実力=握力=花山最強 (たーなひ)
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プロローグ

普通に花山薫好きなのと、ランキングに某中国系刃牙キャラのクロスオーバーがあったのと、前評判も悪くなかったんで書いてみた。
タイトルがあんまり良いの思いつかんかったんやけどこんな感じでええかな?


男が歩いている。

 

男はただ歩いているだけだ。

 

なのに、彼の背中には多くの視線が集まっている。

 

道ゆく人が振り返るというわけではない……と言うよりも、人の進む方向が一方通行であるが故に歩いていれば普通に視界に入るという感じだ。

 

 

その視線は道を先に進むたびに増えていき、今では後ろを歩く“生徒”達の共通の話題として華を咲かせている。

 

『視線が増える』…つまり彼の背中を見る人が増えているということになるわけだが、何も彼が忙しなく歩いているというわけではない。むしろ悠然と、堂々と、悠々とした歩きである。なのに彼の背中を見つめる人が増えていくーー追い抜かれていく人が増えていくのは、彼の歩幅が原因だ。

歩幅が大きければ足を動かすスピードが同じでも歩くスピード自体は大きく差がつく。男子と女子を考えて貰えれば分かりやすいだろう。

だが、彼に追い抜かれるのは女子だけではない。男子すらもそのスピードに追い抜かれていく。つまり、それだけの体格があるというわけだ。

 

 

先程視線を集めていると言ったが、何もその体格だけが視線を集める原因ではない。

いや、体格もとても16歳とは思えないほどの身体つきではあるが、それよりも目を引くのはその身体に刻まれた無数の傷痕だ。

背中からだと顔は見えないがその下ーー袖から覗くその手には無数の疵があり、フツウではない経歴を思わせる。

 

だが、それは幸運だったのかもしれない。

彼の顔を正面から見た女子が、その“疵”を見て悲鳴をあげないとも限らないからだ。

 

 

 

そんな視線に気付きつつも、意に介することもなく歩き続ける男……いや、漢。

 

 

名を花山薫。人は、彼を『最強の喧嘩師』と呼ぶ。

 

 


 

 

時は去年、花山薫15歳、中学三年生の時にまで遡る。

 

 

 

「どうするんですかっ!!」

 

「………………」

 

「大将、言いましたよね!学校に行くって!キチンと勉強して、高校に行くって!!」

 

「………………」

 

「じゃあこれはなんなんですか!!」

 

花山薫を叱りつけている男ーー木崎ーーはバンッとテーブルに手を叩きつける。

 

そのテーブルには紙が置かれており、その紙には『通知表』と書いてある。

その裏には定期テストの点数が書かれた用紙もある。

 

「こんなんじゃ高校行けませんよ!!」

 

『こんなん』と言うのも、通知表に綴られた数字は体育を除いて5段階評価の中の2。

そしてテストの点数は25点を下回り、中には一桁すらもある。

 

このテストの成績で通知表に1がつかないのは、一重に授業に取り組む姿勢のおかげだろう。齢14歳にして組のトップを張るような生粋のヤクザではあるが、花山自体に凶暴性は無い。授業は真面目に受けるし、提出物だってキチンと出している。むしろ仁義を重んじている性格であるために人間性としての評価は非常に高い。

ただ……少し……そう、少し………頭が悪いのだ。

 

学業においてのアドバイザーを任せられているーーしかも花山本人からーー木崎としては、この非常に不味い状況を看過するわけにはいかない。

『高校にも行けない』と言った木崎であるが、実際のところ探せば行けるところはあるだろう。だが、『キチンと勉強して高校に行って卒業する』の“キチンと勉強”という部分を疎かにしている大将をこのまま放っておくのは非常に不味い。それもこれも花山本人が自分で言い出したことなのだから、花山本人の為に木崎は心を鬼にして叱り付けているのである。

 

「聞いてるんですか!大将!」

 

「…………………」

 

「ハァ……どうするんですか、このままじゃまともな高校に行けませんよ?」

 

「…………………」

 

当の花山本人にしてもぐうの音も出ない、一切反論の余地の無い木崎の言い分を黙って聞くしかなかった。

 

 

長い沈黙の後、木崎はおもむろに一つの資料を花山に手渡した。

 

「大将、どうぞ」

 

「これは………」

 

「自分なりに調べてみました。行ってみる気はありませんか?」

 

その資料は高校の資料。表紙には『東京都高度育成高等学校』と書かれている。

 

中身を見れば、その学校の詳細が書かれている。

日本政府が作り上げた、未来を支えていく若者を育成することを目的とした学校。進学率就職率共に100%を謳い、夢の実現のための最大限のサポートと施設が用意されているという。

この学校の最も大きな特徴としては、入学したら外部との連絡が一切取れなくなるということだろう。寮に入り、学校の敷地から出ることすら許されなくなる。その代わりと言ってはなんだが、敷地内にはスーパーやカラオケ、カフェなど、生徒が不自由なく暮らせるような設備が整っている。

ついでに、学費が無料というのも素晴らしい点だ。

 

 

 

一通り読み終えた花山は顔を上げる。

 

「………木崎、聞きてぇことがある」

 

「はい」

 

木崎は何が聞きたいかを理解しているような表情で花山の言葉を待つ。

 

「外部との接触が二度と出来ねぇってことは……」

 

「そうです。大将には一人で行って頂きます」

 

「いや………」

 

「本気で学業を頑張るなら、一人で、自力で頑張った方が良いに決まってるでしょう?」

 

「それは……そうだが………」

 

なにやら歯切れが悪い。

花山の様子を見るに、一人での生活に不満があるような感じでは無さそうだ。

 

「俺が居なくて…やっていけるのか?」

 

なるほど…と木崎は理解する。

きっとハナから、こっちの方を心配していたのだろう。

花山は優しい。仁義、義理人情、それが花山の信念を形作っている。

組は家族だ。そしてその大将であれば父……彼ら家族を守る必要がある。そんな彼らを第一に心配するのは、仕方のないことだろう。

 

そんな心配症な大将の問いに、木崎は自信を持って答える。

 

「大丈夫です。3年ぐらい大将が居なくても、なんとかやっていけます」

 

「だが……」

 

「大将」

 

花山の言葉を木崎は強い口調で遮る。

 

 

「俺たちの事は……信用出来ませんか?」

 

 

「…………!」

 

これが決め手となり、花山は東京都高度育成高等学校への入学を決めた。

 

 

 

 

 

それから数ヶ月、次の年の4月。

 

東京都高度育成高等学校の門の前に、黒塗りの高級車が止まっていた。

花山薫を送りに来た、木崎達数人である。当初は門の前に花山組総出で花道を作ろうとしていたのだが、堅気の学校の前に自分らが集まるのは不味いということもあって、門の前への送迎は少人数になった。

 

 

「それでは大将、三年間頑張って下さい」

 

「あぁ。任せたぞ」

 

「はい!」

 

「もし何か俺の手を借りなければならない事があったら……海側に花火を打ち上げろ。すぐ行く」

 

「………!…はい!」

 

「…………じゃあ、行ってくる」

 

深々と頭を下げる木崎達に見送られ、花山薫は東京都高度育成高等学校の門を潜ったのだった。




木崎の口調こんなもんで良いんかな?もう殆ど出る予定無いからどっちでも良いんやけどさ。


一先ずプロローグを書いたんですけど、早速重要な問題が発生しています。

それは、花山のクラスです。
色々考察してみたんですけど、結局決まらなかったんで一緒に考えてくれる方がいてくれると嬉しいです。

まず王道を征くDクラス。
花山の家庭の事情()と圧倒的な身体能力の反面、九九すらも怪しい頭を考えればDクラスでも別に不思議では無い。
色々書きやすいし、安定ではある。
ただ問題なのが、花山まで入ってしまうとDクラスの戦力がバケモンになってしまうこと。武闘派が集まったはずのCクラスがただのバカの集まりになっちゃう。

続いてCクラス。
武闘派クラスではあるから花山がいるのは不自然ではないし、むしろ自然ですらある。
ただ問題なのが、最初の定期テストで生き残れるのかどうか。Dクラスなら肝が座った堀北がなんとかしそうやけど、Cクラスの頭脳担当金田が花山相手に勉強を教えれるかと聞かれると疑問。だってなんか花山、間違ってるのになんか意地張るし、そんなん金田が押し勝てる訳ない。あとは龍園とかは教えなさそうやし論外。ひよりは花山を机に向かわせるだけのパワーが無さそう。

Bクラスは、Bクラスのウリの“総合力の高さ”を持ち合わせてない花山が入ってるのはどうなんかな…って思った。
ただ、一之瀬なら花山相手でもしっかりコミュニケーションを取れるし、クラス総出で教える事も出来そうやからCクラスと違ってその点は大丈夫そう。

Aクラスは、一番ありそうやけど無さそうなクラス。
頭が悪くてもAクラスにまで上がれる程の超人的な身体能力はあるけど、Bクラスと同様頭が残念過ぎるからクラス全体の特色とはそぐわない。
ただ、坂柳なら花山を引っ張れるだけの度胸も頭脳もあるから、その辺の相性自体は悪くない。
問題があるとすれば、筋肉キャラが葛城さんと被ってしまうことぐらい。あ、あと武闘家キャラがが鬼頭と被るか…?いや、花山は“武”じゃないから大丈夫か。


他の視点からの意見を欲してる感じなんで、意見とか考察だけでも良いんで感想でくれると嬉しいです。

後は普通の感想と、評価お待ちしてます。


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プロローグ2

クラスを決めてないせいでガッツリ書けないんで二話目も一先ずプロローグって事にしときます

今のところCクラスって意見が多い感じですね。俺的にもCクラスの意見に対する反論も無いしCクラスで行こうと思うんですけど、どうですか?一応アンケートとりますんでよろしくお願いします。


花山は東京都高度育成高等学校の道を歩く。

 

木崎達に見送られ、彼らの期待に応えようとこの学校に進んだわけだが、実は花山、柄にも無く緊張していた。

三年間も一人で暮らすというのは初めての経験であるし、何よりここは完全な学生の街。当たり前だがタバコも酒も飲んではいけない。三年間の禁酒も禁煙も初めての経験であるし、それを破った際のペナルティについては考えたくもない。

……と言っても、花山の持つ荷物の中には大量の酒とタバコが入っており、上手くやり繰りすれば数ヶ月は凌げるんだが。

 

要は、天下の花山薫も、この学校生活に緊張と不安を抱いている。ということを知ってもらいたかった。

 

 

が、彼の堂々としている立ち振る舞いにはその不安と緊張を感じさせないので、彼の周りの生徒達の視線を一身に集めている。

 

そんな生徒の内一人、竹本茂に話を聞くことが出来た。

 

 

「いやー、なんて言えばいいんでしょうか……」

 

「……まぁ、びっくりしますよね。体格もそうですし、見えるところには沢山傷がありますし……」

 

「そりゃそうですよ。誰だって見ちゃいます。断言しても良い、彼の後ろを歩く生徒は全員彼の事を見ていました」

 

「……でも、正直感謝してるんですよね」

 

「そう、感謝です。と言うのも、彼の後ろを歩く生徒達の話題になってくれたので、友達を作ることができたんですよね」

 

「知り合いも居ないし、不安だったのでその点では非常に感謝してますよ」

 

「……あと、僕は彼に追い抜かれた側の人間なんですけど……その時に見た彼の顔がその……」

 

「なんと言いますか……()()()()感じの人って感じがしたんですよね」

 

竹本は頬の部分を指で一撫でし、謂わゆる“ヤクザ”のようだったと言う。

 

「どんな顔……ですか……。疵…がありましたね。かなりデカかったと思います」

 

「あ、眼鏡もかけてましたね」

 

「眼鏡掛けてたら優しそう?いやいや、見たら分かりますよ。アレは絶対ただの生徒じゃないって」

 

「ただガタイがデカいだけじゃないんですよ」

 

「いや、筋肉ですよ、アレは絶対。絶対デブでは無いです」

 

「一言で言えば強そう……でしたね」

 

「どれぐらいか強いと思ったかって?」

 

「そうですね……ウチの中学にも不良はいたんですけど、その不良って地元じゃ結構有名だったんですよね」

 

「それが小学生のマウント取りにしか見えなくなったって言えば分かりやすい…ですかね?」

 

「どれぐらい強いかなんてわからないですけど、次元が違うってことぐらいは分かりますよ」

 

「喋りかけた生徒は居なかったのかって?いると思います?」

 

「そう、居なかったんですよ…彼()()()()()()人はね」

 

「そういうことです。彼が自分から話しかけた人がいたんですよ」

 

「喧嘩?あ、いえいえ、全然不穏な雰囲気じゃなかったですよ。まぁ……彼のガタイのせいで側から見れば不穏な雰囲気に見えてしまったんですが」

 

「彼が話しかけたのは少女でしたね。小柄で、杖を突いていました」

 

「いや、ナンパとかじゃないですよ。まぁ聞いてればわかります」

 

「声をかけられた少女ですか?そりゃ物凄い驚いてましたよ。でも、見かけに反してそこまで怯えてる感じはなかったですね」

 

「今振り返ってみれば、彼女があそこまで取り乱してたのを見たのはアレが最初で最後でした」

 

「で、彼がしゃがみこんで声をかけたんですよ。しゃがんだ彼よりもその少女の方が小さかったんでビックリしたんですが、後で聞いたら『大丈夫か?』って声をかけられてたらしいです」

 

「まぁ、杖を突いていましたからね。多少心配にもなりますよ。ただなんと言うか、ガタイからはそんな事を言うなんて想像もつかなかったです」

 

「結構長い間立ち止まって話してましたね。『運んでやる』という彼の主張と、『結構です』って断る少女は平行線だったみたいです」

 

「……あ、僕ですか?立ち止まってましたよ。僕以外にも何人か立ち止まってましたけどね」

 

「僕らは正直気が気じゃなかったですね。彼が怒ったら少女なんて文字通り握り潰されるんじゃないか……と思ってたんで、その少女に対して『意地を張らずにさっさと運んでもらえ』と思ってました」

 

「でも、意外というかなんというか、結局折れたのは彼の方だったんですよね」

 

「驚きましたよ。僕だって善意で声を掛けたのに断られれば嫌な気持ちになります。お年寄りに席を譲ろうとしたら逆にそのお年寄りに怒られた…みたいな話はよく聞きますけどね」

 

「善意を無碍にされた彼が激昂して暴れ出さないか心配してたんですけど、全然そんな感じは無かったです」

 

「人は見かけで判断しちゃいけないんだなーって思いましたね」

 

「悪そうな奴が良いことをしたから良い奴に見えるだけって?まぁ、否定はしませんが、普通に立派ですよね。こういう風に困っている人に声を掛けられる人ってカッコいいとは思いますよ」

 

「その後ですか?何も無かったですよ。そのまま彼は歩いて行きましたし、少女も暫く立ち尽くした後ゆっくりと歩いて行きました」

 

 

件の少女、坂柳有栖とも話をすることが出来た。

 

「声を掛けられたとき…ですか?」

 

「……正直に言えば、驚きましたね。悔しいですが、怖いとも思ってしまいました」

 

「今までも何人か屈強な男を見たことはありましたが、次元が違いましたね」

 

「意外だったのは、凶暴性が皆無だったことでしょうか。話していて分かりましたが、人間としては非常に好感が持てると感じました」

 

「どうして彼の申し出を断ったのか…ですか。単純に私のプライドが許さなかったというだけの話ですよ」

 

「怖くは…なかったと言えば嘘になります。ただ、好意を無碍にしても彼が激情に身を任せるというのは想像出来なかったですね」

 

「もしそうなっていたら?それは……想像したくもないですね」

 

 

この話は花山の善性を知らしめることとなり、花山薫の印象向上へ一役買う事となった。

 




先に言っときますけど(別に坂柳がヒロインというわけじゃ)ないです。(なんならヒロインすら決まって)ないです。

(追記)念のために言っとくけど、アンケートはあくまで調査であって一番票が多いクラスになるってわけじゃないんで悪しからず


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一の拳

花山のクラスはCクラスに決めました。

もしかすると、万が一、他のクラスルートとかも書く可能性が微レ存。

評価、感想、誤字報告ありがとうございます。
まだプロローグだけなのに赤バーついてるのバグかな?


Cクラス。

 

入学初日のクラスの雰囲気というのは、これからのクラスの雰囲気を大きく左右する。そこである程度の人のイメージは固定化され、クラスカーストが作られることとなる。

 

国が建てたこの学校も例外ではなく、クラスカースト制度から逃れることは出来ない。

 

 

入学初日のCクラスの教室は喧騒に包まれていた。

誰もが知らない顔であるために全員が仲良くなろうと声をかけていき、会話の輪は大きく広がっていく。

 

が、他クラスに比べればその喧騒も些か静かなものだ。

その理由は、数名が醸し出す雰囲気のようなものにある。

謂わゆる“話しかけるなオーラ”とでも言うべきだろうか。本などに視線を落として周りと関わらないようにしようというのではなく、目線が、雰囲気が、面構えが彼らに話しかけることを躊躇わせる。

彼らをあえて一括りにするとすれば『不良』と纏められるだろう。

 

とは言え、他の生徒達の会話を邪魔するような気もないようなので、他クラスに比べて静かとは言え会話は行われていた。

 

 

 

その会話が、突如として途切れた。

 

静寂に包まれるCクラス。

 

その原因は今教室に入って来た巨漢にあった。

 

顔に刻まれた2本の疵。袖から覗く手には無数の傷痕。190近い身長。力士を思わせるほど広い肩幅。

 

(どこからどう見ても学生じゃないッ!)

 

誰もがそう思っただろうが、それを口に出す者は誰一人として居ない。

いや、そもそも誰もがみじろぎ一つしていない。文字通り体が固まっているのだ。

 

 

当時の様子をCクラス、小田拓海は語ってくれた。

 

「そりゃあもう驚きましたよ」

 

「ホンットに漏れなく全員がシン……って鎮まりましたね」

 

「いや、そりゃそうなりますよ。ただガタイがデカいだけならアルベルトくんだっていましたから、さほど驚かなかったでしょうね」

 

「見ました?あの疵」

 

「初めて見ましたよ、あんな疵。アレは絶対なんかの刃物で斬ったやつですよ。だってあんなに深かったですもん」

 

「みーんな見てましたよ。チラッと視線を動かしたんですけど、誰とも話そうとしていなかった不良達も彼を見てましたね」

 

「……なんて言うんでしょう。最初この教室に入った時はね?不良達を見て“怖い”と思ったんですよ」

 

「だってホラ…見た目が荒っぽいし、筋肉もついてるから…ね?」

 

「でも、彼を見たら全く怖いと思わなくなりましたね……いや、流石に『全く』は嘘ですけど。ただ、彼に比べればマシというか、可愛いものだと思えてしまったんですよ」

 

「その後ですか?」

 

「いや、僕らは誰も喋らなかったですよ」

 

「でも、彼は小さい声で『ウス…』って言いながら入って来ました。めちゃめちゃ小さい声だったんですけど、妙に通りました。静まり返っていたからですかね?」

 

「彼はそのままゆっくりと教室に入って来て、ゆっくりと歩いて『花山薫』と書かれた机に座りました。その間も誰一人喋らなかったです」

 

「場違いかも知れないんですけど、そこで『あぁ、花山薫って言うんだ……良い名前だな…』なんて思ってたんですよね」

 

「花山くんはそのまま黙って腕を組んだので、もうそれ以上動かないことはわかりました」

 

「そのまま、全員が全員視線を交わしてましたね」

 

「『誰か喋れよ』『早く誰か喋ってくれ』『誰が喋る?』『誰か声掛けてみろよ』…とか、そんな感じで思ってたんじゃないですか?」

 

「全員が誰かが動き出すのを待ってたんですけど……一人、動き出した人がいたんですよ」

 

「誰とも話していなかった生徒の内の一人で、後から知ったんですけど『龍園翔』って名前らしいです。紫がかった長めの髪を揺らしながら立ち上がって、花山くんに近づいて行ったんです…………」

 

 

『よう』

 

「龍園くんが声を掛けると、花山くんが顔を上げました。その時、正直気が気じゃ無かったですね」

 

「なんでって……いかにも不良っぽい人が会話し合う訳ですし、喧嘩でも始まるんじゃないかと思ったんですよ」

 

『……………』

 

「花山くんですか?別に何か喋ったわけでは無かったですよ。顔を上げて目線を合わせただけでしたね」

 

「…その後ですか?」

 

『龍園翔だ』

 

『……花山薫』

 

「お互い名乗ったんです。龍園くんの方は後ろの方で座ってたので、花山の名前が見えてなかったんじゃないですかね?」

 

「龍園くんですか?終始笑みを崩してなかったと思いますよ」

 

「それで、龍園くんが手を出したんですね」

 

「あぁいや、そういう意味じゃなくて、握手を求めてってことです」

 

「後になって考えれば、龍園くんが握手を求めたのなんて花山くん以外には見たことも聞いたこともないので、龍園くんもある程度の力関係は見ただけで理解してたんじゃないですか?いえ、龍園くんにどういう意図があったかは知りませんけど」

 

『ん………』

 

「花山くんが手を出して、握り返したんですよ」

 

「え?握り潰したのかって?いやいや、いくらなんでも人の手を握り潰すなんて出来ないでしょ。…で、ええと……そう、花山くんも握り返して握手と相成ったんですね」

 

『……………』

 

『………ッ……』

 

「側から見てる分にはただの握手に見えたんですけど、何故か龍園くんが一瞬顔を顰めるような表情を見せたんですよ」

 

「その表情はほんの一瞬だったんですけど、その後は手を離して自分の席に戻って行きました」

 

「…これは勝手な想像なんですけど、龍園くんが花山くんの手を思いっきり握ったんじゃないですかね?」

 

「それで、花山くんも強く握り返してそれが思いの外痛かったから龍園くんは顔を顰めた……って風に見えなくもなかったんですよ」

 

「…その後ですか?龍園くんも花山くんも、龍園くんが席を立つ前の状態まで戻っただけですよ」

 

「その後は特に何も無かったですね」

 

「………まぁ、クラスの雰囲気はお通夜さながらでしたけど」

 

 

 

 

あれから誰一人として口を開くことなく始業を告げるチャイムが鳴ると、それと同時に一人の男性が教室に入って来た。

 

眼鏡をかけており、見たところ歳は30歳前後、その風貌は、あえて言えば悪徳弁護士を彷彿とさせる。

 

「新入生諸君。私はCクラスを担当することになった坂上だ。授業では数学を担当することになっている。この学校はクラス替えが存在しないため、三年間私が担任を務めることになる。よろしく」

 

クラスによっては「よろしくお願いしまーす」と軽い挨拶が返ってきていただろうが、残念ながらこのクラスはそうはならなかった。

その雰囲気を作り出した原因は言うまでもないだろう。

 

「…さて、今から一時間後に入学式が行われるが、その前にこの学校の特殊なルールに書かれた資料を配布させてもらう。入学案内と一緒に配布した物と同じ物だからキチンと把握している者は見る必要は無いがな」

 

そう言って資料を配った後、さらにもう一枚カードのような物を配布し始めた。

 

「今配っているのは学生証カード。敷地内の施設の利用や商品の購入などがこれ一枚で出来るようになっている。図書カードの万能版のようなものだと思ってくれれば構わない。学校内においてこのポイントで買えないものはない。学校の敷地内にあるものなら、何でも購入可能だ」

 

これがこの学校の特徴の一つでもある、Sシステムだ。

紙幣などで起こるトラブルを未然に防ぐ事が出来るという利点がある。

 

「施設では機械にこの学生証を通すか、提示する事で使用可能だ。ポイントは毎月1日に自動的に振り込まれることになっているが、今君たち全員に平等に10万ポイントが支給されている。1ポイントにつき1円の価値がある……つまり………」

 

10万円が配られたということになる。

 

これにはお通夜状態だったCクラスの面々も声を上げてしまった。

一度声が上がってから雰囲気が幾らか和らいだのか、生徒間で会話が交わされるようになっていった。

 

「この学校では実力で生徒を測る。この学校に入学出来た君たちにはそれだけの価値と可能性がある、と評価されたわけだ。遠慮することなく使ってくれて構わない。

ただし、このポイントは卒業後には全て学校側が回収することになっている。現金化したりは出来ないので貯める事に得は無いぞ。

振り込まれたポイントは好きなように使って構わないし、ポイントを不必要だと感じたなら誰かに譲渡するのも構わない。

だがカツアゲなんかは当然許されない。いじめなどの問題にも学校は敏感だから気をつけるように。

…何か質問のある者はいるか?」

 

坂上は生徒達を見回すが、誰も手を挙げない。どうやら質問は無いようだ。

 

「……質問は無いようだな。では良い学生ライフを満喫してくれたまえ」

 

 

 

 

説明を終えたCクラスは、花山が入ってくる前の……いや、それ以上の喧騒に包まれていた。

10万という大金を得た彼らは、それぞれ出来た友達とどんな風に使うかを和気藹々と話し合っている。

つい先日までは中学生だったのがいきなり10万円分のポイントを得れば、当然水を得た魚のように金を使い込んでいくだろう。

 

 

かく言う花山も、どんなふうに10万ポイントを使うか想像を膨らませていた。

しかし、一向に思い浮かばないでいた。

 

まず、花山は基本的に娯楽……趣味を持たない。敢えて言えば戦いがあるが、それは金で買うものでは無い。

 

ならば金を使う先が無いのか…と聞かれれば答えは否だ。

例えば酒。未成年ではあるが、花山のガタイと境遇を考えればバーカウンターで酒を飲んでいたとしても誰も不思議がる者はいないだろう。

例えばタバコ。酒と同様の理由である。

 

しかし、しかしである。

ここは学生の街。生徒である自分が果たして酒を買えるのだろうか、タバコを買えるのだろうか。

答えは否である。

花山とて未成年の飲酒と喫煙が法律違反であることは承知の上だ。だが、法律を犯したところで誰が彼を裁けるというのだろうか。例え警察の目の前でタバコを吸い、酒を飲んでいても咎める者はいないだろう。

だがここは学生の暮らす街。立場は当然学校側…教師が上だ。彼らが飲酒と喫煙の罰として退学を言い渡すのならば、それに従う他はない。

だが木崎達には『三年間キチンと学校生活を送ってくる』と約束して出てきたのだ。例え約束していなくても勝手に約束してそれを守ろうとする花山であるが、口に出して約束している以上絶対に破る訳にはいかない。

 

つまり、バレてはいけないのだ。

飲酒も喫煙も。

 

だから、学校側が監視している可能性があるポイントを使用しての酒やタバコの購入をすることは出来ない。

 

ならば何に使うのか………。

 

とそこまで考えた所で、一人の少女が声を掛けて来た。

 

 

「あの…………」

 

「……ん」

 

花山が声の主に目を向けると、そこに立っていたのはライトブルーのロングヘアーの少女だった。

 

「椎名ひよりと言います。お名前を聞いても良いですか?」

 

「花山薫…」

 

「花山くんですね。よろしくお願いします」

 

「ん」

 

この時、Cクラスの意識はまた一点に集中することとなった。

もし彼らの心情がこの場に現れていたなら、このクラスは拍手と喝采が鳴り止まなかっただろう……「よく声を掛けた!」「すげー!」「可愛いー!」と。

 

「凄く身体大きいですね……それに筋肉も……触っても良いですか?」

 

この時、観客()達の内心の興奮は最高潮に達していた。

花山相手に声を掛けただけでなく、お触りすらも要求したのだ。声を掛けただけで拍手喝采なのだから、そのお願いの瞬間はもはや感涙に咽び泣いていたことだろう。

 

だが、花山はそれほど口数が多くないことはこれまでの会話の中でも察しがつく。例外はあるが、口数が少ないということは基本的に気難しい人であることが多い。

そんな花山へのお触りのお願い。

 

誰もが『そんなお願いを聞いてくれるわけがない』と落胆の表情を浮かべずにはいられなかった。

 

「ん……」

 

が、予想に反して花山は腕を差し出したのだ。

 

全員が『聞くんかい!!』と心の中でツッコミを入れたに違いない。

 

「うわぁ……」と感嘆の声を漏らしながら、椎名は自身の顔ぐらい太い腕をニギニギと触っていく。

 

「凄いですね……鍛えてるんですか?」

 

そりゃそうだろ……そう誰もが思った。

 

「いや……鍛えたことはねぇ……」

 

嘘つけ!……そう誰もが思った。

 

「へぇ〜、そうなんですか」

 

嘘に決まってんだろ!……そう誰もが思った。

 

 

本当に花山は今まで一度も鍛えたことなど無いのだが、それを証明出来る人物も方法も、何一つとして持ち合わせてはいないのだった。




うーん、花山とか坂上先生とかの口調ってこんな感じでいいんかな……。変なところあったらまた書き換えていくかも。

もっとインタビュー形式増やしても良い?結構書いてて楽しいんよね。読んでる側からしたらどうなんかな?

