バカテスポケット (野木雄大)
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第一章 試召戦争編
プロローグ


どこまでかけるでしょうか


 まだ寒さが残る四月の朝。俺、小波 一輝(こなみ かずき)は女の子と一緒に学校へと続く道を歩いていた。

 

 

「今日から待ちに待った新学期ですね」

 

「待ちに待ってたのは俺じゃなくて雄二じゃないか?」

 

「そういう一輝も試召戦争楽しみにしていたのでは?」

 

 

 学習意欲向上の目的の為に俺達が通う文月学園に導入された『試験召喚システム』。テストの点数に応じた戦闘能力を持つ『召喚獣』を操り設備を賭けてクラス対抗で戦う『試験召喚戦争』、通称『試召戦争』である。

 

 一年時は試召戦争のルールと召喚獣の操作を学んだだけ。しかしついに入学前から楽しみにしていたイベントに参加できると思うとワクワクする。

 

 

「あらあら、やっぱり楽しみだったんじゃないですか」

 

「そういう瑠璃花だって」

 

「ふふふ、わかります?」

 

 

 歩く度に綺麗な青髪を揺らす幼馴染みの南雲 瑠璃花(なぐも るりか)。彼女もまんざらではないようだ。

 

 

「しかし以外だな。瑠璃花は戦争なんて物騒な事は苦手だと思ってたんだけど?」

 

「そうですか? どちらかというと戦争というよりゲームのイメージが強いですね」

 

「…なるほど」

 

 

 ゲームか、俺もそう思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「おはようございます西村先生!」」

 

「小波に南雲、おはよう。珍しく遅刻ギリギリだな」

 

 

 学校に着いた俺達は校門に一人立っている馴染みの教師に挨拶する。生徒指導担当の西村教諭。趣味でトライアスロンをやってるというその大きなガタイと厳しい指導により多くの生徒から『鉄人』と呼ばれ恐れられている。

 

 

「すみません、お母さんが心配でギリギリまで看病を…」

 

「…そうか。南雲のお母さんは体調が優れないのだったな」

 

 

 そう、瑠璃花のお母さんは俺が小学生の頃からとある事情でいろいろと無理をした結果体を壊したのだ。始めは入退院を繰り返していたがここ最近は病院に行っていない。それでも時々倒れそうになって瑠璃花が看病するわけだ。

 

 

「まあ遅刻した訳ではないから謝る必要はないがな。ほら、振り分け試験の結果だ」

 

 

 西村先生は俺達に封筒を渡す。一年生と二年生が進級する前に受ける『振り分け試験』。成績の優劣でクラスが決まり、俺達にとっては二年生をどの教室で過ごすかを決める重要な試験だ。しかし…

 

 

「結果見えてるんだけどな」

 

「ですね…」

 

 

 苦笑いする俺と瑠璃花。実を言うと俺達二人は振り分け試験を受けていない。その理由は

 

 

「学校に行く途中で迷子になった子供を見つけて一緒に親を探していたそうだな」

 

 

 もう知られていた。誰から聞いたんだろうか?

 

 

「すまなかったな。俺としては出来るならもう一度試験を受けさせてやりたいが、それだと他の生徒に示しがつかない。本当にすまない」

 

 

 そう言って俺達に頭を下げる西村先生。時に厳しく時に優しい良い教師だと思う。

 

 

「頭を上げてください西村先生」

 

「そうですよ。私達も覚悟の上です」

 

「そう言ってもらえると助かる。…おっと、長話が過ぎたな。お前たち、早く教室に行け」

 

「「はい、失礼します!」」

 

 

 

 

 

 

『小波一輝 Fクラス』

 

『南雲瑠璃花 Fクラス』




初投稿ーっ!



一話だけでもすごく大変。毎日投稿してる人を凄いと思います!



さて、ここからどう進めていきますかね~…


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Fクラス

長く続けられるかな?


 三階の二年生校舎に来て俺と瑠璃花は驚愕した。

 

 ……目の前の光景に。

 

 

「…なあ瑠璃花」

 

「…なんでしょうか」

 

「ここは教室だよな? ホテルじゃなくて?」

 

「教室で間違いないですよ………Aクラスの」

 

 

 場所は二年Aクラス前。窓から覗いてみると巨大スクリーンが見える。他には個人のノートパソコンにエアコン!? 冷蔵庫にリクライニングシート!? まてまて、最高クラスとはいえやり過ぎじゃね!?

 

 

「どれだけお金掛をけてるんでしょうか…」

 

「広さもハンパないぞ。見ろ、普通の教室の五、六倍はあるな」

 

 

 そんな会話をしていると

 

 

「皆さん進級おめでとうございます」

 

 

 あ、スクリーンに担任の先生が映し出された。あれは…高橋先生だ。

 

 

「高橋先生はAクラスの担任なんですね」

 

「まああの人なら務まるだろう」

 

 

 スーツを着こなし、眼鏡を掛けた知的な女性の見本とも言える高橋先生。西村先生同様去年世話になった人だ。

 

 

「……霧島 翔子(きりしま しょうこ)です。よろしくお願いします」

 

 

 一人の女子生徒が代表の挨拶なのか、スクリーンの前で挨拶している。長い黒髪、物静かな雰囲気を持つあの子は…

 

 

「やっぱり翔子が代表か」

 

「翔子なら当然ですよ。去年からずっと成績トップなんですから」

 

 

 翔子と俺達は同じ中学だった訳じゃないが、俺と瑠璃花の通っていた中学に翔子の従姉がいてソイツに紹介されて交流を持った。

 

 

「…アイツも、頑張ってるかな」

 

「? 何か言いましたか?」

 

「いや、何でもない。そろそろ教室に行こう。このままじゃ本当に遅刻する」

 

 話を切り上げて俺達はAクラスを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてFクラス前。

 

 

「…なあ瑠璃花」

 

「…なんでしょうか」

 

「ここは教室だよな? 山小屋じゃなくて?」

 

「教室で間違いないですよ………Fクラスの」

 

 

 Aクラスにいた時とほぼ同じ会話を繰り広げている俺達。Aクラスは良い意味で凄かったがFクラスも凄い。

 

 もちろん、悪い意味でだ。古ぼけた扉にひび割れ多数の窓。扉の上に飾られているFクラスのプレートは真ん中部分がセロテープで修正されている。

 

 

「ここは本当に学校なんだよな? いつの間にか別世界に迷いこんでた、なんてことはないよな?」

 

「一輝? Aクラスの教室と格差が激しいからそう言いたくなる気持ちはわかります。ですが現実は受け入れましょう」

 

「…わかった」

 

 

 瑠璃花のおかげで冷静になれた。外見がこれでは室内がどうなっていることやら、一瞬戸惑いながらも扉を開ける。

 

 

「おはよ「早く座れ、蛆虫野郎!」っ!?」

 

 

扉を開けた瞬間俺に向けて罵倒が飛んできた。この声は

 

 

「なんだ一輝か。悪いな、てっきりアイツかと思ってな」

 

「雄二、朝からずいぶんな挨拶だな」

 

 

 教卓に立っているのは赤髪短髪ゴリラこと坂本 雄二(さかもと ゆうじ)。去年のクラスメイトだ。そして…

 

 

「ちょっと待て。心の中でサラッと俺を罵倒しなかったか?」

 

「なぜわかるんだよ。仮にしたとしてもお前も罵倒したんだからおあいこだろ」

 

「はあ…二人共相変わらずですね」

 

 

 後ろで呆れている瑠璃花をよそに教室を見渡す。床が畳、机と椅子の代わりに卓袱台と座布団がある。Aクラスとのあまりの格差に涙が出そうだ。

 

 

「先生はまだ来てないみたいですね。私達の席はどこでしょうか?」

 

「好きな場所に座るといい」

 

「席すら決まってないのかよ!?」

 

 

 ここ本当に学校!? 何度も聞くけど本当に学校!? 

 

 

「あれ、一輝と南雲さん? 二人も今来たの?」

 

 

 

 廊下から聞き慣れた男子の声がする。

 

 

「早く座れ、蛆虫野郎」

 

「いきなり酷くない!?」

 

「毎回面白いリアクションだな。おはよう明久」

 

 

 目当ての人間が来たことで雄二は先程のセリフを対象に向けて放つ。突然の罵倒に期待通りの反応をする吉井 明久(よしい あきひさ)。コイツも去年のクラスメイトだ。

 

 

「おはよう一輝。…ってなんで雄二が教卓にいるのさ」

 

「俺がクラスの代表だからだ」

 

 

 ふーん、雄二が代表なんだ。てか雄二と明久がFクラスか…。二人ならD、Cクラスを狙えるのに。後でなにかあったのか聞いてみるか。




こんな感じで進めていけばいいのか…


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自己紹介

だんだん要領が掴めてきた感じがします。


 それから少しして担任の先生が来た為、出入口で盛り上がっていた俺達は移動する。席順は自由だから俺は空いてる席に座り、その隣の席に瑠璃花も座る。

 

 

「えーおはようございます。二年Fクラスの担任の……福原 慎(ふくはら しん)です。よろしくお願いします」

 

 

 自己紹介を始めた福原先生は黒板に名前を書こうとしたが何故かやめた。チョークすら用意されてないのか…?

 

 

「皆さん全員に卓袱台と座布団は支給されてますか? 必要なものがあれば極力自分で調達するように。それと不備があればいつでも申し出て下さい」

 

 

 だいたいの説明が終わると何人かの生徒が手を挙げる。

 

 

「先生、俺の座布団に綿がほとんど入ってないでーす」

 

「我慢してください」

 

「先生、窓が割れていて風が寒いんですけど」

 

「我慢してください」

 

「先生、俺の卓袱台の脚が折れています」

 

「我慢してくだs「いや無理でしょっ!」はははっ冗談ですよ。木工用ボンドが支給されていますので、後で自分で直してください。それと割れた窓ガラスについてもセロハンテープとビニール袋の支給を申請しておきます」

 

 

 福原先生、冴えない印象に似合わずなかなかの人だな。この人とも仲良くなれそうだ。

 

 

「では、自己紹介を始めましょうか。そうですね、廊下側の人からお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「木下 秀吉(きのした ひでよし)じゃ。演劇部に所属しておる。今年一年よろしく頼むぞい」

 

 

 独特な言葉使いで自己紹介するのは去年のクラスメイトの秀吉。男子の制服姿でも十人中十人が女子と間違えるだろう可愛らしい容姿は本人の悩みの種らしい。

 

 

「…………土屋 康太(つちや こうた)」

 

 

 またしても知り合いだ。康太は口数少なくて小柄な奴だけど多芸に秀でている。俺には出来ない様々な事をこなす為、いろんな意味で尊敬している。

 

 

「島田 美波(しまだ みなみ)です。海外育ちで、日本語は会話はできるけど読み書きが苦手です。あ、でも英語も苦手です。育ちはドイツだったので。趣味はーー」

 

 

 お、ちゃんと女子がいるな……ってまた去年のクラスメイトか。…知り合いだらけだな。

 

 

「ーー趣味は吉井明久を殴ることです☆」

 

「誰っ!?」

 

「はろはろー。吉井、今年もよろしくね」

 

 

 突然の爆弾発言に分かりやすい反応をする明久。そんなアイツを見つけて笑顔で手を振る島田。あの二人も相変わらずだな。

 

 

「ーーです。よろしく」

 

 

 その後も淡々と自己紹介が続き、いよいよ俺達の番だ。

 

 

「小波一輝です。趣味は体を動かす事です。一年間よろしくお願いします」

 

 

 俺の方はすんなり終わったが…

 

 

「南雲瑠璃花です。料理が趣味で家庭部に所属しています。皆さん、一年間よろしくお願いしますね」

 

「「「よろしくぅーーー!!」」」

 

 

 瑠璃花の挨拶だけ男子連中が返す。返された瑠璃花は苦笑いしながら引いている。まあ瑠璃花って男子から人気高いみたいだし当然なのか?

 

 

「吉井明久です。気軽にダーリンってよんでくださいね♪」

 

「「「ダァァーーリィーーン!!」」」

 

 

 瑠璃花だけじゃなかった。俺達の後ろの席のバカのおふざけで聞いてるだけで不快な気分になる。

 

 

「……失礼、忘れてください。とにかくよろしくお願いします」

 

 

 言った本人も口に手を当て今にも吐きそうな顔で席に着く。何がしたかったんだい、お前さん?

 

 

「あの、遅れて、すいま、せん……」

 

 

 突然ガラリと教室の扉が開き、息を切らせて胸に手を当てている女子が入ってきた。




前書きや後書きでも何かやるべきなのかな…?


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提案

毎日投稿している人を凄いと思います(尊敬)


 教室全体が驚きや疑問が混ざったような声で賑やかになる。当たり前だ。教室に入ってきたのは本来ならここに来ないはずの生徒なのだから。

 

 

「丁度よかったです。今自己紹介をしているところなので君もお願いします」

 

「は、はい! あの、姫路 瑞希(ひめじ みずき)といいます。よろしくお願いします……」

 

 

 騒がしい中、数少ない平然としていた福原先生が声をかけ姫路は自己紹介をした。すると一人の男子が高々と右手を挙げる。

 

 

「はいっ質問です!」

 

「あ、は、はいっ。なんですか?」

 

「なんでここにいるんですか?」

 

 

 …こらこら、それじゃあ失礼な質問になるぞ。まあ気持ちはわかる。今クラス全員の視線を浴びているだろう彼女は入学当初から成績上位に名前を残している程の有名人だからだ。

 

 

「そ、その……振り分け試験の最中、高熱を出してしまいまして……」

 

 

 その答えを聞いてクラス全員納得の表情を浮かべた。

 

 

『そう言えば俺も熱(の問題)が出たせいでFクラスに』

 

『ああ、化学だろ? アレは難しかったな』

 

『俺は弟が事故に遭ったと聞いて実力を出し切れなくて』

 

『黙れ一人っ子』

 

『前の晩、彼女が寝かせてくれなくて』

 

『今年一番の大嘘をありがとう』

 

 

 改めて思う。想像以上にバカだらけだ。

 

 

「で、ではっ、一年間よろしくお願いしますっ!」

 

 

 逃げるように俺達にいる空いていた明久の隣に座る姫路。彼女の自己紹介が終わっても未だに騒がしいクラスメイト。

 

 

「はいはい。皆さん、静かにしてくださいね」

 バキィッ ガラガラ~……

 

 

 皆に注意しようと先生が教卓を叩くと、それは一瞬でゴミ屑と化した。

 

 

「え~……替えを用意してきます。少し待っていてください」

 

「あ、あはは、けほっけほっ…」

 

 

 笑いながら咳き込む姫路。体の弱い彼女にFクラスの環境は厳しすぎるんじゃないか? そう考えていると

 

 

「雄二、一輝。ちょっといい?」

 

「あ?」

 

「ん? なんだ?」

 

 

 明久に連れられて俺と雄二は教室を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、話って?」

 

 

 廊下に出て最初に口を開いたのは雄二だ。

 

 

「うん。この教室についてなんだけど、いくらなんでも酷いと思わない?」

 

「Fクラス、想像以上に酷いもんだな」

 

「Aクラスの設備を見たあとだからな。余計にそう感じるのかもな」

 

 

 学校側は生徒の誰かが教育委員会に訴えることを想定してないのか? というくらいに酷いものだ……あ、そうそう。

 

 

「なあ、お前たちはなんでFクラスにいるんだ? 二人ならもっと上のクラスに行けたはずだろ?」

 

 

 俺の質問に対する二人の答えは

 

 

「試験中に倒れた姫路さんを保健室に連れていって無得点に」

 

「姫路を運んでいる明久をたまたま見つけてな。点数を調整してFクラスになった。お前らといた方が楽しいからな」

 

 

 まったく揃いも揃って……

 

 

「お前らバカだろ?」

 

「「お前が言うな」」

 

 

 俺に関しては仕方がない。瑠璃花は困ってる人を放っておけない性格だし、俺自身瑠璃花と一緒にいたいし。

 

 

「ははは。さて、話を脱線させてなんだけどさ。明久の言う通り、確かにFクラスの教室は酷いよな」

 

 

 時間もないしそろそろ本題に入ろうか。

 

 

「でしょ? そこで僕からの提案なんだけど、試召戦争仕掛けてみない? Aクラスに」

 

「戦争?……姫路の為、か?」

 

「うん。姫路さんは本来ならAクラスにいるべき人だし、彼女にこの設備はキツすぎると思うんだ」

 

 

 明久も俺と同じ考えのようだな。しかし…

 

 

「確かにこのままじゃ何らかの病気になってもおかしくないな。まあ、もともと俺もAクラス相手に戦争をやろうとおもっていたからな。いいだろう、協力してやる」

 

「ありがとう雄二。一輝はどう? 去年から試召戦争やる気だったし、協力してくれるよね?」

 

 雄二を味方につけ、俺に期待の眼差しを向ける明久。

 

 

「確かに、俺は試召戦争目当てでこの学校に来たといっていい。だが……

 

 

 

 

 

 

お前のその理由なら俺は試召戦争には反対だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明久視点

 

 

 一輝の答えは僕にとって予想外のものだった。隣にいる雄二も驚きを隠せていない。

 

 

「え、なんでさ!?」

 

 

 一輝が試召戦争の為に文月学園に来たことを去年聞いた。だから雄二同様この提案に必ず乗ってくると思っていた。まさか反対してくるなんて思いもしなかった。

 

 

「勝算がないからか?」

 

 

 雄二が一輝に尋ねる。確かにAクラスとFクラスの力の差は歴然だ。でも僕らのクラスには勝算がある。目の前にいる雄二と一輝もそう、秀吉に康太に島田さん。しかも姫路さんと南雲さんもいる。僕だって全力を尽くす。

これだけの戦力でうまく立ち回ればAクラスにだって…

 

 

「勝算については聞くまでもないだろう。俺達のクラスには十分な戦力があるからな。問題なのはAクラスに勝った後だ」

 

 

 Aクラスに勝った後? 一輝は何を言ってるんだろう。

 

 

「Aクラスの連中は努力して設備を手にいれた。それに対してお前たち以外のFクラス連中は努力してないからここにいる。そんな奴らにAクラスの設備は必要ないし、努力した連中を踏みにじるような真似はしたくない」

 

 

 僕は何も言えなかった。

 

 

「次に体が弱いのは姫路だけじゃないだろ。Aクラスにだって体が弱い女子はいる……いや、女子とは限らない。運動とは無縁の体力の無い男子だっている。戦争に勝って設備を入れ替えたらそいつらが間違いなく病気になる。姫路一人の為にそいつらを犠牲にする気か?」

 

 

 ようやく僕は気づいた。目の前の姫路さんのことばかり考えて他の人のことを考えてなかった事に。少し考えれば分かることなのに……

 

 

「一輝、ゴメン。僕は本当にバカだ。周りがちゃんと見えてなかったよ…」

 

 

「そう落ち込むなよ。やる前に気づけたならまだ間に合うさ。それに、お前みたいに他人のために自分の信念を貫ける奴は嫌いじゃないしな」

 

 

「…うん、本当にゴメンね。それと、ありがとう」

 

 

 一輝、改めて君を凄いと思う。何が正しくて何が間違っているのかを冷静に見極めて仲間たちを導く。

 

 

 今でも君が『伝説のキャプテン』と呼ばれている理由がわかった気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一輝視点

 

 

 明久の説得? を終えたは良いが振り出しに戻ってしまったな。らしい事を言っても試召戦争をしたいのは俺の本心だ。

 

 どうしたものかとと悩んでいると今まで黙っていた雄二が口を開く。

 

 

「一輝、要するにAクラスに迷惑を掛けなければいいんだろ? それならなんとかなるかもな」

 

「ホントにっ!?」

 

 

 雄二の話題に反応したのは俺ではなく明久だ。

 

 

「簡単だ。勝った時の報酬を変えればいい。そうだな、『再度振り分け試験を行う』ってのはどうだ?」

 

「えっ……報酬を変えるって、そんな事出来るの!?」

 

「可能だ。過去の試召戦争について調べてみたんだが、上位クラスに勝ったクラスが設備の交換じゃあなく設備のランクを一つ上げる提案が通ったらしい。それに比べれば再度振り分け試験を行うくらい学校側からすれば苦でもないはずだ」

 

 

雄二の提案に明久の表情がだんだん明るくなっていく。俺の答えを求め、振り向いてくる。当然異論はない。

 

 

「これが俺の提案だ。一輝、これでどうだ」

 

「ここまでの案を出されて文句はないよ。わかった、俺も協力する」

 

「雄二、一輝…ありがとう。じゃあそろそろ先生も戻ってくるし僕達も教室に戻ろう」

 

 

 明久は俺と雄二に礼を言って教室に入っていき、俺達もそれに続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では最後に坂本君、自己紹介をしてください」

 

「了解」

 

 

 代表として最後に挨拶したいと順番を後回しにしてもらった雄二が先生に呼ばれて席を立つ。

 

 

「Fクラス代表の坂本雄二だ。俺のことは代表でも坂本でも好きに呼んでくれ。さて、皆に一つ聞きたい」

 

 

 ゆっくりと教室を見渡す。 

 

 

「カビ臭い教室、古く汚れた座布団、薄汚れた卓袱台。それに対してAクラスは冷暖房完備の上、座席はリクライニングシートらしいがーー」

 

 

 一呼吸おいて告げる

 

「ーー不満はないか?」

 

『『『大ありじゃあああああああぁぁっ!!』』』

 

 

 窓ガラスが割れるかのような魂の叫びが響き渡る。

 

 

「だろう? 俺もこの現状は大いに不満だ」

 

『そうだそうだ!』

 

『いくら学費が安いからってこの設備はあんまりだ!』

 

『改善を要求する!』

 

 

 次々とあがる不満の声。

 

 

「みんなの意見はもっともだ。そこで、これは代表としての提案だがーー

 

 

 

 

 

 

ーーFクラスはAクラスに試験召喚戦争を仕掛けようと思う」

 

 

 さて、楽しくなりそうだ。




文字数倍になりました。

これでいいんでしょうか?


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根拠

一日に二話投稿………バタリ(ち~~ん…)


『無理だ、勝てるわけがない』

 

『これ以上設備を落とされるなんて嫌だ』

 

『姫路さんがいれば何もいらない』

 

『南雲さんがいてくれれば満足』

 

 

 弱気な声があちこちから上がる。若干数名がズレた発言をしているが今は無視だ。皆の言いたいことは判る。何故なら成績下位のFクラスが成績上位のAクラスに勝つ。それは世間でいう『Giant killing』を実現させるに等しいからだ。

 

 

「そんなことはない。必ず勝てる。いや、俺が勝たせて見せる」

 

『何を馬鹿なことを』

 

『できるわけないだろう』

 

『何の根拠があってそんなことを…』

 

 

 自信ありと宣言する雄二。しかしそれでも否定的な意見は尽きない。

 

 

「根拠ならあるさ。このクラスには試召戦争で勝つ事の出来る要素が揃っている。それを今から説明してやる」

 

 

 勝てる根拠。それを聞いて全員が雄二に視線を向ける。皆の視線を浴びる雄二は姫路の方を見て…

 

 

「おい康太。いつまでも姫路のスカートを覗いてないで前に来い」

 

「…………!!(ブンブン)」

 

「は、はわっ」

 

 

 必死に顔と手を左右に振って否定する康太。そして姫路、今さらスカートを押さえても遅いぞ。

 

 

「土屋康太。こいつがあの有名な『寡黙なる性識者(ムッツリーニ)』だ」

 

「…………!!(ブンブン)」

 

 

 頬に付いた畳の跡を手で隠しながらも否定する姿が哀れだ。

 

 

『馬鹿な! ヤツがそうだというのか……?』

 

『だが見ろ。あそこまで明らかな覗きの証拠を未だに隠そうとしているぞ…』

 

『ああ。ムッツリの名に恥じない姿だ…』

 

 

 康太の二つ名、それがムッツリーニ。性に関する知識を求める姿からその名がついた。その結果、奴は保健体育の成績で学年トップに登り詰める程になった。

 

 

「次に木下秀吉。皆も知っている演劇部のホープだ」

 

『おお……!』

 

『確か、Aクラス木下優子のーー』

 

『『『双子の妹!』』』

 

「妹ではない! 弟じゃ!」

 

 

 秀吉が必死になって否定するが……たぶん誰も聞いてないな。ドンマイ。

 

 

「島田の数学も俺達の中で群を抜いている」

 

『おおっ……!』

 

「姫路と南雲のことは説明する必要もないだろう」

 

「えっ? わ、私ですかっ?」

 

「そうだ姫路、ウチの主戦力だ。期待している」

 

 

 試召戦争において姫路のような成績トップ争いに加わる人ほど心強い戦力はないな。それに…

 

『そうだ。俺達には姫路さんとがいるんだ!』

 

『彼女ならAクラスにも引けをとらない』

 

『南雲さんの成績って毎回二十位前後。文句なしにAクラスレベルじゃねーか!』

 

『ああ、彼女さえいれば何もいらない』

 

 

「よかったな瑠璃花。期待されてるぞ?」

 

「姫路さんに比べれば私なんて霞んでしまいますけどね」

 

 

 そんなことはないさ。さっき誰かが言った通り、瑠璃花はAクラス並の実力がある。康太のように得意分野に突出しているわけではないが俺の知る限り全体的に苦手はない。どの科目でも戦えるという事は展開次第で優位に立てるという事だ。

 

 

「当然、俺も全力を尽くす」

 

 

『坂本って、確か小学生の頃は神童とか呼ばれてなかったか?』

 

『てことは、実力はAクラスレベルが三人いるってことだよな!』

 

 

 いけそうた、やれそうだ、気がつけば教室の士気は確実に上がっていた。

 

 

「それに、吉井明久と小波一輝もいる」

 

 

……シンーー

 

 

 俺と明久の名前が出た瞬間、クラスの士気は下がった。俺達の名前はオチ扱いかよ!?

 

 

『誰だよ、吉井と小波って』

 

『聞いたことがないぞ』

 

『そんなヤツこのクラスにいたか?』

 

「ちょっと雄二! 一輝はともかくどうしてそこで僕の名前を呼ぶのさ! ほら、折角上がりかけていた士気が下がっちゃったじゃないか!」

 

「そう自分を卑下するなよ明久。お前は観察処分者じゃないか」

 

 

 『観察処分者』。学生生活において問題のある生徒に課せられる処分。主に教師の仕事の際、力仕事などの雑用を物理干渉(物に触れる)召喚獣でこなす。

 

 ただし物に触れる召喚獣の負担(疲れやダメージ)の何割かは召喚者にフィードバックされる。 故に観察処分者。問題児の生徒に与えられるペナルティである。

 

 

『おいおい、ようするに試召戦争で召喚獣がやられると本人も苦しいってことだろ?』

 

『おいそれと召喚出来ない奴が一人いるってことだよな』

 

 

 様々な意見が飛び交う。まあそうなるわな。だが問題はそこじゃない。雄二もそれについて話すだろう。

 

 

「確かにフィードバックはデメリットだが、観察処分者ゆえのメリットもある。明久、今までに何回召喚獣を動かした?」

 

「数えてないけど、ほぼ毎日先生の仕事手伝ってたから百は越えてるんじゃないかな?」

 

「聞いたか皆。俺達は去年、授業で数回動かしただけだが明久と一輝は違う。俺達以上に召喚獣の操作に精通しているから点数が上の相手でも互角以上に渡り合える。十分過ぎる戦力だ」

 

『マジでっ! それってすごくね!?』

 

『あれ? ちょっと待て。 吉井はわかったけど小波は結局なんなんだ?』

 

 

 明久について納得した皆の視線が俺に集中する。うわ~なにこの空気? 雄二、早く俺の説明をしてくれ。

 

 

「一輝は試召戦争が目当てでこの学校に来た。先生方から許可を貰って明久と同じように雑用をこなしている。もう皆も判るだろう。これだけの戦力があればAクラスに負ける要素など一つもない!」

 

『『『うおおおおおおっ!』』』

 

『いける、勝てるぞ!』

 

「皆、この境遇は大いに不満だろう?」

 

『当たり前だ!!』

 

「ならば全員ペンを執れ! 出陣の準備だ!」

 

『おおーーっ!!』

 

「俺達に必要なのは卓袱台ではない! Aクラスのシステムデスクだ!」

 

『うおおーーっ』

 

「お、おー……」

 

 

 ホント雄二は盛り上げるのが上手い。姫路も頑張って乗っている。




そろそろパワポケキャラを追加しますか…。

瑠璃花があまり目立っていないような気が。



今のうちだけですかね?


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ミーティング

【バカテス用語】
 文月学園高等部

 原作、そして本作の舞台となる高等学校。革新的な学力低下対策として「試験召喚システム」を導入している。進学校であるため、クラス発表は個人個人に渡されており、同時に最新技術の「実験場」としても扱われており、多くのスポンサーが付いているため生徒の学費は極めて安く抑えられている。生徒を大量に取られたことから近隣の高校からは目の敵にされており、また試験校のため経営が世論に左右されやすく、イメージの低下を避けるため不祥事は大っぴらにできないという問題点がある。
 指定の制服は男女共に黒のブレザー。そして男子はネクタイとズボンの色が青。女子はネクタイとスカートの色が赤となっている。


「まず手始めにDクラスを落とす。そこで明久! 秀吉を連れてDクラスへの宣戦布告の使者になってもらう。無事大役を果たしてこい」

 

「…それはいいけど、下位勢力の宣戦布告の使者ってたいてい酷い目に遭うよね?」

 

 

 明久の言う通り。下位クラスからの宣戦布告は拒否できないため宣戦布告に来た人は基本的に痛めつけられるのだ。

 

 

「だからこその秀吉だ。秀吉が居れば少しはマシになるだろうからな」

 

「雄二よ。それはワシがDクラスの面々から女扱いされておる、ということではないのか!?」

 

「わかったよ。開戦は午後からでいい?」

 

「ああ頼んだぞ」

 

「待つのじゃ二人とも! 淡々と話を進めるでない!」

 

 

 決意を固めて教室を出ていく明久。納得行かないまま後を追う秀吉。はたして結果は…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「た、だい、ま……」

バタリッ

 

 

 教室を飛び出して十分。戻ってきた明久ははその場で倒れた。ボロボロになった制服から判るように袋叩きにされたのだろう。しかし、

 

 

「なぜじゃ? なぜワシは攻撃されなかったのじゃ?」

 

 

 一方無傷の秀吉は納得がいかないという顔をしていた。どうやら明久が盾になってくれていただろう事に気づいてないようだ。

 

 

「お…おう、ごくろうだったな。ちゃんと伝えてきたか?」

 

「うん。昼休み終了から開戦になったよ」

 

 

 倒れた明久を見て顔をひきつらせる雄二。そして明久はすぐに復活して雄二に報告する。

 

 

「そうか、ならいい。これからミーティングを行う。さっき名前を挙げたメンバーは屋上に来てくれ」

 

 

 雄二はそう言って教室を出ていった。それに続き康太と秀吉。

 

 

「吉井君、大丈夫ですか?」

 

「吉井、大丈夫?」

 

「うん、大丈夫。ほとんどかすり傷」

 

 

 姫路と島田に心配され、なんとか起き上がる明久は姫路、島田と共に教室を出る。

 

 

「一輝、私たちも行きましょうか」

 

「ん? ああ、行こうか」

 

 

 瑠璃花に促され、俺も教室を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 屋上に来た俺達。雄二がフェンスの前にある段差に腰を下ろし、皆がそれに習う。全員が座ったところで雄二が口を開く。

 

 

「さて、今回のDクラス戦だが、まず簡単に作戦を言おう」

 

「その前に雄二よ。気になっていたのじゃが、どうしてDクラスなんじゃ? 普通はEじゃろう?」

 

「簡単な話だ。Eクラスは戦うまでもないからだ」

 

「なるほど。確かにな」

 

 

 雄二の意図が理解できた俺は頷く。しかし明久はわからないらしい。

 

 

「あれ? でも僕らよりクラスが上だよ?」

 

「確かに試験では奴等が上だ。けど、実際のところは違う。明久、お前の周りにいる面子をよく見てみろ」

 

 

 雄二に言われた通り俺達を一人一人見る明久。

 

 

「美少女が三人とバカが二人と有名人が二人いるね」

 

「誰が美少女だと!?」

 

「…………(ポッ)」

 

「ええっ!? 雄二とムッツリーニが美少女に反応するの!? ツッコミ切れないんだけど!」

 

 

 こんな時にでもふざけられるとはな。仕方がない、代わりに俺が言うか。

 

 

「要するにだ明久。ここにいる面子なら正面からやりあってもEクラスには勝てる。Dクラスも問題はないだろうが、絶対とは言えない」

 

「だったら最初から目標であるAクラスに挑もうよ」

 

「初陣として派手に勝って景気づけにしたほうがいいだろ? クラスの士気を維持する為にもな。それに何回か試召戦争をやって召喚獣の操作を積む目的もあるだろうし」

 

 一応雄二に確認を取るため視線で問う。それに気づいて雄二は頷く。

 

 

「一輝の言う通りだな。まあDクラスに挑む理由はそれ以外にもあるがな」

 

「どういうことじゃ?」

 

「それについてはいずれ話す。今はDクラス戦の話をしよう。これから作戦を説明する。しっかり聞いてくれ」

 

 

 俺達はDクラス戦勝利のための作戦に耳を傾けた。




バカテスやパワポケを知らない人の為に今後、前書きに用語説明やキャラ紹介を載せることにします。


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南雲瑠璃花

【バカテス用語】
 テスト

 試験召喚システムに対応した学力試験。通常のテストと異なり点数上限が存在せず、時間内であれば無制限に問題を解くことができる。基本的には「1科目につき400点以上」が成績優秀者の目安となる。教科は現代国語、古典、数学、物理、化学、生物、地理、日本史、世界史、現代社会、英語、保健体育、芸術、政治経済、情報工学の15教科に加えそれらの合計である「総合科目」の16教科である。ただし「総合科目」の点数は、センター試験を意識した点数配分が行われるため純粋な合計ではないこともありうる。


「瑠璃花、いくぞ」

 

「はい」

 

 

 屋上での作戦会議を終えた俺達はは教室に戻って授業を受けた。そして今は昼休み。本来なら瑠璃花が作った弁当があるんだけど…

 

 

「ん? 一輝、南雲。何処か行くのか?」

 

「ああ。今日は弁当が無いから売店で食べるよ」

 

「珍しいな。戦争の準備もあるから遅れるなよ」

 

 

 雄二の質問に簡潔に答える。昼休みが終わればすぐに試召戦争が始まる。代表として釘を刺しているんだろう。

 

 

「わかっているさ。時間までには戻るよ」

 

 

 そう言って俺は教室を出ていき、瑠璃花が後ろをついて行く。二人で並んで廊下を歩く中、瑠璃花が口を開く。

 

 

「すみません。今日に限ってお弁当の用意が出来ず…」

 

「仕方ないよ。瑠璃花のお母さんの看病してたんだしさ。それに、瑠璃花の料理は楽しみだけど毎日お弁当作ってもらったら悪いし」

 

「悪いだなんて、そんなことありません。私は自分がしたくて一輝のお弁当を作っているんですから」

 

「ははは、だったらこれからもご好意に甘えちゃおうかな?」

 

「はい、どんどん甘えてください!」

 

 

 互いに笑いながら売店を目指す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 校舎一階の売店に来た俺達。店の前に知ってる後ろ姿があり、声を掛ける。

 

 

「小野さん、こんにちは。店開いてます?」

 

「あら~小波くん、いらっしゃい。もちろん開いてますよ~」

 

「こんにちは、小野さん」

 

「南雲さんもこんにちは~」

 

 

 俺達に挨拶をする三角巾にエプロン姿のお姉さん、名前を小野 映子(おの えいこ)さん。去年の秋から出来た売店で働いている。実年齢は不明。しかし二十代前半を思わせる若さと美貌、そしてのほほんとした雰囲気を漂わせることから生徒だけでなく教師からの評判も高い。

 

 俺は先生方の雑用を手伝う際にこの人と何度か関わっている。瑠璃花も料理のスキルを上げる為に小野さんから指導を受けたことがあるらしい。

 

 

「パン二つ買いたいんですけど。これ二人分のお金です」

 

「どうも~。好きなもの持っていってくださいね~」

 

 

 お金を受け取り、いつも通りの天使のスマイルを見せる小野さん。うん、ファンが多いのも頷ける。そんな事を思っていると、離れた場所で一人の先生が困った様子で歩いている。どうしたんだろう…。

 

 

「布施先生。何かありましたか?」

 

「ああ、小波君。実はーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瑠璃花視点

 

 

 売店でパンを買って教室に戻ろうという時に一輝が何かに気づいて歩き出す。見ると通路の向こうから布施先生が何かを考えながら歩いている。布施先生と何かを話し始めた一輝はすぐに私のもとに戻ってきた。

 

 

「ごめん瑠璃花。布施先生の手伝いしてくるからさ、俺の分のパン持って教室に戻ってて」

 

「あ…はい、わかりました」

 

 

 突然の事に変な声が出そうになったけどすぐに返事をして一輝のパンを受け取る。そして一輝は布施先生とどこかへ行ってしまった。

 

 

「小波くん、また先生方のお手伝い?」

 

「一輝は人がいいですからね。困っている人を放って置けないんですよ」

 

 

 そう、私の時も…。

 

 

「では小野さん、教室に戻りますね」

 

 

 小野さんに一礼して背を向けると

 

 

「…南雲さん、一つ聞いてもいいですか?」

 

 

 呼び止められた。

 

 

「え? はい、いいですけど…」

 

「Fクラスの子達と仲良く出来そうですか?」

 

「…………」

 

 

 それを聞いた瞬間、私の心が暗くなるのがわかる。

 

 

「やっぱりまだ、彼や身内以外の人と繋がりを持つのが不安ですか?」

 

 

 小野さんの問いに私は頷く。小学校四年生の頃、父が多額の借金を残して病死して、元々住んでた一軒家を離れる事になった。お母さんは借金を返すために朝から夜まで働く日々を送り、そして私は事情を知った学校の同級生からいじめを受けるようなった。

 

 貧乏人、母子家庭、疫病神、それらの言葉は今でも心に刺さっている。仲の良かった筈のクラスメイト、周りが私の事をどう思っていたのか、あの頃ハッキリと思い知らされた。始めは我慢できていたけど日に日にいじめがエスカレートしていき、ついには学校に居場所がなくなり私は転校を余儀なくされたのだ。

 

 

「…はい。もうあんな思いは御免ですから…」

 

 

 事実、私は吉井君や坂本君達とも距離を取っている。去年から教室で一輝と他愛のない話で盛り上がる彼等が良い人達なのはわかっている。

 

 それでも私自身が一歩を踏み出せないでいる。そんな私に小野さんが笑顔で

 

 

「大丈夫。あなたはまだ他人との繋がりを諦めてませんよ」

 

 

 諦めてない、ですか。

 

 

「…そうだといいですね」

 

 

 もう教室に戻ります、と頭を下げて私は教室を目指して歩く。

 

 一輝と出会ったのは転校先の小学校。その時になって同じアパートの隣の部屋に住んでる事を知り一緒に登校する事になった。次第に彼と一緒にいる事に居心地がいいと感じると同時に家の事情を彼に知られる事が怖かった。しかし秘密を知っても一輝は私から離れることはなかった。彼は私を貧乏人でも疫病神でもない南雲瑠璃花として見てくれたのだ。そんな彼に私は惹かれていった。

 

 

 そしてしばらくして、小学校六年生の頃に起きたある出来事により彼は私達親子を救ってくれたのだけど、それはまた別のお話。

 

 彼に救われ、命の恩人なんて言葉でも足りない程の大きな恩を今度は私が彼を支える事で返していくと決めたのだ。

 

 

 

 

 

 

 ……一輝、あなたのお世話は私の生き甲斐なんですからね。




 こんな体験すれば他人と関わるのも嫌になるのかな?


 そして二人目のパワポケキャラは小野さんです。


 試召戦争は次回から!


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Dクラス戦(1)

【バカテス用語】
 試験召喚獣

 化学とオカルトと偶然によって完成した「試験召喚システム」によって姿を現す、召喚者をデフォルメした姿の分身。全長は80cmほど。文月学園のテストを受けた人間が、当該科目の召喚フィールド内で起動ワード「試験召喚獣召喚・試獣召喚(サモン)!」を詠唱することにより出現する。総合科目の点数に比例した武器・防具を装備し(攻撃力は勝負科目に比例する)、召喚獣による「設備の異なる教室状況」を改善するためのクラス間抗争「試験召喚戦争」(通称「試召戦争」)の手段となる。たとえ1桁の点数でもゴリラ並みのパワーを持つが、「観察処分者」を除く一般生徒の召喚獣が触れることが出来るのは原則として他の召喚獣や仮想体だけである。


 昼休みが終わり、Dクラスとの試召戦争が始まり俺、瑠璃花、明久、姫路の四人は空き教室で回復試験を受けている。前の振り分け試験で明久と姫路は途中退席によって無得点。俺と瑠璃花は試験を受けていないため無得点。今の俺達では召喚獣を呼び出せないのだ。

 

 

「……よし」

 

「一輝、行くのですか?」

 

「ああ。これだけ解けば十分だ。明久もそろそろいいんじゃないか?」ガタッ

 

「そうだね。じゃあ僕も」ガタッ

 

「ふ、二人とももう終わったんですか!?」

 

 

 戦争開始から三十分。ある程度問題を解いた俺は試験を切り上げ、それを悟った瑠璃花は確認の為に聞いてくる。明久にも声を掛け、いい頃合いだったらしく立ち上がる。姫路は早く回復試験を終えた俺達に驚く。

 

 

「俺と明久は低い点数でも十分戦えるからな。いくぞ明久!」

 

「了解。じゃあ行ってくるね」

 

「気をつけてくださいね」

 

「私たちもすぐに行きます!」

 

 

 瑠璃花と姫路の声援を受け取り俺たちは空き教室を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明久視点

 

 

 現在の状況は…おそらく戦争開始から渡り廊下でDクラスと交戦していた秀吉率いる先攻部隊が後退をしだして、それを見かねた島田さん率いる中堅部隊が加勢に加わったあたりかな? ここにくる前に秀吉たちが回復試験を受けに戻ったし。

 

「見たところ教師は高橋先生の他に化学の布施先生と五十嵐先生がいるな。明久、化学は何点取った?」

 

「一応全教科50点以上は取ったから問題ないよ。操作でカバーするしね」

 

「よし。科目変更はいつでも出来るに越したことはないからな。化学以外でも戦えるよう高橋先生のもとに向かおう」

 

 

 一輝の提案に肯定の意を示すために頷く。そして走り出そうとした瞬間

 

 

「い、嫌ぁっ! 補習室は嫌ぁっ!」

 

 

 あれ、島田さん? 立ち止まって辺りを見渡すと……いた。五十嵐先生が展開する化学のフィールドの中に島田と女子生徒の姿が。

あれ? あのツインロールヘアーの子は……

 

 

【化学】

 

Fクラス 島田美波 53点

VS

Dクラス 清水美春 94点

 

 

 清水さんんんんんっ!? あの娘Dクラスにいたの!? さっき宣戦布告に行ったときは気づかなかったよ!

 

 清水 美春(しみず みはる)。島田さんを『お姉様』と慕い、少々……いや、かなりイケない思考を持つ女子生徒。

 

 

「ふふっ。お姉様、この時間ならベッドは空いていますからね」

 

「ひいぃっ…!」

 

「一輝、先に行って。僕は島田さんを助けに行く」

 

「あ、ああ。また後でな」

 

 

 清水さんが島田さんの手を引っ張って保健室へと歩き出す。これはヤバい。補習室行きよりもヤバい予感がする。一輝も予想がついたのか、若干顔がひきつっていたし…。

 

 

「Fクラス吉井明久、Dクラス清水に挑みます。試獣召喚(サモン)っ!」

 

 

 起動ワードを唱えると僕の足下に魔方陣が現れて、そこから改造学ランを身に纏い、右手に木刀を持った召喚獣が現れた。その顔は僕そっくりである。

 

 

 突然現れた僕に向けられたのは島田さんからの希望の眼差し。そして清水さんからの敵意の眼差し。

 

 

「吉井、助けにきてくれたのね!」

 

「吉井明久…美春の邪魔をしないでください!」

 

「清水さん。君にはいろいろと世話になっているけど、今は戦争中だ。おとなしく島田さんを離してくれると嬉しいかな?」

 

「美春の邪魔をすると言うのならば貴方も敵です!」

 

 

 清水さんの召喚獣は僕の召喚獣に突進してきた。僕は召喚獣を操作して最小限の動きで攻撃をかわして足払いをかけ、激しく転倒した清水さんの召喚獣の首を一閃した。

 

 

【化学】

 

Fクラス 吉井明久 73点

VS

Dクラス 清水美春 DEAD

 

 

「そ、そんな…」

 

「戦死者は補習~!!」

 

 

 どこから現れたのか、鉄人(西村先生)が清水さんを補習室へ連行する。

 

 

「お、お姉様~っ!」

 

 

 彼女の悲鳴は姿が見えなくなった後もしばらく続いた。

 

 

「島田さん、無事?」

 

「吉井、ありがとう。助かったわ」

 

「どういたしまして。じゃあ僕は先に行った一輝を追いかけるけど、島田さんはどうする? 僕と来る? 回復試験受けに行く?」

 

 

 僕の問いに島田さんが少し考えて

 

 

「一緒に行くわ。美春からはあまり攻撃を受けていないし」

 

「決まりだね。じゃあ行くよ!」

 

 

 僕たちは一輝のもとへと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ吉井」

 

「なに島田さん?」

 

「アンタ美春と知り合いなの?」

 

「清水さん? 僕のバイト先の喫茶店、あの子のお父さんが経営しててね。たまに店に顔を出しに来てるんだ」

 

「……吉井って、バイトしてたのね」




Dクラス戦の展開についてかなり迷いました。


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Dクラス戦(2)

【バカテス用語】
 召喚フィールド

 召喚獣は、教師の展開する半径10メートル程度(個人差あり)の召喚フィールドの中でのみ使用できる。通常、教師の「承認!」の掛け声でフィールドが展開されるが教師の意思でも展開可能。なお2つ以上のフィールドを極端に近い位置で展開すると、フィールドが互いに「干渉」し消滅する。



明久視点

 

 

 先に向かった一輝にようやくたどり着いた僕と島田さんは目の前の光景に戦慄していた。

 

 

「おう。二人とも遅かったな」

 

「…小波? 一体何をしたの?」

 

「何って、Dクラス連中に戦いを挑んだだけだけど?」

 

 

 島田さんの問いに何もなかったかのように答える一輝。いや、この状況は…

 

 

 

『戦死者は補習~!!』

 

『て、鉄人!? 嫌だ! 補習室は嫌だ~』

 

『頼む! 見逃してくれ! あんな拷問耐えきれる気がしない!』

 

『拷問ではない。立派な教育だ! 喜べ。戦争が終わる頃には趣味は勉強、尊敬するのは二宮金次郎、といった立派な生徒になれるだろう』

 

『それは教育じゃなくて一種の洗脳! 誰か、誰か助け、ぎゃああ~~!!』

 

 

 Fクラスも何人か混ざっているが、Dクラスの生徒十数人が鉄人に担がれ、補習室へと運ばれていった。

 

 

「あれ…全部君が倒したの?」

 

「ああ。面倒だったから全員を相手にした。やられたFクラスの何人かは助ける暇がなかったからな」

 

「十数人を運んでいく西村先生もスゴいけど、アンタもアンタよね…」

 

「まあね。点数差はあっても操作性でなんとかなったよ」

 

 

 点数はあくまでも召喚獣の強さを表すものであって、人間と同じように心臓を貫かれたり首を斬られたりすれば点数差に関係なく戦死する。一輝も僕同様去年から召喚獣を何度も動かしていたから点数が低くても負けるわけがない。

 

 

「小波の召喚獣見たかったわー」

 

「ははは、次の機会にね」

 

「とりあえずさ、今の状況を雄二に報告する? 時間稼ぎする必要無くなりそうだし」

 

 

 僕の提案に二人が賛成し、近くにいた須川君に伝令を頼んだ。僕達はこの場で待機して再びやって来たDクラスの増援部隊の相手をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雄二視点

 

 

「須川、それは本当か?」

 

「ああ。俺もあの場にいた」

 

 

 須川から話を聞き、俺が確認するように問うと須川は本当だといわんばかりに頷く。Fクラスとしてはありがたいことだが予想外の展開に内心驚いている。

 

 

(点数差を気にせず戦えるとはな…)

 

 

 今朝、Aクラスに勝つ根拠として召喚獣操作の有効性についてクラスメイトに話したが、あれはあくまでクラスの士気を上げるため。俺自身召喚獣に関してそこまで詳しくはなかった。どんなに細かい操作が出来ても点数差で勝敗が決まると思っていたからだ。

 

 明久と一輝が戦力になるのは正直に嬉しい。だが相手がDクラスだからな。これは念のために……

 

 

ガラッ

 

 

 教室の扉が開く。

 

 

「坂本君。回復試験、終わりました」

 

 

 またしても嬉しい誤算が起きた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一輝視点

 

 

「「おりゃあああああっ!!」」

 

 

 

【現代国語】

 

Fクラス 小波一輝 68点

Fクラス 吉井明久 59点

VS

Dクラス 中野健太 DEAD

Dクラス 鈴木悠太 DEAD

Dクラス 平山紀之 DEAD

 

 

「戦死者は補習~!!」

 

『嫌だ~!』

 

『うわああ~!』

 

『小波ぃ~! 覚えてろよ~!』

 

 

  俺と明久は目の前の敵を倒しながら少しずつDクラスへと前進していく。さっきまで島田も戦っていたが点数を消耗して回復試験を受けに行った。ん? そういえば倒した中に見覚えのある奴がいたような…。まあいいか。

 

 

「明久! まだやれるな?」

 

「もちろん! 一気に畳み掛けるよ!」

 

「くそっ…まさかたった二人にここまでやられるとは!」

 

 

 俺達の目と鼻の先には見るからに焦っているDクラス代表の平賀 源二(ひらが げんじ)の姿が。

 

 

「お前を倒せばゲームセットだな」

 

「Fクラス吉井と小波がーー」

 

「させません! 「「「試獣召喚(サモン)!」」」」

 

「「なっ!?」」

 

 

【現代国語】

 

Fクラス 小波一輝 68点

Fクラス 吉井明久 59点

VS

Dクラス 玉野美紀 112点

Dクラス 鈴木靖彦 97点

Dクラス 山本有三 108点

Dクラス 笹島圭吾 104点

 

 

 突如俺達の前に現れたのはDクラスの近衛部隊。不味い、囲まれた!

