クエスト:デジモンアドベンチャー (破壊光線)
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クエスト:デジモンアドベンチャー

 初めまして、破壊光線です。
 デジモンがリメイクされ、SAOのラノベ読み返していたらネタが思いついたので投稿してみます。 

 注意書きにもありましたが、SAOなのにキリトは登場しません。
 SAOは小説2巻の『黒の剣士』が終わって次の次の日くらいを想定してます。

 四話の短編なので、どうぞよろしくお願いします。
 また、お使いのパソコンは正常です。


 VR技術が進化して、オンラインゲームが完成する。

 

 当時、小学6年生の綾乃珪子にとって、このニュースの重大さはちっとも分らなかった。だが、クラスメイトも先生もこぞって騒ぎ、テレビでは連日のようにニュースで取り上げてられていた。

 チャンネルを回してもCMにはソードアート・オンラインが当たり前のように放送され、スマホで動画を見ていても広告はやっぱり、ソードアート・オンライン。

 

「ソードアート・オンラインって何が凄いの?」

 

 ためしに彼女がルポライターの父親に聞いてみると、複合世界MRが開発されるのも時間の問題だ。という回答が返ってきた。MRという単語にまた首を傾げる彼女だったが、SF映画やSFアニメの世界が実現可能だと分かると、ただ漠然と凄いことが起こることが分かった。

 

 MRが開発される前に、代替現実SR、拡張現実AR、拡張仮想AV、仮想現実VR。これら四つが完成する必要がある。VRゲーム、ソードアート・オンラインの完成が騒がれているのだから、他の三つの技術もVRに匹敵するくらい凄いものだろうし、その最終形態のMRが完成したらどうなるのか。珪子はそれが楽しみになってきた。

 

 電脳と現実が混ざり合う日も近いだろうと誰もが予想する中、西暦2022年に一つのゲームが完成された。それが世界初のVRMMORPG、『ソードアート・オンライン』。この頃にはすでに珪子は小学6年生で12歳。ソードアート・オンラインをプレイするために必要な機械ナーヴギアは13歳からだったが、それでも我慢できず、レイティングを破ってまで『ソードアート・オンライン』をプレイすると固く心に決めた。

 

 

 

 

 

 そして迎えたソードアート・オンラインの発売日。珪子は何とかしてナーヴギアとソードアート・オンラインを購入。珪子からシリカへと名前を変えて、ナーヴギアをかぶる。期待に胸を躍らせてプレイしてみると、数時間後にはプレイヤーの死亡が現実の死亡へと繋がることを知った。

 

 デスゲームと化したソードアート・オンライン。それでもシリカは何とか生き延びて、今では≪フェザーリドラ≫という青い小さな竜のモンスターのテイムに成功。シリカは可愛い見た目にやられて、ピナと名前を付けて可愛がった。そんなピナもご主人様の愛に応えるように、回復や索敵でサポートする。こうしてシリカはピナという相棒を手に入れて順調に経験を積んでいった。

 

 ソードアート・オンラインを攻略する最前線には出れないシリカだったが、一年という年月をかけて中堅クラスのでは強い分類に入った。可愛い容姿も相まって、中堅プレイヤーの中では有名人。『竜使いのシリカ』と二つ名までつくようになる。

 途中、ピナが死んでしまったものの、偶然出会った攻略組の黒の剣士と出会い、一緒に冒険してピナの蘇生に成功。ピナは甦り、新しく黒の剣士と友達になり、ゲームが終わった後で再開の約束をし、それなりに楽しく暮らしていた。

 

 

 

 そんな、ある日の午後。シリカがピナを肩に乗せてのんびりと草原を散歩していた。

 黒の剣士から貰ったお気に入りの防具に身を包み、鼻歌を交えて散歩する。この辺りは景色がきれいなうえに近くにモンスターが登場しない。シリカはピナと遊ぶお気に入りの場所となった。

 名前の知らない花を見ながら川に沿って歩いていくと、桟橋の先に霧がかかっていた。嫌な予感しかしないシリカだったが、珍しくピナが霧の先に行け。と鳴きだす。

 

「嫌だよ……だって、強いモンスター居そうじゃん」

 

 シリカが抗議をするが、小さな相棒は鳴きやむ気配は無い。それどころか、相棒は首を振って進めと騒ぐ。

 

「分かった、分かったから」

 

 とうとうシリカは降参し、ピナと一緒に霧の中に進むことに決める。もちろん、相棒の願いを叶えたいというのもあるが、ピナは索敵を行ってくれる。つまり、自ら進んで敵の居る場所に向かうとは考えにくいし、いざ敵が現れてもピナが見つけてくれる。霧の中は意外と安全かもしれない。念のため、戦闘に突入してもいいように自分に最大のバフをかけた。

 

「よし」

 

 シリカは自分にバフをかけ終わると、ピナを見た。すると相棒もこっちを見つめ返してくる。

 

「ちょっと待っててね」

 

 シリカは以前にピナを失った過ちを侵さないように、ピナにもバフをかけることに決めた。最近レベルアップして覚えた使い魔専用のスキルがある。

 シリカは手際よくステータス画面を開いた。

 

 

 

≪プレイヤー:silica≫

≪ステータス≫

HP:8300

STR:73

VIT:97

AGI:97

DEX:97

 

≪装備≫

イーボン・ダガー

シルバースレット・アーマー

……

 

≪アイテム≫

ポーション×13

ハイポーション×7

 

……

 

 

 

 親の顔をより見たウインドウを操作して、お目当てのバフをピナにかける。

 

「≪ガードチャージ≫と≪アタックチャージ≫をかけて……あと≪アクセルブースト≫も」

 

 防御力が上がる≪ガードチャージ≫と、攻撃力が上がる≪アタックチャージ≫。そして次に与えるダメージが2倍になる≪アクセルブースト≫と三つのバフをかけた。

 ピナという使い魔は主にサポートに特化しており、ダメージを二倍にしたところで活躍できるかは疑問だが、無いよりはマシだろう。それにこの三つの技を使うのは初めてだ。いったいどれほどの効果があるのか、シリカ自身知りたかったこともある。

 

「いくよ」

「キュイ」

 

 シリカとピナは意を結して、霧がかかる桟橋へと歩いていった。

 シリカはダガーを両手で抱きかかえ、ピナの鳴き声に耳を傾けながらも、恐る恐る進んでいく。すると、霧の中に二つのシルエットが浮かび上がった。一つは人影で、もう一つは四角い箱と、それに長い手足のようなものが付いている。

 敵かと思い、一度シリカはピナを見た。索敵が得意な相棒はシリカを見つめ返すだけで、警戒モードに入っていない。どうやら、あの影は敵ではないらしい。

 

「ふう……敵じゃないみたい。プレイヤー? NPCかな?」

 

