空に浮かぶは大きい雲(ありふれ世界編) (あろえよーぐると)
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剣士と陰陽師の夫婦の間に産まれた子供(第1話)

最後の方やや内容変えました。


 袴着の成熟した女性と少年が互いに木刀の切っ先を向けて対峙していた。

「技のキレも良うなったし、歩太はずいぶん強うなったなぁ。ウチが教えることはもうあらへんで」

 

 少年は嬉しさが込み上げるが、それで隙を見せたら容赦なく攻撃してくるので気を抜かずに平静に返事を返す。

 

「感謝です。鶴子師匠」

 

 師匠と呼ばれた女性、青山鶴子は氣を巡らせ最後の仕上げと言わんばかりに力を高める。

 

「ほな、次で最後にしよか」

「うっす」

 

 少年も大技を使うために氣を高めて迎撃の姿勢を取る。充分に高まったのを感じた2人は大技をぶつけ合った。

 

 

 

 無事に2度目の転生を果たしてから15年。

 

 前世の嫁さんのステラことステラ・ヴァーミリオンと来世でまたいつか会う約束を交わし、寿命を迎えて生まれ変わり今日を過ごしている。

 ところで俺の師匠の名前に誰か見覚えがないだろうか?

 

 神鳴流免許皆伝にして歴代1、2を争う強さを持つ。現代最強の剣士、青山鶴子様です。

 

 今生の父が青山家の遠縁で陰陽師の母との間に産まれた子供が俺なんだが剣術も陰陽術も途轍もなく才能があるということで気付けば青山宗家で7歳から鍛えられることに。

 最初、この世界は『ネギま』なのかとwktkした。だけども埼玉県にあの学園の名前がなかった。その代わりなのか普通に妖怪とかいるし、烏森の地を守る結界師や鬼の手を持つぬ○べ~先生に仕事の手伝いなんかで会ったりしてここは妖怪パラダイスな世界なのかと混乱した。

 

 そして9歳になる前に引っ越した父の退魔士としての仕事先の地が、かの海鳴市。大いなる意志でも働いてるのかイベントのように猫拾ったり石拾った。そのせいでなし崩し的にリリカルマジ狩るな原作に闇の書まで関わることになった。

 何が辛かったかというとヴォルケンリッターに魔力収集で襲われた時に伐刀者の力は勿論、神鳴流の技や陰陽術を隠し通すのが大変だった。

 隠行の術で魔力を隠す術を作ったけど猫さん曰く、ある程度近くにいればバレるとのこと。だから魔力量を偽装して御墨付きを貰い、フェレットになれる男の娘にも偽装に気付かれなかった。しかし、つまりは魔力を持ってることが分かるわけで。結果、魔砲少女が来るまで鬼ごっこを全力でしました。

 オリ主みたいに関わる気はなかったし、現実が非日常なのにこれ以上〝混ざんな。こっちくんな〟って気持ちが一番強かった。転生2回目だからってその時、9歳児やぞ。鬼太郎おったり、とある半妖のぬらりひょんと人のラブロマンスを伝聞で知ったりいい加減パンクするわ!どんだけ日本は破滅フラグあんのさ!

 それにこちらの力を知られたら欲しがって管理がどうこう言ってくるだろ?当然、外様が急に難癖付けて来られたら気分が悪いわけで最終的に異世界魔法使いVS日本呪術連盟の戦争が起こる可能性が。

 対峙して戦う分には師範クラスの神鳴流剣士が魔砲斬ったり、呪いとかバンバン使って相手を狂い殺したりできる術士がいるこっちが勝つだろうけど、勝ち続けた場合に危険視されてアルカンシェルを撃ち込まれる可能性が無きにしもあらずだからなぁ。

 まぁ猫さん手元に置いてる時点で関わらざる終えなかった訳ですが。

 原作と関わり良かったことは世話好きの猫の使い魔とデバイスを手に入れたこと。ベルカ式の適正があるらしいので、貸しがあるヴォルケン達にデバイスと術式(ついでに彼女らの身体の構成もこそっと)を使い魔と解析させて貰い出来たのがリボルバー拳銃なデバイス。

 拳銃の状態がデフォなので持ち運び便利なアクセサリータイプやカードタイプにならないけど頑丈さはリリカル娘達のデバイスより遥かに上。

 あと管理局に勧誘された。断ったけど。ヤだよ、あんなブラック通り越して闇鍋の如くヤバイものが混ざりまくってる職場なんて。管理局の計測器誤魔化して魔力量C判定なのに執拗に勧誘してきてたな。

 しかし、もう関わることはない。何故なら原作組が中卒で管理局に就職したから!魔砲少女やパツキンわがままボディ子と子狸に誘われたけど、『こっちでやりたいことあるし。それに学歴って大事だろ?』って言ったら納得してくれた。

 

 

 

 歩太は今年から高校生として、そして一端の退魔士として赴任先の高校に行くことになった。

 

「歩太。そろそろ行きませんか?」

 

 歩太の使い魔であるリニスはどこか楽しげに浮かれていた。

 

「分かった。しかし、言ってみるもんだなぁ」

「フェイト達を見て少し学生生活というものに憧れていましたが、まさか通えることになるとは思いませんでした。ですのでとても楽しみです」

「俺としてもそこまで喜んでくれて嬉しいよ。リニス」

「ふふ。では、行きましょうか」

 

 リニスとはクラスは違ったがそれでもキャッキャウフフな学生ライフを楽しんでいた。しばらくして二人で帰宅しようとしてた所で面倒な奴に絡まれることに。そして絡んできた生徒の名前がやたらキラキラしていて凄く見覚えがある名前だった。

 

「リニスが嫌がってるだろ、彼女から離れろ!」

「だから!私達は親しい仲だって、何度言えば理解するんですか!歩太のことも悪く言わないで下さい!それに本人の許可なく名前で呼ぶとか常識を知らないのですか!」

「無理矢理そう言わされてるんだね。大丈夫。俺が守るから。それにもう俺とリニスは友達だろ」

 

 

 何故こんなことになったのだろか。クラスメイトと少し話した後、リニスと合流して帰りに夕飯を何しようか話してただけなのに。

 

「歩太、どうやら私の日本語のリスニングはダメダメな様です。聴こえる日本語が意味不明です。それに日本語の使い方を間違ってるせいか相手に理解されていないので今度改めて教えてください」

「残念なことに俺もリニスと同じように聴こえてるし、日本語の使い方も間違ってない。おかしいのも間違ってるのも相手の方だから。もう放っといて帰ろう」

「まだ、話しは終わってないぞ!お前みたいな奴にリニスは相応しくない!」

「頭痛てぇ…。悪さする妖怪や外道に堕ちた術士だったらスパッと話しと身体の両方を終わらせるのに、こいつ一般人だからなぁ」

「何をゴチャゴチャ言ってるんだ!こうなったら力尽くで分からせてやる!」

 

 原作のポニテ侍は何でコレとずっと過ごせたんだろうか。普通は距離取るだろ。それなのに何年間も一緒にいるとか俺ならストレスで禿げるぞ、治せるけど。

 『ありふれた職業で世界最強』。この世界も混じってたか~。あの原作の地球もそれなりに混沌としてたっけ?こっちの世界の方がヤバイけども。

 このままコレと2年時、同じクラスなれば異世界トータスに召喚されて運が良ければ別の能力も手に入り神代魔法を手に入れるチャンスも出てくる訳か。悪くないな。

 

「歩太。もう記憶消してそこら辺にポイしましょ、ポイ」

「リニス、不法投棄はよく無いぞ。俺も同じこと考えちゃったけど」

 

 

 悪くないといいなぁ…

 

 

 




本編に然して関わらないけど混ざってる世界
・ラブひな
・ゲゲゲの鬼太郎
・地獄先生ぬ~べ~
・結界師
・青の祓魔師
・ぬらりひょんの孫
・魔法少女リリカルなのは
・魔法少女リリカルなのはA's


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プロローグ(第2話)

歩太とリニスは同じ苗字で「不動」で行きます。



 あのあと八重樫(オカン)が現れて天之河(キラキラ)に説教をしてたんだが効果は今一つの模様。何なんコイツ。ホント何なん。

 

 実は歩太達は八重雫とは顔見知りである。彼女の実家が忍者の末裔で今も現役バリバリなので情報を仕入れる時に、これからお世話になるということと家も意外と近いこともあってリニスとご挨拶した時に初めて会った。歩太は顔見知り程度だがリニスとは同じクラスになったこともあり友人関係を築いている。

 問題はそのクラスに八重樫の幼馴染み達4人が固まっていたこと。八重樫を通して挨拶や話し掛けられれば応答する程度の仲なのだが、リニスは友人指定されたのか天之河に昼食や下校の時によく誘われるのだが、その全てを断り続けていた。天之河は誘いを断られることに何か原因があると判断した。ちなみに八重樫や幼馴染みの一人である白崎という女子と三人で歩太のことを惚気たりしていたのだが何故か全く聞こえていなかった模様。

 そして今日。リニスと歩太が二人で下校しているのを見て、天之河なりに原因を理解して解決のために歩太達に絡んできたのが始まり。

 

 

 リニスは家に帰ってからも怒りが収まらなかったようで、猫姿で歩太の腹に顔を埋めて時折頭を動かし全力で甘えながら愚痴っていた。

 

「ホントあり得ません何なんですかアレは!毎回、笑顔振り撒いてくるし名前で呼ぶのは止めてくださいって言っても呼んでこようとするし、頭を撫でようとしてくるので強めに払い除けているのにそれでも撫でようとしてくるんです。女の子はみんな自分がそうすれば喜ぶって思ってるんですか!なろう小説のハーレムものじゃないんですよ!ここは現実なんですよ!」

