血染めの鋼姫 (サンドピット)
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順応力の高い奴は戦闘狂の気がある。

久々にUSUMやってクチート厳選で色違いが出たので記念に。
頭の中を空っぽにして読む事をお勧めします。


 転生したらクチートだった。端的に現状を説明するならそれが正解だと思う。

 

 本当に唐突に、目が覚める様にこの意識が芽生えた。辺りを見渡し視界が低い事に違和感を覚え、斑点模様の割れた卵の殻を見つけた。

 その卵は自分がすっぽり収まるくらいには大きく、その内部は先程まで中身が入ってたかのように湿っていた。

 

 嫌な予感がしたので辺りに水溜りでもないかと振り返ると、ガッと何かが卵にぶつかった。

 ぶつかったのは、いや、卵にぶつけたのは自分の体長と同じ位の朱色の大顎だった。大きな黄色いまんまる模様と、真っ白な牙が特徴的なそれは自分の身体の一部であり一番の特徴と言えよう。

 

 水溜りで自分の姿を確かめるまでも無かった。――これクチートやんけ。

 

 しかも色違いである。

 

 

 

 

 

 目の前の光景が現実だと信じられずのた打ち回ること数分。

 暫く暴れて落ち着いた所で現状の把握を優先する事にした。

 

 まず、今自分が動かしているこの身体はクチート、それも色違いの個体である。何故それが分かるのか、それは前世の記憶という物が備わっているからだ。

 前世の自分がどんな奴だったのか、何をしていたのか、性別すらおぼろげだが、その中でもあるゲームに関する知識だけは鮮明だった。

 

 ポケットモンスター。略称であるポケモンの名で人々に親しまれているそのゲームは幾つものシリーズ作品を出しており、その中にこのクチートというポケモンが存在する。

 つまり十中八九この世界はポケモンの世界だ、と思う。確証は無いが。

 

 次に何故クチートになっているのか。これはおぼろげな前世の知識を探るに輪廻転生という奴なのかもしれない。

 もしかしたら自分はただのデータでここはゲームの中なのかもしれないが、考え始めると怖くなってくるので一先ずポケモンが当たり前にいる現実世界とだけ考えておく。

 

「クチィ……」

 

 溜息を吐くと鳴き声の様な何かが口から出た。鈴の様な心地良い高い声だ。とそこまで考えてはたと気付く。

 

 ――性別ってどっちだ?

 

 前世の性別は分からないが、ガブリアスやらボーマンダやらかっこいいポケモンばかり使っていた記憶があるので多分男だったのだと思う。

 ちらりと確認した限りクチートとしての今世では♀らしいので一人称を私とかに変えた方がいいだろうか? いやどうせ喋れんし俺で良いか、何となくしっくりくるし。

 

 さて、転生したらクチートになっていた訳だが、ここはどこの地方なのだろうか。前世の記憶はオメガルビーまでのものしか無い為、もしアローラ地方とかだったら非常に困る。

 なので割と馴染み深いホウエン地方が望ましいのだが……。

 

(こんな森ゲームにあったか?)

 

 東西南北深い森。当然だが見覚えは一切無かった。

 

 ……。

 まぁ不思議ではない。ゲームはあくまで主人公が歩む道程しか描写されない。本来なら目に見えない場所にもポケモンがいる自然があっても不思議ではないし何なら描写外の自然の方が多い可能性まである。

 これが何を意味するのか。トレーナーにすら会えず高レベルのポケモンに鎧袖一触で屠られる可能性が高いという事である。

 

 冗談ではない。前世の俺が満足して死んだのか定かでは無いがせめて寿命の続く限りは生きさせて欲しい。

 

(となると現状優先すべきは……)

 

 戦闘を重ねてレベルアップし、そこらの野生のポケモンに負けないくらい強くなる。

 そして適当なトレーナーの手持ちになって命の危険から遠ざかる。

 これを急務にしよう。トレーナーの手持ちになったはなったで悪の組織と関わる可能性もあるが……まぁ大丈夫でしょ。

 

(しかし強くなるか……)

 

 思い返されるのは前世で行ったレート個体用の厳選の日々。今回強くするのは自分自身なので厳選はもう不可能だが、技構成や努力値など今からでも手を付けられるものは多い。

 そうと決まれば使える技を把握して自主鍛錬だ。ポケモンバトルはもうちょい後でいいかな……。

 

 

 

 

 

 クチートは大体のはがねタイプの例に漏れず攻撃、防御が比較的高く、低い素早さが特徴的なポケモンだが、まず大前提として種族値が高い――種族として強いポケモンという訳ではないのだ。

 それを覆すのがメガシンカ。トレーナーの存在が必要不可欠だが、種族値を合計で100も上昇させ、自身の特性も変える強力なシステムだ。

 そしてクチートのメガシンカ後の特性は「ちからもち」。攻撃のステータスが二倍になるという脳筋の権化みたいな特性だ。

 

 いやぁ、レート戦で相手の威嚇持ちクチートとウチのガブリアスの対面でメガクチートが地震を耐えて返しのじゃれつくでワンパンされたのは衝撃的だった……と考えて新たな疑問。

 

 俺の特性って何だ? 自分の事ながら微妙に分からない。「いかく」……ではない気がするし「かいりきバサミ」という訳でもない。では夢特性の「ちからずく」かと言われると首を傾げざるを得ない。

 

「チィ……?」

 

 ……まぁいいか、どうせメガシンカを主軸に使うなら何だって良い。

 さて今使える技の確認でもしようかという所で、クゥと可愛らしい音が自分の腹から鳴った。

 生まれてすぐだから暫くは何も食わなくてもいいかと思っていたのだが、思考に耽りすぎてたか。仕方が無いのでオレンのみでも探そうかと立ち上がり、後ろから何かが近付いてくるのを感じ取った。

 

「――チッ!」

 

「ココ!」

 

 すぐさまその場を飛び退き振り返ると、そこには一体のキノココがいた。

 

(キノココ、って事はホウエン地方で間違いなさそうかな。しかしキノココか……)

 

 キノココはレベル技でキノコのほうしという命中率100%のねむりごなを撃ってくるのだが、流石にそこまでレベルが高いと思いたくはない。

 もしかしたらただ珍しい色のクチートと仲良くなりに来ただけかも――

 

「コッコ!」

 

 ですよね知ってた。どうやら縄張りに入ってきた部外者を排除しに来たようである。

 仕方無い、よーいどんで逃げられる相手でも無さそうだ。初めてのポケモンバトルと行こうか。

 

 

 

 

 

 キノココの繰り出す技を見極める為、距離を取り観察する事を優先する。

 

「キーノッ!」

 

 俺がその場から飛び退くと同時にキノココが身体を震わせて黄色い胞子をばら撒いた。

 

(開幕しびれごな、えぐいな)

 

 粉系の技は振りまくだけで相手に飛ばす事は出来ない。よし覚えた。

 

 当然キノココがしびれごなを撒いて終わる訳がない。

 漂うしびれごなからキノココが飛び出し、こちらに向かって飛び出してくるが、攻撃してくるだろうと当たりを付けていた為余裕を持って回避した。

 

「ノ"ッ」

 

 自分の攻撃が空振りに終わった事に驚いているらしきキノココをよそに俺は考えを巡らせる。

 今のキノココの技はずつきか? いや、多分体当たりだ。そして、ゲームでは命中率が100%だった技もこの世界では彼我の状況によって回避する事が出来る。覚えておこう。

 

「キーッ!」

 

 一度も攻撃してこない俺に侮られていると感じたのかキノココが再度突撃してくるが、今度はギリギリまで引き付け――

 

「クチィ!?」

 

 キノココがたいあたりで俺の側に近付き、そのまましびれごなを使ってきた。

 嫌な予感に従って慌てて回避しなければしびれごなを吸っていたかもしれない。やっぱ油断はするもんじゃないな。

 

 あぁでも、少し楽しいな。これが闘争本能って奴かね?

 だが本能に呑まれる訳には行かない、あくまで冷静に、慎重に。

 

(……いやでもA上げの補正欲しいから「ゆうかん」に行った方が良いのでは?)

 

 余計な思考を振り払い、観察を続ける。

 キノココは一度も俺に有効打を与えられていないにも関わらず、たいあたりとしびれごな以外の技を使う素振りを見せない。

 温存している可能性も捨てきれないが、十中八九それ以外の技を使えないんだ。

 

 確かしびれごなを覚えるのが5レベルからの筈なのでこのキノココは5レベル前後の個体だと思う。

 

 これで相手の情報は出尽くした。そろそろ攻勢に移ろう。

 

「クッチチ」

 

 ポケモンとしての本能が技を使えと煩いんだ。

 

 自分が使える技が、誰に言われるともなく理解できる。

 ならば使おう、これから主力となるであろう技を。

 

「ココ!」

 

 変わらず体当たりをしようとしたキノココ。その視界から外れるように、弧を描くように全速力で駆け抜け、視界外から俺の大顎を全力で叩きつける。

 

 “ふいうち”

 

「ノコッ!?」

 

 奇襲染みた技を受けて転がるキノココ。

 

(今のが技を使う感覚か)

 

 適当に殴りかかるのとは訳が違う。技を出す感覚も、自身の技でダメージを与える感覚も、技を出してPPが磨り減る感覚すらも心地良い。

 

(生粋の戦闘民族だなまるで)

 

 まぁ戦闘狂に成り下がる程ではないので冷静な思考を保てているのはありがたいが。

 しかし、レベル技の筈のふいうちを使えるという事はタマゴ技なのだろう。真っ当な攻撃手段と一緒に産んでくれたどこの誰とも分からぬ親に感謝する。

 

「……ノォコ」

 

 俺が何処かのクチート(或いはメタモン)に感謝を捧げているとキノココがふらつきながら立ち上がる。

 ふいうちが強力な技とはいえ使うポケモンは1レベルのクチートだ。瀕死にさせるには他の技を織り交ぜて何度か当てなければならないだろう。

 

「チチッ!」

 

 こうして初めてのポケモンバトルは佳境に入っていった。

 

 




元人間という異物が絡んだせいで相手に二の足を踏ませる「いかく」をする勇気も己の弱体化を跳ね除ける「かいりきバサミ」を育てる事も何も考えずリミッターを外して「ちからづく」で攻撃する獰猛な思考も失われ、代わりに普通のクチートが持ち得ない特性を獲得するに至りました。
それに関してはまた次回。

主人公はORをやり込み、USUMは未経験。
作者はUSをやり込み、ORASは未経験。
何故自分の知識が使える地方にしなかったのか……。

感想くれたらとても嬉しい。


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大事な面接で出し惜しみをするな。

色違いクチートにほのおのキバ遺伝させ忘れてたので悲しみの投稿。
実際問題アイヘと炎牙ってどっちが突破要素として強いのだろうか。


 あの後キノココを始め、ポチエナやジグザグマ、タネボーやハスボーといった野生のポケモン達と遭遇し、その全てに勝利した。

 

 キノココの時に学んだ事だが、相手のポケモンを瀕死にさせたままその場で待機していると倒したポケモンの家族が助けに来る事がある。

 殆どが進化後のポケモンなので相手を倒したらすぐにその場を離れるようにしている。幾らフェアリータイプ持ってるとはいえキノガッサは死ぬ。

 

「クゥ」

 

 適当な倒木に腰掛け、オボンの実やクラボの実を黙々と食べる。食事時と同時に大顎で倒木を齧り、かみくだくを覚えないか試しているが成果は芳しくない。

 

 さて、体感ではあるがレベルも順調に上がり、20レベルくらいまで上がった気がする。

 現在使える技は、ふいうち、ようせいのかぜ、かみつく、なきごえの四つだ。

 最終的にふいうち、じゃれつく、アイアンヘッド、つるぎのまいで固める予定なのでじゃれつくを覚える49レベルは欲しいね。しあわせたまご落ちてねぇかな。

 

 そうそう、何度か戦っている内に自分の特性が分かった。……特性と言っていいのかどうか迷い所だが。

 

「コノ!」

 

 おっと、来たか。

 同レベル帯のポケモンを倒しまくったせいか森全体に密やかに色違いクチートの存在が知れ渡っている。多くのポケモンは興味無さ気に一瞥するだけだが、一部の血気盛んなポケモンは俺に戦いを挑んでくる。

 目の前のコノハナもその内の一体だ。そして遠くの木に紛れて見えにくいが親(ダーテング)同伴である。瀕死にしたらコノハナを回収しにくるので多分息子に経験値を積ませる目的なんだろうなぁ。

 

 傍らのオボンの実を左手に持ち、もう一つのオボンの実を薄桃色の自慢の大顎に放り込む。

 

 話が遮られたが、俺の特性は恐らく「もちものを二つ持てる」だ。とんでもない特性だし前世が人間だからじゃね? と俺自身思うのだが特性らしき特別な力はそれくらいしか思いつかない。

 思うにポケモンが持ち物を一つしか持てないのは集中力の問題だと思われる。戦闘中自分の技や相手の動きなど考えるべき事が大量にあり、普通のポケモンは道具を一つ持つので精一杯なのだろう。

 俺が前世由来の冷静な思考を武器にしている以上この特性は必ず武器になる。

 

「クチィ、チック」

 

(待たせたなコノハナ、始めよう)

 

 こうして今日もまた、俺が強くなる為の一日が始まる。

 

 

 

 

 

「いってきます」

 

「あまり遠くまで出かけないでね?」

 

 母さんのその言葉に頷き、家を出る。

 あまり遠くに行くなとは言われたが、ここら辺で良さ気な宝物は探しつくした。ここはどこか新しい場所に宝物を探しに行くべきだ。

 

(さてどこに行こうか、やはり川? いや、思い切って森とかどうだろう)

 

 川で見つかる宝物は良い物が多いがやはり危険だ。ここは森に行ってみよう。

 

 自分に虫除けスプレーを使い、近所の巨大な森に向かう。

 低レベルのポケモンと高レベルのポケモンが入り混じる為、自分のポケモンを持たない人はなるべく入らないようにと言われているこの森は、やはり宝物が沢山ある。

 

「……ん?」

 

 森の木漏れ日を感じながら歩いていると、一等綺麗な石が落ちているのを見つけた。思わずしゃがみ込んでその石を拾い上げる。

 まるで模様入りのビー玉の様に真ん丸で、そして宝石の様な神秘的な輝き。今まで集めてきた宝物の中で一、ニを争う程の美しさだった。

 

(まるで運命だね)

 

 機嫌良くその宝石をかばんに詰め込んだ。

 さて他にいい物は無いかなと立ち上がり、――悪寒。

 

「――ダーッテ!」

 

「うわっ!」

 

 そんな声と共に暴風が吹き荒れる。

 風に押し流されるまま転がり、顔を上げるとそこにはよこしまポケモンのダーテングが敵意を剥き出しに立つ姿。

 

 ――そしてそのダーテングに立ち向かう、クチートの背中を見た。

 

 色違いなのだろう、図鑑で見たものよりも朱色がかったそのクチートはこちらを振り返り、信じられないものを見たとでも言うように目を見開いた。

 運命は突然に訪れる。だがそれら全てに偶然は無い。……僕は生涯この出会いを忘れない。あの石が運命を手繰り寄せてくれたように思える、今日この時を。

 

 

 

 

 

 コノハナと戦って伸した後、案の定介抱しに来たダーテング夫妻を横目にオボンの実を貪り体力を回復させる。

 相手の方がレベルが低いにも関わらず戦闘中に持ち物のオボンの実を二つとも消費させられた。やはり俺には経験値が足りないらしい。

 レベルアップの為の物ではなく、純粋な戦闘経験が。課題が見つかりさてどうしようと考えた所でダーテング夫妻が目に留まる。

 

「クチッ、チィ」

 

 持ち物にオボンの実を補充した俺は調子に乗ってダーテングに喧嘩を吹っかけた。

 コノハナに都合のいい喧嘩相手になってやったんだから俺の頼みも一つくらい聞いてくれ、とそんなニュアンスだった気がする。

 

 ダーテング達は暫く顔を見合わせ、メスの方がコノハナを運びオスの方のダーテングがその場に残った。

 進化条件がリーフの石とはいえ確実に俺より強い。下手したら40レベルは行ってるんじゃなかろうか。

 

(願ったり叶ったりだ。さぁ、胸を借りるつもりで――)

 

「ダーッテ!」

 

 “ふきとばし”

 

 戦意はダーテングの豪風と共に吹き飛んでいった。戦う場所を変えるにしても強引過ぎない……?

 

 だが空中で身を捻り体勢を整えるのにも慣れたものだ。最近キノガッサの当たり屋紛いのスカイアッパーを喰らったりしてる内に自然と身に着いた。姿勢制御に大顎がまぁ役に立つこと。

 体重が軽いからかかなりの距離まで飛ばされるも危なげなく着地に成功する。さぁダーテングと戦おう、という所でふと違和感を覚える。

 

「うわっ!」

 

 直後にダーテングが飛んでくると同時に、そんな声が背後から聞こえた。

 すわ新手かと振り返り――生まれてから一番の衝撃を覚えた。

 

 癖っ毛が目立つ空色の髪にこちらを見て驚愕を浮かべる髪と同じ空色の瞳。

 道中で見つけたのだろう、懐のガラス瓶の中には綺麗な石が大切に仕舞われていた。

 

 外見的特徴、石を大切にする精神。思っていたよりも遥かに幼いが間違いない。

 

 ――ツワブキ・ダイゴ。

 

 後のホウエン地方チャンピオンである。

 

 そうだ、長らくバトルに次ぐバトルで忘れていたが、この世界で生きるためになるべく強いポケモントレーナーの手持ちになる事を目指していたんだった。

 その点で考えればダイゴは完璧じゃないか。はがねタイプ使いでもあるのでクチートが手持ちでも問題無かろう。

 

 ……しかしどうやって捕まえて貰う? おーっす未来のチャンピオン(ガチ)って言っても何だコイツと思われるのは目に見えている。そもそも人の言葉は喋れない。

 

「……ダァ?」

 

 ダーテングの訝しげな声にハッとする。そういえばダーテングと戦うのだった。

 ……待てよ? 今ここでダーテングと戦って自分の強さを見せればダイゴも俺を捕まえてくれるのでは?

 

「クッチィ!」

 

 そうと決まればポケモンバトルである。ダイゴさん、見ててください。あとダーテング、お前ダイゴさん巻き込むなよ?

 

「ダァ、テテテ!」

 

「チッ!」

 

 そんな事知ったこっちゃ無いとばかりにダーテングがわるだくみを積む。まぁ安全第一で逃がす事を優先しなかった俺が悪いな。

 こちらもなきごえを使うが……十中八九特殊構成だよなぁ、まぁ無いよりマシ程度に考えておく。

 

 ダーテングの団扇に木の葉が集まるのを見て、俺は大顎を振り回して風を起こす。

 

 “グラスミキサー”

 

 “ようせいのかぜ”

 

 木の葉の嵐と神秘的な風が互いの敵に到達する。

 

 クチートはくさタイプを半減し、ダーテングにフェアリータイプは効果抜群だ。だがダーテングはわるだくみを積んでおり、俺にはレベルが足りない。

 一見こちらが有利に見えるダメージ競争はダーテングの有利に終わった。クチートの特防が低い事もあり、早速持ち物のオボンの実を一個消費する事になった。

 

 大顎を振り回して俺の周りを飛ぶ木の葉を払うとダーテングが一対の大団扇に風を集めている所だった。

 

(ふきとばし!? いや違う、さっきはあそこまで溜めなかった。考えろ、ダーテングが覚える可能性のある技……まさか)

 

 ――かまいたちか。最悪だ、あのダーテングがっつりダイゴさんを巻き込むつもりだ。

 ゲームであれば1ターン後に発動する技だが、この世界ではターンなどあって無い様な物だ。どれだけ早く的確に判断出来るかに掛かっている。

 

 もう安全策を取れる段階は過ぎ去った、だから俺は賭けに出る。

 

 “ふいうち”

 

 瞬間的に全速力で駆け抜け相手の虚を突くこの技も手馴れたものだ。

 視界外からの強襲に着実にダメージを重ねるダーテングだが、かまいたちは止まらない。知っている。ふいうちはそういう技では無いから。

 

 ふいうちを使ったのは間合いを埋める為。ここまで来ればダーテングより先に行動できる。

 

「チィーット!」

 

 “かみつく”

 

 俺は自慢の大顎を開けて勢い良くダーテングに噛み付いた。

 ふいうちとタイプが被っているにも関わらずその技を覚えているのは偏に追加効果の優秀さからだ。

 

 30%の確率で相手をひるませる。

 

 アイアンヘッドまでの繋ぎには十分に過ぎる。

 そして見事に乱数を引き寄せ、唐突な痛みにダーテングは集中を乱し、かまいたちは不発に終わった。

 

「ダァ、グッグ」

 

 自分の技が封じられたダーテングは、されど怒りに震える訳でもなく少しはやるじゃないかと不敵な笑みを浮かべる。

 ダーテングにとってこれは、俺がコノハナにしているのと同じただの戦闘訓練でしかないのだ。

 

「チチチ」

 

 上等である。それでこそ、戦いを挑んだ甲斐があるというものだ。

 

 

 




【名前】――
【種族】クチート
【性格】しんちょう
【特性】たからあつめ
【レベル】20
【持ち物】オボンの実・オボンの実

【技】
・ふいうち
・ようせいのかぜ
・かみつく
・なきごえ

たからあつめ:持ち物を二つ持つことができ、通常ポケモンが戦闘中使用できないアイテム(キズぐすり等)を使用できる。

何だこのクソポケ(驚愕)
主人公のステです。普通の特性を闘争本能ありきとはいえ元人間が使えるとは思えんなぁ、せやオリジナル特性持たせたろ(楽観)の精神でこんなの出来ました。
まぁ未来のチャンピオンの手持ちやしこれくらいええやろ。……たからあつめ実機でも欲しいわぁ。ドヒドにかいふくのくすりとスペシャルガード持たせたい。

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頑張って歩けば理想もこっちに歩いてくる。

会話が持たない……鳴き声がアニポケ仕様とはいえバリエーションが少なすぎる。
助けてダイゴさん。


 ただ殴りあうだけじゃない、先を読んで技を選択し、自分の行動の幅を広げると同時に相手の選択肢を狭める。

 技の使い方一つ取ってもゲームとはまるで違うのだと再認識させられる。

 

 たとえばダーテングの使うふきとばし。

 ゲームであれば控えのポケモンに強制交代させ、野生のポケモンが相手ならそれだけで戦闘が終了するほど相手をぶっ飛ばす技だった。

 だが、ダーテングは手加減してふきとばしを使う事で的確に間合いを広げ次の技へ繋げたり、地面に向けて放つ事で土煙を起こし擬似的な煙幕として活用したりとかなり巧く使っている。

 

 そういった応用はゲームの知識による固定観念に囚われている俺ではまだまだ思いつかなかったものだった。やはり戦いから学ぶものは多い。

 

 自分の攻撃を最小限に留めるダーテング、相手の攻撃の悉くを避ける俺。ついでに全体技などダイゴさんに届きそうな攻撃を不発に終わらせ、といった目まぐるしい攻防を続け、ダーテングの攻撃の手が止んだ。

 

「ダーテン、ダァグ」

 

 それだけ出来れば十分だろう、そう言いたげにダーテングから敵意が薄れる。

 何が十分なのか、と返そうとするのを抑え、ダーテングが俺の背後にいるダイゴさんを指して続けた。

 

「ググ、ダァーッテ」

 

 未だに俺はポケモンの言葉は何となくしか分からないが、今だけはダーテングの言いたい事が分かった。

 自分を前に守りたいものを守りきった事を誇れと、そう言いたいのだ。恐らく俺がこの少年についていこうとしている事を見抜いた上で。

 

 ダーテングが暴風と共にこの場を去った。どっと押し寄せる疲労など気にならないまま、俺はダイゴさんの元へと足を進めた。

 

(ダイゴさんと出会ってテンパったな……、俺の強さとか二の次でまず避難させるべきだった。木の実あげたら許してくれるかな)

 

 結局後半から使わなかったもう一つのオボンの実を大顎から取り出して、表面に付いた大顎の分泌液(多分よだれ)を自分の身体で拭って、その場に座り込んだままのダイゴさんにあげる。

 

(……いかんなぁ、意識が朦朧としてきた。たくわえるとのみこむ覚えたら体力とか気にせず戦えたのかなぁ)

 

「――君が助けてくれたの?」

 

 そんな言葉が聞こえた気がしたが、聞き返す前に全身の力が抜け、ダイゴさんに覆いかぶさるように倒れ意識が途絶えた。

 

 

 

 

 

 森の中を駆ける、駆ける、駆ける。

 

「間に合ってくれ、どうか……ッ!」

 

 宝物――綺麗な石を沢山詰め込んだ瓶を提げ、僕は傷だらけになり眠るように気絶した色違いのクチートを抱えて家まで走っていた。

 クチートの平均体重は12キロくらいだっただろうか。それより幾らか軽いとはいえ子供の身には負担が大きいが、そんな泣き言を言っている暇は無い。

 

「この子は僕を守ってくれたんだ」

 

 そう、このクチートはダーテングから僕を庇ってくれた。

 もしかしたらこの子とダーテングが縄張り争いをしていて、たまたまそこに僕が紛れ込んでしまっただけなのかもしれない。

 それでもこの子はダーテングと共に僕を排斥するでもなく守ってくれた。

 

「絶対に助けるから!」

 

 幸運な事に帰り道で野生のポケモンに遭遇する事は無く、何事も無く家まで辿り着いた。

 

 乱暴に玄関の扉を開けた僕の元に母さんが何事かと駆け寄る。

 

「随分早かったね、何かあったの――ってどうしたのそのポケモン!?」

 

「森で僕を助けてくれたんだ! トレーナーズカードを持ってないからポケモンセンターには行けない、何とか助けられないかな?」

 

 慌ててクチートの事を話すと母は真剣な目をして僕からクチートを受け取った。

 

「……ダイゴの恩人なら絶対に助けなくちゃね、任せて。……ところで森ってどういう事かしら」

 

「あ」

 

「後で話、聞かせて貰うわね」

 

 恐ろしい事を言って母はクチートを抱えて自室へと向かった。

 デボンコーポレーション社長である父の妻、ツワブキ・ミカゲは元ポケモンセンター勤務者であり、約束を軽々しく破る事が酷く許せない人だった。

 ……まぁ母さんの言いつけを速攻破ったのは自分なので折檻は甘んじて受け入れよう。

 

 そう思いながらも身の震えが暫く止まらないダイゴであった。

 

 

 

 

 

 深海から浮かび上がるように、俺の意識が浮上する。

 薄く目を開けて周りを見ると慣れ親しんだ森――ではなく久しく見てなかった建築物の中のようであった。

 

(……知らない天井だ)

 

 すわポケモンセンターか、と思ったがそれにしては医療設備が少ない。勿論この世界のポケモンセンターを見た事が無いので断定は出来ないが、何となく違う気がする。寝かせられてるのも診察台じゃなくて普通のベッドだし。

 さてどうしたものかと薄目を開けたまま考えていると誰かが扉を開けて入ってきた。

 

(やばっ)

 

 慌てて目を閉じ眠っている風を装う。

 

「あ、起きた?」

 

「タブンネ~」

 

「……部屋に入っても寝たふり、か。聞いてた通り野生にしては酷くしんちょうな子ね、いじっぱりやおくびょうな子だとこうはならないわ」

 

 おくびょうはA下がるのでちょっと……。

 じゃねぇわ、流石に寝たふりがバレてる状況でまだ続ける度胸は無い。大人しく起きて部屋に入ってきた人の方を向く。

 

 その人は女性にしては高身長でピンク色の髪を一つに纏め、ホウエン地方では滅多に見ないタブンネを連れていた。

 

「初めまして、私はミカゲ。こっちのタブンネはフラウ。ダイゴがあなたを連れてきたのよ。……にしても最初は大怪我かと思ってたけどその色は生まれつきなのね、色違いなのかしら」

 

「……クッチ」

 

 ……そうだ、ダイゴさんは無事か? いや、話を聞く限り俺を抱えて家まで運んでくれたらしいから元気か。

 

(ともあれダイゴ少年が無事で良かった)

 

 半ば身から出た錆とはいえ少しでも傷ついていたら申し訳が立たなかった。

 思わず安堵の息を零すとミカゲがクスリと笑った。

 

「本当にいい子ね、それに優しい子。……うん、決めた。――ダイゴ! そんな所で聞き耳立ててないで入っておいで」

 

 何かを決心した様子でミカゲは振り返り部屋の扉に向かって呼びかけた。

 一拍置いて不安げにダイゴさんが入って来る。

 

 改めて見るとやはり銀髪と言うより空色と言った方がしっくりくる髪色をしている。成長と共に銀髪になっていくのかね。

 ……そして冷静になった今、どこかダイゴさんに惹かれている自分がいる。これが恋かどうかはさておいて、理由は多分俺がはがね、フェアリーのクチートだからだ。

 既に鋼タイプ使いとしての片鱗が芽生えているという事だろう。

 

「……その、体は大丈夫かい?」

 

 頷く。

 

「助けてくれてありがとう、クチート。あの、これ食べる?」

 

 そう言ってダイゴさんに差し出されたのはオボンの実。……これ俺があげた奴だ。食べずに取っておいてくれたのか。

 少し嬉しくなり、俺は座っているベッドの隣を叩きダイゴさんに座るよう促す。

 

 おずおずと俺の隣に座ったダイゴさんからオボンの実を受け取り、半分に割って片方を渡した。

 

「あら」

 

「……いいの?」

 

 渡されたオボンの実に驚いたようにダイゴさんが俺の方を見る。

 俺は頷きを返し、ダイゴさんの頭を撫でてみる。

 

「チッチ」

 

「うわっ! どうしたの急に!」

 

「あらあら、今日出会ったとは思えないくらい懐いてるわね。やっぱりその子ウチで保護しましょうよ」

 

「保護? それって母さんの手持ちになるって事?」

 

「それなんだけどね、――ダイゴ、ポケモントレーナーにならない?」

 

 

 

 

 

 それから俺はツワブキ家に置いて貰える様になり、ダイゴさん――今更だけどまださん付けする歳じゃないか――はポケモントレーナーへ向けて勉強するようになった。

 決め手は俺と一緒にチャンピオンになりたいからかと思えばそうではなく、ミカゲ母の「このクチート色違いだから野生に放しても迫害されるんじゃないかしら」という一言だった。

 

 実際はあの森で結構上手くやっていて帰っても特に命の危険がある訳では無いのだが当初の目的の一つである強いトレーナーの手持ちになるという目標を達成したので訂正する必要は全く無い。

 

 という訳で近い将来ダイゴの手持ちになる事が決定した俺はニート同然の暮らしを送っていた。

 ミカゲのフラウと共に家事を手伝ったり、庭で身体が鈍らない程度に動いたりする以外はほとんどツワブキ家の書庫に篭もっていた。

 

 未知の言語ではあったものの、文法などは日本語と一致すると分かったのでたまにダイゴに読み聞かせしてもらっている。

 そこまでして何を知りたいかというと、メガシンカやわざマシンの有無を知りたかった。

 

 メガシンカの起源は何か。正直XYのストーリー覚えてないから詳しい事は分からないが、とにかくカロス地方から広まったのは間違いない。

 存在が発覚してメガストーンが各地で認識されるようになったのか、カロス地方からメガストーンが輸入されてきたのか、俺は間違いなく前者だと思う。

 

(これを見たら、なぁ?)

 

 俺はダイゴから貰ったペンダントを掲げる。

 薄紅色の球状の宝石で、内部に捻れた黒の模様に一部黄色が差してある不思議な石だった。

 

 




ダーテング「あいつ森出てったで」
コノハナ「うせやん」

ツワブキ・ミカゲ
・元ポケモンセンターのお姉さんでイッシュ地方で働いていた。
・デボンコーポレーションが他地方に企業を伸ばす際に社長であるツワブキ・ムクゲと知り合った。
・意気投合してからは早いものでポケモンセンターを辞めムクゲと結婚しホウエンへ。
・現在はダイゴの母兼ムクゲの秘書みたいな事をしており、多方面にその辣腕を振るっている。

オリキャラやね。ポケセンの詳しい事は捏造で書いていくしかないけど流石に野性のポケモンが死に掛けてたらトレーナー以外も利用しても良さそうとは思う。
今回はより信頼できる相手が身内にいたのでツワブキ家で処置。

感想くれたらとても嬉しい。


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慎重と優柔不断は似てるようで別物。

こっちがメガシンカした途端に鬼火とか電磁波撃つの止めてくれませんかねぇ!?(全ギレ)
久々にメガクチートで対戦したらボコボコにされました。こんな時たからあつめがあればメガ石とラムの実同時に持たせられるのに……。


 ダイゴお手製の良く出来たペンダントを見て俺は考える。

 

 前世の記憶はこの石を鮮明に覚えていた。

 間違いなく、メガストーン、それもクチートのメガシンカに必要なクチートナイトだ。

 

(ダイゴは拾ったって言ってたが、偶然にしては出来すぎじゃないか?)

 

 そういうのを運命と呼ぶのだろうけど。実際問題メガストーンが早い段階で見つかって本当に良かったと思う。メガシンカ無しのクチートではダイゴの手持ちとしては些か力不足感が否めないし。

 まぁメガシンカしてもメガメタグロスとどっち採用するかは……この話はやめよう。

 

「……」

 

「チット?」

 

 後はキーストーンがあれば、と考えていると背後から気配を感じて振り返る。

 そこには蒼い金属質の身体に白い爪と宝石の様な紅い瞳が特徴的なポケモン――ダンバルが無言で浮遊していた。

 

 仲間意識からか近付いてきたダンバルを抱きしめ、頭を撫でてやる。

 

「クゥチ」

 

「……!」

 

 喜んでくれたようで何よりである。

 

 このダンバルはダイゴの父であるツワブキ・ムクゲが他地方の知り合いから譲り受けたポケモンらしくクチートが既に家にいるのならこのダンバルもダイゴに将来使って貰おうと考えてプレゼントしたようだ。

 速攻でダイゴに懐いたのは予想していたが、同じはがねタイプだからか俺にも結構懐いてくれている。

 

 俺が一人でいる時は構って欲しいがために高確率で近付いてくるのだ。

 

(甘えん坊というかさみしがりというか……)

 

 まぁ好いてくれる分には問題無い。可愛いしな。

 

 

 

 

 

 夜になればムクゲも会社から帰り、一家揃っての団欒の時間となる。

 ムクゲもミカゲも、自分の息子がポケモントレーナーになる事を望んではいても自分のペース以上に詰め込むのは毒と知っているため、わざわざダイゴに勉強の話題を出す事は無かった。

 

 フラウもダンバルも、勿論俺も意味も無く暴れる性格ではないので、ツワブキ家の食卓は俺達ポケモンも含めて全員で食事を取る形となる。

 

「時にダイゴ、クチートやダンバルにニックネームは付けないのか?」

 

「ニックネーム?」

 

「あぁ、母さんのタブンネの様な名前は付けないのか気になってな」

 

 俺は皿に盛り付けられたやや苦味の強いサラダを黙々と食べつつ親子の会話に耳を傾けた。

 関係無い事だが、一通り食べてみて苦いものが好きな反面渋いものが苦手だと分かったので俺の性格はしんちょうでほぼ確定した。悲しいなぁ。

 

 さて、ニックネームだが、当然この世界では6文字までという制限など無い。だがあまり長すぎてはポケモンバトル時に指示が遅れ、逆に短すぎればポケモンが困惑する。

 なのでポケモンバトルに使用するポケモンのニックネームは3~6文字が好ましいとされている。と、ポケモン協会が発行している雑誌に書いてあった。

 

「ニックネームか……ごめん、今すぐには決められないや」

 

「いや、いきなり話題に出した私も悪かった。一応言っておくがニックネームを付けないままポケモンと仲良くするトレーナーも沢山いる、絶対にニックネームが必要という訳では無いからあまり気にするな」

 

「うん。……そういえば母さんは何でタブンネにフラウって名付けたの?」

 

「え、私? 幾つか名前の候補を出してタブンネが一番気に入ったのを選んだだけよ? やっぱり可愛い名前がいいもんねー」

 

「ネー」

 

 ミカゲとフラウが笑いあうのを見てダイゴが思案気に沈黙する。

 しかしニックネームか……個人的にはあると嬉しいが、別にクチートと呼ばれるのでも構わない。恐らくダンバルも同じ心境だろう。

 

 こればかりはトレーナーの好みの話になってくるので無理に人に合わせる必要は無いのだよ。

 

「クチートはどんな名前がいい?」

 

「チーック」

 

(よっぽど変なのじゃなきゃ何でもいいよ)

 

 

 

 

 

 夕飯を食べ終わり、ダイゴはダンバルを連れてニックネーム候補を考えに自室へ向かった。

 じゃあ俺も書庫に行こうかと考えているとムクゲに呼び止められる。

 

「クチート、少し時間を貰ってもいいだろうか」

 

「……クチッ」

 

 今しなければならない用事も特に無い――皿洗い等の家事はフラウとミカゲが行う――ので了承を返し、ムクゲに付いていく事にする。

 

 ムクゲの自室に備え付けられたソファに腰掛け、テーブルの上に置いてあったフエンせんべいを大顎で取る。

 もそもそとせんべいを食べる俺にムクゲは言った。

 

「君は度々私たちの話を聞いていたから理解しているとは思うが、私達デボンコーポレーションは他地方にも企業を拡大し始めている」

 

 盗み聞きしている事を隠してはいなかったが、同時にあからさまに態度に出している訳でもなかった。何一つ反応を示さなかったポケモンにも注意を払っていたのか。

 齧っていたせんべいを大顎に放り込み、ムクゲと目を合わせ話を聞く。

 

「これは先日カロス地方から戻ってきた部下から提出されたものだ」

 

 そう言ってムクゲは懐からハンカチに包まれた石を取り出した。

 

 それは虹色に淡く輝く球状の宝石で、内部に遺伝子を彷彿とさせる二重螺旋の模様が入っていた。大きさは、そう、俺の持つクチートナイトと同じくらいだろうか。

 

(……キーストーンだ)

 

 メガシンカに必要な物は大まかに二つ。ポケモンが持つメガストーンと、トレーナーが持つキーストーンだ。絆も必要とされるのかもしれないが不確定なので今は除外する。

 進化を超えた進化と呼ばれるメガシンカ。その秘められた力を解放するには、錠前と鍵が必要である。その役割を、メガストーンとキーストーンは担っていた。

 

 俺が想定していたメガシンカ運用において、ムクゲが持つキーストーンは文字通り最後の鍵だった。だからそれを見せられた時はとても驚き、高揚し、疑念を抱いた。

 何故それを俺に見せた?

 

「――あぁ、やはり」

 

 その答えはすぐに分かった。

 

「これは君にとって、いや――君達ポケモンにとって重要な石なのだね」

 

 とても、とても興味深そうな声音でムクゲはそう言った。

 

 

 

 

 

 考える。どうにかしてキーストーンをダイゴに渡せないだろうか。

 思案する俺にムクゲは呆れた様に言った。

 

「君は賢い割りに分かりやすいね。そんなに警戒しなくともこれが危険な物ではないのならダイゴにプレゼントするつもりだったよ」

 

「……クチィ?」

 

「言葉は分からないが、本当だとも。もうじきダイゴの誕生日だしね。……ただ、ダイゴにこれを渡す前にこの石がどういう物か知りたいんだ。私に教えて貰えないかい?」

 

 自分でもかなり無茶を言っているのは自覚しているのだろう、困ったような顔をしつつもポケモンに教えを請うその姿勢は石好きのムクゲのものか、それともデボンコーポレーションのツワブキのものか。

 

 ……。

 

 ……正直に言えばメガシンカに関する情報を伝える事は出来る。が、疑問は晴れない。

 

 メガシンカの本場であるカロス地方に行ったムクゲの部下が、キーストーンを持って帰りムクゲに提出した。

 何の報告も無くムクゲに渡したというのは不自然ではないか?

 

 キーストーンは路傍の石などでは決して無い。採掘するなり譲り受けるなりする場合多かれ少なかれ特別な石という事を知る筈だ。十中八九ムクゲはメガシンカの存在を知っている。

 

 では何故何も知らない振りをして俺に聞く? 色違いのクチートというだけの自分に。

 ……駄目だな、分からん。それにここまで考えてしまった時点で俺が何かしらの情報を持っている事は伝わってしまっただろう。

 

 これ以上情報を出し渋ってしまえばムクゲ自らカロス地方に赴きかねない。

 

(表層的な情報なら別にいいか、もう)

 

 溜息を吐き、ソファから飛び降りる。

 

「ん、どうし――」

 

「クチ、トーッチ」

 

 ムクゲの元まで歩き、口元に指を置いて静かにする様にジェスチャーをする。

 何か言いたげでありながらも黙るムクゲを他所に、机の上から白紙と鉛筆を拝借させて貰った。

 

『SONOISHI TOTEMO DAIJINA MONO』

 

「――!」

 

 ムクゲが驚愕しているのが分かった。まぁ無理も無い、ポケモンが筆談なんてするとは思わんだろう。

 俺はこの世界の言語はまだ勉強中の身であり、日本語はこの世界では通じない。俺とこの世界の人間の両方に通じる何かを色々考えた結果、アンノーン文字(と言う名のローマ字)であれば意思の疎通を図れると考えた。

 

 とはいえアンノーン文字自体どこぞの遺跡の産物なので考古学に興味を持っていなければ何を書いているのかさっぱり分からない筈だ。

 だがそこは生粋の石マニアを二人も抱えるツワブキ家。そういった資料は書庫に幾つも見つかった。

 

『POKEMON KIZUNA TSUNAGU HITOGA MOTSU TAKARA』

 

「……」

 

 ムクゲは信じられないものを見るような目で俺を見ていたが、俺が更に筆談を続けると慌てて解読に集中した。

 

『WATASHITACHI MITOMETA HITONO TAMENI TATAKAU ISHIGA WATASHITACHI ERANDARA MOTTO TSUYOKUNARU』

 

「……まさか」

 

『SOREGA MEGASHINKA』

 

 結構適当言ってはいるが昔のポケモンは案外こういう理由で人間と接していたのかもしれない。

 ぶつぶつと独り言を始めたムクゲを置いて筆談を続ける。

 

『MEGASHINKA FUTATSUNO ISHIGA IRU HITOGA MOTSU KAGI SORETO POKEMONGA MOTSU TOBIRA』

 

 一度鉛筆を置き、俺が持つペンダントに取り付けられたメガストーンをムクゲに見せる。

 

「鍵と、扉か」

 

『MEGASHINKA TATAKAUTOKI SUGATA KAWARI TSUYOKU NARU WATASHI DAIGO CHIKARANI NARITAI』

 

 これで終わりとばかりに鉛筆を置き、俺が筆談に用いた紙を丸めて大顎に放り込んだ。

 さて、情報と俺がキーストーンが欲しい理由を話した。これで満足してくれればいいのだが……。

 

 




勿論アンノーン文字なんざ無いのでアルファベットで代用。フォント変えればそれっぽいのもあるかなぁとは思ったけどね。
人と意思疎通が図れるポケモンである事が発覚したけどツワブキ家は全員口が堅いし証拠も食べて隠蔽したので大丈夫。まぁエスパータイプのポケモンがいる以上漏れても何も問題は無いんですが。

ちなみにこのダンバル、さみしがりなのでA上げのB下げ仕様となっております。防御低いのはアレだけど正直誤差。
さぁそろそろ書き溜めが尽きそうだ。衝動書きの弊害やな。

感想くれたらとても嬉しい。


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初陣は騒々しく華々しく荒々しく。

連続投稿してます。こっちは一つ目。


 

 

「……幾つか質問しても構わないか?」

 

 まぁそう来るわな。だが残念ながら話すべき事は話した。

 勢い良く頭を横に振る。

 

「……そうか、まぁそうだな。私としてはその言語をどこで学んだか聞きたかったのだが……」

 

 流石に前世の記憶持ちなんて言えないので答えるとしたら親に教わったと嘘を吐くだろうな。実際の親はどこで何してるのか分からんが。

 

「ともあれ、ありがとう。ダイゴの力になりたいという君の思いは伝わった」

 

 ダイゴが無事にポケモントレーナーになったら、その時にこの石を渡すとしよう。

 そう言ってムクゲはキーストーンをハンカチで包み、懐に仕舞った。

 

 

 

 

 

 それから一ヶ月が過ぎた。

 今日まで俺は欠かさずバトルの鍛錬を行い、ダイゴは勉強漬けの毎日だった。幾ら俺という原動力があっても慣れない勉強をするのは苦痛だったろうに、万全のテスト対策を行いトレーナー試験に向かった。

 

 もはや人間よりポケモンである事の方が自然になってきた俺には考えられないくらい凄い事だ。あれだけ頑張ったのだ、合格は間違いないだろう。

 そんなこんなで試験の合格発表日。今日ばかりは忙しいムクゲも休みを取り、一家揃っての待機となった。

 

 ――カコン。

 

 郵便受けに何かが投函された。

 ダイゴが玄関まで向かい、大きな封筒を持ってリビングに戻ってくる。

 

 深呼吸を一つ零し、ダイゴは封筒の封を切り中に入っていた書類を確認した。

 程なくしてダイゴは書類を机の上に置き、呟く。

 

「――合格だってさ」

 

 封筒の中からツワブキ・ダイゴの名が刻まれたトレーナーズカードを取り出して、ダイゴは笑った。

 

「おめでとうダイゴ! 今日はお祝いね!」

 

「タブンネー」

 

「よくやった、ダイゴ。私はお前が合格するのを信じていたぞ」

 

「嘘言わないの、あなたダイゴの事誰よりも心配してたじゃない」

 

 ムクゲとミカゲが手放しにダイゴを称賛する。まぁダイゴなら大丈夫だろうと思っていたがやはりめでたいものはめでたい。

 一ヶ月間俺と模擬戦をし続け進化したメタングと一緒にダイゴを労いに行く。

 

「クチィ、チッチ」

 

「……ググ!」

 

「あぁ、ありがとう。フォート、それに――シルキー」

 

 俺達を抱きしめるダイゴの髪をわしゃわしゃと撫で回して祝う。スタートラインに立っただけというのに自分の事のように嬉しかった。

 

 そうそう、一ヶ月前からダイゴは俺達の事をニックネームで呼ぶようになった。

 メタングの事はフォート、クチートである俺の事はシルキーという様に。メタングは最終的にダイゴの相棒となるので最後の砦という意味ではフォートレスから転じてフォートは良いと思う。名前を貰ったメタングも喜んでたし。

 ただ俺は名前負けしてるんじゃないかとちょくちょく不安になる。まぁダイゴ直々のニックネームだしすごい嬉しかったけどね。

 

「とにかく、ダイゴ、お前は今日から立派なポケモントレーナーだ。記念にこれをプレゼントしよう」

 

 ムクゲか咳払いを一つ零し、懐から綺麗に包装された小さな箱を取り出してダイゴに渡した。

 

「これは私からの祝いの品だ。必ずダイゴの力になるだろう」

 

「わぁ、開けてみてもいい?」

 

「あぁ」

 

 ダイゴが丁寧に包装を取り払い、小箱を開けると中には一つのアクセサリーが入っていた。

 王冠の様な銀装飾の施された台座に、七色に煌めく宝石が設えられたピンブローチ。宝石の内部には二重螺旋の模様が走っていた。

 

「綺麗……」

 

「それはキーストーンと呼ばれる宝石だ。カロス地方で取れる不思議な石、もしかしたら今ホウエンで持っているのはお前だけかも知れないな」

 

 キーストーンを自分の服の襟に付けたダイゴを見て、ムクゲは微笑みダイゴの頭に手を乗せた。

 

「私はダイゴが何を目指しても応援しているよ。チャンピオンにでもなってくれたら我が社の業績はうなぎ上りだ」

 

「息子に頼るな!」

 

 ミカゲに頭をすっ叩かれムクゲは沈黙した。素直に応援出来ないのかあの社長。

 

 かくしてダイゴはキーストーンを手に入れた。メタグロスナイトは未だに見つかっていないが、そもそもダイゴは極度の石好きだ。ポケモントレーナーとなり行動圏が格段に広がった今ならすぐにでも見つけられるだろう。

 自分のトレーナーがホウエン地方の頂点に立つ。その光景を、遠くない未来に見られるだろう事を確信した。

 

 

 

 

 

「やぁダイゴ! 聞いたよ、トレーナー試験合格したんだって? 僕と戦おう!」

 

「……いきなりだな」

 

 ダイゴがトレーナーズカードを獲得してから翌日の事である。

 まだ太陽が頂点にも達していない時間帯で、ダイゴの友人であるミクリがツワブキ家に転がり込んで来た。

 

「あらいらっしゃいミクリ君、お昼ごはん食べてく?」

 

「えぇ、ダイゴとのバトルが終われば是非!」

 

「バトルする前提で話を進めるなミクリ」

 

「君は戦いたくは無いのかい? 折角のポケモントレーナーとしての初バトルをこの僕以外とするって? 随分寂しい事を言ってくれるじゃないか」

 

 そう言いながらミクリはニッコリと笑いダイゴを見る。何だかんだ長い付き合いだからダイゴが本気でバトルしたくない訳じゃ無いのを見抜いているのだろう。

 まぁいきなりやってきて強引に話を進める図太さにダイゴが溜息を吐くのも分からなくは無いが。あいつ少年時代から割とナルシストの気が強いからな。

 

「いいじゃないダイゴ、初陣くらいミクリ君相手でも。それにポケモンが戦いに疲れたらフラウと私がすぐに元気にしてあげる」

 

「タブンネー」

 

「……別に僕だってミクリと戦いたくない訳じゃ無い、フォート達も張り切ってるしな。でも話を断らせないのはお前の悪い癖だぞ」

 

「大丈夫さ、君以外には弁えている」

 

「……庭に行くぞ」

 

 とても深い溜息を吐きながらダイゴは立ち上がった。なら俺にも弁えろ、とは彼は決して言わない。

 本心をさらけ出せる相手と言うのは貴重な存在だから。それはきっと、双方にとって。

 

 俺がクチートという比較的軽いポケモンで、フォートもまだ浮遊を主な移動手段としていたのでダイゴはあまりモンスターボールを使わない。

 ただまぁ形式的な物もあり、ミカゲからプレゼントされたモンスターボールに俺達を仕舞い庭のバトルコートへと向かう。モンスターボールの中は意外と快適であった。

 

(トレーナーを介してのポケモンバトル、緊張するな……)

 

 なまじ俺自身がトレーナー的視点を持つせいでダイゴの意思と相反する行動をしようとするかもしれない。だがそれだけは許容出来ない。トレーナーの指示通りに行動しないポケモンはカスだ。

 いやまぁカスは言い過ぎかもしれないが、バトルだけで手一杯だというのにポケモンの心情まで把握してられないだろう。

 

 ボールの中で俺は深呼吸を一つ零す。

 

 ポケモンを生物兵器と言う人間がいる。間違ってはいない。武器に自由意志は不要だ。戦うときだけは物言わぬ鉄の塊であるべきだ。

 決して高揚を表に出すな、決してダイゴの指示を無視するな。

 

(……決してダイゴの指示を恐れるな。こんなんでも俺はダイゴを信頼してるんだから)

 

 ダイゴとミクリがバトルコートの対極に立つ。

 

 ――ポケモントレーナーのミクリが勝負を仕掛けてきた!

 

 

 

 

 

「さぁ、出番だドジョッチ!」

 

「行こうか、フォート」

 

 共に繰り出されたボールから、ドジョッチとメタングがフィールドに出る。

 2対2のこのバトルでミクリが初手に繰り出したのはドジョッチ。進化するとナマズンになるみず・じめんの複合タイプのポケモンである。

 

 進化してない事からレベルは30以下、恐らく23辺りか……?

 

「フォート、ねんりき!」

 

「ドわすれだドジョッチ」

 

 フォートが念力をドジョッチに向けて放つがミクリの指示が一足早く届き、ドジョッチはドわすれで特防を上げてやり過ごす。

 

 一瞬苦々しい顔をするダイゴだったがこんな所では止まらない。

 

「フォート、とっしん」

 

 ダイゴの指示に従いフォートがドジョッチとの距離を詰める。

 

「受けていい。衝撃に備えて」

 

 ドジョッチが真正面からフォートの突進を受けきる。回避を選択しない理由は何か、すぐにミクリが答え合わせをしてくれた。

 

「メタルクロー!」

 

「その場でみずのはどう」

 

 とっしんに続いてメタルクローがドジョッチに命中するがHPを削りきれるほどではない。カウンター気味にドジョッチから至近距離のみずのはどうがフォートに炸裂する。

 ……不味い。

 

「……ググ?」

 

 “フォートはこんらんした!”

 

「なっ!」

 

「技によっては距離で威力が減衰する。だがそれは近ければ近いほどダメージが大きくなるという事でもある。運が悪かったね」

 

 トレーナーとしての経験や技の知識はやはりダイゴを上回る。流石はルネシティの出身といった所か。

 

「さぁドジョッチ、アクアテール」

 

「ふゆうを解除してその場で待機!」

 

 ドジョッチがアクアテールで攻勢に転じる。

 対するフォートは地面に降り立ち、ドジョッチの攻撃を受けて耐えた。下手に動けば自傷すると踏んだのだろう、いい判断だ。

 

 私もフォートとの模擬戦の時に不測の事態に陥った時は慌てずダイゴの指示を待てと言い含めている。

 不測の事態に一番早く対処できるのはトレーナーだからね。

 

「ここらでいいだろう。ドジョッチ、ねむる」

 

(……何?)

 

 ドジョッチがフォートから距離を離し、眠った。これでフォートが蓄積したダメージは全て無に帰る。

 と同時にドジョッチの口元がもごもごと動き、眠った筈のドジョッチが目を覚ます。

 

(カゴの実……いや、ラムの実か)

 

 何と言うか、トレーナーに成り立ての少年にやるような戦法ではない。

 が、対処出来ないダイゴが悪いと言ってしまえばそれまでだ。だが大丈夫だ、ダイゴは俺が思うほど諦めのいい奴じゃない。

 

「おはよう、そしてお疲れ。戻れドジョッチ――」

 

「――やれ、フォート」

 

 混乱していた筈のフォートが目にも留まらぬスピードでボールに戻る直前のドジョッチに迫り、渾身の力で殴りつけた。

 

 “おいうち”

 

「ドジョッ!?」

 

「なっ!?」

 

「油断したな、漸く驚いてくれた」

 

 ダイゴが笑う。ドジョッチからのダメージは残っているとはいえそれまで有利だったミクリに一矢報いた形となった。

 タイミング良くおいうちが入ったお陰でダメージ二倍、相手のHPも半分は削れただろう。

 

「……混乱してから何も指示が無いのは不思議に思っていたが、まさか最速で混乱から抜け出すなんてね」

 

 ボールに戻したドジョッチを愛おしそうに眺め、ミクリは楽しげにそう言った。

 

「うちには優秀なコーチがいるからな」

 

「ははは、あの色違いのクチートかい? 彼女もまた美しいよね、君がコンテストに興味無いのが残念でならないよ。――さぁ、まだまだこんなもんじゃないだろう? 全力で来ておくれ」

 

 ミクリの爽やかな笑顔が獰猛な笑みへと変貌する。バーサーカー染みた笑顔だというのにイケメン度合いが微塵も薄れないのは才能だと思う。

 ――ポケモンバトルは続いていく。

 

 




【種族】ドジョッチ
【性格】おくびょう
【特性】きけんよち
【レベル】23
【持ち物】ラムの実

【技】
・ドわすれ
・みずのはどう
・アクアテール
・ねむる

ミクリの手持ち一体目。ORASにおいてジム戦時とエピソードデルタ時の手持ちで変わらないのがナマズンとミロカロスだけなのでこの二体はミクリも思い入れ強いんじゃないかな。


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見えない物を恐れるな知るべき事を怖れるな。

連続投稿してます。こっちは二話目。


「ミロカロス、ショータイムだ」

 

「カロロ?」

 

 ミクリはボールからミロカロスを繰り出し、フィールドにはメタングとミロカロスが出揃った。

 ホウエン地方においてミロカロスはうつくしさを上げまくって一回でもレベルアップさせれば進化するポケモンだ。だからどのくらいのレベルかというのは分かり難いのだが、先程のドジョッチよりやや上と見た。恐らくは25レベル前後。

 

 おいうちを一度見せてしまった以上交代には今まで以上に慎重に行うだろう、いや、もしかしたら瀕死になるまで突っ張るかもしれない。

 

(ともあれここからは油断を誘うのは厳しいだろうな、……頑張れダイゴ)

 

「フォート、メタルクロー!」

 

「ミロカロス、アクアリング」

 

 フォートが間合いを詰めて腕を振り下ろすと同時に相手のミロカロスを水で作られた輪が覆う。

 

「そのまま――」

 

「――繋げ」

 

 ミロカロスを覆う水が爆発的に広がり、フォートに直撃する。

 

 “みずのはどう”

 

(……やっぱりミロカロスも持ってたか、しかしあの出の速さはなんだ? ミクリの指示も技名を言ってなかった)

 

「ねんりきで勢いを殺せ!」

 

「……メッタ!」

 

 間一髪でフォートは至近距離からのみずのはどうを防ぐ事が出来た。無傷で凌ぐ事は出来なかったが、また混乱状態になる事だけは回避出来た。

 

「そう難しい事じゃない、ダイゴだってさっきとっしんからメタルクローを繋げただろう? 今のはそれの応用さ、より速く、より強く、より精確に。って具合にね」

 

 本来はコンテスト用の調整だがね、とミクリは言うが、ここまで来ると一つの技として見ても問題ない完成度だ。

 途方もない時間練習したのだろう、ミクリの一言で自分がすべき事を瞬時に理解するほどに。

 

「ミロカロス、たつまき」

 

「ねんりきで邪魔をしろ」

 

 ミロカロスの身体がうねり、竜の旋風を作り出そうとするがフォートの念力でたつまきの完成には一歩届かなかった。

 そしてそれだけでは終わらない。

 

「……む」

 

「カ、カロ……?」

 

 “ミロカロスはこんらんした!”

 

 ねんりきの追加効果が運よく発動し、ミロカロスが混乱する。

 

「そのままメタルクロー!」

 

「……タング!」

 

「ミロカロス、ドラゴンテール!」

 

 勢いを取り戻したフォートのメタルクローがミロカロスの身体に深く突き刺さる。効果はいまひとつだろうがここまで攻撃を重ねれば痛かろう。

 だがお返しとばかりに放たれたミロカロスのドラゴンテールでフォートは吹き飛んでいく。竜の尾による吹き飛ばしは普通の怯みなど目じゃないほどの隙を作り出す。

 

 ――強制交代だ。

 

「いやはや危ない所だった。さぁ控えのポケモンを出したまえ、メタングの復帰を待っていたらミロカロスの体力が全回復してしまうよ?」

 

「よくやった。戻れ、フォート。……頼んだ、シルキー!」

 

 フォートをボールに戻し、代わりに俺のボールが投げられる。

 さぁ行こう。ダイゴに勝利を齎す為に。

 

 

 

 

 

 メガシンカという物の存在を知ったのは、父からキーストーンを貰ってすぐの事だった。

 トレーナー試験に合格し、ちょっと豪勢な晩飯を食べた後に父に呼び出され、ある本を貰った。

 

『これはカロス地方のメガシンカにまつわる話が事細かに記された本だ。読んでおいて損は無いだろう』

 

 何故そのような本を持っているのか疑問に思い尋ねると、メガシンカの存在自体はカロス地方への事業拡大時に知ってはいたがその時は興味を持っていなかったという。

 最近になってメガシンカの性質を知り、僕の助けになればと情報を掻き集めたのだ、と。

 

 本を読んで不安に思った。メガシンカにはポケモンとトレーナーの絆が必要だと書いてあった。

 もしシルキーがメガシンカに応じてくれなければ、それはシルキーが僕の事を信用しきっていないという事になる。

 

 それが酷く、怖い。

 

『――でもね、怖いとか分からないとか、そういうのを跳ね除けるから運命って言うのよ。怖いって感情は必要な物だけど、持ち続けては駄目よ?』

 

 シルキーを家に連れ帰ったとき、フラウ以外のポケモンと初めて触れ合う時も似たような恐怖を覚えた。

 その時母は情けないと言う訳でもなく、優しく諭してくれた。

 

『あの子を信じてあげなさい。ダイゴが一歩踏み出せば、あの子もきっと応えてくれるから』

 

(……そうだったね、ありがとう母さん)

 

 震えは既に治まった。

 目を開ければ爽やかな笑みを浮かべるミクリにこちらを静かに見据えるミロカロス、そして僕の方を振り向き何かを伝えようと目線を送るシルキーの姿が映る。

 

 覚悟はとうに定まった。恐怖は既に捨て去った。ならば後はシルキーを信じるだけだ。

 

「――メガシンカ!」

 

 僕のブローチとシルキーのペンダントが共鳴する。秘められた力の扉を今、開く。

 

 シルキーの周りを朱色の結晶が覆い隠す。まるでサナギの羽化のように結晶体が罅割れ、シルキーが咆える。

 

 1メートルほどまで身長が伸び、下半身と手首周辺が黒く染まった事で振袖と袴を身に付けているように見える。

 人間で言うもみあげに当たる部分はメガシンカする前に比べ格段に伸び、一番の特徴である後頭部から伸びる薄桃色の大顎は二つに増え、波打つ二つの大顎は途方もない威圧感を醸し出していた。

 

「……な、なんだいその姿は」

 

 ミクリが驚愕を顕わにするが、僕も同じ心境だ。

 

(――応えてくれた。これが、メガシンカ)

 

「……もしかしたらホウエンで僕達が初めて使ったのかもしれないね。さぁシルキー、全力で行こう」

 

 出した本気の、その先へ。

 

 

 

 

 

 問題なくメガシンカ出来た事に安堵するよりも先に、高揚感が胸の内を支配する。

 トレーナーと繋がる感覚が心地いい。自分の身体が作り変えられる感覚が気持ちいい。ダイゴの為にこの力を振るえる事に歓喜する。

 

(これは……)

 

 自分の中の何かが作りかえられる感覚がする。己の持つ力が増大していく感覚。これは、間違いない。特性の変化だ。

 自分の特性がちからもちになったのだろう。だが元々持っていた「アイテムを二つ使える」特性が消えた感じはしない。

 

(特性が複合した……?)

 

 良かった、メガシンカした瞬間に急に持ち物使えなくなったらどうしようかと思っていた所だった。

 

「……もしかしたらホウエンで僕達が初めて使ったのかもしれないね。さぁシルキー、全力で行こう」

 

 ダイゴの信頼を寄せる声に悦楽を覚える。あぁ、これは駄目だ。何でも応えてあげたくなる。

 

「ミロカロス、みずのはどう!」

 

「ふいうち!」

 

 ミロカロスが纏う水の体積が増し始めるのを、全速力の視界外からの強襲で阻害する。

 頭上を取り、二つの大顎をミロカロスに叩き付けた。

 

 “ふいうち”

 

「ミ、ロ」

 

 ミロカロスが身体をぐらつかせる。意地でみずのはどうを発動させるも既に俺は距離を取っていた。

 

「ただの一撃でここまでダメージを受けるなんて……。くっ、たつまきで視界を阻害しろ!」

 

「ようせいのかぜで散らせ!」

 

 ミロカロスが身体をうねらせ竜の旋風を作り出す。今度は完成してしまったが、俺は大顎を振り回して出した豪風で迎え撃つ。

 

 “たつまき”

 

 “ようせいのかぜ”

 

 ドラゴンタイプの技はフェアリータイプには効果がない。

 俺の風は容易く相手の竜巻を無効化した。

 

「――近づけさせるな! みずのはどう――」

 

「ふいうちで止めだ!」

 

 ミロカロスが俺を警戒してようが問題ない。相手の虚をつく動きというのは何通りもあの森で学んできた。

 静と動を繰り返し相手の視界から完全に外れ、前傾姿勢で零距離から大顎を渾身の力で振り払った。

 

 暴力の権化と言ってもいいその一撃でミロカロスは吹き飛び、力なく倒れる。

 

「お疲れ、ミロカロス。……ドジョッチではそのクチートを突破出来る気がしないね」

 

 ひんしになったミロカロスをボールに戻し、少年の様なきらきらとした目でミクリは俺とダイゴを見た。

 

「強いじゃないかダイゴ。メガシンカ、といったか、君達の絆はこの僕を上回る物だった」

 

 僕の負けだ。そう言ってミクリは笑って負けを認めた。

 

 ポケモンバトルが終わった。そう認識した途端、身体から力が抜け、光と共に元の姿に戻った。

 高揚感が治まり、冷静な思考が戻ってくる。

 

(……勝てた)

 

 フォートがドジョッチとミロカロス両方のHPを減らしてくれたから楽に立ち回れた。

 帰ったらフォートを一杯甘やかしてやろう。

 

「ありがとう、シルキー。それにフォートも、君達のお陰でミクリに勝てた。……初めての勝利だ」

 

「クッチチチ」

 

 ありがとうはこっちのセリフだよ。お疲れ、ダイゴ。

 

 




【種族】ミロカロス
【性格】おっとり
【特性】かちき
【レベル】25
【持ち物】ヤタピの実

【技】
・アクアリング
・みずのはどう
・たつまき
・ドラゴンテール

ミクリの手持ち二体目。技構成がメガクチート相手にする物じゃない。ドラゴン技二つとか舐めてんのか。まぁミクリさんコンテスト用の調整しかしてないし仕方無いね。
ミクリ戦は何とか一回に収めたかったので昨日休んで今日二回投稿したけど燃え尽きた。次回からはタグにある通り不定期更新になるんで気が向いたら見てやってくだせい。



たからあつめ→たからのばんにん:攻撃の実数値が二倍になり、本来持てない持ち物でも二つまで持てるようになる。




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経験値稼ぎとカツアゲはニアリーイコール。

じゃれつく三回連続で外すとかおかしい。絶対内部データ70%くらいになってる。


 

 

「いやぁ、美味しいですねミカゲさん!」

 

「あらそう? 一杯あるから沢山食べなさいな」

 

 ニコニコと昼食を食べるミクリにニコニコと昼食を盛るミカゲ。ついでにガス欠気味に意気消沈するダイゴ。

 壮絶なポケモンバトルを終えた後にしては両者のテンションに天と地ほどの差があった。まぁ初めてのポケモンバトルで使う熱量じゃなかったし仕方無いね。

 

 フラウの獅子奮迅の活躍により俺とフォート、後ミクリのドジョッチとミロカロスも元気を取り戻したので大所帯での昼飯となった。

 皆やんちゃだったりわんぱくだったり、元気な性格のポケモンの集まりという訳ではないので食卓がカオスになる事こそ無かったが、ミクリの手持ち達はバトルの興奮冷めやらぬままに俺達に話しかけていた。

 

「ドジョー」

 

「……グゥ」

 

 最後に一矢報いた上でエースであるミロカロスに痛手を与えたのが気に入ったのか、フォートに懐いたドジョッチと対応に困っていると思しきフォート。

 

「カロ、ミロカッ!」

 

「チッチ」

 

 ミクリ同様ナルシストの気があり、メガシンカした姿に美しさを見出したのかしきりにどうすればメガシンカ出来るのか聞いてくるミロカロスにお前では無理だと切り捨てる俺。

 

 もしかしたら次回作以降でメガミロカロスなんてものが実装される未来もあったのかもしれないが、ゲーム的な設定をこの世界に落とし込むなら現状ORASまでの種類のメガストーンしか発見されていないという事になる。

 まだ見ぬメガシンカを期待するのはいいが、実際に目に出来る確率は至極低いだろう。諦めた方がいいな。

 

「……それで? 結局何しに来たんだ。まさかポケモンバトルしに来ただけって訳じゃ無いだろう?」

 

 スタミナ切れから復活したダイゴがミクリに問う。

 その言葉にミクリは今思い出したとでも言うように頷いた。

 

「そうだった、バトルに夢中ですっかり忘れてたよ。本来はこのためにダイゴとバトルしたのに」

 

「……? 要領を得ないな、何だ一体」

 

「まぁ、なんだ。――ダイゴ、ポケモンリーグに出てみないかい?」

 

 

 

 

 

 事の発端は一ヶ月前。ミクリの実家があるルネシティの象徴とも言えるめざめのほこら周辺で不審者を見つけたという。

 巡回に出ていたルネシティのジムリーダーが鎮圧に動くも異様に練度の高いみずタイプのポケモンに撹乱され、まんまと逃げられてしまったという。

 

 実害は無かった為にルネジムリーダーはポケモン協会に報告だけ行い、不審者出没情報だけ出回る。

 

 ――筈だった。

 

 ジムリーダーの想像を超え、ホウエン地方の全ジムリーダー及びジムトレーナーに警戒の呼びかけが為された。

 

 めざめのほこらに蒼い不審者が現れたのと同時刻におくりび山にも何かを探す紅い不審者が出没したという情報があったのだ。

 

「まぁ僕は気にしすぎじゃないかとも思うんだけど、同時期に現れた場所が場所だ。何か良からぬ事を企む組織犯である可能性も捨てきれないから人手を増やすという意味で――」

 

「……シルキー?」

 

 ミクリの声とダイゴの声がくぐもって聞こえる。いや、俺に聞く気が無いだけだ。そんな事よりも処理すべき情報を聞いてしまったから。

 

 めざめのほこら、おくりび山、どちらも物語の根幹に関わる場所だ。

 状況証拠にしたって少なすぎる。だが、もし二人の不審者が俺の思う人物だとしたら……。

 

(そんな馬鹿な、動くにしたって速すぎるだろう。今からじゃ間に合わ――)

 

 ――いや待て落ち着け。本当に動いたのか? 部下も連れずに双方一人だけで? ……基本徒党を組んでくる奴らが単独で動くのは余り考えづらい。

 ジムリーダーを退ける実力を持ちながら一人で行動してるという事は両方ともまだ組織が出来ていないんだ。計画は動くどころか練られてすらいないだろう。めざめのほこらやおくりび山にいたのはすべき事の再確認とか、そこら辺だろうか。

 

「――クチッ」

 

 とりあえずくしゃみをする振りをして誤魔化す。フラウはじとっとした目をこちらに向けるがミクリとダイゴはそれぞれの会話に戻っていった。話の腰を折ってごめんよ。

 何れにせよ介入するしないはダイゴに任せるべきだ。それに案外、引っ越してくる主人公が何とかしてくれるかも。

 

「……? まぁミクリの言いたい事は分かったよ。ポケモントレーナーとして実力を付けろと、そういう話だろう? 頼まれるまでも無い、僕もポケモンリーグを目指してたからね」

 

「本当かい? 何か欲しい石とか見つけたのか?」

 

「……君は僕の事を何だと思ってるんだ」

 

 ダイゴは頬杖をついて呆れた様にミクリを見る。

 

「男なら誰だってチャンピオンに憧れる物だろう?」

 

 

 

 

 

 布にコンパウンド剤を伸ばし、金属質の身体を磨く。乾燥した布での乾拭きとそれを繰り返し、全体を手入れしていく内に蒼い身体はロックカットを行ったかのように輝きを増した。

 

「……クチッ」

 

「……メタッ」

 

 俺の完璧なまでの手入れによりフォートのかっこよさは10上がった。というのは冗談にしてもダイゴの行うそれと遜色無い程度には出来たんじゃなかろうか。

 いつもはフォートの世話はダイゴが行うのだが、今ダイゴは旅支度をしている最中なので手が空いてる俺がフォートの世話――やってる事は毛繕いとかそういう類だが――をしていた。

 

 ミクリが嵐のように去りルネシティに帰ったその日の夜、ダイゴは両親に旅に出る旨を告げ、快諾を受けた。フォートはミカゲやムクゲと暫く会えない事に寂しそうにしていたが、ムクゲがダイゴにビデオ会話機能付きのスマホを渡した事で解決した。

 

 俺達は俺達で一足早くダイゴの両親と別れの挨拶を済ませており、少々暇である。のでダイゴの荷物整理を手伝う事にした。

 浮遊するフォートの頭の上に乗りダイゴの部屋まで連れてって貰う。

 

(いやー、すっごい快適。なみのりとかそらをとぶとかいらないんじゃないか?)

