ウルトラマンヴェルク (桂ヒナギク)
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1.爆発

 地球を離れること百万光年。

 地球のように美しい惑星ヴェルドーレが、爆発を起こして消え去った。

 爆煙の中から、一人のウルトラマンが投げ出される。

「うわああああ!」

 悲鳴を上げ、回転しながら飛んできたウルトラマンが、ヴェルドーレの月にぶつかる。

 衝撃で月面にクレーターが出来上がった。

「くっ!」

 立ち上がるウルトラマン。

 その姿は赤く、胸部にプロテクターを装着している。

 彼の名は、ヴェルク……ウルトラマンヴェルクだ。

 ヴェルクは爆発したヴェルドーレで唯一のウルトラマンだ。

 ヴェルドーレが崩壊した理由は、星人の侵略行為だった。

 星人はなんとか打ち倒したが、ヴェルドーレが星人の攻撃に耐えきれず、ついには消滅してしまったのだ。

 ヴェルクは以前から親交のあった地球を目指す。

 ワームホールを抜け、あっという間に地球へ到着する。

(ん?)

 地上で怪獣が暴れている。

 ヴェルクは暫く様子を窺う。

 地球の防衛組織が怪獣に立ち向かう。

 だが地球人の力だけでは、怪獣には太刀打ちはできなかった。

 ヴェルクは地上に降り立ち、怪獣と対峙した。

「タア!」

 ヴェルクの攻撃が怪獣を怯ませる。

 ヴェルクは拳を乱打し、トドメの光線技で怪獣を爆砕した。

 光に包まれたヴェルクが小さくなって人の姿になる。

「誰か……」

 声が聞こえた。

 ヴェルクは声のしたところへ向かった。

 女性が瓦礫に埋もれている。

 ヴェルクは瓦礫をどかし、女性を救出した。

「ありがとうございます」

 礼を言う女性。

「助けていただいたお礼にカフェでもどうです?」

「いいですよ」

 ヴェルクは女性と共に近くの喫茶店へ向かう。

「私、吉崎(よしざき) (かなで)。あなたは?」

「僕はうると……(うるい) (とおる)

 咄嗟に名前を聞かれたヴェルクはそう名乗った。

 喫茶店に着き、中に入る。

 席に座った徹は端正な顔立ちをした奏を見つめる。

「うん?」

「あ……いや、綺麗だなって思って」

 (ほお)を赤らめて湯気を出す奏。

「やめてよ。照れるでしょう?」

 それよりも——と、続ける奏。「好きなもの頼んでいいわ。私が奢りますよ」

「それはありがたい。僕、現金を持ち合わせてなかったから」

「潤さん」

「……?」

「潤さんはどうしてあそこに?」

「僕は、その、彼が怪獣を倒すところを間近で見たくてね」

「彼って、あの赤いウルトラマンのこと?」

「うん」

「そうなんだ? でも怖かったんじゃない?」

「そんなことないよ」

「まあ! (きも)が据わってるのね」

 奏が店員を呼ぶ。

 二人は飲み物を注文した。

 すぐに届く二人の飲み物。

「ねえ、潤さん」

「うん?」

「私、潤さんとは初めて会う気がしないんだけど」

「え?」

「私たち、昔どこかで会ってるんじゃない?」

 徹が以前に地球を訪れたのは百年前だ。

 奏とは会ったことはないはずだった。

「いや、僕はあなたとは初めてですが」

「そうかしら? もしかしたら前世で会ってたりしないかな?」

「僕は前世とか信じないんで」

「ああ、そうなんだ」

 奏はコーヒーを一口飲んだ。

 



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2.住まい

 喫茶店から出てくる徹と奏。

「それじゃあ、私は……」

「待って。送ってくよ」

「え?」

「また怪獣が現れて瓦礫に埋もれたら大変だしね」

「じゃあ、お願いするわね」

 徹と奏は彼女の住むマンションに向かう。

「吉崎さん、お仕事は?」

「警察官をやってるわ」

 ほら——と、奏は懐から警察手帳を取り出すが、徹には見覚えがない代物だった。

「うわああああ!」

 どこからか悲鳴が聞こえてくる。

 二人は悲鳴の元に駆けつける。

 そこでは、男性が腰を抜かし、その目の前でウルフ星人が女性を襲っている。

「えい!」

 徹は星人を攻撃し、女性を救出する。

 分が悪いと思った星人は、脱兎のごとく逃げ出した。

「大丈夫ですか?」

「あ、ありがとうございます」

「さあ、戻ってこないうちに」

「はい」

 女性は駆け足で去っていく。

「あなた、勇気があるんですね」

 と、立ち上がった男性が言う。

「あなたは?」

「僕は探偵の矢上(やがみ) (あきら)と申します。今し方、依頼人に頼まれてあの女性を調査してまして。それじゃ」

 矢上も去っていく。

「行こうか、吉崎さん」

「うん」

 再び歩き出す二人。

 その二人を離れたところから星人が見つめている。

「ウー」

 唸り声を上げ、後を追う星人。

 

 

