東方鉄聖竜~ブロントクエスト11 時すでに時間切れになった過去を求めて (F.Y)
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お告げ

 銀白色の鎧を着込み、大きな剣と盾を持つ青年はこれから自分が儀式のために登る高い塔、通称『神の岩』を赤い瞳で見上げた。これに登り、頂上の景色を下で待つ人々に伝える。それが、この村の成人の儀式であった。

 

「ロト、緊張してるのかい?」村の村長が話しかけた。

 

「僅かに緊張していると言えばしている。まあ、一般論でね?こんなのとんずらでカカッと終わらせてくるから、村長は下で待っているべき」

 

「全く、あんたのその口調、ちっとも変わらないね」

 

「ブロントさん」

 

 続いてその青年に話しかけたのは、ブロントさんの幼馴染、ジェイクだ。彼とは5つほど年が離れている。

 

「ジェイクか。おもえも、いずれはこの儀式をすることになるんdisかね」

 

「僕にはまだ早いですよ。それよりも、塔の中には魔物が住み着き始めたらしいですよ。気を付けてくださいね」

 

「なあに、モンスなんてバラバラに切り裂いて、顔面には男女平等パンチを食らわせてやるんだが?」

 

「そうだ。ブロントさんにこれを渡そうと思っていたんですよ」

 

 ジェイクはブロントさんに袋を渡した。ブロントさんは、何故かさん付けで呼ばれることに常人では考えられない程の拘りを持っている。理由はわからないが、ブロントさんはそうなのだ。

 

「む、何disかね?」

 

 ジェイクはブロントさんに二つの袋を差し出した。

 

「薬草と毒消し草ですよ。確かにブロントさんはケアルが使えますが、魔力は少ないでしょ。だから、そんな時のために用意しておいたのですよ」

 

「ほう、経験が生きたな。素晴らしいフレだ素晴らしい!ほれ、ジュースを奢ってやろう」

 

 ブロントさんの袖の下から、まるで手品のようにジュースが入ったコップが現れた。それをジェイクが受けとる。

 

「ははっ、いつも不思議なんですが、考えるだけ野暮ですよね。ありがたく貰っておきます」

 

「俺のジュースをありがたいと思う奴は、本能的に長寿タイプだからな」

 

「では、気を付けて行って来て下さい」

 

「ほむ。では・・・・・・とんずらぁ!」

 

 ブロントさんは、その巨体に似合わない程の俊足で、塔の中へと向かったのだった。

 

 

 

 ブロントさんは塔の中を進んだ。塔の中、といっても、それは、巨大な岩山の中を螺旋状にくりぬいて作られた洞窟のようなものだった。

 

 やがて、何かがブロントさんに近づいてきた。青いゼリー状の体に尖った頭、二つの丸い目と口がある魔物、スライムだ。

 

「うざいなお前、喧嘩売ってるのか!?」

 

 ブロントさんの言葉を挑発と捉えたのか、スライムが飛びかかってきた。だがブロントさんは、その体当たりをほう、と皮の盾で受け流し、右手に持った銅の剣を振るう。

 

「ハイスラぁ!」

 

 スライムは見事に真っ二つになった。だが、敵は他にもいた。

 

「ぐっ!」

 

 後ろから飛びかかってきたのは、不気味な髑髏を足で持つ魔物、おおがらすだ。鋭い嘴は、鎧を貫きはしなかったが、ブロントさんの鎧の下の皮膚に大きな青アザを作った。

 

「汚いなさすがカラスきたない。俺はこれでカラスが嫌いになった。あまりにも卑怯すぐるでしょう?」

 

 ブロントさんは剣を振るった。おおがらすは飛び回ったが、いかんせん、その両足で持っている髑髏が重たいらしく、素早く飛ぶことができないでいた。

 

「バラバラに切り裂いてやろうか!?」

 

 ブロントさんが歩き去った跡には、ズタズタになった雑魚がいた。

 

「じゃあな、カス猿」

 

 いや、猿ではなく鳥だが、そんな野暮なことを言う人間はどこにもいなかった。

 

 今度は違う魔物が現れた。槍を持つ、二足歩行のネズミのようだ。そいつは槍を掲げ、ブロントさんに飛びかかってきた。

 

 ところが、ブロントさんは盾でその攻撃を軽くあしらい、後ろに跳躍する。

 

「バックステッポ!」

 

 再びそいつは槍でブロントさんに襲いかかる。槍の先が太い左腕を掠め、切り傷を作る。

 

「お前、ハイスラでボコるわ」

 

 その言葉通り、ブロントさんは剣を高く掲げ、おもいっきり振り下ろした。魔物は左肩から腰の右側まで大きく切り裂かれ、絶命した。

 

 だが、次から次に魔物はブロントさんに襲いかかった。またスライムやおおがらす、モコッキーが群がってくる。

 

「余りの粘着に、俺の怒りが有頂天なんだが!?」

 

 ブロントさんは剣を振り回してモンスを切りつけ、魔物の群れを退ける。戦いの後には、ズタズタになった雑魚がいた。

 

「これにて完全決着!もう勝負ついてるから」

 

 だが、ブロントさんも無事とは言い難かった。体のあちこちに切り傷や擦り傷、青痣ができている。

 

「ケアル!」

 

 ブロントさんがそう唱えた直後、体は白い光に包まれ、傷があっという間にふさがり、痣が消える。

 

「お前、調子ぶっこき過ぎた結果だよ?」

 

 まるで自らへの戒めであるかのように呟き、カカッと神の岩の頂上を目指すのであった。

 

 

 ブロントさんは更にモンスを退け、カカッと頂上付近までやってきた。その時だった。

 

「う、うわぁぁぁ!誰かー!はやくきてー、はやくきてー」

 

「む?」

 

 どうやら、誰かが魔物に襲われているらしい。声からするに、子供のようだ。

 

「たいていならば、ここで無視する奴が大半だが、俺は無視できなかった。一気に行くぜ・・・・・・とんずらぁ!」

 

 ブロントさんは、猛烈な勢いで助けを呼ぶ声の方へと駆け出した。

 

 

 ブロントさんは中の洞窟を抜け、途中にある外の通路に飛び出した。すると、煙状の魔物に子供が襲われているのを見た。

 

「おいィ!ナイトが相手なんだが!?」

 

 その煙状の魔物、スモークがブロントさんの方を見た。そいつは不気味な笑い声を上げながら飛び掛かってくる。だがブロントさんは敵の攻撃をほぅ、と受け流し、切り付ける。だが、スモークは嘲笑うように攻撃を躱した。

 

「お前、絶対忍者だろ」

 

 だが、少なくともこれでタゲは取れた。2体のスモークはブロントさんに向かって笑いながら再び向かって来た。ブロントさんは剣を振り回し、その霧のような魔物に斬りかかる。スモークは体を霧散させて、消滅した。

 

「おいィ、なんでおもえはこんなところにいるんdisかね?」

 

「ご・・・・ごめんよ。ちょっとここを見て見たかったから」

 

「むう。普通なら、ここで無視する奴が大半だろうが、俺は無視できなかった。と、いうことで、すぐに村に帰るべき。死にたくなければそうすべき」

 

「わ、わかったよ」

 

 少年は村に向かい、ブロントさんは頂上を目指した。そうこうしているうちに、ようやく頂上に来た。ここから、村の外の世界が広がっていた。どこまでも広がる平原や森、そして広い川が流れている。

 

「ほう、素晴らしい景色だ素晴らしい!」

 

 ブロントさんは周囲を見回した。今日は天気が良いのが幸いして、地平線の向こうまで景色を見渡すことができる。

 

(・・・・・ロント)

 

「む?」

 

(・・・・・・ブロント・・・・・)

 

「何いきなり話しかけてきてる訳?」

 

 しかし、周囲には誰もいない。

 

(・・・・・ブロント、聞こえますか。あなたは運命を背負って生まれてきた存在。私の言葉を、村の人々にも伝えるのです)

 

「さんを付けろよ!デコ助ぇ!」

 

 その声はブロントさんの言葉を無視し続けた。

 

(ブロント、この世界は闇に覆われようとしています。しかし、それに気づいている人間はほとんどいません。しかし、あなたにはそれに対抗できる力を持っています。何故なら、あなたは"白夜の騎士"の生まれ変わりだからです。後は、私の言葉を村長、メリアたちにも伝えるのです)

 

「おいィ?説明が全然足りていない不具合があるんだが!?」

 

(私の言葉はここまでです。ブロント、世界を頼みましたよ)

 

 

 

 

ブロントさんは途中モンスを退けながらカカッと村へ帰り、ブン、ブン・・・・なテンポで村長になんとか塔の頂上であった事を伝えたのだった。

村長はその言葉を聞き、しばらく何やら考え込んでいたが、重い口を開いた。

 

「ブロントさんや。どうやら、隠している時は過ぎたようだね。あんたは大昔に邪神を倒した英雄"白夜の騎士"の生まれ変わりのようなんだ。時が来たら、あんたの生みの親から伝えるように言われてね」

 

村長は北の空を見上げた。

 

「明日、旅立ちな。行き先は・・・・・ここから北の地、白玉楼だ。そこの主はあんたの生みの親の古い知り合いだ。私が親書を書いておくから、それを渡せば白玉楼の主に会えるだろう。必要な武具や道具は明日までに用意しておくよ。それでは、今日はゆっくりと休みな。なにせ、この村で過ごす最後の夜になるかも知れないんだからね」

 

「むう・・・・・わかった。俺はとにかく寝るぞ。不良だから、寝るのは9時間でいい」




作者が某東方有頂天作品に影響され過ぎたた結果だよ?まあ一般論でね?


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旅立ち

どのDQ11のキャラがどの東方キャラで置き換わるのかは、登場してのお楽しみ。
(作者の他作品みたいに登場人物紹介でネタバレしないのが大人の醍醐味)


 一晩明け、ついにブロントさんが旅立つ日がやってきた。村の人々が薬草や毒消し草、聖水など、様々な道具を差し出し、村で貯めていたお金まで渡される結果だった。

 

「俺は謙虚だからな。受けとるのは9Gでいい」

 

「何言っているんだい。それじゃ薬草一つ買えばすっからかんだよ。いいから持っていきな」

 

 と200Gも渡される始末。だが、装備は銅の剣に皮の鎧、皮の盾というあるさま。ナイトが皮装備とかちょとsyレならんしょ?とは思ったものの、この小さく貧しい村で揃えられる武具はこれが限界というあるさま。まあ、許してやろう俺は優しいからな。

 

「それじゃ、一気に行くぜ・・・・・とんずらぁ!」

 

 

 ブロントさんは白玉楼に向かって、猛烈な勢いで平原を進んだ。途中、スライムやズッキーニャ、マンドラが汚い粘着をしてきたが、銅の剣でバラバラに切り裂いてやった。

 

 戦いの中、ブロントさんは新たな力を得た気がした。そんな時、再び魔物がやってきた。

 

「ほう。どうやらボコボコにされたいらしいな?」

 

 ブロントさんは右手を空に翳した。

 

「行くぜ!生半可なナイトには真似できないホーリー!」

 

 白い光がドラキーを包んだかと思うと爆発が起きた。空を飛ぶ魔物は皮膚を焦がしながら地面に墜落する。

 

「じゃあな、カス猿」

 

 猿ではなくコウモリの魔物だが、そんな突っ込みを入れる人間はどこにもいなかった。

 

 フロッガーやマンドラ、ももんじゃが更に現れたが、戦いの中でパワーアッポしたナイトの敵では無かった。ぽごじゃが沸いてきたモンスは、ナイトの剣で切り裂かれ、後にはアワレにもズタズタになった雑魚がいた。

 

 

 

 ブロントさんはモンスを退け、北に向かった。まだ目的地に到着する気配は無い。そんな中、一人の小柄で太った男に出会った。その男は、何かを探すように、しきりに地面を調べている。

 

「おい、misu、おい。一体何をしているんdisかね?」

 

 男はブロントさんに気付き、顔を上げた。

 

「おお、あなたは冒険者ですな。私は旅の商人です。ここで・・・・・・そうだ。いいことを教えてあげましょう。あなた、薬草や毒消し草は持っていますか?」

 

「む・・・・・・持っているぞ」

 

「実は、ですね。その薬草や毒消し草、その辺の原っぱや森の中に生えているのですよ。私はそれを集めて、これから白玉楼に向かおうとしているのです」

 

「ほう。経験が生きたな。ジュースを奢ってやろう」

 

 ブロントさんはこれまた手品のように、ジュースが入ったコップを袖の下から取り出した。

 

「なんとまあ。これはありがたく頂いておきましょう」

 

「じゃ、白玉楼に向かう系の仕事があるから、これで・・・・・とんずらぁ!」

 

 ブロントさんは走りだし、当初の目的地へと向かった。

 

 

 

 ようやく白玉楼とおぼしき城塞が遠くに見えてきた。だが、モンスの粘着はとどまらず、人面蝶やスライムベスがブロントさんを見るたびに襲ってきた。

 

 だが、いずれも剣の錆びとなり、そのまま骨(?)になるだけだった。成長がとどまることを知らないナイトにとって、この程度の魔物は既に敵では無かった。

 

「ふむ。村からかなり遠くまで来てしまった感。だが、あれが目的の白玉楼であることは確定的に明らか」

 

 ブロントさんはその城塞を見上げた。

 

「確か・・・・・村長からの手紙をここのGMっぽい奴に見せれば良いんだったな。行くぜ!」

 

 

 

 ブロントさんは城塞の門をくぐった。その先には、育った小さな村とはかけはなれた、賑やかな大きな町が広がっている。通りには様々な建物が並び、道は石畳で整備されている。

 

 多くの人々が行き交い、店からは威勢の良い客寄せの声が聞こえてくる。子犬がブロントさんの右側を駆け抜けたかと思うと、その後を小さな男の子と女の子が追いかけて行った。

 

 だが、そんな暢気な雰囲気の中、刀を持った男女が時折、街中にいるのが見えた。彼ら彼女らは、まるで警戒するような目で町を見回している。

 

「おいィ?あれは侍なんdisかね?」

 

「あんた、知らないのかい?あれは白玉楼が誇る最強の戦闘部隊、庭師団だよ」

 

「む?」

 

 話しかけてきたのは、太った中年の男だった。

 

「なるほど。あんた、冒険者だね。ここには宿を取るために来たのかい?」

 

「いや・・・・・俺はここのトップに会いに来たんだが?村長が手紙を渡せと言って・・・・」

 

「そうかい。西行寺のお嬢様に用があるとは、珍しい人がいるもんだね」

 

「む?その猿行事っていうのは・・・・」

 

「猿行事じゃないで、西行寺だよ。まあ、気さくでおっとりした方だから、あんたみたいな余所者でも会って貰えるかもな」

 

 

 

 ブロントさんは、町の奥にある屋敷を目指した。まずは、ここのGMっぽい人に手紙を渡す系のクエを達成しなければならない。門の前には先ほどの男が"庭師"と呼んでいた、ネガ侍っぽい人間が二人、立っている。

 

「おいィ?俺は南の村から村長から、はやく行ってー、はやく行ってー、と言われて、このはくぎょくんろにとんずらできょうきょ手紙を届けにきたナイトなんだが?」

 

 無反応。

 

「おいィ?おもえの目は節穴ですか?見えていないなら、後ろから破壊してやろうか?」

 

 二人の庭師はブロントさんを見て、何やら小声で相談していた。やがて、こう言った。

 

「ちょっと待て、その手紙を見せろ」

 

 庭師はブロントさんから有無を言わせる間もなく手紙を奪い取り、屋敷の中へと入っていった。

 

「お前、そこで待て」

 

「おいィ?届けものを勝手にサポシするとか、常識的に言った考えられないでしょう?汚いなさすがネガ侍きたない」

 

 しばらく待っていると、屋敷の中から先ほどの庭師が現れた。

 

「失礼いたしました!西行寺様がお呼びです!ブロントさんですね、どうぞお通り下さい!」

 

 

 ブロントさんは白玉楼の中へと通された。中は、故郷の村では、まず、見ることができなかった、豪華な装飾で彩られている。

 

 ブロントさんは、庭師の案内で玉座の間に通された。左右には庭師が並び、奥にはここのGMっぽい奴がいる。そして、その右側には、小柄な短い銀髪の少女がいた。彼女は、その背丈に似つかわない程長い刀を腰に差している。

そして、通路を挟み、少女の反対側には黒装束に身を包み、黒い目線を装着した茶髪の男がいた。

 

「あら。あなたが"白夜の騎士"なのね。歓迎するわ」

 

 白玉楼の主は西行寺幽々子、と名乗った。

 

「ところで・・・・あなた、名前は?」

 

「む?俺の名はブロント。謙虚だからさん付けで良いぞ」

 

「そう、ブロントさん、ね。あなたはどこから来たのかしら?」

 

「俺は南の村で静かに過ごしていたんだが、キングベひんもすとの戦いで、LSメンがはやくきてー、はやくきてーと・・・・・」

 

「そう。そんな所に村が・・・・・忍者、わかっているわね?」

 

「へっへっへっ!任せておけ、幽々子さんよ・・・・み、じ、ん、隠れの術!」

 

 忍者は爆発したかと思えば、その場から姿を消していた。

 

「妖夢」

 

「はい。幽々子様」

 

 妖夢と呼ばれた少女はブロントさんの目の前に立つと、いきなり刀を抜いた。他の庭師も刀を抜き、ブロントさんを取り囲む。

 

「おいィ。こるは一体・・・・・・?」

 

「みんな、知っているでしょ?白夜の騎士は英雄などではなく、破滅を呼ぶ悪魔なのよ!とりあえずは、そうね。地下牢に閉じ込めておきなさい!」

 

「ちょとsyレならんしょこれは」

 

 確かにブロント話さんは大柄だが、同じくらいの体格の庭師複数人に囲まれてはどうすることもできない。ブロントさんはそのまま地下へと連行される。閉まる玉座の間の扉の向こうで、白玉楼の主は、不気味な笑みを浮かべていた。




主要キャラクター置き換え その1

デルカダール王→幽々子

グレイグ→妖夢

ホメロス→汚い忍者

となります。


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囚われの騎士

 ブロントさんは妖夢や他の庭師に連行され、地下牢に放り込まれた。中はかなり暗く、天井に数ヶ所、微かに空いた通風口から日ざしが差し込む他、蝋燭によって照らされているだけだ。

 

「おいィ!ナイトがムショで臭いメシを食わされるのはずるい!」

 

 だが、ブロントさんの声は誰にも届かなかった・・・・・・・向こうの牢に囚われている人物を除いて。

 

「五月蠅いな。ちょっと牢屋にぶち込まれたくらいでガタガタ言いやがって。ちょっとくらい静かにできないのか?」

 

「む?」

 

 当の囚人は、通路を挟んでどうやら斜め右向かいの牢に囚われているようだ。暗くて顔は良く見えないが、ブロントさんよりはだいぶ小柄なようだ。

 

「ところで、何であんたここにぶち込まれたんだ?」

 

「むう・・・・。やはり忍者よりナイトの方が頼りにされていた!キングべひんもすとの戦いでLSメンが・・・・・・・・」

 

(以下、カカッと省略)

 

「何だって!?あんたが白夜の騎士だと名乗った途端、ここの主に牢にぶち込まれた、だって!?」

 

 その少女はぎょっとした顔でこちらを見た。そのおかげでブロントさんはその顔をよく見ることができた。やや縮れた長い金髪、金色の瞳の少女は黒いとんがり帽子と黒い服を身に着けている。その恰好は、さながら魔女、そのものだった。

 

「まさか・・・・・お告げの通りだとは・・・・」

 

「おいィ?一体どういうことなんdisかね?一人で納得していないで説明してくれませんかね?」

 

「ああ。ちょっとな。それよりも、早いところここから脱出しないとな。そうしないと、二人ともあの世行きだぜ」

 

 件の少女は辺りを見回した。

 

「よし、ちょっと私に任せてくれ。そこで大人しく待ってな」

 

 

 暫くまた待っていると、足音が聞こえてきた。どうやら、看守である庭師がやって来たようだ。そいつは何かが乗った皿を持っている。やがて、庭師は件の少女がいる檻の目の前に立った。

 

「ほら。食事だ」

 

 看守が皿を差し出した時、凄まじい爆発音が聞こえた。ブロントさんが音がした方を見て見ると、看守は黒焦げになって床に倒れていた。所謂、床ペロという状態だ。

 

「ふん。魔力さえ回復してしまえば、こんなもんだぜ。さーてっと・・・・・・これだこれだ」

 

 少女はねじ曲がった格子から細い腕を出し、看守から鍵を奪い、素早く鍵を開ける。

 

「へへっ、楽勝だぜ。ちょっと待ってな」

 

 件の少女は鍵を持ってブロントさんの牢を開けた。

 

「どうやら、あんたの装備は看守どもが持っていたみたいだぜ、ほら」

 

 少女はブロントさんに剣と盾を渡した。

 

「助かった。終わったかと思ったよ。それで、ここから出る方法は考えてあるんdisかね?」

 

「ああ。あるぜ。ついてきな」

 

「そうだ。あんた、名前はなんていうんだ?」

 

「む?俺か?俺の名はブロント。謙虚だからさん付けで良いぞ」

 

 少女は自分の背丈の倍くらいの長さの箒を持っていた。ブロントさんは彼女の後に付いて行く。

 

 

 少女が案内した先は、自分が入れられていた独房の中だ。その床に、不自然に筵が敷かれている箇所がある。

 

「奴らに気づかれないように、こそこそ穴を掘って・・・・・・・かれこれ2ヶ月くらいかな。やっと脱出の目途が立ったところへ、あんたが現れたって訳だ。まあ、こいつはただの偶然で済ますには、話が出来すぎて裏があるみたいだが・・・・・・」

 

 少女は筵を床から引きはがした。そこには、ブロントさんのような大柄な人間でも通れるくらい大きな穴がある。それからやや狭いトンネルが続いているようだ。

 

「さて、ついてきな」

 

「むう。僅かに狭すぎるが、通れないほどでもないと感心が鬼なる。では、トンネルにのりこめー」

 

 ブロントさんは腰をかがめ、少女の後に続いた。

 

 

 暫く狭いトンネルを這って行く。出口は広い地下空間に繋がっていた。どうやら、ここは町の地下水路のようだ。

 

「待て・・・・どうやら兵士どもが巡回しているみたいだな」

 

「む・・・・・?」

 

 ブロントさんは狭いトンネルで止まった。しばらくすると、足音が聞こえてくる。

 

 やがて、足音は遠ざかった。目の前の少女は、匍匐前進しながら進む。ブロントさんも後に続いた。地下水路は随分広く、まるで人間が歩き回れるように整備されていた。

 

「よし、静かに行くぞ。あっちのトンネルだ」

 

 二人は巡回する庭師たちの目を盗み、向かい側の地下通路に駆け込む。これは煉瓦の壁や石畳が無い。天然の洞窟だ。

 

「で、ここからどうす・・・・・」

 

「しっ、何かいるぞ」

 

 少女の言う通り、目の前で巨大な影が動く。それはゆっくりと立ち上がり、唸り声を上げた。

 

 この辺りにいるモンスとは比べものにならない奴だということは、二人はすぐにわかった。HNMみたいなものだ。

 

「げっ!こいつ、ブラックドラゴンかよ!まずいぜ、ブロントさん!」

 

 そのブラックドラゴンが吠え、少女とブロントさんに向かって突進してくる。

 

「ちょとsyレならんしょこれは」

 

「早く逃げよう!」

 

「一気に行くぜ・・・・・とんずらぁ!」

 

 二人は襲いかかる巨竜から逃げるために、必死で走った。やがて、壁にブロントさんでも通れる程度の裂け目があるのが見えた。

 

「ブロントさん!こっちだ!」

 

 少女の言う通り、ブロントさんは壁の裂け目にスライディングしながら突入した。向こうは広い空間になっている。その先は水路になっていた。

 

「助かった!終わったかと思ったよ!」

 

「さて、と。次は・・・・・・・」

 

「囚人が逃げたぞ!」

 

「あっちだ!追え!」

 

 庭師連中の足音が聞こえてくる。それらは段々、こっちに近づいてくる。

 

「くそっ!もう追い付いてきやがったか!ブロントさん、こっちだ!」

 

 二人は必死で水路を走った。やがて、向こうに明かりが見える。どうやら外に出られそう。

 

 だったはずだが、それは通風口だったらしい。出口の先は崖だった。

 

「せっかく逃げられると思った出口の先が崖下とかちょとsyレならんしょ!これ作ったの、絶対忍者だろ。汚いなさすが忍者きたない」

 

「いいや。ブロントさん、私に任せてくれ」

 

 少女はその長い箒に跨がった。

 

「さあ、後ろに乗りな。しっかり掴まってないと振り落とされるからな」

 

 ブロントさんは少女の言う通りにした。やがて、庭師たちが追い付いた。

 

「もう逃げられんぞ!観念するんだ!」

 

 先頭の庭師が刀を抜き、二人に近づく。その間、少女は深呼吸し、意識を集中させた。そして、ブロントさんの方を見た。

 

「ブロントさん、私を信じて貰えるか?」

 

「む?当然なんだが?俺たちはもう同じムショで同じ臭いメシを食った、ムショLSメンになったんだからな」

 

「そうか。なら良かった。そうだ。私の名前は魔理沙。霧雨魔理沙だ。忘れないでくれよな!」

 

 魔理沙がそう言って地面を蹴った瞬間、箒は二人を乗せて空高く舞い上がった。その様子を、追いかけてきた庭師たちは呆然と見上げることしかできなかった。



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探し物

 魔理沙とブロントさんを乗せた箒は、鬱蒼としたジャングルに着地した。日光は殆ど届かず、サルや鳥の鳴き声が響く。

 

「さーってと。まずは、そうだな。この白玉楼の下層のスラム街に行きたいんだけど、協力してもらえるかな?ブロントさん」

 

「うむ。よいぞ。まるサには脱獄を手伝ってもらった恩もあるしな。フレの助けをするのがナイトなんだが?」

 

「助かったぜ。そのスラム街に置いてきたものがあってな。そいつを取りに行きたいんだ」

 

「む、良いぞ。では、さっそくそのスラム街とやらにのりこめー^^」

 

 

 ブロントさんと魔理沙は、ジャングルからスラム街目指して歩き始めた。その途中・・・・・・。

 

 黒い一つ目の魔物と小さな虎のような魔物、そして顔が付いた動く切り株が飛び出してきて。二人の襲い掛かった。

 

「何いきなり話しかけてきてる訳?」

 

「そんなこと言っている場合かよ!倒すぞ!」

 

 最初に動き出したのは魔理沙だ。彼女は意識を集中させると、八角形の道具を持ち、魔物に向けた。

 

「食らえ!」

 

 その道具から無数の星型の光が飛び出した。それは魔物の群れに降り注ぎ、火傷を負わせる。

 

「俺にも一撃を食らわせろ!行くぜ、ハイスラぁ!」

 

 ブロントさんの斬撃できりかぶおばけが真っ二つになった。小さな虎のような魔物はブロントさんに飛び掛かってきたが、魔理沙が箒でぶん殴り、そいつを弾き飛ばした。

 だが、虎の魔物はまだ倒れていなかった。唸り声を上げて飛び掛かってくる。魔理沙は箒に乗り、魔力を纏いながらそいつに体当たりした。モンスターは短く鳴いて、そのまま動かなくなった。

 

「一丁上がりってやつだな、ブロントさん。へへっ、なかなかいいコンビになってきたんじゃないのか?」

 

「確かにな・・・・・・む?」

 

「ん?ああ、ちょっと体当たりしたときに、さっきの魔物の爪が引っかかったらしいな」

 

 魔理沙の腕には長い切り傷ができていて、そこから血が流れている。

 

「こういう時こそナイトの出番なんだが・・・・・・・ケアル!」

 

 魔理沙の傷は白い光に包まれ、瞬く間に塞がった。

 

「へー、治癒の魔法か。私じゃどういう訳か全然習得できなかったけどな。助かったぜ。ありがとな、ブロントさん」

 

「なあに、こんなものナイトにしてみたらチョロいこと」

 

「さて、あそこの門をくぐれば、スラム街だ」

 

「それじゃ、カカッと行くとするか」

 

「そうだな・・・・・と、言いたいが、ちょっと待ってくれないか?」

 

「む?何かな?」

 

 魔理沙は草むらにかがみこみ、何かを探す仕草をしていた。やがて、何かを手にして立ち上がった。

 

「これはレッドベリーだな。そのまま食べても美味いが、私はこいつを魔法の錬成によく使うのさ。他には・・・・・・ああ、これだ。ゲンコツ茸。こいつもよく使う・・・・・おっ、悟り草がびっしり生えているな。これも頂いて行くぜ!」

 

 それから、暫くの間、ブロントさんは手持ちの袋の中身がいっぱいになってしまうまで魔理沙のアイテム集めに付き合わされてしまった。

 

 

 スラム街は、白玉楼の下層部にあった。みずほらしい掘っ立て小屋やテントが並んでいる。そんな中でも、明るく生活をしている人々がいるようだ。

 

「ほう。こんな町があるとはな」

 

「ああ。ここじゃ、白玉楼の城下に住む奴らでも家を持てないような貧しい奴らが暮らしている。じゃあ、ちょっと付いてきな・・・・・・って、ブロントさんはそれじゃあ目立っちまうな。ちょっと待ってな」

 

 魔理沙はスラム街の中に消えていき、暫くしてから大きなぼろ布をもって戻ってきた。

 

「ほら。そいつで顔を隠せばいい。でも、まあ・・・・・・それだけ体がでかいとあまり効果が無い気がするが、仕方ないな」

 

「むう・・・・・・」

 

 

 二人はスラム街の通りを進んだ。やがて、何やらガラクタが山のように置かれている。場所に辿り着く。

 

「さーってと、確かこの辺りに・・・・・・・あれ?」

 

「む、どうしたんdisかね?」

 

「無い・・・・・。レッドオーブが無くなってる!」

 

「む?そのレッドオーブというのは?」

 

「ああ。白玉楼から私が盗み出したものさ。ここに隠しておいたはずなのに・・・・・」

 

「へーえ。嬢ちゃん、アレの持ち主だったのか?」

 

「む?」

 

 話しかけてきたのは、ボロボロの服を来た男だった。

 

「おい、あんた。何か知っているのか?」魔理沙がその男に向かって言う。

 

「ああ。つい、この間だのことだ。珍しく上の白玉楼の兵士。それも、精鋭部隊の庭師連中がここにやってきて、ゴミ捨て場を漁っていたのさ。で、何が起きているのか見ていたんだが、なんとそいつら、ここから大きな赤い宝石を取り出してな。確か、神殿に持って行って保管する、とかなんとか言っていたぜ」

 

 みずぼらしい恰好の男は、そう言って笑いながら去っていった。

 

「くそっ、人のものを盗みやがって・・・・・・・」

 

「お前、それでいいのか?」

 

「ん?私は盗んだわけではないぜ。ただ、死ぬまで借りようと思っていただけだぜ」

 

「おいィ・・・・・・」

 

「それよりも、神殿か。確か、ここから南にあったな。仕方が無い。今日はもう遅いから、ここの宿屋に泊まろう。上の町だと、あんたの顔は割れているからな。治安は悪いが、こっちの方が安全さ。それに、私らが脱獄しているのはもうとっくのとうにバレているだろうし」

 

「むう・・・・・仕方にい」

 

「それに、もう日も傾いているな。あそこの宿に泊まろう。下層部の町の宿屋だ。大した宿じゃないにしても、安いだろうし、まさか上の市街地に泊まる訳にはいかないだろ?」

 

 

 魔理沙の言う通りだった。宿屋は建物自体もボロボロで、かなり小さい。部屋も少なく、二人部屋が一つしか空いていなかった。宿の主人は、にやにやしながら二人を部屋に案内した。