 

 ルンバに乗る猫の様な心持ちでそんな事を考えるが勿論そう簡単には行かない。

 フォートのふゆうは特性の“ふゆう”でも無ければ技による“でんじふゆう”でも無い。念動力と磁場の放出による力が半々なので地面をそこそこの距離離れたり海上になったりすると途端に不安定になるのだ。

 

「……グッグ」

 

 フォートがダイゴの部屋の前に辿り着く。運んでくれたフォートに礼を言って一緒にドアを開けた。

 

「……いやこの双子石も捨てがたいな、持って行けばもしかしたら幸運を呼ぶかも知れない。いやだがそれで行くならこの黄金石もありだな、何処となく金運を上げてくれそうな雰囲気が……。待てよ? 旅に出るなら無病息災も必要だな、あのパワーストーンは何処にやったか……。いいや、もう全部持っていこう! ん? どうしたフォートにシルキー、迎えに来てくれたのか? すまない、持って行く石の選別に時間が――待て、何で石を全部取り出す? あ、こら! 止めろ一緒くたに纏めるな石は傷つきやすいんだぞ!」

 

「クチー」

 

「……グゥ」

 

「あぁーーっ!!」

 

 いらない物は置いていけとミカゲに言われただろうが。

 フォートと協力してダイゴのリュックサックにぎゅうぎゅう詰めにされた石を全部取り出した。採掘道具は別に持っていってもいいだろうが旅先で全部のコレクションの手入れをするとか正気の沙汰ではない。

 

(フラウに任せりゃいいのに……)

 

 マニア特有のポリシーという物があるそうで。

 結局ダイゴはコレクションを全部家に置いていく事になり、俺とフォートを入れた二つのモンスターボールを懐に仕舞い込み若干落ち込んだ様子でツワブキ家を旅立った。

 

 締まらない旅立ちもあったものである。

 

 

 

 

 

 フォートの鋼鉄の拳が相手のポチエナを捉える。ポチエナは勢い良く吹き飛び、トレーナーである少年の前で倒れた。

 

「ああっ、ポチエナ!」

 

「お疲れ、フォート」

 

 フォートはまだピンピンしており、勝負を仕掛けてきた少年の手持ちはもう残っていない。誰が見ても勝敗は明らかであった。

 

「俺とそう変わんない年なのにこんな強いのかよ!? くそっ、持ってけドロボー!」

 

 そう言って少年はポチエナをボールに仕舞い、小銭の入った袋をダイゴに投げつけて涙目で走り去っていった。

 少々口は悪かったが、潔く負けを認め賞金を出し渋る様子が無かった辺り根はいい子なのかもしれない。

 

「……何だか悪い事をしてしまったな。金を巻き上げているようで……」

 

 ツワブキ家を出てからずっとこの調子であった。

 カナズミシティで遭遇したトレーナー(主にトレーナーズスクールの学生)に喧嘩を売られ、フォートが叩き潰し、金を巻き上げる。このサイクルをずっと繰り返している為ダイゴの財布はパンパンであった。

 しかし改めて考えるとミクリって強かったんだなぁと感心する。ミクリはコンテストに重きを置いておりバトルも自衛レベルでしか学んでないというのだが、道行くトレーナーの平均値を知るとミクリは異常だと断言できる。

 

(伊達に未来のジムリーダーやってないよなぁ)

 

 才能の片鱗という物は幼少期から見え隠れするものらしい。

 

 さて、折角カナズミシティにいるのだ、ここでカナズミジムに挑戦しない手は無いだろう。不完全燃焼気味のフォートも戦意を高め、俺も活躍の場を望んでいた。

 ダイゴに苦戦は似合わない。俺とフォートで圧勝してやろう。

 

 




ツワブキ家はデボンコーポレーションのあるカナズミシティにある。
豪邸というほどの大きさじゃないけど十分金持ちの家なので割と有名。
週一でハウスキーパーが掃除しに来るけど殆どフラウが頑張ってる。
トレーナーズスクールに通わせなかったのはそれまでダイゴがポケモンに興味を持ってなかったから(という事にした)

ツツジさん好きなんだけど鎧袖一触で屠られる未来しか見えんね。


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想定外は対応力の低い方に牙を向く。

折角なのでダンバルの厳選も進めてるけど技構成が悩ましい。フルアタでいいんかな……。
後物語の進行に致命的な欠陥を指摘されたので突貫工事をしておきました。致命傷で済んだ。


 カナズミジムにて、私は久しく感じていなかった焦燥感を真正面から叩きつけられていた。

 

 何でこんな事に、私の胸中はその思いで一杯だった。

 

 トレーナーズスクールを内包するカナズミシティという特性上、カナズミジムというのは他と比べて難易度が低く設定してある。卒業試験の延長線上かつ挫折を味わわせない為、そしてトレーナーの選別は他のジムの仕事でもある為だ。

 だから私は、一ジムトレーナーのツツジは踏み台となる事に忌避感は無い。それはそれとしてポケモンに頼る所かポケモンの力を引き出そうとしないトレーナーは全力で阻止するが。

 

 ……話は変わるが、ホウエンで比較的簡単にバッジを取れるジムである為ここを最初に攻略するトレーナーが多い。

 前提からして辿り着くトレーナーの絶対数が多いため、……稀に遭遇するのだ。こういったイレギュラーに。

 

 “メタルクロー”

 

 蒼い身体を持つポケモンが鋼の輝きをその爪に宿す。瞬き一つの間に私のノズパスが吹き飛ばされた。

 私が相手にしているのはホウエンでは滅多に見ないメタングというポケモン。私が在籍しているトレーナーズスクールの本でそのポケモンが載っていた記憶がある。

 

 タイプははがねと複合か? 浮遊しているのは特性か? 視界を塞げば隙を作れたのか? 私に付け入る隙はあったのか?

 ジム戦用のノズパスが倒されたにも関わらず頭を巡らせている事に気付き、私は苦笑する。

 

(私の悪い癖ですね)

 

 これがトレーナーズスクールなら大人気無く再戦を申し込んだだろうがここはお爺様のジムだ、彼をとおせんぼうしてお爺様にまた小一時間説教されては堪らない。それに彼の実力にも不満は無い、完膚なきまでに倒されておきながらある訳が無い。

 だから私は色々な感情を全て飲み込んで、ダイゴさんに道を譲った。ジムリーダーであるお爺様への道。

 

 彼ならきっとカナズミジムを突破出来るだろうと、私はそう確信している。

 ……今日はもう挑戦者いないだろうしこっそり見学してこよう。

 

 ノズパスを回復させてボールに仕舞い、お爺様のフィールドまで行くとダイゴとお爺様のポケモンバトルは既に始まっていた。

 

「……ダイゴと言ったかな、先の試合も全て見させて貰った。見た限り孫より多少上くらいの歳なのに良く育てられている、君ならばこの先のジムリーダー達も突破出来るだろう」

 

「巡り会わせが良かっただけですよ、それにまだ戦いは終わっていないでしょう?」

 

 フィールドにはジムリーダーのイシツブテが一匹のポケモンに吹き飛ばされる光景があった。それはきっとクチートと呼ばれる、ホウエンでも余り見かけないポケモンなのだろう。

 だが私の記憶にあるクチートはあれほど鮮やかな朱色ではないし、後頭部の大顎も二つも無かった。

 

「俺じゃあその色違いのクチートに勝てそうも無いがね、メガシンカと言ったか俺も知らない力を使いこなし仮にもジムリーダーの手持ちを瞬殺するなんざどうやって対策すればいいんだか。……あぁだが、やっぱ俺もトレーナーって事かね。負けると分かっていても君とは少しばかり全力で戦いたくなった」

 

 ニヤリと笑ったお爺様が懐から一つのモンスターボールを取り出す。

 

「俺はカナズミジムリーダーサツキ! ぶちかませ、――ダイノーズ!」

 

 

 

 

 

 サツキのモンスターボールからダイノーズが出てくる。

 一応相手のイシツブテをメガシンカした状態で瞬殺したが、どうやら我らがダイゴは続投で行くらしい。

 

 サツキの前のジムトレーナー三人はフォートで粉砕した為サツキ戦では俺に戦わせるつもりだったらしいが……フォート戦いたかっただろうなぁ。まぁダイゴが言うんだから幾らでも戦ってあげるけども。

 

「ふいうち」

 

「ダイノーズ、てっぺき!」

 

 相手の虚を突く筈の一撃は、されどダイノーズが変化技を使用した事で不発に終わる。まぁ、そうだわな。仮にもジムリーダーがふいうちの特性を理解してない筈が無い。じゃあなんでイシツブテの時に透かさなかったのかは……まぁ混乱してんだろう、急にクチートにボコボコにされたら俺だって混乱する。

 

「近付いたな? スパーク!」

 

「シルキー、かみつく!」

 

 二つの大顎を開け、鋼材を捻じ切る様な一撃を意識するがダイノーズが怯む事は無かった。

 お返しとばかりにダイノーズの身体が電気を帯び――あ、まずっ。

 

「ノォーッズ!」

 

「チッ……」

 

 “シルキーは体がしびれて動けない!”

 

「む……」

 

「考えている暇なんざ無いだろう! いわなだれ!」

 

 痺れを抑えようとその場で身を固める俺に向かってダイノーズがいわなだれを使う。確率麻痺のスパークに確率怯みのいわなだれ、大人気無いなぁ……まぁ仕方無いだろうさ。俺を突破してもまだフォートが控えてるんだから正々堂々なんて言ってられない。

 まぁ突破させるつもりは毛頭無いが。

 

「シルキー、使え」

 

「グ、クッチ!」

 

 ダイゴの声に導かれるがまま、二つある大顎の一つからあるアイテムを取り出した。

 身体の痺れを振り切って蓋を捻じ切り、浴びる様に中身を全て使えばあっと言う間に元通りだ。

 

「なっ、かいふくのくすり!? 馬鹿な、ポケモンは持てない筈じゃ――」

 

「シルキー、かみつく」

 

 麻痺から解放され、弾かれたようにダイノーズとの距離を詰める俺を見てサツキが焦るがもう遅い。

 

 “かみくだく”

 

 二つの大顎がダイノーズに大ダメージを与えた。……本当にさっきよりダメージ入った気がするな、急所に入ったか? いや、技自体の精度が上がってかみくだくにでもなったか。

 それからサツキは俺をダイノーズから引き剥がそうとスパークを指示するも、こちらがふいうちを既に見せている以上紛れも無い悪手であった。

 

 かみくだくに続いてのふいうちによりダイノーズは倒れた。

 

「……いや参った。ありがとう、ダイノーズ。孫が見ているというのに情けない、おめでとうダイゴ。……ツツジもいい加減隠れてないで出てきなさい!」

 

 そう言ってサツキはカナズミバッジを取り出し、ダイゴに手渡した。

 それと同時にサツキに隠れて見ているのがバレてたツツジも駆け寄ってきた。

 

「あの、凄い戦いでした! メタングもクチートも両方格好良かったです。……ところであのクチートって一体何なんです? 大顎が増えるなんて聞いた事も……」

 

「あぁ……」

 

 ダイゴとツツジ、ついでにサツキが戦闘終了と判断してメガシンカが解けた俺を見る。ダイゴはどう説明したものかと悩んでいるようであった。

 

 まぁメガシンカは現状ダイゴだけの特権だ。もしかしたらミクリもメガシンカを使ってくるのかもしれないが、そう易々と広めたくは無いだろう。

 だがポケモンバトルを重ねていく内にいつかはメガシンカに辿り着く人が出る。遅かれ早かれ露呈するなら別に言ってもいいと思うがね。

 

「……特別な石をトレーナーと特定のポケモンが持つ事で出来るメガシンカという物があります。僕もまだ詳しい事は分かりませんが、カロス地方にこの力のルーツがあるそうで」

 

「ほぉ、そりゃ興味深い。この歳で知らない事が増えるってのはいいもんだな」

 

「カロス地方……ありがとうございました。ダイゴさんならこの先のジム戦も突破出来ます、頑張って下さい」

 

 もしかしたらメガシンカについて聞く事があるかもしれないとダイゴと連絡先を交換したツツジはサツキと共に笑顔でダイゴを見送った。

 カナズミジム、突破。

 

 ……そういえばダイゴさん初めてのガールフレンドでは?

 

 

 

 

 

 カナズミシティを後にして、ダイゴは俺達と共にシダケタウンに向かった。真っ直ぐ東へ向かいキンセツシティを目指すそうで。

 個人的にはトウカの森が気になったが、シダケタウン辺りの山肌で石を探すとダイゴが言っていたので従う。態々反対するほどじゃないし、キンセツシティは早めに行きたかったのでそれはそれでよし。

 

(こんだけあれば足りるかね)

 

 今ダイゴはフォートの力を借りてカナシダトンネルで石探しをしている。早めに切り上げる予定だったらしいが、たいようのいしやめざめいしを見つけた事でかなり熱が入り、そのまま夜に突入する勢いだった。

 仕方無いので近辺の森から食べやすいきのみや枯れ枝、後は手頃な蔦などを回収する。

 

 カナシダトンネル入口まで戻れば申し訳無さそうな顔で石を磨く彼と、傍らで石の選別を行っているフォートの姿があった。

 

「ごめんよシルキー、思いの外楽しくなっちゃって」

 

「クチッ」

 

 まぁ仕方あるまい。途中で切り上げただけマシな方である。ただまぁ今からシダケタウンに駆け込もうにも夜も更け行動は制限されるはずだ。

 カナズミシティの全体図から予想はしていたが、ホウエンは広い。ゲームで主人公が数分と掛からずに隣町を突っ走っていったが、この世界ではそうは行かない。

 

 きのみをフォートとダイゴに渡し、枯れ枝を束ねて焚き火を作る。火種はダイゴのライターを拝借した。文明の利器バンザイ。

 

「……コォ」

 

(……ん?)

 

 マトマのみを木の枝にぶっ刺して焚き火で炙っていると、カナシダトンネルの奥から弱弱しい声が聞こえた。

 

「……今の声、ちょっと見て来る」

 

「クックチ」

 

 流石に一人で行かせる訳にはいかないのでダイゴに付いて行く。

 フォートにはお留守番を頼み、ダイゴの前を歩き洞窟内部を歩いていくと岩陰にポケモンが潜んでいるのが見えた。

 

 ……不思議な感覚だ。ダンバルだったフォートに対しても度々感じていた、じわじわと湧き上がる仲間意識。はがねタイプのポケモンに芽生えるそれに、俺は前世の記憶を思い返していた。

 

(そういえば、ダイゴの手持ちにいたな。メタグロス以外のはがねタイプ)

 

「……シルキー?」

 

 立ち止まった俺を訝しげに見るダイゴだったが、岩陰に視線を移し驚愕の表情を浮かべる。

 

 そこには傷だらけのココドラが息も絶え絶えに横たわっていた。

 

 




サツキ
・カナズミジムリーダー兼ツツジの祖父。
・孫を次期ジムリーダーに育て上げる為に暇を見てジムトレーナーとして経験を積ませているが、運良く或いは運悪くダイゴにぶち当たる。
・数分くらいで作ったオリキャラなので再登場の気配は無い。
・名前の由来はサツキツツジから。

カナズミジム、悲しみの9割カット。相性とレベル差不利が酷いからね仕方無いね。ツツジちゃん未知の知識持ってるダイゴさんと連絡先交換してそわそわしてる模様。

ちなみにメガシンカした主人公は絆の共有によるトレーナーへの信頼度好感度上昇と闘争本能の強化によりダイゴの指示に従う事に悦びダイゴの為に戦えるのが嬉しい奉仕系バーサークメス堕ちという属性が天元突破してる状態になる。
主人公もその事を自覚しているが無理に抑えてダイゴの足引っ張りたくないので特に矯正する気は無い。


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弟子は師匠の戦い方を真似て強くなる。

はがね統一組んでるけどほのおとじめんの一貫性が酷過ぎる。トリル要員でギギギアルとドータクン育ててるけどどっちが良いだろうか……。


 

 パチパチと、小さい何かが破裂する音を聞いて僕は目を覚ます。

 

 ここは? 洞窟で休んでたんじゃ――痛ッ!

 

「コ、コ」

 

 逃げなきゃ。そう思って足を動かしても体が思うように動かない。

 何故と一瞬考えたが三日三晩走り続けていればこうもなろうか、本当に無茶をした。

 

「クチー」

 

 ぽん、と頭に小さな手を乗せられる。見上げてみれば変な色をしたクチートが僕の事を撫でていた。

 怖くないよ、安全だよと、母の様な姉の様な、今となっては二度と感じられない筈の温もりに涙が出そうになった。

 

 敵じゃない。それがすっと理解出来た途端に一気に力が抜けた。

 

「ククゥ」

 

「……ココ」

 

 抵抗を止めた僕の前にオボンの実が差し出される。涙腺が緩むのを抑えきれぬまま、僕は目の前の木の実に齧りついた。

 

 

 

 

 

 一度は目を覚ましたココドラだが、オボンの実を食べるとすぐにまた眠ってしまった。それだけ疲れていたという事だろう。

 今はシルキーが面倒を見てくれているが、正直な心境としてはどうしたらいいか悩んでいる。

 

(ココドラは好きだし、シルキーもフォートもあのココドラに悪感情は抱いてない。でも何であそこにいた? ココドラの生息地は主に石の洞窟、そこからここまで来たのか? 何かから逃げてきた? ポケモンから? 人から? どちらにせよここで捕まえたら僕達も巻き込まれ――)

 

 ――パチリ、と薪が弾け、思考を中断する。今のはポケモントレーナーに相応しくない考えだった、取り消そう。

 

 深呼吸をしているとシルキーがこちらを見ていた。

 

「……? どうしたんだシルキー」

 

 なにやらじっとこちらを見つめてくるので何かしただろうかと不安になっていると、シルキーは薄紅色の大顎で器用に僕のバッグを開け、中からモンスターボールを取り出した。

 それはシルキーの物でもフォートの物でもない、買った覚えの無い空のモンスターボールだった。

 

「……それ、どこで?」

 

「? クチッ」

 

 焦ってシルキーに問うとカナシダトンネルの反対方向に存在する鬱蒼とした森を指差された。どうやらただの落し物らしい。

 

 凶暴なポケモン相手に逃げたりする機会が結構あるトレーナーにとってモンスターボールの落し物というのは割りと頻繁に多発する。

 

 相手が強ければモンスターボールは弾かれるし、気が立っているポケモン相手にボールを回収しに行く等不可能だ。

 場合によってはトレーナーの方に攻撃が飛んで行き、バッグが破れ中身が零れるなんて事もある以上トレーナーは自分の持っている(若しくは持っていた)ボールには無頓着な傾向が強く、交番に持ち込んでも誰も取りに来ないので拾ったら有効活用しましょうという暗黙の了解が広まっていた。

 

(全部ツツジさんから聞いた話だけど)

 

 だからまぁ落し物だと判明したのならボールに関してこれ以上騒ぐ必要は無い。

 そんなボールを大顎で咥えたシルキーは、それを僕に向かって放り投げた。

 

「うぉ、っと」

 

「ククッチート」

 

 ポムポムとココドラを撫でながらシルキーは僕に対して呆れたような口振りでそう言った。……とりあえず保護してから考えろとか、多分そういう事を言っているのだろう。

 

(悩んでたのもバレバレか、敵わないな)

 

 ミクリや父さんであればこの状況でココドラを見捨てる訳が無いし、母さんに悩んでるのがバレたらさっさとボールに入れて手当てしろとぶん殴られそうだ。

 悩むなんてらしくない。次に目が覚めたらココドラに聞こう、僕に付いて来るかどうか。

 

 

 

 

 

「あまり遠くに行くなよ?」

 

「クッチチ」

 

 シダケタウンとキンセツシティを繋ぐ自然豊かな草原で俺達は遊びまわっていた。

 ゲームで言う所の117番道路に相当するこの道も馬鹿みたいに広い。大草原もかくやというほどだ。

 

 多少暴れても問題ない位に広いとなれば俺とフォートがやる事は一つ。ポケモンバトルである。

 と言っても今回はじゃれ合い程度に抑えるけども。

 

(新顔もいるしな)

 

 遠くでダイゴが掘り当てた石を磨いている所を一匹のポケモン、ココドラがすぐ近くで眺めていた。

 

 再び目覚めてから、ココドラはすぐにダイゴの手持ちになる事を受け入れた。新しく仲間が増えた事でフォートのやる気はいつもより高い。

 所定の位置に立った瞬間フォートが殴りかかってきた。鋼の拳を大顎で弾き、思考に耽る。

 

 どちらもトレーナーという指揮者がいないため、野生のポケモン戦を想定して判断力を高める事を主目的としている。何から何までダイゴ頼りだと彼の負担が増すからな。

 

「……メッタァ!」

 

「チッ」

 

 フォートのねんりきで俺の動きを止められた。

 ……度重なる鍛錬で大体の技に対応できる自信が付いてきたが、どうにもエスパータイプの技は苦手だ。何と言うか、どうにも読めない。

 

(まぁ力尽くで振り払えるからいいけど)

 

 だがまぁそれは一瞬棒立ちになると言う事でもあり、しっかりとその隙を突いてフォートが拳を振り上げた。

 

 “メタルクロー”

 

 “ふいうち”

 

 致命的な隙を突いた筈の一撃よりも早く、俺の攻撃が刺さる。俺にとって隙なんてあって無いような物だ。

 

「チッチッチ」

 

「……グゥ」

 

 ふいうちの精度も上がってきてそろそろ相手が変化技使ってきてもふいうち当たりそうな気がするが、今はフォートの事だけ考える。

 

 長い事俺と実戦形式で戦って来たせいで姑息というか行動の幅を広げる戦い方を好む様になったフォート。

 今だってかみくだくの予備動作を予見したフォートがねんりきで大顎を閉じ、メタルクローでぶん殴ってきた。それならそれでと大顎を振り回して至近距離からようせいのかぜを叩き込んでやったが。

 

(……やっぱ楽しいなぁ)

 

 フォートとこうして戦える事が、酷く楽しい。技を繰り出す事が、技を受ける事が、一手一手の読み合いが、体力を磨り減らす感覚が。だからこそもどかしい、もっと力があれば理想の戦い方が出来て、目の前のポケモンを捻じ伏せられるのに、なんて。

 きっとフォートも少なからずそう思っている筈だ。だから俺はその衝動を否定しない。

 

 まぁそれはそれとして今日の模擬戦は終わりだ。これ以上続けてはダイゴに迷惑が掛かるし何よりココドラが怖がる。

 

「クッチィ」

 

「……ング」

 

 大顎からオボンの実を取り出した俺はフォートに半分あげて、フォートの頭に乗りながらダイゴの元へ戻っていった。

 

「お疲れ、シルキー、フォート。大丈夫だったかい?」

 

 怪我の有無で言えば負傷しまくりだがボールに入るのも億劫になる程ではないので問題無いと頷く。

 ふとココドラを見ればキラキラとした目で俺とフォートを見ていた。

 

 カッコいいという憧れか、強くなりたいという決意か。どちらにせよレベルアップに意欲的なのは良い事だ。

 そのうち自己流ブートキャンプでフォートと同じ位レベルブーストしてやろう。

 

 

 

 

 

 唐突だが、ポケモンをやっていると十分な知識を持っているにも拘らず「あれ? こんな感じだったっけ?」と驚く事が多々ある。

 その中の一つとしてはがねタイプとでんきタイプの対面が挙げられる。はがねタイプにでんき技は特に効果抜群という訳では無いのだが、同レベル帯だと効果抜群と錯覚する程のダメージを受ける。

 

 単純にはがねタイプのポケモンが総じて特防が低く、でんきタイプの技に強力な特殊技が多いというだけの話だが……朧げな記憶にも鮮明に残っているという事は前世の俺は余程驚いたのだろう。

 

 さて、キンセツシティのジムは先程述べたでんきタイプを扱うテッセンがジムリーダーを務めている。先程の話を踏まえて考えれば警戒して然るべき相手だった。

 ……そもそもの前提条件が「同レベル帯」だった場合の話であり、幾ら強力な特殊技を持っていようとも効果抜群でないのなら脅威にはなり得ないのだが。

 

「フォート、止めだ!」

 

「……メッタ!」

 

 “しねんのずつき”

 

 フォートの突撃がテッセンのレアコイルに突き刺さる。お返しとばかりにレアコイルがスパークを放とうとするが、しねんのずつきのダメージによって怯んでしまいフォートに殴られ倒れた。

 フォートの勝利である。

 

「いやはや、完敗じゃ。お前さん強いのぉ、ほれ、ダイナモバッジ」

 

「ありがとうございます……」

 

 朗らかに笑う初老の男性がダイゴにバッジを渡す。ダイゴは俺を出せなかったのがショックなのか少しテンションが下がっていた。

 まぁレアコイルの特性がじりょくだったし仕方無いわな。全抜き出来たフォートは嬉しそうだったし別に良かろうよ。

 

「これでバッジ二つ目じゃな、次はフエンタウンか? それともヒワマキシティか?」

 

「まだ決めかねています。一先ずキンセツシティを見て回って必要な物を買い足そうかと」

 

「そうかそうか、……そう言えばつい先日、技マシンが大量入荷されたと聞いたな。色々探して見るといいぞ」

 

 テッセンはそう言ってダイゴと握手を交わす。そんなこんなでダイゴはキンセツジムを後にした。

 

 必要な物を買い足すと言っていたダイゴはとても上機嫌にキンセツシティを巡っていた。大方珍しい石や宝石を探すつもりなのだろう。

 軍資金は旅立ちの日に両親から貰った分、そしてダイゴが道中で掘り当てた石を売って得た分があるので結構潤沢である。

 

 上機嫌なダイゴがボールから俺達を出して色んな店を物色していく。メタングは頭の上にココドラを乗せて遊んでいるので俺は何処に行こうかと辺りを見渡し、

 

「――クチッ」

 

 見つけた。

 

 ――技マシン№75“つるぎのまい”

 

 どうしたって自力では覚えられない技を覚える為の手段を。

 

 




フエンタウンの空手王さん、ボッシュートになります!

そして例によってジム戦9割カット。まだレベルでゴリ押し出来る範疇だし多少はね?
この分だとじっくり描写出来るのはフエンジム辺りかなぁ……。
あ、フォートのレベルが上がってしねんのずつきを覚えたのでねんりきをポカンしました。ついでにココドラに懐いた。


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誰でも楽に強くなりたいという願望はある。

ふと目を離した隙に評価バーが赤くなりUAが滅茶苦茶伸び感想も来て嬉しかったので投稿。



 

 技マシン。

 シリーズを通して謎の多い超技術の塊である。きのみや宝石の類であれば「あぁそういうもんなんだな」で片付けられただろう。

 ポケモンが不思議な生き物であるのと同様にこの世界も不思議な物で溢れかえっているのだから。

 

 だが、技マシンは機械だ。明らかに人工物である。

 完全にディスクの見た目であり、どうやって技を覚えるのか皆目見当も付かない。まぁこれも「あぁそういうもんなんだな」で済む話っちゃ済む話なのだが……。

 

(さて、どうやって買って貰うか……)

 

 値段は15000円。この世界では高いのか安いのか判断に困る所だ。ダイゴの財布を考えれば、買えない事は無い。が、ダイゴがつるぎのまいの有用性を理解してくれるかどうか……。

 

「……んお? 何だコイツ、クチートか?」

 

(……やっぱ単独行動はするもんじゃないな)

 

 振り返るとチンピラの様な風貌の男がニヤニヤとこちらを見ていた。最近何事も無かったから忘れてたが俺の容姿は色違いのクチートだ、奇異の眼で見られるのも仕方の無い事だろう。

 無遠慮に伸ばされた手を避ける。これがフォートなら右ストレートをお見舞いしてただろうが、下手したらダイゴの監督不行き届きになり得るので攻撃はなるべくしない。

 

「逃げんなおい! 大人しく捕まれ!」

 

「……チィ」

 

 人のポケモンという可能性には思い至らないのだろうか。技マシンを売ってる店の屋根まで大顎を使って登り、手の届かない位置で喚く男に呆れた声を出す。

 店の前から動かず大声を出しているから営業妨害ですぐにでも警察が来るだろう、それまで屋根の上でのんびりと待つ事にする。案外すぐに諦めたり――

 

「ぐっ、この……舐めやがって! やれ、オオスバメ!」

 

 ――しないようだ。ポケモンを出した事で周囲のどよめきが強くなる。男は完全に頭に血が上っているせいで気付いていない様だが……、しかしポケモンまで出すか。

 こういう奴が悪の組織の下っ端やるんかね、っと。

 

「オオスバメ! つば――」

 

「チィ、ット」

 

 “ふいうち”

 

 命令を聞いて攻撃を加えようとしたオオスバメの出鼻を挫き、ふいうちを当てる。

 屋根から跳んでオオスバメに大顎を叩き込んで沈め、再び屋根へと戻る。これくらいの姿勢制御なら余裕でこなせる様になってきたな、やっぱ戦闘経験って大事だわ。

 

 ここで煽る様に笑ってやれば人間を舐め腐ったポケモンの出来上がりだが、あくまで攻撃の意思を感じたら潰すというだけに留めておかないと後々面倒になりそうだ。

 

(今も十分面倒なんだが……あ、さっさとフォート達と合流すりゃ良かったじゃん、こいつに付き合う必要は全く無いし。いやでもココドラに怖い思いをさせたくないしなぁ)

 

 いいアイデアだと思ったが加減を知らないフォートとまだ弱いココドラをこいつに会わせるのは不安なので棄却する。

 やっぱ頼るべきは警察だな。ほら、もう来た。

 

「何をしている!」

 

「なっ、何で警察が来んだよ!?」

 

「店の前でそれだけ騒いで来ない訳無いだろうがッ!」

 

 すったもんだの末警察に引っ張られていく男を見て俺は店の屋根から飛び降りて欠伸を一つ零す。

 最初から最後まで馬鹿が馬鹿やったなぁという印象しか無かったが、逆に言えば馬鹿をやるだけの希少価値がこの身にあるという事の証明でもある。

 

(ミクリやジムで戦った人達は本当にいい人だったんだなぁ、タイプ的に興味が薄かったのかも知れないけど)

 

「――無事か、シルキー!」

 

「……ククゥ?」

 

 考え込んでいると公園の方向から大きな紙袋を持ったダイゴがフォートとココドラを連れて走ってきた。思ってたよりお早いお帰りで。

 手を振ってダイゴを迎えると、ダイゴに抱きかかえられた。

 

「警官が走っていったからフォートと一緒に走ってきたんだ、軽々しく目を離すべきじゃなかった。ごめんシルキー」

 

「……チィー」

 

 少し落ち込んだ顔をするダイゴの頭を撫でる。お前は俺を叱ったりはしないんだな、ごめんよぉ心配かけて。今度から単独行動は控えるよ。

 周りの人から事情を聞いていた警官がこちらに話しかけてくるまで、不安げなダイゴ達を暫く慰め続けた。

 

 

 

 

 

「……ありがとうございました。ではごゆっくり」

 

 俺がトレーナーの手持ちである事、突っかかってきた男が過去に一度厳重注意を受けたチンピラである事、そして様子を見ていた人達の話からこちらに過失は無いと判断され、ダイゴが余り目を離さないようにという軽い注意だけ受けて俺達は解放された。

 

「……しかし、なんだってシルキーはこんな所に? もしかして欲しい物でもあったのか?」

 

「クチッ!」

 

 そうだった、本題を忘れていた。

 

「クチィー、チィ」

 

 あまえる(覚えてない)、つぶらなひとみ(覚えてない)、ゆうわく(効かない)をフルで使い、全力でダイゴを技マシンショップに誘導する。

 戸惑い気味に店に入ったダイゴの肩を叩き、すかさず剣舞の技マシンを指差した。

 

「てっきり綺麗な宝石でも見つけたのかと思ったら……」

 

 ただの宝石なんてバトルの役に立たんだろう、そんなんで持ち物枠を潰したくない。

 

「……つるぎのまい? 15000か、うぅん……」

 

「お、兄ちゃんお目が高いね。つるぎのまいは自分の攻撃をぐーんと上げる技だ、硬いポケモン相手でもこれさえあれば大ダメージを与えられる。上がるのは攻撃の威力だけで特殊技の威力は上がらないが……兄ちゃんの手持ちを見た限り大丈夫だろ。さぁ、どうする?」

 

 つらつらと技マシンの良さを偽り無く応える店主だが、その目からは「何か買え」という圧が滲み出していた。

 圧に負けたダイゴが剣舞の技マシンを買う選択をするのに一分も掛からなかった。やったぜと思う反面弱みに付け込んでる感もあり少々申し訳なさがある。

 

(つるぎのまいあれば絶対役に立つから。絶対後悔させないから)

 

 さて、ずっと疑問に思っていた技マシンの使用法だ。まさか食う訳ではあるまいとは思っていたが、店主から渡された機械を見て疑問は氷解した。

 なんて事は無い、本当にディスクそのものだったのだ。

 

「これは?」

 

「技マシンをセットする為の機械、あとイヤホンな。睡眠学習って知ってるか? それと同じ要領でこの技マシンに入ってる音源を聞かせてやれば、目が覚めた時にはその技を覚えるって寸法よ」

 

「凄いですね……、音で知らない技を覚えるなんてどういう原理なんだろう」

 

「さぁ?」

 

「えっ」

 

 聞く所によると殆どの技マシンはシルフカンパニー製らしいが詳細な原理は公開されていないらしい。公開しているのは使用方法だけであり、今まで一度も動作不良を起こした事が無いので特に追求はされてない様だが……どうにも仄暗い物を想像してしまうのは考えすぎだろうか。

 まぁそんな事はどうだっていい。今は剣舞である。

 

 技マシンを機械にセットし、イヤホンを耳に付ける。面倒なら額に乗せるだけでいいらしいが、使用方法と妥協案が乖離し過ぎでは?

 店主がサービスでくれたキノガッサのキノコのほうしを吸入し、平衡感覚が薄れてきた身体をダイゴに預けて眠りに落ちる。

 

 お休みなさい。

 

 

 

 

 

 ……うん?

 

 何者だ? いや待て、その魂……ははぁ。まぁ何処の誰であろうと今は私の世界の住人だ、歓迎しよう外の子よ。

 

 しかし人を選ばず我らの姿を選ぶとは、奇異な者もいたものだな。いずれお前と語り合いたいが、それには位階が足りないな。

 

 今も私の声は聞こえまいて。位階……お前風に言うならレベル、か? そうだな、せめて100は欲しいな。

 

 そこまで来ればお前も私の姿を見る事が出来よう、今度は偶然に辿り着いた裏口からではなく正面から、な。

 

 何、時間は幾らでもある、気長に待つさ。さぁ帰りたまえ、目覚めの時だ。

 

 

 

 

 

「――クチッ」

 

 唐突に目が覚める。

 今何時だと辺りを見渡し、俺がいる場所が技マシン屋ではない事に気付く。

 

(ここは……ポケモンセンター付随の宿泊施設、か?)

 

 自信は無いが以前見たものと間取りが一致している。部屋にダイゴがいないがここがポケモンセンターならそのうち戻ってくるだろう。

 ベッドから降りて身体の調子を確認する。

 

(ん、お。こういう感じか)

 

 軽やかにステップを踏み、部屋の中で踊ってみる。舞を続ける毎に感覚が鋭くなり、自分の力が膨れ上がるのを感じる。

 一度も使った事の無い技なのにつるぎのまいの使い方が鮮明に浮かび上がる。これで今俺はふいうち、かみくだく、ようせいのかぜ、つるぎのまいの四つの技を覚えた事になる。

 

 睡眠学習ってすげー、なんて事を考えているとふとベッドの側に大きな紙袋が置いてあるのが見えた。

 ダイゴの荷物だっただろうか? 軽く袋の中を見てみる。

 

(わぁ)

 

 中には衝撃が伝わらないように厳重に梱包されている宝石が沢山あった。

 流石に宝石はゲームで出ない為正式名称が分からないのも多いが、ルビーだとかサファイアだったりと色で大まかな見当が付く奴も少なからずあった。

 

 綺麗な宝石だらけだなと袋を漁る手が止まる。袋の底で一際厳重に包装された、ビー球の様な丸く小さな石を二つ手に取った。

 一つは灰色の球体に白銀と黒の螺旋模様が入った宝石、もう一つは蒼い球体に赤と灰の螺旋模様が入った宝石だ。

 

(これ……まさか)

 

 間違いない、ボスゴドラナイトとメタグロスナイトだ。

 何処で買った、っつーかこんなすぐに見つかるか? 多分ホウエンの人は変な石としか認識してないだろうけど、ダイゴは掘り出し物を片っ端から探して回ったのだろうか。

 だが残念ながらこれだけ集めてもメガシンカは一体しか出来ないのだから無用の長物――

 

(――本当にそうか?)

 

 メガシンカに必要な物はキーストーン、メガストーン、そして絆だ。

 トレーナーが持つ絆がポケモン一体分だけな訳が無く、複数のポケモンにメガシンカを行う事が出来るかもしれない。

 

 だがゲームではメガシンカは一体にしか使えない。何故か? キーストーンが一つしかないからだ。

 キーストーンのキャパシティがポケモン一体分しかないのだとしたら、トレーナーがキーストーンを複数持つ事が出来れば……或いは。

 

(まぁ、いいか)

 

 もし予想が合っていたとしても、今は関係の無い事だ。宝石類を紙袋に戻し、ベッドの上でダイゴが帰ってくるのを大人しく待つ事にした。

 

 




実際技マシンって謎技術の塊過ぎてよく分からないんすよね。wiki見た限り殆どの技マシンがシルフカンパニー製でポケモンの額に乗せる事で技を覚えるって書いてあったけど謎過ぎたのでテコ入れ。

メガシンカ関係の考察はトレーナーなら一度は考えたことある筈。メガクチートとメガルカリオ同時に使いてぇ……。


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野生の動物にエサを与えないで下さい。

あー何かの拍子にクレッフィがトリル覚えたりしないかなー(強欲)
一瞬だけ日間5位まで浮上したらしいっすね。ありがたい限りです。


 

 ポケモン、戦闘民族説。

 俺が生まれて初めてポケモンバトルをしてからずっと俺の中で提唱され続けている説だが、時が経つに連れて間違いないと思えてきた。

 ポケモンもそれぞれ性格が違い、おっとりしたポケモンもいればおくびょうな性格のポケモンもいる。戦いに否定的な個体もいるだろう。

 

 だが、それでも湧き上がる戦闘欲求は変わらない。戦いに抵抗が薄れて行くようにこの身体、全てのポケモンは作られているのだろう。それが故意的なものか生存戦略による物なのかは分からないが。

 つまる所ポケモンにとって食欲、睡眠欲、性欲、戦闘欲で四大欲求と数えれる程度にはポケモンバトルは切って放せない物という事である。ポケモンに性欲があるのかは知らんが。

 

「シルキー、つるぎのまい」

 

「かみなりのキバだ、ラクライ!」

 

 大顎を振り、俺は舞う。軽やかに、そして激しくステップを踏む度に力が湧き上がる。

 対峙するラクライが牙に電撃を纏わせて飛び掛ってくるが、大顎に攻撃を吸わせて対処する。

 

「いい位置だ、そのままかみくだく」

 

「くっ、スパーク!」

 

 大顎に噛み付いたラクライがそのまま放電するが、その程度で俺は止まらない。

 地面に大顎を叩きつけ、牙を離したラクライをそのまま大顎で噛み砕く。

 

 つるぎのまいを積んだ一撃にラクライは耐え切れず気を失った。

 

「よく頑張った、次だ! タツベイ!」

 

 相手のエリートトレーナーが次に繰り出したのはタツベイ。

 

(へぇ)

 

 タツベイはボーマンダの幼体であり、例に漏れずドラゴンタイプである。

 圧倒的不利にも関わらずトレーナーの目に陰りが無いのは、秘策があるからかはたまた自分の相棒に全幅の信頼を置いているからか。

 

(いいね、楽しくなってきた)

 

「タツベイ、かみつく!」

 

「ふいうちで先を取れ!」

 

 ラクライ同様牙を剥き出しにして向かってくるタツベイの意識を潜り抜けて大顎を叩きつける。

 痛手を受けただろうにタツベイは気合で俺に噛み付いた。大顎を盾にしようとするも間に合わず、咄嗟に左腕を犠牲にする。途方も無い力で、それこそかみくだくと誤認する程の力で噛み付かれる。

 

(こいつ、ちからずくか?)

 

 タツベイの夢特性が確かちからずくだった気がする。効果は追加効果のある攻撃技の威力が1.3倍になる代わりに追加効果が発生しなくなるというもの。

 この世界でドラゴンタイプの育成自体が困難だというのに、それに加えて夢特性持ちとは……トレーナーとしての力量はかなり高い部類に入るだろう。

 

「シルキー、ようせいのかぜ」

 

 大顎をぶん回し、幻想を含んだ風でタツベイを吹き飛ばす。ダイゴが形勢を立て直すのによく好む一手だった。

 この間に大顎からオボンの実を取り出し、ありがたく回復させてもらう。

 

「タツベイ、かみつく!」

 

「シルキー、かみくだく」

 

 相手は苦々しい表情を隠せず、それでもタツベイに指示を出す。

 

 タツベイは気丈に牙を剥き出しにして駆け出し、俺はタツベイの突撃に合わせてその場で身体を捻り抉り取るように大顎を振るう。

 同時に放たれた技は過不足無く互いに命中する。それでも――

 

 “かみくだく”

 

 ――勝ったのは俺だった。

 

「僕の勝ちだ。よく頑張ってくれた、シルキー」

 

「……負け、か。お疲れタツベイ」

 

 タイプ相性や持ち物の差はあれど、ミクリ以来の良い戦いだった。

 正直に言えばドラゴンタイプのポケモンを舐めていた。自分はフェアリータイプなのだからドラゴンなど敵にならないと。

 

 だが違う、ドラゴンタイプの強さは生まれついての種族値の強さ、そして意思の強靭さだ。

 ドラゴンは最強の種族だ。伝説ポケモンや600族の大体がドラゴンタイプという事を鑑みればそれは明らかだろう。

 そんなポケモンが自身を安売りする訳が無い。逆に言えばドラゴンタイプのポケモンから信頼されているというのはそのトレーナーが自身を十全に使いこなせると判断した事に他ならない。

 

(それを突き詰めたのがゲンジさんになるんかね)

 

 ホウエン地方チャンピオン、ゲンジ。キンセツシティで宿泊した際テレビで見たポケモンリーグのCMでその存在を知った。

 ワタルと同じドラゴン使いとしてチャンピオンに君臨する以上トレーナーとしての力量は頂点に近いと思っていいだろう。そしてその牙城を崩す鍵になるのは俺だという事もまた理解していた。

 

(まぁ何にせよ)

 

 111番道路で相対したエリートトレーナーとの戦いは俺達の勝利である。

 

 

 

 

 

 キンセツシティで一泊したダイゴは、111番道路へ足を運び、えんとつ山方面へ行きフエンタウンへ向かう事に決めた。

 その後は下山して111番道路へ戻り、ハジツゲタウンを通るルートでカナズミシティに帰還するようだ。

 

 若干ルートに無駄があるような気もしないでも無いが、ダイゴは石を採るのも目的の一つなので寄り道する分には構わないのだろう。

 

(俺がゲームしてた時はどのルート進んでたんだっけ……)

 

 基本的にポケモンは一本道でストーリーが展開されるが、少しずつ記憶が朧げになってきた。

 俺が従うのはハルカではなくダイゴなのだから別にいいっちゃいいのだが。

 

「痛くないか、シルキー」

 

「クチー」

 

 ダイゴに傷の手当てをして貰いながら俺達は休憩していた。平原と砂漠が隣接するこの場では少し歩くだけで生態系ががらっと変化する。

 加えて砂漠の方はゲームの様な小さな物に留まらずそれこそ一面砂漠という環境の為下手したら遭難するかもしれない。

 

 今の所砂漠に用事は無いから態々自分から足を踏み入れる事は無いだろうが。

 

「さぁ、行こうか」

 

 えんとつ山の頂上付近まではロープウェイで登る。別に馬鹿正直に登山してもいいのだが流石に準備が足りなすぎる。フォートがいるから滑落の危険性は無いとはいえそれはそれ、ダイゴはやまおとこではないのである。

 

「ナァ」

 

「クチッ?」

 

 さてロープウェイ乗り場に向かおうと意気込んだ瞬間、聞き慣れないポケモンの鳴き声が聞こえた。

 辺りに目を向けると一匹のナックラーがこちらを見ていた。ここはまだ平原エリアの筈だが……。

 

「迷子か? いや、腹が減っているのか」

 

 軽率にバッグから取り出した木の実をナックラーに手渡そうとするダイゴを止める。

 この状態ではドラゴンタイプこそ無いものの、とんでもない顎の力を持っている。図鑑説明でも岩を砕けるみたいな事が書かれていた気がするしダイゴの腕も下手したら食い千切られるかもしれない。

 

 ダイゴから木の実を受け取りナックラーの目の前に置く。捕まえるつもりがあるのならもう少し丁寧に世話をしても良いがそのつもりが無いのなら余り関わりを深めるのは避けるべきだ。どこぞの親が子に付いた人間の匂いに怒る可能性も無いではないし。

 あのココドラが例外だったのだ。

 

「ナックク」

 

「クチィ」

 

 ナックラーが大きな顎でオボンの実を食べ、砂漠の方へと歩いていった。……本当に腹が減っていただけだったのか?

 

 ふと、何者かに見られている様な感覚がする。かつて俺の生まれた森にいたダーテングよりも遥かにレベルの高い強者の気配。

 

(不味い)

 

 ダイゴも同じ物を感じたのかフォートをボールから出し守りを固める。

 次の瞬間、巨大な陽炎が揺らめき、ナックラーと共に辺りの景色がぼやけていく。いつのまにか砂漠に踏み入れたのではと思ってしまうほどの熱気が辺りを包み込む。

 灼熱の砂塵が舞い、辺りに静けさが戻る頃には視線の主もナックラーも消えていた。

 

「フゥララ」

 

 その鳴き声一つを零して。

 

(……恐ろしい親御さんだこと)

 

「何だったんだ一体……」

 

 恐怖の対象が過ぎ去った時、俺達に残ったのは途方も無い疲労感だった。

 とっとと休みたい一心でダイゴは俺達をボールに仕舞い、ロープウェイ乗り場へと足早に向かった。

 

 

 

 

 

「いらっしゃ――あ、あれ? どうしたんだい? お客さん」

 

「あぁ、いや、道中でとても疲れてね。えんとつ山の頂上付近まで頼めるかな」

 

「えぇ、まぁ。こちらのゴンドラにどうぞ」

 

 その後何とかロープウェイ乗り場まで辿り着き、ダイゴは料金を払ってゴンドラに乗り込んだ。

 重量制限があるのでポケモンを中で出す事は出来ないが、ダイゴが気を利かせてボールホルダーを窓際に置いてくれたため景色を眺める事は出来た。

 

 思い返されるはナックラーと遭遇してからの一連の出来事。

 あの時ナックラーを回収しに来たのは、鳴き声とかから考えても間違いなくフライゴンだ。ドラゴンタイプは強いと言ってた矢先にあのフライゴンである。

 

(接近に気付けなかった。あのまま戦闘に移ってたらまず勝てなかったよな……)

 

 フライゴンであるという時点で45レベル以上なのは確定している。純粋なレベル差がある一方で不可解な点もある。

 あの陽炎、自然現象と言うには些か規模が大きい。十中八九あのフライゴンの仕業だろう。

 

(じゃあ何したんだって言われると良く分かんないけども)

 

 ありえそうなのはねっぷうか、或いはにほんばれ? 技の応用の利くこの世界ではその可能性は考慮して然るべきだろう。

 もしくは、――特性。

 

 現実的ではないが、ありえないなんて事はありえないと俺は既に知っている。

 フライゴンの特性もふゆうだけなんて事は無いのかも知れない。何せ俺がここにいる。

 

 本来ではありえない特性を持つ俺が前例なのか、はたまた特例なのか。

 何れにせよもっと強くなる必要がある。フエンジムは俺達にとって鬼門となるだろうしレベル上げを怠らぬようにしなければ。

 

 そんな一匹のクチートの思いなど知らぬとばかりに、ゴンドラはゆっくりと山を登っていった。

 

 




フライゴンさん可愛くて好きだよ。それ以上にガブリアスが好きだけど。
ちなみにシルキーの森にいたダーテング夫妻が共に60レベルですが、このフライゴンはそれ以上です。あと大家族です。

ロープウェイ周辺は管理者(より正確に言えば管理者の持つポケモン)の縄張りとなっているので滅多な事では野生のポケモンは近寄ってきません。特性いかくのポケモンが大量に放し飼いされているとか。


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マナーを守って温泉に入りましょう。

たまに使わないポケモンのメガシンカを使うと楽しい。メガボスゴドラって割と強かったんだね。


 

 ゲームの時と比べ街や道路の面積が凄まじく広くなっているのは今更言うまでも無いだろう。

 まぁ当然である。ゲームの様に家が何軒かあるだけで街は名乗れない。住宅が、飲食店が、商店が、役所が、人々が集まり生活に必要な建物が増えて初めて街となるのだから、ゲームのそれと大きく乖離しているのは当たり前だ。

 

(とはいえここまでの乖離は初めてかもしれないけど)

 

 ゲームではフエンタウンはえんとつ山の麓に座していた。この世界でもそれは変わらないだろうと思っていたが、俺の予想は裏切られえんとつ山の中腹付近までフエンタウンの敷地が広がっていた。

 山の中腹と言っても一番傾斜がなだらかな山肌を整備しており、主な施設としてロープウェイ乗り場の経営場や斜面を利用した段々畑などがあるが、中でも目を引くのは――温泉だ。

 

 フエンタウンはホウエンを代表する温泉街となっていた。

 

「……ふぅ」

 

「……クチ」

 

 かぽーんと何処からか聞こえそうな露天風呂で、俺とダイゴは一緒に温泉に入っていた。

 フォートとココドラは身体を構成する金属が多い為、そのまま温泉に入ると錆びてしまうので別行動だ。今二匹はポケモン用の砂風呂に入っているが、温泉に入りたいと言ったら後で錆止めでも塗って一緒に入ってやろうと思う。

 

(そういえばかぽーんって何の音だろうな。風呂桶の反響音か?)

 

 益体も無い事を考えつつ横目でダイゴを見る。変わらず少年の背丈のままだが、薄っすらと筋肉が付いてきたように思える。

 上半身よりも足腰と言った移動がメインになる下半身が比較的引き締まっているだろうか。この歳の子にしては立派なものである。

 

「あぁ、ここに住みたい……」

 

「クチィ~」

 

「山だから色んな石があるし汗は温泉で流せるし……」

 

「クチィ」

 

「食べ物は美味しいものが多いし……」

 

「クチ」

 

「……冗談だよ、早くジムに行かないとな……」

 

 別に止めやしないさ。カナズミシティのツツジがあの年齢だった事から原作開始までは割と時間がある。

 極論主人公が引っ越してくるまでにチャンピオンになっていればポケモンリーグを動かすに足る実績と権力が手に入るのだ。

 

(……あれ、その前にアオギリとマツブサ豚箱に放り込んだら全部解決じゃね?)

 

 正直シンオウの三柱と一神を除けば最も周辺の被害が大きい伝説のポケモンはホウエン地方のグラードンとカイオーガだ。

 どっちが出てくるのか、或いはどっちも出てくるのか定かでは無いが、未然に防げるならそっちの方が良いに決まってる。

 

(特にルネシティの被害が尋常じゃないし)

 

 もし二体とも目覚めのほこらに眠っているとしたら最悪ルネシティが滅ぶ。まぁそんな事は無いだろうが……。

 何だかんだ言ったが選択をするのは俺じゃない。それでもダイゴなら最善を尽くしてくれる。きっとね。

 

「そろそろ上がろうか、シルキー」

 

「チチ」

 

 ダイゴの声に従い湯船から出る。

 俺達はフォートとココドラを拾う為に砂風呂のエリアへと向かった。

 

 

 

 

 

 さて、長らく日の目を見なかったココドラだが、俺とフォートでちょくちょく戦闘訓練は行っている。

 ここに住むとダイゴは冗談を言っていたが丸っきり嘘と言う訳でもなく、このフエンタウンで数日は過ごすつもりで宿の部屋を取っていた。

 

 ポケモントレーナーに配慮してか中庭はポケモンバトルが出来る程度には広い。そこで俺とフォートはココドラと戦ったり、稀に他のトレーナーとの戦闘で実戦経験を積ませたりしている。

 その甲斐あってかココドラのレベルも順調に上がっている。憶測だが俺が37辺り、フォートが35でココドラが28ぐらいには上がっていると思われる。ポケモン図鑑が開発されていないせいで技を覚えるレベルから推測するしかないのが辛いな。

 世代、というか地方によって同じ技でも違うレベルで覚えたりするから厄介だ。ムクゲなら頼めば類似品を作ってくれるだろうか?

 

「コ、ココ!」

 

「チッ」

 

 そんなこんなで俺はココドラの最後の調整に臨んでいた。これが終わればココドラは初ポケモンバトルの舞台に――フエンジムに立つ。

 宿泊してるトレーナーと戦ったりしたがあれは場の空気になれる訓練なのでノーカンだ。わざわざジムに引っ張り出さなくても、と思うかもしれないがフエンジム攻略の鍵を握るのはココドラだ。

 

(俺達の中でココドラだけが唯一ほのお技を等倍で受けられる。俺とフォートがにほんばれ下のオバヒを受けきれるかは微妙な所だからな……)

 

 まぁタイプ的にココドラは炎が等倍でも地面技が四倍弱点になる訳だが、そこの対面はダイゴが操作するしココドラでも一度だけなら受け切れる。

 ココドラの特性はがんじょうだしな。

 

 なんて事を考えているとココドラからのとっしんを食らいかけた。

 

(とりあえず目の前の事に集中しないとな)

 

 はがねタイプの代表格みたいなボスゴドラの幼体であるココドラにヒットアンドアウェイ戦法は向いていない。

 自分から動くのは意図的に場を動かしたい時に限り、基本的には受けて殴るカウンターを主軸に据えるよう言っている。

 

(例えばこんな風に)

 

 間合いを詰めて来たココドラに大顎を振るい鋼材を捻じ切るようにかみくだくが、ココドラは装甲の厚い背中で受けていわなだれを放った。

 回避を選ぶがいわなだれで怯んでしまいココドラは俺の大顎をすり抜けた上でアイアンヘッドを当ててきた。

 

(やっぱ巧くなってきてるな、嬉しい限りだ)

 

 一連の流れで見たとおり、ココドラはとっしん、いわなだれ、アイアンヘッドという怯みを誘発させる技構成となっている。

 役割としてはタンクとして相手の攻撃を受け、流れを乱す事を目的としている。ジムリーダーにはあまり通用しないだろうが何事も挑戦だ。

 

 アイアンヘッドを受けた俺は追撃を避ける為に後方へ跳び、大顎を振るいようせいのかぜを砂を巻き上げるように吹かし、ココドラに叩きつける。足を地面に突き刺して風に飛ばされないように踏ん張るココドラの視界から外れ、音を消し、敵意を伏せて回りこむ。

 

 “ふいうち”

 

 ……完璧に決まったと思った瞬間に不自然な威力の減衰を感じ取る。

 砂埃の晴れた場にいたのは不可思議な球状の障壁で身を包むココドラの姿。俺は思わず笑みを零した。

 

(残る一枠のまもるも冷静に使えてる。これなら心配はいらないかな)

 

「チッチ」

 

「ココォ!」

 

 その場から飛び退いて両手をパンと叩く。俺が定めた毎度の戦闘訓練終了の合図だった。

 まだやれるとでも言いたげにココドラが鳴くが、残念ながら時間切れである。

 

「――シルキー、ココドラ、まだやってたのか。根を詰め過ぎると明日に響くぞ?」

 

 ほらね。

 

 日も暮れつつある中、旅館の方から蒼い浴衣(の様な服)を着こなしたダイゴが歩いてくる。何着ても様になるからイケメンは凄いなぁ。

 ダイゴに止められた以上戦闘訓練は続けられない、ダイゴの元に歩く俺にココドラは渋々着いて来た。

 

(うぅむ、どうにも強くなりたいという思いが先走っているような……)

 

 その思い自体はとても大切な物だ。だがココドラは早く力が欲しいという方向にシフトしていっている。ダイゴが気に掛けてちょっとずつマシになってきてはいるが……まぁこんなでもフォートと同じ俺の弟子みたいなもんだしバトルには冷静に挑むから特に心配はしてないがね。

 あいつは何に焦っているのやら。

 

 

 

 

 

 部屋に戻ると普段より二割増しでピカピカなフォートが出迎えてくれた。どうやらダイゴに磨いて貰ったようである。

 若干誇らしげなフォートの頭を撫でてやる。良かったね。

 

「夕食の用意が出来ております、お運びしても宜しいでしょうか」

 

「えぇ、よろしくお願いします」

 

 ダイゴと仲居の会話に耳を傾けながら俺はココドラの手当てをする。

 手加減は意味が無いからと思いっきり噛んだり叩いたりした所は大体軽症で済んでいるように見えたが、一箇所背中の金属の甲殻が随分と抉れている。

 

 腹の傷はオボンの実を食わせて安静に過ごさせれば治るが、甲殻は脱皮するのを待つしかない。これを見るとポケモンの生命力の高さや、俺がポケモンであるという事実を強く認識させられる。

 痛みが引くようにココドラを抱え、壊れ物を触るように撫でる。

 

「……コォ」

 

「クチッ?」

 

 気持ち良さそうに身をよじるココドラを見てニコニコしているとフォートも俺の方に近付いてきた。

 なんだなんだ、皆して甘えん坊ばっかりだな。

 

「君たち仲良いね」

 

 フォートも構ってやると微笑ましそうにダイゴが言った。……ふぅん?

 

「クチッチ!」

 

「え、うわ! 何するんだ!」

 

 大顎を使ってダイゴの頭を引き寄せ、わしゃわしゃと撫でる。

 犬みたいな扱いだが、これくらい大雑把な撫で方でも満更でもないと思ってる事を俺は知っている。

 

「……変わらないなぁ」

 

「チチチ」

 

 ボサボサ髪のダイゴと、ピカピカになったフォート、派手な甲殻のココドラに、色違いの俺。

 皆の団欒は部屋に料理が運ばれてくるまで続いた。

 

 




ダイゴのパーティじめんの一貫性が高すぎる。早くエアームド捕まえないと……。

シルキー:しんちょう、苦い食べ物が好き。
フォート:さみしがり、味が良く分からない。
ココドラ:のんき、金属鉱石ウメェ。


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ぶっ倒れそうになる前に水分補給しろ。

鋼統一パにエンペルトを入れると途端に安定感が増した。貴重な特殊型というのもあるけど炎受けできるのがとてもよろしい。


 

 靴の爪先で床を叩き、バッグを背負い直して身支度を整える。

 ダイゴの腰には三つのモンスターボールが入ったボールホルダーが付けられていた。

 

「ふぅ……、よしっ」

 

 深呼吸を一つ零したダイゴはフエンタウンの中心へと足を運ぶ。

 その足取りからはカナズミやキンセツの時以上の緊張感が窺えた。当然だろう、油断など出来ようものか。

 

 ――俺達は今日、フエンジムに挑む。

 

 フエンタウンの中央、ゲーム知識で言うなら本来のフエンタウンが存在するえんとつ山の麓にフエンジムは存在する。

 ジムリーダーは炎使いのアスナ――ではない。

 

 ここもまたカナズミジムと同じくアスナの親族がジムリーダーを務めていた。さりとて得意なタイプに変わりは無く、テレビを見る限り使うポケモン自体もそう変わりは無さそうだった。

 であればやる事に変わりは無い。いや、もしタイプや使うポケモンが変わっていたとしても俺達がすべき事は一つだけだ。

 

(全力を尽くす)

 

 なぁに、生まれてから今までずっとやってきた事じゃないか。今更改まって緊張感を抱く事は無いさ。

 

「……ここか」

 

 ダイゴがフエンジムの前に立つ。

 右手でボールホルダーに触れ、ダイゴは三つ目のジムの扉を開けた。

 

 

 

 

 

 温泉の熱気が辺りを支配する中、一人目のジムトレーナーはドンメルを繰り出した。

 対するダイゴは額に汗を滲ませながらフォートに先陣を切らせる。

 

 トレーナーに不利なフィールドを意図的に作り集中力が削がれた状態でどこまで精確に指示を出せるか。ここフエンジムはその理念の基設計されていた。

 無論試練であって無茶振りになってはならないため、足下も温泉だとか室温がサウナ並みという事は無いが、それでも慣れないチャレンジャーを苦しめるには十分な環境だった。

 

「ドンメル! はじけるほのお!」

 

「バレットパンチで潜り込め!」

 

 両者の指示が交錯し、それに突き動かされるようにフォートとドンメルが動く。

 息を吸い込み高温の火の玉を吹き出そうとするドンメルの機先を制しフォートが弾丸の様な拳を身体に叩き込む。

 

 “バレットパンチ”

 

 “はじけるほのお”

 

 互いの攻撃が至近距離で命中する。ドンメルの火の玉がフォートに当たる事で幾つもの火の粉に分散しダメージを増やしていく。

 

(やっぱ根本的に相性が悪すぎるな、レベル差で何とか耐えられてるけどあんな至近距離で何度も食らってたら持たないぞ)

 

 無理もないとは俺も思う。フォートにとって初めての炎技なのだから。

 今まで何だかんだで効果抜群の技を受けた事が無かった。突破したジムは岩と電気だし、俺達での模擬戦は互いに対する有効打が無い。……いや、かみくだくは悪だから一応フォートの弱点ではあるが何気にフォートの物理耐久が高いため比較的余裕で受けられてしまう。

 

 その点初めての経験だっただろう、自身の硬さが意味を成さない攻撃と言うのは。

 

「離れずメタルクロー!」

 

「もう一度はじけるほのお!」

 

 フォートの両腕が鈍色に輝き、鋼鉄の爪が相手のドンメルに突き刺さる。

 ドンメルは顔を歪めつつも指示通りはじけるほのおをもう一度フォートに向けて吐き出した。

 

 だが。

 

「避けろ!」

 

「……メッタ!」

 

 それはもう見たと言わんばかりにフォートが素早く回避し、飛散した火の粉も硬度を増した片腕で防御し事無きを得た。

 

「決めろ、しねんのずつき」

 

「くっ、ふんえんだ!」

 

 背中のコブを振るわせるドンメルよりも早く、念動力を纏い加速したフォートの頭突きがドンメルに直撃し、相手を吹き飛ばした。

 吹き飛ばされたドンメルが復帰する気配が無い。怯んだか?

 いや、これは――

 

 “急所に当たった!”

 

「まじ、かよ」

 

 ――フォートの勝利だ。

 

「よく頑張ってくれた、戻れフォート」

 

「くっ、お疲れドンメル。……運が悪かったのもあるが、それ以上にあんたが強かった。頑張れよチャレンジャー」

 

 そう言ってジムトレーナーは道を譲った。

 

(少し指示に粗が見えたが、多分わざとだろうな。……これを後五回、ジムリーダーを入れれば六回か)

 

 見た所あのドンメルはレベル20より少し上辺りの筈、ならマグニチュードを覚えていただろうし、それにふんえんを使う素振りを見せていた。

 レベル差は仕方無いにしてもやろうと思えばフォートを近付けさせずダメージを重ねる事もできただろうが、それはジムトレーナーの仕事ではないという事だろう。

 

「……すまない、次はシルキーに任せる」

 

 汗を滴らせながらダイゴがそう言った。傷薬の類は買い込んでるので体力は全回復させられるがフォートのコンディションが著しく低下している。

 復活するまで俺が頑張ればフォートもその内元気を取り戻すだろう。

 

「よぉチャレンジャー、水分補給は済ませたか? 頭クラクラだと指示遅れるぜ?」

 

「――大丈夫、へっちゃらですよ」

 

 二人目のジムトレーナーが行く手を阻む。不敵に笑う彼はモンスターボールからロコンを繰り出した。

 対するダイゴは宣言通り俺の入っているボールを投げた。

 

「さぁ、行こうか。シルキー!」

 

「クッチチチ!」

 

 こんな所で行き詰っていられない。手早く済ませよう、ジムリーダーまで全速力だ。

 

 

 

 

 

「――ほう」

 

 カナズミのサツキから面白い子がうちのジムを突破したと聞いていた。何でも珍しいメタングと色違いのクチートを持つ少年だと。

 興味を持った。だがそれだけだった。将来有望なトレーナーの報告はいつもの事だったから。

 

 今こうしてその少年を目の前で見て、私は認識を改めた。

 

「中々どうして、トレーナーとしての力はあるらしい」

 

 温泉の熱気を取り入れたジム内部で頭が鈍る事無く精確な指示を出せている。

 見た所少年の得意タイプははがね、これはサツキが言っていた事と合わせて間違いないだろう。相性が悪い相手に物怖じしないのもポケモンとトレーナーの絆の為す賜物だろう。

 だが。

 

「……何かに甘えているな」

 

 ポケモンのレベルも、動きも。どこか偏りが見える。少年もポケモンも何か同じ物を心の拠り所としているのだろうか。

 別にそれ自体は問題ないしむしろ推奨すべきだ。守るべきものや向かうべき目標があればそれだけ心は強くなる、心の持ちようによっては幾らでも強くなれる。

 

 それが不安定な柱に寄りかかるような依存でなければ。

 

「彼らの核は、あのクチートか」

 

 あの色違いのクチートに対して少年もメタングも全幅の信頼を置いている。まるでクチートさえいれば大丈夫だとでも言うように。

 

「どれ、柱を揺らしてみようか」

 

 少年よ、そのクチートは「こいつさえいれば勝てる」希望か? それとも「こいつが負ければもう勝てない」最後の砦か?

 前者であれば構うまい、後者であれば……いや、私が口を挟む事ではないか。

 私に出来るのはポケモンバトルだけだ、これで少年を確かめるとしよう。

 

 

 

 

 

 ジムトレーナー六人は俺とフォートが蹴散らした。

 レベル差もありそこまで苦戦はしなかったが、これが普通のフィールドであれば更に楽に片付けられただろう。

 

(やっぱり熱気がきついな)

 

 温泉の熱で徐々に息が詰まっていく感覚は人もポケモンも変わらないらしい。このジムの作りを見て子供にさせる様なものではないという人もいるかもしれないが、それは少々お門違いだ。

 ポケモンバトルに必要なのはトレーナーの指示なりポケモンの実力なりが挙げられるが、そもそもの大前提として「トレーナーが無事」でなければならない。

 

 砂漠や火山、洞窟に海上などあらゆる悪環境でも変わらず野生のポケモンはやってくる。そういう場所に行かないのが一番だが、それでも向かう時トレーナーが命を落とす確率を少しでも下げるデモンストレーションとして各地のジムは存在する。

 

 ちなみにダイゴどころかシルキーすら与り知らぬ事だが、遠い異国のガラル地方ではそういった自然の脅威をワイルドエリアという形で実現している。

 明確に区分された自然では若いトレーナーを日夜振るいに掛ける役割を担っているが、鳥籠のように無理矢理押し込まれたポケモンも多々いる中で縄張り争いが絶えない為、極端にレベルの上昇した「各エリアの主」に殺されるトレーナーも稀に出るのだとか。

 巡回トレーナーの影響で死者は年々減っているが、果たして自然を管理するのとしないのと、どちらがマシなのだろうか?