 奏のマンションに着く徹と彼女。

「ここでいいわ」

 奏のマンションはオートロックだ。

 彼女は鍵で扉を開け、中に入っていく。

 去り際に徹へ連絡先を渡す。

「連絡してね」

 奏はエレベーターに乗り、七階に上がる。

 エレベーターを降りた刹那、星人と遭遇した。

「……!?」

 驚き戸惑っていると、星人に噛み付かれてしまう。

「ああ!」

 血を吸われ気絶する奏。

 星人は奏に重なるかのようにして体の中に入り込む。

 むっくりと起き上がると、奏はニヤリと笑みを浮かべた。

 同じ頃、徹が奏のマンションのロビーから出てきた。

 奏の苦しむ声が聞こえた徹はマンションを振り返る。

「吉崎さん?」

 不審に思った徹はオートロックのガラスドアをすり抜け、エレベーターで七階に上がった。

 エレベーターを降り、奏の部屋へ。

 ピンポン、とインターホンを鳴らすと、奏が出てくる。

「あ……。どうしたの? ていうかどうやって?」

 徹は宇宙人としての超能力で、中に入っている星人の存在に気づく。

「吉崎さんから出るんだ!」

「出す? 一体なにを?」

「貴様が吉崎さんじゃないことはわかっている!」

「……………………」

 奏は徹を突き飛ばし、柵を飛び越えた。

「待て!」

 徹も柵を飛び越える。

 奏は着地すると、すぐに走り出した。

 徹も地上に降り立ち、奏を追いかける。

 奏は角を曲がって路地に入るが。

「……!」

 行き止まりだった。

「逃げ場はないぞ! 出てこい!」

「ちっ!」

 奏は星人に姿を変えて襲ってくる。

 徹は攻撃を受け止める。

(どうすれば吉崎さんを傷つけずに助け出せる?)

 徹は星人の乱打をガードする。

「守ってばかりじゃどうにもならんぞ!」

「貴様が出てくればいいだけの話だ!」

「それはできないな。この女は俺の嫁だ」

 後退しながらガードしていた徹だが、壁へ追いやられてしまった。

「トドメだ!」

 渾身の一撃を繰り出す星人。

 徹は間一髪でかわす。

 勢い余って、拳を壁にぶつけて痛がる星人。

「もう許さんぞ!」

 星人は巨大化した。

「踏み潰してやる」

 徹は駆け出し、頭上から迫る巨大な足をかわす。

「うわ!」

 (つまず)いて倒れる徹。

「さらばだ!」

 踏み潰される徹。

「ふはははは! 呆気ない終わりだったな!」

 だが、星人の足が持ち上がり始める。

「ん?」

 ヴェルクに変身した徹がゆっくりと巨大化し始める。

「は!」

 バランスを崩して倒れそうになった星人は後退して体勢を整えた。

「貴様は?」

「僕はウルトラマンだ!」

「ウルトラマンだとお!?」

 激昂した星人がヴェルクに襲いかかる。

 ヴェルクは攻撃をかわし、カウンターを浴びせる。

 星人はヴェルクの反撃で倒れるが、すっくと立ち上がって彼を攻撃する。

 ヴェルクは攻撃をいなし、足払いで星人を倒した。

(吉崎さん、ごめんなさい!)

 ヴェルクは星人に向かって必殺の光線を放った。

 クロスした腕から、スペシウムインパクトが星人に炸裂する。

 死滅する星人。

 星人の体は小さくなり、奏の姿に戻る。

 ヴェルクは体を小さくすると、徹の姿になって奏に駆け寄る。

 徹はエネルギー光球で地面に穴を開け、奏を抱き上げ、埋葬してようと移動させる。

「う……」

 目を開ける奏。

「……!」

 驚く徹。

「潤……さん?」

「どうして?」

「潤さん!」

 奏が徹に抱きつく。

「怖かった! 私、怖かったんだよ!」

「大丈夫。もう大丈夫」

「また助けてもらっちゃったね」

「あ……いや、あれはウルトラマンが……」

「いいえ。あなただわ。あなたが私を助けてくれたんだわ」

「立てる?」

 徹は奏を下ろした。

「あなたには感謝してもしきれないわね」

「いや、僕はなにも……」

「お礼に何かできることあるかしら?」

「それじゃあ、住むところを探したいんだけど……?」

「だったら私の部屋で寝たら?」

「いいのかい?」

「助けてくれたお礼よ」

「いや、僕は本当に何もしてないよ?」

「いいからいいから」

 かくして、徹は奏の家に居候(いそうろう)することになった。

 