「嫌だったよな。気持ち悪かったよな。今日初めて会った俺でも頭痛かったんだから一緒の空間にいたら当然だよな」

 

 歩太はブラシに氣を込めながら毛繕いをする。そうすると精神と毛にヒーリング効果を与えてどちらもツヤツヤになるからだ。リニスの言葉数が徐々に減ってゆき、次第に意識が遠退き眠りにつく。一度でも精神と身体に直接作用するダブルヒーリングを受ければその虜にならない奴はいないだろう。

 歩太はブラッシングを終えてリニスを優しく撫でながらこれからのこと考える。

 この世界(原作)を知っている以上、リニスには残念なことだが歩太と共に来年も天之河と同じクラスになって一緒に異世界トータスへ行くのは決定事項になった。あの世界の神代魔法は是非とも欲しい。それ以外にも魅力的なモノが幾つかある。ならばどうするべきか歩太は思考する。

 

 原作主人公の代わりに愉悦神を八つ裂きにするのは決定事項。しないと地球に来る可能性仄めかしてたし。こっち来んな。何より退魔士としてどの角度から見ても邪神なあれを放置とかありえない。とりあえず斬魔剣:弐の太刀をたらふく食らわしてやろう。

 

 次の日に天之河がリニスに形だけの謝罪をしてきたがリニスは華麗にスルー。そんなリニスの態度に何か言いたそうだったがオカンの八重樫が睨みを利かせ沈黙させていた。歩太には謝罪の言葉一切無し。

 

 

 

 あれから一年が過ぎて二年生。歩太とリニスは原作開始時のクラスで日々を過ごしていた。

 歩太はリニスを経由して八重樫雫だけでなく脳筋な坂上龍太郎、ヤンデレとサイコ属性(微レ存?)を持ってる白崎香織と交流ができた。天之河?ハハッ。

 席についてリニスと会話をしていたがふと止まる。

 

「おはよう、南雲君!今日も時間ギリギリだね!」

 

 いやいや笑顔で元気よく煽ってる様にしか見えないんだが。本当に好きなの?何で周りの視線とか空気が分からないのかねぇ。ストーキングするほど好きなら周囲からどう見られてるか気づけ。そんなんだからヒロインレースで優勝できずに負けんだよ。

 

 どうやら途中から声に出てたようで、呟きを聞いていたリニスは噴き出しそうになった口を咄嗟に手で塞いで顔を下に向かせ身体を震わせていた。リニスも歩太から今後の流れ(原作)についてある程度教わっている。つまり、ネタが通じるのだ。

 

 さて、真面目に異世界拉致を防ぐことを考えた場合。歩太だけでは防ぐことはできない。できて多少の妨害くらいだろうか。日本で選りすぐりの術師を最低でも三桁はいないと完全に防ぐことはできないだろう。それに24時間体制で常に異世界の脅威に備え続けるには安倍晴明やサタンとか人外がうろちょろし過ぎていて土台無理な話。

 故に占星術で凶兆と出た今日この日のために歩太達は準備をしてきた。

 

「本当、巻き込んでごめんな」

「異世界に渡るのはミッドチルダでは旅行とかで普通にありますし、私も他世界の魔法や技術に興味があります。

 それに使い魔ですし…歩太の彼女なんですから一緒にいたいと思うのは当然です。あ、もし嘘だったらどこか旅行に連れてって下さいね」

「魔から人を守る組織に身を置く人間としては全部が俺の妄想で終わるんなら万々歳だしそんなことなくてもデートはバッチこいなんだが」

「まあ異世界でデートが地元(地球)でデートに変わる程度だと思いましょう」

「世界の共通点はどっちも殺伐としてるところか。はぁ…」

 

 

 

 運命の時間までまもなく。

 

 

 「香織。こっちで一緒に食べよう。南雲はまだ寝足りないみたいだしさ。せっかくの香織の美味しい手料理を寝ぼけたまま食べるなんて俺が許さないよ?」

 

 爽やかに笑いながら気障なセリフを吐く天之河にキョトンとする白崎。少々鈍感というか天然が入っている彼女には効果がないようだ。

 

「え? なんで光輝くんの許しがいるの?」

 

 昼休み時。歩太は原作主人公達のやりとりを眺めながら霊的直感が微細な変化を捕らえる。すると天之河の足元に純白に光り輝く円環と幾何学模様が現れた。その異常事態には直ぐに周りの生徒達も気がつく。全員が金縛りにでもあったかのように輝く紋様、俗に言う魔法陣らしきものを注視する。

 

「リニス、準備は?」

「いつでも。何処までも御供します」

 

 その魔法陣は徐々に輝きを増していき、一気に教室全体を満たすほどの大きさに拡大した。

 

「皆!教室から出て!」

 

 自分の足元まで異常が迫って来たことで、ようやく硬直が解け悲鳴を上げる生徒達。未だ教室にいた愛子先生が咄嗟に叫んだのと魔法陣の輝きが爆発したようにカッと光ったのは同時だった。

 

 光が収まりゆっくりと目を開いて真っ先に歩太とリニスは互いに無事を確認する。それから周囲を見渡し、まず目に飛び込んできたのは巨大な壁画だった。縦横十メートルはありそうなその壁画には、後光を背負い長い金髪を靡かせうっすらと微笑む中性的な顔立ちの人物が描かれていた。

 背景には草原や湖、山々が描かれ、それらを包み込むかのようにその人物は両手を広げている。美しく素晴らしい壁画なのだろう。しかし酷く歪で不快に感じる。まるで世界の全ては自分の物だと主張しているようにしか歩太には見えなかった。

 どうやら自分達は巨大な広間にいるらしいということがわかった。造りからしてテレビなどで見たことがある大聖堂のような荘厳な雰囲気の広間。歩太達はその最奥にある台座のような場所の上にいるようだった。原作通り教室にいた生徒全員、巻き込まれたようだ。

 この広間に三十人近い人々が、台座の前に祈りを捧げるように両手を胸の前で組んだ格好で跪いていた。

 

彼等は一様に白地に金の刺繍がなされた法衣のようなものを纏まとい、傍らに錫杖しゃくじょうのような物を置いている。その錫杖は先端が扇状に広がっており、円環の代わりに円盤が数枚吊り下げられていた。

 

 

 その内の一人、法衣集団の中でも特に煌きらびやかな衣装を纏っている七十代くらいの老人がこちらに歩み出て、手に持った錫杖をシャラシャラと鳴らしながら外見に深みのある落ち着いた声音で話しかけた。

 

「ようこそトータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」

 

 

 そう言って、イシュタルと名乗った老人は、好々爺然とした微笑を見せた。

 

 




顔を埋めて歩太の腹筋を堪能するために必要以上に怒りを露にする猫リニス。
「ホントあり得ません何なんですかアレは!」グリグリ


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オルクス大迷宮
オルクス大迷宮の前に(第3話)


◼️不動歩太が今世で手にいれた技術
・神鳴流免許皆伝
剣術、格闘術、氣(霊力含む)の使い方
・陰陽術(色々)
陰陽五行、呪符(符術)、式神
・リリカルなのはの魔法
ベルカ式、使い魔契約、デバイス



 現在、場所を移り十メートル以上ありそうなテーブルが幾つも並んだ大広間に通されていた。全員が着席すると絶妙なタイミングでカートを押しながら顔立ちが整った妙齢のメイド達が入ってきた。そしてお茶が行き渡りイシュタルは語り始める。

 この世界はトータスと呼ばれ大きく分けて人間族、魔人族、亜人族の三種族がおり、人間族は北一帯。魔人族は南一帯。亜人族は東の巨大な樹海の中でそれぞれ生息している。この内、人間族と魔人族が何百年も戦争を続けている。

 魔人族は数は人間に及ばないが個人の持つ力が大きいらしく、その力の差に人間族は数で対抗していたそうだ。戦力は拮抗し大規模な戦争はここ数十年起きていなかったが最近になって異常事態が多発しているという。

 

 それが魔人族による魔物の使役。

 

 魔物とは通常の野生動物が魔力を取り入れ変質した異形のことだと言われている。この世界の人々も正確な魔物の生体は分かっておらず、それぞれ強力な種族固有の魔法が使え凶悪な害獣とのこと。

 今まで本能のままに活動する彼等を使役できる者はほとんど居なかった。使役できてもせいぜい一、二匹程度だという常識が覆された。つまり、人間族は滅びの危機を迎えている。そのため創世神エヒトが人間族の救世のために歩太達を呼んだと。

 

「我々人間族が崇める守護神。聖教教会の唯一神にしてこの世界を創られた至上の神。人間族の危機を回避するためにあなた方を喚ばれた。あなた方の世界はこの世界より上位にあり例外なく強力な力を持っています。召喚が実行される少し前にエヒト様から神託があったのですよ。あなた方という『救い』を送ると。あなた方には是非その力を発揮し、エヒト様の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」

 

 イシュタルはどこか恍惚とした表情を浮かべながら説明する。おそらく神託を聞いた時のことでも思い出しているのだろう。

 イシュタルによれば人間族の九割以上が創世神エヒトを崇める聖教教会の信徒らしく度々降りる神託を聞いた者は例外なく聖教教会の高位の地位につくらしい。

 神の意思を疑いなく、それどころか嬉々として従うのであろうこの世界の歪さに言い知れぬ危機感を覚えて畑山愛子は突然立ち上がり猛然と抗議する。

 

「ふざけないで下さい!結局この子達に戦争させようってことでしょ!そんなの許しません!ええ、先生は絶対に許しませんよ!私達を早く帰して下さい!きっと、ご家族も心配しているはずです!あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」