 一安心したシリカは肩の力を抜いて、二つのシルエットに近づいた。二つともシリカに対して背を向けているようで、こちらに気づいていない。

 

「おじいさんと……なにこれ、モンスター?」

 

 一つ目の影はおじいさん。白髪のべん髪に黒いローブを着ている。ローブとはいっても、ゲームの魔術師が着ているようなものではなく、医者が着るような白衣を黒くしたようなモノに近い。どことなく研究者に近い印象を与えた。

 もう一つの影。こちらが特徴的な見た目だった。洗濯機に巨神兵の手足が生えたのような見た目をしていた。背中には燃料タンクらしき、これまた四角い機械のようなものが付いている。頭の部分は青い透明の半円状のカプセルが乗っていた。

 ソードアート・オンラインのモンスターはリザードマンやイノシシ、植物型が多く、ゴーレムなどを除けば機械のような見た目のモンスターはあまり存在しない。明らかにコイツだけ浮いている。

 

≪繝。繧ォ繝弱Μ繝「繝ウ≫

 

 正体を確かめようとシリカが機械型の生物にカーソルを合わせるとこのように表示された。明らかに文字化けしており、かつ霧に包まれたこの空間では異様な存在だ。それでもこの機会生物は襲ってくる気配は無い。

 いよいよNPCの正体が分からなくなって、シリカが疑問符を浮かべると、正体不明の二人組がシリカに気づいた。振り返る老人と機械のモンスター。

 

「おお、こんなところに人が来るとは思わんかった。お嬢さん、どうしてこんな場所に来たんじゃ?」

 

 おじいさんが話しはじめた。会話ができることから、いきなり戦闘に突入することはなさそうだ。トリガーを踏んだのか、イベントが始まったとシリカは確信する。

 めんどくさいことにならないといいな。内心そんなことを思っておじいさんの言葉に耳を傾ける。そんなシリカに対し、おじいさんは肩にとまったピナを見ると、細かった目を皿のように見開いた。

 

「おお、そのモンスターは……ふむ」

 

 おじいさんの食いつきっぷりにシリカは首を傾げた。

 

「ピナについて何か知っているんですか?」

「アー……知らん」

 

 シリカはズッコケた。

 

「すまんすまん、ワシはゲンナイ。お嬢さん、こうして会ったのも何かの縁じゃ。改めて選ばれし子供と呼ぼう」

 

 めんどくさいことになりそうだ。選ばれし子供という単語からダルそうなクエストを思い浮かべる。手に負えなかったら放置しよう。でも、隣にいる機械生物が襲い掛かってきたらどうしようか。そんなことを考え始めた。

 もちろん、シリカの脳内のことなんてゲンナイが知る訳も無く、話は続いている。

 

「とあるマンションに兄妹が住んでおる。その二人にこれを届けて欲しいんじゃ」

「ごめんなさい、ちょっと忙しいので」

 

 単なるお使いクエストだとは思うが、霧に包まれた空間も、ゲンナイの隣にいる文字化けモンスターも怖い。早めにここから退散しよう。ただのNPCならここで会話が終わる。そう、ただのNPCなら。

 ピロンと電子音が鳴った。

 

『 ≪繝?ず繝エ繧。繧、繧ケ≫ を入手しました』

 

 断ったはずなのにクエストが開始された。渡されたアイテムも文字化けしている。シリカが驚きと戸惑いで混乱する。

 

「すまんの、すでにブツは送ってしまった。それじゃあ、頑張るんじゃぞ、選ばれし子供よ」

 

 シリカの視界が歪んでいく中、ゲンナイが手を振っている。意識が沈んでいく中、シリカが覚えているのはピナの鳴き声と、隣にはお腹が時計になった人型のモンスターだった。

 

 

 

 

 

 次にシリカが目を覚ますと、そこはさっきまでいた桟橋でも草原でも、ましてや剣でモンスターと戦うような世界じゃない。太陽は空高く昇り、高層ビルに囲まれ、ジュースの自販機が並び、灰色のコンクリートに囲まれている。

 シリカが当たりを見渡すと、街頭に植木、ベンチが置が目に留まる。広場では子供たちがボールで遊んでいた。どこか公園のような休憩スペースらしい。

 遠くを見ると、マンションや観覧車があった。

 

「観覧車、マンション……え、フジテレビ?!」

 

 シリカが良く知る、いや何度帰りたいと夢にまで見た場所。

 

「ここ、東京?!」




 ちょっと実験してみたことがあって、わざと文字化けさせてみました。

 なお、シリカのステータスですが、SAOのゲーム、ホロウフラグメントから引用。体力だけ変わっていますが、コピペしたらキリトより強くなるので許してください。


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クエスト:デジモンアドベンチャー2

 どうでもいいけど、僕がSAOのキャラで一番好きなのは75層のボス、スカルリーパーです。友達に良さを熱弁したら引かれました。


 東京に帰ってきたらしい。そう思ってシリカが次にやったことはピナの確認だった。

 シリカが自分の肩を見て、ピナの名前を呼ぶ。小さな竜からの返答はない。

 死線を超えた戦友。人ではないけれど、ソードアート・オンラインというゲームの世界で出会った誰よりも一緒にいた存在。シリカは慌ててピナを探す。

 

 五感を使って確認できないのが分かると、ステータス画面を開こうと指を振った。SAOに囚われてから何百、何千と繰り返した行為のはずなのに、シリカの目の前にウインドウが現れることはない。

 この出来事がまたシリカをパニックにさせたが、不思議と冷静になってもう一度考える。

 

「えっと、さっきまでSAOにいたけど、ここは東京で……。SAOに東京をモデルにしたフロアなんて聞いたことないし……。帰ってきたとしたら現実だからピナは存在できない、はず。なによりステータス画面が開けないわけだし。バグで飛ばされた? そんなことないか」

 

 シリカの相棒、ピナはソードアート・オンラインというゲームの世界で出会った使い魔だ。つまり、現実と電脳が合体したMRでも開発されなければ、ピナは現実世界には存在できないはずである。さらにステータスウインドウが表示されないことから考えても、現実世界に戻ってきた可能性だって大いにある。

 だとしたら自分は病院で目を覚ますはず。

 

「もう無理。分かんあい」

 

 頭がパンクした。嘆きながら、うがーと頭を掻きむしる。すると、コツンと地面に物が落ちた。

 

「なぁにこれ」

 

 熟考のすえ、無気力になりながらもシリカが足元に落ちたソレを拾いあげる。ピナの身体の色と同じペールブルーの機械には左側に一つ、右側に二つのボタンと、真ん中に液晶画面が付いている。シリカが拾った物は、子供の握りこぶしに収まるくらいの不思議な機械だった。

 これまた訳の分からない機械を手に入れ、さらに混乱するシリカだったが、ここであることに気づく。

 

「どうして、服がゲームままなんだろう」

 

