味いのが多いからな。」

「だいじょうぶか~? インドで喰った、ラスグラとかいうのみたいに、歯が全部虫歯になりそうなほどのじゃねーだろうな?」

「ふふふ。まあ、食べてみれば分かるさ。」

 アヴドゥルは、自信ありげに笑う。

 そしてアスワンに到着。カフェがたくさん建ち並んだ道のカフェのひとつに入った。

「エジプトでは、お茶と一緒にお菓子を添えてもらえるから、それでこの国の甘さが分かるだろう。」

「いや、待て。コーラにしよう。」

「なんでです?」

「ここはもう敵地じゃ。どこから敵の攻撃があるか分からん。瓶に栓がしてある物の方がよい。」

「確かに…。」

「まあ、コーラも甘いからな。ちょうどいいんじゃね?」

「花梨、それでいいか?」

「…はい。」

 もうなんでもいいから甘いのちょうだい状態の花梨は力無く返事をした。

 ジョースター一行は、カフェの店主がなぜか軽く焦っていたのに気づかなかった。

「店主。コーラを6つ頼む。あと、栓はテーブルで抜くからいいぞ。それに右から3番目、4番目、5番目、6番目、7番目、一番奥のコーラを指定する。」

「は、はい…、ただいま、お持ちします…。」

 その時だった。

 店の客が、コーラが冷えてないと文句を言ったのだ。

「なにぃ? コーラは冷えとらんのか?」

「れ、冷蔵庫が壊れてまして…、すみません。」

「なあ、ジョースターさん、ちょっと神経質すぎじゃね? まさかここの店主が俺らに毒を盛ろうとしてるとかさ。ありえねーって。」

「ぬるくてもいいです…。」

「そうじゃな、ぬるくてもコーラでいい。持って来ておくれ。」

「ズコー!!」

「だいじょうぶか、てめー?」

 派手にこけた店主に声をかける承太郎であった。

「だ、だいじょうぶです~。」

「あー…、でも砂糖いっぱいの紅茶も…。」

「だいじょうぶか? 花梨ちゃん?」

「別にこの店に拘る必要がねーならよぉ、向かいの店にでも…。」

 が…、その時、その向かいの店が燃えだした。

「か、火事?」

「ジョースターさん、花梨ちゃんが限界っぽいので、紅茶でもコーラでもいいから持ってこさせてください。」

「うむ、すまんかったな。店主、最初の通り、紅茶を持って来ておくれ。茶菓子もつけて。」

「へい。お待ちください。」

 こけていた店主だったが、それを聞いて元気なり、店の奥に引っ込むと、紅茶を持って来た。

「お菓子…。」

「お菓子はすぐにお持ちします。」

「ほれ、砂糖。好きなだけ入れて飲め。」

「ありがとうございます…。」

 花梨は、砂糖の入った容器からバサバサと砂糖を紅茶にいれ、ザリザリになったところで飲もうとした。他の者達も飲もうとした。 

 ところが。

「キャーーー! なによこの犬!?」

「ブーーー!?」

 その悲鳴を聞いて見れば、イギーが客のケーキを食べていたため、全員紅茶を吹き出した。

「こら、イギーーー!」

「ワンワンワンワン!」

「待てコラ! クソ犬!」

「まったく、油断も隙も無い!」

「……お菓子…。」

 咄嗟にイギーを追いかけたが、限界だった花梨は、ぶっ倒れてしまった。

「ああ! 花梨ちゃん!」

「いかん! ほら、そこにお菓子屋があるから、気をしっかり!」

「買ってきてやるから、待ってろ。」

「僕らは、一旦ホテルに花梨ちゃんを連れて行きます。ジョースターさん達は、お菓子を。」

「分かったぜ。」

「俺が車でホテルまで連れて行くから。迎えに行くぜ。」

「ああ、そうしてくれ。」

 ジョセフと承太郎がお菓子屋に入り、残りのメンバーは、花梨を車に運んで移動し、ホテルにチェックインした。

 

 

 

 

 

 一方その頃。

 

「くっそーーー! 口に含んだまでは行ったのに…。」

「ぼ、ぼぼぼ、僕のトト神は…、ち、近い未来しか分からない…。」

「次の予言は?」

「ま、まだ…。」

「次の予言で、必ず奴らを皆殺しにするぜ! 俺達、クヌム神の使い手の俺オインゴと、未来が分かるトト神のボインゴがな!」

 

 変身能力のクヌム神と、近い未来を予言するトト神の使い手の兄弟が、さっきまでジョースター一行がいた店で悔しがっていたのだった。

 毒入りの紅茶を飲ませる。それがトト神が詠んだ予言だったのだ。

 

 

 

 

 

 




コレ書いてて、なぜか脳内にうろジョジョが出てきちゃったので、ぬるくてもコーラでいいっていうのと、変身しているオインゴがズコー!!ってなってたところだけ参考にしました。(※うろジョジョのとは描写は違います)


うろジョジョ…最高だよね……。私大好き。


エジプトのお菓子で検索すると美味しそうなお菓子がたくさん出てきます。
一部紹介しようかとも思いましたが、書けなかった……。
ただ、気候の都合上、中東と同じで砂糖を大量消費するようです。


最初の方、前より不吉な夢を見る花梨……、それが意味することとは?


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予言の神より零れ出す、悪意の泥

オインゴ&ボインゴ編終わり。


書きたい衝動がある内に、書ける内に書きました。



ギャグではありません。

オリジナル展開です。



またしても、あの泥が……?


 

 ジョセフと、承太郎が、お菓子屋で適当にお菓子を買った後、ポルナレフの迎えを待っていた頃。

 

 

 オインゴとボインゴは、次の予言が漫画本に浮かび上がるのを待っていた。この大きな漫画本こそ、トト神の触媒なのだ。

 トト神は、漫画という形で本体であるボインゴに近い未来を教える。

 ただし、その予言はその通りにしなければ痛い目に遭うという、リスキーなものである。また、的中率は100パーセントと凄まじく、逆に言えば自分達に降りかかる災いの予言も回避不可能なのだ。

「き、来た! 来た来た!」

「来たか! どうなるんだ?」

「あれ?」

「どうした?」

「ちょ、ちょ、ちょちょちょ、ちょっと待って…。」

 そう言ってオインゴからちょっと離れて漫画を見直すボインゴ。

 浮かび上がった漫画には、血文字のような不気味な字体で、

 

 

 魔、狂、痛、呪、死、獄、怨、負、邪、壊、醜、辛、闇、虐、滅、亡、腐、憎、鬱、苦、恐、凶、恨、悪……etc

 

 

 ペラペラとページをめくればめくるほど、不吉な文字は増え、見開きをすべて埋め尽くした。

 

「ひっ…ヒィ…!?」

 こんな予言は初めてのボインゴは、文字の不気味さも相まって恐怖した。

 そしてひとりでに、ページがめくられ。

 

 

 『あなたは、ダレ?』

 

 

 赤黒く染まった見開きに、真っ白い文字が、読み手であるボインゴに問いかけるように浮かび上がった。

 そして次の瞬間、ゴボッと赤黒い泥が、本からあふれ出した。

「ひやああああああああああああ!?」

 悲鳴を上げて本を手放すボインゴを逃がさんとばかりに、悪魔のような手が泥の中から飛び出してボインゴの顔を掴んだ。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「……騒がしいな。」

「うむ、なにか事故でもあったのか?」

「騒ぎがこっちに近づいてきてるぜ。」

「なに?」

 承太郎が指差した先、大通りの先から人々が逃げ惑ってきた。

 その先、赤黒い霧のような息を吐きながら、蜘蛛とも、獣ともつかない異形の泥の塊が走ってきた。

「あれは!」

「またか!」

 逃げ惑う人々や、騒ぎを聞いて出てきてしまった人間を踏み潰したり、たまに止まって身を揺らしてそこら中に泥を飛ばし、建物を溶かしたりした。当然だが泥が当たった人間も焼けて溶けた。

「こっちに来る! 逃げるぞ、承太郎!」

 

「待ってくれぇ!」

 

「はっ?」

「なんだ、てめー?」

 そこにオインゴが二人の前に先回って止めた。

 そして両膝をついて両手を合せて大泣きしながら懇願してきた。

「ジョースターさん! 空条承太郎さん! 頼みます! 弟を助けてください!」

「お、お前…、なぜわしらのことを?」

「敵か?」

「そーです! 俺達はDIOに雇われた刺客ですぅぅう! でも、もう襲いません! どうか、どうか! あの泥に飲まれた弟を助けてください! お金はなんとか工面しますから!」

「だったら、自分でなんとかすりゃいいだろうが。」

「俺のスタンドはただの変身能力なんですよーーー! 攻撃力なんてこれっぽっちもない! 弟のスタンドだってそうだ!」

「わしらに、アレに立ち向かえと言うのか!? アレがヤバいことぐらい分かっとるわい!」

「タダじゃ…、助けねーぜ?」

「分かってますーー! なんでもしますから!」

「よし、言ったな!」

「逃げんじゃねーぞ?」

「分かってますーー!」

 

『※□×▲~~~~!!』

 

「しかし…、飲み込まれているとなると、当然じゃが体内にいるということじゃろ? どうやって解放するか…。」

「……。」

「承太郎?」

「手っ取り早いのは……。」

「おい!? なにを、承太郎!?」

 迫ってくる泥の化け物に、承太郎が買ったお菓子が入った袋を地面に置いてから突撃した。

『~~~~!!』

「てめぇは、なんだ?」

 承太郎は、そう尋ねながらスタープラチナで殴った。

 途端、駆け巡る、あの時…インドで遭遇した泥の化け物と同じモノ。

 まるでこの世の全ての悪意や残虐な罪や痛みを感じるような感覚が体を駆け巡る。

「花梨が…、こんなモンを……。」

「承太郎!」

「抱えているなんてことが……!」

 承太郎は、意識を飲まれそうになるのを気合いで堪えながら、スタープラチナの腕ごと自分の腕を泥の中に突っ込んだ。そして何かを掴む。

「あって…たまるか!!」

 そしてスタープラチナの力をもって、ボインゴを泥の中から引っ張り出した。

 ボインゴが引っこ抜かれてたせいか、泥は、グズグズに崩れていき、最後には、一冊の漫画本を残して消えた。

 承太郎は、ボインゴを降ろし、ゼーハーゼーハーっと荒い呼吸を繰り返しながらへたり込んだ。

「承太郎!」

「ボインゴーー!!」

 ジョセフとオインゴが駆け寄る。

 ジョセフは、承太郎を心配し、オインゴは、気絶しているボインゴを抱えて大泣きした。

「まったく、ムチャをしおって! なんでまたこんなことを!?」

「……確かめたかった。」

「なにを?」

「さっきの奴が…、花梨と関連があるかどうかを…。」

「承太郎、お前、まだ疑っていたのか? ……結局、どうじゃったんじゃ?」

「分からねぇ……、まるで…この世の全ての悪意みたいな…、そんなモンの塊だぜ、アレは……。」

「承太郎!」

 フラリッと承太郎がジョセフにもたれるように気絶した。

 やがて車で迎えに来たポルナレフが、何があったんだと、車から降りて駆け寄ってきた。

 承太郎は、やがて気がつき、フラフラになりながらも、車に乗った。オインゴとボインゴも乗せられ。情報を聞き出されるためにホテルへ。

 しかし、オインゴと、ボインゴは、DIOが前に潜伏していた建物のことしか知らず、またDIOのスタンドのことも知らなかった。

 エンヤから、矢で選定されて最近になって能力が開花したことと、多額の報酬金に目がくらんで雇われただけだったのだ。

「すんませーん…、お役に立てなくて…。」

「まあ、知らんもんは仕方ない。もう帰って良いぞ。ただし! もう悪事はしないと誓うのじゃ! でなければ、許さんぞ!」

「は、はい!」

 オインゴは、ビシッと敬礼し、それからボインゴを背負って、去って行った。

「帰して、よかったんですか?」

「仕方ないじゃろう。連れて行っても人質にはならんし、それに能力的にも戦力にはならん。」

「美味しい……。」

「そうだろう? 今食べているのは、コナーファという、お菓子だ。サクサク、しっとりしていて美味しいだろう?」

「うん! コイツはイケるぜ! かなり甘いが、ナッツがいいな!」

「お前が喰うな。」

 それは、花梨のためのお菓子だからとばかりに、花京院がポルナレフをど突いた。

 

 

 




承太郎は、泥と花梨が無関係だと思いたかったんです。


コナーファというお菓子は、極細の蕎麦のように薄い生地を重ね焼いたお菓子。ナッツやクリームなどを中心にして丸めたりして、その上にシロップをかけた物。
ネット記事によると、サクサクしっとりしているそうです。


とりあえず、甘~いお菓子で花梨は回復しました。


オインゴ&ボインゴが、矢で覚醒したタイプということと、DIOのことをほとんど知らないのは捏造です。
原作見てると、なんとなく、戦いに不慣れな感じがしたので……。


次回から、アヌビス神かな。


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味方で良かった味方

アヌビス神編。


もっとバトルさせたかったが、技量が無かった……。


乗っ取られたのは、ポルナレフではありません。



流血など、注意。


 

 アヌビス。

 

 その神は、エジプト神話においてミイラ作りの神とされている。また後に天秤を使って死者の罪の重さを量る役割もしている。

 

 セトの妻にして、妹のネフティスがオシリスとの不倫で生んだ子であり、セトからは敵視されていたとされ、後にオシリスがセトによって殺されるとその死体をミイラとして保存したということでミイラ作りの監督官とされ、実際にミイラ作りにおいてもアヌビスをモチーフにした仮面を被って作業を行っていたという。

 

 その後、父・オシリスが冥界の王となると、オシリスの補佐としてラーの天秤で死者の罪を、心臓の重さを真実を見破る神の羽根の重さで量る役割を担った。(なお、羽根より重いと過去に罪を犯していると見破られてしまう)

 

 

 

 本来は、そういう風に死者を導く存在であるのだが……。

 

 

 

 

 コチラの“アヌビス神”は、死者を故意に作る存在であった。

 

 

 

「ゲホッ…ゴホッ…。」

 誰が咳き込んで血を吐いたのかは、もう分からない。

 だが、状況は最悪の一言に尽きるだろう。

 

『ククク……!』

 

 一刀の剣を手にしている花梨が、頬に付いた血を不気味に舐め取りながら歪んだ笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 時は少し遡る。

 

 アスワンからコム・オンボに着いた一行だったが、ポルナレフがはぐれた。

 そしてコム・オンボにある観光遺跡で、チャカと名乗る、スタンド・アヌビス神の使い手と戦ったらしい。

 チャカは、倒した。だが剣は消えなかった。剣のスタンドだと思ったが違ったのだ。

 ポルナレフが、いつの間にか鞘に収まっていたその剣を拾ったまではよかった。

 だが……、そのあとがいけなかった。

 はぐれた仲間と合流したポルナレフは、荷物の都合で花梨に剣を手渡してしまったのだ。

 その際に、なぜかスルッと鞘から剣が抜けかけたため、花梨は剣の柄を握った。

 

 そこからは……、最悪だった。

 

 剣を握った途端、硬直した花梨。

 異変に気づいた花京院が声を掛けようとした直後、見えぬほどの速度で振られた居合い斬りが花京院を襲ったが、咄嗟で身をのけぞらせた花京院の傷は浅くて済んだ。

『ハハハハ! 間抜けめ! “コレ”を待っていたんだ!』

「か、花梨ちゃん?」

「なっ、なんだと!? てめぇ、まさか…。」

『そうさ! 俺の名は、アヌビス神! この剣に宿るスタンドよぉ!! 剣を手にした相手を乗っ取るのさ!! こうやってなぁ!』

「シルバー・チャリオッツ!!」

『お前のスピードも攻撃力も覚えた!』

 傷を押さえて膝を折っていた花京院にトドメを刺そうとした、花梨を乗っ取ったアヌビス神を、ポルナレフがシルバー・チャリオッツで迎え撃つが、凄まじいパワーとスピードにあっという間に押された。

「ぐあああ! ば、馬鹿な…! スピードもパワーも上がってやがる!? まさか、コイツ…戦えば戦うほど…!?」

『その通りよ! 俺の狙い通り、俺が狙っていた花梨に俺を渡してくれた親切で間抜けなポルナレフ君には、お礼をするぜ~!!』

 そして押しきり、ポルナレフの腹に剣が突き刺された。

「オラァ!」

『花梨を殺すか?』

「っ!?」

『だが、俺はお前達を殺せる。』

 殴りかけて、花梨の顔でそう言われて一瞬戸惑った承太郎を、アヌビス神が蹴り飛ばした。

「ひ、卑劣な奴め!!」

『なんとでも言うがいい。これが俺のやり方であり、スタンド能力なのだから。』

「蒸発させてくれる! マジシャンズ・レッド!」

『フフフ!』

「なにがおかしい?」

『やれるものなら、やってみるがいい。』

「言ったな…? くらえ!!」

 マジシャンズ・レッドの炎がアヌビス神の剣を襲おうとすると、その前の前に近くの河川から伸びてきた水の壁が遮った。

「なにぃ!?」

『…『ゲブ神』!』

「ま、まさか……、貴様…、乗っ取った者のスタンドを!?」

『情報通りだ。まさか本当に死んだスタンド使いのスタンドを使えるとはな! 覚えるという点では、俺と同じなのが功を奏した! しかし……しか…し…。』

 なにやらアヌビス神の様子がおかしくなった。

『なんじゃこのスタンドの数はーーーー!? 処理しきれん!』

「今だ!」

『隙なんざ見せん!』

 剣を狙って攻撃しようとした一行から、ハイジャンプをして飛び越えたアヌビス神は、すぐに方向転換してアヴドゥルの背を切り、それから剣を持っていない方の手を一行に向けた。

『こ、これは、どうだ! ーーーー『メタリカ』!!』

 次の瞬間、一行の身体のあちこちから針やカミソリが飛び出して体を傷つけた。

「なにーーーー!?」

「か、体から…カミソリや針が…。」

「花梨が覚えているスタンドか!?」

『フフ、ハハハ…、あまりに多いので焦ったが…、落ち着いて探せばいいんだぜ。しかし、この女のスタンド…、とてつもないぜ。』

「エメラルド・スプラッ…。」

『『メタリカ』。』

「ぐ…、ごぇぇええ!?」

 花京院は急な嘔吐感に堪えきれず吐き出す。すると血に混じって大量のカミソリの刃が胃の中から吐き出された。

「花京院!」

「ついでに貴様もだ、ジョセフ・ジョースター!」

「お、ぅげえええ!?」

 標的をジョセフに変えたアヌビス神により、ジョセフも大量の針を吐き出して、膝をついた。

『フハハハ! これはいい!! このスタンドは、なぶり殺しにはイイな!』

「どういう原理じゃ…? あのメタリカというスタンドは…、どうやって刃物を体内から…?」

『…ああ、そういうことか。冥土の土産に教えてやろう。』

「!」

『『メタリカ』は、鉄分を操るスタンドよぉ! 血が何故赤いか知っているか? それは鉄分を含むからだ! その鉄分を操り、貴様らの体から鉄製品を生成しているのよぉ! しかし、これで終わりじゃない……。顔色が悪いぞ? 花京院? お前がこの中で一番血が足りてないようだからな。』

