悪夢と共に (あんノー)
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第一話

ここはシンオウ地方ポケモンリーグ。

 

シンオウ地方のポケモントレーナーが目指すべき頂き。四天王と呼ばれる凄腕のトレーナーを下し、その先にいるシンオウ地方最強のトレーナーに挑む場。

 

八つのジムバッジを手に入れた強者達が訪れる筈の場所。しかし、その門を潜る者はここ近年少なくなっていた。

 

理由としてはシンオウリーグの洗礼と呼ばれる、トラウマを植え付けられたトレーナーの大量発生である。

 

 

八つのジムバッジを集め終わり、強者としての自信を手に入れた者が、一転全ての自信を失う。

 

何度も挑戦を繰り返した者でさえ、越えられない壁の前に遂に心が折れる。

 

その噂を聞き、自分を信じきれなくなりチャレンジを躊躇う者。

 

 

それがシンオウリーグの洗礼。

 

具体的な内容で言えば、約四年もの間、四天王の最初の一人を突破出来たトレーナーがいないという実績だった。

 

 

それだけならば、さすが四天王、格が違う。となるのかもしれない。

 

しかし、それを為したのは、年若く小柄な少女である。

 

十歳で冒険に出られるこの世界では、幼き頃から才覚を表す者も当然いる。彼/彼女らは元気良く、若いパワーで、大人やベテランを追い抜いていくのだ。

 

ところがシンオウ四天王の一人目、銀髪で黒目がちの少女はまるで違った。

 

何度もあくびを吐き、うとうとしている。今すぐこの子にげんきのかけらが必要なんじゃないか、そう思うような気だるげな声で挑戦者に立ち塞がる。

 

 

 

そしてバトルの指示は的確に、まるで作業の様に挑戦者をポケモンリーグから叩き出すのである。

 

「ふぁああ……また違うなぁ……」

 

来る挑戦者に開幕でそう告げ、何度も何度も、一切の慈悲も容赦も無く戦闘不能にしていく。

 

その姿にいい年をした大人が絶望し、泣き崩れ、あるいは新たな扉を開きポケモンリーグから去っていく。そんな彼/彼女らを寝ぼけた目で見送るのが、

 

 

シンオウ四天王の一人、あくタイプのエキスパート。ヒナノと呼ばれる少女だった。

 

 

 

 

 

 

 

私はヒナノ。シンオウ地方の港町に生まれた子供。

 

私には別世界の他人の人生の記憶がある。クソッタレな記憶だ。……その人物の結末が首吊り自殺だと言ったら、どんな記憶かくらいは想像出来るんじゃないだろうか。

 

他人の記憶があると言っても、生まれた時からあったわけじゃない。最初っから全部あれば、いくらか楽だったんだろうけどね。

 

 

私が他者の記憶に侵食されだしたのは六歳の頃。夢の中で少しずつ別の人の人生を歩み始めたのだ。その夢は鮮明だった。まるでどっちが現実でどっちが夢なのか区別が付かなくなるほどに。

 

そうなると何が起きるか、自分の親が他人に思えてきたり、自分に無いはずの癖がいつの間にかついていたり。つまるところ……自分自身が曖昧になってきたのだ。

 

今は夢なのか現実なのか。今の私はちゃんと私だろうか。

 

六歳の幼い自我は、記憶の侵食に耐えれなかった。

 

まず夜に眠れなくなった。寝たら自分ではなくなっていく気がしたから。

 

そして引きこもりになった。親や周りの人を、他人のように感じてしまう自分が嫌になったから。

 

 

 

そんな生活に転機が訪れる。寝れなくなると言っても、体はいつか限界を迎えて寝る。そして、他人の人生を歩まされる。また他人の記憶に自我が侵食される……かと思いきや、その夢が黒く塗りつぶされるようになった。

 

黒一色の真っ暗闇の夢。その中で誰かの揺れる瞳だけがこちらを覗いている。

 

悪夢と言えば悪夢なのだろうが、強制的に他人の人生を歩まされる事に比べればだいぶマシだった。うなされはしてるらしいけど、心の安寧は保たれた。

 

その悪夢も慣れてしまえばうなされるようなことも無く、寝るのに恐怖していた頃から比べれば、だいぶ健全な生活を送れるようになった。

 

 

 

しかしそんな生活も、少し時が経ちまた変化が起こった。

 

両親が私の症状を調べ、私の他人の夢や悪夢の原因はとあるポケモンだとたどり着いたのだ。

 

そしてその対処法を行った。渡されたのはとあるポケモンの羽根だった。

 

みかづきのはねと呼ばれる、月の輝きのような綺麗な羽根。

 

 

私はこれでもう悪夢も、他人の人生にも悩まされない。数年の寝不足から解放されると歓喜した。

 

 

 

黒で塗りたくった悪夢は消え去った。だが、他人の人生はどっと流れ込んできた。あまりの情報量に脳がパンクしつつ、そうなって初めて理解する。

 

これがゲーム、ポケットモンスターの世界であり、悪夢を見せていたポケモンはダークライと呼ばれる事。

 

そして別世界の他人の記憶を、意図的か偶然かは定かでは無いが、悪夢で押しとどめてくれていたのだろうという事。

 

 

だが、みかづきのはねの効力により、その悪夢の堰は取り払われた。

 

 

他者の記憶が全て流れこんできて、私は恐らく変わってしまったのだろう。

 

 

 

周りから見たら驚きどころか不気味に思えるんじゃないだろうか。

 

たった一夜でこれまで年相応の知識と口調だった少女が、大人の知識と、諦めにも似た落ち着きをまとっていたのだから。

 

その夜を超えた後の自分にとって、両親を素直に生みの親として見られなくなった。今までパパママと呼んでいたのが、今では父さん母さんと言うのでさえ自分の中で違和感を感じる。

 

 

他人の生まれてから自殺するまでの嫌な記憶は一通り見たのだが、それで終わりではなかった。何度寝ても、何度その人生を追体験し終えてもリピートされる。

 

これがお前の本当の人生だと言わんばかりに。

 

 

 

寝てるのに、頭の中で嫌な人生を送る生活が続く中、再び黒一色の悪夢がそれを包み隠した。……前に貰ったみかづきのはねはもう捨てていたからかもしれない。

 

「ねぇ……ダークライ。ここにいるの?」

 

ある日の夜、寝る前に自分の部屋に視線を感じ、ポツリと呟いてみる。

 

相手は幻のポケモンだ。いるわけが無い。感じた視線も、ただの勘違いだろう……そう思っていると、私の影が揺らめいた。

 

それはそのままダークライの形をした影になり、遂には影の中から出てきた。

 

「貴方は私を守っていてくれたの?」

 

私は悪夢について尋ねた。あれは気まぐれなのか、それとも本当に私の為にわざわざ起こしてくれていたのか。

 

ダークライは私の頭を撫でながら、申し訳なさそうな目を私に向けた。哀れみの目と言ってもいいかもしれない。

 

その様子で私は久々に少しだけ笑みを浮かべた。こんな私がまさか幻のポケモンに気にかけてもらえているとは思ってもみなかった。

 

 

 

ガチャ

 

 

私は迂闊だった。幻のポケモンを前に興奮していたのかもしれない。

 

私が寝て暫くすると、父親が寝ている様子を見に来る事を失念していたのだ。

 

「ダークライっ!?」

 

驚きと怒気を含んだ叫びだった。それもそうだろう。父親はダークライについて調べがついていて、私の生活を壊したのはこのポケモンだと思っているのだから。

 

父親には知りようもないだろう。ダークライが悪夢で私の自我崩壊を守ってくれていたなんて事は。

 

そこからは早かった。元ポケモントレーナーであった父親は相棒のフローゼルをボールから出す。

 

「アクアジェット!」

 

フローゼルの突撃を受け止めるダークライ。だが苦しそうな表情をしている。幻のポケモンとはいえ、元々受けに回るような防御の高いポケモンでは無い筈だ。

 

その後も反撃もせずに一方的に攻撃を受けるダークライ。その目は目の前のフローゼルや父親でもなく、私に向けられていた。まるで私の言葉を待っている様だった。

 

 

私の恩人とも言えるポケモンが、父親らしき人物のポケモンに攻撃されている。

 

私の人間関係はここに破綻した。今まで血の繋がっていた親と辛うじて認識していた心は、遂にその男に敵意を向けた。

 

そしてその敵意の向け方を、私は他人の記憶で手に入れてしまっている。

 

「ダークライ……あくのはどう」

 

組み付いていたフローゼルを、ダークライは体からほとばしる力で吹き飛ばす。もう部屋はボロボロだが、私は気にもとめてない。

 

「ヒナノっ?!」

 

「その人ごと眠らせて……ダークホール」

 

ダークライの手から2つの黒い玉が発射され、それが男とフローゼルにぶつかり包み込むように広がる。その黒い玉が消えた後そこには苦悶の表情を浮かべながら眠るポケモンと男が残される。

 

 

衝動的にとはいえやってしまった。わずかな時間のドタバタとはいえ、下の階の母親には気が付かれただろう。来るとまた一悶着ありそうだ。

 

「うん……逃げよっか」

 

短絡的に逃避を決めた。ダークライもそれに従ってくれた。

 

ダークライによるお姫様抱っこからの、窓から宙へ脱出である。

 

最後に母親に見られた為、誘拐みたいに見られているかもしれない。

 

 

人目に付きにくいように、屋根より少し高い所を抱えられながら街中を翔る。初めて飛ぶ空を楽しむ余裕は無かった。

 

 

とりあえず街から離れよう。

ミオシティだから逃げる方向は海か218番道路。道路周りの森しか無いけど。海か森で言ったらやっぱり森かな。きのみとかあるかもしれないし。

 

 

 

森の木々を避けて飛びながら、方角的にはコトブキシティの方へ逃げる。

 

これからどうするとか全く考えてないけど、今人生で一番心がスッキリしている。元の自我とは変わったかもしれないけれど、いろいろと吹っ切れたっぽい。

 

 

うん……生まれ変わったと思って好きに自由に生きよう。他者の記憶に振り回されてるのも面倒だ。私が今までに築いてきた人間関係ももう自分の中では白紙に戻った。

 

「ずっと一緒にいてくれる?」

 

私を抱えるダークライに確認をとる。軽く頷くだけだったが、凄く嬉しくなった。

 

 

 

 

街から結構離れた。人生で家から一番遠くまで出たのではないだろうか。

 

「少し休憩しようか?」

 

森の少し開けた所にたどり着く。徐々に高度を落とし、優しく自分を着地させてくれる。

 

ダークライがまだ余裕か、余裕でないかは今の自分ではわからない。ただワザを受けたのは確かであり、その確認もまだしていない。もしかしたら相当無理しているのではないか。

 

「体は大丈夫?」

 

ダークライはまた小さく頷くだけ。その後すぐ周囲に視線を向けた。

 

 

その様子に疑問を持つと、森の暗闇の中から多くの目がこちらを覗いている。森のポケモンたちのナワバリにでも入ってしまったのかもしれない。

 

「ダークライいける?」

 

尋ねるとダークライは両手を天に向ける。両の掌の間に、父親とそのパートナーを眠らせたのと同じ黒い玉が現れる。前と違うのはその大きさ。一回り以上に大きいように見える。

 

周囲のポケモン達がそれぞれ飛びかかってくる。警戒していたポケモンが敵対行動を取り出したので当然だろう。

 

ダークライが掲げる黒い玉が一瞬小さくなった。それが弾けるように全方位に飛び散る。それぞれがポケモンにぶつかり、後は前と同じだ。深い闇が包み込み、飛びかかったポケモン、飛んでいたポケモンはボトボトと地面に。他のポケモンもそれぞれ崩れ落ちた。

 

森は一瞬で静かになった。私はあまりの光景に開いた口が塞がらなかった。その後興奮した言葉が口から溢れた。

 

「すごい!すごい!」

 

ダークライに抱きつきながら子供のようにその言葉を繰り返した。その後ふと冷静になり、少し恥ずかしくなった。他人の人生が入って来て、中途半端に精神が成熟してしまった影響かもしれない。

 

 

そして私も一連の流れで疲れたのか地面に座り、木に背中を預け眠りについた。

 

また、別人の記憶を辿り始める。だが、今回は何の不安も嫌悪感も無かった。夢の中の自分、その足元の影が真っ黒になり広がる。ゆらゆらと揺れる影が夢の世界を塗り潰してくれる。

 

ダークライの悪夢が始まった……と思いきや、急に覚醒へと導かれた。

 

目を覚ますとダークライが私の肩を揺さぶり起こそうとしている。しかしその目は私では無くダークライの後ろを警戒しているように感じた。

 

「誰か来るの?」

 

ダークライは私に背を向け、その視界の先に意識を注いでいる様に見える。ダークライが警戒している。森のヌシのようなポケモンでも来てしまったのだろうか。

 

 

 

聞こえてきたのは小さい足音。それに付随する重く響く足音。

 

現れたのは女性とそのパートナーらしきドサイドン。

 

ドサイドンにも驚くのだが、それよりも驚いたのがそれを率いる人物だった。他人の記憶の、ゲームとしてのポケモンに出てくる人物。いくらか若い様にも見えるが間違いない。

 

「こんばんは、小さなお嬢さん。助けに来ましたよ」

 

穏やかな声で言葉を発する人物はシンオウポケモンリーグ四天王の一人。じめんタイプ使いのキクノだった。




自分が前書き長いの苦手なのでほとんど後書きになるかと思われます。約束はしません。

ここまで読んでくださりありがとうございます。こんな駄文で良ければこれからもお付き合い頂ければ幸いです。

後書きではこの作品の設定とかについて、適当に自問自答しようかと思います。感想等でここわからん的なものあったら後書きに追加するかも。

Q、作者のポケモン歴、やりこみ等
A、一番はエメラルド。プラチナ、ソウルシルバーやって撤退。最近BWとかORASとかusumやってた。全てエンジョイ勢。タイプ縛りだけして後は飽きるまで。対戦等は身近でしかしてない。なんちゃって神風論理で大抵爆死してる。
投稿日にようやくswitchが届いた。勝ったな、ガラル行ってくる。

Q、世界観
A、メインはゲーム原作。そこにアニメやら映画やらの要素突っ込んでいく予定。ちなみにアニメも映画もあんまり見てない。

Q、どうしてダークライ?伝説厨?
A、私が好きなポケモン映画はディアルガvsパルキアvsダークライだったから。オラシオンって良いよね。グレッグルのどくづきは世界を救う。

Q、主人公って転生?
A、なんか素直に転生させたくなかった。ダークライとの接点もできたしこれでええか(鼻ほじ)

Q、初っ端なんでキクノおばあちゃん?
A、原作より時間が早いかつ、他の四天王とかジムリーダーの中では一番作者的に使いやすそうな人だったから。

Q、投稿頻度は?
A、ソード楽しいぃぃぃぃ!

Q、次回も見なあかん?
A、待ってる


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第二話

あたしはキクノ。シンオウリーグ四天王の一人。

 

ミオシティをぶらりと訪れていたら、ポケモンによる少女誘拐が起こったっていうじゃないか。

 

それを耳に入れてしまっては動かない訳にもいかず、警察や街の人に混じり連れ去られた方へ歩みを進める。

 

誘拐された少女の母親曰く、犯人はダークライという幻のポケモン。四天王として多くのポケモンと戦い、様々な形で関わってきたあたしですら聞いた事の無いポケモンだ。

 

悪夢を見せるポケモンでどうやら、少女は長い事その被害にあっていたらしい。

 

父親が寝ている少女の様子を確認しに行くと鉢合わせたらしく、娘を守る為に挑むもパートナーと共に眠らされ、今は悪夢にうなされているという。

 

 

ご両親の心中を察するとあまりにも不憫で、この重い腰をあげないといけないかねぇ。

 

 

 

 

街の中を森に向けて進みつつ、比較的背の高い建物の屋根に向けてボールを一つ投げる。そこから飛び出すのはグライオン。あたしの今の手持ちの中で、追跡に向くのはこの子ぐらい。

 

「逃げた方向へ滑空。見つけたら手は出さず、少し離れて旋回して場所を教えて頂戴な……こうそくいどう」

 

簡単な指示を与えると、グライオンはすぐにあたしの考えを汲み取り滑空体勢に入る。全身の無駄な力を抜き、滑空速度を少しでも上げる。

 

「さて、行っておいで」

 

音を立てずに逃げた先へ高速で滑空する姿を見送る。その方角へ歩みを進めながら思案する。

 

「それにしても幻のポケモンが人さらいなんてねぇ……いったい何が目的なのやら」

 

普通の野生のポケモンが子供を誘拐する事件や、人がポケモンを使って誘拐する事件なら聞いた事はある。だが、ダークライにはそんな話は無い。

 

過去に人さらいを行っているなら記録に残るし、記録に残らない昔でも逸話に含まれる筈だ。人間に害があるならば、人は必ず後世に伝承する。そうして生き残ってきた種族なのだから。

 

「ならば原因は少女の方かねぇ」

 

特定のポケモンに好かれる、または狙われるのは特段珍しい話でも無い。

 

前の飼い主に匂いや雰囲気が似ている程度でも寄ってくるポケモンもいれば、とある一族にしか心を開かないポケモンもいる。何か特殊な物を所持しているから永遠に付きまとわれる事もよくある事だ。

 

かくいうアタシもじめんタイプのポケモンに好かれてたりするからねぇ。

 

これ以上考えても仕方ないと思考を切り替え、ふと少し遠くの空を見ると追跡に放ったグライオンが見えた。

 

 

同時に視界の先には、おそらくダークライに眠らされているポケモンがちらほら確認出来る。木にもたれかかるように、地面にうつ伏せに、そして木の枝に引っかかるように。地に足をつけるポケモンも、木に張り付くポケモンも、空を飛ぶポケモンも全て。

 

例外はいるものの、多くのポケモンが同じ方向に向けてうつ伏せで寝入っている。

 

同時に眠らされたか。広範囲かつ遠距離で強制的に眠らせる。匂いも残ってないからガスとかでも無いし、草タイプのポケモンもぐっすりだから粉でも無いのね。上空のグライオンが眠らされていないなら、声や光などが条件でも無さそう……絞りきれないのはちと面倒だねぇ。

 

「この先ね。ドサイドン、ステルスロック。カバルドン、あなをほって真下まで行くのよ」

 

ドサイドンが足で地面を力強く踏み付ける。すると地面から角張った岩が宙に飛び出し漂う。そして風景へと溶け込んでいく。相手は眠らせてくるポケモン。その眠らせる手段が判明しない為の警戒態勢だ。

 

ステルスロックがあたしたちの前面で漂い始めた頃、カバルドンが地面に潜行していく。

 

これなら地面のカバルドンか空中のグライオン、どちらかは眠らない可能性がある。

 

「さて、あたしたちも行こうかね」

 

 

 

森の開けた場所、そこに一人の少女とポケモンがいる。私の立ち位置から見て、ダークライの奥に少女がいる。

 

おや、眠らされていない?

 

目の周りにくっきりとした隈をつけた少女は起きていた。私を見て驚愕している。助けを待っていたのだろうか。

 

「こんばんは小さなお嬢さん。助けに来ましたよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんばんは小さなお嬢さん。助けに来ましたよ」

 

私が初めて会う原作キャラが四天王とは思うまい。イメージとして四天王と呼ばれる方々はポケモンリーグでチャレンジャーを待っているものだと思っていたのだから。

 

よくよく考えると彼らも人間であり、自由に動くのは当然といえば当然なのだが。

 

 

驚きのあまり返す言葉が見つからない。ゲームの中のNPCではなく、現実としての四天王なのだ。なんでこの人がこんな所にいるのだ。

 

 

そんな驚愕中の私の前でダークライが動いた。両手からそれぞれ黒い玉、ダークホールを飛ばす。目の前のキクノとドサイドンを眠らせる気だ。

 

それは命中する前に見えない何かに当たり、何も無い場所を暗闇で包み込む。ダークホールが消えた後、かすかに空中が不自然に光るだけだった。

 

「おや、一番の当たりを引いた。ドサイドン、構えなさい」

 

ドサイドンの右手が私たちに向く。掌部分に石を撃ち出す発射口があるのだ。

 

ダークライはその場から動かず、両手に力を溜めている。あくのはどうで向かい撃つか、相手より先に撃とうとしている。

 

「逃げないのかい。こりゃ予想外だね。ならグライオン、ゴッドバード」

 

視界の上端から勢い良く、ポケモンがダークライに降ってきた。宙に浮いていたダークライが地面に叩きつけられる。だが、直撃では無かった。

 

ダークライは黒い防殻を頭上に展開している。あれはもしかして、まもるなのか。

 

「カバルドン、あなをほる」

 

地面に落とされたダークライの真下から、重量ポケモンのカバルドンが大きな口を開けて飛び出る。ダークライの半身を口で加え、地面に引きずり込んだ。

 

 

 

私が心配する間もなく、ダークライは身動きを封じられた。ダークライは頭以外が地面に埋まり、その頭の上ではドサイドンが掌の発射口を向けている。

 

もうどうしようもないというのは私でもわかった。父親に攻撃された時とは違い、私が感じたのは怒りではなく恐怖だ。四天王のポケモンに恐怖したのではない。ダークライがいなくなる未来に恐怖した。

 

出会ってからはまだ短い間だが、助けてくれたし頼みも聞いてくれた。それ以前からも私を夢の中で守ってくれていた。

 

「待って!!」

 

だからこそ、私は飛び出した。ダークライとドサイドンの発射口の間に。

 

 

「やれやれ、そういう事かい……小さいお嬢さん」

 

キクノはゆっくりと私に近づいてくる。ため息をつきながらグライオンとドサイドンをボールに戻した。

 

「念の為カバルドンで動きは封じさせてもらうからね」

 

カバルドンはまだこの下でダークライの半身を咥えたままらしい。

 

 

 

「さてお嬢さん、名前はヒナノで合ってるかい?」

 

「そうです」

 

「あたしはキクノ。お嬢さんが誘拐されたって聞いてきたんだけども……これはもしかして家出なのかい?」

 

「……はい」

 

「やれやれ……喧嘩でもしたのかい?」

 

「ちょっと複雑で……聞いて貰えますか?信じて貰えないかもしれないですけど」

 

私は話した。詳細は省いたが、他人の記憶に侵食されていた事。それで自我があやふやになり両親を親と見えなくなってしまった事。それをダークライが悪夢で上書きして、抑えてくれていた事。

 

みかづきのはねによって、記憶の侵食は一気に進んでしまったこと。ダークライはそれでも守りに来てくれたが、運悪く父親に見つかり衝動的に眠らせてしまった事。

 

八歳の身ではどうしようもない経験を、四天王のキクノは最後まで聞いてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

聞けば聞くほど不思議な話で、数奇な人生のお嬢さんだ。これでまだ八歳なのだから驚きしかない。

 

他人の記憶が侵食してくるというのが、どんな感覚かはこの子にしかわからないのだろう。悪夢の方がマシであると感じる程の嫌悪感を感じるらしい。その結果の自我崩壊。

 

実の親を親と思えなくなるとは酷く悲しい話だ。それに自分が変わったという自覚があると言うのを、八歳の子供が吹っ切れたように言う姿に、あたしは何も言えなくなった。

 

他人の記憶の影響で子供とは思えない落ち着きと話し方をする。体は子供でも、その知識と精神性は大人と言ったところか。ただ、今回の衝動的な行動には多少の幼さを感じる。

 

「話はわかった……けどねぇ、正直言って精神面ではあたしはお手上げね。あたしにできることはポケモンとの付き合い方を示すくらいだよ」

 

「付き合い方……ですか?」

 

「今のままではお嬢さんとダークライを引き離さなきゃならない」

 

「……それは」

 

心苦しいがそうなるのは目に見えている。トレーナー資格も無いこの子が幻のポケモンを所持するのはリスクが高すぎる。

 

この子らの信頼関係を疑っているのではない。

 

ドサイドンがダークライに向けて照準を合わせた時、ダークライは後ろのお嬢さんに万が一があってはならないと回避を放棄した。

 

お嬢さんもダークライの前に立って防ごうとした。その時のこの子らの瞳のそっくりな事。あんな光景を見せられてはねぇ。

 

だが、多くの人は信頼関係という見えないものだけでは納得もしてくれないのもまた事実。

 

「お嬢さんが持つにはダークライの能力は強すぎるのよ。それに幻のポケモンだから狙う連中も多いだろうし」

 

「私がダークライと一緒にいるにはどうしたら良いですか?」

 

「ポケモントレーナーになる事。それもただのトレーナーじゃない。誰からも認められる様なトレーナー……ジムリーダーや四天王と言ったところかしら。お堅い連中にはダークライを完全に従えられるという格が必要で、悪い連中にはダークライを奪うのは不可能だと思わせなければならないのよ

 

お嬢さん……いや、ヒナノ。あなたに覚悟があるのなら手伝ってあげても良い。その間はあたしがあなたとダークライの責任を取るといえば、お堅い連中は黙るだろうさ」

 

「お願いします」

 

「即答だね。ダークライも良いのかい?」

 

こちらも即座に頷く。それを確認し、カバルドンに拘束を解くように指示を出した。ダークライが地表に上がる最中、懐から空のモンスターボールをヒナノに渡す。

 

「ほら、受け取り」

 

簡単に使い方を教え、ダークライも特に抗いもせずにボールに収まった。

 

ふふ、ダークライの入ったモンスターボールをジロジロと確認する様子は年相応だねぇ。

 

「さて、忙しくなるよ」

 

この子の両親への説明に、いくつかの機関や組織への説明。まぁ、ここらは良い。四天王の名はこういう時には大いに役に立つ。

 

問題はこの子の育成か。あたしもこの歳でまだ背負うものがあるとは……引退はまだだいぶ先の事になりそうだよ。

 

「とりあえず二年。あなたが十歳になるまでにトレーナーのいろはを叩き込む。その後は急ぎ足でジムバッジ集めて回って貰うからね」

 

「えっ?!」

 

「いつまでもあなたの面倒を見る訳にはいかないからねぇ」

 




switchのグラフィックに今更驚く作者でございます。とりあえず書き溜めを放流していく。サクサク行きますよ〜。

Q、ステロの効果違くな〜い?
A、技の説明に書かれてる事を拡大解釈していくぞ。

感想等助かる!



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第三話

四天王に弟子入りするという、普通のポケモントレーナーなら泣いて喜びそうな出来事が起きて、私の生活は変化した。

 

親元を離れキクノ師匠について行くことになったのだ。

 

キクノ師匠に弟子入りしたというのもあるが、ダークライを持つ私の監督役として目に届く範囲にいる必要がある。四天王としてポケモンリーグに勤める必要がある為、私もついて行かなければならない。

 

そして私の精神衛生上、無理して家族で暮らすより、一回距離を置いた方が良いのではないかという話になった。両親も渋々ながら最後には納得してくれた。

 

娘に攻撃されたというのは結構堪えたのかもしれない。それでも心配してくれながら、送り出してくれた。

 

 

 

 

師匠の元でポケモントレーナーとして育てられた。そんなにスパルタという訳でもなく、長年積み重ねられた確かな経験から的確な指導をうける。

 

この世界が別世界のゲームの世界であると知って、その知識は役に立っている。ポケモンの名前やタイプ、特性、ポケモンの種類による得意不得意。他には大まかな地理ぐらいか。

 

正直言ってそれくらいの情報は師匠の元で学べる。師匠すら知らない幻のポケモンや、伝説のポケモンくらいなら私の方が多くの事を知っているだろうが、そんな知識などそうそう使うものでは無い。

 

ポケモンバトルもゲームのようなターン制でもなければ、数値の勝負でもない。ワザの効果も使用方法も、トレーナーの指示次第。同じポケモンでもトレーナーが違えば、まるで別の個体のように変化する。

 

 

まぁ、ゲームの中の記憶が使えないという訳では無いのかもしれない。この世界が本当にゲーム通りの時間の進み方をするならばの話だ。

 

現在シンオウ四天王でゲームの中で見た事があるのはキクノ師匠だけだ。それも第四番目、チャレンジャーにとっての最後の四天王となる。シンオウ四天王は戦う順番が決まっており、それが四天王としての格付けでもある。

 

つまりは、まだリョウもオーバもゴヨウも四天王に就いていないのだ。チャンピオンも当然シロナでは無い。私が今いる時間軸はゲーム、ダイアモンドパールよりも前の世界だ。

 

四天王だけじゃなく、ジムリーダーも全員違う。ギンガ団という組織もまだ現れてはいない。

 

 

 

 

そんな世界で私は十歳でジムバッジを一年かけて集め、十二歳で四天王についた。格付けとしては一番下。チャレンジャーにとって最初の四天王になる。

 

四天王の一人がもうかなりのご高齢で引退という事で、キクノ師匠の弟子として白羽の矢が立った。

 

四名の四天王全員と戦い、何とか席を戴けた形だ。引退される方には何とか勝利する事が出来たが、他の三名には敗北した。特にキクノ師匠は私の欠点や癖を知り尽くしているため惨敗という形になった。

 

 

 

私が使うポケモンはあくタイプ。ダークライと一緒にいるからなのか、妙にあくタイプのポケモンと親和性が高い。あくタイプのポケモンに好かれ、感情を理解する事が出来る。

 

これはキクノ師匠曰く変な能力とかでは無く、良くあることらしい。特定タイプのエキスパートが、四天王やチャンピオンに多くいるのもその為だ。

 

私が下手に様々なタイプのポケモンを育て扱うと、そのポケモンの力を上手く引き出せない。それくらいなら弱点を対策した上で、ポケモンの全力を出せる方が強い構成なのだとか。

 

この世界でバランスの良いパーティーを満遍なく育て戦えるのは、それこそ才能や生半可じゃない努力の成果なのだという。

 

未来にやってくるかもしれないシロナや、各世代の主人公は化け物揃いなのだと、四天王になった今でこそ思う。

 

 

 

 

まぁこうして名実ともに四天王になり、ダークライのトレーナーとして格を得た。

 

ただ、第一四天王ってしんどい。毎日という訳では無いが、挑戦者は次々にやってくる為、まとまった休みが取れない。

 

向かってくるトレーナーも八つのバッジを手に入れている為、最低限の実力は持っているわけである。一戦一戦がそれなりにハードだ。体力の無い私には辛い。

 

かと言って手を抜いて万が一挑戦者を通しでもすれば、後ろに控える方々、特に師匠から怒られる。そんな背後からのプレッシャーでこの酷い眠気と戦っている。

 

 

 

生活が変わり、それに伴い私にも変化がある。ダークライと一緒になってから、よく眠る様になった。これまでの寝不足を取り戻す様に。今ではダークライの見せる悪夢は私たちにとって、一種のコミュニケーションになっている。

 

だが、成長期のストレス過多、慢性的な寝不足は体の成長に確かに現れており、同年代の子供と比べても小柄な事が目下解決したい悩みである。寝る子は育つはまだ間に合うのだろうか。

 

体の変化でいえば、目の周りの隈が薄くなってきたことだろうか。さて……

 

「今日こそは勝たせてもらうぞ!」

 

「ふぁああ……ようこそポケモンリーグへ。ってもういいですよね」

 

四年もここにいたら、何度も挑戦してくる人もいる。この人は三度目だったかなぁ。口上とか説明とか全カットで行こう。

 

「三度目の正直だ!行け!ムクホーク!」

 

「二度あることは三度あるってね……ブラッキー」

 

 

空高く舞い上がるムクホーク。それは急降下で仕掛けるっていうわかりやすい合図。ブラッキーもそれを理解して、ボールから出てすぐに警戒態勢を取る。

 

「ゴッドバード!!」

 

「落ち着いてみきってからあくび」

 

ブラッキーが紙一重で躱しつつ、すれ違いざまに眠気を誘う。

 

ただなぁ……私に挑戦する人必ずと言っていいほど、ねむり対策してくるのよねー。大抵がカゴのみ持たせてる。この人に至っては私ともう二回戦っているし、ムクホークもすぐに持ち物のカゴのみで眠気を吹き飛ばした。

 