 

「お気持ちはお察しします。しかし、あなた方の帰還は現状では不可能です。先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」

 

 

 

 

『あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第といことですな』

 

「この時点で俺からしたら邪神の疑いを持つけどねぇ」

「勝手に呼び出しておいて戦え。終わったら帰れるかも?ですもんね。疑念が浮かぶのが普通かと」

「例えテンパってたとしても後々に疑念が沸いて不信を抱く人間もいるだろうけど……」

「あの残念な方…無駄にカリスマありますからどう転ぶのか」

「転ぶだけならいいんだよ。起き上がれる可能性が残ってるから」

 

「「はぁ…」」

 

 歩太とリニスは神山を探索していた。トイレに行くと称して式神と入れ代わっていたのだ。そして式神を通して話を聞いていた。二人は何故探索しているかというと神山にある迷宮を攻略して神代魔法である魂魄魔法を手に入れるためだ。

 原作では五番目に攻略された迷宮だがクラスメイトと離れる気満々の二人にとって七大迷宮の中でもっとも短時間で攻略できると思われるこの迷宮の探索は今この時が一番邪魔が入る可能性が低いので分かりきった話を座って聞くなどありえない。

 それに術師でもある歩太にとって最初に手に入れたかった魔法でもあった。例え魔法適性がなく使えなかったとしても使い方を知るだけでも充分に参考になる。

 

「ん~?…あっ、そうか」

「見つかりましたか?」

「残念ながら。けど見つからない理由が分かった。見てくれ」

 

 そう言って歩太は手に持っている羅針盤をリニスに見せる。

 

「すごいグルグル回っていますが…これは?」

「この世界の星の配置を確認してないから占えるか不安だったけど途中まで道筋を示していたんだ。しかし今はこれだ。縁が途絶えてる」

「つまり、魂魄魔法を手に入れることができないと?」

「おそらく条件を満たしてないからなんだろうな。原作ではさらっと手に入れてたけどあれは既に4つは攻略して条件が整ってたからか」

「最大でも4つの大迷宮を攻略していないといけないということですね」

「最速で手に入ると思ったんだが甘かったな~」

「前世の記憶ですし、忘れてる部分があるのは仕方ありませんよ」

「そうだな。じゃあ機を見て戻るとするか」

 

 

 

 

 未だパニックが収まらない中、天之河が立ち上がりテーブルを強くと叩いえその音にビクッとなり注目する生徒達。光輝は全員の注目が集まったのを確認するとおもむろに話し始めた。

 

「皆。ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。…俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って放っておくなんて俺にはできない。それに人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん?どうですか?」

「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」

「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」

「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」

「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」

 

ギュッと握り拳を作りそう宣言する天之河。無駄に歯がキラリと光ると同時に彼のカリスマは遺憾なく効果を発揮した。絶望の表情だった生徒達が活気と冷静さを取り戻し始めた。彼を見る目は輝いており、まさに希望を見つけたという表情だ。女子生徒の半数以上は熱っぽい視線を送っている。

 

「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。俺もやるぜ?」

「龍太郎……」

「今のところ、それしかないわよね……。気に食わないけど私もやるわ」

「雫……」

「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」

「香織……」

 

 いつものメンバーが天之河に賛同する。後は当然の流れというようにクラスメイト達が賛同していく。愛子先生はオロオロと涙目で訴えているが天之河の作った流れの前では無力だった。結局、全員で戦争に参加することになってしまった。

 

 

 しれっと戻ってきた歩太達はクラスメイト達から距離を置いていた。リニスは怖がって歩太の腕に抱き着きそれを歩太が慰めているように装っている。実際は念話で愚痴り合ってるだけだが。途中、天之河がリニスの様子を見て此方に向かってきたが2人で睨むと元の位置に戻っていった。

 そして今は神山の頂上からイシュタルが唱えた呪文によりできた魔法の橋を渡りクラスメイト達と共にハイリヒ王国の王都に向かっている。

 王都に着き、国王一同に紹介された後は夜には晩餐会が開かれたが歩太とリニスは疲れを理由に晩餐会を早々に切り上げて部屋で寛いでいた。

 

「これからどう動きますか」

「まず明日に天職や自身の能力が写し出されるステータスプレートが配られる」

「ほほう、それは非常に興味深いです。幾つかサンプルを貰えないでしょうか…」

「分かる。問題は俺達がどんな職業でどういう能力があるのかだな。偽装してたし、もしかしたら天職がない可能性もある」

「そうだったら残念ですね。特に私は人間ではないのでどうなるのか」

「そこだよなぁ…」

 

 元々人間ではないリニスの偽装に関しては特に念入りに施したがあの偽神は一応でも超常の存在。バレている可能性が高い。対策も罠も準備しているので痛い目を見るのは彼方の方だと歩太は考えている。

 

「遅くなりましたしお風呂に入りませんか」

「そうするか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…お背中お流ししましょうか?」

「…頼もうかな」

 

 



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ステータスプレート(第4話)

くそ遅いですが、あけおめです。私は生きてます。ちょっと思考があっちこっちに行き過ぎたのと悦森さんとか色々ハマってただけなんです。サーセン。


 翌日から早速訓練と座学が始まり、集まった生徒達に十二センチ×七センチ位の銀色のプレートが配られ騎士団長メルド・ロギンスが直々に説明を始めた。

 

「よし、全員に配り終わったな? このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」

 

 非常に気楽な喋り方をするメルド。生徒達が興味津々に聞いてる中、歩太とリニスは表情には見せないが少し緊張していた。二人は異世界転移される直前に読み取られるだろう自分達の情報を歩太の陰陽術をもって偽装していた。おそらく、と前置きが付くが深層まで見られていないと判断。では自分達はプレートに何と表示されるのだろうかと…。

 どちらも一般人ならぬ逸般人。歩太は前世で己の限界を超えて覚醒し魔人(デスペラード)になってはいるが分類上は人のはず。しかしリニスに関しては人ですらなく猫で使い魔だったのが今や猫又の妖怪化しているのだ。ちょっと見るのに不安しかないのは仕方ない。

 二人は互いに見つめて頷くと意を決してステータスプレートの魔方陣に血を垂らした。

 

「………」

「………」

「…リニス、どうだった?」

「…歩太もどうでしたか?」

 

 何も言わず互いのステータスプレートを見せ合った。

 

=========

 

不動 歩太 17歳 男 レベル:1

 

天職:白魔導士

 

筋力:620

 

体力:1000

 

耐性:1200

 

敏捷:950

 

魔力:2000

 

魔耐:2000

 

技能:慧眼・白魔法・魔力操作・全魔法耐性・物理耐性[+痛覚耐性][+痛覚遮断]・精神汚染耐性・状態異常耐性・気配感知・魔力感知・言語理解

 

==========

 

不動 リニス 16歳 女 レベル:1

 

天職:科学者

 

筋力:800

 

体力:1200

 

耐性:900

 

敏捷:1000

 

魔力:1800

 

魔耐:1800

 

技能:錬成・雷属性適性・魔力操作・縮地・魔力感知・気配感知・直感・物理耐性・状態異常耐性・言語理解

 

 

==========

 

 

 どうやら杞憂に終わった模様。二人は安堵しながら話し出した。

 

「ゲーム的に考えたら到底レベル1のステータスとは思えませんね」

「でもこれ、魔力ランク落として呪縛霊錠やら限定霊印してる状態だからな。取り敢えず隠蔽なり偽装なりしとくか」

「お願いします、歩太」

 

 現時点の数値でトータスにいる人間族の中でぶっちぎりトップの二人はステータスの数値を50前後に偽装することによって目立たないようにした。

 

「ほお~流石勇者様だな。レベル1で既に三桁か。技能も普通は二つ三つなんだが規格外な奴め!頼もしい限りだ!」

「いや~、あはは……」

 

 騎士団長メルド・ロンギスの称賛に照れたように頭を掻く天之河光輝。そしてステータスがオール10のザ・平均だった南雲ハジメは檜山が率いる子悪党グループに野次られ次々と笑い出す生徒に白崎香織が憤然と動き出す。しかし、その前にウガーと怒りの声を発する人がいた。畑山愛子教師だ。

 

「こらー!何を笑っているんですか!仲間を笑うなんて先生許しませんよ!ええ、先生は絶対許しません!早くプレートを南雲君に返しなさい!」

 

 ちっこい体で精一杯怒りを表現するその姿に毒気を抜かれたのかプレートが南雲ハジメに返される。

 

 

 彼女は彼に向き直ると励ますように肩を叩いた。

 

「南雲君、気にすることはありませんよ!先生だって非戦系?とかいう天職ですし、ステータスだってほとんど平均です。南雲君は一人じゃありませんからね!」

 

 そう言って「ほらっ」と愛子先生はハジメに自分のステータスを見せた。

 

 

==========

 

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:1

 

天職:錬成師

 

筋力:10

 

体力:10

 

耐性:10

 

敏捷:10

 

魔力:10

 

魔耐:10

 

技能:錬成・言語理解

 

==========

 

畑山愛子 25歳 女 レベル:1

 

天職:作農師

 

筋力:5

 

体力:10

 

耐性:10

 

敏捷:5

 

魔力:100

 

魔耐:10

 

技能:土壌管理・土壌回復・範囲耕作・成長促進・品種改良・植物系鑑定・肥料生成・混在育成・自動収穫・発酵操作・範囲温度調整・農場結界・豊穣天雨・言語理解

 

===========

 

 

