名探偵コナンの世界で気ままに生きる(一旦休載中) (ゆかなおっぱい)
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プロローグ

初投稿です。名探偵コナンとシティーハンターが好きで投稿しました。
短いですが、次回以降もこんな感じだと思います。


短い人生だった。国立大に入っていざそろそろ就活しなきゃなぁなんて思った矢先…通り魔に刺されるなんてな…

特にこれといった活躍も悪事もしないまま、ただただ親不孝しちまった。亡くなった父さんと父さんの分まで俺を育ててくれた母さんに申し訳が立たない。母さん、すまねぇな…俺…先に逝っちまうよ…

 

ーー人生はまだおわっとらんよ、青年ーー

 

「!?誰だ!!」

 

ーー人間の言う『神』というやつだよ。さぁ青年、二度目の人生はもう少し有意義に使うのだな。ーー

 

神?所謂死後の世界で見る神様というものか?それより二度目の人生?なんなんだ…

「待って下さい、貴方が神様なのはわかりましたが、二度目の人生?どうして私が?」

 

ーー人間の魂は20年ぽっちじゃ燃え尽きないのだよ。青年よ、君の愛読していた『名探偵コナン』の世界では良い人生を送れよ…ーー

 

コナンの世界!?っと、それよりも…

「…っ!ありがとうございました。最後に一つだけよろしいですか?」

 

ーーなんだね?ーー

 

「父さんは…父さんは元気ですか?どこかの世界で、幸せになれていますか?」

 

ーーフッ、親思いだな。ああ、君のお父上はまた違う世界で頑張っておるよ。ーー

 

そうか…父さんは元気なのか…良かった…

「それを聞けて安心しました。ありがとうございます。」

 

ーーさぁ時間だ。もう二度と会う事は無いと思うが、幸せになれよ、青年ーー

 

そして俺の意識は途切れた

 

 

〜〜〜〜

 

 

 

うっ…ここは?なんだ?良く見えない…というより息苦しい!!なんか気持ち悪い!!

 

「オギャァ!」

 

「星川さんおめでとうございます。元気な男の子ですよ。」

 

「おぉ…!!優花に良く似た可愛いらしい子だ…!!」

 

「あなた、私にも良く見せて…」

 

「あぁ…ほら、どうだ?君に良く似た元気で可愛い子だ。」

 

「あら…フフっ、可愛い子。初めてまして…お母さんよ?」

 

良く聞こえないが、なんとなく分かる…この人達が俺の…新しい両親か…今回はしっかり親孝行したいな…

「オギャーーーー!!オギャーーーー!!」

 

「良く泣くなぁ。これはとても元気に育つぞ…」

 

「えぇ、あなた。」

 

 

〜〜

 

そんなこんなで名探偵コナンの世界に転生したが…俺と同世代は誰にあたるかが問題だな。出来れば高木刑事…いや佐藤刑事あたりだといいなぁ…

それより…

 

「あぁ可愛い❤️裕太、お風呂入るからお洋服脱ごうねぇ❤️」

 

この赤ちゃんプレイはどうにかならんのか!?恥ずかしい!!20にもなって母と風呂とか!!流石にキツい…!!

 

「あぁんもう逃げないの!今日はお外出たんだからしっかり洗わないとメッ、よ?」

 

 



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小学生編(原作前)
小学校入学


二話目です。遂にヒロイン登場。


あれから7年…長かった…

生まれてすぐは特に大変だった。まず赤ちゃんとして扱われるからどうしても恥ずかしい毎日だった。20歳だった俺の精神にはとてもじゃないが耐えられるものではない。

漢字が読めると周りにバレたら不味いからおちおち読めないし、自由に外にも出られやしない…唯一の救いは赤ちゃんだから直ぐに眠くなることだ。いつでもどこでも直ぐに眠くなって寝ちゃうからな。

 後は幼稚園。遊ぶ時間は結構楽しかった。久しぶりに童心に帰って遊べたと思う。小学校にも同じようなメンバーで上がるからな。幼稚園は小学校で楽しく過ごすための前哨戦な所はあるからなぁ。幼稚園の時にある程度立場を作るのは2回目だからこそだな。へっへっへ(悪い顔)

ただ年長くらいにもなると女子達が「〇〇君ってマジキモいよねぇ、いつもハナクソほじっててマジ汚いしキモい〜」とか「〇〇君カッコいいから好き〜」とか言ってんのはマジでビビった。1回目の時は全然気付かなかったけど女子ってあんぐらいからああいうこというのね。コッワ。

 

さて、これからどうするかを決めよう。名探偵コナンの世界にいるのだからやっぱり警察、それも刑事を狙おう。工藤新一みたいに探偵でもいいんだが、それだと安定した収入は望めないし、第一工藤新一は親が有名で警部とも繋がりがあったから出来たこと。父はサラリーマンで母は専業主婦のウチじゃあ、どうやったって現場を荒らす邪魔なガキでしかないからな。

幸い前世から引き継いだ頭脳があるし、結構良い学校入ってキャリア警官ってのも夢じゃないかもしれないな…

アニメみたいな推理ショーやるの、結構夢だったんだよなぁ。

それにあの大好きな佐藤刑事と恋人になれるかもしれない。高木刑事には悪いが、俺前世から好きだったんだ。あの凛々しい顔と正義感ある行動、それにあの可愛らしい言動。せっかく転生したんだから、好きなヒロインと結ばれて結婚とかしたいしな。

 

 

〜〜

 

 

場所は変わって公園。遊具はないものの、広いスペースとサッカーゴールだけがある。そこでいつののように幼稚園の時からの友達や近所の知らない子らとサッカーだ。

 

「ファイアートルネード!!」

 

皆んなイナイレ好きやなぁ…小学生あるあるだよね、サッカーする時技の名前いいながら蹴ったりすんの。わかる。わかるぞその気持ち。前世でも同じことやってたけど、やっぱり小学生にもなるとやっちゃうよなぁ!

 

「バーニングキャッチ!」

 

!?おいゴールキーパーブロッコリーパイセンじゃねぇか!!負けフラグ立てんなよ!てかまだイナイレ一期しか放送してないんだぞどうなってんだ!?

案の定ボールは手に当たってゴール。はぁ…

 

「何してんだよ三国!!」

 

「ちゃんと取れよ三国!!」

 

オイオイ本当に名前三国かよ。しかも頭はこの時からブロッコリーw

 

「ドンマイドンマイ、一緒に頑張ろーぜ!!」

 

「裕太、逆転しようぜ!!」

 

「おう!」

 

やっぱり小学生の頃にやるサッカーは楽しいなぁ。見るのは野球やるのはサッカーってね。死ぬ前からの俺の流儀だ。

 

「コウテイペンギン3号!!」

 

「ゴッドハンド!!」

 

---

 

〜〜

 

あー楽しかった。小さい頃はこうやって沢山遊ぶもんだよな。なんだかんだで今の人生を満喫してんなぁ俺。

ん…?あれは…

 

「やーい悔しかったら取り返してみろ〜www」

 

「女のお前には無理だろうけどな〜www」

 

ああおうのは見てて気分が悪い。警察官を目指す以上、ああいう輩をねじ伏せるのも面白いな。幸運にも今生の俺は体格にも恵まれて喧嘩とかには強いし、前世から合わせて精神年齢27歳だから、口で負けることも無い。相手を蹂躙して悪を倒すのは快感だ。

 

「そうやって女の子の物を無理矢理とって遊ぶのは良くないなぁ。」

 

そうやって俺は二人組のクソガキから虐められてる彼女のバッグを取り返す。やだ俺超カッコいい。

 

「なんだよお前、俺達に逆らっていいと思ってんのか!?」

 

「そうだそうだ、殴っちまえジャイアン!」

 

いやジャイアンとスネ夫か。なんか他作品ネタが多いなぁ今日は。二回って。

 

「へぇ、じゃあ…やってみろよ」

 

「後で後悔しても知らねーぜ…ウラァ!!」

 

「行けージャイアン!」

 

スネ夫擬きは応援するだけかよ。

だが甘い拳だ、普通にあしらえる程度のものだな。

 

そうして俺はジャイアンの手首を掴んでそのまま背負い投げた。ジャイアンは道路に投げ捨てられる。

 

「&¥@‘%!?覚えてろよーー!!」

 

「あっ、待ってよジャイアン!」

 

「さぁ、次は…お前の番だぜ?」

 

「ひっ、ママ〜〜〜!!」

 

っ!!快っっっ感!!この瞬間が一番気持ちいいよなぁ!

さて、バッグを持ち主に返さなきゃな。こういうのは冴羽獠みたいにカッコよくハードボイルドに。

 

「お嬢さん、これ君のだろ?」

 

キチンと埃をパンパンと叩き落としてから手渡す。

フッ、我ながらカッコつけすぎか。

 

「ありがとうございます!!あっ、あの!!」

 

中々可愛い子じゃないか。

「なんだい?」

 

「お名前聞いても宜しいですか?」

 

「星川裕太だ」

 

「星川…裕太…。私は野上冴子!ありがとうね!」

 

ほーん。野上冴子。野上冴子ね。

 

 

……は?




ウチのヒロインはまさかの野上冴子!!シティーハンターで好きなキャラクターなのですがあまりss等には出てないので出しました。


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野上冴子

色々ブレがあったり拙い所があったりで申し訳ございません。当作は私の妄想100%でできています。いやこの展開はないなぁと思ったらブラウザバックを推奨します。


「は?」

野上冴子。この子は確かにそういった。同い年くらいの、可愛らしくも知的かつお嬢様的な雰囲気のある彼女。

(いや待て、ここ本当にコナンの世界か?ブロッコリーパイセンやジャイアンスネ夫辺りからオカシイ気はしてたが、シティーハンターまで混ざるなんて…)

 

「…?どうかしました?」

 

「い、いやぁなんでもない。次からは気をつけな。アハハ…それじゃっ!!」

早口で捲し立てて直ぐ彼女から逃げる俺。

(オイオイ野上冴子は不味い!!何が不味いって?あのシティーハンター屈指のヤバい女じゃねぇか!!槇村に対する純情はまぁわかる、でも「警視庁の女狐」って呼ばれるくらいには強かで性格の悪い女だ!俺シティーハンターだったら香ちゃんが良かったのに、なんでよりにもよって冴子なんだ!?冗談じゃない!!俺の美和子ちゃんはどこだよ!!)

そうして俺は野上冴子の視線を振り切るように路地裏に入っていった。

 

「あっ…フフっ、私から逃げるなんて。…面白いわね。」クスっ

 

〜〜

 

side冴子

 

私は野上冴子。東京都米花町に住む小学一年生。

私の父は警視庁で警部をしていて、私も警察官になりたいなぁと思ってる。だから正義感は強いと自負している。

そして何より、私は可愛いくてモテる。よく男の子に言い寄られたりちょっかいを出されたりする。ホント、男子って節操無いしバカばっかり。まぁ私に惚れるのも無理無いけど。それにしても、王子様みたいなカッコいい子は居ないのかしらね。みーんな、熱っぽい目で私のこと見てる癖に、いざ一緒になるとイジワルばかり。嫌になっちゃうわ。

 

そんな私は今習い事のピアノの帰り。偶々今日はお父さんもお母さんもお迎えに来れないみたいで、一人で帰っている。

 

「おい、野上!」

 

「何?…って、キャアァ!!」

唐突に誰かに呼ばれて後ろを振り向くと、スカートを捲られた。またコイツね…

 

「ちょっと剛田君!!骨川君!!何するのよ!!」

 

「やーい、道路でパンツ出してやんの〜wいーけないんだーいけないんだー、せーんせーに言ってやろぉ!」

 

「ジャイアンな〜いす!w野上はバカだなぁ!w」

 

この下種男子どもが!!ホント嫌な奴ら!!

「何すんのよ!!そっちがやってきたんでしょ!?謝りなさい!!」

 

「あぁ?俺様に逆らうのか?」

 

「ジャイアンに逆らうと痛い思いするぞ!野上の癖に生意気な!」

 

そういって剛田君は私を突き飛ばし、私は尻餅をついてしまった。

 

「痛ぁ…っ!何するのよ!あっ、返しなさい!!」

剛田君にカバンを盗られちゃった!!

 

「やーい悔しかったら取り返してみろ〜www」

 

「女のお前には無理だろうけどな〜www」

 

悔しいけど、私だけじゃ到底二人には敵わない。体の大きさが違いすぎる。なんで…なんでこんな目に…誰か…助けてっ!!

 

「そうやって女の子の物を無理矢理とって遊ぶのはよく無いなぁ。」

 

誰!?でも味方してくれるの?…

そうして彼はパッと私のバッグを取り返した。

 

「なんだよお前、俺達に逆らっていいと思ってんのか!?」

 

「そうだそうだ、殴っちまえジャイアン!!」

 

危ない!!この2人は私のクラスでも一番の喧嘩強い男子!いくらあの子は大きいからって、二人を相手にするのは無茶よ!!

 

「だ、だm「オラッ!!」」

 

遅かった!彼が危ない!!

そう思った矢先。彼は剛田君の手首を掴んで後ろに放り投げた。

 

「えっ…?」

 

あっという間だった。剛田君は直ぐに退散していき、骨川君も彼に怯えて剛田君を追うように逃げていった。…彼、何者?

 

「お嬢さん、これ君のだろ?」

 

そういって彼は私のバッグを埃をとってから返してくれた。

少しキザだけど、とっても強くてかっこいい彼。夕陽に照らされてその少し日焼けした肌がとてもたくましく見える。私に目線を合わせるように膝立ちになってバッグを手渡す彼の穏やかな笑顔が眩しい。彼を、もっと知りたい。

 

「ありがとうございます!あ、あのっ!」

 

 

「なんだい?」

 

「お名前聞いても宜しいですか?」

顔が赤いのが分かる。落ち着くのよ、私!

 

「星川裕太だ」

 

「星川…裕太…。私は野上冴子!ありがとうね!」

そういうと彼は途端に目を見開いた。

 

「は?」

 

ちょっと間抜けな顔。こんな可愛い顔もするのね。

「…どうかしました?」

 

「い、いやぁなんでもない。次からは気をつけな。アハハ…それじゃっ!!」

 

そういって彼は路地裏へ逃げるように駆けていった。

 

…なんで逃げるのかしら。でも彼…ちょっと面白いわね。

ふと地面を見ると、未開封の絆創膏が一枚落ちていた。彼が落としていってくれたんだろう。…倒れてすりむいた私のために…

ホント…カッコいい人…//

 

side out

 

〜〜

 

翌日、学校についた。我らが帝丹小学校。同学年に工藤新一や江戸川コナン、毛利蘭や少年探偵団sの名前は無かったから同年代では無いことはわかっていた。しかし…

 

「おはよう。星川君。」

 

なんで野上冴子が俺の下駄箱前にいるんだ!?




冴子視点でした。


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紙に書かれた数字

初ミステリー(?)


「お、おはよう野上さん。でもなんで君がここに?」

帝丹小学校の下駄箱。特に変わったものでもない下駄箱。いつもなら友達とテキトーな挨拶をするだけの場所に、女狐はいた。

 

「なんでって、私も裕太君と同じ帝丹小学校の一年生だもの。あと、私のことは冴子って呼んで。」

 

小学校一年生とは思えないような妖艶さと、年相応のあどけなさの混ったとても可愛いらしい笑顔を見せる冴子。

 

(動揺するな。コイツはまだ小学一年生だ。作中みたいな恐ろしさはまだない…ハズ…)

「あぁ、そうなんだ。これからもよろしくね、野上さ「冴子って呼んでん」

 

(……)

 

「野上「冴子」…野が「冴子」」

 

流石は野上冴子。既に強かな女性である。

 

「冴子って、呼んでね。」

 

(あれぇ、おかしぃなぁ。小学一年生だよなぁ。なんでこんな幼い子の笑顔が怖いんだろうなぁ…)

 

「分かったよ、冴子。これで良い?」

 

「うん!!」

 

冴子はさっきの阿修羅如く威圧感たっぷりの貌から一変、向日葵のような明るい笑顔を見せた。

 

(…っ!やっぱり美人だなコイツ。小学生に興奮するようなロリコンじゃ無いが…それでも見惚れるくらいには綺麗だぜ)

 

「じゃあ、俺A組だから。」

 

「うん、じゃあまたね!」

 

冴子と別れると、すぐに男子集団に囲まれた。

 

「な、なんだよ…」

 

「おい、野上と少し喋ったからって、良い気になるなよ!」

 

「そうだそうだ、イチャイチャしやがって!」

 

「ヒューヒュー♪裕太と野上は夫婦だーーー!!」

 

廊下中に冷やかしと嫉妬の声が響き渡る。

 

(あぁもうやだ…)

 

 

〜〜

 

side冴子

(やった!!裕太君に名前で呼んで貰えた!それに下駄箱だったから、他の女子にも牽制出来たし、男子達には私と裕太君が特別な関係だって意識付けることができたわ。流石私ね。完璧よ!!)

 

未来の警視庁の女狐ここにあり。知能犯である。

 

〜〜

 

その日の放課後。日直だった俺は、先生に日記と掃除の報告に職員室に来ていた。

 

「先生、日記と掃除、終わりました。…先生?」

 

「えっ…あぁ、お疲れ様、ありがとうね…」

 

俺達のクラス担任、松沢先生はまるで草臥れた中年のおっさんのように憔悴していた。

(まだ20代だろうが…しかし流石に看過することは出来ないな)

 

「どうかしたんですか?先生」

 

「うん、ちょっとね…昨日からこんな紙が私の机に入ってて、気味悪いのよ…」

 

そういって松沢先生は俺にその紙を見せてくれた。そこには数字が横書きで、一定の間隔を開けて綺麗に羅列していた。

 

15 71 14 72 41 12 51 23 35 22 85 13 32 61 81 74

42 71 14 31 75 51 23 61 25 32 111 32 85 13 65 13

105 21 23 31 111 33 93

 

(なんだこれ…何か規則性でもあるのか…?)

 

「ハァ…どうしたら良いのかしら…」

 

すると、隣の席の立野先生が呆れた口調で

「いいんですよそんなのほっといて。どうせ生徒のイタズラですよ。」

 

「そうですよねぇ…アハハ、気にしないでおきます。さぁ、星川君も早く帰りなさい。」

 

(いや違う。生徒のイタズラだったらこんな丁寧にB5のコピー用紙に印刷なんてしない…増してや小学校だ。それも一年生の担任に対してこんな手の込んだ嫌がらせはしない。何か裏が…何かがあるハズだ!!なんだ…なんなんだ…)

 

 

…しかわ…ん。 ほ…わくん!

「星川君!!!」

 

「は、ハィ!!」

 

「もう、人の話をちゃんと聞きなさい!!早く家に帰りなさいとさっきから言ってるでしょう!?」

 

「す、すいません!!」

 

耳元で大きな声で怒られて慌てて職員室を飛び出してしまった。

 

「お疲れ様裕太君。災難だったね。」

 

「あぁ…ホントに…って冴子!?」

 

「えぇ、日直だったみたいだし、職員室に行くのが見えたから。待ってたの。」

 

「へ、へぇ。そう…」

(オイオイ怖ェよいきなり出てくるなよ心臓に悪いぜ…)

 

「それより酷いよね松沢先生。裕太君に怒るなんて。」

 

「アハハ、ボーッとしてた俺が悪いんだ。仕方ないさ。」

 

「ふーん。あっ、そうそう!私のクラスは今日の授業でひらがな全部習い終わったのよ。裕太君のクラスは?」

 

「あぁ、俺達も今日で終わったよ。一緒だね。」

 

「ふふっ、そうね。」

 

(ひらがなかぁ。なんで今更こんなことやらされてるんだか…

ん?ひらがな?……!!!!)

 

「それでね〜「悪い冴子!!ちょっと忘れ物した!バイバイ!!」え、ちょっと!!」

 

(そうか、そうだったんだ!!解けたぞ!さっきの謎が!!)




みなさん分かりましたか?今回はとても簡単なパズルです。


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小学校って

色々ご指摘を頂きありがとうございます。初心者ですので、色々不味い点等々ございますが、私も成長したいと思いますので、これからも気になる点や感想などがありましたら感想欄に書いていただけると幸いです。


「松沢先生!!さっきの紙見せてください!!」

俺は急いで職員室に駆け込んだ。

 

「えっ!?星川君!?」

 

「早く!!」

 

「は、はいぃ!」

 

松沢先生は慌てた様子で咄嗟に紙を俺に渡した。

 

(そうか!!やっぱりこういうことだったのか!!)

 

「はっ!?…ちょっと星川君!どうしたのいきなり?」

 

「解けたんですよ、この暗号!!」

 

「えっ!?本当に!?」

 

「えぇ、まずひらがなの表を思い浮かべて下さい。そして、あ行を1、か行を2といった風に番号を割り振り、あ段にまた1、い段に2、う段に3、え段に4、お段に5と数字をおきます。そうすると解けるんです」

 

「えぇっと…じゃあ最初の15っていうのは?」

 

「15はあ行のお段、つまり『お』です。そして次の71はま行のあ段で『ま』です。そうやって全ての文字を解読すると…」

 

俺は紙に印刷された数字の下にそれぞれ平仮名を当てはめていった。

 

「な、何よこれ…」

 

「……」

 

『おまえみたいなくそきようしはやめちまえさもなくはこしんしようほうをかくさんする』

 

「お前みたいなクソ教師は辞めちまえ、さもなくば個人情報を拡散する…ってか?」

 

「立野先生…」

 

「誰なんだ、こんなひどいモノを松沢先生に出してきたのは!!」

 

(温厚な立野先生がこうも怒るとは…まぁ無理はない…ん?)

 

「立野先生、そこのコピー機って故障中なんですか?」

 

「え、あぁそこのコピー機は一昨日からなんかインクを変えても出なくなっちゃって、大変なんだよ。だけど、それがどうかしたのか?」

 

「いえ、なんでもないです…」

(コピー機は一昨日から使えない?…ならこの紙は家から持ってきたということか。コピー機の履歴やら目撃情報でって訳にはいかないのか…)

 

「それにしてもいつ私の机に入れたのかしら…あの時は入ってなかった筈なのに…」

 

「先生、その時の状況って覚えてますか?」

 

「えっと、昨日の放課後だったかしら。職員会議の後帰ってきて机の引き出しを引いたら一番上にあったのよ。あの職員会議は先生みんな出てたのに。」

 

「いや、出てない人が三人だけいたぞ。急用があるからとかで欠席だった武藤先生。あとは校長先生と教頭先生だ。」

 

「ならその三人の内の誰かが犯人です」

 

「えっ!?」「なんだって!?」

 

「昨日は先生がこの後直ぐ職員会議だからって、生徒は全員授業が終わり次第帰宅していました。そして、コピー機で印刷した紙を小学生がイタズラで使うとは到底思えません。」

 

「確かに…」

 

「だがどうしてその三人が?理由はなんだ?」

 

「それはまだ分かりません。ですが、同じ教員なら同じ職員の個人情報を知ることは容易ですし、一番可能性は高いと思います。」

 

「うーん…」

 

「あっ!!思い出したぞ!校長室には個別にコピー機があった筈だ!」

 

「本当ですか!?立野先生!!」

 

「あぁ、今年から今の校長に変わってなぜか校長室にコピー機と電話が付いたんだ…」

 

「それ、私も知ってます。なんか今年の校長は少し変だって他の先生も言ってました。」

 

「なら行きましょう!校長室に!」

 

そして俺達は校長室に向かった。

 

〜〜

 

(校長先生はいないみたいだな…)

「コピー機を調べてみて下さい。」

 

「あぁちょっと待ってくれ…あった!昨日一枚だけB5のプリントを刷ってるぞ!!」

 

「校長先生が犯人だったんですね…」

 

「そんな…」

そう言って松沢先生は泣き崩れてしまった。

 

 

「えぇ、松沢先生への脅迫は私がやりましたよ。」

 

「「「!!??」」」

そこへ、気持ち悪い笑みを浮かべたハゲデブ校長が入ってきた。

 

「良く私が犯人だと分かりましたねぇ。それにしても感心しませんなぁ勝手に入るとは…君も帰りなさい。小学生は校長室には原則立ち入り禁止ですよ?」

 

「校長先生…なぜ松沢先生にこんなことを?」

 

「松沢先生…貴女は前任校で社会科の授業の時に、憲法9条と自衛隊について話されたと聞きます。そういうのはやめて欲しいのですよ。私の所属する日本教育者連盟組、日教連組では憲法9条では自衛隊は違憲であり、解体すべきだという授業を良しとしているんです。それを生徒達自身に考えさせるような授業を行った貴女は目障りなのですよ。だから…早く辞めろ、このクソ教師!!」

 

(ゴミ校長だな…)

 

「それは!!生徒達が自分で考えるようにするために「黙れ!!生徒には教えるだけでいいんだ!!生徒に政治的な意見を考えさせようとするのが間違いなんだ!!」…っ!」

 

「日教連組…聞いたことがあります。なんでも○国の社会主義者達と繋がってるとか…」

 

「おやぁ?立野先生。貴方もですか。仕方ありませんね。貴方達2人は今日限りでクビだ!!我々に逆らうような教師はいらない!!」

 

「…校長先生…アンタはクズだ!!アンタは小学生に刷り込みをしろと言ってるんだ!!確かに政治的な意見は人それぞれだ…だがそれを他人に押し付けようとするな!!小学生は特にまだ分からないことだらけだ…そんな小学生に、俺達に何をしようとしてるんだ!!お前がやろうとしてるのは教育じゃない!!洗脳だ!!」

 

「黙れ!!このガキ!!ワシが黙ってりゃいい気になりおって!!」

 

校長は俺の首を掴んで壁に押しつけた。

「グハァッ!!」

 

「いいかクソ餓鬼、お前みたいなチビっ子は大人の言うことだけを聞いていればいいんだ!!

 

さらに俺は壁に押し込まれる。流石に小学一年生の筋力じゃ大人には敵わない。

 

「辞めろ!!」

 

立野先生が俺を助けようとするが

「うるさい!!」

 

校長が足で立野先生を蹴り、先生は後ろに倒れる。

 

「どいつもこいつも生意気な!!お前らのような出来損ないを生まない為にワシが教育を決めるんじゃ!!お前らみいな虫ケラは消えろ!!」

 

パシャッ

 

校長室に突然携帯のシャッター音が鳴る。

 

「そこまでよ校長先生。今までの貴方の発言は全て録音したわ。さらに今貴方が裕太君にしてるのは立派な暴力よ。観念しなさい。」

 

「冴子!?」

 

「なっ!?このぉ!!」

校長は俺を手放し冴子に手を伸ばした!!危ない!!

 

パシッ

 

しかしその手が冴子に届くことは無かった。

 

「帝丹小学校校長柳原由紀夫、傷害と児童虐待、脅迫の罪で逮捕する!!」

 

校長の手には警察官の手と手錠があった。

 

「冴子!!」

 

「裕太君!大丈夫!?」

 

「あぁ、なんとか…それにしても校長がこんなクズだったとはな…」

 

「えぇ、本当に…」

 

 

「さぁ早くしろ!」

 

「クソッ…」

校長はパトカーに乗せられ連行されていった…

 

〜〜

 

後日、松沢先生から事件の詳細を聞いた。校長は日教連組の幹部だったようで、あの暗号は日教連組内で用いられているものだそうだ。あの暗号を松沢先生が他の先生に相談して見せることで、見た他の日教連組の先生に一斉に松沢先生を攻撃する手筈だったらしい。今回は立野先生だけにしか見せなかったから良かったものの、一歩間違えれば本当に松沢先生の教師人生を破壊しかねない事件だった。

俺が暗号を解いたお陰で警察は日教連組を一気に取り締まることができたみたいだ。

 

「お手柄ね裕太君。まるで刑事みたい!」

 

「いや、あの時冴子がひらがなの話をしたからだよ。それに良くあの場にいたね。」

 

「裕太君が飛び出していったから後を付けてたのよ。そしたら大変そうだったから警察に連絡したの。携帯電話を持ってて良かったわ。」

 

「本当にナイスだったよ。」

 

「うふふ、ありがと。」

 

 

 

〜〜

 

 

ー米花美術館

そこに一枚のカードが落ちた。そこには謎の文章と…

 

キッドマークが入っていた。




次回。やっとこさ青山剛昌さんのキャラクター出現(?)


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七夕

色々感想頂きありがとうございます。想像以上に色んな方に見て頂いていることに恐縮です。最初は読み手を選ぶ作品になるだろうと思っていたのでビックリです。
やっとこさ原作キャラ登場(?)回です。


あれから数ヶ月、現在は7月。夏休みまであと少しだ。

 

『続いてのニュースです。あの有名な怪盗、ファントム・レディが引退を表明しました。昨夜ー』

 

(ファントムレディってあの黒羽快斗の母親じゃねぇか!確かコナンにはあんまり出てきて無かったけど、マジック快斗ではお母さんとして出てたよな。マジック快斗では18年前に辞めたって言ってたから、コナンやら俺の良く知る怪盗キッドは18年後…?てことはそん時俺は25歳になっているということか。丁度良いな。…それにしてもファントムレディ、黒羽千影って綺麗だったよなぁ…ああいうお母さんがよk)ズドン!!「ヒッ!!」

 

「何か、失礼なこと考えなかった?裕太?」

 

「そ、そんなことないよ!アハハハハ…」

(怖えよなんで考えてることバレんだよ俺の母さんはスタンド使いか!!)

 

「ふーん…そう。」

 

『そして今回、米花美術館に怪盗キッドからの挑戦状が届いたようです。怪盗キッドは彗星の如く現れた怪盗で、予告状を出してから盗んだり、また美術品や宝石等を返したりするのが特徴だそうで、今回も例にならって米花美術館に予告状が届いたようです。』

 

(怪盗キッド!?ファントムレディが引退したということは初代怪盗キッドが世に出始めた頃か!こんなにも早く対面できるとはな…面白い。)

 

『その予告状には「七夕に蝶をお届けに参ります」と書かれており、明後日七夕に米花美術館で怪盗キッドが現れると、大騒ぎになっています。なおこの蝶とは、三年前に米花美術館から盗まれた宝石、「月光蝶」ではないかと推測されています。』

 

(七夕か…よし!俺も行くか!!)

 

 

〜〜

 

ー学校にて

 

小学校でも話題は怪盗キッド一色だった。

 

(まぁそりゃそうだよな。人気の怪盗キッドが地元に来るんだもんな。皆んな興奮するよな。)

 

「おはよう、裕太君。怪盗キッドのニュース見た?」

 

「おはよう冴子。あぁ、ビックリしたぜ。お陰で目が覚めたよ。」

 

「フフ、面白いわね。それで?行くんでしょう?米花美術館」

 

「当然。小学生は入場料無料だし、歩いて直ぐだからな。それに今年の七夕は日曜日。1日中いられるぜ。」

 

「なら、一緒に行かない?」

 

「冴子も興味あるのか?」

 

「えぇ勿論。」

 

「なら、そうするか。待ち合わせはどうする?」

 

「そうね、近いし、米花美術館前でいいわね。時間は9時にしようかしら。」

 

「OK。そうしよう。それじゃまたな」

 

「えぇ、また」

 

 

〜〜

 

 

当日。俺は冴子と2人になるだろうと思っていた。そしたら…

 

「私は冴子のお母さんの野上麗子よ。よりしくね、星川裕太君。」

 

なんかめっちゃ美人なお姉さんいた。

(いやこれでお母さんってか。ヤバすぎだろ…)

 

「あっハイ、よろしくお願いします…?」

 

「フフ、可愛いわね君」

 

「お母さん、早く行こ?もう人が沢山いるわ。」

 

「えぇそうね。それじゃ裕太君も行きましょ」

 

そうして俺たちは米花美術館に入っていった。

 

〜〜

 

キッド対策か、警察官が沢山いる。ただ警備員は然程いない。

 

「警備員が警察官に対して少なすぎやしないか?」

 

「なんでも月光蝶を返して貰うだけだからそんなに美術館側は怪盗キッドを捕まえようとはしてないみたいね。逆に警察は前回怪盗キッドにいいようにやられたからムキになってるようね。」

 

「あらあら、2人とも良く分かるわねぇ。そうそう、警察と美術館とで差があって、中々上手くいって無いみたいよ?」

 

良く見ると刑事さんと館長さんらしき人が言い争っている。元々月光蝶が置いてあった所はずっと空けていたみたいで、今日はそこに返して貰おうという算段らしい。

 

「それにしてももう既に人が多いわね。時間が分からない分、いつまで待てば良いのか分からないからね。」

 

「確かに、七夕だとは言ってたけど、時間は指定されてなかったな…」

 

「もしかしてこっそり返しに来るのかしら?」

 

「さぁねぇ、でも怪盗キッドは目立ちたがり屋みたいだから、出る時は派手に出てくるんじゃなーい?」

 

(多分麗子さんの言う通りだろう。怪盗キッドが現れる時は派手な演出がある筈だ。でも妙だな、俺の記憶が正しければ怪盗キッドは出てくる時間までヒントを出してくるハズなんだけど…)

 

物思いに耽っていたその時。

ドンッ!

誰かにぶつかって俺は壁に打ち付けられてしまった。

 

「チッ、ちゃんと歩けよなこのガキ!」

 

「すいません…」

 

「大丈夫?裕太君?」

 

「怪我はない?」

 

「えぇ、大丈夫です。」

 

そうして立ち上がったってその壁を見ると…

 

『船と月とが美術館に橋を架ける時、蝶は月光を浴びて舞い降りる。

 

         怪盗キッド』

 

ー怪盗キッドの予告状が貼ってあった。

 

 

〜〜

 

 

「それにしてもビックリね、まさか壁に貼ってあったなんて」

 

その後俺たちはその予告状を刑事さんに渡したところ、警備を固める為だと客は全員追い出されてしまった。それで今丁度昼食を取っている所だ。

 

「あぁ、まさか吹っ飛ばされた先に予告状があるなんてな。奇跡みたいだ。」

 

「今日は運が良いのね、裕太君は。」

 

「それにしても本当に6時に怪盗キッドは来るのかしら。」

 

(船と月とが美術館に橋を架ける時…刑事さんは船とはここから西にある船の研究所の事だと言っていて、橋を架けるっていうのはその船の研究所と美術館と月が一直線に並ぶことだって推理してた。そして西にある船の研究所と美術館と月とが一直線になるのは月が東にある時、つまり月の出てくる時間であり、満月の今日は丁度午後6時くらいという訳だ。尤も、今は7月なので月の出は18:00を過ぎた時間なんだが。しかし…本当にそうなのだろうか…?)

 

「さぁな。警察のミスリードの可能性もあるぜ。どっちにしろ今日怪盗キッドが来るのだけは間違い無いな」

 

 

〜〜

 

 

午後6時30分。米花美術館前はかなりの人が来ており、メディアも多数待機していたが。怪盗キッドは一向に現れない。

そこら中から来ないじゃねーか!怪盗キッドは逃げた!とか、逆に警察が怪盗キッドの出る時間を間違えたんじゃないか、実はもう終わったんじゃないかと騒ぎが起こっており、収まりが効かなくなっていた。

 

「大変ね。これじゃ怪盗キッドどころじゃないわ」

 

「どうする?あまり遅くなるようなら帰りましょうか?」

 

(いや、怪盗キッドは必ず来る!!多分警察の予告状の解読が間違ってたんだろう。何時だ、何時来るんだ、怪盗キッドは!考えろ!!)

 

「いや、怪盗キッドは必ず来るさ」

 

「「?」」

野上母娘は何故俺がそう言ったのか分からない様子だった。

 

(何時なんだ?船と月が美術館に橋を架ける時…恐らく一直線になるという考えは当たってると思う…なら何故違うんだ?船…月…船…月…船…船?何故船なんだ?満月の夜。月と船…)

 

その時。俺の目にあるビルが映った。

 

(あのビルは確かアポロ社のビル…!?そうか!そしたら月光を浴びて舞い降りるって事は…あそこしかない!!)