まぁ寝ないなら寝ないで別の手を使うまで。ムクホークは攻撃する為に必ずと言っていい程接近してくる。その際に仕込めるものは仕込んどかないと。はぁ……長くなりそうだね。気張りますかぁ。

 

 

 

「クロバット戦闘不能!勝者、四天王ヒナノ!」

 

ジャッジの声でバトルが終了する。チャレンジャーが膝から崩れ落ち、悔しさを滲み出している。

 

今回は四匹使わされた。ブラッキー、ドンカラス、ヘルガー、ミカルゲの四匹だ。前に戦った時は、三匹で済んだのに。こういうの見ると四天王としての役割なんだかんだ果たしてるなーと実感する。

 

シンオウ地方のトレーナー達の壁となる事。それが四天王としての最大の役割。……まぁ何人か心を折った人もいるかもしれないが、実力の世界なんで責めないで欲しい。

 

 

 

「ヒナノ様、新たなチャレンジャーがいるのですがお通ししましょうか?」

 

ポケモンリーグの関係者が私に尋ねてくる。私よりもだいぶ歳上だけど、四天王という立場上敬語で話してくる。最初は戸惑いもしたが、長年ここを拠点にしているとその対応も慣れてくる。

 

「んー……いいですよ。うちの子たちがある程度回復したら通してください」

 

少し眠いけど来てくれたんなら挑戦を受けようか。明日まで待たせるのも悪いしね。

 

「私の知ってる人ですかね?」

 

「いえ、今回が初チャレンジですね。貴方様と同じくらいの少女です」

 

その言葉を聞き、私は固まった。私と近い歳の少女で、ここまで辿り着ける人物などそうそういない。ついにあのキャラが来たのかもしれない。

 

「ヒナノ様?」

 

「チャレンジャーの名前はわかりますか?」

 

「シロナと登録されています」

 

いつか来るかもとここで待っていた。まだいない四天王やチャンピオンがやってくるかもと。まさかシロナからやってくるとは思わなかったけど。

 

原作ではキクノ師匠のさらに上、チャンピオンとして十年近くその座を維持し続けるシンオウ最高のトレーナー。

 

「……三時間待ってもらってください。完全に回復させてから挑戦を受け付けます。私も一眠りしてきます」

 

「かしこまりました」

 

下手したら私の四天王生活最後のポケモンバトルになるかもしれない。そう思うと自分もポケモン達も今の全力を出し切れる状態にしなければ。

 

四天王としての広い控え室に戻り、人をダメにするカビゴンクッションに背中から倒れ体重を預ける。腰に残された最後のモンスターボールを軽く宙に放り投げると、その中から私のエースポケモンであるダークライが現れる。ちなみに先のバトルで使用した四体は係の人に預けて回復中だ。

 

「次のバトルは久々に出番が来るかもしれないよ」

 

ダークライは現在一年近く公式戦で使用していない。エースポケモンだし幻のポケモンだし、出番は一番最後にしている。ただ、次のバトルは絶対にダークライの力が必要だ。

 

「じゃあちょっと集中するから、よろしくね」

 

ダークライの頷きを確認した後、私は目を閉じダークライのダークホールに包まれる。

 

いつも悪夢でコミュニケーションをとっていたが、今回は無し。ただの暗闇の中で、一人心を落ち着かせる。悪夢を使った強制瞑想と言ったところか。

 

 

 

二時間と少しが経ち、ダークライが私を揺さぶり起こしてくれる。悪夢式瞑想から起き上がり、余計な眠気を吹き飛ばす為控え室の冷蔵庫を開ける。そして一本の液体の入った小さいビンを右手に取る。

 

ラベルには『カゴのみとげんきのかけら配合!倒れても働けます!』と書かれている。いわゆるエナジードリンクと言うやつだ。フタを開け、空いた左手を腰に添える。そして背を反らしながら一気に飲み干す。

 

目がシャキ!となり、ここまでが私が全力を出す時のルーティンだ。

 

シャワーで汗を流し、黒ズボンに白シャツというシンプルな服装で身だしなみを整える。準備が整った後に関係者より預けていた四匹が渡される。

 

「挑戦者は既にお待ちです。では、ご武運を」

 

 

 

 

バトルフィールドに繋がる廊下の途中で、ボールの中のポケモン達の表情を見る。皆いつもよりやる気があるように見える。……私が久しぶりにちゃんとしたからかな。

 

相手は未来のチャンピオン。その為か私がチャレンジャーのような気持ちになっている。今の時点では分からないが、ゲームの通りならキクノ師匠よりも強いトレーナー。あの人以上の実力者なんて初めて見る。現チャンピオン?会ったことない。チャンピオン特有の放浪癖があるらしい。

 

 

 

フィールドに出るとそこには長い金髪の少女がいた。ゲームでのシロナのクールビューティの感じはまだ無く、幼さの方が感じられる。胸はこの段階で成長の兆しを見せているのか。……この格差はせち辛いね。

 

 

では気分を切り替えて、

 

「やぁ、遂にここまで来たね。ポケモンリーグへようこそ。私はあくタイプ使いのヒナノ。四天王の一人として歓迎するよ。ぜひ良い悪夢を見ていってね」



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第四話

ついに挑戦することになったシンオウポケモンリーグ。

 

ポケモン図鑑と最初のポケモンを手に冒険に出て、八つのジムを巡ってようやくここまで来た。私と私のポケモン達の一つの目標であり夢。

 

 

「四天王の準備が整いました。ご案内いたします」

 

 

係の人に案内され、あるゲートの前まで辿り着く。

 

「最後の確認です。ここを超えると最後まで勝ち抜くか、負けるまで外に出る事はできません。それでもシンオウポケモンリーグに挑みますか?」

 

覚悟を問われ、手が震える。

 

ポケモンリーグに挑んだ者が心を折られるというのはよく聞く話だ。先程四天王に敗退したトレーナーの姿が脳裏に浮かぶ。まるで魂を抜かれた様に、人の肩を借りて何とかゲートの奥から戻ってきた。

 

自分も負けてああなるのではないか。あの状態になって私は立ち上がれるのか。そう考えて返答の言葉が出ない。

 

「何人ものトレーナーがこのゲートを潜り、そして満身創痍で戻ってきました……覚悟が定まらないのでしたら引き返す事をおすすめします」

 

引き返す……今の私にはその言葉が酷く甘美に聞こえた。今じゃなくても良いのではないか。もっと鍛えてからでも遅くは無い。そんな考えが徐々に大きくなってくる。

 

 

私が弱気になっていると、私のポケモンたちがボールから勝手に飛び出てきた。

 

「あなたたち?!」

 

ミカルゲ、ロズレイド、トゲキッス、ルカリオ、ミロカロスそしてガブリアス。これまで苦楽を共にした仲間達が、何も言わずにただ私を見つめている。

 

「そうね……私が私を、そしてそれ以上にあなたたちを信じないとね」

 

どんな困難にぶつかってもこの仲間たちと乗り越えてきた。弱い自分自身に打ち勝って前に進んできた。

 

それはここでも変わらない。

 

 

「良い表情になりました。私も安心して送り出せます。……ではもう一度確認を。あなたはシンオウポケモンリーグに挑みますか?」

 

今度はすぐに自信のこもった声で返答できた。

 

「えぇ、もちろん」

 

「よろしい!シンオウ地方全てのジムバッジを持つトレーナーよ。その力をここでも発揮し、栄光を勝ち取ってみせよ!」

 

 

 

 

バトルフィールドまで伸びる通路を進む。そして頭で最初に戦う四天王の情報を整理する。四天王はそれぞれ有名なトレーナーなので、調べたり聞くことでどんなトレーナーかくらいは掴むことができた。

 

 

第一四天王、あくタイプのエキスパートであるヒナノ。

 

相手を眠らせる戦術を好み、悪夢を見せて戦闘不能にする事からシンオウの悪夢と呼ばれて、多くのトレーナーの挑戦を挫いてきた少女。その通り名に偽り無く、彼女が四天王に就任してから第一四天王から先に進めた者がいないという恐るべき実績を持つ。年齢的には私とほとんど変わらない筈なのに、シンオウのトップにいる実力者だ。

 

 

彼女の就任時は色々注目されていた。

 

まず若すぎる事。十二歳での四天王就任はシンオウポケモンリーグでは最年少記録だ。

 

そして第四四天王の弟子である事。一つのポケモンリーグに師弟が揃うのはどこの地方でも聞いたことが無い。四天王キクノの指導力にも注目が集まった。

 

同時に四天王就任はコネではないかという噂も立った。若すぎることもそれを助長したのだろう。実力が全ての四天王において有り得るわけが無い話なのだが、噂というのは面白おかしく改変されて伝わっていく。

 

その結果、一時期は四天王を倒したという実績が欲しい挑戦者が殺到したそうだが、そんな考えのトレーナーは今頃ポケモンと一緒に心が折れているのだろう。

 

 

四天王ヒナノのエースポケモンはダークライという幻のポケモン。

 

彼女の通り名に相応しい悪夢を見せる能力を持つポケモンらしい。幻のポケモンという事と、彼女がダークライを使用した試合が少ない為、それ以上の事はあまりわからなかった。

 

 

 

通路の終わりが見える。そこで今一度ポケモン達を全て出し、皆にカゴのみを持たせていく。こんなのはほんの気休めにしかならないのだろう。こんな対策で攻略できるなら私の前に誰かが突破している。

 

ポケモンたちを再びボールに戻し、遂に通路を抜ける。建造物の中にあるとは思えない程に、天井は高く広大なフィールド。こんなのが四天王一人につき一つ設置されているとは、改めてポケモンリーグの偉大さを理解させられる。

 

 

そして私から見て向かい側の通路の奥から越えるべき壁がやってきた。そのままお互いに声が聞こえるくらいの距離まで近づく。

 

向かい合って少し沈黙が流れる。その間も四天王ヒナノは私をじっとみていた。観察されるような、値踏みされているような感じだ。

 

「やぁ、遂にここまで来たね。ポケモンリーグへようこそ。私はあくタイプ使いのヒナノ。四天王の一人として歓迎するよ。ぜひ良い悪夢を見ていってね」

 

ぜひ良い悪夢をか……上等!

 

「その悪夢を打ち破って、あなたの不敗戦績に私たちが黒星を付けてあげる!」

 

 

「「勝負!」」

 

お互いに初めのモンスターボールを手に取り、フィールドに繰り出す。

 

「「いけミカルゲ!!」」

 

同じポケモンが互いのモンスターボールから飛び出た。同じポケモンなら勝負を左右するのはトレーナーの実力。

 

「あくのはどう!」

 

「シャドーボール!」

 

フィールドの中央でぶつかったワザが衝撃を撒き散らす。ミカルゲの出力は拮抗していると見ていい。

 

私の人生において一二を争う最高のポケモンバトルが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ミカルゲとミカルゲは互いに相打ち。シロナの手持ちで相性的にキツいルカリオはドンカラスが身を呈して体力を削り、ヘルガーがトドメを刺した。

 

しかしそのヘルガーもミロカロスの前に倒れる。続いたブラッキーが苦心の末眠らせる事に成功し、私の代名詞であるあくむによって戦闘不能に陥った。

 

ブラッキーがその後トゲキッスとの戦闘を続けているが……

 

「ブラッキー、でんじほう!」

 

「トゲキッス、エアスラッシュ!」

 

ブラッキーの放つ電撃とトゲキッスの風の刃がスレスレで交差する。電撃はトゲキッスの翼を掠めるだけ。風の刃はブラッキーに確かに直撃した。

 

ブラッキーはそのまま崩れ落ちた。だが、トゲキッスも満足に飛ぶ事が出来ずゆらゆらと地に足をつけた。ダメージはあまり入らなかったが、掠っただけとは言え電撃を浴び、体が麻痺したのだろう。

 

ミロカロスとも戦い消耗した状態で、当てるのが難しいでんじほうはかなりの賭けだったが、ブラッキーは見事に応えて仕事をしてくれた。

 

「お疲れ様ブラッキー。よく頑張ってくれたね」

 

ブラッキーだけじゃない。他の子たちもこの場所で戦い続け相当強くなっている。今なら四天王の下克上もできるのではないかというくらいだ。

 

それでも四天王としての戦いで初めて負け越している。

 

向こうは残り三匹、トゲキッスは除いても万全な状態の二匹。しかも、その中にはシロナのエースポケモンであるガブリアスが控えている。

 

対してこちらは残り一匹。だが、こちらも私の絶対のエース。

 

それにしてもよくもまぁこれだけのポケモンをバランス良く、それでいてトップクラスの練度に仕上げられるものだ。それも私のように師の元ならともかく、冒険の中で自身とポケモンだけでこれ程までに強くなれるのかと尊敬の念を抱く。

 

うん、このバトル終わったら勝っても負けても旅をしてみようかな。シンオウだけでなく、色んな地方に行ってみるのもいいかもしれない。もう十分に私に格は付いたはずだ。四天王じゃなくなっても、ダークライと引き離されるような事はないだろう。

 

これからの事を考えているが、まだ負ける気は無い。どうせなら未来のチャンピオン相手に勝ち逃げでもしてみようか。

 

 

人生で初めて手に持ったモンスターボールを軽く宙に放った。

 

「さて、久しぶりの出番だよ。ダークライ!!」

 

ボールから出たダークライはそのまま私の意思を汲んで行動する。体が痺れているトゲキッスに、命じるまでも無くれいとうビームを放った。現実でも悪夢でも一緒にいるからこその以心伝心だ。

 

トゲキッスは避けようとしたが、体が痺れ満足に回避行動もとることが出来ず、れいとうビームで氷漬けになり戦闘不能になった。

 

 

シロナが次のポケモンを投げる。出てくると同時にダークライは手にダークホールを用意していた。

 

「いけ!ロズレイド!」

 

「ダークホール」

 

既にワザの準備を終えていたダークライは、出てきたばかりのロズレイドに、間髪を容れずにダークホールを放ち眠りへと誘う。が、直撃した筈のロズレイドは眠らずに両手の花束をダークライに向けている。はいはい、カゴのみカゴのみ。

 

「リーフストーム!」

 

「かげぶんしんで躱して!」

 

瞬時に増えたダークライの残像を、葉っぱの嵐が飲み込んでいく。本体への被弾は無い。

 

「ダークライ、今度は広範囲にダークホールを」

 

ダークライが両手から幾つものダークホールを発射する。躱すのは難しく、当たればそのままあくむとナイトメアの餌食。シロナとロズレイドがとった行動は、ダークホールを全弾相殺する事だった。

 

「タネマシンガン!」

 

ロズレイドの両の花束から弾が溢れ出る。それはダークホールとぶつかり、その場で眠りの空間を広げる。黒い球状の空間が幾つも連なり、黒い壁の様になる。……それを狙っていた。ダークライもそれをわかって既に動き出している。

 

「今よ!さいみんじゅつ」

 

ダークライは撃ち終わりの隙をつき、ロズレイドに素早く肉薄する。そのままロズレイドの首を掴み宙に持ち上げ、目で暗示を掛ける。そのままロズレイドは眠りについた。

 

眠らせる手段は一つではない。もちろん当たれば眠るダークホールとは違い、暗示の為の距離や条件はあるがそれも使いようだ。そして眠ってしまえばあとはこっちのもの。

 

「ダークライ、あくむ」

 

ロズレイドは首を掴まれ、持ち上げられた状態のまま、悪夢にうなされ暴れるようにもがきだす。しかししばらくするともがきは小さくなっていき、そのまま魂が抜けたように動かなくなり戦闘不能となった。

 

「いってガブリアス!」

 

来た。シロナのエースポケモン。

 

エース対エース。だが、こちらは時間制限つきだ。

 

ダークライはそんな素振りを見せなかったが、一瞬だけ体を強ばらせた。それはロズレイドに暗示を確実に仕掛ける為、掴み上げた時。おそらくはあの瞬間にロズレイドの花束の中にある、どくのトゲに刺されてしまったのだろう。

 

ゲームならばただの毒なのだが、現実にはポケモンの毒は種族や個体によって効果が変わる。ロズレイドの場合は図鑑表記だとこう説明されている。

 

両手の 毒の 成分は それぞれ 違う 種類だが どっちを 刺されても 死にかける。

 

このままでは瀕死まっしぐら、という訳で時間が無い。が、あのガブリアス相手に焦りは禁物。おそらくダークライは急所にでも当たってしまえば一発で戦闘不能。毒の進行度合いでは普通の攻撃でもアウトかもしれない。

 

そんな暴力的な強さを感じる。ドラゴンタイプの恐ろしい所だ。

 

ガブリアスとダークライが睨み合う。私もシロナもお互いの様子を伺っている。

 

私はガブリアスの一発を、シロナはダークライのれいとうビームを警戒している。おそらくあのガブリアスもカゴのみ持ち。今から二度も眠らせるには時間が足りないし、一発目の隙を突かれて戦闘不能だ。

 

 

でも……私とダークライなら眠らせて倒したいよね。




書き溜め終了。

Q、バトルはしょりすぎでは
A、詳しく書くよりもサクッと書いて物語を進めたい派

Q、カゴのみ嫌ならヘルガーの夢特性きんちょうかん使えば?
A、書き終わってから気付いたんや……

Q、道具とかは使えんの?
A、道具使う時って相手は律儀に待つのだろうか?タイム的な仕組みがあるのかな?流れ断ち切られるのも嫌なのでカット。

Q、シロナって今何歳?
A、私の設定では、……ん?誰だ?!何をする?!あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ……

Q、個体値、努力値等
A、あー……うん、概念は知ってる。詳しい事は有識者におまかせする。

ガラルで私もあくタイプ縛りで爆走中。さらばだヒバニー。ガオガエンかゲッコウガに生まれ変わってから来てくれ。イーブイ乱獲したり、オーロンゲ先輩探したり……ただ今ソードで出ないヨーギラスをマジカル交換で奇跡祈り中。


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第五話

こんなにヒリヒリする時間はかつて無かったかもしれない。

 

四天王ヒナノとのバトルは数的にいえば私の優勢で進んでいた。相手が残り一匹で、私は残り三匹。その中の二匹が万全の状態で、私のエースポケモンであるガブリアスも控えている。

 

でも相手の自信のある表情は崩れなかった。それはつまり彼女の最後の一匹。エースポケモンのダークライに絶対の信頼があるという事。

 

そして現にそれは正しかった。

 

彼女が何を言うまでもなくワザを繰り出してくる。彼女の指示と同タイミングでワザが既に発動している。このダークライというポケモンは彼女の意思をわかっているのだ。

 

彼女とダークライの信頼関係は凄いものだ。素直に敬意を持てるほどの強い絆。

 

だが、私たちも絆でも勝負でも負ける気は無い。

 

 

ロズレイドの決死の抵抗で毒は打ち込めた。これで相手から余裕は奪えたはず。

 

ガブリアスはカゴのみをまだ消費してない為、あのダークホールと呼ばれるワザも一回なら対処出来る。あのれいとうビームさえ、躱せれば私たちの勝ちだ。

 

 

そしてこの硬直状態に至る。この睨み合いを続ければ、私たちはどんどん有利になる。

 

そして、四天王ヒナノの様子を伺う。何かを企むような小さな笑みを見て、私は身の毛がよだった。直感的に指示を出していた。そのタイミングは彼女と同時。

 

「ダークライ!」「ガブリアス!」

「仕掛けて!」 「構えて!」

 

何故有利な筈の自分が防御に回っているのか。咄嗟に出た指示に自分でも疑問に思いながら動き始めた勝負に集中する。

 

ダークライが瞬時にガブリアスに肉薄する。まさかガブリアスと殴り合いの距離で戦うつもりなのか。ダークライというポケモンは見た目からして、肉弾戦に向いているとは思えない。

 

「きりさくで迎え撃って!」

 

「どろぼう!」

 

ヒナノの指示を耳にして、彼女の狙いに気付いた。ヒナノとダークライは隠し球がある訳でも、れいとうビームを当てるのでもない。無理にでも眠らせて勝つつもりなのだと。

 

その時には既に二匹の行動は結果が出ていた。

 

ダークライにはきりさくによって入った傷が、そしてその手にはガブリアスに持たせていたカゴのみが握られていた。眠らされては後がない。今ここで決着をつける。

 

「ダークホール!」「ドラゴンダイブ!」

 

ダークライが引き撃ちの体勢でダークホールをガブリアスに向ける。その時すでにガブリアスはダークライの目の前まで飛びかかっていた。

 

ダークホールがドラゴンダイブ中のガブリアスを包み込み、ガブリアスは眠りに落ちながらもダークライに突っ込んだ。

 

 

ガブリアスは寝てしまった。ダークライは一度ガブリアスに巻き込まれながら倒れたものの、すぐに元通り宙に浮かぶ。

 

あとはあくむで私の負け……そう思った瞬間、ダークライもフラフラと地面に倒れた。毒が最後の体力を奪ったのだろう。戦闘不能だ。対してガブリアスは少しうなされているとはいえ、ただ眠っているだけ。

 

 

「ダークライ戦闘不能!勝者、挑戦者シロナ!」

 

 

そのジャッジの言葉を聞いた時、私は地面にへなへなと座り込んだ。現実を受け入れるのにも少し時間がかかった。

 

「か……った……?」

 

実感が無い。私があの無敗の四天王に勝利した。

 

二方向から拍手の音が聞こえる。一つはジャッジの人。もう一人は自分に近づいてくる四天王ヒナノだった。

 

「ん〜負けた負けた。さすがとしか言いようがないね」

 

ダークライをモンスターボールに戻した彼女は、座り込んだ私に手を伸ばす。

 

「最高に楽しいバトルだったよ……ん?どうしたの?」

 

「いや……本当に勝ったんだと思って……」

 

「初戦でこの反応って大丈夫かい?この後まだ四回もあるよ」

 

まだ初戦……この相手より格上のトレーナーの戦いがまだあるのだ。だが、心の内にあったのは絶望でも不安でも無く、新たに芽生えた自信だった。

 

「……そうね」

 

ヒナノの手を借りて立ち上がる。そのまま手を繋がれて、彼女が入ってきた通路の方に案内される。

 

「いやーこの先に人を通すのなんか初めてだからね。新鮮な気持ちだよ。さて、この奥が第二四天王のフィールド。行く前にポケモン回復させてからいってね。

 

頑張んなよ。未来のチャンピオン」

 

 

 

 

 

 

 

 

私はシロナとの戦いの後、ポケモンたちを回復に預け、師匠の控え室にやって来ていた。全力出したから今凄い眠いけど、報告はしないとね。

 

「師匠……負けてしまいました」

 

控え室で椅子に座りお茶を飲んでいた師匠に結果を報告する。

 

「あら……ふふふ、良かったじゃないの。顔を見たらわかるわよ。良い負け方をしたわね……楽しかったでしょう?」

 

「はい」

 

「今まであなたはダークライと一緒にいるために、半ば義務感でバトルしてるようなふしがあったからね……で、何がしたいの?」

 

「……よく分かりますね」

 

「これでも師匠だからねぇ。それに面倒くさがりのあなたが律儀に報告に来るなんて、何か心境の変化があったんでしょう?」

 

「しばらく旅に出ようと思います。四天王の座も返上するつもりです」

 

「あらあら、せっかく推薦してあげたのに」

 

「それについては本当に申し訳なく思っています」

 

「ほほほ、冗談よ冗談。……でも、欠員が出たらまた誰か探さないとねぇ」

 

「あー……それは大丈夫だと思いますよ」

 

「今挑戦中の子かい?」

 

「はい」

 

「あなたはともかく、あたしも含めて三人の四天王が納得するレベルなの?」

 

「納得どころか、下手したら皆さん揃って引きずり落とされるかもしれませんよ」

 

その瞬間、師匠の顔つきが変わる。普段の優しい笑みから、一瞬だけ獲物を狙うような獰猛さを感じた。

 

「そこまでの子かい……これはあたしの出番が楽しみになってくるわねぇ。それにしてもあたしより先に引退するなんて。あたしもそろそろ引退しようかと思ってた頃なのに」

 

「師匠はまだ十年程行けますよ」

 

「そろそろ老いぼれの仲間入りなのに無茶させるわね、この子は」

 

実際に今から十年近く、師匠は四天王であり続けるんですけどね。

 

「なるべく早く戻って来てちょうだいよ。その時はあなたに席を譲って、今度こそ引退させてもらいますからね」

 

 

 

 

 

シロナはその後も勝ち進んだ。第二第三四天王は余裕を持っての快勝。私の試合の最初の時とは違い、自信に溢れている。それは彼女のポケモンたちも同様。どうやら私との試合が起爆剤となってしまったようだ。

 

そして迎える第四四天王、キクノ師匠とは私の試合と同じような激戦だった。

 

「おやおやかわいらしい、それでいて頼もしいトレーナーだね。あたしはキクノ。特に大事にしているのはじめんタイプのポケモンね。

 

あたしの弟子が世話になったね。感謝してるよ……あの子には楽しいバトルというのをあまり教えてられなかったからね」

 

師匠の言う通りダークライといる為にひたすら強くなる事を意識していた。四天王になるまでは楽しんでる余裕なんて無く、四天王になってからは楽しめる程の相手が来なかった。キクノ師匠や他の四天王の方とバトルしても、緊張感や胸を借りてる意識の方が強かった。

 

「でもそれとこれとは話が別。ヒナノの仇、取らせてもらいますからね」

 

その後、妙にハッスルしたキクノ師匠の怒涛のじしん、じわれ攻撃により、ポケモンリーグがヤバい。

 

 

 

 

 

その後チャンピオンとも壮絶な試合を行い、勝利したシロナは遂にシンオウの新チャンピオンとなる。殿堂入りしたトレーナーとして永遠にポケモンリーグの記録に残るようになった。

 

ちなみにチャンピオンとしての座も受け入れた為、上から押し出されるように、私の四天王という地位は消滅した。

 

でもって今は、新チャンピオン就任の簡単なお祝いをシンオウリーグ内で行っている最中だ。その式典の中で同年代同性という事で自然と会話の流れになる。

 

シロナの冒険の話を聞いたり、私の身の上話を言ったり。そしてチャンピオンとなったシロナと一般トレーナーとなった私のこれからについて。

 

「え、旅に出るの?」

 

「うん。四天王っていう縛り無くなったし、ようやく自由の身だからね。色々回ってみるつもりだよ」

 

「てっきり、チャレンジャーとしてリベンジに来ると思ってたわ」

 

「んーしばらくはいいかなぁ。あんなバトルを繰り返してたら身が持たないよ。楽しかったは楽しかったけど、あんなのはたまにやるくらいが丁度いい」

 

あれが日常になったら体はついていかないだろうし、楽しくもなくなってくるだろう。私はそこまでバトルジャンキーでは無い。

 

「シロナはどうするの?」

 

「私はポケモンの神話について調べる学者になるわ」

 

やはりゲーム通り、シロナはこれから先考古学者としても有名になっていくのだろう。

 

「へー良いじゃん。チャンピオンの地位は多分相当役に立つよ」

 

チャンピオンというだけで人との繋がりは勝手に出来る。四天王でも広がったコネクション、チャンピオンならばその比ではないだろう。

 

そして何よりも……金だ。

 

「ちなみに私は年俸でピーーーー円。さらに試合毎にファイトマネーもあるよ」

 

「嘘?!そんなに?」

 

「考えてもみなよ。こんな建物作るような組織だよ。その組織のトレーナーのトップなんだから。

 

チャンピオンは試合が少ない分、年俸はさらにいくんじゃないかな。四天王を突破できる挑戦者がいなかったらほとんど不労所得だよ。もちろん挑戦を受け付ける以外にも仕事はあるけど、忙しいって程じゃないしね……さぁ想像してみて」

 

そう言って耳元で囁くように、ゆっくりと言葉を並べていく。

 

「今まで欲しかった物を沢山買ったり、それこそ別荘とか購入してみたり……めんどくさくて汚くなった部屋の片付けをプロに任せることも可能だよ」

 

最後の誘惑だけ肩がビクッとなり、異常に反応が良かった。やはり実生活の方は残念な美人になるのだろう。

 

「おやおやおや〜、最後だけ反応が違うな〜?もしかして……図星だったかな〜?」

 

「なっなっなんのことかしらっ?!」

 

「大丈夫……そういう所が好きって人、大勢いると思う」

 

「勝手に決めつけないで!」

 

 

 

 

「あらあら、仲がいいわねぇ」

 

遠くで私達のことを見ていたキクノ師匠が近づいてきた。この時はすぐ後にあんな爆弾を投下されるとは思いもしなかった。

 

「どう見たらそう見えるんですか……」

 

「ごめんなさいねシロナさん。この子ったら初めてのお友達が嬉しいのよ。照れ隠しってやつね」

 

「……ボッチ?」

 

「グハッ?!」

 

だって仕方ないじゃないか!幼い頃の人間関係白紙になったし!キクノ師匠についてポケモンリーグに来たけど、ここ大人しかいないし!同年代の人なんて来ないし!

 

やめろ!そんな哀れな目で私を見るんじゃない!

 

「良かったらこれからもこの子と仲良くして頂戴ね」

 

「私がお友達第一号ね。よろしくヒナノ」

 

今さっきとは一転して、ニヤニヤしながらそう言う新チャンピオン。くそぉ、師匠の裏切りさえなければ……。

 

「家凸してやる……そして全世界にチャンピオンのズボラさを公開するんだ」

 

「不法侵入よ!」

 

「友達の免罪符は既に手に入れた!」

 

「オホホ、この子たちが作るシンオウリーグ、楽しみになってきたわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで一般トレーナーになった私ですが、旅を始めて六年くらい経ちました。現在22歳です。タバコとお酒にはまりました。胸は諦めました。

 

色んな地方に行って自由気ままに過ごしてます。

 

そして今はというと、桟橋を塞いでいる爆睡中の野生のカビゴンにもたれかかってお昼寝中です。やっぱクッションと本物は違うね。




シンオウ編終了。サクサク行きますよ〜

あくタイプ統一パ、今からサイトウちゃんが怖い。

Q、バトル描写……
A、主人公以外カット

Q、タバコお酒
A、自分が作るオリキャラの女の子は大抵吸うし飲む。頭の中で勝手にそうなってる。


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第六話

どうも皆さん。一般トレーナーのヒナノです。

 

16歳でシンオウ地方を飛び立ち、カントー地方、ジョウト地方、ホウエン地方、遠く離れたイッシュ地方などなど色々回って来ました。いやー、行く先行く先で、観光とあくタイプ探しと、惰眠を貪る生活です。

 

お金のある実質無職って良いね。自由万歳。

 

ゲームの中だったらこういうキャラいそう。各シリーズ何処かで寝ていてて、ねむる関係のワザを教えてくれるいつもの人的な立ち位置で。……うん、わざマシンでいいか。

 

 

 

 

さて、私は今カントー地方は12番道路、シオンタウン、セキチクシティ、クチバシティを結ぶ桟橋、通称サイレントブリッジでお昼寝中です。釣り人が水中のポケモンを驚かさないように、静かにしている事からそう呼ばれているらしい。

 

ガチ寝するといまだに嫌な人生歩まされる体質なので、毎日ダークライに悪夢で上書きしてもらってます。しかし、今それをすると横のカビゴンまで悪夢へようこそなので、目を瞑ってウトウトしてるレベルです。

 

 

うちのアイドル、ブラッキーも私の膝ですやすやと眠っています。一応この子、万が一の護身用で出してるんだけどね。こんなに静かで、ポカポカ陽気だと眠たくなるのは凄いわかるから許してる。

 

 

 

 

 

私が再びカントー地方に来た理由は、ロケット団なる組織が活動を活発化させたから。あっ別に正義を成すとかそんな気概はあまりありません。他の組織とかでもそうだけど、あくタイプのポケモンだからって平然と悪事に使う事はイラッとくるけど。あくタイプのポケモンにもポリシーとか、譲れない一線とかはある。

 

 

ロケット団が活発に動いてるって事は、カントー地方の何処かに若きリビングレジェンド、つまりレッドがいるかもしれない。会えたらいいなみたいな希望を抱いてカントー地方にやって来ました。ゲームとは違って一つの地方って広いから、会えるかどうかわからんけどね。

 

シオンタウンのポケモンタワー占領事件が数日前に解決したから、もしかしたらこっち来るかなーって。もしかしたらサイクリングロードの前のカビゴンの方に行くのかな。

 

 

何故こんな未来予知ストーカー紛いのことやってるかと言うと、主人公に巻き込まれたら面白いかなーっていう浅はかな理由。単純に会ってみたいっていうのもあるかも。

 

原作のキャラってやっぱり強いのよね。個人的に将来の四天王とかジムリーダーにあった事あるけど、シロナみたいな輝きを持つ人何人かいるし。ちなみにこれから会うかもしれない各シリーズの主人公、私より十も歳下。……お姉さんムーブしなきゃダメ?

