男嫌いな軍師の婚約者だった男の話 (鈴木颯手)
しおりを挟む

男嫌いの軍師の婚約者になった男の話

口調が違うと思われるかもしれませんが許して。作者は恋姫シリーズやった事も見た事も無いんです!
なら書くなよ!とかそんなこと言わないでください。


「ちょっと!これは何なの!?」

 

とある街にあるお屋敷に甲高い少女の声が響く。その屋敷に奉公する者は声が聞こえた方を見て誰もがまたか、と思い自分の作業に戻る。

彼らが見る視線の先には猫耳の頭巾をかぶった少女とその少女に頭を下げる男の姿があった。少女はこの屋敷の主の娘である荀彧である。この屋敷、いやこの街では誰もが知る男嫌いで有名であった。そんな荀彧に頭を下げる男は16、7くらいであろうか?武官の様にがっしりとした体形ではないが文官の様に細い体でもない。どちらとも言えない体形であった。そして体形からも分かる通り武官としても文官としても男は本職には適わず努力してもそれが芽吹く才能も存在しなかった。しかし、彼は荀彧の側近として彼女の傍で働いていた。

本来なら微妙なこの男が付ける職ではないが勿論理由は存在する。彼は荀彧の婚約者であった。彼の父親は荀家とは深い縁を持っておりその為荀彧が産まれた時には婚約者と決まっていたのだ。

いずれ荀家の後継者となる彼は早い時期から荀彧の側近として活躍してきたわけだが……。

 

「ここと、ここと。それにここ!計算が違っているわよ!」

「も、申し訳……」

「謝るなら最初から間違わないで!これだから男は……!」

「……」

 

平謝りする彼に荀彧は容赦ない罵声を浴びせる。実際彼女の言う通り指摘された箇所は計算が間違っており彼に反論の機会を与えなかった。尤も反論すれば今以上の罵声が飛んできて徹夜しなければ間に合わない量の仕事が来るためひたすらに耐えていた。

 

「いい!?次間違えたら今月の貴方の給料はなしよ!それが嫌なら間違えない事!何なら算術の勉学から学びなおす?貴方な見たいな馬鹿な男には一生無理でしょうけど」

「……申し訳ございません」

「だから!謝るなら最初から間違わないでよ!全く、貴方みたいな人が何で私の婚約者何だか……。母上の気持ちが分からないわ」

「……」

 

ここに来てから二年。毎日の様に続く罵倒に彼の心は日に日に衰弱していった。それでも彼は自分は荀彧の婚約者だ、と言い聞かせ一日一日を過ごしてきた。何時か荀彧の態度が軟化することを信じて。

 

しかし、彼の心はその前に限界を迎える事になる。

 

 

 

 

 

 

とある日、荀彧が一週間ほど不在にしていた。何でも曹操様という方に仕えるために自ら赴いているそうだ。彼は二年ぶりに静かな時を過ごすことが出来仕事も捗っていた。

 

「煉!私曹操様に仕えることになったわ!」

 

静かに書類仕事をこなしていると一週間ぶりに荀彧と会い開幕そう言ってきた。

因みに彼の仕事部屋は荀彧の隣の部屋だ。側近になったばかりの頃は一緒に仕事場で働いていたが荀彧が「馬鹿な男と一緒の部屋で仕事をしたくない」といい今は隣の部屋で仕事をしていた。

 

「それは……。おめでとうございます」

「そんなわけだから一週間後に曹操様の元に向かうわ」

 

随分と早いなと思いつつ荀彧の士官が決まった事を彼は喜んだ。荀彧は余程嬉しいのか彼でも初めて見るえみを浮かべていた。

 

「(荀彧……。こんなふうに笑うのか)分かりました。準備を手伝います」

「結構よ!貴方に私の物は触らせたくないわ」

「失礼しました」

「全く、でも曹操様に仕えることが出来るなんてとても嬉しいわ!きっと毎日が楽しい者になるに違いないわ!」

「……」

「あ、煉はこのままこの家で……。いえ、一緒に来てもらうわ」

「え?」

 

まさかの返事に彼は驚く。普段の荀彧ならこんな事は言わない。彼はてっきり「あんたみたいな無能な猿を曹操様に近づけたくはないわ!」といって置いて行かれるとばかり思っていた。

 

「当たり前でしょ?貴方みたいな無能な猿は荀家に相応しくないもの。適当にあっちで家を買って過ごしてちょうだい」

「それは……」

「なに?文句あるわけ?使えないあんたが?」

 

荀彧の言葉に彼は黙る。荀彧の言葉通りなら彼は荀家を出だされ曹操様の赴任先の街に行き当たりばったりで向かい職も家も自分で探せと言っているのだ。正直彼の懐は温かくはない。荀彧に給料のほとんどを取り上げられてきたからだ。今までは荀家のお屋敷に住むことが出来食事も出されたが出て行けばそれもなくなる。出て行っても直ぐにお金は尽きてしまうだろう。そうなれば家を買うどころか日々の食事すら不可能になる。

 

「……まぁ、あんたみたいな猿にはそんな事が出来るとは思えないから特別に私の家に住まわせてあげてもいいわ」

「……」

「その代り私の為に一層尽くしなさい。食事洗濯家事掃除は完璧にこなしなさい。それと私は文官として曹操様の近くで働くからお弁当も作りなさい。いいわね?」

「……はい」

「どうせろくに出来ないだろうけど一応私の婚約者だからこき使ってあげるのよ?全く、どうせなら曹操様の様な人と婚約者になりたかったわ。こんな、出来損ないじゃなくて」

「……っ!」

 

荀家の言葉に彼は悔しげに俯く。何も言わない彼に荀彧はふん、と小馬鹿にしたように鼻を鳴らすと部屋を出て行った。荀彧が部屋を出てから数分後。彼は再び書類仕事に戻る。しかし、彼の手は震え顔からしずくが垂れていた。

 

 

 

翌日、いつまでも起きてこない彼に苛ついた荀彧が彼の寝室に行くとそこには彼の姿はなく奇麗に畳まれた布団とその上に一枚の紙が置いてあった。

紙には「自分は荀彧の婿としてやっていける自信がなくなりました。今までありがとうございました」とだけ書かれていた。この紙を見た荀彧は怒り狂い兵を上げてまで彼を探させたが既に深夜には屋敷を出ていたため彼を見つける事は出来なかった。

一週間後。荀彧は曹操の元へと向かった。荀彧はその智謀を持って曹操を支え彼女の信頼を直ぐに勝ち取っていった。荀彧は後漢が倒れ天下が魏、呉、蜀に別れてからも曹操の下でその力を振るっていった。

