遠山キンジの追う女 (/\三瀧/\)
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アンチ・ヒステリア・サヴァン・シンドローム

 もし武偵殺しに追われている時、別の人との出会いを果たしていたら。そしたら、全然違うストーリーになってしまっていただろう。

 みたいな堅苦しい前置きは難しいので、簡易的に説明を。

 この物語では、アリアとキンジが出会う直前、ヒステアモードを封印されてしまいます。そのおかけで、キンジはアリアに目をつけられなくなります。その変わりに、そのヒステリアモードを封印した女の子を追いかけ始める所から始まります。




 遠山家。それは、義の一族。性的興奮を力に変えるHSSを持つ彼らは、代々相棒となる女性と共に、人間離れした伝承の技で悪を討ってきた。

 

 その力はただひたすらに強かった。鍛え抜かれた遠山家の男となれば、砲弾を生身で受け流すことや、心臓をとめ、極限に近い死体のフリなど、攻撃から守備に渡り、様々な技を扱うことも出来る。

 

 しかし、悪の立場から見れば、鬱陶しいことこの上ない。そこで、密かに開発されていた能力があった。

 

 それは、HSS(ヒステリア・サヴァン・シンドローム)を鎮める能力、アンチ・ヒステリア・サヴァン・シンドローム。縮めてAHSSだ。体から放出される特殊な物質がHSSの発現を抑制するのだ。

 

 その能力を持つ者の付近ではHSSは発動しない。一見有用な能力に見える。

 

 しかし、HSSの発動を防げるのは、せいぜい半径1メートル程なのだ。それじゃあ実用性に欠ける。そのせいで、ただ存在するだけの無名な一族となってしまった。

 

 その一族の名は芦捷家。この物語は遠山キンジと同じ時を生きる芦捷家の少女、そして、この物語の主人公でもある芦捷桐未(あしばやきりみ)の出会い、そして、辿る数奇な運命の物語である……。

 

 

 

 

 

 

 

 やかましい目覚ましの呼び声で、夢の世界から帰ってくる。体を起こした私は、朝食を準備のため、キッチンへ向かう。

 

 だが、途中で棚の上に置いていた「何か」を引っかけてしまい、カチャンと金属的な音をたてて落ちる。振り向くと、そこには黒光りする拳銃が落ちていた。

 

 それを見た私は、

 

「うわっ!ビックリした!」

 

と朝っぱらから大声を出して飛び上がる。もちろん拳銃が落ちているから……ではない。

 

「はぁ。暴発しなくて良かった……。」

 

ただ、暴発の心配。拳銃には違和感を覚えることは無い。

 

 何故、平穏な日常にこんな物騒なものが存在しているのか。それは、私の所属する学校が物騒の象徴的存在だからだ。

 

 

 東京武偵校。それは、武装探偵、通称武偵を育成する機関である。

 

 近年激化する犯罪に対応するため、武装することを許可される特殊な職業である。

 

 警察とは違い、法に触れる行為でなければ、報酬を受け取り依頼をこなすことが出来る。言わば何でも屋だ。

 

 何でも屋、と呼ばれる職業、武偵を育てる武偵校には、私が所属する探偵科や諜報科、狙撃科など、様々な学科がある。

 

 その中で、明日無き学科と呼ばれる危険な学科がある。強襲科という学科で、卒業時の生存率は97%。約3%は死亡するのだ。

 

 もちろん、そんな酔狂な集団に属する奴らなんて、マトモなわけが無い。大抵一つや二つ癖がある。

 

 腕っ節の強い武偵校生だが、偏差値は非常に低い。進学しない方が方がマシ、と言われる程だ。

 

 こんな地獄のような学校なのに、私は今ここに居る。それは、ひとえに遠山キンジと接触するためだ。私の体質、AHSSがいつか役に立つかもしれない。

 

 その時が来たら、遠山キンジを封印するために、地獄で毎日を暮らしている。

 

 神奈川武偵付属中学の頃から同じ学校へ通っているから、彼のことはよく分かっている……つもりだ。女嫌いでネクラな彼は、俗に言う陰キャというやつだ。

 

 しかし、HSSを発現させた彼は、正に超人だ。人智を超えた身体能力とバトルセンスを持っている。

 

 オマケにキザで女たらしだ。私は体質的に直接HSS時の彼とは関わっていないが、傍から見てるだけでも分かる。彼はカッコイイ。

 

 顔はとびきりの、という程ではないがイケメンなのだ。だが、HSSが発現していない時は、鋭い目付きと陰気なオーラから、あんまりカッコよくない。

 

 AHSSのお陰で、HSS時の彼が好きなのに、私は関わることが出来ない。むしろ、昼行灯を呼び出す始末だ。全く難儀な体質だ……。

 

 

 朝食を摂り、歯を磨く為に洗面所に向かう。鏡に映るのは、地味子という名前が正にピッタリな少女だ。

 

 長い前髪で隠れた目は、無気力に私を見つめる。後ろに流したロングの髪も、地味子を助長してる。

 

 明るい茶髪なのに、暗いイメージなのは、如何なものか。

 

 だが、オシャレに無頓着な私も、今日はきちんと整える。なんてったって始業式だ。流石にだらしない格好は出来ない。

 

 顔を洗い、髪をとかす。歯を磨いてリップを塗ったら完成だ。鏡に映るのは、キラキラに磨かれた陰キャだ。

 

 一見全く変化無し。だが、私には分かる。いやぁ、絶好調だ。ニヤけた陰キャは気持ち悪いものだが、自分なら問題無い。

 

 少しウキウキしながら防弾繊維でできた制服に、キンジと同じベレッタ92Fを身につけ、出かける準備は完了。しかし、少し時間があるので、ベレッタのあった机の上の写真を眺める。

 

 そこには、遠山キンジが写っている。少し幼いのは、中学校時代のものだからだ。奇跡的にHSS発動時の彼を捉えた集合写真。

 

 少しウットリして、見つめる。観察対象に好意があるのは如何なものか、とか気にしない。HSS時の彼がカッコイイのはしょうがない。

 

 対照的に通常キンジが少し悪く見えるのも仕方ない。とか考えてる間に出かける時間だ。

 

 毎朝の癒しを抜け出しす。これで今日も頑張れそうだ。私は玄関へ向かい、扉を開き、眩しい外へと歩んで行くのだった。

 

 

 朝特有の清々しさは、もう薄れてきている。寮から校舎へ向かう道のりはなかなか長いが、外の景色を眺めるのは気分がいいし、多少は鍛えておきたい。

 

 いつも通りの平和な通学路。これで一緒に歩く男でもいたら最高なのに……。どこかに運命の出会いが落ちてないだろうか。そのためなら、多少の数奇な運命だって受け入れる。それこそ、正義のヒーローにされたり、巨悪を討つのだって、ばっちこい。

 

 なんて考えていると、後ろから叫び声が聞こえる。というか迫ってきている。

 

 何事か、と後ろを振り向くと、チャリで爆走する遠山キンジが、セグウェイに追われている。……なにやってるんだろ。

 

「おい!そこをどけ!爆発するぞ!」

 

乱暴な言葉でそこのけと言われて、咄嗟に横に一歩出ようとする。

 

「いったぁ!」

 

が、足がもつれてその場でコケてしまう。そこに高速の自転車が迫る。やばっ。轢かれる……!

 

 ガシャン!目をつぶった私の後ろでチャリの転がる音がする。直後、体に何かがのしかかる。

 

「いってぇ……。……?」

 

体の上からキンジの声がする。それと同時に標準サイズの私の胸に、その、変な感触が……。

 

「うわぁ!変態!どいてよ!」

 

目を開けた先にいたのは、私の胸に顔を埋めるキンジだ。

 

 しかし、更なる衝撃がわたしを襲う。転んでも、慣性で転がっていった自転車がセグウェイを巻き込み大爆発を起こし、塵になった。

 

 それをキンジと二人揃って呆然と眺めていた。流石に武偵校でも、ここまでの爆発はなかなか見ない。しかし、先に我に返った私は、

 

「…………。ってか!いい加減離れて!」

 

キンジを押し返す。ガツンとコンクリに頭をぶつけて「いてぇ!」とか叫んでるが、気にしない。セクハラをくらった私は、プンスカと怒りながら、爆発跡地を踏み越え、登校を再開する。

 

 ……あんなことになっても平然としてられる私にビックリだ。既に武偵校馴染んでる証拠だ。不名誉だけど。

 

 

 その後は、教室に行き、授業をまともに受ける。そして、探偵科の授業もクリアして、寮に戻る。

 

 朝は、かなり非日常を行っていたが、午後は今のところ平和そのものだ。下校時は、チャリに轢かれることも無ければ、爆弾魔に巻き込まれることも無い。良かった良かった。

 

 このまま平和に終わってくれれば良いんだけど……。

 

 

 




 最初は説明多くてかったるいけど、どんどん愉快になっていく予定です。

 どうぞ、今後よろしくお願いします。


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すれ違う運命

 アリアを読んだのが随分昔なので、キンジやら設定やらに違和感があると思いますが、多めに見てくださいな。


 朝から襲撃を受ける、なんていう最低の出だしを迎えた俺は、現在、自転車を全力でこぎ続けていた。なんてったって朝から爆弾魔に襲われなけりゃいけないのか。

 

「止まりやがったらうちやがります。」

 

チャリのケツに仕掛けられたC-4に加え、後ろからはUZIを乗せたセグウェイが追いかけて来る。完全に武偵殺しの手口だ。

 

 なんで俺が!という怒りとか、ここで終わるのかという絶望とか色々渦巻いて頭が真っ白になる。

 

 今朝、バスに遅れた俺、遠山キンジは、自転車で登校しようとしていた。のだが、なんとチャリのサドルに爆弾が仕掛けられていた。オマケに、UZIを乗せたセグウェイまで追ってきている。

 

 全く訳が分からないが、死にたくないから、チャリで爆走してるのである。

 

 背後のセグウェイはなおもピッタリくっついてきている。このまま人気の無い所を走り続けるしかないのか。

 

 そう思った時。目の前を茶髪の女子が歩いてるのが見える。このままじゃ巻き込まれるかもしれない!

 

「おい!そこをどけ!爆発するぞ!」

 

呼びかけた。だが、かえってそれが悪かったのかもしれない。

 

「いったぁ!」

 

そいつは、あろう事かその場でコケやがった。

 

 その動きは明らかに強襲科のものじゃない。探偵科とかそっちの方だ。そんな奴を轢いたら病院送り待った無しだ。くそ!こんな時に!

 

 その女子を避けようとして、タイヤが滑る。バランスを崩した俺は、そのまま転んでしまう。幸いチャリは女子を避けて転がっていくが、俺は女子にのしかかってしまう。

 

「いってぇ……。……?」

 

 転んだのに、何故か顔が幸せだ。こう、柔らかいし、チョコみたいな甘ったるい匂いがする。目を開けて見ると、それは、正しく女子の胸だ。大きくも小さくもない、標準サイズだ。……なんて言ってる場合じゃない!

 

 俺は、こういうのはダメなんだよ!あぁ、血流が体の中心に集まって……。こない?何故だか、ヒスる気配がない。

 

 なんて、考え事をしてるのが悪かった。

 

「うわぁ!変態だ!どいてよ!」

 

 思いっきりどかされそうになる。だが、その前に更に大きな衝撃が襲う。チャリがセグウェイを巻き込んで大爆発を起こしたのだ。

 

 やっぱり本物だったか。たが、とりあえず危機は去った。……訳じゃなかった。

 

「…………。ってか!いい加減離れて!」

 

いつまでも胸を枕にしていたせいで激怒した女子に突き飛ばされる。

 

「いてぇ!」

 

 石頭の俺じゃなければ死んでもおかしくない衝撃だったが、それを気にもとめず通学に戻ってしまう。武偵の女子は逞しいな。ほんと。

 

 

 しばらくクラクラしてたが、復帰した俺は、辺りを見回す。だが、呑気に休む暇は与えられない。

 

「とまったから、殺しやがります。」

 

 無機質で不気味な声が、セグウェイと共にこちらへ迫る。今度は三機、どれもUZIを構えている。

 

「くそ!こんなんどうすりゃいいんだ!」

 

魔改造されたベレッタを抜き、構える。そして、そのうちの一機に狙いを合わせる。引き金を引こうとしたその時、

 

「伏せる!早く!」

 

 脇道から甲高い声が聞こえる。伏せてから、そちらの方を向こうとしたその時。

 

 バリバリバリ!

 

 拳銃をぶっぱなす音が脇道の方からする。それに伴い、

 

 バキバキバキ!と破壊音がして、セグウェイが爆破四散する。す、すごいぞ……!一気に三機も正確に撃ち抜くなんて、普通の武偵じゃとても出来ない。

 

「こっちに来て!」

 

 セグウェイを撃破したらしい少女は、ピンク髪のツインテールだ。ただし、中学生ほど。

 

「わ、わかったよ!」

 

 その子のもとへ向かう。

 

「おい!どういうことだよ!何が起こってるんだ!」

 

 この子はやけに冷静だから、何か知ってるはずだ!

 

「あんたは、武偵殺しに狙われてんの!ほら、下がって!あとはあたしがやるから!」

 

 俺をどかして、少女はまた道へ戻っていく。俺は呆然とその姿を眺めていた。状況は全く理解出来て無いが、分かったことがある。それは、あの子が普通じゃないってことだ。ピンク髪の子じゃない。茶髪の地味な子だ。

 

 あの時、俺は明らかにヒスるラインを越えていたはずだ。なのに、ヒスる兆しも何も無い。

 

 今までヒスりにくい子はいた。でも、今回はヒスのヒの字も無い。皆無なのだ。

 

 考え事をしてる間も銃撃戦は続いていた。ねちっこくセグウェイは追って来てるが、全て撃退してるらしい。

 

 しばらくして、銃声が止む。

 

「あんた、危なかったね。」

 

 ピンク髪の子は多少汚れてはいるが、無傷だ。

 

「君……。凄いね。中学生なのに。」

 

 素直な感想を漏らす。だが、

 

「違う!あたしは中学校じゃない!」

 

 八重歯剥き出しで吠えられる。そう言えば、女性は歳を余計に多く見られると怒るらしい。

 

「ご、ごめんね。まさか小学生でそこまで出来るとはね。君は天才だよ!」

 

 オーバーなリアクションで褒めちぎる。だが、

 

「ちーがーうー!バカ!節穴!」

 

 少女は顔を真っ赤にして地団駄を踏む。足元のセグウェイの破片が木っ端微塵になる。なんて馬鹿力だよ、おい!

 

「馬鹿にしすぎ!風穴!」

 

 少女は駆け寄って来る。そして、胸ぐらを掴もうとした、その瞬間。

 

「あっ、ちょっと!」

 

 小石に躓いて、転んでしまう。そして、俺に倒れかかってくる。

 

「おいっ!ちょっ!」

 

 俺も咄嗟のことで、上手く受け止められず、倒されてしまう。

 

 ……顔がまたしても柔らかい何かに押し付けられている。本日二度目だ。クチナシみたいな甘酸っぱい匂いがする。ついでに、さっきの子のチョコみたいな匂いも。だが、一向にヒス血流はこない。

 

「……?死ね!風穴!あんたなんて助けなきゃ良かった!」

 

 ピンク髪の子は、バッ!と起き上がり、俺の腹をさっきの地団駄の威力で踏みつけて去っていった。……もう訳わかんないな。

 

 

 後々分かったことだが、彼女はアリアというSランク武偵だったらしい。今まで一度も犯人を逃したことがないとか。まぁ、もう俺には関係の無いことだ。

 

 それより、大事なのは、茶髪の子。少し不機嫌な理子に調べてもらったところ、彼女は芦捷桐未というらしい。

 

 Bランクの探偵科の生徒で、異様な記憶力を持つらしい。ただ、推理力や洞察力に優れてる訳では無いため、このランク付けがなされている。

 

 つまり、ヒステリアモードには特に関わりは無いことになる。

 

 しかし、彼女、もしくは彼女の匂いのする間はヒスることは全く無い。

 

 だが、匂いが消えた後では、ヒスる可能性がある。というのも、その後白雪で実際なりかけたからだ。

 

 何故かは分からない。ただ、彼女が俺の平穏な生活の鍵を握っているのは確かだ。

 

 ヒステリアモードの恐怖が無ければ、俺の女嫌いもどうにかなるし、普通の生活を送れるようになるのは間違いない。

 

 そう考えた俺は、彼女の事を調べあげることに決めた。

 

 理子には引き続き調べて貰うことにしている。探偵科Eランクは伊達じゃない。俺じゃあ調べられる情報なんてたかが知れてる。

 

 だったら、そっち方面にめっぽう強い理子に任せるべきだろう。

 

 理子は、ふざけた感じの人柄とは裏腹に、Aランクに属する程の、情報収集のプロだ。

 

 理子の手にかかれば、スリーサイズから起床時間。果てはケータイのパスワードだって、バレてしまう。

 

 俺も、何度も助けられている。まぁ、その度に報酬としてエロゲやらギャルゲーやらを買わされて恥ずかしい思いをしている。

 

 なんでも、理子は低身長のせいで、十五禁のゲームは買えないらしい。

 

 まぁ、理子の特徴はこの際どうでもいいとして。俺は俺で、追跡して、彼女の事を調べよう。そして、夢のノンヒステリアモードライフを満喫してやるさ。




 ところで、最近暑くなってきましたね。足の早い切り身なんかはすぐ腐ってしまいますね……。

 以上。主人公の説明でした。

 追記 感想で頂いた誤設定直しました。すみません。


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変態ストーカー

 そういえば、キャラ崩壊注意とか、オリジナル展開とか書いてなかったです。すみませんでした。

 追記 諸事情で少し編集しました。

(2020/07/28 20:25:07)


 朝っぱらから災難な事件に巻き込まれたが、流石は武偵校で鍛えられただけある。割と早々に立ち直った私は、現在、FPSシューティングをプレイしている。

 

 このゲームは、実際の東京を舞台にしており、ビルの中身や廃墟の中身も緻密に再現されている。月一で建て替えた建物も更新されていく。

 

 そんな大規模なことがどうして出来るのか。それは、武偵校絡みだからだ。訓練を兼ねているから、随分リアル志向だ。

 