 手と目で自分の身体を確認すると、SAOで見慣れた格好をしていた。≪シルバースレット・アーマー≫、≪イーボン・ダガー≫……。忘れもしない黒い剣士から貰った装備一式だ。

 ゲームの格好で場所は東京。シリカはゲームとリアル、電脳と現実の中間にいるような錯覚にとらわれた。第三者が見ればコスプレをした女の子だが。

 

 場所は東京、ピナが居なくなって、ステータス画面が開けず、だけど場所は東京、姿はゲームの装備、トドメに謎の機械。手詰まりとなったシリカは、ひとまず近くのベンチで休むことにした。

 

「ピナ……だれか。助けて」

 

 子供たちがシリカの格好を見て不思議がっているが、当の本人は途方に暮れていた。ただ、何となく東京にいる人がする格好だなと思うだけ。シリカは寝転んで力なく空を見る。青空には雲どころか、シリカを捕らえていたデスゲームの象徴、アインクラッド城すらない。かわりにフワフワとシャボン玉がとんでいた。

 

「シャボン玉、どこかの家から出てるみたい。あのマンションか」

 

 やることも無く、シリカがシャボン玉の飛ぶ位置を確かめると、あの不思議な機械が光りだした。シリカは慌てて立ち上がり、画面を除くと、シャボン玉の飛んでくる方を向いて光っていた。ためしに向きを変えても決まってシャボン玉の飛んでくる方角を示している。

 

「とあるマンションに兄妹が住んでおる。その二人にこれを届けて欲しいんじゃ」

 

 ゲンナイの言ったセリフを思い出した。このシャボン玉に反応する機械を兄弟に届ければ進展があるのではないか。シリカはシャボン玉と不思議な機械を頼りに走り出した。

 

 

 

 

 

 シリカがたどり着いた場所はマンションの一室だった。『八神』と書かれたネームプレートが掛けられている以外は他となにも変わらないドアだ。しかし、シリカが手にした機械は光りを強めて、「このドアを開け」と訴えてくる。

 

 ペールブルーの色をしたモノに命令されるのはなんでだろう。シリカがドアノブに手をかけ、ガチャンと回すと、ドアはシリカを歓迎するようにすんなりと開いた。

 怖い大人が出てきたらどうしよう。なんて説明しようか。格好も含めて自分は不審者と思われないか。良くないことがシリカの頭を駆け巡るが、部屋に入らないことには始まらない。

 

「おじゃましまーす」

 

 小声で玄関へと踏み入れる。靴はこども用のが二足あるだけ。サイズやデザインから見て、小学校低学年の男の子が履く靴と、幼稚園の女の子が履くような靴だ。隙間に大人用の靴がしまってあったが、目立つところに大人の靴はない。出かけているのだろうか。

 ゲンナイのクエストは兄弟に機械を渡すというもの。つまり、この小さな靴の持ち主に、この不思議な機械を渡せばクエストクリアだ。

 

「ええっと、靴は揃えた方がいいのかな?」

 

 シリカは戸惑いつつも、靴を脱いで丁寧に揃えるとフローリングに足をつく。出来るだけ足音を立てずに歩いていくと、子供部屋までたどり着いた。

 

 おそらく、この中にゲンナイの言っていた兄弟がいるだろう。その二人にペールブルーの機械を渡せばクエストクリアだ。だからといって容易に扉を開いていいものか。このエリアは明らかにソードアート・オンラインの世界と異なっている。観覧車も、フジテレビも、自動販売機も現実世界にそっくりだ。

 もし、何らかの方法でシリカが現実世界に戻っていたとしたら、今シリカがしていることは明らかな不法侵入であり、立派な犯罪だ。見つかって警察でも呼ばれては困る。

 

 幸い、子供部屋のドアが少し開いており、この隙間から例の機械を投げて兄弟が受け取ったらクエストクリアになるのではないか。

 

「よし、それでいこう」

 

 投げ込むパターンに決めると、シリカはしゃがんだ。息をひそめると部屋の中から子供たちの声が聞こえてくる。わずかな隙間と、声のする場所から部屋の中心を予想して、機械を投げようと振りかぶったその時。

 

「まってろ、今エサとって来るから」

 

 男の子の声が聞こえていきなりドアが開いた。驚きで棒立ちになる男の子。目が合うシリカ。

 

「お姉さん、だれ?」

 

 見つかった。言い訳はどうするか。郵便? Amazon? そもそも来ている服がSAOのものだから怪しい者に決まっている。言い訳などできる訳も無い。ゲンナイの話をしたところで信じてもらえないだろう。

 一瞬のうちにシリカの脳内でいろんな考えが浮かび上がり、その末に出た言葉は。

 

「どうも」

 

 シリカの作戦が失敗した瞬間だった。

 

「大丈夫、心配しないで。この人はいい人。僕とおんなじ匂いがする」

 

 固まった空気を元に戻したのはガラガラ声だった。シリカが部屋の中心に視線をやると、ピンク色の生物がボールのようにバウンドしている。モンスター?!

 

「まずはみんなで自己紹介をしようよ」

 

 ピンク色の生物に仕切られる形でシリカは子供部屋に案内された。東京のモンスターは友好的だった。

 

 

 

 

 

 子供部屋には三人の子供とピンク色の生物がいた。シリカとこの部屋に住んでいる兄妹である。

 さて、シリカを庇ってくれた生物だが、コロモンと名乗った。サッカーボールくらいの大きさのコイツ。身体が顔なのか、顔が身体なのかは分からないが、大きい瞳と口、二本の触角が特徴的なモンスターだ。本来、シリカはモンスターを倒す側の人間だが、ピナという前例があるように、コロモンは友好的なモンスターのようだ。戦闘しなくていいだろう。

 

「僕は太一。んで、こっちが妹のヒカリ」

 

 尖がった髪型が特徴的な男の子、兄の太一。その妹のヒカリ。太一は首からゴーグルをぶら下げて、ヒカリは首からホイッスルをぶら下げていた。活発な印象を与える兄とおとなしい妹。似ているようで似てない兄妹にシリカも自己紹介する。

 

「シリカです」

 

 今までの癖でゲームの名前を使ってしまったが、太一とヒカリはシリカを受け入れてくれた。結果オーライ。

 玄関の靴で判断した通り、太一は小学校低学年、ヒカリは幼稚園に通っていた。コロモンだが太一の話によると、昨日の夜にパソコンからタマゴが表示されて、飛び出してきたらしい。そのタマゴをヒカリが抱きかかえて寝たところ羽化し、黒い生物からコロモンへと成長したらしい。

 

 パソコンから出てきたコロモンと、SAOの世界にいたシリカ。コロモンの言っていた「同じ匂いがする」とはこの事だろう。

 

「……そしたら私はデータなのかな」

 

