おにむしゃ (黒巛清流)
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玄色の隊士

チラ裏という素晴らしい所を見つけたので続けられない小説をぶん投げる。


「はぁ…ハァ…はぁっ…!」

 

暗い木々の間を走り抜ける一人の異形、顔は恐怖に染まっており。

時折後ろを振り返り、何か探すように辺りをきょろきょろしている。

 

「-- ---- ---- --」

 

何か声のような音が聞こえたかと思うとバチバチという音と共に閃光が目の前を通り過ぎる。見えるのは閃光のみでありその姿は視認できない。

異形…鬼はその光景を見ると恐怖の悲鳴を上げた。いっそう走る速度を上げるが閃光は意にも介さず近づいてくる。

 

「い、いやだ! 助けっ…」

「雷の呼吸 弐ノ型・稲魂 二連」

 

閃光が鬼の体を通過する。瞬間、その全身に十の斬撃が刻まれた。鬼はうめき声をあげると灰となり消滅した。

土煙を上げ、閃光が鬼の後ろで人の形となるとその人物は血の付いた玄色の刀を持っており。血を払うと納刀し、大きく息を吐いた。

 

「…終わった」

 

姿を現したのは現代で言う高校生ほどの少女、背は高めでスタイルはスレンダーというよりはグラマーに近い。

髪の毛は腰ほど、無造作に後ろで縛っており。毛先はほんのり青色に染まっている。消滅した鬼を確認するとその少女は上へと視線を向けた。上空には鎹鴉が飛んでおり任務が完了したことを告げる。その瞬間少女のお腹が鳴った。

 

「…お腹空いた」

「藤ノ家ハコレヨリ先ニアル、スグダ」

「...ありがとう、白墨(はくぼく)

 

顔立ちは非常に整っており10人中8~9人は町中で見かけたら振り向くような容姿をしている。現代で言うならクール系と言ったところだろうか

表情は常に真顔で固定されており、変わることはかなり少ない。熱狂的なファンもいるらしくもし笑う顔が見れたのなら悔いはないという隊士もいるぐらいである。

隊服はオーソドックスな詰め襟に膝ほどのスカート。隊服の右腕部分のみ肩までしか袖がない特徴的ではありアンバランスな印象があり。その上に左肩にかけるように橙色の羽織を羽織っている。最初は胸元が開いて大きくスリットの入ったゲス眼鏡特製の隊服を渡されたが目の前で弟弟子二人に細切れにされた。ゲス眼鏡こと前田は泣いたらしい。

 

お腹を鳴らしながら何を考えているか分からない顔をしたまま藤の家の前に着き、少女は家の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

一七夜月(かのう) 伊織(いおり)

最近【甲】に上がった隊士であり、使用する呼吸は雷の呼吸。

成績はかなり優秀であり、隊士となって二年で倒した鬼の数は50を超える。十二鬼月は倒していないが下弦の壱と肆に接敵し、生還を果たしている。

順当に強くなっており、柱になる可能性もあると言われている。

…と、言うのが彼女の一般的に広まっている情報である。

 

「…にしても玄の刀ねぇ」

 

音柱、宇随天元はそう送られてきた文面を見ながらそう呟く。

 

「何かおかしいところがあるんですか?」

「あぁ、いままで前例がないからな」

 

恋柱である甘露寺蜜璃は玄の刀について疑問視する宇随に言葉を続ける。

玄色の刀、前例のない刀であり。雷の呼吸なら黄色になるはずだ。それなのに赤と黄色を含んだ黒の色である玄

 

「なんか派生の呼吸を隠していたりするのか…?」

「むっ! 隠す必要などないだろう! 下手に隠して死んでしまったら元も子もないからな!」

「そうなんだけどなぁ…不死川も確か一緒に戦ったことあるんだったか?」

「ん? あァ、だが別に変なことはなかった気が済んぞォ」

 

近くにいた炎柱や風柱の一言に同意するが音柱は頭に手を当てる。

一度合同で任務に当たった時、彼女の雷の呼吸の使い方が少しおかしかったのだ。

派生したとはいえ元は雷の呼吸、型のことは知っていた。

 

一七夜月伊織は居合技(壱ノ型)を使わない

 

雷の呼吸とは基本的に六つの型があるがほとんどが壱ノ型に繋げるためのものである。だが一七夜月は壱ノ型を使わず、別の型で鬼の頸を斬る。

それに一度不意を突かれた時、一瞬だけ別の型を使おうとしていたのだ。見たことのない変わった型でどの呼吸なのか見たことすらなかった。

 

「何者なんだろうなぁ…氷柱の、お前はどう思う?」

 

宇随は近くでニコニコと茶を啜っていた氷柱に視線を向けた。氷柱は「んー?」と言いたげな目を向けて頬に手を当てる。

 