あ、念のために言っときますけど、別に(椎名がヒロインというわけじゃ)ないです(ヒロインじゃないとは言ってない)。


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二の拳

誤字報告感想あざます。

マジで自分で展開考えるの難しい。キャラの話し方とかこんなんで良いんかめっちゃ不安なる。


長ったるい入学式を終えて、ついに高校生活がスタートする。

 

中には新たに出来た友達とカフェやカラオケ、ショッピングに向かう生徒もいることだろう。

 

しかし、Cクラスだけはそうはならなかった。

 

 

バン!…と教卓を叩く音が響いた。

 

その音に帰り支度をしていた生徒達がピタリと動きを止めた。

 

 

「俺が王になる。文句があるやつはかかって来い」

 

 

その生徒、龍園翔は短くそう言った。

 

殆どの生徒は一瞬「何を言っているんだ」と思ったことだろう。だがそれよりも早く、一人の生徒が立ち上がった。

 

「何だァ?てめェ……」*1

 

「……名前は?」

 

「石崎大地だ」

 

「そうか石崎ーーー」

 

ガンッと鈍い音が鳴った。

誰かが不穏な雰囲気だ……と感じとるよりも早く、石崎の名前を確認した直後に拳を振るい石崎を殴り飛ばしたのだ。

 

「ッ…!テメェ!」

 

石崎が殴り掛かるが、龍園はいとも容易くそれを躱す。

 

突如始まった喧嘩にクラス全員が騒然となる中、喧嘩は激しさを増していく。

 

だがその攻防も徐々に一方的になっていき、最終的に地に伏せたのは………石崎だった。

 

 

「………他に文句がある奴はいるか?」

 

少し切れた唇を袖で拭いながらそう問いかける龍園。

 

半数ほどの生徒は喧嘩などしたこともない生徒だが、石崎が喧嘩慣れしていて強いことは分かった。それに勝った龍園もそれ以上に強いということも分かる。

 

純粋に恐怖したのだ。

人目を憚らず容赦無く殴りつける暴力的な性格に。喧嘩自慢を容易く倒すその強さに。

中には少し震えている女子もいる。

 

 

だが、希望があることに気付いた。

 

彼ならば、花山ならばなんとかしてくれるんじゃないか……と。

 

数人が花山に視線を向けるが、当の花山本人は腕を組んで俯いたままだ。

 

そもそも、彼らのその願望は破綻している。

龍園が凶暴な事はわかったが、花山が彼を倒したとしてもそれが解決に繋がるとは限らない……つまり花山がトップになったとして、龍園を倒すような奴がトップになったとして、その人物が龍園のような凶暴性を持ち合わせていないと誰が証明出来るというのだろうか。実際の所は杞憂なのだが、それを知る由もない彼らの願望は破綻していると言えるだろう。

 

とは言え、花山が動かないのは彼らの願望が破綻しているからというわけではない。

花山には人の上に立ちたいという野心は無いのだ。

故にこの“クラスリーダー決め”には興味が無い。

 

「…お前は良いのか?花山」

 

花山に動く気がない事を知って落胆していたが、龍園自身から花山に確認を取るとは思わなかった。もしかすると……なんて希望を抱いてしまうのは仕方がないだろう。

 

「好きにしな」

 

だが、その希望は花山自身の言葉によって裏切られることになる。

見掛け倒しか…と思われてしまうのも仕方がないだろう。

 

だが、龍園に抗う意志がある生徒がまだいた。

 

山田アルベルト。ハーフで花山に次ぐ巨漢である。

 

「次はお前か……」

 

「…………………」

 

アルベルトは黙ったままだが、剣呑な雰囲気は戦闘の意思を十分に示していた。

 

アルベルトは体格、筋肉量で大きく龍園を上回っており、アルベルトに比べていささか細身な龍園は不利に思える。

 

 

アルベルトが太い腕を振るい龍園に殴り掛かり、二度目の喧嘩がスタートした。

 

 

 

 

結果から言えば、龍園はアルベルトに負けた。

 

体格差を鑑みればある意味当然の結果だと言えるだろう。

 

「……なるほどな。確かに喧嘩じゃお前には勝てねぇ」

 

顔を腫らしながらも龍園は口を開く。

 

「…………」

 

「だが暴力ってのは何も喧嘩だけじゃねぇ。今日の喧嘩じゃお前に負けたが、最後に勝つのは俺様だ」

 

このセリフだけを聞けば、誰もが単なる負け惜しみだと思うだろう。敗北者が何を言っているんだと思うだろう。

 

しかし、誰一人として龍園の言葉を笑う事が出来なかった。

つい今しがたボコボコにされたばかりだというのに凶悪な笑みを絶やさないからだ。まるで喧嘩で負けることに対する恐怖を……いや、恐怖そのものを忘れているかのようにすら思える。

 

 

 

 

龍園が去った後の教室は重苦しい雰囲気が漂っていた。

 

これまでの学校生活で目の前で喧嘩を眺めたことなど無かった生徒にとっては怒涛の数十分だっただろう。

 

誰もが顔色を伺いながら誰かが動き出すのを待っていたのだが、椎名ひよりという少女が教室を出たのを皮切りに、Cクラスの生徒達は帰路について行ったのだった。

 

 

 

 

 

さて。

 

既に殆どの生徒は教室を出て行ったが、二人の生徒がまだ教室に残っていた。

 

その生徒は花山薫、そして石崎大地。

 

花山が残っている理由は、石崎が自分に視線を向けているからだ。

無視して帰ることも出来たが、何せ入学初日だ。

花山とて友達が要らないと思っているわけではない。出来ることなら友達の一人や二人作ろうと思っているから、自分に用があると思われる彼が声を掛けてくるのを待ってみたのだ。

 

教室に残ったのが彼ら二人になってから数分後。

長い時間声を掛けるのを躊躇っていたようだが、ようやく石崎が声を上げた。

 

「……なぁ」

 

先程龍園に突っ掛かっていった時のような強気な声音ではなく、こちらを伺うような声音だ。

 

「お前……いや、アンタ……『花山薫』って、あの『花山薫』なのか?」

 

「……『あの』ってのは……『どの』だ?」

 

「や、やっぱり!“日本最強の喧嘩師”の『花山薫』なんだ……ですか!?」

 

何を以って『やっぱり』と繋がるのかは分からないが、否定しなかっただけでも十分だったらしい。

 

ふぅ〜…と花山は深い息を吐き出してから答える。

 

「まァ……そりゃあ俺のことだな」

 

「うおー!スゲー!本物の花山薫だ!あ、握手してください!」

 

「ん……」

 

関東で不良をやっていれば中学生でも『花山薫』の名前ぐらいは聞いたことがあるレベルの有名人である。

石崎にとって見ればまさに雲の上の存在。それこそアイドルのようなものだ。

 

対する花山だが、こういう事は特段驚くような事でもない。

花山自身もそこそこ有名であることは知っているし、見た事が無いような奴に頭をへこへこされる事もあれば、覚えのない恨みを買って殺し屋が差し向けられるなんてのは良くあることだ。

 

「お、俺!石崎大地って言います!」

 

「さっきのを聞いてたからわかってる」

 

「あの俺!花山さんのことスゲェ尊敬してます!」

 

「ん……」

 

とは言え、花山もここまで露骨に『自分、リスペクトしてます!』という感情を向けられるというのは随分久しぶりに感じていた。

どちらかといえば自分の事を恐れているような人間の方が多いし、ここまで露骨なアピールをされた記憶は久しくなかったのだ。

 

「あの、早速なんですが……お願いがあるんです!」

 

「…言ってみろ」

 

大きく息を吸って、声を張り上げた。

 

 

「俺を舎弟にしてください!!」

 

 

 

当時の心境を、彼自身はこう語る。

 

「あの日の事か……多分、俺一生忘れねぇよ」

 

「最初によ、あの人が花山薫って名乗った時から何となくそんな気はしてたんだ」

 

「話しかけてみて分かったんだよ。やっぱりあの花山薫だ!…って」

 

「本物の花山薫だと思ったらスゲェ嬉しくてさ……。最初にしてもらった握手……今でも手が覚えてる。でっけぇ手だったなぁ…」

 

「花山さんってさ、あん時の俺からすれば本当に次元の違う存在だったんだよ」

 

「まさか会えるなんて思いもしなかったしな」

 

「俺も不良やってるわけだからさ、『花山薫』の下につくなんてのは一種の夢だったんだよ」

 

「そん時思ったんだ。『その夢を叶えられる瞬間は今しかねぇ!』って」

 

「緊張?そりゃしたに決まってるじゃねぇか。でも断られたらどうしようとか、そうゆうのはあんま考えなかったな」

 

「え?いやいや、確信があったとかそんなんじゃなくて。そんな事を考える前に口が動いてたって感じだな」

 

「それでよ!花山さん、『好きにしな』って言ってくれたんだよ!」

 

「いや〜あん時はスゲー嬉しかったなぁ…。今でも人生で一番嬉しかった瞬間だと思うぜ?」

 

「…その後?ちょっと話しながらそんまま帰ったよ」

 

「何を話したのかって?えーっとな……あ、そう。あの日、龍園さんがクラスを仕切るみたいに言ってただろ?『なんで花山さんは龍園さんを止めなかったんですか?』って聞いたんだった」

 

「花山さんの答え?めちゃめちゃシンプルだったよ。『ガラじゃねぇ』って」

 

「そん時俺は『普通は一番強い奴が頭張るんじゃねぇのか?』って思ってたんだけど、今になって考えたら花山さんはこの学校の特色を見抜いてたのかも知れねぇな」

 

「え?そんなわけないって?いやいや、たしかにあの人そんなに勉強ができるわけじゃ無いけど、龍園さんだってそこまで勉強出来るわけじゃ……」

 

「あの時は花山さんが九九すら怪しかったって?いやいや、そんなわけないだろ。俺でも出来るんだぜ?」

 

「……………え、マジ?」

 

「え、ホントにあの人九九が怪しかったのか?」

 

「マジか……………」

 

「ま、まあいいや。で、何の話してたっけ……」

 

「あ、そうそう、どういう話をしてたのかって話だったな」

 

「後は花山さんの伝説について聞いたりしたぐらいだったかな、確か」

 

「例えば?そうだな…“トランプの束を指で引きちぎる”とか“エンジンを拳1発で破壊した”とか“敵の本拠地に単身乗り込んで壊滅させた”とかだな」

 

「それがよ全部ホントだったみたいだぜ?」

 

「嘘?いやいや、あの人は絶対嘘つかねぇよ」

 

「あぁ、絶対だ。命を掛けてもいい」

 

「あの人は真面目だからな。優しいし。あの人ほど誠実な人見た事ねぇよ」

 

「あん時話したのはそんぐらいだったかな……」

 

「……で、そう!最後によ!今でも人生で2番目に嬉しかったことがあったんだよ!」

 

「俺舎弟になったからよ、花山さんの部屋まで荷物持って行ったんだよ」

 

「部屋まで送って、俺も自分の部屋に帰ろうとした時によ…」

 

『じゃあな……大地』

 

「って言ってくれたんだよ…………」

 

「いや、もう、なんつーの?…すげぇ嬉しかった」

 

「部屋に帰ったら涙出てきたしな。感極まるってヤツ?」

 

「それで、この人に一生ついて行こうって思ったね」

 

*1
石崎、キレた!




これでまず石崎は攻略出来たね♡

口調これで合ってる?花山口数少なすぎて難しいわ。


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三の拳

待たせたな(小並感)

原作開きながら書くの面倒いなーって思ってたら2日ぐらい過ぎてたぜ!すまんやで。


 

学校生活も2日目に入り、早くも授業がスタートした。

 

最初の授業なので殆どが授業の説明などだったこともあったし、教師陣も意外にフレンドリーだった。そのせいか、昨日とは打って変わって教室には明るい雰囲気が漂っていた。

 

だが、その中でも一際明るい雰囲気を放っているのは彼ーー石崎だろう。

 

「花山さん!どこに行くんですか?お供します!」

 

「花山さん!トイレですか?お供します!」

 

「花山さん!飲み物買って来ましょうか?」

 

見事な忠犬ぶりを発揮している石崎に、多くの者は困惑している。

昨日石崎が敗北した龍園に付き従っているのなら分かる。敗北したから龍園の力を認めて付き従っているのならまだ分かる。

しかし石崎が付き従っているのは花山だ。

 

一体、何があったと言うのだろうか。

 

誰もがそんな疑問を抱きつつも、その疑問を解消する手段を持ち合わせてはいなかった……いや、直接聞くというシンプルな手段であることは分かっていたが話しかける勇気が無かったのだ。

風貌だけでも花山に対する恐怖心は根強い。むしろ石崎がたった一日で忠犬へと変わったこともあって恐怖心は増してすらいるだろう。

そんな彼に話しかけられる生徒はこのCクラスにはほぼ居なかった。

 

 

だが、そこに救世主が現れる。

 

 

「花山くんは石崎くんとお友達になったんですか?」

 

昨日花山に話しかけるという偉業を成し遂げた少女、椎名ひよりである。

 

また貴方様ですか!!と崇めかけてしまうのも仕方がないだろう。一度ならず二度までも花山に話しかけ、あまつさえいたいけな少女が筋肉ゴリラ(小声)と普通に会話をするのだから。

 

「あ?んだテメェ…花山さんに気安く話しかけてんじゃねぇぞ?」

 

「えっと……ダメなんでしょうか……?」

 

石崎に凄まれる椎名だが全く怯えるような様子が無い。煽っているような声音でも無く、明らかに素で言っているようだ。

それを見て、Cクラスの面々は戦慄した。

 

まさかコイツ……モノホンの天然か……?と。

 

考えてみれば、その片鱗は昨日の時点から見えていた。

最初に花山に声を掛けたときや、龍園が出て行った後最初に出て行ったときには、物怖じしない性格だったり人に流されないような性格なのかと思っていた。

しかしもしそれらが天然であるが故だったとすれば、今も石崎に凄まれながらも首を傾げながら会話しているのも頷ける。

 

「花山くんとお話ししたいだけなんですけど……」

 

「だからーー」

 

「ーー大地、止めろ」

 

「ハイッ!!」

 

「…で、なんの用だ。ひより」

 

(((ひより!!!???)))

 

恐らくCクラスの面々が今日一番驚愕したのはこの瞬間であろう。

石崎が大地と呼ばれていることもまぁまぁ驚いたが、まさか椎名すらもひよりと下の名前で呼ぶとは思いもしなかった。

 

因みに当の花山本人としては、タメと年下は基本的に名前呼びだから特に意識したようなことでも無いのだが。

 

「はい。えっと……あ、そうでした。石崎くんとお友達になったんですか?」

 

(((まさかの名前呼びをスルー!!!???)))

 

名前呼びをスルーである。これは本気で天然である可能性が高くなってきた。

 

「俺が花山さんのお友達なんてなれる訳ねぇだろ!舎弟だよ、舎弟!」

 

椎名の疑問には花山ではなく石崎が答えた。

 

「へ〜、そうなんですか」

 

「ヘヘッ…おう!」

 

物凄く嬉しそうである。

 

「なんで花山くんの舎弟になったんですか?」

 

よくぞ聞いてくれた!とCクラスの面々は思っていることだろう。

 

「なんでって…そりゃ、あの『花山薫』だからだよ」

 

「花山くんって有名人なんですか?」

 

「有名人どころじゃねえよ。“喧嘩師”の『花山薫』っつったら俺らにとっちゃもはや伝説だぜ?」

 

「へぇ〜……あ、じゃあ握手して貰っておいた方が良いんですかね?」

 

「おう、やってもらえ!絶対手ェ洗うなよ!」

 

「それはちょっと……。じゃあ花山くん、握手お願いします」

 

「ん……」

 

握手をする花山と椎名。

 

またもや平然と花山と接触する椎名に戦慄するCクラスの面々。

天然とはかくも恐ろしいものであっただろうか。

 

「うわぁ……手大っきいですね……私の手がスッポリ入りそうです」

 

「手どころか頭も入んじゃねぇか?」

 

「どうでしょう……花山くん、ちょっと掴んでみて貰えますか?」

 

「……良いのか?」

 

「…?…はい、全然大丈夫ですけど……」

 

「……いや、なら良い」

 

さしもの花山といえど女性の頭を鷲掴みにするのはどうかと考えたが、天然の前には無力であった。

 

 

さて。そんな訳で花山が椎名の頭を鷲掴みにしているというわけだが、今は授業の合間の短い休み時間。

 

教室で見ていた生徒達はどういう経緯で花山が椎名の頭を掴んでいるのかは把握しており、そこに危険性や暴力的な意味合いが無いことは分かる。

 

だが側から見ればその光景は些か危険なものに映るだろう。

 

つまり、次の数学の授業の為に教室に入って来た坂上先生からすれば、文字通り度肝を抜かれる光景となる。

 

 

「な、何をやってるんだぁぁぁぁ!!やめろ花山ぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

そんな事件(?)乗り越えた後の昼休み。

 

「花山さん!一緒に飯食いましょう!」

 

そう言って花山の前の椅子に座って向かい合わせに座る石崎。

 

………そして二人の側面に椎名。

 

「……なんでお前いんの?」

 

石崎が問いかけると、卵焼きを口に運ぶのを中断しながら答えた。

 

「え?ダメでしたか?」

 

「いや、ダメっつーか…」

 

「花山くんはどうですか?」

 

「…好きにしな」

 

「……だ、そうです」

 

「まぁ、花山さんが良いって言うなら……」

 

「……それにしても、さっきはびっくりしましたね」

 

「さっきって、センセーが『やめろぉぉぉ!』って入って来たやつか?」

 

「はい。私達に言ってたようでしたが、私達何か不味いことをしてたんでしょうか?」

 

「さぁ?花山さんは分かりますか?」

 

「……いや、俺も分からん」

 

「ですよねー…」

 

「ま、別に何も問題無かったわけだし気にしなくて良いんじゃねえの?」

 

「それもそうですね」

 

「ん…」

 

しばらく三人で雑談をしながら昼食を取っていると、スピーカーから校内放送が流れてきた。

 

『本日、午後5時より、第一体育館の方にて、部活動の説明会を開催いたします。部活動に興味のある生徒は、第一体育館の方に集合してください。繰り返します、本日ーー』

 

「部活動の説明会ですか……お二人は部活動に興味はあるんですか?」

 

「俺は無いけど……花山さんは?」

 

「俺もねぇな」

 

「じゃあ、二人とも部活動に入らないんですか?」

 

「花山さんが入るなら俺も入るけど……」

 

「俺は入んねぇぞ」

 

「じゃあ俺も入らねぇ」

 

「そうですか……」

 

「…ひよりは部活動に興味があるのか?」

 

「はい。まだ迷ってはいるんですけど、茶道部に興味がありまして」

 

「へー、良いじゃねぇか。タダで美味い菓子食えるんだろ?」

 

「そういう部では無いと思うんですけど……」

 

茶道部のイメージが茶よりも菓子の方に行っているのはどうなんだろうか……。

 

気を取り直して、椎名が口を開く。

 

「もし良ければ一緒に説明会に行って貰えたらな〜と思ってるんですけど、どうですか?」

 

「話聞いてたか?俺ら部活に興味ねぇって言ったんだぞ?」

 

「それはそうなんですけど、もしかすると説明を聞いたら興味が出てくるかもしれないじゃないですか。それに、折角お友達になれたんですし、一緒に居た方が楽しくないですか?」

 

「それはそうだがよ……って誰が友達だ!」

 

「私達、お友達じゃないんですか?」

 

「は?だから………い、いや、俺は花山さんの舎弟だから……」

 

石崎は素で首を傾げている少女相手に「友達じゃない」と告げるほど冷酷では無いので、“あくまで花山の舎弟”という関係に逃げ込むことにした。

 

「でも石崎くんと私はお友達ですよね?」

 

「お、おぉ」

 

「で、私と花山くんもお友達でしょう?」

 

「お、おぉ………え?そうなの?」

 

「なら、私達三人とももうお友達じゃないですか?」

 

「えぇ………」

 

「と、いうわけなんで一緒に説明会に行きませんか?」

 

「俺は花山さんが良いって言うなら良いんだけどよ……」

 

「どうでしょうか?花山くん」

 

「…良いぞ」

 

「決まりですね!」

 

 

 

 

その日の放課後。

花山一行は、説明会の為に体育館へと集まっていた。

 

「うわー、結構人が多いですね」

 

「意外と部活に入る奴って多いんだな…」

 

「優秀な成績を残すとポイントが貰えるらしいですし、それが目当ての人も居るんじゃないですか?」

 

「へー………なんか俺達めっちゃ見られてね?」

 

「そうですか?」

 

「………あ、もしかして、俺達じゃなくて花山さんを見てるんじゃないか?」

 

「あぁ!なるほど!花山くん体が凄く大きいから目立ちますしね」

 

「…どうしますか、花山さん。一丁全員シメてやりますか?」

 

「やらねぇよ……」

 

「ウス!」

 

「石崎くん、今のすごく舎弟っぽいですよ」

 

「『ぽい』じゃなくて舎弟なんだよ!」

 

そんな風に話している内に、部活動の説明会が始まった。

 

「一年生の皆さんお待たせしました。これより部活代表による入部説明会を始めます。私はこの説明会の司会を務めます、生徒会書記の橘と言います。よろしくお願いします」

 

司会の女生徒が司会をしながら、各部の部長が部の紹介をしていく。

 

「…この学校って強い部活とかあるのか?」

 

「どうでしょう……結構レベルは高いみたいですけど……」

 

「ふーん」

 

「石崎くん、興味出てきたんですか?」

 

「別にそうゆうんじゃねぇよ」

 

「えー、ほんとですかー?」

 

和気藹々と話す石崎と椎名を見て、もしかするとこの二人は案外相性が良いのかもしれない…と花山は思った。

 

気付けば殆どの部長は説明を終えてステージから降りており、残るは眼鏡をかけた知的な雰囲気を持つ生徒だけとなった。

これまでの部長はそれぞれのユニフォームなどを着用していたのだが最後の一人は制服を着ており、何部の説明をするのかは分からない。

 

その生徒はマイクの前に立ったが、一向に話し始める様子が無い。

ただただ真っ直ぐ前だけを見ている。

 

「なんだ?あの人」

 

「さぁ…なんでしょう…?」

 

一向に喋り出さないのを緊張のためかと思った一年生が「がんばってくださーい!」「カンペ、持ってないんですかー?」と野次を飛ばすが、それに反応することもなく微動だにしない。

 

茶化すような雰囲気も時間が経つにつれて無くなっていき、呆れたような声が聞こえ始める。

 

だがそれも直に終わりを迎える。

あの生徒の覇気故か、醸し出す雰囲気故か、弛緩していた空気が徐々に張り詰めていき、談笑を楽しんでいた一年生は口をつぐみ、誰一人喋る事のない静寂が生まれた。

 

その静寂が30秒ほど続いたあたりで、壇上の生徒は口を開いた。

 

「私は、生徒会長を務めている、堀北学と言います。生徒会もまた、上級生の卒業に伴い、一年生から立候補者を募ることとなっています。特別立候補に資格は必要ありませんが、もしも生徒会への立候補を考えている者がいるのなら、部活への所属は避けて頂くようお願いします。生徒会と部活の掛け持ちは、原則受け付けていません」

 

淀みのない口調で言葉を紡ぐその生徒ーー生徒会長。

言葉を発することなく約100人を黙らせる、一種のカリスマ的存在のスピーチが体育館に響く。

 

「それからーー私達生徒会は、甘い考えによる立候補を望まない。そのような人間は当選することはおろか、学校に汚点を残すことになるだろう。我が校の生徒会には、規律を変えるだけの権利と使命が、学校側に認められ、期待されている。そのことを理解できる者のみ、歓迎しよう」

 

スラスラと言い切った生徒会長は、ステージを降りて体育館を出て行く。

 

残された一年生は、静寂の中で彼の背中を見送るしかなかったのだった。

 

 

 




もう一度、一応念のために一応言っておくけど、別にひよりはヒロインじゃないからな。
ただ絡ませてるだけやからな?邪推すんなよ?

原作とは石崎と椎名の関係性がちょっと変わっちゃってるよ。

あと、一つ納得いかないことがあります。
なんで前回のヒロインアンケートで、葛城さんがあんなに不人気なんですか?私、納得出来ません!


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四の拳

えー、今回は皆さんお待ちかねプール回となっております。

因みに序盤はただのギャグ。折角考えたのに出さずに封印するのも勿体無いと思って出してみた。


「凄かったですね、あの生徒会長さん」

 

「……俺はあーゆう真面目ちゃんタイプは嫌いなんだよ」

 

説明会を終えて体育館を出た花山達は体育祭の外で雑談に興じていた。

 

「…結局ひよりは茶道部に入るのか?」

 

「はい、そうしようと思います」

 

「入部受付をしてる今の間に行ってきたらどうだ?」

 

「良いんですか?」

 

「あぁ、行ってきな」

 

「では、お言葉に甘えて…」

 

そう言って、椎名は茶道部の受付の方へ歩いていく。

 

 

「なぁ、ちょっといいか?」

 

後ろから聞こえた声に花山と石崎が振り向くと、そこに立っていたのは一人の男子生徒だった。

 

「あ?なんだテメェ、花山さんに気安く話しかけてんじゃねぇぞ?」

 

「俺は3年の水上。君、水泳部に入る気は無いかい?」

 

石崎に凄まれても動じる事なく答えた水上と名乗った三年生。見るからに不良の石崎に凄まれても動じないのは、三年生であるが故の落ち着きなのか、それだけの経験をしてきたということなのか。

 

「だからよぉ……花山さんに話しかけてんじゃーー」

 

「ーーやめろ大地」

 

「ハイッ!!」

 

「すいやせん、先輩。連れが失礼をしやした…」

 

「いや、気にしないでいいよ。それで、どうかな?君の体格なら……」

 

「すいやせんがーーー」

 

 

「ちょっと待って貰おうか!」

 

 

「っ!?…お前は…!サッカー部キャプテンの丸山!」

 

「待ちなよ一年生。水泳なんてダサい競技しないで、一緒にサッカーやろうぜ!!」

 

「なんだと貴様!」

 

「ふん…水泳なんて古いんだよ。時代はサッカーだ。一緒にゴッ○ハンドを習得しようぜ!」

 

 

「待て。貴様ら」

 

「お前は…!」

 

「…ウェイトリフティング部部長の山重!」

 

「一年生、君のカラダをイカせるのはウチの部だけだ。共に全国制覇を目指そうじゃないか!」

 

 

「待てぃ!」

 

「お、お前は……!」

 

「ラグビー部キャプテンの十郎丸!」

 

「君の体格を真に活かせるのはラグビーだけだ!君ほどのFWが入れば、全国一位間違いなしだ!さぁ、ONE TEAMになろう!」

 

 

 

「待てよ、脳筋」

 

「何!?」

 

「今度は誰だよ……」

 

「俺はバスケ部キャプテンの八村・ステフ・レブロンだ。バスケなら君ほどの体格があれば日本なんてチャチな次元じゃない、NBAだって夢じゃないんだ!一緒にNBAを目指そう!」

 

「冗談は名前だけにしろよ……なんなんだよその名前。有名選手を組み替えただけみてぇなダッセェ名前しやがって」

 

「思いつかなかったんだよ!悪かったな!」

 

 

「待ちなさぁい」

 

「「「!?」」」

 

「ねぇ、坊や。こんな男どもほっといて、オネェさん達と“イ・イ・こ・と”しなぁい?」

 

「料理部の奈須!?」

 

「君ほどの体付きの子がウチに入れば、毎日美味しいお弁当が(自分で作って)食べれるようになるわよぉ?」

 

「「「いや、ガタイ関係ねぇじゃん」」」

 

「えっ」

 

 

 

「花山くん、いつの間にか人気者になっちゃってますね」

 

部長達があーだこーだと言い合っている間に椎名が戻って来ていた。

 

「入部出来たのか?」

 

「はい!バッチリでした!」

 

「……じゃあ帰るか」

 

「あの先輩方は良いんですか?」

 

「……………ほっとけ」

 

すっと一瞥したが、さすがに面倒くさいと思い放って帰ることにした花山であった。

 

因みに、彼らの議論は7時過ぎまで続いていたとかいなかったとか……。

 

 

 

 

 

それから数日が過ぎ、授業にも慣れて来た頃のある日のこと。

 

 

「次は水泳ですね」

 

「………………………」

 

「どうしたんですか?」

 

「………………いや。行くか」

 

「はい!」

 

次のプールの授業の為に更衣室に向かう花山と石崎。

 

「………………ハァー………」

 

「ど、どうかしましたか?」

 

「………………いや、なんでもない」

 

「そ、そうすか………」

 

花山の気分はどん鬱であった。

その理由は、次の時間に待ち受けるプールにある。

 

プールの時間が憂鬱……と聞けば、大抵がカナヅチであるという理由を思い浮かべるだろう。

しかしながら花山はカナヅチではない。

 

ならばなぜ………?

 

突然だが、『侠客(おとこ)立ち』を知っているだろうか。

遥か昔、山賊に襲われた際に旅の博徒が花山家の幼子に寺の鐘を被せて背負い、死してなおその幼子を守り抜いたとされている。

その博徒を侠客の鏡として崇め、『侠客立ち』と称した彫物として代々花山家に現在まで語り継がれている……というものである。

要は彫物……刺青、タトゥーだ。

 

つまり、花山の背にも『侠客立ち』が刻まれているのだ。

 

花山に限ってはこの『侠客立ち』にまつわるもう一つの伝説があるのだが、一先ずそれは置いておこう。

 

そして彫物を刻んだまま学校のプールには………というわけで、花山の気分はどん鬱になっているのである。

中学の時は、木崎がウェットスーツのような競泳水着を用意してくれて、彫物がバレることもなかった。

だが今は競泳水着を持ち合わせていない。

となると学校から支給されるオーソドックスな海パン……つまり彫物を隠すことが出来ないのである。

 

ならばどうするのか…………。

 

どうしようもないのである。大人しく彫物を曝け出すしかないだろう。

 

とは言え、この学校のルールに彫物を禁止するような校則は無かったし、プールの利用規則にも彫物を禁止するようなルールは無いことは確認済みだ。

だから怒られる謂れは無い。無いが…………。

 

善良な学生として生きる事が不可能になる可能性が高い。

 

故に、花山史上最も重い足取りで学校を歩いているというわけだ。

 

 

 

考えている内に更衣室に到着してしまった。

既に何人かは着替え始めており、自分だけ着替えないと怪しまれる。

 

花山は意を決してーーーーーー。

 

 

当時の様子を、同じクラスの鈴木英俊が話してくれた。

 

「まぁ……みんな興味深々でしたね」

 

「そう、興味深々です。なんて言ったってあのガタイですからね」

 

「そりゃどんな体をしてるのか気になりますよ」

 

「だからですかね?彼がこちらに背中を向けながら服を脱ぎ始めた時、男子みんな彼を見てたんですよ」

 

「そしたら………ねぇ?」

 

「まさかあんなのが出てくるとは思わなかったですよ!ホントに」

 

「何というか、只者じゃないって感じはしてましたけど、アレは…こう、ねぇ?」

 

「あんな刺青見たこと無かったですよ」

 

「みーんなポカーンとしてましたね」

 

「それに、見ました?アレ本物の傷痕なんですよ」

 

「やばく無いですか?最初はあの傷も刺青なのかと思ってたんですけど、よくよく見たら本物なんですよ」

 

「いや、ホント只者じゃ無かったですね」

 

「あんなに傷がつくなんて普通はあり得ないでしょ?」

 

「薄々分かってはいたんですけど、この時確信しましたね」

 

「『あ、この人ヤクザだ』って」

 

「石崎くんもビックリしてましたね」

 

「当時は怖いが先行してましたけど、なんというか、カッコいい……ですよね。こう、背中で見せる漢って感じがして」

 

「そのあとですか?僕は花山くんよりも先に着替え始めてたので、早めに更衣室を出たんですよね」

 

「プールの広さとか設備について話していると、花山くんよりも先に女子が出て来ました」

 

「僕らは先に見てしまったから大丈夫だけど、女子は大丈夫なのかなーって思ってましたね」

 

「何人かはアルベルトくんを見てビックリしてましたけど、『あんなので驚いてたら花山くんを見たら泣き出すんじゃないか?』って思っちゃいました」

 

「で、ついに花山くんが来たんですよ」

 

「普通に正面から歩いてきたのでまだ背中は見えてないんですけど、それでも凄い体してましたね」

 

「筋肉とかも凄いんですけど、何よりやっぱり無数の傷痕ですかね」

 

「女子の方からちょっと悲鳴が聞こえてきましたもん」

 

「『おいおい、君達、こんなんで驚いてたら背中見た時卒倒するぜ?』って変な余裕みたいなのが出てきちゃいましたよ」

 

「それで、花山くんが歩いてくるわけですよ」

 

「そしたら花山くんの背中も女子達の視界に入ってくるわけで……」

 

『『『キャァァァ!!!』』』

 

「まぁ予想はしていましたね」

 

「悲鳴ぐらい上がるんじゃないかなーとは思ってました」

 

「いや、仕方ないですよ。だってあんなの見たらだれでもビビりますしね」

 

「気がついたら、何人かを除いて殆どの男女が固まって花山くんの所がぽっかりと空いてる状況になってました」

 

「僕も怖かったですし、みんな怖かったんじゃないですか?」

 

「みんな…は嘘でしたね」

 

「一人、そんなことをモノとも思わない生徒がいたんですよ」

 

「誰か分かります?」

 

「……そうです。椎名さんです」

 

『うわー』

 

「そんな風に感嘆の声を上げながら近づいて行ったんです」

 

「その時女子の誰かが『ダメッ…危ない!』って小声で言ってて、今思えばちょっと笑えますよね」

 

『凄いですね……触っても良いですか?』

 

『ん…』

 

『おーー…すごい……』

 

「天然って怖いなって思いましたよ」

 

「いえ、花山くんの方が怖かったんですけどね」

 

「というか、平気で花山くんに触ろうと思うの凄いですよね」

 

「僕だけじゃないと思うんですけど、今でも怖いですもん」

 

「で、その後先生が来たんですね」

 

『よーし、じゃあ授業を始めるぞー………ん?どうしたんだ、おまえ………ら………』

 

「人の顔色があんなに分かりやすく変化したのは初めてでした」

 

「真っ青でしたよ」

 

「でもまぁ、流石は教師……っていうべきなんでしょうかね?」

 

『お、おい花山。それは…………』

 

『なんすか』

 

『い、いや〜……なんというか……その……背中の……』

 

『……これですか。実はバイクの事故でやっちゃいまして……』

 

「絶対嘘だと分かりましたよ」

 

「バイクの事故でどう転がったら刺青入れることになるんでしょうね」

 

『事故で……?い、いや、流石にそれは…………いや、うん。そうか、事故ならしょうがないな。うん』

 

「後から聞いたんですけどこの学校、刺青を規制するようなルールが無かったらしいです」

 

「だから教師も強くは出れなかったってことじゃないですか?」

 

「その後は、準備体操をして軽く泳いでから、50M自由形の競争をすることになったんですよ」

 

「一位になったら5000ポイントが貰えるって言うんで、結構張り切ってたんですけど………」

 

 

 

花山はスタート位置に着く。

既に石崎や女子達は泳ぎ終えており、残っているのは花山を含む男子数人だ。

 

「花山さーん!頑張って下さーい!!」

 

「……ん」

 

「用意………スタート!!」

 

体育教師の号令で一斉にスタートする。

 

だが、花山はまだスタートしない。

 

訝しく思った教師が声を掛けようとしたところで膝を曲げ、飛び込む姿勢のようなものをとった。

 

 

当時の状況を、園田正志に聞くことができた。

 

「あの時ですか?」

 

「僕は花山くんの隣のコースだったんですけど、最初は一位だったんですよ」

 

「まぁ、中学の頃は水泳部でしたし、5000ポイントは頂きだなーって思ってました」

 

「横を見ても花山くんは付いて来ていなかったんで、余裕だなって思いました」

 

「で、息継ぎの為に顔を上げたんですよ」

 

「そしたら驚きましたよ」

 

「花山くんが水上を飛んでるんですもん」

 

「しかも目の前を通り過ぎて行っているんで、追い抜かれたってことになるんですかね?」

 

「何をどうやったら人間が水上を飛んでるのかと思ったら、後から聞けば普通に飛び込んだだけ見たいですよ?」

 

「普通に……って言って良いんですかね?」

 

「普通に飛んだら水面と平行に飛んだ…なんて信じられます?」

 

「……これだけでも十分凄かったんですけど、これで終わりじゃないんですよ」

 

「飛んだ…なんて言ってもいずれ着水するわけで、花山くんも例外では無かったんですね」

 

「問題はその後ですよ」

 

「突然、水流が乱れたんですよ」

 

「いや、そんな言い方じゃ生温いですね。津波が起こったんです」

 

「ビックリしましたね。普通に泳いでいたら、突然プールサイドに打ち上げられるわけですから」

 

「いやいや、ホントなんですって!他の人にも聞いてみて下さいよ!」

 

「打ち上げられた後、ようやく何が起こったのか分かったんです」

 

「その津波を花山くんが起こしてたんですね」

 

「ホント、どんな泳ぎ方をすれば津波が起こるんでしょうね」

 

「僕らは座礁したからまだ良かったんですけど、一人溺れちゃってましてね……」

 

「もうトラウマ……でしょうね。学校のプールで溺れるなんて夢にも思わないでしょうし」

 

「え?タイムですか?」

 

「19秒……ぐらいでしたかね」

 

「すいません。タイムよりもそっちの方が印象が強くて、あんまり覚えてないんですよ」

 

「……あ、でも、割と早いタイムの人には先生が水泳部に入らないか声を掛けてたんですけど、花山くんには掛けてなかったってことは覚えてます」

 

 




花山が履いてるのってアレふんどしって事で良いの?