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3.奏の一日

 その朝、眠りから覚めた奏は、まだ眠っている徹をそのままにし、警察署へ出勤した。

「おはようございます」

 配属先の生活安全課で挨拶をする。

「おはようございます」

 席に着く奏。

「吉崎さん!」

 課長が奏を呼ぶ。

「相談者が受付に来てる。行ってくれ」

「はい」

 奏が受付に移動すると、酷く怯えた状態の女性がいた。

「どうされたんですか?」

 女性が十数枚の写真を渡してくる。

 そこには女性の姿が写っている。

「これがポストに入ってたんです。ストーカーだと思います」

「それじゃあ、相談室に行きましょうか」

 奏は女性を相談室に案内した。

「それじゃあ、まずあなたお名前を教えてもらえますか?」

柿崎(かきざき) (しのぶ)です」

「柿崎さん、ストーカーに遭い始めたのはいつからです?」

「ここ一ヶ月ってところです。毎日、無言電話がかかってきたり、手紙がポストに入ってて……」

「わかりました。それではこちらに必要事項を記入していただけますか?」

 奏が書類を置く。

 柿崎は書類に必要事項を記入した。

「では、捜査の方を進めさせていただきますね。あと、あなたのご自宅周辺に私服の警察官を配置させていただきます」

 奏は書類を手に部屋へ戻る。

「課長、捜査に行ってきます。これ、受理しといて下さい」

 奏は書類を課長のデスクに置く。

「猪俣、行くよ」

 奏は新人の捜査員を連れて、柿崎の自宅を張り込む。

 張り込みの結果、柿崎家のポストに封筒を入れる人物を特定した。

 八重樫(やえがし) 康介(こうすけ)という人物だ。

 無言電話の犯人も電話会社の協力により、八重樫だと判明した。

 八重樫の家へ赴き、彼を署に連行した。

 取調で八重樫は犯行を認め、生活安全課は八重樫に警告を出した。

 だが、八重樫は犯行を続けた。

 結果、八重樫は何者かに殺されてしまう。

 事件発生の報を受けた奏は遺体発見現場に向かう。

「八重樫ですか?」

 捜査一課の刑事が奏に訊く。

「八重樫ですね。死因は?」

「詳しくは解剖待ちですが、恐らく失血死でしょうな」

 ただ——と、刑事は続ける。「血を抜き取った痕跡がないんですよ」

「え?」

「少なくとも人間業には思えんですな」

「宇宙人の仕業、とでも?」

「私はそう思ってます」

 奏は猪俣を連れて宇宙人街へ向かう。

 ここは友好的な宇宙人たちが集う街だ。

 この街では宇宙人に関する情報を入手することができる。

 奏は情報屋に金を払い、血液を好む宇宙人たちをリストアップさせた。

「人間のおまわりさん、一体何を調べてるんです?」

「八重樫っていうストーカーが死んでね。体に傷をつけることなく血液を抜き取ることができる宇宙人がいないか探してるんです」

「見えない傷口を作るやつなら知ってますぜ」

「見えない傷?」

「ええ。キュレックス星人ですよ。ミクロサイズの管を標的に突き刺して血を吸い取るんです」

「どこにいるんですか?」

「渋谷で暗躍してるって噂ですぜ」

「渋谷ね。どうもありがとう」

 奏と猪俣は渋谷に移動した。

 通行人に声をかけて星人の写真を見せて回る。

 星人の目撃情報はすぐに上がった。

 二人は急いで目撃現場に向かう。

「いた」

 目的の星人を見つけた。

「ちょっといい?」

 星人に声をかける奏。

「あ?」

「八重樫って知ってる?」

 その問いに慌てて逃げ出す星人。

「待て!」

 二人は追いかける。

「先回りするわ!」

 奏は先へ回り込み、猪俣と共に星人を挟み撃ちにする。

「くそ!」

 星人は巨大化する。

 我を忘れた星人は二人に向かってエネルギー光球を投げつけた。

 もうダメ、そう思った刹那、ヴェルクが現れて二人を(かば)った。

「ぐあ! ああ!」

「ウルトラマンよ」

 ヴェルクは立ち上がりざまに振り返り、星人に攻撃をしかけた。

 怯む星人に拳を乱打する。

「トドメ!」

 ヴェルクは星人を上空に蹴り上げ、必殺のスペシウムインパクトを放って粉砕した。

「シュワ!」

 飛び立つヴェルク。

「被疑者死亡、ってとこかしらね」

 奏と猪俣は署に戻って報告書を書くのであった。

 



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4.ヴェルクのいない日

 その朝、目を覚ます徹。

 洗面所へ行くと、奏が歯磨きをしていた。

「おはよう、潤さん」

「おはよう」

「今日休みだから、一緒にハローワーク行こう? お金稼がないと家探せないでしょ?」

「はろおわあく?」

「うん。お仕事の求人票があるところ」

「いいけど……」

「じゃあ決まりね。顔洗って支度してね」

 歯磨きを終え、リビングへと移動する奏。

 徹は顔を洗い、奏が買った歯ブラシで歯を磨き、彼女のいるリビングに移動する。

 リビングでは、奏がニュースを見ていた。

「嘘……嘘よそんなの!」

「どうしたの?」

 徹もテレビに目を向ける。

 ニュースではウルトラマンヴェルクが街を破壊する映像が流れており、自衛隊がそれに応戦している。

(バカな! やつは一体!?)

 だが、よく見ると目が吊り上っており、足の爪先が尖っている。

「潤さん、どう思う?」

「え!?」

 不意に訊かれて驚く徹。

「どう思うって何が?」

「ニュースに映ってるウルトラマンよ。私、違和感を覚えるんだけど」

「ああ、そうだね……」

 やつは偽物だ、そう言ってもよかったが、理由を訊かれると思い、答えるのをやめた徹。

 奏がテレビの電源を落とした。

「行くよ」

 徹は奏と共に近所のハローワークに向かう。

「ん?」

 奏が何かに気づく。

「どうしたの?」

「後ろを見ずに走って」

「え?」

「いいから」

 走り出す奏。

「待ってよ!」

 追いかける徹。

 すると、背後にいた偽ウルトラマンヴェルクが走り出す。

「こっち!」

 奏は路地裏に入り込んだ。

 徹も路地裏に駆け込む。

「隠れて!」

 物陰に隠れる奏と徹。

 路地裏に飛び込んでくる偽ヴェルク。

(あ! やつは……!)

