『遠山』の子孫が雄英でヒーローを目指すそうです (LuckRiver)
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1st/蘇る桜

―――数世紀前、突如として、この世界の人々に『個性』というものが現れた。

 

超能力のようなそれらは、時に人類の発展を促し、時に人類の多様化を引き起こし、そして・・・

多くの犯罪の凶器となった。

 

そんな個性黎明期には、様々な人々が個性犯罪に抗うべく戦った。

 

秩序を以て個性と戦う者(警察や軍)個性を以て個性と戦う者(ヴィジランテ)武装と己が技術を以て個性と戦う者(武装探偵)

 

 

 

自分や家族の身を守るためなら殺しさえ厭わない、血で血を洗う個性黎明期。

 

そんな中、少しヒーローヲタクなら知らない者はいない、『原初のプロヒーローの一人』にして『極東最強の武偵』がいた。

 

 

日本におけるヒーロー事務所システムの元となったと言われる十数人のチーム、『バスカービル』。

 

そのリーダーだった、【不可能を可能にする男(エネイブル)】。

 

その二つ名、そして輝かしい経歴以外のほとんどが今や謎に包まれている武偵である。

 

 

 

そして『プロヒーロー』の出現によって秩序を取り戻した現在、『遠山』の血を継いだ少年が雄英へと入学しようとしていた。

 

 

「零、受験票は持ったか?あとベレッタは?それとバタフライナイフも持ったか?」

 

「大丈夫だ、父さん。全部持った」

 

 

その名は『遠山 零』———数世紀前に並み居る無法者たちを倒し伝説を刻んだ極東最強の武偵、遠山キンジ(エネイブル)の義理の息子である。

 

 

 

 

筆記試験、問題なし。最終科目も時間を持て余し、ペンを回しながら考える。最後の大問は、『武偵とヒーローの違いについて』。

 

 

『武装探偵』、通称『武偵』。

 

シャーロック・ホームズを原点とし、ヒーローの誕生のはるか前から存在する、銃器などで武装した探偵(というより傭兵)たちのことだ。

個性黎明期には、各地で活躍した武偵の記録が残っている。

 

武偵には武偵高という養成機関があり、強襲科(アサルト)探偵科(インケスタ)情報科(インフォルマ)などなど、大抵何かに特化した武偵になるのが特徴だ。

 

しかし、ヒーローの台頭により戦闘のプロフェッショナルとしての武偵の立場は奪われて久しい。銃器や電子機器、心理学などを駆使して事件の解決を行うの武偵は、専門技能を必要とする職業だ。

それが技能である以上、『個性』ではない。結果としてヒーローになれなかった無個性・没個性が武偵となる場合が多く、今や武偵は『ヒーローのなりそこない』としての烙印を押されている。

たとえ強襲を得意とするSランク武偵と無名のヒーローのような実力に大きな隔たりがある場合であっても、無名のヒーローの方が評価される場合も少なくない。

 

ならば今、ベレッタを備えて雄英の試験を受けている自分は・・・?

 

「試験終了!!」

 

答案が回収される。恐らく自分の答案は満点。だが雄英の試験は————ここからだ。

 

 

 

 

 

 

最後に待ち構える実技試験の前に、俺たち受験生は、大きな講堂のような場所に通された。

 

ぎっしりと詰まった受験生たちの前に現れたのは、金髪が殆ど地面と垂直に立っている男性だ。もはや『重力無視』の『個性』だろ、アレ。

 

「今日は俺のライヴへようこそー!エヴィバディセイヘイ!」

 

妙にテンションの高いその金髪の男性はどうやらこの試験の解説を担当するらしい。

正直鬱陶しいな、これ。

 

「こいつぁシヴィー‼受験生のリスナー!実技試験の概要を説明するぜー!」

 

どうやら返事を期待していたらしい彼は口だけで落ち込みつつも、実技試験の解説を始めた。

 

 

パンフレットによると、4種の仮想(ヴィラン)となる機甲が存在する。

 

そして種類によって1P、2P、3Pのポイントがそれぞれ割り振られ、試験時間内の撃破合計ポイントで、得点を決めるということらしいな。

 

説明を聞き終わったところで、金髪の人が質問を募ると男子受験者が手を挙げた。

 