 

 

おん?誰か近づいてくる。ここはカビゴンの通行止めだぞー。通りたければポケモンの笛持ってきなさい。もしくはなみのりしてください。

 

ありゃ?足音が引き返さないな。もしかして私にあんなことやこんな事をする気かな。それには全力で抵抗させてもらうけど。

 

 

寝ぼけた目を擦りながら目を開けると、何だこの人、みたいな目で私を見つめる赤い少年と、足元にピカチュウがいた。私もこんな状況で初めましてになるとは思っていなかったよ。

 

んーこの時はなんて言えば良いのかな……あぁアレでいいか。

 

「おーす、未来のレジェンド」

 

「……」

 

「何か返事をくれよ少年。お姉さん悲しいんだけど」

 

原作でもガチの無口だけど、本当にそうなの?それは生きて行けなくない。

 

「後ろのカビゴン……アンタのか?」

 

「あっ返事くれた……この子は野生だよ。数日前からここで爆睡中。相当腹いっぱいに食べたんだねー。幸せそうに寝てるのにつられて私もウトウトしてたってわけ」

 

 

 

そう聞くと赤い少年はバッグから笛を取り出す。こんな幸せそうに寝ている子を起こすのは可哀想になってくるが、まぁ正直言って通行の邪魔だし仕方ないよね。

 

「ねえねえ、少年。名前教えてくれない?」

 

「……レッド」

 

「私はヒナノ。よろしくね」

 

「……」

 

うん、そっかー。軽く頷くだけかー。

 

言葉のキャッチボールしようよー。グリーン助けてー超気まずいんだけどー。これじゃあ無口キャラじゃなくて、コミュ障キャラだよ。私の中のレジェンドレッドさん返してよー。

 

私の心の叫びは届かず、レッド少年はカビゴンに向けてポケモンの笛を演奏する。失敗したりしないかな……盛大に笑ってあげるのに。まぁ普通に綺麗に演奏してました。練習でもしてきたのかな。

 

 

カビゴンが目を覚ます。横になった状態から首だけを回し私たちを見た。その瞳に映るのは怒り。そりゃそうだよね。誰だって無理に起こされたら、ブチ切れるよね。

 

山のような巨体がゆっくりと立ち上がる。その一歩一歩で桟橋が揺れ、嫌な音を立てながら軋む。

 

「あちらさんだいぶお怒りみたいだけど……」

 

「……捕まえる」

 

「サポートいる?」

 

「一人でいい」

 

「むぅ、つれないなぁ……」

 

ピカチュウはやる気満々でほっぺたの電気袋をバチバチと鳴らす。

 

立ち上がったカビゴンのその巨体が大きく飛び上がる。その巨体でピカチュウを押しつぶそうとする。前のめりに倒れて桟橋が揺れる。桟橋ミシミシ言ってるけど大丈夫かな。

 

ピカチュウはヒラリと躱し、全身に電気を纏う。そのままのしかかろうとした巨体に対して突撃する。

 

「ボルテッカー」

 

倒れ込んだカビゴンにピカチュウが突っ込む。カビゴンはその後立ち上がる事が出来なかった。そのままレッドはカビゴンに向けてモンスターボールを投げる。

 

カチッ!カチッ!カチッ!……ポン!と。

 

 

カビゴンはモンスターボールに納まった。

 

桟橋に転がるそれを拾おうとレッドが屈んだ時、ちょうど横から水飛沫が上がる。水を撒き散らしながら現れたのは、ギャラドスだった。

 

バトルの音、特にカビゴンの衝撃に気づいたのか驚いたのか、怒りを露わにして飛び出してきた。

 

この世界、野生のポケモンと出会ってポケモンバトルというのは、警戒していればの話だ。野生のポケモンはトレーナーがボールからポケモンを出すのなど待ってくれない。そして律儀にポケモンだけなど狙ってくれない。この場合、狙われるのは力の無い人間だ。

 

レッドもピカチュウも油断していた。正直言って私も手持ちを出せていなかったら危なかったかもしれない。こんな事があるからこそ、護身用に用意していたのだ。

 

「ブラッキー!サイコキネシス!」

 

ギャラドスの顎がレッドの頭に食らいつく寸前でピタリと止まる。ブラッキーの送る念力が、ギャラドスの自由を完全に奪った。

 

タイプ一致では無いとはいえ、野生に負けるほど甘い育てかたはしていない。そのまま強制的に水中に沈めると、さっきの怒りは一転、急いで逃げていった。

 

「ポケモンもトレーナーも、獲物を食らう時が一番無防備ってね」

 

「……」

 

レッドは深く帽子を被り直し、目を隠す。だが、たまに見える瞳からは私に対する興味をヒシヒシと感じる。

 

「アンタ……何者だ?」

 

「おや?そんな目の色変えてどうしたのよ」

 

「アンタのポケモン……前に戦ったジムリーダー以上だった」

 

「そりゃあ、ジムリーダーは相手の持ってるバッジ数によってポケモンを使い分けるからね。そういう事もあるんじゃない?」

 

ジムリーダーは挑戦者に合わせて実力を合わせる。それが四天王との大きな違いだろう。彼らはトレーナーの壁になる事よりも、トレーナーを育て導く事に重きを置いている人々だ。だからこそジムという名前をとっている。

 

彼らも本気で戦えば、人によっては四天王レベル。中にはチャンピオンレベルの人もいる。

 

対して四天王、チャンピオンは憧れであり頂き。育てるよりも絶対的な強さを示す者だ。当然、常に本気のメンバーで戦っている。

 

「いや、俺はジムチャレンジの後に本気で戦ってもらっている。まだ勝利したことは無いけど」

 

わーお、なんてバトルジャンキー。バッジを手に入れるだけじゃ飽き足らず、本気のジムリーダーと戦っているとは。なるほど……これはレジェンドと呼ばれる筈だ。勝負に対してこんな貪欲なトレーナーはあまり見ない。

 

「ポケモンを見る目はあるつもりだ。アンタは今までの誰よりも強い。そのブラッキーを見ただけでわかる」

 

「急に饒舌だね。なるほど無口じゃなくて、バトル以外あまり興味が無い感じか」

 

「俺とバトルしてくれ」

 

闘志を漲らせるレッドの横で、ピカチュウが再び電撃を滾らせている。私から見れば完全に似た者同士。このトレーナーだからこそこのピカチュウか。

 

もちろん返答は……

 

「やだ」

 

「なっ?!」

 

「今ジムバッジ何個持ってる?」

 

「……4つ」

 

「さすがに全てのバッジを手に入れる事が条件かなー」

 

ジムリーダーは自分以外の七つのバッジ持ってる挑戦者には、ほぼ本気出してるからね。本気のジムリーダーに勝ったくらいなら構わないけど、プライベートマッチで勝ったと言われても、結局バッジが無ければ証明する事が出来ない。

 

それにリビングレジェンドのレッドと戦いたいわけで、発展途上の彼と戦っても、それってどうなの感が私の中で凄い。

 

「……」

 

めちゃくちゃ疑いの目向けられてる。今さっき私のポケモン褒めてたじゃん。

 

「信じてないよね、その目は」

 

「ポケモンは信じれるけどアンタは信じれない」

 

「あぁ!なるほどー。自分でも納得だわー」

 

私の態度を信じれなくても、うちの子見て信じてくれるならそれでいいや。自分の事は言えばわかるしね。

 

「んじゃ、ネタばらし。改めまして私はヒナノ。シンオウ地方ポケモンリーグ元四天王のヒナノだよ」

 

「四天王?!」

 

「そそ、元だけどねー。だからジムリーダーと違って、手加減用のポケモン持ってないんだよね。手加減する気もあんまり無いんだけどさ」

 

私のポケモンは皆が皆私の自慢の子たち。ベストメンバーも控えの子でもそれは変わらない。正直、控えのメンバーでも今のレッドには余裕を持って勝てる自信はある。

 

「てなわけで、八バッジ集めて四天王の挑戦権を手に入れたらバトルしようよ」

 

「……わかった」

 

渋々と言った感じだ。いきなり四天王と言われてもやっぱり信じれないよね。

 

「まぁもう少しで一緒に戦う事になるだろうからそれまで我慢してね。そこで実力は証明してあげるからさ」

 

 

私と未来のリビングレジェンドとの出会いはこんな感じだった。その後は彼とは別れて、その事件が起こるのをブラブラしながら待った。

 

さて、いざ行かんヤマブキシティ!




評価バー色ついた!こんな作品にありがとう。

Q、各シリーズの時系列は
A、どっかのサイトで見かけたのを基準に調整してます。


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第七話

「そんなわけで始まってまいりました。ロケット団によるヤマブキシティ占領。シロナさん……事件です!」

 

『アナタはその事件現場でなにをしているのよ……』

 

私は最近買ったポケギアでシロナと電話している。向こうは今シンオウポケモンリーグらしい。

 

彼女とは私が放浪しているためあまり会うことは無いが、私がシンオウに帰った時や、彼女がたまたま私と近い所に来る時に会う約束をしている。

 

ちなみに彼女の家も別荘も家凸はした。感想はシロナらしい部屋だったとだけ。私にはあの惨状を言葉にする程の語彙力が無い。……大切な資料が服と共に床に転がっているのはどうかと思う。

 

前に電話した時は、ゴヨウが新四天王として就任した事を話したかなー。遂にキクノ師匠第三四天王に。まだ暑苦しいのと、虫少年は来てないっぽい。

 

「いや……シロナが言ったんじゃない。近況教えてって」

 

『言ったけどそんな状況で実況しろとは一言も言ってないわ!』

 

「文面よりも声を伝えた方が良いかなと思いました。後悔も反省もしていません」

 

『この場にキクノさん呼ぶわよ』

 

「シロナの控え室に私以外の人呼べるわけないじゃん。笑わせないでよ」

 

『ぐっ!……なら、私がキクノさんの控え室に通話したまま行くわ』

 

「マジですみませんでした!」

 

キクノ師匠にこんな通話聞かれたら、シンオウ帰れない。帰ったらまた瞳の奥が笑ってない怖い笑顔でしごかれてしまう。

 

 

 

 

「すまないが、そろそろ話を進めてもいいかな?ヒナノ君」

 

渋い声が私の耳に届く。私のそばにいる男性が話しかけてきた。

 

この人の本名は知らない。周りの人からは捜査官とか呼ばれるけど、私にはコードネーム、ハンサムと自分を示した。

 

彼とは数日前にクチバシティで出会った。私の事を知っていたらしく、捜査に協力して欲しいとお願いされた。

 

何の捜査を行っているのか尋ねると、案の定ポケモンマフィアのボスとの事。まぁどうせ行く所同じだろうと思って了承した。

 

タマムシシティのアジトから逃げたサカキを追っていたようだが、捜査が一転してテロ鎮圧に変化したという訳だ。私は心構えできていたけど、ハンサムさんは結構驚いてたね。

 

「あっすみません。シロナのせいで怒られたじゃん。切るねー」

 

『シンオウ帰ってきたら一発殴』ブツン

 

「さて、話を進めましょうか?」

 

声をワントーン落として、ハンサムさんの方を見る。

 

んー疑いの目というかなんというか。こんな視線少し前にも味わったなー。

 

「今更キリッとしてもダメだと思うが……いかん、話を戻そう。

 

今現在、ヤマブキシティに繋がる各道路、それぞれに部隊が待機している。我々はヤマブキシティのジムリーダーナツメ氏と連絡を取り、街の外と中から一斉に仕掛ける事になった」

 

「それで街中にロケット団の意識が向いた所で、私が占領の中心、シルフカンパニーに乗り込めば良いんですね?」

 

「あぁ、私が行こうかとも考えたが、さすがに四天王がいてくれるならそちらに任せる。私も部隊の指揮に専念できるからな。君が近い所にいてくれて本当に助かった」

 

「言っておきますけど、私は元四天王ですよ」

 

「知っている。ただ一度でも四天王の座にいたなら、その実力は十分だ。私もポケモンとの連携を高める為、何度かリーグに挑戦した事がある。四天王というのは皆化け物というのは重々承知しているさ」

 

この人の隣にいる警察帽を被ったグレッグル。進化していないというのに相当の練度だ。このグレッグルならリーグでも良い勝負ができるかもしれない。

 

「それに四天王でもヒナノ君、君だったからなお良かった。君は眠らせるスペシャリストと聞いている。民間人や建物に大きな被害を出さず、敵を無力化出来ることはとてもありがたい」

 

それは確かに。私なら鎮圧の為に誤射でも寝て悪夢を見るだけだが、これが某ドラゴン使いさんなら誤射で飛んでくるのははかいこうせんだ。四天王で誤射するような人はいないが、万が一という可能性はある。

 

「周りに無関係な人がいるなら眠らせますけど、ロケット団だけなら命とらなければ構いませんよね?」

 

「話を聞けるくらいにはしといてくれよ」

 

 

 

「捜査官、そろそろ約束の時間です」

 

「わかった……総員!突入準備!」

 

 

周囲が慌ただしくなる。私も準備しますかね。

 

「捜査官!」

 

「何事だ?!」

 

「ロケット団に潜入中の捜査員からの連絡です!シルフカンパニーで少年がロケット団と戦闘中との事」

 

「なっ?!まさか例の?」

 

「はい!タマムシシティアジトで目撃された赤い服の少年です」

 

「あららー、出遅れちゃった」

 

レッド少年動きが早いねー。でついに暴れ始めちゃったかー。……もう、ほっといても良いんじゃないかな?

 

「アジトの強襲はともかく、今回はロケット団総動員の大規模テロだぞ!なんて無茶を……」

 

「あーハンサムさん、多分その少年はしばらく大丈夫だから。それより私たちも早いとこ行きましょう」

 

「あぁ、そうだな……総員!ヤマブキシティを解放せよ!」

 

「「「「はっ!!」」」」

 

 

 

 

 

街の至る所で大捕物が始まる。戦闘音、悲鳴を上げながら人が大きく動き出す。そんな中私は決められたルートを通って街の中央、シルフカンパニーまでやってきた。

 

大都会ヤマブキシティにそびえ立つ大企業シルフカンパニー。その社員用出入口に辿り着くと、ロケット団の姿をした潜入捜査員が出てきた。

 

「ヒナノ様ですね。話は伺っています。こちらへ」

 

入ると既に三人のロケット団がのびていた。

 

「これはあなたが?」

 

「えぇ、完全に味方だと認識していましたからね。簡単にCQCで持っていけましたよ」

 

ポケモンも使わせず、肉弾戦闘で気絶させたのか。国際警察って怖い。

 

捜査員に案内されて、シルフカンパニー内を進む。目指すは社員が集められている所と、レッド少年の所。彼一人ならスニーキングで行けるのだろうが、私というど素人がいる為見つかる事も当然ある。

 

「ん……誰だ?!」

 

私は見つけられたロケット団を指でさす。その瞬間、間髪入れずに私の影からダークライが飛び出し、ダークホールでロケット団員を眠らせる。

 

「お見事……ですがすぐに別の巡回があの下っ端を見つけます。急ぎましょう」

 

 

 

 

ロケット団員と遭遇してはダークライ、もしくは捜査員さんのスニーキングCQCで眠らせていく。そしてようやくエレベーターの前まで到着した。

 

そこで捜査員さんに通信が入る。ロケット団員に支給されている連絡手段らしい。

 

『こちら大会議室!例の子供が暴れて手がつけられない!手の空いてる者は応援に来てくれ!数で押し切る!』

 

「大会議室はこのエレベーターから行けます。準備は良いですか?」

 

「えぇ、いつでもどうぞ」

 

「では……『こちら社員用出入口担当!二名を見張りに残し、応援に向かう!現在1階エレベーター前!』」

 

『了解!』

 

「途中の階でロケット団が乗ってくるかもしれません。その時は」

 

「すぐに眠らせますので大丈夫です。目的の階でも同様に眠らせるので、捜査員さんはそのまま社員さん達の救出へ。同時に大会議室にロケット団員をどんどん集めてください……片っ端から引き受けます」

 

「ですが肝心のサカキは……」

 

「例の少年にお任せします。元四天王の目から見ても、十分な実力者と知っているので。もちろん私も片付けたら追いかけますよ」

 

「……わかりました。では行きましょう」

 

 

エレベーターが上がる。途中乗ってくるロケット団員を眠らせては扉を閉めてさらに上の大会議室を目指す。ワンフロア全てが大きな会議場となっていて、ある意味バトルには都合のいい場所らしい。

 

『眠らされている団員を複数確認!子供以外にも侵入者がいるぞ!』

 

『こちら1階巡回班!社員用出入口の奴ら全員のびてやがる!侵入者は今さっきの通信の奴だ!』

 

「バレてしまいましたか……如何なさいます?」

 

「んー問題ないですね。奇襲できるか出来ないかの違いで、結果は変わらないんで良いんじゃないですか。……アブソル、ブラッキー」

 

私はモンスターボールを二つ放る。エレベーター内に美しい体毛を持つ白いアブソルと、我らがアイドルブラッキーが登場する。

 

アブソルは私が乗りやすい様に屈み、私はブラッキーを抱えて跨った。

 

「よっこらしょっと……」

 

わ〜モフモフ〜……危ない口から出そうになった。この場面でシリアスぶっ壊す様な言葉は流石にね。一応、元四天王としての肩書きでここにいるから。

 

「ダークライ、ダークホール準備。アブソル、一気に少年の元へ。ブラッキー、防御サポートは任せた」

 

三匹がそれぞれに頷く。私の手がアブソルの背中をモフモフしているのは生理現象だ。きっとそうに違いない。

 

「……まもなく到着します」

 

 

 

エレベーターが到着する。待ち構えていたのは大勢のポケモンによる遠距離攻撃。ブラッキーはその飛来する攻撃を識別し、それに合わせた防壁を展開する。ひかりのかべがエレベーターの出入口を防いだ。

 

私はタイミングを測る。攻撃の一瞬の隙間。ひかりのかべを解除し、ダークライがダークホールを飛ばせるその瞬間を。

 

「今!」

 

ひかりのかべが空気に溶けるように消えていき、そのタイミングでダークホールがエレベーター内から発射される。ダークホールを追いかける様にアブソルも駆け出した。

 

前方のポケモンとロケット団員が悪夢に捕らわれる。前方の敵勢力が軒並み倒れた事により、大会議室の中央で大量のロケット団員に囲まれたレッド少年を発見する。ピカチュウ、リザードン、カビゴンを出して、四面楚歌の状態だった。連戦してたのかだいぶ消耗してるようだ。

 

寝ているポケモンやロケット団員を飛び越えレッド少年の元へ。同時に二つのモンスターボールを左右に投擲する。

 

「やぁ、少年!久しぶりだね。バッジ集め進んでる?」

 

「今それどころじゃ……」

 

「大丈夫、大丈夫。だって……こっから先はただの蹂躙だから」

 

先程投げたボールから二匹が飛び出す。私が旅して出会った新しい家族。出会った時は小さかった二匹も、今ではこんなにも大きくなりました。

 

ジョウト地方にて出会ったヨーギラスだった、鎧ポケモンのバンギラス。

 

イッシュ地方にて出会ったモノズだった、凶暴ポケモンのサザンドラ。

 

 

ちなみに私が乗ってるアブソルはホウエン地方の出身だ。

 

それに加え昔からのブラッキーと私の相棒ダークライ。今の旅メンバー、勢揃いだ。

 

周り確認して、ロケット団しかいなかったから少々派手にやっても良いよね。ハンサムさんには言質とってるし。

 

 

「さぁ!御用だ御用だ大捕物だ!」

 




評価お気に入り、モチベ保てる……ありがてぇ。

一話でサクッと終わらせるはずだったんだがなぁ。

私は何回ムゲンダイナにフィラのみを投げつければ良いんだ……


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第八話

「さぁ!御用だ御用だ大捕物だ!」

 

 

五体のポケモンを操りロケット団を蹂躙するその背中を見る。

 

これが四天王か……。

 

 

俺がその人と出会ったのは少し前の事、道を塞いでいるカビゴンを起こし捕まえようとした時だ。初対面は少しだらしない寝顔だった。

 

やたらと俺に絡んでくると少々……いや、だいぶめんどくさいと思い始めた頃。油断した俺はギャラドスに襲いかかられそうになった。

 

 

それを止めたのがその人の手持ちのブラッキーだった。自分のすぐ前でピタリと止まったギャラドスを見て俺は驚いた。ギャラドスにではなく、ブラッキーにだ。

 

彼女のブラッキーはギャラドスに対し、一切の抵抗を許さなかった。まるでギャラドスの時が止まったかのようにも見えた。俺はあの時の衝撃を未だに覚えている。

 

これまで戦った本気のジムリーダーとも違う、さらに上のポケモン。

 

このブラッキーに俺のポケモン達はどこまで戦えるのか、試してみたくなった。それは俺の相棒も同じだった。さっそくバトルを申し込んだ。

 

「やだ」

 

笑顔で断られた。戦うのはバッジを全て集めてからだと言われた。

 

そしてその人の正体を教えられる。カントー地方とは違う別地方の元四天王。

 

言われた時は素直に信じられなかった。ポケモンは凄かったが、この人からそんな強者の雰囲気は感じなかった。

 

 

 

別れてから情報を調べて驚愕した。現シンオウチャンピオンが挑戦するまでの四年間、不敗を誇ったあくタイプの四天王。シンオウの悪夢と呼ばれる凄腕のトレーナー、それが彼女の正体だった。

 

そして俺は納得した。なるほど……あの態度や雰囲気は、相手にすら見られてなかったのだと。ただ冒険している少年に会ったくらいの感覚だったのだろう。

 

納得と同時に、不思議と心が燃えた。四天王もチャンピオンも超えてやる、ポケモン達も同じ気持ちだった。

 

 

 

 

 

そして今日再び彼女と出会った。自分がロケット団の数に苦戦していたところで。そこで彼女のポケモン達を見ることができた。

 

前も見たブラッキー。彼女の前で他のポケモンや彼女自身に向けられる攻撃を、適宜防壁を張って防いでいた。

 

彼女が跨る白い体毛のポケモン。彼女に近づこうとしたポケモンを、乗っている彼女を気遣い、僅かな動作で落としていく。

 

三つ首のドラゴンポケモン。それぞれの口から炎や雷、息吹を吐きながらポケモンを戦闘不能にしていく。

 

鎧のような体を持つポケモン。襲いかかってくるポケモンの攻撃を気にも止めない。ただ前進し、殴り、踏みつけ、重厚なしっぽで払い除ける。

 

 

そして一際異様な彼女の上で浮かぶポケモン。黒い玉をばら撒き、当たったポケモンやロケット団員を次々と眠らせていく。

 

 

それらのポケモン達を従え、次々に指示を出す彼女。

 

 

 

それはまさに蹂躙劇だった。圧倒的というのは、この状況のことを言うのだろう。

 

 

 

口角が上がる。元四天王の実力は、自分が想像していたより遥かに上だった。

 

この人を超えたい。この人以上の奴らも超えたい。

 

今までのただ強くなるという漠然とした目標では無く、ハッキリとした目的ができた。

 

 

「少年!サカキは任せた!」

 

自分にロケット団のボスの所に行くように言ってきた。

 

ロケット団も数の力で彼女を此処に縫い付けてると言えば十分な成果だ。次々と応援が来るのも原因だが、それ以上に彼女が手加減しているのが大きい。

 

人命を無視していいなら、おそらくもう終わっているはずだ。

 

 

 

守られてばかりではいられない。自分のポケモンも短時間だが休憩が取れた。薬も使ってやれた。ここは彼女の独擅場ならば、自分はさらに上の社長室にいるサカキを倒す。それでこのテロは終わるはずだ。

 

エレベーターはもう此処にロケット団を送る為の装置と化している。行くなら階段からだが、そこにたどり着くにもまだ何人か邪魔が入る。

 

だが、これくらい簡単に突破しなければ。自分の目指す場所には届かない。

 

「行くぞ!ピカチュウ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この私が、このサカキがただの少年に負けるか……。それも一度ならず二度までも。ベストな手駒ではないとはいえ、少し甘く見すぎていたか。

 

シルフカンパニーの乗っ取り、ヤマブキシティの占領は失敗だ。警察の部隊による街の解放も各箇所で進んでいる。ここは撤退し、再起を図るしかない。

 

 

 

ひとまず動ける部下を集め、この場を切り抜けなければ。

 

階段を下り大会議室へ入った所で、目を見開いた。

 

そこにあったのは戦闘不能になったポケモンと、倒れた部下たちの山。寝ている者、傷つき呻き声を上げている者、気絶している者。

 

そしてその中央でこちらを見つめる女と、その手持ちだろう五体のポケモン。その女の顔、そのポケモンの姿見たことがある。

 

「なるほど……四天王が関わっていたとはな。シンオウの悪夢とはよく言ったものだ」

 

この状況はロケット団にとって悪夢だ。いや、夢だったらどれほど良かった事か。

 

「おや、私の事をご存知で?」

 

「あぁ、そのダークライも機会があれば狙っていた」

 

「残念でしたね。その機会は永遠に来ませんけど」

 

ダークライが私に手を向ける。何をされるかはわからないが、下手すると私もこの足元で眠る部下の仲間入りか。そして目覚めた時には独房の中。

 

 

だがな、若き四天王。お前は人の悪意を、欲の強さを知らない。それを束ね、形としたのがロケット団。

 

その程度で私は、我々は止まらないのだよ。

 

 

「舐めるなよ四天王!ロケット団は不滅だ。この世全てのポケモンはロケット団のために存在するのだ」

 

「元四天王ですよ。じゃあ、最後の言葉はそれで良いですか?」

 

「お前達命令だ。私の道を作れ」

 

 

 

ダークライの手から黒い何かが飛来する。

 

「うぐっ!うおおおおぉ!サカキ様ーーー!!」

 

今まで怪我を負い床で蹲っていた者が、その傷を構わず私の前に躍り出る。その者はその黒い玉に当たった後闇に包まれ、その後眠りについた。なるほどそのようにして眠らせるのだな。

 

最初の者に続くように今まで蹲っていた者が亡者の様に立ち上がる。ポケモンが残っている者はそれを繰り出し、近くに眠らされている者がいるなら、その者の残りの手持ちを使う。それすらない者はその身で四天王とそのポケモンに掴みかかっていく。

 

 

すまない、お前達。私はお前達の力を活かしきれなかった。

 

だがその献身により、ロケット団は続く。お前達のロケット団は永遠だ。

 

 

四天王が驚き、部下たちの対処に追われている。その横を堂々と歩いて進む。

 

「あの子供に伝えろ。今から一ヶ月後の夜。その時だけトキワジムを開けてやる。バッジが欲しければ来るがいい、とな。……もちろん邪魔が入らなければの話だが」

 

甘く見ていたとはいえ、ロケット団のボスとしての私はあの子供に敗北した。

 

次は、懐かしのジムリーダーとして、ポケモントレーナーサカキとしてケジメをつける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は四天王を経験してから初めて、ポケモンでもなくトレーナーでもなく、人に恐怖した。

 

シルフカンパニーのロケット団の大概を片付け、少年が降りてくるのを待っていたのだが、現れたのはロケット団のボス、サカキだった。

 

サカキは私の事を、ダークライの事を知っていた。機会があれば狙っていたとも言っていた。私の相棒をあんな目で見られるのは非常に不快だった。

 

 

この先原作ではサカキはトキワジムに逃げる。そこでレッドと戦うのだが、私はこの男を逃がす気にはなれなかった。

 

部下ももう使えない。ポケモンもレッドに倒され戦闘不能。残ったのは彼の身一つ。

 

こちらは五匹とも動ける状態。逃げられるとは微塵にも思っていなかった。

 

 

「お前達命令だ。私の道を作れ」

 

その言葉はまるで魔術のようにも感じた。

 

その命令で今まで倒れていたロケット団員が次々と起き上がる。彼らはサカキの盾となり、私や私のポケモン達に襲いかかってきたのだ。

 

ポケモンを使うならまだわかる。だが、人の身で私のポケモンに張り付いてきたのだ。

 

「サカキ様を逃がせ!」

 

「サカキ様バンザーイ!!」

 

誰も彼もがサカキ様サカキ様と叫びながら、私たちに群がってくる。

 

トレーナーの私や比較的小柄なブラッキー、アブソル、ダークライに掴みかかるのはまだわかる。だが、バンギラスやサザンドラに臆せず飛びかかる人間がいるとは思いもしなかったのだ。

 

命を投げ出すような行為。それをサカキの為と躊躇いもなく行う。

 

サカキの持つカリスマ。それはまるで呪いだった。

 

 

 

私もポケモン達も驚きでその対処に手こずる。その隙にサカキは私の近くを堂々と歩いて下の階に進んでいく。私にレッドへの伝言を残す余裕まで見せて。

 

 

 

 

 

「すみません。逃がしてしまいました」

 

私はシルフカンパニーでの戦いをハンサムさんに報告した。ボスを逃がすという大失態をしてしまい、本当に申し訳ない。

 

サカキの事はレッドや次の主人公に任せろっていう運命なのかね。

 

「気にするな。元よりサカキを追うのは我々の仕事。今日君が戦ってくれた事で、ヤマブキシティは解放された。警察の代表として感謝する。しかしサカキという男……それほどのカリスマなのか」

 

「アレはもうカリスマというレベルでは無い気がします」

 

「君には伝えておく……人々の気持ちを考え公表はしないが、今回の作戦で我々が下手を打った点がある」

 

「なんですか?」

 

「ロケット団員は大勢逮捕できた。奴らの勢力を大幅に削ぐことが出来たと考えている。だが……主犯格を捕まえる事が出来なかった」

 

「……すみません」

 

追い討ちされて私のメンタルはボロボロ。大失態したから仕方ないけど。

 

「すまない。君を責めてる訳では無い。主犯格はサカキだけじゃないんだ。

 

ヤマブキシティの主要施設を抑えていた、ロケット団の幹部四名だ。この内アテナ、ランスの二名を捕らえることには成功していたのだが……警察の姿に変装したラムダと呼ばれる男に逃がされてしまった」

 

「復活の芽が残ってしまってますね」

 

「そうだ。我々は今後もサカキと幹部の動向を追う。君も何かわかったら連絡をくれると嬉しい」

 

「あー……ならサカキの残した伝言がありますよ」

 

「なに?!どんな内容だ」

 

 

私はレッドに残された言葉をハンサムさんに伝える。一ヶ月後の夜。ジムリーダーとして戦うと言った内容だ。

 

「自分を負かした少年との再戦か。それにしても奴がジムリーダーだったとは……ちなみにその少年は?」

 

「伝言伝えた後、事後処理私に押し付けてどっか行っちゃいました」

 

「そうか……出来れば彼にも礼を言いたかったのだが」

 

 

 

「で、一ヶ月後どうするんです?」

 

「もちろんチャンスは逃さない。だが、今まで我々に尻尾を掴ませなかったサカキが本当に来るのかという疑問もある。奴ほど警戒心の高い者はそういない」

 

「じゃあ、とりあえず一ヶ月後にトキワシティで」

 

「君も来てくれるのかね?」

 

「ここまで来たら最後までやりますよ」




評価お気に入り感想ありがとうございます!
あったけぇ……赤いバーあったけぇよぉ……


ムゲンダイナ厳選してると文章入力進むね。いやー毎日投稿出来て良かった良かった……いい加減出ろや。チャンピオンなれんやんけ


Q、主人公のメンバー
A、ブラッキー、アブソル……愛枠。ブラッキーは言わずもがな、アブソルは初めて見た時、スイクンとかそこら辺の伝説に違いないと思っていた。
バンギラス、サザンドラ……この二匹入れない理由は無い。

Q、ヘルガーとドンカラスとミカルゲ……どこ行った?
A、君のような勘のいい読者は嫌いだよ
ヘルガー……考えてない
ドンカラス……シンオウ地方で、それこそヤミカラス達のドンでもやってるんじゃないかな
ミカルゲ……シロナのミカルゲとイチャイチャ
なお今のところ全部ただの妄想。

Q、警察無能か?
A、有能だったらあんなに犯罪組織跋扈してないと思う


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第九話

一ヶ月後、トキワシティ。

 

サカキに気取られないように、警察は覆面捜査員少数が街に潜りトキワジムを見張っている。

 

ハンサムさん曰くレッドには警察の事は伝えてないらしい。少年の様子から我々の存在がバレるのは避けたいらしいが、元々無口だし別に良かったのではとも思っている。

 

私?ホテルでお留守番。

 

前回の大失態で信用失ったかと思ったが、私がいると来るわけ無いだろと言われ、それもそうかとなっている。ただ、サカキと戦闘になった時の助っ人として呼ばれている。……それってレッド少年いるから私要らなくない?

