ミューズナイツ~SBY48~ (赤月暁人)
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登場人物

前田あかり

 

渋谷芸術学園中等部2年

 

156cm 体重ヒミツ 13歳 Cカップ 7/10生まれ

 

好きな食べ物 プリン

 

趣味 ピアノ演奏、アイドル鑑賞

 

特技 テニス

 

武器 レイピア

 

必殺技 ローズスプラッシュカンタービレ

 

キャッチコピー

アイドル時:みんなー!せーの!「アッカリーン!」

戦闘時:奏でるは心のメロディ!前田あかり!

 

学園一のマドンナと言われるアイドルが大好きな女の子

 

おっとりしていて誰にでも優しく、音楽に対する情熱が人一倍強い

 

ずっと憧れていたアイドルになるためにオーディションに参加する

 

 

 

 

大島結衣

 

品川学園中等部2年

 

158cm 体重ヒミツ 13歳 Eカップ 10/17生まれ

 

好きな食べ物 サラダチキン

 

趣味 舞台鑑賞、筋トレ

 

特技 モノマネ

 

武器 ハルバード

 

必殺技 スカーレットラッシュアパッシオナート

 

キャッチコピー

アイドル時:結衣はいつでもー?「ストイックー!」

戦闘時:重ねるは心のハーモニー!大島結衣!

 

子役から活躍している名女優

 

何をやっても器用にこなすが、それを鼻にかけず成長するために日々努力を続けている

 

女優としての活動を広げるためにオーディションに参加する

 

 

 

 

 

篠田日菜子

 

新宿平成学園中学校2年

 

155cm 体重ヒミツ 13歳 Bカップ 3/11生まれ

 

好きな食べ物 カレーライス

 

趣味 幼なじみと野球観戦

 

特技 詩を書くこと

 

武器 メイス

 

必殺技 クラブクラッシュヴィヴァーチェ

 

キャッチコピー

アイドル時:よっ!みんな元気?「めっちゃ元気ー!」日菜子を見たらー?「大元気ー!」

戦闘時:弾けるは心のビート!篠田日菜子!

 

スクールアイドルをやっている明るくて元気な女の子

 

東京スワローズのファンで、幼なじみの作った曲が大好きで長年片想いしている

 

その幼なじみに振り向いてもらうためにオーディションに参加する

 

 

 

 

 

渡辺麻友美

 

秋葉原アニメーター学院中等部2年

 

159cm 体重ヒミツ 13歳 Eカップ 3/26生まれ

 

好きな食べ物 あんドーナツ

 

趣味 オンラインゲーム、コスプレ

 

特技 衣装作り、イラスト

 

武器 大鎌

 

必殺技 シャドウトリックトランクィッロ

 

キャッチコピー

アイドル時:あの…えっと…キラッ☆「天使まゆっち俺の嫁ー!」

戦闘時:支えるは心のベース!渡辺麻友美!

 

何事も自信がなくオドオドしているオタク気質の女の子

 

実はネットアイドルでコスプレイヤーとして活動している

 

臆病な自分を変えてくれた水野澄香に憧れてオーディションに参加する

 

 

 

 

 

高橋ひかり

 

日本スポーツ科学大学付属池袋スポーツ学院中学校2年

 

156cm 体重ヒミツ 13歳 Aカップ 4/8生まれ

 

好きな食べ物 ハンバーガー

 

趣味 バスケ、ランニング

 

特技 ストリートダンス

 

武器 ポールアックス

 

必殺技 ダイナマイトボンバーエネルジコ

 

キャッチコピー

アイドル時:刻め!オレのダンスは!「ひかりのごとく!」

戦闘時:刻みしは心のリズム!高橋ひかり!

 

小学校卒業までアメリカでストリートダンスの武者修行をしてきた女の子

 

オレっ子で少しだけ男勝りで力があり、恋愛に関して鈍感である

 

少しは女の子らしくなれと両親に言われオーディションに参加する

 

 

 

板野麻里奈

 

上野衣服専門学校付属中学校2年

 

158cm 体重ヒミツ 13歳 Aカップ 7/3生まれ

 

好きな食べ物 刺身

 

趣味 ファッション誌を読むこと

 

特技 色彩感覚、コーディネート

 

武器 クロスボウ

 

必殺技 ヒーリングショットレガート

 

キャッチコピー

アイドル時:私の花道は…ここよ!「ここが麻里奈ロード!」

戦闘時:彩るは心のテンポ!板野麻里奈!

 

元読者モデルでファッションに目がないイマドキギャルの女の子

 

常に大人びていて実年齢より年上に見えるほど落ち着いている

 

アイドル衣装に興味があってオーディションに参加する

 

 

 

 

 

柏木エマ

 

新橋国際大学付属中学校3年

 

154cm 体重ヒミツ Bカップ 7/15生まれ

 

好きな食べ物 マフィン

 

趣味 ラグビー観戦

 

特技 エレキギター

 

武器 マスケット

 

必殺技 オーシャンバーンアジタート

 

キャッチコピー

アイドル時:ハーイ!今日のギターソロは誰かなー?「ずっとエマのターン!」

戦闘時:煌めくは心のコード!柏木エマ

 

元々はスコットランドでガールズロックバンドのギターだった日英ハーフ

 

活発で空気を読むのが苦手な一方、ロックとラグビーが好きなどイギリス人らしさも兼ねている

 

バンドも解散し、両親の都合で日本に引っ越して音楽を続けたいと思いオーディションに参加する

 

 

 

 

秋山拓也

 

山手芸能学校中等部→同校高等部→王政大学経営学部卒

 

185cm 体重97kg 12/31生まれ 36歳

 

好きな食べ物 鳥の竜田揚げ

 

趣味 アイドル鑑賞、人間観察

 

特技 オタ芸

 

背が高く一見イケメンに見えなくはないが、かなりのオタク気質のプロデューサー

 

いつも黒ぶちメガネで中年太りで髪がセンター分けのビジュアルで不審者扱いされることも

 

それでもプロデューサーとしての腕前と行動力は超一流で、メンバー全員に慕われている

 

 

 

 

秋山加奈子

 

山手芸能学校中等部3年

 

157cm 体重ヒミツ 9/28生まれ 14歳

 

好きな食べ物 パスタ

 

趣味 心理学

 

特技  英会話

 

武器 ランス

 

必殺技 ワルキューレタックルグランディオーソ

 

キャッチコピー 盛り上げるのはー?「加奈子かなーん?」

 

プロデューサーの一人娘でセンターを任されている3年目のベテラン

 

センターであることを驕らず、みんなを上手く引き立てるのが得意で選ばれてセンターになった

 

センターとは自分だけでなく周りも輝かせないと成り立たないをモットーに新人たちを教育する

 

実は前から一人でアクムーン帝国と戦っていたところ、あかりに助けられてからずっとお世話をしている

 

 

小嶋萌仁香

 

日暮里中学校2年

 

149cm 体重ヒミツ 4/19生まれ 13歳

 

好きな食べ物 オムライス

 

趣味 メイド服集め

 

特技 接客

 

武器 ハンマー

 

必殺技 ミョルニルメテオヴィーヴォ

 

キャッチコピー お帰りなさいませご主人様!「萌え萌えきゅーん!」

 

あかりたちの一つ下の後輩アイドル

 

一度はオーディションに落ちたもののあかりたちに嫉妬せずサポートをする

 

戦いでは逃げる人々を誘導する役回りだが自身は戦えないので目立とうとしない

 

実家はコスプレ喫茶で麻友美のファン

 

 

 

 

ユメミール王国

 

ドレミ・シンフォニア女王

 

人間の夢や目標をひそかに見守り応援する妖精の世界

 

アクムーン帝国に突然侵略されてしまい女王自ら古代に伝わる伝説の夢の騎士であるミューズナイツを探している

 

女王でありながら庶民的で人間界の娯楽に興味がある

 

 

 

 

 

 

 

 

アクムーン帝国

 

皇帝ゲーツィスを筆頭にした悪夢を見せて感情を奪う侵略国家

 

目標や前向きな気持ちなどを毛嫌いしてそれを利用してせっかくの武器を凶器に変えさせようとする

 

 

 

 

アクムーン三銃士

 

人の夢に無関心で何もせず無気力にさせようとするデプレシオ

 

人の夢を妨害し暴力で破壊を好むディストラ

 

人の夢を否定して理性で嫌気を誘うブレインがいる



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第1章
第1話 オーディションへ


渋谷芸術学園、そこは音楽や美術など世界中の芸術を渋谷で学ぶために創立された学校だ。

 

その学校に芸能人も多く輩出している芸術部門の名門校である。

 

そんな渋谷芸術学園中等部に、ある女の子が憧れであるアイドルのオーディションに参加を決めたのだ。

 

彼女の名は…前田あかり、この学校のマドンナといわれるほど人気がありミス渋谷芸術学園にも選ばれるほどの女の子だ。

 

部活はテニス部に所属していたものの、アイドルへの憧れを捨てきれずにオーディションに応募と同時に退部をしたのだ。

 

そんな彼女にもオーディションの時が訪れた…

 

「それじゃあ先生、今までお世話になりました。これからオーディションに行ってきます」

 

「ああ。合否の発表はその場で言われるんだったな。お前の合格を待っているぞ」

 

「ありがとうございます。それじゃあ…行ってきます!」

 

彼女が向かう場所は渋谷を拠点とするアイドルグループ「SBY48」が在籍している劇場「渋谷アイドル館」に向かう。

 

そこでオーディションに参加するのだが、そこにはかなりの人数がいてあかりは少しだけ委縮していた。

 

中には子役から活動している子、帰国子女の子、アマチュアアイドル経験者の子などもいたのだ。

 

あかりはそれでも精一杯頑張ると心に決めていたので緊張よりもやる気に満ちていた。

 

そしてついにオーディションが始まる。

 

「えー…これからSBY48の所属オーディションを行います。まずは自己紹介の面接をして、そこから実力テストを行います。ボーカルとダンス、そしてパフォーマンスの三項目から合否の発表をします。審査員はわたくしプロデューサーの秋山拓也と…」

 

「センターの秋山加奈子です。このプロデューサーの補佐を務めさせていただきます。よろしくお願いします」

 

「よろしくお願いします!」

 

「まずは面接を始めます。スタッフが控えていますので各自案内された部屋に移動するように。終わった人から実力オーディションを行います。以上」

 

案内通りに面接室へ移動したあかりは緊張しながらもドアをノックして面接室に入る。

 

そこには威圧感漂う男性が2人いて、普通に話すことさえ怖いと感じるほどのオーラがあった。

 

それでもあかりはアイドルになりたいと思い面接に励んだ。

 

「前田あかりさんですね。何故あなたはアイドルになりたいと思ったのですか?」

 

「はい。私は小さい頃から歌う事が好きで、私自身の歌やダンスで幼稚園のみんなを感動させることを覚えてからアイドルというものを知り、もっと知らないみんなに私の歌やダンスを届けたいと願いアイドルを希望しました。そしてSBY48のオーディションがあると聞き、このオーディションに参加しました」

 

「なるほどね…。君の強い意志はわかった。残るは人前でどれだけパフォーマンスが出来るかだ。気持ちだけではどうにもならない時がある。それを乗り越えればアイドルとしての素質があるはずだから頑張りなさい。以上です」

 

「ありがとうございました!」

 

面接を終えたあかりはそのまま稽古着であるジャージに着替え、オーディションの本番に臨む。

 

ボーカルでは発声が素直で朗らかに歌う女の子がいた。

 

その子はどうやらスクールアイドル、いわば学校の部活でアイドルをやっている。

 

続いては音程も声量も完璧にこなす子役出身の女の子もいた。

 

ダンスでは体が柔らかく無駄のない動きをする読者モデルの女の子と、アメリカから帰ってきたキレのある激しいダンスでアピールした女の子がいた。

 

パフォーマンスでは肌が少し白くてハーフの女の子があざとくアピールし、さらに歌もダンスも目立たなかった女の子がポージングに慣れていたりとレベルの高さを痛感した。

 

そしてついに合否発表の時が来た。

 

「それでは合格者を発表します。まず…2番大島結衣。7番篠田日菜子。14番高橋ひかり。24番板野麻里奈。31番柏木エマ。そして最後…61番渡辺麻友美。以上です。他の皆さんは残念ですが改めてお待ちしています。本日はここまで。お疲れ様でした」

 

「ありがとうございました!」 「ありがとうございました…」

 

あかりは学校ではアイドル的存在で人気もあったのだが、プロの世界は甘くないと知り不合格であることに落ち込んだ。

 

中には全てを賭けたのに敵わなかったあまりに泣きだす子もいた。

 

あかりは落ち込みながら家に帰って悔しさを心の奥にため込んでいた。

 

そんな時だった…駅の交差点で同じオーディションで不合格だった巻き毛のツインテールの女の子の様子がおかしく、いかにも赤信号になったら飛び込みそうな雰囲気を持っていた。

 

あかりはこのままでは事故になると判断して女の子を目掛けて全力で走った。

 

しかし…それがあの悲劇を生むとはまだ知らない。

 

「いいねぇ…その悲しい瞳…。夢なんてどうでもいいけど…叶わなかった絶望は大好きだな…。それじゃあ早速…ダークネスパワーよ…くだらない幻想を捨て、この世界を未来なき世界に変えよ!」

 

「うっ…!うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「えっ…何…!?」

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「あの女の子から化け物がぁっ!」

 

「逃げろ!逃げろーっ!」

 

「皆さん!慌てずに安全な場所へ避難してください!」

 

「何これ…!?女の子は…!?意識がない…それに…どうして鳥かごに閉じ込められて…?」

 

あかりは突然の出来事に混乱し、女の子を助けようもどうしようもない状態で泣きそうになった。

 

その女の子は突然苦しみに見舞われ、意識を失った直後に閉じこもるように檻の中に閉じ込められてしまった。

 

そして女の子からこの世界の未来を奪うように暴れ回る魔物が出てきたのだ。

 

そんな中で一人のベージュとチョコレート色のセーラー服に大きな槍を持った茶髪のサイドテールの女の子が颯爽と現れた。

 

「させない!あの子の夢は…私が守る!」

 

「アイドル…ナレナカッタ…!ヤルキ…デナイ…!」

 

「ちっ…また邪魔者が来たか…。俺は陰に隠れてよっと…」

 

「これでもくらいなさい!やあっ!」

 

「グウゥッ…!?」

 

「すごい…あんなに大きな化け物と戦っている…!でもあの子…どこかで…?」

 

「ウオォォォォォォォォォォォォッ!!」

 

「きゃあぁっ!」

 

サイドテールの女の子は魔物の剛腕に命中してそのままヒカリゼ渋谷に激突してしまった。

 

あかりはその女の子の元へ向かい女の子の安否を確認する。

 

意識はあるけれど気を失っていて戦える状態にはなかった。

 

魔物が雄叫びを上げると目の前に無気力で無精髭の生えたオールバックのロン毛の男性がゆっくりと空から降りてきた。

 

「まったく…邪魔者だけでなく飛んで火にいる夏の虫が紛れ込んでいたとはね…。ただの人間が何故こんなところに…?」

 

「あなたは…誰なの…?こんな酷い事…しているの…?」

 

「やれやれ…人間ごときに名乗るのはめんどくさいが…これも人間共から夢と未来を奪うためだ…特別に教えてやるよ…。俺はアクムーン帝国三銃士のデプレシオ…。鬱を司る悪夢の騎士だ…。お前も夢に破れた顔をしているな…。そのダークネスパワーをいただこうか…。」

 

「触らないで!人間から夢と未来を奪って何をする気なの…?どうしてこんな酷い事を…?」

 

「酷い…?夢や未来なんてくだらない幻想だし、それに敗れて結局やる気をなくすくらいなら最初からない方がマシじゃないか…?努力なんて時間の無駄だし…やるだけ何も生まないさ…。」

 

「だとしても…成功したり選ばれた人は必ず隠れて努力をしている…。才能だけでやったって経験がなければ…結局予測不能の事態に見舞われたときにボロが出るんだよ…。私もオーディションに落ちて…自分の認識の甘さを思い知ったよ…。それでも私はアイドルになる事をやめない…。だって…私の歌を楽しみにしている人が…身内だけだったとしても、必ずいるから!」

 

「うっ…!」

 

「ん…あの子…もしかして…!」

 

彼女の耳に突然オルガンの音色と聖歌のような混声合唱が聴こえる。

 

手元にはピンク色のサイリウムが召喚されていた。

 

あかりは一体何が起こったのかわからなかったのか硬直してしまう。

 

すると先ほどのサイドテールの女の子が最後の力を振り絞って叫ぶ。

 

「早く…変身して!ミューズナイツ!レッツミュージック!と叫んで…点灯させてから三回振って!」

 

「は、はい!ミューズナイツ!レッツミュージック!」

 

「HEY!HEY!HEY!」

 

言われた通りに三回振ると私服だったのが中世の騎士や貴族が着ていた宮廷風の軍服になり、アゼリア色のブレザーにローズピンクのネクタイにスカート、肩には金色のエポーレットが装着され、靴は黒いブーツが穿かれていた。

 

手元には黄金のレイピアが装備され、あかりは晴れて謎の騎士になれた。

 

「奏でるは心のメロディ!前田あかり!あの子の未来を…絶対に取り戻す!」

 

つづく!



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第2話 合格

あかりは謎の騎士として覚醒しレイピアを構えて魔物と戦う姿勢を見せる。

 

魔物は苦しそうに暴れ回っていて、デプレシオは黙ってあかりの方を見つめていた。

 

魔物が痺れを切らすようにあかりに襲いかかり、あかりはすかさずカウンターを仕掛けた。

 

「ウオォォォォォォォォォォォォッ!」

 

「きゃっ!」

 

「ウオォォォォォォォォォォォォッ…!」

 

「す、すごい…これって魔法少女…?」

 

「あの子…もしかして…!?」

 

「と、とにかく戦わなきゃ!やあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「ウグッ…!」

 

「へぇ…伝説の騎士がまだいたとはね…。」

 

「もう魔物は弱っている…早く必殺技を!」

 

「さっきの子…わかりました!あなたの夢…私が受け止めるね!ローズスプラッシュ!」

 

「ウワアァァァァァァァァァァッ…!」

 

魔物はレイピアによって貫通され魂は元の女の子の元へ戻っていった。

 

あかりの変身が解けてすぐに気を失っていた女の子の下へ向かう。

 

すると女の子は意識を取り戻し、あかりに気が付いた。

 

「あの…私は一体…?」

 

「もう大丈夫ですよ。あなたは確か…小嶋萌仁香さんですね…?」

 

「どうしてそれを…知っているんですかぁ…?」

 

「同じオーディションに出ていた前田あかりです」

 

「そうだったんですねぇ…。私もぉ…出てたんですよぉ…。でも…オーディションで落ちちゃって…悔しかったんですぅ…。そしたらぁ…突然胸が苦しくなって…ここで倒れちゃって…」

 

「実は私もオーディションに落ちちゃったんです。その悔しさは私もよくわかります。でも…アイドルを諦めたわけじゃないのでもう一度別のグループのオーディションにしようと思っています。地元はどこですか?」

 

「えっとぉ…日暮里…」

 

「それじゃあ山手線で一本ですね。私が送りますよ」

 

「う…ふえぇぇぇぇぇぇん…!ありがとうございますぅ~…!」

 

「もしもし…お父さん…?不合格だった前田あかりの件なんだけど…」

 

あかりは小嶋萌仁香という女の子を日暮里まで送り魔物の件は一件落着となった。

 

帰り際に連絡先を交換し夕食を洋食店で食べ、オーディションに不合格だった者同士で悔しさを語り合った。

 

アイドルの事で意気投合するともう午後9時を回っていてあかりは慌てて渋谷へ帰った。

 

翌日…あかりに非通知の電話が届いた。

 

「ん…もしもし…前田あかりです…」

 

「おはようございます。こちらSBY48運営の清水と申します。昨日のオーディションの件ですが…あなたは特別育成枠で急遽合格となりました。土曜日は学校ありますか?」

 

「えっと…え…?本当ですか!?」

 

「ええ、本当です。昨日プロデューサーの秋山拓也がセンターの秋山加奈子に電話をもらい、彼女を私が育てる代わりに合格にしてほしいと言ったそうです」

 

「わかりました…。今日は学校は休みです」

 

「では昨日のオーディション会場に昼の13時に来てください。合格者同士でレクリエーションを致します。では劇場で待っていますね。」

 

こうして前田あかりは急遽合格の知らせが届き、急いで渋谷のSBY48劇場へ向かう。

 

なぜ自分がセンターである秋山加奈子に選ばれたのかがわからず、何かの運命ではないかと疑わなかった。

 

13時を回りSBY48劇場に着いたあかりは早速インターホンを押して事務所に説明をする。

 

「すみません。前田あかりです。運営の清水さんに呼ばれてきました」

 

「私が清水です。前田さん、お待ちしていました。では楽屋の方に来てください」

 

あかりは清水さんの説明通りに楽屋へ移動し、中に入ると合格者の6人がいた。

 

そこには子役として活躍していた大島結衣、学校の部活でアイドルをやっている篠田日菜子、ネットアイドルとして人気のコスプレイヤー渡辺麻友美、アメリカ帰りのストリートダンサー高橋ひかり、読者モデルでファッションショー経験者の板野麻里奈、そしてイギリスから来日した元ギタリストの柏木エマがいた。

 

あかりは層々たるメンバーに委縮しながら精一杯の挨拶をする。

 

「えっと…おはようございます!」

 

「おはようございます」

 

「君が突如合格した前田あかり?はじめまして、篠田日菜子です。よろしくね」

 

「オレは高橋ひかりだ。よろしくな」

 

「柏木エマデース。イギリスから引っ越してきました」

 

「板野麻里奈だよ。ヨロシクー」

 

「えっと…渡辺麻友美…です…」

 

「大島結衣よ。一応私たちは芸能界では先輩だけど、アイドルとしては同期だから委縮しないで大丈夫よ」

 

「あ、はい。ありがとうございます…」

 

「えいっ!」

 

「きゃあぁっ!!」

 

「えへへ。緊張してるからついイタズラしちゃった♪」

 

「もう!篠田さん!」

 

「日菜子でいいよ?私もあかりって呼ぶね?」

 

「えっと…はい!」

 

「けど…どうして不合格だったあかりが受かったデスか?」

 

「それは…」

 

「それは私が説明します」

 

「あなたは昨日の…!」

 

「一日ぶりね、前田あかりさん。あの時は助けてくれてありがとう」

 

「え…?」

 

「どういう事ですか…?いつ知り合ったんですか…?」

 

「えっと…その…」

 

「少しだけ春の陽気でめまいがしちゃってね。それで助けてもらったの。彼女の優しさと勇気を与えてくれる隠れたオーラに私は惚れたの。だから彼女の教育係を務める代わりに合格にしてほしいってパパに言ったんだ」

 

「パパ…?」

 

「プロデューサーの秋山拓也は…私の父なのよ」

 

「ええーーーーーーーっ!?」

 

合格したメンバーは秋山加奈子がプロデューサーの娘であると知り全員驚きを隠せなかった。

 

あまり親子のそぶりを見せなかったため無理もないだろう。

 

加奈子は魔物の件で無関係なみんなを巻き込みたくないと判断し、自分が体調を崩したところを助けてもらったと嘘をついた。

 

あかりもその事に気付き嘘に付き合う事にした。

 

合格メンバーのレクリエーションを終えると、あかりは突然加奈子に声をかけられた。

 

「前田さん、ちょっと私について来てほしいな。今からプロデューサーに挨拶をしに行くよ」

 

「は、はい!」

 

「そう緊張しなくていいよ。ただ…昨日の件はみんなには秘密ね?どうしても危険な目に巻き込むわけにはいかないの」

 

「わかりました…。プロデューサーにも秘密ですか…?」

 

「ううん、パパはもう知ってる。というより…いいや、これから話すと思うから。それより着いたよ。ここがプロデューサー控え室。ちょっと待っててね」

 

加奈子はプロデューサー控え室に着くとすぐにドアをノックした。

 

ノックをするとプロデューサーの声が聞こえ、加奈子はすぐに返事をする。

 

「はい」

 

「秋山加奈子です。パパ、例の前田あかりさんを連れてきました」

 

「入りなさい」

 

「どうぞ」

 

「失礼します…!」

 

「君が前田あかりさんだね」

 

「はい!前田あかりです!」

 

「少しだけ加奈子から話を聞いているだろう。これから話すのは…アイドルの事ではなく、昨日の事件の事だ。私が知っているのはそうだな…加奈子はミューズに選ばれた騎士で、ミューズナイツとして人々の夢や成長を助ける応援団みたいな役割をしているんだ。そして君もまたミューズに選ばれて騎士となった。あの魔物を浄化するほどの力もある。そこで加奈子と協力して一緒に戦ってほしい。そして加奈子が教育係として常に一緒にいるので行動しやすいだろう。どうかね?」

 

「アイドルになれるなら…やります!でも…何故秋山先輩が…」

 

「加奈子でいいよ。」

 

「それじゃあ…加奈子先輩はどうしてミューズナイツをやっているんですか?」

 

「それはね…」

 

「あなた。ここからは私に話させてくれるかしら?」

 

「ああ、君が話すのかい?ヴィオラ」

 

「え…?」

 

突然美しい女性の声が聞こえたのであかりはきょとんとした表情でただそっちの方向を見つめる。

 

加奈子はあかりの表情を少しだけ楽しみつつも女性の方を見て使命感に満ちた顔つきになる。

 

果たしてその指名とは…

 

つづく!