「プリントには4種の敵が記載されております!もしこれが誤載だとすれば日本最高峰の雄英として恥ずべき痴態!我々受験者は規範となるヒーローのご指導を求めてここにいるのです!」

 

いや、よくそこまで舌が回るな。というか受験する高校の教師にその言い方はだいぶどうかと思うけどな・・・

 

 

「ついでにそこの縮毛の君!さっきからボソボソと・・気が散る!物見遊山で受験するつもりならここから去りたまえ!」

 

辛辣だな。しかもよりにもよって他の受験生の個人攻撃とか・・・ヒーローのすることか、と思わなくもない。

 

その上、後半の去りたまえ云々に至っては教師が言うことだろう。何様のつもりだ、と正直思うがな。

 

 

 

しかしその後の回答は俺にとっても有益だった。

 

0P(ヴィラン)という妨害が少数出現するということらしく、遭遇すれば厄介なことになるだろう。

 

 

講堂を出て会場に向かう途中、俺は例の縮毛の少年を見かけた。

 

「災難だったな。受験、お互い頑張ろうぜ」

 

「ど、どうも・・・あっ!もしかして、えーっと、お名前は?」

 

「俺?俺は遠山 零(とおやま  れい)だ。そっちは?」

 

「ぼ、僕は緑谷 出久です

あの・・・やっぱりあの『エネイブル』の血縁の方ですか?」

 

なんでわかったんだろうな。いや隠すようなことでもないんだが。

 

「ああ。俺はあの『遠山』の血縁だが」

 

「やっぱり!なんて幸運なんだ。顔が似てるとは思ったけどあの『遠山』の子孫だなんて。でも数世紀前の個性黎明期以降すっかり姿を消したらしい遠山の家系が急に雄英に入るのはどういう理由だろう?しかも『エネイブル』本人は『プロヒーロー』と呼ばれることをそこまで好んでいなかったというのが専らの考察だし武偵高じゃなくて雄英に来るものなのかな・・?いやでも現在の

 

「だ、大丈夫か?」

 

「い、いえ大丈夫です!」

 

俺は聞いてなかったがこれが噂の『ボソボソ』か。考え込むと周りが見えなくなるのは戦場で危険だけど大丈夫か?

そろそろ会場に着く。敵同士だがお互い四面楚歌だ。せめてエールの一つぐらいは送っておこう。

 

「頑張ろうな、緑谷。一人のヒーロー見習いとして応援してるよ」

 

「・・・!うんっ!遠山君もがんばって!」

 

 

つかの間の友情を嚙みしめた俺は、スタート位置へと向かった。




久々の二次小説です。
書いている途中で一人称の口調が変化していく可能性が極めて高いです。お許しを。


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2nd/入学試験

多くの受験生たちがスタート位置に集まり、今か今かとスタートを待っている。

 

ざわざわと聞こえる声は意識から排除し、実際の会場(市街地フィールド)を前に自分に合った戦法を考える。

 

俺が戦略を固めたその時。

 

「ハイスタート!」

 

プレゼント・マイクの声が唐突に響いた。

 

いや、唐突だな。少し遅れたが体に染みついた反射で反応し、スピード命の作戦を生かすべく全力で走り出す。

 

「ほらほらぁ!実戦じゃカウントなんかねぇんだよ!走れ走れぇ!賽は投げられてんぞ!」

 

しかし皆スタートが遅い。多くの受験生たちはためらっていたのだろうが、利用させてもらう。あえて多くの仮想(ヴィラン)をスルーして奥の方へと走っていく。多くの仮想(ヴィラン)が俺にヘイトを向け俺を取り囲むように迫ってくるのを、勢いよく懐を潜り抜けて回避する。

 

 

走り抜けていくと丁字路に当たった。右側にに曲がると同時に、腰のベレッタM92を抜いて、直撃すれば当たり所によっては骨が折れる程度の威力がある、ヒーロー用の非殺傷弾の入ったマガジンを装填する。

 

あくまでこれは試験。一人に集まりすぎては試験にならないからだろう、集まってきたのは合わせて8機程度だ。俺はベレッタを構える。

 

彼我の距離はおよそ10m。強襲を得意とする武偵であれば、まず間違いなく命中できる。パァン!という破裂音が連続し、仮想(ヴィラン)の装甲を突き崩す。

 