しかし、彼女は自分の真名を同僚はおろか曹操にさえ明かさなかった。それに彼女は曹操がかつて拠点とした街に一月に一度は必ず戻りとある家に入っていく。荀彧のその行動に同僚は疑問に思い彼女に聞くがそれに対する荀彧の回答は男にすら言わないであろう罵声であったという。次第に荀彧の行動を口にする者はいなくなりこの行動は暗黙の了解となっていった。

 

そんな彼女は今でも家に戻る。彼の為に用意した家に。

 

彼女は家で一人考える。仕事を終えて帰ってきた自分を料理を作り出迎える彼の姿を。

 

彼女は一人呟く。いなくなった彼に対する呪詛を。震える声で今日も彼女は彼に対する罵声を続けた。

 




ヤンデレにしたかったのになんか違う……。ううむ、難しい。

こんな駄作でも続きが気になるという人は評価してください。書くかどうかはそれ見て決めます。

追記
活動報告にて要望受け付けてます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

桂花視点

なんかルーキー日間15位になったり経った一日で投稿中のリリなのと同等になったので宣言通り続きを書きました(相も変わらぬ低クオリティー)
恋姫の知識無いせいか桂花の口調が迷子に……。
たくさんの感想ありがとうございます。


「初めまして性を周、名を尽。字を江響と申します」

 

そう言うと周尽、煉は頭を下げた。これが私と煉の最初の出会いだった。当時すでに男嫌いだった私は開口一番こう叫んでいた。

 

「ふん!弱っちそうな猿ね!いいわ、こき使ってあげるから覚悟しなさい!」

 

今思えばもっと優しく言えば良かったんだと思う。それに気付いた今では既に手遅れだったけど。

煉は私の側近として荀家で働く事になった。私は宣言した通り煉をこき使った。毎日の様に大量の仕事を押し付け失敗すれば怒鳴り罵声を浴びせた。煉はひたすら謝っていた。私はただ謝る煉に怒りを覚え更に罵倒してその月の給料を取り上げた。

煉はあまり才能がなかった。文官としても武官としても重要な立場になれる事はない。どんなに頑張っても副官が精々だった。私はそれを煉に罵声と共に教えてあげた。この時の私はとても嬉しかった。私は既に煉に恋していたんだと思う。でも、認められなくて罵声を浴びせた。

煉は婚約者だから離れる事はない。どんなに罵声を浴びせても煉はずっとそばにいてくれる。そう思って私は理不尽な罵声を浴びせ続けた。

そして、それは二年も続いた。奉公人たちが煉に同情の視線を向けているのが分かる。でも誰も煉に話しかけたりはしない。私が許さなかったから。一度一人の奉公人が煉を飲みに誘ったことがあった。それを知った私は怒りのあまりその奉公人を解雇した。それ以来奉公人は煉を避けるようになった。

煉は私の婚約者。だから私だけを見ていればいい。私の指示に従っていればいい。私の為に生きていればいい。そうすれば私は、貴方を傍における。

 

 

 

 

「煉!私曹操様に仕えることになったわ!」

 

一週間ぶりに帰宅した私は母上にも付けずに真っすぐに煉の元に向かった。煉は書類に埋もれながら仕事をしていたけど私を見て仕事を中断して私の方を見る。それだけ私は嬉しくて何時も以上に機嫌が良くなった。

 

「それは……。おめでとうございます」

「そんなわけだから一週間後に曹操様の元に向かうわ」

 

曹操様からは直ぐにでも雇いたいと言われており私は家の準備などを行ってから一度帰宅したのだ。その家は煉と共に住む予定の家。この時の私は煉も一緒に連れていくつもりだった。婚約者なんだから傍にいるのは当たり前。そう思っていた。

 

「当たり前でしょ?貴方みたいな無能な猿は荀家に相応しくないもの。適当にあっちで家を買って過ごしてちょうだい」

「それは……」

「なに?文句あるわけ?使えないあんたが?」

 

そのせいだろうか。私は何時も以上に煉に罵声を浴びせた。本来なら言うつもりのなかったことまで言っていた。

 

「……まぁ、あんたみたいな猿にはそんな事が出来るとは思えないから特別に私の家に住まわせてあげてもいいわ」

「……」

「その代り私の為に一層尽くしなさい。食事洗濯家事掃除は完璧にこなしなさい。それと私は文官として曹操様の近くで働くからお弁当も作りなさい。いいわね?」

「……はい」

「どうせろくに出来ないだろうけど一応私の婚約者だからこき使ってあげるのよ?全く、どうせなら曹操様の様な人と婚約者になりたかったわ。こんな、出来損ないじゃなくて」

「……っ!」

 

この時煉の顔をちゃんと見ていればあんなことにはならなかったのかも知れない。

翌日、煉は時間を過ぎても現れなかった。

 

「まったく!煉は何しているのよ!これから忙しくなるのに……!」

 

私はそう文句を言いながら煉の寝室を開け硬直した。

部屋には誰もおらずきちんと畳まれた布団とその上に一枚の紙が置いてあった。私は震える手でその紙を取り呼んだ。

 

「自分は荀彧の婿としてやっていける自信がなくなりました。今までありがとうございました」

 

私は初めて自分が仕出かした事の重大さを知った。

 

 

 

 

 

「……ただいま」

 

曹操様が最初に統治していた場所にある私の家。月に一度家の掃除の為に訪れる。

 

「……こんなに汚れて」

 

家の中は埃だらけだった。私は掃除用具を使って家を奇麗にする。一人で住むには広すぎる家。本来なら煉と一緒に暮らす予定だった家。

本来なら売り払うべき家だけど私は出来なかった。何時か煉が私を出迎えてくれるのでは?そんな思いから曹操様の本拠地が移った今でもここに戻って来る。

……本当は分かっている。彼がこの家を知る筈がないのに帰ってくるわけがない。それどころか彼が生きているのかさえ分からない。天下が魏、呉、蜀に別れてから私は曹操様に頼み込み魏国中を探したけど見つからなかった。もしかしたら呉や蜀にいるのかも知れないし最悪の場合死んでいるかも知れない。でも、それでも!私は諦められなかった。

 

「早く、早く帰ってきなさいよ。馬鹿……」

 

彼の顔が見たい。声が聞きたい。恥ずかしくて預けられなかった真名を預け呼んでほしい。もう二度と怒鳴ったりしない。罵声を浴びせたりしないから。

 

「お願いよ……、もう一度だけ……」

 

私は暗い家の中でただ静かに泣いた。

 




評価くれたら続き書きます。ランキングに載せさせて(むちゃぶり)
明日は自宅監禁√を投稿します


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

自宅監禁√

的確なご指示をいただきました。ド正論過ぎて反論できなかったです( ;∀;)
もう少し三国志と恋姫の知識増やした方が良いなと実感しました。
知識得るためにアニメでも見てこようかな