 

 閑話休題。

 

 行く手を阻む壁は全て俺達が壊し、最奥に控えるジムリーダークレナイを残す形となった。

 どこかアスナを彷彿とさせる赤い髪を持つ女性の元へダイゴは辿り着く。黒いTシャツに短パンだけという凄い格好の上、熱気でTシャツが肌にぺっとりと張り付きボディラインが分かりやすくなっているが、ダイゴは疲労でそれ所では無いらしい。

 

「やぁ、体調は平気かな? チャレンジャーダイゴ」

 

「皆それ聞いてきますね……。大丈夫ですよ」

 

「一応ポケモンリーグ公認でジムの運営をやっていてね、バトルと関係ない所で脱落者を出す訳には行かないのさ」

 

 微妙に皆が優しいのは良心の呵責も少なからずあったのだろう。

 クレナイが咳払いを一つ零し、纏う雰囲気を一変させる。

 

「残る私を倒せば晴れてフエンジム突破だ。さぁ、手合わせ願おうか」

 

 そう言ってクレナイはキュウコンを繰り出した。

 

「――私に希望を見せてくれ」

 

 相対するクレナイは燃え上がるほど情熱的な笑みを浮かべ、ダイゴを迎え入れる。

 フエンジムはここからだ。

 

 




凄い悪役っぽい事言ってるけど若いトレーナーに大怪我負って欲しくないだけです。
おかしい、当初の予定ではフエンジム終わってる筈なんだが……。余計な話付けすぎたね。

ガラル地方
・「管理された自然」を持つ地方の中では最大の自然であるワイルドエリアを内包する地方。
・管理されたと銘打ってはいるが強力なポケモンがわんさかいるせいで世代交代のサイクルが異様に短く、もはや人の手を離れ蟲毒の様相を呈している。
・人間が通り過ぎるだけであればワイルドエリアの主達も特に干渉しないが、無遠慮に縄張りに踏み込んだ愚か者は繰り出されたポケモンごと捻じ伏せる。
・ワイルドエリアを作ったからこんな事になったとワイルドエリア廃止を声高に掲げる者もいるが、異常にレベルの高い主をどこに解放するかという話になると途端に声が小さくなる。(他地方に放流すればいいとのたまった者は袋叩きにされた)
・現状主が縄張りから出る気配が無く、未だに誰の手にも渡っていないという事実が死者を出す原因にもなっている。

ワイルドエリア魔境だよなぁという考えから膨らんだ独自要素。一応ダンデがチャンピオンになる前の想定だけど流石に考えてて修羅過ぎると思った。
まぁ無敗のチャンピオンなら何とかしてくれるでしょ(他人事)

感想くれたらとても嬉しい。


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苦手な相手でも頭を冷やし冷静に立ち回れ。

メガルカリオくっそ強くてびびった。ダイゴに持たせようかと思ったけどシロナが持ってるんよなぁ……。


 

 

 クレナイはキュウコンを、ダイゴはフォートを場に出しジム戦は始まった。

 フォートは既にほのおタイプの技に慣れたが、キュウコンは今までのドンメルやマグマッグ等より強力な炎技を扱う。油断は禁物だろう。

 

(それに、十中八九オーバーヒートを覚えているだろうしな)

 

 ゲーム時代ではジムリーダーのアスナが全てのポケモンに覚えさせていた技だ。使えば特攻が下がる為連射は出来ないが、諸に食らえば俺やフォートどころかココドラもただでは済まないだろう。

 

「キュウコン、にほんばれ」

 

「バレットパンチだ、フォート」

 

 先制してフォートが拳をキュウコンに叩き込まんと動くが、鋼の拳はキュウコンの尻尾に遮られ十全の威力を発揮する事は無かった。

 バレットパンチをやり過ごしたキュウコンは照明弾の様に眩しい火の玉を上空に打ち上げた。

 

 ポケモンが天候を変える手段は二つある。一つはポケモンの不思議な力で天候に干渉し雲などを操る方法、もう一つは技の効果を使って擬似的に理想の天候を作り出す方法だ。

 

 前者は特性のひでりやあめふらしが該当し、屋内戦では残念ながら無用の長物となるが、屋外戦であれば相手の天候に干渉する力が自分よりも弱ければずっとその天候を固定させられる。

 後者は技のにほんばれやあまごいが該当し、屋内戦でも使えるが相手が自分よりレベルが低くても天候が上書きされてしまう。持続時間が特性よりも短いのも欠点と言えるだろう。

 

 つらつらと違いを挙げ連ねたが、要は両方とも効果に変わりは無いという事だ。「ひざしがつよい」状態になったため、より一層炎技を警戒する必要が出た。

 

「手早く済ませようか、キュウコン。――おにび」

 

 キュウコンの周囲に浮かぶ仄暗い火種がメタングに命中し、瞬く間に蛇が這う様な火傷が全身に刻まれる。

 

「何?」

 

(――まずい)

 

 技の意図を測りかねるダイゴと、クレナイの狙いを悟った俺。

 すぐに俺と交代しろとボールを揺らすよりも早く、場は動いていく。

 

「フォート! しねんのずつき!」

 

「受け止めてやれ」

 

 念動力で加速したフォートの頭突きをキュウコンはまたも尻尾でいなしダメージを抑える。

 実の所、自分の身体を用いた技術と言うのはトレーナーのいるポケモンであれば大体一つは持っている。俺で言う所の大顎を用いた空中での姿勢制御などがそれに当たる。

 

 この技術と言うのは技とは違う為戦闘に然程影響しないが、それでもあるのと無いのとでは話が違う。

 今このように火傷で威力の落ちたフォートのしねんのずつきをダメージを抑えて受け止められるくらいには。

 

 ……そして、時間切れだ。

 

「やれ」

 

 クレナイの一言でフォートを九つの尻尾で絡め取ったキュウコンの眼が鋭さを持ち、光った。

 その睨みと同時にフォートの全身に走る火傷が大きく広がり、暗い炎を吹き出した。

 

 “たたりめ”

 

「なっ!?」

 

 しくじった。歯噛みしながら俺はそう思った。たたりめは威力60くらいのゴーストタイプの技だが、相手が状態異常に掛かっていると威力が倍増するという特徴がある。

 恐らく弱り目に祟り目から来ているのだろうが、受ける方としては堪った物ではない。ほのおタイプのジムがゴースト技を堂々と使うなど誰が予想できようか。

 

(やはり、知識不足がネックか……。ラムの実でも持たせておけば幾らか楽になっただろうが、オバヒからの追撃を警戒してフォートにはオボンの実を持たせてる)

 

 今もフォートは致命傷をリカバーしようとオボンの実を食べるが正直心許ない体力だ。安定択を取ったのが仇になったと言えよう。

 

「炎以外の警戒が薄いな。キュウコン、交代だ」

 

「――ッ! おいうち!」

 

 クレナイの元に戻るキュウコンへ最速で迫り、別れ際の一撃を与えるがやけどのせいで威力が落ち本来の火力は出なかった。

 

「ほう、ふむ。良い足掻きだ、ならばお前だ。――コータス、出ろ!」

 

「コォオオオオ!!」

 

 クレナイがボールを投げ、キュウコンの代わりにコータスを繰り出した。

 ――偽りの陽は、尚も戦場を照りつける。

 

 

 

 

 

 コータスはこのホウエンでも割と目にする機会の多いポケモンだ。冷え固まった溶岩の様な甲羅の頂点から煙を吹き出す様は極小の火山にも見えるだろう。

 そしてその外見に違わず、物理耐久がかなり高い。今のフォートでは有効打を与えられないくらいには。

 

 通常であればレベル差があるから構わず殴るという選択も取れたが、やけどを負っているという事実がダイゴの選択肢を狭める。

 

(どうする? 何が最善だ? バトルに一度だけならトレーナーからのアイテムを使えるが、生憎ラムの実を切らしている。状態異常を治す薬も持ち合わせが無い)

 

 いや、待て。であれば……。

 

 俺は思い切りボールを揺らし激しく自己主張した。

 

「……シルキー?」

 

 俺が代わろう、ダイゴ。ここでフォートを使い潰すべきじゃない。

 かと言ってココドラを出しても意味が無い、コータス相手であれば俺の方が被害は抑えられる筈だ。

 

「……分かった。戻れフォート!」

 

 束の間の逡巡の後、ダイゴは火傷を負ったフォートをボールに戻す。そのまま反対の手で俺のボールを掴み、投げた。

 

「頼む、シルキー!」

 

 投げられたボールは放物線を描き、俺をフィールドに放り出す。

 ――さぁ、出来る限りの手は尽くそうか。

 

「――クチッ」

 

 大顎を振り、中に仕舞っていた持ち物をダイゴに投げる。

 

「これ……」

 

「チッチ」

 

「ありがとう、シルキー」

 

 かいふくのくすり。

 状態異常を治し全回復させられるそれを、俺は持っていた。と言うか持たされていた。

 

(やっぱ幾ら俺が使えるとはいえこういうアイテムはダイゴが持ってるべきだな。代わりにラムの実でも探すか)

 

 これでフォートを戦線復帰させられる。俺の役割はまたフォートが再起不能になるのを防ぐ為にキュウコンを倒す事、なのだがその為にはコータスを突破しなくてはならない。

 出来ないことは無いがやり辛い事に変わりは無かった。

 

「――メガシンカ!」

 

 ダイゴの声と共に俺の首飾りに埋められたメガストーンが光り輝き、俺の周りを朱色の結晶が覆う。

 魔法少女とかそっち系の変身シーンを彷彿とさせるが、同時に幼虫が蛹に変成するような危うさも思わせる。姿を変えるという意味では似たような物かもしれないが。

 

 ものの数瞬でメガシンカは完了する。背が伸び、朱色に染まる一対の大顎が俺の意思で開閉するようになる。

 特性の変化により倍化した力が俺の全身を包み込んだ。

 

「ほう、ほぉ。ここで出るか。それにその姿……まぁ構うまい。来るといい、私がすべき事は誰が相手であろうと変わらない」

 

 クレナイの言葉を皮切りに止まっていた戦場が再び動き出す。

 一瞬だけ上空の光球を見上げるが、その体積はさして小さくなってはいなかった。まぁ向こうとしても晴れを終わらせたく無いだろうしさっさと続きをしたがるのも当然か。

 

「シルキー、つるぎのまい!」

 

「コータス、オーバーヒート」

 

「クチッ!?」

 

 いきなりかよッ!? 予想外の指示に思わず声を出してしまった。

 つるぎのまいから回避に転じ、膂力を上げながらオーバーヒートを避けようとする。

 

 だがコータスの口から放たれた巨大な業火が俺の身体を掠め、ただそれだけで大分HPを削られた。

 

(まぁ仕方無い、回避に専念すれば舞い切れなかったからな。にしたって熱い……)

 

 高火力の特殊炎技、足す事のタイプ一致と天候ボーナス、ついでに俺のメガシンカしても変わらない紙みたいな特殊耐久も合わさり恐ろしい火力になっていた。もしかしたら直撃すれば一撃で落ちていた可能性すらある。

 それだけは避けたかった。

 

 コータスの身体が熱を溜め込んだ様に赤熱化している、あれがゲームで言う所の特攻が二段階下がっているという事なのだろう。……むしろ強化されてそうに見えるのは気のせいか?

 

「はは、避けたか。なら畳み掛けろ、ふんえん」

 

「ふいうちだシルキー!」

 

 ダイゴの指示に従いフィールドを駆け抜ける。空気を溜め込むコータスからは急に何処かに行ったと錯覚した事だろう。まぁ今お前の頭上にいるんだがな?

 

 “ふいうち”

 

(――ッ、流石に硬いな)

 

 二つの大顎を一辺に叩きつけても帰ってくるのは嫌に硬い手応え。攻撃二倍でつるぎのまいまで積んだんだ、効いていない訳が無い。

 それでも俺が思っていたよりも与えたダメージは少なかった。

 

 そして攻撃を加えたという事は相手が攻撃する暇を与えたという事だ。

 

 コータスの背中から飛び退くのと同時に甲羅の穴や口から灰色の煙が勢い良く溢れ出す。それは瞬く間に周囲を埋め尽くし、俺の身体を灼いていく。

 

 “ふんえん”

 

 噴射口からの直撃こそ避けたものの今回ばかりはもろに食らってしまった。熱と痛みが全身を駆け巡るが、まだ動ける。

 

「かみくだく!」

 

「ほのおのうず」

 

 ふんえんを耐え、自ら離した距離を再び詰めて両の大顎でコータスに噛み付いた。二つの万力で締められるに等しいそれを受けて流石のコータスも苦悶の声を上げるが、それでも仕事はやり遂げる。

 コータスの口から吐き出された炎が竜巻の様に俺の周りを囲い込む。急激に上昇した気温に思わず咳き込んだ。

 

(……晴れ下でオバヒが掠って、二段階下降のふんえんが直撃、それにほのおのうずか。不味いな、まず間違いなく半分は切ってる……あれ、ほのおのうずって弱点補正入ったっけ? ダメだ、頭がクラクラしてきた)

 

「戻れ、コータス」

 

 炎に埋め尽くされる視界の中で辛うじてクレナイがコータスを戻す所が見えた。キュウコンか、まだ見ぬ新手か、どっちだ?

 

「あぁ、楽しいな。うん? どうした、そんな苦しげな顔をして。私以外にもそんな顔を見せるのか? いかんな、トレーナーは冷静で常に余裕を持つべきだ。そうだろう?」

 

 常に冷静たれ。私もそう思うが、クレナイが言うと何か悪役っぽいな。興奮するとスイッチ入るタイプの人か。……私? いや、俺だ。

 

「キュウコン、出ろ」

 

 ――来た。

 

 クレナイの声と共に再び場に現れた九尾の狐。キュウコンを最後まで温存されるのは嫌だったのでここで潰そう。

 

「おにびだ」

 

「かわしてかみくだく!」

 

 焦ってふいうちを選ばなかった事に感心しつつキュウコンの周りに浮かぶ火の玉が向かってくるのを一つ一つ避けていく。

 そもそもおにびはそこまで命中率の高い技じゃない。フォートの戦いを見て気付いたがそもそもの火の玉が小さいのと、操作性が悪いんだ。

 

 マジカルリーフの様にクソみたいな追尾性能を持っている訳じゃ無いなら少しでも大振りに避ければそれだけで凌ぎきれる。だからまぁ最悪は至近距離まで近付いて避ける事も出来ずに真正面からおにびを受ける事なんだが……。

 

 走る俺の周りに炎の渦が追従するが、構わず大顎を開きキュウコンへ向かう。

 キュウコンは自分の尻尾で防御の構えを取るが、無駄だ。

 

 左の大顎で前に固まっている複数本の尻尾に根こそぎ喰らいついて持ち上げる。驚いたような顔をするキュウコンの喉笛に残る右の大顎を噛みつかせ、地面に叩き付けた。

 

(軽いな、俺は火傷も負っちゃいないしつるぎのまいも使った。技ですらない小手先の技術で防げるほど、メガクチートの力は甘くない)

 

 まもるでも無ければみきりでもない。それで俺の攻撃を受け止めるのは不可能だ。

 その事にクレナイも気付いたのか、表情が変わった。

 

「キュウコン、にほんばれ!」

 

 そら来た、俺を倒すよりも早くキュウコンが倒れると悟ったのだろう。そんならとっとと片、付け……て?

 

 まず、意識……が――

 

 




まぁポケモンだって呼吸する奴もいる訳で、至近距離から炎燃えまくってたらそりゃ熱以外にも変化は出る訳で。

【種族】キュウコン
【性格】おっとり
【特性】もらいび
【レベル】28
【持ち物】無し

【技】
・にほんばれ
・おにび
・たたりめ
・オーバーヒート

クレナイの手持ち一体目。陰キャ型に見せかけたゴリゴリ火力型。子供相手にやる構築じゃないがダイゴなら平気だろう思ったなどと供述しており――

【種族】コータス
【性格】ずぶとい
【特性】しろいけむり
【レベル】28
【持ち物】無し

【技】
・オーバーヒート
・ふんえん
・ほのおのうず
・のしかかり

クレナイの手持ち二体目。ガチガチの要塞兼固定砲台。普通は即オバヒしないがあのクチートなら大丈夫だろうと思ったなどと供述しており――

っつーか全然話進まねぇ……戦闘描写丁寧にしようとした結果がこれだよ。フエンジム戦は次回で終わりになると思います。その後は、下山かな。


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広げすぎた風呂敷は畳むのに苦労する。

前回に次で終わりだっつってたのにまた文字数増えたらしいっすよコイツ。節操無しかよ。
今回と次の二話に分けて投稿します。次話は明日。


 

 

 唐突に、糸が切れるようにシルキーの全身から力が抜けた。

 

「シルキー!」

 

「――チッ」

 

 時間にしてほんの2、3秒程だろうか。極僅かな間でも、まず間違いなくシルキーは気絶していた。

 そしてそれだけの時間何も出来なければキュウコンを止める事など不可能であった。

 

 翳りゆく頭上の光球に新しく陽が灯るが、そんな事よりもシルキーをここまで追い込んでしまった事が途方も無く悔しかった。

 だが本当に、悔やむ時間は無い。相手は待ってはくれないのだ。

 

「キュウコン、たたりめ」

 

「――ッ、ふいうち!」

 

 フォートが大ダメージを受けた僕の知らない技。避けきれるか分からない為先手を取る。

 シルキーによる一撃でキュウコンは吹き飛ばされるが、それでもキュウコンはシルキーを睨みつけた。

 

 “たたりめ”

 

 見えない何かを受けたようにシルキーの身体が固まる。フォートの時の様に全身から炎が噴出したりはしなかった。

 

(何でだ、フォートの時と何が違う? 炎を操る技ならシルキーの周りのほのおのうずが反応しないのは? 今のシルキーとフォートで違うのは……やけど? まさかたたりめはやけど――状態異常に掛かっているとダメージが上がる技なのか?)

 

 それだ。だからシルキーはかいふくのくすりを僕に投げ渡したんだ。フォートのやけどを治すためというのは一緒だろうが、内実は大きく変わっていた。

 

「まだ動けるとはな、大した精神力だ。だがそれももう限界だろう」

 

 その言葉と共にシルキーの周囲で舞っていた炎の嵐が掻き消える。中には朱色の大顎が曇り全身から薄く熱気の昇るシルキーがいた。

 

「――ッ! かいふくの――」

 

 

 

「――クチィッ!」

 

 

 

 聞いた事のない声だった。それがシルキーの声と気付くのにほんの僅かに、時間が掛かった。

 シルキーは自分が相対するキュウコンに目もくれず、真っ直ぐにこちらを見ていた。

 

 ――鋭い目だった。今までの積み重ねを無為にする気かと責め立てる眼差しだった。

 

 ――優しい目だった。どうか自分を信じてくれと頼む真剣な眼差しだった。

 

 手に握り込んだかいふくのくすりを仕舞い直す。

 さっきまでの自分を全力でぶん殴りたい気分だった。ジムの熱気に頭が当てられていたと思いたいが、この弱さは僕自身の物だ。

 

(シルキーにばっか頼って情けないな、何よりフォート達を信頼していないに等しい事だったのが気に食わない)

 

 パン、と頬を叩く。もう大丈夫だ、頭の霧は晴れた。

 

「とどめだ。キュウコン、オーバーヒート」

 

「シルキー! ふいうちだ!」

 

 こちらを見ていたシルキーは既に前を向いている。僕の指示と共に戦場を疾駆し、キュウコンの元まで辿り着く。

 口内に高熱を溜めたキュウコンの懐に潜り込み、一対の大顎を勢い良くかち上げてキュウコンを上空に吹き飛ばした。

 致命傷を受けながらも上空から灼熱の業火を吐き出すキュウコンに、シルキーは避けも逃げもせず――飛び込んだ。

 

 オーバーヒートの中に飛び込んで通り抜け、シルキーはキュウコンの身体に大顎を喰いつかせて地面へと叩き付ける。

 

 “かみくだく”

 

 一足先にひんしになったキュウコンの後を追う様にシルキーは空中で目を閉じる。

 地面にぶつかるよりも前に僕はボールをシルキーに向けて引き寄せた。

 

「お疲れ、シルキー。後は――僕達に任せてくれ」

 

 ボールの中から、頼んだぞ。なんて声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 焦燥に歪んでいた少年の顔が最初に見た冷静なそれへと戻る。あの色違いのクチートはどうやら切っ掛けだったようだ。

 

 正直キュウコンであればあのクチートは倒しきれると思っていただけに意外だった、オーバーヒートに飛び込んで尚相討ちにまで持っていくとはな。

 

(柱が無くなってもダイゴが揺らぐ事は無かった、いや寧ろ無くなったからこそ決意を持ったのか。……大丈夫そうだな、この少年はフエンジムを突破出来る)

 

 だが、バッジを渡すかどうかはまた別問題だ。バトルはまだ終わってないのだからな。

 

「行け、コータス!」

 

「出番だ、ココドラ」

 

 光球が燦然と輝くフィールドにコータスが降り立った。そしてコータスに向き合うようにココドラが場に現れる。

 背中の甲殻が破断しててつのトゲの様になっているが、怪我を負っている訳では無いのはココドラの目を見れば分かる。戦闘開始だ。

 

「コータス、オーバーヒート」

 

「ココドラ、まもる!」

 

 開幕速攻。奇襲に等しいそれは、されど一度見せた手だ。冷静に防がれ、ダメージを与える事は敵わなかった。

 

「ほのおのうず」

 

「いわなだれで邪魔をしろ!」

 

 コータスが炎を溜め込むよりも前にココドラが足を踏み鳴らし、上空から大量の岩が出現しコータス目掛けて落下する。

 今から岩を避けられるほど素早くないコータスはもろに攻撃を受け、硬直する。

 

(チッ、怯んだか。運が悪いで済む話だが、いわなだれは不味い)

 

 効果抜群かつ比較的高火力の技だ、クチートとの一戦でコータスが消耗してる以上連発されればそれだけで落ちかねない。

 後あまり知られていない事だが、いわなだれ等の呼び出し型の技は射程の概念が無いに等しい。故に距離を離すだけではダメだ、畳み掛けて速攻で倒さなくては。

 

「コータス、ふんえん!」

 

「とっしんで避けろ!」

 

 コータスを中心に灰煙が広がっていくがココドラは瞬時に範囲外へと走る。少し消極的な判断に疑問を抱きダイゴを見れば、手に持っているモンスターボールの一つにかいふくのくすりを使おうとしていた。

 

(クチートは瀕死、となるとメタングか。また厄介な……)

 

 そんな事を考えながら私はコータスにほのおのうずを指示する。ここでココドラを残されても厄介だしな。

 

「ココドラ! いわなだれ!」

 

 炎に巻かれながらもココドラはコータスの頭上に多数の岩を呼び出した。

 その大体がフィールドに突き刺さりコータスの行動を阻害するに留まるが、それでも十分すぎる量の岩がコータスに直撃する。

 

「ゴォッ……!」

 

 岩の直撃に耐え切れなかったのか、コータスが苦悶の声を上げてそのままフィールドに倒れ付した。

 

 “急所に当たった!” 

 

「――ふはっ」

 

 私のコータスであれば後一回は確実に耐えられた。それが落ちたのは急所に当たったから、運が悪かったからだ。

 場の流れが変わったのを肌で感じ取る。自身の口角が釣りあがるのを抑えられそうにない。

 

 ――勝利の女神という奴は、随分とダイゴにご執心のようだ。

 

 

 

 

 

 ……突破出来た。ココドラが頑張ってくれたお陰で。

 

 風がこちらに向いているのを感じる。無論油断は禁物だが、それでもココドラは成し遂げてくれた。

 

「――ふはっ」

 

 クレナイが笑う。

 

「良いな、凄くいい。これでも随分大人気ない事をしている自覚はあるのだが、それを易々と突破するとは」

 

「……大人気ない事を堂々とするんですか」

 

「それを言われると辛いな、ポケモンリーグからある程度の裁量権は貰ってるがグレーゾーンだろうな。少なくともバッジ二個目のトレーナーにする戦法ではない」

 

 が。そう続けクレナイは、ほうと熱い息を吐く。

 

「楽しい、勝ちたい、本気で戦いたい。理由はそれだけで十分だと、私は思うがね」

 

「こっちは堪ったもんじゃないんですが……」

 

「埋め合わせはこの後させて貰うよ、流石に申し訳無いからな。……さぁ、行こうか、――マグカルゴ」

 

 そのポケモンが場に出ると同時に、気温が瞬時に何℃か上昇したような錯覚を受けた。

 溶岩の様な流体に包まれ、火山岩の殻を背負った巨大なカタツムリの様な姿を持つマグカルゴは、目の前のココドラを見て臨戦態勢を整えた。

 

「ココドラ、いわなだれ!」

 

「マグカルゴ、いわなだれ」

 

 同時に放たれる同じ技。しかしマグカルゴの放ったそれはココドラを狙った物ではなくフィールドに点々と落ち障害物の様に落ちた。

 

「はじけるほのおだ」

 

「まもる!」

 

 ほのおのうずを喰らっている以上まもるで防いでもジリ貧なのだが、咄嗟にまもるを指示して時間を稼ぐ。

 マグカルゴの身体から打ち上がった火の玉が放物線を描いてフィールドに残る岩にぶつかり、炸裂する。

 

(変な使い方を……!)

 

 このマグカルゴは自分のフィールドを作り戦闘を有利に進めるタイプだ、間違っても戦場を駆け巡るものじゃない。

 なら近付いて少しでもダメージを稼ぐ。至近距離でふんえんを受けるよりも碌に動けないまま遠距離からオーバーヒートを喰らう方が嫌だ。

 

「ココドラ、アイアンヘッド」

 

「ふんえんだ」

 

 そら来た。

 岩を避けながら突撃するココドラよりも数秒早くマグカルゴが灰煙を吐き出した。瞬く間に広がっていくそれは熱を帯びてココドラを包み込む。だがそれを意に介さないかのようにココドラは走り続け、マグカルゴの背負う殻へと自身の頭を叩き付けた。

 

 “アイアンヘッド”

 

 怯みはせずとも着々とダメージを重ねられている。

 

(コータスはほぼ無傷で突破出来たがほのおのうずがまだ残ってる、それに加えていわなだれとふんえんを喰らってる。効果抜群は無いにしてもそろそろ厳しいか……?)

 

 冷静にココドラの残HPを計算する。正直自分の想像以上にココドラは頑張ってくれた、相性差などもあるのだろうがきっとシルキーの姿がココドラに勇気を与えてくれたんだ。

 

「……ココドラ、いわなだれ!」

 

「これ以上させるか、はじけるほのお」

 

 上空から岩がマグカルゴ目掛けて降り注ぐのと同時に、ココドラに小さな火の玉が命中した。

 何度も見たそれはココドラの背中に当たり爆発する。その場から吹き飛ばされたココドラは俺の目の前で倒れた。

 

「良く頑張ったな、ココドラ。ありがとう」

 

「……コッコ」

 

 ココドラが力尽きると同時に、ジムの天井付近で輝いていた光球から溢れんばかりの光が掻き消えた。

 マグカルゴの技はいわなだれ、はじけるほのお、ふんえん、そしてオーバーヒートで間違いない。もうにほんばれは使えないぞ。

 

「大詰めだ、行け! フォート!」

 

「……タング!」

 

 一度は僕が不甲斐無いせいでボロボロにしてしまったが、シルキーやココドラがバトンを繋いでくれたお陰で再びフィールドに出る事が出来た。

 ここから先は通さない。残るフォートが、最後の砦だ。

 

 




くすんだ鋼に炎を注ぎ、焼いて叩けば強靭に。

【種族】マグカルゴ
【性格】れいせい
【特性】ほのおのからだ
【レベル】38
【持ち物】無し

【技】
・いわなだれ
・はじけるほのお
・ふんえん
・オーバーヒート

クレナイの最後の手持ち。そもそもジム用のレベルじゃない。こいつを出すのは相手がトウカジムを突破した、或いはそのレベルの強さを持つトレーナーのみ。
ダイゴは正直微妙な所なのでジムリーダーの判断だとしてもグレー。片っ端から蹴落とすのはチャンピオンロードの役目であってジムの目的は選別なのだから。

感想くれたらとても嬉しい。


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勝利の女神は運命力の高い方に微笑んだ。

昨日一話投稿してるんで見てない人は見てね。多分皆見てると思うけど。



 光球は墜ち、ほのおタイプのポケモンの勢いは止められた。

 

「逆境、だな。それでこそ燃えるというものだ、上空にはじけるほのお!」

 

「バレットパンチで掻い潜れ!」

 

 マグカルゴの放つはじけるほのおが放物線を描き、空中で炸裂し火の粉を広範囲に散布するがフォートは弾丸の様な速度でマグカルゴの前まで辿り着き、その拳をマグカルゴに突き立てた。

 

 “バレットパンチ”

 

「ふんえん」

 

「メタルクロー!」

 

 マグカルゴと付かず離れずの位置を保ちながらフォートは鋼鉄の爪でマグカルゴの殻を引き裂いていく。

 灰煙がフォートを包み込んでも怯む事無く攻撃を加え続ける姿は鬼神もかくやといった有様だった。

 

「更にふんえん! フィールドを覆い隠せ!」

 

「ッ! 警戒を絶やすな、フォート!」

 

 噴出される煙の量は加速度的に増えていき、すぐに辺り一帯を包み込むほどに膨れ上がった。

 

(不味い、どこから攻撃が来るかが見えない)

 

 だがこれだけの煙幕を張ったのならしたい事も見えてくる。マグカルゴはそこまで早いポケモンではないため位置を誤魔化して技を連発するという方法はしないだろう。

 じゃあ何を隠したいのか? 恐らくはタイミングだ。

 

 最大火力を奇襲に等しい形で叩き込む。相手の狙いはそれだ。ではその最大火力は何か。

 

(何度も見てきただろう。オーバーヒートに決まってる)

 

 クレナイは勝負を決めに来た。この攻撃を凌げばフォートは勝てる。

 なら僕のすべき事はタイミングを見極める事だ。

 

「マグカルゴ、――やれ!」

 

「か――」

 

 わせ、と言いかけて止める。……音が微妙に違う。これは、はじけるほのおだ。

 

「受け止めろ!」

 

 咄嗟に指示を出した。

 

「受ければ体勢を崩すぞ? 悪手だったな。――トドメだ、オーバーヒート!」

 

 パァン、という何かが弾ける音と共に立ち込める煙の一部が晴れる。そこには左腕ではじけるほのおを受け止めたフォートの姿があった。

 はじけるほのおの反動で左腕は弾かれたが、まだフォートは完全に体勢を崩した訳じゃ無い!

 

「右に避けろ、フォート!」

 

 マグカルゴの姿が見えた訳じゃ無い、ただの勘で指示を出し――直後にそれが正しかったと悟る。

 

 “オーバーヒート”

 

 フィールドの大部分が超高温の炎によって焼かれ、灰煙の殆どが掻き消えた。オーバーヒートを撃ち、殻を赤熱化させたマグカルゴもまた姿を現した。

 

「決めろ! しねんのずつき!」

 

「――メッタァア!!」

 

 焼けた左腕をそのままに、念力を纏ったフォートがマグカルゴに突撃する。

 既に技を撃ち尽くしたマグカルゴは避ける事も防ぐ事も出来ず――

 

 “しねんのずつき”

 

 ――マグカルゴは、地に伏した。

 

「私の負け、だな。あぁ、完敗だ」

 

「……よっしゃぁあああ―――!!!」

 

 僕は、僕達は、クレナイに勝利した。

 

 

 

 

 

「――クチッ」

 

 唐突に目が覚めた。視界の先には知らない天井。

 

(何か前もあったなこの件……。ここは何処だ)

 

 いや待て、何となくフエンタウンで泊まってた宿の一室に似てるような?

 

「クチチ……クゥ?」

 

 パニックになりそうになる直前で直近の記憶が全て蘇る。

 俺達はフエンジムに挑んで、ジムトレーナーを蹴散らし、そしてジムリーダーのクレナイに挑んで――

 

(そうか、負けたんだ。俺は)

 

 コータスをボコボコにして、キュウコンをぶっ倒して、それで相打ち。我ながらかなり暴れたと思う反面、もう少し巧くやれただろうと反省すべき点もある。

 悔しい、自分の力が及ばなかったと真正面から突きつけられて逃げ出したくならない者はいないだろう。

 

 だがそれでも俺は敗北を受け入れる。みっともなく泣きじゃくると言った真似は絶対にしない。

 少なくとも、隣でダイゴが寝ている今だけは。

 

(一緒の布団で寝てる……俺が目を覚ますのを待ってて面倒くさくなってそのまま寝た、とかそういう感じかね?)

 

 ダイゴは俺が瀕死になった後どうしたのだろうか。めげずに戦って、あわよくば勝ってくれたら嬉しい。

 もし負けてたら、まぁその時はその時だ。ゴリゴリレベリングして上からぶん殴ってやればいい。あんまりしたくないけどな。

 

 そりゃ強くなるのは第一だけど、強くなるならダイゴも含めて皆でだ。俺達だけレベルを上げてたら意味が無い、チャンピオンダイゴとしての力が弱くなるのは何よりも避けたい事だった。

 

(まぁ今更っちゃ今更だが……お?)

 

「……ん、しるきー?」

 

 我らがダイゴがお目覚めになられた。調子はどうかな?

 

「おはよう、シルキー。――勝ってきたよ」

 

 それは良かった。

 

「皆のお陰で、勝てた。……ありがとう」

 

 うん、役に立てたのなら良かったよ本当に。頑張ったな。

 ダイゴの背中をポンポンと叩いてやる。それはそうとしてここは何処なのだろうか。

 疑問を浮かべると同時に部屋の向こうから足音が聞こえる。

 

「お客さん、起きましたか?」

 

「あぁ、シルキーも目を覚ました。大丈夫だ」

 

 それなら、という声と共に襖が開けられ、一人の少女が入ってきた。

 燃えるような紅い髪を後ろで束ね、ダイゴも着ていた和服っぽい何かを着ている少女はカラカラと小気味良く笑った。

 

(アスナだ……)

 

 想像していたより幾分か幼いが、クレナイに似たその姿は紛れも無く未来のジムリーダーアスナだった。

 そのアスナが仲居の様な格好をしているという事は、ここはクレナイの経営している宿か? というか宿経営してたんだな。

 

「ここは私の、というか私の旦那の経営してる温泉宿だ。一先ず一泊二日で入れたから宿泊日数を追加したければ旦那に言ってくれると助かる」

 

 アスナの後ろからクレナイが顔を出し、そうダイゴに告げる。とりあえずの疑問は氷解した。

 

「しかし、本当に良いのか通常の値段で? こっちとしては詫びも兼ねて幾らか割り引いても良かったのだが」

 

「予約無しで泊めてくれるだけありがたいですよ、これ以上は流石に貰いすぎです」

 

「だが……」

 

「ほら、お客さんもそう言ってるんだから良いじゃないお母さん。半額どころか無料にしようとしてたってお父さんにバレたらまた怒られるよ?」

 

「それは困るが」

 

 三人の話し合いに耳を傾けながら体の調子を確かめる。

 体力は全回復してるがあれだけ炎を浴びたのだ、ココドラの様にどこか変形していてもおかしくない。……あ、大顎の歯が欠けてら。

 

「ふむ、ではこうしよう。宿泊期間中、私の手が空いている時に稽古をつけようか。これなら問題なかろう? アスナ」

 

「まぁ、良いと思うよ。それよりお客さま、昼食は如何しましょう?」

 

「あぁ、頂けると嬉しいよ」

 

 ダイゴが俺の方を見て続ける。

 

「勿論皆の分も一緒にね」

 

 

 

 

 

 豪勢な昼食を皆で食べた後、シルキーはフォート達と共に中庭へ向かった。

 俺も行こうかと立ち上がりかけ、クレナイがそれを押し留める。

 

「フエンタウンを出た後は何処に向かう予定だ?」

 

「え? ……色々な場所で石を探しながらえんとつ山をぐるっと回ってとりあえずハジツゲタウンまで行こうかと」

 

 それなら平気か……? と呟くクレナイは意を決したように告げる。

 

「砂漠にはあまり足を踏み入れるなよ、あそこは今魔境になっている」

 

 聞く所によると砂漠では今二匹の主が縄張り争いをしているらしい。森や草原と違い、マーキングで付けた匂いは砂と共に流れ去り境界線が曖昧になる為、小競り合い程度の衝突は日常茶飯事の様だ。

 

「普段と砂漠の様子が違ったから深部で何かあったのかもしれない、何事も無ければいいのだが……。まぁとは言え砂漠の奥にまで足を踏み入れなければ良いだけの事、すぐに逃げれば縄張り争いに巻き込まれるなど万に一つも無かろうよ」

 

 ……ハハハと笑うクレナイの言葉で嫌な予感が五割り増し位に膨れ上がったが、それはそれとして。

 

「どのみち主を相手に逃げられる程度には強くならないといけない、か。稽古をつけて貰っても構いませんか?」

 

「あぁ、私も研鑽を重ねなければいけなくなったからな。……そうだ、アスナも参加させるか。どうせ私の跡を継ぐのはアスナだろうしな、よしそうしよう」

 

 ジム戦をしている時は気付かなかったが、どうやらクレナイは若干暴走列車の気がある様だった。

 その後クレナイとアスナも交えて幾度か模擬戦を行ったが、勝率は六割程度と微妙な数字になった。

 

 しかし、そうか。……砂漠か。

 砂漠には化石が眠っているという話もあった様な気がする。

 

 ――行ってみるか。

 

 




フエンジム、完! もう二度とここまで描写細かくしねぇ。
戦闘描写になるとやりたい事がどんどん増えて文字数嵩むから苦手なんですよね……、もっとスマートな戦闘を書きたい。

リザルト
シルキー:かいふくのくすりをダイゴに返却、コータスを六割削る、キュウコンと相討ち。
ココドラ:コータス撃破、マグカルゴを四割削る。
フォート:キュウコンを二割削る、マグカルゴ撃破。

割合は大体こんなもんかなと適当に考えてるけどココドラもかなり頑張った。もうちょい出番増やしても良かった気がするけどまぁそのうちどっかで活躍するでしょ(他人事)

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朽ちぬ探究心は財宝と破滅を引き寄せる。

何か急にランキング乗ったので投稿。
やっぱ最後にはメガクチートが使いやすいと感じる今日この頃。


 

 事の発端はフエンジムを突破し、クレナイからバッジを貰うと共に自身が経営する温泉宿の宿泊を勧められた所まで遡る。

 

 

 

 

 

 一先ず頑張ってくれたシルキー達を回復させるためにポケモンセンターへ向かい、三つのモンスターボールをお姉さんに預けておく。

 回復までの少しばかりの待ち時間をどう潰そうかと悩んでいる内に、懐のスマホが着信音を鳴らした。表示された名前は……ムクゲ。

 

「父さん? ……もしもし」

 

『ダイゴ、私だ』

 

 何の用かという疑問を一旦隅に置き、通話に出ると予想通りの硬い声が帰って来た。

 

「どうしたの急に?」

 

『いや何、今どこにいるのか気になってな』

 

 父にしては珍しい要領を得ない言葉に首を傾げる。

 

「今はフエンタウンだね、ついさっきフエンジムを突破したばかりだよ」

 

『凄いな、思っていたよりもハイペースだ。無理はしてないだろうな?』

 

「うん、シルキー達が頑張ってくれたお陰でね。僕ももっと強くならないと。……それで、どうしたの?」

 

『あぁ、ダイゴに頼みたい事があってな』

 

 近況報告から本題へと移る。引き伸ばしもせず切り替えられるのはムクゲの強みだろう。

 

『フエンタウンにいるのなら話は早い、砂漠に行って化石を取ってきてくれないか?』

 

「化石?」

 

 鸚鵡返しに聞き返す。ムクゲの欲求は僕の想像を超えていた。

 

『デボンコーポレーションの提携企業が化石研究所を持っていてな、古代のポケモンの復元実験に化石が欲しいと言っているんだ』

 

「……大まかな経緯は分かったけど、砂漠に化石は無いんじゃないか? あそこには骨格を押し固める地層も無いし古代のポケモンの骨があったとしても既に風化してる」

 

『実はな、つい最近砂漠の近辺で遺跡が見つかった。化石研究所はそこに化石が眠っていると考えているらしい』

 

「あー……、研究員に頼めば良いのに話を僕に持ってきたのはその為か。化石収集と共に遺跡の情報収集も頼みたい、と」

 

『そうだ。研究員では不可能と、逆に言えばダイゴなら可能だと判断した。だが……、先程の発言を翻すようだがお前の安全が第一だ。このホウエンでも危険度の高い砂漠に、お前を行かせる必要は無いからな。一週間で答えを考えてくれ』

 

 手のひらを返すような言葉だが、ムクゲはあれで父親らしさを常に意識している人だ。今の発言を鑑みて危険地帯に息子を送り出すに等しいと思い直したのかもしれない。

 その不器用な優しさが、僕は好きだった。ムクゲが父らしくしようとするのなら、僕も息子らしくあろう。

 

「……父さん、もし父さんなら、危険だと分かったら行かない?」

 

『……いや、私であれば行く。どれだけ危険でもそこに希少価値の高い石があるのであれば取りに行く。そして無事に帰ってくる』

 

「僕もだよ。知ってると思うけど、僕の石好きは父さん譲りだからな。――行くよ、完璧にこなして来るさ」

 

『……ありがとう、ダイゴ』

 

 カエルの子はカエル、とはちょっと違うかもしれないけど、僕も父さんも石に関しては危険など承知の上で行動する。

 自分の足で見つけて初めて手に入れた石に充足感を得るのだから。遺跡に眠る化石、何とも心躍る響きじゃないか。

 

(まぁシルキーと初めて会った時はその好奇心のせいで死にかけたけど)

 

 あの時に関してはそのお陰でシルキーと会えたのでノーカンである。

 

 

 

 

 

 とまぁこんな具合で、砂漠には最初から興味を持っていた。

 クレナイに釘を打たれようともその決意は変わらない。

 

「という訳で砂漠に行こうと思う」

 

「……チィ」

 

 温泉宿で一泊した後、部屋でのんびりしているシルキー達に向けてそう言った。

 ココドラとフォートは何も言わず頷き、シルキーだけは胡乱気な目をこちらに向けてきたが特に拒絶はしなかった。

 

 出来る事ならずっとフエンタウンにいたいが、僕達の当初の目的を考えるとそれは不可能で、とっとと先に進むべきである。

 区切りを付ける為にも父の願いを聞いてあげようと思う。

 

「お客様がお帰りですよー」

 

 アスナの案内でこの温泉宿の窓口まで歩く。僕とそう歳の離れていないこの少女は何が琴線に触れたのかクレナイとの模擬戦後しきりに話しかけてくるようになり、スマホの連絡先一覧に彼女の名前が加わった。

 連絡先を交換する際のやけに生暖かいシルキーの眼差しが印象的だった。

 

「またいらしてくださーい!」

 

 滞りなく会計は終了し、アスナに見送られながら温泉宿を後にした。

 この温泉宿はジムリーダーとその夫が経営しているという特別感から名が広まっており、トレーナーやブリーダー、ポケモン自身に対するサービスが豊富に揃っておりフエンタウンでも屈指の人気を誇っている。

 

(予約ありきでもまた来るのは難しそうかな……)

 

 まぁ生きていればそのうち来る事もあるだろう。そんな事を考えながら僕達は下山した。

 

 登山がロープウェイなら下山もロープウェイ、という訳では特に無く、老人に配慮して段差は殆ど無いにしても徒歩で移動する必要があった。

 そもそもがえんとつ山の麓にあるから言うほど移動距離は無いけどな。

 

 さて、以前と違い砂漠に入る事を目的としている以上今の様なラフな格好で入るのは自殺行為に等しい。

 割と有名な話だが、砂漠などに向かう際は薄着で風通しを良くするよりも帽子や重ね着などで極力日光を遮った方が体力を消耗しなくて済む。

 

(こんな事もあろうかとバッグに着替えを詰め込んでて助かった)

 

 キンセツシティやフエンタウンで買い足した事が功を奏した形になった。

 

「ここが砂漠、か」

 

 視界一杯に広がる砂の海、木々や草花など一つも生えていないのに大自然の力強さを肌で感じ取れるほどの雄大な光景だった。

 

「シルキー、フォート、ココドラ、ここからは皆で行こう」

 

 僕の手持ちを全て解放し、砂漠を進む。

 陽の光を遮る物が無く、熱砂が足を絡め取るがこの程度では止まらない。フエンジムで嫌と言うほど経験したからな。

 

 

 

 

 

 砂漠を歩いて行くとサンドやサボネアの姿が見えたが、迂回して対処する。

 別に戦ってもいいのだがあまり時間を掛けてはいられないとダイゴは判断した様だった。俺もそれには同意するので何も言わずダイゴについて行った。

 

「岩が増えてきたな……」

 

 ダイゴの言葉通り、先程まで砂の海と言っていいほどきめ細やかな砂ばかりであったのに、今は点々と小さな石が辺りに転がっており荒野に似た雰囲気を醸し出していた。

 

(ここら辺とかちょっと大きい石がゴロゴロあるな、これとか)

 

「……イー」

 

「クチッ!」

 

 無作為に持ち上げた石は擬態したイシズマイだった。そっと元あった場所に戻す。

 しかしあれだな、他地方のポケモンであるイシズマイがいるって事は割と奥まで進んできたのかね。

 

 海外から輸入されたポケモンは船で運ばれた後何処からか逃げ出した、或いは逃がされたポケモンは各地に散って大自然の生態系に溶け込んでいく。

 ただ、あまりに凶暴だったり元々あった生態系を破壊しかねないポケモンは、そのフィールドにいた主に狩られていくのが殆どだそうで。

 

(まぁ何世代か経てば性格の違いも出てくるし、主もそれは止めないらしいけど)

 

 主はそのフィールドの王にして管理者にして抑止力だと、旅館に置いてある本で見た。あくまで家を荒らされたくないだけだから思ってるより仕事はしてないとも書いてあったが。

 それはそれとして。

 

 地層の事はあまり知らないが、柔らかい砂から硬い砂が多くなってきた所から徐々に人工物と思しき石材が転がり始めた。

 遠目に見た限り、小さめの石はイシズマイの家に、大きい石材はイワパレスの家になっているが、ダイゴが言うには何か祭壇か祠に使われていた物の様に見えるらしい。

 

「その割には石像や石柱が一つも転がっていないのが気になるが……全部風化した? それならあの石材が残ってる理由は……」

 

 久しく出ていなかったダイゴの研究者としての一面が独り言という形で噴出する。

 石像や石柱、か。確かに様々なポケモンシリーズで石を積み重ねただけという人工物は殆ど無かった。遺跡やら祭壇には石柱や石像が大量に配置されていた。

 主な所で言えばシンオウの山頂に造られた祭壇や、イッシュの砂漠に沈む遺跡などが挙げられるだろう。

 

 そういう所から考えれば、装飾の類が一切無いのは……製作者が異常に少なかったか、或いはそれを怖れたが故に装飾を作る余裕が無いままに封印したかのどちらかだと思う。

 自分でもガバガバな推論だと自覚はしているが、メタ的な視点で考えると後者の可能性が高いように思えてならない。

 

 ホウエン地方、砂漠の深部、謎の人工物。……どうにも脳裏にあるポケモンの姿が過ぎる。

 

「――あれが、そうか」

 

 先頭で立ち尽くすダイゴの視線を追って、悪い予感は当たるのだと知った。

 

 砂漠にぽつんと、されど存在感を放つ小山ほどの岩窟と、それを等間隔で取り囲む六つの尖った岩。それは役目を終えた物の墓場にして、かつて恐れ、怖れ、畏れられていたモノの集積場。

 封印されたポケモン、レジロックの眠る場所だった。

 

 

 

 

 

(そうか、ここで見つかるのか)

 

 砂漠遺跡、小島の横穴、古代塚。それが準伝説クラスのポケモンの眠る場所だ。ゲームでは割と道中にあった為にこの世界でも存在は知られているかと思っていたが、どれだけ本を読んでもその三箇所の記述は見つからず。

 であれば何処にあるのかと考えていたが、何てことは無い、ただ常人では辿り着けない場所にあったのだ。

 

 ダイゴとフォート達と共に砂漠遺跡の前に立つ。入口は開いていなかったという事は、おふれの石室にはまだ誰も辿り着いていないという事だろう。

 ……いや、まぁ各地の遺跡の鍵が深海を通った先にあるとか誰も思わんだろうが。そう考えると悪の組織連中の手に渡らないから安全な方だな。他の地方の準伝説はレジ連中に比べると管理が杜撰だな、シンオウの三精霊とかがっつり掘り起こされてたし。

 

 目当ての物を見つけたダイゴがテンションを上げて近辺の調査を開始したのを見て、俺達はダイゴの後を付いて行く。

 

 ――アアアアアアアァァァァァ……。

 

「……クチッ?」

 

 その時、耳に何やら歌声の様な音が聞こえた。

 気のせいかとダイゴの方に向き直るが、その歌声は徐々にこちらに近付いてくる。

 

 嫌な予感がする。すぐにでもここから離れねばならないと直感が囁く。

 

「……チィ――」

 

 ダイゴに伝えるべきか否か、その一瞬の逡巡で、――天秤は傾いた。

 

 開きかけた口を閉じて、生存本能に従いダイゴを巻き込むように前転する。

 直後、全身の体力を奪わんとする灼熱の風が吹き荒れ、遥か上空から砂漠へ向けて何かが追突した。

 

「――ット!?」

 

 爆風、轟音、舞う砂煙、揺らめく陽炎。いち早く体勢を立て直した俺は、誰よりも先に全てが収まった場所にいたそれと目を合わせた。

 

 両目を覆う赤いカバーに、蜥蜴を思わせる鋭いフォルム。そして本来の物と比べ異常なまでに、それこそ太陽の光すら透けそうな程に薄い翼と尻尾を持つその竜は、俺達を認識すると剃刀の様な両の翼を震わせた。

 

 ――ァァァァァァァアアアアアアアアア!!!!!!!

 

 歌声と思っていたものは、その竜の――フライゴンの羽ばたきであった。

 フライゴンは中空に留まる事無く地面に四足を降ろし、狼の様な低い姿勢でこちらを威嚇する。

 

 ……仮に分岐点というものがあるのなら、ダイゴ達は目当ての物を見つけた時点ですぐにここから離れるべきであった。

 この遺跡のある場所が既に何らかのポケモンの縄張りであると想定しなかった為に、ダイゴ達は致命的なまでに選択を誤った。

 

 呼吸すら侭ならない程の重圧を放ちながら、フライゴンは咆哮する。

 

「フゥ、ラァアアアアアアア!!!!!」

 

 

 “さばくのぬしがあらわれた!”

 

 




砂漠の主
・フライゴン、主その1、子沢山な皆の父さん。
・ワルビアル、主その2、子分達が大量にいる。
・イワパレス、主その3、居住可能な移動要塞。

・―――――、主その4、単騎で他三匹と渡り合う。
・大体フライゴンとワルビアルが砂漠で縄張り争いを繰り広げ、イワパレスがそれに巻き込まれているが、最近になってあるポケモンが割り込んできて争いが泥沼化している。

ぶっちゃけて言うと砂漠の主は海の主の次に強いものとして考えているので三匹全員とんでもないご都合主義を抱えております。具体的に言うと特性とか……。四匹目に関してはマジでやべー奴だし。一応意味の無い強化という訳では無いですけどね。
フライゴンの詳細はまた次回。

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砂塵の精霊、陽炎に揺らめいて。

こっちのふいうちを変化技とか交代で透かされると台パンしたくなる。やっぱメガクチ運用するならトリルが安牌だな。


 

 フライゴンというのは、数あるドラゴンタイプの中でも異質な存在であった。

 大体のドラゴンタイプに共通するように三段階進化するポケモンで、フライゴンはその最終進化系だ。

 

 では進化前はどうか? フライゴンの幼体であるナックラーはドラゴンタイプを持たず、ビブラーバに進化して初めてドラゴンタイプが追加される。

 三段階進化で似た様な事例はキングドラ系列のタッツーなどが挙げられるが、それらと共通するのは幼体は特別強い訳では無いという事だ。

 

 途中からドラゴンタイプを獲得した者と、幼い頃からドラゴンタイプを持っていた者。最終進化まで行った時、より強くなるのは後者の方だ。

 元より竜であるから強い。故にフライゴンよりもガブリアスの方が強い。

 

 さて、ここまで語り、何が言いたいのか。……異常なのだ、砂漠の主にガブリアスではなくフライゴンが君臨している事が。

 

 確かにフライゴンは砂漠の精霊と揶揄されるポケモンだ、生態からして砂漠での活動に特化している。

 だが、それは砂鮫と言われるガブリアスとて同じ事。同条件であれば、ガブリアスがフライゴンに勝てない道理は無い。

 

 ――本来であれば。

 

 幾度と無く覇権争いが繰り広げられ、しかしガブリアスは一度も土俵に登れてすらいない。

 であるならば、砂漠の主に君臨するフライゴンは産まれながらの力の差を容易に覆す程の力を持っているに違いないのだ。

 

 畏れよ、しかして恐れる勿れ。今目の前に降り立ったドラゴンは、二分化されて尚広大な砂漠を統べる王の一人なのだから。

 

 油断や萎縮は、己の喉笛を食い千切られる隙と知れ。

 

 

 

 

 

 一瞬の空白。

 

 直後、真っ先に動いたのは――

 

「ッ! シルキー、メガシンカ!」

 

 ――ダイゴであった。

 開幕速攻のメガシンカ。持ちうる手を出し渋れば即座に負けるという鮮烈なイメージがダイゴの脳裏に刻まれた。

 

 そこで恐怖に竦む事無く動けたのは、今までの旅路の経験故か。いずれにせよ、ダイゴは最悪手だけは免れた。

 シルキーの持つキーストーンが光り輝き、朱色の繭に包まれる。

 

「――フッ」

 

 シルキーが繭を破るまでの数瞬の隙を狙い、フライゴンが翼を震わせる。

 

「ココドラ、まもる! フォートはバレットパンチ!」

 

 フォートが高速でフライゴンに近付き、その拳を振るう。

 

 “バレットパンチ”

 

 だが、フライゴンはその攻撃に何の痛痒も見せず、攻撃に移った。

 振るわれた翼からは尋常でない熱量の豪風が吹き荒れる。

 

 “ねっぷう”

 

 “まもる”

 

 メガシンカに移行中のシルキーの前でココドラが障壁を展開し、熱風を遮る事で何とか初撃を凌ぐ事は出来た。

 ココドラが身を挺して庇ってくれたおかげでシルキーは朱色の繭を引き裂いて一対の大顎を持つ姿へと変化した。

 

 同時にフライゴンの側にいたフォートが尻尾を打ち付けられてダイゴの方まで吹き飛ばされる。

 ここまで、たったの五秒の出来事であった。かつてない程目まぐるしく変化する戦況に、ダイゴは早々に結論を出した。

 

 ――今の僕達では確実に勝てない。

 

 これよりダイゴの意識は迎撃戦から撤退戦へとシフトした。

 

 

 

 

 

 不味いな、メガシンカする為に殻を纏っててあまり見えなかったが、あのフライゴン俺がメガシンカする一瞬の隙を突いて攻撃しようとしたよな?

 始めて見る物に対する対応力が異様に高い。思い切りが良いと言い換えてもいいだろう。

 

「クッチィ!」

 

 フォートを後方に下げ、代わりに俺が最前線に出る。

 

「アイツには今の俺達じゃ勝てない! 撤退戦を念頭に――」

 

 ――ァァァァアアアアア!!

 

「――ふいうち!」

 

 フライゴンの羽ばたきで砂が巻き上がる。再びねっぷうを放とうとするのを悟り、ダイゴの指示を受けて砂漠を駆ける。

 二つの大顎を振るいフライゴンの視界外から強襲を仕掛け――

 

 ――攻撃が外れる。

 

(……は?)

 

 一瞬の思考停止、それを突くように真横からねっぷうが叩き付けられる。

 衝撃に備える時間すら与えられないままに吹き飛ばされるが、俺の思考は別の所に向いていた。

 

(さっきふいうちを打った時、フライゴンは避けたり受け流したりといった回避行動は取らなかった。ただそこにいたのに俺の攻撃が当たらなかった)

 

 明らかにフライゴンのいなかった方向からねっぷうが飛んできたのも不可解だ。絶対に何らかのからくりがある。

 そう考えながら空中で姿勢制御を行い砂漠に着地する。

 

「――ッチ」

 

 鋼鉄製の牙が生えた大顎が融けそうな程に熱を持っている。ぶんぶんと振り回し、両方の大顎から息を吐き出して排熱する途中で、ココドラが動く。

 

「ココドラ、やれ!」

 

 “いわなだれ”

 

 ココドラが空から多数の岩を呼び出しフライゴン目掛けて落としていくが、全てが避けられていく。みきりの様な技を使っている訳じゃ無い、純粋に速いのだろう。

 そして、岩を避ける姿を注視して漸く、フライゴンの違和感に気付けた。

 

 ココドラのいわなだれを避ける際、僅かに身体が揺らいだ。輪郭がぶれたと言い換えても良い、まるで陽炎の様に。

 

(フエンタウンに行く前に出会った時、あの時からヒントはあったんだ。このフライゴンは陽炎を自在に作り出せる)

 

 あの時、ナックラーを迎えに来たとき姿が見えなかったのは、陽炎で自分の姿を隠していたからだ。それはつまり姿を完全に隠した状態から俺達を奇襲する事も出来たという事。

 自分の位置を誤認させ、攻撃を避け続ける特性。……まずいな。

 

 ――勝てないな、こりゃ。

 

 そもそも特性の発動条件すら分からないんじゃ対策の打ち様もない、隙を見て逃げる方が良いだろう。

 この結論に一足早く辿り着いたダイゴの成長を嬉しく思いつつ、再度前線に出る。

 

 見えないのなら戦い方を変えて喰らい付こう、流石に音までは誤魔化せないだろうしな?

 

 

 

 

 

 一度冷静になれば、ポケモンのこの身体は戦闘に順応してくれる。

 俺から見てフライゴンは本気で俺達を排除しようとする素振りを見せていない。本気を出す前に倒してしまえるという自負か、そもそも積極的に殺す気が無いのか、何れにせよ逃げるのならば一度フライゴンの猛攻を緩めなければならない。

 

「ココドラ、いわなだれ! フォートは岩を砕いて飛ばせ! シルキーは――好きに動いて良い!」

 

 任せとけ。

 

 集中力や時間の問題で基本的にトレーナーが一度に指示できるポケモンは二体までだ。それ以上になると指示が追いつかなくなり、戦線が崩壊する。シングル、ダブルはあってもトリプルバトルが無いのはそういう理由からだ。まぁイッシュ地方辺りまで行くと擬似的なトリプルバトルをするようなやべー奴もいるが。

 ココドラとフォートを満足に動かし切る為に、ダイゴは俺を動かす事を止めた。自分の好きに動けと、任された。

 

 決して思考放棄ではない、その方が生き残る確率が高いと信頼されての事だった。

 

 ――アアアアアァァァァ……。

 

 音がする。フライゴンの異質な羽ばたき、本物がそこにいるという証明だ。

 音は、風は、真っ直ぐにこちらに来る。俺を吹き飛ばす気なのだろう。

 

 “かみくだく”

 

 ならば真っ向から受け止めてみようと二つの大顎を構え――

 

 

 自身の大顎が斬り飛ばされる死の予感がした。

 

 

 “つるぎのまい”

 

 瞬時に技を取り消し、剣舞でフライゴンの直線上から回避した。フライゴンは高速で滑空しながらバレルロールを行い、その直線上にあったココドラの降らした岩が真っ二つに切断された。

 

(……なるほど、その羽は飾りじゃあない訳だ)

 

 長時間ホバリングし続ける厚い翼を捨て、剃刀の様に極限まで薄くした羽。流石にガラス細工の様に脆いとまでは思っていなかったが、まさかここまでとは。

 そして気付いた。相手の隙を窺い意識の空白を突くふいうちと、自身の姿をずらして自分は広い視野を保ち続けるフライゴンとでは致命的に相性が悪い。俺の強さの半分くらい削られてしまうが、……それならそれで打つ手を考え直そうか。

 

「フォートはしねんのずつき! ココドラは直線上にいわなだれ!」

 

 ダイゴは避ける位置を限定させて空間として擬似的に可視化する作戦に出たようだ。なら俺は更に相手の選択肢を潰そうか。

 輪郭を歪ませながらいわなだれを左に回避したフライゴンの上空に跳び、飛んで逃げるのを防ぐ。

 

 “かみくだく”

 

 “しねんのずつき”

 

 前方と上空からの同時攻撃を前にして、フライゴンは一瞬だけ俺を見て――

 

 ――フォートの方に突撃した。

 

 “とんぼがえり”

 

 自身の身体を乱回転させて翼と尻尾を振り回し、フォートに大ダメージを与えると共にフォートを足蹴にして上空にいる俺の方に飛び、真下の砂漠へと叩き落とした。

 

 たった一つの行動で全てを引っくり返したフライゴンがとんぼがえりの勢いをそのままに上空へと翔ける。

 場の重圧が、膨れ上がる。

 

「――ッ! フォート!」

 

 ダイゴが体勢を崩したフォートを下げようとするよりも早く、

 

 竜が宙に身を躍らせた。

 

 

 ――ァァァァァァアアアアアアアアアアアア!!!!!!!

 

 

 歌声が響く。今までと比べ物にならないほどに永く、大きく、高らかに。

 それはまるで流星のようで。

 

 “ドラゴンダイブ”

 

 盛大な爆発音と共に、砂漠の一角に砂煙と陽炎が昇りフォートを中心に巨大なクレーターが出来上がるのを俺は止められなかった。

 

 

 

 

 

 戦闘不能の四文字が脳裏を過ぎる。

 

 あまりにもあっけない展開に足が竦む。

 もし、もしもあのドラゴンダイブを俺が受けたら、無事でいられただろうか。いや、分かってる、フェアリータイプにドラゴン技は効きはしない。これは絶対だ。

 ……その筈だ。自分でも言い切れない程の威力があのドラゴンダイブにはあった。

 

 そしてフライゴンは、次はお前だとでも言うようにこちらを見る。最悪壊滅すらありえるかと考え、

 

 ――遠方から巨大な岩石が飛来する。

 

 それを機敏に察知したフライゴンは、この戦闘で初めて大きく回避する。それはあの巨大な岩石がフライゴンの本体を捕捉した事に他ならず。

 

 ――ナァァァァ……。

 

 直後、この戦場に似つかわしくない間延びした声が聞こえた。……? この鳴き声、何処かで……。

 

「――ラァイィィ……」

 

 フライゴンが苛立たしげに声を上げる。怒りと、少しの焦燥に支配されたフライゴンの視界には、最早俺達の姿など写っていなかった。

 

「フゥラァアアアアア!!」

 

 “ねっぷう”

 

 ゴウ、とフライゴンが羽ばたき、何度か受けた灼熱を辺りに撒き散らしながら飛び立った。

 視界が砂と風で阻まれ、回復する頃にはフライゴンの姿は影も形もありはしなかった。

 

(見逃された、のか?)

 

 一瞬聞こえたあの声はナックラーの鳴き声だ。自分の子に危険が迫ったからそれを優先した、という事だろうか。

 それはつまり先程までフライゴンは遊んでいた、という事で。

 

「……クッチィ」

 

 ドッと疲れたような感覚を味わいながら、メガシンカを解除する。妙な気疲れを起こしながら俺とココドラはフォートの元に走るダイゴの後に続くのだった。

 

「お疲れ、フォート。無理させてごめんな、やっぱり早く逃げればよかったな」

 

 まぁ仕方あるまいて。あれに背中を見せたいとはとてもじゃないが思えない。

 当初の目的を達成できなかったのは残念だが……ん?

 

「チィ、クチチ?」

 

「ん、あぁ、これかい?」

 

 ダイゴの手には妙な模様の入った石が握られていた。その模様は何かの生物の骨のようにも見え、まぁ有体に言えば化石だった。

 

「さっき岩が飛んできただろ? それが遺跡に当たって外壁が少し剥がれてな、そこに化石が転がってた。あの岩何だったんだろう、ストーンエッジか?」

 

(いや、多分あれはがんせきほうじゃねぇかな)

 

 がんせきほう、岩タイプのギガインパクトの様な技でありながら異常なまでに覚えるポケモンが少ないという妙な技だ。

 覚えるポケモンは、ドサイドンとイワパレスの二種類のみ。どちらにしてもあのフライゴンを精確に射抜く技量を持っているポケモンと会いたくは無いな。

 

「――チィ?」

 

 バサバサという羽ばたきが聞こえた。音からしてあのフライゴンでは無いだろうが、もう今日はこれ以上戦いたくないんだが。

 などと考えていると遠くから一匹のエアームドが飛んできて、近くに降り立った。

 

「アーッム」

 

「コッコ?」

 

 驚くべき事に最初にコンタクトを取ったのはココドラだった。何やら感じ入るものがあったのかは知らないが、一先ず敵ではないという事でいいのだろうか。

 

「これは良い、このエアームドに先導してもらって砂漠を抜けられないかな」

 

 ダイゴはダイゴで警戒心の欠片もない。……はがね使いの直感か?

 何にせよ、今日は激動の一日だった。暫くフエンタウンには行かないが温泉にでも浸かりたい気分だった。

 

 




実はこのぽっと出のエアームドかなり仕事してたりする。
今回の戦闘でフライゴンが受けたダメージは初撃のフォートによるバレットパンチのみです。フエンジム以来の全部戦闘回だったけどフライゴンのヤバさを伝えきれたかちょっと心配。

【種族】フライゴン
【性格】ゆうかん
【特性】うすばかげろう
【レベル】75
【持ち物】なし

【技】
・ねっぷう
・とんぼがえり
・じしん
・ドラゴンダイブ

「うすばかげろう」
・場が「ひざしがつよい」状態で発動する。
・特性発動中、自身に対する全ての技の命中率が0.8倍となる。
・特性発動中、場でほのおタイプの技が使用された際、自身の回避率が一段階上昇する。
・天候の有無に関係なく自身の全ての接触技の威力が1.2倍に上昇する。
・天候が変化した場合特性が無効化され自身の回避率及び自身に対する命中率が元に戻る。

ふゆうする為の翼を捨て、用無しとなった己の翼と尻尾の先端を薄く、剃刀の様に磨き上げた異常個体。
その為戦闘スタイルが地面に四足を付けて蜥蜴の様に移動するスタイルとなっている。
別に飛べないと言う訳ではなく、高所からの滑空やねっぷうによる揚力を掴む事ならむしろ普通のフライゴンより得意。
天候による制限を受けるがマジでクソみたいな特性を持っており、未経験、経験済みに拘らずとんでもない運ゲーを相手に押し付ける。
何気に「自身に対する全ての技の命中率が0.8倍となる」がイカレてる。そこまでしないと勝てない相手がいる訳だが……。
ちなみにフライゴンは一切気付いていないが、実は特性かたやぶりで完封出来たりする。

まぁこんな感じのやベー奴が後二、三体控えております。正直これを基準に話を書くと世界観がドラゴンボールになるので暫く自重したいと思います。ここまでヤバイのは砂漠と海だけだから安心してね!

