ネフィリムが兄貴に呼ばれて異世界に来るそうですよ? (魔剣士)
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ミッション1.
人気の無い路地裏の小道に、2つの人影があった。1つはダンテと呼ばれる青年のもので、もう一つはキャットと呼ばれる女性のもの。そんな彼らの前には空間の歪みがあった。淡い蒼い光を放ち向こう側にここでは無い何処かを映し出すそれを彼らは知っている。ダンテの兄、バージルが瞬間移動をする際に用いるもので、それがここにあると言うことはつまり、約1年前に殺し合ったバージルがこの先にいると言う事。
「ダンテ…どうするの?」
「決まってんだろ?頭殴って目を覚まさせるんだよ。良い加減にしろってな」
「でも…」
「そんなに心配なら一緒に行くか?」
その問いを聞いて、キャットは少し考え頷いた。あの時のように、ダンテがバージルを殺すとも限らない。そうなった場合止められるのはあの時止めることができた自分だけだろうと考えた結果であった。そんな考えをしってか知らずか、ダンテはフッと笑みを浮かべキャットの手を引くようにその空間の歪みへと飛び込んだ。それと共に世界は一変する。普通なら辺りを見渡して安全かどうか確認したい所ではあったが、今回はそうはいかなかった。
「歓迎にしちゃ過激すぎだ!クソ兄貴!!」
そう愚痴を吐くダンテが居たのは上空だった。大凡4000mはあろうか。ダンテだけならここから地面に激突しようが痛い程度で済むが、生憎キャットは何でも無いちょっと魔術が使える人間でしか無いのだ。下を見れば落下地点には湖があるのが見えるが、この高さから水に落ちるのはコンクリートに落ちるのと大差ない為、意味はないと言える。が、湖と同時に森も視界に入ってきた事によりダンテは焦りは消え、落ち着きを取り戻した。キャットの件はもうどうとでもなる。それよりも問題は自分たち以外にも人がいるという事だろう。
「チッ!」
1人だったら何とかなったが生憎3人も人がいる上、猫もいる。奥の手を使って全員を空中に固定でもしない限り全員を救う事は難しいだろう。しかし、眼を凝らしあるモノを見つけたダンテは落下に身を任せ湖に着水した。
「し、信じられないわ!まさか問答無用で引きずり込んだ挙句、空中に放り出すなんて!」
「右に同じだクソッタレ。来て早々ゲームオーバーなんて笑えねえしな。これなら石の中の方がまだマシだ」
「キャット、無事か?水の膜みたいなのがあったから平気だとは思うが」
「ええ、なんとかね」
他2名の愚痴ををBGMにしてダンテはキャットを心配しながら辺りを警戒する。兄の気配も、悪魔の気配も感じ取れないが、わざわざ呼び寄せたあの兄が何もしないなんてあり得るだろうか。
「……い。なあ、おい!」
「なんだよ喧しいな」
「あ?自己紹介無視しといて喧しいなんて言われるとは思わなかったぜ」
どうやら辺りを探る余りに知らず知らずのうちに無視をしてしまっていたようだ。それに気付いたダンテはわりぃと謝罪し、自身の名を名乗った。
「ダンテ……ダンテねぇ。親が神曲でも好きだったのか?」
「さてな。親に名前の由来なんて聞いた事ねぇ。んで、あんたらは?」
「さっきも名乗ったんだがな。俺は坂廻十六夜だ。あっちの猫抱えてるのが春日部耀、もう1人が久遠飛鳥だ。で、そっちがキャットだろ?あんたがさっき心配してたから知り合いなんだろうがな」
だろ?と十六夜が聞くとコクリと頷くキャット。結局自分達を見ている視線は見つかったものの、悪魔関連の気配を見つけられなかったダンテは諦めて水を吸って重くなったコートを脱いで思いっきり絞った。この世界については気になる所だが、ずっと誰かに見られるのはイライラがそれに勝りいっそ引きずりだしてやろうかと思った時であった。
「あ、あの!」
なんとその視線の持ち主が出て来たのである。なんでか緊張してる面持ちだが、それよりも気になるのはその格好だ。ダンテだってクラブやそういう店でしか見ないバニーガールの姿であった。
「なんで皆さんそんなに落ち着いてられるんですか!!」
仮称バニーガールがダンテ達にそう質問した。その質問に対し、ダンテやキャット含めた5人は口を揃えてこう言った。
「「「こんなのでパニックになるとでも?」」」
「「慣れた」」
3人とダンテ達とでは言ってる事は違ったが、その両方の答えを聞いたバニーガールは肩を落とした。しかし、彼女の値踏みするような視線は消えず、相変わらずダンテ達を射抜いていた。
(ほうほう。この状況でもパニックにならないなら肝っ玉は及第点と言った所ですかね。しかし、黒ウサギが呼んだのは3人の筈ですが……一体誰が?それにしても彼から感じるこの感じ……昔似た気配にあった事はありますがあの時はーー)
そこから先は轟音と共に彼女のすぐ横を銃弾が横切った事で強制的に中断された。視線を向ければ、自身に拳銃を向けたダンテが目に入った。誰もが当然のことで唖然となる中、不機嫌そうな雰囲気を纏ったままダンテは口を開いた。