 難しい任務にいきなり挑むのはリスクが高すぎる。だから、こうやって練習して、様々なシュチュエーションに対応出来るようにするのだ。

 

 まぁ、訓練だから、理不尽なまでの難易度な任務もあったりする。その時は、マウスで机を殴るまでなんだけどね。

 

 ヘッドホンを着け、理不尽な任務に野良の人と共に潜っている。だが、実の所いまいち集中出来ていない。というのも、この部屋に違和感があるのだ。

 

 記憶力に圧倒的自信のある私は、寮の部屋に帰った時、少し朝と変わってる気がしたのだ。そして、しばらくくつろいだ後で、その違いに気が付いた。

 

 例の集合写真が少し、数ミリズレていた。それに気付いてからは、あっという間だ。

 

 クローゼットや食器の棚など、至る所に形跡があったのだ。もちろん、普通の人じゃ気付けないような小さな形跡だ。だが、特異体質とでも言うべきこの記憶力のお陰で、気づけた。

 

 そして、私の背後。ゲームの類のある箱の中。多分、カメラが仕込まれてるな。探偵科を伊達にやってる訳じゃない。

 

 しかし、下手に動けば何をされるかも分からない。だから、パソコンの画面越しにそちらを伺ったりしている。

 

 まさか、盗撮魔が湧くとは思わなかったな。私はとてもじゃないが美人ではない。それに、有名人でもないし。

 

 まぁ、目的は何であれ、盗撮は気分のいいものじゃない。

 

 しばらくゲームをした後、

 

「飽きたなぁ。しょうがない。」

 

とデカめの独り言をして、充電器の頭に化けた隠しカメラを底に沈めながらPSPを取り出す。これで盗撮は出来ないだろう。

 

 その後は、部屋の隅々まで探し回って、自然な日常の動作でカメラを封印して回った。が、全部やったら自然な動作でやる必要もないよね。って事に気が付いてしまい、結局全て堂々と破壊した。

 

 今までの小芝居がめちゃくちゃ恥ずかしくなったのはもちろん内緒だ。もし見られてたなら、知らない奴に私は家で独り言のデカい女だと思われるわけだし。とりあえず、カメラの処理だ。

 

 小さな機械を踏みつけて破壊するのは非常に気持ちがいいものだ。持ち主の損害とか知ったこっちゃなし。自業自得ってやつ。

 

 犯人探しなんて心当たりが無さすぎて出来そうにない。それでも探偵科か!?とかそんなツッコミは受け付けない。だって、面倒だから。

 

 なんてことは無い。武偵なんて犯罪者から恨まれて当然の仕事をしてる訳だ。いつ襲われてもおかしくないし、文句も言えない。だから、しばらくは適当に強襲科の友人に身辺警護でも頼めばいいか。

 

 そんなユルい考えをしていた。しかし、世の中そんなに甘くない。明日起こる出来事は、私の人生を変えてしまう程のものだ。しかし、その事実に気づくのは、既に手遅れになったあとであった……。

 

 

 翌朝。昨日より早く起きた私は、そのままの勢いで学校へ向かう。

 

 昨日の今日だ。流石につけられてるかもしれないのに、いつも通りゆったり登校する訳にはいかない。不審がられない程度に周りを確認しながら歩いている。

 

 周りの景色はいつも通り。昨日の爆発事件が嘘みたいだ。いつもより早く出たお陰で、少し涼しい。

 

 爆発の跡地も掃除されてすっかり元通りだ。噂にはなったけど、ニュースやらにはならなかった。つまり私がその場に居合わせたことはほぼ誰も知らない。これで日常に戻れる……。訳では無さそうだ。というのも、日常の景色の中に下手っぴな追跡者がいるのだ。

 

 探偵科の人間を騙せるほど上手ではない。バレバレだ。だけど、素人でも無さそうだ。

 

 普通に考えたら、昨日カメラを仕掛けた奴だろう。盗撮では飽き足らずストーキングに走ったのか。

 

 しかし、正面から戦っても私は弱いからな。所詮探偵科だから。だったら、もう少し泳がせておこう。隙があれば反撃だ。

 

 チラッと見えた人影は男っぽい。まさか昨日願った一緒に歩く男が現れてしまうとは。もう少しまともな出会い方をしたかったよ。

 

 

 校舎に着いた私が教室に入ると、

 

「おっはよー!きーちゃん!元気してる?」

 

オシャレなお友達との会話を中断して、朝とは思えない程のハイテンションで挨拶をしてきたのは、ショートの活発な女の子だ。

 

 名前は穂沿りょう(ほぞりょう)。強襲科のBランクの少女。やや小柄ですばしっこさが取り柄だ。ついでに、根っからの陽キャ。

 

 陰キャな私にはとても釣り合う相手じゃないなんていう卑屈な考えはとうに放り捨てた。

 

 というのも、私はあまり積極的に人と関わることはしない。目立ちたくないからだ。

 

 

 思い出すのは、一年の始め。りょうは、友達のいない一人の私を見つけるなり駆け寄ってきて、

 

「君!名前なんて言うの!?」

 

いきなり名前を聞いてきた。

 

「桐未。芦捷桐未だよ。……。えっと、何のようかな……?」

 

 陰キャ特有の内弁慶な私は、少し鬱陶しそうにしながら、しかし口調はやや下手で名乗った。私は随分態度が悪いが、

 

「私穂沿りょう!出来ればあだ名が欲しいな!まぁ、よろしく!」

 

滅茶苦茶笑顔でハンドシェイクされた。恐らく向こうはこっちの態度なんて気に止めても無い。

 

 正直出会ってしばらくは鬱陶しいことこの上無かった。毎日話しかけて来るが、慣れてくれば、全く問題無い。むしろ、今では数少ない友人だ。

 

 

「おはよ。また朝から元気だね。」

 

「そっちは元気ないね。昨日のこと引きずってるの?」

 

「いや、聞いて欲しいんだよ。」

 

 それから五分程盗撮やらストーカーやらについて説明した。

 

「はぇー!まぁ、きーちゃん可愛いもんね。」

 

 嫌味ゼロパーセントの笑顔だ。

 

「はぁ……。節穴だよ。りーは。それでさ、もしもの事があったら護衛頼むかもだからよろしくってこと。」

 

 ちなみに、りーとはりょうのあだ名だ。何でも、男っぽいからりょうはどうしても嫌らしい。

 

「任せなよ。友の敵は敵だ!眉間に風穴空けてやるよ!」

 

 さすが武偵校生。華のJKとは思えない発言だ。だが、Bランクの武偵がタダで護衛してくれるなんて、ありがたすぎる。とりあえず安心そうだな。

 

 

 りょうには、いつでも駆けつけられる状態で待機して貰って、私は午後の探偵科の授業へと向かった。

 

 が、ここで問題発生。何故だか視線を感じる。多分ストーカーはこの中にいることになる。

 

 しかし、ここには沢山人がいる訳で。流石に捉えることは出来なかった。しょうがない。決戦は帰りだな。

 

 

 りょうに捕らえて貰うのが一番楽なのだが、そうすると私じゃ見つけられないとタカをくくって再犯の可能性がある。だから、自力にこだわるのだ。

 

 下校し始めると、またしても背後に気配。スタスタと早足で歩けば、向こうも早足で駆けてくる。

 

 私は自然な動作で脇道に入り、クルッと振り向き、拳銃を頭が来るであろう位置に構える。

 

 ドキドキする胸を抑え、出てくるのを待つ。たった数十秒なのに、かなり長く感じる。

 

 そして、その時が来る。早足で脇道に駆け込んで、私に気付き、ギョッとしている。私も驚いて、

 

「へぇ?」

 

間抜けな声が出る。何故か。だって、その相手は……。

 

「遠山キンジ……?」

 

 今まで観察してたはずの相手だったからだ。




 やっとキンジと桐未が正式に出会えた訳ですね。


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そして始まる非日常

 しばらくの沈黙が私とキンジの間に流れる。お互いに何を言う訳でもない。

 

 まさか、そこまでの変態だったとは。ついにHSSに積極的になったのか?

 

 考え事をしてる私より、ただ驚いていたキンジの方が初動が早かった。

 

「お、おい……。誤解だ。とりあえずその物騒なブツを下ろせ。」

 

 冷静に、宥めるように語りかけてくる。ただ、拳銃を突きつけられてるからか、少し汗をかいている。

 

「……そ、それは無理かな。流石に盗撮にストーキングは看過出来ないね。」

 

 盗撮は女子寮に侵入してる時点で許される行為じゃない。

 

「違うんだよ。俺は、ただお前に話があったんだよ。」

 

 焦って捻り出した言い訳なのか、いまいち意味が通っていない。それに、目を逸らしてきてるし。

 

「じゃあどうして盗撮に走ったのさ。」

 

 話したいなら百歩譲ってストーキングは許せる。だが、盗撮は言い訳出来ないだろう。

 

「それは……!後で話す。だから、いい加減下ろせよ、そんなもん。」

 

 ……まぁ、キンジにはそんな度胸がある訳ないか。話だけでも聞いてやろう。

 

「……分かった。少しだけなら聞く。」

 

 拳銃を下ろす。そこで、少しキンジは肩の力を抜く。しかし、譲歩はそこまで。

 

「変わりに、りーを呼ぶし、話は私が決めたとこでさせてもらうよ。」

 

「……出来れば、二人で話せないか?その、あまり関係ないやつには聞かれたくないんだ。」

 

 なんてワガママな。盗撮にストーキングと二大悪質犯罪を一旦見逃したのに、まだ望むか。

 

「変態の言葉を鵜呑みにしろと?」

 

 今回は、全く非はない。だから、かなり強気に出る。

 

 しばらくキンジは悩んでいる。そんなに込み入った話なのか。だが、ここは譲歩しない。

 

「分かった……。ただ、他人とは少し距離は置いて欲しい。」

 

 意地でもそこは譲らないらしい。本当に強情だな。流石にこのままじゃ平行線のままだ。しょうがない。折れるしかないのか。

 

「はぁ……。分かった。じゃあ、移動しようか。」

 

 

 二人揃って向かうは、りょうの待っている教室だ。まさか、運命の相手がキンジな上に、盗撮魔でストーカーだったとは。迂闊に願い事なんてするもんじゃない。

 

 ヒスキンジが憧れ云々言っといて、態度が悪くないか?とかは、受け付けない。

 

 だって、あれとこれは別人だからね。

 

「で、ある程度先に聞いとくけど、なんで変態してたの?」

 

「……俺は盗撮なんてして無い。それに、ストーキングってのも誤解だ。」

 

 すました顔で言いやがる。あくまでとぼけるのか。

 

「じゃあ誰がカメラなんて置いたのさ。」

 

 他にやり得る奴なんて居ないだろう。

 

「それは後で話す。……その、一人呼んで良いか?」

 

「誰?場合による。」

 

「少し、協力して貰った奴だよ。女だから平気だよ。」

 

 うーん。変態助長する女子は頂けない。まぁ、話くらいは聞いてもいいか。

 

「好きにしてよ、もう。」

 

 これ以上は譲歩するまいと決意しながら、歩みを進める。結局なにが言いたいんだろう……。

 

 

 教室には、既にりょうが着いていた。ついでに、フリフリのゴスロリ制服を着こなした金髪ツインテのチビがいた。

 

「おー!お前が変態か!きーちゃんに手を出すとは不届き者め!成敗してくれるわ!」

 

 りょうは臨戦態勢だ。拳銃を構えてる。

 

「おぉ!君が例の!私はりこりん!よろしくぅ!」

 

 もう一人の子は馴れ馴れしいし、ハイテンションだ。右手にはパックのいちごミルクを持っている。

 

「すまない。とりあえず、理子もそこの子も出ていってくれ。」

 

「えぇー!理子も聞きたいー!」

 

「きーちゃんに何をする気だ!変態!」

 

 残念な事にキンジの言うことは、りょうも、理子(?)もまともに聞いちゃいない。オマケに、キンジのりょうの中での株は急降下。

 

 だが、話が進まないのは面白くない。私はりょうを、キンジは理子を追い出す。

 

 

 主にキンジが十分程時間をかけ、やっと二人きりになれる。

 

「で。なんですか?」

 

「えっと……。まずはストーキングについてだ。」

 

「それはもう良いよ。私が聞きたいの盗撮の方。」

 

 侵入した形跡や隠し撮りはなかなかの技術だ。記憶力が無ければ、絶対気付けなかったし。それに比べ、キンジの追跡はあまり上手とは言えない。

 

「あれはだなぁ、お前の情報を手に入れる為に理子に頼んだんだよ。別に覗きとかそういうことじゃないんだよ。」

 

 スゴく居心地が悪そうにしている。頭を掻いたり、キョロキョロしたりして、落ちつきが無い。しょうがない。そろそろ核心に迫るしか無い。変態の核心なんて見たくも聞きたくも無いけど。

 

「結局、なんで私にそんなに関わろうとするの?」

 

「それは……。そのだな……。」

 

 なかなか言い難いことらしい。必死に言葉を選んでる感じがする。やっぱりろくでもない事を考えたんじゃないのか?

 

「簡単に言うとだな。その、今後俺とずっと一緒にいて欲しいって事だ。」

 

 ほら。ろくでもな…………。え?

 

 どうやら私は口説かれているらしい。もうちょい言うと、告白されてるととれるのかもしれない。

 

 ボッと顔が熱くなる。視線が泳ぎ始め、ソワソワする。そりゃそうだろう。ネクラとは言えそこそこのイケメンに告られたようなもんだ。

 

「あ……。えっと……。え……。」

 

 私がワタワタしているのを、キンジは不思議そうに眺めている。別に照れた様子も無い。無自覚だ。ただ、女の扱いには慣れてないせいだろう。キョトンとしている。

 

「ふぅー!さっすがキーくんだね!どんどんハーレムを築いていくんだね!」

 

「変態!天誅だ!きーちゃんに手を出すな!」

 

「キンちゃん!私がいるのに!浮気はダメだよ!」

 

 理子とりょうと黒髪ロングの美人が、扉をタックルで突発してくる。

 

「理子!……と何で白雪までいるんだよ!」

 

 キンジがかなりキレている。いや、そもそもさっき白雪なんてやついなかっただろ。

 

「だって!キンちゃんが浮気してるから!」

 

 The大和なでしこな美人さんが血走った目でキンジにしがみついてる。Theと大和なでしこが言葉としては若干喧嘩してる感じがするが、気にしない。

 

 少しキンジにいなされると、今度はこちらにターゲッティングしたらしい。

 

「泥棒猫!キンちゃんに手を出すなぁ!」

 

向こうから口説いて来たのに、なんて理不尽な。

 

「えっと……。私が何かした訳じゃないんですけど……。」

 

「キンちゃんが悪いんじゃないの!誘惑するあんたが悪いのよ!」

 

 えぇ……。白雪さん、人の話聞いてますかね。

 

「おぉ!キーくん取り合いだぁ!私も参加しちゃおうかな!?」

 

 理子は心底楽しそうだ。

 

「うるさい!キンちゃんは私のものだもん!」

 

 空間のカオスさに、いつもは騒がしいりょうが押されて黙っている。もう訳わかんない。

 

「と、とりあえず、外出ようか。」

 

「あぁ、そうするか。」

 

 どさくさに紛れて、面倒くさそうなキンジとと共に外へ出る。とりあえず落ち着ける所へ言いたいんだが……。

 

 

 別の教室に移る。

 

「もう良いよ。話に来た理由は理解したからさ。」

 

 さっきずっと考えたんだが、多分昨日の爆発事件の時に、私にHSSを抑える力があることに気が付いてしまったんだ。たがら、HSSを嫌がるキンジは私を近くに置きたいんだな。

 

「それって、どういう意味だ?」

 

 少し不審がってる。自分の秘密がバレてるか、ハラハラしてるのかもしれない。

 

「HSS、でしょ?」

 

 まさか知られてるとは思ってもみなかったのだろう。目を見開いてる。

 

「お前……。どこでそれを?」

 

「まぁ、この体質がある辺りで察して欲しいかな。」

 

「そうか……。なら、話は早い。俺はHSSなんて嫌なんだよ。だから、頼む。出来るだけでいい。傍にいて欲しい。」

 

 こいつ。恋愛に対して疎くたって、どれだけ朴念仁だろうが、それが恥ずかしい言葉だってことぐらい気付いて欲しい。真顔で言われたら、照れちゃうだろう。

 

 だが、これに関しては安請け合いは出来ないな。

 

「ずっとってのは無理だね。それに、変な奴が多すぎだし。」

 

 キンジも、流石にそんな簡単に通るとは思って無かったらしい。

 

「それはそうだが、頼む。暇な時とかでも良い。とにかくHSSはごめんなんだ。」

 

 知らない奴に頼むってことは相当嫌なんだよな。まぁ、正直バレたらこうなるんじゃないかな、とは思っていた。特に兄が殉死してからは、HSSを嫌がる傾向がつよくなってたし。

 

 私の出来ることなんて、こんくらいしか無いんだし、覚悟は出来ていた。バレないようにしようとしたって、限界はある。その時が来たら何らか変化が生じるものだ。

 

 もう、迷ってたってしょうがない。逃げられもしないし、どうせなら協力してやろう。

 

「しょうがないね。協力してあげる。……ただし、面倒事はごめんだよ。」

 

「ほ、本当か!?これから、よろしく頼むぞ!」

 

 キンジは心から喜んでいる。まぁ、私は何かする訳じゃないし、良いか。



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未知との遭遇

 桐未のキンジへの当たり方強くない?写真眺めてる時の態度はどこいったよ。

 そんな疑問が残るでしょう。そこには本編ではなかなか語りにくい事情があります。

 HSSを知る桐未にとって、ヒスキンジとキンジは別物です。ましてや、自分がいる間はヒスらない訳で、それなら照れることも何も無いわけです。

 要するに、ヒスったキンジ相手なら軽口叩く余裕はないってことです。照れまくりです。楽しみ……!