 シリカに新たな疑問が生まれるが、答えは出ない。天井を見て考えるシリカの耳にふと音楽が聞こえてきた。2種類のメロディーが繰り返させる曲、ラヴェルのボレロ。となりの家がCDでもかけたのだろうか。

 ヒカリは笛でコロモンと遊んでいる。笛の音に反応するモンスターと少女。不思議な光景とボレロという不思議な音楽。幻想のような世界にシリカが没頭していると、太一が。

 

「シリカさんって、どうしてそんな格好してるんですか?」

「え、ああ。これね。これは友達から貰った服だからお気に入りだったの。お出かけに着て来ちゃった」

「ふーん」

「アハハハ……そ、その友達はいい人なんだよ。困ってた私を助けてくれたの。それから悪い人をやっつけたんだ。……私は何もしなかったけど」

 

 シリカは苦笑いをするだけで精一杯。太一はジト目でシリカの鎧を見つめてくる。小学生とはいえ、疑っている。これ以上突っ込まれたら困ると、シリカは黒の剣士の話で誤魔化すことにした。

 

「……コロモン、食べる?」

「え、いいの」

 

 ヒカリはコロモンにエサを与えていた。ゴミとなった容器を見る限り、ネコのエサのようだ。しかし、コロモンは嬉しそうにがっついている。コロモンは食い散らかして、周囲に食べカスが散らばっている。

 

「こんなに食い散らかして、汚ねぇなぁ!」

「……これ、後で片づけるの?」

 

 太一が大きなため息をついた。ご満悦なコロモンと対照的な太一だが、もう一人不機嫌な人物がいる。

 

「にゃあご」

 

 正確にはネコだ。ご飯の匂いを嗅ぎつけ、来てみたら訳の分からない生物に横取りされているではないか。コロモンにエサをとられたと勘違いしたネコは、そのまま状態を低くし、戦闘態勢に入る。

 

「え?」

 

 コロモンがネコの存在に気づいた時には、ネコがジャンプしていた。間一髪、ネコの攻撃をかわしたコロモン。エサ箱がひっくり返り、床に飛び散った。

 

「もっと汚くなった」

 

 嘆く太一を横にコロモンとネコの鬼ごっこが開始。おもちゃ箱をひっくり返し、ベッドの下を抜けて、さらに部屋を汚していく。

 とっさの判断でシリカがヒカリを抱き寄せると、コロモンがシリカの顔に激突、続けてネコの爪がシリカの頬を捕らえた。

 

「いったあ」

「ミーコ、止めろ!」

 

 太一も止めに入るが、次の瞬間にはネコに引っかかれていた。



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クエスト:デジモンアドベンチャー3

 お使いのパソコンは正常です。(2回目)

 あと、コロモンは進化してアグモン、グレイモンと名前が変わっていますが、原作リスペクトでコロモンのまま行きます。


 ネコに引っかかれたシリカと太一。あの後コロモンも爪の餌食になり、三人とも仲良く同じ場所に同じ傷がある。

 太一とコロモンは若干血が流れていたが、シリカはそこまで深手を負っていない。それでも痛いには変わらないが。一方、3対1にもかかわらず勝利したネコだが、満足そうに尻尾を上げて子供部屋を出ていった。

 

「ネコに負けるかよ」

「しゅん」

「どうして私まで……」

 

 二人と一匹はそれぞれ不満を言いながらも怪我の手当てをする。頬にガーゼを張ったため、虫歯が悪化した見た目になったが、ひとまず手当てはできた。

 ポーションが使えればこんなダサい恰好しなくて済んだのに。アイテム画面が表示されないバグを恨みつつ、シリカが頬をさすっていると、コロモンがいきなり顔面に抱き着いた。もごもごしながら引きはがすと、コロモンは嬉しそうに。

 

「友達のしるし、だよ。君とボクは似ている気がするもん。きっと仲良くなれるよ」

 

 苦笑するシリカを他所に、コロモンは太一とヒカリにも同じように抱き着いていた。

 太一に見つかったり、コロモンが言葉を喋ったり、ネコに襲われたりと色々なイベントが起こったが、シリカは目的を忘れたわけではない。ゲンナイの依頼もあるし、個人的に本当に東京か確かめなくてはいけない。

 太一はコロモンと遊んでいるヒカリを眺めていた。これはチャンスだと、シリカは彼の肩を叩いた。

 

「あのさ、こんなことを聞くのも変だと思うけど、ここって、東京のどの辺?」

「光ヶ丘」

「光ヶ丘!? それじゃあ、SAO事件はどうなったの?」

「SAO? 何それ」

 

 太一はSAO事件を知らないらしい。ゲームに囚われて、ゲームオーバーが死につながるゲーム、SAO。発売日にテレビ局がこぞって取り上げたこの話題がニュースになっていないはずがない。

 なら、この光ヶ丘はSAOの中に存在する街の一つなんだろう。ピナとはぐれた理由が分からないが、コロモンというモンスターが生息しているのも納得できる。シリカは質問を変えてみた。

 

「……そっか。じゃあ、ここは何層?」

「何層って……層なんかないけど」

「え」

 

 おかしい。

 拠点となる街にもかかわらず、NPCに階層を訊ねても分からないと帰ってきた。シリカは何か情報が無いかと必死に周囲を見渡した。すると見つけた壁にかかったカレンダー。

 階層、場所が分からなかったとしても、時間というのも大切な情報だ。シリカが目を凝らすと、カレンダーは三月の後半に入っていた。ここまでは普通だが、シリカにとって信じられない数字が並んでいた。

 

「1995年……うそ、1995年!」

「そうだよ、今年は1995年。さっきからシリカさん変だよ」

 

 太一から変な人を見る目で見られているが、シリカにとってそんなものはどうでもいい。勢いよく子供部屋を飛び出すと、彼女の視界に飛び込んできたのは、見たことも無い箱型のテレビだった。

 

「何この箱!」

「テレビだよ。そんなのも知らないの?」

「テレビはもっと薄いんだよ!? ナーヴギアは? スマホは? パソコンは?」

 

 シリカは太一の肩を掴んで祈るように問いただすが、返答はどれも期待にそぐわないものだった。

 

「なーぶぎあ? すまほ? 何それ……パソコンならあるけど」

「見せて!」

「分かった。付いてきて」

 

 太一に案内された部屋にはパソコンがあった。しかし、そのパソコンもシリカの知っている液晶画面とは程遠い、ゴツくて画質の荒い、旧式のパソコンだった。

 

「太一くん、最新機種は無いの?」

「バカを言うなよ、これが最新機種だ」

「うそ」

 

 現実に戻ってきたとしても過去の世界に飛ばされたことが確定。文化も技術レベルも分からない。だって、この頃にシリカは生まれてすらないのだから。

 SAOの世界でもない、過去の日本。途方に暮れてシリカは力なくその場にへたり込んでしまった。そんな年上のお姉さんを見て。

 