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第3話 使命を背負う

ヴィオラと呼ばれた女性に視線を向けると、とてもこの世のものとは思えないほどの美貌を持つ女性がそこにいた。

 

あなたと呼んでいたところきっと彼とは夫婦の関係なんだとあかりは考えた。

 

するとあかりの考えを見透かされたかのように女性は自己紹介を始めた。

 

「はじめまして。あなたが娘の加奈子を助けた子ね。私はヴィオラ・シンフォニア。さっきの魔物に侵略されたユメミール王国の女王よ。よろしくね」

 

「は、はい。前田あかりです。あの…ユメミール王国って何ですか?」

 

「ユメミール王国とは人間たちが夢を見たり、努力して成長したり、歩むべき道を進む手助けをする妖精の国よ。15年前までは平和で人間たちもとても頑張っていたの。ところが…地獄界からアクムーン帝国が襲いかかり、王国はまともに戦う事が出来ずすぐに占領され、国民は女王の私だけでも逃げなさいと押し通してこの世界に迷い込んだの。そんな時に夫である彼に出会い、伝説のミューズに選ばれた騎士候補として加奈子を産んだの。そこでいつ人間界にまで魔の手が及んでも守れるように加奈子を騎士として育て、ドリームパワーの源である魔力を集めるためにアイドルグループを設立したの。そこで加奈子は周りを見る力と自分を高めるためにいっぱい努力してセンターになり、ようやく騎士として戦えるようになったの。でも…この15年間でアクムーン帝国は力をつけていて、もう加奈子一人で戦える状態になくなり、騎士候補としてオーディションを開かせたのよ」

 

「それに大勢のアイドルたちが脱退したり卒業したりとしてね。人数が不足したことも重なり君たちを入れたんだ。利用しているみたいですまないとは思っている。だが愛する妻の故郷を取り戻すためには君の力も必要なんだ。危険な事だってのは私だってわかっている。いざとなったら私がこの身を捨ててでも戦うつもりだ。私からもお願いだ…人々の夢のために…一緒に戦ってほしい…」

 

「あの…顔を上げてください!私に出来るかどうかはわからないですけど…加奈子先輩は私を認めた上で選んでくださった。その期待に精一杯応えようと思っています。危険だとわかっていても、私にもアイドルになる夢があり、今度は与える番になったという自覚もあります。だから…協力させてください!」

 

「いいのかい…?君みたいなアイドルの素人がこんな危険な運命のためにアイドルをさせても…」

 

「もちろん怖いです。でも…誰かがいずれやらないと、加奈子先輩はおそらく倒れてしまい、誰もこの世界を救う事は出来ません。戦力になれるかはわかりませんが、力を合わせればきっと世界を守る事は出来ると思います」

 

「あなた…彼女の目とドリームパワーは本物よ…。もしかしたらきっと…」

 

「ああ…わかった。前田さん…よろしくお願いします」

 

「こちらこそよろしくお願いします!」

 

「それじゃあ明日宣材写真だけでなくレッスンがあるからそこで会おう。あなたは合格とはいえ育成枠の研修生だから本番はまだでも乗り越えられれば現場に出るのも夢じゃないよ。心配しないで、私があなたの面倒を最後まで見てあげるから」

 

「ありがとうございます!」

 

「もうこんな時間か…。ご両親は私から遅くなると伝えるよ。私たちの運命に付き合ってくれてありがとう。これからもSBY48としてよろしくお願いします」

 

「はい!」

 

こうしてあかりは騎士として加奈子を支える決意をし、ユメミール王国の女王でありプロデューサーの妻であるヴィオラ・シンフォニアとも出会う。

 

あれからユメミール王国を救うべくあかりと加奈子はレッスンと仕事だけでなく、戦いに備えてトレーニングにも励んだ。

 

そしてついに宣材写真の撮影が始まる。

 

「これが宣材写真の…!」

 

「結構本格的でしょ?こうやってグループのプロフィールに載せて知名度を上げるの。私も研修生時代はそうやって頑張ったんだよ」

 

「そうなんですね」

 

「それじゃあ合格者の六人はメンバー用の、あかりは研修生用の撮影をするのでメイクと衣装でメイクアップしてね」

 

「はい!」

 

「あかりだけ研修生なんだ。ちょっと残念だなぁ」

 

「ホントそれな。アタシも一緒に仕事したかったなぁ」

 

「エマもしたかったデース。でも…彼女はきっと最後は上がりマスよ」

 

「そうね。私たちは彼女がメンバーになるまで待つしかないわ。後は彼女の実力次第…。それでダメなら…」

 

「贔屓(ひいき)で選ばれたって事デース」

 

「おいエマ、それは言い過ぎだろ。あいつに聞こえたらどうすんだよ!」

 

「でも…言い過ぎかもですが…エマさんの言う通りかもしれません…」

 

「とにかく私たちは待ってようよ!あかりが上がってくるのを信じよう!」

 

「ええ、そうね。それが一番いいわね」

 

(なんかみんな私の話題になっているなぁ…。何を話しているんだろう…?)

 

あかりはみんなとの会話が全部聞き取れず何を話していたのか気になったけれど、今は宣材写真の撮影に集中しなければとメイクの人に相談しながら鏡を見つめる。

 

メイクが完成すると撮影用の私服に着替えて写真を撮り終える。

 

メンバーはみんな私服で、黒いデニムジャケットに青いレギンスを穿いた結衣、赤のチェックシャツに紺色のトレーナーで重ね着したベージュのショートパンツの日菜子、タートルネックの縦ニットに黒いロングスカートの麻友美、黒いスタジアムジャンパーにベージュのチノパンを穿いたひかり、グレーの肩出しニットにデニムのショートパンツの麻里奈、そして黒いカーディガンに白いスカートを穿いたエマと経験者なりのオシャレをしていた。

 

一方のあかりは研修生用の衣装として紺色のブレザーにイメージカラーであるピンクのチェック柄スカート、さらに白いニーソックスに黒い足首サイズの編み上げブーツに着替え本格的な衣装になる。

 

あかりはこのまま研修生からメンバーに昇格できるのか…?

 

つづく!



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第4話 女優として

彼女の名は大島結衣。

 

4歳の頃から子役として活動していた14歳のアイドルである。

 

なぜ彼女はアイドルになろうとしたのか…それは今後女優として活動していく上でアイドルを経験すればみんなに振り向いてもらう方法を身につける可能性を感じたからだ。

 

彼女にはアイドルはレベルが低いという偏見がなく、むしろ女優として第一歩を踏み出せるきっかけにもなりうる無視できない存在だと認識していた。

 

そんな彼女のアイドル初仕事は…

 

「えー…わたくしがドラマ・ドルカツ学園の監督である小室周平です。よろしくお願いします」

 

「よろしくお願いします!」

 

「あなたが新人…いいえ、女優としては大先輩の大島結衣さんですね?」

 

「はい。大島結衣です。あなたは確か…」

 

「私は美月輝夜です」

 

「ええ。月ノ姫の最年少センターの方ですね。グループの件は残念でした。でも…こうしてアイドルの先輩と共演出来て光栄です」

 

「とんでもございません。私こそ女優の先輩と共演出来て恐縮です。よろしくお願いします」

 

このドラマはアイドルを目指す女の子たちの青春ドラマで大島結衣演じるアイドル二世でストイックながらも不器用でつっけんどんな「横山千里」と、主人公でアイドルの突出した才能はないけれど持ち前の努力と精神力で急成長を遂げる晩期大成の「月野咲耶」によるドラマだ。

 

しかも監督には数々の名ドラマを監督した小室周平でリラックスした空気で撮影をするがストイックで出演者をアゲてよりよい演技を出させる凄腕の人だった。

 

そんな中で撮影をするのだから結衣は撮影が楽しみで仕方がなかったのだ。

 

撮影が始まると早速女優たちの中学生らしい芝居に結衣は、こんな芝居があるのかと休憩しながらメモを取っていた。

 

それを見ていた監督は…

 

「あの子ってさ、芸歴がかなり長くて子役時代から活動しているのに全然偉そうにしないし、自分より短い子に質問とかアドバイスもらったりして凄いね。まったく鼻にかけないというか…これはきっと将来大物になるかもしれないな」

 

「そうですね。彼女は何か特別なオーラを感じます。何かこう…怠けている自分が恥ずかしくなってやるぞという気分になりますね」

 

「そうだな。さぁ我々も撮影を頑張ろう!結衣ちゃん!ここから君の出番だよ!」

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

「あの子って子役から活躍している大島結衣じゃない…?」

 

「めっちゃ迫力あるわね…」

 

「でも芸歴一年の私にアドバイスが欲しいって来たよ…?」

 

「どこまでストイックなんだろう…?」

 

「あなたには突出した才能はないけれど…その努力家なところは認めるわ。でもね…あなたには努力のやり方があまりにも非効率的。ただ闇雲に頑張ればいいってものではないのよ」

 

「そんな…!私には才能がないっていうの…?」

 

「いいえ、才能はあるわ。ただ自分の良さを分かっていないだけ。私がプロデュースすれば、あなたは大成すると約束するわ。でも勘違いしないで。私は対等なライバルが早く欲しいだけ。一人だけ目立とうだなんて思い込みに陥って落ちぶれたくないから」

 

「あの…ありがとうございます!」

 

「はいOK!結衣ちゃんも輝夜ちゃんもいいねぇ!本当に中学生かい?」

 

「品川学園中等部の三年ですよ?」

 

「私は国立東光学園の高等部一年です」

 

「そうか。輝夜ちゃんは京都から神奈川に引っ越して寮暮らししてるもんね。大変だろうけど頑張ってね」

 

「ありがとうございます」

 

結衣は美月輝夜はただのアイドルではなく、一度世界に羽ばたいた元人気アイドルで芝居も中途半端にしない真っ直ぐな気持ちに負けられないと台本を何度も読み返した。

 

輝夜も結衣のストイックな姿勢に自分も年上として後輩にカッコ悪いところを見せられないと意気込んで台本を読み返した。

 

他の女優たちも本業として情けないところは見せられないと同時に、自分たちはまだ芝居に真っ直ぐではないと痛感し台本を何度も確認をする。

 

撮影は順調に進んでいった…はずだった。

 

「ふーん…演技の情熱ねぇ…。くだらない…早速やるか…。ダークネスパワーよ…くだらない幻想を捨て、この世界を未来なき世界に変えよ!」

 

「うっ…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!あの子が…突然檻の中に…!」

 

「何…!?」

 

「何が起こったの…!?」

 

「みんな!早く撮影現場から離れるんだ!私は最後まで残る!早く!」

 

「大島さん!とにかく逃げましょう!」

 

「え、ええ!」

 

「シバイ…ワタシハ…ウソツキナノ…!」

 

「何が起こったの…!?」

 

突然共演者の女の子の胸から魂が分離され魔物が現れた。

 

結衣は輝夜に手を引かれてその場から遠くに離れようとした。

 

すると結衣にとって見慣れた人が颯爽と現れた。

 

「結衣ちゃん!お待たせ!」

 

「あかり…?」

 

「あの子の夢が利用されたんだ…だったら!ミューズナイツ!レッツミュージック!」

 

「HEY!HEY!HEY!」

 

「あかり…その姿は…!?」

 

「説明は後でするね!結衣ちゃんはその子を連れて早く逃げて!覚悟っ!」

 

「ウオォォォォォォォォォォォォッ!」

 

「うっ…!このパワーは一体…!」

 

「あかり…私の知らないところで…!」

 

「うう…!」

 

「あの子…気が付いたのね…!」

 

「大島さん!戻ったら危ないですよ!」

 

「さっき倒れた子を助けに行かないと!輝夜さんは先に逃げて!」

 

「わ、わかりました!」

 

「あれ…私は一体…?」

 

「大丈夫よ!私が来たから安心して!」

 

「大島さん…」

 

「やれやれ…こいつを助けるなんて…人間はよくわからないな…。」

 

「その声はどこからなの…!?」

 

「また人間に見つかって面倒だな…。」

 

「あなたは…また現れたんだ…!デプレシオ!」

 

「え…?」

 

「はぁ…そんなに構ってて大丈夫…?よそ見していると…」

 

「え…きゃあっ!」

 

「あかり!」

 

「やれやれ…芝居だなんてよくそんな嘘をつく事に情熱を注げるね…。実際にいるわけじゃない人物を演じて嘘の自分を見てもらうなんて…くだらない…。そんなに偽って何になるんだろうね…。」

 

デプレシオは他人の夢や努力を毛嫌いしていて何故そんな無駄な事を人間はするのか理解する気になれない無気力な三銃士の一人だ。

 

しかし結衣にとってはそんな事を知らないし、芝居を今までやってきた彼女にとって聞き捨てならない事だった。

 

結衣は人の努力を否定するデプレシオに怒りが込み上げ、倒れていた女の子を優しく寝かせて立ち上がる。

 

「あなたね…この子がどれだけ女優になりたくて…いろんな人にその人物を分かってもらおうと必死に台本を読み直して…物語を私たちと一緒に創ろうと努力したことをくだらないって一蹴するの…?確かに非効率的な努力は無駄かもしれないけど…それでも貴重な経験になって…将来別の事で役に立つかもしれないじゃない…!せっかくの経験を無駄にしたら…もう何も挑戦する事も…何かを好きになる事も出来なくなるのよ!そんな生きてるって感じをなくすことなんて…私には出来ないわ!」

 

結衣が努力への決意を叫ぶと結衣の耳からオルガンの音色と美しい混声合唱の声が聴こえはじめる。

 

あかりは結衣が耳を澄ませている様子を見て騎士になろうとしていると確信した。

 

すると結衣の右手には赤いサイリウムが現れ、それを見たあかりは結衣にこう叫んだ。

 

「結衣ちゃん!さっき私が唱えた呪文と動作を真似して!早く!」

 

「え、ええ!ミューズナイツ!レッツミュージック!」

 

「HEY!HEY!HEY!」

 

すかさず変身すると、さっきまでブレザー衣装だったのが正面だけ緋色で他がランプブラックのダブルボタン式の詰襟衣装で黄金の飾緒が飾られる。

 

緋色のスカートをなびかせて黒いブーツに銀色の大きな槍と斧を合わせたハルバードという武器が現れた。

 

結衣は突然思いついたフレーズで名乗り始める。

 

「重ねるは心のハーモニー!大島結衣!あなたのその人の努力を嘲笑う根性を…叩き直してあげるわ!」

 

つづく!



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第5話 才能

大島結衣は芝居への強い意志と共に騎士として覚醒し、デプレシオが召喚した共演者の魔物と対峙する。

 

ハルバードを構えた結衣は魔物が吐き出した炎をハルバードで一刀両断し、そのまま魔物に向かって斬りかかった。

 

「やあぁっ!」

 

「ウッ…!」

 

「すごい…!結衣ちゃん…こんなに強いんだ…!」

 

結衣は趣味である筋トレを中心としたトレーニングに励んでいて、重いはずのハルバードを扱うにはちょうどいい筋力を持っていた。

 

体幹トレーニングや柔軟もかなり念入りにしているので無駄のない動きをしていて、身体中の柔軟性と連動性がしなやかな動きをさせている。

 

しかし魔物もただではやられず、また激しい炎を吐き出した。

 

「きゃあっ!」

 

「結衣ちゃん…!私も…サポートしなきゃ…!」

 

「死に損ないが今更何を…?」

 

「えいっ…!」

 

「グオッ…!?」

 

「何だって…!?自分の武器を投げ出した…?」

 

「あかり…あなた…。」

 

「いいから…魔物は私のレイピアに刺さって気が散ってるから…必殺技を放って…!」

 

「わかったわ!芝居への強い志を…もう一度持ち主に戻りなさい!スカーレットラッシュ!」

 

「ウオ…!」

 

「ちっ…また失敗か…。」

 

魔物は結衣のハルバードに大きく斬られ、魂はそのまま元の女の子のところへ戻っていった。

 

共演者の女の子は完全に意識が戻り、結衣に抱きかかえられながら安全な場所へ寝かせられる。

 

そして女の子の目が覚めると、結衣は意識を確認するために声をかける。

 

「大丈夫?」

 

「あの…私は一体何を…」

 

「心配しないで。あなたが気を失っている間は魔物が現れたけど、誰かが助けてくれてもう倒してくれたわ」

 

「あの…私…悪夢を見ていたような気がして…。それでも…あなたにそっくりな女の子が…助けてくれて…。私は…まるで鳥かごに閉じ込められたような…」

 

「そう…。とにかくあなたが無事でよかったわ。さぁ、撮影の続きをしましょう。今からみんなを呼んでくるわね。あかり、この子をお願いできる?」

 

「わかった。結衣ちゃん、撮影頑張ってね」

 

「ええ」

 

こうして結衣は無事に魔物を浄化する事が出来、女の子も無事に助けられた。

 

撮影をすべて終えるとアイドルグループとして一度劇場に戻ってプロデューサーに報告をしなければならない掟がある。

 

結衣はその掟通りに劇場に戻りプロデューサーに報告する。

 

「ドルカツ学園の撮影お疲れ様。どうやら撮影はアクシデントがあったけど無事に終えたみたいだね」

 

「はい。前田さんの応援のおかげでスムーズに撮影が進みました。あの子がいなかったら私でさえ気づかなかった不自然なシーンを発見する事が出来なかったと思います」

 

「そうか。ところで…防犯カメラに映っていた赤と黒の騎士は…君なんじゃないか?」

 

「それは…はい。紛れもなく私です。あの時に前田さんが助けに来なかったら、私は死んでいたと思います。でも…彼女がやられた時に強い気持ちを持ったら…不思議な力が湧いてきたんです」

 

「そうか…。なら君にも話さなければならない事があるんだ。全て聞いてほしい」

 

「はい」

 

「では私の妻の…秋山美音(あきやまみおん)…いや、本名はヴィオラ・シンフォニアだ」

 

「よろしくね、大島結衣さん。ではすべてをお話します」

 

「お願いします」

 

結衣はあかりが聞いた全ての事情を話され、さっきの魔物の事や覚醒した自分の事も全部耳にした。

 

この方が異世界の女王さまであることと、その女王様の国が侵略されて人間界の夢と努力などの前に進むための魔力「ドリームパワー」が奪われつつあること、敵のアクムーン帝国が「ダークネスパワー」を利用して何か企んでいることを知る。

 

結衣は人間の無限の可能性を潰されたくない一心で話しを聞いた上でこう答える。

 

「このまま何もしなかったら、いずれ私も狙われて魔物にされる可能性もあります。それよりもやっぱり…人の夢を嘲笑ってそれを壊そうとする奴らに…私やみんなの夢を奪われたくない。だから私…やります。いいえ、やらせてください」

 

「本当に感謝する。ところで騎士は何人と決まっているのかい?」

 

「そうね…ミューズに選ばれた騎士は全員で9人と決まっているわ。私たちの娘の加奈子や前田さん、そして彼女で3人ね」

 

「えっ…あの永遠のセンターと言われている秋山加奈子先輩もですか?」

 

「そうだ…私と女王の間に生まれた生まれながらのミューズの騎士だ」

 

「だからあの人と一緒にいるとこんなにやる気がみなぎるのね…」

 

「残りは6人…先が遠くなるが頼んだよ」

 

「はい!」

 

「それから前田さん、盗み聞きとは感心しないよ」

 

「す、すみません!」

 

「あかり…?」

 

「やっぱり私のせいで巻き込んじゃったから責任感を感じちゃって…。受け入れられずに断られたらどうしようって…」

 

「そういう事か。それなら心配する事はない。彼女は自ら使命を受け入れたんだ。君の心配は無用だったね」

 

「よかった…!」

 

「前田さん…いいえ、もう一緒に敵と戦い、そしてアイドルとして切磋琢磨していく仲間でありライバルだから、これからはあかりと呼ぶわね」

 

「うん!よろしくね!結衣ちゃん!」

 

「ちゃん…ね…。出来れば呼び捨てでお願いできるかしら?少し恥ずかしいの…///」

 

「わかった、これからもよろしくね!結衣!」

 

こうしてあかりと結衣は晴れて仲間で友達、そしてライバルとなりアイドルとして少しだけ前に進む。

 

一方話を裏で聞いていた加奈子は仲間が増えたことに安心してため息をつく。

 

そんな中である女の子は何か胸が張り裂けそうな気持ちのまま仕事に向かっていった。

 

つづく!



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第6話 恋心

彼女は篠田日菜子。

 

プロ野球チームの東京神宮スワローズ応援している天真爛漫な女の子。

 

そんな彼女は実は学校の部活でスクールアイドルとして活動している。

 

その中で彼女に届いたオファーとは…

 

「え…もう私がメジャーデビュー曲ですか!?」

 

「そうだ。当初の予定にはなかったけど、突然私宛てに完成された一曲が送られてきてね。素人からなのだが私よりも完成度が高かったんだ。それも君にだけに送られたラブソングらしい。作詞はまだ甘いところはあるが私のアレンジでそれなりになったと思う。そこで君には代々木にあるスタジオでレコーディングを行ってほしい。作曲者もそこに来るから頑張ってね」

 

「は、はい!頑張ります!」

 

日菜子は予想外の初仕事に意気揚々として張り切って歌のレッスンに励む。

 

元々歌う事が得意で視聴した人々の耳に残る明るくて朗らかな歌声が武器だったので歌う仕事は彼女にとって天職みたいなものだ。

 

レコーディング当日になり、日菜子はレコーディングするスタジオへ向かい、到着してすぐに発声練習を行った。

 

「あ~あ~あ~あ~あ~…♪」

 

「うん、今日もいい調子ね。篠田さんの歌声は聞いていると元気になれるよ」

 

「ありがとうございます!」

 

「おや?早速曲の提供者が来たみたいよ。いらっしゃい!」

 

「え…作曲者ってまさか…!?」

 

「ああ、日菜子。俺だ」

 

「智也じゃん!」

 

「ん?二人は知り合いなのかい?」

 

「はい。俺は松田智也です。篠田日菜子の幼なじみで、よく彼女の曲を作っていました」

 

「じゃあTOMOって…智也の事だったの…?」

 

「まぁ今までは学生だから本名でやってたもんな。知らなくて無理もないか。それよりもお前のために作ったラブソングだからしっかり歌ってくれよ。せっかくのデビュー曲を最高にしたいからさ」

 

「そこは任せてよ!私だってもうプロだもん!」

 

「ふーん…。二人は幼なじみねぇ…♪」

 

久しぶりの再会に盛り上がっていると歌のトレーナーは二人を見てニヤニヤと微笑んでいた。

 

それを見て気が付いた日菜子は照れ隠ししながらつっけんどんな態度になり、トレーナーはさらにニヤニヤしていた。

 

何を隠そう日菜子は十年間も松田智也に淡い片想いをしているのだ。

 

ただ日菜子は同じアイドル部の同級生から噂ながらお淑やかな黒髪ロングが好みのタイプと聞いていて、もう自分の恋は叶わないんだとやや悲観気味なのである。

 

それでも何故か彼は日菜子の事をずっと気にかけていて、小学校からやっていた大好きな野球をケガが理由とはいえやめて作曲を勉強し、日菜子をサポートし続けていた。

 

レコーディング中に日菜子は緊張のあまりにいつもの声が出なくなり、トレーナーは一旦レコーディングを中断させる。

 

「うーん…やっぱり身近にいる人が近くにいると緊張しちゃうのかな?それともずっと練習ばかりで疲れちゃった?」

 

「すみません…もう一回お願いします!」

 

「いいえ、これ以上連続で続けると喉に負担がかかるから一度休憩しましょう」

 

「すみません…。はぁ…」

 

「とりあえずお疲れ。神宮飲料のノムルト、好きだったよな。これでも飲んでくれ」

 

「ありがとう…」

 

「まぁ、誰しもはじめての事なんて緊張して思うように出来ないものさ。俺もはじめての作曲は苦労ばかりで…これじゃない、こうじゃないばかりだったんだ。でも経験を重ねる事でようやく秋山拓也さんに認められるようになったんだ。日菜子もあのプロデューサーに認められたんだろう?自信持っていつものように…」

 

「わかってる!わかってるけど…私さ…好きな人がいてさ…その人に振り向いてもらおうと思ってアイドルのオーディションに応募して…。それが合格してさ…もっとその好きな人から遠のいてしまって…。私…ダメな女だよね…。今のアイドルは恋愛が自由になったからっていい気になって…振り向いてもらおうなんて…お姫さま思考だよね…。こんな事…智也に愚痴言っても仕方ないよね…」

 

「そうか…。俺も…好きな人が遠くに行っちまって、このままじゃダメだと思って今の曲を作ったんだ。これは俺の敵わない淡い恋心を歌ったラブソングで、代理として日菜子に歌ってほしかったんだ。俺の気持ちを…代弁してほしくて…」

 

「おや?なかなか面白いですね。恋ですか…くだらない幻想を捨てて不幸にさせてでも奪えばいいのですよ。では早速…ダークネスパワーよ…くだらない幻想を捨て、この世界を未来なき世界に変えよ!」

 

「うっ…!うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「智也!どうしたの!?智也っ!」

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「化け物がまた現れたぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「え…?化け物…?」

 

「篠田さん!レコーディングは中断よ!早く逃げなさい!」

 

「でも智也が…!」

 

「今は檻の中だから無理だよ!あなたのことも大事だから逃げなさい!」

 

「はい…ありがとうございます!」

 

突然智也の胸から黒い魂が胸から出てきて智也は檻に閉じ込められ、その瞬間にヘッドホンを付けた人型の魔物が現れて代々木を暴れ回っていた。

 

日菜子たちは外に避難していると、謎のリーゼントヘアのインテリ風の男がポツリと立っていて、日菜子は勇気を出してその男の元へ向かう。

 

「オレノ…カタオモイ…カナワナイ…!」

 

「ちょっと!今化け物が現れて危ないから早く逃げてください!」

 

「いいえ、いいんです。あの化け物はこの私が生み出したのですから」

 

「何を言ってるの…?」

 

「申し遅れました。僕はアクムーン帝国の三銃士のブレインです。人間共の夢の力であるドリームパワーを奪いにやって来ました」

 

「それって確か…あかりがプロデューサーと話してた…」

 

「篠田さん!」

 

「とりあえず愛だの恋だの煩わしくて鬱陶しい感情など捨ててしまえばいいのです。現に彼だって敵わない恋をして苦しい思いをしています。そんなくだらない夢や幻想など諦めて自分の得意なものだけを極めればいいのです。それとも…その恋は都合のいい様に利用しているものですか?」

 

「何言ってるの…?彼は好きな人のために…どれだけ作曲の勉強をして、やっとプロに認められたっていうのに…その努力を全否定するの…?私だって彼に恋をしているし大好きだけど…彼がここまで頑張れたことに嬉しいって思うし…素直に応援したいって思う…。そんな智也の努力を…あなたなんかに馬鹿にされたくない!私の大好きな人は…くだらない恋なんかしていないっ!」

 

その瞬間…日菜子に心地よいオルガンの音色と混声合唱の声が聴こえる。

 

気が付けば手元には黄色いサイリウムが現れた。

 

日菜子は何が何だかわからない状態で唖然としていた中で、後から駆けつけたあかりと結衣が日菜子にこう叫ぶ。

 

「日菜子ちゃん…あなたが4人目の騎士なんだ!」

 

「騎士…私が…?」

 

「とにかく呪文を唱えなさい!」

 

「う、うん!ミューズナイツ!レッツミュージック!」

 

「HEY!HEI!HEY!」

 

結衣に言われるがまま変身の呪文を唱えてサイリウムを点火させ3回振る。

 

するとダブルボタンのセルリアンブルーのブレザーにマリーゴールドのリボンとスカート、黒いブーツに銀色の飾緒に着替えていた。

 

武器は西洋の棍棒の一つである金属のメイスで、そのメイスをバトンのように振り回しながら浮かんだフレーズで名乗り始める。

 

「弾けるは心のビート!篠田日菜子!もしあの化け物が智也なら…助けた後に絶対告白する!だから待ってて!」

 

つづく!



