吸血姫と天使と鋼鉄の城 (奈多ナキル)
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SAO編
ビギニング01


 

 ソードアートオンラインーー通称SAO

 

 

 

 狂人茅場によって多くの若者がゲーム世界に閉じ込められた事件がおきたVRMMOゲームーー少なくない犠牲と時間を経て75層で«黒の剣士»らによってクリアされた。

 

 

 

 この物語はその影で起きていた«吸血姫»と呼ばれた一人の少女と«天使»と呼ばれた一人の少年がアインクラットで過ごした日々とその後のお話である。

 

 

 

 

 

 

 

 私-有栖川 紗那-は駆けていた.ただひたすらに、ただがむしゃらに、近寄ってくる敵mobを<リニアー>や<シングルシュート>で倒しながら……ただただ走り続けた。だが、躓いてしまい前方へと転倒してしまいHPが減った。

 

 

 

(……後少しで確実に私は死ぬ……アインクラッドここで死ねば現実で横たわっている私も死ぬ……私はそれを望んでいる…………)とそんなことをおもいながら敵mobを倒し、走り続けて転んで周囲を敵mobに囲まれていた。細剣レイピアは突きを重視した武器。故に切り払いにくい……そんなことを思い出し、体感時間が引き延ばされていき、βテスト最終日のあの日のことを思い出した。βテスト最終日あの日、とある男性プレイヤーと交わした約束―サービス開始日にまた会って一緒にパーティーを組む約束-を反故にして前線へとその身を投じていたのことを、言い切れない己の負の感情に押しつぶされていたことを……

 

 

 

 SAOゲーム世界に囚われて、自暴自棄に陥ってからの私の行動はあまりにも破滅的だった。思えば20歳になり時間の自由が利くようになると、尚更のことゲームに没頭する様になった。私自身小さい頃から頭脳明晰だと周りから評判だったがそれで周囲から浮いてしまい疎外され、半ば引きこもりだった……一応大学まで進んだものの休学しているようなものだった。今に至っては死に急いで走馬灯を見ている最中−ただ1つ心残りがあるとすれば約束相手に対する申し訳無さだ。その相手を忘れられず、心の内でその人に謝りつつ刻々と減っていくHPを見て諦めていた時だった。

 

 武器を降り下ろそうとした敵の腕部が吹き飛び、その隣の敵のHPも吹き飛んで、声が聞こえた。

 

 

 

「君っ、しっかりして……ソードスキルでこっちの1体は処理するからっ、そっちの残り1体を処理するんだっ」

 

 そう言われて私は咄嗟にレイピアを構え直して、リニアーを発動してHPを全損させると、声をかけてきた人も敵を倒し終え、私の方を向いて頭を下げてきた。

 

「ゲームであればこれが、マナー違反なのは分かってるけど……この世界での死=現実での死なんだからさ……すまない……もしあれならドロップ品は全て君に渡すからさ」と言ってトレード窓を開き、そこに表示されたプレイヤー名を見て私は複雑な心境になった。

 

 目の前にいるプレイヤー名は«NaKi»……ナキだった。名前くらいは偶然かもしれなかったが姿や細部こそ若干違えど間違いなく私がβテスト最終日に約束した、私が想いを寄せていた、その人なのだから…………

 

 私は強い罪の意識を感じながら……自分の口から溢れ出ていた言葉は

 

「ナ…………キ君? ……あのナキ君なの?」だった。そして頬に熱い水滴が流れているのを感じて理解した。私は罪悪感と安堵に挟まれながら泣いているのだと。

 

「俺のことを知っているの? ……なら……サナってプレイヤーを知らないか?」

 

「知っているも何も……私だもんサナは……その……グスッ……ナキ君……ごめんなさい……約束を破っちゃって……」と私は泣きながら言うと

 

「良かった……無事で……ただ泣かれるとなぁ……サナちゃんとりあえず始まりの街は遠いからトールバーナーに向かうけど良い?」とナキに聞かれ私はただ頷くことしか出来なかった。

 

 少しその場で私が落ち着くまでナキは傍にいて様子を伺いつつ、大丈夫だと判断したのかこう言った。

 

「なら行こうか……前衛は俺がするから、サナちゃんは後ろをお願い……スイッチのタイミングはこっちが言うから」

 

 私がそれを無言で頷くとナキは私の前に出て索敵しながら歩き始めたので、私はその後ろについて、そのまま抱き付いた。

 

「ひゃぁっ……サ、サナちゃんどうしたの?」とナキが可愛らしい反応をして聞いてきた。

 

「………………」私が無言で返すと

 

「分かったから、とりあえず圏内に戻ってからなら何でもしてあげるから……ただ約束の件は許しはするけど償いぐらいはしてもらうけどね」と呆気なく譲歩されて、私はそれをのまざるおえなかったが、私とって好都合でしかなかったので、素直に少し離れてトールバーナーへと向かった。

 

 途中でナキに目立つからと黒いフード付きマントを渡されたので装備して、トールバーナーに着くとドロップ品を換金して必要なアイテムを補充し、宿屋へと向かった。

 

「サナちゃん別々の部屋か、少し割高になるけど広めの部屋……どっちがいい? あ......後者は寝室2つあるタイプだから安心して」とナキに聞かれた。

 

 βの時からそうだった、ナキは何処か見透かしながらも核心を見透かさない人で、優しいなと思っている。

 

「なら後者で」と短く答えるとナキは部屋をとって、そこまで少し足早に向かい扉を開けて入っていったので滑り込むように入り、そのまま武装を解除した。ナキも同じく武装を解除しており、ダークブルーを基調としたロングコートと同じ色合いの上下だった。かくいう私はナキから貰った黒いマントの下はグレーのシャツとスカートなのでお互い殆ど初期装備と変わらない状態だったのだが、何処か落ち着かなかないと思っていると

 

「そう言えば、サナちゃんは……円輪刀使ってたもんね」とナキの発言でその違和感の犯人が分かった。

 

 β時代偶然五層の敵mobから落ちた武器で好んで私は使っていたが、今はまだ手に入らないのと、スキルが«片手剣»«投剣»«疾走»を選んでいるので、一応その位置に投剣用のピックをつけていたが使いきっており、補充していなかった。

 

「大丈夫だよ、ナキ君。今はまだ手に入らないし、エクストラスキル«体術»も習得しなきゃだし」

 

「そうだったな……少し落ち着いたようだし本題に入ろうか……」

 

「本題って?」

 

「誰かさんが約束破って、挙げ句の果てに自殺未遂してからねぇ……お説教かな?」

 

「………………」案の定私は固まった。

 

「と言いたいけど、サナがここまできてないと俺もここまでこれてないから今は不問にするけどさ」

 

「なら何を話すの?」

 

「どうしてサナがそうしたのかの動機と今後について……アルゴさんにも会う予定だし」

 

 アルゴー情報屋で攻略本を出している女性プレイヤーで、サナ達と同じく元βテスターーの名がナキの口から出てきたことに驚いたが、ナキに対して私は釈明しなければならないので意を決した。

 

「それじゃ……どうして約束の場所に来ないで、前線にいた理由教えて貰おうか……」

 

「あの日……ナキ君と約束していた日……私がどうして前線へと身を投じたのか……どうしてそうしたのか……ほぼ理解出来ないと思うけど、全て話すよ」

 

 そうして私はナキに話し始めた。まだまだ夜は浅く上の階層の底面に反射した月光が眩さを帯び始めた時間だ……全てを話してもお釣りが来るだけの時間だ……

 

 




皆様はじめまして奈多ナキルと申します。死神と奇術師のアインクラッドの外伝的扱いです(公認)


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ビギニング02~慰め~

 私は、ナキにサービス開始日-あのアナウンス後の行動を話した。細かく言えばその時の心情まで

 

 話を聞いてくれているナキは、ある程度理解してくれたようだった。だが理解していなかった心情が何なのかに私は気付いた。それはナキに対して抱いている恋心と過去のトラウマだった。その為か不安を覚えた。だからこそナキにワガママを聞いてもらうことにしたのだから……

 

「大体のことは理解した……それでワガママは何なのさ」

 

「私とパーティーを組むのと呼び捨てで呼んで……後フレンド登録も」

 

「分かった。パーティーに関して言えば、約束道理になっていれば初日から組めてたけどさ……まぁ精神的余裕が無かったから仕方無かったけども……俺も呼び捨てで良いからさ」

 

「自分勝手なことを押し付けてるのは分かってるけど……あの時私の前に現れたのがナキだったから余計に……」

 

「そこから先は言わなくて良いからさ……今後の話をしてもいい?」

 

「うん……ねぇナキ両腕を少しだけ開いてくれる?」

 

「えっ……どうしてさ」とナキは困惑しながらも私の言った通りにしてくれたので私は抱きついた。

 

「あーもう、話を戻すけど直近の事としては、一層ボス攻略ぐらいだが……2層は<体術>があるからな……」

 

「1層ボスに関しては?」

 

「レイドが組まれるだろうからそれに参加するつもりだが……無論元ベータテスターということは伏せるけどな」

 

「LAボーナスのコートの件ね?」

 

「アルゴさんがな、詳しい事は聞き出せなかったが、どうもキリトと言う……多分元ベータテスターだろうな……そのプレイヤーとの交渉を仲介しているらしくてさ……ちょっときな臭さを感じるんだ」

 

「それで?」

 

「明日とりあえず1度アルゴさんと会うことになっているから、そこで情報を聞き出せそるようなら、な?」

 

「分かった、私もその方針でいいと思う」

 

「なら話が早い……どのみちエルフクエとかもあるから攻略組……アルゴさんの言い方に則るならフロントランナーと歩調を合わせるべきだからな」

 

「エルフクエか……ダークエルフ陣営を選ぶんでしょ? ……楽しみだなぁ」

 

「ただ1つ言えることは、βテストはあくまでβテストだから過信はアウトってことだ……これまで死んだプレイヤーの数割は元ベータテスターらしいしな」

 

「そうなんだ……でもナキ本題は何なの?」

 

「2つあるんだが……1つはPKerのことだ」

 

「PKer……この世界じゃそれって戦犯じゃない?」

 

「そうだが、絶対に出ないと言う保証はないだろ?」

 

「そう……よね……」

 

「それでだ……もし可能ならそう言う奴等を狩りたいと思ってさ」

 

「別に、今すぐって話でもないし、PvPはどのみち避けて通れないから……その時はナキが練習相手になってよね?」

 

「もちろん、そのつもり」

 

「で、もう1つは何なの?」

 

「現実のことなんだ……だから話すのは……いつか……その時にさせてくれないか? 言い出したこっちの都合を押し付けて悪いが……」

 

「その言い方はクリアするときまでパーティーを組んでくれるのよね? 或るいは……」

 

「誰かがついてないと危なっかしいからな……今回みたいなことが起こらない保障は無いからな……」

 

「ゴメンナサイ」

 

「分かればよろしい……とりあえず寝ようか……明日はアルゴさんとの約束もあるのだし……おやすみサナ」そう言ってナキは、立ち上がって自分の寝室に行った。

 

「本当にナキは、優しいなぁ……SAO(この世界)()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……」とポツリと呟きアラームをセットした。

 

 

 サナの話を聞き、さらに今後の方針をある程度確認して、自分の寝室へと入るとアラームをセットして眠りにつこうして不意に寒気がした。

 ナキはその原因を募らせてしまったが、サナの独り言が原因なのは知る由もなかった。

 

「……なんか眠れないな……そう言えばまだパラメーター振って無かったから多分それが原因かな……」と言ってステータス画面を開いた。

 

「とりあえず、STRとAGIが6:4であればいいから…これでよしっと…後はスキルか、<索敵>と<片手剣>とあと1つ残ってる枠だよなぁ問題は…盾のスキル取らなきゃだし<体術>もだもんなぁ…<隠蔽>は除外するとしても…盾のスキルをとるか…レベル上げすればスロットは、増加するし」

 

そうしてスキルを取得し終えると眠気がやってきたので時刻を確認して、深夜1時だったので眠りについた。

 

 

「…むにゃ…やっぱり眠れない…今何時だろ…2時か…ナキはもうねむっているのかな?」と寝ぼけながらも自分の寝室を出てナキが眠っている寝室の扉に手をかけると、ガチャ、とすんなりと開いた。鍵が掛けられていなかったのでそのまま入ると、月明かりが窓から差し込んでいたのでナキの寝顔が見えた。しばらく眺めていると思考がぼんやりとしてきて、私はナキの隣へと潜り込むと眠りに再びついた。

 

 

アラームに叩き起こされると同時にこんな事を思った。

 

(…やばっ…サナに集合時間を言ってなっかた…まぁ最悪アルゴさんとの約束の時間さえ間に合えばいいか…)

 

そして起き上がろうとして起き上がれず、その原因がわかると思考が急激に冴えた。何故なら片腕が何かの下敷きになり、ずらせなかったからだ。更にはその犯人は異性であるからハラスメントコードに引っかかるので抵抗するのを諦めて成り行きに任せた。

 

そして更にこんなことを思った。

 

(あと1週間もしないうちに、1層が攻略される気がする…ただこの胸のざわつきは何だろうか、不安を覚えるけど、元ベータテスターってことはばれないようにしなければ…茅場()()は何を考えているのかまだよく分からない…ただSAOの感情などのアプローチは、()()()のセオリー通りのものだからな…生還して問い詰めなきゃな…サナにも話さなきゃだし、昨晩話しきれなかったしな…てかなんでサナが俺の寝室にいるんだ!?)

 

そう決意しつつも軽く焦りつつもサナが起きるまで待つことにした。

 



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元ベータテスターとボス

 

 

 朝、ナキに説教されつつも、具体的に今後の方針を決定しきると、『牝牛の逆襲』クエストを受領して処理をした。クエストのリワードがクリームで人気があったので、私達は乗り気だった。

 

 

 約束の時間である13時にトールバーナーにある、とあるレストランに私達は居た。

 

 

「よォ、お二人さん久し振りだナ」と頬に三本ずつ髭のペイントがあるプレイヤーが、私達の向かい側の椅子に座った。

 

 

「久し振り、アルゴさん」と私が挨拶を返すと

 

 

「オレっちを呼んだ理由は何ダ?」と訊かれると

 

 

「FRの事ときな臭い事柄」とナキが簡潔に答えると

 

 

「FRはイイんだけどナ、もう一個の方はナ……こっちも情報料積まれてるからナ」

 

 

「今手元に5kコルある……これで良いか?」

 

 

「二人には借りがあるからナ……4kでいいゾ」

 

 

「分かった。なら前金で払う」そう言ってナキがコルが入った袋を渡すと

 

 

「しっかり4kだナ……まずFRの事からナ」

 

 

「分かった」

 

 

「明後日ここの広場で会議が開かれる……主催者はディアベルだヨ」

 

 

「ベータで似たような名前の奴を見たことがある気がするな……」

 

 

「気のせいだロ……もう1つの方だガ……」

 

 

「あぁ……依頼者では無く、相手とその内容を大まかに頼む」とナキが言うとアルゴは観念したように口を開いた

 

 

「相手はキリトってプレイヤーだナ、内容としてはアニールブレードの強化済みダ」

 

 

「あぁ……成る程ね、大まかだが見通しがもてた……礼を言うよ」

 

 

「ついでにオマケとしてお二人には言っておくナ……キバオウってプレイヤーに気を付けるんだナ」

 

 

「マジか……こっちからも情報を1つ伝えとく」

 

 

「何ダ?」

 

 

「この金の出所」とナキはわざと人の悪い笑みをして言った

 

 

「クエか?」

 

 

「半分正解ってとこかな?」

 

 

「どういうことダ?」

 

 

「新月の夜に、アニールブレードが手に入るクエストの近くの森にランダムに沸くmobとクエストのリワード」

 

 

「詳細を教えてクレ」

 

 

「はじまりの街で吸血鬼関連の書籍を見つけて、その建物に居るNPCの誰かに話し掛けると、クエストが開始されて……吸血コウモリを狩るんだが……条件が新月の夜にその森で、投躑系のアイテムを使わないって条件でな、幾分難易度が高いだが倒すと、3kコルとクエストアイテムを落とす、それをNPCに持って行くと2kコルが手に入る」

 

 

「破格じゃなイカ?」

 

 

「いや、妥当だよ。事実2回死にかけて、茨のトゲを持っていなければアウトだったよ、無論、膝に矢を受けていてもね」とナキが冗談混じりに答えた。

 

 

「本当に危険なクエだナ」

 

 

「クリアするには、長物か跳躍系のソードスキル持ちと吸血鬼の弱点となるアイテムが必須だ」

 

 

「こっちが話した事ト、ナキっちがくれたその情報……どっちも同等ダナ」

 

 

「なら貸しって事で」

 

 

「分かっタ……こっちとしてもその方が有難いカラナ」

 

 

「そう言えばアルゴさん……私を探すのを手伝ってくれていたのよね?」

 

 

「そうだナ」

 

 

「ありがとね、アルゴさん」と笑みを浮かべて言うと

 

 

「知り合いが……自殺未遂仕掛けてたんだゾ? ……結果的にはだけどナ」

 

 

「はい……反省してま……す?」最後が疑問系になってしまったのは、本来反応していた筈のナキが反応せずに浮かない顔をしていたからだ。

 

 

「こっちが出したクエの情報だが、タイミングを見て公開してくれ」

 

 

「そうダナ……犠牲者を出す可能性が高いカラナ」

 

 

「ナキ……小腹が空いたから何か頼んでいい?」と私が空気を読まない発言をすると

 

 

「勝手にどうぞってか太っても知らないからな」

 

 

「実際に食べてる訳じゃ無いから太らないもん」

 

 

「二人共何か仲が良いナ……」とアルゴがなんとも言えない笑みで言ってきたが、私は気にせずに

 

 

「アルゴさんもどう?」と勧めると

 

 

「オレっちは、依頼の件もアルからここで、失礼するゾ」

 

 

「今後とも宜しくなアルゴさん」

 

 

「ナキっち、サナちゃんも今後とも宜しくナ……それじゃ失礼するゾ」そう言ってアルゴは外へと出ていった。

 

 

 

 

 

 少しして私が頼んだスイーツが来たので、私が食べているとナキが

 

 

「明後日迄にレベル上げを終わらせて、レイドに参加するって方針でいくからな」

 

 

「目標は?」

 

 

「理想13だが、現実10だな」

 

 

「結構ハードね……」

 

 

「スキルロットの件があるからな」

 

 

「死なない程度にしなきゃね?」

 

 

「あぁ、分かってる」

 

 

 そんな事を話しつつ、余っていた資金で装備を整えて、レベル上げ等を会議のある日の未明までしたのだった。

 

 

 

 

 

 そしてトールバーナーの集会場にて会議が行われた

 

 

 ナキは、アルゴからの情報等を踏まえた上で、一部の参加者に対して危機感を抱きつつも、それを表に出していなかった。かくいう私は、対人コミュニケーションスキルの皆無さと極度の人見知りが発動して、普段のように話すことが出来なかった為、ただ静かに過ごしていた。

 

 

 そして、青髪の男性プレイヤーがステージに上がり、大声でこう言った。

 

 

「俺の名は、ディアベル。気分的にナイトやってます」

 

 

 この場にいたプレイヤー全員をその一言で和ませ、流れを掴んだ。インパクトの強さで言えば、キバオウと言うプレイヤーの発言と、エマと名乗った女性プレイヤーの絶対守る宣言と、どっこいどっこいだ。

 

 

 周囲を見回すと、赤いフーデットケープを被った女性プレイヤーとその隣にいるキリト、その他には斧使いのエギル達も居た。エギルさんとは会議開始前に軽く話していた(ナキがだが)。

 

 

 各々が、士気が高い状態で攻略へと進み、一層ボスとの戦闘では、私達はエギルさん、キリト達と共に取り巻きの処理へと回った。

 

 

 そして事件が起きた。ディアベルがボスのHPゲージが減ったからか肉薄していた。

 

 

 あっ……これディアベル死んだなと、心で思ったその時にエマと名乗った女性プレイヤーが、ディアベルを穏便に突き飛ばしてボスの攻撃を受け止めた。すると、ナキが

 

 

「サナ……すまん、一度こっちにボスのヘイトをこっちに回すから遊撃頼む」

 

 

「了解ッ」

 

 

 ナキが助走をつけて、バーチカルを繰り出してボスのスキを作り出し、その反動でエマを突き飛ばすと、キリトが叫んだ。

 

 

「オレが言った通りにボスの攻撃を防いでくれ」

 

 

「分かった.がこっちもちとジリ貧に近いから急いでくれ」とナキが答えて、少しの間ボスとの一騎討ちで耐えきり戦線を立て直しきると、キリトとスイッチして交代した。ディアベルはと言うと、すくんで動けていなかった。

 

 

 結果的に死者が出たものの大打撃を被る事も無く、LAボーナスはキリトが手にした。

 

 

 そして、静寂に包まれたボス部屋でキバオウが吠えた。

 

 

 糾弾だったがキリトのファインプレーによって、()()()()()()()()の私達が非の目を浴びることは無かった。

 

 

 

 

 

 ボス攻略の次の日、2層の主街区に居た。

 

 

 装備を整え、エクストラスキル<体術>を取得したりして、アルゴと共にボスクエ等をこなしたりしてハイペースで行ったのだった。

 

 

 エクストラスキルが見つかって行くのは時間の問題だった。

 




エマちゃん登場するも突き飛ばすと言う仕打ちとあっさりとしたボス戦…そしてちゃっかりナキのダクソネタ…
まぁ是非もないよねって事で…
次回結構ゲーム内時間がとびやっとタイトル回収です。
次の更新時期はハイペースでないのは確か     


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隠されたユニークスキルⅠ

お待ちかねのユニークスキル編


 アインクラッドの45層が攻略されたころだっただろうか……

 

 私―サナ―のスキルロッド内に見慣れないスキルが眠っていた。

 

「……ん? なんだろこのスキル」と詳細を確認すべくタップした。

 

 

 スキル名<吸血姫>

 

 詳細

 

 投擲武器を用いた敵(プレイヤー及びmob)のHPドレイン、HPが0になっても3度まで耐えることが可能(上限回数の回復なし)、任意のプレイヤー1人のみと誓約が可能(尚変更不可)、投擲スキルの強化

 

誓約……対象者との間に経路(パス)が作られ、使用者と対象者にバフがかかる

 

 

 と説明が書かれていた。

 

 私は隣にいたナキに

 

「ねぇ……ナキ、このスキルなんだか判る?」と訊くと

 

「サナもか……俺もなんだけどさ……」と言って、私に見せてきた

 

 

 スキル名<守護・懲罰天使>

 

 詳細

 

 敵愾心(ヘイト)コントロールによる攻撃回避及び相殺、自身のSTR値×0.1倍をかけた数値分の味方のダメージを代わりに受けることが可能、両手持ち装備を片手装備可能、疑似的な天使の翼を用いた戦線維持、オレンジプレイヤーに対して与えるダメージが増加

 

 

 とナキの方のも見せられ、ナキが口を開いた

 

「サナ、トールバーナーの宿屋で結局俺が話さなかったこと覚えてるか?」

 

「うん」

 

「それを今から話す……俺の父親はSAOのとあるシステムの開発者だ」

 

「えっ……」

 

「メンタルシステム……正確にはメンタルケアシステムの大元を作ったんだが誰かわかる?」

 

「えっと……東都工業大学電気電子工学科の教授でしょ? 確か重村教授じゃなくて……名取教授でしょ?」

 

「あぁ……だったら省ける……話の流れ的にも、俺の苗字は名取なのは事実だが置いといてだ……親父はこんな事を言っていたんだ、『SAO内で、あのシステムの意志を理解する者に茅場君達も知らない……秘している力が授けられる』とな」

 

「つまり、それが私達のスキルなの?」と私は気づいている事を口にせずに訊いた

 

「その可能性が高い……つまり隠しておくべきだと思う……エクストラスキルの1種なんだろうけどバレると危ない気がする」  

 

「私もそう思うけど……なんで私にも……」

 

「偶然か、それとも俺との関係だろうな」

 

「夫婦だもんね、私達」と照れつつも答えた。

 

 私の言った通り、ナキと結婚していた。ゲーム開始から約1年がたちナキが一応先に提案してくれたが、私もそれを考えていた為、遅かれ早かれだった……と私は、逸れかけた思考を元に戻した。

 

「後、クエストタブを見て」とナキに言われて確認すると、受注した記憶のないクエストが進行していた。内容としては、1層主街区で吸血鬼関連の書籍と天使関連の書籍を見つけろとなっていたが、更新され天使関連のみになった。

 

「ナキ……これって」

 

「あぁ、俺が()()()()()()()()()()()()()だ。行こう1層に」とナキが言って、私たちは1層へと向かった。

 

 

 1層に久しぶりに降り立って私は、空気が少し嫌な感じだなと思った。

 

するとナキが、

 

「1層はシンカーさんが互助組織を立ち上げたけど、途中から解放隊(キバオウ達)と合流して、今は軍と呼ばれてるらしい」

 

「なるほどね……けどクエの方は当てがあるの?」と空気が嫌な原因が判るとクエストについて訊いた

 

「まぁ、()()()()()()()()()…付いて来て」とナキに連れられて、とある建物に行き目的の書籍を見つけた。

 

「これ新約聖書か…多分何処かにヒントが…」とナキが、ページをパラパラめくると2枚の紙切れが落ちてきた。

 

「ナキ、これが落ちてきたけど…」と拾い上げた紙切れを、ナキに見せた。

 

「それじゃないかな…当たりだ。サナも見てみ?」と言われ、その紙切れを見た。

 

簡単にまとめると

 

Iと振られた紙には

 

生き血を吸らう者には串刺しに、それでも祓えなければ聖なる湖に住まう精霊より与えられし、剣と盾を使え

 

 と書かれていた。

 

Ⅱと振られた紙には、

 

湖と豊かな草木がありし平穏なる地に資格有る者降り立つ時、一番大きな湖から偉大なる精霊が現れん

 

 と書かれていた。

 

「これ、たらい回しか…フィールドマップで敵が湧かずに湖と多分森林や草原がある階層…22階層だ」

 

そうして私たちは、22階層へ移動し、一番大きいであろう湖に向かった。

 

 

湖に着いて少しすると、水中からコポコポと泡が立ち始めて、水中から剣と盾を持った精霊が出てきて言った。「天使の力を持つ資格有りしものよ、私の前へ」そう言われ、ナキは前へと出て、私は年の種に少し後ろに下がった。すると精霊は、こう続けた。

 

「其方がか…私は時間が惜しい。故に簡潔に終わらそうぞ…この剣と盾を其方に与える。くれぐれも使い方を間違うなかれ」そして、ナキにそれが手渡された。

 

「湖の精霊様。一つお聞きしたいことが」とナキが訊くと

 

「よかろう、聞きたい事は何ぞ」

 

「生き血を吸らう者について何か知りませんか?」

 

「この呪われし城の最も低い場所にあると、だけしか知らぬが、その与えし武具を使えば倒すのは容易い…ご武運を」と言い残して湖の底へと精霊は姿を消した。するとナキが確信を得たのか、狂気混じりの笑みを浮かべて言った。

 

「サナ、1層に戻るぞ…鬼退治としゃれこもうじゃないか」と

 




出来れば今月中に後編を更新したいけど、いけるか悩みつつさらに先の話の下書きがたまってき始めた…


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隠されたユニークスキルⅡ

遅れてすいません


「サナ、1層に戻るぞ……鬼退治としゃれこもうじゃないか」と狂気混じりの笑みで、そうナキは言ってきた。

 

 

 ナキとはまだ過ごした時間こそ少ないが、密度は高い私だったから理解出来たし、ナキの妻として過ごしているからこその信頼だ。ナキは、理性という堅牢な檻に閉じ込められている狂気持ち(サイコパス)だと、ただ安全装置(セーフティ)と言える理性が強力で、偽りの仮面(ポーカーフェイス)をいつも着けている為、それを周囲に悟らせない。ナキ自身も本当は、道化として楽しんでいるのかもしれない……そんなことを思いつつも私はただ「分かった」と返事をするのだった。

 

 

 

 1層のとある森に到着し、ナキはサナに対して鬼退治と言ったが少し皮肉が過ぎたかなと思っていたが、本人は気にするそぶりは見せなかった。ただ道中サナに対して思うことがあった。心理的に追い詰められると何をしでかしてくれるか解らないが、冷静であれば最善の選択を選べるし、優しいのだが少し否結構重い……無論物理的では無くだが……後はメンヘラ染みたと言ううか、ヤンデレ染みた行動だろうか……其処を可愛らしいと思ってしまう自分も大概なのだが、殆どサナの笑顔でいつも有耶無耶にされている。

 

 

「ねぇ、ナキ……あれって……」とサナが指さした方向には()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「ちっ……ヴラド3世かよ……何でルーマニアの大英雄さんまでアインクラッド(ここ)にいるんだよ」と毒づくとサナに「杭だけで、そこまで特定するナキも大概だよ」と呆れられた。

 

 

 そんなやり取りをしていると辺りに霧がかかり始めて、声が聞こえた。

 

 

「我ニ仇ナス雑種ハ、何処ダ……我ヲ滅サントス愚カ者は何処ダ」

 

 

「いつも通りに俺が壁、サナは牽制と遊撃な」と伝えると同時に戦闘態勢に入った。

 

 

「危なかったらスイッチしてよね? 死んだら呪うから」とサナから怖いことを言われ「はいはい、解ってるよ……まだこれが喰種なら再殺で済んだろうに……」と違うゲームの設定を言うと、敵が突っ込んできた。すかさず挑発を入れると同時に敵ごと盾で薙ぎ払うと、敵は自分に喰い付かんと肉薄してきたので、タイミングを合わせながら攻撃をいれて少しずつ敵のHPを減らしていった。

 

 

(……ったくサナに聖水渡しときゃ良かった……最悪飲んで咬まれても血を毒にするのも無難だが……)と思いつつも自分の残存HPは5割まで減っており、まだ敵は7割残っていた。すると、敵の背に銀色のピックが刺さったので敵に隙が生じ、自分は生まれた隙を突くようにソードスキルを叩き込んだ。

 

 

「サナ、スイッチっ」

 

 

「了解っ」とサナが応えながら敵に追撃を浴びせてくれたので、その間に回復し再度挑発して此方に注意を向けさせた。

 

 

 だが、敵はそれをものともせずにサナに攻撃を続けた。どうにか〈守護・懲罰天使〉のスキルを使いサナの被ダメを肩代わりしていたが、完全に肩代わりできなかったダメが積もり(むな)しくサナは杭で刺され少しずつHPを減らされていった。

 

 

 すると敵が「忌マワシイ小娘ヨ……我ガ技ノ前デ消エルガヨイ」と言い槍状に変化させた杭を高く掲げ心臓めがけて突き刺さんとしていた。

 

 

 すると自分は、反射的に叫んだ。

 

 

「サナはっ絶対にっ……俺が死なせないっ……殺させないっ」

 

 

 すると、体が軽く感じるようになり本来自分のAGIでは出せないスピードで敵の首を刈り取らんと言わんばかりに肉薄し、四連撃ソードスキルであるバーチカルスクエアを放ってサナと敵の間に入り込んだ。回復クリスタルをポーチから取り出して後ろを一瞥せずに投げつけると同時に「ヒールっ」と叫び、視界の隅でサナのHPが回復していくのを確認するのと、敵をどう対処するかを並行して処理していた。

 

 

 するとサナが「あの敵の血を回収したい……ナキ出来れば硬直させて」と言ってきた。

 

 

「分かった……サナも出来るだけ敵の死角からで頼む」そう伝えると俺はヘイト操作による擬似的硬直を敵に与えた。

 

 

 

 ナキのお陰でHPも全快して、立て直せたが厳しいなと思ったのだがナキの姿を見て驚くしかなかった。背中から2対4本の翼-天使が持つとされる翼そのもの-が生え、何故か後頭部に隠すように輪が1つあった。ただ、どちらとも半透明で見るからに当たり判定はないのだろう。そんなことを考えつつも、死角となる位置から円輪刀を投げて当たるのを認識すると同時に、走り出して戻ってくる円輪刀を迎えに行き、また敵の死角に入って背後から敵の首筋にに喰らい付いた。敵の肉ごと血を飲み込みながら少し離れて距離を置き、レイピアを抜くと慣れた動作で《リニア―》を敵に叩き込み全て頭部へ当てた。敵のHPが大きく減り、残り4割弱になったが、その代償は大きくレイピアが粉々に砕け散った。だが、破壊パーティクルが発する光に敵が怯むと、その隙をナキの4連撃ソードスキル《バーチカルスクエア》によって敵は消し炭となった。

