ストライク・ザ・ブラッド 災厄を操る者 (本条真司)
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1話

真の零番目を打ち切り、新しく書かせていただこうと思います


冬風夜斗(ふゆかぜよると)は、移動空中環境要塞《スピリダス》から眼下の街を見下ろした

魔族特区『絃神島』

そこは、魔族が闊歩する土地であり、日本国で魔族の存在が許されている唯一の場所と言っても過言ではない

 

 

「……」

 

「主、どした?」

 

 

そんな夜斗に話しかけたのは、夜斗の配下にある組織の一員、霊桜(れいおう)家の次男

名を草薙(くさなぎ)

彼の能力は《災厄者(ディザスター)》という災厄を操るもの

 

 

「いや、別に。特段何かあるわけじゃない。とりあえず草薙、俺たちはこの世界に出張ってことになってる。暴れるなよ?」

 

「黒鉄じゃあるめーし、程々に暮らすさ。そんな暴れなきゃならんほど荒れてないだろ?」

 

「ここには第四真祖が暮らしているという噂がある。世界最強の吸血鬼、だな。伝承によれば、本来存在しないはずの4番目…ということらしいから、警戒するに越したことはない」

 

「うへぇ…。めっちゃだるいやん」

 

 

草薙は計器類を操作しながら笑う

これは、楽しみにしているのだろうと夜斗はため息をついた

 

 

「…まぁ、暴れたら報告書だからよろしく。【図書館】は名前を変えて、【第零機関】としてここに来てることを忘れるな」

 

「あいよ。つーか主はその間何するんだ?」

 

「絃神島の近くにスピリダス浮かべて、第零機関としての仕事をする。邪魔はするなよ?したら殺しに行く」

 

「物騒すぎやしませんかね…」

 

 

草薙はそう言いながら後部ハッチに向かって歩いていった

途中、神機保管庫に立ち寄り、自身の神機を手に取る

 

 

「たまには暴れたかったんだけどなぁ。程々にやるか程々に。な、天津禍津」

 

 

双剣が同意を返すように、淡い青に光った

 

 

 

 

同時刻、絃神島暁家

 

 

「ということで、エリジアム行かないか?」

 

 

第四真祖、暁古城の友人である矢瀬基樹は、エアコンの壊れた暁家でそんなことを言った

古城は嫌がったものの、それを無視して妹の凪沙が快諾し、行くことが決まった一行

監視役の雪菜と凪沙・古城のもう一人の友人浅葱は、水着を買いに来ていた

 

 

「…で、なーんで俺まで監視しなきゃいけないんですかねぇ…」

 

 

草薙は愚痴っぽく呟き、ため息をついた

夜斗の異能《管理者(アドミニストレータ)》により、島中の監視カメラを閲覧できるはずなのだが、草薙は暁古城の監視を行うことになったのだ

それが絃神島に入る大義名分になるということらしいが…

 

 

 

「目立たずに監視とかまず無理だろ…。まぁいいや、【災厄者位階(ディザスタークラス)】《災厄者》、電装支配」

 

 

自身の支配下に入れた監視カメラの映像を右眼でモニタリングしながら、アイス屋で買った三段アイスを齧る草薙

そんな草薙に気づいていたのは、雪菜だけだった



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2話

草薙に与えられた任務は大きく分けて三つ

一つ、第四真祖、暁古城の監視

第零機関に害を成すと判断したらその場で抹殺する任務

二つ、獅子王機関姫柊雪菜の監視

一つ目と同じく、害を成すと判断したら報告と同時に姫柊を殺し、獅子王機関を壊滅させること

三つ目は、楽しむこと

三つ目に関しては何一つ指示を出されていないため、草薙は本当に自由気ままに楽しむつもりでいる

 

 

「つっても、二人同時に監視は無理ゲーだろ…。ノイズシリーズくらい貸してくれてもいいと思うんだけどな…」

 

 

草薙は3つ目のトリプルアイスを口にしながら呟いた

ノイズシリーズは、夜斗が作った人工生命体だ

とはいってもノイズシリーズの体に入ってるのは大部分が機械である

 

 

「貴方は、何者ですか」

 

「…!獅子王機関、よく俺に気がついたな」

 

「…っ!何故それを…!」

 

 

油断していた草薙の目の前に、雪菜が立っていた

草薙は焦るでもなく、淡々とアイスを食べ進めていく

 

 

「ふぅ。まぁ安心しな、俺の仕事は第四真祖の監視だから。一応名刺でも渡しておこうか?」

 

 

草薙は胸ポケットから名刺入れを取り出し、先程渡されたばかりの名刺を手渡す

書いてあるのは第零機関であることと、立場が第二部隊隊長であること

それだけだ

 

 

「第零機関…?初めて聞く組織ですね…」

 

「そーだろうな。まぁ特に危害を与える気はないよ、俺とか第零機関に損害がなきゃあな」

 

「あの先輩だとなんとと言えませんね…。何せ島一つ沈めかけてますから…」

 

「マジでやめろよ?スピリダス沈めたらマジで絃神島沈めるから」

 

「なっ…!」

 

 

草薙は飄々と言ってのけたが、雪菜にとってはデリケートゾーンだったようだ

と同時に、草薙にそれほどの力があると認識したのだろう。式神をバレないように飛ばした

草薙でなければ、それを認識することは困難だったことだろう

 

 

「さっさと戻ってやれよ、獅子王機関。待ってんだろ?第四真祖の妹と、友人がよ」

 

 

草薙はそう言いながら異能を起動した

仄かに霧が現れ、草薙を覆い隠し、濃度が高くなったかと思ったところで、何事もなかったかのように書き消えた

草薙の姿と共に

 

 

「…第零機関…霊桜草薙…」

 

 

雪菜はそう呟いて、凪沙や浅葱のもとへと戻っていった

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜

 

 

「俺だ、主」

 

『草薙か。どうだ?初日は』

 

「特に不具合もなく、って感じだなぁ。あと住むところがないくらいか」

 

『暁古城の家の隣だ。鍵はポストに入れてある』

 

「先言ってくんない?俺このまま野宿かと思ったんだけど」

 

 

草薙は転移魔法で暁古城の自宅の隣の部屋に移動した

そして雪菜と出会ったことを報告し、継続の指示を受けて電話を終わらせた

 

 

「荷物…スピリダスに忘れたなぁ」

 

 

ため息をつきながら、草薙は兄である黒鉄に持ってきてもらうよう頼んだ



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3話

翌日。草薙は夜斗に渡されたチケットでブルーエリジアムのプレオープンに来ていた

ちょうどよく暁古城と姫柊雪菜がいるのが見える

 

 

(図ったなあのバカ主め…)

 

「貴方も、プレオープン招待されたんですね」

 

「んぁ?ああ、姫柊雪菜か。総司令がプレオープンチケット持っててな、第四真祖の監視にちょうどいいと思ってきてみた」

 

 

プールサイドに座る草薙にはなしかけてきた雪菜が隣に座る

昨日持っていたギターケースは流石に持っていないようだ

 

 

「お前音楽とかやるんだな。獅子王機関で学んだのか?」

 

「カムフラージュです。あの中には対魔族の武装が入っています」

 

「そんなん言っていいのかよ?」

 

「戦力として利用せよ、という指示です」

 

「…獅子王機関め。散々スピリダスにちょっかいかけてきたくせに…」

 

「壊せなかったから力を認めたんだと思いますよ、草薙さん」

 

 

頭を抱えながら、対岸の屋台で動き回る古城を見た

監視カメラは周囲にないため、ただの魔術で視力を強化してみている

雪菜も同じように見ているようだが、どうにも別の目を持っているらしい

 

 

「…魔導犯罪が起きた場合、共闘していただけるということでいいですよね」

 

「いいですよねってなんだ。そこは主の指示待ちになるに決まってんだろ、お前らと違って本来の目的はこの島が俺たちに適するかを調べることなんだから」

 

「…何をする気ですか」

 

「早い話が、俺たちは迫害されてたんだよ。だから、迫害されない土地を探して旅してるんだ」

 

 

草薙は魔術を切ってそう言い、どこかへ歩き出した古城を追うために立ち上がる

 

 

「お前はここで移動したら不自然だろ。俺が行くから、あとで報告してやるよ」

 

 

草薙はあるき出し、ライフセーバー詰め所に立ち寄る古城を眺めた

ここまで近距離なのに気が付かないのは古城の鈍感さを物語っている…と草薙は思っている

 

 

「…あ、なんか巻き込まれてる…」

 

 

古城が幼女に絡まれてるのを見て、本人とお近付きになっておいても損はないと判断した草薙は、古城に話しかけた

 

 

「どーも、暁古城君」

 

「お、おう…?どこかであったことあったっけ?」

 

「厳密に言えば来週の月曜日に学校であう予定だな。転校生だし。とりあえずその子、保護するならうちで預かろうか?忙しいだろ?」

 

「そうしてくれると助かる…。結瞳、この人に頼んでくれないか…?」

 

「…わかりました。よろしくお願いします」

 

「ういういー。ああそうだ名乗ってなかった、俺は霊桜草薙。よろしくな、第四真祖」

 

 

草薙はそう言い残して、結瞳を連れて歩き出した



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4話

あくまで成り行きで幼女もとい江口結瞳を助けることになった草薙は、夜斗がとったホテルの一室に結瞳を連れ込んでいた

 

 