 

「分かったぜ…分かったぜ、怪盗キッド。」

 

「分かったの!?裕太君!?」

 

「えっ、本当に!?」

 

「あぁ、一緒に行こう、冴子、麗子さん。きっとそこに怪盗キッドはいるハズだ。」

 

 

〜〜

 

 

俺たちはとある場所に来た。

 

「本当にここなの?裕太君」

 

「待って…2人とも…おばさんを置いてかないでよ…」

 

「あぁ、俺の推理が正しければ必ずここに来るハズだ。絶対にな」

 

 

「ほぉー、良く分かったね坊や。良い推理だよ。」

 

そこには整った口髭を携え、真っ白なシルクハットを被り、片目だけレンズを付け、白の衣装を身に纏い、これまた純白のマントを羽織った紳士な雰囲気の男

 

ー初代怪盗キッド・黒羽盗一が、いた。




麗子か冴子かどっちのセリフか分からない所が多々あると思いますが、若干茶目っ気があるのが麗子、今までっぽいのが冴子です。まぁどっちが言ったにしてもあんまり変わらないので気にしないで下さい。


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織姫と彦星〜天の川に架かる夢の橋〜

お気に入りに登録していただいている方がこんなに短期間で増えるとは思いもしませんでした。ありがとうございます。小学校回での暗号も挑戦状の文言も自作なので、原作に比べて見劣りしているかと思いますが、後の話では原作の話やアニメの話を元に作る予定ですので、それまでは低完成度の仕掛け続きます。ご了承下さい。


「ほぉー、良く分かったね坊や。良い推理だよ。」

 

初代怪盗キッド・黒羽盗一は、屋上に出る階段の出口の上に立っていた。

 

「中々面白い挑戦状でしたよ、怪盗キッド。アポロ社と、アメリカの宇宙船アポロ号を掛けるとは。船の一字だけでそれだけの意味を持たせるとは…流石ですね」

 

「フフフ、その事に気付いたのは君だけだよ。だけどそこの2人は何故ココだと分かったかが理解出来ていないみたいだよ?」

 

「そっ、そうよ。もう少し丁寧に説明してくれる?」

 

「おばさんはもう何がなんだかよ…」

 

「えぇ、じゃあ始めから。船と月とが美術館に橋を架ける、この部分は刑事さんの言ってた通り、その船から月にかけて線で結んだ時に、美術館もその線上にある状態だということで間違いないだろう。そしてその問題の船だが、月で船と言えばやはり人類史上初の月面着陸に成功したアポロ計画だ。そこであっちに見える特徴的なビルが見えるだろ?あれはアポロ社のビルで、形状が正にそのアポロ計画で使われた宇宙船の形を模してるんだ。だから、あそこが挑戦状の言う船って訳だ。」

 

「成る程ね。なら時間は?18:00じゃないなら、何時だというの?」

 

「それは満月が丁度真っ直ぐ並ぶような時間であれば良い。満月っていうのは大体18:00くらいに月の出を迎え、0:00に南中、6:00くらいに月の入りするんだ。そしてアポロ社のビルは美術館から見て丁度北西!!詰まりは月が南東に来る時…大体21:00が美術館に現れる時間だ!!」

 

「ならなんでこのビルなの?別に関係無さそうに思えるけど…」

 

「このビルは屋上があってまず外に出られる可能性があること。さらにはこのビルの名前はエドウィンビル。アームストロング船長と一緒に人類史上初の月面着陸をした人の1人、エドウィン・オルドリンの名前と一緒だからね。舞い降りるって言葉通り、美術館に飛び降りるのに十分な高さでもあるからね。」

 

「すごい…良く分かったわね、裕太君」

 

「偶々だよ。偶然アポロ社のビルが目に入って、そこで気付いたんだ。」

 

「素晴らしい思考だよ、裕太君?君とそこの少女は見たところ小学生くらいだと思うんだが、いくつなんだい?」

 

「俺は7歳です。」

 

「私はまだ6歳ですけど、もうすぐ7歳になります。裕太君とは同じ小学校で、一年生です。」

 

「なるほど、小学校一年生。中々賢い子達だ。将来が楽しみだね。さて、君達は私を見つけた訳だけど、どうするつもりかな?」

 

「いや、どうもしませんよ。俺は。盗まれた宝石を返すだけならね。それに俺も貴方のファンなんですよ。この巡り合わせは嬉しい誤算ですよ。」

 

「ハハハ、なら私のサインをあげよう。」

 

そう言って怪盗キッドはどこからかマジックペンを取り出して、白紙のトランプカードにサインを書き、俺達三人に渡してくれた。

 

「「ありがとうございます。怪盗キッドさん」」

 

「わざわざ私までありがとうございます。」

 

「いいんだよ。これもファンサービスというものだ。私の居場所を突き止めた小さな探偵君に対する敬意の形でもある。さて、九時までまだまだ時間はある。そうだ、君達にマジックショーを見せようか」

 

「本当ですか!?やったー!!」

 

「珍しいわね、裕太君がここまではしゃぐなんて…でも私も興味あるわ」

 

「おばさんも楽しみ〜」

 

「フフ、では。It‘s show time!!」

 

 

〜〜

 

それから俺達は色んなマジックを見せて貰った。怪盗キッドのマジックの腕前は凄まじく、俺達は次第に彼の魅せるショーにのめり込んでいった。王道のトランプを使ったマジック、鳥を出したり、物を瞬間移動させたり。その後は一つだけ簡単なトリックを教えて貰った。

そしてー

 

「もう九時か…早いなぁ」

 

「楽しい時間はあっという間ね…」

 

「ハハハ、それでは私も元の仕事に戻らなくては。私も久しぶりに腕を奮ってマジックをしたよ。ありがとう」

 

「いえいえこちらこそ、貴重な体験でした。ではまた、どこかで会いましょう。」

 

「次も期待してるよ、裕太君、冴子ちゃん。ではっ!!」

 

怪盗キッドは背中のハンドグライダーを広げて、飛び立って行った。

 

「行っちゃったわね…」

 

「あぁ。」

 

「今頃会場は大騒ぎよ、きっと。さぁ、もう帰りましょう。裕太君もご両親が心配なさってるわ。」

 

「そうですね。帰りましょうか」

 

「えぇ」

 

 

〜〜

 

「ただいま〜!」

 

「もう!!遅かったじゃないの!心配したんだからね!!」

 

「ごめんって母さん。」

 

「テレビでも怪盗キッド現る!!って大騒ぎよ。でも警察は来ると予想してた時間が分からなくて、結局取り逃しちゃったみたいね。それで?怪盗キッドは見れた?」

 

「そりゃバッチリと。それも特等席でね」

 

「それは良かったわね!いいなぁ〜、私もついて行けば良かった〜」

 

「ハハハハハ。でも本当に凄かったよ!!俺興奮しちゃった」

 

「珍しいわねぇ、裕太がそこまで言うなんて。さぁ、遅いしさっさとお風呂入ってきなさい。」

 

「ハーイ」

 

 

〜〜

 

 

お風呂に入ろうと思い、服を脱いでいたら、ズボンのポケットから一枚のカードが出てきた。

 

「なんだこれ?」

 

裏返すとそこには…

 

『彦星は無事織姫と出会えました。君は君の織姫と良い夜を過ごせたかな?

             怪盗キッド』

 

「…全く。ホント、キザなこった。」




初代怪盗キッドとの絡み、如何でしたでしょうか?そして最後のカード。裕太だけが貰ったのか、それとも冴子も貰っていたのか…皆さんのご想像にお任せします。


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夏休みといえばプール

推理小説を書くのは中々に難しい…。原作まで行くのに時間掛かってて申し訳ございません。原作まで行けば楽に事件でもキャラとの絡みも書けるんだけどなぁ。



夏休み。それは数多の学生が待ち望みにしている最高の休み期間だ。

当然俺も待ち遠しにしていた。

(前世から俺は夏休みってのが学生期間の中で1番好きだ!!やっぱり何もしなくて良いのは最高だよなぁ!!遅くまで寝られるし、なんでもできる!!課題は出てたけど、小学生の課題なんて楽勝楽勝。ドリルとかは全部やったし、自由研究もパパッと済ませたし、夏休み全日分の絵日記も終わらせた()し。)

 

夏休みにすることといえば。海でも川でもプールにしても、やはりどこかしらで泳ぐことだろう。そして俺は今、米花プールランドに来ている。

(いやぁ、それにしても凄い人数のもっこり美女!!大学生だった俺には刺激が強い…っていうか!大体彼氏持ちじゃねぇか!クソッ、リア充は死ね!!)

 

「な、何を殺気立ってるのよ…」

 

「冴子…何でもないですよーだ」

 

「フーン…さっき女子大生を眺めて鼻の下伸ばしてたのは関係ないと?」

 

「いやなんで分かっ…あ」

 

「ふふふふふ…」

 

「あのぉ冴子さん?その僕の心を突き刺すような笑顔をやめていただけませんこと?」

 

「フンっ、知らないわ」

 

「悪かったって…この中じゃ冴子が一番可愛いよ」

 

「えっ…あ、ありがと…」

 

(チョロい)

 

 

「ブワックション!!」

 

「っ!!」

なんだ!?いきなり近くでクシャミが!!

 

「す、すまないな君…大丈夫か?」

 

「えぇ、まぁ…」

(人の近くでクシャミなんかするなよ…)

 

「ごめんなさいね、ウチの彼氏が。」

 

「オイオイ、またか?」

 

「大丈夫ですか?勝君?」

 

後ろを振り向くと大学生くらいの男の人がいて、横には彼女らしき女の人と、その後ろには友達なのかもう一組のカップルがいた。

 

「鼻炎なんでしょ?ハイ勝君、ティッシュ」

 

「あぁ、ありがとう…ブワックション!!」

 

(てかなんで鼻炎でクシャミ出るのにプールなんか来てんだよ…)

 

「あの、皆さん知り合いなんですか?」

 

「えぇ、私達は大学の同級生で、私は藤堂美咲。そしてこのクシャミ出てんのが彼氏の木下勝。」

 

「俺は今井克哉。そしてコイツが」

 

「克哉君の彼女の川崎愛梨です。といっても私は藤堂さんと木下君とは最近知り合ったばっかりなんだけどね。」

 

(あれ?この川崎って人、木下さんのことさっき勝君って呼んでたような…)

 

「そうなんですね。」

 

「あぁ、君達もデートか?まだ小さいのに、いいねぇ〜w」

 

「いや、デートって訳では「フンッ!!」痛っテェ!!何すんだ冴子!!」

 

「別に。何でもないわよ」

 

「あらら、悪かったわね。じゃあねお二人さん。」

 

「さ、さよなら…イテテ…」

 

「さようなら。…フンッ」

 

「wwwじゃあ俺らも行くか!まずはウォータースライダーだ!!」

 

「ちょっと、待ってよ克哉君!!」

 

「私達はどうする?クシャミ出るならサイドの方に行く?」

 

「あぁ、そうしよう。すまないな美咲。後でなんか奢るよ。」

 

 

「冴子、俺らはどうする?」

 

「知らないわ」

 

「その、デートじゃないって言ったのは謝るからさ、だから機嫌直してくれよ」

 

「なら、今日一日私に付き合うこと!分かった?」

 

「へーい…」

 

 

「若いって良いわねぇ」

 

「お宅の娘さん、ウチの子のこと気に入ってくれてるみたいですねぇ」

 

「えぇ、前は男子なんて!!って言ってたんですよ?それが裕太君と知り合って以来あんな調子でw」

 

「あらあら、あらあらあら。これは恋の予感?」

 

「良いですわねぇ、なんなら将来結婚してくれると嬉しいわ〜。裕太君みたいないい子だったらお婿さんに欲しいですわ」

 

「あらやだ。オホホホ」

 

遠くで見ていた両母親によって2人の将来が決められそうになった瞬間である。後にこの2人の取る行動とは?冴子はともかく、裕太に知る由はない。

 

 

〜〜

 

 

「プハ〜!俺の勝ち〜!」

 

「プハッ、速すぎよ裕太君…そろそろお昼にしましょう?」

 

「ん、そうだな。」

 

25mタイム競争をした二人は、母親達と共にフードコートへ向かった。

 

「混んでるわねぇ…」

 

「どこか空いてるか?」

 

そうやって母親達が食べ物を買ってる最中に席を探していた二人だったが…

 

「ブワックション!!」

バッシャアァァ!

 

「うわぁあ!!」

 

突然倒れてきたジュースが俺の身体にかかってきた。

 

「す、すいません!!…あれ、さっきの君か!またまたすまんな…」

 

「い、いえ…」

 

「もう、何やってんのよ。ホラ、さっき貰ってたティッシュで拭いてやんな。テーブルは私が拭くから。」

 

藤堂さんは数枚とってテーブルを拭き、後は木下さんに渡した。

 

「あぁ、ありがと。……これで大丈夫かな?」

 

「えぇ、どうも」

 

「こちらこそ、二回もごめんね」

 

「いやいや、大丈夫ですよ」

(ふざけんなよこの野郎!!)

 

「席を探してるならココいいわよ、私達そろそろ出るから」

 

「ありがとうございます。」

 

「いいのよ、ジュースかけちゃったお詫びだと思って。それじゃ」

 

「じゃあな君達、バイバイ」

 

「さよなら〜」

 

「行ったわね。…あっお母さん!コッチよ!!」

 

母さんズと合流した俺達はそこで昼飯を食った。

 

 

〜〜

 

 

昼食を取り終えた俺と冴子はまた母さん達と別れてウォータースライダーの方へ来た。

 

するとそこで…

 

 

「オイ、しっかりしろ!!美咲!!しっかりしろ!美咲ーーー!!」

 

ー藤堂さんが、倒れていた。



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恋の中身はヘドロ

感想や評価、アドバイス等お待ちしてます。
更新に時間が掛かり申し訳ございません。


「オイ!!美咲!!返事してくれ!!」

 

プールサイドで藤堂さんが倒れていて、木下さんが必死に声を上げる。

不味いな…全然反応してない!!このままじゃ藤堂さんは…

 

「待ちなさい!!揺すってはダメ!離れて頂戴!!…まだ脈はあるようね。すいません星川さん、救急車と警察に連絡を。」

 

「は、はい!!」

 

意外にもその場をまとめ上げたのは冴子のお母さん、麗子さんだった。

 

「お母さんは元警察官で刑事だったのよ?」

 

「それは初耳だな」

 

なるほど、この手際の良さとこの様になってる感じは元本職だからか。

 

そうこう思っている内にプールの関係者と麗子さんによる応急処置を受けた藤堂さんは担架で運ばれ、救急車で搬送された。それと同時に警察による事情聴取やら現場検証が始まった。

ん?あれは…

 

「目暮、事故当時の状況を聞いてこい」

 

「はいっ!」

 

(目暮警部!?若っ!見たところまだ20代前半くらいか?今ほどは太ってないけど、横幅は元からあったんだな。帽子被ってるってことはもう奥さんとの馴れ初めは過ぎてるのか…)

 

そんなことを考えていると目暮警部、いや今はまだ目暮巡査部長か。が、ウォータースライダーとプールの関係者に事情聴取を始めた。

 

「え〜、ではまず現場の状況からお聞きします。被害者の藤堂美咲さんはウォータースライダーを滑り終えてプールに入った後、突然溺れだしたんですね?」

 

「はい、私はプールサイドで監視をしてたんですけど、ウォータースライダーからプールに入った後直ぐに溺れたようでした。」

 

「なるほど。そして次は貴方。貴方はここのプールの管理者の方ですね?このプールに欠陥や、水流の異常などは無かったのですか?」

 

「えぇ、特に問題は…ウォータースライダーの水流も水量も正常なままです。」

 

「そうですか。ありがとうございます。」

 

そういうと目暮巡査部長は続いて仲間の三人に事情聴取を始めた。

 

「貴方達の関係を教えて頂けますかな?」

 

「えっ、俺達は大学の同級生で、俺は美咲の彼氏の木下勝です…ブワックション!!」

 

「自分は木下の高校時代からの友人で、美咲とも大学入学以来の友人の

今井克哉です」

 

「私は克哉君の彼女の川崎愛梨と申します。木下君と藤堂さんとは最近知り合ったばかりで、今日は四人でここに遊びに来たんです。」

 

「そうですか。さて、木下さんにお聞きしますが、貴方は藤堂美咲さんとウォータースライダーで一緒に滑っていたそうですね。何か藤堂さんにおかしなところとかはありませんでしたか?」

 

「いえ、いつもと同じだったと思います。…あっ、でも滑ってる最中にいきなり体が怠いって言ってました!!」

 

「それはどういった?」

 

「ハイ、滑ってる時に唐突になんか体がしんどいって言い出して、その後直ぐにプールの水の中に入ったのでその後はよくは分かりません…」

 

「ハンッ、そう言うけど、実はお前が美咲を殺したんじゃねぇのか?」

 

「なんだと、克哉!!」

 

「克哉君!?どうしてそんなこと…」

 

「…どういうことですかな?」

 

「刑事さん、コイツ本当は隠れて浮気してたみたいで、俺にこっそり相談してたんですよ。美咲に飽きた、別れようかなって。」

 

「オイッ!!克哉!!」

 

「本当ですか?木下さん」

 

「うっ…えぇ、浮気してたのは事実ですし、別れようかなとも思ってました。でも!やっぱり美咲のことが好きだって再確認して、今日は美咲と少し微妙な関係になってきてたので仲直りにって来たんです…」

 

(成る程、浮気相手に靡いて彼女を捨てたい…それで藤堂さんを手に掛けてしまった…有り得なくは無いな)

 

「嘘つくなよ勝。お前、美咲のこと散々良いようにこき使ってたくせによく言うぜ。どうせ美咲がお前から離れていきそうだったから引き留めるためだろ?それに失敗して美咲を殺そうとしたんじゃないか?」

 

「違う!!そんなんじゃない!!本当に美咲は途中で辛そうになって…」

 

 

(これは決まりか?)

 

「もう木下さんに決まりかしら?」

 

「さぁな。でもこのままいくと木下さんがクロだ。」

 

 

「そういう克哉だって!!お前美咲に大学の夏の留学推薦盗取られたって言ってたじゃないか!!」

 

(ん?風向きが変わったか?)

 

「な、何言ってんだよ。確かに美咲に推薦は取られたけど、それは研究成果が美咲の方が上だったからだ!」

 

「嘘をついてるのはお前だ!!お前この前俺に俺の方が評価高いし推薦は確実だって言ってたじゃないか!それが何で美咲に変わってるんだよ!!」

 

「説明していただけますか?今井さん」

 

「ぐっ…、実は最初は推薦貰えたのは俺だって確信してたんです。でも、蓋を開けてみたら美咲が選ばれてて…教授に聞いてもはぐらかされてまともな回答を貰えなかったんです…でも、だからといって美咲を殺そうとは思いませんよ!!それに第一、俺にはアリバイがある!!美咲が溺れた時、俺は愛梨と一緒に流れるプールの方に行ってたんだ!!そうだろ!?愛梨!!」

 

「えぇっ!?…は、はい。私達はその時にはウォータースライダーにはいませんでした。」

 

「私はウォータースライダーの監視をしてましたが、彼らはいませんでしたよ?」

 

「そうですか…まぁ事故だった可能性もあるので、藤堂さんが目を覚まし次第木下さんの証言の真偽は分かるでしょう。今井さんは…アリバイがありますから違うでしょう。」

 

「ホッ…良かったぜ。」

 

「ちょっと待て、そしたら俺は美咲が目を覚さないと容疑が晴れないのかよ!!」

 

「そうなりますね」

 

 

〜〜

 

 

「どう思う?裕太君」

 

「麗子さん…」

 

「私なんかこの事件、胡散臭く感じるのよねぇ〜」

 

「それは…勘ですか?」

 

「うん!!」

 

(このオバハン本当に刑事だったのかよ…)

 

「大丈夫よ。お母さんの勘は当たるのよ」

 

「あっそ」

 

(正直あんな所でいきなり藤堂さんが溺れるとは思えない…今井さんはアリバイがあるし、流石に木下さんがクロっぽいけど…でもあんな大勢の目があるところで藤堂さんを沈めて溺れさせることはできるのか?もしやるとしたら水中だな。水上に一回出た後に藤堂さんを沈めて溺れさせるなんて出来ないんだからな。でも鼻炎の木下さんに長いこと潜るだけの息が持つのか…?

もしかして…ウォータースライダーの中で元から苦しめてからプールに!?でもどうやってだ。藤堂さんには目立った外傷等はなかった筈だ…あぁもう!!ワカンねぇ!!

…事故じゃね?もうこれ事故だろ。)

 

「私はやっぱり木下さんが怪しいと思うんだけど。どう思う?裕太君」

 

「あぁ、どうせ事故だよ。他の客もいる中で木下さんには藤堂さんを溺れさせるなんて出来ないよ。それに今井さんにはアリバイがあるし、川崎さんも言わずもがなだ」

 

「…そうかしら」

 

「そうだよ。」

(あーあ、真剣に考えて損した。考えたら腹減ったな…もう一回あそこの焼きそば食いて〜。でもこんな状況で母さんに強請るのもなぁ…

そういや席譲ってくれたの藤堂さんだったよな。木下さんにジュースぶっかけられてティッシュで拭いてもらって。

…そんなこと思ってたら売店のとこまで来ちまったじゃねぇかよ。ったく)

 

そんなことを思いながらブラブラしているとゴミ箱を見つけた。

 

(あーあ、紙コップやら包装紙やらで溢れ返ってんじゃねぇかよ。ん…?このティッシュのビニール…川崎さんが木下さんにあげてたやつ……!?!?!?)

 

それを手に取って顔に近づけた瞬間、俺の体に電流が流れた。

 

(ハハハ、マジかよ。そうか、あの時の発言!!俺たちはとんでもない勘違いをしてたみたいじゃねぇか。)

 

 

「麗子さん」

 

「ん?なぁに、裕太君?犯人でもわかっちゃった?w」

 

「はい。もし僕の推理があってるなら、これから睡眠剤が検出される筈です。」

 

「…分かったわ。鑑識さんに渡しておくわね。」

 

 

〜〜

 

 

「え〜、では、お騒がせしました。もう結構ですよ」

 

目暮巡査部長の上司がプールの外で待たされてた人達を解放した。まぁいいだろう。こんなことは関係者だけで話せば良い。

 

「ちょっと待って下さい。刑事さん。」

 

「誰だ?坊主、俺たちは今仕事中なんだ。邪魔すんな!」

 

「まぁ良いじゃないですか。聞いてあげて下さいよ。」

 

「こっ、これは野上さん!しかしですね、このガキがなんだっていうんですか?」

 

「この子の推理は聞く価値があると思うわよ。」

 

「なんですって?…坊主、言ってみろ」

 

(なんとか聞いてもらえそうだな。麗子さんに感謝だぜ。)

「はい。ではまず、今回の事件は藤堂美咲さんを狙ったわけでは無いということをお伝えします。」

 

「「!!??」」

 

「どういうことだ!?坊主!!」

 

「落ち着いて下さい。まず、藤堂さんは木下さんが直接手を下して溺れさせられた訳ではありません。なぜなら、そんなことをする余裕なんて木下さんには無いからです。」

 

「なんで?裕太君」

 

「まずウォータースライダーで滑ってる時に溺れさせる、これは絶対に無理です。高速で滑るウォータースライダーで、しかも自分の尻あたりにしか水は流れてない訳ですし、まず顔を水に付けた状態で出てきたら監視員の方が気付く筈です。次にウォータースライダーの先のプールではどうか。これも無理です。監視員だけでなく、他の客もいる中では無理でしょう。それに木下さんは鼻炎を患っているのでそんなに長くは息を止められないし、第一に木下さんは直ぐに顔を出したと監視員の方言っていました。よって、木下さんはシロです。」

 

「成る程な…では犯人は今井さんだと?」

 

「!?俺は違うぞ!!ガキ!!」

 

「分かってますよ。今井さんもシロです。そして当然事故でもありません。犯人は……川崎愛梨さん。貴女だ!!」

 

「「!?!?」」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ。私は藤堂さんとは最近知り合ったばかりなのよ?動機が無いわ」

 

「その最近とは?」

 

「2、3週間前よ」

 

「成る程。では、木下勝さんとは?」

 

「「っ!!」」

 

「お、おい愛梨!!勝!!お前らまさか…」

 

「どうなんですか?お二方?」

 

「そうよ!勝君とは一ヶ月前くらいから関係を持ってたわ!!それも肉体関係を!!」

 

「愛梨ちゃん…」

 

「愛梨、勝…どうしてだよ…」

 

「すまない克哉…」

 

「あの時の…あの時の浮気相手って愛梨のことだったのか!?なぁ!!勝!!」

 

「…あぁ」

 

「っ!!クソっ!!」

 

「でも、私がやったって証拠はあるの!?確かに私と勝君は浮気してたけど、でも藤堂さんを殺そうとするわけないじゃない!!」

 

「そうですね。貴女は藤堂さんを殺すつもりはなかった。でも、木下さんを殺そうとはしましたよね?そしてそれが結果的に藤堂さんになってしまった。違いますか?」

 

「!?…証拠が無いのによくもそうまで言えるわね。いくら小学生だからって言って良いことと悪いことがあるのよ?」

 

「…鑑識さん」

 

「あぁ。これは、君が木下さんに渡したティッシュのビニールで間違いないね?」

 

「!!!?」

 

「あ、あぁ。それは俺が受け取ったやつですけど…それが何か?」

 

「このティッシュカバーの裏で睡眠薬が検出されました。」

 

「す、睡眠薬?どうやってそれで…」

「貴女は睡眠薬を塗したティッシュを木下さんに渡した。貴女は予め木下さんが鼻炎で鼻を嚼むのを知っていたのでしょう?そのティッシュで鼻をかんだら泳いでる途中に眠ってしまい、溺れる。木下さんがプール好きで鼻炎でもずっと泳いでいるだろうと踏んでの犯行でしょう。これは立派な計画犯罪ですよ、川崎さん」

 

「愛梨…」

 

「…そうよ。私がやったわ。つい最近になって勝君から関係の解消を言われてね。カッとなったのよ。こっちは頑張って克哉君にバレないようにしてまで勝君に会いに行ってたのに!!藤堂さんを捨てたら私と付き合うっていうから!!なのに…なのに勝君は私を裏切って!!だから私は勝君を殺そうと決心したのよ」

 

「…署まで来てもらおうか」

 

〜〜

 

そう言って刑事さんは川崎さんに手錠をかけてパトカーまで連行していった。

その後今井さんは自分の彼女が犯罪を起こしたことやら自分に隠れて浮気していたことに意気消沈した様子で、廃人のようだった。

藤堂さんは無事回復したが、木下さんとは別れたようだ。

木下さんは自分が狙われていたことに恐怖を覚えてしまい、藤堂さんに依存しそうになっていたが、藤堂さんにフラれたことで完全に生きる屍のようになってしまった。

 

ー人殺しは人類最悪の禁忌である。

 

友人同士での殺人未遂…これは彼ら彼女らに深い傷痕を残すだけだった。

 

 

 

〜〜

 

 

「なんで木下さんは睡眠薬が効かなかったの?木下さんもあのティッシュで鼻をかんでたんでしょ?」

 

「あぁ、それは多分下の方のティッシュにだけ睡眠薬を塗してたからだよ。下のティッシュだけに仕込んでおけばそのティッシュのカバーとティッシュはすぐにゴミ箱に捨てるだろ?そうすれば証拠は残らないしな。」

 

「成る程ね…でも、どんなに仲のいいカップルでもああいう風になっちゃうのかしら…」

 

「さぁな…」

 




ポケモンネタすんません。これからもこのSSでは唐突な訳わからんネタを挟みます。ご了承下さい。
今後は時代が進むのを早める予定です。流石にチマチマ進んでたら原作に追いつくのに時間が掛かりすぎますし、原作とは違って完成度の低い事件を連発することになるので。


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しばしの休憩…嫁は佐藤美和子が良い〜!!

これからは段々と時代を進めて行きます。
今回はほぼ幕間回ですね。なので短いです。


「君が、星川裕太君だね?私は野上剛昌。冴子の父であり、警視庁の警視監だ。」

 

(は!?…オイ冴子!!聞いてないぞ親父さんが出てくるなんてさ!!)

 

「ど、どうも野上さん…それではっ!」

 

「まぁ待て裕太君。話をしようじゃないか」

 

(こ、こ、怖ぇぇ!!)

 

【悲報】精神年齢27歳ワイ、JS冴子に誘導され野上家にて野上警視総監(現在は警視監)と対面

 

 

〜〜

 

 

ある日。二学期になり、最初の夏休みを終えて少し経った頃。

 

「明後日の日曜日、予定はないわよね?」

 

「おや、無いけど…てか冴子、無いわよねってなんだよないわよねって。こっちにだって予定があるかもしれないだろうが!」

 

「フフフッ。裕太の行動予定ならキッチリと把握してるわよ。そのくらい」

 

「えっ…」

 

(何この子怖い…ナチュラルにいつもの笑顔で恐ろしいこと言ってんだけど…てか躊躇無かったよな…)

 

「いつも一緒にいるんだし、親同士でも繋がりあってるんだから。もう遠慮はいらないでしょ?」

 

夏休みのプールでの事件以降それまでは子供同士仲良くしてるから付き合ってただけだった親、特に母さん達が急接近をし始め、それと同時に冴子も裕太と完全に呼び捨てするようになった。

 

(なんか距離感も近いんだよなぁ…)

 

「いやいや、普通友達同士で相手の休日の予定まで知ってるのはおかしいって。確かに母さん達はあんなだけどさ、それに付き合う必要はないだろ」

 

「……友達、ね…。いいんじゃないの?お母さんも裕太のこと気に入ってるみたいだし?それにお父さんも私とお母さんの話を聞いて興味持ってるのよ。あと、麗香もまた会いたいって言ってたわ。なんだかもう夫婦になったみたいねwクラスの皆んなが言ってるみたいに。」

 

(スンゲェ笑顔。自分の思う通りに進んでほくそ笑んでやがる…)

 

夏休みの終わり頃、俺と母さんは麗子さんに誘われて軽井沢にあるのだという別荘で一泊したのだ。そこで野上姉妹次女の麗香ちゃんとも出会った。最初は俺のことを警戒して、「お姉ちゃんは渡さない!!」なんて言ってたのだが、三人で遊んだりみんなでご飯食べたり観光したりしてるうちに打ち解けることが出来た。仕舞いには「裕太お兄ちゃんって呼ぶね!!」なんて言われちゃったりもした。

 

(あらら?なんか俺、野上家にどっぷり浸かってない?)

 

「別に小学生の時の関係なんて大人になりゃ消えてるんだから。気にすんなよ。」

 

そう言うと冴子の視線はとても冷たく、それでいてどこか黒いものになったが、一瞬でまた元に戻った。

 

「まぁ話を戻すと、明後日お夕飯を一緒に食べることになったのよ。それを伝えたかっただけ。それじゃあね裕太」

 

そう言って冴子は自分家の方へと別れて行った。

 

「…最初から拒否権ねぇじゃん…」

 

 

〜〜

 

 

そんなこんなで野上家へ夕飯を食いに来るとそこには冴子の父親がいて。ご飯を食べる前に話をしようと言われて冴子の父親の書斎に通されたって訳だ。

 

「君は冴子のことをどう思っている?」

 

「えぇ?えっと…近所の仲のいい友達…ですかね」

 

「フッ、そうか。冴子も大変だな。いや、いいんだ。まぁ気にしないでくれ。」

 

「は、はぁ。」

 

「あぁそれと私のことはお義父さんと呼んでくれ」

 

「えぇ!?いやそれはちょっと…」

 

「ハハハ!!冗談だ。……まだ早かったか?」

 

「ハハハハハハ…」

 

(お義父さんなんて…まるで俺と冴子が結婚するみたいじゃないか!!俺が狙うはただ一人!!佐藤美和子!!てか美和子ちゃんどこだよ!!全然見かけねぇじゃねぇか!コナンキャラ黒羽盗一と目暮巡査部長だけだし…どうなってんだよ…)

 

 

この時裕太はまだ知らない。将来その佐藤美和子におめでとう!!と言われながら冴子とバージンロードを歩くことを。これからさらに星川野上両家が、主に母親達によって密着していくことを。

 

 

〜ー

 

side冴子

 

ゴメンなさい裕太…どうしてもお父様が裕太と話したいと言うんですもの。仕方ないわ。恨まないでね!

それにしても裕太はまだ私のこと友達だなんて言っちゃって…こんなに密接な関係を友達だなんて言葉で形容するのは野暮ってものよ。

 

一学期からそうだったけど、周りの男子共は私にちょっかいかけてくるばっかり。ホント男子っバカよね。それに比べて裕太は落ち着きがあって運動も出来て頭も良くて背も高ければ足も速い。極め付けはあの推理力。刑事を目指す私にとって目標でもあるし、いつかパートナーを組みたいと思える相手。勿論、公私ともにパートナーになれたらなんて…キャッ!!

 

幸い両親ともに裕太への印象は良いし、ポテンシャルも申し分ない。

だからこれからもずっと、一生貴方と一緒よ、裕太。

 




野上警視総監って名前無いですよね?後あんまり記憶ないので口調間違ってたら教えて下さい。


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旅先の雪には要注意

今回は実際に起きた事故をモデルにしております。
また短めです。


野上父と会ってから一年半経ち、今は二年生と三年生の間の春休み。今回は麗香ちゃんの小学校入学と唯香ちゃんの誕生祝いで北陸に来ていた。しかし…

 

「なんでウチまで旅行に行くんだ?」

 

「冴子の許婚ですもの、麗香と唯香のためにも祝って頂戴?」

 

(いつ許婚になったんだよ…勝手にするなよ…)

 

「そうよお義兄さん!!今のうちからウチの家になれとかなきゃ!!ね〜、唯香」

 

「フフ、唯香もそうだそうだ〜って言ってるわ」

 

「折角こんな良い旅行誘って貰えたんだから万々歳じゃない。ホント、野上さんには感謝よ。それにこんな可愛い子をこの年で捕まえたんですもの。ちゃんとしなきゃダメよ?裕太」

 

(母さんまで毒されてらぁ…)

 

「お義母様、可愛いだなんて、そんな…照れますわ」

 

(うっわ照れてる演技してやがるぜ…お前自分が他人より見た目いいの分かってんだろうが、この前ロリコン疑惑のある先生のこと煽りに煽って利用して気に入らない男子を追い詰めてた癖に…)

 

「冴子ちゃんは誰が見ても可愛いわよ〜、ホント裕太が羨ましいわ〜」

 

「ハッハッハ、娘も増えたし冴子の婿も決まったし、俺ももっと頑張らなきゃなぁ!!」

 

「あなたもあともう少しで警視総監になれるんだから頑張ってね」

 

「裕太も刑事になったら野上さんの義息子兼部下になるわね。」

 

「そうっすね…」

 

「裕太、さっきから黙ってるけど大丈夫?気分悪い?」

 

「いや、景色を眺めてたんだよ」

 

(んな訳あるか!!こっちは好き放題言われまくって腹立ってんだ!!俺はこの世界に来たのはそう…佐藤美和子ちゃんと結婚するため!!…でもこんな状況じゃ冴子とは結婚しませんなんて言えねぇ…)

 

「もう…でも良い眺めよねぇ…」

 

「綺麗な景色〜!!お姉ちゃん、窓側変わってよ!」

 

「ハイハイ、どうぞ」

 

俺たちが乗っている電車からは日本海が眼下に広がっており、まさしく海の側を走っている。

 

「こんな崖によく電車なんて走るわね…」

 

「ここは親不知子不知といって、北陸の名所でもあるんだぞ」

 

「それに塩害も良く起きて、鉄道の中でも屈指の難所としても有名だな」

 

「裕太君、よく知ってるな」

 

「フフ、なんだかんだ楽しみにしてたのね」

 

「私と行くのそんなに楽しみだったの?裕太」

 

「別に冴子と行くのが楽しみだった訳じゃねぇよ、偶々知ってただけだ」

 

「つれないわねぇ…」

 

「それにしてもすごい雪…もう三月よ?お義兄さんもそう思うでしょ?」

 

「そうだな、今年は例年になく厳冬だったのはそうなんだけど、三月中旬になってまだこんなに雪があるとはなぁ…」

 

海とは反対側、山には未だに多くの雪がのっかっている。雪化粧というより、今にも崩れそうに重々しく積もっている。

 

(雪崩とか起きないでくれよ…)

 

「スキーとかもいつか行きたいね!!」

 

「そうね。来年はスキーに行きましょうか」

 

「おお、いいな!!どうです、星川さんも」

 

「あら、もう来年の事なんて。勿論御一緒させていただきますわ。ね、裕太?」

 

「えっ?あ、あぁ…」

 

(なんでもう来年の旅行まで決めてんだよ…それにしれっとまたウチを巻き込むな!!)

 

「楽しみだね〜お姉ちゃん」

 

「そうね。その時には唯香はどれくらい大きくなってるかしら」

 

「オイオイ、来年のことより今日のことだろ」

 

 

 

そうこうしていると、電車は親不知駅に到着。間も無くして汽笛を鳴らして出発し、少し走ってトンネルに入った所で止まった

 

 

『停止信号です。暫くお待ち下さい。』

 

「トンネルで止まらないでよ、もう!!」

 

「怒らないの、麗香。はい、お父様の番」

 

皆んながババ抜きをする中、俺は違和感を感じていた。

 

(何か見落としてる気がすんだよなぁ…それも重大なことを…)

 

 

そうしてことは起きるー

 

 

 

ドゴォォォォォ!!!!!!