誰もが寝静まった深夜、荀家にて一人の男が気付かれないように歩いていた。荀彧の婚約者周尽である。彼はなけなしの金銭といくつかの着替えが入った風呂敷を持っていてまるで夜逃げするような出で立ちをしていた。

実際、彼は荀家の跡取りの婚約者という地位を捨てて逃げるつもりだった。彼は毎日の様に行われる婚約者からの罵声に耐え切れなくなり荀彧の士官が決まったと同時に逃げることにしたのだ。

 

「義母上、申し訳ございません」

 

彼は門の前にてそう呟くとここから遠くへ、誰も自分を知らないような田舎を目指して走り出した。向かう先は益州。西方の異民族が気になるがあそこまで行けば自分を知るものは誰もいないだろうしひっそり暮らせるだろう。そう考えて彼は走る。彼は走りながら今後の人生を考える。もうあんな罵声を浴びせられる事はないだろう。小さな畑と小さな家を持ち優しい妻と可愛い子供と共に暮らしたい。平凡な男の平凡な夢であった。

 

 

……もし、彼がこのまま逃げ切れたならその夢が果たされたことだろう。実際別の歴史では彼は見事逃げ切り三国へと変わっていく情勢の中ひっそりと暮らすことが出来ていたのだから。

この世界の彼の不幸は何といっても走り去る彼の後ろ姿を偶々みられていた事だろう。

 

 

周尽の逃走を知った荀彧は直ぐに捜索隊を編成させ彼の捕縛を行わせた。更に街の人々からも情報を募り些細な情報でさせ多額の褒賞を渡した。結果彼の情報はあっという間に集まり逃げた時間、方向などが割り出された。

 

「(絶対に逃がさない!必ず捕まえてやるんだから!)煉は益州へと向かったわ!そっち方面に人員を配置して!それと隣、いえその先にも伝令を!見つけたら捕まえるように言って!」

 

荀彧は自分の知力を最大限に生かし周尽の捕縛に全力を注いだ。その熱意は奉公人どころか彼女の母親でさえ押される程だった。

程なくして彼は拘束された状態で荀彧の前に連れてこられた。暴れたのか彼の手には青い痣が出来ていた。

荀彧と周尽は数日ぶりに再開した。

 

「……」

「……」

 

荀彧は人払いを済ませると周尽の寝室で向かい合う。お互い、無言のまま見つめ合う。いや、周尽は睨みつけているといっても良かった。

 

「……」

「……なんで、逃げたの?」

「……」

「そんなに私との婚約が嫌だったの?」

「……」

 

荀彧の問いに彼は答えない。通常なら答えない時点で罵声が飛んでくるが荀彧は淡々と問いを投げる。

 

「金銭も大してないのにどうするつもりだったの?」

「……」

「実家以外に貴方に頼る者がいるの?」

「……」

「……」

「……」

 

荀彧の問いに無言、無視を持って答える周尽。その状況に荀彧の問いもなくなり彼同様に無言になった。

どのくらいそうしていただろうか?ポツリと周尽が呟く。

 

「……婚約を破棄させてくれ」

「っ!?」

「もう、荀彧の婚約者でいる事に疲れたんだ。仕事でミスをすれば罵声、仕事を終わらせても遅いと怒鳴り反論すれば給料を取られた上で罵声。何をしても怒られ何もしなくても怒鳴られる。二年も我慢したけど……。もう無理だ」

 

そう言って荀彧を見る周尽の瞳は濁っていた。全てに絶望したようなその瞳に荀彧は一瞬たじろぐ。

 

「もう二度と荀家にかかわらないし邪魔もしない。一人でひっそりと田舎で暮らしたいんだ。頼む……」

 

そう言って周尽は頭を下げる。この時、荀彧がどのような表情をしていたか彼は気づいていなかった。

 

「……ない」

「……荀彧?」

「許さない許さない許さない許さない許さないっ!そんなの認めないわ!」

「ぐっ!?」

 

荀彧は急に怒鳴り周尽を押し倒す。縛られた状態の彼は抵抗も出来ずに床に転がった。そんな彼の上に跨る荀彧。この時周尽は初めて荀彧の瞳に気付く。

周尽なんかより濁りまるで何処までも続く底なし沼の様に深い深淵が周尽を映していた。周尽は何とも言えない恐怖に襲われ逃げようとするが荀彧が乗っている状態では逃げだす事が出来なかった。

荀彧は彼の頭を両手でつかむと一気に引き寄せ彼の唇にキスをする。

 

「ん!?」

「ん……んぅ……」

 

突然の事に驚く周尽と嬉しそうに彼の唇を奪う荀彧。暫くして彼から唇を離す。二人の間には互いの涎による橋が出来ていた。

 

「ふ、ふふ。もう逃がさない」

「ひっ!?」

「貴方の望み通り婚約は破棄してあげる。でもこれから煉は私の奴隷として一生尽くしなさい」

 

荀彧はそう言うとかれを抱きしめ彼の耳元で呟く。

 

「曹操様の赴任している街に家を買ったの。私達二人の家よ。貴方はこれから先その家から出る事を禁ずるわ。家の中で私の帰りを待つの。大丈夫。食料は私が買うし貴方が望むなら料理だって家事だってしてあげる。夜の方だって任せて頂戴。貴方に気持ちよくなってほしいからたくさん知識を得たから。初めてだから上手くできるか分からないけどきっと気持ちよくなれるわ。だから家から出る事は禁止ね?大丈夫、大丈夫。貴方の首にはどんな武将でも切断できない首輪をつけてもらうわ。それを鎖を通して柱とつなぐの。そうすれば貴方は永遠に家から出られなく。素敵でしょ?これで私たちは幸せになれるのよ」

 

荀彧のその言葉に周尽はなみだを流す。ああ、なんでこうなってしまったんだ。彼は少し崩れていく心を感じながら荀彧のされるがままとなり体を一つにした。

 

 

数日後。荀彧は予定通りに曹操に仕えるべく荀家を後にした。彼女は曹操の下で実力を発揮し軍師として、文官として活躍した。彼女の智謀は天下が魏、呉、蜀に別れてからも発揮し呉、蜀を振るいあがらせた。

しかし、彼女は曹操にすら自分の真名を預けなかった。怪訝に思った曹操がその理由を聞けば

 

「私の真名は大切な夫にのみ預けました」

 

と答えたという。その時の彼女の顔は幸せそうであったという。

しかし、誰も彼女の伴侶を見た者はいない。それどころか彼が今どこに住んでいるのかさえ分かっていない。その為一部の心無い者たちからは「想像上の人物では?」と言われていた。彼女が真実を語らない限り本当のことを知るものは誰もいないだろう。