(はたからみたら犯罪ですねこれ。まぁ別にいざとなりゃ逃げれるけど、さっき主にもらった情報によると魔族狩りとかいう魔女がいるんだよなぁ。空隙の魔女、だっけ。空間制御…いわゆる瞬間移動を使う…《災厄者》で再現できそうだな、災厄の魔女だし)

 

 

などと失礼なことを考えながら草薙は結瞳に五百円玉を投げた

 

 

「一階に自販機がある。俺のと君のジュースを買ってきてくれ」

 

「わかりました。何がいいですか?」

 

「甘い物で」

 

「意外と甘党なんですね。行ってきます」

 

 

草薙は《災厄者》。災厄のことならほぼ全てわかる

今、海底より近づいてくる災厄のことも

 

 

「この気配…レヴィアタンか…?いやそんなわけないか、こんな僻地にいるわけがない」

 

 

草薙は夜斗に電話をかけようとした。しかし

 

 

「圏外…。こんなところが圏外なんてありえないな…」

 

 

ため息をつきながら結瞳が開けていった窓を見る

人は通れない。そう思っていたが…

 

 

「…やはり魔族だったか」

 

「あれぇ?気づかれていたんですねぇ」

 

「起動申請。《災厄者》霊桜草薙」

 

『起動申請受託。システムオールグリーン…コンソール、無意識領域に接続開始…成功。神機【天津】起動しました』

 

 

草薙が声を発したと同時に、枕元にあった二本の剣のうち片方が草薙の元に飛んできた

そして草薙は、切っ先を結瞳に向ける

 

 

「災厄を操る俺が、君のような災厄に気づかない道理はない。尻尾あるし、魔力質的には夢魔…といったところか?まぁ何にせよ、俺に喧嘩を売ったんだから死ぬ覚悟はあるだろうな?」

 

 

草薙は魔力を圧縮したものを放出。並の魔族や人間であれば、これをプレッシャーと勘違いすることだろう

それほどに濃密で高圧なのだ

 

 

「…主はこれがわかっていたのかもしれないな。まぁそんなことはどうでもいい。君は解離性同一性障害といったところか?」

 

「え〜?つらい体験をした結瞳が、自分のココロを守るために生み出した人格ってことですかぁ?まぁ、当たらずといえども遠からずですかねぇ」

 

「イライラする喋り方だな…。で?その夢魔の能力でレヴィアタンを起こしてこの島に差し向けてるっつーわけか?」

 

「…そこまで…。貴方は…一体…?」

 

「第零機関第二部隊隊長、霊桜草薙。恩恵名称(ギフトネーム)は《災厄者》。レヴィアタンさえ、俺の支配下に置くことができる」

 

 

草薙はそう言うと同時に、狭い室内で後ろに飛んだ

背後には壁。これ以上後退することはできない

剣…というより槍を振り下ろしたのは、見たことのない黒髪の女だ

 

 

「…太史局か。どうやら、この国は俺たちをどうあっても敵にしたいらしい」

 

 

草薙は静かにキレつつ、女を睨めつけた

女は何も言わず、槍を構えているのみだ

 

 

「…仕方がない。ここで二人とも殺すことにしよう」

 

 

草薙はもう片方の剣を手に取り、十字になるように構えた

片方の切っ先は空を、もう片方の切っ先は女に向けられている

 

 

「厄災よ爆ぜろ。我が恩恵を以て、汝が敵を打ち滅ぼせ」

 

 

草薙を覆い隠す濃密な赤い霧が、剣に収束され、形状をかえる

二本が合わさり一つになり、機構的な造形が見られるものに変化した

 

 

「アマツマガツチ」

 

 

草薙が呼んだその剣が、青白い風を纏っている

アマツマガツチ。2つに分かれたときに名前が変わり、天津と禍津になる

 

 

「…お姉さん…」

 

「大丈夫よ、勝つから」

 

「なんで俺が悪役みたいな言い方するんですかねぇ…」

 

 

横一文字に薙ぎ払うと、アマツマガツチが風を起こして結瞳と女を外に追い出す

それを追いかけて草薙が窓から飛び降りた

 

 

「…もう一個の能力も使っとくか、試験的に。平和の創始者(ピースメーカー)!」



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5話

平和の創始者(ピースメーカー)は、草薙も使ったことがないものだ

原則的に、草薙や夜斗、黒鉄のような第零機関の能力者は2つの能力を保有する

草薙の場合、災厄を起こし操作する能力と、抑え込む能力

今までは戦争だったため、抑え込む能力は使ったことがなかったのだ

 

 

「さて、と。一応名を聞いといてやるよ、報告書に書かなきゃいけないし」

 

「…妃崎霧刃、よ」

 

「莉琉でーす」

 

「名乗っちゃうんだ…。霊桜草薙だ、まぁ寝るまで覚えとけ」

 

 

草薙は《災厄者》を使い、一瞬だけ古城の力を具現化させる

第四真祖の力は災厄扱い。本人が聞いたら文句の一つでもいいそうではあるが

 

 

「よし。《災厄者》、災厄顕現(アクティベーション)疾く在れ(したがえ)獅子の黄金(レグルス・アウルム)

 

 

草薙の背後に現れた獅子の黄金が苦悶にも似た咆哮で莉琉と霧刃を威嚇する

 

 

「まさか…むりやり従わせているの…!?第四真祖の眷獣を…!?」

 

「無理やりなら私にもできますけどぉ?」

 

「それは無理だな。君にできるのは精々、古城を操って眷獣を使わせるくらいだろうに。俺は直接眷獣を強制支配して使役してるんだから」

 

 

獅子の黄金の咆哮で、雷撃が霧刃に襲いかかる

避けながらも、あまりに想定外といった表情をしている

第零機関自体、知られているわけではないのだ。まぁ、今日初めて名乗っているのだから仕方がないともいえる

 

 

「これで少しは信憑性が増したかな。君たちを止められるのはただ一人、俺だ」

 

 

草薙はニヤリと笑いながら、霧に飲まれて消えた

 

 

 

 

 

第零機関本部兼飛行要塞スピリダスでは

 

 

「えぇ、そういうことです。……はい?また俺たちを敵に回すなら、どうなるかわかりますよね?………まぁ、及第点ですね。いいでしょう」

 

「どうした、主」

 

 

通話を終えた夜斗に声をかけたのは、自身の能力で訓練を行っていた黒鉄だ

黒鉄は現状、大まかな作業をすることしかできないため、細かな制御を習得するために日夜訓練しているのだった

 

 

「日本政府から声明が降りた。俺たちを国家公務機関第零として登録し、以降第零機関として名乗ることを許可する…ってな。一応仕事として、魔導犯罪への対応と魔獣対策をやらされることになったけど」

 

「まぁ、及第点ってとこだな。つか、海底にいるアレは魔獣対策に該当すんのか?」

 

「やりたくねぇなぁと思って無視してた。けどそうもいかんよな。……第四真祖に暴れられても困るし、俺らでやるかぁ」

 

 

夜斗は訓練室の奥に向けて声をかけた

何気ない日常会話…買い物を頼むかのように、ごく自然に

 

 

夜架(よるか)、頼めるか?」

 

「えぇ、構いませんわ。わたくしの能力を試すいい機会ですもの」

 

 

クスクスと笑いながら、ゴシックドレスの女が応えた



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6話

草薙はふと、レヴィアタンのことが気にかかった

《災厄者》で操り、海底に返すことはできる。しかしそのためには、一定の距離まで近づかなければならない

それに適した異能持ちが、第零機関にいるのだが…

 

 

「クスクス。お久しぶりですわね、霊桜草薙」

 

「ああ、ちょうどよかった。呼ぼうと思ってたんだよ、夜架」

 

「あら、わたくしになにか御用が?」

 

「ああ。お前の恩恵(ギフト)でレヴィアタンが浮上した瞬間に真横に飛ばしてほしくてな」

 

「そのつもりですわ。主様直々に、あの厄災へ対応するように命じられておりますの。殺すだけなら簡単ですけれど、あの子に罪はありませんわ」

 

 

夜架は妖艶な笑みを浮かべながら言う

こういうところが草薙が彼女を好きになれない要素の一つだった

 

 

「…そういや、恩恵名称(ギフトネーム)は何なんだよ?お前の能力だけ行方不明だろ?」

 

「…わたくしの恩恵は、《正体不明(アンノウン)》ですわ。データベースに載っている限りでは、唯一四文字かつ人を示さない名前ですわね」

 

「…たしかに、俺の恩恵にしろ主のにしろ、恩恵は三文字で人を示してるな」

 

「気にしていても仕方ありませんわ。とりあえず、あと一時間で浮上してきますし、装備を整えてはいかがですの?」

 

「その必要はない。どうせ、戦うわけじゃないしね」

 

 

草薙はレヴィアタンを憐れみ、戦わずに元いた場所に返そうとしているのだ

キャッチアンドリリース。…それにはサイズが桁違いではあるが

 

 

「わかりましたわ。では、帰りの手段を考慮してわたくしも一緒に飛びますわよ?津波なんか起こされても困りますし」

 

「起こさねぇよ…。まぁそうしてくれると助かる」

 

 

草薙はため息をつきながら、キーストーンゲートの屋上からレヴィアタンがいる方角を見た

夜架もつられてその方角を眺める

 

 

「怒ってる…だろうな」

 

「えぇ。カインの巫女…藍羽浅葱を殺すためとはいえ、レヴィアタンを悪用しようとしているわけですもの。利用されて怒らない存在はありませんわ。まぁわたくしを利用しようとしたらけします」