 

 

「残念だったな。ここまで二人でよくやったと誉めてあげよう」

 

 

勝ち誇った平賀の顔。なんかムカつくな。

 

 

「三人がかりで駄目なら四人がかりだ。流石に君達でも苦戦は免れないだろうね」

 

 

 確かに。こちらは点数が低い上に既に囲まれている。この状態で俺と明久で一人ずつ倒せたとしても残った二人にやられる可能性がある。どうせなら戦死はしたくない。だから最後はーー

 

 

「瑠璃花、あとは頼む」

 

 

 ーー助っ人に任せる事にした。

 

 

「は?」

 

 

俺の言ってる事の意味がわからないだろう平賀は当然のように疑問の声をあげる。

 

 

「わかりました」

 

 

 そんな平賀の後ろから瑠璃花が歩いてくる。

 

 

「え? 南雲さん。どうしたの? Aクラスはこの廊下は通らなかったと思うけど」

 

 

「Fクラスの南雲瑠璃花。Dクラス代表の平賀君に現代国語で挑みます。試獣召喚(サモン)」

 

 

 平賀の問いかけを無視して事務仕事のように淡々と述べて召喚獣を呼び出す。

 

 

【現代国語】

 

Fクラス 南雲瑠璃花 293点

VS

Dクラス 平賀源二 129点

 

 

「え? あ、あれ?」

 

 

 未だ現状を理解できていない平賀を他所に瑠璃花は召喚獣に武器を構えさせ

 

 

「いきます!」

 

 

 平賀の召喚獣を一撃で仕留めたのだった。




 諦めることはいつでも出来る。ならば長く続けてみよう。

 そう思えるようになりました。



 挫折しかけた(いえ、正直挫折してました)人間が何を、というかも知れませんが復活しました。

 道のりは長くて険しそうですが、ここから完結を目指します!


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戦後対談(1)

【バカテス用語】
 戦闘システム

 召喚者のテストの点数は召喚獣のヒットポイントのようなものに変換され、腕輪の使用や防御をするごとに減少する。点数が0になった召喚獣は「戦死」し、戦死した召喚獣の召喚者は試召戦争終結までの間、補習室送りとなる。テストの点数は自動回復しないが、別室で「補充試験(補給テスト)」を受けることにより点数を回復することが出来る。実戦では操作の習熟や戦略・戦術により、点数差が覆されることもしばしばである。


『凄ぇよ! 本当にDクラスに勝てるなんて!』

 

『これで畳や卓袱台とはおさらばだな!』

 

『南雲さん愛してます!』

 

 

 Fクラスの勝利。その報せを聞いた生徒達の叫びが校舎内を駆け巡る。片や勝利の喜びによる勝鬨。片や敗北による悲鳴。

 

 そんな中、俺は戦争の終止符を打った幼馴染みに歩み寄る。

 

 

「悪かったな瑠璃花。騙し討ちみたいな真似をさせて」

 

「いえ、私にとって一輝(あなた)の役に立つ事は日々の糧ですから」

 

「ははは、感謝してるよ」

 

 

 瑠璃花の頭を軽く撫でる。そしてこちらに近づいてくる気配に気づいて振り向く。

 

 

「明久、一輝、南雲。よくやってくれた」

 

 

 雄二だ。恐らく瑠璃花をここまで連れてきたのもコイツだろう。

 

 

「まさか南雲さんがFクラスだなんて……信じられん」

 

 

負けたショックからか、床に腰を下ろしている平賀の姿が。そんな彼に雄二が近づく。

 

 

「平賀。早速で悪いが戦後対談に入りたいんだが、いいか?」

 

「…ああ。ルールに則って教室を明け渡そう。ただ、今日はこんな時間だ。作業は明日でいいか?」

 

 

 顔に出してはいないが落ち込んでいるのがわかる。当然だ、負けた以上あのボロボロな設備で過ごすと思っているだろうからな。だけど

 

 

「いや、その必要はない。Dクラスの設備を奪う気はないからだ」

 

 

 設備は奪わない。昼のミーティングに参加した俺達八人はその話を聞いて納得している。しかし…

 

 

『『『はああああああっ!?』』』

 

 

 当然不満の声もある。何人かが雄二に迫って文句を言っている。それでも雄二は冷静に対処する。

 

 

「お前ら。俺達の目標はAクラスだろう」

 

 

 手を前に出して「落ち着け」というようになだめる。そして平賀に向き直り

 

 

「というわけだ。Dクラスの設備には手を出すつもりはない」

 

「それは俺達にはありがたいが……。それでいいのか?」

 

「もちろん、条件がある。Dクラスは三ヶ月間俺達に協力する事だ」

 

「ん? 協力というと?」

 

「大したことじゃない。ちょっとした雑用だったりAクラスとの交渉の際に一緒に来てもらったりな。あとは勝手に宣戦布告しない事。それらを受け入れるなら設備の交換を無しにする。どうだ?」

 

 

 Dクラスからすれば願ってもないことだろう。ヤバイことをさせられる訳でもない以上これらの提案を呑むだけで設備の交換を避けられるんだから。

 

 

「……わかった。ではこちらはありがたくその提案を呑ませて貰おう」

 

 

 周りにいるDクラスの生徒達の多くが安堵で胸を撫で下ろしている。設備が入れ替わらずに済んで喜びを隠せないでいる。

 

 

「よし、契約成立だな。今日はもう帰っていいぞ」

 

「ああ、ありがとう。お前らがAクラスに勝てるよう願っているよ」

 

「はは、無理するなよ。勝てっこないと思っているだろ?」

 

「いや、小波と吉井がいれば本当にAクラスを打倒できると思っているよ」

 

 

 応援してるからな、と手を挙げて平賀は去っていった。

 

 

「さて、皆! 今日はご苦労だった! 明日は消費した点数の補給を行うから今日はゆっくり休んでくれ! 解散!」

 

 

 雄二の号令で皆雑談を交えながら荷物を取りに教室へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 試召戦争が終わって一時間。最終下校時刻までまだ時間がある。明久はバイト。雄二、姫路、島田は家の事情で早々に帰った。秀吉、康太、瑠璃花は部活の為まだ校舎にいる。俺は屋上で瑠璃花を待っていた。

 

 

 カキィン

 

 

 懐かしい音が聞こえ振り向くと、校舎から少し離れたグラウンドで野球部が練習している。彼らを見ていると思い出す、五年前の奇跡を。

 

 

「ん?」

 

 

 昔の思い出にふけているとポケットの中のスマホが震えている事に気づく。画面に映し出された名前を見て呆れてしまう。

 

 

「…アイツ暇なのか?」

 

 

 といいつつ通話のマークにタッチをしてスマホを耳に押し当て、最近会ってなかった友人に話しかける。

 

 

「もしもし玲奈か? 久しぶりだな。翔子とはもう電話したのか?」




 主人公の過去は少しずつ明かしていきましょう。


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計画の変更

【文月学園におけるクラス設備の奪取・奪還および召喚戦争のルール】

一、原則としてクラス対抗戦とする。各科目担当教師の立会いにより試験召喚システムが起動し、召喚が可能となる。なお、総合科目勝負は学年主任の立会いのもとでのみ可能。


 時刻は七時四十分。俺と瑠璃花は既に学校に来ていた。登校するには些か早すぎるこの時間帯だとグラウンドで朝練をしている運動部だけで他の生徒の姿はまだない。

 

 

 ちなみに何故こんな早くに登校したかと言うと昨日の夜に雄二からメールが来たからだ。《協力して欲しいことがある。明日説明するから早めに登校してほしい》と。

 

 

「「おはよう(ございます)」」

 

「お、一輝。南雲も一緒か、おはよう。意外と早く来てくれたんだな」

 

 

 教室の扉を開けると、既に雄二が真ん中の席(卓袱台と座布団)に座っていた。

 

 

「雄二こそ、随分と早いんじゃないか?」

 

 

 先に教室に来て驚かせるつもりだったが、どうやら向こうが一枚上手だったらしい。

 

 

「俺の持ち点は振り分け試験の為に調整したものだからな。Dクラス戦はともかく次の戦争の為にしっかり取っておこうと思ってな」

 

 

 なるほどね。卓袱台の上にある参考書の量からしてかなり早い時間に来たな。

 

 

「それは感心。…で? 次はどのクラスに挑む気だ?」

 

「Bクラスだーーーと言いたいんだがな。昨日の戦争を見てやり方を変えようと思う」

 

 

「やり方を…ですか?」

 

 

 雄二は「そうだ」と頷く。ちなみに俺は、基本的に俺と明久達の会話に参加する事のない瑠璃花が珍しく口を開いたことに内心驚いていた。

 

 

「俺は今まで召喚獣の勝負は点数で決まるものだとばかり思っていたんだ。だが聞いた話だと一輝と明久。お前ら二人は倍の点数差のある召喚獣をほぼ一撃で戦死させていたと聞いてな。協力して欲しいことを話す前にお前の口からその確認をしたかった」

 

「そういうことか。あまり知られてないことだけど、召喚獣にも人間と同じ急所があるんだ。心臓の部分を貫かれたり、首を切り飛ばされたりすれば点数差に関係なく一撃で戦死する」

 

 

 俺はこの話を明久から聞いた。アイツは観察処分者だからフィードバックによって召喚獣と感覚を共有することでそれに気づいたみたいだ。その事を雄二に話したら

 

 

「…これは良い意味で予想外だな。やはり計画をーー」

 

 

 顎に手を当てて何やら考え込んでいる雄二。そういえば雄二は宣戦布告の前に召喚獣操作の有効性について皆に説明していたな。てっきり雄二も明久から聞いたのかと思ったが、どうやらクラスの士気を上げるためのハッタリだったようだ。

 

 …まあハッタリじゃなくなった訳だが?

 

 

「ーーよし。一輝、南雲。協力して欲しいことについてなんだが、いいか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 職員室へと歩く俺達。雄二の提案、それはクラス間ではなくクラス内で行う、『模擬試召戦争』だった。そのため雄二は自分より教師の信用を得ているだろう俺達に立会人となってくれる教師を一人見つけて説得して欲しいのだろう。

 

 

「「失礼します」」

 

 

 職員室に入って周りを見渡す。しかし…

 

 

「高橋先生はいないか…。全教科のフィールドを展開できる人にお願いしたかったんだけどな」

 

「となると馴染みのある先生方……西村先生もいませんね」

 

 

 今職員室にいるのは知らない先生方ばかり。去年から世話になっている先生方の姿はない。正直知り合いではない先生方にこの話をするのは気がひける。模擬試召戦争は昼に行う予定なので急ぐ必要はないし、高橋先生ならHR後にでもAクラスに行けばいるだろうと判断し、職員室を出ようとしたら

 

 

「君達、なにか用事かい?」

 

 

 職員室にいる教師の一人がこちらにやってきた。見た感じ二十代後半から三十代前半くらいの若い男性教師だった。職員室に来て何もしない俺達が気になったのだろう。

 

 

「一輝、どうします?」

 

 

 この人に話を持ちかけるかどうか、瑠璃花は俺に一任する気みたいだ。まあ向こうから声をかけてくれたのだ。ダメ元で話してみよう。

 

 

「先生、実はーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほぅ……クラス内での試召戦争、面白そうじゃないか」

 

 

 断られる覚悟で話した結果、あっさりOKが出た。

 

 

「あのー、そんな簡単に了承していいんですか? 確か試召戦争は原則としてクラス対抗戦だけですよね?」

 

 

 瑠璃花が確認をとる。実をいうと俺達がやろうとしているのは試験召喚戦争の規則に反しているのだ。だからあまり馴染みのない教師にこの話を持ちかけることに対して抵抗があった。しかしこうもあっさりOKがでるとは…

 

 

「もちろん、学園長に確認しなきゃいけないけど問題は無いと思うよ。そもそも試験召喚システムは生徒の学習意欲向上を目的としているからね。結果的にその目的を果たせるなら多少の例外くらい認めるんじゃないか?」

 

 

 学園長自身、試召戦争は大歓迎みたいだしね…と、最後に付け加える男性教師。

 

 

「じゃあ、昼休み終了後に立ち会ってもらいたいんですが…かまいませんか?」

 

 

「俺でいいなら喜んで。学園長もそろそろ見えるだろうし、今の話について一緒に確認しに行こう」

 

 

 男性教師は職員室を出て学園長室へと歩く。俺達もその後ろをついていく。

 

 

「ありがとうございます、え~っと……」

 

 

 礼を言った後でこの人の名前を聞いてないことに気づいた。

 

 

「ははは、去年は一年生だった君達とあまり関わってないから知らないか」

 

 

 苦笑する男性教師は歩くのをやめて俺の方に向き直り、手を差し伸べる。

 

 

 

 

 

 

「数学と保健体育を担当している、そして今年から二年Aクラスの副担任を務めることになった暁 司(あかつき つかさ)だ。よろしく、小波一輝君」




オリ話になるのかな?


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模擬試召戦争

【バカテス用語】
 腕輪

 テストの点が単科目400点以上の生徒の召喚獣には「腕輪」が与えられ、点数を消費する代わりに腕輪に対応した特殊能力が使用可能になる。



暁視点

 

 

 昼休みが終わり、各クラスで午後の授業が行われている中、二年Fクラスだけ別の催しが行われていた。それは…

 

 

「くたばれ吉井っ!」

 

「地獄に落ちろ小波ぃ!」

 

 

 そう、今ここで行われているのはFクラス内での模擬試召戦争である。Fクラスの教室全域に張られた召喚フィールドの中で複数の召喚獣がたった二人の召喚獣に敵意(殺意?)丸出しで襲いかかっていた。

 

 一方、敵意を向けられている二人の召喚獣はそれらの攻撃を難なく避けては的確に一撃を与えている。そして…

 

 

【数学】

 

Fクラス 小波一輝 188点

VS

Fクラス 須川亮  DEAD

Fクラス 横溝浩二 DEAD

 

 

Fクラス 吉井明久 141点

VS

Fクラス 福村幸平 DEAD

Fクラス 有働住吉 DEAD

 

 

 

「戦死者は補習~!!」

 

「なんだとっ!? 模擬試召戦争でも鉄人の補習があるのか!?」

 

「嫌だ~助けてくれええっ!!」

 

 

 本来試召戦争には多くの教師が立ち合い、それにより他クラスの授業は基本的に自習となる。だが今回はクラス内の戦争で立ち会いの教師は俺は一人だ。他のクラスは通常通り授業を行っている。

 

 補習担当教師である西村先生も試召戦争とはいえ模擬である以上、戦死した生徒を補習室に連行する必要はない筈だ。それでも須川達四人を苦もなく担いで教室を出ていく西村先生を目の当たりにした俺は

 

 

「西村先生、あなた暇なんですか?」

 

 

 と、本人に聞こえない声で軽いツッコミをいれる。知らない仲ではないとはいえ年齢的にもキャリア的にも先輩にあたる人に対して堂々と舐めた口は聞かないのだ。それにしても…

 

 

「ぎゃあああっ!!」

 

「補習は嫌だあああっ!!」

 

 

 戦死した生徒が次々と運ばれていく。

 

 

 この模擬試召戦争のルールを簡単に説明すると

 

 

一、二人一組のチーム戦。

 

二、残り二人になるか五時間目の授業終了のチャイムが鳴った時点で終戦。

 

 

 …とはいえ一のルールに関してはまるで意味を成していない。戦争前に予めペア決めは済ませたらしいが、味方が戦死してぼっちになった者同士で組んだり、利害の不一致でペア同士で仲間割れを起こしたりしている者がほとんどだ。

 

 要するに最初のペアがどうであれ最終的に二人になれば終戦だな。

 

 

 それにしてもこの状況は坂本君の計画か?

 

 

「吉井! 貴様を倒して南雲さんとペアになるのは俺だぁ!!」

 

「小波ぃ! 俺と木下秀吉の恋物語スタートの為にもここでくたばってくれやあああっ!」

 

 

 男子二人の叫びを聞いて判ると思うが吉井君は南雲さんと、小波君は木下君とペアを組んでいる。一部を除くFクラス男子達は数少ない女子とペアを組めた一輝と明久に嫉妬している。実際戦争開始からあの二人が集中的に狙われ続けている。

 

 戦争開始からわずか十五分で一クラスの半分以上が戦死している。何も知らない人は話を聞いて驚くだろうが、全てを知っている俺は溜め息をついて呆れるだけだった。

 

 

「思春期男子の嫉妬とは恐ろしいものだな」

 

 

 そんな可愛らしい連中ではないだろうが、とりあえずそう思うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一輝視点

 

 

「「やっと落ち着ける…」」

 

 

 敵意むき出しで襲い掛かってきた四十人のバカ共を戦死させた俺と明久は声を揃えてその場に腰をおろす。そして俺は一息ついた後で、事の元凶を睨み付ける。

 

 

「雄二、お前とんでもないことをしてくれたな」

 

「そうだよ! 僕と一輝のペアを女子にすれば皆が暴走する事くらいわかってたでしょ!?」

 

「待つのじゃ明久よ! ワシは男じゃぞ!」

 

「何いってるのさ秀吉~。秀吉以上の美少女が男のはずないじゃないか~」

 

 

 明久と秀吉がいつも通りの会話をする中、雄二はうしろめたげに口を開く。

 

 

「正直悪かったと思ってる。連中のモチベーションを上げるためには仕方がなかったんだ。すまん」

 

 

 雄二の心からの謝罪。そんなすんなり頭を下げられたら文句の一つも言えない。

 

 

「はあ…わかってる。俺も本気で怒ってる訳じゃないさ」

 

 

 のんびりやるよりはマシだろうしな。と付け足す。

 

 

「てかこの組み合わせはなんだ? チームワークを考えるなら俺は明久か瑠璃花じゃないのか?」

 

 

「それに関してはテストの点数と操作性だな。一輝と明久は操作に慣れてるから、まだ操作に慣れてないかつ今後前線に出す予定の秀吉と南雲二人と組ませた。で、お前と南雲、明久と秀吉の組み合わせなら練習せずとも連携は取れるだろうから結果この形になった」

 

 

 雄二の説明で納得した。俺も戦争中ずっと瑠璃花のそばにいる訳じゃないし状況によっては秀吉やムッツリーニと組むこともあるし。

 

 

「むぅ…一輝とペアになったはいいのじゃが、誰とも戦えなかったのじゃ」

 

「私も、吉井君のサポートすら出来ませんでしたね」

 

 

 残念そうに呟く秀吉と瑠璃花。そんな中、雄二とムッツリーニが俺のそばにいる召喚獣に注目する。

 

 

「にしても一輝の召喚獣はやっぱりって感じだな」

 

「………ピッタリ」

 

「おいおい、いきなりなんだよお前ら」

 

 

 言いたいことはわかるけどさ…。

 

 

「僕もそう思うよ。だって一輝の召喚獣はまるでーー「「南雲(さん)!」」姫路さんに島田さん? どうしたの?」

 

 

 突然瑠璃花を呼ぶ声が。振り向くとそこには姫路と島田がいた。ああ、そういえばこの二人はペアだったな。点数的に見てバランスは取れてるな。

 

 

「ウチと勝負して!」

 

「私と戦ってください!」

 

 

 俺と明久の次は瑠璃花か…。姫路は知らないが島田の方は恐らく瑠璃花を倒して明久と組む気かな?

 

 

「私とですか? まあ…別にかまいませんよ」

 

「南雲さんが戦うならペアの僕もーー」

 

「吉井君は休んでてください。ここは私一人で十分です」

 

 

 立ち上がろうとする明久に休むよう促す瑠璃花。

 

 

「後悔しても知らないわよ、瑞希!」

 

「はい!」

 

「「「試獣召喚(サモン)!」」」

 

 

 女子三人の間に三つの魔方陣が現れ、そこからそれぞれの召喚獣が現れる。

 

 島田の召喚獣は青の軍服にサーベルを、姫路は西洋鎧に両手剣を装備している。そして

 

 

「ほぅ…南雲の召喚獣はナース姿じゃのう」

 

「…………ナース服(ブシャァァァッ!)」

 

 

 瑠璃花の召喚獣は背中に小さな羽の付いたナース服に巨大な注射器を装備している。まさに白衣の天使だ。そしてムッツリーニよ、一体何を想像した?

 

 

【数学】

 

Fクラス 南雲瑠璃花 301点

VS

Fクラス 島田美波 179点

Fクラス 姫路瑞希 463点

 

 

「喰らいなさい!」

 

 突貫した島田の召喚獣がサーベルをブンブン振り回すが瑠璃花の召喚獣には一発も当たらない。

 

 

「なんで当たらないのよ!?」

 

「召喚獣の操作が雑なんですよ」

 

「くっこうなったら…瑞希!」

 

「わかりました。…えいっ!」

 

 

 島田の合図で姫路の召喚獣に付いている腕輪が光出し、熱線が放たれる。四百点以上の召喚獣が持つ腕輪の力が瑠璃花を襲うが

 

 

「甘いです」

 

 

 体制も崩されていない状態で一直線に走る光線が当たる筈もなく、瑠璃花の召喚獣は難なく回避し、そのまま姫路の召喚獣の心臓に注射器を突き刺した。

 

 

「そんな!?」

 

「嘘っ!? 瑞希がーー「余所見してていいんですか?」しまった!」

 

 

 動揺した島田の隙を逃さず、両手で注射器を振り回し、島田の召喚獣の体を一閃した。

 

 

【数学】

 

Fクラス 南雲瑠璃花 301点

VS

Fクラス 島田美波 DEAD

Fクラス 姫路瑞希 DEAD

 

 

 勝負が決まった瞬間、教室の隅にある掃除用具入れのロッカーが突然開き

 

 

「戦死者は補習~!!」

 

「「いやああぁぁぁぁっ!!」」

 

 

 何故かロッカーから飛び出してきた西村先生によって姫路と島田は連れていかれた。

 

 

「…いつからあそこにいたんだ?」

 

「それより鉄人のあの巨体がロッカーに納まったのか?」

 

「そういえば以前ミカン箱から飛び出してきたことがあったような…」

 

「………何故ミカン箱から」

 

「エスパー○東を越えておるのう」

 

 

その光景にしばらくの間唖然とする俺達だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雄二視点

 

 

 模擬試召戦争も終わって今は放課後。俺は教室で今日の結果について考えていた。

 

 

「おう雄二、まだ帰ってなかったのか?」

 

「一輝か。そういうお前はーーって聞くまでもないか」

 

 

 基本的に南雲の部活が終わるまでは学校に残ってるからなコイツは。

 

 

「瑠璃花を待ってるのもあるが、模擬試召戦争に立ち会ってくれた暁先生に礼を言いに行ってたんだよ」

 

「おお…そうか。それはそうと一輝、今日はいろいろと助かった。お前のお陰で計画がまとまった」

 

 

 あの後、終戦まで召喚獣を動かしたおかげで俺達主要メンバーの召喚獣の操作性は文句なしに上昇した。秀吉やムッツリーニが得意科目以外で戦えるようになるのは正直嬉しい。

 

 …ただ、姫路と島田にも召喚獣の操作に徹して欲しかったがな。

 

 

「ほう…じゃあ明日にはAクラスに挑む気か?」

 

「いや、流石にあともう一戦ちゃんとした試召戦争をやっておきたい。経験は積むに越したことはないからな」

 

「じゃあ予定通りBクラス戦?」

 

 

 俺は首を横にふる。

 

 

「召喚獣の戦いが点数で決まる訳じゃないとわかったからな。模擬試召戦争同様、クラス全員に操作性を磨いてもらう為にランクを一つ下げる」

 

「それってつまり?」

 

 

 これだけ言えば分かるだろう。ある程度予想がついてだろうがそれでも確認する一輝に肯定の意思を示すために頷き口を開く。

 

 

「そうだ。明日は挑むのは

 

 

 

 

 

 

Cクラスだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃

 

 

「凄い、ウチこんなに美味しいクッキー初めて食べたわっ!」

 

「苦労したんですよ。彼が美味しいって言ってくれるまで何度も挑戦して…」

 

「南雲さんっ、ここまで美味しく作れるコツとかないんですかっ!?」

 

 

 家庭科室でFクラス女子三人が親睦を深めていたりする。




進みが遅いと自分でも思っています。


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Cクラス

【バカテス用語】
 物理干渉

 「観察処分者」と教師の召喚獣は物理干渉能力を持っており、荷物運びや物体の物理的な破壊などを行うことが出来る。しかし物理干渉能力を持つ召喚獣は、召喚獣に与えられたダメージに対するフィードバックがある。これには荷物運びによる疲労なども含まれるため、そういった教師の雑用は「観察処分者」が行うことになる。


明久視点

 

 

「「我々FクラスはCクラスに対して試召戦争を仕掛ける(のじゃ)!」」

 

 

 朝のHRを終えた僕はDクラスの時と同様秀吉を連れてCクラスの教室に来ていた。理由はもちろん宣戦布告の為。

 

 

「えっと……わかったわ、宣戦布告を受け入れる。どうせこっちは…拒否出来ないし」

 

 

 僕達の前に立つのはCクラスの代表を名乗る小山 夕香(こやま ゆうか)さん。クールビューティーという表現が似合う女子生徒なんだけど…どうしたんだろう、喋り方がぎこちない。

 

 …そして何故だ? 彼女だけじゃない、Cクラスの皆が憐れむような目で僕を見ているような気がする。

 

 

「ありがとう小山さん。開戦は午後からでいい?」

 

「え、ええ良いわ。…それより吉井君だっけ? 一つ聞いていい?」

 

「うん。なにかな?」

 

 

 未だにぎこちない喋り方の小山さん。一体何を気にしているのか。それを聞くためにも話を聞こう。

 

 

「なんで貴方達はセーラー服を着ているの?」

 

「「……………」」

 

 

 言った。僕がひたすら目を背けていた現実を小山さんが包み隠さずに言った。分かっていたさ。さっきから感じる憐れみの視線がそういうことだってことはっ…!

 

 

「ははは。宣戦布告の使者って大抵酷い目に遭うでしょ? 実際Dクラスの時にボロボロにされてさ。何か対策はないかクラスの皆に聞いたらこれなら襲われないだろうって無理矢理着せられて」

 

「だからって女装はないでしょ。よくそれを着て宣戦布告にいこうと思ったわね」

 

「…確かに。今でも周囲からの憐れむような視線が突き刺さるんだ。そしてその度に大切な何かを失っていく気がしてさ…」

 

 

 床に座り込む僕の肩に手を置いて元気付けてくれる秀吉。

 

 

「明久、気をしっかり持つのじゃ。男子たるもの、一生に一度は女装をするものじゃぞ」

 

「そんな現実僕は認めないっ! お願い見ないでっ! こんな汚れてしまった僕を見ないでっ!!」

 

「おっ落ち着くのじゃ明久! よそのクラスで暴れるでない!」

 

 

 僕もうお婿にいけないっ…!

 

 

「…なんか可哀想になってきたわね。ねえ皆? 彼は充分すぎるくらい傷ついてるし、これ以上酷いことするのはどうかと思うんだけど」

 

 

 小山さんがCクラスの皆に問う。

 

 

『…だよな。流石にここまで追い詰められてる奴に追い討ちをかけるのは人としてどうかと…』

 

『宣戦布告に来た使者を痛めつけるのは絶対ってわけじゃないしね』

 

『まあ、最終的な決定権は小山さんに委ねましょう』

 

 

 Cクラスの面々で何やら話し合っている。そして結論を出した小山さんが僕達に歩み寄り

 

「吉井君。今の貴方の状況に免じて二人に危害は加えないわ」

 

「ホントに!?」

 

「ええ。開戦は午後からよね。お互い頑張りましょう」

 

 

 小山さん…君はなんて優しい人なんだっ! ここまで他人に優しくされたのは久しぶりな気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小山視点

 

 

「「失礼しました!」」

 

 

 セーラー服姿の男子二人(吉井君と木下君)が出ていった後、私はすぐに教室のドアを開けて顔半分を廊下に出す。そして吉井君達の姿が見えなくなったのを確認してドアを閉めた。すると

 

 

「小山よ、ご苦労だったな」

 

 

 一人の女子が私に近づいてくる。その人は私を含む他の生徒のような黒のブレザーを着ていない。

 

 彼女が着ているのは白のブレザー。それはつまり彼女が生徒会役員である事を表している。さらにいえば目の前にいる彼女は生徒会長でもある。

 

 

「いえ、私はあなたの言った通りにしただけよ。…それより本当に大丈夫なの? 下手したらこれルール違反になるんじゃない?」

 

 

 私は彼女に何度目かも分からない確認をする。私達が試召戦争でやろうとしている事が事なのだ。正直不安でしかない。

 

 

「気持ちはわかるがそう不安になるな。FクラスとはいえAクラスレベルが二人もいる以上正攻法では勝てないからこその策だ。念のため先生方にも確認をとったから反則にはならないさ。それに先程の二人、吉井と木下は小山と話をして何の違和感も感じていなかっただろう?」

 

「それは確かに……きゃっ」

 

「ほらほら、ウチらの会長を信じなアカンで~」

 

 

 後ろから両肩を掴まれて思わず悲鳴をあげてしまう。にししっとイタズラな笑みを浮かべて肩を掴んできたのは可愛らしい顔に似合わず高身長の女子生徒だ。白のブレザーを着ている。

 

 

「私達は会長を信じて戦うだけよ」

 

 

 さらに一人、高圧的な雰囲気を放つ眼鏡の女子生徒もこちらにやって来た。彼女も白のブレザーを着ている。

 

 

「…そうね、宣戦布告の使者に嘘をついた以上もう後戻りは出来ない。こうなったら会長の作戦を実行するだけよっ!」

 

 

 もう覚悟を決めたわ! やってやろうじゃない!

 

 

「その意気やで」

 

「よく言ったわ」

 

「うむ。小山の決意を無駄にしないためにも、私も最善を尽くそう。皆、この戦争絶対に勝つぞ!」

 

「「「おおーーっ!!」」」

 

 

 会長がクラスの士気をあげる。一昨日Fクラスがクラス分け早々戦争を起こした時は驚いた。Dクラスが攻め込まれた以上今度はCクラスも狙われるかも知れないと警戒していた。しかも向こうにはAクラスレベルが二人もいる。負ける可能性が出てきた。だけど

 

 

「小山、私が合図したら例の作戦を実行してくれ。向こうの主力を一人必ず討ち取って見せる」

 

「ええ、私は会長を信じるわ」

 

 

 幸運にも今年のCクラスには生徒会役員が三人もいる。負けるはずがないわ!

 




Cクラスの作戦とは?

生徒会役員は誰だ?



もうほぼオリ話になりますね。頑張って頭使いますか。

…ちなみにバカテス原作に生徒会ってあったんでしょうか?


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Cクラス戦(1)

【文月学園におけるクラス設備の奪取・奪還および召喚戦争のルール】

二、召喚獣は各人一体のみ所有。この召喚獣は、該当科目においてもっとも近い時期に受けたテストの点数に比例した力を持つ。総合科目については各科目最新の点数の和がこれにあたる。


 昼休み終了の鐘がなる。それはつまりFクラス対Cクラスの試召戦争開始の合図でもあった。

 

 

「始まりましたね。一輝、そろそろ教室に戻らないと…」

 

「ゴクゴク……だな。雄二には遅くなるって伝えたけど、それでもクラスの命運がかかってる以上早く戻らないとな。小野さん、ご馳走さま」

 

 

 場所は一階の売店。昼休みは瑠璃花と二人で小野さんの仕事を手伝っていた。それを終えて小野さんからお茶と菓子を貰って一息ついていたのだ。

 

 

「は~い。二人共、頑張ってね~」

 

 

 ファイトっ、と二人分のコップを受け取った小野さんの応援の言葉。天使の笑顔でそれを言われては負けるわけにはいかないと学園の男子なら誰もが思うだろう。

 

 

「一輝。鼻の下…伸びてい・ま・す・よ?」

 

「おっと悪い。…よし、行くぞ」

 

 

 若干声のトーンを落とす瑠璃花に畏縮し、気を引き締めて俺達は売店を後にした。

 

 

「………ばか」

 

 

 後ろをついてくる瑠璃花の呟きは聞こえなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまない雄二、遅くなった」

 

「一輝と南雲か、『試召戦争開始時に教室で待機』なんてルールはないから別に構わない。今回お前たち二人は中堅部隊だからな。教室で待機しててくれ」

 

 

 教室に戻った俺達に教卓にいた雄二は問題なしと判断。お咎めはないらしい。まあまだ始まって間もないし、遅くなるとは予め伝えてはいたけど。

 

 

「で、状況は?」

 

「今のところCクラスに怪しい動きはない。先攻部隊のメンバーに姫路を投入して秀吉と明久を中心にしているからそう簡単には崩れないだろう」

 

 

 いきなり姫路を使うのか。それに明久と昨日の模擬試召戦争で操作性が上がった秀吉も……もしかすると善戦するんじゃないか?

 

 

「…………戻った」

 

 

 教室の扉が開いたと思ったらいつのまにか教卓にいる雄二の隣に現れたムッツリーニ(忍者)。恐らく現状報告かな?

 

 

「ムッツリーニ、現場はどんな感じだった?」

 

 

「…………先攻部隊は渡り廊下でCクラスと交戦。フィールドの科目が数学。姫路の腕輪の力であの場にいたCクラスの生徒の殆どが戦死した」

 

 

 …全員開いた口が塞がらないでいた。俺も同じだ。善戦すると思っていたけどここまでとは。

 

 ピンポンパンポーン

 

 と教室のスピーカーから音が鳴る。こんな時に放送か?

 

 

《二年Fクラスの皆さん。Cクラス代表がたった一人屋上で貴方達を待っています。勝つ自信があるならば屋上まで来てください。繰り返しますーー》

 

 

 女子生徒(おそらくCクラス)の放送の内容に耳を疑った。雄二も俺と同じリアクションをしているため、俺の聞き間違いではない。

 

 

「…雄二、どう思う?」

 

「わざわざ逃げ場の無い屋上に自分から足を運ぶか? どう考えても罠だろ」

 

「しかし罠だとしても一人で屋上にいるなんて放送をかける理由はなんだ? 一人…は嘘だとしても屋上になにかあるかもしれない」

 

「本当に代表がいたとしてCクラス代表の小山…だったか? Fクラス全員で屋上に突撃したとしてアイツに姫路や南雲のいる俺達をどうにか出来るとは思えないんだがな」

 

 

 そうなるよな。なら小山の狙いはなんだろうか?

 

 

「じゃあさ、本当か罠か、二つの可能性を想定して動いてみようか?」

 

「ん? 何か案があるのか?」

 

「俺と瑠璃花で屋上に行く。本当に小山がいるなら決着をつけられるし、無難に屋上に閉じ込める類いの罠だったら犠牲は二人で済むだろう?」

 

「…お前ら二人を失うのはキツいがまあ良い。中堅部隊の連中を連れて一度先攻部隊と合流してから屋上に行ってくれ」

 

「了解。行くぞ瑠璃花」

 

「はい」

 

 

 瑠璃花と中堅部隊のメンバーを引き連れて教室を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一輝!」

 

 

 渡り廊下を越えて新校舎。Cクラスも目と鼻の先の場所で明久達と合流した。明久が俺に向かって手を振ると。近くにいた秀吉と島田も俺達に気付く。

 

 

「三人とも。第一陣お疲れさん」

 

「あはは、すごく大変だったよ」

 

「まったくじゃ。Dクラスより点数が高い上に連中やけに連携がとれておったからの。昨日の模擬試召戦争がなければ戦死しておった」

 

 

 秀吉がそこまで言うとはな…。すると瑠璃花があることに気付く。

 

 

「皆さん、姫路さんはどこです?」

 

 

 あ、ホントだ。姫路がいない。

 

 

「そういえばいないな。島田、姫路はどこにいるんだ?」

 

「えっと…瑞希はさっきの放送を聞いて屋上に行ったわ」

 

 

 なん…だと?

 

 

「他に行った奴は?」

 

「瑞希だけ。この戦争に決着(けり)をつけるって」

 

 

 マジか。まあ俺と瑠璃花が実験台になるつもりだったしそれならそれで。

 

 

「だったら戦争はもうすぐ終わりかな?」

 

「そうだね。小山さんには悪いけど一人で姫路さんに勝てるとは思えな「残念だけど姫路さんは負けるわ」えっ!?」

 

 

 明久の言葉が遮られ、俺達はCクラスの方へと顔を向ける。ガラッと教室の扉が開きそこから廊下に出てきたのは

 

 

「小山…さん? なんでここにいるの?」

 

 

 明久は目の前にいる女子、小山夕香に問いかける。すると小山はイタズラが成功した子供のように

 

 

「ごめんね吉井君。実は私、あなたに嘘ついてたの」

 

「嘘? さっきの放送の事?」

 

「いや明久、小山の嘘は多分それじゃない」

 

 

 明久の思っている小山の嘘は屋上にいるという放送だろう。しかしそっちじゃない。小山が明久に嘘をついたのはもっと前。

 

 

「え…、それってどういう「小山は代表やあらへんっちゅうことや」誰っ?」

 

 

渡り廊下のそばにある階段からぞろぞろとこちらにやってくるCクラスの面々。関西弁を喋ったのは異様に背の高く白いブレザーの女子だ。アイツは…

 

 

「生徒会役員がなんでここに?」

 

「それはもちろんウチもCクラスやから」

 

「私も忘れないで欲しいわ」

 

 

 もう一人、眼鏡をかけた白ブレザーの威圧感ある女子がCクラスの教室から出てきて小山の隣に立つ。

 

 

「二年Cクラス、生徒会庶務の大江 和那(おおえ かずな)や。よろしゅう」

 

「同じく二年Cクラス、生徒会書記の浜野 朱里(はまの あかり)よ。わかったらさっさとやられなさい」

 

 

 高身長の女子が大江和那、眼鏡の女子が浜野朱里と言うらしい。そんな中で俺は口を開く。

 

 

「生徒会役員が二人もいるとはな。…で? 小山が代表じゃないなら誰がCクラスの代表なんだ?」

 

 

 俺の問いに小山はクスクスと笑って答えた。

 

 

「生徒会長よ♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三者視点

 

 

 姫路瑞希は決して油断も慢心もしていなかった。Dクラス戦では戦場に立てず、前日の模擬試召戦争はロクに戦えないまま戦死した。

 

 模擬試召戦争の目的は操作性の向上だと事前に聞かされていたにも関わらずそれを忘れてしまい、せっかく一輝が教師にお願いして作って貰った機会を棒に振ってしまった。

 

 だからこそCクラス戦は皆の役に立とうと前線に立ち、開始から三十分も経たない内に十人以上を戦死させた。

 

 そこでCクラス代表が屋上で自分達を待っているという放送だ。クラスの役に立ちたい、その思いが突っ走り彼女は明久や秀吉、美波の制止も聞かず一人で屋上に向かった。その結果…

 

 

「そ、そんなっ…!?」

 

 

 彼女の召喚獣の首が飛ばされたのだ。当然三百点以上あった召喚獣の持ち点は無くなり戦死となった。

 

 

「姫路瑞希よ、お前は確かに強かった。だがーー」

 

 

 腕を組ながらゆっくりと歩み寄り、両手と両膝をついて茫然自失となっている彼女を堂々とした態度で見下ろすのは

 

 

【世界史】

 

Cクラス 神条紫杏 483点

VS

Fクラス 姫路瑞希 DEAD

 

 

 

 

 

 

「ーー私には及ばない」

 

 

 文月学園生徒会長、神条 紫杏(しんじょう しあん)であった。




パワポケキャラが一気に三人か。


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Cクラス戦(2)

【文月学園におけるクラス設備の奪取・奪還および召喚戦争のルール】

三、召喚獣が消耗するとその割合に応じて点数も減点され、戦死にいたると0点となり、その戦争を行っている間は補習室にて補習を受講する義務を負う。


第三者視点

 

 

 文月学園で一番名前の通っている生徒は誰か? それを問われれば一人の生徒が挙げられる。

 

 毎年二学期に行われる生徒会選挙。本来ならば来年三年生になる二年生の中から選ばれるのが通例である。しかし、去年の生徒会選挙では異例の事態が発生した。

 

 そう。学園初、一年生の生徒会長が誕生したのだ。他の候補者達を押し退けて最多票を勝ち取り全校生徒のトップに君臨した女子生徒。

 

 それこそが現二年Cクラス代表、神条紫杏である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一輝視点

 

 

 Cクラス教室の前で敵の挟み撃ちにあった俺達は英語の召喚フィールドの中で大乱闘を繰り広げていた。

 

 

「ハアッ!」

 

 

 蛮族(正確にはインディアン)のような格好をした大江の召喚獣が繰り出す槍の連続突きをかわしていく。一瞬も気が抜けない為に避ける事に集中し過ぎると

 

 

「隙あり!」

 

「くらえっ!」

 

 

 他のCクラス生徒の奇襲を受けてしまいそうになる。俺は左右からの攻撃を後ろに下がることで回避し、同時に大江の召喚獣とも距離を取る。

 

 

【英語】

 

Fクラス 小波一輝 91点

VS

Cクラス 大江和那 122点

 

 

 …不味いな。大人数を相手に徐々に点数を削られていくこちらに対して向こうは連携がとれている。特に大江って奴はやけに操作慣れしていやがる。

 

 

 アイツを先に倒すべきなんだが向こうの武器は槍だ。迂闊に近付くことは出来ない。

 

 

「戦死者は補習~!」

 

「「ぎゃああ~!!」」

 

 

 そうこうしている間に味方は減る一方だ。俺はCクラス連中の攻撃をかわしながらもチラっと仲間達を見る。瑠璃花と島田は小山を含むCクラス数人に囲まれているが、互いを護るように背中合わせで戦っている。

 

 明久と秀吉は少し離れた所でCクラス数人と

 

 

【英語】

 

Fクラス 吉井明久 86点

Fクラス 木下秀吉 34点

VS

Cクラス 浜野朱里 415点

 

 

 四百点越えの浜野の召喚獣(迷彩服と両手にナイフ)と戦っていた。…マジかよ、まさかの腕輪持ちだと!?

 

 

「きゃああっ!」

 

「島田さん!」

 

 

 悲鳴に振り向くと、いつの間にか俺から離れていた大江の召喚獣の槍が島田の召喚獣を貫いていた。

 

 

「秀吉!」

 

「ぐぬっ…!」

 

 

 別の場所でも浜野の召喚獣が投げたナイフが秀吉の召喚獣の頭に突き刺さる。

 

 

【英語】

Fクラス 島田美波 DEAD

Fクラス 木下秀吉 DEAD

 

 

「戦死者は補習~!!」

 

「皆の者、すまぬ」

 

「ごめんっ」

 

 

 秀吉と島田が戦死した。気がつけばこの場にいるFクラスは俺、明久、瑠璃花の三人だけになっていた。その時Cクラス男子が走ってこちらにやってくる。

 

 

「みんな聞け! 我らが生徒会長がFクラス姫路を討伐したぞーっ!」

 

 

 オオオオオオッ!! というCクラス全員の喜びの声。既に勝ちは決まったと言ってるような向こうの勝鬨に似た叫びに対し、俺達Fクラスの三人は絶望の窮地に立たされた。

 

「そんな…姫路さんが…」

 

「明久…」

 

「………」

 

 

 明久はショックを隠せないでいる。俺も似たようなものか、姫路が負ける可能性は想定していたが正直起こりえないと思っていたからな。瑠璃花は何も言わないが、悔しそうにしている。

 

 

「これで勝負は決まったも同然やな」

 

「人数も戦力もCクラスが優勢。この状況が覆ることはないわ」

 

 

 大江と浜野がこちらにやってくる。召喚獣は武器を構えているため油断も隙もない。小山が二人の前に立ち

 

 

「アンタ達は既に召喚獣を呼び出している。フィールドの外に逃げようものならどうなるか判っているわよね?」

 

 

 敵前逃亡による戦死扱い。つまりこの状況を打開するにはたった三人で十人以上いるCクラス連中を倒さなければならない。昨日俺と明久は暴走したバカ共(Fクラス男子)四十人を倒したが、だからといって勝てる可能性はほぼ皆無と言っていい。

 

 連携がとれているのもそうだが召喚獣の操作に慣れている大江。そして腕輪持ちの浜野。まだその力が未知数である以上このまま戦えば間違いなく全滅する。万事休すかっ…!

 

 

「さあ、大人しくやられーー」

 

 

 一瞬何が起こったのか、全員が理解出来ないでいた。何故なら、英語の召喚フィールドが消滅し、その結果この場にいた全ての召喚獣が消滅したのだ。

 

 

「どういうこと!?」

 

「これは一体…」

 

 

 周りが狼狽えている中で、偶然俺の視界の端にある人物の姿が映った。旧校舎側の廊下へ振り向くとそこには忍者の格好をしたクラスメートと、最近知り合った数学兼体育教師が。

 

 

「明久、瑠璃花、走れっ!」

 

「えっ!? 一輝、一体どういう…」

 

「あとで話す! 今は逃げるぞ!」

 

 

そうして俺、明久、瑠璃花はCクラス連中を掻い潜り、旧校舎へと走り出す。

 

 

「あ、待ちなさい!」

 

 

 小山が叫ぶ。敵に待てと言われて待つ奴はいない!