 

「ふう。寝心地は良さそうじゃないけど、まあ、牢屋に比べたら天国みたいなもんだな。まあ・・・・・・明日は神殿に行くしかないな」

 

「むう。その神殿ってのはどこにあるんdisかね」

 

「白玉楼の南にあるぜ。だけど、そこも魔物の巣窟になっているって話だ・・・・・ところでブロントさん」

 

「む?何か用かな?」

 

「一応言っておくけど・・・・・・・寝込みを襲ったら、ぶっ飛ばすからな」

 

「おいィ。そういう汚い下ネタとか【いりません】。ナイトは下段ガード能力もかなり高いからな。汚いのは忍者で十分なんだが?」

 

「そうか・・・・確か、私を捕まえたのもその忍者とかいう奴だったな。それじゃ、お休み、ブロントさん」

 

 

 翌朝、ブロントさんと魔理沙は宿を出て、道具屋と武器屋で装備を整えて南の神殿に向かう事にした。天気は曇っていて、少し外は肌寒かった。

 

「昨日は天気が良かったのにな・・・・・まあ、早いところ出発しよう。もしかしたら、ここまで庭師どもが探しに来るかもしれないからな」

 

「むう・・・・・」

 

「それにしてもブロントさん、随分寝起きが悪いな。何回揺さぶっても起きなかったんだから」

 

「むう・・・・・」

 

「ま、早いところ神殿に行って、オーブを取り戻そうぜ。あ、その前に薬草や毒消し草、聖水を買っておいた方が良さそうだな」

 

「『確かにな』まるサの冒険スキルは流石一級廃人レベルだと感心が鬼なる」

 

「へへっ、それほどでもないぜ」

 

 

 

 そんな訳で、ブロントさんと魔理沙は武器や防具を新調し、薬草や毒消し草を買い揃えて目的地の神殿に向かった。

 

 途中、汚いおにびドングリやリリパット、ビッグハットを退けながら神殿へ向かって密林を南下しいく。しかし・・・・・・。

 

「おいィ、橋が落ちているんdisがね」

 

「仕方ないな。ブロントさん、後ろに乗ってくれ」

 

「うむ。助かるぞ」

 

「と、言うか、最初からこうすれば良かったんだよな。ブロントさん一人を乗せるくらい、どうってこと無いんだしさ」

 

 二人は箒に乗って空を飛び、目的地を目指す。そんな中、一匹の犬が二人を何か言いたげな目で見上げていることには全く気づかなかった。



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滅びの村

 ブロントさんと魔理沙が神殿に向かってる途中、南の方で煙が上がっているのを確認した。

 

「何だあれは?」

 

「魔理沙、ちょっと待つべき!死にたくなければそうすべき!あれは、まさか・・・・・・・」

 

「どうしたんだ?ブロントさん。あれが気になるのか?」

 

「あるは、まさか」

 

 魔理沙はブロントさんを乗せ、その煙が立ち上っている方へと向かった。そこは、ブロントさんが住んでいた村だった。

 

 

「これはひどすぎるな。一体、何があったんだ?」

 

「村長!ジェイク!」

 

 ブロントさんは、村にあったはずのひと際大きな家へと向かった。しかし、それは無残にも破壊され、燃やされていた。

 

「まさか、白玉楼の連中がこれをやったっていうのかよ!」

 

 魔理沙は周囲を見回した。建物も水車も瓦礫となり、火が燃えている。だが、奇妙なことに、村人たちの死体は無い。

 

「村人はどこに行ったんだ?あまり言いたくは無いが、その割には死体が無いな」

 

「くそっ・・・・・」

 

 魔理沙は一人で辺りを家探しし始めた。そして、村長の家を暫くサポシしていた時だった。

 

「ブロントさん!これを見てくれ!」

 

「む・・・・・・」

 

 魔理沙は小さな箱をブロントさんに差し出した。ブロントさんはその箱を開ける。その中には畳まれた紙切れが入っていた。それはかなりの時間が経って、紙が変色し始めていたが、文字を読むことはできた。

 

「何だこれは。手紙か?」

 

 ブロントさんはその手紙を開いた。

 

【ブロント この手紙は未来のあなたに宛てたものです。

 

 既に知っているでしょうが、この手紙をあなたが読んでいるとき、私はこの世にはいません。

 

 あなたは白夜の騎士として邪悪なる者を滅ぼす運命に生まれたようです。

 

 その意味については良くわかりませんが、この世界にとって、とても重要な意味を持っていることだけはわかっています。

 

 その反面、あなたは魔物たちには目障りな存在として狙われることになるでしょう。

 

 あなたが成長したとき、私の盟友である、白玉楼の西行寺幽々子に騎士としての修行をさせるよう頼んでいます。

 

 そして、そこで修業を積み、一人前の騎士となった時、あなたはどんな邪悪な存在にも負けない人となるでしょう。

 

 一つだけ心残りがあるとしたら、一人前の騎士になったあなたを決して見ることができないということです。

 

 どうか、くれぐれも体にだけは気を付けて下さい。

 

 ブロントの母】

 

「これは、ブロントさんの母親の手紙なのか・・・・・」

 

 魔理沙はその内容を確かめた。

 

「白夜の騎士・・・・・・私がお告げで聞いた言葉と同じだ。だけど、邪悪なる者っていうのは・・・・・・?」

 

「そうか。だから、村長は俺を白玉楼に・・・・」

 

「ブロントさん・・・・」

 

「いや、ここでネガを吐いても無意味なのは確定的に明らか。そうしている間にも時代は既に進んでいるんだが?今はそれよりも大事なことがあるでしょう?」

 

「うん。でも、大丈夫か?ブロントさん」

 

「む?決して平気ではないぞ。だけど、こんなところでネガっている場合では無いと思った。まあ、一般論でね?」

 

「そうか。ブロントさんは、強いな」

 

 魔理沙は辺りを見回した。

 

「だけどな、ブロントさん。どうも引っかかるんだ。どうして白玉楼の幽々子がブロントさんの母親の盟友なら、どうして悪魔の子だなんて呼んで、牢屋にぶち込んだりしたんだ?普通に考えて、親友の息子をそんな風に扱うだなんて普通じゃないだろ」

 

「むう・・・・・・それがわからにぃ」

 

「これは、何か裏がありそうだな。何となくだが、白玉楼の裏で動いている奴がいるような気が・・・・・・ああ、これは私の個人的な考えだからあまり気にしないでくれ」

 

「魔理沙、それよりも大事な用事があるのではにぃか?」

 

「そうだな・・・・・・件の神殿はここから北東に行ったところだ。それにしても、だいぶ暗くなってきたな。今日はここで・・・・というのは難しいな。ちょっと村の外に出よう。もしかしたら、この辺に・・・・」

 

「む?何があるんdisかね?」

 

「ああ、心配しなくても大丈夫だ。野宿しても大丈夫な場所があると思うからな」

 

 

 魔理沙がブロントさんを案内したのは、村の東の森で、その入り口には大理石でできていた女神像が立っていた。その周囲にはどうやら結界が張られているようで、魔物が近寄れないようになっているようだった。

 

「冒険者のために、こういうのを立ててくれている人がいるのさ。どこの誰なのかは知らないけど、とにかく、この女神像が視界に入る場所ならば結界が作用して、魔物が入って来れないようになっているのさ」

 

「ふむ。見事なメイン盾だと感心が鬼なるが、柵も小屋も無いのが僅かばかり不安なんdisがね」

 

「ああ。ブロントさんはこれを見るのは初めてだったかもしれないが、私は旅の途中で何度もお世話になっているからな。ほら、見て見ろよ」

 

 魔理沙が見た先には、びっくりサタンやバブルスライム、メソコボルトといった魔物がうろついているが、ブロントさんと目を合わせても一向に近寄ってくる気配がない。

 

「とにかく、この女神像から一定距離までは魔物は入って来れないから、安心していいってことさ」

 

 魔理沙はそう言って毛布にくるまり、すぐに寝息を立て始めた。ブロントさんは立ち上がると剣を鞘から抜き、その銀色に輝く刃を火に照らしてじっと見た。

 

「母ちゃん、俺は、白夜の騎士が何なのかちっともわからにぃ。もっと言えば、俺を生んだ母ちゃんの顔や声すら知らないというあるさま。でも、そんな今でも時代は進んでいることだけはわかるぞ。俺は今まで、この村の中のことしか知らずに生きてきたが、今は違うんですわ?お?そのおかげで、村の外にはえごく広い世界が広がっていることも分かったし、なにより、大事なフレもできたんだが?俺は、ナイトとして、フレも世界も守らなければならなくなっちまった。だけど、俺は、そのことをちっとも後悔なんてしてにぃ!今は、フレであるまるサがナイトの助けを必要としてるんだが?明日は、そのオーブとやらを探さねばならないのは確定的に明らか。じゃ、闇系の睡眠があるからこれで」

 

 ブロントさんは、魔理沙とたき火を挟むような位置で横になった。ここは、結界とかいう見えないが、えごいメイン盾が張られているという。安心して眠ってもよさそうだ、とブロントさんは判断した。



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レッドオーブ

「ブロントさん、寝起きが悪すぎるぜ」

 

 魔理沙はたき火にフライパンをかけ、近くの小屋で売っていた卵を2つ、割って落とした。

 

「むう・・・・・」

 

「ブロントさん、そこのソーセージを串に刺して焼いてくれ。だけどまあ、当分は大したメシにはありつけそうに無いな」

 

「仕方にぃ・・・・」

 

 魔理沙はカバンから麻袋を取り出し、その中のキノコをフライパンの上に無造作に落としていった。

 

「おいィ。そのキノコは食べても大丈夫なんdisかね?口だけ達者なトーシロが毒キノコを知らないうちに食って裏世界で幕を閉じるのはよくあること」

 

「おいおい、私を見くびらないでくれよ。食えるキノコと食えないキノコの区別くらい付くさ。毒キノコの方が、魔法の実験の材料には最適だからな。ほら、見てくれよ」

 

 魔理沙は別の袋を取り出した。その袋にはドクロの絵が描かれている。

 

「ほら。こっちは食えないキノコだ。私はこれを魔法の実験に使うから集めているんだが、もし食ったら、数日下痢をする程度のものから、体中にできものが出来て発熱するもの、激痛でのたうち回って数分であの世行きになるものまでより取り見取りだぜ。一口食ってみるか?」

 

「ちょとsyレならんしょそれは」 

 

「こっちは魔物にでもぶん投げてやれば、毒を食らって動きが鈍くなって戦いやすくなったりもするかもな。魔物相手にどれだけ効果があるかは未知数だが、バブルスライム以外ならそこそこ効くんじゃ無いかな」

 

 

 

 腹ごしらえを終えた二人はピラミッドのような古い建造物の前に立っていた。そこは白玉楼の神殿で、代々、西行寺家が守ってきたものだ。ここに来るまでかなりの数の魔物を葬ってきた。その為、二人は新たな戦闘能力を身に着けていた。

 

「こいつを食らいな!」

 

 魔理沙が八掛炉をかざすと、そこから紫色の霧が放たれた。それを浴びたモンスはおかしな方向に攻撃を始めた。

 

「おおー、上手くいった。ブロントさん、今だぜ!」

 

「一気に行くぜ!バラバラに切り裂いてやろうか!?」

 

 あらぬ方向に向かって体当たりを繰り返しているリップスやフラフラしているびっくりサタンが剣で切り裂かれた。

 

「どこ見てやがる!こっちだ!」

 

 魔理沙の八掛炉から今度は無数の火の玉が飛び出した。それらはモンスターの群れの足元に着弾して爆発を起こす。邪魔になっていた魔物は火傷を負ってのたうち回る。ブロントさんが剣を振り回し、とどめを刺した。

 

「さて、邪魔者を片づけたし、とっととピラミッドにのりこめー」

 

「わぁい」

 

 

 

 ブロントさんと魔理沙はピラミッドの階段を登り、頂上にある入り口に向かった。そこで見たものは・・・・。

 

「おい、何だこれは」

 

「む?」

 

 入り口付近で複数の人間が転がっている。そいつらは刀を持っていたようだが、その殆どがへし折られていた。

 

「庭師連中がやられたのか?こいつはまた・・・・・」

 

「HNMでも現れたんdisかね?」

 

「うーむ。普通じゃ無いのは明らかだが、だからと言ってレッドオーブを取り戻すのを諦めたりする気は無いな」

 

「うむ。それでは、中に入るぞ」

 

 

 

 神殿の中は暗いが所々に設置されているランプに火が灯されていた。内部には魔物が入り込んでおり、そいつらを少々退けなければならなかった。そして、二人は最深部に到達した。

 

「む・・・・・?」

 

 レッドオーブが置かれている祭壇には2体の魔物がいた。頭は鷲、体はライオンで翼が生えている。

 

「ケケケ、こいつはいいぜ。しかも、ただの宝石じゃないみたいだ」

 

「とっとと頂いて魔王様への貢ぎ物に・・・・・ん?」

 

 その2体の魔物は後ろに人の気配を感じ、振り返った。

 

「なんだ?お前ら?」

 

「おい、その宝石を返してもらうぞ!」

 

 魔物はブロントさんたちの方を見た。

 

「ケケケ、こいつは美味そうな人間が入り込んできたな」

 

「宝物の他にメシまで手に入るとは飛んだ幸運だな」

 

「人間を食うとかちょとsyレならんしょ。マジで震えてきやがった」

 

「言ってる場合かよ!来るぞ!」

 

 ブロントさんは敵の最初の一撃を盾で防いだ。爪と金属製の盾がぶつかり、火花が散る。反撃とばかりに剣を振るい、切り付ける。だが、そいつの毛皮が分厚く、思ったような傷を負わせることができない。

 

 魔理沙が八掛炉を掲げ、魔力をそこに集中させた。そこから大きな氷の塊が幾つも飛び出し、魔物の体を切り裂く。魔物は反撃とばかりにするどい爪を繰り出したが、魔理沙は見事なバックステッポでそれを避け、今度は八掛炉から火柱が噴きだし、魔物に火傷を負わせる。

 

 二体の魔物は怒りの叫び声を上げ、お互いに視線を合わせる。そして、二人のうち弱い方の獲物を倒すと判断したのか、魔理沙に狙いを絞った。鋭い鉤爪が可憐な少女目掛けて振り下ろされる。だが。

 

 ガキン!金属と爪がぶつかる音が響いた。ブロントさんが掲げた盾が魔物の手を阻んだのだ。もう片方の敵の腹には剣が深く突き刺さり、そこから赤黒い血がどくどくと流れ出ている。ブロントさんは剣を右に払い、その傷を更に大きく開かせた。

 

「そうはナイトがおろさないんだが。ナイトの盾が届く範囲で仲間を襲うとは、その浅はかさ愚かしい」

 

「凄いなー、憧れちゃうなー。って、そんな暇無いな!ブロントさん!どいてくれ!」

 

「む、バックステッポ!」

 

 ブロントさんがその巨体に似合わない華麗な跳躍で後ろに下がる。剣が抜かれた魔物の傷口から更に大量の血が流れ出た上に、内臓もこぼれ出ている。

 

 魔理沙の八掛炉からレーザーが放たれた。それは、ブロントさんが今しがた魔物に負わせた傷を直撃し、そのはらわたを直接焼いて炭化させる。魔物の片割れは叫び声を上げ、前に倒れて動かなくなった。

 

 人間ならば、ここで仲間を殺されたことで怒りをあらわにしたりするのだが、魔物にはそんな思考は存在しない。魔物が考えているのは、目の前の人間を殺し、はらわたを食い散らかすことだけだ。

 

 狭い空間の中で魔物は翼を広げ、飛び上がった。魔理沙が箒で浮かび、そのすぐ真下をすり抜ける。魔物は魔理沙のその動きに完全に気を取られていた。

 

「不意だまいくぜ!おら!」

 

 ブロントさんが魔物の背中に斬りかかった。分厚い皮膚を傷付けはしたが、剣の刃はその下の筋肉や内臓までには届かない。

 

 その魔物の思考が単純なのが幸いした。そいつがブロントさんの方を向くと、今度は後ろから魔理沙が放ったレーザーを食らって火傷を負う。

 

 だが、まだ倒れた訳では無い。魔物は皮膚から煙を立ち上らせながら再び立ち上がり、獲物に狙いをつける。

 

 魔理沙が再び八掛炉を掲げた。今度はそれから鏃のような形をしたエネルギー体が猛烈な勢いで連射された。それは、ブロントさんの剣がなかなか通らなかったモンスの皮膚を易々と貫通する。床に血や肉片に加えて、砕かれた肋骨の破片まで散らばった。

 

 魔理沙の魔法によって内臓までズタズタにされた敵は、アワレにも盾の役目(?)を果たせず死んでいた。これにて完全決着!もう勝負ついてるから。

 

「ふう、手強い奴らだったな。さて・・・・・」

 

 魔理沙は床に転がっていた赤い宝玉を拾い上げる。あれだけ激しい戦いの中に巻き込まれたのにも関わらず、それには傷一つ付かずに不思議な輝きを放っている。レッドオーブだ。

 

「やっと取り返したぜ。早いところこんなところからおさらばしようぜ」

 

 

 

 ブロントさんと魔理沙は神殿の外に出た。さて、これからどこに行くべきか。白玉楼や村に戻るという選択肢は無い。

 

「ところで魔理沙、これから俺たちはどこに行くべきなんdisかね?下手に町に戻ったら天狗ポリスに捕まって、裏世界でひっそり幕を閉じるのは確定的にあきらか」

 

「それなら宛があるぜ。付いてきな」

 

 

 

 二人は遺跡から東に向かって歩き始めた。丁度、正午前のようで太陽がかなり高い位置にあった。小鳥のさえずりが聞こえ、狐が森に向かって駆けていく。

 

「ほら、あれだぜ」

 

「む?」

 

 魔理沙が指を向けた先には大理石でできた祠があった。二人でその中に入り、中心にある祭壇のようなものの上に立った。

 

「さて、ちょっと気分が悪くなるかも知れないが、我慢してくれ。白玉楼の追っ手から逃げるにはこうするしか無いからな」

 

 魔理沙は目を閉じ、魔力を集中させ始めた。やがて、青白い光の渦が二人の足下に現れる。

 

「む?こるは・・・・・?」

 

 光の渦はだんだんと大きくなり、二人を吸い込んでいく。

 

「おいィィィィィィィィィィィィィ!?」

 

 

 

 それから半刻ほど経ったとき、白玉楼の庭師団の分隊がこの辺りをしらみ潰しに来たが、当の逃亡者は既に遥か遠い南東の大陸に到着した後だった。



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火山の麓の誘拐事件

 光に包まれたかと思ったら、いつの間にか見たことが無い場所に移動していた。到着先の祠の扉は開いており、白玉楼があった地方とは全く別の光景が広がっている。

 

「む・・・・・。こるは、そこにいたのにいなかったと感心が鬼なる。こるは一体どういうことなんdisかね?」

 

「ああ。これは"旅の扉"っていうものだ。大陸と大陸を繋ぐ、便利なものだぜ。物凄く昔に建造されたらしいんだけど、いつ、誰が、どうやって作ったのかは未だにわかっていないんだ。それから、これは誰にでも使えるわけじゃないで、起動には一定以上の霊力や魔力が必要みたいなんだ。それにしても、ここはどこなんだ?」

 

 魔理沙は辺りを見回した。先ほどまでいた、草原や森林が広がる白玉楼がある地方とは真逆の荒涼とした岩山が広がっている。周囲には沼のようなものが点在し、それから湯気が立ち上っている。

 

「あれは・・・・温泉か?だとしたらここはホムスビ山地か?」

 

 魔理沙は地図を広げた。

 

「む?オムスビ山地?」

 

「おむすびじゃないで、ホムスビ山地だぜ。この辺りはヒノノギ火山っていうひと際でかい火山と温泉で有名な場所でな。植物は殆ど育たない荒れ地なんだが、今言ったように温泉目当てでやってくる旅人は結構いるみたい・・・・・おっと、敵さんのお出ましだぜ?」

 

 魔理沙が視線を向けた先にはオレンジ色のスライムと覆面を付けた二足歩行のウサギ、そして腐った死体がいた。どいつもこちらに向かって歩いてくる。

 

「ところ変われば、住んでる魔物も変わるみたいだな?」

 

 魔理沙は八掛炉で魔力を圧縮して放った。八掛炉から無数の光の玉が飛び出し、魔物の足元に着弾して爆発する。その直後、ブロントさんの剣がうなり、腐った死体の左腕を切り落とす。続いて魔理沙が放ったのは氷のつぶてだ。二人の猛攻が終わった後は、モンスの死体だけが残っていた。

 

「よっと。ざっとこんなもんかな。だけど、この地方の魔物はちょっと強いな。気を抜いていると、あっという間にやられそうだから気を付けないとな」

 

「『確かにな』さて、この辺りに何か町があるんdisかね?」

 

「ホムスビ山地か・・・・・うーん。来たことはないからよくわからないが、町が無いってことは無いかもしれない」

 

 魔理沙がそっちの方を見て言った。

 

「ほむ。それじゃ、まずは町か村を探すとするか。昔読んだ本に、新エリアを開拓するのが冒険者の醍醐味と書いてあったからな」

 

 

 

 ブロントさんと魔理沙は道中でぽごじゃが湧いてきたモンスをボコボコにしつつ、村を目指した。そこら中に水たまりがあるが、その水からは湯気が立ち上りブクブクと泡立っている。

 

「これは・・・・温泉かな?だとしたら、あのでかい山は火山なのか」

 

 魔理沙は北の方に聳え立つ山を見上げて言った。その山の中腹あたりからは白い煙が立ち上っている。

 

「むう」

 

「とにかく、この辺りに人里があるかどうか探してみよう。そこでちょっと休もうぜ」

 

「そうだな。ちょっとばかり歩きすぎて、腹も減ってきた感」

 

 ブロントさんたちは山の麓に辿り着いた。そこには小さな集落がある。木で組まれた家屋が並び、向こうの建物の煙突から白い煙が立ち上っている。

 

「おっ、村があるみたいだな。ブロントさん、行ってみようぜ」

 

 

 

ブロントさんと魔理沙は『ホムラの里』という場所にたどり着いた。二人の他にも旅人が多く訪れているらしく、小さな集落ながらも活気に満ち溢れている様子だった。

まず、二人は装備を新調することにした。ブロントさんは地元の鉄鉱石を使って作られた盾、鎧、兜、剣の一式を揃え、魔理沙はボレロと帽子、短剣を買った。

 

「うむ。なかなか良い盾ではにいのか。ナイトにとっては、剣よりも盾の方が重要という事実」

 

「へへっ、装備を変えただけなのに、随分騎士らしくなったんじゃないのか?ブロントさん」

 

「それほどでもない」

 

「謙虚だなー、憧れちゃうなー。さて、次は薬草と毒消し草を買わないとな」

 

「うむ。このPTには僧侶がいないという事実。回復手段が無いPTに未来はにい」

 

二人が武器屋を出ようとした時、店の扉が開き、魔理沙よりは背が若干高いものの、小柄な少女が入ってきた。彼女は大きな赤いリボンを頭に付け、やや変わった赤い服を着ている。肩まで伸びた髪は黒く、手には大幣を持っていた。

 

彼女は何やら武器屋の店主に聞いているようだった。だが、少しだけ話を聞くとかぶりを振って外に出た。

 

「おかしいわねー。これだけアテが外れるなんて、滅多に無いんだけど」

 

「む・・・・・・?」

 

ブロントさんは先ほどいた武器屋から出てきた少女の方を見た。

 

「あいつ、何か困り事かな?」

 

「うむ。こんな時こそナイトの出番なんだか?」

 

ブロントさんが少女に近づく。

 

「おいィ?何か困り事か?」

 

「あなた・・・・・誰ですか?」

 

少女が少し戸惑った様子でブロントさんを見返す。

 

「俺の名はブロント。謙虚だからさん付けで良いぞ。それよりも、思うにおもえは困り顔が鬼なるオーラがひゅんひゅんしているのではにぃか?」

 

「私は霧雨魔理沙だ。まあ、なんだ。ブロントさんの相棒ってところだ」

 

「ブロントさんに・・・・・魔理沙?」

 

「やはり忍者よりナイトの方が頼りにされていた!俺はイシの村から・・・・・・」

 

以下、カカッと省略。

 

 

 

「なるほど。ここに来る途中に仲間とはぐれて、探していたけど、見つからずに聞き込みをしてたって訳か」

 

 魔理沙が茶が入ったコップを傾けた。カフェを兼ねた宿屋の主人が出してくれたものだ。

 

「ま、そんなところよ。まあ、本来はもっと違う人を探していたんだけど・・・・・どうやら見つかったみたいだし」

 

「む?」

 

「ところで、さっきまで私とブロントさんでその仲間のことを聞き込みしてみたんだが、その小鈴っていうのか?そいつの特徴に合う子を見かけたっていう話は聞かなかったな」

 

「うむ」

 

 魔理沙は件の巫女のような格好をした少女、博麗霊夢を見て言った。

 

 そんな中、旅の商人が宿屋に入ってきた。何やら慌てた様子で青白い顔をして、汗を流している。

 

「だ、誰かここに戦えるような人はいないのか!?戦士とか、魔法使いとか!?」

 

「む?」

 

 ブロントさんがその商人の方を見る。

 

「どうやら、私らの出番みたいだな、ブロントさん」

 

 魔理沙が立ち上がり、その商人に近寄った。

 

「おっさん、どうしたんだ?そんなに慌てて」

 

「ああ。さっき、外を歩いていたら、この村に向かっている女の子を見たんだが、いきなり魔物たちが現れて、その子を拐って行ったんだ!」

 

「む・・・!」ブロントさんの目が鋭くなる。

 

「ねぇ、ちょっと!その子、茶髪で黄色いエプロンを着て、緑色の袴を履いていなかった!?」霊夢がその商人に訊く。

 

「ああ!そうだ!確かに、そんな格好をしていた!」

 

「大変・・・・・・、ブロントさん、手を貸してくれるかしら?」

 

「む?当然なんだが。レイモのフレは今頃、汚いモンスに誘拐されてはやくきてー、はやくきてー、と泣きが鬼なってるに違いにぃ!カカッととんずらできょうきょ駆けつけるべき!死にたく無ければそうすべき!」

 

「それで、魔物連中は何処へ行ったのかしら?」

 

「西の方だ!あっちには、確か、洞窟があったはずだ!」

 

「よし、行こうぜ、ブロントさん!」

 

 

 

 3人はすぐに宿屋の外に出た。

 

「全く、こんな事になるなんて。ブロントさん、飛べる?」

 

「そ、そるが・・・・」

 

「ブロントさんは私の箒に乗せて行くさ!」

 

「それなら問題無いわね。それじゃ、西の洞窟の方まで早速飛んで行きましょう」

 

「という訳なら、ほら。ブロントさん、乗りな」

 

「むう・・・・・・」

 

 と、いう訳で、誘拐された少女を救出すべく、ブロントさんは魔理沙の箒に乗り、霊夢と共に西に向かった。



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救出

 霊夢たちは空を飛んで西の洞窟を目指した。飛べば魔物に襲われないと踏んでいたが、ガルーダやタホドラキーといった、飛行型のモンスターが襲撃してきたため、その都度、霊夢と魔理沙は圧縮した霊力や魔力を、ブロントさんは生半可なナイトでは真似できないホーリーを放ち、退けなければならなかった。

 

 霊夢は荒野の西の端に洞窟があるのを見つけ、そこに着地する。

 

「むう・・・・・」

 

「ここね。勘だけど」

 

「なぁ。本当に大丈夫なのか?入ってみて、この洞窟じゃなかったら取り返しが付かなくなるんじゃないのか?」

 

 魔理沙が若干、不安そうな表情で霊夢を見る。

 

「ま、大丈夫だと思うわ。私の勘って、どういう訳か知らないけど、一度も外れた事が無いの」

 

「エリ夢のフレが『はやくきてー、はやくきてー』と泣きが鬼なっている時に考えていても無駄という意見。まあ、一般論でね?」

 

「ブロントさん、人の名前くらい間違えないで貰えますか?」

 

「さて、霊夢の仲間もそうだけど、こういう洞窟ってのは結構お宝が眠っていたりするからな。トレジャーハンターの血が騒ぐぜ」

 

 

 

 3人が洞窟に入った直後、魔物がわらわらと湧いてきた。スライムベスにドロル、腐った死体だ。

 

「うへぇ、酷い臭いだな、あいつ。本当に腐っているのか?鼻が曲がりそうだ」

 

「あまり近づきたくないわね。ほら、ブロントさん、メイン盾なら前に出て下さいよ。ほら、はやく、はやく」

 

「畜生。お前らは馬鹿だ・・・・・」

 

 

 

「生半可なナイトでは真似できないホーリ!」

 

 腐った死体が白い光に包まれて爆発する。その後ろでは霊夢が大幣をスライムべス目掛けて何度も振り下ろしていた。

 ブロントさんがドルイドに奥歯を揺らすようなパンチを食らわせ、追撃のハイスラで真っ二つに切り裂く。その様子を見ていたタホドラキーは、本能的に長寿タイプだったらしく、キィ、と短く鳴いてから洞窟の奥へと逃げ出した。

 一方の魔理沙は、泥人形の群れに八掛炉から錬成した炎を浴びせた。超高温に晒された泥の身体がボロボロに崩れた。

 

「一丁上がりってところだな。それにしても霊夢、お前、随分と簡単に敵の攻撃を避けるな」

 

「まあね。何と言うか、わかるのよ。あいつらがどういう攻撃を仕掛けてくるか、まあ、勘ってやつかしら?」

 

「なんだよそれは・・・・・」魔理沙が霊夢に不審人物でも見るようなまなざしを向ける。

 

「まあ、生まれ持った才能ってことかしら?それよりも、早く洞窟の奥まで行きましょう」

 

 

 

 この洞窟は石畳やレンガの壁といった人工物が目立つ。誰がどういう目的で作ったのかはわからないが、ある程度人の手が加わっているのがわかる。

 

「しっかしまあ、この洞窟、どう考えても人の手が加わっているな。こういうのはお宝な眠っているのが定番だからな」

 

「なるほどね。悪いけど、それは後回しにしてもらうわよ」

 

「うむ。エリ夢のフレをカカッと救出するのがメインミッチョンだからな」

 

「しっかし、魔物に誘拐された、とか言ってたな。この洞窟の中だとすると、奥の方か?」

 

「多分、そうね。急ぎましょ、ブロントさん」

 

 

 

「おおー、やっぱりそうだ。お宝がここにもあるぜ」

 

 魔理沙は宝箱を開けて、中のものを拾い上げた。中身は何かの種のようだ。

 

「おいィ、そんなのが役に立つんdisかね?」

 

「ああ、こいつは魔力の種。文字通り、攻撃魔法の威力を上げる種だぜ!」

 

 魔理沙はその種をひょいと口に入れ、ボリボリ噛り始めた。

 

「ブロントさん、これ」

 

「む?」

 

 霊夢が見せたのは、紫がかかった液体が入った小さな瓶だ。

 

「魔法の小瓶よ。中のものを飲めば、魔力が少しだけ回復するわ。貴重品だけど、いざとなったらケチケチしないで。魔力が尽きて魔物の餌になったら本末転倒だわ」

 

「うむ。助かるぞ、霊夢」

 

「おい、お客さんみたいだぜ」

 

 魔理沙が視線を向けた先には、軟体動物みたいなモンスが4体いた。ドロルだ。

 

「この程度のモンスを倒す程度、お安い御用なんだが?」

 

 ブロントさんが剣を振るうと、後にはズタズタになった雑魚がいた。

 

 

 

 

「ちょっと待って」

 