「どこ行った?」

 周囲を見渡す偽ヴェルクだが、二人の姿を見つけられなかった。

「ならばこうするか」

 偽ヴェルクが巨大化して暴れはじめた。

 逃げ惑う地上の人々と次々に破壊される建物。

 そこへ自衛隊が駆けつけ、偽ヴェルクに応戦する。

 だが、自衛隊の戦闘機は呆気なく撃墜されていった。

(くそ……! 俺を(かた)って、赦せない!)

 徹は奏を見る。

(俺一人ならいいが、今は吉崎さんがいる……)

 そう、徹は変身して戦いたいが、できないのだ。

 偽ヴェルクの様子を窺っていると、向こうがこちらに気づいた。

「そんなところにいたか」

 偽ヴェルクが光球を投げ飛ばした。

(やば!)

 攻撃に巻き込まれ、吹っ飛ばされる徹と奏。

 徹は奏を空中で抱き抱え、体勢を整えて着地する。

「逃げるよ!」

 徹と奏は逃げ出す。

「待て待て待て待て!」

 偽ヴェルクが追ってくる。

「お願い! 来て、ウルトラマン!」

 叫ぶ奏。

 だが、本物のヴェルクは未だに現れない。

 そこに、偽ヴェルクの光球が飛来する。

 地面に被弾し、爆風で吹っ飛ばされる二人。

 その時、奏以外の周囲の時間が止まった。

「え?」

 奏は墜落寸前で光に包まれる。

 光の中で奏は、女性のウルトラ戦士に会う。

「あなたは?」

「私はテラン。あなた自身よ」

「私自身?」

「そう。私はあなたの中に眠る力。さあ、解き放つのよ!」

 光の中で奏とテランが重なり、巨大化すると同時に、時間が動き出した。

「うん?」

 動きを止める偽ヴェルク。

 振り返るウルトラウーマンテラン。

「うお!」

 墜落する徹。

「あれは?」

 徹はテランを見上げた。

(吉崎さんがウルトラウーマン……)

「お!」

 テランに踏み潰されそうになった徹が巨大な脚を避ける。

(ここにいるとやばいな)

 徹はその場を離れ、テランの戦いを見物する。

 テランが素早い動きで偽ヴェルクに攻撃を浴びせる。

 偽ヴェルクは攻撃をいなし反撃する。

「きゃあ!」

 バランスを崩して倒れるテラン。

 偽ヴェルクがテランにのし掛かり、顔面を殴打しようとする。

 テランは顔面への攻撃を首振りでかわす。

「はあ!」

 テランは偽ヴェルクを蹴り上げてどかすと立ち上がる。

「あなたがウルトラマンじゃないのはわかってるわ。正体を現しなさい!」

「今日のところは引き下がろう」

 偽ヴェルクは煙に包まれて消え去った。

 テランのカラータイマーが点滅をしている。

「シュワッチ」

 テランは飛び立ち、空の彼方へ消えた。

「潤さん!」

 徹を捜しにやってくる奏。

「吉崎さん!」

 徹の返答に気づいた奏が駆け寄ってくる。

「爆風で(はぐ)れたみたい」

「君が無事ならいいよ」

「なんか、とんでもないことになっちゃったね。これじゃハローワークに行っても意味ないね」

「帰る?」

「うん」

 二人は帰路に就く。

 



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5.ヴェルクの逆鱗

「おはようございまーす」

 警察署に出勤する奏。

「吉崎くん」

 と、課長。

「なんですか?」

「先ほどこんなのが届いたんだが」

 奏に写真を見せつける課長。

「ここに写ってる男性は誰だ?」

「え?」

 写真を見る奏。

(潤さんと私? 一体誰が?)

「もしかして彼氏か?」

「いや、違いますよ」

「同棲しているという情報もあるが」

「な……。課長、その情報はどこで?」

「悪いな。情報筋は明かせない」

「とりあえず、彼氏じゃなくて、仕事と住む場所がないから貸してるだけですよ。仕事するにも住所が必要ですからね」

「そうか。ならいいんだが……」

「……?」

 課長の言葉に疑問符を浮かべる奏。

「……けて」

 その時、奏の耳に誰かが助けを求める声が聞こえた。

「……!?」

「どうした?」

「課長、外回り行ってもいいですか?」

「今はなんも捜査してなかったはずだが?」

(どうしよう……?)