できる限り日曜日には投稿したい。


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Cクラス戦(3)

【文月学園におけるクラス設備の奪取・奪還および召喚戦争のルール】

四、召喚獣はとどめを刺されて戦死しない限りは、テストを受けなおして点数を補充することで何度でも回復可能である。


 Cクラスの包囲網を切り抜け命からがら逃げ延びた俺達はFクラスにて雄二に状況を報告した。

 

 

「…そうか、秀吉や島田だけじゃなく姫路まで敗けたのか」

 

 

 独り言のように告げると窓に背中を預けて頭を抱える雄二。今のFクラスの現状を考えれば無理もないだろう。

 

 Fクラスは先攻部隊に十五人、中堅部隊に十人を投入して生きて戻ってきたのはたったの三人。対するCクラスは姫路が十一人を戦死させ、先程の乱戦ではどさくさに紛れて三人しか倒せていない。

 

 つまり今Fクラス二十七人、Cクラス三十六人。点数差だけでなく人数差も不利という最悪な状況である。

 

 打開策を考えている中、明久が近づいてくる。

 

 

「ねえ一輝。さっきの召喚獣が消えた事なんだけど、あれって結局なんだったの?」

 

「…ああ、それはーー」

 

 

 俺は廊下側の壁に背中を預けている人物の方に顔を向ける。

 

 

「暁先生があの場所で新たな召喚フィールドを展開したからだ」

 

「フィールドを展開って……あっ」

 

「気づいたか。二つ以上のフィールドを近い場所で展開するとフィールドが干渉して消滅するんだ。もちろん召喚獣も消える。暁先生があの場所でフィールドを展開すれば当然そうなる」

 

 

 正直全滅を覚悟していた。明久は窮地を救ってくれた暁先生に礼を言うが先生は首を左右にふって今まで黙っていた口を開く。

 

 

「それに関しては土屋君に礼を言うんだ。俺をあの場所に連れてきたのも、フィールドを展開するよう指示したのも彼だ。」

 

 

 そうだ、すべてはムッツリーニが機転を利かせたおかげだ。

 

 

「ありがとうムッツリーニ」

 

「…………(コクッ)」

 

 

 明久の感謝に頷くだけのムッツリーニ。無表情の為照れてるのかどうかわからない。

 

 

「さて雄二、いつまでもこうしてるわけにはいかないんじゃないか? 戦況を見ればCクラス連中はいつここを攻めにきてもおかしくはないんだから」

 

「…ああ、わかっている」

 

 

 万全とはいえないがある程度復活した雄二がこちらにやってくる。

 

 

「…にしてもCクラス代表が小山じゃなく神条紫杏だったとはな」

 

「皆ごめん。小山さんが代表だって嘘を僕があっさり信じたから」

 

 

 明久が頭を下げる。確かに屋上にいる代表が小山なら姫路一人でどうにかなるだろうと、加勢に行くことはしなかった。…どちらにせよ姫路の独断専行であるに変わりはないけど。

 

 

「明久だけが悪い訳じゃねえ。宣戦布告から開戦までの間に調べる時間はいくらでもあったんだ。にも関わらずそれを怠った。序盤に姫路で向こうの人数を減らして後半は力押しでどうにかなると、戦う前から勝ったつもりでいた…」

 

「向こうは俺達の対策をしっかり立てていたな。あの連携は打ち合わせもせずに出来るものじゃない。それに腕輪持ちの為に英語の教師を既に呼んでいた。出来る限りの人数を新校舎に誘い込んで挟み撃ちにし、確実に潰す作戦だな」

 

 

 俺としては浜野朱里の腕輪がどんなものかを知りたかったが、深追いするわけにもいかなかったし。

 

 

「誘い込むって…それって姫路さんが倒した十人はわざと負けたような言い方だよね?」

 

「どちらにしろあの生徒会長を倒さなきゃFクラスに勝ちはないんだ。暁先生、Cクラス代表の位置を知りたいんですけど」

 

 

 時間がない為、明久の質問は軽く流して暁先生から情報を貰おう。先生はポケットから端末を取り出して画面を覗く。

 

 

「Cクラス代表は今も屋上にいるな。世界史の先生も一緒だ」

 

「えっ…まだ屋上にいるの? 一人で?」

 

「ああ、戦争開始からずっと屋上にいる。一人かどうかは知らんが」

 

 

 ああ、各クラスの代表の居場所しかわからないんだっけ? それより立ち会いの教師は世界史なのか。なら…

 

 

「明久、お前歴史系得意だったよな?世界史の点数はどれくらいある?」

 

「急にどうしたの? …世界史は確か三百点くらいは取れてたよ」

 

「三百点か…。黙っていたが俺は世界史で腕輪を持ってる」

 

 

 俺の放った一言でこの場にいた全員(瑠璃花以外)が一斉に俺を見る。一番反応したのは雄二だ。

 

 

「それは本当か一輝!?」

 

「ああ。明久が腕輪を持ってたなら操作性の高い明久に頼んだが、それなら神条紫杏とは俺が戦う。向こうの土俵に乗ってやるよ」

 

 

 主力である姫路が戦死し、予想外の強敵の存在により絶望の淵に立たされたFクラスに勝利の可能性、活路への希望が出てきた事で沈んでいた連中の表情が明るくなる。その時

 

 

 ばんっ(教室の扉が開く音)

 

 

「盛り上がっとるとこ失礼するでー」

 

 

 背の高い女子、大江が教室にやってきた。皆が彼女に注目している中俺はムッツリーニに合図を送り…

 

 

「Fクラス代表の坂本はアンタやな? その首貰いに来たで」

 

「お前が大江和那か。聞いた通り(身長が)デカいな」

 

「なっ…レディに向かってそれはあれへんやろ。エッチ! スケベ! ド変態!」

 

「ちょっと待て、今のは背が高いって意味のデカいだ。おいコラ! 両手で胸を隠すような仕草はやめろ! 誤解されるだろうが!」

 

 あれ、なんか勝手に盛り上がってくれている。こっちとしては有難い。…よし、作戦は皆(雄二以外)に行き届いたな。ならば

 

 

「行動開始っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

康太視点

 

 

 一輝の合図で俺、雄二、近衛部隊の六人を残して他は一斉に走り出す。大江が一つの出入口の前に立っているため一輝達は後ろ側の扉から教室を出ていく。

 

 

「あっ…ちょ待「…………Fクラス土屋、大江に挑む」なっ!?」

 

「承認する」

 

 

 一輝達を追いかけようとする大江に俺は戦いを挑む。暁先生が召喚フィールドを展開する。これでこの女は逃げられない。

 

 

「…………近衛部隊は雄二を守れ。この女は俺が倒す」

 

「「「了解!」」」

 

「ウチを倒すとか中々デカい事言うやん。えーよ、その挑戦受けたるわ!」

 

「「(…………)試獣召喚(サモン)!」」

 

 

 起動ワードによって俺達の召喚獣が姿を現す。俺の召喚獣の装備は忍者装束に小太刀の二刀流だ。

 

 相手の武器は槍。さらに奴は召喚獣の操作に慣れている。だがこのフィールドは

 

 

【保健体育】

 

Fクラス 土屋康太 511点

VS

Aクラス 大江和那 209点

 

 

 俺の独壇場だ。

 

 

「うそっ!? なんやねんその点数!?」

 

 

 俺の点数を見て驚きの声をあげる大江和那。言っておくがお前の点数もCクラスにしては高い方だぞ。

 

 

「…………いくぞ、加速」

 

 

 一撃で決める為に腕輪を発動させる。目にも止まらない速さで大江の召喚獣に接近して小太刀で一閃する。

 

 

「…………なんだと!?」

 

 

 キィンッという音が響く。

 

 

「あっぶな! いきなりやったからほんまビックリしたわ~」

 

 

 小太刀は大江の召喚獣の体に触れることは無かった。奴の槍によって弾かれたからだ。バカな! あの攻撃を防いだというのか!?

 

 

「いや~間一髪やったわ。ほな、次はウチから行くで!」

 

 

 槍を構えた大江の召喚獣が突っ込んでくる。

 

 

 その後、俺の加速と大江の反射神経よって繰り広げられる攻防は終戦まで続くことになるのだった。




関西弁ってむずかしい。


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Cクラス戦(4)

【文月学園におけるクラス設備の奪取・奪還および召喚戦争のルール】

五、相手が召喚獣を喚びだしたにもかかわらず召喚を行わなかった場合は戦闘放棄とみなし、戦死者同様に補習室にて戦争終了まで補習を受ける。


明久視点

 

 

 教室を出た僕達はさっそくCクラス連中に囲まれた。しかし立ち止まる訳にはいかない!

 

 

『Fクラス近藤、挑む!』

 

『Fクラス武藤、勝負を挑む』

 

『Fクラス原田、そこのお前にーー』

 

 

 Cクラス連中が迫ってくる度に近くにいる誰かが召喚獣勝負を仕掛ける。そうやって少しずつ僕達は屋上を目指す。

 

 姫路さんを倒した神条さんの力は未知数だ。彼女に勝つ可能性があるのは腕輪持ちの一輝とムッツリーニだけ。雄二の護衛にムッツリーニをつける以上戦えるのは一輝だけ。つまり…

 

 

 一輝を屋上に連れていく事がFクラスの作戦、最後の希望だ!

 

 

『会長の下には行かせない!』

 

『Fクラス覚悟っ!』

 

 

 試召戦争は基本的にどちらかの代表が戦死しなければ終わらない。神条さんがいる屋上に向かうだろ僕達を待ち伏せするCクラスの生徒は当然いる訳で。

 

 

『ここは俺が引き受ける! みんなは先に行ってくれ!』

 

 また一人クラスメイトが敵に突っ込んでいく。皆の犠牲は無駄にはしないっ!

 

 旧校舎から渡り廊下、新校舎、階段を上って四階に到着する頃にはこの場にいるのは僕と一輝と南雲さんの三人だけになっていた。あとは階段を登るだけなんだけど…

 

 

「よくここまで辿り着いたわね」

 

 

  小山さんと浜野さんを含めたCクラス四人が待ち伏せていた。そして側には英語の召喚フィールドを張っている遠藤先生がいた。苦戦は免れないのか…!

 

 

「一輝、ここは私と吉井君が引き受けます。貴方は屋上へ行ってください」

 

「瑠璃花…わかった。明久、ここは任せたぞ」

 

 

 南雲さんと僕に一言告げて屋上の階段を上る一輝。しかし相手がそれを許す筈もなく。

 

 

「会長のもとには行かせな「構わないわ。行かせなさい」浜野さん!?」

 

 

 小山さんが一輝を止めようと動くが浜野さんがそれを阻む。

 

 

『…屋上に来る者は通すよう会長に言われているのよ。上に立つ者として誰からの挑戦も受けるって聞かなくて…』

 

『ああ…』

 

 

 ため息をつく浜野さんとどこか納得してしまっている小山さん。会話の内容はあまり聞き取れなかったが、どうやら向こうの事情みたいだ。

 

 

「すみません吉井君。巻き込んでしまって」

 

「謝る必要はないよ南雲さん。これで僕達の目的は果たしたんだし」

 

 

 あとは一輝の勝利を信じるだけだ。

 

 

「たった二人であたし達四人に挑もうなんて……随分とナメた真似をしてくれるわね」

 

「「「試獣召喚(サモン)!」」」

 

 

【英語】

 

Fクラス 吉井明久 105点

Fクラス 南雲瑠璃花 237点

VS

Cクラス 小山夕香 164点

Cクラス 新野すみれ 141点

Cクラス 黒崎トオル 128点

Cクラス 浜野朱里 415点

 

 

 

 全員が召喚獣を呼び出す。そしてこの場で一番点数の高い浜野さんが僕の前に来る。

 

 

「三人は南雲さんと戦って。あたしはこの男を潰すから」

 

 

 僕に敵意を向ける浜野さん。…威圧感が半端ない。

 

 

「浜野さん、俺も一緒に戦うよ」

 

「男は嫌いなの。話しかけないでくれる?」ギロッ

 

「す、すいません!」

 

 

 話しかけてきた男子(黒崎君)を睨み付ける浜野さん。そしてやっと理解した。彼女の高圧的な雰囲気は男嫌いによるものなんだと。清水さんに似ているけどどこか違うものを感じるのは何故だ?

 

 あ、いろいろ考えている内に南雲さんと小山さん達が既に戦い始めている。それじゃ僕も召喚獣に木刀を構えさせて浜野さんの相手をしよう。怖いけどっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一輝視点

 

 

 扉を開けた俺の視界に映ったのは赤に近い茶髪のポニーテールに白いブレザーを着た女子生徒だ。彼女は屋上のフェンスに背中を預けて本を読んでいた。

 

 凛としたその姿は芸術と言ってもよく、男子だけでなく女子すらも魅了するだろう。

 

 学園一の美少女と称される知人(霧島翔子)といい勝負になるだろうその女子生徒は俺の存在に気づくと本を閉じて背中をフェンスから離す。

 

 

「待っていたぞ、新たな挑戦者よ」

 

 

 学園の頂きに君臨し、去年から様々な噂の絶えない生徒会長たる尊大な態度である。

 

 

「存じていると思うが、Cクラス代表の神条紫杏だ。よろしく」

 

「この学園で君を知らない人はいないだろ。Fクラスの小波一輝だ」

 

「君の事も知っているぞ。『伝説のキャプテン』と呼ばれてるらしいな」

 

「……五年も前の話だよ」

 

 

 もうキャプテンどころか野球少年でもないしな。それにしても

 

 

「本当に君一人しかいないんだな。よく姫路に勝てたものだ」

 

「初戦の相手にしてはなかなかの強敵だったぞ」

 

 

 はっはっはっ、と笑いながら言われてもな…。しかしこの態度が彼女の強さの一つでもあるわけだ。

 

 

「さて、そろそろ始めようか? あまり無駄話しているとウチの代表が殺られるかも知れないし」

 

「ふむ…戦争である以上このまま長話を続けるべきなのだが、私の都合上それでは意味がない。犬井先生、召喚許可を」

 

「……承認する」

 

 

 寡黙な男性教師の犬井先生。今までの会話を黙って聞いていた男性教師は世界史のフィールドを展開する。

 

 

「「試獣召喚(サモン)!」」

 

 

 お互いの召喚獣が現れる。神条の召喚獣は

 

 

「…魔王?」

 

 

 そんな感じである。赤いローブを羽織っており、右手に禍々しい大剣を持っている。それだけでファンタジー世界の魔王な感じを漂わせている。

 

 

「小波の召喚獣は意外だな。周りから伝説扱いされているからてっきり勇者的なものを予想していたが…」

 

 

 そして神条は俺の召喚獣に対しての感想を述べる。

 

 

「まさかの野球選手か? それにしてもそんなユニフォームを着ているプロ野球の球団なんてあったか?」

 

 

 赤と白の野球ユニフォームを身にまとい、右手に金属バットを持った俺の召喚獣。この姿はまさに

 

 

「プロ野球じゃない。これは俺がいた少年野球チーム、『ガンバーズ』のユニフォームだ」

 

 

 小学生の頃の俺自身だ。

 

 

「ほう、それは懐かしいだろうな。学園長先生も粋な計らいをするではないか」

 

「そっちこそ。生徒会長が魔王様とはなかなかだと思うぞ」

 

「ははは、恐怖支配も上に立つ者の務めさ。するつもりはないがな。……行くぞ!」

 

 

 神条の召喚獣が禍々しい大剣を振り上げ、思いっ切り振り抜く。それによって生まれた斬撃が俺の召喚獣目掛けて飛んできた。

 

 

 

 

 

 

【世界史】

 

Fクラス 小波一輝 407点

VS

Cクラス 神条紫杏 483点




やっと一輝の召喚獣を紹介できた。

そして次回、Cクラス戦決着の予定(あくまで予定)。


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Cクラス戦(5)

【文月学園におけるクラス設備の奪取・奪還および召喚戦争のルール】

六、召喚可能範囲は、担当教師の周囲半径10メートル程度(個人差あり)。



 俺は休みなく召喚獣を走らせ、飛んでくる斬撃を避け続ける。ちなみに俺の召喚獣に襲いかかってくるソレは神条の召喚獣の剣によって繰り出されるものだ。

 

 総合科目を除く各教科で四百点以上を取ると特殊能力を使える腕輪を手に出来る。腕輪の力は召喚獣の点数を消費する事で発動できるのだが

 

 

「神条、腕輪を使っているのになぜ召喚獣の点数が減っていないんだ?」

 

 

 神条の召喚獣は何度もこちらに斬撃を放っているにも関わらず点数が減っていない。それに疑問を感じて質問すると返ってきた答えは驚くべきものだった。

 

 

「ん? 腕輪を使っていないのだから点数が減る筈がないだろう」

 

 

 ……はい?

 

 

「腕輪を使っていないって…じゃあこの斬撃はなんだ?」

 

「ああこれか。剣を振り抜く際に生じる衝撃波のようなものだ。ほら、漫画やアニメでも剣の達人が遠くに離れた物体を斬ったりするだろう。あれと同じだ」

 

「召喚獣でそれを再現したのか!?」

 

「たった一点でもゴリラ並の力を持つ召喚獣だ。四百点分の身体能力があれば剣を振るスピードで斬撃を飛ばすことなど容易だろう」

 

 

 難しいことをあっさり言ってのけやがる。やっぱこの女噂通りとんでもない人だな。

 

 

「正しく剣を振らなきゃ出来ない芸当だろ。そんな操作技術をどこで身につけたんだ?」

 

「君と同じさ。去年から先生方にお願いして教師の雑用を引き受け、召喚獣を動かす機会をもらった」

 

「…そうか、君も試召戦争目当てでこの学校に来たクチか」

 

「いや、召喚獣に興味はあるが私の目的は他にある。そんなことより長話していて大丈夫なのか? そちらの代表が戦死する前に私を倒すのだろう? ならば時間を掛けるべきでは無いと私は思うが?」

 

 

 だよね。遠距離攻撃に対して打開策が無いからさっきから逃げてばかりだし。

 

 

「会話しながら攻撃を避けてるんだ。戦いを疎かにしている訳じゃないだろ。」

 

 

 会話中も俺は召喚獣を走らせ続けている。なんか顔がバテてきてるな。これ以上走れないとかやめてくれよ?

 

 どてっ

 

 

「ああっ!? 召喚獣が転んだ!」

 

「隙ありだっ!」

 

 

 起き上がる俺の召喚獣に容赦なく斬撃が襲い掛かる。もうこうなったら一か八かの賭けだ!

 

 

「これでもくらえ!」

 

 

 カキーンッ!

 

 金属バットを構えた俺の召喚獣が斬撃を打ったのだ。打った斬撃は神条の召喚獣には当たらず明後日の方向へと飛んでいったけど

 

 

「…なるほど、斬撃でも金属バットが斬られていないとは。だったらもうやけくそだ!」

 

 

 繰り出される斬撃を金属バットで弾き返しながら少しずつ神条の召喚獣に近づいていき、そして

 

 ガキィンッと金属バットと大剣のぶつかり合う音が響く。

 

 

「これだけ接近すれば斬撃も飛ばせないだろう? お互い至近距離で殴り合おうじゃないか」

 

「ほう…なかなかやるではないか。ならば私も全力で応えよう!」

 

 

 それから何度も武器をぶつけ合う。たまに俺の金属バットが神条の召喚獣の肩にヒットしたり、神条の剣による突きが俺の召喚獣の体を掠めたり、互いに少しずつ点数を削っていく。このまま接近戦は長く続き…

 

 

【世界史】

 

Fクラス 小波一輝 36点

VS

Cクラス 神条紫杏 45点

 

 

 ついに最初にあった点数はもう見る影もなくなった。恐らく次の一撃を決めた者が勝つだろう。そして俺は重大な事に気付く。

 

 

「そういえばまだお互いに腕輪を使ってないよな?」

 

「ふむ……戦いに夢中ですっかり忘れていたな」

 

 

 忘れていたのは俺だけではなかったようだ。この生徒会長、どこか抜けてるところもあるのか? 俺も他人(ひと)のことは言えないけど。

 

 

「俺の場合は点数的に使ってどうなるんだ?って感じなんだよな。どうする? 腕輪使うか? 今使ってきても恨まないぞ?」

 

「私としても今更感がなあ…。せっかくここまできたんだ。最後まで腕輪無しでやろうじゃないか」

 

 

 俺も向こうも考えている事は同じらしい。ならば

 

 

「いくぞおおぉぉぉっ!」

 

「そこだああぁぁぁっ!」

 

 

 お互いに攻撃が決まり、二体の召喚獣は消滅した。そして試召戦争はFクラスの勝利で幕を閉じたのだった。




めちゃくちゃですね。


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神条紫杏

並べ替えの機能をようやくマスターしました。

機械音痴には難し過ぎる~


紫杏視点

 

 

「負けたか…」

 

 

 召喚獣が消え、自らの敗北を悟ったものの、不思議と悔しさはなかった。腕輪の使用を忘れていた事を置いても、やれるだけのことをやったと満足している。そして集中力が切れたのか脚に力が入らず私は地面に膝をつけてゆっくりと座り込む。そんな私を見かねて小波が歩み寄ってくる。

 

 

「大丈夫か?」

 

「心配ない、気が抜けただけさ」

 

「そうか……よっと」

 

 

 私の右隣に立ち腰を下ろす小波。突然の彼の行動に私は頭に『?』を浮かべるだけだった。

 

 

「ん? ああ、戦った相手を見下ろすのもどうかと思ってな。隣いいか?」

 

 

 わざわざ目線を合わせてくれたのか…。

 

 

「…既に座っているが、構わんぞ」

 

「ありがとな。あと、いくつか質問いいか?」

 

「いきなりだな。…とりあえず聞こう」

 

「なに、腑に落ちない点がいくつもあってな。屋上に一人でいた理由だ。しかも放送を流してもらって自分は屋上にいるってわざわざ教えてくれた。

 

 確かにお前の操作技術とあの戦法なら何人が相手でも負けることはないだろう。でもクラスの命運がかかってる戦争だ。代表が一人で戦うなんて無茶な真似をクラスメイトがよく許したなと思うし、ただ…お前の目的が何なのかを知りたい」

 

 

 ふむ、ごもっともな質問だ。

 

 

「今回のCクラスの戦法は単に私のワガママだ。それでも小山達は二つ返事で聞き入れてくれた」

 

「全員納得したのか?」

 

「カズとアカリは『生徒会長の人望』だと言ってくれてはいたが、仮にそうだとしてもそれだけとは思えん。正直私も驚いているくらいだ」

 

「Cクラスの連中と何人か戦ったが、代表に対する不満は感じなかったぞ? むしろ楽しんでたような気がする」

 

「そうなのか?」

 

 

 ふむ、いくら考えてもわからないな。

 

 

「そうそう、小山に偽の代表やらせてウチのメンバーを騙したわけだが、その作戦にはどういった意図があったんだ?」

 

「あれか。ハッキリ言ってしまえば何の意味もなかったな。元々は小山を代表だと思わせて意表をつく作戦だったが、私が作戦の変更をお願いしたから無駄になってしまった。

 

 それでも宣戦布告に来た吉井と木下は騙されたままだったから小山の偽代表作戦はバレるまで続けたわけだが……ああそうだ小波、先程の質問なんだが」

 

「ん?」

 

 

 私はある質問に気づく。

 

 

「戦いの場を屋上(ここ)に選んだ理由はだな……ある人に私の勇姿を見て欲しかったからだ」

 

「見て欲しいって…誰に?」

 

 

 小波の問いに答えるように私は空を見上げた。綺麗な青空と白い雲だ。

 

 

「いや、校舎内にいては見えないだろうからな。今日はいい天気だ、きっと雲の上から見ていてくれてた事だろう」

 

「それってつまり……」

 

「ん? ああすまない。察しの通りだよ…」

 

 

 私の脳裏に浮かぶのは一人の女の子の笑顔だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 小学生の頃、『近所の空き地に立つ桃の木には精霊が宿っている』という話を聞いた私はその精霊を一目見たいと桃の木の空き地へと足を運んだ。一日中待っても精霊は現れなかったが、そこで私は一人の女の子と出会った。

 

 それからというもの毎日のように桃の木の下で待ち合わせをして一緒に遊んだ赤い眼鏡の女の子。自分で言うのもアレだが今も昔も変わり者だった当時の私は学校に友達がいなかったため、その子が私にとって初めての友達だった。

 

 

 

 

 

 

 そう、もう二度と会うことのない私の友達。

 

 

 

 

 

 

 彼女と会えなくなり、中学三年生になった頃には彼女と遊んだ空き地は公園として整備され、思い出の桃の木も取り除かれてしまっていた。あの子のいない平凡な毎日を過ごしていたある日の事。文月学園で行われている試験召喚獣に興味が湧いた。

 

 目の前にいる小波一輝は召喚獣に興味を持ち、試召戦争が目当てで文月に来たと言った。

 

 私も同じく召喚獣に興味を持って前の学校のエスカレーター進学を蹴って文月を受験した。しかし彼との相違点、私の目当ては試召戦争ではないという事だ。

 

 

(強いて言うなら私は、オカルトの類いを信じている)

 

 

 化学とオカルトによって生まれた試験召喚システムの存在、それは化学では証明できないものがある事を私に教えてくれた。

 

 だからこそ試験召喚召喚システムに携われば私の願いは叶うかもしれない。

 

 全てはただ…もう一度あの子と話がしたいだけなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私達の戦い、あの子は楽しんでくれたかな?」

 

「…確証はないが俺達二人が満足してるなら、その子も見てて楽しかったんじゃないか?」

 

「そうか、それならーー」

 

 

 話の途中で立ち会い教師の犬井先生が近づいてきた。

 

 

「……戦後対談がある。そろそろ校舎に戻るぞ」

 

「それもそうですね。小波、話の続きは歩きながらにしよう」

 

 

 ゆっくりと立ち上がり、三人で屋上を後にした。




今更ですが、この作品に登場するパワポケキャラの設定はバカテスの世界観に合わせているため、性格や生い立ちが原作とは多少異なる場合があります。


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戦後対談(2)

【文月学園におけるクラス設備の奪取・奪還および召喚戦争のルール】

七、戦争の勝敗は、クラス代表の敗北を持ってのみ決定される。この勝負に対し、教師が認めた勝負である限り、経緯や手段は不問とする。あくまでもテストの点数を用いた戦争であるという点を常に意識すること。



明久視点

 

 

 場所は旧校舎三階の我らがFクラス教室。終戦時点で生き残った両クラスの生徒が集まっていた。

 

 

「Cクラス代表の神条だ。君達の戦いぶり、見事の一言だったぞ」

 

「Fクラス代表の坂本だ。正直今回の戦争は敗けを覚悟していた。あの状況からよく勝てた、と今でも驚いている」

 

 

 各代表が向かい合って挨拶を交わす。神条さんか…全校集会とかで何度か壇上で話をする彼女を見たけどこうして近くで見ると中々の美人だ。それに加えて姫路さんや島田さん、さらに言えば南雲さんとも違う魅力を感じる。

 

「さて…戦後対談に入る前に一つ、俺達は設備を交換するつもりはない。こちらの条件を呑んでくれるなら今回の戦争は和平という形で終らせたい」

 

 

 それを聞いてCクラスだけでなくFクラスの何人かも騒ぎ出す。

 

 

「落ち着け、俺達の目的はAクラスだろう?」

 

 

 Dクラス戦の時と同様に騒ぐFクラス連中をなだめる雄二。そんな中、神条さんは腕を組んで考える。

 

 

「ふむ、我々としては嬉しい話だが……何をやらせる気だ?」

 

「なあに、明日の朝Aクラスに行って『CクラスはAクラスに対し戦争の準備がある』とだけ伝えてくれればいい。ただし、宣戦布告はするな」

 

「……なるほど、Aクラス戦を有利に戦うために我々を…恐らくDクラスも使って脅しをかけるといったところかな?」

 

「脅しではなく交渉と言って欲しいな」

 

「ははは、面白い奴だな。……わかった。Cクラス代表としてその条件、喜んで受け入れる」

 

 

 Cクラスの方から安堵と驚きの混ざった声が響き渡る。あの条件で設備の交換が無くなるんだから当然の反応かもしれない。

 

 

 その後は同盟を結ぶ話だったり、また近いうちに模擬試召戦争しようという話をして戦後対談は終わった。意外と早く戦争が終わったのもあり、今はここに集まっている戦死していない者達が下校時刻までクラス関係なく他愛のない話で盛り上がり、ある意味親睦会になってしまっている。

 

 雄二は小山さんになにやら言い寄られ、ムッツリーニはCクラスの男子達に写真を見せている。写真を渡す度に盛り上がっているのを見るに女子の写真だろう。

 

 南雲さんは浜野さんと何かを話している。一体なんだろうか? そして一輝はみんなと少し離れた場所で神条さんと会話している。

 

 

「なあ吉井くん」

 

 

 背後で誰かに呼ばれ、振り向くと僕より頭一つ…いや二つ高い女子がいた。

 

 

「えっと…大江さん?」

 

「せやせや。長い付き合いになるかも知れへんから、これからもよろしゅうな♪」

 

「う、うん。こちらこそっ」

 

 

 馴れ馴れしく近寄ってきては僕の手を取ってブンブン握手をする。…凄い力だ。そして

突然真剣な顔になり僕の顔を覗き込む。

 

 

「…ホンマ会長と同じ雰囲気を感じる」

 

「え?」

 

 

 いきなり何を言っているんだろう?

 

 

「いきなり何やと思うけどな、ウチら生徒会はアンタが観察処分者になった経緯を知っとる。小学生の女の子の為に去年あんな騒動を引き起こしたことをな」

 

 

 あれ? なんでバレてるんだろう。先生方の誰かが話したかな? …いや違う、先生方にはあの女の子の事は話してないし。

 

 

「当然の処罰かも知れへんな。手段がどうあれ女の子の願いを聞き入れた結果、アンタは問題児のレッテルを貼られたわけやん。後悔してへんの?」

 

 

 真剣な表情で僕の答えを待つ大江さん。そんな彼女を見てふざける訳にもいかないと思えた。

 

 

「後悔はしてないよ。他に方法があったかも知れないけど、あの時はああするしか思いつかなかったんだ。結果的にあの女の子が笑ってくれたから…それでいいんだ」

 

「それが……アンタの正義?」

 

「ははは、正義なんて大それたものじゃないよ。ただ僕が…『やらなきゃいけないと思ったから、やったんだ』よ」

 

「っ!? ……そうか。やっぱアンタ会長に似とるわ。損得関係なく自分の道を突き進むところとか」

 

「あの~大江さん? 何言ってるのかよくわからないんだけど…」

 

「ええからええから。せや、いい機会やしお互い名前で呼び合わへん? ウチアンタのことめっちゃ気に入ったわ!」

 

「え?」

 

 

 真剣な表情が消えたと思ったら最初の馴れ馴れしい感じに戻って距離を詰めてきた。

 

 

「あの、大江さん?」

 

「ウチの事はカズって呼んでええで。生徒会やCクラスの親しい人からもそう呼ばれとるさかい。そっちはなんて呼んだらええの? 吉井明久やし…アキって呼んでもええん?」

 

 

 こうして、僕はCクラスの女子と友達になりました。




パワポケ原作では若干男が苦手なカズですが…


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交渉前

今回はなしで


「まずは皆に礼を言いたい。周りの連中には不可能だと言われていたにも関わらずここまで来れたのは、他でもない皆の協力があってのことだ。ありがとう」

 

 

 Cクラス戦を終えた翌日のHR。教卓に立つ雄二からの感謝の言葉だ。明日は雪でも降るのか?

 

 

「ゆ、雄二どうしたのさ。らしくないよ?」

 

「ああ自分でもそう思う。だが、これは偽らざる俺の気持ちだ」

 

 

 明久も俺と同じ思いらしく雄二に声をかける。しかし雄二は素直な気持ちを隠す気はないらしい。

 

 

「ここまで来た以上、絶対Aクラスにも勝ちたい。勝って、生き残るには勉強すればいいってもんじゃないという現実を、教師共に突きつけるんだ!」

 

『おおーっ!』

 

『そうだーっ!』

 

『勉強だけじゃねぇんだーっ!』

 

 

 Dクラス戦前から一向に落ちる気配のない士気が教室を包む。

 

 

「皆ありがとう。そして残るAクラス戦だが、これは一騎討ちで決着をつけたいと考えている」

 

 

 クラスの皆は驚きを隠せなかったのか、教室にざわめきが広がる。ちなみに俺は面白そうだな、と思った。そしてやるなら俺に戦わせて欲しい…と。

 

 

『どういうことだ?』

 

『誰と誰が一騎討ちをするんだ?』

 

『それで本当に勝てるのか』

 

「落ち着いてくれ。それを今から説明する。やるのは当然俺と翔子だ」

 

 

 バンバンと机を叩いて皆を静める雄二。くそぅ! わかってはいたが俺じゃないか。拳を握って悔しそうにしている俺を見て隣の瑠璃花が苦笑いしている。

 

 

「馬鹿の坂本が霧島さんに勝てるわけがなぁぁっ!?」

 

「次は耳だ」

 

 

 雄二の投げたカッターナイフが須川の頬を掠める。アレはマジで殺る気だったな。

 

 

「まあ、須川の言う通り確かに翔子は強い。まともにやりあえば勝ち目はないかもしれない。だが、それはDクラス戦もCクラス戦も同じだったろう? まともにやりあえば俺達に勝ち目はなかった」

 

 

 だが、俺達は勝っている。Dクラスは余裕で。Cクラスはギリギリだったけどな…。 

 

 

「今回だって同じだ。俺は翔子に勝ち、FクラスはAクラスを手に入れる。俺達の勝ちは揺るがない。俺を信じて任せてくれ。過去に『神童』とまで言われた力を、今皆に見せてやる」

 

『『『おおぉーーーっ!!』』』

 

 

 全員が雄二を信じている。素晴らしいことだがこの期待を裏切ったらただではすまないぞ?

 

 

「さて、具体的なやり方だが、一騎討ちでフィールドを限定するつもりだ」

 

「フィールド?何の教科でやるつもりじゃ?」

 

「日本史だ。ただし、内容は限定する。レベルは小学生程度、方式は百点満点の上限あり、召喚獣勝負ではなく純粋な点数勝負とする」

 

 

 う~ん…何か策でもあるのか?

 

 

「でも同点だったらきっと延長戦だよ? そうなったら問題のレベルも上げられちゃうだろうし、ブランクのある雄二には厳しくない?」

 

「確かに明久の言う通りじゃ」

 

「おいおい明久と秀吉、あまり俺を舐めるなよ? いくらなんでもそこまで運に頼りきった真似はしない」

 

「? それなら翔子の集中力を乱す方法を知っているとか?」

 

「いいや一輝、アイツなら集中なんてせずとも余裕で満点を取るだろう」

 

「雄二よ、あまりもったいぶるでない。そろそろタネを明かしてもいいじゃろう」

 

 

 秀吉がシビレを切らし、他の皆も頷く。

 

 

「すまない、前置きが長くなったな」

 

 

 雄二はこほんっと咳き込んでから口を開く。 

 

 

「ある問題が出ればアイツは必ず間違える。その問題はーー『大化の改新』だ」

 

 

 大化の改新? 小学生レベルでそんな問題は…

 

 

「…もしかして年号か? 何年に起きた、とか?」

 

「ビンゴだ一輝。その年号を問う問題が出たら、俺達の勝ちだ」

 

 

 アイツがその程度の問題を間違えるとは思えないんだけどな。なにより

 

 

「雄二、お前の作戦はわかった。しかし翔子が満点を取れなかったとしてお前の方は大丈夫なのか?」

 

「小学生レベルのテストだろ? 心配すんなって」

 

 

 すごい自信だな。あとで確かめてみるかな?

 

 

「ちなみに大化の改新が起きたのは645年。こんな簡単な問題はここにいる皆間違えないだろう」

 

 

 ふと教室を見渡すとほとんどの男子が顔を逸らした。ええ…

 

 

「あの、坂本君?」

 

「ん? なんだ姫路」

 

「霧島さんとは、その……仲が良いんですか?」

 

「ああ、アイツとは幼馴染みだ」

 

「総員、狙えぇっ!」

 

『『『イエッサー!!』』』

 

 

 須川の号令でほとんどの男子が立ち上がる。

 

 

「待て、なぜ皆上履きを構える!?」

 

『黙れ男の敵!』

 

『Aクラスの前にキサマを殺す!』

 

「俺が一体何をしたと!?」

 

 

 こらこらお前ら、本来の目的をわすれるんじゃない。

 

 

「あの、吉井君は霧島さんが好みなんですか?」

 

「そりゃまあ、美人だし…って、え? なんで姫路さんと島田さんは両手を床につけてorz見たいな感じになってるの!? どうして二人とも滝のような涙を流しているの!?」

 

 

 あっちもこっちも地獄絵図だな。

 

 

「とにかく、俺と翔子は幼馴染みで、小さい頃に大化の改新で嘘の答えを教えたんだ。アイツは一度教えた事は忘れない。だから今、学年トップの座にいる。俺はそれを利用してアイツに勝つ。そうしたら俺達の机はーー」

 

『『『システムデスクだ!』』』

 

 

 さっきまでの反乱が嘘のようにみんなの心は一つになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ん? そいいえば小波。さっきお前も霧島さんを名前で呼ばなかったか?』

 

「ああ、翔子の従姉が同じ中学のクラスメイトでーー」

 

「総員、狙えぇっ!」

 

『『『イエッサー!!』』』

 

「ちくしょーっ! こうなることはわかりきっていたよ!」




早めに書きあがったので。


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交渉※

【登場人物紹介】

 南雲 瑠璃花(なぐも るりか)

 二年Fクラスで家庭科部に所属。小波一輝の幼馴染みで一輝と同じマンションで母親と二人暮らしをしている。小学生の頃の出来事から母と小波家(一輝、父)以外の人にあまり心を開いていないが、それでも困っている人を見るとつい介入したがるタイプで、とくに好意を持っている一輝に対してはその傾向が強い。
 そのせいで振り分け試験を受けれなかった訳だが後悔はしていないようだ。

 初めて会った当初は一輝に対してもあまり素直ではなかった(いわゆるツンデレ)らしいが、とある出来事から自分と母親の人生を救って貰って以降彼を溺愛し、彼に尽くすようになる。現在は病弱な母の面倒を見ながら仕事で家を離れている彼の父に代わって一輝の世話を焼いている。

 総合成績はAクラスレベルで家庭科で腕輪を持っている以外は得意科目はなく、これといって苦手科目も存在しない。

 ちなみに家事スキルは日々向上している。


「一騎討ち?」

 

「ああ。俺達Fクラスは試召戦争として、Aクラス代表に一騎討ちを申し込む」

 

 

 場所はAクラス前。今回は明久と秀吉に加えて雄二を筆頭に俺、瑠璃花、姫路、島田、ムッツリーニの八人で宣戦布告に来た。

 

 

「毎回こうしてくれたら僕もいろいろと失わずに済んだ気がするんだけど…」

 

 

 背後から聞こえる明久の呟きは無視しよう。今は交渉に集中だ。

 

 

「うーん…何が狙いなの?」

 

「もちろん、俺達Fクラスの勝利だ」

 

 

 雄二と交渉しているのは女子の制服を着た秀吉ーーではなく、秀吉の双子の姉である木下 優子(きのした ゆうこ)だ。ホントにそっくりだな。初見で見分けるのは不可能だろう。

 

 

「面倒な試召戦争を手軽に終わらせることが出来るのはありがたいけど、わざわざリスクを犯す必要もないかな?」

 

「賢明だな。ところで話は変わるが、Cクラスとやり合う気はあるか?」

 

「Cクラスって、あの生徒会長がいる…」

 

「昨日の戦争は和平による終結ってことになってるのは知っているだろう? だから連中はお前達に試召戦争を挑める。Cクラスだけじゃなくて、Dクラスもな」

 

「……それって脅迫かしら?」

 

「人聞きが悪い。ただのお願いだよ」

 

 

 おーい雄二。端からみれば完全に悪党だぞ。

 

 

「…わかった、その提案受けるわ」

 

「え、本当?」

 

 

 すんなり要求が通ったからか、明久が声を上げる。

 

 

「だって…聞いた話あの生徒会長、姫路さんを倒したんでしょ? そんな化物のいるクラスと戦争なんて嫌だし」

 

 

 昨日の戦争で姫路が戦死したことはAクラスにも伝わっていたようだ。おかげでこちらの提案がすんなり通るとはサンキュー神条。 

 

 

「でもこちらからも提案。代表同士の一騎討ちじゃなくて、お互い七人ずつ選んで、その七人で一騎討ちをして白星の多いクラスが勝ち、ていうのなら受けてもいいわ」

 

 

 当然ながら向こうも警戒してくる。秀吉そっくりなのに侮れないな。

 

 

「姫路が出てくる可能性を警戒しているんだろうが安心してくれ。一騎討ちには俺が出る」

 

「無理ね、これは戦争なんだから。その言葉を鵜呑みには出来ないわ」

 

「そうか…わかった。その条件を呑んでもいい」

 

 

 雄二の返事で何人かが動揺している。一騎討ち七回か、流石にFクラスメンバーではキツいと俺も思うぞ。

 

 

「ただ、七回は多すぎる。一騎討ちを五回にしてくれ。その代わり科目の選択権はそっちが三つ、こっちが二つでいい」

 

 

 なるほど、考えたな。イレギュラーの多いFクラスだが、個人の総合点数は姫路と瑠璃花を除いてほとんどのAクラス生徒に負けてるのが現状だ。

 

 科目の選択権二つは厳しいが、代表同士の一騎討ちを諦める代わりに試合の回数を減らせばこちらのリスクも減る。

 

 木下姉は悩む。五回勝負だと雄二が勝つ事を前提に考えれば残りの二勝は(Aクラスの立場からして)姫路と瑠璃花で決まる可能性があるからだ。慎重になるのも仕方がない。

 

 

「……受けてもいい」

 

「うわっ!?」

 

 

 突然現れた女子生徒、霧島翔子の登場に明久が驚く。俺はもう慣れた。

 

 

「久しぶりだな、翔子」

 

「……一輝、久しぶり。雄二の提案を受けてもいい」

 

「あれ? 代表、いいの?」

 

「……その代わり条件がある」

 

「条件?」

 

「……うん」

 

 

 うなずいた翔子は顔を雄二に向けていい放つ。

 

 

「……負けた方は何でも一つ言うことを聞く」

 

 

 ああ…なんとなく察してしまった。

 

 

「わかった。交渉成立だな」

 

「……うん、決まり。勝負は明日の昼でいい?」

 

「それで構わない。交渉を終えた以上C、Dクラスをぶつける必要もなくなったしな」

 

 

 ふう、予定とは大分違うけど無事に宣戦布告を終えた。クラスの皆に報告する為にも、俺達は教室に向かって歩きだす。

 

 

 

 

 

 

「………一輝」

 

「? なんだ翔子」

 

 

 雄二たちがFクラスに帰るなか、俺だけが翔子に呼び止められた。どうしたんだ?

 

 

「………玲奈は、まだあなたのことを諦めてないから」

 

 

 ああ、その話か。

 

 

「…わかってるさ」

 

 

 それでも、俺の答えは既に決まっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうしてFクラスに戻った俺達。

 

 

「一輝、翔子と何を話してたんですか?」

 

「大したことじゃないさ。それより瑠璃花、手伝って欲しいことがあるんだけど、いいかな?」

 

「ん? なんでしょう?」

 

「ちょっと放課後までに作りたいものがあってね」




そろそろキャラ紹介をしないとね。


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明日に向けて

【バカテス用語】
 観察処分者

 学生生活を送る上で問題のある生徒に課せられる処分で、文月学園におけるバカの代名詞。現在は吉井明久が学園創設史上初の観察処分者となっている。

 基本的には教師の雑用係であり、雑用をこなすために観察処分者の召喚獣は特例として物に触れることができる。ただし、召喚獣の受けた痛みや疲労は召喚者にフィードバックされる仕様となっている。


 宣戦布告を終え、Aクラス戦を明日に控えた放課後の教室。そこには

 

 

「………」

 

 

 先程まで親友が解いていたテストの採点を終え、その答案用紙を右手でヒラヒラさせながら、無言で親友を見下ろす俺と

 

 

「………」ちーん…

 

 

 テストの結果を聞いて見事に卓袱台に顔を伏せ撃沈している親友(雄二)がいた。ちなみに雄二が解いたのは日本史のテスト。範囲は小学生レベルで百点満点の上限あり。もちろん、『大化の改新がいつ起こったか』の問題も入っている。

 

 瑠璃花ともう一人の助っ人の協力もあってなんとか放課後までに間に合わせることができた。

 

 

「四十六点か。…雄二、何か言い残すことはあるか?」

 

 

 とりあえず今も死んだような顔をしている雄二に言い訳ではなく遺言の言葉を求める。特に意味はないが? すると雄二は突然卓袱台を両手でバンッと叩いて起き上がる。

 

 

「ああそうだよ悪かったなっ! 見ての通りこれが俺の実力だ文句あるかゴラァッ!」

 

「開き直ったか…」

 

 

 まあ、やる気を失くすよりは全然いい。

 

 

「で? どうするんだ? 小学生の日本史で満点を取れない以上、普通に翔子と戦って勝つしかないが?」

 

「くっ…そうするしかないか」

 

「だがお前はD・Cクラス戦で一度も召喚獣を操作してないだろう。模擬試召戦争で練習を積んだとはいえ、それで翔子に勝てるのか?」

 

「帰ったら徹夜漬けで勉強して、明日の回復試験で取れるだけ点数を取ってーー」

 

「大事な勝負前に徹夜なんてやめとけ。体調崩して召喚獣の操作が鈍って負けたなんてクラスの皆に顔向け出来ないぞ? それにどれだけ頑張ってもお前の点数は精々Cクラスレベル。数学は二百点超えてたけど、翔子はその倍の点数は取れる」

 

「じゃあどーすればいいんだっ!?」

 

「知らん、お前の戦いだろ。自分で考えろ」

 

「なんだそれ!? だーくそっ! お前さっきから何がしたいんだ! 俺を困らせて楽しいのかよ!?」

 

 

 自業自得とはいえかなり追い詰められてるな…。まあこれが狙いだしな。

 

 

「ああそうだよ。雄二、俺はお前に困れって言ってるんだよ」

 

「なっ!?」

 

 

 俺の言葉に驚く雄二。

 

 

「お前さ、クラスの命運が掛かった勝負を舐めてるのか? 『優れたリーダーの条件は悩める事』だ。たった一つの作戦で既に勝った気でいるリーダーを見て、明日の勝負は危険だと考えたんだよ」

 

 

 雄二は黙るだけだ。

 

 

「…雄二。話は変わるが、お前の戦争の目的はなんだ?」

 

「は? なんだよいきなり…」

 

「この試召戦争、事の発端は明久だが、確かお前も個人的な理由で戦争を起こす気でいただろ? あの時は聞きそびれたからな。今聞いておきたいだけさ」

 

「俺はただ、世の中学力だけがすべてじゃないって事を教師やAクラスの連中に証明したいだけだ!」

 

「それがお前の本心か? 俺も明久もそうだが、お前も周りの人からどう思われようが関係ないっていうタイプだろう? 正直お前がそんな理由で戦うなんてピンと来ないんだよ。むしろ…翔子の為って思ったほうがしっくりくる」

 

「な、なんで翔子が出てくるんだよ!?」

 

 

 翔子の名前を出した途端分かりやすく動揺する雄二。

 

 

「なんとなくだが、お前が翔子との対戦にやけに拘ってるように感じた。……まあ、今の反応を見てだいたいわかったが?」

 

「おい待て!? 一体何がわかったとーー」

 

「雄二」

 

 

 とりあえず雄二を黙らせる。そして

 

 

「お前の小学生の頃に起きた事件は以前翔子から聞いた。その話を聞いてお前が翔子の事を大事に思っている事はわかった。

 

 言っておくが、翔子に対する気持ちを肯定しようが否定しようが話は続けるから黙って最後まで聞いとけ」

 

「………」

 

 

 一応釘を刺しておく。

 

 

「かつて『神童』とまで言われたお前が今は一転して『悪鬼羅刹』と言われるようになったこと。翔子はそれを自分のせいだと思ってる」

 

「違うっ! あれは俺がーー」

 

「最後まで聞けって。その事件以降お前が何らかの答えを求めてさ迷う様に喧嘩に明け暮れる中、翔子は今日までずっとお前を信じて見守る事を決意した。お前がどんなに突き放しても、離れることは決してない。その理由はお前が一番よくわかっている筈だ」

 

「………」

 

「俺の勘だが今回の試召戦争はお前と翔子の過去に決着(ケリ)をつける為のものなんじゃないか? しかしだ、負けた責任がクラスの皆に及ぶ以上リーダーのお前に中途半端な気持ちで戦いに臨んで欲しくないんだよ」

 

「俺は別に勝負を舐めてる訳じゃーー」

 

「たかが小学生のテストだと油断した結果がこれだろうが」

 

「ぐっ…」

 

 

 右手の答案用紙を突きつける。流石の雄二も言い返せなくなった。

 

 

「雄二、お前が探していた問いの答えは最初から目の前にあるんじゃないか? あとはお前自身が素直に向き合うことだ。過去の自分と…翔子の想いにな」

 

 

 俺は教室の扉に向かって歩く。

 

 

「隣の空き教室で待ってるから、ゆっくり考えて、お前なりの答えが見つかったら来い。そのまま家に帰ってもいいが、そうなったら俺は一生お前を軽蔑する」

 

 

 それだけ言って俺は教室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明久視点

 

 

 学校が終わった僕はバイトの為『喫茶ラ・ペディス』へと向かう。しかしその足取りは少しばかり重い。今日一緒に働く人が原因である。

 

 

(嫌いじゃないんだけど苦手なんだよなぁ…)

 

 

 そう思いつつも店の扉を開ける。今のところ店内に客はおらず、そして店の奥からあの娘が姿を現す。

 

 

「いらっしゃいませ~、何名様でーー」

 

 

 例の彼女は僕と目があった瞬間

 

 

「ーーお帰りくださいませ~、出入口は後ろになりま~す♪」

 

「笑顔でサラリと帰れって言われた!? 一応仕事で来たんだけど!?」

 

「あはは~、冗談だよ~。おにーさん反応が面白いからつい~」

 

「…僕は別に構わないけど先輩に対してそれでいいのかな~准ちゃん?」

 

「ご心配なく。おにーさんにしかこんなことはしませんし、美春さんからも許可は貰いましたから。存分に弄ってもいいって」

 

「清水さあぁぁぁんっ!」

 

 

 これがメイド服を嬉々として着ている清水さん同様ツインロールヘアーの後輩女子とのやりとりである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一輝視点

 

 

 Fクラスの隣にある空き教室で待機していると二十分程で雄二がやって来た。

 

 

「随分と時間がかかったな。で、答えは見つかったのか?」

 

「ああ」

 

 

 問いを返した雄二の顔は晴れやかだった。どうやら答えは見つかったらしい。

 

 

「一輝、お前のお陰で自分なりの答えを見つける事が出来た。俺はーー」

 

「おっとストップだ。その答え、その気持ちは翔子だけに伝えてやれ」

 

「あ、ああ」

 

 

 さて、本題に入ろう。

 

 

「雄二。明日の一騎討ち、お前は誰と戦うんだ?」

 

「もちろん翔子と戦う。そして勝つ」

 

「しかし、翔子の点数はお前の倍はある。それでも勝つというのか?」

 

「それでも勝つ。もうアイツを待たせるわけにはいかねえ!」

 

 

 言ってる事は『勝つ』の一点張りだが、先程の無鉄砲で後ろ向きな考え方と違って真っ直ぐ俺を見て言っている。そんな勝とうとしているリーダーに、応えないわけにはいかないよな。

 

 俺は両手をパンパンと二回叩いて

 

 

「西村先生、入ってきてください」

 

 

 合図と共に西村先生が教室に入ってきた。予想外の登場に雄二は当然

 

 

「て、鉄人!? なんでここに!?」

 

 

 驚いている。

 

 

「西村先生と呼べ坂本。明日の一騎討ちに向けて練習がしたいと小波に頼まれてな」

 

「Aクラス戦が明日に迫っている以上、今から勉強して一点でも多く取るより召喚獣の操作性を上げる方が効率がいいだろう」

 

「一輝お前……まさか最初からこれをやる為に?」

 

 

 ははは…。実を言うとここまで事が上手く運んだのは久しぶりなんだよな。ちなみに本当は暁先生を呼びたかったんだけど、あの人はAクラスの副担任だ。明日戦うクラスの人間に協力を呼び掛けるのは避けるべきだと踏んだ。

 

 

「雄二。ハッキリ言ってこれからやるのは荒療治だ。召喚獣の戦いは点数差で決まるわけじゃない。だからといってこれで翔子に勝てるとは限らない。それでもやるか?」

 

 

 もう一度雄二の意思を確認する。雄二は覚悟を決めた目で頷く。

 

 

「…わかった。ならば始めから全力で行く。最終下校時刻までに俺を戦死させて見せろ!」

 

「やってやらあぁぁぁっ!」

 

 

 

 

 

 

 「「試獣召喚(サモン)っ!!」」




この作品でも彼女は攻略対象ではありません。(バグです)


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共通点

追加しま~す。


瑠璃花視点

 

 

 家庭科室でちょうどお菓子を作り終えるとテーブルに置いてあったスマホが突然震え、手に取って画面をみる。一輝からですね。

 

 

《最終下校時刻まで残ることになった。部活終わったら先帰っていいぞ。》

 

 

 …やっぱり坂本君と何かあったんでしょうか。一緒に小学生の日本史のテストを作ったのはそういうことでしょうし。

 

 校門で待ってますよ。と私はすぐに返信をしてスマホを元の位置に置く。そんな私に先輩女子が寄ってきた。

 

 

「おっ、またしても彼氏からのメッセージか? 羨ましい限りだな」

 

「ぶ…部長、そんなんじゃないですよ」

 

「ははは、まあそう照れるな」

 

 

 まったくもう…。

 

 

「話は聞いたぞ~? 二年生に進級して三日連続で試召戦争とは、君も大変なクラスに入ったな」

 

「いえいえそんなことは。私も一輝も試召戦争は楽しみにしてましたから」

 

「最初からやる気充分な奴はいいよな~。私なんか拷問器具なんかが平然と置いてある補習室に行きたくない思いでいっぱいだったというのに」

 

 

 …なぜ学校に拷問器具が? そういえば私まだ戦死してませんね。

 

 

「そういえば模擬試召戦争…だったか? それに暁先生が立ち会ったと聞いたけど」

 

「暁先生を知ってるんですか?」

 

「もちろん、今の三年生は一年の頃から世話になってたから知らない人はいない。今年から二年の副担になってしまったからそうそう会えなくなってしまったがな」

 

 

 部長達三年生とそんな繋がりがあったんですねあの人…。

 

 

「暁先生、昔野球やってたからな。瑠璃花の彼氏と勝負させたら面白いんじゃないか?」

 

「ですから私と一輝はまだ……え、あの人野球やってたんですか?」

 

「ああ。十年ほど前に『花丸高校』でな。ただ、三年の夏に野球部が甲子園に行ったらしいんだが、暁先生はその時既に野球部を辞めている」

 

「えっ、どうしてですか?」

 

「さあな。怪我したのか、チームメイトと揉めたのか、先生自身あまり高校時代の事は話したがらないんだ」

 

 

 怪我、ですか…。

 

 

「野球、嫌いになったんでしょうか…?」

 

「いや、たまにバッティングセンターで打ってるし少年野球の試合を観戦に行ってるから、むしろ好きだと思うぞ?」

 

「…部長、先生の事よく知ってますね。調べたんですか?」

 

「私だけじゃないぞ? 暁親衛隊のメンバー全員の共有財産だ」

 

 

 そう言って手作りの会員証を見せる部長。あの先生、ファンクラブがあるんですね…。

 

 

「瑠璃花も親衛隊に入らないか? 会員証ならうちのリーダーが作りすぎてまだ余ってるぞ?」

 

「いえ、結構です」

 

「即答か。まあ君は小波君のファンみたいなものだし仕方ないか」

 

「私と一輝はまだ付き合ってません」

 

「まだ…なんだな?」

 

 

 しまった。墓穴を掘ってしまいましたね。恥ずかしさで顔が赤くなりかけた丁度その時に家庭科室の扉が開く。

 

 

「いたいた。夏菜、先生が呼んでるわよ」

 

 

 女子生徒が顔を出す。部長を呼び捨てにしてますし、先輩でしょうか? 銀色のショートヘアーで、ブレザーのボタンを全部外してヤンキーみたいな感じがしますね…。

 

 

「フッキーじゃないか。お前が探しに来てくれるとは嬉しいな」

 

「後輩の前でその呼び方やめなさい。先生の頼みを断るのが面倒だっただけ」

 

 

 …不良に見えて実はいい人なんでしょうか? 先輩と目が合う。

 

 

「少しコイツを借りていくわね。さあ行くわよ夏菜」

 

 

 部長の腕を掴んで家庭科室を出ていく。「すぐ戻るからな!」と部長が廊下で叫んでいる。お菓子も作り終えたばかりですので暇になりましたね。

 

 ふと先程の話を思い返す。

 

 

(暁先生もいろいろあったんですね…)

 

 

 何があったのかは分かりません。苦労や嫌な事があったのかも知れません。もし辞めた理由が怪我や揉め事だったなら他人事には思えない自分がいる。

 

 

 

 

 

 

 一輝が中学で野球部を辞めた理由が、その二つですから…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雄二視点

 

 

 最終下校時刻になっても特訓を続けた為に鉄人に校門へと投げ捨てられた俺と一輝はそれぞれ帰路についた。そして家に帰ると玄関先に

 

 

「翔子!?」

 

「……雄二」

 

「なんでここにいるんだ?」

 

「……雄二に聞きたい事があって」

 

 

 聞きたいこと?