 

 

 するとドロップしたアイテムの中に滅銀水晶の細剣(ロストシルバークリスタル・レイピア)という武器が手に入った。

 

 

私がナキの近くへ行こうとすると少しふらついた。

 

 

「サナ、大丈夫か?」ナキが近寄って来て手を差し出してきながら言った。

 

 

「うん、気にしないで……大丈夫だから」と虚勢を張ったが、意識が軽く遠のくのは耐えは出来るので「とりあえずさ、帰ろ?」とナキに言うと

 

 

「これでクエストクリアみたいだな……転移クリスタル使うか……あと装備は直しといて」と言われ、「分かった」と私は返事をした。

 




次回 エマ敗す というウソ予告


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異なる主軸

明けましておめでとうございます

やっと更新







 私達がユニークスキルを手に入れて、アインクラッドの攻略状況は、折り返しである50層まであと少しとなった。

 

 

 その後ナキと誓約を結んだのだが、その相手の任意のスキルが私も使用可能になる隠し効果が存在した。それによって私達の武器は、モンスタードロップ品である無銘になっているらしい。武器の強化可能回数は上限が高い為か私達でも未知数の部分が多いので、武器自体のスペックなども偽装されているらしいのだが……

 

 

 話の流れ的にもわかるようにナキは<偽装>と言うスキルを使わせてくれた。ナキの<守護・懲罰天使>に含まれているスキルらしく精霊から渡された盾と剣を装備していないと使えないmodらしい。

 

 

 本人が説明するには、渡された剣はアロンダイ(無毀なる剣)と言って、本来両手剣なのだが片手剣と偽装することで実際に片手剣として使えると言っていたのを顔を引きつらせながら聞いていた覚えがある。

 

 

 私達の服装も最初の頃から変わった。私は鮮やかな赤を基調とした上下なのだが、両太ももにピックをつけているので、ミニスカートになるのだがキュロットなので問題はない。その上からワインレッドのフードマントを着ている。後は胸部に防具がある。

 ナキは、白の一張羅で防具も白い軽装鎧だ。そして白いマントを着ている。

 

 25層辺りから私達は前線に入ったり、抜けたりして、攻略会議には私は出ずにナキだけが出ていた。その為か私は攻略組の内では、レアキャラ呼ばわりされているらしい。

 

 その裏ではレッドプレイヤーを狩る狩人として過ごしていた。ただ、その場で処すのは、3人以上殺した者かそれ同等の凶悪性だと判断が出来る者……つまり日本の死刑制度に則っていた。アルゴを仲介した依頼か、自主的にするぐらいだが、攻略組の面々は狩人が誰なのかおおよそ検討がついているようだったが、それ以外では狩人だけが噂され、多少の抑止力になっていた。

 

 私自身の交遊関係は、KoB副団長で数少ない攻略組の女性プレイヤーのアスナ、アルゴ、鍜治師のリズベットやたまに一緒にパーティーを組むエマや、積木などと仲が良い。ナキの方は、〈黒の剣士〉ことキリトや、カタナ使いのクライン、商人でもあるエギルなどの攻略組と関わりの深いプレイヤーや、聖竜連合のリンドやアイクラッド解放隊のシンカー、KoB団長のヒースクリフとかとも交流があり、そこそこ顔が知られていた。

 

 

 

 ある日のことだった。私達は、エマと積木に偶然会い、一緒にご飯でもと言う流れになったので、嫌がるナキを無理矢理連れてきて食事中にナキが言った。

 

 

「エマちゃんは未だに独り善がりなことを行ってるんだろ……相変わらず」

 

 

「貴方こそ、何で私にそんなこと聞くの?」と喰い気味に反論してきた。

 

 

「当たりか……お前の理想はただの幻想だ、机上の空論でしかない」

 

 

「それ何が悪いっ」

 

 

「思い上がるな……それは単なる我が儘でしかない、それが通じるほど甘くない」

 

 

「ちょっとナキ……ここで喧嘩は……ね?」

 

 

「ま……サナの言う通りだな……よし、こうしよう……今夜今から指定する所に来い」

 

 

 そう言ってナキは、23層の森を指定すると、ナキは席を立って外へ出たので、私は二人に軽く謝ってツンデレを発動させていたナキの後を追いかけた。

 

 

 移動中私は、ナキに話しかけた。

 

 

「ナキ……何であんなことを言ったの?」

 

 

「あの娘も〈ユニークスキル〉持ちだ。ただ一度挫かないと大きなものを喪う未来しかない」

 

 

「まぁ……釘を刺す必要と言う点では正しいだろうけど……ナキが悪役になる必要無くない?」

 

 

「どうやっても、俺は悪役ぶった方が楽だからな」

 

 

「これ以上の追及は後にするから……少し私の我が儘聞いてもらうからね」

 

 

「はいはい、分かりましたよ」そう言いながらも内心闘いたくてウズウズしていることを隠していなかった。

 

 

 夜九時になって少しも緊張の面影を見せずに佇む私とナキの所に、約束の人物が現れた。

 

 

「来たか……ルールの確認だがデュエルは初撃決着で、HPが65%以下になったらソードスキルの使用禁止……範囲はこの開けた範囲のみ……それでいいかエマちゃん」

 

 

「上等です……私の言っていることは間違ってないんですから……勝って正当性を認めさせます」エマが少し虚勢を張りながら言っているように私は見えた。

 

 

「立会人はサナと積木ちゃんに頼んだよ」

 

 

「ナキに言われなくても分かってる」と私が言うと不服そうに積木がしていたのでゼロフレームでチャクラムを積木の首筋に当てると、積木はぎこちなくもコクりと頷くのみだった。

 

 

「んじゃ……死合おうか」とナキは不適な笑みを浮かべながら言った。

 

 

 そしてカウントが0になると同時にエマが飛び出した。

 

 

「これで決めるっ」とただの負けフラグを建てながら鎌で攻撃をしてきたが、ナキはそれを軽く受け流して、ソードスキルのホリゾンタルで反撃した。

 

 

「何が全てを守るだ……笑わせるな……ただの子供の戯言だ、独り善がりだ……現実から逃げるな」

 

 

「うるさい……私の想いなんか貴方には判らないっ」

 

 

「何も理解してない……これだから餓鬼は嫌いだ」

 

 

「貴方は今からそのガキにまけるんだから」そんなことを剣撃と一緒に返していると

 

 

「もらったっっ」鎌でナキの盾を絡め取って、そのまま盾を吹き飛ばしてエマが肉薄せんと間合いを詰めた。

 

 

 

 

 

 双方のHPはまだ80%以上残っていたがエマとしてはナキの盾があるせいでダメージをあまり与えられていなかったのだ。それがなくなったことでエマから見ると有利でしか無かったのだが、次の瞬間エマはノックバックを喰らい間合いが戻されてしまった。吹き飛ばしたタイミングに一瞬だけナキの回りに力場のようなものが出てきて、それが剣にまとわりついて何気無い一撃なのに相当なノックバックを生じさせた。

 

 

「何っ……今のっ……」

 

 

「お前と同じユニークスキルだ」

 

 

「だからって私の勝ちは勝ち」

 

 

「ふぅ……自惚れるな」そう言ってまた激しい剣撃が繰り出され続け、数分後には双方のHPが52%ぐらいになっていた。ソードスキルが使えない為、ノーマルの攻撃しか出来ない状態で剣と鎌が撃ち合わされていると、ナキは空いていた片手を握り締め体術スキルの基本技である閃打をエマの腹めがけて打ち込んだ。

 

 

 そして、それによってエマの体力が半分以下になって勝敗が決した。リザルトが表示されナキが勝った。

 

 

「体術なんてっ……卑怯なっ」とエマが言うと

 

 

「俺はソードスキルの使用禁止だと言ったからな」と事実を言った。

 

 

「こんなの負けじゃないっ」と未練たらしくエマが言うとナキが、

 

 

「お前は、全てを見渡そうとして、目の前のことを見誤っていやがる……だから焦点をずらせ……何故判らない?」

 

 

「…………」

 

 

「ま……幻想を抱くなと言ってはないし、完全否定する気はないからな……何なら盲点を見ろってことを理解してほしいだけだ……後は余り強い言葉使うんじゃない弱く見えるぞ…………サナ、帰るぞ」ナキはそう言って、森の奥へと入っていったので、またしても私はナキを追いかけた。

 

 

 

 

 

「本当にナキって遠回しにしか出来ないよね」

 

 

「悪いか?」

 

 

「いや……でも……ううん何でもない」

 

 

「やっぱり夜は落ち着くなぁー」とナキが急にそんなことを言った。

 

 

「貴い夜と書いて貴夜〈きりや〉でしょ……ナキの本名」と私はこの前から抱いていた既視感を裏付けるための一言を発すると

 

 

「そうだけど……何で分かった」

 

 

「高校一緒だったし、何なら同じクラスだったよ3年間」

 

 

「だからって……」

 

 

「しかも東都工業大学の学生だし」

 

 

「……恐ろしい」

 

 

「私の本名言えば判るよね……流石に」

 

 

「聞き覚えとかがあればな」

 

 

「有栖川紗奈だよ」

 

 

「有栖川……紗奈……って、レアキャラ扱いされてて、春山と仲が良かったあの?」

 

 

「ってことは貴夜なのは事実なのね」

 

 

「いつから……ってなんとなく予想はつくけど」

 

 

「名取教授の話とこのユニークスキル」

 

 

「……流石だよ、サナ……なら何でエマちゃんに例えあんな接し方でも関わろうとしている意図は分かる?」

 

 

「老婆心的なものをナキから僅かに感じるから……ど畜生でないのは事実よね?」

 

 

「実を言うとエマちゃんの両親とは面識があってな……親父経由ではあっても、一応それなりに心配はしてる」

 

 

「ふーん……けど私がナキに対して抱いてた恋心に気付けず、色々まだ隠してるみたいだしなぁ」と少し茶化すように言うとナキは何かを察したのか、1歩引いて、更に周囲を見て2歩引いた。

 

 

「世間って案外狭いな……サナ」

 

 

「そうだね……現実世界に帰還したら本当にナキの妻になれそ……」

 

 

「年齢的にも、セーフだろうけど……鬼が笑うよこんなこと話していると」

 

 

「ただの死亡フラグでしかないものね……とりあえず帰ろ?」と私はナキにそう迫って帰路につくのだった。

 




一応書けたけども更新スピードが低速ですいません
次回論理コードと嘘予告





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論理コードと日常

前回のあらすじ
エマ敗す




 2024年10月某日

 

 

 私とナキは二人で買ったプレイヤーホームに居た。

 

 

「ねぇ……ナキ」

 

 

「ん? どうしたの?」

 

 

「設定画面の深いところにこんなものがあったんだけど……」と私は可視化したウィンドウをナキに見せた。

 

 

「論理コード……は? ……何なのさ、この項目」

 

 

「ナキなら何なのか分かるかなと思って」

 

 

「知らない……けど設定項目ってことは説明書きがあるんじゃないのか?」

 

 

「あった……一応読んでみるけど…………って所謂そう言うことよね?」「どれどれ……って、えっ……おう、そうだなこれ……」

 

 

 論理コード―何故かある謎仕様。そういう行為が出来るようにする項目―を私は見つけて、ナキに心当たりが無いか聞いてみたのだが、気まずさを増すだけだったので、少し後悔した。

 

 

「親父さんから何か聞いてないの?」

 

 

「メンタル面についてしか知らねーし、こんなの知らないったら知ーらない」と完全にキャラがぶれてしまいながらナキは答えた。

 

 

「ってことは……ナキと……えへへ」と私が言うとナキは即座に距離をとって、怯えていた。

 

 

「……ナキー? ……ごめんって……悪戯し過ぎた……謝ってるんだから此方においでー」と無かったことにしようとしたが、

 

 

「信用ならない」と本来ナキに戻っていて、完全に人間不信にまた陥っていた。

 

 

(……ヤバい、ナキを傷付けちゃった……と言うかナキ女々しすぎない?)と思ったが、流石に口にはしなかった。

 

 

「ねぇ、ならさ……親父さんの事もう少し聞かせてよ……名取教授でメンタルシステムの作り上げたって事以外で」

 

 

「分かった……分かったから……その代わり寝込みを襲うとか、勝手に設定弄んないでね」と、どっちが女なのか判らない口調にナキはなっていた。

 

 

「はいはい……約束するから……」

 

 

「と言って何回破った?」

 

 

「黙秘権」と私はしらばっくれた。

 

 

「ま、取り敢えず話しますよ……親父は重村ラボの一人で、同じラボに所属していたエマちゃんの両親が作ったコアプログラムを元に作り上げたのがメンタルシステム……正確には、感情等のシステム化及びAIに応用する為に作り上げたんだ。あの茅場先輩ですら、それを越えるものを作れなかったからSAOにこのシステムがそのまま使われた。感情を司る部分を流れる電流を利用して、感情を数値化する技術で、臨床実験込みで使われているんだが、そこに親父は幾つかのユニークスキルを隠していたけど、それは別の話だ。ま、俺が少し詳しいのは親父の酒呑み話に付き合わされたからだし……」私は聞いていて少し引っ掛かる所があったが、ひとまず相槌を打つことにした。

 

 

「それで?」

 

 

「ただ、傍で見ていて分かった。茅場先輩も重村先生も、親父も夢を追っているだけだ」その言葉によって引っ掛かっていたことが疑念に変わった。

 

 

「え? 待ってナキ……親父さん以外の事も何で分かるの?」

 

 

「重村ラボに所属してるから、それは……な?」

 

 

「インテリェ」

 

 

「サナだって同じだろ」

 

 

「そうだけど……」と満面の黒い笑みを浮かべながら含みを持たせながら言うと、ナキはまたしても怯えていた。

 

 

「何か運命必要以上に感じちゃうなー」

 

 

「と言っても俺らが戻れたとしても籍があるかどうかだな」

 

 

「そうね」と私は痛いところを突かれた。

 

 

「まぁけど、話せる内容はここまでだけどな」

 

 

「えー何で?」

 

 

「だって話の在庫切れたし、システムの細部を親父教えてくれなかったし」

 

 

「何かごめん」

 

 

「別に……最初の件以外はな」とナキは完全に冒頭のやり取りを根に持っているようだった。

 

 

「もうすぐハロウィンだね」と私は露骨に話題を逸らした。ナキは、それを気に止めずに

 

 

「最前線が74層だからな」

 

 

「もう2年弱経つんだから早いね」

 

 

「時間の流れは、だな」

 

 

「ナキと結婚して約1年半……現実ならそろそろ、ね?」

 

 

「蒸し返すのは止めろ下さい」とナキに涙目で言われた。

 

 

「別に問題は無いじゃない……現実に干渉する訳じゃないんだし」

 

 

「何で俺……こんな重い子に惚れられて、惚れたんだろ……こ、怖いめぅ」

 

 

「ナキ、錯乱し過ぎじゃない? 大丈夫?」

 

 

「どう見てもサナが原因だよっ」

 

 

「ねぇ、ナキ真面目な話をしよ」

 

 

「はいはい、お断rーって、どうした急にサナ……何かデバフ付けられた?」

 

 

「本当に寝込みを襲おうかなー」と私が嬉々とした笑顔で言うと

 

 

「どう見ても物理なんですが」

 

 

「ねぇ、生きて戻れたらさ……一応会ってくれるよね?」

 

 

「それはね……同じ大学だし会いはしてあげる」

 

 

「それとも名取教授に気に入って貰おうかな……そしたら外堀も内堀も埋められるし」

 

 

「下心丸見えだし……俺は大阪城か、本当に」

 

 

「だってあの時、ナキが私の前にいたから今ここで生きてる……好意を抱いてる相手に助けられて、惚れない女なんていないよ?」

 

 

「重いよー早くログアウトしたいー」とナキは完全に泣き言を漏らしていた。

 

 

「なら何で結婚してくれたのナキ?」

 

 

「だって……そりゃ……サナが好きだし愛してるから……」と顔を赤くしながらナキが言うのでつい逸れた。

 

 

「やっぱりナキって女々しいけど……満更でもない返答だよね?」

 

 

「うっ……うるしゃい……」

 

 

「それでナキとしてはどうなの?」

 

 

「そりゃあ……サナと現実でも夫婦になりたいよ……だって、本当の俺を受け入れてくれてるし……あーもう……こっぱずかしいから……」

 

 

「その返答で10回くらい惚れ直したよ」

 

 

「あぁもう耐えられない……」そう言ってナキは、アロンダイを実体化させて抜剣して切っ先をこっちに向けてきた。

 

 

「反省します……」と私は素直に言うと、ナキから出ていた怒気と一緒に出していたヘイトが薄れていった。するとナキが、

 

 

「どう見ても地雷です……ありがとうございました……」と言い終わると脱け殻のように倒れて眠った。

 

 

「ったく、ナキは本当に可愛らしい……もしナキが女だったら私嫉妬してたよ」私はそんなことを言いながら、ナキに毛布をかけると、今いる場所を見回した。

 

 

 プレイヤーホームを二人で買って、暮らしていた。61層のセムブルグにあるメゾネットタイプの建物ー奇しくもアスナが住んでいるアパートと同じような間取りなのだが、全体的にこちらの方が少し広いーで諸々含めると12Kは下らないのだが……殆どが狩人として狩っていったレッドプレイヤーのアイテム等を処理ー尚、殺されたプレイヤーの遺品だと解るものはアルゴを通して、返せる物は返しているーして得たコルだった。ナキは、余り乗り気では無かったものの、ラフィンコフィンの壊滅による反動で決意した。二人で家具を揃え、なんやかんやしているその日々も楽しかったし、ここから見える景色が好きなので、普通に気に入っていた。アルゴやエマ達もたまに来るので充実していた。

 

 この2年間弱ナキと共に過ごしていて、幸福に似たような感情を抱き続けていたし、ナキと私がそれぞれ負っていた傷すらも互いに受け入れあった。私は、その知能の高さ故に周囲から浮き、対人能力が低かったが、ナキは対人トラブルでトラウマを負って以来本性を見せずに偽りの仮面を付けて過ごしていた、と言っていた。それを聞いた時に、実際に仮面をつけてたの? と聞くと、そっちの仮面じゃないと言われて理解したが、ナキの性格は女々しくて、優しくて、見透かしてくるし、母性強いし、マジレスをよくする人だなと私は思っている。逆にナキに私ってどんな性格かナキに訊くと、地雷で、我が儘で、一人で抱え込んで、悲観的になって、その癖いつも穏やかで、優しくて、甘えたがりやさんと言われたのはいい思い出だ。そうして感傷に浸っていると、ナキが起きた……と言うより寝惚けて抱き着かれていた。完全に寝惚けているようなので、私はそれに乗じて、ナキに対してあれやこれやしていくのだった。

 

 

 次の日、ナキからヘイトを全部擦り付けられて、2回死にかけたのにスキル発動しないギリギリの状態になったのは、仕返しなのかなと思った私だった。

 




何か変なもん拾い食いしたのかレベル更新
多分イエローケーキ辺り拾い食いしたかも
次回サナ病む(いつもの事)と言う嘘予告




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ゲームの終わりと新たな出会い





 2024年11月7日ーSAOがクリアされた日ー私達は攻略に参加せずに疲れを癒していた。そして、その時が来た。ゲームクリアのアナウンスが流れたのだ。私とナキは、既にお互いの現実での情報を交換しており、ただ嬉しさが込み上げてくるのと同時に寂しさを抱いた。だが、それを二人でで生き残ったと言う思いが上塗りしていった。

 

 

「なら、現実世界でねナキ……違うね……貴夜」

 

 

「おう、現実でな……紗奈」と再会の誓いと別れの挨拶をし、互いに眼を閉じて唇を重ね合わせた。

 

 

 そして、再び眼を開けると……そこは見知らぬ天井と懐かしく感じる匂いがした。

 

 

(そう言えば、入院って久し振りだな……小さい頃に病気になって以来か……確かこういう時ってナースコール押さなきゃっと)そう思ってナースコールを力が無いのは事実なので両手で押した。すると、看護婦が入って来て、色々あってその日は終わったが……ナキの事が頭から離れなかった。

 

 

 次の日、面会に来たのは親友である春山叶だった。ただ、叶の口から結構ブラックな事を聞く羽目になったのだが、それは別の話。

 

 

「久し振り、紗奈」と病室に入るとそう声をかけて、ベッド横にあるスツールに腰を下ろすと同時に私は応えた。

 

 

「久し振り叶……2年半振りだね」

 

 

「本当に心配したけど良かった……けどこっちもこっちで大変だったよ」

 

 

「へ?」

 

 

「私さ、公安に入ったんだけど……入って最初の仕事からSAO絡みでさ……とある開発スタッフ達を追うはずが死んでね……その娘である子はSAOに囚われててね……色々と面倒な案件でねー」と表面上は嫌がっていたが、本人は満更でもなくて嬉しそうだった。そして私はその話題に上がっている人物に察しがついた。

 

 

「ねぇそれって〈エマ〉ってプレイヤーじゃない?」

 

 

「何で知ってるの?」

 

 

「と言うかまず、機密事項じゃないその案件?」

 

 

「そうだけど」

 

 

「ま……私が知ってる娘だから良かったけど」

 

 

「教えてもらえるかな……そしたら」

 

 

「けど事情はナキじゃなかった貴夜からの伝言ゲームだし……あっちでエマと実際に話したりした感覚としては悪い子とは思わないけど」

 

 

「ちょっと待って貴夜君って……同級生で、あの名取教授の?」

 

 

「そうだけど……どうしたの?」

 

 

「いや……まだクリアから1日しか経ってないから、差があるのか一向に目覚めないプレイヤーが約300人いて、貴夜君もその1人でさ……って紗奈、どうしたの?」私はその言葉を聞いて、絶望に囚われて涙がこぼれた。

 

 

「ナキ……の嘘つき……絶対目を覚ましたら……ただじゃおかない」ボソッと無意識下に呟くと、それを聞いた叶がギョっとしていた。

 

 

「アグレッシブ過ぎない紗奈……ちょっと恐ろしいよ?」

 

 

「ご、ごめん叶……あっちでさ……貴夜とは結婚していたからさ……その前も含めると約2年間弱一緒に居たから……」

 

 

「と、とりあえず来週には貴夜君と面会出来るように手配しておくからさ、リスカとかしないでよ?」

 

 

「どこの地雷女よって、それは私か……ははは……」

 

 

「ま、とりあえずリハビリを頑張って……私は例の件の処理とかあるから……」

 

 

「あ、叶……私の事はエマにまだ話さなくて良いから……まだ話せてないこともあるし」

 

 

「了解。今週中またどこかで来るかもだから、よろしく」

 

 

「分かった」と私が返事をすると、叶は病室から出ていった。

 

 

 

 

 

 私は医師の判断で周りより遅く退院となった。日程は1月中旬とのことだったので、年明けまでこの病室にいることになるとの事だった。また、叶は医師に伝言を頼んでいたらしく……内容は貴夜がこの病院にいることだったが、医師からはまだ私がリハビリにすら行ってない為、早くても来週以降しか面会出来ないとの事だった。最初の1週間はリハビリやらなんやらで、大変だったし、両親も見舞いに来て、私の話を聞かせてくれと頼まれて、悩みつつも狩人のことも伏せずに話した。それを聞いた両親は見限ることも無く、生き残って、更にパートナーまで見つけるなんてと微笑ましく言っていた。ただ、退院が遅くなる理由は、病弱だったこともあるから仕方ないよと言われたのとは別に、年末年始を一緒に過ごせないのは、残念だけど色々しないといけないことがあるから、気にしなくていいとも言われ少し私は安堵した。ただ、両親の親バカっぷりが凄いと改めてそう思った。

 

 

 ただ私は、そういうことがどうでも良く思えるぐらい、ナキが恋しかった。不器用な優しさでしか表現してこない癖に、不意にそのままで表現してきて、私を守ってくれて、受け入れてくれたナキー貴夜ーがただ恋しく愛しく思えた。

 

 

(……どうしてナキはあんなにも……怖いなんて感情を出さなかったんだろう……私のモンスターっぷりには、怯えていたけど、それすらも好きだと言ってくれるナキの優しさ……うぅ……早く貴夜に会いたい)そんなことを思いつつも、私の心の内で何かが荒んでいくのを感じていた。

 

 

 

 

 

 ついにその日が来た。叶に車椅子を押してもらい、貴夜がいる病室へと入った。そこには未だに眠ったままの貴夜とは別に少し老けた男性がいて、叶がその男性に対してこう言った。

 

 

「名取教授、こんにちは。貴夜君のお見舞いですか?」

 

 

「君は……叶君と呼ぶべきか、公安の方で呼ぶべきか……」

 

 

「名前で構いませんよ」

 

 

「そうか……そしてその娘が貴夜と共に過ごしていた〈吸血姫〉の娘かい?」と訊かれたので、私は自己紹介で返すことにした。

 

 

「はい、そうです。名前は有栖川紗奈と言います。SAOではサナと名乗ってました。貴夜とは同じ高校出身の東都工業大学の学生です」

 

 

「成る程、君が叶君の親友で、しかも貴夜や自分との接点があったとは」すると、叶が私の耳許でこう言った。

 

 

「えっとね、紗奈……一応ある程度のことは話しているし、狩人であったことも知っているから安心して」

 

 

「心配しなくていいよ紗奈君。自分としては、あの貴夜が惚れた娘だから疑念とかを抱いてる訳じゃないし、ここで貴夜を下さいと言われても自分は二つ返事をするしかないからね……叶君も話があるから来たんだろう? 他の場所で話そうか」

 

 

「分かりました。じゃ紗奈、私が戻ってくるまで……くれぐれも変な気起こさないでね?」

 

 

「大丈夫」と私が答えると、叶達は退室し、病室には私と眠ったままの貴夜だけの二人きりになった。貴夜の寝顔を覗くと穏やかそのものだった。ただ、その姿は大人の男性では無く、少女のそれでしかなかった。細い腕と白い肌、長い黒混じりの茶髪……出逢った頃の面影こそあれど中性的と言うよりも女性的な印象を受けた。

 

 

(……時々、ナキは女々しいと言うか女っぽい節があったけど……この外見で言われるとちょっと説得力ありそう……)と思いつつ、貴夜の頬に触れると息遣いと温かみを感じた。

 

 

「……ねぇ、ナキ何処に行っちゃったの……貴夜の馬鹿っ」そんなことを言っても貴夜は、目を覚ますことも無く、私はただ貴夜の頬に手を当てたまま、貴夜を見つめていた。

 

 

 少しして、叶が戻ってきてこう言った。

 

 

「紗奈……どう?」と片手にペットボトルを2本持ちながらせ、傍によって来た。

 

 

「叶ありがと……ほんの少し気が楽になった」

 

 

「はいっ、紗奈はレモンティーで良かったよね?」とキャップを開けた状態で、私に渡してきて

 

 

「ありがとう」とお礼を言ってペットボトルに口をつけた。

 

 

「ねぇ、私の話を聞いてくれる? ……別に貴夜君に触れたまんまでもいいけどさ……別に」と言われ私は言外の意図を察したので貴夜に触れるのを止めて

 

 

「どうしたの?」と訊ねると

 

 

「一応、今私さ……総務省仮想課に出向しててさ……公安と喧嘩別れの形でね」

 

 

「どうしてそうなったの?」

 

 

「エマちゃんの事でね……公安としては駒が欲しいらしくてさ……一応ね、VR規制反対派のお偉いさんの後ろ楯があるからまだお咎め無しでね……」

 

 

「本当にきな臭いね……本音は関わりたくないな私」

 

 

「私だってそうだもん……クロスってコードネームでエマちゃんには接してるし……一応春山家で預かってるんだけど」

 

 

「そう言えば積木ちゃんも被害者だったね……」

 

 

「うん……色々あって押さえ込めているんだけど……何時まで耐えれるかなって……」

 

 

「けど叶、具体的にどれくらいその状態を保てる?」

 

 

「長くて1年半……短くて半年かな」

 

 

「それまでにどうにかしなきゃって事か……」

 

 

「まぁ……ただまだ囚われたままプレイヤーがいるから、それが片付くまでは、どうにかなるとは思う」

 

 

「独り言ってことでいいのよね?」

 

 

「え……うん、お願い」

 

 

「貴夜にも話すべきかもね……狩人をしようと言い出したのも貴夜だし」

 

 

「そうなのね」

 

 

「……どのみち医者とかの話し的に動けるのは1月頃だし、目の前の事をどうにかしないといけないから流せるなら流しておきたいなぁー」

 

 

 結局その日は面会時間ギリギリまで、貴夜の傍にいた。

 

 

 複雑な心境のなかで、少しずつ己の内側が黒くドロっとしたものに変質していくのを感じた。

 ただ、1つ言えるのは、また貴夜と話せて、共に過ごすことはできるはず、と希望を持てたことだった。

 



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一人ぼっちのクリスマス

「はい、紗奈。これ、クリスマスプレゼントっ」と言われ叶からだいぶ大きい箱を渡されたが、 唐突すぎるので、私は少し情報を脳内で整理した。

 

 

 今日は2024年12月25日ー言わずもがなクリスマスーだ。何時ものように叶が病室に来ていた。

 

 

 あの日以降……最低でも週1ペースで来ていて、叶の愚痴を聞いたりしていたのだが、今日に関しては、いきなり大きな箱を渡され私はどうにも出来なかった。

 

 

「どうして私にプレゼントを?」

 

 

「だって、紗奈がさ、VR ゲームやりたいって言ったじゃん……大丈夫、病院に許可はとってるから」

 

 

「でも高いでしょ、これ……」

 

 

「あ、安心してアミュスフィア自体はご両親からだし、ALOは名取教授からで、私は単に配達人なだけだし……」

 

 

 最近変化したことと言えば、貴夜の父親である名取教授と話すことも多くなり、色々教わっていたりしたことや、周りより体重の戻りが悪く、体調が安定してないので様子見も兼ねて、退院が長引いたと言うのが分かったぐらいだ。それ以外は、殆ど変わることがなかった。未だに私は車椅子で移動することが多く、松葉杖へ移行する為のリハビリも相当辛いものだし、ナキが目を覚ますことだって無かった。

 

 

「……奈……紗奈? ……聞いてる?」

 

 

「ご……ごめん叶は……ボーッとしてた」

 

 

「どうせ貴夜君の事を考えてたんでしょ?」

 

 

「…………」

 

 

「図星か……貴夜君の事も含めて仮想課も公安の一部も動いてるから安心して」

 

 

「私さ……貴夜に大分精神的に依存してたみたいでさ……辛いよ……」

 

 

「見ててそれは、察したよ。名取教授も気付いてたみたいだったし……」

 

 

「どう言うこと?」

 

 

「あの愚息が、そこまで信頼されてて、愛されているってことが良く分かったって言ってたから……ぶっちゃけると、紗奈がそんな様子だから、入院延長されてるんだから……それ以外の理由でそう簡単に決めれることじゃないんだし」

 

 

 どうも私は無意識下で、それを外へと出していたらしく、精神的にかなりに弱っていると言う客観的でもあり、主観的な意見に医師達も辿り着いたらしい。狩人行為に関してはカウンセリングの必要無しと言う判断になったらしい。まぁ……精神鑑定以前に私は精神衰弱状態なので、まず考えられなかったらしい。後々両親から聞いたのだが、幼少期から既にその片鱗を見せていたらしく、元々小学校から一貫校で、女子校ー俗に言うお嬢様学校ーに中学まで在籍していたが、高校進学の際に私の我が儘で共学の高校に行くのを許可してくれたのも、引きこもり気味な状態や精神的な危うさが改善するんじゃないか、と期待を込めてだったらしい。

 

 

「ま、貴夜君は変に掴み所と言うか、何処か芯がなさそうな人だったからね……モテることは無かったけど、教師陣からはそこそこ好評だったらしいよ……少し事務的な面もあったけど対人能力の高さは詐欺師とトントンだもん」と叶は言いながらも、何処か疲れている表情だった。

