ハリーポッターと黒き御方 (bytheway)
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プロローグ

小説初投稿です。

思いつきではじめたので展開未定。


イギリス、ロンドン。

ウェスト・ブロンプトンに一際目立つ豪勢な屋敷がある。

屋敷の主である老人は革張りのソファーに深く腰掛けながら、太陽が真上にある時間だというのにワイングラスを口元に運ぶ。

ズラリと並んだ本棚には大量の書籍と共に多くのトロフィーや勲章が飾られていることからこの老人が相当な名士であることを教えている。

老人の向かいには、20代中頃の青年が酷く緊張した顔で座っていた。

 

「そんなに緊張しないでくれ」

 

そんな青年の様子に苦笑する老人。

 

「無茶を言わないでください。かの英雄と話をする機会など新人の私には荷が重すぎます」

 

青年は日刊預言者新聞に勤める若手記者の一人だった。上司から一つ記事を書くことを指示された彼は、かねてから興味のあった魔法大戦について取材を行っていた。

 

「あの魔法界を二分した魔法大戦が終結してから今年で60年を迎えます。大戦を戦った魔法使いの多くはすでに亡くなっていますので、ダメもとであなたに取材をお願いしたのですが、まさか応じて下さるとは思っていませんでした」

 

60年前にイギリス全土を巻き込んだ魔法大戦は未だに謎が多く、歴史学者の頭を悩ませていた。この老人は大戦を最前線で戦った英雄であるため、多くの歴史学者が彼のもとに取材を申し込んだが、その全てを拒否していた。しかし、特に売れっ子の記者でもなく、実績もなにもない青年からの取材申し込みには、すぐに快諾の返事を出したことに青年は疑問を抱いていた。

 

「なに、プロパガンダは御免だが、若い世代にあの戦争のことをを伝えるのは大歓迎なだけだよ。なにぶん偏屈爺なものでね」

 

そう言って朗らかに笑う老人は、一見すると人の良い好々爺にしか見えない。しかし、彼の功績は英国では誰もが知り、称えるほど偉大なものだ。なにせこの老人は、戦争で活躍した英雄であると共に、その功績で最年少で魔法大臣に就任し、甚大な被害を受けた魔法界を僅か数年で建て直した偉大な魔法使いその人なのだから。

 

「それではお言葉に甘えて…」

 

青年は鞄から羊皮紙と自動筆記ペンを取り出す。

 

「2059年4月4日。取材者、ピーター・クライブ。元魔法大臣である、ハリー・ジェームズ・ポッターに伺います。あの戦争は…」

 

ピーターの声に応じて、ペンがカリカリと羊皮紙に書き込んでいく。

取材は太陽が沈んでも続き、最初は淡々と語っていたハリーは、時には声を荒げ、時には目に涙を浮かべながら取材に応じていった。

月が真上に差し掛かった頃にようやく取材は終わりを迎え、ハリーに別れを告げたピーターは帰路についた。

 



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少年と悪魔

埃の積もった父の書斎で僕は悪魔と出会った。

 

マクベス家は純血の魔法族である。かつてはあのマルフォイ家に並ぶ栄華を極めた一族だったが、現当主、エドワードが事業に失敗し、資産の多くを失った。幸いなことに、一家揃って路頭に迷うような事態になるほどマクベス家の資産は少なくなかった為、かろうじて貴族としての生活を送ることはできた。しかし、マクベス家の家名に泥を塗ったエドワードはそれ以来、他の純血貴族からは笑いものにされ、ストレスから度々妻に暴力を振るった。

妻は夫から振るわれる暴力で積もったストレスを幼い息子を虐待することで発散し始めた。それを見たエドワードも、妻ではなく息子に暴力を振るい始め、両親から虐待されることになった息子・ジュードは常に体に生傷を作っていた。

 

元々、マクベス夫妻は良い親ではなかった。純血貴族のプライドが高く、ジュードの魔力が人より低いことを知ると、露骨に冷たく接した。夫妻が望んだのは息子ではなく純血貴族としてのプライドを満たしてくれる、つまり皆から賞賛される息子であり、間違っても出来損ないの息子ではなかったのだ。

 

