ドッキリ企画、もしブラック鎮守府に転属されたら… (肉羊)
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一話 転属決定!

ガキ使みたいな感じのノリで行きたい


 ある朝、この俺山田雄太(やまだ ゆうた)が急な電話で目が覚めると毒虫に…なっているはずもなく大本営から、転属が決まったので大本営に来てほしいとの事だった。

 

「いや、転属とか聞いてないんだけどなぁ…」

 

そもそも珍しく帰省しているので実家で羽を伸ばしていたのに、大本営に来いとはあんまりではないか。

 

まさかこんな時呼びつけるなんてと内心憤っているが、無視すればどうなるか分からない。どうも胡散臭い何かを感じながら指定された地点へと向かう。

 

その日は至って何もない朝だった、転属命令ってこんなにあっさり出るもんなのかな~そりゃおかしいんじゃねぇか、なんて朝が弱いので半覚醒状態の頭でぼんやりと考えていると、迎えの車らしきものが見えた。

 

「あ、どもっす」

「どうもよろしくお願いしますぅ~あっ…さあ、のるんだー」

 

まず送迎のオッサンの挨拶から酷かった、一回素で挨拶してから、慌てて高圧的な物言いに戻しているし、もう棒読みすぎる。既になんか裏で俺をドッキリか何かしようとしてるのか?と疑い始めているが、ひとまず車に乗り込む。

 

「さて、鳳凰院天馬(ほうおういんてんま)君」

「なんて?」

「え?いや、だから鳳凰院てん」

「だからって言われても、僕は山田…」

 

発進した車内で運転手のオッサンに何か言われる、あまりに聞き覚えがないのでそれが名前であると気づくのにもだいぶ時間が掛かった

 

「君は鳳凰院天馬だ、いいね?」

「あっはい」

 

何となくわかった、これもうドッキリというか舞台みたいなもんだ

あれだ、ブラック鎮守府モノにありがちな、提督がやたら格好良い苗字してる奴だ

鳳凰院ってなんだよ、どう書くんだよ、分かんねぇよ

というかごり押しすぎるだろ!なんだよ「君は鳳凰院天馬だ」って

 

どうこう言っても今更車が止まってくれる筈もなく、車は大本営へと着いた

茶番だと分かっていても、大本営の重厚圧な造りと雰囲気は息を呑むほど重苦しい。

 

「では、えーっと…あー…ほういん」

「鳳凰院天馬ですよね?」

「まぁ、うん、頑張りたまえよ、ここの元帥は恐ろしい人だ」

 

そう言って脅かしてくる運転手さん、ちなみに前会ったときは元帥さんは良い人だった

というか自分は本部に勤めてた経験があるので元帥さんとはしょっちゅう顔合わせてたし

 

「来たか、山田…鳳凰院天馬君」

「いや…小暮君…なんで元帥の看板掲げてんの?」

 

大本営の元帥がいる筈の会議室に居たのは元帥でなく、俺の元部下の小暮くんだった

思わず素で返してしまう。いや元帥の椅子に座ってクソ真面目そうな面をしていれば

元帥役なんだろうとは思うが…

 

「きさまー上官(じょーかん)に向かってなにをいうかー」

 

思わずタメで話してしまったので、後ろの方で突っ立ってた黒髪で引き締まった体の艦娘(これは長門さんかな?)が棒読みでそう言いつつ、こちらに銃を向けてくる

その銃は急遽用意したのだろう、あまりにも安っぽすぎるだけでなく、値札が貼ってあった

 

「あ、1200円なんだそのエアガン」

「…」

 

つい口をついて言ってしまうと、長門さんは恥ずかしそうにしながら値札を外す

外そうとしているが、中々外れない。自分は悪戦苦闘する長門さんを尻目に、元帥役の小暮君はあくまでも見なかったことにして話を続ける。

 

「君には横須賀鎮守府への転属が決定された」

「横須賀鎮守府ってあそこ使えんの!?すげぇな」

「ククク…あの地獄ともいわれた横須賀だよ」

 

ちなみに地獄という設定らしいが、横須賀はロケーションもいいしトップクラスで大きい鎮守府で

艦娘たちのレベルが高い、当然エリート中のエリートが行くところなのでそこを貸し切るのは、よく許可がおりたと思う。

まぁ、ひょっとしたら適当な施設を貸し切ってそこを鎮守府って事にするかもしれんが。

 

「頑張りたまえよ?」

「あのさ、なんで小暮君が元帥役やってるの?」

「クククククク…」

「いや、だからなんで?」

 

ククク…って含み笑いすれば誤魔化せるとか思ってんのかこいつ

なんか演技とはいえ上からの態度が気に入らなかったから、聞いてみた。

すると観念したのか小暮君は口を開く

 