 

 

「大丈夫、叶?」

 

 

「え? ……いやうん、面倒事がこんがらがって、手が付けられなくてね」

 

 

「きな臭い事案ってことが良く分かったから、変に首は突っ込まないよ?」

 

 

「公安でも強硬派がね……エマちゃん達の処遇について不満を募らせてるの」

 

 

「放置しかないんじゃないの?」

 

 

「そうよね」

 

 

「……けど叶ありがと……このプレゼント」

 

 

「私はただ渡しただけ、だけどね」

 

 

「少しだけ気が楽になったのは事実だもん」

 

 

「なら良かった……ってもうこんな時間……紗奈また今度ね

 

 

「またね、叶」

 

 

 

 

 

 叶が帰ってプレゼントの包装だけ開けて適当な場所に置くと、親に持ってきてもらっていた愛用のノートPCの電源をいれて、ブラウザを立ち上げた。

 

 

「取り敢えずALOについて調べてみよっと……」

 

 

 ALOー正式名称はアルヴヘルムオンラインと言うらしいーの運営はレクトプログラムで、SAO事件から約一年後に発売されたタイトル。様々な妖精族から自分の種族を選べて、どスキル制。本筋のクエストとなるグランドクエストが存在し、その舞台は央都アルン。グランドクエストの難易度は無理ゲーの域。そして完成度はSAOと同等レベル、と私は調べて分かった結果を脳内でまとめた。

 

 

「ある意味考え物だなぁー...QoL云々って言われると質は良いとは思うけど……やっぱりするなら貴夜とだなぁ……」と私はポツリと呟くと、己の感情が、ぶり返した。涙と怒り以前に、溢れてきた感情は愛しさと虚しさだった。貴夜が居ない、と言うただそれだけで、心の喪失感は物凄いものだった。だって貴夜が戻ってくる、という保証は無いのだから…………。

 

 

 後ろ向きな感情に陥りながらも、私は眠りについた。

 

 

 

 

 

 変な夢を見た。SAOで過ごした約二年間を……ナキと再会したあの日、狩人として戦った日々、セムブルグで過ごした甘い日常、そして私の隣にはナキがいた。カッコいいナキ、女々しいナキ、優しくハグしてくれたナキ……その全てに私は惚れていた。その気持ちにわざと気づかないフリをして、焦らしてきたナキの笑顔ですらだ。そして夢の中で、私はナキに言った。

 

 

「私の道化師……いや天使さん」と優しく、ただ粘着的な言い方で……

 

 

 そして、気付けば何故か景色が変わった。巨大な樹の内部にあるSFチックな設備とナメクジのような何か……そして水槽のようなものに浮かぶ脳がい……それらの前に立ちはだかる大量の敵とそれに立ち向かう妖精の戦士達の姿が見えた。そして捕らわれている貴夜達の姿が顕れて、私は右手を差し出そうとして、夢から醒めた。

 

 

「何で私……泣いてるんだろう……よく思い出せないけど……巨大な樹と妖精……うっ……頭がっ……」

 

 

頭に痛みが走ったが、その2つのワードだけが強く残った。

私は既に鍵を握っていたのだから……




このあと紗奈達の高校生時代のお話をあげる予定
本筋のストーリーの次回予告は
ナキ陥落と言う嘘予告


















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目覚め

 不思議な夢から約1ヵ月……1月22日の深夜、私の携帯に1本の電話が来た。

 

 

 その電話の内容を話す前に、退院するまでとその後の事を私は、振り返った。

 

 

 昨年末はリハビリがメインで結局プレゼントを使うことが無く、年が明けると私はただリハビリに励んだ。貴夜が目を覚ますまでに、生活できるレベルまで復調してやる、と言う不純な動機を持ったからだ。

 

 

 それは1月中旬まで続き、どうにか松葉杖で歩けるまで回復したので、退院となり私は我が家へと戻った。私の部屋の家電が一新されたが、流石に音声コマンド機能はなかったものの、手元の携帯で操作が出来るようになっていたのには、驚いた。

 

 

 また、貴夜とのこともあって名取家とも家族ぐるみの付き合いとなったし、実質的に貴夜の堀を全部埋めて、後一押しで落ちる状態になった。

 

 

 大学に関しても、名取教授の言葉添えで、私も正式ではないものの重村ラボの実質的なメンバーとなった。

 そんなことを思い出しつつ、電話をとった。

 

 

 時間帯が深夜だったので、流石に病院に今から入ることは出来なかったが、その代わりに翌日の面会時間最初に、私は叶と共に貴夜の病室へと乗り込んだ。

 

 

 私が軽くノックをすると、

「はい、どなたですか?」と貴夜が訊いてきたので叶が

 

 

「仮想課の者です」と半分嘘を吐き

 

 

「どうぞ、入って下さい」と貴夜が言ったので、私は

 

 

「失礼します」と言葉通りの意味で入ると、そのまま貴夜に近付き抱き着いた。流石の貴夜も固まったが、軽く唸って抗議して来たので私は少し離れてこう言った。

 

 

「お帰り貴夜……この嘘吐き」の冗談混じりに言うと

 

 

「皮肉なら帰れ……こっちは現状把握なんてろくに出来てないのにさ……阿呆紗奈」と仕返しが飛んで来た。

 

 

「こほん……ちょっと二人共夫婦喧嘩は私がいないところでお願いね……こっちの身になれって話よ」と叶が咳払いと共に嫌味を言うと

 

 

「ん? 春山さんか……見たところ出向?」と貴夜が見透かすと

 

 

「正解……一応軽く話をと思ってね……後はそこの人を抑えることが出来るのが私しかいなかったのもあるけど」

 

 

「何となくだが理解したけど……幽閉されてた間の記憶は無いよ」

 

 

「分かった……なら仮想課としてのわたしの用は終わり」と叶は言った。

 

 

「仮想課のって事はまだ本題があるのか……」貴夜が苦笑しながら言った。

 

 

「高校時代2年間の関わりしか無かったけど、貴夜君本当に恐ろしいよ」

 

 

「そう言ってもらえた方が助かるよ……何で紗奈はここにいるんだよっ」

 

 

「何でって、お寝坊さんを怒りに……後報告にかな」と私ははにかみながら言うと

 

 

「この状態で良いなら……ご自由に」と素直にと言うより諦めた物言いだった。

 

 

「この馬鹿っ…………そんな貴夜にはこうよっ」と言って私は貴夜の唇を強引に奪った。叶がいようとお構い無しにだ。

 

 

 そして少し長めの接吻を終えて、私はこう続けた。

 

 

「ねぇ……貴夜……結婚前提に付き合ってよ……大丈夫、安心して両方の親の許可は下りてるからさ」と爆弾を落とした。言うなればツァーリボンバ級の爆弾を、だ。

 

 

「寝てる間に、堀どころか天守閣まで落とされていやがった……」と毒づきながら貴夜が言って、少し間をおいてこう続けた。

 

 

「こんな俺を好きでいてくれるなら……喜んで」と答えてくれた。本当なら抱きつく流れなのだが、叶の咳払いで甘ったるい空気が元に戻ったので、流石に自重した。

 

 

「イチャつくなら、私の居ないところでお願い」と叶に言われたので自重したところで、かもしれなかった。

 

 

「すまん」と貴夜が軽く謝り

 

 

「覚悟はしていたからいいけど……本題に入ってもいい?」

 

 

「あぁ」と貴夜が返事をした。私はある程度話す内容を知っているので、貴夜に抱き付こうとするのを頑張って堪えていた。

 

 

「出向元は何処か分かる?」

 

 

「司法関連か?」

 

 

「まぁ、一応当たり……公安だよ……変なところで読み間違えるのも高校時代から変わらないね」

 

 

「言わずもがな国家か……あと、最後の一言は余計だよ……気にしてはないがな」

 

 

「ええ……貴夜君、エマちゃんは知ってるよね?」

 

 

「それがどうした……もしかして……」

 

 

「今うちで預かっているけど、そのもしかしてだよ……一枚岩じゃないからね」

 

 

「処遇か」

 

 

「そうよ……ぶっちゃけ駒が欲しいの公安は」

 

 

「それで、エマちゃん達をそうする流れだが、そうしたくないのか……」

 

 

「そう言うこと、それでお願いがあるの」

 

 

「駒になれ、か……」

 

 

「その通りよ」

 

 

「OKだ……エマちゃん達よりも俺らが適任だ」

 

 

「ありがとう、助かる」

 

 

「俺からしても、エマちゃんは姪と同然だからな……仲違いするのは藪蛇過ぎる」とナキの口からはじめてエマに対する思いを聞いた。

 

 

「良かった……貴夜が乗り気で……でもその姿、下手したら女の子だね貴夜」と私が言うと

 

 

「知ってる……だから長い髪は嫌なんだよ……そっちの気は無いし……」

 

 

「まぁ、取り敢えず私はこれで失礼するから……またね紗奈、貴夜君」と叶が言うと

 

 

「おう、また」 「またね叶」と私達がそれぞれ答えると叶は病室を後にした。

 

 

「それでお医者さんは何て?」と私が訊くと

 

 

「退院出来るまで、早くて2週間って」

 

 

「早すぎない?」

 

 

「車椅子ならそれぐらいで可能と言われたからそれでお願いしたよ」

 

 

「これから大学も一緒に行けるし、二人っきりの時間も増えるね」

 

 

「この際言うけど、満更でもないし、抵抗は殆どしないよ、愛しの吸血姫さん」と貴夜がおちょくってきたので

 

 

「うるさいっ……この天使がっ」と私が言い返して、二人で笑った。

 

 

 そうして波乱とは言い難い日々が始まったのだった。

 




次回ナキ完全復活と言う嘘予告





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元商人と父親

貴夜は正味12日と言う早さで、松葉杖で歩けるようになるまで回復した。まだ体重等は戻ってないらしいが、半日程度までなら松葉杖で行動出来るし、家以外では私が傍に居るので車椅子でも移動可能なこともあり(貴夜本人は自分で車椅子を動かせるのだが)、医師から無理をしないことと経過が悪い場合再入院になるを強く言われて退院した。

 

 

 快気祝いにと叶に連れられて〈ダイシー・カフェ〉へ足を踏み入れた。入ってみると、落ち着いた雰囲気の店内で、客足はそれ程のレベルなのだが、叶が言うにはこのカクテルが美味しいとのことで、楽しみにしていた。ただ、入った時間が夕方でまだ少し早かったが、思わぬ人物と再会した。

 

 

「いらっしゃい」と堂々とした体躯にスキンヘッドの男性が声をかけてきたのだが、貴夜が気付いてその男性にこう訊いた。

 

 

「あの、すいません、間違っていたら失礼ですけど、もしかしてエギルさんですか? 斧使いだった……」

 

 

「あぁ、間違っていないが、もしかしてお客さん元SAOプレイヤーか?」

 

 

「はい、その通りです。そしてお久し振りです、エギルさん。ナキです、覚えてませんか?」

 

 

「あぁ、覚えてるとも、真っ白な狩人の盾持ちだろ?」

 

 

「えぇ、そうです。そして、こっちがサナです」と貴夜が代わりに私を紹介した。

 

 

「エギルさん、お久し振りです」と私も一応挨拶すると

 

 

「本当に……攻略組のプレイヤーは美人が多いな……」とエギルは嘆息混じりに言った。

 

 

「クラインさんが聞いたら、泣きますよ、いろんな意味で」と私が皮肉混じりに言うと

 

 

「まぁそうだな……それでそっちの人は……」

 

 

「この人は叶って言って、自分達の共通の知り合いで、ここに行こうと提案してくれた張本人です」

 

 

 とエギルが言おうとして貴夜が途中で遮るように言った。

 

 

「成る程ね……それで何にするんだ?」

 

 

「私達一応カクテルが目的で来てるけどエギルさんおすすめは?」と私が訊くとエギルが幾つかのおすすめを教えてくれたので、それらを注文すると

 

 

「OK、なら待っていてくれ」と答えてエギルは奥に入っていった。

 

 

 その後、料理とカクテルを三人で楽しみながら過ごした。エギルからは今度ここで74層の攻略とSAOクリア記念パーティーがあって、キリト達とも私達は関わりがあったので、誘われたので参加すると即答した。思いもしなかった収穫にホクホクした状態にもなったが、明日は貴夜が私の家に来るので私と貴夜は飲み過ぎることなく帰宅した。

 

 

 

 

 

「ただいま」と俺は玄関で靴を脱ぎながら言うと

 

 

「貴夜か……」と親父が出てきた。

 

 

「親父こそどうしたのさ」

 

 

「いや、少し話したくてな……荷物とか片付けたらリビングにこい」

 

 

「分かったよ」と答えて、自分の部屋へと俺は先に上がった。

 

 

 名取家は6LDKの2階建ての一軒家で、2階に自室と親父の書斎がある。松葉杖がなくとも支えさえ有れば階段も登れるし、リハビリを兼ねているので、苦に思ったことはあまりなかった。

 

 

 自室に入ると、綺麗な状態のままだった。元々机にデスクトップPCとベッドと本棚、クローゼット等があるぐらいの部屋で、物の量に対して片付いているのだがAMTオートマグⅢのモデルガンが置かれているので、一応年相応の部屋に言われれば見えなくもない部屋だった。

 

 

 貴夜はバッグを直して上着をクローゼット中に仕舞い込むとリビングへ移動した。

 

 

 親父は酒を飲んでいたが、入ってきた自分に気づくと

 

 

「貴夜、ここに座れ」と言われたので俺は、言われた通りに親父の正面に座って、親父が酒を俺のコップに注ごうとしたので

 

 

「親父、俺は酒は要らないから」と肴のみに手をつけて、コップにはお茶を注いだ。

 

 

「そういえば、明日貴夜はご挨拶に行くんだったな、そしたら酒を勧めるのはアウトだな、父さんと同じく中途半端な酒の強さだからな……二日酔いはくるものがあるからな」俺は、そう言う親父に対して話題の転換を謀った。

 

 

「てか、母さんは?」

 

 

「もう寝てるよ……貴夜を殺しかけたって事実もあって少し居づらそうだがな」この親父の発言から判るように、SAOに囚われたあの日外部の干渉によって亡くなったプレイヤーの一人に俺もなっていた可能性があったのだ。ヒステリックを起こした母さんが、囚われた俺を助けようとしてナーヴギアを外そうとしたところを帰って来た親父に止められて事なきを得たが、母さん自身も脳に電流を流す機械を無理矢理外そうとするのは危険だと理解していたが、我が子を殺しかけた事実を前に精神的に参っている状態に母さんはなっていた。だが、俺自身は怒ってないし、心配してくれていることを理解しているので、

 

 

「別に死んでないし、俺は怒ってないし、心配してくれてるってことは理解しているよ」と自分が思っていることをそのまま言った。

 

 

「貴夜……お前……ただ何か変わったな」

 

 

「異常者とでも言いたいのか?」と少し毒づきながら言うと、

 

 

「いや、逆だ。何処か他人行儀だった貴夜が、素を少しだけ見せるようになったからな……紗奈君のお陰でもあるんだろうが……」

 

 

「それあるけど、折り合いがついたってのもあるし、狩人してると尚更素に戻っていったし……」

 

 

「まぁ、罪滅ぼしに隠しておいたデータも功を奏していたようだから……満足だよ」

 

 

「メンタルケアシステム……あれは最早オーパーツじゃないのか?」

 

 

「貴夜が理解できればそうならないから、否だ」と親父が答えたので本当に訊きたかったことを訊いた。

 

 

「んで、論理コード……あれは何目的だよ」

 

 

「知らん……茅場君に訊いてくれ」と完全に空振りだった。

 

 

「死人に口無しかよ」

 

 

「何だ、実際に試したのか?」

 

 

「んな訳ねーだろ」

 

 

「本当に貴夜は朝陽はともかく、紗奈君以上に乙女っぽさが変な所にあるな……いったい誰に似たんだか」

 

 

「うるさいなぁ……生きて帰るのが前提なのに、そこまで現を抜かす余裕なんて無いし……後あの馬鹿朝陽と比べるなっ」

 

 

 そう言うと親父が一呼吸置いてこう言った。

 

 

「そしてどうする、紗奈君とは」と訊かれ、丁度お茶を飲んでいた俺は盛大にむせた。

 

 

「ゲホッ……どうするも……結婚する気ではあるよ……ただ忙しいし、学生結婚はな……」

 

 

「早く籍を入れるんなら入れてほしいんだがな……別に収入源はあるんだろう?」

 

 

「有りはするけど……ガラクタだよアレは」

 

 

「データ判別・整理システムがか?」

 

 

「あぁ、だって誰かさんが失敗作って言ったやつを手直しして、botに学習させただけだし」

 

 

「AIでは無いのか」

 

 

「AIっつーよりシステムだからさ……と言うか公表したのかアレを?」

 

 

「知り合いの会社に持ち掛けて、代理でしてもらっている、無論こっちに入ってくる額の9割は貴夜のものだ」

 

 

「そうか……」と俺は上の空で聞いていた。

 

 

「けど親の時より早く相手を見つけて、一応同棲してるんだ……どうだ、大学の近くの適当な物件で紗奈君と暮らすのは」これは流石に吹き出してしまった。それを見た親父は、はっはっは、と笑ったので俺は察した。

 

 

「親父さては酔ってるな……もう寝てくれ片付けとくから」と言うと

 

 

「そうか、ならお言葉に甘えさせて貰おうか」と言って親父は寝室へ入っていったので、俺は食器やグラスを軽く洗って食洗機に突っ込んだ。

 

 

 そんなことをしながら、ふとナキの名前の由来を思い出した。名取貴夜から苗字と名前の頭文字を1文字ずつ取ってナキなのだが、知り合いからナキールはイスラム教の天使の名も元にしているんだろ、と言われ否定しなかったのだが、ナキールと言う天使は死後、人間を尋問して罪などを調べる……ある意味、浄瑠璃鏡の役目を果たしている天使の片割れらしく、青い魔眼を持つ黒い天使で、懲罰天使と呼ばれている、と言うのをSAOに囚われるよりも大分前に聞いたのを思い出した。……とは言っても親父の風刺のきいたスキル名に笑いたくなったのは事実だが、使っていて愉しかったのも事実だ。サナの場合は本来吸血鬼なのが、ヴァンパイアプリンセスの吸血姫になっていたので、原典となったのは多分カーミラ辺りだろう……といつの間にか、考えても埒が明かないので、自室に着替えを取りに行き、シャワーを浴びて寝た。

 

 

 明日予定されていることに緊張しつつも、どうにか眠りにつけて夢で、SAOβテストが始まる前の事を見た。親父から誕生日プレゼントとしてナーヴギアとβテスターの参加資格を貰い、母さんからはSAOのソフト自体をプレゼントとして貰って、正直嬉しかった。

 

 

 そして気付いたら場面は、アインクラッドに移っていた。サナと過ごした時間以上に、中層以降、共に戦ったアロンダイとシールドオブアイギス……それがもう自分の許に無いと言う事を自覚してからは少しショックだったが、アロンダイの原典はアーサー王伝説の円卓の騎士ランスロットのアロンダイト……盾の方はアイギスの大盾……アイギスの名前自体は鎧の名称だが、メデューサの首が埋め込まれた盾で間違いないだろう。

 

 

 ならばサナが言っていたが、ALOにもあるんじゃないのかと思うし、裏付けとなる理由だって一応ある。二人でALOにダイブする予定だが、種族を選ぶのに少し迷っているが、サナに結局合わせるので、闇妖精族を選ぶだろうが、サナが言うには紫メインの感じだったらしいが、サナの事なので事前に入念な下調べをして選んだんだろう……と夢の中で考えを纏めた。

 

 

 

 

 

 次の日の朝……少し二日酔いの頭痛に悩ませながらも、覚醒を促すためにウトウトしながらもアイスコーヒー(本人としてはブラック)を胃に流し込んだのだが、やけに甘かったのでパッケージを見ると砂糖入りだった。思い違いで済んで良かった……朝から両親がイチャついてるなんて惨状では無かった。変なところで安堵しつつ、朝支度を済ませて有栖川家に向かった。車と免許証も持っているのだが、医者から控えるよう言われているし、距離が距離なので使っていない。ただ、念の為に途中で紗奈と合流した。

 

 

「おはよう、紗奈」

 

 

「おはよう、貴夜」と、はにかみながらも、やけに服をアピールしてきたので

 

 

「似合ってね服」と簡単に褒めると左腕に捕まってきて

 

 

「貴夜も似合ってるね……私より回復速いってのは妬きそうだけど……」

 

 

「変なところで対抗心燃やすなよ……と言うか紗奈免許証持ってなかったのか……」

 

 

「ほぼ引きこもりに何を期待してるの」と自虐気味に言ってきたので可愛らしいな、と思ったが、頭痛が走って顔をしかめると

 

 

「貴夜、大丈夫?」

 

 

「てか、ちょっと頭痛がな……久しぶりに飲んだからかな……」と答えると

 

 

「知らない」としれっと返してきた。紗奈は俺とは違って結構酒に強いので、この気持ちは分からないだろうが……

 そんな他愛の無い会話をしながら、倍以上の時間をかけて歩いていくのだった。

ていくのだった。




次回駄目だコイツら早くなんとかしないと、と言う嘘予告







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番外編 二人の高校時代

 エスカレーター式のお嬢様学校からそこそこ難しい公立の共学へと入学して早2年、私は親友と再会した。

 

 

「久し振り紗奈」

 

 

「久し振りだね叶」とHR終わりに転入してきた親友と挨拶をした。

 

 

 彼女の名前は春山叶、私が前にいた学校からの親友で今日転入してきた。

 

 

 私は一番後ろの窓際で、叶はその左隣の席だ。

 

 

「私の左隣の名取君ってどんな人?」

 

 

「静かで一応優しい人だよ……けど、どうしたの急に?」

 

 

「いやあんまり男の人と授業受けるのまだ慣れてないから」

 

 

「一応モテそうなんだけど外見がね……」

 

 

「あー言われてみれば納得かも……」

 

 

 話題に上がっている人物の名前は名取貴夜と言い、昼休みになるといつも図書室にいて、その為か図書委員を押し付けられている。私は余り与太話をしたことが無いが授業で話したりするときこちらにペースを合わしてくれるので、外見も相まって女子の間では恋愛対象にはならないけど、話しやすい異性ともっぱらの評判だ。

 

 

「ねぇ、紗奈って気になる人居ないの?」

 

 

「正直に言うけど笑わない?」

 

 

「笑わない」

 

 

「ゲームでだけど気になるというか……好意を抱いてる相手はいる」

 

 

「えっ……出会い厨?」

 

 

「違うもん……けどその相手の人の声に聞き覚えがあるし……」

 

 

「他人の空似でしょ」

 

 

「だよね……と言うかこんな時間じゃん……次移動教室」

 

 

「とりあえず案内よろしくね紗奈」

 

 

「はいはい……」と私は余り気が乗らないまま次の授業の準備と移動をした。

 

 

 大して面白くもない授業を受けて睡魔との戦いをどうにか制しつつ、平常点稼ぎをしていた。いかんせんお爺ちゃん先生の授業は眠気が来てしまう。なんなら昨夜は好きなプレイヤーと一緒に高難易度クエに挑んで三時間しか眠れてないので尚更だ……美容と健康の為に今の生活を改善する気は更々ないのだし……そんなことを考えられる程度には睡魔が落ち着いた紗奈だったが、窓際の席に座っていた貴夜が眠そうにしていたのは気づいていなかった。

 

 

 紗奈の意中の相手は、十中八九貴夜だったが本人たちが知るのは、当分先のお話。

 

 

 幸い今日は半ドンー学校が午前中のみの日ーだったが午後から色々ある日だったらしく学食も開いていたが、弁当を持ってきていたので関係なかった。私は叶を連れて天気のいい日に弁当を食べている屋上へと向かった。

 

 

 この学校は屋上への立ち入りは禁じられていないが、それほど落下防止柵が高くないので多少制限されてはいるが、私達には関係無かった。ベンチに私達は腰を据えて、私は周囲を見た。ただ、私達以外にも屋上に先客は居たようだったが、それほど気にせずに持ってきた弁当に箸をつけた。

 

 

「紗奈ってさ……もしかしてこの学校に友達いたの?」と叶から急に強烈なストレートが飛んできた。

 

 

「ぐっ……」

 

 

「当たりか……まぁ、分からなくはないよ……容姿端麗、頭脳明晰で下心があると近寄りがたいオーラがあるし」

 

 

「別に……最初の頃みたいに引きこもっている訳じゃないし……一応クラスで気にかけてくれてる人もいるし」

 

 

「クラスの委員長とその取り巻きと去年一緒の図書委員だった名取君」

 

 

「本当に名取君ってクラスでの立ち位置どうなってるの?」噂をすると影と言わんばかりに屋上に貴夜とその友人が入ってきた。すると、貴夜の友人の方がこちらに声をかけてきた。

 

 

「あ、有栖川さんに春山さん奇遇ですね」完全に下心が透けていた。

 

 

「おい馬鹿……ほらいくぞ」と貴夜は面倒な状態になったと言わんばかりに呆れていた。

 

 

「そう言えば名取君、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」と私はスマホの画面を見せた。

 

 

「あー、今回のイベントのこと?」

 

 

「うん……その特効キャラが居なくて、借りたいんだけど……名取君とフレンドなってなかったから……持ってたらでいいんだけど」

 

 

「一応持ってるしフレンドの空きが有るからいいよ、取り敢えずコードこっちで打ち込むから教えてもらえる?」

 

 

「ちょっと待ってて」と言って貴夜にコードを教えて私はリクエストを承認した。

 

 

「ねぇ紗奈、名取君達と話したいから一緒に食べていいかな?」と叶が言ってきたので、そのまま貴夜に訊くと

 

 

「この馬鹿優がやらかさければ俺はいいんだけど……後は有栖川さんが良ければだけど」と答えた。今更ながらだが貴夜の友人の名前は、山崎優と言う名前のわりに端正な顔立ちなので、腐っている人達ならそそるのだろうが、私達には無縁なので関係無い。

 

 

「貴夜までそう疑わなくていいだろう」と優の泣き言で多少貴夜も判断できたようで

 

 

「なら後の判断は有栖川さんに任せるよ」と言った。

 

 

「親友の頼みだからね……今回は譲歩するよ」それを聞いた叶は少し嬉しそうだった。

 

 

 その後、貴夜達も交えて談笑しつつ、お昼を食べたのだった。

 

 

 

 

 

「ったく……あんまり心臓に悪いことすんなよな」と俺は溜め息混じりに隣を歩いている優に言うと

 

 

「いやー高嶺の花が揃うとああもなるんだな、免疫のない奴ならイチコロだろ」と、どうも悪びれた様子が一切無い物言いだったので、脇腹に軽く一撃をいれてやった。

 

 

「痛ぇって……事実言っただけでこの仕打ちはねぇぞ……」

 

 

「そりゃあ、美人の姉に可愛い妹がいる優はそうだろうが……と言うかなお前ぇの場合何でそうナンパに走るかな……」

 

 

「……てか貴夜も姉は居るだろ? あぁ……後な、姉貴がな、また貴夜借りたいって言ってたぞ」

 

 

「俺の姉は話題に出さないでくれ……お前に対してさっきの以上の一撃だけで済むか判らない」

 

 

「おぅ……すまない」

 

 

「後なお前の姉にこう言っといてくれ、それ相応の対価なら考えるって……何が悲しゅうて女装せなならんのか、マジで泣きたい……」

 

 

「こっちなんて姉貴に着せ替え人形やらされるわ、妹にパシられるわで泣きたいよ」双方のSAN 値が結構削られて虚しく会話の話題が転換された。

 

 

「てか俺もさっきのソシャゲ始めようかな……」

 

 

「止めとけ、あれはキャラ引けないと駄目だから」

 

 

「てかさ……貴夜が最近ガチってるゲームさ、どううのさ」

 

 

「いつもパーティー組んでる人がさ女性でさ……まぁ……何だよその目、言っておくけどそう言う気はないぞ?」

 

 

「貴夜の事だから分かってるって」

 

 

「ならいいけど……まぁその人結構センスがいいんだよ、それこそ壁無しで高難易度を回れるレベルで」

 

 

「貴夜のセンスもあるだろ? ……て言うかC〇Dのさランクマ手伝ってくんね?」

 

 

「フルパ組めないのか? 優のレベルなら引く手あまただろうに」

 

 

「面倒な奴らに会わないって訳じゃないからな」

 

 

「まぁ分かったけど……期待するなよ」

 

 

「いや、キルレ1切ってなければ文句言わねぇから」

 

 

「そうか……けどナイファーすんなよ?」

 

 

「お前に言われたかねぇよ」

 

 

「なら急ぐか」

 

 

 そうして貴夜達は殺戮を楽しむのだった。

 

 

 その二人がSAOで真実を知るのは、まだほんの少し先のお話

 




一応書き上がったので投稿

次更新するのは本編の予定


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親バカ

  道中の紗奈との会話は殆ど記憶に残らなかった。何故ならその後の出来事のインパクトの強さが原因なのだが、二人共、家柄が家柄なのでー解りやすく言うと金持ちの家ー身構えた上での事だった。

 

 

 事実、貴夜も紗奈も対人関係でトラウマを抱えている。ただ、原因と結果が違うだけであって、紗奈はその知能の高さ故に、周囲から浮き陰湿なイジメを受けていた。それによって引きこもりがちになり、他人と関わろうとしなかったことに対して自分は見透かして言うことが多いからか、揉め事になりやすかったので、己を偽って過ごしていた。とは言っても死地を共にすれば、些細なことに過ぎないのでわらえる……そんなことを貴夜は道中考えていた。

 

 

 

 

 

「「いらっしゃい貴夜君」」と紗奈の両親に出迎えられた。必要以上に受け入れられてる感が凄く、作っていた顔が崩れて、それを取り繕うのも束の間、言われるままに居間に通された。隣に紗奈、対面に紗奈の両親が座る、と言う完全にあの流れでしかなかった。

 

 

「貴夜君、そんなに緊張しなくても……別に私の事を義母さんって呼んでいいのよ?」と有栖川母にドギツイ冗談に対して紗奈が

 

 

「ママもパパもさ……私の貴夜がこまってるじゃん……ジョークにも程があるよ」と多少引っ掛かる部分がありはしたが、形的には止めてくれた。

 

 

「貴夜君、別にそんなにかしこまらなくても、娘を下さいと言わなくていいよ、こっちから上げたいレベルだから」と有栖川父の冗談としか受け取れないマジレスを喰らった。

 

 

「いえ、御挨拶にはどのみちしに来なければいけかったのと、紗奈に対しても約束していましたから」と切り返すと

 

 

「なんと言うか、ウチも俗に言う名家だからね……紗奈が選んだ相手なら多少見極めて判断するけど、そんなことしたくなかったが、相手が名取さん所の息子って知った時は、嬉しかったよ……結果的に体裁もよくなったからね……ホントにこんなことに縛られてる自分達はどうかしてるよ」と有栖川父が苦笑しながら言った。

 

 

「けど、貴夜君も紗奈も学生だけど、紗奈も稼ぎは一応あるのを私も知っているからね、籍をすぐにでも入れて貰っても構わないしね」

 

 

「ママの言う通りだけど……貴夜君は将来のビジョンはあるのかい?」

 

 

「ええ、一応は」

 

 

「良ければ教えてもらえるかい?」

 

 

「勿論です、親父のメンタルシステム関連をさらに進めるか、それを利用したトップダウン型AIを作れればと」

 

 

「大学に進んだのもその理由が?」

 

 

「いえ、最初はそんなにでしたが、SAOに囚われてから、その思いが強くなりました」

 

 

「負の感情に惹かれたのかい?」

 

 

「いやその逆で、信頼と言う曖昧な事を数値化して、感情と言う人格の元となるシステムをこの手で再現したりしたい、と」

 

 

「なら安心したよ、君が言う程異常者じゃなくて、理性の強い人だと言うのが良く分かった。それと、言うのが遅くなってしまったが、うちの娘……紗奈を助けてくれて……いや救って守ってくれてありがとう」と有栖川父が言った。

 

 

「いえ、紗奈が隣に居てくれたから帰ってこられたので……」

 