 ブロントさんたちが洞窟の最深部と思しき場所に辿り着いた時、霊夢が呼び止めた。目の前には重そうな両開きの鉄の扉がある。

 

「多分、ここね。ちょっと覗いてみましょう」

 

 霊夢がそっと扉を少しだけ開けた。すると、向こうから重々しい声が聞こえてきた。

 

「おい、お前ら!なんでこんな弱そうなのを連れてきやがった!ターゲットは別の奴だと言っただろうが!」

 

 デブついた青いドラゴンが、羽の生えた黒い薄っぺらい奴に向かって怒鳴っているようだ。そこは檻が一つあり、そこには小柄な茶髪の少女が監禁されているようだ。

 

「む・・・・・?」

 

「いたわ、ブロントさん」

 

「そいつが、拉致換金されたレイモのフレなんですかね?」

 

「ちょっと、ブロントさん。勝手に小鈴ちゃんを人身売買してもらえないでくれますか?」

 

「さて、どうする?正面から突っ込んで奴らをぶっ飛ばすか?」

 

「こっそり近づけるような状況では無いわね」

 

「そうと決まったら、カカッっと救出するべきなのは確定的に明らか。一気に行くぜ」

 

 ブロントさんは扉を開け、中に突入した。その中にいるデブついたドラゴンがぐるり体を回し、ブロントさんたちの方を見る。

 

「な、何だ、お前らは?」

 

「俺は汚いモンスに拉致換金されて、はやくきてー、はやくきてーと泣いている小鈴の・・・・」

 

「おい!モンスターどもが!人の物を死ぬまで借りるのはともかく、人を誘拐するのは犯罪だからな!」魔理沙が威勢よく啖呵を切った。

 

「な、なんだかわからんが、やっちまえ!」

 

「へいっ!」

 

 デブったドラゴンの合図で薄っぺらい影のような魔物が襲い掛かった。だが、魔理沙は箒に乗って飛びあがってそいつの攻撃を避け、無数の氷の塊を浴びせる。霊夢が空中に飛び上がって両手を広げて意識を集中させた。その手から幾つもの白い光が飛び出し、敵の足元に着弾して爆発する。

 

「俺にも一撃を入れさせろ!行くぜ!」

 

 ブロントさんがその巨体に似合わない速度で敵の親玉に肉迫し、切り付けた。鱗で覆われていない白い腹に大きな切り傷が刻まれる。

 デブったドラゴンは大きく空気を吸い込み、冷気と氷を含んだ息を吐き出した。ブロントさんは咄嗟に盾を繰り出したが、左腕が凍りつき、凍傷を負う。

 

「くそっ!」

 

 霊夢が右手をブロントさんに翳し、意識を集中させた。白い光がブロントさんを包み、怪我を治す。

 

「助かったぞ、霊夢!」

 

 ブロントさんは再び剣を振るい、敵に斬りかかる。デブったドラゴンに再び切り傷が付けられ、血がどくどくと流れ出した。ドラゴンは怒りの声を上げ、冷気を含んだ吐息を再び吐き出した。だが、魔理沙が八掛炉から錬成した火炎がそれを相殺した。影のような魔物が一斉にブロントさんに向かったが、バラバラに切り刻まれて息絶えた。

 

「ふん。子分は大した事なかったな。次はお前だ!」

 

 魔理沙はドラゴンに八掛炉を向け、レーザーを食らわせた。硬い鱗が焼き切られ、ボロボロと剥がれ落ちる。敵は魔理沙に狙いを定めたが、腹に思いっきりブロントさんの拳が直撃し、その勢いに押されてよろよろと後ろに下がる。

 

「ブロントさん!下がって!」

 

「む、バックステッポ!」

 

 ブロントさんが後ろに飛びのいた直後、霊夢が弾幕を放った。それはドラゴンの傷口を直撃して炸裂し、肉片と血を床に飛び散らせた。それがとどめとなり、敵はどさりと倒れて、そのまま動かなくなった。

 

「一丁上がり、だな。さて、すぐに出してやるからな」

 

 魔理沙はポケットから金属でできた細い棒のようなものを2つ取り出し、檻の鍵穴に突っ込んで何度か回すと、あっさりと開錠することができた。

 

「ほらよ。もう大丈夫だぜ」

 

「あ・・・・・ありがとうございます」

 

「小鈴ちゃん、怪我は無い?」

 

「はい。大丈夫です、霊夢さん。もしかして、この人が・・・・・?」

 

「そう。この人はブロントさん。私たちが探していた"白夜の騎士"よ」

 

「おい、霊夢。何でお前、ブロントさんが"白夜の騎士"だって知っているんだ?」

 

「そうね。話せば長くなるけど・・・・・まずは村に戻りましょう。そうしたら教えてあげるわ」

 

「あっ!霊夢さん!実は、私の他に捕まってる人がいるんです。この奥の部屋に連れていかれたのですが・・・・・」

 

「まあ、いいわ。ついでに助けてあげましょう」

 

 

 

 ブロントさんたちは小鈴に案内され、更に奥の部屋に向かった。そこには4つの牢屋があり、そのうちの一つに少女が一人、監禁されていた。

 

「あやややや。あなたたちは・・・・・?」

 

「ん?あんた、もしかして天狗のブン屋か?」

 

 魔理沙が牢屋の中にいる少女を見て言った。

 

「おや、私のことをご存知で。この世界をまたにかける新聞記者、射命丸文といいます。ホムラの里で『命の大樹』について取材していたら、いきなり魔物に襲われて無理やり連れ去られ、こんなことになってしまいまして」

 

 その単語を耳にした霊夢の目が鋭くなるのを、件の少女、文は見逃さなかった。

 

「おや、そちらの巫女さんは、どうやら"命の大樹"に興味があるようですな。一体、どういうことでしょうか?」

 

「そうね。まずは、洞窟の外に出て、ホムラの里に行きましょう。それじゃ、小鈴ちゃん、お願いできるかしら?」

 

「はい。任せて下さい」

 

 小鈴が意識を集中させると、ブロントさんら5人の身体が黄色い光に包まれ、その場から一瞬にして消えた。



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ブン屋の話

 ブロントさんたちは一旦ホムラの里に戻り、宿屋に併設されている食堂の席に着いた。洞窟を探索している間に日が沈み始めていて、里に戻る頃にはすっかり辺りは暗くなり、フクロウの鳴き声が聞こえ始めていた。

 

 魔理沙が宿屋の主人に夕食を注文し、それを待っている途中、件のブン屋である射命丸文から話を聞くことにしたのだ。

 

「まず、命の大樹ですが、皆さんはそれについてどこまで知っているのですか?」

 

「そうね。この世界の全ての生命を司り、死んだ人間や妖怪、動物、全ての魂が帰って、そこで再生の時を待つ場所。まあ、ちょっとしたおとぎ話みたいなものだと思っているんだけど」

 

 霊夢が文に知っていて当然、とも言いたげな様子で話した。

 

「確かに、昔からの言い伝えではそう言われています。まあ、我々からしてみたら常識のようなものですが。しかし、そこには、かつて大昔の勇者が使った、闇を払う武器が収められている、という話は聞いたことはありませんか?」

 

「闇を払う武器・・・・・?そんなの、この私でも初耳だぜ」

 

 魔理沙が天狗のブン屋を訝し気な表情で見て言った。

 

「それで、どんな武器なの?その闇を払う武器、っていうのは」霊夢が質問する。

 

「詳しくはわかりません。しかし、言い伝えが幾つか残っています。その武器は常人には扱えず、剣に選ばれなかった者が手にした途端、その者の魂は欠片も残さず食らい尽くされ、命を落とす、と。しかし、剣に選ばれし者が手にした場合、その者に仇なす全ての者を食らい尽くす、暴食の魔剣だと。そして、その暴食の魔剣は、遥か昔、勇者がその手に持って、かつて世界を滅ぼそうとした邪神と戦った、とされています。暴食の魔剣は、その名に違わず邪神の魂と魔力を食らい尽くし、封印するまで弱らせた、と言われているらしいです」

 

「暴食の魔剣だと?何だそりゃ、いろんなお宝の噂を聞いたが、そんなの初耳だぜ。それに、邪神と勇者だなんて、そんなの、よくありふれたおとぎ話じゃないか」

 

「ええ、普通、こういう話を聞いてもそう思われても当然です。そして、誰でも命の大樹に辿り着けるわけではありません。それには、まず、"虹色の枝"という物が必要なようです」

 

「虹色の枝?」

 

「はい。それが、ここから南、命蓮寺という場所にあるらしいです」

 

「命蓮寺か。聞いたことが無い場所だな」魔理沙が右手を顎に当てて言う。

 

「ええと、ここから西の方へ山を越えて行ったところです。そこからは不毛な砂漠が広がっていて、かなり旅慣れた人でもあまり近寄らないらしいです。おまけに、砂漠の野良妖怪はかなり危険な奴ばかりらしく、命蓮寺に辿り着く前に命を落とす者も少なくないだとか。個人的には、行くにはあまり勧められない場所ですね」

 

「だとしても、行く他無いわね。私たちは何としてもその虹色の枝が必要なのよ」

 

「かなり危険ですよ。私なら敢えて砂漠に行くような真似はしないですね」

 

「そこは問題無いと思うわ。しっかり準備さえしていればね」

 

「そうですか。それでは、私はこれで」

 

 文は宿屋から出て、そのまま飛んで行ってしまった。

 

「さて、どうする?早いところ命蓮寺に向かうか?」魔理沙が他の3人の仲間を見回して言う。

 

「今日は疲れたから、明日にしない?」

 

「確かに、もう日が暮れてしまいましたね。夜は魔物も狂暴になりますし、私も疲れました」

 

 遠くから、犬が吠える声や烏の群れが飛びながら鳴いているのが聞こえる。そして、それに混ざって魔物の不気味な叫びが流れてきた。

 

「『確かにな』という意見」

 

「それに、命蓮寺ってあの天狗が言うには、ここからだいぶ遠いんだろ?」

 

 魔理沙が地図を広げて眺める。そうこうしていると、宿屋の主人が湯気を上げる皿いっぱいの料理を次々と運んできた。食欲をそそる匂いに、ブロントさんの胃袋の中の虫が盛大に鳴き始める。

 

「むう・・・・・」

 

「まあ、考えていても仕方がないわ。先にごはんを食べちゃいましょ。ブロントさん、それ、切ってくれますか?」

 

「うむ、良いぞ」

 

 ブロントさんはナイフを手に取り、湯気を上げるローストビーフを分厚く切って仲間たちの皿に置いていく。

 

「さ、今日は腹ごしらえしてゆっくり休もうぜ。もう私は疲れたからな」

 

 魔理沙はパンを掴み、齧りついた。焼きたての香ばしい小麦の香りが口いっぱいに広がる。

 

「それで。その命蓮寺とかいうところにあるっていう虹色の枝だけど、そいつはどんな代物なんだ?」

 

「虹色の枝っていうのは、命の大樹の枝の一つと言われていて、それを持っている人を命の大樹まで導くと言われているんです。つまり、命の大樹というのはそう簡単に普通の人が近づけるような場所じゃないんです」

 

「なるほどな。だけど、そんな大切なものを何でその命蓮寺とかいう連中が持っているんだ?」

 

「知らないわよ、そんなの。とにかく、それを手に入れない事には何も始まらないってことよ」

 

「それじゃ、ここで一泊して夜が明けたら出発しようぜ。何も、魔物が狂暴化する夜中に移動することはないからな」

 

「それじゃ、そうしましょ」

 

 

 

 翌朝。ブロントさんたちは食糧や薬草、毒消し草、聖水などを買い込み、ホムラの里の入り口に立っていた。

 

「さて、命蓮寺までは、ここから南に行ったところだったな。流石に飛んで行っても厳しいか」

 

「結構な距離よ。飛ぶにしても、霊力が持たないわね。それよりも、飛べない人がいるしね・・・・・」

 

 霊夢はブロントさんを横目で見ながら言う。

 

「おいィ、巫女が空を飛ぶのはずるい」

 

「確かに、エルヴァーンやヒュム、ミスラといった種族には生まれつき飛行能力が無いんですよね。何でなのかはどんなに調べても全く見つからなかったのですが」

 

「巫女の霊夢や魔法使いの私はともかく、本当に只の人間の小鈴まで空を飛べるっていうのに、ブロントさんときたらなぁ」

 

「これは生まれつきや種族の問題であって、俺とは無関係。この会話は早くも終了ですね」

 

「まあ、怒らないでくれよ、ブロントさん。さて、途中に女神像があれば良いんだけどな。ここから先は長くなりそうだし」

 

 

 

 里の外に出ると、案の定、魔物がわらわらと湧いてきた。ブロントさんが剣を振り回して斬りつけ、魔理沙が火の玉を飛ばして攻撃する。霊夢は霊力で錬成した弾幕を、そして小鈴は小さな竜巻を敵にぶつける。

 やはり魔物は狂暴化しているらしく、ここに来るまでに遭遇したどんな奴よりも手ごわい。なにせ、ブロントさんの斬撃を受けて切り傷が刻まれ、血を滴らせながらもこちらに向かってくる。

 

「ブロントさん!下がって!」

 

「バックステッポ!」

 

 ブロントさんが飛びのいた直後、霊夢が放った弾幕が魔物を直撃して炸裂する。敵はアワレにもズタズタになって倒れていた。

 

「なんとかやっつけたな。それにしても、こんな奴らが相手じゃ、私一人じゃどう考えても無理があるな」

 

「ブロントさんと合流出来て良かったわ。前衛がいないと強い魔物に出くわしたらオシマイだったかもね」

 

「その通りでしたね、霊夢さん。さあ、早いところ目的地に向かいましょ」 



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七色の人形使い

 ブロントさん一行はどんどん西へと進み、荒涼とした山道を進んだ。途中、魔物に襲われる旅の商人を助けたり、その辺に落ちている道具を拾い集めたりしていたので、かなり時間がかかっている。

 

「ふう、随分遠いわね。それに、魔物も狂暴になってきているし」

 

「そんなこと言っている余裕は無いみたいだぜ」

 

 魔理沙の視線の先には、また魔物。キメラという蛇とハゲワシを組み合わせたような魔物や、地獄のはさみとかいう緑色の蟹、そしてサボテンボールだ。

 

「まただよ(笑)。いい加減にしないと、俺の怒りが有頂天なんだが!?」

 

 ブロントさんは開口一番、魔物に斬りかかった。魔理沙が放つ氷のつぶてが敵にぶつかり、霊夢が放つ光の弾幕が炸裂する。

 

 だが、こいつらは今まで戦ってきた魔物とはほんの少しだが格上だった。サボテンボールが飛び上がり、回転しながら上空から小鈴目掛けて落下してくる。

 

「バックステッポ!」

 

 ブロントさんが後ろに飛びのき、落下してくる魔物を盾で受け止める。だが、その衝撃はすさまじく、青銅でできた盾がへこむほどだった。

 

「ぐうっ」

 

 今度は小鈴が反撃に出た。やや大きなつむじ風が巻き起こり、魔物を切り刻む。そのおかげで魔物の隊列が崩れた。その隙を逃さず、ブロントさんが攻撃に転じた。

 

「メガトンパンチ!」

 

 銀色の籠手を装着した拳が唸り、キメラの体を直撃する。キメラはグエッと鳴いて地面に落下し、痛みにもがき始めた。

 

 霊夢が放った白い弾幕が拡散し、魔物の群れ全体に降り注いで爆発した。それがとどめとなり、群れで襲い掛かってきた魔物は全員息絶えていた。

 

「ふう。この辺の魔物は強いですね」

 

 小鈴が折り重なって倒れた魔物を見て言う。

 

「多分、環境のせいだろ。荒れ地や砂漠みたいに、普通の生き物が生きていられなうような場所に住んでいるような生き物は、それに対応できるように頑丈な体を持っていると聞くからな。油断してたらあの世行きだぜ」と魔理沙。

 

「『確かにな』と感心が鬼なる」

 

 

 

 ブロントさん一行は山道を歩き続け、そこそこ大きなログハウスを見つけた。どうやら宿屋になっているらしく、多くの旅人が訪れていた。

 

「へーえ、こんな場所にわざわざ行くようなのが結構いるんだな」魔理沙が辺りを見回して言う。

 

「ここは命蓮寺まで行くまでの道の中継地点みたいなものなんです。この先は長いですからね」

 

 太陽は既に西の方へ向かって行き、空はオレンジ色になり始めていた。

 

「ブロントさん、ここから先はかなり長そうだぜ。ここいらで休むのがいいんじゃないのか?」

 

「どちらかと言えば大賛成」

 

「それじゃ、ここで休んで、翌朝になったら命蓮寺を目指しましょうか」

 

 

 

 

「遅い・・・・・・」

 

「やっと起きたのか・・・・・」

 

「もう日が昇っているから・・・・・」

 

 いつものように、ブロントさんは寝坊した。魔理沙たちは既にテーブルの周りの座っている。宿屋の主人が焼きたてのパンを入れた皿を置いて行った。

 

「・・・・・・・すいませんでした!許してくださいますか」

 

 ブロントさんが席につく。

 

「さて、と。その命蓮寺だけど、一体どういう場所なんだ?」

 

「砂漠地方にある、そこそこ大きな寺らしいんです。そのお寺の周囲には町があって、そこもかなり賑わっているようです」魔理沙の疑問に小鈴が答える。

 

「へーえ。そんなところがあるとはな。色々なところを回ってたけど、さすがに行ったことが無かったな」

 

「最近は、妙に魔物が凶暴化しているから、来る人も少なくなっているみたいよ。まあ、今は何処へ行ってもそんな感じだけどね」

 

 確かに、昨日まで滞在していたホムラの里の住民からも似たような話を頻繁に聞いていた。

魔物が強くなってきたため、自衛手段を持たない行商人や旅芸人たちは、傭兵を雇ったり、中には戦うための技術を身につけるような者まで現れたという。

 

「私たちも、ホムラの里に到着するまでは、二人でその辺の魔物は排除できたんだけど、流石にこの先はきつそうなのよね」

 

 霊夢は丸パンを噛り、紅茶で胃袋の中へと流し込んだ。魔理沙はベーコンを咀嚼し、ブロントさんは骨付きの鶏の脚に噛りついた。

 

「それなら、このPTのメイン盾のブロントさんの出番だな。巫女に魔法使い、それに普通の人間。後衛ばっかりだけど」

 

「うむ。守りはナイトに任せるんだが?」

 

「さて、そろそろ出かけようぜ。あまりダラダラしてられないだろうしな」

 

 

 

 荒れた山道を南に向かって下ると、今度は砂漠が見えてきた。ここからは、命蓮寺とその周囲の町に辿り着くまで休憩できるような場所は無い。幸いにも、砂漠の入り口の前に井戸があった。

 

「ここで水を汲んでおこうぜ。この先、休憩できるような場所なんて・・・・・・」

 

 魔理沙は看板を見た。それにはこう書かれていた。

 

"注意、この先、命蓮寺に辿り着くまで水は手に入りません。ここで汲んでおきましょう"

 

"砂漠の魔物は非常に強力です。戦いに余程の自信が無い限り、越えようとするのはやめましょう"

 

"引き返すなら今のうちです。無理せず帰るのも手のうちです"

 

「随分と大袈裟だな。まあ、こんな所に来るような奴は、こんな注意書きなんて無視するだろうけどな」

 

「ま、それもそうよね」

 

 ブロントさんは井戸から水を汲みだし、大きな瓶に入れていった。

 

「さて、ブロントさん。瓶の中はいっぱいになったか?」

 

「なあに、この程度のクエはナイトにとってはチョロいこと。ほれ」

 

「お、これなら砂漠越えできそうだな。さて、行くとしようか」

 

 

 

 強烈な日差しが照り付け、焼けつくような感覚が続く。途中でサボテンボールやじごくのハサミといった、魔物の襲撃を退けつつ、次の目的地を目指す。

 

「あいつには手を出さない方がいいな。いかにも強そうだ」

 

 魔理沙の視線の先には、オレンジ色の体毛を生やし、背中に翼のある大きな 魔物がいた。そいつは巨体を丸め、ぐっすりと眠っている。

 

「ワイバーンドッグですね。かなりの強敵です。ここは静かに通りすぎましょう」

 

「どちらかと言えば大賛成」

 

 流石のブロントさんも小鈴の意見に同意した。一行は巨大なモンスを起こさぬよう、ゆっくりと静かにその場を去った。

 

 

 

 日が傾き、さらに夜のとばりが落ち始めた頃になって、ようやく向こうに城壁らしき建造物が見えてきた。あれが命蓮寺と、その周囲の町らしい。

 

 町は非常に活気に溢れ、通りには商店や宿が幾つも立ち並んでいる。更には、旅の商人が露店を並べ、絨毯の上に様々な商品を並べている。

 更に、奥には大きく、派手なテントがあった。町の人に話を聞いてみると、あのテントは簡易劇場になっており、夜になるとここを訪れたパフォーマーたちが様々なショーを披露し、町の人々を楽しませているのだという。

 

「ふう、疲れたわね。町をちょっと見て回ったら、今日はもう休まない?」霊夢が他の3人に提案した。

 

「ああ、でも、その前にちょっと酒でも飲みたい気分だな。ブロントさん・・・・・」

 

「せっかくだけど遠慮します」

 

「はあ・・・・下戸な人が一人いると、ゆっくりお酒も飲めないなんてね」霊夢が嘆息する。

 

「すまにぃ・・・・・」

 

「どうせなら、ショーでも見に行きませんか?何だか面白そうじゃないですか!」

 

 小鈴の提案には、ブロントさんも同意した。4人はマネージャーに代金を支払い、テントの中に入っていく。

 

 中は長いベンチが並び、大勢の人々がショーを楽しんでいた。既に満席状態のため、ブロントさんたちは立ち見での見物となった。

 

 大きなナイフでジャグリングをしながら、口から火を吹く男が舞台の袖へと下がっていった。どうやら、タイミング悪くショーが終わったところらしい。

 

 観客の拍手に合わせて手をたたく司会の男が舞台に上がってきた。

 

「いやいや、素晴らしいショーでした!では、続いてのショーに参りましょう!次のパフォーマーは、ここ数日で人気急上昇!彗星の如く現れた若き才能!それでは登場して貰いましょう!七色の人形使い!アリス・マーガトロイド!」

 

 洒落たピアノの音色と共に、白いケープと水色の長いワンピースを着た、ウェーブのかかった短い金髪の少女が舞台に上がってきた。彼女のすぐ隣には、小さな金髪の人形が・・・・・・・・浮いていた。

 

 少女は観客に向かって一礼すると、人形の方を見た。

 

「さあ、上海、みんなにご挨拶しなさい」

 

「シャンハーイ!」

 

 人形がなんと・・・・・口を動かし、喋ったのだ。これには、小鈴とブロントさんは目を丸くした。が、一方で霊夢と魔理沙はそれほど大きな反応を示さなかった。

 

「おいィ、人形がしゃべるのはずるい」

 

「ブロントさん、多分、あれは魔法の一種だ。私はこういうのは習得していないけど、術式を解析すれば簡単に習得できるぜ」

 

「む・・・・・?」

 

「確かに、あの人形。糸で操られている様子も無いですね。どうやっているのかと思えば魔法でしたか」小鈴がアリスの指示に従って動き回る人形をまじまじと観察して言う。

 

「それに、糸で操られていたんじゃ、ああいう風に自由奔放に動き回るだなんてできないからな。あいつが魔力で動かしているとしか考えられないな」

 

「ほむ。見事な人形劇だと感心が鬼なる」

 

 ステージの上に立つアリスという少女は自由自在に人形を操って見せた。人形とジャグリングをしたり、人形を観客の間を縫うように飛び回らせたりする。

 

 人形使いがステージから去ると、また司会者の口上に続き、別のパフォーマーがやってきた。どうやら、騒霊の三姉妹とかで、バイオリンとトランペット、キーボードを使った、これまた見事な演奏を披露した。

 ブロントさん一行は、しばし旅の目的を忘れ、次々とステージに上がるパフォーマーたちのショーに夢中になった。



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足止め

 翌朝。ブロントさんたちは命蓮寺の門の前に立っていた。今日も多くの人々が寺の参拝に訪れいた。だが、今日は少々様子が違うようだ。門の前では青い頭巾を被った少女と大きな入道が列を押しとどめていた。

 

「皆さん、申し訳ないですが、今日の参拝は少しの間お待ちください。ただ今、問題が起きており、それが解決するまでは通行手形を渡することができない状態なのです・・・・」

 

「そんなこと言ったって、こっちは手形を貰わないと仕事にならないんだ」

 

「おいおい、勘弁してくれ。こんなところで足止めだなんて、冗談じゃないぞ」

 

「・・・・・何か問題が起きているみたいね。ブロントさん、どうするの?」霊夢が言う。

 

「む。まあ、ここのトップに会ってみるぞ。そうでもしないと何もできなさそうだからな」

 

 ブロントさんたちは人々が門の前から去っていくのを待ってから、件の少女に話しかけた。

 

「おいィ、おもえは困り顔が鬼なると思った。まあ、一般論でね。一体、何が起きて居るんdisかね?」

 

「・・・・・・ええ?」

 

「おいおい、ブロントさん。これじゃ、相手も困ってしまうだろ。まあ、私たちはここの偉い人に会いたいんだが、通してもらえないか?」

 

「そうですか。わかりました、それにしても、あなたたちは随分腕が立ちそうですね」

 

「む・・・?」

 

「いいでしょう。では、聖に会わせてあげましょう。では、こちらへ」

 

 雲居一輪と名乗った、尼僧のような恰好をしたその少女に続き、ブロントさんたちは寺の中に入って行った。

 

 

 

 寺の中では多くの修行僧たちが慌ただしく駆け回っていた。どうやら、かなり深刻な問題が起きて居るようだった。

 

「全く、ご主人様はまたやらかしたのか。それにしても、あんなところに落っことしてしまうだなんて驚きだよ」

 

 ネズミの妖怪の少女がショートカットの金髪の少女を見上げていた。金髪の少女は面目なさそうな表情で頭を抱えている。

 

「うう・・・・まさか、またこんなことになるだなんて・・・・・」

 

「とはいえ、ここの僧兵たちではあの辺りにいる魔物は太刀打ちできないからな。先ほど派遣した部隊も、大怪我をして戻ってくる有様だ。どうにかできないものか」

 

 そうこうしていると、負傷した僧兵たちがやってきた。全員、負傷しており、鎧の一部には穴が空き、槍や剣は折れている。

 

「ほ・・・報告します。北の砂漠の魔物が再び暴れ出しました。監視していた我々が抑え向かいましたが、全く歯が立ちません。現在、少ない人数ですが、監視を続けている状態です」

 

「わかりました。まずは怪我人の手当を始めて下さい。これでは、次々と兵士を送るのは無駄なようですね。聖には私が報告を・・・・・・」

 

「わかりました・・・・」

 

 

 

 命蓮寺の筆頭である聖白蓮は頭を抱えていた。これ以上、魔物の討伐にこの寺の僧兵たちを派遣するのは徒に負傷者を増やし、最終的には犠牲者を出すだけだというのはわかっていた。とはいうものの、西方の砂漠で暴れている魔物を退治しなければ、更に多くの人々を危険に晒し続けることになる。

 魔物の第一報は、ここから北西方面へ食用となる珍しいサボテンを探しに向かった商人からあった。その商人は、仲間たちとともに目的の品を探していたが、突如として見たこともない魔物に襲われ、5人中2人が犠牲になってしまったという。

 

 まず、白蓮は少数の僧兵の小隊を派遣し、偵察に向かわせた。だが、その僧兵たちは偶発的に件の魔物に出くわし、戦いの中で犠牲者も出てしまった。

 僧兵の本隊をすぐに派遣したが、たった今、返り討ちにされて戻ってきたところだ。

おまけに、西の古いお堂から大切な独鈷を取りに向かった寅丸星がその魔物に追い回され、その独鈷を砂漠で無くしてしまうという有り様だ。

 

 仕方が無いが、外部から戦いの腕に自信のある人妖を募るしかない。やがて、一輪と雲山が5人の客人を連れてこちらに向かって来るのが見えた。

 

「あら、一輪。そちらの方は・・・・・?」

 

「どうやら姐さんに用があるみたいのです」

 

「そうですか。では・・・・・」

 

 白蓮はブロントさんたちに向き直った。

 

「ええと・・・・私に用というのは・・・・・」

 

「ええ、単刀直入に言うわ。私たちは命の大樹を目指して旅をしているんだけど、そこに行くには虹色の枝が必要になるの。ここにそれがあると聞いたのだけど・・・・・」

 

「うーん。それは難しいですね。実は、先日、この寺に賊に押し入られてしまい、その時に他のお寺の宝と一緒にどこかへ持ち出されてしまったのです。僧兵たちにその連中を追わせているのですが、まだ行方を掴めていないのですよ」

 

「その他にも問題が起きて居るみたいね」霊夢が続ける。

 

「ええ。西の方で狂暴な魔物が暴れていまして、ここの僧兵たちでは太刀打ちできない程強いのです。しかも、その魔物が暴れている場所で寺の者が大切な法具を失くしてしまい、探すに探しに行けない状態なのです」

 

 そこへ一人の少女がやって来た。

 

「ちょっと、ここから西に向かおうとしてたのに、関所を通ることができないってどういうことなのよ!」

 

「シャンハーイ!」

 

 ブロントさんたちが後ろを見た。その人物は、昨日、劇場で人形を操っていた少女だった。

 

「すみませんアリスさん。あの関所の向こうには凶悪な魔物が暴れていて、人間であれ妖怪であれ、通すことができないのです。退治が終わるまでこちらで待っていて貰えますか」

 

「どちらかと言えば大反対」

 

 口を開いたのはブロントさんだ。

 

「ここでネガを吐いている暇があったら、俺は手を出すだろうな。と、いうことで、魔物退治は俺たちがやるんだが?」

 

「ああ。ここでじっと待っていても、埒があかないだろうからな。私はブロントさんに賛成だぜ。霊夢、小鈴、どうだ?」

 

「うーん、確かにここで待っているよりは現実的ね。ついでに失くした宝物とやらも回収してしまいましょう」霊夢は少し考えてから答えた。

 

「し、しかし、皆さん。あの魔物は、僧兵の一個小隊を返り討ちにするほど強いのですよ!あなた方だけでは・・・・・・」

 

「それなら、私も行くわ。いずれにせよ、魔物を倒さないと次の目的地にたどり着けないし、それに、ここに来るまでに伊達に魔物と戦ってきた訳じゃないのよ」

 

「シャンハーイ!」

 

「おいおい、大丈夫なのかよ。人形使いだと?」

 

「あら。私はあなたと違って生まれながらの魔法使い。つまり、私の魔力は先天的なものよ。魔物程度に遅れを取ることは無いわ」

 

「うーん、どうする?ブロントさん」

 

「戦いは数だよ、と俺に格闘術を教えてくれた先生がいたからな」

 

「囲んで袋叩きね。まあ、いいんじゃない?それに、件の魔物は随分と強いみたいだし」

 

「それに、こんな状況では、年に一度のあの行事が開催できないと判断したので、魔物退治をしようとしていたのよ」

 

「年に一度の行事?何だそれは?」魔理沙がそう言った一輪を見る。

 

「町の中心に大きな闘技場みたいなのがあったでしょ?あれは年に一度の競馬会を開催するための場所なの。明日がその日で、今日は各地から腕自慢の騎手たちが集まるはずなんだけど、今年は妙に集まりが悪いと思ったら、西の砂漠の魔物にみんな足止めされているんだわ!」

 

「なるほどな。ブロントさん、戦いの準備を終えたら、早速出発するか?」魔理沙が訊く。

 

「うむ。アイテムを買い込んだら、カカッととんずらできょうきょ参戦するぞ」

 