「しょうがないじゃないですか山田さん、元帥を始めとする上官方に頼んだんですよ?もうちょっと年配で威厳ある強面の人」

「うん」

「全員、前にあった牡蠣パーティーで集団食中毒でぶっ倒れました。ほら艦娘とか提督がいっぱい呼ばれた」

「それで代役に選ばれたと…いや待て、牡蠣パーティー!?俺牡蠣パーティーとか呼ばれなかったんだけど!」

 

いや、そんな貴方もご存じな牡蠣パーティーみたいに言われても、俺は一切聞いてなかった

牡蠣パーティー?なんだよそれ、俺も行きたかったんだけど!

 

「え?じゃあ忘れられてたんじゃないですかね?」

「あーふーん」

 

サラっと小暮の口から出た言葉に怒りのボルテージが一瞬跳ね上がるが、どうせこいつも呼ばれてないのだろう

そういう風に決めつけて、嫌味の言葉を飲み込んでやる。

 

「まぁ、牡蠣パーティーとかは知らんが、集団食中毒なら行かないほうが良かったよ…なぁ?」

 

まぁ、お陰で集団食中毒なんて回避できたわけで、行かなくてよかったわ

 

「僕は呼ばれましたよ、生ものダメなんで牡蠣は食いませんでしたけど」

「ざっけんな!小暮テメェ!」

 

あっけからんと爆弾発言をする小暮

俺は切れた

 

「山田殿!気持ちは分かるが落ち着いてくれぇ!」

「なにが牡蠣だ!なーにが牡蠣だよ!ぜってぇ食わねぇ!人生でもう二度と食わねぇよバァァァァカ!!!!」

 

小暮に掴みかかろうとして、長門さんに羽交い絞めにされながらも絶叫する

 

「山田…じゃなくて鳳凰院君、君はあの前任者が消されたというブラック鎮守府へと向かい、艦娘たちを更生させてくれ」

「ハァ… ハァ… あーもう分かった、分かったよ分かりましたよ!」

「行きに乗ってきた車に乗りたまえ、そこからは横須賀鎮守府所属の大淀が説明してくれる」

「へいへい…」

 

元上司が怒ってるのにほぼノーリアクションという小暮君の思わぬ胆力を前に

もはや反応する気力も削がれて、俺はただ力なく頷くしかなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

行きに車から降りた場所に行って見ると、そこには任務娘でおなじみの大淀さんが居た

黒髪のロング、清楚な感じの服に、インテリっぽさを醸し出す眼鏡

正直親の顔の次に見慣れた顔だが、おそらく俺の知ってる大淀ではないのだろう。

 

「初めまして鳳凰院さん」

「ああ、初めまして(鳳凰院の方は固定なんだ)」

 

車に乗り込んで、大淀さんと挨拶する

一緒に後部座席に乗り込むと、何か用意された書類のようなものを開いた

 

「これから貴方は横須賀鎮守府に向かい、艦娘たちを更生させてもらいます」

「ああ、それ自分で言っちゃうんだ、なんか俺が自発的に更生させるとかじゃなくて」

「そうですね、はい」

 

淡々と話を進める大淀、今までの人だと比較的ましだった小暮君を抜いて一番演技がうまい

普通に演技自体上手いが、痛いところを付かれた時の流し方とかも小暮君より一枚上手だ

まぁ「クックック」はねぇわな「クックック」は

 

「ところで、横須賀鎮守府ってあの?」

「はい、前任者が消されたという「噂」もある元ブラック鎮守府の横須賀鎮守府です」

「なんだって!?あの横須賀鎮守府に!?」

 

とりあえず話を合わせる、と、ここで車内を見渡すと、隠しカメラが設置してあることに気づいた

あーこれで撮るのね

 

「予め申し上げておきますが、我々艦娘は大本営から送られてきたあなたの存在を快くは思っておりません。期待は全くしていませんが、どうか消されぬようお気を付けて…ヨシッ」

 

うん、ドギツイ台詞だ、長い台詞を淀みなく(大淀だけに)言えてるのもポイント高い

やっぱり裏方の仕事とか、人のフォローが得意なのはこの器用さによるところが大きいだろう。

でも言い終わった後小声で「ヨシッ」と言いながら小さくガッツポーズしたのは見逃さなかった。

 

そういえばこういう拒絶の台詞を吐かれた時に「じゃあ帰っていい?」って聞き返したらどうなるんだろうか、今度本当のブラック鎮守府に配属された方やってみてください、命の保証は致しません。

 

さて、なんか言われ続けるのも癪だしからかってみるか

 