 

「怖いこと言うなよ…。お前の能力ただでさえおっそろしいのに」

 

 

草薙は夜架に視線を移し、反応を伺った

夜架はクスリと笑って、髪を耳にかけながら草薙を見る

そんな仕草にドキッとしたことを隠すように、草薙はまたレヴィアタンの方角を眺めた

 

 

「恩恵だけなら、貴方のほうが末恐ろしいと思いますわ、草薙さん?」

 

「それは否めんな。俺が起こした災厄は、わりと制御できなくなるし。異能込でようやっと一つの能力、って感じだ」

 

「そう考えると、わたくしの恩恵は児戯にも等しいかと」

 

 

そう言って夜架は空を見上げた



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7話

(クスキエリゼ、だったか。奴らがレヴィアタンを支配しても、取り返すことはできる。けど…その分レヴィアタンの負担がえげつないことになるな)

 

「あら、どうかされましたの?」

 

「ん…。いや、なんでもない。そろそろ行くか」

 

 

草薙は立ち上がり、浮上してきたレヴィアタンを見た

おそらく魔獣の動物園のような場所では、古城たちが奮闘しているのだろうと思いつつも、草薙は自分のやり方でレヴィアタンを海に返すつもりだ

 

 

「承りましたわ。《正体不明》、空間跳躍」

 

 

夜架が言い終わるとほぼ同時に、草薙と夜架はレヴィアタンの上にいた

空間跳躍は時間をゼロにする魔術を基に、夜架が改良したもの

時間だけでなく、体力や魔力さえ消費しない

 

 

「さて、と。じゃあお話と行きましょうか」

 

「わたくしは少し離れていますわ。第四真祖を遠ざけるのも、お任せくださいませ」

 

「つーかよく気づいたよな、古城。いや、獅子王機関の小娘が気づいたんかね?まぁ、あんだけ魔力放出してりゃあな…」

 

 

草薙はレヴィアタンの背を歩いて移動し、進行方向に立つようにして水面に降り立った

そして瘴気を身に纏い、周辺のすべての生物を怯えさせる

レヴィアタンといえども、多少は意識せざるを得ないだろう

 

 

「よう、レヴィアタン。俺は霊桜草薙っていうんだよろしくな」

 

 

返ってくる声は無い

 

 

「お怒りはごもっともなんだが、ちと身を引いちゃくれないかね?あの夢魔のガキは俺の方で叱っとくからさ」

 

 

レヴィアタンが首を傾げるように動いた

それだけで大波が起きるのだから、あまり動かないでほしいというのが草薙の心情だ

 

 

「お前を無理に起こして島に仕向けた奴がいるんだよ。けどさすがに島を消されると、俺とか住人が困るもんでね。なんだったらガキをここに連れてきてもいい」

 

『それには及ばんよ、人間。初めから沈める気などない』

 

「直接脳内に…。魔力を振動させてるのか。であれば、何故島に向かうんだ?」

 

『その夢魔のガキに、ビンタでもしておこうかと』

 

「そんなことしたら完全に沈むわ!体の大きさの比率見てみろ!」

 

 

レヴィアタンの全長は数キロにもなる。そんな巨大な体の手(それがあるかは別として)で叩かれようものなら、第四真祖の眷獣よりわかりやすく沈んでしまうのは明白だ

 

 

『であれば、どう落とし前をつけよう?』

 

「あー…んー…。どうしても自分でやりたいなら、うちの主呼んで対応してもらうけど…?」

 

『お願いしたい』

 

「りょーかい」

 

 

草薙は電話をかけた。主たる夜斗に

すぐに応答した夜斗は、スピリダスをスクランブル発進させることを決めた

 

 

(…ま、主がどうするかはわかんないけど)

 

 

草薙はかなり遠くで揉めている暁古城、姫柊雪菜と夜架を遠目に眺めた



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8話

夜架は笑った

自分に眷獣を仕掛けない古城を見て、その程度の覚悟かと

そして向かってくる雪菜の斬撃を片手で跳ね除ける

 

 

「対刃防壁、ですわ。切断属性武器の攻撃を完全に無力化するものですわね。その槍はたしか、七式突撃降魔機槍(シュネーヴァルツァー)でしたね。獅子王機関の対魔族兵器の一つですわ」

 

「…!何故雪霞狼のことを…!」

 

「ふふっ、いいですわね、その焦る顔。たまりませんわ。わたくしを含め、第零機関の者たちは既に、この世界をラーニングしておりますの。なので、あなた方が知らないことも、知ってることも全て知ってますわ」

 

「ラーニング…。そういえば、さっき結瞳のことを頼んだアイツも、去り際にそんなことを言ってたな…」

 

 

草薙は古城から離れる際、一言だけつげたのだ

「お前のことはラーニング済みだ」と

 

 

「ほら、早く眷獣を使わないと…その剣巫ちゃんが死にますわよ?」

 

 

クスクスと笑いながら、夜架は片手を上に上げた

そこに周辺の酸素と水素を合成して得たエネルギーが集まり、圧縮されていく

超高圧の電気が、夜架の頭上に生まれた

 

 

「俺は…普通の人に眷獣を使うわけには…!」

 

「ここまで見て普通とするあたり、あなたは異常ですわ。わたくしは一切加減はいたしません。ああ、それとその槍で防ぐことはできませんわよ?」

 

「…っ!」

 

 

雪菜は考えを見透かされたことに驚き、また防げないことに驚いた

 

 

「これは燃料電池の要領で取り出した電気を、魔術で集めたもの。たしかに魔術の核を破壊すればわたくしが操ることはできなくなりますわ。けど、制御を失った電気が暴走したらどうなるか…おわかりだと思いますわ。とくに、第四真祖の眷獣を知ってるあなたなら」

 

 

夜架は手を前に向けた

すなわち、雪菜と古城にだ

 

 

無方向性電磁砲(ノンディレクショナルレーザー)

 

 

夜架の頭上の電気の球から発されたレーザーが、雷にも似た勢いで古城を襲う

 

 

「ついでですわ。水遁・水龍の舞」

 

 

海が荒れ、海水が龍の形になり古城たちに降りかかった

それ自体には攻撃力はない。しかし

 

 

「塩化ナトリウムその他不純物の混ざった水は電気をよく通しますわ。まぁ、第四真祖は殺せなくてもあなたくらいなら…ね?」

 

 

夜架は笑っている

さながら悪魔のように

 

 

「先輩!一度逃げましょう!」

 

「ど、どこに?」

 

「クスキエリゼの潜水艦にです!」

 

 

言うが否や、雪菜は古城を掴んで海に飛び込んだ

レヴィアタンの背中に残された夜架は、頭の方を見やりつつ、またクスリと微笑んだ

 

 

「期待していますわ、草薙さん」



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9話

草薙が呼んだ夜斗は、すぐそこにスピリダスを浮かべて小型ボートでレヴィアタンのすぐそばに来ていた

 

 

「でかいな…()()()()()

 

 

夜斗は草薙がいる頭頂部まで、最大全速で向かった

それでも1分ほどかかったことから、大きさが生物にしては果てしないものだとわかる

 

 

「草薙、待たせたな」

 

「きたねぇ。主は知ってるはずだけど、こいつがレヴィアタン。んで、これが俺の主」

 

「冬風夜斗だ。粗方電話で聞いたが、本人をビンタしたいと?」

 

『うむ。可能なら』

 

「ふむ…。よかろう。ただしその姿には二度と戻れなくなるが、それでもいいか?」

 

『構わない。この巨大な体にも、うんざりしていたところだ』

 

「了解。ID085685の管理権限を取得…完了。オブジェクトサイズ、0FA0より00A8に変更。リディフィニションオブジェクト、ヒューマンクラス。コンプリート」

 

 

夜斗の声に応じるようにレヴィアタンの体が少しずつ浮き上がり、まず大きさが1メートルほどに変わった

その後、容姿が蛇や龍に似たものから人間の姿へと変更される

 

 

「今のって…」

 

「オブジェクトコントロール。恩恵《管理者(アドミニストレーター)》の最も基本的な使い方だ。とはいえ、《設定者(コンフィギュレーター)より段階を踏まなきゃならんから、効率は悪い」

 

「これが、私の姿…なのか…?」

 

「そうだ。俺の異能により、肉体のサイズと形状を変えた。《設定者》がやる場合、脳内イメージに基づいて形状を変えるとサイズが自動で変わるけど、俺がやるとサイズが固定されるからな。先にサイズを変えた」

 

「ふむ。まぁ、あれだけ強大な肉体で人間になれば目立つな」

 

「そういうことだ。…名前は草薙がつけろ。あと――」

 

 

夜斗が目を向けたのは夜架だ

目の前にいる古城と雪菜が潜水艦の上から対峙している

 

 

「あれをとめろ、草薙。多分眷獣が目覚めて、新しいものを召喚しようとしている。そしてラーニングが正しければ…」

 

「…!夜魔の大剣(キファ・アーテル)か!?」

 

「レヴィアタンがぱっと見いなくなったにも関わらず喧嘩してるからな、召喚するだろう。止めろ」

 

「…了解」

 

「私も連れていけ。役に立つことだろう」

 

 

レヴィアタン…だった者が言う。草薙は夜斗になげられたものを受け取り眺めた

 

 

「この船の鍵だ。貸してやる。壊したら給料天引きだからよろしく。あとは任せた」

 

 