ともあれ、両親から虐待されることになったジュード少年はそれでも健気だった。両親が自身に暴力を振るうのは、自身が出来損ないだからだと認識したジュードは懸命に努力した。寝る間も惜しんで書斎に閉じこもって本を読み漁り、ひたすらに知識を蓄えた。

しかし、夫妻はそんなジュードを褒めるどころか、薄気味悪いと触れることすら嫌がり、屋敷しもべ妖精に暴力を振るわせ始めた。

屋敷しもべ達が涙を流しながら自身を甚振る。それを肴に笑いながらブランデーを飲む両親を見たとき、ジュードの中で何かがプツンと切れた。

満足したのか部屋から叩き出されると、涙を流して謝罪する屋敷しもべを無視して父の書斎に向かった。

 

殺してやる―。ジュードの頭の中はそれだけだった。頭が割れんばかりに殺意が溢れるのを感じながら本棚を引っ掻き回す。かつて見つけた闇の魔術が書かれた本を探すために。

 

しばらく無我夢中で探していると、ふと真っ黒の本を見つけた。この部屋の本は全部読んだと思っていたがどうやら漏れがあったらしい。

タイトルもなにも書かれていないその本は、なぜかジュードの目を釘付けにした。

恐る恐る本を開くと、そこには「悪魔召還の法」と仰々しい書体で書かれていた。

凡そ同年代の子供ではあり得ないほど知識を蓄えていたジュードはすぐにこの本の内容を理解し、実行に移した。

 

幸いなことに材料はすぐに集まった。マクベス家は古くから続く純血名家であり、貴重な魔法植物ですら屋敷の蔵を探せば見つけることが出来た。

両親が深い眠りに着いたころ、地下室でジュードは悪魔を召還するための呪文を唱えた。

 

呪文を唱え始めるとすぐに禍々しい魔力が周囲を支配する、部屋の温度が急に下がった様に感じたが無視して呪文を続けると、やがて禍々しい魔力は集まり、渦を巻き始めた。

呪文を唱え終えると、魔力は霧散し、一人の男だけが残った。

 

「君かね?私を呼んだのは」

一昔前の英国紳士の様にスリーピーススーツにハットを被り、ステッキを持った20代半ばに見える男は上機嫌なのかズイッと顔を近づけた。

 

「は、はい…」

 

圧倒されながらもなんとか答えると男はさらに上機嫌になった。

 

「ほうほう!君のような少年が私を呼ぶとは、なにがあったのか教えてくれるかね!」

 

いちいち仕草が大げさな男は返事を待たずに膝を折り、ジュードの頭に手を乗せた

 

「あ、あの」

 

「シーっ。待ち給え、今君の記憶を見ている。」

 

喋ってもらうよりも早いからね。とウィンクしながらそういった男は目を閉じて一人でほうほうや、なんと…と独り言を繰り返す。

 

しばらく黙って待っていると突然

 

「なんたること!このような悲劇を背負っているとは!それもこんな幼い少年が!あぁ!」

 

まるで演劇であるかのように自分の肩を抱きながらさめざめと涙を流し、その場を回転しながら天を仰いだ男にジュードは混乱していた。

この人は本当に悪魔なんだろうか。いや、頭に手を乗せるだけで記憶を読むなんて普通出来ないし。と様々な考えが頭をよぎる。

 

「それで?なにが望みだ?」

 

男は、芝居染みた動きをピタリと止め、射抜くような目でジュードを見つめた。

 

「…え、えと」

 

「なにが望みだ?」

 

改めて考えるとジュードは、悪魔を呼び出してからの事をなにも考えていなかった。

しかも先ほどまで頭を支配していた殺意は、男が現れてからの衝撃でどこかに行ってしまっていた。

改めて冷静に考えると、悪魔に両親を殺させてなんになるのかと思う。両親が死ねば自分は施設かなにかに入れられ、顔も見たことのない自称親戚に残った財産も奪われる。そうなれば落ちこぼれの自分には何も残らない。

 

「つまり両親は殺せない」

 

ッハと顔を上げると男は満足気な表情を浮かべていた。

 

「よしよし、どうやら中々に頭の回る子供の様だな。さて、少年。提案があるんだが聞く気はあるかね?」

 

差し出された男の手を見て、ジュードは察した。ここでこの男の手を取らなければ自分は一生、這い上がれない事を。この地獄が一生続くことを。

 