 

ベレッタM92の装弾数は15発。

脆い部分を狙っても、個性と使った攻撃威力前提の仮想(ヴィラン)にこの弾の威力では一撃で仕留めることは難しい。1機に平均して3発ずつ発砲しているため、3機ほど仮想(ヴィラン)がこちらに突進、あるいは射撃してくる。

 

銃口がこちらを向いたタイミング。その銃口の延長上から離れるように回避。そのまま遮蔽に勢いよく潜り込みマガジンを交換する。

 

睨め付けるように仮装(ヴィラン)を見つめる。立射。狙いは砲塔の関節部、ヒット。そして次に駆動部の排気口。もう一発。撃破。周りの仮想(ヴィラン)は一通りスクラップの山にしたはずだ。

仮想(ヴィラン)、実際にヒーロー志望生になれる実力のない受験生がいることを見越してだろうか、強くはないな。恐らく、手際よく撃破するのが前提となっているはずだ。ヒーロー科の倍率は、尋常でなく高いと聞く。

俺は次の獲物を探して駆け出した。

 

 

 

 

 

試験時間が3分を切ったころには、手元の非殺傷弾のマガジンはすべて撃ち尽くしていた。

 

他の受験生にも疲労が見て取れる。あえて姿を晒し仮想(ヴィラン)の攻撃を誘発し、突進してきた敵を一度躱して距離を詰める。隙を晒したところを、武偵よろしくバーリ・トゥードで破壊する。

他の試験生も仮想(ヴィラン)の減少と個性の乱発による疲労からか、明らかに撃破ペースが落ちている。まもなく試験終了だろうと、思ったその時だった。

 

巨大な鋼鉄の巨人が、街中に現れたのは。

 

 

「あれが0P(ヴィラン)か・・・」

 

逃げ惑う受験生たち、迫りくる(ヴィラン)。本当にでかいな。

あんなの相手にしてられん。俺も逃げようと踵を返したとき。

 

「・・・緑谷?」

 

俺は道にへたり込んでいる緑谷を見つけた。

すっかり腰が抜けていて、悪いがヒーローには見えない感じだがな。

 

そんなことを考えていた俺に緑谷が口を開いた。

 

「!遠山くん!まずい、逃げ」

 

ないと、という言葉は続かなかった。

 

ドゴォ!!という轟音。

 

俺の背後で腕を振り下ろした0P(ヴィラン)の一撃、その轟音が聴覚を奪ったからだ。

 

 

 

咄嗟に顔を覆った。俺よりだいぶ後ろの地面を殴ったようだが、砂塵と岩礫が巻き上がり、俺の方へ飛んでくる。なんて威力だ・・・!直撃すれば受け手によっては死人が出そうだぞ、これ。

 

 

しかし、咄嗟に顔を覆ったのは判断ミスだった。

視界を奪われている俺に、脇から飛び出してきた3P(ヴィラン)が突進をぶつけてきた。

 

衝撃が俺を襲う。思ったより痛いぞ、これ。

俺は瓦礫の上をローリングしながら衝撃を受け流して立ち上がった。

しかし重要なのはそこじゃない。

 

お前、()()()()()()()

 

お前は・・・()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

ああ、なっていく。()()()()()に・・・・!!

 

 

 

ギュゴッ!!

 

零の右足が消えたと同時に吹き飛んだ3P(ヴィラン)。・・・出久にはそうとしか見えなかった。

しかし、出久の知識は、『遠山』、そして霞むほど速く動いた足で出久は答えを導き出した。

「まさか・・・今のが『エネイブル』が使ったって言われている『亜音速打撃技』!?」

 

「まさか。その出来損ないだ。まあ威力は十分だけどな」

 

 

 

 

ああ、なっちまったか。()()()()()()()()()()()()に。

 

遠山に代々伝わる特異体質――ヒステリア・サヴァン・シンドローム―通称HSS。

 

HSSは子孫を残すため、『βエンドルフィンの分泌量の増加』をはじめとする、いくつかの状況下で反射速度、思考力などが数十倍に跳ね上がる特異体質である。

 

 

そのうちの一つが『ヒステリア・アゴニザンテ』、通称『死に際のヒステリアモード』。

 