 一方、助けを求める声を聞いた徹が、主の元へと向かった。

 声は廃墟と化した工場の中から聞こえてくるようだ。

「誰かいるのかー?」

 工場に入る徹。

「ふっふっふっふ、こうすれば来ると思っていたよ」

 徹の背後に偽ヴェルクが現れる。

 振り返る徹。

「貴様!?」

「ウルトラマンヴェルク、ここがお前の墓場だ」

 偽ヴェルクが徹に襲いかかる。

 徹は攻撃をかわし、カウンターを浴びせる。

「う!」

 倒れる偽ヴェルク。

「貴様は何者だ!?」

 立ち上がった偽ヴェルクは、ザラブ星人に姿を変えた。

「私はザラブ星人。メフィラスの使者だ」

「メフィラス星人だと? バックにやつがついてるのか?」

「そうだ。お前を倒し、この惑星(ほし)を掌中にするのがあのお方のお考えだ」

「この星のヴェルドーレの二の舞にはさせない!」

 徹はヴェルクに変身した。

「巨大化しないのか? その大きさだと力を余分に使うのだろう?」

「く……!」

「いまのお前ではできるわけもないか」

「ああ、貴様のおかげでな」

「では強制的にそうさせてもらおう」

 ザラブ星人が巨大化する。

「な!?」

「さあ、巨大化するのだ、ウルトラマンヴェルク」

「く……!」

 ヴェルクは仕方なく巨大化する。

 と、そこに自衛隊がやってくる。

 自衛隊はヴェルクを攻撃する。

「ぐわ! ああ!」

 怯むヴェルク。

「ふはははは! 滑稽だな」

(なぜだ。いくらなんでも早過ぎる!)

「貴様が自衛隊を呼んだのか?」

「そうだ。ここにヴェルクが現れると通報したのだ」

 ヴェルクは戦場を周囲から隔絶するためのメタフィールドを展開した。

「なに!?」

「この状態を保つには時間が限られていてな。すぐに終わらせてもらう」

 ヴェルクは目にも留まらぬスピードでザラブ星人を翻弄し、弱った星人にトドメのスペシウムインパクトを炸裂させる。

「うわああああ!」

 星人が爆裂霧散すると、展開されていたメタフィールドが消滅した。

「シュワッチ!」

 飛び立ち、空の彼方へ消えるヴェルク。

 



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6.共闘

 ザラブ星人を葬ったヴェルクは、日々現れる怪獣や宇宙人を倒し、着実に信用を取り戻していた。

 そんな折、徹は奏とハローワークに来ていた。

 受付を済ませ、担当の職員と一緒に求人票を見ている。

「潤さんはどのような職種を望まれますか?」

「そうですねえ……。このご時世、怪獣や宇宙人の被害がありますよね。だから、防衛組織とかが出てればいいと思ったんですけど……」

「そうですか。でしたら、自衛官はどうでしょう? こちらでは求人は出てませんが、防衛省に問合せいただければ、アドバイスをしていただけるかと」

「そうさせていただきます」

 徹と奏はハローワークを出る。

「潤さん、防衛組織がいいの?」

「うん」

「そうなんだ。じゃあさっき言ってたように、防衛省に聞いてみるのがいいね」

「防衛省か」

「街の掲示板やホームページに採用情報が出るからそれ確認してみたらいいよ」

「そうだね」

 その時、グラグラと地面が揺れ始めた。

「うお!?」

「なに!?」

 転びそうになる二人。

 刹那、地面からゴモラが出現した。

 地上の人々が逃げ惑う。

 そこへ自衛隊の戦闘機が飛来し、ゴモラを攻撃する。

 しかしゴモラは微動だにせず、超振動波で戦闘機を撃ち落とす。

「潤さん、逃げて!」

「君は!?」

「私は警察官だから、市民を避難させる義務があるの!」

「気を付けるんだよ!」

 徹は人気のない場所へ移動した。

「……?」

 変身しようとすると、テランが出現し、ゴモラと対峙した。

 テランがゴモラに先制攻撃をしかける。

 ゴモラは拳をかわし、尻尾でテランの足を払って倒した。

「きゃ!」

 転倒の衝撃で地面が揺れる。

 ゴモラが仰向けに倒れるテランの上にのしかかり、顔面にパンチを繰り出す。

 見兼ねた徹はヴェルクに変身すると巨大化してゴモラに飛び蹴りを浴びせ、テランを救出した。

「大丈夫かい?」

 テランに手を差し伸べるヴェルク。

「ありがとう」

 テランはヴェルクの手を取って立ち上がる。

 ゴモラは咆哮し、突進してくる。

 側転でかわすヴェルクとテラン。

 ゴモラはビルへぶつかり、倒れて破壊。

「ふん!」

 ヴェルクはゴモラの尻尾を両手で掴み、回転して放り投げた。

 ゴモラは砂地へ落下する。

「ぎゃああああおおおおああああ!」

 立ち上がりざまに咆哮したゴモラが超振動波を繰り出す。

「ぐわ!」

 後方に吹っ飛ばされるヴェルク。

「ヴェルク!」

 振り向くテラン。

 ゴモラは隙を突いてテランに接近。

「後ろだ!」

「え!?」

 振り返るテランだが、ゴモラの拳をまともに食らってひっくり返った。

「てあ!」

 ヴェルクがゴモラに渾身の蹴りをお見舞いして吹っ飛ばす。

 立ち上がったテランはヴェルクの前に移動し、しゃがんで彼と共に合体光線をゴモラに放った。

「ぎゃああああ!」

 ゴモラは悲鳴を上げて爆裂霧散した。

 ヴェルクとテランが向かい合う。

「あなたは誰なの?」

「今は明かせない」

 ヴェルクはそういうと飛び立ち、空の彼方へ消え去った。

 テランは光に包まれると小さくなり、奏の姿に戻った。

「潤さんは?」

 辺りを捜索する奏。

 奏は徹を見つけ、駆け寄る。

「潤さん、怪我は?」

「大丈夫だよ」

「そう。よかった」

 安堵する奏。

「帰りましょう?」

「うん」

 二人は帰路に就いた。

 