「…ここから抜け出すにはそれしかないみたいだ」

 

「よく分かってるじゃないか少年」

 

この日、ジュード・マクベスは悪魔の手を取った。

 

「それと僕は少年じゃない、ジュードだ。ジュード・マクベス」

 

「これは失礼。私は、あーそうだな、オブシディアンとでも呼んでくれたまえ。悪魔のオブシディアンだ」

 

「黒曜石?変な名前」

 

手を離したジュードが言うと、悪魔、オブシディアンは肩を竦めた

 

「我々悪魔は名前を知られると支配されてしまうからね。こうして偽名を名乗っている訳さ」

 

「そうなのか。所でさっき言ってた提案っていうのは?」

 

「あぁ!危ない危ない。忘れる所だったよ」

 

このオブシディアンとかいう悪魔は一々大げさな反応をするなとジュードはため息をつく

 

「単刀直入に言おう。ジュード、君は幸せになりたいかね?」

 

「なにそれ、胡散臭い宗教みたい」

 

「酷いな。私は至って真面目さ。私は君が幸せになれるようサポートをしたいと思っている」

 

「それでどんなメリットがあるのさ」

 

ジュードはオブシディアンと話していると悪魔であることを時々忘れそうになっていた。そしてそれが非常に危険だとも思っていた。

あの真っ黒な本の最初のページには、

『悪魔は契約した時にしか力を貸さない。悪魔が対価を求めないときは注意せよ、お前の魂を狙っている』

と書いてあった。それが事実だとするならば、今まさにオブシディアンは自分の魂を狙っている。

 

「もちろんある。私達悪魔はね、基本的には人の魂をエネルギー源にしている訳なんだけど、感情というのもまた好物でね?もちろん一番は魂さ。しかし、魂なんて滅多に手に入らない。吸魂鬼が羨ましいよ、あんな簡単に魂が手に入るなんて。まぁ、つまりはこれから先、君には欲望のままに生きて貰う。他者を蹴落とし、どこまでも自分本位にね。そうして私は君に蹴落とされた者達の絶望と君の悪意を食らう。そうすれば私は、少なくとも今後60年は食事に困らないという訳さ」

 

どうやら嘘を言っている訳ではないようだ。確かにいちいち餌となる人間を探さなくていいのは大きなメリットだろう。しかし、疑問は残る。

 

「なぜ僕と?それならもっと偉い人と契約すれば良いんじゃ?」

 

ジュードそう尋ねるとオブシディアンは口を半月状にして笑った。

 

「そこだよ、ジュード。君の心は歳の割りに成熟している。それこそ異常なほどにね。いくら悪魔が死なないといっても、何十年もつまらない馬鹿と一緒にいるのはこれ以上無い苦痛さ。私はね、退屈がなにより嫌いなんだ。その点、君はとても面白い!そんな君と契約すれば食事にも困らない、退屈もしない。こんな条件を逃すようなことがあってたまるものか」

 

自分から視線を外すことなく言い切ったオブシディアンにジュードは確信を得た。

つまりこの悪魔にとっても、自分にとっても、この契約は待ち望み続けたものなのだ。

人間と悪魔。種族の違いはあれど、自分達はお互いが最も欲しているものを持っている。オブシディアンは何処までも自由で刺激的な人生を。ジュードは退屈とは無縁の生活を。だとすればこの契約を断る理由はない。仮に騙されて魂を奪われたとしても、今の生活が続くことに比べれば大きな差はない。

 

「分かった。オブシディアン、僕はお前と契約する」

 

「素晴しい!それでは君の気が変わらない内に契約してしまうとしよう。あぁ、その前に契約の内容を説明せねば。決まりなのでね。

まず、私と契約すれば、君は膨大な魔力を得る。そこらの魔法族なんて目じゃないほどの魔力だ。そして私とは主従の関係で結ばれる。勿論、君が主だ。私は僕として君をサポートする。だからといってなんでもかんでも言うことを聞く訳じゃないけどね?それと君の体はより魅力的になるだろう」

 

「…魅力的な体ってどういうこと?」

 

「女性にモテる体になるってことさ。まぁ、今は必要ないと思うかもだけど、これから君が欲望のままに生きていくには必須だよ?」

 