 

 

「な、何!?」

 

後ろの方から何かが落ちてくる轟音がトンネル内に木霊する。

 

「雪崩だ!!!」

 

後部車両に駆けつけた俺の目に映った光景は…

さっきまで走っていた線路に雪が大量に流れ、線路を呑み込んで覆い被さっているというものだった

 

「何よ…これ…」

 

「……」

 

みんな声を出せなかった。その余りにも凄まじい光景に。そしてもしもう少し遅くココを通っていたら、巻き込まれていたということに戦慄していた…

 

(これは…)

 

「な、何ごとですか…な!?」

 

そこに運転手さんまでやってきた。

 

「あぁ!!山崎君!!山崎君が!!」

 

「どうしたんですか!?運転手さん!!」

 

「車掌の山崎君が…雪崩に巻き込まれているかもしれない…」

 

「「「えぇっ!!??」」」

 

「どういうことですか…?」

 

「無線が繋がらないので、親不知駅まで行ってきてくれないかと指示を出したんです…そしたらこんなことになってしまって…」

 

「!?麗子!!警察に電話できるか!!」

 

「えぇ、なんとか!!今かけるわ」

 

 

車内が慌しくなる中、俺だけは…

 

(汽笛を鳴らしてこの電車は出発した…まさかこの雪崩…)

 

ー1922年2月3日、ここと同じ場所…親不知〜青海間で起きた最悪の事故、

北陸線列車雪崩直撃事故に、原因がそっくりに思えた。




どれくらいの文字数が良いんでしょうか?もう少し一話の文字数増やした方が良いですかね?私自身あまり長い文章読むのが嫌いで短い文章を数読むのが好きなのですが、皆さんはどうでしょうか。
感想等お待ちしております。


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裕太の気持ち

間隔が不定期で申し訳ございません。私自身塾と部活とがありまして、中々定期的な更新が出来ないんです。申し訳ございません。
そして感想で、主人公が傲慢で萎えるというのがありました。これについて、主人公は私をモチーフとしていまして、小学生時代に傲慢で謙虚のけの字も知らないような人間だった私を投影しています。気持ち悪い、嫌いだと感じると思うんですが、こういう時期をあえて描写することで良くも悪くも人間らしさを表現したいんです。勿論このままの性格で終わる訳じゃありません。この主人公も成長していきます。現時点ではその過程にあるので、ご了承下さい。長文失礼しました。


俺と冴子はトンネルの入り口で親不知駅に向かって走る運転手さんの後ろ姿を眺めながら立っていた。

 

「ねぇ裕太?」

 

「ん?なんだよ」

 

「裕太は、怖くないの?」

 

「んー、そうだな。車掌さんが埋まってるかもしれないんって考えると怖いけど、今はあまりかな。想像つかないし」

 

「そう…私はやっぱり恐ろしいわ。どうしても…」

 

「そうか。なら、電車の中に入って麗香ちゃん達のところに行って待ってなよ。」

 

「…そうね。」

 

そう言うと冴子は気分悪そうに、どこか悲しげに車内へ戻っていった。

 

(大丈夫かよ、冴子…)

 

 

少し時間が経つと、除雪の作業員を乗せたトラックと除雪車がやってきた。

 

「こりゃあ酷いな。最低でも2時間は掛かるかもしれんぞ。」

 

「お願いします!山崎君が…車掌の山崎君が埋まってるかもしれないんです!!」

 

「そうですか。オイ皆んな!!早く始めてくれ!!時間の猶予は無い!!」

 

そうしてチーフらしき人の掛け声と同時に作業員の方達が一斉に除雪作業を始めた。

俺は出来ることが無いので、それをボンヤリと眺めていた。

 

「裕太君、怖くはないか?」

 

「えぇ、まぁ。ただ、この雪です。正直なところ…その…」

 

「…まぁそうだな。全く、恐ろしいものだな。あと少し早かったら、俺たちもこの雪崩の下敷きになっていたかもしれないと考えると、本当に不幸だったな…事故は怖いものだな」

 

(事故、ね。事故に見えるけど、なんか引っかかるんだよな…)

 

 

「うっ、うわぁぁぁぁっぁ!!」

 

「「!?」」

 

「どうした石松!」

 

「ひ、人が…うっ…」

 

石松と呼ばれた人の先を見てみるとそこには…

雪崩で押しつぶされ、所処が潰されてしまい、原型をとどめていない車掌さん、山崎さんの遺体があった。

「こ、これは…」

 

「うっ…」

 

「っ!……」

 

作業員の方達が見ては目を逸らし、何か逃げるようににそれぞれの持ち場に戻って作業を再開した。しかしその表情はとても暗く、気の毒といった様子だった。

 

(こ、これは…うっ…)

 

(これが、遺体…これが…人の死?…警察の人とかはこれを何度も見てるんだ…これを見るのが、仕事になるのか…?)

 

俺も、思わず目を閉じて後退り、後ろを向いてしまった。そしてバツが悪くなってしまい、走って車内へと駆け込み、誰もいない最後尾の車両のボックス席で一人で俯いて座った。そこに一つの足音が鳴った。

 

「裕太。」

 

「…冴子か…」

 

「車掌さん、亡くなってたそうね…」

 

「……」

 

「遺体、見たの?」

 

「……」

 

「そう。怖かったのね。」

 

「っ!煩い!!あっち行け!!…ほっといてくれよ…」

 

(違う、そんなこと言いたい訳じゃない…冴子は悪くないのに…何八つ当たりしてんだよ俺。…クソッ)

 

そうして俺はその席で顔を伏せてしまった。しかしそんな俺を、冴子は抱きしめた。

 

「…冴子?」

 

「辛かったでしょう。それに、初めて遺体を見て、気持ち悪くなったんでしょう。分かるわ。」

 

「…将来、俺は刑事になりたいと思ってるんだ…」

 

「……」

 

「そしたらさ、こんなのを何度も、何度も何度も見ることになるんだって思うと、怖くなって…」

 

「そうね…怖いわね…」

 

「それで…それで…」

 

震える俺の肩を冴子はしっかりと抱きしめてくれる。

 

(冴子の体…柔くて…暖かい…)

 

「裕太、それは当たり前の感覚よ…私もね?一回だけ見ちゃったことがあったの。遺体を。その時私は小さかったからすぐに泣き出しちゃって。その後も夢に何度も出てきて、そのたびに大泣きしたわ。でもね、毎回毎回お母さんが私のことを抱きしめてくれたの。どうかしら、私を感じられる?」

 

「あぁ、冴子がちゃんとここにいるのを感じる…」

 

「良かった…確かに遺体を見て、辛い気持ちになったと思う。怖かったと思う。でもね?私達は生きてる。その生きていることの暖かさを感じて?これからも刑事になったらこういう経験をするかもしれない。でもその度に思い出して?生きている人の暖かさを。ちゃんと貴方を大事に思う人がいることを。」

 

「っ!!あぁ…ありがとう…」

 

「フフッ、もうちょっとこのままでいる?」

 

「あぁ、頼む…」

 

(冴子…)

 

 

〜〜

 

 

2、3分程か、はたまたそれ以上か、二人は抱き合っていた。

 

「その…ありがとうな冴子。なんとか立ち直ることが出来たぜ。」

 

「えぇ。どう致しまして。フフッ、顔真っ赤よ?」

 

「う、煩いっ!!暑かっただけだ!!」

 

「フフ。なら、そういうことにしとくわ。」

 

(全く、冴子の奴、意地悪な顔しやがって…まぁ、いいか)

 

「なぁ、一つだけ聞くぞ?この電車、発車した後に汽笛を鳴らしてたよな?」

 

「えぇ、音は聞こえたわ。」

 

「そうか。色々ありがとうな」

 

「いいわよ、これくらい。何ならまた抱き締めてあげようか?」

 

「なっ!?…まぁそうだな。偶には、いいかもな。」

 

「えっ!?」

 

「じゃあ、またな冴子!!」

 

「ちょっと!!…頑張ってね、裕太。」

 

 

〜〜

 

 

俺は歩いて親不知駅に来た。

(俺の推理を立証するにはもう一つ条件がある。それを確かめるには…)

 

「すいません。親不知駅の駅長さんですか?」

 

「え、えぇ。君は?」

 

「いや、さっき警察の人からお手伝いを頼まれまして。では一つだけ質問いいですか?」

 

「は、はい。答えられることなら…」

 

「この一帯に、最近雨は降りましたか?」

 

「え?あぁ、それなら昨日は晩に雨が降ってましたね。でもそれがどうかしたのかい?」

 

「さぁね。ありがとうおじさん!!」

 

「あぁ。雪に気をつけて下さいね。」

 

「はーい!!」

 

(最後のピースは揃った!!これで行ける!!)

 

 

〜〜

 

 

戻ってくると新潟県警の人達と剛昌さんが話し合っていた。

 

「どうかしたんですか?」

 

「あぁ裕太君。丁度事情聴取をしていた所だよ。」

 

「あの、この子は?」

 

「あぁ、中々頭の切れる子でね。未来の刑事の卵なんだよ。」

 

「そんなことより剛昌さん、何を話してたんですか?」

 

「あぁ、運転手の柿谷さんが言ってたことと食い違うことがあってね。事故発生時、柿谷さんが言うには信号が赤になっていたから止まったって言うんだが、実際には信号は青だったみたいなんだ。それに車掌さんが親不知駅に行った理由もおかしいんだよ。柿谷さんは無線が繋がらなかったから山崎さんに親不知駅まで伝言を伝えに行くように指示したらしいんだが、車両の無線に不具合は無くてな。別に電波が悪いわけでも無いそうなんだ。」

 

「なんかキナ臭いんですよねぇ」

 

「ま、事故だろうこれは。」

 

 

「いいえ、違います。」

 

「何だって?裕太君、これは事故じゃないというのか?」

 

「はい。これは立派な、殺人です!!」

 

「「!?」」

 

「刑事さん、柿谷さんをここに連れてきて貰えますか?」

 

「あ、あぁ!!」

 

 

〜〜

 

 

「お集まりいただきありがとうございます。私は今回、殺人事件だと認識しました。そしてその犯人は…柿谷さん!!貴方しかいないんですよ」

 

「な、何を言ってるんだボク。そ、そんな訳ないじゃないか。第一、山崎君は雪崩で死んだんだ。私が殺せる訳ないじゃないか!」

 

「そうだな。裕太君、この雪崩で人を殺すというのは不可能なんじゃないか?」

 

「いいえ、可能です。皆さんご存知ですか?水分を吸って重くなった雪は高音が当たるだけでも落ちてきてしまうことを。」

 

「えぇ、新潟県では、そういう事故も良くありますから。」

 

「なら話は簡単です。今回も同じ原理ですよ。親不知駅の駅長さんによれば、昨晩ここでは雨が降っていたそうです。昨晩の雨で重くなった雪は電車の汽笛によって振動し、あそこの崖から落ちてきたということです。」

 

「こんな状況で汽笛を鳴らす訳ないだろう!!それにそんな証拠はどこにも…」

 

「いいえ、ありますよ。ねぇ、青木刑事?」

 

「はい。乗客の一人が運転席の後ろで動画を撮っていたそうで、その映像を見ると確かに親不知駅発車後、トンネルに入る前に汽笛を鳴らしてたいるのが分かります。」

 

「なぁっ!!」

 

「それに、貴方は繋がる筈の無線を繋がらないと偽り、青信号であるにも関わらず停車した。これは証拠になりますよ?柿谷さん?」

 

「ぐぅぅ!!クソォォ!!」

 

 

〜〜

 

 

柿谷さんは山崎さんに対して借金をしており、その返済を迫られていたそうだ。しかし、その借金を返したくないと思い、犯行に及んだとのことだ。

 

「お疲れ様裕太。久しぶりに大活躍ね」

 

「いや、今日のMVPは冴子だよ。ありがとうな!」

 

「フフフ。お役に立て嬉しいわ。」

 

「冴子…」

 

 

「あら、いい感じじゃない二人共〜!!」

 

「「!!」」

 

「あらあら裕太君の顔赤くなってるわ。可愛い〜」

 

「お姉ちゃんも顔真っ赤〜w」

 

こ、このお母さんズ+麗香はーーーー!!

 




冴子さんマジヒロイン。


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閑話 東京ドームじゃないよ、東都ドームだよ。

遅れました。遅れたのに閑話だと?ふざけるな!!たかがSS一つ、低評価で押し出して見せる!!とはならないでください。塾が大変なのです…許してつかぁさい…


小学六年生。12歳。それは大人でも子供でもない、微妙な年齢…

何てことはなく、中身32歳の小学六年生の俺はガッツリ大人なのである。何だこの某少女漫画の出だしのパクリは…

ともあれ無事来年には中学生になる年まで辿り着いた訳だが、

 

「やっと折り返し地点か…長いなぁ〜…」

 

そう、原作は13年後の2020年なのだ。現在2007年、元いた世界では政権交代があったり、中越沖地震があったり、ポケモン・ダイパの全盛期だったり…色々思い出がある年だった。そしてこの世界でもそれは同じで…

 

「そうだね裕太君。この試合は長いね…」

 

プロ野球セリーグでは阪神タイガース、中日ドラゴンズ、読売巨人軍による三つ巴の大混戦になっていた。とは言っても俺の贔屓の阪神はこの前の敗戦以降急落、混戦から振り落とされて現在ドラゴンズ対ジャイアンツの天王山の戦い。剛昌さんに連れてこられて見に来ていた。

 

(俺が阪神ファンなの知ってんのかな剛昌さん…巨人の帽子とユニフォームを強制的に着させられたけど、正直めちゃくちゃありがた迷惑なんだよなぁ…なんならつい最近東都ドームのレフトスタンドで巨人の悪口言ってたりしてたんだけど…)

 

「剛昌さん、俺アイス買ってきますね。それじゃっ!!」

 

なんとなく巨人サイドの雰囲気に馴染めず、思わず席を立った。

 

「私も行くわ、お父様。」

 

「あ、オイ!!二人とも!!」

 

剛昌の出した手は虚しく空を切るのだった。

 

 

「お前まで付いてくること無いだろうにさぁ…」

 

二人は東京ドームの通路を“手を繋いで”歩いていた。

 

「あら、私と一緒なのは嫌かしら?」

 

「…嫌じゃない」

 

そう言うと冴子は満足したように妖艶な笑みを浮かべた。

 

「フフフ、素直な裕太は好きよ?」

 

「ハイハイ、ありがとさん。」

 

「それにしても裕太、野球好きだっていう割には今日はあまり乗り気じゃないわね。どうしたの?」

 

「イヤ、実はさ…俺、阪神ファンなのよね…」

 

「あぁ、なるほどね…でもお父様、貴方も巨人ファンだと思い込んでるわよ、どうするの?」

 

「今言えるかよ、こんな大事な試合の最中にさ…」

 

「私のフィアンセも大変ね。」

 

「誰がフィアンセだよ、誰が。」

 

(本当にいつから全員俺が冴子と結婚すると思い始めたんだか…)

 

「でもこのままじゃ私と結婚することになるわよ。それは分かるでしょ?」

 

「まぁ、な…そんなことよりホラ、何味にすんだよ。」

 

あーだこーだ言い合ってるウチに目当ての店に到着。アイス二個分の600円を取り出した。

 

「私は…そうね、チョコかしら」

 

「ん…すいません、東都ドームアイスチョコレート味とバニラ味を一つずつ下さい。」

 

はーい、という若い女性店員の明るい声がした後、代金を払い、少ししてからアイスが手渡された。

 

「ほらよ」

 

「ありがと。でもいいの?奢ってくれるのは嬉しいけど、お金大丈夫?」

 

「あぁ、それなら母さんから冴子にも〜ってたくさん貰ってたからな。いいんだよ」

 

「フフフ、貴方のことだからそのお金は自分で使い切るか使わず貯金するかだと思ってたわ。」

 

「俺だって使う時は使うよ。それに多すぎる金は人を滅ぼすもんだ。使える時に後で差し支え無いくらいは使っとかなきゃ逆に損するぜ」

 

「そう言いつつも私の為に払ってくれるんだから。罪な人…」

 

「そう言うお前こそ、俺がお前に奢るの分かってて付いてきたんだろうが。良く言うよ、女狐さん?」

 

「あらあら、狼の嫁には狐が丁度良いのよ。」

 

「俺が狼だとしたら一匹狼だな。残念、狐の入る隙間はないよ」

 

「知らなかった?ズル賢い女狐には例え一匹狼だとしても逃げられないのよ。」

 

「おぉ〜怖い、なら神社にお祓いに行かなきゃな。」

 

「あ、神社で思い出したわ。初詣は一緒に米花神社でしましょうね。といってもまた家族一緒でしょうけど。」

 

「いきなり話を戻すなよ。まぁどうせ今年の初詣も一緒に行くんだろうよ。全く、どうしてこうなるのやら…」

 

「文句言わないの。米花神社といえば最近連続盗難事件があった所よね。大丈夫かしら。」

 

「さぁな。でも一つ言えるのは、冴子や麗香ちゃんや唯香ちゃんに危害を及ぼそうもんなら剛昌さんが権力使ってでも動くってことだな。」

 

「そうね。お父様ならやりそう…そう言っても、裕太も助けてくれるんでしょう?」

 

「さぁな。麗香ちゃんや唯香ちゃんならまだしも、冴子は自衛するから要らないだろ?」

 

「もう、ケチなんだから…投げナイフはまだ練習中なの。お母さんみたいには出来ないわ。」

 

冴子の母、麗子さんが投げナイフの元祖なんだそうで、あの原作での投げナイフは母からの直伝だそうだ。毎日毎日地下室で厳しい練習をしているそうで、最初の頃はよく愚痴を聞かされていたが最近は随分と上達したそうで、かなりの精度あるそうだ。

 

「投げナイフねぇ…物騒なこった」

 

「あら、そんなこと言う裕太には実践して差し上げましょうか?

 

そう言うと冴子はニヤリと笑いながらロングスカートの中に隠してあったナイフをチラ見せする。

 

「おい、こんなとこでスカートめくるな!!他の人に見えるだろ!!」

 

「あらら?裕太は私のパンツが見えるのが恥ずかしいの?」

 

冴子は挑発的な顔で俺を覗き見る。

 

「バカ。ナイフなんて見られて通報されたらどうすんだよ。軽犯罪法違反じゃないのか?」

 

「ざーんねん。素直になってくれたらパンツまで見せたのに。」

 

「痴女みたいな真似は辞めろ。こっちの気も知らないで…」

 

「悪かったわよ…」

 

「ん、いいだろう。ほら、その紙渡せ」

 

「ハイハイ」

立ち食スペースでアイスを食べ切り、二人分の包紙を近くのゴミ箱に捨ててまた席へと戻ろうと移動し始める。すると…

 

 

「「「「ウワァァァァァァァ!!!!」」」」

 

「!?な、なんだ!?」

 

「点でも入ったのかしら?」

 

拍手喝采、大興奮の中でスタンドを歩き、剛昌さんの元へと戻ってきた

 

「剛昌さん、お待たせしました。何かあったんですか?」

 

「あぁ、聞いてくれ裕太君!!李承燁が勝ち越しホームラン打ったぞ!!やったなぁ!!!」

 

「あっ、ハイ、そうっすね…」

 

 

その後の試合はそのまま巨人が勝ち、優勝を決めた。

しかしこの時まだ剛昌は知らなかった。プレイオフで中日に負け、日本一には中日がなることに…

 

 

「来年こそは…来年こそは阪神が優勝するんだ…Vやねん!!!」

 

裕太は知らなかった。翌年の2008年、前半戦絶好調だった阪神が後半戦で巨人に追い抜かれ、再び優勝を逃してしまうことに…

 

 

(この話、要るのか…?)




コナンの原作者・青山剛昌先生は大の巨人ファンなんだそうです。


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後輩

ついにあの人登場!!


大晦日、一年を締めくくるこの日は多くの人々が掃除に追われるー

 

「掃除機かけて裕太!!一階から二階のお父さんの部屋までお願いね!!」

 

「へーい」

 

俺も例外なくそんな大掃除に駆り出されているのであった。いつも掃除していてそこまで汚くも無い床だが、何故かこの日だけは埃が落ちているように見えてしまうのはなんなんだろうか…

 

「父さんはどこ行ったの?」

 

「ゴミ出しよ、良いから早くして頂戴!忙しいんだから…もうっ!!」

 

(女性の日以上に荒れてんなぁ…)

 

掃除中、特に大掃除の時の母親はいつも以上に機嫌が悪いorめちゃくちゃ煩い、あると思います。

 

そんなこんなで母さんにドヤされながら、父さん共々散々働かされ、マラソンを走った後のように草臥れた俺と父さんの男衆。父さんなんか常に仕事で疲れた顔してるのに、今ので正に徹夜明け並みの顔になってしまった。あぁ、哀れなり我が父よ…

 

「おい裕太、俺を哀れむなよ。俺はまだ、ピンピン、して、る…」

 

バタッという音を出して父さんは倒れてしまった。

 

「父さん、父さぁーーん!!」

 

「何映画みたいなことしてるのやら…ホラ裕太、ちゃっちゃとシャワー浴びて着替えちゃいなさい!時間無いわよ!!」

 

「は!?まだなんかさせる気か!?反対!!虐待反対!!」

 

こういうことを言うと、勿論母親は怒るもの。母は優しいものだが、時には父より厳しい鬼と化す。そして今の母も同じく、こめかみに怒りマークを一個、また一個と付けていた…

 

「大体いつもそうなんだよ、俺をモノみたいに扱いやがって!俺は便利屋じゃな「黙らっしゃい!!!!!」ヒィ!!」

 

「いつも家事やってんのは私でしょうが!!このご時世母親だからって家事の全てをやる訳じゃないのよ!?なのにアンタといったらいっつも怠けてばっかり!!少しは手伝ったらどうなの!?息子でしょ!?」

 

「すすす、すいませんでしたぁぁ!!」

 

「なら早くシャワー浴びてきなさい!冴子ちゃん待ってるわよ!!」

 

「イエス、マム!!」

 

親子、それも母親と息子で口喧嘩が始まり、息子側が罵詈雑言をぶつけると母親側からとんでもなく痛いカウンターパンチを喰らい、変な口調で切り返してしまうのは某青い狸みたいな猫型ロボットのアニメでの主人公、の○太君より続く二次元での伝統芸である。第一に大して口の強く無い男が女に喧嘩を売る時点で負けが決まっているようなモノだ。

 

裕太は怒られてすぐ駆け足で替えの下着と外出用の服を持って風呂場まで来た。

 

「うっへぇ、怖い怖い。肉体に精神が釣られて反抗期みたいなことしちまったな。それにしても前の母さんより今の母さんのがよっぽど怖ぇよ…それにしても冴子が待ってる?なんか約束してたっけか…」

 

 

〜〜

 

「あー、母さん?着替えたんだけどさ。そのー、冴子と今日会う約束あったっけ?」

 

怒られた後の母親との会話って緊張するよね。なんか気まずくて何時ものように話せなくなることは良くある話だ。

 

「は?聞いてなかったの?今日は晩ご飯野上さん家で一緒に食べて、一緒に年越しするっていってたでしょう?」

 

そしてその母親は全く気にせずいつも通りに話す。この差に緊張して損した。と思って息子側もいつも通りに戻る。これが親子喧嘩の一連の流れなのである。

 

「そうだっけか。母さんはどうすんの?」

 

「私は後で行くわ。お父さんを介護しなきゃいけないし。」

 

「介護と言うな介護と…んじゃあ先行ってるから。」

 

「ハイハイ、行ってらっしゃい。くれぐれも冴子ちゃんの下着とか盗んじゃダメよ?」

 

「しねぇよ!!」

 

(なんつーこと言うんだウチの母さんは!!)

 

彼女やら親しい女性が居ると、唐突に下ネタを振ってくる母。これは…いるのか?

 

 

〜〜

 

 

ピンポーン、と野上家のチャイムが鳴る。それなりに大きな一軒家の並ぶこの近辺でも一際大きいこの家に入るのには中々緊張する。何度も来たことのある家ではあるが、来る度にいつもその大きさとどことなく発せられる威圧感に怯んでしまうのだ。

 

『ハーイ。あ、お義兄さん!!どうぞ〜』

 

元気一杯な小学三年生、麗香の声がインターホンからした後少しして俺の目の前を閉ざしていた玄関前の門が開く。

白いカーボンで出来たその綺麗な、城を想起させる門は家の中から開け閉め出来るらしく、鍵で開けるかインターホンで中の人を呼び開けてもらうかしか出来ないそうだ。さらには強化カーボン製らしく、車で突っ込んできても奥の家の本体の玄関には届かないそうだ。…いったい幾らするんでしょうね。この家…

 

「いらっしゃい裕太、待ってたわ。」

 

少し歩いて玄関前まで行くとタイミング良く冴子が出迎えてくれる。野上家ではご飯を作っているのか、いつものセミロングの髪を後ろで一つに纏め、Tシャツとフリルの付いた可愛らしいスカートの前には去年の誕生日プレゼントであげた黄色のチェック柄のエプロンをしていた。

 

「あぁ。それにしてもなんか印象変わるな、髪型変えると。」

 

「そう?どうかしら」

 

そう言うと冴子は俺に見せつける様に一回転した。それによってフワッと宙に舞うポニーテールが、冬にも関わらず夏のような清々しさを感じさせる。

 

「あぁ、良く似合ってるよ。スポーツ少女みたい」

 

「フフフ、ありがとう。」

 

冴子はとても嬉しそうに微笑む。そんな冴子に頬が赤くなってしまう自分が少し恥ずかしい。

 

「それにそのエプロンも使ってくれてるみたいだしな」

 

「折角貰ったんだから、使わなきゃね」

 

「フッ、冴子らしいな」

 

「お姉ちゃん何してんのさ…あっ、お義兄さん!!どう?今日の私、可愛いでしょ!」

 

奥から続いて麗香も出てきた。麗香は普段はツインテールにしているのだが、今日は長い髪を三つ編みにして一つに纏めていた。そして前には冴子のと同じ柄のピンク色のエプロンをしていた。

 

「あぁ。いつもより少し大人っぽい感じだな。可愛らしいよ。それにそのエプロンも気に入ってくれてるみたいで嬉しいな」

 

「えっへへぇ。去年にお姉ちゃんとお揃いのでってお願いしてお義兄さんがプレゼントしてくれたもんね!!いつも使ってるよ!!」

 

「そうかそうか」

 

「あ、お姉ちゃん早く戻らなきゃ。まだ終わってないよ。」

 

「あらいけない。それじゃ裕太、お父様のところに行っといてくれる?」

 

「あぁ、それじゃな」

 

「えぇ」

 

「お義兄さん、今日の晩ご飯楽しみにしててね!!」

 

「あぁ、腹空かせて待ってるよ」

 

そういって彼女達は台所へと帰っていった。

 

 

〜〜

 

 

「こんにちは剛昌さん。お邪魔してます」

 

冴子達と別れた俺はリビングに来た。そこには胡座をかいて座る剛昌さんと、その中にスポッと収まるように抱かれる唯香ちゃんがいて、丁度絵本を読んでいる所だった。

 

「おぉ裕太君か、良く来たな!お父様とお母様はどちらにいらっしゃる?」

 

「二人はまだ家に居ます。もう少ししたら伺うと申していました。」

 

「そうかそうか、まぁ遠慮するな。ほら唯香、裕太お兄ちゃんが来たぞ〜」

 

「え!?あ、裕太お兄ちゃん!!こんにちは。」

 

「こんにちは。偉いな、挨拶も出来る様になったか。」

 

「うん!!ねぇねぇお兄ちゃん、この絵本読んで!!」

 

「あぁいいぞ」

 

唯香ちゃんは原作では小説家だったこともあり、本当に本が大好きなようだ。そんな唯香ちゃんは剛昌さんの胡坐から立ち上がり、屈んだ俺に突撃してきた。

 

「おうおう、元気いいなぁ」

 

「えへへ、お兄ちゃん〜」

 

「ハッハッハ、唯香にもすっかり懐かれたな裕太君!唯香は冴子と麗香に比べて人見知りが強いんだが、裕太君には直ぐに懐いたな」

 

「えぇ、自分でもビックリですよ」

 

「ねぇ早く読んで〜」

 

「あぁハイハイ、ある日、この森の…」

 

 

〜〜

 

 

「はい、年越し蕎麦と天ぷら、唐揚げにポテトサラダもあるわよ〜」

 

両親も到着し夕飯になったのだが…

 

「スッゲェ豪華…」

 

野上家の食卓には贅沢にも大量の美味しそうな食べ物が並んでいた。全てがとても香ばしい香りを放っており、食べ盛りな俺の胃袋が早く食べたいと叫んでいる。

 

「凄いお料理!!これ作るの大変だったでしょう?」

 

「いいえ、冴子と麗香が手伝ってくれましたから。」

 

「お義兄さん褒めて〜!!」

 

「あぁ、偉いぞ麗香。冴子も」

 

「えっへへ」

 

「ん…」

 

麗香はとても嬉しそうに破顔し、冴子は少し恥ずかし気に、それでいてとても嬉しそうに目を細めた。

 

「いやぁ、裕太君もその役割が板についてきたなぁ」

 

「ホント、お兄ちゃんみたいね」

 

「あらやだウチの子ったら。」

 

「皆んな順調にすくすくと育ってるな。良いことだ」

 

(父さんが滅茶苦茶じじい臭ぇ…)

 

 

〜〜

 

 

食事が済み、話題は明日の初詣に変わった。

「そうそう明日の初詣どうします?着物着られますか?」

 

「あら、貸して頂けるんですか?」

 

「えぇ、私の持ってるもので良ければですが…」

 

「よろしくお願いします。」

 

「そうですか、では少し合わせておきましょうか。どうぞこちらへ」

 

「ご丁寧にどうもありがとうございます」

 

母親衆はそう言うと二人だけでどこかへ行ってしまった。因みに父親二人は両方とも酔い潰れて寝てしまっている。

 

(年越しを酔い潰れて過ごすってか…とんでもねぇなこの人ら)

 

すると麗香が俺に抱きついてきた。どこか誇らしげだ。

 

「明日は私も着物を着るのよ!!」

 

「へぇ、今年は麗香もか…」

 

「私も去年と違って新調したのよ。楽しみにしててね」

 

冴子は冴子で自信満々といった表情。それだけ気に入ってる着物なのだろう。

 

「私だけ着物無い…」

 

唯香ちゃんはまだ小さいので着物を着ないそうだ。それが仲間外れっぽくなって嫌なんだろうな…

 

「気にすんなって唯香、俺も着物無いからさ、俺と唯香で着物無いもの仲間だよ」

 

「うん!!」

 

そう言うと唯香ちゃんは満面の笑みを浮かべたが、姉二人側は不満そうだ。

 

「やっぱり着物着ない!!」

 

「麗香…そうか残念だな。麗香の着物姿楽しみだったのになぁ…」

 

(少しあざとすぎか?)

 

「フッフーン、なら着てあげる!」

 

「そうか、なら良かった。」

 

(大変だよこの役回りも…)

 

 

〜〜

 

 

翌朝。星川家と野上家は全員で米花神社に来ていた。

 

「「うっ、気持ち悪い…」」

 

「もう、昨日飲み過ぎなのよ!」

 

「あなた大丈夫?」

 

…二名、酔いでしんどそうなのがいるが。

 

「二人とも着物似合ってるなぁ。正に大和撫子って感じがするよ。」

 

冴子は紫色の着物で、描かれている山茶花の柄がとても良く映えている。麗香は朱色の布地に真紅の椿が描かれた着物を着ており、彼女の持ち前の明るさが出ている。

 

「そうでしょー」

 

「フフフ、裕太も着ればよかったのにね」

 

「そんなことしたら唯香が仲間外れっぽくなるだろうが」

 

「優しいのね、裕太」

 

「さぁな。んなことより早く行こうぜ、結構混んできたぞ」

 

境内には既に多くの人が来ており、とても混み合っていた。

 

「おーい、皆んなはぐれるなよ〜」

 

「分かってるよ〜」

 

「それにしてもお祭りじゃないのに出店なんて出てるのね」

 

「年明け早々にああいうとこで金は使いたくないなぁ。」

 

「裕太は去年の夏祭りでもそんなにお金は使わなかったわよね。節約?」

 

「まぁな。祭りは食べ物をガッツリと、運試し程度の遊びって決めてるからな。食費以外はあまり出費したくないだけだよ。

 

「そういえば、その時に祭りクジでエアガン当ててたわね。それも二つ。」

 

「あぁ、あの時は強運だったな。3回中2回が当たりなんだから。」

 

「私もビックリしたわね、あれには。今日はしないの?」

 

「流石に正月に縁日では遊ばないよ、俺は。」

 

その去年の夏祭りで俺の後の祭りクジで髪の色が左が金髪、右が黒な人が居たけど気のせいに違いない。()

 

そうして話している間に俺達が参拝する番になった。

 

(どうか今年も平穏な日々を過ごせますように。)

 

 

 

〜〜

 

 

「裕太、折角だし林檎飴買わない?」

 

冴子はどこか物欲しそうに屋台を見ていた。

 

「あっ、私もお姉ちゃんに賛成!!お母さん、お金頂戴!!」

 

「ハイハイ、唯香にも分けてあげるのよ?」

 

「はーい!」

 

「裕太、お前にもやるよ」

 

「ありがとう、父さん。じゃあ行くか」

 

「えぇ」

 

そしてその時だった。

 

 

「ど、泥棒だぁぁ!!」

 

財布を2、3個持って走っていく男の姿が目に映った。サングラスをかけ、黒いジャージを着た男は境内の奥にある雑木林の方へ逃げていく。

それを見た俺は咄嗟に走り出した。

 

「っ!逃すかよ!!」

 

「待ってよ裕太!!」

 

「お義兄さん!?」

 

 

 

〜〜

 

 

(どこだ?…あっちから足音!!)

 

右前方から砂を蹴る音が聞こえ、その音を頼りに走る。木をかわしながら、犯人を追う。

 

「待て!!このひったくり野郎!!」

 

「なっ!?」

 

犯人は驚いた顔で振り返り、俺の姿を見るや否やさらに加速して走り出した。俺は運動神経が良く、足も速いのだが所詮は小学生。大人には敵わず、距離をじわじわと離されていく。

 

(しょうがない、神社の中で使うのは気が引けるんだが…ごめんなさい神様っ!!)

 

俺は来ていた上着の前を開け、両方の内ポケットに隠していたエアガンを取り出した。このエアガンは夏休みの祭りクジで当てた物を自分で改造して発射速度を上げている。威力は折り紙つきだ。

俺はそのエアガン二丁を両手に持ち、狙いを定める。

 

(親に隠れて練習したんだ。必ず当ててみせる!)

 

ダァン!ダァン!

と実銃よりは控えめな銃声を轟かせ、弾を放つ。

放った弾丸は真っ直ぐ飛び、犯人の両方の膝の裏に命中した。

 

「イッテェ!!」

 

裏返った声を上げて犯人は転んでしまった。その折に持っていた財布を地面にぶち撒ける。

それを確認してエアガンをしまい、急いで犯人を拘束した。

 

「さぁ観念しろ!!」

 

「ぐっ、くぅぅ!!!」

 

犯人は悔しくそうにくぐもった声を上げ、抵抗を見せるが俺を振り落とせないと判断すると諦めたように脱力した。

すると直ぐに剛昌さんと冴子、麗香がやって来て、後ろから遅れて神主さんと思しき人と麗子さん、麗子さんに抱えられた唯香、父さん母さんがやってきた。

 

「良くやった裕太君!!よし、犯人確保!!窃盗の罪で現行犯逮捕する!!」

 

剛昌さんは持っていた手錠をかけ、犯人を俺から引き取った。

 

「ふぅ、なんとかなったか」

 

「お手柄よ、裕太」

 

「凄いよお義兄さん!!」

 

「すごーい、お兄ちゃん!!」

 

「良くやったわ、裕太君」

 

「ほぉ、良くやったな、裕太」

 

「流石は我が息子!!良くやったわ!!」

 

「いやぁ、何と言えばいいのやら、ありがとうね、坊や」

 

全員が俺に賛辞を送ってくれたため、少し照れ臭くなってしまい、頬をかく。

 

「それで、警察は呼んだのか?」

 

「えぇ、私が通報したわ。そろそろ来る頃よ?」

 

 

 

〜〜

 

 

警察が到着すると剛昌さんは警官に事情を説明した。その時の警官の驚いた顔はとても面白かったと言っておこう。某貝の名前さんに出てくるマス○さんそっくりの声で「えぇ〜!」と言ったもんだから吹き出してしまいそうになった。

 

そして財布は盗られた人達に返されたのだった。

 

「これで一件落着かな?」

 

「そうね、盗られた財布も戻ったし。さぁ林檎飴を買いにいきましょう!!」

 

「お姉ちゃん、そんなに林檎飴食べたいの?じゃあ、私もいく!!競走よ、お姉ちゃん!!」

 

「ちょっと、待ちなさい麗香!!」

 

冴子と麗香は走っていってしまった。それを見た親達も後を追って歩き出した。

それを見た俺も歩き出そうとしたその時だった。

 

「あ、あのっ!!」

 

「ん?」

 

後ろから呼ばれて振り返ると、そこには財布を盗られた一人である小学生の男の子が立っていた。何かを決意したような顔をしている。

 

「何か用か?」

 

「はいっ、その、さっきの動きを見て感動しました!!俺を弟子にしてください!」

 

「…はっ!?弟子!?」

 

「はい、僕は杯戸小学校5年生の高木渉と申します!!お願いします!!」

 

(えっ!?あの高木刑事!?今出てくんの!?てか弟子ってマジか!!)