夜斗はスピリダスを退避させるために、夜架同様に空間跳躍で戻り、発進させた

草薙は借りた鍵を挿し直してエンジンをかけ、レヴィアタンに座るように言う

 

 

「座るとは…同じような姿勢を取ればよいのだな?」

 

「ああ。つかお前女の見た目してるんだからそれなりの言葉を…って知らないのか。じゃあなんでもいいや」

 

 

座ったレヴィアタンを確認して、草薙が船を発進させる

 

 

「お前の名前、レヴィアタンだと呼びにくいし莉緒(りお)って呼ぶけどいいか?」

 

「構わんよ。好きに呼ぶといい」

 

 

船は夜架と古城たちに接近していく

膨大な魔力が放出されたところで、草薙は恩恵を使った



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10話

「《災厄者》災厄顕現、高波・大!」

 

 

古城と雪菜が乗る潜水艦がバランスを崩し、魔力の放出が止まった

波が収まるのとほぼ同タイミング、草薙は彼らの元へと辿り着いた

 

 

「やめろ暁古城。レヴィアタンは消えたんだ、眷獣を使うんじゃない」

 

「お前は…さっきの…」

 

「霊桜草薙。そこにいる黒淵(くろふち)夜架と同じく、第零機関の一員だ。うちのもんが済まなかった、ここは鉾を収めてくれないか?」

 

「あら、草薙さん。第四真祖がレヴィアタンに傷を負わせないようにしたというのに、散々な言い様ですわね?」

 

「程があんだろ。どうせ煽ったりしたんだろ?だからそいつらは潜水艦の中という誰にも見られない密室で吸血行為して対抗手段をつけたんだから」

 

 

草薙はため息をつきながら、船を潜水艦に横付けした

古城と雪菜に乗るように伝えて、夜架を見る

 

 

「これで解決ですわね。その子がレヴィアタンでしょう?」

 

「「えっ!?」」

 

 

古城と雪菜が驚愕した顔つきでレヴィアタンあらため莉緒を見る

 

 

「ふむ。今世の第四真祖か、貴様。そこの小娘はわからぬが。私はレヴィアタン。まぁ莉緒と名乗ることになるが」

 

 

莉緒の容姿は、夜斗が変更したものだ

手足は細く長い。髪は紫に近い黒、目は黒と赤。大凡人間ではない、ということはわかるものになっている

 

 

「第四真祖、その子は預ける」

 

 

草薙は船を運転しながらそう告げた

そして古城は数秒遅れて声を上げる

 

 

「無理に決まってんだろ!?妹いるんだぞ!」

 

「どーにかしてくれ。うちの機関の者じゃなきゃ俺の家は使えない。一応社宅扱いだからな」

 

「それは…そうなんだろうけど…」

 

「けど、それは機関の総司令さんに聞けばいいのではないんですか?」

 

「聞いたところでなぁ…。莉緒がうちの機関に来るなら別だけど、その場合主が死ねといえば死ねるほどの覚悟が要るし」

 

 

というのは草薙の嘘だ。ただめんどくさいというだけである

 

 

「じゃ、じゃあ獅子王機関で保護してもらうとか…」

 

「師家様が容認してくださらないと思います。何分機密事項の多い組織ですから…」

 

「あら、まだ島に到着していなかったんですの?」

 

 

草薙の横の水面を滑るように移動しながら夜架が声をかけた

今も空間跳躍で来たのだろう。古城と雪菜にはその能力というのがどういったものなのかわからない

 

 

「ああ。で、なんの用だ?」

 

「辞令ですわ。第二部隊隊長霊桜草薙を、絃神島駐在とする。並びにレヴィアタンの保護を命ずる、とのことです」

 

「…まじで?」

 

「えぇ。残念ながら」

 

 

それだけ言い残して、夜架はクスクスと笑いながら消えた

 

 

「はぁ…勘弁してくれよ…」



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11話

翌日。日曜日のため、草薙は古城の家を訪れていた

 

 

「こんにわー。隣に越してきた霊桜草薙でーす」

 

「莉緒だ」

 

「…お前らもか。まさかとは思ってたけど隣にきたのか…」

 

「そういうわけだ。ちとお邪魔するぞ」

 

 

草薙は莉緒を連れて暁家に踏み込んだ

妹の凪沙は姿が見えない。部活らしい

 

 

「古城、頼みがある」

 

「すでに呼び捨てされてる…。なんだよ?」

 

「莉緒の服を買ってやりたいんだけど、センスが俺も莉緒もなくてな…。なんかセンスよさげな女子知らない?」

 

「…あー、浅葱ならセンスいいと思う」

 

「藍羽浅葱…電子の女帝か。じゃあ呼んでくれ。あとお前もこい」

 

「えー…。今日はゆっくり休むつもりだったのに…」

 

「じゃあ別の人に頼むか。いやぁ、焼肉屋連れてこうと思ってたんだけど無理強いはできないもんなー」

 

「今すぐ行こう俺たちの仲じゃないか」

 

「現金なやつ、というのはこのようなことを言うのだな」

 

「そうだ、こういうやつにはなるなよ、莉緒」

 

「貴様は私の父親か」

 

 

焼肉につられた古城が浅葱に電話をかける

ちなみに今莉緒が着ているのは夜架が持ってきたものなのだが、下着はなく、さらに草薙のパーカーのみだったため、風が吹けば事件が起きる

構造上は人間と何ら変わりないのだ

 

 

「準備できたぞ。すぐ行くのか?」

 

「おう。獅子王機関に気づかれないようにな」

 

 

草薙は空を飛ぶ無数の式神を撃ち落とし、その瞬間に空間転移を使って移動した

どうやら空隙の魔女の能力は、災厄として認識されたらしい

 

 

(けど、やっぱ《災厄者》を経由して魔術使うと魔力消費エグいな。空間制御術式、だっけ。普通に習得したほうが良さそうだ)

 

「どうしたんだ?」

 

「いや、なんでもない。それよりここが藍羽浅葱の家で良かったか?お前の記憶から辿ったらここだったんだけど」

 

「あってる。って記憶をたどった!?」

 

「うん。いやそんな驚かれても…」

 

 

草薙は古城に電話をかけるように言って、問題ないという回答が来たのを確認して藍羽浅葱が出てくるのを待った

 

 

「お待たせ、古城。あれ?その人が例の…?」

 

「第零特務機関第二部隊隊長、霊桜草薙。よろしくな」

 

「藍羽浅葱よ。よろしく」

 

(派手な小娘だな。まぁ歳は同じなんだけどさ)

 

 

草薙はそんな失礼なことを思いながら、空間制御でデパートの屋上に転移した

 

 

「おま、空間制御術式使うなよ」

 

「いいじゃねーか。俺はもう第零機関って名乗っちゃってるし」

 

「何こそこそ話してるのよ。で、その子が服を用意したいっていう莉緒ちゃん?」

 

「いえすいえす。この子に似合う服を選んでやってほしい。金はないから、このカードで払っといてくれ。君の服も買っていいからさ」

 

 

第零機関の者たちはそれぞれ、クレジットカードを持たされている

法人カードということで、あまり制限がない

 

 

「ふーん。私のもいいんだ。いくらまで?」

 

「別にいくらでも構わないよ。強いて言うなら百万まで」

 

「人の金でそんな買わないわよ」

 

「へー??」

 

 

古城が訳知り顔でわざとらしく首を傾げている

が、浅葱はそれをガン無視して入口に向かって歩き出した

屋上といっても駐車場だ。出入口はある

しかし利用されることは稀である

 

 

「莉緒、浅葱嬢についていけ。いいものを選んでもらうといい」

 

「了解した。第四真祖はこないのか?」

 

「あー…古城は今から、国家公認ヤンデレストーカーに怒られる重大な仕事があるんだ」

 

「え?」

 

「ふむ、そうか。わかった、後ほど連絡しよう」

 

 

浅葱と莉緒についていこうと歩き出した古城の背後に、槍を持った雪菜が立っていた

 

 

「どこに行くんですか?先輩」

 

「…勘弁してくれ」

 

 

雪菜は笑っていた。しかし、目が笑っていなかった



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12話

「え?草薙も俺の監視なのか?」

 

「言ってなかったっけ?第零機関からの監視役。いざとなれば第二部隊総動員で古城を狩る」

 

「動物か俺は」

 

 

雪菜の説教が終わり、服屋の前で待機する三人

草薙は雪菜が興味深そうに眺めるのを見て、古城と共に服屋に突撃した

適当な店員を捕まえることに成功した草薙

 

 

「店員さん、この子に似合う服と並んでても違和感のないメンズ服を選んでやってください」

 

「「え…?」」

 

「わかりました、可愛く着飾っちゃいます!」

 

 

草薙は片手を上げて小さく振りながら店の外に出た

そこにいた莉緒に声をかける

 

 

「莉緒」

 

「来たか、霊桜草薙。一先ず選び終わったところだ」

 

「人間の服は気に入ったか?」

 

「まずまずというところだ。今までは着ていなかったのだから、違和感があるのは仕方がない」

 

 

肩をすくめながら莉緒は言った

大量の紙袋を手に、浅葱が戻ってきてカードを返してくる

 

 

「はい、ありがと。とりあえず外出用に3セットと、部屋着を2セット買っといたわ」

 

「あんがとさん。じゃあそろそろ店に押し込んだ古城と小娘を迎えに行くかな」

 

「小娘…?」

 

「あー…なんか古城のストーカー?」

 

「姫柊ちゃんか…。あの子いつも古城と一緒にいるのよね」

 

「ヤキモチは程々にしとけよ、女帝さん?」

 

 

草薙は驚いた顔をする浅葱を横目に服屋に再度入った

きせかえ人形にされている雪菜と古城を見つけると同時に、違和感を感じた

 

 

(なんだ…?体が重い…。催眠呪術か…!)