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閑話 ある砂漠の日常、陽炎の主。

アンケで閑話欲しいという意見が多かったので書きました。一先ずはフライゴン編。

閑話故にいつもと比べて文字数が少ないです。御容赦くだされ。
(あと他作品と若干展開が被ってる気がしないでもないけどよくある展開だし御容赦くだされ)


 

 

 私は人間が嫌いだ。

 

 自己の利益の為なら躊躇いの欠片も無く他者を食い潰すから。

 そんな人間の下で生まれた私も、嫌いで仕方が無かった。

 

 

 

 

 

 ホウエン地方の砂漠の半分を統べる、フライゴンの王は少々疲れ気味に溜息を吐いた。

 自分の頭を悩ませる存在が、かつて苦汁を飲まされた人間とついでに自分の息子だと分かれば溜息を吐きたくもなろうものだった。

 

 幼少期、この砂漠で一匹のナックラーと出会い共に生きてきた。死にたくない、死なせたくない一心で強くなり、共にビブラーバへと進化した。

 自分がおかしいと気付いたのはすぐの事だった。

 妻と異なり長時間飛べない。そもそも何故か翼が薄い。羽ばたき一回するごとに自分の輪郭がぼやけていく。そして、同時に進化した筈の妻と比べて桁外れに強い自分の力。

 

 すぐに気付いた。これは本来得られた筈の物を捨て去って、更なる力を手に入れた結果なのだと。妻も愛想を尽かすのではと思ったが、特に離れていくなんて事は無かったのが救いだろうか。

 それからはこの力を家族の為に振るった。自分の妻や子供達を狙う忌々しい者共を追い払う為に使い続けた。

 

 我が子をエサにしようとするメグロコやワルビアル共は念入りに潰した。自身の縄張りに入り、あまつさえ妻に手を掛けようとした人間は背後から切り刻んだ。

 恐ろしい事など何も無かった。当然だ、恐れを振り払うためにこの力を得たのだから。

 

 ――そんなある日、一匹のナックラーが産まれた。

 

 妻とこさえた我が子は沢山いるが、誰もが妻の血を濃く引いているのか自分と同じ様な力に目覚める事は無かった。それどころか異常なこの力を恐れている節さえ感じられた。

 一匹のナックラーを除いて。

 

 そのナックラーは吐く息がやけに熱く、呼吸する度に僅かではあるが輪郭がぶれているように感じられた。

 

(私と同じ力を持つ子だ)

 

 すぐに分かった。この子なら、自分と渡り合える。この子なら、自分を超えていける。砂漠の主として、誰にも奪われない力を手にすると、そう思った。

 のだが。

 

 まぁ異常なまでに活発的だこと。

 

 自分も同じ力を持っているからか父である自分に恐れを抱かないのは良いにしても、恐怖心をタマゴの中に置いてきたのではと思うような行動ばかりであった。

 

 兄弟姉妹と喧嘩は日常茶飯事、食料調達に出かける妻の尻尾にしれっと噛み付き妻が気付くまで空中遊泳を続けたり、砂漠の入口辺りまで歩いて人間に飯を集りに行ったり、ふと目を離せばメグロコ共に転がされているのに鳴き声一つ上げないどころか何故か楽しそうにしてたり、駄目だって言ってるのに遺跡を掘り起こそうとしたり、最近やって来た妙に強い新参者に喧嘩を売りに行こうとしたり。

 終いには縄張りに入り込んだ人間と三匹のポケモンを叩き返そうとしたらノコノコ付いて来た上にエアームドに攫われて適当な所に投げられるし……。

 

 滑空は得意だが、やはりと言うか長距離飛行に関してはひこうタイプの足下にも及ばない。これは流石にどうしようもない。生まれながらの物であるし、そもそも自分は大空を捨てた身である。

 だからスタミナが尽きる前に撃ち落とそうとした直後にエアームドは我が子を砂漠に落とした。急降下し、荷物を置いて、急上昇し、Uターン。流石に瞬きもの間にあれほどの曲芸飛行をされては追いかける事も出来なかった。そして我が子は殺されるかもしれなかったのに終始楽しそうに笑っていたのだった。

 

 全てのケースにおいて自分が回収しに行くのにどれだけの労力を掛けるのかあいつは分かっているのだろうか? 分かってないんだろうな。だから繰り返すんだろうな、あいつはな。

 妻はあの子を自分に良く似ていると笑うが、流石にあれほど縦横無尽、自由奔放が似合う子が私似だとは思いたくは無かった。

 

 砂漠の主たるフライゴンの王は、上手く行かない育児に頭を悩ませていた。

 

 

 

 

 

 私は、あるトレーナーの下で生まれた。

 最初に見たのはフライゴンの姿ではなく、無機質な目をした人間と煌々と燃えるシャンデラの姿。

 

 周囲には私と同じ様な生まれたてのナックラーが並んでいて、人間は私の前でこう言った。

 

「お前は要らない」

 

 私は逃げ出した。

 人間が怖くなって、そこにいればどうにかなってしまいそうで。だから私は決死の思いで走り続けた。

 

 シャンデラの蒼い焔が恐ろしかった。容易く処分という言葉を使うあの人間が怖ろしかった。背後から届く他のナックラー達の声に恐怖した。

 何をすればあの恐ろしい人間から逃げ切れる? どうすれば私は安らぎを手に出来る?

 

 考えて、考えて、考えて。やがて答えを持った。自分が持っている物を捨てて、代わりに今の自分では届かないような力を手に入れよう。

 余りに荒唐無稽であるが故にその答えを私は心の奥底に仕舞いこんで、蓋をした。

 

 やがて野生のポケモンから逃げ惑っている内に砂漠に辿り着き、私は一匹の同族に恋をして。とっくの昔に蓋をしたその願望は、進化と共に溢れ出た。

 

 生まれた場所を捨て、沢山の兄弟達を捨て、翼を捨て、大空を捨てた。

 それでも私にはまだ、失いたくないものがある。妻が、我が子が、この砂漠が。

 

 何もかも捨てて得たこの力は未だ衰える事を知らない。

 

 きっとあの人間が今も生きているからだ。人間が私達の安らぎを脅かそうとしているからだ。

 そんな事はさせない。もっと力がいる。私一人では足りない。もっと多くの、砂漠を守れるような力がいる。その為には、あの子には私以上に強くなって貰わなくては……。

 

 私は人間が嫌いだ。

 

 何もかも捨て去って自分だけの物を手に入れたと嘯く癖に、自分の為だけに何も知らぬ子供に力を求めるその姿が、己の力を継ぐ子供を求め続ける私と重なって見えてしまうから。

 

 私は、私が嫌いだ。

 

 




人の悪い面を見て恐怖しその悪意から身を守る為に人と同じ事をしていると自己嫌悪に浸る一匹のフライゴンのお話。
こいつに関しては本編で大体書きたい事を書いてるというのもある。

異常個体:“薄羽陽炎”
・最初にその存在が観測されたのは111番道路。
・観測当時は羽が紙の様に薄いビブラーバがいるという事で進化時に問題が起こった個体と思われていた。
・ポケモンリーグ所属者が確認し、接触を図ろうとするも近くにいた通常個体のビブラーバと共に威嚇され、接触は困難とされた。
・後に砂漠の奥地で羽と尻尾の先端が異常に薄いフライゴンと通常個体のフライゴンが発見され、その能力の特異性から異常個体に認定された。
・ジムリーダー、ジムトレーナー、及び全てのポケモントレーナー、ポケモンレンジャーは接触を控えたし。
・ポケモンリーグ異常個体観測部門部長より通達。

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閑話 ある砂漠の日常、要塞の主。

前話がちょっと短かったので間髪いれずにイワパレス編。
ついでに伏線回。いつにも増してご都合主義だらけ故、回収し切れるかは不安。


 僕は人間が好きだ。

 

 幼い頃に僕を連れて世界を旅した男がいた。まるで訪れる未来を見てきたかのように語ってくれた色々な話は、とても輝かしく思えた。

 人には悪い所もあるのだと男は言っていたが、そんな男の元にいたからだろうか。どうしても人間を嫌いにはなれなかった。

 

 

 

 

 

 ホウエン地方の砂漠を歩いて回る、イワパレスの王は自分に付いて回っていた彼の旅立ちに思いを馳せていた。

 命を救ってくれたという恩だけで自分に付き従っていた彼もしたい事を見つけたのだと思うと自分の事の様に喜ばしく思えた。

 

 一番最初に彼を見つけたのは何時だっただろうか。

 

 そうだ、何時もの様に砂漠で遊ぶイシズマイ達に自分が背負う塔を掃除して貰っていた時の事だった。

 突然目の前に傷だらけで今にもひんしになりそうなエアームドが墜落してきたのだった。

 

 助けを求める者には手を差し伸べよ、かつて自分を捕まえたトレーナーの話だった。そのトレーナーを好ましく思っていた自分はそのエアームドを助ける事にしたのだった。

 

 乾燥させた木の実をエアームドに食べさせ、消毒液は持っていないので流水で傷口を洗う。墜落したのがきめ細やかな砂で溢れる砂漠だったから良かったものの、荒野の様な硬い砂漠にでも墜ちていれば、いや、そもそも自分の前に墜落しなければそのまま死んでいたかもしれない。

 ポケモンが持つ再生力も相まって、献身的に処置を施した半日後には喋れる所までエアームドは回復していた。

 

 エアームドが言うには逃げてきたらしい。自分達の住処から。

 ある日、エアームドの群れが住む山をとあるポケモンが襲来した。立ち向かう者は皆喰われ、逃げようとした者は皆墜とされた。

 老体も、幼体も、雄も、雌も、その悉くが襲来したポケモンの前に没した。襲来から僅か一時間の出来事であったと言う。

 

 目の前のエアームドはその群れの唯一の生き残りで、必死に隠れて他のエアームドの群れに助けを求めに行こうとしたらしい。

 だが、いざ飛び立った所でそのポケモンはエアームドを撃ち落とそうと攻撃を放った。助けを求める余裕は無いと判断し、ひこうタイプとしての強みを最大限に生かしてそのポケモンを振り切り、砂漠まで逃げてきたと、エアームドは語った。

 

(襲撃者はひこうタイプを持っていない?)

 

 かつてのマスターから聞いた事がある。様々なタイプを持つポケモンはそれ自体が長所の一つであり、ひこうタイプ以外のポケモンはひこうタイプ程上手くは飛べないらしい。

 つまり襲撃者はひこうタイプを持っていないにも拘らず、複数のエアームドを相手に食事を行い、逃げに徹するエアームドを撃ち落とし、短時間で殲滅せしめたという事である。

 

 あまり考えたくはない事だな。それからエアームドは襲撃者と会いたくないからと自分に付いて行くことを決めた。

 今まで生きてきた環境から変わって生き辛いだろうとは思ったが、それ以上にエアームドがいるお陰で得られた利益があった。

 

 そもそも自分の戦闘スタイルは防御を固めて超遠距離から狙撃を得意とする物だ。その為に単なる岩ではなく自ら作り出した塔を背負っているのだ。

 射程距離はその日の調子によってまちまちだが、まぁ大体視界の範囲内であれば届くから……この平坦な砂漠であれば1キロメートルは届くだろうか? まぁそれは安定した命中率を犠牲にした数値に過ぎないが、エアームドのお陰でそれも変わった。

 

 上空を飛び、対象の座標を精確に把握し、風の動きも読める目と頭の良さのお陰で自分の迫撃は命中率が向上した。恐らくエアームドはするどいめを持っているのだろう、砂煙や蜃気楼程度では決して揺らがない瞳を。

 この砂漠でやけに大きい的を背負っているからか、フライゴンとワルビアルの小競り合いに頻繁に巻き込まれる身としてはエアームドの存在はかなりありがたかった。

 

 砂漠にあのポケモンが現れるまでは。

 

 その日はやけに自分の目の調子が良かった。それ故に自分は誰よりも早くそれに気が付いた。

 遠くの荒地でメグロコが屯しているのを横目に眺めつつ何時もの様に砂漠を渡り、――砂漠の一角が消滅した。

 

 何が起きたか呆然とする前に己の背負う塔に閉じこもれたのは奇跡だろう。

 塔の隙間からそっと様子を伺い、砂漠の中心でメグロコを貪り食らうそれを見た。

 

 それは正しく暴虐の嵐と呼ぶに相応しい者だった。腕の一振りで無防備なメグロコが千切れ飛ぶ。

 

 あれは、自分たちとは違う場所にいる存在だった。

 

 それは正気を失った獣と呼ぶに相応しい物だった。その目に知性を宿さずただ本能のままに動く。

 

 あれは、自分たちとは違う場所にいる存在だった。

 

 配下のメグロコを殺された事で姿を現したワルビアルの王に視線を向けたそれを尻目に、自分は気付かれぬようにその場を去った。

 今回ばかりは巻き込まれるのは御免であった。

 

 

 

 

 

 あれが襲撃者なのだろうと予想はしていたから、エアームドがこの砂漠を離れたいと言い出したのに驚く事はしなかった。きっと自分を喰いに来たんだ、取り逃した獲物を殺すために砂漠まで追いかけて来たんだとエアームドは怖がっていたが、……はてさて、あの獣にもはやそれだけの思考能力が残っているかどうか。

 ともあれ逃げたいというのなら止めはしない。新天地の目処が立つまでは面倒を見てあげよう、そう思ってエアームドを連れて砂漠を巡り、

 

 ――そこで運命を見た。

 

 砂漠遺跡の傍らで、人間嫌いのフライゴンの王を相手にまだ生きている人間。興味を引かれた。人間は好きだったから。

 何より、エアームドが見た事も無いようなキラキラした目をしていたから。

 

 だから手頃なタイミングまで待った。

 何時もの様にエアームドに空を飛んでもらい、距離を、座標を、風向を教えてもらう。爪で砂漠を掴んで微調整を重ね、背中の塔から超硬度に圧縮した岩の塊を射出する。

 

 “がんせきほう”

 

 それは過たずフライゴンの王の身体を捉え、しかし直前で察知したのか大きく身を翻して回避した。

 行き場を失ったがんせきほうが砂漠遺跡に直撃するが、かつてのマスターの言葉が本当ならばあの程度で壊れはしないだろう。

 

 それに自分はエアームドの旅立ちの手助けをしただけだ。

 

 こちらに注意を向けたフライゴンを人間から離す為に、何故か近くにいたナックラーをエアームドは足で掴んで高々と掲げた。

 すぐに空中でのドッグファイトに移行したエアームドを見やり、背中の塔を背負い直してその場を後にした。

 

 あれならエアームドは無事にあの人間と合流できるだろう。恩は十分返してくれた、お前はもう自分のしたい事をするといい。

 

 己の子に等しかったエアームドの門出を祝おうか。

 

 

 

 

 

 僕は、イッシュ地方であるトレーナーに捕まえられた。

 彼は人間基準で言うなら子供である筈なのに、その目にはやけに知性と理性が宿っているように見えた。

 

 それからマスターと僕は旅をして、やがてイシズマイだった僕はイワパレスへと進化した時から、マスターはしきりに「主人公は何時来るんだろう」と呟いた。

 何を疑問に思っているのか分からなくて、僕はマスターに聞いてみた。

 

 彼は「まぁお前ならいいか」と色々な話をしてくれた。

 

 イッシュ地方を救う少年少女の物語。それは今までに聞いた事の無いお話で、刺激的で、感動的だった。

 何よりも、まるで見てきたかのように語るマスターの目がとても好きだった。

 

 最後には決まって「これは本当になるかもしれないお話だ」という言葉で終わった。僕はその話の主人公に会ってみたかった。

 そう懇願するとマスターは驚いたような顔をして、「そうだな、会いに行きたいな」と笑った。

 

 色んな地方を旅して回った。カントーを、ジョウトを、ホウエンを、シンオウを、カロスを、アローラを。

 

 あらゆる場所を巡り、僕達は強くなった。あらゆる景色を見て、美しいものを知った。

 そして、全ての地方でマスターからワクワクするような物語を聞いた。各地に眠る恐ろしい伝説のポケモンの話を聞いた。

 少年少女たちの輝かしい英雄譚に心を躍らせた。それ故に残念だった、全ての地方において主人公は生まれてすらいないのだと知って。

 

「なぁイワパレス、どうやら俺の語った物語は未来に起こる話らしい」

 

 ある日の夜、僕の背負う岩に乗って星を見上げるマスターはそう言った。

 

「俺は伝説の、英雄譚の見届け人になるんだって思ってたけど、タイミングが合わなかったな」

 

 笑うしかねぇなと言って笑ったマスターの声に湿り気が混じるのを、僕は聞かなかった事にした。

 

「……なぁ、今まで話した物語の殆どが、人間と人間の争いだったろ? お前は人間をどう思う、醜いか?」

 

 少し考えて、首を横に振る。

 

「じゃあ、綺麗か?」

 

 少し考えて、首を横に振る。

 

「そうだ、人間ってのは醜いだけじゃない、綺麗なだけじゃない。お前たちポケモンと同じ様に喜怒哀楽、色んな感情を持ってる。ただ人間は、少しばかり感情の振れ幅が大きいだけなんだ」

 

 どうか人間に失望しないでくれ、イワパレス。きっとお前が目を輝かせるような物語が、未来に待ってるから。

 

 その言葉は僕にとって大切なものだった。天寿を全うして尚、マスターは僕の心の支えだった。

 だから僕は棺を作った。少しでも高い所から色んな景色を見れる様に。

 

 僕は人間が好きだ。

 

 マスターは僕に善意を教えてくれた。あの包み込むような優しさが大好きで、自分の子や他のポケモン達にもかつてのマスターと同じ様な接し方をした。そして今、エアームドは羽ばたき、美しいものを見せてくれた。

 

 僕は、マスターが好きだ。

 

 




人には悪い面と良い面の両方がある事を知り善意には善意を返す事を学んだ砂漠を徘徊する一匹のイワパレスのお話。
かつてのマスターは主人公にはなり得なかったが、それでも相棒の心には輝かしい記憶が刻まれた。

【種族】イワパレス
【性格】ずぶとい
【特性】ふらくようさい
【レベル】75
【持ち物】空のモンスターボール

【技】
・てっぺき
・シザークロス
・がんせきほう
・はかいこうせん

「ふらくようさい」
・場が「ひざしがつよい」または「すなあらし」状態で発動する。
・特性発動中、自身の防御力の実数値が二倍になる。
・特性発動中、自身の技の反動を無効化する。(自傷ダメージや次のターン行動不能など)
・天候の有無に関係なくねむり、こおり、メロメロなどの行動不能になる状態異常を無効化する。
・天候が変化した場合特性が無効化され自身の防御力及び自身の技の反動無効が元に戻る。

正直こいつもこいつでトンデモです。晴れでも砂でも輝ける上にちからもちの防御版という物理受け特化型。フライゴンもワルビアルも物理しか持ってないので死ににくさで言えば砂漠でもダントツです。
あとイワパレスがフライゴンの陽炎を突破してがんせきほうブッパ出来た理由ですが、エアームドの特性するどいめが原因です。観測手エアームドと砲撃手イワパレスの連携は、正しく不落要塞と呼ばれるに相応しいコンビでした。

異常個体:“不落要塞”
・最初にその存在が観測されたのは111番道路。
・通常種の様に立方体に切り出した岩を背負うのではなく、石製の塔を背負っている特異な個体だった。
・ポケモンリーグ所属者が交戦を開始するとイワパレスの石塔及びイワパレス本体が異常な硬度を獲得した。
・遠距離からエスパーポケモンの力を借りて石塔を解析した所、がんせきほうの様に超硬度に圧縮されたものだという事が分かり、内部に人間の骨格が一緒に固められている事が分かった。
・その後何らかの手段で解析者を察知したイワパレスは、石塔の先端を傾け、明らかに届かない筈の解析者の元まで迫撃砲の様にがんせきほうを連射した。
・異常な防御力と射程距離、連射性能から異常個体に認定された。異常個体名を“石棺要塞”に決定。前述の要項削除を要請する。イワパレスの背負う石塔の内部情報の公開は余計な混乱を招くと思われる。異常個体名を“不落要塞”に変更されたし。
・ジムリーダー、ジムトレーナー、及び全てのポケモントレーナー、ポケモンレンジャーは敵意を持っての接触を控えたし。
・ポケモンリーグ異常個体観測部門部長より通達。

感想くれたらとても嬉しい。


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閑話 ある砂漠の日常、黒曜の主。

砂漠編最後の閑話になるワルビアル編。
そろそろ本編に戻りたいので四体目の主の閑話は全カットになります。
が、まぁ今回の話で殆ど予想は出来るのでは無いでしょうか。


 俺は人間の事なんざどうでもいいと思ってる。

 

 だってそうだろう? 近寄ってくる羽虫なんぞ少しの苛立ちこそ覚えても一時間後にはすっかり忘れてる。

 弱い奴らの事を何時までも覚えてはいられない。逃げるなら放って、立ち向かうなら潰す。ただそれだけだ。

 

 

 

 

 

 ホウエン地方の砂漠の半分を手中に収めるワルビアルの王は退屈しているとでも言いたげに欠伸をした。

 今日こそいつも自分を苛立たせるあのフライゴンを叩き潰して砂漠の唯一の王になる、と言う気分にはなれなかった。

 

 砂漠故に常に砂が流動し、縄張りが曖昧になる事で子分達が例のフライゴンの子供へとちょっかいをかけに行くという何時もの流れも今日は無かった。

 

 あまりにする事が無かったので、何時もと違う今日について考える。はて、今日は何か特別な日だっただろうか。

 最近ワルビアルへと進化した自分の息子に心当たりは無いかと聞くが、特に思い当たる節は無いとの事。

 

 記憶に無いのなら、これは本能による物だ。今日何か良からぬ事が起こる。

 

(……見回りにでも出るか)

 

 些か面倒ではあったが、それ以上の面倒事――例えばフライゴンとイワパレスが結託して強襲を仕掛けるなど――を未然に防ぐと考えれば動こうという気分にはなった。

 子分を数匹連れて、塒にしていた穴倉を後にした。

 

 ふと、何とはなしに己の腕を見る。

 他のワルビアルの様な細い腕ではなく、焦げ付いた砂の色に染まった大きな腕。子供の頃から血で血を洗う……とまでは行かないにしても毎日の様に殺し合いをして得た力だ。この腕だけは俺を裏切らない。

 自慢の黒腕はワルビアルへと進化し砂漠に住む全ての同族を傘下に加えても決して衰える事は無く、砂漠の統一のための大きな力になると思っていた。

 

 だが、それが淡い夢だと知ったのはこれからすぐ後の事だった。

 

 ――血の匂い。嗅ぎ慣れた匂いだ。

 

 同族の血と臓物の匂い。喰った喰われたは自然の連鎖だが、それは同時に己の縄張りを荒らしているという事に他ならない。

 子分と共にその場へと向かい、自分の眼にそれが写った。

 

 自分の両腕の様に輝く様な黒では無い、むしろ逆の、光を飲み込むような黒。

 正気など無いかのように爛々と光る目に、恐ろしく歪な翼。良く目を凝らせば全身に多大な傷を抱えている事が分かった。

 

 己の子分の血を啜り肉を食らうそれを見て、自分は普遍的ながらもまるで獣の様に思えた。

 

 故に苛立ちを覚えた。ここまで虚仮にされて黙っていられるものか。どこぞより流れた新参者だろうが、恥も外聞も無く自分の子分を貪る浅ましさを許した覚えは無い。

 連れてきた子分に技を使わせる。

 

 “すなあらし”

 

 辺り一帯を砂塵が覆い、照り付ける日光を遮った。ちらりと遠くで塔を背負うイワパレスが居た気がしたが、気のせいと判断し目の前の獣に向き直る。

 砂を纏う事で己の一対の黒腕が限界までその膂力を上昇させる。この感覚は砂鰐故の物なのだろうな。

 

 天候が変化して漸くこちらに気付いた獣に向けて、右腕を振るう。

 

 “ばかぢから”

 

 キュゴッ、という奇怪な音と共に、砂漠の表層が弾け飛ぶ。己の腕は砂塵を纏う事でより広範囲に技を広げる。それは何処まで行ってもただの拳でしかない筈のばかぢからとて同じ事。

 同じ力で、ただその技の及ぶ範囲だけが格段に上昇する。すなあらし下での自分の攻撃は、どこぞのフライゴン以外は避ける事すら叶わない。

 

 筈だった。

 

「……ザザザザァァァ」

 

 何かが軋んだ様な鳴き声は己の左から聞こえた。

 ――避けられた?

 

 沸騰する様な苛立ちが沸き起こり、すぐさま冷水を浴びせたように冷静な思考を取り戻す。

 

「ビィアッ!」

 

 “すなじごく”

 

 “ストーンエッジ”

 

 “がんせきふうじ”

 

 子分達に遠距離技をとにかく撃たせる。全部避けられるだろうがそれならそれでいい。

 出来る限り技を撃たせ続け、自分は砂漠の中に身を潜める。

 

(あれだけ腹が減っていたんだ、群れたワルビルは格好のエサだろうよ。――今)

 

 ドッ、と何かが砂漠に押し付けられる音がした。一匹餌食に掛かったらしい。好都合だった。

 

 “あなをほる”

 

 押し倒されたワルビルの下からその獣へと襲いかかった。

 地雷が爆発したような衝撃は上に重なる砂を吹き飛ばし、まるで砂で出来た間欠泉の様に相手の動きを阻害する。

 

 獣の首を掴んで砂漠へと叩きつける。間髪をいれずに次の攻撃へと移ろうとして、

 

「ザザザザザ」

 

 目が合った。

 

 “ばかぢから”

 

 “りゅうのはどう”

 

 “りゅうのはどう”

 

 “りゅうのはどう”

 

 砂塵を纏った黒腕の一撃と、三条に分かれた暴力的な生命エネルギーが激突する。

 巻き起こった爆発による爆風を振り払って相手の居場所を探す。

 

(この俺と互角、どころか僅かに押し負けた)

 

 正気を失い、全身に傷を負って尚この強さ。本来の力を取り戻せば、ともすれば自分よりも――

 

 いや、ダメだ。それは駄目だ。

 それだけは看過出来ない。漸く、漸く砂漠の頂点に君臨する所まで来れたのに、ぽっと出の獣風情に邪魔されるのか。また遠のくのか。

 許せない、許しはしない。ここを逃せばこいつはさらに強くなって自分の目の前に立ちはだかる。

 

 その前に、ここで叩き潰す。

 

 “かえんほうしゃ”

 

 “かえんほうしゃ”

 

 “かえんほうしゃ”

 

 最早業炎にまで膨れ上がったそれをあえてこの身で受け、反撃とばかりに今自分が立つ砂漠ごと獣を粉砕せんと右腕を振るった。

 

 “しっぺがえし”

 

 己の後手の一撃によって砂漠がまたもや爆発した。まるで己の弱気を消し去るかのように。

 

 砂塵は尚も舞い続ける。王と王との死闘の跡を、風と砂が洗い流していく。

 

 

 

 

 

 産まれて物心ついた時から俺は戦いに明け暮れた。

 来る日も来る日も同族同士で争い、時には殺して肉を喰った事すらあった。それだけ強くなりたかった。

 

 何故強くなりたいのか? 理由なんて無い。競い争い殺し合い、力を手にして己こそが最強であると声高に叫ぶ生まれながらの戦闘狂。ポケモンとはそういうものだ。

 だから俺も強くなる事そのものを目的として生きてきた。

 

 強くなる事が目的から手段に替わったのは俺がワルビアルへと進化してからだった。

 

 砂漠を歩いていると何やら妙に赤い格好に身を包んだ一人の人間が立ち塞がった。

 いつもなら吹き飛ばしてそれで終わる。だが、今回はどうもそういう気分にはなれなかった。

 

「うぅむ、こいつでは少々力不足だな。何処かに強いポケモンはいないものか……」

 

 その言葉は俺の神経を逆撫でるに十分過ぎる一言だった。

 

「ほう、立ち向かって来るか。――やれ、バクーダ」

 

 

 

 

 

 ……勝負は一方的に終わった。

 

 あの男の繰り出したバクーダが繰り出す焔は、今まで受けたどの技よりも熱く、己を焼き融かした。

 それこそ己の両腕が焦げ、黒く染まる程に。

 

 戦いとも言えぬ蹂躙の末、男は俺に興味を無くしたのかすぐにその場を去った。何をしに来たのか、何を求めてこの砂漠へとやってきたのかまるで不明瞭なまま、ただ邪魔だから蹴散らしたのだ。

 今までの俺の様に。

 

 煮え立つ怒りを覚えた。

 

 何故俺を見ない、何故俺に興味を持たない、俺は強いんだ、俺は凄いんだ、俺を見ろ、俺を見ろ。

 

 子供の癇癪の様な事を思い、されど身体は動かない。そうしている内にあの男は去っていった。最後まで俺を見る事無く。

 死にたくなるくらい悔しかった。もっと力が要る、あいつを殺して見返してやれる様な力が。

 

 燻る腕は黒曜の輝きを宿し、舞い散る砂嵐は例外無く俺の思うがままに動く様になった。

 どれだけの時間が掛かってもいい、砂漠の頂点に君臨して誰からも恐れられる王になる。

 

 それにはあのうざったいフライゴンが邪魔だ。外からやってくる人間共も邪魔だ。ぽっと出のポケモンなんぞ一番邪魔だ。何もかも俺が強くなる為の踏み台にしてやる。

 それで俺が一番強くなって、俺以外の全てに恐れられるような王になって。そうしてもう一度やって来たあの男の手を、今度は俺から突っぱねてやるのさ。

 

 ……ちなみに、あの時身体が動かず死に掛けていた俺を通りすがりの変な形をしたイワパレスが甲斐甲斐しく治療してくれたが、それはそれで悔しかったので今でも見つけたら縄張り争いに巻き込んでやっている。

 あんなのは覚えてちゃいけない記憶だ、二度と負けてなるものかと決意したのもあの瞬間だった。

 

 俺は人間の事なんざどうでもいいと思ってる。

 

 俺が誰よりも強くなる事でしか俺は俺の価値を証明出来ないんだ、弱い人間に捕まるなんざ死んでも御免だね。

 強く、強く、誰よりも強くなって、そんであの人間を殺してやるのさ。てめぇが見下したもんに見下されるのはどういう気分だって言ってやる。

 

 俺は、俺が強くなる事以外はどうでもいいと思ってる。

 

 

 




人の事など興味ないと言いながらかつて己を倒した人間を殺す為に砂漠の王になる事を望む一匹のワルビアルのお話。
どうでもいい割には結構人間に執着してる事にワルビアル自身気付いてないです。赤い格好のバクーダを使う男、一体誰なんだ……。

【種族】ワルビアル
【性格】いじっぱり
【特性】こくようのうで
【レベル】75
【持ち物】なし

【技】
・あなをほる
・しっぺがえし
・ばかぢから
・げきりん

「こくようのうで」
・場が「すなあらし」状態で発動する。
・特性発動中、自身の攻撃力が六段階上昇する。
・特性発動中、自身の使用する全ての技が全体攻撃となる。
・天候の有無に関係なく自身のタイプ一致技の威力補正が2倍に上昇する。
・天候が変化した場合特性が無効化され自身の攻撃力及び自身の技の全体強化が元に戻る。

断言しますが、この砂漠における最強個体です。常に子分を連れており、すなあらしを絶やさない状況を作って敵対者を蹂躙するスタイルを取ります。場が砂嵐になるだけで容易に抜きエースになるやベー奴です。
最強と言いましたが、砂漠の主三匹とも天候によって異常個体の力を得るので、晴れの時はフライゴンが、砂嵐の時はワルビアルが最も強く、イワパレスはどちらでも特性が発動するので安定した強さを持っています。

異常個体:黒曜頭首
・最初にその存在が観測されたのは111番道路。
・異常な程に縄張り争いを重ね、通常種より遥かにレベルの上昇したワルビアルがいるという民間からの情報を獲得。
・ポケモンリーグ所属者が交戦し、要注意個体としてマーキングを塗布。その後一時的に行方不明となった。
・再びその個体を発見した時、ワルビアルの両腕が黒く染まり異常な肥大化を確認した。
・天候が砂嵐状態の時に発現する尋常でない膂力の上昇と攻撃の広範囲化から異常個体に認定された。
・ジムリーダー、ジムトレーナー、及び全てのポケモントレーナー、ポケモンレンジャーは接触を控えたし。
・ポケモンリーグ異常個体観測部門部長より通達。

感想くれたらとても嬉しい。


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一難去った後の日常は一瞬で過ぎていく。

総合UAが10万を突破したので嬉しさのあまり投稿。暫くは日常かなぁ。


 

 激動の一日を越えて暫く。

 あの後うちのコドラと意気投合したエアームドが晴れてダイゴの仲間に加わった。順調にダイゴらしい手持ちが整ってきた感じがするな。

 

 ……そう、コドラだ。あの災害みたいなフライゴンと戦ったココドラは戦闘終了後にコドラへと進化したのだった。

 

 確かココドラからコドラに進化するのがレベル32からだった気がするのであの戦いで一気に32レベルまで上昇したという事になる。えげつねぇな。

 かくいう俺とフォートもレベルが上がっている感じはする。それでもフォートがメタグロスに進化するには届かなかったし、俺もじゃれつくを覚えるのはもう暫く掛かりそうだけどな。

 

 話をエアームドに戻そう。

 

 仲間になったエアームドは特性するどいめを持っていた。がんじょうかと思っていたがあのフライゴンの陽炎を見破る事も出来たらしいから一概にどっちが強いとは言えないな。

 あと技はまきびし、ステルスロック、はがねのつばさ、ふきとばしの四つを持っており、もうあからさまに昆布戦法やれと言われている様な技構成であった。

 

 しかし技の偏りが凄まじいな。これだけサポート一辺倒だとあの砂漠で生き残るのは難しいだろうに、自分がサポートに集中できるポケモンとコンビを組んで砂漠で暮らしていたのだろうか?

 

 ともあれ、新しい仲間が加わった俺達はえんとつ山をぐるっと周り、113番道路を通ってハジツゲタウンまで来たのだった。

 

 

 

 

 

 進化前の小さい姿からは想像出来ないくらいに大きくなったコドラの上に座って、俺は大顎の様子を確かめていた。

 進化しても俺を慕ってくれたままなのは嬉しいが、流石にもう抱きかかえられはしないな。そのうちもう一回進化するだろうし。

 

 あ、模擬戦でココドラに対して力加減を誤って背中の甲殻が裂けたままだった例の傷跡は進化した事で元に戻った。あのままだと流石に可哀想だったから良かったよ。

 

(にしても酷いなぁ、これ)

 

 怪我の具合で言えば俺とフォートの方が酷いものである。

 フォートは全身に無数の切り傷、俺は大顎の歯が爛れて再び冷え固まった。どちらも鋼鉄の身体だというのに容易く体に残るダメージを与えたあのフライゴンの力を改めて実感する。

 

(普通はポケセンで完治するんだがなぁ)

 

 痛みはもう無いので大人しく木の実を食って安静にしてろとのお達しである。

 後はダイゴに歯磨き(研磨的な意味で)して貰うしかないかな。一応メガシンカすればダメージが左右の大顎に分散されるので戦えない事は無いがね。

 

「クァ……ッ」

 

「コォッド?」

 

 欠伸を一つ零し、コドラの背を撫でる。何事かとこちらを見るコドラに、何でもないと首を振った。

 

 現在ダイゴはハジツゲタウンで買出しに出向いており、フォートとエアームドはダイゴの方に付いて行っている。

 ポケモンセンターの庭で二匹揃ってボーっとしてるのは暇なので別の事に考えを巡らせるとしよう。

 

 ホウエン地方には至る所に主と呼ばれるポケモンがいる。至る所にっていうかぶっちゃけると各道路に強さの差はあれど主が一匹いる。

 問題となるのは主の中でも殊更強い個体、そしてそんなポケモンが一つのフィールドに複数いる場合である。

 

 あの後ダイゴがポケモンリーグのホームページを見ると普通に異常個体の存在が公開されていた。「先に見れば良かった」とはダイゴの言である。

 

 ともあれその情報を見るに異常個体が主として君臨し、尚且つ複数体存在しているのは砂漠と海の二箇所だけであった。

 

(それも本当かどうか怪しいもんだけどな)

 

 事細かな情報の、不自然な点が一つ。ホウエン地方の各地に主と少数の異常個体が存在すると先程述べたが、りゅうせいのたきだけが異常個体及び主は存在しないとされている。

 そんな訳が無いだろう、りゅうせいのたきはドラゴンタイプが蔓延る魔境だ。どいつもこいつも気性が荒く、縄張り争いをしない理由など何一つ無い。

 

 まぁチルタリスの様に温厚な例外はいるが……、にしたって強い奴らの中でも一際強い奴は如何したって出てくる訳で、異常個体はおろか主すらいないのはあり得ないのだ。

 となると考えられるのは情報規制だ。それがポケモンリーグからかりゅうせいの民からかは置いといて。

 

(また急にエンカウントするのは勘弁して欲しいんだが)

 

 わざわざりゅうせいのたきを通る事自体避けても良いのだが、残念ながらダイゴの石好きが発動する可能性が高いためにこうして祈るしかなかった。

 

「――シルキー、コドラ、ただいま」

 

 様々な荷物をフォートの身体に載せたダイゴがポケモンセンターに帰って来た。

 お帰り、ダイゴ。

 

 

 

 

 

 ポリポリと硬い咀嚼音が響く。

 俺がおやつを食べている音だ。

 

 カリカリと硬い物を慎重に削る音が響く。

 ダイゴが俺の大顎を磨いている音だ。

 

 ポケモンセンターに常設されている休憩室を借りてダイゴは俺の大顎を元に戻そうとしてくれており、それを邪魔しない様に俺はポロックを食べていた。

 いやしかし美味いなポロック。ペットフードみたいな感じかと勝手に嫌厭してたが、口当たりが軽く前世で食ってたお菓子と同じ位美味しかった。

 

 前世で何食ってたっけ俺、あの、何だっけ、サクサクしてた奴。……うぅむ、産まれて五年と経ってないのに認知症か? まぁいいや。

 とは言えポケモンの身体は大概何食っても美味しいと感じる。いやまぁ味の好みはあるけど、現に今俺が食ってるポロックも苦い味だし。

 

 そりゃまあ原材料が木の実中心なら美味しくはなるだろうさ。何をどうすればポケモンのコンディションが上昇する食い物に化けるのかは知らんが。

 

 あ、そうそう。ポロックで思い出したが、ホウエン地方の各地にポケモンコンテストの会場があり、ゲームの時と同じくここハジツゲタウンにもその会場は存在する。

 だが俺達、というかダイゴはコンテストに出る気は無い。以前ミクリに伝えたようにコンテストには向いてないと自分で判断していた。

 

「そりゃ僕もシルキー達の魅力を皆に伝えたいとは思うけど、ミクリの様な技術を持っている訳では無いし今からその技術を高める時間も無いよ。流石に力不足のままコンテストに参加できると考えるほど馬鹿じゃないさ」

 

 だ、そうで。やるとしたらチャンピオンになってからだろうけど、その時には恐らく最強のコンテストマスターが爆誕している筈だ。具体的に言うとミクリの身内。

 

 そんなこんなでハジツゲタウンに留まる理由も無いので俺達が回復したらすぐにでも出発する予定なのであった。

 

「よし、とりあえず融けて固まった部分の整形は終わったよ。後は新しく鋼鉄層が形成されるのを待つだけだ、フォートもそうだけど暫く無理はさせるつもりは無いから安静にね」

 

「クチット」

 

 善処すると呟いて手元のポロックを口の中に放り込んだ。

 座り込んでいた場所から立ち上がり、ダイゴを見ると何となく微妙な表情をしていた。

 

「……最近フォートとシルキーが何を言ってるのかぼんやりとだけど分かってきたよ」

 

「クゥ?」

 

 なんだ急に、善処じゃなくてちゃんと休んでろと言いたいのだろうか。

 

「いや、それはもういい。考えるより先に身体が動くタイプなのは知ってるからね」

 

 だから本題はそこではなく。

 

「コドラ、……いや、ココドラと初めて会った時の事を覚えているかい?」

 

「チィ」

 

 忘れるわけが無かろうよ。あれだけの怪我をして、あんなに体力を消耗して、生息地から遠く離れた場所にたった一匹で倒れていた。

 人間の可能性もあるが十中八九野生のポケモンが襲ってきて巣を離れたと結論付けた筈だ。

 

「うん、じゃあエアームドがココドラと特別仲が良さそうだったのは覚えてる?」

 

 そりゃあ直近の出来事だし。だがあれは俺らの中で一番取っ付きやすかったのがココドラだったというだけでは? 何やら意気投合していたが……。

 

「フォートが聞いてくれたんだけどね、エアームドは自分たちの住処をあるポケモンに襲われたそうなんだ。そのポケモンから逃げるために砂漠まで飛んできたらしい」

 

 それは、まるで――。

 

「うん、ココドラの境遇と良く似ている。そうだよ、ココドラもエアームドと同じくたった一匹のポケモンに住処を滅ぼされたんだ。そして二つの住処を襲ったポケモンは同一個体に違いない」

 

 そうか、だからエアームドはココドラによく懐いていたのか。同じ境遇の似たもの同士だったから。

 

「僕は、コドラとエアームドの住処を滅ぼしたポケモンを倒したい。コドラとエアームドが敵討ちをしたいのかは分からないけど、――それでも」

 

 一生会う事は無いかもしれない。あのフライゴンよりも強いかもしれない。出会っても為す術無く倒されるかもしれない。

 それでも?

 

「それでも」

 

「クッチチ」

 

 それを聞いて笑みを零した。決して折れることが無いその精神は何よりもダイゴらしかった。

 ならばもっと強くならなければならないな。せめてあのフライゴンと対等に渡り合える程度には。

 

 窓の外からフォートとコドラ、そしてエアームドが遊んでいる所を眺めながら、俺は何とはなしにそう思った。

 

 




ポロックはポケモンセンターに設備が置いてありますが、普通に店で売ってたりします。綿菓子みたいなもんですね。
甘い、辛い、苦い、渋い、酸っぱいの五種類が売られており、ポケモンだけでなく人が食べても美味しく感じるように味の調整が為されているのでおやつとして食べる人もいるらしい。

え? りゅうせいのたき? あそこは主も異常個体もいない至って平和な場所さ。そりゃドラゴンタイプのポケモンは沢山いるけど、そこまで特出した力を持ってる奴はいないよ? 
りゅうせいの民がそう言ってたんだから間違いないだろうさ。

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懐かしい思い出はふとした時に湧き上がる。

おまたせ。
書いてる途中で気付く。ORAS未プレイだと流星の滝周辺の事が異常に書きにくい(今更)


「――グラエナ! バークアウト!」

 

「エアームド、躱してまきびし!」

 

 グラエナの咆哮と共に周囲に仄暗いオーラが広がるが、エアームドは縦横無尽に空を舞って己の棘を辺り一面に撒き散らした。

 

「くそっ、またか!」

 

 相対する少年の焦りに満ちた悪態。まきびしを撒かれた事で今場に出ているグラエナも十分な力を発揮できなかった。

 加えてこれでまきびしを撒かれるのは二度目である。今度はまきびしの薄い場所にポケモンを出す事も不可能だろう。

 

「グラエナ、かみつく!」

 

「迎え撃て、エアームド」

 

 グラエナが跳び、エアームドに噛み付こうとするが、エアームドは後方へと飛んで回避して攻撃に転じた。

 

 “はがねのつばさ”

 

 エアームドの鋼鉄の翼は少しもずれる事無くグラエナの胴を捉え、そのまま撃沈させた。

 

 ……やはり場慣れしている。フォートやコドラとは比べ物にならないほど、ともすれば俺以上の戦闘経験を持っているかもしれない。

 細部はエアームドに任せればいいのだからダイゴの負担も軽いものだろう。そして当のダイゴは新たに確立させた戦法に笑みを零していた。

 

 実は、と言うには少々今更だが、今までサイクル戦というものをダイゴは組んだ事が無かった。

 俺もフォートもコドラ或いはココドラも、個としての強さで完結しており一対一を三回繰り返すという戦い方をしていた。

 

 そこにエアームドが加わりまきびしやステルスロックなど、ポケモンの技を後に残す戦い、「後ろのポケモンに繋ぎ、託す戦い」を学んだ。

 そこからはもう早いもので、何が出来て何が出来ないのか、どれだけの時間残せるのか、考えれば次には確かめたくなるのが人情というものだろう。

 

 だから、

 

「くっ、行け! マッスグマ!」

 

「出陣だ、コドラ」

 

 十全に戦う事が出来なくなった少年相手に勝利を手に入れるのに、そう時間は掛からなかった。

 

 

 

 

 

 バトルを受けて見事に勝利したダイゴはやけに笑顔を浮かべていた。

 新戦法で少年に悪逆非道の限りを尽くした挙句に金を毟り取った事に満足している訳では無いだろう。であればこの先の通り道、りゅうせいのたきにワクワクしているのだろうな。

 

 りゅうせいのたき――流星の滝、或いは竜生の滝と呼ばれるその場所は普通に道路として扱う分なら通常の、それこそ一般的な洞窟で出るポケモンくらいしか出現しないフィールドだ。

 

 しかし一度道を外れればドラゴンタイプのポケモンが跋扈する魔境へと変貌する。原則としてこちらから手を出さない限り怒りを買う様な事は無いが、それでも相手はドラゴンタイプ。向こうから喧嘩を売ってくる事など日常茶飯事である。

 洞窟内部ならまだいい方だが、巨大な滝を昇り上流へと向かうと洞窟を抜けてとある場所へと出る。多種多様なドラゴンポケモンが存在する山の一角だ。

 

 そこにはボーマンダを始めとした強力なドラゴンタイプのポケモンが所狭しと暮らしているらしい。偶然にでも迷い込んだ際は流星の民に帰り道を教えて貰えばいいだろう。

 

 流星の滝が竜生の滝と密やかに呼ばれている事も、滝の上流に先がある事も、しれっと流星の民の集落がある事も、俺は何一つ知らなかった。ダイゴがインターネットから引き上げた情報の中には俺の知らない情報も数多く存在するのだなと再認識させられてしまった。

 

(というか流星の民って末裔じゃなかったか? あの辺り良く覚えてないんだよな……。ダイゴの年齢的に多分ヒガナはもう生まれてるだろうけど、一度時系列順にイベント思い出しておくか)

 

 まぁ、今回は道中で少し採掘はするだろうが、あまり横道に逸れる事は無いだろうからここまで考える必要は無いんだけどな。

 

「ここが隕石の落ちた場所か」

 

 流星の滝のすぐ前に、そのクレーターは存在する。ポケモンの世界では各地に隕石が落下しているが、ホウエン地方は群を抜いて隕石と関係が深い土地だと俺は思う。

 そのうち巨大隕石も降ってくるしな。ダイゴの父親であるムクゲはちゃんとやる事やってくれるんだろうな?

 

 ともあれダイゴは採掘道具を片手に流星の滝へと足を踏み入れた。

 コツコツと薄暗い洞窟の中を進むダイゴ。一応俺達は全員ボールの中に入ってるが、何かあればすぐに出られるように警戒はしておく。

 

 ――ザァァァァァァ……。

 

 遠くで滝の音がする。

 マップ全体がゲームの時と比べて全体的に広いのは今までの旅路で理解しているが、あの壮観な滝もより大きくなっているらしい。

 

「……む、これは」

 

 暫くするとダイゴが岩壁に近付いてしゃがみ込んだ。目当ての物を見つけたらしい。

 いそいそと小型のツルハシを取り出す所を見ていると、昔やったポケモンのダイパ時代を思い出す。マップ全域に張り巡らされた地下通路で秘密基地を拵えたり、通路の壁で様々なお宝を採掘した事が懐かしくなってくる。

 

 ……そうだ。ダイゴがチャンピオンになって、そんでもって主人公にチャンピオンの座を明け渡したその時は、シンオウ地方に旅行でも行ってみたいな。ゲームをプレイした身としてはテンガン山の頂上にあるやりのはしらが見てみたい。

 アルセウスには多分会えないだろうがね。

 

 

 

 

「……しまった、採掘に集中しすぎた」

 

 岩壁にツルハシを振り出してから約二時間後の事である。

 気が済むまでやればいいとは思っていたが流石にこれ以上は日も落ちてくるだろうし、そろそろ先に進んだ方がいいだろうな。

 

 二時間も掘ってれば成果もかなりの物で、あまり音を立てない様に、そして洞窟の景観を崩さない程度の採掘に留めていたとしてもポケモンの進化に必要な石の類が沢山手に入った。

 一応公的には採掘は許可されているとは言え自分たちの行動で落盤とか考えるだに恐ろしい事だが、何とも無いようで安心である。

 

「早く抜けよう、か……?」

 

(んぁ?)

 

 ――……。

 

 何かの音がした。

 

 滝の音ではない。ポケモンの歩いたり飛んだりする音でもない、何らかの法則性のある音の動きだ。

 そう、例えば――

 

(――歌、の様な)

 

 咄嗟にある可能性を考え、すぐに否定する。

 

 もし、仮にフライゴンが俺達の事を追い掛けていたとしたら行動に移すのが遅すぎる。絶対に殺すと意思を固めたとして、どれほどの時間が経っているというのか。

 それにフライゴンがこちらに向かってきているとしても流石に気付く。日の差さない洞窟内部で陽炎を作り出すとしたらねっぷうを連射するしかないが、近くには滝がある。即座に気温を上昇させるのは不可能だ。

 

 そして、フライゴンの羽ばたきの音は確かに歌の様に聞こえたが、あの羽ばたきの音は音階の変化が極端に少ない。

 この歌の様に高い音階と低い音階を繰り返すなんて事は不可能だ。

 

 で、あれば、この音は何だ?

 

「……皆、出てきてくれ」

 

 ダイゴの声に従って俺を含めた四体全員がボールから出る。

 流石に過剰反応ではと思うかもしれないがつい最近トラウマを刻まれた身からすると同じ失敗を繰り返したくは無いのであった。

 

「……アァ? ドーッド」

 

「……ク?」

 

 エアームドが一度周囲を警戒した後、その音に耳を傾けて警戒を解いた。

 

 何か知っているのか、もしくは何処かで聞いた事のあるものだったのか。後者であれば自分でも分かる事があるかもしれないと考え、自分も改めてよく聞き――気付く。

 

(あぁ、これ、チルタリスの鳴き声か)

 

 ゲームの時は鳴き声なんて滅多に聞かないから気付くのに遅れたが、一度把握すればこれはチルタリスの歌であると理解できた。

 そりゃそうか、流星の滝にいそうなポケモンの中で歌いそうなのはチルタリス位しかいなかったな。だから警戒を解いていいという理由にはならないが。

 

 歌声の正体に当たりを付けた俺達は、ダイゴと共に足早に洞窟を抜ける事にした。

 

 ――リィアァァ……。

 

 流星の滝の奥から響く、聞いた事の無い筈の懐かしい歌に後ろ髪を引かれながら。

 

 

 

 

 

 かつて空から星が流れたと言われるホウエン地方の山。

 巨大な滝へと続く大きな川を持つその場所で、二人の少女が突然聞こえてきた歌に耳を傾けていた。

 

「きれいな歌だね」

 

「うん、みこ様が今日も歌ってくれてるみたい」

 

「めずらしいよねー、最近たくさん歌ってくれてるよ?」

 

「なにかうれしい事でもあったのかなぁ?」

 

 二人の少女は巫女様の歌を聞いてコロコロと笑っていた。歌う頻度が多い事は、歓迎すべき事であるからだ。勿論少女たちだけでなく、全ての民にとってもそうだ。

 歌声の主が人ならざるものであっても、それは変わらない。

 

 川辺で遊ぶ二人の少女の下に、一人の老人が姿を現した。

 

「おいで、巫女様の下へ向かいましょう」

 

 老人に呼ばれた少女は元気良く返事をして少女に振り返った。

 

「ごめんね、今からみこ様のところにいかなくちゃ!」

 

「……仕方ないよ、だってシガナはでんしょうしゃ、でしょ」

 

「うん! また後で遊ぼうね、――ヒガナ!」

 

 そう言って少女は、シガナは老人と共に集落へと戻っていった。ヒガナは手を振って、親友の背を複雑な心境で見つめる。

 伝承についてヒガナが知っている事は少ない。ホウエンに危機が訪れれば空から龍神が現れる事と、その龍神がホウエンに落ちる破滅を防ぐという事のみだ。

 

 それは1000年以上も前から語り継がれているらしい。ヒガナは疑問に思ってオババ様に聞いた事があった。何故そんな昔から言われている事を信じられるのか、と。

 

『巫女様が語り継いで下さったのじゃよ、何十年も、何百年もの間な』

 

 巫女様。ここでも巫女様だ。

 

 天、地、海の荒ぶりを沈める三体の巫女がホウエン地方に存在する。この事を知っているのは流星の民と、おくりび山の一部の者達だけの筈だ。

 それだけしか知らないのはその巫女達が決して人前に姿を現さないからだと言われている。じゃあ何故自分たちの集落にいるんだ、甚だ疑問でならなかった。

 

 集落の皆は我々を守って下さると、ドラゴンのポケモン達を律して下さるとありがたがっている。ヒガナも一度目にした時は驚愕した。

 

 原種とは違う体色に、七色に輝く左目、そして精霊の様に清廉な空気と、膨大な生命力を併せ持つポケモン。皆が崇め奉るのも無理はない、そう思えてしまう程の覇気を纏う存在だった。

 

 だが、

 

「みこ様、か」

 

 自然の調律者、神威に抗う抑止力と呼ばれる彼女らが、一度でも人の味方だと言っただろうか?

 何時の日か裏切られるかもしれないのに皆は拝み、巫女様と呼んで従い、伝承者を選び出した。

 

 遥か昔からいると言われても、ヒガナはどうしても不満だった。盲目的に従い続ける皆が、決して外の者を入れようとしない集落が、親友であるシガナを縛り付ける伝承が。

 

 だからヒガナは力を付ける事にした。巫女様と呼ばれているポケモンが良からぬ事を企んでいたとしても、せめてシガナだけは守れる様に。

 

 その果てにある結果が裏切り者の烙印を押される事であろうとも。

 

 




流星の民の末裔辺りの設定もwiki見ながら書いてたんですが、情報少なすぎて憤死しました。
実際に買ってプレイした方が分かりやすい所とかもあるのかなぁ……。

巫女と呼ばれるポケモンの存在は物語の根幹に関わってくる部分でもあります。異常個体のオンパレードからのこれで少し食傷気味かもしれませんがどうかご容赦を。本当に今更ですがこの先も独自要素盛り沢山になるかと思います。

実は巫女と呼ばれるポケモン達、子供にある特徴が必ず遺伝します。

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張り詰めた心を解すには家族と触れ合うのがいい。

冠の雪原が実装されてから暫く経ちましたね。メタグロスはいいぞ。
あ、今回の後書き割と重要な事が書かれてるので出来れば目を通して下さると幸いです。


 流星の滝を越えれば広がるのは115番道路。

 

 小隕石によって作られた様々なクレーターと、潮風漂う砂浜を持つ大道だ。

 

 潮風、という言葉から分かるように近くには海が広がっており、そこから海の匂いが運ばれてくる。カナズミシティの近くにあるので夏には海開きもされるらしい。

 正直はがねタイプを持つ身としては全身温泉に浸かるより厳しいので海に行く事は無いだろうな。

 

「懐かしいな、一年前に家族皆で海に遊びに行ってたよ」

 

 ダイゴは家族と来た事があるらしい。と言っても勝手にふらつかない様に両手を両親に拘束されていたらしいが。

 

(石探しに海に入って溺れでもしたら大変だし分からなくも無いが)

 

 その時のダイゴと違う点があるとするなら、家族に手を引かれる訳でもなくたった一人でこの地に足を踏み入れたという事だ。

 

 シダケタウンからキンセツシティを通り、フエンタウンを経由して砂漠に向かい、ハジツゲタウンを通ってえんとつ山をぐるりと回り、そうしてここまでやって来た。

 長いようで短かった日々はダイゴや俺達を強くしてくれた。まぁ大体不本意な強敵との遭遇だった気がしないでもないがそれは置いといて。

 

 一度家に帰ってダイゴの家族と会い、充分休んでから残りのバッジを取りに向かう。

 さぁ、短い時間ではあるがカナズミシティへの帰還を果たそうか。

 

 

 

 

 

 昼頃にカナズミシティに来れた為にトレーナーズスクールから下校してくる子供達が散見された。

 喧嘩を売られても悲しい結果になるのが目に見えているため、なるべく大通りを通る事にする。

 

(トレーナーズスクールかぁ)

 

 当時はまだポケモンに興味なんて無くて、スクールに通いたいかという母の言葉に否を返した。珍しい、綺麗な石だけが僕の世界を彩る物だとばかり思っていたから。

 シルキーと出会ってからトレーナー免許を獲得する為に必死に勉強した。もしトレーナーズスクールに通っていれば、もう少し早くに資格を取れたのだろうな。

 

 今更どうしようもないたらればを頭から追い出して、僕は久しぶりに我が家の前まで歩いてきた。

 玄関先ではタブンネのフラウが箒を持って掃除している。

 

「――ただいま、フラウ」

 

 その声に顔を上げたフラウは驚いたように目を見開き、その後ニッコリと微笑んだ。

 

 パタパタと足早に家に戻るフラウについて行く。玄関を見ると母の靴はあったが父の靴は一組消えていた。

 

(流石に父さんは仕事中か)

 

 一応今日には家に帰ると事前に連絡していたので早めに帰ってくるとは思う。化石の受け渡しも手早く済ませたいしな。

 と、ここまで考えて玄関に見慣れない靴がある事に気付く。

 

「フラウ、お客さん? って、あらまあ随分早かったわね。お帰りなさい、ダイゴ」

 

 リビングの方から母さんが近寄ってきた。フラウもそうだがそこまで驚く事だろうか? 大体この時間で帰ってくる事は事前に伝えていた筈だが……。

 

「ダイゴの事だし何かしらに巻き込まれて遅くなると思ってたのよ、昔から出歩いたらトラブル引き寄せる体質だったし」

 

 正直記憶に無いが、旅立ってからの諸々を考えると的外れとも言い難い。ので少しばかりの不満を飲み込んで話を変える事にした。

 

「母さん、この靴お客さんの?」

 

「あ、そうそう、今うちにお客さんがいるのよ。可愛い子よね、ねぇダイゴ?」

 

「は、ぁ?」

 

 何故僕に聞くのかと一瞬思ったが、態々言ったという事は客人は僕に面識がある人物なのだろう。母さんが満面の笑みで可愛い子と言ったので多分女の子だろうか。

 そうだ、両親の後にあの子にも一応連絡したんだったな。

 

 靴を脱ぎ、母さんと共にリビングへ向かうとそこにはガチガチに緊張しているツインテールの少女――ツツジがいた。

 

「あ、あの、お邪魔してます」

 

「あぁ、うん。どうぞごゆっくり?」

 

 聞く所によると僕からの連絡を受けたその日の内に祝いの品を購入して家に届けに来た所、母さんがそのままリビングまで引っ張り込んできて今まで歓迎を受けていたらしい。

 ツツジの行動力もさる事ながら母さんの強引さは正直どうかと思わなくも無い。一応嫌と思ってる人に対してはその強引さを見せないのは知ってるが……。

 

「フラウ、ありがとね。僕の部屋のコレクションの整理してくれたんでしょ?」

 

「タブンネ~」

 

「そうだな……、父さんが帰ってくるまで時間掛かるだろうし、ツツジさん僕のコレクションでも見る?」

 

「――! いいんですか!?」

 

「うん、旅先で見つけた石も新しく入れようと思ってた所だし」

 

「ぜひお願いします! あ、私の事はツツジで良いですよ。まだ学生の身ですし」

 

 女の子にただ石を見せるだけなのはどうかと言う人もいるだろうが、何となく分かるんだ。ツツジは僕や父さんと同じ石好きだと。

 ベクトルは違えど同好の士にコミュニケーションを図るならコレクションを見せるのが一番だろう。

 

 シルキー、フォート、コドラ、エアームドを中庭に解放して僕とツツジは自室へと向かった。

 他三体はともかくコドラは家に入れるには大きいし重いから中庭に出さざるを得なかった。この旅が終わったら何とかしなくちゃな。

 

 

 

 

 

 ダイゴが良い物を見せてあげると言って女子小学生(推定)と自室に入っていった。

 等という冗談はさて置いて、ツツジはダイゴが対応している為俺は俺で直近の問題を片付ける必要がある。

 

 ダイゴの家について知っているのは俺とフォートのみなので、何も知らないコドラとエアームドにあまり暴れるなと言い含めなければならないのだ。

 上下関係的にはこの中では僅差で俺が一番上なので、ちゃんと言えば従ってくれはする筈だ。だが悪いことを悪いことと自覚できるほどコドラとエアームドは人に触れていない。考えれば分かる事で済ませる事は出来ないのだ。

 

「クチッ、チィーット」

 

「コッドド」

 

 とりあえずコドラにはあまり大きな音を立てたりいわなだれの使用を禁止させる。

 流石に野ざらしは可哀想なので後でダイゴの父であるムクゲのガレージにでも案内しよう。二日くらいならガレージを一枠圧迫しても許してくれるだろう。

 

「チィイ、クックチィト」

 

「エァ?」

 

 そしてエアームドには家の敷地より外に飛んで行ってはいけないと飛行を制限させた。

 別に街の条例にそんな制限は無いのだが、エアームドは他のひこうタイプと違って素で鋼の翼を持っている。飛行を許せば瞬く間に周囲の電線を引き裂く事は目に見えていた。

 

 周囲の人々に迷惑が掛かればそれは結果としてダイゴの迷惑に繋がる。些か面倒に感じるかもしれないが頑張って抑えて貰うしかないだろう。

 まぁ精々二日ほどの辛抱である。それくらいなら耐えられるだろうと俺は信じていた。

 

「ネェネェ」

 

「クチッ?」

 

 後何か言うべき事はあっただろうかと考えていると後ろからフラウに話しかけられる。

 しかし今更だがタブンネが割烹着来てるの見ると凄い似合うな。ミカゲの趣味だろうか? あの人一応イッシュ生まれの筈なんだが。

 

 フラウはどうやら、コドラとエアームドも夕飯を食べるのか聞きに来たようだ。二匹に聞くと食べたいと帰ってきたのでフラウに二匹の味の好みを伝えておく。

 パタパタと家の中に戻るフラウを見送りつつ、何とはなしに自分の身体を見やる。

 

 最近忘れがちだが俺は色違いのクチートだ。ダイゴの手持ちになった事で犯罪に巻き込まれる可能性は少なくなったがゼロではない。

 加えてメガシンカ可能なポケモンというのもその価値を高めている。現在ホウエン地方ではメガシンカはあまり浸透していないが、大っぴらに俺がメガクチートになってる場面が多いのでメガシンカの力に気付く者も増えてくる筈だ。

 

(例えば現チャンピオンのゲンジさんの様な実力者とか)

 

 御誂え向きにボーマンダという強力なメガシンカ可能個体を持ってるんだ。それを知ったのなら使わない理由などありはしない。

 都合よくキーストーン或いはボーマンダナイトが見つからない可能性に賭けてもいいが、チャンピオンの地位を使えばすぐに見つかるだろうな。

 

 話が逸れたが、恐らく俺がホウエン地方で最初のメガシンカ可能個体だ。それを理由に厄介事に巻き込まれたとき、果たして俺は逃げ切れるだろうか?

 コドラとエアームドにぶつくさ言ったが、一番ダイゴに迷惑を掛けそうなのは俺だ。それを防ぐのに必要なのは、やはり純粋な力だろう。

 

 財力、権力、総じて影響力。ダイゴの父であるツワブキ・ムクゲは全て持っている。上手く使えば不安の芽を未然に摘む事も出来るだろう。

 

 だが出来ない。クチートは予知能力者ではないのだ、それを伝えても信じてくれはしないだろうし、何よりムクゲを利用すれば結果的にダイゴが悲しむ。

 

(やっぱり順当に強くなるしかないわな)

 

 そう結論付けて、早くじゃれつく覚えてぇなぁなんて事を考えるのだった。

 

「……クゥ?」

 

 玄関が俄かに騒がしくなる。

 どうやら件のムクゲが帰って来たようだ。家に入ってダイゴと合流し、玄関先へと向かう。

 

 そこには黒いスーツを着こなしたまだ若い男性の、微塵も疲れを感じさせない姿がそこにあった。

 

「ただいま。そしておかえり、ダイゴ」

 

「うん、おかえり。それと――ただいま、父さん」

 

 ホウエン全土に手を広げる最大級の企業の社長と、まだ幼いながらも一ヶ月足らずで三箇所のジムを突破したトレーナー。

 しかしそこにはただの暖かな親子の姿があった。

 

 




ツツジちゃんが急に関わってきた理由は、ぶっちゃけるとダイゴの手持ちからあぶれたポケモンの回収です。
今後使わない指標だとは思いますが、特定のタイプのポケモンを育てられる才能を才能値と呼称しましょう。

四天王連中は得意タイプの才能値が軒並み100くらいあるとして、原作のダイゴの才能値は、はがね:いわ:じめんが100:100:100くらいあると思います。
原作では初めてのポケモンとしてダンバルを貰いそこからポケモンについて、主に鋼、岩、地面タイプを学ぶのではと考えました。

うちのダイゴは幼少期にクチートに助けて貰い、そのポケモンについて知る為にはがねタイプの知識を身に付けました。その後にダンバルを貰った事で方向性が完全に定まりました。

その結果、はがね:いわ:じめんの才能値が200:50:50くらいに大幅に偏りました。主人公であるクチートがもろ原因です。分かりやすく言うと近所のお姉ちゃんがショタに優しくした結果ショタの性癖が歪んだみたいなもんです。何も問題はありませんね。

結論としては「ダイゴははがねタイプでパーティを統一する。化石ポケモンはパーティに入らない。あぶれた化石ポケモンはツツジの手持ちに加わる」これだけ知ってもらえたら大丈夫です。いわタイプだしね。

さて、皆様にお願いがあります。
作品の流れの都合上自分が考えていた異常個体はまだまだいるのですが、ちょっと数が足りなくなりそうな気がしてなりません。

そこで読者の皆様から異常個体のアイデアを募らせていただければと考えております。詳しい事は下のURLから活動報告に飛んで下さると幸いです。
人に頼るなと言う方もおられるかも知れませんがどうかご助力下さればと思っております。何卒宜しくお願いいたします。

↓アイデア募集場↓
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=249115&uid=279424

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使える物は何でも使うし寧ろ率先して使え。

「アイデア募ったはいいけど果たして来るやろか。10個来たらいい方かなー」

>>PV:1047 コメント数:91(迫真)

「ファッ!? めっさ来とるやんけ!?」

想像以上に来てビビり散らかしております。沢山のアイデアありがとうございます。
特に期限も無ければコメント受付を終了する事も無いのでこれからもアイデア送ってくださるとめっさ嬉しいです。


 デボンコーポレーションのある応接室にて。

 

「おぉ、おぉ! これは確かに! 紛れも無く! 絶対に! 太古の昔に存在したポケモンの化石でございます!!」

 

 大きな机を挟んで、ツワブキ親子と化石研究員二人が顔を合わせていた。

 

「あの、申し訳ありません。所長はいつもはここまでハイテンションではないのですが……」

 

「あぁ、分かっているとも。石に対する情熱で言えば、私達も似た様なものだからな。だが、そろそろ落ち着いてはくれないかな?」

 

「落ち着いていられるものですか! 社長のご子息様の手から渡されたこの化石群には古代の残滓が眠っている! ご子息様がこれを手になされた時の話を聞く限りこれは奇跡が折り重なってできた産物だ! いや、もしくは堅牢な結束によって作られたのかも? あぁ、何とも興味深い! すぐにでも調べ尽くさなくては!」

 

「そろそろ落ち着いてはくれないかな?」

 

「――あっはい」

 

 大仰な仕草と共に興奮していた様子の化石研究所の所長はムクゲの言葉で大人しくなった。

 

 現在俺はダイゴの隣でソファに腰掛けており、ダイゴが持ってきた化石を改めてまじまじと見ていた。

 ダイゴに同行しているのは俺だけで後は自宅で待機している。まぁ会社に持ってくにはあいつらでかいし……。

 

 という訳で護衛兼見学の名目でダイゴに付いていき、デボンコーポレーションにやってきたのだった。

 あわよくばある人物と会えないかという希望的観測もあっての事ではあるが……それは今はいいだろう。

 

 落ち着きを取り戻した所長にムクゲが話しかける。

 

「さて、その化石の所感を述べてくれないか? 精密機器が無いから難しいだろうが、どのようなポケモンの化石かも分かるとありがたいのだが」

 

「そうですね、まずお伝えしますとこの化石は三体のポケモンの化石が一つに合わさって出来ています」

 

「――え?」

 

 冷静さを取り戻した所長の言葉にダイゴが反応する。当然だろう、そこまで複雑な物だとは思っていなかったのだから。

 

「ご子息様がこれを手になされた時、少し疑問に思いませんでしたか? 岩がこびり付いているにしてもやけに大きく、そして重いと。まぁ見て貰った方が分かりやすいでしょうな、この場で表層を綺麗にしても構いませんか?」

 

 そう言って所長は小さいツルハシとブラシ、そして大き目のタオルを取り出した。ムクゲとダイゴからの許可が下りたと同時に手早く化石の表面に付いた岩が剥がされ、一分と掛からずに化石の本体が見えてきた。

 所長が綺麗にした化石は植物の根の様な物と大きな甲殻類の爪が絡み合った様な物で出来ていた。

 

(ねっこのカセキとツメのカセキだ。両方取れるとかあるんだ)

 

「これは別々のポケモンのカセキなのか、どういう経緯でこうなったのか非常に興味深いな。所長、三体の化石が合わさった物だと言っていたがもう一体のポケモンの化石はどこにあるんだ?」

 

「あぁ、それはこちらに」

 

 所長は化石を裏返してブラシで表面を掃う。そこには透き通る黄色い石が埋まっていた。

 

「これは、琥珀か?」

 

「えぇ、ご丁寧に内部に小さな吸血虫が入ってます。光に透かせばやや赤味がかって見えるので血を吸ってそのまま琥珀に飲まれたんでしょうな。ねっこの化石とツメの化石、そして秘密の琥珀が一箇所に纏まり永い時を経てご子息様の手に渡った。だからこそこれは、奇跡が折り重なって出来た産物なのですよ」

 

 所長はそう化石を褒め称えたが、俺としては岩に覆われた状態からそれらを全て見抜いた所長の観察眼に驚きを隠せなかった。

 流石はデボンコーポレーションが提携を申し出た化石研究所の所属者と言うべきか、中々に優秀な人材が揃っているように思える。

 

「それで、化石から古代のポケモンの復元を行うとの事だが……その複雑な化石からでも可能なのか?」

 

「可能です。別々のポケモンの遺伝子を取り出し、三体全ての復元を行いましょう。ご子息様、重ねて感謝を。貴方のお陰で我々は更なる活躍が出来る。復元は全て一週間以内に終わらせるので、どうでしょう? 化石ポケモンの一体を貴方に渡すというのは」

 

 一つの化石から三体のポケモンを復元させるという工程を一週間で行うと言い切った所長。隣の研究員から拒否の言葉が出ない辺り、化石研究部門の総意なのだろう。

 ダイゴは暫く考え、首を横に振った。

 

「とても嬉しい申し出ではありますが、辞退させて頂きます。一週間もいるつもりはありませんし、それに自分では手に余しそうな気がするので……。代わりに、といっては何ですがツツジに選ばせてあげてください」

 

「ツツジ、ですか?」

 

「ほら所長、あれですよ。カナズミジムリーダーの孫娘の」

 

 隣の研究員の言葉に得心がいったように所長は頷いた。

 

「あぁ、なるほど。畏まりました、ではそのように」

 

 その後少しずつ会話を交わし、化石研究所の所長と研究員達はホクホク顔で応接室を退室した。

 

「さてダイゴ、これで化石の受け渡しは終わった。昨日も言ったが、良く無事に戻ってきてくれた。ありがとう」

 

「もういいよ、父さん。僕は何も後悔してないし、シルキー達も大事には至ってない。むしろ目指すべき高みを見られたんだし、差し引きプラスだと思ってるよ。さ、この後はデボンコーポレーションの試作製品を見せてくれるんだったよね?」

 

「あぁ、そうだな。行こうか」

 

「ほら、行くよシルキー」

 

「チッチ」

 

 

 

 

 

 デボンコーポレーションでは様々な研究を行っている。広く浅く、ではなく広く深く。器用貧乏ではなくオールラウンダーを目指して。

 それ故にカントーのシルフカンパニーと被っている面も少なからず存在するが、未だに大きな喧嘩が無いのはムクゲの手腕であろうな。

 

 さて、そのデボンコーポレーションの開発途中の製品とは、ポケモンに持たせる事で特殊な効果を発揮するアイテム、――所謂「もちもの」であった。

 

「――クックチィ!?」

 

「あ、何かシルキーが凄い興奮してる」

 

 これが興奮せずにいられるものか。

 目の前には前世で死ぬほど慣れ親しんだ道具があるのだ。まだ効果の調整中とは言えど戦闘の幅が大いに広がる事は間違い無いだろう。

 

「社長、試作段階のアイテムはこれで全てになります」

 

「あぁ、折角だ。効果の説明をしてあげてくれないか?」

 

「分かりました」

 

 そう言って道具類を持ってきた社員が咳払いを一つ零した。

 

「こちらの三つのアイテムは左から順にこだわりハチマキ、こだわりメガネ、こだわりスカーフと呼び、何れも戦闘中は一つの技しか使えなくなる代わりに攻撃、特攻、素早さがそれぞれ上昇する効果が確認されています。次にこちらはとつげきチョッキ、特防が上昇する代わりに変化技が一切使用できなくなる効果が確認されています。こちらはきあいのタスキ、着用者がピンチの時に強靭な精神力を付与し、一度だけ瀕死から立ち直る効果が確認されました」

 

 その他にもゴツゴツメットやふうせん、メタルコートやピントレンズ、更にはじゃくてんほけんまで存在した。

 いのちのたまは無いのかとやや落胆したが、この世界ではガチで命を削って攻撃力を上げる道具っぽいのでむしろ無くて良かったのかもしれない。

 

 しかしどうするか、こだわりシリーズはつるぎのまいが使えなくなり自由度が減るのでNG、とつげきチョッキも同様の理由でNG。

 これらの道具をテスターとして装備できるのは嬉しくて仕方無いが、いざ選ぶとなると少々悩んでしまうな。

 

(ゴツメやとつチョはどちらかと言えばフォートやコドラが装備すべき物だろうし……うん)

 

「クチッ!」

 

「あ、シルキーはそれにするの?」

 

 ダイゴの言葉にこくりと頷く。手に持ったのはじゃくてんほけんと呼ばれる一枚のカードだった。

 持っていると効果抜群の技を受けた時、攻撃と特攻の能力ランクが二段階上昇する道具だ。存在しているだけで相手に効果抜群の技を撃たせる事を躊躇させる恐ろしい道具だが、この世界ではデボンコーポレーションの開発品であるため周知されてはいない。きっとガンガン効果抜群技を撃ってくれる事だろう。

 

「じゃあ、このじゃくてんほけんときあいのタスキ、それにゴツゴツメットと、後はメタルコートにします」

 

 経過報告は追って連絡しますので、という言葉で道具の選択は終了した。この先これらアイテムが正規品として販売される様な事になればポケモンバトルもより複雑な物になるだろうな。

 考える事が増えてトレーナーの負担が増すかもしれないが、まぁ発展に犠牲は付き物という事で。

 

 デボンコーポレーションでの用事は済んだので一旦家に帰ろうかとお開きの雰囲気が漂ってきた。

 俺とダイゴで道具を持ってムクゲに暫しの別れを告げて部屋を出る――

 

 ――瞬間に扉が独りでに開いた。

 

「えっ?」

 

「むっ、君は……あぁ、社長の。どうもこんにちは」

 

「社長、頼まれていた書類を作ってきました」

 

「あぁ、入りたまえ」

 

 二人の男女と入れ違いになりながら、ダイゴと俺は退室する。決して、こちらの焦燥を悟られないように。目的を達成したと分からぬように。

 

 あの二人の容姿には見覚えがあった。恰幅のいい細目の男性と、褐色肌の長髪の女性。

 

(……見つけた)

 

 ――マグマ団のホムラとアクア団のイズミだ。

 

 まさか二人共いるとは思わなかったが、これで二つの悪の組織が存在する事が確認できた。さぁて、どうするべきか……。

 

 

 

 

 

「礼儀正しい子でしたね」

 

「うん、ホムラさんも驚いたぞ」

 

 書類を持ってきた我が社の社員がダイゴに好感触な反応を示す。

 

「自慢の我が子だよ、あの子はもっと強くなる。さて、書類を持ってきたという事だが、例の計画の物で間違いないか?」

 

「はい、カロスにいる研究員との情報を統合し研究範囲を広げました」

 

「まだ確立した情報が少ないから未だに机上の空論ではあるけれども、実地試験の場が整えばかなり情報は集まると思うよ」

 

 詳細はこちらをどうぞとイズミから渡された資料を受け取る。

 あの日、ダイゴの相棒から受けた話に興味を持ち、一つの小さな疑問を持った。

 

 ――メガシンカがポケモンとトレーナーの力だというのなら、どのポケモンも潜在的には強大なエネルギーを持っているのだろうか?