 

 

まぁでも協力するって言ったし、事の顛末知りたいしでトキワシティのホテルに数日前から篭ってる。ここのホテルからトキワジム見えるから、チラチラと確認しながら。もう夜で暗くなっているのに、ジムには未だに明かりも付いてない。

 

 

 

 

『ヒナノ君、例の少年がトキワジムに入っていった』

 

ハンサムさんの言葉に、あれ?と思ってジムを確認するとやはり明かりは付いてない。どうやらドアだけ開けていたらしい。

 

『それと例の少年と別の少年もジムに入っていった』

 

別の少年……あぁ、グリーン少年か。今日以外にここのバッジ取れる日ないもんね。サカキが解任されて、別のジムリーダー就任するまでにも時間はかかるだろうし。レッド少年が教えてあげたのかな。

 

『二人とも入って出てこない。サカキがいる可能性がある。我々も突入する。トキワジムの包囲態勢に入れ!』

 

では、私も準備しますかね。

 

 

 

ホテルの部屋を後にしようとして、後ろから光が駆け抜け、直後に轟音が響いた。

 

「…………は?」

 

 

振り返るとトキワジムが崩れ、黒煙と炎を上げていた。

 

その光景に私は思考が停止した。

 

トキワジムが爆発?なんで?レッドとグリーンは?

 

『総員!!急げ!サカキを、少年達を探すんだ!』

 

ポケギアから届いたハンサムさんの必死の叫びで我に返る。

 

ホテルから急いで出ると、私以外にも捜査員がトキワジムを目指して走っていた。中にはポケモンに跨り急ぐ人もいる。

 

私もアブソルを出し、その背に乗ってトキワジムへと急いだ。

 

 

 

 

 

 

水タイプのワザを出せるポケモンが炎を消していく。私もアブソルにあまごいを命じ、その後ポケモン達に瓦礫の中の捜索を指示する。

 

その間は頭が真っ白だった。あの二人が死ぬ?まさか。

 

大丈夫だ。二人は死なない、と自分自身に言い聞かせる。そうじゃないと私、彼らを死地に送った事になる。それは耐えられない。

 

私もフルメンバーで捜索する。

 

ブラッキーは小さな体で瓦礫の隙間を、アブソルは引き続き消火を、バンギラス、サザンドラ、ダークライは瓦礫を除いていく。

 

 

 

 

「捜査官!見つけました!抜け穴です!」

 

捜索開始からしばらくして、捜査員の一人から声が上がった。ハンサムさんと私が駆け寄る。

 

ジムの床に、人が入れる大きさの穴がくり抜かれていた。縄梯子で下に降りる様になっている。降りた先には人一人が余裕を持って歩ける横穴がまっすぐ続いているらしい。

 

「三名分の新しい足跡があります。この穴自体は前から作っていた様に見られます」

 

そうか……サカキはじめん使いのジムリーダーだった。ポケモンに掘らせていたのだろう。勝負を邪魔されたくなかったのか、元々脱出用に作っていたのか。

 

この捜索でだいぶ時間を奪われたのは痛い。今から追いかけて追いつけるだろうか。

 

「方角は?この先には何がある?」

 

ハンサムさんが捜査員の一人が持ってきた地図をなぞる。トキワジムに指を置き、そこから北へ。地図の上では緑に覆われていた。

 

「トキワの森か……我々はすぐに急行する。ニビシティ、クチバシティの警察に応援を求めろ」

 

「あっディグダの穴か」

 

私の呟きにハンサムさんがうなづく。ニビシティとクチバシティを繋ぐ、ディグダの作った地下通路。そこに穴を掘り繋げている可能性もある。だけど……

 

「もっとも、サカキが穴を掘れる以上、追跡は困難だろうが……それでも次に繋がる手がかりは掴んでおきたい。

 

ヒナノ君、それにポケモン達も、これまでの協力感謝する。君は確かこの後ホウエン地方だったね?」

 

私は数日後クチバシティから船に乗り、ホウエン地方に飛ぶと決めていた。もう予約や向こうでの約束もしてあるので、これ以上の協力は出来ない。

 

「はい、あまり力になれずすみません」

 

「今回はむしろ我々の力不足だ。サカキの動向をもう少し詰められていたなら……いや、たらればを言っても仕方ない。我々は再びサカキを追う。またいつか何処かで会おう!」

 

ハンサムさんや捜査員の方々は私に軽く敬礼して、パトカーやポケモンでバタバタとトキワの森へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

ホテルで一眠りしてチェックアウトする。うん、気分も眠気もスッキリ。

 

「さて、切り替えますか」

 

サカキのことはもう頭の外にやっちゃおう。ハンサムさんや主人公が何とかしてくれる。私のカントーでの出番は終了ー……じゃなかったか。

 

「おや?ずいぶん早かったね」

 

トキワシティの外れ。セキエイ高原のポケモンリーグ本部に繋がる道。

 

街灯の下で一服しながら、ポケギアで時間を確認する。もう良い子は寝る時間だ。そこに待ち合わせをしていた悪い子が現れた。別に明日の昼間でも良かったのに。

 

「あんたに言われた通り、カントー地方八つのバッジを揃えた。約束は果たしてもらう」

 

「約束だからね。では……おん?」

 

タバコを携帯灰皿で消しながら、視界に映った異常を確認する。

 

レッドの後ろから誰かが走ってきている。もう夜は遅いし、こんな道路に用がある人物なんていないと思うんだけど。

 

「おい待てレッド!俺様を無視するなよ!……って、誰だアンタ」

 

「あらーグリーン少年まで来たのかー」

 

「俺は呼んでない……」

 

「おい、レッド!まさか俺とのバトル断って、この女に会いに来たってのか?……まさかそういう関係?!無口で無愛想なレッドが?!いや、無い無い」

 

さすがグリーン少年。レッド少年の分までよく喋るね。場の空気が持って私ありがたいよ。よーし、その勘違いを加速させるかー。

 

「そんな関係じゃない……」

 

「えーヤマブキシティでデートしたじゃん」

 

「デェェェェトォォ?!」

 

グリーン少年の声のトーンが上がる。もうダメ……この二人見てて楽しい。ところでテロ鎮圧ってデートに入るのかな。

 

「アンタ……」

 

レッド少年に睨みつけられて防御力下がったので止めます。ポケモンはこんな感じなのか。

 

「あははは冗談冗談。じゃあ、グリーン少年には初めまして。私はヒナノ。シンオウ地方から来たポケモントレーナーだよ」

 

「シンオウ地方……確か北の方だっけ?」

 

「そこの四天王だ」

 

「元だよー」

 

「?!……へぇ、そういう事か。おいレッド、俺に戦わせろよ」

 

「俺のバトルだ!」

 

あらあら、なんかこのままだとこの二人目の前でバトル始めそうなんだけど。それもポケモンバトルじゃなくて取っ組み合いの方ね。

 

こういうのが、私の為に争わないでってやつかなー。んー片方とだけバトルしても良いけど、どうせなら皆で楽しみたいよね。

 

そこで私、良い案浮かびました。

 

「じゃあさ、二人纏めてかかってきなよ。そっちそれぞれ二匹づつ。こっちは四匹での変則的なダブルバトル……どう?」

 

「約束が違っ!!」

 

「面白いじゃねぇか。レッド、お前は休んでていいぜ。俺一人で十分だ」

 

そうしてグリーンはボールを構える。レッドも納得はしていないものの、ボールを構える。

 

それはそうとグリーン少年、一人で十分だって?私の二匹相手に?

 

それはちょっと……傲慢じゃないかな。

 

「一人でも二人でもどうぞー。いやー久々に四天王の務めを果たすなー……トレーナーの伸びた鼻をへし折るっていう務めをさ。……では、良い悪夢を見ていってね」

 

私は左右の手からそれぞれボールを投擲した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一人でも二人でもどうぞー。いやー久々に四天王の務めを果たすなー」

 

約束が違う。この時まではそう思っていた。

 

だが、次のいつもとワントーン落ちた声で、そんな考えは吹き飛んでいった。

 

 

「トレーナーの伸びた鼻をへし折るっていう務めをさ」

 

 

背筋が凍った。この人が発する雰囲気が一気に変わった。

 

これだ。俺はこの人の本気と戦いたかった。横にグリーンがいるが関係無い。

 

「では、良い悪夢を見ていってね」

 

俺と、仲間達でこの悪夢を超えてやる!

 

 

 

こちらのポケモンは俺がピカチュウ、グリーンがピジョット。

 

対するのはブラッキーとサザンドラ。どちらもその実力を間近で見たポケモンだ。それが今敵対している。

 

「さぁピジョット!高く舞い上がれ!」

 

「ピカチュウ!ブラッキーにでんこうせっか」

 

ピジョットは高度を上げる。ピカチュウはボールから出てすぐに加速し、標的へと駆けていく。

 

「ブラッキー、サザンドラのてだすけに入って。サザンドラのサポートをしつつピジョットに警戒を」

 

ブラッキーがサザンドラの背に飛び乗る。そして上空のピジョットに意識を向けながら、サザンドラに力を上乗せしていく。

 

「サザンドラ、ピジョットは無視していいよ。接近するピカチュウにかえんほうしゃ、りゅうのはどう、だいちのちから」

 

サザンドラの三つの双眸が、ピカチュウに向いた。

 

そして左の頭からは炎が、右の頭からは衝撃波が同時に襲いかかる。さらにピカチュウの足元が小刻みに揺れる。

 

「攻撃中止!よけろ、ピカチュウ!」

 

でんこうせっかの速度を回避に使う。飛び退いた直後に大地からはエネルギーが吹き上がる。炎と衝撃波で回避出来る道筋は少なかったが、ピカチュウは見事に攻撃を躱しきった。

 

しかし、その攻撃の跡を見て唾を飲む。これまでに見たかえんほうしゃなどとは威力が違う。サザンドラ自体の強さもあるのだろうが、ブラッキーのてだすけの恩恵もあるのだろう。

 

「ピジョット!エアスラッシュ!」

 

グリーンはサザンドラの攻撃の隙を逃さず、上空のピジョットに攻撃を指示した。サザンドラはピジョットを見ていない。避ける事はできないはずだ。

 

「ブラッキー任せるよ!」

 

しかし、風の刃はサザンドラの前でひかりのかべに阻まれた。サザンドラの背中に乗るブラッキーが防御したのか。

 

あのブラッキーはシルフカンパニーの時も、彼女や彼女のポケモン達への攻撃を防いでいた。

 

 

サザンドラに攻撃を仕掛けるにはブラッキーをどうにかしなければならない。ただブラッキーに攻撃するにはサザンドラから落とさなければならない。

 

ダブルバトルでのこの二匹の組み合わせは、敵対する俺から見て空中要塞に挑む様だった。

 




感想、評価……うめっうめっ


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第十話

ふはははは!凄いぞー!強いぞー!かっこいいぞー!

 

あとサザンドラにおんぶ状態のブラッキーが可愛い!

 

 

サザンドラwithB(ブラッキー)の圧倒的攻撃力と防御力。相手から見たらさぞ頭を悩ませるだろう。

 

ブラッキーがサポートと防御に集中しても、お釣りがくるサザンドラの攻撃性よ。三つ首それぞれから普通のポケモン以上の出力が出せるのだ。

 

 

この子は本当に育成が難しかった。とりあえず噛みついてきた。当時モノズだった時からとりあえず噛みつく事が感情表現らしく、私や私のポケモン達と挨拶がわりに食らいつくのだ。

 

私もポケモン達も最初はしょうがないと痛みを我慢するのだが、まぁ何度も来るとそりゃ躾けるよね。いくら甘噛みとはいえ痛いし。その後は同時期に育て始めたヨーギラスに噛みつき始めた。

 

ヨーギラスからサナギラスへの進化が思ったより早かったのは多分この子のせい。サナギラスになっても噛みつくのはやめなかったけどね。サナギラスも殻に包まれてからは気にしてないから二匹のスキンシップになったっぽい。

 

この子がジヘッドに進化した時は面白かったなー。二つ首になってから初めてお互いを見た時に「え……アンタ誰?」的な感じで固まっていた。その後お互いに噛みつきあって意気投合してた。

 

ちなみにサザンドラに進化した際は、「また増えたな……」「あぁ……」みたいな感じでそれぞれ達観してた。

 

 

 

それはそうと第一射目はピカチュウは上手く躱したね。さすがよけろピカチュウは魔法の言葉だ。ただ、いつまでも綺麗に回避にできるかな。まだまだ攻撃濃度上げていくよ。

 

ピジョットの攻撃もブラッキーで対処出来るみたいだし、何か工夫しないとこの布陣は崩せない。

 

 

今さっきバッジ集めを終えた少年達にはいきなりの高いハードルだが、超えてくるでしょ。むしろここで何も出来ずに敗れるならポケモンリーグは早すぎる。彼らはその座を賭けて踏み潰しに来るのだから。

 

 

「さぁ!突破してみせてよ!未来のレジェンド達!」

 

 

戦うポケモン達を微かな勝ち筋へ導く。ポケモン達の為に作為的に奇跡を用意する。それが出来るのが君達、未来のレジェンドトレーナーだと私は信じてるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数分、彼らはサザンドラに傷一つ負わせる事は出来なかった。ピカチュウ、ピジョットも戦闘を続けているが、その身には大きな火傷が見られる。

 

この数分間、サザンドラの攻撃をギリギリで躱しているのは凄いことだと思うし、それを的確に指示するのはさすがと言ったところだ。だが、攻撃できてないんじゃいつまでもこのまま。

 

紙一重で回避したとしても、炎や息吹は確実にポケモンの体表を熱で焼いていく。対するこちらは数少ない攻撃をブラッキーがしっかりシャットダウンしている。このままではどちらが先に果てるかは明白だった。

 

 

「ちっ!おいレッド、俺に合わせろ。一匹づつ仕掛けても埒が明かねぇ」

 

「どうするつもりだ?」

 

「説明してる暇があるかよ。感覚で合わせてこい。高度をさらに上げてあまごいだ!」

 

ピジョットが天高くで旋回すると、夜空が雨雲に覆われていく。ポツポツと雨が降り始めた。

 

 

あまごいね。電気タイプいるからそのままかみなりに繋げる気かな。かみなりはとても強力なワザだ。実際に当たれば例えドラゴンタイプで生命力の強いサザンドラだとしても大きなダメージを避けられない。

 

また当然見てから反応出来るようなものでも無いため、咄嗟にひかりのかべを張ったり、まもる体勢にも入れない。とはいえ、かみなりは普通ではまず当たらない。

 

晴れている時だと、ワザを出すポケモンから出る電撃だけで放つ必要がある。上空に電撃を溜めて、標的へと撃ち落とす形だ。うん、予備動作ある上に上空からピンポイントで当てなければならないのは難しいよね。普通に10まんボルトとか使おっかになる。

 

これが雨だと話が変わってくる。雨の時のかみなりは自然のエネルギーをそのまま落とすだけ。そして何より一発だけじゃない。雷雲の量によって変わるが、下手すればゲリラ豪雨の時並みにポケモンに降り注ぐのだ。下手な弾でも数打ちゃ当たるとはよく言ったもので、まぁ回避は無理かな。

 

 

まぁよくあるあまごいでかみなり当てよう的な話だけど、それはさすがに通じないというかやらせないよ。

 

「ブラッキー、にほんばれで相殺。そのままつきのひかりで使った体力を回復」

 

集まりかけた雨雲が消えていく。その隙間から射す月光をブラッキーが浴びリラックスする。これでてだすけや防壁に使った体力を再び充填するのだ。

 

「ピカチュウ!街灯を使って駆け上がれ!」

 

ピカチュウが街灯の1つを駆け登り、そこから空へ飛ぶ。高度はサザンドラの少し上くらいだ。

 

雨雲はもう無いのにピカチュウを空へ上げさせる?一体なぜ?空中じゃもう回避できないよ。レッド少年に限ってやけっぱちとかは無いと思う。何か企ててるね。

 

 

「ブラッキー、ピカチュウを警戒して、サザンドラは迎え撃つよ!かえんほうしゃ、りゅうのはどう、あくのはどう」

 

サザンドラは口にそれぞれ力を溜め、狙いを定める。ブラッキーもピカチュウに注意を向けた。私を含め、全員が謎の行動をとったピカチュウを見つめてしまった。

 

「「いまだ!」」

 

「ゴッドバード!」「フラッシュ!」

 

夜の道路に光が満ちた。私もサザンドラもブラッキーも目を焼かれる。

 

私は視界が真っ白に染まるだけだけど、二匹は近い距離で見てしまった為、視界の回復に時間がいる。これでは攻撃は当たるわけがない。

 

「でも、それはピジョットも……するどいめか!」

 

私がぼやけた視界で無理矢理見たのは、サザンドラの背に突撃するピジョットの姿。そこにいたブラッキーはサザンドラから弾き飛ばされる。

 

今までピジョットの突撃はブラッキーの障壁やサザンドラの遠隔攻撃で牽制していたのだが、さすがにこんな状況では反撃も防御もしようがない。

 

「ボルテッカー!」

 

電撃を纏ったピカチュウが、宙を舞っていたブラッキーに追撃を加える。ブラッキーは私の所まで吹き飛ばされ、私は何とかそれをキャッチする。

 

無防備状態で二発も攻撃をくらいさすがに戦闘不能だ。ブラッキーを撫でながらボールに戻す。

 

「しゃあどうよ!それにしてもよく気づいたなレッド!」

 

「カスミのスターミーにやられた」

 

「なーる。似たトラウマ持ちか」

 

 

「それに……お前の手持ちの特性や癖くらい全部頭に入っている」

 

「何十回ってバトってきたからな」

 

あまごいはピジョットが高度を自然に稼ぐ為の捨て石。そしてピジョットの特性を把握していたからこそ、なんの合図もサインも送らずにフラッシュか。全く即席パーティでよくタイミングや意図を汲み取れたもんだね。

 

 

 

 

さすがというか末恐ろしいというか。ただ、うちのアイドルを傷つけた分は倍にして返すよ。サザンドラもブチ切れてるみたいだし。この子みんなに甘噛みするくらい大好きだもんね。

 

「サザンドラ、ブラッキーの敵討ちするよ」

 

サザンドラが三つの首全てを使って、大きな咆哮をあげる。攻撃された怒りを込めた、自身をふるいたてる為の全力の雄叫び。そして先程倒れたブラッキーを嘆くような絶叫は、宙高くより星を呼び寄せる。

 

「なっなんだ……?」

 

グリーン少年が空を見上げて言葉を漏らす。まぁ、かみなりと同じで視認出来た時にはもう遅いんだけどさ。

 

前にシンオウへ帰った時、シロナと一緒に彼女の故郷のカンナギタウンから少し歩いた渓谷で修行したワザ。サザンドラとガブリアスで、とにかく隕石を落としまくった。

 

私はそんな修行とかいうキャラじゃないんだけど、このワザは危険すぎるからね。教えて貰ったタツばあさんもポケモンと人を見極めた上で伝えているらしいし。本来はジョウト地方にあるドラゴン使いの里、その奥義中の奥義。

 

 

「りゅうせいぐん!」

 

 

天から熱を纏い、大きな岩が一つ降りてくる。それは地上からようやく視認できた高度でポロポロと空中分解し、それぞれが人の頭くらいの大きさにとなって相手に降り注ぐ。

 

空中のピジョットも回避しようと身構えるピカチュウも関係無い。相手の立っている場所付近への絨毯爆撃だ。

 

「よけろ!ピカチュウ!」「躱せ!ピジョット!」

 

その二匹の残り体力じゃ無理だよ。ピジョットは直撃し、ピカチュウは地面に着弾した衝撃で派手に吹き飛ばされた。

 

「なんだよコレは……」

 

グリーン少年が攻撃の跡を見て慄く。そこには限定的な焦土が広がっている。

 

 

私としてはこのくらいで驚かないで欲しい。何故ならばコレは本来のりゅうせいぐんとは程遠いもの。

 

「ちなみに君達が挑戦するカントーポケモンリーグの一人に、真のドラゴン使いがいる。コレはまだまだ半端なりゅうせいぐんだよ」

 

言葉が出ないって感じだね。でも、バトルはまだ終わってないよ。

 

「サザンドラお疲れ様。戻って」

 

二人がポカンとしている。私がサザンドラを戻した事を怪訝に思っているのかな。

 

「あぁ、ごめんごめん。この子は戦闘不能でいいよ。これ以上はトレーナーとして戦闘させられない。りゅうせいぐんはそれほど力を使うワザなんだ……さっ、二対二。仕切り直そうか」

 

まぁバトルの流れは無理矢理引き寄せたけどね。そんなにりゅうせいぐんに驚いて、次のポケモンへの指示をしっかりできるかな。

 

「いけ!バンギラス、ダークライ」

 

「リザードン!」「カメックス!」

 

おっカントー御三家。最後の一匹としてそれぞれマサラタウンで貰ったポケモンで来たか。まさに二人の冒険の集大成のようなポケモン。

 

なら、次は組み合わせでも小細工でも無い、ポケモン同士の真っ向勝負と行こうか。

 

「レッド少年!空でタイマンでもするかい?」

 

「望む所だ!リザードン!」

 

レッドはリザードンに跨り、空を目指す。あら、少年も行くのかい。

 

危なっかしいったらありゃしないね。まぁ、本人すっごい良い笑顔してるからいっか。このバトルジャンキーめ。絶対落ちた時の事考えて無いな。

 

こちらでその相手をするのは当然私の相棒だ。

 

「ダークライ、貴方には何も言わなくていいよね……あっ!でも撃墜したら彼らのフォローよろしく」

 

いつも通りダークライは軽く頷き、リザードンを追いかけた。

 

もちろん指示の放棄では無い。ダークライなら私の指示がなくても勝利をもたらしてくれると信じている。

 

 

 

 

夜空に上っていくダークライを見送り、目の前のバトルに意識を向ける。

 

「さて、グリーン少年。このバンギラスを止めてみなよ」

 

「やってやるさ!カメックス、ハイドロポンプ!」

 

「バンギラス、避ける必要は無いよ。前進!」

 

カメックスの甲羅から突き出た二つの噴射口から激流が溢れ出る。それらは寸分の狂いもなくバンギラスに当たり、押し流そうとする。

 

だが、バンギラスはその流れに逆らって歩みを進める。一歩一歩、着実にカメックスとの距離を詰めていく。弱点だからと言ってこの子がすぐに倒れると思ったら大間違いだ。もちろんダメージは少しずつ入っているんだけどね。

 

「もっとだ!押し流せ!」

 

ハイドロポンプの威力が上がる。一気に勢いを増して、バンギラスの前進を押し留める。こうなったら後は我慢比べだ。バンギラスが力尽きるのが先か、カメックスが威力を維持できなくなるか。

 

「今はこらえて!勢いが無くなった瞬間に詰めるよ」

 

バンギラスが踏ん張る。カメックスが振り絞る。

 

軍配はウチの子に上がった。疲労し水の勢いが弱まったその隙に、バンギラスは前進を進めカメックスの眼前へと迫った。

 

「掴み上げて!」

 

「からにこもる!」

 

バンギラスは両の発射口をそれぞれ片手で掴み、カメックスを持ち上げる。カメックスは既に急所である首を引っ込めているが関係無い。その甲羅ごと粉砕するのみ。

 

「かみくだく!」

 

バンギラスは強靭な顎で甲羅に噛み付く。甲羅が軋み、大きく罅が走る。噛み付いたままバンギラスは首をゆっくりと上に持ち上げ、勢いをつけて地面に叩きつけた。

 

「そのままはかいこうせん」

 

トドメの一撃を地面に転がる甲羅に撃ち込んで私の勝ちっと。

 

これで地上戦は終了。やっぱりポケモンの力比べになると決着が早い。拮抗が崩れたら、立て直すのが難しいのだ。

 

「君が挑戦する四天王の中には、これ以上のパワーを持つポケモンを従える人がいる。力比べの中にも一工夫が必要だね」

 

「っち!」

 

まぁ、シバさんのカイリキーと力比べしようとする人なんてそんなにいないか。

 

「さて、上はどうなったかなー?」

 

空を見上げればかえんほうしゃとあくのはどうをぶつけ合う激しい戦いが見えた。




日間ランキング一位とはたまげたなぁ

ちなみにサザンドラwithBで一番苦しんだのはレッドでもグリーンでもなく、作者である。

もう半端ないってー。そんなんできひんやん、普通……そんなんできる!? 言っといてや!できるんやったら……。何も考えてないってー。第九話後半書きよった自分何してくれとるん。

で、ピカチュウとピジョットの使えるワザを調べまくったなぁ。気分は焦った時のドラ〇もん。


では、感想で気になったのとか、自問自答も含めていつもの。

Q、6匹目は?
A、今の所無い。シンオウ四天王は強化前も強化後も五匹で挑戦者に立ち塞がる。……ええやんそういうポリシー。ワイは好き。

Q、タグに女主人公いるで
A、付けたやで

Q、タバコの銘柄
A、作者リアル知識無し。二次元のキャラが吸うならカッコイイって感じ。リアルは少し苦手なんやな。

Q、タバコ描写もっと欲しい
A、ハンサムと一緒に吸うシーン考えてた。寝たら忘れて、投稿してからあ゛ぁ゛ってなった。


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第十一話

タイマン勝負に誘われ、リザードンに乗り夜空を翔ける。元々の約束はシングルバトルだったので願ったり叶ったりと言ったところだ。

 

木々を見下ろせる位の高度で止まり相手を待つ。そして俺たちの視界に入ってくる、夜闇に紛れる様な漆黒のポケモン。同じ高さに並ぶと静かに佇み、こちらを見つめている。

 

ダークライ、あの人のエースポケモンだ。四天王時代に作られた彼女の通り名、悪夢を見せる幻のポケモン。

 

シルフカンパニーでは多くのポケモンとロケット団を無力化していた。ダークホールと呼ばれる黒い玉に当たればそれで終わり。

 

 

お互いに動きは見せない。リザードンは仕掛けたくてたまらないみたいだが、今は我慢して欲しい。このポケモン相手に迂闊に動けば、自分達はバトルすらさせて貰えずにベッドの上だ。

 

 

空中に出て時間にして十数秒、月明かりが雲によって隠された。ダークライの姿が更に夜の闇に溶けた瞬間、それを合図に相手は行動を開始した。でんこうせっかでこちらに肉薄する。

 

速度ゼロからいきなりのトップスピードでの接近。だが、驚きはない。七バッジ目のジムリーダー、カツラの本気のウインディと戦った時だ。まるで消えるような速度での仕掛け方に翻弄された。

 

試合後にでんこうせっかを超えたしんそくと呼ばれるワザだと聞いた。それに比べればまだ目で捉えられる範囲。

 

「リザードン回避だ」

 

 

リザードンが大きく羽ばたき、その場から更に上に離れる。こちらの動きに合わせてダークライも直角に進行方向を変える。その両の手には黒いエネルギーが集まっていた。

 

リザードンの背中を右の手で軽く叩き、左手で回避する方向を指示する。自分達を追いかけているダークライを確認すると、あくのはどうを発射する寸前だった。

 

「振り向いてかえんほうしゃ!」

 

リザードンの口から炎が噴射される。それはあくのはどうとぶつかり合い、衝撃を周囲に散らす。

 

「つばさでうつ」

 

かえんほうしゃを撃ち終えたリザードンにすぐさま行動を促す。しかし攻撃後の隙を向こうも狙っていたのか、相手もダークホールを飛ばしてきた。

 

バラバラに発射される五個の黒い玉。当たれば一巻の終わり。俺の目は冴えていた。すぐに抜けれる空間を導き、リザードンに伝える。僅かな行動で回避出来た為、ダークライとの距離が一気に詰まる。

 

そのまま突っ込もうとした時、ダークライの姿がリザードンを囲むように増える。かげぶんしんだ。

 

「突撃中止!ねっぷう!」

 

リザードンが羽ばたきによって周囲に熱気を飛ばす。火の粉が煌めく風が増えたダークライに流れると、残像は全て消えた。

 

 

いない?!一体どこに。

 

 

その時月が雲から顔を出し、再び光を注ぎ始める。しかし俺達にはその月光が届かなかった。

 

「上だ!」

 

月を背に、下にいる俺たちへ向けて黒い玉を連射するダークライ。リザードンは急加速し、その場を離脱する。

 

 

 

その後もお互いに縦横無尽に空中を飛び交い、攻撃と回避を繰り返していく。

 

 

そして遂に俺達はダークライに傷をつける事に成功した。

 

 

と言ってもまもるで軽減された上でのかすり傷。むしろこちらの油断を誘うために、敢えて受けたかの様にも見えた。だが、それにはもう引っかからない。

 

こういった駆け引きはジムリーダー、キョウで散々学ばされた。さすが忍者を自称するだけはある。

 

 

ダークライが地上の戦闘が終わったのを確認すると、あの人の元へ降下していく。指示を求めに行ったのか。俺達もその後を追い、地上へ降りる。

 

下では彼女のバンギラスが戦闘を終えているが、おそらくバトルに介入はしてこないだろう。彼女にとってコレは、四天王に挑む俺たちへの警告や激励の為のレッスンなのだから。

 

 

 

「おや、珍しいね。私の指示が必要?」

 

彼女の傍に降り立つダークライ。リザードンも地表に降り立ち、俺は背から飛び降りた。

 

「そっかー、彼らを認めたかー……わかった。これからは相手にだけ集中して良いよ。じゃあ、いこうか」

 

 

 

ダークライの動きのキレが先ほどとは違う。警戒や迷いといったものがすべて取り払われている。行動や作戦、相手の警戒の全てを彼女に託し、その指示に応えるために全力を尽くしている。

 

 

「リザードン!かえんほうしゃ、きあいだま」

 

リザードンが口からは炎を、両手の間ではエネルギーを滾らせる。それを眼下のダークライに向けて放出した。

 

「かえんほうしゃはただの牽制。きあいだまだけに注意して」

 

くそっその通りだ。……いい。ぞくぞくしてきた。自然と口角が上がる。

 

逸れたきあいだまが、地表で炸裂する。それを見て彼女は面倒くさそうな顔を浮かべた。

 

「うーわ、タイプ一致じゃないのに良いパワーしてるなー。ダークライかなしばり。その両腕貰っちゃおう」

 

リザードンの手が封じられたか。だが、かなしばりは超能力で動きを止めワザを封じる。僅かな時間とはいえポケモンの集中力をかなり使う。それこそ超能力を得意とするジムリーダーナツメのポケモンですら、一瞬の隙が必ず生まれる。

 

「フレアドライブ!」

 

「ダークライ分身を!」

 

ダークライが四体に増える。また、かげぶんしんか?いや、一体だけ影が濃い!

 

「リザードンそこだ!」

 

炎を纏った突進はダークライの体を確かに捉えた。だが、そのダークライは当たった瞬間に消えていった。まるで霞にぶつかったかの様だ。

 

手応えが無い?……まさかかげぶんしんの中にみがわりを?!