 

 

草薙を含め、その場にいた人間が全て床に倒れた。そして草薙以外が寝息を立て始めた

古城と雪菜も例外ではない

 

 

(くそ…。あの槍を、起動させるしか…!)

 

 

草薙は眠気を抑えつつ、雪菜の元にふらふらとよろけながら歩いていった

ギターケースから槍を取り出し、魔力を流し込んだ

 

 

(チッ…やはり魔力じゃ起動しないか…?)

 

 

と思ったとほぼ同時、雪霞狼が黒く染まった

そして副刃が展開し、起動する

神格振動波が発され、催眠の呪術がかき消されて草薙は眠気をふっとばすことに成功した。しかし

 

 

(まだ目覚めないな。古城も姫柊雪菜も…)

 

「草薙!」

 

「莉緒!眠らなかったんだな」

 

「魔力を放出して抵抗(レジスト)しているところだ。呪術の出力が高すぎて無力化には至らぬが…」

 

「レヴィアタンの魔力でギリギリか…。術者はなんの目的でこんなことしてんだろ?」

 

「わからぬ。しかし、敵意があることはまず間違いないだろう。おそらくこれは、第四真祖とそこの監視を無力化するためのものだ」

 

 

黒に染まった雪霞狼が発する神格振動波により、術式自体は壊れたはずだ

それでも目覚めないということは

 

 

「…!刻印呪術か!」

 

 

草薙は心当たりに向けて走り出した



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13話

雪霞狼だったものを装備して、草薙は屋上へと飛び出した

莉緒が遅れてついてきているのを確認しながらではあるが

そしてそこにいたものを視認する

 

 

「…六番目(ヘクトス)…!」

 

 

呼ばれた少女は何も答えない

草薙は躊躇いなく槍をつきさそうとした。が

 

 

「…逃げられたか。いや、能力的にあいつじゃないはずだけど…」

 

 

そんなことをつぶやくのとほぼ同時、草薙はバックステップで回避行動をとった

振り下ろされたのは銀色の剣。獅子王機関の兵器、六式重装降魔弓(デア・フライシュッツ)

 

 

「…獅子王機関舞姫、煌坂か」

 

「…流石は第零機関というところね。いまのを避けたのも中々だわ」

 

「基本技能だ。今みたいに遅い太刀筋じゃ躱してくださいって言ってようなもんだし」

 

 

草薙はそういって恩恵を起動した

空には雷雲が立ちこみ始め、海が荒れ出し威嚇する

 

 

「これが恩恵…ギフトってやつね。やっぱり危険だわ。ここで排除しないと…」

 

 

剣を振るって草薙を斬ろうとするが、草薙はバックステップのみで回避を続ける

ポケットに手を入れてることから、完全にナメているのだ

 

 

「やれやれ。莉緒!その槍を俺によこせ!」

 

「これか?真っ黒だな。ほれ」

 

 

草薙は投げられた雪霞狼だったものを掴み、魔力を流し込んで起動した

草薙の魔力で起動し、霊力と魔力を打ち消す神格振動波を発する

 

 

「それは、雪菜の…!」

 

「なんか壊しちまったっぽいけどな。さて、戦闘再開といこうか?」

 

 

草薙がニヤッと笑い、槍を構える

構えは雪菜のものと全く同じだ。それを見て紗矢華が勝ちを確信する

今まで雪菜と戦闘訓練をしたこともある。そのため、同じものを模倣したのであれば対応も考察できると考えたのだ

しかし

 

 

「天津、禍津。自立攻勢モード」

 

 

召喚された二本の両刃剣が、草薙の周りを飛行し始めた

 

 

(テメエが姫柊雪菜の型を知ってるのはわかってんだ、対策するに決まってんだろ)

 

 

「楽しませてくれ」

 

 

草薙は雪菜を見て学習した槍の型を真似て接近、攻撃を仕掛ける

紗矢華は既に戦意喪失といった具合で、防御に徹していた

 

 

「擬似空間切断か」

 

 

草薙は回避すると同時に違和感に気付いた

そしてその空間切断によって生じた亀裂を雪霞狼だったもので無力化する

 

 

「チェックメイト」

 

 

紗矢華の首に槍の切っ先を向けて、草薙が宣言した

《災厄者》によって具現化された戒めの鎖(レージング)で拘束し、黒鉄を呼んだ

 

 

「言い訳は聞いてやるよ、獅子王機関。戦力として使って、事態が片付いたら殺しに来るなんて卑怯すぎるぜ。まぁ意味ないけどさ」

 

 

草薙は笑いながら言った

莉緒が魔力を使い、プレッシャーを与える

 

 

「…獅子王機関は関係ないわ。私の独断よ。あなたは危険すぎる。魔導犯罪を未然に防止するのも、私たちの仕事だから」

 

「…どうやら一枚岩ではないらしい。ってーことでどうしましょうか黒鉄さんや」

 

「…その呼び方やめろ」

 

 

草薙の影から黒鉄が直立状態で浮かび上がり、地面より上に出たところで草薙の影が薄くなった

黒鉄の能力に由来する技だ

 

 

「ここで殺しておこう。主からは許可をとってある。デパートまるっと催眠してるし、言い逃れはできないからな。殺しても文句は言わせんよ」

 

「ふーん。殺していいんか、じゃあ天撃使うかなぁ」

 

 

紗矢華が拘束され自由が効かない体で後退りする

しかし背後にまわった莉緒に行き場を塞がれた

 

 

「えーと、使ったことないからデバッグしながらやるか。えー…アーカイブより能力を検索…完了。霊力を龍脈から補充、魔力は自前。次に…水素と酸素の混合気を圧縮…火種を真空で覆って中に配置。よし準備完了」

 

 

草薙の掌の上に、青色の球体が出来上がっていた

それを紗矢華に向ける

 

 

「第零機関を敵に回したのが悪かったね、獅子王機関。姫柊雪菜も、消すしかないか」

 

 

草薙は球体を紗矢華に向けて放った



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14話

「そこまで、ですわ」

 

 

草薙が放った球体を手で掴み消したのは、夜架だった

怒りに満ちた表情で黒鉄と草薙を見ている

 

 

「今、獅子王機関を潰すのは得策とは言えない。というのが、先程出た主様のお達しですわ」

 

「…そうか。であれば、煌坂紗矢華。貴様の身柄は俺が拘束させてもらう。文句は言わせんぞ、犯罪者は貴様の方だ」

 

 

黒鉄の影が浮き上がり、不定形な生物のように蠢く

それに呑まれた紗矢華は、どうなるのか。と莉緒が訊ねた

 

 

「大したことはない。モードが3つあってな」

 

「一つはさっき俺の影に移動してきたみたいに、影があるところに転移するってやつ。んで二つ目がありとあらゆるものを喰らい尽くすやつ。最後が喰ったものの時間を止めて保管するってやつだから、死んだりはしねぇ…よな?」

 

「満点だ。じゃあ俺はスピリダスに帰るぞ」

 

「ああ、あんがとさん」

 

 

黒鉄に軽く手を振って、草薙は槍を持ち直した

 

 

「少なくともこの槍が雪霞狼とやらと同じ機能を使えるのはわかったし、言霊も同じでええんかな?」

 

「…?」

 

「まぁ見てろって。雪霞の神狼、千剣破の響きをもて楯と成し、兇変災禍を祓い給え」

 

 

草薙の詠唱に応えて、雪霞狼だったものが結界のように神格振動波を発する

それによりかけられていた呪術の核が破損し、デパート内の人間たちが起き上がる

 

 

「…刻印呪術じゃなかったけど、さっき反応があったのは刻印呪術だったはず…。てことは、第零機関以外の別の何かがこの世界に来たってことか…?」

 

「どうした、草薙」

 

「なんでもない。とりあえず古城たちのところに戻ろう」

 

 

草薙は嫌な予感を振り払うように首を横に振り、莉緒を連れて店内に戻っていった

 

 

 

 

 

 

その直後、スピリダスでは

 

 

「…5人目の真祖…?」

 

「ああ。煌坂紗矢華から聞き出した情報によると、静岡県駿河湾のど真ん中の空間に亀裂が発生して、それが広がって円になった。その中から出てきたのがそいつだったんだとよ。んで、そいつ曰く俺らに用があるっつー話で、その護衛兼監視で煌坂紗矢華がこの島に来たらしい」

 

「…草薙を襲った理由については?」

 

「5人目に対抗できるかを調べるのと、5人目を俺らが匿ったんじゃねぇかっつーことで、捕らえて情報吐かせようとしたらしいぜ。まぁ結局俺らに捕まってるんじゃ話にならねぇけどな」

 

 

夜斗は顎に手を当てながら思考を巡らせていた

そこにきたのは、夜架だった

 

 

「悪いニュースがありますけれど、置き気になられます?」

 

「なんでいいニュースがないんだ…。で何?」

 

「剣巫の武装、七式突撃降魔機槍が草薙さんの魔力で破損しましたわ」

 

「うっわまじで悪い知らせじゃんか。アイリスを呼べ」

 

「かしこまりました」

 

 

夜架が立ち去ったあと、夜斗はため息をついた

 

 