「何をした!?」

『さっきも言っただろう? 血が赤いのは、鉄分のおかげだとな。だが、その鉄分を失ったらどうなると思う? 血がおぞましい黄色になって死ぬ! そしてその前に血液が酸素を運ぶことが出来ず、いくら呼吸をしようとも、やがて酸欠を起こし、体は生きながらに死に体になるのだ!』

 そのアヌビス神の説明は、一行に大きな衝撃を与えるには十分すぎた。

『ああ、つまらない。つまらないなぁ!! こんな簡単に殺せてしまうのでは、俺の剣も必要ないじゃないか! つまらないから、せめてこの剣の試し切りぐらいはさせてくれないか? まあ…、お前らは戦おうにも、鉄分を失って酸素欠乏しつつある体でどこまで動けるか?』

 アヌビス神は、ニヤニヤと笑うが、不意に笑うのを止めた。

『しかし……、何故、DIO様も、この女にわざと部下を差し向け、死後の魂を喰わせるマネをさせているのか分からんなぁ。』

「? ……花梨は…。」

『おおっと、口が滑っちまったぜ。いけないなぁ、あんまりにも楽勝だからついつい…。このままじゃ俺が始末されちまう。だ・か・ら、お前らを全員! ぶっ殺す! 全員の首を切り落として、DIO様に献上するのだー!! ついでに、この花梨とかいう女はこのまま俺の本体として使っていこうかな? そのためにゃ、押さえつけている心をぶっ壊した方がよさそうだな~。んじゃ、花京院! お前から切り落としてやる!』

「ま、まさか…?」

『ククク……! 自分の体が乗っ取られてお前達をなぶり殺しにしているのを見ているさ! 普段はそうはしないが、その方が面白いだろう? ああ、コレは悲劇だ。自分の意志に関係なく、想い想われ人にぶっ殺されるんだからな?』

「きさま…!!」

『『ジャスティス』! ほぉ~ら、立てよ。』

「!」

 傷だらけの花京院の体に霧のスタンド『ジャスティス』によって穴が空き、操られてマリオネットのように立たされた。そしてその花京院の首の横に、アヌビス神が剣の刃を当てた。

『最後のお別れぐらいさせてやってもいいぜ? 優しいだろ? ……か、きょういん…さ…。」

 アヌビス神に乗っ取られていた表情に花梨の意識が現れる。

 花梨は、動かない体を震わせ、必死に抵抗しようと試みていた。だがどうにもならない状況に、彼女の目から大粒の涙が零れる。

「うっ……ごめんな、さ……。」

「花梨ちゃん…。僕は…君を恨んだりはしないから…。」

「イヤだ…。こんなの………私は…、私は…!! ーーーーーーメタリカーーー!!」

「なっ!?」

 花梨が泣きながら叫んだのは、先ほどからずっと自分達を痛めつけるために利用されていたスタンドであった。

 そして、花梨の胸からナイフやメスが数本突き出て、大量出血した。

『こ…!? この女! 自分で自分を…。いかん、死ぬ! この体はも…、っ!?』

 バシンッと花梨の手からアヌビス神の剣が弾かれた。ハイエロファントグリーンによって。

「殺す…。」

 花京院が殺意バリバリの声で低く言う。

『し、しまった…!! ヒッ!?』

 気がつけばボロボロにしたジョースター一行に取り囲まれていた。

「エメラルド・スプラッシュ!!」

「灰も残さん!! マジシャンズ・レッドーーーー!!」

『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

 使い手のいないアヌビス神は、あまりにも無力だった。そのまま、怒りのままに花京院のハイエロファントグリーンに破壊され、その欠片は本当に欠片も残らずマジシャンズ・レッドに焼き尽くされたのだった。

「花梨ちゃん!」

「いかん! 心臓と肺を内側から貫いたのか!」

「早く病院に!」

「ダメだ…、間に合わ…。ん? これは…。」

 胸を貫いているナイフやメスなどが体から押し出されて地面に落ち、そして傷口を、白い炎が纏わり付くように塞いでいった。

「スタンドが…治している?」

「ぅ…。」

「花梨!」

「ぁ…うぅ……、私……?」

「喋るな。まだ傷が癒えている最中じゃ。」

「それより…、皆さんの傷…、『クレイジー・ダイヤモンド』…!」

「あっ、こりゃ! ……気を失ったか。」

 あっという間に全員の傷を癒してから、花梨は意識を失った。

 ユルユルと白い炎は傷口のところでうねるように燃え、やがて傷が癒えた頃には消えた。

「ヤレヤレ…、しかし、危なかったぜ。」

「相手の体を乗っ取るスタンドとは…、この先が思いやられるな。」

「ポルナレフ…。」

「ん? なんだ…、ブフッ!? なにすんだよ!?」

「お前が知らなかったとはいえ、不用意に怪しい剣を拾って花梨ちゃんに預けたせいだろう…。」

「あっ。お……俺のせいか…! そっか…、俺のせいか……。」

「落ち着け花京院。ここで仲間割れをしても過去は戻せん!」

 やり場のない怒りに我を忘れる花京院をジョセフ達が抑えた。ポルナレフは、罪悪感のあまりに俯き、己の軽率な行動を悔やんだ。

 

 一応病院に花梨を連れて行き、異常が無いことを確認してから、一行は次の目的地エドフへと向かった。

 

 

 

 




死を選んだ花梨を治したのは、スタンドの意志か、なんなのか……?


次回は、一転して、ワチャワチャ、ギャグっぽい回を目指したい。


本当はもっとヤバい、スタンドのコンボをさせようと考えていました…。

メタリカ+ハングドマンとか、クラフトワーク+キラークイーンとか。

書こうと思ったけど、えげつなすぎたので止めました。


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磁石の恐怖!?

バステト女神編。


オリジナル展開。


ジョセフとくっついた状態になったのは、アヴドゥルではなく?


あと、最後にマライヤは……。


「…どうします?」

「いや…、どーもこーも…。」

 ピッタリとほっぺたと、花梨は左側、ジョセフは右側をお互いにくっつけた状態でしゃがんでいた。

 

「花梨ちゃーん? どこだい?」

 

「……咄嗟に隠れちゃった。」

「こんな状態見られたら、わし、花京院にしばかれる!」

 物陰で二人は隠れた状態でそう話し合っていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 時は遡る。

 

 一行は、エドフから船を使ってさらに北上し、ルクソールへ。

 ホテルへ行く前に最寄りのオープンカフェで一服していた時、ジョセフの義手がおかしいと言っていた。

 あと2日あればカイロにつけるが、全員疲労が溜まっているので、ルクソールで休息してから行くというのはどうだろうかとアヴドゥルが提案。花梨の能力でなら傷は治せるが、疲労感までは治せないのだ。なにより花梨にかかっている負担も大きい。

「だいじょうぶかい、花梨ちゃん?」

「だいじょうぶです。」

「嘘をつけ。顔色が悪いぜ。…まだ気に病んでいるのか?」

「……そのこともですが…、最近夢見が悪くって…。」

「ゆめ?」

「どんな夢を?」

「……。」

「私は、本業は占い師だ。私で良ければ相談に乗るが? ここで聞かれるのが嫌なら、ホテルで…。」

「……赤黒い…夢…。」

「あかぐろい?」

「最初は、寒くて、黒くて、暗い、泥の夢でした。それが最近になって、どんどん赤みが増して……、よく見たら泥の中に今まで倒してきたスタンド使いの死体が浮いているんです。」

「…それは奇妙だな。」

「泥…?」

 承太郎が小さく呟き顔をしかめた。

「情けないです…。旅を進めていくごとにどんどん夢が悪くなっていく気がして……。」

「そんなことはないさ。誰だって怖い夢を見れば憂鬱にもなる。」

「…夢の意味が分かるか?」

「夢占いは、私の本職ではないが……、おそらく君のスタンドと関係がある可能性が高い。」

「私のスタンド…。」

「一度…、君自身、心身共に聖なる儀式をもって浄化する必要があるかもしれないな。身に溜まった穢れを払う意味で。君のスタンドは、死者を取り込む。そのため負の要素をため込みやすいだろう。」

「ため込む……。あれは、私が…、あの人達を…。」

「花梨ちゃん! 一旦ホテルに行きましょう!」

 気分が急激に悪くなったのか、ふらつく花梨を花京院が支え、そう言った。

 お茶代を払い、一行が移動する際に、トンカチがジョセフに飛んでくるなどしたが、ポルナレフが止めて事なきを得たのだった。

 

 その翌朝、ジョセフは、アヴドゥルとの同室で目を覚ましたがなぜかベットの上で足が本来頭がある場所にあり、足がある方に頭があった。つまり180度回転していたのだ。

 そこからは、大変だった、部屋の中の椅子が体にくっついてくる、廊下ですれ違った女性客のスカートの金属が引っ付いて変態と言われ叩かれる、フォーク、ナイフが飛んできて刺さる。

 そうなってジョセフは自分の身に起こった異変を理解した。

 体が磁石となっているのだ。

 ジョセフは大急ぎで、承太郎達と合流すべく走った…、が、エスカレーターに乗ってしまい、足がエスカレーターに引っ付いてしまう。

 すると前に乗っている赤い頭巾を被った女性の体から離れたチェーンがジョセフに引っ付き絡まった。チェーンの一部がエスカレーターに引きずり込まれ、ジョセフが倒れる。

 慌てたジョセフは、助けを求めるが、前にいる女性は……。

「ウフフフフフフ…、ごゆっくり、ジョセフ・ジョースター。」

 そう言い残して去って行ったため、ジョセフはその女性こそがこの現象の原因…つまりスタンド使いであると見抜いた。しかし、そうこうしているとチェーンがどんどんエスカレーターに引きずり込まれ、さらに体もエスカレーターに張り付き引きずり込まれようとしていた。日本のように自動の安全装置がないため、スイッチを押すしかないが、ハーミットパープルでスイッチを探すも、見つからず大騒ぎ。

 ジョセフがこのまま引きずり込まれて死ぬ~っと騒いでいると、花梨が声を掛けた。

「だいじょうぶですか?」

「もうダメじゃアアアアアア! 首が、首が千切れる~~~!」

「ジョースターさん。エスカレーターは、止まりましたよ?」

「! お…、オホーン、オホンホン! 異常なーし、エスカレーターに異常なーし!!」

「?」

 そう言いながら集まってきたホテルの客達から花梨を引っ張って逃げるジョセフ。

「どうしました?」

「やられたんじゃ! わしの体が今! 磁石と同じになっておるんじゃ!」

「えっ? スタンド使いが?」

「そうじゃ! 足がグンバツな赤ずきんを被った女…、あっ!!」

「あそこ…。」

「追うぞ!」

「えっ?」

「せめて顔を見るんじゃ! 磁石の力が強くなっておる! 承太郎達を呼びに行っている暇はない!」

「はい。」

 そうして赤ずきんを被っているという特徴を頼りに追うが、その後は女子トイレの中に逃げられたり、花梨まで磁石の力でやられて磁石化していたりとてんやわんや。

 そしてお互いの磁石の力で引っ付いてしまい、冒頭に戻る。

 

「とにかくこの状態だと動きにくいです。」

「そうじゃな。今、わしらの体が磁石となっているということは、頭と足がN極とS極になっておるはず…、ならば、徐々に下に移動すれば…。」

「弾かれる。」

「……。」

「どうしました?」

「う、うむ…。パラレルワールドの孫娘とはいえ、お若いレディの花梨の体を伝うのはさすがに気が引けるというか…。」

「私は気にしませんよ。」

「そうじゃ! 花梨、お前は、まだ磁石の力が弱いんじゃ、お前が下の方へ!」

「はい。」

「……お前は、淡々としとるの~。わしゃ心配じゃぞ。」

「じゃあ、行きまーす。」

「うむ…。」

 

「ジョースターさん……。」

 

「はうっ!?」

「あっ、花京院さん。」

 地の底から聞こえるような低い殺意のこもった声にビクーンとなるジョセフと、首を動かして花京院だと気づいた花梨。なお、花梨は、すでにジョセフの下半身の…ズボンの上まで頭が移動していた。

「って、花京院、承太郎!? まさか…? お前達も…?」

「ああ…。」

 ジョセフが恐る恐る見ると、承太郎と花京院もくっついた状態になっていた。

 するとそこへ。

「いてぇいてぇ! もっとゆっくり動けアヴドゥル!」

「お前が気をつけろ、ポルナレフ!」

「お前らもかーーー!?」

 アヴドゥルもポルナレフもやられたらしい。

「ん? な、なんか、お前達の方に引きずられ…! しまった、わしの磁石の力が一段と強まって…!!」

「踏ん張ってくれ、承太郎!」

「やっている。だが……。」

「ポルナレフ、下がるぞ! このままでは…!」

「分かってるけど足が…引きずられ…、あっ。」

 フッと一瞬力を抜いた瞬間、ジョセフに向かって全員が引っ張られて引っ付いてしまった。

「しまったーーーーー!!」

 ジョセフを芯にして、イギーを抜く全員が引っ付きもっつき。

「どーすんだよ、コレ!?」

「知るか。」

「花梨ちゃん…だいじょうぶかい? ジョースターさんに変なことされてないよね?」

「はい…。」

「こりゃ、花京院! やっぱりわしを疑ってたな!?」

「いい歳して、若い方と浮気した人なんですから、疑いますよ。」

「ぐぅ…。」

「そりゃ仕方ねーな。」

「このスケベジジイが…。」

「お前達! それどころじゃないんだぞ! 早く離れなくては、磁石の力で全員潰れ死ぬ!」

「ウゴゴゴ! あまり暴れるなお前達! わしが潰れる~~!」

「ぎゃあああ! スティール製品が飛んできたーーー!」

 

「ホホホ…、そのまま全員で潰れ合って死ぬか…、金属製品で潰れ死ぬか…、見ててあげるわ。」

 

「き、貴様!!」

「冥土の土産に教えてあげる。私の名は、マライヤ。スタンドは、バステト女神(じょしん)よ。離れすぎると磁石が消えるし、近すぎても私自身の攻撃力がないから負けるわ。つかず離れず戦うのが私のスタイルなの。」

「……あの皆さん…、手段が無いわけじゃないです…。ただ…、ちょっと構えておいてください。」

「?」

「ああ…、いつでもいいぜ。」

「あら? 何かするつもり? 私のバステト女神は、すでにお前達の力を越えているわよ? 磁石は、どんどん強くなる。」

「そう…ですか……。なら、フルパワーで行きます。」

「?」

「………『メタリカ』!!」

 次の瞬間、バーンッ!と引っ付いてて集まっていたスティール製品が吹っ飛んだ。

「グゲッ!」

 あまりの速度に回避できなかったマライヤに製品が当たって倒れた。

「『メタリカ』は、…磁力を操るスタンド! 私の精神力がもつ…うちに…。」

「よくやった!」

 全員四方八方に吹っ飛んでいたが、すぐに戻って来た。

「よっしゃ、追い詰めた…って、もう再起不能かよ。拍子抜けするぜ。」

「かなりの速度で当たったようじゃな。顔の骨だけじゃなく、他の骨も一本や二本じゃすまんじゃろうて。」

「どうする? 放っておくか?」

「そうじゃ、この女がDIOの居場所を…。」

 

 

 ズキューン

 

 

 直後、銃声音がして、倒れているマライヤの頭が撃ち抜かれた。

「なにーーーー!?」

「馬鹿な!」

「しまった…!! なんてことじゃ……。」

 何者かに狙撃されて死んだマライヤ。

「……。」

「花梨?」

「……『どうして、DIO様…?』って言ってます。」

「そうか…、何も知らないのか。」

「しかし…、分からねぇな…、まるでわざと死ぬように差し向けているとしか思えねぇ。」

「どういうことじゃ?」

「アヌビス神が言ってただろ? 花梨にわざと部下を差し向けて、死んだ魂を喰わせているとな。」

「……花梨、心当たりは?」

 全員の視線が花梨に集まる。だが花梨は首を横に振った。

「そうか……。…分からん! DIOめ、いったいなにが目的なのじゃ!?」

 ジョセフが近くの瓦礫の壁を殴った。

「……ぅ…。」

「花梨ちゃん!」

 頭を手で押さえ、ふらついた花梨を花京院が支えた。

 

 

 マライヤの死を引きずりながらも、一行はいったんホテルに帰ることにしたのだった。

 

 

 

 

 




原作では、入院で済んだマライヤだけど、このネタでは……。


そして狙撃したのは、一応6部で徐倫をハメた奴ってことにしています。


本当は、ワチャワチャパニックギャグを目指したかったが、技量が無かった!!


次回は、セト神だけど、オリジナル展開にします。


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守護霊ではなく……?