そんなものか、と納得したジュードはしばらく続きを待ったがオブシディアンはにこやかに佇んだままだった。

 

「ちょっと待って、これで終わり?悪魔と契約するんだからもっとすごい力とかないの?」

 

「今のところ確約できるのはこの3つだね。んー、すごい力が手に入るかどうかは君次第なんだよ。契約すると、君の性格や心の奥深くにある望みに応じた能力が手に入る仕組みでね?どんな力が手に入るかは私にも分からない」

 

「一生を左右するのにそんなアバウトな感じなの?」

 

「君の望みを叶える最善のものが手に入ると考えて欲しいね」

 

どうやらゴネてどうにかなる問題でもなさそうだと思ったジュードは覚悟を決めた。

 

「うん、大丈夫。契約を結ぼう」

 

「納得してくれて良かったよ。ここまできてやっぱり辞めます、なんてつまらないからね」

 

ふざけながらもオブシディアンは手を差し出す。

最初に握った時とは違い、目で見えるくらい黒く渦巻く魔力が蠢いているのが分かるその手をジュードは躊躇い無く掴んだ。

するとオブシディアンの手に蠢いていた魔力はジュードの腕に移り、瞬く間に全身を覆った。

 

「これからよろしく頼むよ、我が主」

 

視界すら魔力に覆われ、意識が朦朧とする中でジュードが最後に見たのは悪魔らしく邪悪な笑みを浮かべながら自身の手を握るオブシディアンの姿だった。

 

 



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二年後

仕事が忙しく一週間以上投稿が遅れちまいました・・・。

コロナで弊社もzoomを導入したんですが、今日の会議で決まったこととは次の会議の日にちのみというね・・・




マクベス家という純血の一族が魔法界には存在する。かつては繁栄した一族だが、現当主の事業失敗により先祖が蓄えた資産の多くを失った一家だ。

事業を失敗させた当主は多くを失ったが、プライドだけは以前のまま持ち続けていた。その証拠に、貴族同士のパーティーには必ず現れた。マクベス家は未だ健在である、ということを知らしめたかったのかもしれないが、結局は他の純血貴族達の笑い者にされ、恥だけかいて帰る。そんなことを幾度も繰り返している情けない男だった。

 

そんなマクベス家とその当主だが、ここ数年はパーティーにめっきり顔を出さなくなっていた。多くの貴族達は、ようやく分を弁えることを覚えたのだと笑っていたが、一部で闇の魔術に傾倒しているのでは、という噂がたった。

もともと純血貴族の多くは元死喰い人だ。多かれ少なかれ闇の魔術に傾倒している者も多い。しかし、そんな彼等が噂するのだから、かなり本格的な研究をしているのでは?と魔法省内で疑惑を呼んだものの、マクベス家の人間が死喰い人であったことはなく、闇の帝王に与しなかった男が今更闇の魔術に傾倒するのは考えにくい。と擁護する声も多数出たが、結局、火のないところに煙は立たないとして、魔法省の闇祓い達によって屋敷の捜査が行なわれる事になった。

 

人里離れた山奥にマクベス家の屋敷は存在する。峻厳な山に囲まれた広大な敷地の中には幾つかの離れと庭園がある。春になれば美しい花々が咲き誇る庭園は何代か前の当主と夫人が手塩にかけて育てたものだ。その美しさに感銘を受けた当時の魔法大臣が、娘の結婚式の会場に選んだほどである。

そんな歴史ある庭園を眺めたあと、キングスリー・シャックボルトは、玄関にて一人の少年に出迎えられていた。

 

「ようこそ、Mr.シャックボルト。父がお会いになるそうです」

 

マクベス家の一人息子である少年だとキングスリーは記憶していた。といっても事前に渡されていた資料を見ただけで、名前と顔以外は殆どなにも知らないが。

しかし、なかなかに良い面構えをしていると思った。多くの純血貴族のお坊ちゃん達とは違い、見下すような視線ではなく、かと言って媚びている訳でもない、きちんと真摯にこちらと目を合わせている。それに加え、成長の邪魔にならない範囲で鍛えられているのが分かる引き締まった体と、鮮やかなブルーの瞳は、誰であれ好感を感じるだろう。

 

「ミスター?」

 