前から聞いときたかったのが、刃牙だと花山が握り潰しても割と普通に治ってるやん?握りつぶしてもいいんかな、死なへんのかなって。
別に握り潰す予定が確定してるわけじゃないんやけど、それぐらいの怪我がどれぐらいで治るのかは知っておきたい。有識者カマン!

(追記)森重くんはAクラスって指摘受けたんで鈴木くんに直しました。


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五の拳

握撃有識者ニキ、刃牙人外軍団考察ニキ、刃牙世界医者レベル考察ニキ、協力感謝致します。
このSSに“ギャグ”タグをつけておいて良かったなと思いました。だってもし治っても「ギャグだから!」って言い訳出来るもん。
頭潰されて2日後には復活してそう……(小並感)


 

四月も終わりに近づき、残すところ一週間程となった頃の放課後の教室。

 

「どうでした?今日の小テスト」

 

椎名が花山と石崎に問いかけた。

 

『小テスト』というのは三時間目の数学の授業でやらされたテストの事で、数学のテストではなく主要五科目のテストといった感じだった。

その内容は殆どが中学生レベルの問題ばかりで、態々小テストでかくにんする必要のない難易度のものばかりだった。

 

「半分ぐらいは解けたぜ?」

 

「殆ど中学生の時に習うような問題ばかりだったと思うんですけど……」

 

「うるせぇよ。中学ん頃は全く勉強してなかったから仕方ねぇじゃねぇか」

 

そう。実はこの石崎、まじめに授業を受けており、中学の頃と比べて飛躍的に学力が上昇していた。

 

その理由は花山にある。

 

まず花山が真面目に授業を受けていること。

花山は遅刻も私語も居眠りもせずに黙々と授業を受けているというのに、唯一の舎弟である自分が授業を疎かにしていれば花山の名に傷が付く。

 

さらに、授業を真面目に受けているということは、必然的に花山の学力もそこそこ高いということになる。

先程と同様の理由だが、花山がどれだけ頭が良くとも、舎弟である自分がバカだと舐められる。

 

故に、今の石崎は石崎史上最も学力が高い石崎となっているのである。

 

 

「花山くんはどうでしたか?」

 

「…………………………」

 

会話の矛先を向けられた花山は、ズレてもいない眼鏡を触りながら、覚悟を決める。

 

「花山くん?」

 

「……………実はーー」

 

「ーー何言ってんだよ椎名。あんなに真面目に授業受けて予習までちゃんとやってる花山さんが全然出来なかったはずないだろ」

 

「それもそうですね」

 

「………いや」

 

「そうですよねぇ?花山さん」

 

「……………………………あぁ。もちろんだ」

 

「「おぉー……」」

 

……言えない。半分も分からなかったなんて……言えない。

 

 

 

「よぉ花山、随分楽しそうじゃねぇか」

 

彼らの会話に水を差すーー花山にとってはある意味助け舟だがーー声。

 

「んだよ龍園、花山さんになんか用か?」

 

「テメェに用はねぇよ。雑魚はすっこんでろ」

 

「んだとテメェ!」

 

龍園の煽りに怒り心頭と言った様子で龍園に近づく石崎だったが、その歩みは一人の生徒によって阻まれる。

 

「……………」

 

「お前……アルベルト!」

 

入学初日に石崎と同じように龍園に歯向かって行った男、山田アルベルトが石崎の前に立ちはだかったからだ。

 

「なんで邪魔すんだよ!オイ!どけよ!」

 

石崎の声に全く動きを見せないアルベルト。

梃子でも動かないつもりのようだ。

 

「………アルベルト、やれ」

 

「…!…石崎くん!」

 

椎名がいち早く龍園の言葉の真意に気付くが、もう遅い。

既にアルベルトは攻撃体勢に入っていた。

 

そして無防備な石崎の顔面にアルベルトの大きな拳が突き刺さり、机を巻き込みながら吹き飛ばされる。

 

「キャァァァ!!」

 

突然の喧嘩に女子から叫び声が上がった。

 

「だから言ったろ、すっこんでろって。……とは言え、少しやり過ぎだアルベルト。せめて傷が見えない腹にしておけ」

 

「………」

 

こくりと頷くアルベルト。

 

「大丈夫ですか?石崎くん!」

 

「っ…あぁ、なんとかな……」

 

椎名が吹き飛ばされた石崎の元へ駆け寄る。

常人なら気を失っていたであろう一撃だったが、喧嘩慣れしている石崎は気を失わずに済んでいた。

 

「どうしてアルベルトくんが………」

 

当初は龍園に歯向かって拳を振るっていたから荒々しい性格なのかと思っていたが、実際には温厚な性格であることがこの三週間で分かった。

見た目に似合わずそれほど喧嘩好きでは無く、比較的優しい性格の持ち主であることも。

そんな彼がこんなふうに理不尽に暴力を振るうというのはこの三週間見てきた限りでは初めての事で、これまでの印象からは大きく外れる行動だ。

 

そんな椎名の疑問の声に龍園は愉快そうに答えた。

 

「コイツは俺に屈したのさ。俺の“暴力”にな」

 

アルベルトは俺に屈した。だからアルベルトは俺に従っている。

そう龍園は言っているのだ。

 

「嘘つけ!アルベルトがお前に負ける訳がねぇ!」

 

石崎には自信があった。

入学式の時の龍園との喧嘩と今のアルベルトのパンチから考えれば、龍園がアルベルトとの体格差をひっくり返す事が出来るとは思えない。

事実入学式の時に龍園は一度負けているのだから。

 

だがそれを龍園は愉快そうな笑みを浮かべながら否定する。

 

「言っただろ?喧嘩だけが“暴力”じゃねぇって」

 

なるほど……と椎名は理解した。

どんな手段を使ったのかは分からないが、入学式の時に言った言葉の通り喧嘩以外の暴力を使ってアルベルトに勝利したという事なのだろう。

 

「さぁ、どうするよ花山。手下が一人やられちまったぜ?」

 

愉快そうに笑う龍園。

事態を静観していた花山だったが、ついに腰を上げた。

 

それを見ていた生徒ーー金田ーーが、ハッと思い出したように叫んだ。

 

「せ、先生を!先生を呼びましょう!」

 

入学式の時は全く動かなかったが、今なら動ける。有り体に言えば少しだけ慣れたのだ。

 

花山が暴れ出せば、龍園もアルベルトも無事には済まないだろう。思い出すのは背中に刻まれた傷痕と刺青………下手をすれば殺されてしまうかもしれない。

それを止める術を持つ生徒はこの教室には居ない。となると頼れるとすれば教師のみである。

 

そう考えた金田だったが、その目論見は二人の生徒によって潰える事となる。

 

「小宮に近藤!?」

 

「悪りぃが、事が済むまで大人しく待ってて貰うぜ」

 

そう言ったのは二つあるうちの一つの出入口を塞ぐ小宮。

もう一つには近藤が立っており、これで出入口は完全に塞がれた。

 

「頼むからどいてくれ!」

 

「どかねぇよ。諦めな」

 

一人の男子生徒が懇願するがとりつく島も無く却下される。

 

 

「……さて、これで舞台は整ったな。どうする?花山」

 

「は、花山さん…!」

 

心配そうな声を出す石崎に、花山は眼鏡を外して放り投げる。

 

「……大地、コレ預かってな」

 

「……!ウス!」

 

眼鏡を石崎に渡してアルベルトに向かい合う花山はすっかり臨戦体勢に見える。

 

「……………やれ」

 

「Yes,my boss」

 

グワッとアルベルトの巨大な拳が引き寄せられ、花山の顔面に向けて振るわれたーーー。

 

 

 

当時の様子を近藤はこう語った。

 

「俺と小宮はホラ、普通に龍園さんに負けた訳ですからアルベルトの強さはあんまり知らないんですけどね」

 

「龍園さんは普通に強かったですよ。ボッコボコにされましたし」

 

「その龍園さんより強いってんだから、アルベルトだって相当な化け物の筈ですよ」

 

「まぁ、あのガタイですしね……」

 

「花山さんですか?まぁ、背中のアレを見たら強いってことぐらいは分かりますよね。もちろんガタイもそうですけど」

 

「で、アルベルトのパンチを顔面にモロに受けた訳なんですけど…………」

 

『……………………』

 

「まっっったく動かなかったんです。みじろぎ一つしてませんでしたね」

 

「いや、アレは絶対全力のパンチでしたよ」

 

「石崎の時よりもスピードがあったようにも見えましたし」

 

「みんな『は?』って顔してました」

 

「そりゃそうでしょ。アルベルトのパンチを顔面にモロに食らってみじろぎ一つしないヤツがいるとは思わないですもん」

 

「そっからですか?」

 

「滅多打ちですよ」

 

「あ、いや、アルベルトが花山さんを……です」

 

「殴って、蹴って、叩いてをガムシャラに繰り返してましたね」

 

「薄々分かってたんじゃないですかね?一度攻撃を止めたら次は向こうの番だって」

 

「対する花山さんは、ポケットに手を突っ込んだまんま直立不動でした」

 

「ずっとですよ?」

 

「アルベルトの方もずっと殴ったりしてれば攻撃側にもスタミナ切れが来る訳ですよ」

 

『…ゼー…ハァ……ゼー…ハァ………』

 

「そこでようやく花山さんが動き出すんです」

 

「…と言っても一瞬ですけどね」

 

「蹴りでしたね。足の裏で顔面を前蹴り」

 

「そしたらアルベルトが吹っ飛んだんですよ。しかもアルベルトが石崎を殴った時以上に」

 

「机を巻き込みながら吹っ飛んで行ってたんで、もし机が無かったら壁まで行ってたんじゃないですかね?」

 

「アルベルトですか?多分伸びてましたよ」

 

「鼻血出したまんまピクリとも動かなかったんで」

 

「仰向けに倒れ込んでるアルベルトの所まで行って顔を覗き込んで、伸びてるのを確認した後龍園さんの方へ振り返りました」

 

「そこで龍園さんも攻撃を仕掛けた訳なんですが……」

 

「まぁ、ワンパンでした」

 

「いや、言い方が悪いですね。アルベルトですらもワンパンだったんだからそういう言い方をしたらいけませんよね」

 

「こっちも蹴りでした。アルベルトの時は顔面だったんですけど、龍園さんの時は腹でした」

 

「そんで龍園さんの所に近づいて、こう言ったんです」

 

 

『まだやるかい?』

 

『ゲホッ!!……ガ……つ、強えな……』

 

『………………』

 

『確かに…テメェは強え。化け物の中の化け物だ。喧嘩じゃ勝ち目はねぇ』

 

『………………』

 

『だがションベンしてる時はどうだ?クソしてる時は?どこにいようが、どんな時でも隙を見つけて仕掛けてやる』

 

『………………』

 

『最後に勝つのは俺だ。どんな卑怯な手を使おうともな』

 

『……………それなら』

 

 

「そう言って、ブレザーを開いたんですよ」

 

「こっちからは見えなかったです。というか、龍園さん以外は多分誰も見えてなかったと思いますよ?」

 

「龍園さんですか?見た事ない顔してました」

 

『お……い……。なんだ、そりゃあ…………』

 

『学生との喧嘩の為に、持って来た』

 

『…………は?』

 

『貸してやるから、好きな物を言いな』

 

『…………』

 

「ポカーンとしてましたね。今でもあんな顔見たことありませんよ」

 

『………クッ………ククク……』

 

「突然龍園さんが笑い始めたんですよ。いえ、今までの愉快そうな感じじゃなくて、絞り出した笑い声……みたいな」

 

「それで、次の言葉に俺は心底驚きましたね」

 

『……俺の負けだ』

 

「いや、ホンットにビビリましたよ。あのアルベルト相手に何度喧嘩で負けても決して敗北を認めなかったあの龍園さんが、敗北を認めたんです」

 

『………なるほどな。初めから化け物だとは思っていたが、まさかここまでとは思わなかった。……クク、あぁ…そうだな………怖え……な』

 

「何というか、妙に晴れやかというか、スッキリしたような顔でした」

 

『それでどうする?俺を負かして、テメェはどうする?俺に代わって王にでもなる気か?』

 

『…やらねぇよ』

 

『あ?』

 

『ガラじゃねぇ』

 

『……じゃあ誰がやるってんだ?』

 

『そういうのはお前がやりゃあいい』

 

『……何?』

 

『…力を貸して欲しけりゃ、いつでも呼びな』

 

『…………は?え、は?』

 

『大地、ひより、帰るぜ』

 

『ハイッ!!』

 

『あ、はい』

 

「龍園さんも呆けてましたけど、俺も呆けてたんですよ」

 

「一連の出来事が濃すぎてね」

 

「それで扉を塞いでた俺の前に花山さんが来たのに気付いた時は『死んだ』と思いましたね」

 

『ほら、どいてやんな。みんなが通れねぇ』

 

『…あ、ウス!』

 

「だからそう言われた時に、思わず返事しちゃいました。誰一人通すなって指示だったんですけど、しょうがないですよね」

 

「そのあとですか?職員室に行く!って騒いでた奴も、皆真っ直ぐ部屋に帰りましたよ。普通に」

 

「そう、まるで何事も無かったかのようでした」

 




それっぽく書けてる?
わかりにくかったりおかしい点あったら教えてね。

花山と石崎どっちが喋ってるか分からなくなる所があるってメッセージを頂いてるんですけど、どうなんでしょう?
自分はそこそこ書き分けてるつもりなんですけど、もし分かりにくいようなら何かしらの対策は取りたいと思います、


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六の拳

感想評価あざす

読み返したら40点は流石にちょっと高い気がしてきたんで32点に変えます(50歩100歩)


5月最初の始業のタイムが鳴ると同時に、坂上先生が教室に入って来た。

 

「これより朝のホームルームを始めるが……何か質問はあるか?」

 

坂上先生が教室をぐるりと見回しながら生徒達に問いかけると、一人の生徒が手を上げた。

 

「あの、ポイントが50000ぐらいしか振り込まれてなかったんですけど……」

 

毎月1日に10万ポイントが振り込まれると聞いていたが、実際に振り込まれたのは5万ポイントほどしか無かった。

 

他の数人の生徒も気になっていたのか、彼の質問に肯きながら坂上先生の答えを待っている。

 

「前に説明した通り、毎月1日にポイントは振り込まれていて、今月もそれは確認済みだ……ここまで言えば分かるだろう?」

 

まだ数人は疑問そうな顔をしている。

 

「え?つまりどういうことだ?」

 

その筆頭である石崎が椎名に問いかける。

 

「私達に振り込まれたのは5万ポイントで、それは学校側のミスでもなんでもない……ということです」

 

「はぁ?毎月10万ポイント貰えるって言ってたじゃねぇか」

 

「いえ、『毎月ポイントが貰える』ことと『今回は10万ポイントが振り込まれている』ということしか言っていませんでした。『毎月10万ポイントが貰える』とは一度も言ってなかったんですよ」

 

 

「……そうだっけ?」

 

「椎名の言う通りだ。来月も振り込まれるのが10万ポイントと君たちが錯覚していただけだ。ポイントはクラスの評価と連動している。減点方式で評価が付けられ、残ったポイントが5万ポイント分だけだったと言う話だな。既に気付いていた生徒も居たようだがな…」

 

そう言って龍園の方へ視線を向ける坂上先生。

 

視線を向けられた龍園が坂上先生に問いかけた。

 

「そんなのどうだっていいんだよ、先生。知りたいのは内訳だ」

 

「残念だが、詳しい内訳は教えられない決まりになっている。だがそうだな……その理由は君たちにも心当たりがあるはずだ」

 

そう言って石崎、アルベルト、花山、龍園を見回す坂上先生。

 

「……なるほどな」

 

この前の事なんかは教室に取り付けられた監視カメラによって筒抜けだったということだろう。

 

「さて。じゃあ本題だ」

 

そう言って黒板に大きな紙を貼り付ける。

 

そこに書かれていたのはクラスの成績表。

 

Aクラス…940

Bクラス…650

Cクラス…490

Dクラス…0

 

「1クラスポイントにつき100ポイント分の価値があるわけだが、これを見れば分かる者もいるだろう。この学校は優秀な者からAクラスに、不良品は下位クラスに集められている。つまり、君達は下から2番目だという評価を受けたというわけだ」

 

その言葉で、数人の顔に衝撃が走る。

 

「加えて言えば、このクラスポイントはクラスの評価をそのまま表している。つまり、1000ポイントを残したまま今月を迎えていればAクラスに上がっていたということだ。そして君らに残念なお知らせだ。この学校の進学・就職率100%という恩恵を受けられるのはAクラスのみ。その恩恵を受けたいならAクラスを目指したまえよ」

 

「「「はぁぁ〜!??」」」

 

数人の男女から悲鳴にも聞こえる声が上がった。

 

この学校の『進学・就職率100%』という恩恵を目当てにこの学校に来た者は非常に多い。

その恩恵が得られるのが限られた一部のみだと言われれば当然不満は生まれる。

 

「そんなのめちゃくちゃじゃないですか!」

 

「Aクラスに上がりさえすれば問題無いだろう?」

 

「…っ!」

 

「……さ、もう一つ君らにとって残念なお知らせだ。まずはこれを見てもらおう」

 

そう言って、クラスの成績表とは別の紙を広げて貼り付ける。

 

「これは先日行った小テストの結果だ。クラス毎の平均点は学年で3位だが……どういう順位になっているかは言わなくとも分かるだろう」

 

点数を見れば一位は金田悟、椎名…と続いていく。

 

当然、一位の他に最下位も気になってしまうわけで……。

 

「え……」と誰かが言った。

石崎だったかも知れないし、ここにいる全員が言ったのかも知れない。

 

 

花山薫 32点

 

 

誰もが目を疑っただろう。

真面目に授業を受け、授業の合間には予習復習を欠かさない。

模範的な優等生とも言える花山が、まさかのクラス最下位であることに。

 

「……まぁ、小テストについて多くは語るまい。残念なお知らせというのは、定期テスト赤点を取った生徒は退学になる…ということだ。つまり……」

 

花山を含む数人の名前の上に赤線が引かれる。

 

「今回の小テストで言えばこの赤線以下の生徒達は退学……ということだ」

 

ぺキャ

 

乾いた音がやけに教室に響いた。

 

音のした方を見れば、花山がペンをバッキバキに握り潰していた。

 

ゾクリ…と教室に緊張が走る。

アルベルトと龍園を一撃で沈め、ペンを容易く握り潰すような男が暴れ出せば、一体誰が止められると言うのだろうか。

 

「は、花山さん……あの……」

 

「……先生」

 

石崎が落ち着くように言葉を掛けようとするが、それを遮るように花山が重苦しい声を出す。

 

「な、なんだ?」

 

「……退学ってホントなんですかい?」

 

「……あぁ、正真正銘の真実だ」

 

「そう……ですか……」

 

はぁぁ〜……と大きく溜息を吐き出す花山。

 

クラスの面々は癇癪を起こして暴れ出さないか心配していたが、今のところそれは杞憂に終わったと言えるだろう。

 

だが依然としてこの学校を吹き飛ばしかねない程の爆弾であることに変わりは無い。

一刻も早くこの状況を変える必要がある。

 

 

そして、そこで石崎は声を上げた。

 

「だ、大丈夫ですよ!」

 

「……大地」

 

「俺でも50点取れたんですから、花山さんが取れない訳無いですって!花山さんなら出来ます!」

 

「…………」

 

『俺でも50点取れるテストで32点しか取れなかった程度のバカ』と言っているようにも聞こえるが、そういう意図で喋った訳じゃ無いことはわかり切っているので突っ込みはしない。

 

石崎に続いて、この流れに乗ろうと他の生徒達も声を掛けた。

 

「そ、そうだよ花山くん!」

 

「花山くんなら出来るよ!」

 

「一緒に頑張ろう!」

 

「今日から勉強会だな!」

 

「お、それ良いな!みんなで退学者なんか出さないように頑張ろうぜ!」

 

「私、勉強教えてあげるから!」

 

「分からないが事あったら何でも聞いてくれて良いんだよ?」

 

「みんな………すまねぇ………」

 

やいのやいのと花山にエールを送り続けるCクラスの生徒達。

 

実際のところ彼らは、花山が癇癪を起こす事を危惧して花山の退学を阻止する動きをしているのだが、側から見れば熱い友情シーンに違いない。

 

そんな学園ドラマさながらの友情シーンを見せられ、坂上先生は知らず知らずのうちに目頭が熱くなっていた。

 

兼ねてから、花山は要注意生徒の一人だった。

龍園も問題児ではあるが頭が切れるので、さほど世話は掛からないだろうと踏んでいた。

花山に関しては事情が事情だ。中学での生活態度や面接では特に問題は無かったが、荒っぽいイメージが拭えることは無かった。

有り体に言えば心配だったのだ。クラスに馴染めるのか、友達は出来るのか、最初の定期テストで退学してしまわないか……と。

だが、それもこの状況を見れば杞憂だったと分かる。

早々に石崎や椎名と友達になり、共に行動を取っている。そしてクラスメイトの信頼を集めていた為に、今こんなふうに周りが花山を助けようと一丸となっているのだ。

 

(花山……みんなから恐れられているのかと思っていたが、こうしてみんなからの信頼も勝ち取っていたんだな……良かった……)

 

一番の心配事であった花山について一安心することが出来た坂上先生は、少し鼻をすすりながら話を続ける。

 

「グスッ……あー、じゃあ、これで連絡事項は終わりだ。君たちが赤点を回避する方法は必ずあると確信している。テストに向けてしっかりと頑張ってくれたまえ」

 

そう言って足早に教室を出る坂上先生。

 

 

「よーし!じゃあみんなで花山さんを退学させないように頑張るぞー!!」

 

「「「おーーーーー!!!!」」」

 

石崎が音頭を取り、クラスメイト達が応える声を聞いて、坂上先生はまた少し眼鏡を濡らしたのだった。

 

 

 

その日の昼休みから早速、花山定期テスト対策講座(後にこう呼ばれる事となる)がスタートしていた。

 

「ーーだから、ここはこうなって、こうなるわけなんですよ」

 

「ん、なるほど」

 

「花山氏は理解力が高くて助かります」

 

「……教え方が良いんだ」

 

「やめてくださいよ……」

 

講師は金田。図書室で行っていることもあり、花山一行と金田を交えた4人だけの少人数の講義となっていた。

 

「しかし、不思議ですね。そこまで理解力があるのに、どうしてあの程度のテストであんな点数を?」

 

金田としては単純に疑問だったのだろう。

数十分花山に教えてみたが、バカでは無いと感じていた。考える力だったり、理解力は低くは無い……むしろ高いとすら言える。少なくともあのテストで32点なんて点数を取る筈が無いと思えるほどには。

 

しかし金田からすれば何気ない質問でも、花山からすれば立派な地雷だ。

花山は自分がバカであることは知っている。だがそれを見せないように、バレないように取り繕ってきた。それは自らのプライドの為ではなく、他人からの期待に応える為。

 

そんな恥の象徴とも言える32点を掘り返される事は地雷に他ならなかった。

 

それを分かっていた石崎は「バカ!」と小声で金田を咎める。

 

「……………」

 

当の花山本人は、ズレてもいない眼鏡の位置を直そうとしながら居心地悪そうにしていた。

 

 

先程まで明るかった雰囲気が金田の何気ない一言によって一気に淀む。

 

この空気では講義など……と誰もが諦めていたその時、一筋の風が吹いた。

 

「知識が定着していない……のではないでしょうか?」

 

風の名は“椎名ひより”。現状対花山最終兵器である。

 

その風に乗らない手はないと、金田が椎名に問いかける。

 

「定着……ですか?」

 

「はい。見たところ考える力に関しては問題無いようでしたので、問題があるならそれを扱う為の知識の方ではないか…と」

 

「ソイツはおかしいぜ?花山さんは毎日予習してるし、授業だってちゃんと聞いてる。()()()()()()()()()()()()()()()、それでも知識が定着してないなんて事があるのか?」

 

対花山最終兵器“椎名”は、石崎が『家でも復習だってしてるだろうし』と言った瞬間の花山の僅かなみじろぎを見逃さなかった。

 

「花山くん、家でもキチンと復習をやっていますか?」

 

「………………」

 

答えない花山。

 

「家でもキチンと勉強をやっていますか?」

 

「………………」

 

答えない花山。

 

「……そうでしたか」

 

「そういうことでしたか……」

 

椎名と金田が理解出来たと声を上げた。

 

まだ理解出来ていない石崎が椎名に問いかける。

 

「つまり、どういうことだ?」

 

「花山くんは復習不足で知識が定着していなかったんです」

 

「人間は覚えた事を何度も復習しておかないと直ぐに忘れてしまうんですよ」

 

椎名の言葉に続けて金田が応える。

所謂忘却曲線というやつだ。

 

「これで謎が解けましたね」

 

椎名が締めくくった所で、昼休み終了を告げるチャイムが鳴った。

 

後の事はまた放課後決めようということで、花山定期テスト対策講座の第一回目は終了したのだった。

 




花山が入ったせいで増えた喧嘩分のマイナスポイントは、石崎が真面目に授業受けた事によるプラスと、花山の圧力によって私語が無かったプラスによって相殺されてるとします。
そりゃいっちばん悪そうで怖い奴が真面目に授業受けてたら私語とかの邪魔になるような事したくなくなるよねって話。


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七の拳

感想は時間ある時にゆっくり返しますんでよろしくです。

2日に一回ぐらいの投稿ペースになるかな?
今日買ったプヨテトがおもろすぎてやめられんくなってたらごめんな。


 

「お邪魔しま〜す」

 

「お、お邪魔します」

 

問題だったのが家庭学習の時間だったことが判明したので、椎名と石崎はとりあえず勉強の習慣をつけるために花山の部屋に上がり込んでいた。

 

花山の部屋はデフォルトと殆ど変わっておらず、強いて言えば香水なんかが置いてある程度だろう。

 

「男の子の部屋に入ったのは初めてです。凄くさっぱりしてますね。男の子の部屋ってみんなこんな感じなんでしょうか?」

 

「いや、花山さんの部屋が綺麗なだけだと思うぞ?俺の部屋なんかはもっと汚えし……」

 

「へー…今度石崎くんの部屋にも行きましょうか」

 

「いや、それはやめてくれ。マジで」

 

「…なんか飲むか?」

 

「あ、俺は全然大丈夫です!」

 

「私はなんでも良いですよ」

 

「ん」

 

コップを用意し始める花山を見て、石崎が腰を上げる。

 

「花山さん、それぐらい自分がやりますよ!」

 

「座ってろ」

 

「花山さんに飲み物を注がせるなんて」

 

「良いから座ってろ」

 

「でも………」

 

「お前らは俺のお客だ。座ってろ」

 

「……………はい」

 

花山の意思が固いことが分かった石崎は渋々と言った様子で座り直す。

花山は義理人情を重んじている。当然そこに形式的な礼儀なんかもあるわけで、客に飲み物なんかを出すというのはその最たるもてなしの礼儀の一つだ。

それを客にやらせるというのは花山的にはあってはならない訳で、そういうもてなしをした事がない花山ではあるが、ここでは筋を通そうとしていた。

 

炭酸水の入ったコップを椎名の前に持っていく。

 

「こんなもんしかねぇが……」

 

「いえいえ、ありがとうございます」

 

コップを受け取った椎名が一口飲んだところで、本題を切り出す。

 

「それでは、お勉強しましょうか」

 

「おう」

 

「……ん」

 

一人では集中して勉強出来ないが、人が見ている中でなら集中出来るという人も多い。

逆におしゃべりをしてしまい効率が落ちるという事もなくはないが、花山にそれは当てはまらないだろう。

 

とにかく勉強をする習慣をつけることによって、一人になっても勉強が出来るようにしようという意図があっての花山の部屋での勉強会となっている。

 

 

 

しかし、カリカリとペンを動かす音が鳴り始めて僅か20分。

 

既に花山の集中力は限界を迎えていた。

勉強をする習慣が無い上に、自分の空間に他人ーーそれも友達ーーがいるという状況に慣れていないこともあって、花山のペンを動かす手は完全に止まっている。

 

そして自然と視線は一つの引き出しに寄せられる。

最も下の教科書などを入れる事が多い引き出しだが、そこに入っているのは教科書では無い。

入っているのは、花山が愛飲しているワイルドターキーの入ったボトルである。

敷地内のバーで酒を飲む…なんて事が出来ないために、いつも机をバーカウンターがわりにして酒を嗜んでいるのだ。

 

(酒が呑みてぇ……)

 

もはや習慣化している宅飲みを、いきなり勉強に変えられる筈もない。

 

 

そんな花山の集中が切れた様子に目敏く気付いた椎名が声を掛ける。

 

「どうしましたか?花山くん」

 

「………いや、なんでもない」

 

「もしかしてもう集中が切れたんですか?」

 

「…………………」

 

煽っているように聞こえるが、椎名自身にそのような意図は無い。だが花山のメンタルをえぐるには十分な攻撃力を持っていた。

 

「そうですか……思ったよりも集中力が無いみたいですね……」

 

静かに顔を伏せる花山に更なる追撃を喰らわせる鬼畜天然少女椎名。

とっくに花山くんのライフはゼロになっていた。

 

そしてつい引き出しに目を向けてしまった花山を、椎名は見逃さなかった。

 

「……花山くん、そこに何かあるんですか?」

 

「…………いや」

 

「じゃあ見ても良いですよね?」

 

そう言ってスクッと立ち上がり引き出しの方へ歩き出す椎名の前に花山は立ちはだかる。

 

「……………………」

 

「花山くん、見せてください」

 

「…………………」

 

花山がここまで頑なに拒むのは珍しいことだ。

それほど見られてはいけない何かなのだろうか………。

 

そこまで考えたところで、健全な一般男子高校生の石崎に天啓が訪れる。

 

 

さてはエロ本か……?