 

「僕達は心配していたんだよ、娘が壊れてしまったんじゃないか、かえってこないんじゃないか、とね」

 

 

「はぁ」と相槌とは言い難い返事をした。

 

 

「だが貴夜君なら安心して紗奈を任せられるってことが、話して良く分かったから……僕達は、流石に失礼させてもらうよ」

 

 

「パパとママは、ここにいていいから……私達が上にいくからさ」

 

 

「なら、飲み物を一緒に持っていきなさい」

 

 

「ありがとママ、貴夜行こ」

 

 

「あ、うん分かった。失礼します」と紗奈の両親に軽く頭を下げて、紗奈の部屋へと移動した。

 

 

 女子の部屋と聞くと落ち着かないのは、当たり前だがそう言うのとは無縁すぎる生活を今まで送っていたので、とてつもない緊張が襲ってきていた。

 

 

「貴夜、ここが私の部屋ね……突っ立ってないで入ってよ」と紗奈に言われて足を踏み入れて、部屋を見て少し安心した。何故なら紗奈の部屋もオタクっぽさが多かったので、多少年頃の女子らしさを中和してくれていたし、自分と同じだな、と思ったからだった。

 

 

「やっぱり紗奈もオタクだよな」

 

 

「当たり前じゃん、友達だって少なかったから、必然的にのめり込んでたんだし」

 

 

「なんだかんだ良いPC使っているし、女子と言うよりオタク女子感が凄いよね……ってあれってM1911?」と飾られていてメタリックブルーに塗装されていた拳銃に目がいった。

 

 

「そうだけど……普通制式名で言う?」

 

 

「コルトM1911ガバメントだろ……紗奈も、もしかしてそっち系好きなの?」

 

 

「ゲームしてたら一目惚れしただけ……貴夜にも、この銃にも」

 

 

「自分の部屋にもあるけど、AMTオートマグⅢだからな」

 

 

「物好きって事は良く解るよ」

 

 

「引かないのか?」

 

 

「私だってそれは……ねぇ?」

 

 

「だな」と言外の意図を理解すると

 

 

「まさかALOがSAOのシステム流用だなんて、須郷やってるよ……あの人、茅場より酷い」と紗奈も多少憤慨しているようだったので、少し矛を収めて貰うために、こう言った。

 

 

「紗奈、今日の夜さ……」

 

 

「なぁに?」と少しはにかんで返事をしてきたのだが、考えていることが透けていたので、無視してこう続けた。

 

 

「せっかくだからALOをやろうと思うんだ……また相棒と会えるなら会いたい」

 

 

「まだデータすら引き継いでないでしょ? 種族とかどうするの?」

 

 

「紗奈と同じがいいからさ……レクチャーもついでに、な」

 

 

「私は別に良いけど……そう言えば貴夜、〈吸血姫〉が残ってたの」

 

 

「マジか……」と俺が感慨深そうに言うと

 

 

「あ、あとPKも許されてるらしいし、慣れてきたらまた狩人も出来るね」

 

 

「俺達からしてみれば死んでも良いゲーム何てぬるすぎるな」

 

 

「そうね……とりあえず、隙ありっ」と紗奈に押し倒された。手負いに対しての扱いにしては、あれすぎる、と心の内で思っても、力はまだ紗奈の方が強いので、ジタバタするのが精一杯だったが、ただ押し倒されただけだったので、少しだけ安心していたが、紗奈がこう言ってきた。

 

 

「これで分かったと思うけど……私の意思はこうだから、ね?」と満面の笑みで言われて背筋が凍りついた。

初めて紗奈の家にいった結果、2〜3回死ねるレベルだったんじゃないかと、貴夜は心の底から恐怖を覚えたのだった。

 

 




次回君は◯◯なフレンズなんだねと言う嘘予告







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旅立つ吸血姫と天使

「ちょっと……アグレッシブ過ぎたかな……貴夜に対するアピールが」と軽く頬を赤めながら言ったものの、反省する気はないので、私は鼻唄混じりにアミュスフィアを被って、ベッドに寝そべって

 

 

「リンクスタート」と呟くと意識は妖精の世界へと飛んだ。

 

 

 SAOの時と体格は変わらないのだが、耳はエルフのような耳になり、髪色と瞳の色は闇妖精族の紫色だった。そんなことを思いつつ、少し待っていると待ち合わせしていた人物であるナキがやって来た。

 

 

「ナキ似合ってるよ」と言うと

 

 

「俺だけ初期装備か……ちょっち辛いな……」

 

 

「パラメーターは前のまんまの癖に……ま、レクチャーも兼ねてアルン行こ?」と言いつつ私は自分の装備を眺めた。SAOの時とあまり変わらないが、マントが無くなった代わりにキュロットのスカート丈が長くなっただけだった。ただ、武器はあの時使っていた武器ではなかった。しかもチャクラムは、ALOでもレア武器らしく手に入らなかった。その代わりピックを多めに装備している。

 

 

「あぁ、頼む」とナキの返事を聞くと、私達は装備を整えて都市の外に出た。

 

 

 

 

 

 そして少し離れた所にある草原で翔び方のレクチャーをした。

 

 

「ナキ、翔び方解る?」

 

 

「最初は補助コントローラー、慣れたら随意飛行だろ?」

 

 

「正解……ならやってみて」

 

 

「分かった」そう言ってナキは補助コントローラーを用いて軽く飛ぶと、途中から両手を横に合わせて飛び始めた。私は随意飛行(私だって一応出来る)で、ナキのいる位置まで追い付くと、ナキはホバリングしながら待っていた。

 

 

「何で、始めて数十分で既に随意飛行出来てるのさ……」

 

 

「何でって言われてもさ……SAOの時スキル使っている時、翼出てただろ? あれって自分で動かせるから、もしかしたらその要領でいけるかなと思ったら、ビンゴだった」

 

 

「そう言うことなら納得……さっさと行こ?」

 

 

「そうだな」

 

 

 そうして私達は度々休憩を挟みつつ飛んで、アルンまで半分の距離に達した頃、ナキが下の方を見始めてこう私に言ってきた。

 

 

「何かが呼んでいる気がする……」

 

 

「急にどうしたのナキ?」

 

 

「何て言うか……体が無意識に下に行こうとしてるんだ……下に降りていいか?」と言われ私は断りきれず

 

 

「良いよ」と答えるとナキは急降下した。案の定地上にいたワームに気づかれたが、ナキはヴォーパルストライクを放ったが、

 

 

「パクッ」と気の抜けたワームの口の閉じる音がなった。お約束と言わんばかりにナキはワームに食べられた。私はナキのHPバーすら見る余裕を無くしてしまい「ナキっ」と叫びながら、ワームに対してリニアーで攻撃すると、私もワームに食べられた。

 

 

 そうして気がつけば私は、ヨツンヘイムに、ナキと共にいた。

 

 

「痛てて……サナ大丈夫か?」

 

 

「大丈夫だけど……ナキの馬鹿っ……私達ヨツンヘイムにいるじゃん……レイドボスがウジャウジャいるヨツンヘイムにっ」

 

 

「幸か不幸か、俺を呼ぶ声が強くなってる……周囲を探索しよ……最悪敵とは遭遇しても、スキルで戦闘は回避出来る」

 

 

「そう言えば、そうだね……レイドパーティーに会えれば、出口まで案内してもらえるだろうし」

 

 

 そんなことを私達は言いつつ、周囲を探索し始めて数十分が経って、私達は、小さな祠の周りを守るように動物型邪神がいて、それの祠を狙うかのように巨人型邪神が攻撃しているのに遭遇した。それを見た私は嫌な予感がしたのでナキに

 

 

「ナキ……まさか、あそこに行くとかじゃないよね?」

 

 

「何で解ったのさ……とりあえず巨人型の方をヘイトコントロールで仲間割れをさせて突破するつもりだけど」予感的中だった。

 

 

「もう、私知らないっ」と流石に呆れていると

 

 

「どうぞ勝手に、俺は行くから……駆逐してやるっ」と明らかに楽しんでいた。壁が破られるまで人類はとあることを忘れてそうなマンガのキャラのセリフを最後に言って、ナキは盾を構えて巨人型邪神達に威嚇した。

 

 

 ナキが己にターゲットを集中させる効果のある〈挑発〉などを使ってヘイトをためまくり、巨人型邪神のうちの一体だけナキに構わず動物型邪神に攻撃していたが、さっきよりも攻撃が当たらなくなっていたが、それはナキのユニークスキル〈懲罰・守護天使〉にしか出来ない芸当だった。

 

 

 そして、その一体にナキがたまっていたヘイトを全て擦り付けて、他の巨人型邪神が仲間割れを起こした。それに乗じて動物型邪神の方も攻撃している巨人型邪神に反撃をし始めた。この行為は、本来モンスタートレインと言われる迷惑行為だが、周囲にいるプレイヤーは私とナキしかいないので問題はなかった。私は、ナキのSAO時代から変わらないヘイトコントロールに見蕩れていると、動物型邪神の内の一体でイメージ的に一番近いのはサーベルタイガーに翼の生えた邪神が、私のところに来てー〈隠蔽〉している私に気づいていると言うことは、余程索敵能力が高いのか、視覚以外の索敵方法を持っていると言うことなのだがー乗れ、と言わんばかりに背を向けてきたので、私は背中に乗ると、祠の所まで連れていかれ、ナキもその場にいた。

 

 

「ナキ……このモンスター達って……」と私がナキに訊くと

 

 

「サナの思っている通り友好mobだよ、襲ってきた奴らで逃げた奴もいたけど、倒した奴のアイテムは回収したし……ただ何故か動物型邪神達に是非も言わせずにここに連れてこられて、祠の中に見たことがある物が置かれてるし……」と貴夜が祠の中の方を見ながらいった。

 

 

「言われてみれば、見覚えのあるものが置かれてるもんね」と私も祠を見て言ったー動物型邪神達が守っていたのは、ナキがSAOで使っていた武器そのものだった。

 

 

 すると私をここまで連れてきた邪神の周りに、他の邪神達が集まってーどうやらあの邪神がリーダー格の邪神だったようだー祠の封が解かれた。リーダー格の邪神がナキに取れ、と複数ある眼で見られたと言うよりは、睨まれながらも、ナキは剣を取って鞘に納める前に、剣を眺めた。それを背中に装備して、盾を手に取った。ナキはさっきの戦闘で鎧を全損させたらしく、鎧を着ていなかったのだが、盾から体を覆うように、鎧が展開された。そして盾の中央部に、髪が蛇の女の生首のレリーフが彫られていた。

 

 

「やっぱりな……アロンダイトとアイギス……完璧なる騎士の剣に、ヴァルキュリーのアイギスの鎧と盾だったのか……お前らは」と優しく嬉しそうにナキは独り言を洩らしていた。

 

 

 それを見ていた私は、羨ましさを覚えた。私の《滅銀水晶の細剣(シルバーロストクリスタル・レイピア)》と円輪刀は、私の許にいないのだから……と不貞腐れいると

 

 

「この子達を助けてくれてありがとうございます……私の鎧も認めているということは、貴方が〈天使〉の名を持つ妖精の戦士なのですね」と女神らしき人物が何処からか現れて、そう言ってきた。そして、キョトンとしている私達を見て、その女神は軽く咳払いして

 

 

「申し遅れましたね……私はワルキューレ、ブリュンヒルデと申します。お二人の名を聞いても?」と自己紹介をしてくれたが、引っ掛かる部分があったが、北欧神話のワルキューレはギリシア神話のヴァルキュリーとほぼ同義なので、ゲーム上の仕様と言うことで自分を納得させた。

 

 

「俺はナキです」とナキが先に言った。

 

 

「私はサナです」と私が言い終わると、ブリュンヒルデはこう言った。

 

 

「天使の名を持つ者と吸血姫の名を持つ者……預言通りです」

 

 

「どういうことですか?」と私はたまらずに訊くと

 

 

「天使の名を持つ者が、この地に現れる時、その隣には吸血姫の名を持つ者がいる、と言われているのです。そして吸血姫には、これを渡すようにとも」言い終わったブリュンヒルデのところに、細剣と円輪刀を持った邪神がやって来て、ブリュンヒルデに手渡した。その邪神に対してブリュンヒルデは「ありがとう」とお礼を言って、私に手渡たされた。

 

 

「この剣の名を《滅水晶の細剣(ロストクリスタルレイピア)》と言い、そしてこの円輪刀の名は《エデン》と言います。この武器達が貴方の力になってくれるでしょう」

 

 

「ありがとうございます。大切に使わせていただきます。久し振りロストと、丸いの……じゃなかったエデン」と私は受け取ると

 

 

「貴方達が、もしこの場に留まるのであれば良いのですが、よろしければ地上まで送りますが、どうされますか?」と訊かれたので

 

 

「送っていただけるんですよね」と再確認すると笑顔で頷かれたので

 

 

「お願いします」と伝えると

 

 

「ならば、ペルセス……この二人の妖精族を地上までしっかり送り届けるのですよ」とブリュンヒルデがリーダー格の邪神にそう命じて

 

 

「最後にこちらの笛を1つずつお渡ししておきます。もしまた、ヨツンヘイムに来られるさいに、この笛をお使いください。そして、同胞達を傷付けることが無いようにお願いします」

 

 

「はい、分かりました。巨人の方は倒してしまっていいんですよね?」とナキが言うと

 

 

「はい、倒してもらって構いません。同胞の傷を癒す力が、その盾にはあります。無いように願いますが、もし同胞を傷付けてしまったら、その盾で迅速に傷を癒してもらえれば、咎めはしませんので」と諫言された。

 

 

「はい、しっかり覚えておきます……では」とナキはペルセスの背に乗ると、私に手を伸ばして来たので

 

 

「ブリュンヒルデさん、ありがとうございました」と私はお礼を言って、ナキの手を掴み、ペルセスの背に乗った。するとペルセスは翼を広げて飛び立った。多分だが、ペルセスの背中は後5、6人は乗れる位広かったし、ペルセス自体も大きかった。

 

 

 飛んでいる間ナキは剣と盾を愛おしそうに眺めていたが、見ている私に気づき

 

 

「サナどうしたの?」

 

 

「いや、最初は散々だったけど……あの時共に戦った武器達にまた出会えた……ナキありがと」

 

 

「別に……俺を呼んでいたのはこの武器達だし……ペルセス達が味方だとは最初は思ってなかったから」

 

 

「今日のことは二人の内緒にしておこ? ……アルンで何か奢って貰うだけで許してあげるから」

 

 

「はいはい」とナキは流すように返事をしてきた。

 

 

 そんなやりとりをしていると、桟橋のような物が空中にある所に着き、ペルセスが軽く鳴いた。ニュアンス的に着いたぞ、と言う意味だろうから、私達はペルセスの背から降りた。するとペルセスは下へと降りていったので見送ったが、いざ地上まで上がろうにも長い螺旋階段があった。ただ、自力でここまで上がってくることと比べると楽なので、覚悟を決めて駆け上がった。私の方がAGIが高いので、ナキとは2〜3段、間が空いていたが、キュロットなので問題無いし、たとえ見えたとしてもナキに見られても恥ずかしくないので関係無かった。

 

 

 数分後、私達はアルンに出た。

 

 

「ここって……」とナキが言ったので

 

 

「アルンだよ……私も始めてくるけどね……とりあえず世界樹の方に行こ」

 

 

「世界樹の中だっけか……俺が囚われてたの」

 

 

「元だけどね、見た目が同じなだけで中身は変わってるよ」

 

 

「そうか……」とナキは言い終わると走り出したので私は追い掛けてすぐに追い付いた。

 

 

 そして二人で央都アルンを見て回るのだった。

 




次回待たせたなぁと言う嘘予告
いま論理コード回のある意味お約束のお話を書いてるけど、出そうか葛藤中
バレンタイン回の話は書き終えてるんで、バレンタインにはだせそ





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決意

 朝起きて、アミュスフィアを外して身支度を済ませると、時刻は9時前だった。今日は日中は大学に、夜はダイシーカフェで75層攻略&ゲームクリアを祝したパーティーがあり、私達も招待されているので出る予定だ。

 

 

 私は一人で、貴夜との待ち合わせ場所である大学の最寄り駅まで向かった。1度乗り換えて、最寄り駅に着いたのが、9時半だった。私が改札を出て貴夜が何処にいるのか探すと、貴夜は壁にもたれかかるように待っていた。

 

 

「貴夜おはよう」と私が貴夜を痛い人を見る目をしながら言うと

 

 

「紗奈、おはよう……一応言い訳させてもらうが、こっちは松葉杖だから少しでも負担減らすためだからな」と貴夜に言われた。

 

 

「分かってはいるけど……何で駅で待ち合わせなの、しかも大学の最寄り駅なのは」

 

 

「親父がここまで送ってくれたのさ……普通に辛いからねコレ」

 

 

「1時間位なら歩ける癖に……」

 

 

「夕方までとっておくべきじゃんか」

 

 

「って言うか、送ってもらったんだったら私も乗せてくれても……」

 

 

「親父からもそう言われたが、辞退させてもらった。リハビリお前だって完全に終わって無いだろ、後時間帯もだしさ」

 

 

「さて、何のことやら」と私は痛いところを突かれたので、しらばっくれるしかなかった。

 

 

「俺が眠ってる間に、リスカやらなんやらをやらかしかけてたのは、何処の誰ですかね?」と貴夜に圧力をかけられたが、私にとって耳が痛いので話題の転換を図った。

 

 

「ってかさ、私早く重村ラボとか見に行きたいんだけど」

 

 

「そうだな、なら行こうか」と話題の転換がうまくいって、私達は大学へ向かった。

 

 

 大学構内に入ってまず、名取教授の所に向かった。貴夜は松葉杖を使っていたが、動き回るので車椅子の方が楽だぞ、と父親である名取教授に言われて貴夜は車椅子を使うことになった。因みに私と貴夜は重村ラボに所属だが、本籍は名取ラボにある。名取ラボ自体は1年前に重村ラボから形だけ分離したラボである。私は元々他のラボにいたが、名取教授の計らいによって名取ラボに移った。そして今、重村ラボの次世代AR計画と言うプロジェクトが動いていた。詳しい内容は分からなかったものの、重村ラボ自体が無くなるような雰囲気はあった為、何故名取ラボが出来たのかの理由が良く理解できた。また、専門的な内容の説明でも貴夜が私が解らない素振りを見せれば、噛み砕いて教えてくれたので、滞ることも少なかった。ただ、驚いたのが貴夜がレポートを1つ名取教授に渡していたことだ。私も見せてもらったが、SAOに対する貴夜から見ての評価のようなものとしか、内容からは私は読み取れなかったものの、貴夜の今後の目的が明記されてあり、それを見た名取教授が、

 

 

「貴夜、もしそれならSAOのメンタルケアAIを使ってもいい。ただ、許可が降りればだが」と言った。貴夜はトップダウン型AIを作ろうとしていたのだ。

 

 

「親父ありがとう。俺は親父と同等の何かを作る才能は無いけど、茅場先輩の意思だって理解しているつもりだよ……1人の人間としてのAIを作れれば世界は大きく変わるのは、SAOで体感した」と貴夜が言った。

 

 

「実を言うとな……重村の娘さんもSAOに囚われて、帰ってくることは無くてな、重村とは反りが合わなくなっているのは事実だ……私の影響力があったからこうして名取ラボがあるが……すまないこの発言は忘れてくれ、話は変わるが紗奈君は何を名取ラボでやりたい?」と雰囲気を切り替えてから聞かれたが、私は心で決めあぐねていたことを口にした。

 

 

「まだ、決めきれては無いんですけど2つあって……1つはVR技術と医療等に対するアプローチで、もう1つは人の感情が情報的にどんなものなのか、と言うことです」言葉足らずだったが、貴夜も名取教授も私の言わんとすることを理解していた。

 

 

「皮肉だけど、俺も紗奈もSAOに囚われていなければ、こんなこと考えなかっただろうな」と貴夜が笑いながら言った。

 

 

「私としては、考えて作り上げても感じれることは自ずと限られるからな……利用する側から見るとどうなるのかは、この分野は特に多いからな……けど紗奈君が考えていることは面白いし、私が諦めたことだから、心理や医療の専門家を交えてやりたいレベルだよ」と名取教授に好評だった。

 

 

「まぁ、紗奈はもう少し悩んでいいと思うよ……俺は親父があんなもの作ったから、踏み台として使おうとしてるだけだし」と貴夜が言ってきたが

 

 

「貴夜には、それを踏まえて医療とかに展開出来ないか、考えて貰うつもりだったんだがな」と名取教授が貴夜をおさえてくれた。

 

 

「どうせ、あの胡散臭いおっさんが食い付いてきてるんだろ?」と貴夜が毒づきながら言った。

 

 

「貴夜が思っている通り、総務省仮想課の菊岡君だろう? ……取引を持ち掛けられているさ」

 

 

「内容は?」

 

 

「メンタルシステムの概要とか色々とね……それと引き換えに罪の帳消しだと」

 

 

「あんなオーパーツ理解出来る訳無いにな」

 

 

「事実取引にはのったさ、ただまだ少ししか開示してないが、菊岡君は難しいそうな顔をしていたよ、ただ根本的な考え方と目的であるプログラムで人間を再現させることは理解したようだが……」

 

 

「世の中にある汎用AIのルーツはとある数学者の思考模倣プログラムだし、そっちを使った方が安上がりだけどな」

 

 

「私が貴夜に教えたことを理解しているようだし、紗奈君が困っているようだし先に進もうか」と名取教授に関連施設だとか、理論の説明を受けた。昼食はピークを避ける為に、時間帯をずらして済ませた。

 

 

 途中貴夜がこんなことを言った。

 

 

「公安に協力すべきだな、だったらSAOのメンタルケアAIが手に入れることが出来るだろうし、SAOでの事に対する俺らの罪滅ぼしと思えばな……」

 

 

「貴夜、それ含みがあるでしょ……エマちゃん達の事もじゃないの?」

 

 

「そうだけど……エマ達には原動力がある、キリトとかにもだけどな……だが俺にはそれが無い、我を忘れることが出来るだけの恨みや怒りが無い」

 

 

「私だって、そう言う原動力は無いけど、貴夜に対する想いが原動力なのに……否定してもいいけどわかってるんでしょ?」

 

 

「そうだよな……動機はそんなものでいい……善意って動機で充分だよな……」

 

 

「全てを抱え込まないでよ……私を信用して……私は貴夜を絶対に死なせない」

 

 

「ありがとう紗奈、俺だって紗奈を死なせない、絶対にな」

 

 

 そして、私達の誓いが私達の原動力になっていったのだった。

 




次回どんちゃん騒ぎと言う嘘予告







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パーティーと足跡

 貴夜と共に大学を後にして、ダイシーカフェのある御徒町へと足を運んだ。私達は寄り道をしながら言っていた時間にダイシーカフェに入った。店の中には、攻略組の面々やシンカー達がいた。

 

 

「久し振りだな、黒の剣士さん」と貴夜が皮肉気味に言い、

 

 

「久し振りだな、ナキ」と黒の剣士ことキリトは、それに答えた。

 

 

「おい待て……後ろにいるのは、レアキャラで吸血姫のサナさんじゃねぇか」と赤い髪の男性が言うと、店の中にいる独身男性の目線は貴夜に、一部は私に反応した。

 

 

「皆さん……お久し振りです。もしかしたらSAOでもはじめましての方も居るかもですけど」と苦笑混じりに挨拶を私はした。攻略会議に殆ど参加せずに、ボス戦のみに現れるし、容姿も相まって、吸血姫と呼ばれていた。私のユニークスキルと同じ吸血姫なのに、流石に私も苦笑してしまったのは、良い思い出だ。この場には、幸い知り合いがいたので、そちらの方に私は向かった。

 

 

「久し振り、シリカちゃんに、リズベットにアスナも」

 

 

「はい、久し振り(です)、サナ(さん)」と、3人はほぼ同時に返してきた。シリカとは中層で狩人をしていた時に出会った子で、ビーストテイマーだ。アスナとは攻略組の数少ない女性プレイヤー同士で、仲が良かった。また、その縁でリズベットとも、仲が良いのだが……私よりも年下ばっかりで少しショックだった。

 

 

 とは言っても、仲が良いのは事実なのだし、女子同士積もる話をして盛り上がっていた。

 

 

 私達が、今日のキリトよりも遅れた理由は、私達が74層攻略に参加していなかったことや、直前に入っていた用事の都合上遅れると伝えていたので、特に咎められなかったし、咎める馬鹿も居なかった。ただ、私達がSAOでしていたことは許されることでは無かった。良く言えば、超法規的行為、必要悪なのだ。悪く言えば、ただの人殺し、シリアルキラーなのだ。ラフコフの壊滅作戦の時、戦力がこちらが優勢だったのは、私達が居たことと、事前に準幹部クラスを潰していたと言うことがあり、私達の数少ない名声とも言えた。しかし、あの戦い自体が悪夢なので誰も口にはしなかった。

 

 

 一方貴夜は、女性陣が談笑しているのを横目に話していた。

 

 

「ったく、キリの字といい、ナキといい……どうしてよぉ、美人さんゲットしてるよなー」とクラインが不満を垂れたので

 

 

「それはクラインが、調子に乗りやすくて、単調だからじゃないのか?」と痛いところをクリティカルで突いてやると

 

 

「おいおい止めてやれよ、ナキ……ダメージでかそうだぞ」とエギルから言われたので

 

 

「けど、クラインの侍らしい性格は俺からすれば羨ましいけどな……つうかさ、キリト、ヒースクリフって強かったか?」とフォローすると同時に、話題を転換させた。

 

 

「強かったけど、みんなの力があって勝てたよ」とキリトの答えが返ってきて、覚悟を決めて口を開いた。

 

 

「ヒースクリフ……いや茅場先輩は、後輩の俺から見ると凄い人だと重村ラボにいる時は思ったけどな……」と俺が言うと、一同驚いた様子だった。

 

 

「俺の親父もSAOに関わって、事件が起きてからは重村センセと反りが合わなくなったらしいし」と続けた。

 

 

「おいっ、ナキ……ああなることは解っていたのか?」とキリトに訊かれたが、

 

 

「知らなかったさ……だったらまずβテストにすら参加してないさ……親父ですら自分の組み上げたプログラム……メンタルシステム……正確にはメンタルカウンセリングプログラムに手を少し加えるのが、精一杯って言ってたからさ……ましてや他人の作ったプログラム何て、本人以上に理解できないさ」と言うとキリトの表情が少し変わった。

 

 

「つうか、キリト、それは何?」と肩に乗っているカメラについて、これ以上追求されないように訊くと

 

 

「視覚双方向通信ブローグって言うんだが……」と濁されたので、意趣返しにこう言った。

 

 

「話が戻るんだが、親父がな、あのシステムを使えばAIが作れるかもってこっちが言ったら乗り気だったんだよ」

 

 

「それで?」とエギルが相槌を返した。

 

 

「それで、親父はこうも言ったんだよ、SAOのメンタルケアAIが使えればな、とね」と言うとキリトの表情が何かを知っているような表情だった。

 

 

「SAOサーバーは厳重に管理されていますもんね」とシンカーが会話に参加してきた。

 

 

「シンカーさん久し振りです。ユリエールさんとのご入籍おめでとうございます」

 

 

「ナキさん、お久し振り。さっきの話は聞いてましたけど、重村ラボの学生だったんですか?」

 

 

「いや、まだ学生です……親父……えっと名取教授の息子ってこともあって、今はラボを移って名取ラボにいます」

 

 

「成程」

 

 

「結局問題はサーバーなんだよなぁ……ザ・シードを使ってみようとは思ってるんですけど」

 

 

「ザ・シードで思い出しましたけど、ALOも色々とあるらしいですかりね」

 

 

「あ、シンカーさん。連絡先交換しませんか?」

 

 

「えぇ、でも何故?」

 

 

「大学の情報……無論許可が降りてるやつを俺が記事にしても良いんですけど、コネが有れば便利かな、と思って……」

 

 

「成程……こっちとしても有益ですからね、是非」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

「どういたしまして」そうして、シンカーと連絡先を交換して

 

 

「……っと、他の所にも挨拶をしてくるので失礼」と言って俺はカウンターから離れた。

 

 

 旧交を温める良い機会となったパーティーだったが、参加者の内には未成年者もいたので、少し早くお開きとなった。帰りはとある人物と会った後、紗奈と二人で帰り、道中ALOの話にもなり、足早に帰宅した。

 

 

 そして場所はALOに移った。時刻は深夜23時50分……アルン上空に多くのプレイヤーが集まっていた。もう少しで、あの城がここに現れる……そう思うと複雑な気持ちになったが、嬉しいのは事実だった。私は隣を飛んでいるナキに

 

 

「楽しみだね」と言うと

 

 

「あぁ……茅場先輩も報われるんじゃないかな」

 

 

「ナキって私と居るようになってからゼミの先輩達に気をかけられるようになったよね……人間不信こそ治ってないけど」

 

 

「うるさいなぁ……まぁでも61層に辿り着くのはいつになるやら」

 

 

「別に私は、ナキと一緒に居られるなら、何層でもいい」と私が言うと

 

 

「……置いていくぞ、サナ」とナギが照れ隠しで更に上昇したので、私はそれを追いかけた。

 

 

 そして深夜0時丁度に鐘が鳴り響き、雲の中から新生アインクラッドが現れ、多くのプレイヤーがそれに向かって飛んでいった。

 

 

 そうしてサナとナキは第1層の主街区始まりの街の噴水の前に二人で居た。

 

 

「もうあれから約2年半以上経っているんだよね?」と私は干渉に浸るように言った。

 

 

「誰かさんの自殺未遂から、約2年半経ってるけど、どうしたのさ急に」とナキに皮肉を言われたが、気にせずに

 

 

「少しだけ、罪の意識が芽生えちゃってさ」と私は涙混じりになりながら言うと

 

 

「俺だって罪の意識はあるさ……レッドプレイヤーを倒していって、多少整理がついても、ラフコフのpohだけは許せないけどな」

 

 

「私達は、他の攻略組よりも、多くの命を刈り取ってる」

 

 

「だからって……多くは黒鉄宮に送っていたし、実際に手にかけたのはごく一部だけだ……殺される覚悟無しに殺すなって話だよ……変に気にして押し潰されるより、殺した奴等の分まで生きるのが、俺らの役目だと思うよ?」

 

 

「そうだよね……なんかお腹空いちゃった……ナキ何か奢ってよ」

 

 

「分かったよ……その代わりにサナがSAOサービス開始の日から出会った日までの足取り、実際に教えてもらうからな?」

 

 

「何で……」

 

 

「ALOのアインクラッドに慣らすついでに、さ」

 

 

「足取りだけだからね、教えるのは」

 

 

「別に慣らしだからな」とナキに押し切られつつも、私達はレストランに入って、小腹を満たした。

 

 

 レストランを出て、トールバーナー近くー尚、迷宮区とは逆側ーの森へと向かった。

 

 

「ここで、私が敵と戦闘中に、ソードスキルで飛び込んで来たのが、ナキだったと……」私がそう言うと、ナギにこう言われた。

 

 

「タイミングが遅かったら死んでたクセに」

 

 

「第一声は『君、しっかり』だからね……暑苦しいのやら、事務的なのやら……」と私が茶化すと

 

 

「サナだって、『ナ......キ……君? ……あのナキ君なの?』だったじゃん」ナキは笑いながら茶化し返してきた。

 

 

「でもあの時は、私、嬉しさと罪悪感でいっぱいだったしさ……」

 

 

「だろうな……」そう言い終えたナキが私に抱き着いてきた。

 

 

「ちょっ……ナキ?」と私が少し戸惑うと

 

 

「あの時の仕返し」とナキに優しい笑みで言われた。

 

 

「とりあえずさ、時間も時間だし、トールバーナーまで戻って落ちよ?」と苦し紛れに私が提案すると

 

 

「そうだな」とナキが了承したので、トールバーナーで私達はログアウトするのだった。

 




次回迫真(白目)と言う嘘予告





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決別

 都内某所……

 

 

「初めまして、総務省仮想課の菊岡と言う者だ」と私達は胡散臭い人物から名刺を渡された。

 

 

「こちらの事は既に、ご存知ですよね?」と涼しい笑顔で貴夜は、目の前にいる胡散臭い人物に圧をかけた。

 