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第7話 ずっと好きでした

日菜子は魔物になった智也のためにメイスを振るい魔物との駆け引きに入る。

 

恋煩いで苦しむような悲痛な叫びは日菜子自身も重く響いている。

 

そこで日菜子はメイスをギュっと強く握りしめて魔物に立ち向かった。

 

「智也!私に好きな人がいるって言ったけど…ずっと前からあなたが好きだったんだよ!でも…好みの女性とは程遠くて!私の恋は無駄なんじゃないかって思うと…辛くて仕方がなかった!でも今なら言える…いつも音楽に真っ直ぐで!私の女の子らしくないところも…笑うと可愛いって褒めてくれた!だから智也のために…プロのアイドルになれた!ありがとう!大好きっ!」

 

「ウグッ…!」

 

「だから必ず…あなたを助けてもう一度告白するもん!やあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「グハァッ…!」

 

「ほう…恋心とは面倒な感情ですね…。」

 

「もう一般の人は全員避難したわ!魔物はもう弱っているから必殺技を放って!」

 

「う、うん!わかった!ありったけの大好き…あいつに届け!クラブクラッシュ」

 

「ウア…!」

 

「なるほど…人間の恋愛というのはなかなか面白いですね…。ですが次はこうはいきませんよ。」

 

日菜子はメイスに神々しい光を一点集中させて魔物の急所を思い切り叩き込む。

 

同時に魂に響き渡るように浄化させて元の体へ還る。

 

すると智也は目を覚まし、何が起こったのかわからないのか辺りを見渡す。

 

「ここは…?俺って何をしてたんだっけ…?」

 

「気が付いた?もう大丈夫だよ!」

 

「日菜子…?」

 

「さっき化け物が現れてね、誰かがその化け物をやっつけてくれたんだ!」

 

「そっか…。でも…不思議だ…。俺が檻の中に入っている間に…日菜子に似てた女の子が助けに来たような…。それに…大好きって告白されたような…気のせいだったのかな…」

 

「ううん…実は…」

 

「日菜子ちゃん…ミューズの騎士については秘密だよ?」

 

「う、うん…。きっと智也の幻だよ。でもね…私が…智也の事が好きっていうのは本当だよ…?幼稚園の頃にさ…私が男の子に混ざって遊んでたからさ…ガキ大将でもあった私の事を女らしくないってバカにされたの覚えてる…?」

 

「ああ…覚えているさ」

 

「その時に智也は…私の事を笑うとアイドルみたいで可愛いって言ってくれて…それが凄く嬉しかったんだ…。それからずっとアイドルになろうって頑張って…。アイドルになろうって思ったのも、もっと可愛くなろうって思えたのは智也のおかげ…。本当にありがとう…。それにね…私は智也が世界の誰よりも好きなの…。智也がいなかったら…夢だったアイドルになれなかった…。だから…ありがとう…大好き…///」

 

「なんだよ…結局同じだったのか…。俺も…日菜子の事が好きだ…。けど…こんな陰キャな俺がアイドルになった日菜子に振り向いてもらえるはずがないと諦めてた…。そして本当にプロになって遠くに行っちまったって思って…でも気のせいでよかった…。その…これからもよろしくな…日菜子…///」

 

「うん…大好き…///」

 

「どうしよう結衣…アイドルって恋愛禁止じゃなかったっけ…?」

 

「いいえ、最近はアイドルも恋愛はOKなのよ。でも…引退までは秘密にしないといけないわね。それか開き直ってアイドルになったきっかけは大好きな人のためですってプロフに書くとかするかしら?」

 

「結衣ちゃんって何か楽しんでる…?」

 

「さぁね。それよりも日菜子の恋愛成就をお祝いしましょう。彼も一緒に喫茶店でも寄りましょう」

 

「うん!」

 

「けど…レコーディングはどうしようか?」

 

「やろうよ!せっかく智也が私のために作ったんだもん!無駄になんかしたくない!」

 

「そうだな…日菜子のためにも絶対成功させないと!やろうぜ!」

 

「うん!」

 

こうして日菜子は長くて淡い恋を成就させ、幼なじみとの共同レコーディングも成功に収めた。

 

そして結衣のご厚意によって4人で渋谷の喫茶店でお茶を飲み、智也の作曲の理論について話したり、結衣の芝居への情熱を話したりした。

 

しばらくすると帰りが遅くて心配になった秋山プロデューサーが目撃情報を頼りに喫茶店に着き少しだけ気まずい空気になった。

 

「先ほど代々木に魔物が現れてまさかと思ったけど…どうやら無事だったみたいだね…。よかった…。」

 

「秋山プロデューサー!?ご迷惑をおかけしました!」

 

「いいんだ。それよりも君がTOMOこと…松田智也くんだね。君の作った曲をあれから探してみたんだ。有名なウタロイドプロデューサーだったとはね。君の作った曲は私よりも素晴らしい。どうか今後はSBY48の作曲担当をしてほしい」

 

「え…いいんですか?この俺で…」

 

「君じゃないと困る。元々滝川留美先生だったが、彼女は世界的音楽家で多忙で契約更新が困難だったんだ。代わりを探したところ、君はアイドルソングが得意と知ってどうしても我がグループに欲しい逸材だったんだ。」

 

「それじゃあお言葉に甘えます」

 

「それから篠田さん…この後に松田くんを連れて劇場の裏口に来てほしい」

 

「はい…!」

 

もしかしたら代々木の化け物の件で巻き込んでしまったことへのお咎めかと思った日菜子は恐る恐る劇場の裏口へ向かう。

 

緊張のあまりにドキドキが止まらないために智也の手を強く握り、智也は俺が護るから心配するなという目線でサインをする。

 

裏口に着いた日菜子たちは秋山プロデューサーの咳払いで覚悟を決めた。

 

「さて…あの事件の事は前田さんと大島さんから全部聞いたよ。君もミューズの騎士に選ばれたそうだね?」

 

「えっと…はい。」

 

「それも松田くんが魔物となってしまった。そこで篠田さんが助けて場を収めた。そこまではいい。でもね…まさかその彼に告白してお付き合いするとは予想外だったよ」

 

「う…!それは…ごめんなさい!」

 

「いや、アイドルによる恋愛自体は悪い事じゃない。ただ公になって売れなくなっても困る。だからといって引退や追放はしたくない。そこでプロフィールのアイドルになったきっかけに大好きな人に振り向いてもらうためと開き直りなさい。その代わりグループにいる間に別れたりしたら…もう仕事はないと思うんだよ?いいね?」

 

「はい!ありがとうございます!」

 

「松田くん…篠田さんの事をよろしくお願いします」

 

「こちらこそ…篠田さんの幼なじみとして、作曲担当として恥じないよう頑張ります!」

 

こうしてこの場を収めた秋山プロデューサーの懐の広さに日菜子はホッとする。

 

同時に恋愛が動機でアイドルになった事への責任感を強く持つようになる。

 

西暦時代はアイドルの恋愛自体は禁止で見つかったら炎上では済まなかったが、新暦になってからは多様性を重視された上にファンの民度も上がり恋愛が自由となった。

 

幸せは何も恋する事や結婚することだけではないし無理にする必要はないが、それでもそうする事で違った幸せを得る事が出来る。

 

だからといって恋愛するべきとか結婚するべきではなく、個人の自由で別々の幸せを感じる事が出来ればそれは未来への一歩ではないだろうか…。

 

つづく!



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第8話 陰のアイドル

彼女の名は渡辺麻友美。

 

秋葉原アニメーター学院中等部の3年生だ。

 

彼女は普段から自信がなくオドオドとしていて引っ込み思案な性格だ。

 

それが理由でなかなか積極的になれなかったが、そんな自分を変えるべくコスプレをはじめてからネットアイドルとして名を売り、そしてリスナーの紹介によってオーディションに参加した女の子である。

 

そんな彼女にもまた新たな仕事が訪れたのだ。

 

「えっ…?私が声優ですか…?」

 

「そうだ。あの虹ヶ丘エンターテイメントに所属している大山奈緒さんが主演である日常アニメ、この素晴らしい世界に感謝をというアニメの声優をやってほしいとオファーがあってね。君にはその主人公の幼なじみで自分に自信がないけれど信念が強いキャラをやってもらうよ。渡辺さんはアニメが好きだったから悪い話ではないと思う」

 

「えっと…私でよければ…やらせてください…」

 

「わかった。それじゃあ次の日曜にアフレコがあるからよろしく。スタジオのアクセスはもうわかるかな?」

 

「あそこですね…。秋葉原アニメーター学院の近くにあるとこだったと思います…」

 

「そうだね。君にとっては地元だから迷わなくて済むと思う。頑張ってね」

 

「はい…」

 

こうして麻友美は秋葉原のスタジオにて新しいアニメのアフレコ収録が決まる。

 

麻友美にとっては初の声優で、普段はコスプレイヤーとしての活動で撮られることには慣れているが声を撮られるのははじめてで緊張のあまりに眠れなかった。

 

日曜になり麻友美は慣れ親しんだ秋葉原を少しだけ散策して、大好きなあんドーナツをつまんでからスタジオに向かう。

 

スタジオに着くと大山奈緒がもう既に到着していて、麻友美は少しだけ気まずくなってしまう。

 

「あの…おはようございます…!遅れて申し訳ありません…!」

 

「あなたが渡辺麻友美ちゃんね。はじめまして、同じ主演の大山奈緒です。でも謝る事はないわ。あなたが2人目だもの。他はまだ来てないみたいよ」

 

「そうなんですか…?」

 

「この街はいつも通り活気で溢れているわね。あなたにとっては地元だって秋山さんから聞いたわ。オタクの街も今やこんなに一般の人も来るようになってどうかしら?」

 

「あの…アニメやゲームが皆さんに知られて…とても嬉しく思います…。オタクも最初は…誰だって何も知らないところから始まりますから…」

 

「なるほどね…自信がない子だと聞いたけれど、アニメの事になると芯が強いのね。これは期待できそうね。あ、他のみんなも来たわ。中に入りましょう」

 

「はい…」

 

麻友美はたくさんの先輩に囲まれて緊張のあまりに深呼吸を繰り返し、自分は出来ると何度も暗示をかける。

 

アフレコ本番が始まると麻友美は持ち前の想像力で役を演じる。

 

麻友美が演じる浅野優香は主人公である萩原こまちの幼なじみで感謝部というこの世の出来事に感謝して日常を過ごし雑談をするという日常的な部活に新入生として入り、日頃の嬉しい事を発表するようになる。

 

大山奈緒演じる部長の滝沢アスミによってスカウトされて部に入部するシーンで一話を終え、エンディングのレコーディングに入る。

 

「すごい…麻友美ちゃんって歌が上手いんだ」

 

「そんな…大したことないですよ…。私なんてまだ…歌ってみたで100万再生にいったことないですし…」

 

「それでも声量が少ないなりの歌い方をして自分をよく知ってるんだって感心しちゃった。あなたは将来いい声優になりそうね」

 

「ありがとうございます…」

 

アフレコ収録は成功に収め麻友美にとって大きな一歩を踏み出した。

 

収録終了記念に麻友美は共演者のみんなと秋葉原のメイド喫茶で昼食を取る事になる。

 

大手メイド喫茶である今川メイドリーミング系列のアキバメイドリーミングに入り、麻友美はメイド喫茶のメイド衣装に興味があるのか楽しそうに見つめる。

 

しかし…

 

「何が文化の街だ。俺にとってこんな夢みたいな街なんざぶっ壊しの対象だぜ。さぁて…夢にきらめくクソ野郎はどいつだ…?ほう…?」

 

「最近メイド喫茶もオワコンだよねー」

 

「お客さんも全然来ないしねー。この仕事も潮時かなー。せっかく大学に入ってアニメ制作の勉強が出来ると思ってたのに奨学金で返済しないといけないのになー…」

 

「あーわかるー。私もイラストの勉強のためにメイド喫茶という高時給バイトやってるのにねー。このままだと夢がかなわないのかなー…。」

 

「夢見るお姫さまってやつか…面白い!八つ当たりさせてやろう!ダークネスパワーよ…くだらない幻想を捨て、この世界を未来なき世界に変えよ!」

 

「うっ…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

~メイド喫茶~

 

「そういえばビラ配りのバイト二人帰ってこないね」

 

「まさかナンパに遭ったんじゃあ…」

 

「ちょっと見てくるね…」

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「何!?」

 

「ば…化け物が二体現れたぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「化け物…まさかあかりさんたちが言ってた…!皆さん…早く避難しましょう…!」

 

「ええ!麻友美ちゃんの言うとおりね!」

 

麻友美たちはダークネスパワーによって魔物にされたバイトのメイド二人の出現によって避難する事になる。

 

ところがあまりの人込みに麻友美はみんなとはぐれてしまい、逃げ惑う人々に流されて魔物のところへ流されてしまった。

 

「これって…!それよりあの制服って確か…助けなきゃ…!」

 

「ユメ…カナワナイ…!」

 

「オカネ…カエセナイ…!」

 

「あのっ…!大丈夫ですか…!?目を覚ましてください…!」

 

「目は覚めねぇよ。」

 

「え…?目が覚めないってどういうことですか…?」

 

「そいつらは自分の哀れな夢が叶わねぇかもしれないという感情が溢れ出してこの世の理不尽さに対抗するために暴れ回ってるのさ。俺はアクムーン帝国三銃士のディストラだ」

 

「アクムーン帝国って…最近現れるようになった夢を否定する異世界の…!」

 

「お前…随分俺にとって気に入らない目をしているな…。ネガティブなくせに夢に向かってまっすぐなムカつく目だ…。お前の夢も叶わなくなるようにぶっ壊してやるぜ。死ねぇっ!」

 

「きゃあぁっ!」

 

「なんとも弱いやつだな…。それでよく夢を叶えようと真っ直ぐな目をしているぜ。本当に人間って…くだらない感情を持っているようだな」

 

「どうして…どうしてあなたは…人間の夢や感情を否定するのですか…?」

 

「あ?」

 

「どうしてあなたは…他人の夢を嘲笑い…苦しい感情を利用して暴力で解決させようとするのですか…?そんなに他人の夢がくだらないですか…?あなたにとって夢とは…余計なものなのですか…?私はそうは思いません…。人には感情があるから前に進むことが出来ますし…自分の叶えたい夢のために…辛い事も乗り越える事も出来るんです…。あなたのような人の努力を否定する人に…私は負けません!」

 

弱いなりに強い気持ちで立ち向かうと美しいオルガンの音色と美しい混声合唱の声が聴こえる。

 

麻友美の手元にはバイオレットのサイリウムが現れ、後から駆けつけたあかりが麻友美に大声でこう叫んだ。

 

「麻友美ちゃん!そのサイリウムを3回振って変身して!呪文はもうインプットされているはずだから!」

 

「は、はい…!ミューズナイツ!レッツミュージック!」

 

「HEY!HEY!HEY!」

 

麻友美は言われた通りに呪文を唱えると、チャコールグレーと前部だけバイオレットの折襟軍服になり、肩には銀色のエポーレットがつけられていた。

 

スカートもバイオレット色になり、黒銀の大鎌が手元に現れて晴れてミューズの騎士となった。

 

麻友美はふと浮かんだフレーズで名乗り始める。

 

「支えるは心のベース!渡辺麻友美!あなたたちの夢を…守ります!」

 

つづく!



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第9話 苦境と逆境

麻友美は騎士として二人の魔物と戦い、大鎌を構えてジッと動くのを待つ。

 

あの魔物たちはおそらく倒れているメイドの女の子のものだと察知した麻友美は早く助けなきゃという使命感に追われた。

 

しかし魔物たちはそんな麻友美に容赦なく襲いかかる。

 

「ウワァァァァァァァァァァァッ!」

 

「うっ…!こんなに強いんですか…!?」

 

「麻友美ちゃん!今助けるよ!」

 

「大丈夫です…!この子たちは私が…!」

 

「クルシイ…タスケテ…ユメ…カナワナイ…!」

 

「どういう事でしょうか…?もしかしてメイド喫茶で働いている理由って…!」

 

「カナワナイ…ナラ…モウアキラメルシカ…」

 

「そんな事…言わないでください!あなたたちの夢がどんな素晴らしいものなのかはわかりませんが…今は苦しい状況だというのはわかりました…。でも…確かに今は苦しいかもしれませんが…その苦しみが経験値として…活きる事が出来れば…絶対に遠い将来に大きなきっかけが生まれる事だってあるんです…!あなたたちを浄化してから…話を聞きますから…簡単に夢はかなわないとか…諦めて捨てるなんて…言わないでくださいっ!」

 

「もう諦めろ人間。こいつらは現実に呑まれてそのまま堕ちる運命なんだぞ。そんな悪あがきなんなやめさせるのが一番楽だぜ?」

 

「楽だったとしても…やらずに後悔なんかしたら…一生の苦しみになるもん…!私だって…臆病な性格は変えられないと思っていました…。でも…それでも頑張って…ここまで来ました…。だから…絶対に…この子たちを助けたいっ!やあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「ウグッ…!」

 

「あの臆病な麻友美ちゃんが…こんなにたくましく…!」

 

麻友美は小さい頃から家族に期待されず、勉強のエリートだった兄やスポーツ万能の弟と比べられて以降自分に自信が持てず一時期は引きこもりになるほどだった。

 

それでもネットアイドル出身でプロになった成り上がりのメガネっ子アイドルの存在を知ってから勇気が湧き、大好きなアニメを通じてコスプレをしたりイラストを描いたりした。

 

たとえ家族に見放されていてもネットの向こうではみんな自分を評価してくれている、それだけで喜びを感じていたし自分もやれば出来ると思うようにもなった。

 

そしてそのアイドルが引退に追い込まれてショックを受けたものの、自分ももしかしたら自分を変えるチャンスなのではと考え、オーディションに参加した。

 

そんな経験もあって麻友美は絶対に魔物から浄化してメイドの女の子たちを助けると強く誓った。

 

大鎌を振りかざして魔物が弱った瞬間、麻友美は目を瞑りながらも必殺技を唱える。

 

「今だよ麻友美ちゃん!アニメでもよくある必殺技を!」

 

「わかりました…!皆さん…今から助けますから…ジッとしててください…!シャドウトリック!」

 

「ウオオォォォォォォォォォォッ…!」

 

「ちっ…くだらないモンを見せられたな…。」

 

こうして魔物たちは元の女の子たちのところへ還り無事にこの場を収める。

 

あかりと麻友美は二人の女の子のところへ駆けつけ様子を伺う。

 

すると女の子たちは意識を取り戻し麻友美たちは声をかける。

 

「あの…大丈夫ですか…?」

 

「はい…何とか…」

 

「それよりも…あなたはどこかで会いましたか…?」

 

「はい…?」

 

「あの…何て言うか…。私たちが檻の中に閉じ込められている間に…あなたに似た人が助けてくれたような気がするんです…。大学でアニメ制作のためにメイド喫茶のバイトしているのに…売れなくて潮時かなと諦めてたら…」

 

「私も…専門学校でイラストの勉強をしていて…高時給だからって始めたのにお店が売れなくて…。そこでこのバイトをやめようって思ってたら…気が付いたら檻の中にいたんです…」

 

「麻友美ちゃん…この事は秘密にしてほしいな。みんなが巻き込まれたら危ないから」

 

「は、はい…。あの…きっとそれは悪い夢で…皆さんが少しだけ夢を諦めようとした時に見てしまった幻かもしれません…。それでももしくじけそうになったら…また私たちを思い出してください…。あなたたちの夢…応援しています…」

 

「その声って…ネットアイドルのまゆっちさん…!?」

 

「コスプレ姿も綺麗だけど…本当の姿も綺麗ですね…!」

 

「そそそ、そんな事…ないです…!ただ…自分に勇気を与えてくれたアイドルの代わりになれば…それはとっても嬉しいなって…」

 

「それって…同じネットアイドル出身のすーみんですか?」

 

「はい…水野澄香さん…です…」

 

「あの人は確か…虹ヶ丘エンターテイメントに就職して、アルコバレーノという新しいアイドルグループのマネージャーを始めたそうです。もしかしたらライバルになるかもしれません。まゆっちさんも頑張ってください!私たちもまゆっちさんを思い出してもう一度このバイト頑張ります!」

 

「そして同時にこの子はイラストレーターの、私はアニメーターの夢を叶えますね!助けてくれてありがとうございました!」

 

「あの…よかったら…さっきあなたたちのお店で食事をしていましたので…宣伝させてもよろしいですか…?」

 

「えっいいんですか!?ありがとうございます!」

 

「このバイトもまだ捨てたものじゃないわね!」

 

「また遊びに来ますね…」

 

こうして麻友美は無事に女の子たちを助け、もう一度夢に向かって頑張ると誓いを聞いて劇場に戻り報告をする。

 

そこであかりの証言で騎士になったと聞いた秋山プロデューサーは麻友美を少しだけ残して今までの経緯(いきさつ)を話す。

 

麻友美は少しだけ恐怖がよぎり、自分に出来るかどうか迷いが生じてしまった。

 

それでも麻友美は強い意志でこう答えた。

 

「私に出来るか不安ですし…正直怖くてやりたくないです…。でも…こんな私にも出来るのであれば…みんなの夢を応援したいです…。みんなの夢を壊したくないです…。だから…やります…!せっかく掴んだチャンスを…逃がしたくないです…!」

 

「君ほどの臆病な性格の子がこんなに強い気持ちでやると決めたんだね。わかった、君のその言葉に委ねよう。これで残るは4人となった。加奈子的に候補はいるかい?」

 

「うーん…正直どの子が騎士になりそうかなんてわからないかも。まだ新人たちの事を詳しく知ってるわけじゃないし、今のメンバーからも騎士として覚醒しそうな子もいるから何とも言えないかな。ゴメンねパパ、役に立てなくて」

 

「いいんだ。そもそも加奈子に背負わせた僕に責任がある。渡辺さん、今後も精一杯頑張ってください」

 

「はい…!」

 

つづく!