 

 

 

暗い部屋の中、鎖で繋がれた男が目を覚ます。部屋には男の他に一人の女性がいた。女性は男が目を覚ました事に気付くと笑みを浮かべた。

 

「あ、起きたんだ。待っててね。今ご飯を食べさせてあげるから」

 

そう言って女性、荀彧は男、煉にご飯を食べさせ始める。自身の口に含み彼の口に移す。ここに来てからの食事の仕方だった。食べ終えた煉は荀彧に何時ものお礼を言う。

 

「ありがとう。桂花」

「どういたしまして♪」

 

二人の関係は死ぬまで続くのだろう。全てを諦めた煉は荀彧、桂花の望むがままの人生を歩み続けるのだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

寝取られ√(劉備編)

皆が選んだ寝取られ√第一弾です。
まぁ、相も変わらぬ低クオリティーなのでご容赦ください


「ここまで来れば、問題ないだろう」

 

荀家の屋敷を飛び出した周尽はとある益州にある山道にいた。既に飛び出してから二週間は経過しており一週間後には曹操の元に向かう筈の荀彧からは逃れられたと周尽は判断していた。しかし、目を閉じれば今にも荀彧が飛び掛かって来るような気がして周尽はこの二週間の間まともに眠れていなかった。

 

「くそっ、逃げるだけで尽きちまった……」

 

周尽は空になった袋をひっくり返す。ここには数日前まで路銀が入っていたが今は何も入っていなかった。幸い服や寝袋、護身用の剣は持ってきており最悪の場合これを売ればいいと考えていた。

 

「こんなんで生きていけるのかな……」

 

気を抜けば口から出てくるのは弱気な言葉。二年の間に無能だと罵られてきた周尽は無意識のうちに自分は何も出来ない無能と思うようになっていた。

山道の端により周尽は膝を抱えてそこに頭を埋める。頼る者も、金銭も居場所もない。頼れる相手がいない周尽は少しづつ、だが確実に疲弊していった。

ふと、彼の頭に水滴が落ちる。頭を上げれば先ほどまで快晴だった空は今にも雨が不利そうな曇天となっていた。そして移動する間もなく雨は降りだした。来ていた服は雨でぬれたが替えの服や寝袋まで濡れてしまい周尽はため息をつく。ネガティブになった瞬間にこれである。周尽の気分は再下降まで落ちていた。

 

「取り合えず濡れないように……」

「あの、大丈夫ですか?」

 

移動しようと立ち上がった周尽に女性の声が聞こえた。一瞬荀彧かと警戒したがそれにしては優しい、こちらを気遣う声に違うと判断した周尽は声のきこえたほうを見る。そこには桃色の髪の女性がいた。皺ひとつない奇麗な服に身を纏った女性は同じく奇麗な傘をさして心配そうに伺っていた。

女性は一目見ただけで美しいと言える容姿をしており可愛らしい荀彧を見慣れた周尽でさえ見惚れるほどだった。しかし、女性はそんな周尽に気付かず不審がられていると判断したのか慌てたように言い訳をする。

 

「あ、いえ!その!雨降ってきて困ってそうだったので……!その、お邪魔でしたか?」

「い、いや!そんな事はないですよ!」

「それなら良かったです」

 

そう言って女性は微笑む。まるで女神の如きその微笑に自然と周尽は惹かれていた。

 

「それで……、大丈夫ですか?」

「あ、ああ。荷物は全部濡れたが大丈夫だよ」

「……何処か泊まる所とかありますか?」

「……いや、生憎全てを捨てて逃げた身でね。コネも金銭も無くてね」

 

自然と、周尽はそう口にしていた。口に出してから見ず知らずの人に何を言っているんだ……!と心中で自分の迂闊さに怒る。しかし女性はまるで嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

「それなら私と一緒に行動しませんか?」

「え?」

「私、あまり武芸は得意でなくて……。でも人を雇うお金も持ってなくて……」

「それで俺を?」

「はい!お兄さん特に用事はないんですよね?私も村を飛び出した身で頼る人がいないんですよ。何か出来ると自信を持って言える者はないですが、どうですか?」

「……」

 

周尽は考える。目標は一応益州と決めていたが別にここでなくてはいけないという事はない。それならこの女性と行動を共にするのもありなのかも知れない。

 

「……分かりました。俺が何処まで出来るかは分かりませんがよろしくお願いします」

「!はい!よろしくお願いします!」

 

周尽の返事を聞いた女性は花が咲いたように笑顔を見せた。周尽はその笑みを見て知らないうちに顔を赤くしていた。

 

「……あ、俺は周尽。よろしく」

「はい!私は劉備といいます!これからよろしくお願いします!」

 

こうして周尽は女性、劉備と共に旅をする事になった。劉備との旅は一人の時よりも明るく、楽しかった。旅の途中劉備は周尽に夢を話した。誰もが笑って暮らせる世、その為に行動する劉備を周尽はとても素晴らしいと思うと同時にこの人の為に自分も力を貸したいと思っていた。それを劉備に話せば嬉しそうに一緒に頑張りましょうといい周尽に新たな目標を作らせた。道中劉備は関羽、張飛の二人と義姉妹の契りを交わした。周尽は結ばなかったが三人と真名を与え合い今後は真名で呼び合うようになっていった。

公孫瓚の下で義勇軍を起こした劉備は中華全土で暴れまわっていた黄巾党の乱の鎮圧で活躍した。

そして、反董卓連合で周尽は最も会いたくない人物と再開する。

 

「煉!?」

「荀彧……」

 

周尽は反董卓連合の会議が行われている陣地の前で待機していた荀彧と再開した。驚く荀彧に対し周尽はただ冷たい目で荀彧を見ていた。

暫く固まっていた荀彧だったが回復すると彼の手を取り誰もいない裏手へと連れていく。やがてたどり着くと荀彧は目を吊り上げて怒鳴る。

 

「煉!どういう事!?私の下を勝手に出て今はあんな劉備とか言う何処の馬とも知れない女と一緒に……!」

「……俺の勝手だろ?」

「そんな訳ないでしょ!?あんたは私の婚約者なんだから!」

「俺は荀家を出た時点で破棄したと思っていたんだが……」

 

荀彧の罵声に周尽は淡々と答えていく。反論しなくなっていた事になれていた荀彧は顔を赤くして更に怒鳴る。

 

「いいから!今すぐ頭を下げて謝りなさい!勝手に出て行ってすいませんでした、って!」

「……それについては申し訳ないと思っているが、俺は謝らない」

「っ!しばらく見ないうちに偉そうになったじゃない……!」

「……俺はもうお前といるのに疲れたんだ。だから逃げた。もう二度と一緒にいたくなかったから」

「っ!なん、でよ……」

 