「ブロントさん、と言いましたか。それならば、この寺で一番脚の速い馬を貸しましょう。寺の者には、私から伝えておきます」

 

 

 

 街で道具や装備を整えたブロントさんたちは、白蓮に言われた通り、寺のすぐ近くにある厩戸に集まった。そこでは、1人の妖怪の少女が馬たちの管理をしていた。その少女は三股の槍を持ち、背中には三対の触手のようなものが生えている。彼女は封獣ぬえ、と名乗った。

 

「あんたらが聖が言っていたブロントさんたちかい?馬は一頭でいいのか?」

 

「ほう、俺をさん付けで呼ぶ奴は本能的に長寿タイプ。ジュースを奢ってやろう」

 

 ブロントさんは、まるで手品のように袖の下から瓶入りのジュースを出してぬえに差し出した。

 

「お、ありがとさん。それじゃ、気をつけてな」

 

 

 

 ブロントさんは馬に乗り、荒野を西に向かった。魔理沙たちは、そのすぐ上を飛んでいる。サボテンボールやさまよう鎧、ブラウニーは馬の速さに追い付かず、ブロントさん一行を見逃すしか無かったが、キメラや怪しい影といった飛行型のモンスは追い付いてきたため、その都度、魔理沙たちが弾幕を放って退けた。

 

 しかし、だ。やはりとにかく暑い。強烈な太陽の光が鎧を加熱させ、ブロントさんを蒸し焼きにする。ブロントさんはスカーフで汗をぬぐい、水筒からちびりちびりと水を飲む。

 

「ちょとsYレならんしょこれは。砂漠が暑いのはずるい」

 

「うーん、仕方が無いな。ほら」

 

「む・・・・・?」

 

「魔力で冷気を錬成して、身にまとわせてみたのさ。ちょっとはマシになっただろ?」

 

「これはえごいな。素晴らしい魔力だ素晴らしい!」

 

「へへっ、それほどでもないぜ!」

 

「それにしても、魔物はどこにいるんでしょうか?さっきから、サボテンボールやウィングスネークすら見かけませんが・・・・・」

 

「ブロントさん、ちょっと待って・・・・」

 

「む?」

 

 霊夢たちが一旦着地した。そして、目を正面に向かって凝らす。よく見ると、砂丘の上で槍や剣を持った10人ほどの僧兵たちが円陣を組み、周囲を警戒しているようなそぶりをしている。

 

 突然、凄まじい砂ぼこりが立ち上ったかと思うと、巨大な黄土色のエビともサソリともつかない魔物が砂の中から現れた。兵士の一人が反応する間も無くその魔物の鋭い爪で文字通りバラバラに切り裂かれた。

 

 別の僧兵がなぎなたで斬りかかった。魔物の甲羅の一部が砕かれ、傷口から紫色の体液が飛ぶ。だが、彼ができたのはそこまでだった。4つの爪が体に突き刺さり、彼は傷から大量の赤黒い血を流しながら絶命する。

 

 もう一人の僧兵が剣を持って斬りかかったが、どう考えても彼は武器の扱いに慣れているとは思えない動きだった。

 

「ブロントさん、まずいぞ!」魔理沙がその様子を見て叫ぶ。

 

「うむ。加勢するんだが・・・・・・一気に行くぜ!」

 

 ブロントさんは勢いよく魔物に斬りかかった。



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砂漠の殺し屋と探し物

 サソリの魔物は腕を持ち上げ、唸りながらブロントさん目掛けて振り下ろした。キチン質の皮膚とと鋼鉄がぶつかって鈍い音を立てる。

 

 ブロントさんは剣を振り、魔物に斬りかかるが、鍛え上げられた鋼鉄の剣であっても、魔物の甲羅の表面を小さく砕く程度のダメージしか与えられない。

 

「ブロントさん、下がってくれ!」

 

 魔理沙が八掛炉を掲げ、魔力を錬成した。炎が勢い良く吹き出すが、魔物の体表をかるく炙る程度の効果しか見られない。霊夢がどす黒いオーラを魔物にぶつけ、更に、飛び上がって上空から踵を叩きつけるが、まるで効果が無い。

 

「クソッ!なんて固さだ!」

 

 一方の魔物は、吠えながら4本の腕を振り回し、霊夢に向かって突進してきた。だが、霊夢は、まるでそれを最初からわかっていたかのように飛び上がって避ける。

 

 剣を持った上海人形が回転しながら魔物に斬りかかったが、表面を引っ掻く程度の効果の他は何も見られない。

 

 その人形の持ち主、アリスは、今度は魔力を集中させた。巨体なサソリが青白い光に包まれる。だが、それだけで、何かしらのダメージを与えているようには見えない。

 アリスは続いて、魔力をブロントさんにぶつけた。すると、ただでさえ極太なブロントさんの二の腕の筋肉が更に盛り上がり、血管が網の目のように浮き上がる。

 

「ブロントさん、これでいけるはずよ!」

 

「む、何だかわからんが、超パワーむくむくするのがわかるんだが。調子に乗るなよ!本気で行くぞ!」

 

 アリスが放ったのは、筋力増強の術式だった。ブロントさんは剣を振りかざし、サソリの魔物に向かって振り下ろした。キチン質の皮膚の一部が砕け、飛び散った。ついに化け物の強固な装甲に綻びが生まれる。

 

 霊夢が飛び上がり、モンスに蹴りを食らわせた。ブロントさんの攻撃ほどの効果は見られないが、魔物の甲羅にへこみができる。

 

 このままでは不利だと思ったのか、巨大なサソリは叫び声を上げて砂ぼこりを上げながら地中に逃げ出した。

 

「や、やったのか!?奴は逃げ出して・・・・・」

 

 命蓮寺の僧兵の一人が、なぎなたを構えて周囲を見回しながら言うが、霊夢が遮った。

 

「まだよ!気をつけて!」

 

 若い僧兵の一人が槍を構え、周囲を警戒する。後ろに三歩ほど下がった時、何が彼の足首を掴んだ。

 

 僧兵は叫び声を上げ、地面に向かって槍を滅茶苦茶に突き刺す。だが、サソリの魔物は信じられないほどの力で彼を掴み、そのまま砂の中に引きずりこもうとする。それに気づいた僧兵隊の隊長が僧兵の腕を掴んで引っ張る。

 

「クソッ!手を貸してくれ!」

 

 他の兵士たちが魔物に引っ張られる兵士を助けようとする。魔物に捕まれている兵士の左脚が両側から引っ張られ、真っ直ぐに伸びる。兵士は痛みに顔を歪めている。

 

「こいつ!」

 

 魔理沙が八掛炉を構え、意識を集中させた。八掛炉から大量の水が凄まじい勢いで放出され、バケモノの周囲の砂を洗い流す。魔物の姿が地面から現れた。

 

「これでどう!?」

 

 アリスが魔法を放つ。先ほどと同じ、魔物の甲羅を柔らかくした術式だ。槍を構えた上海人形が敵の真上から突撃し、脆くなった外殻を貫いた。

 

 化け物は叫び、4本の腕を上げた。その勢いで、掴まれていた兵士の膝から下が千切れ、宙を舞う。兵士の傷口から、おびただしい量の血が砂の上に流れていく。

 

「小鈴ちゃん!」

 

 霊夢の声に、小鈴が反応した。左脚を失った兵士に向かって術式を放つ。だが、傷口を塞ぎ、出血を止めるまでの効果しか現れず、無くなった膝から下は再生することは無い。

 

 馬鹿でかいサソリは、再び地面のなかに逃げようとした。霊夢がその動きに反応する。

 

「逃がさないわよ!」

 

 霊夢は霊力をまとわせたお札を幾つも投げつける。それは、地面と魔物に張り付き、結界を作り出した。

 

 化け物サソリは結界の霊力によって動きを封じられた。ようやくこれでまともに攻撃を入れられるだろう。

 

 霊夢は真っ直ぐ地面に向かい、体を回転させながら、敵に何度も蹴りと体当たりを食らわせた。霊夢がその場を離れると、次の攻撃が魔物を襲う。

 

「やっちゃいなさい!」

 

「シャンハーイ!」

 

 剣を持った上海人形が、全身を回転させながら何度も化け物を斬りつけ、次の仲間に攻撃の場を譲った。

 

「どこを見てる!こっちだ!」

 

 箒に乗った魔理沙が、弾幕をばら蒔きながら魔物の上を通過した。魔力による爆撃を食らった馬鹿でかいサソリは、もう虫の息だ。

 

「ブロントさん!」

 

「うおぉぉぉぉぉ!生半可なナイトには真似できない、なんか飛び上がって回転しながら連続で斬りつける技!」

 

 ブロントさんが剣を振りかざしながら飛び上がり、猛烈な速さで縦回転運動をしながら魔物を攻撃し、千切れたサソリの腕や脚、体組織が宙を舞う。後には、無数の破片となった砂漠の殺し屋がいた。

 

「は、はあ、はあ、やったのか!?それにしても、こいつ、何個の破片になったんだ?」

 

 その場にへたりこんだ兵士がそう言うと、ブロントさんは9個でいい、と返した。

 

「いや、あんた。これだと9個どころじゃないだろ」

 

「おおーい!」

 

 遠くから声が聞こえてきた。馬に乗った人々がこっちに向かってきた。

 

「あんたらは、命蓮事の人たちか?それと、この人たちは・・・・・・?」

 

「ああ。この旅の方々は、あの砂漠の殺し屋を退治するのを手伝ってくれたんだ」

 

「まあ、いいや。とりあえず、これでウマレースに参加できるようになるんだな」

 

「ウマレース?」魔理沙がキャラバンの先頭の男を見て言った。

 

「なんだ、お嬢ちゃん、ウマレースを知らないのか。命蓮寺で定期的に開かれる大会で、各地から腕自慢の騎士や旅人、そしてギャンブラーが集まる一大イベントさ。俺たちは、そのウマレースに参加するために、はるばる北の地から船を使ってまでもやって来たのさ。さて、こんな所で油を売っている暇は無いんだ。それじゃあな!」

 

 男が手綱を引き、馬を命蓮寺に向けて走らせた。他の騎手たちもそれぞれ乗っている馬を加速させ、ブロントさんたちに黄色い砂煙を浴びせて走り去っていった。

 

「そういえば、何か頼まれていなかったっけ・・・・・?」魔理沙が右手で顎の下に触れて考えるような仕草をする。

 

「魔理沙さん、確か、命連時の人が大事なものをここで失くしたとか言っていませんでした?」小鈴が助け舟を出す。

 

「おっと。でも、こんなだだっ広い砂漠で落とし物を探すだって?どう考えても無理だろ・・・・・」

 

「言われてみれば、すっかり忘れてしまっていた感」

 

「うーん、ちょっとあの辺を歩いてみない?ブロントさん、キメラの翼、ありますよね?」霊夢が提案する。

 

「あるぞ」

 

「疲れたりしたら、それで命連寺に戻ればいいわ」

 

「なるほどな。それじゃ、ちょっくらその宝物とやらを探してみるぞ」

 

 

 

 ジリジリと強烈な太陽が体を焼く。魔理沙とアリスが魔力で作り出した冷気が無ければ、5人ともとっくのとうに熱中症で倒れ、干からびてミイラとなり、裏世界でひっそりと幕を閉じていた事だろう。

 

「ちょっと、なんで私までこんなのを手伝わなきゃならないのよ・・・・・」

 

「シャンハーイ・・・・・」

 

 アリスは不満そうに黄色い砂の上を眺めながら歩き回る。しかし、だ。そもそも、その宝搭というものがどういうものであるのか、ちっともわかっていないという問題がある。

 

 砂漠をうろつきまわっていると、サボテンボールやおおさそりが襲ってくるので、その都度、退けねばならなかった。

 

 それから、この日、十何回目かのサボテンボールの群れに遭遇した時だった。普通、薄い緑色をしているはずのサボテンボールの群れのうちの一匹に、なんと、全身金ピカのサボテンボールが現れたのだ。ブロントさんの言葉を借りれば、さしずめ『黄金の鉄の塊でできたモンス』といったところか。

 

「おい!あいつは転生モンスターとかいう奴じゃないか!」魔理沙がやや興奮気味に言う。

 

「何よそれは」そう返したアリスは冷静そのものだ。

 

「魔物の中には、転生モンスターといって、ああいう見た目が変わる奴がいるんだ。勿論、そんじょそこらの魔物に比べたら強いが、珍しいお宝を持っていることがあるとかいう話だ。さて、やっつけるか!」

 

 魔理沙は開口一番、八掛炉を敵に向けた。そこから猛烈な勢いで水が放たれ、魔物を突き飛ばす。サボテンボールは反撃とばかりに鋭い棘を伸ばし、ブロントさんたち目掛けて転がってくる。

 ブロントさんはサボテンボールの体当たりを盾で弾き、剣で真っ二つに切断した。他のサボテンボールは全く怖気づくことなく、襲ってくる。

 

 霊夢が放った弾幕により、何体かのサボテンボールが皮膚が黒焦げになって倒れた。だが、例の金ぴかのモンスは同じように攻撃を食らっているはずなのに、それほどダメージを食らっている様子は無い。

 

「流石は転生モンスターと言うだけあって、他より頑丈ってやつか!」

 

 魔理沙が魔力を凝縮させ、炎の帯として八掛炉から放った。小鈴が小さな竜巻を発生させ、サボテンボールの群れを切り刻む。

 

「行くぜ!生半可なナイトには使えないホーリー!」

 

 ブロントさんが剣をかざすと、金ぴかの魔物が白い光に包まれて爆発した。が、まだ倒れた訳ではなかった。恐ろしく頑丈な魔物だ。

 

「これならどう!」

 

 アリスが先ほど、サソリのバケモノの外殻を軟化させた術式を放った。金ぴかのサボテンの皮膚がこれで柔らかくなったはずだ。

 

「行くぜ!ハイスラァ!」

 

 ブロントさんが剣をかざし、勢いよく振り下ろした。金ぴかのサボテンの魔物に大きく切り傷が刻まれるが、まだ絶命した訳ではない。

 

「しぶとい野郎だ!これを食らえ!」

 

 魔理沙が八掛炉を構えた。それから無数の氷の刃が飛ぶ。金ぴかのサボテンはとどめを刺され、砂漠の上に転がった。

 

「ふう。さて・・・・・おや?これは何だ?」

 

 魔理沙は金ぴかのサボテンの魔物が何かを持っていることに気づいた。それは、屋根のついた筒のようなもので、金色に光っている。

 

「うーん、もしかしたら、これがお寺の妖怪が失くした、宝塔とかいうやつじゃない?」霊夢がそれを拾い上げて言う。

 

「まあ、とりあえずこれは貰って行くぞ。これが例の宝塔だったらLSみょんれん寺に返してやるぞ」

 

「あーあ、もう、いつの間にか夕方じゃないの」

 

 アリスが空を見上げて行った。太陽は西に向かって傾いており、空もオレンジ色に染まりつつあった。夜になれば、砂漠の気温は急激に下がる。

 

「じゃあ、これを使うか」

 

 魔理沙が鞄の中からキメラの翼を取り出した。これを使えば、一番近くにある町に瞬時に飛ぶことができる。冒険者の必需品の一つだ。

 

「うむ。さっさと戻って、宿屋に行くぞ。それじゃ、頼んだぞ、魔理沙」

 

「ああ、任せてくれ」

 

 魔理沙はキメラの翼を空に向かって放り投げた。 



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ウマレース

 ブロントさん一行が命蓮寺に戻ってみると、街はどうやら活気付いている様子だった。話を聞いてみると、明日、ウマレースの大会が開催されることになったらしい。広場の掲示板にはオッズ表が貼り付けられ、どの騎手が乗る馬に掛けるのか、という話で人妖が盛り上がっている。

 

「凄い活気ですね。皆さん、さっきよりもかなり盛り上がっているみたいで・・・・・」

 

 群れになった人々を見た小鈴は目を白黒させる。一方、魔理沙はかなりこの状況をかなり楽しんでいる様子だった。

 

「なあ、ブロントさん。せっかくだし、明日はそのウマレースとやらを見物してみないか?」

 

「うむ。そうしてみるぞ」

 

「それよりも、先に宝塔とやらをお寺の妖怪に返してあげましょう」と、霊夢。

 

「おっと、肝心な事を忘れていた感。じゃあ、早速こいつをみょん蓮寺の奴らに返しに行くぞ」

 

 

 

「ああ!皆さん、これですよ!」

 

 寅丸星は、ブロントさんから渡された宝塔を手にすると、やや興奮気味にそれを袖の下にしまいこんだ。

 

「全く、ご主人様はこれで何回目だ?それを失くすのは」

 

 星の直属の部下であるナズーリンは呆れ顔だ。

 

「それで、例の魔物はどうなったのかの?お主たちが退治したのかの?それにしても、あんな危険な依頼をよく引き受けてくれたのう」

 

 ブロントさんに尋ねたのは、数百歳以上とも思える化け狸の妖怪で、名前を二ツ岩マミゾウといった。

 

「うむ。そいつなら、ナイトがバラバラに切り裂いたんだが?頼まれたクエを断るか、放棄するナイトLS→心が狭く顔にまで出てくる→いくえ不明。頼まれたクエを引き受けるナイトLS→魔物退治と落とし物探しのクエを両方達成して帰ってくる→心が豊かなので性格も良い→彼女ができる。ほれ、こんなもん」

 

「ふむ。聖の方は、明日のウマレースの準備で忙しいらしいからの。魔物退治が完了したことは儂が伝えておこう。お主たちは今日は宿でゆっくり休むと良かろう」

 

「そう。それじゃ、そうさせてもらうわ。それにしても、虹色の枝盗んだ奴を追わなきゃいけないのもあるけど、焦ってもしょうがないわね」霊夢が言う。

 

「それなら、今日はとっとと宿に行って休むぞ。睡眠時間は9時間でいい」

 

「ウマレースは明日だからのう。どうじゃ?お主たちも見物してみては?」

 

「元からそのつもりだぞ」

 

「さて、それじゃ宿に行くか」

 

 

 

 翌日。町の中心にある競馬場の前には黒山の人だかりができていた。中には夜明け前から並んでいた人々もいたらしい。

 30分程待っていると、鐘の音と共に競馬場の門が開いた。ざっと数えて1000人を軽く越える人々の流れを、僧兵たちは見事に捌いてみせた。そして、馬券を買うギャンブラーたちと単に見物をする人で、途中で別々の入場通路に枝分かれしていった。

 

「どうする?ブロントさん。馬券を買って一山当ててみるか?それとも単純に見物するか?」魔理沙が言う。

 

「ちょっとだけ楽しんでみない?そうね、一人200Gまでを限度にするのはどう?」

 

「それじゃ、ちょっとやってみるぞ」

 

 ブロントさんたちは馬券を買う人々の列に並んだ。

 

 

 

 馬券売場では、どの馬に掛けるかという人々の熱気で溢れていた。ブロントさん一行のように、少額でほんの少しだけ楽しもう、と思っている人間は少数派だ。皆、山のような紙幣を机に置き、馬券を受け取っていく。

 

「うわぁ、皆さんお金持ちですね。あんなお金、どこから出てくるんでしょう・・・・・」

 

 小鈴は飛び交う札束に目を白黒させていた。

 

「ああやって、人間はダメになるのよ。そうね・・・・・」

 

 霊夢はオッズ表を見上げ、ざっと目を通した。

 

「ブロントさん、2-8にしてみない?なんとなくだけど」

 

 2番と8番は、前評判は良くも悪くもない、普通の感じだ。倍率は4.6倍といったところか。

 

「む?じゃあ、霊夢が言うならそうするぞ。ものは試しなんだが?それじゃまずは100Gだけ掛けるぞ」

 

 

 

 今回、馬券を買ったのはブロントさん一人だ。4人が観客席に座ると、丁度、妙蓮寺の僧たちが高らかにファンファーレを鳴らしたところだった。会場のボルテージは一気に高まり、拍手と歓声が響き渡る。

 

「凄い熱気ですね。賭け事はしたことが無いですが、皆さんこんなに夢中になるものなのですか」

 

 小鈴が周囲を見回して、目を白黒させた。司会者とおぼしき男が何か言っていたが、歓声でかき消され、全く聞こえない。騎手たちが乗った馬は、スタート地点の白線の前に向かっている。おとなしく白線の前に立ち止まる馬いれば、なかなか言うことをきいてくれない馬もいる。

 

 スタートとゴールを兼ねたラインの延長線上には櫓があり、その上には赤い旗を持つ男が立っている。やがて、全ての馬がスタート位置に収まった。

 

 櫓の男が旗を振り上げると、馬が一斉にスタートした。ブロントさん一行を除く観客たちは、異様な熱気と共に歓声を上げる。馬たちは凄まじい勢いでコースを駆け抜け、前後に広がっていく。

 

 馬の集団が最終コーナーに差し掛かるまであっという間だった。観客のボルテージは最高潮に達し、耳を聾するほどの叫び声が響き渡る。そして、1着になったのは2番の馬、2着になったのは8番の馬という結果に終わった。霊夢が勘で当てた通りの結果となった。

 

「おい、マジかよ・・・・・本当に当てやがった・・・・」

 

 魔理沙が信じられないというような表情で霊夢を見た。倍率は3.1倍。100Gが310Gになった。このお金は即座に払い戻してもらうこともできるが、次のレースに持ち越して掛けることもできる。周りの観客たちの多くは立ち上がり、そそくさと馬券を買いに向かっているところだった。

 

「ブロントさん、どうする?次は7-1だと思うんだけど」

 

 霊夢は何のことは無いといった様子でそう言った。どうやら、彼女にとっては分の悪い賭けというものは無いらしい。

 

「む・・・・?取り合えず、また100Gだけ賭けることにするぞ(ここは慎重に行くのが大人の醍醐味)」

 

「そう。7-1よ。忘れないようにね」

 

 

 

 霊夢の予感は的中した。100Gが今度は230Gになった。そして、次のレースでは掛け金を200Gに上げてみると、それが480Gになり、次は200Gが310Gに、200Gが670Gになった。周囲の人間が当たった外れたで悲喜こもごもの様子を見せているのをよそに、ブロントさんたちは勝ち続け、所持金がどんどん増えていく。

 

 この日、全てのレースが終わる頃には、ブロントさんたちはかなりの大金を手にしていた。観客席にはビリビリに破かれた馬券の破片が無数に散らばっている。

 

「さて、この後は早速虹色の枝を持ち去った奴を追うことにするか。しかし、そいつがどこへ行ったのかが問題だな。そいつを追うにしても手掛かりが全く無いというのが」魔理沙が閑散となった競馬場を見回して言う。

 

「そうね。でも、問題もあるわよ。さっき小耳に挟んだんだけど、どうやら魔物が狂暴化している影響で定期船が止まってしまっているらしいわよ。一番手っ取り早いのは、自分の船を手に入れることだけど、さすがにこのお金でポン、と買えるような値段じゃないわ」霊夢が言う。

 

「そうですね。次にどうするかが問題になってきますね。いずれにせよ、私たちは八方ふさがりの状態です」

 

「うむ。だが、取り敢えずはこの先にある町に進んで、それから考えることにするぞ。まずは新エリアを開拓するのが冒険者の醍醐味」

 

「とはいえ、その町の次が問題なのよ。その町は港町なんだけど、さっき言ったように定期船が完全に止まっていると言ったでしょ」

 

「む・・・・、だが、それでも先に進まないといけなのは確定的に明らか。そうではにぃのか、霊夢どん」

 

「誰が霊夢どんですか。それにしても・・・・あら?」

 

 霊夢は自分たちに近づいてきている人影に気づいた。

 

「あなたたち、どうやらお困りの様子ね」

 

「シャンハーイ」

 

「あんたは確か・・・・・劇場で人形劇をやっていた魔法使いだったな」魔理沙が言う。

 

「ええ。この先にある港町に行きたいんだけど、魔物が狂暴化していて私一人ではどうしてもたどり着けそうにないのよ」

 

「むう。それなら、俺たちが同行するぞ」

 

「助かるわ。そうね、お礼くらいするわよ。私の船であなたたちを西の大陸まで連れて行くくらいはするわよ」

 

「おい・・・・今・・・・」魔理沙が目を真ん丸にしてその人形使い、アリスを見た。

 

「ええ。私の船、よ。その港町に船を置いていて、それで海を渡りたいんだけど、魔物が狂暴化していて私一人ではどうにもできないのよ。そこで、私の船であなたたちを西の大陸に連れて行く代わり、あなたたちに魔物を倒してもらおう、っていうこと」

 

「うむ。良いぞ」

 

「それじゃ、これでトレードオフね。さて、出発しましょう」



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彼岸の集落

「おら!メガトンパンチ!」

 

 ブロントさんがウィングスネークに拳を叩き込み、霊夢がダックスビルに回し蹴りをくらわす。マドハンドの群れを魔理沙が放った炎が焼き払い、剣を持った上海人形が回転しながらスライムつむりを斬り払う。

 命蓮寺の砂漠地帯とは一変、このダーハラ湿原は蒸し暑く、湿気っており、別の意味で不快な環境である。アリスは命蓮寺に辿り着くまで一人でここを抜けてきたのだが、何の事は無い。空を飛んで、地面をうろつく魔物を避けてきたのだ。

 

「見て下さい、ブロントさん!」

 

「おいィ!?モンスが汚い空蝉を使うとかsYレならんしょ?こいつ絶対忍者だろ」

 

 マドハンドが手招きをするような動きをすると、地面から更に5体のマドハンドが生えてきた。形勢が不利だと判断し、仲間を呼んだのだ。

 

「こいつは忍者じゃないで、マドハンドよ!」

 

 アリスの合図で上海人形が剣を持ってマドハンドに斬りかかる。だが、1体1体攻撃していては焼け石に水で、次々と仲間を呼ばれ、気づけば10体ほどにも増えていた。

 

「じゃあ、これならどうだ?食らえっ!」

 

 魔理沙の八掛炉から無数の火の玉が飛び出し、着弾して爆発する。マドハンドの表面が炎で炙られ、乾燥してボロボロと崩れ始める。霊夢が飛び上がり、くるくると回転しながら残ったマドハンドに蹴りを入れてとどめを刺した。

 

 

 

 周囲は開けているが湿地帯故、そこら中に鬱蒼と樹木が生い茂り、それほど視界が良いとは言えない。地面はぬかるんでおり、場所によっては木で組まれた大きな橋もかけられている。人の手が加わっているということは、ここを通る旅人も少なくないのだろう。とは言うものの、ここの魔物は手強く、そこそこ戦いに慣れた人間でなければ通るのは厳しいだろう。

 

 青ばち騎兵がからかうように飛び回り、ブロントさんに向かって針を飛ばして攻撃してきた。おまけにダックスビルにスライムつむり、とらおとこまで攻撃してくる。

 

「黒焦げになりやがれ!」

 

 魔理沙が八掛炉からレーザーを放って攻撃する。表皮を焼かれたダックスビルが悲鳴を上げて沼の中に逃げ込み、翼を焼かれた暗闇ハービーが墜落する。取り敢えず、襲い掛かってきた魔物を片づけることはできた。

 

「おいィ。ちょっとばかりモンスが粘着し過ぎではにぃか」 

 

「確かに、ここまで魔物が湧き出てくるのは、ちょっと前までは考えられなかったわね。あなたたちに同行してもらえなかったらこの先はどう考えても突破できなかったわ」

 

「それにしても・・・・アリス、お前、どうして自分の船なんて手に入れたんだ?」

 

「まあ、なんと言うか、なり行きってものよ」

 

「なり行きなんかで手に入るものじゃないだろ・・・・・」

 

「まあ、そんなのをいちいち気にしていたらすぐに禿げるぞ。まあ、一般論でね?」

 

「失敬な!私は禿げてないぞ!」魔理沙が言い返す。

 

「二人とも、バカなこと言ってないで。ほら、また敵よ」

 

 霊夢の視線の先には、ひぐらしそうやデーモントード、スライムつむりといった魔物がいる。そいつらは、一斉にブロントさん一向に向かってきた。

 

「またモンスがぽごじゃか沸いてきたか」

 

「ぽごじゃかって表現初めて聞いた。どこの言葉なんですか?」霊夢が言う。

 

「どこだっていいだろ!言語学者なのかよ?」

 

「バカなこと言っていないで、とっとと片づけるぞ」

 

 

 

 そんなこんなで、湿地帯を超え、森林と草原という長い道のりを魔物を退けつつ歩いてきたブロントさん一行は平原に到達した。小高い丘の上に立つと、視線の先に水平線が見えてきた。海だ。

 

「さて、アリス。お前の船ってのはどこにあるんだ?」

 

「ここから東に行ったところの港町に置いてあるわよ。まあ、そんなシケたような大きさの船じゃないから安心していいわ」

 

「ええと、あれを道なりに真っすぐですね」

 

「む。それじゃ、あっちに向かうぞ。ZUNは急げとも言うからな」

 

 

 

 ブロントさん一行はアリスが持つ船が停泊している、彼岸の集落という港町にたどり着いた。この街は今までブロントさんが訪れた町の中でも、白玉楼に次ぐくらいに賑わいを見せている。

 

「うわー、この町もかなり大きな町ですね。それに、何かお祭りでもあるのでしょうか」

 

 小鈴が見る先にあるのは、町の中心部に設置されつつあるステージだった。

 

「特に聞いてはいないわね。それよりも、ダラダラしている時間が惜しいでしょ。早いところ出港して、虹色の枝を盗んだ奴を見つけなきゃいけないんでしょ?」

 

 アリスが言うことはもっともだ。だが、そのついでに武器やアイテムの調達も兼ねて、少しばかり情報収集もしてみることにした。

 

 

 

 魔理沙とブロントさん、霊夢は食糧を買っている間、怪しい男が虹色に輝く木の枝を町の問屋にしつこく売り付けていた、という情報を得た。その問屋から話を聞くと、そいつは既に船で別の大陸へ向かったらしい。

 先に船が停泊しているドックにいるアリスと小鈴と合流しようとしたが、二人はドックの目の前にいる若い男に中に入るのを止められていた。

 

「すみません。明日になるまで、ドックは全部封鎖して、船は出さないように町長から言われているんです。今日はこの町で年に一度のコンテストが開催されるので、ここにいる人間もみんなそれの手伝いにかり出されているんです」

 

「はあ?私の船なのに、何であんたなんかが勝手にどうこうするの?何考えているのよ」

 

「シャンハーイ!」

 

「おいイ?俺たちは早いところ、この大陸から出発したいんだが?ZUNは急げという言葉を知らないのかよ?」

 

 ブロントさんがアリスの背後から、その男に話しかける。

 

「コンテスト、とか言っていたな。何なんだ、それは?」と魔理沙。

 

「はい。年に一度、この町と、近隣の村や里から、屈強な男たちが集まり、その力と肉体美を競うコンテストなんです」

 

 男は魔理沙にチラシを差し出した。

 

「全く、くっだらねぇな。私たちはそんなのに関わっている余裕なんて無いんだぜ」

 

「そう言えば、そちらのあなた、かなり筋骨隆々のようですね。顔も整っていますし、よろしければ・・・・」

 

「【せっかくだけど遠慮します】」

 

「そ、そんなこと言わずに参加してみてくださいよ。あなたならば、優勝できなくても、恐らくは2位や3位くらいなら・・・・」

 

「9位でいい」

 

「謙虚だなー」と、魔理沙。

 

「憧れちゃうなー」霊夢が続く。

 

 だが、男は食い下がった。

 

「今回はちょっと人が揃っていないんですよ。あと2、3人の参加者が・・・・・」

 

「どちらかと言えば大反対」

 

「そ、そんなぁ」

 

「ああ、もうあんたじゃ埒があかないな。この町のお偉いさんに直接話を付けてやる」

 

 魔理沙のその言葉で、一行は一旦、ドックを後にした。

 

 

 