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第10話 青春

彼女の名は高橋ひかり、アメリカ帰りの元ストリートダンサーだ。

 

ひかりは昔から男勝りでオレっ子でもあるので両親から女の子らしくなれと言われてオーディションに参加する。

 

ひかり自身もアイドルに興味がありダンスで何か掴めるものがあると期待もしている。

 

そんな彼女に新たな仕事が訪れた。

 

「オレが?」

 

「そうだ。君が無名校の部活にインタビューして宣伝を行うアイドル応援部でレギュラー出演してほしいとオファーがあったんだ。しかもメインMCはボーク大崎ボークことBOBだ。待ち合わせは都立二子玉川高校になる。君なら受けてくれると思う」

 

「面白ぇ!どんな高校だか知らねぇけどやってやるぜ!」

 

ひかりはどんな仕事なのか興味が湧いてきてすぐにオファーを受ける。

 

ボーク大崎ボークはサングラスをかけたノリと勢いがある芸人でアイドル応援部が初メインMCだと張り切っている。

 

そんな期待の新星同士なので失敗は出来ないがひかりにとってはリスクは成功の近道だと思っているので緊張よりも期待でいっぱいだった。

 

そしてついに収録の時間が訪れた。

 

「今日はよろしくお願いします!」

 

「よろしくお願いします!」

 

「君が高橋ひかりちゃん?」

 

「うす!」

 

「はじめまして。ボーク大崎ボークです。台本通りとはいかないかもしれないけど頑張ろう。」

 

「押忍!」

 

「元気そうだねぇあの子」

 

「体育会系って感じがするね」

 

「アメリカ帰りの帰国子女だっけね。今日はバスケ部だしいいとこいきそう」

 

「それじゃあ始めます!5!4!3!2…1…スタート!」

 

「えー、今日わたくしは映画館などで賑わっている二子玉川にいるわけですが…どうやら新人アイドルがここに来ると聞いたんだけど今だに来ていないようです。おそらくわたくしが一人で取材を…」

 

「ちょっと待った!」

 

「うわっ!いたのか!」

 

「最初からいたぜ!」

 

「しかも君ははじめましてだよね?自己紹介をよろしく!」

 

「よっしゃ!刻め!オレのダンスは!ひかりのごとく!高橋ひかりです!」

 

「元気がある熱血オレっ子かー!今回は何部を取材すると思いますか?」

 

「オレはバスケが好きだから希望だけどバスケ部だって思うぜ!」

 

「んー正解!今日は都立二子玉川高校のバスケ部を取材します!」

 

「じゃあ早速…」

 

「レッツゴー!」

 

ボーク大崎ボークとひかりのノリは初対面ながら上手く波長が合い撮影は明るい雰囲気で行われた。

 

二人は少しだけ二子玉川を散策しつつ学校へ向かい、学校に着くと普通の公立校ながら設備が綺麗で最近開校した今風の雰囲気があった。

 

垂れ幕には「野球部 祝・甲子園」があり、新興校ながらも野球では知名度が上がってきているらしい。

 

そんな中でバスケ部が取材に来たのだから実力があるに違いないとボーク大崎ボークとひかりは期待をしていた。

 

体育館に着くと男子バスケ部員たちがシュート練習していたのでひかりが真っ先に飛び出して飛び入り参加してしまう。

 

「ちょっとひかりちゃん!?」

 

「へへっ!オレも混ぜてくれよ!」

 

「うおっ!?」

 

「オレっ子…?」

 

「可愛いからいいよ!」

 

「先輩…好みなんですかw?」

 

「おうよ!」

 

「すごい…あの子初対面なのにすぐ馴染んでるよ…」

 

ひかりはアメリカにいた時はよく黒人男性たちとストリートバスケを嗜んでいて、アメリカにいた頃が懐かしくてついバスケに参加してしまう。

 

ボーク大崎ボークはひかりのフレンドリーな性格に感心を示し自分もまだまだ見習うところはあるなと考えた。

 

本題に入り部員と顧問の先生に取材をする。

 

「この学校は創立三年目と聞きましたが野球部はもう甲子園に出られたんですね。」

 

「はい。監督がいきなり甲子園に導いたことがある人が就任して今までの指導のノウハウを活かして短期間で強いチームになりました。」

 

「じゃあバスケ部はどうなんですか?」

 

「今のところ…野球部以外の部活は弱いです…w」

 

「おいひかりちゃん気を遣えよ」

 

「オレ!?」

 

「まぁでも都内ではベスト32がいいとこでこれから強くなりますので期待しててください。目指すはインターハイとウィンターカップ出場ですので」

 

「おお…強気なキャプテンだね…」

 

「そっか!じゃあ先輩たちはこれから強くなる予定なんスね!応援してるぜ!」

 

「ありがとうございます!」

 

「強くなるですか…くだらない。弱い奴は弱いまま堕落してしまえば強者が永遠に支配できるというのに…。やはり人間に感情があるのが原因ですね。では…ダークネスパワーよ…くだらない幻想を捨て、この世界を未来なき世界に変えよ!」

 

「うっ…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「うわっ!?何だこれ…!?」

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「ああ…我が部員が…!」

 

突然バスケ部主将の身体が檻の中に閉じ込められ、胸からストリートバスケ選手のような魔物が現れる。

 

ひかりは最近現れるウワサの魔物は本当だったと痛感して檻の中にいる部員全員を助けようとする。

 

しかし檻は非常に硬くてはずれないように出来ていて力自慢のひかりでさえ開ける事が出来なかった。

 

「クソッ!こいつを放っておくわけにはいかねぇ!絶対に助ける!」

 

「助ける?何をバカな事を言っているのですか?」

 

「あ?いきなり何だテメェ…!」

 

「申し遅れました。僕がアクムーン帝国三銃士のブレインです。彼のくだらない夢を少しだけ利用させていただきました」

 

「夢が…くだらない…?」

 

「バスケで全国に出るだなんて随分思い上がりもいいところですね。自分たちの実力のなさをカバーしようなど無駄な時間でしょう。それとも実力がないから目標などと吠え続けるのですか?実にくだらない感情ですよ」

 

「くだらない夢なんか…そんなものあるわけがねぇだろ!テメェにとってはくだらねぇかもしれねぇが…こいつらにとっては大きな夢で、大好きなバスケでもっと自分を高めたいって思っているから難しいはずの目標に向かって努力しているんだぞ!理不尽かもしれない練習に耐えて…青春をバスケに捧げて…それもオレは大嫌いだが勉強だって両立しようとしているんだ!テメェみたいに…他人の頑張りを全否定する奴なんかに…オレは逃げも隠れもしない!」

 

するとひかりの耳から美しいオルガンの音色と美しい混声合唱の声が聴こえる。

 

右手にはオレンジ色のサイリウムが現れ、後から駆けつけた加奈子が声をかける。

 

「あなたは確か…高橋ひかりさんね!そのサイリウムを三回振って変身の呪文を唱えて!呪文は…ミューズナイツ!レッツミュージックだよ!」

 

「加奈子先輩…わかった!ミューズナイツ!レッツミュージック!」

 

「HEY!HEY!HEY!」

 

ひかりはすかさず変身の呪文を唱えると、さっきまでバスケウェアだったのがクリムゾンレッドのナポレオンジャケットでマンダリンオレンジの肩に書けるサッシュとスカートに着替えられた。

 

ブーツはみんなとおそろいの黒いブーツでポニーテールの結び目にもマンダリンオレンジの結びリボンが結ばれた。

 

武器は黒い両面ポールアックスで両手サイズの長さになった。

 

そしてひかりはふと浮かんだフレーズで名乗る。

 

「刻みしは心のリズム!高橋ひかり!努力がどれだけスゲェって事を…テメェに叩きこんでやるぜ!」

 

つづく!



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第11話 努力すること

ひかりは大きな斧をギュっと握りしめて大勢の魔物と対峙する。

 

魔物たちはストリートバスケのように変幻自在な動きをしながら様子を伺いひかりをけん制する。

 

ひかりはつい我慢できずにそのまま突っ込んでしまい、魔物の集団攻撃をもろに喰らう。

 

「うぐっ…!」

 

「高橋さんっ!こうなったら…私も援護するよ!ミューズナイツ!レッツミュージック!」

 

「HEY!HEY!HEY!」

 

「調べしは心のシンフォニー!秋山加奈子!」

 

「先輩…すまねぇ…!」

 

「さすがに力自慢そうな高橋さんでもこんな大勢は無茶だよ。援護なら私に任せて」

 

「うす…!」

 

「セイシュン…ドウセカテナイ…!ドリョクシテモ…カナワナイ…!」

 

「そうね…努力が絶対実ったりするとは限らないね」

 

「ちょ、先輩…!?」

 

「ウウ…ダッタラ…」

 

「でも…成功者はみんな絶対に自分なりの努力をしているんだよ。やり方を間違えたり自分に合わなかったり、効率が悪すぎると確かに実らないけど…あなたたちはちゃんと自分を知って大きな目標を立てて楽しんでバスケしてるじゃない!彼女だって…女の子らしくなるために陰で雑誌読んだりアイドルの先輩に必死で聞きこんだりしてるんだよ!」

 

「見られてたのか…加奈子先輩には敵わねぇや…。ああそうだ…オレはオレなりに個性をも知ってるし女の子らしくいる努力も一切欠かさねぇ!でも自分らしさも同時に貫くという決意を強く持っている!それでトップになれるかはオレにもわかんねぇ…。わかんねぇからこそ人ってのは努力するんじゃねぇのか?お前らだってわからないからこそ試合を楽しんでるんだろ!違うのか!?」

 

「……」

 

「オレは少なくともお前らの頑張る姿は大好きだ!だから応援したいって思えるし、番組の企画とはいえお前らの目標が叶ってほしいって思うようになったんだ!だから…本当にありがとうな!はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「ウウッ…!」

 

「すごい…これが高橋さんのパワー…!大島さんよりも安定感は劣るけど一撃の重さは大島さん以上だよ…!」

 

「感心してる場合じゃないッスよ!今からオレが必殺技をするッス!」

 

「う、うん!」

 

「さぁ!こっからがオレの全力だ!ダイナマイトボンバー!」

 

「ウワァァァァァァァァァァッ…!」

 

「ちっ…またくだらないものを見せられてしまいましたね…!一時撤退です!」

 

「待ちやがれっ!クソッ…消えやがった…!」

 

ひかりはありったけの感謝を込めて斧で地面を叩き割る。

 

すると大きな火柱が無数に起こって大勢の魔物を包みこみ浄化していった。

 

魔物たちが消えると檻はするに消えバスケ部主将を助ける事に成功する。

 

変身が解けたひかりと加奈子はすぐに部員たちの意識を確認する。

 

しばらくすると部員の主将が目を覚ましひかりたちの声に反応する。

 

「大丈夫ですか?痛みはありますか?」

 

「えっと…あの子だけじゃなくて…何でSBY48の秋山加奈子がここに…?」

 

「さっき化け物が現れたと高橋さんから聞いて急遽助けに来たの。それよりも何かされた記憶はありますか?」

 

「えっと…俺たちは普通に部活に青春を捧げてて…いつも通り練習を再開しようと思ったら…どこからなのかわからないけど…不愉快な不協和音が聴こえて気が付けば夢なんて…努力なんて無駄なんだ…と思うように…」

 

「やっぱり…あいつらの仕業だったんだ…。」

 

「あの加奈子先輩…あいつらって何なんスか?」

 

「詳しい事は劇場に戻ってから話すから待ってて。それよりも部員の安全の確認と番組を続けるかどうかの判断でしょ?」

 

「それもそうッスね。とりあえず立てるか?」

 

「ああ、立てるよ…。けど…何だか檻の中に閉じ込められている感じもあったけど…君にそっくりな女の子が檻をこじ開けてくれたような気がするんだ…。あれは何だったんだろう…?」

 

「えっと…まぁそんな時もあるぜ。きっと夢に違いないと思うぜ。オレだって夢見る乙女になる時くらいあるしな。さぁ安全が確認されたんだ、こっからは楽しく取材させてもらうぜ!」

 

「じゃあ私はパパに報告するね。そしてあなたの仕事っぷり、見せてもらうよ」

 

「うっ…先輩に見られるなんて恥ずかしいな…」

 

こうしてバスケ部員たちは全員助ける事に成功し、アイドル応援部も予定より遅くなったけど収録は成功した。

 

魔物との戦いのシーンは番組の都合でカットされるが、この企画が上手くいけばひかりは今後もレギュラーサポート役として出演する事になる。

 

そして翌日…ひかりは秋山拓也プロデューサーから昨日の出来事を報告し、自分の使命と加奈子たちが騎士である事、異世界が侵略されて敵による襲撃が人間界にも及んでいる事、人々の夢や努力の魔力を奪って侵略をしている敵がいる事を全部知らされる。

 

ひかりは怖気づく事なく自分の運命を受け入れる。

 

むしろ誰かを守り応援するという役割を果たせることにワクワクしていたのだ。

 

そして…

 

「よっしゃあ!アイドル応援部でテレビ局から好評価をもらったぜ!」

 

「え!?本当!?」

 

「羨ましいなぁ。私も欲しいのに」

 

「そしてこれからもレギュラーとしてよろしくだってさ!ボーク大崎ボークさんもオレと気が合うからって相談があったらよろしくって連絡先くれたんだぜ!」

 

「私も頑張ろうっと!」

 

「そうね。私もいつまでも子役のやり方が通用するわけじゃないもの。負けてられないわ」

 

「私だってスクールアイドルのキャリアはダテじゃないもん!」

 

「私も…頑張ります…」

 

「それと麻里奈はモデルとしてのインタビューで、エマは有名歌手のレコーディングでギタリストとして参加だろ?やっぱキャリア積んでると違ぇな!」

 

「大したことじゃないよ。アタシはただ慣れてる仕事ってだけで慣れてないジャンルは苦戦ばっかだしさ」

 

「そうデース。エマなんて日本に戻ってきたばかりだから苦労ばかりデース。でもあかりみたいに仕事ないわけじゃないから楽しいケドね」

 

「うう…私はまだ研修生だから仕事少ないの気にしているのに…」

 

「もうエマ!また毒を吐くんだから!」

 

「えへへっ!とにかくエマたちはレギュラーメンバーで待ってマース!」

 

「う、うん!」

 

ひかりはあかりの前向きなところを気に入ったのか、レギュラーメンバーに選ばれる日を楽しみで仕方がなかった。

 

努力とはある意味永遠に続く自分磨きであって、成功するためだけにとらわれてしまうと努力する意味を見失ってしまう。

 

たとえ成功したとしてももっと磨けばさらにいい自分に出会える可能性もあるので成功したからと驕ってしまい完璧だと思い込むと遠い将来に自分で自分を潰す事になる。

 

成功したければ成功するかどうかより自分が磨かれているかどうかを気にすることなんだとひかりはアイドル応援部を通じて感じたのだった。

 

つづく!



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第12話 イマドキギャル

彼女の名は板野麻里奈。

 

上野衣服専門学校付属中学校に通う中学三年生だ。

 

麻里奈は女子高生に人気があるオシャレ番長で、いつもファッションのチェックを欠かさないイマドキギャルだ。

 

そんな彼女が何故アイドルをやっているのか…それはアイドル衣装に興味があり、いずれは自分でブランドを立ち上げてファッション界に貢献したいと思っているからである。

 

そして彼女にもまた新たな仕事のオファーがやってきた。

 

「イマドキ!ファッションショーラジオ?」

 

「そうだ。このラジオではMCがカリスマモデルである事を条件にして君を推薦したのだが…なんとそのMCに選ばれたんだ。君にラジオのMCを任せそして美容やメイク、ファッションなどに悩む女の子たちの悩みを解決させてあげるんだ」

 

「なるほど。じゃあアタシの出番ってワケね。読者モデルだったアタシでよければ力になるよ!」

 

「君ならそう言うと思っていたよ。じゃあ場所は原宿にあるスタジオだから遅刻しないようにね?」

 

「うっ…頑張ります!」

 

「そしてもう一人のメインMCはカリスマギャルモデルの小野愛梨だ」

 

「マジっすか!?これじゃあ遅刻なんて出来ないじゃん!よーし頑張るぞ!」

 

麻里奈は少々時間にルーズなところがあり学校でも遅刻癖がある女の子でプロアイドルの時間厳守に度々悩まされてきたが、それでもプロの自覚とファッション界の手本として遅刻癖を克服しつつある。

 

だけど今回は絶対に遅刻できないので麻里奈はアラームを設定してすぐ起きれるように早く眠りについた。

 

収録の日が訪れると麻里奈はいつもより早起きして髪や肌の手入れ、さらにメイクして発声練習をしてプロとしてスタートする。

 

そしてラジオ収録の時が来た。

 

「おはようございます!」

 

「おお、おはよう。今日から君がMCを務める板野麻里奈ちゃんだね」

 

「はい!」

 

「秋山プロデューサーから遅刻癖があるから遅れたらこの企画はなかったことにしてもいいよって言われたけど、どうやらいらない心配だったみたいだね。早速だけどもうお悩み相談が十通も来ているんだ。君は凄いね」

 

「いやぁ…アタシはまだまだモデルとしては無名な方ですよ。それでも選んでくれてありがとうございます!」

 

「ギャルだと思って砕けてるかと思ったけど、さすが秋山プロデューサーだ。しっかり教育されているね。」

 

「ちょっとどういう意味ですかw!?」

 

「ごめんごめんwじゃあ収録始めようか!」

 

「はい!」

 

「では5秒前!4!3!2!1…スタート!」

 

「イマドキ!ファッションショー!皆さんこんにちは!イマドキ!ファッションショーが今日、開局されました!メインMCはモデルの小野愛梨と…」

 

「はじめまして!元・読者モデルでSBY48の新人の板野麻里奈でーす!よろしくー!」

 

「まさか同じカリスマギャルと共演なんて嬉しいな!」

 

「それな!アタシもビックリしたッスよー!」

 

「今度渋谷のイチオーキューでコーディネートしてあげる!」

 

「マジっすか!?やったー!」

 

「さて、こうして新人と仲良くなったところで早速…イケてるお悩みコーナー!このコーナーでは悩める女の子たちによるメイクやファッション、ダイエットなど美容の悩みを相談して解決させていくコーナーになります!麻里奈ちゃん、早速読み上げて!」

 

「はい!えっと…ペンネーム・須賀文香さん。私は同い年の友達よりも食べてないのに、運動も毎日やっているのに…どうしてもすぐに太ってしまいます。そのために○○抜きダイエットしても有酸素運動をしても痩せるどころか体重が増える一方です。どうしたら体重が増えずに痩せる事が出来ますか?あー…体質で悩む女の子あるあるだわー…愛梨先輩、これどうッスか?」

 

「そうだねぇ…やっぱり運動という事は筋トレやストレッチも欠かさずしているだろうし、食べ物もある程度制限してストイックだなって思うんだけど…。やっぱり○○抜きダイエットといっても全部を抜いたら栄養失調になりかねないし、それこそ空腹や栄養不足による睡眠不足やストレスで知らないうちに過食あるいは拒食してさらにストレスが溜まって太るという事もあるよ。もしストイックにダイエットするなら自分の体質や性格、生活水準などと相談してムリなく楽しくそして厳しくダイエットを頑張ってみて。あんまりムリしたダイエットだと最初はいいかもしれないけど、遠い将来にリバウンドのリスクもあるからね」

 

「おお…さすが小野愛梨先輩ッス…!」

 

「実は私もデビューして間もない頃に同じ経験しているから須賀文香さんも同じ思いはしてほしくないのよね。ちょっとガチめなアドバイスして私らしくないけどね。」

 

「いえいえ!めっちゃ参考になりました!」

 

「はいOKです!う~ん…二人はとてもウマが合うね!いったん休憩入ろうか!」

 

「うす!」

 

~原宿郊外~

 

「はぁ…はぁ…!あのカリスマモデルの板野麻里奈ちゃん…私の憧れだから理想の体型になりたいな…!」

 

「けっ!自分に厳しくダイエットとはおめでたいな!まぁいい…その太っている理由を他人のせいにして理想など捨ててもらうか!ダークネスパワーよ…くだらない幻想を捨て、この世界を未来なき世界に変えよ!」

 

「うっ…うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「えっ…何…!?」

 

「大変です!太った女の子が檻の中に閉じ込められたと思ったら…突然化け物が現れた!」

 

「まさかモノクロ団…という感じではないか…」

 

「ちょっとアタシ見てきます!」

 

「麻里奈ちゃん!今は危険だって!行っちゃった…」

 

麻里奈は人が檻の中に閉じ込められてから魔物が現れるとアクムーン帝国が来るから避難してとあかりたちに言われてきたが、本当なのかわからなかった麻里奈は真実を確かめるべくその現場に向かった。

 

すると麻里奈は信じられない光景を目にし、あかりたちが言った事は本当だったと知る事になる。

 

麻里奈は無謀にも檻をこじ開けようと力ずくで引っ張る。

 

「ヤセナイ…!ミンナガワタシヲ…アマヤカスカラ…!」

 

「無駄だ!お前がいくら力ずくでこじ開けようともビクともしねぇよ!」

 

「は?何で勝手に決めつけんの?やってみないとわからないじゃん!ふんっ!」

 

「無駄だと言っているだろう!さぁダークネスモンスターよ!自分が太っているのは甘やかす周りのせいだと思って暴れてしまえ!」

 

「は…?何それ…!」

 

「ヤセタイノニフトル…!アマヤカスカラ…クロウシテモミズノアワ…!コンナセカイコワス…!ユメ…リソウ…イラナイ…!」

 

「どうして…どうしてこんなに頑張ってる人の理想を遠ざけようとすんの!?あの子…自分の体形がコンプレックスで、少しでも理想の美しい自分になろうとこんなに頑張ってるのに…誰かに邪魔された上に八つ当たりさせるとか…マジで最低!アタシはカリスマギャルの板野麻里奈!アンタなんかに邪魔されるほど彼女の美しさへの夢を…バカにすんなっ!」

 

強い気持ちで叫ぶと麻里奈の耳に美しいオルガンの音色と美しい混声合唱の歌声が聴こえる。

 

右手には青緑のサイリウムが現れ、後から駆けつけた結衣と麻友美がこう叫ぶ。

 

「板野さん…ついに騎士に…!」

 

「麻里奈!ミューズナイツ!レッツミュージック!と叫んでサイリウムを三回振って!」

 

「う、うん!ミューズナイツ!レッツミュージック!」

 

「HEY!HEY!HEY!」

 

サイリウムを振ると麻里奈の私服からピーコックグリーンのシングルボタンの詰襟にエメラルドグリーンの腰ベルトとスカート、みんなと同じ黒いブーツに着替える。

 

さらに木製のクロスボウが武器として召喚されふと浮かんだフレーズで名乗る。

 

「彩るは心のテンポ!板野麻里奈!あの子の理想を…無駄にはさせないから!」

 

つづく!



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第13話 変われる

麻里奈はクロスボウを魔物に向けて構え、女の子の魔物は自分の腹部を気にするように地響きを起こす。

 

おそらく女の子は自分の体型にコンプレックスを抱いていて、学校で何かあったのだろうと推測した麻里奈は絶対に助けてからアドバイスを送ろうと思った。

 

そして魔物は自棄になるように麻里奈に当たり始める。

 

「うおっ!?」

 

「フトル…アナタ…ヤセテル…!ツブス…ウオォォォォォォォォォォッ!」

 

「羨ましいか…。アタシがこの体型を維持するのにどれだけ努力してきたかが見える状態じゃないんだ…。だったらアタシがこんなに頑張ってきたんだからアンタにも出来るって事を教えてやる!くらえっ!」

 

「グッ…!」

 

「クロスボウだと援護射撃には向いているけど主力では厳しいわ!私たちも加勢しましょう!」

 

「は、はい!」

 

「ミューズナイツ…」

 

「アンタたちは手を出さないで!こいつはアタシが責任持って何とかすっから!それよりも逃げ遅れた人たちを助けてあげて!」

 

「そういう事ね…わかったわ!行きましょう!渡辺さん!」

 

「は、はい!」

 

「努力…無駄なのに…何故…!」

 

「アタシさ…小学校低学年の頃はアンタみたいに太っててさ。それでよく男子にブタだってからかわれてたよ。それが悔しくて何度も泣いたことがあるんだよ。けど…アタシの憧れでさっき共演した小野愛梨さんが中学生ながらもありのままの自分をさらけ出して、そしてあんなにスタイルいいのに努力は欠かさないって知ってさ。アタシももしかしたらこの人みたいに変われるかもしれないって思ってすごく頑張ったんだ。そしてこの結果…ようやく小学五年で読者モデルになって今じゃアイドルだよ?信じられる?」

 

「……」

 

「大丈夫。今からアンタに合った努力をすれば必ず理想の自分に会えるからさ。それまでもう少し頑張って…!そして…痛いかもだけどごめん!はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!届けっ!」

 

「ウウッ…!」

 

「板野さんっ!魔物はもう弱ってます…!必殺技を放ってください…!」

 

「オーケー!夢見る乙女の一撃…受けなさい!ヒーリングショット!」

 

「ギャアァァァァァァァァァァァァァッ…!」

 

「ちっ…どんだけ邪魔者が増えれば気が済むんだよ…!もういい!」

 

こうして女の子の魔物は浄化されて元の女の子は檻から脱出する。

 

麻里奈はすぐに変身を解いて結衣と麻友美と共に女の子の元へと駆けつける。

 

女の子が倒れかけたところに麻里奈はダッシュで抱きかかえ、意識が戻ると女の子は麻里奈を見て状況を確認する。

 

「あの…私は一体…?」

 

「心配しないで。もう悪夢は終わったんだよ」

 

「えっと…あなたは…板野麻里奈ちゃん…?どうしてここに…?」

 

「化け物が現れて暴れてたからアンタを助けに来たんだよ。でももう大丈夫、化け物は誰かがやっつけたから」

 

「そうですか…。でも…その誰かが麻里奈ちゃんによく似ていたような…?」

 

「き、気のせいだって!それよりもどうしてアンタはダイエットを頑張ってたの?ジャージ姿でランニングシューズだったからすぐにわかったよ」

 

「えっと…私は昔から太りやすくて…クラスの同級生に馬鹿にされてきたから…ダイエットをしてきたんです…。いろんなダイエットも試したんだけど…結局どれもダメで…。だから内心痩せて綺麗になるのを諦めてたんです…。でもどうしても美しくなりたくて…そしたら…突然夢は無駄だから暴れろって誰かの声が…」

 

「マジかよ…そんな最低な奴がいるんだ…!」

 

「麻里奈、詳しい事は後で話すわ。今はこの子のケアを大事にしましょう」

 

「う、うん。そうする」

 

「あの…助けてくれてありがとうございます…」

 

「じゃあさ、今アタシはラジオの収録やってるから終わったら一緒にランニングしよう。だからスタジオで待ってて」

 

「は、はい!」

 

こうして麻里奈は騎士として覚醒した上に太った女の子と友達になり、いろいろな美容についてアドバイスを送った。

 

そして女の子は自信を持って理想の自分を描いて、健康を損なわないように意識する事を覚えて麻里奈と別れる。

 

麻里奈は自分が美容に悩める女の子の手本かつ憧れになったんだと自覚を持ってもう遅刻はしないと決意した。

 

劇場に戻ると秋山プロデューサーからミューズの騎士の話を聞かされ、今までのみんなが陰で人々の夢と努力を守ってきたことを知る。

 

そして麻里奈の答えは…

 

「というわけだ。君はこんな危険な戦いに巻き込んでしまったわけだが…」

 

「いやぁ~、本来なら断って自分のアイドル活動に集中すべきなんスけど…案外人の夢を守るって自分の夢も守るんじゃないかなって思うと悪い気はしないッスね。というわけで…アタシはその世界を守る運命を背負います。軽い気持ちではなく、本気ッス」

 

「そうか…。君を軽率な子だと第一印象で決めてすまなかった。これからは責任を持ってアイドル活動と騎士としての任務を果たしてほしい」

 

「りょ!アタシにお任せあれ!」

 

「ドレミ、これで残るは2人になった。ミューズの騎士が9人揃うとどうなるのかな?」

 

「そうね…9人揃えば本来の音楽の力でドリームパワーが発揮されて帝国の本拠地に入る事が出来るようになるの。でも…女王の私だけ助かって国民たちは悪夢の檻の中にいるから…女王なのに情けないわね…」

 

「けどパパやママが出会ったから私が生まれ、そして去年センターになった私が騎士になったじゃない。今は後悔するより九人揃うようにすることが先だと思う」

 

「そうね、加奈子の言う通りね。板野さん、これからもよろしくね」

 

「りょ!」

 

つづく!