「そんな…死にたくねぇよぅ」

 

わざとボロボロ涙を流して泣いてみる

 

「ああ、そんな…どうしましょう。これはドッキリで…私そんなつもりじゃ…」

 

まさにあたふた、という感じで狼狽える大淀さん。いや騙されるんかい

優しいと言えば優しいんだけどそれでいいのか仕掛け人

 

「まぁ、ウソ泣きなんだけどねぇ~」

 

ケロッとした顔でわざと軽く言う、はいネタ晴らし、ドッキリとはこうやるのだよ

 

「もう!こっちは本気で心配したのに!…もう知りませんからね!」

「アーッハッハッハッハ!」

 

ぷりぷりと可愛らしく怒る大淀さんを笑い飛ばしつつ

外を眺める、この方向は横須賀鎮守府へ向かってるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そして、ここはこうで、こうです」

「ああ、はい、わかりゃーした」

 

一時間ほど大淀さんと雑談したり(仮にも人類快く思ってない設定なのに)

していたら、鎮守府の前に車が停車した

 

「ようこそ、ここが横須賀鎮守府です」

「すっげ!マジの横須賀鎮守府じゃん!へーここ使わせてくれたんだー!」

「そうでしょう!?いやぁここは美味しい店や娯楽施設も多くて…オホンオホン」

 

役を忘れて俺の話に乗っかってしまった大淀さんは、途中まで言いかけて

慌てて咳ばらいをして誤魔化した。

ぶっちゃけ誤魔化せてないけど。

 

「繰り返しますが、ここでは貴方は快く思われておりません。策を講じるのも改革するのも結構ですが、消されぬように…フフフ」

 

そういって大淀さんは少し目を細めて不敵な笑いをしながら(これが怖い顔のつもりなんだろう)

あくまでも演技に徹してそう言った。

 

「頑張りまーす」

 

なんかもう、どう返すのが分からないので、俺は適当に返した

さっきからキラーパスが多すぎて受けようにも受けれないんだわ。

 

 

 

こうして、横須賀鎮守府でのまっっったく騙されないドッキリが幕を開けた。

 

 

 

 




便利設定 
戦争は人類勝利秒読みなので大本営や艦娘はふざける余裕がある

事前にあった牡蠣パーティーのせいで仕掛け人がドッキリ前夜からバッタバタ倒れてる。
その為当日急遽抜擢された仕掛け人の代役は基本演技が下手くそで台詞もうろ覚え。

流石に全メンバーを仕掛け人にはできなかったようで、通常業務をしている艦娘もいる
その人たちとうまく擦り合わせが出来てないせいで矛盾がボロボロ出てくる
(死んだ設定の人がちょうど顔出すとか)



ギャグだから不定期に気が向いたら書きます


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二話 突っかかってくる艦娘(配役ミス)

思いついたことをポイポイ投下してるので投稿早いです
逆を言うとネタが枯渇すると一瞬で終わります


さて、横須賀鎮守府に着いた。提督業をやってる人にとっては憧れの横須賀鎮守府に。何かの企画と言えど立ち入れたのはちょっと喜ばしい事と言える。折角だし目に焼き付けておこう。

 

横須賀鎮守府は大本営と違って比較的にカジュアルなレイアウトになっていた

外装はコンクリートというよりも木造で、演習場や運動場がやたら広い、正直普段俺が勤めている鎮守府の倍は大きい。結構な格差を感じつつ、鎮守府に入る。

 

「へぇ、エリート揃いの横須賀鎮守府は高嶺の花だったが、ここまで立派だと嫉妬する気も起きないな」

「約450人の艦娘が働いていますからね、大本営を除けば最も巨大な防衛拠点の一つと言えるでしょう」

「450人!?うちの所とはえらい違いだな」

 

さらっと言う大淀さんの言葉に驚くしかない

 

ちなみに大本営を除けばというが、大本営は規模こそ大きいが前線を担当することはなく

あくまでも各鎮守府のバックアップを担当しているので、単純な防衛戦力という点では

横須賀を超える鎮守府はないだろう、一応比肩しうる鎮守府もあるにはあるが。

 

 

参考までに、うちの鎮守府は艦娘が220人くらいだったので、単純に二倍以上の計算だ

そしてそのいずれもが訓練された精鋭揃い、敵もこんなの相手にしてらんないだろう。

だからこそ人類が俄然優勢なのかもしれないが…

 

「そうそう、山田…鳳凰院提督」

「ねぇ、鳳凰院設定まだ続いてるんだ、山田で良くない?こっ恥ずかしいんだけど」

 