 ブロントさんたちがこの町の町長を探して町の中を歩いていると、その後ろから小さいな影が住宅の角から観察しながら付いてきていた。そいつは素早く走り出すと、霊夢が持つ大幣を掠め取ろうとしたが。

 

「おっと、人のものを盗もうだなんて、感心しないわね」

 

 霊夢は素早く大幣を掲げ、茶髪の少年の手から遠ざける。小さな盗人は勢い余って、その場で顔面から派手に地面に突っ伏した。

 

「痛たたた、おい、ちょっとくらい借りたっていいだろ!」

 

 額と頬に擦り傷ができた少年が霊夢の方を見る。歳は10才くらいに見えた。

 

 その少年が現れた場所と同じ場所から、もう一人、赤毛の少年が現れた。その少年は何か言いたげな様子で、身振り手振りでブロントさんたちに訴えようとしているが、何か様子がおかしい。

 

「もしかしてこの子・・・・・」

 

 霊夢が赤毛の少年の喉の辺りに軽く触れ、意識を集中させる。

 

「何かの術式で喉?いや、違うわ。声帯を麻痺させられている。この子、そのせいで、声を出せなくなっているわ」

 

「おいおい、何だそりゃ?随分と酷いことをする奴がいるな。霊夢、お前の治療術で何とかできそうか?」魔理沙が言う。

 

「これは・・・・・ちょっと一筋縄にはいかないかも。それに、病気や怪我という訳じゃないから、私の治療術だけで何とかできる、ってレベルじゃ無いわね。でも、何か触媒になるものを使って術式を強化できれば、元通りに声を出せるようにできるかもしれない」

 

「触媒になるもの、ですか。満月草じゃダメそうですか?」小鈴が提案する。

 

「ちょっとやってみようかしら」

 

 霊夢は満月草を磨り潰して少年に飲ませ、術式を使ってみた。だが、元通りに声を出すことはできない。

 

「どうするんだ、霊夢。これじゃお手上げじゃないか」

 

「ちょとsYレならんしょこれは・・・・?エリ夢の治癒術が効かないのはずるい」

 

「うーん、どこかにもう少し強力な薬の原料みたいなものがあれば治癒術を増幅する触媒に使うことはできるんだけど」

 

「薬の原料ね。差し当たって、道具屋で探してみる?」アリスが提案する。

 

「それじゃ、カカッと薬を探してみるぞ。声を出せなくなった子供を放置するナイトはいないという意見」

 

 

 

 それからというもの、ブロントさんたちは道具屋を見て回り、特に薬の材料になりそうなものを探したが、どれも霊夢の治癒術を増幅する効果がありそうなものでは無かった。

 

「困ったな。流石のトレジャーハンターの私でも、治癒術を増幅するアイテムなんて聞いたことが無いぞ」魔理沙が頭を抱えている。

 

「術式を増幅するのは、どんなものでも良いわけじゃ無いんです。例えば、魔理沙さんが攻撃魔法の威力の増幅には毒キノコが効果的なように、術式によって増幅にできる触媒は変わるのです。霊夢さんの治癒術ならば、例えば薬草とか、薬の原料として使うものが必要なんです」

 

「しかし、生半可な回復力のアイテムではダメと言う顔になる。普通の薬草とは違う超パワーの回復アイテムが必要なのは確定的に明らか」

 

「困ったわね。とはいえ、こっちから手を貸した以上、あの子を放置するのはね」と、霊夢。

 

 一同が円陣を作るように立って考え事をしていたのは、寺院の扉の前だった。そこへ、街中を散策していた僧侶がやって来た。

 

「すみません、皆さん。ここを通してもらえませんか?」

 

「おっと、悪いな。そうだ、坊さん。ちょっと聞きたいんだが、この辺りに強力な薬の原料になりそうなものがあるかどうか知らないか?」魔理沙が脇にさっと飛びのいてから、その年配の僧侶に話しかける。

 

「薬の原料ですか。それならば、ここから西に向かった先の洞窟に、極めて純度の高い綺麗な水が手に入ります。どういう訳か、その水は薬草の効果を増幅する効果がありまして、以前は、その水に薬草を漬けて、様々な病症に効く薬を作っていましたが、今ではかなり狂暴な魔物が住み着くようになってしまって、そう簡単に取りに行けるような場所ではなくなりました」

 

「そうか、ありがとな、坊さん」

 

「いえいえ、何かの助けになれば、それで構いませんよ」

 

 そう言って僧侶は寺の中に入って行った。

 

「おい、聞いたな?」と魔理沙。

 

「うむ。それじゃ、カカッと西の洞窟に向かって、薬の原料を取りに行くぞ」

 

「この時間だし、上手くやれば夕方前には戻って来れるわね」霊夢が空を見上げて言う。

 

「それじゃ、早速、出発と行くか。それに洞窟だと、他にお宝もどっさり眠っているだろうしな!トレジャーハンターの腕が鳴るぜ!」



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霊水の洞窟

 ブロントさん一行は彼岸の里から海づたいに西へと歩みを進めていた。この野良妖怪が跳梁跋扈するご時世にも関わらず、行商人や薬草や鉱物を採取する人々は後を絶たない。それはそのはず、最近は、危険を冒してでも役に立つ武具や薬の材料を採取しに行く人々が減っていて、それに伴い、それらの原料の流通量も減少し、結果的に武具や薬品の流通量が減少し、価格も吊り上がる。

 そのため、これを商機であると考えた、戦いに自信のある人間たちは自らそれらを手に入れに、わざわざ魔物の住処になっている森林や洞窟などに向かって行くのだ。

 勿論、その多くの人々は、成功する試しが無い。大抵の場合、魔物に襲われて命を落とすか、大怪我を負ったり、毒を盛られたりして逃げ帰っていく人々が大半だ。

 

「それにしても、ここまでしてお金が欲しい人なんているんですね。天国には持っていけないのに」

 

 魔物に襲われて亡くなったのか。衣類が鞄などを身に着けたままの状態で白骨化した死体に小鈴が手を合わせる。

 

「危険だからと言っても、お金になるのよね。こういうのは」アリスがその骸を見て言う。

 

「シャンハーイ・・・・・・」

 

「そりゃあ、しかばねーなって、私らもこういうことにならないように注意しないとな」と、魔理沙。

 

「まあ、不安が鬼なるのもわかるという意見。だが、メイン盾のナイトがいる限りはこのPTメンからは死人は出さないんだが?」

 

「さて、敵さんだぜ。わらわらやって来たな」

 

「何いきなり話しかけてきてる訳?」

 

 あおバチ騎兵にマドハンド、ダックスビル、スライムつむり、虎男と魔物が大勢現れた。

 

「ちっ、随分多いな。面倒だな」

 

 魔理沙が八卦炉を掲げ、レーザーを放つ。短剣を持つ上海人形が回転しながら敵に斬りかかり、霊夢がモンスに向かって弾幕の雨を降らせる。

 

「おら、メガトンパンチ!」

 

 ブロントさんは剣を抜く間もなく、拳を虎男の腹に叩きつけ、更には大盾を前に掲げて体当たりを食らわす。流石の体格の大きな魔物も、これには堪らず背中から派手に地面に倒れる。

 

「そこで大人しくしていなさい!」

 

 ブロントさんが転がした虎男に向かって霊夢がお札を放った。お札は地面と魔物に張り付き、虎男の動きを完全に封じ込めた。

 

「お、こいつ、良さそうなものを持っているな。私が死ぬまで借りてやるぜ!」

 

 あおバチ騎兵と空中戦を繰り広げていた魔理沙は、魔物が宝箱を持っているのを目ざとく見つけ、短剣で切り付けると同時にかすめ取る。大事にしていたお宝を強奪されたあおバチ騎兵はすっかり頭に血が上ってしまい、他の人間のことを無視して魔理沙を追い始める。だが、それが命取りとなった。

 

「はあっ!」

 

 小鈴が術式を使って発生させた大きなつむじ風にあおバチ騎兵は巻き込まれ、錐もみ状態になって地面に墜落する。そこに魔理沙が飛びながら通りかかり、弾幕の雨を降らせてとどめを刺した。

 

 一方で、スライムつむりの相手をしていたアリスは少々苦戦していた。上海人形が持つ槍で攻撃するものの、殻に籠って防御するスライムつむりの装甲を貫通できないでいたのだ。しかも、その殻はかなり頑丈なようで、物質を脆くするスペルを放っても目に見えた効果は現れない。

 

「仕方ないわね。こうなったら、まとめてやっつけるしかないか」

 

 アリスは、ここに来る前に習得した術式を試した。すると、今度はスライムつむりたちの動きがおかしくなった。そいつらは、フラフラと蛇行したり、味方であるはずの別の魔物に向かって攻撃を仕掛ける。

 

「これでちょっとは楽になったかしら?」

 

 その隙を逃さなかったのが霊夢だ。霊夢は混乱状態のスライムつむりの群れの中に飛び込み、回し蹴りや正拳突きを食らわせてなぎ倒していった。

 

「これで一丁終わりね。ブロントさん、そっちはどう?」

 

「こっちは片づけたぞ。後にはバラバラになった雑魚がいた」

 

「魔理沙、そっちは?」 

 

「楽勝だぜ。それに、こいつを見てくれよ」

 

 魔理沙はいつの間にか、魔物から3つも宝箱をかすめ取っていた。相変わらず、お宝の臭いには敏感のようだ。

 

「呆れた」アリスが魔理沙が抱えている宝箱を見て言う。

 

「魔法使いかと思えば盗賊だったという顔になる」

 

「失敬な。魔物にはこういうものは使えないから、私が有効利用してやるだけだぜ。さーて、よっと」

 

 魔理沙が宝箱を開く。1つ目の宝箱には爆弾石、2つ目には上薬草、3つ目には鉄の槍が入っていた。

 

「まあ、悪くは無いな。この鉄の槍は後で売ってお金にしてしまえばいいし」

 

「さて、モンスを片づけたから、とっとと洞窟に向かうぞ。ZUNは急げという名言もあるからな」

 

 

 

 ブロントさんたちは、魔物を退けつつ、程なくして目的の洞窟に辿り着いた。洞窟の中はごつごつとした岩だらけで、小さな川も流れている。どうやら地下水が溜まっているらしい。

 

「確かに、ここで薬の原料になる水が手に入るとか町の坊さんは言っていたな」

 

 魔理沙が川の水を手で掬い、軽く啜った。

 

「お、この水はなかなか良さそうだな。泥や水草の臭みが全く無い」

 

「水源はこの洞窟の奥みたいね。さて、行ってみましょう」霊夢は洞窟の上を見上げて言った。

 

 この洞窟は鍾乳石が垂れ下がっており、その先からポタポタと水が垂れている。洞窟の上部には幾つかの穴が有り、そこから陽光も差し込んでいる。更にはヒカリゴケが至る所に生えていることもあり、視界は十分に確保できている。

 

「やっぱり野良妖怪が住んでいるな。見てみろよ」

 

 ポイズントードやしびれくらげ、マタンゴが近寄ってくる。ブロントさんがポイズントードを一刀両断し、槍を持った上海人形が飛び回りながらモンスを薙ぎ払う。霊夢が飛ばした杭ほどもある大きさのある針にまほうじじいが貫かれ、魔理沙の八掛炉から放たれるレーザーがマタンゴを焼く。

 ブロントさんが大股でモンスの集団に踏み込み、右手で男女平等パンチをくらやみハービーに食らわし、マタンゴを剣で切り裂いた。

 

「こういう洞窟は、全部野良妖怪の巣になっているのね。全く面倒な」

 

 霊夢がお札を飛ばして、宙をふわふわ漂うしびれくらげを地面に張り付けの状態にする。そこに魔理沙の八掛炉から錬成されたミサイル状のエネルギー弾が撃ち込まれた。

 

「ふう、片付いたぜ。早いところ水源を探そうぜ」

 

 

 

 ブロントさんたちは洞窟を流れる川を遡るようにして奥へと進んでいった。洞窟の壁の所々にある裂け目からはちょろちょろと水が流れている。

 

「やっぱりこの洞窟の奥が水源みたいだな。ちょっと私たちの分も汲んでいこうぜ」

 

 魔理沙は水筒を取り出して、洞窟の壁から流れている地下水を満タンになるまで入れた。そして、もう少し奥に進むと更に多くの川が地面を流れている。

 

「そろそろ水源に辿り着きそうだな。あっちの方から水が流れてきているみたいだ」

 

「何でそんなことが分かるのよ」アリスが魔理沙を不審そうな目で見て言う。

 

「トレジャーハンターの特性だぜ。お宝の匂いってやつだ」

 

「魔理沙と同じ意見だわ。この川を遡って行けば水源ね」

 

「それじゃ、とっととそこに向かうぞ。ZUNは急げと言う名言を知らないのかよ」

 

 

 

 ブロントさんたちは、ようやく水源と思しき場所を見つけた。だが、そこに至るまで、ちょっとした、しかしながら彼らにとってはどうとでもない障害があった。2体のモンスが立ち塞いでいたのだ。そいつは、岩みたいにごつごつした体で身長3m以上、ブロントさんをも凌ぐ巨体だ。

 

「うわっ、なんだよこいつ。こいつがここのボスなのか!?」

 

「そんな事言ってる場合!?来るわよ!」

 

 アリスが剣を持った上海人形を敵に向かわせ、切り付けさせた。だが、表面を引っ掻いた程度の効果しか無く、敵にダメージを与えた様子は無い。

 

「ここはナイトにお任せなんだが?ハイスラぁ!」

 

 ブロントさんが魔物に斬りかかる。だが、そいつの岩のような表皮を少しだけ削ったくらいにしかダメージを与えていない。

 

「任せてください!」

 

 小鈴の術式が岩のような魔物の表皮を多少、軟化させた。そのおかげでブロントさんやアリスの剣による攻撃が通るようになった。

 

「もう一度行くぜ?今度こそバラバラに切り裂いてやろうか!?」

 

 ブロントさんが剣を振るうと、今度は魔物の表皮の破片がそこら中に散らばる。斬撃が通用するようになったようだ。

 

 霊夢が飛び上がり、手に持ったハンマーを魔物に何度も振り下ろす。その度に魔物の硬い体組織が飛び散り、敵は遂に動かなくなった。

 

「ほら、終わったわよ。思ったより大したこと無いのね」

 

「白魔かと思ったら、臼魔だったという顔になる」

 

「Oi、みす、misu、おい、誰が臼魔ですか。そのアルパカみたいな耳を後ろから破壊してやろうか」

 

「すいませんでしたぁ!わかったから人の耳を引っ張るのはやめるべき!」

 

「とっととここから出ようぜ。ほらよ」

 

 魔理沙はいつの間にか泉の水を汲み、瓶の中に入れていた。数本分用意してある。

 

「よし、それならとっとと町に戻るぞ」

 

 魔理沙が大きな魔方陣を描き、ブロントさんたちがその上に乗る。魔理沙が術式を発動させると、5人は一瞬で洞窟の外へと移動した。

 

 

 

「む、そこにいたのにいなかったという顔になる。流石は魔理沙の魔法スキルはA+といったところか」

 

「へへっ、それほどでもないぜ。じゃあ、次はこれの出番だな」

 

 魔理沙がキメラの翼を放り投げる。ブロントさんたちは、一気に彼岸の里まで飛んでいった。

 

 

 

「さて、これに満月草を浸して少し待てばいいのね。じゃあ、私と小鈴ちゃんであの子にこの薬を渡してくるから、ブロントさんたちは船のドックの近くで待っていて」

 

「うむ。わかったぞ」

 

 霊夢と小鈴は一旦ブロントさんとは別行動を取ることになった。

 

 ブロントさん、魔理沙、アリスは船のあるドックへと向かった。日は傾き始め、町の広場は『海の男コンテスト』の開催時間が近づくに連れ、人がどんどん集まり、かなりの黒山の人だかりとなっていた。

 

「ブロントさん、あいつ・・・・・」

 

 魔理沙がコンテストのステージの方に目を向けた時だった。黒装束を着た、茶髪、黒い目線の男がおり、その近くに刀を持つ人間が複数いる。

 

 やがて、その目線の男はブロントさんたちの方を見た。

 

「やっと見つけたぜぇー、ブロントよぉ」



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脱出、そして出航

 魔理沙とブロントさんはいつの間にか刀を持った庭師とクナイを持った忍者に囲まれていた。その様子を町人たちが遠巻きに見ている。

 

「んー?ブロント、誰かと思えば、そいつは白玉楼から盗みを働いて牢屋にぶち込まれていた奴じゃないか。やはりお前らグルだったか」

 

「くそっ、こいつらどこで私たちのことを見つけやがったんだ?」

 

 庭師連中がじりじりと包囲網を詰め、ブロントさんたちを追い詰めていく。

 

「観念しろブロント。お前との鬼ごっこも・・・・・ん?」

 

 突然、庭師と忍者に向かって真っ白な光や氷の刃が飛んできた。庭師連中はそれの直撃を受けて凍傷や裂傷を負って倒れる。だが忍者は素早く汚い空蝉を張り、その攻撃を回避した。

 

「くそっ!どこから・・・・・」

 

「ちょっと、私の仲間に何するのよ!」

 

「シャンハーイ!」

 

 野次馬の中からアリスと霊夢が現れた。アリスと霊夢は再び術式を連続して放って忍者と庭師を攻撃する。汚い忍者は空蝉でそれを回避したが、庭師連中は攻撃の術式の直撃を受けてバタバタ倒れた。

 

「ブロントさん、魔理沙さん、こっちです」

 

 ブロントさんの後ろにある階段から小鈴が現れ、手招きした。ブロントさんと魔理沙は小鈴に先導され、群衆に紛れて逃走を図る。その間、霊夢とアリスが庭師連中に攻撃を仕掛け続けながら後退する。

 

「くそっ、逃がすな!」

 

 忍者は右手からどす黒いエネルギー体をブロントさんたちに向けて放つ。

 

「やばい!」

 

 魔理沙はブロントさんの背中を押した。ブロントさんが前にややつんのめると同時に魔理沙に忍者が放ったエネルギー体が直撃する。

 

「魔理沙!」

 

 ブロントさんが足を止め、倒れ込んだ魔理沙を助け起こそうとしたが、魔理沙はその手を払いのけた。

 

「いいから行んだ、ブロントさん!小鈴!頼んだぞ!」

 

 小鈴はブロントさんの手を引いてその場から立ち去る。霊夢とアリスは一瞬だけ立ち止まったが、このまま魔理沙を助けるのは難しいと判断して一時退散することにした。庭師連中は魔理沙を拘束して町の奥の方へと連れ去って行った。

 

 

 

 辺りはすっかり暗くなってしまっていた。魔理沙は町の奥で拘束され、庭師連中がそこら中をうろついている。

 

「何よあいつ、頭に来るわね!」

 

「シャンハーイ!」

 

「ブロントさんは、白玉楼の人たちから悪魔の子と濡れ衣を着せられて、追われているんです。アリスさんにはもう少し早く話すつもりでしたが・・・・・・」小鈴が申し訳なさそうな顔をしてアリスに言う。

 

「それよりも、早いところ助けないと魔理沙の寿命がまずいことになる」

 

「ブロントさん、落ち着いてちょうだい。そうね。こっちから助けに行くにしても、手面突破は無理ね。何とか横や後ろに回り込むしか無いけど、私たちが飛んだら、それこそあいつらにバレてしまうわ」

 

「ねえ、あれとかどうかしら?」

 

 霊夢が指示したのは、海上に突き出た桟橋に停泊してあった遊覧用の小さなボートだ。この町の観光名所で、普段ならばそれは観光客を乗せて町の周囲を周遊する目的で使われる。

 

「うってつけね。ブロントさん、それを使って、桟橋の奥まで進みましょう」アリスの提案に、ブロントさんはあっさりと応えた。

 

「うむ。実際、俺はボートを漕ぐスキルも高い。自慢じゃないが、イシの村のクック船長とも言われていたんだが?」

 

「うーん?ブロントさんの故郷に海ってありましたっけ?」霊夢は首をかしげたが、この状況でそれ以上突っ込むのは無意味と思ったのか、それ以上の突っ込みはしなかった。

 

 

 

 一方で、汚い忍者はブロントさんたちは人質を助けるために正面から突っ込んでくるだろう、という自分の目論見が見事に外れてしまい、かなり苛立っていた。

 

「くそっ、おい、お前ら!人質の見張りはいいから、とっととブロントどもを見つけてこい!」

 

 その忍者の命令に従い、庭師連中が町のあちこちに散らばっていく。それが忍者にとって致命的な結果をもたらすことになった。

 

 

 

 ブロントさんたちは、ボートに乗り、停泊している大きな船の陰から様子を窺っていた。やがて、庭師連中が町中に散らばり、自分たちを探しに行き、魔理沙を拘束しているのが忍者一人になるのを確認する。

 

「ブロントさん、今よ。突入して魔理沙を助けるわよ」

 

 霊夢の合図で、4人は一斉に魔理沙に駆け寄り、拘束を解いた。

 

「ふー、助かった。終わったかと思ったぜ」

 

「おいィ、おもえは大丈夫なんdisかね?」

 

「ああ。それにしても・・・・・」

 

「ちっ、お前ら、いつの間にっ!」

 

 汚い忍者がクナイを持ち、こちらを見ていた。

 

「人質を使っておびき寄せようとは、その浅はかさ愚かしい。汚いな、流石忍者きたない」

 

「汚いは誉め言葉だ。だが、ここがお前らの墓場だ。ここで鬼ごっこも終わらせてやるぜ、ブロント」

 

 汚い忍者はクナイを持って飛び掛かってきた。ブロントさんはそれを盾で防ぎ、剣を振るう。だが、忍者は軽々とバク宙を決め、それを避ける。忍者はクナイでブロントさんを切りつける。

 

「ちいっ」

 

 忍者は再びブロントさんを攻撃しようとしたが、体に霊夢の飛び蹴りを食らってよろめく。だが、忍者は即座にクナイを振るい、攻撃を仕掛ける。だが、霊夢はすんでのところでクナイの刃先を躱し、忍者に連続で拳を叩きこむ。忍者は両腕でその攻撃を防ぎ、両手に持つ鋭い刃物を振るうが、霊夢は華麗なバックステッポでそれを避ける。

 

「おら、こっちだ!」

 

 魔理沙が八卦炉から氷の刃を飛ばす。忍者がそれに切り付けられ、腕に切り傷を負う。後ろから剣を持った上海人形が忍者に斬りかかり、小鈴が術式で巻き起こしたつむじ風で忍者は更に切り付けられた。

 

「くそっ!」

 

 忍者は地面を蹴って舞い上がり、クナイを構えて霊夢に向かって落下した。霊夢は宙に浮くと、そのまま忍者と取っ組み合いをしながら硬い石畳に落ちていく。その間、霊夢は忍者の上の位置にいることを忘れなかった。

 忍者は背中から石畳に叩きつけられ、肺から空気を絞り出される。霊夢は追い打ちのように敵に何度も拳を叩きこむ。

 

「ふん。だが、そうはいかん!」

 

 忍者はバック転を繰り返して霊夢から距離を取り、集中し始めた。

 

「忍者が一人、忍者が二人、ファイナル分身!」

 

 忍者は空蝉の術を使い、分身を作り出した。ブロントさんは剣を振るって攻撃するが、どれが本物の忍者なのか全くわからない。

 

「はっはっはっ、お前らにこの空蝉を破ることはできん!」

 

「それはどうかしらね?」

 

 霊夢は分身した忍者のうち一人に近づき、拳と蹴りを連続して叩き込んだ。どうやら本物の忍者だったらしく、忍者は「ぐああ」、と声を上げて後退し、膝をつく。その隙をブロントさんは見逃さない。

 

「メガトンパンチ!」

 

 忍者の胴体にブロントさんの拳が叩き込まれ、汚い忍者は後ろに後退する。飛んできた上海人形が回転しながら忍者を切り付けた。

 

「ふんっ!小賢しい!」

 

 忍者はクナイを振るって攻撃を仕掛けるが、ブロントさんが盾でブロック。剣を振り回して忍者に切り傷を負わせる。

 ブロントさんが忍者の胴に拳をぶち込んで後退させる。だが、いつの間にか周囲に庭師が現れ、ブロントさんたちを包囲していた。

 

「くそっ、囲まれちまったぞ!ブロントさん、どうするんだ!?」

 

「ううん、私に任せて」

 

 アリスが上海人形を操り、ドックの方へと向かわせる。

 

「ふん。人形か。だが、もう無意味だ、観念するんだな」

 

 忍者と庭師連中がじりじりと包囲網を狭めていき、ブロントさんたちをほぼ完全に追い詰める。

 

「・・・・・忍者さん!あれは!」

 

 庭師の一人が港の方を指さした。忍者がその方を見ると、なんと巨大な船が桟橋ギリギリまで一気に近づいてきた。それを操舵しているのは。

 

「シャンハーイ!」

 

「みんな、今よ!」

 

 アリスの声で霊夢と小鈴は飛び上がり、魔理沙はブロントさんを箒に乗せて飛ぶ。5人はあっという間に船に乗り込み、それを追いかける庭師連中の何人かが勢い余って海へ転落する。船は猛スピードで岸壁から遠ざかった。

 

「助かった。終わったかと思ったよ」

 

 アリスの船は非常に豪華な造りをしており、船の中心には大小の帆がそれぞれ1つずつ、船首の一部は金属で補強され、更に左右の舷には大砲が3門ずつ配置されている。

 これだけの造りの船となると、かなりのお金と労力がかかっているはずだ。それを持っているとは、アリスは一体、何者なのだろうか。

 

「ブロントォー!」

 

 桟橋に残された忍者の叫び声が聞こえてきたので、5人はその声がする方を振り返った。

 

「勝ったと思うなよォォォォォ!」

 

「もう勝負ついてるから」

 

「"さん"を付けろよ!デコ助ェェェェェェ!」

 

 ブロントさんと魔理沙が忍者に向かって言い返す。船はかなりのスピードで航行しており、彼岸の集落はあっという間に小さくなっていった。

 

 

 

 ブロントさんたちは、航海のついでにこれから先の指針を決めることにした。まずは、命蓮寺から盗まれたという虹色の枝を探さねばならない。そのためには、それを盗んだ賊を見つけることから始めるのだが、それについての情報はアリスと霊夢が得ていた。

 

「声が出なくなった子供に薬を渡した時に訊いたんだけど、怪しい人間が彼岸の集落にいた行商人に虹色に輝く木の枝を売りつけていたみたいなの。その商人はというと、一足先にここから遥か北東の大陸に向かったそうよ」

 

 霊夢が地図を広げ、自分たちがいた彼岸の集落、そして北東にある大陸を指し示した。

 

「北東、となると、あそこは旧地獄の街道だな。一度行ったことはあるが、そこそこ栄えているところだ」魔理沙が言う。

 

「それと、そこにはかつて武魂の砦という、かなり大きな国があったみたいなのですが、今は滅んで跡地になってしまっているらしいのです。ただ、それのことを偲んでか、大きな宿屋が近くに建てられ、旅人が集まってきているようですよ」小鈴が補足する。

 

「滅んだ大きな国だって?かなり昔の話みたいだな」と、魔理沙。

 

「いや、そうじゃないんです。その国が滅んだのは、ほんの20年程前らしくて」

 

 約20年前というと、ブロントさんが生まれる2、3年程前のことだ。

 

「なんだそりゃ?魔物に襲撃でもされたのか?」

 

「詳しいことはわからないのですが、多分、そうではないか、と言われているくらいですね。どういう訳か、その当時のことを知っている人間や妖怪は多くないのですよ」

 

「私もちょっと気になって調べたんだけどね。でも、理由はわからないけど、当時、何があったのかを記録したものが残ってないんじゃ、調べようが無いのよね」と、霊夢。

 

「む、それじゃ、武魂の砦は行かなくていいのか?」ブロントさんが霊夢を見て言う。

 

「そうね。多分、虹色の枝を持った奴は、その先の旧地獄街道へ行ったはずよ。金目の物を売れるような町は、あの大陸には旧地獄以外に無いはず。そして、旧地獄街道の南西には」

 

 霊夢がそこまで言ったところで、ブロントさんが僅かに反応した。

 

「ブロントさん・・・・?」霊夢が訝しげにブロントさんの方を見る。

 

「いや、何でもにぃ。僅かに何かそこに何かあると思ったが、確定的に明らかではにぃから、下手に言わない方が良いと思った(この辺の謙虚さが人気の秘訣)」

 

「そうですか。それじゃ、まず目指す先は、北東の大陸ね。アリス、頼むわよ!」

 

「ええ、任せて頂戴」

 

 アリスは霊夢にそう答えて、舵を切り、船首を北東の方向へ向けた。



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旧地獄街道

 ブロントさんたちの船は北東を目指して海を進み続けた。途中、魔物に襲われている商船や漁船を助けたり、難破船を魔理沙が家探ししたりと寄り道をしつつも、最終的な目的地である大陸に辿り着いた。

 

 アリスは船を船着き場に停泊させ、管理人にお金を渡してこの船を見ていて貰うよう頼んだ。暫くは陸路を進んでの旅路となる。

 

「さて、ブロントさん、行きましょうか。今まで得た情報を確認した感じ、この大陸に虹色の枝を盗んだ犯人がいるみたいですね」

 

 霊夢が周囲を見回して言った。この辺りは旅人が多いらしく、戦士や武闘家、僧侶といった編成の冒険者のPTの姿が何組も確認できる。

 

「まずは旧地獄の街道を目指すんだったな。その途中に例の滅んだ国の武魂の砦ってのがあるのか?」

 

 魔理沙が霊夢に訊く。

 

「そうよ。一説にはその砦を治めていた王族の家臣に憑りついた魔物の仕業で国が衰退して滅んでいった、という噂も流れているわ」

 

「魔物が人に憑りつくだって?そんなことをするだなんてかなり高度な術式だぞ。それを使えるようなのは、かなりの高位妖怪でもないとそんなことはできないぞ」

 

「うーん。そんな高度な術式を使うとなると、魔物の親玉みたいなものでしょうか?」と、小鈴。

 

「まあ、今は考えても仕方が無いでしょ。早いところ旧地獄街道を目指しましょ」

 

 

 

 ブロントさんたちは魔物を退けつつ、旧地獄街道を目指して北へと進んでいく。やがて、荒れ地の真ん中にレンガや石でできた城壁の跡らしきものが見えてきた。どうやら、それが魔物によって滅亡したと言われている武魂の砦のようだ。

 

「こいつは酷いな。何もかもぶっ壊されてる。こりゃ、お宝も何も壊されるか強奪されるかされて、何も残っちゃいないだろうな」

 

 魔理沙が辛うじて残っている石を積み上げて造られた城壁と思しきものに触れて言う。辺りには壊れた壺や甕の破片のようなものが散らばり、砦の石垣には苔がびっしりと生えている。

 

「む。これがウコンの砦とかいう場所なんdisかね?」

 

「ウコンじゃないで武魂ですよ。それにしても、酷い壊され様ですね。やはり内部に侵入した魔物が手引きして、外から大群が襲ってきた、という感じでしょうか?」

 

 小鈴が破壊された城壁の様子を確認しながら言う。5人はそれぞれ散らばり、砦の各所の様子を確認する。

 

「おい、ブロントさん!地下に続く階段があるぞ!」

 

 流石はトレジャーハンターと言うべきか、魔理沙は目ざとく階段を見つけた。5人でその地下に向かう。だが、地下室に続くと思しき通路は途中で崩れたレンガで塞がれ、それ以上進むことができない。

 

「ちっ、ダメか。仕方が無い。こうなったら先に旧地獄街道に行って、虹色の枝を盗んだ奴を見つけよう」

 

 

 

 それからブロントさんたちは更に進み、旧地獄街道を目指す。途中で襲い掛かる青バチ騎兵や覆面バニー、メイジキメラなどを退け、ようやく北の方に城塞のようなものが見えてきた。