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第14話 レコーディング

彼女の名は柏木エマ。

 

イギリスのスコットランドから日本へ引っ越した日英ハーフの女の子だ。

 

元々彼女はイギリスでガールズロックバンドのギタリストである程度のパフォーマンスは出来る。

 

そんな彼女にもまた新たな仕事のオファーが来たのだ。

 

「エマにオファーデスか?」

 

「そうだ。君にはある歌手のレコーディングのギターパートの収録に付き合ってほしい。しかもその歌手は…君のバンドだったGIRLS THE NESSIEの活躍も知っていてね。是非ともギターソロをと頼まれたんだ」

 

「そうデスか。ワタシの事を知ってくれているなんて嬉しいデスね。わかりました、やってみます」

 

「君は少々毒舌だから無礼のないようにね」

 

エマはある有名歌手のレコーディングに参加する事になり、その収録の日が楽しみで眠れなかった。

 

エマは一体どんな曲なのかわからないけどギターの基礎練習して指を慣らした。

 

収録の日が訪れエマはあるスタジオでギターのチューニングの確認をする。

 

するとエマも知っているあの日本の歌手がようやくスタジオに着く。

 

「おはようございます」

 

「まさか…栗山真希さんと沙希さん!」

 

「ええ、あなたのギター演奏はセルフチューブでも見たわ」

 

「そこであなたのようなギタリストアイドルにギターソロの演奏をしてほしいの」

 

「そんな…光栄デース!今日はよろしくお願いしマース!」

 

栗山真希と沙希はかつて双子のアイドルとして日本のアイドル界を牽引し、卒業と同時にアーティストユニットとして今も活躍をしている。

 

最近は虹ヶ丘エンターテイメントに移籍して新しい環境で芸能活動をするようだ。

 

エマはチューニング調整を終えて早速レコーディングに入る。

 

「それじゃあ今日はミュージシャンの皆さんよろしくお願いします」

 

「よろしくお願いします」

 

「今日は新人でギターソロを任される柏木エマちゃんがいます。今日はよろしくね」

 

「はい!精一杯頑張りマース!」

 

「それじゃあ早速入ります!」

 

栗山姉妹は双子らしい息の合った歌声で周りを魅了しエマもまた魅了されていった。

 

これがプロの歌声なんだと身体が震え、自分も負けていられないと同時にプロとしての自覚を持つ。

 

そしてついにエマの収録が始まった。

 

「それじゃあエマちゃん、肩の力を抜いて頑張ろうね!」

 

「いいえ、肩だけでは力は抜けまセーン。深呼吸もですが少し時間をくだサーイ」

 

「う、うんわかった…」

 

「ブリテンの英雄たちよ…エマに力と勇気をください…」

 

「そうか、あの子はイギリス出身だからお祈りするんだ」

 

「関係ないと思いますよ。ただあの子は愛国心がある子だと思います」

 

「いつもこうやって祈りを捧げて気持ちを落ち着かせている子ですね。動画でも冒頭ではやってました」

 

「なるほど…じゃあ邪魔するわけにはいかないな」

 

「すみません、祈りの時間を終えました!」

 

「じゃあ頼んだよ!」

 

~新橋駅周辺~

 

「この辺りはこの国の人間以外にも溢れているようですね。どいつもこいつもくだらない夢ばかり抱いてますね…。さて、今日は誰を利用しましょうか…。ほう、あれですか…」

 

「ついに来た!憧れのニッポン!ここで私はライブをするんだね!」

 

「あの異国の人間にしますか…ダークネスパワーよ…くだらない幻想を捨て、この世界を未来なき世界に変えよ!」

 

「うっ…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

~スタジオ~

 

「なんだか外が騒がしいな…」

 

「ギターの音…?」

 

「うわっ!何だこの騒音は!」

 

「もしかしてモノクロ団…?」

 

「でもあの子たちはまだ全員覚醒していないわ…」

 

「だったらワタシが行きます!」

 

「柏木さん!?君が行く事はない!」

 

「死にたくなかったら逃げてください!ワタシならノンプロブレムです!」

 

「あの子…結局軽めとはいえ毒舌なのね」

 

「でも口だけの子ではなさそうね」

 

エマはあかりたちから聞いた魔物が現れたと予感して騒音の元へ向かう。

 

騒音の先は新橋駅近くの機関車でちょっとウェーブがかかったロングヘアの女性が檻の中に閉じ込められていた。

 

同時にモヒカンヘアのドクロの姿をした魔物がギターソロを乱暴に演奏していた。

 

「あなたは何なんですか!?」

 

「ナレナイクニ…ユメ…フアン…!ワタシノエンソウ…キイテクレナイダロウ…!」

 

「あの子はエマがいたバンドのボーカルギターの…!どうしてこんな事に…!」

 

「ほう、聞きたいのですか?」

 

「誰ですか!?」

 

「僕はブレインと申します。人間のくだらない夢の力であるドリームパワーを奪って人間を堕落させる偉大なる帝国、アクムーンの三銃士です」

 

「アナタが噂の…アクムーン帝国!」

 

「地獄耳なので聞きましたが、あなたのかつてのお仲間のようですね。そのお仲間が夢に絶望して諦めながら暴れる姿を見てどんなお気持ちですか?」

 

「どうして…どうしてあの子の夢をくだらないと切り捨てるのデスか!?」

 

「人間はくだらない夢など持つから破れた時に傷つき、そして無気力となり現実に苦しむのです。そうなって結局堕落するのなら最初から夢など持たずに感情など捨てればいいのです。努力など結局時間の無駄なのですから頑張るだなんてふざけた真似をさせないようにしているのに何故批判されないえればならないのでしょうか…?」

 

「この子がどんな気持ちで日本に来たかはわからないケド…。この子みたいに日本語が下手で成績悪いのにどんな夢を持ってきたかわからないケド…。エマはこの子の夢をバカには出来ないし、きっと明るい理由があったに違いないと思いマース!あなたのように夢をバカにして努力を無駄だと一蹴する奴に批判される筋合いはないデース!確かにエマはバンドとしてイギリス中を盛り上げる夢は破れたし悔しかったデス…。でも新しい夢を持って日本に来たら夢が叶ったんデース!今度は…夢を与えて自分をもっと高めてプロとしてやっていくだけデース!」

 

するとエマの耳から美しいオルガンの音色と美しい混声合唱の歌声が聴こえる。

 

エマの左手には水色のサイリウムが現れた。

 

後から駆けつけた日菜子と麻里奈が合流しエマの様子を見てこう叫ぶ。

 

「エマ!アンタが最後の騎士か!?」

 

「騎士…?アーサー王になるのデスか…?」

 

「そうじゃないけど変身の呪文を唱えてよ!ミューズナイツ!レッツミュージック!と叫んで点灯させてから三回振って!」

 

「ミューズ!?音楽の女神!イエッサー!ミューズナイツ!レッツミュージック!」

 

「HEY!HEY!HEY!」

 

エマは水色のサイリウムを三回振って変身をする。

 

すると白い襟にスカイブルーのラインの入った白いセーラー服に、タイトスカートはスカイブルーに着替える。

 

頭部には小さい水兵帽が右側につけられ、武器はマスケット銃のブラウン・ベスが召喚される。

 

エマはふと浮かんだフレーズで名乗る。

 

「煌めくは心のコード!柏木エマ!待ってて…あなたの夢を無駄にはさせないから!あんな奴に負けまセーン!」

 

つづく!



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第15話 かつての仲間

エマはマスケット銃を前に構えてかつての仲間だった女の子の魔物と戦う。

 

魔物はギターを乱暴に持ち構えて振り回し、まるでメタルバンドの叩きつけパフォーマンスのように振りかざした。

 

エマは大切なギターをその様な扱いをする魔物に深い悲しみを覚えた。

 

「よっぽど夢に対して不安が溜まってたんだ…。エマがしっかり支えにならないと…」

 

「アタラシイバショ…フアン…」

 

「デスよね…あなたは確かに不器用で結構保守的なところはあるけど…それでも歌とギターに対して真っ直ぐな子デシタ。それが…まさかママが病気で倒れて、それも亡くなって独り身になって…。だから故郷であるイギリスを離れてエマを追って日本に来たのデスか…?だとしたら絶対に助けないと!」

 

「助ける…あなたを追う…?何を自惚れているのですか?そんなちっぽけな夢なんて持ってるわけがないでしょう」

 

「自惚れていると思われてもいいデース!それでもエマにとってあのバンドは…大切な居場所だったんデース!それをなくしたエマたちを嘲笑う奴なんかに…エマたちの夢は絶対に奪わせない!ファイヤーッ!」

 

「ううっ…!」

 

エマはかつてイギリスでロックバンドとして活動したが、ボーカルの女の子の片親である母親が病気で倒れそのまま息を引き取り亡くなってしまった。

 

その事が原因でバンドとして活動資金を失い解散してしまった。

 

まだ中学生でバイトも出来ない年齢だから無理もないが、それでもエマにとっては大切な居場所でなくなった事に深い悲しみを味わった。

 

そんな中でボーカルの子がSBY48のオーディションにエマを紹介し手今に至る。

 

だからこそエマは絶対にこの子を助けて借りを返したいのだ。

 

エマは涙を流しながらマスケットの全魔力を込めて最後の一撃を撃つ。

 

「あなたの新しい夢と…自分で考えて決めた道を…ワタシは否定しまセーン!だから少しだけ我慢してクダサイ!オーシャンバーン!」

 

「キャアァァァァァァァァァァッ…!」

 

「ふぅ…余計な事ばかりする連中ですね…」

 

魔物はエマの渦潮が巻いた弾丸で撃ち抜かれてそのまま浄化していき、魂は元の持ち主へ還り檻は破壊された。

 

エマはすぐに女の子の元へ駆けつけ倒れかけたところを抱きかかえる。

 

女の子は意識を取り戻しエマが声をかける。

 

「ん…ここは…?」

 

「アンナ!大丈夫デース!?」

 

「エマ…どうしてここに…?」

 

「エマ、その子は…?」

 

「この子は前のバンドでボーカルギターをやってたアンナ・ダージリンデース。不器用なくせに歌と演奏だけはワタシよりも上手いんデース」

 

「毒舌なのは相変わらずだね…」

 

「でもどうしてジャパンに…?」

 

「私ね…エマが本当にアイドルになったと聞いて…絶対に日本で応援したいって思ってた…。同時に…バンドは無理でも音楽は続けたいって気持ちも一層強くなって…。弾き語りからもう一度音楽をやり直したいって思って…ここまで来たんだ…。ベースの鷺ノ宮エリスは突然行方が分からなくなるし…ドラムのリサ・ロングボトムも大学受験に向けて音楽をやめちゃうし…。だから…私とエマだけでも…イギリス以外でも音楽をしようとしたら…意識を失って…エマに似た女の子が助けに来たような…」

 

「それはきっとあなたの悪い夢から覚まさせようと助けに来た夢の騎士かもしれないデス。エマと似ているのは多分、あなたがそう思い込んでいるだけデス」

 

「そうだったとしても…助けに来てくれたのは嬉しかったな…。もう一度…私に音楽をやるチャンスがあるなら…ここまで支援してくれた親戚のみんなのためにも…お母さんの実家である日本にいる祖父母のためにも…私の音楽を届けたい…」

 

「だったら留学先の学校を教えマス。ワタシのアイドル仲間で渋谷芸術学校に通っているんだけど、そこなら音楽を勉強できマス」

 

「エマ…私のために…ありがとう…」

 

「とにかく今は早く帰ってゆっくり休んでネ」

 

「うん…そうするね…」

 

こうしてアンナという女の子はエマによって家まで送られ、レコーディングも無事終了した。

 

仕事を終えた後に秋山プロデューサーに報告し、騎士としての使命を同時に背負う事にもなった。

 

その事を日菜子たちに知らされた秋山プロデューサーはエマに騎士として戦う覚悟を問う。

 

「というわけだ。君も騎士として戦ってくれるかい?」

 

「エマは…もう二度と自分みたいに夢が破れて悩んで…さっきの友達みたいに苦しむ人たちを助けたいデス。だからやりマス!ワタシにも騎士道の国であるブリテンの魂がありマスので!」

 

「君ならそう言うと思ってたよ。それじゃあ加奈子、残りは一人なわけだが何か情報はあるかい?」

 

「うーん…今のメンバーに強いドリームパワーを感じる子はいなかったかな」

 

「そうか…残念だ…」

 

「ただ前のオーディションで落選した子の中にもう一人、わずかだけどいい逸材がいるよ。だけど…今はまだ弱くて覚醒出来るほどじゃないかな」

 

「うーん…それは残念だ…。では今後は加奈子が新人7人の教育係としてお世話をしてほしい。その方が一緒にいられて敵が攻めてきても行動しやすいだろう。グループ名はお前がやってくれ」

 

「わかった。エマ、騎士のみんなを集めてグループ結成記念にグループ名の発表をするよ」

 

「イエス!」

 

こうして騎士として覚醒したエマはみんなの仲間入りを果たし同じバンドのアンナも留学先が決まって安心する。

 

しかし今後敵が攻めて来た時に個人戦になりうる可能性もある。

 

そのためにはグループ名と戦いの訓練をして連携を強化する。

 

グループ名があれば何かあったときに連絡がしやすいのと、統一感を出すのとアイドルグループとして人気を得ることを目標としやすいのがある。

 

夢はいつかは破れるものではあるが、それでも生き方によってはいい経験になる事もある。

 

敗れたからといって卑屈になったり臆病になりすぎるとせっかくのチャンスを失う事になるだろう。

 

もちろん臆病になること自体が悪い事ではないがなりすぎて何もしないのはかえって危険である。

 

同じ臆病でもそうならないためにはどうするかを考えるいいネガティブになる方が堅実になるのかもしれない。

 

挑戦と堅実、積極性と消極性を上手く使いこなせればきっと…あなたも夢に向かって一歩ずつ進めるのではないのだろうか…

 

つづく!



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第2章
第16話 グループ名決定


彼女の名は秋山加奈子。

 

三年前にオーディションを飛び級で合格しセンターを三年間守り抜いたトップアイドルだ。

 

一時期は父親がプロデューサーだからひいきだと言われてきたが、先輩たちをアッと言わせるような努力と研究心ですぐに実力が認められ、さらに自分だけでなく他の周りの子の魅力を最大限に引き立てる裏方としての能力も高いとわかり、文句なしのセンターを勝ち取った経歴の持つ子だ。

 

そんな加奈子は騎士として去年に覚醒し、たった一人でユメミール王国奪還を試みるも失敗に終わり、母である女王にユメミール王国の伝説を聞き残りの八人を探している。

 

その内の七人を発見し新人たちを自分のテリトリーに入れ行動しやすいように父であるプロデューサーに頼み同じグループにする。

 

そしてついにグループで初集合がかけられる。

 

「みんな揃ったね。これから私が騎士として行動しやすいようにこれからについて説明するね」

 

「急に呼び出して何なんだろう?」

 

「さぁ…?」

 

「よほど重要な事ではないでしょうか…?」

 

「わからないけど何かありそう」

 

「そうね。私たち新人全員が騎士として覚醒したもの。先輩から何かあっても不思議じゃないわね」

 

「まぁみんなの予想通り騎士としてのこれからについて話すよ。まず私たちが騎士として以前にアイドルでもあるからアイドル活動と兼任して夢の力であるドリームパワーを集めるためにアイドルをやってもらう。グループにいるみんなはこの事情を知らないけど、もし知ったら余計なトラブルに巻き込まれるので絶対に秘密にしておくこと。これだけは守ってほしい」

 

「了解ッス」

 

「麻里奈、そんな軽い口調じゃ失礼よ」

 

「だって堅苦しいの苦手だしさぁ」

 

「ふふっ、いいじゃない。そこまで私は体育会系じゃないから私のことは普通に加奈子って呼んでもいいんだよ?それより話を続けるけど…これから私たちは個人戦も強いられる可能性がある。そのためにまず全員の連絡先とLINE(リーネ)でグループを作って連絡網として機能させる。そしてよりグループ行動をしやすくするために私を中心にSBY48系列で独自のグループを作ります。もうパパには許可を取ってあるしプロデュースはパパがするよ。そうした方がもし敵と遭遇しても団体戦が出来るでしょ?」

 

「確かにそうだ…!そうすれば強い敵がいても連携が出来るもんね!」

 

「日菜子は勘が鋭いね。というわけでこれから私たち八人のアイドルユニット名は…ミューズナイツ」

 

「ミューズナイツ…!」

 

「って何だそれ?ミューズって何だよ?」

 

「ミューズはギリシャ神話に伝わる9人の音楽の女神たちで、ナイツは騎士たちを意味するの。どうしてそうなったかはまずユメミール王国はミューズのご加護がある王国で伝説の騎士によって悪夢から守ってきた神話があるの。その後継者として今の私たちにピッタリでしょ?アイドルユニット名としてもあまり違和感もないと思うしどうかな?」

 

「加奈子先輩…すごくいいと思います!私は賛成します!」

 

「はい。私も問題ないと思います」

 

「うんうん!私も賛成!」

 

「私も…いいと思います…」

 

「オレもいいと思うぜ!」

 

「アタシも賛成!」

 

「エマも異論はありまセーン!」

 

「じゃあ決まりだね。そしてこれからリーダーを決めようと思う。本来なら私がリーダーをやるべきなんだろうけど…センターを任されている以上は負担も増えるし、今後のSBY48を思うと古い私より遠い将来を見据えて新しい子にした方がいいと思ったんだ。そこで…大島結衣さん、あなたに任命するよ」

 

「私ですか…?」

 

「レッスン中も新人の中で一番メニューの管理が上手いし、芸歴が長いからある程度芸能界を知っているし、それにその経験を活かして新人のみんなを引っ張っている。将来を見据えたらあなたが適任だって思ったの。あかりはまだ芸能経験がないし、日菜子とひかりと麻里奈はリーダーっぽいけど責任感があなたほど重くない。そして麻友美は責任を重く感じるクセがあるし、エマは少々毒舌でトラブルを呼ぶ可能性も否めない。となればあなたしかいないんだ」

 

「一カ月も経ってないのにもう私たちのことをそこまで見ていたのですね。わかりました、やります。リーダーとして早速だけど…私を支えてくれるサブリーダーを二人任命します。それは…周りがよく見える前田あかりと、多少のスパイスで柏木エマに任命します」

 

「私…?」

 

「うん、それがいいかも」

 

「私はつい遠慮しちゃいますから…」

 

「オレだとすぐ突っ走るしなぁ」

 

「私も突っ走っちゃうかも」

 

「アタシもノリと勢いで行くかもなぁ」

 

「エマでいいの?」

 

「あなたは多少毒舌だけどその方が私にとっても刺激になるし、あかりは本当の新人でそれどころじゃないと思うけど、だからこそ遠い将来あなたがトップに近づいたときに責任感を強く持てるように育成したいの。どうかしら?」

 

「うん!エマ頑張ってマス!」

 

「私も頑張るよ!」

 

「じゃあ決まりだね。残りは一人だけど…その一人に思い当たりそうな子がいるんだ。でも今はまだドリームパワーが足りてないから私が様子を見てみるよ。その子も前のオーディションで落選した子なんだけど、あかりなら知ってるかもね」

 

「え…?」

 

「今は思い出せないかもしれないけど、その内に再会するかもしれないから覚えておいてね。私からは以上、各自アイドル活動に精一杯励んでね」

 

「はい!秋山先輩!」

 

「うーん…やっぱり堅苦しいから加奈子でいいよ。さっきも言ったけど先輩後輩の壁はあっても薄い方が要らない遠慮をすることもないと思うし」

 

「わかりました!加奈子先輩!」

 

「うん、それでいこう。パパからアクムーン帝国について詳しく聞いたはずだからこれ以上は大丈夫だね。これからミューズナイツとしてよろしくね」

 

「よろしくお願いします!」

 

こうして加奈子を中心に結衣をリーダーとしたミューズナイツが結成され秋山プロデューサーの記者会見で正式にユニット結成し活動を開始する。

 

ミューズは九人で今はまだ八人だけど、加奈子は何故かもうすぐ全員揃うという予感がしていた。

 

その予感が当たるまではもう少し先だが、その全員が揃った時に敵が攻めてきても本領を発揮できるかもしれないと踏んだ加奈子はアイドル活動終了後に戦いに備えて槍の稽古を始めた。

 

つづく!



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第17話 あかり初研修

研修生のあかりは見学がてら結衣と加奈子の仕事を体験する。

 

二人は学園ドラマに出演していてちょうどその最終話の撮影の準備中だった。

 

その学園ドラマは女の子同士の三角関係にある女の子二人による恋愛学園ドラマで少しだけコメディ要素がある。

 

そしてついにその最終話の撮影が開始された。

 

「今日は百合ヶ丘女学園・恋愛部の最終話です。よろしくお願いします!」

 

「よろしくお願いします!」

 

「今回はSBY48の研修生で見学に来た前田あかりちゃんもいるので張り切っていこうね!」

 

「はい!」

 

「私たちの女の子同士の恋愛三角関係もこれで終わりなんだね」

 

「そうですね。まさかアイドルになって連続でドラマの撮影とは思いませんでした。やっぱり子役の印象は拭えないのですね」

 

「仕方ないよ。結衣は子役からずっと活動しているんでしょ?私より芸歴では先輩なんだから期待されてこんなにドラマの撮影があるんじゃない?」

 

「芸歴では確かに私が先輩ですが、アイドルとしては加奈子先輩の方が上ですよ。それに…あんなに真面目な同期で後輩のあかりが見ていますから変な芝居は出来ませんね」

 

「完璧主義ってほどじゃないけどストイックな結衣らしいね。じゃあそろそろ撮影が始まるしウォーミングアップしよっか」

 

「はい」

 

「加奈子先輩と結衣ちゃんのお仕事…どんな芝居力なんだろう…楽しみだなぁ」

 

こうして加奈子と結衣は雨の中の撮影で初の喧嘩シーンをする。

 

結衣自身は筋トレを趣味としているので腕っぷしには少しだけ自信はあった。

 

一方の加奈子も運動自体は嫌いではなく週に三回もジムでトレーニングするほどでそれなりに体力はある。

 

二人は喧嘩のシーンに慣れていないのでお互いを殴る事に抵抗があったがその事が監督にバレてしまう。

 

「うーん…二人はやっぱり先輩後輩として意識しちゃうのかな?加奈子ちゃんは可愛い後輩を虐待しているみたいで嫌で、結衣ちゃんは頼れる先輩を殴るのを躊躇っちゃうかな?」

 

「申し訳ありません…」

 

「まぁ確かに実際に殴ったりすることはないけど、胸ぐらを掴むときに震えたり遠慮がちになったりしていたからね。そうだ、少しだけディベートしてみよう。テーマは…あの前田あかりちゃんを急遽ドラマに出すべきか出さないべきかだね。結衣ちゃんは出さない派で加奈子ちゃんは出す派でよろしく!」

 

「えっ…?」

 

「いきなりですか…?」

 

「私…!?」

 

「監督…確かに使用時間終了までかなり時間はありますが何故…」

 

「悩める子役たちを導くのも監督の役目だ。彼女たちはまだ若いから当然我々大人よりも悩みが複雑だ。だから大人である我々が責任を持って導くんだよ」

 

「なるほど…前田さん、ご協力お願いしますね」

 

「は、はい!」

 

「ごめんなさいあかり。あなたまで巻き込んじゃって」

 

「いいの。それより私は出演しなくても役に立てるのなら嬉しいな」

 

「ポジティブなあかりらしいね。私も先輩だからって後輩から何も学ばないわけにはいかなさそうだね」

 

「同じく芸歴に驕ったらいつかあかりに抜かれそうね。加奈子先輩、よろしくお願いします」

 

こうして結衣と加奈子は急遽監督の計らいでディベートをする。

 

テーマは前田あかりを急遽ドラマに出演させるかどうかで、結衣が出演反対派で加奈子が出演賛成派になる。

 

結衣と加奈子は遠慮がちではあるもののやるからには全力でやらねばと深呼吸して力を入れる。

 

そして…

 

「よーい…始め!」

 

「やっぱり新人だからって何もさせないといつか才能に埋もれてしまって結局活躍しないパターンになるから彼女を出演させて現場力を叩き上げるのが一番だと思う」

 

「いいえ、まだ彼女は現場をよく知らないし研修生としての技術も全然足りない。そんな状態でいきなり現場に出したら彼女はパニックになりかねないと思うんです」

 

「だからこそ叩き上げて現場力を上げるんじゃないの?甘やかすなんてあなたの育成論はその程度なの?」

 

「先輩こそ随分後輩にスパルタすぎませんか?このままではあかりはプロの洗礼を厳しく受けて芸能界をやめてしまいますよ?」

 

「そうなったらその程度って事でしょ?あかりには経験値が足りないのだから与えればいいじゃない。彼女にとっても最大のチャンスだよ。それを潰すというならあなたは保守的だと思うよ」

 

「私だって彼女に活躍してほしいですが、チャンスはまだ先の方だと思います。ゲームだってレベルが低い状態で先に行き過ぎたら敵にやられますよね。もう少し慎重に言ってからでも遅くないと思いますが」

 

「あれ…意外と二人とも熱くなってる…?」

 

「はいOKです!君たち半分本音入ってないw?」

 

「少しだけ入ってました」

 

「生まれてはじめて先輩に歯向かった気分です…」

 

「いいじゃない。これも芝居に必要な事だよ」

 

「それもそうですね。それじゃあ監督、続きを撮影しましょう」

 

「それじゃあよーい…アクション!」

 

「あなたも彼女が好きなんだね…何で今まで黙ってたのさ…?」

 

「それはお互いさまでしょ…?あなただってずっと私に隠し事してたじゃない…」

 

「喧嘩売っているの…?」

 

「そっちこそ…」

 

こうして二人は芝居に全集中をして胸ぐら掴んだり押し倒したりとアイドルとは思えない気迫溢れる喧嘩のシーンをこなした。

 

人工的に降らせた雨は監督の指示でより強くなり二人はさらにヒートアップした。

 

ただそれでも本当に殴ったりすることはないのであかりは俳優界はハードでこんなこともするんだと驚きながらも熱心にメモを取った。

 

撮影は無事に終了して時間に余裕があったのでスタジオ内でロケ弁をみんなで食べる。

 

あかりの分はさすがに用意されてなかったがあかりは料理も出来るので自前の弁当で昼食を取る。

 

すると共演している子役たちがあかりのところへ集まってきた。

 

「あかりちゃんすごいね!こんな可愛いお弁当作れるんだ!」

 

「はい。一応お弁当は家族全員分作っているんです。お父さんがいつお嫁に行ってもいいように家庭的になりなさいって小学校の頃からやってるんです」

 

「偉いなぁ…私なんて料理は調理実習しかやったことないよ」

 

「あなたは永治大学で学びたい事あるっていって勉強してきてるじゃん」

 

「それはそうだけど…将来お嫁に行った時にどうなるか心配なんだよぅ」

 

「はいはい、あかりもお腹がすいているからそこまでですよ」

 

「もう結衣ちゃんって固いなぁ」

 

「新人相手なんだから少しくらいいいじゃん」

 

「ほらほら、あかりが困っているからね?」

 

「ちぇっ…センターの秋山加奈子さんに言われちゃったら逆らえないや」

 

「じゃあまたねあかりちゃん。今度は一緒に共演しようね!」

 

「こちらこそ貴重な体験ありがとうございます」

 

「すっかり人気者になったわね。あなたって案外人を引き寄せるオーラがあるのかも」

 

「そんな大げさだよ結衣ちゃん」

 

「でもそれはあるかもね。私が騎士になったからとはいえオーディション合格にしてほしいって言わせたほどだもん」

 

「そうですか?でもあの時は拾ってくれてありがとうございました」

 

「いいの。それよりもこれからあかりは研修生として仕事も増えると思うし気を引き締めてね」

 

「はい!」

 

つづく!