 とりあえず話のまとまった私達は、元いた教室に帰った。さぞ騒がしいんだろうな、と思っていたのだが、そこにはりょうしか残っていなかった。

 

「……何事?これ。」

 

「また白雪か……。」

 

 そこに広がっていたのは、切り刻まれた机や椅子。壁には弾痕がある。りょうは隅で壁に寄りかかって、力無く座っている。

 

「きーちゃん聞いてよ……。なんか刀を取り出した白雪ちゃん?がさぁ、理子ちゃんを襲ったのよ。そしたら理子ちゃんが煽るもんだがら白雪ちゃん本気でキレてさ。マジで殺しにかかってたよ。」

 

 その中でりょうはただただ圧倒されていたと。

 

「その、俺の連れがすまない。あいつには言っとくから忘れてくれ。」

 

 キンジはかなり疲れた様子。どうやら今ままでにもこんなことがあった感じだ。

 

「理子って人は大丈夫なの?」

 

「あぁ、あの人もすばしっこくて、あっという間に逃げてっちゃったよ。」

 

 キンジの周りはまともな人間はいないのかね。早くもついてきて欲しくなくなってきた。まぁ、嘆いてもしょうがない。一度決めた以上はやりきろう。

 

「……そ言えば、変態さんとはどうなったの?」

 

 私が嫌がる素振りがないからか、少し態度が和らいでる。

 

「ん?あのね、しばらく一緒にいる事になったよ。」

 

「!!変態め!きーちゃんに何をした!」

 

 バッと立ち上がり、ふたたび警戒態勢に入る。

 

「なんもしてねぇよ!ただ話し合って決めたんだよ!」

 

 キンジは必死に弁解する。だが、

 

「そんな訳無い!人嫌いのきーちゃんには、私ですらしばらくは鬱陶しがられたのに!仲良くなるのにどれだけ時間がかかっと思ってる!」

 

 りょうは全く納得した様子がない。めちゃくちゃいきり立ってる。いや、心配してくれるのは嬉しいけど、失礼だね、りょう!

 

「別に人嫌いじゃないよ!りーは失礼極まりないよ!」

 

「そんな……。きーちゃんが変態を庇うなんて……。おい!きーちゃんを返せ!洗脳か?それとも、クスリか?どれにしたって許さいないぞ!」

 

 唖然としたと思ったら、今度はキンジの肩を持って揺さぶり出す。今にも拳銃で殴りそうだ。

 

 揺さぶられてるキンジは、残念ながら力でりょうに負けてるらしい。……これってどうしたら説得できるのか。

 

「ありがと。りーの優しさは分かったから。だからもう良いから。本当に何も無いって。それとも、私の事信じられない?」

 

 キンジからりょうを引き剥がして、今度は私がりょうの肩に手を置いて語りかける。

 

「むぅ……。嘘ついてる訳じゃ無さそうだし、きーちゃんだね。」

 

 一応落ち着いてはくれた。が、まだ腑に落ちてないらしい。

 

「じゃあきーちゃん答えてよ。なんでこんなのと一緒にいるのさ。」

 

 何故、と来たか。まさかキンジのHSSとかばらす訳にはいかない。うーん。悩ましい。

 

「だって、こいつ遠山キンジでしょ?あの元Sランクの。」

 

 流石有名人。名前だけは知られてるな。

 

「でも、実力に波があるとか。」

 

「お、俺の事はいいだろ。その、Eランクの探偵科にはどうにもならないことがあるんだよ。」

 

 あまり詮索されたくないキンジは、かなり適当に誤魔化しにかかる。ただ、少し挙動不審だ。

 

「そうなの?きーちゃん。」

 

「そ、そうだよ。ただ、あまり公にするような依頼じゃないから秘密にしたいの。」

 

 ここはキンジに乗っかっておくべきだ。しばらく、うーん。と悩んだりょうだったが、

 

「信じるよ。ただ、手を出したら許さないからね。じゃあ、また明日ねー!」

 

 キンジを威圧し、こちらには笑顔で手を振って去っていく。

 

「疲れたから私も帰る。」

 

 ここ二日で一年分は体力使った気がする。

 

「あぁ。もう今日は解散だな。これから頼むそ。」

 

 キンジもキンジでヘトヘトって感じだ。

 

「私は何もしないけどね。」

 

 適当に返事をして、私も教室を出る。ちなみに、りょうはこっからまた訓練するらしい。同じ寮なのに一緒に帰らないのはそういう事だ。

 

 

 ヘトヘトになりながらやっとこさで着いた自分の部屋。だが、鍵が閉めたはずなのに空いていた。まだ何かあるのか。一応拳銃を構えて覗いたリビングのソファーでは、理子がくつろいでいた。

 

「あ、おかえり!お邪魔してるよ!」

 

 ……。いやいや。

 

「何でここに?」

 

 さっきが初対面だろう。流石にもう終わりかと思ってたのに……。

 

「いやぁ、雪ちゃんから逃げてくるついでに色々とね。」

 

 色々あっても普通知らん人の家に入るかね。

 

「あ、でも、きりりんとりこりんは初対面じゃないよ!」

 

 えぇ?きりりん誰だか分からんし、初対面じゃない訳ないし。私に限って忘れる訳ないよね。

 

「分からないって顔してるねぇ。じゃあ、ヒント。きりりんが最近やってるゲームは?」

 

 PSPでモンハンしてるか、パソコンで武偵のシュミレーション的なゲームをしてるかの二択だ。しかし、それに何の関係が。

 

「いや、分からないな……。」

 

理子はスゴく楽しそうにしてるな。少し意地悪な笑い方だけど。そんな理子に、一方的に話しかけられてて、完全に圧倒されてる。

 

「くふふ。じゃあ答えを教えてあげちゃうよ!KRMちゃん!」

 

 KRMちゃん、か。大体理解したぞ。昨日PCでやってた武偵のシュミレーションゲームのプレイヤーネームだ。

 

「やっとお分かりで!ふふふ。きりりん鈍いねぇ。私達結構組んでたじゃん!」

 

 あぁ!そう言えば、最近似たようなフリフリの服を着た人とよくやってたっけ。

 

「昨日盗撮してたら、気付いちゃったんだよね。」

 

 よくもまぁいけしゃあしゃあと。

 

「それで、なんの用なの?」

 

 結局来た意味が分からない。

 

「いやね。きりりんとは仲良くなれそうだなぁと思ったから、どうせならプロデューサーになろうかな、とか思ったんだよ!」

 

「プロデューサー?」

 

「そ!理子Pだよ!折角地は可愛いのに、そんなカッコしてたら勿体ないから、私が可愛くしてあげよう!」

 

 ソファーにふんぞり返って、手元にあった雑誌を丸めて手でバンバン叩いている。プロデューサーのモノマネだろうか。

 

 理解が追いつかない。なんともマイペースな人だな。つまり、私を陰キャから引っ張り出そうってことか。

 

「いや、いいよ……。私はこれでも不便して無いから。」

 

 それに、理子と一緒に居たら絶対つかれるし。

 

「ダメでーす!もう決定事項でーす!さぁ、りこりんのプロデュース、楽しみにしててね!」

 

 理子はルンルンスキップで私の部屋を出ていく。嵐の様な人だな。

 

 でも、ああいうタイプの人はりょうで充分なんだよな。どうしよう。確か探偵科だった気がするし、絶対付きまとわれるだろう。明日から気が重いな……。

 

 

 色々面倒になって、カップ麺をすすり、シャワーを軽く浴びてベットに潜る。

 

 今日一日を振り返る。

 

 ストーカーから逃走した朝。

 

 それに怯えたままうけた授業。

 

 探偵科ではそのストーカーの視線に晒され。

 

 いざ決闘すれば、いつも自分が監視してるつもりでいた遠山キンジで。

 

 話し合いをすれば、口説かれて。

 

 終わったと思ったら修羅場に遭遇して。

 

 ヘトヘトで家に帰れば理子がいる。

 

 これで疲れないはずが無い。布団に入った瞬間から既に睡魔に呼ばれている。

 

 明日からの大変な日常に備えて、私はまだ九時にも関わらず、深い眠りに着いたのだった……。



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翌日の話

 祝!1000UA!皆様御協力ありがとうございます!!


 目が覚めると、まだ目覚ましがなる前。午前六時だ。遠足の日の夜くらいな快眠具合で、昨日の疲れは吹っ飛んでいる。

 

 だが、むしろ本番はここからだ。これからは理子をいなしながら、キンジと一緒に生活する訳だ。

 

 そこに更にりょうまでいるとなると、退屈はしないを通り越して、暇になれない辛い日々になっていく。

 

 まぁ、考えても疲れるだけだ。気にしたら負け。どうせ対策を考えたって、理子には勝てそうにない。勝てない相手からは逃げるだけだ。要は、現実逃避だけど。

 

 まだ眠い目を擦り、嫌々布団を抜け出す。今日の朝食は、トーストにハムエッグだ。溶け出したバターの匂いが空腹に響く。

 

 自分の手料理なんて味わうようなものじゃない。さっさと食べ終えたら皿を洗い、その足で洗面所へ向かう。冷水で目を覚まし、髪を整える。

 

 荷物の確認と銃の整備をしたら、準備完了。時計を見ると、かなり早いが、やることも無いし登校するか。

 

 

 寮の一階。階段の壁に寄りかかるキンジの姿があった。イヤホンを着けて、ガラケーを眺めている。

 

「どしたのさ。」

 

 自分に用があるのかな、とは思ったが、違ったら嫌だから、保険をかける。

 

 こちらに気づいたキンジは、イヤホンを外すして、ガラケーを閉じる。

 

「折角HSSから解放された訳だし、一般人として生きていくなら、女慣れした方が良いと思ったんだよ。」

 

「それで?」

 

「昨日頼んだ通り、一緒に行動してもらおうかと思ってな。」

 

 それで、朝っぱらから出待ちしてたのか。

 

「別に良いんだけど……。女慣れ云々は頼られても困るよ。」

 

 何を隠そう私はそもそも人との関わりが少ない訳だからね。

 

「まぁ、一緒にいるだけでも訓練になると思うんだ。だから、頼んだぞ。」

 

 幼児か?とか疑うくらいに対女性レベルが低いらしい。いや、幼児以下か。そんなやつ相手に何しろと。

 

「分かったよ。じゃ、行こうか。」

 

 ここで考え込んでもしょうがないから、歩き出す。要は、いつも通りに暮らせばいいんだな。簡単だ。……いや、不安三割程だ。どうなるんだろう。

 

 

 キンジと二人並んで、いつもの通学路を歩く。いつもの景色の中を黙々と歩みを進めるだけだ。

 

 会話の一つや二つくらいしてくるものかと思ったら、まさかの無言だ。

 

「いやいや、無言じゃ意味無いでしょ……。」

 

 思わず本音が漏れる。私の覚悟を返して欲しい。

 

「あ、えっと……。きょ、今日はいい天気だな。」

 

 聞こえてたらしいキンジが、分かりやすくボヤく。だが、

 

「いや、曇ってるよ。なんなら雨降りそうだよ。」

 

的外れも良いとこだ。何せ、二人とも傘持ってるからね。完全に喋ることに困ってる。

 

「あぁ、いや、俺は雨が好きなんだよ。」

 

 ダメだこれ。私以下の対異性コミュ力だ。話が続く気がしない。

 

「うん。そう。……。」

 

 いや、前言撤回。私も私で言うことが無いや。あぁ、誰か助けてくれないかね……。

 

「きーちゃん!おっはよー!」

 

 ガバッと後ろからハグされる。どうやら、助け舟が来たらしい。

 

「おはよ、りー。毎度毎度元気さに若干ビビってるよ。」

 

「ふふーん。褒めても何も出ないよ。」

 

 私の前に回り込んできて、ニコニコしてる。うーん。褒めてるっちゃ褒めてるのか……?相変わらず変わり者だよね、りょうは。

 

「じゃあ、褒めるのやめようかな。」

 

「えぇ!そんな……!な、なら再びハグのプレゼント!」

 

 今度は前から抱き着いてくる。人目も憚らず抱き着かれたら、流石に恥ずかしい。

 

「暑苦しいよ。ほら、離れて離れて。人様がいるんだよ?」

 

 私がチラッとキンジの方を見ながら引き剥がす。キンジは女子がキャッキャウフフしてる姿を直視する勇気はないのか、そっぽを向いている。

 

「なんで?別にいいじゃん。知らない人が居たって。」

 

 まるで面識が無いような言い方だ。いつもは圧倒的コミュ力なのに、今回は何故だか少し冷たい。

 

「知らない人って……。まぁ、そうなんだけどね……。」

 

 別にりょうにキンジとの関係を強要する必要は無いと判断した私は、適当に折れとく。

 

 そっからは、私とりょうがずっと雑談して、完全にキンジは孤立していた。

 

 少し可哀想だな、とは思ったが、まぁ、キンジのお願いがそもそもおかしいんだよ。私に責任は無い……と思いたい。

 

 

 体質のおかげで、勉強は圧倒的に強い。だから、家で勉強したくない私は、授業だけは真面目に受けている。

 

 隣では、りょうがノートを立てて居眠りしている。りょうは地頭が良いから、武偵校レベルの勉強なら後でササッと復習すれば出来るらしい。

 

 周りのヤツはケータイやら拳銃やらを弄ったり、弁当を食べたり、様々な時間の潰し方をしてる。真面目にやってるヤツのが少ない。

 

 学校が学校なら、生徒も生徒だな。授業をやってる先生だって、かなり適当だし。まぁ、赤点を取らなきゃそれでいいんだよ。

 

 そう言えば、しばらく一緒に生活するってことは、昼休みとかも来るのだろうか。あいつとの変な噂とかたたないと良いな……。

 

 

 四時間目のチャイムの音で、隣のりょうが目覚める。

 

「うぅん。あ、おはよ、きーちゃん。」

 

 寝ぼけ眼のりょうが、目を擦りながら体を起こす。

 

「おはよ。またよく寝るね。」

 

「寝る子は育つんだよ、きーちゃん。このままいけば私のがイイ女になっちゃうね!」

 

 身長百五十センチのりょうが、平らな胸を張っている。

 

「ソウデスネ。」

 

 遠くを見ながら、感情を殺して返答する。

 

「ちょっと!どこ見てんのさ!きーちゃんのえっち!」

 

 サッ、と胸を隠すが、別にそこじゃない。何も見てない。てか、自覚はあったか。

 

「どこも見てないよ。……あ、なんか見つけたよ。」

 

「そんなに小さい!?ねぇ!」

 

 肩を掴まれて、脳震盪を起こすくらい揺らされる。

 

「違う違う。そーじゃないって。ほら、後ろだよ。」

 

 りょうの向こう側。廊下で手招きしてるキンジがいた。

 

「ごめん、ちょっと行ってくる。」

 

「早く帰ってねー!」

 

 大袈裟に手を振るりょうに送り出され、キンジの元へ向かった。

 

「朝に引き続きですか。」

 

「あぁ。頼む。」

 

 えぇ。分かってたけど。

 

「これってエブリデイな感じ?」

 

「あぁ。出来る限り頼みたい。」

 

「良いけど、変な輩が来たら帰るからね。」

 

 例えば、白雪とか、理子とかだ。特に白雪なんて得体が知れないヤバそうなやつだし。

 

「そこは対策しとくよ。……出来るだけ。」

 

 ボソッと何か言ったが、上手く聞き取れなかった。まぁ、対策可なら良いか。

 

「それじゃあ、屋上で待ってるから、飯を持ってきてくれ。あの子も連れて来ていいから。」

 

 そう言い残して、立ち去っていった。私も準備しなきゃ。

 

「りー。謝らなければならない事がある。」

 

「なーに?きーちゃん。」

 

「今日から、しばらくはキンジも一緒に食べることになった。」

 

 少しフリーズしたりょうだったが、しかしすぐに立ち直った。

 

「アイツと食べるの?」

 

「そうだね。」

 

「やだぁー!二人で食べようよー!」

 

 いや、立ち直ったんじゃなかった。駄々をこね始めた。

 

「そんなにアイツの事が大事なの?きーちゃん!」

 

「任務の為だから。時が来たら戻るから。だから辛抱して?」

 

「えぇ!頼むよー!」

 

 駄々っ子りょうは、今にも地べたに転がってイヤイヤを始めそうな勢いだ。

 

 どうしようか。いよいよ説得は難しそうだ。しょうがない。諦めるか?

 

 そう思った時だった。

 

「おぃ!二年B組の穂沿りょう!至急職員室に来いや!」

 

 どっかのマフィアの娘とかいう噂のある、蘭豹の呼び出しの放送がかかった。

 

「うぇぇぇ。何やらかしたっけ……。」

 

 本気で嫌そうなりょうは、しばらく考え事をした後、

 

「今日だけは特別だよ、きーちゃん!それじゃあ、行ってくるね。」

 

そう言って、職員室へと駆け出した。

 

 とりあえず、今日のところはセーフだな。

 

 そう言えば、キンジとはいつまで一緒に居ればいいんだろ。りょうもあまり喜んで無いし、後で聞いてみなきゃ。




 浮かれてます!皆様ホントにありがとうございます!