ちょっと感動して横須賀鎮守府を眺めていると、大淀から声を掛けられる

まだ鳳凰院って設定続いてるのか、頻繁に本名と呼び間違えるなら最初から山田でいいじゃんよ

 

「先ほども言いましたが、貴方が転属されてくることに対して反発を抱いている子もいるようです」

「つまり、今後そういう風に反発してる子が乗り込んで来るイベントがあると、そう言いたいのね?」

「いやまぁ…そうですね、そういう事です」

 

どうも俺に対して反発を抱いている(という設定の)子が接触してくるらしい、コテコテと言えばコテコテの展開だな

こうやって俺の転属初日に反発してくるような肝が太い子が、ブラック鎮守府の提督相手に頭が上がらなかったってのもどうかと思うが、歴史に出てくる独裁者レベルで弾圧が上手かったんだろう、弾圧が上手いってなんだよ。

 

「噂をすれば来ましたよ、あなたに対して文句を言いに来たようです」

 

ほら来た、早いなぁオイ

大淀に指差された先を見てみるが、確かに艦娘はいるが俺に文句を言う人ってのが見えない

 

瑞鶴とか、ああいう距離が近い人だろうか?

曙・叢雲・満潮・霞の口が悪い四天王だろうか?あるいは龍田さんみたいな底知れなさか…

いやいや、大穴で神通とか妙高さんみたいな静かだけど怒らせると怖い人?

 

「でも見つからないんだよなぁ、えーと?憤ってる子ってのは誰のことよ」

「え?ですから、今こっちに向かってきているあの方です」

 

が、上に述べた気の強い子はいずれも見当たらない

何を言っているのか分からないって顔で見られても見当たらないもんは見当たらないよ

うん?こっちに向かってきている方ねぇ…えっ

 

「いや、あれが文句を言いに来た人なの?」

「はい、貴方が転属されたことが納得いかないようで」

「分かったけどそりゃおめぇ…」

 

確かに、こっちに向かってきた子は知ってる

知ってるからこそ、想像もつかないってもんだろう

 

「司令官さんえっと…あの…その…もん…文句を…ごめんなさい!」

「いや羽黒ちゃん!?」

 

そう言ってペコペコと平身低頭を体現したかのような振る舞いで謝られる。

バスガイドとも教師ともつかない不思議な服にボブカット

何より、この何かにつけて泣いて謝るのが特徴的だ、武勲もあるし本当は凄い実力を持ってるんだけどね…

信頼関係を築くことが出来ればそれなりに自信がついて、相手に意見も言うようになるが

初対面に信頼関係もクソもない訳で…

 

「この方が、貴方に文句を言いに来た重巡羽黒です」

 

知ってるけどさ!明らかに人選ミスじゃないのこれ

人見知りとか凄くする人だよねこの人

 

(どうなんだよ大淀さん、これ文句言いに来たの?初対面の人に演技でも文句言えるの羽黒ちゃん、というか采配ミスでしょ)

 

既に見てられなくなったので大淀さんにヒソヒソ声でヘルプを求める

 

(私もそう思いましたが、最初に啖呵を切らせる予定だった足柄さんが提督の看病に向かったので、急遽代役に)

(代役って他に居たでしょ!というかここの提督さんお大事に)

(いる事には居たんですよ、もう二人代役候補が)

(へえ、ちなみに聞いておくと誰と誰?)

 

代役にしてもちょっとアレだよ!俺もう悪いことしてないのに悪い事した気分になってるもん

そもそも誰と誰が代役候補だったんだろうか

 

(一人は潮さんでもう一人は名取さんです)

(うん、なんでそっち系で固めるの!?なんでそういう気弱系の子オンリー!?)

(いや、そっちのほうが面白そうなので)

 

今までに比べても明らかに悪い感じの笑い方をしながら自白する大淀

認めたよ、ついに面白そうだからそういう(気弱な)人で固めたって白状したよ

それ以前に暗にドッキリですって言っちゃってるような…

 

「司令官さん」

「はい」

 

ヒソヒソしてたら羽黒ちゃんに声を掛けられる

 

「あ、あ、あの!」

「え?はい」

「えっと…ごめんなさい、羽黒、今から司令官さんに悪口言いますね、いいですか?」

「あっはい、大丈夫です」

「司令官さんの馬鹿ぁ!」

 

物凄い入念な前置きの後に罵倒される。いや啖呵切るってより単なる悪口だし羽黒がすっごい気を使ってるのが分かる!

言い慣れてないよ!この子絶対悪口とか言い慣れてないよ!