 

 

「……雄二。どうしてそんなに試召戦争にこだわるの? 設備が欲しいの?」

 

 

 ああ、そういうことか。

 

 

「俺は、机になんか興味はねえ。別の目的の為だ」

 

「……別の目的?」

 

「そうだ。だから翔子。明日は手を抜くなよ? お前の全力を持って俺を倒しにきてくれ」

 

 

 本気のお前に勝たなければ意味がないんだ…!

 

 

「……わかってる。明日は全力で雄二に勝つ」




 本編に関しては水曜の夕方と、日曜の早朝に進めて行けそうです。

 ですからこれから先、本編にまったく関係ない話は出来次第載せようと思っています。



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Aクラス戦(1)

【バカテス用語】

 ムッツリ商会

 土屋康太が文月学園で秘密裏に営んでいる個人商店。彼が撮影した写真や、写真を加工した抱き枕カバーやシャワーカーテンなどを生徒に販売している。この商店での売り上げは、デジタルカメラや盗聴機材などの購入に当てられており、康太の情報収集の資金源となっている。


明久視点

 

 

《これより、Aクラス対Fクラスの試召戦争を行う》

 

《では、両名共準備は良いですか?》

 

 

 ついに始まった一騎討ち、会場はAクラス教室。立会人は模擬試召戦争でお世話になったAクラス副担任の暁先生と学年主任の高橋先生が務めてくれる。うん、高橋先生は相変わらず知的で美人だ。

 

 

「ああ」

 

「……問題ない」

 

 

 雄二と霧島さんが応える。

 

 

《それでは一人目の方、どうぞ》

 

「アタシから行くよっ」

 

 

 向こうは秀吉の姉、木下優子さん。そしてFクラスの初陣は

 

 

「明久、行ってこい」

 

 

 僕だ。

 

 

「うん。皆、行ってくるね」

 

「吉井君、頑張ってくださいねっ」

 

「吉井、勝ったらクレープ奢ってあげるっ」

 

 

 姫路さんと島田さんの応援。これは必ず勝たないとねっ

 

 

「よろしくね、優子さーー」

 

 

 優子さんの前に立ち声をかける。が、なんだろう…? 面白くなさそうな顔でこっちを見ている。

 

 

「あの~優子さん、どうしたの?」

 

「っ!? あ、ごめんね明久君。お手柔らかにお願いね。手加減はしないわよ」

 

「それは僕だって」

 

 

 先程の雰囲気は嘘のように消え、笑顔を見せる優子さん。僕も彼女も気合い十分みたいだね。

 

 

《対戦科目を決めてください》

 

「優子さん、君が選んでいいよ」

 

「あら、じゃ遠慮なく。高橋先生、数学でお願いします」

 

 

 ぐわ~っ、苦手科目とはついてない。優子さん、ひどいよっ!

 

 

(フフフ…明久君、アナタが理数系を苦手としてるのは知ってるのよね~。彼を相手にこんなことはしたくないけど、コレって戦争だし…)

 

《承認します》

 

 

 教室全域にフィールドが張られる。

 

 

「「試獣召喚(サモン)っ!」」

 

 

 起動ワードと共に僕達の召喚獣が現れる。改造学ランに木刀を装備した僕の召喚獣と、西洋鎧にランスを装備した優子さんの召喚獣だ。

 

 

 鎧か……木刀で心臓を狙うのはやめた方がいいかも。首か頭を狙いしかないけど、武器がランスだから迂闊に近づく事ができない。でも…

 

 

【数学】

 

Fクラス 吉井明久 141点

VS

Aクラス 木下優子 376点

 

 

負けるつもりはないっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優子視点

 

 

 点数差に臆することもなく、アタシに反撃のスキも与えず攻撃してくる明久君の目に一切の迷いは感じない。この状況でも彼はアタシに勝つ気でいる。

 

 アタシは勉強の為に図書室に通う事が多く、観察処分者の仕事をしている彼と出会う事が多かった。去年のアタシは彼を学年一の問題児と見下し、話しかける気も起きずにいた。

 

 だけど、度々見かける彼の真面目に仕事に取り組む姿勢を見てそんな感情は次第に消えていった。

 

 それからというもの図書室で顔を会わせては挨拶をし、ちょっとした世間話で盛り上がったり、たまたま好きな本のジャンルが似ているのもあって今では互いに本の貸し借りをしている。

 

 とある先生から聞いた話、去年明久君が問題を起こした理由は困ってる人を助けるためだったらしい。だからと言って教職員に迷惑をかけていい理由にはならないけれど。

 

 彼は周りから優等生と呼ばれているアタシの事を尊敬してくれている。しかし、物事に対していつでも一直線に突っ走る事が出来る、そんな彼をアタシは羨ましく思う。

 

 そしてそんな彼に惹かれてしまっているアタシがいる。試合前に彼が姫路さんや島田さんと仲良く話しているのを見て少し苛立つくらいには、他の女に彼を渡したくないのだろうと思う。

 

 

「明久君、今更だけどアナタの木刀より長いランス持ってるアタシに対して躊躇うことなく接近戦ってどうなのかしら?」

 

「いや~どうせ考えたって良い案なんて浮かばないし。だったら後悔しないようにしようかなーって思ってさ」

 

「明久君らしいわね。でも気づいてるかしら?」

 

 

 バキッ

 

 

 激しい攻防の末、明久の召喚獣の木刀が折れてしまった。

 

 

「しまっーー「そこよ!」」

 

 

 動揺した彼のスキを逃さず、ランスを横一線に振り抜く。彼の召喚獣は上半身と下半身が見事に分かれて消滅した。

 

 

《勝者、Aクラス》

 

 

 高橋先生の声が響く、アタシの勝利が確定しる。だけど…

 

 

「か、体がっ…体が痛いぃぃぃっ!!」

 

 

 召喚獣のフィードバックにより床に倒れて苦しむ明久君。しまった、手加減するのを忘れていたわ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明久視点

 

 

「皆ごめんね、負けちゃった」

 

 

 しばらくして痛みが収まり、優子さんに差し伸べられた手を掴んで立ち上がり、少しフラフラな状態でFクラス陣営に戻ってきた僕に雄二が口を開く。

 

 

「いや、あの点数差と不利な状況でよく戦ってくれた。それに木下優子の召喚獣の操作は上手かったからな」

 

 

 お咎めなし、とホッとしていると今度は一輝が

 

 

「なあ明久。木下優子と知り合いなのか? やけに親しかった気がするんだが…」

 

「うん、彼女とは去年から本の貸し借りをしていてね」

 

「「なんですって!?」」

 

「ワシは初耳じゃぞ!?」

 

 

 姫路さんと島田さんが声を揃えて驚く。秀吉も知らなかったあたり、どうやら双子の妹「弟じゃ!」は姉から何も聞かされてなかったらしい。

 

 

「いやあ、優子さん意外と面白い本勧めてくれてさ。僕も思いの外ハマっちゃって今の関係が半年以上続いてるわけで……」

 

『木下優子……明後日の方向から宿敵(ライバル)出現ね…』

 

『強敵過ぎますよ…。ライバルは美波ちゃんだけでいいのに…』

 

『うむ……姉上もまんざらではなさそうじゃし、二人には悪いがワシは立場上姉上を応援せねばならんのかの…?』

 

『なっ木下、ウチ達を裏切る気!?』

 

『木下君ヒドいです!』

 

 

 離れた場所でなにやらヒソヒソ話をしている三人。何を話しているんだろう?

 

 

「明久。帰り道に後ろから刺されるないようにな?」

 

「いきなりなに物騒な事を言ってるの!?」

 

 

 訳がわからないよ!




気がつけばお気に入り登録が十人を越えていましたね。(嬉)

皆さんの期待に応えるためこれからも頑張ります


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Aクラス戦(2)※

【本作オリ設定】

 売店

 本校舎一階の空き教室を改装し、一輝達が入学した年の秋に開店した。パンや弁当だけでなく、文房具や参考書、問題集等も販売している。店主が美人なこともあり、常連客も多い。


【登場人物紹介】

 小野 映子(おの えいこ)

 売店の店主を勤める女性職員。見た目通り温厚な性格で面倒見がよく、たまに軽食を作っては生徒達に振る舞っている。のほほんとした雰囲気もあって、生徒だけでなく教師からもファンが多い。学年主任の高橋洋子とは友人で彼女に勧められて売店を引き受けたらしい。

 二十代前半を思わせる容姿だが、誰も彼女の年齢を知らない(知っているだろう学園長と高橋先生が口を割らないのも理由の一つ)。
ムッツリーニですらその情報を掴めていない。


《では、次の方どうぞ》

 

 

「姫路、頼むぞ」

 

「はい、行ってきます!」

 

 

 雄二に指名され、気合い十分な姫路が前に出る。さて、Aクラスからは…

 

 

「僕が相手をしよう」

 

 

 Aクラスから歩み出たのは眼鏡をかけた男子、名を久保 利光(くぼ としみつ)。姫路が振り分け試験を落ちたために学年次席となった生徒だ。

 

 

「総合科目でお願いします」

 

《承認します》

 

 

 Fクラスの科目選択権は二つ。姫路には科目を選ばないように言ってある。

 

 しかし総合科目か…。姫路と久保の実力は拮抗しているから最悪な展開も…

 

 

【総合科目】

 

Aクラス 久保利光 3997点

VS

Fクラス 姫路瑞希 4409点

 

 

 ………はい?

 

 

 二人の召喚獣が現れ、表示された点数を見た俺は空いた口が塞がらずにいた。もちろんそれは俺だけじゃない。

 

 

『マ、マジか!?』

 

『いつの間にこんな実力を!?』

 

『この点数、霧島翔子に匹敵するぞ……!』

 

「久保君を相手に点数差が四百…!?」

 

「姫路さん…やっぱり凄い」

 

 

 至るところから驚きの声があがる。隣にいる明久と瑠璃花もだ。

 

 

「ぐっ……姫路さん、君はどうやってそんなに強くなったんだ……?」

 

 

 悔しそうに姫路に尋ねる久保。つい最近までは学年二位の座を奪い合ってた者の実力がここまで離された。当然気にはなるだろう。

 

 

「……私、このクラスの皆が好きなんです。人の為に一生懸命な皆のいる、Fクラスが」

 

「Fクラスが好き?」

 

「はい。だから頑張れるんです」

 

 

 ズバアァァン…!

 

 

 勝負は姫路の勝ちで決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明久視点

 

 

 Fクラスの皆が好き…か。姫路さん嬉しい台詞を言ってくれるよ。…泣いてないからね?

 

 

《三人目の方どうぞ》

 

「…………(スクッ)」

 

 

 ムッツリーニが立ち上がる。そして、今まで使わなかった科目選択権を使う時がやって来たのだ。

 

 そう、ムッツリーニは総合科目の八十パーセントを保健体育で獲得する猛者。その勝負ならAクラスにだって負けはしない。

 

 

「じゃ、ボクが行こうかな」

 

 

 Aクラスからは薄緑色の髪をショートカットにしたボーイッシュな女の子が出てきた。

 

 

「一年の終わりに転入してきた工藤 愛子(くどう あいこ)です。よろしくね」

 

 

 ん? どこかで聞いた名前だ。そう考えていると挨拶を終えた彼女は僕に向かって手を大きく振ってくる。

 

 

「明久くーん、久しぶりー」

 

 

 あ、思い出した。

 

 

「あれ? 愛子ちゃん?」

 

「覚えててくれたんだー。嬉しいなー☆」

 

 

 ごめんね、ついさっきまで忘れてたんだ……とは言わないでおこうって考えてたら横から襟首を掴まれて

 

 

「吉井っ! あんたウチの知らない間に一体何人の女と関係を作ってるのよ!?」

 

 

 島田さん、誤解を招くような発言はやめてくれる?

 

 

「一応聞いておきますけど、もう他にはいないですよね…? 木下姉妹と工藤さんだけですよね?」

 

 

 あれ? 姫路さんの目が病んでるような。凄く怖いんだけど!?

 

 

「待つのじゃ姫路よっ、何故ワシが含まれておるのじゃ!?」

 

「「木下(君)が一番の天敵だからよ(です)!」」

 

「ワシは男ぢゃ!」

 

 

 他の女子との関係か……そういえば一昨日Cクラスのカズさん(大江和那)と電話番号交換したけど……素直に話すべきか、黙るべきか…

 

 

《そこ、私語は慎むように》

 

《教科は何にしますか》

 

 

 暁先生が注意し、高橋先生がムッツリーニに尋ねる。

 

 

「…………保健体育」

 

 

 ムッツリーニの唯一にして最強の武器が選択される。

 

 

「土屋君だっけ? 随分と保健体育が得意なみたいだね?」

 

 

 愛子ちゃんがムッツリーニに話しかける。何をする気だろう?

 

 

「でも、ボクだってかなり得意なんだよ? ……キミとは違って、実技で、ね♪」

 

「…………っ!?」

 

 

 とんでもない発言にムッツリーニが鼻を抑える。なんとか鼻血を堪えたようだ。

 

 

「キミで実践してもイイんだけどー、ボクとしては既に心に決めた相手がいるからねー」

 

 

 僕を見てウインクしてくる愛子ちゃん。え? それってつまりーー

 

 

《そろそろ召喚してください》

 

「はーい、試獣召喚(サモン)っと」

 

「…………試獣召喚(サモン)」

 

 

 高橋先生が急かして二人が召喚獣を呼び出す。ムッツリーニの召喚獣は何度も見てる忍者装束に両手にクナイ。一方愛子ちゃんは

 

 

『なんだあの巨大な斧は!?』

 

 

 見るからに破壊力抜群の巨大な斧を持つセーラー服姿の召喚獣。あれは強そうだ。だけど…

 

 

「実践派と理論派、どっちが強いかを見せてあげるよ」

 

 

【保健体育】

 

Fクラス 土屋康太 572点

VS

Aクラス 工藤愛子 446点

 

 

「…………望むところ、加速」

 

「腕輪発動!」

 

 

 バチィィン…!

 

 

「…………なんだとっ…!」

 

 

 ムッツリーニが驚愕によって大きく開かれる。高速移動で愛子ちゃんの召喚獣に斬りかかろうとしたムッツリーニの召喚獣の動きが止まったのだ。

 

 いや、あれは……感電しているのかな?

 

 

「ボクの腕輪の能力は『電気』。武器にまとわせて攻撃するのがキホン戦術なんだけど、こーゆー使い道もあるんダヨ?」

 

 

 そう言って足で床を踏み鳴らす。もしかして…

 

 

「…………床に電気を流したのか!?」

 

 

 ムッツリーニも同じ考えのようだ。そうこう言ってる内に愛子ちゃんの召喚獣は麻痺状態で動けないムッツリーニの召喚獣を一刀両断するのだった。

 

 

「ご名答☆」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一輝視点

 

 

「さて、いよいよ俺か…」

 

 

 ムッツリーニが負けたのは予想外の事態だが、まだ負けた訳じゃない。俺は四人目として前に出る。

 

 

「一輝」

 

 

 雄二に引き留められた。

 

 

「一輝。明久と姫路とムッツリーニの為にも、俺は勝ちたい。だから、俺まで回してくれ」

 

 

 言われるまでもないさ。

 

 

「わかっているさ。昨日お前にあれだけ偉そうに言った以上不様な姿は見せないよ。行ってくる」

 

 

 俺は歩き出す、勝つために。

 

 

「あ、そうそう一輝。科目選択権、使っていいからな?」

 

 

 え、いいの?




姫路を勝たせるか、ムッツリーニを勝たせるかで迷いました。

アンチは好きではない為、姫路と島田は純粋に明久に好意を抱いている(寧ろ明久を好きになる他の女を排除する可能性アリ)設定でいく為、苦悩の結果

姫路はこの先Fクラスに染まらない事を願って勝たせます。ムッツリーニは工藤の愛の力?による敗北ということで。

タグに『明久ハーレム』追加しまーす。

更新が遅れたお詫びとして前書きに二つ載せました。


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Aクラス戦(3)

【本作オリ設定】

 生徒会

 どこの学校にも存在する組織。文月学園における活動内容は、春の清涼祭や秋の体育祭等と言った学校行事の企画・協力。

 基本的にメンバーは会長・副会長・会計・書記・庶務の五人で構成され、毎年九月に行われる生徒会選挙で会長に就任した生徒が他四人の役員を選ぶという方針である。情報工学担当の犬井が顧問を務める。

 現生徒会長の神条紫杏は普段の業務に加え、学年問わず生徒達の悩み相談も行っており、評判は高い。

 学園長の許可を貰い校舎裏に子犬(雌)を飼っている。ちなみに名前は『わん子』。


明久が惜しくも敗れ、姫路が巻き返し、そしてムッツリーニが負けた。現状は一勝二敗、もう後がなくなったな。

 

 

『明久くん見てた? 見てたよね。ボク勝ったよー。だから褒めてー☆』

 

『う、うん。凄かったね…』

 

『こら愛子、明久君が困ってるでしょ! そんなにくっつかない!』

 

『よ、吉井君。私も勝ちました! だから私も褒めて欲しいです!』

 

『こら瑞希、なにちゃっかり抜け駆けしようとしてるのよ。てゆーかアンタ達二人はAクラスでしょーが! なんでこっちにいるの!?』

 

 

 そんな中、どこぞの友人(明久)がAクラスも含む複数の女子に囲まれているわけで。

 

 アイツ知らない間に色んな女子と関わってたんだな。ハーレム築いてたんだな。

 

 

『『『ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…!』』』

 

 

 うん、あの光景を見ているFクラス(俺、雄二、秀吉、ムッツリーニを除く)男子共の殺気が半端ないな。今にも明久に殴りかかりそうだ。

 

 

《あれは止めたほうがいいのでは?》

 

《放っておいても問題は無いでしょう。一騎討ちの妨げにはなりませんし》

 

《…高橋先生、あなたって堅物に見えて意外と融通が効くんですね。初めて知りましたよ》

 

 

 先生方、どうか止めてあげてください。さて気を取り直して、俺の対戦相手は誰だろうか…。

 

 

「私が行きます」

 

 

 Aクラスから一人の女子生徒が前に出る。その姿を見てFクラス側がざわつく。銀髪ボブカットの落ち着いた雰囲気の美人だが、彼女の容姿がざわつきの原因ではない。

 

 一番の原因は彼女が白いブレザーを着ているという事実だ。おいおいマジか? ウチのクラスって連中と関わること多くないか?

 

 

「…君も生徒会か?」

 

「上守といいます。一昨日は会長がお世話になりました」

 

 

 どうやら俺の相手は生徒会副会長、上守 甲斐(かみもり かい)らしいな。神条から聞いた話、彼女は神条と同じ中学で、三年間同じクラスだったそうだ。そして自分についてくる形で文月に来たとか。

 

 

《教科を選択してください》

 

「世界史で」

 

「? そちらの代表の為に選択権を取っておかなくていいのですか?」

 

「俺が負けたらそこで終わりだからな。うちの代表にも何か考えがあるんだろう」

 

 

 本来なら俺より高い点数を取れる瑠璃花を出すべきなんだろうけど、アイツの腕輪は一騎討ちでは役に立たないらしい。だからこそ雄二は俺を器用した。

 

 

「そうですか…ではお互いにベストを尽くしましょう。試獣召喚(サモン)」

 

「試獣召喚(サモン)!」

 

 

 俺達の召喚獣が現れる。ガンバーズのユニフォームにバットを持った俺の召喚獣と、鎧を纏い右手に斧、左腕に盾を装備した上守の召喚獣。

 

 

【世界史】

 

Fクラス 小波一輝 413点

VS

Aクラス 上守甲斐 433点

 

 

「…見せてもらいますよ? 会長に勝った貴方の力をっ!」

 

 

 前の戦いで見た工藤愛子には及ばない斧を構えた上守の召喚獣が突っ込んでくる。甘い。

 

 俺の召喚獣は最小限の動きで突進を避け、そのスキだらけの背中にバットを振り下ろ「甘いですね」なにっ!?

 

 地面を蹴って前方に跳んだ上守の召喚獣。振り下ろしたバットは見事に空振りとなる。

 

 

「なかなかやるな。Cクラスにいた生徒会役員も試召戦争初めての割りに皆操作が上手かったな。君も神条から教わったとか?」

 

 

 まあCクラスの連中も神条から操作のコツを教えてもらったらしいから、同じ生徒会の彼女も神条から教わったと考えれば納得がいく。

 

 

「…随分と余裕ですね。このままだと貴方、負けますよ?」

 

 

 え? どういうことだ? ふと俺の召喚獣を見る。よく見ると側に蜘蛛のようなものがーー

 

 

 ドカァァンッ!

 

 

【世界史】

 

Fクラス 小波一輝 285点

 

 

 なんだ!? 突然蜘蛛のような何かが俺の召喚獣に触れた瞬間爆発したぞ! 点数もかなり削られた! これはまさか…

 

 

「…腕輪の能力か?」

 

「その通りです。持ち点を十点消費することで追尾型(蜘蛛型)の爆弾を放つことが出来るのです。ただ威力が小さいため、一撃で相手を仕留める事はできませんが…」

 

 

 最後の方を残念そうに言ってるけど、たった十点の爆弾でこのダメージかよ? ん? 上守の点数がどんどん減っていく。

 

 

【世界史】

 

Aクラス 上守甲斐 423→273点

 

 

 かなりの点数が減った。百五十点か? つまり爆弾蜘蛛の数は…

 

 

「十五匹です」

 

 

 俺の思考を読んだ上守は俺に答えを提示する。そして上守の召喚獣の周囲から十五匹の蜘蛛が現れる。その光景に驚いていると上守は思い出したように

 

 

「ちなみにさっきの話ですが、私に召喚獣の操作を教えたのは会長ではありませんよ? さらに言えば会長も教えてもらった側です」

 

「何だと? じゃあ一体誰から…」

 

「…あいにく戦争中にべらべらと相手の質問に答える程お人好しではありませんので。その答えは勝負の後で聞きに来なさい」

 

 

 蜘蛛達は俺の召喚獣を見つけるとカサカサと素早い動きで接近してきた。なにこれ怖い。

 

 

「これでチェックメイトです」

 

 

 上守は召喚獣のもつ片手斧を俺の召喚獣に向けてぶん投げる。

 

 

「危なっ!」

 

 

 すぐ右に跳んで斧をかわす。その拍子に倒れてしまい、起き上がってる間に爆弾蜘蛛がすぐ側まで迫ってきていた。さらに俺はとんでもない事態に気づく。

 

 どういう理屈かは解らないが、さっき上守の召喚獣が投げた片手斧がブーメランのように俺の召喚獣の背中めがけて戻ってきた。

 

 前方に爆弾蜘蛛、後方に斧ブーメラン。もう一度左右に跳べば爆弾蜘蛛から逃げられなくなる。かといってこのまま立っていれば後ろから斧が飛んできてグサリだ。

 

 絶体絶命だな。ふと上守と目が合う。

 

 

「言った筈ですよ、『チェックメイト』と」

 

 

 ドカァァンッ!

 

 

 俺の召喚獣は爆発に巻き込まれた。




一輝の相手を誰にしようか悩んだ結果こうなりました。


今週のUAが初めて300に到達、嬉しい限りですー!(泣)


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Aクラス戦(4)※

【登場人物紹介】

 吉井 明久(よしい あきひさ)

 二年Fクラス所属の男子生徒。論理的な会話にはついていけず嘘もまともにつけないが、友達や弱い者の為なら一生懸命になれる良い意味のバカである。そんな性格から、一年生の頃に起こした事件でバカの代名詞と呼ばれる『観察処分者』に認定され、学園一の問題児となってしまう。

 女装が似合いそうと評される事が多く、女装写真が秘密裏に売買されている。その結果、『女装が似合う男子生徒一位』の称号を知らずに手にしてしまっている。近いうちに『ハーレム王』の称号が増えそう…。

 一輝が『伝説のキャプテン』と呼ばれるようになった経緯を知っており、彼の事を尊敬している節がある。


バカテス原作との相違点
・観察処分者になった出来事で多くの教師に迷惑をかけた事を後悔しており、以降は教師の雑用や頼み事を真面目にこなしている(ただ、その出来事で人を助けた事を後悔しているわけではない)。

・二年生春の時点で姉(玲)と暮らしている。姉にたいして苦手意識はないが貞操の危機を感じて日々警戒している。

・『喫茶ラ・ペディス』でバイトしている(その為、清水美春にも必要以上に嫌われていない)。

・全体的に成績が上がっていて、歴史科目においては三百点を超えている。


甲斐視点

 

 

 ドカァァンッ!

 

 

 今ので最後の爆発ですか…。煙に覆われているせいで彼の召喚獣がどうなったかは判りませんが、恐らく戦死でしょう。

 

 

(会長に勝ったのだからもう少し粘ってくれると期待していたのですが、あっけなかったですね……ん?)

 

 

 ブンッ ガッ!

 

 

「なっ!?」

 

 

 煙の向こうから飛んできた何かが私の召喚獣に直撃した。あれは…バット? 一体何が…!?

 

 

「そこだあぁぁぁっ!」

 

 

 今度は小波の召喚獣が姿を現し、私の召喚獣に飛び掛かろうとしていた。急いでその場から動こうとするも、召喚獣が言うことを聞かない。…いえ、さっきバットを頭に喰らったせいで気絶している?

 

 

 ズバァァンッ!

 

 

 何も出来ないまま私の召喚獣は一刀両断された。私が投げた斧を持つ彼の召喚獣によって。

 

 

【世界史】

 

Fクラス 小波一輝 14点

VS

Aクラス 上守甲斐 DEAD

 

 

《勝者、Fクラス》

 

 

「そんな、一体…」

 

 

 何が起こったの? なんで彼の召喚獣は戦死してないの!?

 

 

「かなり動揺しているな、顔に出てるぞ。知りたいなら教えようか? 」

 

 

 小波がこちらに近づいてくる。……私、そんなに動揺していましたか?

 

 

「…教えてください。あの状況でどうやって無事でいられたのですか?」

 

「う~ん…正直無事とは言えないな。爆発を受けて俺の召喚獣の持ち点はたったあれだけなんだし」

 

 

 召喚フィールドが展開されているおかげで未だに消えずにいる彼の召喚獣はというと、自分で放り投げた事で教室の隅に無造作に転がっているバットを拾って埃を払っている。そんな召喚獣の頭の上には『世界史 14点』と表示されている。

 

 

「あの時、前方からは爆弾蜘蛛が接近、後方からは斧が飛んできた。スピードからして斧の方が早く俺の召喚獣に接触するから、下にしゃがんで斧を回避しただけさ。

 

 

 そして俺の召喚獣の頭上を素通りした斧は床に突き刺さり、偶然蜘蛛が斧にぶつかり爆発。で、近くにいた蜘蛛達も衝撃により連鎖爆発を起こしたわけだ。一瞬の出来事だったから、わからなかっただろ?」

 

 

 確かに、すぐに煙に覆われましたからね…。

 

 

「ちなみに俺の召喚獣は斧を避けた後すぐに後退させた。それでも爆発に巻き込まれたから危なかったよ。

 

 で、全ての爆弾が爆発したのを見計らって俺の召喚獣の武器(バット)をお前の召喚獣にぶつけて、意識が跳んでいるそのスキにお前の召喚獣の武器(斧)を床から引っこ抜いて斬りかかったわけだ」

 

 

「あなたの投げたバットが当たったかなんて煙で見えないのに分かる訳がありません。貴方が負けたらFクラスの負けが決まる戦いでよくそんな賭けに出れましたね」

 

 

「コントローラーを操作しなきゃラジコンは動かない。本人に動かす意思がなければ召喚獣は絶対にその場から動かない。君が無駄に召喚獣を動かすような事をしないと踏んだ。

 

 斧が刺さった場所と君の召喚獣が立っていた場所を覚えていれば煙で見えていなくても戦える。何度も召喚獣を操作しているから自信はあった」

 

 

 それを聞いて、今日まで自分が積み重ねてきたものを信じている、と誇らしげに言う彼にすんなりと負けを認めてしまう自分がいた。

 

 

「…ようするに実戦経験の差というわけですか。『必ず勝ちます』と言っておいてこの様(ザマ)ではーー」

 

 

 一息ついて

 

 

「会長にお叱りを受けてしまいますね…」

 

 

 勝負に負けたからという理由で会長が私に説教をするなんて思っていない。それを分かっているから彼は私の冗談を一緒に笑ってくれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雄二視点

 

 

「一輝、よくやった」

 

「凄いよ一輝、あんな強力な腕輪持ってる相手に勝っちゃうなんて!」

 

「うむ、おかげで無事に大将戦まで繋がったのう」

 

「………計画通り」

 

「よく勝てたものよねー、ウチはもう生徒会と戦うのだけは御免だわ」

 

「小波君、凄いですっ!」

 

 

 戻ってきた一輝はFクラスお馴染みの面々から歓迎を受ける。そして

 

 

「瑠璃花、勝ったぞ」

 

「お疲れ様です。一輝、いい戦いでしたよ」

 

 

 お互いに見つめ合って別の世界に行ってしまった二人。まだAクラス戦は終わってないだろーが。

 

 

「おいこらそこの二人。そういうのは全部終わってからにしてくれ」

 

「ああ、悪い」

 

「すみません、つい…」

 

 

 恥ずかしがることもなくすんなりこちらを向いて謝る二人。弄ろうと思ったんだがな、つまらん。

 

 

「雄二、さっきまで明久にくっついてたAクラスの二人は?」

 

 

 一輝の質問に対して俺はAクラス陣営に顔を向ける。

 

 

「お前が戦ってる間に暁先生から注意を受けて戻っていったぞ。戦争中だし、こっちとしては事件が起こらずに済んだ」

 

「事件?」

 

「女子四人に囲まれてる明久に須川達が襲い掛かろうとしていたからな。そんなくだらない事で戦争を中止にされたら堪ったものじゃない」

 

 

 それだけ説明すると一輝は納得してくれた。

 

 

《最後の一人どうぞ》

 

 

 …ついにこの時が来たか。

 

 

「……はい」

 

 

 Aクラスからはもちろん翔子だ。そしてFクラスからは当然

 

 

「俺の出番だな」

 

 

 翔子の下へ歩こうとしたら俺の周りに何人か集まってきた。

 

 

「雄二、あとは任せたよ」

 

「ああ、任された」

 

 

 明久にぐっと手を握られ、俺はそれを力強く握り返す。

 

 

「………(ビッ)」

 

 

 ピースサインを向けてくるムッツリーニ。

 

 

「Cクラス戦は助かった。感謝している」

 

「………(フッ)」

 

 

 小さく笑うムッツリーニ。照れやがって…。

 

 

「雄二」

 

 

 一輝が近づいてくる。

 

 

「一輝、お前にはこれまで何度も助けてもらった。クラスのリーダーとして俺に足りないものを教えてくれた。本当に感謝している」

 

「おいおい、昨日の朝のHRでも感謝の台詞を聞いたぞ。もしかして緊張しているのか?」

 

「それもあるな…。だが、昨日やれるだけの事はやったんだ。あとはベストを尽くす! そうだろ?」

 

「ははは、そうだな。あとはお前次第だ、頑張れよ」

 

 

 一輝に背中を叩かれ、俺は翔子の下へと歩を進める。

 

 

 

 

 

 

 俺から始まった過去に決着(ケリ)をつけるために。




『今日まで自分が積み重ねてきたものを信じている』

学生時代に野球部にいた友人の言葉です。

何事にも悔いを残さずに一試合を戦った彼に相応しい言葉だと、今でも覚えています。






明久の紹介、思いつき次第書き足していくつもりです。


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Aクラス戦(5)

今回はなしです。


雄二視点

 

 

「……雄二」

 

 

 遅れて前に現れた俺の名を呼ぶ幼馴染み。

 

 

「待たせたな翔子」

 

 

 そうだ。これまでずっと待たせてきたんだよな…。だかそれも今日で終わる。

 

 

《霧島さん、科目は何にしますか?》

 

 

 Fクラスは既に科目選択権を使いきった。だから高橋先生は翔子一人に問いかけた。

 

 

「……数学でお願いします」

 

《承認します》

 

「「(……)試獣召喚(サモン)!」」

 

 

 フィールドの展開と同時に俺達は召喚獣を呼び出す。白い特攻服にメリケンサックを装備した俺の召喚獣と、和風鎧を装備し日本刀を両手に持つ翔子の召喚獣が現れる。

 

 

【数学】

 

Fクラス 坂本雄二 209点

VS

Aクラス 霧島翔子 524点

 

 

『『『はあっ!?』』』

 

『数学が五百点超え!?』

 

『これが学年主席の実力…!?』

 

『坂本も(ギリギリだけど)Aクラスレベルだぞ!』

 

 

 両クラスから驚きの声があがる。それも当然だな。文系と理系どっちが得意(好き)か? と聞かれたら文系と答える人が多数を占める。それくらい理系を苦手とする者は多い。確かテレビでやってたアンケートの結果は文系七十パー、理系三十パーだったか?

 

 ちなみに俺は理系派だ。問題の解き方が理解出来ていれば暗記よりも楽に解けるからだ。…それはきっとアイツも同じなんだろうが。

 

 

「翔子、お前やっぱ凄えな」

 

「……雄二、本気でいく」

 

 

 はは、珍しく褒めてやったのに真剣な表情が崩れてねえな。それだけ本気でぶつかってくれるってことだよな。ありがてえ…。

 

 

「ああ、俺も全力でぶつからせてもらうっ!」

 

 

 

 

 

 

 俺の一声が開戦の合図となり、翔子の召喚獣が走ってきた。向こうは日本刀に腕輪という未知の力を持っているのに対しこっちはリーチゼロのメリケンサックだ。

 

 俺は全神経を集中して翔子の動きを観察し、攻撃をかわしながら拳を放つ。いつ腕輪が発動されても離れられるよう無茶な動きはしない。焦らず、的確にダメージを与えていく。

 

 

「……っ!」

 

 

 さらに俺の攻撃を受けて翔子の召喚獣の点数は三百近くとなった。一輝や明久のように一撃で倒せるほど操作が上手くないため、少しずつ削っていく。

 

 

「……わかった」

 

「あ?」

 

 

 俺の召喚獣と距離を取り、翔子が口を開く。いきなり何だ…?

 

 

「……雄二の攻撃パターンは理解した。ここから反撃開始」

 

 

 っ!? やはり時間をかけすぎたか…。翔子の記憶力を考えればこうなる事はわかってたのに…!

 

 

「……腕輪発動」

 

 

 起動ワードと共に翔子の召喚獣に変化が現れる。召喚獣の足下にわずかながら雪が積もり、日本刀や鎧がみるみる内に凍っていく。

 

 

「一体何が…?」

 

「……氷の剣と鎧、完成」

 

 

 その名の通りだった。日本刀は白い冷気を放ち、鎧は薄い氷で覆われている。そして召喚獣の髪も翔子の黒髪から一変、白に変色している。そんな召喚獣の大きな変化を見てざわつく周囲を気にせず俺は召喚獣を突貫させた。

 

 腹に右の拳を入れ、ダメージを与えた瞬間、予想外の事態が起きた。

 

「なっ!?」

 

 

 翔子の召喚獣に触れている右の拳が凍りつく。慌てて拳を引っ込め翔子の召喚獣から離れる。召喚獣の右手は凍ったまま。しかも少しずつ点数が減り始めている。

 

 

「これが翔子の腕輪…」

 

「……冷気を操る力。こういう使い方もあるみたい」

 

 

 どうやら翔子の方はぶっつけ本番だったらしい。鎧に攻撃したらその箇所が凍っていく。パンチやキックの場合手や足が凍ってしまい、凍傷?によって点数が減り続けるって事なのか? 

 

 武器があれば問題はなかっただろうが俺の場合はそれがない。……おい、相性最悪じゃねーかこれ?

 

 

「……ここから、巻き返す」

 

 

 そう言い放つ翔子に若干ながら戦慄してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一輝視点

 

 

 二人の激闘をFクラス陣営で観戦する俺と瑠璃花。

 

 

「翔子の奴、容赦ねえな」

 

「坂本君大丈夫ですか? 戦意喪失してませんよね?」

 

「しかけてるかもな。けど、心が折れてなきゃまだ戦えるさ」

 

 

 翔子の本気とも言える圧力に後ずさる雄二を気にかける瑠璃花に軽く返す。そう、戦意を失くす事と心が折れる事は同じようで違うのだから。

 

 

「一輝は坂本君の勝利を信じてるんですか?」

 

「ああ、勝手ながら信じてるさ。だからといって負けたとしても責めるつもりはないがな」

 

 

 ま、俺に言わせて貰えば、雄二は既に欲しいものを手にしている。この勝負で勝とうが負けようが関係ない。アイツがそれに気づけるかどうかなんだ。たぶん翔子も雄二にそれを気づかせる為に全力をぶつけている。

 

 乗り越えれば見える景色もある。さあ雄二、そこからどうやって巻き返す?

 

 

【数学】

 

Fクラス 坂本雄二 176点(右手の凍傷により少しずつ減少)

VS

Aクラス 霧島翔子 289点




文字数少なめになってますね。(泣)


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Aクラス戦(6)

【バカテス用語】
 二年Fクラス教室

 振り分け試験で総合成績ワースト五十位の生徒達に与えられる一輝や明久達の教室。机が卓袱台で椅子が座布団、床がボロボロの畳となっている。部屋の隅にはクモの巣が形成され、窓ガラスにもヒビが入っている等、環境は良くないと言える。


雄二視点

 

 

 翔子が腕輪を発動してからというもの、あれから全くダメージを与えられず翔子が繰り出す猛攻を避け続けるだけだった。

 

 

「あぶねぇっ!?」

 

 

 冷気を放つ日本刀による突きをギリギリの所でかわした。集中力が切れかけてきたのを悟り、翔子の召喚獣から離れる。

 

 

「まいったな……」

 

 

 そう言いたくなる。翔子の召喚獣は腕輪により氷の鎧を纏い、攻撃すればこちらもダメージを受けるオマケ付きだ。実際俺の召喚獣の点数は少しずつ減り続けている。いまや点数差は二倍近く。

 

 

(昨日一輝と練習してなかったらとっくに諦めてたな…)

 

 

 問答無用で腕輪を使ってきたあのバカに怒りを覚えつつも感謝し、打開策を考える。そして昨日の特訓で一輝の言ったことを思い出す。

 

 

『柔道の投げ技だったり、器械体操のアクロバットだったり、召喚者が持ってる技術は召喚獣に反映させることが出来るんだ。

 

 だから雄二、お前にしか出来ないやり方で戦え。点数差関係なしに翔子と渡り合うにはそれしかない』

 

 

 それについては寝る前だって考えた。俺にしか出来ないやり方といえばアレしかねえ。上手くいくかはわからねえ。下手すりゃ自滅になるが他に手もない。

 

 覚悟を決めた俺は召喚獣の構えを解いた。予想外の動きに翔子はキョトンとする。

 

 

「……雄二?」

 

「そういや、お前は俺が喧嘩する所なんて見たことがないだろうな」

 

 

 俺は自分から喧嘩を売ったことはほとんどない。『悪鬼羅刹』と呼ばれるようになった今でも売られた喧嘩を買うスタンスを取っている。

 

 格闘技をやってた訳ではない俺の戦法はハッキリ言って自己流であり、手強い相手にはこういった手を使う。

 

 

「ほら翔子、どこからでも掛かってこいよ」

 

 

 両手を広げて相手を挑発させる。喧嘩を売ってくる連中はこうやって敵愾心を煽れば普通に相手できる。だが今回もこの手を使う。俺の意図が分からず警戒しつつも、翔子は武器を構えて自分と俺の召喚獣の距離を縮めていく。

 

 こちらは右手が凍ってて使い物にならない。使うのは左手だ。点数も百点を切っている。チャンスは一度きりだ。

 

 そして時は来た。翔子の召喚獣は素早い動きで迫ってくる。

 

 

(こっからはじゃんけんだな。上から来るか、横から来るか、それとも……)

 

 

 集中力を高めてギリギリまで引き付ける。そして日本刀の間合いに入った瞬間、翔子の召喚獣は刀の切っ先を俺の召喚獣に向けて突き出す。

 

 

(突きだっ!)

 

 

 ドスンッ!