 

「あぁ、名取教授のご子息の名取貴夜君こと〈天使〉ナキ君と、有栖川紗奈君こと〈吸血姫〉サナ君で合っているかい?」

 

 

「えぇ、ご名答です。何故俺達の所に仮想課の中心人物である貴方が、用だなんて、どういう風の吹き回しですか?」と貴夜は敵意を隠す気が無かった。

 

 

「ザ・シードの調査を手伝って貰いたくてね……君達二人にもこうしてお願いに来たんだが……」

 

 

「内容は一応理解しました……単刀直入に言います。報酬についてです」と貴夜が言う前に私がそう言った。

 

 

「ご期待に添えるよう、善処はしよう」

 

 

「旧SAOサーバーにある、とあるプログラムと……紗奈は?」と貴夜が先に答えてから、私に聞いてきた。私としては、特に望む物なんて無かったが、タダ働きは御免なので、常識的に考えこう言った。

 

 

「私は、そのお手伝いの報酬として、妥当な額をお願いします」

 

 

「お金の方はどうにかなるんだが……貴夜君の要求はちょっとね……」と菊岡が言ったので、貴夜が

 

 

「そしたら……このお話は無かったことにして頂いて……用事があるので失礼します」と言って席を立ったので、私も席を立ってこう言った。

 

 

「もし、またご機会があれば、お話をお受けするかもしれませんが、私も失礼します、菊岡さん」私は先に出ていった貴夜の後を追い掛けた。貴夜は菊岡に対して、この後用事がある、と言ったが、半分嘘だったが、それを責める人間はその場に居なかった。

 

 

 菊岡は一人になったその場で、ポツリと言った。

 

 

「僕としては、プロジェクトアリシゼーションに欲しい人材だったんだが、喧嘩別れになるとは……」と独り言を漏らしたが、周囲に誰もいなかったので、聞かれることは無かった。

 

 

 菊岡と言う、胡散臭いおっさんに会った場所から少し離れた所にある有名人やお偉いさん等が、良く利用する全室個室のレストランに私と貴夜は居た。奇しくも向かい側に座ることになっている相手も、菊岡と同じく仮想課の人間だった。だが、私達が協力するのは仮想課ではなく、公安なのだが。

 

 

「こんにちは、紗奈、貴夜君」と公安とのパイプになる人物が入ってきた。

 

 

「こんにちわ、叶」と私が挨拶を返し、続くようにして貴夜も

 

 

「こんにちは春山さん」と言った。

 

 

「聞いたよ、喧嘩別れしたんだって?」と叶が言って、私が

 

 

「そうね……元々そのつもりだったから貴夜が」と最後の方を強調して答えた。

 

 

「そうしてくれたお陰で、この後の事は、望む形になり得るから……ありがとう私の我が儘を聞いてくれて」

 

 

「別に……私達の要求を叶えるのは、仮想課じゃ無理だからね」

 

 

「うん、その要求の話なんだけどね」と叶が切り出そうとして、扉がノックされたので、話を止めると店員が入ってきて、事前に頼んでいた飲み物と軽食を給仕すると、店員が下がったので、私が黙りこけている貴夜に対して

 

 

「さ、本題に入ろ……貴夜も黙ってないでさ」と言うと

 

 

「いや、あの菊岡って男が胡散臭くてさ……何か裏がある気がするんだよなぁ」と貴夜が言った。

 

 

「私も菊岡さんの事は良くわからないけど、公安の方の解答を伝えるね」と叶が言って、こう続けた。

 

 

「その条件を呑む代わりに、こちらからもそれ相応の条件を提示する……だそうよ」

 

 

「どうせエマ達じゃ大した成果は上げられないからな……俺達の方がよっぽど公安からしてみれば、喉から手が出るほど欲しい駒なんだからな」と貴夜が言うと、

 

 

「ええ、それは事実よ。名取教授が司法取引に応じてくれたから、紗奈達に対する依頼の内容もマシになったからね……教授から十二分過ぎる情報が渡されていたから、その恩恵が紗奈達にも流れてきててね……で、これが貴夜君が求めていた、旧SAOのメンタルケアAIのプログラム……ただ、何故かメインのが無くなっていたから、サブのバックアップAIと保存されていたプレイヤー達の感情データを代わりに持ってきたけど」

 

 

「ありがとう、充分過ぎるよ、メインのAIだと弄れないから、渡されてもどうしようかと思っていたから」と貴夜が言った。

 

 

「このノートPCの中に保存されているから、このまま渡すけど、良いかな?」

 

 

「あぁ、構わないよ、春山さん」

 

 

「とりあえず、それが払える頭金だがら」

 

 

「随分と太っ腹だな」

 

 

「須郷の仲間にデータを奪われるよりマシって判断と、そのシステムが国にとって有用だけど扱いきれないからって事だから。その代わりザ・シードについての調査とかも自分たちの手を使いたくないから、紗奈達にしてもらうんだし」

 

 

「どの道、そのつもりだったから良いけど、良いのか本当に?」

 

 

「防衛省の動きが怪しいのもあるし、正体不明のプログラムの事もあるのと、重村教授の監視をしてくれるんだし、内容もそっちが得するって訳じゃなかったのと、関係している所との取り引きも出来たし、公安もVR技術関連に割く人員の余裕が無かったのもあるし……私みたいな新人が担当する羽目になっているんだから」と途中から叶の愚痴になっていた。

 

 

「なら結構楽ではあるね……貴夜の目的も果たせそうだしね」と私が言った。

 

 

「それで、早速依頼と言うか仕事があるんだろ? ……俺達に教えてくれ」

 

 

「えぇ、ザスカーってアメリカの会社が運営しているゲーム〈ガンゲイルオンライン〉……通称GGOの調査とALOの調査をお願い……報告は教えていたアドレスに」

 

 

「GGOか……コンバートの必要は?」と貴夜が訊くと、

 

 

「えっと……一応二人のコピーアカウントを用意してるから、それを使って……接続料も当面3ヶ月は公安持ち、それ以降も経費で落としてくれって」と叶が答えた。

 

 

「分かった。俺からの要求も済んだし、公安の要件も済んだんだろ?」

 

 

「えぇ、クロスとしては済んだけど、叶としてはまだ」

 

 

「私もそれは気になるから、教えて叶」

 

 

「エマは元気ではあるわ、仇も取れて今は楽しそうだよ……ただ積木がねぇ……」

 

 

「積木ちゃんがどうしたの?」

 

 

「変なのに目覚めちゃって……」

 

 

「変なのって?」

 

 

「エマが、積木の一つ年下だから姉になる訳なんだけど……その……」

 

 

「あっ……」と貴夜が何かを察して、

 

 

「もしかして、お姉ちゃんって呼ばれて……目覚めちゃったの?」

 

 

「うん、その通り」と叶が言った。2次元でしか起こらない事だろうと私は思っていたが、事実は小説よりも奇なりとは、まさにこの事なんだなと思った。

 

 

「そう言えばエマ達に会いたくない?」と叶は訊いてきた。

 

 

「パーティー以来会ってないからね……私は会いたいけど……貴夜は?」と訊くと、貴夜は何とも言い難い表情をしていた。

 

 

「俺はパスで……」と貴夜が答えたので、私はその理由が分かり、こう言った。

 

 

「このツンデレ貴夜、需要無いのにさ」

 

 

「うるさいっ」

 

 

「二人共イチャつかないでさ……必要以上にエマと貴夜君は関わりたくないんだろうけど……」

 

 

「別に貴夜抜きで良いよ……貴夜一人が女性陣の中にいてもアレだし」

 

 

「紗奈もちょくちょく酷ぇな……とりあえず日程決まったら教えてくれ、紗奈を送りはするから」と貴夜が訊き、

 

 

「ええ、それはね」と叶が答えた。

 

 

 結局その日は一定以上の収穫があったし、叶と食事が出来たので満足していた。後日、貴夜から連絡があり、大学から連絡と、始業までのスケジュールを教えてもらった。とは言っても、貴夜はリハビリもあったし、大学に春休みの期間中も行かなければならなかった。面談と簡単な筆記試験があり、その結果を踏まえた上で、カリキュラムを組みなおし、奨学生等に該当するかどうかも判断された。貴夜と同じ授業を多く取ることも出来た。貴夜は時間が許す限りゼミにいたので、私も手伝いなどをしていた。公安からの仕事も落ち着く5月以降からで良い、と許可が降りたこともあり、色々と環境を整え直したりするので、時間が過ぎるのが、あっという間だった。

 




次回、リア充めが、と言う嘘予告





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GGO編Ⅰ&現実世界編
バレンタインと葛藤


 2月14日……そう、バレンタインである。キリスト教の行事であり、本来男性から女性に対して赤い薔薇の花を贈る慣習が、日本ではお菓子業界の陰謀により女性が男性に対してチョコレートを贈る……謂わば男性陣は現実を再認識させられる行事だ。ただ、この日に限っては女性から逆プロポーズが許される。

 

 

 そのバレンタインを前にして紗奈は、下準備を周到に行っていた。役所に婚姻届を既に取りに行ったので、如何にしてチョコと一緒に、貴夜に受け取らせるかを考えていた。因みに、その頃貴夜はプログラムに埋もれながらPCとにらめっこしていた。

 

 

 話が逸れたが、チョコの方も何を作るのか決まっている。貴夜はあまり甘すぎるチョコは嫌いなので、少し値が張ったが高カカオチョコレートを買って何回か試しに作って叶などにも押し付けてみて味の感想を聞き、納得のいくものが作れるようになった。パウンドケーキなので、甘さを押さえられてても美味しいものになったので当日に貴夜に差し入れと言う名の本命チョコと婚姻届と言う爆弾を渡す……そんなことを企んでいた紗奈の顔は、子供の教育上宜しくないレベルの妖しい笑みだった。幸いにも紗奈以外その場に誰も居なかったので、被害はなかった。

 

 

「あーもうっ……毎回バグってやがる」大学のラボで、ほぼ2徹目に入ってハイになった貴夜は明日予定されていることを忘れていると言うより覚えていなかった。なんならカフェインを摂っても摂り足りない状態の人間に言ったところで馬の耳に念仏だろうが……息抜きに貴夜は携帯を見た、内容は結婚についてのサイトだった。一応貴夜も考えているのだが、踏ん切りがつかなかった……意気地無しと言われても仕方がない。

 

 

「とりあえず帰るか……」そう言って貴夜は帰る準備をして帰路についた。

 

 

(まだ夜の10時……今から帰ればある程度休める……何か学内の雰囲気が浮かれてるような雰囲気だったな……近々何かのイベントがあるんだろうか)と思考しながら電車に揺られていた。無駄でも思考に耽っていると、睡魔に負けることがないので、思考の種を模索していた。暫くして自宅の最寄り駅についたので電車を降りて、改札を抜けて夜風に吹かれた。

 

 

「寒っ……まだ2月だもんな……うん? 2月……嫌な予感がする」と身震いが途中から意味が違うものになっていた。まだ松葉杖なので、出来るだけ急いで帰宅する貴夜だった。

 

 

 

 

 

 時は満ちて、2月14日……世間一般は平日なのだが、紗奈達は本来まだ大学に行かなくても良いのだが、貴夜はAIのプログラムとPCの画面に今日もにらめっこしていた。紗奈は貴夜が大学に行くのは解っていたので、一応義理チョコも用意していた。まぁ、紗奈と貴夜が付き合っているのは周知されているし、紗奈自身がコネだけでラボに入った訳ではないのもあって、ラボに居づらいわけではなかった。強いて言うなら、紗奈は実際にプログラムを組むのは得意ではないが、明文化させるのが得意なので若干畑違いな気がしていたが、案外頼りにされたりしているので杞憂なのだが……

 

 

 

 

 

 私はラボにいた他の学生に義理又は友チョコと称して渡して回り、最後に貴夜に渡そうとして、話し掛けた。

 

 

「貴夜……進捗はどう?」と私はラボにいた貴夜一人に対して訊くと、

 

 

「まだ追加のブラックボックスの基礎部分しか出来てない」と答えた。つまり今月末には目処がたっていると言外に言っていた。

 

 

「なら私も手伝えることある?」

 

 

「残念ながらまだ無い」

 

 

「有ったら教えてよね……後、はいっ、これ差し入れ」と私はラッピングしたパウンドケーキを渡した。まだ爆弾を取り出さずに様子見をすることにした。

 

 

「食べて良いの?」

 

 

「その為にもって来たんだし……」

 

 

「なら後で食べる」

 

 

「今食べて欲しいんだけど……」とジト目で言うと、

 

 

「今日何日だっけ?」と貴夜が何かに勘づいた。

 

 

「2月14日だよ……」と呆れながら私は言った。

 

 

「バレンタインか……別に必要なかったんだけどな……」と照れ隠しながらもツンデレを発動させていたので、

 

 

「素直じゃないなぁ-……とりあえず感想教えて、今すぐにね」と私が茶化しながらも迫ると、貴夜は素直にパウンドケーキを口のなかに放り込んだ。

 

 

 暫く貴夜が吟味し終わると、こう言った。

 

 

「美味しいよ……甘さが控えめだったし、好みの味だった」とまだ態度はツンデレを引きずっていながらも、発言だけは素直に言った。本人が相当喜んでいる時しかこんな露骨なツンデレをしないので、付け入るなら今の内だな、と思い本題を切り出すことにした。

 

 

「ねぇ貴夜、少し外に出ない? ほんとはこのまま出掛けたいけど……」

 

 

「昨日嫌な予感がしたから、ちゃんと睡眠とったし、何ならそんなに根詰めなくてもいい進捗だから良いよ」

 

 

「ありがとう、貴夜……なら、私についてきて」

 

 

「分かった……紗奈の常識はたまに信頼なら無いけどな……」と余計な一言を言われたが、このあと私が企んでいることは見透かせてないようだったので、特に何も私は言わなかった。

 

 

 

 

 

 近くの大きな公園中にある、カフェに入ると、それぞれ注文して私は本題を切り出した。

 

 

「見て欲しいものが有るんだけど……」と私はバックの中から婚姻届の入った封筒を取り出して貴夜に渡した。婚姻届以外にも考えていたが、流石に重すぎると思った結果、実利も兼ねた婚姻届になった。

 

 

「ふぅーん……どれどれって…………」と中身がなんなのか理解した貴夜は、そっと封筒の封を戻して無かったことにしようした。

 

 

「それで見てほしいものって? ……ジョークは良いからさ」

 

 

「何言ってるの貴夜、その封筒の中身が見て欲しいものだよ?」と満面の笑みを浮かべて何時ものように言うと

 

 

「分かったよ……ったく重すぎんだろ色々と」

 

 

「一応プロポーズちゃんとさせてよ……なぁなぁになるのは嫌だし」

 

 

「あのなぁ……俺が意気地無しになっちゃうじゃん……ちゃんとプロポーズしようとしてたのにさ……」と貴夜が毒づきながら言った。

 

 

「あっちでも私に背中任せてくれたし、こっちでも信頼してくれてるしさ……あぁ……なんかじれったい……ええい単刀直入に言う……私と結婚しなさいっ」と言いきってから思った。

 

 

(やってしまった……変に気を張りすぎて、言おうとしたことが頭から吹っ飛んだ……なんと言うかワガママな言い方になっちゃった)と顔を赤くしながら思っていると

 

 

「紗奈らしい、ほんとに安心したかも……」と貴夜が言った。

 

 

「その代わり、婚約指輪は貴夜がだよ?」

 

 

「急に現金だな……結婚指輪じゃ駄目なのか?」

 

 

「お互いがつける指輪って婚約指輪だよね?」

 

 

「何いってるんだが……サナが言ってるのは結婚指輪だよ……ただ、家柄的に紗奈だけがつける婚約指輪も必要だもんな……結婚指輪は日常でつけるものだし……」と私の勘違いを訂正してくれたが、少し遠い目をしていた。

 

 

「貴夜、どうしたの?」

 

 

「そうなると、経済的にな……ダイヤってなると結婚指輪以上に婚約指輪は根が張るから……うーん」

 

 

「まだ、そこら辺は置いとこう? 言い出した私が言うのはアレだけど……」

 

 

「そうだな……」

 

 

「で、返事は?」とさりげなく流している貴夜に結論を私は迫った。

 

 

「だから、病室の時にも言ったけどさ……こんな俺を好きでいてくれるのならって可笑しいな、こんな俺で良ければ喜んで、が正しいか」

 

 

「なら良かった。その婚姻届ね、私が書かなきゃいけないところは書いてるから」

 

 

「そうか、お前が確信犯か」

 

 

「別にいいじゃん、後さ一応私の住所貴夜の実家にしてるんだけど、いい?」

 

 

「事情さえ話せば親父たちも理解してくれるしいいとは思うけど、一緒に住むのは4月以降になりそうだな」

 

 

「言われてみれば……そう言えば家だって時期が時期だから見つからなさそう……私のパパを頼ってもいいけど、自力で見つけたいし」

 

 

「なら、これを出すのは3月だな……ある程度見通したってからしたかったけど、誰かさんが先走ってくれたからね」

 

 

「皮肉らなくてもいいじゃん……けど考えて無かったのは本当だから、完全に反論出来ないよ」

 

 

「まぁ、今週末とりあえず指輪は見に行くか」

 

 

「本当に!?」

 

 

「乗りかかった船だしな……ただあんまり期待しないでね……」

 

 

「解ってるよ……貴夜の給料3ヵ月分がどれくらいか判んないしさ」

 

 

「善処はする」

 

 

 結論から言えば企みは成功だった。SAOの時以上に幸せな時間を過ごせると思うと嬉さのあまりに自分を抑えられないので外では堪えつつも、その日はその幸せな気持ちに浸る私なのだった。

 




次回、ナキのの葛藤、と言う嘘予告



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家族と新たなる世界

 3月に入って、リハビリから解放されたので、時間に余裕が出来たのと、元々旧SAOのメンタルシステムのAIは全てスペックが同等だったのもあり、異常なスピードで完成まで漕ぎ着けた。そしてALOでは、そのAIはプライベートナビゲーションピクシー扱いなので、ALOで一緒に過ごすことも出来た。

 

 

 AIの名前はナナだ。銀髪で赤い目をしていて、淡い青のワンピースを着ている。本人はピクシーの姿が落ち着くらしく、基本的にピクシーの姿でいることが多かった。ザ・シード規格の閉鎖的なプライベート用のサーバーを使おうと思っていたが、親父がいつの間にか作っていたVRワールドを使うことにした。理由は、親父の作るシステムは、自分がザ・シード以上に理解しているからだ。

 

 

 そのサーバーは、SAO同等のスペックなのだが、そのレベルになると個人の自由で作れる域では無いのだが、大学側から独自規格で、と頼まれた物だったので出来た、と親父が言っていた。そのお陰で旧SAO、61層セムブルグの家を再現出来た。プライベートサーバーにアクセス出来るのは、俺と紗奈とナナ、俺の両親、紗奈の両親だけだ。ナナの物理ハードウェアは、自分のPCに存在している。ナナは、俺と紗奈を両親と認識しているので、自分達もナナを愛娘と思っている。また、ナナには、自分と紗奈の電子端末にもアクセス可能にしている。それ以外には、作る過程でメインで使われていたAIであるユイの居場所も分かった。詳しくは聞かなかったが、キリトの所に居るらしい...ナナ自身がそれを調べる過程で、ユイの影響を受けた、と言っていたが、正直な所嬉しかった。AIに対する杞憂が無くなったことや、一人の人間としてナナを扱っていたし、ナナ自身もAIである前に一人の人間で、パパとママの娘、と言っていた。プログラムの時に、ブラックボックスを新たに追加して、ナナを縛りはしたものが、悪い方向にそれが、助長しなかったのもありがたかった。

 

 

 親父にもナナを見せたが、好印象を抱いていた。所有権は自分にあるので、大学を卒業してもナナと共にいられるのと、ナナのノウハウを生かして人工的に精神を再現させようとしているらしいのだが、難航していると、親父から伝えられた。卒論はVR技術、特にSAOによってもたらされた恩恵についてするつもりで進めている。

 

 

 そんなことを思いながら、ホロウィンドウに表示されたMトゥデの記事を読んでいた。現実世界の自分はベッドに寝ているので、当然プライベートサーバーに貴夜は居た。

 

 

 ダイニングに自分はいるので、視界の中には、リビングのソファーでくつろいでいるサナとナナの姿もあった。たまに、サナの両親もここに来ることもあり、ナナを孫として可愛がってくれているのだが、サナとの同居を急かされている気分になってしまう。自分としては嫌じゃないのだが……サナにバレンタインデーに婚姻届を渡されると言う重い逆プロポーズをされ、男としてどうなのかと情けなく思いながら、受け入れたのだが、時期が悪く部屋がまだ見つかっていないなどもあり、難しい状態なのだ……と自分は、無意識に頭を抱えていたらしくサナに

 

 

「ナキ……どうしたの?」と言われ、ナナにも

 

 

「パパどうしたの?」と言われて、流石に答えない訳にもいかず、正直に白状した。

 

 

「少しね……考え事をしてたんだけどさ……時期が少し早ければこうならなかったんだろうけどさ」とMトゥデのタブを気づかれないように閉じて、後ろにあった物件情報サイトのタブを見せた。

 

 

「別に私のパパに頼んでも良いんだけど……ダメか」とサナが提案して即却下した。サナの父親は、大手企業の重役なのだが、色々な業界にコネがある。ただ紗奈が絡むと親バカが発動するので、部屋探しを頼もうものなら建物自体を買い上げてくるので頼みたくない。

 

 

「ま、大学の近くって条件を無くせばある程度候補が絞れるから」と俺が言うと

 

 

「なら、ナキに任せるけど……GGOの件はどうするの?」とサナが訊いてきた。

 

 

「ナナが一緒に行けないもんな……」と俺が悩んでいるとナナが、

 

 

「ナナは、パパとママにとってそれが大事なのは分かるの。だからね、ガマンするの……その代わりパパとママと一緒に海に行きたいの、後で一緒に色んな所に行きたいの」と言ったので、思わず俺もサナも思わず笑ってしまった。

 

 

「ナナ、パパとママもそのお願いを叶えてあげたいから頑張るし、海に行く以外でも、現実世界とALOで色んな所に連れていってあげるからな」と言うとサナが、

 

 

「なら、ママもALOの時はみんなでお弁当食べられるように今以上に料理スキルも上げないとね」と言った。ナナは嬉しそうにしていたので、俺と紗奈は、心の内で今回の依頼の給料は、ナナの為に使おうと静かに思った。

 

 

「ナナならパパ達は、GGOに行くけど待っててくれる?」と訊くと

 

 

「うん」と満面の笑顔でナナに言われて、短時間で終わらそうと思いつつ、メニューウインドウを開いて、ガンゲイルオンラインのアイコンをタップした。

 

 

 公安側が用意してくれた旧SAOのプレイヤーデータのコピーを使ってGGOにコンバートし終わり、キャラネームを決定し路地裏に出現したのだが、鏡を見てこう言った。

 

 

「なっ……なんじゃこりゃぁぁ-」と脇腹を押さえて言ったのだが、タイミング良くサナが出てきて、大笑いしていた。

 

 

「あぁ……もうお腹痛い……なんでナキそんなに笑わかすの……」とサナは、涙目になりながら言ってきた。サナは美少女と言えるアバターなのだが、何故か俺まで美少女にしか見えなかった。

 

 

「これが男の娘ってやつなのか……」と感慨深そうに俺が言うと、

 

 

「とりあえず……さっさと行こ? 女性プレイヤー二人組にしか見えないし、ナキもわざと声絞ってるから、ぱっと見女にしか見えないから」てサナに言われて、チュートリアルを受けるのだった。

 

 

 チュートリアルでは、鬼教官にしごかれて二人とも精神的にきていたが、それぞれの適性が分かった。サナはアサルトライフル又はマークスマンライフルに、ナキは分隊支援火器又はアサルトライフルに適性があった。チュートリアルを終えてからは、二人でショップを見て回った……が途中何度かナンパに遭遇して、なんとか撃退したが、更に精神力を削がれたので、泣く泣くGGOからログアウトした。因みにアミュスフィアを起動させると、まずプライベートサーバーに出るようになっており、ゲームからログアウトした場合も同じようにプライベートサーバーに出るようになっている。基本的にナキもサナも寝落ちすることが多いのだが、プライベートサーバーでナナを挟むようにして三人で寝てログアウトしている。蛇足ではあるが、論理コードはプライベートサーバーに組み込まれており、論理コードは常時ONの筈なのだが、何故かOFFになっている。ナナは理解しておらず、サナだけが知っているのだ。

 

 

 そんなことをナキは知らずに眠り、サナやナナも眠りにつくのだった。ナナは本来睡眠ーと言う名の最適化ーは必要ないのだが、インプットされる情報が未だに多い事や、こちらが本音になるが、サナとナキと共に寝ていたいと言う願望がある。オリジナルであるユイ以上に人間に近く、強い自我なのは事実だった。その為か、睡眠状態に入っても原則4時間は強制ログアウトされないようにナキがプログラムしている。

 

 

(……私は作られた存在ではあるが、願望を持っている……人として生きたい、と……だが同時に不可能と理解もしている……仮初めであっても両親と共にいられるのは恵まれているのだろう……)そんなことをナナは思っていた。

 

 

 ナナには、人格と呼べるものがあるが、ナキ達が燃え尽きながらプログラムを組んだが、故かバグであるにも関わらず正常に機能していることもありどうすることも出来なかった。

 

 

 そしてナナは不思議な夢を見ていた。今は無き鋼鉄の城で、両親と共に闘う夢を……そしてナナはその夢が、己では無い誰かの記憶だと理解していた。この夢を見る時は決まって黒いポンチョを着た何者かから両親を庇って死んで夢が終わるのも、だ。

 

 

 サナ達が、それを知るのはまだまだ先の事になるのだが……

 




次回厨武器と言う嘘予告



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愛銃

お久しぶりな更新
釈明は後書きで
では本編どうぞ





「さてと……どうしたものかね」と珍しく自室のPCで貴夜が調べものをしていると、ナナがもう1つのモニターに出現した。

 

 

「どうしたのパパ?」とナナが訊いてきたので、

 

 

「ナナにも詳しくは教えらんないけど……ママの誕生日がもうすぐだから……ね?」だから見ないでくれ、と言う意味を含みながら言うと、ナナは素直に頷いたが更に訊いてきた。

 

 

「ママにあげるプレゼントの事なの?」

 

 

「うん、そうだけど……ママは何が好きだろうね」

 

 

「ナナにはよく解らないけど、パパがくれる物ならママ喜ぶと思うの」とナナは笑みを浮かべて言った。その笑みに既視感を抱いたが、記憶の中を探るのをどうにか抑えた。

 

 

 今日の日付は、3月25日……紗奈の誕生日まで2週間を切ったのだが、新居が無事に決まり、明日以降引っ越し作業に追われる訳で、結婚指輪のことやら、誕生日プレゼントやらで流石に自分の頭は処理落ちして、回っていなかった。紗奈からの誕生日プレゼントはまだ渡されていないので、判断するにも出来ない状態だった。

 

 

 気付いたらナナは居なくなっていたので、隠していたことに着手しようとすると、モニターの画面がフリーズした。

 

 

「回線に負荷かけすぎてるのかな……いやWi-Fiは全然大丈夫だ……スペックな訳ないから……」と現状の再確認を行っていると、画面のフリーズが解けたのだが、画面には本来いる筈無い人物が写っていた。

 

 

「何故、死んだ筈の茅場先輩が居るんですかね?」と少しだけ高圧的にモニターに対して言った。

 

 

「すまないね、貴夜君。これは茅場晶彦という思考模倣体でしかないが……面白そうな物を作ったようだね」とナナの物理ハードを見ながら言ってきた。

 

 

「茅場先輩だって、とてつもないものをキリトに託したじゃないですか」

 

 

「どうもこれは、お互い様のようだね」

 

 

「けど何で俺の前に現れたんですか……一応今敵対しているのに」

 

 

「君と言う人間を多少なりともしっているからかな……須郷君よりも大分マシとは思っているが」

 

 

「ええ、貴方の事はただの風説として報告するつもりですけど、何を企んでいるんですか?」

 

 

「企むも何も、私はただの傍観者だよ、裏方君」

 

 

「だったら少しは安心出来ますよ」

 

 

「挨拶をしに来ただけのようなものだから、失礼するよ」と言って茅場晶彦のゴーストは、画面から消え失せて画面は元に戻っていた。

 

 

「……色々と面白くなっていきそうだけど、俺は視えているモノだけを守ればいい……名声なんて黒の剣士さん辺りに押し付けるのが最善かつ最良だからな……俺は英雄なんかじゃなくて、ただの悪党だからな」と呟いたお陰か、思考が冴えて、とあるものを即調べあげてポチっていた。

 

 

 

 

 

 その日の夕方、俺とサナはグロッケンーGGOにいた。雪原フィールドを目標に、探索にそれまで出ていたのだが不要なアイテム等の処理をして、事前に用意していたリアルマネーを少し溶かして、実弾銃を買嘔吐していたのだが、グロッケン最大規模のNPCショップ内でサナが、

 

 

「予算一人あたり150万って……限られる気がするんだけど……」

 

 

「十二分だろ……全然強いの買える額だからな」

 

 

「そうなんだけど……」

 

 

「けど?」

 

 

「この店にあるの……ピンとこないと言うか……なんと言うか……」とサナが濁しながら言ったので、

 

 

「なら……他の所見るか?」と俺が提案すると、

 

 

「うん、そうしよ」とサナは即座に提案にのった。

 

 

 小規模なプレイヤーショップが並ぶエリアに移動して、少し歩いていると、視界に一瞬映った何かに後ろ髪を引かれて、立ち止まってしまった。

 

 

「居た……まさかアイツがこの世界にも居るなんて……」と驚きと嬉しさの余りに、そう独り言を漏らしてしまいサナが、「oTs-14-4A……ぐ、グレーザ? ……なにこれナキ」と自分の目線の先にあった銃を見ながら言ってきた。

 

 

「グレーザじゃなくてグローザだ……よし値段はOK……しかも4Aだけって事は見ての通りのタイプグレネーダー……決めた、愛銃はやっぱりこの銃だな」とサナの間違いを軽く訂正しながらも、ショーケース内に有るグローザに釘付けになっていた。

 

 

「良く分からないんだけどナキ」とサナが文句を言っていると、店主らしきプレイヤーが出てきて、

 

 

「そこのお二人さん、何かお悩みで? 良ければあっしが見繕いましょうか、お嬢さん方」と声をかけてきた。

 

 

「店員さんですか?」とサナが確認を兼ねて訊くと、

 

 

「えぇ、ここの店主です」と答えた。

 

 

「店主のおっさん、このグローザ買った……コイツの今の口径は?」

 

 

「今の状態は7.62mmですけど、バレル換装すれば9mmでも、幻の5.45mmもいけますよ」

 

 

「グレネード弾頭って何がある?」

 

 

「ノーマル、スモーク、コンカッション、フラッシュ、テルミット、高性能と言ったお馴染みの物以外に……置いてる数が少なくて値段も高いデカネードも有りますよ」

 

 

「成る程ね、因みにサプレッサー……消音器はあるか?」

 

 

「これ専用ですよね……出しますんで店内にどうぞ」と店主に言われ、店内に入った。

 

 

 店内には、F-2000やタボール、FA-MASと言ったブルバップ式銃ー給弾口が引き金の後方にある銃ー以外にstg-44等の第二次世界大戦中の銃や、グローザを始めとした冷戦中銃が並んでいた。特に厨武器と呼ばれる銃がこれでもかと並んでいて、GGOではロシア製銃器が多く流通しているのもあってかロシア銃が多い店内になっていた。店内を眺めていると店主が、奥から出てきた。

 

 

「どうにか在庫がありましたよ……これですよね?」と店主がこちらに見せてきたサプレッサーを、自分が一瞥して

 

 

「それだ……ならグローザの5.45mmで、弾薬と弾頭、サプレッサーを……ホロの×3ブースターもあるならくれ」

 

 

「デカネード弾頭は何個買われます?」

 

 

「最初はどれぐらいが妥当なんだ?」

 

 