 

 もし、その力を何かに変える事が出来るのなら。

 悪い事をしているという自覚はある。あるが、それと引き換えに。……いや、そのエネルギーを解析して犠牲すら出さずにエネルギーを作り出す事に成功すれば、ホウエンは今以上に大きくなる。

 

 資料の最初には、「メガシンカの生体エネルギーの解明及び∞エネルギーへの転用実験における調査報告書」と書かれていた。

 

(そうだ、家の書庫に先代の残した手記があったな。何か、手掛かりは無いだろうか?)

 

 誰もが犠牲になる事の無い未来を夢見て、私は資料をパラパラと読み進めた。

 

 




運命は集束する。

原作より幾分マシな思想を持っていたツワブキ・ムクゲですが、シルキーがうっかり零したメガシンカに興味を持つ事に。
どうしたって∞エネルギーは創られる運命にありました。

これでシルキーが剣舞弱保メガクチートというとんでもない奴になりました。これ持ってなー、フエンジムに行ってればなー、速攻で終わったんだがなー。

感想くれたらとても嬉しい。


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自分の誕生秘話を知った所で正直反応に困る。

削っては足し削っては足しを重ねた結果シリアス風味な話が出来上がってしまった……。脳死で平和な話を書きたい。


 

 俺がこの世界で生まれ落ちてから結構な日数が経過しており、そろそろ一年に届きそうな所まで来た。

 暦が日本の物と同じかは分からないが、一日の長さは大体同じだしイッシュ地方には四季もあるしこの世界でも一年は一年だろう。

 

 色々な場所を巡り、カナズミシティに戻って暫く休んだ事で心に余裕が出来てきた。まぁ代わりに頭を悩ませる案件が一度に二つも出てきたが、今の俺では止められないし考えるだけ無駄な事だな。

 という訳で暫くの休息を終えた俺達は、残りのジムを踏破してバッジを全て集める旅に出る事にした。

 そのついでに、俺が生まれたあの森にも一度顔を出そうかと考えていたのだった。勿論ダイゴも連れてではあるが。

 

 さて、生まれたばかりの時は皆目見当も付かなかったが、あの森は俺ならよく考えればすぐに答えが出るほどには有名な森だった。

 地理的に考えよう。俺と初めて会った時のダイゴはまだ子供で、体力も歳相応の物しかなかった筈だ。そんなダイゴでも森の中に入れる様な場所、転じてカナズミシティの近所にありながら巨大な森だという事でもある。

 加えて出てくるポケモンはコノハナやダーテング等の草タイプのポケモン、そして決定打となるのはキノガッサ、並びにキノココの存在だ。

 

 ここまでヒントが並べられれば流石に誰だって分かるだろう。

 

 ――俺は、トウカの森の奥深くで生まれた。

 

 

 

 

 

 トウカシティからカナズミシティまでの間に、トウカの森と呼ばれる巨大な森が存在している。

 ただ素通りする分にはスバメやキノココといった弱いポケモンしか出てこないが、一度足を踏み外せば高レベルのポケモンがわんさかいる迷宮の様相を呈してくる。

 

 ……まぁポケモン同士の縄張り争いは無いに等しく、無自覚に迷い込んだ人間やポケモンは比較的穏便に森の外に放り出してくれるのだが。

 

(生まれたばかりの時は早く強くならないと死ぬって必死だったけど、あそこってかなり平和だったんだなぁ)

 

 様々な場所をダイゴ達と共に渡り歩き、見聞を広めた今では本当に幸運だったとしみじみ思う。

 思うのだが、ここまで情報が揃うとふと気になる事がある。

 

 何故トウカの森の奥深くにタマゴを置いていったのだろうか?

 

 身近な場所に捨てたから?

 否、俺の親はクチート(もしくはメタモン)だ。トレーナーに捕まって各地を渡り歩きでもしなければ森の奥深くにクチートが訪れる事などあるまい。加えてトレーナーは自分のポケモンのタマゴを捨てる事を禁じられている。可能性は無い訳ではないが少しばかり考え辛い。

 

 では捨てた、ではなく隠した?

 例えば、うちのエアームドやコドラの様に何者かに追い立てられ仕方なくタマゴだけでも安全な場所に置いておく、なんてどうだろう?

 否、クチートのタマゴが森の奥に置かれている理由にはギリギリ納得できるが、その推論が真実だとすればトウカの森は少しばかり平和に過ぎる。追っ手が存在したのであれば間違いなく逃走経路であるトウカの森も調べた筈だ。そうなればどうしたって森全体に敵対的な雰囲気が漂う。それが無いのであれば、襲撃そのものがそもそも無かったという事。

 これもやはり可能性は捨てきれなくとも決定打としては些か弱く思える。

 

 捨てた、隠したとも違うとなれば、考えられる可能性は預けた?

 自分が育てるよりも森に預けた方が良いと、或いは自分が育てれば良くない事が起こると判断したが故に、安全なトウカの森の奥深くへと置いた。生まれた瞬間に死の危険に襲われる事の無い様に、森の中で自分の身を守れるまで強くなれる様に。

 

 本当の事は今の俺では分からない。それを知ってる者に聞かなければ、真意は分からない。

 

「ダァーッテテテ」

 

「クゥッチ」

 

 ――なぁ、お前なら知ってるだろう? トウカの森の主様よ。

 

 

 

 

 

 トウカの森の大道から外れ、すぐに目当てのダーテングと遭遇した。

 俺はダイゴに敵意をなるべく出さない様に伝えたが、まぁ難しいだろうな。ダイゴ視点では幼少期俺をズタボロにしたのが目の前のダーテングだし。

 

 ふと辺りを見渡す。

 

(……やはり片割れはいないか)

 

 かつてこの森でコノハナとバトルする度に姿を現していたダーテング夫妻。妻の方は敵意や害意といった悪感情に敏感なのか、戦闘に発展すると思い至ったらすぐにその場を離れて夫のダーテングの様子を窺う。

 それでいて逃げている訳では無いのが非常に厄介だ。そして妻の方が一向に姿を現さないという事はつまり、一触即発の状態であるという事である。

 

「ダァー?」

 

 久しぶりだな、何をしに来たとダーテングが問う。

 

「クック、チィ」

 

「……ダァーッテッテッテ! ググゥ」

 

 帰郷のついでに聞きたい事が出来たと返せば、何かが琴線に触れたのか唐突に笑い出し、己の右腕を掲げた。

 

 ――いいだろう。答える事の出来ない物は答えないが、言ってみろ。そうダーテングは言ってくれた。

 まるでこの時を待っていたかのような言い草に疑問を抱いたが、答えてくれるのであればと思考を切り替えて聞くべき事を精査する。

 

「クックチィ」

 

 ダイゴと共にその辺の倒木に座り、俺はダーテングと向き合い口を開いた。

 

 ――何故俺はこの森の奥深くで生まれたんだ? 親は一体何処にいる?

 

 ダーテングは答えた。

 

 ――お前の母親である一匹のクチートに預けられた。俺に、では無くこの森に。今何処にいるのかは分からない。滅多に姿を現す奴では無いからな。

 

(……預けられたという予想は合っていたが、滅多に姿を現さないから居場所が分からない? 何処か誰も知らないような場所で引き篭もっているのだろうか?)

 

 再び問い掛ける。

 

 ――俺の母親は何者だ?

 

 ダーテングは答えた。

 

 ――答えられない。答えればお前も母親と同じ使命に身を窶さねばならなくなる。折角人の子と巡り合えたというのに別れを告げるのは辛いだろう?

 

 答えられないと言いながらも俺でも分かるようにヒントをくれた。俺の母親は何らかの使命を持っている、それが何かは皆目見当も付かないが一先ず俺がトウカの森で生まれた理由は理解した。

 後何か聞く事はあるだろうかと記憶を掘り起こしていると、ダーテングが俺の顔を指差した。

 

 ――その左目が、お前がまだ自由の身である何よりの証明だ。

 

(……左目?)

 

 もはや見慣れた紅い大顎を顔の前に持ってきて、研がれた歯に写る己の眼を見る。

 生まれた時に確認した時の様に、ダイゴの家で鏡を見た時の様に、茜色の両目がこちらを見返すだけであった。

 

 左目はおろか両の眼に変化は無い。

 

 ――何もないからだ。色の変わらぬその左目が何よりの自由の証明だ。

 

「ダァグググ、ダァッテ?」

 

「……クチッ」

 

 話は終わりか? と問うダーテングに、これ以上質問をぶつける事は出来なかった。明かされた情報の処理に手一杯だったから。

 森の奥からコノハナとダーテングがやってくる。コノハナの方は以前稽古を付けた奴と同じ奴だったが、何故かぶすっとした顔をしている。何かしたか俺?

 

「ダーッテァ、グンググ」

 

 ――これ以上の事はお前の母親に聞け、そう簡単に姿を現すとは思えんがな。

 

 そう言ってダーテング達は俺達の前から姿を消した。これ以上言う事は何も無いとでも言う様に。

 再び思考に耽りかける俺をダイゴが気遣わしげに引き止めた。

 

「……なぁ、シルキー。話を遮りたくなかったから黙ってたが、こんな危険を冒してまで聞く事だったのか?」

 

「……クゥ」

 

 ……必要か不要かで言えば、間違いなく不要であった。そもそも一人で生まれた時点で故郷という程愛着を持ってないし、帰郷と言ってもダイゴとトウカの森の主に会って自ら身の危険を高める必要は無かった。

 どころか以前にフライゴン相手に一度痛い目にあったにも拘らずこうして同じ轍を踏み掛けた時点で馬鹿と言われても仕方の無い所業であった。

 

 では何故このような事をしたのかと言われれば、どうしても知りたかったからとしか言えない。

 

 もし何らかの理由で捨てられたのであればこの先俺を狙う何かが現れるかもしれない。この身は既に俺だけの物じゃない、ダイゴや皆に危機が降りかかる可能性だってある。

 敵対勢力の影でも掴めるのなら、とここまで来たが、……本当の事を言えば、ただ会いたかっただけだ。

 

 俺の母親に。

 

(……まぁ、謎の解決どころか更なる謎が増えただけだったけどな)

 

 これ以上この場にいても仕方無い。

 自分の都合で寄り道してしまった事をダイゴに謝って、俺達はトウカの森を抜ける事にした。

 

 目指すはムロタウン、四つ目のジムバッジを手に入れるために海を越える。

 

 

 

 

 

 森の中から打って変わって、僕達は海の上にいた。

 

 別にラプラスに乗ってるとかそういう訳ではなく、トウカシティとムロタウンを繋ぐ遊覧船に乗り込んだのだ。

 運が良ければ遠目にホエルオーの群れが浮上する瞬間が見えるというので甲板にいるが、シルキーとエアームドは潮風を嫌って部屋に篭もっている。フォートとコドラに関してはボールから出ようとすらしなかった。

 

(いやまぁ別に良いけども。皆嫌がってたし)

 

 はがねタイプが塩水を、というか錆びるのを嫌うのは知っていたから僕としても無理をさせるつもりは無い。

 ムロタウンに着いたら念入りに磨いてやらねばと考えていると誰かが近付いてくるのに気付く。

 

「よぉ、お前さんトレーナーかい?」

 

「えぇ、まぁ。貴方もトレーナーですか?」

 

 隣に目を向けるとYシャツにハーフパンツというラフな格好に身を包み、茶色の髪を後ろに流している明るい風貌の青年がこちらを見ていた。

 

「いや? 俺はトレーナーってよりサーファーだな。相棒のポケモンはいるっちゃいるが、そいつは波乗り仲間だ。ムロタウンにはあんまり観光客は来ないからサーフィンの練習にはうってつけなのさ」

 

 ムロタウンの人達にはちょっと悪いがな、と苦笑する男は咳払いを一つ零して続けた。

 

「トレーナーって事はジムに挑みに来たんだろ? 向こうに着いたら案内してやるよ」

 

「良いんですか? 忙しいんじゃ……」

 

「良いって良いって、どうせ対した手間じゃないしな。俺はシラナミ、短い旅路だが宜しくな」

 

「僕はダイゴです、まだバッジは三つですけどすぐに八つ手に入れてポケモンリーグに行きますよ」

 

「いいねぇ、頑張れよ未来のチャンピオン!」

 

 ハハハと笑うシラナミに笑みを返し、談笑に花を咲かせる。

 

(――あれ?)

 

 ふと水平線に目を向けると、水面に立つポケモンを見つけた。かなり遠くにいて目を凝らさなければ見えない程だったが、恐らくは……サーナイトだろうか?

 

「ん、どした? 何かいたか?」

 

「いや、あそこにポケモンがいた様な……」

 

「んー? ……いやぁ、見えねぇな。魚影も無いし見間違いじゃないか?」

 

 再び遠くに目を向けるとポケモンの影は既に無く、そこには白い霧が漂うばかりであった。

 

(見間違い、か)

 

 確かにそうかもしれない。何しろ僕はあんなサーナイトを見た事が無かった。

 

 黒いドレスを身に纏ったような蒼いサーナイトなんて。

 

「おぉ、見えてきたぜダイゴ。あの孤島がムロタウンさ」

 

「あれが……」

 

 進行先には険しい岩肌を持つ大きな島。あそこに僕達の目当てにしているムロタウンのジムがある。

 先ほどのポケモンの事など、頭から消えていた。

 

 




ポケモン同士の会話ってテンポ悪くね?
正直謎が深まっただけなので今話の内容はあまり覚えなくても大丈夫です。伏線はそのうち解説付きで回収するので。多分。きっと。メイビー。

【種族】ダーテング
【性格】れいせい
【特性】ひよくれんり
【レベル】60
【持ち物】あかいいと

【技】
・ふきとばし
・わるだくみ
・グラスミキサー
・かまいたち

「ひよくれんり」
・自身の伴侶が戦闘に参加している場合、どれだけ離れていても戦闘に参加する事が出来る。
・自身の伴侶の攻撃が相手に命中した時、次に自身の放つ技が100%命中するようになる。
・自身の能力値ランクを自身の伴侶に譲渡する事が出来る。この行動はターンを消費しない。
・自身の伴侶が瀕死状態になった時、自身の全ての能力値ランクが六段階上昇する。

【種族】ダーテング
【性格】おくびょう
【特性】ひよくれんり
【レベル】60
【持ち物】あかいいと

【技】
・ぼうふう
・リーフストーム
・あくのはどう
・かたきうち

「ひよくれんり」
・自身の伴侶が戦闘に参加している場合、どれだけ離れていても戦闘に参加する事が出来る。
・自身の伴侶の攻撃が相手に命中した時、次に自身の放つ技が100%命中するようになる。
・自身の能力値ランクを自身の伴侶に譲渡する事が出来る。この行動はターンを消費しない。
・自身の伴侶が瀕死状態になった時、自身の全ての能力値ランクが六段階上昇する。

異常個体:“比翼連理”
・最初にその存在が観測されたのはトウカの森深部。
・現地のポケモンレンジャーから妙に連携の上手いダーテング達がいると報告を受け、調査を行った。
・情報収集の為に交戦を開始すると、即座にダーテングの片方が森の奥へと逃走し、姿を見せる事無く遠距離攻撃に徹した。
・その場に留まり交戦者を翻弄する個体とその場から離れて援護と妨害を行う個体に分かれて常に二匹で戦う習性から異常個体に認定された。
・ジムリーダー、ジムトレーナー、及び全てのポケモントレーナー、ポケモンレンジャーは敵意を持っての接触を控えたし。
・ポケモンリーグ異常個体観測部門部長より通達。

感想くれたらとても嬉しい。


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奇襲戦法は忘れた頃にされるとかなりビビる。

色違いが出る確率が100分の1くらいになる光り輝くお守りとか出してくれませんかゲーフリさんや。
あ、今回設定のこじ付けが多いです。ゲームとの乖離はどうにか独自要素で埋めていくしか無いんや……。


 厳しい自然が身体を鍛えるのに好ましいとされているムロタウン。

 この島に降り立つ者は誰もが己を高めようとやってくる。格闘家然りサーファー然り、そしてポケモントレーナーもまた然りである。

 

 潮風で若干ギシギシする己の大顎をブンブンと振り、俺はダイゴ達と共に船を下りた。

 ホエルオーが見られるんだったら潮風くらい我慢してダイゴと一緒に外にいれば良かったな、あいつが実際にどれ位のサイズなのかが非常に気になる。

 

(まぁ、帰りで見られたらいっか)

 

 そもそも運が良ければ見られるという話であった訳だし。

 

「船酔いは平気か?」

 

「えぇ、ちょっとふらつきますけどすぐに治りますよ」

 

「ハハハ、人生初の船旅にしては強いなぁダイゴ。んじゃ折角だ、ムロジムまで歩いてこーぜ? 俺もダイゴのポケモンの話とか気になるし」

 

 何時のまにかダイゴと仲良くなっていたシラナミという名の青年がダイゴに語りかける。

 当たり前であるがこの世界の海パン野郎はゲームみたいに遠洋をグルグルと旋回する事は無い。サメハダー等のポケモンと海で遭遇するのは森でダーテングと遭遇するよりも尚危険度が高い事で、狙われたが最後人間の力では逃げ切る事は不可能だからそもそも海に出る人が殆どいないのである。

 

 一応カナズミ近くの海であったりカイナシティ周辺は野生の水棲ポケモンが寄って来ない様な対策が成されている為安心して泳ぐ事が出来るが、それ以外の海でサーフィンの練習をするのはかなり肝の据わった人物でなければやろうとすら思わないだろう。

 案外凄いやつなのかも知れんなこいつと考えていると、徐にダイゴに抱きかかえられた。

 

「相棒のシルキーです。子供の頃からずっと一緒に過ごしてきた家族ですよ」

 

「クチッ」

 

 とりあえず鳴いておく。よろしくな。

 

「……さっきから思ってたんだが、そのクチート――シルキーって色違いだよな? よく仲間になってくれたな。いや、子供の頃からずっと一緒にっつってたか、本当にお前さんの相棒なんだな」

 

「えぇ、自慢の仲間です。シラナミさんもポケモン持ってるんでしたよね? どんなポケモンなんですか?」

 

 なら紹介しようか、とシラナミがモンスターボールの中から出したのは鋭利な棘を持つ鋭いフォルムの水色のポケモン。

 

「シードラだ、俺の仲間がタッツーを譲ってくれてそっからずっと一緒にいるのさ」

 

 突然陸に出されたシードラは口から水槽一杯分の水を吐き出し、その水を操って自分の足場、というかそのまんま水槽にした。

 水タイプのポケモンは自身と関わりの深い水であれば自由に操ることが出来、それを使って自分が泳げるだけの空間を確保する。まぁトドゼルガの様にそもそも水が必要ないポケモンやコイキングの様に水を操る事すら出来ないポケモンもいるのだが。

 

 こういう所を見るとゲーム知識があまり役に立たない事を実感するしポケモンの力ってすげぇなと感心してしまう。

 

「今はキングドラに進化させようと思ってるんだが、あんま上手く行かなくてな……。まぁのんびり楽しくやってるよ」

 

「シィッドッド」

 

 シードラはシラナミを申し訳無さそうに見る。

 

 この世界での通信交換で進化するポケモンは、通常の経験値とは違う「進化に必要な独自の経験値」を得て初めて進化するポケモンとなる。それが最も手に入る確率が高いのが他人との交換というだけの話だ。

 だから他の人と交換などしなくとも何かしらの条件が揃えば進化できるし、逆に他の人と交換しても一向に進化しないポケモンもいるらしい。

 それでもアギルダーとシュバルゴはこの世界でも一番分かりやすい通信交換進化ではあるけれども。

 

 結論を言うのであれば、ゲンガー等のポケモンを持っているトレーナーは極めて運の良いトレーナーと言えた。シラナミがその運のいいトレーナーに仲間入りするかどうかは、正に天のみぞ知る所である。

 

「キングドラ、ですか。噂ではドラゴンタイプのポケモンの鱗を持ってると進化しやすいって聞きましたけど」

 

「あぁ、最後の進化でドラゴンタイプが追加されるからその兼ね合いだろーな。ただドラゴンタイプのポケモンの落とした物なら何でもいいのかとか良く分かんねぇのさ、その辺りの事を聞きにムロタウンまでやってきたってのもある。ま、一番はシードラと一緒に波を乗りこなしに来たんだがな」

 

 そぅら着いたぜ、とシラナミが答える。俺達はムロタウンの中心部に存在するムロジムの前までやって来た。

 俺達をここまで案内してくれたシラナミは頑張れよとダイゴを応援して、シードラと共に街中に消えていった。もう一つの目的を果たしに行ったのだろう。

 

 俺達もここまで来た目的を達成せねばな。

 

「さぁ、行こうか」

 

「チチチ」

 

 四つ目のジム戦、開始である。

 

 

 

 

 

 さて、ムロタウンジムの得意とするタイプをご存じだろうか?

 正解はかくとうタイプ。多彩な物理攻撃手段を持つタイプで、はがねタイプ相手に弱点を突けるポケモンばかりだ。

 であればフエンタウンに続いて今回もダイゴは苦戦するのでは、と思うかもしれないが実を言うとそうでもなかったりする。

 

 ダイゴの現在の手持ちを思い出してみよう。

 

 クチートのシルキーこと俺。タイプははがねとフェアリーの複合。

 メタングのフォート。タイプははがねとエスパーの複合。

 つい最近進化したコドラ。タイプははがねといわの複合。

 砂漠で仲間になったエアームド。タイプははがねとひこうの複合。

 

 そう、かくとう弱点なのはうちではコドラだけである。

 そのコドラも物理防御力はダイゴパーティの中ではエアームドと並んでかなり高く、その上特性でがんじょうを持っているので絶対に一度は行動する事が可能である。

 

 まぁ、その、なんだ。つまりはジムリーダー前のトレーナー三人とのバトルは特に見所も無く勝利した、という事である。

 

(大体エアームドとフォートで終わるんだよなぁ)

 

 まぁそれも已む無し。

 次の相手はいよいよジムリーダーのトウキ。相性有利は変わらないが気を引き締めて行こう。

 

「……ん、おぉ! 来たかチャレンジャー! ウチの奴らと戦ってる所見てたけど強いな、お前達」

 

「ありがとうございます。貴方にも勝たせて貰いますよ」

 

「いいねぇ! だがこんなでもジムリーダーなんだ、簡単に越えさせる様な壁にはなってやれねぇなぁ。さぁやろうぜ!」

 

「えぇ。――行こうか、エアームド」

 

「行って来いカイリキー!」

 

 

 

 

 

 ――カイリキーか、ゴーリキーはジムトレーナー戦で戦ったが、その進化系だっただろうか。

 

 ジムリーダートウキの繰り出したポケモンに対して思考を絶やす事無く、僕はエアームドに指示を出す。

 

「エアームド、まきびし!」

 

「カイリキー! ビルドアップだ!」

 

 エアームドが翼をはためかせ、フィールドに棘をばら撒くと同時にトウキのカイリキーがポージングを行う。

 

 双方初手変化技。すぐに突撃するほど油断はしてくれない訳だ。

 引くか、残るか。仕事はしたが、カイリキーの技でこちらに有効打はあるだろうか?

 

(ほのおのパンチ辺りが来ると厳しいだろうが……エアームドなら避けられる。それに――)

 

「――うん? そのタスキ……」

 

「駄目でしたか?」

 

 エアームドの額には燃える様に赤いきあいのタスキが付けられていた。

 名前的に付けるなら肩とかの方が良いんだろうけどね。流石に飛行の邪魔になるので鉢巻の様に巻いておいた。

 

「うんにゃ、駄目じゃあないさ。別に木の実を持たせる事も許可してるしな。流れを切って悪かった、何処からでも掛かって来い」

 

「エアームド、ステルスロック!」

 

「――きあいだめ!」

 

 ビルドアップに続いてきあいだめの指示を出した事に一瞬疑問を抱くが、それならそれでエアームドを遮る物は何も無いと考える。

 エアームドは自身を中心に尖った岩を作り出し、辺りにばら撒かれると同時にそれらの岩は透明に変化した。

 

 ――ステルスロック。

 

 本当ならさらにまきびしを撒いておきたかったがそこまでする時間は無いだろう。なら次は攻撃か交代でも――

 

「よし、登ってぶちかませ!」

 

「――カァイ!」

 

 ――カイリキーが虚空を掴み空中のエアームドに高速で迫る。

 

 いや、違う。これは――!

 

「カァイ、リッキー!」

 

 “ばくれつパンチ”

 

 一瞬でエアームドの頭上へと跳び、ダブルスレッジハンマーの要領でエアームドの頭部を殴り、大地へと叩き落した。

 

「ステルスロックは相手を見て撃つべきだぜ? こうして足場にされるからな」

 

「……な、な――」

 

 何だそれは。

 簡単にそう言うが、それはつまり辺りにばら撒かれたステルスロックの位置を透明化するまでの一瞬で全て把握したという事か?

 開いた口が塞がらないとはこの事だった。

 

「エ、アァ……」

 

 墜落したエアームドを見るとふらつきながらも立ち上がっていたが、無理をしているのは明白だった。ばくれつパンチを受けて混乱してしまっているのだろう。

 

「後一回だけ踏ん張ってくれ! ふきとばし!」

 

「エアァ!」

 

 訳も分からず混乱する様な事は無く、僕の指示に従ったエアームドは足下も覚束なくなる様な暴風をカイリキーに浴びせる。

 

 “ふきとばし”

 

 カイリキーはトウキの元まで吹き飛んで行き、全身の力が弱まる。暫く動く事は侭ならないだろう。

 

「戻れカイリキー!」

 

「お疲れ、エアームド」

 

 共にポケモンをボールに戻し、トウキと共に僕は次のポケモンを繰り出した。

 

「行け! ハリテヤマ!」

 

「出番だよ、フォート!」

 

 想定外は起こりえるのだと理解した。まさかこんな事はしないだろうという考えは油断に繋がる。

 思考を深め、あらゆる事態に対処しよう。そうして初めて、皆と共に勝利する事が出来るだろうから。

 

 




何か久々の戦闘描写で物凄い書きにくかった。少しずつ慣らして行かなきゃ……。

水タイプの中でも魚の様な水棲ポケモンは自分の力が宿った水であれば浮かせられます。ゲームみたいに浮いてたらお前水棲の癖に陸上でも活動できるやんけってなりそうなので。技と言うよりは生まれながらの技術に近いですかね。勿論無条件で浮かせ続けられる訳ではありませんが。
想像が難しい方はアニポケのアクアジェットという技を思い浮かべてみて下さい。どこからともなく水が出てきて自分の周りについて回るという意味ではあれが一番近いです。
この設定を追加した事で周辺被害が数十倍に跳ね上がる水タイプのポケモンが一匹いますが……まぁ誤差でしょ。

それと通信交換で進化するポケモンは「何かしらの特別な刺激で進化する」というあやふやな進化方法に。この世界で交換した途端に進化するメカニズムを説明できる気がしなかったので……。シュバルゴやアギルダーの様な進化条件がはっきりしてるポケモンは別として、他のポケモンは交換しただけじゃ進化しません。
まぁこれはぶっちゃけ「交換しなくとも進化条件を満たす事があるけど他の人の手を借りた方が早い」という感じに考えてもらえたらいいと思います。正直ダイゴ陣営には関係ない話だしね。

ムロジムリーダーのトウキはかくとうタイプ主体の戦闘スタイルですが、技にはならない小手先の技術が異常に巧いポケモンばかり揃ってます。
かくとうタイプという性質上トレーナーと共に自己研鑽する事が可能であり、人間の用いる技術の流用が最も容易だからです(安定の独自要素)

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勝利を狙うのなら取り乱す事無く慎重に。

遅くなってごめんやで。
適当に戦闘書いてたら当初の予定よりトウキが化物になってたから丸々書き直してたでな。


 向こうはハリテヤマを、ダイゴの方はフォートを繰り出した。

 事前にエアームドが撒いたまきびしとステルスロックがハリテヤマの身体を傷付けるが、全く意に介してないな。特性はあついしぼうだろうか? いや、まだ決め付けるには早いな。

 

 対してこちらのフォート、エアームドと同じくあるアイテムを持っていた。

 フォートの持ち物はゴツゴツメット、被攻撃時に相手の最大HPの六分の一を削るとんでもないヘルメットである。一応弱点として非接触技には効果が発揮されないのだが相手は格闘タイプのポケモンばかり、心配はいらないだろう。

 

「フォート! しねんのずつき!」

 

「迎え撃て! はっけい!」

 

 ダイゴはバレットパンチで様子見する事無くしねんのずつきで落としに掛かった。カウンターを受けても耐えられると踏んだのだろう。

 

 “しねんのずつき”

 

 フォートの鋼鉄の頭部がハリテヤマへと突き刺さる。地味にメタングって頭部にトゲ付いてるから滅茶苦茶痛そうなんだよな……。

 だが、その頭突きを受け止めて尚動きを止める事無く、ハリテヤマはフォートへ向けて張り手を繰り出した。

 

 “はっけい”

 

「テヤッ!?」

 

 ハリテヤマが初めて苦悶の声を上げる。

 はっけいを喰らったフォートの全身には水晶の様に透き通る岩が生成されていた。と言うよりかは、実体を伴った幻影に近いだろうか?

 

(ゴツメのダメージってあんな感じになるんだな、ちょっと面白い)

 

 反撃ダメージがあると言えど、ただゴツゴツしたヘルメットであれば装着した頭部以外を攻撃すればいい。だがそれでは「どうぐ」に満たない唯の道具でしか無いだろう。

 普通はありえない効果を宿し、ポケモンが使う事で初めて真価を発揮するそれこそがアイテムなのだから。

 

 それを試作品ながらも開発できたというデボンコーポレーションの技術力は、既にトップクラスと言っていいだろうな。

 

「へぇ、面白いもん持ってんな。一応ダメージは通ってるっぽいが……流石に不利か?」

 

「畳み掛けろ! メタルクロー!」

 

「……いや、構うな! インファイト!」

 

 フォートの鋼鉄の爪とハリテヤマの拳撃が幾度と無く交差する。ハリテヤマの連撃にフォートの身体は傷ついていくが、それ以上にハリテヤマの拳をゴツゴツメットの作り出す岩の幻影が傷付けていく。

 トウキの言ったように、攻撃を重ねれば重ねるほど不利になるのはハリテヤマの方であった。

 

「潮時か、ハリテヤマ! きしかいせい!」

 

「ハァッリ!」

 

「――ッ! バレットパンチ!」

 

 ハリテヤマの全身から淡いオーラが漏れる。それは己の体力の減少と反比例して増大する力そのもの。それをフォート相手に余す事無くぶつけるよりも前に、フォートの電光石火の一撃がハリテヤマの身体に突き刺さる。

 

 だがしかし、ハリテヤマは止まらない。何度も何度もフォートはハリテヤマに対して攻撃を加え、それでも一度として動きを止める事は無かった。

 何度か見て俺は漸く理解した。あれはハリテヤマの特性を派生させた技術だ。

 

 恐らくハリテヤマの特性はあついしぼうで間違いない。トウキはそこから痛みに対する対策をハリテヤマに獲得させたのだ。怯みを無効にするせいしんりょく程ではないだろうが、その強靭な心構えは己の隙を殆ど無い物とする。単なる攻撃なんかでは決して退かない、決して止まらない。

 

(ゲームでは表現出来ないような、ほんの小さな技術だけど。物によっちゃこうも厄介なのか)

 

 そうして、ハリテヤマの渾身の一撃はフォートに炸裂した。

 

 “きしかいせい”

 

「……グッ――」

 

 ハリテヤマの全霊の押し出しはフォートを吹き飛ばし、フィールドとの激突で土煙を撒き散らすに足る威力であった。

 

「うん、かなり仕事はしてくれたかな。ハリテヤマ、戻――」

 

「――フォート! おいうち!」

 

 土煙の中から疾風の如く飛び出し、ボールに戻りかけていたハリテヤマをその鋼の拳で殴り飛ばす。

 

 “おいうち”

 

 お返しとばかりに放たれた一撃で今度はハリテヤマが吹き飛んでいく。だが今までのダメージの蓄積に加え、きしかいせいでダメージを与えた時にもゴツゴツメットで反撃を受けたハリテヤマは虫の息とすら言ってもいい状況であった。

 フォートのおいうちを受けて耐えられる道理も無し。ハリテヤマは膝を突き、意識を失った。

 

「……はは、すっげぇなぁお前、こりゃ一本取られたぜ」

 

「最後までチャンスを諦めちゃダメだって叩き込まれてますからね」

 

 主にクレナイと例のフライゴンの比重が多いけどな。しかしまぁ窮地が人を助けるのはその通りであるらしく、バッジ集めの旅を始めた頃と比べれば遥かに力を付けただろう。これはもう実質ホウエンチャンピオンと言ってもいいのではなかろうか? 油断すれば足下を掬われるのは何時だってこちらなので自重はするが。

 

「んじゃまぁ、行ってこい! カイリキー!」

 

「このまま押し切るぞ、フォート!」

 

 トウキは先ほどのカイリキーを繰り出し、ダイゴはそのままフォートを続投して勝負は続いていく。

 ジムリーダーとの戦いは徐々に熾烈さを増していった。

 

 

 

 

 

 先ほどのカイリキーが出てくる。一瞬の思考の後、僕は冷静さを取り戻した。

 エアームドのステルスロックを利用された光景は衝撃的だったが、まだ対応できる範囲内だ。

 

 トウキが繰り出したカイリキーは足下のまきびしに顔を逸らし、ステルスロックに顔をぶつけと散々な目に遭いつつもじわじわとダメージが蓄積していったが、ふと顎に手を添えて数秒考え始めた。

 

「覚えてるか?」

 

「カイッ」

 

 つい、とカイリキーが周囲に目を向ける。その視線の先にあるのは全てエアームドが撒いたステルスロックだった。

 このカイリキーは、既に透明になりもはや何処にあるのかすら分からない筈の全てのステルスロックに目を走らせたのだ。

 

「――フォート! メタルクロー!」

 

 あのカイリキーは突拍子もない事をするが、それは技や特性の様な力ではない。それでも時間はカイリキーに味方をするだろうから速攻で決着を付ける必要がある。

 フォートが念動力を纏いカイリキーに向けて突撃していくが、カイリキーは衝突時に後ろに飛んでダメージを最小限に留めた。それでも抑えきれない衝撃がカイリキーを吹き飛ばしていくが、トウキの目に焦りは無かった。

 

「翻弄してばくれつパンチだ!」

 

「相手の腕にバレットパンチ!」

 

 ステルスロックを利用してカイリキーが縦横無尽に動き回る。傍から見ればカイリキーが重力を無視して異常なアクロバットをしている様な光景だが、ここまで動かれるともはやステルスロックの有用性は無いに等しいだろう。

 現に動き回っているカイリキーを真剣な表情でトウキが見ている。ステルスロックの場所を自分も覚えるつもりだろう。

 

 だが、それでもカイリキーは接触技しか使えない筈だ。絶対にフォートに近付かねばならない時が来る。こんな風に。

 

 “バレットパンチ”

 

 “ばくれつパンチ”

 

 フォートの頭上から先ほどエアームドに当てたばくれつパンチを命中させようとするカイリキーの腕に、フォートの弾丸の様な拳が突き刺さる。

 恐らくカイリキーの特性はノーガード、確か双方の技が必ず命中する様になる、だったか? だからこうも惜しげもなくばくれつパンチを放てるのだろう。

 

 しかし近距離であれば、フォートの方が速い。拳に集中して技を邪魔すればばくれつパンチは不発に終わる。

 

「畳み掛けろ! しねんのずつき!」

 

「くっ、インファイト!」

 

 そして近距離まで近付いたのならもう逃がしはしない。ステルスロックが相手の有利になるという事が分かっている以上態勢を立て直させはしない、決して。

 

 互いの攻撃が互いの気力を削り取る。殴り、蹴り、叩き付け、頭突き、それでもフォートの優位は揺るがない。

 カイリキーが拳をぶつける度にフォートのゴツゴツメットの反撃がカイリキーの体力を奪っていく。

 

「決めろフォート、バレットパンチ!」

 

 体力の減少でよろめいたカイリキーの身体の中心を、フォートの不可避の一撃が捉える。

 

 “バレットパンチ”

 

「カイィ……」

 

 カイリキーはフィールドに倒れ付した。

 

「まさかまさかだ、こうも早く対応してくるとは思わなかったぜ」

 

 トウキがボールを倒れたカイリキーに向けて回収する。ありがとよという感謝の言葉と共に。

 

「んじゃまぁ正真正銘最後の一体! 行こうぜ、――コジョンド!」

 

 トウキが繰り出した最後のポケモンはコジョンド。イッシュ地方のポケモンという事位しか知らないが、トウキの手持ちなのだしどうせとんでもない奴なんだろうな。

 フォートにはまた負担を掛けるが、頑張ってくれ。そう思いながら僕は気を引き締めなおした。

 

 

 

 

 

 出てきたコジョンドはカイリキーと同じ様にまきびしを踏み、ステルスロックで身体を傷付けた。

 鬱陶しげに眉を顰めるコジョンドにトウキが指示を出す。

 

「さぁ、何もかも吹き飛ばそうぜ? コジョンド、つるぎのまい!」

 

「コジョッ」

 

 コジョンドが舞う。全てを巻き込むような、それでいて何もかもを寄せ付けないような。

 シルキーのそれとはまるで違うそれに見入っていた。

 

 すぐに異変は起きた。

 コジョンドの周辺にばら撒かれていたまきびしとステルスロックがフィールドの外へ吹き飛んでいく。

 

「――こうそくスピンって技を知ってるか?」

 

 徐にトウキが口を開く。

 

「相手に回りながら突撃する技なんだが、特筆すべき点としてフィールドにばら撒かれる全ての物体を取り除く効果を持っている」

 

「でも指示したのはつるぎのまいの筈、いや、そうか」

 

「お、気付いたか? 教え込ませるのに大分苦労したが、うちのコジョンドは天才でな」

 

 コジョンドのつるぎのまいにはこうそくスピンの効果を両立させている。

 

 トウキがそう言うがそれが何を意味するのか分かっているのだろうか? 単なる技術だけで、技を五つ覚えさせているに等しいのだぞ?

 それが本当に単なる技術で出来る事だと言うのなら、僕のポケモン皆にそれを覚えさせる事も、或いは可能になるかもしれない。

 

「俺はジムリーダーである事に自信を持っててな、一匹も落とせずに全滅ってのはちぃと悔しいんだわ」

 

 空気が変わる。

 

「――足掻くぜ俺達は。手負いの奴ほど危険って事を教えてやる」

 

 




幾ら技術を磨いた所で小手先の技に変わりなく、特性の不思議な力に遠く及ばない。
それでも技術を磨き続ければ俺達は無限に強くなれるんじゃないかって、そう思うんだ。

【種族】カイリキー
【性格】ゆうかん
【特性】ノーガード
【レベル】38
【持ち物】なし

【技】
・ビルドアップ
・みやぶる
・ばくれつパンチ
・リベンジ

【種族】ハリテヤマ
【性格】のうてんき
【特性】あついしぼう
【レベル】38
【持ち物】なし

【技】
・はっけい
・インファイト
・きしかいせい
・ヘビーボンバー

はっきり言っときますが、ここまで技術が戦闘を左右するのはトウキとトウキのポケモン達が天才だからです。簡単に言えばぎじゅつという能力値の個体値がMAX且つ努力値を252振りしてるようなもんです。
トウキの最後の手持ちであるコジョンドはそれが顕著ですね。……ホウエン舞台の筈なのにイッシュ地方のポケモン出しすぎてる気がする。便利だからしゃあないな。

それほど戦闘には影響しないのでステータスから除外しましたが、それぞれの技術に名前を付けるとしたらカイリキーは「超記憶」、ハリテヤマは「胆力」、コジョンドは「舞踏」になるかな。あくまでトレーナーとの修行の産物みたいな感じなんで異常個体が技術を持ってる事はあんまり無いと思います。

ジムと名付けられている以上トレーナーを強くする目的もあります。分かりやすいのはフエンジムの悪環境でも対応出来る様にするという物。ムロタウンジムは最後まで油断するなという精神を育てるジムになってます。
まぁムロジムの方はジムリーダーが負けず嫌いというだけの話ですが結果的にトレーナーの成長に繋がってるのでセーフ。

感想くれたらとても嬉しい。


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戦闘中の強化は誰にでも起こりうる様式美。

最近剣盾のカジュアルでザシアン使ってるんですけど、タイプ鋼・妖だし、戦闘中攻撃力上昇するし、実質メガクチでは?(節穴)
そうそう、総合UA150000を突破しました。ありがてぇ……(五体投地)


 

 どちらが示し合わせた訳でもないというのに、フォートとコジョンドは同時に激突した。

 

 こうそくスピンの効果で忘れかけているがコジョンドは既に一度つるぎのまいを積んでいる。どんな技が来ようと普通に致命打になり得る以上警戒は怠るなよ、ダイゴ。

 

「コジョンド! はたきおとす!」

 

(――ッ、まずい。持ってたのか!?)

 

 はたきおとす、威力65程度のあくタイプの技であるが故にフォートに効果抜群の技だ。ましてやつるぎのまいで攻撃を上げられては本格的に致命打になり得る。……だがはたきおとすの真価はそんな物ではない、ある面では最も悪辣な技と言えよう。

 舞を踊るようにコジョンドはフォートに接近しながら防ぐ暇も回避する隙も与えずに、鞭の様に手の先から伸びるしなやかな体毛がフォートのゴツゴツメットを捉え――

 

 “はたきおとす”

 

 ――ゴツゴツメットは地に落ちた。

 

「なっ」

 

「んぁ?」

 

 引き起こされた結果にダイゴとトウキの顔にそれぞれ衝撃と困惑が浮かび上がる。

 

「あー、あぁ、……成程な。たまにポケモンにきのみを持たせるトレーナー対策に覚えさせてたが、そうかそうか」

 

 ――持ってる物なら何にでも効くんだなぁ?

 

 それはこの世界において、特殊な道具を持たせるトレーナーが極端に少ない事から生まれた気付きであった。

 元々知識を持ってる俺からすれば常識レベルで片付けられる効果だが、こうして見ると技の効果を知らないトレーナーも一定数いそうである。

 

(まぁ実機でも正直殿堂入りまではアイテム持たせなかった記憶があるし、ゴリ押しで最後まで行けたからなぁ)

 

 その内メガシンカと同じくどうぐもホウエンに浸透していくのだろうな、なんて事を考えている合間にも状況は動いていく。

 はたきおとすで無効化されたゴツゴツメットはフィールドにそのまま落ちている。何とか拾えば再使用は可能だろうが、勿論トウキとコジョンドがそれを許す筈が無い。

 

「コジョンド! とびひざげり!」

 

「コジョ!」

 

「バレットパンチだ!」

 

「……メッタ!」

 

 機先を制してフォートがコジョンドに拳を叩き込むが、踊るように受け流されダメージを最小限に抑えられる。そのまま近付いたフォートを足場にして跳躍。

 一度の跳躍で天井付近まで飛び立ち、そのまま天井を蹴って真下のフォート目掛けて急降下する。

 

 “とびひざげり”

 

 まるで隕石の様に高速でフォートの頭部にコジョンドの膝蹴りが激突する。

 事前に幾らかダメージを受けた上で、攻撃がニ段階上昇したコジョンドのとびひざげり。幾ら効果抜群で無かろうとこれを受けて耐え切る事は不可能だった。

 

(まぁ、倒れるか。これは仕方無い、寧ろよくここまで仕事してくれたもんだよ。あいつは頑張った)

 

「……お疲れ、フォート。後は任せて」

 

 ダイゴがフォートをボールに仕舞う。次にダイゴは誰を出すか悩む素振りを見せ、俺のボールを手に取った。

 

「フォートは頑張ってくれた、俺達も頑張らなきゃな。さぁ行こう、シルキー!」

 

「――クッチィ!」

 

 トウキとダイゴの互いの相棒がぶつかり合う。

 ムロジムの最後の戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 チャレンジャーであるダイゴがクチートを繰り出す。通常と異なり紅い大顎を持つクチートは先程のメタング同様良く鍛えられている事が分かった。

 

 所謂色違いと呼ばれる個体であろうが、観賞用のために置いている訳では無い事は一目見れば分かる。あのクチートがダイゴの相棒なのだろう。

 俺のコジョンドであっても熾烈な戦いになる事は容易に想像できたが、ダイゴの取った行動は俺の予想を遥かに上回った。

 

「シルキー、メガシンカ!」

 

 その言葉と共に紅いクチートの周囲に薄桃色の殻、いや――繭が形成される。

 数瞬を置いてその繭を突き破って出てきたクチートの姿は先程の物とはまるで違っていた。

 

「な、んだ……そりゃ」

 

 紅い大顎は二つに分かれ、身長が伸びたその姿は進化したと言われても信じてしまいそうな程の変容だった。

 だが、クチートの進化は未だに報告されていない為に進化しないポケモンとして扱われていた。

 

 であればこの変化の原因はダイゴの言った、メガシンカ。

 

 そういえばフエンジムの口下手が何か言ってた気がする。戦闘中に姿が変わるクチートを見た事があるかとか何とか。

 あの時は自分のジムの熱気に頭をやられたのかと思って適当に返した記憶があるが……まさかあいつこの事を言ってたのか?

 

 じわりと脳裏に後悔の二文字が過ぎると同時に、クチートが舞う。

 形は違えどその舞いはどういう効果を齎すか、俺は知っている。その有用性を理解してコジョンドにも覚えさせたのだから。

 

(まっずいな、速攻でけりつけねぇと)

 

「コジョンド! とびひざげり――」

 

「――ふいうち」

 

 視界からクチートが掻き消える。直感が警笛を鳴らすもコジョンドは既に天井へ向けて跳躍をした後だ。回避の指示を出したとて間に合う筈も無く。

 跳んだコジョンドの更に上を取ったクチートが、二つに分かれた大顎を叩き込みコジョンドがフィールドに打ち落とされる。

 

「つるぎのまい!」

 

 咄嗟にこうそくスピンの効果を持たせたつるぎのまいを指示し、クチートを吹き飛ばす。

 そして、本来ならもう少し後に使う予定だった虎の子の技術を切る事を決断する。

 

「――繋げ!」

 

 舞を続けるコジョンドの両腕の先が燃え上がる。踊るように、荒れるように、コジョンドは炎を纏いクチートへ肉薄する。

 

「覚えさせた技術は一個だけじゃねぇよ」

 

 “ほのおのパンチ”

 

 コジョンドの習得している技術は二つある。一つは舞踏、これは一つの技に別の技の効果を足すという物だ。

 本来ポケモンが技を十全に扱えるのは四つまでである為、一部分とは言え五つ目の技を覚えさせるに等しいこの技術は相応に習得難易度が高い。

 

 だがもう一つの技術は誰でも習得できる簡単な物、一度発動した技を利用し連続して次の技を出す技術である行動連結だ。

 

 かつてダイゴが戦った中では、ミクリのミロカロスがアクアリングからみずのはどうを連続して使用していた。バトルよりもコンテスト向きの技術なのだが、バトルに流用して弱いという訳では決して無い。

 ただ炎を纏った拳を突き出すだけではなく、つるぎのまいの一連の流れを利用した怒涛の連撃は最早ほのおタイプのインファイトと言っても過言ではない。

 

「シルキー! ――受け止めろ!」

 

(……何だって?)

 

 一瞬の思考の空白。だがそれも仕方無いだろう。こちらのコジョンドはつるぎのまいを二回使い、その上で弱点属性であるほのおタイプの攻撃を行った。

 一撃で戦闘不能に追い込まれる可能性を考えれば誰だって回避を指示するだろう。だがダイゴはそれをしなかった。

 

 理由は二つ。

 ダイゴはコジョンドの攻撃を確実に耐える事を確信していたから。

 そして二つ目は、コジョンドの攻撃を受ける事そのものに意味があったから。

 

「ククッチチ」

 

 クチートの右の大顎だけでコジョンドの連撃が阻まれる。接触と同時にコジョンドの炎がクチートの全身に燃え移るが、それを待っていたとでも言うようにクチートは小さく笑みを浮かべた。

 

 ……俺はもう少し相手の考えに思考を巡らせるべきだった。あの時真っ先に指示すべきだったのははたきおとすだった。

 メタングが持っていた特殊なアイテムを、ダイゴの相棒と思しき色違いのクチートが持っていない訳が無かった。焦りで思考が狭まったとは言え、致命的な優位性をダイゴに明け渡したままだった。

 

 慎重に行動しなかったツケは今すぐにでも払われる。

 

「さぁ、反撃だ」

 

 クチートの手が左の大顎の中に隠れ、一枚のカードを取り出す。

 カードは光り輝き、クチートの全身を覆う炎が掃われて反撃の光に包まれた。

 

 “じゃくてんほけん”

 

 ここに来て俺は漸く己の失態を悟る。だが反省している暇など微塵も無かった。

 

「コジョンド! ほのおのパンチ!」

 

「シルキー、かみくだく!」

 

 目まぐるしく変化する状況の中、頭の中にあったのは相手よりも先に倒し切ってしまわねばという焦燥。

 お互いつるぎのまいで攻撃力を高めている以上防御を固めても上から削り倒される。加えて――

 

「とびひざ――」

 

「――ふいうち」

 

 天井近くまで跳ぼうとしたコジョンドをクチートが先制して撃墜する。

 大したダメージにはならないとは言えこのふいうちが極めて厄介だ。この攻防でどんどんとコジョンドの体力が削られていくのを感じる。

 

(……もって後数十秒、勝負に出るか)

 

 このままでは先にこちらが力尽きる。もはやそのレベルまで体力を減らされた時点でダイゴに勝つ事は不可能になってしまったが、それでも一矢報いたい。

 

「――翻弄されっぱなしで終われるかよ! コジョンド! ――繋ぎ続けろ!」

 

「――コッジョオ!」

 

 コジョンドが舞う。炎の連撃で息も吐かせぬ速攻を仕掛け、クチートをその場に釘付けにする。

 

 “ほのおのパンチ”

 

 上段からの一撃でクチートを叩きつける。既に落とせる道具は無いものの、相手の姿勢を崩す事には成功した。

 

 “はたきおとす”

 

 その一瞬にして最後の隙を突いてコジョンドが跳躍。天井を蹴り自由落下を大きく超えた一撃を眼下のクチートへ向けて解き放つ!

 

「――迎え撃て、クチート!」

 

「クッチィァア!」

 

 クチートが跳ぶ。上空のコジョンドを迎え撃つ為に。

 ふいうちの様に大顎を叩きつける訳ではなく、その二つの口を開いてコジョンドを迎え入れる様に動く。拒絶ではなく、絶対に逃がさないという意思を持って行動に移すかの様に。

 

 “とびひざげり”

 

 “じゃれつく”

 

 互いの最大火力の技が衝突し、衝撃波が巻き起こる。

 

「――あぁ、ちくしょう。悔しいなぁ……」

 

 無意識に俺は、そう呟いた。

 視界の先にはフィールドの中央で立つ双顎のクチートの姿。

 

 コジョンドは、全ての力を使い果たして倒れ伏していた。

 

 

 

 

 

 いやぁ、トウキは強敵でしたね。

 

 ムロジムを見事突破した俺達は、折角なので少しだけ遊んで本島に帰る事にした。

 ダイゴはシラナミと一緒に海に行ったので付いて行く奴はいるかと聞いたが全員行かないと言っていた。海水は天敵だしね仕方無いね。

 

 そんな事よりも、俺はトウキとの戦いでようやくじゃれつくを覚えられたらしい。

 

 レベルがまだ足りないんじゃないかと思ってたけど、何か熟練度的な条件でも満たしたのかね? ともあれふいうちと合わせてメガクチート二大火力が揃った訳だ。

 ちなみにずっと覚えっぱなしだったようせいのかぜの代わりにじゃれつくを覚えた。これでつるぎのまい、ふいうち、かみくだく、じゃれつくの四つの技を覚えた事になる。

 

 いよいよ大手を振って大暴れできるなぁ。

 

(しかしかみくだくはどうしようか、他の候補としてはアイアンヘッドかほのおのキバという選択肢もあるんだが……)

 

 物理攻撃ばっかなので火傷の対策でからげんきを採用する事も一度考えたが、可能性に怯えるより先に殴った方が速いという結論に至った為見送った。

 相手がほのおタイプだった場合を考慮してストーンエッジを覚えても良いが、そうなるとじめんタイプ相手に無力になってしまう。

 

 あぁ、水物理で大顎が使えそうな技があればいいんだがなぁ。

 

「コドォ」

 

「クゥ?」

 

 考え事に耽っているとコドラがふて腐れ気味に近付いてくる。どうやら自分だけ何の活躍も出来なかった事が悔しかったらしい。

 

「クチィ……」

 

 そうは言ってもただでさえかくとうタイプが四倍弱点なのにトウキ相手に出したらわざわざ倒させる為に出すようなものだったしなぁ。ましてやあのコジョンドが相手なら何もさせて貰えずに退場していた可能性まである。

 が、それを言っても納得はしないだろう。コドラが求めているのは正論では無い訳だし。

 

「クゥ、チチチ」

 

「……コォ」

 

 コドラの背中に乗って頭を撫でてやる。ここまで相性が悪かったのはムロジムだけだから、それ以外のジムでは一杯活躍できるよきっと。

 なんならダイゴに言っといてあげるよ、次はコドラを出してあげてって。

 

 幾分元気を取り戻したコドラの背に乗りながら、エアームドの方を見る。

 どうだった? 今回が初めての本格的なバトルだった訳だけど、と言ってもエアームドは砂漠で何回か戦闘経験を積んでいるのだったか。

 

「エアァ」

 

「チィット」

 

 それでもダイゴの指示で戦うのは悪くない気分だったと言うエアームドにそれは良かったと笑って返す。ダイゴのはがねタイプ使いの才能は留まる所を知らないな。

 あぁ、そうそう、フォートも頑張ったね。二匹持っていったのは間違いなくお手柄だよ。

 

「……メッタ」

 

「クックク」

 

 そう恥ずかしがるない、ダイゴだってフォートは頑張ったって思ってるんだから。胸を張っていいんだよ。

 

「クァ……」

 

 あぁしかし、久しぶりに全力を出して疲れてしまった。

 こうしてみると自分の実力の足りなさを実感する。やっぱり地道にレベルアップを目指さざるを得ないかな。

 

(次のジムは進路的にトウカジムか、ムロジムでバッジ四つ目って事はここからは折り返し、どんどん熾烈になっていくのは間違いないだろうな)

 

 じゃれつくを覚えた今もう何も怖くない、とは言えないがそれでも大きく戦闘能力は上昇した。

 ギリギリで掴み取る勝利というのも、これから徐々に減って余裕を持った戦いが増えていくだろうな。

 

 そんな事を考えながら皆とわちゃわちゃした一時を過ごしていった。

 

 




(エラがみは覚え)ないです。

今回のトウキ戦、結構な難産で書いてる途中に結構色々な息抜きに手を出してました。
その中にダクソ3がありましてですね。コジョンドの挙動はがっつりダクソの敵を参考にしました。
よく分からんって人は冷たい谷の踊り子で検索掛けてみて下さい。見てるだけで面白いボスです。
(……実はほのおのパンチとれいとうパンチを同時に使わせる予定だったけど流石に違和感が強かったので没にした)

【種族】コジョンド
【性格】ようき
【特性】すてみ
【レベル】45
【持ち物】なし

【技】
・つるぎのまい(こうそくスピン)
・はたきおとす
・とびひざげり
・ほのおのパンチ

何か戦闘描写が下手になった気がするので暫く日常回でお茶を濁したいと思います。

感想くれたらとても嬉しい。


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閑話 ある深海の日常、歴史の主。

何か筆が乗ったので投稿。サブタイに日常って書いてあるしこれは間違いなく日常回。
幾つかの種明かしと、遥か過去を知る者のお話。


 

 カツリ、カツリ、カツリ。

 

 何処かの海上で、本来有り得ない音が辺りに木霊する。

 音の正体は、私が足下の海面を凍らせて、あたかも海面の上を歩いてるかのように見せているが故の氷を踏みしめる音であった。

 

 どれほど海を渡り歩いただろう。辺りに霧が立ち込め始めた時になって漸く、私は足を止めた。

 

 両手を足下に向けて、局所的に海水を引かせ外から海水が流れ込むのを押し留める。

 極一部とは言え大質量の水を操作し続けるのは途方も無い念動力が必要になるが、私は例外だ。これが海以外であればこうも行かないだろうけども。

 

 目の前に深海へと続く穴が完成したのを確認して、その穴を下っていく。

 

 海水を凍らせて階段を作っても良かったけれど、穴の維持に力を使いたかったから横着してそのまま飛び降りる。

 下っていく途中に見えた様々なポケモン達の姿も、最深部まで来れば徐々に姿を減らしていく。如何なポケモン達でも、全員が全員深海に適応出来ている訳では無いのだ。

 

 今回用があるのはその深海に適応したポケモンの一体な訳だけれども。

 

『……どうした、巫女よ』

 

 目の前に一匹のジーランスが現れる。そのジーランスは他の個体とは異なり、水草の生えた岩を纏う特異な個体だった。このジーランスは歴史そのものと言っても過言ではない存在だ、それと同時にある封印を解く鍵でもある。

 そのジーランスは人間が使うような言葉を用いて私に話しかけてきた。

 

「忠告と、確認に」

 

 ジーランスに合わせて私も人間の言葉で返す、と言ってもテレパシーの応用ではあるが。……人間の言葉を覚えるのに私でもかなりの時間を要したのだが、このジーランスは一週間で言葉の意味から発音まで全て覚えたらしい。少々発音は古臭いが。

 

『こんな所まで降りてきて、巫女自ら忠告とはな。ワシは何もしていないぞ?』

 

「分かっています、まずは確認を。お触れの石室に辿り着いた人間はいますか?」

 

『いいや? 今まで辺りを見てきたが、人間がここまで来た試しは無い。ついこの前小島の横穴辺りまで泳いでいったが人間が来た痕跡も無かった。この地に三つの遺跡がある事自体知ってる人間はおらんのではないか?』

 

 このジーランスのつい最近は信用ならないが、嘘を言っていないのは分かった。

 それでは困る。力も無い、信念も無い人間があれらを手に入れるのは困るが、そもそもあれらの存在を知覚すらされないのはもっと困る。

 

 俄かに焦りを浮かべる私を見てジーランスは訝しげに答える。

 

『まさかあれらを解き放つつもりでは無かろうな? あれらは昔ワシの友が封印した物だ、ワシとあのデカブツを鍵に周到なまでにこの地に封印したものぞ? 巫女よ、何を考えている』

 

「……あの二体の封印が解け掛かっています」

 

『――何?』

 

 言葉足らずな私の言葉に、ジーランスは動きを止める。

 大陸の化身と大海の化身。昔ホウエンでその二体が暴れていた事をジーランスは知っている、覚えている。

 

『奴らは、巫女達が封じた筈だろう』

 

「えぇ、彼らの半身はあの祠に閉じ込めました」

 

 私とあと二体の巫女で荒れ狂う大陸の化身と大海の化身を鎮め、眠らせた。

 力を奪い、拡散する特殊な洞窟に二体を閉じ込めようとしたのだが、彼らの力は眠りについて尚強すぎた。その洞窟では抑え切れない程に。

 

 だから私達は、彼らの力を肉体と魂の二つに分け、魂の方を洞窟――目覚めの祠に封じ込めた。力の源である紅色の珠と藍色の珠すら引き離して、最悪の場合永遠に封じ込める心積もりで。

 

「ですが二人の人間によって一瞬ではありますが、封印が解け掛けた」

 

 目覚めの祠とおくりび山、遠く離れた場所で同時に起きた騒動で珠と彼らの魂が共鳴した。直ぐに収まったとはいえ、あの様子では珠を目覚めの祠に持って行っただけで魂が復活し、己の身体へと帰還するだろう。

 

「断言しますが、最早彼らの復活は避けられないでしょう。五年後か、十年後かは分かりかねますが、しかし確実に目覚めの時が来る」

 

『……それまでにあれらを解き放ち、戦力として数えろと。そういう事だな? 話は理解したが……』

 

 うぅむ、と唸るジーランスに一押しする。

 

「大丈夫です、海を渡っている時に彼女に良く似た気配を感じました。多分子供でしょうね、その子が人間に付いて行ってましたから一体はその人間が使いこなせるでしょう」

 

『となると鋼は問題ないか、良かろう。ワシの方でも期待が持てる人間を探しておく。何年後かに人間を連れてあれらの封印を解き放っておこう。……しかしあやつが子供とな、お前は子を成さぬのか』

 

「海を鎮めるこの役目は私しかこなせませんよ」

 

 そういう事を言ってるんじゃないんだが……、と呟くジーランス。意図は理解している、母親にはならぬのかと、そういう事を言っているんだろう。

 だが無理だ、私が平凡な幸せに身を寄せれば直ぐに調律は取れなくなってしまう。そうなった時に、愛を知ったから、子を成したから、親になったから、幸せになったからと後悔したくは無いのだ。だから私は奏者に、巫女に徹する事を選ぶ。

 

「それに、私と番になれそうなオスも見つかりませんし」

 

『はぁ……、そこまで言うのならもう何も言うまい。だがな、その左目を誰かに託す事すら考えられないのか?』

 

 ジーランスの言葉に、思わず私は左目を押さえる。

 普通の右目とは違った、虹色の左目。私に科せられた役目の象徴たる左目。私がこの姿でいられる、巫女と呼ばれる存在でいられる左目。

 

 これを、誰かに託す?