セト神編だけど、アレッシー未登場という回となりました。


小さくさせられたのは、花梨です。


花梨の過去が一部。


 

 セト。

 

 兄・オシリス殺しの汚名を持つ、嫌われ者の神として有名だろう。また砂嵐や戦争を司るとされる粗暴の神とされてきた。

 

 しかし一方で、太陽神ラーの航海を守ることが出来る唯一の神としての一面もある。

 

 またその粗暴さは、戦争において軍隊の守護神としての力を発揮し、戦神としての信仰を受けるなど時代によりその象徴の意味合いは変わっていった。まあ、そういうのはどの神話でもあることであろうが。

 

 

 

 

 しかし、コッチの“セト神”は、そんな嫌われ者と、英雄の一面をまったく無視する粗悪な存在であるようだ。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 ルクソールでの、翌日。

 

「これが、花梨ちゃん!?」

 

 ある意味、花梨の保護者スタンド、ムーディーブルースが手を繋いで連れてきたのが花梨だと分かったのは、ダボダボの彼女の衣服を着ていたことと、傍にムーディーブルースがいたからだ。

「どーしたこった!? スタンド攻撃か!」

「どう考えてもそうだろう。」

「今度は、小さくするスタンドか……。まったく、敵は多彩じゃな。」

「……ここ…どこ?」

 小さい子供になった花梨が不安げにムーディーブルースの足の後ろに隠れながら、承太郎達を少し怯えた目で見る。

「むむ? 記憶まで退行しているのか? だいじょうぶじゃよ。わしらは、君の味方じゃ。」

「……ホントウ?」

「わしの名は、ジョセフ・ジョースター。君は、東方花梨というんじゃろ?」

「じょせふ…、じょーすたー…? ……お爺ちゃん?」

「むっ?」

 それを聞いたジョセフは思い出す。

 パラレルワールドでは、自分は花梨にとって祖父にあたり、花梨から聞いた限りでは、すでに自分は死亡しているという。

「そうじゃな。わしは、君のお爺ちゃんじゃよ。」

「おじいちゃ…ん?」

「おいで。」

「ん…。」

 しゃんがんだジョセフが両腕を広げて迎える構えをすると、花梨は恐る恐ると言った様子で近づき、その腕の中に収まった。

「~~~! か~わいいのぅ! かわいいのぅ! 正直言うと、孫娘も欲しかったんじゃ!」

「……それで、浮気か?」

「いや、それは違うからな!?」

「うわき?」

「こ、こりゃ! 花梨が変なことを覚えるからやめるんじゃ!」

「ケッ…。」

 焦るジョセフに、承太郎はそっぽを向いて吐き捨てた。

「……ところでよー…、花梨? お前、下履いてるか?」

「あっ。」

 そういえば上着で分からなかったが、下を履いてなかった。次の瞬間、ゴンッという音が鳴り、見ると花京院が額を壁にぶつけていた。

「花梨の部屋から脱げた彼女の服を持って来ます!」

 アヴドゥルが急いで花梨の部屋へ向かって行った。

「ひとまず…、敵スタンド使いを見つけ出さなければならんな。あと、誰かが小さくなった花梨を守っておく必要もありそうじゃ。」

「おい、花京院。お前が面倒見とけ。」

「えっ!? な、なんで僕なんだい?」

「お前のハイエロファントグリーンの結界なら、変な野郎が近づいてもすぐ発見出来るだろう?」

「そ、それは…そうだけど…。」

「なんだ? お前、そっちの気が…?」

「断じてない!!」

 承太郎の言葉を速攻で否定する花京院であった。

「だったら、ホレ。」

「わっ!」

 ジョセフから小さい花梨を奪い取った承太郎が、そのままポイッと花京院に渡したのだった。

 いきなり渡されたものだから、花京院が抱っこし直す。花梨はポカンッと花京院を見る。ジッと花京院の顔を見ていた花梨だったが……。

 急にボロッと泣き出した。

「えっ!? どうしたんだい!?」

 慌てる花京院に花梨は……。

「お兄ちゃん……、死んじゃうの?」

 途端、場の空気が凍った。

「えっ? 僕が?」

「そっちのおじちゃんも……。」

「私もか…?」

「そっちのワンちゃんも……。」

「ワンワンワン!」

「そーいや、花梨には、死相が見える、つってたか?」

「ぅう…、ごめんなさい…。」

 どうやらうっかりをやらかしたと花梨は花京院の肩に顔を埋めて泣いた。

「ま、まあまあ! この際だからそのことは置いといて! とにかく今は花梨を元に戻すのが先決だぜ! なっ!?」

 重くなった空気を破ったのはポルナレフの明るい声だった。

「うむ…、そうじゃな。」

 ポルナレフのおかげで場の空気が少し緩み、一行は花京院に花梨を任せて敵スタンド使いを探しに出発した。

 残された花京院と、子供になってしまった花梨。

 ヒッグヒッグと泣く花梨を抱っこしていた花京院は、他の者達がいなくなった後、ベットの方へ移動し、花梨を降ろして座らせた。

「目を擦ったらいけない。赤くなるよ?」

「ごめんなさい…、ごめんなさい…。」

「どうして謝るんだい? 別に悪いことしてないだろう?」

「だって、だってぇ……。」

「僕やアヴドゥルさんやイギーが死ぬって言ったの悔やんでいるのかい?」

「うん…。だって、花梨が死ぬって言うと、本当に死んじゃうんだもん…。だからみんな言うの…、『死神』って。」

「誰がそんな酷いことを? 君は、ただ人や動物が死ぬかどうかが少し分かるだけだ。言い当てるのが得意になってしまっているだけだよ。」

「パパもママも、おじちゃん達も言ってくれるよ? 花梨、悪くないって。」

「それはよかった…。君にはたくさんの味方の人達がいるんだよ? だから泣いちゃいけない。泣いたらその人達を悲しませるんだから。」

「うん…。」

「よしよし。良い子だね。」

 泣き止んだ花梨の頭を、花京院は微笑みながら撫でた。

「でも、なんで、花梨、ここにいるの? もりおーちょうじゃいの、ここ?」

「もりおーちょう? ああ、君の住んでいる土地の名前か。」

「また…、迷子になっちゃったの?」

 花梨がムーディーブルースを見上げて聞く。ムーディーブルースは何も言わない。

「また…攫われちゃったの?」

「さわれた? 誰に?」

「花梨の…後ろ。」

「後ろ?」

「ずっといるの。ずっとずっと前からいるの。花梨に意地悪するの…。」

「意地悪をする? それは、君の守護霊(スタンド)じゃないのかい?」

「分かんない…。あっ…!」

「えっ?」

 花梨がハッと口を手で塞いだ。

 花京院がバッと後ろを見ると、白い炎の塊が宙に浮いていた。

 そして、触手のように白い炎を伸ばし、花京院に絡みつくと、花京院を持ち上げ、壁へと叩き付けた。

「ぐあっ!?」

「やめてーーー!」

「くっ…、ハイエロファントグリーン!!」

 部屋と、部屋の外に張り巡らせていたハイエロファントグリーンを戻した。

 グルグルと渦巻く白い炎の塊は、シュルシュルと周りにある家具に炎を絡め、その家具を花京院に向けて投げつけてきた。

「エメラルド・スプラッシュ!!」

 それをエメラルド・スプラッシュで破壊して防ぐ。

「イヤーー!」

「花梨ちゃん!」

 家具の破片で一瞬目を離した隙に、白い炎の塊は、花梨を絡め取って、窓から出て行こうとしていた。花梨は必死にベットの布団とシーツを掴んで抵抗していた。

 やむを得ないっと、花京院は、白い炎の塊に向けてハイエロファントグリーンを差し向け、触手のようなソレを掴んで花梨から引き剥がした。

 難なく千切れていく触手。すると花梨の体中にピシピシと小さくない傷が出来た。

「あぅう!」

「ごめん!」

『『ザ・ハンド』。』

 不気味な声が聞こえたような気がして、ハッとして見ると、白い炎の塊の中央から今にも振り下ろされそうなスタンドの右手が出ていた。

 花京院はソレを見て直感する。まずい…、死ぬ!っと。

 避ける暇も無いっと、思った瞬間。

 白い炎が飛散してスタンドの右手ごと消えた。

「花京院さん…。」

「…花梨…ちゃん?」

 聞き覚えのある花梨の声だった。見ると花梨が16歳としての姿になっていた。

「私…、うぅ…。」

「ごめん。その傷は僕のせいだ。」

「いえ…、いいんです。それより……。」

 花梨が、頬を恥ずかしそうに染める。

「あっ…。」

 花京院はハッと気づいた。

 シーツで隠れているが、そういえば花梨は下半身に何も身につけていなかったのだ。

 花梨は、その後シーツで下半身を隠しながら急いで隣の自分の荷物がある部屋に行き着替えたのだった。それからゴールド・エクスペリエンスで傷を癒した。

 それから花京院と合流したが、なんとなく気まずい。

「……子供の頃を思い出しました。」

 先に口を開いたのは花梨だった。

「いつも…、アレに…意地悪されてました。遠くの知らない場所に連れて行かれたり…、高いところに連れて行かれたり……。傷をつけられたり…。」

「アレは……、君のスタンド?」

「分かりません…。でも、ずっと私の後ろにいたのは確かです。いつ頃からか、何もしてこなくなりましたけど……。また、意地悪されました……。」

「意地悪? あれが? まるで君を殺そうとしているようにも見えたが?」

「やっぱり…、そうなんでしょうか? アレは、私を殺そうと……。」

「僕には、アレが、君の守護霊(スタンド)だとは思えない。まるで……、そうだ…、まるで…君に取り憑いた……。」

「……私…、この旅の先でどうなるんでしょう?」

「えっ?」

「怖いんです…。ここまで来ておいて、今更怖いんです。こんなの、初めてです。幽霊もスタンドもたくさん見てきたし、触れてきたけれど…。何かがおかしいんです。……ごめんなさい…。」

「謝らないでくれ。」

「……ごめんなさい…。」

 俯いた花梨の目から涙がポロリッと零れた。

 花京院は、見ていられず、花梨を横から抱きしめた。

 

「おーい、帰ったぞー…っと? おーっと、お邪魔しました。」

 

「ちょっ、まっ!」

 ポルナレフが戸を開けて閉めたので、ハッと我に帰った花京院が赤面して慌てたのだった。

 

 

 

 




アレッシー未登場のまま退場。たぶん、死んでる。

花梨、得体の知れない何かに怯える。



次回、待ちに待ったオシリス神!……に、なればいいな。


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ギャンブラーvs取り立て人

私が待ちに待っていた、オシリス神編!


でも、なんか…当初のイメージと違った方向に行ってしまった…。(いつものこと)



序盤原作通り、途中からオリジナル展開。


 ジョセフが公衆電話から、SPW財団に連絡をした。

 娘・ホリィの容体についてだ。

 聞いたところ、あと、4、5日が限界だろうと……。

 

 そして、一行は、列車を使いカイロへと向かった。

 

 カイロに到着後、あちこち周りながら、あるカフェで尋ねた。

 ジョセフが念写したDIOの館の一部を写している写真の建物について知らないかと。

 すると店主は、ここはカフェだから何か注文してくれと言った。そしてアイスティーを全員分頼んだ。しかし、写真を見た店主は、やっぱり知らないと言った。

 わずか、5日程度で、だだ広いカイロからDIOを探し出さなければならないのだ。列車の旅からすぐに必死に尋ねて回っているが、ひとつも引っかからないのだ。焦りが積もる。

 一行がアイスティーを飲み終え、移動しようとした時だった。

 

「その建物なら知っていますよ。」

 

 っと言ったカフェの客がいた。

「えっ!? 本当かね!」

「ええ。」

 一行は急いで、テーブルでトランプを弄っている男の元へ行った。

「教えてくれ! どこなんじゃ!?」

「無料(ただ)で教えろと?」

「むっ? それは失礼した。10ポンド払おう、さ、教えてくれ。」

「私は賭事が好きでね。あなたは賭けは好きかな?」

「何を言っておる? 20ポンド払う! わしらは急いでおるんじゃ!」

「私は賭事が好きでね。ま、賭事で生活費を稼いでいるのだが、くだらないスリルに目がなくってね。どうですか? ひとつ賭けをしませんか? そしたらタダでその館のことをお教えします。」

「何を言っておるんじゃ?」

「例えば…、この魚の燻製を…。」

 すると男は、魚の燻製を二つカフェの外へ投げた。

「あそこにいる猫がどちらを取るか賭けませんか? 左か右か。」

「おい、ふざんけんなよ! 50ポンド払うから、とっとと言えよな!」

「もう一度言います。どちらをあそこの猫が取るか、賭けましょう。左か、右か。それだけですよ?」

「くっそ~! なら、俺が賭けるぜ! 右だ! 右を取るぜ!」

「グッド! なら私は左に賭けましょう。」

「おいおい…。」

「ところでよー…、お前が負けたら何を払ってくれるんだ? 100ポンドか?」

「金は要りません。魂…など、どうでしょうか?」

「はっ?」

「魂ですよ。魂。負けた場合、魂で払う。」

「けっ、ふざけた野郎だぜ。いいぜ、やってやらぁ。」

「グッド!」

 そうこうしていると、猫が魚の燻製を左から右へと取った。

「ああ!」

「フフフ…、見ましたね? 左から右へ。私の勝ちだ。」

「くっそ~!」

「おい、ポルナレフ! どうするんじゃ? これではこの建物のことを聞けんぞ?」

「さあ、約束でしたね。」

「へ?」

「魂で払っていただきましょう。先ほど言いましたよね? 魂で……払うと。」

「はっ? お前なに言っ…?」

「魂ですよ! 私は、魂を奪うスタンド使いだ! 賭けというのは、人間の魂を肉体から出やすくする! そこから奪い取るのが、私のスタンド能力!」

「!?」

「ポルナレフさん!」

「なにーーーー!?」

 次の瞬間、出てきたスタンドがポルナレフの魂を引っ張り出していた。

「貴様!」

「おっと、私を殺そうなどとしないことだ。私が死ねば、スタンドが掴んだ魂も死ぬ。助けたかったら賭けを続けることだ。」

 すると先ほど燻製を取った猫が男の膝に乗った。

「ところで、コイツ(猫)は、私の猫さ。」

 そしてスタンドがあっという間にポルナレフの魂をグシャグシャと丸め、コインにしてしまった。

「貴様ーーー! イカサマじゃないか!!」

「イカサマ? いいですか? イカサマを見つけなかったのは見抜けなかった人間の敗北なのです。私はね、賭けとは人間関係と同じ…だまし合いの関係と考えている。泣いた人間の敗北なのです。このまま怒りのままに私を殺しますか? いいですよ? そしたらコインとなった人間も死にますが、それでいいのなら。」

「ぐっ…!!」

「申し遅れました。私の名は、ダービー。D、A、R、B、Y。Dの上にダッシュがつく。スタンドは、オシリス神。」

 アヴドゥルが手を離すと、ダービーと名乗った男は、落ち着いた様子で悠然と椅子に腰掛けなおした。

「1984年。9月22日、11時15分。あなたは、何をしていたか覚えていますか?」

「なんのことだ?」

「私は、覚えている。」

 するとダービーは、アルバム本を取り出した。

 そこには、人の顔が描かれたコインが嵌められた状態で、その下に名前が書かれていた。

 すべてダービーがこれまで奪ってきた人間の魂だと理解できた。

 ダービーは、ひとりひとり名前も、どのような勝負したかも覚えているそうだ。

「こ、こいつ…。」

「こうやって、ひとりひとり…、俺達を…。」

「面白いですね。似たようなスタンドがいるなんて。」

「花梨!?」

「ほう? そちらのお嬢さん…、いや、花梨と言ったか。複数のスタンドを使いこなすとは聞いている。その中に、私のスタンドに似た物があると?」

「ええ。大変、すごいスタンドですよ。試して…みます?」

「花梨ちゃん、ダメだ! この男に不用意に…。」

「なにも賭けをするのは、この人じゃなくてもいいです。」

「? それは、どういう…。」

「あちらの方に協力してもらいます。すみません。」

「ああ? なんだ、お前?」

 近くにいたガラの悪い客に話しかける花梨。

「少し……、お尋ねしたいことが。」

「なんだよ?」

「あなたは…、あそこの賭けテーブルにいるダービーという人の仲間ですか?」

「!」

 それを聞いたダービーも、ジョセフ達も驚いた。

「はあ? 何言ってんだ?」

「あなたが、今吸っているタバコ…、あとひと吸いで灰が落ちるに、あなたが本当のことを言うに。……賭けませんか?」

「はあ~? なにおかしなこと言ってんだ? この女ぁ?」

 そう笑ってガラの悪い客がタバコを吸うと、灰が落ちた。

「落ちましたね…。」

「ああ、落ちたな。それで?」

「あなたは、嘘を吐いた。取り立て人が、あなたの隠している真実を言う。」

「へっ?」

 

『この店は、客も全てダービーに雇われている。』

 

「えっ?」

「花梨、そいつは!?」

 モコモコの毛皮のような表面をした、人型スタンドが男の後ろに立っていて、そして真実を口にした。

「あなたは、嘘つきだ。そしてこの店全体もみんな、金で雇われ、ダービーの手のひらの上だった。これが真実です。」

「て、てめぇ、どうして!? ハッ!」

 男が慌てて口塞いだが遅く、ダービーは、焦った。

「貴様! まさか最初から我々に仕掛けるためにこの店を!」

「ぐっ…。」

「てめー余計なことを!」

「最初の一発は私が避けるに、腎臓1個。」

「なに!?」

 その言葉にダービーが反応。

「おおお!」

 ガラの悪い客が憤慨して花梨を殴ろうとしたら、花梨はヒラリッと避けた。

『避けられたな! 腎臓を渡せ。』

 そして、人型スタンドがガラの悪い客の腹に、ドスッと針金のような手を突っ込み、腎臓を引っ張り出した。

「ゲボォオ!?」

「なんだとーーー!?」

『色が悪い。闇市で売ってもたいした金にはならないが、取り立ての対象なので奪わせて貰う。』

 そして腕の中に腎臓が吸い込まれるように消えた。

「うががが…、だ、ダービー…さん! こんなの聞いてねぇよ…!!」

「白状したな! やはり店も客も全員此奴の仲間じゃった!!」

「『こんなの聞いていなかった』と言うに…、腎臓を戻す。」

「こんなの…聞いてなかったぜ…。えっ?」

『言ったな。腎臓を戻す。』

 するとスタンドが奪った腎臓を出し、ガラの悪い客の腹に戻した。

「…? あ、あれ?」

 ガラの悪い客は、自分の身に起こったことが分からず混乱した。

「……分かりましたか? これが、私が持っている、賭事のスタンド。名は、『取り立て人マリリン・マンソン』。どんなイカサマも、どんな嘘も見破り取り立てる。金であろうと、物であろうと、情報であろうと、内臓であろうとも……。」

「ぐぅ…く…。な、なんてスタンドを持ってやがるんだ!」

「イカサマをする時、人は、心に弱みを持つ。取り立て人マリリン・マンソンは、その人の心の弱みの闇そのモノ。どんなことをしても倒すことはできない。無敵。どうやっても取り立てる。何が何でも取り立てる。死ぬまで……。」

 花梨がスタスタと、ダービーがいる賭事テーブルの椅子に座った。

 そして、机の上に頬杖をついて、薄く笑う。

「私と賭けをしませんか? ダービーさん。」

「やはり…、そうくると思っていたよ。フフフ! 実に面白いな! 人の魂のみを奪う私のオシリス神などとは、比べものにならんだろう! 取り立て人とはな! 覚えておこう!」

「あなたが本当にDIOのことを知っているに、1000ポンド。」

「なに!?」

「……出てきませんね。つまり、あなたは、本当に知っているということ。」

「!?」

「おお! そういう使い方も出来るのか! さあさ、オービー君! 早く白状しないと、すっからかんになるぞ! って、おい!?」

『本当のことを知っていないと疑った。だから我々が1000ポンド払う。』

 取り立て人マリリン・マンソンは、花梨の財布とジョセフの財布から1000ポンド奪い、バサッとダービーの前に置いた。

「こりゃ、花梨! こりゃどういうことじゃ!?」

「取り立て人は、絶対なんです。こちらも弱みを見せれば、そしてイカサマをすれば、当然取り立てられる。私は先ほどお金で賭けると言いました。だから、お金がもし足りなかったら……。」

「臓器で払わされていたか…。」

「な、なんてことだ!」

「フフハハハ、これはいい! お前達の味方と思っていた取り立て人が、実は公平なる取り立て人とは! これで、お互いに安易なことはできなくなったということだ!」

「けれど、ダービー。お前もお前で、DIOについて知っているということが露顕したわけだが? それについては、どう考えて?」

「ハッ!」

 花京院の言葉に、ダービーは、大汗をかいた。

 ダービーは、ハッとした。横を見ると、1、2メートル離れた場所に、取り立て人マリリン・マンソンがこちらをジーっと見ていたことに。

「安心してください。私は先ほどの賭けで、あくまでもあなたが『DIOのことを知っている』かどうかを確かめただけですから。それ以上のことは聞いていない。」

「……なるほど。」

「酷くホッとしているようだが…。つまりお前は、DIOの能力についても知っているのか?」

「それは、お前達が賭に勝ってからだ。ほら、取り立て人も動いていない。賭けは成立していないのだよ。君らもそれに相当するモノを賭けなければならないのだ。」

「あなたにとって、DIOについての情報に相当するモノは…、私達の命?」

「私はすでにお前達に、私がDIO様のことを知っていることがバレている。しかし、私は、ポルナレフの魂を握っている。私に賭で勝たなければ解放は出来ん。早くしないとポルナレフの肉体が腐ってしまうぞ?」