 

 

【数学】

 

Fクラス 坂本雄二 87点(勝負が決まったため停止)

VS

Aクラス 霧島翔子 DEAD

 

 

 喧嘩において俺が手強い奴に使う戦法、それはカウンターだ。突進してきた翔子の召喚獣の体重が乗ったことで俺の召喚獣の左拳は見事に鎧を突き破り心臓を貫いた。三百点近くあった翔子の召喚獣は消滅した。

 

 

《勝負あり。三対二の結果この戦争、Fクラスの勝利となります》

 

 

 どちらが勝ってもおかしくない白熱した戦争。だからこそ勝ったFクラスだけでなく、負けたAクラスからも、拍手喝采が鳴り響く。そんな中、俺は翔子の傍へと歩く。伝えたいことを伝える為に。

 

 

「……雄二」

 

「翔子、なんで俺がAクラスに試召戦争を仕掛けたか分かるか?」

 

 

 俺の問いに翔子は首を横に振る。まあ当然だな。

 

 

「証明したかったんだ。世の中学力だけが全てじゃないって事を。だからこそ文月学園に来た。最底辺のFクラスに入って成績トップが集うAクラスに勝つことでそれを証明したかった」

 

「……そう」

 

「…だがそれは、真実から目を背けている言い訳に過ぎなかった」

 

「……え?」

 

「勉強が出来る事以外何も持ってなかったあの頃の俺自身が嫌いだった。冷めた態度、大人ぶった態度で周りに接し、学力の低い者は上級生ですら見下す。そうやって無駄に敵を作りそして…翔子を巻き込んだ俺自身が許せなかった。あの事件でお前、今でも責任を感じてるみたいだしな」

 

「………」

 

「俺はAクラスに勝ちたいんじゃなく翔子、お前に勝ちたかった。俺が昔と変わっても、何度突き放しても、決して離れることなく自分の思いを貫く。そんな強いお前に勝つ事こそ、あの頃から俺の探していた答えだと気づいたんだ」

 

 

 気付かせてくれたのは俺の親友だがな。

 

 

「さて、勝ったら一つ命令できるんだよな? 今使わせてもらう」

 

「……かまわない」

 

 

 

 

 

 

「好きだ、翔子」

 

「……え…?」

 

「前々から決めてたんだ。お前に勝ったら告白するって。ただ『元神童』でも『悪鬼羅刹』でもない、坂本雄二として、学年主席の霧島翔子に勝った男として告白したかった。…嫌だったか?」

 

 

 フルフルと首を横に振り、口元に手を当て、涙を流す翔子。

 

 

「……嫌じゃ、ない。嬉しい、雄二っ!」

 

 

 涙ながらに飛びつく翔子を抱き留める。

 

 

「長い間ずいぶん待たせたな。今まで離れていた分、ずっと一緒にいような?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一輝視点

 

 

「よかったですね、翔子」

 

「雄二もだな。ったく、やっと素直になって…」

 

 

 教室の真ん中で抱き合う二人を微笑ましく見届ける俺と瑠璃花。

 

 しかし残念なことに全員があの二人を祝福している訳ではない。教室の隅で何やら怪しい動きが…。

 

 

「…あなたの予想がここまで当たると怖いですね」

 

「当たって欲しくなかったけどな。それじゃ、最後の仕上げに行くから、いつでも出れるように準備しててくれ」

 

「わかりました。気をつけてくださいね?」

 

 

 幼馴染みに心配されつつも、俺は雄二達の下へと走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 助走をつけて。




人物紹介やりたいんですけどねー

紹介するキャラは慎重に選ばないと

ネタバレ嫌う人もいますからね


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つまらない戦争

【バカテス用語】
 FFF団

 ニ年Fクラスに存在する異端審問会。秀吉や女子生徒にアプローチした生徒や、女子から好意を寄せられている生徒に対して粛清を行う。

 分かりやすく言えば『リア充爆発しろ』を実行する集団。


雄二視点

 

 

『諸君、ここはどこだ?』

 

『『『最後の審判を下す法廷だ!!』』』

 

『異端者には?』

 

『『『死の鉄槌を!!』』』

 

『男とは?』

 

『『『愛を捨て哀に生きる者!!』』』

 

『宜しい。これより第一級異端者、坂本雄二の処刑を開始する。者共かかれぇー!』

 

『『『YEAH!! Let's Party!!』』』

 

『初陣は俺がいくぜヒャッハーっ!』

 

 

 翔子を慰めているとどこからか黒い覆面とマントの集団が現れ、その内の一人が俺達に向かって飛び掛かってきた。気がつくのが少し遅れたせいで俺は翔子を後ろに庇う事しか出来ずソイツの跳び蹴りを一発を喰らう覚悟でいた。しかし…

 

 

「てやあぁぁぁっ!」

 

『ごぺぽっ!?』

 

『『『ふ、福村あぁぁぁぁっ!?』』』

 

 

 横から跳んで現れた何者かが福村?を蹴り飛ばし、俺達の前に着地する。ソイツは…

 

 

「反射的とはいえ咄嗟に翔子を庇うとか、やるじゃないか雄二」

 

 

 よくやったと笑いかけてくる親友、一輝だった。そして覆面集団の一人(恐らく須川)が一輝に指をさし

 

 

「こ、小波キサマっ! 我々『FFF団』を裏切る気か!?」

 

「何を言っている? お前達の宗教団体に属した覚えはないぞ?」

 

 

 当たり前の返答をする一輝。てかFFF団ってなんだ?

 

 

「つーかお前ら何をやってるんだ? 何故雄二に襲いかかる?」

 

「ふっ…いいだろう。横溝、罪状を読み上げろ」

 

「了解です須川会長。えー被告人坂本雄二は我等がFクラスの生徒でありながら文月学園の華、霧島翔子に告白し見事に結ばれーー」

 

「長い、簡潔に述べよ」

 

「彼氏彼女の関係になれて羨ましいであります!」

 

「うむ、実に分かりやすい報告だ。よって坂本は有罪、死刑」

 

「「「死刑ーーーっ!!」」」

 

 

 要するに嫉妬か…バカだろコイツら。そんな事を思っていると一輝が

 

 

「お前達の言いたいことはわかった。だがそんな事を黙って見ている訳にはいかないな」

 

 

 一輝は二人の教師に向かって

 

 

「高橋先生! 暁先生! Fクラス男子四十人に試召戦争を挑みます! 召喚許可を!」

 

 

 一輝の発言に教室にいる殆どの人が驚きの声をあげる。一人で四十人を相手にするとか正気か?

 

 

《小波君。気持ちはわかりますが、私情による召喚獣の使用は《許可する》暁先生っ!?》

 

《高橋先生。ここで暴力事件を起こすわけにはいかないでしょう? このあとの戦後対談を平和的、円滑に進めるためにも彼等には補習室に行って貰いましょう。小波、頼んだぞ?》

 

「任せてください!」

 

 

 暁先生の説得により高橋先生もため息をつき了承する。

 

 

《……仕方ありませんね、許可します。科目はどうしますか?》

 

「家庭科でお願いします」

 

 

 ……って、よくよく考えたら何も黙って見学する必要もねえだろ。ったく、仕方ねーな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一輝視点

 

 

 家庭科の召喚フィールドが張られ、召喚許可も貰った。相手は四十人だが、万が一の為に瑠璃花も待機している。

 

 

「さて行くぜ…サモーー」

 

 

 起動ワードを言う直前に肩を掴まれた。誰?

 

 

「一人でカッコつけてんじゃねえよ一輝」

 

「……加勢する」

 

 

 雄二…翔子…。

 

 

「なんだか面白そうな事をしてるね」

 

「仲間のピンチを見過ごすわけがなかろう」

 

「………任せろ」

 

「ウチを忘れないでよねー」

 

「頑張りますっ!」

 

 

 明久…秀吉…ムッツリーニ…島田…姫路…。

 

 

「僕も力を貸そう」

 

「彼等にはお仕置きが必要ね」

 

「ボクも力になるよー」

 

 

 久保…木下姉…工藤…。

 

 

「みんな、ありがとう」

 

 

 予想外の展開だな。本当なら俺が腕輪の力で殲滅し、うち漏らしを瑠璃花に任せるつもりだったんだけど…。仕方がない、と教室の壁にもたれている瑠璃花に視線を向ける。

 

 

(作戦は無しだ。お前もこっちに来て一緒に戦え)

 

(やっぱりこうなりますよね)

 

 

 小学校の頃からずっと一緒にいた為、俺と瑠璃花は言葉を交わさなくても会話(意志疎通)ができる。作戦中止を聞いた瑠璃花は予想通りと言わんばかりの顔でこちらに歩いてくる。

 

 

「姫路さん、島田さん。油断しないでくださいね?」

 

「もちろんですっ! もうあんな思いはしたくありませんから」

 

「ウチ等Fクラス女性陣の力を見せてやろうじゃない!」

 

 

 …瑠璃花の奴、いつの間にあの二人と仲良くなったんだ? 

 

 

「あれ? そういえば上守は?」

 

「彼女なら君との戦いを終えてすぐ生徒会室に行ったよ。元々忙しい所に僕達クラスメイトが無理を言って代表メンバーに入って貰ってた訳だしね」

 

 

 俺の質問に久保が答えてくれる。ふーん…そっちもいろいろ事情があるんだな。

 

 

「よーし皆、気合い入れて行くぞ!」

 

「「「おおおーーーっ!!」」」

 

 

 

 

 

 

 こうして、F&Aクラス主力メンバー対FFF団による試召戦争は十分の激闘の末に幕を閉じた。

 

 …正直な話、こちらの問答無用な蹂躙劇であるという事だけ言っておく。




今日中に閑話を投稿します。

サブタイトル、なかなかピンとこないので思い付くまではこれでいきます。


『明日に向けて』の次に閑話、『共通点』を載せました。


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戦後対談(3)※

【登場人物紹介】

 坂本 雄二(さかもと ゆうじ)

 二年Fクラスの代表を務める男子生徒。百八十センチ強の背丈をほこり今では『悪鬼羅刹』の異名を持つ不良少年だが、小学校時代は並外れた知能を有し『神童』の異名を持っていた。

 興味のないことにはとことん無気力で、基本的には己の欲望や保身といった目的でしか行動しないが、やる気を出した時にはかつて『神童』と呼ばれた頭脳の冴えを見せる。


バカテス原作との相違点
・二年生春のAクラス戦で霧島翔子に勝ち、彼女に告白している。

・明久に対する扱いが(からかったりはしているが)柔らかくなっている。


「戦死者は補習~!」

 

『『『ぎゃあぁぁぁっ!!』』』

 

 

 戦争が終わり、西村先生がFクラス男子四十人を担いで教室を出ていった。…どうやって?

 

 

《それでは両クラス、戦後対談を行ってください》

 

 

 高橋先生、冷静に話を進めないでください。

 

 

「……雄二、私達の負け。素直に教室を明け渡す」

 

 

 とまあ、色々あったけど無事に始まった戦後対談。代表の翔子が前に立ち、雄二にクラスの総意を伝えた。

 

 翔子の後ろにいるAクラス陣を見る。泣いてる人、落ち込む人、そういう人達の肩に手を置く人。全員悔しい気持ちが露になっている。負けて設備が入れ替わる以上当たり前の反応だ。

 

 

「それなんだが、俺達は設備を交換するつもりはない」

 

 

 まあ、当然こうなるよな。雄二の宣言を聞いてAクラスが騒ぎ出す。Fクラス連中にも騒ぐ奴はいたんだろうけど、ソイツらは全員補習室に行った。ここにいるのは全員物分かりのいい連中だけだ。

 

 

「ちょっと待ってよ。設備を入れ替えないなら貴方達は何のために試召戦争を仕掛けたの?」

 

 

 寄ってきた木下姉の問いに俺が答える。

 

 

「実は今朝学園長に許可を貰ってね。Aクラスに勝ったら希望者だけに再振り分け試験を受けさせて貰うことになったんだ」

 

「再振り分け試験? それでFクラス以外の教室に行く気?」

 

「いや、俺達は設備なんか気にしてない。ただ振り分け試験を受けれずにいた人達にチャンスをあげたかったんだ。だけど…」

 

 

 まさか大事な事を忘れていたとはな…。

 

 

「どうかしたの一輝?」

 

 

 明久の呼びかけを無視して俺は姫路のいる方へ顔を向け。そして

 

 

「姫路。お前はーー

 

 

 

 

 

 

ーーーAクラスに行く気はあるのか?」

 

 

 気づいたのは久保との対戦の最中に言った姫路の一言だ。

 

 

『……私、このクラスの皆が好きなんです。人の為に一生懸命な皆のいる、Fクラスが』

 

 

 それを聞いて俺は大事な事を思い出した。

 

 姫路の意思を確認していなかった。姫路がAクラスに行きたいのかどうか聞いていなかった。

 

 

「小波君…」

 

「姫路。振り分け試験で体調を崩してFクラスに来た事は運が悪かったとしか言えない。俺も明久と同じ気持ちだ。お前にはAクラスに行って欲しい」

 

「吉井君………っ! 坂本の言う通り…。吉井君達はっ!」

 

「姫路さん……うん、君の思ってる通りだよ。今回の戦争は君の為なんだ」

 

 

 俺と明久を交互に見つめる姫路。そして姫路の予想は当たっていると言う明久。

 

 

「せっかくAクラスに行くチャンスを手に入れたのにそれを無駄にしてしまったら意味がない。

 

 でもな、Fクラスで過ごした五日間がお前にとってマイナスばかりだったなんて俺には思えない。そしてなにより姫路の今後は姫路、お前自身で決めるべきだ。

 

 今日まで意思確認もせずに今更なんだ? と思うけど、自分の本心と相談して、答えて欲しい。振り分け試験を受けてAクラスに行くか、受けずにFクラスに残るかを」

 

「わ…私は……」

 

 

 うつむき悩む姫路。しばらくして覚悟を決めて顔を上げる。

 

 

「私はーー

 

 

 

 

 

 

ーーFクラスにいたいです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明久視点

 

 

 Fクラスに残る事を選んだ姫路さん。相談もなく勝手にやった事だけど僕としてはやっぱり姫路さんにはAクラスに行って欲しかった。Fクラスの環境は姫路さんの体にはやっぱりよくないし…。でも彼女が自分で決断したことなら文句は言わない。

 

 ただ…胸にぽっかり穴が空いたようなこの感覚はなんだろうか?

 

 島田さんと笑いあっている姫路さんの近くでは一輝と南雲さんが喋っている。

 

 

「あなたが残るなら私もFクラスに残りますよ」

 

「…学校でまで俺に拘らなくていいんだぞ? それに、あの教室にいたら体調崩すかも知れないし」

 

「貴方の側にいる事が私の務めですから。あと私はそう簡単に体調なんて崩しませんよ。貧乏人をなめないでください」

 

 

 どうやら南雲さんもAクラスには行かないらしい。やっぱり一輝と一緒にいるんだね。…てゆーか南雲さんって意外とたくましい人だったんだ…。

 

 

「……それじゃあ、戦後対談の続きを」

 

「おっと、そうだな」

 

 

 若干方向がズレてしまった戦後対談。霧島さんが戻して雄二が返事をする。

 

 

「とは言ってもする事が無くなったな。誰も振り分け試験を受けない以上、学園長への提案も無駄になっちまったし」

 

「……だったら、ある程度の頼みなら聞いてあげられる。設備の交換を免除してくれたんだからこれくらいはする」

 

 

 霧島さんの提案にAクラス全員が賛同の意思を示す。そこに一輝が雄二に近づき

 

 

「雄二、翔子。俺から提案いいか?」

 

「一輝か、いいぜ」

 

「……なに?」

 

「週一でいいからAクラスの教室で、合同で授業を受けさせて欲しい。姫路は自分で決断してFクラスに残ったし、設備の悪さに関してはこっちも対策は立てるけど、それでも心配になる奴もいるからさ」

 

 

 そう言って僕に視線を向ける一輝。どうやら気を遣ってくれたみたいだね、ありかとう。

 

 

「……それくらいなら構わない。みんな大歓迎」

 

「でも代表。ここにいないFクラス男子達が問題を起こさないとは限らないわよ? さっきのように嫉妬で襲い掛かってきたら授業にならないし…」

 

 

 優子さんが懸念材料を挙げる。確かに、須川君達が暴走する度に授業が止められたらこの提案が白紙になるだろう。

 

 

「アイツらのことなら問題ない。『真面目に授業を受ける奴はモテる』っていえば連中は静かになるから」

 

「そんなことで大人しくなるの!?」

 

 

 その反応は最もだ。今まで勉強してこなかった彼等がそれで真面目に授業を受けるなら苦労はしない。でもそれが彼等(Fクラス)なんだよねぇ…。

 

「う~ん……わかったわ。さっき代表も了承したけど、アタシもその提案を受け入れるわ」

 

「決まりだな」

 

 

 少し考えて提案を了承した優子さんに自分の案が通って満足顔になる一輝。これで姫路さんの負担を少しは減らせるんだと思うと僕はホッと胸を撫で下ろす。




次回、試召戦争編ラストの予定!(あくまで予定)


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終結

長かった…


明久視点

 

 

 戦後対談が終ったのは、本来ならその日最後の授業をしていた時間だ。しかし試召戦争の為に今日の授業はなく放課後扱いだ。

 

 真面目なAクラス生徒の行動は様々だ。クラスメイトと雑談を交わす者、自分の席で自習する者、荷物を纏めて帰っていく者、それはどこの学校でも見る光景である。

 

 僕達Fクラス生徒がいつまでもここにいるわけにはいかない。雄二達と教室に戻ろうとした時、チョンチョンと右肩をつつかれた。

 

 

「ねえねえ明久くん。久しぶりにこうして会えたんだし、何処か寄り道していかない?」

 

 

 振り向くと口元を猫のようにして寄りかかってくる愛子ちゃんがいた。近い近い。

 

 

「寄り道? 今日はバイト休みだし予定もないからいいけど」

 

「決まりだネ☆ じゃあさっそくーー」

 

「「「待ちなさいっ!!」」」

 

 

 僕の腕に抱きついて教室を出ようとする愛子ちゃんを優子さん、姫路さん、島田さんの三人が阻む。三人は愛子ちゃんを僕から引き剥がし、教室の隅へと引っ張っていった。

 

 

『いたっ。ちょっと、なにするのさ』

 

『それはこっちのセリフよ愛子。なにちゃっかり明久君をデートに誘っているのかしら?』

 

『工藤さんズルいですっ!』

 

『抜け駆けしようたって、そうはいかないんだからね!』

 

 

 何を話し合っているんだろう…。上手く聞き取れない。

 

 そんな中、Aクラスの扉が開く。振り向くとついさっきFクラス男子四十人を担いで行った馴染みの教師が教室に入ってくる。

 

 

『あれ、西村先生? 須川達の補習はどうしたんですか?』

 

『小波か。アイツらなら心配はいらん。念の為に扉と窓に高圧電流の罠を仕掛けておいたからな。俺がいなくとも逃げ出すことなく課題に取り組んでいる筈だ』

 

 

 二人の会話を聞いている僕。…おかしい、うちの学校はいつからアルカトラズのような脱獄不可能刑務所になったんだ? 高圧電流の罠を設置する学校って一体…。

 

 

『そんな事より小波。お前も補習室行きだ』

 

 

 鉄人に手首を掴まれている一輝。その本人は補習室に連れていかれる理由を理解し納得している。

 

 

『余所の教室で相手を蹴り飛ばすのは感心せんな。だが、坂本と霧島を護る為という事を考慮して反省文と厳重注意で大目に見る』

 

『はあ…寛大な決定に感謝します。雄二が翔子に勝てばあの展開になる事は予想していましたが、対策を立てる時間が無かったものですから…。

 

 瑠璃花。遅くなりそうだから先に帰っていいぞ?』

 

『大丈夫ですよ。終わるまで待ちますから』

 

 

 というやり取りを終えて鉄人に連行される一輝に愛想笑いしていると、教室の隅でなにやら話し合っていた四人がこちらに戻ってきた。

 

 

「明久くん。三人も一緒に来る事になったんだけど良いカナ?」

 

「良いも何も断る理由はないよ。大人数の方が楽しいしね」

 

「よーし、じゃあ吉井の奢りでクレープ食べに行こっ」

 

「ははは、皆。あまり高いものは勘弁してね?」

 

「え、明久君。お金の方は大丈夫なの?」

 

「バイトでそれなりに稼いでるから問題ないよ」

 

「いろいろ体験してるんですね…。吉井君偉いです!」

 

 

 

 

 

 

『……雄二』

 

『ん? なんだ翔子』

 

『……あの、その…』

 

『…俺らもどっか寄ってくか?』

 

『っ!? ……うん!』

 

『んじゃ鞄持ってこいよ。待っててやるから』

 

 

 雄二と霧島さんはデートか…羨ましい限りだよ。僕もいつか彼女作って楽しくデートしたいなー。

 

 

「吉井君。何してるんですか?」

 

「吉井。早く行こ」

 

 

 姫路さんと島田さんが左右から抱きついてきて、さらに優子さんと愛子ちゃんに背中を押されて僕はAクラスを出た。

 

 

 

 

 

 

 教室にいたAクラス男子達の悔し涙と嫉妬の視線には一切気付くことは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暁視点

 

 

「いやあ、まさかFクラスが勝つなんて以外でしたね」

 

 

 小波や坂本、吉井達がいなくなってある程度静かになったAクラス教室で俺は先輩である高橋先生に声をかける。年齢は俺の方が上だが、教師としてのキャリアは彼女の方が上なのだ。

 

 そして俺の言葉に返事もせず、淡々とA・Fクラスの資料を纏めている先輩。

 

 

「…ショックでしたか? 貴女が受け持つ最優秀成績を誇る生徒達が負けたことは」

 

 

 下手すると挑発にも取られる言い方をしてみた。すると高橋先生は手の動きを止め、少し黙りこんだあと口を開く。

 

 

「私としても驚きは隠せません。ですが負けた事で驕りや慢心が無くなり、彼等(Aクラス)の学力向上に繋がるというのならば、次は負けないでしょう」

 

「今回の負けは価値ある敗北と見てるんですね」

 

「勝ち続ける事だけが生徒の成長ではありませんからね」

 

 

 ごもっとも………ん? この紙は

 

 

「Fクラスの生徒名簿ですか………あれ?」

 

「暁先生どうかしましたか?」

 

「いえ、Fクラスの名簿に聞き覚えのない女子生徒の名前がありまして。この子です」

 

「その名簿見せてください。姫路さん、島田さん、南雲さん………ああ、彼女ですか」

 

「ご存知なんですか?」

 

「ええ。彼女は学園長から授業免除を言い渡されてますから。でもーー」

 

「授業免除!? それって世間的にありなーー」

 

「静かに。ここは教室。広いといってもまだ生徒がいるのですから」

 

「す、すいません」

 

 

 危ない、どうやら機密事項らしい。運良く誰も聞いてなかったのが救いだな…。

 

 

「ふぅ…とにかく、学園長の許しで授業を免除されて、学校にいる間は校舎のどこか……恐らく図書室辺りで過ごしている生徒がいるのですよ。振り分け試験を受けていないので当然Fクラス在籍になりますが」

 

「よく学園長が許可しましたね?」

 

「彼女の親が学園のスポンサーの一人のようでして。成績も文句なしですから、それくらいのワガママは聞いてやると学園長はいってました」

 

「あの人らしいというかなんというか…」

 

「彼女が今回の試召戦争に参加していたなら、こちらの黒星がもう一つ増えていたでしょうね」

 

 

 そこまでの逸材がFクラスに!? 小波といい、吉井、坂本といい…

 

 

 

 

 

 

 これは来月の清涼祭が楽しみになってきたな。




いよいよ次回は…


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座談会

なんとか今日中に書き上げた………バタリ(ち~~ん…)


第一回…

 

「「バカテスポケット座談会~」」

 

いえーいっ!

 

「とゆー訳で始まりました、第一回バカテスポケット座談会。とりあえず作者さん、第一章完結お疲れ様でしたー」

 

ありがとうございます。

 

「まったく…八話目で挫折しかけた時はどうなるかと思ったが、よくまあ挫ける事なく更新出来たものだ」

 

ははは…自分でも驚いてますよ。あの時は何時間考えても何も思い浮かばずにいましたから。もうどうにでもなれと、当分サイトは見ないようにしてましたから。

 

「ふむふむ、それでー? 立ち直ったキッカケはあるんですかー?」

 

二十日くらい経って、やはり気になってしまい恐る恐るサイトを見たんです。そしたらこの小説にお気に入り登録してくれた人が増えてたんですよ。…まあ、あの時点でお気に入りはたったの三人でしたけど…。

 

それでも嬉しかったですし、一度投稿した以上最後までやろうと思えました。この作品にお気に入り登録してくれた人達の為にも頑張ろうかーー

 

「うんうん、よくできましたね。ナオっちは感激ですよー」

 

待って、まだ途中なんだけど!?

 

「作者。あなたの話だけで盛り上がるわけにはいかないだろう。他にも話すことはあるんじゃないのか?」

 

…そうでしたね。前々から一章終える毎に座談会を開くつもりではいましたが、いざ開いて見ると一人で何をすればいいのか、何を話せばいいのか分からずでして…。さて、そろそろ第一章を振り返ってみましょうか。その為の座談会ですしね。

 

「とは言っても序盤はバカテス原作と変わらない流れだな」

 

「原作との分岐はアキちん(明久)がユージン(雄二)に試召戦争を提案してたところですかねー?」

 

…その呼び方、本人達から許可をもらってるんですか? まあそうですね。そこに本作の主人公、一輝を介入させて原作と方向性を変えました。

 

「設備を取らず再振り分け試験を受ける、なんて他の作品でもやっているがな」

 

「でもクラス内の模擬試召戦争はあまり見ないですよー?」

 

バカテスの漫画を読んで…あっこのアイデアいただき! と思いやってやりました。そして点数で勝負が決まらない以上、操作の訓練として相手をBクラスからCクラスに変えました。

 

「そのお陰で登場しました、我等が生徒会長紫杏ちゃん! パワポケファンなら誰もが待ち望んだ事でしょうキャラが早くも登場しましたよ!」

 

「パワポケ10では自治会長だったがな。それにしてもスペック高すぎないか? 確かに文武両道でカリスマ性はあったが」

 

バカテス原作に生徒会があったかどうかわかりませんでしたから、強キャラ感を出したかったんですよ。紫杏だけじゃなく他の役員も。

 

「だからカズちんとアカりんを登場させたんですね!? でしたらあたしも?」

 

すいません、あなたの出番は少ないです。最悪本編で名前が出てくるかどうかも今は分かりません。

 

「そんなー! ならすずちんを差し出します。好きに使って良いですから私にも出番をください!」

 

「高科? さらりと私を生け贄に使うな」

 

…話を進めましょうか。さらに原作との分岐があったとすればそれは、Aクラス戦前日に雄二に日本史のテストをやらせたことですね。

 

「小波君、ですか? 彼っていろいろと立ち回ってますよね。アキちんも言ってましたけど、何が正しくて何が間違っているのかを冷静に見極められる。…彼って本当に高校生ですか?」

 

一輝は全国大会優勝を経験しました。ですが彼は当時リーダーとして足りないものが多い自分に悩み苦しみながらも仲間達の協力のもと栄光を手にしましたからね。だからこそリーダーとして悩まない雄二の事が心配だったのでしょう。後悔させない為に。

 

「で? Aクラス戦が始まったわけだが、吉井明久は原作同様負けるのだな」

 

本当は一輝を負かす予定だったんですけどね。生徒会長に勝てたのは上手く行き過ぎだったかな~っと。

 

「…主人公を負けさせる考えを持てるとは作者よ、お前は鬼畜か?」

 

失礼なっ! 私は聖人君子ですよ!

 

「自分で言うな…」

 

「それでAクラス戦を通じてアキちんがハーレム作ってる事を皆が知るわけですねー。彼、本当に誰かに刺されたりしませんよね?」

 

そこは彼自身の問題でしょ。自分の身は自分で守らないと。

 

「それ言ってしまうんですかー?」

 

そして一輝の対戦相手はまたもや生徒会のメンバーです。彼も大変ですね。

 

「どの口が言う? まさか副会長に上守甲斐とは無難だな」

 

パワポケ原作でジャジメントの幹部になった紫杏の秘書ですからね。会計でも良かったんですが、そうなったら残った副会長の椅子をあのキャラに任せるのはダメかと思いまして。

 

「そーいえば、結局会計が分からず終いでしたね。誰なんですか?」

 

ネタバレになるので言えません。ヒントをあげるなら意外な所で紫杏と関わってるキャラです。

 

「そしてFクラス、勝ってしまいましたね」

 

「ああ。恐らく…いや間違いなくバカテス原作における最大の分岐だぞ?」

 

ええ、やってやりましたよ。これから先の展開はまだ未定ですが、完結目指してやってやりますよ!

 

「三週間も更新をサボってた人が何を言っている?」

 

ぐふっ…そこを突かれると胸が痛い。まあ、しばらく小説から離れていたお陰で気分転換出来たというのもあるんでしょうね。

 

「それでここまで続けるとは作者さん中々ですよ。それより作者さんに一つお願いがあります」

 

? なんです?

 

「妹を本編に出してくれませんか? それなら私は出番がなくてもいいですから」

 

妹さん? …ああ、出す予定ですから安心してください。

 

「ホントですかっ!? やったー!」

 

回想シーンでの登場になりますが。

 

「え、本編には出さないんですか?」

 

あの性格の子を野獣の巣窟である文月学園に入れられませんからね。ちなみに貴女方の出番が少ないのは二人が大学生だからです。

 

「む、何故大学生なんだ?」

 

パワポケ原作では貴女は南雲瑠璃花より二つ上ですから、この作品では貴女は大学生なんですよ。そしてパワポケ10で仲の良かったそちらも同じ年齢にしましたから…。

 

「意義アリです! それなら私達と同い年の紫杏ちゃんがルリっちと同じ学年なのは可笑しくないですか!?」

 

南雲さんと神条さんは11の裏サクセスでクラスメイトになりましたから。それがなければ

神条さんとその取り巻きを同学年にはしませんでしたよ。

 

「その11の裏サクセスに登場した何人かが三年生で登場していた気がしますが、それは何故ですか?」

 

あの二人は先輩キャラが似合っていると思ったので。三年生として登場させるキャラは他にもいますよ。もちろん、一・二年生にも。

 

「ぐぬぬ…要するにすずちんではなく紫杏ちゃんと親しければ私も出番はあったということですか!? すずちんではなく!」

 

「………」

 

「すずちん? 突然黙りこんでどーしたんですか?」

 

「…瑠璃ちゃんに会いたい」

 

「そういえばすずちんとルリっちは幼馴染みでしたね」

 

「…小学校の頃、私は瑠璃ちゃんがクラスで苛められていたなんて知らなかった。あの子が転校して初めてその事実を知った」

 

あー、パワポケ原作と違ってこの作品では貴女と南雲さんの関係は疎遠になってますからねえ。南雲さん自身、若干人間不信に陥ってますし…向こうが貴女を覚えているかどうか。

 

「あの頃、何もしてやれなかった私の事など忘れてくれて構わない。ただ私は…もう一度あの子に会いたい。この目で確かめたいんだ。瑠璃ちゃんが笑顔でいるのかどうかを…!」

 

「すずちん…」

 

………。(スッ…)

 

「…作者。これは?」

 

来月、文月学園で開かれる清涼祭の一般招待券です。これで学園に行って南雲さんに会いに行けばいい。

 

「作者…ありがとう」

 

ふう…これにて問題解決。

 

「してません! 清涼祭に行くって事はすずちんは本編に出れるかも知れないって事じゃないですか! あたしの分は? あたしも欲しいです!」

 

そういうと思って、招待券を二枚、あの人に渡しましたから。二人で行ってきなさい。

 

「わーい、これで問題解決ですねー」

 

チョロくないですか? さて、これ以上続けてもグダグダになるだけなので。まあ本作品最初の座談会ですし、これでお開きにしましょう。

 

読者の皆さん。誤字脱字の修正や見直しの為、次のページ更新は来週の日曜日になりまーす。

 

次回からはバカテス原作における短編集や各キャラの日常編をはさんでから二章に行こうと思っていまーす。

 

以上、第一回バカテスポケット座談会でした。今回のゲストは作者である私と

 

「天月 五十鈴(あまつき いすず)と」

 

「ナオっちこと高科 奈桜(たかしな なお)でしたー」




これにて第一章完結!


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日常編
吉井明久の朝


一週間ぶりの投稿。

暫くは日常編になります。

まあ十話もかからないでしょう。


明久視点

 

 

 永きに渡る試召戦争も終わり、平和な休日の朝。

 

 

「おはようございます、アキ君」

 

「…おはよう、姉さん」

 

 

 目を覚ますと、部屋のベッドで寝ていた僕の上に姉、吉井 玲(よしい あきら)が覆い被さっていた。顔も近いし。

 

 

「…何をやってるの?」

 

「おはようのTyーー」

 

 

 姉が言い終える前に姉の顔を両手でガシッと掴む。

 

 

 ーしばらくおまちくださいー

 

 

「さて、朝食の支度をするかな~」

 

「ん~っ!」

 

 

 油断した姉のスキを突いてベッドに引きずり込み簀巻きにした僕は部屋を後にする。姉さんに関しては朝食が出来るまでは放置しておくことにする。

 

 

 これは春休みから続くいつも通りの朝だ。……残念な事に。

 

 五年前、アメリカの大学に通うため両親についていく形で姉さんは日本を離れた。大学卒業後もしばらく向こうで両親の仕事を手伝っていたらしいが、高校一年の終わりに姉が帰国してきた。再会し、戻ってきた理由を聞くと

 

 

『アキ君のそばにいたいんです。ダメでしょうか?』

 

 

 だそうだ。別に嫌じゃないし僕としては一人暮らしにも少し退屈していたところだったから都合が良かった。いざ姉と暮らして見ると最初は特に問題はなかった。朝の接し方も普通だったし。

 

 しかし春休みに入ったあたりからスキンシップが激しくなっていったのだ。テレビを見てたら後ろから抱きついてきたり、一緒に風呂に入ろうとしたり、一番ヤバかったのは怪しい薬を使って僕の貞操を奪おうとしたことだ(なんとか阻止出来た)。そして今現在とうとうキスを迫るように至っている。

 

 こういったスキンシップは小さい頃にも何度かあったけど、大人になった今も変わらない(ただ変わらない)姉に頭を抱えてしまう。そして僕も自分の身を護るために手段は選ばないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごちそうさま。アキ君のご飯はいつも美味しいですね」

 

 

 そして現在、簀巻きから解放し朝食を終えた姉の一言である。

 

 

「そう言ってくれると作ったかいがあるよ。…そうだ、今日は友達と待ち合わせしてるからもう少ししたら家を出るね」

 

「そうですか。……もしかして相手は女ですか?」

 

 

 時々勘が鋭くなる姉さん。その通り、僕は今から木下優子さんと出掛けることになっている。

 

 

「…うん。前に試召戦争の話をしたよね? うちの学校の規則みたいなものでね」

 

 

 Aクラス戦で霧島さんが出した提案、『負けた方は何でも一つ言うことを聞く』。そのルールは代表同士のものだけではなかったらしく、そのため負けてしまった僕は優子さんの命令を聞くことになった。

 

 Aクラス戦後、姫路さーー瑞希ちゃんたちとクレープを食べてた際に優子さんがその話を切り出してきたのだ。そして優子さんの命令は

 

 

『買い物に付き合ってちょうだい。今度の日曜日、予定空けておいてね?』

 

 

 僕としては断る理由もなかったから二つ返事で了承した。その側で瑞希ちゃん、美波、愛子ちゃんの三人が血の涙を流し悔しがっていた理由は分からなかったけど…。

 

 

「そういう訳だから、試召戦争における約束事は絶対なんだ。両者の納得で反故にも出来るけど、何故か優子さん気合い入れてて…」

 

 

 僕の話を聞いた姉さんはため息を一つ吐いて

 

 

「…仕方ないですね、わかりました。木下さん…でしたか? 彼女をちゃんとエスコートするのですよ?」

 

「精一杯尽くします」

 

 

 不純異性交遊に厳しい所がある姉さんが女子との交流を認めてくれた事に感謝し頭を下げる。

 

 

「ただしアキ君、今度姉さんともデートしてくださいね?」

 

 

 そんなことを提案してくる姉。ははは…姉さんともデートって、まるで僕が優子さんとデートに行くみたいにーー

 

 

「…アキ君? 顔が赤いですが熱でもあるんですか?」

 

 

 ヤバい。自分でも動揺しているのがわかる。だがその前に撤回しなければならない。

 

 

「あ、あのね姉さん。僕と優子さんは買い物に行くだけでデートをする訳じゃなく…」

 

「アキ君、世間一般ではそれをデートと言うのですよ? 男の子と女の子が二人きりで出掛ける事は正真正銘のデートなのです」

 

 

 くっ、常識がズレてるような人に一般常識を諭されるとは…!

 

 

「と、とにかくもう行くねっ! 帰りは遅くなるかもしれないから!」

 

 

 僕は逃げるように部屋を出ていく。ハッキリ言って今の真っ赤な顔を誰にも見られたくなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 待ち合わせ場所に着いた時には動揺も消え、今は何とか落ち着いている。

 

「あら、明久君早いわね。遅れてくるかと思ったわ」

 

「ひどいなあ優子さん。僕だってその辺のマナーは弁えてるつもりだよ?」

 

「ふ~ん、ちょっと見直したわ。それじゃあまずは近くの喫茶店で時間を潰しましょ?」

 

「そうだね。他の店が始まるにはまだ少し早いし」

 

 

 その後、優子さんとの買い物は普通に楽しむ事が出来た。時々見覚えのある女子三人の人影を見かけたけど、優子さんが気にしてない様子だったため僕も気にしなかった。




どんな展開になったかは皆さんの想像に任せます。


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坂本雄二の昼

オリ話も考えるのが大変です。


雄二視点

 

 

 全ての始まりは朝だった。

 

 目を覚ますと何故か俺の部屋に翔子がいた。一瞬不法侵入で警察に通報しようと考えたが思い留まることにした。通報したところで『二次元と三次元の区別が出来ない妄想野郎』と言われて終わるだけだし、何より翔子は彼女だ。通報はしない。

 

 結局のところ、真相はお袋が部屋に上げただけだったがな。

 

 で、朝っぱらから家に来た翔子の手には映画の割引券が二枚。要は映画を観ようと誘ってきたのだ。まあ休日はやる事もないし良い暇潰しになるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして現在にいたる。

 

 

「……雄二、早く行こ?」

 

「なあ、本当にこれを見るのか?」

 

 

 今は午前十時過ぎ。俺は朝の軽い決断を後悔している。俺達は映画館のロビーにいて、受付前に置いてある上映スケジュールの看板の前で立ち尽くしている。翔子が指差している項目が…

 

 

『荒井紀香 愛のカタストロフ』

 

 

「おい待て、なんだこのタイトルは!?」

 

「……この映画を見て愛について学ぶ」

 

「破滅の未来しか見えねぇぞ! バッドエンドストーリーだろこれっ!?」

 

「……二回見る。暇なら寝てていい」

 

「…帰っていいか?」

 

「……帰さない。行こう」

 

「嫌だあぁぁぁ離せえぇぇぇっ!」

 

 握り潰さん程の握力で俺の手首を掴み受付へと歩く翔子。一度決めてしまったら余程の事でもない限りコイツは止まらん。ヤバい、誰か助けてくれ…。

 

 

「こらこら二人とも、開店直後で人が少ないからって騒いでいいわけじゃないぞ」

 

「か、一輝! どうしてここに!?」

 

「翔子にあげた映画の割引券がまだ余っててな。せっかくだし瑠璃花と一緒に見に来たんだよ」

 

 

 翔子が持ってたあの券は一輝があげたのか!? しかしこれも天の助け! こうなったら一輝と南雲に何とかしてもらおう。

 

 

「助けてくれ! このままだとヤバそうな映画を二回観ることになる!」

 

 

 必死にスケジュール表の一点を指差す。その項目を見た一輝は苦笑する。

 

 

「うわ……上映時間が三時間三十二分もあるぞ。しかも二回見るってことは七時間四分だよな?」

 

「……今まで離れていた分雄二と一緒にいられる」

 

 

 頼む二人とも、どうか翔子を説得してくれ。すると南雲が翔子に近づき

 

「翔子、映画の後に食事や買い物したくないの? これじゃあせっかくのデートが映画だけで終わりますよ?」

 

「……別の映画にする」

 

 

 アッサリと考え直してくれた。南雲ナイス!

 

 

「せっかくだし四人で映画見ないか? 邪魔だと思うならいいんだけど…」

 

 

 一輝からの提案。邪魔だなんてとんでもない。俺はデートなんて経験ないし右も左もわからん。翔子は今見た通りだ。だったら一輝達に映画を選んで貰い一緒に見た方がいいだろう。

 

 

「……私は構わない」

 

「俺も構わない。てなわけで一輝と南雲、お前ら二人が選んでくれ。正直映画に関してはわからん。翔子もこの通りだからな」

 

「わかった。といっても俺もどれが面白いかなんてわからないからな。瑠璃花、何か見たい映画はある?」

 

「そうですね…このあとすぐ上映される映画は三つ。その中で翔子も坂本君も楽しめる映画はーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なかなか面白かったな、『カリムーの秘宝』」

 

「……うん。意外なものがお宝だったことに驚いた」

 

 

 映画を観終えて近くのファミレスで昼食を取り一輝達と別れた俺達は適当に町を歩きながら映画の感想を話し合っていた。それにしてもカリムーの宝ねぇ………。最初はどんな物かと思ったが蓋を開けてみたら意外すぎて驚いた。しかし納得もいった。

 

 

「南雲は俺と翔子に合う映画を選んでくれたわけだが、翔子はどうだった?」

 

「……面白かった。さすが瑠璃花」

 

「なら良かったじゃねーか。しっかし映画がこう面白いとなると他の映画も観てみたくなるよな。それこそ翔子が観ようとしたヤツとか?」

 

 

 もしかしたら普通に面白いだけかも知れないしな。

 

「……雄二は映画観るのは久しぶり?」

 

「ん? ああ、そうだな。中学ん時は喧嘩ばっかで一緒にいく相手もいなかったし。明久達とはどっちかっつーとゲームで盛り上がってたからな。翔子はよく映画観るのか?」

 

「……うん。高校に入った今でも玲奈や瑠璃花を誘って一緒に観てる」

 

 

 玲奈? …ああ、翔子の従姉の。

 

 

「最近会ってないからすぐに顔と名前が浮かばなかったぜ。そういや二年に進級してからアイツとは連絡取り合ってねーな。今日の夜にでも挨拶するか。翔子と付き合い始めたってさ」

 

 

 俺がそう言うと両手を紅くなった頬に当てる翔子。かわいい奴め。そう思っていると遠くから声が

 

 

『女は度胸! アタシ達のデートの邪魔は誰にもさせないわ!』

 

『ね、ねえ優子さん? 僕の腕を掴んで急に走り出して一体どうしたのさ!?』

 

『明久君は知らなくてもいいのよ。大丈夫、どんなおじゃま虫が飛んでこようともアタシが貴方を守り抜くから!』

 

『どうしよう! 男としてなんだか凄く情けないっ…!』

 

 

 ん? 少し離れた通りを明久と木下姉が走っている。さらにその二人を追いかけている三人(推定で島田、姫路、工藤)の姿が。

 

 

「明久も苦労してるな。島田と姫路も大変だ」

 

「……優子も愛子も本気だから。……ねえ雄二」

 

「あん? なんだ翔子」

 

「……映画も観た。昼食も食べた。……これでデート終わり?」

 

 

 まだ終わりたくないのだろう、寂しそうに聞いてくる翔子の頭を撫でる。

 

 

「んなわけねーだろ? そこら辺プラプラ寄って買いたい物があったら買おうぜ」

 

「……うん、ウィンドウ・ショッピングってやつ」

 

「なんだそれ」

 

 

 あまり聞きなれないワードを軽く流して俺達は夕方まで楽しんだのだった。




映画の内容は想像にお任せします。


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小波一輝の夜

朝、昼とくれば次は夜ですね。


 とあるバッティングセンターにて。

 

 

 カキーン!

 

 

 金属バットとボールのぶつかる音が響く。ボールはピッチングマシンの頭上を超え、さらに向こう側のネットにぶつかって落ちていく。

 

 

「ラスト一球…」

 

 

 最後まで油断せず、ゆっくりバットを構えて打撃に備える。

 

 

 カキーン!

 

 

 そして放たれた140km/hを超えるボールを俺はマシンを超えた向こう側のネットへと弾き飛ばした。

 

 

「ふぅ…」

 

 

 十五メートル以上離れた位置にあるマシンの動きが止まったことを確認して一息つく。喉が渇いてきた為ジュースを買おうと一旦ケージを出たところで声をかけられる。

 

 

「お疲れ様。これ飲んで一息つきなよ、小波君」

 

「…暁先生?」

 

 これは奢りだ、と俺にスポーツドリンクを差し出す顔見知りの教師がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさかこんな場所で先生に会うとは思いませんでしたよ」

 

「そうか? 俺はよく君が出入りする所を見かけるけど?」

 

「まあ…俺は最近先生と知り合いましたからね」

 

 

 基本的に俺は休日は予定がなければ練習に励んでいる。今日は瑠璃花の買い物と映画に付き合ったけど。それでも夜は早めに夕食を済ませいつものように隣町のバッティングセンターで打っていた。

 

 しかし意外な場所で意外な人と対面した。

キャップを外してペットボトルに口をつける。此処に来てからずっと打っていたから、スポーツドリンクがいつも以上に美味しく感じる。

 

 

「先生もよく此処で打つんですか?」

 

「ああ。でも今日は気分転換に打ちに来たんだよね。調子悪かったのか、試合の結果が最悪でさ」

 

 

 試合? 俺の表情で気付いたのか、先生は疑問に答える。

 

「たまにね、この町の野球チームに助っ人に来てるんだ」

 

「野球チーム? この町にあるんですか?」

 

「まあね。これでも強いって評判なんだよ? 暇なら今度試合観に来なよ」

 

「はあ…試合の日を教えて貰えるなら」

 

 

 今度瑠璃花を誘って観に行くか。

 

 

「そういえば今日は南雲さんは来てないのかい? いつも一緒にバッティングセンターに来てるだろ?」

 

「今日は少し遅れてしまいましたから。流石に女子を夜遅く連れ回すなんてしませんよ」

 

 

 映画の後の買い物が長引いたからな…。そう思っていると

 

 

「へえ…そうやって女性を気遣ってやれるとは。君はいい男になるよ」

 

 

 暁先生はうんうんと頷きながらバンバンと背中を軽く叩いてくる。音の割には痛くはない。

 

 

「話は変わるけど、小波君は自分の将来について何か考えているのかい?」

 

「あれ、なんですか急に?」

 

「一応教師だからね。生徒の将来を早い内に聞いておきたいのさ。気に入った生徒は特にね」

 

 

 一応って…あなたは正真正銘の教師でしょ?

 

 

「将来なら決まってますよ。俺の夢はーー」

 

 

 今も昔も変わらない。

 

 

 

 

 

 

「プロ野球選手です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「少し遅くなったな」

 

 

 時刻は九時を過ぎて辺りは当然真っ暗だ。いつもは自転車で通っているのだが、今日は瑠璃花がいないためランニングを兼ねて走って来ていた。俺の町と隣町を繋ぐ橋を渡り、今は川沿いの道を走っている。

 

 

『あ~あ、やっとバイト終わったよ~。でも脚疲れた~』

 

 暗くてよく見えないが黄色っぽいベージュのカーディガンを着た他校の女子生徒が前方からフラフラと歩いて来る。今言ってたようにバイト帰りかな?

 

 普通に彼女の横を通り過ぎた後でふと気付く。ここは川沿いの道だ。しかも彼女は道の端を歩いていた。フラフラな状態で。

 

 気になって後ろを振り向くと

 

 

「あっーー」

 

 

 まさかのタイミングで体制を崩しやがった。このままでは転んで川に落ちるぞ!

 

 

「危ないっ!」

 

 

 ガシッ

 

 

 倒れそうになった彼女の手を掴んで引き寄せる。

 

 

「おっと。大丈夫か?」

 

「え? …うん、ありがとう」

 

「こんな夜中にフラフラ歩いていたら危ないぞ?」

 

「ご…ごめん。バイトで疲れててつい。でも今ので目が覚めたからもうーー」

 

 

 恐らく『大丈夫』と言おうとしたんだろうがそこで彼女は黙りこむ。そして俺の顔をじーっと見てくる。

 

 

「……………………」ニコッ

 

 

 なんだ、その笑顔は?