 

 

と。

 

ここまで見せるのを頑なに拒むということは、人には見せられない、見せづらい何かであることは想像がつく。となるとそれが何なのか………男子高校生であればエロ本が真っ先に思いつく。

花山とて男子高校生だ。エロ本の一冊や二冊持っているだろうし、そういうことをしたくなる時だってあるだろう。

引き出しの中なんてベタなところに隠すとは、まだまだ分かってないなぁ……と思いつつ、花山の尊厳を守らんと石崎も花山側に加勢する。

 

「あー、椎名、勘弁しちゃくれねぇか?」

 

「え?どうしてですか?」

 

「なんでって……ほら、花山さんにだってその………色々あんだろ?」

 

「大地………」

 

花山が救世主を見るような目で見てきたので、グッとサムズアップしておく。

 

「色々…とはなんでしょう?」

 

「そりゃお前……色々っつったら色々だろうがよ」

 

「例えば?」

 

「た、例えば?えーっと………あー、アレ……とか?」

 

「アレってなんですか?」

 

「うぇっ!?え、えーっとだな……アレってのはその、アレの事で……」

 

「アレだけで説明されても分からないんですけど……」

 

だが椎名の固有スキル“天然”の前では石崎の援護など無いも同然だ。

躱そうにも躱せず徐々に追い詰められていく。

 

 

数分程石崎も頑張ってはいたが、最後には「いや、やっぱ分かんないです……」と折れてしまったのだった。

 

天然恐るべしである。

 

 

自らの不甲斐なさに項垂れる石崎だったが、その肩に大きな手がポンと置かれた。

 

「花山さん………」

 

「大地、もう良いんだ」

 

「良いって…………」

 

「ひよりに見せる」

 

「あ、諦めるんですか!?」

 

「…………………」

 

遠回しに伝える方法では椎名は察してくれないから直接的な言い回しをする他無いが、直接的な言い回しをするなら実物を見せるのと殆ど大差ないだろう。

こうなった椎名を引き下がらせるのは不可能。ならば見せる以外の選択肢は無いと花山は考えた。

 

しかし、石崎は違う。

石崎は隠されている物がエロ本だと思っているのだ。

『エロ本がある』という事実だけでも口頭で伝えれば、流石の椎名も実物を見ようとまではしないはずだ。

だが花山は『見せる』と言っている。

つまり、花山は自らの性癖を曝け出すつもりだと言うことになる。

自らの性癖をバラすなど自殺行為だ。椎名は言いふらすような性格では無いとは言え、女子に性癖をバラすなど全裸で女子の前に立っているようなものだ。

石崎とてそれを看過することは出来ない。

 

「そ、それはダメですよ花山さん!」

 

「なんでだ」

 

「………え?」

 

「なんで見せちゃならねぇ」

 

「え、そりゃあ……まぁ……その……尊厳……と言いますか……」

 

「隠し事をしてまで守るような事か?」

 

「え、俺はそうだと思いますけど……」

 

「俺はそうは思わねぇ。生のままだ。生のままでいなきゃいけねぇ……そう思ってる」

 

「隠し事はしない……と?」

 

「あぁ」

 

花山は既に一皮剥けていた。

クラスメイトの前で学力の無さが白日のもとに晒され、友人にこうして家まで来てもらっている始末。

これ以上、一体何を取り繕う必要があろうか。

これ以上無いほどの弱みを見せた花山は、ある意味で腹を括ってしまったのだ。

 

対して石崎は、深い感銘を受けていた。

 

(そうか……ありのままの自分を、性癖すらも取り繕う事なく曝け出す………それが花山さんのあり方なんだ……それが『漢』なんだ………)※勘違い中

 

「………分かりました。もう止めはしません」

 

「ん。………ひより、開けて良いぞ」

 

「……良いんですか?」

 

「……あぁ」

 

引き出しを開けようと手を伸ばす椎名。

 

(南無三……)

 

石崎は心の中で合掌をして、花山の性癖公開の時を待っていた。

 

 

 

「これは……お酒……ですか……。どうして花山君がこんな物を?」

 

「自分で持って来た」

 

「お家から……なるほど……」

 

「…飲むか?」

 

「いえ、遠慮しておきます。未成年ですし」

 

 

「……………………ゑ」

 

 

石崎はようやく自らの勘違いに気付き、気恥ずかしさからか暫く天を仰いでいたという。

 

 

この後、テストが終わるまでの禁酒と毎日の勉強会が約束され、花山は絶望に沈んだ。

 

 

 

 

 

 

 

5月初日に衝撃の事実が告げられてから、一週間が経った頃の夜。

 

 

「鈴音。ここまで追ってくるとはな」

 

「もう、兄さんの知っている頃のダメな私とは違います。追いつくために来ました」

 

二人の生徒が寮の裏手で話をしていた。

『兄さん』と呼ばれた生徒は眼鏡を掛けた知的な生徒ーー生徒会長の堀北学であった。

もう一人は『鈴音』と呼ばれた黒髪の少女。

 

名前呼びであることなどからも察せられるように兄妹である。

 

「追いつく、か」

 

呆れたような声音で堀北会長が続ける。

 

「Dクラスになったと聞いたが、3年前と何も変わらないな。ただ俺の背中を見ているだけで、お前は今もまだ自分の欠点に気付いていない。この学校を選んだのは失敗だったな」

 

「それはーー何かの間違いです。すぐにAクラスに上がって見せます。そしたらーー」

 

「無理だな。お前はAクラスにはたどり着けない。それどころか、クラスも崩壊するだろう。この学校はお前が考えているほど甘いところではない」

 

「絶対に、絶対にたどり着きます……」

 

「無理だと言っただろう。本当に聞き分けのない妹だ」

 

堀北会長は妹の手首を掴み、強く壁に押し付ける。

 

「どんなにお前を避けたところで、俺の妹であることに変わりはない。お前のことが周囲に知られれば、恥をかくことになるのはこの俺だ。今すぐこの学校を去れ」

 

「で、出来ません……っ。私は、絶対にAクラスに上がって見せます……!」

 

「本当に愚かな妹だ。お前には上を目指す力も資格も無い。それを知れ」

 

堀北会長が腕を引いて、妹を手で突こうとする。

 

だがその腕を掴んで止める生徒がいた。

堀北妹と同じくDクラスの綾小路清隆である。

 

「あ、綾小路くん!?」

 

「あんた、今本気で撃ち込もうとしただろ。彼女を離せ」

 

睨み合う堀北会長と綾小路。

 

「……やめて、綾小路くん」

 

だがそれは、彼女が初めて見せた絞り出すような声によって中断される。

これまで見てきた生意気で強気な少女の面影からは打って変わったその声に、綾小路は堀北会長の腕を離した。

 

その瞬間、とてつもない速度の裏拳が綾小路を襲うが、それを綾小路はそれを躱す。さらに追撃で蹴りが飛んでくるが、それも躱す。

少しだけ疑問の表情を浮かべた堀北会長が手を突き出してくるが、掴まれると直感した綾小路は手の裏で叩くことで対処する。

 

「良い動きだな。何か習っていたのか?」

 

攻撃を止めた堀北会長が綾小路に問いかけた。

 

「…ピアノと書道なら」

 

「…中々ユニークな男のようだな。鈴音、お前に友達がいたとはな。正直驚いた」

 

「彼は……友達なんかじゃありません。ただのクラスメイトです」

 

はぁーと溜息をついた後に堀北会長は続けた。

 

「相変わらず孤高と孤独を履き違えているようだな」

 

 

 

「何をやってんだ?」

 

 

 

そこへ新たな声が掛かる。

 

そちらを振り向くと、とても高校生とは思えないガタイの持ち主が立っていた。

さらにその顔には大小様々な傷痕があり、日常生活でつくような傷の量では無い。

 

制服ではなく真っ白いスーツを着ておりパッと見では学生には見えないが、その姿を見たことがあった堀北会長が新たな来客者の名を呼ぶ。

 

 

「Cクラス……花山薫か」

 

 




はい。


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八の拳

待たせたなぁ……(小並感)
展開は決まってるのに全然上手く纏まらなくてこんなに時間経っちまったぜ!

前話の最後からちょっと時間巻き戻ったとこから始まりまーす




 

「ーーはい。それでは今日はここまでにしましょう」

 

椎名にそう言われて、花山はペンを置いて大きく息を吐き出す。

 

時刻は20時を回っており、かなりの時間集中していたことがわかる。

 

「花山くんも随分長い時間集中して勉強出来るようになりましたね」

 

この一週間、花山は椎名と石崎の三人で放課後遅くまで勉強していた。

そのおかげか、勉強会を始めた当初は数十分しか持たなかった集中力が、今では数時間まで伸びて来ている。

 

その理由として最も大きいのは、彼女達が付きっきりで勉強していることだろう。

花山にはある意味見栄っ張りな所がある。と言っても自分を強く見せようとというようなものではなく、期待に応えよう、弱味を見せないでおこうといったものであるが。

だから、彼女達がこうして毎日一緒に勉強をする事で花山は集中力を発揮しているのだ。

 

加えて言えば、誘惑ーー特に酒ーーが完全にシャットダウンされている事も大きな要因とも言えるだろう。

 

 

「皆さん、晩ご飯はどうするんですか?」

 

「俺は普通にカップ麺で済ませる予定だぞ?」

 

勉強道具を片付けながら石崎が答えると、それに呆れながらも椎名が言葉を返す。

 

「普通にって……そんなんじゃ体壊しますよ?」

 

「しょーがねーだろうが。料理なんて出来ねぇし、節約もしなきゃいけねぇんだからよ」

 

「それはそうですけど……花山くんは?」

 

「……外食(そと)だな」

 

「へー……でも外食だと結構お金使うんじゃないですか?」

 

「確かに。お金とか大丈夫なんですか?」

 

そう言われて花山は自分のポイントを確認すると、40000ポイント程が残っていた。

 

「まぁ………大丈夫だ」

 

次の支給まで残り三週間と少し。40000ポイントもあれば十分に生活出来るだろう。

 

「そうですか……」

 

「いきなりそんな事を聞いてどうしたんだ?」

 

「いえ、今日は野菜が安かったので沢山買ったんですが、思ったより量が多くて食べれそうにないんです」

 

「……つまり?」

 

 

「なので、今日は私の部屋でご飯をご馳走させてもらえませんか?」

 

 

「……女子の部屋って初めてだな」

 

椎名の部屋を見回した石崎は開口一番そう言った。

 

「すぐ出来ますので、適当に座っておいてください」

 

エプロンを付けている椎名にそう言われて花山はどかっと床に腰を下ろし、石崎は部屋の物色を始めた。

 

「お前の部屋ってなーんもねえのな。あるもんっつったら本棚ぐらいか……。女子の部屋ってこんなもんなのか?」

 

女子の部屋と言えば雑多で可愛い物が多いというイメージだったが、椎名の部屋は花山と同じようにデフォルトと殆ど変わらず、石崎が言うように本棚がありその中に本がギッシリ詰め込まれているだけだ。

 

「どうなんでしょう……他の人のお部屋にお邪魔したことが無いですから……」

 

「お、おぉう」

 

唐突な椎名のボッチカミングアウトに石崎は戸惑ってしまった。

 

「ひよりは本が好きなのか?」

 

「はい」

 

「あー、そういや椎名っていっつも本読んでるよな。面白いのか?」

 

「面白いですよ?石崎くんも読んでみます?」

 

「いや、俺は読まねぇよ。字ばっかり読んでたら頭が痛くなってくるからな。読むならマンガに限る」

 

「そうですか……花山くんはどうですか?一冊ぐらい借りていっても良いんですけど……」

 

「……じゃあ、後で適当に見繕ってくれ」

 

「…!はい!」

 

「あ、あー、なんか急に俺も本が読みたくなってきたなぁーー?」チラッ

 

「では、石崎くんの分も選びますね!」

 

 

 

 

 

「ーーそれでですね!この本は後半の展開が面白いんですけど、登場キャラが多いので少し読むのが大変なんですよね!」

 

 

 

「ーーこの本は終始ハラハラドキドキの展開で、ラストが本当に衝撃の展開なんです!ネタバレになるので深くは言えないんですけど……」

 

 

 

「ーーあ、それでですね!この本はとにかく深いんですよね!今まで考えなかった事を考えるきっかけをくれます!」

 

 

 

「この本は展開が少し重たいんですが、非常に深みがあって面白いです!続編がまだ出てないので、続きが気になって仕方ないです」

 

 

 

「あ、初めて本を読むならこれは外せないですね。ミステリーの定番なんですけど、これも面白いですよ!」

 

 

 

「ーーそれでですね!比較的マイナーなんですけど、この人の作品ってとっても面白いんです!」

 

「あ、あのー…椎名さん?」

 

「あの有名作ばっかり注目されがちなんですけど、実はあの人のファンなんかも多くて……」

 

「あ、もしかしなくても聞いてない感じですか?」

 

 

 

「それでそれで…………ってちゃんと聞いてますか?石崎くん」

 

「あーうんキイテルキイテル」

 

 

 

 

「それでですね!このアリバイトリックが凄く斬新で……」

 

「ヘーソウナンダー」

 

「…………………」

 

 

「探偵が犯人を追い詰めていくところなんてアゲアゲで!」

 

「ハェースゴイスゴーイ」

 

「…………………」

 

 

「それでそれでーーーー」

 

 

椎名の話は途切れる事なく数時間に及んだ。

 

余りにも熱の篭った椎名の話に石崎は口を挟まず、無感情に相槌を打つだけの機械になってしまっていた。

 

因みに花山は話し始めて30分経った辺りで既に眠りに落ちていたそうな。

 

 

 

椎名の長い長い話を終えた辺りでちょうど花山は目覚めたので居眠りがバレることなく解散となり、花山は気分転換も兼ねてブラブラと歩いていた。

 

特に目的がある訳ではない。

新宿にいた頃のようにパトロールをしなくてはならない立場でもないはずだが、日課となっていたパトロールをこの学校に来てからも続けていた。

 

特に酒を没収されている今では、趣味を殆ど持たない花山に時間を潰す手段は散歩以外には無い。

勉強という手段もなくは無いが、数時間の勉強をしてから椎名の小説談議(花山は寝ていたが)に付き合わされた今では勉強のやる気なんて出ない。

 

そうして夜の敷地内を練り歩くが、新宿のように人が多い訳では無かった。敷地内にある巨大モールのケヤキモールの方からは何人かが歩いて来ているが、新宿のように往来で喧嘩をしている人間は居なかった。

テスト期間というのもあるのかもしれないが、こうして静かな夜の街を歩くというのは花山にとってかなり新鮮な事であった。

 

 

一通り一周した花山だが、ふと寮の裏手が気になった。

どこの街でも路地裏なんかは不良の溜まり場になっている事が多い。

この時間の寮の裏手であれば人もおらず、そういう生徒がいる可能性も大いにある。

 

そう思って寮の裏手に回った花山であったが、ちょうどそこで三人の生徒を見つける。

 

声を掛けるか否か……という迷いは花山には無い。

 

悠然とした足取りで彼らに近づいて行き、花山は口を開いた。

 

 

「何をやってんだ?」

 

 

 

 

 

「Cクラス……花山薫か」

 

堀北会長は現れた大男を見てそう言った。

 

「アンタは確か生徒会長の……」

 

「堀北学だ」

 

「堀北先輩、こんなところで何をしてるんですかい?」

 

「……お前の事は聞いているぞ、花山薫」

 

花山が堀北会長に問いかけるが、堀北会長はそれには答えずに言葉を続ける。

 

「入学試験での身体能力の数値は歴代最高得点だったそうだな」

 

「……恐縮です」

 

「だが、この学校は身体能力だけでは生き残れない」

 

「……………」

 

「随分と身体能力に自信があるようだが、それも結局のところ生まれ持ったその体に頼り切っているだけに過ぎない」

 

「……………」

 

「上に行きたければ精一杯足掻くんだな」

 

そう言って歩き出す堀北会長。

 

 

 

当時の様子を、堀北鈴音はこう語った。

 

「あの時ですか?」

 

「そうですね………『それだけなの?』みたいな感じでしょうか」

 

「綾小路くんには攻撃を仕掛けたり、興味を示す素振りをして話していたのに、彼ーー花山くんとは少ししか話さなかったので」

 

「当時の花山くんの印象?」

 

「最初見たときは大人かと思いました。白スーツ着てましたし、何よりあの体つきですから」

 

「彼がCクラスだと聞いた時は驚きましたよ」

 

「当時の印象と言えばこんなぐらいですかね」

 

「で、その後なんですけど、兄さんは普通に花山くんが来た方向へと歩いて行きました」

 

「帰ったのかって?いいえ、違います」

 

「私もそのまま帰るのかと思ってました。綾小路くんもそう思っていたと思います」

 

『………もう一度言っておこうーーーー』

 

「兄さんは花山くんとすれ違う所で立ち止まったんです」

 

『ーーーーこの学校は……甘くはないぞ!!』

 

『危ない!!』

 

「反射的に声を出してました」

 

「突然、兄さんは花山くんの方に向き直って正拳突きを繰り出したんです」

 

「兄さんは空手の五段を持っていますから、兄さんの正拳突きは常人なら無事じゃ済まないです」

 

「どうして兄さんはそんな事をしたのか?」

 

「さぁ……私では兄さんの考えを知ることなんて出来ないですから……」

 

「強いて言うなら……洗礼……とかではないでしょうか」

 

「……それで、兄さんの拳が花山くんの腹に突き刺さったんですけど………」

 

 

『……………』

 

 

「ケロっとしてるんですよ」

 

「信じられます?空手五段ですよ?しかもこれ以上無い見事な突きで、打ち損じなんかでも無かったです」

 

「それを正面からまともに受け止めて無傷な人間なんてこの世に居るはずがないと思ってました」

 

「世界は広いんだなと思いましたね」

 

「アレでどう思ったんでしょうかね………兄さんは」

 

「その後ですか?」

 

『スゥー……な、なるほど……やせ我慢という訳では無いようだな……スゥー……あぁ、いや、突然殴って済まなかったな、花山』

 

『いえ、忠告感謝致しやす』

 

『スゥー…そ、そうか………スゥー……じゃ、じゃあ俺は失礼させてもらう』

 

「そう言って兄さんは帰って行きました」

 

「兄さんに限って有り得ないとは思うんですけど、逃げるかのように去って行きました。いえ、まさか兄さんが逃げるように去って行くなんてことは無いとは思うんですけどね」

 

「その後ですか?いえ、特に何も無かったです」

 

『今日はもう帰んな』

 

「そう言って夜の闇に消えて行きました」

 

 

 

 

もう一人の当事者、綾小路清隆にも話を聞くことができた。

 

「先に聞いておきたいんですけど、このインタビューの内容は……」

 

「……口外しない…と。本当に口外しませんね?もし口外した場合はどうなるか……お分かりですね?」

 

「いえ、分かってるなら別に良いんですよ」

 

「で、えーと、当時の花山の印象ですか……」

 

「とてもじゃないですけど高校生には見えなかったですね」

 

「何がとかじゃなくて、全部が…です」

 

「まず彼の服装……白スーツを着てたんですけど、学生とは思えないほど白スーツが馴染んでました」

 

「次に体格。身長一つ取ってもかなり大きいですよね……と言っても須藤や高円寺とそう変わらないとは思います。それよりもあの横幅です。いやデブと言ってるんじゃなくて、太いんですよ、筋肉で。生徒会長も言ってましたが、間違いなく高校生離れした肉体ですね」

 

「後は……風貌……とでも言いましょうか。特に顔の疵ですね。普通に過ごしていてつくような疵では無かったです。今までそういう傷を見てきた事はいくつも有りますが、アレは確実に鋭利な刃物で斬られた痕ですね」

 

「勝てるのかって?…………少なくとも喧嘩では無理ですね。勝つとすればそれ以外の手段になります」

 

「例えば?……まぁ、退学させてしまえば勝利ですよね」

 

 

「彼に会って何を感じたか?」

 

「そうですね……強いて言うならーーーー」

 

 

 

「ーーーーかなり恐怖を感じた」

 

 

 




スペック回だと思った?残念!主人公達との顔合わせ回でしたー!
期待してたニキすまんな。まだ学くん達の腕をパァンさせる訳にはいかんのや。

堀北ズの口調ちょっとおかしいかもやけど許してくれメンス。ギャグやからさ!

前回の白スーツ関係の感想をたくさん頂いてるんですけど、花山って制服と白スーツ以外の服着てることあったっけ?刃牙道やとコート羽織ってはいたけど……。


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九の拳

感想の方で服の話結構して下さって有難いです。
どっちかって言うと部屋着とかが知りたかったんですけど描写無いから仕方ないですね。

でも花山が水色のパジャマと帽子みたいなん着けて寝てても違和感無い気がしてきたんですけどどうですか?
結構可愛くてアリだと思うんですけど……。


「突然だが、重要な連絡事項がある」

 

テストまで残り一週間と少しといった辺りの、朝のホームルームで坂上先生はそう切り出した。

 

「中間テストに向けて必死に勉強を頑張っていることだと思うが、テスト範囲に大幅な変更があった」

 

そう言って黒板に変更後の範囲を書き出していく坂上先生。

 

黒板にテスト範囲を書き終えると、手を払ってから何食わぬ顔でその日の連絡事項を連絡していった。

 

 

 

その日の昼休み。

 

「…………………」

 

「お、おい、どうする椎名」

 

「ど、どうしましょう……」

 

互いに意見を求め合う石崎と椎名。

二人の視線の先には花山がいるが、当の花山本人にいつものような覇気は無かった。

 

花山は落ち込んでいるのだ。どれほどナーバスかと言えば、5月初日の衝撃的な事実が告げられた時よりも気分は落ち込んでいるだろうほどに。

その原因は今朝のホームルームで伝えられたテスト範囲の変更だ。

ここ数日間の時間と集中力を大量に消費しながら禁酒までして覚えた勉強が無に帰したのだから、ある意味当然と言える反応ではある。

 

そんな花山にかける言葉が見つからない石崎と椎名。

 

この二人が話しかけられずにいるのだから、当然他のクラスメイトも声を掛けることなど出来ずにいた。

 

 

「は、花山さん……」

 

誰一人として声を掛けられずにいたが、意を決して石崎が花山に声をかけた。

 

「……………」

 

「ま、まだ二週間ありますから大丈夫ですって!」

 

「……………」

 

「え、えーっと……が、頑張りましょうよ!範囲が変わったのはみんなおんなじですから!」

 

「そうですよ花山くん。みんな条件は一緒です」

 

「そうだよ」「一緒に頑張ろう!」「椎名さん……天使だ……」と石崎達に続いて口々に励ましていくクラスメイト達。

 

だが花山の顔はまだ晴れない。

もう一押し必要な様だ。

 

「……花山くんの今までの勉強は無駄なんかじゃないです」

 

椎名はそう言いながら花山の手を取り、花山の目を真っ直ぐに見据える。

 

「この数日で、花山くんの基礎は十分に固まって来ています。その時点でこの数日間は無駄じゃ無かったと言えるでしょう」

 

「………」

 

「それに、今まで無かった勉強の習慣だってついてきています。ねぇ、花山くん。諦めないで一緒に頑張りませんか?」

 

花山の手を包み込み(物理的には包めないが便宜上そう表現する)、真っ直ぐ花山の目を見据える椎名。

 

「…………………………」

 

椎名がその手を離すと、花山はカバンから教材を取り出し机に広げた。

 

 

「………ここが……分からねえんだが……教えて貰えるか?」

 

「「「…!」」

 

「はい!もちろんです!」

 

そう言った花山の顔は晴れやかで、先程までの鬱々とした雰囲気は綺麗に霧散していた。

 

 

「……すまねぇ」

 

椎名が横で勉強を教えていると、花山がボソリと口を開いた。

 

「………いいえ。………あ、ここはーーーー」

 

それを聞いた椎名は少し驚いた後、優しげな声音で返しながら花山が分からない所を丁寧に丁寧に教えていく。

 

 

 

「…………………」

 

それを離れた所から見ていた男、龍園は、笑みを浮かべながらアルベルト、小宮と近藤を伴って教室を出て行くのだった。

 

 

 

 

「龍園さん、どこに行くんです?」

 

龍園の後ろをついて歩く小宮がそう問いかける。

 

「食堂だ」

 

「黙ってついて来い」…と一蹴されるのかと思っていたが、こちらに顔を向けながら何故か答えてくれた。

 

「食堂……ですか?一体何をしに……」

 

既に昼食は済ませているから、食堂へ行く理由は無いはずだ。まさか食堂でデザートを食べるなんて筈も無いだろう。

 

「付いてくれば分かる」

 

そう言って顔を正面に戻す龍園に、これ以上会話をする気がないと悟った小宮は黙ってついて行く事にした。

 

 

 

食堂に着くと、昼休みももう半分が過ぎた頃だからか、比較的人は少なめだった。

龍園は食堂をグルリと見回した後、狙いを付けたのか山菜定食を食べている一人の生徒に向かって歩き出す。

その生徒に見覚えは無く、この一ヶ月半で一度も見たことがない顔だ。

 

その生徒の向かいにどかっと座ると、龍園は声を掛ける。

 

「よお」

 

「……なんだお前」

 

対するその生徒だが、突然声を掛けられた事に対して一瞬驚いたものの、すぐに訝しげな視線を向けて来た。

見るからにガラの悪い龍園と威圧感のあるアルベルトもいるのにそれに動揺してる様子が無い。

そういう荒事に慣れているということだろうか。

 

「一年Cクラス、龍園翔だ」

 

「…何の用だ?」

 

「アンタが一年の頃の一学期の中間テストの問題と小テストが欲しい」

 

「……なぜそれを俺に?」

 

「心当たりはねえか?」

 

「なるほどな……」

 

「10000でどうだ?」

 

「………30000」

 

「10000だ」

 

「……分かった、なら25000」

 

「13000」

 

「……頑固な一年だな。22500で手を打とう」

 

「15000だ」

 

「……それが先輩に物を頼む態度か?20000にしてやる」

 

そう言われると、龍園は大きく溜息を吐いてから口を開く。

 

「……そうかよ。じゃあこの話は無しだ。他の奴に頼むとする」

 

「…………………」

 

「じゃあな」

 

そう言って立ち去ろうとする龍園だったが、その背中に先輩は声を掛ける。

 

「…待った!…分かった、なら18000だ。これで手を打ってくれ」

 

龍園は笑みを深めて振り返る。

 

「…契約成立だ。問題が送られて来たらポイントは払ってやる」

 

 

 

「龍園さん、どうして過去問を?」

 

その帰り際、小宮は龍園に問いかけた。

 

「あ?テスト勉強に役立つだろ?」

 

「い、いえ、それはそうなんですけど……」

 

テスト勉強の為に過去問を使うというのは非常に効果的な勉強であることは当然理解しているが、そこまでして龍園が良い点を取ろうとするようには思えない。

テストで良い点を取る為に過去問を使って必死に勉強をする……というのはここ一ヶ月半で培ってきた龍園の印象にはそぐわないのだ。

 

龍園は歩きながら口を開いた。

 

「……この前の小テストの最後の問題、あれは高校一年生が解けるレベルの問題じゃなかった」

 

「え?」

 

「後で調べたが、二、三年で習う範囲だそうだ。つまり、解けるはずの無い問題を学校側が出してきたという事になる」

 

「は、はぁ…」

 

「だがこの学校がそんな無意味な事をする筈が無い。何かしらの意図がある筈だ」

 

そうなのだろうか…と小宮は一瞬考えるが、対して頭が良くない自分が考えた所で分かる筈もないので、黙って龍園の言葉を聞く事にする。

 

「5月初日のホームルームで坂上が言った事は覚えているか?」

 

「え?いや、覚えてないですけど……」

 

そう言って近藤とアルベルトを見回すが、どちらも首を横に振った。

 

それを若干呆れたような目で見ながら、龍園は説明を続ける。

 

「『赤点を回避する方法は必ずあると確信している』…そう言った。妙だと思わねぇか?」

 

「何がですか?」

 

「最近は随分頑張っているようだが、花山はバk……いや、それほど頭が良くねぇ。そんなヤツが赤点を必ず回避出来る方法がある……って言ってんだぜ?」

 

「はぁ……」

 

「つまり、勉強が出来ずとも赤点を必ず回避出来る方法があるって事だ」

 

「カンニングとか……って事ですか?」

 

「それも回避する方法の一つだな」

 

内心「それは無いだろ」と思いながら発言した小宮だが、龍園は肯定する。

 

「とは言え、カンニングなんて真似をこの学校が許す筈もねぇ。事実あの小テストでもカンニングだけはするなと言われた訳だしな。そこで鍵になるのが例の小テストだ」

 

「小テスト…ですか?」

 

「例の小テストで二、三年の問題を正解するにはどうすれば良いと思う?」

 

「え?そりゃまぁ……予習とか?」

 

「それ以外は?」

 

「えーっと…………」

 

「事前に答えを知っていれば良い……そう思わねえか?」

 

「え、つまりカンニングって事ですか?」

 

「違えよ。問題さえ事前に分かっていればあの問題も解けた筈だろ?」

 

「そりゃあそうですけど……」

 

はぁーと大きく溜息を吐き出す龍園。

 

「まだ分からねえか?その手段が過去問って事だ」

 

確かに問題を事前に知っていれば解かずとも答えを書き込むだけで良い。

だがそれがどうして過去問となるのだろうか。

 

未だにピンと来ない様子の小宮達に龍園は続ける。

 

「俺達が赤点を必ず回避する方法は事前に問題を知っておく事…これしかねぇことは分かるな?」

 

「はい」

 

「ならどうやって問題を事前に知る?学校側に聞けば教えてくれるのか?それとも宝探しみたく何処かに隠されているのか?」

 

「それは無いと思いますけど……」

 

「例えば毎年問題が同じだとすれば、過去問を見るだけで問題が分かると思わねぇか?」

 

確かにそれはそうだろう。過去問で問題を知れるのなら間違い無くそれが赤点を回避する手段だ。

 

「……そんなことあるんですか?」

 

「それはすぐに分かる事だ」

 

そう言う龍園の顔は自信に満ち溢れていた。

 

 

 

 

その日の放課後。

 

 

「花山さん、帰りましょう!」

 

「ん」

 

石崎が花山を誘い、ひょっこりと椎名が付いて行こうとして………

 

 

「待てよ」

 

 

その声を聞いて、帰り支度をしていたCクラスの全員がピタッと手を止める。

 

声の主は龍園。

思い出されるのは先月末のあの惨劇。

「まだ懲りてないのか!」とクラスの面々が思う中、石崎が真っ先に龍園に突っかかる。

 

「あ?なんだよ、龍園。俺達はこれからベンキョーすんだよ!邪魔すんなよ!」

 

久々に見る荒々しい口調の石崎に、Cクラスの面々は石崎が不良であったことを再認識する。ここ最近の石崎は忠犬じみていたから、こんな風に荒々しい口調になるのは久しぶりのことであったからだ。

 

「最近頑張ってるみたいじゃねえか、花山」

 

石崎を意に介さず花山に話しかける龍園だが、石崎がそれを許容できる筈もない。

 

「オイ無視すんなよ!てか花山さんに話しかけてんじゃねぇよ!てか喧嘩売ってんのか!あぁ!?」

 

「うるせぇ犬だな」

 

「あ"ぁ"!?テメェ!ちょっと、花山さん、やっちゃって良いスか?」

 

拳をボキボキと鳴らす石崎。

 

「やめろ、大地」

 

「ハイッ!!!」

 

「…で、何の用だ、龍園」

 

「コイツをやりに来たのさ」

 

そう言って携帯の画面を見せてくる龍園。

椎名と花山がそれを覗き込む。

 

「これは……過去問、ですか?」

 

「そうだ」

 

「……良いのか?」

 

「気にすんな……と言いたい所だが、そうもいかねぇ。貸しにしといてやる」

 

「すまねぇ」

 

軽く頭を下げる花山。

 

 

「なんだなんだ?龍園。お前良いトコあるじゃんかよ!なぁオイ?」

 

そう言って龍園の肩に手を回す石崎。

 

「……気安く触ってんじゃねぇよ」

 

龍園はそれを強く振り払うと、好意(?)を無碍にされた石崎がまた怒りの感情をあらわにする。

 

「んだよ!折角人が良い気分でよぉ!!……あんま調子乗ってっとーー」

 

「ーーやめろ大地」

 

「ハイッ!!!」

 

「……龍園、助かった」

 

改めて感謝を述べる花山。

 

「その飼い犬もしっかり躾けておいて貰えると助かるんだがな」

 

「なんだと!テメェーー」

 

「ーーやめろ」

 

「ハイッ!!!」

 

「…じゃあな。帰るぜ、大地、ひより」

 

「はーい」

 

「あ、待ってくださいよ花山さん」

 

バタバタと去っていく花山一向。

 

何事も起こらなかったことに、Cクラスの面々はホッと胸を撫で下ろすのだった。

 




龍園、デレた!!

やあっっと龍園出せた気がする。
やっとメインヒロインとの進展がありましたね♡


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十の拳

さてさて!今回は……皆さんお待ちかね!あの人が登場致します!!