 (とど)めを刺されていた。南雲ハジメは死んだ魚のような目をして遠くを見ていた。

 確かに畑山愛子の全体のステータスは低いし非戦系天職だが、魔力だけなら勇者に匹敵しており技数なら超えている。そして糧食問題は戦争には付きものだ。つまり彼女も周りからしたら十二分にチートだった。

 

(むご)いな」

「天然はエグいですね。フェイトもやらかしていないか少し心配です」

「アルフはプレシアさんの近くにいるから怪しいかもな~」

「変な男性に引っ掛かったりしてないでしょうか」

「大丈夫だろ。旦那の高町がいるし危なくなったら駆けつけてくるさ」

「あの、同性愛に目覚められてもそれはちょっと困るのですが…」

 

 歩太達はその場を眺めながら他愛のない会話をしてるように見せて並列思考(マルチタスク)を使い念話でこれからのことを密かに話し合っていた。

 

「な、南雲くん!大丈夫!?」

 

 反応がなくなった南雲ハジメを見て八重樫雫が苦笑いし、香織が心配そうに駆け寄る。畑山愛子教師は「あれぇ~?」と首を傾げている。相変わらず一生懸命だが空回る愛子先生にほっこりするクラスメイト達。

 

 

◆◆◆◆

 

 あれから訓練すること2週間が経った。その間に歩太とリニスは地球から持ち込んだ道具のチェックや元々所持していた能力の使用可能かの確認を初日に終わらせ、この国の地理や歴史をパパッと頭に入れてこの世界で得た技能を鍛えながら変装して偽名で冒険者登録をして依頼もたまに受けつつ外の情報も仕入れていた。

 

 

==========

 

 

不動 歩太 17歳 男 レベル:25

 

天職:白魔導士

 

筋力:1550

 

体力:3000

 

耐性:3750

 

敏捷:2375

 

魔力:5000

 

魔耐:5000

 

技能:

・慧眼[+魔力視][+真偽鑑定][+状態診断][+鑑定][+先読]

・白魔法[+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇]

・魔力操作[+魔力制御][+魔力循環][+魔力集束][+魔力圧縮][+魔力放出][+身体強化Ⅱ][+部分強化][+変換効率上昇][+魔纏]

・闇属性適性[+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇]←new!!

・全魔法耐性

・物理耐性[+痛覚耐性][+痛覚遮断][+熱気耐性]

・精神汚染耐性

・状態異常耐性

・気配感知[+範囲上昇][+固有気配認識]

・魔力感知[+範囲上昇][+固有気配認識]

・空間魔法←new!!

・言語理解

 

 

==========

 

 

不動 リニス 16歳 女 レベル:21

 

天職:科学者

 

 

筋力:1680 

 

体力:2520

 

耐性:2100

 

敏捷:3150

 

魔力:3700

 

魔耐:3700

 

技能:

・錬成[+鉱物鑑定][+精密錬成][+精密機器錬成][+鉱物分離][+鉱物融合][+鉱物圧縮[+複製錬成][+自動錬成][+想像構成][+イメージ補強力上昇][+高速錬成][+魔力消費減少][+鉱物分解]

・雷属性適性[+魔力消費減少][+効果上昇]

・魔力操作[+魔力制御][+魔力循環][+魔力放出][+魔力圧縮][+身体強化][+部分強化][+変換効率上昇][+魔纏]

・縮地[+爆縮地][+轟脚][+空歩]

・魔力感知[+範囲上昇]

・気配感知[+範囲上昇][+固有気配認識]

・直感[+危険察知][+虚偽察知]

・物理耐性

・状態異常耐性

・空間魔法←new!!

・言語理解

 

 

==========

 

 

 

「グリューエン火山は思ったよりも熱かったな」

「マグマの噴出なんて初めて見たので非常に興味深かったです」

「何にせよ、先ずは一つ目だな」

「〝空間魔法〟…ですね。座標さえ分かれば私達なら帰れそうですが…」

「短距離転移なら大丈夫ぽかったけど長距離転移は空間の揺らぎが大きくなるから流石に気づかれる可能性がある」

「はい。ですがこれで持ち込める道具が増やせますね」

「手軽に持ち運べる家って夢があるよな」

「これで何時でも何処でも即座に解析・分解・作成が出来るなんて科学者の血が騒ぎます!では、これから工房造りするので協力してください。今夜は寝かせませんよ?」

「えっ、もしかしてデスマーチですか?」

「フフフフフフ…楽しみです。これからはチマチマとせず堂々とあれらの鉱物やアイテムを調べられるのですから。さぁ共同訓練も終わりましたし行きましょう!」

 

 メルジーネ海底遺跡や氷雪洞窟は時間と準備が足りなかったので断念したもののグリューエン大火山は半日かけて攻略していた。原作のように主人公のようにオルクス大迷宮の奈落に堕ちたふりして離脱する気満々である歩太達だが、只待つのも原作を再現する気もなかった。ちなみに少しお節介を焼いたおかげか原作主人公の南雲ハジメは国お抱えの錬成師に教えを乞い技能を高めてたりする。もしかすると早めに愛銃であるドンナーが生まれるかもしれない。

 

 

 翌日。訓練が終了した後、いつもなら夕食の時間まで自由時間となるのだが今回はメルド団長から伝えることがあると引き止められた。何事かと注目する生徒達に、メルド団長は野太い声で告げる。

 

 

「明日から、実戦訓練の一環としてオルクス大迷宮へ遠征に行く。必要なものはこちらで用意してあるが、今までの王都外での魔物との実戦訓練とは一線を画すと思ってくれ!まぁ、要するに気合入れろってことだ!今日はゆっくり休めよ!では、解散!」

 

 

 いよいよ歩太達にとっての本番が始まろうとしていた。

 

 

 

「ところで歩太」

「どした、リニス?」

「あなたの弟子も一緒に連れて行くのですか?」

「もちろん。せっかくの機会だからオルクスの奈落でビシバシ強くさせるさ」

「肉体派ではないんですから程々にしてあげてくださいよ」

「性根を鍛えるんだからある程度は仕方なしだよ。それに鶴子師匠よりは確実に優しいし」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「えっ、なに?すっごい悪寒がしたんだけど!?もしかしてアユ君?ちょっと聞きに行こうかな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 本来のスペック的にグリューエン大火山くらいサクサクっと行けるので行かせました。
 歩太とリニスのステータスプレートに表記されてる内容は能力を限定してるので魔力魔耐以外はレベル1の数値から5倍にした数値が本当の異世界転移直前の数値です。


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月下の語らいなんて無かった(第5話)

魔纏(まとい)…魔力を鎧のように纏うことによって物理と魔法に対する防御力アップ。武器など身体に触れている物に纏わせることも可能。
 ちなみにリリカルのバリアジャケットって確か物理と魔法耐性に耐熱耐寒もあるのでグリューエン大火山はかなり楽チンです。


 オルクス大迷宮……それは全百階層からなると言われている大迷宮である。七大迷宮の一つで階層が深くなるにつれ強力な魔物が出現する。この迷宮は冒険者・傭兵・新兵の訓練に非常に人気がある。

 それは階層により魔物の強さを測りやすいからということと出現する魔物が地上の魔物に比べ遥かに良質の魔石を体内に抱えているためだ。

 魔石とは魔物を魔物たらしめる力の核で強力な魔物ほど良質で大きな核を備えており、この魔石は魔法陣を作成する際の原料となる。要は魔石を使う方が魔力の通りがよく効率的。その他にも日常生活用の魔法具などには魔石が原動力として使われるので軍関係だけでなく日常生活にも必要な大変需要の高い品である。

 原作主人公はダンジョンから始まりダンジョンでヒロインに出会ってハーレムを築いて……って何か違う作品が浮かぶのでこれ以上は止めておこう。

 

 現在、生徒達はオルクス大迷宮の正面入口がある広場に集まり博物館の入場ゲートのような入口から受付窓口制で迷宮への出入りをチェックしていた。ここでステータスプレートをチェックし記録することで死亡者数を正確に把握するためだ。

 

「遊園地の入場ゲートにしか見えねぇ……」

「随分としっかりしてるんですね。ここの職員は優秀なのかもしれません」

「そうかもしれないけど、何か安全バー下ろした後に『では、いってらっしゃい!』って言われるイメージが浮かぶ」

「心構えがなってない大所帯を対応してるにも係わらず、笑顔が崩れない所……流石はプロですね」

「ああ。あれはもう職人と言っても過言じゃないな」

 

 歩太達はクラスメートを率いるメルドが引率の教師に見えた。

 

 

 自分達の担任よりも担任してる。笑いそう……

 

 歩太、畑山先生が可哀想ですよ……

 

 

 アホなことを考える位に暇をもて余していた。

 

 

 本来の世界線なら前日に香織がハジメの所に訪れてラブロマンスを繰り広げていたが、残念ながら此方ではリニスに手助けを乞うイベントがあり奈落に堕ちる前から銃を作成してその最終調整と弾丸の作成に夢中で魔力を使い果たして爆睡していた。ハジメの部屋の鍵は閉めていたので香織は暫くガチャガチャと開けようと試みていた。寝ているハジメの隣で添い寝出来るのではと頭に浮かんだからだ。

 そこに自分の部屋に向かう歩太に目撃されて「えっ、何やってんの?」と問われ「ななな何でもない、よ? 明日は頑張ろうね、じゃあお休み!」と慌てて去った。

 

「あいつ何時から南雲の部屋のドア開けようとしてたんだ? 『ハジメ君と添い寝ハジメ君と添い寝……』って呟いていたけど正直引くわ」

 

 

 

 ◆◆◆◆

 