 

「あれが旧地獄街道か?随分と変な建物だな」魔理沙が、まるでそれは町では無いかのような口ぶりで言う。

 

 確かにぱっと見た感じは、尖塔のような城塞に門があるだけで、とても町とは思えない。

 

「いえ、この下が町になっているみたいね。行ってみましょう」霊夢は何のためらいも無く、城塞の扉を開け、そこにあった階段を降りて行った。

 

 

 

 城塞の下は、とても賑わった町があった。上を見てみると、外から空気を取り入れるための通風孔らしき穴が幾つもあり、そこから太陽の光も僅かながら差し込んでいる。とはいえ、基本的には、町のそこら中に設置された松明を利用して内部を照らしているようだ。

 

「まさか地面の下に町を建設するなんてな。まるで蟻になった気分だぜ」

 

 魔理沙が壁を軽く叩いて言った。土をとても硬く押し固めた後、上から漆喰をしっかりと塗られている。

 だが、まずやるべきことは虹色の枝の行方を探すことだ。だが、その手掛かりは程なくして見つかった。何と、この町で近々仮面武闘会が開かれ、その優勝賞品として虹色の枝が出品されているというのだ。

 また、この町を見回って気づいたのだが、町を行き交うのは荒くれ者が多く、正直言って治安はあまり良くない場所のようだ。町の至る所に酒場があり、更にはカジノのネオンサインまで確認できる。

 

「あと、武器や防具も見ておきましょ。この辺の魔物、結構強かったじゃない」

 

「『確かにな』さて、霊夢の言う通り、まずは武器屋に向かうぞ」

 

 

 

 ブロントさんたちは町の武器屋で剣、鎧、盾、槍、杖などを調達し、情報収集をすることにした。そして、粗方町の人々の話を聞いて回った結果、まず、言えることと言えば、虹色の枝を手に入れる為には、仮面武闘会に参加して優勝する必要があるとのことだった。そして、一行は宿を取った。

 

「うーむ。話を総合すると、まずは仮面武闘会に参加して、勝ち上がらないと虹色の枝は手に入らないってことだな」魔理沙が腕組みをして言う。

 

「ならば俺の出番なんだが?俺が他の参加者に男女平等パンチを食らわせて、カカッと優勝すればいい話」

 

「だけど、そうもいかないみたいよ。聞いた話だと、何でも仮面武闘会は、参加者は抽選で選ばれたペアで戦うみたいなのよ。つまり、私たちが参加したところで、誰と組みになるかわからないから、下手したら見ず知らずの他人と連携して戦い続けなきゃならないってことよ」と、アリス。

 

「そう言えば」魔理沙が口を挟む。「確か、この町にはチャンピオン?とかいう奴がいるんだったな。しかも、そいつは何年もの間、仮面武闘会に参加しているものの、そいつに勝てた人間も妖怪もいないらしいぜ」

 

「人間はともかく、妖怪も格闘して勝てない相手?そんな種族、そう多くは無いわよ」霊夢が眉間に皺を寄せた。

 

「ああ、でも、格闘で妖怪を打ち負かすような種族と言ったら・・・・・・」

 

「私の予想ですが、鬼、ではないでしょうか?」

 

 小鈴の意見にブロントさん以外の3人は合点がいった。霊夢、魔理沙、小鈴、そしてブロントさんのような人間は修行によって体力や妖力を身に着けることで強くなる。一方、妖怪は元々妖力は強いものの、例外はあるにせよ、体術に長けている者は少ない。アリスのような魔法使いは、魔力に関しては人間、妖怪に比べて遥かに強いが、腕力がそこまで強いとは言えない。

 一方、妖力は僅かしか持たないが、極めて強い腕力と強靭な肉体を誇る種族がある。それが鬼だ。彼ら彼女らは相手が妖怪だろうが、人間だろうが力比べを挑んでくる。そして、自分より強い相手と戦う事を誇りとしている種族だ。

 

「なるほどな。確かに鬼ならばああいう格闘大会とかに出場したがるのもわかる」

 

 魔理沙が腕組みをした。もし鬼が相手ならば、いくら馬鹿力のブロントさんであったとしても、そう簡単に勝つのは難しい。

 

「そうそう。闘技場を見てきたんだけど、確かに優勝賞品には虹色の枝が展示してあったわ。どうやら、準優勝してもなんらかの賞品があるみたいなのよ」と、アリス。

 

「む?それは一体何なんdisかね?」

 

「うーん、大きな黄色くて丸い宝石みたいなものだったけど、それ自体に対して妖力や魔力は感じられなかったし、どこかの鉱山か何かから採掘されたただの珍しい石か何かじゃないの?まあ、売ったら結構な価値はありそうな感じだったけど」

 

「大きくて黄色い宝石?うーん・・・・・」

 

 霊夢がそう言って腕組みをし、何やら考え事を始めた。

 

「どうした?霊夢?」と魔理沙。

 

「あ、うん、何でも無いわ。でも、その宝石?かしら。妙に引っかかる気がしたのよね」

 

「引っかかるって、どういうことだよ?」

 

「何となくだけど、上手く説明できないわね。まあ、要は仮面武闘会で優勝して、虹色の枝を手に入れない限りはどうにもできないわね。明日はそのエントリーの受け付けだったでしょ?」

 

「おっと肝心なことを忘れていた感。じゃあ、晩飯を食ったらとっとと寝るぞお前ら」



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仮面武闘会

 翌日。ブロントさん一行は闘技場の受け付け前にいた。これより、武闘会に参加する闘士たちの組み合わせ抽選が始まるというのだ。

 

 それにしても、予想外に参加者が多い。妖怪に人間、鬼・・・・・。参加者は受け付けに到着すると同時に整理番号を貰い、そのまま抽選会場に向かう。そして、箱を持った身なりの良い男が現れた。いよいよ抽選開始だ。

 

「お待たせしました。これより、仮面武闘会参加者の組み合わせ抽選会を開始します。知っての通り、この組み合わせで決定したペアは優勝するか途中で敗退するまで変更することはできません。では、まずは・・・・・」

 

 男は右手を箱に入れ、その中身を取り出した。

 

「まずは6番、6番の方です。前にどうぞ」

 

「あ、私、私!」

 

 前に出てきたのは、青く長い髪をなびかせた小柄な少女だった。桃の飾り物が付いた黒い帽子に白いブラウス、そして空色のスカートを着ている。

 

「6番の方ですね。この方とペアになるのは・・・・・・」

 

 再び男は抽選箱の中に手を入れる。

 

「7番、7番の方。前にどうぞ」

 

 どうやら、少女と組みになったのは偶然にも彼女の付き添いの人物のようだ。短く切った紫色の髪と、黒の長いスカート、そして目を引く緋色のシャツが特徴的だ。

 

「やれやれ。偶然組みになったのはいいですけど、総領娘様はなんという無茶なことを・・・・・」

 

「だから言ったでしょ、衣玖。とっとと優勝してお宝を頂くわよ」

 

 続いて2番目のペアを決める抽選が始まった。

 

「さて、続いては・・・・・4番、4番の方です」

 

「私だね」

 

 その声に誰もが注目した。前回の武闘会のチャンピオン、鬼の伊吹萃香という名前の少女だ。小柄ながら、鬼という種族の名の通り、凄まじい怪力を持っている。

 

「さて、この方とペアになるのは・・・・・・9番です、9番の方です」

 

「俺なんだが」

 

 ブロントさんは、整理券受け取りの列に並ぶとき、『俺は謙虚だから9番目でいい』と言って、わざわざ3人ほどの人間や妖怪に列の前を譲ったのだ。

 

「おっ、これは強そうな人と組みになったなー。私は伊吹萃香。見ての通り、鬼だよ」

 

「ほむ。俺の名はブロント。謙虚だからさん付けでいい」

 

 やがて、武闘会に参加する人妖のコンビ、そしてトーナメント表も決まった。後は、武闘会当日を待つだけとなった。

 

 

 

 ブロントさんと組みになった鬼、伊吹萃香の話によると、武闘大会は1日で全ての試合を消化することは無く、数日に渡って試合が行われるらしい。勝ち上がりのトーナメント制で、1度でも負けたらそこで敗退となる。

 今回の参加者は全部で32組。まず、1日目で第1回戦の前半の8回の試合が行われ、2日目に後半8試合が行われる。

 3日目は、最初の2日間で勝ち上がった16組による試合があり、4日目は休息日で、5日目に準々決勝、6日目に準決勝と決勝が行われる、という日程となっている。

 

「私たちは2日目の組みに当たったから、最初の試合はちょっと先だね。その前に、他の人の試合を見て、この武闘大会がどういうものなのか確認しておくといいよ」

 

「ああ、確かにその通りだな。ブロントさん、どうせだったら明日の最初の試合を見物して、どういうものか見てみようぜ」  

 

 魔理沙の提案にその場にいる全員が同意した。

 

 

 

 翌日、ブロントさん一行は武闘大会の試合の見物をすることにした。コロシアムの観客席には人間、妖怪、妖精といった様々な観客が集まり、熱気に包まれていた。

 コロシアムの中心に荒くれ者と妖怪のコンビが現れた。反対側の扉が開き、この二人の対戦相手がやって来る。

 

「皆さん、お待たせしました!旧地獄街道、毎年恒例の武闘大会が始まりました!今年も豪華なお宝を賭け、多くの闘士たちが血沸き肉躍る戦いを繰り広げてくれることでしょう!それでは、早速最初の試合を始めましょう!」

 

 観客たちはますますヒートアップし、割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こる。そして、コロシアムの階段から2人の闘士がやってきた。

 

「栄えある第一試合を飾るのは、ワットンとブルスターのコンビ、対するはブルンバとロークリーのコンビです!」

 

 ワットンは旅の戦士といった風貌。重たい鎧兜を身に着け、片手剣と大楯を持っている。ブルスターは大きな体の荒くれ者といった姿で、持っている武器は長い柄のハルバートだ。

 対戦相手のブルンバは妖怪のようで、豚のような顔と筋骨隆々の体つき。武器は持っていないが、その巨体から繰り出される突きや蹴りはかなりの威力のようだ。ロークリーは細身で黒装束に身を包み、大きなクナイを両手に一つずつ持っている。

 4人とも、主催者から配られた白地に赤いラインが複数入った仮面を顔の上半分に身に着けている。これが、この武闘大会のルールだ。

 

「それでは、試合開始!」

 

 レフェリーが合図すると即座に戦いが始まった。まずはブルンバが飛び上がり、ワットンに飛び掛かる。ワットンはかなり戦い慣れしているらしく、華麗なバックステッポで攻撃を回避し、お返しとばかりにブルンバを剣で切り付けた。

 一方で、ブルスターはハルバートを大きく振り回しながらロークリーに斬りかかったが、ロークリーはバク転を繰り返しながら攻撃を躱し、空蝉を使って分身する。

 

 ブルスターは周囲をキョロキョロ見回し、どれが本物のロークリーなのか見極めようとした。だが、どれも同じ姿で、どれが本物なのか全くわかっていない様子だった。

 

「汚いなさすが忍者きたない」観客席でその様子を見ていたブロントさんがボソリとそう言い放った。

 

 ブルスターがキョロキョロしているあいだ、ロークリーは素早く相手に忍び寄り、後ろからパンチとキックを連続して放つ。だが、ブルスターにはそれはそこまで大きなダメージを与えられなかった。ブルスターはお返しとばかりにハルバートの柄でロークリーの頭を強打した。ロークリーは脳震盪を起こしたのか、フラフラと後退したのち、背中からバタリと倒れ込む。

 

 ブルンバは何度もワットンに対して突きや蹴りを放つが、重く、頑丈な鎧と盾で守りを固めたワットンには通用しない。ワットンはブルンバに片手剣で切り付け、大きな切り傷を付けた。ブルンバの左腕と脇腹に刻まれた傷からは赤い血が滝のように流れ始めた。

 

「そこまで!」

 

 レフェリーが手を上げて、戦いを中止させる。即座に薬や包帯などを持った男たちが敗者の方に駆け寄る。

 

「勝負あり!ブルスター、ワットン組が次の試合に進みます!」

 

 コロシアムが割れんばかりの歓声と拍手、それから興奮と熱気に包まれる。そんな中、黒いコートと頭巾を被った人物がその様子を冷静に眺めていた。そして、踵を返すと闘技場の観客席から颯爽と立ち去って行った。

 

 

 

 夕刻。この日の試合は全て終わり、次の試合に進む組みが半分決まった。明日はいよいよブロントさんと萃香が試合に臨む日だ。

 

「さーって、明日はいよいよ私たちの番だね。ブロントさん、しっかりご飯を食べてからしっかり寝て備えないとね!」

 

 萃香は右腕を振り回し、指の骨をぽきぽき鳴らす。町を行く人々は、すっかり武闘大会の話で持ちきりで、多くの人々が酒場へと流れていく。

 

「うむ。明日の試合はナイトに任せるんだが?」

 

「それじゃ、私は家に帰るから。あ、朝になったら宿まで迎えに行くから。じゃあねー」

 

萃香はそう言い残し、ブロントさん一行と別れた。街行く人々は闘技大会の結果を知らせる号外を配る新聞売りに群がり、コロシアムの前に掲げられた明日の試合を知らせる貼り紙に群がる。

 

「さて、私らは宿に行くか。明日に備えてゆっくり休まないといけないだろ?」魔理沙が大きく伸びをする。

 

「む、そうだな」

 

「ブロントさん、虹色の枝がかかっているんだから、明日は寝坊しちゃダメよ」アリスが念を押す。

 

「む・・・・・善処はするぞ。まあ、一般論でね?」



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最初の試合

 翌日。ブロントさんは、アリスと霊夢に引っ張られ、なんとか時間通りに闘技場にいた。とは言え、顔を洗って朝食を食べたら、この大男は案外シャキッとしている。

 

 闘技場の門の前で萃香と合流し、大会受付に向かう。ブロントさんと萃香は、この日の第2試合からの参加だ。二人は参加者控え室で待機となり、魔理沙たちは観客席から二人の戦いぶりを眺めることになった。

 

 

 

 魔理沙たちが観客席に座った時、丁度、第1試合が始まるところだった。参加者は、青く長い髪をなびかせ、空色のスカートと桃の飾りの付いた黒い帽子が特徴的な小柄な少女。彼女のパートナーは、緋色の服と黒いスカート、黒い帽子の、青髪の少女よりは幾分年上といった感じの少女だった。

 やがて、二人の対戦相手が現れた。短いメイスを持つバニーガールと扇を持つ踊り子といった風貌の女性だ。

 

「さあ、皆さんお待たせしました!いやー、今日は第1試合から華やかですね!美しき4人の女性の戦い!まずは飛び入り参加のお転婆娘とそのパートナー、比那名居天子、永江衣玖!対するは、旧地獄街道のカジノ人気ナンバー1のバニーガール、フローレンスとこちらはバーの踊り子人気ナンバー1、カトリーヌです!」

 

 観客はヒートアップし、歓声と拍手、口笛に大興奮の様子だ。

 

「さあ、第1試合の勝利はどちらの手に!?それでは、試合開始!」

 

 最初に動いたのはカトリーヌの方だ。両手に鉄製の扇を1つずつ持ち、舞うように天子に近づいて切り付けようとした。だが、天子はさらりとその攻撃を避け、不思議な形をした剣で切り付ける。

 カトリーヌの方も負けていなかった。すんでのところで扇を使って斬撃を受け止め、踊るような動きで一旦天子から離れる。一方、フローレンスは目を閉じ、意識を集中させて手から高熱の閃光を放った。

 

「おい、あいつ、魔法を使えるのかよ!?」

 

 観客席の魔理沙が驚いて目を丸くした。それも、純粋な魔法使いであるアリスや厳しい修行で常人よりもずっと強い魔力を得ている魔理沙とも引けを取らないレベルだ。フローレンスは更に冷気を放って天子と衣玖を攻撃し続ける。常人ならば、もうダウンしてしまっていてもおかしくは無い。だが。

 

「何よこいつ。こんなことまでやるの?」

 

「総領娘様、平気ですか?」

 

 衣玖は天子と自分に治癒の術式を使いながら話しかける。

 

「ふん、この程度、どうってことないわ。さて、このお返しはたっぷりとさせてもらうわよ」

 

 天子は自分の手に持っている剣を地面に突き立てた。すると、カトリーヌとフローレンスの足元の地面が隆起し、二人を転倒させる。

 天子が使った術式の効果はこれだけに留まらなかった。更に地割れが発生し、対戦相手の二人はこれに足を取られてほとんど身動きが取れない状態になる。

 

「さあ、衣玖、出番よ!」

 

 衣玖は両足を少し開くと右手の人差し指を上に向け、左手を腰に当てて集中した。すると、何の前触れも無く雷が落ちてきた。カトリーヌとフローレンスは雷の直撃を受け、後ろに向かって大きく吹き飛ぶ。

 

 ところが、それで勝負はつかなかった。フローレンスの方は倒れて起き上がれなかったが、カトリーヌは立ち上がり、鉄の扇を振り回して天子に斬りかかった。天子は手に持った剣でそれを防ぐが、頬に短い切り傷が付いた。

 天子はそれに構うことなく剣を振り回し、カトリーヌと斬り合う姿勢となった。お互いに手にした武器を振り回し、腕や肩から血を流しながら争いが続く。観客席から、まるで雷鳴のような歓声と拍手、足踏みする音が鳴り続ける。その雷鳴のような音に、小鈴が思わず耳を塞ぐくらいだった。

 

 衣玖が天子に手をかざし、術式を放つと彼女の相棒の体の傷が瞬く間に塞がった。傷が癒えた天子はエネルギー体の剣を振るい、カトリーヌに斬りかかる。カトリーヌは押されてどんどん後退していき、最後には壁際近くまで追いつめられる。

 

「さあ、観念しなさい!」

 

 天子が思いっきり剣を振るい、一撃を入れた。それを食らったカトリーヌは壁に背中から寄りかかって地面にへたり込む。

 

「そこまで!」

 

 レフェリーが戦いを中止させた。フォローレンス、カトリーヌ共に既に動けるような状態では無かった。

 

「勝負あり!本日の第1試合の勝者、比那名居天子、永江衣玖が準々決勝に進出です!」

 

 会場は割れんばかりの拍手と歓声に包まれる。当然ながら、この二人はブロントさんと対決する可能性が出てきた。

 

「うーん、あいつら、本当に只の人間かしら?」

 

霊夢は腕組みをし、首を傾げてそうぼやいた。

 

 

 

 いよいよブロントさんと萃華の番となった。対戦相手は、ガリソンという名の髭面の荒くれ者と、バーンズという名のチンピラらしい。

 

「それでは、第2試合に参りましょう!この旧地獄街道きっての暴れん坊、酒を飲んだら手が付けられないガリソンと、この武闘大会で一攫千金を狙うバーンズ!対するは、小さな百鬼夜行、伊吹萃華!そして、黄金の鉄の塊でできたナイト!ブロント!」

 

「さんを!」

 

「付けろよ!!」

 

「デコ助野郎!!!」

 

 アリス、霊夢、魔理沙がこの歓声の中でも、ブロントさんのLSメンらしい見事な連携できっちりとテンプレを決めた。

 

「それでは、試合開始!」

 

 ガリソンとバーンズは、最初から先にブロントさんを潰すと話しあって決めていたらしい。ヒキョウにも二人同時にブロントさんに向かって殴りかかってきた。

 だが、ブロントさんはこれまでの冒険で、9匹のモンスの猛攻から、4人のPTメンのメイン盾としてタゲを取ってきた実績があった。

 ブロントさんは鋼鉄製の巨大な盾を掲げ、二人の攻撃を「ほぅ」と受け流しつつ、華麗にバックステッポを決めた。

 ガリソンは足踏みして何とか立ち止まったが、バーンズは勢い余って地面にズサーとめり込み、プリケツを晒す。

 

 ガリソンとバーンズのタゲは完全にブロントさんに向いていた。勿論、その状況を萃華が利用しない訳が無い。不意だまのパンチを連続で二人の背後から決め、その隙にブロントさんが放つギロチンのハイスラがガリソンに直撃する。

 

 ガリソンはすっかり頭がHITしてしまい、モンスのような叫び声を上げつつ、キングベひんモス顔負けの勢いでブロントさんに突進してきた。しかし、今度は生半可なナイトには使えないホーリーを食らい、背中から勢いよく地面に叩きつけられる。

 

 ガリソンは再び起き上がり、バーンズと共にブロントさんを執拗に攻撃してくる。だが、それこそがブロントさんの狙いだった。ブロントさんは破壊力ばつ牛ンの斬撃をバーンズに決め、萃華はリアルではモンクタイプの鬼らしい連続のパンチとキックをガリソンに連続でぶちかます。

 

 ただ体格が良いだけの荒くれ者と、流石モンス相手に鍛えてきたナイトと鬼のコンビでは格が違い過ぎた。闇雲に殴りかかって来る相手に対して、ブロントさんはいとも簡単にその攻撃を受け止め、剣で切り付けて攻撃する。一方の萃香は、持ち歩いている瓢箪に入っている酒を一口飲むと、凄まじい勢いで対戦相手にメガトンパンチを食らわせてボコボコにする。萃香曰く、酒を飲むほど調子が良くなるらしい。ブロントさんも彼女から酒を勧められたが「せっかくなので遠慮します」といって拒否した。

 萃香の強烈なパンチを顎にまともに食らったバーンズが宙に飛び、背中から勢いよく地面に叩きつけられて遂に動きを止めた。

 

 一人残ったガリソンは、やぶれかぶれになって闇雲にブロントさん目掛けて突進してきた。だが、ブロントさんはガリソンの顔面に奥歯を揺らす威力のパンチを直撃させた。ガリソンはそのまま後ろに倒れ、ピクリとも動かなくなる。

 

「そこまで!勝負あり!伊吹萃香とブロントが準々決勝に進出です!」

 

 コロシアムで歓声、拍手、口笛、足踏みが混ざった轟音がとどろく。そのため、魔理沙の「さんを付けろよ、デコ助野郎!」という突っ込みは完全にかき消されてしまった。




キャーイクサーン

そして金髪の子は相変わらず舎弟になる。


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失踪事件

 昨日の試合から一夜明け、早くも準々決勝進出者を決める16組による試合が始まった。ブロントさんと萃華の試合は、今日の午後に行われる予定だ。当然の事ながら、昨日までの試合に敗れた参加者たちが見物にやって来て、彼らのために用意された特別席に敗者たちが座っているものと思われていた。

 

「あれー?変だな。何で参加者特別席に誰もいないんだろ?」

 

 萃華は満員のコロシアムの様子を、参加者控え室の窓から見て言った。

 

「怪我で療養しているんじゃないですか?昨日、ブロントさんと対戦した人も、結構ひどくやられていたみたいですし」サポーターとして参加者控室にいる小鈴が答える。

 

「いやいや。毎年闘士として参加しているような奴らは、松葉杖を使おうが、腕を包帯で吊ろうが、見物しに来る奴らばかりさ。こんなの異常だよ」

 

 萃華は少し腕組みをして、何か考え事をする。

 

「む?どうしたんdisかね?」

 

「小鈴といったよね。悪いけど、この件、あんたたちの仲間にも伝えてくれるかな?どうも悪い予感がするよ」

 

「わかりました。それでは、これについては私や霊夢さんたちで調べておきます」

 

「よろしく頼むよ。うーん、どうも嫌な予感がするな・・・・・・・」

 

 

 

「うーん。ちょっと気になるどころか、どうもイヤな予感がするわね。私たちで調べてみましょう」

 

 小鈴から事の顛末を聞いた霊夢は、何か異常なことが起きていると結論付けた。

 

「でも、どうするんだ霊夢。いなくなった参加者の知り合いとかからあれこれ聞いてみるのか?」

 

 魔理沙はこの事態の調査には懐疑的な様子だった。

 

「まずは、参加者特別席とやらの様子を見てみましょう」

 

 

 

 参加者特別席はもぬけの殻だった。豪華な座り心地が良さそうな椅子には誰も座っておらず、この席の管理を担当している者も困惑気味の様子だった。

 

「うーん、誰もいないぜ。まだ見物に来ていないだけなのかもしれないぜ」

 

 魔理沙が部屋を見て言う。

 

「萃香さん曰く、普通なら、大怪我をしてようがお腹を壊していようが、熱が出ていようが平気で試合を見に来るような人たちらしいんです。そんな人が闘技場の観客席にやって来ないというのは考えられないそうです」と小鈴。

 

 一方、霊夢は部屋を見回し、目を細める。

 

「これは、やっぱり変ね。ちょっと主催者の人を捕まえて聞いてみましょう」

 

 

 

 霊夢たちは今度は武闘大会の運営者に会いに行った。確かに、話を聞くと、負けた参加者が見物にやって来ないというのは異常な事だという。そこで、主催者スタッフが一斉に武闘大会に参加した人妖を捜索することになった。霊夢たちがそうこうしているうちに、ブロントさんと萃香の試合が始まっていた。

 

 

 

 ブロントさんと萃香の対戦相手は、物凄く太ったレスラーのような妖怪の男と筋肉ダルマのような格闘家風の男だ。妖怪と人間。おかしな組み合わせだが、ブロントさんのコンビも人の事は言えない。

 

 対戦相手は、既に萃香の情報を得ていたのか、先にブロントさんを潰すことにしたらしい。二人がかりでブロントさんに攻撃を仕掛けて来る。

 

 ところが、それこそがブロントさんの狙いだった。相棒のメイン盾となって攻撃を受け、その間に萃香が相手を攻撃する。萃香の方は、鬼、という種族らしく、相手との体格差をものともせず、強烈なパンチを食らわせて後ろに突き飛ばす。

 レスラー妖怪の方が、後ろに飛び、地面に背中から倒れる。ブロントさんは攻勢に転じ、筋肉ダルマの顔面にメガトンパンチをお見舞いし、更に追撃のグランドヴァイパで与ダメージを一気に加速させる。

 

 デブのレスラー妖怪の方は、攻撃力と防御力に優れているが、素早さは『それほどでもない』といった様子だった。ちょこまかと周囲を動き回る、小柄な萃香の動きについていけず、息切れをし始めていた。

 疲れ切ったデブ妖怪の正面に立った萃香は、そいつの胴体に爆裂拳を炸裂させた。デブ妖怪は白目を剥き、背中から地面にバタリとと倒れてそのまま動かなくなった。

 

 一方で、筋肉ダルマの方は体力が優れており、ブロントさんと互角の勝負を繰り広げていた。正面から両者はぶつかり合い、ブロントさんは盾で、筋肉ダルマの方は両腕でお互いを押し、膠着状態となっていた。

 だが、筋肉ダルマは町の酒場などで荒くれ者相手に喧嘩をしていただけなのに対し、ブロントさんはこれまでの冒険の中で、そこらにいるモンス相手にリアルな殺し合いをやって来た。そして、その両者の実力差ははっきりと現れた。

 ブロントさんが盾で激しく筋肉ダルマを突き倒した。筋肉ダルマは背中から倒れたが、すぐに起き上がる。

 筋肉ダルマがブロントさんに思いっきり右ストレートを放ったが、それはバックステッポで避けられ、お返しのメガトンパンチを顔面に食らって後ろに倒れ込んだ。

 

「勝負あり!伊吹萃香、ブロントが準々決勝に進出です!」

 

「さんを付けろと言っているサル!」

 

 だが、ブロントさんの声は盛り上がって歓声と拍手を轟かせる観客によってかき消された。

 

 

 

 ブロントさんと萃香が試合を終え、参加者控え室に戻ってきた。そこで待っていた小鈴がブロントさんと萃香にコップに入った水を差し出す。

 

「おいィ、レイモたちはどこへ行ったんdisかね?」

 

「実は、ちょっと問題が起きていまして。この武闘大会で負けた参加者の人たちが行方不明になっているらしいんです。霊夢さんたちは、それについて調べに行っていまして」

 

「ああ、それについてか」萃香が言う。

 

「霊夢さんに言わせると、嫌な予感がするのだそうです」

 

「確かに、これに参加するようなのは簡単に人さらいに遭うような連中じゃ無いはずだけどね。うーん・・・・・・」

 

「おいィ、誘拐とか間接的に言って犯罪でしょう。そんなことをしたら、ムショで9年は臭いメシを食うことになる」

 

「9年どころじゃすまないと思うけど、まあ、まずいことになっているのは確かだね。今日の試合はもう終わりだし、準々決勝も控えている。霊夢たちが戻って来たら、ちょっと話を聞いてみよう」

 

 

 

 結局のところ、ブロントさんたちは武闘大会に参加している人妖が行方不明になっていることについて、一切の手がかりを得ることができなかった。

 

「明日は一応、休息日だし、知り合いにも声をかけてみるよ。この大会が始まって、こんなことが起きたのは初めてだよ」

 

「おいィ、ここに天狗ポリス的なのはいないんdisかね?」

 

「ここの連中は、公権力的なものを酷く嫌うんだ。殆どが、自由気ままに生きていたいという鬼や妖怪、そしてはみだし者の人間ばかりでね。こういう武闘大会も、そういう連中の集まりだからこそできることだし、それに、あの賞品、随分豪華だろ?ああいうのも、実際は出所のわからない盗品だったりする場合がほとんどさ。勿論、普通の町だったらこういうのは許されないけど、この旧地獄街道ははみ出し者やつま弾き者、はぐれ者の集まりさ。基本的に、殺し以外は許される。ここはそういう所なのさ。それじゃ、準々決勝の日に会おう」

 

 萃香はそう言って自分の家へと戻って行った。町行く人妖は、武闘大会の話ばかりしており、酒場や賭博場に向かう者も少なくない。それほどにまで、この件の話は広まっていないのか、人妖の関心を集めていないかのどっちかだ。

 

「私らもとっとと宿へ行こうぜ。この調査は明日になってからでもいいだろ?」

 

 魔理沙はこの件について、それほど関心を寄せている様子は無かった。だが、ブロントさんの仲間のうち、一人、この行方不明事件に、並々ならぬ異様さを覚えている者がいた。

 

「ねえ、ブロントさん。どうもこの行方不明事件、やっぱり嫌な予感がするわ。明日になったら、ちょっと調べてみましょう」

 

「でも、人さらいを探すだなんて、どうやってやるんだ霊夢。武術大会に参加している奴のうち、誰か一人を追跡して、人さらいに遭遇したところを捕まえるとでも言うのか?」魔理沙は霊夢の意見に懐疑的なようだ。

 

「そのまさかよ。いなくなっているのは敗者だけなんでしょ?次のブロントさんの試合に負けた人を見張って、人さらいがやって来たところを捕まえるの」

 

「そうね。霊夢の言う通りだわ。この件を解決するには、残念ながら、それ以外の方法は思いつかないわ」アリスは霊夢と同じ意見のようだ。

 

「うむ。それでは、そうしてみるか。つまり、人さらいがやって来るのを待って、拉致監禁をしようとしたところを俺たちで捕まえれば良いのだな」

 

「そういうこと。次のブロントさんの試合に負けた人がいたら、その人たちが誘拐されないように私たちが護衛するってこと」と、霊夢。

 

「そうか。それで、どうやってやるんだ?」

 

「次のブロントさんの試合の時、私たち全員で控室に入るの。そして、試合の途中、2人で対戦相手の控室の近くで張り込んで、人さらいがやって来た時に捕まえるのよ。勿論、試合が終わったら、ブロントさんにはすぐに駆け付けてもらうわ」アリスが作戦を説明する。

 

「よし、任せたぞ。俺は試合が終わったらすぐに誘拐犯がやって来る前にとんずらできょうきょ駆けつけて、誘拐犯の顔面にメガトンパンチを食らわせればいいんだな?」

 