 

「う、うわぁショックだー」

 

もうヤケクソだ、ショック受けたことにしてやるよもう

 

「え、あ、そんな、司令官さんがショックを…」

 

俺のショックを受けたという反応を見て、俺のことを本当に傷つけたの思ったのか、逆にショックを受ける羽黒

大淀の時ほど演技してなかったし、多分そこらの子供でも冗談だと分かるはずなんだけど

 

「ってのは嘘で全然受けてません!何一つ心に響いてないよ大丈夫!」

 

というわけで路線変更、まったくダメージ受けてません、お前の攻撃なぞ効かぬわ戦法

 

「ああ、よかった」

「うん、マジで大丈夫だから」

「でも、それだと羽黒はみんなに頼まれた大切な役割が!」

 

少し涙ぐみながらも、俺に猛反発するという役を演じる抵抗感と、役を引き受けた事による責任感で揺れ動く羽黒

大丈夫だよ羽黒、多分みんなが欲しがってる反応は今のそれだと思う。というかそうじゃなきゃ困る

というか効いてるアピールだと罪悪感で泣くし、効かないアピールでも責任感でプレッシャー受けて涙ぐむってどうすれば!?

 

「分かった、じゃあこうしよう羽黒さん、俺に続けて悪口を言って見よう」

「え、は、はい」

「ぶっふぉ」

 

役目なので悪口が言いたいが、俺を案じて(そんなにヤワじゃないのに)言えないようなので、俺に続けて

俺の悪口を復唱するという奇妙な提案をしてみる。

 

俺と羽黒の掛け合いを進行役として横で見守っていた大淀さんは、シュールさに耐えきれなくなったのか噴き出した。覚えてろよ、あの眼鏡にいつか指紋べったりつけてやる。

 

「はい、リピートアフターミー、バーカ」

「バ、バーカ…」

「いいね、アーホ」

「ア、アーホ!」

「その調子だよ、ハーゲ!」

「ハーゲ!」

 

繰り返すうちに言えるようになってきた。でも悪口を言えるようにする特訓ってありなんだろうか?

教育的には完全に駄目なんじゃないかな。初対面の人に悪口が言えるようになる必要性ってまずないだろうし。

まぁ、この子は自信を持てば全てにおいて高いポテンシャルを発揮するし案外交友関係も広いから…

あと成長が実感できるからこうやってなんか教えるのが楽しい子でもあるよな、横須賀鎮守府所属レベルの艦娘に教えられることなんてゲームくらいしかないが。

 

「ほら!自分の口で何か言って見な!」

「ありがとうございます!やーいぼっち!」

 

んだとコラァ!

 

「お前…お前…いや、ぼっちはねぇだろ」

「ひぃっ!」

 

あ、しまった、つい牡蠣パーティーの事でぼっちって単語に対してナーバスになってた

羽黒も別に悪気があって言ったわけじゃ…

 

「あ、待って怒ってないからごめん!」

「ごめんなさいぃ!わーん!」

 

慌てて止めたけどもう遅かった。普段のような涙ぐむ、だとか涙が滲んでいるとか、そういうレベルじゃない、完全に泣きながら走り去ってしまった。やってしまった…あとで菓子折りもって謝りにいかないと。

 

「これ大丈夫?トラウマになったりしない?申し訳ないんだけど」

「いえ、おそらく大丈夫でしょうね。あの子何だかんだ心が強いので」

「それより提督、面白かったですよ、リピートアフターミーってなんですか」

「しゃーないじゃん…どうすればいいのか分からなかったし…」

 

羽黒は大丈夫らしい。というかリピートアフターミーについてはツッコミ無用だろ!

安心させるために茶化したかったんだよ!結果的に泣かせちゃったけど…

 

「それはそれとして提督、これから各施設への見回り後、艦娘代表に挨拶してもらいます」

「あ、各施設って結構な範囲使えるんだね」

「ええ、流石に全てとは言えませんが、当鎮守府の大部分を使用できます」

 

ズレた眼鏡の位置を指で戻しつつ、大淀は得意げにそう言った

その間違った行動力と人脈はどこから出て来ているんだろうか

 

「さぁ、こちらへどうぞ」

 

俺は大淀に誘導されるままに歩き出した

 

 

 

 




羽黒可哀そうなんで今度また出します。

個人的に羽黒は泣かせたいけど悲しんでほしくない子ランキング一位。
敬称は主人公の気分次第で付けたり外れたりします


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三話 あまりにも酷い食生活(豪華フルコース)

通常勤務の子と擦り合わせが出来てない弊害が出まくる第三話!