「……父さんが帰ってくるまでならいてもいいよ」

 

 太一なりの優しさだろう。シリカは膝を抱えてうずくまりながらも力なく、「うん」と頷いた。

 子供部屋に戻った太一ははじめに押し入れを開いて、シリカが隠れる分のスペースを作った。太一の親が帰ってきたらシリカとコロモンがここに隠れることに決まった。

 

 丁度その時、太一の母親が帰宅。太一が子供部屋に入らないように上手く立ち回り、夜を迎えた。八神兄弟が寝るまで父親が帰宅しなかったため、いや、出ていくタイミングを失ったシリカは子供部屋にお世話になった。コロモンはヒカリに抱きかかえられて布団に入り、シリカは予定通り押し入れに隠れる。

 

 

 

 

 

 シリカがウトウトと舟をこぎ始めた頃、笛の音で目が覚めた。そっと押し入れの襖を少し開いて様子を伺うと、ガタガタ震えるコロモンと心配そうに見つめるヒカリが見える。太一も下りてきた。

 

「太一、ヒカリー帰ってきたぞぉ」

「父さんだ!」

 

 太一の父親が帰宅したらしい。深夜なのに声が大きいのは酔っぱらっているからだろう。コロモンの存在がバレるのは非常にマズい。芋ずる式でシリカまで見つかったら大騒ぎだ。

 太一は子供部屋のドアをしっかりと塞ぎ、父親が入って来れないように抑えている。太一の姿を見てシリカも加勢。二人でガチャガチャと物音を立てるドアノブにしがみついた。

 

「あれー、おっかしいなぁ。まあ、いっか」

 

 酔っぱらいの父親は諦めたのか、去って行った。危機を乗り越え、ふうと息をつくシリカと太一。握手して互いに健闘を称え合っていると、ヒカリの布団に山ができる。それはだんだん大きくなり、上のベッドを突き破り、重さでベッドを破壊した。

 ズルリと布団が落ちて、中から出てきたのは黄色い爬虫類。恐竜のような見た目で太くて大きな手足が生え、表情の読めない緑色の瞳が動いている。

 

「進化した」

 

 ゲームではお馴染みとなった進化。丸いボールのような生物が恐竜の怪物へと進化。黄色い恐竜は人語を話す気配もなく、窓を見つめるとツメで切り裂き、窓ガラスを割った。そのままベランダから外へと飛び出していった。

 

「コロモン!」

 

 太一が恐竜の姿になったコロモンを追いかけようとする。シリカはすぐに彼の腕を掴んだ。

 

「どこ行くの!」

「コロモンを探すんだ」

「どうして?」

「だって、コロモンの背中にはヒカリが乗っていたんだ」

 

 ヒカリを背負ったまま外へと飛び出していったコロモン。窓ガラスを破壊し、二段ベッドを突き破る大きさに成長した。昼間あれだけ仲が良かったからコロモンがヒカリを襲うとは考えられないが、このままどこかへ行って帰ってこないのも問題だ。

 どこか不安そうな太一に、シリカは言った。

 

「私も連れて行って」

 

 シリカは太一を抱きかかえると、コロモンが破壊したベランダに出る。壁が無くなって、飛び降りようと思えば簡単に飛び降りるが、その高さから考えて常人が飛び降りれば大ケガする。ネコに引っかかれたキズなど比ではない。マンションのベランダから見下ろして太一が叫んだ。

 

「シリカさん、一度戻らないと。ここから飛び降りることなんで出来ないよ」

 

 パニックになったシリカは昼間効果ないと分かっていたはずなのに、いつもの癖で指を振ってステータスウインドウを開こうとする。

 

 

 

≪繝励Ξ繧、繝、繝シ:silica≫

≪繧ケ繝??繧ソ繧ケ≫

HP:8300

STR:73

VIT:97

AGI:97

DEX:97

 

竕ェ陬?y竕ォ

繧、繝シ繝懊Φ繝サ繝?繧ャ繝シ

繧キ繝ォ繝舌?繧ケ繝ャ繝?ヨ繝サ繧「繝シ繝槭?

窶ヲ窶ヲ

 

……

 

竕ェ繧「繧、繝?Β竕ォ

繝昴?繧キ繝ァ繝ウテ暦シ托シ×13

繝上う繝昴?繧キ繝ァ繝ウテ暦シ×7

 

……

 

 なんとシリカの目の前にステータスウインドウが表示された。一部文字化けしているものの、SAOの世界でなんども見た、あのステータス画面だった。

 

「ステータス画面が開いた。……よし、これなら」

 

 シリカの耳にボレロが聞こえてくる。ゲームの世界で一年かけて育て上げた力が復活。モンスターと戦ってきた証がここにある。これならベランダから飛び降りてもどうにかなるかもしれない。

 

 シリカは太一を抱きかかえたままベランダから飛び降りた。ゲームの力を取り戻したシリカの身体は見事着地を決めて、二人にケガはない。

 

「す、すげえ」

「たかが数字が増えるだけで、そこまで無茶なことができるんです」

 

 とある黒の剣士が言った言葉。太一は数値が何なのかは分からなかったが、単純にベランダから飛び降りて無事だったことに感心していた。興奮さめぬ太一を下ろすと、シリカは手を握って走り出した。

 

 破壊された自販機、小さな炎に包まれている電話ボックスの残骸。歩道橋やマンションにも焼け焦げた跡が付いている。それは、例えるならドラゴンが吐いた火球が爆発してできた焼け跡と言ったところか。

 もちろんここが現実の光が丘ならドラゴンなど存在しない。コロモンが進化した恐竜が火球を放ったと考えるのが妥当だろう。

 

「誰がいったい」

 

 太一は現状を受け入れられていない。いつも見ていた自販機や歩道橋が破壊されたことは、太一にとって日常が破壊されたことに等しい。かつてシリカが受けたソードアート・オンラインのデスゲーム化宣言と同じくらい衝撃的な出来事だった。

 太一はショックを受けて動けなくなってしまった。シリカは彼の両肩を両腕で叩くと、言い放つ。

 

「違うよ、だってコロモンはネコに負けたんだよ」

 

 太一はうなずいて、シリカを見返した。

 

「ヒカリー、ヒカリー」

「ヒカリちゃーん、コロモ―ン」

 

 太一とシリカはお互い離れないように手をつなぎながら夜の光ヶ丘を走った。コロモンが破壊した痕跡をたどっていくと、最終的には太一の住んでいるマンションに戻ってきた。建物の下をくぐって、大通りまで走ると、二人の目の前を巨大な鳥が横っぎった。怪鳥を追うように、小さな火球が追随する。

 

 火球は怪鳥や、その後ろにあった歩道橋へ当たり、爆発した。歩道橋の被害からそれなりの威力があると思われるが、怪鳥の大きさは5メートルを超え、その巨体、反応から見て火球のダメージはないに等しい。