「その値踏みする様な目が気にいらねぇ。俺をそんな目で見るやつは皆俺を利用しようとしてた奴だったからな。あんたもその類か?」
銃口を向けながら質問するダンテにこれ以上警戒されるのはまずいと判断したバニーガール改め黒ウサギは両手をゆっくりと挙げ視線もダンテから逸らす。利用しようとしているかと聞かれればYESとしか答えられないので降参のポーズをとって敵意はないという事を教えなければならないのだ。無論嘘もつくが。
「そんな事は無いですよ。値踏みしていたのは認めますけど、これから説明しますがこれは皆様がこちらの世界でやって行けるか見定める為であって、黒ウサギが貴方様を利用するなんてありえません」
「そうかい」
「ダンテ……」
「チッ……わかったよ」
全く信じていないダンテだったが、キャットに言われて渋々銃、エボニーを下ろした。イライラを少しでも落ち着けようとポケットから煙草を取り出すも、先の落水によって湿気って使い物にならないソレを見て舌打ちをしてポケットに押し戻す。
「さっさと説明しな」
「まずは謝罪を。知らなかったとは言え、不快な気持ちにさせた事は申し訳ありません」
「……もう良い。思えばあんたは俺のいた世界の人間じゃねえし、悪かったな。十六夜たちもだ」
「ヤハハ、気にすんな。人間誰しも気に食わない事はあるだろうしな。ただ、いきなりぶっ放すのは止めろ。俺は平気だったがお嬢様達が怖がっちまってるぜ」
「悪かったな。もうやらねえよ」
そう言われて飛鳥達の方を見ると、確かにその目には怯えが見えた。元の世界ではリンボがあった事もあって、何処でぶっ放しても良かったし、そうしなければ死んでいた可能性もあったがこっちではそうはいかないなと考えを改めて謝罪をした。最も緊急時は問答無用でぶっ放すが。
「え、ええ。ちょっと驚いたけどそうして貰えると助かるわ」
「う、うん。心臓に悪い」
各々が適当な所に座る中、飛鳥と耀はダンテの謝罪に対しそう答えた。この世界と元いた世界は別だと思い直したダンテに、もう先ほどの様な雰囲気は感じられなかった。一方、黒ウサギは黒ウサギでファーストコンタクトが最悪だった分なんとかしなければと、若干のオーバーリアクションを交えながらこの世界について説明を開始した。
「それでは良いですか?定例文ではありますが、ようこそ!“箱庭の世界”へ!我々は皆様にギフトが与えられた者達だけが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼントさせていただこうかと思い召喚いたしました!」
まるでテーマパークのアナウンスの様に言う黒ウサギの発言に、ダンテはあぁ、これは長くなるなと早くも話半分で聞き始めていた。
「ギフトゲーム?」
「そうです! 既に気づいていらっしゃるでしょうが、皆様方は普通の人間ではございません! その特異な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた恩恵でございます。『ギフトゲーム』はその゛恩恵″を用いて競い合う為のゲーム。そしてこの箱庭の世界は強大な力を持つギフト保持者がオモシロオカシク生活できるために造られたステージなのでございますよ!」
両手を広げながらアピールする様に説明する黒ウサギ。ダンテはダンテで悪魔はいても天使はいねえのか?と疑問を持ったが、質問は後で纏めてした方が良いだろうと、一回その疑問を飲み込んだ。そんな中、飛鳥が質問するために挙手をし、黒ウサギは発言を許可する
「まず初歩的な質問からしていい? あなたのいう゛我々″とは、あなたを含めた誰かなの?」
「YES! 異世界から呼び出されたギフト保持者は箱庭で生活するにあたって、数多とある゛コミュニティ″に必ず所属していただきます♪」
「嫌だね」
「属していただきます! そして『ギフトゲーム』の勝者はゲームの゛主催者ホスト″が提示した賞品をゲットできるというとってもシンプルな構造になっております」
「…………〝主催者″って誰?」
「様々ですね、暇を持て余した修羅神仏が人を試すための試練と称して開催されるゲームもあれば、コミュニティの力を誇示するために独自開催するグループもございます。特徴として、前者は自由参加が多いですが〝主催者″が修羅神仏なだけあって凶悪かつ難解なものが多く、命の危険もあるでしょう。しかし、見返りは大きいです。〝主催者″次第ですが、新たな〝恩恵ギフト″を手にすることも夢ではありません」
質問は挙手制だったのかと思ったが、それよりも黒ウサギの言う新しい力の方がダンテは気になった。元の世界にいた時にクソ悪魔共をぶちのめして得た力。それに似た様なものが得られるのかとダンテは密かに笑みを浮かべた。