「ん?あぁ、これは失礼」

 

ここには捜査をしにきたのだから引き締めねば。と頭を軽く振って切り替え、ジュードの後に続いて屋敷に入った

 

豪勢なシャンデリアのある玄関ホールを抜けてしばらく廊下を歩いていると、ふとおかしなことに気付く。

シャンデリアや高価な絵画などあるにはあるのだが、他の純血貴族の屋敷に比べて調度品が圧倒的に少ないのだ。

 

「あぁ、父がその…失敗を、したときに殆どの調度品は売ってしまったのです。使用人も皆、屋敷を去りました。残っているのは僕ら家族3人と屋敷しもべだけです」

 

でも、そのお陰でこうして高名な闇祓いの方とお話し出来たのですから悪い事ばかりじゃありませんけどね。

そう言ってにこやかな笑顔を浮かべる少年にキングスリーは思わず目頭が熱くなる。

なんと良い子なのだろうか。マクベス家の当主に良い噂はあまりないが、どうやら子供の教育に関しては天賦の才能があるらしい。

 

「お待たせしました。こちらで父がお待ちです」

 

恭しく一礼するとジュードは来た道を引き返した。

あんな子供を育てられるマクベス家当主が闇の魔術に傾倒しているなどとてもではないが思えない。

しかし、仕事は仕事。適当に話を聞いて帰るとしよう。そう思い扉を開き、応接室へと入る。

 

「やぁ、こんな遠い所までよく来られましたな、Mr.シャックボルト」

 

入り口の正面に配置されたデスクに腰掛けていた男はにこやかな笑みを浮かべながら両手を開き、キングスリーを歓迎した。

 

「いえ、とんでもありません、Mr.マクベス。あの噂に名高い庭園を見れただけでも足を運んだ甲斐がありました」

 

「それは重畳、先祖も喜んでいることでしょう。…して、今回の用向きは?」

 

穏やかな口調のままだが、その目は細くこちらの腹の底を見透かすようだった。

 

「実は、魔法省内部で貴方が違法とされている闇の魔術の研究を行なっているのではないかと疑う声がありまして」

 

それを聞いた時、エドワードはひどく落ち込んだように見えた。

 

「なるほど…純血のパーティーには必ず顔を出していた私が顔を出さなくなったことで違法研究を疑う者達が現れたと…」

 

「…しかし、私としては貴方がそのようなことを行なっているとはとても思えません」

 

キングズリーの発言にエドワードは困惑を隠せずにいるようだった。

 

「なぜです?たしかに私は『例のあの人』に与しませんでしたが、だからと言って…」

 

「ジュード君…でしたかな?御子息を見れば分かります。あのような立派なお子さんを育てられる様な方が、違法研究などするはずがない」

 

エドワードはしばらく目を白黒させ、口を震わせていたが、そのうちデスクに肘を付き、目頭を抑えた。

「あの子は私などには勿体無い息子です。事業に失敗し、他の貴族からは笑い者にされていた私を妻と共に懸命に支えてくれた。昔の様な何不自由ない生活は送らせてあげられないというのに、我侭の一つも言わない。私は思ったのです、…つまらない見栄やプライドを守るためのパーティーなどよりも一秒でも多くの時間を息子と共に過ごしたいと…」

 

目に涙を溜めながら語るその姿にキングスリーは無責任に疑惑を囃し立てた貴族共を怒鳴りつけたかった。この男の何処を見て闇の魔術云々を抜かすのか。お前達の方がよっぽど怪しいではないか!と。

 

「Mr.マクベス。私には子供はおりませんが貴方の気持ちはよく分かります。今回の件は私が責任をもって間違いであったと報告します。ですのでどうか…」

 

「…申し訳ない。息子には頭が上がりませんな、二度も救われるとは…」

 

エドワードの言葉に二人して苦笑し、キングスリーは席を立った。

そろそろお暇致します、と述べたキングスリーにエドワードも、玄関まで送ると申し出た。

つい先ほど通った廊下を、二人は和やかに話ながら歩いていた。

 

「父上!Mr.シャックボルトはもうお帰りに?」

 