 

「鳥?」

「火球は誰が」

 

 太一は怪鳥に注目し、シリカは火球を撃った相手を探す。

 

「太一そこにヒカリちゃん!」

 

 シリカが歩道橋の下に黄色い恐竜となったコロモンを見つけた。背中にはヒカリがしがみついている。

 

「ヒカリー!」

 

 すぐさま太一は妹の元へと向かった。太一の背中を見ながら、シリカは隠していたダガーを取り出した。黒い剣士から貰った大切な武器だ。

 両手でしっかりと握りしめ、怪鳥から視線を外さないように太一の後を追う。

 

≪繝代Ο繝?ヨ繝「繝ウ≫

 

 怪鳥のステータスらしき文字が表示されるが、相変わらずバグっている。しかし、シリカにとってそんなことはどうでもよかった。

 

「ステータスが表示されている……SAOにいた時、ゲンナイさんの隣にいたモンスターと一緒。だったら、あの怪鳥は倒せるの?」

 

 文字化けしているとはいえ、ゲームのソードアート・オンラインと同じ表現が使われている。なら、この光ヶ丘は精密に造られたステージか何か。もしくは怪鳥の出現によって、MRのようなゲームとリアルが融合した世界になってしまったか。どちらにせよ、ゲームのシリカの能力が通用するならば、あの怪鳥を倒せる可能性は大いにある。

 

 太一はヒカリを助けようとするが、ヒカリはコロモンを心配しているようで、離れようとしない。恐竜になったコロモンはさっきから火球を撃って怪鳥を攻撃している。太一とヒカリ、コロモンがNPCならシリカの味方だらろう。

ならば。

 

「ソードスキル、発動」

 

 シリカはダガーを構えて、怪鳥目掛けて突っ込んだ。

 幸い、怪鳥はコロモンのみを敵と認識していないため、シリカは攻撃を受けることなく近づけた。そのまま股の下をくぐり、柔らかそうな尾羽にたどりつく。

 

「ラッピドバイト……スキルまで」

 

 シリカが短剣に力をこめて走り出すと、短剣スキルの中級突進技、≪ラッピドバイト≫の発動に成功。シリカの短剣は柔らかな羽毛を散らしながら、怪鳥の背中に突き刺さった。

 思わぬところからダメージを受け、緑色の怪鳥の目がシリカを捕らえる。感情のない丸い二つの目は瞳の大きさを変えてシリカに焦点を合わせた。

 

 見た目が鳥なのに、夜目が効くなんて。

 

 シリカは内心悪態をつくが、街灯に照らされた光ヶ丘は明るい。まして光源のすぐ近くにいるシリカはスポットライトが当たったように目立っていた。

 下から照らされた怪鳥は鳥のくせに額は銀色の甲殻に覆われていて、赤い触角が付いている。緑色の巨体に金色の翼、翼の根元から鷲の足のような腕が生えていた。

 

 ここまで来ると鳥というより怪獣に近いが、この怪鳥の顔がインコに似ていたので、シリカの頭にインコのモンスター、≪パロットモン≫という単語が浮かんだ。こんな時に何を考えているんだろうと思いながらも、敵が怪獣ではなくインコへとランクダウンすると、何とか倒せそうな気がしてきた。

 パロットモンは鋭利なツメを振り下ろしてシリカを狙うが当たらない。さらに背中からコロモンの火球を受けて戦いにくそうだ。

 

「よし、いける!」

 

 ここでシリカの短剣スキル≪ファッドエッジ≫がクリティカルヒット。連続攻撃がパロットモンの足を捕らえ、≪怯み値≫が溜まったのか怪鳥が膝をついた。シリカはここぞとばかりに短剣を振って追撃を図る。

 パロットモンが電話の着信音のような鳴き声を上げると、シリカの攻撃を嫌がるように翼を広げて飛び立った。二本の触角を立てて、電気を生み出した。

 

「ヤバい!」

 

 パロットモンの触角が一瞬、光ったかと思うと轟音と共に青色の稲妻が歩道橋へと走る。

 戦闘に慣れていたシリカは回避できた。直撃した歩道橋は跡形もなく崩れ去っていて、瓦礫の山と砂ぼこりが舞うだけだ。

 まともにもらわなくてよかった。シリカは胸を撫で下ろすが、大切なことを思い出した。

 

「太一、ヒカリちゃん!」

 

 あの二人はコロモンと一緒に歩道橋の下にいる。瓦礫の下敷きになっているかもしれない。血の気が引いて汗が流れる。この『光ヶ丘』という異質なフィールドで、唯一のシリカの仲間を失った。クエストは失敗。それだけならまだマシ、元のフィールドに変えれる可能性が無くなったかもしれない。

 

 ダメージはともかく、コロモンの攻撃はパロットモンのヘイトを分散させていたのは確かだ。今後、援護無しであの怪鳥を倒せるのか。

二人の安否を確かめるために、いつもの癖でステータス画面を開いた。

 

 

 

≪プレイヤー:silica≫

≪ステータス≫

HP:8300

STR:73

VIT:97

AGI:97

DEX:97

 

≪装備≫

イーボン・ダガー

シルバースレット・アーマー

……

 

≪アイテム≫

ポーション×13

ハイポーション×7

 

……

 

 

 

 透明の長方形のようなものに文字が書かれている。パソコンに表示されるウインドウのような情報。それはシリカが見慣れていた数字であり、文字配列。デスゲームと化した世界でシリカの身体の一部となっていたようなもの。ゲームで言うところのステータス画面。それも、完全な形で文字化けなど一切なく、復活してた。

 

「や、やったあ、ステータスが戻ってる。文字化けもなし」

 

 耳をすませばBGMだったはずのボレロは、まじかでオーケストラが演奏しているかのような迫力をもっていた。狂ったように鳴り響く電話の着信音。信号機は発狂し、三色のライトを同時に点滅させている。マンションの廊下の電灯は付いたり消えたりを繰り返していた。

 何が起きているのかサッパリ分からない。デジタルに関するものが意志を持ったように動き出し、シリカとパロットモンの戦いに興奮している。

 

「地図、地図っと」

 

 シリカはパロットモンの攻撃を避けながらメッセージウインドウをスクロールしてマップを選択。シリカの前にマップ画面が表示された。自分を示すアイコンと、近くに敵を示す赤い印で表示されている。大きさを考えるとパロットモンだろう。NPCのアイコンを探すが、それらしきものは見当たらない。代わりに緑色のNPCマークが表示されていた。

 シリカが不思議に思い、眉をひそめると、ボレロの間から地鳴りのような鳴き声が聞こえてくる。

 

「歩道橋から……コロモン?」

 