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7.洗脳戦士

 今日(こんにち)に限っては、なぜか気温が上がらず、涼しかった。

 原因は吸血蝙蝠の大群のせいだった。

 自衛隊は吸血蝙蝠を撃墜するが……。

「うう……」

 一匹だけ撃ち損じて生き残っていた。

 そこに、奏が通りかかる。

「どうしたんですか?」

 傷だらけの男性を見て心配そうに声をかける。

「救急車呼びましょうか?」

「やめて。悪い人に追われているんだ」

 奏は辺りを見渡す。

 怪しい人物はいない。

「ここにいたら大変だわ」

 奏は男性を抱え起こし、共に家へと向かう。

 家に着き、中に入ると、徹が出かけようとしていた。

 徹は宇宙人としての超能力で、傷だらけの男が人間ではないことを見抜いた。しかし、奏の手前、それを暴露はできなかった。

「どこ行くの?」

「ああ、面接にね」

「バイト?」

「そんなとこ」

「頑張ってね」

 徹は家を出て行った。

「彼は?」

「うん? 私の家に居候中の方よ。それよりも」

 男性もまた宇宙人としての超能力で徹がウルトラマンであることを見抜いていた。

 奏はソファに男性を座らせ、傷の手当を始めた。

「誰にやられたんですか?」

「悪い宇宙人に」

「そう。大変だったのね」

 刹那、男性が奏に体を預けるようにして倒れた。

「大丈夫ですか?」

 男性は二本の牙を出し、奏の首筋に突き刺した。

「う!?」

 奏の赤い新鮮な血液を吸い始める。

 意識が朦朧とし、倒れる奏。

 男性はニヤリを笑みを浮かべる。

 一方、徹はコンビニでバイトの面接をしていた。

「どうしてうちなんですか?」

「特に動機はありません。つなぎとしてなにかやらないとと思っただけです」

「そうですか。なにかやりたいことが?」

「はい。地球を宇宙人たちの脅威から守りたいです」

「それはでかい夢ですね」

 コンビニの採用担当が徹の履歴書を眺める。

「うーん、残念ですが、見送らせて下さい」

 担当が履歴書を徹に返した。

 徹は悔しそうな表情で店を出た。

「帰るか」

 徹は奏の家に帰る。

 奏は黙々と料理を作っている。

「帰ったよ、吉崎さん」

「おかえりなさい」

 振り返る奏。

 食卓には先ほどの男性が座っている。

 男性が合図をすると、奏が徹を取り押さえた。

「何するんだ!?」

 ものすごい力で徹を抑え込む奏。

「お前もシモベにしてやろう」

 と、男性が席を立ち、徹に襲いかかる。

「ふ!」

 徹は近づいてきた男性に蹴りを入れた。

 尻餅をつく男性。

「ごめんよ」

 徹は奏の鳩尾(みぞおち)に肘をねじ込み、気絶させた。

 男性は窓を突き破って外へ逃げ出すと、怪獣に変身して巨大化する。

 徹はヴェルクに変身、怪獣と対峙する。

「テア!」

 ヴェルクが先制。

 怪獣はヴェルクの攻撃と浮揚してかわす。

 ヴェルクは怪獣に光弾を投げて撃ち落とす。

「貴様はバット星人だな?」

 怪獣は起き上がりざまに「そうだ」と答える。

 ヴェルクは注射器を取り出す。

「貴様の血をもらう」

「そうはいかん。やれ」

 テランが現れ、背後からヴェルクを攻撃する。

「ぐわ!」

 前方に倒れるヴェルク。

「ヴェルクよ、お前も俺様の奴隷となるのだ。そして死ぬまでこき使ってやる」

 ヴェルクは立ち上がり、怪獣に接近しようとするが、テランに取り押さえられてしまう。

 怪獣が接近し、ヴェルクの首筋に牙を突き刺した。

「ぐ!?」

 血を吸おうとするが、代わりに光が怪獣の口に流れ込む。

「なんだこれは!?」

「残念だったな。俺の中には血は流れていないんだよ」

「そうか。ならば死んでしまえ」

「そうね。でもそれはあんたよ」

「なに?」

 ヴェルクはテランを見やる。

「変身したおかげで正気を取り戻せたわ。よくも私を洗脳してくれたわね」

 テランはジャンプすると、空中で体をひねって怪獣の背後に着地する。

「貴様ー!」

 怪獣がテランに襲いかかる。

 テランは光線を放って怪獣に命中させる。

 辛うじてガードに成功する怪獣。

「二つならどうだ?」

 ヴェルクが光線を放つ。

 二つの光線に挟まれ、怪獣は押しつぶされて死滅する。

「ヴェルク、あなたは誰なの?」

「……………………」

 ヴェルクは無言を回答に空の彼方へ飛び立った。

 テランは大空に消え去るヴェルクを見つめる。

 