 迷宮の中は、外の賑やかさとは無縁だった。縦横五メートル以上ある通路は明かりもないのに薄ぼんやり発光しており、松明や明かりの魔法具がなくてもある程度視認が可能だ。緑光石という特殊な鉱物が多数埋まっているらしく、オルクス大迷宮はこの巨大な緑光石の鉱脈を掘って出来ているらしい。

 一行は隊列を組みながらゾロゾロと進む。しばらく何事もなく進んでいると広間に出た。ドーム状の大きな場所で天井の高さは七、八メートル位ありそうだ。

 その時、物珍しげに辺りを見渡している一行の前に壁の隙間という隙間から灰色の毛玉が湧き出てきた。

 

「よし、光輝達が前に出ろ。他は下がれ!交代で前に出てもらうからな、準備しておけ!あれはラットマンという魔物だ。すばしっこいが、たいした敵じゃない。冷静に行け!」

 

 ラットマンと呼ばれた魔物が結構な速度で飛びかかってきた。間合いに入ったラットマンを光輝、雫、龍太郎の三人で迎撃する。その間に香織と特に親しい女子二人、ロリ元気っ子の谷口鈴と鈴に引っ張られてグループに加わったメガネっ子の中村恵里が詠唱を開始。魔法を発動する準備に入る。

 

「「「暗き炎渦巻いて 敵の尽く焼き払わん 灰となりて大地へ帰れ──〝螺炎〟」」」

 

 三人同時に発動した螺旋状に渦巻く炎がラットマン達を吸い上げるように巻き込み燃やし尽くしていく。断末魔の悲鳴を上げながらパラパラと降り注ぐ灰へと変わり果て広間のラットマンは全滅していた。

 

 そこからは特に問題もなく交代しながら戦闘を繰り返し、順調に階層を下げて行った。

 

「次!歩太達、前へ出ろ!」

 

 メルドの指示に歩太とリニスは頷き、前へ歩み出す。

 

 歩太の装備はブーツに丈夫なズボンと長袖シャツで上からフード付きの紺色のローブに袖を通して後ろ腰にナイフを一本、杖術にも使える胸元ほどの長さの杖を手に持っている。

 リニスも似たような格好で違うところは袖がダボっとしている上着にローブではなく全身を覆えるマントを着て魔法補助の発動体の腕輪に短剣を二本ずつ左右の腰に差して計四本を装備している。

 歩太達の前には狼のような人サイズの魔物が四匹こちらに向かってくる。

 

「どうしますか、歩太」

「とりあえず相手の足を止めるがてらダメージを与えるからその隙に」

「では二匹、貰いますね」

「まぁ妥当だな」

 

 軽く打ち合わせをしてる間も勢いよくこちらに向かってくる魔物達に対して落ち着いてる二人を見て周りは心配そうな目で見てくるがそんな視線も気にせず自然体で対応する歩太達。

 

「えっと、それっぽい詠唱は……聖なる光よ 翼となりて 彼のものを祓いたまえ──〝光翼〟」

 

 前に突き出した杖の宝玉から光の翼が現れ、羽ばたかせた瞬間に無数の光の羽が飛び出し魔物達に襲いかかった。その攻撃に怯んで地面に転がる。

 

「行きます」

 

 リニスは〝縮地〟を使い魔物に素早く近づき短剣をそれなりの早さで振るい止めを刺していく。

 

「我は綴る 光の翼よ 今一つとなりて 

 彼のものを斬り裂く剣となれ──〝光翼剣〟」

 

 歩太も〝光翼〟を変化させて光の剣を構成して残りを屠っていく。流れるような二人の作業に騎士団は感嘆の声を上げ生徒達は一部を除いて感心していた。そして戦闘が終了するとその一部が声をかけてきた。

 

「凄いじゃないか、リニス。でも魔物に近づくのは感心しないな。君は戦闘職じゃないんだからケガでもしたらどうするんだ。やっぱり俺の側でいる方が安全だ──ゲボォッ!?」

「あら、すみません。てっきり魔物が近づいて来たのかと思いまして、はしたなくも蹴り飛ばしてしまいました。

 戦闘が終わったとしても無闇に視界に入らないで下さい。むしろ視界から永遠に消えて下さい」

「ナイスキック。じゃなくて…リニス落ち着け。気持ちは分かるけど魔物より殺意高いから…な?」

「しかし歩太! ここ二週間以上話し掛けられないように立ち回ってかなり二人きりを楽しめていたというのに、今も互いに目線で労う所を急に間に入ってきて邪魔されたのですよ!」

 

 歩太がリニスを(なだ)めている間、天之河(バカ)はピクピクと痙攣していた。「光輝、しっかりしなさい!」「大丈夫、光輝君!」「香織、早く治療を!」など後ろで聞こえる。周りの生徒達も『えっ、勇者を蹴り飛ばした……あれ、死んでない?』など呟いていた。ちなみにハジメは密かに『同じ錬成師なのに……この差は何さ……』地面に膝をつけて落ち込んでいた。

 

 

 ◆◆◆◆

 

 一行は問題もなく二十階層を探索する。

 

 

 迷宮の各階層は数キロ四方に及び、未知の階層では全てを探索しマッピングするのに数十人規模で半月から一ヶ月はかかるというのが普通なとだとか。

 暫くして擬態したロックマウントの咆哮に前に出ていた光輝・雫・坂上龍太郎がゲームでいうとスタンを浴びて一瞬身動きが取れなかった。その隙にロックマウントが目を血走らせながら模範的なルパンダイブで香織・鈴・恵里に向かってきた。

 

「「「ヒイィッ!?」」」

「こらこら、戦闘中に何やってる!」

 

 慌ててメルド団長がダイブ中のロックマウントを切り捨てる。香織達は、「す、すいません!」と謝るものの相当気持ち悪かったらしく、まだ顔が青褪めていた。

 そんな様子を見てキレる若者が一人。正義感と思い込みの塊、我らが勇者天之河光輝である。

 

「貴様……よくも香織達を……許さない!」

 

 どうやら気持ち悪さで青褪めているのを死の恐怖を感じたせいだと勘違いしたらしい。「彼女達を怯えさせるなんて!」と、なんとも微妙な点で怒りをあらわにする光輝。それに呼応してか彼の聖剣が輝き出す。

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ──〝天翔閃〟!」

「あっ、こら、馬鹿者!」

 

 メルド団長の声を無視して、光輝は大上段に振りかぶった聖剣を一気に振り下ろした。

 その瞬間、詠唱により強烈な光を纏っていた聖剣から、その光自体が斬撃となって放たれた。逃げ場などない。曲線を描く極太の輝く斬撃が僅かな抵抗も許さずロックマウントを縦に両断し、更に奥の壁を破壊し尽くしてようやく止まった。

 パラパラと部屋の壁から破片が落ちる。「ふぅ~」と息を吐きイケメンスマイルで香織達へ振り返った光輝。香織達を怯えさせた魔物は自分が倒した。「もう大丈夫だ!」と声を掛けようとして、笑顔で迫っていたメルド団長の拳骨を食らった。

 

「へぶぅ!?」

「この馬鹿者が。気持ちはわかるがな、こんな狭いところで使う技じゃないだろうが! 崩落でもしたらどうすんだ!」

 

 メルド団長のお叱りに声を詰まらせ、バツが悪そうに謝罪する光輝。香織達が寄ってきて苦笑いしながら慰める。

 

 その時、ふと香織が崩れた壁の方に視線を向けた。

 

「……あれ、何かな? キラキラしてる……」

 

 

 その言葉に、全員が香織の指差す方へ目を向けた。

 

 

 

 

 




白魔法については光属性・回復・結界・付与系統の魔法が合わさったものとお考えください。


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ベヒモス(第6話)

おや、原作の様子が……


 そこには青白く発光する鉱物が花咲くように壁から生えていた。まるでインディコライトが内包された水晶のようである。香織を含め女子達は夢見るように、その美しい姿にうっとりした表情になった。

 

「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」

 

 グランツ鉱石とは、宝石の原石みたいなもので特に何か効能があるわけではないが、その涼やかで煌びやかな輝きが貴族のご婦人ご令嬢方に大人気であり、加工して指輪・イヤリング・ペンダントなどにして贈ると大変喜ばれるらしい。求婚の際に選ばれる宝石としてもトップ三に入るとか。

 

「素敵……」

 

 香織が、メルドの簡単な説明を聞いて頬を染めながら更にうっとりとする。そして、誰にも気づかれない程度にチラリとハジメに視線を向けた。もっとも、雫ともう一人だけは気がついていたが……

 

「だったら俺らで回収しようぜ!」

 

 そう言って唐突に動き出したのは檜山だった。グランツ鉱石に向けて身軽に崩れた壁を登っていく。それに慌てたのはメルド団長だ。

 

「こら!勝手なことをするな!安全確認もまだなんだぞ!」

 

 しかし、檜山は聞こえないふりをして鉱石の場所に辿り着いてしまった。

 メルド団長は、止めようと檜山を追いかける。同時に騎士団員の一人がフェアスコープで鉱石の辺りを確認する。そして、一気に青褪めた。

 

「団長!トラップです!」

「ッ!?」

 

 しかし警告は一歩遅く檜山がグランツ鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がる。その様子を冷静に見つめる歩太とリニス。

 

「私達はこのままで良いとして他の方は……」

「見捨てる訳にはいかんので助ける方向で行くぞ。何人かは吹き飛ばしたらイケるか……? 詠唱はメンドイ──〝旋華(せんか)〟」

 

 生徒達の視界を白一色に染めると同時に一瞬の浮遊感に包まれる。

 