「分かりました。では、ポーカーなど、いかがですか?」

「ポーカー! それは、私がもっとも得意とするゲームだ。」

「そうですか。」

「おや? 君も自信があるのかね?」

「ですが、ポルナレフさんという大きな弱みを握られている、そしてあなたは、取り立て人に見張られている、新品のカードでの公平なる勝負を願います。」

「それは当然だ。だが、そちらもイカサマをすれば……。」

「取り立て人に殺されるでしょう。」

「か、花梨…。」

 アヴドゥルが心配する。

「良し。セキュリティーシールを張ったカードを開ける! あそこにいる無関係の子供にディーラーを。」

「カードに異常なし。ジョーカーも1枚。普通のカードだぜ。」

「では、ボウヤ、頼むぞ。」

「はーい。」

 そして、子供がカードを配った。

「……。」

「どうした、花梨。早くカードを持て。」

「少し気になることがありまして…。ねえ、そこの君。」

「えっ? ぼ、僕?」

「あなたは、ダービーの仲間?」

「知らない。」

「あなたが、もしもダービーからお金を貰っているなら、そのお金を徴収してもらうけど。それでもいい?」

「おい! そんな小さな子供から金をむしり取る気かね?」

「はい。」

 花梨は淡々と答えた。

「えっ、あ…あの…。」

 その声と花梨の表情にゾッとした子供が焦り始める。

 すると、シュンッとダービーの横から取り立て人マリリン・マンソンが消え、子供の影に取り立て人マリリン・マンソンが移動した。

『金を貰っているな。徴収する。』

「ああ!」

 一瞬で消えたマリリン・マンソン。そして少しして戻って来た、その手に札束を持って。

『5ポンド足りない。生活費として使ったか…、ならば…。』

「貴様、そんな小さな子供から内臓を…!?」

『この服を売れば足りる。』

「ハッ!」

 マリリン・マンソンは、子供から一瞬で上着とズボンを奪った。

「おい…、もし、私がその子供に払った金がもっと足りなかったらどうしていた?」

「分かりません。私がそう操作しているではなく、取り立て人が勘定するので。」

「ぐ…、恐ろしい女だ…。」

「この辺りの人間は信用できんな。仕方ない、アヴドゥル、お前がディーラーを。」

「私が?」

「このままだと、取り立て人が金どころか、買収されただけの人間からマジで内臓をぶっこ抜いて殺しかねねぇからな。」

「…分かった。」

「仲間にイカサマをさせる気か?」

「それなら、私が取り立て人にイカサマを見抜かれ殺されるでしょう。」

「むっ…。ならば…、あの言葉を言って貰おう。私のスタンドはそうしなければ魂を抜けない。」

「分かりました。私の魂を賭けます。」

「グッド!」

「では、カードを配る!」

 そしてアヴドゥルがカードを配り直した。

「あなたに、賭けて貰うモノが決まりました。」

「ほう? なにかな?」

「心臓ひとつと、……DIOの能力について。」

「!」

「私が賭けるのは…、私達の命すべて。」

「なっ、なんだとーーー!? 貴様、正気か!?」

「花梨!」

「僕はそれで構わないよ。」

「同じく。」

「花京院、承太郎!?」

「腹くくれ、ジジイ、アヴドゥル。」

「あなたにとって、私達の命は、DIOに捧げるこれ以上無い捧げ物。ギャンブラーとして絶対なる自信とスリルを求める、あなたにとって、お金なんてほとんど無価値。なら、あなたは、あなた自身の命と、DIOの能力を教えてもらいます。」

「ど、どっちにしろ、私に死ねと!? そしたらポルナレフはどうなる!?」

「私のスタンドに…、元に戻すスタンドがないと思っていますか?」

「そ……それは…。」

「てめーらに花梨の情報が入っているなら、どんな状態からでも治せるスタンドがあることぐらいは知ってるはずだぜ。」

「うぅ…、どっちにしろ、ダービーは死ぬということか! 心臓を取られて死ぬか! DIOを裏切り殺されるか!」

「あ……ぅ、ああああああああ!?」

「さあ…、賭けましょう。どうします? さあ、早く…。」

 花梨が、薄く笑う。それは、それは、美しく。

 ダービーは、その笑みに何かを感じたのか、ゾゾゾッとなり、一気に血の気が引いた。

『DIO…の能力は…。』

「ひいいいいいいいいいいい!? やめろおおおおおおおおおお!!」

 マリリン・マンソンが言いかける。するとポルナレフの魂が解放された。

「負けを認めましたね。では、徴収して、マリリン・マンソン。」

「うわあああああああああああああ!!」

『逃がさない。心臓を取る前に、DIOの能力の情報を…。』

 マリリン・マンソンがダービーを捕まえ、胸に手を突っ込んでから、言いかけた時だった。

 ダービーのこめかみに銃弾の穴が空き、テーブルに突っ伏して死んだ。

「なにーーーー!?」

「しまったーーーー!!」

「またか!? またやられた!」

「誰じゃ! ここにいる誰かに…!?」

「いいや、角度からして、かなり遠くからだぜ。この店の客じゃねぇ…。」

「……。」

 ダービーのあまりの焦りから来る壮絶な顔のままの死に様に、花梨は黙ったまま見つめる。

「マリリン・マンソン…、情報は?」

『相手の死により、無効とする。』

 そしてマリリン・マンソンは、消えた。

「うぅ…、お、俺は…。」

「だいじょうぶか、ポルナレフ?」

「ハッ! そうだ、俺負けて…。」

「一から聞き込みのやり直しだ。行くぜ。」

「えっ? な、なんで、コイツが死んでんだよ? なにが…あったんだ?」

「気にするな。もうどうしよーもねー。」

「……。」

「花梨ちゃん、だいじょうぶか?」

「はい…。」

 花梨は、花京院に手を貸して貰いながら立ち上がったのだった。

 

 

 

 

 




ごめんね…、ダービー……、最初のプロットから死ぬ予定にしてたんだ…。


楽しみに書いてたのに、なんか納得いかない展開になってしまった……。
ダービーほどのギャンブラーなら、マリリン・マンソン相手でも後れを取らないというイメージが湧いちゃったからかな。
そして私がそれを書く技量が無かった…!



次回は、どーするかなー?
ホル・ホースとボインゴのコンビだけど、脅されてやむを得ず協力って形にするか……。


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胎動するナニかと、花梨の悲しみ

途中まで原作混じりのオリジナル展開。



ホル・ホースの最後が原作とは全然違います。


注意!!


 

「花梨…、つれーならホテルで待ってろ。」

「……。」

「おい、花梨。」

「…あっ…、なんですか?」

「マジで休んどけよ。聞き込みは俺らがしとくから。」

 ダービーとの戦いの後から、花梨は少し目を離すとボーッとするようになった。

 まるで心がそこにないみたいに。

 危ないので花京院が横から手を繋いで歩いている始末だ。しかし、心がすぐに消えるようにボーッとしだすので、足場が悪いとすぐこける。

 承太郎は、花梨のその様子に心配と同時に不信感を抱いていた。

 特にンドゥールの最後の言葉が気になるのだ。

 

 白き炎に、罪人の魂をくべる

 

 罪人とは、悪人の魂と仮定できるかもしれない。これまで倒してきた敵スタンド使いのほとんどは命を落とした。

 その魂を花梨は、無意識に吸収しているのだとしたら?

 ンドゥールは、初めから死ぬつもりでやってきて敵対した。すべてはDIOのために。そしてDIOの目的のために。

 だがンドゥールの例から見て別のスタンド使い達は、恐らくであるがDIOの目的を知らず自分達と敵対しているのだろう。マライヤという女はまさにその一例だ。DIOの命令により死ぬことは想定外であったことが花梨の口から語られている。ダービーも同じだろう、おそらくは。

 そして今、花梨の不調が目立つ。

 

 まるで……、花梨という存在を内側から喰った何かが、今からサナギか卵が内側から殻を破ろうとでもしているように…。

 

「まさかな…。」

「承太郎?」

「いや、なんでもないぜ。」

「……。」

「冗談抜きでだいじょうぶじゃないじゃろ! いいからホテルに行ってなさい!」

「……。」

「聞こえてないのか?」

「すみません、ジョースターさん、花梨ちゃんを僕がホテルに連れて行きます。何かあったらすぐ連絡を。」

「そうじゃな。頼むぞ。」

「ん? ポルナレフがいない。」

「あそこにいるぜ。」

 見ると後方の建物の曲がり角のところにポルナレフが立っていた。

「なにをしている?」

「あ、いや~っちょっともようして…そこで立ちションを…。」

「こんな人の往来でか?」

「恥ずかしい奴じゃのう。」

「……おい、ポルナレフ。後ろに誰かいるのか?」

「い、いや、誰もいないけど?」

「ならいいが。」

「とりあえず花梨ちゃんをホテルに連れて行きますので。」

「ああ、そうしろ。ポルナレフ、さっさと行くぞ。」

「さ、先に行っててくれ。」

「……いや、待て。後ろに何かがあるのか?」

「っ! ぶ…ふぇーくしょん!!」

「わっ!」

 怪しんだ直後ポルナレフが大きくくしゃみをし、ポルナレフの後ろに隠れていたホル・ホースがバランスを崩して姿を見せた。

「あっ!」

「貴様は!」

「しまっ…。」

「オラよ!」

 ポルナレフがその隙を突いてシルバー・チャリオッツの肘打ちでホル・ホースを殴打し、吹っ飛ばした。

 吹っ飛ばした際に転がったホル・ホースは、油が入ったツボをいくつか壊した。

「気をつけろ! コイツだけじゃねえ! 箱の中にも誰かいるぜ!」

「ぐ…。ち、ちくしょーー!」

 ホル・ホースは、大汗をかいて焦っていた。

 だが、その時、すごいスピードで走ってきたトラックが地面に広がっていた油でスリップし、ジョースター一行…、ただし花梨を抜く全員のところへぶつかりはね飛ばした。

「な、なんだとーーー!? よ、予言は本当だった! 鼻に指を突っ込んだらその通りになったぜ! ヒヒヒ! たいしたもんだぜ、トト神ってのはよー!」

「は、は、はい…、予言は…絶対なんです…。運命なんです…。」

 木箱の中からボインゴが顔を出し怯えきった顔で言う。

「って、花梨が残ってやがるじゃねーか! ……ん? なんか様子がおかしいが…。」

 ホル・ホースは、他のジョースター一行が倒れているのにボーッと立っているだけの花梨の様子を不審がった。

「よ、予言には…、花梨のことは描かれてません…。だ、だだ、だから…。」

「なるほどな! おりゃあ世界一女を尊敬しているからよぉ、花梨は攻撃しないぜ! で、この後は!?」

「漫画に……、出るまで待つ…です。」

「OK!」

「…あっ…、き、ききき、来た!」

「見せろ!」

 ホル・ホースがトト神である漫画を奪い取って見た。

 そこには、下水工事中の下水管にホル・ホースのスタンド弾丸を撃ち込むと、承太郎の頭が撃ち抜かれるという内容だった。

「こりゃすげぇ! ひとまず承太郎だけはぶっ殺せる!」

「で…でも時間が…指定されて…。」

「なに!? あっ、マジだ…、この絵じゃ…12時!? あと少しじゃねーか! 急がねーと!」

「ヒッ!?」

「ん? …えっ?」

 ボインゴの短い悲鳴を聞いて振り返ったホル・ホースは、まるで心が無いみたいに表情の無い花梨を間近で見た。

「びっくりしたー! って、いつの間に!?」

 自分達がいた場所までそこそこ距離離れていたはずなのに、音も無く接近していたことにホル・ホースは腰を抜かしかけた。

 しかし、目の前にいる花梨は、ホル・ホースの挙動にまったく無反応。

 怪訝に思ったホル・ホースは、試しにヒラヒラと手を目の前でやってみたが無反応。

「どーしたんだよ? あ、それよりか、時間がねー!」

「ひ、ヒィイイイイイ!」

「どうした!? んん!?」

 悲鳴を上げるボインゴの方を見たホル・ホースは、目を見開く。

 腰を抜かして漫画本から離れていったボインゴはともかく…、開かれた漫画に。

 

 魔、狂、痛、呪、死、獄、怨、負、邪、壊、醜、辛、闇、虐、滅、亡、腐、憎、鬱、苦、恐、凶、恨、悪……etc

 

 凄まじい数の赤い文字が浮かび上がり、ひとりでにページがめくれていく。

 先ほど浮かび上がっていた承太郎を殺す絵も塗りつぶされていた。

 

 死

 死死

 死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死

 

「な、なんじゃこりゃーーー!?」

 

「ゴボッ…ぼっ…。」

「えっ?」

 妙な音が聞こえたので、花梨の方を振り返ったホル・ホースが見たのは…、口から赤黒い泥を吐き出す花梨の姿だった。

 ボタッと落ちた泥は、ボコボコブクブクと泡立ち奇妙な形を取る。

 それは、ホル・ホースのような場数を踏んだ、あるいは死線をくぐり抜けてきた者ならすぐに直感するモノだ。

 

 コレは。

 見てはいけないモノだと。

 

『§△★÷〆※◎●ーーーーーー!!』

 

「う……うわあああああああああああああああああああああああああああ!!」

 叫ぶのが早いか、スタンド銃、エンペラーを出すのが早かったかは分からない。だが思考が恐怖を通り越したホル・ホースが、引き金を引く、撃つという動作をこなせたのは奇跡的だったかもしれない。

 ソレは、無数の弾丸を頭らしき部分に受けて、ブグブグ、ゴボゴボと奇怪な音を立てながら崩れて染みこむように消えた。

 花梨は、いつの間にか地面に横に倒れて気絶していた。

 ホル・ホースは、ヘナヘナとその場にへたり込んだ。彼の股は濡れていた。恐怖のあまりの失禁だった。

 ガタガタと震えるホル・ホースは、イヒ…イヒヒヒ…っと泣き笑いながら、エンペラーの銃口を自分のこめかみに…。

 

 

 

 

 そんなホル・ホースに、狙撃銃を向けている人間がいたが、通信機が反応したため通信機に出る。

「はい…、はい。分かりました。ホル・ホースは、抹殺しません。トト神の使い手も…。仰せのままに。」

 ボインゴと同い年ぐらいの少年は、通信機を切り、狙撃銃を納めてから、ホル・ホースがいる位置からずっと離れた建造物の屋上から去って行った。

 

 

 

 

「……死んじゃダメ。」

「!?」

 ホル・ホースの引き金を止めたのは、花梨だった。

 花梨は打って変わってきちんと生気がある顔でホル・ホースを見ていた。

 その澄んだ青い目を見ているだけで、ホル・ホースの能を支配していた狂気が消えていった。

「おめぇさん……、いったい何なんだよ? 何者なんだよ?」

「……私は…、東方花梨…それ以上でもそれ以下でも無い。そう、ありたい。」

 花梨の目から一筋の涙が零れる。

「これ以上…、私の中に、入ってこないで。だから、…生きて。」

「………分かったぜ…。」

「だいじょうぶ…、あなたは、殺されないから。きっと…、あなたは罪人としては魂が弱いから。」

「そりゃ…、良いのか悪いのか?」

「そっちの子も連れて……。」

「あ、ああ…分かってるぜ。あばよ…、できることならお前さんもDIOに逆らわない方がいいぜ。じゃあな。」

 ホル・ホースは、失神しているボインゴ抱えて、去って行った。

「花梨ちゃん。」

「花京院さん…。」

 そこへ花京院がやってきた。

「だいじょうぶかい?」

「はい…。」

「おーい…、傷治してくれ…。ホル・ホースは!?」

「逃げました。」

「はあ? 人の鼻に指突っ込んだりわけ分からねーことしやがって…、なにか妙だな?」

「深追いはしない方が良いだろう。」

「それより、花梨。本当にだいじょうぶなのか? さっきまで心が無いみたいな状態だったぞ?」

「はい。もう…だいじょうぶです。」

「無理するんじゃねぇぞ?」

「分かっています。」

「それより、傷も治ったし聞き込みを続けよう。」

 そうして一行は気を取り直して聞き込みを再開したのだった。

 

 

 

 




ムチャクチャ悩みました……。
ダービー編で燃え尽きて、全然執筆が進まず……。

勢いが少し戻ったかな?


狙撃銃を持っていた少年は、6部で登場した徐倫を罠にハメた奴です。
確か年齢的に、この頃は、ボインゴと同じぐらいの年頃だったはず…?


花梨の身に起こる異変は、DIOに近づくごとに増していく…。


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時は来たれり

vsペットショップ。



でも、あんまりイギーは活躍してないかも……?


イギーと花梨の共闘です。


 

 イギーは、状況を飲み込み理解するのに必死だった。

 

 下水道の一角。

 

 遠くからキュオーンっという鳥の鳴き声と共に、羽ばたく音が聞こえる。

 

 イギーは、今花梨といる。正確には下水道の壁に擬態させたザ・フールで花梨と自分を隠していた。

 

『ちくしょーー! あの鳥野郎! 諦める気ゼロだぜ! 殺戮マシーンなんてもんじゃねーぜ!』

「…ぅ…う…。」

『おい、花梨! 俺の言葉が分かるんだろ!? しっかりしやがれ! こんなところでくたばられたら、俺が花京院にぶっ飛ばされ…いや、殺される!』

「ごめ…ん、ね…。」

 コホッ…と咳と共に血を吐いた花梨が弱々しい声で謝罪する。花梨の腹部の横には、氷のツララが刺さっていた。

 

 

 時は少し遡るが、ジョースター一行が聞き込みをしている間、イギーは単独行動をしていた。

 その時、ある屋敷の前を通りがかったのだが、ガラの悪い犬二匹に絡まれたものの、イギーはひと睨みで降伏させた。

 そこまでは別によかったことだ。イギーはニューヨークの街で野良犬の王として君臨していたのだから。

 しかし、問題はその後だ。

 二匹の犬が館の門の隙間に入ろうとしたが、何かの攻撃を受けて大量出血した後、門の隙間に引きずり込まれた。

 そして門の向こうから飛んできたのは、1羽のハヤブサだった。だがただハヤブサではなかった。鎧やマントを思わせる布を纏っていて、いかにも奇妙だった。

 すると、一台の車が走ってきて乗っていた運転手が手にしていたのは、ジョセフが念写したDIOの館の写真だった。

 奇妙なハヤブサが飛んできて氷の塊を生成すると、運転手ごと車を潰してしまった。さらにトドメとばかりに写真を鋭い爪の足でバラバラに切り刻んでいた。

 そして標的をイギーへと向けてきたので、イギーはヤバいと感じて馬鹿犬のフリをして難を逃れようとした。

 ハヤブサは、この犬は別に敵じゃないと判断したのか、門の向こうへ飛んでいった。

 イギーは、ホッとし早々に立ち去ろうとすると、どうやら先ほどの犬たちの飼い主らしき少年がやってきた。

 イギーに自分の犬たちを知らないかと尋ねてきたがイギーは犬だ。喋れるはずもない。

 だが少年は、門の所に流れる血の海に飼い犬の首輪を見つけてしまった。そして門に近づいた。

 イギーは焦るが弱肉強食だ、自分は関係ないと立ち去ったが……。

 少年が門の向こうでハヤブサに喰われている飼い犬たちを見つけて悲鳴を上げ、ハヤブサに襲われそうになった時、戻って来てハヤブサを攻撃した。

 そして少年は泣きながら逃げていき、イギーは、ハヤブサと不本意だが対立することとなった。

 ハヤブサは、氷のスタンド使いらしく、地面に氷を走らせ、足を封じてから氷のミサイルのようなツララを放ってきた。

 イギーは、足の裏が破れるのも構わず咄嗟に逃げた。下水道に。

 しかし、ハヤブサはどうやってか、下水道に侵入してきてイギーを追撃してきた。

 その時、花梨が現れ、イギーを庇ったのだ。

 そして…、今に至る。

 