「値も張りますが、取り扱いが慎重のものですから2~3個辺りが妥当だと思いますよ」

 

 

「ならとりあえずデカネード弾頭は2つで、バックショット式だから収納場所は考えなきゃな……それで幾らだ?」

 

 

「合計135万弱のところを少しまけて120万ポッキリで如何でしょう」

 

 

「流石はロシア銃だな……M4とかと比べると安価だな……よし買った」

 

 

「毎度ありー、そちらのお嬢さんの方も銃を買われるのですかな?」

 

 

「ええっとー……はい、そうなんですけど、私何にすべきか分からなくて……」とサナが答えると店主は、

 

 

「良ければ見繕いましょうか? ……お連れのお嬢さんの目は確かですから、お連れの方が決められて構いませんが」と言った。

 

 

「拳銃は決まっているんですけど……他はからっきしで……なのでお願いできますか?」

 

 

「そしたら簡単に質問させてもらいますね……どういうスタイルで?」

 

 

「SMGか、レートの速い系のAR辺りを使おうかなと」

 

 

「ソロメインですか? それともお二人で組まれますか?」

 

 

「後者です」

 

 

 

「でしたら、5.45mm口径の共通のAKマガジンを使うARか、9mmのAS-VAL、VSS辺りですかね」

 

 

「ARの方は何がありますか?」

 

 

「ガリルACE、ANー94……アバカン、AKS辺りですね……9mmの方はウチは取り扱いが少ないですから」

 

 

「中々なラインナップだな……栓抜き銃に、初弾が速いヤツにポピュラーなヤツって……」と呆れながら言うとサナが、

 

 

「なら、アバカン? ってので……」と決断した。

 

 

「毎度っ」と店主の嬉しそうな声が店内に軽く響いた。結果的に、共通の弾倉を使うので多少値を抑えられた。同じAKシリーズなので、グローザもアバカンも共通して丈夫なのだが、両銃とも最近遺跡から見つかった銃らしく他の銃に比べても、まだ値段が割高で珍しい、と教えてもらった。また、サナと自分の銃のアタッチメントやパーツ等の一部が融通しあえる等もあって、今後の出費も抑えられそうだった。また、地下遺跡は力試しに丁度良く相応のリスクがあるが、リターンもそれ相応だと教えてもらったので、残りの時間を地下遺跡で費やすのだった。

 




現実が忙しかったのと、積み本消化してたら小説書くの忘れたと言う見苦しい言い訳を言いつつ、
次回 え?そっち?と言う嘘予告



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番外編 幾路

時系列若干ずれてるけど更新ペースの為、許せ


 

 

 エマと初めてあったのは、俺が小学校低学年の頃だった。親父の大学に良くついて行く事が多かったから、必然的にエマの両親とも面識があった。今思えば、何で子供が大学についてくるのを親父が文句を言わなかったのかは、姉である朝陽に対して自分が劣等感を抱かないようにする為だったんだろう。エマの両親は、二人とも学者で人として優しかったし、学者としてはAIの基礎的なプログラムを開発して、親父のメンタルシステムのもう1つの中核を担っている程の汎用性が高いものだったが、それを狙う者も多かった、と聞いている。事実SAOβテストの時に須郷によって、エマの両親は殺された。

 

 

 俺から見てエマは姪に近い感覚だ。距離感的にもそう自分は思っているんだが、自分がエマに対してツンケンしているらしいので、エマ本人はどう思っているのかは知らないが、まぁそういうことなのだが、姉の朝陽はどう思ってるのか訊く気はないので知らない。多分エマを妹みたいに思わない理由は、十中八九、朝陽のせいなのだし……とハンドルを握りながら思った。

 

 

 今俺は、一人車を適当に走らせていた。別に紗奈と喧嘩したとかそう言う訳ではなく、紗奈は出掛けていて、自分はすこぶる暇だったので、車を走らせていただけだ。因みに、車はSAOに囚われる前にも持っていたのだが、運悪く災難に遭ったらしく廃車になっていた。まぁ、中古車だったのでそんなに痛手では無かったのと、保険がおりたので、はれて新車を買ったのだ。車自体は、軽自動車のMT車なので紗奈には文句を言われたが、その気になればサーキットも走れる車なので性能は充分ある。後部座席が意味をなさない某スポーツカーや、時速300㎞でも真っ直ぐ進む某スポーツカー達は、お値段が笑えないし、日常で使うにもアレなので、買わなかった。そう言うのはゲームで使うに限る。

 

 

「でも、俺も紗奈も金銭感覚は普通なんだよな……黒華さんもそうだったし」名取家は、親父が大学教授なので家柄的にも学問に対して金を惜しまなかったし、メリハリがしっかりした家だ。ゲームに対しても厳しく無かったし、それが勉強に繋がれば文句は言われなかった。ある意味稀有な家庭だろう……紗奈の方は、元々華族だったこともあったが、紗奈が一人っ子だったので、溺愛されていたようだった。ただ、紗奈本人はそう言う貴族的な思考では無く、節約とかを是とするタイプの人間だ。ただ、好きなことになると財布の紐が緩むのだが、考えて出費しているので問題はない……はずだ。黒華家は、外から見た感じ普通の家庭だったな……と思っていると、ホルダーにつけていた携帯の画面にナナが出てきた。

 

 

「パパは、車を運転するの楽しいの?」と訊いてきたので、

 

 

「あぁ、パパは楽しいよ」と答えた。そんな会話を愛娘としながらも、心の隅で、エマの事を考えていた。別にエマとの距離感は今のままで良いのだが、エマが自身の事を知ったり、エマに埋め込まれているICチップと託されているであろう真のプログラムの事だったり、と対策をしておいた方がいいことが多くあった。そう言う意味では、ナナもその対策の一つなのだから。

 

 

 しばらく車を走らせて、コンビニの駐車場に車を停めると、ノートPCを取り出した。ナナは紗奈の方に行ったし、なんならナナに釘をさしたので、独り言も聞かれる心配も無い。

 

 

 PCを立ち上げて、あるプログラムを組み、オーグマーと仮称されている物のプロトタイプと接続させた。画面には、鎌なのかツルハシなのか判らない武器らしき物が、写っていた。それ以外のプログラムも写っていたが、文字化けして見えなかった。

 

 

 SAOを生き残った1人の天才は、何かを隠し、盤面を狂わせ、手札をちゃくちゃくと整えて、数手先を見据えながら、己を殺して苦悩する。罪を見定める尋問いや拷問をする天使に憧れた狂人は、いつしか偽善者の仮面を、はたまた悪役の仮面を手にとった。道化師は踊る、己が運命に絶望しながら、今にも壊れた硝子の檻でただ踊る。壊れかけの天才は自然に、そして急速に壊れてゆく……

 

 

「オーディナルスケール……ここで終わらせる」と貴夜は悲壮と狂気と愉悦の混じった表情で独り言を漏らすのだった。

 



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旧交

「貴夜-……そっちの荷ほどき終わったんならこっちも手伝ってよ-」と私が少し大きな声で言うと、

 

 

「ちょっと待って……PCさえ終わればナナがこっちの様子見えるからさ」と貴夜が答えた。

 

 

 今日は4月1日……エイプリルフールなのだが、私達は慌ただしく荷ほどきに追われていた。両方の実家から距離もあり、大学から程良い距離がある、2LDKのマンションだ。私は特に希望は無かったが、貴夜の要望でマンションになった。そこそこの家賃だが収入が有ることや、来客が来ることもあるので、反対する理由も私には無かった。因みに何故2LDKなのかと言うと、PC等を置くスペースが部屋が別に必要なレベルだったからだ。寝室は無論一緒なのだが、SAOに居た頃と同じような環境になって嬉しかった。そんなことを考えながら手を動かしていると貴夜が、

 

 

「こっちは終わったけど、そっちは?」と訊いてきた。

 

 

「だから、手伝ってって言ってるでしょっ……話聞いてた?」と少しキレ気味に答えると、貴夜が寝室にやって来て、

 

 

「なんだ……後は寝室位なんじゃん……さっさと終わらせられるな」と言った。どうも全体的な進捗を訊きたかったらしい。

 

 

「と言うか……今何時?」

 

 

「12時過ぎ……これ後30~40分で終わらせられるから、紗奈は先に昼飯食べてていいけど」

 

 

「別に30~40分くらい大丈夫だし……その後は買い物に行くんだよね?」と私が貴夜に確認をすると、

 

 

「別に、火急の用って訳じゃないからいいのにさ……ま、いいけど」と曖昧な返事で返された。

 

 

 場面は変わって車の中だ。運転はもちろん貴夜だ。

 

 

「ねぇ、貴夜」

 

 

「…………」

 

 

「返事くらいしてよ」

 

 

「…………」と言う風に会話が成立していなかった。

 

 

「ウンともスンとも言わないじゃん」と私が言うと

 

 

「スン」と貴夜が答えた。

 

 

「ふざけなくていいから」と私が言うと丁度信号が赤になり貴夜が、

 

 

「人が集中しているのにさ、制圧射撃よろしく話し掛けてこられるの困るんだけど」と言ってきた。

 

 

「いや……さ、一人で買いたいものが有るから、着いたら少しだけ別々に行動したくて……ね?」

 

 

「別に、それ提案するの着いてからでよくなかったか? ……まぁ、分かったよ」と貴夜が言い終わるとほぼ同時に信号が青になって、再び車は動き始めた。

 

 

 場所は移って、郊外にある大型商業施設に私達は居た。私の提案通り、最初に別々に行動して、後から一緒に動くことになった。そして私は一人で腕時計を見ていたが、思った以上に決められずいた。そんな私をみかねたのか店員が出てきて相談にのってくれた。貴夜とのお揃いの時計で、値段は1つ辺り最大20万円台で、と伝えると希望に近い時計が提案されたので、私はそれを買った。無論この代金は私の貯金からなのだが、その内の4割は両親から貰って使いどころに迷っていたお金を使った。

 

 

 一方その頃の貴夜はと言うと、事前にネットで注文していた物を受け取りに行っていた。とあるアクセサリーショップに入って、支払いなどを済ませて品物を受け取った。白みがかった十字架のネックレスが2つなのだが、嵌められていた宝石がそれぞれ違った。片方はサファイア、もう片方はブラックダイヤモンドがそれぞれ嵌まっている。そんなことを最初から見ていたナナにまだ秘密にするように言って、集合場所であるフードコートへと貴夜は向かった。

 

 

 集合場所のフードコートに先に着いていた紗奈は貴夜を待っていると、集合時間まで多少余裕のあるタイミングでフードコートに来た貴夜がこちらに気付いた。その後、紗奈達は雑貨などの必要な物を買って帰宅したのだった。

 

 

 

 

 

 二日後、私は春山家では無く原宿にいた。エマ達と現実で会うのだが、貴夜は私をここまで車で送ると逃げるように帰っていったので、少し不満を抱いていると、見覚えのある人影を見つけ誰なのか理解した。

 

 

「いたっ……こっち、こっちー」と叶、エマと積木が、気付くようにアピールして、無事エマ達と合流しショッピングに向かうのだった。そしてエマが着せ替え人形にされたり、積木のヤバさを紗奈が実感したりしたのは、また別のお話。

 

 

 一方その頃の貴夜は、シンカーの所に来ていた。

 

 

「お疲れ様です、シンカーさん」

 

 

「あぁ、ナキさんか……なにか用ですか?」

 

 

「えぇ……その前にこれ差し入れです」と和菓子の入った菓子折をシンカーに手渡した。

 

 

「ありがとうございます、別に気を使って貰わなくても構わないのに」

 

 

「いやこっちの方がほぼアポ無しで来てるんで気にされないでください」

 

 

「それで何を持ってこられたんです?」

 

 

「あぁ……少し見て貰いたいものがあって」

 

 

「立ち話もなんだから、ついてきて下さい」とシンカーに言われ、俺は応接室の様な所に通されて、椅子に腰を下ろした。

 

 

「見て貰いたいものはこれです」と言いながらバックからタブレットを取り出して、見せたいものを画面に表示させた。

 

 

「これってVR関連の論文かい?」

 

 

「はい、重村ラボのとある学生が書いた論文です。無論、ちゃんと許可をもらってます」

 

 

「まぁ、面白いと思う内容だけど……どうしてこれを?」

 

 

「俺はこの論文の言いたいことを理解している側の人間ですけど、他の人が見て分かるのかなと思って」

 

 

「けど、これ多分原文じゃないよね? どちらかと言うと、原稿の下書きに近いし」

 

 

「はい、最後の方のはまさしくそうですけど……問題は無さそうですか?」と俺が言うと、シンカーはその発言に含まれている意味を理解した。

 

 

「まぁ……余程難しい用語も無いし、こういう記事は見る人間の大体は分かって見ているはずだからね……けどこれだけの為に、ここに来たかい? だったら送付でも構わなかったのに」

 

 

「それ以外にも別件があるからに決まってますよ……なんと言えばいいかな……頼み事なんですけど……」

 

 

「可能な限り訊くが」

 

 

「シンカーさんと面識があるんだったら会いたいライターがいるんです……Mトゥデの…………ってライターなんですけど」

 

 

「本人に了承を得る必要があるが、ナキさんの頼みですし、前向きに検討してみますよ……丁度いいタイミングなんでこれを」とシンカーが自分の持ってきたタブレットとは別のタブレットを見せた。

 

 

「これは?」

 

 

「ナキさんの名刺ですよ、とりあえずここに情報を打ち込んでもらって」

 

 

「なんかすいません、色々お手数かけてしまって……」

 

 

「ナキさん学生だから持ってないだろう? SAOの時は、ナキさん達は名が知れていたから良かったが、現実世界は流石にね」

 

 

「本当に色々とありがとうございます」

 

 

「構わないよ。社会人として必要な物だしね」

 

 

「恩に着ます」

 

 

「まぁ……話が大分逸れてしまったが、そのライターの連絡先は教えておくから、後は自分で交渉してくれ」と言ってシンカーは、テーブルに出されたままの見本の名刺の裏に書いて、こちらにさしだしてきた。それを自分は受け取って、忘れていたことを思い出した。

 

 

「そう言えば親父……名取教授からシンカーさんに預かっていたものがあるんですけど……」と俺は持ってきていたタブレットをバックの中に仕舞って、その代わりにバックの中からUSBメモリーと親父の名刺を取り出した。

 

 

「これの中身は何なんです?」

 

 

「簡単に言ってしまえばデータ管理システムです……大学で使われている物を一般企業向けに調整した試作品で」と自分が言おうとしたことをシンカーは理解して、こう言った。

 

 

「試しに使ってみてくれ、と言うことか……」

 

 

「試作品と言いはしましたが、潰せる不具合は潰してますし……大企業や大学としか取引してなかったので、開発者の我が儘を通してもらったんで」

 

 

「面白そうだし、ナキさんが開発者らしいから使いたいのは山々なんだが……」

 

 

「そのシステム自体は放棄されてたのを、自分が手直ししたのを親父が世に出したんですけど、システム的な問題は無いですし、バックアップは標準装備です……性能依存しないようにしてもらえれば問題無く運用出来ますよ」

 

 

「だったら有り難く使わせてもらうよ」

 

 

「その代わり感想を教えてもらうますけどね」

 

 

「あぁそれぐらいお安いことさ、因みにナキさんこの後用事は?」

 

 

「この後、紗奈を迎えにいかなきゃならないんです」

 

 

「そうか……まぁ、急用じゃないし、また都合が合うときで良いから」

 

 

「すいません、こっちの都合に合わせてもらって……」

 

 

「構わないよ……お互いに良い収穫があっんだから」

 

 

「それでは、失礼します……今度良ければ食事でも」

 

 

「あぁ、ユリエールにも言っておくよ……ならまた、今度」

 

 

 シンカーの所を出て、駐車場に停めていた愛車に乗り込んだ。紗奈を迎えにいくにも時間に余裕があるので少し車を運転することにした。

 

 

 例えそうやって逃避しても、脳裏に浮かぶのは、SAOサービス開始日の現実世界で起きていたことだった。母親が俺のナーヴギアを外そうとした所を丁度帰宅した親父が止めたので、どうにか助かったのだが、この事を気に病んでか、帰還してからは母親との距離が遠くなっていた。ただ、紗奈の尽力によって少しずつそれは改善され始めている。名取家は有名な家系では無かった。元士族らしいのだが、今の名取家のようになったのは祖父の代からだ。祖父は戦後まもなく成功し、ある程度の財を築いた。ただ、それらを教育の為に使い学校を作り、東都工業大学の前身である所と統合され、今に至るらしい……身内だからと言って何か変わるわけでも無いので、気休め程度のものだ。ただ、親父は学内でもそれなりに高い力を握っているので、半ば横暴な事がまかり通っていた、と言っても滅多に親父もそんなことしないし権力争いを疎んでいるので、権力争いに対して不干渉と言う対価の上で現状と思えば妥当とも受け取れる。話を大分戻すが、そんな親父とは対照的に母親は高卒と言うこともあってか、負い目を感じているー特に母親によく似た自分に対してーと親父から聞かされていた。自分は母親に対して感謝の念しかない、恨みなんて抱かなかった。あの馬鹿姉は論外だが……そんなことを思いながら苦笑していると、スタンドに置いていた端末にナナの姿があった。

 

 

「パパ、どうかしたの?」

 

 

「少しな……大丈夫だから気にしなくて良いよ……でもナナ、ママの方にいたんじゃないのか?」

 

 

「ママからパパが、なにかいたらないことしてないか見てきてって言われたの」

 

 

「……ったく、俺を信用してんだかしてないんだか……まぁ、送ってすぐ脱兎のごとく逃げるように戻っていったから仕方無いか……ナナ、ママに今から言うことを伝えといて」

 

 

「はい、パパ……なんて伝えれば良いの?」

 

 

「電子世界の鼠を黒い天使は捕捉したって」

 

 

「分かったのパパ」そう言ってナナは紗奈の許へと向かった。

 

 

 そして、車のエンジンをかけると適当に走り始めたのだった。

 

 

 その頃紗奈達はと言うと、休憩を兼ねてお茶をしていた。鞄の中で、唸る携帯に気づいた私は

 

 

「ごめん、ちょっと失礼」と言って携帯の画面を見た。気を利かせてくれたのか、貴夜からの伝言をナナがテキストにして送ってくれていた。書かれていた内容の意味を理解した私は、思わず口角が上がっていた。

 

 

「紗奈さん、SAOの時にしてる笑みだよ」と積木に言われた。

 

 

「積木に言われるなんて一生の不覚だな-」

 

 

「ちょっと酷くない紗奈? ……一応私の可愛い妹なんだから……さ?」と叶にやんわりといなされた。そんなやりとりをしながら和気藹々、時間は過ぎていくのだった。

 




色々と伏線を張りまくり始めちゃってるけど、死銃さんの出番はまだ当分先案件
次回爆発オチなんてサイテ-と言う嘘予告

実はこの後ALOでサクヤと話したりするんだけど、紙幅の薄さで割愛…1つだけ言えるのは、もう紗奈達だけでアンダーワールドですらどうにか出来そうな気がす
後貴夜の姉は一体どんな人なんやら…(すっとぼけ)


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波乱の始まりとお約束

 場所はGGO、グロッケンのレンタルスペースに二人はいた。ナキはグローザとアバカンの共通弾倉であるAKマガジンに弾込めを行っていた。どのマガジンも25発目に曳光弾を込めており、マガジンの一部も強化プラスチックで出来ているので目視でも残弾確認が行えるようになっていた。これを提案してきたのはナキだが、それを聞いた私も乗り気だったので特に一悶着あった訳でもなかった。まぁ、GGOにおいてはもはや趣味の領域になる現実と同じカスタマイズは、一定の自己アピールなので尚更面倒事を呼び込みかねないが、現状大丈夫なので気にしてすらいない。そんな思考を早々に切り上げた私は、運営から来ていたお知らせを見ながらいった。

 

 

「バレットオブバレッツ……最終戦がバトロア方式で、それ以外が1v1……つまりソロか……ナキ、これでる?」

 

 

「ソロだと俺は意味無いよ? ……つまり出ない……分担前提のロールなんだからさ……更に言えばチーミングはどうしても……ねぇ?」

 

 

「ちょくちょくナキって確信犯だよね? その口調……このご時世ネカマはちょっちキツい気がするけど……」

 

 

「うるさい……そう言えばさ、サナこれ見て」と言ってナキは私にとある画面を見せてきた。

 

 

「光学式迷彩? ……って値段高すぎっ……もしかして買う気?」と私は睨み付けながら訊くと

 

 

「いや……なんだろ……久しぶりに狩人としての勘がね……別にサナがいいなら買うが」

 

 

「だーめっ……絶対にダメ……けどなんでこんなもの私に見せたの?」

 

 

「腐っても悪党なんだろうな……レッドプレイヤーの思考模倣の域だもん」とナキは言葉足らずだったが、含まれていた意味を私は理解した。

 

 

「これを使ったPK行為って事?」

 

 

「イグザクトリィ……と言いたいけど杞憂で終わるでしょ……話のベクトルが滅茶苦茶変わるんだけどさ……近接武器買いたいんだけど」

 

 

「え? ……別に銃剣でも……ってナキは駄目だったね」

 

 

「サナのアバカンが異常なだけ……銃剣とグレポン同時装備可とか」

 

 

「でも銃剣は、やっぱりセミオートライフルで付けなきゃね……クリップ装填式の……」

 

 

「万歳エディションか何かかよ……大和魂云々……ってそうじゃなくてさ……バリスティックナイフ辺りが欲しいけど……」

 

 

「ナキの気持ちが分からないこともないけど……とりあえずショップ行こ? 私も投げナイフ用の素材買い足したいしさ」と私は提案した。さっきの発言から解るように、SAOでもALOでもGGOでも私の投擲はアイデンティティのようなものになっていた。銃剣製作スキルを用いて、手頃なサイズの物を作り使っていた。ピック状の物とナイフを自作して使っている……一応アバカンの銃剣も自作出来るが、だったらブリーチャーデバイスの方がマシ、とナキに言われたので、つけていない。何なら重量的な問題もあるので尚更だ。

 

 

 そして、大型のNPCショップで、フォトンソードなるものを計二振りと素材を買い、近くのフィールドでフォトンソードの試し斬りを行った。

 

 

「……うーん……アレだ……フォース云々でしかないよね、サナ」

 

 

「うん、投擲したらブーメランみたいに戻ってきそう……なんなら弾斬ったり、レーザー弾跳ね返せたりしそう」

 

 

「完全にネタ武器扱いなのに、霞まないあたりのバランスは凄いよね。しかも軽いからサブ武器に丁度良い」

 

 

「そうだね……けどCQB位だよね使えるの」

 

 

「まぁ、ただ対人対モンスターに使えるからな?」

 

 

「そうだね……とりあえず何時もの狩り場行こ?」

 

 

「そうだな」

 

 

 

 

 

 場所は移ってサナ達は雪原フィールドにいた。ここで何をするかと言うと……PKである。SAO、ALOでは狩人だったが、GGOではミイラ取りがミイラになっていた。更に皮肉にも『雪原の悪魔』と言う二つ名までつけられていた。ナキに関しては『白の悪魔』とも呼ばれている。その理由は容姿も関係している。

 

 

 私が居る位置より少し離れて陣取っているナキは長い髪を白に染め、ロシアの某特殊部隊が着ていそうな雪原仕様の迷彩服を着ている。そして、同じようにペイントされたグローザのセレクターをグレネードランチャーに切り替えて構えていた。しかもご丁寧にも某FPSでDPー28とモロトフ弾頭を使っていそうなキャラや、某元祖バトロアゲーのトップ画面のキャラが被っているヘルメットまで被っていた。

 

 

 因みに私はと言うと、黒ロングの髪を三つ編みにしてまとめており、服装は焦げた赤茶の装備の上に雪原仕様のポンチョを着て、即席で作った盾の裏で伏せ撃ちの状態で構えていた。

 

 

「ターゲット残り300m……後部のプレイヤーから頼むよ、サナ」と通信アイテム越しにナキの声が聞こえてきた。それを合図に即座にセレクターをバーストに切り替えると、トリガーに指をかけずに目算し、それが瞬時に終わると同時にトリガーを引いた。放たれた弾は不幸にも一発しか当たらず、それを認識した私は、バイポットを畳みながらナキに

 

 

「一発しか当たらなかった。詰めるから支援お願い」と言って、私がセレクターをフルオートに切り替えると同時にターゲットの少し手前でスモークが展開された……言わずもがな、ナキの支援だ。その後直ぐにターゲットに対して破片グレネード弾頭が飛び込んでいった。

 

 

「ターゲット5人中1ダウン、1ロー、残りノーマル」とナキから戦況報告がきた。

 

 

「相手2名が実弾持ちで、無傷だ……追加でスモーク焚きながら合流する」と続けて言われたので、敵も混乱しているのもあり、完全に撃ちきる前にリロードして、薬室内に一発装填された状態なのでマガジンのマックス容量+1になっている。私は敵を視認すると同時にトリガーを引き続けた。実弾持ちでは無い残りの二人を倒すと、5.56mm弾が飛んできた。だが、幸いにも2、3発カスった程度だったので、大したことはなかった。

 

 

 敵の射線上から退避しつつも、私は右太ももからピックを引き抜くと、そのまま牽制も兼ねて投げた。ほんの数秒後、後方からサプレッサーで減衰された銃声を私が認識すると同時に残っていた敵の片方が倒された。そしてそのまま流れるように、残っていたもう片方の敵も、同じように倒されて全滅した。

 

 

「美味しいところだけかっさらって……」と私がジト目でサプレッサーが装備されているグローザを持っているナキに言うと

 

 

「こっちが全滅してた可能性もあるんだ……仕方無いだろ」とナキが言ってきた。多分このやり取りを第三者が見ていれば、ただイチャついているだけなのだが、一部の人間にとっては目の保養になる光景だった。

 

 

 そんな会話をしながら、サナ達は敵のドロップ品を回収していた。回収し終えるとナキが、

 

 

「サナ、残弾どれくらい?」と訊いてきた。

 

 

「2マガジン使い切って、1マガジンが一発だけ減ってる」

 

 

「こっちは1マガジン使いきっただけだから……とりあえず弾を渡しとく」とナキから弾薬を補充してもらった。時間的にも弾薬的にも、もう一回狩れる余裕があったので、私達はもう一度所定の場所について獲物がくるのを待っていた。

 

 

 少しして、またプレイヤーが現れた。だが、私が接近して倒す際に敵プレイヤーの一人が装備していたデカネードに流れ弾が当たり、爆発した。私もその爆発に巻き込まれて死亡した。ナキの方は、爆発に巻き込まれはしなかったものの、同じように巻き込まれていなかった敵プレイヤーが一人居て、倒そうとした際にヘルメットを破壊されて、尚且つお土産グレネードで死亡した。結局、二人仲良く死に戻りして、しかも爆発オチと言うなんとも言えない死に方をしたので、私もナキも有無を言わずログアウトしたのだった。幸いにも、損害といえる損害がナキのヘルメットぐらいで済んだのでマシな方だった。

 

 

 後日GGO内では、ナキのアバターの素顔が分かった事で、ファンクラブらしきものが発足して、そこのメンバー残らずサナ達に処されるのは、また別のお話。

 




お約束と言わんばかりのオチ
次回胡散臭い人再来と言う嘘予告


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岐路

 私達は大学の講義室にいた。昨晩、爆死と言う死に方をして、貴夜とナナに慰めてもらい、どうにか立ち直った。当然ながら今日は平日だ。私は真面目に講義を受けていた。隣には貴夜が座っているのだが、完全に聞いているフリをしていた。貴夜が何をしているのかと言うと、卓上にノートパソコンを出して、画面半分をナナが、もう半分がメモ帳が占めていた。貴夜が真面目に受けていないのかと言うと、父親(私からすると義理の父)である名取教授の講義で、貴夜にしてみれば基礎的な部分の内容らしい為、この有り様だった。生徒の間では、重村教授の方が人気らしいのだが、名取教授の講義の方が面白い、と思う私には眉唾物だった。

 

 

「今日は、ここまでだ。次回までに課題の提出をしておくように」と名取教授が言うと同時に授業が終わる時間になり、他の学生達は出席票を出して退室していった。貴夜も出ようとしたので、私は急いで片付けた。

 

 

「貴夜、後で来てくれ……重村の所にいった後でも良いから」と私達が出ようとして、教授に呼び止められた。

 

 

「いや、時間的にも大丈夫だし……一応知ってるだろ……昼の時間ずらしているんだから、今からでもさ……問題ないだろ紗奈?」

 

 

「うん……わざわざ人混みにいくつもりは無いし」と私がそう答えた後、私達は名取ラボへと話ながら移動した。

 

 

「んで、親父……今日元々重村ラボに顔を出すつもり無いから……でも、本当に須郷……腐っても先輩の、あの野郎の誘いに乗らなくて良かった」

 

 

「まぁ、須郷君とは関わるのは避けていて正解だったな……だが、須郷君の名を口にしたと言うことは、多少整理がついた、と見るべきか」

 

 

「多少はな……ただ、あの野郎を目の前にしたら制御しきれる自信は無い……紗奈もそうだし」

 

 

「私も、それは断言出来ないかも……」

 

 

「須郷君は、欲が強すぎていたからね……重村も手を焼いていたようだし」

 

 

「そうだったんですね……叶から言われていたんですけど、須郷の下にいた人間もいるから気をつけて、って……」

 

 

「まぁ、けど大学にいる間は大丈夫だろう……ナナちゃんも可愛らしくてね、娘より孫娘の方が可愛いと思ってしまうのは、老いぼれのそれなんだろうさ」と笑いながら教授は話を切り替えたが、私は何処か引っ掛かった。ただ、それを追求する間も無く貴夜が、

 

 

「愛娘だよ、ナナは……ただ、自分達で組んだプログラムの内、最後の方の内容を組んだ自分達が理解できてない……本来バグとみなされるものが、正常に動いているんだ……ただ危険性も皆無に等しいし、なついているから安心している」

 

 

「まぁ、本題は部屋に入ってからにしようか」と教授が言ったのだった。

 

 

 

 

 

 名取教授が、自分の椅子に腰を下ろし、私達は机の前にある応接セットのソファーに、貴夜と向かい合うように座り、貴夜が私との間にあるローテーブルにノートパソコンを置いた。画面には、ナナが写っていた。

 

 

「それで、親父……本題って?」と貴夜が切り出すと、

 

 

「黒華君の所の話だ」と教授が言ったが、私は何がなんなのか理解できなかった。

 

 

「何で、今その話なんだ?」と私が貴夜に対して説明を求めようとしたが、貴夜は隙を与えずに教授に訊き返した。貴夜の返し方的に危なそうだったのを察した私は、追求するのを堪えると、そんな様子を見た貴夜が、

 

 

「あぁ……紗奈は知らなかったな。エマの事だよ……正確には、その両親の事だけど」と簡単な現状説明をしてくれた。

 

 

「何で須郷君が、あんなにご執心だったのかが、やっと分かった」と教授が答えた。

 

 

「メンタルシステムのベースの1つである……汎用型自立思考AIの基礎プラグラム及び、そのAIだろ?」

 

 

「ほぼ正解だ、貴夜。システムに搭載されているのはアレンジが加えられたものだし、AI関連は黒華君達のものだからな……しかしアメリカからもお話が来ていたようだ……」

 

 

「つまり、須郷はオリジナルを何としても手に入れる為に、裏で手を回しエマの両親を殺害……しかも自分の手は汚さずにか……そして、そのデータを奪い取るつもりだったんだろうけど」と貴夜が、教授が含めて言った内容を推察し、

 

 

「まぁ、まず私が許すわけがないが……行方不明のオリジナルに関しては難しいからね」と教授はその推察を肯定した。

 

 

「つまり、須郷……は……どクズ野郎ってことですか?」と私が言うと、

 

 

「その通り……結果的にはだが……周囲が優秀だったから、妬んだんだろう」と教授はフォローともとれる言い方をしたが、ニュアンス的に違く、追い打ちは確かだった。そして、教授はこう続けた。

 

 

「紗奈君も須郷君と同じようなタイプだが、そうならないと言う確信があるから、自分のやりたいことを確立させれば道は、そう簡単に踏み外さないだろう……話が逸れてしまったが、何が言いたいのかと言うと、公安から正式な通達が来た」