死につながるダメージを受けた際に発動するヒステリアモードだ。

 

しかし、俺はいわばHSS的に言えば()()()()()()()()体質があり、かすり傷程度のダメージを敵から受けただけでも、【0.000001%でも俺を殺す可能性がある敵と戦闘している】と判定した時点で『ヒステリア・アゴニザンテ』が発動する―――ということらしい。

 

 

 

さらに出てくる5体の仮想(ヴィラン)。しかし先ほどとは違い、遠距離武器を装填した3P敵が多くいる。

 

俺は予備として持っていた艶消し銀(マットシルバー)コルト・SAA(ピースメーカー)を抜く。

 

0P敵が再び構えるまでの短い間が勝負だ。俺は一気に駆け出す。

もちろん、仮想(ヴィラン)は俺に射撃してくる。確認できたのは――計14発。

 

走りながらの不安定な姿勢だが落ち着いて判断する。各所からの14発の弾丸の内、俺に当たるコースは8発。

 

ピースメーカーの弾数は6発。———()()()()()()()

 

 

俺は走りながら、ピースメーカーをぶっ放す。

 

ピースメーカーが吐き出した6発の非殺傷弾は、綺麗に銃弾を撃ち抜き逸らす。

 

さらにそのうち2発は――跳ね返った弾道上で別の弾を逸らす。

 

銃弾撃ち(ビリヤード)。そしてうち2発は連鎖撃ち(キャノン)

 

 

武偵としての『遠山』が持つ人間離れした銃技だ。

 

そして近づいたところで亜音速の打撃が炸裂する。

 

さらに倒した仮想敵を盾にしてそのパーツを武器にして別の機体も効率よく破壊していく。

 

 

それを繰り返し、密集していた4機を10秒程度で行動不能にできた。いい戦果だ。あと1機は撤退したのか、周りに姿が見えなかった。

 

 

「さて、邪魔な(ヴィラン)も排除したし、逃げるか」

 

 

そう呟き今度こそ逃げようとした俺。

 

しかしそれを止めたのは、誰かの一言だった。

 

「瓦礫の下に人が!」

 

 

先ほどの一撃で倒壊した建物の瓦礫。そこに、足を挟まれて動けなくなっている女の子がいた。

必死にもがいているが、0P(ヴィラン)はすぐそこだ。

凶器()を再び持ち上げた0P(ヴィラン)。俺が覚悟を決めたとき――

 

 

バァン!!

 

ヒステリアモードでなければ捉えられないほどの速度で飛び出していった人がいた。

 

 

上空、巨大な0P(ヴィラン)の顔面のすぐ前。

 

大きく腕を振り上げ、全身に力を滾らせていたのは、さっきまでとは見違えた覚悟を秘めた緑谷だった。

 

S M A S H!(スマァァァァッシュ!!)

 

No1ヒーロー、オールマイトを彷彿とさせる掛け声と気迫で放たれた緑谷渾身の一撃は、その掛け声に恥じない圧倒的な威力で0P(ヴィラン)を文字通りに打ち倒した。――おいおい、マジかよ。

 

 

それを見上げながら、俺は女の子を挟んでいた瓦礫を右足で粉砕。

すると、やがて上から緑谷が落ちてくる、そこにさっきの女の子が駆け出した。

何らかの『個性』で緑谷を助けるつもりなのだろう。しかし、()()()()()。——彼女も、俺も。

 

 

 

残り1機の敵が狙っていたのは、彼女だったのだ。

 

そして今、敵が狙っているのは――空中の一撃のあと、回避行動のとれない緑谷。

 

 

本来こういうときのための保険であるピースメーカーは弾切れ。ベレッタM92は言わずもがな。

 

接近して攻撃するには、距離がありすぎる。

 

状況的に今の俺にできるのは、これしかない!

 

僕は足元の装甲板を拾う。

 

そしてさっき粉砕した瓦礫の丸っこい野球ボール程度の欠片を、金属板を当ててからスナップするようにして撃ち出す!