 

消えたダークライのいた下を見る。地面には未だに濃い影が揺らめいていた。

 

「ゴーストダイブ」

 

影から勢い良く現れるダークライ。リザードンは咄嗟にまもる体勢に入ったが、それすらすり抜けて痛烈な一撃が入る。

 

「じゃあおやすみー」

 

そのままゼロ距離でダークホールに包まれたリザードンは眠りに落ちた。

 

 

 

 

「ふいー、終わった終わった」

 

彼女はタバコを取り出すと、寝ているリザードンのしっぽに近づけ火をつける。おい……人のポケモンをライター代わりにすんな。

 

「ちなみに、四天王にもっとえげつない影ポケモン使いいるから。私とは年季が違うよ……あの人いくつ初見殺し持ってんのかねー」

 

煙を吐きながら他人事のように語る。つまりまだまだ実力も知識も経験も足りないって事か。

 

「……」

 

これが元四天王か。そしてこの人が言うドラゴン使いやパワーファイター、えげつない影ポケモン使い……面白い。セキエイ高原に行けばそいつらと思う存分バトルできる。

 

「楽しくなってきたじゃねぇか。なぁレッド」

 

「あぁ」

 

まだまだ上がゴロゴロいやがる。鍛え直してから挑戦するのが楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

 

おやおや、バトル終わって一瞬呆然としてたのにまた目をキラキラさせちゃって。眩しいったらありゃしないね。……シロナと戦った時、私もああいう目してたのかな。少なくともシロナはしてた。

 

一回心折ってみるつもりで戦ってたんだけどね。正直最初の二体倒されるとは思ってなかったし。

 

ていうかコレ、逆に火つけちゃったかなー。ごめんねーカンナ。後で電話しておこ。バトルジャンキーに火をつけて、そっちに投げたから後よろしくーってね。

 

はー……今でコレかー。数年後とか私戦って勝てるかなー。それはそれで楽しそうだけど。

 

 

「おいレッド!残った手持ちで俺と勝負しようぜ!もっと強くならなきゃいけねぇからな!」

 

グリーン少年何言い出してるの……。レッド少年も無言でボール構えない。

 

「コラコラ、今何時だと思ってるんだい。とっととポケモン回復させて寝なよー」

 

日付超えてるからね。寝ないと私みたいに背が伸びないぞー。それに君達、サカキの後に私でしょ。何でそんな元気なのさ。

 

二人が邪魔すんな的な表情で見てきやがった。こんのバトルジャンキー共め。よーし、大人のやり方を見せてあげよう。

 

「ダークライ」

 

ダークライが二人分のダークホールを用意する。私は頑張っていつも以上の笑顔だ。さっ、とっととポケモンセンター戻れ。

 

「……トキワ戻るか」

 

「あぁ、寝るか」

 

うんうん、子供は素直が一番だよ。

 

二人はトキワシティに向けて歩み出す。何故か競い気味に。早歩きから、遂には走り出した。そんなにライバルって負けたくないもんなの。そんな所は子供だなー。ポケモンに関しては大人顔負けなのにね。

 

 

あっ……置いていかれた。

 

 

 

 

 

 

 

さて、未来のレジェンド達と離れた私は、現在海の上。カントー地方を離れ、フェリーでホウエン地方のミナモシティを目指している。まぁ、もうじき着くんだけど。

 

私は今、甲板で近づいてきたミナモシティを見ている。船着き場までもう少しといったところだ。ポケギアで連絡する。

 

「おーい、着いたよー」

 

『待ってましたぜ!歓迎の準備はバッチリっす』

 

 

はい?……歓迎?

 

いや、行くよーって言ったら、迎えに行くって言うから連絡したんだけど。歓迎は聞いてないぞ。そんな面倒な事しなくてもいいのに。

 

フェリーの下船口から一歩出て全てを察した。というか見えた。

 

 

「「「「姐さん!お久しぶりっす!」」」」

 

 

待ち合わせの人物が、大勢の子分共引き連れて待ってやがる。おい、その横断幕やめろ。なんだその『姐さんおかえり。ようこそホウエンへ』って。

 

フェリーから完全に降り、まっすぐとその集団に歩いていく。その間頭真っ白。考えるのも面倒臭い状況だ。

 

集団の前に立つ、頭が特徴的な待ち合わせ相手に話しかける。

 

「ねぇ……私聞いてないんだけど」

 

「姐さんがコッチ来るっていうんで、集合させましたぜ」

 

「……私頼んだっけ?」

 

「姐さんの為ならこの位は当然ですぜ!」

 

「目立ちすぎでしょうが……まず人数多いし、なんか横断幕作ってるし……ていうか待ち合わせ相手が四天王の時点で目立ちすぎか。その頭も目立ってるしね」

 

私を待っていたのは、ホウエン四天王の一人。私と同じあくタイプ使いのカゲツ。そしてそのカゲツの不良時代の子分達だ。

 

 

 

え、関係性?あくタイプ使って何を勘違いしたのか、集団でトレーナーをいびってたバカ共をぶちのめしただけだよ。私を狙う時点でお察しだよね。

 

 

 

そのリーダー張ってたカゲツはさすがに強かったんだけどさ、意地で完膚無きまでにぶちのめしたよね。

 

 

そしたらなんか子分共々更生して、今じゃ四天王だもんね。わかってたけど。

 

後ろの子分達はブリーダーになったり、レンジャーになったり、フレンドリーショップの制服着てたり、ポケモンセンターのお姉さんになってたり……今昼間なんだけど。はよ職場もどりなさい。

 

「よーし野郎共!!今日は俺の奢りだ!飲むぞーーー!!」

 

「「「わーーー!!」」」

 

 

さよなら……今日のマスターランクコンテストのチケット。最前列だったんだけどね。この空気で私出ていくのは無理だよ。




ようやくバトルから逃げ出せる……日常書く方が全然楽

先に言っておきます。このSSの世界はメガシンカが無い世界線でいきます。さんざん迷いましたが、この方がスッキリしそう。メガシンカ無くてもゲンシカイキとかはしちゃうのだろうか……?

このSSの正史
FRRG ≒Em →HGSS ≒Pt→BW→BW2……
※メガシンカの無い世界線


Q、主人公の名前
A、師匠のキクノばあちゃんと併せてヒナギクとなるからですね。ヒナノシャクジョウとかあったのか……それも採用しようそうしよう。

Q、大人が子どもたちに600族2匹にダークライ……大人汚い
A、大人だからねぇ……( ˙-˙ )

Q、ゲーム的なメタで考えるとサザンドラは最低64レベルに対して、ワタルのカイリューは赤緑なら62…ホントに半端なりゅうせいぐんでござるか?
A、ほら、ゲーチスさんとかいたやん


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第十二話

まだ昼間なのにカゲツ達とミナモデパート屋上へ。うぅ……目立ってる。そりゃあそうだよ。こんな大人数が四天王の後ろに並んで、昼間のデパート内歩くってどういう事よ。

 

そんな訳でデパートの屋上ビアガーデンへ。本来は夕方からなんだけど、この男貸し切って交渉しやがった。

 

 

「「「「「カンパーイ!!」」」」」

 

はぁ……諦めて受け入れよ。昼間っからタダ酒と思えば多少はね。周りが私の事を姐さん、姐さん言わなければまだマシなんだけど。

 

 

あぁ……ビール美味し。どうせなら静かにこの昼間ビールの背徳感を味わいたかったね。

 

「あのさー、何で姐さんなの?私とそんな年齢変わんないでしょ。ていうか、中には私より年上いるよね?」

 

私は同じテーブルに座っていたメンバーに尋ねてみた。そのうちの一人は何と不良からジムトレーナーへのジョブチェンジ。

 

「俺、姐さんとアニキのポケモンバトル見て感動したっす!アニキがあんな楽しそうな表情したのは、あの時が初めてなんすよ」

 

 

カゲツはいわゆるポケモンバトルに関して天才と呼ばれる人間だった。ポケモンとの相性や育成、バトルセンスが飛び抜けていた。それも幼少期からだ。

 

ただそんな彼には、負かしてくれる人がいなかった。周囲のトレーナーは競うレベルですらない。ジムチャレンジもしたみたいたが、難なく突破し抱いた感想は退屈。そしてジムのルールとしてしょうがないが、手加減されたという腹立たしさ。

 

そして彼はバトルに対して楽しみを見いだせなくなった。自分を慕う子分達とつるみ、トレーナーをいびる方がよっぽど楽しいとなってしまった、らしい。

 

 

 

 

 

 

初めて会った時も、退屈そうにしてたっけ。あれは四、五年前かな。旅を始めて一年と少しが経った時。あの頃も今みたいな夏だっけか。

 

 

 

私が四天王から降りて、初めてホウエン地方へ訪れた時だ。民宿ミナモのモナミさんに警告された。トレーナーを狙う不良達がいるから街中でも気をつけなよーと。

 

 

まぁ、狙われても何とかなるだろうと、街を散策していると裏路地で誰かがバトルしていた。いや、バトルというより絡まれてたと言う方がいいか。不良が二対一でトレーナーをボコってた。

 

その様子を横目で見て、ふとした違和感を感じた。

 

絡まれた方のポケモンは、まぁ程々に鍛えられていた。知識があるトレーナーが育成中といった感じだ。このトレーナーとポケモンに、二対一とはいえ絡むのか普通、という疑問が一つ。

 

もう一つが絡んでいる二人組の方。ポケモンはグラエナとノクタス。こちらの二体が私でも目を見張る程、良く育てられていた。あくタイプ使いで四天王まで行った私が言うのだから間違いない。

 

当然、相手のポケモンを二体とはいえ圧倒していた。

 

 

問題はその動き。不良達の指示を無視して行動している。グラエナとノクタスの目を見て理解した。確実に他人のポケモンだ。それが渋々戦っている。ただ、攻撃を放棄したり、寝たりするような事は無い。

 

二匹の心境を表すとしたら、結果は出すから好きにやらせてもらう、といった感じかな。

 

不良達はそれで面白おかしく笑ってんだから、まぁ滑稽だよね。それ人のポケモンだよ。

 

 

 

まぁ、そんな面倒臭い場面を見てしまったら嫌々だけど介入するしかよね。この空間、不良二人以外の全員良い思いしてないから。絡まれてるトレーナーと痛めつけられてるポケモンは当然として、グラエナもノクタスもそんな事に乗り気では無い。そんな現場を見せられた私も気分悪いし。

 

 

「ねぇ……そんな楽しいかい?」

 

「なんだテメー。コイツと同じ目に遭いたくなければどっか行きな」

 

「おい何ボール構えてんだ?ヒーローごっこなら他所でやんな」

 

グラエナとノクタスがそんな不良達の様子を見て、ゆっくりと私の前に近づいてくる。

 

「……可哀想にねぇ。少しばかり寝てて」

 

 

ボールから出たダークライは瞬時にグラエナとノクタス、そして不良の一人を眠らせた。残された一人が尻餅をついて素っ頓狂な声を上げる。

 

「カゲツさんから預かったポケモンが?!」

 

 

ん?カゲツ……それってホウエン四天王の?私と同じあくタイプ使いの?

 

なるほどだったらこの二匹くらい育てられるか。まだ四天王には就任してないけど。

 

 

「さて残った一人……そのカゲツって人の所まで案内して」

 

 

おい、未来の四天王何してんのさ。

 

 

 

 

 

残った不良にミナモシティの郊外まで案内される。着いたのは小規模な工場の跡地。その寂れた廃墟の中から時折笑い声がする。

 

着いた瞬間、案内させていた不良がその建物内に走って逃げて行った。その後をとことこと付いていく。

 

 

 

「アニキ!」

 

「あん?どーした」

 

「やたら強い女に追われて!」

 

「俺がやったポケモンはどうした?」

 

「一瞬で眠らされて……」

 

 

あぁいたいた。あのリーダーっぽい人がカゲツかな。……あれ? そんなに髪あったっけ? 相当特徴的な感じだったんだけど。

 

「おーい、カゲツって人ーいる?」

 

「あの女っす!」

 

 

「えらいちんちくりんだな。本当にこんな奴に負けたのか?」

 

「見たこともないポケモン使われて……」

 

「へぇ……おいお前ら。さっき貸してやったポケモンで返り討ちにしちまいな」

 

 

カゲツは動かず、周りにいた子分が下品な笑みを浮かべながらボールを次々に投げた。まぁ出るは出るはあくタイプ。グラエナ、ポチエナ、ノクタス、ダーテング、コノハナ、シザリガー……こんな状況じゃなきゃ、グラエナをもふったりしたいんだけどね。

 

「うーん、面倒臭いなぁ……みんなーお願いー」

 

この時の手持ちはブラッキー、ヨーギラス、ヘルガー、ダークライ。

 

この時はドンカラスは休暇の意味を込めて、シンオウ地方で自由に過ごさせている。キクノ師匠曰く、たまにシンオウポケモンリーグにヤミカラスの群ごと飛んできて、私が帰ってきているか確認しているらしい。そろそろまた顔見せないとね。

 

ミカルゲはシロナに預けてたかな。シロナのミカルゲとずいぶん仲良しみたいだけど、タマゴとか持ってきたらどうしようとかちょっと思ってた。

 

 

空いた枠でホウエンのあくタイプ探す予定だった。その矢先にこれだよ。

 

 

 

 

まぁ、ポケモンが良くてもトレーナーがアレだったんで、数の差があっても瞬殺だった。

 

 

 

「……貸したヤツらも半端な育てはしてねぇつもりなんだがな」

 

「そりゃあ見たらわかる。……で、こんな良い子達を使ってなにやってんのさ。普通にバトルさせてあげたらいいじゃないか」

 

「つまんねーんだよ。俺と張り合える奴なんて何処にもいやしねぇ」

 

「ジムでも巡ったら?」

 

「既にやってる。手加減なんかしやがって……あぁ、思い出しただけでも腹が立つ」

 

「随分な自信だね。良いよ。お望み通り張り合って……いや、捻り潰してあげる」

 

 

「あ゛ぁ?……ずいぶんと大きく出たな。言っておくが俺のメンバーは貸してた奴らと一緒じゃねぇんだぜ」

 

「つべこべ言わずかかってきなよ」

 

 

 

 

いやーなんとかカゲツのベストメンバーを全滅させた。ヨーギラスには遥か格上に無理させてしまったし、他のメンバーにも相当頑張ってもらってようやくといった感じだ。最後ダークライしか残らなかったしね。

 

未来の四天王現段階でも強すぎ。こりゃあ確かにジム戦もつまんなくなるわ。

 

 

「そんな……アニキが」

 

「カゲツのアニキが……負けた?」

 

 

 

彼は自身のエースポケモンのアブソルを労りながら尋ねてくる。その目は先程とは随分変わった。コチラを舐め腐った感じではない。

 

「アンタ、いったい何者だ」

 

「楽しかったかい?」

 

「……あぁ、こんなすっきりして悔しいのは初めてだ」

 

「ならポケモンリーグに行きなよ。そこにはアンタの望む奴らがゴロゴロいる」

 

 

「おい、まさかアンタ四天王か?」

 

「いや、元四天王だよ。今は落とされてただの一般トレーナーさ」

 

 

 

 

しばらくミナモシティに滞在してて、不良達の噂は聞かなくなった。

 

住処を移したのか、解散したのか。まぁ、こっから先は私の領分じゃないと、ホウエン地方の旅を開始した。

 

 

一年ぐらいブラブラと過ごして、今の手持ちのアブソルも仲間に加わり、ホウエンを発とうとした時の事だった。

 

ホウエン第三四天王にカゲツが就任した。いやー早すぎでしょと思ったね。そしてポケモンリーグのコネクション使って私に連絡してきたのだ。

 

その時だっけ、カゲツに初めて姐さんって呼ばれたのは。言っとくけど私が呼ばせた訳じゃないよ。

 

 

 

 

「ぶちのめしただけなのにねぇ……」

 

違うテーブルで子分らと盛り上がるカゲツを見る。態度も目も、髪型も最初の頃とは変わった。

 

 

「いや〜あれからアニキは変わりましたよ。すぐに残りのジムバッジ集めてサイユウシティ行っちゃうくらいに。で、そのまま四天王っすからねぇ」

 

カゲツのジムバッジ集めと四天王就任までの期間は僅か一年経ってない。

 

「で子分想いの人なんで俺らみたいな一度道踏み外した連中に、四天王の地位とコネでやり直しの機会を用意してくれて、今じゃ俺もキンセツシティのジムトレーナーっすよ」

 

「ほえー、路地裏で尻餅着いてたのに……変わるもんだねぇ」

 

「全て姐さんのおかげっす!」

 

ちなみにこの元不良、脅すように案内させた人である。ビフォーアフターとはこの事か。

 

 

「カゲツさんが四天王になってから行く宛てのないウチ……じゃなかった。私たちをちゃんと人に紹介してくれて。四天王が勧めるならと元不良の肩書きの私がポケモンセンターのお姉さんですよ」

 

ほんと変わったよね。ていうか同一人物とは思えないよね。で、そんな可愛いお姉さんがポケモンセンターの制服で昼間っから酒飲むのは大丈夫なのかい。

 

 

「なーーーにいってやがる……お前たちもあれから頑張ったんだろうが」

 

 

違うテーブルで盛り上がってたカゲツがこっちに来る。いやー雰囲気とセリフはカッコイイけど……顔赤いぞー。ふらついてもいるし、コイツもう相当できあがってるな。

 

 

 

 

で、数時間後……日が落ちたデパートの屋上は死屍累々だった。

 

「姐さん聞いてくださいよ〜〜ダイゴの奴が〜〜」

 

「あーはいはい……」

 

このチャンピオンダイゴがフリーダム過ぎる話をもう五回以上は聞いている。

 

周囲は飲んだくれや寝始めた奴ら。横には石マニアの愚痴を言いまくる出来上がった四天王。その後ろではカゲツのアブソルと私のアブソルがなんか良い雰囲気。

 

ねぇ、そこの二匹。私達の様子見てよ。なんでそっちだけラブロマンスしてるの。なんだこのカオス。




更新ちょいと休むねー。エメラルドとasやり直してくるわー。

多分エメラルドにasの要素ぶち込む形になると思う。

エメラルドのアクア団マグマ団の姿で、思想とかはas的な感じかなー。


カゲツとはいつか正式に戦わせるから今回はしょらせて。

Q、他のあくタイプ使いとは面識や交流があったりする?
A、四天王ネットワークとかあると思うぞ

Q、ゲッコウガ見たかったな……
A、メガシンカの無い世界線のカロスわかんないからねぇ。触れぬが仏

Q、アブソル抜いて他入れようぜ
A、やめてーホウエン枠なの。モフり枠なの。

Q、サザンドラの両腕の頭には脳みそは入っていないよ
A、感想で見た一番の衝撃。今更変えないけどその場合ジヘッドの第二人格は一体どこへ……あかん何か相当闇な気がしてきたぞぉ

Q、シロナと同年代……それって少女……?
A、このコメントは隠されています

Q、メガアブソルのもっふもっふが……消えた?
A、相当な世界の損失だ。何処かで補填しなくてはならない


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第十三話

光り輝く海!きらめく水面!サラサラな砂浜!賑わう人々の声!

 

 

「暑い……いや……熱いぃ……」

 

カゲツ達の酷い歓迎を受けた数日後、私はカイナシティのビーチに来ている。いやー日差しが痛いのなんの。玉のような汗がもう止まらない。衣服の下の不快指数が急上昇中。

 

 

近くにオーバいないコレ。絶対あの太陽いるよね。

 

 

 

さて、さっさとウチの子達をボールから出しますか。くそ暑いけど綺麗なビーチだからね。遊んでおいで。

 

「人様に迷惑かけないでね。絡まれたりしてもやり過ぎないでね〜」

 

必要最低限の注意だけすると皆すぐに解散する。自由時間よ。

 

ブラッキーとアブソルは波打ち際を走り回り、サザンドラは海の上をのびのびと飛び回る。目の前全てが弱点であるバンギラスは、海に入らず砂浜で座って海を見てる。座り方可愛いんだけど、何処か哀愁漂ってる。……こんどは山にでも連れて行ってあげようかな。

 

ダークライは私の影の中。護ってくれてるんだろうけど、影の中涼しそうだね。少し羨ましい。

 

私は海の家に避難。このままではとけてしまう。防御力はいつもより薄着なので逆にググーンと下がってます。キャミソールと七分丈パンツを着用中。未来の四天王、カリンスタイルってとこかな。

 

 

 

客席に座って机にぐったりと倒れながらサイコソーダを飲み干す。それでもまだ口と喉以外が灼熱地獄。グラードンってもう目覚めてたっけ。

 

「お客さん、扇風機そっち向けようか?」

 

「お願いします……」

 

ありがとう海の家のおじさん。随分とマシになる。肘餅つきながらなら、顔を起こせるくらいには元気出た。

 

 

 

あぁ……扇風機って素敵。夏は扇風機と結婚して、冬に離婚してコタツと結婚しよう。エアコン?アイツは都合のいいやつだからね。愛人枠でしょ。

 

なーんてしょーもないことを考えていると、ポケギアから着信音がなる。画面を見るとカゲツと出ていたので、とりあえず切ってみた。

 

また鳴り始めた。んー急ぎの用なんかな。

 

 

「……もしもし」

 

『姐さん……もしかして不機嫌っすか?』

 

「ウチの子達を遊ばせにカイナのビーチに来てるんだけどね……今年暑過ぎない?」

 

『今年猛暑らしいっすよ。って、カイナにいるんすね。丁度良かった』

 

 

私がカイナにいる事が丁度良い?面倒事の匂いがする。

 

 

「じゃあ切るねー」

 

『ちょっと待ってくださいよ!頼みがあるっす!』

 

ほらー予想的中。無言で切れば良かったかな。

 

「聞くだけだよ……」

 

『ダイゴの奴をサイユウに呼び戻して欲しいっす』

 

ただでさえ暑くて寄っている眉が深くなった気がした。

 

あの爽やかイケメンが夢中で石探してるイメージが幻視できた。もーなんでチャンピオンはどこか残念なのさ!聞いてますかシロナ。

 

「……アンタの口からはそれ以外の話題は出ないの?」

 

前の飲み会含めてもう二桁いったんじゃないかなこの話。

 

『その手の文句はダイゴの奴に言って欲しいっすね』

 

「ていうかさー、ダイゴさん呼び戻すって事は、なに?アンタ負けたの?」

 

『いやいや負けてないっすよ。客がアポ無しでこっち来て、ダイゴと話がしたいらしいっすわ』

 

「……じゃあアンタが呼びに行けば?」

 

『今日、挑戦者入ってるっす』

 

「……他の人は?フヨウちゃんは……ダメか。第二四天王だし。プリムさんやゲンジさんは?」

 

『プリムは人に言われて動くような奴じゃないし、ゲンジの爺さんも今不在なんすよねー』

 

「アンタの子分達は」

 

『アイツらにはアイツらの仕事や生活があるっす』

 

そんな奴らを昼間っから呼び寄せ飲み明かした奴が何言ってるんだ。とはいえ、私ほど今自由な人間もいないのも事実。

 

「はぁ……貸しにしとくよ」

 

『あざっす!』

 

「カイナでちょうどいいってことはムロタウンの石の洞窟かい?」

 

『そうっす。相手さん急いではないみたいなんでゆっくりでもいいっすよ』

 

「ところでチャンピオンをアポ無し訪問するって誰よ」

 

『四人組なんすけど、代表者はエニシダって名乗ってたっす』

 

 

あぁ……バトルフロンティアのオーナーさんね。そういえば現在各地方で建設中だったけ。あの規模のプロジェクト打ち出せる人ならチャンピオン呼ぶ力もあるか。

 

 

海の家を名残惜しく後にして、炎天下の中ウチの子達を回収しに行く。

 

座ってるバンギラスの周りに子供達が群がってる。頭とかの止まれそうな所ではキャモメがはねやすめしてた。あくタイプにしてはほのぼのする光景。

 

「はい、集合ーー」

 

では、いざムロタウンへ。サザンドラの背に乗り、軽く空の旅だ。

 

 

 

 

 

てなわけでやってきましたムロタウンは石の洞窟。日光入らない洞窟内は涼しいね。外の地獄とは違ってここは天国だわ。

 

 

洞窟帰りの人に聞くと、しばらく前に壁画が見つかり軽く観光スポットとなっているとか。

 

一般の人はちゃんとしたガイドさんが付いて最奥まで行くらしい。暗い事、崖や足場が不安定なところ、野生のポケモンに注意さえすれば一本道なので、冒険に慣れていれば素人でも行って帰れるとの事。

 

 

 

 

なお野生のチャンピオンが出現している事も聞いた。

 

 

 

 

 

 

「ブラッキー、フラッシュお願いね」

 

入口から奥に進み暗くなってきたところで、ブラッキーの額にある模様が光り輝き周囲を照らしてくれる。

 

アブソルがわざわいポケモンと呼ばれる由来でもある、周囲の変化を察知する能力で危ない箇所を避けてくれる。

 

この二匹の後ろを私は歩いていくだけ。時折ゴルバットとかが襲ってくるも、私の影に潜んでるダークライによって追い払われている。まさに完璧な布陣。

 

 

 

 

 

 

 

「きゃーーー!!」

 

 

 

洞窟の奥から若い女性の悲鳴が聞こえた。

 

野生のポケモンに襲われたか、崖から足を滑らせて落ちたか。急いでその現場まで駆けつけると、野生のケーシィがいて、その後ろは崖だった。ケーシィは私達が近づくと、どこかへテレポートしていった。

 

もしかして急にテレポートしてきたケーシィに驚いて崖の下に……。

 

そんな事故現場を想像していると、下から声が聞こえた。

 

 

「誰かいるんですかーーー!助けてくださーーい!!」

 

 

ひとまず良かったと胸を撫で下ろし、下にいる哀れな被害者の二の舞にならないように注意して崖下を覗き込む。想像していたより深いことはなく、高さは建物三階分だろうか。そこに左右に揺れる光源と人影、その傍にポケモンが見える。

 

「……おや?」

 

リボン巻きのバンダナ、赤いキャミソール。懐中電灯を持ちながら手を振るトレーナーの姿があった。傍にいるポケモンはワカシャモだ。

 

「今助けるよー」

 

とりあえずサルベージ。ダークライがゆっくりと崖下へ降下していき、ワカシャモをボールに戻したトレーナーをお姫様抱っこで私の元まで運んでくる。んー昔の私を思い出すなー。

 

「ありがとうございます!」

 

「大丈夫かい?怪我は?」

 

「ワカシャモが助けてくれました!」

 

なるほど落ちる際にワカシャモが咄嗟に抱きかかえて着地したのか。イケメンだね……なおメスらしい。

 

 

懐中電灯頼りにワカシャモと進んでいると、背後にケーシィがいきなりテレポートしてきて、驚いて足を滑らせたとの事。ケーシィに悪気は無いみたいなんでというか、寝てる上でのテレポートだもんね。ほぼ一日中寝て生活するのいいな……。

 

 

 

「私ハルカって言います!本当にありがとうございました!」

 

明るい子だね〜。見てるこっちが元気になるよ。何処かのレッド少年とは大違いだ。

 

「ハルカちゃんね。うん、何事も無くて良かった良かった。ところでこの洞窟に何しに来てるの?」

 

「ダイゴさんって人に手紙を渡さないといけないんですけど、どうやらこの洞窟にいるみたいで」

 

「出てくるまでムロで待つわけにはいかなかったの?急ぎの用事?」

 

「いえ、ジムリーダーのトウキさんが彼はムロタウンに寄らずそのままどっか行っちゃうって」

 

ダイゴさーん……石のことになった瞬間フリーダム過ぎるでしょ。カゲツはともかくこんな可愛らしい女の子にも迷惑かけて。

 

「私もダイゴさんに用があってね。一緒に来るかい?」

 

「そうなんですか!助かります!まだ冒険に出たばかりで……」

 

ええ子だね……。よーし、お姉さんが守ってあげるよー。頼むよーウチの子達。

 

 

 

 

 

しばらく二人で歩き続けて最奥までたどり着く。一際広い空間だ。そしてその一面に壁画が描かれている。その前で佇むスーツ姿の男性。その足元には成果物であろう岩石の入った袋が置かれていた。

 

「おーいたいた。ハルカちゃん、探してたダイゴさんだよ」

 

私の声にダイゴさんは壁画から振り返り私たちを見る。初対面だけど多分向こうは私の事くらい知っているはずだ。

 

「ん?……あぁ、ヒナノ君じゃないか。それと君は?」

 

「私、ハルカって言います!これをツワブキ社長から預かってきました!」

 

「僕に手紙?」

 

ダイゴさんはその場で封を開けて、中身を確認する。一瞬目が険しくなり、またすぐに元のイケメンスマイルに戻る。

 

「うん、ありがとう。わざわざ届けてくれたんだ。何かお礼をさせて貰うよ。その前にヒナノ君は何故ここに?」

 

「カゲツに泣きつかれたって言ったら分かりますかね?」

 

「おや?今日の挑戦者はまだカゲツにも挑戦していない時間のはずだけど」

 

「いや、チャレンジャーじゃなくて、エニシダさんがお呼びですよ」

 

「エニシダさんか。何か伝える事があったのかな?あの人のプロジェクトにデボンとしても協力していてね」

 

 

その後ダイゴさんがハルカちゃんにお礼としてわざマシンを渡した。そして、私は自然にハルカちゃんの興味を壁画へ移し、彼女が私とダイゴさんから離れた時に彼に話しかける。

 

「それよりもさっきの手紙……何か書いてあったみたいですね」

 

このポケギア、ポケナビを使う時代にわざわざ文通をする。それもポケナビを開発した企業の社長と御曹司が。そして、イケメンスマイルが一瞬崩れかけた事も考えると……チャンピオンの力でも面倒な事態だという事。

 

まぁ、ホウエン地方でそんなのは二つの組織しか出てこんのよね。

 

「何でもないよ……いや、君なら信用出来るか」

 

「あのー初対面で信用しますか、普通。デボンの御曹司ともあろう人がそれで大丈夫ですか?」

 

「実力は既に証明されているし、人柄もカゲツからよく聞いているよ。シルフの社長さんからもね。それに人を見る目はこれでもあるつもりだよ」

 

カゲツは私をどう紹介したのだろうか。絶対誇張とかされてそう。シルフの社長さんも繋がりあるのね。ライバル企業じゃなかったけ。

 

「デボンの情報や技術がマグマ団、アクア団に流れている。実際、大事な荷を移動させる日時がアクア団に漏れていた。そこをハルカ君に助けて貰ったそうだ」

 

「デボンに内通者が?」

 

「いや、デボンだけじゃない。おそらくだがポケモンリーグ関係者にもいる。彼らが行動を起こすのは決まって僕や四天王、騒動を起こす付近のジムリーダーが動けない日だからね。

 

彼らの組織は思想の下に集まっている。人類のさらなる発展を。ポケモンの住み良い世界を……主な構成員は極端過ぎる考えを持っているが、程度が違えば多くの人が持つ考えでもある。

 

その為、協力者が至る所にいる。どこに彼らの目や耳があるかわからないんだよ」

 

だからこそこんな時代に手紙。それも大事な荷物と共に、社員ではなく旅に出たてのトレーナーに託したという。知っているのは送り出したツワブキ社長とハルカちゃんを運んだハギ老人。そして手紙を貰うダイゴさんと荷物を貰うクスノキ館長だけらしい。

 

 

 

「人類の発展の為、ポケモンの幸せの為。その願いが極端な形で組織化したのがマグマ団とアクア団」

 

「そしてその為の手段が……コレねぇ」

 

私とダイゴさんは壁画を見上げる。二体の巨大なポケモンが争う絵。その大きく描かれた二体に目が行くが、隅々に書かれているのは虫けらのごとく倒れたり、波にさらわれている人やポケモンの姿だ。

 

「協力者の多くはそこまで知らないだろうけどね」

 

 

 

 

「んじゃ、互いに頑張りますか」

 

「協力してくれるのかい?こちらからはまだ何も言ってないけど」

 

「協力と言っても個人的に動くだけですけどね。それとも勝手に動かない方が良いですか?」

 

「いや、好きに動いてもらって構わないよ。どうせ僕の動きは向こうに流れているだろうし、自由に動ける味方が欲しかったのは事実だ」

 

自由に動ける味方ね。それってゲームでの彼の動きや主人公への多くの親切さ。そして的確な行先や行動の指示からすると……

 

「……ダイゴさん、もしかして私が居なかったら、ハルカちゃんをそれとなーく使ったりします?」

 

「まさか、これは僕らが解決する問題だよ」

 

 

さすがにそんな黒い一面を持ってるわけ「ただ……」……ん?