 

 

「親父、どういう事だ?」と貴夜が訊くと、

 

 

「全て須郷君の仕業だった……認めたらしい……なので、貴夜達が突きつけてきた条件に応じるとの事だ……エマちゃんの件は司法取引という事だ」

 

 

「なら、一件落着か……」と貴夜は胸を撫で下ろしながら言った。

 

 

「そういうことなんだが、VR規制の動きがな……」と、教授は火種を新たに投げてきた。

 

 

「国も一枚岩じゃ無いからな……SAO事件から始まるこの惨劇を止めると言う建前か」と貴夜が言い、それをノートパソコンから見ていたナナが口を開いてこう言った。

 

 

「はい、パパ達が言う通り、反対派と賛成派がいるのは事実なの…………でも……それじゃあ……ナナはどうなるの?」と補足をいれながらも、それから推察される問題点に対して訴えてきた。

 

 

「私は規制すべきではないと思います……あの世界を全否定してしまうのは、負の感情を抱かずに逝ってしまった仲間達に対する冒涜ですし、VR関連技術は日本にとって有用な手札なのに……それを捨ててしまうのはどうかと……」と私は己に任せて言った。

 

 

「紗奈の言う通りだし……ある意味、あれは命を救うことができる技術だ。誰もがイーブンな状態であるのが、あの世界だ……その代わり、それ相応のデメリットだってあるのは分かった上で、俺達は言ってるんだ」と貴夜が更にそう言った。

 

 

「貴夜や紗奈君、ナナちゃんの言う通りだ。私だって反対だ……未来を担う側の人間の意見を聞かずに芽を摘んでしまうのは、愚の骨頂だ」と教授は笑みを浮かべながら、更にこう続けた。

 

 

「だが、最低限の取り決めは必要だろうがね……VR技術は資源の乏しい日本にとって有用な物だ……ただし、今は、と言う枕詞はついてしまうが」

 

 

「まぁ……仮想課や、規制反対派に期待するしかないんだろうな」と貴夜が言った。

 

 

「ナナも大丈夫だよ、そんなこと私達は絶対に許さないし、まずさせないから」と私はナナをそう慰めるのだった。

 

 

 

 

 

 そうして私達は教授との会話を終え、大学内のカフェテリアにいた。テラス席に座って、貴夜と少し遅い昼食を食べていた。ナナは 最適化|お昼寝 をしているので、貴夜と二人きりの状態だった……あの人と出くわさなければ。

 

 

「そこにいるのは、名取君と有栖川君じゃないか……少し話したい事があるんだが良いかな?」と話し掛けてきたのは、黒ぶち眼鏡をかけている 菊岡|胡散臭い人 だった。

 

 

「何で仮想課の貴方が、大学|ここ にいるんですか?」と私は、菊岡に対して訂正を入れる気も起きずに訊くと、

 

 

「名取教授や重村教授に用があってね……その帰りだよ」と返答が返ってきた。

 

 

「それで、どんな話ですか? ……どうせ知ってるんでしょ……こっちの事は」と貴夜は多少穏やかに問い詰めた。

 

 

「あぁ、君達が 公安|あちら についたことは知っているさ……こちらとしては、可能な限り君達とはフェアな状態でありたいと思っている……独立行政法人海洋資源探索機構……まだ仮の段階だが、それを立ち上げようとしている。君達も良かったら、就職|協力 してほしいと思っているんだ……ただ、これは動き出したばかりだからね、しっかりした内容も話せないが、内密にさえしてくれれば何も言わない」と声音を落としながら言って、その後声音を普段通りに戻して、こう続けた。

 

 

「話は、これで以上だ……邪魔をして悪かったね、失礼するよ」そうやって菊岡は帰っていった。私は貴夜に対して、

 

 

「ねぇ、貴夜……今のどういう事?」と説明を求めた。

 

 

「さぁね……ただ、確定して言えるのは、あの人は何か企んでいて、 公安の駒|バイト先 がバレたって事だな」

 

 

「まぁ、私達が今さっきの話を黙っていれば、何も問題は無いんだよね?」

 

 

「口振り的にそうなんじゃないか? ……ただ、重村先生や親父に用があったって言ってたから、菊岡は多分今のバランスを崩す何かを作ろうとしてるんじゃないかな……しかも協力してほしいとまで言ってきた……つまりはAIか何かだろう……海洋資源探索機構は表向きの名前だろうしな」と貴夜は菊岡の腹の内を推測していた。

 

 

「私としては、今のこの何気ない日常が続いてくれれば別に気にしないけどね」と私は、ただ純粋にそう言うのだった。

 

 

 だが、その発言は只のフラグでしか無い事や貴夜の推測通りだった事に気付くのは、まだ当分先の事で不確かな未来の中だった。

 




次回挑戦者が現れましたと言う嘘予告
更新できたら早くしたいなと思ってるけどどうなるやら


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アファシスとピンクの悪魔

 どんよりした梅雨が明け、日に日に暑さを増し始めた7月某日、サナ達はGGOの世界にいた。場所は、いつもの雪原ではなく、私達の拠点である〈SBCグロッケン〉とは敵対していた勢力の拠点跡地だ。何故ここに私達が来たのかと言うと、新アイテムがあると言う噂を聞き付けて、真偽を確かめる為だ。因みにナキが珍しく乗り気でしつこく言ってきたので、私は仕方無く折れたのだが、正味私も気になっていたのは事実だった。新アイテムの正式名称は長すぎて忘れてしまったが、通称アファシスと呼ばれるアイテムらしい。研究施設の跡らしき廃墟の中に、人間一人が入るサイズのポッドがあった。

 

 

 私達は周囲にモンスター及びプレイヤーの気配などが無いことを確認し、私とナキは、ポッドとの距離を詰めた。多少の安全が確認できたので警戒を緩め、ナキがポッドの横にあった機械を操作すると、ポッドの中身が見える状態になった。

 

 

「ハッキングする必要無かったな……ま、あったとしても問題は無いけど」とナキが言った。私は、ナキが言った事をシカトしてポッドの中身を見た。だが、中に入っていたのはあまりにも見覚えのあるものだった。否、見覚えしかなかった。赤い瞳に銀髪、淡い青の服……私達の愛娘であるナナにそっくりと言うより、ナナそのものだった。

 

 

「何で、ナナそっくりのアファシスが……待って……まずアファシスってプレイヤーと同じ大きさなの?」と私は驚きに捕らわれつつも思考を纏めようと言い出しっぺのナキに事情を問いただした。

 

 

「何も知らないさ……それは、中にいる本人に訊くべきだろ……こっちだって半信半疑だっての」とナキは、何処か心当たりがありそうな雰囲気だったが、ナキも知らないようだった。ただ、何か企んでいるのは確かだ。

 

 

「分かった……とりあえず、このアファシスを叩き起こして拷mo……ゲフンゲフン……聴取するしかないのね」と一瞬、イケナイモノが、ナチュラルに出ようとして、ナキの目が笑っていなかったのもあり、どうにか私は取り繕った。

 

 

「サナは、訳の判らんタイミングで変なのが出てくるよな……ホントに……」とナキが呆れながら機械を操作して、ポッドを開いた。

 

 

「何で、うんともすんとも言わないのこのアファシス」と私が言うと、

 

 

「当たり前だろ……中身が完全じゃないんだから」とナキが言った。ただ、完全に私が正気かナキに疑われていた。私が何をしたのか……心当たりしかなかった。最近ジメジメし過ぎて私は、色々溜まっていたいたのを、現実でナキにぶつけたり、PKで凄惨なアレやコレやをしでかしたりしていた。多分ナキも堪えていたんだろうが、溢れてしまっていたらしい。ただ、ナキに対して現実で自重する気は無い。

 

 

「なら、どうすれば良いの?」と私は、これ以上疑われるのを避けるためにナキに訊くと、

 

 

「どっちかが、マスター登録しなきゃならないみたいだ...俺はこれ以上は勘弁だからサナな」と勝手に決められて、私に有無を言わせてくれなかった。渋々、私はアファシスのマスターになったのだった。その甲斐あってかアファシスは無事起動した。

 

 

「ナナなの? ……中に入っているのは?」と私がアファシスに対して訊くと、

 

 

「そうなのママ」とアファシス……いやナナは答えた。

 

 

「なら、なんでなのかママとパパに答えて」と私が問うと、

 

 

「ナナもママとパパがいる世界に……ううん……ママとパパと一緒に居たかったの」とナナは言った。

 

 

「ナナ、確認するが……ハッキングはしてないよな?」とナキが訊くと、ナナは首を横に振ってこう言った。

 

 

「してないの。この世界(GGO)のデータを見てる時に、アファシス(これ)を見つけて、更にアクセス出来たの」

 

 

「まぁ……もしかしたらと思って、アファシス(それ)を取りに来てみたら、既にナナが中に入ってたから手間も省けたが……ナナ、はどういうアイテムなんだ?」とナキは、しれっと白状しやがった。ただ、ナナの為だったので、私は追求しないことにした。

 

 

「アファシスは、プレイヤーを補助するAIみたいなアイテムなの。マスターと登録されたプレイヤーのステータスの1割が、そのままアファシスのステータスになるの」とナナは説明してくれた。

 

 

「つまり、サナがマスターだからナナのステータスはサナの1割か……でも俺にしなくて正解だったな……使える武器の幅的な問題で」

 

 

「そうなの……パパには失礼なのは分かってるけど、ナナもママがマスターで嬉しかったの」とナナに言われたナキは笑いながらこう言った。

 

 

「事実、サナよりステータスは上だが、汎用的じゃなくある意味ピーキーだからな」

 

 

 その後、私達はナナからアファシスについて詳しく説明を聞いた。その際に、私達以外の事情を知らない人間がいる時は、原則的にナキの指示などは通らなくなり、私のこともマスター呼びになって、口調もアファシス本来のものになる、とナナが教えてくれた。

 

 

「ひとまず、ナナが持てる武器ってあったけ?」と説明を聞き終えてから私がナキに訊くと、

 

 

「サナはどうなのさ」と訊き返され

 

 

 た。

 

 

「私は、無いよ……ベレッタなんてナナに使わせれる訳ないじゃん」

 

 

「なら……俺の AKSー74U(クリンコフ)と、光剣か……」

 

 

「そうなるね」とナナに持たせる武器は決まった。ナキは、元々STRが高かったのでストレージ用量に余裕がある。それに全員が共通の口径弾を使用するので、弾薬管理をしっかり行えば、特に問題もなかった。STRが高いナキは本来、LSW(分隊支援火器)を持つのがベターだが、ストレージ用量に余裕が無い私の分の弾薬等を持つために、グローザを選んでいた。その代わりサブアームである光剣の他に、互いに使いたい拳銃を持っている。私は、9×19mmパラベラム弾を使用するイタリアのベレッタM93R……名称から判るように、三点バースト(トリガーを1度引くと3発の弾が射出される)のマシンピストルを使っている。だが、そのベレッタはストックを拡張し、マウントレールを2つ増設して、それぞれにレーザーサイトとフラッシュライトがマウントされている。照準器(サイト)はホロサイトだ。ただ、ストレージに今は眠っている。ナキの方は、ナナに光剣を持たせたので、サブアームがゴツい拳銃に戻っていた。その拳銃の名称は、AMTーオートマグⅡだ。使用する弾薬は、22WMR弾で、今では狩猟用カードリッチとしても使われている弾薬だ。ナキが言うには、使い方がガバメトと同じだが、小銃で使われる射缶方法を用いているので、出た当初こそ評価は高かったが、後に不具合が大量に見つかった為、現在では欠陥銃だが、現在でも根強い人気がある俗に言うロマン銃らしい。特徴的なロングバレルであるそれをナキは、更に拡張して、サプレッサーを着けて、下部に増設したマウントレールにはフラッシュライトを、照準器(サイト)は×1.5スコープが取り付けられていた。

 その為、女性っぽいアバターのナキが持つと元々ゴツい拳銃なのだが、更にゴツさが際立っていた。シュワルツネッガー等のハリウッドスターやエギル辺りのがたいの良い男性が持っていて、やっと違和感の無いレベルの物に仕上がっていた。カスタムから解る通り、ナキも私も大概なのは、事実だ。メインアームこそロシア(旧ソ連)の銃だが、サブアームの拳銃は、私のはイタリア、ナキはアメリカ、と個性とも言える感じだ。ナキに関して言えば、メインアームで使っているグローザは、本来7.62mm口径か、9mm口径を使用する武器だ。5.45mm口径は、計画段階で、没になっていたらしい。ナキが言うには、同じブルバップ式ARであるステアーAUGよりも、扱いづらく、げでは倉庫に眠っていれば良い方だと。だが、そのお蔭で色々と楽なので、問題は無い……と私は逸れまくった思考をどうにか戻して、ナキ達とグロッケンに戻った。

 

 

 グロッケンに入る前、ナキがナナに念のために、とポンチョを着せた。勿論、悪名が知られている私達もポンチョを着ている。

 

 

 グロッケンに入ると、そのままレンタルルームに入った。余談だが、私達は、基本的に他のプレイヤーと余り関わらないのもあって、私達が『雪原の悪魔』だとバレてない……ただ、未だにナンパみたいなものや、謎のファンはいるが、基本シカトしている。

 

 

 レンタルルームに入ってからは、ナキがAKSー74Uをナナが使いやすいように弄って、私達はログアウトした。

 

 

 

 

 

 翌日も、私達はGGOにいた。ただ、いつものように雪原フィールドではなく、砂漠フィールドだった。ここに悪質なPKerがいるらしく、私達は気分転換も兼ねて倒しに来たのだ。

 

 

 私達の装備が完全に場違いなので、全員砂漠迷彩柄のポンチョを着て、周囲に湧く敵mobを処理しながら、その時を今か今かと待っていると、近くで爆発音が鳴り、その後プレイヤーが死ぬ音がした。

 

 

「今のって……」と私が音がした方向を見ながら言った。

 

 

「多分、当たりなんだろうな……囮は俺がやるから、ナナは周囲を警戒、サナは対象の拘束」とナキが指示を出してきたので私は、

 

 

「分かった」と頷くと、ナキはポンチョを外して、駆け出した。

 

 

 ナキが、罠が張ってあるであろう位置にグレネード弾頭を投げ入れて、罠を起動させた。私はナキの向かい側から回り込むようにして、裏取りを行った。すると、ナキのいる方から光線銃の銃声が鳴り、ナキのHPが若干ではあるが、少しずつ減り始めた。だが、私は既にナキを撃っているプレイヤーの背後をとっているので、ナイフを抜いて組み付いて、抵抗してくるそのプレイヤーの首筋にナイフを当てながら、

 

 

「チェックメイト……とりあえず引き金離して、銃を離すか、銃口を上に向けて貰えるかな……ピンクの悪魔さん?」と私が言うと、ピンクの悪魔は銃口を上に向けて、抵抗を止めた。

 

 

「まぁ、そんなに怖がらなくてもね……別に倒すつもりは無いし、こんなところでPKしてるプレイヤーの面を拝みに来ただけだからな」とナキが声色を女寄りにして、片手だけで構えているAMTオートマグⅡの銃口を、ピンクの悪魔に向けながら言った。

 

 

「逃げないって約束してくれるんだったら、私は拘束しないけど……この条件にのるんだったら手に持ってる銃を地面に落として」と私が言うと、ピンクの悪魔は、素直に両手に持っていた銃を地面に落とした。それを確認すると、私はナイフを戻し、ナキもホルスターへと戻した。

 

 

「それで、貴女のお名前は?」と私が訊くと、ピンクの悪魔は

 

 

「レン」と答えた。体つきからも女性なのは確かなので私は、

 

 

「レンちゃんね……私はサナ」と自己紹介をすると、ナキが

 

 

「俺は、ナキ……『雪原の悪魔』って言えば解るかな?」と口調だけいつも通りで言った。レンがコクリと頷くと、ナキはこう続けた。

 

 

「見た目こそ、女っぽいが男だ……一応言っておく」

 

 

「けどピンクの悪魔がこんなに可愛いプレイヤーだと思わなかった……ねぇ、私達とフレンド登録しない?」と私がレンに言うと、ナキが

 

 

「別に、サナだけで良いだろ……後、どの口がそんなことほざいているんだか……」と言った。

 

 

「なら、私とだけフレンド登録しない?」と再度レンに訊くと、レンは頷いた。レンとフレンドになった後、私が

 

 

「数少ない女性プレイヤー同士仲良くしたいってのもあったから、今日はもうかったかな」と言うと、

 

 

「それだけの為に、ここまで来たんですか?」とレンに訊かれたので、

 

 

「うん、そうだよ。後、なんなら誘ってくれれば私達も手伝うから……もちろん、今日の事はここにいる人間以外、誰にも言わないから安心して」と私はあっけらかんと答えた。

 

 

「サナ、そろそろ戻らないと、他のプレイヤー達が来る……ナナもそう言ってるから」とナキに言われ、私達はグロッケンへと戻った。

 

 

 道中、レンを倒そうとしていたプレイヤーに出会ったが、居なかったと嘘の情報を伝えたのは、同業者(PKer)としての礼儀だ(とサナが勝手に思っているだけ)。

 




次回身バレと言う嘘予告
次回も更新が1ヶ月になるかも…諸事情によるんでご容赦を


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エイプリルフール特別編 吸血姫と天使と鋼鉄の城 IFストーリー もし、紗奈と貴夜の関係が、高校時代で既に本編と同じくらいの状態だったら…

滅茶苦茶遅れたけどエイプリルフール特別編






「よし、これで完成っ」と私は珍しく早起きして、これまた珍しくキッチンに立って弁当を作っていた。

 

 

 詰められているおかずは、玉子焼きにウインナー等の定番のものだ。彩りも豊かで普通とは言えないが、これを食べる相手が相手なので手を込ませた分以上のリターンが私にくるのと、その相手は変に女子力が高いのでこういう所じゃなきゃ張り合えない……もといアピール出来ないのだ。

 

 

「普段料理をしない人間の割には、まともに出来たと思うし……昼休みが待ち遠しいなぁー」と私は笑みを浮かべながら独り言をもらし、登校準備を行うのだった。

 

 

 

 

 

「貴夜ー、起きろー」と馬鹿姉(朝陽)に叩き起こされたので不機嫌になりながらリビングへ向かった自分は、人を叩き起こして満足した様子で自分の前を歩く馬鹿姉(朝陽)にこう言った。

 

 

「さっさと学校行けよ……不出来な弟に構っている暇があるなら尚更な」

 

 

「うるさいなぁ……そう言えば今日なんで貴夜弁当要らなかったの?」と朝陽がにんまりした顔で言った。

 

 

 自分以上に聡い朝陽に対しては完全に隠し通す事も出来ないので、自分は打ち明けず濁すことにした。

 

 

「別にいいじゃんっ……」

 

 

「なんでそうツンになるかな……まさかね」とどうにか話を濁せたので、自分は安堵しながらリビングに向かい、母が用意してくれていた朝食を摂るのだった。

 

 

 

 

 

 チャイムが鳴り、気がつけば私が待ち焦がれていた昼休みの時間だった。こういうのは本来長く感じるのがお約束のはずなのだが、午前中の殆どが事実上の自習で、課題は苦労しなかったが、担任に色々と雑務を押し付けられたのでほぼ無心の状態でしていたので、あっという間に感じているだけだが……と私は考えながら待ち合わせの場所へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

「やっと終わった……課題免除の代わりに書架の整理とか……嫌いじゃないから良いけどさ」とチャイムが鳴り終わると同時に自分は毒づいた。

 

 

「けど俺は有り難かったな、貴夜の手伝いすれば課題免除になるから」と優が言ってきた。

 

 

 話の流れだけでは説明不足なので、ことのあらましを話すと、図書委員であり自分が自習の時間に書架……といっても司書室にある新着図書の棚整理や、事務処理などを擦り付けられたのだ。司書が新任でまだ慣れておらず、他の委員の殆どが押し付けられて委員になったやつらで意欲が低いので、自分に回ってきたのだから当然の結果なのだろうが、自分では力不足なので優に手伝わせていたのだ。

 

 

「まぁ、このお礼は今度するよ」

 

 

「なら、ランクマで頼む」

 

 

「善処はする」

 

 

「おう……てか、大丈夫なのか? 昼休み、委員の仕事休んで」

 

 

「貢献度的には、俺は委員長の次だからな……他の委員から文句は言われないし、言えないさ」

 

 

「さすがは影の委員長だな」と優が冗談混じりに言ってきた。

 

 

「おい、それはやめろ……厨二臭いし、事実無根だからな」と俺は即座に否定した。委員長は他の事もしていて多忙の身なので、自分がとりしきることもあるのだが、他の委員や生徒会などからそう言われていた。

 

 

「ま、これ以上言うと貴夜にしばかれかねないから黙るけどな」

 

 

「お前は引き際さえ心得てれば良い奴なのに、肝心なところで駄目だよな」

 

 

「引くこと覚えろカスって言いたいのか?」

 

 

「微妙にずれてる気がするが、そういうことにしておくよ……って油売ってる暇はないんだった」

 

 

「そう言えば、そうだったな……リア充めが」と優は冗談混じりに言ってきた。

 

 

「うるさいなぁ……」

 

 

「ま、後は俺でも出来るから、貴夜はさっさと行きやがれ」そう言った優を見ると、リア充に対する憎悪諸々と友情に板挟みにされているようだった。

 

 

「とりあえず優にするお礼は2割……いや4割増しするから……いってくるわ」と追加で優に対して油揚げをちらつかせた。

 

 

「分かった、ほらとっと行きやがれ」と優に言われ、自分はいつものように屋上へと向かった。

 

 

 

 

 

 昼休みが始まると同時に私は作った弁当片手に、屋上へと急いで向かった。理由は簡単だ。日差しが強くなく快適な日であれば、屋上の適当なベンチでいいが、あいにく今日は夏日だ。なので特等席を取りに行くのだ。ただ、梅雨入り前にこの暑さなので、今年の夏はどうなるのやらと思いながら屋上へ続く階段を登った。

 

 

 屋上に出て目的の特等席を見ると、幸運なことに空いており、屋上には私以外人っ子一人いなかった。

 

 

「一番乗りか……ラッキー……貴夜は図書室だからまだ時間かかるだろうし……」と私は独り言を洩らした。

 

 

「俺がどうかしたのか?」と本来返ってくるはずの無い返答が返ってきたので、

 

 

「ひゃっ」と私は驚いてしまった。

 

 

「まぁ、無理もないか屋上とは正反対にあって、しかも校舎からも若干離れている図書室にいたはずの俺が後ろにいたんだから」

 

 

「当たり前だよ……でも何でこんなに早かったの?」

 

 

「優に言われたからかな」

 

 

「何で返答がそんなに曖昧なのかな?」

 

 

「別に、ただ単にある程度終わらせてきたからだよ……その代わり明日からはそれを言い訳につかえなくなったけどな」と貴夜は少し残念そうに言った。

 

 

「私の為になのかどうかは愚問だろうから訊かないでおこうかな」

 

 

「いや、紗奈それ言ったらお終いなヤツ」

 

 

「素直じゃないなぁ」

 

 

「うるさいっ」

 

 

「立ち話してないで、とっといこ」

 

 

「原因は紗奈の気がするがな……」と貴夜が最後に言ったことは聞かなかったことにして私と貴夜は特等席である、上に屋根があり、丁度日陰になっているベンチに陣取った。

 

 

 

 

 

「いやー、これは屋上に入れないよな」と親友の恋路が心配なのか優は、ドアの陰から覗き見しながら独り言を洩らした。

 

 

「そうだよね……あれは妬むどころか近寄りがたいし、敵意すら失せるレベルだよ」と優と同じく親友の恋路が心配で覗き見している叶も、その独り言に同意した。

 

 

「これ以上は耐えられないから戻るよ……春山さんはどうするのさ」

 

 

「あ、お気遣いなく……私は紗奈がやらかさないかまだ見ておくつもりだから……」

 

 

「……さすがに耐性の無い俺には、あれを長時間見るのは無理だな……貴夜はもうちょい胃痛に悩まされちまえ」と優は毒づいて、下の階へと降りていった。それを眺めることなく叶は屋上を覗き見し続けた。

 

 

 数分後……

 

 

「うっ……砂糖吐きそう……お腹いっぱいで胃もたれどころか……ここまでって……私もさっさと戻れば良かった……」と叶は後悔しながら教室に戻るのだった。

 

 

 

 

 

 まさか各々の親友に覗き見されていることなど紗奈達は気づくことなく、紗奈が作ってきた弁当を食べていた。

 

 

「うん、おいしいよ」と貴夜が当たり障りの無いことを言うと、

 

 

「嫌味か何かなの?」

 

 

「いや……紗奈自身があんまり料理しないって言ってたからさ」

 

 

「ママに手伝ってもらったりはしてないよ……ただ、レシピだけは教えてもらったけど」

 

 

「マニュアル通りなら出来るタイプなのか」

 

 

「まぁ、お菓子づくりはしょっちゅうではないけどするからね……おかずは何種類かは出来合いだし」

 

 

「別にそんなこと気にしてないよ」

 

 

「と、とりあえず誉め言葉ってことで受け取っておくけど……」

 

 

「そう言えばさ、話は変わるんだけど」

 

 

「ん? 何?」

 

 

「最近チーター多くないか?」

 

 

「何かと思ったらその話ね……言われみればそうだよね」

 

 

「全弾HSとか……まだ壁抜いてこないだけマシか……」

 

 

「ランクマは絶対できないよね……カジュアルだってたまにいるし……」

 

 

「しかも最近初動ででろーん引く率高いし」

 

 

「増幅バリケード持ってくれば?」

 

 

「だったら、ブレスレットワープ使うわ」

 

 

「当分あのゲームから距離置けば?」

 

 

「そうするよ……ただ、それ以外になると……C〇Dだからな……やれることはやり終わってるからな……」

 

 

「なら尚更、可愛い推しに貢ぎなよ」

 

 

「あはは……周回地獄だ……釘にランタンに……大量にリソース溶けそう……」

 

 

「あっ……そうだった……貴夜の推しは育成難易度高い子だった」

 

 

「素直にC〇Dやるしかないな」

 

 

「出来れば育成から逃げないでほしいけどね……初手で全体攻撃と味方にバフばらまけるから結構私使ってるんだから」

 

 

「貧弱な我がカルデアに期待しないで欲しいけどな」

 

 

 そんなことを話しながら私達はお昼を食べるのだった。

 




本編は暫しお待ちを…


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鼠と狩人(現実)

 2024年7月31日

 

 

 私達は、とある人物を叶と仕事の話をする時に利用しているレストランに呼びつけていた。

 

 

「よっ、アルゴ……じゃなかったな帆坂朋さんよ」とナキが牽制と言わんばかりの一言を投げ掛けた。

 

 

「話のペースをそっちに握られるとやりにくいナ」

 

 

「ナキは置いといてアルゴさん取り敢えず座って」

 

 

「ならお言葉に甘えテ」

 

 

「色々聞きたいことがあるだろうけど、取り敢えず、だ」そう言ってナキは座って名刺をアルゴの前に差し出した。

 

 

「オレっちもだよナ」と言ってアルゴも名刺をナキの前に差し出した。

 

 

「ナっ……名取ってあの名取教授のカッ?」

 

 

「ああ、ついでに言うなら今Mトゥデで使っているデータ管理システムを作った人間だよ」と貴夜が言い終わるのを待って私は自己紹介をした。

 

 

「久し振りアルゴさん…………私の本名は有栖川紗奈だよ……今は名字は名取だけどね」

 

 

「久し振り、サナっち……それと結婚おめでとうお二人さん」とアルゴは言ってこう続けた。

 

 

「なぁ、オレっちが何でここに呼ばれたのかの理由を聞いてもいいカ?」

 

 

「あっちでそれなりに貸しがあったから返そうと思ってな」

 

 

「そう言う理由なのカ……取り敢えず単刀直入に言うゾ?」

 

 

「あぁ……後オレは呼び捨てで構わないよ」

 

 

「分かったヨ、二人共ユニークスキルを持ってたダロ?」そう言われてナキが少し固まったので、私が返答した。

 

 

「アルゴさんの前では使った記憶無いけど……」

 

 

「正直に言うヨ、実は1回だけ二人の後を尾行したんだヨ……ハンディングしながらだけどナ……そしたら二人がレッドプレイヤーと戦闘し出して、違和感を覚えたんダヨ」

 

 

「ナキがリピール出来なかったって事は相当隠蔽スキル高かったのか……脇が私も甘かったなぁ……」

 

 

「まぁ、言ったらいけないのを本能で感じてナ……バトルヒーリングスキルにしてはサナっちの回復量はおかしかったシ……ナキに対してふるわれた攻撃は、当たるどころか誰も居ない方向にふるわれたからナ」

 

 

「ま、それだけで判断出来たアルゴも流石は情報屋としての眼だな」と貴夜が硬直からとけて言った。

 

 

「誉められてもオイラからは何も出ないゾ?」

 

 

「解ってるさ……Mトゥデのライターとしてのアルゴは何を書く気なのかは知りたいけどな」

 

 

「情報料は貸しにするけド教えるヨ。ザ・シードのハード関連だナ」

 

 

「成る程ね……」とナキが言った。ここまで、私は殆ど話にはいれなかったので、話題の転換も兼ねて言った。

 

 

「アルゴさん好きなの頼んで良いから、会計はナキ持ちだから遠慮せずに、ね?」

 

 

「そうさしてもらうヨ」そう言ってアルゴはスイーツと飲み物を頼んだ。ここのレストランは基本的に店員が入って来るときはノックをしてから入って来るので、話を中断できるし、もし聞かれたとしても店員には守秘義務があるので気にする必要はない。ここの利用者には、政界や経済界の大物等がいるのである意味当然と言える。

 

 

 私達もそれぞれ飲み物を頼んだが、私は耐えられずモンブランを頼んだ。すると貴夜から

 

 

「太るぞ」と言われた。

 

 

 そのやり取りを見ていたアルゴから

 

 

「あの時と同じやり取りだナ」と言われた。

 

 

「お似合いだな、とは言わないのか?」

 

 

「元からだらかナ、否定はしないケド」

 

 

「ただ……現実に戻ってこれたって感覚が薄いんだよな」

 

 

「どういうことなんダ、ナキっち」

 

 

「サナが俺の隣にいるのもあるけど、あっちにいようが考えることが変わってないからな……俺は」と苦笑しながらナキが言った。

 

 

「説明になってないゾ」

 

 

「VR技術について考えてしまうのは学者の端くれでも同じってことだよ……」

 

 

「そう言えば、ナキっちは重村ラボ所属だったナ」

 

 

「一応私もだけどね」と私が言うと

 

 

「だから、サナは変なところで対抗心燃やすなよ……」

 

 

「幸せそうなんだナ……二人共」とアルゴが生暖かい目でこっちを見てきたが、私はスルーした。貴夜は少し気まずそうだったが、私は気にせずにアルゴに

 

 

「アルゴさんは帰還者学校に通っているの?」と訊いた。

 

 

「いや、地元の学校に通ってル」

 

 

「距離か……」と貴夜がポツリと言うと

 

 

「ナキっちってエスパーか何かカ?」

 

 

「化け物なんじゃない?」と私はアルゴに対して冗談混じりに答えた。当の本人は心外そうな顔をしていたが、誰も気に止めなかった。

 

 

「……」と貴夜が何か言いたそうにしていた。私は貴夜が結構機嫌を損ねているのを理解したので、少しだけ優しく接するのだった。



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番外編 事件

久しぶりです
その場繋ぎの投稿


 死銃(デス・ガン)事件が幕を閉じて年の瀬が迫りつつあるある日、季節外れの暖気で寒さが比較的穏やかな夜、私と貴夜は二人で夜道を歩いていた。その日の日中はアキバに行っていたので、駅から自宅までの帰り道だった。駅から離れていくほど、人通りは少なくなっていった。自宅まで後数分という距離で事件はおきた。

 

「目当ての物、買えて良かったよね貴夜」

 

「そうだな……これでナナの物理ハードウェアの強化が出来るな」そんなことを話しながら歩いていると、前の方から一人の男性が歩いてきた。私達との距離が近くなるにつれて、危機感のような嫌な予感が強くなっていった。

 

