『山の翁』・第七特異点にて (萃夢想天)
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『山の翁』・第七特異点にて

リハビリ投稿です。

ちょっとした思い付き作品なので、お暇な時にどうぞ。


 

 

 

 

 

第七特異点・絶対魔獣戦線バビロニア

 

 

 

これまで六つの特異点を乗り越えてきた【人理継続保証機関 フィニス・カルデア】一行は、

2016年以降の人類の歴史を焼却するという未曽有の危機に立ち向かうべく、最後の特異点の

神代ウルク王朝が収める神話の世界へ赴いていた。

 

今までの旅路も容易なものなどなかったが、最後の特異点たる此処はまさに終焉そのもの。

 

人類を滅ぼすべく結託した三柱の女神たち。その陰に潜むはウルク王の唯一の友の亡骸。

やがてカルデアとメソポタミアに生きる民たちは、人類滅亡の一幕を目の当たりにする。

 

しかし、しかし。

 

人類は、カルデアは、そしてウルクという時代を治めし古代王【ギルガメッシュ】は、

彼らは決して諦めなかった。絶望が、恐怖が、黒き悪意の波となって襲い掛かろうとも。

 

これまでの旅の中で培われた様々な出来事が、人を強く確かに成長させていた。

 

そして舞台は――最終局面へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ビーストⅡ、背部鶴翼を展開! ほら見ろ、マーリンが煽るから本気になった!』

 

 

カルデアの司令官代理兼医療スタッフ顧問のDr.(ドクター)ロマンが、通信機越しにがなり立てる。

青白いホログラフに投影されているのとは関係なく、顔面蒼白で現状を嘆いていた。

 

 

『冥界への侵食は止められてもビーストⅡ、ティアマト本体は止められない!

 ウルクに――地上を目指して飛ぼうとしている! このままじゃ計画は破綻する!』

 

 

人類悪として顕現した神話の存在。曰く『原初の母』なりしはクラス・ビーストⅡ。

あまりにも強大な存在を相手にする絶望感。打てる手を全て打ち尽くしたが故の焦燥感。

打ちひしがれる暇なんてない。言外にそう主張するかの如く、人類最後のマスターは問う。

 

 

「マーリン、何かないのか!?」

 

 

彼が問いを投げた相手は、かのアーサー騎士王伝説に登場する宮廷魔術師たるマーリン。

他と隔絶した力を有する彼は、冠位(グランド)と呼ばれる称号を持った史上最強の魔術師(キャスター)

 

これまでも幾度となくその能力で旅路を支えた彼ならばあるいは。

 

そんな淡い期待と確信を込めて呼ばれた名に、サーヴァントならぬ当人は答えた。

 

 

「……ふむ。二柱の女神による真体の足止め、ウルクを餌にした冥界への落とし穴。

 〝天の鎖〟による拘束、冥界の刑罰、そして私のきれいなだけの花」

 

 

何事も俯瞰したような視座で語っていたマーリンは、一同を見回し、再び口を開く。

 

 

「人類最後のマスター、そして英霊たちよ。此処に至るまで実に多くの手を尽くしてきた」

 

 

彼の言葉に誰もが頷く。此処へ至るまでに支払った犠牲、救えなかったものは余りに多い。

それでも歯を食いしばり、泣きたくても堪えて立ち上がり、歩みを進めてきた。それでも。

 

 

()()()()()()()()()

 

 

未だ及ばず。最終局面、出し惜しみなど有り得ない。けれどマーリンは不足だと答える。

 

 

「アレはまだ恐怖を知らない。天敵を知らない。()()()()()()()()()()

 

「彼…? 他にもまだ、助っ人がいるのですか?」

 

「ああ、いるとも。とっておきの凄いのがね」

 

 

人類最後のマスターを守る白亜の砦、堅牢にして脆き雪花の壁たる少女マシュは尋ねる。

このメソポタミアに、ウルクに集い集った全てを投入してなお足りないと断言されたうえで、

此処に最後の一ピースが揃うのか、と。マーリンは無垢な少女に対し得意げに語り出す。

 

 

「では、彼はいったい誰に呼ばれたか?」

 

 

この言葉から、魔術師の言う助っ人がサーヴァント、英霊であることを察するカルデア。

その反応を確認したように微笑むマーリンは、人とは異なる瞳で一人の少年を見つめる。

 

 

「言うまでもない…君だ、人類最後のマスター。彼は君に礼を返すために冠位を捨てた。

 そして敵は人類悪・ビースト。初めから、彼が此処に現れる条件は整っていたんだよ」

 

 

平凡で、弱小で、しかし決して折れず曲がらぬ不撓不屈の精神で歩む人の可能性の具現。

そんな人類最後のマスターを笑顔で見やるマーリンは、誇らしげに言の葉を紡ぐ。

 

 

「君たちの戦いは、全てに意味があったのさ――さぁ、天を見上げるがいい原初の海よ!」

 