 

 

「どうした? 急に笑顔になって」

 

 

「何でもない。もう大丈夫だよ」

 

 

 

「ならいい。暗いから気をつけて帰れよ」

 

 

 彼女にそう告げて走り出す。

 

 

 ヒュー…

 

 

 ん? なんの音ーー

 

 

 カコーン

 

 

「あぶなっ! 一体なにが…って空き缶!?」

 

 

「ね、ねえちょっと! アンタの名前は!?」

 

 

 声を上げて問いかける彼女。今の空き缶はアイツが投げたのか? 俺は走りながら

 

 

「空き缶投げるような奴に名乗る名前はない!」

 

「あ、待ちなさーい!」

 

 

 逃げるように走る。あの子の名前を聞くなり空き缶を投げてきた文句なりいろいろ言うべきなんだろうが今は早く家に帰る事を優先する。面倒事は御免だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三者視点

 

 

 男が暗闇の向こうに消え、彼女は喚くのをやめる。

 

 

『…ほう~、このあたしから逃げようとはねえ…。でも非はこっちにあるし初対面の人間にあれはなかったかな? それよりも…』

 

 

 多少は反省し、そして彼女は先程の事を思い出す。川に落ちそうになった自分を助けた男を見たとき、自分の中で感じた何かを考える。そして…

 

 

『なんか面白そうな奴見つけた!』

 

 

 その目は新しいオモチャを見つけた子供のようにキラキラと輝いていた。




一輝が出会ったのは…


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合同授業

工藤愛子は謎が多いから設定いじり放題ですね。


「……雄二。一緒に勉強できて嬉しい」

 

「待て翔子。当然のように俺の膝に座ろうとするな」

 

 

 Aクラス戦が終わって数日がたったある日の午後。Fクラスの生徒はAクラスの教室で合同授業を受けていた。戦後対談で決めた事だから批判は無い。むしろ歓迎ムードだった。Aクラスの教室はFクラスの教室に比べて四倍もの面積があるから座る場所は当然有り余っている。…金掛けすぎだろ。

 

 授業(自習)が始まってさっそく雄二と翔子がイチャつき始めた。まあ雄二も嫌なわけではないらしい。あのまま翔子が攻め続ければいずれ観念するだろう。

 

 

「…………工藤、これは分かるか?」

 

「当然、答えはこれだネ☆」

 

「…………流石だ。ならばこれはどうだ」

 

「負けないよ~」

 

 

「秀吉、そこの計算間違ってるわよ」

 

「なんじゃと!? さっきの問題と解き方は同じのはず…」

 

「応用しなさい。そこはねーー」

 

 

「あーもう! 数学以外はお手上げだわー!」

 

「落ち着いて美波ちゃん。分からなかったらちゃんと教えますからめげずに頑張りましょう」

 

「う~…」

 

 

 皆しっかり勉強に励んでいる。…いや、励んでいるように見えるだけかもな。

 

 

「一輝、どうかしましたか?」

 

「…いや、なんでもない」

 

「そうですか…」

 

 

 隣の席に座る瑠璃花が様子を伺ってくる。しかし向こうもある程度察しているのか、俺の返答に対し追及はしてこなかった。

 

 実を言うと姫路、島田、木下姉、工藤の四人は時々ある方向へとチラチラ目を向けている。そこでは

 

 

「上守さん。この年代に起きた出来事って…」

 

「正解よ。それより吉井君って歴史科目は充分に取れてるでしょ? 私に教わる必要ってあるの?」

 

「一輝に比べればまだまだだからね。なんとしても四百点以上取って腕輪を使えるようになりたいから」

 

 

 明久は上守に勉強を教わっている。まあ今後の試召戦争に備えて腕輪は持つべきかも知れないしな。それにしてもFクラスも交えて百人いる中で一人だけ白い制服というのはやはり目立つな。

 

 

「…気合いは充分のようですね。わかりました、少しレベルを上げるとしましょう。覚悟はいいですね?」

 

「どんとこい!」

 

 

 モチベーションが出てきたのか、さらに資料を取り出した上守を見ても明久は怖気づくことはなかった。寧ろさらに燃えている。それを見ている四人の女子もやる気満々の明久の邪魔をするわけにはいかないと近寄ることはしない。

 

 

「吉井君、凄いやる気ですね」

 

「Aクラス戦で負けたのが悔しかったんだろう。勝ちの計算に入っていたのにクラスの勝利に貢献出来なかったんだから余程堪えただろうな」

 

 

 Dクラス戦では俺と一緒に敵戦力の半分以上を削り、聞いた話Cクラス戦では生徒会の浜野と互角に渡り合ったと聞く。

 

 しかしそれらはAクラス打倒という目的の前段階に過ぎない。肝心のAクラス戦で負けてしまっては意味がないのだ。

 

 それでも明久は折れることなく、立ち止まらず歩き続けている。次こそ勝つ為に。アイツに俺達仲間がしてやれる事はただ信じる事のみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明久視点

 

 

「終わった~」

 

「お疲れさま。これだけ出来れば上々かと思いますよ」

 

 

 チャイムが鳴り休み時間。力なく机に突っ伏す僕に上守さんは笑う事もなく冷静に労いの言葉をかける。

 

 

「いや~僕なんてまだまだだよ。六限目もお願いしていい?」

 

「私は別に構いませんよ。貴方のやる気が続く限り、付き合いましょう」

 

 

 次の自習時間も上守さんに付き合ってもらうことになった。気合いを入れる為に体勢を整えようとすると何者かが彼女の後ろへ忍び寄り…

 

 

「甘い」

 

「にゃーっ」

 

 

 後ろから上守さんに抱き着こうとしたのは愛子ちゃんだった。しかし上守さんは気配を感じ取り迫る愛子ちゃんの肩を両手で押さえる。そんな中、瑞希ちゃん、美波、優子さんも寄ってきた。

 

 

「長い付き合いですからね、あなたの背後からの奇襲は見破ってますよ?」

 

「もうヤダなー。スキンシップだヨー」

 

「そのスキンシップが過激にならなければここまで拒絶はしませんよ」

 

 

 そんな二人のやり取りに一つの疑問が浮かぶ。長い付き合い? 同じ事を考えたのか、優子さんが愛子ちゃんに問う。

 

 

「ねえカイ。去年の終わりに転校してきた愛子がどうしてアンタと長い付き合いなのよ?」

 

「それはね? ボクとカイと紫杏は小中学校が同じだからだヨ。『神桜(しんおう)女学院』、皆も知ってるでしょ?」

 

 

 その質問に答えたのは愛子ちゃんだった。神桜女学院って…

 

 

「「「ええええええええええっ!?」」」

 

「神桜女学院って…!」

 

「…………名門女子校っ…!」

 

 

 教室にいるほとんどの人が愛子ちゃんの爆弾発言を聞いて驚きの声をあげた。質問した優子さんと少し離れた場所にいたムッツリーニは特に驚いていた。

 

 神桜女学院といえば知る人ぞ知る男子禁制の名門お嬢様学校だ。以前テレビでもやってたけど、今年高校一年の子が理事長を務めることになったとか!?

 

 嘘でしょ!? 愛子ちゃんも上守さんも、そしてこの場にいない生徒会長も神桜出身だったの!? なんで文月なんて貧相な学校(失礼なクソジャリさね…!)に来てるのさ!?

 

 

「いやーみんなが言う名門といえばそうなんだけどさ、校則が厳しくてー」

 

「それなら私や会長と一緒に文月を受ければよかったじゃないですか? 正直あなたが高等部に行くと知ったときは驚きました」

 

「受験が面倒だったからエスカレーター進学したんだよ~。そしたら中学の時よりもさらに厳しくなったから冬休み明けに辞めたんだって」

 

「ははは…苦労したんだね愛子ちゃん」

 

 

 どれくらい厳しいのか知らないけど僕だったらきっと一ヶ月も持たないんじゃないだろうか? いや、男子である時点で入学は不可能だけども。

 

 

「…と、いう訳で明久君。六限目はボクが保健体育を教えてあげるね☆ モチロン、じ・つ・gーー」

 

「やめなさい愛子。明久君? 現国や古典で分からないところってある? 良かったらアタシが教えてあげるわ!」

 

「ふ、二人とも? 僕は引続き上守さんとーー」

 

「アキ、数学ならウチにまかせて! 優しく教えてあげるわ!」

 

「明久君。私なら全教科教えてあげられますよ! ついでに美波ちゃん達も一緒に教えますから」

 

 

 僕の席を囲んで女子四人が言い争っている。上守さんは少し離れた場所でやれやれとため息をつくだけで助ける気はないみたい。

 

 こうして短い休み時間は過ぎていったのだった。




学校名だけでは終わらせません。かなり先になりますが必ず物語に関わらせます。


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生徒会室にて

グダグダかも。


紫杏視点

 

 

 一日の授業を終え今は放課後。グラウンドで部活動に励む生徒達を生徒会室の窓から見ていて微笑ましく思っていた今日この頃。そんな中、庶務の大江和那(カズ)が自身の席でため息をつく。

 

 

「どうしたんだカズ。ため息なんかついていたら幸せが逃げていくぞ」

 

「いや~別に悩んどる訳やあれへん。試召戦争も終わって溜まった業務もやっと片付いて明日から正常運転になる思うとついホッとしてしもうてな」

 

「ああ。確かに、先週は予想以上に忙しかったからな」

 

 

 一週間で二年Fクラスが起こした四度に渡る試召戦争。我々生徒会は裏でその戦後処理に追われていた。通常の業務に加え、四回分の戦争の報告書の作成、戦死者の補習に使ったプリント用紙の補充、その他もろもろ。我々は学園に許可をもらい土日も登校してそれらを完遂させた。

 

 

「しかしカズよ。まだゆっくりしてはいられないぞ? 一年生の部活動紹介・勧誘の取り纏め、来月の清涼祭の準備。やることは盛り沢山だ」

 

「…なあ紫杏。ウチ生徒会辞めてもええ?」

 

「ははは……逃がさないぞ?」

 

 

 本当に辞めないよう優しく脅しておく。私の笑顔を見て千切れるくらい首を横に降るカズ。

 

 

「ホンマにやめるわけないやん。ただ土日も学校で仕事してたせいでアキを買い物に誘えへんかったんやもん」

 

「生徒会が忙しいのは覚悟の上だった筈だろう? …それにしてもアカリ程ではないとはいえお前も男子は苦手だった筈だろう? どういう心境の変化だ?」

 

「紫杏とアイツ見てたら羨ましなってもーたんやもん! ウチも素敵な出会いが欲しいねん!」

 

 

 初めて会った頃と比べて変わったな、と彼女の変化を喜びながらカズが指差す部屋の一点へ振り向く。そこにはカズの言う『アイツ』がいた。ちなみにソイツはうちの会計と一緒にそれぞれに渡した問題用紙とにらめっこしている。

 

 

『…あのさ辻井ちゃん。この問題解ける?』

 

『…すまん室町、一問も解けない』

 

 

 会計の室町 しのぶ(むろまち )と、辻井と呼ばれた男子が二人揃って数学の問題に頭を抱えていた。その光景を今更気にし出したカズが私に問いかける、

 

 

「…なあ紫杏? あの二人は何をやっとるん? そういやウチがここに来た時から二人共席に着いてああしてへん?」

 

「あの二人は中学の数学の問題を解いている。邪魔しないでやってやれ」

 

 

 なんで? とカズに目で問われた私は答えるために口を開くが

 

 

ガチャッ

「校内の見回り、終わりました」

 

「同じく」

 

 

 そのタイミングで副会長の上守甲斐(カイ)、書記の浜野朱里(アカリ)が巡回パトロールから帰ってきた。

 

 

「おかえり。二人とも、何か変わったことは無かったか?」

 

 

「特に変わったことはありませんでした」

 

「こちらで一つトラブルがあったわ」

 

 

 カイの方は異常なしと、しかしアカリの方で何かがあったらしい。

 

 

「聞こう。何があった?」

 

「はい。一階校舎を巡回中、一年生の男子が黒い覆面集団に襲われている現場を目撃しました。私の名前を知っている事から彼等は学園の生徒であると想定し、実力行使による拘束を実施した後、その身柄を偶然通り掛かった西村先生に引き渡しました」

 

 

 ふむ…確かにアカリを知っている以上そいつらは学園の人間なのだろうな。どちらにせよ西村先生に身柄を預けたなら安心だな。彼等が何者なのかもすぐにわかるだろう。

 

 

「わかった。報告ご苦労だったな」

 

「いやいや、何普通に聞いとんねん。おかし過ぎやろ」

 

 

 む、どうしたんだカズ。何か問題でもあったか? そう思っているとカイとアカリが数学の問題と向き合っている二人に近づいている。

 

「しのぶ。会計の貴女がそれでどうするの?」

 

「辻井、アンタまだやってたの? はやく終わらせなさい」

 

 

 カイはしのぶにごもっともな発言を、アカリは辻井に若干きつくあたる。

 

 

「こんな問題解けるわけないじゃない!」

 

「そうだよ! つーかなんで俺が生徒会室でこんな事をしてるんだよ!?」

 

「しのぶ、生徒会役員なんだからある程度は点数を取れるようになれ。そして辻井、お前は雑務担当だが立派な役員の一人だ。だからこそお前にもある程度の学力を身に付けて貰わなきゃ困る。

 

 それにだ、これは振り分け試験で鉛筆を転がしてEクラスに入った二人への罰。黙って受け入れるんだ」

 

「「うう…」」

 

 

ぐだぐだ喚く二人を黙らせる。そう、コイツらは本来ならFクラスに行くべきだったのだ。…まあ、成績が悪いと役員ではなくなる訳ではないが、生徒の見本となる我々生徒会役員が最底辺の成績では他の生徒に示しがつかない。だからある程度の点数は取れるようになってほしい。

 

 このやりとりを聞いてカズは「なるほど」と納得した。

 

 

「だったらもう少し問題を優しくしてよ~…」

 

「本当だよ。くそっ…因数分解ってなんだよ。勝手に分解すんなよ。自然のままにしておけよ…」

 

「同感よ…。てゆーかなんで私が会計なのよ…。アカリちゃんやカイちゃんの方が適任じゃないの~?」

 

 

「お金の計算が出来れば充分だからしのぶを会計に選んだまでだ。とりあえず頑張れ。全問正解するまで帰れんぞ?」

 

 

「「そんな~~!?」」

 

「……私達に教えて貰ってでもいいからなんとか全問正解しろ」

 

 

 そういった瞬間二人は一斉に我々に泣きつく。それを見て私たちは苦笑いを浮かべるのだった。




会計は室町しのぶ でした。

生徒会役員は基本的には五人ですからね~。基本的には。


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再会

そういえば前回の話で触れてませんでしたね…。


Aクラスの合同自習を終えた放課後。今日は瑠璃花も部活が無く、俺も先生方の仕事が無いため珍しく早い時間に下校出来た俺達は校舎を出て校門に向かって歩いている。

 

 

「いろいろ不安な点もあったが、Aクラスの皆に迷惑をかけずに終えることが出来て良かったな」

 

「不安な点? それって須川君達の暴走ですか?」

 

「暴走以前にずっと寝てたからなアイツら。まあそれも一つ、他に挙げるなら明久を巡る女子四人の暴走かな? 結局何事も無かったけど」

 

 

 何度か一触即発しかけたが、結局のところ抜け駆けがないよう最後まで互いに牽制し合ってただけだったのだ。

 

 

「やっぱり吉井君は倍率高いですね」

 

「当の本人は自身に向けられている矢印にまったく気付いてないけどな」

 

「はあ…姫路さんも島田さんも報われませんね…」

 

「俺としては中学の時のお前と玲奈みたいな事が起きなければそれでいいんだけど…」

 

 

 そう、中学時代に俺を巡って起きた『第一次おtーー

 

 

「お、思い出させないでくださいっ! あの頃は勢いに任せてしまって…正直すごく恥ずかしかったんですから…」

 

 

 瑠璃花に遮られてしまった。まあ中学時代にいろいろあったと思って欲しい。時期が来たら話そう。

 

 

「言っておきますけど今の吉井君の立場、昔の一輝とほとんど変わりませんからね? 私達の気持ちに全く気付いてくれなくて…」

 

「それについては本当に申し訳ない」

 

 

 返す言葉もございません………ん?

 

 

「? どうしましたか?」

 

「いや、噂をすればなんとやら。ほら、あそこに」

 

 俺の指差す方を見てあっと声を漏らす瑠璃花。校門に他校の制服を着た女子生徒がいる。青のブレザーとスカートに緑色のリボン、花丸高校の制服だ。さらにその女子は俺達の知り合いでもあった。

 

 

「二人とも、お疲れ様」

 

 

 こちらの視線に気づいた彼女はオレンジ色の長い髪をなびかせてこちらに体を向けて右手をふる。

 

 

「よう玲奈」

 

「こっちに来てたんですか?」

 

 

 そう、彼女は霧島 玲奈(きりしま れいな)。霧島翔子の従姉で俺達の中学時代のクラスメートだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど。学校終わってすぐ翔子の家に行ってたんだ」

 

「うん。用事で翔子の両親に会いに行ってたの。で、せっかくだから二人に会いに来たのよ。本当は翔子にも顔見せたかったけどあの子、雄二と付き合い始めたでしょ? だから邪魔しちゃ悪いと思って」

 

 

 久しぶりに三人で歩道を歩く。昔はこの中に翔子(たまに雄二)もいたが随分と懐かしく感じる。こうして一緒に歩いていると瑠璃花が口を開く。

 

 

「玲奈。新入部員はどんな感じですか? 今年は良いとこ行けそう?」

 

「んー正直、今年こそベスト8進出が目標かな? 毎年新入部員は多いけどこれといって突出した選手がいないのが現状だし」

 

 

 右手で無理無理とジェスチャーしながら苦笑する玲奈。まあ確かに花丸高校はどちらかといえば弱小の部類に入る高校だよな。甲子園どころかベスト16すら厳しいだろう。

 

 

「でもなんで部員数は多いんだ? 何か話題性でもあるのかな?」

 

「私もマネージャーになって知ったんだけど、十年くらい前に甲子園に行ったみたいよ。それを知って『次は自分が甲子園にっ!』て意気込みを抱く人が後を絶たないみたい」

 

「へぇ~ようするに古豪ってことか?」

 

 

 玲奈の話を聞いて驚く俺。瑠璃花はあまり驚いてはおらず、既に知っているという感じだった。

 

 

「まあ今は単に弱小みたいに呼ばれてるけどね」

 

 

 やれやれと頭に手を当ててしばらくして俺に視線を向ける。ん、どうしたんだ?

 

 

「…ねえ一輝。今からでもウチに来ない?」

 

「…ウチって、花丸高校の事?」

 

 

 俺の問いに玲奈は頷く。

 

 

「いきなりの勧誘だな。どうした急に」

 

「貴方みたいな突出した選手が居てくれたらいいなーって思って。腕はもう治ってるんでしょ? 」

 

 

 俺の右腕を指差しながら問う玲奈。

 

 

「…問題ない。てか既に完治した事は話しただろ?」

 

「それはそうだけど、やっぱり心配にはなるわよ。あんな事件があったんだもの」

 

 

 ああ、あの事件な…。

 

 

「もう済んだ話だよ。今じゃ外野からの送球も、バット振るのも違和感は無いしな」

 

「だったら、ウチに来て野球やろうよ。一輝がいれば甲子園だってーー」

 

「文月学園に入った時点でわかるだろ? 高校では野球から離れることにしたんだ」

 

 

 そもそも甲子園に行く気があるなら間違っても文月学園には来ない。文月学園にも野球部はあるがウチは試験召喚システム優先であり、部活動に力を入れてないのだ。

 

 …まあそれでも、今になっても野球部に勧誘してくる奴はいるけど。

 

 

「俺は大学で野球を再開する。今は他のやりたい事に専念したいんだ」

 

「………」

 

 

 暫くの沈黙。そして

 

 

「はあ………勧誘失敗ね。わかってたことだけど」

 

「おいおい、潔いな。もう少し粘ったらどうだ?」

 

「それで貴方の決意が変わるならね。変わらないからこそ瑠璃花は黙って聞いてたんでしょ?」

 

「もちろんです」

 

 

 こらこら二人とも。俺ってそんなに分かりやすいのか? って、気が付けば駅前に着いていた。

 

 

「ありがとね。わざわざ駅まで付き合ってくれて」

 

「気にするなって」

 

「久しぶりに会って話が出来て、楽しかったですよ」

 

「私も。またこっちにきたら電話するね?」

 

 

 駅へと向かう玲奈だったが途中で足を止め戻ってきた。なんだ? こっちに走ってくるぞ? 

 

 

「えいっ」

 

「っ!?」

 

「ああっ!」

 

 

 勢いよく俺に抱きついてきた玲奈。隣では瑠璃花が悲鳴にも似た声をあげる。そしてしばらく俺の胸に顔を埋める玲奈は俺の顔を見上げ

 

 

「あいにく私は一度フラれたくらいじゃ諦めないからね?」

 

 

 それは何に対してだ? 中三の時の告白か? それとも今さっきの勧誘の話か? それを問いただす前に玲奈は「それじゃ」と俺から離れて駅に走って行った。

 

 それにしても、やっぱりアイツは翔子の血縁だな。フラれようが突き放されようが好きな人を諦めない一途さは。

 

 

「血は争えないか…」

 

「…………」

 

 

 その後、俺達は帰路に就くのだが、家に帰るまで俺は隣を歩く瑠璃花の機嫌を取るのに苦労するのだった。




そろそろ日常を終わらせます。

他にも色々と書きたかったんですけどね~


教室の大掃除話とか

明久のバイト風景とか


それらを全部やってしまうとまだまだ清涼祭に進めませんので。

日常編を利用してもう少しバカテスキャラとパワポケキャラを絡ませたりしたかったんですが、なかなか上手くいきませんね…。

ちなみに第二章からは別のオリキャラが主人公となり物語が進みます。だからといって一輝の出番が無い訳ではありませんので。

今後ともよろしくお願いします。



追記
なぜかお気に入りが一つ減ってる事に気付いたときのなんとも言えない気持ちはなんでしょうか…
(T-T)


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転校生

追加~


 玲奈との再会から一週間が経った、登校中の朝の出来事。ようやく校門に差し掛かった所で

 

 

 ヒュー…

 

 

 ん? この音はまさかーー

 

 

 カコーン

 

 

「あぶなっ! って、また空き缶? ということはまさかっ!?」

 

 

「やっほー。やっと見つけたよ♪」

 

「…またお前か。なんでここにいる?」

 

 

 頭に手を当てため息を吐く俺の前には、ベージュのカーディガンに青いスカートの女が立っていた。あの時は真っ暗で見えにくかったが、この緑色のポニーテールは以前俺に空き缶を投げてきた女と同じ髪型だ。

 

 

「…さて、もう一度聞く。なんでここにいる?」

 

「小波に聞きたいことがあったんだよ。だから捜してたの」

 

「聞きたいこと?」

 

「なんであの時………名前も名乗らずに去っていったのよ!?」

 

「こないだも言ったが空き缶を投げてくる奴に名乗る名はない!」

 

 

 正直この場に瑠璃花がいなくてよかったと思う。アイツは俺に害を為す者に対しては敵意むき出しになるからな。もしいたら一触即発の展開になっていただろう。

 

 ちなみに瑠璃花は体調崩した母親の看病で遅れてくる。

 

 

「いや~あの時はゴメンね。あたしってさ、気に入った奴にはつい空き缶を投げたくなる性分みたいなんだよね~」

 

「それ普通は気に入らない奴にやるものじゃないのか? つーかなんで俺の名前知ってるんだよ? まだ名乗ってもないだろ」

 

「あれからアンタについていろいろ調べたから。文月学園に通ってることも、伝説のキャプテンっていう二つ名もね」

 

「よく調べられたものだな」

 

 

 初めて会ったあの時、俺は私服だった。だから文月学園の生徒だなんて知りようもない。なんのヒントもない状態で出身校や名前まで辿り着くとは大したものだ。

 

 

「…さて、とりあえずお前は学校は良いのか? 時間的にもここにいたら不味いだろ?」

 

 

 カーディガンのせいで最初はわからなかったがコイツ、よく見ると玲奈と同じ花丸高校の生徒だな。今から走った所で遅刻は免れない。

 

 

「それなら大丈夫。問題なし」

 

 

 そう言いながらある場所を指差す。そこには俺の通う文月学園があった。

 

 

 

 

 

 

 …まさか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日からこのFクラスで一緒に勉強する事になりました、石川 梨子(いしかわ りこ)です。みんな、よろしくーっ!」

 

『『『よろしくうぅぅぅっ!!』』』

 

 

 まさか転校生だったとはな。周りの奴らもノリがいいなぁ…。

 

 

「…一輝。あの人ってもしかして」

 

「ああ、以前話した空き缶女だ」

 

「そう、あの人が…」

 

 

 瑠璃花には既にアイツの事は話してある。そしてその人物が俺に害を与える敵と認識したのか、瑠璃花から凄まじいオーラが放たれる。ゴゴゴっていると表現してもいいだろう。

 

 

「では石川さん、空いてる席に座ってください」

 

「はーい」

 

 

 福原先生に言われ、こっちに近づいてくる石川。そして瑠璃花の前に立ち

 

 

「ごめん、あたし小波の隣がいいからさ。そこ譲ってくれない?」

 

 

 石川の申し訳なさそうに瑠璃花に放った一言に何故か冷や汗をかく俺。その理由はすぐにわかった。

 

 

「…お断りします。一輝の隣は私の指定席ですので。空いてる席は他にあるんですからそこに座れば良いじゃないですか」

 

 

 ああ…、やっぱり怒ってる(俺には分かる程度だが)。今日に限って窓際の席に座ったのは失敗だったか? つまり二人が言う俺の隣は一つだけなんだよな…。

 

 

「あたしは小波の隣がいいのよ。だからアンタに退いて欲しいって頼んでるのよ。てゆーかアンタ小波の何なの?」

 

「私は一輝の幼馴染みです。貴方が何を言おうと私はここを退きません」

 

 

 二人の間には火花が散っていてどちらも一歩も退くつもりはない。どう収拾つけるんだこれは?

 

 

「福原先生、担任の権限でこの場を治めてください」

 

「福原先生ならもう出てったぞ」

 

「なんだと!?」

 

 

 打つ手なしだというのか?

 

 

「雄二、代表としてこの場を治めてくれ」

 

「すまん一輝。俺にそんな力はない」

 

「そんな~…」

 

 それからしばらくの間、二人の言い争いは続き、最終的に石川は俺の後ろになった。授業中も目が合う度にバチバチしあっている二人は意外なことに早く意気投合するのだが、それはまた別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三者視点

 

 

 ちょうどその頃、学園になにやら怪しい影がやって来た。

 

 

「ここが文月学園でやんすか。クックックッ……オイラの物語はここから始まるでやんすねぇ」

 

 

 意味深な台詞を口にして校舎へと入っていく。また一つ、学園に新たな嵐が起こりそうな予感がする。




思いつき次第追加出来そう。


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第二章 清涼祭編
プロローグ


少し遅くなりました。

更新が遅れた理由は…寝坊です
m(_ _)m



では第二章開幕~!


あれから二年の月日が流れたかな…。

 

 

 

 

 

 

 桜の木を見る度にあの出来事を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 俺の時間はあの頃から止まったままだ。

 

 

 

 

 

 

 恐らく、これからもずっと…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 桜の花びらも姿を消し、新緑が芽吹き始めたこの季節。文月学園では、新学期最初の行事である学園祭、『清涼祭』の準備が始まりつつあった。

 

 お化け屋敷に屋台、飲食店、この学校ならではの試験召喚システムについて展示。それらの準備の為、HRの時間はどの教室も活気が溢れている。そんな中…

 

 

『勝負だ、福村!』

 

『さあ来い、須川!』

 

『お前から三振を奪ってやる!』

 

 

 二つの段ボール箱を両手に旧校舎一階の廊下を歩いていると窓の向こうから会話が聞こえる。チラッと視線を向けると大勢の生徒が外で野球をやっていた。

 

 

(…今授業中だよな? しかもアイツらってFクラス? まだ出し物も決まっていない筈なのに何をやっているんだ?)

 

 

 段ボール箱を床に置き、注意しに行こうか考えていたところで我が校の必殺仕事人、補習担当教師の鉄人(西村先生)が校舎から飛び出した。

 

 

『貴様ら、学園祭の準備をサボって何をしているか!』

 

『ヤバい! 鉄人だ!』

 

『全員逃げろー!』

 

 

 うわっ、百メートル走何秒台だよあのスピード。連中が捕まるのも時間の問題だな。

…なんて考えているうちに三十人以上の男子が全員捕まった。流石は学園の人間兵器だ。

 

 

(…野球か。懐かしいな)

 

 

 俺にもああして笑っていた時期があったな、と床に置いた段ボール箱を持ち直し、仲間達の待つ場所へと急ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わって新校舎四階。一年のフロアだが、一年生に用事があるわけではない。ここには一年生の教室以外にも部屋がある。『生徒会室』のプレートが掛けられた扉を開けて部屋に入った俺は机に向かって作業をしている一人に声をかけた。

 

 

「会長、去年の清涼祭の資料持ってきたぞ。どこに置けばいい?」

 

「む、来たか。ご苦労だったな。部屋の隅に置いておいてくれ」

 

「わかった。ここでいいか?」

 

 

 指定された部屋の隅に段ボール箱を置く。ふぅ…疲れた。

 

 

「お疲れ様です辻井君。お茶をどうぞ」

 

「ああっ…私が淹れようと思っていたのに…」

 

「ありがと、上守」

 

 

 俺が生徒会室に入ったと同時に副会長の上守が席を立ち、お茶を用意してくれた。スーツを着れば一流のキャリアウーマンと見間違えるくらいに彼女の雰囲気は大人びていると俺は思う。

 

 会長が小声で何かを言ってる中、俺はお茶を貰う。

 

 

「カイ。そんな奴に気を遣わなくてもいいのに」

 

「アカリ、彼も生徒会役員なんですよ? そんな事は言わずに」

 

「…ふん」

 

 

 眼鏡女子の浜野は俺に…いや、男子に対して冷たい。昔色々あって男嫌いになったらしいがそれ以上の事を会長達は教えてくれなかった。…まあ俺は気にしないが。

 

 俺も生徒会役員ねぇ……。白服じゃないけどな。

 

 

「うわ、重っ! 辻井ちゃんこんな重いものよく運んでこれたよね!?」

 

「これでも鍛えてるからな」

 

 

 いつの間にか席を離れ、俺が床に置いた段ボール箱を持ち上げようとするクラスメートの室町。俺と同様に数学の成績が絶望的な筈なのに何故か会計に割り振られている。憐れ…。

 

 

「言うてくれればウチも荷物持ち手伝ったのに…」

 

「気持ちは嬉しいけど、流石に女子に力仕事を頼む気にはなれないよ」

 

「あはは…。ウチを女子として扱ってくれる男子なんてアキとアンタくらいやで?」

 

 

 庶務の大江は男子からの扱われ方に苦労してるみたいだ。確かに俺より頭二つほど背が高いけど顔立ちは可愛らしいのにな…。つーかアキって誰?

 

 

「はあ…。さて、全員集まったところで席についてくれ。皆に話があるんだ」

 

 

 そして何故かさっきまで落ち込んでいた我らが神条生徒会長。慕われたり、恐れられたり、完璧に見えて時々ポンコツな部分を見せたりと色々忙しい人だ。

 

 そんな彼女に応じて全員が生徒会室の真ん中に置かれた長方形のテーブルに、自分の指定された席に着く。そして全員の視線が集まった事を確認して口を開く。

 

 

「今年も年に一度の清涼祭の時期がやってきた。我々生徒会は一致団結してこの行事を成功させねばならん! 皆、気合いを入れていくぞ!」

 

「「おーっ」」

 

 

 神条の意気込みに応えて拳を上に突き出したのは大江と室町だけだ。いや、上守と浜野も内心は応えているのだろうが二人はそういうキャラじゃないしな。

 

 

「…さて。実の所、我々Cクラスは演劇をやることになってな。着々と準備は進んでいる。この場にいるのは…AクラスとEクラスだな。そちらは準備は進んでいるのか? 足りない物、必要な物があるなら今のうちに言って欲しい」

 

「Aクラスはメイド喫茶に決まりました。肝心のメイド服はうちの代表が人数分揃えてくれるそうです」

 

 

 上守が手を上げて淡々と答える。Aクラスの代表っていったら霧島翔子か? 学年一美人で有名な。最近Fクラスの代表と付き合い始めたとか。

 

 それにしてもメイド喫茶か…。上守なら似合うと思うが、彼女が知らない男に奉仕する姿が………想像出来ないな。何でも事務的にこなすイメージがあるし。

 

 

「Eクラスはそれぞれが所属している運動部の出し物を手伝うため、クラスでの出し物は無しかな」

 

「そうなのか? ならば、しのぶと悟志は清涼祭当日はフリーか。羨ましい限りだな」

 

 

 そう。体育会系の多いEクラスは各部活動の出し物があるため、Eクラスそのものの出し物は無いのだ。部活に所属していないのは俺と室町だけだしな。

 

 

「フリーだからと言って生徒会の仕事がない訳じゃないだろう? 当日の見回りは俺と室町の二人でーー」

 

 

 コンコンッと扉を叩く音がする。誰かがきたのか?

 

 

「どうぞ」

 

「「失礼します」」

 

 神条が入るように促す。すると扉が開き、二人の男女が入ってきた。青い髪の女子は知らないが男子の方は知っている。特に野球をやっていた人間は知らない筈がない。

 

 

「二年Fクラスの小波です。清涼祭の準備に関して、生徒会に相談に来ました」

 

 

 

 

 

 

 これが『伝説のキャプテン』と言われた小波一輝と俺、『六人目の生徒会役員』辻井 悟志(つじい さとし)の邂逅であった。




清涼祭編は少し長いので文字数を少し増やそうかと考えています。


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邂逅※

【登場人物紹介】

 霧島 翔子(きりしま しょうこ)

 二年Aクラスの代表を務める学年首席の女子生徒。男女問わず人気が高いが、雄二に一途な想いを寄せており、「雄二のお嫁さん」になることを夢見ていて、料理などの花嫁修業も欠かさない。

 雄二への想いから男性からの告白を何度も断わってきたことから、事情を知らない周囲からは「同性愛者だから男子と付き合わない」と当初は誤解されていた。


バカテス原作との相違点
・一騎討ちで雄二に敗北し、雄二からの告白で両想いに。

・パワポケキャラの従姉(霧島玲奈)がいる。


「なるほど。つまり、飲食店を出そうにも設備に問題あり…と?」

 

 

 教室に入ってきたFクラス生二人を椅子に座らせ、神条が話を聞いている。

 

 

「恥ずかしながらその通りだ。先月に少しでも衛生面を良くしようと掃除をしたんだけど、畳の半分以上が腐っていてな…」

 

「先生方に相談はしたのか? 最悪私達が学園長に直談判してもいいぞ?」

 

「その学園長にも相談はしたさ。しかし、『設備に差があるのは学園の教育方針だからね。ガタガタ抜かすんじゃないよ、ガキども』って一蹴された」

 

「………」

 

 

 頼みの綱である筈の学園長がそれである事に神条は何も言えなくなった。ちなみにそんな彼女の後ろで壁にもたれていた俺は、相変わらずだな…と苦笑いを浮かべる。以前用事で学園長室を訪れた俺にあの人が放った最初の一言は

 

 

『何か用かい、クソジャリ』

 

 

 …である。まあ教師というより科学者と呼ばれる様な人だし、生徒とのコミュニケーション能力は皆無。期待できないと思っていいだろう。

 

 小波が頭を悩ませる中、隣にいる南雲という女子も残念そうに口を開く。

 

 

「それで生徒会に相談に来た訳です。どこか空いてる教室に心当たりはないでしょうか?」

 

 

 強いていうなら一ヶ所だけあるんだよな。

 

 

「空いてる教室か…。残念ながらどこも埋まっているだろうな。今年は空き教室を使いたいと、いくつかの部活動が志願してきたからな」

 

 

 あれ? 神条、もしかして気づいてないのか?

 

 

「Fクラスの隣の空き教室はどうなん? 掃除すれば多少マシになるはずやろ?」

 

「駄目ね。あそこは他クラスの物置小屋になるわ」

 

 

 大江と浜野も?

 

 

「小波君。飲食店に拘る必要はないのでは?」

 

「清涼祭で得た稼ぎで教室の設備を改善しようと思ってるんだ。今ウチの連中が学園長に交渉に言ってる。それに怠け者の男子達がやけに気合いを入れててな。飲食店じゃないと出し物にならない気がする」

 

 

 怠け者…さっき野球やってた連中か。一体何の風の吹き回しだろうか? そして上守も気づいてない。あとは

 

 

「残念だけど、空いてる教室が無い以上諦めてもらうしかないかな?」

 

 

 分かってたさ室町。お前も気づいてないってな。仕方がない、俺は床を指差しながら

 

 

「あのさ、此処じゃ駄目なのか?」

 

 

 そう言うと全員がこちらに顔を向け目を点にしている。…あれ、俺何か言ったかな? ああ、そうか。ちゃんと場所の名前を言ってないから伝わらなかったんだな。ならもう一回

 

 

「此処、『生徒会室』じゃ駄目なのか? 清涼祭当日は俺と室町は校内の見回りをするし、他の四人はクラスの出し物でこの教室を空けるわけだし、だったら此処使ってもらうのは……アリ?」

 

 

 周りが黙ったままなことに不安になり、最後は疑問系になってしまった。そしてFクラスの二人を除く五人がわなわなと震えだし、五人同時に

 

 

「「「天才かっ!?」」」

 

 

 指を指してきた。息ピッタリだな~。

 

 

「わ、私とした事が……生徒会長でありながら生徒会室の存在を忘れるとは……!」

 

「灯台もと暗しってヤツだね!」

 

「サトシ~、勉強は出来へんのにこういう時は頭回るな~。凄いわアンタ~」

 

「ま、待て大江! そんなガッチリ握手してブンブン腕を振ったら千切れる! 二本しかない俺の腕が千切れるからっ!」

 

「こんな奴に遅れをとるなんて……自分が情けないわ」

 

「そう言いながら辻井君を褒めてましたよね?」

 

「あ、あれはみんなにつられてっ!」

 

 

 問題解決に歓喜する役員共。そんなことよりまず助けろ! マジで腕が飛ぶから!

 

 

「というわけだ小波よ。君達さえ良ければ当日はこの生徒会室を使ってくれ」

 

「いいのかよ、そんなアッサリ決めちゃって」

 

「空いてる教室がココしかないからな。それに稼ぎを出さなければ君達のクラスの問題が解決しない。生徒会として我々は力を貸すだけさ」

 

「…だったら、お言葉に甘えようかな?」

 

「ご好意、感謝します」

 

 

 親指をグッと立てて微笑む神条に素直に応じる小波と律儀に頭を下げる南雲。すると小波と視線が合い、彼がこっちに来て手を差し伸べてくる。

 

 

「君もありがとう。正直諦めかけてたんだ」

 

 

 差し伸べられた手を掴む。

 

 

「礼にはおよばないって。ただ、飲食店を出せたとしても稼ぎを出さなきゃ意味が無いんだぞ?」

 

「お、なかなか言うじゃないか。もちろん、君達から貰ったチャンス、モノにして見せるさ、…えーっと……」

 

 

 あ、そういえば自己紹介まだだったな。

 

 

「辻井悟志だ。小波、健闘を祈ってるよ」

 

 

 その後、小波と南雲は報告の為に教室に戻って行った。Fクラス(アイツら)の飲食店か……。時間見つけて食べに行こうかな?




本編に入ったので人物紹介も再開しようかと…

パワポケ用語紹介はいつになるやら…。


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学園長室で

【パワポケ用語】
 花丸高校

 特に荒れていたり、勉強や部活動に偏っていたりするわけではない都市部の一般的な高校で、部活動に参加していても赤点となれば補習を受けなければならなかったりする。

 文化祭や体育祭の他、球技大会や百人一首大会も開催されるなど、行事が盛んな学校である。

 今一つパンチ力に乏しい凡庸なチームであったが十年程前に一度だけ甲子園に行っている。


 放課後、生徒会役員と俺の六人は学園長に呼ばれ、学園長室を目指し廊下を歩いていた。

 

 

「それにしても、『文月の妖怪』と謡われているあの婆さんが俺達に一体何の用だ?」

 

「こら悟志、学園長をそういう風に呼ぶものではないぞ?」

 

「…すまん」

 

 

 学園長の悪態をついていると神条に注意された。

 

 

「ははは。ほんまサトシはあの人の事苦手みたいやな~」

 

「出会いが最悪だったからな」

 

 

 正直あの人は好きになれない。それよりも

 

 

「なあ。俺も一緒に行く必要はあるのか? 俺は生徒会役員じゃないんだけど?」

 

「何を言う。私達は君も立派な生徒会役員だと思っているぞ?」

 

「雑務担当として加入してもらいましたが、貴方は二人目の庶務として正式に生徒会メンバーに加わってますからね?」

 

「いつのまに…」

 

 

 神条と上守の言葉に何も言えなくなった。俺の知らない間に話が進んでいたのか…。

 

 去年、生徒会長になった神条はすぐに信頼できるメンバー(上守、浜野、大江、室町)を役員に選定した。しかし役員全員が女子であった為に男子の立場で考えられる人材、そして力持ちの大江がいるとしてもやはり男手に困っていたらしい。役員結成から一ヶ月経った頃、偶然屋上で悩んでいる神条と出くわしてしまったことが俺の人生の転機だった。当時のクラスの連中は美人五人に囲まれて羨ましがっていたが、果たしてあの出会いが俺にとって不運だったのか、それは今でもわからない。

 

 

「私としては良かったよ? 辻井ちゃんが来てくれてから退屈しない日が多くなったし」

 

「俺が一番退屈しなくなったよ。特に最近じゃあ神条と付き合っているって噂で他の男子に追いかけ回されたからな」

 

「まさか私と悟志が一緒に下校している所を見られていたとは…」

 

「いやいや…アンタら二人、前々からそういう噂あったで?」

 

「噂になるのも当たり前なくらい良い雰囲気だったわよ、アンタ達」

 

「私達はそれを見て二人を応援しようと思ったんですけどね」

 

 

 …マジですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新校舎の一角にある学園長室の前まで来ると

 

 

『…今度の……システムは………』

 

『…流石さね…なかなか……面白い……』

 

 

 扉の向こうから話し声が聞こえてきた。一人は学園長だけどもう一人は誰だ? 話の内容はともかくやけに会話が盛り上がってるような。

 

 

「む? どうした、悟志」

 

「今は取り込み中みたいだな」

 

「そうか、ならば少し待つとしよう。急ぎの用でもないしな」

 

 

 神条の案に全員が賛同し、待つことにした。それから五分も掛からず扉が開く。

 

 

「おや、君達は?」

 

 

 学園長室から出てきた眼鏡をかけたスーツの中年男性が呼びかける。神条が答える。

 

 

「生徒会です。学園長に呼ばれ足を運んできました」

 

「そうだったでやんすか。もしかして待たせてしまったでやんす?」

 

「いえ。今来たところですよ、亀田教頭先生」

 

 

 …やんす? ……えっ…教頭先生!?

 

 

 

「それならよかったでやんす。あ、オイラは急用があるので失礼するでやんす」

 

「お疲れ様です」

 

 

 教頭と呼ばれたメガネはそそくさと去っていき、神条は頭を下げる。

 

 

「あの人が……教頭?」

 

「知らなかったのか、悟志よ。竹原先生が先日退職して代わりに亀田先生が派遣されたのだぞ」

 

 

 あれ、竹原の奴辞めたのか? まああまり良い先生じゃなかったから俺としては結果オーライなんだがな。

 

 

「さて皆、入るぞ」

 

 コンコンッ

 

『入りな』

 

「失礼します」

 

 

 最初にノックし、返事がきてから扉を開ける。流石我らが生徒会長、全校生徒の見本だな。

 

 

「アンタたち、よく来てくれたね」

 

「学園長、我々を呼んだ用件は何でしょうか?」

 

「ああ、実はアンタ達に頼みがあってね」

 

 

 頼み?

 

 

「清涼祭で行われる召喚大会は知ってるかい?」

 

「存じてます」

 

「じゃ、その優勝賞品は知ってるかい?」

 

 

 優勝賞品? そんなもの初めて知ったぞ。出場する気もなかったしな。

 

 

「確か二対二のタッグマッチですよね。その大会に何か問題でもあるんですか?」

 

「大会じゃあなく、賞品に問題があるさね」

 

「賞品?」

 

「そう。優勝賞品にある『白金の腕輪』にあるさね」

 

「白金の腕輪?」

 

「そうさね。アンタたちも知ってるだろう。高得点を出した召喚者の召喚獣に付与され、様々な能力を発揮する、それが腕輪さ。

 

 だからアタシは召喚者が身に付ける事で召喚獣に新たな能力を与えるタイプの腕輪を開発しているのさ。

 

 ちなみに白金の腕輪の能力は点数を二分にして二体の召喚獣を同時に呼び出せる同時召喚が可能になるさね」

 

 

 ほう、持ち点が四百に満たなくても召喚獣に力を与えられるのか…。なんだろう、少し興味が出てきたな。それより説明してる時の学園長の様子が少しおかしいな。

 

 

「その白金の腕輪に何かあるんですか?」

 

「察しがいいねボウズ。その腕輪はまだ完成してないんだ」

 

 

 なんだと…?

 

 

「完成していない?」

 

 

 

「そうさね。機能はするんだけど欠陥があってね。総合得点が学年全体の平均並の点数を取った状態で使用すると腕輪が耐えられずに壊れてしまうという欠陥が…」

 

 

 

 学年全体の平均って……それじゃあ高得点者はまず使えない。

 

 

 

「そんなものをなぜ賞品にしたんです?」

 

「…アンタら、先日退職した教頭の竹原を知ってるかい? ここだけの話、竹原には今までの不正と汚職の証拠を突きつけて学校を辞めて貰ったのさ。あの男、その時には既に白金の腕輪を賞品にする事を発表していたさね」

 

「「「なっ!」」」

 

「腕輪が暴走すれば間違いなくアタシの監督責任が問われる。どうして欠陥のある腕輪を賞品として出したんだってね。

 

 一度発表したことを撤回すれば信用問題に関わる。文月学園は世間からの注目度が高いから少しでも信用を欠くことをすればアタシが責任をとることになる。竹原にすれば最後の仕返しになっただろうね」

 

 

 おいおい…竹原の退職にはそんな事情があったのか? あの人ってロクな事してないな…。

 

 つーかこれってかなりマズい話だよな? 試験召喚システムは文月学園の存在そのものと言っていい。暴走なんて問題が起きたら学園の存在意義も問われるだろう。

 

 

「学園長。俺達を呼んだ理由はもしかして、召喚大会で優勝して腕輪を回収しろと?」

 

「その通りさねボウズ。ただ、さっきも話したけど総合得点が平均以上だと壊れるから、点数を低くして戦って欲しいのさ」

 

 

 つまり召喚獣の操作性で戦えって事か…。それが出来るのは

 

 

「去年から召喚獣で教師の手伝いをしているアンタらならやれるさね。万が一の保険にFクラスの何人かにも既に伝えてあるから、その中の誰かが優勝して腕輪を回収してくれれば問題はないさね」

 

 

 

 

 

 

 こうして、学園の存亡をかけた戦いがはじまった。




遊園地のペアチケットについては別の機会に。


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準備(1)

清涼祭編をどういう風に盛り上げようか…。


『おーい誰か! そこの釘とってくれー!』

 

『このテーブルどこに置けばいい?』

 

『壁に飾る装飾ってこんなのでいいのかー?』

 

 

 清涼祭まであとわずか、普段は少人数しかいない生徒会室は多くの生徒で賑わっていた。Fクラスの出し物、中華喫茶の為に室内を改装しているのだ。

 

 

「思ったよりみんな真面目に仕事してるな」

 

「これじゃ助っ人に来た意味がなくなったね」

 

 

 万が一の為に助っ人として手伝いに来た俺と室町は連中の仕事ぶりを見て感想を述べる。そんな俺達に三人が近づいてきた。小波と南雲。あと一人は吉井明久だ。学園初の観察処分者として、ある意味では神条に負けず劣らずの有名人だ。

 

 

「辻井、室町。せっかく手伝いに来てもらったのにゴメンな? アイツら珍しくやる気だからさ。作業はまだ半分くらいだけど、あとは寛いでてもいいぞ?」

 

「そうだよ。この部屋を使わせて貰っただけじゃなく、応接室のテーブルと椅子を使えるよう先生方に頼んでくれたんだから。充分働いてるよ」

 

「たった六人で使うのは勿体ないからな。使いたい人に使って欲しいって思っただけだ。あと先生方と交渉したのはウチの会長だけどな」

 

 

 小波と一緒に来た吉井が俺達に感謝するも、それを冷静に対応する。やはり交渉能力に関して神条(アイツ)は尊敬に値するな。

 

 

「まあおかけで室内は綺麗だし、これなら上手くいくんじゃないか?」

 

「学園祭のレベルとしては充分過ぎるんじゃないかな?」

 

「…………飲茶も完璧」

 

「わっ」

 

 

 いきなり後ろからの声で室町が驚く。振り向くと小柄な男子生徒、ムッツリーニの二つ名で有名な生徒が立っていた。彼の手には

 

 

「…………味見用」

 

 

 そう言って木のお盆を差し出す。その上には胡麻団子が載っていた。

 

 

「わぁ…美味しそう…」

 

「土屋…君? いただいてもいいのかい?」

 

 

 目を輝かせる室町の横に俺は土屋に確認する。返事は

 

 

「…………(コクリ)」

 

「なら、ありがたく」

 

「いただきまーす」

 

「あら、美味しそうじゃない。ウチもいただくわ」

 

「ワシもいただこうかの」

 

 

 つまようじがないので直接手で摘まんで口に運ぶ。そのタイミングで茶髪ポニーテールの島田美波と見た目が女子の男子生徒、木下秀吉も胡麻団子を手に取る。

 

 

「これは…!」

 

「美味しい!」

 

「表面はカリカリで中はモチモチで食感も良いし!」

 

「甘すぎないところも良いのう」

 

 

 これは売れるな。好評間違いない!

 

 

「好評だな。俺も貰おうかな?」

 

「僕も」

 

「…………(コクリ)」

 

 

 小波と吉井も一つ摘まんで口に運ぶ。小波は「うん、うまい」と一言。吉井は

 

 

「ふむふむ、表面はゴリゴリでありながら中はネバネバ。甘すぎず、辛すぎる味わいがとってもーーんゴパっ」

 

 

 口からありえない音を出して床に倒れた。……え? なにこれ?