 生徒達は空気が変わったのを感じた。次いでドスンという音と共に地面に叩きつけられクラスメイトのほとんどは尻餅をついていた。

 

「十二、三人くらいは間に合ったみたいだな」

「あの……南雲さんを手で掴んで投げてませんでした?」

「あぁ。念入りに気絶させてから投げ飛ばしたな」

「私、思わずビックリしたんですよ?」

「いや、だって主人公だぞ?気絶してなきゃここまで意地でも到着するかもしれないだろ?折角の離脱ポイントで邪魔されるのは嫌だから不確定要素は消しときたかったんだよ」

 

 先ほどの魔法陣は転移させるもので歩太達が転移した場所は巨大な石造りの橋の上だった。ざっと百メートルはあり天井も高く二十メートルはあるだろう。橋の下は川などなく、全く何も見えない深淵の如き闇が広がって落ちれば奈落の底といった様子だ。

 橋の横幅は十メートルくらいありそうだが、歩太達はその巨大な橋の中間にいた。橋の両サイドにはそれぞれ奥へと続く通路と上階への階段が見える。それを確認したメルドが、険しい表情をしながら指示を飛ばした。

 

「お前達、直ぐに立ち上がってあの階段の場所まで行け。急げ!」

 

 慌ただしく逃げようとするが、階段側の橋の入口に現れた魔法陣から大量の魔物が出現した。更に通路側にも魔法陣は出現し、そちらからは一体の巨大な魔物が現れた。巨大な魔物を呆然と見つめるメルドの呻く様な呟きがやけに明瞭に響いた。

 

 

「まさか……ベヒモス……なのか……」

 

 

 ◆◆◆◆

 

「うん、まさに阿鼻叫喚だな」

「皆さん、混乱のまま武器を振っているので非常に危険です。能力が高いために何とかなっている状態ですが、それもいつまで保つか……」

 

 歩太とリニスは先程から手を動かしながらトラウムソルジャーという魔物を処理しながら情況を整理していた。

 通路側の魔法陣は十メートル近くあり、階段側の小さな無数の魔法陣からは骨格だけの体に剣を携えて溢れるように出現した。空洞の眼窩からは魔法陣と同じ赤黒い光が煌々と輝き目玉の様にギョロギョロと辺りを見回している。その数は、既に百体近くに上っており、尚も増え続けている。しかしも数百体のガイコツ戦士の反対側の通路で十メートル級の魔法陣からは体長十メートル級の四足で頭部に兜のような物を取り付けた魔物が出現した。メルドが呟いたベヒモスという魔物は、大きく息を吸うと凄まじい咆哮を上げた。

 

「アラン!生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ!カイル、イヴァン、ベイル!全力で障壁を張れ!ヤツを食い止めるぞ!光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」

「待って下さい、メルドさん!俺達もやります!あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイでしょう。俺達も……」

「馬鹿野郎!あれが本当にベヒモスなら今のお前達では無理だ!ヤツは六十五階層の魔物。かつて、最強と言わしめた冒険者をして歯が立たなかった化け物だ!さっさと行け!私はお前達を死なせるわけにはいかないんだ!」

「見捨ててなど行けない!」

 

 どうにか撤退させようと再度メルドが光輝に話そうとした瞬間、ベヒモスが咆哮を上げながら突進してきた。このままでは、撤退中の生徒達を全員轢殺してしまうだろう。

 

 そうはさせるかと、ハイリヒ王国最高戦力が全力の多重障壁を張る。

 

「「「全ての敵意と悪意を拒絶する 神の子らに絶対の守りを ここは聖域なりて 神敵を通さず──〝聖絶〟!!」」」

 

 二メートル四方の最高級の紙に描かれた魔法陣と四節からなる詠唱、さらに三人同時発動。一回こっきり一分だけの防御であるが、何物にも破らせない絶対の守りが顕現する。純白に輝く半球状の障壁がベヒモスの突進を防ぐ。

 その一方で歩太達はトラウムソルジャーを処理しながら個別に生徒達に声をかけて多少落ち着かせることに成功して少し余裕ができていた。

 

「んじゃ、そろそろ行ってくる」

「私は歩太が落ちる所に叫びながら向かっていけば良いんでしたよね?」

「最悪、無理そうだったら連絡してくれ。俺の方から()ぶから。じゃあ行くぞ──恵里」

 

 歩太に名前を呼ばれた少女…中村恵里はとある事件をきっかけに霊力に目覚めてしまい、その危険性もあって一年前から歩太に弟子入りという形で共に過ごしている仲である。

 

「えっ?あの……落ちるってボクも一緒にってことなの、アユ君?」

「さぁしっかり掴まれよ、一気に向こうまで跳ぶから」

「ちょ、まだ答えてもらってな──キャヤァァアアア!?」

 

 歩太は素早く恵里の腰に手を回して跳躍した。

 

「どんまいです、恵里」

 

 

 ◆◆◆◆

 

「ええい、くそ!もう保たんぞ!光輝、早く撤退しろ!お前達も早く行け!」

「嫌です!メルドさん達を置いていくわけには行きません!絶対、皆で生き残るんです!」

「くっ、こんな時にわがままを……」

 

 メルド団長は苦虫を噛み潰したような表情になる。この限定された空間ではベヒモスの突進を回避するのは難しい。それ故、逃げ切るためには障壁を張り、押し出されるように撤退するのがベストだ。

 しかし、その微妙なさじ加減は戦闘のベテランだからこそ出来るのであって、今の光輝達には難しい注文だ。

 その辺の事情を掻い摘んで説明し撤退を促しているのだが、光輝はどうしても納得できないらしく、自分ならベヒモスをどうにかできると思っているようだ。

 

「光輝!団長さんの言う通りにして撤退しましょう!」

 

 雫は状況がわかっているようで光輝を諌めようと腕を掴む。

 

「へっ、光輝の無茶は今に始まったことじゃねぇだろ?付き合うぜ、光輝!」

「龍太郎……ありがとな」

「状況に酔ってんじゃないわよ!この馬鹿ども!」

「雫ちゃん……」

 

 苛立つ雫に心配そうな香織。

 

 眼前の危険を前にして時間を無為にし、障壁として張られていた〝聖絶〟は間も無く限界を迎えた。

 

「下がれぇ──!」

 

 メルドの悲鳴と同時に障壁が砕け散り、暴風のように荒れ狂う衝撃波が騎士団と光輝達を襲い吹き飛ばされ倒れ伏し呻き声を上げる。

 衝撃波の影響でベヒモスの近くにいた全員が倒れていてすぐに身動きが取れないようだ。ベヒモスは雄叫びを上げながら此方に向かってくる。

 

「グウゥアアアア!!」

 

「──〝縛光刃〟〝縛煌鎖〝。よし…やれ、恵里」

「ああもう!──〝落妖(らくよう)〟!!」

 

 その時、二組の男女が光輝達の前に飛び込んできた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




・原作登場魔法
■縛光刃(ばくこうじん)…光の十字架を飛ばして対象を捕縛する光属性魔法。
■縛煌鎖(ばくこうさ)…無数の光の鎖を伸ばして対象を捕縛する光属性魔法。
・当作品オリジナル魔法
◼️旋華(せんか)…突風を起こして相手を吹き飛ばす魔法。←歩太はこのあと離脱するからバレても問題ないという意識でステータスプレートに無い風属性魔法をトラップの魔方陣から切り離すためにしれっと使った。
■落妖(らくよう)…闇色の魔力光を相手に放ち、意識を混濁させて気絶させる闇属性魔法。


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悲劇?喜劇?(第7話)

 中村恵里は原作での転職が降霊術師だし病み具合もこの作品の世界(設定上:和製混ぜ交ぜファンタジー)に巻き込まれそうだなぁと考えた結果、歩太の陣営に加えました。


 中村恵里について…高校一年生時、光輝に近づくメス犬を密かに処理してたせいで元々纏わり付いた負の念が多くなっていき、強い負の気配を感じた妖怪複数とエンカウント。

 異界に連れ込まれ必死に逃げるも少しずつ怪我を負わされて力尽きその場で倒れる。終始、光輝の名前を呼んで助けを求めるが来るはずがない。

 自分のこれまでの人生を振り返り、最悪な人生を与えた世界に呪詛を吐く直前に間に合った歩太に助けられた。圧倒的な力を持って妖怪達を屠る歩太の姿に目を奪われる。歩太は救助に遅れたことを謝罪して相手の方を見ると同じクラスの女子だと気づいた。恵里の方も同じクラスの歩太に助けられたことに気づき驚く。

 治療をしつつ恵里の身体に異常が無いか確認した後、歩太は記憶処理をしようと考えていたが問題が発生。

 恵里の身体から霊力が漏れており、負の念も纏わりやすいことが分かった。このまま放っておくとまた襲われるために、そして素質があったので陰陽師にならないかとスカウトすることに。

 そして紆余曲折あって歩太とリニスの家に弟子として居候することになった。二人と過ごしていく恵里はもう味わうことのない家族の温もりに触れることに。また、非日常が日常となった日々を過ごすこともあり、結果的に光輝のことはどうでもいい存在になった。

 

 なぜなら本当に自身を守ってくれる存在と出会えたから。

 

 

◆◆◆◆

 

「グゥオオオ!?ガァアっ!……ガアァ……グゥォ……」

 

 ベヒモスは歩太にガチガチに固められ身動きできず、その隙に恵里によって意識を飛ばされた。歩太はメルド達騎士団と光輝達を魔法で回復させた。

 