 

死者の国である冥界の底へ突き落されながらも、巨大な翼と四肢で這い上がらんとする

『回帰』の獣、人類悪・ビーストⅡ。ティアマトと呼ばれた原初の母に、魔術師は告げる。

 

 

「そこに、貴様の死神が立っているぞ!」

 

 

マーリンの言葉に、ビーストが、英霊が、そして人類最後のマスターが天を仰ぐ。

 

冥界とは地下の空間。死後が地続きで存在する神代メソポタミアであるからこそ、現世が

ぽっかり空いた大穴の上にあることは必然。赤黒い空と岩肌の先に、()は立っていた。

 

 

『…死なくして命はなく、死あってこそ生きるに能う』

 

 

断崖と化した現世と冥界を繋ぐ大穴の淵。そこに、朽ちかけた黒衣をまとう者がいる。

 

 

『そなたの言う永劫とは、歩みではなく眠りそのもの』

 

 

遥かに見上げているはずなのに、彼の発する言葉が地下にいる彼らにも届いていた。

 

 

『災害の獣、人類より生じた悪よ。回帰を望んだその慈愛こそ、汝を排斥した根底なり』

 

 

低く、厳かな声色。さながら神託を下す者であるかのように、彼は原初の母を睥睨する。

 

 

『冠位など我には不要。なれど、今この一刀に最強の証を宿さん』

 

 

直後、彼の上半身を覆っていた黒衣が風に運ばれ、その下に隠されていた姿が露わとなる。

 

 

『獣に堕ちた神と言えど、原初の母であれば名乗らねばなるまい』

 

 

朽ちかけの外套、鉄とも鋼とも知れぬ鎧、虚ろより覗く蒼白の焔。

 

そして、あらゆる生命を産み落とす母であった獣を見下ろす、髑髏の仮面。

 

 

『――幽谷の淵より、暗き死を馳走しに参った』

 

 

罅割れ、しかし鋭さを損なわない大剣を地に突き立て、死を纏う者は宣告する。

 

 

「山の翁、ハサン・サッバーハである」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこに、貴様の死神が立っているぞ!」

 

 

じゃぁかしい。誰が死神だ。人を見た目で判断するなとおばあちゃんに教わらなかったのか。

 

いや、分かるよ。気持ちは分かる。夜道でばったり出くわしたら失禁間違いなしな見た目

してるのは自分でもよぉーく理解しているさ。だからってお前、死神はないだろ死神は。

 

だいたい魔術師テメェ、下にいる化け物見えねぇのか? そっちのがよほど死神だろうが。

 

あーもう、ほらぁ。メッチャ見てくるじゃん。女神やら無垢な少年少女やらが見てくるぅ。

ダメダメ、いけませんよそんな目で見ちゃ。期待のこもった目で見ないで、頼むから。

 

うわ、あの化け物までコッチ見よる。怖。歯ぁエグくない? 噛み砕かれて御陀仏やん。

はー、マジ? アレと殺し合えってマジ? やってらんねぇよなぁ抑止力クンよぉ!

 

世界を救う戦いだから力を貸してくれ? 大層なお題目掲げやがって!

やることは人間じゃ太刀打ちできねぇ化け物相手にパーリナイだろ? おFU○K!

 

……クソ。何も言わないのは印象悪いよな。

 

もういいや、この際だ。普段は言えない不平不満をぶちまけてやろうそうしよう。

 

 

『…やいクソ売女神コラ。好き勝手に命をポンポン生んだり殺したりしやがってよぉ』

 

 

崖から下を覗き込む。いや怖いわ。なんだあの化け物。勝てっこないだろあんなの。

 

 

『大家族アピールも大概にしろボケ! 養育費度外視で出産とか育児舐めとんのか!?』

 

 

口も怖いけどなんだよあの目。バツ印みたいになって、え? あれ割れてる? マジ?

 

 

『人類オギャン計画だかなんだか知らねぇが、ロクでもねぇことしでかしやがって』

 

 

び、ビビッてねぇし。強面ってんなら俺も負けてないから。いや言ってて悲しくなるな。

 

 

『お前らみたいなのが湧く度に事後処理するのもう嫌なんだよ。そんなら冠位とか要らんわ』

 

 

実際要らん。就職で有利になるから取りあえず取っておけって言われた資格や免許並にな。

 

 

『ギャーギャー喚くだけのお前に言ってもしゃーないかもだが、名乗りは大事だよな』

 

 

思い出すだけでムカついてきた……うし、もう吹っ切れた。なんもかんもブッた斬る。

 

 

『――ブラック企業の窓口より、現世からの解雇宣告をしに参りました~ん』

 

 

苛立ちをぶつけるように地面に愛剣を突き立て、涙の代わりに流れ出る青い炎を吹き出す。

 

 

「山の翁、ハサン・サッバーハである」

 

 

 

 








続かない!


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