「後者は参加のためにチップを用意する必要があります。参加者が敗退すればそれらはすべて〝主催者″のコミュニティに寄贈されるシステムです」
「後者は結構俗物ね……チップには何を?」
「それも様々ですね。金品・土地・利権・名誉・人間……そしてギフトを賭けあうことも可能です。新たな才能を他人から奪えばより高度なギフトゲームに挑むことも可能でしょう。ただし、ギフトを賭けた戦いに負ければ当然――ご自身の才能も失われるのであしからず」
「あーつまり負ければ全て失う賭け事みたいなもんか?」
「簡単に言えばそんなものですかね」
常に全掛けの賭け事の様なものかと納得するダンテを他所に再び飛鳥が質問した。
「そう。なら最後にもう一つだけ質問させてもらっていいかしら?」
「どうぞどうぞ♪」
「ゲームそのものはどうやったら始められるの?」
「コミュニティ同士のゲームを除けば、それぞれの期日内に登録していただければOK! 商店街でも商店が小規模のゲームを開催しているのでよかったら参加していってくださいな」
「つまり、『ギフトゲーム』はこの世界の法……と考えても良いのかしら?」
「中々鋭いですね。しかしそれは八割方正解の二割間違いです。我々の世界でも強盗や窃盗は禁止ですし、金品による物々交換も存在します。ギフトを用いた犯罪などもってのほか! そんな不逞な輩は悉く処罰します――が、しかし! 『ギフトゲーム』の本質は全くの逆! 一方の勝者だけが全てを手にするシステムです。店頭に置かれている商品も、店側が提示したゲームをクリアすればタダで手にすることも可能だということですね」
タダ、と言う言葉にダンテは密かに笑みを浮かべだが、この世界にも窃盗なんかもあるんだなと少し落胆した。ゲームに勝つだけでなんでも手に入ると言う事は、犯罪を犯そうがゲームに勝てば不問にする事だってできると言う事である。勝てば官軍負ければ賊軍とはよく言ったものだ。しかし、そうなるとと一つの疑問を持ったダンテは挙手し、黒ウサギは発言を許可する。
「取られたく無い場合は参加しなけりゃ良いんだろ?」
「まあ、そうですね。奪われるのが嫌なら最初から参加しなければ良いのです」
「俺のいた世界じゃ無理矢理参加させる様な事してる奴らもいたが、この世界にはそう言うのはあるのか?」
ギクッと黒ウサギは内心動揺した。しかし、質問された以上回答しなければならない黒ウサギは腹を括って、その質問に答えた。
「YES」
と。このまま行くと下手すれば自分達の境遇まで話さなければいけなくなると内心冷や汗をかくが、ダンテはそこから追求する事もなくそうかと納得し、続けてくれと言った事により黒ウサギの内心は落ち着きを取り戻した。
「さて。皆さんの召喚を依頼した黒ウサギには、箱庭の世界における全ての質問に答える義務がございます。が、それらすべてを語るには少々お時間がかかるでしょう。新たな同士候補である皆さんをいつまでも野外に出して奥のは忍びない。ここから先は我らのコミュニティでお話させていただきたいのですが……よろしいです?」
ダンテとしては聞く事も聞いたし別にそれでも良かった。バージルだと思った次元の歪みが黒ウサギが用意したものだったとしても、本当にバージルがダンテをこの世界に呼び寄せる為のものだったとしても、どっちにしたってすぐには戻れなさそうだしこの世界を楽しむ方が有意義だろうと考えたダンテは、どんな『ギフトゲーム』があるのかと思いを馳せていた。
「おい、まだ俺が質問してないだろ?」
「……どういった質問です? ルールですか? ゲームそのものですか?」
「そんなものはどうでもいい。腹の底からどうでもいいぜ、黒ウサギ。ここでオマエに向かってルールを問いただしたところで何かが変わるわけじゃねぇんだ。世界のルールを変えようとするのは革命家の仕事であって、プレイヤーの仕事じゃねぇ。俺が聞きたいのは…………たった一つ、手紙に書いてあったことだけだ」
手紙と聞いて、どうやら自分達を呼んだのは間違いなくバージルだと確信したダンテとキャットを他所に、十六夜は獰猛な笑みを浮かべながら、期待を込める様にこう質問した。
「この世界はーー面白いか?」
その問いに黒ウサギはとびっきりの笑みを浮かべてこう回答した。
「ーーYES。『ギフトゲーム』は人を超えた者達だけが参加できる神魔の遊戯。箱庭の世界は外の世界よりも格段に面白いと、黒ウサギは保証いたします♪」
元々人を超えた存在である悪魔と戦っている上、自身がそもそも人間じゃないダンテとしてはもうちょっと興味を引く回答であって欲しかったが、他の3人は喜んでいる様だし良いかと納得する事にした。
アンチヘイトってどこまでいったらなんですかね?境界線がイマイチわからん。あと、ダンテを荒々しく描きすぎた気がしないでもないけど、キャットにだって最初銃口向けたし平気だとは思いたい。
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