「これ、アイリスが創れればいいけど創れなかったらまじで事件なんだけど…」

 

「…どうにかなんだろ」

 

 

黒鉄は草薙に軽い怒りを覚えながらも、割といつものことであるために諦めの意味を込めてそう言った



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15話

アイリスと呼ばれた少女が夜斗の前に到着した

 

 

「どしたの、夜斗」

 

「七式突撃降魔機槍を創れるか?」

 

「よゆーだよ。あんなの、恩恵使えば無限に創れるしね。そもそもアレに頼らなきゃいけないっていうのもどうなんだろうね」

 

「唯一真祖の眷獣を無力化できるらしいぞ」

 

「そんなの夜斗が召喚権限レベルを剥奪すればいいだけじゃん?」

 

「そうっちゃそうなんだけど、ただの人間が真祖を止める手段だからな」

 

「唯一を扱う人がただの人間、かな?」

 

 

アイリスはいたずらっぽく笑った

 

 

「さてな」

 

 

夜斗も口の端に笑みを浮かべて答えた

 

「作ったら草薙のとこに送ればいいの?」

 

「宅配便で第零機関として姫柊雪菜に送ってやってくれ」

 

「りょーかい」

 

 

 

 

デパートの中に戻った草薙と莉緒は、雪菜と古城のところに向かった

 

 

「古城。今いいか?」

 

「なんだよ…」

 

「先程、獅子王機関の煌坂紗矢華が襲撃してきた」

 

「え…?」

 

「目的は、突然現れたという第五の真祖の行方を探しているらしい」

 

「第五真祖、ってことか?」

 

「一概には言えないんだなぁこれが。その時使ってた眷獣が、サダルメリクと同じ見た目をしていたらしい。色は黒だったっぽいけど」

 

「え?つまり…どういうことだ?」

 

「お前…というより、第四真祖の試作品か廃棄する予定だったものが脱走したか復活したか、みたいな感じかな。っていうところか。ラーニングの中に含まれてないからなんとも言えないのがなぁ…」

 

「どうにかなるのか?」

 

「魔力量がお前の倍だから、お前で負けるレベル」

 

「マジかよ…相当やばいな」

 

(といってもその第五の真祖も俺の一割程度の保有量なんだけどな)

 

 

草薙はそう話し、残りは後で話すとした上で雪菜が試着室から出てくるのを待った

 

 

「せ、先輩…。これ、派手すぎませんか…?」

 

 

雪菜が着ていたのはワンショルダーと呼ばれるものだ

色はワインレッド。デニムのズボンとカーディガンを着用している

 

 

「なんか、こう…姫柊のイメージじゃないな」

 

「なんだろう…。姫柊雪菜の私服見ないせいで新鮮すぎて…」

 

「確かに、私を倒しに来たときも学校の制服だったな」

 

「3人がかりで言いますか!?」

 

 

そんな雪菜をみてまだ時間が掛かりそうだと判断した草薙は、クレジットカードを古城に渡して店を出た

待ちくたびれた様子の浅葱に声をかける

 

 

「飯の前に軽くデザートでも食うか」

 

「いいわね。るる屋のアイスとかどう?」

 

「美味いのか?」

 

「当然。この私が紹介するものに失敗はないのよ」

 

 

浅葱はそう言ってウインクした

 

 

 

 

 

姫柊雪菜の自宅に雪霞狼が届けられたのは、この日の夕方だった



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16話

古城の家に届けられた荷物を開けるために、なぜか呼ばれた草薙

 

 

「なんじゃい」

 

「いや…ヴァトラーからの荷物だから、いざとなったら草薙に壊してもらおうかと…」

 

「え?ああ、そゆことか。んじゃあ開けようぜほい」

 

 

草薙が軽いノリで開けた中には、全裸の女が入っていた

金髪の少女だ。草薙はこの人間を知っている

 

 

(邪神の花嫁…!なんでディミトリエ・ヴァトラーがこいつを持ってやがる!?)

 

「いつまで見てるんですか先輩方!」

 

 

草薙は突然飛んできた平手を回避することができなかった

しかし莉緒に止められたため、腹いせか雪菜の平手が古城に飛んでいった

 

 

「痛い!」

 

 

 

 

 

 

スピリダスでは

 

 

「総員戦闘配置につけ!緊急発進の用意を取り急いで行い、来る襲撃に備えろ!」

 

「「「「「「はっ!」」」」」」」

 

 

夜斗の指示で動く第零機関の者たちが、慌ただしく艦内を行ったり来たりしていた

アイリスは機関部に移動し、そこで働く者たちに退避するよう呼びかける

また、黒鉄はまだチャージされていない緊急発進用の魔力の代わりに機関部の端に置かれた機械に乗り込む

 

 

「総員準備はいいな!スピリダス、スクランブル!」

 

 

夜斗の声に合わせてスピリダスが海面から浮上し、上空へと退避する

 

 

『ぐっ…!』

 

「大丈夫か黒鉄!」

 

『大丈夫とは断言、できねぇな…!けど、奴らがきたなら…そんなこといってられねぇ!』

 

「それでこそ黒鉄だ。緊急出力に移行するぞ、準備はいいか?」

 

『いつでも来い!』

 

「よし。スピリダス、強制高出力モードに移項!奏音(かのん)、迎撃ミサイルの装填急げ!」

 

『もう終わるわ!あと30秒!』

 

「夜斗様!対象の時空間転移を確認、1分後に作戦エリアに侵入します!」

 

「想定外の大型飛行戦艦をソナーにて補足!3分後に作戦エリアに侵入速予測!」

 

「第三ソナーに反応あり!第三の飛行戦艦接近中!近距離砲にエネルギー充填してる模様!」

 

「なんだと!?近距離砲なんて、スピリダスでさえ積んでないぞ!」

 

 

夜斗は叫びながら、奏音の返答を待った

異様に長く、そして短い時だ

 

 

『装填完了よ。《執行者(エクスキューター)》、照準!』

 

『こちら黒鉄!魔力拘束具を破壊したから、いくらでもいけるぜ!』

 

『アイリスだよ。《創作者(シナリオライター)》で創った仮設近距離砲準備オッケー!いつでも撃てるよ!』

 

 

夜斗たちが今戦闘態勢になったのには理由がある

現在、別の世界からこの島を狙っている者が襲撃してきているからだ

とはいえ転移の予兆から10分ほどの猶予があるため、この緊急発進が使える

 

 

「転移確認しました!対象は…そんな…!」

 

「どうした!」

 

「て、敵艦に搭乗しているのは第四真祖の第2世代!槍型の眷獣が動力になっています!」

 

「予定より転移が早いじゃねぇかよ…暁零菜(れいな)…!」

 

 

夜斗は悪態をつきながら、小型戦闘機の発艦準備をするように伝えた

 

 

「危険すぎます!」

 

「やるしかない。俺のために共倒れするのはもったいないからな。それに…」

 

 

夜斗はモニターに映る絃神島に目を向ける

 

 

「いざとなりゃ、草薙がいる」



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17話

草薙は見ていた

スピリダスが予告もなく飛ぶ瞬間を

 

 

(スクランブルか…?俺に連絡できないほど急に?ってなると襲撃か)

 

 

草薙は立ち上がり、雪霞狼だったものを掴む

雪菜に届いた雪霞狼は、アイリスが作ったもの。であれば本家より性能はいいはずだと考え、草薙はこの場を雪菜と古城に任せることにした

 

 

「すまんが少し出る。スピリダスがスクランブルした。姫柊雪菜のところに連絡は?」

 

「特に何もありません。第零機関の問題なのでは?」

 

「そういうことだな。…うん?あれは…飛行戦艦!?現代の技術じゃまだ作れないはず…ってことは、まさか…!」

 

 

草薙は窓から飛び出し、携帯電話で主たる夜斗を呼び出す

しかし、応答はない

 

 

「もう来やがったのか、暁の帝国…!」

 

 

夜斗は過去に、『暁の帝国』を名乗る組織が、現代の絃神島を襲撃してくることを予測していた

その日取りまではわからなかったものの、かねてから訓練を重ねてきたのだ

 

スピリダスとの砲撃戦が始まった

スピリダスの武装は空対空広範囲破砕弾頭と、大陸間弾道ミサイルの二つのみ

あのままでは確実に撃墜されてしまう

 

 

「くっ…!眷獣も射程外だな…、仕方がない。シフトアップ、フォースギア」

 

草薙の中にある魔力のギアが一つ、上がった

これは魔力の放出量や圧力に関わるもので、ギアを上げれば上げるほど放出量が増える

しかし圧力が低下するため、ギアが一つ上がるごとに単発の威力が半分になる

2つ上がれば更に半分、3つ上がればもう半分…と徐々に減少していく

最大のオーバーギアにすると、元の4%以下になるが、射程は約30倍

であれば通常時の1段階上、フォースギアまででも眷獣――というより《災厄者(ディザスター)》が届く

 

 

「!あれは…F35か!ってことは乗ってるのは主…!?」

 

 

草薙は驚くと同時にギアを戻した

そして走り出し、空間転移を思い出して転移する

 

 

「あの光は…汎用恩恵の《攻撃機(アタッタカー)》…。あれじゃ間に合わねぇ…!」

 

 

こういうときに限って、夜斗に次ぐ実力を持つ夜架が非番である

草薙は舌打ちをしながら、雷雲を発生させて戦艦に高圧雷を落とした

しかし

 

 

(あれで落ちねぇのか…!)