 

 

「彼女は良いトレーナーになると思うよ。そしてその時に世界が危機なら、彼女に協力を求めてでも僕は務めを果たさないといけない。それがチャンピオンとしての責任だ」

 

「あんな子に大人が何期待してるんですか。そのイケメン顔台無しですよ。私で我慢してください」

 

「カゲツの言う通り、強くて優しい人だね君は」

 

「どうやら誤解が広がっているようで。面倒くさいことが嫌いな悪くてダメな大人ですよ私は」

 

あーやだやだ。面倒臭いったらないね。でも、やらなきゃもっと面倒な事になるし、というか世界の危機だし。それに……

 

 

あんな可愛らしい少女に世界を託さなきゃならない、そんなかっこ悪い大人にはなりたくないしね。




なお、この世界はポケモンの世界である。大人組は勇者にはなれないのよね……。

時間貰ったけど書きだめダメでした。エメラルド楽しかったです。皆もエメラルドをしてみよう。まぁ、ボチボチ頑張ってこか。

ゲーム通りにすると不可解な点とか増えるけど、どうしようもない。無理に辻褄合わせる事増えると思う。その為これから原作ブレイク増えていく気がするけど、何かもうそれぞれ納得してください。自分は気楽に書く。

Q、ジヘッドの第二人格どこいった……?
A、感想で見てて楽しかったなり。わからんもんは無理に答えださなくていいや。それがファンタジーだもの。

Q、マグマ団とアクア団の思想はORASだけどこの世界Emで行くのでは?
A、EmにORASの要素ぶち込む。ただ陸海増やすよりよっぽどわかりやすいしね。

Q、Emではチャンピオンミクリでは?
A、入れ替えイベント入れると……思う。予定は未定。


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第十四話

「ウップ……うぅぅぅ……」

 

「ヒナノさん……大丈夫ですか」

 

いかん……威厳が、お姉さんとしての威厳が口から出そう。せめてハルカちゃんの前では吐いてたまるものか。

 

こんな感じで船の手すりに掴まっている元四天王です。私は今ハギ老人の船でムロタウンからカイナシティへ移動中。

 

色々な地方へ行ったり旅してたけど、小型船は初めて乗るんだよね。小型船で行ける距離ってウチの子達がいるからあんまり乗り物使わないし。

 

 

で……見ての通り酷い船酔いでグロッキー。スピード出すとこんなに揺れるのかと思い知らされている。フェリーなら余裕だったんだけど……正直舐めてたね。これでも私、港町出身なんだけどさ。

 

今からでもサザンドラに乗り換えようかな。いや、今は動くべきじゃない。意識を胃と喉に集中しなければ。……なんでもなおしって船酔いに効くかな。

 

 

 

何でこんな思いしながら船に乗っているかというと、ハルカちゃんの護衛。彼女には私もカイナシティに行くからついでに乗せてもらうって言ってるけど、ハギ老人には護衛の件は説明済み。

 

ちなみにハルカちゃんには私やダイゴさんが元四天王、チャンピオンだって事も伝えてない。彼女にはそんな事気にせず自由に旅をしてもらいたいのだ。

 

 

で、そんな護衛係は今や護衛対象に介護されている。トホホ……全く情けないね。

 

 

 

 

 

「着きましたよ!ヒナノさん」

 

「……………ほぇ?…………着いた?」

 

「はい、肩貸しましょうか?」

 

「……お願い」

 

ハルカちゃんに肩を貸してもらい、影から出てきたダークライに背中をさすられながら何とか上陸。やった……私は威厳をたれながさなかったぞ。私は耐えたんだ。……今の姿に威厳もクソもないか。

 

 

船着場から一先ず近くの海の家に避難した。このデジャブ感凄いね。ハルカちゃんが海の家のおじさんに許可もらって横になる。扇風機の優しい風が心地良い。

 

 

しばらくそこで横たわっていると、ハルカちゃんが近くに戻って来た。その手にはケースに入った大量の瓶を持っている。

 

「店の人にサイコソーダ貰っちゃいました!ヒナノさんも飲みますか?」

 

「ん?貰ったの?」

 

「はい!他の客の人とバトルしたらお礼だって沢山くれました!」

 

凄い元気だね。今の私にバトルしろって言われたら、ウチの子達にお任せするしかない。まぁ、それで大抵済んじゃうけど。ウチの子達優秀だし。

 

 

ありがたく一本譲ってもらい、サイコソーダを少しずつ飲む。なんだろう気持ち少しスッキリした。これなら歩くくらいはできそう。ハルカちゃんの旅の足止めとかしたくないし、さっさと目的果たしますか。

 

「サイコソーダありがとう。待たせちゃってごめんね。じゃあその荷物渡しに行こっか」

 

 

 

 

 

 

 

私はハルカ。つい最近旅に出たばかりの新米ポケモントレーナーです。

 

新米と言ってももう二つもバッジを獲得できたんです。少し自分やポケモン達にも自信が付いてきました。

 

旅の目標は七つのバッジを集めて、本気のお父さんと戦う事。お父さんはトウカシティでノーマルタイプのジムリーダーをしています。凄く強い人で私の憧れです。

 

 

今は石の洞窟で助けて貰った旅のトレーナーのヒナノさんと一緒です。ヒナノさんは色んな地方を旅したらしくて、先輩トレーナーとしての話を聞かせて貰えました。……船では苦しんでましたけど。

 

 

 

そんな私たちは今……とてもヤバそうな人達に囲まれています。

 

 

 

カイナシティの海の博物館という場所で、デボンコーポレーションのツワブキ社長から預かった荷物をクスノキ館長に手渡そうとした時でした。

 

急に博物館に多くのアクア団がポケモンと共に入ってきました。そのままヒナノさんとクスノキ館長さんと一緒に囲まれています。アクア団の目的は私が手に持つ荷物のようです。

 

 

 

私は敵意を持つ多くの人とポケモンにどうしようかと思っていると、隣にいたヒナノさんが私の肩を手で引き、入れ替わる様に前に出ました。

 

 

「ふむ……意外と少なかったね」

 

「……ヒナノさん?」

 

「大丈夫大丈夫、私こういうの初めてじゃないからさ」

 

ヒナノさんの両の手には既にボールが用意されていて、そこから石の洞窟を共に歩いたアブソルとブラッキーが出てきました。そして、私を崖から引き上げてくれたダークライと呼ばれるポケモンが、ヒナノさんを護るように彼女の影から姿を現す。

 

 

「さてと、ちょっとばかし良い所見せようかな」

 

 

三匹対多数の状況で、ヒナノさんとポケモン達は押していました。後ろにいる私やクスノキ館長さんに流れる攻撃も防いでくれています。強い人だとは思っていたけど、こんなに凄い人だとは思ってもみませんでした。

 

 

「アブソル、慌てなくていいからね。狙いを定めて、確実に急所に当てて。ブラッキー、そのカバーを。後ろに私たちいること意識してね。ダークライ、いつものようによろしく」

 

 

アブソルの攻撃で相手のポケモンが一撃で動かなくなる。ブラッキーの防御や相殺によって、私たちには攻撃が届かない。ダークライがポケモンの攻撃を華麗に躱しながら、打ち返すように眠らせていく。

 

 

こんなバトルの経験は初めてです。多人数に襲われて、ポケモン人間関係無く攻撃に晒されています。でも、この人がいるならと、次第と恐怖は薄くなり勇気が湧いてきました。

 

 

……見てるだけじゃダメだ。私ももうポケモントレーナーなんだ。

 

 

覚悟を決めて、私もヒナノさんの隣に並ぶことにしました。

 

「私も戦います!」

 

ヒナノさんはコチラを見ることは無かった。それだけ目の前の状況処理に集中しているみたいです。ただ少し口元が笑った後、私にも指示を出してくれた。

 

「そっちの二人組任せたよ。危なくなったらすぐに下がってね。荷物を守る事が第一」

 

「わかりました!行くよワカシャモ!」

 

こんな状況ですが、ヒナノさんに任された事が少し嬉しかったです。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありゃ、もう終わってしまった」

 

ハルカちゃんの加勢後、すぐにアクア団を無力化した。今は全員悪夢の中。

 

それもダークライに注文して、あの壁画をモチーフにした悪夢。彼らの悲願が達成された夢の中だ。こうなると悪夢じゃないね。目的果たせてるんだから良い夢じゃないか。

 

「ハルカちゃん、後は私達が処理しておくからもう行っても良いよ」

 

「え?でも……」

 

「こんな連中に足止めされてないでさ、自由に旅をしてきなよ。ハルカちゃんくらいの年齢での冒険はかけがえのない経験になるからね」

 

「わかりました。色々ありがとうございました!」

 

「うん、また何かあったら連絡頂戴。私もしばらくホウエンにいるつもりだからね」

 

「はい!また会いましょう!」

 

ハルカちゃんに手を振り、海の博物館から見送る。彼女の姿が見えなくなった頃、ようやく警察が到着した。

 

「じゃあクスノキ館長、警察への説明は任せました」

 

「君はどうするんだい?」

 

「私も少しお話してくるので」

 

 

 

 

 

ポケモンやアクア団が雑多に寝ている所に戻る。その内のこのメンバーを率いていた人物をダークライに言い起こしてもらう。うなされていたその人は、いきなり起きて息を荒くする。

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……、夢か」

 

「良いリアリティだったでしょう?私の相棒の作る悪夢は」

 

「貴様が見せたのか!あの地獄を!」

 

「地獄?何言ってるのさ。あれがあんた達の目的が達成した世界じゃないか」

 

「なっ?!」

 

「人間は死に絶え、文明は洗い流され、自然のバランスも壊れた。そして罪の無いポケモン達も消えていくけど、結果として海が増えた。うんうん、良かった良かった」

 

「違う!!」

 

 

動揺した目で私を睨んでくる。こちらも表情を崩さず、ただその男を見る。少しの間、その空間には他のアクア団の呻き声だけがポツリポツリと零れるだけだった。

 

起きている男の通信機から声がする。

 

私は手を出してそれを寄越すように無言で伝える。さすがにこの状況下で私に逆らえる訳はなく、男は乱雑にそれを投げた。

 

 

『パーツを奪うのにいつまでかかっている?』

 

「お宅の団員は全員地面でおねんねしてますよ」

 

やぁ初めまして。通りすがりの一般元四天王です。

 

『……若いな。君がトウカの森でも私の部下を返り討ちにした子供かな?』

 

「人違いですね。私はただの通りすがりですよ……アオギリさん」

 

『色々知っているようだな。なら我々の目的も知っているのだろう?』

 

「まぁ多少……世界を壊したい団体でしたっけ?」

 

『……どうやら誤解しているようだ。

 

海は全ての生き物にとってかけがえのない大切な場所。しかし人間は自分たちのエゴの為に、海を汚し、海を潰し……そんな大切な場所をどんどん破壊してきた。

 

それによって俺たち人間が苦しむのはまぁいい。しかしポケモン達はどうだ?

 

海を奪われる事で住む場所を失うポケモン。新たな命を育むことが出来なくなったポケモン。罪の無いポケモン達が苦しむ世界……間違っているとは思わないか?

 

我々アクア団はそんな世界を変える……いや、元に戻す為に動いている。』

 

「女の子一人相手に集団リンチしようとした団体が、そんな大層な理想を叶えられますかね?」

 

私いなかったらハルカちゃん泣いてるよこれ。傷でもつけようものなら、それこそセンリさんブチ切れると思うけど。ケッキングも怠けないんじゃないかな。……それは強すぎるか。

 

『小さな事を気にしては大望は果たせんよ。まぁいい、若い君が我々の理想を理解するには時間がかかるだろう。

 

今回は手を引こう。所詮ただのパーツだ。時間と金さえあれば我々で用意出来る。だが、この先も活動の邪魔をするならタダじゃ済まさない。その事をよく覚えていることだ』

 

 

 

通信は途切れた。その機械をアクア団の男に投げ返す。

 

「あんたのリーダーさんは世界を壊す気満々みたいだね」

 

「……あの夢の通りになるとは限らない」

 

「なるよ。あのポケモンを人の身で操ろうだなんてできるわけが無い」

 

「方法はある」

 

「お探しの宝玉かい?」

 

「……なっ何故それを知っている?!」

 

「他にも色々知ってるよー。なんならお宅らよりも知ってる。その上で言ってるんだから。

 

あんたらの理想は良いよ。多くの人が持っている思いだ。だけど徐々に積み上げていくもんであって、一朝一夕でやるもんじゃない。反動でどれだけの被害が出ると思ってるのさ。それが私が見せた悪夢だよ。

 

あんたは世界を滅ぼしたいの?」

 

「俺は……ポケモン達の為に……」

 

「本当にポケモンの為を思うならとっとと活動変えて欲しいけどね」

 

「アオギリさんは止められない……あの人にはそれだけする理由がある」

 

「別にあんたに止めてもらおうなんてこれっぽっちも思ってないよ……あっ良いこと考えた。あんた逃がしてあげるからアクア団の動き教えて頂戴よ」

 

アクア団に戻ったところでこの人に居場所があるかはわからんけどね。任務失敗の上、部下を見捨てて逃亡。……二、三人くらい一緒に逃がしてやるか。

 

その上で私にやられたって言ったら許されるかな。まぁ見張られる様になっても別に不都合は無いか。二つの玉を守るだけだし。

 

「そんな事警察が許すわけが無い」

 

「それが多分何とかなるのよねー。はー権力って凄いわー」

 

となれば早速電話だ。チャンピオンならどうにかするでしょ。この数人逮捕した所で、アクア団には代わりはいくらでもいるもの。こちらの息が掛かった人を入れる方が恩恵ありそうだしね。




遅くなりましたね。スマン!あんなこんなでちょいと忙しくなってきた。
おのれゲーチス!チートポケモンとか使うなや!アクロマのBGMと髪型は偉大である←忙しさの一因

最低でも週に一回……いや月に5回……くらいは出すと思う。多分きっとmaybe。

Q、バンギラスなみのり使えるで
A、一部のトレーナーが嫌がるバンギラスに無理矢理……なんて酷い事を

Q、アオギリ性格変わってね?
A、ORASじゃないよEmの口調にしてる。思想はORAS借りてるけど

Q、もしハルカの柔肌に傷をつけたら
A、ブチ切れセンリさんと、特性がはりきりになったケッキング達が襲いかかってくる。

Q、通りすがりの一般元四天王
A、様々なシリーズにランダムエンカウントし、主人公にバトルを仕掛けてきたり見守ってくれる人。大抵ストーリーの四天王に挑む前までには出没する。一部ポケモンのレベルは四天王を超えてたりする。負けても目の前が真っ暗にならない。
なお、どんなイベントが発生するかもランダムなので、RTA勢にとっては最大の敵である。


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第十五話

今私はミナモシティを拠点にしている。理由は送り火山が近いから。

 

ミナモデパートで買い物中にポケギアに着信が入る。その名前を見て、相手には待たせるけど、デパートの誰もいない喫煙所に入る。どこに目や耳があるかわからんからね。

 

 

 

もう見なくて済むようになって久しい他人の記憶。そこで私が知っているこの世界の流れ。この先の事件、いや災害を知っている身としては止めなければならない。いくら面倒くさくてもそれはする。

 

超古代ポケモンの復活を防ぐ一番の分岐点は、送り火山の二つの宝玉を護れればいい。ならばむしろ山から移動させた方がいい。ホウエンで一番安全な場所へ。

 

この地方で一番の戦力と、信頼出来るメンバーが揃っている場所と言えば、サイユウシティポケモンリーグだ。あそこならマグマ団、アクア団に全面戦争を仕掛けられても立てこもれる。

 

 

そう考えて私はホウエン四天王のフヨウちゃんに相談してみた。彼女は送り火山の宝玉を護る老夫婦の孫娘。マグマ団、アクア団についてもチャンピオンのダイゴさんから聞いているらしい。

 

フヨウちゃんは彼女の祖父祖母に聞いてくれたけど、ポケギアから返ってきた結果は……

 

 

『ヒナノごめーん!おばあちゃんがダメって……』

 

「ウーン……マジかー。ちなみにどして?しきたり云々なら正直通して欲しいんだけど」

 

そんな決め事を破った程度で災害防げるなら、眠らせてでも移送させるよ。ん?やってる事はマグマ団とアクア団と変わらないな。……たっ大義名分はあるよね。

 

『おくりびやまの山頂に二つの玉が揃っている事で二体を鎮めているらしいよ。揃っていても山から動かす事自体が刺激を与える可能性があるって』

 

「場所自体に意味があるのね……」

 

『ちなみにどう?マグマ団アクア団は宝玉について調べついてそう?』

 

「いやー、まだっぽいよ。今はそういう物がある程度くらいじゃないかなー」

 

アクア団の方は潜らせた鼠達が、まだ玉の在処を探していると連絡してきたし。ちなみに海の博物館で捕らえた団員の内、四人をバラバラに逃してアクア団に戻らせた。これにより情報の精度を僅かにでも上げるらしい。これはダイゴさんの案。

 

案の定、一人は音信不通、二人は同じ情報を、最後の一人は前二人と別の情報を寄越した。とりあえず最初の一人は今度ボコす。残り三人は誰が正しいかわからんけど、目安程度にはなる。

 

二人の内の一人が、私の事姐さんって呼び出したから多少信用できるんじゃない。呼び方に色々疑問つけたいんだけどさ。

 

マグマ団の方はこの前ハルカちゃんに呼ばれてえんとつ山でデートした時にボコって吐かせた。ハルカちゃんが順調に強くなっていて、私を呼ばなくても良かったんじゃないと思った。

 

 

私はデートする所が、テロ現場しか無いのか……。

 

 

 

『宝玉どーするの?時間の問題なんだよね?』

 

「私一人じゃ流石に厳しい……と言っても信頼出来て戦力になる人なんてそう都合良くいないよねー。皆四天王稼業あるし」

 

かと言っていつ来るかわからん連中の為にずっと山を見張るのはね。眠れないよそんな状況になったら。昔寝れない生活送ってたけども。

 

 

『ダイゴ君は他の事もあって難しいけど、ゲンジさんとプリムさんは、リーグ関係者にも内緒で動けるように調整してくれるみたい。本当はアタシが直接守るべきなんだけど……』

 

「流石にポケモンリーグが平常運転出来なくなったら不味いでしょ……ただ三人でもブラック企業顔負けだわー」

 

『手伝える事があればまた連絡して。いざと言う時はアタシもすぐに行くから!』

 

「ありがとーフヨウちゃん。こっちで何とか考えてみるよ」

 

 

 

通話を終えて、タバコに火をつけ一服。上を向いて、煙で円を作ってみる。んーこの人手不足はどうにかならんものか。

 

ジムリーダーに協力要請……ダメだ。ぶっちゃけ日常的にはジムリーダーの方が忙しい。

 

警察や一般トレーナーに協力してもらう……実力も信用もない。警察も動きバレてるなら無理。

 

ハルカちゃんに助っ人お願い……ダメだダメだ。それしないって決めてるじゃん。呼ばれたら行くけど呼ぶのは違う。

 

「あー……詰んだ?送り火山生活始まっちゃう?」

 

 

 

住み込みかー……今からエナジードリンク買いまくって準備しとくかなー。

 

またポケギアがなる。名前が表示されない。私が登録してない番号。

 

「……もしもし」

 

『やぁ初めまして!私はエニシダという者だ。この番号はヒナノ君で合っているかな?』

 

 

実力も信用もある人達いたーーー!!

 

 

『おーい……もしもーし』

 

「あぁはい、ヒナノです。ところで何処で私の番号を?」

 

『四天王のカゲツ君から聞いていたんだ。今少し時間良いかい?』

 

何勝手に人の番号渡してるんだあいつは。まぁそのお陰で助っ人閃いたんだけど。

 

「大丈夫です」

 

『ありがとう。用件は二つ。一つは今私が進めているバトルフロンティアプロジェクトのフロンティアブレーンにスカウトしたい』

 

「え?私ですか?」

 

『そう!シンオウの悪夢と呼ばれた君に、私の作る施設で楽しいバトルを見せて欲しいんだ!』

 

「……すみませんがお断りします」

 

助っ人頼むにはフロンティアブレーンを受け入れた方が早いんだろうけど。私の進路もう決まっているというか、キクノ師匠の跡継いで四天王に戻るって約束しているし。

 

『そうか……なら今日の所は諦めよう』

 

わー今後もしつこい勧誘来る。四天王とフロンティアブレーンの兼任……?いやー無理無理。体が三つないと持たないよ……いや、三人全員寝るか。

 

『もう一つの件だ。むしろこちらの方が本命でね』

 

うわ……断りにくいやつだ。ていうか次は断れない。私も助っ人頼まないといけないし。

 

『あるポケモンの捕獲をお願いしたい』

 

「捕獲……ですか?」

 

『実はだね。世界的冒険家のジンダイ君を知っているかい?

 

彼もフロンティアブレーンにスカウトしてね。スカウトの条件が、ホウエン地方にある遺跡の冒険援助。そしてその遺跡攻略によって目覚めるポケモンを使ってフロンティアブレーンを勤めたいというものなんだ』

 

ん?遺跡攻略によって目覚めるポケモン。それにジンダイさんのフロンティアブレーンとしての手持ちって言えば……

 

『その目覚めるポケモンは伝説のポケモン!

 

レジロック!レジアイス!レジスチル!

 

それを世紀の冒険家、ジンダイが操るポケモンバトル!!

 

見てみたいとは……思わないか?!!!』

 

ポケギアからバクオングのハイパーボイスが轟いた。この熱量の人が金と権力を持ったら、あんな施設作っちゃうわそりゃ。

 

『君にはこの内の一体を捕まえて欲しい。もちろん協力してくれたならその分の報酬は払うよ』

 

はい、ロン。その言葉を待ってました。むしろ言ってくれて助かった。

 

「わかりました。私で良ければ協力します。早速で悪いのですが、報酬の件でお願いしたい事が」

 

『うん、何だい?』

 

「今、ホウエン地方にフロンティアブレーンとなる人物は何人いますか?」

 

『三人だ。既に海底の遺跡へと向かっているジンダイ君。あとは遺跡の分析解析に協力してもらっているネジキ君。そしてバトルの天才リラ君だ』

 

ジンダイさんは既におふれの石室を攻略している。捕獲が成功して伝説のポケモンが三匹もいれば相当な戦力となる。

 

ネジキ君は遺跡攻略に呼ばれたのか。本来は別の地方のフロンティアブレーンだったはずだ。

 

そして何よりタワータイクーンのリラちゃん。バトルをこよなく愛するエニシダさんをして天才と言わしめている。頼りにならないわけが無い。

 

 

「まどろっこしいのは面倒なんでストレートに言いますね。その三人の力を借りたいんです」

 

『……マグマ団、アクア団かい?』

 

「ご存知でしたか。その二つの組織が狙っている物があります。その守護にどうか力を貸して下さい」

 

『わかった。三人に話をつけてみよう』

 

「え?そんなあっさり?」

 

『実は色々ダイゴ君達から聞いているし、頼まれてもいるんだよ。マグマ団アクア団の目的とか、それによって世界がどうなるのかとか。阻止しないとバトルフロンティア出来ないからね。当然協力させて貰うよ』

 

「ありがとうございます」

 

送り火山住み込み生活何とか阻止。それに心強い味方も手に入れた。コレで迎え撃てるかな。

 

 

 

 

 

そんなわけでやって来ました120番道路は古代塚。まさか聞いて数日中に行くことになるとは。

 

ちなみにどうして私が選ばれたのかと言うと、本来はもう一人フロンティアブレーンが来る予定だったが急用で来れなくなり、実力と急遽都合を合わせられる人という事で白羽の矢が立ったらしい。

 

 

「ここで合ってるんですか?」

 

「うんここだ。間違いない」

 

何故かエニシダさんが付いてきた。理由は私の捕獲を見たいかららしい。やっぱりスカウト諦めてないのね。捕獲用に用意した大量のボールと薬が入ったバッグを地面に置いてその建造物を見る。

 

なんて言うかピラミッドみたいな感じだ。と言っても綺麗に整形はされてなくて、ゴツゴツした印象を受ける。そして入口は何処にも無い。

 

「ヒナノ君、こっち来て」

 

古代塚をぐるぐる見回っていると、エニシダさんから呼ばれた。彼はポケナビとポケギアを手に誰かと連絡しているようだ。

 

「リラ君、ネジキ君。到着したかい?」

 

「はい、エニシダオーナー。ボクは指示された小島に到着しました」

 

「こちらネジキ。砂漠遺跡にとうちゃーく」

 

ジンダイさんは今頃キナギタウン近くの海底遺跡、おふれの石室を攻略中。当然通信は出来ない。

 

攻略と言っても一度行って戻って来ているらしい。そこで持ち帰った遺跡の謎をネジキ君達と解明して、今回は答え合わせに向かっている。

 

だから私達は、ジンダイさんが再び遺跡の最奥にたどり着く時間に合わせて、それぞれの持ち場にやって来た。

 

「オーケー。もうそろそろ約束の時間だ。手筈通り頼むよ」

 

「わかりました」

 

「りょーかいっ!」

 

 

 

 

「さて、ヒナノ君。待ち時間に君には遺跡で見つかったものでも伝えようかな。

 

キナギタウン近海の海底遺跡、おふれの石室にはここや他二つの遺跡の鍵を開ける古代の機構があった。しかもその機構が現代となった今でも生きているから驚きだよ。

 

まぁ、その機構の仕組み自体は今後の調査で解明しないといけないらしいけどね。

 

 

そして過去から未来に向けたメッセージも遺されていたんだ。

 

わたしたちわ この あなで くらし せいかつ し そして いきて きた

 

すべてわ ぽけもんの おかげだ

 

だが わたしたちわ あの ぽけもんを とじこめた

 

 

……こわかったのだ」

 

 

 

今立っている地面が小刻みに震え始める。私はエニシダさんから離れウチの子達をボールから呼び出す。ブラッキーもバンギラスもサザンドラもただならぬ雰囲気に警戒している。

 

 

ゆーき ある ものよ

 

きぼーに みちた ものよ

 

 

ダークライは落ち着いているが、危険感知能力が一際高いアブソルはソワソワしているようだ。アブソルの頭を軽く撫で安心させる。

 

地響きが大きくなっていく。同時に何処にも隙間の無かった古代塚の一部に、ヒビが拡がっていき、最後には壁が崩れ落ちた。

 

 

 

とびらを あけよ

 

 

古代塚が開かれる。その奥には円形に光り輝く七つの赤い点。そして崩壊音に混じるおよそ生き物とは思えない鳴き声。

 

 

そこに えいえんの ぽけもんが いる

 

 

私達の前に野生のレジスチルが現れた。




レレレジジジギガガガ
ギガギガフンフンガガガガガガ!!


レジ系の都市伝説とか読み漁ってたあの頃の思い出。


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第十六話

古代塚から姿を見せるレジスチル。封印から目覚めてすぐだからか、その動きはとても緩慢だ。まだ、私達を敵と認識していないのかもしれない。

 

 

対峙して感じる今までに無い違和感。目から入る情報とこれまでの経験が食い違い、頭がバグっているみたいだ。

 

自分は本当にポケモンと向き合っているのか。これは本当に生き物なのか。見れば見るほど、過去に見てきたポケモン達との違いで感覚が狂いそうになる。

 

無機物っぽいポケモンはそれこそいくらでもいたが、まだ生き物らしさを感じることが出来た。そもそも違和感など感じ無い。だが、このレジスチルは生き物でなく、機械を相手にしている気分だ。なんかこう……違う。

 

もしかしたらこの違和感が古代の人が恐れた原因とか?

 

 

いやそんな考察している場合じゃない。ウチの子達が指示を待っている。でも、私の中で何が正解か答えが出ない。

 

 

とりあえず流石に捕まえるには弱らせるしかないよね。偶に仲良くなって自らボールに入ってくれるポケモンや、私のダークライの様にボールに抵抗しないポケモンもいるけど……レジスチルが友好的かどうかもわからんし。

 

ボールに抵抗するポケモンを捕まえるには弱らせて、状態異常にするのが定石。私だったら眠らせるのが一番なんだけど……

 

 

 

コレ……寝るのかな〜?

 

 

悪夢……見れる?

 

 

 

 

戸惑っている間にレジスチルは私達を向いて、体の中央にある七つの赤い点を不規則に点滅させている。……その点滅の意味は?挨拶とか?それとも観察?威嚇とは思えないし……いや、威嚇なのか?

 

 

「よし、わからん!とりあえず挨拶代わりにダークホール」

 

 

人生初、バトル中に思考を投げた。とりあえず色々してみて様子を見よう。

 

おはようございます!そしておやすみなさい!

 

 

 

ダークホールはいとも簡単に直撃した。避ける素振りも見せなかった。鋼鉄の体を闇が包み込む。闇が晴れるとそこには変わらぬレジスチルの姿がある。特に動いたりはしない。

 

 

 

「……寝てる?」

 

 

 

いつもならここで皆かかれー!って指示できるんだけど。レジスチルが今どういう状態なのか自分にはさっぱり。鳴き声も上げないし微動だにもしないんだけど、中央の赤い点は先程と変わらず不規則に点滅してるのよね。

 

 

 

少しの沈黙を置いて、レジスチルに変化が起きる。点滅が激しくなり始めたのだ。この様子を見るに先程の状態は普通のポケモンで言うねむり状態なのではないだろうか。今の激しい点滅を見ていると、先程のゆっくりとした点滅は機械のスリープモードの様にも見えなくもない。

 

 

仮に先程の沈黙状態が眠っているにしても、封印から目覚めたばかりの影響だろうか、その時間はかなり短い。ダメージを与え、疲労させ、拘束状態まで持っていきたいが……まぁ、ボチボチいきますか。

 

 

「まずは様子見。サザンドラ、かえんほうしゃでフルアタック」

 

 

三つの口全てから業火が放出される。相手は鋼タイプ。この子のかえんほうしゃなら相当効くはず。レジスチルは微動だにしない。そのまま炎に包まれた。

 

 

炎が晴れると、そこには何事も無かったかのように佇むレジスチルがいた。ひたすら私たちに向けて赤い点を点滅させている。

 

効いていないのか?レジスチルは確かに防御も特防も高いポケモンだ。だがウチのサザンドラが弱点を突いて、ダメージが無いなんてありえない。効いてはいるが、それが表情や仕草が無いため目に見えないのだろう。そうでなきゃやってられない。

 

 

 

レジスチルが鋼の巨体に似合わない細い腕を、体の正面に持ってくる。そこにエネルギーが集まっていく。はかいこうせんの構えだ。

 

「バンギラス、ブラッキー皆の前へ。他の皆は攻撃準備」

 

はかいこうせんの様な強い攻撃は反動がある。その為受けて立つのでは無く、避けてその隙を突くのが理想的だ。

 

普段は何処に攻撃するかを相手トレーナーやポケモンの視線で判断してから避けるのだが、レジスチルには目が無い。何処に撃とうとしているかが体の向きでしか判断出来ない。射線が絞りきれないのだ。

 

 

ならば五匹がバラバラになるよりも、受けが強い二匹に前で壁役を任せる。そして二匹の後ろに他二匹、ダークライはバンギラスの傍でダークホールを構える。

 

アブソルはブラッキーの後ろでつじぎりを、サザンドラはバンギラスの後ろで、先程とは手を変え、だいちのちからのフルアタックを準備する。ダークライはバンギラスの傍で、攻撃役二匹のサポート。ダークホールで少しでも硬直時間を伸ばす気だ。ダークライは撃った後、すぐにバンギラスの影に潜めば大丈夫。

 

 

 

普通の野生ポケモンとは桁違いの熱量がバンギラスを目掛けて放たれる。同時にウチの子達もそれぞれ動き出す。

 

標的にされたバンギラスは重心を低く踏ん張り、こらえる構えに入る。

 

ダークライははかいこうせんが放たれるタイミングでダークホールを撃ち、そのままバンギラスの影へ避難した。

 

狙われなかったブラッキーはその場でバク転の様に飛び、後ろのアブソルにバトンタッチ。その際にバンギラスの前にひかりのかべを張る。

 

アブソルはブラッキーと入れ替わり、ダークホールを追いかける形でレジスチルに肉薄する。

 

サザンドラもレジスチルの地面に意識を向けているようだ。

 

 

 

 

結果としてひかりのかべで勢いを殺されたはかいこうせんを、バンギラスはその体で受けきった。

 

レジスチルは反動から解放された直後に眠らされ、再び無防備状態に。アブソルが眠りに入っただろうレジスチルに急接近。そのまますれ違いざまに角でつじぎりを正面の赤い点に入れる。その直後に地面から吹き上がったエネルギーの柱に飲み込まれた。

 

 

 

 

しかし、レジスチルは倒れない。よろめく様子も無く、鋼の体には傷一つ無かった。アブソルの切りつけた赤い点の一つにヒビが入っているだけ。あそこは急所なのかもしれない。そこだけ点滅しなくなった。

 

 

 

点滅が一際激しくなり、バンギラスの後ろのサザンドラを注視する。視線は無いが明らかに意識を向けているのが誰にでもわかる。だってなんか赤くて細い赤外線レーザーのようなものが赤い点から照射され、バンギラスの背後に浮かぶサザンドラとレジスチルを結んでいるからだ。ロックオンされてるねコレは。

 

そして次ははかいこうせんでは無く、電撃を正面に準備し始めた。でんじほうを撃つつもりのようだ。

 

 

 

バンギラスはその射線を防ぐ為に立ち位置を移動。ブラッキーはバンギラスに近寄り防壁の準備を始める。

 

その間、他の三匹にそれぞれ攻撃を指示し、でんじほうを止めようとしたがレジスチルは気にも留めていない。そのままチャージを終えて発射に移る。

 

そのタイミングで先程と同じ様に攻撃を受ける体勢に入ったのだが、肝心のでんじほうは明後日の方向に発射された。ロックオンまでしたのにいったい何故?