「天恵よ 遍く子らに癒しを──〝回天〟……。後はこのまま暫く維持するだけだな」

「ねぇ、アユ君。この下に飛び降りるって本気?冗談だよね?」

「恵里。出会ってから一年が過ぎたことだし次のステップアップしてみようか」

「えっ?」

俺らの世界(和製ファンタジー)で生きるからには想像を絶する恐怖や数の暴力、自分より強い相手との生きるか死ぬかの瀬戸際の戦いは二度三度は経験しておいた方が良い」

「……だから?」

「奈落に一緒に行くから」

「直前に言うのやめてくれない!?」

 

 歩太は恵里を弟子にしてから普段の修行はどういった内容なのか事前に伝えたりするのだが特別な修行を行う際は臨機応変を心掛けられるようにいつも直前に言っている。想定外の事が起こるなんてこの業界では日常茶飯事だ。実際、歩太も師匠の鶴子に何も告げられず疲れきって寝ている自分を富士の樹海に放り込んだりされた。死の危険で目を覚めさせられるなんてあの師匠本当に容赦ない。弟子なら大丈夫だと信頼しての試練なのだろうが。

 それに比べて自身は弟子に対して甘いとと歩太は考えている。

 

「じゃあ恵里、打ち合わせ通りに」

「もうっ、やればいいんでしょ!」

 

 

◆◆◆◆

 

「出雲…それに恵里も……」

 

 光煇は自分が助けられた相手を見て唖然とした声を出した。他の助けられたメンバーも驚いているが歩太は無視して全員を急かす。

 

「ここは自分と恵里で引き受けますんで早く撤退を」

 

 歩太の冷静な言葉に光煇達は現状を思い出し素早く行動に移ろうとするも戸惑いを隠せない。

 

「いきなりなんだ?なんでこんな所にいるんだ、出雲!恵里も巻き込んで君は正気か!ここは君達がいていい場所じゃない!俺達に任せて恵里は早く……」

 

「そんなこと言っている場合か!あれが見えないのか?皆、パニックになってる。導くリーダーがいないからだ!」

 

 光煇の中で歩太は物事に消極的で言い訳ばかりするイメージでいつもとのギャップに思わず硬直する。

 

「俺とリニスである程度落ち着かせたがそれだけじゃダメなんだ。皆を導き、助けるにはお前しかできないんだよ!」

 

 歩太は光輝の胸ぐらを掴みながら訴える。光煇が階段の方に視線を向けるとトラウムソルジャーに囲まれ、未だ右往左往しているクラスメイト達がいた。

 効率的に倒せていないから敵の増援により未だ突破できないでいた。スペックの高さが命を守っているが、それも時間の問題だろう。

 

「一撃で切り抜ける力が必要なんだ!皆の恐怖を吹き飛ばす力が!それが出来るのは天之河だけだ!前ばかり見てないで後ろもちゃんと見ろ!メルドさん達も早く皆の所へ!」

 

「光煇君!それに皆!ボク達も頑張るから早く鈴達を助けてあげて!」

 

 歩太と恵里の言葉に光煇は今守るべきものを理解して頷く。額から汗を流しながら今にも目覚めそうなベヒモスを必死に抑えている歩太を見てメルドは確認する。

 

「……やれるんだな?」

「「やります」」

 

 確固たる意志を宿した眼を真っ直ぐ向けてくる歩太達にメルドは笑みを浮かべる。

 

「くっ。まさか、お前さん達に命を預けることになるとはな。……必ず助けてやる。だから……頼んだぞ!」

 

「「はい!」」

 

 光煇達とメルド達は階段に向かう。

 

 階段にいる生徒達は何とか連携して敵を倒しているものの、如何せん出現するスピードが速く徐々に劣勢を強いられていた。騎士達の奮闘もあり、誰も脱落している者はいないがそれも時間の問題である。自分の運命を悟り諦めの境地に立たされようとしていた。

 

「──〝天翔閃〟!皆、諦めるな!道は俺が切り開く!」

 

 そんなセリフと共に、再び〝天翔閃〟が敵を切り裂いていく。光輝が発するカリスマに生徒達が活気づく。

 

「お前達、今まで何をやってきた!訓練を思い出せ!さっさと連携をとらんか、馬鹿者共が!」

 

 皆の頼れる団長が〝天翔閃〟に勝るとも劣らない一撃を放ち、敵を次々と打ち倒す。そしてついに包囲網を突破した。リニスは密かにトラウムソルジャーが出現する魔方陣を少しずつ壊していたのでこれ以上増えることもない。あとは橋でベヒモスを抑えている歩太と恵里が下がれば完璧だ。

 

「お前ら!今、坊主達がベヒモスを抑えている!ここまで逃げる時に抑えが無くなりベヒモスが坊主達を追ってくるだろうから魔法で援護するぞ!タイミングは俺が指示する!」

「出雲君!恵里!こっちはもう大丈夫だから早くそこから離れて!」

 

 八重樫雫は歩太達に離れるよう大声で伝えた。歩太達の周りには魔力の回復薬の空瓶が何本も転がっている。クラスメート達は歩太達の献身に感動して雫に続き次々と声をかける。

 歩太達は少し足元が覚束ないまま階段に向かって走る。

 

「グォォオオオオ!!」

 

 ベヒモスは枷から解放されて雄叫びを上げた。自身を縛り上げた相手が走って逃げているのを確認するとその場で地団駄を踏み怒りの咆哮を上げ歩太達を追いかける。赤熱化した角を掲げて突撃、跳躍して歩太達を飛び越え逃げ道を塞いだ。もう魔力が残ってないのか歩太達は悔しそうな顔をしている。

 

「くっ、仕方ない!お前達、しっかり狙え!決して坊主達に当てるなよ──放てっ!!」

 

 メルドの声にクラスメート達は次々と準備していた魔法をベヒモスに向ける。流石のベヒモスも集中砲火には耐えられないのか苦痛な叫びを上げる。そして断末魔のような声を出して倒れるのであった。

 

「良くやったぞ、お前達!」

 

 メルドがそう言うと皆はこの絶望を乗り越えたのだと歓声を上げた。

 

「恵里、もう大丈夫だ。早く此方へ来るんだ」

「エリリン、イズッチ、お疲れ様っ!あとは鈴達に任せてゆっくり休んで」

「出雲君、恵里。あなた達のおかげで助かったわ。本当にありがとう」

 

 光煇、谷村鈴、雫が声をかける。歩太達は緊張の糸が途切れたのかその場でしゃがみ、苦笑を浮かべながら手を振る。リニスはそんな二人を見て微笑む。

 これで危機は去った。誰もがそう思った時、死んだはずのベヒモスが動き出した。

 

「ガァアアア!!」

 

 その死に体な身体を持ち上げ瞳を血走らせて歩太達を見ていた。

 

「なん、だとっ!?」

「どうして!?」

「二人とも早く逃げてっ!」

 

 ベヒモスは頭部の角を再び赤熱化させてその頭を歩太達に向けて振り下ろしす。歩太は動けない恵里を抱えて何とか避けるも衝撃の余波で恵里ごと吹き飛ばされた。ピクリとも動かない歩太達。ベヒモスは最後の力を振り絞らんとばかりに近付いていく。

 そんな時、橋が大きな音を立てる。ベヒモスの巨体に見合う重量、クラスメートの魔法による集中砲火、再び起き上がったベヒモスの渾身の一撃…それらの衝撃によって橋の耐久が限界を超えて崩壊していく。リニスは歩太達を救うべく向かおうとするが光煇に止められる。

 

「歩太っ!恵里っ!離して下さい!今、助けないとっ!今、向かわないと間に合わないのです!!」

 

「橋が崩れるぞ、このままではここも危ない!早く階段の奥まで走れっ!」

「いやっ!離してっ!離して下さいっ!」

 

 メルドの声にクラスメート達は急いで走り、事なきを得たがその間に橋は崩壊の速度を上げて歩太達は奈落に墜ちていった。

 

「あっ……歩太───ァアアアア!!!」

 

 歩太達は奈落の闇へと消えていく。リニスはその瞬間を見て絶望の声を上げた。

 

助けないと……はやく、たすけないと……

「離してっ!エリリンがっ!鈴は行かなきゃ行けないのっ!!」

 

 身体から生気が抜けたようにふらふらと定まらない瞳を奈落に向けて動かすリニス。鈴も親友の恵里を救うために先ほどから騎士達の抑えを振りほどこうと力を入れる。

 

「リニス!鈴!君達まで死ぬ気か!恵里達はもう無理だ!落ち着くんだ!このままじゃ、体が壊れてしまう!」

「ムリじゃないもん!エリリンもイズッチもまだ生きてるもん!だから邪魔をしないでっ!」

「二人はもう助からないっ!現実を見るんだ鈴!」

「そんなの知らないよ!早くそこを退いてっ!」

 

 光煇はリニスから離れて鈴と向き合って説得していた。リニスは橋が途切れた場所までゆらりと歩いていく。そんなリニスを雫は抱き締めた。彼女がどれほど歩太のことを想っているのか良く分かっているため慰めの言葉が浮かばない。

 あの時、自分達が早くメルドの指示に従っていればこんなことになっていなかったと悔やむ。

 

「リニス、ごめん、ごめんなさい……」

 

 小さく何度も歩太の名前を呼ぶリニスに涙を流しながら謝ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 




歩太「リニスの女優っぷりに驚愕。うるっときた」
恵里「リニスさん、超ぷりてぃ。抱き締めたい」
リニス「そんな褒めすぎですよ、二人とも。歩太だって必死な顔を取り繕ってるのは演技とは思えなかったほどでしたし。恵里だって絶妙なタイミングでベヒモスの死体を動かしていたじゃないてすか」
歩太・恵里「「いや~、照れる」」