 

 

「明久! しっかりしろ!」

 

「え、何? 何が起こったの!?」

 

 

 倒れた吉井に駆け寄る小波と突然の出来事に狼狽える室町。もしかして胡麻団子? 全部作り方は同じだろうし、一つだけ違うなんて事があるのか? そんな時、木下の口から信じがたい人物の名前が

 

 

「あ、それはさっき姫路が作ったものじゃな」

 

 

 …え、姫路? あの学年ベスト3の?

 

 

「む、ムッツリーニ!? どうしてそんなに怯えた様子で胡麻団子を僕の口に押し込もうとするの!? 無理だよ! 食べられないよ!」

 

 

 団子の残り半分を吉井の口に押し込もうとする土屋。二人の必死な姿にこれは冗談じゃないことが伝わってくる。

 

 とりあえず現状を傍観している南雲に聞いてみることに。

 

 

「なあ。姫路さんって、料理ダメなの?」

 

「これでもマシにはなってるんですよ? 以前は薬品混ぜていましたし…」

 

 

 頭に手を当ててため息をつく南雲。てゆーか薬品って、流石に冗だーーん…じゃないよね! 目が笑ってないし。

 

 

「うーっす。戻ってきたぞ!」

 

 

 そんなところに背の高い赤髪の男子生徒がやってきた。

 

 

「確か、Fクラス代表の坂本君だっけ? どこかに用事だったのか?」

 

「誰だ? …ああ、助っ人に来てくれた生徒会か。学園長のババアとちょっと話をな。…ん? なんだ、美味そうじゃないか。どれどれ?」

 

 

 躊躇う事なく吉井の食べかけの団子を口に運ぶ。

 

 

「…雄二よ、たいした男じゃ」

 

「雄二。君は今、最高に輝いているよ」

 

「? お前らは何を言っているのかわからんが……。ふむふむ、表面はゴリゴリでありながら中はネバネバ。甘すぎず、辛すぎる味わいがとってもーーんゴパっ」

 

 

 うわぁ…、なんか既視感(デジャブ)。

 

 

「…坂本、大丈夫か?」

 

「ふっ。何の問題もない」

 

 

 とりあえず声をかけたが、どうやら大丈夫そうだ。

 

 

「あの川を渡ればいいんだろう?」

 

 

 全然大丈夫じゃなかった。三途の川を渡ろうとしている。

 

 

「ゆ、雄二! その川はダメだ! 戻ってこーい!」

 

 

 生徒会室のど真ん中でFクラスメンバーがギャーギャー騒いでいる。俺と室町はこっそりと場を離れてその光景を眺めていた。

 

 

「辻井ちゃん。清涼祭、大丈夫かな?」

 

「死人が出ない事を祈ろう」

 

 

 もう俺達にはそれしか出来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「姫路さん、まだまだ修行が足りませんね?」

 

「…はい、すみませんでした」

 

 

 一方、部屋の隅では事の元凶が青白い怒りのオーラを纏った女子生徒によって正座させられたりしていた。




日常編に『転校生』を追加しました。


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準備(2)

姫路料理は恐ろしい…。


 あれから坂本も復活を果たし、姫路への説教を終えた南雲もこっちに戻ってきた。そして…

 

 

「明久ー、いい加減目を覚ませー?」

 

「…………はっ、じいちゃん」

 

「誰がじいちゃんだ!?」

 

 

 食べ物を粗末に出来ないと、姫路作の胡麻団子の残りを覚悟の末たいらげた吉井も危ういながら復活を果たした(本人曰く「天国のじいちゃんに会ってきた」らしいが)。ちょうどその時、俺達の下に一人の女子生徒がやってきた。

 

 

「ちょっとアンタ達、いつまでも油売ってないで仕事しなさい」

 

「おっと…くつろぎ過ぎたかな? 悪いなリコ。すぐ作業に戻る」

 

「みんな、もう一頑張りだ。行くぞ」

 

 

 緑髪ポニーテールのリコと呼ばれた女子生徒に小波が返事をする。あの子は最近転校してきた石川梨子だっけ? …なんで花丸高校の制服(上はベージュのベスト)を着てるんだ?

 

 小波と坂本の指示を受けてそれぞれが作業に戻る中、石川がこっちに顔を向け

 

 

「室町と辻井だっけ? いろいろと手を貸してくれてありがとね♪ 早速なんだけどさ、手伝ってくれない? 美術室から道具を運びたいんだけど、アタシ一人じゃあね…」

 

「それは勿論手伝うよ。じゃあ行こうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんだかんだあってようやく改装作業は終わった。生徒会室は見事に中華風の喫茶店となった。俺と室町の感想は

 

 

「よくもまあここまでやったな…」

 

「ここ本当に生徒会室? って思いたくなるよね…」

 

「ちゃんと元に戻るよな?」

 

「シアンちゃん達、これ見たらどんな反応するかな?」

 

「こんな変わり果てた生徒会室を見たら生真面目そうな上守と浜野がどんな反応をするか。神条は…むしろここまで仕上げたFクラス連中を褒め称えるかもな?」

 

 

 表彰式でもあげそうだな。と思っていると小波達がこっちにやって来た。

 

 

「辻井、室町、お疲れ様。寛いでていいって言っておいて結局散々働かせてしまったな」

 

「いいって。元々その為に来たんだし」

 

「みんなテキパキ働いてたよね~。FFF団だっけ? 正直言うと私達は彼等の事を警戒してたんだよね~」

 

 

 室町に肯定するように頷く。新学期に入ってからの連中の問題行動に俺達は頭を抱えていたのだ。だから神条は俺達にFクラスを手伝うよう指示したのだ。

 

 

「そこは俺達も驚いてるよ。だが俺達よりも、アイツらよりも一番働いてたのはコイツだろ?」

 

 

 全員が石川を見る。須川達に細かい指示を出したり、改装に必要な物をあちこちから調達したり、そう言われれば彼女が一番働いてたよな。

 

 

「いやー祭りを全力で楽しむ為には準備だって全力で取り組まなきゃ、ね?」

 

 

 そう言ってウインクする石川はどこか格好いい。男の俺達より男らしい……女だけど。

 

 

「その姿勢、尊敬するよ。…さてーー」

 

 

 改装の手伝いもそうだけど、俺はもう一つの目的を果たすとしようか。

 

 

「坂本、小波、それと吉井も。突然だけど着いて来てくれないか? 話があるんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は誰もいない場所、屋上に足を運んだ。小波、坂本、吉井も遅れてやって来る。南雲がついて来ようとしたが何とか断りを入れた。室町はFクラスの女子達とガールズトークでもさせればいい。屋上について早速坂本が口を開く。

 

 

「で、ここまで連れてきた理由はなんだ? 人の多い場所では話せないことなんだろ?」

 

「え、そうなの?」

 

 

 坂本はこれから話す内容が判らずともそう言った話だと理解してるようだ。吉井は気付いてないみたい。俺は三人を見て口を開く。

 

 

「単刀直入に言う。召喚大会の優勝商品の件は知っている。俺達生徒会もお前達の味方だ」

 

「「「っ!?」」」

 

「Fクラスの何人かにもこの件について話してある、と学園長から聞いている。常に万が一の保険をかけるあの人の性格を考えれば多すぎず、少なすぎない人選をするだろうし。

 

 Fクラスの生徒を巻き込む訳だから、代表の坂本には当然話すだろうと思った。あとは召喚獣の操作に慣れている小波と吉井が妥当かなって。で、当たってる?」

 

 

 三人とも驚きの表情を浮かべる(特に吉井が)。しかし反応がおかしい。

 

 

「な……な…」

 

「あれ? もしかして初耳? お前達じゃなかった?」

 

 

 改装作業中に彼等を観察し、確信をもっての告白だったんだけどな。まさか外したか? なんて考えていると、吉井と坂本の二人共プルプル奮えているのがわかる。そして空に向かって。

 

 

「「なんでソレを言わねーんだあのババアっ!!」」

 

 

 …あれ?

 

 

「ざけんじゃねえぞあのババア! 学園存続の危機に余計なプレッシャー与えやがって」

 

「ホントだよ! 生徒会にも腕輪の事を話すなら話すって言ってくれればいいのにさ!」

 

「ははは、なかなか苦労してるみたいで」

 

 

 怒りを空にぶつける坂本と吉井。まあ確かに誰に話したか、他に誰に話すかはちゃんと伝えておくべきだろう。

 

 

「…で? 一応確認するけど、三人は優勝商品の件を知っている…てことでいいんだよな?」

 

「ああそうだ。設備の改善をババアに頼んだ際に条件として大会の優勝を…な」

 

「とにかくよかったよ。生徒会役員が協力してくれるなら、僕達の誰かが確実に優勝出来るよね?」

 

 

 吉井は既に優勝した気でいる。まあ神条や大江、今ここにいる小波や吉井の実力は誰もが知る事実だ。しかし…。

 

 そんな浮かれている吉井に小波が

 

 

「油断するなよ明久。大会はトーナメントだからな。決勝上がる前に仲間同士で潰し合う展開も考えられる。そしてなにより大会には三年も出場するからな」

 

 

 そう、俺達二年生よりも試召戦争を経験している三年生は間違いなく手強いだろう。さらに俺達は学園長の指示で総合科目を平均以下に抑える必要がある。そんな状態で連中から優勝を勝ち取らなければならないのだ。

 

 

 

 

 

 

 まあ俺は全力を出したところで平均には届かないわけだが。

 

 

「とにかくだ、優勝目指すためにもお前らの知恵を貸して欲しい。まあ、優勝したところであの妖怪ババアの俺達に対する態度は変わらないと思うけど、恩を売っといて損はないだろ?」

 

「あれ、辻井君もババア長に対してそんな態度なんだ」

 

「…正直、あの人は苦手でね」

 

 

 吉井に指摘されてハッとなる俺。おっと、本音が出てしまったな…。




さて、誰を参戦させようか…。


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ペア決め※

【登場人物紹介】

姫路 瑞希(ひめじ みずき)

 二年Fクラス所属の女子生徒。Fクラスではあるが、本来の学力は学年次席。振り分け試験の時に高熱を出して途中退席してしまい、テストが全て無得点となったためFクラスとなった。

 吉井明久とは小・中学校の同級生。小学校の頃から明久に対して好意を抱いていた。


バカテス原作との相違点
・Fクラスに毒されていない為、明久に対するお仕置きはほとんどない(ヤンデレ化はしている)。

・南雲瑠璃花の影響を受けて、明久に対する気持ちが多少素直になっている。

・南雲に弟子入りした事で料理に薬品を混ぜなくなった(しかし壊滅的である)。


一輝視点

 

 

 俺、明久、雄二の三人が屋上から戻って来ると、生徒会室はやけに賑わっていた。大人数用のテーブルを囲んで瑠璃花、リコ、姫路、島田、室町、そしてーー

 

 

「神条、来てたのか?」

 

「小波達、邪魔するぞ」

 

「邪魔するって…ここは生徒会室だろ?」

 

「今は君達の教室だ。何もおかしな所はないさ」

 

 

 生徒会の神条、大江、浜野、上守の四人も混ざって盛り上がっていたようだ。

 

 

「自分達のクラスの準備はいいのか?」

 

「こっちは既に終わっている」

 

「それに私達は劇の裏方をやることになったの。だから練習に付き合う必要はないわ」

 

「ウチとしては役貰って舞台に出てみたかったんやけどな? 生徒会は校内の見回りあるから…」

 

「あれ? 当日の見回りは辻井と室町がやるんじゃないのか?」

 

「もちろん二人も見回りはするさ。しかし二人だけに任せる訳にはいかないだろう?」

 

 

 ああ、納得した。そして神条の隣に座っていた上守が口を開く。

 

 

「ちなみにAクラスも喫茶店の準備を終えています。もう少ししたら翔子もこちらに顔を出しますからね、坂本君?」

 

「上守、まるで翔子が来ることを俺が期待してるような言い方だな」

 

 

 実際そうなんじゃないのか、雄二よ。自分の顔を鏡で見てみろよ。

 

 

「あれ? なあアンタら、サトシはどうしたん?」

 

「辻井君ならすぐ戻るから先行っててー、て屋上に残ったけど」

 

 

 この場に辻井がいない事に気づいた大江の疑問に明久が答える。俺も気になってはいたんだけど、

 

 

「あ~…またや。アイツ一度屋上に行ったら中々戻ってこーへんで?」

 

「…仕方がない、呼んでくるとしよう。皆はここで待機していてくれ」

 

 

 そう言って神条は席を立ち教室から出ていった。

 

 

「一体どういうことだ?」

 

「坂本、他の皆も、出来たらなんも聞かんでくれへん?」

 

「………わかった」

 

 

 雄二を筆頭に事情を知らない人たちは了承した。そして空気を変えようと室町が立ち上がる。

 

 

「あ、あのさ。召喚大会ってチーム戦だよね? みんな誰とペアを組むか決めたのかな?」

 

 

 あきらかに話題を変えようという意志が見てとれたが、みんな気にはしなかったらしい。室町の質問に姫路が手をあげて答える。

 

 

「私は美波ちゃんとチームを組みました」

 

「優勝はいただくわ!」

 

 

 揃ってVサインをする二人。息ピッタリだな。ただでさえ負けが許されないのに思わぬ強敵が現れた。

 

 

「はいはーい、あたしは一輝とペア組んだからねー」

 

 

 リコが元気よく手をあげる。彼女の宣言を聞いて(瑠璃花を除く)全員が驚いた顔で俺をみた。

 

 

「ん? どうしたんだよ皆。そんな顔をして」

 

「あ、ごめんよ一輝。ただ意外に思っただけさ。一輝はてっきり南雲さんとペアになると思ってたから」

 

「よろしくね、一輝♪」

 

 

 腕に抱きついてくるリコにため息をついて

 

 

「…まあ、成行ってやつだ」

 

 

 明久の質問に対し、俺はそれしか言えなかった。

 

 

 

 

 

 

『…それで、結局のところどうなのよ?』

 

『一輝のペアをじゃんけんで決めることになり、私が負けた結果です』

 

『うう…。南雲さん、残念でしたね…』

 

『ですが代わりに、休み時間に一輝と出店を巡る権利を貰ったので問題はありません』

 

『はっ…失念していたわ…! 男女で清涼祭を巡るのも一興。ウチもアキを誘って…』

 

『み、美波ちゃんズルいですよ…!』

 

 

 瑠璃花、姫路、島田がボソボソと話し合っている。何も聞こえない。

 

 

「ほんならアキ、ウチとペア組まへん? ウチも召喚獣の操作には自信あるで。アキとなら優勝間違いなしや!」

 

「な、大江さんっ! 卑怯よ!」

 

「抜け駆けは禁止ですよ!」

 

 

 大江が明久に詰め寄り、姫路と島田が割って入る。明久も苦労している。

 

 

「さ、三人とも落ち着いて。それよりカズさん、僕達クラスが違うけど? ルール違反じゃないの?」

 

「同じクラスやなきゃ駄目なんてルールはあらへんで。せやから、AクラスとFクラスで組むのもアリなんやで。坂本君?」

 

 

 ん? なんでここで雄二に振るんだ? 

 

 

 

 

 

 

『……カズの言う通り。雄二は私と組むべき』

 

『し、翔子!? お前いつからいたんだ!?』

 

『……いまさっき。ちなみに雄二、私と組む以外の選択肢は認めない』

 

『横暴だろ!? こっちにも事情がーー』

 

 

 雄二は既に翔子に迫られている。優勝商品の事を気にして明久と組もうとしてたんだろうが雄二よ、表彰式で翔子に使わせなければ問題はないと思うぞ? 最悪翔子にも事情を話して点数下げてもらえば良いわけだしな。

 

 

 

 

 

 

『明久くーん。召喚大会なんだけど、ボクとペアにならない?』

 

『ね、ねえ明久君。もしよかったら、アタシとーー』

 

『『『待ちなさいっ!!』』』

 

 

 翔子がいるなら当然あの二人もいるよな。

 

 

(明久…頑張れ)

 

 

 

 

「みんな~、作業お疲れ様~。お茶菓子でもどうかしら~?」

 

 

「小野さん、喜んでいただきます。あ、小野さんもどこか空いてる席にどーぞ」

 

 

 生徒会室の扉が開き、振り向くと売店勤務の小野さんが両手に色々なお菓子を抱えて入ってきた。いつも通りの三角巾とエプロン姿にのほほんとした笑顔は疲れきった男子には破壊力抜群である。

 

 小野さんに近づきお菓子を受けとり、空いてる席へと案内する。

 

 

『…ねえ、やけに一輝が積極的な気がするんだけど? あの人の前ではいつもああいう風なの?』

 

『…去年からお世話になってる、というのもあるんでしょうけど。少なくとも尊敬の念を懐いているのは確かですよ』

 

『せっかく一輝のペアの座を勝ち取ったのに…この敗北感はなんだろう…』

 

『それはお互い様ですよ』

 

 

 女子二人の会話は俺の耳には届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紫杏視点

 

 

 屋上の扉を開ければ、目当ての人物はすぐに見つかった。屋上には彼しかいないというのもあったが。

 

いつものように屋上のフェンスを掴んで、辛い顔をしている。

 

「悟志」

 

 

 声を掛けて近づくとハッとした表情になり、すぐになにもなかったかのような顔になる。

 

 

「どうしたんだ会長? もしかして生徒会室でなにかあったのか?」

 

「いや、君の事が気になっただけさ」

 

 

 そして彼の隣に立つ。すると不意に懐かしい記憶がよみがえる。

 

 

「こうして二人きりでいると思い出すな。私が屋上で一人悩んでた時に悟志が声をかけてくれたんだっけ?」

 

「そのせいで生徒会役員にされたけどな」

 

「…今更だと思うが、嫌だったか?」

 

 

 実をいうと去年の十月、男子の役員が必要になったからとはいえ半ば強引に彼を誘ったことを後悔していたりする。そして彼の本心を聞こうともせず今に至っているのだ。

 

 迷惑だと言われるのが恐いから…。

 

 

 

 

 

 

「いや別に」

 

 

 答えは違った。

 

 

「正直面倒だと思った。けどこうして仕事に携わっていると、あとには退けない、て思うようになってきてさ」

 

「………」

 

「自分で言うのもなんだけど、俺って働き者なんだと知った。だから今は…もう少しこのままでいいかなって思う」

 

「……ふふっ」

 

 

 他にやることもないしな、と笑いながら言う彼につられて笑ってしまう。

 

 

「なに笑ってるんだよ…」

 

「ははは、すまない。つい」

 

 

 思えば悟志と知り合ってもう半年になるんだな。しかし…

 

 

(彼は未だに私達を名前で呼ぶことを拒んでいる…)

 

 

 彼のいた中学を調べて、彼の身に何が起きたのかは大体の目星はついている。

 

 彼は過去に囚われているのだ。

 

 そんな彼を私は…いや、私達は救いたい。

 

 生徒会長としても。

 

 

 友人としても。

 

 

 

 

 

 

  だから…

 

 

 

 

 

 

「悟志、頼みがあるんだ」

 

「ん、なにかな?」

 

「召喚大会なのだが、私とペアを組まないか?」

 

「………はい?」

 

 

 私の告白に彼は鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしたのだった。




久々に一輝の視点で書けた…


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清涼祭開幕

やっと清涼祭です


清涼祭初日の朝、俺と室町、そしてFクラスの皆は中華喫茶『ヨーロピアン』にて

 

 

「皆、喫茶店はいつでもいけるな?」

 

「バッチリさ」

 

「…………お茶と飲茶も大丈夫」

 

 

 坂本の最終確認に吉井と土屋が自信満々に答える。これで準備は整った。

 

 

「いいかお前ら。設備の改善の為にも資金が必要だが、それ以上に生徒会の面々が協力してくれている以上中途半端な結果は出したくない。今日と明日の二日間、死ぬ気で取り組むぞ!」

 

『『『おおーっ!!』』』

 

 

 みなぎってるなあ…。それにしても坂本ってああいうキャラだったっけ? 『悪鬼羅刹』のイメージと随分違うんだけど…。

 

 

「やる気充分だな。よし、各員作業に取り組め」

 

 

 坂本の号令で集まってたメンバーが散っていく。厨房に入る者、廊下で呼び掛けをする者、校舎の外でチラシを配る者、様々だ。

 

 

「やっぱ指揮を取るのは雄二が向いてるな」

 

「はっ、よく言うぜ一輝。お前には負けるっての」

 

 

 笑い合う小波と坂本。それを見ていると吉井と土屋が

 

 

「辻井君。店手伝ってくれてありがとね」

 

「…………感謝する」

 

 

 二人が礼を言ってきた。まあ会長命令だし。

 

 

「チラシ配りと声かけくらいしか出来ないけどな。それより女子達は? さっきから姿が見えないけど?」

 

「あ、そういえば誰もいないね?」

 

 

 室町、南雲、姫路、島田、石川(あと木下弟)がいないことに吉井も今気付き、室内を見回す。

 

 

「…………女性陣なら、もうそろそろーー」

 

 

 土屋が何か言いかけたその時、教室の扉が開いた。

 

 

「おっまたせー!」

 

 

 そこにはチャイナ服に着替えた石川が堂々と教室に入ってきた。それに続くように他の女子達も(何人かは恥ずかしそうに)入ってくる。そんな女子達に対して雄二が真っ先に口を開く。

 

 

「お前ら、チャイナ服なんてどこから持ってきたんだ?」

 

「今日の為に土屋が人数分作ったんだって。似合ってるでしょ?」

 

「…………徹夜した」

 

 

 クルッと一回転してみせる石川。その仕草に恥ずかしさは感じられず、嬉々として着ているのだと伝わってくる。

 

 

「室町、お前もか?」

 

「ははは…私の分もあったからね。それにしても土屋ちゃんって凄いよね。サイズがいい感じにしっくりきてるもん。まるで、いつの間にか体の寸法を測られたーって思うくらいに…」

 

 

 それを聞いて実際どうなのかを聞こうと土屋に視線を向ける。俺の意図を察したのか、土屋は「…………目測」と答えた。なんて観察眼だ…!

 

 

「でもいいんじゃないか? やっぱり室町は何を着ても似合うよな」

 

「……うん、ありがとう…」

 

 

 そう言って背を向ける。あれ? 何かおかしな事を言ったかな。

 

 

「一輝、どうです? 似合ってますか?」

 

「ああ、凄く似合ってる。てか瑠璃花は厨房担当じゃなかったか?」

 

「もちろん厨房ですよ? でもせっかく私の分もありますから…」

 

「一輝、あたしも似合ってるかな?」

 

 

 小波と南雲、石川は相変わらずだな。…で、吉井は

 

 

「秀吉、やっぱり君は何を着ても可愛いね!」

 

「明久よ。それは姫路と島田に言うべきじゃ」

 

「木下…。アンタはとことんウチ達の邪魔をしたいようね…!」

 

「ズルいです木下君…。そうやって吉井君を夢中にさせるなんて…」

 

「何故じゃ!? 何故ワシが責められておるのじゃ!?」

 

 

 ああ…、いないと思ったら木下もチャイナ服を着てたのか…。でもお世辞抜きで似合ってるな。男子から告白されるのも頷ける。

 

 俺はしないけど。

 

 

「よし。もうすぐ召喚大会だ。喫茶店は秀吉とムッツリーニと南雲と室町に任せる。俺と明久、一輝と石川、姫路と島田、辻井の七人は一回戦を済ませよう」

 

 

 召喚大会に出る全員が頷く。

 

 

「辻井君は誰と組むの?」

 

「会長と」

 

 

 吉井の問いに答えると姫路、小波が反応する。

 

 

「こ、今度は負けません!」

 

「わかってはいたが、一番の壁だな…」

 

 

 FクラスとCクラスの試召戦争の詳細は知っている。姫路は呆気なく戦死し、小波は激闘の末、ギリギリ勝利を掴んだ。

 

 勝ったにしても、負けたにしても、二人にとってはそんな厳しい戦いをもう一度するとなると何かと思う所があるんだろうな…。

 

 

「…辻井ちゃんは紫杏ちゃんと組むんだ~。もし一回戦負けなんてしたらアカリちゃんが許さないかもね」

 

「怖いことをいうな…」

 

 

 簡単に想像出来る未来に俺はため息を吐くしか出来なかった。

 

 …とにかくベストは尽くすけどさ。




次回は久しぶりに戦争ですね。


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召喚大会一回戦 悟志&紫杏

今日が水曜日だということを忘れていました。

( ̄ω ̄;)


明久視点

 

 

「ねえ雄二。やけに参加人数多くない?」

 

「毎年五十人くらいだって話だけどな」

 

「どうみても百人は超えてるよねー?」

 

「俺としては試召戦争は大歓迎だ」

 

 

 僕、雄二、リコ、一輝がそれぞれ感想を述べる。召喚大会の為に体育館を改装した試合会場には予想以上の人数の生徒がいた。それを目にして驚く僕達を見て辻井君は

 

 

「…どうやらお前らは自分達のやった事の重大さに気づいてないんだな?」

 

「え、どゆこと?」

 

「最底辺のFクラスが最高峰のAクラスに勝つ。お前らはそんな前代未聞の偉業を成し遂げたんだ。その結果、三年生のクラスがモチベーションあげて頻繁に試召戦争を始めたり、一年生が来年を待たずに試召戦争をしたいと懇願したり、今月になってようやく落ち着きはしたが今、文月学園では試召戦争がブームみたいになっているんだよ」

 

 

 そうだったのっ!?

 

 

「それで人数も去年の倍に?」

 

「だな。特に経験値の差がある三年生の参加者が多いから、勝ち残るのは容易じゃないだろう」

 

 

 よ、予想外の展開じゃないか…! 優勝賞品の腕輪の事もそうだけどこのままじゃ…

 

 

「いい結果を出さないと瑞希ちゃんが…」

 

「瑞希ちゃん……ああ、姫路か? 姫路がどうかしたのか?」

 

 

「ああ、そういえば辻井君には話してなかったっけ? 実はーー」

 

 

《連絡します。まもなく召喚大会第一回戦を開始します。名前を呼ばれた者からステージに上がってください。三年Cクラス、ーー》

 

 

 僕の会話を遮り会場にチャイムと司会を務める女子生徒が鳴り響く。もうすぐ大会だ。一輝が僕の肩に手を置き

 

 

「ま、三年生が多いけど、毎年一回戦はレベルの近いペア同士で戦えるようになってるはず。俺達Fクラスの相手はセオリー通りならEクラスのペアになるだろうし、そう弱気になるなよ」

 

「うん、そうだね」

 

 

 一輝の話を聞いて胸を撫で下ろす。良かった、いきなり三年生と当たることはないんだね。

 

 

「すまない悟志、遅くなった」

 

 

 辻井君に誰かが近づいて来た。やってきたのは黒い衣装に身を包み、顔全体を覆う黒いマスクで顔を隠した誰か。

 

 これって歌舞伎なんかに出てくる黒子って奴だよね?

 

 

「…会長、その格好は?」

 

「む? ああこれか? 前にも言ったがCクラスの出し物は演劇で、私は裏方だからな。それにしてもよく私だとわかったな」

 

 

 マスクを取ったその顔は確かに神条さんだ。辻井君、なんでわかったの?

 

「いや、確かに劇の裏方を務めるんならその格好なんだろうけど…。ただ、そこまで徹底する必要性はあるのかと思ってな…」

 

「?」

 

 

 頭を押さえて何かを言ってる辻井君に神条さんは頭に?を浮かべているだけだった。

 

 

《ーー次のペアを発表します。二年Cクラス、神条紫杏さん。二年Eクラス、辻井悟志君。両名はステージに上がってください》

 

 

 辻井君達が呼ばれた。

 

 

「む、早くも私達の出番のようだな」

 

「参加者は多いがステージ自体が広いから一度に複数の試合を行ってるみたいだな。とゆー訳で早速行ってくる。坂本、試合が終わったらすぐに外でチラシ配りの仕事するから」

 

「おう、よろしく頼む」

 

 

 こうして神条さんを追いかけるように辻井君はステージに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悟志視点

 

 

「ふっふっふっ…腕が鳴るな」

 

「…ほどほどにしてくれよ?」

 

「何を言う。戦いで手を抜くのは相手に対して失礼だろう?」

 

「全力出す気マンマンじゃねえか!」

 

 

 ウズウズしている会長の隣で俺は頭痛と戦っている。四月に起きたFクラスによる下剋上は文月学園に新たな風を起こした。その結果は召喚大会に目に見えるように表れている。

 

 それ自体は学園生活を盛り上げていく生徒会としても悪くない。悪くないんだけど問題は会長にある。良い意味でも悪い意味でも有名な会長は手加減というものを知らない。

 

 元々強かったのに加えて生徒会(ウチ)の顧問が興味本意で剣術を教え、その技術を召喚獣に反映させた結果手がつけられなくなったのだ。

 

 Fクラス戦で会長がサシの勝負で敗れたと聞いた時は驚いたけど、それでも会長が十分強いことに変わりはない。俺の思いはただ一つ。

 

 

(戦う相手にトラウマを与えないか心配だな…)

 

 

 

《対戦相手は二年Bクラス、岩下 律子(いわした りつこ)さん。菊入 真由美(きくいり まゆみ)さん》

 

 

「Bクラスか…」

 

 

 こっちにはCクラスの会長がいるとしても、俺はEクラス。さっき小波が言ってたセオリーならDクラスあたりが相手になると思ったけど…。

 

 

「いきなり生徒会長とはね…真由美!」

 

「ええ、いくわよ律子!」

 

 

 対戦相手の女子二人が頷きあう。仲良しなのかな?

 

 

「それでは召喚してください」

 

 

 立会人を務める数学の木内先生から許可が下りた。

 

 

「「試獣召喚(サモン)っ!」」

 

 

 目の前に対戦相手の召喚獣が現れる。岩下の召喚獣は格闘家風の服に巨大なハンマーを装備している。菊入の召喚獣は剣士風の服にメイスを装備している。

 

 

【数学】

 

Bクラス 岩下律子 179点

Bクラス 菊入真由美 163点

 

 

「私達もいくぞ!」

 

「ああ」

 

「「試獣召喚(サモン)っ!」」

 

 

 呼び出された俺達の召喚獣。会長の召喚獣は赤いローブに禍々しい剣を持つ魔王の印象を持っている。対する俺は

 

 

「悟志は…探検家? 武器はなんだ?」

 

 

 会長の言う通りの印象だろうな。ゴーグル付の帽子、首に赤いマフラーをした探検家を思わせる服装。そして武器は何かと召喚獣に右手を挙げさせると

 

 

「ふむ、鉄の棒か」

 

「…話にならねえ」

 

 

 なんで召喚獣の装備にこんなにも差がつくんだろうか?

 

 

【数学】

 

Cクラス 神条紫杏 126点

Eクラス 辻井悟志 13点

 

 

「「「………」」」

 

 場に沈黙が流れる。

 

 

「……悟志…?」

 

「因数分解も解らん俺にはこれが限界だ」

 

 

 何か言いたそうな会長に早めに釘を刺しておく。正直、悪かったと思ってる。

 

 

「それでは、試合を開始します」

 

「よし会長っ、俺が片方を相手にするからもう片方をよろしく」

 

 

 黙ったままの会長にそれだけ言って前に出る。

 

 

 向こうも武器を構えて突進してくる。

 

 

「………を…」

 

(ん? 会長?)

 

 

 隣を見ると俯いてプルプルと肩を震わせている会長が。まさか怒っている?

 

 

 

 

 

 

「悟志、貴様…

 

 

 

 

 

 

見苦しい言い訳をするなあぁぁぁぁっ!!」

 

 

 マズイっ!

 

 俺は咄嗟に召喚獣に横っ飛びさせる。すると

 

 

 ズバアァァァン…!

 

 

 気が付けば対戦相手二人の召喚獣の胴体が真っ二つに分かれていた。そう、会長の召喚獣の剣の一振りによって放たれた斬撃が離れた位置にいる敵をも斬ったのである。

 

 

「うそ…?」

 

「そんな…?」

 

 

「し…勝者、神条・辻井ペア」

 

 

 相手の召喚獣は当然戦死。周りが唖然としている中、我にかえった木内先生が試合終了を告げる。岩下と菊入がショックを隠しきれずにうなだれる。まあ当然だな。とりあえずトラウマにはならずに済んだかな。

 

 と思ってるのも束の間。

 

 

「待ってくれ会長! 試合はもう終わった!」

 

「黙るがいい! 今ここで貴様の怠慢を叩き直す!」

 

 

 試合終了を告げられても神条は召喚獣を操り斬撃を飛ばし、俺は召喚獣を必死に操り全て避ける。ギリギリ二桁の召喚獣であんな物を喰らったら戦死は免れない。

 

 ちなみに清涼祭の間は戦死しても補習は無い。その為、清涼祭が終わった後日に全て回されるのだ。面倒を無くすためにもなるべく戦死は避けたい。

 

 

「神条さん、辻井君、試合は終わりましたよ」

 

 

 立ち会い人の木内先生によって召喚フィールドが消された。助かったと思ったのも束の間、会長に首の後ろを掴まれ引っ張られる。

 

 

「仕方がない。校舎裏で話をしよう」

 

「あの会長? 俺、Fクラスの手伝いが…」

 

「大丈夫だ。時間は取らないから」

 

「あの~、お手柔らかに出来たりh「無理だな」ですよね~」

 

 

 もはや話し合いの余地なしと判断した俺は大人しく校舎裏まで引っ張られ説教を受けたのだった。




誰を優勝させようかな~


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召喚大会一回戦 一輝&梨子(1)

まさかコイツがAクラスとはな…。


一輝視点

 

 

 辻井と神条がなんなく初戦を制した。労いの言葉をかけようと思ったが、試合が終わって早々辻井が神条に連れていかれたため断念した。

 

 そしていよいよ俺達の出番だ。名前を呼ばれてステージに立ち、今は対戦相手を待っている。

 

 

「わくわく……わくわく…」

 

「楽しそうだな、お前」

 

 

 隣にいる相棒はまだかまだかとウズウズしている。

 

 

「そりゃあたしにとって初の召喚獣バトルだもん。一週間前から待ち遠しくて仕方がなかったんだよ?」

 

「随分と待ってたんだな。そのテンションが試合まで持てばいいけど」

 

「大丈夫大丈夫、問題なし!(グッ)」

 

「その自信はどこから出てくるんだ?」

 

 

 試召戦争をまだ一度も経験したことのない筈なのに石川梨子の顔に不安はない。

 

 

「真っ先に戦死しちゃったとしても一輝がなんとかしてくれるんだよね? だからあたしは安心して召喚獣の練習に専念できるもん。対戦相手だってレベルの近い相手になるんでしょ?」

 

「…ああ。俺達はFクラスだから初戦の相手はEクラス連中になる筈だ………多分」

 

 

 去年の召喚大会を見学し考察した結果、『初戦はなるべく同じクラス同士ではない』かつ『あまり実力差は離れていない』と、トーナメントの組み合わせは徹底されていた。

 

 だが今回は正直いうと断言出来なくなっている。辻井と神条の相手がBクラスのペアだったからだ。EとCのペアなら無難に考えればDクラスのペアになるのにBのペアは頭一つ抜き出ているように思えた。

 

 単にDクラスのペアがいなかったのか? それとも…

 

 

「…リコ。例え相手のレベルが高かったとしてもお前は今回は召喚獣の操作に専念しててくれ」

 

「りょーかい。でもある程度操作に慣れたら好きにやらせてもらうからね?」

 

 

 念のために忠告してもリコには意味がないかも知れないな。そんな事を考えていると俺達の対戦相手が発表される。

 

 

 

《対戦相手は二年Aクラス、小杉 優作(こすぎ ゆうさく)君。久保利光君》

 

 

 …………は?

 

 

「これは………面白くなってきたんじゃない!?」

 

「いきなりAクラスだとっ…!」

 

 

 隣で場違いなリアクションをしているリコを無視して俺は驚きの声をあげた。まさかの予想外の組み合わせだ。しかも…

 

 

「いきなり君達と当たるとはね…。この間の一騎討ちの借りを返させて貰おうか」

 

 

 学年次席の久保がいる。宣戦布告じみた事を言いながら眼鏡をクイッと上げている。そしてその隣には…

 

 

「この日が来るのをずっと待っていたぜ、小波」

 

 

 去年から馴染みのある男子が待ちに待ったと言わんばかりに俺の前に立つ。隣のリコが聞いてくる。

 

 

「……ねえ一輝、あいつと知り合い?」

 

「ああ、毎回しつこく野球部に勧誘してくる野球馬鹿だ。ここ最近は大人しくしてくれてたんだけどな」

 

 

 文月学園野球部レギュラー、小杉優作。Aクラスに在籍しての通り成績優秀で野球の実力も次期キャプテンの呼び声も高く、中学時代は名前の通ったスター選手である。そんな奴が何故ウチの学校にいるのかと、去年見かけた時は驚いた。しかしその理由はすぐにわかった。

 

 そして小杉は俺に頭を下げる。

 

 

「小波、この通りお願いだ。野球部に来てくれ! 『伝説のキャプテン』と呼ばれたお前がチームに入れば甲子園だって夢じゃない!」

 

 

 そう、コイツは俺が文月を受けると聞いてウチにやって来たのだ。俺と野球をする為に。それでも答えは決まっている。

 

 

「答えはノーだ。小杉、俺は高校で野球をやるつもりはない。理由は前にも話しただろう?」

 

 

 もう何度も話しているし何度も断っている。それでもコイツはーー

 

 

「……わかった。ならば勝負だ! 俺が勝ったら入部を検討してくれ」

 

 

 ーー毎回勝負を仕掛けてくるのだ。だがいつもは野球部に入れ、なのに今回は入部を考えてくれ、とはな…。

 

 

「…いいだろう。負けたら入部を考えておく」

 

「ああ、それでもありがたい」

 

 

 もっとも、負けるつもりは無いがな?

 

 

「久保、今更だけどありがとな。俺の我が儘に付き合ってくれてよ」

 

「構わないさ。実は誰とペアを組もうか悩んでいたんだ。姫路さんへのリベンジもあるしね。だから小杉君、誘ってくれてありがとう」

 

「それでは召喚してください」

 

「「試獣召喚(サモン)っ!」」

 

 

 木内先生の合図で二人は起動ワードを唱える。足下に魔方陣が展開し、そこから鎧と袴に大鎌を装備した久保の召喚獣と、侍のような格好(着物、羽織に袴)をして腰に刀を差している小杉の召喚獣が姿を現す。

 

 

「リコ、相手が相手だ。油断するなよ?」

 

「わかってるって。んじゃ、いっくよー!」

 

「「試獣召喚(サモン)っ!」」

 

 

 俺達も召喚獣を呼び出す。俺の目の前には野球のユニフォームと帽子、右手にバットを装備した俺の召喚獣が現れた。リコの方を見てみると

 

 

「海賊か?」

 

 

 青を基準とした海賊のコートを着ており、右手に曲剣を持つリコそっくりの召喚獣が立っている。

 

 

「へぇ…これがあたしの召喚獣か。いーじゃん、気に入った♪」

 

 自身の召喚獣を誇らしげに眺めているリコ。どうやらある程度戦える装備のようで内心ホッとした。

 

 そして試合開始と同時に先手必勝と言わんばかりに一体の召喚獣が敵に向かって走っていった。

 

 

【数学】

Fクラス 小波一輝 179点

Fクラス 石川梨子 216点

VS

Aクラス 小杉優作 206点

Aクラス 久保利光 387点




50ページ達成~
(^_^)∠※


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召喚大会一回戦 一輝&梨子(2)

あっけなく…


一輝視点

 

 

「何やってんのぉぉぉっ!?」

 

 

 俺は驚かずにいられなかった。何故なら試合開始早々敵に向かって突っ込んでいったのは

 

 

「突撃だぁー!」

 

 

 リコである。海賊衣装の召喚獣は真正面にいる久保の召喚獣と武器をぶつけ合っている。

 

 

「リコ! 操作に慣れるまで大人しくするように言っただろ!」

 

「もう慣れた!」

 

「早くない!?」

 

「召喚してから試合開始までの間に腕や足を動かしてみた。それだけで充分!」

 

「不充分過ぎるわ! あと学年次席相手にむやみに突っ込むんじゃーー「よそ見してんじゃねぇ!」ーーおっと」

 

 

 リコに注意している最中に小杉が割り込んできた。召喚獣の持つ刀で俺の召喚獣に斬りかかる。

 

 

「おらっ」

 

「(斬撃…)っ!? 危ない!」

 

 

 俺は小杉の一振りを大雑把に回避した。いや、してしまった。回避した後で俺はふと気付く。

 

 

(…そうだった。相手は神条じゃないんだ)

 

 

 ある程度点数が高く、剣を武器にしている召喚獣を相手にするとつい斬撃が飛んでくると警戒してしまう。

 

 …まああんな芸当が出来る奴が何人もいたら堪ったものじゃないが。

 

 今の攻撃で小杉(コイツ)にそれは出来ないと確信し、俺は反撃に動く。武器であるバットで何回か刀を受け止める、そして小杉が刀を上段に構えたスキをついて、バットで腹部を殴る。

 

 

「あっ!」

 

 

 『しまったっ!』と言うような声をあげる小杉を余所に動かなくなった小杉の召喚獣が両手に持つ刀を払い、渾身の力で頭を強打。人間なら致命傷は免れないだろうダメージを受けた小杉の召喚獣は

 

 

【数学】

 

Aクラス 小杉優作 DEAD

 

 

 当然戦死した。よし、早くリコの加勢にーー

 

 

《勝者、小波・石川ペア!》

 

 

 ーーはい?

 

 リコの加勢に動こうとして試合終了の合図が、そして実況の女子生徒が俺とリコの名を告げる。

 

 

「一輝、勝ったよー」

 

「負けた……この僕が…」

 

 

 振り向くとそこには満面の笑みでVサインを掲げるリコと両手を床についてこの上なく落ち込む久保の姿があった。

 

 

「うそ……リコ、勝ったのか?」

 

「いやー楽しかった。それじゃ、あたしは先に中華喫茶に戻るからねー?」

 

 

 俺の質問の答えになっていない返事をするリコは満足気にステージを降りていった。追いかけようとすると、近づいてくる何かを察して立ち止まる。

 

 

「小波」

 

 

 小杉だ。あんなあっけなく負けて悔しくない筈無いのにな…。

 

 

「今回は俺の負けだ。だけど俺は諦めないからなっ! 必ずお前を野球部に入れて見せる!」

 

「……負けないよ」

 

 

 時々自分が嫌になるな…。こうやって何度も挑戦を受けてしまうから面倒な事になるっていうのに…。

 

 落ち込んでいた久保も復活し、こっちに寄ってきた。

 

 

「君達には見事の一言だよ。石川さん…だったかな? 彼女、Fクラスにしては随分と高い点数だったけど一体何者だい?」

 

「そうだぜ。召喚獣動かすのだって今日が初めての筈だろ? それで久保に勝つなんて只者じゃないだろ?」

 

 

 …言われてみれば彼女はAクラス並の点数を取っていた。それに、召喚してから試合開始までのたった数十秒で操作に慣れるなんて可能なのか?

 

 俺や明久はともかく、一年時に召喚獣の操作訓練を数回行っても慣れない人は多いのに…。

 

 

「転校してきてまだ一ヶ月。アイツに関してはまだ分からないことが多いんだよ。数学だけ高いのか、Aクラスレベルなのに点数調整してわざとFに来たのか、今のところはなんとも言えないな」

 

「わざとFクラスに? そんな奴いるのか?」

 

「いるぞ。そういう連中はFクラスに何人も。俺だって、その一人だしな」

 

 

 そう言って俺は二人をステージから降りるように促す。こんなところで喋っていたら大会運営の迷惑だし、俺達三人は校舎に着くまでまで世間話で盛り上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明久視点

 

 

「………雄二。これって何かの冗談だよね?」

 

「現実を見ろ明久。正直俺も試合が終わったら運営に文句が言いたいくらいに苛ついている」

 

 

 ははは…。顔は笑っているけど頭に怒りマークがついていると思えるくらい今の雄二は怒っている事がわかる。辻井君達の相手がBクラスペア、一輝達の相手がAクラスペア、本来なら実力差が上でトーナメント一回戦で当たることはない(と一輝は予想した)相手だ。

 

 そして僕と雄二の対戦相手は運営からの嫌がらせを疑う程の組み合わせだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《三年Cクラス、芹沢 真央(せりざわ まお)さん。三年Aクラス、白瀬 芙喜子(しらせ ふきこ)さん》

 

 

 まさかの三年生のペアである。




まあ相手がAクラスでも一輝にとっては大したことはなかったと。

そして明久達の相手は意外なキャラ達。


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召喚大会一回戦 明久&雄二(1)

ここ最近なかなかベッドから抜け出せませんね(寒くて)。

あと投稿が遅れてしまいすみません。


???視点

 

 

(なぜこうなった…?)

 

 あたしは白瀬芙喜子、受験を控える高校三年生よ。まあ受験生といっても時々授業サボって屋上で昼寝している、いわゆる不良(ヤンキー)なんだけど。

 

 今日が清涼祭当日だとしてもそれは変わらない。クラスの出し物をサボって屋上で昼寝していたそんな時。知り合いに叩き起こされて無理矢理体育館に連れて来られた。

 

 そして今、召喚大会?のステージの上に立っている。

 

 

「…ねえ真央。いい加減あたしをここに連れてきた理由を教えてくれないかしら?」

 

 

 隣に立つあたしをここに連れてきた元凶に尋ねる。

 

 

「…………腕輪」

 

「腕輪?」

 

「…………かっこいい」

 

「あのねえ、全然理解出来ないんだけど? 腕輪って何なの?」

 

 

 隣にいる女は芹沢真央っていう去年のクラスメートでそれなりに交流はあった。常に無表情で何を考えているのか分からない。

 

 今だってそう。口数が少ないせいで説明が不充分。

 

 

「…………腕輪、優勝商品」

 

「優勝商品って…この大会の? で、それが欲しいってわけ?」

 

「…………(こくっ)」

 

 

 そういうことね。まったく…

 

「はあ…わかったわ。めんどうくさいけど協力してあげるわ」

 

「…………ありがとう、フッキー」

 

「その呼び方はやめて。別に礼なんていいわよ。去年同じクラスだった好みで仕方なく付き合ってあげるだけよ」

 

「…………フッキーはツンデレ」

 

「…ケンカ売ってるのかしら?」

 

 

 去年と変わらないやりとりを交わしてあたし達は召喚獣を呼び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明久視点

 

 

 対戦相手である先輩二人………とにかく強い。雄二が相手しているのは黒髪ショートヘアーの芹沢先輩。試合前に少し会話したけど口数が少なく、ムッツリーニみたいな印象を感じた。

 

 

「うおっ!?」

 

「…………外れた」

 

 

 雄二に攻撃が当たらなかったのが悔しかったみたいで、残念そうにしているのがなんとなくわかった。苦戦を強いられてはいるけど雄二はなんとか戦えている。

 

 

「くっ」

 

「へえ~、なかなかやるじゃない」

 

 神経を集中させて攻撃を避ける僕に対して余裕の表情を見せる白瀬先輩。銀髪のベリーショートの髪にウチの学園では珍しくブレザーのボタンを外してネクタイをつけていない、ヤンキーっぽい格好をした女子生徒。近寄りがたい雰囲気があったけど、さっきの芹沢先輩との会話を聞く限り悪い人じゃないみたい。それよりも…

 

 

(なぜだろう。この人何処かで会ったような…)

 

 

 白瀬先輩とは初対面の筈なのに、頻繁に会っている気がする。…何故だろうか。

 

「うわっ」

 

 急所に一撃を喰らいそうになり、少し距離を取る。そして思わず愚痴を溢してしまう。

 

 

「はは……これはちょっとキツいかな。」

 

 

 少し前の僕には召喚獣の操作に関して周り皆に勝っているという自負があった。その自負は前のAクラス戦での敗北で粉々に砕けちってしまった。

 

 次こそは勝利に貢献したい、と僕は点数を上げるための勉強や、操作性を磨くために教師の手伝い。やれるだけの事は。それでも上には上がいる…。

 

 

「雄二、これってヤバくない?」

 

「ああ、正真正銘ヤバいだろう。…よし、こうなったらあの作戦でいくぞ」

 

 

 えっ、何か策があるの!?

 

 

「いいか、作戦内容はこうだ。明久が片方を引き付けーー」

 

「ふむふむ」

 

「ーーその間にもう片方を明久が倒す」

 

「それ両方僕の仕事じゃないかーっ!」

 

 

 こんな時に自分が楽しようなんて何考えているのさ!