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第18話 えいごでゲーム

あかりの研修期間はまだまだ続き今度はエマとひかりによる英会話講座が始まる。

 

今回はアメリカからの帰国子女の高橋ひかりと、日英ハーフでイギリスから引っ越してきた柏木エマによって子ども向け教育番組「えいごでゲーム」という番組のレギュラーに選ばれた。

 

あかりは秋山プロデューサーによる交渉によって見学が許可されひかりとエマの仕事っぷりを見学する。

 

「今日はよろしくお願いします!」

 

「よろしくお願いします!」

 

「まずはアニメで覚える英会話をやります。そのアニメは…カプセルモンスターでの会話だよ」

 

「カプモン!?」

 

「ん?エマは知ってるのか?」

 

「知ってるも何もカプセルモンスターは子どもだけでなく世界中で愛されている人とカプモンの絆のアニメデース!ひかりは知らないデスか!?」

 

「うーん…オレアニメは全然見ねぇからさぁ。ずっとNBAしか見てねぇし」

 

「あかりは知ってマスか?」

 

「もちろん知ってるよ。麻友美ちゃんならもっと詳しく知ってるんじゃないかな?」

 

「あいつオタクだもんなぁ」

 

「ひかりが世間知らずなだけデース?」

 

「何だとぉ!?」

 

「まぁまぁ。とりあえず君たちにはそのアフレコをしてもらうんだ。英語バージョンのセリフをアフレコしてそれを君たちが解説する。そのシーンはこれだ」

 

「カプセルマスターになるのは俺だ!」

 

「いつまで起きているのサトル!もう夜の十一時よ?早く寝なさい!」

 

「わかってるって!これ見たら寝るよ!」

 

「Oh…これは第一話のあのシーンだ!」

 

「それを英語バージョンで君たちがやるんだ。お母さん役がエマちゃんでサトル役がひかりちゃんでいいかな?」

 

「うす!」

 

「イエッサー!」

 

こうして二人はそれぞれ英語吹き替えのアフレコスタジオへ向かい収録の準備をする。

 

エマは英語の本場イギリスの、ひかりはアメリカ訛りの英語で最初はチグハグだった。

 

通訳のアメリカ人はエマにもう少しアメリカ寄りでと注文され本場出身のエマは少々苦戦をしていた。

 

しかしテイク3で奇跡が起きた。

 

「I am the capsule master!」

 

「How long have you been up Satoru! It’s already 11 o’clock at night? Go to bed early!」

 

「You know! I’ll sleep when I see this!」

 

「はいOKでーす!エマちゃんやれば出来るじゃないか!」

 

「ふぅ…苦労しマシた…」

 

「お疲れ!とりあえず水飲むか?」

 

「イエス、そうしマス」

 

「はい、私からも差し入れだよ」

 

「おう、サンキュー!」

 

「センキューあかり」

 

「二人とも英語上手だね。やっぱり住んでたところが英語だったからかな?」

 

「スコットランドではスコットランド・ゲール語で話す事もありマスが、一応イギリスだから英語も話せマス」

 

「アメリカだとメキシコに近いとちょっとだけスペイン語が混ざるかな。オレはロサンゼルスだから少しだけスペイン語あるかもな」

 

「同じ英語圏でもこんなに違うんだね」

 

「まぁそうデスね。けどそれが逆にバイリンガルを生むと思いマス」

 

「それは確かに言えてるな!」

 

「日本人はどうしても英語に苦労するから二人の仕事を見ているといい勉強になるかも」

 

「ひかりはアメリカ人らしく豪快で遠慮がないから少しだけ空気読めなさそうで心配デース」

 

「おい!また毒を吐くな!」

 

「はい休憩終わりですよ!次は英語の歌を歌うよ!」

 

「あ、はーい!じゃああかり、エマたちの仕事を見てくだサイ!」

 

「うん!」

 

エマとひかりは今度はカメラの前で踊りながら英語の歌を歌う。

 

しかも教養のための歌できらきら星のリズムでABCのうたを歌う。

 

今回は幼稚園くらいの子の企画で何十人もの幼稚園児に囲まれてひかりは困惑しエマは恥ずかしそうにカメラを見つめる。

 

そしてついにアイドルらしい瞬間をあかりは見る事になる。

 

「さぁみんな!これからみんなでABCのうたをお姉さんと一緒に歌おうネ!」

 

「お姉さんたちが先に歌うからみんなはお姉さんたちに続けて歌ってね!」

 

「ひかりちゃんって男口調じゃない口調も出来るんだ…」

 

「それじゃあいくよ!せーの…」

 

「A・B・C・D・E・F・G~♪はい!」

 

「A・B・C・D・E・F・G~♪」

 

「H・I・J・K・L・M・N・O・P~♪はい!」

 

「H・I・J・K・L・M・N・O・P~♪」

 

「Q・R・S・T・U・V~♪はい!」

 

「Q・R・S・T・U・V~♪」

 

「W・X・Y・&・Z~♪はい!」

 

「W・X・Y・&・Z~♪」

 

「たのしいA・B・C~♪」

 

「みんなでうたおうよ~♪」

 

「Thank you!」

 

「きゃっきゃっ♪」

 

「おお…!OKです!」

 

「へへっ!どーよ!」

 

「やりマシた!」

 

「すごいよ二人とも!」

 

「ねぇねぇ!お姉ちゃんも一緒に歌おうよ!」

 

「私?うん、いいよ!」

 

「何かあかりってさ…いるだけで子ども心を引き寄せられるんだな…」

 

「Why Akari is charisma?結衣も言ってたけど何かカリスマ性を感じる時がありマスね…」

 

「本当に素人なのかわからないけど英語の歌を口ずさんだだけであんなに夢中にさせてるぜ」

 

「ワタシたちも負けてられないデース!」

 

「おうよ!」

 

こうして英語教養番組は成功し今後も続けていく方針になる。

 

エマとひかりはアイドルとしてえいごのおねえさんの役職を手に入れイギリスやアメリカで培った英語力を活かす事が出来た。

 

ただ…二人の学力はイマイチでとくに日本で学ぶ英語は向こうとは違うというギャップであまりいい成績や点数を残せていないとか

 

つづく!



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第19話 ドドンと達人

あかりの研修期間は続き、今度は麻友美と日菜子の仕事の見学に行く。

 

二人の仕事はゲームの全国大会のイベントの司会であかりは関係者席でプロデューサーの秋山拓也と共に座る。

 

全国大会が開催されて二人は楽屋でメイクしながら談話する。

 

「何か新人なのにこんな大きなイベント任されるなんてビックリだね」

 

「はい…。私はこのゲームをやり込んでいますからともかく…日菜子さんも呼ばれるなんて心強いです…」

 

「そっか。麻友美はこのゲームをやり込んでて去年まで全国出てたっけ。しかも今回はあのドドンと達人だよね」

 

「はい…。このゲームは子どもから大人まで楽しめる大衆向けのゲームです…。今回は小学生部門と中高生部門、そして一般部門とプロ部門にわかれています…」

 

「なるほど…年齢別ってわけだね。麻友美は今まで中高生部門に出てたんだ」

 

「性別については関係がなかったのでよく男子と競っては負けていました…。けど今回は…アイドルとして司会を務めさせていただきますから…期待に応えないと…!」

 

「そうかしこまらないの。麻友美がこのゲームが好きだって気持ちは伝わったからさ!うん、やっぱりコスプレしている麻友美は可愛いよ!」

 

「ありがとうございます…♪」

 

「渡辺さん!篠田さん!スタンバイお願いします!」

 

「はーい!それじゃあ行こう!」

 

「はい…!」

 

二人は法被を着てハチマキを絞めて気合いを入れ直す。

 

そしてスタンバイしてから歓声を浴びてステージに立った。

 

麻友美は緊張はしたもののコスプレイベントで歓声に慣れているので堂々としていた。

 

日菜子もいつもよりも観客が多い事に戸惑うも普段からライブをこなしているのである程度余裕があった。

 

「さぁ始まりました!ドドンと達人・全国大会~!」

 

「いえ~~~~~~~い!」

 

「皆さんお元気ですか…?私たちはSBY48の新人の渡辺麻友美と…」

 

「篠田日菜子です!今日はよろしくねー!」

 

「今日のルールを説明します…。今回は予選ごとにくじ引きから引かれた票に書いてある曲目と難易度でスコアを競い合います…」

 

「麻友美はこの全国大会の経験者でこの全国大会に出たかったんだっけ?」

 

「えっと…お恥ずかしながら東京予選で初戦敗退したんです…。でも私を破った方がこの大会に出るので…個人的に頑張ってほしいですね…」

 

「なるほど!それじゃあ早速開幕戦を行うよ!」

 

「ではくじを引きますね…。」

 

「ドコドコドコ…じゃん!おっと!これは…おにランクでスマイリング娘。の…LIVEマシーンだ!」

 

「おお~~~~~…!」

 

開幕戦は予選で高速連打が自慢の「いかりや」とテレビ出演もした達人の「セツナクモナイ」の戦いになる。

 

セツナクモナイはフルコンボをクールに決めるものの連打が苦手で連打以外の安定感もあるいかりやに負けた。

 

二人は堅い握手を交わして健闘を称え合った。

 

次第に予選を進めていき準決勝で先ほどのいかりやと、浪速のフルコンスタート言われているモン太、東京予選で麻友美を破ったつばクロー、そして前回王者のカカロットになった。

 

準決勝はいかりやが及ばずつばクローに、モン太のプレッシャーにカカロットがまさかの連続ミスで準決勝敗退となった。

 

「さぁここでエキシビジョンマッチ!ここからは私と麻友美が勝負します!」

 

「えっと…よろしくお願いします…!」

 

「そこにいるあかり!一応この子は全国大会経験者だからちょっと二人でやろう!」

 

「えっ…私?」

 

「お願い!本当にお願いっ!」

 

「わ、わかった。やってみる」

 

エキシビジョンマッチでは麻友美は安定したコンボ数でフルコンボ寸前までいく。

 

一方の飛び入り参加のあかりと司会の日菜子は麻友美のあまりの凄さに圧倒されて12分の1のスコアとなった。

 

決勝はモン太による番狂わせと麻友美を破った男のつばクローによるスコア争いになった。

 

最後の曲は…〆ドレー3000でおにランクになった。

 

そして…

 

「おおおおおおおおおおおっ!」

 

「うわ~っ…!」

 

「やったーっ!」

 

「何と優勝はつばクローだ!麻友美!あなたを破った人が優勝だよ!」

 

「すごい…私は全国王者に負けて誇りに思います…!」

 

「じゃあ早速インタビューしよう!つばクローさんおめでとう!」

 

「ありがとうございます!」

 

「あの…お久しぶりです…!」

 

「ああ、君はまゆっちだったね!アイドルになったのは本当だったんだ!」

 

「優勝の秘訣はやっぱり日々の練習ですか?」

 

「練習だけでなく譜面の研究や叩く時の理論など知る必要があるね。闇雲に練習だけしても身になるかはわからないからね」

 

「やっぱり王者の言葉は重みが違うなぁ…」

 

「つばクローさん…あなたに金メダルとトロフィーを差し上げます…!」

 

「ありがとうございます!」

 

こうしてドドンと達人の全国大会が終わり日菜子と麻友美は一息つく。

 

楽屋にあかりが訪れて日菜子は嬉しそうにあかりに抱きついた。

 

麻友美は差し入れで大好物のあんドーナツをあかりに渡し、無茶振りの飛び入り参加での労いの言葉をかける。

 

「あの…日菜子さんが無茶振りしてすみません…。これ…差し入れのあんドーナツです…」

 

「ありがとう」

 

「ごめんねいきなり振っちゃって。あかりにも見学だけでなく出番をって思ったら目が合っちゃって」

 

「いいの。出番を与えてくれてありがとう。おかげで二人の活躍を近くで見れたしよかった」

 

「やっぱりあかりはポジティブだね。その元気なオーラで私たちも元気になれるよ」

 

「私も…もっとそのポジティブシンキングを見習いたいです…」

 

「ううん、私もまだみんなと比べて未熟だから早くメンバーになれるように頑張るね!」

 

「応援してます…!」

 

「選抜メンバーで待ってるね!」

 

つづく!



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第20話 合宿

あかりは研修生活に大分慣れてきてデビューする日が近いかもと期待をしていた。

 

しかし同じ新人でありながら飛び級でメンバー入りした六人の仕事を見て自分はまだ伸びると思い個人レッスンにも力を入れる。

 

そんな中であかりはある出来事に遭遇する。

 

「えー…来週末から研修生たちは今後のレギュラーメンバー候補としてよりアイドルらしくなってもらうために日光で合宿をします。研修生は合計で十七人、私はプロデューサーとしてレギュラーメンバーをプロデュースしなければならないので同行は出来ない。だが私の妻が代わりに保護者として同行する。くれぐれも粗相のないようにね」

 

「はい!」

 

「レギュラーメンバーは引き続き東京に残ってそれぞれの仕事に打ち込んでほしい。それにもうすぐ夏のアイドルサマーライブの本番だからね。本番の日には研修生も見学に来るから手本になるようなライブにするんだよ」

 

「はい!」

 

「では報告は以上です。質問はありますか?」

 

「はい」

 

「大島さんどうぞ」

 

「もし研修生の中から急にレギュラー入りした場合はライブに合流できますか?」

 

「いい質問だけどそれはないと思った方がいいかな。ライブに向けて調整しているのにいきなり研修生上がりを入れたらその子が困惑してついて行けないからね。それが原因でアイドルをやめますってなっても僕としては申し訳なくなってしまうんだ。しかしだからって諦めるのはまだ早いと僕は思う。本当にいきなりレギュラーメンバー入りになるチャンスがあるという事だ。諦めずに自分なりのアイドル道を歩んで48人のレギュラーメンバー入りを果たせることを期待しているよ」

 

「はい!」

 

「では他に入るかな?…いないみたいだね。では各自仕事に励んでらっしゃい」

 

「ありがとうございました!」

 

あかりは新人で唯一の研修生なので日光の合宿の準備をする。

 

日菜子とひかりと麻里奈はあかりがいない事に少しだけ寂しそうにしていたが、結衣はあかりなら必ず這い上がってくると予想しているので気長に待つようにしている。

 

なお…エマは本当に上がって来れるのか疑っているのは秘密である。

 

麻友美はまさか自分がれびゅらーメンバー入りしたことが信じられずにいて今でも夢なんじゃないかと考え込むほど飛び級は珍しいことなのだ。

 

そして合宿当日になりあかりは日光に向かった。

 

あかりは同じ研修生の子たちとトランプの大富豪をやったが散々な結果で少し落ち込んでいた。

 

そして日光駅に着いて観光が始まる。

 

最初は日光東照宮で散策をして研修生同士で交流を深めたり集合写真を撮ったりする。

 

散策を終えると鬼怒川温泉に向かって宿に泊まり昼食を取ってからレッスンに励む。

 

あかりは同じ研修生の子たちと部屋である会話をする。

 

「前田さんだっけ?ちょっとガールズトークしない?」

 

「あ、はい。いいですよ」

 

「ああ、私たち一応先輩だけど同じ研修生だからそんなに遠慮して敬語使う事はないよ。ここは体育会系の軍隊アイドルじゃないからね」

 

「でも先輩である事には変わりはありませんのでやっぱり敬語かつさん付けで呼ばせてください」

 

「礼儀正しい子なのね。わかった、あなたの気持ちを尊重するね。それはさておき…気になるイケメン芸能人トークしましょう。せっかく芸能人になったんだから付き合いたいイケメン芸能人とのデートを妄想しましょう」

 

「あ、はい」

 

「まずは言い出しっぺの私からね。私はやっぱり風間俊介さんかなぁ。三十代なのにあんなにアイドル並みにイケメンでしかも優しくて紳士的な男性ってそういないと思うんだ。あの人と付き合ったら絶対幸せになれる気がする」

 

「わかる~。あの人って確か彼女いなかったっけ?」

 

「いても不思議じゃないよね~。あの人と付き合ったら趣味の野球観戦をして一緒に応援したいなぁ」

 

「わかる~。次は私ね。私はやっぱり…ゴリラ郷里さんかなぁ」

 

「あーあのボディビルをやってる俳優さん?あの人そんなにイケメンじゃなくない?」

 

「いや、この子は筋肉フェチだからどうしてもそっちの方に行くんだよ」

 

「あのムキムキの筋肉に抱かれたら私なら絶対オトされちゃうなぁ…。しかもあの上腕三頭筋と大胸筋…新人の大島結衣さんならわかってくれると思うの」

 

「あなたもこれを機にジムに通ったら?って…研修生だったらそんな暇ないよね…」

 

「絶対レギュラーメンバーになってジムに通えるほどの余裕を持ったアイドルになりたい!次はあなたよ」

 

「私は…やっぱり百合っ気だから最近デビューしたアルコバレーノの桃井さくらちゃんかなぁ。あの子絶対可愛いし守ってあげたくなっちゃう。それに妹みたいで可愛いし」

 

「それわかる気がする。なんか放っておけない感じするよね」

 

「えーっと…」

 

あかりは先輩研修生アイドルたちの恋バナ…というより好みのタイプを語るトークについていけず困惑する。

 

そもそもあかりは今まで異性の経験がなく、恋もしたことがないのでどんなタイプなのかと言われてもわからないのである。

 

先輩たちのトークにタジタジになったあかりは早く温泉に入ろうと抜け出そうとしたが…

 

「ちょっと前田さん。一人だけこっそり抜けだろうだなんてダメよ?」

 

「そうだよ。って誘った私が言うのもなんだけどこれもひとつの交流なんだから逃げちゃダメ」

 

「ええ…私好みのタイプなんてないからわからなくて…」

 

「まぁ今はわからなくても芸能界を続けていればきっとタイプは見つかると思うわ。とりあえずどういう異性と付き合いたいの?」

 

「うーん…やっぱり私は…今は考えたことがないですし、アイドルは恋愛禁止のはずだから…もう少しだけ考えさせてください」

 

「あれ?知らないの?今は西暦時代と違ってアイドルも恋愛OKだしプロフィールに好きな人ありってあらかじめ言えば逆に応援してくれるファンも多くいるんだよ?」

 

「そうなんですか!?」

 

「まぁ前田さんは今まで芸能界と縁がなく素人だから知らないのも無理はないか。それで…続きを話して?」

 

「うーんと…やっぱり私は…私のことを全力で応援してくれて辛い時に支えてくれる男の人がいいかなぁって思います」

 

「真面目な前田さんらしいね」

 

「けどそれが逆にマドンナって言われるコツなのかも」

 

「ありがとう前田さん。おかげであなたのことが知れたわ。それじゃあみんなで鬼怒川温泉を満喫しましょう」

 

「はい!」

 

こうして恋バナを終えたあかりは先輩研修生たちと温泉を堪能し、美容効果のあるサウナにも入り疲れをリフレッシュする。

 

レッスンこそ厳しかったけど充実感があり本当にアイドルになれたんだと実感する。

 

一泊二日の日光の合宿を終えてあかりたちは東京へ帰り研修生としてハングリー精神を持ってレギュラーメンバー入りを目指すのでした。

 

つづく!