以上、三人の脳内会話でした。


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奈落の底(第8話)

『あー……テステス。聞こえるか、リニス?』
『感度良好。問題ありません』
『そっちはどうだ』
『順調に入口に向かって進行中です。予め設置したサーチャーで確認したところ、まもなく上の階の皆さんと合流しますので安全かと思われます』
『そっか。所でリニスはあれからどんな状態?』
『メルド団長に首トンされて気絶してるフリをしてます。彼に担がれてるので非常に汗臭いです。デオドランスやファブリーズ案件です』
『猫又で花も恥じらう女子高生にはオッサンの汗は物理的にも精神的にも余計にキツいだろうな。夜になったら時間通りに連絡する』
『分かりました。それでは』







「うぅ…怖かったよ~、死ぬかと思ったぁ……」

 

 恵里は腰を下ろして自分を抱き締めるように三角座りの状態で生きてることの喜びと中々終わりが見えてこない長い長い落下の恐怖が入り交じった表情で涙を流している。

 

「いや~長かったな。101層まで36階分の距離だから当たり前っていえばそうなんだけど」

 

 ハハハ、と笑い元気そうな歩太に恵里は噛みつく。

 

「よく言うよ!落ちてる時に『うおぉ…天然のウォータースライダーかぁ……』って言って笑いながら滅茶苦茶楽しんでたじゃん!?ボクは本当に怖かったんだからね!?」

「よし。そろそろ探索するぞ、恵里」

「話し聞けよ、ばかぁーーー!!」

 

 恵里は地面から立ち上がり、さくさく移動を始めた歩太を罵倒しながら追いかけた。

 

 

◆◇◆◇

 

 周りは薄暗いが緑光石の発光のおかげで何も見えないほどではない。横に並びながら恵里は歩太にぶつくさと文句を言っていた。

 やれ、修行が厳しい。やれ、休日を増やして。やれ、もっと優しくして。やれ、もっと甘えさせて。

 

「いいかげん、ボクともシてくれたっていいじゃん!とことん尽くすタイプだよ、ボク」

「そう明け透けに言われると萎える」

「なんでだよッ!リニスさんとヤることヤってるの知ってるんだからねっ!」

「年季が違うわ。リニスとは何年も共に苦楽を乗り越えて、もうお互いに無くてはならない存在なんだ。だから、そういうこともするんだよ。別に恵里にも好意はあるし、抱かないとも言ってない。ちゃんと責任は取るさ」

「えっ……ホントに?」

「もちろん。それにリニスだって恵里を受け入れてるのは分かってるだろ?」

「……うん。初めはボクより先にアユ君に出会っただけのメス犬だと思って、いずれ処理しようと隙を見つけては事故と見せかけて何度も実行したんだ。けど平然と防がれちゃうし。

 たまにお仕置きされて、その日のご飯をボクの嫌いな物尽くしで出されたこともあった。

 でもリニスさんは怒ってはなくって…。子供に言い聞かせるように優しくしてくれて…。こっちが頷くと、ぎゅっと抱き締めてくれるんだ…。大切に想ってくれてるのがすっごく伝わってきて、気づけば大好きになってた。それに元の姿があんな可愛い猫だなんてギャップにもやられちゃったよね。あんなの反則だよっ」

「分かる。二つの姿を駆使して寄り添ったり甘えてきたりするからヤバい」

「掃除・洗濯・家事・子育て・戦闘ができて優しくて綺麗で可愛いくてスタイルも抜群とか好きならないはずがないよっ!」

 

 気づけばリニスの可愛さ談義となり盛り上がりだした2人だが、警戒は怠っていない。順調に足を進めていくと、直進方向の道に白い毛玉がピョンピョンと跳ねているのが分かった。長い耳もあって見た目はまんまウサギだった。

 ただし、大きさが中型犬くらいあり後ろ足がやたらと大きく発達している。そして何より赤黒い線がまるで血管のように幾本も体を走り、ドクンドクンと心臓のように脈打っていた。

 

「…なんか可愛くないなぁ」

 

 恵里は残念そうに呟く。その瞬間、ウサギがピクッと反応したかと思うとスッと背筋を伸ばし立ち上がった。警戒するように耳が忙しなくあちこちに向いている。

 

「グルゥア!!」

 

 獣の唸り声と共に、これまた白い毛並みの狼のような魔物がウサギ目掛けて岩陰から飛び出したのだ。

 その白い狼は大型犬くらいの大きさで尻尾が二本あり、ウサギと同じように赤黒い線が体に走って脈打っている。

 どこから現れたのか一体目が飛びかかった瞬間、別の岩陰から更に二体の二尾狼が飛び出す。

 

「キュウ!」

 

 襲われるかと思いきや、可愛らしい鳴き声を出してウサギがその場で飛び上がり、空中で一回転する。その太く長いウサギ足で一体目の二尾狼に回し蹴りを炸裂させた。

 およそ蹴りが出せるとは思えない音を発生させてウサギの足が二尾狼の頭部にクリーンヒットする。

 ゴキャ…、と鳴ってはいけない音を響かせながら狼の首があらぬ方向に捻じ曲がってしまった。

 そうこうしている間にもウサギは回し蹴りの遠心力を利用して更にくるりと空中で回転すると、逆さまの状態で空中を踏みしめる。

 地上へ隕石の如く落下し、着地寸前で縦に回転。強烈なかかと落としを着地点にいた二尾狼に炸裂させた。

 その頃には更に二体の二尾狼が現れて着地した瞬間のウサギに飛びかかるも、ウサギはウサ耳で逆立ちしブレイクダンスのように足を広げたまま高速で回転をした。

 

「「おおおっ!」」

 

 歩太と恵里は思わず歓声を上げる。飛びかかっていた二尾狼二匹が竜巻のような回転蹴りに弾き飛ばされ壁に叩きつけられ、壁に飛び散ってズルズルと滑り落ち動かなくなった。

 最後の一匹が唸りながらその尻尾を逆立てる。その尻尾がバチバチと放電を始めた。

 

「グルゥア!!」

 

 咆哮と共に電撃がウサギ目掛けて乱れ飛ぶ。しかし、高速で迫る雷撃をウサギは華麗なステップで右に左にとかわしていく。

 そして電撃が途切れた瞬間、一気に踏み込み二尾狼の顎にサマーソルトキックを叩き込んだ。

 二尾狼は仰け反りながら吹き飛ぶ。グシャ、と音を立てて地面に叩きつけられた。

 

「キュ!」

 

 勝利の雄叫び?を上げ、耳をファサと前足で払った。

 

「じゃあ恵里。修行を開始しようか、先ずあれな」

「はーい。縛りはあるぅ?」

「ナシで」

「お、全力でやっちゃっていいんだね。わかった」

 

 歩太達は大声は出していないが普段より小さい程度の音量で会話をしていたので、あのウサ耳がこちらを捕捉しないはずがない。

 

「キュゥウウ?」

「う~ん…先ずこの子で試してみよっか。じゃーね───〝秤剥(ひょうはく)〟」

 

 恵里はウサギの魂をその身体から強制的に剥がす魔法を唱えるとウサギは為す術がないまま力尽きる。

 

「お、上手くいったな」

「これでも降霊術師ですから。こっちに来てから魂に対する理解力がかなり上がったからね。その内、この分野に関してはアユ君を超えるかもよ?」

「はいはい期待してるよ。それで散らしてないその魂はどうするんだ?」

「ふふん、決まってるじゃん?経験値にするんだよ。──〝吸魂(きゅうこん)〟」

 

 魔物の魂は分解されて光の粒となり、恵里の身体に徐々に染み込むように入ってく。全て吸収し終えて彼女はステータスを確認した。

 奈落の底に着いた直前の恵里のステータスは、

 

==========

 

中村恵里 17歳 女 レベル:23

 

天職∶降霊術師

 

筋力∶160

 

体力:176

 

耐性:165

 

敏捷:132

 

魔力:198

 

魔耐:182

 

技能:

・闇属性適性[+降霊術][+発動速度上昇][+効果上昇][+詠唱省略][+魂魄汚染耐性][+魔力消費減少][+持続時間上昇]

・炎属性適性[+発動速度上昇][+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇]

・魔力操作

・言語理解

 

 

==========

 

「前にアユ君に言われて地上の魔物でやった時は平気だったけど、やっぱり深層の魔物だからか取り込む時にちょっとピリッとしちゃった。アユ君、見て見てぇ」

「ほほう…あの足技だったし、納得の固有魔法だな」

 

 ウサギの魔物を吸収した後のステータスは、 

 

==========

 

中村恵里 17歳 女 レベル:25

 

天職∶降霊術師

 

筋力∶260

 

体力:276

 

耐性:265

 

敏捷:232

 

魔力:298

 

魔耐:282

 

技能:

・闇属性適性[+降霊術][+発動速度上昇][+効果上昇][+詠唱省略][+魂魄汚染耐性][+魔力消費減少][+持続時間上昇]

・炎属性適性[+発動速度上昇][+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇]

・魔力操作

・天歩[+空力][+縮地]

・言語理解

 

 

==========

 

「レベルが2つしか上がってないのに100もステータスが上がってるよっ!」

 

 歩太は無邪気に喜ぶ恵里の頭を褒めるかのように撫でる。

 

「この調子でさくさく行こうか」

「おぉーーっ!」

 

 

 

 




 闇属性の降霊術を回復魔法みたいに光属性適性から別枠でスキル化するか悩んだ結果、とりあえず闇属性適性に混ぜました。後々に変更するかもしれません。
 あと恵里の魔力ステータスは低いのは最近になって魔力操作を手に入れたためです。後からバグっていきます。


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