 

 

全く効果があるように見えない

 

 

 

疾く在れ(したがえ)、【夜摩の黒剣】!」

 

 

ギアをトップ…つまりは5に上げて、眷獣を放つ

これにより、古城が使うときの半分程度になったはずではあるが

 

 

「は!?雷で撃ち落とした!?」

 

『草薙か』

 

「主!どうなってやがる!?」

 

 

【夜摩の黒剣】が撃ち落とされた以上、トップギアでは眷獣を使う意味がない

そのため、急に通信してきた夜斗に問うしかなかった

 

 

『第四真祖の第二世代だ。トップギアにしたら叩き潰せない。ファーストに入れろ』

 

「けどそれだと、古城が使うときの10倍近くなるぞ!?」

 

『問題ない。紗奈の《拒絶者(リヴァイダー)》で絃神島は守ってるし、スピリダスは緊急退避させる。俺もお前がファーストギアで眷獣を使うなら、さっさと逃げるさ』

 

「…了解。責任はとってくれよ?」

 

 

草薙はギアをファーストに入れた

単純計算では、サードで放つときの4倍だ

しかし、古城と同じ威力にするためにはフォースギアにする必要がある

つまり、ファーストギアで放った場合は8倍の威力

普通に使えば島どころか本州まで影響が出てしまう

 

 

「…ギア、ファースト。疾く在れ(したがえ)、【夜摩の黒剣】!」

 

 

第四真祖のものであるはずの巨大な剣型眷獣の色が、一段と黒く見える



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18話

【夜摩の黒剣】が飛行戦艦に向けて落下する

当てる前に止めるなどという甘えたことはせず、草薙は躊躇いなく本体にぶつけた

真っ二つに割れる戦艦から飛び出してきたのは、雪菜によく似た少女だった

 

 

「お前は…。暁零菜か」

 

「なんで知ってるんですか?」

 

「ラーニング済みだ。つかその眷獣、本当に雪霞狼に似てるんだな」

 

 

草薙は雪霞狼だったものを構える

ただし構えは夜架に教わった、夜架オリジナルのものだ

 

 

「その槍…ママの…それにさっきの眷獣はお父さんの奴ですよね?なんで貴方が使えるんですか?」

 

「さぁね。戦えばわかるんじゃねぇの?」

 

 

草薙は、破砕された戦艦の欠片が飛来し、その衝撃で墜落した3機目の戦艦が落水したのと同じタイミングで走り出した

 

 

(眷獣なら…雪霞狼が効くだろ!)

 

「【槍の黄金(ハスター・アウルム)】!」

 

「おらぁ!」

 

 

零菜の眷獣と競り合う草薙の槍は、何かを求めるように草薙の魔力を拒絶した

今、雪霞狼だったものから放出される神格振動波は必要最低限。眷獣を打ち消すことはできていない

 

 

「…まだ従わないか」

 

「…まさか無理矢理支配して…!?」

 

「…《災厄者》を知ってるのか。まぁ未来人なら当然かね」

 

 

ふと草薙は思った

この槍の呼び方は、現状【雪霞狼だったもの】

もしや、名前を欲しがっているのでは?と

 

 

「…氷月華(ひょうげっか)

 

 

草薙が呟くと、雪霞狼だったものが黒く輝いた

一瞬のことだ。しかしそれが、草薙に確信をもたらすことになった

 

 

「…そうかい、お前も名前が欲しかったんだな。いくぞ、氷月華」

 

 

 

草薙は槍に魔力を流し込んだ

応じるように、完全な神格振動波が発せられたのを、草薙は感覚で認識した

 

 

「なっ…!」

 

「終わりだ、暁零菜。失せろ」

 

 

槍型眷獣を氷月華にて破壊した上で、そのまま心臓を貫こうと力を込める草薙

それに対抗してか、もう一度槍の黄金を召喚し、草薙の頭蓋を貫こうとする零菜

しかしそれを阻むものがいた

 

夜斗と、誰か草薙の知らない人だ

 

 

「…そこまでだ、草薙」

 

「これきりにしようか、零菜」

 

「主…!」「凱亜(がいあ)…」

 

「すまないね、夜斗。少々管理不十分だったらしい」

 

「構わん。俺らもお前の飛行戦艦ぶったぎったし」

 

 

状況が掴めない草薙と零菜は互いに顔を見合わせ、それぞれ攻撃をやめた

 

 

「…暁凱亜。これは貸しにしてやるから、生まれたら返せ」

 

「無茶にもほどがあるよ…。また過去渡りをして俺自身に伝えなきゃいけないじゃないか」

 

「待ってくれ主、どういうことだ?」

 

「ん?ああ、こいつらは敵じゃなかったってこと。暁零菜…つまり古城の未来の娘がきたのは、俺たちの存在を危険視したから。けどそこの凱亜…つまり息子は俺たちと交渉しに来た。それは絃神島を破壊しないようにするってこと」

 

「沈められてしまうと俺も萌葱も零菜も生まれなくなってしまうからね、可能な限り守ってもらおうと思ったのだよ。それはそうと…この人が草薙さんかい?随分と若い雰囲気だね」

 

「未来人なら知ってるんだよな、そこも。俺は草薙だよ」

 

 

零菜は思考を放棄した



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19話

「つまり、主は襲撃を予知したけど、それは零菜ってやつの先走りだったってわけか」

 

 

黒鉄と草薙、そして夜斗が一堂に集まり、先程の事象についての話をすすめる

 

 

「そういうこと。凱亜曰く、不確定な未来がいくつかあって、絃神島が崩壊した時点で雪菜が死ぬから、零菜が生まれないし、同じ理由で紗矢華がいなくなると凱亜が、浅葱がいなくなると萌葱が生まれなくなっちまうってさ」

 

 

夜斗はそう話しながら、外部カメラの映像をかけていた伊達メガネに投影した

古城が謎の物体に吹っ飛んでいくのが見える。が、それが何かは興味がない3人であった

 

 

「あれ、放置すんのか」

 

「古城だしどうにかなんだろ。一応俺が《災厄者》で雪霞狼を強化したし、眷獣ならあれくらい壊せるさ」

 

「…どうにも嫌な予感がするぜ。なぁ、主?」

 

「…今回目覚めるのはメサルティムだったか。どうにかなるんじゃね?一応防御系の眷獣だし」

 

 

夜斗はそう言いながらも、スピリダスの空対空ミサイルを発射してみた

しかし当たる前に砕け散ったのが見える

 

 

「スピリダスの攻撃が阻まれるんじゃあな…」

 

「喰ってみるか?」

 

「古城も雪菜も死ぬだろそれ」

 

「草薙、駐在員なんだからどうにかしろよ」

 

 

夜斗に言われて、頭を掻きながらため息をつく草薙

 

 

「卵が孵化して雪菜たちが攻撃すりゃ消えるだろうよ。ただ、ザザラマギウとかいう邪神が上手いこと消えるとは思えないし、多分破片が落ちてくる。【災厄者位階】と【汎用人工恩恵(フリーダム・ギフト)】もしくは人工恩恵で止められるかどうか…」

 

 

草薙がそう言いながら黒鉄を見た

その気になれば黒鉄だけで邪神の破片は何とかなる

しかし飛び散る範囲がわからない以上、複数名で行く必要があるのだ

 

 

「雪音を連れていけ」

 

 

夜斗の言葉に満足したのか、草薙はニヤッとした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぱどらきっさ!」

 

「なんですかいきなり…」

 

 

草薙の奇っ怪な行動に眉をひそめたのは、先程夜斗に呼ばれた雪音という少女

彼女こそ第零機関が所有する人工生命体ノイズシリーズのプロとタイプである

所有する恩恵は人工恩恵の一つ、《破壊者(デストロイヤー)》だ

扱いにくさや性質から、この日まで日を見ることは少なかったのだが…

 

 

「叫びたかったんだよ。なぁ黒鉄」

 

「俺を巻き込むな。で、作戦は?」

 

「雪菜たちがさっき出てきた邪神の花嫁と融合したアンジェリカの体に埋め込まれたチップ型魔術回路を破壊すると同時に突撃して、俺は眷獣で対応、黒鉄は《暴喰者(グラトニー)》で喰えるだけ喰って、雪音は何とか壊してくれ」

 

「作戦杜撰すぎません?もうちょっと考えてくださいよ」

 

「無茶言うな。あと5分もないんだぞ、魔術回路壊されるまで」

 

 

というのは、夜架が告げた予言の話である

夜架は非番であるにも関わらず草薙に連絡を入れてきた。そしてそこで、魔術回路を破壊すればザザラマギウは自壊するものの、邪神だったものの欠片が地上に落下すると予測したのだ

3人しか集まらなかった以上、綿密な連携は意味をなさない

一人一人がバケモノだからだ

 

 

「よし、時間近いな。まずあのザザラマギウの真下に移動する。そしたらあとは自由に防ぐ感じで」

 

「フワッとしてますね。まぁいいですけど。足を引っ張らないでくださいね、草薙さん」

 

「はっはっは。言われてるぞ草薙」

 

「うっさいわい…。んじゃいくか」

 

 

3人は開いたハッチから下を見た

スピリダスが発進してザザラマギウの真上に位置しているため、ここからまっすぐ飛び降りれば問題はない

 

 

「作戦開始!」

 

 

草薙の号令に合わせるように、3人はハッチから飛び降りた



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20話

「じゃあ俺真下やる。草薙は北側、雪音は南側な」

 

 