「んー、俺はどうでもいいかなぁ…別に今のところは興味ないし。あ、カナエちゃん一緒に茶屋に行かない?」

「行きません」

「そっかぁ」

 

氷柱はニコニコしながらカナエと呼ばれた少女を虹色がかった瞳に映した。

 

 

 

 

 

「…」

「…」

 

私の目の前には水柱、冨岡義勇がいる。人のことは言えないがだいぶ無口な人だ。他の隊士が話していたのをよく聞く

先程から身動きせずにずっと見つめあっている。近くに甘味処があるしここに来るまでだいぶ歩いたし休憩したい。その思いが届いたのか冨岡義勇はちらりと甘味処を見ると

 

「...どうだ」

 

と、聞いた。『(甘味処があるから少し休もうと思うのだが)どうだ』だろうか。間違っていたら悲しいけどたぶんそうだろう。

 

「...そうですね」

 

鬼殺隊の活動は鬼と同じく夜だ。今回はもう一人来ると聞いたしその者が来るまで待つのもいいだろう。

私は口下手だし冨岡義勇も口下手のようだ。聞き込みは後の一人に任せよう。

 

それにしても柱に甲が一人、後に来るのも甲と聞いたから甲は二人か。

そんなに強い鬼がいるのだろうか。十二鬼月、その可能性も視野にいれた方がいいのかもしれない。

 

と、甘味処で二人並んで団子を頬張りながらもう一人を待つ。二人とも喋ったりしないからか団子が減る速度が速い、それにしてもあんこ串は美味い。私の好物でもあるからな、鰤の煮付けには劣るが。

団子を食べ終えお茶をぼーっと二人で啜っているとパタパタと一人の青年が現れた。右頬に大きな傷痕があり、私達。正確には冨岡義勇を見つけると表情を変えた。

その顔を私は知っている、鱗滝錆兎。水の呼吸の使い手で元々は柱になるはずだったが同門の冨岡義勇に譲ったと言われていて実力は同じであると言われている。確か冨岡義勇が新しい型を生み出したから鱗滝錆兎が推薦したと言われているとか。噂話に疎い私でも知っているほど有名な話である。

 

「…錆兎」

「義勇、遅くなってすまないな。そちらが今日組む相手か?」

「…一七夜月伊織、階級は甲。雷の呼吸を使う」

「そうか、俺は鱗滝錆兎。水の呼吸を使う、階級は甲だ」

 

簡単な挨拶を済ませておじぎをする。その後鱗滝錆兎を先頭にして聞き込みを行い、聞き込みが苦手な私達はその後ろをついて行く。

君いまボソッと「義勇が二人に増えた…」と言ったな。私はそこまでひどくない。

…あ、冨岡義勇と自己紹介してなかった気がする。

 

 

 

 

「…ふぅ」

 

結論から言うと十二鬼月はいなかった、鬼にしては珍しく鬼が徒党を組んでおり。

十二鬼月に近い実力を持ったらしい(冨岡鱗滝談)鬼が三体いた。

 

「連携もしっかりしている、だいぶ長く組んでいるようだな」

「…だが」

「そうだな、狩れない相手ではない。一七夜月、そちらはどうだ」

「…問題ない」

 

三人で背中合わせになり、刀を構えた。

あぁ、そうだ。何も問題はない。

 

「水の呼吸 肆ノ型・打ち潮」

「…水の呼吸 壱ノ型・水面斬り」

「雷の呼吸 伍ノ型・熱界雷」

 

三人とも特に怪我をすることなく頸を飛ばすことができた。

 

 

 

 

 

 

「…お腹空いた」

 

刀を仕舞って月を見上げる。こんな満月の日はお腹がすく。

あの時みたいにお腹が空く、そう…お腹が…

 

ゴリゴリゴリ…

 

「ん?」

「…あ」

 

私から鳴った、骨を擦り合わせているような音に鱗滝錆兎が届いたのかこちらを向く。

鱗滝錆兎がこちらを向いた瞬間、その音は止む。

 

「なんだ今の音、一七夜月の方から鳴ったよな」

「…お腹の音」

「………そ、そうか。骨を擦り合わせたみたいな音だったが…藤の家は近いからそこに向かおう」

「…うん」

 

先行する鱗滝錆兎の後ろについて藤の家へと向かう。所で冨岡義勇、君柱なら君先導するべきなのでは…?

 

 

 

 

 

 

 

「…義勇、起きてるか」

「…あぁ」

 

藤の家、夕食を終え現在は客間にて就寝しようと横になっている。一七夜月は女性のため別室だ。

錆兎は天井を見上げながら隣で寝ている義勇に話しかけた。

 

「一七夜月のことだが、鬼を斬って月を見上げていた時だ。骨を擦り合わせたような音が鳴った時のことだが…気づいたか?」

「…あぁ」

 

同じく天井を見上げていた義勇は目を細めてぼそりと呟く

 

「…一七夜月から、鬼の気配がした」



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