 

「えっと…弟子っていっても、何をするんだ?」

 

「あっ…何するんですかね?」

 

(俺に聞かれてもなぁ…)

 

「まぁ分かった。弟子ってのは置いといて、後輩としてならいいかな?」

 

「本当ですか?やったぁ!!」

 

「あぁそうそう、俺は星川裕太、よろしくな!」

 

「はい、先輩!!」

 

舎弟高木渉、ここに爆誕す。




モデルガンはベレッタM92fを模したものです。高木刑事は主人公の良き後輩枠ということで。


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中学〜原作前
平面的な谷間


またまた閑話です。次の話は事件っぽいの出します。それまでちょいとお待ちを。
そして今回は下ネタ注意です。


中学生。男子にとってこの期間は人生において最も性欲と格闘しなければならない時期だ。事あるごとに股間にある撃鉄が起こり、自分で弾を発射せねばならなくなってしまう。街ゆく美女を見てもっこり、クラスメイトのさりげない仕草にもっこり、雑誌等に載っている女性にもっこり。兎に角忙しいのである。そんな中学生男子に必要不可欠と言っても過言ではないのがそう…エロ本だ。

本来18禁であるこれらはあの手この手で入手し、仲間内で流通したりするものだ。そして、精神年齢が前世含めて34歳になる俺も例外では無かった。

 

「高木、例のモノは持ってきたんだろうな?」

 

高木は中学からは帝丹中学なんだそうだ。

 

「はい先輩、それも新品です」

 

校舎裏、数名の男子生徒が学生鞄から何やら雑誌らしき物を交換し合っている。全員の顔はイヤラしくニヤけており、どこか麻薬の取引を連想させる様だ。

 

「おい星川、コイツと交換してくれよ」

 

「へっへっへ、すまねぇなタツ、コイツは渡せねぇぜ」

 

そう言って俺は高木から貰った雑誌を見せつける。その雑誌には『女子大生の爛れた性活』と書かれており、服をはだけさせた若い女の写真が載っていた。

 

「なら次貸してくれよ。頼むからさ〜」

 

「なら、その時お前の持ってる漫画貸してくれよ?」

 

勿論ここでいう漫画は、少年誌ではない。

 

「あぁ、めっちゃいいモンあるぜ」

 

「楽しみにしてるぞ」

 

「先輩、そんなことより早くアレ見してくださいよ!!」

 

「あぁ…ホレ、これだろ?」

 

「うっひゃぁ!スッゲェでかい…」

 

「高木、鼻血出てんぞ…じゃあ俺は帰るからな」

 

「あっ、お疲れ様っす先輩」

 

「じゃあな星川〜」

 

俺はそんな声に振り返らず右手を上げて別れる。そして校舎の表側に出る前にサッと手に持っていた雑誌を鞄に詰めて閉じる。

そして何食わぬ顔で下駄箱に到着するのであった。

 

「よう冴子、待たせたな」

 

「もう!!いつまで待たせる気?」

 

そこには不満顔なJC、冴子が上履きから靴に履き替えて待っていた。俺も少し急ぎ目に下駄箱から靴を取り出す。

 

「ごめんごめん、てっきりもう少しかかると思ってな」

 

「フるだけなんだからそんな時間かからないわよ」

 

「オイオイ、ちゃんと真摯に向き合ってやれよ…」

 

「いいのよ、変なラブレターなんかで呼び出す方が悪いわ。」

 

冴子は小学生の頃からモテてはいたが、中学に上がってからは拍車がかかり、クラス学年問わずしょっちゅう男に呼び出されては告白されるようになっていた。

 

「うっへぇ…可哀想…」

 

「いいじゃないの、本当に面倒なんだから。それに貴方こそどうなのよ?告白とかされたりして、鼻の下伸ばしてたりしないでしょうね?」

 

冴子はジト目で俺を睨みつける。

 

「知ってる癖に…俺が中学に上がってから一度も告白されてないこと」

 

そう、そんなモテまくりな冴子とは対照的に俺は全くモテないのだ。

 

(いや知ってたよ?前世でも一度もそういったことは無かったし、見向きもされて無かったし…泣いていい?)

 

「フフフ、それもそうね。オホホホ…」

 

「けっ、白々しい顔しやがって…いいよなぁモテる奴は。」

 

そう言うと冴子の目が濁り出した。

 

「へぇ、そう。そんなにモテたいの。へぇ…」

 

普段の他の男子や教師達と話す冴子からは想像もできない程の、低く、冷徹な声。

 

「怒るなよ…あー、悪かったって。帰りにアイス奢るから許してくれ」

 

そういうと冴子の顔は一変して輝かしい笑顔になった。

 

「そう?冴子嬉しい!!」

 

「ハァ…」

 

これが最近の日常である。

 

 

〜〜

 

side冴子

 

「そんじゃな、冴子」

 

「えぇ、また明日ね」

 

別れて行ってしまう裕太の背中をいつも見つめてしまう。愛しい彼の背中はガッチリしていてとても頼りがいのあるもので、身長も高くカッコいい。裕太は自分はモテないなんて言うけど、女子達の間ではとても人気のある男子の一人。そりゃそうよね、勉強も出来て運動出来てカッコよくて。モテない訳がないわ。

それに本当はラブレターだって良く下駄箱に入ってるのよ?それを処理する私の身にもなって欲しいわ。変わりにいつも行ってあげてるんだから。

「ごめんなさい、この手紙を読んじゃって。でもね、裕太は私の婚約者なの。だから…こういうこと、辞めにしてくれる?」

って言うのは一応辛いのよ?女子同士の会話でも私が釘を刺しとかなきゃ皆んな狙っちゃうんだから。ホント大変。そんな私の苦労も知らないで「いいなぁ、冴子はモテまくってて。」だなんて。もうっ、失礼しちゃうわ!

 

side out

 

 

〜〜

 

 

「ただいま〜」

 

「あぁお帰り。棚にポテチあるから食べな〜」

 

「うっす」

 

冴子と別れて我が家。母は相変わらずの調子で、父さんも会社。いつも平穏な家である。

特に汚れとかもない、それなりに手入れされたフローリングを歩きテーブルのイスに腰掛ける。勿論手にはポテチの袋。

 

「いやぁ美味い!!カ○ビーのポテチはやっぱり一番じゃけぇ!!」

 

「なぁに?広島弁?あ、そうそう。私あと少ししたら買い物に出かけるから。」

 

「ウィっす」

 

(これは…ヤレる!!)

 

ポテチを食べ終わり、ポケットティッシュの中身がまだあることを確認して自室へ急行する。

 

「じゃあ行ってくるから〜」

 

「ん、行ってら〜」

 

母さんをなるべく普段通りに装って送り出す。

 

(ヨシ!!これでこの家には誰もいない!!)

 

部屋のドアを閉め、一応カーテンもしておく。これでどこからも見られる心配はない。

状況を確認したら早速雑誌を取り出す。

 

(うっはぁ!!エロいなぁこの娘!!これは凄いわ。)

 

そのエロ本を開くと表紙の女性がある意味機能的な下着で官能的なポーズを取った写真があった。彼女の目はどこか物欲し気で、ナニを欲しがっているというような妄想が捗る。どの写真も全て男を誘う淫靡な女の色気が出ており、弾力がありそうな豊かな胸と、その双胸が生み出す深い谷間が実に俺の欲望を煽る。そうして誰もいない家で本来未成年が持っていてはイケナイモノを見ている背徳感からか、益々そのエロ本にのめり込んでいく。

しかしその天罰とも言うべきか、俺はその足音に気付かなかった。

 

(よ、よし。母さんが帰ってこないうちにササっとヤっちまうか!!)

 

そう思いエロ本片手にシてしまおうと決意したその時…

 

「裕太?ここにいるの?」

 

ゴジラ(冴子)が聖域(俺の部屋)に、侵入してきた。

 

「はっ!?冴子!?」

 

咄嗟に俺は持っていたエロ本をベッドの下のスペースに滑り込ませ…

られなかった。

 

「裕太。これは何かしら?」

 

エロ本は冴子の手によって掴まれた。そしてその冴子の顔には笑顔…全く目が笑ってないが…が浮かんでいた。

 

「あぁ、それは今日貰った教科書みたいなものでね。直ぐに読まなきゃいけないんだ。だから返してくれるかな?」

 

(フッ、こうやって真面目な顔して言えばなんとか…ならないですね)

 

そうやってエロ本を返してもらおうと俺も手に取り引っ張るが、ビクともしない。

 

「へぇ、そう…これが教科書、ね。随分と艶やかな教科書ねぇ。私も欲しいわぁ」

 

いつも通りの声音なのに、全く温かみのない冴子の声。

 

「そ、そうか。そうかそうか。冴子も欲しいか。なら…いる?」

 

(声が震えるぅ!!)

 

「そうね。貰うわ。」

 

全く変わらない冴子の顔が、途轍も無く怖い。一体この後どうなるのだろうか。冴子のみぞ知る。

 

「そ、そうか。ハハハハハ。あのぉ、後で返していただけたりします?」

 

そう言うと冴子は遂に笑顔を崩し、目は鋭く、眉は下がり、こめかみには怒りマークが浮き出た。

 

「いい訳ないでしょう!?大体なんでこんなものを持ってる訳?ねぇ!!」

 

「ヒィッ!!すいませんでしたぁぁ!!」

 

思わず土下座してしまう。そんな迫力が、今の冴子にはあった。

 

「どこで手に入れたのかしら?」

 

「あー、ゴミ捨て場に落ちてたのを拾ったんだよ。」

 

(あ、もう一個怒りマークが増えた)

 

「嘘おっしゃい!!さっき裕太は貰ったって言ったわよね!?さぁ吐きなさい!」

 

「ヒィィィ!!勘弁してくれぇぇ!!」

 

 

〜〜

 

 

翌日、俺の証言を元に冴子は校舎裏での取引を教員に通報。関わっていた全員が反省文の提出を言い渡された。その人数は中学の男子生徒の約半分にも及んだ。

 

「うぅ、先輩のせいっすよ」

 

「いつかはバレてたさ…それが今日だったってだけだよ…」

 

 

「男子サイッテー」

 

「キモッ」

 

「ハ、破廉恥だわ…っ!!」

 

「あーあ、だから言ったのに」

 

女性陣からは冷ややかな目と罵声を頂きましたとさ。メデタシメデタシ。

 

「これに懲りたら二度とあんなもの取引するんじゃないわよ?裕太。」

 

「ハイ…」



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初の原作回!!漣の魔法使い

井上陽水さんの少年時代ブームが私の中で到来しました。
今回は初の原作回です。
主要キャラが一気に登場!!あの人もアイツも登場!



中学三年生の夏休み。楽しい楽しい海水浴。照りつけるような太陽、その光を受けて燦燦と輝く砂浜。そしてそこを歩く煌びやかで艶めかしい水着の女性達。写真を撮りたくなるような景色がそこにはあった。

 

(うわぁ、あの人メチャクチャ綺麗じゃん!!あっ、あっちの人の胸デカ!!…うっはぁ彼氏持ちか〜羨ましい!!)

 

前世含めて35年の人生、それなりに落ち着いた性格をしていると自負する俺でも、やはり肉体年齢は15歳と思春期真っ盛り。どうしてもそういうピンク色な思考を止めることは出来ないのである。

そうやって下種な事を考えていると如何にポーカーフェイスが得意な俺でも顔には出てきてしまうもので。他人が見ればほぼ真顔と認識するであろう俺の表情を、彼女…野上冴子は瞬時に認識してしまうのだった。

 

フンッ、と冴子の足が先にパラソルを立てて待たされていた俺の足の甲に振り下ろされた。

 

「痛っ、さ、冴子…」

 

「何を見たらそんなに鼻の下が伸びるのかしら?裕太?」

 

「怒るなよ冴子…その水着、冴子にぴったりのこの中じゃ冴子が一番綺麗で可愛いよ。」

 

「フ、フン。いいわ。許してあげる。」

 

褒めると冴子はいつもこうして頬を赤く染めて目を逸らし、手を恥ずかしげに後ろに回す。そんな初々しい冴子の仕草が、とても愛らしく、好きだ。そんな冴子は海色のオフショルダービキニを着ている。彼女の綺麗な両肩が惜しげもなく出された水着で、中学生とは思えない程に豊かな双胸が作り出す谷間が、どことなく色っぽさを醸し出している。それに加えて全体的にはまだ発達途中な体を水着のシャラの花の模様が可愛らしくデコレーションする。今の冴子は正に「可愛い」と「綺麗」という言葉が融合したような、神秘的な美しさを体現したような姿だ。ビーチにいる同年代と思しき男子達の視線を独り占めにしていた。

 

「いいわねぇ、青春だわ〜」

 

遅れて麗子さんが到着する。麗子さんは海に入るつもりはないようで、サングラスと帽子を被り、白のワンピースを着ていた。清楚感があるその服装は派手なモノでは無いのだが、大人の色気を隠しきれないからか彼女もまた男衆の視線を集めていた。

 

「あー、姉さん大胆〜!」

 

そう言って揶揄うのは野上家次女の麗香。成長してかつての様な天真爛漫さは鳴りを潜めてきたが、やはり持ち前の明かるい性格は健在だ。そんな彼女は冴子とお揃いの水着で、色が紫な所以外に違いは無い。だが冴子と違いまだまだ子供な彼女が着ると冴子とは違う可愛らしさが強調され、これはこれでとても魅力的だ。

 

「そ、そんなんじゃ無いわよ麗香!」

 

「ハハハ。麗香ちゃんも可愛いじゃん、いいね!」

 

「フフっ、ありがと!あっ、唯香!!海にまで来て本読んでどうすんのよ!!」

 

「いいでしょ、何したって。まぁお兄さんとは泳ぎたいからこんなものでいいかな?」

 

麗香に注意され少し怠そうに立ち上がったのは6歳児の野上家三女、唯香。スクール水着と変わらないような水着姿の彼女は麗香とは対照的にインドアタイプで先ほどまでパラソルの下で本を読んでいた。それにしても本当に6歳か?と疑うような落ち着きである。

 

「まぁまぁ。んじゃ、早速泳ぐとするかな!!」

 

そうして俺たちは海へと駆けて行った。

 

 

〜〜

 

 

other side

 

裕太達のいる砂浜。そこは崖の下にあって、崖の上には道路が通っている。奇しくも同じ時間に、彼らもまた、海水浴に来ていた。

 

「久しぶりだね…秀一兄さん…」

 

とあるパラソルの下に寝そべっていた男の元に、水着の上にパーカーを羽織った青年が近づく。秀一と呼ばれた男は黒いキャップに黒のサングラスをかけ、腕を組んで寛いでいる。

 

「あぁ…7年振りか…大きくなったな秀吉…高校3年生になるのかな?」

 

「ホラ、お前も挨拶しろよ!会うの初めてだろ?」

 

そうして秀吉の後ろから人見知りっぽくヒョコッと顔を出した子は、癖っ毛のショートヘアーで、ボーイッシュな女の子だった。

 

「は、初めまして…真純だよ…」

 

「ん?誰だ?そのガキ…」

 

「妹だよ!!メールで写真送っただろ?」

 

「そういやぁ俺が渡米する前、母さんの腹が膨らんでたな…」

 

「それよりメアリー母さんは?兄さんのホテルに行って一緒にここへ来たんじゃ無いの?」

 

「ホテルで母さんとちょっとやり合ってな…」

 

そう言って秀一はサングラスを外す。

 

「母さんの手刀を目に受けて…お陰でこのザマだ…俺もニ、三発食らわしたから…今頃氷で冷やしてるんじゃないか?」

 

「頭を冷やすのは貴方の方よ…」

 

彼等の横から一人女性がやってきた。彼女は帽子にサングラス、黒のシャツを着ていて、どことなくスパルタンなオーラを放っていた。

 

「アメリカで勉強したいって言うから留学させたのに…実は『父の事件の真相を探るに行ってた』ですって?しかも大学を卒業したらFBIに入るだなんて…まるで死神に魅入られた子供のよう…」

 

「グリーンカードもアメリカ国籍も取った…後は、3年の職務経験を積み筆記試験と体力テストにパスするだけ…問題はないさ…まぁ、右側通行に慣れなくて運転免許を取るのには手間取ったよ…元いた国も日本も左側通行だったからな…」

 

「生活費はどうする気?そんな馬鹿な事を言う人には仕送りすると思ってるの?」

 

「心配無用さ…割りのいいアルバイトを見つけたんでね…FBIに入るまではそれで食い繋げる…」

 

「まったく…折角貴方を日本に戻すために海水浴に誘ったのに…まぁこの平和な景色を眺めながら頭を冷やして思い出しなさい…主人が死ぬ前、この安全な国に私達を送った時に言った言葉を…『いいか、この先、私はいないものと思え…どうやら私はとんでもない奴らを敵に回してしまったようだ…』っていうあのメールをね…」

 

そういうと彼女は何か諦めを含んだ様子で去ってしまった。

 

(母さんこそ忘れてるんじゃないのか?父の遺体はまだ発見されていないって事を…)

 

一方、秀吉と真純は二人とは関係無かった様子だ。

 

「じゃあ僕らは海の家で焼きそばでも食べよっか!」

 

「うん!」

 

真純は秀吉の差し出した手を掴み、彼に付いていくものの、秀一が気になってしまい秀一の方へ振り返りながら歩く。

 

(初めて会うもう1人のお兄ちゃん…吉兄ちゃんとは違って、全然笑わないお兄ちゃん…

笑った顔が見てみたい…)

 

世良真純7歳、後のJK探偵もまだ子供の頃。寄る好奇心には勝てないようだ。

 

(よーし!)

 

ーーー

 

「んしょ、んしょ…」

 

真純は何とか先程と変わらず寝そべっている秀一を笑わせようと、彼女なりに必死になっているようだ。今は秀一のいるパラソルの上をよじ登っている。

 

「ばぁ!!」

 

真純はパラソルから顔を出して秀一に見せるが、彼は全く笑わない。

 

「秀吉!何させてんだ?危ないだろ…」

 

(ダメだ笑わない…)

 

「ゴメン…真純がパラソルの上に乗りたいっていうから…」

 

(よーしだったら…体育の先生に教わった…)

 

今度は秀一の前で側転して見せる。

 

「よっ!と!た!て!」

 

小学一年生にしてはとても上手な側転だが、秀一はピクリとも動かず、結局転んでしまう。ズザッ、という音がして真純は砂浜に倒れた。

しかしそれでも秀一は目線をやるだけで、表情も、サングラスの奥にある目も全く変わらない。

 

「エヘヘ…」

 

真純が照れたような、あどけない笑みを浮かべ頭をかくが、秀一は反応すら示さず欠伸をした。

 

(これもダメかー…んじゃとっておき…クラスの皆んなも大爆笑!これで笑わない人はいないはず…)

 

ところがどっこい、笑わないのが秀一だ。

 

真純はなんと、買ったフライドポテトを鼻の穴に一本ずつ、口にも5本を咥えて、口の両端をイーッと引っ張る。

 

「いーーーっ!!」

 

しかしながら、やはり秀一の反応は冷たい。

 

「食べ物で遊ぶな…」

 

(ウソ…これでもダメ?)

 

そんな悪戯を続ける真純に天罰が下ったか、運悪く丁度母が帰ってきてしまう。

 

「コラ!何やってんの?真純!」

 

「ママ…」

 

「女の子なのにもぅ…鼻の下にチップスの塩が付いちゃってるじゃない!」

 

「ご、ごめんなさい…」

 

 

「あら…イギリスじゃそういうジョークが流行ってるの?」

 

そんな重たい雰囲気の中に入ってきた女性がいた。黒いハットに黒縁のメガネを掛けた、ワンピースタイプの水着を着た栗色の髪の美人…工藤有希子その人だ。

 

「え?」

 

「イギリスの方ですよね?ジャガイモを拍子切りにして油で揚げて塩をふったものを日本じゃフライドポテト…アメリカじゃフレンチフライズ…それをチップスって言うのは、フィッシュ&チップスの国イギリスかなって…」

 

有希子は悪気なく笑顔でそう言うが、一般人からすればそんな言葉一つで国を当ててくる人など図星で無言になるか、ドン引いて無言になるかの二択(実質一択?)であろう。例に漏れず真純の母、メアリーも彼女を見て黙ってしまった。

 

「それよりウチの子見ませんでした?緑の海パンを穿いた男の子でその子ぐらいの女の子と一緒だと思うんですけど…」

 

「さぁ…」

 

そういうと有希子はまた彼女の息子ー工藤新一を探しに行ってしまうのだった。

 

「ーったく、どこに行っちゃったのよ?」

 

 

「フン…とんだ安全な国だな…今のような一般人にも…言葉遣いだけで母国がバレてしまう…この世に安全な国なんてないんだよ母さん…なーに心配するな、父を消した奴らに俺の正体がバレる前に、奴らを1人残らず地獄の底に…」

 

途端、秀一の声を遮る小さい男の子の声が入ってきた。

 

「バレバレだよ!」

 

(え?)

 

警戒し、驚いた顔で秀一が見た先には…原作主人公、新一が人差し指を秀一に向けて立っていた。

 

「お兄さんの正体がピエロだって事はな!」

 

((ピ、ピエロ?))

 

今日初めてメアリーと秀一の意見が一致した瞬間だった。

 

「だってお兄さん話聞いてたら…色んな国をいーっぱい回ってるんでしょ?そんな人はボクが知る限り…サーカスの人しかいない!」

 

工藤新一7歳、彼もまたまだまだ未熟な子供である。確かに一年生としてはその推理は素晴らしいものだが、やはりまだ7歳。後の高校生名探偵の在りし日の姿だ。

 

「それにお兄さんの左手を見てピンときたよ!その左手の手首の甲の方に付いた…アザを見てね!それはアコーディオンって楽器の使う人によく出来るアザ…空気を出し入れしながらボタンを押すからベルトで擦れてそこにアザができるって父さんが言ってたし…サーカスのショーの途中によくピエロがアコーディオンを弾いてるし…それにそれにサーカスにはクラウンって道下師がいっぱいいるけど…その中でも縦に筋を入れて涙の化粧をするのはピエロだけ!お兄さんの左目にも、その涙の化粧の跡が残ってるじゃない!多分、早くこの海で遊びたくて慌てて消し忘れたんだろうけど…ボクの目はごまかせない!お兄さんはピエロだ!!違いますか!?」

 

新一迫真の推理に、通りかかった人もチラッと目をとられてしまう。本当に小学生か?と思うような推理力である。しかし、今回はそれは当てはまらない。

 

「フ…ハハハハハハハハ!!」

 

(わ、笑った!)

 

「確かに俺は3つの国を渡っているが…サーカスの団員では無い…」「え?そなの?」

 

「でないとサーカスの旅行好きな人は全てサーカスの団員になってしまうだろう?」

 

「あーそっかー!」

 

「このアコーディオンのアザに気が付いたのは良かったが、これは酒場で客にリクエストされた曲を伴奏する時に出来たアザ…バイトにしては良い金になる…そして左目のコレは涙の化粧ではなく…さっき乱暴な母に付けられたアザ…

君は何者なんだい?」

 

「ボ、ボクは…工藤新一!シャ…シャーロックホームズの弟子だ!!」

 

(ホ、ホームズの弟子?)

 

そんな事を話していると客の間をすり抜けて花柄の浮き輪を腰に嵌めた、新一と同年代くらいの女の子がやってくる。

 

「あー新一!こんなトコにいたー!お母さんが捜してたよー!」

 

「蘭!」

 

「またホームズごっこしてたんでしょー?」

 

「ゴッコじゃねーよ!名探偵になる為の修行だ!」

 

「でも程々にしとかないとその内酷い目にあうよ!さっきのお兄さん達すっごく怒ってたし…」

 

「怒らせとけよあんな奴ら…」

 

しかしその一言でフラグを立ててしまったのだろう。三人のガラの悪いDQNが新一の元へやってきた。

 

「小僧…やっと見つけたぞ…さっきはよくも恥をかかせてくれたなぁ…」

 

三人組のリーダー格の男が威嚇したいのか、手の指をポキポキ鳴らして新一を見下ろす。しかしこれで怯む新一ではない。

 

「あれはオメーらが悪いんだよ…ほとんど食べ終わった焼きそばにハエを入れて…大騒ぎしてお金払わずに帰ろうとしたから…」

 

しかしヤンキーも黙ってはいない。ヤンキーに口で対抗した所で無意味だと言う事を、この時の新一は知らなかったのだ。リーダー格の男は新一の頭を鷲掴んだ。

 

「お前がチクんなきゃ…バレなかったんだよ…」

 

そういった刹那…シュッ!という風を切る音がしたら、そのヤンキーの男の目の前には秀一の指があった。

 

「悪いが、このボウヤは俺の連れでね…ボウヤに話があるのなら俺を通してからにしてくれ…まぁ、両目を抉られた後でいいなら…幾らでも話を聞くぞ…」

 

ヤンキー達は一気に顔色を変え、堪らず逃げ出す。

 

「し、失礼しました〜!!」

 

「すごーい!今の技って何?」

 

「フィンガージャブ!日本でいう目潰しだ…ジークンドーの技の一つだよ…」

 

(フィンガージャブ!!ジークンドー!!カッコいいーー!!)

 

「ボウヤ達!すまんが妹の相手をしてやってくれないか?どうやら妹は友達が欲しいらしい…」

 

「いいけど…」

 

折角良い雰囲気になった空間に、キィィィンっという大きなモーター音と、ガンっという何かが壊れた音が響き渡る。

振り向くと…自動車が崖から海へとダイブしようとしていた。

 

 

〜〜

 

 

「そーれ!!姉さん!!覚悟!」

 

「キャア!!…やってくれたわね、麗香…!!」

 

白い砂浜。青い海。そして美少女が2人いればそう…

地獄絵図になるようだ。

 

「このっ!当たりなさい麗香!!」

 

「ちょっと姉さん!?大人気ないんじゃなぁい!?」

 

「そっちがいきなり水かけてくるからでしょう!?それ、それ!!貴女もびしょ濡れになるのよ!!」

 

「ちょっ、やめてよ姉さん…このぉ!!」

 

バシャン!!バシャン!!バシャン!!と音が鳴る。その音源には2人の鬼気迫る顔の美少女姉妹がいた。

 

「お、おい!その辺でやめとけよ…」

 

「辞めといた方が良いですよ、お兄さん。それより私と遊びましょう?私海で泳ぐの初めてなんです。手伝ってくれます?」

 

可愛らしくコテンと首を曲げた唯香ちゃんのお願いを背く訳にはいかない。唐突にそんな使命感が湧いてきた。

 

「よーしっ、じゃあ俺が手をつかんでてあげるから、頑張ってバタ足で泳いでみようか?」

 

「ハイ!!」

 

 

「ホラホラ!!…ってアラ?裕太?」

 

「このっ!このっ!…えぇ!?唯香もいない!

あっ!!あそこ!!」

 

麗香が指さした先には、穏やかな笑顔を浮かべる裕太と、向日葵のような笑顔を裕太に見せる唯香が一緒に、手を繋いで泳いでいた。

そして唯香は2人の方へ振り返ると…ニヤリ、と勝ち誇ったかのようなドヤ顔を見せつけた。

勿論それに2人が怒らないわけはなく…猛スピードで泳いで裕太の元へと急行した。そのあり得ないスピードで追ってきた彼女たちを裕太は後にこう形容した…リアルジョーズだった、と。

 

 

〜〜

 

 

場所は変わり、海の家。麗子さんに奢って貰って、五人でテーブルを囲いながら昼食をとっている。

 

「それにしても唯香は泳ぎの上達が早かったな。もうあんなに泳げるだなんて…」

 

「いえ、お兄さんの指導が上手いおかげです…」

 

「むぅ…私も早かったわよね!?お義兄さん!」

 

「あぁ、そういや麗香も早かったよな。麗香の時はプールだったけど、スピードが速くなるのは一番早かったなぁ…息継ぎはてんでダメだけど。」

 

「うっ…」

 

「冴子は俺と2人で一緒に頑張ったから、泳げるようになったのは遅かったけど、その分達成感はすごかったな。

 

「えぇ、プールでの事件の後から、2人で毎日のようにプールに通って。“2人きりで”頑張ったものねぇ。」

 

冴子はなぜか唯香の方を向いて言う。唯香は唯香で悔しそうに顔を顰めた。

 

「まぁまぁいいじゃないの、ホラ、早く食べないと遊ぶ時間が減るわよ?」

 

「おおっ!!焼きそばだ!!いただきます!!」

 

「「「いただきます」」」

 

野上姉妹は三人揃って言ったようだ。なんだかんだで仲の良い姉妹である。

 

 

〜〜

 

「ふー、食べた食べた。さぁ、また泳ごうぜ!」

 

「そうね」

 

「負けないわ!」

 

「うーん、私はお母さんと一緒に休むわ。少し疲れた。」

 

「そうか、唯香はさっきまで結構ハードにやっちゃったからな。ごめんな?」

 

「謝らないで下さい!寧ろお兄さんには感謝しています。だから今からはお姉ちゃん達と遊んできてください。」

 

「そっか、分かった。それじゃあ!」

 

唯香、麗子さんと別れたその時だった。

「冴子、麗香!!まだ海に入るな!!こっちに来い!!」

 

「えっ?」 「何!?」

 

(今たしかに車の走行音がする。それも普通じゃないのが…っ!?)

 

爆音がして、ガードレールの破片降ってくると同時に、一台の車が崖から海へと転落して行った。

 

 

 




これで7歳か…フッ、降参だ(白目)


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シャア…!

調べて分かったのですが、警察にはキャリア組とノンキャリア組があって、白鳥警部はキャリア組、その他はノンキャリア組なんだそうです。ただ、年齢を私が勝手に25歳に設定した都合上主人公&冴子&美和子はキャリア組となりそうです。
因みに本来は美和子28歳、高木26歳、白鳥30くらいだそうです。



ドッバーーーン!!!

 

大きな音と水しぶきを上げて車が海に落っこちる。幸い車が直撃した人はいないみたいだ。飛んできた水から冴子と麗香を守るように2人を自分の胸に抱え、クルッと反対を向いて背中で水流を受け止める。俺は肩幅が広く身長も170後半あるので2人をすっぽりと収められる。

 

「危なかったな、2人とも。」

 

「え、えぇ…」

 

「うん、その…ありがとうね…」

 

背中で水を受けた後、2人を見ると顔を真っ赤にして目を逸らされてしまった。

 

(ちょっとやり過ぎたかな…?)

 

自身の頬に熱を感じるのは気のせいだと思いたい。

 

「そ、そうか」

 

俺は気恥ずかしくなって同じく目を逸らし、居心地が悪くなって海へと潜ってしまう。火照った体、特に顔を海水が撫で、ヒンヤリして気持ちいい。それで頭も冷え、冷静になったため気持ちを切り替えて落ちた車へと泳いで近づいていく。

 

(そういえば車はどうなっている…?…ん?あの人は?)

 

沈みゆく自動車は車内から空気が漏れているからか、大きな泡を立てていたため直ぐに場所は分かったのだが、別方向からもう1人若い男らしき人が俺と同じく車に向かって泳いでいるのが見える。

彼方側も俺に気づいたのか、一瞬目を合わせてくるが、お互い事態が急を要するものであると分かっているため直ぐに目線を外し、車へと急行する。

 

車に近付き、男は運転席側、俺は助手席側からドアを開ける。

運転席には初老あたりの男の遺体があり、フロントガラスに頭をぶつけたのか前面のガラスが割れ額から血を流していた。目を剥いて脱力している様子からも、亡くなっていることが分かる。

 

(頭を強打したのが死因か?車がガードレールに激突したときに頭を打ったって所か。シートベルトもしていないようだし。ん?)

 

後部座席に目を向けると、開けられたままの肩掛けバッグが目に入った。それを手に取り中身を確認する。

 

(ブランド品の腕時計か!それにまだ値札が付いているな…)

 

もう1人の男の方を見やると何やら首の辺りを調べていたようだ。俺の視線に気がついた彼は首を横に振り、遺体を肩に背負い浮上していった。俺も続いて、そのバッグを肩にかけながら海面へと急いで泳ぐ。

 

海面から顔を出すとさっきの男が遺体を海辺の砂浜に横たわらせていて、野次馬が大勢囲んでいる。

俺もそこへと向かった。

 

「ねぇ、その人助かるの?」

 

男に向かってそう聞く小さな子供…小学校低学年生っぽい男の子がいた。そしてその声は聞き覚えがある、前世で何度も聞いたものだった。

ビックリして目を向けるとそこにいたのだ。ヤツが。

工藤新一が。

さらには左の頭にツノの生えた女の子…毛利蘭、癖っ毛のボーイッシュな女の子…世良真純もいた。

 

「その可能性はもうない…」

 

そして男の声を聞いて、直ぐにあの赤い軍服を着て仮面を付けたジオン軍人を思い出す。

 

(シャアか!?…間違えた、赤井秀一だね…)

 

4人は俺の方へ顔を向けた。

 

「そのバッグは?」

 

コナン、もとい新一が聞いてくる。

 

「車の後部座席にあったんだ。中にはブランド品の腕時計が大量に入ってる。捜査の手掛かりになるだろうさ」

 

「君がそれを持ってきてくれて助かったよ…ボウヤ、海の家で水着とかを売っているコーナーがあっただろ?そこへいって車が落ちた後、ずぶ濡れでTシャツや水着やビーチサンダルとかを買いに来た客がいないか聞いてきてくれ…どうやら車にはもう1人乗っていて車から抜け出し、海水浴客に紛れ込んでいるようだ…できるか?ホームズの弟子君?」

 

「うん、もちろん!」

 

赤井が新一にそういうと新一はすぐに駆け出していった。

 

「君はここへあのボウヤと2人できたのかい?」

 

「ううん、新一のお母さんと一緒だよ?」

 

(有希子さんもいるのか!!チョット楽しみかも…)

 

「じゃあそのお母さんに警察に電話するように言ってくれないか?車が海に落ちて大変だって…」

 

「いいよー!」

 

蘭ちゃんは新一のお母さーん!と言って向こうへ走っていった。

 

「ボクは…?ボクは何をやったらいい?ボクにも何か手伝わせて!」

 

世良真純もやはり幼く、2人に負けじと赤井に駆け寄っている。

 

「そうだな…駐車場のおじさんに濡れた服や水着を着たまま外へ出ようとしている客がいたら引き止めるように言ってくれ。もしかしたら悪いヤツの仲間かもしれないからって…頼めるか?」

 

赤井に頼られたのがよっぽど嬉しかったのだろう、不安そうな顔が一気に晴れ、嬉しそうな顔でうん!と頷き走っていった。

 

「何故助手席にも人がいたと分かったんですか?」

 

「さっきの君か。助手席のサイドウインドウが開いていただろう?それでだよ。」

 

「なるほど。」

 

(流石は赤井秀一といったところか…)

 

 

「裕太!」 

 

どうやらウチのお姫様は我慢出来なかったようだ。私怒ってますといった顔でこちらを睨む冴子がいた。

 

「フッ、君はガールフレンドの方に先に行った方が良さそうだね」

 

「アハハハハ…そう見たいっス。」

 

 

〜〜

 

 

「もう、いきなり居なくなったと思ったら落ちた車に近づくだなんて…もし爆発でも起こしてたらどうするの!?」

 

「すまなかったって冴子…」

 

「…死んじゃうかもしれなかったのよ?」

 

「ごめんなさい。約束するよ、いつも必ず冴子の元へ帰ってくるって。」

 

「裕太…」

 

お互いの顔が近くなっていき…

 

ゴホン!!

 

横から咳をされた。

 

「チョットお二人さん?」

 

「お兄さん?公の場で何しようとしてるんですか?」

 

「アラアラ、フフフっ」

 

ジト目を向ける麗香、唯香にその様子を後ろから微笑ましそうに見つめる母麗子。野上家の女性は中々にクセモノ揃いなようだ。

 

「何?2人とも。邪魔しにきたの?」

 

「いえいえ冴子お姉ちゃん、公然と破廉恥な行動をとるから注意しただけです」

 

「お姉ちゃん!!ちょっと近すぎるんじゃない?!」

 

「貴女達に指図されるいわれは無いわ。そうよね?裕太?」

 

「「違うよね?お兄さん!!」」

 

三人とも似たような鬼気迫る顔で俺を睨みつける。末恐ろしい三姉妹だこと…

 

「モテモテね、裕太君」

 

「やめてくださいよ麗子さん…」

 

修羅場の抜け出し方を知らない俺は、しばし足止めを食らってしまうのだった。

 

 

〜〜

 

 

三姉妹に揉まれてすっかり萎れてしまった俺は、やっと解放されて事件の様子を見に行くことができた。

浜辺の遺体の方へと向かうと刑事らしき小太りしたメガネを掛けたおっさんと、帽子を被りサングラスを掛けた女性、その後ろに隠れた蘭ちゃんがいた。どうやら事情聴取中なようだ。

 

(あの女性…工藤有希子!?うわぁ、顔隠してても綺麗だなぁ…)

 

「あの崖のガードレールを突き破って…車が海に転落したと?」

 

「えぇ…」

 

「んで、この男がその車の運転手で、車からあんたが引き上げて我々警察に通報した訳か…」

 

「あ、いえ通報したのは私ですけど、引き上げたのは彼で…」

 

有希子の目線の先には帽子とサングラスをかけた赤井秀一がいた。

 

「誰だい?あんた…」

 

「アメリカの大学に通ってるただの留学生ですよ…今日は日本に久し振りに帰ってきて家族とここへ…」

 

「しかし本当なのか?通報ではその車にもう1人乗ってたそうだが…」

 

「えぇ、助手席のサイドウインドウだけ全開になっていたからそう思ったんです。そうだろう?」

 

赤井秀一は唐突にこちらを向き、話を振ってきた。

 

(いきなりかよ…)

 

「あんたも誰だ?」

 

「俺は夏休み中のただの中学生ですよ。そこの男の人と一緒に車の中を捜索してました。そしてその人の言ってることは正しいです。右ハンドルの車で1人しか乗っていないのに助手席側の窓だけ開けるだなんて不自然ですし、当然誰かもう1人乗っていたと推測できます。恐らくそのもう1人は海水で車内が一杯になる前にウインドウを開け、車外へ脱出、その後海水浴客に紛れ込んで逃走しようとしていると思われます。」

 

「だ、だがわざわざ窓から出なくともドアを開ければ…」

 

「その理由は私が説明しよう。水中では水圧がかかりますから、車が水没した直後、空気がまだ車内にある中でドアを開くのは不可能…窓からの脱出を選んだって所でしょう…」

 

「じゃあそいつはこの連れを見捨てて逃げたって訳か…」

 

「いや、この男はシートベルトをしていなかった…だから車がガードレールに激突した反動で頭をフロントガラスに強打し、頸椎骨折で即死…」

 

「水没した直後、呼んでも返事が無くて自分だけは助かろうと脱出した、ってところでしょうか?」

 

「でもだったら何で海水浴客のフリを…事故に遭った被害者なら堂々としてれば…」

 

「身を隠さなければならない理由があったんじゃないですか?」

 

「あぁ…この近辺の時計を扱う店で強盗事件なんてありませんでした?」

 

「え?た、確かに…1時間ぐらい前1キロ先の時計店に2人組の強盗が入ったという通報があったが…まだネットのニュースにもなってない事件をなんであんたが!?」

 

「俺が車内で見つけた後部座席にあったバッグに値札がついたままのブランド物の腕時計が大量にあったからですよ。」

 

「だが、問屋さんが商品を店に運ぶ途中だったとも考えられるだろ?」

 

「だとしたら傷が付かないようにビニール袋か箱に入れるはず…こんな無造作にバッグに詰めるのは、奪って逃げる事に頭が一杯だった強盗くらいですよ…」

 

「刑事さん、二人組の強盗の顔は目撃されてないんですか?」

 

「あぁ、2人とも目出し帽を被っていたんでね、声で1人は男だと分かっているがもう1人は男か女かわかってないよ。」

 

(なるほどな…)

 

すると工藤新一が戻ってきた。

 

「ピエロのお兄さん!」

 

(ぴ、ピエロ!?)