 

超高速で射出される超高速のコンクリ球は己もろとも機甲を粉砕する。———とんでもないデッドボールだな。気分はホームランだが。

 

 

少女は無事に緑谷に近づき、彼女が平手打ちした瞬間、緑谷は落下の勢いを失い、無事に着地できたようだ。今度こそ『重力無視』の『個性』か。

俺はそんな光景を遠目に見ながら、試験終了を告げる合図を聞いた。

 

 



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3rd/ビギニング

緋弾雄英

 

数日後。

俺の家に雄英から合否通知の手紙が届いた。

 

最初は俺の部屋で開けようと思ったのだが、

 

「どうせ落ちてないんだから平気平気♪」

 

という軽い声と共に俺の手元の手紙は文字通りの瞬きの間に奪われた。

 

カナ姉ーー正しくは父さんの兄、遠山金一。

彼は「自らが理想の異性へと化ける」ことでヒステリアモードに変化する。それが本当の金一兄さんの性癖なのかどうかは未だ定かではないが———怖くて聞けない———そして金一兄さんに限らず、ヒステリアモードになった際に人格が変わる場合がある。

 

金一兄さんははっきり分かれるタイプで、HSS発現時の女性的な人格が「カナ」だ。

 

 

そんなカナ姉はダンスでも踊るように走っていき、広いリビングへ俺の合否通知書を持っていった。

仕方なく俺はそのリビングで手紙の封を切る。すると中には小型の投影機が入っていた。俺はさっと検分してから起動する。

 

 

「私が投影された!」

 

そして投影されたのはオールマイトーー今の日本においてのNo.1ヒーローだ。

 

「おお~やるねぇ」「No1ヒーローが直接合格通知するのね」「これ・・全員にしてるのか」

 

 

軽い歓声は『バスカービル』の初期メンバーの理子姉さん。そしてあんまり興味無さそうなのがアリア姉さん。

 

そしてなんとも現実的&庶民的な感想を漏らしたのが父さんだ。

 

 

 

しかしそれどころじゃない。これから俺の人生の分岐点が待っているのだから・・・!

 

 

「遠山 零くん、筆記はどれも合格点、特にヒーロー史では上位十人に入る高得点。

 そして実技試験では敵Pは48P。さらに審査制の救助(レスキュー)Pは24点!

 文句なしの合格だ。

 

 来いよ遠山少年・・・ここが君の『ヒーローアカデミア』だ」

 

それを聞いた瞬間、思わず安堵の溜息を漏らした。

いや、良かった。落ちたらこれまで父さんや勉強を教えてくれたジャンヌ姉さん、そしていろいろ無理言った中学の皆に顔向けできなくなるところだった。

 

 

「ね、言ったでしょ。落ちてるわけないって」

 

こっちに笑いかけながら言うカナ姉。そういう問題じゃないんだカナ姉。いやそうかも知れないけど。

 

 

そして日本(ここ)にいない家族――ジーサード兄さんとかなめ姉にもテレビ電話で報告する。

 

 

「遅くにすいません。―――というわけで雄英合格しました。」

 

 

俺が繋いだ先は、サード兄さんがアメリカに持つヒーロー事務所【ジーサード同盟(リーグ)】の本拠地、最近7度目のリニューアルを行った【ジーサードビル】だ。

 

いや、自分の名前好きすぎだろ。本人が決めたのか知らんが。

 

 

『よかったね!お姉ちゃん心配だったよ~!』

 

そう手放しに喜んでくれるのは父さんの妹のかなめ姉。

 

『まあ、零が落ちるワケねぇとは思ってたがな。』

 

そして父さん曰く『ツンデレ』のサード兄さん。同じく父さんの弟だ。

 

そして一緒に覗いていた【ジーサード同盟(リーグ)】の他の皆さんも太平洋越しに自分を祝福してくれる。有難いことだな。

 

そしていくつか事務的な話をした後、電話を切った。

 

 

 

俺の机には今日まだしなければならないこと――ベレッタM92とピースメーカーのメンテナンスが残っている。体に染み付いた動きで道具を取り出して手際よくオーバーホールしていく。

そして再び組み直し、道具をケースに入れてしまう。今日は合格発表だけでどっと疲れたし事務作業は明日以降でいいだろう、ベッドに体を投げ出す。

ああ、中学にも一応連絡を入れないとな。

 

 

 

―――綺麗にしまわれたケースの底には、今も中学時代の仲間の写真が飾られている。

 



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