「提督、どうぞこちらへ」

 

俺は大淀さんに誘導されて、歩いている

何度も言うようだが横須賀鎮守府ってのは憧れの的で、このレベルの鎮守府に配属される人なんてごく一握りですらない。砂場の砂の一握りから更に二、三粒を選ぶようなもんだ

一応俺も提督としてやってるから最初の一握りの内に入ってるが、やっぱり格が違う

 

ってなわけで、こういう最大規模の鎮守府には研修で来たきりなので俺の中ではストーリーで一回しか行けないダンジョンだとか、そんな感じのイメージになってた。

(え?俺の研修時代?呉に行ったよ)

 

「提督、お腹すきません?」

「え?いや俺朝食ってきたから」

 

食堂が見えてきたところで、大淀さんが俺の腹が減ってないか聞いてくる

いやに唐突だな、とか思ったが別にお腹は空いてないと素直に答える

 

「空腹なようなので、先に食事にしましょう」

「導入が雑ゥ!要するに食堂でなんかまた刺客が来るんだね!?」

 

完全に無視された

どうやら食堂でまた何かしらイベントがあるんだろう。上等だけど羽黒ちゃんみたいな良心が痛むのはやめてほしい

 

「どうぞ、お入りください。当鎮守府の食堂です」

「はえ~すっごい大きい」

 

やはり横須賀鎮守府は違うなぁ。食券販売機が何台も立ち並び、写真付きのメニューはどれも美味そうなものばかり、カウンターの奥では給糧艦が働いているのだろう。いや、或いはここまで大きいと外注の料理人でも雇うのか?…ちょっとそこまでは分からないが、とにかく下手なショッピングモールのフードコートよりもよほどデカい

 

食堂に入ると、中に居た艦娘たちの視線が一斉に集まってくる

その目は 新任者(設定)である俺に反対する敵意・殺意・悪意…な訳ねぇだろ!

 

ほぼ100%好意的な視線だったわ!心なしか一部は嘲笑や懐疑的な視線も交じってるような気もしたけどというかお呼ばれさんどころか、上層部と結託されて、半ば強制参加でこの企画に付き合ってるのに悪意ある眼差しなんて向けられたら、そいつをしばき倒すかもしれんわ

 

「あれ?今日視察の日だっけ?大淀さんどうしたのさ」

「えっ?視察?」

「あっ」

 

声をかけてきたのは雷巡北上

視察の人?俺大本営の監察官だとでも思われてるのかな?

いやすり合わせしといてよ!一部怪訝そうな視線が交じってたのってそういう事か!

 

「ちょっと待って説明されてないの!?」

「うん、今のところは。私が聞いてないだけかも知れないけどね~」

 

爆弾発言、説明がないってどういうことだよ!

大淀の顔を見てみる。目を逸らされた

 

「大淀さぁん?これどうすんのぉ?俺恥ずかしいよ?」

「いや!昨日ビラとか配ったんですよ!でも長期遠征やそのタイミングで出撃していた人とか、そもそもビラやチラシに興味がない人には伝わってないようで」

「前日だけかよぉ!」

 

前日からかよぉ!いや待て、この流れ凄い既視感あるぞ…もしかして

 

「もしかして牡蠣パーティー絡み?」

「ええ、事前に秋雲さんがイラストレーターとして志願しましたが、完成前に牡蠣パーティーでダウンしまして」

「やっぱり?」

「やっぱりです」

 

また牡蠣パーティーかよ!どんだけ食中毒患者だしてんだよ!

どうやら秋雲がダウンしたせいで補填に時間が掛かったらしい。どうなってんだよ牡蠣パーティー

 

「まぁ~アポ取ってるなら私は大歓迎だよ。ここのカレー美味しいから食べてきなって~」

「うん、そうさせてもらうよ」

 

とりあえず不審者ではないと分かってくれたのか、笑顔で応対される

まぁ、関係者の大淀さんに連れられてるわけだしそりゃ不審者じゃあないとは分かってくれるよな

 

おすすめメニューはカレーらしい。カレーはどこで食っても美味いもんだが

どこも同じ味かって言われれば決してそんなことはない。むしろああいう家庭料理こそ深みを出すための料理人の努力があるわけである。腹はそこまで減ってないがこうも言われりゃ食いたくもなる。

 

「ちなみにお兄さん、何処から来たの?」

「ああ、俺は…」

「ちょっとそこまで!そこまでにしてください北上さん!」

 

慌てて間に入ってきた大淀さん。確かに仕掛け人じゃない人がこれ以上俺に絡むと

この後のイベント?に差し支えが出かねないから、しゃあないか、北上さんも悪い人じゃないしちょっと残念。

 

「え、大淀さんどったの?あーもしかして『コレ』だった?」

 

そう言って、両の小指を絡ませる北上さん

 

「「違います(違う)から!」」

 