 

「連れて来たよ、車が海に落ちた後買い物したお客さん!」

 

新一はメガネを掛けた青年に顔を向ける。

 

「間違いないんだよね?」

 

(あれは…羽田秀吉か?)

 

「あぁ、小太りのこのオジサンはTシャツと海パン…このお姉さんはビーチサンダル…このひょろっとしたお兄さんはアロハシャツを買ってたよ!」

 

刑事さんはなぜかいきなり威圧的になって言った。

 

「どうやら海に沈んだ車を運転していたこの男には、連れがいたようなんでね。まぁ1人ずつ話を聞かせて貰おうか…」

 

まず最初は小太りなオッサンから話すようだ。「海」とど真ん中にでっかくプリントされた黒のTシャツを着て、海パンを穿いている。

 

「わ、私は福水繁克という者で、彼女と2人でここへきたんですが、ゴムボートの上で急に彼女に結婚話を切り出されて、「まだ早いよ」なんて煮え切らない態度を取ったら怒った彼女に突き飛ばされて海に落ち、ずぶ濡れに…そしてボートに戻ったら彼女の姿は無く、私の財布だけが置いてあったからグッショリ濡れた服を脱いで、とりあえずTシャツと海パンを買ったってわけです…」

 

「その彼女は今どこに?」

 

「かなり怒っていたので先に車で帰ったんじゃないでしょうか…彼女の車ですし…」

 

「そのゴムボートは?」

 

「さぁ…持って帰るのも面倒で放置してたから…海に流されてしまったのかも…」

 

次は女の人だ。Tシャツを肩が出るまでまくっており、ヘソの辺りで結んでいる。下もパレオを巻いている。

 

「北森靖絵が私の名前…ここへは1人で男漁りに来たんだけど…めぼしい男がいなくってさー…おまけにビーサンの鼻緒切れたから、新しく買い直して帰るトコだったのよ!十分海で泳いだしね…」

 

「その鼻緒が切れたビーチサンダルはどこに?」

 

「そんなのどっかに捨てちゃったわよ!ーって、あらいい男!」

 

赤井秀一は彼女のお目にかかったようだ。

 

「しかしそんな格好でここまでどうやって来たんだね?」

 

「財布片手にタクシーで…泳ぐ時は財布をロッカーに入れとけばいいし、必要な物は現地で買えばいい…荷物が少ない方が見つけた男の所にしけこみ易いしね…」

 

最後はヒョロ男だ。この男は大網頼哉というらしい。アロハシャツに金髪に日焼け、両腕に腕時計をしていて、チャラそうな雰囲気だ。

 

「置き引きっスよ!一泳ぎしてシャワー浴びてたら、俺のバッグを丸ごと持って行かれちゃったんスよ!だから海パンしか穿いてなくて…仕方なく海の家で3000円もするこのアロハを買ったんスよ!」

 

「財布は取られなかったのか?」

 

「あぁ、シャワーを浴びる時、バスタオルの間に財布を挟んでたから…」

 

「で?大網さん…ここへは何しに?」

 

「ナンパっすよナンパ!」

 

 

(やっぱり…見たまんまだな)

 

「見た目通りね…」

 

「冴子もそう思う?」

 

「えぇ…あまりタイプではないわ。だからあんな格好しないでね?」

 

「しねぇよ…」

 

 

「じゃあ、その両腕に付けた腕時計も、ナンパの小道具か?」

 

「あぁ…日本時間とニューヨークタイム!お洒落っしょ?」

 

 

「ないな」

 

「ないわね」

 

 

〜〜

 

 

side有希子

 

事件が起きた時は優ちゃんに知らせるのが一番!!絶対に外さないものね。

思い立ったが吉日、直ぐに電話を掛けましょう。

 

プルル、プルルと音がして、すぐにガチャっ、と鳴る。仕事中でも直ぐに出てくれるところに愛を感じる。

 

『おいおい有希子…夕飯まで執筆中だから電話するなって言っただろ?のんびり海水浴を楽しんでなさいよ…』

 

カタカタとタイプする音が聞こえる。ちょっと不味かったかな?

 

「ごめんなさい。でもいきなり車が転落して海に落ちてきたのよ。それで乗ってた人が亡くなってて…」

 

『何…?』

 

どうやら話を真面目に聞いてくれるようだ。

 

「どうやらその男、強盗犯だったらしくて車に同乗してた仲間は水没した車から脱出して海水浴客に紛れ込んでいるみたいなのよ!容疑者三人の写真を送るから犯人教えてくれる?私気になっちゃって。」

 

そう言って一旦電話を切り、写真を撮って送信する。

するとすぐに電話が掛かって来た。もう分かったの!?

 

side out

〜〜

 

 

さて、今回はとても簡単だ。分かりやすい事件だな。

 

「あら、もう分かったって顔してるわね。」

 

そういう冴子もどこか自信がありげな様子だ。

 

「勿論。冴子もだろ?顔に書いてあるぞ。」

 

「あら?そんなに分かりやすい顔してる?」

 

「あぁ、俺がその程度でわからないとでも?」

 

「フフフっ、それもそうね。」

 

俺と冴子の仲だ。ある程度は表情だけで分かる。そのくらいにはお互いを知り尽くした間柄だ。

まぁ、ササっと終わらせようか。

俺は刑事さんの方へと近づく。

 

「すいません、犯人分かりました。」

 

「「「!?」」」

 

「……」

 

有希子、刑事、新一はビックリした様子で俺を見る。そして赤井秀一は俺を値踏みするように目を細める。

 

「オイ、もう分かったってのかよ!?」

 

「えぇ、犯人は…アンタだ!北森靖絵さん!」

 

「ほぉ…」

 

「えぇっ!」

 

赤井秀一は感心した様子で、有希子は何故か凄く驚いている。…そこまで驚く事なくね?

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!何でビーサン買っただけでそうなっちゃうわけ?私のこの格好見てみなさいよ!どっからどー見ても海水浴客でしょーが!!」

 

「確かにそうね。でも、貴女が付けているソレ、水着じゃないわよね?」

 

冴子も援護してくれるようだ。というか私にも言わせろっていうところか?

北森さんは図星だからか、一歩後退りしてしまう。

刑事さんは全く分かってないようだが…

 

「み、水着じゃないのかね?」

 

「えぇ、恐らくパレオっぽくしてるけれど、その腰布はスカーフでしょう。穿いていたズボンかスカートかを海中で脱いで首に巻いていたスカーフをパレオのように巻き、Tシャツのスソを絞って海水浴客に似せたようね」

 

「でもさ、他の男2人がそうだったかしれないじゃん!海の家で服買ってるし…女の人はビーサンしか買ってないしさー…」

 

どうやらまだ新一君も甘いようだ。…いや逆にこうやって考察できる時点で一年生離れしてるけど…

 

「いや、正確に言えばビーチサンダルしか買えなかったんだ。財布は海水に浸かってお札は使えなかっただろうし、小銭だけで買わざるを得なかった。だからグッショリ濡れた靴も脱いで1コインで買えるビーチサンダルを買った彼女が犯人だと思うわけ。見ての通り波打ち際以外では砂浜は熱くて素足ではとても歩けないからね。それに海の家でクレカも使える訳ないし。」

 

だが、刑事さんはまだ疑問があるようだ。

 

「し、しかし女性なら濡れてもいいサンダルを元々履いていたって場合も…」

 

「忘れたんですか?車に乗っていたのは強盗犯なんですよ?しかもさっき起きた事件だ。逃亡中ならわざわざ走りにくいサンダルに履き替えるとは考えにくい…ですよね?北森さん?まぁ、偽名でしょうけど。」

 

「それに、貴女の付けている時計…10時10分で止まってるわよね?お店に並んでいる時計は作った会社の名前が綺麗に見えるように10時10分くらいで針を止めて置くのよ?」

 

「あっ、それ僕も知ってる!!父さんにデパートの時計売り場で聞いたよ!!」

 

(は!?流石工藤家、教育が違う…小学生が知ってることじゃねぇよ…)

 

「ブランド物ならシリアル番号が入っているはずです。それを調べれば強盗にあった時計かどうか分かると思います。まだ、反論しますか?」

 

そういうと北森さんは諦めたように体の力を抜いた。

 

「なる程ね…だからあの男にバレたってワケか…」

 

〜〜

 

ー逃亡中の車内で

 

「上手くいったわね!」

 

「ああ、チョロいもんだ!」

 

「時計、さばいたら南の島にでも行く?」

 

「おい、くすねてんじゃねーよ…その腕時計後ろのバッグに戻せ…」

 

「何言ってんの?これはこの前買った…な、何すんのよ!」

 

男は女に手を伸ばし、腕時計を無理矢理取ろうとしたら…

 

「戻せっつってんだよ!」

 

「ちょ、ちょっと前!」

 

〜〜

 

「そしてガードレールを破って車ごと海に真っ逆さま…まさに転落人生とはこのことね…」

 

言い終わると刑事さんは彼女の手首に手錠をかけ、連行していった。

 

 

「強盗に成功して調子に乗ってしまったのかしら…」

 

「さぁな。ただ一つ言えるのは、犯罪を犯しておいてのうのうと生きようだなんて、そんな甘いことは無い。」

 

「そうね、さぁ、戻りましょうか。」

 

「あぁ。麗香と唯香が目を爛々と輝かせてるけど…」

 

「フフフ、これは後で質問攻めね。」

 

「まあ、こういうのも良いのかな?」

 

 

「あ、あのさ」

 

「「ん?」」

 

声のする方へ振り返ると、新一君がいた。

 

「刑事さんが呼んでるよ!事件のこともう一度警察署で聞きたいって!」

 

(うっはぁメンドイ…)

 

「そっか。ありがとうね」

 

「ううん。その…」

 

「なんだい?」

 

「お、俺もあんたみたいに凄い推理が出来る様になれる?」

 

新一は少し自信を無くしたのか、ちょっと落ち込み気味なようだ。

 

「あぁ。俺が保証する。これからも励めよ、少年」

 

「へへ、そっか!俺、新一!工藤新一っていうんだ!」

 

「そうかい。俺は星川裕太。刑事志望なんだ」

 

「そっか!俺は探偵!シャーロックホームズの弟子だ!」

 

「ハッハッハ、そうかそうか。ならその師匠を超えるような探偵になってくれよ。じゃあな…」

 

「うん!バイバイ!」

 

そう言って駆けていった新一に、アニメで見たあの逞ましい姿が重なる。彼は今はまだ探偵の卵だが、その卵は金色に輝いている。芽が出るのももう少しだろう。

 

「いいの?あんなこと言って」

 

冴子は新一を知らないからか、そう言う。その中に若干の嫉妬が入っているのはご愛嬌。

 

「良いんだよ。あの子はきっと大物になるさ。」

 

「そう。でも、その前に麗香と唯香のことも気にした方がイイわよ。」

 

「あっ」

 

2人の不満気な顔に今後を憂うのだった。

 

その後事情聴取を受けた俺に待っていたのは長い長い冴子と麗香と唯香の付き纏いだった。




評価が低い…コナンのssは評価高いのが多いので中々厳しいですね。クオリティを上げるよう努力いたします。

赤井秀一の名前の由来はシャアが赤いから赤井、声優の池田秀一さんから秀一としたらしいですね。
安室透、降谷零は声優の古谷徹さん、アムロ・レイからなんだとか。


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狙われた野上家

冴子いてあの人いないのおかしいよなぁ。
ってことで私の一番好きな主人公を出します。実はこの人に似せてオリ主を考えてましたw

あと、前回から高評価を多く頂きました。
本当に、ほんっとうにありがとうございます!!!
これからも皆さまに読んでいただけるような物語を書いていきます。


「「おめでとうーー!!」」

 

パン、パパン!!とクラッカーの音が鳴り、硝煙の匂いが立ち込める。

今日はまた野上家にお呼ばれされ、またまた晩ご飯をいただいているのだ。

何故こんなパーティを開いているのかというと、唯香の小学校入学、麗香の中学入学、俺たちの高校入学祝いだからだ。といってもウチはウチで入学祝いはしたんだが、冴子達から来なさい!!と言われれば従わざるを得ない。アレ?もう尻に敷かれてない?大丈夫か俺…

 

(それにしても早いな…もう16年経ったのか…冴子と会ってからみても9年、長いようで短かったなぁ…それにしても全員揃って入学っていうのも中々珍しい…)

 

今年の春からは2人揃って帝丹高校一年生、花の女子高生冴子が見られるのはこの3年間だけだ。

麗香も初の制服姿をお披露目していて、中々似合っている。唯香は唯香で新しく買ってもらったというランドセルを俺に見せてきた。2人とも新しい学校生活に胸をときめかせているようで、目が爛々と輝いている。あの2人なら上手くやっていきそうな気がする。

 

さて、俺はというとあまり気変わりはせず、正直校舎と制服が変わるだけなのであまり気にしていない。麗香も同じく小学校からの内部進学なのだが、やはり小学校から中学、中学校から高校だとまた少し違うのも致し方ないといった所か。俺は前世でも中学から高校は内部進学であったが、男子校だったというのもありワクワク感というは全く無かったが、今回はそれなりに期待はしている。

 

「さぁ、食べましょうか」

 

そう言われてみんなでテーブルに置かれた料理を食べる。やはり麗子さんの料理は美味いなぁ…

中でも俺の好物なハンバーグが絶品だ!でもどこかで食べたような?

 

「ん、このハンバーグ美味い!!」

 

「あら、良かったわねぇ冴子」

 

(ん?冴子?…あっ!)

 

「冴子、あの時のか!」

 

「そう、家庭科で作ったでしょ?それと同じものよ。」

 

「なるほど、道理でどっかで食った気がしたのか」

 

「ハッハッハ、裕太君、もう餌付けされちゃったみたいだな!」

 

「アハハ、そうみたいっス」

 

その後もパーティは続き、帰るのは夜10時になってしまった。

 

 

〜〜

 

 

翌日、入学式を終えた俺らは昼飯を近くの寿司屋でという話になり、今は丁度食べ終えて外に出たところだ。

 

「いやぁ食った食った」

 

「もう、少しはお義母様のこと考えてあげたら?途中から顔が青くなってたわよ?」

 

「お兄さんは食いしん坊だもんねぇ…」

 

「流石にアレは食べすぎです。」

 

「な、なんだよ…三人揃って…まぁちょっと食べ過ぎたかな?」

 

麗子さんの紹介ともあって普通の回転寿司でなくカウンター式の高級なところだったため、最初は俺もみんなと同じくランチ用のセットを頼んでいたのだが、珍しく母さんが今日はもうちょっと食べても良いよと言ってくれたため、じゃあという感じで注文していくと、最初はみんな良く食べるなぁくらいだったのだが途中から段々と引かれていき、最後の方はいつも笑顔を絶やさない麗子さんまで気まずそうに母さんのことを見ていた。

そのため今の母さんの表情は少しやつれていてこめかみには怒りマークが2、3個出来ていた。

 

「裕太…アンタ次来るときは自腹ね」

 

「えぇっ…」

 

それを聞いて麗香大笑い、冴子と唯香は後ろを向いてプププっと笑っていた。麗子さんもアララって感じで苦笑いしていた。

 

(な、なんだよ皆んなして…いいじゃねぇか、腹減るんだから…)

 

そんな感じで店の前で談笑していると後ろから車が猛スピードで突っ込んで来た!

 

「っ!?危ない!!」

 

俺は咄嗟に車の進路にいた冴子と唯香を抱き抱えて店側に寄せる。電車の高架下にあるこの店の前には歩道がなく、車もそれを分かっていたようにワザと俺達の近くを通っていった。しかしアレは完全に冴子と唯香を轢き殺そうとしたような走り方だった…

 

「大丈夫!?冴子ちゃん、唯香ちゃん!」

 

「大丈夫ですわお義母様…」

 

「こ、怖かった…うぅ…」

 

冴子も流石に今のは冷や汗をかいたようで、ちょっと震えている。唯香はとても怖かったようで、目には薄っすらと涙を浮かべている。

 

「お姉ちゃん、唯香…無事でよかった…」

 

「ありがとうね、裕太君」

 

「いえ…なんだったんでしょう、今の。完全に分かっててコッチに向かって突っ込んで来てましたし…」

 

「…分からないわ。取り敢えず、今は助かったのだから良しとしましょう。世の中ああいう危ない人もいるわ…」

 

「ホント、サイッテー!!」

 

麗子さんは冷静を装ってはいるが、やはり娘を殺されかけて相当怒っているようだ。麗香も怒りをあらわにしている。

 

(本当になんだったんだ…?)

 

 

〜〜

 

 

その後一週間は何事も無く、学校も順調に進み、二度目の高校生活を満喫していた。

 

「起立、礼!」

 

「「ありがとうございました!!」」

 

6時間目の授業が終わり、今日もいつも通りの学校が終わった。教室は授業が終わったため空気が緩み、各々帰る支度をする者、友達と駄弁る者、部活動に向かう者など様々な人で賑わう。

 

「さぁ、私達も帰りましょうか」

 

「あれ、放課後呼び出されてるんじゃねぇのか?」

 

「それなら昼休みの内に予め断っておいたわ。早く帰りたいもの」

 

「えぇ…相手もちゃんと告白しにきてるんだし、もうちょっと丁寧にしてやったらどうだ…」

 

そう言うといつも通り冴子は嫌そうな顔をする。

 

「分かってるわよ…でもあまり放課後の時間を取られるのは好きじゃないの」

 

「知ってる…お気の毒に、誰か知らんけど。」

 

なんだかんだで話をしながら学校の外に出る。

 

「なんかこの道も飽きたなぁ…」

 

「早いわねぇ…まぁ無理もないわ、中学の時とほんのちょっとしか変わらないもの。」

 

「ほんそれ」

 

そうやって歩いているとどこか寒気がして後ろを振り向く。するとそこにはこの前の車が停まっていた。冴子も俺がいきなり後ろを向いてビックリしたのか、続けて振り向く。そして車を視認すると顔を青ざめた。

 

「嘘っ…」

 

車からサングラスとマスクをした男らしき人が降りてきて、冴子に銃を向ける。

 

「クソが!!」

 

俺は咄嗟に冴子を庇い、抱き寄せて背中を向ける。それとほぼ同時か、ちょっと後に

ダァン!!

と銃声がしたと同時に俺の左肩を銃弾が擦り、血が滲む。俺は痛みを堪えられず顔を歪め、肩を右手で押さえる。

 

「グゥっ!イテェな…この野郎…」

 

「裕太!!」

 

しかし犯人は手を緩めようとはせず、もう一度撃とうとリボルバーを回す音が聞こえる。

しかしここで銃声を聞き駆けつけた警備員がやってきて、それを見た犯人は急いで車に乗り込み急発車、猛スピードで去っていった。

 

「待て!!…クソ…」

 

「裕太!早く手当てしないと…保健室まで歩ける?」

 

「あぁ、何とか…」

 

幸い弾は肩を少し掠っただけで、校舎の外壁に銃痕を付けていた。しかし俺の左肩からはじわじわと血が滲み、制服と右手を赤く染める。ジンジンと痛むのを堪え、冴子の助けを借りてなんとか保健室まで辿り着く。

保健室の先生は事情を聞くと驚くも、直ぐに切り替えて手当てを施してくれた。何とか止血し、包帯を巻くだけで良さそうだ。ただ…

 

「なんで冴子を狙ったんだ…?」

 

「ごめんなさい、私のせいで…」

 

冴子はすっかり気を落としてしまったようだ。

 

「気にすんなよ冴子、何とか生きてるんだから…ただ、これからは少し注意が必要だな。麗香や唯香も含めてあまり1人にはなっちゃいけないな…」

 

「えぇ…一応先生に頼んで麗香と唯香にもここに来てもらって、帰りはお母さんの車で送ってもらう事にしたわ。」

 

「そうか…なら大丈夫か。それじゃあ俺は帰るよ」

 

「何言ってるの!裕太も一緒よ!」

 

「俺は良いよ…別に狙われた訳じゃないし…」

 

「良いから一緒に帰るわよ。もしかしたら狙いを変えるかもしれないし…」

 

「分かった。そう言うならそうするよ」

 

 

暫くすると保健室に麗香と唯香がやってきた。

 

「「お兄さん!!」」

 

「あぁ、来たか。この通り、俺は大丈夫だよ」

 

「良かった、重症じゃなくて…銃で撃たれたって聞いたわ。大丈夫?」

 

麗香も今回流石にいつもの元気さを無くしているようだ。唯香も心配そうにこちらを見つめる。

 

「心配すんな、ただの擦り傷みたいなもんだ。でも俺じゃなくてお前たちの方が気をつけた方がいい。今回も冴子を狙ってたみたいだし、前回は唯香も狙われた。もしかしたら姉妹で狙われている可能性もある。警戒した方がいい」

 

「うん…」

 

唯香には怖かったのか、とても落ち込んでしまった。

 

「安心しろ唯香。ちゃんと注意してれば大丈夫。それに俺も警察もいるんだ。心配すんな」

 

「…うん!」

 

どうやら少し元気になったようだ。

 

それから5分ほどで、母さんが保健室に駆け込んできた。本当に急いで来たんだろう、服も普段着のままで、化粧もしていない。少し髪も跳ねている。

 

「裕太!!大丈夫!?」

 

「母さん…なんとか掠った程度だったよ。何ともないさ」

 

「そう、良かったぁ…」

 

麗子はホッとした表情になり、脱力したのか壁に寄り掛かった。

 

「星川さんのお母様ですね?」

 

「ハイ、息子がお世話になりました」

 

「いえ、ただ先ほど野上さんのお宅から電話がありまして、娘さん達も連れて野上さんの家に来て欲しいとのことです。何でも警察に通報して、野上さんの家で事情聴取があるのだとか。」

 

「あぁ、そうですか。ありがとうございます。さぁ行きましょうか」

 

 

〜〜

 

 

母さんの車で冴子達の家に着く。そこには一台のパトカーと剛昌さんの愛車、メルセデス・ベンツW124も停まっていた。

 

中に入ると目暮警部補と剛昌さんがいた。

 

「裕太君か。重症じゃなくてよかった。そこに座ってくれ」

 

「はい」

 

剛昌さんはいつもの気前の良いオジさん感は無く、完全に仕事モードのようだ。

 

「久しぶりだね裕太君。覚えているかな?」

 

「はい、お久しぶりです目暮さん」

 

目暮刑事とはプールでの事件以降、ちょこちょこと事件の協力をする度に会っていたため、懇意にしていただいている刑事さんだ。

 

「それじゃあ早速初めましょうか。犯人の特徴は?」

 

「犯人は恐らく男性、身長は170くらいです。痩せ型で髪は丸刈でした。服装はベージュのコートとジーパンを着ていて、サングラスをかけてマスクもしていました。なので顔は見れていません。車に乗っていて、ナンバーは『杯戸 49N た 34ー89でした。」

 

「なるほど。他には?」

 

「リボルバー式の拳銃を持ってました。狙い通りに撃っていたのでそれなりに手練れであると思われます。」

 

「分かりました。車については照合してみます。後近所にこの犯人の特徴を書いたポスターを貼ってさらなる情報を集めてみます。」

 

「はい、お願いします。」

 

そうして目暮刑事は軽く会釈すると帰っていった。剛昌さんも立ち上がり、リビングのドアに手を掛けて振り向いた。

 

「…冴子、麗香、唯香、麗子…俺が絶対に犯人を捕まえてやる。絶対だ。待ってろよ。」

 

そう言う剛昌さんの顔は真剣そのものだった。一瞬俺に目を向けたあと、直ぐに出て行ってしまった。

そしてそれを見つめる麗子さんの目は少し影を見せている。

 

「心配ないわお母さん、お父様は無事に帰ってきますって。」

 

「冴子…そうね、お父さんのことだもの、大丈夫よね。」

 

そう笑う麗子さんの顔は儚げなものであった。

 

「では自分も失礼致します。ありがとうございました」

 

「え、えぇ。」

 

 

 

〜〜

 

 

俺は冴子達に別れを告げ、母の運転する車の助手席で物思いに耽る。

 

(犯人は大体目星が付いてる…15年前、会社の金を横流しして着服していた紀ノ川商事の元社長・紀ノ川啓治だろう。警察に捕まって多額の賠償金で借金して資産を全て没収、挙句に奥さんと子供にも逃げられる始末。裁判でも全く反省してなかったって話だ。そしてその事件を追っていたのが剛昌さんだったらしい。これだけフラグが立ってりゃ分かるだろうよ…)

 

 

頬杖をしながらボンヤリと流れる景色を眺めていると、人通りの無い道の脇に建っている廃ビルを見つける。そして地下に駐車場があるのか、二台分くらい車が通れるような道が地下へと向かってのびている。

 

(出所したばかりの紀ノ川啓治に身寄りはないはず…それにこんなに頻繁に俺達の近辺に出るということは、この米花町あたりに潜んでいる可能性が高い!!それにこの辺は東都の中心でも人の少ない方だ…であるならあそこが!?)

 

 

〜〜

 

 

家に帰ってきた俺は、取り敢えず母さんから安静にしろと言われていたが、完全にさっきの場所に行くということで頭が一杯いっぱいだった。

 

(犯人は銃を持っていた。それにそれなりに腕が立つ…俺のエアガンじゃ到底太刀打ち出来ない…なら、せめてアイツがあそこに潜伏してるって事だけでも証明出来る様にすることが目標か…そのためにはまず写真も撮れる携帯は必須だな。後は何かあった時用に逃げられるように俺の作った煙玉をいくつか、そして催涙スプレーも。手袋もいるかな?後は…いや、あまり数が多くても困る。これだけで行こう。)

 

それらをズボンのポケットに突っ込み、玄関へと向かう。

 

「母さん、俺学校にちょっと忘れ物したからちょっち取りに行くから〜」

 

「えぇ!?ちょっと、安静にしときなさいな!!ちょっと裕太!?」

 

母さんの叫び声を無視して自転車で飛び出す。校舎裏でタバコをふかしたり盗んだバイクで走り出したりしないだけありがたいと思って欲しい。

 

 

 

〜〜

 

 

キキーッと音を立てて自転車を停める。先程見た廃ビルの前の路肩に置いておく。人通りが少ないので盗まれないだろうと踏んで、逃げる時すぐに発進出来る様に鍵は敢えてかけないでいる。

 

「さぁ行こうか」

 

少し緊張している自分を落ち着かせるように、声を出す。

 

先ず地下を確認すると、そこには何も無く、ただ車止めだけが転がっているだけだった。

 

一階に入ると、目の前にエレベーターが見えるが、電気が入ってないのは見るからに分かるため無視する。横にあるポストも蓋が外れていたり錆びていたりで随分とくたびれている。

少し進むと階段があり、窓から少しだけの光が差し込み、微妙に踊り場を照らしている。

運動靴のゴムが潰れる音を出来るだけ殺しつつ、二階へ上がる。この廃ビルは6階立てだ。

 

二階はなんかの企業があったのか、デスクが並んでいる。しかしその上には何も無く、ただ整然とデスクがあるだけだった。

 

三階へと上がるとそこは塾でもあったのだろう。勉強机と幾つかの受験資料が落ちていた。この階は幾つかの部屋に分かれているようで、奥へと進む。ドアは基本的に外れているか開けられている。そして1番奥の部屋に入るとそこには手洗い場があったが、そこも全く使われている形跡は無く、水も入っていないようだ。

 

(なんだ、なんもねぇじゃんか!やっぱり考えすぎたかな?)

 

肩透かしを食らって一気にやる気が無くなっていた俺は、一応上の階もササっと調べてしまおうと思い、急ぎ足で四階、五階も調べ終え、六階へと向かおうと階段の近くまでやってきた、ちょうどその時だった。

ブロロロ、キーッという車の走行音が外から聞こえてきた。慌てて外を見やると先程の犯人の乗っていた車が地下へと入って行くではないか。

 

(なぁっ!?このタイミングでか!?クソっ、運がねぇ!!)

 

俺はどうにか階段を音を立てない程度の速さで走り降りる。しかし間に合わず、下からコツコツと床を叩く音がし始める。

俺は咄嗟に三階にある部屋の一つに駆け込んだ。

そして耳を澄ませて犯人の声を聞く。

 

「ハァハァハァ…クックック、やった、やったぞ!ワシには強盗の才能があるようだ!あのバカ銀行員め、少し銃で脅したら一瞬で金を積めてくれよったわ。これで少しはマシな暮らしが出来るってものだ…」

 

(この声はやはり紀ノ川啓治…テレビとかで聞いた声そっくりだ)

 

紀ノ川の階段を歩く音は大きくなったが、また小さくなった。上の階へと上がって行ったのだろう。

俺は録音していた携帯をしまい、ササっと階段を降りていく。しかし…

 

「ハハハ、まんまと引っかかりよって。小僧!!」

 

「なに!?」

 

そう、階段で振り向き上を見ると、紀ノ川啓治が銃を構えていた。

 

「小僧、此処を突き止めたことは褒めてやろう。だが残念だったな、ワシは銃を持っている。お前みたいなガキが手ぶらでこんな所に来たのが間違いだったのだよ!!悔やむなら武器の一つも持たずに入ってきたお前の無力を悔やむんだな!」

 

「くぅ…なぜ、なぜ野上家を狙う?貴方は何故そこまでするんだ?」

 

「フッ、良いだろう。ワシは紀ノ川啓治、紀ノ川商事の社長だった。だが、それもアイツ、野上剛昌によって壊された!!それだけじゃない、愛する妻も、子供も、マイホームも!!何もかもをアイツに奪われた!!これがワシの復讐の理由だ!」

 

「…冴子達をどうするつもりだ…」

 

「冴子?あぁ、あの娘の1人か。お前はあの娘に首ったけのようだったな。安心しろ、此処でお前を殺した後、あの娘もお前の所に送ってやるよ。姉妹、母親共々な!!」

 

「…大方、剛昌さんにお前と同じように子供と妻を亡くすようにするためか」

 

「そうだ!!アイツにも俺と同じ目に合わせてやる!!だがその前にお前だ!!死ねぇ!!」

 

「グッ!!」

 

俺は何とかポケットに手を突っ込もうとするが…

 

「させるかぁ!」

 

ダァン!!と建物中に銃声が鳴り響く。そして俺の右腕からは血が流れてきた。

 

「〜っ!!」

 

俺は痛みで声が出ず、右腕を抑えて蹲ることしかできなかった。

 

「ハハハハハ、そのポケットに何を入れているのかは知らんが、今此処で死ねば同じこと。さぁ今度こそ死ね!!」

 

紀ノ川が引き金を引くまで、遅く感じた。時間がとてもゆっくり流れているようだ。俺はこれで死ぬのか、またこんなことで、殺されて終わるのか。そう諦めかけていた。

 

ダァン!!

 

カランッという薬莢の落ちる音を聞く。そして俺は銃弾を受けていない。わけが分からなくなりバッと音のした方を向いた。

そこにはデカイ体の男が立っていた。俺より一回りくらい大きな背丈に肩幅。赤いシャツに青いジャケット。袖を捲った腕は太く逞ましい。そして髪は少し長めの癖っ毛。そしてその右手に持たれた銃は、あのコルトパイソン357マグナムだ。

そう、シティーハンター冴羽獠だ。

 

「子供相手に銃を向けるのは感心しないな。紀ノ川啓治」

 

「だ、誰だお前は!!」

 

紀ノ川は銃を撃ち抜かれて手が痺れるのだろう。俺と同じように蹲って手を押さえている。

 

「俺は冴羽獠、又の名をシティーハンター。」

 

「お、お前が、あの!?」

 

(冴羽獠!?)