気付けば荀彧の目から涙が溢れ出ていた。先ほどまで怒鳴っていた荀彧も次第に声が小さくなっていく。

 

「わた、私。あんたと、し、幸せに、なりたかったのにぃ。何で、出て行くのよぉ……!」

「……ごめん」

 

泣き始めた荀彧に周尽は背を向けて来た道を戻る。もう二度と再会しないことを祈って。

 

「……婚約者との、挨拶は終わりました?」

「……桃香」

 

戻ってきた周尽を出迎えたのは何時ものと変わらない温和な笑みを浮かべた劉備であった。劉備の言葉から先ほどの言葉を聞いていたのかと心の中で思う。

 

「……聞いていたのか?」

「はい、会議が終わって外に出たら煉がいなかったので。……でも、良かったんですか?」

「ああ、もうあいつと会う事はないしそのつもりもない」

「ふふ、ならこれからも私と一緒にいてくれるという事ですか?」

「……そう、なるな」

「それは良かったです」

 

照れているのか劉備は顔を赤くして微笑む。それを見た周尽は言うなら今だと覚悟を決めた。

 

「……桃香」

「はい」

「好きだ」

「はい」

「これからもずっと一緒にいたい」

「私もですよ」

「……桃香」

「はい♪煉さん」

 

劉備は手を広げた。周尽はそれに答えて抱きしめる。二人の恋が実った瞬間だった。

 

「(桃香。俺がどれだけ力になれるかは分からない。けど、必ず王にしてやる。俺の愛おしい人よ)」

 

周尽は改めてそう決意するのだった。

 

 

 

 

 

 

「(ふふ、上手くいった♪)」

 

劉備は周尽と抱き合いながらこちらを見て固まる荀彧を見下すように視線を向ける。劉備の瞳は先ほどまでとは違い暗く濁り何物をも映していなかった。

 

「(馬鹿な娘。こんなに良い人を罵倒するなんて)」

 

劉備は初めて会ったあの日から周尽を好いていた。だからこそ多少強引にでも旅に同行させた。自分の夢を笑わず適えようと言ってくれた時には涙と共に全身が幸福感に包まれた。彼の横を歩けば夫婦になったような気がして股を濡らし、路銀を浮かすためと同じ部屋で寝泊まりをしたときは思わず彼の手を使って慰めてしまったほどだ。

そして今周尽の方から告白してくれた。劉備にはそれが嬉しかった。彼の目が、声が、息が劉備を幸福で包み込む。

 

「(もう二度と離さない。煉は私の物。小娘(荀彧)でも愛紗でも鈴々でもない!私だけの、お婿様……)」

 

劉備は二度と手放すものかとばかりに強く抱きしめる。周尽は劉備の心境を知ってか知らずか同じく強める事で返してくれる。

劉備はそれがたまらなく嬉しく小さく震えて絶頂するのだった。

 




何でこんなに寝取られ人気なんですかね(震え)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

寝取られ√(袁紹編)

今回は名門袁家の棟梁袁紹様です。
ハッピーエンドは暫く待ってね


「オーホッホッホ!!!まだまだ沢山ありますわ!好きな食べて結構ですわ!」

 

婚約者の罵詈雑言に耐え切れなくなった周尽は益州でひっそりと暮らすべく荀家を出た。……までは良かったが今彼は三公を多数輩出した名門袁家の棟梁、袁本初に歓迎されていた。彼の目の前には荀家でも見た事がない豪華な料理が並んでおりそれだけも凄いのにこれらすべてが自分の為に用意されていると知っている周尽は片っ端からごちそうを食べていた。

そんな周尽を機嫌よさそうに見ている上座に座る袁本初。彼女はふさふさの扇を持って周尽の食べっぷりを眺めている。

 

「すげぇ……!どれもうまい!」

「そうでしょうとも、何せ中華を超えた先、四夷の調味料、料理法も使用し中華でも五本の指に入る当家の料理人が腕を振るっているのですから!これほどの料理は天子様でも中々食べられないと自負しておりますわ!」

「す、凄いな……」

「ですのでよく味わうとよろしいですわ!今しか……いえ、あの話を受けてくれるのでしたらこれらは毎日毎食食べられますわ!」

「……そうか」

 

周尽がこうして袁本初の歓待を受けているのには訳がある。実は周尽は荀家に婿に入る前に洛陽の私塾に通っていたことがあった。その際に袁本初や曹操と知り合った。

周尽はどちらかと言うと保守的思想に陥りやすく曹操とはあまり親睦を深める事は出来なかったが保守層の中では優等生だった袁本初とは親睦を深めることが出来た。

 

『凄いですね袁本初様は!』

『オーホッホッホ!!!そうでしょうとも。何せわたくしは三公を輩出した名門袁家の正当なる後継者!いずれ袁家の棟梁になるのですもの!』

 

このように周尽が褒め袁本初が自身の家柄を含んでの自慢を行うのが彼らの日常であった。これらの関係は私塾を卒業するまで続きこの頃になると周尽も袁本初も真名を預け合う程に親密になっていた。

 

『煉さん。もし、わたくしが袁家の棟梁となった時には。その、む、婿に来てほしいです、わ』

『麗羽……。分かった。その時は俺を迎えに来てくれよ』

『!勿論ですわ!必ず!迎えに行きますわ!』

 

私塾の卒業日、二人はそう言って約束を交わしたのだ。しかし、周尽は親の都合により荀家に婿に入る事となり二年もの間荀彧の婚約者として過ごし毎日続く罵詈雑言に耐え切れなくなった周尽は逃げ出したのだ。

そして彼は益州へと向かおうとしたのだがその矢先に袁家の旗を持った兵と遭遇。彼は袁本初直々の招きを受けこうして彼女の歓待を受け今に至っていた。

 

「わたくしは今でも忘れておりませんわ。約束通りわたくしの夫になってくださいまし♪」

「そうだな……」

 

彼としては何も問題はないのだが私塾の時にはそこまで感じなかった両者の格を感じしり込みしてしまう。田舎では名家という程度の彼の家と三公を輩出した名門袁家とでは釣り合いが取れないと感じたのだ。

しかし、袁本初はそれを読んでいたかのように話を続ける。

 

「家柄の事に関して考えているのなら心配ご無用ですわ!既に反対する者は黙らせました。もしまだ反対する者がいても手を打つ準備は整えておりますわ」

「お、おう。……何だか用意周到だな」

「当たり前ですわ!何せわたくしと煉さんとの約束を叶えるためですもの!どんな手を使ってでも叶えて見せますわ!」

 