 

「攻撃が今になって効いてきた?……おん?」

 

 

なんという事でしょう。明後日の方向に飛ばされたはずのでんじほうが大きな弧を描いてサザンドラに迫っているではありませんか。コレではひかりのかべもバンギラスも防ぐ事が出来ない。

 

「ホーミングとか嘘でしょ!」

 

でんじほうはサザンドラの横っ腹目掛けて飛来する。ここで動いたのはこのパーティーのベテランであるブラッキー。すぐさま自身をまもるで包み、サザンドラを庇うようにでんじほうの前に躍り出る。

 

「ごめんブラッキー!バンギラス!レジスチルを押さえ込むよ!」

 

ブラッキーがでんじほうをその身に受け、瀕死間近に。しかし、タダでは終わらないのがウチのアイドル。最後に特性のシンクロでレジスチルにもでんじほうでの痺れを共有させる。

 

その痺れと、アブソル、ダークライ、サザンドラの攻撃によってその場に釘付けにされたレジスチルの前にバンギラスが辿り着く。そのまま二体は組み合った。

 

組み合うと同時にレジスチルの体から赤い蒸気のようなものが吹き上がる。この状態になるワザを自分は知っている。そしてバンギラスもそのワザは使えるのだ。

 

「バンギラスばかぢから!」

 

二匹共が全身の力を振り絞り組み合う。共に重量級のポケモンの力較べに、地面に放射状のヒビが走り、その場が窪み始める。お互いに拮抗している様に見えるが、コレではバンギラスは先に倒れてしまう。かくとうタイプはバンギラスが受けるには最も苦手なタイプだ。

 

だからこそ正々堂々と力較べなんかしていられない。レジスチルとバンギラスの優劣を注意深く判断する。そしてレジスチルの体が痺れ、バンギラスが僅かに優勢になった瞬間に叫んだ。

 

「けたぐり!」

 

バンギラスがレジスチルの足を引っ掛けて転ばせる。超重量のレジスチルが大きな地響きと共に尻餅をつく。バランスを崩したレジスチルをバンギラスが上から押さえつける。

 

 

しかし、これ以上はバンギラスは耐えられない。軽減したとはいえ、はかいこうせんを受けた上に、最も苦手なタイプのワザを受け止めた。ならばもう後は残りの子に任せる。

 

「バンギラス戻って!サザンドラはバンギラスの代わりに押さえ込むよ!のしかかってかみつく!アブソルはサイコキネシスで動きを封じて!」

 

バンギラスがボールに戻る。レジスチルがその隙に立ち上がろうとするも、アブソルの念力で動きが抑えられ、そのまま飛来したサザンドラが両腕の顎で、レジスチルの細い両腕に体重をかけながら噛みつく。歯は通っていないようだが、拘束にはコレで十分。

 

レジスチルもいまさっきのばかぢからで力を使い果たしているようだ。

 

「ダークライ、ひたすら眠らせて」

 

ダークライが拘束されたレジスチルに近づいて、体の中央の赤い点に手をかざす。そこからさいみんじゅつをひたすら送っている。

 

最初は催眠を振り払い抵抗もしていたが、徐々にその抵抗は弱まっていく。最後には赤い点から光が消えて、完全に眠りに落ちた。私も近寄って見てみると、眠りに落ちたと言うよりは機能停止という表現が正しいのかもしれない。

 

エニシダさんの経費だからと奮発購入した、ハイパーボールを投げる。ボールには抵抗していたが、何とか収まり任務完了。私は伝説のポケモンレジスチルをゲットした。

 

 

「いやー凄い!流石はヒナノ君だ」

 

今回の捕獲劇の功労者、バンギラスとブラッキーに薬を使ってあげていると、エニシダさんが近づいてくる。その手にはビデオカメラが。おい、撮影は聞いてない。盗撮だ!人権侵害だ!

 

「……コレで依頼達成ですね」

 

レジスチルの入ったハイパーボールをエニシダさんに渡す。勝手に撮られてたのでジト目を忘れずに。

 

「うん、確かに。コレでジンダイ君の使用ポケモン三匹の捕獲は完了だ」

 

「私が最後ですか?」

 

「君が捕まえるのと同じタイミングでリラ君も連絡をくれてね。ネジキ君はその少し前かな。君やリラ君はこのレジスチル達に最初は違和感を持って接していたと思う。見ているだけの私もそうだったしね。

 

ネジキ君は自前の調査・分析マシーンで表される数字を通してレジロックと向かい合っていたはずだから、そこの違いじゃないかな?」

 

 

バトル好きの人だけあって、私が最初戸惑っている事はわかっていたらしい。これまでに様々なトレーナーをよく見てきているのだろう。逆に数字を通してポケモンを見るというのはよくわからない。他人の記憶にある、ポケモンの数値は現実とは違うだろうし。

 

「じゃあ、皆をミナモシティに集合させるよ。ジンダイ君はしばらく探検明けで休む時間がいるけど、リラ君とネジキ君はすぐに呼び寄せるよ。

 

えっと、君への個人的な報酬はまだ保留でいいんだっけ?それなりの額を用意したつもりなんだけど」

 

「はい、何事も無く終わったら遠慮無く貰います」

 

何事も無いように頑張るけどもしもの時は、ね。いざと言う時の保険は必要だ。想定される被害額に比べれば微々たるものだけど復興支援の為に回すべきだ。

 

被害額というのは、ダイゴさんが天気研究所で得たシミュレーション結果。それがメールで送られてきたのだ。グラードン、カイオーガどちらかでも目覚めれば街単位で被害が出る。被害額は私が見た事も無い数字だ。

 

 

「マグマ団も、アクア団もコレを知った上でやるのかねぇ……」

 

メールの被害額の下には、別の数字も並んでいた。それはシミュレーションによって想定された、ホウエン地方で行方不明・死亡となる人とポケモンの数だった。




9日で目標の3話/5話。いいペースじゃないか。出来はともかく。

数名の方にメッセージボックスに直接応援コメいただけて大変嬉しかったです。そしてここでまとめての返事となる事をお許し下さい。感想も見させていただいています。執筆の励みになっています。

いつも誤字報告本当にありがとうございます。自分焦ってたりすると酷いね。人名ミスってたりして。本当に感謝しています。


さて、何とか描ききれたレジスチル戦。完全にリンチになってしまった。頭の中でレジスチルは固定砲台となってしまった。……想像力が足りないよ。




では〜いつもの。メッセージボックスに寄せられた意見も入ってます。

Q、ダツラじゃなくてネジキなんや
A、この後の展開的にポケモンを数字で見れる人が欲しかった。その構想を使うかは未定。

Q、主人公へのレジスチル捕獲報酬無いの?
A、わすれてた……今回でちょこっと記載

Q、レジ系あるある
A、自分はおふれのせきしつBGM苦手。レジ戦はしゅき

Q、ブラッキー壁張りすぎでは?
A、ワンパターンやなーとは思ってるけど、描写的にも能力的にも便利過ぎ。

Q、嫌がるレジスチルをバンギラスが無理やり押し倒して……
A、ニッチな層過ぎるだろ……

Q、ばかぢからの描写
A、NARUTOの八門遁甲より

Q、実際にレジ系は寝るのか?
A、知らん。ゲームでは寝る

Q、メガシンカ無いけどカロスのトレーナーとか出ない?
A、今のところ思い付いてない。多分カルネ辺りは出しやすそうではある。

Q、ifの話(アニポケだったら、ポケスペだったら)
A、両方共に虫食い状態で、下手に手をつけたくない。要素は貰う。

Q、レッド達のその後、主人公の家族とかのその後は?
A、多分書く、主人公家族は下手したら流すかもしれない。



現在、頭の中やストックとして小話とかを書き溜めています。本編に使用したり、本編で出せなかったものは1話完結として出すかもしれません。ですが、とりあえず本編を最優先でやります。

どんな形でも完結まで行くんだ……過去の失敗(失踪からのSS消去)を繰り返してはいけない。


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第十七話

『来たぞ。アクア団だ』

 

ミナモシティのホテルで寛いでいた私の元に、ポケギアから渋い男性の声が届いた。声の主はホウエンポケモンリーグ、第四四天王のゲンジさん。現ホウエン四天王の中で一番の実力を持つドラゴン使い。

 

私とホウエン四天王のプリムさんとゲンジさん、フロンティアブレーンのリラちゃんとネジキ君の五人で交代しつつ、おくりびやまで二つの宝玉を守護していた。今日はゲンジさんの担当だった。

 

ちなみにジンダイさんはレジスチル達三匹を使いこなす為に、砂漠で修行しているそうだ。

 

 

『わかりました。これよりポケモンリーグを閉鎖。四天王と協力して頂ける皆さんは送り火山に集合してください』

 

今度は爽やかな男性の声。ホウエンチャンピオンのダイゴさん。彼の呼びかけに応えて、私もホテルの屋上からサザンドラに乗りおくりびやまを目指す。

 

『状況は?』

 

『相手の戦力は少数だ。おそらく斥候だろう。襲撃もまだ散発的……だが、数が増えたならワシ一人では突破されるぞ』

 

前からも懸念していた通り、おくりびやまという場所が防衛に向いていない。なだらかな円錐型の山。足場もこれといって悪い場所は無く、整備されてない所でも普通に登ることが可能なのだ。

 

周囲を海に囲まれていると言っても、陸からは非常に近い。ボートやなみのりを使えるポケモンがいるならばすぐだ。

 

 

360度全てから侵入される恐れがある。なんなら空からも襲撃可能だ。この状況ではいくら四天王といえども一人と数匹のポケモンだけでは、防衛線には穴が開きまくる事に。

 

そしてこの戦いは勝利条件がいつもと異なる。今までのテロとかでは私に向かってくる相手を倒せば良かったのだが、今回相手は私達を無視してくるだろう。向こうは戦う気はほとんど無く、宝玉さえ手に入れる事が出来ればいいのだから。

 

 

『ミナモシティにヒナノ君とリラ君、ネジキ君が待機している筈です。その三人と共に我々が辿り着くまで耐えて下さい』

 

『了解した』

 

 

 

 

 

 

 

 

おくりびやまの山頂にサザンドラで到着する。そこには宝玉を祀り、超古代ポケモンを鎮める為の台座が置かれている。

 

「おぉ、お前さんか!」

 

「よく来てくれたのう」

 

私を出迎えたのはこのおくりびやまにて、宝玉を守護する使命を背負う老夫婦の声。フヨウちゃんの祖父祖母に当たる人だ。何回か警備している日に挨拶は済ませていた。

 

「ご無事ですか?」

 

「大丈夫じゃ。ワシらも宝玉もなんともない」

 

「じゃが本当にこの紅色の珠と藍色の珠を狙う輩が来るとはのう」

 

おじいさんは痛ましい表情で台座に祀られた二つの宝玉を見つめる。おばあさんは目を閉じ悩ましい表情だ。

 

紅色の珠は小さな太陽の様に明るく輝き、藍色の珠は静かな深海を思わせるような暗い輝きを放っている。どちらとも見ているだけで惹き込まれそうな美しさだ。

 

 

おじいさんが二つの宝玉を見つめている間に、おばあさんが話しかけてくる。

 

「ヤツらはまた来るのか?」

 

「何度でも来るでしょうね。コレさえあれば望みが叶いますから」

 

「……なんと愚かな」

 

 

 

「ゲンジさんは何処に?」

 

「ゲンジ殿なら見回りを続けてくれておる。じゃが、一人では手が足りまい。お前さんも行っておくれ」

 

「……大丈夫ですか?」

 

敵の狙いは正にこの場所なのだ。私達の中から一人くらいはここにいた方がいいのではないか。でも、一人減るだけで防衛ラインの構築は一気に難易度が上がる。

 

「こんな年寄りでも宝玉の守護者じゃ。お前さんがた程の実力は無いが、一人二人程度ならワシらでもなんとかなる。コレでもワシらの孫、フヨウをこの山で鍛えたのだからのう。

 

いざと言う時はワシのチリーンが騒いで伝える。山の中腹程度なら聞こえるはずじゃ」

 

「わかりました」

 

 

 

 

 

送り火山の中腹、そこに上半身裸にコートという海賊船の船長を思わせる格好の人物が佇んでいる。 その傍にはボーマンダがその人と同じ方向を警戒している。アクア団の第一波を迎え撃ったゲンジさんだ。

 

「来たかヒナノ君」

 

私に一瞬だけ視線を向けた後、すぐに警戒に戻る。

 

「アクア団は?」

 

「全員逃げていった。流石に一人では拘束している暇が無かったのでな。ヤツらは海の中から散発的に現れた。現在ワシのポケモン達が空から監視している」

 

 

 

 

 

 

「む?何者だ!」

 

山を素早く駆け上がるポケモンの姿が見えた。その背には人が跨っている。

 

視界の遠くに見えた時はアクア団かと警戒したが、ポケモンの姿が大まかにでもわかると私もゲンジさんも肩の力を解く。あのポケモンを手持ちに加えているのは彼女くらいしかいない。

 

「ボーマンダ、警戒する必要は無い。味方だ」

 

威嚇しようとしたボーマンダをゲンジさんが諌める。そして会話ができる距離まで近づいた。

 

 

「遅くなりました!」

 

ジョウト地方に伝わる伝説のポケモン。勇ましく蓄えた髭、背中には雨雲を思わせるような体毛。見た目からも雷の荒々しさを感じさせるポケモン、ライコウだ。

 

そんな伝説のポケモンを従えるのはフロンティアブレーンの一人。タワータイクーンのリラちゃん。

 

「リラ君だったな。チャンピオンから聞いている。協力感謝する」

 

「礼には及びません。ボクも故郷を守りたいだけですから。ネジキさんもドータクンに乗って此方に向かっていました。まもなく到着するかと思います」

 

「わかった。これより山の中腹を警戒・防衛ラインとする。それぞれの持つポケモンを間隔を空けて展開し迎撃するのだ。普段のポケモンバトルとは違う戦いになる。倒すのでは無く、宝玉に近づけさせない事を第一に考えるように」

 

私達に必要なのは時間だ。現在サイユウシティからはダイゴさん、プリムさん、フヨウちゃん、カゲツが。砂漠からジンダイさんが此方に向かっている。彼らが到着さえすれば、防衛ではなく一転攻勢を仕掛けることが出来る。

 

団員の多くを捕縛出来るだろう。もし幹部やボスを捕まえられるなら、勢力を大幅に削る事ができるし、上手く行けば解散まで行くかもしれない。

 

「サイユウからここまでの時間は?」

 

「ワシのドラゴンポケモンを移動用に預けてある。あと三時間もあれば到着するだろう」

 

「三時間……長いですね」

 

アクア団も斥候を通して知ってしまっただろう。この山と宝玉を四天王が守護している事を。ならば防衛戦力が増える前に目的を達しようとするはずだ。それこそ戦力を総動員してでも。

 

「だが、やらねばならん。……あの結果だけは認める訳にはいかんのだ」

 

ゲンジさんの決意に満ちた言葉に私もリラちゃんも頷く。私も含めこの件に関わる全員が、あのシミュレーション報告を受けている。私たちが失敗すれば現実になってしまう数字が脳裏に浮かぶ。

 

「ワシは正面南側を、ヒナノ君には山の裏手北側を。リラ君はミナモシティ方面東側を。ネジキ君にはキンセツシティ方面西側を担当してもらう。襲撃を受けたらすぐに連絡を。その都度戦力を振り分ける」

 

「了解」

 

「わかりました」

 

 

 

 

 

 

さて、流石の私も真面目モード。送り火山防衛戦だ。この四人で何とか三時間凌ぎきらなくてはならない。

 

自分が警戒する範囲の山肌と空を注意深く観察している。既に一時間と三十分が経過したけど、不気味な程静かだ。四人がポケモンをフル展開している為、送り火山に多くいる野生のゴーストポケモン達も姿を隠してしまった。

 

 

今回の襲撃はアクア団に放った鼠達から一切の連絡が無かった。知らされなかったのか、私やチャンピオンと通じている事がバレてしまったのか。彼らは今どうなってしまったのか。

 

気になると言えばマグマ団もそうだ。マグマ団もアクア団もお互いにスパイを入れているはずで、アクア団が動いたらマグマ団も動きかねない。それが私とダイゴさんの最大の懸念だ。

 

下手したらこの送り火山で三勢力による三つ巴の戦争状態になりかねない。

 

 

 

「っ?!」

 

私のいる場所から見て右後ろの方向から、耳を劈く雷鳴が轟いた。間違いなくリラちゃんのライコウが放ったものだろう。すぐにポケギアに着信が入る。

 

『ボクの所に襲撃です!……人とポケモンが津波のように!』

 

『ヒナノ君聞いたな?!君とワシの戦力をリラ君の方に傾ける!ネジキ君、その分の警戒範囲をカバーしてくれ!』

 

「了解!」

 

『りょうかーい!』

 

 

私は身軽なアブソルとブラッキーに引き続き警戒を任せ、バンギラス、サザンドラ、ダークライの三匹と共に山の東側へ急ぐ。

 

リラちゃんが視界にギリギリ入るくらいになって、山の麓の方を見てみる。彼女の先程の表現が正しかった。ポケモンと人の波がジリジリと山を登ってくる。

 

それに対しリラちゃんのポケモン、ライコウ、フーディン、カビゴン、ルカリオ、マニューラが遠距離攻撃で牽制し進軍を止めている。たまに波から飛び出て防衛線を突破しようとするポケモンを、逃さず撃ち落としているといった感じだ。

 

 

だが、それ以上に相手が多過ぎる。私達も加勢してなんとかなるのか。

 

「リラちゃん!左側私が引き受けるよ!」

 

『ワシが右側を受け持つ!』

 

『ありがとうございます!今なら押し返せる!』

 

 

 

「バンギラス!行く手を封じる様にがんせきふうじ!」

 

バンギラスはその強靭な尻尾で山肌を削り取り、岩の塊として麓の方に放る。

 

アクア団の軍勢は一斉に遠距離攻撃を仕掛けてくる。数に任せた狙いの定まっていない攻撃。適当だが今なら非常に有効だ。私はバンギラスの背後に身を隠し、指示を続ける。

 

「サザンドラ迎え撃て!りゅうのはどう!」

 

「ダークライ!ポケモンも人も眠らせて。寝ているポケモンや人が登る邪魔になるように」

 

細かく狙いを指示する必要はほぼ無い。山の麓の方に撃てば必ず当たる。それほどの敵の数。

 

幸い救いなのは、私達の攻撃に竦んでくれる事だ。ロケット団のサカキみたいな、呪いの様なカリスマは無いようだ。あの数が忠誠心で恐れを抑え込み、登ってきたら流石に止めようが無い。

 

 

 

だが時間が進むにつれ疲労が溜まり、完全には抑えられなくなる。向こうの勢いは落ちる様子はなく、人とポケモンの波は近づいてくる。少しずつジリジリと、潮が満ちてくる様に。

 

『……三人とも少しずつ下がるぞ。コレではいつか抜かれる。警戒範囲を狭め、防衛ラインを強固にする』

 

「わかりました。どれほど下がりますか?」

 

『山頂が見える程度だ』

 

『ダメです!それでは宝玉に攻撃が届く可能性があります!』

 

『もちろん理解している。だが、このまま防衛ラインが崩壊してしまっては、それこそ持ち直せん』

 

「……リラちゃん大丈夫。あの夫婦も守護者として戦ってくれると言っていたから」

 

自分の心と言葉がまるで違う。他人任せもいいところだ。

 

流石にアクア団も宝玉を攻撃する気は無いと思うが、これだけの数のポケモンがワザを放つとどうしても流れ弾が発生する。そんな危険に巻き込む事になるとは。

 

 

『もう後には退けん……ここで死守する!四天王の名にかけて!』

 

 

 

 

━━━━━援軍到着予想時間まで残り一時間━━━━━




あかんなー。書くスピードが落ちてきた。お待たせしてすまんのぉ。

未だに防衛戦成功するか失敗するか決まってない。四天王達の強いポケモントレーナーらしさを出すなら成功させたいし、でも物語的に失敗した方が盛り上がるし……あ゛〜わがんね。


お気に入り登録、感想、特に評価ありがとう!気持ち的には元気玉。

誤字報告いつもすまん!

そろそろこの適当なあらすじどうにかした方が……今更か。


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第十八話

山頂が見えるギリギリでのアクア団との攻防。それは次第に私の優勢となった。目に見えて勢いが衰えたのだ。

 

……戦力が底を尽きたのか?

 

 

そんな淡い期待を思い浮かべると、ゲンジさんからの通信が入る。

 

『三人共、現状を教えてくれ』

 

『コチラ西側ネジキ。広く散発的に戦闘を行っていまーす。完全にボクをここに縫い付けるつもりですね』

 

『東リラ。戦況変わらず』

 

「北側ヒナノ。こっちはアクア団の勢いが弱まりました」

 

 

『やはり……ヒナノ君、その場所をポケモン達に任せて、二匹程連れて南に応援を頼めるか?』

 

「そちらに戦力を絞って来ましたか……」

 

『あぁ……そしてボスのお出ましだ。まさか正面から堂々とやってくるとはな』

 

アクア団リーダーのアオギリは送り火山の整備された山道、南側から登ってきた。ボスがいるということは本隊なのだろう。私たちが疲弊してから本腰を入れて盗りに来たか。

 

それも第一陣からずっと戦い続けたゲンジさんに狙いを定めたか。本来ならホウエン最強の四天王に狙いを定めるとは愚策でしかないが、この中で一番疲労を溜めているのはゲンジさんとそのポケモン達だ。

 

「わかりました。ネジキ君、リラちゃん北の方も少し気にかけてくれると嬉しい。私はブラッキー、アブソル、バンギラスにここを任せる」

 

 

『りょうかーい!』

 

『はい!』

 

 

「サザンドラ!ダークライ!ゲンジさんに助太刀しに行くよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サザンドラに跨り、低空飛行で山を縦断する。ゲンジさんが見えた時、その奥には私が戦っていた比じゃない数のアクア団が視界に入った。この圧倒的な数的不利をゲンジさんが従える強靭なドラゴンポケモンが迎え撃っている。

 

 

 

「何故だ!どうしてお前のような男がこの様な真似をする!それほどにポケモンを愛しておきながら!」

 

私が駆け付けた時、ゲンジさんは青いバンダナを頭に巻いた黒いシャツ、黒いズボンの男に吠えていた。ゲンジさんが吠えている相手、私は会うのは初めてだが知っている。一度通信機越しに会話もした、アクア団のリーダー、アオギリだ。

 

 

ゲンジさんの近くに降り立ち、アオギリと彼が引き連れるアクア団を警戒をする。アオギリは私に一度視線を寄越したが、すぐにゲンジさんに意識を戻した。

 

「何故……か?決まっている。その愛するポケモンの為だ」

 

アオギリの傍に寄り添うポケモン達、グラエナからは彼に対する信頼や忠誠心を感じる。クロバットは悪タイプでは無い為、その心の内を完璧に理解することが出来ないが、そもそも完全に懐かなければ進化しないポケモン。相当の愛情を注いでいるのだろう。

 

アオギリが本当にポケモンを愛しているのは確かな様だ。

 

「カイオーガを復活させれば全ては滅びる!それがわからぬ訳ではあるまい!」

 

「カイオーガは制御する。その為の宝玉だ。さぁ、道を開けてもらおうか四天王共」

 

「ポケモン達を殺すつもりか?」

 

「既に殺されている……この人間に汚された世界にな」

 

アオギリは光の消えた瞳で私達に殺気を向けた。それに合わせて彼のグラエナとクロバットも私達への敵意を強くする。

 

以前カイナシティの海の博物館で捕らえた、鼠となるアクア団員との会話を思い出した。アクア団のリーダー、アオギリには世界を壊してでも世界を変える理由があると。

 

 

「私は……俺達はアイツが生きられる世界を取り戻す! 人間によって汚された自然を始まりに戻すのだ!」

 

 

深い愛が一転して、狂気じみた使命感に変わってしまっている。

 

 

 

「他の方法があるはずだ!カイオーガに頼らずとも!」

 

「他の方法だと?……そう言って今まで何を行ってきた?!どんな施策も活動も、根底にあるのは人間の生活だ!我々人間は、自らを削ってまで真に自然の為に何かを為す事が出来ない!

 

だからこそ人間では無くポケモンに……カイオーガに自然を戻させるのだ!

 

その為ならば私はなんだってやる。行けサメハダー!ロケットずつき!」

 

アオギリの手から放たれたボールからサメハダーが発射される。その狙いはゲンジさんだ。砲弾の様な突進がゲンジさんのポケモン達の横をすり抜ける。

 

ゲンジさんは歳を感じさせない動きでサメハダーの攻撃を回避しようとした。だが、流石にポケモンのスピードには付いていけず、左腕がサメハダーの体側面に生えたヒレに当たってしまう。

 

「ゲンジさん!」

 

サメハダーはその名の通り、表面の鮫肌でポケモンにすら傷をつける。それを生身の人間が受ければそれだけで大怪我だ。現にゲンジさんは左の上腕を右手で押さえる。それでは抑えきれない量の血が流れていた。

 

「ワシに構うなッ!!こんなものはただのかすり傷だ!」

 

私が近づく為に駆け出そうとすると、彼の叫びで足を止められた。かすり傷と言っても、あの感じだと肉まで切り裂かれている。下手すれば骨も。

 

「ワシに気を遣う余裕があるのなら、その全てを防衛に回せ!あの男はワシが相手をする」

 

 

 

 

 

 

 

ダークライとサザンドラと共にアオギリ率いるアクア団本隊を迎え撃つ。

 

二匹とも既に疲労困憊。ワザの出や動きのキレが鈍くなってきている。それを補いカバーしなければならない私も、緊張状態が長く続いた事で集中力が途切れてきた。

 

 

だからだろうか、視界の端から飛んできた攻撃に直前まで気が付かない。普段ならするはずのない致命的なミス。意識の外の流れ弾を私の脳は処理しきれなかった。

 

 

眼前に見えるハイドロポンプがスローモーションで見える。山肌を登る様な水流は確実に私の体を捉えるコースだ。

 

 

 

あっ……私死んだかも。

 

 

私の貧弱で軽い体は、下から突き上げる水流で宙を舞う。ドンッという衝撃が私の体を駆け抜け、足が地面から離れた。派手に打ち上げられ、このまま地面に落下したら無事じゃ済まない。

 

 

ダークライが暴走する様に声を上げ、周囲の敵を蹴散らし、私の元へ駆けつけようとする。いつも冷静なダークライなのだが、目を見開き私の落下地点へでんこうせっかを繰り出す。しかし間に合う訳が無い。私はそのまま頭を打つように落下……しなかった。

 

 

「ふいー……間一髪」

 

 

私の体は空中で誰かの腕に抱き留められた。落下の際に閉じていた目を開ける。

 

 

 

「四天王フヨウ、参上!」

 

 

 

溢れんばかりの笑顔を輝かせる褐色肌の少女が、フライゴンの背中に跨り私を受け止めていた。そのままゆっくりと地面に着陸した。ダークライが近づいてくる。どうやら相当心配させたようだ。

 

 

それにしてもどうして……?到着までは三十分近くあったのに。

 

 

私の言葉にしなかった戸惑いに、フヨウちゃんは答えてくれる。乗ってきたフライゴンの頭を優しく撫でながら。

 

「ゲンジさんが一匹だけ、移動速度に特化したフライゴンを預けていてくれたの。この子には相当頑張ってもらったけど、おかげでアタシ間に合ったよ!」

 

そのフライゴンは私達を降ろした途端に全身から力が抜けていった。疲労と言うよりも衰弱と言った方が正しいレベルでぐったりしている。フヨウちゃんはポケギアの受話口をフライゴンの頭部に持っていく。

 

 

『無理をさせたな……。よくぞ……よくぞ送り届けてくれた』

 

 

ポケギアから聞こえる主の声に、今にも瀕死になりそうなフライゴンは誇らしげに小さく鳴いた。そのまま地面に倒れ込み、フヨウちゃんの持つボールへ帰っていく。サイユウシティからここまで休み無しの全力飛行。それだけでも強靭なポケモンでないとできない芸当だ。

 

 

ハイドロポンプを喰らった箇所が痛み、彼女の肩を借りて何とか立つことが出来る状態。しばらく戦線離脱かな。左腕上がらないし……骨折れてるかなーコレ。水タイプの攻撃だったのはまだ救いかね。

 

 

フヨウちゃんはヨノワール、ジュペッタ、ヤミラミといったゴーストポケモン達を繰り出しつつ、送り火山にいるメンバーに通話を繋げる。

 

「この場にいる皆!通話の音声を最大にして!」

 

フヨウちゃんは大きく息を吸い込み、ポケギアのマイク部分に向けて語りかけた。

 

 

「みんなーーー!!アタシだよーーー!!この人たちに協力してーーー!!」

 

 

するとどうだろうか。彼女の呼びかけに応えて、今まで戦闘の影響で隠れていたカゲボウズやヨマワル達、送り火山に生息するゴーストポケモン達が次々と姿を見せ始めた。

 

おそらくゲンジさん、リラちゃん、ネジキ君の所でも彼女の呼びかけは通話によって届き、隠れていたゴーストポケモン達が現れているに違いない。

 

 

一匹一匹の力は弱くても、驚かせたりあやしいひかりでアクア団を翻弄していく。

 

この送り火山は、四天王フヨウにとって真のホームグラウンドなのだ。ここでは野生のポケモン達が彼女の味方をする。ゴーストポケモンと心を通わせた彼女がいるからこそ追加された大きな援軍だ。

 

ゲンジさんの最速のフライゴンをチャンピオンのダイゴさんではなく、四天王のフヨウちゃんが使用したのはこの状況を見越してかもしれない。

 

『東リラ、アクア団の隊列が乱れていきます!優勢です!』

 

『西側ネジキ!カゲボウズ達が隠れて登っているアクア団を発見してます。索敵が随分楽になりましたよー』

 

『よし!ダイゴ君達ももうすぐだ。皆もポケモン達も踏ん張ってくれ』

 

「ヒナノ!私が代わるよ。少し休んでて」

 

「助かったよーフヨウちゃん。イテテテ……」

 

 

 

 

フヨウちゃんが来てから状況は一転した。全ての戦場でアクア団を押し返し始めたのだ。コレなら大丈夫だ。後はダイゴさんとプリムさん、カゲツが来てこの防衛戦は終了。

 

 

私のポケギアに着信が入る。もしかしたらダイゴさん達が予定より早く来たのかと画面を見てみると、相手はハルカちゃんだった。疲労からトーンの下がった声を再び通常に戻して出る事にした。

 

ちょっと遠くの方でドッカンバッタンしてるけど……戦闘音入るかな。

 

「やぁーハルカちゃん。どうしたのー?」

 

『ヒナノさん!またマグマ団です!しかも凄い数』

 

マグマ団、その名称を聞いた瞬間、最悪の展開を予想してしまった。ハルカちゃん相手なのに、テンションを隠し切れずに恐る恐る尋ねる。

 

「……それって……何処?」

 

『今121番道路の上空ですれ違ったマグマ団達を追いかけてます!えっと……視界の奥に送り火山が見えてきました!』

 

血の気が引いた。到着予定まで後少しなのに……。

 

『……ヒナノさん?』

 

自分が嫌いになりそう。私の頭はハルカちゃんが加わればどれくらい持つか、計算を始めている。こんなドロドロの争いなんかに巻き込みたくなかったのに!