「そういうこと。そうそう、私たちの方は、必ず二人で行動しましょう。一人でいて、誘拐に巻き込まれたんじゃ、元も子もなくなるわ」



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前夜祭

 翌日。ブロントさんと萃香は難なく試合を突破した。作戦通り、霊夢と魔理沙が相手選手の控室の近くで待機し、アリスと小鈴はブロントさんの控室の中で待機していた。

 

 相手選手の怪我は、ブロントさんから言わせてみれば『それほどでもない』とのことだったので、霊夢たちにはそのまま張り込みをしてもらうことにした。万が一、救護室に運ばれるようなことがあれば、即座にアリスと小鈴がそこに駆け付ける算段を整えていた。

 

「さて、俺たちも霊夢のところへ行ってみるぞ。犯人は現場に戻ってくるという名ゼリフもあるくらいだからな」

 

 ブロントさん、アリス、小鈴、萃香は4人揃って霊夢たちのところへ向かった。しかしながら、霊夢と魔理沙に言わせれば、対戦相手は控室に戻ってきていないとのことだった。

 

「おかしいな。多少の打撲と切り傷で済んだはずなのにな。骨折もしていなかったはずなのに、取り敢えず、救護室に向かってみるか」

 

 

 

 萃香の提案で、一行は救護室に向かってみた。そこで待機していた医者によれば、こっちに試合に参加していた妖怪と人間のコンビは、やって来ていないという。

 

「おいィ・・・・・ちょとsYレならんしょこれは・・・・・」

 

 いよいよおかしな事が起きているようだ。武闘大会に参加している人間や妖怪が次々と失踪しているとなると、何者かが参加者を拉致しているとしか思えない。

 

「なあ、今日の試合はこれで終わりだよな?後は・・・・・準決勝と決勝か」

 

「そうなると、狙われているのは8人ね。ブロントさんと、萃香。そして、準決勝まで勝ち残った相手」

 

 霊夢が周囲を見回しながら言う。そこへ、武闘大会を主催している里の役人をしている妖怪がやって来た。

 

「おや?あなた方は先ほどの試合を勝ちあがった方たちではないですか。一体、何をしているのです?」

 

「あら、ちょうどよかった。さっきの試合で負けた人たちを見なかった?」

 

「いや、見ていないですね。実は、私もその件でここを見回っているのですが」

 

「なるほど。あんたたちもこの事件を追っている訳か。まあ、主催者となると、放っておく訳にもいかないか」魔理沙が腕組みをし、その妖怪の方を見た。

 

「ええ、その通りです。そこで、我々は参加者に警護の者を付けることとしました。勿論、あなた方にも警護を付けます」

 

「おいィ・・・・・ナイトは守られるものじゃないで、仲間のメイン盾となるのが役目なんだが」

 

「そうは言われましても、武闘大会に参加している人間や妖怪が失踪するだなんて、この旧地獄街道で大会が始まって以来、一度も無かったことです。とにかく、まだ誘拐犯がまだここに残っている可能性もあります。護衛の者には邪魔をさせません」

 

「そうなったら仕方無いわね。準決勝だし、ここでまた何か起きたら虹色の枝を手に入れるどころの話じゃなくなるわ。ブロントさん、ここは慎重に調べましょう」

 

「む、そうだな。自慢じゃないが俺はイシの村の名探偵ホームズと言われた実績があるのだよ」

 

「ブロントさん・・・・一体、何個の異名があるんだ・・・・」

 

 魔理沙はブロントさんの顔を見て、少し困惑した様子で言った。

 

 

 明日明後日はいよいよ武闘大会の準決勝、そして決勝戦ともあって、人間も妖怪も鬼も大勢で旧地獄街道の大きな通りに連なる飲食街で飲み歩いている。

 通りの屋台は活気に溢れ、翌日の準決勝でどちらの組が勝って、決勝戦に駒を進めるのかという話に花を咲かせている。

 そんな中、一人の人物が通りをゆっくりと歩いていた。その人物は真っ黒なマントに身を包み、フードを被っているため、その顔をうかがい知ることはできない。

 そいつは周囲を見回すような動きをして、何事も無かったかのように雑踏の中を進み続ける。そして、ポケットの中に手を入れ、中から小さな瓶を取り出した。中には紫色がかかった、半透明の液体で満たされている。そして、その不気味な人物は誰にも怪しまれる事無く、人混みの中へと消えていった。

 

 

 

 ブロントさん一行と萃香は、まずは夕食を取ることにした。そうは言っても、物騒な事件が起きている現状、町に繰り出して仲間のうち誰かが行方不明になってしまっても困るので、常に6人が一緒になって行動するようにする。

 町には失踪事件の話は流れていないのか、みな、至って普通通りに過ごしている様子だった。確かに、武闘大会の勝者のことは話題に持ち上がるが、敗者のことはあっさりと忘れられてしまうのだろう。旧地獄街道というのは、こういう町なのだ。

 

「さーて、私の行きつけの美味い店があるんだ。ここの通りのちっさい店だけどさ」

 

 萃香の案内で、ブロントさんたちは1軒の店に入っていく。中は多くの妖怪と人間で賑わっており、テーブルはほぼ埋まっていた。

 

「店長、いつものやつを6人分とお酒!」

 

「おう、萃香。ちょっと待ってろ!」

 

 萃香はここの常連らしい振る舞いをしていた。暫く待っていると、色とりどりの料理と酒が次々と運ばれてくる。

 

「ほー、美味そうだな。さて、頂くとするか!」

 

 魔理沙が唐揚げを口に運び、アリスはチャーハンを皿によそう。

 

「あーら、いいお酒じゃない。こんな辛気臭いとことなのに、こんなのがあるなんてね」

 

 霊夢はおちょこにどんどん酒を入れて、飲み干していく。

 

「おおー、いい飲みっぷりだね。そうだ、ブロントさんも一杯どうだい?」

 

「『せっかくだけど遠慮します』」

 

「なんだよそりゃ、辛気臭いなー」

 

「あ、萃香さん。ブロントさんは、お酒が全くもってダメでして・・・・・」小鈴が助け舟を出した。

 

「そうそう、物は試しに無理やり飲ませてみたんだけど、全くダメ、ちょっと啜っただけで気絶するみたいに寝ちゃってね」と霊夢。

 

「なんだよそりゃぁ。情けないにもほどがあるよ。ここじゃ、お酒が飲めない奴は、問答無用で雑魚認定されちゃうんだよ」

 

「おいィ、酒を飲むとか、アルコールで胃と肝臓をやられて寿命がマッハになるのは確定的に明らかなんだが?」

 

 ブロントさんは酒を無視して、衣をまぶして揚げられた魚を胃袋に運んでいく。かなり美味い。

 

「ところで、明日の準決勝の相手だけど・・・・・」

 

「ああ、知ってる奴だよ。この旧地獄街道の荒くれ者でさ、力は強いんだけど、所詮は人間だよね。多分、そいつはブロントさんを狙って攻撃してくるだろうから、その隙にあたしがボコるっていう作戦で良くないかい?」と萃香。

 

「つまり、俺がメイン盾としてそいつらの攻撃を引き付けているうちに、芋が不意だまを食らわせるというんだな」

 

「ちょ、私は芋じゃなくて鬼だよ」

 

「まあ、私たちが野良妖怪相手にいっつもやっている戦い方だな。メイン盾のブロントさんが前で敵の攻撃を受け止めている間に、私らがボコボコにするってな」

 

 魔理沙はそう言って、分厚いベーコンをビールで胃袋に流し込む。

 

「あっ、何よー、もうお酒が無いじゃない。ねー、こっちにお酒もっと持って来てよー。魔理沙も小鈴ちゃんも飲むでしょ?」

 

 霊夢が給仕をしている妖怪に向かって手を振る。

 

「おいィ!?おもえはまだ飲む気なんdisかね」

 

「何言っているんですか。このくらい、まだ序の口ですよ」

 

「そうだぜ、ブロントさん。だいたい、私らが普段どれだけ飲んでいるか知ってるだろ?」

 

「ちょとsYレならんしょこれは・・・・?」

 

「なんだよー、一人だけ飲めないとか、随分とまたつまらない人間だね」と萃香。

 

「おいィ、酒を飲むとか肝臓と脳細胞が破壊されて一巻の終わりなんだが?」

 

 ブロントさんは酒から目を逸らし、スプーンでピラフを掬って食べる。それにしても、俺の同行者はどうして

こうも酒ばかり飲むんだ?ちょとsYレならんしょこれは?

それに、明日は準決勝だ。酒なんか飲んでいたら、酔っ払ったあげく、肝臓がマッハ。おれは不良だから、明日に備えてとっとと宿屋で寝るんだが?



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決勝直前、そして事件

 ブロントさんと萃香はあっさりと準決勝を突破した。相手はここまでどうやって勝ち上がって来たのか不思議なくらいの相手で、萃香がデブなレスラーにジャイアントスイングを仕掛けて投げ飛ばし、ブロントさんがそいつの相棒の顔面に男女平等パンチをぶちかますと、簡単にそいつは倒れた。

 

 翌日はいよいよ決勝戦となり、萃香もブロントさん一行も浮かれて、再び町へ繰り出した。

 

 

 

 だが、それが迂闊だった。決勝戦の朝、普通ならば早い時間に迎えに来る萃香がやって来ない。

 

「おかしいですね。萃香さん、どうしたんでしょう?」

 

 小鈴は周囲を見回しながら、まだやって来ない萃香を探していた。

 

「霊夢、どうしたんだ?」

 

 霊夢の目が鋭くなり、一歩踏み出した。

 

「ブロントさん、萃香の家に行ってみましょう。なんだか嫌な予感がするわ」

 

「む・・・・・?」

 

 

 

 

 一行は萃香の家の前に来た。ドアをノックしてみたが、萃香は出る気配が無い。

 

「おいィ~、おいィ~、早く出てきてくれませんかね・・・・?」

 

「どうしたんだろう?今まで通りなら、もっと朝早く私らを迎えに来るのにな・・・・・?」

 

 魔理沙も異様な状況に気づき始めた。ドアノブを引いてみると、内側から鍵がかかっているようだ。

 

「おーい、萃香、どうしたんだ?」

 

 霊夢は顎に右手を当て、何やら考え込んでいる。やがて、そこに決勝戦の相手であるはずの衣久がやって来た。

 

「あら、皆さんお揃いで・・・・・・」

 

「おいィ?まさか、決勝を台無しにするために、おもえが萃香を拉致ったんdisかね?ちょとsYレならんしょ・・・・・・?」

 

「ちょっと、藪から棒に失礼な方ですね。寧ろ、私があなた方の力を借りようと思っていたところなんですよ」

 

「と、いう事はまさか・・・・」霊夢が言う。

 

「ええ。今朝早く、総領娘様が、いつの間にかいなくなってしまっていて。朝食を食べる時間になったらすぐに戻ってくると思っていましたが、全く戻る気配が無かったのです。もしかしたら、先に出発していたのかと思い、一度、武闘大会の受け付けに行ってみたのですが、そちらにも来ていないと言われてしまいまして、どうしたものかと思っていましたが・・・・・」

 

「よし、ブロントさん、こうなったら実力行使よ。みんなでこのドアを蹴破って、中の様子を確認しましょう。それに、さっきからどうも嫌な予感が消えないのよ」

 

「おいィ、不法侵入とか犯罪でしょう?ムショで10年は臭いメシを食うハメになぬる」

 

「いや、この際仕方が無いぜ。出場者が2人も出られないとなると、武闘大会自体がダメになってしまう。それだと、虹色の枝が手に入らなくなって、私らの旅もここでおしまいになってしまう」

 

 霊夢と魔理沙は中を調べるのに乗り気だった。アリスと小鈴、衣久もそれに賛成し、結局は萃香の家に強行突入することになった。

 

「仕方がにぃ・・・・・」

 

「さて、鍵がかかっているなら私の出番だな。これを・・・・・」

 

 魔理沙がポケットから2本の細い針金のようなものを取り出して鍵穴に突っ込んだ。そして、ガチャリ、という音と共に簡単に扉の鍵を開錠する。

 

「よし、突入だ!」

 

 魔理沙に続いて、霊夢、アリス、小鈴、衣久が萃香の部屋に入っていく。ブロントさんはほんの少しだけ、開いた扉の前で立ち尽くして、こう呟いた。

 

「黒/シかと思えば、シ/黒だったという顔になる・・・・・・」

 

 

 

 部屋の中は滅茶苦茶に荒らされていた。テーブルがひっくり返り、食器棚が倒れて、水がめが割れたのか、床は全面水浸しだ。

 

「な・・・・何よこれ・・・・・」

 

 霊夢は部屋の様子を見て愕然となった。

 

「ちょとsYレならんしょこれは・・・・・?」

 

「おい、これは」

 

 魔理沙が指した床には大きな穴が空いていた。

 

「穴・・・・?」と霊夢。

 

「部屋にも穴はあるんだよな・・・・・・って、そんなこと言っている場合じゃないぜこれは!」魔理沙が言う。

 

「では、この先に恐らくは萃香さんを攫った犯人が・・・・?」衣久がその穴の先をじっと見て言う。

 

「おいィ・・・・・・誘拐とか直接的に言って犯罪でしょう?汚いなさすが忍者きたない」

 

「いや、ブロントさん、流石にあの忍者がすぐに私たちに追い付くとは思えないな」と魔理沙。

 

「それよりもブロントさん、この先に行ってみましょう。多分、このトンネルを掘った奴が萃香と天子を誘拐したに決まっているわ」

 

 霊夢は全く躊躇う様子も見せずにトンネルの中に足を踏み入れようとした。

 

「うむ。俺が思うに、芋と天人は今頃汚い忍者に拉致換金されて『はやくきてー、はやくきてー』と泣きが鬼なっているのは確定的に明らか。誘拐された芋と天人を助けに行く→誘拐犯に拉致られたリア♀を助けたと名誉が充実→心も豊かなので性格も良い→彼女ができる、芋と天人を見捨てる→ナイトの名誉が雑魚→心が狭く顔にまで出てくる→いくえ不明」

 

「それに、これほどのトンネルを掘るとなると、賊はかなりの戦力を持っていると考えられます。皆さん、慎重に進みましょう」

 

「おい、あんた、戦えるのか?」魔理沙が衣久に対して少し懐疑的な視線を向ける。

 

「ええ。こう見えても、治療と攻撃の術式はある程度心得ています。皆さんの足手まといにはなりません」

 

「そうと決まったら、穴にのりこめー^^」

 

「わぁい^^」

 

「お、おー^^」

 

 

 

 穴は更に大きなトンネルに繋がっていた。中は真っ暗だが、かなり広く、所々からモンスの声が聞こえてくる。

 

「おい、何だこれは?何も見えないぞ?」と魔理沙の声が聞こえる。

 

「ちょっと待ってろ・・・・・よし、封印が解けられた!いくぜ、生半可なナイトには真似できないフラッシュ!」

 

「うおまぶしっ!」

 

 ブロントさんが全身から白い光を放ち、真っ暗な洞窟を明るく照らす。

 

「あのー、どうやってこんなに都合よくこの場に必要な術式を・・・・・・」衣久が怪訝そうな顔をしてブロントさんを見る。

 

「えっ・・・・?」

 

 PTメンの全員が衣久を見た。

 

「えっ・・・・・、あ、あの・・・・・なんでもないです・・・・・」

 

「まあ、そんなこと気にしていたらすぐ禿げる。それに、ナイトは順応スキルがかなり高いから、その場で必要なアビをすぐ習得する話があるらしいぞ?(リアル話)」

 

「それよりも気を付けて、ほら、敵よ」

 

 アリスが短剣を持つ上海人形を飛ばし、向こうにいる覆面バニーを切り付けた。

 

「俺にも一撃を入れさせろ!行くぜ!」

 

 ブロントさんは、その巨体とは思えないスピードで敵の群れに向かい、腐った死体に斬りかかる。

 

「ハイスラァ!」

 

 腐った死体の左腕が肩から千切れ、宙を舞う。しかし、生ける屍であるこのモンスは全く痛みというものを感じないのか、残った右腕を振り回し、ブロントさんを攻撃する。

 

「ブロントさん、避けてくれ!」

 

「バックステッポ!」

 

 ブロントさんが後ろに飛びのくと、魔理沙が八卦炉から氷の塊が混ざった冷気を放った。腐った死体の群れが凍り付いて動かなくなる。

 

「さて、こんなものね。さ、こんなのに構っている時間は無いわよ」

 

「だけどよう霊夢、こんなに入り組んで魔物だらけの洞窟から萃香と天子を探し出すなんてかなり難しいぜ。ほら、またお客さんだ」

 

 魔理沙が一瞥した先で、機械仕掛けの小鳥のモンス、ガチャコッコや生ける屍であるどくどくゾンビ、アンデッドマンなどがぞろぞろ群れを成していた。そいつらは、ブロントさんたちに一斉に気づいて、こちらに向かって来る。

 

「あー、もう!面倒ね!こうなったら、一気に突破するしか無いわ。魔理沙、合図したら私と二人で最大火力であいつらに攻撃の術式を撃つわよ。ブロントさん、あいつらを攻撃したら、先頭に立って真っすぐ走って!」

 

「わかったぞ霊夢どん」

 

「それじゃ、行くわよ、魔理沙!」

 

「おう!」

 

 魔理沙と霊夢は同時に術式を放った。凄まじい爆発で魔物の群れが後ろに吹き飛ぶ。これを食らったモンスは体の一部が千切れ、体を炭化させて倒れている。おかげでこの先に続くトンネルへの突破口が開く。

 

「ふう、これで大方片付いたわね。さあ、今のうちにとっとと突破するわよ!」

 

「一気に行くぜ!とんずらぁ!」

 

 ブロントさんが目の前を塞ぐ腐った死体にタックルを食らわせて吹き飛ばし、後ろに倒れたそいつを踏みつけながら走る。

 

「そこで立ってなさい!」

 

 霊夢がアンデッドマンの群れに向かって無数のお札を投げつけた。アンデッドマンはお札の霊力によって動きを封じられる。

 

「おっと、いい物持っているじゃねぇか!死ぬまで借りていくぜ!」

 

 魔理沙は隙を見て、アンデッドマンから鋼の剣や鉄兜、青銅の盾などを強奪する。

 

「うおおおおおおおお!生半可なナイトには真似できないシールドバッシュ!」

 

 ブロントさんは左手で盾を掲げ、目の前の覆面バニーを突き飛ばし、アリスが放った術式により、どくどくゾンビが動きを止める。

 他にもモンスが大量に汚く粘着してきたが、そいつらは誘拐犯に拉致換金されたリア♀を助けるべく、とんずらでカカッときょうきょ駆けつける黄金の鉄の塊でできたナイトとそのフレたちによってあっという間に骨になったのであった。



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地下の洞窟からの脱出

 萃香は自分が捕まっている部屋の様子を見回した。萃香自身は蜘蛛の糸のようなものでがんじがらめにされ、洞窟の天井に吊り下げられている。他にも、武闘大会に出場した人間や妖怪が、自分と同じようにこの部屋に捕まっている。

 

 普通なら、こんな糸など自慢の怪力で簡単に引きちぎることができるのだが、どうやらこの糸には、捉えた相手の妖力や魔力を吸収する機能があるのか、全身に全く力が入らない。

 

「うう・・・・・油断した。まさか、寝込みを襲われるだなんて」

 

 下を見ると、真っ黒なローブを着た何者かが、この蜘蛛の巣の真ん中で何かをしている。それが何なのかは、萃香には窺い知る術がない。

 

「ちょっと、これどうなってるのよ!誰か何とかしなさいよ!」

 

 誰かが叫ぶ声が聞こえてきた。その人物は、ちょうど、萃香の真下の辺りに捉えられているようだ。萃香がその人物の方に視線を向けると、その天人も萃香に気づいた。

 

「あ、あんた!武闘大会に出ていた鬼じゃない!あんたの怪力なら、この糸くらい引きちぎれるでしょ!」

 

「い・・・・いや、あたしもそうしたいのはやまやまなんだけど、この糸に力を吸い取られているみたいで、全く力がはいらないんだ・・・・・」

 

「なによそれ!ちっとも役に立たないじゃない!あー、もー、旧地獄街道の奴らは何をしてるのよ!武術大会に出ている人が次々いなくなっているなら、捜索隊くらい出すべきでしょ!あー、もー、はやくきてー、はやくきてー」

 

 そんなことを言っていると、突然、部屋の扉が開いた。

 

 

 

 ブロントさんたちは洞窟の最深部の部屋に突入した。部屋の壁には蜘蛛の巣が張り巡らされ、武闘大会に出場していた選手たちが捕らえられている。

 

「な・・・・何よこれ・・・・」

 

 霊夢が部屋の様子を見て呆然となる。

 

「これは酷い。すぐに助けてやらないと」

 

 魔理沙は箒に乗り、部屋の中を飛び回りながら、八卦炉からレーザーを放って糸を焼き切る。

 

「おい、貴様ら、何を余計なことをしている」

 

 部屋の向こうから真っ黒なローブを着た人物が歩いてきた。

 

「おいィ、おもえが誘拐犯なんdisかね?誘拐とか直接的に言って犯罪でしょう?天狗ポリスに捕まってムショで9年は臭いメシを食うハメになる!はやくあやまっテ!」

 

「こいつは面白い人間だな。貴様のちからも吸い取ってやろうではないか・・・・・・ん?」

 

 魔理沙が箒に乗って降りてきた。萃香と天子も一緒だ。

 

「ふう、助かったよ」

 

「この私を助けるだなんて、あんたいい目をしているじゃない?それで、そこの大きいのは誰なのよ・・・・・」

 

「む・・・・・?」

 

 ブロントさんが天子たちの方を見る。

 

「あ、ブロントさん、助けに来てくれたんだ!でも、見ての通り、他にも捕まっているのが沢山いて、あたし一人じゃどうにもなりそうに無くて・・・・?」

 

「ブロント?ブロントだと?貴様、まさか・・・・」

 

 だが、その場にいるブロントさんのPTメンたちはブロントさんの名前に反応した誘拐犯を無視した。

 

「うむ。やはり忍者よりナイトの方が頼りにされていた!キングベヒんもスとの戦いで、おれは集合時間に遅れてしまったんだが、ちょうどわきはじめたみたいでなんとか耐えているみたいだった。おれはジュノにいたので急いだ。ところがアワレにも忍者がくずれそうになっているっぽいのがLS会話で叫んでいた。どうやら忍者がたよりないらしく「はやくきて~はやくきて~」と泣き叫んでいる芋と天子のために、俺はとんずらを使って普通ならまだ付かない時間できょうきょ参戦すると」

 

「もうついたのか!」と魔理沙。

 

「はやい!」霊夢が続ける。

 

「きた!盾きた!」小鈴がそう言うと、

 

「メイン盾きた!」アリスが引き継ぎ、

 

「コレデカツル!」上海が言い、

 

「と、大歓迎状態だった」最後にブロントさんが〆る。

 

「待て、ここでこいつらを解放されてしまっては困るな」

 

 誘拐犯と思しき黒衣の人物がブロントさんたちに近づく。やがて、そいつの背中から、節のあるでかい脚が1、2、3、全部で8本伸びてくる。

 

「は?こいつ、魔物か?」

 

 魔理沙は誘拐犯の正体を目を丸くして見上げた。8本の脚はとてつもなく長く、節の一つがブロントさんの背丈ほどもある。

 

「おいィ、虫がでかいのはずるい。こいつ絶対忍者だろ・・・・・」

 

「いや、忍者は関係無いだろ、それよりも来るぞ!」

 

 バカでかい蜘蛛は腹部を大きく膨らませたかと思うと、生えている無数の棘を上に飛ばす。そして、棘は落下しながら破裂し、ブロントさんたちの頭上に無数の鋭い破片を降らせる。

 

「うおっ!」

 

「きゃあ!」

 

 棘の破片は金属のように鋭く、ブロントさんのPTメンたちに切り傷を負わせる。

 

「くそっ、こいつは不味いぞ」

 

 魔理沙は八卦炉から火の玉を幾つか放った。それはモンスの足元に着弾し、この巨大な蜘蛛を少しだけ後退させた。その隙に霊夢と小鈴がPTメンに治療の術式をかける。傷が癒えたブロントさんは剣を振りかざし、敵に肉迫しようとしたが。

 

「うおっ、異常な超常現象・・・・・・・」

 

 巨大な蜘蛛は目をカッと見開いてブロントさんを睨みつけると、ブロントさんは体をフラフラさせ、出鱈目に歩き始めた。目の焦点が合っていない。

 

「おいィ~、体がいう事を聞かないんだが?汚いな流石忍者きたない」

 

「くっ、厄介な奴ね!魔理沙、こうなったらあれを使いましょ!私があいつの足元に結界を張ったら、炎の魔法をそれにぶちかまして!」

 

「おう!」

 

 霊夢は意識を集中させ、蜘蛛の魔物の足元に結界を張った。その直後、魔理沙が八掛炉から炎の帯を放つ。その炎の魔法は、瞬く間に結界に吸収されていった。

 

「ふん!この程度の小細工でどうにかなるとでも思ったか?はあっ!」

 

 蜘蛛が口から糸を吐き出した。魔理沙、霊夢、アリス、衣玖は飛び上がって避けたが、混乱していたブロントさんと、混乱を解除する術式に集中していた小鈴が糸に絡め取られる。

 

「きゃあ!」

 

「うおっ!」

 

「ヤバい!ブロントさん!小鈴!」

 

 魔理沙が蜘蛛の上を飛び、八掛炉から氷の刃を飛ばした。だが、蜘蛛は再生した刺を背中から空中に放ち、魔理沙を狙い撃つ。

 

「がっ!」

 

 刺は花火のように弾け、ナイフのように鋭い無数の破片を空中に飛び散らす。それを浴びて負傷した魔理沙は地面に墜落した。

 

「くっ・・・・・畜生・・・・・・・」

 

 巨大な蜘蛛は魔理沙に狙いを定めた。結界の妖力によって脚を動かすことはできないが、糸を飛ばすことはできる。蜘蛛は魔理沙に糸を絡め、口で手繰り寄せて補食しようとする。

 

 だが、突如として蜘蛛の足元から灼熱のマグマが吹き上がった。超高温のそれは、蜘蛛の8本の脚のうち3本を瞬時に炭化させた。

 

「ぐおぉぉぉぉぉ!こ、これは・・・・・・・!」

 

「上手くいったぜ!霊夢!」

 

「てぁぁぁぁぁぁ!」

 

 霊夢は飛び回りつつ、霊力によって精製した弾幕を蜘蛛に浴びせる。畳み掛けるようにアリスが真空の刃を放ち、衣玖が雷を飛ばして攻撃する。

 

「がっ、がぁぁぁぁぁ!」

 

 蜘蛛は地面に崩れ、虫の息寸前のような状態だ。だが、残った脚を動かし、最期の足掻きを見せようとする。

 

「無駄だ!」

 

 魔理沙は蜘蛛のすぐ目の前に降り立ち、八掛炉をその巨大で醜い魔物の顔に突きつけ、魔力を集中させた。

 やがて、八掛炉から放たれた強烈な光が巨大な魔物を包み、蜘蛛が全身を炎上させて地面に倒れる。炎が消えたあとには、巨大な炭の塊だけが残されていた。

 

「ふー、一丁上がり!どうだ、私の活躍は!」

 

 と、魔理沙はドヤ顔でPTメンの方を振り返ったが・・・・・。

 

「見てない」と天子。

 

「何かあったの?」アリスが続き、

 

「俺のログには何も無いな」衣玖に蜘蛛の巣から助け出され、治癒の術式を受けるブロントさんが締めた。

 

「おい、そりゃ無いぜ、ブロントさん」

 

「それよりも魔理沙、早いところこんなところからは脱出しましょ」

 

 アリスが洞窟の周りを見回して言う。向こうからは、野良妖怪の不気味な叫び声が聞こえて来る。どうやら、こっちに近づいてきているようだ。

 

「『確かにな』と感心が鬼なる。流石、アリスの索敵能力はプラスAといったところか」

 

「わかったぜ。それじゃ、みんな、私の周りに集まってくれ」

 

 魔理沙は魔法陣を描き、その中に入るように仲間たちに指示した。そして、魔理沙は集中し、魔力を高める。

 

「それっ!」

 

 魔理沙が溜めた魔力を解放すると、一瞬にしてブロントさんたちの姿が洞窟から消えた。

 

 

 

 ブロントさんたちは、いつの間にか旧地獄街道の市街地に立っていた。魔理沙が使ったのは、一瞬にして洞窟などから脱出するための術式だ。

 

「ふう、こんなもんだな。私にかかれば、この程度お茶の子さいさいってことだ」

 

「あら、便利じゃない。衣久もこういう術式を使えればいいのにね」

 

 さっきまで魔物に捕まっていたとは思えないほど、天子はけろっとした様子だ。

 

「しかし、武術大会はどうなるんだ?私らが誘拐されている間には、試合をやっているはずだったのに」

 

 萃香はそっちの方が心配になっているようだ。

 

「萃香さん、それならば、後程、私たちと一緒に大会の運営者に訊いてみましょう。私も当事者ですし」

 

「だけど、本来なら、とっくのとうに武術大会は終わっているはず・・・・・あれ?」

 

 ブロントさんたちの方に、一人の男が走ってくるのが見えた。武術大会の主催者である、街の役人だ。

 

「み・・・・・・皆さん、何処へ行ってらしたのですか!?4人ともやって来ないものですから、仕方なく武術大会の決勝は中止となりましたよ」

 

「はぁ・・・・・それじゃ、賞品の虹色の枝は手に入らないって訳ね。これじゃ、参加した意味が無くなったわよ」と、霊夢。

 

「いえ、それで、私は皆さんが戻って来られたら、これをお渡ししようと思っていまして・・・・」

 

 役人が霊夢たちに差し出したのは、虹色の枝ともう一つの賞品、黄色に輝く丸くて大きな宝玉だ。役人は、宝玉をブロントさんに、虹色の枝を天子に差し出して、押し付けるようにして持たせる。

 

「と、とにかく、それが優勝と準優勝の賞品です。決勝戦で戦う者同士でしたら、もうお渡ししてしまっても構わないと、我々は判断しました。それでは!」

 

 役人はとんずらを使い、普通では間に合わないような距離をきょうきょ役場に向かって去って行った。

 

「で、どうするの?その宝石は?私たちが探していたのは、そっちの虹色の枝の方だったんだけど?」

 

 霊夢は天子が持っている虹色の枝の方を見る。

 

「ちょ、ちょっと!これは私たちが手に入れたものよ!」

 

「いえ、少しお待ちを。皆さん、急なのですが、少し私から話があるのです。特に、そちらのブロントさんに。そして、ここでは無く、ここから先に行った、ユグノア、という所でお話したいのです」

 

「む、良いぞ」

 

「それじゃ、私は部外者みたいだし、休みたいから家に帰ね。じゃあねー」

 

 萃香は駆け足で雑踏の中へと消えていった。

 

「どうやらかなり大事な話みたいね。それじゃ、ユグノアへ行きましょ、ブロントさん」

 

 霊夢がそう言うからには、衣久も出鱈目なことを言っている訳では無さそうだ。

 

「うむ、良いぞ」

 

「それでは、皆さん、まずはこの町から出ましょう。ユグノアまでは私と総領娘様が案内します」



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16年ぶりの帰還、そして目指すべき場所

 ブロントさんたちは衣久の案内で、旧地獄街道から南西にそれなりに歩いた先にあるユグノアに向かった。途中、野良妖怪がぞろぞろと襲って来たものの、5人のPTメンに衣久と天子が助っ人として一緒に戦ってくれるお陰で、それほど苦戦はせずに済んでいる。やがて荒れ地は終わり、青々とした草木が生い茂る草原に出た。そして、西には、とても人間や妖怪が辿り着けないような巨大な断崖絶壁の高台があり、そこには、下界から見てもその大きさがはっきりとわかるほど巨大な木が立っている。