袁本初の迫力に周尽は押される。まさかここまで、という気持ちと共にこんな自分をここまで考えていてくれている!という何とも言い難い感情がこみあげてくる。彼は久しぶりに自分を必要としてくれている人に出会い無意識に笑みを浮かべていた。

 

「……分かった。こんな俺でいいなら」

「……分かっておりませんね。“こんな”ではなく“あなただからこそ”選んだのですわ!わたくしは例え天下に比類なき知略を持っていようと天下に並ぶべきものがいない剛勇無双でも手足が無くても、病に侵されていようと“あなただからこそ”選んだのですわ!」

「……そうか」

 

ふと、彼は頬を伝う涙に気付く。二年の間に一度として言われたことのない自分を求める言葉。彼は昔から変わりなく自分をここまで慕ってくれている袁本初に心のうちで感謝した。

 

 

 

 

 

袁本初の約束を果たし袁家の婿になった彼の生活はこれまでとは激変した。

彼には常に二人以上の従者が付けられ周りのお世話をしてもらえるようになった。更には毎日の様に豪華な食事が出された。それでいて彼には仕事は与えられなかった。

 

「煉さんはわたくしの婿にでいてくれているだけで十分ですわ!政治に心を奪われる事なく毎日好きなようにしてくれて結構ですわ!」

 

と袁本初に言われていたためだ。とは言えここまでしてもらっては手持ち無沙汰になるのも時間の問題であった。彼はやる事がなくなり暇を持て余し始めたのだ。袁本初は毎日の様に忙しく政務をこなしており特に黄巾党と呼ばれる賊の鎮圧を行っており周尽とはあまり合えない日々が続いた。しかし、同じ部屋、同じ布団で寝ているため夜になれば会える為そこまで気にはしていなかった。

とは言え周尽が暇を持て余し気味には変わらないため最近では兵達に混じって体を動かすようになっていた。その度に袁本初の側近である文醜、顔良に留められたりするが適度な運動で済ますと許可を出すようになった。

彼は徐々に戦乱の兆しが見える中華においてひと時の穏やかな時間を過ごすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よろしいのですか?麗羽さま」

「勿論ですわ。煉さんに危害があるなら止めますが適度に体を動かす程度なら止める必要もありませんわ」

 

訓練場にて走っている周尽を陰から見ながら顔良と袁本初は話していた。

 

「それで、荀家の小娘の方はどうなっていますか?」

「はい、曹操殿の元に向かうまでの一週間は懸命に探した様ですが今は政務で忙しいようで捜索は断念しています」

 

顔良の報告に袁本初は暗い笑みを浮かべる。自分と周尽の仲を邪魔する小娘がようやく諦めたと分かったからだ。だが袁本初はこれで気を抜いたりはしなかった。

 

「ですが警戒は怠らないように。曹操さんの力を借りたら厄介ですわ。もしそうなるなら……」

「……分かりました。手配しておきます」

 

袁本初の言いたい事を察した顔良は頭を下げた。普段はあまり優秀とは言えないが周尽が絡むと別人の様に頭が回るようになる。こういう時の袁本初に逆らうのは危険と顔良は心中で呟く。何せ周尽との結婚を反対した家臣たちを一人残らず(・・・・・)粛清したのだから。幸い少数のみの反対だった為袁家の被害はほぼ無かったがそれ以来周尽関連で袁本初に逆らう者はいなくなったのだ。

 

「頼みましたわ。ふふ、それにしてもまさかあの小娘の婚約者になっているとは思いませんでしたわ」

「……」

 

袁本初は思いだす。自分に仕え僅か数か月で辞めていった猫耳の頭巾をかぶった小娘を。もし彼女が自身の婚約者の話をしなかったら彼との再会は出来なかっただろう。

袁本初は周尽の現状を知ると荀家の周りに密偵を配置し逐一報告をさせていた。そのおかげで彼の動きを察知し自身の元に連れてくる事が出来たのだ。

 

「彼との約束を邪魔する者は誰であろうと許しませんわ。そして、彼を手放す気もありませんわ」

 

袁本初は贅沢や好待遇など見えない鎖で自分の元に繋いでいる周尽を見ながら暗い笑みを浮かべるのだった。

 




これは寝取られというより寝取り返し(?)かな?
荀彧が曹操の前に袁紹に仕えていたという事なのでこういう形に。
周尽は袁家が曹操に領土を奪われるまでの短い間ヒモとして過ごすことになります。大丈夫!周尽関連では覚醒する袁本初が何とかしてくれるさ(望み薄)!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

寝取られ√(呂布編)・前編

お久しぶりです。今回は作者が恋姫キャラで一番推している呂布です。あの触覚がとても好き


周尽が彼女と出会ったのは荀彧の婚約者として荀家に入るよりもずっと前。周尽が私塾を卒業した日の帰りの事だった。彼は人気のない山をひたすら進んでいた。左右上下前後何処を見ても道らしい道はない。しかし、彼は進む事しか出来ない。何故なら自分の現在地が分かっていないからだ。そう、彼は迷子になっていた。

私塾を卒業し学友たちと別れた周尽だったが洛陽の郊外でなんと山賊に襲われたのだ。まさか漢の首都にまで現れるとは思っておらず周尽は抵抗もせずにただ逃げた。しかし、山賊は諦めの悪い事に怒声と共に追いかけてきて一昼夜の間追いかけっこが行われた。最終的に山の道なき道を進んでいる間に山賊を撒くことには成功したがその代償として彼は迷子となったのだ。

 

「ちくしょう!何で俺がこんな目に……!」

 

周尽はありったけの思いを乗せて叫ぶ。しかし、彼の声は反響し声に驚いた鳥たちが飛び立つだけだった。周尽はせめて道に出られるように進み続ける。逃げ回ったせいで彼の気力は底を付きかけているが周尽は「こんなの、曹操に訳わかんない政策を聞かされるより全然マシだ」と自分に言い聞かせながら残り少ない体力を使って進み続ける。

やがて彼は獣道を見つける事に成功した。あくまで獣道なので街道に出られるかは分からないが彼の希望となったのは間違いなかった。

 

「ふぅ、ふぅ。……ん?」

 

荒い息を整えながら進んでいると一人の少女を見つけた。赤毛の少女で歳は同年代ほど。頭から伸びる二本のアホ毛が特徴的だった。

彼はようやく森から抜け出せると思い話しかける。

 

「良かった!君、ここから降りたいんだけど道を知らないか?」

「……誰?」

「あ、いや。俺は周尽。洛陽の私塾を卒業したばっかりで決して怪しい奴じゃないよ!」

「……」

 