「「かんぱーい!!」」

 

キン!とグラス同士がぶつかる音が花山の部屋に響く。

 

「いやー、赤点を取らなくて良かったですね!花山さん!」

 

「…お前らのお陰だ。助かった」

 

「いえいえ、気にしないで下さい。困った時はお互い様です」

 

中間テストを終え、テスト結果の発表を終えた花山一行は打ち上げを行っていた。

先ほど石崎が言った通り、花山は赤点を回避することができた。それ以外のクラスメイトも誰一人退学することなく、この中間テストを乗り越えられたのだ。

 

その結果は努力の賜物もあるだろうが、それ以上に大きな要因があった。

 

「それにしても、まさか2年前の問題とそっくりそのまま一緒だったのは驚いたな……」

 

そう、龍園が手に入れていた過去問と今年のテストの内容が全く一緒だったのだ。

 

「龍園くんが言っていた通りでしたね」

 

「あん時は半信半疑だったけどな」

 

「そうですか?私は結構信じてましたよ?」

 

「え?マジで?」

 

「マジです」

 

石崎にとっては驚きである。

龍園が“良い奴”では無いことは一目瞭然だし、聞いた話だとこのテスト期間の間もBクラスにも何かを仕掛けていたらしい。

そんな龍園は石崎にとってはあまり信頼出来るような人間では無かったのだ。

 

「よくアイツの言うことを信じてたな?」

 

「いえ、龍園くんの言うことを信じたというよりも、自分で考えた結果同じ結論に辿りついたって感じですかね」

 

龍園の言ったことをそのまま信じたというわけでは無く、自分で考えて同じ結論に辿り着いたのだと椎名は言う。

 

「……つまりどういうことだ?」

 

「私も改めて考えて見ましたが、龍園くんと同じように“中間テストは去年、一昨年と同一の問題がでる”という結論に達したということです」

 

「はぁ…?……なんでそうなるんだ?」

 

全く分かっていない様子の石崎が気の抜けた声で椎名に問いかける。

 

「えっとですねーーーー」

 

 

石崎に噛み砕きながら一つずつ説明していく椎名。

 

その説明は、奇しくも龍園が小宮に説明したのと全く同じものだった。

 

説明を聞き終えた石崎が感心したように口を開く。

 

「はえ〜……もしかして椎名って結構頭良いのか?」

 

「どうでしょう……テストなんかは今回もクラスでは二位ですけど……」

 

「そんなに頭良かったのか……」

 

「まぁ、はい」

 

「って事はそれに気付いた龍園も同じぐらい頭良いのか?」

 

「テストの点数はそれほど良くなかったとは思いますけど、勉強が出来る事と頭が良い事は別ですからね」

 

「それもそうか………あれ?でも椎名も気付いてたんなら、過去問やるだけで良いんだし態々あんなに勉強する必要無かったんじゃねえか?」

 

「本当に問題がそのままだとは限らないですから、念のための備えは必要でしょう?」

 

「まぁ、そうだな」

 

「それに今までの勉強は絶対に無駄になんてなりません。これから先もテストは続いていく訳ですし、勉強の習慣だってキチンと付けられましたからね」

 

「……椎名って意外と色々考えてたんだな」

 

「なんだか少し言い方が気になりますね……あ、花山くん、楽しんでますか?」

 

「あぁ」

 

「お酒って美味しいんですか?」

 

「…飲むか?ひより」

 

そう言ってグラスを差し出す花山。

 

「飲みませんよ。堂々と未成年にお酒を勧めないで下さい」

 

「そうか……」

 

心なしか残念そうな花山であった。

 

 

「思ったんだけどよ。椎名ってなんでも割とキチンとしてるのに、なんで花山さんがお酒を飲むのには何も言わねえんだ?」

 

と言うのも、別に正義の味方を気取ってる訳でも無いだろうが、椎名はダメな事はダメだと注意出来る人間だ。

事実石崎が危ないことをしようとすれば注意してきた事は幾度もあるし、未成年の飲酒だって椎名は注意するはずだ。

しかしこれまでに椎名が花山に飲酒自体を注意した事はない。テスト勉強に集中する為に没収しはしたが、今もこうして返却している。

それを石崎は不思議に思ったのだ。

 

「そう言えば……なんででしょうか?」

 

「自分でわかんねえのかよ……」

 

「うーん……高校生っぽくないからでしょうか?」

 

その言葉を聞いた花山は、若干の焦りのような感情を見せながら椎名に問いかける。

 

「…なんでだ」

 

「え?」

 

「なんでそう思った」

 

「なんでか………うーん、体が大きいから……ですかね?」

 

「……そうか」

 

花山は少なからず落胆の気持ちを滲ませる。

 

花山は普通の高校生として過ごしたいと思い、これまで生活して来た。

既に高校生とは思えないような行動は何度かやってきたが、全て上手く誤魔化し切り抜けてきた(本人はそう思ってる)のだ。

そんな花山に『高校生らしくない』という言葉はグサリと刺さったのだった。

しかもその理由がガタイなどと言われてしまえば、もうどうしようもないだろう。

 

 

 

(ガタイとかじゃなくて、顔の傷とか振舞いとか、背中の刺青の方が高校生っぽく無いと思うんだけどなぁ……)

 

そんな風に思った石崎であった。

 

 


 

 

「……良かった」

 

書類の山を整理しながら、坂上はひとりごちる。

 

そして目を向けるのは一枚の紙。

 

花山 薫

 

国語 84点

数学 79点

英語 76点

理科 73点

社会 81点

 

学年でも最下位を争う程に入試の点数は低かった花山だが、今回のテストでは無事赤点を回避……それどころか、クラスでも中位以上にも入っている。

その原因の一つはまず花山の人柄だろう。彼の周りに人が集まり、彼の退学を防がんと一丸となって花山に勉強を教え、その努力が実ったのだ。

さらにもう一つ挙げるとすれば、龍園の働きも大きいだろう。彼が学校側の思惑に気付き、早い段階から花山へ協力的な態度を取っていた。先月末の喧嘩もあったから、二人の関係性は十分に注意していたのだが、杞憂に終わったようで何よりだ。

 

 

(龍園翔、そして花山薫……か……)

 

龍園は花山のように人徳で人を集めるような力は無いものの、頭の回転がずば抜けて早く、人を導くカリスマ性を備えている。暴力的な側面もありはするがそれ以上に冷静さを備えており、良く言えばずる賢いと言える。

 

花山は入学当初は全教師が交代で花山の動向を観察し続ける程に警戒していたが、二週間が経つ頃には監視カメラでの動向監視のみに収まっている。当初懸念されていたような人間性において特に問題は無く、むしろ好感が持てるほどで、それは彼に友人がいることからも証明されている。

身体能力、戦闘能力ではこの学校に対抗出来るような者はおらず、人の輪の中心になる事が出来る生徒だ。

 

龍園と花山、この二人はAクラスにも対抗出来るだけの力を持っている。

彼らなら………Aクラスに上がる事も………容易かも知れない。

 

 


 

 

東京 新宿

 

 

路地裏で立ちションをしている酔っ払いの男が居た。

 

 

ーー人間(ヒト)を斬る……………って

 

ーーただ斬るってだけじゃアンタ………

 

ーーつまらんでしょう

 

ーーそんなもん

 

ーー斬るんじゃないんだ…

 

ーー真っ二つに割るんです

 

 

その男はブツをしまい、ふらつきながら歩き出す。

 

 

ーーこれがなかなかに難しい

 

ーー人間(ヒト)って物質はアンタ…

 

ーーアレでなかなか頑丈に出来てなさる

 

 

ふらつきながら歩く男の前に空き缶が一つ置かれている。

 

 

ーーそう……

 

ーー見てくれのキレイな…

 

ーー細身の刃物じゃダメだ

 

 

男は空き缶を蹴飛ばしながらフラフラと路地裏を歩く。

 

 

ーー重く……身幅の広い

 

ーー肉厚が良い……

 

 

酔っ払った男が蹴飛ばした空き缶の脇の路地にはまた別の影があった。

だがその影は酔っ払いの男と違い丸腰では無く、真剣を構えている。

 

 

ーー空き缶からの距離は4.7メートル…)

 

ーー酔った一踏みは約47センチ

 

 

酔っ払った男は歩く。その脇道には真剣を構えた影が待ち構えている。

 

 

ーー5歩…

 

ーー6歩…

 

ーー7歩…

 

ーー8歩…ホラ…

 

ーー9歩…

 

 

真剣を構えた影が大きくのけぞり背筋を張って真剣を構える。

 

 

そして酔っ払った男が10歩目を踏み出した瞬間……

 

 

ーー今……ッッッ

 

 

真剣を真っ直ぐ振り下ろした。

 

 

ーーそう…左右にではなく……前後に

 

ーーそうカンタンに

 

ーーやれることじゃあない

 

 

前後で真っ二つに斬られた男の死体がどちゃりと音を立てて崩れ落ちると、刀に付いた血を払って鞘に仕舞う。

 

 

ーーいやァ……

 

ーー笑っちゃあイケないんだけどさ…

 

ーーイケないんだけどさ……毎回(いつも)笑っちゃうんだなァ………

 

 

その影ーーしわがれた老人のような男はくつくつと笑いを溢しその場を後にする。

 

ーー人間(ヒト)の顔って…

 

ーー前後に切り分けた人間(ヒト)の顔って……どうしてあんなに可笑しいんだろうね♡

 

 

 

場所は移り、その男の暮らす部屋。

 

「上がり………と」

 

そう言いながらマジックでノートに書かれた名前に縦線を入れる。

依頼完了の印だ。

 

 

「次は…………」

 

一つ依頼が終われば、当然次の依頼がある。

 

その次に書かれたターゲットの名前を目にして……。

 

「おっほ♡」

 

 

そこに書かれていた名は『花山薫』。

 

 

「こりゃ大物だ…」

 

嬉しそうに笑みを浮かべながらバサリとノートを投げる男。

 

 

その男は、裏社会ではこう呼ばれていた。

 

 

『ハーフカットの仙吉』

 

 

と。

 

 


 

 

高度育成高等学校学生データベース

 

 

氏名:花山 薫  はなやま かおる

 

クラス:1年C組

 

部活動:無所属

 

評価

 学力:E -

 知性:C +

 判断力:B -

 身体能力:A +

 協調性:C +

 

面接官からのコメント

 ずば抜けた身体能力を持っているが、テストの成績は学年ワースト2位を記録している。調査において面接や生活態度自体に問題は無く、彼の教師からは好意的な意見も多かった。学力を補って余りある身体能力を考慮すればAクラスもしくはBクラスへの配属が妥当かと思われるが、彼の事情(別途参照)を考慮し、Cクラスへの配属とする。

 

担任メモ

 当初危惧されていたような凶暴性は皆無であり、クラスメイト達との良好な関係を築けています。椎名や石崎と一緒に居る事が多いようです。

 




キャァァァ!!仙吉ぃぃぃぃぃ!!!(ハイテンション)


椎名ちゃんは原作通りぼっちっちなら自力で気付いてたけど、花山の為にリソースを割いたせいで気付かなかったって感じ。

龍園くんはテスト2日前ぐらいに「今回のテストは過去問丸々出るからこれだけやっといたらええんやで〜」って言ったけど何の理由の説明もしてないから石崎は何でか知らなかったって感じ。

テストの教科主要5教科ぐらいしか書いてないけど大丈夫かね?ま、ええか。


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十一の拳

若干ただのノベライズ版みたくなっちゃってるけど許してな。


 

一人の老人ーー仙吉は高度育成高等学校の敷地内を歩く。

 

この学校は各地に監視カメラが張り巡らされており、一見殺し屋が潜入するには些か困難に見える。

 

だがそれは間違いだ。

 

国お抱えの学び舎だろうが、()()()()人間はどこにでも紛れ込んでいるものだ。

 

彼らの力を借りれば敷地内への潜入は全く困難では無い。

 

清掃員に扮し、監視カメラの位置や数、逃走経路の確保、人通りの多いところと少ないところ、ターゲットの行動パターン…それらを入念に下調べし、襲撃地点を決める。

 

 

 

ーー潜入

 

ーーそれほど難しいことじゃない……

 

ーー馴染むことです

 

清掃員の作業着に身を包み、白木の鞘と柄をモップに模して校内を掃除しながら機会を伺う。

 

ーー昨日今日ではない

 

ーー幾年も以前(まえ)から馴染んで自分になる

 

潜入で重要なのはとにかく馴染むこと。まるで昔からそこに居たかのように、自然に。

この馴染みやすさと潜入の技術こそが『ハーフカットの仙吉』の武器であった。

 

「お疲れ様です」と声を掛けて来た生徒には人好きのする笑みを浮かべながら挨拶をし、軽く世間話をする。

 

大事なのは下手に人を避けない事だ。

人を避けようとすれば人通りの少ない所に行かざるを得ず、露骨に避けようとすれば怪しまれるし、そういう場所にはその手の人間が集まる可能性もある。

だから人を避けず、とにかく成り切って馴染む。

 

馴染んで、馴染んで、馴染む。

そうすればさらに奥への侵入が容易になる。

 

通学路から校門前へ。

 

校門前から校庭へ。

 

校庭から花壇へ。

 

花壇から玄関へ。

 

玄関から廊下へ。

 

そして廊下から…………便所へ。

 

仙吉が襲撃に選んだのは便所だった。

利点としては、まず監視カメラが無い事が挙げられる。だから殺す瞬間がカメラに映り込むというリスクが無くなる。

さらに、狭い室内であるために逃すという事もなく、出入り口さえ塞げば邪魔も入らなくなるし、死体の発見を遅らせる事が出来る可能性もある。

 

連れや無関係な生徒が居る可能性も十分にあり得るが、それは出入り口で人の出入りをしっかり確認しておけば問題無い。花山以外の人間が居なくなるまで待てば良いのだから。

 

 

 

そして遂にその瞬間が訪れた。

 

出入り口を塞ぎ邪魔が入らないようにして男子トイレへと足を踏み入れる。

 

 

「運が良い。こんなに早く逢えるなんて……ねぇ?」

 

 

用を足している花山に語りかける仙吉。

この状況を作り出すのに一週間程掛かってしまったが、この学校の環境と相手が花山薫であることを考慮すればむしろ早いと言えるだろう。

 

だが花山には別段焦ったような様子は認められない。ただ普通に用を足している。

 

ーー長いね、どーも…

 

何がかと言えば、花山の“用”である。

普通の男子ならば当に出し終えているはずなのに、物凄い勢いで出され続けている。

 

ーーおいおい…………溢れちゃうよ

 

当然、便器に溜まったものが流れるよりも多く注がれればいずれ溢れてしまうだろう。

 

ーーま、いいか……それは……

 

ーー何にしろ…相手はこの怪物花山薫

 

仙吉はモップに模していた真剣を取り出す。

 

ーー“真っ二つ”

 

花山()も勢いが徐々に収まっていく。

 

ーーそりゃまァ…無理ですわ

 

どうにかギリギリ溢れずに済んだようだ。

 

ーーしかしね……………

 

出し切った花山は一つブルリと震えた後ブツをしまいチャックをキッチリと閉める。

 

ーー“斬る”ってだけなら…………

 

「花山さん」

 

「ん」

 

ーー殺すってだけならね♡

 

「助川仙吉です」

 

「……『ハーフカット』……………の仙吉か」

 

「“業界一ギャラの高い男”とも言われてます」

 

「殺し屋が学び舎に何の用だ」

 

その花山の質問に仙吉はさぞ面白そうに笑う。

 

「ハッハッハ。口で言わなきゃいけませんか……」

 

仙吉が柄に手を伸ばす。

 

「お若いとは言えこの世界が長いアンタだ」

 

柄を掴み、刃を抜き始める。

 

「密室に…殺し屋と二人きりとくりゃあ…」

 

「……………」

 

「今から何が起こるのか……察しのつかねェ花山薫じゃーー…」

 

スー…と刃が姿を見せていく。

 

「…ーーん?」

 

だが少しずつ姿を見せていた刃が突然ピタリと止まり、ピクリとも動かなくなった。

 

「アレ!?えッ!?」

 

ーーぬ……ッッ抜けない……ッッ!!!

 

何が起こったのか。

 

花山が鞘を握っていたのだ。

柄を握って抜かせていないのではない、鞘である。

 

ーーえ〜〜〜〜〜ッッ!!?

 

何故鞘を上から握って抜けなくなるのか。

 

それは花山の握力によるものだった。

 

トランプの束を引きちぎり、硬貨を捻じ曲げ、人の頭蓋骨を握りつぶせる程の握力を持つ花山が鞘の上から刀を握り、その圧力で刀が抜けなくなったのだ。

 

学校(ここ)じゃ抜かせねぇ」

 

生徒が『喧嘩』として刀を抜くのならば花山は止めなかった。むしろそれが木刀だったなら、自分が持ち歩いている刀を渡していた事だろう。

だがここは学び舎。殺し屋が居ていい場所ではないし、裏の人間の争いが起きていい場所でもない。

 

花山が鞘を握る力を強める。

すると白木の鞘がメキッと音を立てて割れた。

 

当然、仙吉は焦る。

 

潜入の為他の武器を用意は出来なかった為に、唯一の武器であるこの刀を失えば丸腰で戦う事になる。

だがこの化け物に丸腰で戦って勝てる訳がない。

 

「シイッ!」

 

焦った仙吉は、鞘を握る花山の拳目掛けて蹴りを放つ。

 

しかし仙吉の蹴りは花山のもう片方の拳に迎えられ、ボキィッ!と音を立てて仙吉の脛の骨が折られた。

 

「あ"〜〜〜ッッ!!」

 

仙吉の膝から下がバキバキにへし折られたためにブラリと揺れる。

 

「ぐああッ〜〜!!」

 

その余りの激痛に仙吉は悶絶。

 

対する花山は、別の事を考えていた。

 

(………………不味い……もう単独(ひとり)じゃ帰せねェ……)

 

非常に不味いことになった。

仙吉の片足をへし折ってしまった以上、自力でこの学校を出て行く事は不可能だろう。

放置すれば、これまで順調であった()学校生活に支障をきたす。自分を狙った殺し屋が学校に潜入していたと知れたら、どうなるかは考えたくもない。

 

だからどうにかして、この仙吉を出来るだけ自然に学校の外まで送り届けなければならない。

 

花山は頭を振り絞って考える。

 

 

そして一つ、作戦を考えついた。

 

 

「………おい」

 

「ぐぉ………うぐ………」

 

「聞け……ッ」

 

花山が語りかけるが、悶絶している仙吉には聴こえていない。

 

「聞けって………ッッ」

 

「…あ…」

 

少し語調を強めると、ようやく仙吉が反応を見せた。

 

「書くものはあるか」

 

「…あ……マ…マジックなら………」

 

「ヨシ出せ……」

 

「……あ、ハイ……」

 

果たして、花山の作戦とは………?

 

 

 

 

「フンフンフーン♪」

 

上機嫌に石崎が廊下を歩く。

上機嫌になる理由として特に何かあったわけでもないが、強いて言えば花山の舎弟としていられることだろう。それだけで毎日がエブリデイなのだ。

 

花山が教室に居なかった為トイレかと思って探しに来たのだが案の定トイレだったようで、トイレから出てくる大きな影ーー花山を発見した。

 

「あ!花山さーー」

 

駆け寄る石崎。

 

「ーーん………?」

 

だが思わず石崎は足を止めた。

 

トイレから出てきた花山、その腕には一人の老人?が抱えられていたのだ。

 

良く見れば、その老人の口の両端から真下に黒い線が引かれており、例えるなら腹話術の人形のようになっていた。

 

「あ、あ、えーっと……あの、花山さん。それ……」

 

「腹話術だ」

 

「…………え?」

 

石崎は耳を疑う。今何と言った?フクワジュツ?フクワジュツって、あの腹話術か?

 

「特技でな」

 

「え、いや、そんな事聞いたことないんですけど」

 

「今初めて言ったからな」

 

「えぇ……?…ってかそれ人形じゃなくて人げ………」

 

「人形だ」

 

「え?いや、でも……」

 

「人形だ」

 

「……………」

 

あまりにも強引なゴリ押しに唖然とする石崎。

 

破天荒というか、ごくたまに予想がつかないような事をする花山だが、今回ばかりは全くわからない。

 

何がどうしてそんな状況になっているのか。

なぜ腹話術なのか。

というかその老人は誰だ。

 

グルグルと頭を回転させる石崎。

 

だが暫くして………

 

 

「……ア、ソーッスカ」

 

石崎は思考を放棄した。

 

 

 

 

 

校舎の外へ行くために悠々と廊下を歩く花山。

 

タダでさえガタイのせいで目立つというのに明らかに目立つものを担いでいれば、教室の中から態々廊下を覗きに来るものまで出てくるのは当然だ。

 

明らかに人間を担いでいるというのに、取り巻きの石崎は露骨に「イヤー!花山さんフクワジュツ上手イッスネー!!」と喋っている。

 

いや、それは無理があるだろう……そう思う生徒だが、あまりにも堂々とした態度で歩を進める花山に突っ込める生徒は誰一人としていない。

そうでなくとも、花山に指摘できるような生徒などほぼ居ないに等しいのだが。

 

それは教師ですらも例外では無かった。

 

「は、花山……それは……」

 

次の花山のクラスで授業をする真嶋先生が花山に話しかけると、花山は足を止める。

 

「人形です」

 

「い、いや、それはどう見ても……」

 

「人形です」

 

「あ、あのな花山、流石にそれは無理が……」

 

「人形です」

 

「………………そ、そうか」

 

ゴリ押す花山に真嶋、撃沈。

 

「先生、すいやせんが少し授業に遅れやす」

 

「お、おう…分かった…」

 

そう言ってまた歩き出す花山。

 

 

結果として、誰一人として花山に突っ込むことが出来ずに花山の背中を見送る事となる。

 

 

そして、殺し屋『ハーフカットの仙吉』は無事外へと送り届けられ、帰路に就くこととなったのだった。

 

 

因みに、唯一花山に突っ込めたであろう椎名は図書室に居たため、騒ぎに加わることはなかったそうだ。

 




あい。ちょっと短いけど。

監視カメラって言っても四六時中張り付いて見てるってわけじゃない事は分かってるので、こんな感じで潜入させました。

これで次から2巻のところやなー。


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十二の拳

言い訳をすると、課題に追われてた。
さらに言うと、ずっとARKやってた。


梅雨も明けて少しずつ暑くなり、6月も終わりに近づいた放課後。

 

 

「オラァ!!!」

 

ガンっと鈍い音が特別棟に鳴り響く。

 

一人の赤髪の生徒が生徒を殴ったのだ。

 

「ぐっ……」

 

殴られた生徒ーー小宮ーーは痛みに呻き声をあげる。

 

「…っ!クッソォォォ!!」

 

そしてもう一人の生徒である近藤が赤髪の生徒ーー須藤ーーに殴りかかるが、喧嘩慣れした須藤はいとも容易く躱して顔面に拳を喰らわせる。

 

彼ら三人とも、この高校のバスケ部だ。

小宮と近藤はCクラス、須藤はDクラスだが、そのバスケの実力には大きな開きがある。

体格も勿論だが、その技術やフットワークも超高校級の須藤には、1年生にして早くもレギュラーの話が出ているほどだ。

そんな須藤を呼び出して「Dクラスのお前がレギュラーに選ばれるのは我慢ならない。痛い目を見たく無ければバスケ部を辞めろ」と小宮と近藤が脅したのだ。

当然須藤はそれを断る。すると小宮と近藤は須藤に殴りかかり、あえなく返り討ちにあったというわけだ。

 

()()がかりなら勝てると思ったかよ。雑魚が」

 

喧嘩と呼ぶには余りにも一方的過ぎる展開だったそれを終え、須藤は吐き捨てる。

 

「へへ、こんなことして……タダで済むと思ってんのかよ、須藤っ」

 

近藤が満身創痍ながらも上半身を起こしながらそう言うと、須藤は近藤に近寄り胸倉を掴み上げる。

 

「…二度と俺に関わんじゃねえよ。次はこんなもんじゃ済まさねえぜ」

 

「……っ」

 

半ば戦意喪失気味だった近藤は、須藤に凄まれて思わず視線を逸らす。

 

「はん…ビビりやがって」

 

鼻で笑った須藤は、床に落としたボストンバッグを拾い上げる。

戦意を無くした二人に興味は無いのか、背中を向けて歩き出す。

 

「時間を無駄にしたぜ。練習後で疲れてんだから勘弁してくれよ」

 

「……後で後悔すんのはお前だぜ、須藤」

 

負け惜しみとも取れるその言葉に、須藤は足を止める。

 

「負け犬の遠吠え程みっともねえもんはねえな。何度やっても俺には勝てねーよ」

 

須藤は自信を持ってそう言い切った。

事実、多少喧嘩慣れしている小宮と近藤を相手取り、無傷で余裕の勝利を収めたのだから。

 

 

須藤が立ち去った後、小宮は携帯を取り出し電話を掛け始める。

 

「もしもし。龍園さん、小宮です」

 

「はい。上手く行きました」

 

「はい。分かりました。失礼します」

 

そう言って小宮は電話を切った。

 

 

 

 

 

 

「おはようございます。花山くん、石崎くん」

 

「おう」

 

「よう、椎名」

 

7月に入り、随分と暑さも増してきた。

椎名は教室に入って来た花山と石崎に挨拶をし、今朝から気になっていたことを質問する。

 

「お二人は、ポイントが振り込まれていましたか?」

 

「あぁ、今朝その話をしてたとこなんだよ」

 

「と、いうことは?」

 

「俺らもポイントは振り込まれてねえ」

 

毎月1日にポイントが振り込まれるはずが、ポイントが振り込まれて居なかったのだ。

事実これまではその日の0時には振り込まれていた。

 

しかしそれが振り込まれていなかった。

つまり振り込まれたポイントが0だった。

 

それが意味することはーーー

 

「クラスポイントが0になってしまった……ということでしょうか……」

 

考えたくは無いが、そういうことだろう。

 

「やっぱりそうなのか……なぁ、俺たちポイントが0になる程ヤバイことやってたか?中間テストだってみんな乗り切ったし、私語とか遅刻とかそんなのも全然無かっただろ?」

 

「そうなんですよね。減点されるような事は何も無かったはずです」

 

「花山さんは何か知ってたりしますか?」

 

そう花山に会話を振る石崎。

 

だが当の花山はかなり焦っていた。

というのも、花山には減点される心当たりがいくつもあった。

まず飲酒。この二人には見られているが、当然学校側はそんな事を知っている筈もない。だがもし何かしらの手段があって飲酒がバレているとすれば、それは減点の対象になり得るだろう。

次に喫煙。比較的飲酒よりも犯罪色が強いこともあってこの二人にすら見せていないが、割と高い頻度で吸っていたりする。それでも二人にバレていないのは、匂いには特別気を使っているからだ。香水や消臭剤をばら撒き、煙草の匂いを極限まで消しているのだ。当然、これもバレれば減点対象だろう。

さらに深夜徘徊。パトロールの必要性も面白味もない事もあってここ最近はめっきりやらなくなったが、門限というのは守らなければならないものだ。特に学生のうちは。

そして極め付けは先日の腹話術事件。あの時あの場では上手く誤魔化せた(?)が、査定の方でどうなっているのかは分からない。それが減点対象になっている可能性は十分に考えられる。

 

「………………」

 

「あ、あの……花山さん?」

 

黙ったままの花山を訝しく思った石崎が声を掛ける。

 

実は……………

 

と言い掛けて、思いとどまる。

まだ確定している訳ではない。なのに態々告白する必要があるのだろうか。

しかし、心当たりがあるにも関わらずそれを隠すというのも花山的には女々しく、好ましく無い。

だが告白することはつまり、新たに弱みを見せる事にもなる。

 

他人からの期待に応えるか。自らのプライドを守るか。

 

 

「……………いや、なんでもねぇ」

 

今回は他人からの期待を選んだ。そも、この教室で話すような事では無かったから、妥当な判断だろう。

 

だが不味い事になった。

花山自身は興味が無いが、殆どの生徒がAクラスに上がりたがっていることは知っている。そのためにクラスポイントを上げていかねばならないことも。

だがもし花山のせいでポイントがゼロになったら、クラスの連中に申し訳が立たない。

 

どうしてこうも毎月毎月ナーバスな気分になるのだろうか。

殆どが自業自得とも言えなくも無いが、それでも少し厳し過ぎる気がしないでもない。

 

 

だが、そんな心配も杞憂だと分かったのは、そのすぐ後のホームルームだった。

 

 

「今回、少しトラブルがあってな。1年生のポイント支給が遅れている」

 

そう坂上先生はポイントが振り込まれていない理由を説明した。

どうやら自分のせいでポイントが振り込まれていなかった訳ではないらしい。むしろ100ポイント近く増えており、減点すら無かったようだ。ホッと安心した花山であった。

 

 

 

 

その日の放課後。

 

「小宮、近藤。少し話がある。ついて来てくれ」

 

そう言って、坂上先生は小宮と近藤を呼び出して行った。

小宮と近藤と言えば龍園の舎弟というイメージがあるが、二人とも殴られたような怪我を作って学校に来ていた。

その二人が放課後呼び出されたとなれば、自然とその話題が出てくる。

 

「どう思いますか?」

 

椎名もその例外ではなく、帰り支度をしながら話しかける。

 

「どう…って?」

 

「小宮くんと近藤くんのことです。怪我をしてましたし、先生がおっしゃっていた『トラブル』と無関係とは思えないんですよ」

 

「大方二人が殴り合ったとかそんなとこじゃねえの?」

 

「うーん、それで1年全員のポイント支給が止まることは無いと思うんですけど……」

 

どちらもCクラスである小宮と近藤の喧嘩ならば、態々1年生全員のポイント支給が止められる程のことではない。Cクラスだけの問題で済むはずだ。

 

「あー、じゃあ喧嘩とか?」

 

「やっぱりそう思いますよね……」

 

喧嘩。それも他クラスとの喧嘩だろう。

それなら説明はつく。

 

 

そんな三人に近づく男が二人。

 

「花山」

 

「…ん、龍園か」

 

龍園翔、そしてその後ろに控えるアルベルトの二人だ。

 

「どうしたんだ?」

 

以前の噛みつくような態度は鳴りを潜め、石崎は問いかけた。

龍園が声を掛けて来た際には真っ先に噛みついていた石崎だが、今回は噛みつかなかった。

その変化の理由は、前回の過去問にある。

過去問を渡した事により花山への大きな手助けになった事、さらに学校側の思惑を誰よりも早く見抜いて事によって、リスペクトが生まれたからだ。

 

噛みついてこなかった石崎を意外に思った龍園は「飼い犬はしっかり躾けてくれたみたいだな」とでも言おうかと思ったが、そうすると話がこじれるので言わないでおく。

 

「少し時間を貰えるか?話がある」

 

 

 

十数分後。あるカラオケの一室に、五人の男女が集まっていた。

龍園、アルベルト、花山、石崎、椎名である。

 

「好きなの頼め」

 

そう言ってドリンクメニューをテーブルの上を滑らせ渡してくる龍園。

一瞬断ろうか迷った花山だが、これは以前石崎と椎名を家に入れた時の状況と同じだ。あくまでこちらは客、ならばここは有り難く奢られる方が良いだろうと考え、メニューを見やる。

一瞬“メロンソーダ”という文字に目を奪われ掛けたが、強靭な精神力で耐え切る。

酒が飲めないのは残念だが、無難にミネラルウォーターを頼んでおく。

 

 

ワキワキという効果音が付きそうな程ソワソワしている椎名に、花山が声を掛ける。

 

「どうした、ひより」

 

「私、こうやってみんなでカラオケ来たのって初めてなんです。歌っても良いですか?」

 

マイクを片手に龍園に問いかける椎名。

 

「……後でな」

 

龍園はやりにくそうに言葉を返す。

どうにも椎名のペースが掴み切れていないように見える。

 

思えば、龍園と椎名が関わるのはこれが初めてだ。

椎名のマイペースには、慣れるまでは振り回される事になるだろう。

4月当初から翻弄されてきた石崎は、龍園に対して軽く同情心を抱くのだった。

 

 

 

しばらくして全員のドリンクが揃ったところで、龍園が口を開く。

 

「さて……話ってのは他でもねえ。俺達Cクラスのこれからについての話だ」

 




キリが良いからこんな感じで。

別に石崎おらんくても大枠ではそれほど影響無いよねって事で石崎抜きの事件になってる。

インタビュー形式最近書くことないなぁ……。
まぁガッツリとした花山の活躍は夏休みやからね。そこら辺になったら無双してくれるよきっと。


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十三の拳

お待た。
しばらくペースゆっくりなるけど許してけろー!