 

『謝る暇があるなら、さっさと…。』

 その時、ザ・フールで作っていた擬態の壁が氷のミサイルで貫かれ、頭上スレスレで攻撃が当たらず、背後の水道管が貫かれて破裂した。

『しまった! 見つかっちまった!』

「イギー…。」

『うお!? 花梨!?』

 花梨に掴まれて横へ投げられたイギー。

「ホワイト・アルバム! 『ジェントリー・ウィープス』…!!」

 イギーを投げた直後、ザ・フールの壁を破ってきた、奇妙な衣装を纏ったハヤブサが氷のミサイルを放つ。

 それを大気を凍らせ凍った空気の壁を作り上げた花梨のスタンドにより、ミサイルは凍った空気に当たって砕けた。

「イギー…、逃げて…。」

『て、てめぇ…!』

「この技は…、パワーを消費するから長くはもたない…。だから、逃げて…、ジョースターさん達のところまで。」

『ちくしょう…、ちくしょう!!』

 イギーは、背を向けて下水道の向こうへと走っていった。

 花梨は、それを気配で感じてホッとし、力尽きるように目を閉じようとした。そしてトドメだとばかりに、ハヤブサが氷のミサイルを放とうと構えて、放った。

 しかし、それは、当たること無く、突如現れたザ・フールの前足により弾き飛ばされた。

『!』

 ハヤブサが目を見開く。

「イギー…?」

『いいか! 俺は、てめぇを助けるんじゃねぇ! これは、俺のプライドの問題だからな、勘違いするなよ!?』

「……あなたは、すごい…。」

『へんっ! あったりまえだぜ!』

『キュオオーーン!』

『とっとと傷を治して援護しな!』

「うん…。」

 ハヤブサは、氷のミサイルを放つ。それをイギーがザ・フールで防ぐ。

 花梨は、その間に下水道に流れ着いたであろうゴミを拾い、ゴールド・エクスペリエンスで傷口を癒した。

 痛みが残る治療ではあるが、耐えて、起き上がる。

『キュオーン!』

「イギー…、砂で防御を。」

『ナニする気だ?』

「これだけ水があれば……。知ってる? 雲って、水蒸気なんだよ?」

『ああ? ……分かったぜ。』

『キュオーーーーーーン!』

 下水道内をすべて凍らせんばかりの冷気を放つハヤブサ。

「マジシャンズ・レッド!」

 その冷気を熱気で相殺する。するとブシューーっと水蒸気が舞い上がる。

「知ってる? 雷はね……、近いところに…落ちるんだよ。」

『! キュ…。』

「『ウェザー・リポート』!!」

 下水道内にゴロゴロと音を鳴らす雲が発生し、ハヤブサが異変に気づいた時には、ゴロゴロドーン!っと雷がハヤブサに落ちた。

 ブスブスと焦げ、煙を吐き出しながら、ハヤブサが下水の床に落ちた。

『や、やったぜ!』

「……。」

『花梨! おい!』

「ごめんね…。なんか…分からないけど…、心が、消えていくような…気がする…。少し、休ませて…。」

 花梨は横に倒れ、そのまま眠った。

『おいおい、こんなクッセーところで寝るか? ったく…、運べねぇぞ? ……えっ?』

 イギーがハッと気づいた時には、氷のミサイルがイギーと花梨の間に刺さった。

『こ、この野郎! ま、まだ…!?』

『キュオ…ォ…。』

 ハヤブサがフラフラと起き上がる。その背後にスタンド、ホルス神を浮かべて。

『う、うおおおおお! 氷が走る! しまった足が! 俺のスタンドまで! 花梨!』

 しかし、花梨は起きない。

 ハヤブサが残る力を振り絞っているのか、無数の氷の弾丸を生成する。

『キュオーーーーーーン!』

 せめて貴様だけでも、死ネ!っと言わんばかりに氷が放たれた。

 イギーの眼前に迫った氷は、何かの手が止めた。

『……? 花梨か?』

 花梨の背から燃え上がる白い炎から伸びるスタンドの手が氷を防いだのだ。

 ハヤブサは、忌々しそうに睨んでくる。そして再度氷のミサイルを生成する。

 すると白い炎が形を変え始める。

 

 それは、まるでケンタウロスのような形状だった。

 

『キュ…ォ…。』

『?』

『……キュオ…ン…。』

 ハヤブサは、そのスタンドを見て、目を大きく見開き、やがてナニかを諦めたかのように、まるで悟ったかのように目を瞑り、生成した氷のミサイルの矛先を、なんと自らに向けた。

『なにを!?』

 イギーが驚愕していると、ハヤブサは、氷のミサイルで自分自身を貫き、潰して絶命した。

『な…なんでだ…? コイツどうして…?』

 イギーが信じられないと震える。

 すると白い炎が触手のように蠢き、潰れたハヤブサの方へ移動すると、そこから抜き取るように、ホルス神とハヤブサの魂を浮かべ、そのまま自らに溶かすように取り込んだ。取り込み終えると白い炎は消えた。

「……。」

『花梨? おい、花梨!?』

 ユラリと起き上がった花梨だったが、その目と表情には、『心』が無いみたいだった。

 座り込んだ状態で、花梨はブツブツとナニかを呟く。

 

「天国の……時は……。」

 

 焦るイギーを余所に、立ち上がった花梨は、フラリフラリっと危ない足取りで下水道の奥へと向かって行く。

『待てよ! ちくしょう! どうなっちまったんだ!? 追うか? いや…、アイツらに…。』

 イギーは、出口を目指して走った。

 イギーがジョースター一行の元へ行き、そして花梨のいるところへ匂いを辿って行くと、門が開かれているDIOの館の中へと花梨が入って行く姿があった。

「花梨!」

 走る一行が名を呼ぶが、花梨はそのまま館の奥へと行ってしまった。

『ちくしょうちくしょーー! いったいどうなってやがるんだ!? 最初に花梨に会った時から感じていたアレが…、何かが…、この旅でどんどんデッカくなって…、とうとう? どうなっちまうんだ!? どうなるんだ!? 天国ってなんだよ!?』

 イギーは、ジョースター一行には分からない犬語で悪態を吐いた。

「待てよ…、この館は…、それにあの潰れた車は…!」

「もう分かった! イギー、ここがそうなんだな?」

「DIOの…館…。」

 一行はついに、最大の目的であったDIOの本拠地に来たのだ。

 焦った花京院が開かれている扉に入ろうとしたので、ジョセフが肩を掴んで止めた。

「焦るな!」

「ですが…。」

「気持ちは分かる! 花梨がなぜ…、この館に吸い込まれるように入って行ったのかは分からん! だが何かがおかしいことは少し前からあった!」

「…偶然なのか?」

「承太郎?」

「花梨が、俺達と旅をしていたのは、本当に偶然の成り行きだったのか?」

「なにを言ってるんだ?」

「どういうことだよ? まさか、花梨が実はDIOの仲間でした~、なんてありもしないオチをつけてぇのか!?」

「違うな…。花梨は知らなかったんだぜ。たぶんな…。」

「知らなかった?」

「俺も分からない。だが……今の花梨をそうさせたのは……、おそらくは、俺達のせいだ。」

「僕らが?」

「『白き炎に、罪人の魂をくべる』。ンドゥールという男がそう言っていた。白い炎ってのが、花梨のスタンドのことだとしたら、DIOは、わざと俺達に刺客を寄越して、そして死んだ魂を花梨のスタンドに喰わせていたんだとしたら? そして、俺達はそれを知らずに向かってくる敵を倒してきた……。結果、花梨はDIOの目論見通りに完全に無意識で敵の魂と、スタンドを食い続けて……。」

「だとしても…、なぜDIOは、花梨ちゃんにそんなことを? 理由がまったく分からない!」

「それは、本人に聞くしかねーな。」

「行くんだな?」

「もう時間がねー。お袋を助けるにしても、花梨をなんとかするにしても、行くしかねーんだ。」

「……よし。行くぞ!!」

 一行は、花梨が消えた扉の向こうへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 




花梨の異変がピークに!?


ここからは、もうオリジナル展開オンリーかも。


よっしゃあ! ラストまであと少しだ!


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散っていく命と、花梨が吐き出す泥

勢いに乗って、ドンドン行きますよ!


イギーの死因が原作とは違います。


注意!!


 

 これは、夢?

 

 それとも……。

 

 花梨は、知らない建物の中の床で倒れていた。

 

 うつ伏せで、うまく動かない体でなんとか首だけ動かして見上げると、そこには探していたあのケンタウロスのようなスタンドがいた。

 

 薄ぼんやりとしているが、そのスタンドはそこに立っている。

 

 あなたを探してた…。そう言いたいが言葉が出ない。

 

 すると、コツリッと固い靴音が聞こえたので、そちらを見ると、金色に近い黄色の靴とズボンが見えた。見上げたくても首が動かない。

 

 

「……あと二人ほどで完璧と言ったところか。」

 

 ぼんやりした頭ではすべての言葉を聞き取れない。

 途切れ途切れだが聞こえたのは……。

 

「………ス。お前に最後の任を与える。」

 

「……の言葉を。お前に刻む。」

 

「…そして、死ね。奴らを殺す殺さないは自由だが。」

 

「…レンス…と、お前の死で…。」

 

「我が『天国』は、完成する。」

 

 

 なんのことを言っているんだろう?

 花梨はぼんやりとしたまま、やがて眠気が来て、そのまま眠ってしまった。

 

 

 

 

 

 どれくらい眠っていただろう?

 花梨は目を覚ました。

 重たい体を起こして周りを見回す。そこは、まるで迷路だった。

「どこ…?」

 自分は確かイギーと一緒に、あのハヤブサと戦って…、それからどうした?

 そこからの記憶が途切れている。なぜ自分がひとりでこんなところにいるのかさえ分からない。

 とにかくこのまま座り込んでいても仕方が無いので、花梨はふらつきそうになりながら立ち上がった。

 その時だった。

 フワ~っと、霊魂が飛んできた。その先頭に自分のスタンドの白い炎の鳥がいる。

 そして、蜃気楼が消え去るように迷路の景色が消え、古い作りの建物の内部が露わになった。

「あなたが、迷路を作ってた?」

 自分の元へ運ばれてきた霊魂に尋ねる。

 霊魂は震えながら花梨にしか聞こえない声で、DIOの命令で屋敷の中にスタンドの力で迷路を作っていたことを語る。

「DIOの…館? ここが?」

 なぜ自分がたったひとりでそんなところに?

 もしかして…っと、花梨は思い当たる。

 あの黄色い靴とズボンの男の足は、DIOだったんじゃないかと。

 そういえば、ジョースターの血筋は、同じ血筋の気配を感じることが出来たはず…。あの足がDIOだと思えたのは、その血筋センサーなのだろうか?

 そういえば、なんとなくこの館にイヤな気配がたちこめている。ドス黒い…気配が。

 そう考えると花梨はブルッと体が震え、自分の体を抱きしめた。

 

「アヴドゥルーーー!!」

 

「……えっ?」

 通路の向こう側にある階段の下からだろうか、ポルナレフの悲鳴じみた絶叫が聞こえた。

 

『花梨…。無事だったか…。』

 

「あ……。」

 フワリッと現れた霊魂の姿に、花梨は震えた。

『急いでくれるか? ポルナレフと、イギーを…頼む。』

「!」

 花梨は、唇を噛み、立ち上がるが、力が上手く入らなくてこけた。

「く…!」

 

「! 花梨!」

 

 階段を登ってきたポルナレフとイギーがこちらに気づいた。

「無事だったか!」

「ワンワンワン!」

「アヴドゥルさんが…。」

「っ……、それより、立てるか!? 敵が来る! とんでもねー奴だ!」

「はい!」

 ポルナレフの手を借りて立ち上がった花梨。

『気をつけろ! 来るぞ!』

「ハッ!」

「うお!?」

 アヴドゥルの霊の声でハッとした花梨は、ポルナレフを掴んで引っ張った。直後、ポルナレフがいた床に穴が空いた。

 

『…外したか。』

 

 空間が歪み、球体型にまとまっているスタンドが姿を現わす。

 その口からひとりの男が顔を覗かせた。

「奴だ! 奴が、アヴドゥルを!」

「…その女以外は、このヴァニラ・アイスのクリームの暗黒空間で粉みじんにしてくれる。」

「…私?」

「どういうことだ!?」

「貴様らの知ることではない。すべては、DIO様のご意志だ。」

「どうして…?」

「死ね。」

 ヴァニラ・アイスは答えず、スタンド、クリームの中に入ると、姿を消した。

「マズいぜ!」

「ワンワンワン!」

 イギーがザ・フールの砂を舞わせ、クリームの形を象る。

 凄まじい速度で砂を消し去りながら迫ってくるクリームを、ポルナレフはシルバー・チャリオッツの剣戟で迎え撃つが、フッとクリームの存在が消えて、天井に穴が空いた。

「天井に! クソーー、ちょこまかと移動しやがって!」

「ホワイト・アルバム! ジェントリー・ウィープス!」

 凄まじい冷気が発射され、空気がビシビシバシバシと固まる音が鳴る。

『!?』

 ポルナレフのすぐ傍で一瞬顔を出したクリームの顔が凍結する。

「今!」

「オオオオオオオオオオオオオ!!」

 凍って隙が出来たクリームとヴァニラ・アイスの頭部を、シルバー・チャリオッツの針剣が貫いた。

「取った!」

「ぐ…く…。」

「なに!? 頭を貫かれて…。」

「あなたは…、もう人間じゃ…。」

 花梨は、察した。

 ヴァニラ・アイスは、すでに人間では無いのだと。おそらくDIOにより吸血鬼かゾンビになっていると。

「おのれ…! 貴様らは…必ずこの私が仕留める! DIO様の求める『天国』のため! 何も知らぬテレンスが死に、そして私が死ぬ時に!」

「なにーー!?」

「DIO様のため、花梨以外は死ね!!」

 クリームの手がシルバー・チャリオッツの空いている左手を掴み、自身に近づけた。すると見えぬ部分に触れたシルバー・チャリオッツの左手の一部が砕けて消えた。

「うおおおおおおお!?」

 ダメージフィードバックで、ポルナレフの左手が同じように欠けた。

「アオーーーン!」

 ザ・フールが巨大化し、砂の塊となってヴァニラ・アイスに突撃した。

 すると、ヴァニラ・アイスを入れているクリームが壁へと叩き付けられ、刺さっていた剣が抜けた。

「クレイジー・ダイヤモンド!」

「すまねぇ!」

 花梨がすぐに治療した。

 ガラガラと崩れていく壁。瓦礫の下からヴァニラ・アイスがクリームと共に這い出てきた。

「DIO様は…、言われていなかった…。花梨という女の…手足をもいではダメだとは…。」

「!」

「命だけは奪わぬ! だが、その手足は奪わせて貰うぞ!」

 クリームの中へ入ったヴァニラ・アイスが姿を消した。

「マズいぜ! 花梨、逃げ…。」

「下!」

「えっ? しま…っ。」

 二人の間の床からクリームが顔を出し、花梨の右足の先を消し去った。

「ああ!」

「花梨!」

「女…、お前はそこで大人しくしていろ。」

 床から現れたクリームの手が花梨を突き飛ばしてポルナレフとイギーから離した。

「花梨! てめぇ!!」

「これで傷は癒やせない。今度こそ殺す。」

 クリームが消えた。

 その時、花梨は急な吐き気を感じ、耐えきれず床にナニかを吐き出した。

 それは、赤黒い泥の塊だった。

「なっ!? そ、ソレは…。花梨…おまえ…。」

「ワンワンワンワンワンワン!」

 咳き込む花梨の傍らで吐き出された泥の塊がたちまち膨れ上がり、奇怪な形を作り上げる。

 そして、触手を伸ばして姿を消しているクリームに絡みついた。

『ぐ、ぐああああああああ!?』

 たちまち姿を現わしたクリームから、ヴァニラ・アイスが転がり出た。

「こ、れは…なんだ? この苦痛…は…?」

「隙ありだ!」

「アオーン!」

 ダメだとばかりにイギーが鳴いた。

 その瞬間、赤黒い泥の怪物がポルナレフに襲いかかろうとした。

「なっ…。」

「アオーーーーーン!」

「イギー!?」

 ザ・フールがポルナレフを突き飛ばし、ザ・フールがイギーもろとも、泥に飲まれた。

「イギーーーー!!」

「あ、ああ……。私は…、イヤだ…こんなの…。」

 それを見ていた花梨はガタガタと震えながら口を押さえた。口を押さえた端からボタボタと黒い泥のようなモノが漏れてこぼれ落ちる。

「この女は…危険だ!! DIO様にとって!! ならば!!」

 フラフラと立ち上がったヴァニラ・アイスがクリームを出し、花梨を殺そうと腕を振り上げさせた。

 その腕が花梨の頭部を捉えようとした直後、ヴァニラ・アイスの腹部と胸に大きな穴が空いた。

 赤黒い巨大な棘が彼の体を貫きそのまま持ち上げた。

「ガッハ…! ち、違う…これは…コレは…! DIO様がお求めになられている…モノ…じゃ……。」

 血を大量に吐いたヴァニラ・アイスの体を、クリームごと喰おうとした。

 その瞬間だろうか、その口らしき部位の奥からザ・フールが飛び出し、赤黒い泥を内部から破壊した。

「ザ・フール! イギー、生きて…。」

 グズグズと崩れていく泥から、泥まみれのザ・フールとイギーが出てきて、棘に刺されていたヴァニラ・アイスの体が床に落ちた。

 イギーは、ゼーゼーハーハーと荒い呼吸をしていたが、急に倒れ込んだ。そしてザ・フールも砂となって消えた。

「イギーー!」

 ポルナレフが駆け寄り、イギーを抱き上げた。

「……イギー? おい? 嘘だろ…? なあ? 俺の髪の毛を毟ってみろよ。なあ、おい!」

 抱き上げた瞬間に感じた鼓動のないイギーの体に、ポルナレフは焦り、泥を拭ってやりながら声をかけ続けた。

「イギーーーーーーーー!!」

 ポルナレフは、大粒の涙を流して絶叫した。

「貴様を…、貴様だけでも…。DIO様には近づけさせ…な…。」

 体に二つ大穴が空いているヴァニラ・アイスが立ち上がり、花梨を狙った。

「……ま…マジシャンズ・レッド!」

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!? なんだとーーー!?」

「燃え尽きてしまえ!!」

 白い炎の花から発生したマジシャンズ・レッドの爆炎が、ヴァニラ・アイスを包み込み、やがて骨まで燃え尽きさせた。

 ヴァニラ・アイスが死亡し、残されたのは、静寂だった。

「ごめんなさい…。ごめんなさい……。」

「花梨…お前…? まさか…今まで出てきたあの泥みたいな化け物達は…お前が?」

「私の…せいだ……。ゴホッ…。」

 ボロボロと泣く花梨は口を押さえ、咳き込んだ。すると、ボタッと手の隙間から泥が落ちた。

「花梨!」

「………殺して…。」

「!?」

「体が……、もう…。」

 花梨の背中から燃え上がる白い炎がやがて、ケンタウロスのような形状へと変化していく。

 すると花梨の脳内に、14の言葉が駆け巡った。

 

 

『らせん階段』

『カブト虫』

『廃墟の街』

『イチジクのタルト』

『カブト虫』

『ドロローサへの道』

『カブト虫』

『特異点』

『ジョット』

『天使(エンジェル)』

『紫陽花』

『カブト虫』

『特異点』

『秘密の皇帝』

 

 

「イヤだ……。ママ…パパ……、助けて…。」

 花梨は、フラフラと立ち上がり、ヴァニラ・アイスが開けた館の壁から外へと転落した。

「花梨!」

 ポルナレフは、イギーの遺体を抱えたまま穴へ身を乗り出したが、どこにも花梨の姿は無かった。

 

「ポルナレフ! 無事か!」

 

「ジョースターさん…!」

「アヴドゥルは? イギー…まさか…。」

「アヴドゥルもイギーも…けど…、イギーは…、あの泥で…。」

「なに?」

「花梨が…あの泥みたいなもんを吐き出して……。そこから落ちた…。」

「花梨ちゃん!」

 花京院が穴から下を見ると、どこを見ても花梨はないなかった。

 

 

「ふふふ…。ご苦労だった。」

 

 

「てめぇは…。」

「DIOか!?」

「花梨ちゃん!」

 見ると、通路の奥の階段の上に、花梨を小脇に抱えたDIOが立っていた。

「思わぬ収穫だった…。まさかこのような形で近道が出来るとはな。礼を言うぞ。」

「なにが目的なんじゃ!!」

「ふふふ…、それを知りたければ…、私を追って来い。もう間もなくだろうが。」

「なにを…。」

「来るがいい。」

 そして、DIOが花梨を抱えたままフッと姿を消した。

「どこへ!?」

「いかん! 実にマズい! 奴の時間が来る!」

 

 時間はすでに、日が落ち、夜の時間へと変わっていた。

 

「なんだ?」

「どうした?」

「時計が…、早くなっておる?」

 時計を見ていたジョセフの声で時計を見ると、時計の針が奇妙なほど早く動いていた。

「なにかマズい!! 早く追うぞ!」

「しかし、どこに!?」

「わしら、ジョースターの血筋がDIOの位置が分かるように、向こうもわしらの位置が分かる! それで追うぞ!」

 一行は、DIO、そしてDIOに攫われた花梨を追って、館から飛び出した。

 

 

 

 




イギーの死因は、泥に飲まれた事による浸食死…かな?