周尽は目の前の少女の信頼を得ようと余計なことまで言うが少女はただ首を傾げるだけだった。

 

「……よく分からないけど、敵じゃないのは分かった」

「それで十分だよ。所で山からおりたいんだけど……」

「……あっち」

 

少女はそう言って後方を指さす。……どうやらあのまま進んでいれば降りられたみたいだな。

 

「ありがとう!これで何とか帰れそうだ!」

 

俺はそう言って少女の脇を通り進むが足を滑らせた。

 

「「……あ」」

 

俺と少女は同じような言葉を発し俺は滑り落ち少女は茫然とその様子を眺めていた。

 

「う、うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!???」

 

叫び声を上げながら落ちていき俺は川に落ちる事で怪我をする事はなかったけど服は全部濡れてしまった。

はぁ、不運だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……大丈夫?」

「あ、さっきの」

 

川を出て河原にて火を焚き服を乾かしていると先ほど道を教えてくれた少女がやってきた。少女は無表情にこちらを眺めており感情は良く見えなかった。少女は自分よりも大きな矛を右手に持ち左手には首から上を切り落とされた野ウサギを持っていた。え?まさか狩ったのか?そう思っていると俺のお腹が控えめに鳴った。そう言えば山賊に追い回されたせいで昨日から何にも食べていなかったんだ……。

そう思っていると少女がズイ、と俺に野ウサギを近付けてくる。

 

「……食べる?」

 

その言葉と共に。俺の返事は決まっていた。

 

「勿論だ!ありがとう!」

 

俺は野ウサギを受け取り血抜き、解体を済ませて肉を焼く。残念ながら持っていた食料は川に落ちた時に駄目になってしまったが俺が保存食にと作った焼きおにぎりだけは無事だった。水に濡れているけどな。俺は二つあるそれを一つ掴むと少女に差しだす。

 

「……?」

「一緒に食べようぜ。食事は一人で食べるより一緒に食べた方が何倍も美味しいんだから」

「……」

 

少女はびしょびしょに濡れた焼きおにぎりを受け取り俺の隣に座った。丁度野ウサギの肉がいい感じに焼けてきた為二人分に分けてかぶりつく。塩などないため味はしないがとても美味しく感じた。やっぱり空腹は最高の調味料だな!

少女も恐る恐ると言った感じに焼きおにぎりにかぶりつく。すると少女は一瞬目を見開くとハムハムと食べ始めた。俺も焼きおにぎりを食べるが正直水に濡れたせいかあまりおいしくない。だけどお腹はすいていたし残さずに食べる。

やがて焼きおにぎりも野ウサギの肉もなくなり俺のお腹は膨れた。これなら後一日は水さえあれば動けるな。それ以上は分からないけど。

 

「……美味しかった」

「そうか。それは良かった。まぁ、水に濡れてなければもっと美味しかったと思うけどな」

「……十分」

 

少女は無表情の為気を使っているのかそれとも本心で言っているのかは分からないが少なくとも満足している事は雰囲気から分かった。

そこから俺は服が乾くまで少女と話をした。少女の名前は呂布奉先といい色んな所を転々としているらしい。親は物心つくころにはいなくなっており今まで一人で生きてきたらしい。

 

「これからはどうするんだ?」

「ん、特に決めてない」

「な、なら。俺のところに来ないか?」

 

さすがにこのまま放置することは俺にはできなかった。幸いうちはそこまで貧乏という訳でもない。俺も働くことができる年齢に近づいている。両親もまだまだ健在だしな。

そんな俺の提案に呂布は申し訳なさなそうに眉を下げる。そして口から出てきたのは否定の言葉だった。

 

「さすがに、悪い」

「気にしなくて良いよ」

「……なら。こうする」

 

呂布の提案はこうだった。先に大物になった方がもう一方を養うというもの。さすがに意味不明だったが呂布は「これで、決定」と一方的に打ち切ってしまった。ただ、呂布が俺のところに来る気はないという事だけは分かった。さすがに嫌悪からではないのが分かったが理由までは分からなかった。この約束もそうだしな。とはいえ別に断る理由もなかったため俺は笑顔で答えた。

 

「……分かった。なら領主くらいになって呂布を迎えに行ってやるよ」

「……む、私が先」

「おっと、そう言えば名乗ってなかったな。俺は周尽。そして真名は煉だ」

「……偶然。私も真名は、恋」

「お、本当か!なんか嬉しいな」

「……私も」

 

漢字は違ったが読みは一緒という偶然に俺は嬉しくなる。呂布、恋も同じだったようで自然と笑みを浮かべていた。

 

 

 

こうして俺は無事に下山し家に帰ることができた。そして俺は領主、とまではいかなくても大物になるべく今まで以上に努力を重ねたが俺は荀家の娘、荀彧と婚約する事になった。そして希望も夢も崩れあの時の約束を俺はいつの間にか忘れてしまった。

そして俺が耐え切れなくなり荀家を後にしたとき、彼女と再会した

 

「……恋?」

「そう。約束……、果たしにきた」

 

 

(後編に続く)

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

袁術配下√

一度データが全て消えるという事が起き気付けば最初と違う内容に……。これ寝取られじゃないなと思い配下√にしました。
というかネタがない()。次のキャラ誰にしよう……


「ちくしょうっ!」

 

男、周尽は流れ出る汗を乱暴に拭いながら声を張り上げる。しかし、周尽の言葉はただ空しく空に響くだけで声に驚いた鳥たちが一斉に飛び上がる。

周尽は乱暴な婚約者、荀彧の下を飛び出し益州へと向かっていた。なけなしの路銀、持てるだけの衣類、そして護身用の剣を手に取り自由、平穏を求めて荀家を飛び出したのだ。

しかし、悲しいかな。彼はあるミスを犯した。それも初歩的なミスを。

 

「ど、何処だよここぉっ!」

 

彼は益州が何処にあるのか分からなかった。一応南西にあるという事だけを知っていたためそちらの方面に走っていた。本来ならこのまま益州につき穏やかな余生を迎えたり後の蜀の王の寵愛を一心に受けたのだろうがこの世界の彼の運はとても悪かった。

荀家を飛び出し二日が経った頃に最初の災難が訪れた。崖の上にかかった橋を渡っていると床が壊れ崖の下にある川へと落ちたのだ。この際に路銀や衣類は全て消失した。

何とか川岸に流れ着き溺れ死ぬ事はなかったが直後に熊と遭遇、半日もの間追いかけ回される事となった。その際に剣を消失した。

そうして気付けば無一文となり持っているのは来ていた服のみとなった。

路銀も無い、替えの服もない、害ある者から身を守るための武器すらない。彼は自分の不幸を嘆く事しか出来なかった。

 