「話ってのは他でもねえ。俺たちCクラスのこれからについての話だ」

 

そう龍園は切り出した。

 

「最初に聞いておきたい。花山、お前はどうする気なんだ?」

 

「どう…ってのは?」

 

「Aクラスに上がる気があるのか……それとも無いのか…だ」

 

そう言われて、花山は少し考える。

実際の所、Aクラスに上がりたいという気持ちは無い。が、邪魔する気もさらさらないし、協力することも吝かではない。

 

だがそれを言っていいのだろうか。

花山自身に上に上がる気は無いが、他の生徒にとって将来の保証というのが重要な事なのは分かっている。目の前に座る龍園だって、Aクラスの特典目当てには見えないが、上がる為に色々とやっていることも知っている。そんな彼に、上がる気が無いという事を告げるのは少し憚られたのだ。

 

「……………」

 

黙り込んでいる花山。

それをどう思ったのか、弁解するように龍園は口を開く。

 

「俺は……そうだな……正直、ビビってる。花山、お前にだ。だから俺はお前の言質を欲している。Aクラスに上がる為に協力してくれるのか、それとも関わって欲しくも無いのか……」

 

そこで言葉を切った龍園は花山に伺うような目線を向ける。

先輩だろうが教師教師だろうが不遜な態度を取る龍園だが、花山が相手では下手に出ざるを得ない。

 

そんな視線を向けられた花山は、正直に答える事に決めた。

龍園が求めているのは正解ではなく、花山自身の意思だからだということが分かったからだ。

 

「Aクラスに興味はねぇ。だが、協力はする」

 

花山は本心を告げたが、龍園は気に入らない様子だった。

 

「……前にも言ってたな、『力を貸して欲しけりゃ呼べ』…って。……それじゃ困るんだよ」

 

「……………」

 

「俺はお前を測り損ねている。力も、性格も、素性も、信念もな。協力すると言ったが、どこまでなら力を貸してくれるってんだ?お前は何をやってくれる?ジュースを奢れと言えば奢ってくれるのか?パシリに使っても良いのか?俺の指示でお前はどこまでルールを破る事が出来る?例えばいますぐ隣で歌ってる野郎をぶん殴って来いと言えばやってくれるのか?」

 

そこまで言って、龍園は一度言葉を切る。

 

「俺が知りたいのはそういうことだ」

 

言い切った龍園は炭酸水を煽り、花山を見据える。

 

「………………」

 

花山が龍園の指示に従い暴力を振るう……なんて事は絶対に起こり得ない。

何故なら花山の喧嘩には必ず心が伴うからだ。それは怨恨であれ、闘争心であれ、正義感であれ、復讐心であれ、何かを護るためであれ……とかく意思の伴わない喧嘩を花山はしない。

人の指示によって花山が拳を振るうという事はあり得ないのだ。

 

ならば龍園の指示には従わない、従う気が無いのか。

それは否である。

例えばの話だが、龍園が夏の孤島の特別試験で奇抜で一見勝つ気が無いような戦法を取ったとしても花山は従うだろう。体育祭で〜〜に出ろと言われれば出るだろう。

かと言って、パシリになるのかと言われればそれは否だ。

 

要は、その線引きが説明し難いということだ。

結局何をやって何をやらないかは、花山の心一つで決まるものであり、明文化できるようなものではない。

しかし龍園が求めているのはその明文化された答えであり、気まぐれなんて曖昧な答え方ではないのだ。

 

「気まぐれだ」

 

だが、それでも花山は気まぐれだと答えた。

 

普通の生徒が相手であれば龍園はそんな曖昧な答えを許さないだろうが、花山薫が相手ではどうしようもない。

 

「………なるほどな」

 

龍園にとっては想定していた答えの内の一つではあったが、それと同時に最も望ましくない答えの一つでもあった。

望ましくない理由は単純で、結局は言質を取れていないからだ。花山の心一つで決まるのだから、保証にはなり得ない。

 

とは言え、龍園とてバカではない。

想定が出来ているにも関わらずその対応を考えて居ない訳が無い。

 

「……まぁ良い。とにかく、花山が俺の邪魔をすることはねえんだな?」

 

「あぁ」

 

「俺に協力してくれるどうかもお前次第ってことだな?」

 

「あぁ」

 

「なるほど……」

 

Aクラスに興味は無くとも、その協力をする気があるということさえ分かれば後は花山自身についてだけだが、それについてはこれから理解していけば良い。

 

確認したい事を確認し終えた龍園は、改めて話し始める。

 

「俺たちCクラスはいずれAクラスになる。俺がAクラスにしてやる」

 

一見傲慢にも思える言葉だが、その言い方には自信と自負に満ち溢れていた。

 

「だから花山……協力してくれるか?」

 

そう言って手を出す龍園。

 

入学式の日と同じ状況だが、あの時とは違うことがあった。

それは龍園だ。あの時は怪しげな笑みを浮かべながら花山を測る為に手を出していたが、今回は違う。怪しげな笑みも見せず、ただただ真摯に協力を求めている。

 

そしてこれが初めての協力の申し出となる。

 

その申し出を花山はーーー

 

 

「ん」

 

 

ーーー当然、受け入れた。

 

 

握手を交わす龍園と花山。

 

「よろしくな。()

 

「…!!……あぁ」

 

 

この学校最強とも言えるコンビの結成を、椎名のパチパチという拍手が祝福していたのだった。

 

 

 

 

「し、失礼します」

 

あれから椎名がカラオケを楽しんでいると、そう言って入って来たのは、職員室に呼ばれていた小宮、そして近藤であった。

 

「おう、来たか。とりあえず座れ」

 

「は、はい」

 

小宮と近藤はかなり混乱していた。

まず、花山達がいること。事前に()()()()話をするつもりだとは聞いていたが、てっきり既に終わっており、この場には龍園とアルベルトだけなのかと思っていた。

そして何より……龍園の機嫌が良い。かつてない程機嫌が良さげだ。椎名とカラオケを楽しんでいたこともそうだが、自分達を座らせようとすることだって初めてのことだ。

 

一抹の不安を覚えながらも、一先ず言われた通りに腰を下ろす。

 

「…で、どうだった?」

 

龍園が炭酸水の入ったコップを弄びながら小宮と近藤に聞いてくる。

 

抽象的な聞き方な為に第三者にはなんのことだか分からないだろうが、小宮と近藤は何を示しているか分かっている。

 

「はい。上手く行きました」

 

「何の話だ?」

 

その第三者に該当する石崎が近藤に聞いてきたが、近藤は龍園の方を伺う。現状部外者である石崎に話して良いのかどうか、それを決めるのは龍園だからだ。

 

「あぁ、その話をこれからするところだ」

 

どうやら龍園自身が説明するため、近藤が説明する必要は無いらしい。

 

「情報の共有をしておきたい。構わねえか?花山」

 

「あぁ」

 

「よし……先に言っておくが、この話は他言無用だ」

 

 

龍園の話を纏めると、こうだ。

 

今回のターゲットはDクラスの須藤健。

素行は悪いが、バスケ部では期待の新人らしく、喧嘩は強いがそれ以上に激情家で頭が悪い。そこに龍園は狙いをつけた。

 

まず小宮と近藤が須藤を適当な事を言って呼び出す。そこで殴りかかり、喧嘩開始。ここでは須藤に怪我を負わせず、一方的にこちらが怪我を負う。

 

そして学校に訴えを起こし、慰謝料をかっぱらうというもの。

 

 

一通り説明を終えたところで、石崎が龍園に質問する。

 

「慰謝料って貰えんのか?こっちが仕掛けたんだし、両成敗?とかになるんじゃねえの?」

 

「どっちか先に仕掛けたかどうかなんて問題じゃねえんだよ」

 

「……どういうことだ?」

 

理解出来なかった石崎が椎名に小声で問いかける。

 

「嘘の証言をする……ということですよね?」

 

「そういうことだ」

 

「なるほどなぁ…」

 

「私も質問があります」

 

「言ってみろ」

 

「この学校には至る所に監視カメラがあります。その映像なんかを証拠として使われたら不味いんじゃないんですか?」

 

教室はもちろん、職員室の前や店の前などに張り巡らされた監視の目に映ってしまえば、間違い無くこちらが不利になってしまうだろう。

 

「確かにそりゃあ不味いだろうな。だが……」

 

そう言って小宮に視線を向けると、その意味を理解したのか小宮が龍園の言葉の続きを引き継ぐ。

 

「はい、監視カメラが無いことは確認したので大丈夫です」

 

「……って訳だ」

 

「なるほど……」

 

石崎と椎名の疑問が氷解したところで、龍園は花山に視線を向ける。

 

すると、腕を組んでじっと聞いていた花山が口を開いた。

 

「……なんでそれを俺らに話した」

 

「そりゃあ単純な話だ。協力関係なんだから、情報を共有すんのは何も不思議なことじゃあねえだろ?」

 

確かに…と花山は納得する。

情報共有というのは重要だ。全部が全部を曝け出さなければならないということは無いが、必要な情報は共有しておかなければならない。

組同士の同盟であっても、何の情報共有も無しでは機能しないだろう。

 

「…ってのは建前だ」

 

が、それを龍園自身が否定する。

 

「俺のやり方を知って欲しかったってのが一つだ。ルールの抜け道、反則……場合によっては暴力だって辞さない」

 

王道、正攻法からかけ離れた、所謂邪道の戦法。

事実、今回のように監視カメラの穴を突いたり、5月頃のように暴力で訴えてきたりしてきた。

 

「俺はそういうやり方を取る。だが、そういうやり方が気に入らない奴だって中には居る」

 

龍園は自分に敵意を向けてくる少女を1人思い浮かべながら話し続ける。

 

「それがもう一つ、お前がこういうやり方に対してどう思うのか。それを知りたかった」

 

「……………」

 

「お前がこういうやり方を好まないってんなら……まぁ、色々考え直す必要が出てくるんだが……どうだ?」

 

他人を伺い、そして場合によっては自身を捻じ曲げる気すらある……そんな事は、龍園には初めてのことだろう。

 

何よりも花山との協力関係を、龍園は選んだのだ。

 

 

「好きにしな」

 

 

だが、花山は変える事を強要しなかった。いや、と言うよりも、そのやり方自体に対する嫌悪感などはハナから持ち合わせていなかったのだ。

 

「ただしーー」

 

「!」

 

「ーーそういうことは…俺にやらせるなよ」

 

その言葉の意味を、龍園は正しく理解した。

 

花山は正攻法、堂々の正面突破を好む……いや、それ以外存在しない。罠があろうと真っ直ぐ踏み越えるし、避けることすらしない。

 

そんな花山は邪道なやり方は取らない。

例えば、今回の小宮や近藤のように相手を罠に嵌める役目はやらない。体育祭などで相手をこかすような事もやらない。

 

戦術として許容もするし、ある程度の指示にも従う。

だがそういう役割をする事はない……いや、やらせるなと言っているのだ。

 

「…分かった。肝に命じておく」

 

 

 

 

 

会計を済ませ、カラオケを出た一行。

 

石崎はアルベルトと意気投合したらしく、和気藹々と話し(かけて)いた。

椎名は相変わらずマイペースに歩いていた。

 

そんな彼らの後ろを歩く花山に、龍園が声を掛ける。

 

「花山」

 

「どうした、翔」

 

何の用かと問いかけると、龍園は嫌そうな顔を見せる。

 

実は龍園、下の名前で呼ばれる経験が殆ど無かった。

昔、それも小学校辺りまでは下の名前で呼ばれていたこともあったが、恐怖を忘れたあの日以降、龍園は呼び捨てか“さん”付け以外で呼ばれることはなくなった。

その為、こうして花山に呼ばれる度にむず痒さが走ってしまうのだ。

 

 

「……俺は『お前が測り知れない』…そう言ったな」

 

「あぁ」

 

「……だがこれからもずっとそのままでお前の事を知らないでいるつもりもねぇ」

 

「…?」

 

 

「俺に……お前を測らせてくれ……!」

 




翔「もっと知りたいんだ…お前のこと……///」

ずっとこれを言わせたかった……。
残念ながらBLタグを付けてないことからも分かるように、この作品では龍園くんとイチャイチャ♂したりはしません。
描写してない裏でシてるかどうかまでは知らん!!


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十四の拳

この事件の間ってCクラスは殆どやることないんで、他クラス視点から書いてくぜ!


Cクラスの花山薫。

その名を知らない生徒はおそらく居ないだろう。

 

曰く、エンジンを一撃で破壊した。

 

曰く、トランプの束を引きちぎる。

 

曰く、泳ぐだけで津波が起こる。

 

曰く、ヤクザ。

 

曰く、それどころかヤクザの組長。

 

そんな根も葉もない、誰も信じないような噂が多く出回っている。

 

『物凄い噂が出回っている、ガタイのデカい男』

 

それが今現在、Cクラス以外のクラスが結論付けている花山の印象であった。

 

 

しかし、生徒会長と初めて会ったあの日の夜、あの場にいたDクラスの綾小路清隆はあながち嘘ではないと思っていた。

 

堀北学の腕は本物だ。それはあらゆることに経験が豊富な綾小路自身がその身で実感している。

そしてあの時の正拳突き。あれは間違い無く全力の踏み込み、突きだった。

並の人間……でなくとも、大の大人だろうと、アスリートだろうとあれほどの正拳突きをその身でまともに受けて平然としていられるはずがない。

にも関わらず、あの時花山はまともに受けても平然としていた。

 

さらに言えば、武術をやっているような歩き方では無かったが、スーツの上から見て取れる程の異常な筋肉量。

あれだけの筋肉量であれば、トランプを引きちぎる程の握力があってもおかしくはない。

 

綾小路が現在分かっていることで判断するとすれば、『総じて得体の知れない男。特に身体能力に関しては想像もつかない』…だろう。

少なくとも今現在分かっている段階では最も警戒しなければならない生徒だ。

 

 

 

そして今回、須藤が嵌められた事件。

相手がCクラスだと聞けば、嫌でも花山と結びつけてしまう。

もしこれを花山が仕組んだのならば、花山は身体能力だけでなく頭を使うことも出来るということになる。知恵比べであれば負けはしないだろうが、身体能力も含めた総合力で勝負すればどうなるか分からない。

 

 

 


 

 

 

「今日はお前達に報告がある。先日学校でちょっとしたトラブルが起きた。そこに座っている須藤とCクラスの生徒との間でトラブルがあったようだ。端的に言えば喧嘩だな」

 

朝のホームルームでDクラスの担任である茶柱先生が告げた事実に、クラスの面々は驚きを隠せないでいた。それは前日に須藤自身から相談を受けていた綾小路と櫛田桔梗も例外では無かった。

というのも、昨日須藤から相談を受けた時に、出来るだけ穏便に済ませたいと言っていたからだ。レギュラーに入りかけている須藤の喧嘩が顧問などの耳に入れば、レギュラーが取り消しになることは十分にあり得る。

それを避けるために誰にも知られずに穏便に済ませたいと言っていたのだが、その願いは無情にも打ち砕かれてしまった。

 

「その……結論が出ていないのはどうしてなんですか?」

 

クラスの中心である平田洋介から、至極当然の質問が飛ぶ。

 

「訴えはCクラスからだ。一方的に殴られたらしい。ところが真相を確認したところ、須藤はそれは真実ではないと言った。彼が言うには自分から仕掛けたのではなく、Cクラスの生徒たちから呼び出され、喧嘩を売られたとな」

 

「俺は何も悪くねえ、正当防衛だ正当防衛」

 

悪びれた様子もない須藤に、クラスメイトは冷ややかな視線を向ける。

実際、0ポイントから87ポイントへと増えたと喜んでいたところに水を刺された訳であるので、須藤にヘイトが向かうのも仕方の無いことだろう。

 

「だが証拠が無い。違うか?」

 

「証拠ってなんだよ。そんなもんあるわけないだろ」

 

「つまり今のところ真実は分からない。だから結論が保留になっている。どちらが悪かったのかでその処遇も対応も大きく変わるからな」

 

「無実以外納得いかねーけどな」

 

「本人はこう言っているが、今現在信憑性が高いとは言えない。須藤がいた気がするという目撃者が本当にいれば少しは話も変わってくるんだがな。どうだ、喧嘩を目撃した生徒がいるなら挙手をしてもらえないか?」

 

茶柱先生が問うが、手を挙げる者はいなかった。

 

「残念だが須藤、このクラスに目撃者はいないようだな」

 

「……のようだな」

 

「学校側としては目撃者を探すために、今各担任の先生が詳細を話しているはずだ」

 

「は!?バラしたってことかよ!」

 

当事者のクラスだけでなく、学校全体にまで事件の事が周知されてしまったのは須藤にとっては良くない状況だ。

 

「とにかく話は以上だ。目撃者のいるいない、証拠があるない含め最終的な判断が来週の火曜日には下されるだろう。それではホームルームを終了する」

 

 

 

そして昼休み、食堂には綾小路、当事者である須藤、堀北、山内、池、櫛田が集まっていた。

 

当初は須藤にヘイトが集中し、見捨てようという流れになりかかっていたが、櫛田がこれまでの学校生活で培ってきた人望を駆使し、須藤を助ける流れにシフトチェンジさせたのだ。

今この場に集まっているメンバーは、中間テストの時に池、山内、須藤の赤点組(通称3バカ)を退学させないために協力していたメンバーである。

 

 

「あなたは次から次へとトラブルを持ってきてくれるわね、須藤くん」

 

呆れるようにため息をつく堀北。

 

「ま、仕方ないから友達として助けてやるよ須藤」

 

池がそう言うが、何を隠そう須藤を見捨てる動きを作り出したのは池本人である。池が言わずともその流れになっていた可能性は大いにあるが、結果として池の言葉が発端でその流れが生まれたのには変わりはない。

 

そんなことをホームルームの直後に教室から出て行ったために知る由もない須藤は、悪いなと言った。

 

「それと堀北。また迷惑かけちまって悪い。でもよ、今回オレは無実だからよ。何とかしてCクラスの連中に一泡吹かせてやろうぜ」

 

「申し訳ないけれど、私は今回の件、協力する気にはなれないわね」

 

他人事のように言う須藤の言葉を、堀北は一刀両断で斬り伏せた。

 

「Dクラスが浮上していくために最も大切なことは、失ったクラスポイントを1日でも早く取り戻してプラスに転じさせること。でも、あなたの一件でポイントは支給されることはなくなる。水を差したということよ」

 

彼らDクラスは四月の一月の間にクラスポイントを全て吐き出し、0ポイントからのスタートになっている。そんな中でようやく手に入れた貴重な87のクラスポイントが、須藤の一件によって水泡に帰そうとしているのだ。

 

「待てよ。そりゃそうかも知れないけどよ、マジで俺は悪くないんだって!あいつらが仕掛けてきたから返り討ちにしたんだよ!それのどこが悪い!」

 

「あなたは今どちらが先に仕掛けてきたかを焦点にしているようだけど、そんなことは些細な違いでしかない。そのことに気がついてる?」

 

「些細ってなんだよ。全然ちげぇよ、俺は悪くねーんだ!」

 

「そう。じゃあ、精々頑張ることね」

 

立ち去ろうとする堀北に、須藤は言葉をぶつける。

 

「助けてくれねーのかよ!仲間じゃねえのか!」

 

「笑わせないで。私はあなたを一度も仲間だと思ったことはないわ。何より自分の愚かさに気付いていない人と一緒にいると不愉快になるから。さよなら」

 

呆れたように露骨にため息を吐いた堀北は立ち去っていった。

 

 

 

 

 

その日の放課後、クラス全体としては手分けして聞き込みをすることに決定した。

当然櫛田や綾小路一行も聞き込みをすることになるのだが、櫛田と綾小路は再度堀北へ協力を頼みに行っていた。

 

というのも、堀北鈴音という少女のスペックは非常に高い。協調性や人間性に難があるという事を除けば、この学校においてもトップクラスのスペックがあると言えるだろう。

そんな彼女の手助けがあれば非常に大きな戦力になる。

 

「堀北さんっ」

 

「……何かしら」

 

櫛田が堀北の背中に声を掛けると、立ち止まり振り返った。

 

「須藤くんの件、堀北さんにも協力してもらいたいなって……ダメかな?」

 

「その話なら断ったはずよ?」

 

「そうなんだけどね……。けど、Aクラスを目指すために必要なことだと思うの」

 

「Aクラスを目指すために必要なこと、ね」

 

気が変わらない様子の堀北は続ける。

 

「あなたが須藤くんのために奔走するのは自由よ。それを止める権利は私にはない。人手が必要なら他を当たってもらえるかしら。私は忙しいから」

 

そう言ってこちらに背を向け歩き出す堀北。

 

 

「いいのか?」

 

「……何?」

 

だが去ろうとする堀北を綾小路が呼び止めると、堀北は不機嫌そうな顔を隠そうともせず振り返る。

 

「今回の事件が偶発的なものであったにせよ、人為的なものであったにせよ、Dクラスのマイナスになるのは変わりはない。それに、相手はCクラスだ。一つ上のクラスにも差をつけられるのは良くないんじゃないか?」

 

「……しつこいわね。何を言われても協力する気にはなれないわよ」

 

「何より、Cクラスには『花山』がいる。今回の事件に絡んでいるのかは分からないが、無視できるような生徒じゃないだろ」

 

「…………」

 

そう言うと、堀北は考え込む素振りを見せる。

 

実際に目の当たりにしたのは僅か数分だが、明らかに一般人を大きく凌駕するポテンシャルを持っている事は堀北にだって分かったはずだ。

もしも今回の事件が花山の目論見なのであれば、これから先も後手後手に回ってしまう可能性だって十分に考え得る。

 

しばらく考え込んでいた堀北は、観念したように口を開く。

 

「……今無理に彼を助けたところで彼はまた繰り返すだけよ。それは悪循環じゃない?あなたは今回須藤くんを被害者だと思っているようだけれど私の考えは違う」

 

「え……?須藤くんは被害者、だよ……?だって、嘘をつかれて困ってるんだもん」

 

「もし今回の事件、本当にCクラスの生徒から仕掛けたものだったとしても、結局は須藤くんも加害者なのよ」

 

「ま、待って。どうしてそうなるの?須藤くんはただ巻き込まれただけなんだよ?」

 

櫛田は、堀北の言っていることが理解出来ない様子だ。

 

「どうして彼が今回事件に巻き込まれたのか。その根本を解決しない限りこれから永遠に付き纏う課題だってわかってる?私はその問題が解決されない限り協力する気にはなれないわね」

 

そう言い、今度こそ去って行く堀北。

今回はどちらも呼び止める事なく、堀北を見送った。

 

 

今回の事件、須藤が狙われたのは普段の態度にある。

喧嘩っ早い、短気で粗暴。周囲の印象は最悪。

これらを改善しなければ、これから先も同じような事件を起こすだろう。

それが堀北の言っていた“根本”に当たる部分だ。

その根本を解決するために今回の事件で罰を受けさせる方が良いと判断したのだろう。

 

それを櫛田に伝えたのだが、それでも櫛田は助けるつもりのようだ。

堀北の考えや判断は間違っていないが、櫛田の考え方と判断も間違っていない。

 

 

教室に戻り池達と合流して他クラスを回ったところで、今日の活動は終わりとなったのだった。




待ってくれ。違うんや。
失踪したわけじゃないんや。一応ちょびちょび書いてたんや。アレよ、夏休みってなんでも出来るやん?なんでも出来るけど何もしない事も出来るわけで、結局何もせずにぐうたら過ごしてたって訳よ!ごめん。

今んとこの想定では次は両クラスの話かな?知らんけど。


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十五の拳

さあさ来たぜ例のシーン!相手は適当だぜ!!


須藤を無実にするために動き出して数日、綾小路達Dクラスは進展がなくなり、事態は停滞を始めていた。

 

進展と言うのは目撃者の発見。これだけ聞けば起死回生のジョーカーのようなカードに思えるかもしれないが、そうはならなかった。

いくつか理由はあるが、まず一つ目、目撃者がDクラスの生徒だったから。今このタイミングで目撃者だと名乗り出た所で、口裏を合わせ目撃者に仕立て上げただけの生徒だと思われることだろう。これが他クラスであれば、間違いなく有効な証言になり得た。

二つ目、彼女(目撃者は女子だった)が積極的な性格では無いこと。クラスにおいても無口で影が薄く、所謂引っ込み思案な性格のため、他人や事件に積極的に関わろうとはしなかった。それが事件が公になった日のホームルームで名乗り出なかった理由に繋がっているのだ。

そして三つ目、彼女が協力することに消極的なこと。二つ目に挙げたものと被るが、彼女は事件に関わろうとする気がないようである。そもそも彼女が目撃者だと発覚したのは彼女自身が名乗り出た訳ではなく、堀北が少ない材料から推理し問い詰めた末に発覚したのだ。その為、彼女自身の性格と相まって声を掛ける度に逃げられているという状況になっている。

 

さらにその進展の無さに拍車をかけるのが、クラスメイト全体のやる気の低下。

元々クラスメイトに好かれておらず、それどころかヘイトを買いまくっている須藤。

進展の無い停滞した現状は、クラスメイトのやる気を削ぐには充分過ぎるほど機能していた。

 

 

 

そんなある日のこと。

 

綾小路はつい先日知り合った一之瀬帆波と通学路を歩いていた。

 

一之瀬帆波はBクラスの生徒で、ストロベリーブランドのロングヘアーと顔立ちと性格や人当たりの良さ、(どことは言わないが)デカさが特徴的な生徒だ。クラスでもリーダー的な立場に立っており、『委員長』と呼ばれ親しまれている。

彼女は個人的ながらも今回の事件に対して協力してくれる姿勢を見せており、世間話も兼ねてこうして一緒に道を歩いているのだ。

 

 

「あ、そうだ。綾小路くんは夏休みのこと聞いた?」

 

「夏休み?いや……夏休みは夏休みじゃないのか?」

 

「南の島でバカンスがあるって噂、耳にしてないんだ」

 

そう言われて、バカンスがどうとかの噂を聞いた事を思い出した。

 

「信じてなかったんだが、本当にバカンスなんてあるのか?」

 

これだけの設備や待遇だけを見ればバカンスがあったとしても不思議ではない。しかし、この学校がまともなバカンスを用意してくれているとはとても思えない。

 

「怪しいよね、やっぱり。私はそこがターニングポイントだとみてるんだよ」

 

「つまり、夏休みに大きくクラスポイントが変動する可能性があると?」

 

「そそ。中間テストや期末テストよりも、グッと影響力のある課題ってやつ?そうじゃないとAクラスとの差って中々埋まっていかないからさ。私たちもジワリジワリ離されていっちゃってるし」

 

「今Aとの差ってどれくらいなんだ?」

 

「うちが660ちょっとだから、もう350近く離されてるね。問題はどれくらい動くかだね、そのイベントで」

 

「ウチは逆にピンチだな。これ以上差が広がったら詰めようがなくなる」

 

「お互い頑張らないとだね」

 

 

しばらく軽い雰囲気で雑談も兼ねた情報交換をしながら歩いていたのだが、一之瀬がふと思い出したように真剣な様子で切り出す。

 

「あのさ……参考までに綾小路くんに聞いてみたいことがあるんだけど、いいかな?」

 

先程までとは変わった様子の一之瀬に、綾小路は少し身構える。

 

「答えられることなら答えるぞ」

 

「“女の子に告白”ってされたことある?」

 

「……それはあれか?今時告白されたのとのない男子って、みたいな?」

 

思っていたのとは違うベクトルで少々拍子抜けしつつも言葉を返すと、一之瀬はブンブンと手を振りながら否定する。

 

「違う違う!ごめん、なんでもないの」

 

『なんでもない』と言った一之瀬は真剣そのものの表情で、ただの興味本位だけで聞いたようには見えなかった。

 

「もしかして告白されたとか?」

 

「え?あー………うーん………。まあ大体そんな感じ……かな……」

 

かなり歯切れが悪い様子だが、色恋沙汰であるのは確かなようだ。

 

見抜かれたことに観念したのか、話してくれるようだ。

 

「あのさ、良かったら今日の放課後時間貰えないかな?告白のことでちょっと問題を抱えててね。事件のことで忙しいのは百も承知なんだけどさ」

 

「別に大丈夫だ」

 

「そっか。ありがとう!放課後、玄関で待ってるね」

 

 

一之瀬ほどの美少女の色恋沙汰に興味が無いと言えば嘘になる。

ついでに放課後にまた一之瀬に会えることにわずかに胸を高鳴らせながら二人は別れたのだった。

 

 

 

そしてその日の放課後。

約束通り綾小路と一之瀬は落ち合い、体育館の裏手へと移動した。体育館の裏手は殆ど人通りは無く、まさに告白にはうってつけの場所だ。

 

「さてと………」

 

息を整えてからそう言いながら振り返る一之瀬。

 

緊張した面持ちで、僅かに頬を赤らめながら話し始める。

 

(これはあれか……告白されるんだが、傷付けることなく断りたいから彼氏役を頼みに来たとかそんな感じじゃないか?)

 

そう綾小路は予想を立てる。まさかそんなベタな展開は無いだろうと思いながらも、半ば超展開を諦めていた。

 

 

「私、告白するつもりなの」

 

 

が、その予想は思いもよらぬ方向へ裏切られることになった。

 

「……………え?」

 

かなり間抜けな声が出てしまったが、すぐに思考を切り替える。

 

「……それって俺が居ない方がいいんじゃないのか?」

 

「あのね、どんな風に告白したら良いか分からなくて……どういう風に告白したら良いか意見を聞こうと思ってね」

 

面倒なことになったなと心の中で愚痴を零す。

 

『彼氏役をしてくれ』のような比較的軽いお願いかと思っていたが、まさか告白の仕方を相談されるとは思ってもいなかった。

常人を遥かに上回る知識を蓄える綾小路と言えど、告白の仕方など知るはずも無い。

 

「悪いが、生憎俺も告白されたことなんてないから上手く答えられそうにない」

 

「……どうにかならないかな?」

 

綾小路は首を横に振る。

 

「そっ……か………」

 

悲壮感溢れる様子で残念がる一之瀬。

そんな一之瀬の様子を見て罪悪感に苛まれる綾小路。

 

「…………………」

 

「……参考までに聞くが、相手はどういう生徒なんだ?」

 

流石に見ていられないと思ったのか、綾小路は少しでも助力をしようと情報を集める。

 

「優しい人だよ」

 

全く参考にならない。

大多数の人間は優しくない人間に惚れたりはしないだろうに。

 

「他には?」

 

「逞しいところ……かな」

 

「へぇ……」

 

『逞しい』となると、随分と絞られてくる。

『頼もしい』でなく『逞しい』であれば、恐らくは体型や筋肉量を指しているのだろう。つまりマッチョ。

 

そこまで来ると、人物像はある程度分かってくる。

一之瀬に優しさを見せる場面があったということは、クラスで日陰のインキャマッチョなどでは無く、陽キャマッチョ。

つまり運動部。であれば体育会系。とくれば、変に曲げずに直球勝負で決めるのが無難だろう。多分。知らんけど。

 

「普通に直球勝負で良いと思うぞ?」

 

「ほ、ほんと?普通の告白で大丈夫なのかな?ボキャ貧だって思われたりしない?」

 

「それは流石にしないだろ……。で、その相手はいつ来るんだ?」

 

「4時って伝えたから、もうそろそろじゃないかな?」

 

時計を見ると、既に4時まで残り10分を切っていた。

 

「そろそろ俺は離れた方が良さそうだな」

 

「うん、そうだね……。ありがとう綾小路くん!助かったよ!」

 

「あぁ。頑張れよ」

 

「うん!」

 

 


 

 

「付き合ってるヒト………とか……いますか?」

 

花山薫は困惑していた。

 

放課後、女子からの呼び出し。

これだけでもある程度要件は察する事が出来るだろうが、やはりどうしても動揺は隠し切れない。

 

 

長い沈黙が下りる。

 

 

「それは…………………いない」

 

たっぷり間を置いてから答えた花山の言葉を受けて、それを待ち望んでいたかのように一之瀬は口を開く。

 

「わたし……ダメですか?花山くんの彼女になれませんか?」

 

「ーー!」

 

花山は少し目を見開く。

 

「ダメ………ですか………?」

 

「………………」

 

「ご、ごめんね。困っちゃうよね。いきなり……こんな………」

 

ワタワタと焦るように言葉を紡ぐ一之瀬。

 

「あ、あの………でも」

 

そこで一度言葉を切る。

 

「…………本気だから」

 

赤くなった顔を隠そうと花山に背を向けて、念を押すように続ける。

 

「伝えた言葉はホントの本心だから……。考えといてね」

 

そう言って走り出そうとする一之瀬。だがそれを、他ならぬ花山が止める。

 

「知ってるのかい」

 

その言葉を受けて、一之瀬は振り返る。

 

「男と女、付き合うってどういうことか……知ってるのか」

 

花山のいつもより幾分か鋭い視線を一之瀬は真正面から受け止める。

 

「男と女は………“キレイ事じゃすまされない”とか、そういうことかな?」

 

花山は「参ったな」とでも言いたげなように天を仰ぎ、ズレてもいない眼鏡を直す。その顔にはやや冷や汗が浮かんでいた。

 

「まぁ、そういうこともだ…」

 

「ハッキリ言っていいよ。“セックスもするんだぞ”……って」

 

ざわり、と、空気が揺らいだ気がする。

それは単に風によってか、はたまた花山の動揺によってか。

 

そんな空気に耐え切れなくなったのか、慌てて一之瀬が言葉を繋げる。

 

「あ、あの………し…知ってるよ。わ……わたしもそう思うから」

 

花山の表情は眼鏡が反射して分かりにくい。

 

「彼女になる……って、そういうことだって」

 

カチャカチャ。

 

「恋人どうしになれば……」

 

ジィィー…。

 

と、妙な音に気付いたのか一之瀬は「え」零す。

 

ズルリ。

 

 

そして花山は、徐にズボンを脱ぐッッ!!