アヴドゥルは原作通り。テレンス戦も原作通りです。

なお、テレンスは、自分が死ぬようにされていたことを知りませんでした。

あと、DIOの方も、花梨の身に起こっている異変の全てを知ってはいません。つまり、泥のことを知らない。


さー、もうすぐラストバトルだ! 頑張るぞー。


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天獄へ

勢いづいたので一気に行こうかなって。



花梨の物語は、母・ミナミと違って悲しい物になります。


 

 

「気がついたか?」

 

 花梨は、目を覚ました。

 確か自分は館から落ちたはずだった。

 だが建物の屋根の塔を背に、座らされている自分の前にいるのは、あの黄色い…、いや、DIOだ。

 

「ここなら、満月が綺麗だろう?」

 そう言って顎をしゃくって満月の月を示す。

「……私は…。」

「お前は、いわばサナギだ。」

「さなぎ…?」

「お前は、この世界によく似た別の世界から来た者だ。」

「!」

「お前の世界にも、我が友がいたはずだ。彼が教えてくれたよ。お前が連れて来たのだ。我が友の魂を宿せし、天国への力(スタンド)を。」

「私が…?」

「お前は、アレを探して、旅に同行していたようだが、実はお前の中にずっといたのだ。つまり、お前は知らず知らずのうちに、私が求める天国への道を切り開いた。だが、足りなかったのだ。そのためのエネルギーが。だから、数多の罪人の魂を取り込ませる必要があった。」

「…だから……。」

「その通りだ。私がお前達に寄越したスタンド使い達の魂は美味かっただろう?」

「……酷い…。」

「ひどい? それはお前にも言えることでは無いのか? お前さえ現れなければ…、お前さえいなければ…、死なずに済んだ魂も数多あっただろうに。」

「っ…。」

「まあ、こうして会話をしてやっているのも、冥土の土産という物だ。お前は、もうすぐ羽化と共に死ぬ。……ほぉら、来たぞ。無駄なあがきをしている者達が。」

「…花京院…さ、ん…。」

 DIOが見た方向を見ると、建物の下の方に、車で駆けつけたらしい花京院達の姿があった。

「DIO! 花梨を返せ!!」

「ちょうど良い、お前達が最初の生け贄としてやろう。」

「なに!?」

「花梨ちゃん!」

「うぅ…。」

「時は来た。さあ…、出ておいで。我が『天国(メイド・イン・ヘブン)』よ。」

「ぅ…あああああああああああ!!」

 花梨の左側の体から、バキメキとケンタウロスのようなスタンドが羽化するように出てきた。

「DIOおおおおおおおおおおおおお!!」

「ふんっ。」

 ハイエロファントグリーンのエメラルド・スプラッシュが放たれたが、それをDIOは、指先ひとつで弾き、玉突きのようにすべての破壊のビジョンを防いだ。

 ふと気づくと、スタープラチナを使って建物を登ってきた承太郎が横まで来ていた。そしてスタープラチナを被せた腕を振りかぶる。

「メイド・イン・ヘブン!」

「!?」

 ブンッとDIOが消えて、攻撃が当たらなかった。

「『加速した時』の中では、貴様の攻撃がどれほどのスピードであろうとも無意味…。」

「加速だと…?」

「お前達がどう足掻こうとも、我が天国の時は来ているのだ。お前達は天国へ足を踏ません。ここで死ぬが……、?」

「?」

 DIOの様子が変わったので、承太郎は訝しみつつ、チラッと後ろにいる花梨の方を見た。

 そこには、花梨から羽化しようとしていたメイド・イン・ヘブンの関節という関節からドロドロと赤黒い泥があふれ出している光景があった。

「なん…だと…? これは…。」

「オラァ!!」

「チィっ!」

 隙ありっとばかりに承太郎がDIOに攻撃をしたが、DIOは、自らのスタンド、ザ・ワールドを出して防いだ。

「エメラルド・スプラッシュ!!」

「ハーミットパープルand波紋!」

「シルバー・チャリオッツ!!」

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!」

 それぞれの攻撃をすべていなすが、DIOは内心では状況が飲み込めていなかった。

 メイド・イン・ヘブン。

 それは、DIOにとっては、彼が求める天国へ導くスタンドだ。

 だが、今はどうだ?

 羽化しようとしていたメイド・イン・ヘブンは、関節から赤黒い泥を出しながら崩れていく。

 そして、とうとう形を保てなくなったメイド・イン・ヘブンが、ズシャッとバラバラに崩れて泥の中に沈んだ。

 膝立ちになった花梨の顔…、液体が出る部位、目、鼻、口、耳から赤黒い泥が吐き出されていく。

 それは、広がり、建物を溶かして崩していった。

 崩れた建物から、DIOと、承太郎達が逃げる。

 花梨は、そのまま地面に降りていき、顔から泥を吐き出し続けていた。泥は広がり、まるで穴のように広がっていく。

 やがて泥が蠢いた。そして名状しがたい物体達と言うべきか? そんな物体が形作られていき、鳥肌ばかりが立つような奇怪な鳴き声を上げながら大軍となってカイロへと歩を進めだした。

「なんだこれは…、なんだコレはーーーー!?」

「おい!? てめぇが言う天国ってのはコレのことか!?」

「違う…、これは天国などでは…、地獄…? いや…“天獄”?」

 狼狽えるDIOに、承太郎が聞くと、DIOは首を振った。

「うわあああああああああ!」

 名状しがたい物体達がこちらに襲いかかってきた。

 DIOは、飛び上がって建物の屋根へ逃れ、承太郎達は名状しがたい物体達に取り囲まれた。

「くそおおおおおお!」

 ジリジリと間合いを詰めてくる名状しがたい物体を、シルバー・チャリオッツが針剣で貫き、切り裂く。

 名状しがたい物体達の体は、泥から生まれたからか脆く、すぐに崩れるが、泥の穴から次から次に現れるためまったくキリが無い。

「うが、ああああああああ!?」

 うっかり近づかれ触られると、そこから凄まじい苦痛が全身を襲う。それは、まるでこの世全ての罪や悪意のような、そんな苦痛だった。

 泥から作られる穴も広がっていく、まるでカイロを…世界を飲み込まんとしているかのように…。ジワジワとだが確実にゆっくりと広がっていく。

「こんな物が…、たかがひとりの女に? こんな物のために……。」

 DIOは、広がっていく泥を見おろしながら、DIOは、首を振った。

 完全なる計算違いだとDIOは、おそらく生きてきた中で最も後悔していた。

 その時、DIOの足を、名状しがたい物体が掴んだ。

「グオオオ!?」

 脳を駆け巡る凄まじい痛みと苦しみ。それは吸血鬼でも耐えがたいモノだった。

 DIOは、足を掴んだソレを蹴って潰し、頭を押さえてふらついた。

「これは…、悪意? この世の…すべての…? 馬鹿な…なぜあの女が…花梨にそんなモノが…?」

 すると、足場にしていた建物がぐらついた。泥が広がり、そこに建物が飲まれようとしていたのだ。

「どうしたら? どうしたらいい!? 落ち着け、考えるんじゃ…!!」

 ジョセフ達は、名状しがたい物体達から逃れるため、スタンドを使って高く飛び、建物の屋上から屋上へと移動していた。しかし、泥に街が飲まれつつあり、次々に建物が穴へと沈もうとしていた。

 見れば、花梨は変わらず穴の中央で泥を吐き続けている。

 これは…、どう考えても…。

「やれというのか? やるしかないのか!?」

「ジョースターさん!」

「花京院! お前の気持ちはよーく分かっている! じゃがのう…、この状況を見ろ! このままではどうなるか!」

「いえ…違います…。」

「花京院? …! お前…、その傷は!」

「すみません…。飛び上がるときに…やられました…。」

 花京院は、腹部の横を手で押さえていた。赤黒い血があふれ、彼の制服を大きく濡らす出血量。内臓までやられているのは分かった。

「……僕は…もう、ダメです…。」

「諦めるな。」

「承太郎……、ごめん。ポルナレフ、ジョースターさん…、後は…よろしくお願いします。」

「なにを!?」

「たぶん…、これが…僕の…運命だったんでしょう。僕も見ていたんです。彼女と同じ夢を…。僕が…『門』を閉じてきます。」

「花京院…。」

「何をする気じゃ!? まさか…。」

「ジジイ、行かせてやれ。」

「承太郎!」

「行け、花京院。」

「……ありがとう。」

 花京院は笑い、それから泥へ沈んでいく建物から建物へ移動していった。

 そして、泥の中央にいる花梨の傍へと降り立つ。

「花梨…。来たよ。」

「……。」

「…ごめんね。守ってあげられなかった。辛かったよね? 悲しかったよね? あんな辛い夢を見続けて…こんな結末は……イヤだよね?」

 花京院は、膝を折り、花梨の正面から抱きしめた。

「……これからは、ずっと一緒だよ。」

 そう言い目を瞑った花京院を、穴のように広がっていた泥が渦を巻きながら花梨ごと飲み込んだ。

「かきょういーーーーーん!!」

 ポルナレフとジョセフの悲鳴じみた絶叫が木霊した。

 承太郎は耐えるように拳を握り、唇を噛んだ。

 

 そして…、包み込まれ竜巻のように渦巻いていた黒い泥の内部から白い光りが漏れ、すべての泥を浄化するように白い炎が黒い泥を燃やし尽くした。

 

 

 

「……花京院…さん?」

 花梨は、目を開けた。

 自分を抱きしめる花京院の存在。

 しかし、花京院は答えない。

「花京院さん…?」

 その体に触れると、花京院の体がズルリッ横へ倒れてしまった。

「…あ……。」

 花梨はそうなってすべてを悟った。

 

 燃え上がる白い炎が教えてくる気がする。

 自分がこれまで無意識に取り込んできた罪人達が解放されていく気がする。

 そして……。

 あの天使と悪魔の絵が彫られた門の前に…花京院は…。その魂は……。

 

「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 花梨は頭を抱えて天に向かって絶叫した。

 

 門の前にいる花京院の服装は、緑から白へと変わっており、振り返る。

 その顔は、まったく憎しみも恨みも無く、ただ晴れやかだった。

『これで…、君と永遠に一緒だよ。花梨ちゃん。』

 花京院は嬉しそうにそう言って笑った。

 門の前にあった赤黒くなっていた泥も、これまで倒してきたスタンド使い達の死体も消えていた。

 

 花京院という『人柱』を得て、門は閉まり、浄化されたのだ。

 

 

 

 




最後の方書いてて、花京院、若干のヤンデレ?って思ったりした。
ヤンデレの定義はちょっと分からないけども。
ここでの花京院は、花梨がいずれ元の世界に帰るならっという気持ちもあって、自分の最後も悟ったことが重なり人柱になることを選びました。

花京院(パラレルワールド)は、これで門の守り人(人柱)として花梨の傍に永遠にいることになります。
なお、花梨の住む元の世界での花京院には影響はありません。




次回辺りで、最後かな……、それとももうちょっと先か。


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思い人は、門の守り人(人柱)として

一応、これで最後です。


DIO戦は、はしょった。いまだかつてないことだけど!





後日談的なモノです。


 

 

「花梨!」

「………………ま、マ…?」

「私が分かる?」

「ここは…。」

「病院。」

「あぁ……、うぅう…。」

「花梨!?」

「ごめんなさい…、ごめんなさい!!」

 花梨は、ベットの上で両手で顔を覆った。

 繋がっている心肺装置が大きく乱れたため、SPW財団の医師達が駆け込み騒ぎになった。

 

 

 花梨は、意識不明で発見された。

 その後、50日近く昏睡しており、スタンドの白い炎が発生したため、スタンドによる害悪だと思われていた。

 目を覚ました花梨は、パニック状態に陥り、鎮静剤を使われるなどしてひとまずは落ち着かされた。

 何があったのか、入院している間花梨は、少しずつ語り出す。

 同じようで同じじゃない過去の世界に行っていて、そこでDIOを倒す旅に同行したこと。

 花京院に好意を抱いたこと。

 そして……、自分がその別世界のイギーという犬や花京院を死なせてしまったことなど。

 花梨の体は、ずっと病院にあったので、意識だけが現実のような夢を見ていた、と判断するにはリアルすぎる。

 そして何より、内容が明らかにミナミと仗助、そして承太郎と花京院が旅したあのDIO討伐の旅に酷似しているのも引っかかる。

 ただ、あの旅で死んでない人間が次から次に死んでいたのだ。そのすべてがメイド・イン・ヘブンを体内に取り込んでいた花梨を使ってメイド・イン・ヘブンを羽化させようとしていたDIOのやり口だと聞いて、メイド・イン・ヘブンを知っているミナミ達は、驚いた。

 なによりパラレルワールドなる世界へ飛ぶきっかけになったのが、そのメイド・イン・ヘブン(らしきスタンド)だと聞いて、驚いたし、呆れたし、怒ったりと大変だった。いつも通りのつもりで迂闊に触るんじゃない!っと。しかし結局、無意識に死人や死んだスタンドを持って来てしまうのだから、言っても無理だろうっとミナミも父・ナランチャも諦め気味ではある。

 

 その後であるが、花梨は、酷く落ち込み、暗くなってやつれた。

 パラレルワールドとはいえ、悲劇に見舞われたことや起こしてしまったことを後悔しているのかと話を聞くと、ボソボソと、門の人柱になった花京院(パラレルワールド)が、ずっといるのが分かるのだという。しかし、花梨にしか視認できないらしい。ただあの昏睡から変わったことと言えば、何かと保護者みたいにムーディーブルースが出てきていたことから、なぜかハイエロファントグリーンが出る頻度が増えたことだろうか。コチラでは、花京院はまだ死んでないのでパラレルワールドのハイエロファントグリーンらしいが、言葉を喋るわけではないので確認しようもないが、出ている時間が長いので死亡しているスタンドであることは分かった。

 花京院を呼んで確認させたが、自分のスタンドとそっくりだが違うとコメント。

 会話できないかと試みたりもしたが、花梨曰く、花京院(パラレルワールド)が嫉妬しているらしく、拒否るうえに、ハイエロファントグリーンもその花京院(パラレルワールド)の意識を反映しているのかかなり攻撃的で、触るどころか会話が成り立たない。そのことで花梨は余計にふさぎ込むようになり悪循環となる。

 食事を摂ろうとせず、すっかり栄養失調でやつれた花梨に、親であるミナミもナランチャも、弟妹も気が気でない。このままだと本当に死んでしまう。

 ミナミが愛陽になんとかならんかと相談し、ブルー・ブルー・ローズによるスタンドへの干渉を行うこととなった。

 

 ミナミの意識が暗く寒い空間に投げ出され、その下にある泥に落ちた。

「ここは?」

『……余計なことをするのがそんなに好きかい?』

「えっ?」

 見ると、門のような物の前に白い服を纏った若い花京院が立っていた。その目は敵意に満ちている。

「待って! 私は、この子の…、花梨の母です!」

『母? …ああ、確かに似ている。だがそれがなんだ?』

「このままだと花梨が死んでしまう! それを防ぐために来ました。」

『僕が花梨の死を望んでいるとでも?』

「違うの?」

『まさか。……でも、それなら彼女の魂がココへ来るだろうから、永劫一緒にいられるなら、それでも…。』

「そんなこと、させません。」

『貴女は、この門がなにかご存じで?』

「門? その天使と悪魔の?」

『そう…、この門の向こう側は決してコチラ側の世界の者が触れてはいけないモノで満ちている。世界の裏側とでも言えようか。この門が開かれれば、たちまち世界は裏返るだろう。破壊をもって。』

「なぜそんなことを貴方が?」

『僕は、今やこの門の守り人…とでも言いましょうか。人柱とも言えますがね。この門はこれまで無防備だった。だから、容易に隙間が空いてそこから、裏側の世界のモノが溢れ出て害悪をもたらした。貴女が今浸かっている泥は、その残骸だと思っていただいていい。』

「なぜ花梨にそんなモノが…。」

『これが…、おそらく彼女に…花梨に背負わされた運命とでも言えましょうか。彼女は、万物を創世した神が創造せし世界を破壊する権限を持っている。そう捉えることも可能です。』

「!」

『世界という生命のアポートシス…、自殺因子とでも言いましょうか。この門はまさにその力の出入り口。僕のいた世界で一度門は開かれかけましたが、僕が死ぬことで門を閉じました。僕は、人柱であり、守り人であり、門の一部となり、未来永劫ここから逃れられません。』

「貴方は……、そこまでして花梨を…。」

『ええ。守りたかった。傍にいたかった。いずれ元の世界に帰るのならと、利用した……。』

「傍にいたいのなら、あの子の死を望むの?」

『……それは…。』

「その裏側の悪影響でも受けたかしら? もしあの子が死んだら…、その門は…、スタンドは一人歩きでするの? 世界を滅ぼすために。」

『……。』

「沈黙は肯定と取るわ。貴方は、思い人に永遠の悲しみと苦しみを味合わせるつもり?」

『それは違う!』

「だったら…、貴方も協力して。あの子が生きたいと思うように。」

『……分かりました。』

 花京院(パラレルワールド)は、頷いた。

 

 そして、意識を浮上させたミナミは、花京院(パラレルワールド)と話をつけてきたことを、ナランチャ達に伝えた。

 花梨は、その後、自分から食事をやっと摂るようなった。

 なにかあったかと聞くと、花京院(パラレルワールド)から、自分は君を恨んではいない、ただ傍にいられれば幸せだから、君は君の幸せを追求して生きて欲しいと頼まれたと言っていた。

「…恨んでくれていた方が、楽だった…。」

 花梨はそう言って泣いた。

「花京院さんが言ってた…、スタンドの名前をつけるって。それが楔になるだろうからって。名前は…、『スピリット・イン・ザ・スカイ』。それが、アナタ(スタンド)であり、私(スタンド)の名前。生きてやる……、石にかじりついてでも。」

 花梨は泣きながらそう宣言したのだった。

 16歳という多感な時期に、好き合った相手に死なれた上に、その魂が自分のスタンドと癒着していたら、そりゃショックを通り越すは……っと、不憫でしょうがなかった。

 なお、ミナミは、花梨に花梨のスタンド、スピリット・イン・ザ・スカイの門については言えなかった。そして花京院(パラレルワールド)も言っていないらしく、ヤバいスタンドだという認識だけはある状態となった。

 察しの良い承太郎と花京院達にだけは、花梨には内緒だということで伝えておいた。

 花梨が回復にこぎづけてから、スタンドの状態も調べたりもしたが、依然として死者の魂とスタンドを持って来てそれを借りるというのは変わらず、ミナミが見てきた門は出てくることは無かったし、泥もなかった。

「ノトーリアス・Bigと同じタイプ?」

 ノトーリアス・Bigとは、死んでから発動するタイプの特殊型スタンドだ。

 ナランチャとミナミが出会った頃に遭遇し、猛威を振るったのを覚えている。

 表面上は、霊能力とスタンドを取り込むという能力だが、スピリット・イン・ザ・スカイのその真の姿があの門だとしたら……?