「ちくしょう……!ちくしょう!」

 

周尽は比較的整備された道を充てもなく歩き続ける。ふと、前方から騎馬の少数団がやって来る。周尽は道を譲ろうと脇に避ける。

 

「……お主、ちょっと待て」

 

騎馬の先頭にいた男が周尽を引き留めた。これが袁術配下紀霊将軍との出会いだった。

 

 

 

 

 

「……どうして、こうなった」

 

周尽は眼前の軍勢から逃避するように呟く。彼がいる街が囲まれており逃げだす事は不可能だった。これが数年前までの事ならまだ救いはあっただろう。何故なら彼の軍勢の旗は『孫』なのだから。

 

「れ、煉!妾を、妾を!」

「美羽様、落ち着いてください!」

 

周尽は自身にしがみ付き涙目となっている主君をなだめながらこうなった経緯を思いだす。

 

 

 

周尽は数年前袁術配下の紀霊将軍に拾われた。行く当てもなく彷徨っていた彼を紀霊将軍は温かく迎えてくれた。その後は紀霊将軍の下で実績を積み将軍として取り立ててもらえることとなった。

 

「ほう、お主が周尽か。妾に相応しい働きを期待しておるぞ」

 

将軍任命の式で袁術と初めてあった。当時周尽はいろいろな人やうわさからあまり好ましいとは感じていなかった。それでも彼は自分を拾ってくれた紀霊将軍の為に袁家の為に奔走した。

黄巾の乱では紀霊将軍と共に袁術領の賊軍を鎮圧していった。彼の名声は高まり彼を慕う部下もたくさんできた。

 

「お喜びください。お嬢様が是非ともお話したいそうですよー?」

 

気付けば周尽は袁術に気に入られよくお呼ばれされるようになっていた。呼びに来る張勲にはその度に殺気とも嫉妬とも言える視線を向けられていた。

 

「煉よ!今日はどんなお話を聞かせてくれるのじゃ!?」

「美羽様、落ち着いてください。そうですね、今日はこの前鎮圧した賊について……」

 

袁術は自らの真名を周尽に預けるほどには信頼しており周尽も気付けば彼女に真名を預ける程度には信頼していた。……主君の能力的には袁術は相変わらずだったが。

それでも周尽は荀家にいた頃とは違う穏やかな日々を過ごしていた。……反董卓連合で元婚約者と再開するまでは。

 

「何で!そんな女の下で将軍なんてやっているのよ!」

「……俺の勝手だろ。もう、お前とは婚約者でも何でもないんだから」

「っ!?」

 

再開した荀彧に詰め寄られた時にはこう返し完全に縁を切ったのだった。

 

「……のう、煉よ」

「どうしましたか?美羽様」

 

その日の夜、自分の天幕で明日に備えていると突然袁術がやってきた。彼女の表情は何時もの天真爛漫な顔とは違い、悲しそうな表情をしていた。

 

「煉は何時までも妾の傍にいてくれるか?」

「いきなり何を言うんですか。私は美羽様の下を離れたりしませんよ」

「じゃが、じゃが!お主には婚約者がおるのじゃろう?」

「……聞いていたんですか」

「うむ……」

 

袁術は心の中の思いを吐き出す。

 

「妾は、妾はずっと煉といたいのじゃ。もっとお話しして一緒に蜂蜜を食べて。い、一緒に、ずっと、一緒に、い、いたいのじゃぁ~!」

「美羽様……」

 

最後の方には泣き出してしまった袁術を周尽は抱きしめて慰める。自身の胸ほどしかない袁術の頭を撫でながら周尽は覚悟を決めて話す。

 

「美羽様。私は美羽様の為に全てを捧げます。美羽様の望みをかなえるために身命を賭けます」

「……本当か?」

「ええ、勿論です。それとも、私は信用できませんか?」

「そんな訳ないのじゃ!煉は七乃と同じくらい信用しているのじゃ!」

 

周尽の少しズルい質問に袁術は体中を使って否定する。そんな愛らしい袁術を周尽は再び抱きしめた。

 

 

 

「……」

「……」

「……」

 

そして時は戻り、いや過ぎ周尽、袁術、張勲は先ほどまで籠城していた街を背に立っていた。既に街の周囲に展開していた孫策軍はいない。代わりに街に掲げられていた『袁』の旗は『孫』に変わっていた。そう、三人は負けたのである。

孫策の電撃的下剋上的謀反を受け袁術軍は組織だった対応も出来ずに各個撃破された。周尽を取り立ててくれた紀霊将軍も戦死し周尽は美羽たちの籠る街に籠城するので精一杯であった。そして混乱が続く袁術軍に孫策軍が襲いかかり半日もせずに街は陥落した。袁術、張勲、周尽は捕えられた。周尽は孫策に自分に仕えないか、という誘いを受けたが美羽の為に傍にいたいという理由で断った。結果袁術、張勲、周尽は旧袁術領を追い出され流浪の身となる事になったのだった。

 

「……さて、これからどうするか」

「追い出されましたからねー」

「妾は蜂蜜が食べたいぞ!」

 

困り果てる周尽にあまり困っていなさそうな張勲。我が道を行く袁術とバラバラであった。

 

「美羽様、我らは流浪の身となったので前の様に頻繁に蜂蜜を食べる事は出来ないと思います」

「そ、そうなのか!?」

「あーん!無知なお嬢様、可愛すぎますー!」

 

蜂蜜が食べられなくなると知り落ちこむ袁術とそんな袁術をデレデレの表情で見ている張勲。緊張感のない二人の態度に周尽は呆れるが無意識のうちに笑みを浮かべていた。なんだかんだ孫策の誘いを断って袁術の傍にいるのだ。周尽はふたりを連れて歩き出す。

 

「取り合えず袁紹様の下に向かいますか?彼女なら保護してくださると思いますし」

「あら、いいですねー。それでいきましょう」

「妾は蜂蜜が食べられれば何処でもいいぞ!」

「煉さん、聞きましたか?お嬢様は私達より蜂蜜を取るそうですよ?」

「えっ!?」

「ああ、俺も聞いた。まさか俺や七乃じゃなく蜂蜜を取るなんて……。悲しいな」

「ち、違うぞ!妾は煉も七乃も大好きじゃが蜂蜜も大好きなのじゃ!だ、だから嫌いにならないでー!」

「ぐふっ!お嬢様、可愛すぎです」

「七乃、まずは鼻血を拭え。下が血だまりになっているぞ」

 

愛する主君としたたかな同僚。領地と部下を失い流浪の身となった三人には変わらない穏やかな時間が流れるのだった。

 




因みに孫策が名前しか出てこない理由はセリフとか一番知らないからです()
あ、今は勉強中です


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。