 

冴羽獠はこちらを向いた。

 

「大丈夫か?お前も高校生くらいだろ?危ないところには1人で入っちゃいけませんって学校で習わなかったか?」

 

「へへへ、生憎育ちが悪いもんで」

 

「フッ、そうか」

 

「お、おい!なぜシティーハンターがここに居る!?」

 

「俺は依頼を受けてここにいるんだよ。お前に恨みがある人からでね、お前をもう一度刑務所にぶちこんでくれってな。」

 

「なぁ!?く、くっそう…!!」

 

紀ノ川をロープで雁字搦めにすると冴羽獠はもう一度俺の方を向いた。

 

「救急車と警察は呼んでおいた。じきにくるだろうからそれまでは我慢しろ」

 

「はい…冴羽さん」

 

「ん?」

 

「俺を…俺を弟子にして下さい。俺ももっとちゃんと…好きな人を…守って…やりたいんです…」

 

「…俺の指導は厳しいぞ?」

 

「ハハハ…望む、ところです…グッ」

 

血が出過ぎて意識が薄れてくる。それでもなんとか声を出して冴羽獠に話しかけた。

 

「おい、大丈夫か」

 

流石に不味いと感じたのか、冴羽獠がこっちへと駆け寄る。

 

「はい、大丈夫…です…」

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

 

目を覚ますと白い見慣れない天井が目に入った。

 

「知らない天井だ」

 

いつか言ってみたかった言葉をここで言うとは思わなかった。しかしここは…

まぁ、ベッドにカーテン、点滴を見るに病院の個室で間違い無いだろう。

 

丁度朝らしく、朝日が綺麗に夜空という黒い色紙に色を染み込ませていく。日光はグラデーションを描き、たちまち町は光に包まれる。そんな光景を俺はどこか遠くの星から見ているような気分だった。

 

そんな現実逃避から目を背けると、棚には色々な差し入れが置いてあった。冴子や麗香、唯香からは手紙やら果物、ゲームは母さんだろうか。

 

そしてその横にオレンジのガーベラが数本入った花瓶が置いてある。その下には名刺らしきものが挟まっている。

それを取り出して見てみるとそこには文字と数字が書かれていた。

 

『冴羽商事 冴羽獠 city hunter』

 

そしてその下には住所と電話番号、そして…

 

『頑張れ 治ったら来い』

 

と書かれていた。

 

 

 

 




食べ盛りの男子の食費ってバカみたいに高いですよね。私も現在食べ盛りなのでいつも親に迷惑をかけてしまっています。特にお寿司。回転寿司に行くといつも20皿かそれ以上くらい食べちゃって…
ナンバーはテキトーです。

冴羽獠は主人公の師匠役です。以降はお助けキャラ的な位置づけになると思います。

でも口調違うよなぁ…いつもの冴羽獠ならかけるんだけどこう真剣だとねぇ…


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並び立つ者

お気に入り800到達しました!本当にありがとうございます!
学校が始まり中々忙しく更新が出来ていないのですが、これからも投稿は続けますのでよろしくお願いします。


退院した。こういうと普通はおめでたい事なんだけど今の俺にはその言葉は当てはまらない。なぜなら…

 

「冴子、せめてこのナイフ外して…キツいです」

 

「はい?」

 

ニコォ、という擬音が聞こえそうなまでに良い笑顔()をしていらっしゃる冴子やジト目な麗香、心配そうに見つめる唯香、激おこ母さん、いつになく真顔な麗子さんが眼前に並んでいた。面子だけを見ればかなりの美女美少女が並んでいて絶景なのだが、状況がそんな楽しみを奪っている。

かくいう俺は冴子が投げたナイフによって脇、肩、足、袖が針でとめられたように壁に張り付けにされていた。

 

「裕太…あれだけ家で安静にしてなさいと言ったわよね?」

 

「あの、その話は入院中にも聞いたんだ「黙らっしゃい!!」ハイスイマセン!!」

 

「裕太君、確かに貴方には感謝してるわ。でもね、やって良いことと悪い事があるの、知ってるでしょう?」

 

「はい、自分でもやり過ぎたと思ってます…」

 

「お兄さん、私もね、最初お兄さんが銃で撃たれたって言われた時ほんっとうに心配したんだよ?そんなことをまた直ぐに起こして…怒ってるんだからね!!」

 

「ごめんって麗香…」

 

「まぁ、そういうところも含めてのお兄さんですけど…でも、取り残された私たちの気持ちも考えてください。」

 

「裕太、罰として明日は私とトロピカルランドに行くこと!分かった?」

 

冴子はナイフを抜きながらデートのお誘いをしてくる。断り辛い状況を作ってから誘うとは…策士だなぁ。

 

「はいはい…んじゃ、明日8時でいい?」

 

「えぇ。」

 

「ヒュー!お姉ちゃんデートするんだぁ〜!」

 

麗香は煽るように挑発するも、冴子は動じない。逆に麗香に向かって嘲るような表情を作り、

 

「麗香にも彼氏がいれば、こういう風にデート出来るのにねぇ」

 

流石冴子、伊達にお姉ちゃんをやってない。

 

「フン、私だって告白くらいされてるんだから」

 

「どうでもいい男に告白されてマウント?語るに落ちたわね」

 

「2人とも見苦しい。ねぇ、お兄さん?」

 

「えーっと…」

 

「ちょ、唯香!!」

 

「裕太?」

 

思いがけない唯香の参戦に戸惑う麗香に俺に威圧してくる冴子。うーんこの姉妹()

 

「お子ちゃまは黙ってなさいよ」

 

「煩い麗香お姉ちゃんよりかはマシよ」

 

「2人とも、もうやめなさいな」

 

「お姉ちゃんのせいでしょ!?何部外者ぶってるの!?」

 

「冴子お姉ちゃん、自分の非を認めないのはどうかと思うよ」

 

あ、冴子キレた。

 

「大体ねぇ!麗香が茶化すのが悪いんでしょ!?」

 

「何をー!!」

 

 

「帰ろ」

 

「そうね」

 

「あら、気をつけてね〜」

 

俺と母さんは三姉妹の喧嘩に巻き込まれないようにサッサと帰るのであった。

 

 

〜〜

 

 

「すいません師匠、遅れました!!」

 

「あ、裕太君?獠なら地下にいるわ。獠ったら、遅れるって連絡来てから不機嫌になっちゃって。気をつけてね?」

 

歩いて10分ほど。新宿の中心街の少し外れにあるマンションを訪れる。ここももう数回通い、完全に場所を把握した。そのマンションは6階建で、新宿にしては珍しくレンガ調だ。そしてその住人はシティーハンター…冴羽獠と、そのパートナーの槇村香だ。

俺は冴羽さんのことを師匠と呼び敬い、戦闘の指導を受けている。

しかし中々師匠の身体能力には付いていけず、毎回毎回終わった後はヘロヘロになってしまう。

 

「ありがとうございます香さん。じゃあ行ってきます」

 

「頑張って〜」

 

そう言ってサムズアップする香さんはとても綺麗だ。師匠が羨ましい。

 

 

ーー

 

 

「師匠!遅れてすいません!」

 

ダッシュで階段を駆け下り駆け込んだ先には片手でコルトパイソンを構え、奥にある的に向けて弾を放つ。轟音と共に発射された弾丸は真っ直ぐ飛び、的には当たらずに…穴を通っていった。

 

(す、すげぇ!!開けた穴に弾を通すなんて…)

 

リボルバーに入っていた弾を打ち切り、師匠はやっと俺に顔を向ける。

 

「遅ぉぉい!!!俺がいったい何分待ったと思ってるんだ!!」

 

師匠の声で俺は吹っ飛びそうになる。だがこれは俺の想定内だ。

 

「す、すいませんって師匠〜。お詫びにコレ…今話題のグラビアアイドルの写真集です!」

 

俺は悪どい顔でサッとバッグから持ってきた写真集を手渡した。マンションのゴミの所にエロ本が縛ってあるのを見つけ、バレないように手早く回収しておいたものだ。でもそれ、違法行為なのよね…

しかしそんなことは知らず、手渡された写真集を読む師匠の顔はみるみるニヤケてきて、見るからに怪しげな雰囲気を醸し出す。

 

「ハッハッハ、お主も悪よのぉ〜。グッヒッヒッヒ」

 

「いえいえお代官様〜」

 

2人して目を細め、口を歪めるその光景は悪代官そのものだろう。

 

 

〜〜

 

 

「おーい、来たぞー冴子ー!」

 

日曜日。冴子に言われた通りに野上家の前まで迎えに来る。俺は一応デートとのことなので、頑張って髪をセットしてきた。最も、元から髪は短めなのでそんなに凝ってる訳ではないが。服装も、まだ初夏ということで黒いジャケットに赤シャツ、ジーンズ(師匠リスペクトセット)だ。

首元にはちょっと前くらいに買った冴子とお揃いの星形のネックレスを掛け、腕には親父に買ってもらった高校入学祝いの腕時計。高校生にしてはそれなりといったところだろう。

 

そうしてボンヤリとドアの前で待っていると、ガチャリという音がなり1人の“女性“が出てきた。

化粧はしていないのだろうが、素が良いのだろう、瑞々しい白い肌はツルッとした印象だ。唇はリップを塗ったのだろう、元々の薄ピンクに艶が出ている。肩より少し長いくらいに整えられた髪はそよ風になびき、それを右手で抑える仕草にドキッとしてしまう。

青いワンピースは冴子の物静かで清楚なイメージを際立たせ、より華麗に彼女を輝かせる。

ふっくらとした胸元には俺が付けているものと全く同じものが良いアクセントとなって存在感を示していて、手に持っている鞄と相まって大人な雰囲気を醸し出している。

 

(…っ、卑怯だよなぁ冴子は。こうやって時々俺の心を昂らせやがる…)

 

「お待たせ、待ったかしら?」

 

「いんや、いつにも増して綺麗な冴子を見たら、待ってた時間のことなんか忘れたよ。それに、そのワンピース似合ってるじゃん。可愛いよ、冴子」

 

「そ、そう…なら、行きましょうか」

 

素直に感想を伝えると冴子は目を見開いて頬を赤く染め、俺を置いて早足で前を歩く。実際、俺は冴子のことを常日頃から綺麗な女性だと思っている。クラスに可愛い女子はいても、此処まで綺麗な女性はいない。それほどまでに冴子の美貌に惚れているのだ。

 

(ちょっと言いすぎたかな?)

 

俺は駆け足で冴子の横までいき、2人で並んで駅まで歩くのだった。

 

〜〜

 

 

トロピカルランドのある麻衣浜に到着した。日曜日だからか、結構な人がいる。

 

「さっきはありがとうね、裕太」

 

「何、あれくらいは追い払ってやるよ。」

 

先程電車で冴子に触れるなどという蛮行を働いたおっさんがいたのだが、それを俺が捕まえて追い払ったのだ。警察には突き出さなかったものの、気付いた時には怒りが込み上げたものだ。好きな人が痴漢されるのがここまで辛いとは知らなかった。

 

「でも、なんか今日はこういうことがまだ起きそうなのよねぇ…」

 

「オイオイ、縁起でもないこと言うなよ…」

 

冴子は頬に手をあて、困ったようにため息を吐く。…心臓に悪いなぁ、今日の冴子は。

 

 

〜〜

 

 

なんとかチケットを買ってゲートを潜る。入場してから気付いたが、このトロピカルランド、あの第一話の事件の舞台となる場所だ。

新一の他人にいきなり「体操やってますね?」みたいなことを言うのにはドン引きしたが、あれからコナンが始まったと思うと、元ファンとして感慨深いものがある。

とは言っても、既に俺自身もそんなコナンの世界に生きる人間になったわけだが。

 

さて、今はというと…

 

「ねぇねぇお姉さんお一人〜?一緒にランド回らない?ね?ね?」

 

グヘヘヘヘ、といった擬音がとっても似合いそうな同い年くらいの男が冴子に言い寄っていた。

 

(俺がポップコーン買いに行ったらすぐこれだ…大変だなぁ冴子。)

 

ハァ、と溜息を一つ吐きながら、冴子の元へと歩いて向かう。

…フラグ回収早スギィ!

 

「あの〜すいま「ダーリン!!!また知らない女に声かけてるっちゃ!折角トロピカルランドに来たっていうのにダーリンってば〜っ!!」「ギャアア!!」……」

 

その男の彼女だろうか、独特な言い方をする可愛らしいグラマーな女の子が男に対して怒りをあらわにし、電撃を放つ。……電撃!!??

電撃を受けた男は黒こげになりながらも生きていた。ボフッと煙を吐くと、彼女に首根っこを掴まれた。

 

(いや『うる星やつら』の諸星あたるとラムじゃねぇか!!よく見たらツノ生えてるし…どうなってんだこの世界…)

 

どうやらこの世界は色々ヤバそうだ。

 

ラムはあたるを引きずりながら、ランドの喧騒に紛れていった。

 

「…ああいうカップルもいるのね」

 

「あぁ…」

 

その後少しだけ冴子と俺の間の空気が微妙なモノになったのは言うまでもない。

 

 

〜〜

 

さて、色々とランドを回ってみると冴子の好きな所が大体分かってくる。冴子が好きなアトラクションはそう、所謂…

 

「あァァァァァァァァァ!!!!!」「キャアァァァ!!!」

 

絶叫系なのだ。

 

スプラッシュ・ライジング・マウンテンやホーンテッド・パレスといったものに何度も何度も乗らされているのだ。

かく言う俺は前世からこういう遊園地なる所には縁が無かったため、全くと言っていい程絶叫系マシーンには耐性が無いのだ。

そんなカップルが遊びまわるとどうなるか。その成れの果てが俺達の現状だ。

 

「ウッ…気持ち悪りぃ…さっき食ったポテトとポップコーンがリバースしそう…」

 

「アハハ、ゴメンなさい裕太」

 

そういう冴子の顔は全く反省の色はなく、次のマシーンに行きたいという欲が表面に出ている。

 

(ま、こうやって幸せそうに、楽しそうにしてる冴子を見れただけヨシとするかな…ただコイツと遊園地に行くのは出来る限り避けよ…)

 

ベンチに座り深呼吸を繰り返す俺の横では、ピッタリとくっ付いて座る冴子が何やらバッグをゴソゴソと探っている。

 

「えーと…あった。ハイこれ。」

 

冴子の手には『あろはす』と書かれたミネラルウォーターのペットボトル。キチンと用意しておくところは流石にしっかりとしている。

 

「あぁ、サンキュ。…んっ、んっ、プハー!フー…落ち着いた。ありがとな冴子…っと、ちょっとトイレ行ってくる」

 

「えぇ、ここで待ってるわ。ちゃんとハンカチはあるのよね?」

 

(あっ)

 

「……無いっす…」

 

冴子は少し呆れたような笑みで黙ってハンカチを渡してくる。

 

「ありがとさん」

 

そう言って俺は少し駆け足気味にトイレに駆け込む。こんなところで漏らして恥かきたくないし。

 

 

〜〜

 

 

side冴子

 

行ってしまった。ただトイレに行くだけ、直ぐ帰ってくるというのは分かっているのにどうしても少し寂しさを感じてしまう。裕太を縛り付ける気持ちは無いのだけれど。

 

それにしても裕太にはもっとしっかりして欲しいものね。いつも学校では課題はギリギリに提出していたり居眠りしていたり。それでもいつもテストでは満点をとるのだけれど。…妬ましいわね…

 

でもそんな裕太はいざと言う時頼りになる。絶対に助けがいるって時、必ず助けてくれる。最近はドンドンと体も大きくなり、元々の高身長にかなりの筋肉量が付いてきて、さらに頼もしくなった。でも、毎日のようにどこかに通っているようで、それを知らないのがとてももどかしい。

 

「なぁなぁそこのネェちゃん、オレらと遊ぼうよ〜」

 

ハァ…こんな時に限って障害が現れる。ガラの悪い大学生くらいの男2人組がナンパしてきた。恋路には障害が付き物というけれど、こんなのは求めてないわ…

でも穏便に行くしかないかしら。下手に刺激してデートを台無しにしたく無いし。それに太腿に付けた隠しナイフを使えばそれこそこっちが犯罪者だもの。…ハァ。

そんな私の落胆を他所に、男は私の右腕を掴んで引っ張る。

 

「なぁ、オレらが誘ってるんだからさ、サッサと付いてこいよ」

 

「そうそう、痛い目見たくなけりゃなぁ!キャハハ!」

 

…ほんっとうにキモい。

 

反撃しようと腕に力を入れようとしたその時…

 

「アガッ!!」

 

私を掴んでいたその手は唐突に離れた。そしてその手を逆に掴む1人の男。私を掴んでいた男はその男に掴まれた腕が相当痛むのだろう。苦悶を浮かべて少し暴れている。

 

「俺のツレに何をしようとしてるのかな?俺に教えてくれよ」

 

真剣な顔つきで上から男を見下ろす彼。そう、裕太だ。

 

「い、痛い!!は、離してくれ!!」

 

裕太は掴んでいた腕を離して2人を睨みつける。

 

「今日のところは許してやる。サッサと失せな!!」

 

そう威嚇すると直ぐさま2人は逃げていった。

 

「…フゥ。大丈夫か?冴子」

 

振り返った裕太の顔は男達に向けていた厳しさは全く無くなっており、私を気遣う優しさだけがあった。

 

…あぁ、愛を感じる。

 

気付けば私は黙って裕太に抱きついていた。高校生離れした精悍な体。それに包み込まれる感触は、幸せという他ない。裕太も察したように黙って私の髪を、崩れないように優しい手つきで撫でる。

 

「なぁ、冴子。落ち着いたら最後に観覧車に乗らないか?日が暮れてきて夜景が綺麗に見えそうなんだ。」

 

私は名残惜しくも彼から少し離れて顔を上げる。

 

「えぇ。今まで裕太には散々付き合ってもらったからね。いいわ」

 

観覧車ねぇ…意外だわ。

 

 

ーーー

ーー

 

「うおっ!スッゲェ高いぞコレ!おい見ろよ、東都港もよく見えるぜ!あ!!あれレインボーブリッジじゃん!綺麗に見えるんだなぁ…」

 

いつもの冷静な雰囲気からはかけ離れた裕太の無邪気な姿はとても新鮮ね。思えば、最初会った時から結構クールな感じだったけど、こういう表情も見せるのね…可愛い。

 

「フフフ、子供みたい。お義母様になった気分だわ。」

 

「母さんというには若すぎるなぁ。…でもいつかは冴子をお母さんと呼ぶ日が来るかもな」

 

っ!またそうやって私を揶揄う。学校じゃ私の方がしっかりしてて尻に敷いてるとまで言われてるけれど、こういう時はどうしても下手になっちゃう。ズルいわ…私だけが意識してるみたいじゃない…

 

フッ、と微笑んだ裕太は反対側に座ってた私の隣に座り、右手で私の左頬に触れる。親指で一回撫でた後、無言で目を閉じて近づいてくる。

 

暗くて良く見えなかった裕太の顔がハッキリとしてくる。

なんだ、裕太もちゃんと意識してくれてたのね。

 

小学校の一年生の時から夢見てきたことが、今実現する。

私もそっと目を閉じて裕太の唇に自分の唇を近づける。

 

暖かくなり始めたものの、まだ冷える春の夜。そんな中で頬と唇に伝わる裕太の体温が一際暖かく感じる。暖房の無い観覧車の中で出来た月明かりの影が、重なった。

 

 

ーーー

ーー

 

「ただいま」

 

「お帰り〜姉さん。ねぇどうだった?ウリウリ〜」

 

家に帰って早々麗香が茶化しに来る。

 

「えぇ、とっても」

 

私はそんな麗香にとびっきりの笑顔で答える。

すると麗香の後ろからお母さんがやってきた。

 

「お帰りなさい冴子。手洗いとうがいはキチンとするのよ」

 

「はい、お母さん」

 

「ココアもあるよ、冴子お姉ちゃん」

 

その後ろから唯香も出てくる。マイペースな彼女らしく、最後尾でココアを両手で飲んでいる。

 

「えぇ分かったわ。」

 

私がそういうと妹達はすぐにリビングに帰るが、お母さんは私のカバンを持ってくれた。やっぱりお母さんの気配りは凄い。

…やっぱり、言うならお母さんに、よね。

 

「…ねぇ、お母さん。」

 

「…なぁに」

 

お母さんも分かっているのだろう。私が真剣な話をしたいと思っているのを察して笑顔なまま黙ってくれる。…ホント、敵わないなぁ。

 

「私を鍛えて欲しいの」

 

裕太に守られてばかりのままじゃいられない。裕太と一緒になると決めたのだ。裕太と肩を並べられるような女性に…裕太にふさわしい女性になりたい。

 

 

お母さんはフフフと優しく笑った後、真剣な表情になった。

 

「私の特訓は厳しいわよ?」

 

「えぇ、望むところよ」




麻衣浜は舞浜をもじっただけです。
次回は久しぶりに事件だと思いたい()
私は遊園地では毎回観覧車に乗るんです。高いところから見下ろす光景は何歳になっても興奮してしまいますw


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カラオケボックス

お待たせしました。リハビリも兼ねて短めです。今回は一旦前編で出して、収束は次回にします。
僕自身中間テストに進路に塾に文化祭にと大忙しで大変なんです汗
まぁでも残り少ない高校生活なので楽しみたい所です。


「「お疲れ様〜!!!」」

 

9月。帝丹高校文化祭は今日終わり、クラスの皆んなで打ち上げに来ている。帝丹高校の近くにあるこのカラオケはウチの高校御用達で、他の部屋には他組やら他学年やらが入っていて、さながら後夜祭の続きのようだ。

 

「いやぁ、クラスでの出し物は大成功やったねぇ〜」

 

「ホントホント。演劇はやっぱりロミジュリに限るわー。そしてそんなロミジュリ役と言ったら…」

 

「「野上と星川!!wwwwww」」

 

「シバクゾコラ」

 

「まぁまぁいいじゃない裕太。それだけ私達の演技がよかったのよ。」

 

そう、文化祭の出し物で『ロミオとジュリエット』にアレンジを加える(ウチのクラスは冴子の「最後はやっぱり裕太と結ばれたいわ」の一言でハッピーエンドにした)というド定番をやったウチのクラスで、その主役を務めたのが俺と冴子だったのだ。

 

因みに俺や男子陣は食べ物屋台を提案したのだが、冴子や女子陣からの演劇の声に押し負け、一部の男子の裏切り(冴子が裏で何かやったんだろう)も相まって演劇に決まり、演目も打ち合わせてたかのようにロミジュリを推され、一瞬で決まった。

その後直ぐに役をどうするかのアンケートになり、俺は裏方を希望して提出した筈がロミオ役になっていた。絶対冴子だろ。

 

そんな冴子の周りをクラスの女子達が取り囲む。冴子に隣を居座られた俺も当然その輪の中心になる。

 

「いや〜それにしても冴子ちゃんの顔。スッゴい迫力だったわ。もう完全に恋する乙女って感じ?私舞台裏で痺れちゃった」

 

「そう?普段通りを意識していたんだけれど…やっぱり裕太が相手だからかしら?」

 

クスクスッと笑う冴子はまるで小悪魔。こうなった冴子は俺を満足いくまで弄り倒さないと止まらない。

 

「ヒャあぁ〜!!正妻のお惚気!!」

 

「フフフ、裕太もそうでしょう?」

 

「アーハイハイソウッスネー」

 

「星川の奴照れてやんのー!」

 

「卒業式でのプロポーズ期待してるぞ!!」

 

「卒業式でプロポーズするバカがいるかよ。やんねーぞ」

 

そういうと部屋にいる全員からえぇ〜!?と大声で驚かれた。…なんで?

 

「オイ!裕太!男ならちゃんとケジメ付けろ!!」

 

「そうよそうよ!!結婚から逃げるなんてサイテー」

 

「そんなことじゃ野上さんが可哀想じゃないか!」

 

俺が大声に怯んでいる間に口々と俺への誹謗中傷が飛び交う。もう一回言わせてくれ…なんで?

 

「お、オイ!俺はプロポーズしないとは言ってねぇよ!ただ卒業式でなんかやらないって言っただけだし…そもそも卒業式なんて当分先じゃねぇか!」

 

「へぇ…ならいつかはちゃんとプロポーズしてくれるのね?」

 

「あぁ、それは…って冴子!!何言わせようとしてんだ!」

 

俺が必死に弁解してる隙に言質を取ろうだなんてそうはさせないぜ!

 

「ふーん…まぁ良いわ。待ってるわよ」

 

ニヤニヤとした笑みのまま上機嫌にマイクを受け取る冴子。一本取られてしまった。

 

ーーー

ーー

 

居心地が悪くなってカラオケボックスの外に出る。他の部屋も帝丹高校生でいっぱいだが、一般客がいないというわけではない。ただ、文化祭が終わった後でのカラオケだ。時間的に一般客の方も大学生の集団や社会人の集団ばっかりだ。

 

そんなことを考えながらジュースサーバーでコップにオレンジジュースとレモンティー(冴子にパシられた)を注いでいると、ドンッと腕が誰かにぶつかり、ジュースを溢してしまう。

 

「おい、オメェ何ぶっかけとんねんゴラァ!このシャツ高かったんやぞ!?弁償せぇべ・ん・しょ・う!!」

 

どうやら酔っ払いのオッサンにかけてしまったようだ。そのオッサンは高級そうなスーツに真っ金金の腕時計に大きなダイヤの指輪を付けた“いかにも”な感じの人だ。弁償なんかしたらかなりの額になるだろう。

それにしても……ムカつく…

 

「すいません、ですが今のはいきなりぶつかった貴方の責任もあるのでは?」

 

出来るだけ怒りを押しとどめてオッサンに抗議する。するとオッサンの顔は既に赤かったのをさらに赤くさせ、林檎のような色合いになった。

 

「なんやて!?ワシがぶつかったんはオメェがそんなとこ突っ立っとるからやろがい!そもs「ハイハイ中村さん落ち着いて。今のはフラついてた貴方も悪いでしょう?」…フンッ」

 

オッサンが俺に向かって耳が痛くなるほどの大声で怒鳴ってくると後ろから胸の大きな女性が抱きつくようにオッサンを止めてくれた。彼女もまた太ももや胸の谷間が強調され、露出したようなドレスを着ており、化粧もかなり濃い。恐らくキャバ嬢なのだろう。この男にでも貢いで貰ったのかオッサンと同じようにデカイ宝石の指輪を両手に嵌め、ピアスもネックレスも明らかに高そうな煌びやかなものだった。

 

「まぁええわ。今回は許したる。 ほな行こかぁジュリちゃ〜ん!お前らも早よついてこい!!」

 

そういうとジュリちゃんと言われたケバい女性の胸を鷲掴みにしながら肩に手を回してオッサンは歩き出し、その後ろを気の弱そうな中年の女性と険しい顔をした若い男性がついていった。

 

「あんなデッカい胸揉みやがってあのオッサン…くっそう!!俺も巨乳揉んでもっこり一発したい!!」

 

「へぇ、どの女性がもっこり巨乳なの?」

 

「ホラあそこ、あのデブったオッサンと腕組んでる人!!良いよなぁ…」

 

「フーン…裕太はああいうおっぱいが好きなの?」

 

「そりゃデカいのはだいす…き…」

 

そこまで言って漸く俺は気付く。一体誰と話しているのか。いや、見なくても分かる。毎日のように聞くこの声。あのデート以来休日でもちょくちょく2人で出かけるようになって、会わなくても一日一回は電話して聞くあの声。

…なーにぃ!?やっちまったなぁ!!

 

振り向こうとしたその瞬間、俺は何かに頭を打たれて床にめり込んだ。

ドガーン!!!という音がして振り下ろされた100tハンマーには「100t 香さん直伝 冴子ver」 と書かれていた。

 

「良くもまぁそこまで言えるものね」

 

「ず、ずびばぜん、ざえござん…も、もうじまぜん…」

 

「フンッ…私だって結構胸大きいのに…」

 

そんな冴子の呟きは驚いて出てきた客と従業員でいっぱいになった廊下に虚しく響くだけだった…

 

 

 

 

〜〜

 

 

廊下に出てきてジュースサーバーの方にまた向かうと、そこには先ほどの気の弱そうな中年の女性がアイスティーとコーヒーを注いでいた。

俺に気付くと軽く会釈して直ぐに去っていった。その手は酷く荒れていて、所々に刺し傷のようなものまであった。

 

…あれどっちかは絶対あのオッサンのだろうなぁ…かわいそうに。

 

自称女性に優しい俺は俺なら絶対あんなことしないと思いながら冴子“様”に言われた通りレモンティーを注いでいると、近くの空き部屋から声が聞こえてきた。

 

「あぁ…やったよ。これでアイツも御陀仏だぜ…クックック…」

 

俺は咄嗟にその声を録音しようとスマホを出そうとすると、どこからか悲鳴が聞こえてきた。

 

「キャァァァ!!」

 

奇しくもそこは、あのオッサンが入っている部屋だった。




感想お待ちしてます。


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事件の裏に蠢く陰謀

投稿が難しいと言ったな。あれは嘘だ()
忙しいのは本当なのですが、ササっと続きは書いて置きたかったので投稿します。
誤字とかわからないとこがあったら直ぐに指摘をお願いします。



「被害者は東郷病院の院長、東郷定吉さん56歳。カラオケで歌っている最中にナイフが腹部に刺さり、死亡したそうです。」

 

悲鳴を聞き中に入った俺はすぐさま警察に連絡、到着後直ぐに現場は封鎖されてしまった。まぁ俺はちゃっかりと現場の様子やら遺体やらを記憶しておいたのだが。

 

「ねぇ裕太…あの時カラオケボックスにはジュリ、橋本朱莉さんともう1人の女性島本さんしかいなかったのよね?それでナイフ刺されて死亡した…なら、普通に考えてずっと側にいた橋本朱莉さんが犯人なんじゃないの?」

 

「あぁ、橋本さんはそのときまでずっとあのオッサンに抱きついてたらしいし、すぐ近くにいてあれだけ接近してたんだから幾らでも刺しようはある。それにあのナイフ、柄の部分が少し暖かかったらしいんだ。警察の到着は署が近いのもあってたったの2分だったし、そこまで温度は下がってないだろうから人肌で温めて暖かくなっていたとも考えられるってさ。だから今回は俺の出番は無いよ。それに橋本さんも自供したらしいし、もう直ぐ終わるんじゃないかな?」

 

そう話して冴子と皆んながまだ歌ってる部屋に戻ろうとすると、クラスメイトの梶田が走ってきた。

 

「おい星川、なんか刑事さんが話したいことがあるってさ。」

 

「ありがとう。…なんか進展でもあったか?」

 

ーーー

ーー

 

「あぁ裕太君、来てくれたか」

 

刑事さんが待ってると言われて来てみると目暮さんが待っていた。

 

「えぇ、それで何かあったんですか?」

 

「あぁ、実はあのナイフ、しっかりと刺さって無かったらしくてね。脂肪に刺さってただけで、全く致死性が無かったらしいんだ。」

 

つまりは直ぐに終わると思っていたこの事件は全く違う側面を持っていることになる。吐血して倒れていたのを鑑みると、ナイフで刺されたことによる出血多量とも考えにくい。

 

「…てことは死因は全くの別ってことですか?」

 

「あぁ…橋本さん以外に真の殺人犯がいるんだろう。何が原因で死んだのかはまだハッキリしていないがな。橋本さんは殺人未遂であることに間違いは無いから署まで連行したが、もしかしたらそこでの取り調べでもっと重要なことが分かるかもしれない」

 

「そうですか…」

 

いきなり展開が止まってしまった…ナイフでの刺傷事件じゃないなら…他の原因があるのか?

 

俺は捜査官に頼んで事件現場に入らせて貰った。

そこは普通のカラオケボックスであり、特に怪しいものはない。ただあるのは飲みかけのジュースとアイスティーの入ったグラスが一つずつに空のコーヒーカップ、マイクセットと、特別なものはない。

 

 

取り敢えず島本さんともう1人の男の情報を貰いたいと思い、もう一度目暮刑事の元へ向かうことにした。

 

 

〜〜

 

 

「目暮さん、島本さんともう1人の男の人の事情聴取はどうなってますか?」

 

「あぁ、それなら今終わったところだ。なんでも2人は殺害された東郷さんの知人らしくてね、島本さんは橋本さんの勤めていたキャバクラにいきなり呼び出されて、もう1人の男性である柿谷慧悟さんは東郷さんの病院に勤める医師で、仕事終わりに病院からずっと東郷さんについてきたそうだ。

島本さんは専業主婦で、一ヶ月前まで入院していた旦那さんの執刀医だった東郷さんとはその時以来の知り合いで、旦那さんは今も入院しているらしい。

柿谷さんはただの仕事付き合いで来ただけだと主張しているが、病院の関係者によると2人には黒い噂があったらしく、何でも麻薬や劇薬を非合法に売買していたのではないかという疑惑がある。

それに関しては槇村君に調査を依頼したところだ。」

 

「なるほど…」

 

槇村刑事か…一応師匠繋がりでコネがあるし、連絡してみるか?

麻薬とかの追跡に関しては香さんのお兄さんである秀幸さんは非常に優秀な方だそうだ。将来を有望視されている若手刑事の1人だ。

 

「取り敢えず君は冴子さんを連れて帰りなさい。野上警視監から娘と裕太君がそこにいるはずだから帰るように言ってくれと頼まれたものでね。…野上警視監はそこまででは無かったが、君達のお母様方は大層お怒りだそうだ。」

 

「あっ()…ハイ、分かりました…」

 

そうだ。今日打ち上げがあるから遅れるとは言ったものの、事件のせいでとっくに門限過ぎてるもんなぁ…ハァ…

 

 

ーーー

ーー

 

ガッツリ母さんにシバかれた翌日、文化祭の振替休日なるもののおかげで槇村刑事と合流することが出来た。

槇村さんは穏やかな雰囲気のお兄さんのような存在で、いつも俺に優しくしてくれる。

 

「裕太君、今日は獠の代わりにボディーガードしてくれるのかい?」

 

「えぇ、まぁ。それもありますし、この事件の解決の糸口になるかもしれないですし。」

 

ちなみに最初は師匠にボディーガードを依頼したらしいが、

「やーだ!!なんでわざわざ月曜にお前のお守りなんかしなきゃいけないんだ!!ボディーガードつけたいなら裕太に言え!!」

と言われて追い出されてしまったそうだ。

…つまり、今回は俺の弟子としての定期テストみたいなものだ!!

 

「それで、君は何か武器を持っているのかい?」

 

「えぇ、師匠から頂いた『ソードカトラス』を持ってきましたので」

 

そう言って俺は師匠とお揃いのジャケットの前を広げてショルダーホルスターとそこに入っている銀色に輝くベレッタ92f二丁、『ソードカトラス』を見せる。

 

「ハハハ、そりゃ頼もしいな。…警察としては銃刀法違反だから複雑だけどね。」

 

そりゃそうだ。師匠はまぁ大人だから良いとして(良くない)、俺はそもそも未成年だ。アメリカでもダメな未成年での銃保有である。しかも二丁。平和な日本ではありえないことだ。

 

「アハハハハ…ま、まぁ行きましょう」

 

「分かった。車出すよ」

 

槇村さんはそう言うと集合場所にしていた師匠のマンションのガレージから愛車の初代マツダ・キャロルを出してくれた。

乗り込むと師匠の言う通り、槇村さんと俺が並んで座ると狭い。俺は高校生ながら185cm93kgのガッチリとした体格で、槇村さんも師匠と同じような体格でかなり大柄なので、より狭く感じてしまう。

 

とはいえ俺はこの体を気に入っていて、前世より身長は+10cm、体重も+10kgということでプロ野球選手のような体格になれたし、冴子が170cmもあるので抱き合ったりキスしたりするのに丁度いい。

高身長で抜群のプロポーションを持つ冴子の彼氏として似合うだけの体を作れた気がする。

 

そうして少し談笑を挟みながら湾岸へと向かっていると、道の途中で島本さんを見つけた。ゴミ捨てをしているようだった。

一般的な一軒家ではあるが、庭は垣根から推測するにかなり広いようだ。

それを見て俺はボンヤリと後で島本さんにも探りを入れなきゃなぁなんて思っていた。

 

ーーー

ーー

 

「さぁ、着いたよ」

 

俺たちはレインボーブリッジの側にあるコンテナや倉庫の密集した所にやってきた。レインボーブリッジを渡った先には台場があるのだが、反対側である今いるところは工場や倉庫、コンテナ置き場しかなく、人がいなくて静かだ。

麻薬とかを取り引きするには人目が無いことや大量の麻薬を運び入れても大して目立たない場所が大事なのだが、その点では絶好のスポットだと言える。

 

俺達は槇村”刑事“の調べ上げた取り引きをしているであろう倉庫に向かう。

そこは少し古めな倉庫で、錆の付いた外壁には銃痕も少し見受けられる。

 

俺達は裏へと回り、誰か来たらその証拠を押さえるための準備をしようとしたら、意外な人物とブッキングしてしまった。

 

「君は…あの時の青年か!!」

 

「柿谷さん…貴方がどうしてここに?」

 

柿谷慧悟。殺害されたあのオッサンの下で働いていた医師で、事情聴取では警察に対してあまり多くを語らなかったため警察側から疑われている。

 

「…自分は警察の捜査のボディーガードとしてこの槇村刑事に付いてきただけです。東郷さんが殺害された事件の手掛かりになる可能性もありますし…貴方は何故ですか?」

 

「君がボディーガード…?わ、私はあの狸が麻薬組織と関わっているという噂を聞いてあの事件はその組織の仕業かもしれないと思って…自分の目で確かめてみようと思ったんだ。」

 

狸って…あのオッサンそんな悪口言われてたのか。

そう思っていると今度は槇村刑事が口を開いた。

 

「なら何故お一人で?もし貴方が麻薬組織のことを知っていたら一人でなんか危なくて来れない筈です。推測するに、貴方、その組織と繋がっているのでは?」

 

「ち、違う!!…あの狸が俺の友人の小牧っていう人と繋がっているのを知ったんだ。証拠はこれだよ。何度も密会してたんだ。」

 

柿谷さんは写真を何枚か見せてきた。どれも隠し撮ったもので、喫茶店やレストランで不気味な笑みを浮かべて密会する2人が写っていた。

 

「小牧は私の学生時代からの付き合いでね…良いやつだったんだが、彼の父親が借金してから人が変わってしまって…最近になって他の学生時代の友人から麻薬組織と関わっているって聞いて、探偵を雇ったんだ。そしたら…」

 

「東郷さんもグルだった、って訳ですね。てことはそんな道に連れ込んだ東郷さんを憎んで殺害したのですか?」

 

「だから私じゃない!!小牧には先ず話をして、足を洗わせようと思って…それで今日はきたんだ。別にあの狸にはなんの恨みも無いよ」

 

…嘘は言ってないようで、彼は本当に小牧という人を心配しているようだ。

 

「そうですか。ですが警察としては見逃す訳にはいきません。逮捕して然るべき罰を受けてもらうことになるますよ」

 

一瞬柿谷さんは悲しい顔をしたが、決意したようにすぐ表情を変えた。

 

「ハイ、お願いします。」

 

 

キキィ!!