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キンジの決意

 屋上の更に少し上。貯水タンクのある高台で、寝転びながら、一人考え事をする。

 

 俺は、よくよく考えれば、かなり桐未に負担をかけてしまったんじゃないだろうか。

 

 爆発事故に巻き込まれて、その上面識も無い人間に付きまとわれて。しまいには飯に誘われる。

 

 少なくとも俺だったらあんなお願い断るはずだ。なのに、桐未は受けてくれたんだ。

 

 今思えば、俺は舞い上がってた。兄さんの一件から、この力をより遠ざけていた。そんな中で見つけた、この力を封印する力。

 

 いつまで桐未を付き合わせるかも分からない。桐未が俺といて楽しい訳もない。それなのに、今また時間を奪っている。

 

 どうしようか。やっぱり、桐未に付き合って貰うのはやめようか。

 

 不可避の運命にブルーになっていると、

 

「呼び出しといて、何隠れてんのさ。」

 

不機嫌な声が聞こえてくる。いや、桐未に関しては、あれが標準なのかもしれない。

 

「別に隠れてる訳じゃない。」

 

「そう。なら、も少し分かりやすいとこにいてよ。」

 

 そう言いながら、こっちに登ってくる。それに伴って、チョコみたいな甘くて、でも少し苦い匂いがする。

 

「その、桐未。話があるんだが、いいか?」

 

「今さらなに?」

 

 イマイチ感情の読めない声で返してくる。

 

「やっぱり、今までの約束、無かったことにしてくれないか?」

 

 そうだ。これでいいんだ。人の、ましてや女子の邪魔をしてまでヒステリアモードから逃げるなんて間違ってる。

 

 ここで、分かった。清々した。そんな言葉を投げかけられるんだと思った。

 

 だが、桐未の返答は、予想の斜め上を行くものだった。

 

「なんでまた。ついに正義に生きることを決めたの?」

 

 俺のお願いを受けることが当然だったような言い方だ。

 

「いや、そういう訳じゃない。ただ、迷惑じゃないのか?」

 

「どうなんだろ。ま、面倒ではあるけど、嫌でないね。」

 

 遠く眺めながら、パンを齧っている。風になびく長い茶髪が、太陽の光を受けて輝く。

 

 その姿に、少しドキッとした。別に、何かしてくれる訳じゃない。ただ、ヒステリアモードについて知っていて。しかも、それを解決してくれる女性。

 

 ヒステリアモードを気にしなくていいってことに少し安心してるからこそ、女子として見てるのかもしれない。

 

「なんだそれ。」

 

「あんたが嫌なら、私はいつでもどっか行くけど。」

 

 適当な喋り方。だけど、かえってそれに親近感を覚える。

 

「いや、桐未がいてくれるなら、そっちの方が良いにに決まってる。これからも頼むぞ。」

 

 理由は分からない。だけど、桐未が優しくしてくれるなら、それに甘んじよう。

 

「告白なの?それ。」

 

 かなり冷めた声が聞こえる。最悪すぎだ!なんてことを口走ってるんだ!?

 

「ち、違う!別にそういう意図があったわけじゃない!」

 

「HSSが無いからって、私が女ってこと忘れてない?」

 

 返す言葉も無いな……。確かに油断してたかもしれんな。

 

「ま、まぁ、これからも頼んだ。」

 

 誤魔化すことしか出来ない。だが、

 

「分かったよ。」

 

深く追求してくることもなかった。

 

 

 結局、その後大した会話も無いし、仲良くなれた訳でもない。

 

 それでも、罪悪感が軽減されたからか、随分気が楽になった。

 

 桐未の体質についてや、俺の相手をしてくれること。謎は深まるばかりだが、急ぐ必要は無いだろう。

 

 

 桐未と一緒に教室に戻った。のだが、それが悪かったらしい。

 

「やぁキンジ君。また新しい女の子を作ったのかい?」

 

「おいキンジてめぇ!その子俺に譲れよ!」

 

 爽やかなイケメンに、ごついツンツン髪のやつが絡んでくる。

 

「うるさいぞ、別にそういうんじゃねぇよ!」

 

「またまた、二人でいい雰囲気だったじゃないか。」

 

「お前、白雪さんがいるじゃねえか!」

 

 こいつら、全く言うこと聞きやしねえ!

 

「おいコラ!ベレの餌食になりたいのか!」

 

「おう、轢き殺してやるから覚悟しとけよ!」

 

「二人で周りに迷惑をかけないようにね。」

 

 いつも通りのやり取りだ。別に本気でキレてる訳じゃない……。訳じゃないかもしれない。

 

 

「やぁ、きーちゃん。随分お楽しみだったみたいだね。」

 

 教室に戻った私を待ち構えていたのは、ほっぺをぷぅー、と膨らませたりょうだった。

 

「悪かったって。」

 

「じゃあ、明日は二人で食べてくれるね?」

 

 ……どうなんだろ。

 

「迷ってるね!」

 

「いや、明日は二人で食べるよ。ごめんね、ほんとに。」

 

 ここまでごねられると、流石に断れないな。

 

 私の返答を聞いたりょうは、へニャと表情が崩れる。

 

「ふふーん。分かってもらえればいんだよ。」

 

 これでこんなに喜ばれるなんて、なんか申し訳ないな。キンジもこのくらい分かりやすければ良いのに。

 

「はぁ。それにしたって、きーちゃんはどこでアイツと出会ったの?」

 

 いきなりだし、かなり返答に迷う質問だな。元からってのは怪しいけど、初対面って感じでも無かったし。

 

「依頼を漁ってる時に少し話したことがあったんだよ。ほら、同じ探偵科だからさ。」

 

「うぅん。きーちゃん知らん人とは話さんでしょうに。」

 

 うわっ。痛いとこ突かれたな!確かに私は関係ない人とは積極的には話しかけないし。

 

 言い逃れは出来そうにない。しかし、同中とも言い難い。

 

「あれだよ、授業で関わりがあったから、キンジが私にヘルプを求めたの。」

 

「ふぅーん。そっか。まぁ、良いや。」

 

 あまり興味なさそうに答えて、

 

「明日からまた一緒だね!」

 

今度はまた笑顔になる。なんだか今日は、さっぱりりょうの感情が読めない。

 

「そだね。次からはちゃんと事前に言うよ。」

 

「予定を書き換えてもらうかもしれないけどね!」

 

 本音とも冗談ともつかない感じのりょうは、楽しそうに揺れていた。

 

 

 寮の自室玄関の前。ドアの鍵が空いている。うん。そっか。

 

「ねぇ。事前に言ってくれない?」

 

 靴を脱ぎながら、またソファーでくつろいでいた理子に語りかける。

 

「プロデューサーにはそんなもの必要無いからね!」

 

 えぇ。ふざけないでよ。別に頼んだ覚えは無いし。

 

「……何したら帰るのさ。」

 

「くふふ!きりりんがお洒落ちゃんになったらだよ!」

 

 ダメだな。これ。絶対聞いてもらえない。だったら、少しは妥協しなきゃ。

 

「分かったよ……。要は、服とか買ったりすればいいんでしょ?」

 

 どうせ着ないだろうし、多少小遣い切って乗り切れるならそれでいいか。そう思ったのだが、

 

「甘いね。私のプロデュースはそんなに甘くないのだよ……!」

 

どうやら、そんな程度じゃ済まないらしい。

 

「はぁ……?どこまでやるの?」

 

「頭のてんこからつま先まで全身さ!」

 

「無理だよ……。そこまでのお金も気力も無いからね。」

 

「良いのかなぁ?理子Pにそんな口聞いて。」

 

 そう言って得意げな理子の胸元から取り出され写真は、私の超ローアングル写真だ。制服のスカートの中身もくっきり写っている。

 

「はぁ!!?何それ!?」

 

 思わず大声を出しながら、理子に飛びかかる。

 

 だが、見事にかわされてしまい、ソファーに激突する。柔らかいが、流石に少し痛いぞ……!

 

「きりりんは無防備だねぇ!カメラをスカートで踏み潰すなんて!さぁ、これで分かったよね?」

 

 あんなものさっさと捨てて欲しい。じゃないと何されるか分かったものじゃない。

 

 悔しいが、理子のが一枚上手だったらしい。

 

「くぅ……。分かったよ。やればいいんでしょ?」

 

 半泣きで降参する。理子は、完全勝利を収めた勝者の笑みだ。

 

「やっと理解してもらえたぁ!じゃあ、まずはあれからだね……。」

 

 ズンとしている私を、理子は暗闇へと連れて行ってしまった……。




 この度、3つ程の理由から投稿頻度がエラく落ちます。

 一つ目は、リアルが忙しいことです。夏になったのに、リアルは暇になる気配がありません。

 二つ目は、ストックが尽きかけてることです。あと二話しかストックが無いです。完全に油断してました。

 最後の三つ目。知り合いに、二次創作って寒くね?って言われてから、心がひしゃげてモチベーションが低下してしまいました。

 ですが、エタるつもりは毛頭ありません。

 投稿頻度についてですが、最低週一にします。ノッてれば、週に二、三話投稿します。


 さして人気者でもないのに、モチベーション云々語ってすみません。

 二次創作の代わりに一次創作に取り掛かってるので、そちらも見て頂けたら幸いです。


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イメチェンって恥ずかしい……

 なんと!売れっ子でも無いのに人気投票的な企画を!

 一次創作を2種類投稿したので、気に入った方に何かしらの評価をお願いします!

 評判の良かった方を連載したいなーと思います。御協力お願いします!


 翌朝。またしてもキンジの出待ちに会う。

 

「私の登校時間ってどこで把握したのさ。」

 

「理子に調べてもらったんだよ。」

 

「……理子相手に隠せる物なんて無いのか。」

 

 最早武偵を越えて、泥棒の域に入ってる気がする。

 

 理子が本気をだしたら、国の秘密すら盗めるかもしれない。もしかしたらスパイなのかも。

 

 いや、考え過ぎか。あの理子に限ってそれは無い気がする。

 

「まぁ、ヒステリアモードについてはバレてないし、それは言い過ぎなんじゃないか?」

 

 キンジは随分お気楽だな。ヘタこきゃバレるだろうに。

 

「迂闊な行動は取れないってことよね。」

 

「そうだな。ま、一緒の間は心配は無いけどな。」

 

 キンジと話してて、初めて少し楽しいな。と感じた。やり取りがちゃんと成立するからだろう。

 

 

 その後も、何気無い日常会話が割と続く。昨日変な態度だったし、キンジの心情に何かしら変化があったのかもしれない。

 

 凄くいい傾向だ。私も、キンジの態度が変わったおかけで、かなり喋りやすい。

 

 だが、一つ気に食わないことがある。キンジの視線が少し上を向いている。そして、たまに目を逸らす。

 

 もちろん、私が奇抜な帽子を被ってるわけじゃない。昨日と比べて、何が変わったのか。

 

 時は少し遡る……。

 

 

 理子に連れ去られた私は、洗面台の前に置かれた椅子に座っていた。

 

 待ちきれないのか、理子のスキバサミのチョキチョキ鳴らす音がする。

 

「きりりん、今日からガラッとイメージ変えてくよ?まずは前髪からだ!」

 

 弱みを掴まれた私は、最早抵抗出来ない。

 

「どうなるのさ、私。」

 

「バッサリいっちゃおう!そんな長い前髪じゃ見えるものも見えないぜ!さぁ、パッツンへいこうか!」

 

 少なくとも、ウザ絡みする理子は見えてるけどね。

 

 なんて言える度胸は流石に無い。正直パッツンって私に絶対合わない気がするんだよね……。明るいイメージがあるから。

 

「あからさまに嫌な顔をしなさんな!さぁ!いっくよぉー!」

 

 ノリノリの理子のスキバサミが、私の前髪を捉えた……!

 

 

「うわぁ……。無くなってる……。」

 

 慣れた手つきの理子は、ものの数分で私の前髪をバッサリ落とし、整えてしまった。

 

 鏡に映る私の顔は、いつもよりはっきり見える。

 

「ふぅー!やっぱりきりりんはもっと自信を持とーや!」

 

 悔しいが、正直かなり気に入ったかもしれない。長い前髪が無くなったことで、久しぶりにちゃんと自分の顔を見た気がする。

 

 りょうや理子が言うように、実は割と可愛いのか……?試しにニコッと笑ってみると、割と見てられる。

 

 ……いやいや!何考えてんだ!?自分のこと大好きみたいじゃん!気持ち悪っ!

 

「どうだい?悪くなかろう!」

 

 私の変化に気付いた理子は、凄く嬉しそうだ。

 

「そ、そうだね。」

 

 平静を装うが、内心ただ事では無い。別に誰に見せる訳でもないけど、これはウキウキしちゃうな。

 

「これはプロデュース捗りそうだねぇ。それじゃ、私帰るから!」

 

 いきなり荷物をまとめ出して、そのまま、

 

「ばいちゃ!また明日!」

 

敬礼をしてから帰ってしまった。

 

 なんだ気疲れした私は、散髪の跡を片付けて、シャワーを浴びたら、眠気に襲われてしまい、直ぐに就寝してしまった。

 

 

 そして、今朝。改めて自分の顔を見ると、実はそんなに可愛くないかもしれないという事に気づいてしまった。

 

 いや、昨日と何か違う訳じゃない。ただ、汚い部屋を片付けたら、凄くいい部屋に見えるようなもので、言わば相対的な評価だったわけだ。

 

 なんか、理子の思うつぼな感じがするな。プロデュースされて、少しときめいたのは事実だし。悔しいからお礼は言わないけど、案外次も楽しみだったりする。

 

 

 そして今。キンジは唐突な私の変化に、触れるか迷っているらしい。

 

 触れて欲しい五割のそっとしておいて欲しい五割だ。恥ずかしいはそうなんだが、少し気に入ってるわけだし。

 

「なぁ、桐未。」

 

「なに?」

 

「……前髪切ったか?」

 

 凄く言いにくそうだ。褒め慣れてないんだな、キンジ。

 

「そだね。理子にバッサリ持ってかれたよ。」

 

「その、似合ってるぞ。その髪型。」

 

 目も見てないし、ぶっきらぼうだが、悪い気はしない。むしろ、少し嬉しいし。

 

「ありがとさん。まさかあんたに褒められるとはね。」

 

 照れ隠しで、減らず口をたたく。

 

「なぁ、桐未からしたら、俺ってどんな奴なんだよ。」

 

「女嫌いのヒス持ち陰キャ?」

 

「うっ……。否めない……。」

 

 まぁ、もちろん嫌いって訳じゃないけどね。

 

「気にしなさんな。そもそも人と積極的には関わらないAHSS持ちの陰キャが隣を歩いてるんだし。」

 

「確かにそうだな。」

 

 二人揃って笑う。出会って三日目、では無いけど、まぁ、ちゃんと関わるのは三日目だ。

 

 それでもちゃんと話せるのは、日陰者のシンパシーか、キンジが心を許してくれてるからなのか。

 

 分からないけど、お互いに秘密を共有してるのが大きいのは確かだ。その点、りょうより仲良くなれるかもな……。

 

 いやいや、流石にそれはりょうが可哀想だ。これ以上考えるのはやめよう。

 

 

 手遅れな気もするけど、校舎手前でキンジと別れる。何でも、キンジへの煽りが凄いんだそうな。

 

 一人で教室に入ると、そこには既にりょうがいた。難しそうな顔でノートに何かを書き綴っている。

 

「おはよ。なにしてんのさ、りー。」

 

「うぉぉわぁ!どしたのさ!きーちゃん!」

 

 大慌てでノートを隠して、私の方へ振り返る。

 

「どしたも何も単なる挨拶だよ。」

 

「そ、そだったね。うん。……あれ?髪切った?」

 

 りょうは珍しいものを見たって顔をしてる。そりゃそうか。今までオシャレに無頓着だったんだから。

 

「変かね?」

 

 理子はともかく、キンジの似合うは嬉しいが、参考になるか分からない。そこで、私以外の友達はイケてるりょうのご登場だ。

 

「変?むしろ可愛いよ、きーちゃん!まさかついにきーちゃんがオシャレに目覚めるとは!」

 

 りょうは我がことのように喜んでる。……そんなに喜ぶことかね。

 

「そんなはしゃがなくても。」

 

「ふふふ。ついにきーちゃんで着せ替え人形みたいにイロイロ出来ちゃうぞー!」

 

 えぇ……。その枠は理子で十分なんだよな。

 

「私は人だから。人形にはしないでね。それに、目覚めたっていうか、目覚めさせられたんだよ。」

 

「まさか、それもアイツの影響なの?」

 

 心底嫌そうな顔だ。本当にコロコロ表情が変わるな。見てて飽きない。

 

「いや、別の人だよ。私の部屋に凸ってくる子がいるのよ。」

 

 りょうは普通の人には友好的だから、これで話が終わると思った。だが、

 

「えぇ!きーちゃん人を部屋に入れたの!?私ですらあんまり入れてくれないのに!」

 

最近のりょうは嫉妬しがちだ。一々気になるらしい。

 

「入れたんじゃなくて入ってくるの。鍵閉めても勝手にこじ開けてくるの。」

 

「犯罪じゃん!」

 

 確かに。感覚が麻痺してたのか知らないけど、単純に不法侵入だ。

 

「あれは止めようが無いし、そのお陰でオシャレさんになれるかもしれないから、良いんだよ、もう。」

 

「ずるい!私も行きたい!いーきーたーい!」

 

 また駄々っ子に変貌してりょうは、止められない。

 

「分かったよ。じゃあ、今日の帰り寄ってく?別に何も無いけど。」

 

「行く!そして、きーちゃんの部屋の何かを探し出す!」

 

 未開の地なのか?我が部屋は。まぁ、やましいことは無い。これで済むならそれでいいか。




 なんかモチベ云々語ってすみませんでした。一次創作書いたら蘇えってきたので、投稿はストックの許す限りペースは上げます。


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うちの娘はやらん!!

 エタらないように気をつけます!リアルの忙しさに拍車がかかってやがる!