 

「それこそ無理ですよ、この重さを誰かに背負わせる事なんて出来ません」

 

『……そう、か。分かった。しかし巫女よ、折角ここまで来たんだ。この深海に、巫女の音色を聞かせてやってくれんか?』

 

「勿論、そのつもりで来ましたから」

 

 海に手を伸ばし、海水の形を整えて凍らせる。それは人間が使うような楽器で、横笛に近い形をしていた。

 十分な仕上がりになった事を確認し、氷の笛に口を付ける。

 

 深海に静かなる調べが響き渡る。その音色に釣られるように一匹、また一匹と観客が姿を現した。

 その最前列で私の曲を聴くジーランスの、私を気遣うような視線を見て見ぬ振りをして。

 

 

 

 

 

 ……行ったか。

 

 蒼髪黒衣のサーナイトは、あのどうしようもなく不器用な巫女は一曲披露した後海上へと戻っていった。散り散りに元の場所へ戻っていく深海の仲間達には目もくれず、ワシはあの巫女の事を考えていた。

 

 あの巫女に限った話ではないが、あの虹色の左目は絶えず途方も無い力を循環させ、巫女に強大な力と途方も無い時間を与える。

 どう見ても正常な力の流れではない、今すぐにでもあの左目を刳り貫くべきだと始めて会った時は思ったが、巫女は大切な物を抱えるように離さないものだからそのうち説得を諦めた。

 

 ……いや、あの子にとっては大切な形見そのものなのだろうな。

 

 ワシは遠い昔に生まれ、ある人間と共に暮らしていた。

 豊かな大地と穏やかな海の狭間で暮らすその男は、自らを渚の民と呼んでいた。モンスターボールなんてけったいな物が無くてもワシと男は友でいられた。

 

 渚の民の村は少ない人口ながらも発展した暮らしをしていた。それはワシの友が三体のポケモンの主であったから。

 鋼の巨人、岩の巨人、氷の巨人の三体を持つワシの友は渚の村で皆に慕われていた。

 

 良い労働力として使われていた、と言ってもいいだろうに友は巨人達を村の皆の為に使っていた。

 どんどんと村は発展し、何時しか街へと渚の民は育っていった。誰からも慕われ、誰からも愛され、誰からも敬われる。そんな存在にワシの友がなっていった事が自分の事の様に嬉しかった。

 

 それはワシよりも後に仲間になったあのデカブツとて変わらない筈だ。巨人どもは感情を持っていないから知らんが。

 友の子供もまたワシの友足り得る存在となり、巨人達やデカブツも何代にも渡って友の子孫の力になってきた。

 

 何にせよ渚の民の街は順風満帆だった。……それがいけなかったのだろうか。誰かの癪に障ったのであろうか。

 

 眠りについていた大陸の化身と大海の化身が蘇った。それらは怨敵を目の前にしたかのように争い始め、世界を塗り替え続けた。

 渚の民の街も被害を受け、干天と嵐天が交互にやってくる大災害に民は次第に疲弊して行った。それ故に、民がワシの友に頼るのは当然の事だったのだろう。

 

 お願いします街長さま。

 

 私たちを助けて下さい。

 

 この街を救って下さい。

 

 街長さまならあの天災を止められる筈でしょう。

 

 巨人たちならあの天災を止められる筈でしょう。

 

 どうか力の無い私達を守って下さい。

 

 お願いします。

 

 お願いします。

 

 民の願いを、祈りを、呪いを、友は無視する事が出来なかった。その重荷を放り投げるには、今代の友は若すぎたが故に。

 故に友は三体の巨人を全て使い大陸と大海の化身共を止める事にした。

 

 日々の力仕事では決して発揮される事の無かった巨人の強大な力が発揮され、化身の被害を抑える事には成功したが、それでも決して勝つ事は出来なかった。

 ワシも、あのデカブツも一緒に戦ったがどうしても勝ちには届かない。逃れようの無い敗北が脳裏を過ぎった時、巫女達は現れた。

 

 蒼い輝きは大海の化身を抑え、紅い輝きは大陸の化身を鎮め、金色の輝きは天空の龍神を連れて化身達を打ち倒した。

 

 民が巫女だ何だと騒ぎ立てる中、ワシの友だけは巨人達の危険性に気付いていた。

 巨人達はポケモンではあるが、同時に意思無き兵器だ。仮に己の死後巨人達が悪用でもされれば死んでも死に切れないと判断した友は巨人達を封印する事にした。

 

 石室には友の悔恨と希望が刻まれ、封印の鍵はワシとデカブツに託された。遠い未来、勇気ある者が、希望に満ちた者が、永遠の巨人達を従える事を信じて。

 

 それから何百年、もしかしたら千年という途方も無い時が経った。

 陸の巫女と空の巫女にはあの時以来会えず終いだったが、海の巫女とはその後も交流を続けていた。

 色々な話をしてくれたよ。巫女達もかつては人間と共に暮らし、心を通わせていたのだと。その話をした時に左目に手を添えていたのを覚えている。

 

 きっとあの左目は、その人間との絆を繋ぐ宝物だったのだろう。だから容易に手放す事が出来ずにいる。

 だが、縁も時には呪いとなる。仲間に頼る事も出来なくなる程に雁字搦めに縛られてしまったあの子を見て悲しみを覚えるようになったのは何時からだろう。

 

『……ワシには分からんよ、そんな使命なんて背負った事も無いからな。だが、ワシの友の様にどうすればいいのか分からなくなっているのだろうとは思う』

 

 ゆったりと泳ぎながらワシはある場所へと向かう。そういえばこの言葉も、友に習って覚えたのだったか。

 あぁ、懐かしい。最早何もかも、思い起こされるべき過去の産物だ。

 

『だがお前達はそうあろうとはしないのだな』

 

 辿り着いた場所は深海の中でも一際穏やかな場所。

 深海の砂漠とでも形容すべきそこの中心に、それはいた。

 

 酷く巨大な蒼い身体に大きな手の様なヒレを持つクジラの様なフォルム。何処となくあのデカブツを彷彿とさせるが、あれよりも格段に生物としての格が違う。

 決して覚めぬ筈の眠りにつきながら海の王と呼ばれても納得してしまう威圧感を持つポケモン。

 

 ――カイオーガ。

 

 巫女の仕事は二つある。

 

 一つはグラードン、カイオーガ、そしてレックウザと呼ばれる伝説のポケモンを決して目覚めさせぬ様にする事。

 もう一つはもしその伝説のポケモンが目覚めてしまった場合決死の覚悟で再び災厄を齎さぬ様にする事。

 

『巫女が使命を果たす日が近付いてきた。ワシにとっては十年なんかあっと言う間だ。お前達にとってもそうだろう』

 

 させるものか。

 

『今更しゃしゃり出て、何もかも壊すなどワシが許さぬ。強き者達を集めて過去の産物として叩き返してくれるわ』

 

 眠っている奴相手に啖呵を切るなど阿呆らしいと自分でも思うが、こいつらが再び暴れるとなれば怒りも湧き上がろうものだった。

 

 この海底砂漠にはワシ以外のポケモンは決して近付かない。魂を抜かれた抜け殻として眠っていて尚、恐れを抱かせるオーラを周囲に放っているからだ。

 だが魂が戻れば、目覚めた瞬間にここは荒れ果てるであろうな。他のポケモン達も何匹死ぬか……。

 

 さて、あのデカブツや、他の海域の主にも話を通しておくか。強い力を持つ人間を探せ、とな。

 

 何年かのタイムリミットまでに準備を整えるべく、ワシは海底砂漠を後にした。

 後には、ごぽり、と穏やかな呼吸を行い続ける大海の化身だけが眠っていた。

 

 




目覚めの祠は強大な力を封印する為の場所でしたが、封印出来るのは一匹分だけ。二匹も入れる余裕はありませんでした。
そこで三匹の巫女は、大陸の化身と大海の化身の魂だけを同時に目覚めの祠に封じ込める事にしました。
肉体と魂は半身とも呼べる大切なもの、それなら二つ入れても一匹分にしかならなかったのですから。
全ての力を失った二匹の肉体はそれぞれ、火山と深海の奥深くで深い眠りにつく事になりました。めでたし、めでたし。

――とある巫女の語り継ぐ詩より。

……はい、この世界でのグラカイの封印方法、ゲームの物とはまるで違います。珠が必要な所は変わりませんが、復活場所が目覚めの祠じゃなくなってます。
これの何がやばいかと言うと、カイオーガはともかくグラードンのスタート地点が最悪な場所になります。グラードンの身体を眠らせれるような火山、何処にあると思いますか?

【種族】ジーランス
【性格】おだやか
【特性】れきしたいせき
【レベル】80
【持ち物】なし

【技】
・ハイドロポンプ
・もろはのずつき
・みがわり
・じしん

「れきしたいせき」
・天候が晴れの場合、自身の攻撃と防御が三段階上昇する。天候が雨の場合、自身の特攻と特防が三段階上昇する。
・特性ノーてんき、またはエアロックの効果適用中自身の素早さが六段階上昇する。天候の変化或いは特性の無効化で、上昇した能力値は元に戻る。
・自身の技でHPが減少しない(反動、コスト含む)
・接触技を受けた時、被ダメージが二分の一に減少する。

異常個体:“歴史顕現”
・最初にその存在が確認されたのは134番水道。
・通常のジーランスに比べ分厚い岩の鎧を纏った個体であり、決まった縄張りを持っていない。
・ポケモンリーグ所属者がキナギタウンへ向かった際に遭遇。ジーランスは所属者を一瞥し興味を失ったように深海へと潜った。
・回遊性のポケモンであるのか、それからジーランスの目撃情報が増え、再び所属者と遭遇を果たす。
・バトルを行っている最中にエスパーポケモンの力を借りてジーランスの甲殻を調査、最低でも1000年は生きている事が判明した。
・くれぐれもジーランスを怒らせるような事はしない様に、あのジーランスは何かを探しているように見える。それを邪魔した挙句体表に付いている宝石に目を晦ませた阿呆の様に厳罰処分は受けたくは無いでしょう。
・ジムリーダー、ジムトレーナー、及び全てのポケモントレーナー、ポケモンレンジャーは敵意を持っての接触を控えたし。
・ポケモンリーグ異常個体観測部門部長より通達。

こちら、鶴鵠様考案の異常個体となります。
ジーランスは絶対出したかったので渡りに船でしたね。ちなみに、ジーランスが度々言ってるデカブツも異常個体です。





【種族】サーナイト(■■■■■■■)
【性格】おっとり
【特性】みなものそうしゃ
【レベル】90
【持ち物】なし(■■■■■■■■・■■■■■■)

【技】
・ムーンフォース
・めいそう
・てだすけ
・いやしのはどう
・しんかいのしらべ

異常個体:“蒼海巫女”
・NO DATA

感想くれたらとても嬉しい。


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車酔いと船酔いはレベルが段違い。

メリークリスマス!(遅い)
前回に引き続き日常回です。誰が何と言おうと日常回です。


 何か見ない間にダイゴとシラナミが凄い意気投合していた。

 

「シラナミさんのサーフィンとても格好良かったですよ、あんなに派手に飛べるものなんですね!」

 

「ハハハ、ありゃスターミートルネードって技だ。俺の相棒の助けがあって初めて飛べる技だが、一緒に波に乗ってる感じがして好きなのさ」

 

 何だそれ、ちょっと見てみたかったな。やっぱり一緒に付いて行くべきだったか、なんて考えながら寝転がっていたコドラの背中から起き上がる。

 

「さて、改めてムロジム突破おめでとう。楽勝とは行かなかったんだって? トウキの奴ちょいと大人げ無い所あるからなぁ」

 

「ありがとうございます、と言うか知り合いなんですか?」

 

「あぁ、俺もムロタウン出身だからな。まぁ悪友みたいなもんさ」

 

 なんと。妙に体格ががっしりしてるなと思ったらムロタウン出身だったのか。

 サーフィン以外の用事というのも実家帰りとかだったのかもしれない。

 

「しかし、ダイゴのポケモン達……何つーか、妙に偏ってないか?」

 

「皆偶然仲間になってくれたポケモン達なので偏らせるつもりでは無かったんですけどね。……そういえば自分から捕まえに行った事は無かったな」

 

 俺も、フォートも、コドラも、エアームドも、まぁ明け透けに言ってしまえばドラマチックな出会いでダイゴの仲間になった。勿論その後も皆に慕われているのは偏にダイゴの人柄の良さ故ではある訳だが。

 そしてシラナミが言うように俺達は全員はがねタイプであり、いわタイプやじめんタイプのポケモンはいなかった。コドラはいわ複合だけども。

 

 以前ダイゴと一緒に現在発見されているポケモンの図鑑(冊子タイプだ、機械タイプはまだ開発中らしい)を眺めている時、ダイゴが「いわやじめんにはあまり惹かれないかな」と言っていたのを思い出す。

 完全にダイゴは鋼統一に舵を切ってしまっていた。一体何が原因だというのか。

 

 と、ここまでタイプの偏りにマイナスイメージを持たせる様な言い方をしてしまったが別にこの世界に限って言えば別に悪い事ではない。

 寧ろタイプが偏るのが普通なのだ。虫取り少年がむしタイプのポケモンを集めるように、格闘家がかくとうタイプのポケモンを集めるように、ジムリーダーが、四天王が自分の得意タイプのポケモンを集めるように。自身の最も得意とするタイプのポケモンでパーティを揃えた方が楽なのだ。

 

 そもそもからして様々なタイプを育てられる主人公やチャンピオンがぶっ壊れの才能マンだらけなのだ。

 

(まぁそれほどの才能でも無ければ主人公やチャンピオンなどやってられないんだろうけどな)

 

 つまりだ。ダイゴの様々なタイプを育てられる才能をはがねタイプに集約したのなら、一点特化という面では原作のダイゴを大きく上回る長所となり得るのだという話だ。

 タイプの一貫性は出来てしまうが、そこは俺達がサポートしてやればいい。俺のやりたい事は生まれてからずっと変わらない、ダイゴの力になりたいだけだ。

 

「んじゃまぁ、ここでやり残した事が無いんなら船に乗るか?」

 

「そうですね、皆もそれでいいかい?」

 

「クゥッチ」

 

 了承を返し、コドラの背から降りる。帰りくらいは、ダイゴと一緒に海でも眺めていよう。

 

 

 

 

 

 ホウエン本土とムロタウンを繋ぐ回遊船に揺られながらダイゴと一緒に海を眺める事暫し。

 滅多に船に乗る事は無かろうが、自分が船酔いしない性質で本当に良かったと心から思う。

 

 ちなみにこの世界で船ってどうなのと聞かれれば、普通に造船技術が発展してるくらいには便利な交通手段である。

 カントーの著名な造船技術者によって野生のポケモンに船を襲わせない技術が広まってからは船の開発が大いに進んだという。

 

 まぁその技術も有効なのは普通のポケモン相手であって普通じゃない奴は余裕で船襲うけどな。具体的には異常個体兼フィールドの主。

 

「しかし、あっと言う間だったな」

 

「クチー」

 

 ジム戦が速攻で終わったのもあるが、ダイゴが珍しく石探しに繰り出さなかったのが大きいだろう。

 お眼鏡に適わなかったか、単純に忘れてたか……。どちらにせよ趣味に費やす時間が少なかった為にシラナミと同じタイミングで船に乗り込む事が出来た。

 

「ん、あれ? 遠くのあれホエルオーじゃないか?」

 

 ダイゴの言葉に顔を上げ、海の先を見つめる。水平線の向こうには水色の巨大なポケモンの姿。かなりでかいがホエルオーに違いあるまい。

 ……いやでかいな? 結構遠いので目測では正確には分からないが、それでも全長16mはある気がする。背中で思いっきりポケモンバトルが出来るくらいには広い。

 

 正直ゲームの知識が当てにならないと分かった時点で図鑑の説明にも疑心暗鬼だったのだが、ホエルオーに関しては脚色の無い情報だったようだ。

 

(……あ、潜った)

 

 海の中に消えるホエルオーを見送りつつ、手すりから降りる。

 潮風に晒され俺の紅い大顎が何となくごわごわしてきた気がする。そんな直ぐに錆びはしないがあまり気の良いものでは無いわな。

 

「ん、じゃあ中に戻ろうか。ちょっと肌寒くなってきた」

 

「クゥ、――ット?」

 

 ――。

 

 何か聞こえる。

 

 水平線の向こうから微かに聞こえる音、深海を思わせる軽やかで深い調べ。

 

 歌じゃない、この世界で初めて聞いた演奏だ。

 

 何処か懐かしさを覚えるその音に、かつて流星の滝で聞いた歌と同じく心の内から郷愁の念が溢れ出る。

 

 この曲も、何処かで――

 

「――シルキー?」

 

 ダイゴの声で俺の意識は現実へと帰還する。

 未だに夢うつつな頭を振ってダイゴに付いて行く。フォート辺りは連日の船旅で飽きてるだろうし部屋に戻って構ってやろう。

 

 微かに聞こえていた笛の音はもう聞こえなかった。

 

 

 

 

 

 船から下りた時の地に足が着いていないような不快感は当分慣れる事は無いだろう。

 トウカの森とトウカシティの合間にある104番道路の船着場、そこから降りた俺達は少々グロッキーであった。船酔いしないとはいえ慣れない渡航を往復したのだから体力の消耗も已む無しである。

 

「んじゃま、ここいらで分かれるとするか」

 

 港に全員降りて一段落着いた時、シラナミがそう言った。

 

「え、てっきり一緒にトウカシティに行くとばかり……」

 

「言ったろ? 短い旅路だが宜しくってな。今までバックレてたんだがちょいと知り合いの団体から召集が掛かってな、ムロタウンに行ってたのもそれ関係だ」

 

 だからダイゴに同行は出来んな、すまん。そう言ってシラナミはわしゃわしゃとダイゴの頭を撫でた。

 何の団体なんだろう、サーフィン同好会とか?

 

「まぁ、なんだ。ダイゴがポケモントレーナーとしてホウエン中を旅するんなら、そのうち会う事もあるだろうさ。それが五年後か十年後かは分かんねぇけど。――負けんなよ! 未来のチャンピオン!」

 

 別れと再会を告げる言葉と共に、シラナミは去っていった。

 正直人柄を見るには短い時間ではあったが、それでも気持ちの良い男だった。ダイゴも懐いてたし。

 少なくとも悪い人じゃ無さそうだ。旅を続ければまた会えるだろうな。

 

 仮の再会時期が妙にアバウトなのは気になるが、シラナミも特に理由あっての会話では無いだろう。

 

「クゥ」

 

 とりあえず地味にショックを受けてるダイゴを立たせてトウカシティへと向かう。

 トウカシティのジムリーダーは原作主人公の父親でもあるセンリだが、それは原作主人公がホウエンに引っ越してからの話。

 

 もしかすると今はセンリがジムリーダーじゃ無いかもしれないな。だからと言って油断する要因とはなり得ないが。

 

(とはいえ、相手がノーマルタイプなら相性とか考えずに単純な殴り合いになるだろうからその点では心配はしてないけども)

 

 こちとら旅の途中で休憩がてら特訓してレベル上げをしている。そこらのポケモンを殴り倒すよりかは経験値効率は良いと自負しているぞ。

 ……しまった、次のジム戦でコドラを出す約束を取り付けるの忘れてた。トウカシティに着いたら言っておかないと三日は不貞腐れる事請け合いだろう。

 

(俺は別にいいけどそれでダイゴの指示聞かなくなっても困るからなぁ……)

 

 不貞寝したまま動かないコドラの機嫌をダイゴと二人で一緒に取る絵面を想像する。

 一瞬それでも良いかと思ってしまったが、あまりにコドラが可哀想だ。

 

 このまま行けばトウカシティに着くのは夜になるだろうし、ジムに挑むのは明日からだな。

 

 

 

 

 

 ホウエンの中心で、轟々と砂嵐が吹き荒れる大砂漠。

 そこで一匹の大鰐と暴竜は三日三晩に渡る死闘を続けていた。

 

 戦闘経験は暴竜が、狡猾さは大鰐が勝っている。

 暴竜に理性は無く、大鰐の配下は悉く喰い尽くされた。

 

 徐々に自身の身体が削り落とされていく様な闘争の末、生存本能からか暴竜が逃げ出した事で砂漠の争いは集結した。

 

 大鰐――黒曜の主、ワルビアルは是が非でもここで暴竜を殺すつもりだったが、ワルビアルも深い傷を負ってしまい暫く回復に専念しなければならなくなった。

 惜しむらくはこの砂漠で暴虐の主を逃してしまった事。状況はどうあれ「逃げ出した」以上もう自分と相対する事は無いだろう。災害の芽を摘む事が出来なかったのは業腹だが、やり直す事は不可能だった。

 

 ――そして、暴虐の主は。

 

……ザザザザザ

 

 軋んだような三つの鳴き声で不協和音を奏でながら、砂漠の洞穴の中で身体を休めていた。

 もしその鳴き声を意味ある形として聞き取れていたなら、背筋が粟立つほどのおぞましい怨嗟を感じ取れた事だろう。

 

 ――あぁ忌々しい。あの滝を、あの渓谷をただ追われただけであればどれ程良かっただろう。

 ――我ら竜が秩序の下に生きるなど反吐が出る。弱肉強食が世の常である事など、誰に言われるでもなく分かりきっている筈だ。我々竜は尚の事。

 ――……だが、だがあの滝の竜は全て吐き気のする平和とやらに傅いた。全て、あいつのせいだ。あの、竜の身体を持ちながら精霊の力を宿す、あの巫女がァ!!

 

 流星の滝に続いて大砂漠でワルビアルによって付けられた傷跡が、己の理性を一欠けらながらも取り戻す切っ掛けとなった。

 その結果得たのは現状への更なる怒りというどうしようもない物ではあったが。それでも暴虐の主は思考を続ける。

 

 ――腑抜けた竜など竜に非ず。あの巫女に致命傷を負わされた後は、理性無き身で傷を癒す為に流星の滝の腑抜けた同胞を喰い尽くした。傷を癒すには足りなかった。山の麓の岩窟に住まう鋼の怪獣共を喰い尽くした。傷を癒すには足りなかった。荒地を根城とする鎧を纏う鳥共を喰い尽くした。傷を癒すには足りなかった。大砂漠に辿り着き群れを成していた大地を泳ぐ鮫竜を喰い尽くした。傷を癒すには足りなかった。無駄に数の多い砂鰐の群れを喰い尽くした。傷を癒すには足りなかった。

 

 足りない物を補うように、失った物を求めるように、何もかもを喰らって満たされぬ欲望を満たそうとしている内に、――あのワルビアルと出会った。

 結果は今更詳しく語る必要も無い。暴虐の主は巫女に付けられた傷跡をなぞるように再び致命傷を負った。

 

 それで、振り出しに戻ったのか? いいや、まさか。

 

 喰らった血肉は今尚己の身体を廻っている。力を取り戻す日は直ぐそこだ。

 だが、それでは駄目なのだ。あの巫女の強さの源を知らねば待っているのは同じ事の繰り返しだ。

 

 あの巫女が他の個体と違う点は色と姿形、そしてタイプと虹の左目だ。

 最初の相違点はともかく、後の三つは互いに関係している筈だ。恐らくそれの中枢を担うのがあの虹の左目の筈。

 

 では次の疑問。あの左目は何だ? あの虹の瞳から漂う匂いは嗅いだ事がある。人間とポケモンが共鳴する時に発する絆の匂いだ。だがあの巫女にトレーナーはいない筈。……一旦置いておこう、あの左目さえなければどうとでもなるという仮定が立っただけで十分だ。

 

 で、あるならばどうするか。こちらもトレーナーの力を借りて同じ力を手にするか?

 

 ――脳裏を過ぎった選択肢に理性が消え去るほどの怒りを覚える。

 ――先程も言った筈だ。腑抜けた竜など竜に非ず。奴等の様に牙の折れた蜥蜴へと成り下がるつもりは毛頭無い。だが、ではどうすればいい?

 

 ……。

 ……あぁ、そうか。

 ……簡単な事だ。ずっとそうしてきたじゃないか。

 

 あの巫女の、虹の左目と同じ力を持つポケモンを捕食すればいい。

 

 幸い、この身は喰えば喰うだけ力を増す。同じ力を手に入れれば、同じステージに立つ事も可能になるだろう。

 

ザザザザザザザザザザザ

 

 単純な答えを見つけた悦びに、思わず牙を剥き出しにして嗤う。

 あぁ、あぁ。こうなれば簡単だ、ずっと己がしてきた事を続ければいい。余計な事に頭を使わなくとも良かった。それが分かっただけで久しく気分が高揚する。

 

 だから。

 

「――目標発見。全身に走る裂傷は未だ癒えておらず、通常固体と比べ遥かに発達した肉体。間違いありません、サザンドラの異常個体です」

 

ザララララ……

 

 お前の様な弱者でも余さず喰ってやる。己の糧と成り果てろ。

 

「……えぇ、討伐指定個体に繰り上げを要請します。チャンピオン辺りに直談判して、……はい? えぇ、私はこれからの話をしてるんです。私は死ぬでしょう、分かってて近付いたんですけどね。じゃ、後はよろしくお願いしますよ、――部長」

 

 さぁ、己の歩む道を阻む全てを喰らい尽くそう。

 己の牙が、いつか巫女の喉笛を捉えるその日まで。

 

 




暴虐の主、サザンドラは流星の滝から砂漠へと移り住んできました。今の所、作中で最も獣らしく最も碌でもない異常個体ですね。

【種族】サザンドラ
【性格】きまぐれ
【特性】みつくびおろち
【レベル】80
【持ち物】なし

【技】
・りゅうのはどう
・かえんほうしゃ
・バークアウト
・ラスターカノン
・りゅうせいぐん

「みつくびおろち」
・一ターンで一つの技を三回使用できる。追加効果の判定も三回連続で行う。
・攻撃技を連続して使用する度に技の威力が上昇する。(一回目1.0倍、二回目1.1倍、三回目1.2倍)
・―――――
・―――――

異常個体:“天喰暴竜”
・最初にその存在が確認されたのは石の洞窟。
・当個体が洞窟を出た後、最奥部でボスゴドラ12匹、コドラ20匹余り、他大量のココドラが喰い尽くされている事が発覚した。
・その後113番道路にて濃密な血の匂いがすると通報を受け調査に向かった所、40匹以上のエアームドが喰い殺されていた。
・暫く位置情報が途絶えるも、111番道路の砂漠にて深手を負ったフカマル、ガバイトが人間に目もくれず何処かへと逃げたという情報がポケモンリーグへと届いた。
・リーグ所属者が調査に乗り出した所ガブリアスの群れの幾つかが全滅、少なくとも30を超える数が当個体の餌となっていた。ここで切り上げさせていれば
・その後“黒曜当主”との長期に渡る縄張り争いが発生し、当個体は逃走。逃走場所にリーグ所属者が向かい戦闘を開始する。一時間後、リーグ所属者の通信が途絶えた。すまなかった
・人間への被害、生態系の大きな乱れの原因になり得るという観点から当個体を討伐指定個体へと認定する。四天王、チャンピオンへは別途資料を配布します。
・ジムリーダー、ジムトレーナー、及び全てのポケモントレーナー、ポケモンレンジャーは如何なる理由があろうとも接触を控えたし。
・ポケモンリーグ異常個体観測部門部長より通達。

現在開示出来る情報はリーグ所属者兼異常個体観測部門に属する女性が戦闘中に調べ上げ、情報を送っていました。
使える技が五つある事も、三連続で攻撃出来る事も、技を撃つ度威力が上がる事も。
それでもまだ足りなかった。

(実は当初の予定ではこのサザンドラにスケイルショット覚えさせようとしてたとは口が裂けても言えない)

感想くれたらとても嬉しい。


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平和な日常と嵐の前の静けさは紙一重。

あけおめ投稿。
今年もちょっとずつやっていくので血染めの鋼姫をよろしくお願いします。


 おはよう、といっても今は昼だけども。

 

 ポケモンセンターで一泊した後は朝一でトウカジムへと向かい、そして速攻でジムリーダーを倒してきた。

 俺が思っていた通り相性差を考えない殴り合いになっていたのもあるが、一番の勝因はかつて無いくらいにコドラのコンディションが良かった事だろう。

 

 とてつもなく気合が入った状態でジム戦に挑み、その戦車っぷりを存分に見せ付けた。後はジムリーダーがまだセンリではなく、トウキやクレナイ程本気で潰しにこなかったのもある。改めてあいつらとんでもない事してたんだなと実感した。

 

 と、いう訳で。

 晴れて俺達は五個目のバッジを手に入れる事に成功した。残るジムはヒワマキジム、トクサネジム、ルネジムの三つだが、相性的に不利なジムはもう残っていない。それでもルネジムのミクリは一筋縄では行かないだろうがね。

 

 なんて事を考えながら今日の最大の功労者であるコドラの身体をダイゴと共に磨く。フォートもコドラも身体を磨く時はコンパウンド剤を使うと喜ぶ。エアームドと俺は無くても平気だけど、ダイゴは俺達用にコンパウンド剤を幾つか取り揃えていた。

 

(……あれ? 甲殻が分厚くなってる?)

 

 ムロジムで寝転がった時と比べ鋼鉄の甲殻が幾分厚みを増している気がする。この現象には心当たりがあった。

 進化の兆しである。

 

「クチチィ」

 

「……ん? あ、本当だ。外殻部分が成長してる、よく気付いたね?」

 

 伊達にダイゴパーティの最古参やってないからな、これくらいの変化ならすぐ気付く。まぁダイゴなら俺が言わなくても気付いてただろうけど。

 コドラがそうなら、とダイゴがフォートをボールから出して確認した所、フォートにも進化の兆しが見えたという。コドラからボスゴドラに進化するのが42レベル辺りでメタングがメタグロスに進化するのが確か45レベルくらいだった気がするので両方とも進化は間近と見て間違いないだろう。

 

 そんな事もありながらコドラの身体を綺麗にしていく。そうそう、分厚くなった甲殻だが、伸びた爪を切る感覚で削ると進化までの時間が長くなるので基本手出しは無用だ。

 手を入れる時は基本的に甲殻が錆びた時だけ、ポケモンは存外逞しいからあれこれ手を加えるのはあまり宜しくないのだ。サボテンと同じだな。

 

 その割には頻繁に世話しているが、まぁそこは愛情のあれこれという事で。

 

 

 

 

 

 久しくやっていなかった石磨きに勤しんでいると、シルキーが僕の手元を覗いてきた。

 物珍しい宝石類に興味を持ったようである。

 

 ジム戦を制した後も暫くトウカシティに留まり、石集めに勤しんでいた。好奇心からか時たま挑んでくる同年代のトレーナー相手にシルキーを繰り出したりしているがそれはさておき。

 トウカシティの端で渡りの宝石商という少々怪しげな店を発見した。この時代に行商人とはまた酔狂な事をする、と思ったが宝石の審美眼は確かなものらしく並べられていた商品はどれも良質な物だった。

 色々見て幾つか宝石を買い、趣味で集めた石と共に磨いていたのだ。

 

「クゥ?」

 

 何だこれはと言いたげに疑問符を浮かべるシルキーの頭を撫で、メガストーンの首飾りを回収する。身体の構造上首飾りを取る際に大顎がとてつもなく邪魔なのである時紐の部分を分離式に変えようかと思ったが、戦闘時に外れると困るので多少取り外しが面倒でも頑丈な作りにしている。

 首から大顎を通ってするすると首飾りを抜き取る。こちらの意図を汲んで動かずにいてくれたシルキーの頭を再度撫でる。

 

 紅色の髪に、後頭部から伸びる同じく紅色の大顎。ずっと撫でられたこそばゆさからか、大顎が開いたり閉じたりしている。

 通常のクチートと比べ明るい肌色の頬に手を伸ばす。シルキーは目を細めて僕の手に頬を押しつけた。昔から僕の行動を諌める事はあっても拒絶する事はただの一回も無かった。好意を持って付き合ってくれているのだろうとは思うがもしも本心では嫌がっているとしたらどうしようか、と思っていたのだが……。

 

(全然嫌がって無さそう)

 

 眉を顰めるどころかもっと撫でろと言わんばかりにぐいぐいと顔を押し付けてくる辺り僕の考えすぎなのかもしれない。……可愛いな。

 違うそうじゃない。シルキーの頬から手を剥がし、手入れしていた宝石を手に取る。

 

「買った宝石をシルキーの首飾りに付けようと思ってるんだけど、どっちがいい?」

 

 途端にシルキーの視線が胡乱気な物に変わる。大方バトルに無関係な物を着ける意味が無いとか、そんな事を考えているのだろう。

 それでも真剣に宝石を吟味する辺り本当に良い子だと思う。

 

「……クゥッチ」

 

 シルキーが手に取ったのは、彼女の大顎と同じ深紅の宝石だった。光に透かせば鮮やかな血や、沸き立つマグマを思わせる生命力に満ちた紅色へと変わる。

 

「――ルビーか。うん、シルキーにぴったりだ」

 

 サファイアとエメラルドで最後まで悩んでいたようだが、自分の身体の色に似た宝石を選んだらしい。

 メガストーンの首飾りの土台に細工を施し、ルビーを嵌め込む。全体のデザインに合う様にツメを付ければ激しい動きをしても外れない宝石の首飾りの完成である。

 

 シルキーは僕から受けとった新調した首飾りを両手で掲げ、大切そうに首から提げた。

 

「うん、似合ってる」

 

「チチチ」

 

 シルキーが笑って僕が磨いてる途中だった石を幾つか持って作業を手伝い始めた。

 何度か手伝って貰った事もあり手馴れたものだったが、もしかして照れ隠しで手伝ってくれたのだろうか。だとすれば何とも可愛らしい相棒である。

 

 

 

 

 

 トウカシティから東に進めばコトキタウンと呼ばれる小さな村に辿り着く。とは言えここもゲームとは比べるまでも無い程には大きいのだが。

 コトキタウンは主人公達のスタート地点であるミシロタウンから一番最初に訪れる場所で、特筆すべきものも何も無い平和な村だ。

 

 コトキタウンのポケモンセンターで許可を取って行っているコドラとフォートのバトルを見ながら俺はこれからの旅のルートを考える。

 ここから南に向かえば103番道路へと繋がり、ちょっとした川を越えれば110番道路――キンセツシティとカイナシティを繋ぐ道へと出る。

 カイナシティは海水浴場で有名な街だが、ダイゴが水タイプのポケモンを持ってないのでそこから先に進めなくなる。一応船は通っているだろうがそれでも行動はかなり制限される事だろう。

 

 と言う訳でキンセツシティを通って東に進み、ヒワマキシティを目指すルート取りになるだろうな。必然、通る街はヒワマキシティ、トクサネシティ、そしてルネシティとなる。これで全てのジムに挑戦する道筋が出来上がった。

 

(まぁ、ゲームと違って自由に動けるとは言えルネシティは最後にしときたいわな)

 

 劣悪な立地的問題もあるが、ルネシティのジムリーダーはダイゴの親友であるミクリだ。ダイゴの心情的にも最後に挑んだ方が良かろうよ。

 ……ダイゴといえばこの前クチートナイトの首飾りを新調して貰った。

 ゲームタイトルの宝石が揃っていたのには奇妙な巡り会わせを感じたが、何となくルビーを付けて貰った。俺がやってたのオメガルビーだしね。

 

 とまぁそんな事を後でダイゴに共有しようと考えつつコドラとフォートの戦いを見守る。

 やはりと言うべきか、コドラに対してフォートはかなり有利に立ち回っている。戦闘経験やレベルの差もあるのだろうが、これはフォートがコドラの事をよく見ている事の証明だろう。

 

 現在うちのパーティで恐らく一番レベルが高いのは俺で、次点でエアームドとフォート、そして最後にコドラだろう。戦闘経験も似た様なもので、俺とエアームドが現在ツートップと言える。

 正直に言ってしまえば今一番弱いのはコドラなのだが、同時に一番爆発力が高いのもコドラなのだ。トウカジムをほぼ一匹で完封せしめた辺り、コンディションとテンションが最高潮の状態で持久戦を行えば俺でも安定しての勝利は怪しくなる。まぁ辛勝になろうが絶対に負けないけどな。

 こんなでもダイゴの最初の相棒という矜持があるのでな。

 

「調子はどう?」

 

「エアァ」

 

 エアームドと共にやってきたダイゴに見ての通りだとコドラとフォートを指差す。考えに耽っている間にコドラが悪手を打ったのかフォートにガンガン攻められている。一矢報いる事は出来るだろうが巻き返すのは厳しいだろうな。

 

「なるほど、フォートが優勢か。コドラは速くは無いからこうやって懐に潜られると厳しいね、それでも窮地から勝機を見出せるように僕達は育てた。反撃は出来るかな?」

 

 ダイゴが俺の隣で観戦モードになる。

 ダイゴの言う通りピンチはコドラにとってチャンスとなる。正確には肉を切らせて骨を断つ選択肢が出来る、と言うべきか。何も近距離戦闘はフォートだけの専売特許ではないのだ。

 

「コドォ!」

 

「……メッタ」

 

 フォートが至近距離でバレットパンチを放つがコドラは意に介さずいわなだれを発動。

 周囲に大量の岩が降り注ぐが、フォートを引き剥がすには至らない。

 

 反撃とばかりにフォートがコドラに対してしねんのずつきを放つ。が――

 

 “まもる”

 

 コドラの展開した不可侵の障壁によりしねんのずつきの勢いを完全に削がれてしまった。……やっぱまもるって強いな。

 そのままコドラがフォートに向けてとっしんを行うが勿論回避。流石にすばやさの差が大きいと大きく行動する技は当てるのが厳しいか。……いや、あれは。

 

「コドラも戦闘中に自分で考えられるようになったね」

 

 ダイゴが我が子の成長を喜ぶように言う。

 その直後、コドラが急停止し別の技へと繋げた。

 

 “アイアンヘッド”

 

 まさか連続して来るとは思っていなかったのかフォートが被弾する。今のって、ムロジムで見た――

 

「技術だ。まさかコドラが見ただけで覚えようとしていたとは思わなかったけど」

 

 そう、ダイゴが言った通り今のは紛れも無く行動連結と呼ばれる技術のそれだ。トウキのコジョンドに比べれば荒削りもいい所だが、それでも形にはなった。

 ムロジムではずっとボールの中にいたのに、コドラは自分に出来る事をずっと考えて、俺達の戦いを見続けていた。……強いなぁ、自分が強くなる事に対して貪欲でいられるのは、ある種の才能だ。

 

 そしてダイゴが言ったように、戦闘中に頭を動かす事ができるのも。

 

「……ッグ!?」

 

 フォートの背後にはいわなだれによってフィールドに撒き散らされた大岩だ。

 そして目の前には再度技を繰り出さんとするコドラの姿。至近距離に張り付き続けていた弊害がここで出た。

 

「クチチ」

 

 それでも、即時対応力はフォートに軍配が上がる。

 

 フォートは即座に背後の大岩の影に入る。構わずコドラはアイアンヘッドを大岩に向けて放つが――

 

 “バレットパンチ”

 

 それよりも早くフォートの拳によって大岩が砕かれる。

 

 今更だが行動連結には相性がある。繋ぎやすい技、繋ぎにくい技の組み合わせが幾つかあり、無理に行動連結に組み込もうとすると動きが悪くなったりしてしまう。

 例を挙げるならばとびひざげりとビルドアップなどだろうか。動から静、或いは静から動への急激な転換等がこれに当たる。間違ってはならないのは技を繋げる技術であって、二回行動する技術では決して無いのだ。

 

 さて、では相性のいい技とは何か? フォートは既にそれを覚えている。ともすれば全ての攻撃技と相性のいいものを。

 

 “おいうち”

 

 二連撃と見紛う程の追撃がコドラへと突き刺さる。

 

「そこまで!」

 

 ダイゴの声でフォートとコドラは互いに動きを止めた。

 いやぁ、フォートもフォートで行動連結を練習してはいたんだな。身内同士の戦いでまだ発展途上とは言え実戦で成功させるとは。

 

(……ん? もしかして何もしてないの俺だけでは? エアームドもダイゴと一緒になんかしてるっぽいし……)

 

 背筋を冷や汗が伝うような感覚が走る。

 私も何か覚えようかなぁ……。私ってなんだ、俺か。

 

「……メタッ」

 

 少し焦っているとフォートが俺の前まで来る。なんだ、感想を言って欲しいのか?

 

「チッチィ」

 

 よく頑張ったな、格好良かったぞ。

 

「……メッタ」

 

 俺の一言で満足したのかフォートはダイゴの方へ向かっていった。もう少し具体的な感想を言えばよかったかな。

 動きを阻害されないように視野を広く持って動こう、とか? それはフォートも理解してるだろうしなぁ。戦闘中に身体に叩き込むっていう脳筋みたいな教え方しか出来ないのが悔やまれる……。

 

 ダイゴが俺達を呼んだので思考を切り上げてダイゴの元へ向かう。

 

「さっきポケモンセンターで確認したら103番道路の船渡しをしてくれる人がいたから今日中にキンセツシティまで行こうと思う。皆もそれでいい?」

 

 異論は無い。川を渡っている途中で先程のルートの事も教えておこう。

 こんな平和な日があるといつもはあまり気にしない事にも気付く事がある。コドラの頑張りだとか、フォートの強さだとか、エアームドの向上心だとか、――ダイゴの成長だとか。

 ずっと近くにいたから分かりづらいけど、ダイゴはジムを一つ乗り越える度に成長している。このまま行けば本気のミクリ相手でも勝ちを収めることは出来るだろう。

 

 だが、四天王を相手にするにはまだ幾許か時間が足りない気もする。チャンピオンロード辺りでレベリングしてもいいのだが、劇的に強くなる機会が欲しい。……そんな機会はそうそう無いだろうけど。

 

 まぁいいさ、ゆっくり進んでいこう。皆と一緒にね。

 

 




“天喰暴竜”がアップを始めました。

今回の話は誰でも使える技術である行動連結に関する補足ですね。
正直がっつりバトルに技術を絡ませる予定は無かったのですがこの先の展開を考えると技術とかにも関わらせないとダイゴ達が厳しいという結論に至ったのでコドラとフォートには荒削りながらも覚えてもらいました。

技術は今考えてる分で足りるので募集は行いません。でも異常個体の方はもうちょい送ってくれていいのよ?(強欲な壺)
数あるとその分選択肢が増えるし何より見てて楽しい(明け透け)

感想くれたらとても嬉しい。

追記:展開やイベントの精査で次回ちょっと遅れるかも。すまぬ。


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異常事態の時に慎重に動く奴と楽観的に動く奴は五分五分。

すまねぇ!! 遅れた!!!
理由は色々あるけど言い訳は後書きに。前回の話の内容忘れてる人は前話も合わせて読んでくだせい。


 

 

 ダイゴのボールの中で、辺りの景色を見る。

 この広いホウエンの中でトップクラスの大都会であるキンセツシティに再びやってきた。

 

 以前に来た時からどれ位経っただろうか。道中の野宿とかを含めても一ヶ月以内には収まっていると思うのだが。

 

「早めに辿り着いたから自由行動にしようかと思うけど、何か欲しい物とかある?」

 

 ダイゴがそういうが今は思いつかない。

 強いて言うならきのみが幾つか欲しいが、わざわざキンセツで買う必要も無いだろう。なので俺は首を横に振る。

 

 フォートは何か欲しい物があったらしいのでダイゴの付き添いに向かい、俺とコドラとエアームドはポケモンセンターで留守番である。

 丁度いいし久々に個人的な特訓でもしようか。

 

 フォートもコドラも技術を覚えてたし俺も何か、と思ったが既に幾つか覚えているので別の事を伸ばす事にする。

 

 以前俺は言った。技術とは“わざ”と比べれば取るに足らぬ小手先の技であると。

 無論技術の種類や指示するトレーナーによって戦況を優位に進める手段足りうるが、それでも真っ向から衝突すればわざが確実に勝つ。

 

 ムロジムのトウキの手持ちでも、カイリキーはえんまくやくろいきりを使われれば記憶する以前の問題だし、ハリテヤマもねこだましを喰らえば確実に怯む。コジョンドもふういんを受ければあの舞で一度に二つのわざ効果を出す事は出来なくなる。

 それを受けないように立ち回りを考えるのはトレーナーであるトウキの役目だが、技術そのものがわざを凌駕出来る訳では無いのだ。

 

 故にこそ俺は相手がどのような技術を持っていても対応し、打倒する為に今持っている技を磨く。……本来の効果から逸脱する様な鍛え方をするのもまた技術の一つなのだがそれは置いておく。調べた限り技術の幅が広すぎて未だに覚え切れんのだ。

 

 今俺が覚えている技は、つるぎのまい、じゃれつく、かみくだく、ふいうちの四つ。つるぎのまいとふいうちはかなり試行錯誤を重ねているのでじゃれつくとかみくだくに重点を置いて鍛えよう。

 じゃれつくはまだ十全に使いこなせてる感じがしないからな。

 

 やや自慢になるが今の所俺はダイゴの切り札だ。

 切り札を切らざるを得ないほど追い詰められた時、或いは切り札を切って勝負を詰めに行く時、その時が俺の出番だ。そしてそのような状況下でメガシンカを温存する意味は無く、基本的に俺が出る時はメガクチートとしての力を求められる。

 ダイゴがいない時はメガシンカ出来ないので、特訓をする時はメガシンカ時で実戦形式で行わなければ余り意味が無いのだ。

 

(でも毎回ダイゴに頼むのもなぁ)

 

 気力を微弱ながら消費しているのかは不明だが、一日に何度もメガシンカをするとダイゴの体調が悪くなる。幸いにして一晩寝れば治る程度の物でしかないのは安心したが、それを知ってはそう日に何度もメガシンカしてダイゴに負担を掛けたくは無くなった。

 無論バトルでそうも言ってられないのは俺もダイゴも承知の上なので使う時はバンバン使うが。

 

 ……メガシンカなぁ。弱点の少なさを鑑みても総合的には弱い部類に入るクチート、そんなクチートでもダイゴの主力になれる程の破格の力を持つメガシンカ。ダイゴの手持ちになってからメガシンカに助けられっぱなしの俺ではあるが、欲張りながらこうも思ってしまう。

 

 ――ずっとメガシンカしてる状態になれねぇかなぁ、と。

 

 いや、分かってる。ゲームでは不可能だしそもそもトレーナーの力も消費するっぽいのに永続などダイゴが衰弱してしまう。それは駄目だ、俺の興味でダイゴに迷惑を掛けるべきでは無い。

 しかしながら、この世界は勿論ゲームではない。であれば、何処かしらに抜け道はあるのではないか? メガシンカし続けているポケモンの記録も、一つ位はありそうなものだ。

 

「……チィ!」

 

 両手で頬を叩く。手段を履き違えるな、ダイゴの為に強くなる事こそが目的だが、それは強くなる為に何をしてもいい訳じゃ無い。

 視野を広く持つ事を言い訳にしてはいけない。俺はポケモンだ。地道にレベルアップするのが一番の近道だと俺は知っている筈だ。

 

 ……らしくも無い事を考えて時間を無駄にしてしまった。

 早く特訓を始め――

 

「おいおい、いつかの色違いクチートじゃねぇか。トレーナーもいないなんてラッキーだぜ」

 

 うわぁ。

 

 

 

 

 

 初めてキンセツシティに来た時、つるぎのまいのわざマシンを見つけた時にこんな風にチンピラに絡まれた事があった。正直俺は忘れていた。

 というかこいつあの時の奴じゃね? 警官から厳罰を受けただろうに懲りない奴だ。

 

 一先ず真っ先にコドラとエアームドのボールを確保する。無いとは思うが人質にされては堪らない。

 

「お前のせいで警察に捕まってあの店に罰金払う事になってポケモンも全部没収されたんだよ。折角のレアポケモンだ、捕まえて大金ゲットしてやる」

 

 そこまでされて反省する気配が微塵も無いのやばくね? あと既にダイゴの物なんだが新しくボールに入れるなんて事は出来ないぞ。

 ともあれダイゴの所まで逃げようかと考えたが、視界の端でジョーイさんがこちらを見ながら何処かへと電話を掛けているのが見えたので考えを改める。

 

 ここで返り討ちにしよう。ポケモンを売る当てがあるっぽい発言だったしここで捕まえれば暫く檻の中だろ。

 

「ゴルバット! グラエナ! ぶちのめして来い!」

 

 男の投げたボールからゴルバットとグラエナが繰り出される。ポケモンを没収されたと聞いたがよく二匹も捕まえられたな、だが捕まえてからまだ日が浅いのなら連携は鍛えられてない筈。

 一対一を二回繰り返す方向で行こう。

 

「ゴルバット、どくどくのキバ!」

 

 俺に噛み付くために接近してきたゴルバットをふいうちで先制攻撃をして引き剥がす。……流石にメガシンカ無しだと火力が出ないな。

 そのままゴルバットに追撃を仕掛けようとした俺の前にグラエナが立ち塞がる。

 

 “かみくだく”

 

 “かみくだく”

 

 同時に放たれた技。それでも俺の大顎が勝ち、グラエナを引っ掴んで男の方に投げ飛ばす。

 

(グラエナよりレベルが高かったお陰で助かったな)

 

 これが同レベルであれば力負けしていた可能性が高い。

 

 この間にゴルバットは復帰し、体勢を立て直したグラエナと共に迫る。

 どちらを先に片すか考え、ゴルバットをふいうちで吹き飛ばしグラエナと一対一の状況を作った。

 

 “じゃれつく”

 

 妖精の悪戯の様にグラエナに纏わりつき紅色の大顎でボコボコに殴る。

 あくタイプにフェアリータイプは効果抜群だ、グラエナはこれ以上動けないだろう。

 

「なっ、んでだよ!」

 

 最初のどくどくのキバ以降具体性に欠ける指示ばっかりだったろうに、野生のポケモンと戦っている気分だよこっちは。

 ……ん、人が増えてきたな。さっさと片付けよう。

 

 ゴルバットの羽による殴打を大顎で受け止め、そのまま大顎でゴルバットを咥えて地面へと叩き付ける。

 

「なっ!?」

 

「クッチチ」

 

 これにて男の手持ちは両方戦闘不能。それと同時にポケモンセンター内に警官が複数人入ってきた。

 焦りを顔に浮かべ逃走を図ろうとする男の行く手を、蒼い鋼の拳が阻む。

 

「――逃がしはしないぞ」

 

 フォートを連れたダイゴが現れた。

 無いとは思うが戦闘中に到着したら衆人環視の中でメガシンカ使いかねなかったから男との戦闘は手早く済ませた。

 正直ここまで来たならメガシンカの情報も広まってもいいとは思うが、心情的に何となくな。

 

(というかそろそろポケモンリーグの方から接触してくるんじゃないかと思わなくも無いが)

 

 誠に遺憾ながら外見上の変化だけ見れば異常個体と見なされても仕方の無い力である。カロス地方のあれやこれがホウエンに入ってくる事を祈ろう。

 さて、ダイゴの突入と同時に警官が男を拘束し運んで行ったのを見届けて一連の騒動は終わりを迎えた。中庭にいるのは俺とダイゴ達だけだ。

 

「すまない、遅くなった」

 

「クチィ」

 

 別に構わない、俺が勝手に戦っただけでダイゴが気に病む事ではない。

 それに逃がしたくなかったというだけで、戦う必要があったかと言われれば実際の所あまり無かった。二回目という事もあり自分の手で引導を渡したかっただけだな。

 

 どちらが悪いかと言われればまず俺が悪いし、それ以上に絡んできたあの男が悪いだろう。だから気にする必要はなかろうよ、反省するのは俺の方だ。後悔は無いが。

 

「それでも僕がそばにいなかったからシルキーに無茶をさせてしまった。……本当にごめんよ」

 

「クゥ……」

 

 なら次のジム、ヒワマキジムで俺達を活躍させてくれ。

 俺も皆も頑張る。だからダイゴは頑張ってジムで勝つ。これでチャラにしよう。

 まぁヒワマキジムならコドラの方が活躍するかもしれんが、それはそれ。別にそうなって困る訳では無いしな。

 

「チチチ」

 

 そういえばエアームドもコドラもボールから出なかったな。念を押したのは俺だが正直途中で出てくると思っていた。

 ダイゴにエアームドとコドラのボールを返却しながらそう思ったが、俺が勝つのを信じてくれてたのかね?

 

 負けるつもりは無かったが、そうだとしたら嬉しい限りである。

 

 

 

 

 

 キンセツシティを東に抜けると118番道路に出て、そのまま東へ向かう123番道路と北上する119番道路の二つの道に分かれる。

 ヒワマキシティへは大きな川と随所に架かる橋が特徴的な119番道路から向かうのが最短ルートである。

 

 近くには天気研究所があり、ポワルンの力を借りて天気予報を行っているらしいが急激な天候の変化には対応していないそうだ。まぁそういうのはエスパータイプの仕事だろうな。

 さて、特段野生のポケモンに喧嘩を吹っ掛けるという事が無い我々ではあるが、何だかんだで高いレベルを維持している。勿論野生のポケモンと戦う事で経験値を得るのが一番ではあるが、トレーナーとの戦いで得られる経験値もまた馬鹿にならないのだ。

 

 ちょうどこんな風に。

 

「フォート、バレットパンチ」

 

 ダイゴの指示でフォートが弾丸の様な拳が相手のハブネークに突き刺さり、バトルが終わる。

 大体10くらいのレベル差があるとはいえ、ダイゴはあまりレベル差に頼らない戦い方をするよう心掛けてきた。まぁたまに俺達ポケモン側がゴリ押しする事はあるが、力押し一辺倒では四天王やチャンピオンは倒せないからな。

 今のダイゴは出来ない事が多すぎるからな。まぁその原因は俺らの実力不足から来るものでもある訳だけども。

 

「……負けた、か。強いね君」

 

 相手のトレーナーがハブネークを回収しダイゴに話しかける。

 賞金の受け渡しを行っている最中、相手のトレーナーがふと思い出したかのように口を開いた。

 

「……そういえば君はヒワマキシティに行くのかい?」

 

「えぇ、次のジムがヒワマキジムなので」

 

 何かあったのかと問うダイゴに、トレーナーは気を付けた方がいいと返した。

 

「ここ最近、ホウエンの東で異常個体の数が少なくなってるんだ」

 

「……異常個体が?」

 

 俺やダイゴが異常個体と言われ思い返されるのは砂漠で出会ったフライゴンの主や、トウカの森で出会った二体のダーテング。

 恐らくホウエンの中でも別格だと思われるフライゴンは抜きにしても、今の俺達では勝つ事の出来ない異常個体のポケモンが続々と姿を消しているという。

 

 考えられる可能性は三つ。自ら姿を消したか、トレーナーに捕まえられたか、他のポケモンとの縄張り争いに敗れたか。

 

(自分から姿を消したにしては各地で同時多発している理由が分からない。関係性が薄いからこれは考えなくてもいいだろうな。トレーナーに捕まえられた場合もポケモンリーグの広報を見れば少なからず情報は乗るだろうしな)

 

 捕らえたトレーナーが例え悪の組織に所属するアウトローなら分からないが。

 そして一番考えたくないのは最後の可能性だ。ダイゴもその考えに至ったのだろう、他に情報は無いかと尋ねるが今は何もないと言われてしまった。

 

「杞憂かもしれないけどさ、楽観的に考えたら痛い目見るのはこっちだからね。もしかしたらポケモンリーグが対処に回ってるかもしれないし、俺はほとぼりが冷めるまでキンセツシティに行ってくるよ。君も一旦休んだらどうだい?」

 

「……気遣ってくれてありがたいですが、それでも僕達は進みます。すみません」

 

「いや、ジムに挑むのを阻む様な事はしたくない。気を付けてね、君達の武運を祈ってるよ」

 

 そう言って彼はキンセツシティに向かって歩いて行った。

 

「異常個体の消失、原因は未だ不明か。……トレーナーかポケモンかは分からないけど会いたくはないな」

 

 そういうダイゴの脳裏には例のフライゴンが浮かんでいる筈だ。……しゃあないな。

 

「……シルキー?」

 

「チィ、クッチチ」

 

 ダイゴの背中をよじ登り後頭部にしがみ付く。肩車の様な形になるが純粋に身長が足りない上に大顎のせいでバランスを崩しそうだ。すまんな。

 

 ダイゴ、お前の不安も分かる。あの時のフライゴンだってエアームドやあのがんせきほうを撃った(推定)イワパレスのおかげで危機を脱した。次もまた同じように助けが来るとは思えんよな。その時どうするべきか悩んでるんだろう。

 だがダイゴには仲間がいる。俺やフォート、それにコドラやエアームドだっている。もしかしたらこの先増えるかもな。決して一人じゃないんだ。自分で言うのも何だが俺達は弱くはない。まだまだ発展途上ではあるが、ダイゴとならどんな壁も叩き壊してチャンピオンになれる。これだけは絶対だ、俺が証明する。

 だからまぁ、あんまり気負わないでくれ。ダイゴが一番強くて凄いんだから。

 

 ……的なニュアンスの事をダイゴの頭を撫でながら呟く。100%意図が伝わっているとは思えないが、何処か吹っ切れたように笑うダイゴを見ればある程度は伝わったのだろう。それだけでいい、それでいい。

 

「……そうだね、僕は一人じゃない。皆で進むんだ」

 

「クチチ」

 

 元気を取り戻したダイゴの頭をわしゃわしゃと撫で、しがみ付いていた後頭部から飛び降りる。

 やはり不安に駆られる姿より、自信に満ち溢れたダイゴの方が好きだ。その光と共に歩みたいからこそ俺はダイゴの相棒になる事を決めたのだから。

 

 さぁ、二度目の吊り橋を超えればヒワマキシティに到着だ。使ってくるポケモンはひこうタイプばかり、コドラでほぼ完封できるが油断は禁物だ。

 ダイゴの采配に期待するとしよう。

 

 




とりあえず遅れた主な原因はプロットの大幅変更してたせいです。
本来はシルキーにも幾つか技術持たせるつもりだったんですがそれすると異常個体やオリ特性以上に技術で何でも片付けてしまう展開になりそうだったのでシルキーに技術持たせるのを止めて脳筋にさせました。全部技術でええやんってなるとつまらんしな。
完全にトウキ戦で味占めた結果ですね。反省してます。

まぁそれ以外にもパソコン買い換えたりゲームしてたり色々あって遅れたんでそこはまじで申し訳無い。今回みたいに一か月以上間が空くって事は無いと思うけど新しいキーボードに慣れるまでは更新のペース落ちると思います。
本当にすまんかった。

あ、今回ちょっとした先の展開に関わるアンケ貼ってるんで出来れば投票しといて下さい。
感想くれたらとても嬉しい。


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禍福は絡み合う蟒蛇の如し。

少しずつエンジンを掛けていく。


 ヒワマキシティ、他の街と比べ自然と一体化した街となっており、ある種カナズミシティやキンセツシティとは対極に位置する街である。

 

 ではそこまで栄えていないのかと言われればそういう訳でもない。

 自然と一体化した街である以上、住民の持つポケモンもひこうタイプやくさタイプなどが主流となっており、ポケモンの力を借りて街を豊かにしているのだ。地味にきのみや野菜などの生産量はトップクラスだったりする。

 

 加えて秘密基地に関する物品を取り扱っているのも特色の一つと言えるだろう。

 ホウエンのトレーナーにとっての必需品、第二の我が家と言ってもいい秘密基地はポケモンと共に旅を続ける者に人気だ。

 

 安全地帯を自由に作り出すに等しい秘密基地だが、ダイゴは特に興味が無いらしいから今回はスルーするが。

 

 キンセツシティでの一件もありダイゴはジム戦に注力している。趣味の珍しい石集めもジム戦後に回す予定であるらしい。そしてそのダイゴよりも更に張り切っているのがコドラだ。

 トウカシティではちゃんと活躍していたのだが、まぁ進化が間近な事もありもっと活躍したいのだろうな。幸いにして相性有利のジム戦だ、出番は多くなるだろう。

 

 さて、そんなこんなで速攻ジムに行くつもりだったのだが、少しだけ休憩してから挑む事になった。

 純粋にダイゴの疲労が蓄積してきたのと情報収集を行う為だ。

 

(最近忘れがちだけどダイゴもまだ子供なんだよな。むしろ短期間でここまで進めただけでも凄いよなぁ)

 

「トレーナーさん、ジム戦前にうちのきのみはどうだい?」

 

「あー、じゃあおすすめの物を頂けますか?」

 

 観光も兼ねてヒワマキシティ内を練り歩いているとダイゴが果物売りに話しかけられた。

 無難にモモンの実を購入し俺と一緒に分けて食う事にした。

 

「しかしトレーナーさんも間が悪かったねぇ。今うちのジムリーダーがポケモンリーグに呼ばれて招集が掛かっててね、ジムにはいないんだよ」

 

 何と。

 

「え、じゃあ今はジムに挑めないんですか?」

 

「いや、ジムトレーナーの一人がジムリーダーの代理をやってた筈だよ。代理ジムリーダーを倒せば普通にジムバッジは貰えるね」

 

 間が悪かったけど運が良かったね、と笑う店主に相槌を打ってダイゴと俺はその場を後にした。

 

「どうしよう、ジムリーダーが帰ってくるまで待つか?」

 

「クッチチ」

 

 何時帰ってくるかも分からんしそのままジム突破していいんじゃないかね。

 あんまりのんびりしてるとミクリから恨み言吐かれかねないぞ。

 

「っはは、そうだった。まだミクリとの戦いが残ってるもんな、じゃあヒワマキシティは手早く終わらせよう」

 

 こりゃ俺やフォートの出番は無いかもしれんな。まぁ別にいいんだけど。

 

 そう思いながら俺はモモンの実を飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 青果店の店員が言っていた通りヒワマキジムのジムリーダーはジムトレーナーの一人が代理として務めていた。

 

 先発として出たエアームドで敵陣を掻き乱し、後続のコドラが相手の手持ち全員をボコボコにして勝利を収めた。

 物凄く雑になってしまったが相手は苦笑するだけでジムバッジをダイゴに渡した。

 

 聞けばジムリーダーがいない今日を狙ってジム戦を挑みに来たトレーナーが数人おり、彼らにも同様にボコボコにされたので仕方ない事だと諦めたらしい。可哀そうに。

 

「草の根掻き分けての探し物は私達ひこうタイプ使いの得手とする所なんだけど、今回の仕事はジムリーダーでも難航してるらしくてね。あの人が帰ってくるまではずっと代理だよ」

 

 帰ってくるまでに幾つジムバッジ渡す事になるかな……、と遠い目をするジムトレーナーにダイゴは「頑張ってください」としか言えなかった。

 

「ところでその仕事って何ですか?」

 

「んー、一応緘口令掛かってるから教える事は出来ないかな。ただ、もし君がここからトクサネシティへ向かうのならすぐにでも通り抜ける事をお勧めするよ、野生のポケモンを捕まえるなんて寄り道はせずにね」

 

「それはつまり……、いえ、ありがとうございました。僕達はすぐにトクサネシティに向かいます、ジムリーダーの仕事頑張って下さいね」

 

「あぁ、うん。頑張る……」

 

 何か危険な物を探していると暗に伝えてくれたジムトレーナーに感謝したダイゴは、手を振るジムトレーナーに応えてヒワマキジムを後にした。

 

 さてさて、色々な物が繋がってきたな。

 ヒワマキシティのジムリーダーが駆り出されている依頼内容は十中八九異常個体、もしくはそれに準ずる個体の鎮静化。ただまぁジムリーダーが動かされる案件である以上対象は異常個体と断定していいだろう。

 その異常個体はヒワマキシティに来る前にダイゴと戦ったトレーナーが言っていたものと同一個体である可能性が高い。出回っている情報や目撃場所を考慮しても無関係とは思いづらい。

 

(しかし問題はポケモンリーグのサイトにある異常個体のうちどれがそれに当たるのかが分からん事な訳だが)

 

 大まかな予想は出来るが候補が多すぎる。

 そもそもからして異常個体の大半はそのエリアの主な訳で、ここ周辺の主なエリアにも当然異常個体が複数存在する。力量は大体トウカの森のダーテング達と大差ないレベルではあるが。

 

 問題は主な縄張りを持たない異常個体達だ。

 海に生息するみずタイプのポケモン、空を飛ぶひこうタイプのポケモン、これらの異常個体は決まった場所から大いに離れる個体ばかりである。

 

 ひこうタイプを例に挙げれば、喉元から多種多様なきのみを実らせ戦闘時にはオボンの実やラムの実を食いまくる“空挺菜園”と呼ばれるトロピウスであったりとか。

 (恐らく)ピントレンズらしき人工物を片眼鏡の様に装備し、てんのめぐみときょううん、そして本来持ち得る筈の無いクリアボディの特性を併せ持つとされる“天運白姫”と呼ばれるトゲキッスであったりとか。

 

 そんなまかり間違っても遭遇したくないような奴が、結構頻繁にホウエン中を飛び回っている。これもほんの一例でしかないのだから、目的の異常個体を特定するなど不可能である。

 

(結局は相手が何であれ遭遇しないように祈るのが最適解になるんだよな)

 

「チィ」

 

 溜息を零しながらも結論を出した俺が何か言うまでもなく、ダイゴは今日中に進める所まで進む事を決めた。

 体力回復の為ポケモンセンターの庭で寛いでいた俺とフォート、あとコドラとエアームドをボールに回収してヒワマキシティを出る事にした。

 

 

 

 

 

 ここからトクサネシティに行くには巡回船のあるミナモシティを通る必要がある。

 ヒワマキシティから東に抜け、120番道路と121番道路を通ればミナモシティに辿り着くのだが、この120番道路が尋常でなく広い。

 

 面積的にはフエンタウン近郊の大砂漠の約半分程なのだが、背の高い木や小山などが点在し視界、踏破性共に劣悪である。

 一応主な往来はポケモンの力によりゴリ押しで整備されているのだが、周辺に生えている木が広葉樹ばかりなせいで一度道を外れれば複雑に絡み合った根っこで足を取られまくる事請け合いである。

 多分ここが一番俺の知識から乖離しているフィールドではなかろうか。

 

(まぁ、こうなってる理由に心当たりはあるが……)

 

 120番道路には古代塚と呼ばれる遺跡が存在する。大砂漠における砂漠遺跡と同列の物であり、そこにはレジスチルが存在する。

 正直に言ってしまえばレジスチルだけはダイゴの手に渡したい。はがねタイプであれば、準伝説という括りのポケモンであっても使いこなせるのではないかと思っている。

 

(まぁ肝心のお触れの石室の封印が解かれてないんですけどね)

 

 こればっかりは仕方が無い。まだ人間に見つかってない遺跡達だが、砂漠遺跡が異常個体のイワパレスのがんせきほうでびくともしなかった点を鑑みるにポケモンによる強引な遺跡荒らしは不可能だろうし。

 

 ……。

 

(静かだな。ポケモントレーナーが誰もいない)

 

 今までの道路では勝負を仕掛けてくるポケモントレーナーが多かれ少なかれいたのだが、120番道路では一人も見かけない。

 

「――あれ?」

 

 ダイゴが困惑の声を零す。モンスターボールの中からだと少しばかり見えにくいが、どうやら道が二手に分かれているようだ。

 片方は今まで通ってきた道路として整備されている道。もう片方は視界の確保すら難しい森の中へと続く獣道。

 

 本来なら気にも留めないような岐路に、ダイゴは足を止めて獣道の先を見詰めていた。

 

「僕を、呼んでる?」

 

 ふらり、と。

 ダイゴが獣道の方へ足を進めた。

 

 不思議な事に、整備されていない筈の道はダイゴの足を取る事は無かった。まるで小石や木の根がダイゴに道を譲っているかのように。

 そうして暫く進んで、ダイゴの言っていた「自分を呼ぶ声」というものが俺にも聞こえてきた。

 

 ――鋼の導き手よ。

 

 ――封じられた私の元へ。

 

 歌とも音色ともつかぬそれはダイゴを呼び続け、ダイゴもまた声のする方向へ進む。

 やがて獣道から開けた場所に出た。

 

 木漏れ日が差し込む空間に、巨大な一枚岩で出来た遺跡。そしてそれを囲うように六つの石塔が静かに鎮座していた。

 静謐を湛えるその場所にあるそれを、俺だけが知っていた。

 

「……これ、砂漠にあった物と同じ……?」

 

(――古代塚だ)

 

 ダイゴが言ったように、砂漠遺跡の物と同じくたった一体のポケモンを封印するために作られた遺跡だ。

 しかし、砂漠遺跡の時とは何かが違う。あの時は自力で見つけたが、今回はそもそもダイゴも120番道路を探索するつもりすら無かった中でこの場所まで招かれたのだ。

 

 他ならぬこの古代塚そのものに。

 

 ――資格を有する者よ。

 

 ――この封を解き放て。

 

 男とも女ともとれるその声が頭に優しく響く。

 何が起こっている? 俺の知識が全然役に立たない事は今更だが、これは想定を超えている。

 深海のあの封印が解けない限り三つの遺跡に関するイベントは無かった筈だ。……一体、何が。

 

「……僕は何をすればいい」

 

 ――歴史と大洋に力を示せ。

 

 ――石室を目指し封印を塗り替えよ。

 

「……何を言っているのかさっぱりだ。とりあえず覚えておくよ」

 

 ダイゴが頭に手を当てて答える。

 俺も正直分からなかった。向こうから交渉してくるとは思わなかったが、石室で封印を塗り替えろというのはお触れの石室に行って遺跡を活性化させる事を指すのだろう。

 

 では歴史と大洋に力を示せとは? 最初はグラードンとカイオーガの事かと思ったが、カイオーガを大洋と言うのであればグラードンを歴史と称するのは些か不自然だ。

 恐らくまた別の何か、俺の知らない何かがあるのだろう。こうも分からない事だらけではダイゴに大きな動きを提案する事も憚られる。

 

 結局今出来る事は無いかと考えた辺りで、声の雰囲気が一変する。

 

 ――悪しき魂を持つ者が迫っている。

 

 ――鋼の導き手よ、ここから――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ザザザァララアアアアアアアアアアア!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 怨嗟にも似た咆哮一つで、静謐は破られた。

 

 闇を織った様な三対の歪な黒い翼、かつて見た異常個体のフライゴンを上回る巨躯にこちらを見据える狂乱を宿す六つの眼。

 三叉の鎌首を擡げ、狂喜の笑みを浮かべて俺達を睥睨するそれは、俺の知識にあるそれよりも異質極まる姿だった。

 

 おぞましいまでの威圧感を振り撒きながら、そのモンスター、サザンドラは古代塚に降り立った。

 

 

 

 

 

 酷く今更だが、俺はこんなでも、このポケモンの世界に生まれて結構過ごしている。

 ついこの間一歳の誕生日を迎えた身でもあるのだ。

 

 だからまぁ、かつて俺が暮らしていた日本と比べても治安が悪いと言わざるを得ない環境にも慣れて、適応できていると思っていた。

 

 実際そうだろう。俺を拾ってくれたダイゴの力に依る所ばかりではあるが、俺達が揃えば向かう所敵無しみたいなもんだったからな。

 だからまぁ、正直に言ってしまえば慢心していた。ポケモンという超生命体の力に甘えて、いずれチャンピオンとなるダイゴの隣にいる事に甘えて。

 

 そんな慢心も砂漠で例のフライゴンと遭遇した時は引き締め直したよ。この世界には俺なんかよりも強い奴は一杯いるんだって。

 それでも、いずれは俺とダイゴで更に強くなって、あのフライゴンを倒せるようになるんだと息巻いていた。

 

 うん、俺とダイゴで、だ。

 この際もう一つ暴露しようと思うが、俺はダイゴの最初の相棒であるという事実に途方も無い優越感を抱いていた。

 

 誰だって、ポケモンに転生したなら強い奴に捕まりたいと思うだろう、それがチャンピオンなら猶更。

 例え物珍しさからであっても、チャンピオンの手持ちになるというのは決して揺るがない安住の地に等しいのだから。

 

 だが蓋を開けてみれば、幼少期のダイゴの一番最初のポケモンになる事が出来た。勿論そうなるようにある程度演技とかもしたが、正直効果が出るとは思ってなかった。

 本当に奇跡だったんだ。

 

 本来ならダンバルがそこにいる筈だった場所に座る事に少しも罪悪感を覚えなかったかと言えば嘘になる。

 それでもそれを上回るほどの法悦に全身を震わせた。

 

 俺の為にはがねタイプの知識を身に着けようとしている、()の為にポケモントレーナーになろうとしている、()の為にジムリーダーに勝とうとしてくれているっ、私の為にチャンピオンになろうとしてくれているッ!!