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8.ヴェルクの恋人

 ジョギング中の徹が踏切の前を通りかかる。

 線路内には、手押し車を両手で押しながら歩く老女の姿がある。

「あ!」

 老女の押す手押し車の車輪が線路の隙間に挟まり、抜けなくなる。

 老女は一生懸命に抜こうとするが、手押し車はびくともしない。

 その時、踏切の警報機が鳴り響き、遮断機が降り始める。

「やば!」

 徹は老女を助けるため、慌てて線路内に飛び込む。

「失礼します」

 老女を抱き抱える徹。

「あ、手押し車……」

「手押し車より命優先!」

 けたたましく鳴り響く電車の警笛。

 徹は遮断機をジャンプで飛び越える。

 電車が踏切に進入し、老女の手押し車を吹っ飛ばして粉砕した。

「ひ!?」

 老女は無惨な最期を遂げた手押し車を見て、自分が巻き込まれていたらどうなっていたことやらと恐怖を感じた。

「あ、ありがとうございます」

 老女は徹に頭を下げた後、彼の顔を見た。

「あ……」

 ゆっくりと徹の顔を触る老女。

「似てるわ」

「え?」

「私の、若い頃の彼に」

「そ、そうですか」

「思い出すわ。彼、遠くの国に帰ってしまってね。今頃、何をしているのか」

「そうなんですね。僕に似た男性ですか」

「ええ。若い頃の彼に瓜二つ」

 それよりも——と、続ける老女。

「助けてくれたお礼に、喫茶店でお茶をご馳走するわ」

「いいですよ、そんな。当然のことをしただけなので」

「あら? こんなに可愛い女性の頼みを断るの?」

「は……はは……」

 徹は後頭部に汗を一筋(ひとすじ)垂らす。

(しわくちゃで可愛いかもわからない)

「で、当然行くわよね?」

「ちょっとだけなら」

 徹は老女と共に、喫茶店に入った。

「好きなものお飲みになっていいのよ」

「えっと、じゃあ、コーヒーをブラックで」

「それじゃあ、私も同じものを頼もうかしらねえ」

 スタッフがコーヒーを用意した。

「そういえば、お名前を言ってなかったわね。私、小金井(こがねい) 千奈(せんな)。あなたは?」

「潤。潤 徹です」

(……?)

 徹は彼女の名に聞き覚えがあった。

「千奈さん、失礼ですけど、おいくつなんですか?」

「あなた本当に失礼ね。百二十五歳よ」

「すごい長寿なんですね」

 徹の中で疑問が確信に変わる。

「千奈さん、小宮山(こみやま) (たける)に聞き覚えない?」

「どうしてそれを?」

「僕だよ。ヴェルクだ」

 驚いた表情を見せる千奈。

「そんな!」

「久しぶりだね、千奈さん」

「そうね。本当に久しぶりね」

「僕たちの子はどうしてるの?」

「亡くなったわ。もう二十年くらい前」

「そっか。君が二十五の時だもんね。産まれたの」

「でも、孫とひ孫がいるのよ」

「そうなんだ」

曽孫(ひまご)は警察官をやってるって聞いたわね」

「僕は最近戻ってきたんだけど、その時に知り合った方も警察官だね」

「それじゃあ、二人は知り合いかもしれないわね」

「千奈さん、今日はどこかにお出かけ?」

「曽孫の家にね」

「そうなんだ。じゃあ送ってあげるよ」

「いいの? ありがとう。助かるわ。歳のせいか足腰が悪くて」

「久しぶりにスカイダイビングといきますか」

「またあなたの手の上に乗れるのね!?」

 きらきらと目を輝かせる千奈。

 コーヒーを飲み終え、店を出る。

「えっと、誰もいないよね?」

 辺りを見渡す徹。

「それじゃ」

 徹はヴェルクに姿を変える。

 ヴェルクは千奈をお姫様抱っこすると、空高く舞い上がった。

「遠く離れた地上の景色はやっぱりいい眺めね」

「千奈さん、曽孫さんの家は?」

「あっちよ」

 千奈が奏の家の方を指差した。

 ヴェルクは猛スピードで飛行する。

「わあ、速い」

「飛行機より速いぞ」

 ヴェルクはあっという間に某所に辿り着く。

 そこは、奏の住むマンションだった。

「ここなの? ここ、僕の仮住まいなんだけど」

「偶然ってあるのね」

「ここまで来ると部屋まで一緒なんてことは……」

 ヴェルクが千奈がついていくと、彼が寝食を共にしてる奏の部屋の前にやってきた。

「あ、僕は用事が……」

「だめよ! あなたのこと、紹介しなきゃいけないんだから」

 ピンポンとチャイムを鳴らすと、奏がでてきた。

「いらっしゃい、おばあちゃん」

 奏はそう言ってから、ヴェルクに気づく。

「ヴェルク!?」

「これ奏。この人はあんたの曾祖父さんだぞ」

「え? ええ!?」

 驚き戸惑う奏。

「そそそ、それじゃあおばあちゃんの元彼って!」

「そうさね。そういえば話に聞いてた居候の男はいるのかい?」

「いや、ジョギングに行ったきり戻ってないけど」

 ヴェルクの額に影が差す。

(やばい。元に戻るタイミングが)

「えっと、僕ちょっと用あるから……」

 ヴェルクは飛び立とうとするが、「健、待ちなさい」と、千奈に遮られた。

 もはや、嫌な予感は否めないヴェルクである。

 



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9.タイムトラベラー、その名はウルトラマンヴェルク

どこかで見たことあるようなサブタイ。でも主人公は違います。
それでは、本編、行ってみよう!