 

「わかった……私今送り火山にいるからさ、ちょーっと手伝って貰っても良い?」

 

『わかりました!』

 

 

 

何とか声音を繕い、通話を終える。そのポケギアを握りしめた。

 

「クソッタレ……」

 

ハハッ……何だこれカッコ悪。結局ハルカちゃんに助けを求めてしまった。私もダイゴさんのこと言えなかったね。打算で子供使っちゃったよ。

 

 

 

もうプライドもクソも捨てたんだ。やる事やらないと。

 

「皆さん……マグマ団が来ます」

 

全員が言葉を失った。少人数で巨大組織と立ち向かい限界なのだ。

 

『時間、方角はわかるか?』

 

「西側、ネジキ君の方角。上空から接近中のようです……すぐにでも来ます」

 

『わーお……ボクのところですか』

 

「私もそちらに向かいます。三人はそのままアクア団を押し返してください」

 

『ヒナノ怪我してるんでしょ?』

 

「怪我疲労で休憩って状況じゃなくなっちゃってね。マグマ団と一緒に助っ人も来るから。……まぁ、何とかしてみるよ」

 

ボロボロの体をダークライに抱えられて、私は再び戦場を移動した。




お待たせしました。ちょっとリアルが忙しくて間あきますが、許してください。

私はこのゴタゴタを纏めきれるのか、そもそも書く時間が取れるのか。

誤字報告、感想、評価ありがとうございます。


Q、もうアクア団、マグマ団の本拠地直接狙っちゃえば
A、ゲームだとあんなにわかりやすくぽっかりしてるけど、現実だとバレないんじゃないかな。あとアジトも複数ありそう。

Q、 あなをほるで山頂まで……
A、流石に準備してないと無理では。それにサカキ様が一度使ってるので……


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第十九話

「うわ〜……ははっ。壮観だねぇ」

 

視界にはっきりと見えてきたのは、そらをとぶポケモンとそれに捕まる赤装束の群れ。それらが一直線にこちらに迫ってくる。

 

「わーぉ……スキャン結果出ました。マグマ団、その数約五十。その内三人のポケモンが結構なレベルですねー」

 

ネジキ君が手に持つ調査・分析マシーンで得られた情報を伝えてくれる。

 

彼の機械には多くのポケモンのデータが入っている。同じ種類のポケモンでも差はあるが何十何百と記録してあるそうだ。個体毎に大きさや内包エネルギーなど事細かく情報として残し、それらと参照してレベルという形で表しているらしい。

 

バトルの際はそこから相手の得意とするワザや急所などを導き出し利用しているそうだ。彼が作ったこの機械があるからこそ、相対的に見て同じ実力でのレンタルポケモンを使用した特殊勝負、バトルファクトリーが運営出来るというのだから、その功績の程が伺えるだろう。

 

「その三人がおそらくリーダーと幹部だね」

 

「そうですねー……ヒナノさん、左腕大丈夫ですか?」

 

「大丈夫じゃないよ……袖の下ちょっと青紫色だからさ。すぐにでも手当てして欲しい」

 

まぁそんな状況じゃないからどうしようもないけど。

 

「さて、私もそうだけどダークライ、サザンドラは連戦でほぼ満身創痍。敵は見ての通りあの数。こちらの勝利条件はあと少しの時間を稼ぐ事……どうするよ、天才君なら?」

 

「ボクのポケモン達が一番体力残ってますからねー、ボクらがメインでやらせてもらいますよー。具体的には――――――――」

 

 

ネジキ君の語った作戦は、確かに私達二人で確実に大勢を足止め出来る。もちろん敵の数が数なので短時間ではあるが、それでも人っ子一人通さない。たとえ相手が空を飛んでいるとしてもだ。

 

「それ……本気?」

 

私にはそう言うしか無かった。理想的な足止めではあるが、現実的な問題が付随してくる。

 

この作戦、引き際を間違えたならば、ネジキ君のポケモンが死ぬ。バトルで戦闘不能になり、元気を失った状態である瀕死ではない生命としての終わり。

 

しかし、引いてはマグマ団に突破されてしまい、宝玉が取られてしまう。

 

 

「でも、これしか無くないですか?」

 

「自分のポケモンに死ねと言ってるに近いよ」

 

「このマシーンはポケモンの体力を数値化してくれます。引き際は間違えません。僕と僕のポケモン達だからこそできる事です。ドータクン、ポリゴンZ、ダイノーズは準備。予測では今から二十秒後に接敵」

 

 

ドータクン達がネジキ君の前に横一列に列を成す。それから少ししてマグマ団の部隊が私たちの頭上を通り抜けようとするが、眼下の私たちには目もくれない。山頂へ一直線だ。

 

「分析どーり!ジャストタイミング!

 

ポリゴンZ!ドータクン!じゅうりょく!」

 

 

ドータクンとポリゴンZが、その場に通常よりも高い重力を発生させる。マグマ団を乗せたり、掴んで空を飛んでいるポケモン達は、いつもと違う環境に耐えられず、次々と高度を落とした。

 

「目と目が合ったらポケモンしょーぶ!」

 

強制的にマグマ団を地に落とし、目を合わせた未来のファクトリーヘッド。彼はそのまま次の指示を出す。

 

「ダイノーズ! ドータクン! とおせんぼう!」

 

 

地に足をつけたマグマ団達に対して、ダイノーズとドータクンのワザが発動する。

 

ドータクンとポリゴンZ、その二体が作りだした高重力空間では、ポケモンや人間は飛ぶ事はおろか、ジャンプするのにも一苦労。

 

マグマ団達を誰一人として取り逃さず、その重力圏に収め、その空間にいるマグマ団全てにダイノーズとドータクンがとおせんぼうを発動。これによって彼らは、この二体を倒さねばこれより先には進めない。足止めの布陣が完成した。

 

 

「フン……文字通り足止めという訳か」

 

赤髪のオールバックの男、マツブサが私達を見てつまらなさそうにそう呟く。そして少し口角を上げた。

 

「それにしてもアクア団も良い仕事をしてくれたものだ。足止めするのが二人、加えて片方はボロボロときた……流石に今度は邪魔できまい。なぁ、四天王?」

 

えんとつ山の火口で、隕石の力を利用して火山活動を活発にしようしたマグマ団の野望をハルカちゃんと挫いた。あの時に幹部の一人でも捕らえられていたなら、今頃違った状況だったかもしれない。今となっては全部後の祭りだ。

 

「前は貴様とあの子供にやられたが、それはもういい。宝玉さえ手に入ればグラードンを目覚めさせられる」

 

「行かせるとでも?」

 

「その姿でよく吠える……カガリ、私とお前で元四天王を。ホムラ、お前は部下を率いて、とおせんぼうをかけたダイノーズとドータクンを始末しろ」

 

「ウヒョヒョ、りょーかい。行きなマグカルゴ」

 

「えんとつ山ではしてやられたからね。存分にやり返させてもらうよ!バクーダ!」

 

 

いつもだったらそんなに苦労する相手ではないが、これまでの連戦で正直手に余る……でもやるしかない。

 

「ごめんダークライ、サザンドラ。だいぶ無茶させるよ!あくのはどう!」

 

「敵性ポケモン分析中……完了。これより防衛戦を開始しまーす。ドータクンとダイノーズはてっぺき。ポリゴンZ、はかいこうせん!」

 

私達は再び戦いに身を投じた。

 

 

 

 

 

私は人生で一番時が経つのが遅く感じた。現実ではカップラーメンが出来たくらいだろうか。数分間とはいえ、マグマ団を一人も通さずここに足止めできている。

 

しかし、こちらも致命的な被害を受けた。私の場合サザンドラがマツブサ、カガリの猛攻により、遂に体力の限界を迎えてしまった。それでもそれぞれの手持ちを一匹ずつ戦闘不能にした。

 

 

そして……マツブサとカガリは勝ち誇った顔を。私は驚愕を表情に出した。なぜならそのタイミングで敵対している二人が歩みを始め、前進してきたからだ。

 

 

つまりダイノーズとドータクンのどちらか、はたまた両方が落とされたという事。

 

二体はひたすら大勢のポケモンの攻撃を耐えていた。てっぺき、まもる、みがわり、ねむる。さらにポケモンの体力を数値化できるからこそ、ダイノーズは適宜いたみわけを行い、通常ポケモンとは思えない耐久を発揮していた。ドータクンは危険な攻撃をかげぶんしんで回避し、この二体による布陣を崩さない様に尽力していた。

 

 

しかし、ほとんどサンドバッグ状態では耐えきれなかった。

 

 

足止めの要であるダイノーズもドータクンも倒れ、とおせんぼうの効果を失ってしまった。攻撃しながらもずっとじゅうりょくをかけ続けたポリゴンZも疲労困憊に。徐々に高重力空間を維持出来なってきた。

 

「しぶとかったが……これで盗りに行ける。カガリ!ここはお前に任せる。ホムラ!付いてこい」

 

「ダークライ!止めて!ダークホール!」

 

「させないよ!グラエナちょうはつ!オオスバメちょうおんぱ!」

 

ダークライが山頂に向けて進み始めたマグマ団に狙いを定める。しかし、その射線にカガリのポケモンが割って入り、ダークライに妨害を仕掛けてきた。

 

「このっ!邪魔しないで!」

 

「お断りだね!さぁまだまだ続けるよ四天王!バクーダ!やきつくす!」

 

私に向けて笑みを向けるカガリを睨む。その際に、視界の先に赤い姿が見えた。

 

凄い速さで飛んでくる紅白のポケモン。このタイミングで、送り火山の西側からここに飛んでくるのは、味方だと一人しかいない。急いでポケギアを取り出し、通話が繋がった瞬間にその名を叫んだ。

 

「ハルカちゃん!山頂へ!マグマ団を止めて!」

 

『はい!』

 

次の瞬間、山肌を滑るように飛んで行く、赤いポケモンとそれに跨る赤いトレーナーが見えた。その赤いポケモンに私は驚きを隠せなかった。

 

「ラティアス?!」

 

ポケモンや人の気配を感じると、光を屈折させ姿を消す伝説のポケモン。その能力と警戒心の高さから滅多に人の目に触れる事は無いはずだが……流石は主人公という事なのだろうか。

 

「チッ!あの子供もいたのか……リーダー!ホムラ!そっちにあの子供が行ったよ!」

 

私は祈る様に山頂へ向けて翔けるむげんポケモンを見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ダークライもういい。戻って」

 

大きな火傷を負い、瀕死となってしまったダークライを、強制的にモンスターボールに戻す。どんなに攻撃を受けても、フラフラになりながらでも、戦おうとしてくれたダークライ。私はこれ以上、相棒の痛々しい姿を見ていられなかった。

 

こうして私はトレーナーとなってから、ポケモンリーグ以外では初めて戦えるポケモンがいなくなってしまった。他の場所ではまだブラッキーやアブソル、バンギラスが戦っているのかもしれないが、今の手元には誰もいない。

 

「全く……ボロボロかと思えば、随分と元気があったじゃないか。あの状態から私のポケモンを残り一匹だけにするなんてね」

 

そうカガリの手持ちも残り一匹だけだったのだ。ダークライは三匹相手に大奮闘した。ちょうはつでお得意の眠らせる技を封じられ、ちょうおんぱで混乱状態になりながら、半ば暴走状態でグラエナとバクーダを倒した。

 

だけど最後の一匹を前に限界が来てしまった。それでも戦おうとするダークライを、私は無理矢理ボールに戻したのだ。私はダークライを失いたくはなかった。

 

 

屈辱だ……屈辱だよ。こんな形とはいえ、ダークライがポケモンリーグ以外で倒されるなんて。

 

 

「四天王も手持ちがいないんじゃあ、力の無いただの女……さて、私もリーダーの方に行くか」

 

地面にへたりこんだ私の前で、そらをとぶを使用するカガリ。私はそれを目でしか追うことのできない。もう終わったと、焦りも自分に対する怒りも消え去る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲンジさんより預かっていたチルタリスからその場所に降りる。送り火山、そこは本来、静かに魂の安らぎを願う霊園だった筈だ。しかし、今はもう見る影もない。

 

焼け焦げている地面や、原形も分からないほど崩された墓石。散らばるマグマ団とアクア団の下っ端に、傷を負った仲間。そして……空っぽの二つの台座。

 

 

歯を噛み締め、拳をこれでもかと握りしめる。

 

 

「間に合わなかったか……」

 

崩れた墓石に背中を預けるゲンジさんと、宝玉を守護する老夫婦は意識を失い、フヨウ君が介抱している。

 

腕を抑え、苦悶の表情を浮かべるヒナノ君。そんな彼女を支え、涙を流しながら謝っているハルカ君。

 

通常のバトルでは、まずありえない程の大怪我を負ったポケモン達の応急手当てを行うリラ君とネジキ君。ライコウはその体毛が泥にまみれ、立派だったであろう象徴たる牙が折れた状態で、主である彼女に寄りかかる。

 

ネジキ君のダイノーズ、ドータクンは全身に罅が走り、動かす事さえままならない状態。どれほどの攻撃を受け続けたらああなってしまうのか、チャンピオンである自分でも見当がつかなかった。

 

 

彼らは僕から見ても、いや……誰から見ても凄腕のトレーナー達だ。力が足りなかったのでは無い。彼らに指示を出した僕の認識不足が招いた結果だ。マグマ団とアクア団、その総力を見誤った。

 

誰が彼らを非難できるだろうか。一人に対して小隊レベルの人数とポケモンを相手にしていたのだ。戦争でなら英雄と呼ばれるに違いない。

 

ゲンジさんのチルタリスが落ち込むような仕草をしたが、このポケモンが悪いわけでも無い。サイユウシティから海を横断する長距離飛行。しかもこの短時間で我々を送り込めたのは、このチルタリスの尽力故だ。

 

 

悪いのは自分だ。チャンピオンはその全責任をとる必要がある。

 

 

「おいダイゴ。どーすんだよ?早く追った方が良いんじゃないか?」

 

カゲツに言われて思考を戻す。今は反省すべき時ではない。これからの動きで先を変える事が出来るはずだ。

 

カゲツの言う通りに二つの組織を追いかける手もある。彼らはほとんど戦力を使い果たした筈だ。この山に置いていかれた下っ端の数がそれを物語っている。

 

しかし、えんとつ山のマグマ団。ミナモシティ近海のアクア団。その両方ともアジトが判明していない。していたのならとっくの昔に乗り込んでいる。

 

それに追いかけるにしても僕らを乗せて飛べるポケモンが疲労困憊だ。ここで戦い疲れたポケモンや、僕らをここまで必死に運んでくれたポケモン達では、追いつくのは難しい。

 

「現実的ではないな……」

 

「なら……このまま手をこまねいているままですか? 二体の復活は止められないと?」

 

第三四天王プリムさんが僕に質問を通して促してくる。チャンピオンとしての責務を果たせと。我々には迷う暇さえ無いのだと。

 

 

「でも二体が復活したらもう止められないって!」

 

そう、フヨウ君の言う通り。超古代ポケモンの力の前には、僕らのポケモンであっても意味をなさない。それほど生物としての格が違うポケモンなのだ。

 

「かくなる上は……」

 

 

 

 

「ダイゴさん……ちょっといいかい?」

 

「おい姐さん!」

 

「ヒナノ?!無理しちゃダメだって!」

 

彼女は体を思う二人を首を振って制する。そして僕の目を見てハッキリとその名を口にした。

 

「レックウザを目覚めさせる」

 

 

 

驚きで目を見開いた。

 

 

 

何故その名を君が知っているのか。そのポケモンの存在を知るのはチャンピオンとホウエンの二つの民だけ。グラードンとカイオーガとは違い、徹底的に情報が閉ざされているのがレックウザだ。

 

「空の柱はどこ?」

 

彼女の言う場所。これも、先程挙げられた限られた者しか知らないはずの、ホウエン地方の聖地であり禁足地。ただレックウザを知っているだけでなく、そこまで認識しているとは。

 

彼女はシンオウの生まれのはず。伝承を伝える民と繋がりがあったのか。いや、彼等からは彼女について何も聞いていない。ならば……その情報をどこから?

 

 

「……レックウザ?カゲツ知ってる?アタシ聞いた事が無いんだけど」

 

「いいや、俺も知らねぇな」

 

「私も存じ上げないですね。ポケモンの名前の様ですけど」

 

「おいダイゴ、なんなんだ?そのレックウザってよ」

 

 

この通り四天王ですら伝えられていない。そして彼らはその名を知ってしまった。……この状況下で伝えない訳にもいかないか。

 

「……レックウザ。それはホウエンに眠る第三の超古代ポケモンの名だよ」

 

「なっ?!グラードンとカイオーガだけじゃねぇってのか?」

 

「伝承では、はるか昔に二匹の戦いを鎮めたポケモンとされている。その為、古代人はレックウザを龍神と崇め、ホウエンの守り神として後世に伝えた」

 

「おばあちゃん達から色々聞いてるアタシでも知らなかった……でもそんな存在がいるのなら頼ったらいいじゃん」

 

 

「……レックウザは確かに復活した二体を止めてくれるかもしれない。だがそれはレックウザの都合でだろう。伝承では守り神とされたが、実際にはどうか分からない。下手すれば三つ巴の戦いになり、被害がさらに広がるかもしれない」

 

「でもレックウザ以外に二匹を止められる存在はこの地方にはいない」

 

ヒナノ君の言う通り。我々では太刀打ち出来ない存在に対して、ホウエン地方として出せる最後の手段。だからこそ正当な民以外では、歴代のチャンピオンのみがその存在を継承する。

 

 

 

 

 

 

僕の代でその手段を使う事になるとは……。

 

 

 

 

 

「ホウエン地方全域にチャンピオンの名で緊急事態を宣言する。住民の避難を各町の代表とジムリーダーへ指示」

 

「チャンピオン、我々は?」

 

「怪我人もいるし、この両団員達を放置する訳にもいかない。ひとまず最寄りのミナモシティへ。そこにレックウザについて知る者達を呼び出す」




忘れたころに帰ってくる。そんな投稿スタイルになっちまった……。


待ってるコメントあったかいナリィ~。



では!またシャボンディ諸島で!!!


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第二十話

逸る気持ちを抑え、ダイゴさんの指示通りミナモシティのポケモンセンターへ移動した。送り火山に残された団員達は、ミナモシティの警察が対応する様になった。

 

そのポケモンセンターで折れた左腕の手当てを受けながらテレビ画面を見ていた。今はどのチャンネルも同じ内容だ。

 

 

ホウエン地方全域に出されたチャンピオンによる緊急事態宣言。これから起こる災害とその被害予想。それを抑える為の避難指示がひたすらに流れていた。

 

ここミナモシティもその通知を受け慌ただしくなっている。グラードンとカイオーガは復活した後、ルネシティの目覚めの祠を目指す。えんとつ山にて復活するグラードンがルネシティに向かう時、ここミナモシティは進路になる可能性がある。

 

地上を歩くのか、地中を進むのか。どちらにしろ良くて焦土、最悪溶岩地帯に化すと言われては、住民は逃げる他ない。ポケモンレンジャーは総出で、野生ポケモンをできる限り避難させるそうだ。

 

 

 

そんな中私はというと、折れた左腕に添え木をあてて包帯で固定される。そのまま三角巾にて支えられ、これで私はよく見る腕を骨折した人の姿に。

 

「これでよしっと。すみません姐さん。今は応急処置くらいしか出来なくて……」

 

私を手当してくれたのは、カゲツの子分の一人。更生してポケモンセンターのお姉さんになった人だ。彼女が申し訳なさそうにしている。

 

「しょうがないよ。今はドタバタしてるからね」

 

病院もポケモンセンターも、今や何処も彼処も避難対応に追われている。前例の無いチャンピオンからの緊急事態宣言に皆、戦々恐々としているのだ。

 

「ウチの子達をお願いね」

 

「はい!お任せ下さい!」

 

ダークライを含めウチの子達は程度は違えど、皆治療が必要な程疲弊していた為預けている。通常業務に加えて、ポケモンセンターで保護しているポケモンや預かっているポケモンと共に、職員は逃げなければならない。それが、急に通達されて現場は大混乱。

 

 

 

その慌ただしい様子を見ていると、コツコツと近づいてくる足音。目の前のドタバタとは真逆の落ち着いたリズムだ。

 

「骨折は冷した方が良いと聞いた事があります。私がして差し上げましょうか?」

 

にっこりと笑う四天王のプリムさん。冗談にしては肝が冷える。この人少し前に、置いて行かれたマグマ団アクア団を凍らせてたもの。

 

「……プリムさんの氷じゃあ、逆に悪化してしまいますって」

 

「チャンピオンがお呼びです。なんでも呼んでいた方々がお着きになったようですよ」

 

 

 

 

 

 

 

「ヒナノ君紹介しよう。彼ら二人が古の伝承を語り継ぎ次世代に受け継いでいく使命を負った一族。ホウエンにてレックウザを知る二つの民の代表だ」

 

ポケモンセンターの外に出てダイゴさんと共に私を出迎えた男女。

 

「目覚めの祠、空の柱。ホウエンの二つの聖地を守るルネの民、そしてルネシティのジムリーダーでもあるミクリ」

 

男の方はノースリーブで大きな切れ込みの入った衣装と。肌の露出が多く、三連のブレスレットや緑色のショールを纏うなど、一見にハデに見える。しかし、その本人が持つ雰囲気がその衣服とマッチしている。

 

「レックウザを奉る流星の民、伝承者のヒガナ君」

 

女性の方は男性とは打って変わって、ボロボロのマントを纏い野性的な印象を受ける。

 

 

 

「ダイゴ、彼女が?」

 

「あぁ、我々の協力者。そしてなにより……レックウザについて明確に存在を認識していた。君達が伝えたわけじゃないんだろう?」

 

「いやー私は初めましてだわー。シンオウ地方の元四天王さんなんだよね?」

 

「私もだ。そもそもレックウザについて語る者は我々の中にはいない。これは古よりの掟だ」

 

ミクリさんの目は鋭く細く、ヒガナの目は興味津々といった感じで私に向いている。

 

 

アレ……もしかしてだけど、私疑われてる?

 

 

「さて、この通りレックウザはホウエン地方のトップシークレットだ……ヒナノ君、なぜ君はこのポケモンを知っているんだい?」

 

「私は空の柱を知っていた方が驚き。流星の民とルネの民で完全に秘匿してる筈なのに」

 

「いっ今はそんな場合じゃ……」

 

「確かにそれどころじゃない。ただ、この情報が君だけが知っているのか、他の誰かから聞いたのとでは、意味合いが大きく変わってくる。マグマ団、アクア団がレックウザについて既に知っているのなら、なにかしらの対策をされているかもしれない……君はレックウザをどこで知ったんだ?……素直な回答を期待するよ」

 

 

 

 

「はぁ……信じるか信じないはそちらに任せるよ。

 

 

私の相棒、ダークライは悪夢を見せる。私はそれを毎晩見ているわけだけど、たまに妙にリアリティがある悪夢を見る時があるんだ。それが大抵予知夢でね。これまでに三回かな。

 

カントー地方、ヤマブキシティでのロケット団の大規模テロ。

 

ホウエン地方、グラードンとカイオーガの衝突。

 

シンオウ地方、神と呼ばれるポケモンを利用した世界再編。

 

言葉にすると最初以外馬鹿馬鹿しい、そう言える内容。だけどカントーでは実際にテロは起き、半信半疑でその場所にいた私も協力して解決した。

 

そして今ここ、ホウエン地方では超古代の伝説が再現されようとしている。その悪夢でミクリさん、貴方の口から出たのがレックウザと空の柱」

 

「私が……君に?」

 

「私じゃないんだなーこれが。今ポケモンセンターの中にいる、ハルカちゃんなんだよね。

 

悪夢の中で、大人たちはあの子にホウエン地方を、世界を託した……託しちゃったんだよ。それがどうも気に入らなくてね。私が至る所で助けたり、この事件を止めようとしてみたけど……失敗した。

 

そこのお二人に尋ねるけど、今いる中でレックウザを目覚めさせに行けるのはハルカちゃんくらいなんじゃない?」

 

 

「そうだねー。この先二体の復活で、天候は大荒れになるだろうし。長距離を移動出来るポケモンを持っていて、トレーナーも五体満足なのはあの子しかいないだろうね。

 

流星の民の伝承者として指名するならハルカちゃんになるよ」

 

「ちなみに伝承者って肩書だけど、何かの役割があるの?」

 

「レックウザと空の柱については知っているのに、伝承者については知らないの?」

 

「あくまで夢の中の話だからね。知っているのは断片的なんだよ。貴女も夢の中では見えなかったからね」

 

「ふーん……。まぁそこまで知っているならいいか。どうせもう緊急事態だし。

 

流星の民の伝承者っていうのは、空の柱までの道筋を知り、それを秘匿し、次の伝承者に繋いでいく役割。でもって、今回みたいな有事の際に、誰かを空の柱まで案内するんだよ。

 

空の柱周辺はレックウザの影響からか特殊な気流でね。風の抜け道を正確に通らないとたどり着けないんだ。海から近づこうとしても、ご先祖様たちが岩礁を意図的に作って塞いでるし。奇跡的な偶然が重なれば、私無しでもたどり着けるかもしれないけど……それはある意味遭難かなー。

 

あと、空の柱の中には、意地悪なご先祖様たちが仕掛けたトラップがわんさか設置されているからね。それを解除するのも伝承者の役目。トラップを解除する人と空の柱を登る人は別々に必要だから、伝承者だけでもレックウザには会えないんだ」

 

「待って!!それって……レックウザと相対するのはハルカちゃんだけになるってこと?」

 

「そうだね。もちろん命の保証なんかはしないよ。伝説を、文字通り目覚めさせるんだからね」

 

「本来はチャンピオンである僕が行くはずだった。しかし……」

 

「あのハルカって女の子がとっておきのポケモン持ってたからね。ラティアスなんていう、ホウエンでこれ以上ないってほど、長距離高速移動に適したポケモンをさ。レックウザを目覚めさせる時間が大幅に短縮されるよ。そしてチャンピオンを前線の指揮に回せる。このメリットがわからないわけはないよね?」

 

ヒガナに言われるメリットがわかってしまう。そのためにハルカちゃんを危険にさらすのは仕方ないんだと囁き始める自分の理性が嫌になる。原作の通り、私たち大人はあの子に世界を託そうとしている。

 

 

そして、自分がその一員になったことに乾いた笑いが漏れる。自分の中でやるせなさと嫌悪感がごちゃ混ぜになった結果だ。

 

「そして、私たちルネの民が空の柱の鍵を代々管理している。この二つの民の許可が下りない限り、誰もレックウザに会うことができない」

 

「……えらい厳重だね」

 

「そりゃあ厳重にもなるさ。神聖視されていると同時に、触らぬ神に祟りなしだからね。グラードン、カイオーガのように、レックウザは宝玉によって鎮められて眠りについているわけじゃない。ただ自ら眠りについているだけ」

 

「不埒者にちょっかい出されてはたまったもんじゃない、と」

 

「その通り」

 

 

 

 

「ヒナノ君、君の悪夢では二体は復活した後どう動く?」

 

「復活した二体は当然、マツブサとアオギリの制御なんか気にも留めず、目覚めの祠に向かう。二体が衝突するのはその目前、ルネシティのカルデラ湖。ひでりと大雨が交互にやってくる異常気象がホウエン全体に広がるくらいかな」

 

「言い伝えにほぼ近いと言っていい。君が見た悪夢は正しく予知夢なのだろう。その上で聞く、この動乱は解決したのかい?」

 

「レックウザを目覚めさせ二体は鎮まったよ。だけど、被害がどうなったかまでは見えていない。それに夢と違う場面もいくつもある。その夢では私たちは送り火山で防衛戦なんてしてないし、まず私がいない。チャンピオンもミクリさんだったし」

 

「私がチャンピオンに?」

 

「それはあり得ない話でもないだろう?なんたって僕より一つ先に殿堂入りを果たしたのは君じゃないか」

 

「チャンピオンを辞退し、師匠の跡を継いでジムリーダーなる事を選択した私がチャンピオンになっているという事は、ダイゴはどうしたんだ?」

 

「自由気ままに石を探してましたよ」

 

「……変わらないな」

 

「僕はそっちの生活の方が嬉しいかな」

 

「ハイハイ三人とも、悪夢のたられば話に花咲かせてないで、結局どうするの?」

 

 

 

ミクリさんが思案の後に口を開く。

 

「ひとまず目覚めたグラードン、カイオーガは刺激せず真っすぐにルネに向かってもらう」

 

「街や住民はどうする?お前はルネのジムリーダーだ」

 

「街を放棄してもらう。ルネの民は皆、覚悟している。これが古より伝えられてきた役割だ。既に、避難は進んでいる……誰からも文句は出なかった。我々の街は気にしなくていい、そういう使命の下で二体の決戦の地に街を建てたのだから。実際に復活して、こうなるのは目に見えている」

 

ミクリは俯き、こぶしを握っている。地元愛が強い傾向があるジムリーダーが自分の街を見捨てるなんて、使命のためといわれても受け入れがたいものに違いない。

 

「ハルカ君とヒガナ君に空の柱へ向かってもらう。残った我々は二体の進行を監視し、総力をもって二体が激突するルネシティの被害を抑える」

 

ダイゴの発言にミクリがばっと顔を上げる。

 

「ダイゴ!街は良いと言っただろう。滅びる街のために君たちが命を張る必要はない!」

 

「何も街の為だけじゃない。二体は復活した後、目覚めの祠で真の覚醒を果たすのだろう?ならば二体にはレックウザが到着するまで、存分に戦って貰う必要がある」

 

「まさか……二体の戦いに干渉する気?」

 

私たちが伝説に介入するなんて、こんな人生だけど思ってもみなかった。

 

「幸いな事にそれができるメンバーが揃っている。やらない手はない。万が一、どちらかでも完全な復活を遂げられてしまえば、ホウエンだけの話では無くなってしまう」

 

「わかった……流星の民の使命として、できる限り早くレックウザを目覚めさせてくる」

 

「ルネの迎撃態勢を整える。ミナモから可能な限りの戦力とありったけの物資を運ぼう。復活までそう時間がない。皆、頼んだよ」




この作品内ではメガシンカがないので、巨大隕石も∞エナジーなんもかも存在しないよ。でもヒガナ出しとこっと思って、独自解釈設定もりもりだよ。想像力ゥ……ですかねぇ。

待ってましたコメあったけぇあったけぇよ。


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