 シリカが瓦礫の山に注目すると、砂ぼこりの中心に巨大な影が見えた。滑らかな曲線、二対の尖った何か。それらは決して瓦礫が積み重なって出来たものとは思えない。次第に砂ぼこりが晴れて、その中心にいたものは。

 

「……怪獣」

 

 あまりの変貌にシリカは息を飲んだ。



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クエスト:デジモンアドベンチャー4

 最終回


 コロモンが進化した。

 

 パロットモンに匹敵するくらいの巨体。オレンジ色のボディには青い模様が入っており、虎を彷彿とさせる。額の茶色い甲殻は鼻の頭に一本、後頭部に二本の角が生えていた。太い尻尾、ゴツイ足、鋭く太い爪が生えた両腕。

 怪獣は身体にかかった瓦礫を振り払うと両足で立ち上がる。ティラノサウルスのような口を開き雄たけびを上げた。

 さらに、この怪獣の足元には太一とヒカリの姿が見える。オレンジ色の怪獣が太一とヒカリを瓦礫から庇ったとしたら、コロモンになる。味方に違いない。

 

「コロモンが、また、進化した?!」

 

 丸い生物から黄色い小型の恐竜へ、恐竜からオレンジ色の怪獣へ。生物学の理論を超えた変化に、シリカはゲームの知識から結論付けた。

 新たな怪獣の出現にシリカだけではなく、パロットモンも困惑しているようで、シリカに背を向けて呆けている。

 

 シリカは今がチャンスだと短剣を構えて、一気に跳躍する。がら空きとなったパロットモンの背中に短剣が突き刺さり、怪鳥の身体がグラリと傾いた。シリカを振り払おうと暴れた瞬間、オレンジ色の怪獣が火を吐いた。

 炎はパロットモンの翼を一瞬にして焼き、衝撃で地面に叩きつけた。止められていた自転車が吹っ飛び、コンクリートが抉れる。

 

 飛べなくなったパロットモンと怪獣に進化したコロモンは取っ組み合いの肉弾戦に発展。パロットモンがコロモンをねじ伏せたかと思えば、反撃とばかりにコロモンの角がパロットモンの顎を辛い抜いた。

 シリカは二体の怪獣に翻弄されながらも、太一とヒカリの元へ走る。

 

「大丈夫! 怪我はない?」

「す、すげえ」

 

 シリカが兄弟に声をかけるが、太一は戦いに夢中で、ヒカリは泣き出してしまう。

 この二人を連れて逃げるのは無理そうだ。二人を抱きかかえて走る方法も考えたが、生憎、シリカのキャラは器用さと素早さを重視したキャラクター。二人を抱きかかえて走るほどの筋力は無い。

 

「……筋力上げておけばよかったかな」

 

 両手剣くらいの重さを片手で振り回す、黒の剣士を思い出してボヤいてしまった。途方に暮れて二対の怪獣に視線を移すと、特撮映画顔負けの戦闘が繰り広げられていた。予備動作もスキルも無い戦闘。ゲームのムービーというより、生物同士の縄張り争いのような戦いだった。

 

「コロモン!」

 

 太一が叫んだ。コロモンが吹っ飛ばされて後退し、その隙にパロットモンの触角が電気をまとう。歩道橋を粉砕した、電撃の前兆だ。

 大通りとはいえ、二体の怪獣が戦うフィールドにしては狭すぎる。コロモンが避けるスペースなど無く、パロットモンの電撃をもろに浴びた。太一たちのすぐ隣、瓦礫の山に倒れて動かなくなる。

 

「コロモン、コロモン!」

 

 動かなくなったコロモンにヒカリが泣きついた。パロットモンは勝利を確信したように、ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。

 どんなに進化したところで、ネコに負けたコロモンが怪鳥に勝つ術はないのか。

 鋭い爪に巨大な身体。同じ体格のコロモンをKOさせた電撃。かつてSAOでシリカを置いて詰めた35層最強クラスのモンスター、ドランクエイプを一撃で消滅させそうな攻撃力。改めてパロットモンというモンスターと向き合って、シリカの足が震えだす。

 

「誰か……助けて」

 

 中層のプレイヤー、コロモン、黒い剣士……そしてピナ。思えばシリカの隣には誰かがいた。SAOがデスゲームと化した中で、戦闘の多くをシリカは誰と戦ってきた。この場に太一とヒカリはいるが、この二人は戦力にならない。パロットモンというボス級のモンスターを前にして、シリカは一人になってしまった。

 

 孤独感に襲われる。勝てるわけが無い。逃げ出してしまおうか。

 

「ピナぁ」

 

 ひねり出したシリカの悲鳴はパロットモンの足音で踏み潰されて、かき消されてしまう。気が付けばさっきまで鳴り響いていたボレロも消えている。シリカの耳に届くのはパロットモンの足音と、その合間を縫って聞こえてくる子供がすすり泣く声だ。

 

「……太一、ヒカリちゃん」

 

 この二人がいなければシリカはこの戦闘から逃げ出すだろう。もし、この≪光ヶ丘≫がSAOの一部なら、この二人はプレイヤーではなく、NPCだ。パロットモンに倒されたところで現実世界では誰も死なない。ただ、シリカの受けたクエストが失敗するだけ。

 

「……でも、だからって」

 

 太一とヒカリはシリカを助けてくれた。この≪1995年の光ヶ丘≫の中でシリカという異質な存在、最初から今に至るまで、ずっと味方でいてくれた。中層のプレイヤーも、黒の剣士も、ピナもいない、一人で心細かったシリカを助けてくれた。そう、見方を変えればピナもNPC。身体はポリゴンで、頭脳はプログラム。

 

 今までずっとシリカはNPCに助けられて生きてきた。一度くらいNPCのために戦っても罰は当たらないだろう。

 シリカはポーションをがぶ飲みすると、太一とヒカリ、コロモンを守るように前に出た。

 

「お願いキリトさん、力を貸して」

 

 かつてシリカを助けてくれた黒の剣士。ピナの蘇生を手伝ってもらって、襲われた盗賊を一人で倒してしまった憧れの人。彼から貰った短剣を両手で構えて、パロットモンを睨みつける。

 

「貴方の相手は私です!」

 

 シリカは怪鳥に向かって宣言すると、ダガーと共に突進した。パロットモンの足を切り付け、タゲをとり、身の丈が何倍以上ある相手に大立ち回りを繰り広げる。

電撃や片方の羽での叩き潰し、足での踏みつけや、鋭利な爪攻撃。パロットモンが全身を使ってシリカに襲い掛かるが、黒の剣士の力が宿ったように、シリカにはかすり傷一つすらつかない。

 高難易度のアクションゲームのボス戦のようにパロットモンの攻撃を避けつつ、隙をついてダガーで切り裂いていく。攻撃の頻度ゆえに、ダメージこそ少ないものの、着実にシリカが有利になっていった。

 

「……ここで避けて、今!」

 