我ながら最悪のタイミングでハモッたと思う。こんなの誰でも茶化したくなるわけで

大淀さんもまずいと思ったのか、見た時には顔が真っ赤に染めあがっていた。

 

「へぇ~そうなんだぁ~、お二人の邪魔しちゃいけないから私行くね」

「ちょっ、待って待って待って!北上さんちょっとこちらへ」

 

そう言って慌てて北上さんを捕まえて二、三メートル離れた位置に連れて行く大淀さん

そうして北上を連れて行った大淀さんはこちらに背中を向けていかにもな内緒話を始めた。

 

(ですから今からあの人にドッキリするので、ちょっと席外してください。ええ、すいません)

(いやそんなことだと思ったけどさ、でも意外とお似合いだよお二人さん)

 

言うべきか言わないべきか、バリバリ聞こえちゃってる

 

「そういう事ね、横須賀鎮守府へようこそお兄さん。じゃ~私、大井っちとモンハンしてくるから」

「あ、ああ、じゃあね北上さん」

 

こっちがキョドキョドしてるのが分かったのか

ひとしきりケタケタ笑った後、北上さんは食堂から出て行った

 

「では提督」

 

北上さんの背中を眺めていると大淀さんに話を振られる

 

「ちょっとしたアクシデントはありましたが、食事にしましょう」

「ちょっとなんだ。相当デカいミスだと思うんだけど」

「気にしないでください」

「あっはい」

 

あくまでも今の流れは引きずらないようにするらしい。メンタル強いなおい

 

「じゃあさ、北上さんも勧めてたしカレーライスで」

「提督、静かに」

 

大淀さんに制止される

 

「え、ちょ、なんだよ」

「周りを見てください」

 

そう言って大淀さんは視線で周囲を見るように促してくる

周囲を見ると、近くに座っていた艦娘が冷たい目でこちらを見ている

なんか知ってるぞ、これってブラック鎮守府モノでよく見かける奴だよな

 

「もしかしてあれか?ここでは人間らしい食事が出なかったから、人間らしい飯を頼むと敵対視されるとかいうお決まりの」

「ええ、アレです。命が惜しければ角を立たせないことをお勧めします」

 

でたー時代劇で言う『越後屋お主も悪よのう』「お代官様ほどではありませんよイッヒッヒ」の流れくらいこすられた展開

王道だし、成り上がり物語のどん底スタート地点を描く上ではこれ以上にないくらい良い展開なんだけどさ

 

なんだけどさぁ…

 

「大淀さんあの写真付きのお品書き、どうみても牛丼だよね、あとあの食券販売機は?」

 

食券販売機と写真付きのお品書き。そこには美味そうなメニューの数々が立ち並んでいるが

人間らしい食事というか、一般レベルに比べても相当上等なもの食ってるよこれ

あっ目を逸らされた

 

「燃料です。燃料とボーキをアレしたらできたアレです」

 

明らかに動揺している大淀さん。もう開き直ればいいのに

よく見ると周囲を取り囲んでいた仕掛け人の艦娘たちも声を出さないようにして笑っている

中にはバレないように俯いて顔を見せまいとしている子もいるが、肩が震えてるので丸わかりである。

 

「アレって?」

「もう!とにかく!気の立った状態の彼女に目を付けられたら私まで危険なので」

「彼女?」

 

彼女って誰だろうか、

というかなんかノリがブラック鎮守府モノってよりアメリカの刑務所映画みたいになってきてるが

 

「言われた傍から、来ましたよ提督」

「あなたが新任者の提督ですか?」

「え?そうだけど」

 

「正規空母赤城で(グゥ~)す。これから(ぐぅ~)よろしくお願いします」

 

そう言って俺に挨拶してきたのは、正規空母赤城だった

赤城が話しかけてきたこと自体には別に問題はない。精神的にかなり大人だし

問題ないんだが

 

「何か?私の顔についてますか?」

 

腹の虫がさっきからうるさい

顔もよく見てみれば隈が酷いし、平時より明らかに痩せている

 

(ちょっと大淀さん、赤城さんどうしたのこれ、牡蠣パーティー絡み?)

(牡蠣パーティー絡みではないですが、役作りのために二日間絶食した上に寝てないそうです)

(本気すぎ!)

 

本気すぎないか、あんた本業艦娘だよね!?女優始めろよ!