 

 そんな冷静になれば馬鹿馬鹿しいと一蹴されそうな事を本気で考えていた。

 初めてメガシンカした時にダイゴの為に動ける事が幸せだと思った事があるが、それはこういう分不相応な想いが入り混じっていたからなのだろうね。

 

 迷惑だろうから決して表には出さないが、私はダイゴの事が好きだ。好き、の一言で括るには面倒くさいあれこれが絡み合ってるけども。

 そしてそれと同じくらいフォート達の事も好きだった。

 

 一応言っておくがダイゴが彼らに構う事で心の底から嫉妬した事など一度足りとてありはしない。

 異物なのは私の方なのだから、私に嫉妬する権利など無い。彼らはダイゴが本来使っていたポケモン達だ。彼らにもまた、憧れに似た感情を持っていた。

 

 

 

 それでも相棒は(シルキー)だ。(シルキー)なんだ。

 

 

 

 ……そんな事を思い続けていた報いか。いや、運命の修正力とかそういうあれかもしれないな。

 

 分かる事はたった二つ。

 

 このまま私が動かなければ、ダイゴ達は殺される。

 

 そして、私がダイゴ達を逃がす事に全力を尽くせば、彼らの生存と引き換えに私は殺される。

 

 私がどちらを選ぶのか、最早これ以上語る必要はないだろう。

 

 




古代塚さん、近年稀に見る天才にウッキウキで話しかけたら釣り餌にされてしまう渾身のガバ。

最近バトルが少なかったのはVS“天喰暴竜”サザンドラが控えていたからです。
なのでヒワマキジムもボッシュートになります。

途中さらっと出てきた二体の異常個体は活動報告の募集案から拝借致しました。

“空挺菜園”トロピウスは無銘様から、
“天運白姫”トゲキッスはすぷりんぐ様からの異常個体案です。
話の展開の都合上異常個体観測部門からの報告書を載せられない事をお許しください。

最後の独白は今まで書いてなかったシルキーの心情というか深層心理です。全体を通してお姉さん的立ち位置を獲得してるシルキーはダイゴの相棒になれた事が嬉しくて仕方がなかったというお話。まぁ誰だってそうなるとは思うけどね。
一番最初に選ばれた相棒がお前だって言われれば誇らしくもなるさ。

前回のアンケで75%の人が「エタるな」と言ってくれたので需要はあるんだなぁと思いながら途切れないように投稿続けていきます。
それとは別に情報出るまで脳内補完しとくって人が結構いて嬉しい限りです。あんましネタバレして驚きが薄れる様な事はしたくないので助かりました。
だとしてもなるべく早く情報出すようにはしますがね。

次回以降はもしかしたら文字数とかブレるかも……。


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流した涙は惜別故に。

 刹那の間に俺の脳裏を駆け巡ったのは恐怖でも後悔でもなく、諦念と覚悟だった。

 

 突然空を覆い隠すように現れたサザンドラ、あれこそが最近ここ等一帯を荒らし回っていた異常個体で間違いないだろう。

 別段姿を隠す事に長けたポケモンでは無い筈だが何故今まで目撃情報が皆無だったのか気になる所だが、そこは今考えるべきではない。

 

 重要なのは抗いようもない死のビジョンを覆す方法だ。

 

 ダイゴ一人で逃げる事は不可能、全員で固まって動いても都合のいい的だ。誰かが殿としてこのサザンドラを足止めしなければならない。

 そしてそれは、俺でなければならない。最も弱点が少なく、ドラゴンタイプを無効にし、サザンドラの弱点を突けるこの俺が。

 

(……耐性の多さ、四倍弱点、それがどれだけの足しになるか分かったもんじゃないけども)

 

 きっとこのサザンドラは大砂漠のフライゴンよりもレベルが高いのだろう。肌が粟立つ様な感覚があの時よりも強い。

 

 だからと言って逃げる訳がない。俺の背後には今ダイゴがいる。ダイゴを失うくらいなら代わりに俺が命でも何でも差し出そう。

 

 決して、ダイゴを死なせはしない。

 

 不退転を心に刻み、俺はモンスターボールから抜け出した。

 

 

 

 

 

 一秒にも満たぬ短い間だが、この場にいる全ての存在が動きを止めた。

 

 狂乱に吞まれながらも喜悦と憎悪を浮かべ眼下を睥睨する“天喰暴竜”サザンドラ。

 

 恐慌と焦燥に駆られながらも冷静に逃げ延びる道を探すダイゴ。

 

 この場にいる誰よりも早く動いたのは、シルキーだった。

 ダイゴの腰元のボールから自発的に飛び出し、古代塚の上に降り立ったサザンドラを睨みつけるシルキー。

 

 ちっぽけな勇気から、時は動き出す。

 

 腰のボールからシルキーが出た瞬間、ダイゴはシルキーのしたい事を理解した。

 このままでは死ぬと、そう判断したのだろう。

 

 故にダイゴは状況の把握、敵の脅威の計測、退路の確保全てを投げ捨て、ただ一言叫ぶ。

 

「メガ――」

 

 “りゅうのはどう”

 

 “りゅうのはどう”

 

 “りゅうのはどう”

 

 サザンドラは、その力の行使を見咎めた。決して見逃しはしない。

 開戦の合図は三条の波動から始まった。

 

「――シンカ!!」

 

 直後ダイゴの腰元からコドラが現れる。

 

 “まもる”

 

 朱色の繭に覆われるシルキーの前に陣取りサザンドラのりゅうのはどうを受け止めようとする。

 

 一撃目、全面に展開された障壁により一条のりゅうのはどうを掻き消すも、オーバーフローした暴力的なエネルギーにより障壁は砕け散る。

 

 二撃目、減衰無しのりゅうのはどうを真正面から受け止め吹き飛ばされかけるが、特性により九死に一生を得てシルキーの盾であり続ける。

 

 三撃目、もはや立っているのもやっとなコドラに迫り来る最後のりゅうのはどうを、それでも目を背けずにその身で受け止めようとして――

 

「――チィイアアアアア!!」

 

 ――コドラの目の前に朱色の繭を破ったシルキーが躍り出た。

 

 

 

 

 

 コドラの決死の行動により無事にメガシンカする事が出来た俺が一番最初に目にしたのはあと一押しで瀕死になるコドラに降り注ぐりゅうのはどうの光景。

 

 即座にコドラの前に身を投じてフェアリータイプである我が身を使ってりゅうのはどうを掻き消した。

 

 たった一ターンでこの有り様、最早俺以外では勝負にすらならないと恐らくダイゴも悟った事だろう。コドラをボールに戻しながら厳しい顔をしているだろう事が容易に伺える。

 双顎のクチートへとメガシンカした俺は最初にりゅうのはどうを撃ったきり動かなくなったサザンドラを見た。

 

 再び攻撃を真っ向から迎え撃つつもりであったが為に、攻撃の手を止めたサザンドラに底冷えするような違和感を覚える。

 サザンドラはメガシンカした俺とダイゴを交互に見て、何かを考えているかのように沈黙していた。

 

 サザンドラは何を見た? 何を確認した?

 コドラには目を向けず、かといって俺とダイゴを敵として認識した訳では無い。

 では一体――

 

(――考えるな)

 

 今そんな事を考えている余裕はないだろう。

 

 さて、ここまで待ってくれたサザンドラはどう来るだろうか。僅かな予備動作も見逃さぬとばかりに睨みつけ――

 

 “かえんほうしゃ”

 

 “かえんほうしゃ”

 

 “かえんほうしゃ”

 

 “ふいうち”

 

 ――いとも容易く戦闘は始まった。

 

 最初のりゅうのはどうと同じく三つの頭から同時に同じ技を繰り出すサザンドラ、その威力や効果範囲はオーバーヒートを優に超える。

 そしてレベル差のせいで純粋に早い。じゃれつくでは決して間に合わず、ふいうちですらギリギリ先手を取れるかどうか、という所だった。

 

 瞬時にサザンドラの元へ駆け寄りかえんほうしゃを吐く間際の頭を二つの大顎でかち上げ、何の痛痒も与えられていない事を悟った。

 

「ザザザザザ」

 

 嘲る様にサザンドラが嗤う。

 技の発動を阻害出来たのは中央の頭のみであり、両手から伸びる二つの頭からかえんほうしゃが放たれるのを防ぐ事は出来なかった。

 

 そうしてサザンドラは発動途中だったかえんほうしゃを放つ為に右手の頭を俺に向け、――左手の頭をダイゴに向けた。

 

(待ッ――)

 

 サザンドラの腕を大顎で引っ掴んで身を捩りどうにかかえんほうしゃを回避するが、そんな事よりも。

 

(ダイゴは!?)

 

 かえんほうしゃの直撃を受けてしまえば、ダイゴでは耐えられない。

 完全に判断を誤った事に歯噛みしつつかえんほうしゃで森の一角が焼き払われた場所に向かうと、そこにダイゴの姿は無く、代わりに焼け爛れた姿のフォートが倒れ伏していた。

 

 熱された蒼鋼の身体で火傷を負う事も気にせずフォートを抱きかかえ、ダイゴを探す。

 すぐにダイゴは見つかった。かえんほうしゃのギリギリ射程範囲外で、フォートから突き飛ばされたようだった。

 

「フォートッ!!」

 

「チィック!」

 

 少しでもこれ以上のダメージを防ぐためにダイゴはフォートにかいふくのくすりを使いボールの中へと戻した。

 それを見て俺はダイゴからあまり離れないようにしながら先ほどのサザンドラの行動について考える。結論から言えば。

 

 ――サザンドラは明らかにダイゴを優先して攻撃していた。

 

 通常、野生のポケモンが相対するポケモンを無視してトレーナーを攻撃する事は無い。トレーナーなどよりも目の前で戦うポケモンの方が脅威であるからだ。

 トレーナーを攻撃するのはよほど人間を憎んでいるか、トレーナーの持ち物を盗もうとするポケモンくらいだろう。

 

 だがこのサザンドラは異常個体だ。先にトレーナーから潰そうと考えても――

 

(――本当にそうか?)

 

 違和感。

 

 サザンドラからすれば、俺とダイゴの脅威度の差など無いに等しい筈だ。それなのに明確な敵意を持つ俺と遠くにいたダイゴを同時に対処しようとするだろうか?

 何か、他に理由があるのではないか?

 

(……まさか)

 

 ふと、ある考えが思い浮かぶ。

 

 チャラ、と右手でクチートナイトのペンダントを握りしめる。

 サザンドラの視線が俺を貫き、ニィ、と目を細めた。

 

 確定した。サザンドラの求める物が。

 

 そして理解した。このままでは幾ら気を引いた所でダイゴを生かして返す事は出来ないと。

 

 あぁ、だが幸運だった。何でかは知らないが、サザンドラが求めているのは俺達の命などではなく、たった二つだけだという事が分かってよかった。

 

「クゥチ」

 

 背後のダイゴに対して二つの大顎の内じゃくてんほけんが入ってない方の大顎を近づける。

 きっと今も脳をフル回転させているのだろうダイゴの頬を大顎の舌で一度だけ舐めた。直接撫でる余裕は無いから許してもらいたい。

 

「……シルキー?」

 

 察しの良い彼の事だ、さっき俺がメガストーンを握った理由も既に把握してるのだろうな。

 今から俺が何をするかをダイゴが理解するよりも先に、パクリと胸元に着けていたピンブローチを大顎で吞み込んだ。

 

「……待ってくれ」

 

「クチチ」

 

 ダイゴのピンブローチには俺のメガストーンと対になる宝石が付いている。トレーナーの絆を送り出すキーストーンと呼ばれる石だ。

 キーストーンとメガストーン、二つが揃って初めてメガシンカと呼ばれる現象が起こる。

 

 その証拠に、どうだ。先ほどまでダイゴと俺を睨んでいたサザンドラの視界には俺以外の存在は映らなくなった。はは、何とも恐ろしい事だな。

 

「やめてくれ」

 

 目をサザンドラから逸らしはしないが、俺に向けて無意識に手を伸ばしているであろうダイゴの手を、キーストーンを飲み込んだ大顎でそっと押し戻す。

 

 ダイゴの覚悟を踏み躙る行為だ、と言われればなるほど、確かにそう言えるだろう。

 実際ダイゴも逃げるよりかはまだ生き残れる可能性が高いと判断した訳だし。

 

 だが何度だって言おう。俺はダイゴには死んでほしくはなかった。

 

 例えば、自分と一緒に掛け替えのない恋人が窮地に陥ったとして。

 両方死ぬか自分だけ死ぬかの二択なら、誰だって恋人だけは生かす選択をするだろう。

 

 誰もが選ぶ選択肢を、俺は選んだだけだ。

 

 だから。

 

「俺も一緒に――」

 

「――チィット!」

 

 頼んだ、エアームド。

 

 俺の指示を聞くや否やダイゴの腰元からエアームドが独りでに飛び出し、ダイゴの肩を両脚で掴む。

 

「エアームド! やめろ!」

 

 エアームドは止まらない。何をすべきかを一番理解しているから。

 大きく羽ばたいたのを察知した俺は大顎で再びダイゴの頬を舐めた。

 

 ……行け。

 

「シルキーィイイイイイ!!!」

 

 慟哭に似たダイゴの、もしかしたら最後になるかもしれない声を聞いて心底より湧き上がる何かを嚙み殺した。

 

 ――あぁ、しょっぱかったなぁ。

 

 

 

 

 

 故郷を滅ぼした化け物が再び目の前に現れた時、立ち向かえる勇気を持つ者はどれだけいるだろうか。

 

 私の仲間達は勇気を持っている側で、私は恐れ逃げ出した。ただそれだけの事だった。

 

 あのサザンドラは私の故郷に唐突に現れ、辺りを火の海に変えて同族の悉くを食い尽くした悪竜だ。

 私の故郷だけではない、ダイゴの仲間の一体であるコドラの故郷を滅ぼしたのもあのサザンドラだという事が分かっている。

 

 許せない。獣にあるまじき復讐心であると、理解はしてるけれども。もしも私が一匹で何もかも守れるくらいに強ければ、なんて。

 

 そんな矮小な復讐心はダイゴの仲間になって徐々に氷解していった。

 寡黙な兄の様な仲間が出来た。危なっかしい弟の様な仲間が出来た。皆の姉の様な仲間が出来た。

 

 そんな皆と過ごしている中で残ったのはサザンドラに対する恐怖だけだった。

 また目の前に現れれば、もう一度全てを奪われる。それがただただ怖かった。

 

 ……その恐るべき未来は、今この時を持って目の前に立ち塞がったのだ。

 

 シルキーがボールから飛び出すのを見て、自分も動くべきだと思ったけれど、身体が恐怖で動かなかった。

 コドラが身を挺してシルキーを守るのをただただボールの中で眺めていた。

 

 あぁ、やはり君は、故郷を滅ぼした強大な存在に対して一歩を踏み出す事が出来るんだね。

 ……私とは違う。逃げる事ばかりを考える、私とは。

 

 恐怖に飲み込まれる間際、ふと隣から視線を感じた。

 

(フォー、ト?)

 

 ボール越しにフォートがこちらを見据えていた。

 諌める様に、宥める様にして。その視線で、彼が何をするのか理解できた。

 

 直後に視界を炎の壁で埋め尽くされた時、フォートもまたボールから飛び出してダイゴを炎の範囲外へと押し出す。

 

 ゴウ、とフォートを焼き熔かさんばかりに紅蓮の炎が森の一角を焼き払った。

 

「――フォートッ!!」

 

 ダイゴの叫び声を聞きながら、私は自分がすべき事を理解した。

 

 フォートはコドラが飛び出している時も、サザンドラが止まっている時もずっと最適解を探し続けていた。何を選ぶべきか、何を優先すべきかをずっと。それでもきっと、私達が戦って勝てる可能性は万に一つも無いのだと理解したのだろう。

 故にフォートは最悪から脱する策を私に託した。たった一つの、最悪一歩手前となる策を。

 

 ――あぁ、分かった。

 

 それからは何もかもが一瞬だった。

 

 あれほど怖気づいていたのが嘘であるかのようにボールの外へ飛び出した。

 未だに呆然とするダイゴの両肩を足で掴み、翼を広げる。

 

「エアームド! やめろ!」

 

 いいや、もう駄目だ。これ以上はシルキーの覚悟すら踏み躙る。

 だから私は何も聞かず、ダイゴを掴んで空を駆ける。

 

(――絶対に死なないでくれ)

 

 フォートからの伝言を鳴き声に乗せて、私は飛び立った。

 

 

 

 

 

 雨が降ってきた。空を見れば分厚い雨雲が迫ってきていたから、いずれ本降りになるだろう。

 大雨の中での飛行は危険だと判断し、私はダイゴを下ろす為に高度を下げた。

 

 すぐに来た道を戻るようなら身を挺してでも止めねば、と思っていた私の予想を裏切りダイゴはそのまま崩れ落ちた。

 涙を流しながらダイゴは私の事を声も無く睨んだが、すぐにその様な目を私に向けた事を悔いるかのようにダイゴは雨で濡れた土を掻き毟った。

 

 私としては、これでダイゴから敵意を抱かれても良かった。それだけの事をしたと自覚していたから。

 

 例えシルキーをあの場に残すとしてもダイゴをどうにか引き剝がさねばならなかった。そうしなければ私達はお終いだ。

 誰かがこの役割を担わねばならなかった。そしてその適任は私しかいなかったという、ただそれだけの話。

 

 幼い頃に無二の相棒として出会う事も無く、生まれた時から一緒にいた訳でも無く、故郷を離れ傷だらけだった体を治してくれた訳でも無い、誰よりもダイゴとの関わりが薄かったこの私が。

 

 薄情と言う者もいるだろう。私は甘んじてその誹りを受け入れる。

 

「――僕は、シルキーを見捨てたのか……?」

 

 いいや、いいや。それは違う。見捨てたのは私だ。私だけなんだ。

 だからそんな顔をしないでくれ。

 

「今すぐ戻って、いや、駄目だ。僕達ではもう、あいつに対処できない」

 

 くしゃり、とダイゴの顔が悲痛に歪んだ。

 

「――足りなかった、何もかも。僕達はもっと強いものだと、思っていたのに……!」

 

 両手で掻き毟った泥を握りしめてダイゴは慟哭する。

 せめて雨を避けられる場所に連れて行こうとダイゴの肩を掴もうとし、ふと顔を上げる。

 

「……少年よ、何故泣いている」

 

 見知らぬ男がダイゴに話しかけた。

 雨で視界や聴覚が落ちているとはいえ、すぐ近くまで人が来ている事に気付けなかった事に衝撃を受けた。

 

「……僕の相棒が、僕達を逃がす為に一人で森の中に」

 

 白いベレー帽と黒と青のロングコートを身に着けた壮年の男は、雨の中自分が泥に塗れる事も気にせずに膝を突いてダイゴに手を差し出した。

 

「話してくれてありがとう。少年よ、君は今すぐにミナモシティに向かいなさい。私達が君の相棒が戦っている場所に向かう」

 

「あそこには僕達じゃ歯が立たない異常個体がいるんだ、一人じゃどうやっても戦えない!」

 

 シルキーを置いてきてしまった事に打ちのめされているのだろう、ダイゴは見た事も無いほど弱々しい声音でそう言った。

 

「案ずるな、私は一人ではない。プリム、少年の来た道を辿れるか?」

 

 男のその言葉に、ダイゴの近くにいたのが男一人だけではない事が分かった。

 プリムと呼ばれた傘を差した白い女性はダイゴを見て、一つ頷く。

 

「どうやら彼の相棒とはとても強い絆で結ばれているようですね、これを辿れば例え道に認識阻害が掛けられていたとしても確実にたどり着けます」

 

「分かった。……少年よ、君の名は何と言う?」

 

「……ダイゴ」

 

 少しずつ落ち着いてきたダイゴの言葉に、男は大きく頷いた。

 

「ダイゴか、良い名だ。そしてもう一度言うが、君が案ずる事は無い」

 

 男はダイゴの手を引っ張って立たせ、高らかに宣言する。

 

「私の名はゲンジ、ホウエンを荒らす“天喰暴竜”の討伐にやってきた」

 

 




シルキーも、フォートも、コドラも、ダイゴとは感動的と言って差し支えない出会い方をしました。ですがエアームドだけはサザンドラから逃げたい一心でダイゴの仲間になりました。
旅を続けるにつれダイゴの仲間でいる事に充足感を覚えましたが、それでも恐怖心が消える事は無く、共にサザンドラに故郷を滅ぼされたコドラは立ち向かい、エアームドはただ逃げる事を考えました。

コドラもダイゴも、シルキーを見捨てたくは無いので戦う事を選び、フォートだけはシルキーを見捨てるかダイゴと共に死ぬかを最後まで考え続けていましたが、咄嗟にダイゴをサザンドラのかえんほうしゃから守った事で全滅する「最悪」よりダイゴだけは逃がす「最悪一歩手前」をエアームドが実行するよう頼みました。
全員が全員自分のせいだと考えて呆然自失に陥ってますね、趣味です。

そして“天喰暴竜”討伐隊であるゲンジとプリムがダイゴと接触。
本当はもっといるのですが他のメンバーは別のエリアでサザンドラを探してるので合流は不可能ですね。一応プリムが“天喰暴竜”である事が確定し次第全メンバーに通達するようになってますが絶対間に合いませんね。

さて、このサザンドラ戦が第一章の最大最後のターニングポイントな訳ですが。
こっから二パターン話の展開を考えてるんですよね。言ってしまうと、間に合うか、間に合わないか。一応じっくり考えてどちらが全体的に纏まるか考えてるんですけど、最悪アンケ取るかもしれません。

感想くれたらとても嬉しい。


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吞めや喰らえや赴く儘に。

割と長い時間待たせた癖にやや短めです。申し訳ない。


 

 

 そもそもの話として。

 

 俺がこの異常個体のサザンドラを知っていたか否かと言われれば、否である。

 

 例の砂漠で出会ったフライゴン、“薄羽陽炎”を始めとした主な異常個体はダイゴと一緒に調べている。

 その中にこのサザンドラの情報は無かったし、コドラとエアームドの故郷を襲った奴はいるかと聞いても二人とも首を横に振ったのでそれらしき情報は皆無であった。

 

 ……まぁもしかしたら、と思う可能性も無い訳ではなかったが。

 

 もはや改めて語る必要も無いが、このホウエンには至る所に異常個体が存在する。

 そもそものホウエンの地が広いため誤魔化されてる節があるが、ポケモンリーグのホームページにある異常個体まとめを見ると軽く眩暈がしてくるくらいには多い。

 

 だが、ホウエンで唯一異常個体やフィールドの主が「表面上は」存在しない地域が存在する。

 

 流星の滝を含めた秘匿された山頂である。

 

 ゲームでは実際に訪れる事は無かったが、ドラゴンタイプのポケモンが跋扈する魔境にして秘境と呼ばれている。

 であるにも関わらず異常個体どころかフィールドの主が存在しない訳が無いので十中八九誰かが情報規制しているのだろうなという結論に至った訳だが。

 

 目の前の、明らかにそこらの異常個体などよりも強いサザンドラを見てこう思う。

 

 ――こいつ流星の滝出身じゃね?

 

 話は変わるが。

 

 異常個体とは何か、という自論を語らせて欲しい。

 一年そこらで考えた自論なので穴だらけなのは自覚しているが、ともかく。

 

 異常個体とは、読んで字のごとく通常のポケモンとは生態や行動、強さが異常な程隔絶しているポケモンである。

 どこからが通常種でどこからが異常個体なのか、という分かりやすい境界線の一つが特性だ。

 通常種の特性とは異なる、言ってしまえば様々な能力をいっぺんに詰め込んだ欲張り特性を持っている奴が異常個体である。例外も無い訳では無いが。

 

 ではその特性を獲得するのは何故か、と問われれば「必要に駆られたから」に他ならないだろう。

 

 飢餓や、逃避や、闘争の果てに壁を超えるべく己の存在そのものを作り替えたポケモン。

 定められた限界を突破したポケモンこそが異常個体と呼ばれる存在になり得ると、俺はそう考えた。生まれつき異常個体である奴や戦わずして異常個体へと変貌する奴もいるだろうが、そのどれもが既存の枠組みから外れているという共通点を持っている。

 

 で、あるならば。

 

 ホウエンでも屈指の魔境、ドラゴンタイプのポケモンが蔓延る流星の滝にて、サザンドラへと進化する程に闘争を積み重ねてきたにも関わらず、まだ足りないとばかりに更なる力を身に着け異常個体へと変貌する事を余儀なくされたこいつは。

 一体どれ程の力をその身に宿しているというのだろう。

 

 

 

 

 

 通常のクチートと違い、俺は背を向けて大顎を前面に押し出すポーズを取らずに戦う。

 これは背を向けた状態で戦いにくいという人間としての感性と、出来るだけ敵を視界に収めていたいという慎重さ――ともすれば臆病と言い換えられそうな感情の発露によるものだった。

 

 そんな俺の戦闘スタイルが、この先一秒でも多く俺を生き永らえさせるのかもしれないと思うと、己の慎重さに少しばかりの称賛を送りたい気分だった。

 

「サザザザラララァァァ」

 

 金属をこすり合わせた様な金切り声を上げるサザンドラ。

 それは威嚇の様にも、歓喜の雄叫びの様にも思えた。一体何をそこまでサザンドラを駆り立てるのか、何故そうまでして、俺が持つ二つの石を求めるのだろう。

 

 サザンドラの右腕の頭が俺の背後を見据え、左腕の頭が周囲を確認する。依然として本体の頭はこちらを睨みつけるのみ。

 

(……両腕の頭と視界を共有してるのか? そういう脳機能を持ってるのは本体の頭だけだったような気がするけども……)

 

 だとしたら死角なんて無いに等しいだろうな……。まぁ、勝てる可能性が更に低くなっただけだ、今更気にはしない。

 

 そうして何かを見つけたのか、或いは何も見つからなかったのかは知らないが、周囲を見ていた両腕の頭もこちらを向き三対の視線が俺を貫く。

 

 空気が、変わる。

 

「ササザザザ」「ザザザラララ」「ララララアアア」

 

 三つの頭がそれぞれ思うがままに口を開き、不協和音を奏でながら天を仰ぐ。

 

 ……手が震える、息が浅くなる。

 サザンドラの行動に引っ張られるように上空を見上げ――後悔した。

 

 “りゅうせいぐん”

 

 “りゅうせいぐん”

 

 “りゅうせいぐん”

 

 夥しい数の流星が、周囲一帯を更地にせんと降り注ぐ。

 全身が総毛立つ様な焦燥を覚えた。

 

(――まずいまずいまずい!)

 

「チィイアァァアアアアア!!」

 

 “ふいうち”

 

 少しでもりゅうせいぐんを散らそうとサザンドラの頭部にふいうちを仕掛けようとした。

 実の所、どのようなドラゴンタイプの技であってもフェアリータイプを有する俺にダメージは与えられない。レベル差で覆せない世界のルールである事は薄羽陽炎との戦いで分かっている。

 だが、りゅうせいぐんだけは駄目だ。

 

 フェアリータイプはドラゴンタイプの技でダメージを受けないが、ドラゴンタイプの技による副次的効果は受ける。

 三回分のりゅうせいぐんが降り注ぐ余波だけでも、メガシンカして尚小さい俺の身体は遠くへ吹き飛ばされるだろう。

 

 吹き飛ばされて大きな隙を晒した直後にどうなるかなど想像に難くない。ましてや相手がサザンドラであれば尚の事。

 

 故にせめてりゅうせいぐんが降り注ぐ前にその力を弱めようと攻撃を放ち、

 

「――サァアラララ」

 

 容易く受け止められた。

 

 考えてみれば当然の事で、ふいうちとは相手の視界から外れる行動を取り認識外から攻撃を加える事で先手を取る技だ。

 逆に言えば相手の視界を振り切れなければふいうちの強みは殆ど失われてしまう。

 

 一つの頭から逃れても残る二つの頭が俺を追従する。こちらを絶対に見逃さない相手にどうやって不意を打てばいいというのだろう。

 

(……時間切れだ)

 

 斯くして、流星群が降り注ぐ。

 

 

 

 

 

「……今の音、確かに聞こえたな?」

 

「はい、近いです。すぐに向かいましょう」

 

 

 

 

 

『おーおー、派手にぶっ放しおって全く……。本当に間に合うのか?』

 

『間に合うかどうかはあの子次第では? 行きますよ』

 

 

 

 

 

 耳鳴り。

 

 ポツポツと降り始めた雨に打たれ、即座に身を起こす。

 

 辺りを見渡しても木や草は何も無く、ただ荒れ果てた大地が広がるばかり。

 その中で唯一無事だった古代塚の上に乗ったサザンドラが、己の力を赴く儘に振るえる歓喜に打ち震えていた。

 

「……チィ」

 

 最悪だ。

 

 この短時間の間ではあるが、サザンドラの異常個体としての性質、その方向性を理解した。

 

 三つの独立した頭を持つ事で視界を三倍に拡張し死角を無くす。その上で三回同時攻撃で超広範囲に及ぶ殲滅を得意とするポケモンだ。

 ふざけているのかと言いたくなる理不尽さだが、異常個体の時点で今更である。

 

 問題はそんな広域を殲滅する手段を有する相手に遮蔽物が無いフィールドを作られてしまったという事だ。

 断言しよう。今この瞬間に、俺の勝ちの目は無くなった。

 

 “ラスターカノン”

 

 “ラスターカノン”

 

 “ラスターカノン”

 

 鈍色の光がサザンドラの三つの口腔を照らし出す。

 俺は直撃を避けるべくふらつく足を抑えて荒地を駆けた。

 

 “つるぎのまい”

 

 地を割るような銀閃が迫り来るのを間一髪で避ける。

 だが、一つのラスターカノンを避けた先には残る二つのラスターカノンが避け切る事が出来ない所まで肉薄していた。

 

「――ヂィッ」

 

 二条の銀閃が我が身を穿つ。掠り傷であるにも関わらず体力がごっそりと削れた気配がした。

 このサザンドラはりゅうせいぐんを三回撃っている。つまりこの時点で特攻が六段階下降している筈なのだ。

 

 だというのにサザンドラの攻撃からは威力の減衰など微塵も感じない。いや、或いは減衰しているからこそ掠り傷で死なずに済んでいるのか。

 真偽はどうあれ、かつて無いほどに強い相手であるというのは身をもって理解した。

 

(フェアリータイプ持ちじゃなかったらとっくに死んでたな、あぁ……)

 

「クチッ」

 

 ――クソッタレが。

 

 不安、恐怖、諦念、その他諸々を吐き捨てて、静かに息を整え――

 

「ザララララァアアアアアア!!!」

 

 “バークアウト”

 

 “バークアウト”

 

 ――翔ける。

 

 バークアウトという技は自身を中心として球状の衝撃波を広範囲に広げる技だ。当然ラスターカノンの様に避けられる物ではなく、被弾しないように動くなら後ろに下がるしかない。

 だが、予感がした。

 

 後ろに下がればそれまでだと。

 

 前に進め、退路などありはしない。

 誰かにそう言われた様な気がして、俺は荒れた大地を駆け抜けた。

 

 高速で広がっていく衝撃波が目前まで迫る。

 まずはこの壁を超える。ぶっつけ本番だが、決めなければ。

 

 走り抜けながら前方に跳躍し、バークアウトに接触する直前で二つの大顎を勢い良く振りかぶる。

 

 “じゃれつく”

 

 過去最高レベルで上手く決まったじゃれつくがバークアウトと激突し、膨れ上がる衝撃波の勢いを弱め拮抗する。

 バークアウトは全方位に広がる技であり、それ故に全体的に薄くなっている。衝撃波に薄いとかあるのかという疑問はあるが、同じ技であれば干渉できる事もあるので物理的な障壁と同じ扱いで良いだろう。

 

 相性有利に加え、攻撃力が二段階上昇、更に急所に当たった時と同じ感覚がした。これだけの要素が揃えばたとえサザンドラの放つバークアウトだとしても綻びを作り打ち破る事が出来る。

 

 城門に破城槌を叩き込むが如き一点突破で迫るバークアウトの一部を打ち破り、その間を潜り抜けてほぼ無傷で突破した。

 だが無効化出来るのは一回だけだ。残りの攻撃は吹き飛ばされないように耐えるしかなかった。

 

「――ヂィッ」

 

 悪意の波動が身体を蝕む。大顎を地面に固定してどうにか耐えるが、それでもかなりの痛手になってしまった。

 これにあと一回耐えなければならない。……オボンのみを食いたい。

 

 ……。

 

 …………来ない。

 

 いや待て、本当に三回技を使用したのか?

 初回のりゅうのはどう、ダイゴに向けて撃ったかえんほうしゃ、辺り一帯を更地にしたりゅうせいぐん、俺を仕留めにかかったラスターカノン。そのどれもが三回同時攻撃だったからそういうものだと思っていたが……。

 

 サザンドラの特性は「三回同じ技で攻撃する」ではなく「三回行動できる」だとしたら。

 

 その可能性に思い至った直後に顔を上げて前方を注視するもサザンドラの姿はそこにはなく、死の気配は背後に現れた。

 

(――しくじった)

 

 背後を振り返れば、中央の頭がその口腔に紅蓮の炎を蓄えているのが見えた。

 スローに感じられる世界の中で、俺が思ったのはただ一つ。

 

(ダイゴ達、ちゃんと逃げられたかな)

 

 “かえんほうしゃ”

 

 サザンドラの口から業火が放たれる。頬に付いた水滴は、炎によって大気の一部へと溶けていった。

 

 




どうも、最近漸くスマホを手に入れ、過去にウッキウキで入れた伏線がスマホから見た場合だと即バレしてる事に気付いて呆然としてました。どうすっかな……。
まぁただの隠し要素みたいな感じだったし別にいいか。

という訳でVSサザンドラです。ターン制バトルで複数回攻撃をさせてはいけない(戒め)ハンデ兼応援の到着を早める為に初手りゅうせいぐん×3してもらいましたが結果的にシルキーの強みが殆ど潰される形になりました。こいつ本当に理性無くなってんのか?

ただどうしたってシルキーには荷が重すぎる相手である事には変わりはありませんでした。
話は変わりますが、最初のシルキーの異常個体に関する考察、あれ殆ど正解です。幾つかの例外はあれど根幹に関わってくるのは「経験」と「状況」と「意志」に他なりません。
それら全てが揃い、そのポケモンが己の「方向性」を自覚した瞬間に既存の枠組みから外れ、世界に定められた限界から逸脱する事が出来るのです。

たっぷり時間を貰いこの先の展開を吟味させて頂きました。次回をお楽しみに。

感想くれたらとても嬉しい。


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舞えや謡えや天地の神楽。

一か月すっぽかしてスマーン!
今回だけは一話に全部詰め込みたくて文字数がどんどん増えてしまった。その影響で視点変更が多いです、読み辛かったらごめんね。
それでもキリが良いとは言えないけども、細かい事は後書きにて。


 

『シルキーはさ、僕がチャンピオンになったらしたい事って何かある?』

 

『クチッ? ……クゥー、チッチ』

 

『……考えた事も無かったって、気持ちは嬉しいけどチャンピオンになる事がゴールじゃないからな? 将来の夢とは少し違うけど、やりたい事とか無いのかい?』

 

『……チィック』

 

『コンテストに出てみたい、か。ふふっ、ミクリが喜びそうだね。しかしコンテストかぁ、そのうちシンオウ地方に行ってみるのもいいかもしれないね』

 

『チッチク?』

 

『うん、シンオウ地方にはホウエンと同じくらいポケモンコンテストが盛んらしいよ、ミクリが言ってた』

 

『クチィ』

 

『そういえばイッシュ地方にはコンテストとはまた違うポケモンの舞台があるらしいよ?』

 

『チィト』

 

『うん、皆で一つの劇を作るんだってさ。ちょっと恥ずかしい気もするけれど、』

 

『あぁ、何時か世界中を旅してみたいな。……約束だ』

 

『チチチ』

 

 

 

 

 

 それは在りし日の記憶。

 

 ダイゴと共に未来を語り合った、チャンピオンのその先へ目を向け始めた最初の会話。

 

 ここからだ、シルキーの心の中に「ダイゴをチャンピオンにする」以外の目的が芽生えたのは。

 

 別の地方に足を踏み入れて、珍しいポケモンと出会ったりダイゴと共に綺麗な石を見つけたり、独自の文化に触れて皆で体験してみたり。

 トレーナーを見つけてポケモンバトルを申し込んで、勝って喜びを分かち合ったり、負けて悔しさを噛み締めたり。

 

 それでもダイゴや皆と共に笑顔を浮かべて日々を過ごして、生きていく。

 

 きっとそういう事を幸せと呼ぶのだろう。

 

 あぁ、嗚呼。その幸せも、死んでしまえば泡沫と消えてしまうだろう。

 ダイゴは悲しむだろうな。フォートやコドラ、エアームドもきっと。

 

 ……ふざけるな。

 

 かつて誓った筈だろう、ダイゴを幸せにするのだと。

 そう言った自分自身が命を投げ捨て、剰えダイゴを幸せにする事を忘れ諦めるなど。

 

 自分で自分が許せなかった。

 

 ――ならば如何する?

 

 サザンドラを倒すんだ。この手で、この身で。

 

 ――出来る訳が無い。だからお前は死を覚悟したのだろう。

 

 情けない事に特大の未練が出来てしまった。これでは死ぬに死ねないな。

 

 ――お前に何が出来るというのか。

 

 今までやってきた事と変わらないさ。私達の道を阻む壁は悉く、砕き壊して前に進む。

 

 ――まるで我儘なお姫様の様ではないか。

 

 そうだ、私は我儘だ。どれだけ辛くとも、何が必要だとしても、それが叶うなら躊躇いも無く己の願いが叶う道を進む。

 

 力が欲しい、サザンドラを退けてダイゴの元へと帰る力が。

 

 ――忘れるな、お前がその姿でいる限り、ダイゴはお前の事を信じている。それさえ覚えているのなら、力はもうお前の手の中にある。

 

 ……もう、迷わない。

 

 不退転の意志を心に宿し、死の淵へと向かう現実世界に帰還する、その間際。

 

 

 

 

 

 ――ガチリ、と。何かが外れる音がした。

 

 

 

 

 

 煌々と燃え盛る業火に飲み込まれる寸前、最早反射的に二つの大顎で防御しようとするも片方が間に合わず。

 

 走馬灯を見終えた私の、防ぎ遅れた顔の左半分に、紅蓮が触れた。

 

 ――痛みが全身を駆け巡る。

 

 フエンジムで受けた炎などぬるま湯の様な物だと錯覚してしまうほどの熱に全身が晒される。

 絶え間無く私の身体を包む炎によって碌に息も出来なくなり、鋼の身体が徐々に融けていくのを感じ取る。

 

 だが。

 

 あぁ、それでも。

 

 身体の奥から、心の底から、魂の深い所から、湧き上がるこの衝動が今受けている痛みを苦しみを押し流す。

 意識を内側へ向ければ感じ取れるのだ、ダイゴが私の事を想っている事を。

 

 ジリジリと体毛が焦げ付き、全身がやけどに包まれていく。

 

 そうだ、私はまだ一人じゃない。ダイゴの力を受けて、戦っているんだ。

 お前を、超えて。

 

 ガードの遅れた顔の左半分は特に酷く、紅い前髪部分が灼け、左目の瞼がひり付き始めた。

 

 私は帰るんだ。ダイゴの元に。その為に必要な物があるのなら幾らでも差し出そう。

 だから。

 

(――だから、全てを打ち砕く力を)

 

 パシャリ、と。

 水気を帯びた何かが潰れる音がした。

 

 そして同時に大顎の隙間から光が漏れ出し、力が大きく増幅する。

 

 “じゃくてんほけん”

 

 炎が収まった先には、嘲笑を浮かべるサザンドラの姿。

 欠けた視界に収まるその黒竜の姿を見て、私は笑った。

 

(やっとだ、やっと近づけた)

 

「ヂ、ッグ」

 

 喉が焼けたのだろう、掠れた声しか出なくなった事に、されどその事すら最早どうでもよくなった。

 

 私は否定する。道を阻む壁を。目の前に立ち塞がった理不尽を、不条理を。

 

 私は拒絶する。己自身の弱さを。ここで死に、二度とダイゴと会えなくなる未来を。

 

 示せ、その名は。

 

 

 

 

 

――はがねひめ――

 

 

 

 

 

 サザンドラは歓喜に満ち溢れていた。

 

 巫女と同質の力を持つ存在の待ち伏せに成功し、何故か二つに分かれていたその力を餌の方から一つに纏めてくれた。

 人間の方も少しくらいは腹の足しになったのかもしれないが、巫女の力を喰らい手に入れる事が最優先だったから邪魔の入らないように逃がしてやった。

 

 狭かった森を吹き飛ばして抵抗する相手を炎で焼き、やっと喰らえると息巻いた瞬間。

 

 ふと覚えた違和感がサザンドラの頭を冷やす。

 

 何かがおかしい。そう感じたサザンドラは警戒を表に出さず目の前の餌を見続けていた。

 

 ――ここでサザンドラが少しでも理性を持っていれば、この違和感の正体に気付いただろう。いや、そもそももっと早くに気付くべきだったのだ。

 

 サザンドラはかつて流星の滝にて巫女と呼ばれるポケモンに敗北を喫した。

 復讐の為に滝を抜け、数多のポケモンを喰い尽くし、それでも足りない力を補うために巫女の持つ物と同質の力を喰らう事に決めた。

 

 そして二つに分かれていた巫女の力の根源に行き付いたのだ。

 ……おかしな話ではないか。巫女を弑する為に巫女の力を手に入れるなど。サザンドラは考えが及ばなかった。

 

 二つに分かれていた巫女の力を一匹のポケモンが手に入れた時、己を退けた巫女の力をそのポケモンも手に入れると、サザンドラは微塵も考えはしなかった。

 

 サザンドラは誰にも悟られずに人間を殺し、巫女の力が二つに分かれている状態で一つずつ喰らうべきだった。

 だが理性無き今、サザンドラにそれが分かる筈も無く。

 

 前触れ無く立ち塞がった抗えない不条理という名の「経験」を、死地を彷徨い己の弱さを痛感した「状況」を、絶望や理不尽を乗り越え進み続けんとする不屈の「意志」を。

 

 全てを糧として、餌でしかなかった一匹のポケモンが紅に染まる鋼の姫へと進化を遂げる。

 

 未だ成りかけとは言え、不退転の輝きを宿す右目はかつて見たものと酷似していて。

 その力の奔流こそサザンドラの追い求めていた力だった。

 

「ザララララァアアアアアア!!!」

 

 “かえんほうしゃ”

 

 “かえんほうしゃ”

 

 “かえんほうしゃ”

 

 警戒はすれど、己を退けるに足る力はまだ備えていないと判断し、抵抗する暇を与えずに目の前の餌――クチートを喰らう事に決めた。

 両腕の頭も含めた三つの口腔から炎を吐き出して先ほどの様に焼いてしまおうと考えた。

 

「――ヂィッ」

 

 “つるぎのまい”

 

 クチートが流麗に舞い、二つの大顎を薙ぎ払うように三条の炎と激突し――

 

 ――二つのかえんほうしゃが掻き消えた。

 

 何が起きた? 何をした? サザンドラの思考に空白が生まれ、残るかえんほうしゃを間一髪で躱したクチートがすぐそこまで迫っていた。

 

 “あくのはどう”

 

 “あくのはどう”

 

 “あくのはどう”

 

 “じゃれつく”

 

 近づけてはならないと本能が叫ぶ。距離を取りたいが為にあくのはどうを同時に三つ放つ、が。

 がむしゃらに振り回した二つの大顎によって放ったあくのはどうの内二つが容易く打ち破られた。

 

 ここまで来てサザンドラは理解した。両腕の頭から放たれる二つの技を全て無効化されていると。

 

 目の前に躍り出たクチートの二つの大顎を振るわれ、サザンドラは頭部を弾き飛ばされた。

 ただの狩りでしかなかった筈の戦闘で初めて受けた手傷であった。

 

「サザザザララララ!!」

 

 距離を取る事は諦めた。認めよう、このクチートは餌では無く己の喉元に届き得る存在だ。

 故にこそ、半ば諦めていた闘争を始めよう。

 

 互いに喰らい合う闘争こそがドラゴンの本質だ。絶え間無く襲い来る渇望の、少しばかりの慰めとなってくれ。

 

 

 

 

 

 黒い嵐と見紛う程に、攻撃の苛烈さが増していくサザンドラ。

 その攻撃を紙一重で躱す度に、私の中で膨らんでいく全能感を抑えきれなくなっていく。

 

 私の意志に応じたのか、それとも最初からそのような才能があったのかは不明だが、サザンドラの最も厄介だった三回同時攻撃を封じる事が出来るようになった。

 

 左右の首からの攻撃は脅威ではなくなった。となれば注意すべきは中央の首のみで、攻撃の密度は三分の一となる訳だ。

 であれば私が避けられない道理は無い。

 

 今なら目で追えなかったサザンドラの移動も認識できる。同じスピードで移動できる訳では無いが、反応出来るようになっただけで随分とやり易くなった。

 

 “じゃれつく”

 

 距離を離そうと動き始めるサザンドラの首元に大顎を噛み付かせ、絶対に離れないようにしながらもう一つの大顎を顔面にフルスイング。

 

 “かえんほうしゃ”

 

 “かえんほうしゃ”

 

 “かえんほうしゃ”

 

 “つるぎのまい”

 

 サザンドラの首元から大顎を放し、その場で回る様に舞って左右から迫る炎を掻き消した。

 思い返されるのはかつて戦ったコジョンドの動き。あそこまで流麗に動く事は出来ないが、それでもあの経験が無ければもう少し苦戦していただろう。

 

 回る様に舞い、サザンドラの攻撃すら踊りに加えていく。

 避けては殴りを繰り返し、彼我の体力差は徐々に縮まっていく。嫌という程痛い目にあったのだ、慢心も油断も決してありはしない。

 

 サザンドラが距離を取らずに真っ向から向かってくる。

 地を這う様に滑空し、そのまま突撃してくるのを何とか視界に収め、吹き飛ばされる間際に二つの大顎を使いサザンドラの身体に張り付いた。

 

 そのままサザンドラは上空へと飛び立ち、急降下。

 

 大顎で食らい付いた私の身体を掴み、地面へと叩きつけた。

 基本的にポケモンバトルに於いては相手のわざが主なダメージ源となるが、それは相手の技以外でダメージを受けない訳じゃない。

 すなあらしやあられでもダメージを受ける様に、環境からも少量ながらダメージを受ける。高速で地面に叩きつけられれば当然怪我を負うのだ。

 

 問題は地面に叩きつけられたダメージでは無く、それをサザンドラが攻撃手段として使い始めたという事。

 

(焦ってるな? 先程まで成す術無く死にかけていた奴に攻撃され続けて。どうした、随分と形振り構わなくなったじゃないか)

 

「――ヂィッ、ククッ」

 

 地面に叩きつけられた衝撃で上手く喋れないが、それでも口角は独りでに吊り上がる。

 漸く、漸く辿り着いた。お前と同じ所まで。

 

「……ザザザラララ」

 

 サザンドラは右腕の顎で私の首を抑えつけ、中央の口腔から鈍色の光を放たんとする。

 

 “ラスターカノン”

 

 “ふいうち”

 

 鈍色の光を吐き出す間際に大顎を使ってサザンドラの口を塞ぐ。

 メガシンカにより増幅された力で強引にラスターカノンの行き場を無くし、暴発させた。

 

「ド……ラ……」

 

 “じゃれつく”

 

 口から煙を出しふらつくサザンドラの頭を大顎で殴り、拘束から逃れた。

 そのままサザンドラに追撃を仕掛け、相手の残り少ない体力を削りに掛かる。

 

 “かえんほうしゃ”

 

 “かえんほうしゃ”

 

 “かえんほうしゃ”

 

 サザンドラが距離を取るために三つの頭を振るい炎を撒き散らすが、もはやそんなもの目晦ましにすらなりはしない。

 

 “じゃれつく”

 

 三条の炎の隙間を掻い潜りサザンドラの腹部に大顎を振るう。

 

 “バークアウト”

 

 “バークアウト”

 

 “バークアウト”

 

 三つの衝撃波が私の身体を押し流さんと迫るが、氷の壁を割る様に二つのバークアウトを粉砕した。

 

 “じゃれつく”

 

 残るバークアウトにゴリ押しで突っ込み、サザンドラの頭部に追撃のアッパーを入れた。

 頭を揺らすサザンドラは三対の翼を動かそうとしても上手く行かずその場に崩れる。

 

 ――今しかない。

 

「ヂィイアアア゛ア゛ア゛!!!」

 

 灼けた喉から裂帛の雄叫びを上げ、再度サザンドラに接近する。

 下から掬い上げるように二つの大顎をかち上げ、サザンドラの身体を浮かせ、そのまま水平に吹き飛ばす。

 

 “じゃれつく”

 

 かつてない程に綺麗に決まった。会心の一撃といって差し支えないそれを受けたサザンドラは未だ傷一つ付いていない古代塚へとその巨躯を打ち付けた。

 濛々と立ち込める砂煙の先を、ふら付く身体を大顎で支えながら睨みつける。

 

 ここまで生きていられたのが奇跡だった。

 ダイゴの元へ帰るという意思がそうさせたのだろうか。意志の強さが力となったというのなら、ダイゴへの愛と生への執着がサザンドラへと食い下がる程の力となったのだろうか。少しばかり恥ずかしいが、それでも誇らしい気持ちになった。

 

 あぁ、だが。

 

(……まぁ、無理だわな)

 

 砂煙の先にはサザンドラが翼を羽ばたかせて浮遊していた。

 何故か左腕の頭だけが生気を失ったように動かなくなっていたが、そんなものは些細な物だ。

 

 力を求め、相手の強みを潰し、同じ土俵に立って、それでも尚立ち塞がったのは彼我のレベル差だった。

 純粋な戦闘経験が、体力の差や攻撃力の差となって圧し掛かる。それは、小細工や急ごしらえの力では埋める事の出来ない絶対的な物だったのだ。

 

 幸か不幸か、力を使い過ぎたせいで最早意識を保つ事すら侭ならなくなってきている。意識を残したまま喰われるという事は無いだろう。

 それでも、それでも。

 

(あぁ、死にたくないなぁ……)

 

 尋常じゃない倦怠感に襲われて、意識を手放す。

 

 その間際。

 

 

 

 

 

『間一髪、いや、ギリギリ間に合わなんだか』

 

 深紅の彗星が降りしきる雨を縫ってサザンドラへと突き刺さる。

 

『すまぬのぅ、随分と遅れてしまった。後は妾達に任せて、眠ると良い』

 

 その彗星はやや黄色がかった体毛と薄紅色の髪、そして深紅に染まる二つの大顎を携えていた。

 そう、その姿はまるで。

 

(メガ、クチート……)

 

 虹色に光り輝くその左目を見て、私の視界は真っ暗になった。

 

 

 

 

 

『……眠ったか』

 

 糸が切れた人形の様に力尽きた色違いのクチートを受け止め、そっと地面に寝かせる。

 無理矢理力を引き出したせいで体中がボロボロだ。それどころか絶え間無く湧き出る力が暴走を起こさぬようにと急激に魂の器が広がっている。

 

 己と同じ容姿だった時点で察してはいたが、この娘もあの石を持っている様だ。

 取り敢えずこのままだと暴走するだろう力の矛先を彼女の持つ虹の石へと向ける。単なる応急処置にしかならないが、それでも延命は出来るだろう。

 

 

『これでいいじゃろ。さて、と』

 

『あら、まだ死んでいなかったのですね。あなたの娘さんは中々に優秀な様で』

 

 背後から、空から降り立った友が話しかけてくる。

 

 黄金の体毛と白金の羽毛に包まれた鳥の様な姿を持ったドラゴンタイプを持つポケモン、一般にチルタリスと呼ばれる存在だ。

 色違いな上、己と同じく通常種から外れた容姿とこれまた同じく虹色の左目を持つこいつを一般と言っていいのかは謎だが。

 

『あぁ、自慢の娘じゃよ。母親らしい事は何一つしてやれなんだが……』

 

『私には巫女である貴方が何故子を為そうとしたのか分かりません。使命を成す事が私達の役目でしょうに』

 

『言うてくれるな金天の、何百年と生きていると寂しくなってくるんじゃ。お主も何れ分かるじゃろ。さて、妾の用事はこれにて終了、後はお主の用事を手伝う事になるが』

 

 そう言って友と共に辺り一帯を更地に変えた悪餓鬼の方を見る。

 向こうは何やら友を見て暫く静止していたが、徐々に負の感情を露わにし始め臨戦態勢を取り始めた。

 

 これは……、恐怖、焦燥、憤怒、それと憎悪か。どうやら友は尋常でない憎しみを抱かれている様だ。

 

『お主何したんじゃ』

 

『私は愛を持って接していたつもりなのですがね。――さぁ、帰りましょう

 

 友の声を聞いたサザンドラが一瞬自我を失ったが、即座に意識を取り戻し右腕と本体の二つの頭からかえんほうしゃを放とうとする。

 

『……あら、あらあらあらあらあら』

 

『弾かれたのぅ。妾達の様な精神力を持っているのか、そもそも聞いておらんのか』

 

『一瞬効いていたので完全に聞いていない訳では無いでしょう、恐らく自我を確立させた両腕の頭部が原因でしょうね』

 

『あぁ、耳があるのは中央だけか。良く考えるのぅ』

 

 効果があるのは間違いないが、左右の独立した意志を持つ頭が中央の頭を正気に戻す。友の声に対してここまで効果的な対策も無いだろう。

 無論それを封じられたとて友には幾らでもやりようはあるが、通常のサザンドラにとっては単なる四肢の延長線でしかない両腕の頭に自我を持たせる程の根深い執着心は称賛に値する物だ。

 

『かつて私に敗れた時必死に考えたのでしょうね、どうすればこの私の命を脅かす事が出来るのか。三つの意志を一つの身体に宿したのも、瀕死へと追い込まれる攻撃を受けても手数と引き換えに行動を続けられるようになったのも、全ては私と戦う為だけに』

 

 友が謳う。英雄を讃えるが如く。

 

『尋常から外れた攻撃回数も、同じ攻撃を続ければ続ける程力が増すそれも、ただの副産物でしかありません。貴方の力は生存力に特化している、その力を振るう前に倒れ伏してしまわないように。そこまでの力を引き出し、理性の欠如と飢餓欲求だけの反動で抑えたのは奇跡と言っていいでしょう』

 

 他のポケモンや、人間ですら知らないような情報をつらつらと並べていく。

 

『ですが、分かりませんね』

 

 ふと、友が心の底から不思議そうに問う。

 

『何故その程度の力で私を倒せると思ったのですか?』

 

 そう、足りないのだ。

 声が意味を成さない? 一瞬でも効果があるのなら万全な対策からは程遠い。

 一回では倒し切れない? 何度でも倒し切れる程の力があるというのにただ命を伸ばすだけの力に何の意味がある。

 

 このサザンドラは根本から履き違えている。巫女という存在を、それが有する力の意味を。

 

『全く以て、想像力が足りませんねぇ』

 

 かつて戦った時にその身に受けた力の、その先を考えられなかった時点でこのサザンドラは負けていた。

 そもそもからして、この友はまだ巫女と呼ばれる所以となる力の一端しか示していないのだから。

 

――金天帳に翼を広げ、空飛び立ちて燐光満ちる

 

 友が――遥か昔、金天巫女と呼ばれた彼女が謡う。

 弾かれたようにサザンドラの二つの頭から放たれたかえんほうしゃがこちらを焼き尽くさんと迫る。

 

 だが。

 

『ぬるいわ』

 

 “ふせひめのまい”

 

 紅い光を宿して舞うだけで、火の粉を散らすようにかえんほうしゃが掻き消えた。

 

『妾、これでも怒ってるんじゃよ。娘を喰い殺そうとした輩をどうして愛せようか』

 

 その身で贖え、理性無き小僧よ。

 

 “とわのうたごえ”

 

 

 

 

 

 妾達とサザンドラとの戦いは、すぐに終わった。

 

 サザンドラのりゅうせいぐんにより荒れ果てた筈の一帯が草原へと変化し、その中央でサザンドラは全身から血を垂れ流しながら地に倒れ伏していた。

 両腕の頭は動きを止め、残る中央の頭も、今すぐにでも息絶えてしまいそうなほどに体力を消耗していた。

 

『あぁ、良かった。まだ生きていてくれて』

 

 友が、サザンドラがまだ生きている事にほっとしたようにそう言った。

 

『そやつ、どうするんじゃ? いや大体予想は出来るが』

 

『流星の滝へ持ち帰ります。彼も故郷へと帰ってみたいでしょうし』

 

 その後行う悪趣味な儀式のせいでこの悪餓鬼みたいな奴が生まれるんじゃないかのー……とは言わなかった。妾が止めた所で流星の滝の平穏が崩れるだけだろうし。

 代わりに目下対処すべき問題へと話を変える。

 

『で、こっちに向かってきておるチャンピオン達はどうする?』

 

『? 貴方の夫が対処するのでは?』

 

 友が何を言っているという顔でこちらを見るが、そういう訳にもいかなくなった。

 

『いや、そのつもりじゃったがどうにもチャンピオン達は悪餓鬼の事を捕捉しておるようでな……このまま悪餓鬼の姿が見つからなければ捜索の手をホウエン全土へと広げるじゃろうな』

 

 当初の予定から外れそうな事が嫌なのか、眉を顰めやや不機嫌になる。

 

『貴方がどうにか収めて下さい、貴方の願いを聞いて娘さんが死ぬ前に此処へ来たんです。この場は貴方が収めるべきでは?』

 

『悪餓鬼の回収に手間取ってるから手を貸せって言ってきたのは何処の誰じゃったかのぅ、放牧とか言って中途半端な事するからここまで大事になったのではないか? のぅ、ルクスリアよ』

 

――その名で私を呼ぶな

 

 友が声を張り上げる。同じ仲間にその力を使うのは如何なものかと思ったが、先に逆鱗に触れたのは此方だ。その怒りもむべなるかな。

 とはいえこちらも引き下がる事は出来ない。

 

『悪かったの、じゃが良く考えろ。お前が徒らに逃したせいで此処まで荒らされたのは逃れられない事実じゃという事を。あの悪餓鬼が世に解き放たれた事でどれだけの命がその腹に収まったと思う? 人間が動くのは動かざるを得ない事態が起きたから、あの悪餓鬼はそれだけの事を仕出かしたんじゃよ』

 

 この友に己の様な探知能力でもあればもう少し状況を理解できたのだろうか、と思わなくも無いが全ては後の祭り。今は出来る事をやるのみだ。

 

『お前は妾に巫女としての使命を忘れたかと言ったが、妾からすればお前の方が使命から外れた行いをしているように思えてならんよ。……そこまで憎いか、人と、ポケモンが』

 

 友は静かに首を振る。

 

『……私は愛しています、このホウエンの地を。私の短慮がこの事態を招いた事、重く受け止めましょう。彼には最後の晴れ舞台へ赴いて貰います』

 

『うむ、それがよかろ』

 

 倒れ伏したサザンドラへと友が近づき、その耳のすぐ傍で友が深く囁いた。

 

――私の為に働いて

 

「……ザ、ァ……」

 

 サザンドラがその巨躯を起こし、緩慢な動きでチャンピオンの元へ向かった。

 

『私は彼の勇姿を見届ける事にします。それでは』

 

『おう、ありがとう。見つかるんじゃないぞ金天のー。……さて』

 

 この場を飛び去った友に手を振り、満身創痍の我が子へと向き直る。

 その姿は痛々しいの一言に尽きるが、中でも顔の左半分に走る火傷はこの先二度と光を宿す事は無いだろうと思わせる程の重症だった。

 

『奇しくも左目、か。因果なものじゃのぅ』

 

 それとも妾の様な異物が子を成そうとした事への罰なのか。

 後ろ向きな考えが心を満たしかけていた事に気付き、首を振って我が子を抱きかかえた。

 

『必要な物は揃っておる、早く処置をせねばな』

 

 まぁ、我が子のパートナーはまだ生きておるし、妾達の様な事にはなるまいて。

 己と瓜二つの姿になった娘を抱え、自分が今暮らしている拠点へと向かう事にした。

 

 帰りに旦那様を呼び戻さなければ、なんて考えながら。

 

 




ちょっと仕事が忙しくて執筆時間が取れなくてですね……、やっぱり投稿間隔はブレてくると思います。申し訳ない。

今回シルキーの一人称が私になってましたが、表層意識では俺、深層意識では私、死に瀕した時は無意識に私を使うという設定にしてました。が、正直分かりづらい気はする。

あと数話で一章は終了ですが、今一度あらすじをご覧頂きたく思います。

※下に五体分の異常個体の情報を貼り付けてるのでクソ長いです。特に重要な情報も無いので読み飛ばして頂いて構いません。



【名前】シルキー
【種族】クチート
【性格】しんちょう
【特性】はがねひめ
【レベル】65
【持ち物】クチートナイト・じゃくてんほけん・キーストーン

【技】
・つるぎのまい
・じゃれつく
・ふいうち
・かみくだく

「はがねひめ」
・自身の攻撃の実数値が二倍に上昇する。
・通常使用できないアイテムも含めて3つまで持ち物を持つ事が出来る。
・キバを使う攻撃を繰り出す際、特定の持ち物を使いタイプを変更出来る。
・被攻撃時、自身の攻撃力ランクを一つ下げる事が可能となる。
・上記の処理を行った場合、相手の「攻撃に掛かる特性」の効果を無効化する。

覚醒したシルキーの能力です。まぁ幾つか変更点はありますが、一番の変化は「特性の無効化」でしょう。自分が攻撃する際に相手の特性を無効化するのがかたやぶり、言わば「能動的な特性無効化」で、攻撃される際に相手の特性を無効化するのがはがねひめ、言わば「受動的な特性無効化」です。
この際無効化する特性の範囲はかなり広く、かたいツメやてきおうりょくなどのダメ増加系も無効化し、特性の補正無しの技を最終ダメージとして受けます。サザンドラの攻撃が打ち消されたのは二回目以降の攻撃そのものが特性によって作り出された物だからです。



【種族】サザンドラ
【性格】きまぐれ
【特性】みつくびおろち
【レベル】80
【持ち物】なし

【技】
・りゅうのはどう
・かえんほうしゃ
・バークアウト
・ラスターカノン
・りゅうせいぐん

「みつくびおろち」
・一ターンで一つの技を三回使用できる。追加効果の判定も三回連続で行う。
・攻撃技を連続して使用する度に技の威力が上昇する。(一回目1.0倍、二回目1.1倍、三回目1.2倍)
・こんらん、ひるみ、メロメロ、しはい状態になった時、100%の確率で即座に解除する。
・自身のHPが0になった時、「自身の技のPPをランダムで一つ0にする」「攻撃回数を一つ減らす」二つの処理を行いHPを半分回復して復活する。

天喰暴竜サザンドラのステータス完全版です。三回攻撃なんか目じゃないくらいのぶっ壊れ特性を持っています。精神系の状態異常を完全に解除する事が可能となり、条件付きとはいえ自力で復活が可能です。
攻撃回数を減らすというのは両腕の頭がダメージを全て肩代わりして沈黙するという意味なので両腕が落ちると復活は不可能になります。それでも二回復活出来るというのは恐ろしい力ですが。
このサザンドラは小さい頃は純朴なモノズでしたが、ある出来事を切っ掛けにドラゴンタイプに固執するようになり、流星の滝から逃亡を図りました。
例え数多の命を貪り喰らう事になっても、理性を無くし本能のまま生きる事になっても、サザンドラにとっては掛け替えのない自由だったのだ。



【種族】チルタリス(メガチルタリス)
【性格】きまぐれ
【特性】しんぴのうたひめ
【レベル】90
【持ち物】チルタリスナイト・キーストーン

【技】
・ハイパーボイス
・はねやすめ
・りゅうせいぐん
・めざめるパワー
・とわのうたごえ

「しんぴのうたひめ」
・自身のノーマルタイプの技をフェアリータイプに変更し、更に威力が1.5倍に上昇する。
・自身の特攻の実数値が二倍に上昇し、特攻の能力値ランクの低下を受け付けない。
・音系の技を受けた相手は100%の確率でしはいの状態異常を受け、更にターン終了時に10%の確率でしはいの状態異常を付与する。
・自身が技を受けた時、タイプを問わず全ての接触技のダメージを半減し、ドラゴンタイプの技であれば与える筈だったダメージの半分を反射する。
・戦闘時、非戦闘時問わず常時メガシンカ状態となり、■■■■■から受けるダメージを常時半減する。

全ての元凶。超広域デバッファー兼広域殲滅特化型。
遠い昔流星の滝を支配し、流星の民とドラゴンポケモンを縛る監獄へと作り替える。数多のドラゴンタイプのポケモンを「飼育」し、来る使命の日に向けてより優秀かつ強力な個体を育成している。
育成の一環で「共食い」を強要させ、多くのドラゴンポケモンはそれを何の抵抗も無く受け入れている。「放牧」もこの一環であり、外の世界で異常個体を相手取り力を付けたポケモンを「収穫」し流星の滝に持ち帰る。その後「放牧」された個体がどうなるかは語るまでもない。全て彼女の想定通りである。
彼女だけが使える状態異常、しはいを使って己にとって有利な環境を作り上げている。実質マキマ。
永い間メガシンカのエネルギーが体内に留まり、淀みとなって彼女の精神を変質させている。彼女の使命の一つは「ホウエンの地を愛する」事。ホウエンに住まう人間やポケモンなどは何一つ勘定に入っていない。そういうとこやぞ。



【種族】クチート(メガクチート)
【性格】ゆうかん
【特性】しずめのおどりこ
【レベル】90
【持ち物】クチートナイト・キーストーン

【技】
・ふいうち
・じゃれつく
・つるぎのまい
・かみくだく
・ふせひめのまい

「しずめのおどりこ」
・自身が変化技を使用したターン、自身の回避率が三段階上昇しターン終了時に回避率が元に戻る。
・自身の攻撃の実数値が二倍に上昇し、攻撃の能力値ランクの低下を受け付けない。
・自身のキバを使う技のタイプを任意で変更可能。この技のタイプ変更はターンを消費しない。
・自身が技を受けた時、こうかがいまひとつであればそのタイプの技のダメージを完全に無効化する。
・戦闘時、非戦闘時問わず常時メガシンカ状態となり、■■■■■から受けるダメージを常時半減する。

シルキーの実の親。戦線維持、継戦能力、個人戦闘完全特化型。
遠い昔、金天巫女、蒼海巫女と並び紅地巫女と呼ばれていた彼女だが、他の二匹と比べそこまで精神がぶっ壊れてないので長すぎる寿命に一抹の寂しさを覚える。ある時剣の様な何かを持ったルカリオと出会い双方一目惚れした。
色々あってハッスルしまくった結果子供が出来たが冷静に考えてこのまま子供を巫女としての仕事に関わらせるのは危険すぎると判断し知り合いのダーテング夫妻にタマゴを預ける。本人は何だかんだ言いつつネグレグトになってしまった事を気に病んでいる。
色違いメガクチート、ちんまいのにクソ強、のじゃロリチックな口調、オッドアイ、全て作者の性癖である。



【種族】サーナイト(メガサーナイト)
【性格】おっとり
【特性】みなものそうしゃ
【レベル】90
【持ち物】サーナイトナイト・キーストーン

【技】
・ムーンフォース
・めいそう
・てだすけ
・いやしのはどう
・しんかいのしらべ

「みなものそうしゃ」
・自身の攻撃技にみずタイプを付与し、威力が1.5倍に上昇する。
・自身の防御、特防の実数値が1.5倍に上昇し、防御、特防の能力値ランクの低下を受け付けない。
・自身の変化技の効果が二倍に上昇し、全ての味方の能力値ランクの上限を解放する。
・自身が技を受けた時、タイプを問わず全ての非接触技のダメージを半減し、みず、こおりタイプの非接触技であれば完全に無効化する。
・戦闘時、非戦闘時問わず常時メガシンカ状態となり、■■■■■から受けるダメージを常時半減する。

精神崩壊秒読み。超広域バッファー兼広域制圧特化型。
こいつに関しては特に言う事は無いというか一章であんま掘り下げてないので開示できる設定があまりない。メガシンカエネルギーの停滞でこいつも精神が壊れ掛かっている。多分旦那さん捕まえたら多少楽になると思う。
金天巫女、蒼海巫女、紅地巫女、三匹合わせて三界巫女と呼ばれているのだが、彼女らの共通点として「全員メガシンカ可能個体」、「全員左目にキーストーンを埋め込んでいる」、「全員フェアリータイプを有している」「全員トレーナーを亡くしている」というものがある。
やけに限定的な共通点だが、裏を返せば全て当てはまれば巫女へと至れる可能性が高いという事でもある。出自が出自だけに蒼海巫女は「巫女」を手放そうとはしない。この左目は己に残されたトレーナーとの最後の繋がりであるが故に。



……設定を吐き出せてわしゃ満足じゃ。まぁ次回更なる解説があるんですけどね。
とは言えいつぞやエンジンを掛けていくとか言っておきながらがっつりエンスト起こしてしまった事は申し訳なく思っています。有限無実行が怖いのでもう何も言わず黙々と書いていきます。それでは次回をのんびりお待ちください。

感想くれたらとても嬉しい。


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再起と予感と種明かし。

残業辛すぎンゴ(魂の叫び)

謎にデータが爆散したので残っていた設定と整合性を取りながらデータの修復に勤しんでおりました。
再発防止の為にUSBメモリ買いに行ったんですけど最近のUSBって裏表どちらからも差せる奴とかあるんですね。


 

 

 ――雨が降っている。

 

 ミナモシティのポケモンセンターの中で、ダイゴは一人で外を見ていた。

 手持ちのポケモンはジョーイさんへと預けてあり、特に重篤なフォートの治療に専念すべくラッキーと共に治療室へと向かった。

 

 それから三十分の間ずっと、ダイゴは何も言わずに雨降り止まぬ外を窓越しに眺めていたのだった。

 

 雨の音が強くなる。

 ダイゴが振り返ると、少し前に邂逅したチャンピオン達がポケモンセンターへと訪れている所が見えた。

 

(――あぁ)

 

 いや、まだだ。きっと、大丈夫。

 

 受付で傷ついたポケモンを預けたチャンピオン――ゲンジは、苦い顔をしながらダイゴの元へと歩み寄る。

 長椅子から立ち上がろうとしたダイゴを止め、ゲンジは片膝をついて口を開いた。

 

「……ダイゴ君、だったね。まずは私の言いつけ通りミナモシティで留まってくれていた事に感謝を」

 

(やめて)

 

 聞かなければならない。

 

「そして、謝罪を。ダイゴ君の相棒だが……見つける事は出来なかった」

 

(やめてくれ)

 

 耳を塞いではならない。

 

「“天喰暴竜”の討伐後周辺を捜索したがポケモンの姿は何処にも無かった」

 

(これ以上は知りたくない)

 

 たとえ誰を置いたとしてもダイゴだけは知らなければならない。

 

「プリムが言うにはある地点でダイゴ君とその相棒を繋ぐ絆が見えなくなったらしい。……恐らくは、既に」

 

「……そんな、それはッ……!」

 

 信じられない、そんな筈は無い、嘘を吐くな、シルキーは生きている。

 

 そう感情のままに叫びかけ、思い留まる。

 元よりこれはダイゴが解決すべき問題だった。それが選択を間違え続けた結果通りすがりのチャンピオンに余計な重荷を背負わせる事になった。

 

(恥を知れよダイゴ、これ以上間違えるな。これは、僕が受け止めるべき事だろう)

 

 目端から溢れそうになる涙を堪え、シルキーの捜索に時間を割いてくれたチャンピオンに礼を言おうと口を開き、沈痛な面持ちのままゲンジがダイゴの頭を撫でた。

 

「――え」

 

「子供がそんな顔をするもんじゃない、悲しい時には思い切り泣くべきだ。涙を堪え、悲しみを堪え、たった一人で抱え込んではとても生きていけないぞ。間に合わなかった私に言われるのは、……癪かもしれないがね」

 

 そう言ってゲンジは、懐から壊れた首飾りの様な物を取り出した。

 

「あの場に、これだけが残っていた。この紅い宝石はルビーだろうか、その周りを覆う様に溶けた鉄が付いている」

 

 見覚えはあるか? そう問われ、手に取ったその宝石は。

 

「あの、時の」

 

 かつてシルキーのメガストーンと共に首飾りの装飾へと付け加えたルビーだった。周りの鉄は、シルキーの歯が融けた物だろう。厳密には鋼鉄とは異なる質感のそれを、ダイゴはいつも触れていた。

 

 それを手に取って、ダイゴの目からほろりと涙が零れ落ちた。

 一度抑えていた物が溢れた時、もう一度押し留めるのは容易ではない。次から次へと溢れる涙に、ゲンジはそっとハンカチを差し出してくれた。

 

「――てる」

 

「……何?」

 

 嗚咽と共に、ダイゴは口を開く。

 

「生きてるッ!」

 

 溶けたルビーを通して、シルキーの命脈を感じ取った。今にも掻き消えそうな微かな温もりだが、それでも確かに生を感じる程の熱。

 ダイゴとシルキーの絆は決して途絶えてはいなかった。

 

「なんと……」

 

 ただの妄想と切って捨てる事は出来るが、ダイゴの言い放った言葉には猜疑心を打ち払うだけの熱量があった。

 故にゲンジはそれを真実とした。

 

「あのサザンドラから逃げおおせる程の力があるのなら、きっと大丈夫だろう。早めに見つかるに越した事は無いだろうがね」

 

「早く、助けなきゃ……一人ででも」

 

「それは無謀というものだ、取るべき手は人海戦術を置いて他に無い。……だが申し訳ないがポケモンリーグの力を貸す事は出来ないだろう。彼らの問題は“天喰暴竜”のみであり、私がそれを解決した時点でポケモンリーグは手を引くだろう」

 

 無論、事後処理などは残っているのだが。と続けたゲンジは少し考え、独り言でも言う様に口を開いた。

 

「……世間が考えているよりもポケモンリーグの手はずっと短い、チャンピオンと言えどもポケモンリーグを動かせる事例はそう多くないのだよ。……それこそチャンピオンの持つポケモンに危機が迫っている様な状況でもない限り、ね」

 

 そう言ってゲンジは懐から取り出した一つの飴をダイゴに手渡し、立ち上がってポケモンセンターの玄関口へと向かった。

 

 最後に振り返り、

 

「人が再び立ち上がる為には支える物が必要だ。自信、強さ、戦友、どんなものだって良い。支えも無く立ち上がれば恐怖に足を掬われ、より深い穴に落ちてしまう。己を大切に思ってくれる者の存在を忘れてはいけないぞ」

 

 君が立ち上がり、私の前に立ち塞がる時を楽しみにしている。そう言い残してゲンジはポケモンセンターを去っていった。

 

 チャンピオンが去り、俄かに騒がしくなるポケモンセンターの中で、ダイゴは先程のゲンジの発言を思い返していた。

 

(チャンピオンがポケモンリーグを動かせる事例は限られている、例えばチャンピオンの手持ちが危機に陥っている時とか。……それって、そういう事だよな?)