 千奈に室内へ連れ込まれるヴェルク。

「千奈さん、僕ほんとに時間がないんだけど」

「怪獣もいないのにどこへ行くっていうの?」

「おばあちゃん、ヴェルクも忙しいんだから悪いわよ」

「せっかくの家族の再会だけど、仕方ないわね」

 ヴェルクはテレパシーで千奈にだけ伝える。

「千奈さん、僕は今、潤 徹って名前でこの部屋で暮らしてるんだ。だけど僕はヴェルクだということを話していない。だから一回、家を出て徹として戻らせてくれ」

 ヴェルクは玄関へと向かう。

「それじゃあ」

 ヴェルクは部屋を出た。

「待ってヴェルク!」

 追う奏が閉まった扉を開けると、そこには徹がいた。

「あ! 潤さん、いまヴェルクが出てきたはずだけど」

「ヴェルクならどこかへ飛んでったよ」

「そう。それより早く入って? おばあちゃんが来てるの」

 徹は奏に促されて部屋に上がる。

「おばあちゃん、彼が潤さん」

「潤さんってあなただったのね」

「知ってるの、おばあちゃん?」

「私が踏切で立ち往生してたときに助けてくれたのよ」

「そうなんだ」

 奏は徹を見る。

「おばあちゃんのこと助けてくれてありがとう」

「うん」

「あ、潤さん、お願いがあるんだけど、プリン買ってきて。おばあちゃん、プリンが好きなんだ。その間にお昼作っとくから」

 そう言って、奏が徹にお金を渡した。

「わかった」

 徹は家を出る。

(奏が曽孫……? だから変身できたのか)

 徹はマンションを発ち、コンビニへ向かう。

(プリンだったか)

 徹はプリンを手に、レジへ移動する。

「百八円です」

 徹はプリンを買ってコンビニを出た。

 家に戻る途中、白服の若い綺麗な女が徹の前に現れ、彼は足を止めた。

「君は?」

「私は時の守護者、エリス」

「時の守護者?」

「今から五十五年前、地球にウルトラマンがやってくるという歴史が、何者かに改変されようとしているわ。あなたにはそれを止めてほしいの」

「止めろったって、どうやって行くんだい?」

「これを使って」

 エリスが腕時計型の端末を渡してきた。

 端末を受け取った徹はそれを改める。

(こんなもので……)

「こんなもので、と思ってるわね?」

「え?」

「私は人の心がわかるの」

「そうなんだ」

(余計なことを考えるのはよそう)

「考えないようにするのは無理ね」

「……!?」

「とりあえず、使い方を説明するわ。横の竜頭(りゅうず)を引っ張り出して、行きたい年代を合わせたら、押し戻すのよ。そうすれば端末が作動して過去や未来に行けるわ」

「……………………」

 徹は言われた通りに端末を操作すると、光に包まれて過去へとタイムスリップする。

 辿り着いたのは、五十五年前の、始まりの敵であるベムラーが地球に落ちる以前の時間だった。

(ここが五十五年前……)

「ほおう、タイムトラベラーか」

 と、フードを被った男が現れて言った。

「お前か、歴史改変をしようとしてるのは!?」

「ふん」

 フードの男は怪獣に姿を変えて巨大化した。

 徹は怪獣の攻撃をかわし、ヴェルクに変身した。

「テア!」

 怪獣と戦闘するヴェルク。

 拳を乱打し、怪獣を怯ませる。

 怪獣は体勢を立て直し、ヴェルクに尻尾をぶつける。

「うわ!」

 転倒するヴェルク。

 怪獣は口から炎を吐き、ヴェルクを襲う。

「ぬお!」

 立ち上がったヴェルクが熱そうにしている。

「さっきまでの威勢はどうした?」

 ヴェルクのカラータイマーが赤に変わり点滅を始める。

 ヴェルクはスペシウムインパクトを放つ。

 不意打ちの光線をくらい、怪獣は四散した。

 ヴェルクは宇宙空間へと飛び立つ。

 そこには、今まさにベムラーを地球に落としてしまったM78星雲の宇宙人が、地上へ降りようとする姿があった。

「……?」

 宇宙人はヴェルクの姿に気づく。

「君は誰だ?」

「通りすがりのウルトラマンだ」

「ウルトラマン?」

「どうやら時間改変は防げたようだ」

 ヴェルクは地上に降りると、光に包まれ小さくなって徹の姿に戻る。

 徹は端末を操作して現代へ帰還する。

 



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