 

「花梨の未来が心配だ…。」

「だいじょうぶ…って言いたいけど、私も色んな事があったものね。」

 ナランチャとミナミは、花梨がいる病室の外で話をした。

「あの子は、私以上の辛い運命を背負わされている…。でも…、独りぼっちじゃない。」

「?」

「あの子を想って、死んでいって、ずっと傍にいてくれる人がちゃんといてくれる。私が周りの人達に助けてもらったように。」

「信用できるのか?」

「分からない。でも信じるしかないんだよ。ソレが…、敵になるか味方になるか…、私達は見守らなきゃいけないし、戦わないといけない。けれど、最後に決めるのは、あの子…花梨だから。」

「…そうだな。」

 ナランチャは、ミナミの手を握った。

 

 

 退院した花梨だったが、元々淡々としていたのだが、余計に笑うことはなくなった。

 元々、人を寄せ付けぬ雰囲気と力を持っていたが、こうなって余計に人が離れていった。

 唯一、不思議を恐れない性格をした四ノ原野乃佳だけが花梨の傍にいた。

 ある日、花梨は野乃佳に独り言のように言った。

「…人を、好きになるって…、辛いことなんだね。」

 そう言って、野乃佳ですらほとんど見たことがなかった一筋の涙を、花梨は零した。

 

 

 

 

 しかし、そんな彼女に新たな試練が訪れるのを、誰も知らない……。

 

 

 

 

 

 

 




花梨の、第三部(パラレルワールド)の旅は、コレで終わりです。


なんか色々と期待を裏切るような真似をしましたが、元々花梨の物語はミナミと違って、悲しい終わりにしたいと思っていましたので……。

思い人が死んで、自分のスタンドとほぼ癒着しているというのは、16歳の少女には、重すぎたかな……。


しかも、このあと、まだスティールボールラン編が待っているから……。

スティールボールラン編では、スピリット・イン・ザ・スカイが、あれやこれがあって別名のモノとなり、猛威を振るうことになる予定です。





感想、お気に入り、評価、ありがとうございました!


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※思いつき加筆・リメイク
リメイク加筆版SS31  ギャンブラーvs取り立て人(※本当に怖いのは花梨だった案件?)


読み返して、思いつきで加筆したSS31『ギャンブラーvs取り立て人』の回。


ネタ連載内で、花梨がスタンド『取り立て人マリリンマンソン』を使ってダービーと戦った回です。


6部でのマリリンマンソンの使い手のやり口を思い出しつつ、スタンドとしてのマリリンマンソンの能力の恐ろしさと。

それらを超えそうな花梨の怖さを書きたくなりまして。


ですが、ここで注意して欲しいのは。

・あくまでもこのネタは、二次創作。
・スタンド能力の解釈や展開については、ネタの筆者の独断と偏見がある。
・そのため原作の本来の設定と異なる可能性が高い。


上記のことと。
そして下記の『東方花梨』のスタンド設定があります。


このネタに登場する花梨が使うスタンド能力の各種は、死者から借りた(※ホワイトスネイクによってディスク化されたスタンドも含む)、あるいは長く接していつの間にかコピーして自分が持つスタンドで再現した物です。
そのため本来のスタンドより劣化や応用が利かないなどの問題があります。
また一度に使える能力は、1種類のみで、複数のスタンドを同時に使うことは不可能。
違う能力を使用したい場合は、先に使っていた能力を解除する必要がある。
生きているスタンド使いの能力は、30秒間しか使えず、再度使用するには1分45秒ほど時間をおかないといけない。
一部、発動条件が難しい、強力過ぎるスタンド能力が使用できない。(例:レクイエム、時間操作が可能なスタープラチナなど)
本来のスタンドの持ち主ではないため、そのスタンド能力の全てを理解して把握できているかどうかで言うと恐らくできていない。
他者のスタンド能力のコピーは完全に無意識で、スタンドが勝手にコピーをしている。
コピーするスタンドを選べない。





2022/04/18から翌日まで徹夜してしまうほど熱中して書きました。





読み返して、正直ダービーがかなり可哀想なことになっているかもしれないので、ご注意を!!







それでもOKって方だけどうぞ。







いいですね?








 

 ジョセフが公衆電話から、SPW財団に連絡をした。

 娘・ホリィの容体についてだ。

 聞いたところ、あと、4、5日が限界だろうと……。

 

 そして、一行は、列車を使いカイロへと向かった。

 

 カイロに到着後、あちこち周りながら、あるカフェで尋ねた。

 ジョセフが念写したDIOの館の一部を写している写真の建物について知らないかと。

 すると店主は、ここはカフェだから何か注文してくれと言った。そしてアイスティーを全員分頼んだ。しかし写真を見た店主は、やっぱり知らないと言った。

 わずか5日程度でだだ広いカイロからDIOを探し出さなければならないのだ。列車の旅からすぐに必死に尋ねて回っているがひとつも引っかからないのだ。焦りが積もる。

 一行がアイスティーを飲み終え、移動しようとした時だった。

 

「その建物なら知っていますよ。」

 

 っと言ったカフェの客がいた。

「えっ!? 本当かね!」

「ええ。」

 その声を聞いた一行は急いで声がした方にいたテーブルでトランプを弄っているひとりの男の元へ行った。

 その男の身なりや雰囲気、容姿などはエジプト人ではない。エジプト以外の異国人であることは間違いないが今はこの男がどこのお国の人間だとか言っている場合ではない。

「教えてくれ! どこなんじゃ!?」

「無料(ただ)で教えろと?」

「むっ? それは失礼した。10ポンド払おう。さ、教えてくれ。」

「私は賭事が好きでね。あなたは賭けは好きかな?」

 目の前に出された札束を見ずに男はそう言ってのけた。

「何を言っておる? 20ポンド払う! わしらは急いでおるんじゃ!」

「私は賭事が好きでね。ま、賭事で生活費を稼いでいるのだが、くだらないスリルに目がなくってね。どうですか? ひとつ賭けをしませんか? そしたらタダでその館のことをお教えします。」

「何を言っておるんじゃ?」

「例えば…、この魚の燻製を…。」

 すると男は、魚の燻製を二つカフェの外へ投げた。

「あそこにいる猫がどちらを取るか賭けませんか? 左か右か。」

「おい、ふざんけんなよ! 50ポンド払うから、とっとと言えよな!」

 焦れたポルナレフが進み出て言った。

「もう一度言います。どちらをあそこの猫が取るか、賭けましょう。左か、右か。それだけですよ?」

「くっそ~! なら、俺が賭けるぜ! 右だ! 右を取るぜ!」

「グッド! なら私は左に賭けましょう。」

「おいおい…。」

「ところでよー…、お前が負けたら何を払ってくれるんだ? 100ポンドか?」

「金は要りません。魂…など、どうでしょうか?」

「はっ?」

 思わぬ男の言葉にポカンとなる中、ひとり花梨だけがピクッと微かに反応して男の方を見た。

「魂ですよ。魂。負けた場合、魂で払う。」

「けっ、ふざけた野郎だぜ。いいぜ、やってやらぁ。」

「グッド!」

 そうこうしていると、猫が魚の燻製を左から右へと取った。

「ああ!」

「フフフ…、見ましたね? 左から右へ。私の勝ちだ。」

「くっそ~!」

「おい、ポルナレフ! どうするんじゃ? これではこの建物のことを聞けんぞ?」

「さあ、約束でしたね。」

「へ?」

「魂で払っていただきましょう。先ほど言いましたよね? 魂で……払うと。」

「はっ? お前なに言っ…?」

「魂ですよ! 私は、魂を奪うスタンド使いだ! 賭けというのは、人間の魂を肉体から出やすくする! そこから奪い取るのが、私のスタンド能力!」

「!?」

「ポルナレフさん!」

「なにーーーー!?」

 次の瞬間、出てきたスタンドがポルナレフの魂を引っ張り出していた。

「貴様!」

「おっと、私を殺そうなどとしないことだ。私が死ねば、スタンドが掴んだ魂も死ぬ。助けたかったら賭けを続けることだ。」

 すると先ほど燻製を取った猫が男の膝に乗った。

「ところで、コイツ(猫)は、私の猫さ。」

 そしてスタンドがあっという間にポルナレフの魂をグシャグシャと粘土のように丸め、コインにしてしまった。

「貴様ーーー! イカサマじゃないか!!」

 仕組まれていたことだと気づいたアヴドゥルが憤慨して男に掴みかかった。

「イカサマ? いいですか? イカサマを見つけなかったのは見抜けなかった人間の敗北なのです。私はね、賭けとは人間関係と同じ…だまし合いの関係と考えている。泣いた人間の敗北なのです。このまま怒りのままに私を殺しますか? いいですよ? そしたらコインとなった人間も死にますが、それでいいのなら。」

「ぐっ…!!」

「申し遅れました。私の名は、ダービー。D、A、R、B、Y。Dの上にダッシュがつく。スタンドは、オシリス神。」

 アヴドゥルが手を離すと、ダービーと名乗った男は、落ち着いた様子で悠然と椅子に腰掛けなおした。

「1984年。9月22日、11時15分。あなたは、何をしていたか覚えていますか?」

「なんのことだ?」

「私は、覚えている。」

 するとダービーは、アルバム本を取り出した。

 そこには、人の顔が描かれたコインが嵌められた状態で、その下に名前が書かれていた。

 すべてダービーがこれまで奪ってきた人間の魂だと理解できた。

 ダービーは、ひとりひとり名前も、どのような勝負したかも覚えているそうだ。

 ダービーに敗北してコインにされた者達のコレクションアルバムを花梨はジッと見ていた。

「こ、こいつ…。」

「こうやって、ひとりひとり…、俺達を…。」

「面白いですね。似たようなスタンドがいるなんて。」

「花梨!?」

 戦慄する一行の中で花梨が場違いなほど落ち着いた声で『似たようなスタンドがいる』と言ったため、ダービーが少し驚いたように声を漏らし頬杖をついた。

「ほう? そちらのお嬢さん…、いや、花梨と言ったか。複数のスタンドを使いこなすとは聞いている。その中に、私のスタンドに似た物があると?」

「ええ。大変、すごいスタンドですよ。試して…みます?」

「それはぜひ見てみたい。実に興味引かれる。」

「言いましたね?」

「花梨ちゃん、ダメだ! この男に不用意に…。」

「なにも賭けをするのは、この人じゃなくてもいいです。」

「? それは、どういう…。」

 自分に向けて使わない気でいる花梨にダービーが眉をひそめる。

「あちらの方に協力してもらいます。すみません。」

「ああ? なんだ、お前?」

 近くにいたガラの悪い客に話しかける花梨。

「少し……、お尋ねしたいことが。」

「なんだよ?」

「あなたは…、あそこの賭けテーブルにいるダービーという人の仲間ですか?」

「!」

 それを聞いたダービーも、ジョセフ達も驚いた。

「はあ? 何言ってんだ?」

「あなたが、今吸っているタバコ…、あとひと吸いで灰が落ちるに、あなたが本当のことを言うに。……賭けませんか?」

「はあ~? なにおかしなこと言ってんだ? この女ぁ?」

「灰が落ちるか落ちないか…、どっちだと思います?」

「わけ分からないこと言ってんじゃーぞ? 落ちないならいいんじゃねー?」

「じゃあ私は落ちるに賭けます。」

「で? 勝ったら何かくれるってか? おじょーちゃん?」

「欲しい物があるんです。今すぐに。」

「ほ~?」

「勝った方が欲しい物を1つ貰う。それだけです。情報でもなんでも。」

「つまり? 勝負が終わった後までリクエストが秘密ってことか?」

「そうですね。だからあなたも私と同様に欲しい物を心の中で決めておいてください。1つだけ。」

「へへっ、そりゃいいな。なんでもっつったな? 本気かよ?」

「はい。」

「っ……。」

 花梨が微笑んで返事をすると、男は花梨の美しさを改めて認識し思わず見とれてしまうが、すぐに我に返って気を落ち着かせるようにタバコを吸うと、灰が落ちた。

「落ちましたね…。あなたの負けです。」

「あ、…ああ、落ちたな。それで? 俺の負けか?」

「はい。取り立てお願いします。」

「へっ?」

 

『この店は、客も全てダービーに雇われている。』

 

「えっ?」

「花梨、そいつは!?」

 モコモコの毛皮のような表面をした、人型スタンドが男の後ろに立っていて、そして真実を口にした。

「この店全体もみんな、金で雇われ、ダービーの手のひらの上だった。これが真実です。」

「て、てめぇ、どうして!? ハッ!」

 男が慌てて口を手で塞いだが遅く、ダービーは焦った。

「貴様! まさか最初から我々に仕掛けるためにこの店を!」

「ぐっ…。」

「てめー余計なことを!」

「最初の一発は私が避けるに、腎臓1個。」

「なに!?」

 その言葉にダービーが反応。

「おおお!」

 負けた男が憤慨して花梨を殴ろうとしたら、花梨はヒラリッと避けた。

『避けられたな! 腎臓を渡せ。』

 そして、人型スタンドが男の腹にドスッと針金のような手を突っ込み、腎臓を引っ張り出した。

「ゲボォオ!?」

「なんだとーーー!?」

『色が悪い。闇市で売ってもたいした金にはならないが、取り立ての対象なので奪わせて貰う。』

 そして腕の中に腎臓が吸い込まれるように消えた。

「うががが…、だ、ダービー…さん! こんなのアリかよ……。」

「白状したな! やはり店も客も全員此奴の仲間じゃった!!」

「『こんなの聞いていなかった』と言うに…、腎臓を戻す。」

「こんなの…聞いてなかったぜ…。えっ?」

『言ったな。腎臓を戻す。』

 するとスタンドが奪った腎臓を出し、男の腹に戻した。

「…? あ、あれ?」

 自分の身に起こったことが分からず混乱した。先ほど腎臓を取り出されてから戻された腹部は何事もなく無傷で影響も残っていないようであった。きっと1回取られた腎臓も元通りの位置に戻され、ちゃんと血管などの器官も元通りに繋げ直されているのだろう。

「……分かりましたか? これが、私が持っている、賭事のスタンド。名は、『取り立て人マリリンマンソン』。どんなイカサマも、どんな嘘も見破り取り立てる。金であろうと、物であろうと、情報であろうと、内臓であろうとも……。」

「ぐぅ…く…。な、なんてスタンドを持ってやがるんだ!」

 ダービーは想像を超えた取り立て人のスタンドに汗をかいた。

「イカサマをする時、人は、心に弱みを持つ。取り立て人マリリンマンソンは、その人の心の弱みの闇そのモノ。どんなことをしても倒すことはできない。無敵。どうやっても取り立てる。何が何でも取り立てる。死ぬまで……。」

 花梨がスタスタと、ダービーがいる賭事テーブルの椅子に座った。

 そして、机の上に頬杖をついて、薄く笑う。

「私と賭けをしませんか? ダービーさん。」

「やはり…、そうくると思っていたよ。フフフ! 実に面白いな! 賭けに敗北した人間の魂のみを奪う私のオシリス神などとは、比べものにならんだろう! 取り立て人とはな! 覚えておこう!」

「あなたが本当にDIOのことを知っているに、1000ポンド。」

「なに!?」

「花梨!?」

 思わぬ不意打ちの賭けにダービーだけではなく、味方も驚く。

 しかし、取り立て人マリリンマンソンは取り立てるための行動に移さない。

「……動かない。つまり、あなたは、本当に知っているということ。」

「!?」

「おお! そういう使い方も出来るのか! さあさ、オービー君! 早く白状しないと、すっからかんになるぞ! って、おい!?」

『本当のことを知っていないと疑った。だから我々が1000ポンド払う。』

 取り立て人マリリンンマンソンは、花梨の財布とジョセフの財布から1000ポンド奪いそれをバサッとダービーの前に置いた。

「こ、こりゃ、花梨! どういうことじゃ!?」

「取り立て人は、絶対なんです。こちらも弱みを見せれば、そしてイカサマをすれば、当然取り立てられる。私は先ほどお金で賭けると言いました。だから、お金がもし足りなかったら……。」

「臓器で払わされていたか…。」

「な、なんてことだ!」

 無敵の取り立て人スタンドのおかげでこちらの要求が押し通せると考えた矢先に、とんでもないルール発覚となり喜びは一気に萎んだ。

「フフハハハ、これはいい! お前達の味方と思っていた取り立て人が、実は公平なる取り立て人とは! これで、お互いに安易なことはできなくなったということだ!」

「けれど、ダービー。お前もお前で、DIOについて知っているということが露顕したわけだが? それについては、どう考えて?」

「ハッ!」

 取り立て人マリリンマンソンの能力のルールに驚きはしたものの冷静でいる花京院の言葉にダービーは大汗をかいた。

 ダービーは、ハッとした。横を見ると1、2メートル離れた場所に取り立て人マリリンマンソンが成り行きを見守るようにジーっと見ていたことに。

「安心してください。私は先ほどの賭けで、あくまでもあなたが『DIOのことを知っている』かどうかを確かめただけですから。それ以上のことは聞いていない。」

「……なるほど。」

「酷くホッとしているようだが…。つまりお前は、DIOの能力についても知っているってことでいいな?」

「それは、お前達が賭に勝ってからだ。ほら、取り立て人も動いていない。賭けは成立していないのだよ。君らもそれに相当するモノを賭けなければならないのだ。」

「あなたにとって、DIOについての情報に相当するモノは…、私達の命?」

「私はすでにお前達に、私がDIO様のことを知っていることがバレている。しかし、私は、ポルナレフの魂を握っている。私に賭で勝たなければ解放は出来ん。早くしないとポルナレフの肉体が腐ってしまうぞ?」