確かに赤城って艦は個人差あるがプロ根性というか、仕事に対する熱意は凄いけど

まさかこういう役にも拘りがあるとは、確かに格好いいしその姿勢は評価したい

 

「で?えーと赤城さんなんの用?」

 

面食らったせいで我ながら距離感を誤ったと思う。言い訳させてもらうと艦娘って同一艦だと顔は瓜二つだから

他所の同じ艦と話すとき、うっかり距離感を間違えて自分の所の子みたいにタメで話しかけたりしちゃうのよ

 

「…」

 

話しかけても黙りこくって、聞こえてるのか聞こえてないのか分からない

というかそもそも意識が無さそうだ

 

「あ、えーと…提督…あのぉ…」

 

ハッとなって慌てて話し出す赤城さん

ただ何を言おうとしてるのか完全に忘れたようだ

 

これあれだな、食事抜いたことによる低血糖と睡眠不足のダブルパンチだわ

こんなんでよく最初の台詞だけでも言えたと思う

 

「赤城さん、無理しないでこれ舐めて」

 

可哀そうだからポケットに入ってたレモンキャンディーを一個赤城さんに渡す

 

「ああ、飴玉!ありがとうございます」

 

俺からもらったキャンディを幸せそうに舐める赤城さん

これで調子を戻してくれないだろうか。ボロボロの状態だと付き合うほうも疲れるんだよ

 

「美味しい…染みますねぇ」

「はい、ありがとうございます。美味しかったです」

 

そのままキャンディを舐める事数分、調子を取り戻したらしい

 

「では続けてよろしいですか赤城さん」

「ええ、こんなキャンディをくださった人に演技するのも心苦しいですが」

 

続けられるらしい、演技って言ったように聞こえたのは気のせいだろう

 

「提督、前任の提督の頃はまともに食事も摂らせてもらえず、ひもじい思いをしていました」

「え?あ、ああうん大変だったね」

 

なんかシリアスな話してるけど、赤城さんの後ろにある券売機とお品書きがチラチラ見えて集中できない。ハリウッド映画でフルCGの撮影してる絵面が間抜けっぽいとか思ってたが

ハリウッドスター凄いわ

ああいう緑一色というか、現実味のない場所で演技することがいかに凄いか思い知らされた。

 

「油とボーキしか与えられず」

「あっはい」

(お誕生日おめでとう!ハッピバースデートゥーユー)

 

赤城さんの話を聞いてるつもりだったが、耳がいいせいで少し離れた場所でお誕生日会をやってるらしい

駆逐艦たちの会話がバリバリ聞こえてくる

あと裏の方でわざとハンカチで涙を拭くふりをしている大淀さんがなんかウザい

他人事だと思いやがって後でケーキぶつけてやる。

 

「ただ戦うための機械として育てられました」

「いや赤城さんに関しては食事があってもなくてもキリングマシーンじゃ…いやすいません続けてください」

(わぁー凄い大きなケーキ!)

 

つい口をついて失礼なことを言ってしまった。というか駆逐艦ケーキが本当に大きい

30センチ近い巨大なホールケーキの上にこれでもかとイチゴを散りばめていて

ところどころにロウソクどころか手持ち花火が刺してある。

 

「戦おうにも痩せ衰えた身体では碌に戦えず」

(でもこんなにたくさん食べたらまた太っちゃうかなぁ)

(いや明日から運動すれば大丈夫だって!)

 

集 中 が 出 来 な い あんなでけぇケーキ切り分けられてるの初めて見たわ!

というか太るって言ったよね!また太っちゃうって言ったよね今!?

 

「そうして私たちは決めました。最早人間に頼るのは止めようと」

「は、はい」

 

どうしよう全く聞いてなかった。演技は大淀さんクラスに上手なんだけどシチュエーションが最悪すぎるわ!

あと誕生日おめでとう!いや誕生日?進水日?まぁいいやどうでも。

 

「そういう了見なので提督」

「えっと、赤城さん、話の腰を折るようで悪いんですけど」

「はい?」

 

色々あったが話の腰を折った。空腹状態のため五感が研ぎ澄まされてたらしく、赤城さんにも全部聞こえていたんだろう

ケーキだとか食い物の話題が食堂で飛び交うたびに、赤城さんの目が血走っていくのに耐えられなくなったからだ。

だから俺はこう言った

 

「なんか食いません?ケーキとか」

「食べましょう!」

 

赤城さんはあっさり陥落した

 

「えーとこれは仮にもですね提督に赤城さん」

「別に演技は後からでもできるでしょ。大淀さんは食わんの?」

「それもそうですね。食べましょう」

 

なんか言いかけてた大淀さんもあっさり陥落した

我ながら人を引きずり込む素質があるんじゃないだろうかと思った。

 

 

 

 

 

 




飯が美味いほうがやる気が出るってのは戦場でも同じらしいですね
出来れば美味い飯だけ食って帰る仕事に就きたい

接待の時に代わりに料理平らげる仕事とかないですか?ないですかそうですか…


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