 

 ゲンジは一つの可能性を提示した。ダイゴがチャンピオンとなりポケモンリーグを動かすという選択肢を。

 

 ダイゴはデボンコーポレーションの御曹司ではあるが、当然ながらデボンコーポレーション内部での決定権などは存在しない。全て父であるツワブキ・ムクゲの物だ。将来的に変わってくるかもしれないが現状はダイゴは実権を持たないのだ。

 父に事情を説明し、社員の動員を願ったとしても首を縦には振らないだろう。今抱えている仕事を投げ出すのは会社としての信頼を投げ捨てるに等しい。奇跡的に人員の動員を約束されたとしても10人貰えれば御の字といった所か。

 化石研究所の面々には化石の贈与で恩を売っているのでもしかしたら動かせるかもしれないが、それでも前述の社員と合わせて20人位が限界になってくるだろう。一人で探すよりかは遥かにマシだが、それでも非効率極まりない。

 

 ゲンジが示した可能性は果てしなく遠く、限りなく近い道だったという訳だ。

 

 己が進むべき道は未だ変わらず、ただそれが茨の道を進む物となったというだけだ。

 

「……分かったよ、僕がやるべき事は変わらない」

 

 融けたルビーの首飾りを握りしめ、ダイゴは決意を新たにする。

 

「君が生きているというのなら、僕も道を逸れずに前に進む」

 

 折れた心は再び火を灯し、静かに、されどかつてない程の熱意でもって宣言する。

 

「――一ヶ月だ。一ヶ月でホウエンのどのトレーナーよりも強くなってチャンピオンを獲りに行く」

 

 そして、絶対にシルキーを迎えに行くよ。

 待っていてくれ。君に会って、話がしたいから。

 

 

 

 

 

「ふふっ」

 

「……どうしました? そんな急に笑って」

 

 ホウエン東部上空を一匹のボーマンダが翔ける。

 その背にはボーマンダの主であるゲンジと、途中で拾ったプリムが乗っている。

 

 空気抵抗はプリムが防いでいる為会話をするのに問題は無いが、空を飛んでいるポケモンの背に乗りながら喋るのは本来褒められた行為ではない。

 まぁ他に止める者もいない為二人揃って気が緩んでいるのだが。

 

 そんな中でゲンジは先程話をした少年の目を思い出して笑っていた。

 

「いやなに、次の世代が私を追い越す時が直ぐにでも来るかもしれないと思うと、な」

 

「……ダイゴ君の事ですか? 申し訳ありませんがあの年で相棒を失った彼が再起を果たすとは……」

 

「彼の相棒は生きている。ダイゴ君は確信を持って言っていたよ」

 

「それは、いえ、私の力で辿れない物を辿れるというのであればそれ程強固な絆があるという事なのでしょう。あの惨状を作り出したサザンドラ相手に生き残るのであれば余程の事では死なないでしょうし」

 

「……うむ、そうだな」

 

 常日頃から真っすぐ言い切るゲンジにしては珍しく言い淀む様子に首を傾げる。

 

「何か引っかかる事でも?」

 

「根拠は無いのだが、私は何者かにあのサザンドラを討伐するように誘導された気がしてならんのだ」

 

 そうゲンジに言われ、プリムはあの時の情景を思い返す。ボロボロで瀕死一歩手前、あと少しで命の灯が消えそうになっていたにも関わらずゲンジのボーマンダ相手に互角以上の戦いを演じていた。

 これが万全な状態であればゲンジといえども死力を尽くして戦わねばならなかっただろう、異常個体の王と呼ばれるにふさわしいサザンドラ。

 

 もしもあの傷が死に物狂いでダイゴの相棒が付けた物ではなく、あのサザンドラよりも強い者が付けたのだとすれば?

 

「ありえない、と言うよりは考えたくない事ですね」

 

「うむ、いずれにせよポケモンリーグはこの件から手を引くだろうし、警戒だけで終わるだろうな」

 

 そう言ってゲンジは空を飛ぶボーマンダの背を撫でる。

 サザンドラと戦っていた時、ゲンジのボーマンダは尋常でない怒りを抱えていた。

 

 最初は数多の命を奪ったサザンドラに怒っていたのかと思っていたが、戦闘を通してサザンドラ以外の何かに怒りを向けている事が分かった。

 プリムの索敵に引っかからない相手がいるのかと疑ったが、本人も明言している通り超能力者にも出来ない事はある。

 

 何者かがいる想定で動いていくべきだ。ボーマンダも何に怒っていたのか全く教えてくれないし。

 

「……これから忙しくなるぞ」

 

「まぁ今回の件での事後処理が残ってますから、忙しくもなるでしょうね」

 

 そういえばそうだった……。

 

 ボーマンダの背中に乗りながら、ゲンジは慣れない仕事をこなさねばならない未来を少し憂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深い眠りから目を覚ます。

 

 暗い海の底から浮き上がるようなこの感覚は、以前にも味わった事がある。

 あれは、そう。この世界にクチートとして生を受けた時と同じ……。

 

『全く、次は正しい玄関から来いと言っただろうに。しかしまぁ、新たなる逸脱者の誕生だ。歓迎しようか』

 

 頭に響くその声に導かれるがまま目を開け、顔を上げた。

 

 白磁の陶器を思わせる無機質な肌を持つ、巨大な鹿を思わせる神々しいポケモン。

 

 ある者が見れば、全世界の芸術の粋を束ねても尚届かない美の一つの終着点と称えるだろう。

 

 ある者が見れば、牙や爪を持たず、即ち武器を必要としないその姿から始まりの一を連想するだろう。

 

 ある者が見れば、自身が知るポケモンから逸脱したその気配に畏れを抱き、超越者として扱い傅くだろう。

 

 世界の理に縛られた者が幾ら手を伸ばそうと影すら触れられぬ高み。

 

 人やポケモンは、それをこそ神と定義した。

 

『久しぶりだね、シルキー君。目覚めの気分は如何かな?』

 

 この世界を創ったと言われる神、アルセウスがこちらを見下ろしていた。

 

 

 

 

 

 いや何でいるの? シンオウの伝説でしょ君。

 

 アルセウスが気を使ってくれたのか、威圧感の様な物は感じられなかったが、代わりに脳裏を過ったのは恐怖や畏怖などでは無く困惑や混乱。

 現状が何一つ把握出来ていなかった。

 

『テンガン山が入り口に一番近いというだけでシンオウに住んでいるつもりは無いのだがね。前回と違って会話は出来るようだし、聞きたい事があるなら答えよう』

 

 えぇっと、まず現状の整理から行おう。

 

 直近の記憶は古代塚近辺で異常個体のサザンドラと戦闘を行った辺り。決死の思いでサザンドラに一矢報いんと頑張ったが、結局勝てずに力尽きた、と思われる。

 ……そういえば力尽きる前に何かを見た様な……。あれは何だったのだろう。

 

 さて、記憶は自覚できる範囲では問題は無い。問題はこの空間との関連性だ。どう好意的に捉えてもポケモンセンターには見えない。

 まさかとは思うが、死後の世界なのか?

 

『いや、現実の君はちゃんと生きている。今はまだ眠っているが。ここにいる君は剥離した魂がこの世界で具象化した物……まぁ夢の様な物とでも思っていればいい、現実の君が目覚めればここの君も現実へと帰還する』

 

 取り敢えず死んだ訳では無いと分かって一安心である。

 しかし、話している途中で疑問に思ったのだが俺はアルセウスと何処かで会った事があるのか? どうにも思い出せない、というか記憶に残っていないのだが。

 

『以前、つるぎのまいの技マシンを使った事があっただろう? その時に君はここに来た事があったんだよ。まぁ私の姿どころかこの空間を認識出来ていなかったらしいが』

 

 だからまぁ、私が一方的に知っているだけだよ。と続けたアルセウスだが、待って欲しい。

 何故技マシンを使うとアルセウスのいる空間に飛ばされるのか。あれはシルフカンパニーの技術であり、アルセウスの介在する余地は無いと思うのだが。

 

『あぁ、それは私の持つ原典の劣化品の劣化品を組み込んでいるからだな。微弱なれど使用を探知する事は出来る』

 

 えぇ……。

 

 詳しく聞くと、ゲームにおけるアルセウスのタイプを変える事が可能となる各種プレート、あれはアルセウスの持つ一点物の“原典”と呼ばれる石板から派生した模造品であるらしい。

 原典にはそれぞれに対応するタイプの全ての技の情報が書き記されており、劣化品のプレートにも同じ物が書かれている。原典のコピーと言えるプレートが砕けた物が赤いかけらであったり青いかけらと呼ばれる物の正体だ。

 

 シルフカンパニーはそのかけらから特定の技の情報を引き出し、わざマシンとして売り出しているのだった。

 

 知らなかった……。

 

『ここに来た者には特別に私の持つ原典に技の名を刻む事を許している。プレートの方に情報が反映される訳では無いから自分だけのオリジナル技を創れるぞ』

 

 試してみるかね? そう問うたアルセウスに、俺は即答できなかった。

 この場所に来てから怒涛の情報量で頭がパンクし掛けていたというのもあるが、それよりもずっと気になる事があった。

 

 ――俺を転生させたのって、アルセウスなんじゃないか?

 

 疑念が形になったのは、この良く分からない空間で目覚めた時に覚えた感覚だ。それでも最近まで自分が転生した要因を考える事を忘れていたが。

 

 伝説のポケモンというのはどいつもこいつも理不尽極まりない理外の怪物だらけだが、それでも「常識から外れた」程度で済んでいる。

 だが、シンオウの伝説であるディアルガ、パルキア、ギラティナ、それらを生み出したアルセウスは、文字通り生きている次元が違う。

 

 死者の魂をどうこう出来るのはシンオウ三神、そしてアルセウスだけなのではないか、そう考えたのだ。

 

『……うん、別世界から渡航した魂をこの世界に順応するように作り替えるのは君達が伝説と呼ぶ存在の、更に一握りの者達だけが行える。その上で言おう、君を転生させたのは私ではないよ』

 

 ……なんと。

 いや、だが考え方自体は間違ってはいないらしい。しかし、そうなるとアルセウスと同格クラスの奴がいる事になるが……そんな奴いただろうか?

 

 ディアルガ? パルキア? それともギラティナ? いいや、彼らもまた埒外の力を持っているがアルセウスと比べると一歩劣る。

 

 そんなこんなで考えに耽る俺の意識を掬い上げる様に、アルセウスがコツリ、と前脚で床を叩く。

 

『君がどこまでこの世界の知識を有しているかを私は知らない。故にこそ、君に一つの問いかけを投げ掛けよう』

 

 コツリ、コツリ、コツリ。

 三度前脚で床を叩けば、そこを起点に暗闇しかなかった謎の場所が何処か別の光景へと書き換えられていく。

 

 それを眺めながら、俺はアルセウスの問いを待っていた。

 

『――ウルトラホールと呼ばれる物を知っているか?』

 

 その問いは、俺の想定を軽く超えていた。

 

 

 

 

 

 ――ウルトラホール。

 

 そう呼称される物を、俺は知らない。

 

 運良く手に入れた初代、赤・緑を始め、第二世代の金・銀、第三世代のルビー・サファイア・エメラルド、第四世代のダイヤモンド・パール・プラチナ、第五世代のブラック・ホワイト・ブラック2・ホワイト2、第六世代のX・Yまで。

 リメイク作品であるファイアレッド・リーフグリーン、ハートゴールド・ソウルシルバー、そしてオメガルビー・アルファサファイア。

 

 今まで触れた事のある作品の――世界の知識を引っ張り出し、隅々まで引っ繰り返して尚、ウルトラホールという言葉は出なかった。

 困惑を浮かべる俺を見て、アルセウスは納得がいったかのように首を縦に振った。

 

『ウルトラホールとは、アローラ地方にて稀に出現する別世界への入り口だ。アローラ地方を知らない君に分かりやすく言うなら、そうだね。……ギラティナの管理する破れた世界へと繋がる影を思い浮かべてくれれば、そう相違は無い』

 

 コツリ。

 

『このウルトラホール、自然現象である事にはあるのだが、大本を辿れば一匹のポケモンが引き起こした災害だ。矢鱈と世界を繋いで別次元のポケモンを引っ張り出してくる迷惑極まりない奴だ』

 

 コツリ。

 

『そのポケモンは日に日に力を付け、遂にこの世界の外へとウルトラホールを繋げるまでに至った。まぁ、とてもか細い物だったが』

 

 コツリ。

 

『あぁ、本当に細い物だ。肉体を持ったまま通り抜ける事は叶わず、死して魂だけとなって尚狭く、魂を構築する情報――記憶を限界まで削ぎ落としてやっと通れる程にね』

 

 コツリ。

 

『君には記憶が無い筈だ。君がかつて人間だった時、好きだったお菓子は? 何処で生まれ、如何にして育った? 好きな遊びは何だった? 子供の頃の夢は? 生前の性別は? かつて持っていた名前は? ……何も覚えていないだろう、ウルトラホールを通る時に、楔となるこの世界の知識以外の殆どの記憶を置いてきたのだから』

 

 そ、れは……。

 何回か、覚えがあった。前世の記憶がある事を自覚していたのに、記憶に妙な虫食いがある事に違和感を覚え、それでも不思議に思う事は無かった。

 “そういうもの”として、思考を放棄していた。

 

 それが、ウルトラホールとやらを通った事による弊害なのか。

 

 しかし、そうだとすると、俺が転生したのはアルセウスやそれに連なる者の手によるものではなく、ただの事故だったと言う事か。

 

 足元がガラガラと崩れていくような恐怖を覚え、それでも安堵した。

 何者も介入する事無く、この命が、この魂が再び生を得たという事。誰かの期待に沿う事は無く、誰かの命令に従う事も無く。あるがまま、自分の意志で新たな生を享受出来るのだ。

 

 いきなり何を言い出すのかと思っていたが、訂正する。教えてくれてありがとう、俺は俺の思うがままに生きる事にする。

 

『君の道を照らす光となれたのなら話して良かったよ。……さて』

 

 こちらを見下ろしていたアルセウスが、スッと俺の背後へと目を向ける。

 

 パキリ。

 

『せっかく説明している最中なのにちょっかいを掛けてくるのは止めてくれないか?』

 

『コツコツコツコツうるせェな、邪魔すんなよ』

 

 バキリ。

 

 アルセウスが書き換えた空間に罅が入る。

 慌てて振り返った先には、罅割れた世界から溢れ出す極光。目を焼くのではと思う程のそれに、しかし俺は目を逸らせない。

 

『そいつが俺の孔を新たに通ってきた奴だろう? なら俺も顔合わせくらいしとかねェとな』

 

 罅が広がり、――世界の一部が砕け散る。

 眩い光を背に現れたのは、こちらも光に溢れた存在だった。

 

 虹の眼と四枚の翼を持つ竜、というのが一番近いだろうか。

 陽光や月光に似通った、それでいて両方を内包するかのような神々しい光を見て、理解した。

 

 こいつは、アルセウスと同じ場所にいる存在だ。

 

 あらゆる命から、神と呼ばれるポケモンだ。

 

『自己紹介と行こうか、俺の名はネクロズマ。言い辛ければまァ、かがやき様とでも呼べばいい』

 

 お前は知らねェだろうがな、と笑ったその竜に、今度こそ頭がオーバーフローした。

 

『いきなり来る事は無いだろう、いつもは興味すら持たぬ癖に』

 

『いやァ、人間の姿を選ばずにポケモンの姿を選んだ物好きに稽古でも付けてやろうかと思ってなァ』

 

『……どうせお前が戦いたいだけだろう』

 

 アルセウスと、……ネクロズマ? が急に言い争いを始める。

 混乱する頭を何とか落ち着かせて二匹の会話に耳を傾けていると、アルセウスが呆れを滲ませた声音で投げやりにそう言った。

 

 しかし、この流れはあれか? 特訓か?

 いやまぁ自発的に起きれないなら起きるまで暇だし良いんですけども。なんて事を考えているとネクロズマがこちらを向いて口を開いた。

 

『決まりだな、お前に格上と戦う術を教えてやろう。それ以外の時はそこの白い奴から聞きたい事を聞けばいい』

 

『そこの眩しい奴は手加減下手糞だから苦しくなったら私に言うと良い。体調を万全にする位はしてあげよう』

 

 とまぁ、ネクロズマと特訓をする方向に流れていった。

 

『おいアルセウス、早速やらせろ』

 

『言うまでも無いと思うが、世界に影響を及ぼす様な真似はするなよ』

 

 分かってる分かってると流すネクロズマから、闘志が漏れ出す。

 

 それに呼応して、何処か夢心地だった己の視界が鮮明になり、身体の輪郭が定まる。

 

(……あれ、メガシンカ状態のままなのか)

 

 自分の身体を見回すと、大顎が二つに分かれたままだった。

 まぁ好都合だ。本当はアルセウスにもう少し聞きたい事があったのだが、後でにしよう。今更「やっぱ無しで」と言っても聞き入れて貰えなさそうだし。

 

 目を閉じ、心を落ち着ける。

 

 実の所、伝説と戦えるというシチュエーションに興奮している自分がいる。それが己の知らぬ伝説だとしても。

 

 静かに目を開け、前傾姿勢を取りネクロズマを視界の中心に添える。

 

『あァ、良い目だな。見覚えがある眼だ』

 

 ネクロズマは笑う。

 

『ただ目的も無く戦うってのも気が乗らねェだろ、課題をくれてやる。――目覚めるまでに10秒生き残って見せろ』

 

 出来やしねェだろうが。

 そう嗤うネクロズマに、僅かながら反骨心が湧いた。

 

 幾ら伝説とはいえ、10秒も生き残れないと思われているのか。

 これでも生存力には自信がある方だが。いやまぁ少し前にサザンドラに殺されかけたけども。

 

 俺の実力が「10秒も生き残れない」ものだと言うのなら、全霊でもってそれを超えて見せようか。

 

 そんな俺の油断と慢心を。

 

 “じゃれつく”

 

 

 

 “あけのみょうじょう”

 

 

 

 現状最大火力の技を放つ自分の身体ごとネクロズマは蒸発させた。

 うん、無理。

 

 




異常個体は大まかに分けて三種類存在し、

異常種(普通の異常個体、天喰暴竜もこの域を出なかった)

超常種(常軌を逸する何かを捧げ力を手にした異常個体、三巫女がこれに該当する)

創世種(世界の在り方に手を加えられるイカれた奴ら、もう異常個体とかそういう次元じゃない。シンオウ三柱、アルセウス、Uネクロズマがこれに該当する)

という序列になっております。まぁ世間は超常種も創世種も認識出来てないんでこの単語はマジで覚えなくて大丈夫です。
というかシンオウの伝説と同じ舞台に立てそうな奴がかがやき様位しかいねぇんだけど。

以下本編の内容ダイジェストクソ長質疑応答。

Q.結局主人公の転生の原因は?

A.Uネクロズマがやたらめったらに開けたウルトラホールに死後迷い込んだ。渡航中に自分と目的地を繋ぐ知識以外の記憶を殆ど無くしている為、要所要所で主人公の過去が出そうになる度に思い出せなくなっていた。結論としてはただの偶然。(ウルトラホールが転生の原因であると最初期に疑った人がいてビビった。あの時の方、正解ですよ)

Q.シルキーってアルセウスと面識あったの?

A.シルキーは覚えてないけど一度会ってる。10話の「誰でも楽に強くなりたいという願望はある。」の回で技マシンを使った時アルセウスのいる謎の場所に裏口から入った。使用直後のクソ長空白でアルセウスが初めてシルキーに話しかけている。(……実はこのアルセウスのセリフ、本来は反転文字にする予定だったのだが横着して文字色を白くするだけに留めた。背景設定を変えて呼んでる人にとってはこのアルセウスのセリフは隠れてすらいなかった)

Q.なんで技マシン使うとアルセウスと出会えるの?

A.技マシンが各プレートから剥がれ落ちた各色の欠片を原材料に用いているから。(独自要素)

Q.かけらとプレートとアルセウスの関連性は?

A.アルセウスが己の力を増幅させるために作り出した全ての技が記載された18枚の「原典」、その原典のコピー或いは型落ちとして世界中にばら撒かれたのが各タイプの「プレート」、そのプレートが砕け、プレートの中の一つの技の情報を持つあかいかけらやあおいかけらと言った「欠片」が出来た。それが持つ力の強弱はあれどその全てが例外無くアルセウスの管理下であり、シルフカンパニーが技マシンとして加工した後もその性質は引き継がれている。

Q.つまり?

A.技マシンは全てアルセウスの持つ眼である。(言うまでも無く独自要素、かけら自体謎の代物なので好き勝手設定付け足した)

Q.アルセウスがいる謎の場所って他に誰か来た事ある?

A.創世種を除いても結構な数の異常個体が来た事がある。誰一人ここでの記憶を覚えていないが。因みに三巫女はアルセウスの持つ原典に新しい技を刻んだ事がある。

Q.シルキーってUネクロズマ知らないの?

A.知らない。シルキーの持つ知識はORASで止まっている為、Uネクロズマがどういう存在かまるで知らない。因みに不落要塞イワパレスの元マスターは第八世代の知識まで知っている。

Q.何でUネクロズマはシルキーと戦ったの?

A.何となく。あいつの言ってた「格上との戦い方を教える」というのはただの方便で実際は自分が戦いたかっただけ。シルキーもシルキーで特に何も考えず頷いたせいで酷い目にあった。

Q.Uネクロズマってどのくらい強い?

A.アルセウスを除けば勝てる奴がギラティナしかいない程度には強い。アルセウスは戦い自体無かった事に出来るし、ギラティナはUネクロズマが光を使う度に強くなるのでこの二体には相性が悪いとも言う。

Q.アルセウスとUネクロズマのステータスは?

A.言えぬ……。(その内出すんじゃないかな。因みに“あけのみょうじょう”は本来1ターン貯める技)

Q.何で一話にこんな詰め込んだの?

A.読みやすさを重視するなら確かに詰め込まず複数話に分けた方が良いかもしれない。が、ダメ……! ただでさえクソみてぇな投稿速度なのに説明会が連続するのは確実に悪手……! 読みにくくても一話に詰め込み、さっさと本筋に戻す事を優先すべき……!

Q.執筆速度上げれば解決する問題では?

A.それを言われると何も言えなくなる。すまない……本当にすまない……。

あ、何かこの作品投稿し始めてから一年経過してました。何かもう待たせまくって申し訳ないですが今後ともよろしくお願いします。


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巫女姫は目を覚ます。

前回までのあらすじ。
色々あって謎の場所に飛ばされたシルキーはそこで出会ったウルトラネクロズマによって蒸発させられた。


 

『当然だが、何も最初から異常個体と呼ばれる存在がいた訳ではないのだよ』

 

 そう言ってアルセウスは襤褸雑巾の様に転がる俺の身体を修復した。

 これで大体四百回位だろうか。何れも瞬殺なので然程時間は経っていないように思える。

 

『というかそもそも異常個体が現れる様にこの世界を創った覚えは無い。今は私の手を離れている時間と空間の管理者もそれは同じだ』

 

 反転世界の管理者はそもそもそんな法則を創る意味も無いしな、と続けるアルセウス。

 異常個体が、生まれる筈では無かった存在というのなら彼らの正体は何だというのか。

 

『君達が伝説と呼ぶポケモン達は言ってしまえば“ただ強いだけのポケモン”でしかない。異常個体とはとても言えないだろう。だがたった一匹、自身が持つ力を最大限に引き出す事で自分に当て嵌められた枠組みを逸脱したポケモンがいた』

 

 話の流れから察するにそれは……。

 

『逸脱者の始祖、始まりの異常個体、それこそがネクロズマだ。かつて持っていた“拡散”と“収束”の力は“贈与”と“簒奪”の力へと姿を変えた。己の光で世界を満たし、自分と同じように壁を逸脱しうる可能性の種を全てのポケモンに蒔いた。その光の種は脈々と受け継がれ、誰もが異常個体となり得る世界を作り上げた。ネクロズマは、文字通り己の力で新たな世界を創り上げたのだ』

 

 それこそが異常個体の正体。ネクロズマの光を僅かながらに受け継いでいったポケモン達が限界を超えた事で本来定められた枠組みから外れた存在なのだ。

 

『そうして世界に光が満たされたなら、ネクロズマはきっと自分が与えた全ての光を簒奪するだろう』

 

 光を与え、光を奪う。それこそがあの極光の竜の本懐と言えよう。ただ生き永らえるだけではなく、自らが強敵と定めた存在を何時の日か打倒するために。

 

 カツリとアルセウスが床を叩き、空間が修復される。

 

『長々と語ったが、そろそろ目覚めが近いな。シルキーよ、ここでの経験を糧に強くなれ。私も、そしてあいつもそれを期待している』

 

 そうアルセウスが言うと共に世界が朧気になっていく。いや、自分の視界がぼやけているのだ。頭に霧が掛かったように思考が鈍くなり、意識は覚醒へと向かう。

 

 目の前でこちらを見下ろすアルセウスと、飽きたのか遠くで寝転がるネクロズマに深く感謝の意を示し、そうして意識は闇に沈んだ。

 大体三日程の出来事だったが、かなり濃密な経験であった。

 

 

 

 

 

『あァ、そういや言わなくて良かったのか?』

 

『何をだ?』

 

『ここ、時間の流れがあっちと違うだろ』

 

『それを言った所であの子が早くここから出られる訳では無いだろう? 言う必要は無かったと思うが』

 

『……色んな事教えるっつっといてそれかよ、ッたく。だからシンオウのチビ共に嫌われるんだぞ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ます。

 

 夢を見ていたような気分だった。

 だが、あの場所での記憶は一切薄れていない。

 

 アルセウスも、ネクロズマも、しっかりと覚えている。

 

(まぁ、また会うかと言われると微妙な所だけど……)

 

 今回だって俺が死にかけ、異常個体の様な力を手に入れ、気絶したからあの場所に辿り着けた。

 次は無いと思っていいだろう。

 

 さておき。

 

 俺が目覚めたこの場所は木造の家の様な場所だった。

 いや、というより木そのものに見える。巨大な樹木の洞の中を木製インテリアで飾り付けた様な印象を覚える。

 

(この感じの家、何処かで見た様な……)

 

 脳裏に過った既視感を確かな物にすべくより注意深く周囲に目を向け、

 

『……目が覚めたか』

 

「クチッ!?」

 

 俺が寝ているすぐ傍にルカリオがいた。

 びっくりしてそのまま飛び起きようとして――事ここに至り、自分の身体が思う様に動かない事に漸く気付く。

 

『まだ動くな。波動の循環が乱れている、少しずつ力を身体に馴染ませるんだ。深呼吸でもするといい』

 

 目の前のルカリオに色々と聞きたい事があったが、身体が痺れた様に動かないので言われた通り深呼吸をする。

 

「チィ……クゥ……」

 

(……ん、あれって)

 

 ふと、ルカリオの腰元に目を向ける。

 

 黒色の帯が鍔の部分から二枚生えた黄金色の剣、ギルガルドと呼ばれるポケモンがルカリオの腰にへばり付いていた。

 ただギルガルドの半身とも呼べる円盾が無いのが気になるが……、まぁそれは後で良いだろう。

 

 深呼吸を続け、身体の痺れが取れて段々と動けるようになった辺りで改めてルカリオへと向き直る。

 

『やはり彼女の子だな、回復が早い。落ち着いてきたなら君が寝てからの事を話すつもりだったが……、彼女から聞いた方が良いだろう』

 

「チィ?」

 

 彼女、とはいったい誰かと首を傾げ――

 

『――目が覚めたか!?』

 

 ダダダダと疾走する音を響かせた後、大きな音を立てて木製の扉が勢い良く開かれた。

 

「クッ――」

 

 現れたのは真紅に染まる一対の大顎を携えたやや小柄な人型のポケモン。

 メガシンカしたクチート、その色違いであった。

 

 自分の未来の姿を映したようなそれに、暫く呆然としてしまう。

 が、そんな事はお構いなしとばかりにメガクチートの方はこちらに駆け寄ってきた。

 

『良かったぁ! もう目が覚めないかと思っておったぞ妾は!』

 

『大袈裟な事を言うな、君の時よりかは随分と早いだろう。君は一年は目が覚めなかったと聞いたが』

 

『うむ、恐ろしく早い回復力よ。左眼の順応も順調であるし、妾達以上に才能があるのかものぅ』

 

 自分に抱き着き頬ずりし始めたメガクチートは己の見解をルカリオと共有していた。

 しかし、……左眼? そういえばこのメガクチートは左眼が虹色に輝いているが、それと何か関係があるのだろうか。

 

『む、そういえば何も教えておらんかったな。旦那様よ、その子を貸しておくれ』

 

『こいつは鏡じゃないんだが……』

 

 メガクチートがルカリオの腰元からギルガルドを奪い去る。心なしかギルガルドの目には呆れが宿っているように見えた。

 

 それはそれとして、良く磨かれたギルガルドの刀身を向けられ、そこに映る俺の姿を見て驚愕した。

 色違いなのはいつも通り、メガシンカが継続状態なのも先程確認した。

 

 だが左眼だけが虹色の光を帯びて異質に輝いていた。

 

「――クゥ」

 

(これ、キーストーンか?)

 

 左眼の虹の模様には心当たりがあった。あのサザンドラと戦う前、注意を引くためにダイゴからぶんどったキーストーンとそっくりだったのだ。

 そこまで思い至り、何故目の前のメガクチートがメガシンカ出来ているのか、何故自分の左の視界が復活しているのか、漸く理解できた。

 

『シルキーよ、お前には妾と同じ施術を行った。その虹の左目はお前が持っていた絆を繋ぐ石――今はキーストーンと呼ぶのだったか――を埋め込み馴染ませた物じゃ。その左眼を起点に力を循環させ、妾達はこの姿を保っている』

 

 あまり良い物でも無いが、とギルガルドをルカリオへと返却しながらメガクチートは続けた。

 

『あのサザンドラとの戦いでシルキーの身体は暴走を引き起こした。それを押し留める為にキーストーンを適合させた訳だが、それはそれで別の暴走を引き起こしかねない荒療治でな……。新しい力に身体を馴染ませるのにとにかく時間が必要だったんじゃ』

 

 やや迂遠に語るメガクチートに、そこはかとなく嫌な予感がしてきた。

 

『遅くなったが結論を述べよう。シルキーが天喰暴竜サザンドラと戦ったあの日から、凡そ三ヶ月が過ぎた』

 

 そうか、三ヶ月も。

 

 ……。

 

 ……え、三ヶ月!?

 

 

 

 

 

 まず大前提として。

 

 覚醒から暴走に至り昏倒したにしては三ヶ月はかなり短い方だという。

 それでいて身体はちゃんと肥大化した力に適応出来るように作り替えられているというのだから考え得る限り最速かつ最高であったと言えよう。

 

 ――そこまでの好条件が揃って、三ヶ月である。

 

 アルセウスから軽く聞いていたとはいえ、余りにも長い。

 同じ歩幅で歩いていた仲間達が遠くへ行ってしまうには十分すぎる程に、長い。

 

(……ダイゴ達は、やったんだな)

 

 今のホウエンチャンピオンの名はダイゴである。

 これがあのメガクチートに告げられた一言である。

 

 ダイゴ達は無事に生き延び、三ヶ月も掛からずに前チャンピオンのゲンジを下した。

 そこに俺はいなかった。

 

(ダイゴ達は生き延びて夢を叶えた。俺も何だかんだで生き残ってる。これ以上望むべくもない結果じゃないか)

 

 あのサザンドラを相手にして誰一人死ぬ事無く幕を下ろした。万々歳の戦果だろう。

 

(……なのに、何で)

 

 あぁ、しかし。

 この胸の内に去来する熱情は。

 

(何でこんなにも悔しいんだ)

 

 紛れも無い悔しさが熱を以て身体を焼く。

 

 分かってる。分かり切ってる。

 ダイゴをチャンピオンにするのは俺の夢だった。相棒として、ダイゴ達のエースとして、四天王を下し、ゲンジを退け、チャンピオンの座へと向かわせるのは俺の役目でありたかった。

 

 だがそれは叶わず、ダイゴ達は俺がいなくてもチャンピオンへと至った。

 

 あぁ悔しいさ。俺がダイゴのパーティの中で最も強かったという自負もあっただけにより一層悔しいんだ。

 何でもう少し早く起きれなかった、何で暴走する程に力を引き出した、何でサザンドラから逃げる事が出来なかった。

 

 ありとあらゆる後悔が押し寄せ――

 

「――ヂッ」

 

 パン、と頬を叩く。

 その場その場の最善を選び続けて今に至ったんだ、最早変えられない過去を嘆いても何の意味も無い。

 ついさっきまで、どの面下げてダイゴに会いに行けば、等とも考えていたが……止めた。

 

 何を言われてもいい、拒絶されたっていい、すぐにでもダイゴに会いに行こう。色々考えるのはその後だ。

 

『寝ないのか』

 

「クチッ!?」

 

 大きな月が見える巨大樹の枝に腰かけたまま決意を新たにしていると、背後からギルガルドを腰に提げたルカリオが話しかけてきた。

 ルカリオが隣に座った為帰るに帰られず、すごすごと座り直す。

 

『彼女はここに住めと言っていたが、そういう訳にも行くまい。シルキーにはトレーナーがいるものな』

 

 ルカリオのその言葉で思い返されるのは諸々を話し終えた後に妙に甲斐甲斐しく世話を焼いてくるメガクチートの姿。

 そこまでして引き留めようとしなくてもと思わなくもない一幕だった。

 

『引き留める、とは少し違うな。基本的に彼女はシルキーがどのような選択を取ろうとそれを尊重するだろう、多少なりとも葛藤はするだろうが。ここで暮らそうと言ったのは彼女がシルキーの親だからというのもあるが、ただ許してほしがっているだけだ』

 

 許し。

 ほんの僅かな間しか喋れていないが、あのメガクチートがそんな悲観的というか自罰的な性格だとは思えなかった。

 

『一応、私もシルキーの親ではあるから彼女の気持ちは分かる。命の危険から遠ざけると言い訳して自らの子を森に捨て、その後一切姿を見せず、やっと再会したのは恐れていた命の危険にシルキーが直面した時だ。どのような顔をして会えばいいのか、自分達に出来る事はあるかと考えてしまう』

 

 そう語るルカリオだが、正直この世界について大分詳しくなった今では俺が生まれたあの森はとんでもなく平和だったと思う。

 砂漠なんぞに捨てられていたら三日と経たずに食われていたであろう事は想像に難くないので、この件に関しては俺から感謝を伝えたい。

 

 それに、様々な葛藤があのメガクチートにあったとしても俺が目覚めた時にすぐに部屋に転がり込んで心配してくれたではないか。

 あれは心からの本心だったのだろう。ならば捨てただとか使命だとか気にせずに接してほしいものだ。

 

『……そう、か。そうだな、……ありがとう。私達に出来る事があれば何でも言ってくれ、私も彼女もシルキーに力を貸そう』

 

 今日はもう寝ると良い、というルカリオの声に従い俺は巨大樹の洞の中に戻っていった。

 ……明日二人に今後の計画を伝えよう。

 

 

 

 

 

『――で、いつまでそこにいる?』

 

 シルキーが戻った後、巨大樹の枝に腰かけたまま徐に零す。

 程なくして頭上から彼女――スペルビアが降ってくる。

 

『……妾が気付いていないとは思わなかったのか?』

 

『ホウエンの半分が感知範囲内の癖に間近の会話が分からないとは面白い冗談だな。それに何年の付き合いだと思っている、お前の考える事くらい分かるさ』

 

 ぐぬぬとしかめっ面を浮かべるスペルビアを隣に座らせ、口を開く。

 

『妾達は、やり直しても良いのか』

 

『やり直すんじゃない、新しく始めるんだ』

 

『――そう、か。そうじゃな』

 

 スペルビアが夜空を見上げる。自分の中で渦巻いていた蟠りが解けた様な顔だった。

 彼女の悩みを解きほぐしてくれたシルキーに内心で感謝しつつ、口を開く。

 

『そういえば、シルキーのやりたい事とは何だろうな? まだ聞いていなかったが』

 

 そう零すとスペルビアはきょとんとした顔でこちらを見た。

 

『そりゃあ、あるべき場所に帰りたいんじゃろ。ここをその場所に思ってくれれば、なんて思ってたりもしたがあの様子を見るに無理じゃろうのー……。まぁ仕方あるまいて、そろそろ寝ようか旦那様よ』

 

 しかしただ送るだけじゃつまらんのう……と言って、一対の紅い大顎を鳴らしながら樹の中に戻っていくスペルビアにそこはかとなく嫌な予感がしてきた。

 長い付き合いでスペルビアが大顎を打ち鳴らしながら独り言を呟く時は大概ろくでもない事を言い出す時だった。

 

(変な事を口走らなければ良いのだが……)

 

 そう願いながら自分も大樹の中へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 翌日。

 

 すぐにでもダイゴに会いに行きたいと願ったシルキーに対し、スペルビアはこう言った。

 

『シルキー! ホウエンのジム全部に襲撃を仕掛けるぞ!』

 

 案の定ろくでもない事を言い放ったスペルビアに頭が痛くなった。

 不調を案じる様に背中辺りを摩った腰元のギルガルドに一言礼を言い、突然の事に困惑しているシルキーと共にその結論を出すに至った経緯を聞き出す事にした。

 

 




ちなみに蒼海巫女の名前はアケディアという。
三巫女が実は七巫女だったとかそういう展開にはならないのでご安心を。

【種族】アルセウス
【性格】きまぐれ
【特性】ゆいいつしん
【レベル】empty
【持ち物】無の原盤・炎の原盤・水の原盤・草の原盤・雷の原盤・氷の原盤・闘の原盤・毒の原盤・地の原盤・飛の原盤・超の原盤・虫の原盤・岩の原盤・霊の原盤・竜の原盤・悪の原盤・鋼の原盤・妖の原盤

【技】
・ありとあらゆる
・すべてのわざを
・おもうがままに
・しはいかにおく

「ゆいいつしん」
・全ては私から始まった。
・時間の流れも、空間の歪みも、暗黒の淀みでさえも私から分かたれた枝葉に過ぎない。
・なればこそその源流である私には無数に分かたれた全ての力を扱う事が出来る。
・戦いという行為すら、私の許可が無ければ最初から無かった事になるだろう。

異常個体:“神”
・ホウエンではなくシンオウ地方に古くから伝わる伝承に登場する神であるらしい。
・こちらの管轄外なので記録に残す必要は無いが現地でシンオウチャンピオンから神についての話を伺った所快く応じて下さった為記録する。詳しくは下記参照。
・「太陽も、月も、星も、この世界も何もない暗闇に一つの卵があった。その卵から一匹のいきものが生まれた」
・「いきものは暗闇の世界を恐れ、18の小さな世界を創り上げた。しかしその世界はいきものが暮らすには小さく、脆すぎた」
・「そこでいきものは、自分では無く他の生き物が暮らす世界を創る事にした。それを見る方がきっと楽しそうだと」
・「いきものは自分の身体から、時間と空間、そしていきものの周りにある暗闇を小さくした三匹の生き物を創った」
・「次にいきものは自分の身体から知恵と感情と意思を持つ三匹の生き物を創った」
・「いきものは、六匹の生き物と共に大きな大きな世界を創り上げ、最後に18の小さな世界の破片を撒いた」
・「それぞれの世界の破片は海を創り、大地を創り、空を創り、小さな生き物達を創り上げた。我々の生きる世界の完成だ」
・「それからいきものは、世界の外側から私達の生きている様子を楽しそうに見守り続けている」
・以上がシンオウチャンピオンによって解読されたある祠の碑文の一部です。興味を持った方はシンオウの観光に赴いてもいいでしょう。
・ポケモンリーグ異常個体観測部門部長より通達。



【種族】ネクロズマ(ウルトラネクロズマ)
【性格】ゆうかん
【特性】■■■■■エクリプス
【レベル】250
【持ち物】ウルトラネクロZ・歪んだプリズム

【技】
・りゅうせいぐん
・マジカルシャイン
・メテオビーム
・メテオドライブ
・シャドーレイ
・シャドーダイブ
・フォトンゲイザー
・プリズムレーザー
・あけのみょうじょう
・よいのみょうじょう

「■■■■■エクリプス」
・大いなる翼を持つ者は世界に光を齎した。
・戦闘開始時に場にいる全てのポケモンの攻撃、防御、特攻、特防、素早さの能力値ランクが一段階上昇する。
・戦闘に出ている間、天候が「びゃくや」状態になる。(天候:びゃくや。攻撃対象に効果の無いタイプの技が等倍で当たるようになる)
・戦闘に出ている間、場の状態が「プリズムフィールド」になる。(状態:プリズムフィールド。全てのポケモンの非接触特殊技の威力が1.5倍に上昇し、全ての2ターン用いる技を1ターンで使用可能となる)
・自分の技のタイプ相性が効果抜群の場合、さらに威力が1.25倍になる。
・―――――

異常個体:“光輝”
・NO DATA
・NO DATA
・NO DATA
・NO DATA
・NO DATA



・世界に光が満ちた時、全ての光を簒奪せし極光の竜が神殺しを挑む。光は天に届き、地には何も残らぬだろう。



はいどうも、三ヶ月振りですね(白目)

前回投稿からずっと残業続きで執筆時間が碌に取れませんでした。仕事無いよりかは余程マシなんで別に良いんですけどね。
ともあれ大変長らくお待たせして申し訳ありませんでした。そろそろ限界な感じが出てきたんであともう少しで一章を終わらせて暫く書き貯めに入ろうと思います。
暇な時にちょくちょく見に来て下さい、作者が喜ぶので。

感想くれたらとても嬉しい。


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万夫不当の鋼姫 前

久しぶりです。
アルセウスまでに終わらせる予定でしたが間に合いませんでした。
一部完結までにもう暫く掛かりますが、それでも終わりはすぐそこです。出来るだけ早く書き上げたいものですね。


 

『……あなた、今までどこにいたんですか。いえ、それはもういいです。あなたのしたい事も分かりましたが、早めに彼に会ってあげてください。……彼、泣いてましたよ』

 

『ハハハ、よくやるわい。お前さんの姿を見れば力を付けてきたんだと分かるが、あやつはそれ以上に強くなったぞ? 他ならぬお前さんが原因でな。ほれ、約束のもんじゃ』

 

『ほう、見ない内に随分と強くなったものだ。もう私も力不足、か。そろそろ娘にジムを譲ろうか。あぁ悪巧みに関しては他の奴から聞いている、またうちの温泉に来ると良い』

 

『俺は難しい事は分かんねぇけどよ。あいつ、チャンピオンになってからずっと難しい顔してんだわ。前みたいに笑わせてやってくれないか? その後またリベンジさせてくれや』

 

『……本当はこういう事はいけないんだろうけどな。お前があくまで彼と対等でありたいという気持ちも、まぁ分からなくはないつもりだ。その内うちの娘が世話になるから宜しくな』

 

『全く、貴女は……クレナイさんから話は聞いてましたがまさか本当にやる気なんですね。蛮勇と言えるほど貴方は弱くない、これを持って行ってください。絶対に勝って下さいね』

 

『改めて、初めましてですね。貴女とは彼と共に戦ってみたかった、子供たちも貴女と話したがっていましたしね。収まるべき所に収まった後は子供達とお話してあげてください』

 

『へぇ、サプライズか。それはいい物だ、彼の曇り顔もすっかり晴れ渡る事だろう。だがね、彼の顔を曇らせたのは君である事を忘れてはならないよ。ま、その話は後だ。王子様の鉄の如く冷たい心を溶かすのは、麗しい姫君であるべきだ』

 

 

 

 

 

 ホウエンを象徴する巨大建造物、ポケモンリーグ。その最奥に、彼はいた。

 

 約二か月前、代替わりにより荒々しい生命力に満ちた部屋から、寒々しくも全てを傷つける様な鋭さを思わせる部屋へと改装されており、奥には重厚な玉座が備え付けられていた。

 

「これで三ヶ月目、か……」

 

 その部屋の主、チャンピオンダイゴは玉座に座りながら胸元のブローチに着けた歪な宝石を撫でた。

 決起の日から一ヶ月でバトルスタイルの改善、戦力の増強、戦闘経験の蓄積、効率的な特訓と今までの全てを作り替える様な気で血の滲む様という言葉すら生温い修練に励み、その果てにホウエンのチャンピオンへと至った。

 

 とは言え前任のゲンジとは引き分けに終わり、半ば勝ちを譲られた形だったのが少しばかり気がかりだったが、それでもチャンピオンになった事で目的が果たせるようになったのだ。

 感謝こそすれ辞退する様な真似はしなかった。いずれ再戦したいとは思っているが。

 

 そしてそこから二ヶ月。

 ポケモンリーグ所属のポケモントレーナー達、各地のジムリーダー、暇を持て余した四天王に声を掛けてホウエン中を捜索させたが有力な情報は出なかった。

 副産物として未発見の遺跡やら何やらを見つけたという報告があったのでそれらは全て纏めて上に提出したが、肝心の彼女の影すら見えぬまま今日まで来た。

 

 生きているのは分かっている。だが居場所が全く分からない。

 一体何処にいるんだ、シルキー……。

 

「……いや、一ヶ月で頂点まで上り詰めたんだ。これ以上を求めるのは頑張ってくれた皆に対する裏切りだな」

 

 幸いにして今回の遠征でシルキーの居場所に当たりは付けられた。街や道路は洗いざらい探し出し立ち入り禁止区域も調べ上げた。残るは禁足地としてポケモンリーグに伝えられている超危険区域だけだ。

 最悪四天王達に要請を呼びかける必要が出てくるだろう。自分の都合で四天王達を振り回す事になるかもしれない事に若干の罪悪感を覚え、ダイゴは溜め息を吐いた。

 

 そこに。

 

「失礼します! チャンピオンに至急報告すべきことが!」

 

 ダイゴの下へポケモンリーグ職員がやってきた。

 

「ん、どうかしたかい? 随分と焦っている様だけど」

 

「それが、ポケモンリーグに侵入者……というか殴り込みに来た者が……」

 

 どうにも要領を得ない。

 侵入者と断定しないという事は現状ポケモンリーグに被害が出ている訳では無いのだろう。

 だがこっちに話が回ってきたという事は未だに鎮圧出来ていないのだろうか。

 

 ……情報が足りない。

 

「良く分からないな、映像とかはあるかい?」

 

「は、はい。こちらに」

 

 そう言って職員はタブレットをこちらに手渡した。

 そこに映っていたのは一匹のポケモンの姿。

 

「――は?」

 

 黄と紅の体毛に分かれて覆われた身体、側頭部から伸びる紅色の長髪。

 最たる特徴と言える後頭部から伸びる一対の真紅に染まる大顎。

 緋色の右眼とは異なり虹色に変化している左眼の周りには僅かに火傷の跡が垣間見える。

 

 記憶とは異なる点がある。

 

 ダイゴの知らぬ物がある。

 

 だがしかし、あぁしかし。

 

 脳が伝えるのだ。心が囁くのだ。魂が叫ぶのだ!

 

 あれはシルキーだ!

 

 あれがシルキーだ!!

 

「――シルキー!」

 

 今にもシルキーの下へ向かおうと足を進め――ふとタブレットに映る映像の変化に足を止める。

 シルキーがこちらを見ながら――恐らく監視カメラを介してタブレットに映しているのだろう――二つある大顎の片方からある物を取り出した。

 

 じゃらりと取り出したそれは八つのバッジが連なったものだった。

 カナズミ、ムロ、キンセツ、フエン、トウカ、ヒワマキ、トクサネ、ルネ。ホウエン全てのジムを踏破した証。

 

「は」

 

 ――そしてチャンピオンリーグへの挑戦が可能となる強者の証であった。

 

「ははは」

 

 それを提示したという事は、「チャンピオンが探していたポケモン」として再会を果たそうとした訳では無く。

 

「――っははははははは!!!」

 

 強者として、「ダイゴと並び立つ存在」として再会を果たそうというのか。

 

「四天王を呼んでくれ、どうせ自室で暇している筈だ。ポケモンの体調が良くなさそうなら僕の在庫から必要なアイテムを引っ張り出して良い」

 

「は、はい! ただいま!」

 

 職員が足早に去っていくのを尻目に、ダイゴは腰元に着けた五つのボールと空のモンスターボールを撫でた。

 

「――良いだろう、シルキーがそうすると言うのならこの三ヶ月で身に着けた僕達の力を見せてあげよう」

 

 言いたい事は色々とあるが、それは彼女の挑戦が終わってからだ。

 

 ダイゴはチャンピオンとして、挑戦者であるシルキーが己の前に現れるのを玉座に座して待ち望む。

 ともすればこちらの方が挑戦者となり得るかもしれないという予感に胸を高鳴らせて。

 

 

 

 

 

 カゲツ、明らかに舐め腐ったパーティで迎え撃ちじゃれつく連打により返り討ちにされる。

 

 ――悪の四天王、踏破。

 

 フヨウ、調整中のポケモン達を繰り出したのか若干練度の低いパーティだった為メガシンカパワーでゴリ押し。

 

 ――霊の四天王、踏破。

 

 プリム、主戦力を用いて応戦するが自身が所有する異常個体の強みを全てシルキーの特性によって掻き消され撃沈。

 

 ――氷の四天王、踏破。

 

 ゲンジ、ボーマンダを除く五体のドラゴンポケモンを繰り出すがつるぎのまいを積んだじゃれつくにより悉く倒れていった。どこか悟った様な笑みを浮かべていた事から本気で戦う気は無かったように思える、その証拠に戦闘終了後「次は全力で戦おう」と告げられた。

 

 ――竜の四天王、踏破。

 

 そして、シルキーはポケモンリーグの最奥へと辿り着いた。

 

「……やぁ、待っていたよ。君ならば必ず四天王を乗り越えてここに来ると信じてた」

 

 いや、プリム以外全員手を抜いてたから当然っちゃ当然なんだけど、後でお話しだな……と呟くのはまだ幼いと言っていい容姿の、蒼銀の髪を持つ少年だった。

 チャンピオンダイゴ。一年に満たぬ短い時間でホウエンにその力を知らしめた彼の眼はとても鋭く、冷たい物になっていた。

 

 まるで鋼の様に。

 

「三ヶ月、君と離れてからそれだけの時間が経った。たったの三ヶ月だけど、僕にはとても長く思えたよ」

 

 しかし、ダイゴの目が徐々に熱を帯びていく。

 

「色々な事があった。君に紹介したい仲間が増えた、君に語りたい出来事があった」

 

 触れる物を焼くような熱でありながら、どこか懐かしい温かみが垣間見えた。

 

「――君に、ずっと謝りたかった」

 

 だが。

 

「あぁ、――だが」

 

 今だけは、懐古の情など必要ない。

 

「今するべきは、君を迎え撃つ事だ」

 

 たった一匹の挑戦者として。

 

「皆が望むチャンピオンとして」

 

 空白の三ヶ月を埋め立てようか。

 

「王者へと至った三ヶ月を証明して見せようか!」

 

 これより始まるは己の価値と力を証明する戦いである。

 

「――さあ、始めよう!」

 

 チャンピオンのダイゴが勝負を仕掛けてきた!

 

 

 

 

 

 エアームドはダイゴのパーティの中でも頭一つ抜けて賢いという自覚があった。

 無論今のパーティでの話であり、かつていたシルキーは今いる新参者二体と比べても遥かに頭が良かったが、それはさておき。

 

 エアームドは、他の仲間達の様に訓練に明け暮れてひたすらに力を付ける事に尽力は出来なかった。

 それはエアームド自身の役割として正面戦闘をする必要が薄いからというのもあるが、一番はダイゴの事が気掛かりだったから。

 

 たった一ヶ月でチャンピオンへと至るためにダイゴは仲間達を追い込んだ。そしてそれを遥かに凌駕する程の重荷を己に課していた。

 

 四天王とチャンピオンへの完全対策、有効技術や有利わざの選定、五匹のポケモンへの個別の訓練内容の取り決め、戦闘を有利に進める為の道具の選別、そして行方不明のポケモンに関する情報の全選別。

 常人であれば三日も続けられないだろうオーバーワークをダイゴはこなし続けた。

 

『君達を鍛え、君達の力を最大限引き出すのは僕の仕事だ。これくらい何てことないさ』

 

 ポケモンリーグへと挑む前に、エアームドは耐え切れずにダイゴに問いを投げ掛けた。

 

 ――いま、たのしい?

 

『――』

 

 その問いに、ダイゴは答えなかった。ただ苦しそうに笑みを零して、前を向いていた。

 それを見てエアームドは悟った。最早ダイゴは止まらない。足を止めて座り込む事は無い。彼女を見つけるまで重荷を下ろす事は無いだろう。

 

 ならばせめて、その重荷を少しでも背負わせてくれ。あの日の決別は、エアームドの選択の結果でもあるのだから。

 

 そうして挑んだポケモンリーグ。四天王は凄まじく強かった。戦闘経験や咄嗟の判断力で言えば、その誰もがダイゴを上回っていただろう。

 それでもダイゴは進み続けた。心を鋼で武装して、立ち塞がる障壁を悉く踏み潰していった。

 

『……焚きつけた者として、そしてチャンピオンとして君に最大級の賛辞を贈ろう、よくぞこの私を乗り越えた。これ程喜ばしい事は無いよ、……だが同時に悲しく思う。君にとっては私ですら通過点に過ぎず、私との戦いに楽しみを見出す余裕すら失われている』

 

 あの日、チャンピオンを下したダイゴに向けてゲンジは嬉しそうに、悲しそうにこう言った。

 

『こんな事を、道を提示した私が最も口にしてはいけない事は分かっている。だからこそ、チャンピオンダイゴよ。――私達に命じたまえ、彼女を探せと。真にポケモンバトルを楽しめるようになってからもう一度、君と本気の戦いを望む』

 

 どこまでも眩しい人だった。そんなゲンジに目を背ける様にダイゴは俯いて、シルキーの捜索を頼んだ。

 四天王に任せず自分でもあらゆる地を探して――。

 

 ――そして今日、自分達の目の前にシルキーが現れた。

 

 歓喜した。彼女は生きていた、決して死んではおらずダイゴの下へ戻ろうとしていたと。

 

 憤慨した。何故今なのか、何故もっと早く帰ってきてくれなかったのかと。

 

 忸怩たる思いだった。自分達がもっと強ければ彼女をもっと早くにダイゴの下へ連れ帰れたのに、もっともっと強ければ、あの悪竜を退けてダイゴの心をここまですり減らさずに済んだのに、と。

 

 だが、しかし。

 もういいのだ、そんな事は。

 

 ――ただ今だけは、全力で戦おう。

 

 

 

 

 

 エアームドが空を駆ける。

 

 急降下し、地面を翼で削りながら土煙と共に大量のステルスロックを周囲にばら撒く。

 急上昇した後、空中で生成したまきびしをふきとばしを用いて高速で地上へと叩きつける。

 

 瞬く間に飛び方を変え、戦場を支配する。鋼の曲芸師とでも呼ぶべきその芸当は、かつてシルキーが目にしたそれから大きく変貌していた。

 

「――行け」

 

 “はがねのつばさ”

 

 ダイゴの指示と同時にエアームドがシルキーの死角から急降下する。すぐに気付いたシルキーが迎撃態勢を取るが、エアームドの狙いはダメージを与える所には無い。

 

 “かみくだく”

 

 “ふきとばし”

 

 翼による攻撃を一対の大顎で受け止めようとしたシルキーだが、エアームドはそのまま急上昇し突風をシルキーへと叩きつけた。

 

「繋げ」

 

 “はがねのつばさ”

 

 上空に飛ばされたシルキーにエアームドの翼が突き刺さる。吹き飛ばされた先にはステルスロックが存在し、空中に縫い付けられたままシルキーはエアームドの攻撃から抜け出せずにいた。

 恐るべき練度であった。フィールドを生成し、フィールドを支配するだけに飽き足らず、フィールドを攻撃手段として転用する。

 

 真に恐れるべきはそれら一連の流れがダイゴから細かい指示によるものでは無く、ダイゴの意図を完璧に汲んだエアームドの独断による物だという事。

 鍛錬をし続けるだけでは足りない。エアームドは出来ないがともすればメガシンカにすら至る程の絆が無ければ到底不可能な芸当だった。

 

 ――故にシルキーはここで切り札の一つを切る事にした。

 

 ステルスロックの上に乗ったシルキーが、左の大顎から一つの石を取り出す。

 

「……あれは、まさか――」

 

 仄かな熱を持つ朱色のその石の名は、ほのおのいし。

 それを二つの大顎で噛み砕き、咀嚼する。

 

 “はがねひめ”

 

 ――シルキーの持つ一対の大顎に、炎が宿った。

 

 

 

 

 

『ほぉ、石を媒介に己の力を炎へと変ずるとな』

 

『お前のそれとよく似ているな。お前は石を使わずに変えていたが』

 

 チャンピオンに対するチャレンジャーの下剋上の様子を観戦する為の関係者席、基本一般の者には解放されないその場所に二匹のポケモンがいた。

 

 登録済異常個体、“聖剣勇者”ルカリオ。

 

 未登録異常個体、“紅地巫女”クチート/スペルビア。

 

『妾の奴はノーカンじゃろ。それに、シルキーのあれが妾の下位互換とも言いにくい』

 

『と言うと?』

 

『妾は、まぁ言うなれば気合でタイプを変えてる訳じゃが。シルキーは石の力を引き出しておるだけ、持続力という点だけなら妾の遥か上を行く』

 

 宝を纏い敵を倒す、如何にも姫じゃな。そう笑うスペルビアにルカリオは、姫は殴って敵を倒さないだろうと返す。

 軽口の応酬を繰り返す二匹の視線の先では、煌々と燃え盛る一対の大顎を振り回し瞬く間にエアームドを追い詰めていくシルキーの姿があった。

 

『――まずは一体。だがこの程度で終わるのならこのホウエンの頂点には立っておるまい』

 

『……さて、どう来るか』

 

 

 

 

 

 エアームドは力無く落下する。

 

 ――あぁ、結局自分は彼女には敵わなかった。

 

 そもそも自分の役割はフィールドを整え、支配する事。痛手を与える事を望まれはすれど相手を倒す事までは望まれない。

 それはエアームドもずっと前から理解しており、エアームドにしか出来ない事だから受け入れた。

 

 だが、一回くらいは彼女に勝ちたかった。それは憧憬や羨望から来るものであり、――同時に怒りから来るものでもあった。

 

 きっと已むに已まれぬ事情があったのだろう。その上で思わずにはいられない。

 

 ――どうしてもっと早くダイゴの下に帰ってきてくれなかったのか。

 

 エアームド達ではダイゴの心に掛かった霧は払えなかった。どれだけ同じ時間を過ごしても、どれだけ勝利を捧げても。

 彼の心は鋼の様に冷たくなっていく。

 

 彼の心の霧を晴らし、火を灯す事が出来るのは。

 

(君だけだったんだよ、シルキー)

 

 エアームドは力無く落下する。

 そのまま地面へと追突する刹那、ダイゴがボールへと戻すよりも先に手を差し伸べる者がいた。

 

「――クチッ」

 

 エアームドの身体にこれ以上負担が掛からぬよう優しく受け止めたシルキーは、エアームドに向けて笑いかけた。

 今にも途切れそうな意識の中でエアームドは、その笑みがよく頑張ったねと、ただいまと。そう言っているように感じられた。

 

 ――あぁ、我らがシルキーが帰ってきた!

 

(ダイゴ、君の下にシルキーが帰ってきたよ、自分はもう十分喜んだ。――次は君達の番だ、後は……任せた)

 

 エアームドがその目を閉ざす。

 

 ――刹那、鈍色の光がエアームドの身体から溢れ出し、ダイゴの下へと向かっていく。

 

 

 

鋼心継承(アイアンハート)尖兵の翼(エアームド)

 

 

 鋼鉄城は堅牢なり。鋼姫の凱旋は未だ終わる事は無く。

 

 




ダイゴ「全力で戦えよお前ら」

四天王「公式戦じゃないし元気になったダイゴと戦いたいので適当に力抜いて通します」

シルキー「思ってたよりすんなり突破出来たしなんか回復アイテムくれる……」



【種族】ルカリオ
【性格】ゆうかん
【特性】せいぎのこころ
【レベル】80
【持ち物】なし(ギルガルド)

【技】
・バレットパンチ
・インファイト
・てだすけ
・いやしのはどう



【種族】ギルガルド
【性格】おくびょう
【特性】いしんでんしん
【レベル】65
【持ち物】なし(ルカリオ)

【技】
・つるぎのまい
・とぎすます
・せいなるつるぎ
・シャドークロー

「いしんでんしん」
・ルカリオの特性である「せいぎのこころ」を共有する。
・自身とルカリオの能力値ランクの増減を共有する。
・自身とルカリオが受けるダメージを共有する。
・自身とルカリオの使用可能な技を共有する。
・自身かルカリオのどちらかが変化技を使った場合に限り、同じターンにもう一度行動できる。

異常個体:“聖剣勇者”
・最初にその存在が確認されたのは120番道路。
・通常のルカリオと違い腰にギルガルドを貼り付けている。ギルガルドの半身ともいえる円盾は確認できていない。
・ポケモンリーグ所属者が別種の異常個体と交戦中に遭遇し、腰のギルガルドを本当の剣の様に使用し異常個体を撃退する。
・同様の報告を数件受け、ギルガルドは無理矢理使役されている訳では無い事、ルカリオが異常ともいえる技術を持っている事、実質技を八つ保有している事が確認された為異常個体に認定。
・弱者に助けの手を差し伸べる様な行動を繰り返している為、全てのポケモントレーナーは敵意を持っての接触を控える事。
・異常個体観測部門部長より通達。

こちら、蟹光線様考案の異常個体となります。
聖剣勇者という設定が面白かったので採用しましたがバックストーリーは大分別物になりました。申し訳ありません。
このルカリオ、もちろんルカリオ本体も恐ろしく強いのですが、どちらかと言うとギルガルドがヤバいです。己の半身である盾を失い、その代わりをルカリオに求め、ルカリオもそれに答えたが故の力です。
力の大部分は執着による物なので、いずれ盾を取り戻せばギルガルドの特性は失われ元のギルガルドへと戻るでしょう。



鋼心継承(アイアンハート)尖兵の翼(エアームド)

戦いに敗れたこの身に出来る事は何もないのだろうか。
いいや、いいや。身体は動かなくとも、仲間の勝利を祈る事は出来る筈だ。
どうか、彼らに鈍色の風を。私の様な、鋼の翼を。

・ひんし時、次に場に出た仲間のポケモンのすばやさランクが永続的に二段階上昇する。
・全ての手持ちのポケモンに、上記の効果を付与する。

ラスボスダイゴの持つ力の一つ。この鋼心継承は特性によるものではありません。
絆が確かな力となる前例を、ダイゴはずっと見続けていた。……ならば。



じゃあ俺アルセウス買って遊んでくるんで……。
感想くれたらとても嬉しい。


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