 シリカは身体で怪鳥の動きを覚えつつ、一発逆転に賭けて怪鳥の目玉を突き刺した。

パロットモンは右目を潰され、手で押さえながら巨体に物を言わせて暴れている。誰がどう見ても大ダメージだ。

 

「やった、私にも出来たよ。ピナ、キリトさん!」

 

 暴れるパロットモンに近づくのは危険だと考えて、怪鳥を倒す別の方法を考える。

 シリカにはコロモン、太一とヒカリという味方がいる。この戦闘がクエストならば彼らと協力してパロットモンを撃退するのがセオリーだ。にもかかわらず、コロモンは敗れた。現状、太一とヒカリは戦闘に役に立っているとはお世辞にも言い難い。

 何故か。

 

「ゲンナイさんのアイテム、アレを渡してないから。かな」

 

 シリカがこのクエスト本来の目的を思い出す。あの、ゲンナイという爺から貰った文字化けアイテムを、兄弟に渡すのが目的だった。≪1995年の光ヶ丘≫や喋るコロモンに気をとられ、渡しそびれていたが、ついに渡すときが来た。

 シリカはパロットモンに気を配りつつも、アイテムストレージをスクロールし、文字化けアイテムを探す。

 

≪繝?ず繝エ繧。繧、繧ケ≫

 

 相変わらず文字化けを起こしていたが、逆に見つけやすかった。

 

「太一! これを受け取って!」

 

 ピナと同じペールブルーの機械を握りしめ、太一を目掛けて投げる。地味に上げておいた≪投擲スキル≫の補正もかかり、太一の手の中にすっぽりと納まった。

 

「シリカさーん! もらったよ」

 

 太一からキャッチしたと返答があった。だが、それがシリカに隙を作ってしまう。

 

「シリカさん、危ない!」

 

 パロットモンがコンクリートを殴り、その破片がシリカを襲う。怯んだところに薙ぎ払いが飛んできて、吹っ飛ばされた。朦朧とする意識の中、シリカが目を開けると、パロットモンが電撃を放つ体勢に。

 諦めたくない。

 半分くらい失ったライフゲージを見ながらシリカは足掻くべく立ち上がる。視界はぼやけて、足には力が入らない。

半失神状態のシリカ。静まり返った夜の街。未だ意識の無いコロモン。それら全てを叩き起こす音が響く。

 

 ――――――

 

 太一がヒカリのホイッスルをくわえている。笛の音は光ヶ丘に鳴り響き、それが起点となってゲンナイから貰ったアイテムが光りを放った。ボレロが鳴りだし、シリカの意識も戻る。そして、コロモンが目を覚ました。

 

 笛に応えるようにコロモンが吠えると、口を開いて火球を放つ。電撃を溜めていたパロットモンに直撃し、攻撃は中断。さらにコロモンはトドメに入ったのか、大きく息を吸いこんだ。

 

 進化したとはいえ、ネコに負けたコロモン。必殺技を放ったとして、果たしてパロットモンは倒せるのか。眠っていたシリカの脳みそがフルに動き出す。コロモンに加勢する手段は無いか。どうしたらパロットモンを倒せるのか。

 

「使い魔のバフだ!」

 

 ゲンナイさんに出会う前、念を入れてピナに掛けたバフ。最近覚えた使い魔専用のバフを思い出す。効果量は高いくせに、ピナがサポート特化だったから使えないと肩を落としたが、怪獣へと進化したコロモンなら真価を発揮できるかもしれない。

 

「≪ガードチャージ≫と≪アタックチャージ≫をかけて……あと≪アクセルブースト≫も」

 

 シリカはジャンプしてコロモンの肩に飛び乗ると、バフをかけてコロモンの必殺技を援護する。

 パロットモンの翼を焼いた火球の威力は1.5倍、2倍へと膨れ上がり、コロモンの牙の間から炎があふれ出した。

 

「撃て」

「撃て!」

 

 シリカと太一が同時に叫ぶ。ボレロがフィナーレに入った。

 コロモンの口が大きく開かられ、炎が待ってましたと言わんばかりに吹き荒れる。ドラゴンのブレスとは比べ物にならない一撃。火山が噴火したと錯覚するほどの炎が、断末魔を上げるパロットモンを飲み込んだ。

 炎はだんだんと真っ白な光へと変わり、輝きを増していく。白くて強い光を受けながら、シリカは目を閉じた。

 

 

 

 笛のような小鳥のさえずりが聞こえる。

シリカは頬にペロペロと舐める舌の感触を受けながら、目を開いた。

 

「太一、ヒカリちゃん……パロットモンは? コロモンは?」

 

 寝ぼけながら≪光ヶ丘≫で出会った名前を挙げる。誰からも返事はなく、シリカがキョロキョロと辺りを見渡すと、川辺にいることが分かった。そして、自分の膝に心地よい重さを感じて視線を向ける。

 

「ピナ! ピナ、会いたかったよ」

 

 SAOでの相棒、ピナだ。フェザーリドラのピナは嬉しそうなご主人様に抱き着いて、キュルキュルと鳴いた。

 シリカが周囲を観察すると、草原に名前の知らない花が咲いている。目の前には川が流れて、陽の光を反射して輝いていた。どうやらSAOに戻ってきたようだ。

 

 ピナの頭を撫でながら、今まで起きたことを考える。

 SAOでお気に入りのエリアを散歩していたら、霧のかかった桟橋を見つけ、ジンナイという老人に出会った。訳の分からないままクエストを受けると、1995年の光ヶ丘へと飛ばされた。そして太一とヒカリの兄弟と出会い、進化するコロモンと謎の怪鳥の戦闘に巻き込まれた。そして、目を覚ませばここにいる。

 

 SAOにいたはずなのに光ヶ丘に飛ばされた。SAOがデスゲームと化した最初のころ、何度か現実世界の自宅や学校の夢を見た。今回もそれと同じかは分からない。

 無限大な夢の後に取り残されたシリカ。現実世界が夢で、ゲームの世界に目を覚ますという不思議といえば不思議だが。もしかしたら夢と現実の区別がつかないほど、現実と電脳が合わさってしまったのかもしれない。

 

「ピナ、私ね、いっぱい戦ったんだよ。ものすごく大きな鳥のモンスターから二人の兄弟を守ったんだ」

 

 シリカはピナの頭を撫でながら空を見上げた。この青く広がる空は、データの集合体。でも、この空の遥か上の層では、あの黒の剣士が戦っているに違いない。

 

「ちょっとだけ、近づけたかな。キリトさん」

 

 このとき、シリカは気づいていなかった。クエストクリアを告げるウインドウ。そして、そのウインドウはあろうことか、ピナによって閉じられたことに。

 だから、このことはピナしか知らない。

 

『クエスト:デジモンアドベンチャー をクリアしました。』

『アイテム:≪デジヴァイス≫ を入手しました。』



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