玄関から出ようとした矢先にホールに飛び込むようにしてジュードがやってきた。

色々と話しを聞きたかったらしいが、生憎とキングスリーも次の予定が入っていると説明すると、残念そうではあったものの、直ぐに諦めてくれた。

息子の肩を抱き、見送ってくれたエドワードの顔は、噂で聞いていた情けない男とはまるで違う顔だった。

門を出たところで姿現しを使い、魔法省に帰還したときにふと、そういえば奥方は留守だったのかと思ったが、まぁいいかとそのまま仕事に戻った。

 

 

 

「いつまで触っている、気色悪い」

 

ジュードが凍てつく様な声色で吐き捨て、エドワードは吹き飛ばされた。柱に激突した衝撃で頭から血を流すのも省みずに、跪く実父に2、3発魔法を撃ち込む。襤褸雑巾のように宙を舞い、床で蹲る父親の背中を踏みつけ、失せろと命じる。すると虚ろな目をしたエドワードは床に頭を擦りつけるように一礼すると、寝床としている物置へノロノロとした足取りで戻っていった。そんな父を一瞥して小さく鼻を鳴らすと、かつての父の部屋―というより歴代当主の部屋だが現在はジュードの私室になっている―に戻った。

 

「んー、完全に君の演技を信じ込んでいたね、後は彼が勝手に疑いを晴らしてくれるさ。まぁ実際、闇の魔術の研究なんてしていないのだからね。あ、そうそうさっきフクロウがこんなものを持ってきたよ」

 

豪華な革張りのソファに腰掛けながら紅茶を飲むオブシディアンはジュードに一枚の手紙を差し出す。その手紙には獅子、蛇、穴熊、鷲が描かれた封蝋がしてあった。そうだな、悪魔と契約している子供がいるだけで研究なんてしてないさ。と嘲る様な笑いを浮かべていたジュードが手紙の封蝋を破くと、封筒に入っていたのは、ホグワーツへの入学許可証だった。

 

「ジュード・マクベス殿、貴殿のホグワーツへの入学を許可いたします。…いよいよだな、オブシディアン」

 

ジュードの言葉にオブシディアンは飲んでいた紅茶を置いた。

 

「いやぁ、ここ最近はずっと屋敷に閉じ篭ってたから心配してたよ、契約を忘れたんじゃないかってね」

 

ワザとらしく伸びをしてみせながら立ち上がるオブシディアンの言うとおり、ジュードと契約してから二年近く経ったが、その間にやったことといえば、エドワードに『服従の呪文』を掛けて支配下に置き、使用人達を解雇したぐらいだ。それ以降ずっと、ジュードは屋敷に籠ってオブシディアンから魔法の手ほどきを受けていた。

 

「退屈させたのは悪いと思ってるさ。だけど仕方ないだろ?この能力を使いこなさない内から表に出ればすぐに尻尾を捕まれる」

 

そういったジュードの目は、先ほどとはキングスリーを迎えた時とは違い、どこにでもあるような茶色だった。

契約によってジュードが得た能力は二つ。

 

一つは自身に敵意を持っているかどうかをオーラによって判別する力。ジュードに対して敵対心をもっている相手ならば赤色に、疑心を抱いている相手ならばオレンジに、信頼を向けている相手は緑色に、それ以外の相手は白く見えるといった力だ。

しかし、この悪魔に言わせると精度はそれほど高くなく、敵対心というのが嫉妬なのか、明確な殺意なのかは分からないらしい。

もう一つが、俗に『魅了の魔眼』とよばれるもの

目に魔力を込めると発動するこの力は、目を合わせた人間を魅了する効果がる。といっても洗脳というほどではなく、あくまでジュードに対して好感や尊敬を覚えるといったぐらいのもので、お世辞にも強力なものではない。

発動した際には目の色が鮮やかな青色に変化するこの能力によって、父親の無罪を信じてしまうほどにキングスリーの好感を得ていたのだった。

 

「分かるだろう?今すぐ好き勝手できるような能力じゃないんだよ」

 

「理解はできるけど、やっぱり私は退屈が嫌いさ。だから、ジュード、そろそろ教えてくれないかい?これからの計画を」

 

嫌らしい笑みを浮かべたオブシディアンに対して、ここ最近すっかり移ってしまった悪魔らしい笑みでジュードはこれからの展望を話す。

 

「ホグワーツを手に入れる」

 

 



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