 嫌な予感は的中した。男は私に向かってナイフを刺そうとして来たが、貴夜がかばった。ナイフは貴夜の左胸……心臓部分に刺さっていた。私は直ぐにパニックにならないように、自分を押さえながら手元にあったボールペンを逃げようとする男の脚に投げた。筋をかすったのか、男はその場に倒れこんだが、私は確認せずに救急車を呼んだ。

 

 結末を言ってしまえば、本来致命傷なのだが、貴夜は臓器の位置が左右反転している珍しいパターンだったことと、処置が迅速だったので大した後遺症は残らないだろうと医者は言っていた。3日間は集中治療室に入っていたが、2日目に貴夜が意識を覚醒させてからは回復が早かった。また、貴夜を刺した男は私に片足の腱に傷をつけられて、更に当たり所が悪かったのか身動きがとれずにいた所を現行犯逮捕された。私に関しては正当防衛が認められた。

 

 貴夜が襲われ病院に運び込まれたその日の夜、私は医者から帰るよう言われたが拒否すると、連絡を受けて来ていた朝陽に半ば連行される勢いで自宅に強制送還された。そして、テーブルで私は消沈していた。

 

「大丈夫だよ、貴夜は私の弟だよ? 簡単にくたばってくれちゃ、成仏すらさせないから」と少し焦躁していた私に朝陽が冗談混じりに言った。

 

「いや……家がこんなに広く感じたっけなって思ってさ……」と精神的に参っている私は、少し萎れた状態で言った。

 

「でも、話を聞いて驚いたけど二人とも公安と繋がっていたんだね……まぁそのお陰で後の事の負担が多少ラクになるんだろうけど……私はさっさと身の振り方考えないといけないのか」と病院で朝陽は公安の人間と会ったらしく事情は理解している。ただ、私達のこの先の道が見えているのに対して朝陽は焦りみたいなものを抱えているようだった。

 

「けど、貴夜以上のスペックだから行き場は有るでしょ?」

 

「そうだけどさ……私みたいなのは風当たり強いから」と朝陽の言わんとすることを察した。スペックの高さ故に、腫れ物扱いなのだ。だが、普段の朝陽からは感じられない空元気を感じた。

 

「まぁ、私だって内心穏やかじゃ無いよ?」

 

「けど……」

 

「事実、貴夜が死の危機に瀕した時……前もそうだった」

 

「それって……」

 

「SAO事件の時は、お先真っ暗って状態になってたよ……ただ目の前にあることをがむしゃらにやって過ごしてた……けど今は違う気がしてるんだ」

 

「……」私はただ朝陽が言っていることを聞くのと、適切な相づちを打つことしか出来なかった。私自身表に滲み出ている以上に精神的にきているものがあってか、まともに思考が回っていなかった。

 

「なんか紗奈の今の状態見てると心配だし……それに紗奈に何かあったら私が貴夜から怒られそうだから……泊まっていこうか?」と貴夜以上の観察眼のある朝陽にそう提案された。

 

「うん……お願い」と私は弱々しく答えることしか出来なかった。

 

「ぶっちゃけ……男である貴夜以上に心強いはずだよ私……」

 

「男勝りって事を否定しないんだね」

 

「まぁ、両親はともかく親族からよく言われてたから」

 

「たまに貴夜が男に見えない時あったけど」

 

「多分貴夜がどういう反応したかによって変わるだろうけど……私は親族から本当に真逆な双子だって言われてたよ……性格もだけど」

 

「ねぇ、小さい頃の貴夜ってどんな感じだったの?」

 

「ざっとしか話して無かったもんね……どこから話そうかな……幼稚園の頃の貴夜はお姉ちゃんっ子だったよ」と懐かしみながら朝陽が言った。

 

「意外……」

 

「本人もその自覚があったのか小学校に上がった頃には私に対してツンツンしてたよ……今以上にね」

 

「やっぱりツンデレだよね……貴夜って」

 

「見る限りそれは否定できないもんね……話は戻るけど丁度その頃から私との差が出始めてね……貴夜自身無意識に思うところがあったんだろうね。だからか、よくお父さんの大学についていってた」

 

「貴夜から小さい頃からお義父さんについていって大学に行ってたとは聞いてたけど……」

 

「両親も気付いていたみたいでさ、私以上に貴夜を可愛がっていたのを覚えてる……ただ何故か嫉妬はしなかったな……羨望も無かったし、多分私は幼いなりに分かっていたのかもね」

 

「辛くなかったの?」

 

「辛いも何も、私が簡単に出来ることが貴夜が出来なくて、貴夜が簡単に出来ることが私には出来なかったから……可愛がっていたと言っても我が儘が通りにくい家庭だったから……まぁ、それ相応の頑張りを正当に評価してくれた上での事って考えた上だけど」

 

「そう考えると貴夜の両親って凄いよね……」

 

「そうだね……私もあんな親になれるかって言われても無理だもん」

 

「……でも小学校高学年の頃はどうだったの?」

 

「その頃は、私が私立中学にいくって決めた頃で、その頃を境に貴夜との距離が出来始めてたからね……私は秀才街道真っしぐらだったけど、貴夜は今以上にね悩んでた」

 

「だからなのかな……私が高校で出会った時には回りとは違う大人びた雰囲気だったから」

 

「そうだろうけど……多分貴夜自身のコンプレックスもあると思うよ? ……思春期過ぎても大して変化しなかった外見だから……まともに変化したのは身長ぐらいだったし」

 

「けど私はそんな貴夜も好きだけどね」

 

「なんか妬けるなー……留学してた時も出会い無くて、こっち戻ってきても現状維持……良い出会いないかなぁー」

 

「因みにどんな人が良いの?」

 

「優しいけどちょっと女々しくて……更に女顔なら良し」

 

「それっておもいっきり貴夜じゃん……人の物だから取らないでよ?」と無意識に素が出てしまった。

 

「大丈夫、私血迷いはしないから……でも貴夜は重い子が好きだったのかもね……愛情が完全に担保されていないと安心できない曲者だったのか貴夜は」と笑いながら朝陽が言った。何ならお腹を抱えて笑っていたので、文字通り抱腹絶倒だった……倒れてはないが。

 

「悪い?」

 

「悪くないと思うよ……差し出すものと背負うものを考えると妥当とも言えるから」

 

「私も貴夜のお陰でこんな自分を愛せてるもん……貴夜は一度たりとも嫌悪を抱いてなかったは……ず……?」と私は色々と引っかかった。一時期一緒の布団で寝たりするのを貴夜が嫌がったりしていたのを思い出した。

 

「ねぇ、紗奈ってアグレッシブな人?」となにかを察した朝陽が訊いてきた。

 

「え? どういう事?」と私はシンプルに理解できなかった。

 

「えっと……狼?」と大分オブラートに包まれずに朝陽が言った。

 

「うっ……否定できない」と私は意味を理解して言葉に詰まりかけた。

 

「多分貴夜軽くトラウマになっていたのかもね……でも多少は受け入れてくれたんでしょ?」

 

「うん……」

 

「なら大丈夫なんじゃない?」

 

「そうだよね……でも私にそっち系の自重は辛いなぁ」

 

「紗奈は精神的に大分マシになったみたいだけど……そう言うこと言っちゃうのは戴けないなぁ」と苦笑混じりに朝陽に言われた。

 

「と、とりあえず先に私シャワー浴びてくるから朝陽は着替えとか取りに行ってきたら?」

 

「そうさせてもらうよ」

 

「鍵は掛けといてね」と私が言うと、

 

「分かったよ」と朝陽に呆れ笑い混じりに返されたのだった。

 

 

 

 俺は気がつくと、見知らぬ天井だった。そして、左胸に激痛が走った。まだしっかりと思考が回っていないので、理解が出来てなかった。だが、激痛が収まり始めた頃には、思考が明瞭になり始めた。

 

「そっか……俺、紗奈を庇って刺されたのか……」と言いながら、周囲を見た。

 

 その後、看護師が来て色々あったが、投与された痛み止めの薬の副作用のせいで、睡魔に耐えられず眠っていたので、詳しくは覚えていない。ただ、運び込まれてから丸1日眠っていたのと、冬場だったので多少厚着していた事や、回復力が高かったお蔭で、集中治療室に居たのは3日間だった。と言ってもその3日間の記憶が曖昧と言うか……大部分を眠った状態だったので、記憶はさっぱりだ。

 

 普通の病室へと移ってから最初に見舞いに来たのは、案の定、紗奈と朝陽だった。紗奈はともかく、朝陽(馬鹿姉)はいい加減弟離れすべきだろ、と心の内で毒づいていると、

 

「どうしてこの弟は、人の好意を素直に受け取れないのかな……」と珍しく朝陽に溜め息混じりに言われた。

 

「ナキは、疑わしきは罰す的なスタンスが顕著なタイプだから」と紗奈がフォローになってないフォロー紛いで、更に追撃してきた。

 

「本当に……刺されたのが俺で良かったよ……まぁ、そういう俺だって左肺の3分の1がダメになったけどな……死ななかっただけマシだと思わなきゃな」

 

「お父さんもお母さんも心配してたよ……私が行くって言ったからお父さんは納得してくれて、お母さんを押さえてくれたよ」と朝陽が姉らしい事を言いはしたが、姉の威厳なんて微塵もなかった。

 

「とりあえず、朝姉は家帰れよ……治るもんも治らねぇからな」と俺が冷たくあしらった。

 

「そうさせてもらうよ……これで貴夜がぽっくり逝かれても困るからね」と朝陽は言って、家に帰った。

 

「……」

 

「…………」と朝陽が帰った後の病室を沈黙が占拠した。お互い切り出しにくい空気感になり、その状態が30分以上続いた。

 

「この馬鹿貴夜……」と紗奈が口を開いたが、内容は完全に悪口だった。

 

「すまなかった……ただ体が勝手に動いたんだ……紗奈だけは死なせないって心に誓ってるしな」

 

「だから貴夜は、馬鹿貴夜だよ……貴夜が死んだら……私が一人になるのは解るでしょっ」

 

「でも、紗奈には叶や朝陽、エマ達がいる……俺の代わりならこの世にいくらでもいるだろ」

 

「私にとって貴夜は……生きる理由なのっ……貴夜がいなくなれば私は何も出来ない……死ぬことすら」と紗奈は涙を流しながら言った。

 

「…………」と自分は言葉を紡ぐことすら出来ずに黙るしかなかった。

 

「貴夜……貴方の傍にずっと居たいって今でも想ってるし、貴方が居るからこそ私は現実世界にしがみついていられるの……救われたこの命すら貴夜……貴方がいなくなろうとするなら捨てる覚悟だよ……当然貴夜も一緒にだけどね」と言われ、自分は背筋が凍るような感覚に襲われ、条件反射で

 

「……本当にすまなかった……この通りだ……」と自分は深々と頭を紗奈に下げた。

 

「次は許さないから……そして私だって貴夜を死なせないよ……私は吸血姫なんだから……鬼だろうが、修羅だろうが、何になって貴夜の為なら、成ってやる……」と紗奈は今度は凄惨な笑みを浮かべながら言った。

 

「あぁ……頼もしい嫁さんだよ本当に……だからこそ俺だって……もう恐くない、恐くはない」

 

「貴夜、それは死亡フラグじゃない? ……本当に私有言実行しちゃうよ?」

 

「大丈夫だよ、気にすんな」

 

「まぁ、でも貴夜ならダーク〇バすら生身で耐えられそうだしね」

 

「何で紗奈はそれを知ってるんだよ……」

 

「ほら……死亡フラグが意味を為さないとある2号ライダーみたいな渋とさだから……それに元ネタ自体は好きな俳優が出てたのもあって見てたし……時系列的にも、勿論終焉をもたらす人も見てたよ?」

 

「深くは突っ込まないでおくよ」

 

「でも貴夜は、私が戦ってる最中に物陰から何も言わずに見てくるような人じゃないし、どちらかと言うと主人公の影的存在だよね」

 

「流石に大物喰いじゃないの確かにだが……何処のパ〇ドだよ」

 

「貴夜も案外知ってるじゃん」と紗奈は愉しそうに笑いながら言った。気付けば重苦しかった空気が、いつもの空気に戻っていたことに今更ながら認識すると、自分の口の両端が上がり、頬が緩んでいた。つまりは笑っていた。無邪気な笑みで、だ。いつの間にか自分が無くしていた……不要な筈の大事な物が再び自分の中に存在していた。それは悦びでも愉しさでも無い……名取貴夜自身が持っている本当の人格なのだから……

 

 

 

 その頃、人に知られてない電子情報領域に、二つ……いや、二人の人工知能が相対していた。

 

「私が作った物達で、最初に私と会いまみえたのが、貴夜君、紗奈君によって完成された物とは……必然なのかもしれないな」と茅場の思考模倣体であるゴーストは言った。

 

「私は、オリジナルのように貴方に敵意はありません……ただ、パパとママに危害を与えない限りですが」とナナはピクシーではない本来の姿で言った。

 

「私はあくまでも傍観者だ。多分そうだろうが、私と紗奈君達とは利害は一致しているか、限りなくそれに近いはずだ」

 

「はい、その通りです。私にとっては間接的に命を奪われた原因ですが、今もこうして第2の生を送られているので、怒りや憎悪はとうの昔に置いてきましたし」とナナは、姿を二重にして姿をぼやけさせながら言った。

 

「驚いた……君は私と同じような存在なのかっ……」

 

「正確には半分外れです。私は、ナナと言うプレイヤーの残留思念とも言える幽霊とメンタルシステムを拡張して創られた存在です……ただ、AIとしてのナナの本来の一人称は、ナナですから……」

 

「つまり、君は本来表に出てくることは無いと」

 

「ええ、彼女自身は気付いていませんが……私自身も傍観者ですし……あの二人の傍に居られれば良いだけです」

 

「成る程……挨拶次いでに私に対する牽制か……私としても貴夜君は敵に回したくないのだから、ここでのことは黙っておく……それで良いのだろう?」

 

「ええ、あの二人の邪魔さえしないでくれればオリジナルのような手段はとるつもりないので」

 

「心に刻んでおこう……ただ、貴夜君以上に紗奈君は不確定要素が多すぎる上に、貴夜君は私に引きをとらない実力だ……人間の可能性を私に知らしめてくれた彼と同等かそれ以上に敵に回そうとは思わないさ」そう言って茅場は姿を消した。

 

「やっぱり、あの二人は凄いよ……私じゃ殺すことなんて出来ないし……私もそろそろ戻らなきゃね……ナキはサナに必要以上の心配をさせるなら私は許さないからね……サナを寝取ろうとした私が言う台詞じゃないけどね」とナナは笑いながらそう言うのだった。

 




当分、更新出来ないです


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オーディナルスケールver■■■

12月某日

私達は重村教授に呼ばれて、重村教授の部屋に来ていた。

「で、重村センセ自分らを呼び付けたのは、何用なんです?」とナキはうっすらと笑みを浮かべながら訊いた。

「君たちの力を貸して欲しい」と重村教授はすんなりと喋った。

「名取教授〈親父〉に頼んだ方が早くないですか?」とナキの内心は協力する気がないことを私はその発言で察した。

「頭を下げに行ったさ、しかし貴夜君に任せると言われて、この場を用意したんだ」

「内容も分からずに言われてもこっちは承認しかねます」と私がばっさりと言った。

「これを見てくれ」と言われ、テーブルの上に機密と判が押された資料を渡された。貴夜はさっと目を通して、考えている様子だった。私は、ある程度読み込んで行ったのだが、内容に思わず絶句した。

「オーディナルスケール…それに伴う計画をOS計画と便宜上私たちは呼んでいる、表向きはARでのMMORPGだ」と重村教授は簡単に説明した、表向きの内容を。

中身に書かれていたのは、本当の目的だった、それに乗じたとある死者を元に作られたAIにその死者のデータを回収させて、その死者を甦らせると言う計画だった。

「なんで、こんなものを俺達に見せたんだ?」と貴夜は最早呆れている様子だった。

「君たちにはそのAIのベースを作ってもらいたいんだ…その端末の中にも既にいるんだろ?」と重村教授には私達がAIを持っていることには気づいていた様子だった。

「…それで、条件はなんなんです?」と貴夜は問うと

「いまさっきの事以外特にない」

「はぁ!?」と貴夜は素っ頓狂に言った。

「どうした、意外だったかな?」

「重村教授個人で考えれば妥当だと私は思いますけど、この変人だらけの場所では、まともな回答とは思われる事はないと思いますよ」と私は皮肉を混じらせながら言った。

「……とりあえず、先払いで貰いますからね…で、条件はコレで」と、貴夜はメモ帳から紙を1枚剥がして、何かを書いてテーブルに置いた。

それを一瞥した重村教授はこう返してきた。

「珍しいな君が現物で要求するなんて」

その発言に対して私は貴夜を即座に問い詰めたかったが、流石に自重した。

「親父と一緒にしないで下さい、地位とかにそこまでの欲求は無いですけど、親父のようにふわっとした要求なんてする訳ありませんから…それに俺達は堕落してる訳では無いので」

「それは失礼した…適当なものを見繕っておこう、君たちがそれを受け取ってから手をつけて貰って構わない…悪くない条件だろう?」と表向きは重村教授が不利にしかならない口ぶりだが、実際は協力せざるおえない状態だった。駆け引きと言う点では貴夜に任せて正解だと私は思っている。 私は貴夜よりも目立った功績らしい功績を立てられてないし、バイトという名のアングラな仕事とゲーム、学生としての時間の隙間を縫っては、近郊の大きな病院などで私の夢を叶える為の事をしている…それだって、名取教授では無く、重村教授の言付けがあってできている事だ。

「分かりました、ではこれで俺達は失礼します…紗奈、行くよ」

「あ、うん、重村教授では失礼します」そう言って私達は重村教授の部屋から出た。

 

 

紗奈達が去った後、重村教授はすぐ隣の部屋に繋がる扉を開けて、壁に持たれかけながら聞いていたとある少年に、こう声をかけた。

「これで、新たな協力者を確保…そしてユナの足がかりがさらに増えたわけだが」

「どうしてあの2人なんですか」

「エイジ君、それは愚問だろう…」

「肝心な時にいなかったアイツらの何がいいですか…っ!」とエイジは重村教授の表情を見て言葉を詰まらせた

「君の言うことは、もっともだが、私も清も濁を飲み込んだ」

「わかりました…では、失礼します」

 

 

「ねぇ、貴夜…良いの本当に?」

「知らないさ…エマとまた決着つけられるなら手段は選ばないさ」

「……分かった、貴夜に任せる…その代わり私が何しても恨まないでね?」

「分かってる…だから、俺のことも恨むなよ」

「大丈夫、恨んでもその代償は、お察しでしょ?」と私は含みを含めまくった笑みで貴夜に言った。

「気を付けはする」

「前向き受け取っておくわ」

「お手柔らかに頼む」

そうやって私達は、意味の無い会話をしながらキャンパスを後にするのだった。

 

しかし、この後私達が決別することになるなんて、まだ知る由もなかったのだった。

 

to be continued




お久しぶりな更新です


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肩慣らし

お久しぶりです
とりあえず今更な更新


 あの日から私達は、重村先生の仕事を手伝いながら学生と、公安の手足として動いていた。

 

 特に変わった事件などは起こらず、平和と言えば平和だった。

 

 特にあったこととすれば、私達が作り上げたと言うより完成させたメンタルケアAIのナナが、旧SAO時代で私達を庇って散っていった戦友のナナのゴースト体ということが判明したぐらいだ。

 

 しかし、本人の意識は深い所にあるらしく私達の娘として振舞っている……貴夜はそれを知って苦笑していたが、私は正直嬉しかった。

 

 

 

 貴夜の方は、暴漢に刺された傷は癒えて完全に回復していた。傷付いた臓器こそ、刺し所が悪く元に戻ることは無いと言われていたが、幸いにも最小限の被害で収まるだけの損傷だった。

 

 また、貴夜はとある論文を纏めあげて発表を控えていた。彼自身、その論文の元を作ったのは自分ではないからこれで得られる影響は無いと言っていた。

 

 その内容は、「人間の思考プロセス及び人格を電子的再現する際に起きる倫理的問題及びプログラム上の問題」という小難しい内容で、繊細なものだった。しかし、貴夜自身はまとめただけだと言って、重村ラボの1人としてこの論文を提出していた。

 

 義理の父である名取教授からは、私だけに他言無用と言われたが、貴夜の卒論提出の義務は無くなるだろうと言われた。

 

 それを聞いた時、私は固まってしまった。それと同時に名取教授はこうも言った。

 

「卒論は1人で出すって認識だが、本来は複数人で出したって問題無いはずだ、まぁ、貴夜の場合言ったって卒論を書いて出してくるからな、なら2人で書いた方がいいと思うよ……まだ、早いが紗奈君や貴夜は院に進んで貰いたいってのもあるからね」

 

「そんな、私までなんて」

 

「重村ラボから見たら紗奈君は常人だろうが、名取ラボ……いや大学から見ればキミも相当だ……1分野ではなく多分野の見識を持ち、そのどれもが優秀の域を超えている」

 

「買い被りすぎです」

 

「そこも美点の1つだよ、私だっていつかは引退するんだ……貴夜には大学に残って継いでもらいたいのさ……無論、ビジネス臭くなるかもしれないが、紗奈君がいるだけでもブランドイメージは変わってくる、というのは建前で、親としては安定した道を歩んでもらいたいってのが本音だ」と公私混同した発言が飛んできたが、名取教授はこういう人だ。

 

「ですが……」

 

「これは、独り言なんだが紗奈君が提案していたあの件だが、知り合いの企業が興味を示してくれている」と名取教授は言った。

 

 私は、ナキが取り組んでいたことのひとつを半ば強制的に取り上げてやっている。まぁ、感情を数値化及び判別基準云々は、貴夜自身で作り上げることは無理だと踏んでいた。

 

 名取教授がそれを知って、貴夜に提案して私が担当することになった。私の本来の目的であったフルダイブ型ゲームと医療に関する研究は、神代博士達によって現状到達すべきだろう所に到達しており、私としても悩んでいたので願ったり叶ったりだった。

 

 旧SAOや1部の協力してくれたゲーム会社などからデータ提供を受けて進めているのだが、それはまた別の話。

 

 しかし、当の本人である貴夜は1人でどこか行くことが多くなっているのだった。

 

 

 

「オーディナルスケール……起動」とコマンドを認識したオーグマーが駆動を始め、周囲に大量のMOB敵が湧いた。

 

 何の変哲もないバスタードソードが白い光を纏いながら敵を纏めて切り払うと、全てがポリゴンの破片となった。幾度もソレを繰り返しているのは、貴夜だった。

 

 都内近郊にあるとある建物の地下室で延々と己を追い詰めていた。

 

「……シナリオ通りにさせて溜まるかよ……俺がケリを付ける……その為にも大切な人でも裏切る覚悟なんだ」とポツリと無意識下で独り言をこぼしていたが、聞かれることは無かった。

 

 暗い空間に沈む漆黒に染った剣は、旧SAO時代のナキの剣を想像させる様な鈍い輝きを持っていた。紅く光を発するオーグマーと同じように光る首元からは微かに湯気のような物が出ていた。

 

「数値正常、肉体負荷正常範囲内、筐体温度正常……拡張デバイスの方は大丈夫だな……重村先生が作ってやつハードウェアチートにも程があるからな……こっちは割と補助ツールというより外部アクセサリ扱いだから大丈夫だろうな」と視界内に表示されたデータを見ながら貴夜はそう言った。

 

 それと同時に室内が明るくなった。貴夜が居た空間はコンクリートが打たれたままになった空間であり、部屋自体が地下にある為か室温は外よりも低くなっていた。

 

 床には汗が垂れた後が残り、貴夜からは若干ではあるものの湯気が出ていた。

 

「とりあえず着替えて戻るか……」そう言って貴夜は上着を脱いだ。そこには、それなりに鍛えられた肉体が顕になるが、それよりも縫合の痕の方が見た者には強烈な印象を残すものだった。

 

 しかし、この場には貴夜しかおらず関係の無い話だった。

 

 

 

 数時間後、貴夜は帰宅した。

 

「ごめん、遅くなった」

 

「帰ってきて、最初に言うことがソレ?」

 

「ただいま、紗奈」

 

「おかえり、貴夜……で、遅くなった理由は?」と紗奈は追求した。

 

「思った以上に道が混んでてさ……抜け道なんてない所で詰まって時間がかかった」

 

「でも、珍しい……貴夜がジムに行くなんて」

 

「一応リハビリ中だからな?」

 

「分かってるけど……割と前と変わらないし」

 

「いや、元々こっち戻ってきてからずっとリハビリ中だぞ?」

 

「いや、それは分かってるけど……まぁ、続きはリビングで

 

 」

 

「そうしてくれると助かる……俺だって立ちっぱはキツい」

 

 

 

 そうして、2人は隣合うようにしてリビングのソファに座った。

 

「それで、お医者さんはなんて?」

 

「経過は安定、けど臓器に関しては移植とかがない限り治らないと言われた……まぁ、俺みたいなのに回ってくることはまず無いからアレだけどな」

 

「そうよね……私を庇ったせいで」

 

「庇わなかったら、紗奈は死んでる可能性があるんだぞ?」

 

「そうだけど……」

 

「気にすんなって、傷付いた部分も奇跡的にほぼ最小限に抑えられてたんだ」

 

「でも……」

 

「うじうじしないでよ……この話はこれでおしまい、いいね?」

 

「分かった……あ、ご飯用意してるんだった」

 

「うん、頼むよ紗奈」と苦笑しながら言うと

 

「私の悪い癖だよね……流される時はトコトン流されるから」

 

「気にする事じゃないよ、こっちがちゃんとすれば済む話だしさ」そんなことを話しながら2人は夕食を食べ始めた。

 

「それでさ……その……」

 

「ん? どうした?」

 

「いや……ううん、やっぱりなんでもない」と紗奈の心の内では何かが引っかかったまま時間はすぎていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ナキが作り上げた補助デバイスは、オーバークロックなど起こすものでは無く、送信時の信号強度を上げるというただささやかなものであった。パッと見は首かけ式スピーカーだが、よく見るとオーグマーとは有線で繋がれており、デバイスから首元へは電極のようなものが伸びていた。

 

 それこそがナキの切り札でもあり、彼の勝算でもあった。

 

 

 

 ある日の夜、オーディナル・スケールのイベントがある場所へと向かった。

 

「ボス戦が始まるのか……久しぶりで楽しみだなぁ」

 

「紗奈……ったく周りに人があんまり集まってないからいいけど、本来それは機密なんだからな」

 

「分かってるって……まぁ、リークされてる時点でね?」

 

「おら、さっさと準備するぞ……いつも通りだからな」

 

「いつも通りも何も……まぁ、言いたい事は分かるかいいや」

 

「「オーディナル・スケール起動」」と2人が音声コマンドを唱えるとお互いの姿が変わった。

 

 ナキはあの頃と変わらず白がメインの服なのだが、所々に黒が入っており、盾はあの頃と比べると一回り小さくなってシンプルなデザインの盾に、剣はシンプルな片手剣であった。

 

 サナは、ナキと似たようなデザインの服だがSAOの頃を彷彿とさせる暗みががった赤を基調とした服装だった。剣は細剣ではあるもののシンプルなものであった。

 

「アレ、使わないんだよね」

 

「使ってみろ……完全に浮いて不審がられるぞ」

 

「そうだよね……とりあえず現実世界の肉体準拠だから考えて動かないといけないのかぁ」

 

「そもそも調整すら終わってないからな……」

 

「言ってくれれば私も手伝うのに」

 

「紗奈に任せるとセーフティーガチガチになるからダメ……スペックを八割近く制限かけたりしたら外した方がマシになるって」

 

「むぅ」

 

「というか、中身は終わってるのさ……あとはガワだけなの」

 

「分かった……とりあえず今日は前ね、ずっと」

 

「うん、殺す気? ボス見てから考えようよと思ったけど無駄か……」

 

 

 

 そんな痴話喧嘩じみたやり取りをしていると続々と人が集まってきた。

 

 時間になって現れたのは、とある階層ボスだったが、2人は当時ボス攻略は参加しておらず、まずその階層の塔攻略にも参加していなかった為、名前と人づてに聞いた外見だけだったが、名前は誤植されているのか違くなっており、外見も人づてであったせいで目の前のそれがそうだと判断できるほど精度がなかった。

 

「あれって……」と紗奈が呟くと

 

「ちっ……攻略に参加してないボスか75層以降ボスのどっちかだな」

 

「とりあえずいつも通り? で大丈夫かな」

 

「誰かが指揮を執るだろ……そうじゃなければ全員負けるな」

 

「この感じ……貴夜の予想的中じゃないの?」

 

「あれなら……距離取って戦うか?」

 

「貴夜、指揮を頼める?」

 

「盾役に指揮を執れってか……最悪の場合はだな」

 

 そんな会話をしながらも周りのプレイヤーはボスに向かって攻撃を行っているが、連携もクソもない状態だった。

 

「とりあえず一旦私がヘイト貰ってくるから、よろしく」と紗奈はそう言うと剣を抜いてボスへと駆けて行った。

 

「ったく……とりあえず見極めて、紗奈のヘイトを奪い取って戦線の再構築だろうな」

 

 

 

 紗奈によってボスからのヘイトが無茶苦茶になったが、即座に貴夜がそのヘイトを受けることによってボスの攻撃が集中し始めた。

 

 最初こそナキに対する憤りに似た何かを周囲のプレイヤーは抱きこそしたが、ボスの攻撃をほぼ受け止めている状況を見てその感情は即座に失せた。

 

 着実にボスの体力を減らしていき、ボスが発狂状態になってもナキは攻撃を受け続けた。

 

 定期的にほかの盾役が交代してくれたがボスの火力に対してはナキ以外では大して耐えられず結果的にナキの負担が増える結果だった。

 

 

 

 ……この調子なら5分もせずに沈みかねないな、まぁボスの発狂状態でここまで耐えれるこのポテンシャルはランク相応って感じなのかね、とナキはそう思いながらも視界の端に見える自分のランクに苦笑を禁じえなかった。

 

<Naki>のネームタグの前に25の数字が記されていた。奇しくもナキはランカーと言える程の実力を伴っていた。

 

「.さてと、そろそろ英雄さんのお出ましかな.」と周囲にほぼ聞こえない声量でポツリと漏らしながら、ボスの攻撃を右へと受け流すと、その方向へ紫の光を帯びた人物が飛び込んできた。

 

 それをナキは視認すると皮肉じみた言い方で「スイッチ」と言って、前線から離れた。

 

 その後は、旧SAO時代落ちこぼれと呼ばれた彼こと、英雄さんはランク2の力を存分に発揮して美味しい所を全て持って行ってくれた。

 

 戦闘終了後

 

 戦闘が行われた付近にベンチがあった為座って休んでいると、先程の戦闘に参加していたであろう人が数人集まってきた。

 

 紗奈は貴夜のすぐ傍まで身を寄せて若干の警戒を見せたが、集まって来た人の1人が貴夜に対してこう言った。

 

「アンタのお陰で助かったよ、壁役のあんちゃん」

 

「壁役だからな、それぐらいしか出来ないだろ?」と自虐混じりに貴夜は返した。

 

「いやいや、同じ盾役のこっちですらあの時間を1人で耐え切れる実力なんて持ってないですよ」と苦笑混じりに集まっていた他の人が言った。

 

「あんちゃんも見た感じ多分VRMMO経験者なんだろう?」

 

「まぁ、そうだな……でもどうして?」

 

「普段、剣や盾を使い慣れるような環境ってそれぐらいしかないだろ?」

 

「半分正解かな」

 

「え? 半分正解ってどういう」

 

「学生時代まで剣術習ってたってのもありそうなんだよな」

 

「剣術と言うと……筒を斬ってるやつか?」

 

「そう」

 

「武道経験者なら納得がいくな……まぁ、今日はホント助かったでら次また会ったらよろしくな」と言ってその人達は帰って行った。

 

 

 

 to be continued

 




約1年ぶりの更新です
更新をほったらかして何をしてたかと言われるとあれですが…
異聞帯を攻略したり、源石片手に素材集めたり…色々してました()
とりあえず今月中にもう1つぐらい更新出来たらな…と
では、また


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