 何の変哲もない授業の後。昼休みだ。

 

「きーちゃん。私決めたよ。」

 

 いつになく真剣なりょうの態度に、少し緊張感が走る。

 

「な、なに?そんなに大事なこと?」

 

「そう。決めた。私ね……。」

 

 少し間を置いてたりょうが放ったのは……。

 

「やっぱりアイツも交えてご飯食べるよ。」

 

 さして大事な事でもなかった。さっきまでの緊張感は何だったのか。

 

「そう。良かったよ。」

 

 そのくらいの感想しか出てこない。いや、確かに今までの態度を見たら、意外だけど。それ以上でもそれ以下でもない。

 

「反応薄いね!まぁ、良いさ!早くアイツを呼んでよ!」

 

 何故唐突に歓迎ムードになってるのか。なら、名前で呼んてあげなよ。

 

 謎だらけだが、最早分からないことが日常みたいなものだ。気にしない。というか、気にしてられない。

 

 隣のクラスまで、キンジを呼びに行った。もし昨日と同じところに行かれたら面倒だし。

 

 

「とりあえず挨拶からだ。私はきーちゃんの親友のりょうだ。君が遠山キンジ君かね?」

 

「あ、あぁ、そうだ。」

 

 私達の教室でキンジを交えて食事が始まる。開口一番、りょうは、「お前に娘がやれるか!!」とでも続きそうなオヤジスタイルの台詞を、椅子にあぐらかいて言い放った。

 

「なんで、うちのきーちゃんに拘るんだ?うちの子が必要な理由はなんだ?」

 

「いや、それはだな……。」

 

 キンジが言い淀む。流石にHSSのことは言えないだろうからな。だが、それが気に食わなかったらしい。その瞬間、りょうが、バンっ!と机を叩き、

 

「誰でも良いんだろう!!そんな奴にきーちゃんはやれん!」

 

ホントに頑固オヤジみたいなことを言い始めた。しかし、机を殴った衝撃で、りょうのコンビニ弁当がベチャッと音を立てて地に落ちる。

 

「あぁー!私の昼が!!」

 

「ふざけるからだよ。ほら、今なら平気な部分もあるから。」

 

 さっきまでの演技はどこへやら。いつものりょうに戻って、大慌てで弁当に飛びつく。

 

 完全に一人芝居だな、もう。慣れないことするから直ぐボロが出るし。ほら、キンジもポカーンとしてるよ。

 

 

 急いで昼飯をレスキューして、再びりょうは席に着く。流石の武偵でも、弁当を救う依頼はなかなか無いものだ。かなり時間がかかったな。そのせいで、さっきまでの勢いはない。完全に茶番だ。

 

「……それで、きーちゃんに何で近づいたの?」

 

 綺麗な所を拾い集めたぐちゃぐちゃ弁当をリスみたいに頬張りながら、今度は普通に尋ねる。

 

「それはだな、前も言ったろ?優秀な探偵科の味方が欲しかったんだよ。」

 

「それなら理子ちゃんで良くない?」

 

 りょうの指摘は的確だ。もしかしたら、武偵らしく自分で探したのかもしれない。

 

「うっ……。アイツは報酬が厄介だから、出来れば関わりたくないんだよ。」

 

「ふぅむ……。確かに情報通りだけど。」

 

 やばい。これはキンジが負けかねない。いつになく冷静かつ知的なりょうは案外手強いぞ。

 

「しっかし、きーちゃんである必要が無いよね……。」

 

 考える人みたいなポーズで考え始める。だが、今の台詞は、少し引っかかるな。

 

「ねぇ、一ついいかな、りー。」

 

「ん?なーに?」

 

「別にさ、人と関わるのに理由なんて無いでしょ。」

 

 今回は理由ありまくりだけど、流石にりょうが少し必死すぎる。

 

「それはそうだけど……。」

 

「別にりょうが私に話しかけたのだって、何か理由がある訳じゃないでしょ?」

 

「えっ……?それは……。」

 

 りょうが口ごもる。何だろう。完全に覚えが無い。

 

「あ、もしかして、元々は私の記憶力目当てだったりして?」

 

「違うよ!そんなことないよ!」

 

 これまた違う。割と有力だと思ってたけど、強く否定される。

 

「じゃあ何よ。」

 

「そ、それは言えないな……。」

 

 今度はりょうが黙秘する番だ。しかし、その反応が欲しかった。

 

「これで分かったでしょ?そんなに問い詰めたって解決しないことはあるんだよ。」

 

「確かにそうだけど……。」

 

 未だに納得してない顔だ。何が気に食わないのか分からないが、これ以上言い返されはしないだろう。

 

「きーちゃんどうしてそこまでコイツを庇うのさ。」

 

 どうして、か。そりゃHSSについてはバレたくないし。その流れで私のことも色々バレるのも嫌だ。

 

「庇うも何も、秘密もへったくれも無いんだよ。ね?分かるでしょ?」

 

「絶対嘘だ!そーゆーの分かっちゃうんだよ!」

 

 これまた随分と厄介な直感だ。だって、当たってるし。

 

 どうしようか……。しばらく考え込んでいると、意外にもキンジが助け舟を出してくれた。

 

「なぁ、ちょっと良いか?」

 

 会話の流れを断ち切る発言だ。ありがたい。

 

「なにさ?理由に思い至った?」

 

「いや、そういう訳じゃないんだが、とりあえず飯食わないか?」

 

 時計は昼休み終了十分前を指している。そ言えば、私と話し始めてから食べる手が止まってたな。

 

「うわぁ!時間が!あんたのせいだ!」

 

 責任転嫁したりょうが、急いで弁当をかきこむ。結局何がしたかったんだか。

 

 

 きーちゃんと帰りに合流する約束をして、教室を後にした。さっきは良いとこまで行ったと思ったのに、結局逃げられてしまった。

 

 何であんなに拘るのか。それは直感だ。きーちゃんとキンジの間には何かある。昔からこういうのは当たるのだ。

 

 今回追い詰めるために、諜報科の友達とか色々頼ってみて、作戦をノートに書き込んでいた。

 

 しかし、上手くいかない。

 

「はぁー!最悪!きーちゃん何を隠してるのさー!何で教えてくれないのさー!」

 

 不満を声に出しても、状況は変化しない。ぽっと出のキンジにきーちゃんを取られた気がしてならない。きーちゃんも必死に庇うし。

 

 考えれば考える程むしゃくしゃしてくる。

 

「くそぉ!あれもこれも全部」

 

「もう!キンちゃんが最近冷たいのは」

 

「遠山キンジのせいだ!」

 

「芦捷桐未のせいだ!」

 

 聞き覚えのある名前がすれ違った人の口から放たれる。

 

 驚いてバッと振り向く。振り向いた先では黒髪ロングの、確か白雪ちゃんが驚いた顔でこちらを見ている。

 

 さっき声が被ったのは彼女で間違い無さそうだ。

 

「きーちゃんがどしたの?」

 

「あなた、確か芦捷桐未と一緒に居た……。」

 

「りょうだよ。それで、きーちゃんがどうしたの?」

 

 まさか白雪ちゃんとも知り合いなのか?だとしたら、きーちゃんは思ったより友達が多いことになる。

 

 ……だったら、私にも紹介してくれればいいのに。

 

「キンちゃんがね、最近冷たいの。それで何かな、と思ったら、芦捷桐未って子と一緒にいるようになってたの。」

 

 髪の毛を指でクルクルしながら、俯いて喋り始める。

 

「多分、あの子が誘惑してるのよ!キンちゃんがあまりにカッコイイから!」

 

 何言ってんだろ。きーちゃんがそんなことする訳無いじゃん。キンジもカッコイイのか?

 

「それで、貴方……りょうちゃんは、どうしてキンちゃんのことを気にしてるの?」

 

「それはだね!うちのきーちゃんに手を出したからだよ!そのせいで、最近付き合い悪いんだよ!!」

 

 今度は私のターンだとばかりに不満を吐き出す。白雪ちゃんと台詞が被ってる気がするけど。

 

「そんな事ないよ。キンちゃん様はそんなことしないよ!」

 

「何を!きーちゃんだって……!」

 

 しばらく白雪ちゃんと睨み合う。空気がピリッとする。私は拳銃に手を添え、白雪は刀に手を伸ばす。

 

 完全に臨戦態勢。一つ間違えば血が出るかもしれない。

 

 ……しかし、何故だろう。馬が合う気がする。なんと言うか、同じオーラを感じるのだ。

 

「私の目的は一つ。」

 

「私もだね。一つやりたい事がある。」

 

「奇遇だね。」

 

「そうだね。」 

 

 ジリジリと距離を詰める。張り詰めた雰囲気は最高潮。

 

 バサバサ!小鳥の飛び立つ音と共に、お互いに駆け出す!そして、お互いに伸ばした右手が交差する……!

 

「別れさせよう!」

 

「芦捷桐未とキンちゃんを!」

 

 

 今、共通の目的を持った二人が、手を組んでしまった。お互いが嫌う相手を大事に思う為に。果たして、この出会いがどう物語に関わるのか。

 

 少し重い想いを抱えた二人が起こす行動はきっと、キンジと桐未の関係を大きく変えてしまうだろう……。

 

 

 探偵科で授業の準備をしている私の背中を、謎の悪寒が走る。そして、何故かキンジの方を見てしまう。

 

 キンジもなにか感じとったのか、こちらを見つめている。何か、非常に良くないモノが出来てしまった気がする。

 

 もしかして、AHSSの事が誰かに漏れたとか?それについでキンジのこともバレたとか。

 

 最悪の想定ばかりしちゃうな。しかし、気のせいかもしれない。とにかく、実害がない間は何も考えたくない。

 

 これ以上悩みの種が増えようものなら、茶髪が北海道の雪かってくらい白くなっちゃう。だったら、何も知らずに生きていたい。

 

 頼むから、これ以上悩みは増やさないで欲しいな……。




 ついにタグ詐欺を脱した!雪ちゃん満を持して登場!

 やっと役者は揃った!



 一次創作のやり直しとストック残り一話のアリア。課題山積みで目が回りそう。


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自室だよ!全員集合!

 人気投票企画のやり直しをしてます!両方ともパワーアップして帰ってきたので、読んで好みの方をお気に入りして下さい!

 一話にあそこまで気を使ったのは初めて……。

 追記。投稿時間間違えてえらいことになったので、投稿し直します。明日の七時に。

なう(2020/08/16 20:18:25)


 探偵科の実習を終えて、再び探偵科の校舎前。りょうが誰かと話しながら待っていた。見知らぬ顔、では無い。残念ながら、歓迎すべき人物では無さそうだ。

 

「ねぇ、どうして白雪さんがいるの?」

 

 正直関わりたくない人物だ。前回あった時はいきなり襲われかけたし。地雷臭半端ない。

 

「あ、芦捷桐未……ちゃん。私りょうちゃんが桐未ちゃんの家に行くって言うからついてくことにしたの。」

 

 何を勝手に。しかも、呼び捨てにしかけて申し訳程度のちゃんを後からつけてるし。

 

「りょうさ、何勝手に許可してんの?行くのは私んちだよ。」

 

 厄介事そのものをこれ以上家に入れたくない。理子で十分だ。だが、

 

「白雪ちゃんは悪い人じゃないからいいでしょっ!さ、行こうか!」

 

えぇ……。またりょうが暴走してる。キンジが関わってから本当に面倒な子になったな。

 

「もう知らない……。何も無いし、好きにすれば良いよ……。」

 

 下手に抵抗して刺されたりしたらたまったもんじゃない。だったら部屋にだけ通してさっさと帰ってもらった方が安全だ。やましいものもない……はずだ。

 

 

 慣れないメンツで下校中。りょうを私と白雪で挟んでいる。

 

 特に喋ることも無い私は、無言を突き通していた。

 

 ただ、ジッと睨むような視線はずっと感じる。白雪だ。なんだ。そんなに気に食わないのか。私がキンジといるのが。

 

「何か用ですか?」

 

 ずっと見られてると落ち着かない。流石に聞いてみる。

 

 私の視線に気付いた白雪は、途端にニコッと嘘臭い笑顔になって、

 

「何も無いよ?」

 

あくまでヘイトは無いよ、と主張する。なんだそれ。キンジと初めてあった日はバーサーカーそのものだった癖して。全く。誰か説明してくれないかね……。

 

 

 最近きんちゃんが冷たい。いや、明確に態度に出る訳じゃないけど、明らかに上の空なことがある。

 

 原因を探るためにストーキ……尾行をしたら、なんと私じゃない別の女と歩いてた。

 

 数日前にきんちゃんと話してた子だ。長髪の地味な子で、体型だって普通だ。

 

 きんちゃんはあまり女の子と歩きたがらない。だから、私もあしらわれることが多い。なのに、嫌がる様子もなくきんちゃんはその子と歩いている。

 

 これは秘密があるに違いない!だって、きんちゃんは私の幼馴染で、将来のお婿さんだもん!別の子を贔屓するなんておかしいに決まってる!

 

 

 早速バレー部や生徒会の後輩を頼ったりして、泥棒猫のことを調べ上げた。

 

 しかし、成果は芳しくない。というのも、さして特徴が無いのだ。

 

 長い前髪から分かる通りあまり目立たない人らしい。長所と言えば完璧なまでの記憶力だけ。

 

 きんちゃんは武偵に積極的じゃないから、記憶力を欲するとは思えない。何であの子にこだわるのかさっぱり分からなかった。

 

 完全に手詰まりだ。そう思った時、出会ったのがりょうちゃんだ。

 

 きんちゃんのことを悪く言うのはいただけない。オマケに、桐未の友達だ。

 

 しかし、りょうちゃんもきんちゃんと桐未の関係を良く思っていないらしい。

 

 そこで共同戦線を組んだわけだ。しばらくは桐未のことを調べる為に、友好的に行こう。まずは、家の視察だ。果たして、桐未はきんちゃんに相応しいのか……。

 

 いや、そんな訳ない!あいつの尻尾を掴んで、化けの皮を剥がしてやる!

 

 

 魂胆丸見えな白雪を家に入れるのが恐ろしい。どうせ何かしらケチつけてキンジにチクるんだろう。

 

 いや、別に私はキンジと離れようが良いんだけど。困るのは大好きなキンジだよ。

 

 そう言ってやりたい。ってかキンジは対策出来るって言ってたじゃん。嘘吐きめ。

 

 

 噂をすれば影。なんて言葉案外正しいのかもしれない。

 

「お、桐未……に白雪じゃないか。それにりょうだっけか。集まってどうしたんだ?」

 

 見覚えしかない顔ぶれが集まってるものだから、ついつい声をかけたんだろう。

 

「あ!きんちゃん!今から皆で遊びに行くの!一緒にどう?」

 

 まるでゲーセンにでも行くかのようなノリだ。実際は何も無い一人暮らしの部屋だけど。

 

「え?ちょっと待ってよ。流石にそこまで集まられると……。」

 

 言いかけて黙る。白雪がチラリと鎖鎌を袖の中から出してる。こいつ。さっきまでの態度はどこいったんだか。

 

 だが、りょうならきっとキンジが私の部屋に来るのは嫌がるはずだ!頼む!

 

「……白雪ちゃんが言うならしょうがないね。」

 

 りょうも敵か。万事休すか……。いや、まだ希望はある。キンジだ!頼む!この流れを断ち切ってくれ!

 

「なんか分からんが行くか。どうせ暇だし。」

 

 キンジはこちらを見ながら呟く。……当然と言えば当然だ。ヒスの危険が無いなら女慣れのチャンスだし。

 

 とことんツイてない。本日を持って私の家はフリースペースになりそうだ。個人情報もへったくれも無い。

 

 

「嘘だろ……?」

 

 キンジが目をぱちくりしている。そりゃそうだ。女子寮だし。しかし、

 

「いんだよ!桐未……ちゃんが持て成してくれるよ!」

 

ちゃんとハードルを上げてくれる腹黒白雪を軽く睨みつつ階段を上がる。私の部屋は上の階なのだ。

 

 今更抵抗しても仕方ない。逃げるは恥でもないし、役に立つ。

 

 二階の自室の前に立ち、ドアノブに手をかけ、そのまま勢い良くガチャっと開ける。もちろん朝鍵は閉めた。しかし、関係ない。

 

 白雪達は無防備な、て顔をしてるけど、後から開けられたらどうしようもないじゃん。

 

「理子ー。いるならキッチンの棚からお茶出して湯を沸かしてよ。」

 

「えぇー!プロデューサーはお茶汲みなんてしないんだよーだ!」

 

 ワガママな居座り魔だ。そろそろ慣れたけど。

 

「まぁ、入って。」

 

 家には先客がいるという誰も予想してない展開に驚きつつも、ぞろぞろ部屋に入る。元々四人部屋だったが、諸事情で三人消えたからいまはかなり広めの一室。

 

 とは言え、五人も人が入ればいっぱいいっぱいだ。かなり圧迫感がある。

 

 キンジは挙動不審なままソファーに座る。

 

 理子と白雪とりょうは、

 

「うぅー!宝探しだー!」

 

「きーちゃんの親友の私が先だぞ!」

 

「絶対見つけてやる……!きんちゃんとあいつを引き裂く何かを!」

 

色んな部屋に飛び出して行った。一人意気込みが半端ない奴がいるが、何も無いからよろしい。存分に楽しみたまえ。

 

 

 お茶を一応五人分いれて、キンジの机を間に向かいに座る。

 

「すまないな。こんなことになっちまって。」

 

 白雪のことか、それとも理子か。どちらもキンジがきっかけで関わることになったのは確かだ。

 

「流石に良いよ。とは言えないけど……。」

 

「けどなんだよ。」

 

「別にそこまで嫌じゃないかな。理子のおかげでオシャレの楽しさに気づけたし。」

 

 それに、白雪にはりょうの味方になってもらえたし。別に私は嬉しくないけど、りょうのためなら多少の我慢は出来る。

 

 我慢を強いてるのは私では?とは思うけど、ある程度仕方の無いことなのだ。

 

「そう言ってくれれば良いんだけどな。」

 

 キンジは少し安心している。

 

「本当にお世話になりっぱなしだな。出会ってから。」

 

 全くだよ。とは流石に言わないけど。私も賑やかなのは嫌いじゃないし、文句は言わない。

 

「そうだね。また今度何か奢ってもらえるかな。二三千円のものでも。」

 

「高ぇな。」

 

「文句無しでしょ。付き合ってあげてるんだし。理子達のおかげで三歳は老けたよ。」

 

「ははっ。確かにそうだな。」

 

 キンジが笑う。釣られて私も笑い出す。なんか良い感じの雰囲気だな。リラックス出来てるし、かなり楽しい。

 

 この時間がも少し続けばいいのに。そんなことを思ってしまう。

 

 しかし、空気の読めない人しかこの家には居ない。

 

「本当に何にもない!きーちゃん何して暮らしてるのさ!」

 

「ベットの下も空っぽだった!さては、処理したな!」

 

「何か。何か無いのかな……。」

 

 随分服の乱れた三人が帰ってくる。やはり成果は無いみたいだ。

 

「ゲームしかしてないから、そりゃ何も無いよ。ほら、やる事やったんだし帰った帰った。」

 

 シッシッと追い払うように手で払う。

 

「えぇ!きーちゃん本当に冷たい!せめてお茶だけは飲んでく!」

 

 ドカッと私の隣に座ったりょうがお茶に口をつける。やや距離が近いけど。

 

「きんちゃん!この人と何話してたの!?きっときんちゃん騙されてるよ!」

 

 白雪はキンジの隣に座る。これまた近い距離に。

 

 理子は自由に散策してる。全く。役者勢揃いってか。私がマトモだとは思わないけど、この中なら常識枠な自信があるよ……。

 

 正直変わり者のつもりでいたのに……。




 ついに皆で顔合わせ。安定の女性率。こっからどう展開しようかな……。


 しつこくマーケティング!人気投票企画もの

 可愛い幼馴染と弓道部を足すとプラマイゼロらしい

 魔王直々の指名手配は、何故に!?