勝手にそう言って黒鉄は空中に恩恵で足場を作り、それを蹴って落下速度を加速させた

 

 

「行くぜ、《暴喰者》!」

 

 

黒鉄から溢れ出す濃密な闇が何匹かの生物をかたどる

それは空を飛ぶような見た目をしていないものの、地上に降り立つと同時に徘徊を始めた

黒鉄は黒鉄でビルの屋上に着地し、恩恵を準備する

 

 

「全く勝手だよな、あいつ。じゃあ雪音、頼んだ」

 

「はい。久しぶりに恩恵をフルで使えますね」

 

 

雪音は取り出した大剣を構えた

それは夜斗が持つものとほぼ同じ大きさで、雪音の細い腕では持つことさえ厳しいように見える

しかしそれを、雪音は片手で持ちながら南を見た

ちょうど雪菜が魔術回路を破壊し、落下し始めた欠片が宙を舞っている

 

 

「《破壊者》ブースト・セプタ!」

 

 

雪音の霊力が異常なレベルに増強される

そしてその霊力を乗せて、剣を振り抜く

と、霊力が斬撃のあとをなぞるように飛来し、広範囲に拡散した欠片を破壊していく

振り抜いた剣に霊力を乗せて斬撃を飛ばす。これ自体は雪菜にも教えればできることだ

しかしそれを、半径数百メートルの範囲で1キロほど飛ばすことは夜斗をもっても難しい

 

 

「最初っからとばすなぁ…。天津!禍津!」

 

 

草薙が召喚した双剣が合体し、さらに元雪霞狼である氷月歌と融合した

巨大な槍となったそれを、草薙は全力で投げる

 

 

「《災厄者》災厄顕現。神槍スピア・ザ・グングニル!」

 

 

真っ直ぐに巨大な欠片を破壊したあと、速度を落とさずに縦横無尽に空を飛ぶその槍が、周囲の欠片を破壊していく

順調にも見えたが、一つ巨大な欠片が、3人の守る場所を離れて長距離へと飛ばされていくのが見える

 

 

「間に合わねぇ…!黒鉄!雪音!」

 

「無理だ!もうアラガミを召喚できねぇし、俺が喰うには遠すぎる!」

 

「私の斬撃の飛距離では届きません!」

 

「眷獣も間に合わねぇぞ…!」

 

 

草薙がそれでも足掻こうとビルの屋上を踏みしめようとしたとき、欠片が消失した

欠片の向こう側に見えるその人影は…

 

 

「夜架…」

 

 

非番であるはずの夜架が腕を振るった。それだけで消えた

第零機関のいう非番というのは、原則的には本州の本拠点にいるという意味だ

それなのに、ここまで来て欠片の破壊を実行した

 

 

「無茶しやがって…」

 

 

草薙が呟くと同時に、夜架が落下を始めた

もう満身創痍だったのだろう。落下に抗うための恩恵すら起動していない

 

しかしその夜架の姿が消えた

 

 

「私を置いていくとは水臭いではないか、草薙」

 

「莉緒…!正直助かった」

 

「すぴりだす?に置いていかれたときには500回ほど殴ろうとも思ったが、その言葉が聞けただけいい。許そう」

 

 

草薙の背後に夜架を抱えた莉緒がいた



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21話

翌日。彩海学園高等部古城のクラス

 

 

「えー…霊桜草薙です。まだちょっと絃神島に慣れて無いとこありますけど、そのへん含めて仲良うしてください」

 

 

尚、莉緒は中等部三年生…つまり雪菜と同じ学年クラスとして編入した

それは夜斗が手配した戸籍で入っているため、名字を名乗らざるを得ない

草薙には元々名字があるため大した苦労ではないのだが

 

 

「では暁、この小僧の世話は任せたぞ」

 

「えぇ…これ以上負担をかけるのはやめてくれよ那月ちゃん…いたぁ!?」

 

「教師をちゃん付けで呼ぶな!何度言ったらわかる!」

 

 

飛来した本が直線で古城に衝突し、古城は悶絶している

 

 

(騒がしい奴らだな…。つかこの教師どこかで…見たことあるような…?)

 

 

草薙は昼休みの時間にスピリダスに問い合わせた

といってもメインシステム内蔵AIの「アイ」に連絡をしただけだが

 

 

(零の元同級生…?こんなチビが…?)

 

 

草薙は送られてきたデータを読みながら経口保水液を飲み干した

草薙は暑さに弱く、適度に水を飲んでいても脱水症状を引き起こす

そのため、適時経口保水液の摂取が必要なのだ

 

 

「アイ、少し聞きたい」

 

『はい?』

 

 

やけに人間的なイントネーションでアイが答えた

不機嫌そうなその声の裏側に、頼られたいという基本設計が見え隠れしている

 

 

「零と那月の関係について詳しく」

 

『簡単なことです。零さんはこの時空にて、南宮那月をオトした唯一の存在であり、あの人を悲しませることができた唯一の存在であります』

 

「零彼女いたんか」

 

『この時空で十年前ですけどね。私たちがいた時空では百年前といったところでしょうか』

 

 

零というのは、草薙が年端もいかない幼子だった頃から第零機関…当時は図書館という組織だった…に所属していた

そこから既に50年は経過している

零は草薙や黒鉄にとっては父のような存在だったのだ

 

 

(あの父親みたいな貫禄は、この世界で身につけたのか)

 

『補足しますと、零さんは元々第零真祖と呼ばれる5番目の真祖でした。しかしそれを嫌ったエネミーがこの世界から強制的に私たちの第十三時空に送り込んだんですよ。その時、夜斗様が零さんを拾ってますが、その直前に捨て子だった貴方と黒鉄様が保護されたんです』

 

「第零真祖…。最近出現した、5番目とは関係ないのか?」

 

『あれはあくまでも別時空の者ですよ。確か、第一時空の真祖。夜桜一樹(いつき)、だったかな』

 

 

アイはわざとらしく首を傾げた

彼女が知り得ない情報はただの一つもない

それを草薙や夜斗たちに教えるかどうかは彼女の期限次第ではあるのだが

 

 

「じゃあその一樹、ってのを撃墜すればいいのか?」

 

『そうなりますね。こちら側につかなければ第一時空に送り返して、つくようでしたら非常勤として雇うのが得策かと』

 

「どっちにしてもめんどくさいな」

 

 

鐘がなり響く

草薙は既に授業開始の5分前であることに気づき、教室へと戻った



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22話

死神は、魔族が当たり前になっている絃神島でも目撃されたことはない

それはひとえに、死神が魔族ではないからだ

死神が何を指すのか、ということさえ現代ではわからない

 

 

「つっかれた…」

 

 

夜斗は机に突っ伏しながら言った

気だるげに顔を上げ、またすぐに突っ伏す

 

 

「…仮にも指揮官がそれでいいのかよ、主」

 

「黒鉄かぁ…。ノックしろって言ったはずだろぉ…」

 

「言われてた気がしてきたな。草薙からの定時報告だが、聞くか?」

 

「おー、頼むぜー」

 

「ディミトリエ・ヴァトラーから送られてきた荷物の中に入っていた女が邪神の花嫁だったんだとよ。同タイミングで俺らが襲撃されて、そっちの対応に当たったから現地の様子は不明。対応終了後に邪神が復活していて、またそっちの対応に向かった。聴取によると、邪神の祭壇がアメリカだかの軍人の中にあって、そいつに邪神の力が宿った」

 

「アンジェリカ・ハミーダだっけ?あの女。そいつは死んだのか?」

 

「殺したってよ。邪神の力が宿った経緯としては、軍人が荷物女を取り込んだんだと。だからまぁ、制御が効いていた」

 

 

黒鉄は報告書として送られてきた紙を読み上げ、夜斗を見た

政府との話し合いを終えたばかりの夜斗は、若干老けて見える

 

 

「制御用回路を七式突撃降魔機槍で破壊したところ、邪神は崩壊・分裂し落下。その後は知っての通り、俺と草薙と雪音で対応した」

 

「ほーん。まぁ結論から言うと島に被害はない、と?」

 

「ないな。強いて言うなら俺の能力が無駄に進化したし、今すぐにでも島を破壊することができるようになった」

 

「良好良好。牽制しやすくなったな」

 

 

夜斗は満足げに椅子に座り直し、肘掛けに肘をついて足を組んだ

そして黒鉄の背後に立つ莉緒にようやく気がついた

 

 

「…レヴィアタンじゃねぇかなんでここに…」

 

「主に用があるんだとよ」

 

「うむ。草薙と共に過ごし、守り守られるために汝を主と認め、草薙を娶る許可をもらいに来た」

 

「性別逆じゃないかな普通。まぁいいや、草薙を好いてると?」

 

「…わからぬ。二人でいるときは気分が良くなるが、雌がいると腹正しく思う。故にこれを恋愛感情と感じた」

 

「ほーん…。あのバカでかい魔獣にも感情がね…」

 

「…主」

 

「ああ、わかってる。莉緒、草薙を夫とするには条件がある。とりあえず一つだけ伝えておくが、家事くらいできるようになれ」

 

 

夜斗は指を鳴らした

現れた夜架が、莉緒を見てクスッと笑った

 

 

「莉緒さん。わたくしが、貴女に家事を教えますわ。スパルタで」

 

「ぬ…。お手柔らかに頼む、だぞ」

 

 

楽しげな夜架と、それを警戒する莉緒

二人を見て夜斗は、久々に温かみを感じたのだった



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