「分かりました。では、ポーカーなど、いかがですか?」

「ポーカー! それは、私がもっとも得意とするゲームだ。」

「そうですか。」

「おや? 君も自信があるのかね?」

「ですが、ポルナレフさんという大きな弱みを握られている、そしてあなたは、取り立て人に見張られている、新品のカードでの公平なる勝負を願います。」

「それは当然だ。だが、そちらもイカサマをすれば……。」

「取り立て人に殺されるでしょう。」

「か、花梨…。」

 アヴドゥルが心配する。

 取り立て人マリリンマンソンは、ジッと少し離れた場所で花梨達の行動を眺めているようであった。

「勝負の前にお伝えしておきます。すでにご存じかと思いますが、改めて。」

「なにかな?」

「私のスタンドは、ひとつのスタンド能力しか使えません。よって現在、取り立て人マリリンマンソンを使用しており、それ以外のスタンド能力を使うことは不可能です。」

「しかしそれでは解除すれば違う物を使えるということじゃないか?」

「そうしたいのはやまやまですけど、現時点で使える能力のすべてが都合良く切り替えられるとは限りません。つまり取り立て人マリリンマンソンは使用者にとって都合の良いスタンド能力とは限りません。」

「……なるほど、先ほど君は言ったな。『イカサマをする時、人は、心に弱みを持つ。取り立て人マリリン・マンソンは、その人の心の弱みの闇そのモノ』だと。だからあの取り立て人は、我々の影に立っているのか。」

 窓も壁もない吹きさらしのカフェから射し込む太陽光でテーブルとダービーと花梨が座っている姿からできた影の中に立つように取り立て人マリリンマンソンが存在していた。

「その通りです。」

「グッド! 理解した。花梨、君が私に勝負を持ちかけた時点ですでに取り立て人のスタンドの力が使われ、そして勝負がつかなければ解除できない状態になっているということだ。」

「その通りです。」

「………花梨、…お前……。」

「ごめんなさい…。」

 『恋人』のスタンドの時みたいに自分を蔑ろにする行動をしている花梨に、承太郎が呆れたとばかりに長いため息吐くと花梨は少し猫背になってシュンッとして弱く謝罪した。

 承太郎と花梨のやり取りで状況を理解したジョセフとアヴドゥルは、諸刃の剣を簡単に使う花梨の行動に頭を抱えた。(恋人のスタンドの戦いについてはアヴドゥルと合流の時にアヴドゥルに話している)

 一方でダービーは、嬉しそうに笑う。

「どうしましたか? 呆れましたか?」

「イヤイヤ! むしろ私は歓喜している! このような勝負はおそらくこの先体験することはない。絶対的な無敵の取り立て人のルールでの勝負! 呆れるどころかむしろアレを使ってくれた君に感謝すらしているのだ! ありがとう!」

「そうですか。それは良かった。」

「感謝の印に、この勝負で私が勝利したなら君のコインだけは世界にひとつとない特注のコレクションケースに大事にする。」

「私が勝ったら……、未来の先まで屈指の凄腕ギャンブラーとしてダービー…、えーと、フルネームは…。」

「ダニエル・J・ダービー。それが私のフルネームだ。」

「わざわざありがとうございます。」

「お前らーーー! 勝負を忘れとらんか!?」

「忘れてませんよ。」

「忘れてなどいない。これは一世一代の人生を賭けた勝負なのだからお互いを認め、勝負のあとのことを語りたいと願ってしまうのだよ、アメリカの不動産王ジョセフ・ジョースター。」

「激ヤバスタンドの重圧でボケが進行したかジジイ?」

「緊張感を持て! この状況の悪さを!!」

「緊張しすぎでとち狂わないでくださいよ、アヴドゥルさん。」

「外野がうるさいからそろそろちゃんとポーカーを始めるとしようか。準備はいいかな?」

「そうですね。」

 

 

 というわけで、やっとこさポーカーでの勝負開始。

 

 

「良し。セキュリティーシールを張ったカードを開ける! あそこにいる無関係の子供にディーラーを。」

「カードに異常なし。ジョーカーも1枚。普通のカードだぜ。」

 とんでもない精密さを誇るスタープラチナでの確認も行う。もちろんその間も取り立て人マリリンマンソンがジッとこちらを観察するように眺めているが、動きがないのでスタープラチナがやましいことをしていないことを物語っていた。

「では、ボウヤ頼むぞ。」

「はーい。」

 そして、子供がカードを配った。

「……。」

「どうした、花梨。早くカードを持て。」

「少し気になることがありまして…。ねえ、そこの君。」

「えっ? ぼ、僕?」

 花梨がディーラーをしてくれている子供に話しかけた。

「あなたは、ダービーの仲間?」

「知らない。」

「あなたが、もしもダービーからお金を貰っているなら、そのお金を徴収してもらうけど。それでもいい?」

「おい! そんな小さな子供から金をむしり取る気かね?」

「はい。」

 花梨は淡々と答えた。

「えっ、あ…あの…。」

 その声と花梨の表情にゾッとした子供が焦り始める。

 すると同じ場所に立っていた取り立て人マリリンマンソンが消え、子供の影に取り立て人マリリンマンソンが出現した。

『金を貰っているな。徴収する。』

「ああ!」

 一瞬で消えたマリリンマンソン。そして少しして戻って来た、その手に札束を持って。

『5ポンド足りない。生活費として使ったか…、ならば…。』

「貴様、そんな小さな子供から内臓を…!?」

『この服を売れば足りる。』

「うわー!」

 マリリンンマンソンは、子供から一瞬で上着とズボンを奪った。

「おい…、もし、私がその子供に払った金がもっと足りなかったらどうしていた?」

「分かりません。私がそう操作しているではなく、取り立て人が勘定するので。」

「ぐ…、恐ろしい女だ…。」

 ダービーは、分かっていたつもりでも改めて取り立て人マリリンマンソンの容赦のない取り立てに戦慄を覚えた。

「この辺りの人間は信用できんな。仕方ないアヴドゥル、お前がディーラーを。」

「私が?」

「このままだと取り立て人が金どころか、買収されただけの人間からマジで内臓をぶっこ抜いて殺しかねねぇからな。」

「…分かった。」

「仲間にイカサマをさせる気か?」

「それなら、私が取り立て人にイカサマを見抜かれ殺されるでしょう。私がアヴドゥルさんに指示していなくても、アヴドゥルさんが勝手にイカサマをさせようとしたならアヴドゥルさんが対象になるかも。」

「うっ! そうか…、当たり前だな。」

「あれ? やる気でした?」

 花梨が小首を傾げて聞くとアヴドゥルは汗をにじませ激しく首を横に振った。

「むっ…。では…、勝負の前にあの言葉を言って貰おう。私のスタンドはそうしなければ魂を抜けない。」

「分かりました。私の魂を賭けます。」

「グッド!」

「では、カードを配る!」

 そしてアヴドゥルがカードを配り直した。

 さっきの子供から取り立てを終えて花梨達のところへ戻って来た取り立て人マリリンマンソンは、その動きさえも見ているだろう。配り終わっても動かないということはイカサマはないということだ。

「あなたに、賭けて貰うモノが決まりました。私がこの勝負で勝ったらそれをください。」

「ほう? なにかな?」

 そういえばまだ花梨は勝負を持ちかけてはいたが、勝負の後に求める物を決めていなかった。

 賭けの勝敗で求める物があるのは当然だと受け入れるダービーに、花梨は、ゆっくりと微笑み、そして、要求するモノを口にした。

「あなたの心臓ひとつと、……DIOの能力について。」

「!」

「私が賭けるのは…、私達の命すべて。」

「なっ、なんだとーーーーーー!? 貴様、正気か!?」

「花梨!」

「僕はそれで構わないよ。」

「同じく。」

「花京院、承太郎!?」

「腹くくれ、ジジイ、アヴドゥル。」

「あなたにとって、私達の命は、DIOに捧げるこれ以上無い捧げ物。ギャンブラーとして絶対なる自信とスリルを求める、あなたにとって、お金なんてほとんど無価値。なら、あなたは、あなた自身の命と、DIOの能力を教えてもらいます。」

「ど、どっちにしろ、私に死ねと!? そしたらポルナレフはどうなる!?」

「私のスタンドに…、元に戻すスタンドがないと思っていますか?」

「そ……それは…。」

「てめーらに花梨の情報が入っているなら、どんな状態からでも治せるスタンドがあることぐらいは知ってるはずだぜ。」

「うぅ…、どっちにしろダービーは死ぬということか! 心臓を取られて死ぬか! DIOを裏切り殺されるか!」

「両方じゃないですか? 心臓を抜かれた上で情報も奪われる。」

「あ……ぅ、ああああああああ!?」

「さあ…、賭けましょう。どうします? さあ、早く…。」

「か、かかかか、花梨!! き、きさま……。」

「ダービーさん。負かした人の魂をそうやって奪ってコインに変えてコレクションにしちゃうあなたは知らないでしょうね。」

「何が言いたい!?」

「『死人に口なし』。あれは……、聞こえない、話ができないことが普通だからその言葉は当然ですけど、死んじゃった人って嘘は言わないんです。世界をギャンブラーとして渡り歩いて、何人の人の死に目に、その手で直接、あるいは間接的に命を奪ってきましたか? 覚えているのはそのアルバムの中に納めたコインの人達だけなんでしょう? 勝負の時にあった人の目は勝負の相手だけじゃなかったでしょう?」

「まさ…、っ………………!? お…、お、おおお、おおおおおおお、おま…、お前…、お前!!」

 花梨の言葉からダービーは気づいて激しく動揺した。

「私は、どうやって、『本当の意味で、公平な取り立てをしてくれる取り立て人に立ち会ってもらうか』、……………考えながらこのカフェに来ました。」

「なにーーーーーーーーー!?」

「うわー、花梨ちゃんの前じゃ『死人に口なし』もクソも無いってことか。どんな嘘も隠し事も自覚の無い罪の諸々も筒抜けか…。まあ、僕は全部さらけ出しても構わないけど。」

「ケツの毛まで見られて構わないことにはとやかく言わねーが、今惚気んな。」

「いや~、惚れ直しちゃって。つい…。」

 花梨が暴露した驚愕の事実にほぼ同時に絶叫するダービーとジョセフとアヴドゥルとは反対に、取り乱さずにむしろナチュラルに惚気る花京院とそんな花京院に呆れている承太郎。

「ということは、花梨ちゃんが取り立て人マリリンマンソンの話題を出した時には、もうダービーは花梨ちゃんの手のひらの上だったってこと?」

「はい、そうです。」

「だろーな。自分のスタンドに、『似たようなスタンド』がいるって聞いたら、そりゃ食いつくぜ。まず気になるからな。よっぽどの馬鹿な鈍感という名の無関心か自分以外を見下すヤローでもねー限り、撒き餌としてはこれ以上はない、俺でも食いつかない自信がねー。」

 追い打ちをかける花京院の言葉と、承太郎の言葉が更にダービーを絶望させる。ジョセフとアヴドゥルは絶句していた。

 配られたカードを持っていた手の指どころか足からも温度が消えるような恐ろしい事実。

 

 東方花梨は、先にダービーのことを知っていた。

 そして無敵の取り立て人マリリンマンソンを立ち会わせた勝負にダービーを引きずり込むために思考を巡らせ、顔色ひとつ、挙動ひとつ悟らせずに、ダービーを手のひらの上に乗せるよう仕向けた。

 そしてまんまとダービーは花梨の手のひらの上で弄ばれ、勝敗、更にイカサマを含めたルールを破った場合の罰として絶対に何が何でも取り立てを行う取り立て人マリリンマンソンのルールの上の勝負に乗せられた。

 自分の息がかかったカフェにいる人間、その周囲にいる人間も使えず、公平に配られた新品のポーカーのカード。

 ここでコールするか、降りるかしなければならないが、もし、勝てるカードだったら? 勝てないカードだったら?

 しかし勝負を降りる(ドロップ)とは、損切りをすること。失う物を減らすための手段だ。減らすだけで得はしない、むしろ小さくてもマイナスはマイナス。

 一発で首を断頭台で切り落として即死するか、じっくり致死量に達するまで流血するか。

 花梨にとっては、どちらでも良かった。苦しまなくても、苦しんでも、本当にどちらでも良かったのだ。例え他の仲間の魂を奪われた状態でダービーが死ぬことになっても魂を戻せる手段があるのだから。魂を先に奪って人質にした意味がなかった。

 ダービーを八方塞がりに追い込んだ最大の要因は、取り立て人マリリンマンソンのルールの絶対性と取り立ての確実性の高さにある。つまりダービーが負ければその瞬間に花梨が要求した物である、ダービーの心臓と、DIOのスタンド能力の情報が取り立て人マリリンマンソンによって花梨達に渡されるのだ。

 挑んでも逃げても負けるだけの勝負だったことを早く見抜けなかったこと。それがダービーの敗因だった。

 

 花梨が微笑む。それはそれは、美しく。ジョセフとよく似た顔立ちと同じ色の青い目なのに、まったく別物でその美しさがあまりにも恐ろしい。

 ダービーは、その笑みにゾッとなり声にならない悲鳴をあげた。人の顔が、表情がこんなに恐怖の対象になるとは、これまで賭事で食い扶持を稼ぎ、相手の表情、挙動で勝負の駆け引きをして人生としてきたダービーにとって初めてのことだった。

 なにを考えているのかさっぱり分からない。そんな美しい微笑みの顔だったからだ。

「約束は守りますよ。あなたのことを、凄腕ギャンブラーだったことを語り継ぐように。」

「ヒッ…ぃ…!!」

『DIO…の能力は…。』

「ひ、ひいいいいいいいいいいい!? やめろおおおおおおおおおお!!」

 マリリンマンソンが言いかける。するとポルナレフの魂が解放された。

「負けを認めましたね。では、徴収して、マリリンマンソン。」

「うわあああああああああああああ!!」

『逃がさない。心臓を取る前に、DIOの能力の情報を…。』

 マリリンマンソンがダービーを捕まえ、胸に手を突っ込んでから言いかけた時だった。

 ダービーのこめかみに銃弾の穴が空き、テーブルに突っ伏して死んだ。

「なにーーーー!?」

「しまったーーーー!!」

「またか!? またやられた!」

「誰じゃ! ここにいる誰かに…!?」

「いいや、角度からして、かなり遠くからだぜ。この店の客じゃねぇ…。」

「……。」

 ダービーのあまりの焦りから来る壮絶な顔のままの死に様に、花梨は黙ったまま見つめる。

「マリリンマンソン…、情報は?」

『相手の死により、無効とする。』

 そう言い残しマリリンマンソンは、消えた。

「花梨。」

「……………ごめんなさい。」

「ダービーの幽霊から情報を聞き出せないのかい?」

「マリリンマンソンが無効って言っちゃったので…。」

「死人からの情報も消したのか。」

「さすが公平な取り立て人。徹底してるね。」

「心臓爆発すると思ったわい…。そのスタンド使用禁止じゃ!」

「頼むから、できることなら事前に相談をしてくれ…。」

「できる時はやります。」

「行けたら行くってのは、行かねーって答えだ。」

「日本人のYesに見せかけたNoの遠回しな返事のひとつだね。」

「お前達ーーーー!!」

「うぅ…、お、俺は…。」

「だいじょうぶか、ポルナレフ?」

「ハッ! そうだ、俺負けて…。」

「一から聞き込みのやり直しだ。行くぜ。」

「えっ? な、なんで、コイツが死んでんだよ? なにが…あったんだ?」

「気にするな。もうどうしよーもねー。」

「……。」

「花梨ちゃん、だいじょうぶ?」

「はい…。」

 花梨は、花京院に手を貸して貰いながら立ち上がったのだった。

 

 

 ダービーは、第三者によって殺されることでDIOに関する情報漏洩だけは防げるという抜け道があったことに気づけなかった。

 どうやっても死ぬ、死ぬうえに情報も取られるという恐怖に負けてしまうことで頭がいっぱいで、花梨が出した条件と取り立て人マリリンマンソンの絶対的な公平さの中にあったその抜け道に考えが及ばなかった。

 まさかDIOから秘密裏に殺されることが事前に決まっていたことを知らなかったが故に。

 

 あとついでに。

 

「ところで花梨。」

「はい。」

「お前の治すスタンドだが……、引っこ抜かれた魂も元に戻せるのか?」

「………………失われた命は戻せません。」

「……そうか。」

 

 花梨が持つ直せるスタンドが、失われた命、つまり魂が抜けて死んだ者を生き返らせることができないということ。

 あれが相手を動揺させるために、『元の状態に直す』スタンドの話題を出した。けれど完全に尽きた、消滅した、終わってしまった物は直す対象ではなかった。言葉の綾とはよく言ったものだ。『直(治)せる』とは言ったが、『生き返らせる』とは言っていない。

 

「わし……………、泣きそう………。」

「パラレルワールドのお孫さんとはいえ、種類が違いますからね……。」

 ホラー的な意味で。という出そうになった言葉をアヴドゥルは飲み込んだ。

 

 

 




花梨が持っている直(治)す手段は、クレイジーダイヤモンドと、ゴールドエクスペリエンスの二通りあります。

自分以外を直すときは、クレイジーダイヤモンド。
自分を直す時は、ゴールドエクスペリエンス。

そのため敵側に情報が混在していて直(治)せる物の対象が正確に伝わっていないのと、言葉の綾で誤って認識された結果、ダービーは自分が死んだとしても花梨が魂を抜かれているポルナレフを生き返らせれると誤解してしまったという流れにしました。
『元の状態に直せる』の言葉が、『生き返らせる』とは違うということに。

けど意図せずマリリンマンソンによって死後のダービーから情報を聞き出せなくもなったという弊害も発生してしまい、マリリンマンソンの無敵で使い方次第では敵味方にもヤバい方に作用する能力を活かせたかは分かりません。
6部でのマリリンマンソンの使用者自身、最後のところでマリリンマンソンが命令に従っていないところと、アニメ版での展開の違いからすると存在自体がある種の脅し要素であると勝手に解釈しました。

花梨は、その怖い部分を利用する事にしてダービーにマリリンマンソンが取り立てる姿を何度も見せて、逆に取り立てる理由が無ければだいじょうぶだというのを刷り込むという戦略を取ったのです。
しかしこれらの戦略は、ダービーがいるカフェに行く前に霊能力者である花梨がダービーによって命を奪われた幽霊(※コインにされている人間ではない)に会って彼らから情報を知ることができなければそもそもできなかったことなので、本当に怖いのは取り立て人マリリンマンソンじゃなく、花梨の方だったというのを目指しました。


本当にこれでダービーと取り立て人マリリンマンソンの勝負が描けたか分かりませんので、おかしい部分がありましたら教えていただけると助かります。


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