 

丁度話が終わった時に車の止まる音が聞こえ、3人とも陰から覗き見る。

 

「あの日本人が小牧です。あとの外国人は知りません。」

 

なるほど…あの片言の英語で会話し、現金を受け取っているのが小牧という人らしい。残りの外国人が組織のメンバーだろう。トラックから木箱を倉庫に入れていき、数十分したら終わったのか帰っていった。

 

「よし、裕太君、一緒に入ろうか。柿谷さんはここで待っていて下さい。」

 

「ハイ」

 

「わかりました…」

 

柿谷さんは事実を突きつけられてショックだったのだろう。意気消沈していた。しかしそんなことに構っていられる状況ではない。彼らが戻ってくるかもしれないからだ。

 

俺と槇村刑事はもう一度表に戻り、ドアの前まで来た。

鍵が掛かっていたため、周りに人が居ないか確認してから右だけソードカトラスを取り出す。

バンという銃声と甲高い鉄の接触音が響いた後、鍵が破壊されたことを確認してドアを開き中に入る。

中は照明が着いていないためかかなり暗かったが、槇村刑事がライトを付けてくれたのとドアを開けておくことである程度の光を確保した。

中は木箱が整理されて置かれていて、麻薬の入った木箱の他にも銃弾の入ったコンテナ、ダイナマイトの入った箱とかが列をなして置かれていた。

 

それを確認した槇村刑事はすぐさま本庁に連絡し、人員を寄越すように要請、俺はその間に槇村刑事のカメラを使って証拠写真を撮った。

 

それらが一段落し、そろそろ出ようとしたその時だった。

 

『おい!!鍵が壊されてるぞ!!中に誰かいるはずだ!!探せ!!』

 

英語の男の声が聞こえた。倉庫内に響き渡ったその声を聞き、俺と槇村刑事は側にあった積み重なった箱で出来たスペースに身を隠した。幸い木箱は整理されているとはいえ高く積み上がっている上に少し入り組んだ迷路のような道を形成していた。

 

『探せ探せ!!どうせもう逃げられないんだ、痛めつけてから殺してやれ!!』

 

男はさらに続けて怒鳴る。

不味いことになったが、槇村刑事も俺も冷静になりアイコンタクトで合図を出す。俺はジャケットに隠されたソードカトラスを両手に持った。

 

俺は飛び出してすぐ引き金を引く。狙いは腕部もしくは銃本体。出来るだけ殺さないように狙いを定め、発射する。1発目は銃身にあたり、銃を弾く。

 

倉庫内に銃声が響き渡り、それに反応した敵のリーダーの指示が飛ぶ。

移動する足音的に12人。全員が銃を持っていると見て間違いない。

 

俺が応戦しているうちに移動した槇村刑事が横から援護射撃をしてくれる。

 

足下に銃痕が出来る。音から判断して左斜め上30度くらい。

俺は右の敵に目で照準を合わしつつ左の狙撃手にもソードカトラスを向ける。同時に発射した弾丸は両方の銃にあたった。

 

『クソ!!なんであんなガキに負けるんだ!!』

 

『お縄に捕まりな、オッサン!!』

 

AKをぶっ放して錯乱する敵のリーダーの肩に一発。

男は崩れ落ち、倉庫から銃声が消えた。

外からサイレンの音が聞こえる。警察のお出ましだ。

 

「裕太君、君は直ぐに帰りな。香を呼んでおいた。」

 

「ありがとうございます」

 

〜〜

 

帰り際、香さんに頼んで島本さんの家の前にやってきた。

 

「ね、ねぇ。こんなところで何か用が?」

 

「えぇ。出来れば…おっ、ラッキー。こんなにも早く見つけられるとはな」

 

「ちょっと!!他人の家のゴミを漁るなんて…」

 

「香さん、新宿の本庁までお願いします」

 

俺は島本さんの家のゴミ置き場から球根の入ったビニール袋を取り出した。

そして電話をかける。

 

「あ、目暮警部?証拠は掴めました。えっ!?本当ですか!!これで…えぇ、お願いします」

 

ーーー

ーー

 

「な、何ですか?いきなりここまで呼び出して。あの事件ならあの橋本っていう方が犯人だったんじゃないんですか?」

 

「そう言いたいところなんですがね。ですが橋本さんのナイフは死因ではなかったんです。ナイフは奥まで刺さっておらず、致死性は無かったんですよ」

 

「は、はぁ…それでなんで君がここに?あの時の高校生よね?」

 

「あぁ、申し遅れました。警察の手伝いをしています、帝丹高校の星川裕太と申します。話を戻しますが、貴女、庭で色んな花を植えているようですね。」

 

「何故それを!?」

 

「貴女の手ですよ。かなり荒れていて、所々何か尖がったものに刺されたような傷がある。それは花を良く手入れしている人の肌で、刺し傷はバラのトゲで出来たものでは?それにそれ以外の肌は別にアトピーだとか乾燥肌とかでもなく健康的だ。違いますか?」

 

段々と島本さんの顔が青ざめ、目が泳ぐようになってくる。図星か。

 

「え、えぇ。でも、それと何の関係が?」

 

「ヒガンバナってご存知でしょう?秋に咲く有名な花で真っ赤な綺麗な花ですよね。でもそんな綺麗なヒガンバナには毒がある。球根のところには有毒アルカロイドが多く含まれている。知らない訳ないですよね?わざわざ袋に詰めてゴミとして捨ててましたものね?」

 

俺はそう言いながらゴミ捨て場で見つけた球根の入った袋を島本さんに見せる。それを見てさらに島本さんの顔が青ざめ、足が震え始める。

 

「な、なんでそれを?」

 

「偶然貴女の家のゴミ捨て場で見つけたんですよ。それで、一部砕いて粉状にしてますね?まるでコーヒーに入れる砂糖のように…「分かった!分かったわ!!もう言わないで!!」そうですか。なら、自白して貰えますか?」

 

島本さんは目も虚に、数秒間の沈黙の後、ポツポツと喋り始めた。

 

「東郷さんは私の夫のかかりつけだったんです。最初は手術も上手くいって順調だったんですが、途中から段々態度が変わってきて、多額の入院費用を肩代わりする代わりに身体を売らないかと…東郷さんは自分は裏の社会で女性の斡旋をしているって言ってて、それで恐怖に怯えた私は気づけば私の愛するヒガンバナの球根を使って…」

 

…同情はする。正直ここまでの話なら100%あのオッサンが悪い。でも…

 

「しかし貴女が人を殺めた事実は変わりありません…罪を償って頂きますよ?」

 

「はい…」

 

連行されて取り調べ室を出る彼女の背中は非常に寂しく、悲しいものだった。

 

「そう言えば、東郷さんの殺害された当時、とある薬品を持っていたらしいんだが、どうにも見つからないらしい。東郷さんによって病院から持ち出されたことは確実らしいのだが…まぁ、もしかしたら持ってなかったのかもしれないがな」

 

目暮刑事はふと思い出したかのように呟いた。

 

「何ですか?薬品って。」

 

「さぁなぁ、私にも分からんのだが…確か名前は…

 

     APTX試作型?といったかな?」

ーーー

 

ーー

 

 

 

「ただいま〜。ふい〜疲れた〜」

 

完全に日も沈み、夕飯時になってようやく家に帰ってきた。

 

「あら、おかえりなさい裕太。夕ご飯作ってるから手を洗ってきなさい」

 

「あれ?冴子?」

 

いつも通り母さんが出迎えてくれるのかと思ったら冴子がエプロンを着て夕飯を作ってくれているようだ。

 

「えぇ、お義母様から今日は同窓会で帰れないから代わりに裕太のお世話をしなさいってお願いされたの。メール来てない?」

 

そう言われて携帯を開くと確かに母親から着信がある。

手を洗って着替えてからそのメールを開くと

『今日同窓会で帰れないから冴子ちゃんにアンタの面倒見て貰うようにお願いしたから、2人で協力してなんとかしてね。』

と書かれていた。

 

リビングに戻ると、冴子がキッチンで料理をしているのが分かった。匂い的にカレーだろうか?

そんな冴子の姿に、俺はふと前世での母を重ねてしまった。

いきなり死んで、かつての母は何を思ったのだろうか。親父が死んだ時も結構精神的にくるものがあったはずなのに気丈に振る舞って支えてくれた母に今更ながら罪悪感を感じる。

…どうやら少し疲れているようだ。

 

俺はフラフラと立ち上がり冴子の後ろからギュッと、抱きしめた。

一瞬ビクッと反応した冴子だったが、俺が抱き締めたと認識してすぐにまた力を抜いた。何かを感じてか、何も言わない。本当に良くできた女性だ。

冴子は、彼女だけには、悲しい思いをさせたくない。

そう、心に誓ったのだった。

 

〜〜

 

「ジン、アポトキシンは手に入れられたか?」

 

東京湾沿いの倉庫に2人の男が立っている。

1人は白い髪を伸ばした青年くらいの年齢の人物で、もう1人の妙齢の日本人のガッチリとした男と相対している。

2人とも、真っ黒なコートに黒い帽子をかぶっていた。

 

「ハイ、あのトウゴウって奴からキチンと奪ってきましたよ。野郎、俺にアポトキシンを盗られたことに全く気付きもしませんでした」

 

「フン、所詮三下のジジイだ、そんなものだろう。しかし殺されたのはいい計算外だったな。口封じをする必要が無くなった」

 

「えぇ、あんな女に殺されるとは…笑いが止まりませんよ。

…それにしても手酷くやられたものですな。」

 

2人のいる倉庫の床には血と銃が落ちていて、銃撃戦で出来た新しい銃痕が多数残っており、中身の飛び出た箱やコンテナが散乱している。

 

「これをやったのは誰なんでしょうか」

 

「ジンが知ることじゃない。別に俺達には関係ないことだ。たかが一個の下部組織がやられた、それだけのことだ」

 

「それもそうですね」

 

そういうと暗く、立ち入り禁止のテープの貼られた倉庫からジンは出ていった。

 

もう1人の男も続いて出るが、ドアの所で振り返った。

 

「裕太、成長したな。次会う時は父と子じゃないかもしれんな…

お前とは会えた。後は母さんを探すとするかな」

 

呟かれた男の声は東京湾の波音にかき消されていった…




ソードカトラスはアニメ『Black Lagoon』に出てくるヒロインのレヴィの愛銃ですね。おすすめのアニメなので是非見てみてください。



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卒業の先に待っていたもの

お久しぶりです。
色々考えてたらこんなに空いてしまいました…
さぁまた時間はぶっ飛んで高校生活も終了です。
さっさと原作に辿り着きたいですしね。
そろそろ皆さまも原作キャラが見たい頃だと思いますし、ここからは早めに進めます。
今回も短めです。すいません…


三月。多くの学生がひしめくこの場に、冴子と2人で立っていた。

 

「おっ、あったあった」

 

道の片側に掲げられた合格者発表に、俺の受験番号はちゃんと書かれていた。

ここは日本の最高学府・東大。前世から引き継いだ頭脳(チート)を用いて合格したのだ。

 

さて、問題は冴子だが…

 

「あったわ裕太!!やったーー!!」

 

人混みを掻き分けて飛びつき、抱きついてきた冴子。

思いっきり飛びつくものだから俺も受け止める時に倒れそうになるも、そこは意地を張って受け止める。こういう時の冴子は意外と容赦無い。

 

「良かった…俺も教えた甲斐があるってもんだぜ…」

 

冴子も頭は良いのだが、結構気分屋なところがあり、成績は安定していなかったのだが、高3になったあたりから俺と2人で頑張って勉強をし続けて一緒に合格を勝ち取ったのだ。

 

「えぇ!!支えてくれた麗香や唯香にも感謝しなきゃね!!」

 

受験が終わって冴子はハイになっているのか、笑顔のままピョンピョン飛び跳ねている。いつもはクールな彼女のこういう姿はとても可愛らしく、俺まで嬉しい気持ちになれるものだ。

 

「じゃあ家に帰るか」

 

「えぇ!!今日はウンとご馳走してもらいましょう!!」

 

そう言って腕を絡ませて帰路に着く俺達を、春風と他の受験生達の嫉妬の視線と呪詛が見送ってくれる。

…ちょっと騒ぎすぎたかな?

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

「「お疲れ様ーーー!!」」

 

場所は変わってお決まりの野上家。今回もまた麗子さんにご馳走を作ってもらったのだ。食卓の上には刺身の盛り合わせが剛昌さん、麗子さん、冴子、麗香、唯香、俺、母さんの七人分が置かれている。どれも豪華なのだが、俺のだけは他の2倍いじょうの量が盛り付けられている。

麗子さんは俺の食欲に配慮してくれたようだ。…ホントいつもすいません…ありがとうございます。

えっ?ウチの親父?…仕事です()社会人は大変やな…

 

「姉さんお疲れ〜!…正直落ちると思ってたけど…」

 

「なによ麗香〜!私だってやる時はちゃんとやるんだから!」

 

「そんな事言ってるけど冴子姉さん…お兄さんいない時全然集中して無かったじゃない…いつもお兄さんを足止めして10時くらいまでウチに居させて、お兄さん帰る時いつも疲れてたじゃん…ねぇ?お兄さん?」

 

「アハハハハ…そ、そうだね唯香ちゃん…」

 

実際は8時くらいで一旦切り上げてベッドで色々してしたんだけど…バレてないよね?

 

「ウフフ…唯香、裕太君や冴子は色々“激しかった”んだし、そうもなるわよ。ねぇ?」

 

いつもと変わらぬ笑顔で微笑ましげに俺たちを眺める麗子さん。…バレてたか…

冴子もこれには苦笑いしかしていない。

 

「ハッハッハ!流石は我が娘と裕太君だ!」

 

麗子さんにお酌して貰いながら豪快に笑う剛昌さんはもう既に酔っ払っている。…この人は良い意味で安定している。勿論俺たちの都合の良いように、っていう意味だけど。

 

「それにしても良いなぁ姉さん…お兄さんと2人で卒業旅行だなんて…私も行きたーーーい!!」

 

「ホントよ…冴子姉さんだけズルいわ!!」

 

不満を漏らす2人はまた冴子と喧嘩を始めてしまった。仲が良い姉妹だこと。麗子さんも剛昌さんも基本的に姉妹喧嘩は止めないため、白熱してくるが…放っておこう。

 

「それにしてもちゃんと計画は立てたの?裕太」

 

「大丈夫だって母さん。行くとことか、大まかなタイムテーブルは決めてるし、ホテルの予約だってしたぜ?カシオペアの切符も取れたし、準備は万全さ」

 

旅行の行き先は北海道。寝台特急カシオペアで函館に行き、小樽、札幌に行った後飛行機で帰ってくるという三泊四日の行程だ。

お金は俺のバイト(師匠の元でシティーハンターのアルバイト)での給料とお小遣いだ。冴子が甘えながら行きたいと言ったら剛昌さんがポンと数万円渡してくれたのだ。…娘に甘過ぎっしょ、剛昌さん。

 

「楽しそうねぇ。…ホラ、冴子、麗香、唯香!そろそろやめなさい!お父さんから大事な話があるのよ」

 

そんなことを考えていたら麗子さんが喧嘩していた3人を呼び止め、食卓に座らせる。ていうかご飯を放ったらかして何してんだお前ら。

3人の髪がどれも少し跳ねているのを見ると、そこそこな喧嘩だったのは目に見えて分かる。

3人が座ったのを見て剛昌さんはわざとらしく一つ咳をして、とある紙を出してきた。

 

「ゴホン。えー、冴子は大学に進学するということで、えー。ゴホン。そろそろ1人立ちしなければならないと思うわけだ。そこで!!冴子には1人暮らし、いや、裕太君と共同で生活して貰う!!」

 

え?

 

「「「「えー!!??」」」」

 

三姉妹と俺の叫び声が重なる。どういうことだ!?

 

「裕太もそろそろ自立させなきゃなぁと思ってたから、この話を麗子さんに聞いた時にOKしたのよ。裕太もそれで良いでしょ?」

 

「まぁいいけど…でもいきなりかよ」

 

「ねぇねぇ、それってどこに住むの!?…えっ…」

 

好奇心が強かったのか、置かれた紙を勝手に見た麗香と、覗き込んだ唯香の顔が凍りついた。なんだ!?どんなとこなんだ!?

 

プルプルと震える手で渡してきた麗香から冴子が受け取り、隣の席から俺も一緒に内容を見る。

 

「ハッハッハ!良いだろうその物件!エントランスに防犯装置と警備員完備!信用のおける新築のマンションの25階だ!!」

 

そも紙に載っていたのは、米花町の高級街の一角にある、いかにも高級そうなマンションで、2LDKの、それもかなり広めな部屋の一室で、お値段は…いちじゅうひゃくせんまんじゅうまんひゃ…

俺は数えていくうちに顔が青ざめていき…ぶっ倒れてしまった。

 

「ちょ、ちょっと裕太!?」

 

「「お兄さん!?」」

 

「安心したまえ、在学中は両家で払うから…って、ゆ、裕太君!?どうしたんだい?」

 

「アラ、アラアラ…」

 

「…まぁ、ウチの家庭の金銭感覚じゃこういう反応にもなるわな。主人と同じ反応してる…親子なのねぇ…」

 

おかしいだろ…あの金額…大学生の住む家じゃ…ねぇ…

 

ガクッ、と、俺はその場で失神してしまった。

 

後に俺はこう語る。0があんなに並んでるのは初めて見た、と。

 

 




次回は寝台特急カシオペアでの事件です。


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夜を駆ける星 前編

導入が長いですが、最後まで読んでいただけると嬉しいです。
前編後編とありますが、犯人は前半時点ではまだ分かりません。
ただ、予想はしてみてください。勿論まだ判断はできない(できるかも?)はずなので、ほとんど運試しのようなものですが。


上野駅13番ホーム。ここは昔から多くの人の別れや旅立ちといった人間ドラマを見届けてきた北の玄関口だ。二層構造になっている上野駅の一階部分にあり、黒い屋根で覆われた空間はどこか陰気臭さをも感じる。しかしこのホームが今までどんな役目を担ってきたかを知っている人には、この空間は栄光が光り輝く煌びやかなものだと思うことだろう。今でこそ始発駅という役目は少なくなったものの、この歴史あるプラットフォームには他の駅には出し得ない特別感が漂っているのだ。

 

そんな13番線に推進運転で銀色に輝く列車がゆっくりと進入してきた。

それを待ってましたと言わんばかりにマニア達が構えていたカメラのシャッターを切る。

彼らのカメラや多くの客に彩られたホームに入る列車はまるでハリウッド俳優のようだ。

そんな列車の名前は、寝台特急『カシオペア』。全部屋2人用個室A寝台という日本屈指の高級列車だ。

 

「凄い人気ね…」

 

珍しく冴子もその光景に少したじろぐ。そんな中俺は前世以来となる寝台特急カシオペアとの再会に心を子供のように踊らせていた。

 

「やっぱりカッケェなぁ…銀色の車体に5本のライン…カシオペアのマークも良いし…スイートを取れたのはホントラッキーだったぜ…」

 

そう、実は一度前世でカシオペアに乗ったことはあるのだ。親父と2人で北海道から旅行で帰って来る時に乗せてもらったのは良い思い出だ。

そんな小さい頃とは違い、今度は始発駅、そしてその相手は愛しき女性。心踊らない訳がない。

しかもそんな旅を演出する部屋は、カシオペアでも最高級のカシオペアスイート。展望室タイプではなくメゾネットタイプではあるものの、非常に人気なこの部屋を取れた事は大変幸運だ。

 

冴子と2人で自撮りをした後、車内に乗り込む。

中は木目調になっていて、視覚的に落ち着ける。当に走る高級ホテルだ。

2人で今夜泊まる部屋のドアを開けて中を覗くと、すぐに階段があり、目の前の階段は下の階へ、横の階段は上の階へと繋がっている。

 

「どっちから行けば良いのかしら?」

 

「取り敢えず上からだね。下はベッドルームだから。」

 

俺の言葉に納得したのか、冴子は俺がドアを開けている間に、小声でありがとう、と言いながら中に入り先に階段を登っていく。

俺も冴子に続いて上に行くと、大きな窓に、それを横に椅子が2つ向かい合わせで設置されているのが目に入る。

冴子は持っていた肩下げバッグをポンと椅子に置き、左側にある扉を開ける。俺も背負っていた大きなリュックサックを反対側の椅子に放り投げ、冴子の後ろに密着して上から覗くと、トイレとシャワールームがあった。

冴子はほう、と感心したように息を吐く。

 

「へぇ…本当にトイレとシャワーまで付いてるんだ…」

 

「おぉ…知ってても感動だな」

 

その流れで下の階へ。寝室を確認する。

寝室には2つのベッドが少し間を開けて並んでいて、上には寝巻きがビニールに包装されて置かれており、奥にはそのベッドに挟まる形で照明と目覚まし時計がついている。

寝室にも大きな窓が付いている。夜に寝っ転がりながら、流れ行く夜景を見るのはさぞかし至福であろう。

ただ、今はまだ上野駅。反対側からこちら側が丸見えだ。

 

「流石に今はカーテンを閉めておくかな…」

 

そう言って俺は窓際に寄って行き、窓の上からカーテン、というよりブラインドを下げる。下げ終わって振り返ると冴子が反対側のベッドに座り、小学生の男の子のようなニヤニヤした顔で俺を見つめる。

 

「いやらしぃ〜」

 

「何が?」

 

「知ってる?カシオペアって、『走るラブホテル』とも言われてるらしいわよ」

 

そう。カシオペアは日本では数少なくなった寝台特急の中でも珍しく全室個室で、さらに2人用という構成だ。

それ故当初から年齢問わずカップルでの利用が多く、特に青函トンネル内はかなり時間がある上に外から見られる可能性が0であるため、カーテンも掛けずにヤりまくるカップルも多いそうだ。…切符を買った緑の窓口の職員がどこか微笑ましげだったのはそういうことか。

 

「待ってくれ、今はやめよう!そろそろ切符の検札来るしさ」

 

そう言うと冴子はプッ、と吹き出したように笑いながらベッドをパシパシ叩く。…からかったなぁ…

 

「アハハハハ!冗談よ、ジョーダン」

 

そんな事を言いながら立ち上がり、俺に正面からしなだりかかってくる。表情がさっきと打って変わってとても魅惑的なものになり、手で俺の顎を軽く撫でながら、熟練のキャバ嬢かと言いたくなるような甘え声で囁いてくる。

 

「で・も…今日の夜は昨日の分のもっこりの貸しまで返して貰うからね」

 

そう言ってチュッ、と首にキスをする冴子。

 

「はい…」

 

ゾワっと背筋が凍るような感触を味わいながらも返事をする俺の声は、少し上ずっていた。

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

コンコン、とドアから音が鳴る。どうやら検札が来たようだ。列車は大宮駅を出た所。ここら辺から始めるのだろうか。

 

「はい、今開けます。」

 

階段を降りて、ドアを開ける。

 

「車掌です。切符を拝見いたします」

 

冴子と俺はそれぞれの切符を見せる。中年くらいの男の車掌さんは慣れた手付きでササっと確認してすぐに返してくれた。…今しかない!

 

「はい、大丈夫です」

 

「ありがとうございます。…あのっ!」

 

「ハイ?」

 

車掌さんはいきなり俺が大声を上げたのにも動じず、応じてくれる。

 

「その…帽子を少しだけ被らせてもらってもよろしいですか?」

 

恐る恐る俺が尋ねると、車掌さんはすぐに笑顔で頷いた。

 

「勿論、良いですよ。」

 

そう言って車掌さんは俺の頭に自分の被っていた帽子を掛けてくれた。

小さい頃からずっと自分の憧れだった帽子を、今、自分が被っている。そんな状況に思わず笑顔が飛び出た。

 

「わぁ!!ありがとうございます。もし良ければ、一緒に写真に写っていただけますか?」

 

「えぇ、構いませんよ」

 

無茶振りとも言えるような俺のお願いに全く嫌な顔をしないで応えてくれる車掌さんが、俺の目には仏様のように映った。

ウキウキで冴子に俺のスマホを渡し、2人でドア前の廊下に並ぶ。

少し呆れたような、それでもどこか母性を感じさせる笑みを浮かべた冴子によって、一度、シャッターは切られた。

直ぐに俺はスマホwl受け取り、被っていた帽子を返す。

 

「検札中にありがとうございました!」

 

「いえいえ、良い旅を。」

 

車掌さんはそのまま帽子を被り、隣の部屋へと移っていった。

それを見届けた俺は冴子と中に戻り、椅子に座ってすぐさま写真を確認する。

 

窓に映る疾走感のある景色に、子供じみた笑顔の俺と大人な笑顔の車掌さん。

こういう写真がまた一つ思い出となっていくのだ。

ここで黙って俺を見ていた冴子が口を開く。

 

「それにしても裕太にそんな趣味があったなんて知らなかったわ」

 

「まぁな…子供だと、思うか?」

 

そう聞く俺の気持ちは伝わっているのだろう。母親のような暖かさを持った笑みで言う。

 

「いいえ。むしろ貴方のまだ知らない面を見れて嬉しいわ」

 

…ホント、良い女性だよ。お前は。

そんなこと言われたら、照れちまうじゃないか。

 

「…ありがとう」

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

その後も少し部屋でのんびりとしながら、2人で他愛も無い会話をしていると、ディナーの時間となった。18:30、列車は宇都宮〜郡山間を走行中だ。

カシオペアにはダイニングカーが付いていて、三号車にある。二階部分にテーブルと椅子があり、一階部分が厨房と通り道となっている。

丸みを帯びた天井は少し狭いが、大きな窓とそこから見える夜の暗闇、そしてカタンカタンという振動が寝台列車に乗っているんだ、という実感を抱かせる。

また紺色の椅子とテーブルクロスが均一にかけられたテーブル、その上にこれまたきっちりと定位置に置かれたメニュー表と造花、スタンドライトがモダンな雰囲気を醸し出し、高級レストランと遜色ない空間を作り出している。

 

俺と冴子はアテンダントさんに案内され、席に座る。周りにも多くの客が入っていて、盛況しているのが分かる。

俺たちと同じような若いカップルから、夫婦のような人達、家族連れ、鉄道ファンがいた。皆一様にこれから始まるディナーに期待している様子だ。

 

そんな中で、冴子がふと思い出したかのように言う。

 

「そういえば、コース料理の量ってそんな多く無いんでしょう?大丈夫?後でお腹すいてもご飯はないわよ?」

 

あぁ、冴子には説明して無かったっけ。

 

「あぁ。実はディナーの時間が終わった後、21:45〜23:00まではパブタイムってのがあるんだよ。そこでは予約無しでもここで食事をする事ができるんだよ」

 

「でもそれって結構人が来るんじゃない?」

 

「まぁ…そこは並ぶしかないけど…嫌なら部屋で居たらいいよ」

 

そう言うとたちまち冴子の顔は不満を露わにする。冴子は意外と寂しがり屋なのかもしれない。

 

「…私も行く!」

 

駄々をこねる子供か。少し頬を膨らませ、眉を寄せて言う冴子の表情は、小学生の時から変わっていない。

 

「ハイハイ…金の無駄遣いだとか後で文句言うなよ。」

 

程なくして前菜の『〜サラダ仕立てのオードブル〜アスパラガス、フルーツトマト、帆立貝と蟹のサラダ バルサミコ風味』が届く。

さぁ、美味しい夕食の時間だ!!

 

ーー

 

ーー

 

ーー

 

さてまたやって来ましたダイニングカー。

さっきディナーのことを書いたのにまた飯かと思った方、飯テロではありません。

…ハッ!?誰に向かって説明しているんだ俺は?

 

時間は進みパブタイム。遅めに行ったのだが未だに混んでいて、入れたのは15分後だった。それでも早いほうではあるが。

 

パブタイムといっても内装やアテンダントさんに変更点は特になく、あぁ、また来たんだなという感想を持った。

それにしてもメニューの高いこと高いこと。メニューを見た冴子の表情が一気に厳しいものになり、アイコンタクトで「自重しなさいよ」と訴えてきた。そんな冴子に俺は肩をすくめるしかなかった。我が家の財布の紐を握っているのは冴子様なのだから。

 

少し考える素振りを見せた後、冴子は『本日のアイス』なるものにしたらしい。俺は冴子からメニュー表を受け取らずにアテンダントさんを呼ぶ。乗る前から既に決めていたのだ。

 

「すいません。本日のアイスを一つと、煮込みハンバーグセットを一つでお願いします」

 

それをササっとメモしたアテンダントさんの手つきは、車掌さん同様プロのものだった。揺れる車内で立っているだけでも大変なはずなのに、さらに料理まで運ばなければならない。これはかなりバランス感覚が良く、体幹がしっかりしていなければいけないだろう。そんな中でも笑顔を絶やさずダイニングカー内を行ったり来たりする彼女達は美しさすら感じさせる。

 

「はい、本日のアイスと煮込みハンバーグセットですね。かしこまりました」

 

アテンダントさんはメニュー表を回収して階段の方へと消える。

それを見届けた後、冴子は俺を睨みつける。周りの客に配慮したのか、小声で説教してくる。

 

「お金使いすぎよ…!確かに結構余裕を持たせてお金は多めに持ってきてけど…それでも発奮しすぎじゃ無い?」

 

確かに冴子の言うことはもっともだ。でも、これだけは言わせて欲しい。

意を決して、俺もすこし真面目顔で冴子に相対する。

 

「いいや。お金ってのは使ってこそ価値があるんだぜ。確かに無駄遣いは良くないけど、旅行に来てるんだ、思い出にはお金を惜しみ無く使った方が後々良い思い出になるぜ。後悔しないように、な。」

 

これは前世を半端に過ごしてしまった俺だからこそ言えることだと思う。今ではそんなに前世を振り返ることは無くなってきたが、それでもあの時こうしてれば、ああしてればという後悔は残っている。特に両親には何もしてあげられなかったことは自分の中でかなり心残りなのだ。

愛している人だからこそ、こういう人生でも一度しかないイベントは一緒に盛大に行いたい。それに対してお金に糸目を付けたくはないのだ。

 

とは言っても冴子完全に理解してもらえる訳ではなくて。ちょっぴり拗ねた様子の冴子は顔を横に向けてしまった。

こういう時は苦笑いするしかない。俺と冴子の関係と言ってもまだまだすれ違いは起きてしまうものだ。

 

「ねぇ、あの人大丈夫かな?」

 

そんなことをボケーっと考えていると、切り替えたように冴子がテーブルの上から身を寄せてきてボソッと呟く。

俺も冴子の視線を追って見てみると、隣の席で女性が1人で頭を抱えて座っていた。カシオペアで1人で乗っているとは考えにくい。髪の毛も少し枝毛が目立ち、着ているシミひとつ無い綺麗な真っ白のセーターとは対照的に顔は陰っている。40か50代くらいなのだろうが、その精神的に疲れているのが表に出ているせいで少し老けて見える。

 

「…さぁな。少し訳ありかもな…」

 

そんな俺たちは眼中に無いのだろうが、こんな話をしている間に彼女はそそくさと去っていった。

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

 

結局パブタイムの終了ギリギリまでダイニングカーでくつろいでしまい、気分転換に自室のある1号車とは正反対の12号車までやってきた。

ここは電源車兼ラウンジカーだ。

12号車の入り口のドアを開け、中に入る。両側の壁と向かい側の車端には大きな窓が付いていて、両側の窓は夜空とポツポツとある光を、重力が横向きにかかっているかのように流れるのを映し出す。

奥の窓には列車を引っ張るEF510のシルバー塗装が夜を駆ける姿を見せてくれている。

向かって右側には1人用の紺色の椅子が外の景色を見えるように外向きに並べられてあり、回転式となっている。その前には壁に沿うように小さな細長いテーブルがあり、小さな物、ペットボトルとかが置けるようになっている。

左側は同じく紺色の、ロングベンチのようなものがあり、まるでソファのようだ。これは外向きにはなっておらず普段の通勤電車と同じように内向きだ。

奥には右側と同じ椅子が四つ、二列に並べられている。その右奥の椅子に、1人の女性が座っていた。

ダイニングカーで見た、あの女性だ。それを認識した冴子が彼女に話しかける。

 

「どうかされたんですか?元気が無さそうに見えるのですが…どこかお体が優れないのですか?」

 

そう尋ねると彼女は少しビックリしたように振り向くも、すぐに脱力し生気の抜けた目で返答してくる。

 

「えぇ…主人と喧嘩しちゃって…10年前に子供が生まれたあたりから仲が悪くなって、ここ2、3年は別居してたんです…それで今回、仲直りも兼ねて2人でどこかへ行こうってなって今に至るんですけど…部屋でもまた喧嘩しちゃって…それで気分転換しにダイニングカーに行ったんですけど、そこで子供から電話があって、『楽しめてる?これでパパとママの関係が元に戻るといいな』って言われて…子供にまで誤魔化さなきゃいけないのが辛いんです…」

 

彼女の話によると、夫と子供の教育について大喧嘩をして別居状態になり、今回の仲直り旅行でもまた喧嘩して思わず部屋を飛び出してきたとのことだった。

俺と冴子は聞き手に徹し、冴子は偶に同調するように返答する。

曰く、子供にどれだけお金をかけるかで揉めた。曰く、中学受験の志望校選びで言い争った。曰く、送り迎えが不平等だった。

全てが全て子持ちの家庭に良くある火種だ。夫婦とはいっても他人同士、住んできた環境も違えば価値観も育ち方も全く違う。子供をどう育てるべきか。これは非常に難しい、答えのない問題だ。

それ故に2人とも引くに引けなくなってしまったんだそうだ。

 

会話を繰り返す内に彼女、相葉紫音さんの表情も少しずつ晴れてくる。やはり悩み事は口に出すことによって多少なりとも軽減されるものなのだろう。

 

「それで、この後どうされますか?もし旦那さんと話すのがまだ苦しいようでしたら、私も一緒についていきますわ」

 

冴子は紫音さんを心配して言うが、彼女は微笑みながら軽く首を振る。

 

「いえ、大丈夫です。ここからは私達夫婦の問題ですから。でも、おかげさまで心が晴れました。ありがとうね。」

 

そう言うと、彼女は一度体を伸ばしてから立ち上がり、晴れやかな、意を決したような顔つきで戻っていった。

 

「これなら大丈夫そうだな」

 

「そうね」

 

ーーー

 

ーーー

 

そう言ったのも束の間、数分したら直ぐに紫音さんが顔を赤くして帰ってきた。

 

「ちょっと聞いてよ!!あの人鍵閉めてたのよ!?しかも私がノックしても何一つ反応してくれないの!!どう思う!?」

 

俺たちの座っていた椅子の背もたれにドンと手を置き、顔を近づけて迫ってくる彼女に思わずのけぞる。いざ仲直りしようとして出鼻を挫かれた形となり、カンカンに怒っている。

 

「た、確かにそれは…でも、シャワー浴びてたとかじゃないですか?」

 

俺がそう言うと彼女は一瞬キョトンと目を丸くしたあと、口に手を当てて驚いた。

 

「えっ!?シャワーなんて部屋にあるんですか?」

 

「えぇ。あぁ、でもカシオペアスイートとデラックスっていう部屋だけですけど…」

 

「あぁ、それなら…ハイ」

 

彼女はポケットから長財布を取り出して、そこに入れてあった切符を見せてくれる。

そこには上野→札幌 カシオペアスイート 1号車1番

と書かれていた。

これには俺も驚きを隠せない。

 

「これは!?カシオペアスイートの展望室タイプじゃないですか!!」

 

カシオペアスイートの展望室タイプとは1号車の最後尾にある、カシオペアの中でも最も高い部屋だ。一つしかないがために非常に高値かつ高倍率なのだ。これの切符を取るのは非常に困難なのだ。

しかしそれを知らなかったのだろう、紫音さんは特に何も思うことがない様子だ。

 

「凄い部屋なんですか?確かになんか豪華だなぁとは思っていましたが…」

 

「えぇ、カシオペアの部屋の中で1番高級な部屋です。」

 

「そして私達の部屋の隣ですわ」

 

それを聞いた紫音さんは一瞬目を大きく開くが、すぐに何かを憂いているような、そんな顔になった。

 

「あの人…そこまで稼ぎがある訳ではないのに…どうしてそんな…」

 

「まぁとりあえずもう一度部屋に戻ってみませんか?もうシャワーも浴び終わってるでしょうし…」

 

という訳で3人で歩いていると、2号車の中程まで行ったところで

 

「キャア!!」

 

という女性の悲鳴が聞こえた。

 

「な、何!?」

 

紫音さんはいきなりのことに驚いたのか、冴子にしがみつく。前を歩いていた2人を抜いて俺は声のした方、1号車の方へと急行する。

 

貫通幌を潜り、扉を開けると…

カシオペアスイートの展望室タイプの部屋のドアが開いていて

尻餅をつき、エプロンの前を血で赤く染めこちらを振り向く若い女性のアテンダントさんと

 

その奥で紫音さんの旦那さん、克幸さんが、血塗れの状態で仰向けに倒れていた。

 

「これはひどいな…」

 

一応、証拠のために数枚、写真を撮っておく。

さて…どうしたものか




NEXTコナン‘sヒント!