 

 

「…ふう、少しはいつものお前らしくなったか?」

 

「っ!?」

 

「さっきから見てたが、お前ガチガチになり過ぎだ。もう少し肩の力抜け」

 

「あ…」

 

 

 もしかして僕…

 

 

「姫路の転校の事、ずっと気にしてたんだろう」

 

 

 図星のため何も言えない。

 

 

「気持ちは分かるが、もう少し気楽にやれよ。ここで俺達が負けても一輝と石川が残っていれば目的は果たせる」

 

「雄二…」

 

「それに俺達はFクラス。相手が強いのは当たり前。緊張するくらいなら全力で戦って悔いなく負けようぜ?」

 

 

 まったく…コイツは。

 

 

「ははは、負けてどうするのさ。…そうだよね。僕たちはFクラス、最底辺だ。戦力差なんて変えられないんだし、だったらバカにはバカの戦いがあるって事を相手に教えるとするよ!」

 

「その粋だ明久」

 

 

 ありがとう雄二、おかげでいろいろ吹っ切れた。

 

 

 ここから反撃開始だ!




もうすぐで話を進められる。


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召喚大会一回戦 明久&雄二(2)

いい加減人物紹介をしたいのが本音…。

だけど順番的に優子や愛子の前に美波の紹介しなきゃダメですよね?

しかしどうせなら妹が登場した頃合いに紹介をしたいと考えてしまうんですよねー。

あと少しのガマン…。


明久視点

 

 

「おりゃああっ!」

 

 

 吹っ切れた僕に迷いはなかった。全神経を研ぎ澄まし、相手の攻撃を避けて一撃を叩き込む。

 

「くっ…なかなかやるね」

 

 

【数学】

 

Fクラス 吉井明久 29点

VS

Aクラス 白瀬芙喜子 118点

 

 

 もともと三百に近かった白瀬先輩の点数も半分以上削ることができた。とはいえ僕も攻撃を喰らいすぎて残りの点数は僅か。油断は出来ない。

 

「痛っ……!」

 

 

  今までに白瀬先輩によって攻撃された腕や足、頬に痛みが走る。観察処分者仕様の召喚獣は受けたダメージが召喚者本人にもフィードバックされるため、力のある召喚獣の攻撃は相当なものである。それでもーー

 

 

「負けるわけにはいかないんだっ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 清涼祭の出し物が決まった日の放課後。瑞希ちゃんが早々に帰宅した事を見計らって美波が馴染みのメンバーを集めたのだ。そして彼女の口から衝撃の一言が放たれた。

 

 

『瑞希ちゃんが転校っ!?』

 

『うん…やっぱりFクラスの環境は瑞希にとってーーって、アキ? 聞いてる?』

 

『…………』

 

『…………し、死んでるっ…!?』

 

『姫路の転校にショックを受けたのか!?』

 

『明久、しっかりせい!』

 

『………はっ! ここは誰? 僕はどこ?』

 

『あ、息を吹き返した』

 

『ポンコツロボットみたいな復活ですけど大丈夫なんでしょうか?』

 

『明久だし、これが正常だろ』

 

 

 周りが言いたい放題言ってるけど今はどーでもいいや。

 

 

『美波! 瑞希ちゃんが転校って、どういうことさ!』

 

『どうもこうも、そのままの意味よ』

 

『なるほどな…』

 

 何がなるほど、なの? そう思っていると察したのか雄二が

 

『両親の仕事の都合じゃなく、ただ単に設備と環境の問題か。姫路の高いレベルに対して設備は卓袱台に座布団、周りはレベルの低い連中ばかり。普通の両親なら姫路の転校を考えるさ』

 

『それに瑞希は身体も弱いから』

 

『そんな…』

 

 

 じゃあどうすれば…。

 

 

『…要は問題は二つ。教室の設備・環境と、姫路の成長を促す競争相手がいないってことか』

 

 

 一輝?

 

 

『島田。二つ目の対策なら既に練ってあるんじゃないか?』

 

『う、うん。瑞希と召喚大会に出る事になったわ。必死に頼まれちゃって』

 

『二人だけでなく、他にも何人かFクラスのペアを出場させればいい。その中の誰かが優勝すればFクラスにも刺激しあえるライバルがいるという証明になる。そうなれば競争相手の問題は解決だ』

 

 

 そうか。僕たちも出場すればいいのか。瑞希ちゃんが優勝出来なくても僕たちが優勝すれば…。

 

 

『…ただ、教室の設備に関しては喫茶店の売り上げだけではどうにもならんな。割れた窓ガラスもだが一番の問題は畳だ。以前教室を掃除した時に見ただろう? あの腐った畳の裏をーー』

 

『やめろ、思い出させるな!』

 

『あれは酷かったのう…』

 

『…………夢に出る』

 

 

 確かにあれはトラウマ物だったかな。万が一の為に女子達には見せなくて正解だった。

 

 

 

『一輝、売り上げでも無理なら設備はどうするの?』

 

『学園長に直訴するしかないな。売り上げを全額寄付してでも設備の改善をお願いするしかないさ』

 

 

 周りが頷く中、リコだけが疑問を浮かべる。

 

 

『寄付? 学校側に問題があるならそんなことしなくてもいいんじゃないの?』

 

『リコはまだこの学校を知らないんだっけ? 学校側はFクラスの設備・環境を問題視してないんだよ。競争意識を高めるという考え方から設備に差をつけているんだし、もし設備が気にくわなければ試召戦争を仕掛けて他所から奪いとれって話になるからな』

 

 

 ……あれ? そういえば

 

 

『ねえ雄二。過去に上位クラスに勝って、設備の交換じゃなく設備のランクを一つ上げる提案が通った…とか言ってたよね?

 

 僕たちってAクラスに勝ったけど再振り分け試験を保留にしてるじゃない? その権利を設備のランクアップに変えられないの?』

 

 

 僕の提案に雄二は苦虫を噛み潰したような顔をして

 

 

『それは無理だ。振り分け試験は行われたからな』

 

『はい?』

 

 

 どゆこと?

 

 

『俺達の知らない間にAクラス行きを望んだバカ共がその権利を使って再振り分け試験を受けたんだ。結果は言わなくても判るだろう』

 

 

 つまり須川君達(確定)が勝手に権利を使って振り分け試験を受け、見事に全員撃沈したということか。

 

 

『なにやってるんだよぅ…』

 

『泣くな。とりあえず学園長室に行くぞ。ついでに喫茶店をやる為の空き教室も早いとこ探さないとな』

 

 

 空き教室なんてあるのかな…? 僕ら以外のクラスは既に準備を始めてるのに…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後、雄二と一輝を連れて学園長と交渉に行った。即決で断られたりもしたけど、粘りに粘った結果、召喚大会で優勝し、商品の腕輪と交換で腐った畳や割れた窓ガラスの改善を約束してくれた。その他の備品に関しては喫茶店の売り上げでどうにかしなきゃだけど。

 

 さらに幸運な事に生徒会室を借りられる事になって僕らにとっては良い方向に話が進んでいる。

 

 一輝が言った二つの要因は召喚大会の優勝で解決する。負ければ瑞希ちゃんが転校するかもしれない。だからーー

 

 

「勝たせてもらいますよ、先輩!」

 

「…言うじゃない、やってみなさいよ!」

 

 

 余計な事を言ったかな? さらにやる気にさせたみたい。

 

 

「おっと、あぶな! ……スキあり!」

 

 

 更に集中力を上げ、攻撃を避けては一発叩き込む、を繰り返す。

 

 

 次第に点数差は縮まっていき、そして

 

 

【数学】

 

Fクラス 吉井明久 29点

VS

Aクラス 白瀬芙喜子 DEAD

 

 

 ついに相手を戦死させた。

 

 

「か…勝った」

 

「あちゃー、負けたわ」

 

 

 苦労した勝利に内心喜んでいる僕。

 

 

「終わったか明久」

 

「雄二、そっちは?」

 

「とっくに終わったぞ? 相討ちで両方戦死した」

 

「…………二人が終わるの待ってた」

 

 そうだったんだ…。芹沢先輩、少し悔しそうにしてる。

 

 

「…………腕輪、欲しかった」

 

「ごめんね真央。あたしが勝っていれば…」

 

 

 芹沢先輩は首を横に振る。

 

 

「…………フッキーはベストを尽くしてくれた。私が負けた、それだけ」

 

「その呼び方は…………まあ、今日はいっか。さ、元気出しなさい。美味しいもの奢ってあげるから」

 

「…………うん」

 

 こうして先輩達は去って行った。




今年ももうすぐ終わり。

日曜の朝と水曜の夕方辺りに投稿してますが、仕事や用事の都合で投稿が遅れることもあるかも知れません。

遅れたとしてもその日以内に投稿する事は約束しますのでこれからも応援よろしくお願いします。





それでは皆さん、よいお年を。


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校門にて

あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。


やっと地獄(説教)から解放され、校門付近でチラシ配りをしている小波を見つけた。小波も俺を見つけてこちらに走ってくる。

 

 

「辻井、遅かったじゃないか。真っ先に試合を終わらせた筈のお前がこの場にいなかったから何かあったのかと心配したぞ?」

 

「悪かった小波。試合が終わってすぐ会長達とOHANASIで盛り上がってさ。そのせいで遅れてしまった」

 

「…お話?  まあそれはともかく、これがお前の分のチラシな。よろしく」

 

「ああ。遅れた分しっかり働いてやるさ。

 

 只今、本校舎四階で営業中! 中華喫茶ヨーロピアン! ぜひともご来店くださーい!」

 

 

 何か都合のいい勘違いをしてくれた小波に心の中で感謝しながらチラシの束を貰い、元気よく大声を出して訪れた一般客に配る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一輝視点

 

 

「ふぅ~…やっと終わったな」

 

 

 チラシを配り終え、背伸びする辻井。それを見た俺は軽く笑いながらポケットから小さな瓶を二つ出してその内一つを渡す。

 

 

「お疲れ様。これやるよ」

 

「お、パワビタDじゃん。サンキューな」

 

 

 喉が渇くだろうと思って持ってきたパワビタDを受け取った辻井はすぐにキャップを開けて口に持っていった。俺も自分のを飲む。

 

 

「それにしても辻井って、思ってたよりデカイ声出すんだな。意外だったよ」

 

「ははは、昔から大声出す練習をやらされたからな。これくらいは平気かな」

 

「ふうん。何かスポーツでもやってたのか?」

 

「中学まで野球をな。結構良いとこまで行ったんだぜ?」

 

 

 辻井も野球やってたのか…。良いとこまで行ったのに高校で野球やらないのはなぜだろう? …まあ、俺も訳ありで高校で野球をやってないし。下手に深入りするのはやめよう。あ、そうそう

 

 

「そういえば試合終わった後、会長達と話してたみたいなこと言ってたけど、生徒会で集まって次の試合の対策でも練っていたのか?」

 

「いや。さっきも言った通りOHANASI、つまり説教くらってただけさ」

 

「説教? なんで? 戦死したわけでもあないだろう」

 

「点数に問題があるんだよ。数学13点、流石に皆怒るよな」

 

 

 それを聞いてなんとも言えない気持ちになった。

 

 

「数学はマジで駄目なんだよな。中学レベルの問題すらもお手上げでさ。以前神条が作ってくれた中学生の数学のテスト問題で証明された」

 

 

 ん、中学生の数学? もしかして…。

 

 

「ああ~辻井? 多分それ作ったの俺だ」

 

「はい?」

 

「先月のAクラス戦前に確かめたいことがあって、小学生の日本史のテストの作成を神条に手伝って貰ったことがあってさ。その時神条も中学生の数学のテストが必要らしくて俺と瑠璃花が手伝ったことgーー」

 

「犯人はキサマかーっ!」

 

 

 辻井は俺に掴み掛かる。え、どうしたの急に!?

 

 

「まさかあのテストを作った人間がこんな近くにいたとは驚いた…。お陰でこっちは地獄を見たというのに…」

 

「たかが中学生のテストで一体何が起きたんだ!?」

 

「数学の成績が中学生以下だと判断された俺と室町は一週間罰ゲームありのテストを放課後ずっとやらされる羽目になってな…」

 

「苦手科目のテストを一週間か。それはキツいな」

 

「それでも成績は思ったより伸びなかった。だから神条の奴、今度の定期テストで結果を出せなかったら俺を船越先生とくっつけるとか言ってくるんだよぉ!」

 

「それはキツいな!」

 

 

 数学教師、船越先生(四十五歳独身)。婚期を逃し、ついには単位を盾に生徒達に交際を迫るようになった危険人物である。

 

 実を言うと去年一度だけあの先生に迫られたことがある。好みのタイプだから、と。なんとか貞操は死守出来たが次はどうかわからない…。

 

 

「なんだ、そのー…ごめん」

 

「いいんだ、わかってくれれば」

 

 

 まさか知らない所で彼を巻き込んでいたんだな…。俺自身まったく非がないってレベルの話だけど他人事に思えない事が恐ろしい。

 

 それから少しして辻井が話を切り出す。

 

 

「さて。とりあえずこの時間帯に配るチラシは無くなったし、二回戦まで時間もあるし、一旦店に戻るか」

 

「そうだな。トーナメントの組み合わせについて明久と雄二に聞きたいこともあるし」

 

 

 そう言いながら俺達が校門を離れようとすると

 

 

「「すみません、少しいいですか!?」」

 

 

 突然の呼び止める女の子の声。振り向くと小学生くらいの女の子が二人。一人は茶髪のツインテール、もう一人の子は緑髪で頭のてっぺんのアホ毛がピョコピョコ揺れている。

 

 目を見れば俺と辻井を呼び止めた事は分かる。しかし初対面だからか、二人は俺達に対してなにやら警戒心を抱いている。俺は怖がらせないようにゆっくり近づいた後、彼女達の視線に合わせるようにその場にしゃがむ。

 

 

「どうかした?」

 

 

 少しは警戒が解けたのか、二人は互いに顔を見合せて俺の問いに答える。

 

 

「「優しいお兄ちゃん(お姉ちゃん)をさがしています!」」




久しぶりの休日…。


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小さな来訪者

二章を振り返って思ったこと。


オリ展開が雑かも知れない…。

戦闘シーンが短すぎる…。


どうにかしないと…


「お、覚えてろよっ!」

 

 

 小学生二人と共に四階に上がり、中華喫茶が見えてくる。すると突然扉が開かれ、黒髪モヒカンの生徒がまったく動かない坊主頭の生徒を抱えて走り去っていった。

 

 

「…何があったんだ?」

 

「さあ?」

 

 

 小波の問いに俺はそう答えるしかなかった。俺的には態度の悪い客を吉井と坂本が追い払ったのだと信じたい。

 

 

「は、葉月ちゃん。怖いです…」

 

「茜ちゃん大丈夫です、葉月が側にいるです!」

 

 

 先程の光景に茜ちゃんは怯えて葉月ちゃんの後ろに隠れる。そんな茜ちゃんの手を優しく握る葉月ちゃん。…なんか和むな。

 

 すぐにでも吉井と坂本、小波の四人で情報交換をしたかったが、どうやら喫茶店の現状を知るのが先決らしい。

 

 喫茶店の扉を開けた小波は、たまたま近くにいた坂本と木下に声をかける。

 

 

「ただいま戻ったぞ」

 

「一輝と辻井か、お疲れさん。一回戦はなんとか勝ったぞ」

 

「それは良かった。ちなみにさっきの二人はなんだ? まさか営業妨害か?」

 

「まさかも何もその通りだよ。さっきの二人、三年の先輩らしくてな。真ん中の席に座って大声で料理が不味いだの何だのクレーム抜かしやがったからつい…な」

 

「…ついって? 一応聞くけど何をやった?」

 

 

 うん。そこは俺も気になる。

 

 

「『パンチから始まる交渉術』、『キックでつなぐ交渉術』、そして最後に『プロレス技で締める交渉術』を実施したまでだ」

 

「…ちなみに使用したプロレス技はバックドロップじゃ」

 

 坂本の説明の後で木下が補足を入れる。聞いただけで分かりやすい、そして世界一受けたくない交渉術だな。

 

 

「それで、迷惑をかけたお詫びに今いる客の頼んだ品を半額にしている」

 

「いいのかそれで?」

 

「料理も好評だから問題ない。客達も悪いのは向こうだと言ってくれている。さて、次は…」

 

 

 そう言いながら俺と小波の側にいる少女二人に目をやる。

 

 

「チビッ子二人の説明をしてもらう」

 

「ああ、この子達はーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「葉月(茜)達、優しいお姉ちゃん(お兄ちゃん)を探しているです! 知りませんか?」」

 

 

 店内での立ち話は迷惑な為、俺と小波と坂本、木下は一度喫茶店の外に出てツインテールの女の子、島田 葉月(しまだ はづき)ちゃんと、緑髪でアホ毛が特徴の高坂 茜(こうさか あかね)ちゃんの話を聞くことに。

 

 ちなみに葉月ちゃんはFクラスの島田美波の妹らしい。

 

 

「成る程。二人とも以前困ってるところを助けてくれた優しいお兄さんとお姉さんに会いたいんだな?」

 

「「はい(そうです)っ」」

 

 

 話を聞いた坂本がまとめた結論を言うと二人は同時に肯定の返事をする。

 

 

「じゃあ島田妹。今お前が探しているお姉ちゃんはウチのクラスの島田美波じゃないんだな?」

 

「はいですっ。葉月のお姉ちゃんに会いに来たのもありますけど、前に困っているところを助けてくれた優しいお姉ちゃんにもお礼を言いたいですっ」

 

「そうか…。で、そっちのチビッ子はお兄さんを探していると? 家族の兄じゃなく?」

 

「はい、茜も去年この学校に通う優しいお兄ちゃんに助けて貰いました。ですからお礼をーー」

 

 

 途中で言うのをやめた茜ちゃんは表情を明るくする。彼女が見ている方向から一人の男子生徒が二人の女子に挟まれて歩いていた。

 

 

「休憩用のジュース、これだけあれば足りるよね?」

 

「ありがとねアキ。ジュース運ぶの手伝ってくれて」

 

「いいよいいよ。女の子二人だとキツいでしょ?」

 

「それでも嬉しいですよ、明久君」

 

「ははは……ん? 雄二に一輝に秀吉に辻井君?廊下で集まってなにして「おにーちゃーん!」んんっ!?」

 

「「えええっ!?」」

 

 

 吉井を見つけるなり正面から抱きつきに行った茜ちゃん。抱きつかれた本人だけでなく隣にいる姫路と島田も驚いてショックを受けている。

 

 

「………って、君は茜ちゃん? 久しぶりだね!」

 

「茜を覚えていてくれたですか?」

 

「もちろんだよ。リンさんも元気にしてるかな?」

 

 

 どうやら茜ちゃんの探し人は吉井だったらしい。これで問題解決。

 

 

「あれ? 葉月じゃない。どうしてここに?」

 

 

 一時的なショックから解放された島田は妹がこの場にいる事を問う。

 

 

「お姉ちゃん、その格好似合ってるです!」

 

「えっ、そう。ありがと」

 

 

 妹にチャイナ服姿を褒められて嬉しそうな島田。それを他所に俺は吉井と何かを話している姫路を見ながら島田妹に聞いてみる事にした。

 

 

「ねえ葉月ちゃん。君が探しているお姉さんって、もしかしてあの人?」

 

 

 葉月ちゃんは姫路を見た後首を横にふる。

 

 

「違うです。葉月が探しているお姉ちゃんはポニーテールで眼鏡を掛けている人です」

 

「ポニーテールに眼鏡か…」

 

 

 残念ながら心当たりがないな…。まあウチの学校の生徒だし、何処かに居るだろう。




一ヶ月以内にちょっとした実験をやるつもりです。

それの準備が出来たらの話ですが。


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会議

一章が三十話くらいでしたからね。

二章は倍くらいになりますか。


 商品が半額となり満足した客全員が店を去った後、客の少ない時間を見計らって召喚大会に参加するFクラスと生徒会役員による会議を行われている。ただし今いる生徒会メンバーは俺と室町だけである。

 

 

「当然、明久と雄二も勝ったよな」

 

 

 小波の確認に対して吉井は苦笑いで答える。

 

 

「ギリギリだったけどね…。瑞希ちゃんと美波は?」

 

「こちらも勝ちました」

 

「楽勝よ」

 

「「いえーい!」」

 

 

 ハイタッチを交わす二人。そんな二人を微笑ましく見ている吉井。

 

 

「全員無事に一回戦を突破、出だしはいい感じだね~。上手く行けば決勝はあたし達で独占出来るかもね」

 

 

 石川の発言に吉井や室町、姫路、島田のテンションが上がる。しかし小波、坂本は何も言わず考える素振りを見せる。

 

 

「ん? 一輝、雄二。どしたの?」

 

 

 気になった石川が二人に問う。

 

 

「…ああ。今回のトーナメントの組み合わせ…」

 

「何か裏があるような気がしてならない」

 

「裏? なにそれ?」

 

「今はまだなんとも言えん。とにかく皆、二回戦も気を引き締めるようにな」

 

 

 小波が全員にそう告げる。まあ油断するつもりは毛頭無いが。

 

 

「が、頑張ります!」

 

 

 転校が掛かっている以上、姫路も気合い充分だ。ちなみに彼女の転校の話は試合の後で会長から聞いた(会長達女性陣は清涼祭前に聞いたらしい)。姫路の目的は大会の優勝だけど、その問題はFクラスの誰かが優勝すれば白紙になる。

 

 それに賞品である腕輪の欠陥を公にしないことを考えると何としてでも彼女の優勝は阻止しなければならない。

 

 腕輪の件を知っているのは俺と生徒会メンバー、小波、吉井、坂本だけ。そこに姫路を加えてもいいが、点数をわざと低くして決勝で戦うなんて真似、例え優勝出来たとしても両親の評価を下げるだけだ。

 

 

(小波か吉井、どちらかのペアの優勝が一番の理想だな…)

 

 

 清涼祭前に屋上で小波達と協力関係を結んだ時から状況次第では優勝を捨てる事も考えていた。あくまで生徒会の目的は腕輪の欠陥を公にしないことだ。

 

 

「坂本~、客が増えてきた。ヘルプ頼む~」

 

「さて、いつまでも秀吉やムッツリーニ達に任せるのも悪い。仕事戻るぞ」

 

 

 名前の知らないFクラス男子の一言を聞いてパンパンと両手を叩き、この場はお開きだと告げる坂本。全員が仕事に戻るなか、チラシ配りをしていた俺と小波は

 

 

「一輝、辻井。お前達も接客に入ってくれ。次のチラシ配りは昼からだ」

 

「「了解」」

 

 

 こうして俺達も仕事に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一輝視点

 

 

「一輝。三番テーブルにこちらをお願いします」

 

「任せておけ」

 

 

 厨房で瑠璃花から烏龍茶と胡麻団子を受け取り、指定のテーブルへと持っていく。そこにいたのは

 

「お待たせしました。本格烏龍茶と胡麻団子です」

 

「うむ、ありがとうでやんす」

 

 

 …やんす?

 

 

「こっ…これは美味いでやんす、サイコーでやんす!」

 

「そうですか、ありがとうございます」

 

 

 眼鏡を掛けスーツを着た男性。珍しい喋り方だがこれといって可笑しいわけでもないので普通に接することにする。

 

 

「君、確か召喚大会に出てたでやんすね?」

 

「え? はい、そうですが」

 

 

 あれ? 召喚大会は三回戦までは一般公開は無いから部外者は俺達の試合はまだ見れない筈。………ああ、そういう事か。

 

 

「あなたは学園の職員なんですか?」

 

「察しがいいでやんすね。オイラはつい先日から教頭に任命された亀田 光夫(かめだ みつお)でやんす。以後よろしくでやんす」

 

「教頭? 竹原先生はどうなったんですか?」

 

「彼は健康上の理由で退職したでやんす。そして臨時教頭としてオイラが学外からやってきたのでやんすよ」

 

 

 マジか、竹原辞めたんだ。…まあ観察処分者の明久を見下すし、成績で生徒に対する態度がコロコロ変わるし、居なくなって精々した。

 

 せめて目の前にいるこの人はマシであって欲しいと願い自己紹介をする事に。

 

 

「そうでしたか。自分は二年Fクラスの小波一輝と言います。何卒御教授願います、亀田先生」

 

「こちらこそよろしくでやんす、小波くーー」

 

 

 突然、亀田先生の口が止まった。

 

 

「亀田先生? どうかしましたか?」

 

「…小波君」

 

「はい」

 

「…変なことを聞くでやんすけど…君の父親の名前は、何て言うでやんすか?」

 

 

 何を聞かれると思ったらまさかの親父の名前? う~ん……別に隠す必要はないしな。

 

 

「俺の父はーー」

 

『んゴパっ』

 

『大変! アキが瑞希の淹れたお茶を飲んで倒れたわ!』

 

『…姫路さん、どんなお茶の入れ方をすればこうなるんですか?』

 

『明久君、しっかりしてください!』

 

「ーーですよ?」

 

 

 厨房の方が何やらやかましかったが、気にせず父の名を教えた。

 

 

「は、はは…」

 

 

 変な笑い方をする亀田先生。

 

 

「そうでやんすか…」

 

 

 肩の力を抜いてガクッと俯く。一瞬見えたのだが、下に向けた際の先生の顔は笑っていた。ホッとしたような、嬉しそうな、そんな顔だった。

 

 

「ありがとうでやんす。また食べにくるでやんすよ」

 

 

 しばらく俯いていた先生は顔を上げて烏龍茶の残りを飲んで席を立つ。

 

 

「ごちそうさまでやんす」

 

 

 代金を払って店を出たのだった。




亀田の反応の意味は…。


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最悪に備えて※

【登場人物紹介】

島田 美波(しまだ みなみ)

 二年Fクラス所属の女子生徒。ドイツ育ちの帰国子女。スタイルのいい体型だが貧乳であることがコンプレックス。妹の葉月を溺愛している。

 日本語で会話をすることはできるが、漢字はまだ苦手。読み書きも不得手でこれは学業成績にも反映されており、本来ならBクラス以上の学力を持っているが、漢字が読めないため問題文を理解できず、ほとんどの教科の点が低い。ただし証明問題以外では漢字を使わない数学は得意で、Aクラスにも引けを取らない。理系科目も数学ほどではないものの点数は比較的高い。

 明久とは一年生のときからのクラスメイトで、入学当初は日本語でうまく会話ができずクラスで孤立する中、不器用ながらも明久が自分と接してくれたことがきっかけで親しくなる。


バカテス原作との相違点
・明久に対する暴力が少なくなっている。

・南雲瑠璃花の影響を受けて、明久に対する気持ちが多少素直になっている。








【登場人物紹介】

島田 葉月(しまだ はづき)

 美波の妹で小学五年生。姉と違って日本語も堪能。お姉ちゃん子で人懐っこい性格。


バカテス原作との相違点
・物語開始以前に明久とは関わっていない。


《勝者、神条・辻井ペア!》

 

 

「なんだと~っ!」

 

「そ、そんなぁ~っ!」

 

 

 召喚大会の二回戦。俺と神条は難なく勝利した。対戦相手はEクラスのペア、俺のクラスメート達だった。そして、戦ったのは召喚獣の筈なのに相手の二人は激戦を繰り広げた後のようにボロボロな状態で倒れている。…何故?

 

 

 

「ふっ…どちらが勝ってもおかしくない名勝負だったぞ」

 

 

「どの口が言うんだよ…」

 

 

 一回戦の時の黒子の姿ではなく、制服姿の神条に聞こえない声でツッコむ。わかっていると思うがホントにコイツは情け容赦がない、それだけ言えばどんな戦いになったか想像できるだろう。開戦真っ先に狙われた奴が憐れでならない。

 

 ちなみに俺も武器である鉄の棒で相手を叩きまくって何とか勝てた。意外となんとかなるものだな。

 

 

『つ、辻井…。キサマは悪魔だ…』

 

『対戦相手をここまで痛めつけるとは…なんて非道な奴…』

 

 

 おかしい。戦ったのもトドメを刺したのも殆ど神条の筈なのに何故か俺に怒りの矛先が向けられている。無視して喫茶店に戻ろうと歩を進めると神条に捕まった。

 

 

「待つんだ悟志。カズとアカリを交えて今後について話がしたい。一緒にCクラスまで来てくれないか?」

 

「…あまり時間は取れないぞ?」

 

 

 昼前ということもあって喫茶店が混み始め、試合が終わったらすぐ戻るよう坂本にも言われてるからな。

 

 

「感謝する。…急ぐぞ」

 

 

 こうして俺たちは体育館を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま戻ったぞ」

 

「お疲れさん」

 

「お疲れ様」

 

 

 Cクラス前の通路で待っていた大江と浜野がこっちに気付き近づいてくる。

 

 

「で? サトシ、結果はどうなん?」

 

「もちろん勝った。そっちは?」

 

「当然、勝ったわよ」

 

「負けるわけないやろ」

 

 

 Fクラス組だけじゃなく、生徒会組も順調に勝ち進んでいる。ちなみに生徒会組の参加者は俺と神条ペア、大江と浜野ペアの二組が参加している。

 

 

「さて、四人揃った事だし会議を始めよう」

 

 

 神条が場を仕切り出す。

 

 

「私達は無事に二回戦を突破。Fクラスのメンバーも全員勝ち抜いた今、これで三回戦に進出した十六組の中に我々五組が入った事になる」

 

「充分な快挙やな」

 

「しかし、この先も五組全員が勝ち進めるとは言えない。そろそろ我々の誰かがぶつかる事もあり得るだろう」

 

「トーナメントだから当然か」

 

「だからこそ今の内に伝えておこうと思う。最悪のケースに直面した時の対応についてを…な」

 

「最悪の…ケース?」

 

「まず我々の目的は…一つ、姫路の転校を阻止する。その為にFクラスのペアを優勝させる。二つ、腕輪の暴走を阻止する為に低得点者のペアを優勝させる。この両方を満たす為にすべき事は、姫路及び、我々生徒会組が優勝しないことだ。つまり小波か吉井のペアを優勝させる」

 

「せやけど、そう上手く事は進まんとちゃうん? 今回は三年が予想以上に多いし、その理想は強引やなぁ…」

 

 

 大江が若干弱気なのをよそに神条はとんでもない事を言い放つ。

 

 

「だからこそ、他クラスのペアに優勝の芽が出た場合は…決勝戦の前に秘密裏に腕輪を破壊する事を考えている」

 

 

「「「はああっ!?」」」

 

 

 流石に大江と浜野も驚かざるを得ない。いつも以上の神条(コイツ)のとんでも発言に。

 

 

「…一体何を驚いている? 腕輪の欠陥が世間にバレたら最悪学園の存続に関わるのだぞ? 運の要素が絡む試召戦争で計画通りに事が運ばない可能性がある以上、今すぐにでも破壊してしまうべきだろう」

 

「待って会長! 腕輪の破壊なんて一体誰がやるの!?」

 

「もちろん、実行犯には私がなる。バレなければ良いが、最悪私一人の退学(クビ)でどうにかなる」

 

「いや待て神条、いくら何でもそれはーー」

 

「安心しろ、あくまで最後の手段だ。決勝戦に小波ペアと吉井ペアが勝ち進めばいい。またはそのどちらかと生徒会の誰かが勝ち進む事だ。そうなったら我々はわざと負ければいいんだからな」

 

 

 淡々と話を進める神条。

 

 

「とにかく、決勝のカードが今言った以外の組み合わせになったら、腕輪の破壊に動く。学園の存続と私一人の首、天秤にかけるまでもない。以上を以て会議は終わりだ。悟志、喫茶店に戻るといい」

 

「おい待て!」

 

 

 俺の制止の声も聞かず神条はCクラスに入っていった。

 

 

「おいおい…。アイツ本気で言ってるのか?」

 

「でしょうね。前々から他人の為に自分を犠牲にする所があるから…」

 

「だからって…」

 

 

 ありえないだろ、こんなの…。

 

 

「サトシ、こうなったらやるしかあれへん。会長がそんな愚行に走らなくてもええように頑張るしかないで」

 

「カズの言う通りね。流石の私も今回に関しては会長を止めるわ」

 

 

 大江…浜野…。

 

 

「…そうだな」

 

 

 考えた所で仕方ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 この件が片付いたら今度は俺が神条に説教してやる。




姉妹一緒に紹介。


説明がごちゃごちゃかもしれません。

時間見つけておかしいところは直していきます。


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打開策

風邪を引きました。


明久視点

 

 

「…………大丈夫か、明久」

 

「な、なんとか峠はこえたよ…。もう大丈夫」

 

 

 場所は厨房。隣で一緒に団子を作っているムッツリーニが時々気にかけてくれる。瑞希ちゃんの淹れたお茶を飲んで倒れた僕はすぐに復活し、作業に励んでいる。

 

 いい加減耐性でも付いたのかな?

 

 

「…………召喚大会の方は順調か?」

 

「うん。一回戦に比べると二回戦は楽に戦えたからね。順調だよ」

 

「…………そうか。そんな明久に朗報だ」

 

「ん? なにかな?」

 

 

 ムッツリーニが僕に朗報とは。勿体振らずに早く教えて欲しい。

 

 

「…………木下優子と工藤愛子も大会に参加している」

 

「…え? あの二人も参加してるの?」

 

「…………(コクッ)」

 

 

 ここにきて思わぬ強敵が現れたか…。特に優子さんとは前の一騎討ちで負けてるから当たればリベンジのチャンスだ。愛子ちゃんとも戦ってみたいしね。

 

 

「あれ? となると霧島さんは誰と?」

 

「…………霧島翔子はエントリーしていない」

 

「なんで? やる気充分だったじゃん」

 

「…………ペアを組みたかった雄二が明久と組んでしまったからだ」

 

「…なんか、悪いことしちゃったかな」

 

 

 そういえば雄二と出るみたいな事言ってたっけ? こちらの事情でそれが叶わなくなったということか…。

 

 

「近いウチに埋め合わせしないとね」

 

「…………それがいい」

 

 

 そんなこんなで胡麻団子は完成した。うん、我ながら良い出来だね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ? 誰もいない」

 

 

 喫茶店に入ると、客が一人もいなかった。さっきまで結構いたのに…。

 

 

「雄二~? 客がいないんだけど?」

 

「明久か、俺もよくわからん。急に客足が途絶えてな。今その原因を探っている」

 

「明久お兄ちゃ~ん!」

 

 

 後ろから可愛い声が近づいてくる。そして声の主は後ろから抱きついてきた。

 

 

「茜ちゃん」

 

 

 声の主は茜ちゃんだった。振り向くとそこにはなんとチャイナ服を着た彼女の姿が。

 

 

「似合ってるじゃないか。その服どーしたの?」

 

「はい、茜と葉月ちゃんも店を手伝うって言ったら康太お兄ちゃんが茜達の服を作ってくれたです」

 

「ムッツリーニ…。君はよく働いてるよーー」

 

 

 厨房から一緒にいた筈のムッツリーニがいない。どこに行った?

 

 

「ああ、ムッツリーニなら情報収集にいったぞ。さっき言った、客足が途絶えた原因を探しにな」

 

 

 僕の疑問を察した雄二が答える。ムッツリーニ…君は仕事をし過ぎ。過労死だけはしないでね?

 

 

「さーて、客がいないならいないで仕方がない。明久も休めるときに休んどけよ」

 

「うん」

 

 

 そう返事をしてさっき休憩ように買ったジュースの缶を手に取る。

 

 

「そういえば一輝と辻井君がいないね」

 

 

 見渡すと客のいない店内で休んでいる中に二人の姿が見当たらない。そこにひょこっと現れたチャイナ服姿の室町さんが答える。

 

 

「辻井ちゃんは知らないけど、小波ちゃんは大会参加者の情報を集めるためにあちこち回ってるみたいだよ?」

 

「情報?」

 

「俺が許可したんだ。今回の召喚大会はいろいろと不確定の要素が多いからな。トーナメント表すら無いから、いつ誰と当たるかも、どの教科で戦うかもわからないんだ。せめて誰が勝ち残っているのかを知ってた方がいいだろう?」

 

 

 雄二の言いたいことはなんとなくわかった。雄二も一輝と同じ考えだからこそ許可を出したんだろうし。

 

 

「…さて、もうすぐ三回戦なんだが、その前に明久にやってほしいことがある」

 

「やってほしいこと?」

 

 

 なんだろう。そう思っていると雄二が右手に持っているそれを僕の目の前に突きつける。これは

 

 

「…チャイナ服だよね?」

 

「そうだ。チャイナ服だ」

 

「…あのさ、意図が読めないんだけど?」

 

 

 説明をお願い。

 

 

「召喚大会二回戦が終わった後くらいからだな。少しずつ客が減ってきている」

 

 

 確かに。一時期満員だった喫茶店が数えるくらいしかいない。

 

 

「昼になったら一輝と辻井にもう一度チラシを配りに行かせる。だがそれだけじゃ足りない。だから…」

 

「だから?」

 

 

 なんだろう…、嫌な予感がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前もコイツ(チャイナ服)を着て「いやああああっ!」」

 

 最後まで聞く前に悲鳴をあげる僕。嫌な予感が現実になったじゃないかっ! 前に一度セーラー服を着せられたけどあんな思いは二度と御免だ!

 

 此処から逃げる為、出入口へ走ろうとするも

 

「なっ!?」

 

 

 遅かった。喫茶店から出ないように須川君含む数人が扉の前に立ち塞がっている。ならば

 

 

「念のために窓は全部鍵をかけたからな?」

 

 

 雄二め…。僕にチャイナ服を着せるために色々と準備してたんだね。何もかもがキサマの掌の上だったというのか!?

 

 

「三回戦から召喚大会は一般公開される。お前にはこれを着た姿で観客に挨拶して欲しい」

 

 

「大勢の前で恥をかけと!? 出来るわけがないよ!」

 

 

 悔しさのあまり拳をフルフルと握りしめていると両肩に感触が。

 

 

「ふふふ。大丈夫ですよ、明久君」

 

「アキ、安心しなさい」

 

 

 瑞希ちゃんと美波が僕の肩に手を置いていたのだ。そしてニッコリ笑顔で

 

 

「「絶対に似合って(います・る)から」」

 

「誰か助けて! このままだと僕の黒歴史に新たな一ページが刻まれちゃう!」

 

 

 ちくしょー! 二人とも、逃げられないように僕の腕をしっかりホールドしている!

 

 

「秀吉、助けて!」

 

「明久よ。ワシと一緒に落ちようぞ」

 

 

 駄目だ、今回秀吉は味方じゃない! ならば石川さんに

 

 

「さあ~て、面白そうだからあたしも混ざるね♪」

 

「石川さああんっ!」

 

 

 なんで!? 僕なんかの女装を見たところで面白くなんかないじゃないか!

 

 

 

「さ、チビッ子二人はしばらく廊下に出ていような」

 

「「はぁ~い」」

 

 

 嬉々として教室を出ていく小学生二人。もしかして君達もグルなのか!? お願いだ、僕も連れていってくれ!

 

 

「南雲さん! 室町さん! 君達は味方だよね? 助けてくれるよね!?」

 

 

 君達が最後の希望だ!

 

 

「…一輝の友人である貴方を助けたい気持ちはあります。けどーー」

 

「私は君の敵じゃないよ。でもねーー」

 

 

 そして申し訳なさそうな顔で

 

 

「「私たちではどうすることも出来ません。本当に(すみません)ごめんなさい」」

 

「…………」

 

 

 嫌だな、泣いてないよ。

 

 

「アキ…」

 

「明久君…」

 

「ちょ~っとくすぐったいからね♪」

 

「いやああああああああっ!」

 

 

 両隣で笑顔を絶やさない瑞希ちゃんと美波、チャイナ服を手ににじり寄ってくる石川さんから逃れられる事が出来ず、客のいない喫茶店にはしばらくの間僕の叫びが響き渡った。

 

 

『わあ………惨いね、あれ』

 

『この光景は一輝には見せられませんね…』

 

 

 連中に服を脱がされる僕から離れた場所で、女子二人は申し訳なさそうに無関係を貫くのだった。




昨日の夜から熱でダウン
(ー_ー;)

投稿しようにも頭が働かず、日曜は珍しく仕事が休みというのもあって早朝は起きる事なくぐっすり寝てました。
(。-ω-)zzz

目が覚めたのは夕方。多少気が楽になったため、書き上げた次第です。


せっかくの機会なので、ここまでの話を整理する為、次回の投稿は日曜日となります。


最後に
この作品を読んでくださる学生及び社会人の皆さん、体調管理に気をつけてくださいね。


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素直※

【登場人物紹介】

室町 しのぶ(むろまち )

 二年Eクラス所属で生徒会会計を務めている女子生徒。親を早くに亡くし、現在は学園近くの親戚の家で暮らしている(関係は良好)。学費と自立の為にバイトをいくつか掛け持ちしており、ここ最近(清涼祭の時点で)は着ぐるみのバイトを始めたらしい。

 神条紫杏とは一年の時に同じクラスであり、その縁もあって生徒会に勧誘された。ちなみに会計になった理由はお金の計算が出来るから。

 学力はFクラスレベルで、振り分け試験は鉛筆を転がした結果Eクラスとなった。同じ手段でEクラスに入った辻井悟志とはそれで意気投合した。

 気を許した相手を『ちゃん』付けで呼んでおり、生徒会メンバーは名前で呼んでいる。ただし、悟志に関しては名前呼びを断られてしまい苗字で呼んでいる。


明久視点

 

 

「はあ…まさか三回戦の相手が貴方達になるなんてね」

 

「ははは。そういうわけだから勝ちは貰ったよ、小山さん?」

 

「まだよ! 相方の黒崎があなた達二人を倒せば私達の勝ち!」

 

「それはそうなんだけどさ。黒崎君…だっけ? 彼もう虫の息なんだけど。ほら」

 

 

 僕の指差す方には、雄二の召喚獣によってフィールドの端へ追い詰められ、さらに点数もあと僅かとなった黒崎君の召喚獣がいた。

 

 

「くそっ」

 

 

 そんな状況でも諦めず召喚獣に武器を構えさせる黒崎君。見上げた根性だ。

 

 僕達の三回戦の相手はまさかのCクラス代表の小山さんと同じCクラスの黒崎君、前のCクラス戦以来の対戦だ。とは言っても僕も雄二も二人と戦ったことはないけどね。

 

 ちなみに小山さんは既に僕が戦死させた。あとは黒崎君だけなんだけど雄二が一対一(タイマン)を望んだ為、邪魔にならない場所で小山さんと雑談している。

 

 

「それで吉井君? なんで貴方はまた女装しているのよ? しかも今度はチャイナ」

 

「…Fクラスだから仕方がないんだ…!」

 

 

 悔し涙を流しながらも答える。クラスの皆が僕を捕らえて無理矢理…。しかも今回は秀吉まで敵に回るとは…………解せぬ!

 

 

「…可哀想にね。今後もそういった事をされそうになったらCクラスに逃げていいわよ? 匿ってあげるわ」

 

「うう…ありがとう、小山さん」

 

 

 君はなんていい人なんだ…!

 

 

「ぐあっ」

 

 

 そして今、雄二の召喚獣が黒崎君の召喚獣にトドメを刺した。

 

 

【現代社会】

 

Fクラス 坂本雄二 184点

VS

Cクラス 黒崎トオル DEAD

 

 

《勝者Fクラス吉井、坂本ペア! 素晴らしい戦いでした。いや~正直な話私としては自分のクラスの代表に勝ってほしかったので少し悔しいところです。皆さん、四回戦に進んだFクラスペアに大きな拍手を!》

 

 

 司会を務める女子生徒はCクラスの新野 すみれ(にいの )さん。若干身内贔屓なところはあったけど最後に観客の拍手で締めてくれた。

 

 

「ふう…なんとか勝てたぜ」

 

「お疲れ様、雄二」

 

 

 戦いを終えてこっちに来る相棒に労いの言葉をかける。

 

 

「吉井君、坂本君。こうなったらなにがなんでも優勝してよね。影ながら応援するわ」

 

「もちろんだよ。そしてありがとう、頑張るよ」

 

 

 小山さん達と別れて喫茶店に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美波視点

 

 

 召喚大会三回戦。ウチは今、最悪な状況に陥っている。科目が現代社会というのもあるけどそれよりもっとヤバいことが…

 

 

【現代社会】

 

Fクラス 姫路瑞希 344点

Fクラス 島田美波 17点

VS

Dクラス 清水美春 96点

Dクラス 玉野美紀 83点

 

 

「なんでアンタが参加してるのよおおおおおっ!!」

 

「お姉様が行くところなら、美春はどこにでもいますわ!」

「うるさいこのストーカー!」

 

「愛のストーカーですわ」

 

 

 対戦相手の清水美春は去年からの知り合い。ウチの事を結婚したい意味で愛しているかなり危険な娘。

 

 ここ最近距離を置いていたせいか鼻息荒く暴走気味な彼女を見て鳥肌が止まらない。

 

 

「み、美波ちゃん。私は玉野さんの相手をしますから清水さんの相手はお願いしますね?」

 

「ちょっと瑞希!? 友達を即売り飛ばすってアンタどういう神経してるのよ!」

 

 

 非常な行動を取るクラスメートを批難する中、瑞希はウチにしか聞こえない声でボソッと

 

 

(大丈夫です。素早く玉野さんを倒してそちらに加勢しますから、美波ちゃんはなんとかして粘ってください)

 

(瑞希…。わかったわ)

 

 

 話し合いを終え、瑞希は玉野さんの召喚獣に突っ込んでいく。玉野さんは遠距離から弓を放ってくるため、なかなか近づけないでいる。頑張れ瑞希…! そしてウチは…

 

 

「さあお姉様。大人しく美春に敗れて保健室へ参りましょう」

 

 

 前にも同じような事があった気がする。負けたら保健室に連れていかれる。そうなったら…

 

「お断りよっ!」

 

 

 サーベルを片手に美春の召喚獣に斬りかかる。向こうはサーベルよりも丈夫な片手剣。簡単に受け止められる。だからといってそれで負けるわけじゃない。例え点数が一点でも攻撃を避け続ければ負けないわ。

 

 

「お姉様。随分と操作が上手になりましたね」

 

「ふっふ~ん、だてに試召戦争を重ねた訳じゃないわ」

 

 

 戦果を挙げられたかどうかは別として、これが今のウチの実力よ? というように鼻で笑う。

 

 

 

「なぜですのお姉様! 大人しく負けてくだされば美春が新しい世界に連れていって差し上げるというのにっ!」

 

「余計なお世話よ! ウチには心に決めた人がいるって去年話したでしょ!」

 

「ぐぬぬ……やはりお姉様は吉井明久が良いのですか!? あの男のどこがいいのです!? 複数の女と関係を持つ女の敵のどこがーー」

 

「アキの事を悪く言わないで! とにかくウチはもう決めたのよ! 後悔しないために自分の気持ちに素直になるって! だからーー」

 

 

 ズバアアンッ

 

 

 ウチの邪魔はしないで、と言おうとした瞬間、美春の召喚獣の上半身と下半身が分断された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 瑞希の召喚獣によって。

 

 

《勝者、姫路&島田ペア》

 

 

 客席からの歓声が体育館に響く。ウチは隣に立つ瑞希に問いかける。

 

 

「玉野さんに勝つの早くない?」

 

「間に合って良かったです」

 

 

 そう…ありがとね、とだけ言ってウチは美春に近づく。玉野さんだけでなく美春も負けたショックからか、座りこんでいる。

 

 

「美春。アンタが男嫌いなのは知ってるわ。でも、だからといって男が全員美春が思ってるような連中とは限らないでしょ?」

 

「お姉様…」

 

 

「だから美春。アキがどういう人なのか、美春自身の目でしっかり確認しなさい」

 

「……はい」

 

 

 ステージを去っていく美春の背中を見ながら願う。どうか美春の過剰なまでの同性愛が少しでもマシになりますように…と。

 

 しかしウチは後々に後悔することになる。親切心で言った美春へのこの言動がとんでもない事態を招く事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても美波ちゃんは凄いですね」

 

「き、急にどーしたのよ瑞希」

 

「だって周りに人が大勢いる中で好きな人がいる宣言したんですよ?」

 

「………へ?」

 

「観客のほとんどがニヤニヤしてましたよ? 明久君は既に会場を去ったから聞いてないと思いますけど」

 

「………」

 

「召喚大会の映像は清涼祭終了後に映研(映画研究部)の皆さんが編集して欲しい人に売るそうですよ。

 

 …さっきの映像と声、残るといいですね?」

 

 

 …そうだったわ。三回戦からは一般客も見ている。とはいっても満員というわけじゃない。それでもステージの上であんな事を…。

 

 想像したら

 

 

「あばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば」

 

 

 ばたんっ

 

 

 恥ずかしさと動揺で気がついたらウチは気を失っていた。

 

 

 そして誓った。目か覚めたらすぐに映画研究部に行こう。映像を削除してもらわなきゃ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三者視点

 

 

 誰もいない通路で清水美春は呟く。

 

 

「知っていますわ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの男が悪い人じゃないなんて…

 

 

 

 

 

 

 

 

知っているに決まってるじゃないですか…」




仕事が忙しくなってきました。

風邪は治りましたが、無理せず更新していきたいです。


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