 

 

「えッ!えッ!今するの!!?」

 

そしてベリっとふんどしを剥がすと、花山の逸物が露わになる。

 

「いいのか……こんなだが…」

 

それは、チ○チ○というには余りに大き過ぎた。

大きく、太く、そして長すぎるチ○チ○だった。

 

「あえて言うなら……まあ……あれだ……ホンバンでは、これの1.5倍だ」

 

その言葉を受けて、帆波に電流走る。

 

「イケるのか…オマエ()で」

 

カチャカチャとズボンを履き直す花山。

 

 

「花山くん」

 

顔を真っ赤に染め上げながら、一之瀬は覚悟を口にする。

 

「わたしやるよ」

 

これにはさしもの花山にも冷や汗を隠し切れない。

 

「女のヒト()は赤ちゃんだって産める。だったら花山くん()だって……」

 

 

逡巡。

 

 

「……そうか」

 

そして、花山は覚悟を決める。

 

「よし。一之瀬帆波は、今から俺の彼女(スケ)だ」

 

 

了承の返事に、一之瀬は思わず泣き出してしまう。

 

「…………………」

 

「嬉しい……」

 

それを見つめる花山の目は男……いや、漢の目をしていた。

 

「わたし…頑張る…」

 

 

ガシリ、と一之瀬の両腕を正面から掴む。

その力が強かったのか一之瀬は苦悶の声を上げるが、構わず花山は続ける。

 

「顔を上げろ…」

 

そして近づく二人の唇。

 

交わされる熱い熱いキスーーーー。

 

「〜〜〜〜!!!!」

 

ーーーーでは無かったッッ!

 

ギャババババ!と音を立てそうな程に一之瀬の唇を吸い上げる花山。見るものが見れば、化物に喰われているのかと勘違いしてしまいそうだ。

 

あまりのキスの激しさ()に花山の腕を何度もタップして止めるよう乞うが、キスが終わった時には一之瀬の唇は腫れ上がっていた。

 

「どうした……」

 

花山は白々しくも、何か変なことでもあったかとばかりに問い掛ける。

 

「…ちょっと…」

 

「乳を出せ」

 

突然告げられた言葉に一之瀬は困惑を隠せない。

 

(ち……乳ッ……!??)

 

そして鮮明に思い出されるのは、つい先程のキス。

 

もし………。

 

もしあのキスのように乳を吸われれば……。

 

でろんと垂れ下がるのを容易に想像出来てしまった。

 

ーーーーーーーー。

 

「あっ……あの……あの………花山くん…。わたしたち……もう別れよ……ね?」

 

その言葉を了承したとばかりに掴んでいた手を離すと、一之瀬は一目散に走り去っていく。

 

 

ーーそれでいい。

 

花山は安心したように、道端の雑草の茎を少し千切る。

 

これが花山の狙いであった。

花山の歩む人生は些か過激過ぎる。そのため、彼女を巻き込ませまいと、自分を好きだという気持ちを根本からへし折ったのだ。

 

ーーこれでいい…。

 

パク……と茎を口に咥える。

 

ーーだがよ……。

 

もぞもぞと口を動かす。

 

ホントはよう……

 

ボソリと言い、ペッと茎を吐き出すと、その茎はキレイに結ばれていた。

 

ーー俺は上手いんだぜ!!!

 

 

 

それから数日、一之瀬はマスクをつけて登校したらしい。




別に一之瀬が花山に惚れててもいいよなぁ!??だってギャグなんだもん!!
もし万が一白波ちゃんの告白が何かの伏線やったりしたらちょっとヤバいけど流石に無いでしょ?いや、流石にね?

携帯で書いてる時に間違えて一之瀬を“ちちのせ”って書いちゃったんやけど、実に的を射た表現やなって我ながら感心してしまった。


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十六の拳

前話には賛否両論あると思うんですけど、一応言い訳を。
最初は一之瀬の告白イベントと並行した時間に花山も『一方その頃……』的な感じでやろうと思ってたんですけど、それやったらただ創面を文字に起こして原作を丸写ししただけみたいな感じになるやないですか?流石にそれは…ってなるやん?そこでどう変化させるかってなった時に、「あれ?別に原作でも重要なシーンじゃないんやったらバキバキに変えても問題なくね?一之瀬が告白しちゃっても良くね?」ってなったのよ。急な展開になったのはホンマごめん。俺の話作る才能やったらこうせざるを得なかったと理解してくれたら助かります。


「おはようございます。花山くん」

 

花山が登校すると、いつものように椎名が花山に挨拶をする。

 

「あぁ」

 

「昨日はどうしたんですか?“先に帰っててくれ”なんて」

 

「……用事だ」

 

「……?そうですか…」

 

あまり言いたくない事のようだ……と椎名は察し、これ以上追求することは辞めておいた。

 

「あ、そうです!花山くん、夏休みの事を聞きましたか?」

 

「夏休み?」

 

「あれ、知らないですか……石崎くんは?」

 

「いや、俺も何も聞いてねぇけど…」

 

「夏休みにバカンスがあるそうですよ?」

 

「へぇー…それってマジなのか?」

 

疑い深い視線を向ける石崎。この学校が本当にバカンスなんてものを用意しているとは正直思えない。

 

「他のクラスでは先生から言われたそうですし、本当だとは思うんですけど……」

 

 

「ま、十中八九“何か”あるだろうな」

 

 

3人の会話に、新たな声が入って来た。

 

「あ、龍園くん。おはようございます」

 

「よう」

 

「あぁ」

 

椎名、花山が挨拶をすると龍園も挨拶を返す。

そして、先程の龍園の言葉の真意を問おうと石崎が口を開く。

 

「何かってなんだよ?」

 

「さあな。ただ今までのちゃちな試験とは違うって事は確かだろうぜ」

 

「ほーん?」

 

龍園は優秀だ。まだ花山と敵対していた時は花山がデカすぎて小物に思えてしまったが、味方になればよく分かる。

龍園という男は頭が切れる。今回のDクラスとの事件だってポイントを掻っ攫う以外にも、学校側のこういう時間に対するスタンスを把握したりするといった目的もあるのだ。唯一目立った失敗はと言えば、花山に敵対してしまったことぐらい。

であれば、夏休みのバカンスにも“何か”があるという龍園の予想もバカに出来ないだろう。

 

 

「DクラスがBクラスと手を結んだようだ」

 

僅かに、ほんの僅かに花山がピクリと反応を見せる。

 

「……それって不味いんじゃねぇの?」

 

「不味いことなんてねぇよ。やれることなんて精々目撃者を募る事と罰を軽くするように訴えることぐらいだ」

 

「でも、Bクラスから目撃者だと名乗り出る生徒が出て来たらどうすんだよ?」

 

「変わらねえよ。最初の段階で名乗り出なかった時点で目撃者は居ないとほぼ確定してるんだ。今更出て来た所で口裏を合わせただけだって丸わかりだしな。何より証拠が無けりゃ有力な証言にはなり得ない」

 

「………………」

 

椎名は違和感を感じていた。

一見完全に詰ませているこの状況。万が一目撃者が出て来たとしても、龍園の言う通り証拠が無ければ証言としての力を持たない。完全な証拠を持った証言があった時点で此方の負けは確定するが、誰も名乗り出なかった事から恐らくは居ない。

しかし何故だろう。自分がもしDクラスだったとして、この状況が本当に詰んでいると言えるのだろうか。

何処かに抜け道があるような気がしてならなかったのだ。

 

何やら考え込んでいる椎名に龍園が問いかける。

 

「どうした、ひより」

 

「……いえ、なんでもないです」

 

「……………そうか」

 

訝しく思った龍園だったが、椎名を追求することはしなかった。

 

 

 

 

その数日後の放課後。

 

龍園、アルベルト、花山、椎名、石崎の5人はカラオケルームに集まっていた。

 

もちろん、カラオケをしに来たわけではない。

今日は先日の事件についての裁判の日だ。その為、その結果を即共有出来るように集まっているのだ。

 

実際の所、既に計画の成功が確実とも言っても良い現状で、態々全員揃って結果を待ちわびる程の重要度は無い。

それでもこうして集まっているのは、“仲間”になってから初めてのアクションであるためだ。何事も最初、出だしというのは重要だ。勢いや他クラスに与える精神面での影響は言うまでも無い。

 

 

椎名がいつも通りのマイペースさを発揮し、椎名の歌声を聴きながら小宮と近藤の二人を待っていると、一時間程で二人はやって来た。

 

「すみません、遅くなりました」

 

「で、結果は?」

 

「………あの……」

 

さっさと結果を言うように龍園が促すが、二人の反応はあまりよろしく無かった。

あわや失敗かと思ったが、もし失敗したのであれば、部屋に入って来た瞬間に土下座をしていたであろうから、おそらく違う。

 

「どうした?」

 

「いえ………その………“保留”になりました……」

 

保留。つまり、結果が出なかったということだ。

 

「は?保留?」

 

「はい………」

 

「……詳しく話せ」

 

 

 

小宮と近藤は、概ね裁判の流れは想定通りだったと言う。

 

裁判に参加していたのは、Cクラス側は小宮、近藤、そして担任の坂上。Dクラス側は須藤、堀北、綾小路、担任の茶柱。そして裁判官的な立場として生徒会の堀北会長、そして書記の橘。

 

最初は事件のあらましの説明。

 

次に互いの言い分の確認。

予め用意していた嘘の事実や坂上の援護射撃、向こうの付き添いが何も言わない事もあってCクラス有利かと思われたが、Dクラスが攻勢に出始めた。

引き合いに出されたのは、不自然な程に怪我を負っている小宮と近藤だ。『喧嘩を先に仕掛けたのは須藤で一方的に殴られた』と主張するCクラスだが、本当に無抵抗だったのであればそこまでの怪我を負うのは不自然だとDクラスは主張した。

 

「……なるほどな。悪くねえ着眼点だ。ソイツの名前は?まさかあのバカが言ってた訳じゃねぇだろ?」

 

「確か、堀北って名前だったと思います」

 

「堀北か……。続けろ」

 

確かにエネルギーのぶつかり合いである喧嘩は、互いが力をぶつけ合うことで怪我が出来るのであって、一方的に殴られた場合には怪我が出来にくくなる。

その点に注目したのは悪くないと、龍園は評する。

 

 

そして、誤算だった目撃者の登場。

 

Dクラスの生徒だから、自クラスの不利益を避ける為に嘘の証人を立てたのかと思われ、証拠能力は低いかと思われた。

しかし彼女が、事件があった現場に居た事がデジカメによって証明された。とは言え、写真のみでは当時現場に居た事は証明出来ても証言に正当性を持たせる事は不可能だ。結局証言自体はクラスを守る為の嘘だと思われてしまう。

最初龍園が言っていた通り、事件の説明があったホームルームの時点で名乗り出ていれば変わっていただろうが、今になって名乗り出れば疑われるのは当然だった。

 

 

そこでCクラス側は落とし所を見つけないかと提案した。

内容としては、Dクラス側には2週間、Cクラス側には1週間の停学。罪の違いは相手を傷つけたかどうかの違いだ。

Dクラス側としてはこれ以上無い程の好条件。このまま須藤のみが悪いということになれば、一ヶ月以上は停学にされていただろうからだ。

 

断る理由が無いように思われたが、なんと堀北はその提案を蹴った。

完全無罪以外は認めないと啖呵を切ったのだ。

 

そうしてどちらの証言が正しいのか、嘘なのかを証明するため、一日の猶予が設けられたのだと言う。

 

 

「……バカか?その堀北ってやつは」

 

どこからどう見たって、Dクラスは詰んでいる。

今の今まで見つからなかったのだから、今更証拠や証拠を持った目撃者が見つかるはずなどない。

須藤の無実を証明する方法など存在しはしない。

そもそも、須藤が殴ったという事実がある時点で罰があることは確定している。例えこちらから仕掛けたと証明出来たとしても、須藤に罰が下るのは避けようがない。

 

「……悪足掻きだな」

 

炭酸水の入ったコップを弄び、失笑しながらそう呟く。

 

やはり不可能だ。どう考えても須藤の完全無罪を証明する方法など存在しない。

 

「ど、どうしますか?」

 

近藤が恐る恐ると言った様子で尋ねる。

 

「どうする必要もねぇよ。変わらず今日と同じスタンスでいけ」

 

「分かりました」

 

リラックスしたようにソファにもたれかかる龍園は、気楽そうに変更が無い旨を伝えた。

 

 

「お、おい、椎名。どうしたんだ?」

 

ふと、石崎が何かに気付いたように椎名に声を掛ける。

見れば、椎名は先程までバクバクと口に運んでいたフライドポテトが口の前でちょうど止まっており、行動を完全に停止していた。

常に我が道を征くクイーン・オブ・マイペースの名を冠する椎名ではあるが、ボーっとしているような事はあまりない。そんな椎名が、間抜けな所で固まっているのが物珍しく石崎は思わず声を掛けたのだ。

 

 

…分かってしまったかも知れません

 

「あ?」「は?」「え?」「what?」

 

「分かってしまったかも知れません」

 

「……何がだ?」

 

 

「須藤君を無罪にする方法が、です」

 

 




ちょっと短いけど、ちょうどキリが良かったんでね。

前話の事をちょっと考えてたんやけど、一之瀬って絶対初心で男のアソコなんかパパ以外の見たこと無いやん?で、次に見たのが花山のでしょ?これから出会う男とか、パパとか、めっちゃ可哀想やな〜って。「花山くんのより……ちっちゃいね」とか言われたら泣くわ。


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十七の拳

評価ガン下がりしてて草も生えない
いや、俺が悪いんやけどね。


時刻は放課後の3時40分。

昨日延期された裁判の判決が今日出ることになっている中、Cクラスの二人は事件のあった特別棟の事件現場に呼び出されていた。

 

だが何も、果たし状が届いた訳では無い。

Dクラスの生徒で、学年としてもアイドル的存在である櫛田桔梗からの呼び出しだったのだ。

他クラスとはいえ女子からの呼び出し。健全な男子高校生であれば、()()()()類の話だと想像してしまうのは仕方がないだろう。

 

 

だが、そこに居たのは櫛田ではなかった。

 

 

「……どういうことだ。なんでお前がここにいるんだよ」

 

そこにいたのは、昨日の裁判にも参加していたDクラスの綾小路であった。

 

「櫛田はここには来ないぞ。アレは嘘だ。オレが彼女に頼んで無理やりメールさせた」

 

既に気候は夏っぽくなっており、冷房も空気の流れもない特別棟は校内でも屈指の暑さだ。

そんな所に呼び出されたにも関わらずそれが嘘だったとなれば、当然ふつふつと怒りが湧いてくる。

 

「ふざけてんのか?何の真似だよ、あ?」

 

苛立ちを隠しもせず強い口調で凄むが、それに怯む様子も無く綾小路は答える。

 

「こうでもしないとお前らは無視するだろ?話し合いがしたかったんだよ」

 

「……話し合い?」

 

嘘をついてまで呼び出された目的が話し合いだと聞いて、小宮と近藤は訝しげな表情を浮かべながらアイコンタクトを取る。

 

「……んなもん必要ねぇだろ。俺たちは須藤に呼び出され殴られた。それが真実だ。大人しく相応の罰を受けろ」

 

「別にそんな議論をするつもりはないさ。それは時間の無駄だ。どちらも絶対に主張を曲げないことは昨日散々語りつくしてわかってるからな」

 

「じゃあなんだよ。今から俺達を拉致って会議に不参加でもさせるってのか?勿論そんなことしても無駄だが……。大人しく諦めろ」

 

元々小宮と近藤に話し合いをする気などハナからないので、早々に立ち去ろうとする小宮と近藤。

 

だが、それは思わぬ登場人物によって引き止められる。

 

「観念した方が良いと思うよ、君たち」

 

「い、一之瀬!?どうしてお前がここに!?」

 

学年でも名の知れているBクラスのリーダーである一之瀬が出て来れば驚くのも無理はない。

 

「どうしてって?私もこの件に一枚噛んでるから、とでも言っておこうかな?」

 

「……今回Bクラスは関係ないだろ。引っ込んでろよ」

 

先程までの綾小路とは打って変わって、弱々しく一之瀬を退けようとする。

これまでに何度かBクラスとバチバチやりあったこともあり、苦手意識に近いものが小宮と近藤にはあった。

 

「確かに関係は無いけどさ。嘘で大勢を巻き込むのはどうかと思わない?」

 

当然、どういう手口を使ったかはバレているようだ。

 

「……俺達は嘘を言ってない。被害者なんだよ俺達は。ここに呼び出されて須藤に殴られた。それが事実だ」

 

「えーい、悪党は最後までしぶといっ。そろそろ年貢の納め時だよ!」

 

バッと右手を広げて高らかに宣言する一之瀬。

 

「今回の事件、君たちが嘘をついたこと。最初に暴力を振るったこと、全部お見通しなんだよね。それを明るみにされたくなかったら今すぐ訴えを取り下げるべし」

 

「は?訴えを取り下げろ?何言ってんだ。お前らの証言なんて当てになんねえんだよ。あれは須藤が喧嘩を仕掛けてきたんだ」

 

「この学校が、日本でも有数の進学校で、政府公認だってことは知ってるよね?」

 

「当たり前だろ。いきなりなんだよ」

 

「だったらもう少し頭使わないと。君たちの狙いなんて、最初からバレバレなんだよ?」

 

この状況を楽しむかのように堂々と話す様は名探偵さながらだ。

そして自信のある堂々とした話し方は、嘘やハッタリも本当だと信じさせる。

 

「今回の事件を知った学校側の対応、随分とおかしいと感じなかった?」

 

「は?」

 

「君たちが学校側に訴えた時、どうして須藤くんがすぐに処罰されなったのか。数日間の期間を与えて、挽回するチャンスを与えたのか。その理由は何だと思う?」

 

「そりゃあいつが嘘をついて学校側に泣きついたからだろ。建前上猶予を与えないと訴えた者勝ちになっちまうからな」

 

「本当にそうかな?本当は別の狙い、目的があったんじゃないかな」

 

「何を言ってんだよ。わけわかんねぇし。クソ暑いしよぉ…」

 

風も通らない密封されたこの場は、うだるような暑さが立ち込めている。

脳が十全にパフォーマンスを発揮するには、それなりの環境が必要だ。加えて嘘をつくことによる微かな動揺、一之瀬というイレギュラー。

これら三つの要素が重なれば、人間の思考力は大きく低下する。

 

「もう行こうぜ。こんな暑いとこにいられるか」

 

「いいのかな?」

 

もう我慢の限界なのか、小宮が帰ろうと言い出すが一之瀬が引き止める。

 

「もし君たちがここを離れたら、多分一生後悔するよ?」

 

「さっきから何なんだよ一之瀬!」

 

「分からないの?学校側は、君たちCクラスが嘘をついてるのを知ってるってことだよ。それも最初からね」

 

突然告げられた衝撃の事実。

当然信じられるはずもない。

 

「笑わせんなよ。俺達が嘘をついてる?それを学校側が知ってるだと?」

 

「あはははは。おかしいよね、君たちはずっと手の平で踊らされてるんだから」

 

「一之瀬を抱き込んだのはすげぇが、そんなもんはただのハッタリだろうがよ!」

 

「確実な証拠があるんだよね」

 

ハッタリだと決めつけている近藤の強気の恫喝にも怯まず、一之瀬は続けた。

 

「はっ。だったら見せてくれよ、その証拠とやらをよ」

 

ーー食い付いた!

 

これが、この瞬間綾小路や一之瀬のこころの声だろう。

 

「この学校の至るところに監視カメラがあるのは知ってるよね?教室や食堂、コンビニなんかにも設置されてあるの、何となく見たことあるでしょ?私たちの普段の行いをチェックすることで不正を見逃さないようにしてる措置なんだよ」

 

「それがどうした」

 

「だったらさ。アレ、見えないかな?」

 

一之瀬は、廊下の少し先にある天井付近を指差した。

続けて、小宮と近藤もその示す先を見やる。

 

 

「は?」

 

 

間の抜けたような声がどちらかから漏れる。

 

その先にあったのは、監視カメラだ。

模型などではなく動いている証拠だと言わんばかりに、時折左右に首をふっている。

 

「ダメじゃない。誰かを罠にハメるならカメラのないところでやらなきゃ」

 

「嘘……だろ……?」

 

「オイオイ……」

 

小宮と近藤は“まさか”と言いたげな表情で驚いている。

 

「確かに校舎の廊下には基本的にカメラは設置されてないみたいだね。だけど、例外的に取り付けられてる廊下が数カ所あるんだよ?それは職員室と理科室の前だよ。職員室は言わずもがな、貴重品がたくさんあるでしょ?そして理科室は薬品関係が沢山置いてある。この階には理科室があるから、カメラが設置されてるのは当然ってこと」

 

唖然としている小宮と近藤。

 

詰め切った!と、一之瀬は勝利を確信した。

 

 

もし少しでも何かが変わっていれば、完全に想定外の一手となり、二人は訴えを取り下げる事となる………はずだった。

 

「……はは」

 

「……え?」

 

どちらかから聞こえた乾いた笑い。続く小宮と近藤の張り裂けんばかりの笑顔を見て、一之瀬は疑問の声を上げる。

 

「確かにお前らは凄かったよ」

 

「だが、相手が悪かったな」

 

「俺達」

 

「Cクラスは」

 

「そう!」

 

「甘くは無いぜ!」

 

まるで示し合わせたかのように交互に言葉を紡ぐ彼らに、一之瀬は……いや、一之瀬と綾小路の二人は困惑を隠し切れない。

 

「な、何を……言ってるの?」

 

「わからねぇか?一之瀬!」

 

「この!」

 

「流れを!」

 

「全て!」

 

「「読んでいたということだよぉッ!」」

 

時は、昨日の放課後まで遡る。

 

 


 

 

『事件を無かったことにすれば良いんですよ』

 

無罪にする方法があると言った後、椎名はそう言った。

 

『無かったことに……?』

 

『どういうことだよ』

 

『二つ方法があるんですけど、一つは事件があったことをうやむやにしてしまう方法です』

 

『どうやって?』

 

『例えばですけど、テロなんかが学校内で起きれば今回の事件なんてうやむやになりますよね?後は爆弾が見つかるとかもでしょうか』

 

『いや、そりゃなるだろうがよ……』

 

ハッキリ言ってあまり現実的では無い。テロなんて日本じゃそうそう起きないし、爆弾なんかもそう用意出来るものでも無い。

あまりに突拍子も無い、無さすぎる例え話に、石崎や小宮、近藤は肩透かしを食らった気分だった。

 

『後は、人が死ぬとかでしょうか?』

 

『………椎名って意外とエグいこと言うよな』

 

石崎としてはこれまでの経験で割とズバズバと物言う椎名にそれほど驚きは無いが、他のまだ付き合いが浅い龍園達からすれば意外な一面だろう。

とは言え、この例え話は全く現実的でない。

 

『本当にそんなこと起きると思うのか?』

 

小宮が疑わしげに聞くと、椎名はあっさりと否定する。

 

『いえ、流石に現実的ではないですし、意図的に起こすことはまず不可能でしょう。それで二つ目です。それが、訴えを取り下げるという方法』

 

『……?どういうことだ?』

 

『……なるほどな』

 

石崎はまだ理解出来ていないようだが、龍園は椎名の言いたいことを掴んだようだ。

 

『今回は、()()()()()()()()()()()()()()()()んじゃない。俺らCクラス側が()()()()()()()()()()()()()……。そのCクラスが訴えを取り下げれば事件は無かったことになる、そういうことだな?』

 

目撃者がいようがいまいが、喧嘩があったことが事実だろうが嘘だろうが、元々Cクラス側が訴えなければ問題になることは無かったと、龍園は言った。

 

そしてそれを椎名は肯定する。

 

『そういうことです』

 

『なら次の疑問だ。どうやって俺らから訴えを取り下げさせる?』

 

薄々勘付いているだろう龍園は、さぞ楽しげに椎名に問い掛ける。

 

『脅したり、買収といったところでしょうか……。でも、Dクラスに買収出来る程のポイントがあるとは思えないので、十中八九脅しの方で来るとは思います』

 

『だがよ、脅されたぐらいじゃ俺達は訴えを取り下げたりしねぇぞ?』

 

暴力で脅そうものならこちらの思う壺だしな、と続けた。

 

『一応確認しますけど、小宮くんや近藤くんに後ろ暗いことがあったりします?』

 

『いや、ねぇけど』『俺も』

 

『なら……色仕掛け……とかでしょうか?櫛田さんみたいな子に言い寄られれば、ついつい動いてしまいそうですけど』

 

『う、動かねぇよ!なぁ!?』『そ、そうだそうだ偏見だ!男子がみんなあんな子が好きだと思うなよ!』

 

『別に思ってないんですけど……後は……ハッタリでしょうか?学校は全部知ってるんだぞーとか』

 

『なるほどな……』

 

まぁ、そういう手を使ってくると分かっていればハッタリだと丸わかりだ。

 

続いて、あ、と思いついたように椎名が声を上げる。

 

『監視カメラを設置するという手段もありますね』

 

『監視カメラぁ?』

 

『んなもんどうやって用意すんだよ?』

 

監視カメラなど、そうそう売っているものでもない。

ハッタリとしての効果は充分だろうが、用意出来なければ結局のところは机上論だ。

 

だが、それは頭のキレるthe・ドラゴンボーイによって否定される。

 

『いや、監視カメラは多少値は張るが買える』

 

『マジっすか!?』

 

『あぁ』

 

龍園はこの学校のルールを把握した時点で、あらゆる手段を使えるように下調べを行なっている。

監視カメラが売っていることを知っているのもその一環だった。

 

『私には他は思い付きませんね』

 

もう思いつく事は無くなったらしい椎名は、ジュースをちゅー、と吸って話を締め括った。

 

 


 

 

完全に手を読まれており、小宮と近藤を抱え込むことに失敗してしまったDクラス。

 

結果として、須藤と小宮、近藤は双方重さは違うものの、痛み分けという事で決着がついた。

 

だがそれがもたらした須藤のレギュラー剥奪やクラスポイントに及ぼした影響を鑑みれば、今回の事件はDクラスの完全敗北という形で、いちれんの事件は幕を閉じたのだった。

 




この話を書くにあたって、「あれ?こういう流れならアンチヘイトのタグ付けとかないとアカンのじゃね?」って思ったけどちゃんと付いてたわ。流石俺。

小宮と近藤をジョジョ立ちさせながら「読んでいたということだよぉッ!」バァァァァァンって絵描いてみたくなった。誰か描いて。


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十八の拳

いやポケモン楽しすぎ
ポケモンのSS書いてみた杉内

次から無人島で、今回は息抜き回?的な。


既に夏休みまであと数日となったある日の放課後の事である。

 

「花山さん!帰りましょう!」

 

「ん」

 

いつものようにHRが終わると即座に石崎が駆け寄り、それに椎名がひょっこりと付いて行き帰路につく。

 

先日の事件以降は特に何事も無く、非常に平和な学生生活を満喫している。もうすぐ夏休みということもあって、どこか浮かれた雰囲気が漂っている。

流石の龍園も昨日の今日で忙しなく動く気は無いようで、表面上は大人しく学生生活を送っているらしい。どうせ裏で何か根回しやら下見やらしているんだろうが。

 

 

「ちょっと」

 

歩きながら何気ない雑談をしていたところに声が掛かる。

 

見れば、青みがかった髪をショートカットに切り揃えた少女、同じくCクラスの伊吹澪が立っていた。比較的身長も小さく華奢な印象を受けるが、体育なんかは女子の中では1番成績が良かったと記憶している。

 

「あ?なんだよ」

 

「アンタには用は無いから」

 

バッサリと切り捨てられた石崎。あまりにもぞんざいな態度に最近優しさの化身と化してきている石崎もイラつきを禁じ得ないが、ここは花山の舎弟に足る器の大きさを見せる為溜飲を下げる。

 

「伊吹さん、でしたよね?何か御用でしょうか?」

 

人の名前を覚えるのが得意では無い、と豪語する天然記念物椎名と言えど、流石にクラスメイトの顔と名前ぐらいは既に一致している。

特に話した事もなく、関わりは無かったように思える。加えて言えば一人で行動していることが多く、一匹狼のような印象を受けるが、授業などは真面目に受けていた。

 

人との関わりを避けている伊吹が、生粋の有名人である花山へ声を掛けたのは些か不自然に思えた。

 

 

「……アンタさ。なんであんな奴のやり方を許してるわけ?」

 

「“あんな奴”?」

 

確かな不快感を纏わせながら花山に問い掛ける伊吹。

 

「龍園のこと!」

 

半ばイラついたような声音で伊吹が答える。花山にそんな態度で物を言える女子など、この学校にもそうはいないだろう。それだけの度胸と胆力を持ち合わせていることの証明だ。

 

「…と、言うのは?」

 

流石に質問の意図を測りかねていた椎名が問い掛ける。

なんで椎名はバッサリ切り捨てられないんだ…とは、石崎の心の声である。

 

「……アイツのやり方が嫌い。あんな風に正々堂々戦わずに裏で陰湿な事をして、他人を貶めるような事をするのが気に入らないのよ」

 

この前の事件だって…と伊吹は吐き捨てる。

言わんとすることは分からないでもない。生真面目な伊吹は、龍園の邪道のやり方が気に入らないということだろう。

 

ただ、それで何故花山達に物申しているのかが分からない。

 

「えっと……それをなんで私達に?」

 

「そうだよ。龍園に直接言えば良いじゃねぇか」

 

「言って、アイツが何か変えると思う?」

 

「……確かにな」

 

それはそうだ。女子一人の意見など龍園は気にも止めないだろう。適当にあしらうだろうし、あまりにしつこければ力で分からせられる事は想像に難くない。

 

「ってことはよ。自分の意見じゃ通らねぇから花山さんに泣きつきに来たってことじゃねぇの?」

 

「違う!」

 

石崎の言葉を即座に否定する。

 

「ただ……アンタも私とおんなじようにーーー」

 

と、そこまで言いかけたところで言葉を止める。

言うかどうかを迷っているように口をパクパクと何度か開いて閉じてを繰り返す。

 

「〜〜っ!やっぱもう良い!帰る!」

 

だが言う気が失せてしまったのか、突然ズカズカと帰って行ってしまった。

 

後に残ったのは不自然な沈黙。

 

 

「……なんだったんでしょう?」

 

「……さあな」

 

結局なぜ声を掛けられたのか理由を知ることは出来ずに、伊吹を見送っていく事となったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏休み。

 

学生にとって最も尊く、聞くだけで嬉しくなるような言葉。

宿題さえ終わらせてしまえば、何の憂いもなく一夏の思い出を作る事が出来る。

 

だが残念な事にこの政府が建てた東京都高度育成高等学校では夏休みが存在しない……なんて事はなく、一般的な学生と同じように夏休みが存在している。

家に帰る事は出来ないが、敷地内に建てられたあらゆる娯楽施設は学生を飽きさせる事はない。加えて一年生には“バカンス”までもが用意されているらしく、そこらの学生よりも良い生活をしていると言えなくも無い。

 

 

さて、先程述べたように、この学校にはそれもう楽しい楽しい夏休みが設けられている。

だがそれを楽しむには、一つの試練が残されていたのだったーー!!