写真

ここら辺もっと改善してくれといった指摘や感想、お待ちしております。
カシオペアのダイヤは私が時刻表を持っている2015年3月ダイヤ改正後のものです。



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夜を駆ける星 後編

インフィニットストラトスのSSも書きたくなってきた…
自分がここでSSを書いている理由としてある程度自分の好きなラノベのSSを読み切ってしまったというのがあるので、他の作品のSSも書きたくなるんですよね…
やっぱり自作のSSの良いところは完全に自分の裁量と好みで物語を作れるところにあると思うんですよね。
好き勝手に世界をいじれるのは意外と楽しいです。

期末終わったので更新します。

あと薄々気づいているとは思うのですが、鉄オタです。


「あなた?あなた!!」

 

俺の後から遅れてやってきた冴子と紫音さん。紫音さんは最初は恐る恐る冴子の後ろから覗き見た後、血塗れで倒れている人が彼女の夫・克幸さんであるとわかると飛び出して克幸さんに触れようとする。

刃物で突き刺された様な傷跡を胸につけ、そこから溢れている血が事件の残虐さを物語っている。

気持ちは分からなくも無いが、ここは殺人現場だ。例え妻であったとしても荒らすことは許されない。

…さらに言えば、紫音さんは容疑者の第一候補でもあるのだ。もし遺体に触れ、何かしらの証拠を押さえられでもしたら大変だ。

 

というわけで走って克幸さんに近寄る紫音さんの腕を掴んで止める。紫音さんはキッと俺を睨みつけてきた。

 

「何するの!?旦那が倒れてるの!!離して!離しなさい!!」

 

痛いほど気持ちは分かる。だが今まで警察に協力して事件を解決してきた身だ。それゆえ彼女を現場に入れる訳にはいかない。

 

「すいません。しかしこれは殺人事件です。その現場はそのままの状態で残して置かなければなりません。」

 

それを聞いて紫音さんは酷く落胆したようで、力が抜けてその場に座り込んでしまった。その顔に生気は無く、虚な目で遺体となってしまった克幸さんを眺めている。

俺は冴子にアイコンタクトをとる。冴子も分かっていたようでコクリと一つ頷くと紫音さんに寄り添う。

 

「どうかなさいましたか?」

 

すると騒ぎを嗅ぎつけたか車掌さんがやってきた。俺が目線を遺体へと移し、それに連れられた車掌さんも殺人事件があったと分かると見るからに動揺する。

 

「これは…えぇ?!ど、どういうことだ…」

 

「取り敢えずここは狭い。どこかに場所を移しましょう」

 

「あ、それならダイニングカーを使ってください。今は営業時間外なので」

 

そう提案したのは倒れていたアテンダントさんだ。全員その言葉に頷き、移動する。

はてさて、どうしたものか。

 

ーーー

ーーー

 

ダイニングカーへと移動すると、片付け終わった後のアテンダントさんとコックさんがいたため、俺は事情を説明し、使わせてもらうことになった。因みに現場である1号車は車掌さんとアテンダントさんの一人の計二人に見守ってもらうことにした。1号車には殺害現場となった展望室タイプと俺たちの部屋以外にももう2部屋あるのだが、一つはドタキャンで空室、もう一つは上野から宇都宮までというクレイジーなお客なんだそうだ。何でもユーチューバーのジャージさんという方で、宇都宮で降りて行ったそうだ。何はともあれ不幸中の幸いといえるだろう。

 

血塗れになっているアテンダントさんの柿谷伊織さんは赤く染まったエプロンを脱いでもらい、一旦保管することに。一応証拠品なのだ。

 

全員が揃ったところで、俺が口を開く。

 

「このような深夜に食堂を貸していただきありがとうございます。私は警察の手伝いをしております、高校生探偵の星川裕太です。よろしくお願いします。」

 

そういうと集まったアテンダントさん達や車掌さんは驚いて口々に新聞で見たことあるだの、あれが噂のと話す。

 

「確認のためもう一度言いますが、先程1号車のカシオペアスイートの部屋で殺人事件がありました。先程青森県警に連絡を取り、青森駅運転停車時に捜査をしていただく形になります。青森駅での運転停車時に出来るだけ精密な検査等を行うためにも、今の段階での事情聴取を行いたいのですが、構いませんか?」

 

俺がそう言うと皆肯く。それを確認した後、並んでいる順に聞いていく。

 

「では、死亡推定時刻のあたりである23時から今まで、皆さんどうしていたかを教えて下さい。先ずはコックさん方から」

 

「それなら、私達ダイニングカーのスタッフは全員賄いを食べていました。23時にパブタイムを終了した後、彼女達はテーブルクロス等の後片付けを、私達料理スタッフはずっと厨房で賄いを作っていて、その後は皆んなで食事をとっていました。その間は誰も他の号車には移っていません。大山さん以外は…」

 

そう言った料理長の目はどこか疑わしい物を見るような目つきだ。

 

「ありがとうございます。では次にアテンダントの大山さん。貴女は何故あの時間、あの部屋にいたのですか?」

 

そう聞くと彼女は俺に訴えるように前のめりになりながら、必死の形相で話す。

 

「私はあの時、このカシオペアスペシャル弁当を届けに行ったんです!本当は19時くらいに届けるものなんですけど、お客様がダイニングカーに来られた時に夜中の0時に持ってきて欲しいと言われて…本当です!!」

 

 

「なるほど…それを聞いた方は他にいらっしゃいますか?」

 

彼女は第一発見者ということもあり、俺自身は疑っている。なにせ、克幸さんは刃物で刺されたようなので、返り血を浴びているはずなのだ。その点で、彼女の血塗れのエプロンというのはかなり怪しいと思う。

 

この質問で彼女が黒だと決まるかと思いきや、そうでもないようだ。

同じアテンダントの女性が手を挙げて発言する。

 

「それなら私も聞きました。その時私達は接客してたんですけど、亡くなられたお客様は18時頃にお一人でダイニングカーに来られて、私達に向けて仰られました。それは確かです」

 

なるほど。あの部屋の前にいく真っ当な理由はあるようだ。ただ…

 

「わかりました。それでは、何故あの時部屋が開いていたのですか?紫音さん曰くパスワードロックまでかけてあって入れなかったと言っていたのですが…」

 

そう聞くと彼女は今にも泣きそうにまでなっていた顔を驚きに変える。

 

「え?私が行った時は軽く開いていたんですけど…それでノックしようとしたら血が少し見えて、慌ててドアを開けたら足に引っかかって転けたので、エプロンが血塗れになったんです。それで遺体を目の前に見ちゃったものですから、びっくりして飛び上がったら尻餅をついて、力も抜けちゃって立てなくなってたんです」

 

なるほど…一貫性はあるみたいだな…

 

「では次に紫音さん、貴女は…大体私たちがアリバイを保障できるのでいいか。これから手荷物検査に入らせていただきます。」

 

その後、俺と冴子で二手に分かれ、冴子は女性を、俺は男性のを検査する。おれの方は誰一人として怪しいものを持っている人はいなかった。

 

俺が全員を調べ終えた後、冴子が声をかけてくる。

 

「ねぇ裕太、紫音さんの荷物なんだけど、あの部屋にあるらしいの。一緒に来てくれない?」

 

「ん、分かった。それに見張りをしてくれている車掌さんとアテンダントさんの二人の事情聴取もしなきゃだしな」

 

 

ーー

 

ーー

 

 

「この包丁は私の商売道具です。私は料理屋を営んでいて、毎日包丁だけは持ち歩いているんです。」

 

紫音さんのキャリーバッグから箱に入れられた包丁が入っていた。綺麗な木箱に入れられた銀色に輝く刃とセラミックの柄を携えた包丁。

 

「…これで殺害したとも考えられます。一応預かっておきますね」

 

紫音さんは何で、とでも言いたそうではあったが、無視する。

 

といっても包丁があったとはいえ血もついていなく、綺麗で洗った形跡もないこの包丁は本当に殺害の凶器だったのか。疑問だ。しかしこの密閉された列車内で凶器となれる刃物など殆ど存在しない。勿論ダイニングカーの厨房にはあるが、それを持ち出せる人などコックさん以外に存在せず、そのコックさん達もアリバイは証明されている。

一体どこに凶器が隠されているのか、それとも本当に彼女の包丁が凶器なのか。いずれにせよ、今は青森県警の到着が無ければわからない。

 

その後、ボディーチェックと持ち物検査を終えて紫音さんと見張りをしていたアテンダントさんと車掌さん、俺と冴子は一度ダイニングカーに戻ることに。そこで二人の事情聴取と持ち物検査をする予定だ。

 

ーーー

ーーー

 

持ち物検査も事情聴取もアテンダントさんの方は通ったのだが、車掌さんのアリバイがない。

 

持ち物は何も怪しいものはないのだが、何せ一人で業務を行う都合上、アテンダントさんやコックさん達と共に夕食をとっていた時以外はアリバイを証明できないのだ。車掌さん曰く盛岡駅の発車当時は4号車の車掌室で戸締め確認を行って、その後盛岡駅から乗り込んだお客の検札をし、賄いを一緒に食べた後もまた4号車の車掌室でパソコンで業務を行なっていたらしい。履歴を見せてきたが、それでも時間設定を弄れば良いだけの話なので証拠にはなりえない。ただ、やはり凶器を持っているわけでもなく、返り血を浴びてそれを洗うことも着替えることもできない。それに接点もない。

 

俺の捜査できることはそこまで。凶器となりえる物を持っている包丁を持っていて、別居関係にもあって動機が十分な紫音さんか、返り血を浴びたとも考えられ、第一発見者でもあるアテンダントの柿谷伊織さんか。最重要容疑者は絞られた。

 

列車はまもなく青森駅に到着する。時刻は1:00。正直ダイニングカーに詰め込んでしまっていることに罪悪感を感じないでもないが、我慢してもらう他ない。

 

 

ーーー

ーーー

 

1:50、青森駅運転停車。運転停車とは乗務員の交代等の為だけに停車することで、お客の乗り降りはできない。青森駅では運転手の交代がある。夜中の長時間の運転は流石にできない為、およそ2時間おきに交代するのだ。ちなみに車掌さんは一度しか変わらない。青森駅の先にある蟹田駅で1分間運転停車し、そこで今回写真を撮らせてもらった車掌さんともお別れだ。

 

しかし今回は1号車のドアだけが開く。俺からの連絡を受けた青森県警を車内に入れる為だ。俺は冴子と青森県警から派遣された警部、篠原林檎さんを事件現場にて迎える。

 

「あなた達が噂の高校生探偵カップルね。警視庁の目暮警部から話は伺っているわ。今回はよろしくね」

 

黒い軽くウェーブした長髪を後ろに一括りにしたスーツの美女が篠原刑事。まだ30前半だろうか、若々しい健康的な肌を持ちながら妖艶な雰囲気を纏う彼女に少し見惚れた後、俺も彼女にならって握手を交わしながら、反対の手で手帳を渡す。隣からの視線は気にしない。気にしたら負けだ。…ごめんなさい。

 

「えぇ、こちらこそよろしくお願いします。あとこれは全員の事情聴取を書き留めた手帳です。参考にしてください」

 

「ありがとう。それじゃ、私達も調査を始めるわね」

 

 

ーーー

 

ーーー

 

 

30分経っただろうか。検査の結果が青い作業着の鑑識さんから伝えられる。

 

「報告します。相葉紫音さんの持ち物であった包丁からは相葉克幸さんの血液は検出されませんでした。そして他の捜索班ですが、トイレ等にも凶器は無かったようです。」

 

やはり紫音さんの包丁は実際の事件の凶器ではないようだ。

この列車内という密室状態において、凶器がないと言うことはありえない。検死を改めて行なったが、俺と同じように0:00あたりだとのことだ。

ダイニングカーはまたもや暗い雰囲気に包まれる。篠原刑事も他の警察も、何も進捗のない捜査にやきもきし、アテンダントさんやコックさん方も睡眠時間が削られて段々と疲れが見え始めてきた。後でまた朝食の準備もある中でこんな状況になったのだ、相当なストレスだろう。

俺も痺れを切らしてダイニングカーを飛び出す。こんな状況を打開しなくて、何が高校生探偵か。…とはいえ、容疑者二人の白はほぼ決定的になって、容疑者候補とも言える車掌さんには動機も凶器もない。アテがないのだ。

そんな俺に、通りすがる時に冴子がボソッと喋る。

 

「…イライラしちゃダメよ。現場にもう一回行くなら、一旦リフレッシュしてからにしなさい。…必ず証拠はあるわ。絶対に。貴方なら、見つけられるわ」

 

「そうだな…ありがとう」

 

ここは冴子の言う通りにしよう。焦っても空振るだけだ。

俺は3号車のドアから一旦外に降りる。

真っ暗な青森駅は深夜にしては少し賑やかだ。警察官達や野次馬の駅職員や他の夜勤の運転手、車掌らがわざわざ現場を見に集まっている。そこから少し目を離して深呼吸をする。冷え切った冷たい空気が気管を通り、暖房で暖められた空気ばかりを吸っていた肺をビックリさせる。

遠くに見える寂れた青函連絡船への乗り換えの建物が何ともまぁ不気味だ。昔、ここ青森駅は青函連絡船への乗り継ぎ駅として栄えていたのだが、今は青函トンネル開通によって青函連絡船も無くなり、かつてあった乗り継ぎのダッシュも見れない。

当時にいたら、SLに乗って、窓を開けて海を見て感動しただろうなぁ。乗客が一斉にダッシュする光景を見てみたかったなぁ。漠然とそう思いながらウロウロしていると、野次馬の職員達の声が聞こえる。

 

「そういやさ、殺された相葉克幸さんだっけ?どこかで聞いたことあるなと思ったら、2年前の小田原事件の時の運転士の名前じゃねえか」

 

ふと思い出す。2年前、小田原駅で起きた小田原事件。当時運転士だった人と車掌だった人が列車の入れ替え時に操作を誤り、電車は勢いよく逆発進。車掌だった人が亡くなってしまうという悲劇的な事件だった。

咄嗟に俺は小田原事件を調べる。するとすぐに詳細と写真が出てきた。…あぁ、そうか。この名前…

 

その瞬間、俺の頭を色んなことが駆け巡る。

色んな人の発言、忘れていた事実、事件の状況。

写真を確認する。あぁ、やっぱり。

 

俺はダッシュで駆け込み、現場に戻る。そして俺は、とある場所から、決定的な証拠を見つける。

 

「…あった」

 

これを鑑識さんに届け、すぐに調べてもらう。…やっぱりな。

さぁ役者は揃った。真犯人には断頭台に上がってもらおうじゃないか。

時刻は3時半を回ったところ。カシオペアは、夜に輝く。

 

ーーーーー

 

 

俺がダイニングカーに戻ると、どうやらアテンダントさんの大山さんが詰問されていた。

その中をかき分け、俺は入り込む。

 

「皆さん聞いてください。犯人が分かりました」

 

瞬間、ダイニングカーにいる全員が戦慄する。警察から乗員まで固唾を呑んで見守る中、俺はスッと一息吸って、話し出す。

 

「今回、真夜中に相葉克幸さんを殺害し、証拠を隠滅してまで逃げ切ろうとした犯人は…アンタだ!!車掌の島田健二郎さん!!」

 

俺がビシッと指を差した先の彼、島田さんは笑みを崩さない。一緒に写真を撮ってもらった時のあの優しい笑みが、今は悪魔の微笑みのように感じられて気味が悪い。

 

「…私が?一体何故ですか。理由がありません。」

 

「いえ、理由ならあるじゃないですか。それもとっておきのが。

2年前の小田原事件の被害者、島田健一郎さんは貴方のお兄さんですね?そしてその時の運転士が相葉克幸さんだった…違いますか?」

 

島田さんの細い目が一瞬で見開かれる。俺はさらに続ける。

 

「貴方は何らかの理由で事前にこのカシオペアスイートの客が相葉さん夫妻だと知った。そして今回の犯行に踏み切った。

貴方は車掌という立場を利用して鍵を掛けていた部屋を開けさせ、その場で刺殺したということです」

 

島田さんは無表情のまま質問してくる。

 

「ふむ、しかしそれでは返り血を浴びてしまいますが、今の私には返り血の痕はありません。それにその凶器も持っていませんよ?どう説明するのですか?」

 

他の人もウンウンと頷く。そう、この事件を難しくしているのはこの凶器がないということ。それをどうするのかというと…

 

「捨てたんでしょう?確かに列車は密室です。しかし一つだけ走行中でも開くところがある。それは乗務員室の窓です。車掌は戸締め確認のため乗務員室の窓から顔を出します。そのため、乗務員室だけは窓が開くようになっています。貴方は克幸さんを殺害した後、一度あの部屋のシャワーで体を洗い、その時に使った服や体を拭いたタオルと凶器を捨て、今の格好に着替えたんです。違和感がないように同じ服でね。」

 

しかしそれでも島田さんは折れない。

 

「いやいや、君、それでは状況証拠でしかないよ。それに私は4号車の車掌室にいたんだよ?あそこで見せた鞄にもそんな服を入れるスペースはなかったでしょう?出来っこないですよ」

 

「いえ、貴方はもう一つのバッグを持っていました。証拠です」

 

俺は最初に撮った冴子とのツーショット自撮りの写真の端っこを拡大して全員に見せる。そこには車掌鞄ともう一つ、ボストンバッグを持った島田さんが写っている。

島田さんはここに来て焦った顔をし始める。

俺はさらに画面をスライドさせて次の写真も拡大して見せる。

 

「それに…今の貴方のネクタイ、結び方が違いますよね?私とツーショットを撮った時、貴方のネクタイにはティンプルという折り目がありました。しかし今の貴方のネクタイにはそれがない。これは一度貴方がネクタイを結び直したとしか考えられません。

さらに貴方は事件発覚当時4号車からきたのではなく、元々1号車にいましたね?貴方が来た時には車両間のドアの開く音はしなかった。つまり、車両間の移動をしていないんです。

そして…決定的な証拠がこれだ!!」

 

俺の掲げたよジップロックに入った髪の毛に、島田さんの顔は青くなり、他の全員も驚きを隠せないようでそれぞれがリアクションをとる。

 

その髪の毛は、島田さんの髪色と同じで、大山さんとも紫音さんとも違う短い黒の髪に、真っ赤な血が付着したものだ。

 

「これは先程現場のシャワールームで見つけました。この血は相葉克幸さんのものだそうです。さぁ島田さん、これは貴方の髪ですか?違いますか?」

 

すると島田さんはその場に崩れ落ちる。

 

「あぁ…私がやりました。動機は仰った通りで、兄の復讐です。昔から仲の良かった兄貴を不注意で奪ったあの相葉克幸を、のうのうと生きているあいつが!!許せなかったんだ…」

 

「…だとしても、殺人をすればそれは立派な犯罪です。悔い改めて下さい」

 

篠原刑事によって手錠をかけられた島田さんは、トボトボと連行されていった。

 

 

〜〜

 

「フゥ〜…疲れた…」

 

青森駅ではたっぷりと警察からの事後事情聴取を受け、すっかりくたびれてしまった。シャワーを浴びて今は布団に入って横になっている。コトンコトンという振動が心地よい。

 

このまま函館につくまではゆっくりと寝てしまおう…

 

ということが許されるわけもない。何故寝られると思っているのか?何を寝ようとしているんだとでも言いたげな阿修羅…ではなく冴子によって俺は起こされる。

 

「今日寝たら…明日に12発やってもらうことになるけどいいのかしらねぇ?」

 

「アハハハハ…そうっすよねぇ…」

 

流し目で甘えてきて、俺のユウタを上下の口で嬲る最高に綺麗な彼女に興奮しないわけない。

結局、一睡も出来なかったのは言うまでもないだろう。

 

青函トンネル内でのカーテンも無しにするプレイはとてもスリルがあって燃えた、とだけ言っておこう。

 

 

冴子さんマジサキュバス。




次回!!
揺れる警視庁!1200万人の人質
です。
警察学校やら大学編はカットします。原作入るまでが長すぎるのでね。
そして次回から原作から段々と世界線が変わっていきます。
シティーハンターが出てる時点で原作と乖離しているとは言ってはいけない。
ユーチューバージャージさんは某スーツ着てるユーチューバーさんのオマージュですねw

…これで多分オリジナル事件は無くなると思います。原作の事件も少し改造が入るとは思いますが、一から私が作る事件はもう作るつもりはありません。どうしても伏線の散りばめ方や展開の仕方に素人特有の拙さや甘さ目立ったので。今回も露骨でしたしね。トリックでも何でも無かったですし。
ただ、やっぱり自分で考えて事件を作るのは楽しかったです。皆さんも一度考えてみては如何でしょうか。


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原作編
揺れる警視庁!1200万人の人質 1章


新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

お気に入り数も1000人を超え、当初の想定を上回る支持をいただき誠に恐縮です。
しかしこうして作品を書いていると批判もあるわけで。
そこで年始に当たって目標を作りました。

とりあえず楽しもう!!自分の妄想を書こう!!

です。
とんでもないことですが、これを基本として、これからもシティーハンターやその他キャラクターを交えた名探偵コナンの世界を描いていきます。多分中々ここまでMIXしたSSは無いはずなので、そこを重点として主人公が冴子達と共に生きていく姿を楽しんでいただけたら嬉しいです。

これからも執筆頑張ります。

とりあえず短め。今回は長編なので数回に分けます。今回は短めです。


ーーー3年前

 

 

 

 

「しゃーえこー!おなえはほんっとーにきでいでいーおんなだなぁー!!ヒック!おりゃーこんなかのじょをもててー…しあわしぇだぁーーー!!!アーッハッハッハ!!」

 

あぁ、また始まった。この場にいる全員が同じ意見を持っただろう。

今は11月。大学3年生で受けた公務員総合職試験をパスした後、合格し大学を中退。四ヶ月間の警察大学校での生活をし、晴れて警察官になって1年が経つ。ゴールデンルーキーとして今は本庁での勤務を行うことになった俺と冴子は、いきなり事件解決数トップに立つ活躍ぶり。ちなみに警察官になるまでには面接が数回あるのだが、明らかに他の受験者より時間が短かった。…コネじゃないんだよ?ホントだよ?

そんな俺には確率1位になるものが2つある。一つは検挙率。事件数も多くこなし、それらを高確率で解決する。これはパートナーの冴子の力も大きく、2人合わせりゃ100人力だ。そしてもう一つが…

 

「裕太、私はもう10本目よ?冴子、飲める人が好きだなぁ〜」

 

「そーお?じゃあゆうたくんもーっとのんじゃうー!!ヒック!しゃとーしゃーん、なまもーいっちょ!!」

 

飲み会での酔っ払う率だ。普段はあまりお酒は飲まず、家にある酒類は冴子がたまに飲むワインくらいなのだが、飲み会ではお酒を飲む。ただ全く耐性が無いので、一瞬で酔ってしまい、記憶を失うのだ。

対照的に冴子は両親譲りの大酒豪。家では俺がセーブさせてるのもあって少しワインを飲む程度だが、飲み会での飲酒量は一課でもトップクラスだ。

いつもは車での通勤なのだが、飲み会がある時は本庁に車を残してタクシーで帰る。その時は呂律の回らない俺ではなく、冴子だけが頼りなのだ。

 

「もう…星川君飲みすぎ!それに冴子ちゃんも何でそんなに煽るの?」

 

「だって…酔っ払った裕太の方が、夜の方が凄いんですもの…」

 

顔を赤らめ恥じらいながらそんなことをぶちまけてしまう冴子に、佐藤はイラっとするものの、グッと堪える。優秀かつ一課唯一の女性刑事仲間ということもあり、人間関係を壊したくないという意思が怒りたい気持ちを上回ったのだ。

 

2人は警視庁内でも屈指の夫婦刑事として名を馳せたが、一課内ではこう呼ばれる。

 

「しゃえこーー!」

 

「やん!!もう、こんなところで抱きつかないの〜」

 

バカップル刑事、と。

 

「アイツ、仕事中と飲み会であんだけ変わんのかよ…」

 

これには流石の松田陣平もドン引きだ。

 

「…爆ぜろ、バカップルども……」

 

鋭い目で呟いた白鳥刑事の一言が、場の総意を表していた。

 

そんなワイワイと騒がしいなかで、松田は自身の緊張感が高まっていくのを感じていた。

 

明日、爆破事件がある。そう確信していたからだ。

ーーー

 

ーーー

 

 

ガバっと布団を退けて上体を起こす。上半身裸なため寒くて身震いする。いつもは隣にいるはずの冴子は今日はいない。先日の事件の始末書を白鳥刑事に押し付けたこととその事件でパトカーで建物内を走ったことへのお叱りを目暮警部から頂くことになっているらしい。

自業自得だな。

 

酷い淫臭のするベッドにファブリーズを吹き、ベッドクリーナーで掃除をする。床はルンバくんが頑張ってくれているので楽チンだ。

 

今日は平日。偶には冴子のいない休日も良いだろう。とは言ってもやることがない。師匠も今日は仕事だと香さんが言ってたし、大事なことをわすれている気はするが外に出て映画でも借りにいくかな。

 

そう決心して青いTシャツを着てジーパンを履き、ソードカトラスの入ったショルダーホルスターの上から黒いジャケットを羽織る。師匠と同じスタイルだ。

 

そうして家を出ようとした時、くつを履いていたらスマホが震える。冴子からのようだ。

 

「冴子ちゃんおはよー」

 

『そんな呑気なこと言ってられる状況じゃないの。裕太が前に言っていた爆破予告、やっぱり本物だったわ。今米花町の観覧車に仕掛けられた爆弾を解除するために松田刑事が乗ってるんだけど、3秒前に他の爆弾の在りかを表示するらしいの。12時ジャストに爆発なの。このままじゃ松田刑事が死んじゃうわ、お願い!屋上から狙って!!爆弾は水銀爆弾よ』

 

そう言い放たれて電話を切られる。

…やべぇ、すっかり忘れてた。

 

俺はすぐに部屋に戻ってケースを取り、急いでエレベーターで最上階へ。非常階段の鍵をピッキングしこじ開け、風の強く吹く屋上に出る。こういう急いでる時に自動ロックのドアは頼もしい。

 

俺はケースから師匠に譲ってもらったAWMというスナイパーライフルを取り出す。弾を装填し、スコープを覗き込む。…見えた。何とか狙える位置ではあるな。ピントを調節すると爆弾がくっきりと見えた。

 

しかし強風下での、1.5km程ある観覧車の一つのゴンドラに仕掛けられた爆弾の、炸薬に繋がる導火線への射撃。並の集中力じゃ無理だ。

さらにチャンスは一度きり、3秒前に表示される場所を松田さんが認識してからその導火線を撃ち抜かなければならない。発射から弾着まで約2秒、12時の5秒前〜3秒前くらいには撃つべきだろう。

 

腕時計を外して横に置き、カウントダウン。

…10、9、8、7、6、5

 

ダァン!!!

 

偏差をつけて放った渾身の一撃が米花町の空を突っ切る。

冷や汗を流しながらその行く末をスコープで見守る。

太陽光に反射しキラッと輝く弾丸は糸を引く様にゴンドラの方へと吸い込まれる。

弾はゴンドラの窓を割り、松田さんの肩をギリギリで躱し…………

 

12時。1秒、2秒、3秒、……

 

「ハハ、ハ…やった……フゥ」

 

極度の緊張から解放され、俺はその場で寝っ転がる。

寝転んでまもなくまたスマホが震える。

 

「もしもし」

 

『裕太!!やったわね!!今こっちは大騒ぎよ、裕太が爆発を止めたって。もうちょっとしたら松田刑事も戻ってくるわ。貴方もこっちにきたら?』

 

「冗談はよしてくれ冴子、もう俺は疲れたよ…寝たい」

 

『フフ、お疲れ様。でも残念、後処理が必要だから強制的に来てもらうわ』

 

そう言って切られる電話。…あーあ、めんどくさい。これだから警察はシンドいんだよな。

とはいえ人1人の命を救えたことに、大満足だ。

 

 

 

 

ーーー

ーーー

 

 

 

時は流れ現在。俺はラーメン屋にて、高木と白鳥さんと3人で駄弁っていた。話題は佐藤さんの昔の恋人、じんぺーのこと。

ゴンドラから生還したじんぺーは佐藤さんに抱きつかれ、長いこと別れていたカップルの再会みたいなシーンだったそうだ。それ以来ちょっとだけ佐藤さんと付き合っていたらしい。

 

「まぁそれがじんぺーと佐藤さんの馴れ初めだったわけ」

 

「へぇ…でも直ぐ別れたんすよね?何でですか?」

 

高木は好きな佐藤さんのこととなるとすぐに食いつく。今日もそれを教えてやるからラーメン奢れと言ったらホイホイついてきた。チョロい後輩よのぉ。

 

「それは松田君がすぐにまた爆発物処理班に戻ったからね。一課になんていられるかよって言ってさ。勿論佐藤君は引き留めてたんだけど、星川君がいるから俺は不要、俺が本当にやるべきは爆弾の解体さって言い残して一課を去ってね。それに怒った佐藤君は絶交したってわけさ」

 

白鳥さんもまた佐藤さんに惚れている1人。あの時じんぺーが佐藤さんと別れたと聞いた時にはメチャクチャ機嫌が良くなったのを覚えている。この人もまたわかりやすい(冴子曰く扱いやすい)人だ。

 

「でも、先輩はまだその松田さんって人とは交流があるんすよね?」

 

「あぁ。一応俺が命を救った形にはなったからな。それ以来じんぺーと裕太ってな感じにお互いタメ口で話し合う仲になったのさ」

 

そう、松田刑事はその後俺と仲良くなり、事件等でちょくちょく協力しあう仲になったのだ。

 

「それにしても明日は11月7日。あれから丁度3年になるな」

 

「あぁ。何事も無ければ良いんだが…」

 

「でも犯人はまだ捕まってないんすよね?もしかしたら…」

 

「おいバカやめろ」

 

とんでもないことを言った高木にゲンコツを食らわす。

しかし可能性としては非常に高い。犯人は確実にまだ恨みを持っているはずだ。そして動くとするなら明日…さて、どうまることやら。

 

 

 

 

ーーー

ーーー

 

 

 

 

警視庁に電撃が走る_______

 

 

『俺は剛球豪打の

メジャーリーガー

さぁ延長戦の始まりだ

 

試合開始の合図は明日の正午

終了は午後3時

出来のいいストッパーを

用意しても無駄だ

最後は俺が逆転する

試合を中止したくば俺の元へ来い

血塗られたマウンドに

貴様ら警察が登るのを

鋼鉄のバッターボックスで待っている』

 

こう書かれた予告状のファックスが警視庁管轄内の全ての警察署に届いたのだ。

これに対して野上警視総監は警察官総動員を指令、警視庁内はただならぬ緊張感に包まれ、数多くの警察官達が爆弾の捜査に躍起になっている。

さらに悪いことに白鳥さんまでもが爆破に巻き込まれた。重症らしい。

 

「随分と警察をおちょくってくれるわね」

 

「あぁ。じんぺーからも連絡のあった通り、俺達はこの暗号やら何やらを解いていこう。この恐れ知らずを三振に打ち取るには、クローザーじゃなくてエースが必要だ」

 

そう、もし相手がメジャーリーガーのスラッガーだと言うなら、俺と冴子は警視庁のエースだ。負けるわけにはいかない。警察の威信にかけて、そしてこの町を、東京都を守るものとして絶対に許すわけにはいかない。

俺は忠誠を誓った旭日章に笑いかけた。

 

俺を導いてくれよ。




まさかまさかの松田陣平生存…しかもじんぺーとかいう渾名つき。

この前キャラの強みを活かしきれてないという指摘を受けたにも関わらず更にキャラクターを増やして良いものか悩みましたが、やっぱりここは自分の作品なので、どんどん原作との相違点を作っていこうかなと思います。勿論原作が崩壊しない範囲で。

次回、コナンと遭遇…まで行くかな?
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揺れる警視庁!1200万人の人質 2章

コロナの感染者数多いですね…一刻も早く終わって欲しいものです。

いつかもう一度これを見直した時に、そういえばコロナもあったなぁなんて言える様になると良いですね。

そして今回かなり原作改変がなされていまづ。ご注意下さい。

更新遅れてすいません。もう一つの方に浮気したり学校があったりと忙しくなってきたので、またスピードが遅くなってしまいました。
もうちょい頑張ります


「で、爆弾の場所は分かったの?」

 

喧騒の中でも呑気に聞いてくる冴子に、あぁいつも通りだなぁと感じる。最近は緊張感が無くて嫌だね。

 

「んー…この鋼鉄のバッターボックスで待っているってのが気になるなぁ。あと血塗られたマウンドってところ…うーん…」

 

こういった暗号は大体何かしら連想ゲームのように言葉を変換していったら分かるものなのだが、今日は何故か上手く解読出来ない。

 

「冴子」

 

キリッとした俺の顔に冴子は期待を抱く。また分かったのね、と。

 

「もう分かったの!?」

 

「違う。お腹空いたから飯行ってくる」

 

俺の言葉を期待した冴子と他の刑事達が一斉にひっくり返る。

 

「あっそ…早く帰ってくるのよ…」

 

髪が少しはね、服も肩のあたりがはだけた冴子は投げやりに許可する。しかしそこらの刑事達と違うのは、それでも必ず解いてくれると思ってくれているところだろう。

 

「んじゃ、行ってきまーす!!」

 

その場にいた全員の冷ややかな目線を無視して駆け足で飯を食いに行く。気分としては…うどんかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

ーーー

 

 

 

うどん屋に入った俺は、すぐに出来上がったうどんをトレーに置き、トッピング分と合わせて代金を支払った後席に座る。幸い空いていたため他の人と離れた場所に一人で座ることができた。

 

「それにしても…んー…暗号の意味が分からない…」

 

冴子に悩んでいる姿を見られたく無かったからここまで来たものの、あまり良い答えは出てこない。

 

「マウンド…マウンド…」

 

野球においてマウンドとは投手が投げる場所のことで、緩やかな傾斜が付がありそこから投げることでスムーズに体重移動を行うことが出来るような仕組みになっている。

 

それを元に考えると、何かしら高い位置にあるところで、そこで血祭りにあげてやろうという算段だろう。

野球用語でバッターに打ち込まれることを炎上という。つまり今回の場合に照らし合わせれば、犯人というバッターが警察というピッチャーを打ち砕き炎上させるという意味だ。

 

そこで俺は東京で高い位置にあるものを考えることにした。

 

「標高ってことを考えたら…山手台地かな?」

 

まずは標高で考える。東京という街は一見平たい土地に見えるが、かなり高低差の激しい場所なのだ。その中でも山手台地といって、新宿側は台地となっており、東京駅側に比べて高度が高い。

 

しかしこれは違うだろう。台地といってもマウンドのように平たいグラウンドでポコっと出ているのでは無くかなり大きめな台地なため、これは違うだろう。

 

そこで今度は視点を変えて“鋼鉄のバッターボックス”という点に着目する。

鋼鉄製の四角いものを考えるが…あまり出てこない。

 

「…コンテナ、とか?」

 

コンテナは四角くて鋼鉄製だが…

そこで色々連想していく。コンテナがあるのは貨物を取り扱っている場所、即ち貨物船や貨物列車があるところだから…

 

「羽田空港とか、東京港、東京貨物ターミナル駅とか…かなぁ?」

 

しかしこれらは高度で言えば全て低いところにある。なんなら殆ど海と変わらない高さだ。

しかし羽田空港はこの中でも血塗られた、という言葉の意味を考えれば一般人も多くいるため犯人としては犠牲者を多く出せる場所ではある。

 

「犠牲者、か」

 

そこでふと頭に浮かんだのは、犯人は何が目的かということである。

今までの事件を鑑みると犯人は大勢の人が集まる場所に爆弾を仕掛けている。米花中央病院にマンション、観覧車…全て何かしら人が集まっている場所だ。つまり大勢の人を殺そうとする殺戮をしたいのではなかろうか。

しかしそれならコッソリ仕掛けてやればいい。でもそうしないのは、犯人が愉快犯であり、警察を翻弄しながら最終的には爆破する。そういうストーリーを描きたいのだろう。

そして七年前、犯人は相方を亡くしている。亡くなった方の犯人は公衆電話で警察に爆弾の解除方法を教えている隙に逆探知され、見つかった後慌てて飛び出し車に轢かれた。それに恨みを持っているからこそ、前回のじんぺーのように警察を巻き込む形を取っているのだろう。ならば今回もまた警察を誰か巻き添えにしてしまいたいと考えていることだろう。現に警視庁宛にあんな犯行声明まで出しているわけだし。

 

なら場所は人の多い、警察官を確実に一人殺せる為の場所がある、高度の高い場所。そして何かしら鋼鉄の物がある。

 

「わかんねー…」

 

それでも今日は出てこない。いくつか候補はあるが、それでも絞り切れないのだ。

 

そうこう悩んでいる内にうどんを全て平らげてしまい、仕方なく店を出る。丁度そのタイミングで冴子から電話がかかってきた。

 

「もしもし?」

 

『裕太、最近噂の少年探偵団の子達が暗号を解いたわ。東都中央線の南杯戸駅にあるって』

 

あぁ…鉄道…んー…

 

「ほーん…そう。ありがとう。んじゃ」

 

『え?あちょ』

 

冴子はまだ言いたいことがあるみたいだったが、そこでブチっと電話を切る。後ろの雑音的に冴子も警視庁を出払って車で移動中なのだろう。

 

さて、俺が何故冴子の話を聞かなかったのかというと、電車では無いと思ったからだ。

南杯戸駅と言えば、前回爆弾が設置された米花ショッピングモールと米花中央病院の近くを通る道路を延長させた交点に位置する場所だ。延長戦と延長線を掛け合わせたシンプルなものだ。

しかし鋼鉄のバッターボックスが鉄道、というのは違うんじゃ無いだろうか。最近の電車の車体は鋼鉄では無くステンレス製。ちょっと違うのだ。…考え過ぎかもしれないが。

だから違うだろうし、もしあったとしても何かしらの誘導や時間稼ぎのダミーじゃないだろうか。

多分、いやほぼ確実に本命はまた違う所にある。

 

しかしもう夜も遅い。皆んなには悪いがちょっと仮眠をとらせていただこうかな?

 

歩いて霞ヶ関駅まで行き、そこから地下鉄を乗り継ぎ新宿へと戻ってくる。

そこから更に少し歩き、見慣れたマンションにやってきた。

電話で伝えた通り、香さんがベッドを用意してくれているようだ。香さんにお礼を言って風呂に入り、寝る。

外でハンマーが振り下ろされた音が聞こえるのも、また良いリフレッシュになった。

 

 

 

 




東京に高低差があるの知ってましたか?私は受験の時に入試で東京の地理が良く出る学校なのもあって東京の地形等は調べたことがあります。
すると意外にも山手線は結構アップダウンあるんですよね。

またまた短めでしたが、次でラストです。

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