 ぜひ読んで下さい!そして、気に入った方にお気に入りを!


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そんなまさかね……

 賑やかだった私の部屋は、現在二極化している。

 

 私のソファーにはりょう。

 

 キンジのソファーには白雪。

 

 お互いが牽制し合っている。いや、お互いがと言ったら少し語弊がある。白雪が私を、りょうがキンジを睨んでいる。

 

 なかなか厳しい局面だ。そんな仲良くない人に睨まれ続けたら単純に疲れるし。

 

 キンジもキンジでどうすればいいのか分からずにいる。

 

 これは困ったな……。中立の理子ならどうにかできそうなんだけど、私の部屋の探索に夢中だし。

 

 こんなに居心地の悪い自室はそう無いんじゃないか?

 

 キンジの奴対策可能とか一ミリも出来てないじゃん。最悪だよ。全く……。

 

 

 十分の沈黙の後、ついにその時が来た。

 

「喉乾いた!お茶頂き!」

 

 探索しても何も出ないから戻ってきたらしい。

 

 勢い良くお茶を入れたコップに手を伸ばし、掴む。だが、掴み方が悪かった。

 

「うぉぉぉ!ごめん!キーくん!」

 

 ツルっと手を滑り、キンジにお茶がぶっかかる。

 

「おい!ふざけんな!」

 

 白雪が近いせいで避けられず、モロにかかる。

 

「ごめぇん!今きりりんが拭くもの持ってくるから!」

 

「私?理子散々探検してんだから分かるでしょ?」

 

「そんな普通なもの探してないぜ!さぁ、頼んだ!」

 

 これだから!居座ってる割に何もしてくれないな。りょうは腹抱えて笑ってる。白雪は拭けるものを持ってなくて、ワタワタしてる。

 

 しょうがないから、洗面台の方に雑巾とタオルを取りに行く。正直ありがたいけど、面倒だ。

 

 あの空間から抜け出せただけでも嬉しいのはそうだけど。実は理子は気が利く?

 

 洗面台の下の引き出しにタオルが入ってる。はずなのに見当たら無い。十枚ほどのストックが一枚残らず消えている。雑巾はあるけど。

 

 おかしいな……。もしかして、探索組の嫌がらせ?白雪か、理子か。りょうは無いと信じたい。

 

 一応周りの場所も探してみるけど、見当たらない。どーゆーことよ。

 

 

 事情聴取のために部屋に戻ると、キンジと理子が消えてた。

 

「何でよ……。」

 

 白雪がついてかなかったのが意外だな。

 

「聞いてよきーちゃん。あいつら遅いからタオル買ってくるってさ。人を顎で使っといて酷いね。」

 

 コンビニが近所にあったっけ。

 

「それは良いとして……。うちのタオルが神隠しにあったんだけど、知らない?」

 

 白雪の方を見ながら聞く。りょうと白雪だったら白雪の方が絶対にある。

 

「わ、私は知らないよ。そんなに下らないことしないよ。」

 

 えっ?私?って顔をしている。割と素でだ。

 

「じゃあ、りょう?」

 

「そんな訳無いじゃん。きーちゃんを私が困らせると思う?」

 

 結構困ってるけど。言ったらややこしくなりそうだから黙っておく。

 

「えぇ……。じゃあ、理子?……それはそうと、何で二人で行ったのさ。」

 

 絶対白雪がついてくと思ってたのに。いつも見てる限り白雪は甲斐甲斐しく世話をやいてるから。

 

「理子ちゃんが一番お金持ってるから行くって。私、今日財布忘れちゃったの。きんちゃんあまり大人数で行きたくないんだって。」

 

 惜しいことをした、て顔をしてる。確かにそれなら納得だ。キンジの女嫌いは

 

「はぁ……。まぁ、良いや。」

 

 どうせ暇だし理子の後処理にかかる。ここ数日常に理子がいるから掃除が大変で仕方ない。全く。帰ったら小言でも言ってやろうかな。

 

 

 コンビニで理子と買い物をしている。

 

「くふふ。キーくんとコンビニデートだぁ!」

 

「そうか。良かったな。」

 

 ハイテンションな理子をいなしながら、タオルやらワイシャツを買い漁る。

 

「キーくん冷たい!今回会計するのはりこりんなんだぞ!タカる以上なんかしらの恩返し求む!」

 

 駄々っ子理子がごねる。

 

「後で払うから良いだろ?恩返しって何だよ。」

 

「うーん。きりりんとの馴れ初めとか教えてよ!」

 

 馴れ初めって。確か武偵殺しの模倣犯の時だったよな。

 

「たまたま探偵科で会って、任務を手伝ってもらったんだよ。」

 

 そんなこと言えないから嘘をつく。

 

「えぇー?ほんとー?キーくん知らない女の子と関わるもの?」

 

 こいつ。確かにそうだけど。りょうと言い何で皆知りたがるのか。

 

「どうでもいいだろ?それより早く会計済ませるぞ。」

 

「分かったよ。……あれれぇ?おかしいなぁ。」

 

 小さな名探偵みたいな事を言って体中をまさぐってる。胸元やらスカートの中ゴソゴソしてるから、思わず目をそらす。

 

「ど、どうしたんだよ。」

 

「財布忘れた!帰る!」

 

「あ、おい!帰って来いよ!」

 

 あいつ恩着せがましいく言っといて財布忘れてやがったのか。危ない危ない。武偵三倍刑で即務所送りになるとこだった。

 

 

 雑誌を立ち読みしながら理子を待つ。

 

 しばらくすると、チビのツインテールがコンビニに駆け込んでくる。

 

 しかし、金色では無い。ピンクだ。入店するなりいきなり天井に白銀のガバメントをぶち込む。

 

「注目!ここには爆弾が仕掛けられてるわ!さっさと騒がず出て来なさい!」

 

 確かあいつは神崎・H・アリアだったか。桐未と初めて会った時に助けられた奴だ。って!

 

「どういうことだよ!説明しろ!」

 

 店内の客はパニックを起こしている。とてもじゃないが綺麗なやり方では無い。

 

「二度言わせるない!さっさと出ないさい!じゃないと死ぬわよ!」

 

 その言葉で恐怖をさらに煽られた客達は我先にとコンビニを出ていく。

 

 店内に残されたのは俺と神崎だけ。

 

「あんたも逃げないの?」

 

「俺は……。一応手伝ってやる。お前一人でやりたか無いだろ?」

 

 理子が来ればさらにありがたい。ここのコンビニはよく使うから爆破されたらたまらない。

 

「しょうが無いわね。あんた弱そうだけと、探すのくらいは出来そうね。」

 

 見下した態度のアリアは、早速爆弾を探し始める。

 

「しっかし、今回のターゲットは誰なの……?」

 

 小声でアリアが呟く。今回?ターゲット?何を言ってるんだ。こいつは。

 

 

 これは好機だ。桐未とキンジを引き剥がすには持ってこい。正直何かしらをジャックしたかったけど、そんなことをする余裕が無いくらいにキンジと桐未が仲良くなっていた。

 

 完全に計算外だ。アリアとキンジの二人をくっつけないと、私は理子になれない。四世のままだ。

 

 だから、お茶でHSSを抑制する成分を洗い落とし、桐未と引き離した。そして、分かりやすく電波を出してアリアを呼び寄せた。

 

 後は、キンジのHSSを発動させて、私が変装して分かりやすく負けるだけ。

 

 そうすればアリアはキンジを離さないはず。全ては計画通りに行くはずだ。

 

 桐未の存在は予想外もいい所だ。邪魔で仕方ない。しかし、ここで殺したとしてもキンジの武偵へのヘイトは上がる一方だ。

 

 なら、桐未を生かしながらアリアとくっつけるしか無い。

 

 

 「あの人」の推理にも出てこなかった桐未。一体何者なのか……。このままじゃイ·ウーに胸を張って帰れない。

 

 自分のためにも組織のためにもここで失敗する訳にはいかない。

 

 お母様、見ててね。きっと私がリュパン家を取り戻して見せるから。

 

 それまで、もう少し待ってて。お母様からもらった名前で生きていくために。四世を抜け出すために……。

 




 ストックが尽きてしまった……。投稿ペースは週一を目指して書いていきます。


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そして芽生える感情

 まずいぞ……。爆弾なんて本当にあるのか?見つかりやしない。それに、そもそも犯人も証拠も見当たらないし、動機も分からない。今回の捜査はかなり無茶があるんじゃないか?

 

 しかし、隣のアリアはここに何かあると確信しているらしく、脇目も振らずブツを探している。

 

 まるで警察犬みたいだ。実際鼻をフンフン鳴らしたりしてるし。ピンクの可愛い子犬だ。しかし、下手に手を出したら噛みつかれるだろうけど。

 

「なぁ、本当に爆弾なんてあるのか?」

 

「なめないで。あたしの直感が武偵殺しの存在を感じるの。」

 

 直感って。そんなもん当てになるもんか。

 

「直感なんて当てにしてこんなことしてんのか?」

 

「あんたもそれに救われたの忘れた?ほら、無駄口禁止。さっさと探して。」

 

 独断専行で進めやがって。一応今は協力してるんだ。多少の説明くらい求めても良いだろ。

 

 だが、話を聞いてくれそうにない。仕方ないか。とりあえずやるだけやってやる。Eランクの俺がな。

 

 パンの棚やお菓子の奥。ジュースの冷蔵庫までとにかく探し続ける。しかし、見当たらない。バックヤードのロッカーは女性の匂いがして諦めたけど。

 

 時間だけが過ぎていく。それが不気味で仕方ない。もし無差別な犯行なら、とっくに爆破してるだろう。目的があるならそろそろ突き付けて来てもいい頃。

 

 しかし、そのどちらも無い。爆弾魔に襲われた現場にしては、静かすぎる。おかしい。何かおかしい。しかし、神崎の様な直感はあいにく俺には無い。

 

 何がおかしいのかなんて分からないまま時間が無駄に流れていく……。

 

 

 変化の時はとつぜんだった。

 

「へーい!まだこのコンビニにいるおバカちゃん達?動いたらドカンと一発だよ?」

 

 小柄な黒髪の女の子。ポニーテールが楽しげに揺れる体と連動している。

 

「誰だ、お前!」

 

 ベレッタを向ける。

 

「あんたが武偵殺しの正体……!」

 

 アリアはさっきとはうって変わり鬼のような形相。親でも殺されたのかって程の殺意だ。

 

「そうかもね。じゃ、君達には死んでもらおうかな!」

 

 理不尽な。俺が何をしたってんだ。これで二回目だぞ。

 

「ふざけんな!テメェは逮捕してやる!」

 

 Sランク武偵が味方についてるってのが大きい。俺一人じゃどうにもならんが、神崎がいれば平気だろう。

 

 その油断がいけなかった。小柄な武偵殺しがいきなり防弾制服に向かいワルサーをぶち込みやがる。

 

 その反動でよろけた俺を人質としてとるためか、武偵殺しが突っ込んでくる。しかし、あろう事か、俺がよろけた際にぶつかった棚から落ちたメロンパンを踏み付けて足を滑らした。

 

 そして、俺にのしかかってきた。

 

 顔にはメロンパンをゆうに超えるサイズの、その、胸が……。

 

 やばい。桐未との生活で忘れかけてたヒステリアモードの感覚がやってくる。

 

「やぁーん。えっちぃ!」

 

 武偵殺しはわざとらしく自分の身を抱いてみせる。

 

 甘ったるい死ぬ程濃い香水の匂いがどんどん鼻腔に攻め込んでくる。あぁ、ダメだ。体の芯に血液が集まるのを感じる……。

 

 

 あれ?無い。

 

 理子達が出ていってからしばらくして、お茶とジュースをきらしてる事に気がついた。おまけに、お菓子も結構消えてる。

 

 絶対理子が消費してるな。許すまじ。

 

 確か理子が財布を持っていたはずだ。今から追いつけば、その分買い足して貰えるかもしれない。

 

 食べ物の恨みを晴らすべく、勇み足でコンビニへ向かった。りょうは白雪と何やらゴソゴソしていたから、放置してきた。大方引き剥がすための作戦会議だろう。

 

 全く。私が何をしたってんだね。まぁ、引き剥がされるのは少し嫌だね。最近話してて結構楽しいし。

 

 果たしてキンジと私でこのバーサーカーを止められるのか。正直無理そう。キンジはとてもじゃないが役に立ちそうない。はぁ。気が重い。

 

 

 コンビニに着いた。が、買い物は到底出来そうにない。中が完全に戦場なのだ。

 

 ヒビだらけのガラス越しにキンジとアリアとかいうSランク武偵が組んでチビのポニテ少女と戦っているのが見える。

 

 しかも、キンジは足でまといどころかアリアをリードしている。明らかにHSSが発動してる。

 

 はぁ……。戦いながらアリアの方を見てはアリアが赤くなっている。口説いてるのか。仲の良い友人が口説てるのを見るのは非常に複雑な気分。

 

 だが、相手も一歩も引かない。今のキンジはSランクとも引けを取らない。つまり、Sランク武偵二人と一人で戦ってるわけだ。

 

 もちろんキンジは女性相手に本気でやったりはしないが、それでも相当強いはずだ。

 

 只者じゃない。加勢しようか。しかし、私じゃどう考えたって足でまとい。やっぱり帰ろうか。

 

 しばらく迷って、やはり帰ろうと判断しコンビニに背を向けた私の背後で、ガラスを突き破る音、ついで誰か人がコンクリに叩きつけられる音。

 

 何事かと思えば、後ろで転げてるのはキンジだ。受け身をとってはいるけど、そこそこダメージはありそうだ。

 

「あんた何してんのさ。」

 

 平静を装って話しかけるが、状況が状況だし、何より相手はヒスキンジだ。緊張する。

 

「ははっ。誰かと思えば桐未じゃないか。こんなとこで奇遇だな。」

 

 すっくと起き上がるキンジはいつもとは違う、少し気取った喋り方。表情に根暗な感じではなく、自信を感じる。

 

「奇遇って……。どうしてこんなことなってんのさ。」

 

「分からないね。そこのかわい子ちゃん二人に巻き込まれちゃってね。」

 

 キンジがチラッと見た方には、こちらへ向かってくる黒いチビと、追いかけるアリアが見えた。

 

「あれぇ?お仲間かな?まずはそっちからだねぇ!」

 

 なんと、そのチビがこちらにワルサーを向けていた。あ、ダメかも。避けられない。

 

「危ないね。こっちへ行こうか。」

 

 キンジが私を軽々持ち上げて、お姫様抱っこで駆け出す。追いついたアリアがチビを牽制しているおかげで、どうにか近くの建物の影に隠れる。

 

「な、なにするのさ。やり方考えてよ。」

 

 下ろされた私は、顔が熱いが、照れてるので何か言われるのは癪だから八つ当たり気味に聞く。

 

 だが、キンジは向こうを伺いながら、ずっとこちらを見ようとしない。私も作戦を練る為に向こうを見ながら聞いてるから顔は見れないが、聞こえてない訳じゃないだろ。

 

 チラッと見ればキンジの耳は真っ赤。ヒスキンジらしくないな。

 

 いや、待てよ。もしかしてHSS切れた?私と濃厚接触したから。

 

 そうとしか考えられない。

 

 お姫様抱っこのショックがデカかったか。すまない、私もだ。

 

「ねぇ、HSS切れたのは分かったから。このままで勝てるの?」

 

 変な空気から脱するため、逃げ道を作ってやる。私も居心地悪いし。

 

 少し名残惜しいけど。

 

「あ、あぁ、大丈夫……じゃないかもな。」

 

 そりゃそうだ。アリアとやり合うチビはどう見たってふざけている。アリアは本気なのに。こちらに来るのも時間の問題だ。

 

「どうする?私も少しなら手伝えるかも知れないし。あいつの癖とかは大体把握出来たから。」

 

 そもそもの力が足りないからアリア程では無いが、ある程度はやれるはずだ。だが、

 

「それはダメだ。桐未は戦闘員じゃないだろ。こんなとこに入ればじきにあいつは桐未を見つけるぞ。」

 

「そんなこと言ってる場合?」

 

「戦闘員でもない女子を死闘に巻き込む程俺は落ちちゃいない。手伝うなら、仲間を呼んでくれ。」

 

許可は降りない。キンジから覚悟のようなものを感じる。HSS無しで戦おうってのか。死ぬかもしれない強敵相手に、しかも、女子を守ろうと。

 

 かっこいいじゃん。キンジの癖に。非ヒスキンジにだって信念はあるんだな。流石正義の一族。

 

 認めたくないが、死ぬ程臭い言い方をすれば、キュンとした。本当にビックリだ。

 

「そ、そう。じゃ、死なないでね。」

 

「遠山家の人間はそう簡単には死なない。安心してくれ。それじゃあ、俺が行ったら、それに合わせて桐未も出ろ。」

 

 アリアがそろそろピンチだ。キンジのカウントで、全力で寮へ戻る。白雪やらりょうがいる自室へ向かうんだ。

 

 

 結論から言うと、死人は出なかった。私がりょうと白雪を連れてコンビニへ向かうと、ボロボロのキンジとアリアが地べたに寝そべっていた。

 

 どうやらキンジが出てしばらくしたらアリアの一撃が入ったらしく、逃げて行ったそうだ。恐ろしく逃げ足が早かったらしく、追いつくことは出来なかったそうだ。

 

 今回分かったのはAHSSの即効性くらい。あと、キンジは思ったより出来る子だってこと。

 

 あの後キンジと目が合わなかった。てか、合わせられなかった。私も。

 

 目が合うとさっきのセリフが脳裏をよぎるから。いやぁ、お恥ずかしい。もしかしたら意識しちゃってるのか。私は。明日からどうしようかな……。




 恋愛タグ、動きます。

 恋愛脳の私的にはここからが本番です。準備が整って投稿頻度上がっちゃいそうですね。


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意識の変化

 りこりんが報われて、かつ桐未とキンジが平和に仲良くなるルートってどんなのなんだ……?結末に辿り着く前に考えねば。


 頭の上にハテナを浮かべたりょうは帰宅し、キンジは白雪に連れられ病院へ向かった。アリアは不思議そうにチラチラキンジを見ていた。恐らくHSS時と非HSS時の実力の違いについて疑問で溢れてるのだろう。