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第21話 アイドルサマーライブ

あかりたち研修生はライブに出られないけれど新人レギュラーメンバーの晴れ舞台であるアイドルサマーライブを見学する。

 

結衣、日菜子、麻友美、ひかり、麻里奈、エマは新人として初出場で加奈子がある程度の説明をする。

 

さいたまスーパーアリーナに着いたあかりたち研修生は関係者席で座り開演を待つ。

 

「何か自分のことのように緊張してきました…」

 

「確かに自分たちより上の子たちが出るとはいえ同じチームだものね」

 

「それに秋山プロデューサーは日本各地だけでなく海外にもプロデュースしているんでしょう?その中から大阪・梅田のUMD48や愛知・豊田のTYT48、最近は瀬戸内海地域のSTN48や東北地方のTHK48、福岡の小倉のKKR48もいるよね」

 

「唯一外国人限定のWRD48はスケジュールの都合上で来れないけど秋山プロデューサーがいかに名プロデューサーか伺えるね」

 

「早く私たちも研修生から脱却しないと…」

 

「3年間研修生のままならクビだものね…」

 

「えっ…そうなんですか…?」

 

「さすがにそこまでコストかけてまで育成してられないでしょ。プロデューサーだって人間だし限界があるもん」

 

「私たちはこれで3年目…飛び級で抜かされたのは実力がないから仕方ない事だよ。でもだからって嫉妬して落ちぶれる暇があったら自分で這い上がるしかないでしょ?」

 

「確かに…そうですよね」

 

「だからあなたのような新人には私たちみたいにいつまでも上がれないなんて境遇になってほしくない。でもレギュラーメンバー入りを諦めたわけじゃない。同じ仲間でありライバルだから先輩も後輩も関係ない。それが研修生全員の気持ち」

 

「心配しないで。あなたが上がったところで陰口叩いたり炎上狙ったりすることはグループのルールで禁止されてるし、万が一やってしまったら即クビだから。それに私たちはそこまで悪い人じゃないよ」

 

「ありがとうございます。私ももっと頑張ります」

 

「あっ!暗転したって事は…」

 

「始まるよ…前田さんもよーく見ててね」

 

「はい!」

 

アイドルサマーライブが開演されて出場アイドルたちがモニターで紹介されファンは大盛り上がりを見せる。

 

たくさんの色のサイリウムが不規則に美しく光りいろんなファンが来ているんだとあかりは実感した。

 

いずれは私もこのステージに立ちたい、そう思わずにいられないのは研修生の先輩たちだ。

 

あかりはこの様な先輩たちとレギュラーメンバーを争わなくてはならないのだ。

 

そして…

 

「みんなー!盛り上がっていくよー!」

 

最初のトップバッターはスマイリング娘。で今年からリーダーになった吉原かえでがセンターになり低迷期を迎えているグループの火付け役になった。

 

リーダーシップがありながらも心配性な彼女は舞台裏では緊張のあまりにまとめ役の川島清美に喝を入れてもらうという情報が日菜子から聞いたあかりは、かつての王者のリーダーでも緊張するんだ…とステージの大きさを痛感する。

 

LIVEマシーンは新暦の1990年代末にアイドル暗黒期から一大ブームを呼びよせアイドル戦国時代の先駆者となった曲で会場は大盛り上がりだった。

 

続いて48グループ最大のライバルである坂道グループで秋山プロデューサーの従兄弟がプロデュースしている東京の神楽坂46や京都の三年坂46が出て48グループとは違った魅力を見せられる。

 

次についに48グループによるメドレーの番がやってきた。

 

「あっ、48グループが出たよ!」

 

「やっぱり加奈子がセンターかぁ」

 

「48グループ全てのセンターだからやっぱりオーラが違うなぁ」

 

「でも…いずれは追い抜いてみせます…!」

 

「みんなー!今日は新人の子たちを紹介するよー!」

 

「結衣はいつでもー?」

 

「ストイックー!」

 

「大島結衣です!この時のためにトレーニングを積んできました!よろしくお願いします!」

 

「よっ!元気?」

 

「めっちゃ元気ー!」

 

「日菜子を見たらー?」

 

「超元気ー!」

 

「みんなの幼なじみの篠田日菜子です!今日はリアル幼なじみが作った新曲をみんなで歌います!」

 

「あの…えっと…その…キラッ☆」

 

「天使まゆっち俺の嫁ー!」

 

「渡辺麻友美…です…。その…頑張ります!」

 

「刻め!オレのダンスは?」

 

「ひかりのごとくー!」

 

「高橋ひかりだぜ!オレのダンスでみんなも熱くなってくれよ!」

 

「私の花道は…ここよ!」

 

「ここが麻里奈ロード!」

 

「板野麻里奈でーす!今日のみんなはやっぱりノリがいいね!アタシも負けてられないぞ!」

 

「ハーイ!今日のギターソロは誰かなー?」

 

「ずっとエマのターン!」

 

「イギリスから来ました柏木エマデース!疲れてるのに来てくれthank you!」

 

「それで加奈子先輩のコール&レスポンスは?」

 

「私はね…今日は誰が盛り上げるかな?」

 

「加奈子かなーん!」

 

「という感じだよ」

 

「いいですねそれ」

 

「ちょっとシンプルな気がしマース」

 

「ちょっとエマさん…」

 

「ふふっ、相変わらずエマは毒舌だね。とにかく今日はSBY48だけでなくいろんな系列のグループも後から続くので楽しんでください!」

 

こうしてあかりたちは実力者揃いのSBY48のレギュラーグループのパフォーマンスを目にして自分ももっと頑張らないとと奮起する。

 

そんな中で続々と系列グループも後から続いてあかりたち研修生はプロの実力を思い知ると同時に自分たちもいつかは…と夢を見るようになる。

 

ところが…

 

「茶山くるみです…。今日はよろしくお願います…」

 

「くるみちゃーん!」

 

「きゃー!カワイイー!」

 

「無口でミステリアスなところが逆にそそるわー!」

 

「何これ…?」

 

「あれは天才アイドルの茶山くるみだよ」

 

「あの子は歴代のエースたちや今のメンバーが束になっても敵わないと言われている天才アイドル…」

 

「あの子がステージに立つとどんなアイドルよりも輝いてみせるの。全てのアイドルの個性やパフォーマンスをまるで把握しているかのような子なのよ」

 

「それがソロアイドルってものだから私たちからすれば真の実力者なんだ。茶山くるみは最近事務所を移籍したって聞いたけど…」

 

「すごい…私たちはこんなすごい子たちと一緒のステージに建てるときが来るかもしれないんだ…!」

 

「前田さん…?」

 

「こうしちゃいられないや!帰ったらすぐにレッスンします!」

 

「そう…だったら私たちも同じだよ!後輩が燃えているのに先輩がやる気失っちゃあいけないでしょ!」

 

「よーし!目指せレギュラーメンバー入りだ!」

 

「おー!」

 

こうしてアイドルサマーライブの見学会はやる気を上げて今後も頑張ろうと励むなどいい刺激になったあかりたちは帰った後に劇場に残って居残りレッスンをする。

 

レッスン場所はあかりが連絡していたスタジオが実家の同級生のところで泊まり込みをしてみんなで出来ないところを指摘し合った。

 

アイドルとして刺激を与えてもらったプロたちはすべからく努力をしているし、自分の個性や武器をもっと知ろうと日々研究を重ねている。

 

才能だけでやろうとするといずれは限界が訪れ時代と共に消えていく残酷なこの世界。

 

努力したからといって必ず実ったり報われるわけではない、そんなことは自分たちが一番分かっている。

 

それでも努力をやめない理由は…人気者はどんな形であれ誰もが違う努力をしているからではないであろうか…?

 

つづく!



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第22話 運動会・前編

9月に入って残暑が続くものの秋に入ろうとするこの時期は運動会がやっている。

 

学校も運動会シーズンに入り、秋山拓也プロデュースのアイドルグループ系列はみんな国立競技場に集まる。

 

そう…ついに秋山P系列グループ対抗アイドル運動会が行われるのだ。

 

「お待たせいたしました!秋山P系列グループ対抗アイドル運動会を開会します!選手…入場!」

 

「ついに来たんだね…テレビでよくやってたアレ」

 

「今回はうちから何人か違う仕事でどうしても外せないってなっていないから代わりに研修生から何人か代理で入る事になったんだよね」

 

「それがやっと…」

 

「はい…あかりさんが選ばれるなんて…」

 

「みんな…お待たせ」

 

「本当に待ってたんだから頑張ってネ」

 

「相変わらずエマは厳しいなぁ」

 

「とにかくSBY48が最強だってところを見せましょう」

 

「運動は苦手ですが…頑張ります…」

 

「あー麻友美は運動音痴なんだっけ?」

 

「うう…言わないでください…」

 

「さぁ入場するよ。ちゃんと足踏み揃えてね」

 

「はい!」

 

「前回優勝チーム、SBY48」

 

「秋山加奈子ちゃんがそれぞれの得意分野を研究しそれが発揮されて前回は優勝しましたねぇ。今回は新人が一気に7人と増え期待が出来ます」

 

「前回準優勝チーム、UMD48」

 

「白石美帆率いる大阪の超大手ローカルアイドルで全体的にバランスのいいチームとなっています」

 

「TYT48。THK48。KKR48。STN48。そして特別出場、WRD48。」

 

「WRD48は世界中のアイドルを集めた秋山Pプロデュースのアイドルグループでアジアだけでなくヨーロッパやアフリカ、アメリカ大陸など多くの外国人アイドルが在籍しています。運動能力は未知数なので期待ですね」

 

「選手宣誓。SBY48、秋山加奈子」

 

「宣誓。私たちアイドル一同は…スポーツマンシップに則り…正々堂々と戦い…そしてファンの期待に応えられるよう…精一杯頑張る事を誓います。SBY48キャプテン、秋山加奈子」

 

運動会の開会式を終えると競技についての説明会が行われ、一人一種目のみの出場となる。

 

最初は100m走の徒競走で全員参加で麻友美は少し憂鬱な気持ちになっていた。

 

そんな中で自信満々だったのは日菜子とひかり、そしてエマだった。

 

「よーし、今日はアイツも見てるし頑張るぞ!」

 

「オレだってバスケで鍛えた足を見せてやる!」

 

「エマも負けまセーン!」

 

「皆さん凄い気迫ですね…」

 

「あの子たちは運動が得意な反面、勉強が壊滅的なのよ。だから私と麻友美が勉強の面倒を見ているの」

 

「そうなんだ。私も勉強自信ないからなぁ」

 

「でもあかりはそれなりの学力あるじゃない。運動はテニスをやってたのよね?」

 

「うん。だから少しだけ走るのには自信あるよ」

 

「それじゃあ期待できるわね。一緒に優勝目指して頑張りましょう」

 

「うん!」

 

「On your mark…set…」

 

ピストルの音が鳴り続々とアイドルたちが100mを駆け抜ける。

 

日菜子は第一レースで既にぶっちぎりで、ひかりやエマもバスケやラグビーで鍛えた足の速さでダントツ1位になる。

 

結衣もジムでトレーニングを重ねてきて1位を取り、あかりもテニスで鍛えた脚力を見せつけて1位を取る。

 

加奈子はWRD48のアメリカ出身で黒人のケイティ・ジャクソンに差をつけられ2位に終わるもいい記録を叩き出す。

 

しかし麻里奈は途中で足をつってしまい4位に転落、さらに麻友美は全アイドルで断トツの最下位で運動が苦手なのがみんなに知れ渡ってしまう。

 

次の競技は綱引きで結衣とひかりが出場する。

 

「じゃあ行ってくるぜ!」

 

「うん!力自慢のひかりならいけるよ!」

 

「あら、私も忘れてもらったら困るわよ」

 

「結衣はもう説明不要デース」

 

「そうだね。結衣は腕相撲大会で優勝するほどのパワーだもんね」

 

「結衣ちゃん、ひかりちゃん…頑張ってね!」

 

「ええ」

 

「On your mark…」

 

ピストルが鳴り綱引きが始まるとWRD48でロシア出身のアナスタシア・ウラジーミルが圧倒的なパワーを見せつける。

 

あんな見た目が華奢なのにどこからそんなパワーが…と思うは結衣。

 

絶対に負けたくねぇと対抗心燃やすのはひかりだった。

 

SBY48はUMD48を圧倒し、次のシード上がりのSTN48にも完全勝利を収める。

 

WRD48はTHK48を寄せ付けないも…まさかのチームワークで息の合った引きでKKR48がWRD48を無敗で倒した。

 

そしてついに綱引きの決勝戦が行われた。

 

「おーえす!おーえす!」

 

「おーっと!SBY48が力自慢の結衣ちゃんとひかりちゃんを持ってしてもKKR48のチームワークと作戦に翻弄されている!これは番狂わせか!?」

 

「クソッ!めっちゃ強ぇ!」

 

「まさか…この日のために綱引きだけでも強化してきたの…?」

 

「あーっと!SBY48も歯が立たずここで敗退だ!綱引き優勝はKKR48です!」

 

「やったー!」

 

「やっぱりタイミングピッタリだと強く引っ張れるね!」

 

「完全勝利!」

 

「強いわね、KKR48さん。私たちの完敗です」

 

「あなたたちも強かったよ!」

 

固い握手を交わす両チームは会場中に温かい拍手に包まれる。

 

次の玉入れは麻友美が出る事になり麻友美は自分が最もマシに出来る競技でホッとしていた。

 

麻友美は精一杯玉を籠に投げ入れるものの混沌とした玉にちょいちょい頭を当てられて慌てたりもする。

 

麻友美はいつもの集中力で確実に多く入れていくも…SBY48はまさかの再会で終わってしまった。

 

玉入れの優勝はUMD48で徒競走の時みたいに圧倒する事が出来なかった。

 

「申し訳ありません…」

 

「麻友美だけじゃあやっぱり勝てないデスネ」

 

「みんな我こそはで入れる事を重視しなかったよね」

 

「SBY48はトップとしての誇りがどうしても強いからね。私も統率するのにかなり時間がかかったもん」

 

「あの加奈子先輩が苦労するとは…」

 

「マジかー…あの加奈子先輩がねぇ…」

 

「次の競技は…ドッジボール大会だね」

 

「あかり、後はお願いね」

 

「うん、頑張るよ」

 

あかりはレギュラーメンバーと初共演で緊張するもののドッジボールではテニスで鍛えた運動能力で何人もアウトにするほどの投球力を見せつけ、先輩たちからはこの子は本当に研修生なのかと疑いをかけ始める。

 

決勝までには進めなかったけれどあかりは秋山Pだけでなくグループにもいい宣伝になった。

 

決勝はTHK48がUMD48に勝利し優勝を収めた。

 

そして昼食の時間になる。

 

昼食は屋台のみでフランクフルトや焼きそば、じゃがバターにお好み焼きなど縁日で食べられるような食べ物でみんなのお腹は満たされた。

 

応援合戦ではアイドルらしいグループでのライブになり会場のボルテージはマックスで後半戦も盛り上がるのでした。

 

つづく!



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第23話 運動会・後編

運動会も午後の部に入り応援合戦で盛り上がると次の競技に移る。

 

次の競技は借り物競争で加奈子と麻里奈が出場する。

 

二人が入場門に到着すると借りものがかかれた札が置かれスタートの準備をする。

 

スタートは一斉に行われどの札かは早いもの勝ちである。

 

そして…

 

「On your mark…set…」

 

ピストルが鳴り大勢のアイドルたちが一斉にスタートする。

 

加奈子はそれなりに速いペースで借り物札に到着するものの、パフォーマンスをついしてしまう麻里奈はファンの歓声に応えてしまい少しだけスタートダッシュに出遅れた。

 

「やっべ!出遅れちゃった!」

 

「麻里奈!そこ重要なのに!」

 

「何やってるんデスかもう!」

 

「まぁあの子らしいわね…」

 

「私の借り物は…誰か横浜ハムスターズのホシハムくんのぬいぐるみを持っている方はいませんかー?」

 

「アタシは…あー最後かぁ。えーっと…これか!誰かダンベルを持ってる方はいませんかー?」

 

「ダンベル…?そういえばここにはトレーニングルームがあったはずだけどどうかな?」

 

「それだ!ナイスあかり!ありがとう!」

 

「ホシハムくんのぬいぐるみを誰か持っていますかー!?っていないじゃーん!こうなったら…今は神宮球場で横浜ハムスターズと東京神宮スワローズが試合しているから本物を連れていくしかないか!」

 

「加奈子先輩どこに行くんだろう…?」

 

「あっちは神宮球場だぜ?」

 

「まさか…私見てくるよ!多分本物のホシハムくんを連れていくつもりだ!」

 

日菜子の勘は当たり加奈子は神宮球場まで足を運び関係者入り口から係員に理由を話し本物のホシハムくんを連れていくことに成功した。

 

しかし交渉が難航した上に試合中だったためかスークアクターの人は休憩中で着ぐるみごと加奈子は着てゴールまで持っていった。

 

秋山プロデューサーは後で横浜ハムスターズ運営に謝罪しようと頭を抱えて溜息をついた。

 

一方の麻里奈は一番軽いダンベルを片手に持ってそのままゴールし1位になる。

 

加奈子は17位と残念な結果になった上に後で一人で返しに行くなど後処理をきちんと済ませた。

 

次の競技は…

 

「続いての競技は棒引きです!つい最近ですが神奈川県立柿生総合高校の体育祭で棒引きの際、4組中3組が蹴る殴るなどのラフプレーでけが人続出しています。皆さんはアイドルですのでラフプレーはやめてください」

 

「じゃあ行ってくるね!」

 

「ラガーマン魂で突っ込みマース!」

 

「でもタックルはやめてくださいね…?」

 

「ノンプロブレム!エマはそこまでラグビーを持ち込みまセーン!ひかりならタックルしそうデスが」

 

「何だとー!?」

 

「まぁまぁひかりちゃん。エマちゃんは冗談で言ってるんだよ?」

 

「コイツいつもオレに毒を吐くんだぞ!ちくしょー!」

 

「あはは…とりあえず行ってくる!」

 

こうして棒引きが行われ全グループが入場する。

 

最初の相手はKKR48で北九州市の小倉地域を中心とした九州のローカルアイドルグループでよかと魂を持つパワフルなグループだ。

 

そんなKKR48を日菜子の反射神経とエマの観戦でラグビーの動きを取り入れたスピードで勝利を掴む。

 

次はSTN48で瀬戸内海地域である広島と岡山、香川と愛媛を中心としたうずしお魂を持つグループで温厚だけどやる気になるとホットになる子が多かった。

 

それでも勝利に執着し完全勝利したが決勝で愛知県豊田市を中心とした自動車系ローカルアイドルグループのTYT48にスピード戦で負けてしまい準優勝となった。

 

そして最後のあの競技が行われる。

 

「さぁ皆さんお待たせいたしました!この運動会最後の競技で華のグループ対抗リレーです!全員参加でお願いします!」

 

「まずは誰が先頭とアンカーになるかだね」

 

「となると最後に麻友美に走ってもらおう」

 

「それは何でなの?」

 

「先手必勝戦法で圧倒的リードのままアンカーに渡して差を縮められても1位でゴールすればいいかなって思ってる」

 

「そうだね。日菜子の言う通りかもしれないね」

 

「加奈子先輩まで…」

 

「異論はねぇぞ」

 

「エマも賛成デース」

 

「私もそれがいいかなって思う」

 

「じゃあ決まりね」

 

「アンカーが務まるかわかりませんが…頑張ります…!」

 

「オーダーが決まったチームからコールしてくださーい!」

 

「SBY48決まりました!」

 

「これで全チーム揃いました!」

 

「OK!じゃあそれぞれレーンに着いて!」

 

「On your mark…set…」

 

ピストルが鳴り先頭を走るひかりは本当に光のごとくのスピードで周りを圧倒し差をつけていった。

 

全員で48人いるので二走者からはインコースを走ってもよくなりみんな第一レーンを走る。

 

七走者目のあかりはテニスで走り込んだ脚力を見せつけるもWRD48のケイティ・ジャクソンにあっさり抜かれて差をつけられてしまう。

 

それでも十三走者目の結衣、十七走者目の日菜子、二十一走者目の麻里奈がトップに詰め寄る。

 

二十四走者目のエマ、三十一走者目の加奈子がトップに追いつきアンカーの一つ前の子に後を託す。

 

「渡辺さん!トップじゃなくてごめんなさい!後はあなたはただ全力で走りきって!」

 

「わかりました…!」

 

「あーっと渡辺麻友美ちゃんの走りはまるでフォームは綺麗なのに全然前に進まないぞ!まるで腿上げ運動のようだ!これは一気にトップのUMD48がまた差をつける!続々と他のグループも追い上げそして追い抜いた!SBY48まさかの最下位転落!前回優勝グループがこれで沈みました!沈黙のアイドル運動会!さぁトップはやはりUMD48の白石美穂ちゃんが決めたようだ!他も続々とゴールイン!渡辺麻友美ちゃんは…十秒遅れでゴールしました!」

 

「うう…すみません…!私のせいで…最下位に…!」

 

「麻友美、あなたはあなたなりに全力を出し切った。誰もあなたを責める資格なんてないわ」

 

「結衣の言う通りデース。トップになれなかったエマたちにも責任はありマース」

 

「オレがもう少しスタートダッシュを決めていればよかったかな」

 

「ひかりのスタートダッシュは完璧だったよ。先輩が言うんだから心配しないで」

 

「泣いても笑ってもこれが最後だから辛気臭い空気にするより、閉会式でパーッといこうよ!」

 

「麻里奈さん…ありがとう…ございます…」

 

「ただいまより、閉会式を行います。まず順位発表です。1位と7位以外は一斉には票します」

 

6位・THK48

 

5位・TYT48

 

4位・STN48

 

3位・KKR48

 

2位・WRD48

 

「では1位の発表です。1位は…UMD48です」

 

「やったー!」

 

「負けちゃった…でもすごく楽しかったよ。みんなのおかげでレギュラーメンバーと交流出来たからよかったよ」

 

「あかり…あなたは本当に優しいね!」

 

「ったく、コイツは最後の最後で美味しいセリフ持っていきやがって!絶対にレギュラーメンバーに上がってこいよ!」

 

「あかりさんのご健闘を…祈っています…」

 

「アタシたちもポジティブにいこう!あかりに負けないぞ!」

 

「エマももっと成長してあかりを驚かせたいデース!」

 

「せっかく同じ騎士になったんだから脱落なんてしないでね?」

 

「私は引退するまであなたを待ってるから、それまでたくさん芸能界を経験しておいで」

 

「はい!貴重な体験をありがとうござました!」

 

「この子が前田あかり…」

 

「秋山プロデューサーがお気に入りの…」

 

「けど可愛げがある子ね…」

 

「それに何かオーラを感じる…」

 

「私たちも頑張ろう…」

 

運動会は最下位になってしまったけどあかりは最後まで運動会を楽しみそしてレギュラーメンバーのみんなと交流出来たことを喜びに思う。

 

アイドルとしての第一歩を踏み出しこの事はいい経験にもなっただろう。

 

しかし騎士としての使命も忘れておらず、いつ敵が襲ってもいいようにみんなでまた集まって戦いの稽古を積むのでした。

 

つづく!



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第24話 テスト勉強

秋山P系列アイドル運動会を終えた彼女たちはそれぞれの学校でテストを行う。

 

麻友美と結衣は成績がよくテストも満点を取るなど好成績を残す。

 

あかりと加奈子もそれなりに高い点数を誇り調子は上々と思われた。

 

ところが…

 

「だぁーもう!何でテストなんかやんなきゃいけねーんだよ!」

 

「うわ…アタシってホントバカだわ…!」

 

「Oh my god…!」

 

「うう…アイツに勉強教わったのにどうして…!」

 

「あなたたち…アイドルとして成績が悪いと活動休止だってあれほど言われてたでしょう?」

 

「そんなのわかってるもん…!」

 

「でも苦手なものは苦手なんだよ…!」

 

「日菜子と麻里奈はともかく、何で英語圏にいたひかりとエマは英語の点数が赤点なのよ…」

 

「仕方ねぇだろ!アメリカの英語と日本で学ぶ英語は全然違ぇもん!」

 

「イギリスにはこんな英語の並べ方しまセーン!日本の英語は日本式のビジネスなら通じマスが本場では通じまセーン!」

 

「まぁまぁ結衣。それよりもこの子たちの苦手教科を見てから追試に控えて勉強しましょう」

 

「とは言っても先輩…この子たちの全教科を見てください…」

 

「どれどれ…?」

 

加奈子は興味本位で4人のテストの点数を覗いてみる。

 

日菜子とエマは音楽、ひかりは体育、麻里奈は家庭科がそれなりの点数だったがそれ以外の点数が赤点だらけで加奈子は途中から頭を抱え始める。

 

とくに日菜子と麻里奈、ひかりの3人は赤点どころか一桁の点数とあまりの壊滅的な学力にため息がつくほどだった。

 

あかりと麻友美もさすがに困惑してしまい結衣はついにあの手段を使う。

 

「こうなったら仕方ないわね…私たち全員でプロデューサーに交渉して追試終了まで仕事をなしにして勉強会をするわよ」

 

「えっ?私たちも?」

 

「ですがプロデューサーは許可しないんじゃあ…?」

 

「まぁ…パパもこの成績を見たらさすがに賛成すると思う。とりあえずみんなはまだ新人だから言いづらいだろうし私が説得してみるよ」

 

「ぜひお願いします」

 

「うう…申し訳ありません…!」

 

「これはミューズナイツとして活動しないとドリームパワーを集められないんだからあなたたちにはキッチリ追試を乗り越えてもらうわよ」

 

「ひっ…!Daemon teacher…!」

 

「鬼教官がここにいるー!」

 

加奈子が秋山Pに交渉した結果はテストの成績を言った直後にため息が大きく聞こえるくらい呆れ果てて仕事を犠牲に勉強会合宿が許可される。

 

条件として集合場所は秋山親子の家になりみんなは私服で加奈子たちの家に向かう。

 

そこには大きな豪邸の家が建てられ一同は上を見上げる。

 

「パねぇ…これが世界一のアイドルプロデューサーの家なんだ…!」

 

「数々の世界中のアイドルをプロデュースしたからこんなに大きいんだね…!」

 

「見惚れるのはいいけど中に入るよ。私の部屋に全員で勉強するんだから」

 

「お世話になります…!」

 

「それにしても加奈子先輩って…お嬢さまだったんですね…」

 

「けど麻友美の家も確かコスプレでかなり儲かってなかったっけ?」

 

「私はあくまでもアマチュアだから…収入はプロと比べるとそこまでですね…。イラストでも有償依頼は来ますけど…プロと比べたら高額ではないですね…」

 

「そう言えばあかりの家もお金持ちじゃなかった?渋谷芸術学校ってセレブな学校って聞いたけど?」

 

「音楽や美術、文芸をやる場合はやっぱりお金がどうしても必要だからそう感じるんだと思うよ。それに私は中学受験組だから初等部からの進学組と比べるとそこまでじゃないかも」

 

「私が通う山手芸能学校もセレブというよりタレント二世が多いからセレブっぽく感じるだけで一般家庭出身や現役芸能人も多くいるからそう感じるだけだよ。私でさえ主席は取れなかったんだからね。さぁ着いたわ、ここが私の部屋だよ」

 

「完全に客が来る前提じゃん…!」

 

「マイルームなのに大きいデース…!」

 

「ここでよくクラスメイトたちとお泊り会をやったり自主レッスンしたりしてるから広くないとダメなんだ。それにこれ以上広いとやっぱり一人だと寂しいかな」

 

「そうなんですね。じゃあ早速…赤点4人組の勉強会を始めます。わからないところがあったらすぐに聞くようにね」

 

「はい!」

 

勉強会が始まり結衣と麻友美を中心に4人を教える事になる。

 

あかりと加奈子は2人ほどではないので補佐的役割だがわかりやすく説明するのが上手かったためスムーズ…かと思われた。

 

ひかりと麻里奈はすぐに飽きてしまい、日菜子は彼氏である幼なじみとすぐに通話し、エマは寝込んでしまった。

 

結衣はさすがに頭を抱えて溜息をつく。

 

「なるほどね…あなたたちの芸能界への思いはその程度だとわかったわ…」

 

「結衣さん…?」

 

「日菜子、あまりにもそのやる気がない状態のまま追試で不合格なら彼氏と別れなさい」

 

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!やりますごめんなさい!」

 

「ひかり、あなたの場合はフリフリのロリータ服を着て卒業までそれを私服にしなさい」

 

「それだけは勘弁してくれえぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

「麻里奈はそうね…食事は私が管理する代わりにダイエット禁止にする?」

 

「モデルにそれは理不尽だああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

「エマはいつでもイギリスに強制送還できるように準備するからね?」

 

「Noooooooooooooo!」

 

「それが嫌なら勉強頑張りましょうね?」

 

「鬼!悪魔!勉強大魔王ー!」

 

「あはは…。結衣ちゃんって厳しいところあるんだね…」

 

「結衣は普段は他人に厳しくないけど、みんなで活動したいから最終手段に出ただけだと思うよ。それに…私が引いたとはいえリーダーの責任というのもあるんじゃないかな」

 

「やっぱり結衣さんは凄いですね…。私も…もっと皆さんにわかりやすいように教えてみます…」

 

勉強会合宿の結果は追試当日まで泊まり込んだ甲斐があって全員赤点脱出するものの点数がギリギリで秋山Pから合格点をもらう。

 

あまりにも疲れ果てた結衣は3日間のオフをもらう代わりに1か月間だけ赤点組の給料の3割をもらう約束をする。

 

あかりと麻友美、加奈子は赤点組の給料の1割をもらい、今後4人は給料カットは嫌なのでもっと勉強をしっかりやって仕事に専念できるようになろうと誓い合うのでした。

 

つづく!