 

 命の大樹。世界にあるありとあらゆる生命を司る、この世界の中心とも言える存在。ブロントさん一行の現在のところの最終的な目的地だ。以前出会った天狗のブンヤによれば、その命の大樹に闇を払う『暴食の魔剣』があるという。

 

 やがて、草原の丘の上に建物の跡らしきものが見えてきた。ブロントさんには、それは500年だとか1000年前に建てられた城の遺跡であるようにも見えた。

 

「ブロントさん、あそこです。あの大きな砦の跡です」

 

 衣久がその建物の跡を指さす。

 

「砦ったて、壊れているじゃないか。本当にアレが砦だったのか?」

 

 魔理沙は、どう見ても風化して瓦礫の山と化したものを見て言った。

 

「ええ。かつては、この地域で最強の騎士団が治めてした、れっきとした砦でした」

 

「最強の騎士団・・・・・・ですか」小鈴は心当たりがない、といった様子だ。

 

「そうです。しかし、16年前、あのような出来事があったばかりに・・・・・」

 

 

 

 一行は破壊された砦に辿り着いた。そこには、割れた壺や食器が散乱し、壊れた家具も数多く転がっている。さらに目を引くのは、錆びついた鎧や兜、剣を持つ白骨化した数々の屍たちだ。

 

「酷い・・・・一体何があったのかしら・・・・」

 

 アリスは、周囲に散らばる家財道具や屍を見て言う。

 

「ここは・・・・かつてこの地域で最強と名を馳せていた騎士団がいました。その名は『喧嘩チームDRAK』。聞いただけでは風変りな名前ですが、それとは裏腹に、彼ら彼女らの強さは、魔物にすら恐れられるものでした。東に盗賊に襲われている村があれば助けに行き、西に暴れている魔物がいれば退治に向かう。そんな人々でした。そんな騎士団を率いていたのが一組の夫婦。ダルケンさんとリータさんでした。聞いた話によれば、戦いに臨んでは真っ黒な鎧兜を身に着けるダルケンさんは闇の黒鉄の騎士、彼とは対照的に、眩く輝く白と金色の鎧兜を身に纏うリータさんは光の黄金の騎士、という異名を持っていたそうです」

 

 衣久は歩き続けながら、話を続ける。

 

「しかし、そんな二人に子供が生まれた時、突如として魔物の集団が、DRAKの砦に襲いかかりました。ダルケンさんは仲間たちと共に戦い、自分の息子とリータさんを逃がしました。ところが、ダルケンさんとリータさんは命を落とし、DRAKの仲間たちもまた、魔物の圧倒的な戦力にかなわず、次々と斃れていったそうです」

 

 暫くして、衣久は話の続きを始めた。

 

「こんな状況であったにもかかわらず、生まれたばかりのその子供は16年もの間、魔物の脅威に晒される事無く育ち、今、ようやく、この生まれ故郷に戻ってきたのです」

 

 衣久は振り返ってブロントさんを見た。

 

「まさか・・・・・」魔理沙もブロントさんに顔を向ける。

 

「そう。ここが、白夜の騎士の真の生まれ故郷。DRAKの砦ことユグノアです。お帰りなさい、ブロントさん」

 

 この場にいるブロントさんの仲間たち、全員が衝撃を受けた。ここがブロントさんの生まれ故郷。魔物に破壊された、主無き大きな砦。だが、疑問が一つ。それは魔理沙が口にした。

 

「でも、ブロントさんが育った村とここじゃ、かなりの距離があるはずだぜ。どうやってブロントさんはそこまでたどり着いたんだ?」

 

「それは・・・・・実は、生まれたばかりのブロントさんを抱えて逃げたのは、その場にいた総領娘様なのです」

 

「なんだって!?」

 

「うん。ブロントさんのお母さんに言われて、一生懸命魔物から逃げたんだけど、川に落ちた時にブロントさんを手放しちゃって。そのあと私は衣玖に拾われたんだけど、ブロントさんがどうしても見つからなくて・・・」

 

「そうか。おもえが16年前にメイン盾をやっていなかったら、俺は裏世界でひっそり幕を閉じていたのは確定的に明らか。>天子感謝」

 

「それほどでも無いわよ」

 

「だけどなぁ、ブロントさんが産まれた直後に大軍で襲撃してきたとなると、魔物は気紛れでユグノアを攻撃してきた、という訳では無さそうだな。明らかに自分たちにとって邪魔になる存在。白夜の騎士、つまりブロントさんを狙って攻撃してきた、ということになる。そして、その大軍を率いていた、魔物の親玉みたいなのがいるはずだ」魔理沙の結論はもっともだった。

 

「そうね。そうなると、命の大樹を目指すことには変わらないけど、私たちは最後はそいつと戦うことになるのは当然ね」と、霊夢。

 

「ええ、その通りです。そして、私には、その者が誰なのか、名前を知っています」

 

「何だって!?」魔理沙は驚愕して衣玖を見る。

 

「おいィ・・・・・・どうして高INTっぽいキャラは、そういう肝心な時に勿体ぶるんdisかね。そいつが誰なのか早く教えるべき!死にたく無ければそうすべき!」

 

「落ち着いてください。いいですか、ブロントさんを狙った者の名前、それは魔王ウルノーガと言います」

 

「ウルノーガ・・・・・?聞いたこと無い名前ね。そいつが魔物の親玉みたいな奴、ということね」と霊夢。

 

「ええ、その通りです。しかし、私と総領娘様も、旅をしていて、ようやくその名前にたどり着くことができた、という程度です。そして、過去にウルノーガは、ある大国の家臣に取り憑き、誰からも気づかれること無く、内部から国を崩壊させた、とも言われています。ウルノーガについて、私たちが知り得たことは、この程度です」

 

「なるほど」と、先程まで黙って話を聞いていたアリスがようやく会話に加わる。

 

「名前すら広く知られていないとなると、魔王はかなり慎重に行動しているようね。決して目立つような真似はせず、かと言って何もしない訳では無い。私たち、人間や妖怪が作った社会に気づかれることなく入り込み、じっくりと工作を続けて機会を待ち続け、そして、時が熟すタイミングを待って、内側から人間や妖怪の社会を壊す」

 

「ええ。それが、魔王ウルノーガの最も厄介なところです」

 

「なによー、陰湿すぎじゃない。魔王が世界を滅ぼすために自分から動いているのに、私たちは、その魔王がどこにいるのか、全くわからないってことでしょ」

 

 霊夢はまるで文句を垂れるような口ぶりだ。

 

「ならば、俺たちは世界中を旅して命の大樹を目指しながら、どこかにいる魔王を見つけてバラバラに引き裂く。これをやらなきゃならないのだな」

 

「そうです。私たちの旅の最終的な目的はそうなります。魔王を倒さねば、この世界自体が破壊され、人間も妖怪も絶滅してしまうでしょう。しかし、先程からあなたたちは、随分と命の大樹へ向かうことへこだわっているようですね。そこに何があるのですか?」

 

 これについてはアリスが説明した。

 

「実は、命の大樹には、かつて仲間たちと共に邪神を封印した白夜の騎士が使ったとされる『暴食の魔剣』というものがあるとされているの。魔王を倒すには、それが必要だと私たちは考えているの」

 

「遥か大昔、邪神を封印した白夜の騎士と仲間の戦士たち。その話は私たちも聞き及んでいます。そして、白夜の騎士が使っていたとされる剣がそんなところに収められていたとは。どこにあるのか、場所は存じ上げませんが、剣以外にも、白夜の騎士が使ったとされる武具は、剣だけでは無い、という話は聞いたことがあります」

 

「な、何だよそれ、初耳だぞ!」魔理沙が素っ頓狂な声を上げる。

 

「ええ。取り敢えず、私が知っていることを掻い摘んで話しましょう。白夜の騎士が使っていたのは、暴食の魔剣以外にも、特殊な鎧、兜、盾を持っていたとされています。そして、これが肝心な話だと私は考えているのですが、白夜の騎士が持っていた、3つの防具は聖なる光の力を持っていたにも関わらず、白夜の騎士が持つ剣だけは、どういう訳か禍々しい闇の力を宿していた、と」

 

「ちょっと待って。そんなの矛盾しているじゃない!光と闇、両方の力を持つって、そんなの普通じゃ考えられないわ!普通なら・・・・・」とアリス。

 

「ええ。アリスさん、と言いましたね。確かに、常識として考えた場合、その通りです。光と闇、両方の属性の力を持ち合わせるなど、人間や妖怪での常識では不可能です。普通は、どちらか強い方しか持つことはできません。そして、弱い方の力は当然ながら、強い方の力に負け、消え去って行きます」

 

「だとしたら、白夜の騎士というのは相当特殊な人間、ということになりますね。どうやら、私たちの常識が全く通じない人間なのでしょう」小鈴はブロントさんを見て言う。

 

「さて、命の大樹を目指すのはいいけれど、この虹色の枝が鍵になっているというのはわかっているが・・・・・・・ん?」

 

 魔理沙が虹色の枝を取り出して翳して見た。すると、何と虹色の枝はかなり強力な光を放ち始めた。

 

「うわっ、何だ!?」

 

「ちょ・・・・これ、何よ!」

 

 天子が持っている黄色い宝玉が、まるで虹色の枝に共鳴するかのように輝き出す。

 

「おいィ・・・・・何だか常識では考えられないようなえごい光パワーみたいなのがあふれ出ているんだが!?」

 

 虹色の枝が更なる強烈な光を放ち、ブロントさんたちにあるイメージを見せた。それは、命の大樹と祭壇のような場所。そして、赤、青、緑、黄、紫、銀の6つの宝玉が宙に浮かび、輝きながら回転する。やがて、祭壇から命の大樹に向かって、光でできた橋のようなものが架かったところで、イメージは途切れた。 

 

「おいィ・・・・今のは一体何なんdisかね?事前の説明さえあれば心の準備もできたんですわ?お?」

 

「ひょっとして、命の大樹へ行くには、虹色の枝の他に、さっきの宝石みたいなのが必要だってことかしら?」と霊夢。

 

「待てよ、さっきの宝石ってまさか・・・・・」

 

 魔理沙が自分の鞄に手を突っ込み、ガサゴソと何かを探す。そして、取り出したものは、先程のイメージで見た、赤い宝石そのものだった。その宝石もまた、強烈な光を放っている。

 

「ビンゴみたいだな」

 

「これで目的は決まったわね。残りの宝石を探し出して、命の大樹へ向かう」と霊夢。

 

「でも、命の大樹に向かうにしても、残りのオーブを見つけないといけないな。残りは4つか。でも、どこへ向かえばいいんだ?」

 

「それなら、一つだけ私にアテがあります。でも、これは、またあくまでも噂話なのですが、海賊が持っていた宝の中に、よくわからない宝石があった。しかしながら、その宝石を積んだ海賊船は北の海で嵐に巻き込まれて沈んだ、という話です」衣久が言う。

 

「うーん、でも、命の大樹、虹色の枝、そして色とりどりの宝石。この話もあながち単なる作り話とは言い切れないかもしれないわね」とアリス。

 

「それで、どうするの?その北の海に向かってみる?私としては、そうね。何かしら手掛かりになるものがあるんじゃないかと思うわ」霊夢は北の海へ向かうことに賛成のようだ。

 

「どちらかと言えば俺もそれに大賛成だな。と、いう訳で次は北の海に向かうぞ」

 

「よし来た。じゃあ、一旦、私の船に乗るために港に戻るとするか」

 

「こうなった以上、私たちもあなたたちの旅にとって部外者では無くなってしまったようですね。総領娘様は・・・・・・」

 

「当然、あたしも衣久も、ブロントさんたちに付き合わさせてもらうわよ!」

 

「よし来た!、じゃあ、早速だが、旧地獄街道の向こうの船着き場に行こう!瞬間移動の術式を使うから、集まってくれ!」

 

「Hai!」




物語の流れ的に不自然になりそうな原作の一部場面は、意図的にカットするようにしています。


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浅瀬での恩

 ブロントさんたちは一度、彼岸の集落に戻った。夜が更けてしまっていたので、この日は一旦、宿屋で休み、翌日に出発することになった。ところが。

 

 ブロントさんが例の如く寝坊してしまったため、朝のうちに出発するつもりが、昼になってアリスの船はようやく動き出した。

 

 彼岸の集落に入港する船、逆に出港する船が行き交う。多くの海鳥がアリスの船に並走するように飛び、まるでこれからの旅路を祝福しているかのようだ。

 

「思った以上に立派な船じゃない。アリス、あんたって何者なの・・・・・」

 

 天子は甲板の上で大きく伸びをして、後ろで舵を取るアリスを見て言う。

 

「まあ、旅をしながら人形劇をするだけで、船を買うだけのお金は稼ぐことはできたしね。それに、船があった方が、色々と便利だったりするから」

 

「だけど、魔物には気を付けないと。最近は海の魔物も凶暴化して、定期船はちっとも出ていないという話よ」霊夢は周囲を警戒している。

 

「と、言ってるそばからお客さんだ!来るぞ!」

 

 いつの間にか船体の外側を這い登ってきたのか、ガニラスやしびれくらげ、マーマンが甲板に姿を見せる。

 

「おいィ、汚いモンスがぽごじゃかわいてきているんだが!?」

 

「ちょっと!暴れ過ぎて船を壊さないでよ!」後ろで操舵するアリスが大声で言う。

 

「そんな余裕あるか!」

 

 魔理沙は八卦炉を構え、マーマンの群れに向けた。八卦炉からは凄まじい炎が噴き出し、マーマンを焼く。ブロントさんは突進してきたガニラスを盾で防ぎ、お返しとばかりにギロチンのハイスラを放つ。

 霊夢は近くにいたマーマンにパンチやキックをお見舞いし、小鈴が放ったスペルがしびれくらげを強烈な冷気で凍り付かせた。

 

「衣久!私たちもやるわよ!とりゃあああああああ!」

 

 天子は剣を上段に構え、ガニラスに斬りかかった。天子が持つ緋想の剣は、所持者の気質を集め、エネルギー体の刃を作り出す。

 ガニラスは真っ二つに切断され、ただの甲羅の残骸となった。天子はそいつの近くにいたうずしおキングを切り裂き、ヘルバイパーを葬る。

 

 戦いは始まったかと思ったら、あっという間に終わった。ブロントさんたちは、手分けして魔物の死骸を海に放り込む。

 

「うーん、前はここまで魔物が狂暴化はしていなかったのに。どうしてここまで魔物が出てくるのかしら」

 

 操舵しているアリスは少し困惑気味だ。

 

「さて、聞いた話だと、沈んだ海賊船の財宝の中にオーブがあったとかいう話だったな」

 

 魔理沙は海図を広げ、コンパスを手のひらに載せて周囲を見回す。北の方には海岸線が見え、東の方で途切れているようだ。

 

「うむ。まずはオーブを見つけないといけないという話だった感」

 

「でも、沈んだ海賊船なんて、どうやって探せばよいのでしょうか。手掛かりになる話も聞いたことはありませんし、そもそも、海の底にあるのなら、私たちが簡単に手に入れられるようなものでは無いと思いますが」

 

 衣久の言うことは、完全な正論だった。海底に沈んでいるのならば、普通に考えて探し出すのは不可能だ。無論、水中で呼吸ができたり、オーブを探し出してくるまでの間、海中で息を止めていられれば良いのだが、そんなことは人間に魔法使い、天人、エルヴァーンにはまず、不可能なことだ。

 

「問題はそこよね・・・・・・あ、アリス。ちょっと面舵とった方がいいわよ。何となくだけど」

 

「え?霊夢、何?」

 

 アリスがそう言った時、船体に衝撃が走り、船は動かなくなった。干潮になって、海から姿を現した浅瀬に乗り上げてしまったのだ。

 

「おいィ!?」

 

「きゃあ!」

 

「うわっ!」

 

 

 

 アリスの船は、白い砂の上にあった。周囲には幾つか岩場がある浅瀬になっている。どうやら、満潮の時間になるまで、ここで待つしかないようだ。

 

「おいィ・・・・・これを仕掛けたの、絶対忍者だろ。汚いなさすが忍者きたない。これで俺は忍者が嫌いになった。あまりにもヒキョウすぐるでしょう」

 

「いや、これと忍者は関係無いだろ・・・・・・」

 

 ブロントさんと魔理沙の掛け合いは、すっかりおなじみになっていた。

 

「せっかくだし、この辺りを調べてみましょ。何となくだけど」

 

 霊夢の勘が外れたことは無い。霊夢がそんなことを言うということは、この辺りには"何か"があるはずだ。満潮の時間になるまで、この辺りを探索するのも悪くは無い。

 

「うむ。色々な場所を探すのが冒険者の醍醐味と、俺に剣術を教えてくれた先生が言っていたからな。と、いうことで一気に行くぜ!」

 

 

 

 ブロントさん一行は砂浜の上に降り立った。海の魔物が襲って来ないとも限らないので、武器や防具は身に着けたままでいた。

 

「おいィ・・・・・ここに降り立ってみたものの、船を動かす方法は無いというあるさま。俺たちはここで骨になる・・・・」

 

「お宝がある気配も無いからなぁ。さて、どうしたものか」魔理沙は周囲をキョロキョロと見回しながら言う。

 

 いくらブロントさんが馬鹿力の持ち主と言っても、座礁した船を押すというのは不可能なものだ。ここはじっと待つ他無さそうだ。

 

「せっかくだし、食べ物を探そうぜ。蟹とか魚とか」

 

 魔理沙は船から釣り竿を持ち出し、きょろきょろと何かを探し、やがて水の中に手を突っ込む。彼女がつまんだのはゴカイという、海に住むミミズの仲間のようなものだ。それを釣り針に刺して、魔理沙は釣り糸を海面に垂らした。

 

「うーん、この辺りは浅瀬があるとは書かれていないんだけど・・・・・・海図が古いのかしら。そうでなければ、昼間は干潮になって、夜になったら満潮になるのかも。そうだとしたら、夕方が過ぎるまで待たないといけないわね」

 

 アリスは両手で広げた海図と睨めっこしていた。確かに、海図にはこの辺りには浅瀬や干潟があるとの表記は無い。

 船を使って意気揚々と新大陸へと向かうつもりだったブロントさん一行は、思わぬところで足止めを食らってしまった。

 

 

 

「静かですね。魔物の気配は無いようですが・・・・・」

 

 小鈴は波打ち際を一人で歩いていた。時折、小さなカニがトコトコと横歩きで砂浜を走る。

 

「小鈴ちゃん、気を付けてよ。ここに魔物がいないとも限らないんだから」

 

「うむ。だが、安心すろ。メイン盾がここにいるからな」

 

 いつの間にかブロントさんと霊夢が小鈴の後ろを歩いていた。確かに、戦闘能力という面から見たら、小鈴が一番弱いだろう。

 

 小鈴は少し大きな岩に立ち、海面を眺める。ここの海の水はかなり澄んでいて、まるで鏡のように小鈴の顔を映す。

 だが、小鈴は海面に映るのが、全くの他人の顔だということに気づいた。いや、海面に映っているのではない。海中にいる女性の顔だ。その女性は、海面から頭を出した。

 

「あら、あなたは・・・・・違うのね」

 

「えっ!?」

 

 いきなり海中から頭を出した女性に小鈴は面食らった。ブロントさんと霊夢も同じ反応だ。

 

「おいィ・・・・・おもえはもしかして、こんなところまで泳いで来たんdisかね・・・・・」

 

「ちょっと!ここは魔物だらけで危険よ!いくら泳ぎや戦いに自信があるからって、一人じゃ・・・・・・・」

 

「あら。あなたたちこそ、こんなところで何をしているのかしら」

 

「船が座礁して、動けなくなったのよ。満潮の時間が来るまで、こうしているわけ」霊夢が言い返す。

 

「船が座礁?あら。それなら、日が暮れるまで満潮にはならないわ。もっとも、私なら今すぐ何とかできるかもね」

 

「こんなところで一人でいるとなると、あんた、妖怪なの?」霊夢が件の女性に食ってかかる。

 

「妖怪?あら、あなたたち人間から見たら、私はそういうのかも知れないわね」

 

「おいィ、一体どういうこ・・・・・・」

 

 その女性は海の中から飛び跳ね、岩の上に座った。その女性は、上半身は人間そのものだが、下半身は鱗に覆われその先端には鰭があった。

 

「おいィ・・・・、ちょとsYレならんしょこれは・・・・・・」

 

「に・・・・人魚!?」

 

 ブロントさんと霊夢、小鈴は驚きの余り言葉を失った。まさか、人魚というものが実在しているだなんて思ってもいなかったからだ。

 

「あら?どうしたのかしら?そんな顔をして。それに、何かお困りのようね」

 

 当の人魚は、座礁しているアリスの船を見て言う。

 

「ええ。船が座礁して、ここから動けなくなったの。満潮になるまではどれだけかかるかしら?」

 

「あら。そうだと、真夜中近くになるまで待たないとダメね。もっとも、私の力を使えば、助けられるかもね」

 

「人魚の力って、確か・・・・・」霊夢は腕組みをして、右手で顎を触る。

 

「ええ。歌声で海水を操る力。もっとも、あなたたち人間からしてみたら、船を沈める力、と思っているみたいだけど」

 

「そうじゃないのか?」と魔理沙。

 

「海の潮の流れを操る能力、よ。そうね、一つ、あなたたちに頼まれごとをしてもいいかしら?」

 

「良いぞ」とブロントさん。

 

「ここから西に行った先の漁村で、人探しをして欲しいの。名前はキナイ、という人なんだけど」

 

「よし、じゃあ私らに任せときな。ここから西だな」

 

 魔理沙は自分の胸を拳で叩いて言う。

 

「それじゃ、みんな、船に乗ってくれるかしら?」

 

 

 

 人魚の美しい歌声とともに、ゆっくりと海面が上昇した。そのおかげで、座礁していたアリスの船が再び外海に向けて動き出す。

 

「さて、ここから西だったな。地図によれば、確かに西の大陸の岬に小さな漁村があるみたいだな」

 

 魔理沙は海図とコンパスを見て、目的地の漁村の位置を確認した。太陽の位置を見る限り、まだ正午にもなっていないようだ。

 

「それじゃ、俺たちはそこを目指せばよいのだな」

 

「だな。それに、漁村なら、船着き場があるだろうから、この船を置ける場所もあるだろうな。アリス―、目的の場所、わかるかー?」

 

「問題無いわ。それよりも、あんたたちは海の魔物に警戒していなさい」

 

「わかったぜ。じゃ、目的の漁村に着いたら、早速、人探しだな」

 

「随分乗り気ね、魔理沙」

 

天子にとって、普段、物臭な魔理沙が人魚の依頼を引き受けたのが意外だったようだ。

 

「こう見えて、結構義理堅いんだぜ。私は」



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尋ね人

「おっ、見えてきたぜ!あれだな。アリスー!そのまま前進だ!」

 

 魔理沙は箒に乗って船の上を飛びながら、遠くを偵察していた。そして、水平線の向こうに陸地と集落を確認したのだ。

 時刻は、まだ昼になったばかり。風と波の動きが味方したのか、思ったより早く目的地に着いた。だが、全てが順風満帆ではなかった。当然ながら、途中で魔物が現れ、その度に戦って退けねばならなかったのだ。

 

「あの桟橋が空いているわね。あれを借りましょう」

 

 アリスは巧みに舵を切り、すぐに出航する必要があるだろうと判断したのか、出船の状態で桟橋に船を横着けした。

 

 

「おや、あんたらどこから来たんだい?こんな魔物だらけの海を渡って」

 

 ブロントさんに話しかけたのは、入港を遠くから眺めていた老婆だった。

 

「む、やはり忍者よりナイトの方が、モガモガ」

 

「ブロントさんは長くなるし、一般人には理解できないから黙ってて。私たちは彼岸の集落から旧地獄街道、DRAKの砦を経由してここまで来たの。ちょっと事情があって、ここで人探しをするために立ち寄った訳」

 

「おお、そうかい、そうかい。で、誰をお探しで?」

 

「キナイ、という名前の人なんだけど」

 

「キナイ、キナイねぇ。キナイなら、今は漁に出ているから、暫くは帰って来ないはずだけど、でもおかしなことになっているようなのがね」

 

「おかしなこと、ですか?」と小鈴。

 

「いやなに、この村は見ての通り漁村でね。男たちが定期的に漁に出て、魚やら貝、蟹に海老なんかを採ってきて、それが村の食糧になるのさ。で、一度、漁に出ると、数日から十数日は帰って来ないんだけど、もう20日が過ぎても、船団が帰って来ないのさ。今までこんなことは無かったんだけどね・・・・・」

 

「うーん、魔物にでも襲われたんじゃないの?でも、キナイを見つけないことには、どうにもならないわね」霊夢は腕組みをする。

 

「最近、海でクラーゴンという大きな魔物をよく見かけると漁師が言っていたから、心配だねぇ・・・・・・」

 

「クラーゴンだって?そいつはヤバい。下手すりゃ、でかい船でも簡単に沈められるからな」と魔理沙。

 

「だが、あいつらにも弱点はあるらしいのじゃ。なんでも、でかい音が苦手みたいで、どこかの国の軍艦?と言うのかの。その船が積んでいる大砲で脅かしたら、怯んで逃げて行ったという話も聞いたのう」

 

「大砲なら、私の船にも積んでいるわ。と、言うのも、あれを積んでいる理由がクラーゴンや大王烏賊を追い払うためなのよね。勿論、砲弾もあるから、直接狙い撃ちもできるんだけど」

 

「なら、あんたら、少し様子を見に行ってくれんかのう。漁をしている船団は、ここから東の海で漁をしているはずじゃ」

 

「確か、ここに来る前に船団を見かけましたね。魔物に襲われている様子は無かったのですが」

 

「どうする、ブロントさん?様子を見に行ってみるか?」

 

「そうだな。とにかく、キナイをいう人間を見つけない事には、俺たちのクエを達成できない感」

 

「なら、もう一度、さっきの漁船がいたところまで行ってみるのね。まあ、キナイを見つけないことにはどうにもならないし、仕方が無いけど、東の方へ行ってみましょう」

 

 

 

 アリスの船は再び出港の準備を始めた。ここで、霊夢が、村の埠頭にいた老婆から大砲の弾を調達することを提案した。 

 

「大砲の弾なら確かにあるけど、お前さんたち、何に使うんかえ・・・・・」

 

「ま、何となくですけど、必要になると思ったんですよ」

 

「しっかし、重いな。ブロントさんでも、一人でこの箱を持ち運ぶのは厳しいだろ」

 

「うう・・・・・、物凄く重い・・・・・」

 

 ブロントさん、魔理沙、衣久、天子は手分けして重い大砲の弾がぎっしりと詰まった箱を船の中へと運び込んでいた。弾は人間の頭の二倍くらいの大きさがあり、丸い鉄製の球体の中には火薬がぎっしりと詰まっている。

 

「よいしょっと。おーい、霊夢。これだけあれば十分だろ?」

 

「多分ね。それじゃ、出航しましょうか」

 

 

 

 アリスの船は風に乗ってゆっくりと動き始めた。空は晴れ渡り、カモメの群れが鳴きながら北の方へと飛んで行く。波は極めて穏やかで、魔物が蔓延っているように見えない。

 

 アリスは海図とコンパスを見ながら舵を動かし、東の海を目指した。潮風は心地よいくらいの強さで、これで魔物が海に棲んでいなければ、絶好の航海日和であるはずだ。

 

 

 

「ブロントさん、弾と火薬を今のうちに大砲に詰めておきましょう」 

 

「む、そうだな」

 

 アリスの船の両舷にはそれぞれ5門ずつ、大口径の大砲が備え付けれている。まず、霊夢が大砲の薬室に火薬を硬く敷き詰め、砲口からブロントさんが弾を入れる。そして、後ろの火皿に点火薬を入れれば、後は撃針と繋がっているロープを引くだけで大砲は発射される。

 

「アリス、もし、クラーゴンを見たら、正面から向き合うようにして、私が合図をしたら取り舵を取ってくれる?」

 

「合図したら取り舵ね。了解よ」

 

「ブロントさん、船の右側の大砲に弾と火薬を入れるわよ」

 

「了解なんだが」

 

「大砲を撃つのは誰がやるんだ?」

 

「そうね。魔理沙と私でやるわ。撃ったら、すぐに甲板に上がって加勢するわ」

 

「なら、前衛をやるのは俺の役目だな」

 

「ブロントさん、私を忘れないでよ!」

 

 仲間が二人増えたことで、魔物に遭遇した時の戦い方を改めて考える必要が出てきた。今までは、ナイトであるブロントさんが一人で前衛を引き受け、旅芸人のアリスが中衛、魔法使いの魔理沙、巫女の霊夢、一般人の小鈴が後衛を担当する、というフォーメーションで戦ってきた。

 だが、所謂魔法戦士である天子も前衛で戦うことができる。職業としては僧侶に近い衣玖は後衛を担当することになるだろう。

 

「いいですか、ブロントさん。クラーゴンが大砲で怯んでいる間に、一気に片を付けて下さい。そうじゃないと、みんな、海の藻屑ですよ」

 

 霊夢は、大砲の大きな薬室に発射薬を詰めながら言った。薬室の後ろには、点火薬を入れるための小さな薬室があり、その後ろにはロープで繋がった火打石が2つある。この火打石がぶつかり、点火薬が入れられる小さな薬室に火花を撒くことで火薬が発火、大砲が発射される仕組みだ。

 

「ならば短期決戦でカカッと倒さないといけないんだな」

 

「そういうことです」

 

「でも、霊夢さん。クラーゴンが出て来ない可能性もあるんじゃないですか?」

 

 確かに、衣玖の言うことは間違ってはいない。クラーゴンが棲息する海域へ行ったとさしても、必ず遭遇するとは限らない。

 

「うーん。それはそうなんだけど、何となく、クラーゴンに遭わずに海を渡るのは無理なような気がするのよ」

 

「霊夢さんがそう言うなら、クラーゴンとの戦いは避けて通れない、ということですね」と小鈴。

 

「ちょとsYレならんしょそれは・・・・・?」

 

「多分、そういうことになるわね」

 

「おーい、取り込み中悪いが、東の水平線の方に何か見えてきたぜ。多分、さっきの漁村で聞いた漁船じゃないのか?」

 

 箒に乗って飛んでいた魔理沙が甲板に降りてきた。魔理沙は、船が進む少し先を飛びながら状況を偵察していたのだ。

 

「魔理沙、どの方向?」アリスが大声で呼びかけた。

 

「10時の方向だ。10度ほど取り舵気味に進んでくれ」

 

 

 

「変ね。あの漁船、停泊しているのに、網を海の中に下ろしていないみたい」

 

 霊夢は双眼鏡で様子を確認した。確かにその漁船は停泊しているにも関わらず、投網や釣竿が甲板上にあるのが見える。おまけに、漁師たちは銛を持ち、周囲をキョロキョロ見回している。いや、警戒している、と言った方が正しいかもしれない。

 

 ふと海面を見ると、散らばった木の板や破れた布が波に揺られて 漂っているのが確認できた。

 

「まずいわ、ブロントさん。クラーゴンにやられたかまもしれないわ」

 

「おいィ!?」

 

 霊夢は右手を上げ、アリスに減速しつつ、面舵を切るように合図した。

 

「ブロントさん、あれ!」

 

 天子が海面を指して叫んだ。海面から大きな泡がブクブクと立ち上ぼり、渦潮が巻き始めた。そして、大きな水柱が立ったかと思うと、アリスの船のマストよりもはるかに巨大な、吸盤が着いた"ゲソ"が現れた。

 

「ちょとsYレならんしょこれは・・・・・?」



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