 

 そして、私が家に帰ろうとすると、何故が理子がついてきた。

 

「あのさ、理子の家って私の部屋じゃないよね。」

 

「いやいや、あそこははりこりんの快適な別荘だと思ってるよ!」

 

 別荘とな。自分の家と距離にして数百メートルあるかないかの別荘か。オマケに他人が住まう狭い部屋だ。

 

「なら料金とろうかな。」

 

 お菓子も飲み物もいつもの三倍消費するんだから。理子は太ってないのにお菓子は馬鹿みたいに食べるのだ。

 

「えぇー。そこは散髪代ってことにしといてよー!」

 

 うーん。確かにそれはそうかもな。髪切るのって地味に高いし、理子の散髪ってかなりクオリティ高いし。

 

 押し売り販売と言えばそうだけど、顧客が満足してるなら問題無いだろう。

 

「まぁ、そう思えば良いかな。」

 

「いやったー!晴れてきりりんハウスは理子の部屋だー!」

 

 疲れてとぼとぼ歩く私を置き去りにして理子は駆け出して行った。行先は多分私の部屋だ。いや、さっき理子の部屋になったらしいから、私の部屋でもない。最早訳分からん。

 

 やれやれって感じだ。理子はすごく子供っぽい。だから一緒にいて退屈では無いけど疲れる。

 

 そういえば、この生活が始まる時も同じことを言った気がする。最近一日が長すぎて遠い昔の記憶になりつつあるけど。

 

 もしかして老けてるんじゃなかろうか。だとしたら、理子に若さを吸われてるのか。理子も侮れないな。

 

 

 

 

 

 部屋に戻ると、理子がこの部屋最後の秘蔵のお菓子である板チョコを咥えながら、自前の黄色いPSPをいじっていた。

 

「きりりんおそーい。先にひと狩りしちゃってるよー。ほら、荷物置いてきりりんも参加しよ!」

 

 後ろから覗くと、明らかに上等な装備に身を包んだ可愛らしい理子のアバターが巨大な神々しい龍と戦っていた。

 

「へいへい。分かったよ。」

 

 私も結構やりこんだゲームだから、きっと理子と一緒に戦えるだろう。

 

 理子がカメラを仕掛けてたゲームの箱から黒のPSPとカセットを取り出してリビングに戻る。

 

 理子がいつの間にか寝そべってソファーを戦力してたから、向かいのソファーに腰掛ける。

 

 今回は古龍と呼ばれるバカでかい龍の討伐だ。

 

「ねぇきりりん。さっきキーくんと一緒に戦おうとしてたんでしょ?」

 

 白雪かりょう経由で聞いたのか。

 

「そうだね。止められたけど。」

 

「なんで止められたの?キーくん弱っちいじゃん。少しでも助力があった方がいいだろーに。」

 

「いやさ、キンジ曰くこんな危険に無関係な女子は巻き込めないとさ。全くカッコつけちゃってさ。」

 

 思い返したらまた恥ずかしさがぶり返してきて、少し熱くなる。ウブすぎるだろ。私。経験少ないのはそうなんだけどさ。

 

「ふーん。キーくんやるねぇ。ちなみに、その時キーくん変じゃなかった?」

 

 なんだろ。いつになく理子の質問が多い。

 

 キンジなんて常に変なやつではあるけど、HSS発動してなかったから変ではないな。

 

「別に?いつも通りだったよ。」

 

「そうか……。あっ、やった!倒した!きりりんやったよ!でも、なんか早くない!?」

 

「まぁ、ある程度やってるからね。」

 

 ここで言うある程度とは、それぞれの属性の装備の最適解を集める事だけど。理子は汎用性の高い武器を使いまわしてる感じだから私よりかかるんだな。

 

「相変わらずきりりんお強いねぇ。」

 

「まぁ、そうかもね。」

 

 ほぼ会ってない相手だけど、例の武偵のシュミレーションでのプレイを見てのことだろう。

 

「よし。ゲームは済んだ!じゃー帰るね!また明日ここで待ってるね!」

 

 口の周りにチョコをつけたままPSP片手に部屋を出ていく。思いつきで行動するのは良いけど、読めなすぎて圧倒されがちになるな。

 

「はいよ。またね。」

 

 既に出て行っちゃったから聞こえてるかは分からないけど、一応送り出す。また明日ね、か。嬉しいね。何だかんだ理子といると楽しいし。

 

 

 

 

 

「まずいなぁ……。」

 

 部屋に戻り開口一番不意に口からもれた言葉は焦燥感を帯びていた。

 

 そりゃそうだろう。引き離したい二人がたった数日で思ったより仲良くなってて。

 

 いざアクションを起こしてもむしろ仲を深めるだけ。対策方法が分からなくなって来てしまったんだから。

 

 まさかヒスってないキンジに桐未が落ちるとは。

 

「あはは……。はぁ……。悩んじゃダメ!りこりん頑張ります!」

 

 鏡に向けて敬礼をしてみせる。しかし、不安は一向に無くなりそうにない。

 

 心を落ち着けるため、頑張る決意をまた固めるため。

 

 胸元を探ると、出てくるのは十字架の飾り。今亡きお母様からのプレゼント。

 

 これがある間はまだ一人じゃない。私には力がある。この力ならきっとアリアだって楽勝で勝てる。そうだ。私はお膳立てしてあげてるだけだ。

 

 そんなに悩むことは無い。私がアイツを越えるための準備でしかない。

 

 最悪キンジ以外のパートナーを探すのもなしではない。選択肢はいくらでもある。まだ思い詰めるには早すぎるってものだ。

 

「さぁ、やるぞ!りこりん出撃!」

 

 まずは桐未の情報をもっと得ないと。そのために別荘は手に入れた。次は弱点を探さないと。

 

 

 

 

 

 翌朝。

 

 調子はぼちぼち。カーテンの隙間からは眩しい朝日が部屋に入り込んでいる。

 

 全く。憎くて仕方ない。なんで朝が来てしまうのか。昨日の事件なんて無かったかのように明日が来てしまうことに激しく抗議したい。

 

 昨日無駄に疲れた分寝かして欲しい。

 

 まぁ、誰に抗議すればいいのかなんて分かったもんじゃない。現実逃避は無駄でしかないことは最近知ったのだ。逃げられるならとっくにキンジとも理子とも関わってないだろうからね。

 

 朝ご飯を食べ終わって、洗面台で顔を洗ったりスキンケアに勤しんだりしていたら、重大な事実に気がついてしまった。

 

 いつもより十分遅いのだ。なんでだ?起きたのはむしろいつもより早いのに。遅刻寸前にも関わらず深く考え込んでしまう。そう、大事なのは失敗した後の対応だ。

 

 色々確認してまわったら、鏡に映る自分の姿がいつもとは全然違っている。

 

 髪はいつもよりストレートだし、まつ毛やまゆ毛も整っている。ノーメイクだから大きく変わる訳じゃないけど、小綺麗になっている。無自覚に丁寧にやっていたのかもしれない。

 

 何故かって?言わせないでよ恥ずかしい。

 

 

 

 

 

 いつもより遅いし流石にキンジはいないかな。少し残念に思いながら小走りで階段を降りて、通学路に出ようとした時。

 

「おう、遅いぞ。」

 

 キンジに呼び止められる。そう、いないと思ったあのキンジだ。

 

「ちょっと。びくっくりさせないでよ。」

 

 思わず飛び上がってしまう。

 

「びっくりも何もこれからしばらく頼むって言ったろ?」

 

「そうじゃなくて。遅かったら行っててもいいんだよ?こんな律儀に待たなくたって。」

 

「こっちから頼んでんだからそんなことしねぇよ。それより連絡先交換しないか?こういう時あった方が良いだろ?」

 

 いつになく積極的だな。まぁ、確かにあった方が便利か。

 

「はい、どうぞ。」

 

 メアドを見せる。私の異様に少ない連絡先が潤うね。私の携帯にはりょうと親と、今増えたキンジと、あと一人しかいない。

 

 チラッと覗いたキンジは白雪とか理子とか結構いやがる。どうやら仲間ではなかったらしい。

 

「それじゃ、行くか。」

 

「はいよ。」

 

 適当にフラフラ歩き出す。

 

 

 

 

 

 今日一日平和に終わった。昼食はりょうと白雪が作戦会議なる謎の会合でいなくなったからキンジと二人で雑談しながら食べたし、帰りもたまたま居合わせたから一緒に帰った。

 

 基本休み時間はりょうと、残りはキンジと過ごしていた。この事実一切の問題は無い。

 

 しかし、私自信には大変由々しき問題が発生していた。

 

 あんまり目を見てない。てか見れない。男慣れしてないの事が露呈した瞬間だ。

 

 キンジのあんな言葉一つでこんな意識しちゃうのが何よりの証拠。

 

 キンジは私をそういう目で見てないから女慣れの練習になるんだろうが、私は男慣れ出来そうにない。

 

 はぁ……先が思いやられる。こんなことならAHSS要らなかったような、でも、これがなかったらキンジとも関わらないわけだし。

 

 難しいね。全く。




 しっかしあれですね。私の小説は弱小も良いとこですね。お気に入り下さっている方の小説やワード検索で出る小説を見たりするんですが、少ない話数でUAもお気に入りも多いですね。

 いやぁ、難しいですね。目指せUA一万超え!


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お出かけ?緊張しない訳ないじゃん

 キンジの事件に巻き込まれた月曜日。キンジと一緒にいることが確定した火曜日。前髪を理子にぶった切られた水曜日。近所のコンビニが再起不能になった木曜日。そして、キンジを意識して目を見れなかった今日。

 

 怒涛の一週間を乗り切った私に待ってるのは土日だ。安息の二日間。家でゲームして二日間終わるはず。

 

 しかし、私の携帯に届いた一通のメールがその予定を崩しやがった。

 

「明日どっか行かないか?」

 

 短い文章の送り主はキンジ。忘れがちだがキンジの目的は女慣れだ。

 

 それを受けるとは言ったし、暇な時と言った以上今回は適用されるはずた。悔しいけど。

 

「いいけど。どこ行くの?」

 

 こちらも短く返信する。

 

「どこに行きたい?俺には女子の行くとこが分からん。」

 

 ほう。奇遇だね。私も全く分からない。しかし、ここで丸投げしてもしょうがない。

 

「デパートとか?色々あるし困らないでしょ。」

 

「じゃあそれで。明日朝九時下で待ってるぞ。」

 

 誤魔化しの要素の強いデパートを選択。これなら困ることも無いだろう。

 

 安心して携帯を閉じようとした時、携帯から大音量の曲が流れ始める。

 

 電話だ。しかも、知らない番号。

 

「もしもし、芦捷ですが。どちら様ですか?」

 

「りこりんでーす。ここで理子Pから課題でーす。」

 

 げぇ。なんだろ。厄介事に変わりはないだろうけど。

 

「デパートで服一式揃えて来て下さい!もちろんきりりんが可愛いと思うものを!じゃ!頑張って!」

 

「あっ、ちょっ……。切れてるし。てか、なんで出かけること知ってんのさ。もう訳分からないし。」

 

 ブツブツ愚痴を呟きながら、今度こそ携帯を閉じる。

 

 まぁ、やらなきゃ写真が危ないし。やるしかないのか。全く。どこで盗聴してるのか。不思議で仕方ないよ。

 

 

 

 

 

 翌朝。ジーパンに無地の白シャツという最低限の格好に親から引き継いだ革モドキの肩掛けバックを持ってキンジを待つ。

 

 こんなんだから理子に服買えって言われるのか。

 

 メイクもするべきらしいが、生憎やり方をしらない。親が教えるのはAHSSの事ばっかりだし、私も興味があまりないから調べなかった。今度理子に聞いてみるか。

 

 時間は八時五十分。一応早めに部屋を出た。

 

 本日は晴天。雲一つない透き通る空は綺麗だ。

 

 ぼーっと空を眺めて約五分。徒歩でキンジがやってきた。

 

 ジーンズに前を開けた黒いシャツ。まさかのジーンズダブりはさておき。

 

「待たせたか?」

 

「いや、待ってないよ。それじゃ行こうか。」

 

 二人揃って歩き出す。はたから見たらこれはデートと相違ない。少し気付くのが遅かった。いや、気付きたくなかったな。そう思ったら少し緊張する。

 

 

 

 

 

 

 

 バス経由で武偵校の敷地を出た私達が向かったのはアクアシティお台場。

 

「……なにするか。」

 

「分からないね。基本家だし。」

 

 しかし、入口で二人立ち尽くしている。だってこんとこ来ないし。

 

 一人なら本を漁ったりいくらでもやることはあるけど、二人でとなると途端にハードルが上がる。

 

「あ、そだ。服買うのに付き合ってよ。理子が買って来いってさ。」

 

「そうか。俺にはそういうのが分からないが、行くなら付き合うぞ。」

 

 えっ。可愛い服と思うを着てキンジに見せるってことか。しかも、遠回しに見て見てって言ってるようなもんじゃん。センスの欠如やらなんやらで恥かくこと確定じゃん。

 

 完全に何も考えて無かった。買い物を一緒にするってこういう事なのか。初知り。

 

 やば。激しく緊張してきた……。こんな辱め滅多に無いぞ……。

 

 

 

 

 

 やって来ましたはオシャレな服屋。来たことも来る気も無かった。店員さんの笑顔が恐ろしい。

 

 キンジも女性向けの店だもんで浮いてしょうがない。

 

「俺は外で待ってるから。終わったら呼んでくれ。」

 

 周りの視線に耐えかねたキンジが店外へ出ていく。恥をかかなくて済んだのは良し。孤立無援はピンチ。

 

 さぁ、この局面どうする。最適解はたった一つ。

 

「あの、すみません。えっと、あの、私に似合う服とかありますかね……。」

 

 店員への協力要請。人生支援が得られないなんてそう無いのだ。

 

「はい!もちろんございます!では、こちらへどうぞ!」

 

 明るさ全開な営業スマイルのオシャレな店員が、店の奥へと私を連れ去る。

 

「どのような服をお望みで?」

 

 どのような?知らん。こういうのって何言えば良いの?誰か教えてくれないかな。

 

「えっと、そうですね……。あまり目立たないやつが良いかな……。」

 

 明らかにフワッとした答え。最早店員に聞けるレベルですら無かったのか、私。

 

 しかし、相手はプロだ。

 

「では、予算の方は?」

 

「えっと……。」

 

 実は魔境に乗り込む為に貯金をいくらか下ろしてある。

 

「五万程ですかね……。」

 

「でしたら、結構自由に組めちゃいますね!では、いくつかお持ちしますので、少々お待ち下さい。」

 

 どうやら、こんなに薄っぺらい情報でも服を選べるらしい。恐るべし。

 

 

 

 

 

 携帯をいじる気にも周りの服を見て回る気にもなれず、固まったまま過ごすこと五分。

 

 何着も抱えた店員さんが帰ってきた。

 

「これらがまとめて五万円程ですよ。お客様あまり服をお持ちでないようですので、一気にいくつか買ってみてはいかがでしょうか。」

 

 まさかそこまで分かるのか。まぁ、確かに一つだけ良い感じの持ってたらそれに依存しちゃいそうだしな。

 

 よし。さっさと試着して決めてしまおう。キンジ待たせちゃ悪いし。

 

 

 

 

 

 結局全部買ってしまった。五セットだから一セット一万円程。

 

 そのうちの一つを現在着ている。店員さん曰く、

 

「せっかく男の人と出てるんですし、オシャレしてみたらどうですか?」

 

 との事。一理ある。着慣れない服なものでソワソワして仕方ないけど、コソコソ店外に向かう。

 

 店内の鏡に映る私は、朝と見違える程のオシャレさん。

 

 シンプルな白いワンピースだ。長い丈で足が見えない分清楚なイメージを受ける。

 

 いつも根暗な表情だが、服のおかげで少し明るくなれる。

 

 いや、明るいワンピースだから明るくなったのか。

 

 どちらにせよ、似合っていると思う。流石店員さんだ。

 

 欲を言えば、私自身が黒髪が良かったな。そしたらもっと似合ったのに。まぁ、それは言っても仕方ない。

 

 店の外へ出てみたが、キンジの姿は無い。携帯を開いて見ると、周りの視線が気になるからフードコートにいる旨のメールが来ていた。

 

 まぁ、そりゃそうか。私でもあんなのがいたらジロジロ見ちゃうし。

 

 はぁ……緊張する。私的には似合ってると思う。だけど、キンジがどう思うのか……。

 

 

 

 

 

 フードコートで私の分まで席を陣取ったキンジが手を振っていた。

 

 小走りでそちらへ向かうと、開口一番キンジが放った言葉は、

 

「そ、そのまま着てきたのか?」

 

服への評価では無かった。ちぇっ。

 

「悪い?べ、別に私の勝手でしょ?」

 

「いや。悪くは無いんだけどな。」

 

「それで?」

 

 感想の催促だ。待ってるだけでも緊張しちゃうから。

 

「似合ってるぞ。そのワンピース。」

 

 足りない。もう少し具体的性はないのか。

 

「フワッとしてるね、また。」

 

 何か無いの?と遠回しに伝える。求めるのは一言、それだけだ。

 

「えっとだな……。あれだよ。」

 

「はっきり言ってよ。可愛い?可愛くない?」

 

 いつもならこんな事絶対言えないだろうな。だけど、服を変えて少し自信が出てきた。ぶっちゃけ後悔はするだろうけど。

 

「……可愛いよ。全く……。」

 

 言わされた、て感じ。でも、やった!引き出した!