 

 

 

「…………」

 

夏休み初日。何やら腕を組んで目の前に並べられた教材を睨みつける大男。誰あろう……。

 

そう、我らが花山薫である。

 

目の前並べられているのは、夏休みを楽しむ為の試練ーー宿題ーーである。

 

 

「さ、花山くん。ササっと終わらせて、夏休みを思い切り楽しみましょう!」

 

ムン!と両手で握り拳を作る椎名。

だが対する花山の顔は晴れない。

と言うのも、実はこの花山、夏休みの宿題は最終日までやらないタイプである。ある意味で夏の風物詩とも言えなくもないが、とても自慢できるようなものでもない。

実際中学の時はエリートである木崎と決死の追い込みを行ったものの、九九という初歩の初歩で躓き、間に合わなかったという過去がある。

夏休みの宿題など早くやっておいた方が良いに決まっている。決まっていることを分かっているはずなのだが……やはり花山も男子高校生。宿題がめんどくさいという気持ちがどうしても出てしまうのだ。

 

「…?どうしました?花山くん」

 

「……いや……何から手を着けるか考えてたとこだ」

 

 

チラリと隣を伺えば、石崎がカリカリと問題を解き始めており、出遅れた事を察した花山は一番上にあった教材を開き問題を解き始める。

 

 

この場にいるのは三人。花山、石崎、椎名のいつメンだ。

椎名は宿題が出た瞬間から取り掛かり、既に殆ど終わっているらしく、石崎は椎名に比べてペースは遅巻きながらも、真面目に宿題をこなしている。

そして最もヤバそうな花山に椎名が張り付いて勉強を教え、石崎がつまづいた所は椎名が教えているという形だ。

 

 

「あ、違いますよ花山くん。ここはこの公式を使うんです」

 

開始僅か15秒で本日一つ目のミスが指摘され、即座に解き直す。非常に先が思いやられる、順調とは言えない滑り出しから花山は夏休みをスタートすることとなった。

 

 

 

 

 

「そろそろ休憩にしましょうか」

 

椎名の一言で、空気が弛緩し脱力感溢れる溜息が花山の自室内に広がる。

 

昼過ぎから始めたこの勉強会だったが、既に夕方になっており、かなり長い時間集中していた事が分かる。

 

「あ〜づがれだ〜」

 

「頑張ってましたもんね、石崎くん」

 

「おうよ。けっこー終わったぜ」

 

そう言って、ドサリと終わった分の宿題を見せてくる。

 

「わ、すごいですね……」

 

パラパラと椎名がページをめくると、字の荒々しさはあるものの、真面目に取り組んだ事が分かる程出来が良かった。

 

そんな石崎の今日の成果を見た後に、花山は自身の成果へと視線を向ける。

 

見れば、量にして石崎の3分の2程の積み上げられた宿題。

理由は分かり切っている。一重に解くスピードの問題だ。スラスラと問題を解く石崎と、間違いを指摘されて直しながら進めていくのとでは速度に大きな差が出るのは自明の理。

 

だが、自分の事をを慕っている存在である石崎に負けているという事実は、花山に危機感とモチベーションを与えるには十分であった。

 

 

「……ひより」

 

「どうしました?花山くん?」

 

「今日予定はあるか?」

 

「いえ、特には無いですけど……」

 

「もう少し付き合ってくれるか?」

 

「…!」

 

椎名は驚きを露わにする。

事勉強に関して、花山にはさぼりぐせがある。早めに宿題をやっておかなければズルズルと最終日まで宿題が持ち越される事を懸念しての、半ば無理矢理の勉強会だったのだ。

 

だが、まさかまさかの、花山本人からのおかわり要求。

つい先程まで限界までやり切った所で、精魂ともに尽き果てたと思っていただけに、椎名は驚きを隠し切れない。

 

「えっと……私は大丈夫なんですけど、花山くんは大丈夫ですか?何時間もずっと集中してやってたわけですし……」

 

勉強の習慣自体はついてきているものの、こう何時間も続けて休憩無しで脳を酷使するのはかなり堪えるはずだ。

 

「問題ねぇ」

 

「……そうですか」

 

そう思っての椎名の心配だったが、花山の活力のある視線にやる気がある事を感じ取り、再び教材を開き勉強を再開させる。

 

 

何がトリガーになったのかは分からないが、花山が自分から『勉強したい』と言い出す事は珍しい。このモチベーションがいつ無くなるか分からないと考えた椎名は、先程までよりも早いペースで宿題を捌かせていく。

先程までより格段に早いペースに付いていくことが出来たのも、花山のモチベーションが上がった事が大きな要因である事は言うまでもない。

 

なお、そのモチベーションの発端となった石崎は既に寝息を立てていたのだった。

 

 


 

 

氏名:石崎 大地  いしざき だいち

 

クラス:1年C組

 

部活動:無所属

 

評価

 学力 D+

 知性 D-

 判断力 E

 身体能力 C+

 協調性 C+

 

面接官からのコメント

 運動能力は平均よりやや上のレベル程度ではあるが、中学校では少々有名な不良生徒だったことを把握している。当校ではこういった生徒にも救済措置を与え成長を促す必要があると考える。同クラス、花山薫との関係には最大限注意を払う必要がある。

 

担任メモ

 予想に反し、非常に大人しく学生生活を送っている。学力面でも大きな改善が見られており、粗暴さや喧嘩っ早さなどは見られない。いつも一緒に行動している花山の影響が大きいものと思われる。

 

 


 

 

氏名:椎名 ひより  しいな ひより

 

クラス:1年C組

 

部活動:茶道部

 

評価

 学力:A-

 知性:A-

 判断力:C

 身体能力:E

 協調性:C+

 

面接官からのコメント

 物静かな生徒で、提出された資料によると幼少期から一人を好む傾向が強い。友人と呼べる存在は殆どおらず、またそれを望んでいる様子も見られない。学力、勉強に取り組む姿勢や知性には問題が見られないため、協調性や友人や構築する力を身につけ社会への対応力をあげていってもらいたい。

 

担任メモ

 花山や石崎と友人関係にあるようで、彼らを通じてクラスメイトの繋がりもあることから、協調性に問題は見られない。椎名の影響で花山の学力も上がっているようなので、これからも頑張ってもらいたい。頼むから花山を退学させないでくれ




花山が活躍する機会無かったからインタビュー形式しばらく無かったけど、そろぼち来るから待っててくれな!早く書きてえ。


〜次回予告〜

豪華客船に乗る花山達一年生。2週間のバカンスの旅の最初の一週間を無人島の浜辺で過ごす為に移動する。
楽しい楽しいバカンスのはずが……。

『特別試験やるやで〜^』


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十九の拳

前回、後書きで次回予告をしたな?
アレは嘘だ。いったいいつから、次回予告が本当の次回予告だと錯覚していた?

ってのは冗談で、マジで思いの他書いてて楽しくなっちゃって、そこまで押し込め無かったんですよね〜。無計画でスマソ。許してくれ。


青い空、青い海、白い雲、潮の香り、細波の音。

 

海の上を、花山達一年生が乗る豪華客船が進む。

 

 

「うおぉぉぉぉ!」

 

バン!と石崎は四人部屋の扉を開け放ち歓声をあげる。

 

 

「うおぉぉぉぉぉおぉぉお!」

 

今度は船内にあるレストランにて歓声を。

 

 

「おぉぉおぉぉおぉぉお!!」

 

次は舞台やスクリーンが備え付けられたシアタールーム。

 

 

「うぉうぉうぉうぉうぉうぉ!!」

 

次はプールなどのレジャー施設。

 

 

「スゲェェェェェェ!!!!」

 

最後に眼前に広がる青々とした海と穏やかな青空を見て、デッキにて一際大きな歓声を上げる。

 

「はしゃぎすぎですよ、石崎くん」

 

「いや、だってよ!すげぇじゃんかよ!なぁ!」

 

「確かに凄いですけど……」

 

子供のようにはしゃぐ石崎を、椎名は苦笑しながら見つめる。

だが、椎名もついはしゃいでしまうその気持ちは分からないでもない。

豪華客船に乗るとは聞いていたが、実際に乗るとそのスケールの大きさには感服せざるを得ない。それほどまでに豪華な作りで、船内にはあらゆる施設が設置されており、自費で来ようと思えば軽く数十万は飛ぶだろう。

一介の高校生には縁の無い豪華客船に興奮してしまうのは仕方の無いことだと言えた。

 

 

「花山くんはあまりはしゃいで無いみたいですね」

 

「……いや、そんなことはねぇが」

 

「そうですか?」

 

「あぁ」

 

周りにいるCクラスや他クラスの生徒も、皆一様に興奮を露わにしている。

 

そんな中、相変わらずに仏頂面を浮かべる花山は、椎名の言う通りどこか上の空であった。

勿論、驚いていないわけではない。それよりも気にかかる事があり、それに気を取られているだけだ。

 

 

それはーーー酒。

 

 

これまで、部屋に隠した酒をちょびちょびと飲んで凌いでいたのだが、なんとこのバカンスに持ってくるのを忘れて来てしまったのだ。

バカンスは2週間。実に2週間もの禁酒は花山にとっては苦痛でしかない。忘れてしまった事を悔やむ他ない……そう思っていた。

 

だが、その憂鬱さは、この船を一通り見物したことで振り払われることとなった。

 

それはバーの存在。

当然、学生が利用するためではなく、教職員達大人が使う為にあるものだ。

だが、花山はそれを見つけてしまった。

 

そして花山は如何にして酒を飲むかという思考へとシフトする。そうなれば、船の豪華さなど二の次になるのは当然のことだった。

 

 

「やっぱり、どこか体調でも悪いんですか?」

 

いつになくボーッとしたようすの花山を心配し、椎名が声をかける。

実際には考え込んでいるだけなのだが、花山が思考に没頭するという事が珍しいため、椎名は体調が悪いのかと心配したのだ。まぁ、花山に限って体調を崩すなんてことは無いのだが。

 

「いや、大丈夫だ」

 

とは言え、自分だけ上の空では空気を悪くしてしまう。その上、どうせ昼間は人が多過ぎて酒を飲むなどまず出来ないし、何より最初の一週間は島の中で過ごすため、どうせ酒にはありつけない。

 

今考えても仕方が無いと割り切った花山は、未だ子供のようにはしゃぐ石崎を追うべく歩いて行った。

 

 

 

 

「見て下さいよ花山さん!ボーリング場ですよ!すげぇすげぇ!やりましょう!」

 

「あぁ、構わねぇ」

 

多くの生徒がプールやカフェ、レストランや映画など、思い思いに時間を過ごす中、石崎が見つけたのはボーリング場だ。

見れば多くの生徒がボーリングを楽しんでおり、周りにいるのがほぼ身内という事も相まって非常に楽しそうだ。

 

「うわぁ……私、ボーリングに来るのも始めてです」

 

「……俺もだ」

 

「え?そうなんですか?じゃあ俺が色々教えてあげますよ!ほら、こっちです、こっち!」

 

親を引っ張る子供のように、無邪気な石崎はさっさと手続きを済ませる。

 

「靴を履き替えたら、次は球を選ぶんです」

 

「へぇ〜……沢山種類がありますけど、どこがどう違うんですか?」

 

「一番は重さじゃねぇか?女子ならあっちの軽い球の方が良いと思うぜ」

 

「そうなんですか」

 

タッタッタッと小走りで球を取りに行った椎名を見送る。

 

「花山さんはどうしますか?やっぱり一番重い球ですか?」

 

「あぁ、それで構わねえ」

 

「わかりました!じゃあ俺も一番重い球にします!」

 

それぞれが球を用意してきた所で、ゲームスタートだ。

 

 

まず、第一投は石崎。三人では唯一の経験者の為、二人に手本を見せようと張り切っている。

 

「おっしゃ!いくぜ!見ててくださいよ花山さーん!」

 

後ろを振り向き手を振ってくる石崎に、花山は手を軽く挙げることで返す。

 

「……はしゃいでますね」

 

「あぁ」

 

本当に子供のようだと、微笑ましい物を見るように石崎を見る。

 

さぁ、そんな石崎の第一投。

 

穴に指を通し、一番スタンダードなフォームでボールを構える。

 

呼吸を整えた石崎はゆっくりと助走を始め、ボールを後ろに振り被る。

 

そして球が放たれる。

 

決して美しいとは言えない、荒々しい投球ではあったが、真っ直ぐに中心を目掛けて進んでいく……かに思われたが、徐々に左にズレていってしまう。

 

先頭に立つピンには当たらず、二列目の左のピンへとヒット。そのままピンを薙ぎ倒していき、結果として倒したのピンは5本。

 

「おぉ〜」

 

パチパチと素直に賞賛の拍手を送る外野の二人。

 

 

続けて第二投。

 

先程のズレを修正し、先程と同じようなフォームで投球。

 

真っ直ぐに先頭のピンの中心を捉えたボールは残りのピンを全て巻き込み、スペアを取ることに成功した。

 

「っしゃ!」

 

ガッツポーズをしながら戻って来た石崎を、椎名と花山の拍手が出迎える。

 

「凄いです!石崎くん!」

 

「い、いや〜…」

 

照れる石崎を尻目に、椎名も自身の球を持ちレーンへと向かう。

 

 

んしょ、と声を漏らしながら重そうにボールを持ち上げる椎名。

華奢な見た目と、趣味が読書というインドアな性格の通り、彼女は運動がダメダメだ。

球の重さのせいか、若干おぼつかない足取りで歩く椎名に、大丈夫かと視線が集まる。

 

そして椎名の第一投。

 

トコトコと小股で助走をつけ、細い腕で重い球を懸命に振り被り、投球。

 

投げられたボールは転がるような軌道ではなくふわりと放物線を描く。

 

次に響くドガン!と言う音。

 

だがフロアに落下したボールは、勢いを失わずにゆっくりと転がっていく。

何の勢いも無く転がるボールは、ゆっくりと端の方へと進路を取る。

コロコロ…と転がるボールは遂にガーターへと吸い込まれ、ただの1ピンも倒す事なく椎名の第一投は終了した。

 

「む……難しいですね……」

 

こう…?こう…?と投げる素振りをする椎名。

いや、その投げる素振りの時点でボールを上に放ってるんだが……。

 

「ちょ、し、椎名。放るんじゃなくて、こう、転がす感じでよ……」

 

「転がす……ハッ…!」

 

石崎のアドバイスを聞いて、何か思い付いたかのような声をあげる椎名。

 

「ありがとうございます。石崎くん」

 

「お、おう……大丈夫かな……」

 

不安をを隠せない石崎であった。

 

 

椎名の第二投。

 

だが、ボールを持った椎名は一向に助走の距離を取ろうとしない。

ただ前だけを見つめ、集中力を高めているようだ。

 

流石に女子の筋力で、助走も無しに片腕のみで投げられる筈もない。

 

流石に石崎も見てられないと思い声を掛けようとしたその時、椎名が構えた。

 

全く持って美しい構えではない。

両手でボールを持ち、下投げの姿勢……桜木のフリースローを思い浮かべてもらえれば分かりやすいだろう。

まさか…!と石崎は思う。

誰もが、一度はやってみる構えだろう。そして試し、意外と難しい事を学び諦め、成長していくのだ。

その構えを、椎名は取った。

一見不格好に思えるポーズだが、当の本人は至って真剣だ。これまでののほほんとした雰囲気は何処へやら、まさに狩人の如き目をしていた。

 

機は熟した。

投球。

 

先程に比べれば幾分が小さな放物線は、先程よりも幾分か小さな音を立てて地面に落ちる。殆どが先程の焼き直し。

またか…と誰もが思った事だろう。

 

だが、予想に反し、ボールはゆっくりと、ゆっくりとだが、確かに真っ直ぐ進んでいる。

 

椎名は片膝をつき、ボールの行方を静かに見守る。

同じように、周りの生徒も皆そのボールの行方を見守っていた。

 

何分にも思える程の濃密な時間。

だがそれも終わりを迎える。

 

お、と誰かが声を上げた。

ピンまでの距離、およそ1メートル。

だが未だにボールは真っ直ぐ、先頭のピンの中心を捉えている。

お、お、お?と、伝播していき、次第にどよめきになる。

 

『おおおおおおお????』

 

 

そして遂に、その時は訪れた。

 

コツンと、先頭のピンが倒れる。

 

すると、二列目のピンが倒れる。

 

そしてその二列目のピンは三列目のピンを、三列目のピンは四列目を巻き込み倒していく。

 

 

そしてゆっくりとボールはレーンの奥へと姿を消した。

 

瞬間、歓声が上がる。

 

『うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!』

 

事の行く末を見守っていた多くの生徒が響めきと歓声を上げ、目の前で生まれたドラマに拍手と指笛の惜しまない称賛を浴びせる。

 

歓声をその背に浴びた椎名は、片膝をついた状態から徐に立ち上がる。

 

そして、背を向けたまま、椎名は拳を高々と掲げたッ!!

 

『うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!』

 

一際大きな歓声が起こり、船中に響き渡る。

 

 

 

「…………なんだコレ」

 

石崎は一人、ポツリと声を漏らした。

 

 

 

一頻り騒ぎ終えた後、椎名は戻って来た。

その顔はどこか晴れやかで、“自分、一皮剥けてきましたよ”とでも言いたげだ。

 

ソファに腰かけると、当てられた雰囲気も冷めて来たのか、石崎に自慢げに声をかける。

 

「どうですか?石崎くん。ストライクを取りましたよ、ストライク」

 

ふふん、とでも言いたげな椎名に、石崎は容赦無い事実を浴びせる。

 

「あれ、スペアだぞ」

 

「…………………」

 

聞こえていないのかと思った石崎は、もう一度同じ事を言う。

 

「あれ、スペアだぞ」

 

「えっ…………?」

 

「だから、スペア」

 

「だ、だって、全部一度に倒せばストライクじゃ……」

 

「“一度に”じゃなくて、“一投目で”だからな」

 

「じゃあ……私………〜〜〜っっ!!!」

 

ボッと顔を赤くする椎名。先程までの事を思い出したのだろう。ストライクであれば格好がついたものの、事実はスペア。ストライクだと思い込んでいただけに余計にタチが悪い。

雰囲気に当てられた結果とは言え、気の毒に思わざるを得なかった。

 

 

 

その後なんとか椎名の調子を取り戻した所で、ようやく花山の出番だ。

レーンに向かう為に立ち上がると、花山は石崎に問い掛ける。

 

「大地」

 

「はい?」

 

「あのピンを全部倒せばいいんだな?」

 

「え?は、はい。そうですけど」

 

「わかった」

 

「あ、はい…」

 

何故あんな事を聞いたのか、それは後になって分かることだった。

 

 

もう一度言うが、花山はボーリングは初体験である。

ギャンブルなどの大人の遊びは経験していても、カラオケやボーリングに代表されるような、学生らしい遊びとは無縁だったからだ。

とは言え、ルールぐらいは把握している。線を踏み越えてはいけないとか、ピンを倒せば良いこととか、全部倒せばストライクであることとか。

 

そんな自身の認識が間違っていない事の確認が取れた花山は、一番重たい“らしい”ボールを片手で鷲掴む。

 

 

 

花山がレーンに立つと、またもや静寂がボーリング場を支配した。

 

原因は言うまでもなく、花山薫だ。

 

花山薫が有名人であることは今更説明するまでもない。

だが花山薫という生徒の実態は、噂以外で知ることは出来なかった。その噂も信じられないようなものばかりで、信憑性には欠ける。

そんな花山の“実力”。学力や運動神経とは直接関係しないが、花山薫という人間の実力を測るために、どのクラスもどんな材料だろうが欲しがっていた。

 

結果、花山の一挙手一投足に注目が集まっていた。

先程の騒ぎに吸い寄せられた生徒も増えており、先程よりもギャラリーは多い。

 

だが当然、花山にとってはどうでも良いこと。気にする必要も無い。

自らの数十メートル先に立つあの10本のピンを倒すため、花山は“構え”た。

 

 

 

そこにいた者達は口を揃えてこう言った。

 

『その“構え”は、まるで砲丸投げのようだった』

 

と。




あ、そうそう、よう実二年3巻読んだよ。
おもろいけど続きが気になり過ぎる。
早くあの辺まで書いて花山活躍させてぇ……

後、皆さんの解釈というかイメージを聞いときたいんですけど、花山って運ゲーに強いとおもいますか?弱いと思いますか?
花山が運ゲーに強いのは想像つくんですよね。でも弱いのもまた可愛げがあって想像つきやすいというか……。って事でアンケートよろです。


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二十の拳

は じ め ま し て(久しぶりとも言う)
なんか……もう長い間更新してないのに感想まで頂けて、流石の俺も夜しか眠れない程度には泣きました。流石にモチベ高まって来たんで、ちょくちょく更新出来たらなと思います。


上半身を大きく、大きく逸らし、およそボーリングとは思えないような構えをとる花山。

 

そしてそれを固唾を飲んで見守るギャラリーの生徒達。

 

 

当時の様子を、Dクラス、本堂遼太郎から聞くことが出来た。

 

「……まぁ、あの花山薫ですからね」

 

「俺も噂しか聞いたことないですけど、見た目だけでも相当ヤベー奴ってことぐらいは分かります」

 

「どんな構えか?そうですね……こう、後ろにある物を取るみたいに上半身を後ろに捻って、逸らして……あ、そうそう、砲丸投げみたいな!」

 

「まぁ、あくまで例えるなら…ですからね。少し砲丸投げとは違ってたんですけど」

 

「何処が?えーっと……普通砲丸投げって、球を掴んでというより、掌に乗せて構えるじゃないですか。でもね、あの花山はボーリングの弾を鷲掴みしてるんですわ」

 

「勿論指を穴に通さずにですし、しかもアレ一番重たい球ですよ?野球ボールじゃあるまいし……」

 

「みーんな固唾を飲んで見守ってましたよ」

 

「ちょうどざわめきが無くなって静寂に包まれたところで、花山が動き出しました」

 

「いや、動き出したというより、気付いたら動き終わっていたという感じでしたね」

 

「ぶん投げたんですわ。それこそ、野球ボールでも投げるみたいに」

 

「信じられます?一直線ですよ、一直線。軽く140キロは出てましたね」

 

「え?ピンはどうなったかって?」

 

「いや〜……まぁ、結果から言えば全部倒れてましたよ」

 

「そりゃあんな勢いでボーリングの球が飛んでくれば倒れるに決まってはいるんですけどね」

 

「いや、誰も『お〜!』とはならなかったですよ」

 

「そりゃそうでしょうよ。あんなことになったんだから」

 

 

花山の投球は、真っ直ぐに先頭のピンを捉えた。

加えて、野球ボール並みの勢いなのだから、誰もストライクを取った事を伺いはしなかった。

 

だが、次に響く音により、ストライクの衝撃など掻き消されることになる。

 

 

ドガァァァァァン!!!ギギギギ…バチバチバチ……プシュー!ガガ……ガガガガ………ガシャーン!!

 

 

そう。花山の投げたボーリングの球はピンを倒した程度で減速するはずも無く、そのまま機械の中枢へと着弾。

 

ボーリングの球の重さが災いし、花山の投げた球……いや、“弾”は機械の中枢を破壊。

音だけでも、どれだけの破壊がもたらされたのか想像に難く無い。

 

 

そして響く拍手のパチパチという音。

 

誰もが口を呆然と開けて半ば放心状態にあり、静寂に包まれたフロアに居ようとも、周りの様子など構わずに拍手が出来る生徒……うん、そうだね。椎名ひよりだね。

 

「凄いです、花山くん!ストライクですね!」

 

グッと握り拳を作る花山。

少しは嬉しいらしい。

 

「あ、あの……花山さん?」

 

「…なんだ?」

 

石崎は大量の冷や汗をかきながらも花山に話しかける。

 

「いえ、その……なんて言うんでしょう……こう……いや、凄いは凄いんスけど……こう……あの……ちょっと違うと言いますか……」

 

「なにがだ」

 

「えっ…」

 

「どう違う」

 

「いや!えっと……その……あ、そう!下投げ!ボーリングっていうのな下投げでやるもんなので、ハイ。投げ方を変えないといけないかな〜と……」

 

「……なるほど」

 

花山としても心当たりが無いわけではない。石崎や椎名は勿論のこと、どの生徒も下投げで投げている。

確かに誰もしていない(できない)上手投げはルール違反だったか、と花山は納得した。

 

「あ、あと……ちょっと、手加減した方がいいかな〜って「あ、あの〜」…?」

 

かけられた声に振り向くと、ボーリング場のスタッフがぎこちない笑みを張り付けながら立っていた。

心なしかガクガク震えているようだ。

 

「レ、レ〜ンの方が故障いたしまひたので、ば、、場所を移動していただけまふと……」

 

流石にボーリング場の機構全壊とはなっていないものの、両隣のレーンまで影響が出ており、それらに作動する様子は無い。

出禁にしたいのは山々だが、まさかわざとやったわけでは無いだろうし……というか怖すぎて出禁を言い渡すことなど出来ない。

 

 

故障したレーンでボーリングが出来る訳もないので、スタッフの指示に従いレーンを移し再開。

 

 

二週目。

石崎の第一投は先頭のピンに当たったものの、一番奥の右端のピンが残ってしまったが、安定した投球で残した1ピンを倒し、サクっとスペアを獲得。

 

他の二人に比べれば些かインパクトに欠けるが、仕方の無いことだろう。

 

 

続く椎名の第一投。

 

先程と同じように投げられたボールだったが、残念ながら先程と同じような軌道を描く事はなく、左端の3ピンを倒すだけにとどまった。

 

「む……」

 

首を傾げながら下投げの素振りをして調子を確かめる椎名。

両手を股下から上に振り上げる素振りを見て、誰かがボソリと「大きな逸物を下さい〜♪」と言ったのが聞こえて、石崎は思わず吹き出したそうだ。

 

続いて第二投。

 

素振りの効果が出たのか、今度は先程ほどズレる事もなく、僅かに右に逸れるのみ。

残念ながら2ピンが残る結果となったが、椎名の素の運動神経を考えると、ガーターにならなかっただけマシかもしれない。

 

 

さてさて、ついに花山の順番となった。

 

先程のように誰もが花山に注目している。

先程と違うところを挙げるとすれば、花山の構えが下投げの構えであること、そしてスタッフがいつでも動けるようにスタンバイしていることだ。

とは言え、体を半身にしてボールを鷲掴みにしているその構えは、普通のボーリングの構えとは言い難い。

 

厳戒態勢の中迎えた花山の第一投。

 

誰もが、今回こそは安心だと思った事だろう。

構えこそおかしいものの、流石に上手く転がすだろうと誰もが思った事だろう。

事実、石崎も多少の不安はあったものの声を掛けたりはしなかった。

 

 

未だ測りかねていたのだ。

他クラスは勿論、これまで一緒に過ごしてきた石崎すらも。

 

 

花山の投げた“弾”は豪快な風切り音を立てながら、地面に着くこと無く低い弾道で進んでいく。

 

 

そして、先程と同じように響く機械の破壊音。

 

言うまでもなく、花山の弾は内部の機械を破壊しつつも、2連続ストライクを勝ち取った。

 

 

嬉しそうに僅かばかり頬を緩ませる花山に、スタッフが声をかける。

 

 

「あの………出禁でお願いします」

 

 

 

 

「……すまねぇ」

 

ボーリング場から追い出されてしまった花山一行。

責任を感じた花山が謝罪の言葉を口にする。

 

「いえいえ、全然気にしないで良いですよ」

 

「…………」

 

椎名は軽く言葉を返すが、石崎の顔は晴れない。

止められなかった事を悔やんでいるのだろう。

 

あの後、最初は抗議しようとしていたものの、スタッフ総出で目に涙を浮かべながら土下座をせんばかりの勢いで懇願してきたので、流石に潔く引き下がったのだった。

 

 

『これより、当学校が所有する孤島に上陸いたします。生徒たちは30分後、全員ジャージに着替え、所定の鞄と荷物をしっかりと確認した後、携帯を忘れず持ちデッキに集合してください。それ以外の私物は全て部屋に置いてくるようお願いします。また暫くお手洗いに行けない可能性がありますので、キチンと済ませておいてください』

 

沈んだ空気の三人の元に、館内放送によって連絡が通達された。

 

「もうすぐ着くみたいですね」

 

「着替えねえといけねぇのか。ダルいな……」

 

「……少し変ですよね」

 

「何がだよ?」

 

石崎が聞くと、椎名は思案顔で考え込んでいる。

確実な疑問があるのではなく、どこか引っ掛かりはするものの、どこに引っかかるのかは分かっていないといった感じに思える。

 

「……いえ、やっぱりなんでもないです」

 

結局答えは出なかったようで、かぶりをふる。

 

「…?そうか?」

 

「はい。気のせいだったみたいです」

 

「んじゃあ、準備するか」

 

「はい。それじゃあ、また後で」

 

そう言って、各々の部屋に戻って行った。

 

 

 

 

 

「……やっぱり変です」

 

「んぁ?何がだ?」

 

準備を済ませて合流し、順番待ちで並んでいる間に、椎名が口を開いた。

“順番待ち”というのも、今それぞれのクラスは私物のチェックを個別に受けており、携帯の回収を行なっているのだ。

 

「あまりにもチェックが厳重過ぎます。ただのバカンスなのに、こんなに厳重に私物のチェックをしたりする必要なんて無いですし、携帯を没収する必要だって無いはずです」

 

「…そりゃ、そうだな。でもよ、危険物とかの持ち込みとか、ゴミとかを出させねえ為とかってことじゃねぇの?」

 

「それだと、携帯を没収する必要がありません。…それに、見て下さい」

 

椎名が見ている方向に視線を飛ばすと、学校の関係者によってテントやら大量の何かの機材やら、ヘリまでもが用意されていた。およそほのぼのバカンスには似つかわしくないであろう用意。

 

「ただのバカンスに、あんなに大掛かりな用意が必要でしょうか?」

 

テントはまだ分かる。生徒の休憩所であったり、医療班が待機していたりするだろうからだ。しかし、あれだけの機材やヘリに関しては些か不自然過ぎる。

 

「じゃあ聞くがよ、今から何があるってんだ?」

 

「それは分かりませんけど、ただのバカンスじゃないことだけは分かります」

 

「……だな」

 

言われてみれば、石崎の目から見てもバカンスというには不自然過ぎるとは感じる。

 

「まさかサバイバルをやらされるなんてことはねぇだろうな……」

 

「流石にそれは……無いと思いたいです」

 

「まぁ、椎名はそうだろうな」

 

生粋のインドア派である椎名からすれば、野宿をやらされるなんてのは地獄に他ならないだろう。しかも季節は夏。立っているだけでも汗を掻く。体力も無い椎名はすぐにギブアップしてしまうだろうことは想像に難く無い。

 

「流石に無いとは思うけどな」

 

「はい。流石にサバイバルは無いと思いますね。ホントに」

 

完全にフラグを立てたことに気づかない石崎と椎名。もちろん、立てずとも待ち受ける現実が変わる事は無かったのだが…。

 

切実な椎名の願いは、全クラスが私物チェックを終え、砂浜に降り立った所で絶たれることとなる。

 

 

「ではこれよりーーー本年度最初の『特別試験』を行いたいと思う」

 

その言葉を聞いた瞬間、全てのクラスから疑問の声が巻き起こる。

 

Aクラスの担任である真嶋先生は、淡々と説明を続ける。

 

「期間は今から1週間。8月7日の正午に終了となる。君たちはこれからの1週間、この無人島で集団生活を行い過ごすことが試験となる。なお、この特別試験は実在する企業研修を参考にして作られた実践的、かつ現実的なものであることを最初に言っておく」

 

「無人島で生活って……船じゃなくて、この島で寝泊まりするってことですか?」

 

隣のBクラスから質問が投げられる。

 

「そうだ。試験中の乗船は正当な理由無く認められていない。この島での生活は眠る場所から食事の用意まで、その全てを君たち自身で考える必要がある。スタート時点で、クラス毎にテントを2つ。懐中電灯を2つ。マッチを一箱支給する。それから日焼け止めは制限なく、歯ブラシに関しては各自一つずつ配布することとする。特例として女子の場合に限り生理用品は無制限で許可している

 

「嘘だろ……」「信じらんない……」

 

数人のクラスメイトがぼやく声が聞こえる。

 

「サバイバルってことか……」

 

石崎はそうポツリと漏らしたところで、椎名の方をチラリと伺う。

 

懸念されていた中でも最悪の状況だ。1週間という期間が良くない。本の虫である椎名に禁断症状が出るかも知れない上に、体調面が特に心配だ。

 

その当の椎名はというと……。

 

「……………」

 

目を虚にしながら、死んだような表情で突っ立っていたのだった。




ほんっっっっまに感想評価ありがとうございます。お待ちしてます。


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