 

「でしょ?」

 

 思わずニヤけてしまう。良かった……。とりあえず恥はかかなかった。

 

 可愛いって何年ぶりに言われたっけ。いや、男子からは初だ。

 

 これならオシャレも悪くないのかな。理子には感謝しかない。

 

「そ、それでどうするんだ?この後。」

 

「ふふふ……。っはい?あ、この後ですか。行きたいとことかある?」

 

 浮かれた私が呼び戻される。私は用件は果たした。次はキンジの番だろう。

 

「やりたいこと、か。とりあえず俺は腹が減ったな。」

 

「じゃあ、食べながら考えようか。」

 

 心臓バクバクで心は上の空だ。嬉しいやら恥ずかしやら。だが、七周くらい回って平常心。明日にはキンジの顔だって見られないだろうけど、今ははっちゃける。

 

 せっかくの休日だ。楽しんだ者勝ちだからね。




 週一投稿ギリギリ滑り込みですね。非常に申し訳ないです。

 多少言い訳すると、一次創作の短編書いてたのとリアルが忙しすぎたのが原因です。

 そして、勢い削がれてますが、本編について語りたいです。

 桐未さん、服装変えたりしてめっちゃ浮かれてます。明日にはどうなってるのか、期待して下さい!楽しい予感しかしねぇ。

 活動報告はしましたが、更新少し遅くなっていくかも知れません。

 追記

 読み直して編集致しました。

 (2020/09/02 20:17:45)


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憂鬱な週明け

 お久しぶりです。

 数ヶ月ぶりの更新にお気付き頂きありがとうございます。

 ここ数ヶ月部活の大会やら色々ありまして、非常に多忙で執筆疎かにしていました。

 オフシーズン到来したので、ここから投稿ペースは上げていきますので、どうかご容赦お下さい。


 ジリリリ!

 

 部屋中に響き渡る目覚まし時計の鳴き声で目が覚める。

 

 本日週明け月曜日。憂鬱なことこの上なし。

 

 ……いや、そーじゃなくて。

 

「荒れてるね、この部屋。」

 

 二段ベッドが二つあるこの部屋は足の踏み場がただでさえ無いのに、何やらあまり見覚えのないオシャレな服が散らかっているせいで、布地踏むこと不可避だ。

 

「ふーむ。昨日の事がさっぱり思い出せない。なんなら一昨日もだね。」

 

 記憶はキンジとどこに食事に行こうか話したところで終わっている。

 

 まさか、お持ち帰りされたりしたのだろうか。

 

「……いやいやまさか、あいつに限ってそれは無いか。」

 

 なに、別に大したことは無いだろう。

 

 しょうがない。ゆっくり思い出そう……。

 

 

 

 

 

 まず、土曜日。

 

 結局サイゼリアで安く済ませた後、本屋で、

 

「これ面白そうだね。」

 

とか、

 

「これ絶対駄作じゃん。」

 

とか楽しく過ごした。

 

 うん。ここまでは普通だ。特に何も無かった。強いて言うならキンジがよそよそしかった程度。

 

 帰りだって上機嫌な私が若干キンジを圧倒してたくらい。

 

 ……その時点では楽しい一日だった。そんだけ。

 

 帰っても上機嫌で、珍しくちゃんとした料理をしたり買った本を読んだりしていた。

 

 充実とはこの事を言うのだと思っていた。

 

 問題はその翌日である。

 

 さて問題です。

 

「この服にあってる?」

 

 だとか、

 

「もっと褒めて!」

 

とか彼氏でも無い男子に聞いたらどうなるか。

 

 まぁ、理子ならやるんだろうけど、私みたいな陰キャには到底不可能である。

 

 その不可能をハイテンションで押し通した私は、赤っ恥を通り越して生涯最大の汚点とかした。

 

 もう、思い出すだけでも赤面状態。顔に火ついてんじゃないの?みたいな勢い。

 

 最早キンジと顔合わせなど不可能だ。いっその事飛び降りてしまおうか。とすら思った。

 

 しかし、そんなことで死ねる程向こう見ずな性格ではないから、思いとどまる。

 

 何かをしなきゃ落ち着かないから料理洗濯掃除その他諸々家事に勤しんだ。しかし、効果無し。

 

 その時たまたまあった……というか置きっぱなしだったオシャレな服を着てみた訳だ。

 

 もちろん楽しかった。ただ、誰かに褒めて欲しくなって、昨日を思い出して、服は結局脱ぎ捨てた。

 

 後はふて寝して今に至った。

 

 

 

 

 

「……記憶は相変わらず完璧だね。はぁ、今回ばかりは憎いよ、この記憶力。」

 

 思い出して得か損かと聞かれれば大損だったが、状況の把握は武偵の最重要事項だ。

 

「選択肢は二つ。キンジから逃げて登校するか、学校をフケるかだね。」

 

 もちろん楽しく一緒に登校は既に不可能に近い。

 

「恨むべきは理子だね。そろそろ写真奪還戦にでも乗り出すしかないのかね。」

 

 ブツブツ独り言を呟きながら学校の支度をする。

 

 武偵校の教師は私がズル休みしたと分かれば体罰の域を超えた暴力をふるうこと間違いなしだ。はなっからフケるなんて選択肢は成立してなかったりする。

 

 昨日作りすぎたハヤシライスをとポテサラを胃に収め、洗面所で洗顔歯磨きを済ませる。

 

 時計を見れば既に出なければならない時間だ。

 

 多分キンジは今日も下で待っている。しかしながら、私は非常に会いたくない。

 

 秘密がバレたあとの親くらい会いたくない。

 

 だが、背に腹はかえられぬ。

 

「拳銃よし。ナイフよし。」

 

 記憶という回避攻撃共に超有利を取れる最終兵器があるのだ。

 

 ちゃんと武装すれば追い払えるだろう。

 

「では、任務遂行しますか。」

 

 気分はさながら凶悪犯罪者の根城へ強襲のよう。

 

 まぁ、強襲科ではないからやった事ないけど。

 

 

 

 最近存在意義に疑問を抱いている鍵を閉め、そーっと階段を降りる。

 

 拳銃のホルスターに手をかけて辺りの様子を伺いながら寮を出たのだが、

 

「あれ?来てない?」

 

誰もいない。拍子抜けもいいとこだ。

 

 ガラケーにはメールは特に来てなかったが、どうせ後でドバっと来るんだろう。

 

 五年後くらいにはメールのラグも無くなるのかね。

 

 まぁ、とりあえず一安心だ。

 

 臨戦態勢を解いて普通に登校しようと歩みを進めようとした、正にその時。

 

「きーちゃーん?何か言うことは無いかな?」

 

 殺気に近いどんよりしたムードが背中へ襲いかかる。

 

 それが誰なのか、言うまでもない。

 

「りー。悪かったよ。でも、勝手に連れてく訳にはいかないでしょ?」

 

 黙って休日に出かけた事にへそを曲げてるらしい。

 

「でもさ、でもさ、きーちゃん私とはあんま出かけたたがらないよね?」

 

 確かにインドア派の私は普段外に出ないし、パーソナルで何も無い家には人は呼ばない。

 

 だから、自然と一人で過ごすし、りょうと遊ぶ事も少ないのだ。

 

「それはほら、学校で一緒に居るだけでも楽しくて満足しちゃってるから。」

 

 もちろん嘘ではない。一緒に居れば楽しいし、大事な友達だと思ってる。

 

 しかしながら、多少疲れるのだ。

 

 根っからの陰キャたる私は、陽キャのりょうのテンションについていけないことがある。

 

 それに、趣味だって全く違う。

 

 だから、一人で過ごす事が多いのだ。

 

「じゃあ、アイツとは一緒に居てもつまらないの?だとしたら一緒に出かけることなんてないでしょ。」

 

「それは、ほら、あれだよ……。」

 

 まずい。毎回思うのだが、キンジが関わるとりょうがなかなか引き下がらず、厄介になるのだ。

 

 嘘を吐く、あるいは誤魔化そうとすると、大抵押し負ける。

 

「じゃあさ、もっと楽しくいこーよ!」

 

「楽しく?」

 

 なかなか難解な提案に思わず聞き返してしまう。

 

「そ。来週出かけよ!一緒に!満足の向こう側へ!」

 

 そう来たか。確かに行きたくないというニュアンスには聞こえないだろう。

 

 りょうは察しが良いから分かってるかもしれないが、言われてない以上誘っても私は嫌な顔出来ないはずだ。

 

 まぁ、何より嫌ではないのだ。

 

 毎日と言われたら流石にちょっと遠慮させてもらうが、たまにならばっちこいだ。

 

「分かったよ。りょうも予定空けときなよ。」

 

「うぉっしゃー!じゃあ、昼間買い物行って夕飯はきーちゃんの部屋で食べよう!」

 

 相変わらず過剰なレベルで喜ぶな。

 

 私なんかと遊んで楽しいのだろうか。

 

 ……もちろん嬉しいけどね。

 

「しょうがないね。夕飯はハンバーグで良い?」

 

「もちろん!私も手伝うよ!」

 

 

 

 ちなみにりょうと歩きながらガラケーを開くと、

 

「体調大丈夫か?お大事にな。」

 

 と来ていた。

 

 もちろん私は快調だし、そんな情報が流れる原因はそう多くは無いだろう。

 

 そう、例えば私とキンジが一緒に行くことを阻みたい人物とかだ。

 

 今横で笑顔で話しているりょうが追い払ったのだろう。

 

 私が体調不良だから遅刻するかも、とか。

 

「ねぇ、りー。キンジ朝来てた?」

 

「ううん。来てないよ。なんで?」

 

 本当に心当たりがなさそうな表情でとぼけて見せる。

 

 こうなると、崩すのは難しそうだ。

 

 そのくらいのワガママはまぁ、許してあげようか。最近冷たくしちゃってたし。

 

 

 

 その時、桐未は気付いていなかった。後ろの影でほくそ笑む理子の姿に。

 

 キンジにデマを流した張本人の、姿に。

 

 

 




 読書の恩恵か、ずっと書きたいものを考えていたおかげか、文章が読みやすくなった気が勝手にしてます。

 エタらない宣言しておいて半ば逃走していたこと本当に申し訳ないと思います。


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りょうの夢

 急いで書いたから誤字多かもしれないです……。是非見つけたら教えて下さい!


 雲一つない晴天の気持ちいい朝。

 

「それでさ、私言ってやったのよ!綿棒は剣道じゃ最弱じゃんって!」

 

「確かに。考えるまでもないね、それは。」

 

 一体全体どうしてこの話題になったのかはさて置き、やはり気のおける友達とゆったり喋るのが一番気楽で楽しい。

 

 背伸びしてデートだと意気込むよりもよっぽど幸せな事だと思う。

 

 気を張らなくていいし、恥をかくことも無い。

 

「ねぇりー。やっぱ私男子苦手かもしれないわ。」

 

 前々から分かっていたことではあるが、再認識させられた気がする。

 

 低コミュ陰キャには高すぎる壁を感じさせられた。

 

 一説によると単なる自滅かもしれないが。

 

「うーん。きーちゃんはなんだかわざと人と壁を作ってた感じがするからねー。きっと慣れてないんだよ。」

 

 多分、だけどね。と付け加えたりょうの指摘はごもっともだ。

 

 元々目立たない事を目標にしていた私は、他人となるべく距離をとっていた。

 

 そのせいで人付き合いの仕方などとっくに忘れてしまっていたのだ。

 

「だから私はキンジが嫌なんだよ?私はきーちゃんに相手にされないから頑張ったのに、アイツはいきなり押しかけてきてきーちゃん満更でもなし。これは流石に不満だよ!」

 

 ここぞとばかりに文句を言うりょうは、何だかんだ初めてキンジが嫌いな明確な理由について話した気がする。

 

 なるほど。確かに言い分はよく分かる。

 

 逆の立場でも同じことを言うだろうな。

 

 しかし、逆の立場ならりょうも同じことを言うだろう。

 

「それは悪かったよ。いきなり波長の違う人に話しかけられたら流石に戸惑っちゃうって。」

 

 例えるなら準備運動無しで全力疾走するような感覚だ。

 

「波長が合わないって酷い!まぁ、確かにそーかもね。でも、何だかんだ根本から違うって訳じゃない気もするんだよねぇ。」

 

「まぁ、じゃ無きゃ一緒に居ないよね。」

 

「そーじゃなくてさ。なんか、きーちゃんも本当はもっと明るい子なんじゃないかなぁって。」

 

「まさかぁ。そんな訳ないよ。」

 

 そんな明るい子がちょっとやそっとのことじゃ根暗ちゃんにはならない気はするが、りょうの勘は割と当たるのだ。

 

 もしかしたら人を避け始めるまではもっと明るい子だったのかもしれない。

 

 いや、記憶のある限りでは元から暗い子供だった気がする。

 

 それは母親も祖母も皆そうだったから、最早遺伝だと思う。

 

 父親は真逆の明るいヤツだから何とも言えないけど。

 

「まぁ、何でもいいや!今日も一日よろしく!」

 

 相変わらずテンションの高いりょうがハイタッチを求めてくる。

 

 それにパチンッ!と応じてあげる。

 

 やっぱりあれだね。ここまで大事にしてもらえると嬉しいもんだね。

 

 今週はキンジ<りょうの気持ちで生きていこう。

 

 キンジには会いたくないし。

 

 

 

 その後もグダグダ話しながら歩いていたのだが、ふと疑問に思ったことがあった。

 

 それは、どうしてりょうが私に執着するのかだ。

 

 前にも何やら匂わせてたし、今回だって頑張ってまで嫌がる人と関わろうとはしないだろうし。

 

 りょうは聞かれると少し寂しそうな顔をするから非常に聞きにくい。

 

 だから、うやむやのままなのだ。

 

 そのうち聞きたいと思う反面、本人に任せたいという意思もある。

 

 まぁ、原因がなんであれ今楽しくやっている。それだけで十分な気がした。

 

 

 

 ここはどこだろ?

 

 少しモヤのかかったような、うっすらとした意識の中で、辺りを見回す。

 

 ついさっきまで教室にいたはずなのに、気がついたら武偵校の校舎の外にいた。

 

「あ、そっか。夢だ。」

 

 別に大したことじゃない。

 

 授業に飽きた私は、きーちゃんの制止を振り切り……というか耐えられなくなり寝落ちしたのだ。

 

 夢だと分かれば気は楽だ。

 

 自覚しているものも珍しいが、楽しく探検していこうじゃないか。

 

「さて、どこいこーかなっ!」

 

 何故か校舎にはあまり人がいないから、正にやりたい放題できる。

 

 試しに教務科にでも行って見ようかね。

 

 新しい発見があるかもしれない。

 

 何だか楽しくなってきた私は、軽い足取りで教務科に向かった。

 

 

 

 なんということか。

 

 私は過去に遡ってしまっているらしい。

 

 いや、夢の中だから何が起きても不自然ではないのだが、目撃してしまったシーンがあまりにも衝撃的だったからだ。

 

 なんと、見慣れた同級生達が各々の中学校の制服を着て校舎前にたむろっている。

 

 それに、なぜだかみんなソワソワしている。

 

「あ、分かった!受験当日じゃん!」

 

 と、閃いた私が場違いなまでに大声を出したにもかかわらず、誰も私には気が付かない。

 

 不思議に思った私が試しに同中の人の前でコサックダンスを披露して見せたが、完全にスルーだ。

 

 どうやら、この夢では私は誰にも見えないらしい。

 

 いや、あんまり関わりの無い奴が目の前でコサックダンスし始めたら思わずスルーしてしまうかもしれない。

 

 私だったら絶対関わりたくないよ、そんな奴。

 

 しかし、少しも表情が動いてない。目を逸らされてる感じもしない。

 

 だったら、見えてないという認識で良いだろう。

 

 うーん。何をしようか。

 

 夢とは記憶の整理だって聞いた事があるし、記憶に無いことは分からないだろうから、出来ることって実は限られてるんじゃなかろうか。

 

 だったら、大事な「あの場面」でも見に行こうかな。

 

 

 

 まずは過去の私でも探してやろうじゃないのってことでフラフラ歩いているのだが、周りの人達の顔がなんとなーく見たことがある程度のあやふやな顔になってて何ともいない不気味さがある。

 

 下手なお化け屋敷よりも恐ろしいこの空間から逃げ出すためには、自分、あるいはきーちゃんを探さなきゃいけない。

 

 記憶が正しければ、私はまだ校舎前で探し物をしてたはずだ。

 

 しかし、人が特に多い場所でもあるから、私みたいなチビを探すのは一苦労なのだ。

 

 何かヒントがないか……と目をつぶり記憶を辿っていく。

 

 だが、その時は必死だったせいで、ろくに記憶が無い。

 

 やっぱり自分の足で探すしか無いのか、と諦めて歩き出そうとしたその時。

 

「なぁーい!どーしよ!誰か!私の受験票知らない!?」

 

 と叫ぶ思っいっきり掠れてる上に鼻声の私の声が背後から聞こえてきた。

 

 ……どうやら、間に合ったらしい。

 

 この時の私は風邪とカラオケの影響で喉瀕死だったのだ。

 

 振り向いて声の方を向かうと、涙目でバックの中身をひっくり返してるマスク姿の私がいた。

 

 流石毎日見てる顔なだけあって、ハッキリとしている。

 

 なかなか情けない姿ではあるけど……。

 

 そして。

 

「君、バス停のとこで何か落としてたよ。今日は風も無いしまだその辺にあるんじゃない?」

 

 座り込んでいる私のそばには、かったるそうに答えるきーちゃんの姿が。

 

 神奈川武偵付属中学の制服を着たきーちゃんは教科書を立ったまま読んでいたのだが、困ってる私に気付いて、受験票のありかを教えてくれたのだ。

 

 そう。これがきーちゃんとのファーストコンタクトだった。

 

「ほんと!?探してくる!ありがとね!」

 

 散らかった荷物をかき集めて、抱き抱えてダッシュして行った私は、この後、本当に受験票を見つけることが出来た。

 

 そして、この恩を忘れまいと意気込んでいた私は、入学式でクラスの中にきーちゃんがいるのを見つけて、意気揚々と話しかけに行った。

 

 ……しかしながら、マスクをしていたこと、声がおかしかった事が重なり、私は覚えられていなかった。

 

 そして、今でもきーちゃんはあれが私だったとは気づいていないのだ。

 

 まぁ、それでもいいかな、とは思うけど、私にとっては大恩人だ。

 

 自分から言えばいいのだが、何となく覚えてもらえてなかったのが寂しくて、未だに何かきっかけがあれば思い出してくれんじゃないかな、と期待している。

 

 もし、思い出してくれたなら。

 

 その時は、精一杯の感謝を伝えたいな。

 

 そんな事を考えながら、バス停へ走っていく自分の背中を見送っていた。

 




 健気なりょうの姿、是非暖かい目で見守ってあげてください……!


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