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第3章
第25話 ツインエンジェル


運動会で知名度を上げたのがきっかけであかりもついにソロの仕事が入るようになる。

 

今となっては研修生としてだけでなく一人前のアイドルとして現場に出れるようになりあかりはプロとしての自覚を持つようになった。

 

そんな中であかりはとくに麻友美と仲が良くなりアニメの話題で会話するようになる。

 

とはいってもあかりはアニメ自体に詳しいわけではなく麻友美がおススメのアニメを紹介してあかりはそれを見るという形になる。

 

そしてついに仲のいい二人に訪れたチャンスは…

 

「魔法少女ツインエンジェル?」

 

「うん。これは特撮になるけれどタイプの違う二人の魔法少女が突然攻めて来た悪の組織と戦う子ども向けのものだよ。そのメインキャストに君たちが選ばれたんだ。まずは清純派だけど明るくて好奇心旺盛の子を前田さん。おとなしくてクール美人だけど少しだけ頑固な子を渡辺さんが演じるんだ。よかったら最近仲がいい君たちがオーディションに出てみないかい?」

 

「その企画…やらせてください!麻友美ちゃんは?」

 

「えっと…こんなチャンス二度とないですので…受けさせてもらいます…!」

 

「わかった。それじゃあ君たちの書類選考は僕が書くよ」

 

「ありがとうございます!」

 

魔法少女ツインエンジェルという新しい特撮番組が企画されアニメなどに詳しい麻友美とそれについて行こうとするあかりの仲良し二人組が選ばれオーディションに参加する。

 

そして書類選考が通り実践オーディションに参加するともう既にキャラが出来上がっていて監督も驚くほどのクオリティで一発合格をする。

 

メインキャストに選ばれたあかりと麻友美は嬉しさのあまりに抱き合った。

 

あかりは明るくて好奇心旺盛の清純派の守村明音。

 

麻友美はクールで頑固な美人の向井清美を演じる。

 

撮影当日になりワイヤーなどのメンテナンスやスーツアクターの動きの確認などをしてリハーサルに入る。

 

「それじゃあ二人とも、今日はよろしくね!」

 

「よろしくお願いします!」

 

「まずは学校で二人がすれ違いながらもお互いを気にかけるところから!ではよーい…アクション!」

 

「でね!彼氏がさー!」

 

「うんうん!そうなんだー!明音は恋人は?」

 

「そんなのいないよー!」

 

「会長!今回の書類なんですが…」

 

「ええ、これね。この件は私が何とかするわ」

 

「はいOKでーす!二人とも仲良しなのか気が合ってるね!次はそのシーンのアフレコといこうか!」

 

「あの子…美人だし何でも出来て凄いなぁ…」

 

「あの子…可愛いし友達多くて羨ましいわ…」

 

「あの子に声をかけて仲良くなりたい…!」

 

「はいOKでーす!いったん休憩!次は変身シーンからアクションシーンね!」

 

「はい!」

 

「麻友美ちゃん、その間は台本の確認しようよ」

 

「そうですね…」

 

「麻友美ちゃん大丈夫?緊張しやすいから少し心配だよ」

 

「大丈夫です…。このくらいでダメになったら…ファンの人に顔向けできませんから…」

 

「やっぱり麻友美ちゃんはプロ根性があるんだね。私も見習わなきゃ」

 

「私なんて…見習われるほどのものじゃないですよ…?」

 

「そんな事ないと思うよ。現に私は麻友美ちゃんと仲良くなってからアイドルとして成長出来たし、こんな現場で仕事出来ているから凄く貴重だと思ってる。麻友美ちゃんにもアイドルのオーラがあるんだよ?」

 

「私にもですか…?」

 

「うん。麻友美ちゃんはどこか見守ってあげたい雰囲気があって、たまに見せる笑顔が可愛いもん。とくに好きな事になると目をキラキラさせてるの、凄く輝いてるって感じがする」

 

「そんな…ありがとうございます…///」

 

~撮影場所の品川学園前~

 

「かったるいな…さっさとドリームパワーを奪って皇帝陛下に捧げないと…。でも面倒くせぇ…。それに…人間共がキラキラさせてるのムカつくな…。せっかくだから試してみるか…。ダークネスパワーよ…くだらない幻想を捨て、この世界を未来なき世界に変えよ!」

 

「うっ…!うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

~品川学園校内~

 

「大変です監督!大勢の人々が突然意識を失い檻の中に閉じ込められてます!」

 

「何だって…!?」

 

「このまま撮影を続けたら我々も巻き込まれてしまいますが…!」

 

「やむを得ない…全員遠いところへ避難しよう!」

 

「これってまさか…!」

 

「アクムーン帝国ですね…!行きましょう…!」

 

「うん!」

 

「こら!君たちどこに行くんだ!?」

 

「後は私たちに任せてください!」

 

「皆さんは早く安全な場所へ…!」

 

「何なんだあの子たち…?」

 

あかりと麻友美は大勢の人々が倒れては檻の中へ入れられたと聞きふと思い出した。

 

確か今までは特定の人間を指定して檻の中へ閉じ込めドリームパワーからダークネスパワーへ変えて魔物を召喚するはずだと。

 

それなのに急に大人数を一気に閉じ込めるなんておかしいとあかりは考えた。

 

麻友美は走るのが苦手であかりにちょっと置いて行かれつつも精一杯全力で走り抜きようやく現場にたどり着いた。

 

「サッカーセンシュ…ナレナカッタ…!」

 

「リョウリナンテ…ワタシニハムイテナイ…?」

 

「ドウセイツモオレハ…レットウセイサ…!」

 

「何…これ…?」

 

「見た感じ10人ほど魔物にされてますね…!」

 

「麻友美ちゃん!」

 

「はい…!」

 

「ミューズナイツ!レッツミュージック!」

 

「HEY! HEY! HEY!」

 

「奏でるは心のメロディ!前田あかり!」

 

「支えるは心のベース!渡辺麻友美!」

 

「みんなの心に夢を奏でよ!我ら!ミューズナイツ!」

 

「ちっ…現れたか…。まぁいいや…パワーアップして大勢の魔物を作れるようになったんだ…。10対2で勝てるのかな…?」

 

「あなたは…デプレシオ…!」

 

「あれがデプレシオ…ですか…?アクムーン帝国三銃士の…!」

 

「夢を捨てた魔物たちよ…この綺麗事ばかり並べる騎士たちを葬るといい…」

 

「ウアァァァァァァァァァッ!」

 

「きゃっ!」

 

「麻友美ちゃんっ!」

 

「どうしましょう…!敵が多くて誰を先に浄化すればいいんでしょうか…?」

 

「それは…」

 

「圧倒的数に悩み…そして自ら潰されて後悔するといい…」

 

「ウオォォォォォォォォォッ!」

 

「うっ…!」

 

「あかりさんっ…!」

 

「こうなったら…8連符突き!」

 

「ウグッ…!」

 

「効いてますよ…!なら私も…オクターブスラッシュ!」

 

「ウウッ…!」

 

「麻友美ちゃんも同時に当てていい感じ!」

 

「仕方ない…俺が自ら縛るか…。ほらよっ…」

 

「えっ…?きゃあっ!」

 

「ふぅ…余計な手間をかけさせやがって…。さぁ好きなだけ叶わなかった夢の八つ当たりをするといい…」

 

「ウオウッ!」

 

「うっ…!」

 

あかりと麻友美はデプレシオの妨害に縄で縛られ武器を思うように扱う事が出来なくなる。

 

同時に体を背中合わせで縛られているので身動きが取れず10体の魔物に一方的に叩かれてしまう。

 

このまま二人は負けてしまうのか…?

 

つづく!



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第26話 騎士として

二人はデプレシオの妨害にハマり魔物たちに一斉に攻撃されてしまう。

 

武器も手元から離され身動きが取れない状態になった。

 

そんな中で彼女たちは台本に書いてあったあのセリフを思い出した。

 

「麻友美ちゃん…あの台本に書いてあったよね…?最後の覚醒した直後に必殺技を放つ前の…」

 

「えっと確か…私たちはどんな時でも諦めない…。だって私たちは…希望の魔法少女だから…でしたね…」

 

「今のこの追い詰められた状況とあの台本って似てるなぁって思って…」

 

「確かにそうですね…。私たちは演じるはずのキャラクターに…励まされましたね…」

 

「何をブツブツ言ってるんだ…?まぁいい…殺れ…」

 

「私たちは魔法少女っていうほど可愛い系じゃないけど…騎士として絶対に諦めないよ…?」

 

「あ…?」

 

「人に夢を与え応援する立場なのに…自分たちが諦めるわけにはいきませんから…」

 

「だって私たちは…」

 

「夢の騎士…ミューズナイツですからっ…!」

 

デプレシオに諦めない心を叫ぶと二人の胸からまばゆい光が現れドリームパワーを強化した。

 

縛られたはずの縄は光によって燃やされ二人は完全に解放された。

 

同時にそれぞれ近いところに落ちているお互いの武器を取り戻しそして交換するように投げた。

 

「ここからは私たちの反撃だよ…?」

 

「お覚悟は…よろしいですね…?」

 

「どうせハッタリだろ…。今度こそ殺れ…」

 

「ウオォォォォォォォォォォッ!」

 

「あなたたちはたとえ前までの夢が叶わなかったとしても…希望を捨てない限り前に進んでいくんだよ!叶わなかったからってあなたたちは人背を投げ出したりしない時点でもう立派な事なんだよ!だから自暴自棄にならないで新しい自分を探し、そして受け入れて違う夢を見つけようよ!」

 

「それでも苦しいと思いましたら…私たちを思い出してください…!私たちはアイドルですが…もちろん大きな挫折もあります…!でも…だからこそチャレンジ精神や自分を磨く努力を…ずっと持つことが出来るんです…!今は苦しいかもしれません…けど生きている限り…新しい自分に出会うチャンスは…いくらでもあります…!」

 

「ベラベラと説教くさいことを抜かすな…!この俺が直々に…」

 

「説教くさいと感じるという事はお前に思い当たるフシがあるんじゃないか?」

 

「何だと…?誰だ…?」

 

「監督さんっ…!?」

 

「避難していたんじゃ…?」

 

「君たちが心配で駆けつけたのさ!俺の事はいい!早く檻の中の人たちを助けてやってくれ!」

 

「邪魔…するなよな…!」

 

「いけない…!間に合って!」

 

「うわっ…!」

 

「防いだだと…!?」

 

「大丈夫ですか…?」

 

「君は…やはり前田さんか…!という事はあの子は渡辺さんか…!」

 

「黙っててごめんなさい…。どうしても皆さんを巻き込むわけには…」

 

「だろうと思ったよ。けど何もせずにジッとするのは苦手な性分でね。君たちの魔法の力…ここで見せてもらうよ!」

 

「ありがとうございます!麻友美ちゃん!」

 

「もうこちらは大丈夫です…!皆さん…悪夢の時間はもう終わりです…!お目覚めになられてください…!シャドウトリック!」

 

「ウア…ア…!」

 

「ちっ…まぁいいや…。おかげでお前らの戦力は知れた…。次はそうはいかない…」

 

「待って!くっ…行っちゃった…」

 

檻の中の人々はすぐに解放されあかりと麻友美の魔力によって倒れそうなところをクッションで支える。

 

サッカー選手になれなかったサラリーマンや料理人として才能に苦しむ女性、成績が著しくない男子高校生、恋人が出来ず異性恐怖症を拗らせた男性、子育てが上手くいかずに悩んでいる専業主婦、国の衰退を憂いて政治家になろうとしている男子大学生、オタクとして民度が低い事をずっと気にしていた鉄道オタク男子、部活のレギュラー目指して青春を捧げるバレー部女子、違う現場でエキストラから抜け出せない俳優駆け出し、そして本当はカメラマンになりたかったアルバイト女性を救出する。

 

それぞれ叶わなかった人や叶ったけど理想と現実のギャップに悩む人、叶ったけど才能に悩み諦めた人など多種多様な人たちが魔物にされた、その事が二人にとって大きな試練となった。

 

このままでは敵との攻防戦も一筋縄ではいかないと思い、すぐに秋山Pに相談のメッセージを送った。

 

一方の撮影は…

 

「んーっ!君たちさっきまで戦ってたからより勇ましい顔になったね!」

 

「ありがとうございます!」

 

「監督!今日の撮影終了時間までまだ時間があるそうです!」

 

「おーマジか!じゃあせっかくだし出前を頼んでみんなで食べよう!」

 

「はい!」

 

撮影が無事に終了し時間に余裕があったのでピザ屋の出前をみんなで頼むことになる。

 

もちろん料金はみんなで割り勘だがあかりたちもせっかくのご馳走だからと遠慮をせずにいただくことになった。

 

会食しながら次の回はどんな内容にしようか、敵キャラたちの接触をどうするか、二人のすれ違いをどう表現するかなどで盛り上がり今後このシリーズは人気作になるだろうという予想もついた。

 

この番組は日曜の朝にやる予定で子どもたちだけでなく朝早くから仕事するオタクたちをターゲットにしている。

 

あかりと麻友美はそんな将来のファンのために撮影を続けるのでした。

 

つづく!



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第27話 筋肉は裏切らない

結衣はリーダーとして加奈子は先輩としてミューズナイツのアイドルとしての活動の会議をする。

 

グループ結成したのはいいもののまだ活動は具体的になっておらず宣伝でファンを獲得しようと頑張った。

 

それが功を成してスタートダッシュは成功した…かに見えた。

 

「これを見て…」

 

「ええ…やっぱりこうなっちゃいますよね…」

 

「センターの秋山加奈子とその引き立て役の新人7人による新グループ結成…。パパが許可したとはいえここまでの評価だと思わなかったよ…」

 

「私も悔しいですが、新人がセンターと組んだ以上はこうなるのは覚悟していました。けど…」

 

「けど…?」

 

「逆に言えば加奈子先輩だけじゃないと言わせられる可能性もあるという事です。それに秋山プロデューサーから新たな仕事があるそうですよ」

 

「パパから?一体どんな…?」

 

「私が筋トレを日課にしているということで運動系の番組に呼ばれたんです。加奈子先輩もよかったら一緒にどうですか?」

 

「いいの?私はセンターだからあなたの印象をなくしてしまう可能性があるけど…」

 

「いいんです。センターと共演出来るチャンスなんて滅多にありませんから」

 

「なるほどね、私を成長の糧にするってことだね。わかった、結衣の番組に出てみるよ」

 

「ありがとうございます」

 

こうして結衣が出演する事になった運動系の番組の出演が決定する。

 

場所は日本放送テレビことNHTのスタジオでなるべく軽装の運動着を持ってくるようになっていた。

 

収録日になると結衣は張り切って移動し加奈子は一体どんな企画なのか少しだけ心配になった。

 

スタジオに到着した二人は運動着に着替えて撮影の準備をする。

 

「それじゃあ今日から始まる女性のための筋肉トレーニングのコーナーのメンバーです!まずジムで筋トレが日課の大島結衣ちゃん。そして誘われて参加する事になった秋山加奈子ちゃんです」

 

「よろしくお願いします!」

 

「そしてメインキャストの…」

 

「杉本まなつです!よろしくお願いします!」

 

「相変わらずげんきがいいね。まず番組の説明をしますね」

 

この番組では女性のための筋肉トレーニングをテレビの前で実践するコーナーで女性特有の健康的でスリムボディを目指す企画だ。

 

そのために結衣は番組にうってつけだと秋山Pに推薦され、通っているジムからも推薦されたことで選ばれたのだ。

 

そこでビジター会員として秋山加奈子を誘ったと結衣は後で説明をした。

 

加奈子はちょうど運動して体力をつけようと思っていたのでこの企画はチャンスだと思った。

 

そして収録撮影の時間になり本番が行われる。

 

「筋肉は女性でも裏切らない!杉本まなつです!今日は家でも出来る簡単な腹筋の筋トレを行います!今日からテレビの前のダイエットに悩む女性たちのために筋トレを伝授します!新入生だけでなく新入早々ビジター会員を連れてきました!ではどうぞ!」

 

「新入会員の大島結衣です」

 

「秋山加奈子です。よろしくお願いします」

 

「ビジター会員の秋山加奈子です」

 

「まさかSBY48のセンターが来るなんてビックリだよ!では早速腹筋を行うよ!まずは仰向けになって…肘と前腕を床につけて…指先と前腕で立つ!はいっ!それを1分3セット!」

 

「ふんっ!」

 

「さぁ腹筋だけでなく背中にもパンプしているよ!」

 

「結構きつい…!」

 

「あと5秒!4!3!2!1!はい終了!」

 

「はぁ…はぁ…!」

 

「いいね!お腹のここに力が漲ったでしょう?みんなで一緒に…ナイスバルク!」

 

「はいOKでーす!」

 

「ひぃ…!」

 

「加奈子先輩大丈夫ですか?」

 

「結衣は普段からこんな事してるんだ…!確かに肉体もメンタルも強いわけだよ…」

 

「女優としてみっともない身体は見せられないので鍛えているんですよ。それに腹筋は発声にも影響が出るので鍛えればより素直な声になるかと思ってます。ただ筋力だけではカバーしきれず体幹力や柔軟性も兼ねてないとケガのリスクも上がるんですよ」

 

「そりゃあストイックなわけだ…」

 

「はい休憩終わり!もう2セットいくよ!」

 

「はい!」

 

「そう言えばまだあった…!」

 

「よーい…スタート!」

 

~NHTスタジオ周辺~

 

「相変わらず夢に満ちてて腹が立つなぁ…!叶わなかった人間共や諦めかけた人間共をエネルギーにするか…。それに…皇帝陛下からいただいたパワーアップの薬の効果も試せるしな!ダークネスパワーよ…くだらない幻想を捨て、この世界を未来なき世界に変えよ!」

 

「うっ…うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

~スタジオ内~

 

「はぁ…はぁ…!」

 

「大丈夫ですか?」

 

「本当に…凄いね…結衣は…」

 

「これは慣れですよ。私も最初は結構きつかったんですよ」

 

「そうなんだ…」

 

「緊急事態発生!渋谷駅周辺で謎の化け物と檻に閉じ込められた人が5人ほどいます!警察が対応しますので皆さんはここで待機してください!」

 

「檻に閉じ込められた人々…まさか!」

 

「行きましょう先輩!」

 

「ちょっと!今の放送聞いてなかったの!?」

 

「杉本さんはここで待っててください!」

 

「私たちには原因がわかるんです!」

 

渋谷駅に向かった二人は十字路で暴れ回っている5体の魔物を発見し、周りを見渡すと5人の男女が檻の中で閉じ込められ無気力状態になっていた。

 

魔物は自棄になるように暴れ回り街こそ壊さなかったけど人々に襲いかかっていた。

 

結衣と加奈子はこの一大事の中で魔物の声を聞いてみる。

 

「ジブンデハ…ダレモスクエナイ…!」

 

「ボクノコエハ…モウトドカナイ…!」

 

「ワタシノノコイハ…モウトドカナイ…!」

 

「ダレモオレヲミテクレナイ…!」

 

「ヤルキガナイダト…フザケルナ…!」

 

「こんなに大勢の人々を苦しめるなんて…許せないわ!いきましょう!」

 

「うん!」

 

「ミューズナイツ!レッツミュージック!」

 

「HEY!HEY!HEY!」

 

「重ねるは心のハーモニー!大島結衣!」

 

「ときめくは心のファンファーレ!秋山加奈子!」

 

「来やがったな忌々しい騎士共!あいつらを地獄に落としてやれ!」

 

「うわっ!」

 

「5対2…こっちが分が悪いわね」

 

「でも私たちは夢の騎士だから騎士道を貫いて戦おう!」

 

「はい先輩!これでもくらいなさい!ヒートショット!」

 

「私だって!ロケットドリル!」

 

「………」

 

「効かない…?」

 

「まさか魔物がパワーアップしているというの…?」

 

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「きゃあっ!」

 

「くっ…!」

 

「とどめは俺じゃあ!ウラァッ!」

 

「きゃあぁっ…!」

 

「ふはははは!夢の騎士共もその程度とはな!」

 

「あいつは確か…アクムーン帝国三銃士の…」

 

「ディストラ…何故あなたが私たちに…?」

 

「ほう、よく見ればベテラン騎士さまじゃあねぇか。冥土の土産に教えてやるよ。皇帝陛下は早く人間共を無気力にして夢を奪い文明を滅びさせるのさ。そうすれば人間共はこれ以上進化せず地球のためになるだろ?そういう事だぜ」

 

「地球のためなら他人を滅ぼしてもいいってワケ…?」

 

「いいけど?俺は人間のやる気が大嫌いなんだよ。そのやる気のせいで人間共は進化したことをいい事に落ち込んだりするじゃねぇか。そんな煩わしい感情なんか捨てて無気力になって楽に生きればいいんだよ」

 

「……」

 

結衣と加奈子はディストラの圧倒的パワーに押され言葉も失うほどショックを受ける。

 

無気力になれば人は成長する事をやめ何の感情も感じなくなってしまう。

 

人間らしさを失えば生きる希望もなく死ぬことも考えなくなる。

 

このまま二人は負けてしまうのか…?

 

つづく!



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第28話 リーダーとは

結衣と加奈子はディストラの圧倒的パワーに押され立ち上がる事さえギリギリの状態になる。

 

魔物たちも暴れ回り檻の中の人々は徐々に無気力が悪化していった。

 

このままではやられる…そう思った矢先のことだった。

 

「大島さん!秋山さん!さっき鍛えた筋肉に問いかけてみて!あなたたちのパワーはこんなものじゃないって言ってると思う!」

 

「あ?何だ…?まだやる気に満ちている人間がいたってのかよ!だったらお前のそのドリームパワーを…うおっ!?」

 

「そうはさせない…!彼女には鍛え続ければ絶対に筋肉は応えてくれるって言ってくれた…。それと同じように諦めず戦い続けば…あなたのような暴力で夢を奪う奴に負けないって証明してみせるわ!」

 

「私は筋トレをやってないからまだまだだって実感した…。だからこそ諦めずもっと自分を高めようって思えるようになった…。後輩がやる気に満ちているのに…センターで先輩の私が諦めるわけには…いかないよ!ディストラ!王国の因縁をここで晴らしてあげる!」

 

「ははっ!面白い…だったら俺の一撃をもう一度くらうがいい!それともあの人間に標的変えてやろうか!?」

 

「そんなこと…させるものかぁっ!」

 

「ぐわっ!?」

 

「結衣…あなたってひかりに負けないパワーの持ち主だね…」

 

「筋力だけでなく柔軟性や連動性、そしてその動きに適応した適応力がなければ筋力は活かされないんです。単純なパワーはただの基礎体力なら、それらは応用といったところです」

 

「なるほど…」

 

「ぐぬぬ…もう許さねぇ!お前ら!さっさとこいつらを殺せ!」

 

「やれるもんならやってみて!先輩としていい格好見せなきゃ!ロケットドリル!」

 

「ぐぅっ…!」

 

「一気に貫きやがった…!」

 

「こっちだって筋肉は裏切らないんだから!ヒートショット!」

 

「ぐはぁっ!」

 

「ここで一気に決めるよ!」

 

「はい先輩!スカーレットラッシュ!」

 

「ワルキューレタックル!」

 

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ…!」

 

「クソッ!相変わらずムカつく奴らだ…!」

 

魔物は浄化されディストラは逃げたものの檻の中の人々を救出する事に成功する。

 

国家資格を取りたての研修医男性、世の中の治安の悪化を憂いた作家男性、初恋の片想いを抱いている女子高校生、まだ無名で駆け出しの男性絵師、そして不良校を抱える熱血男性教師と知り、二人はそれぞれにエールを送った。

 

「最初は誰だってうまくいかないものです。医療は日々研究と実践だと聞きましたよ?世の中はまた西暦のように荒れ果ててきましたよね…その優しい気持ちを忘れずに訴え続けてください。初恋はみんな苦しくてわからないものです、まず大事なのは好きだと勇気を出して伝える事ですよ?自分を見てくれないのなら…どうやったら見られるかを考えて振り向いてもらいましょう。そして…あなたの熱意はきっと無駄じゃないって信じています。どうか生徒たちを見捨てないでください」

 

「あんたたち…知らない俺たちのために…」

 

「本当にありがとうございます…」

 

「私…勇気を出すよ!」

 

「けど何でだろう…?檻の中にいる間に君たちに助けられたような…?」

 

「きっと僕たちは悪い夢を見ていて、そんな中で助けられたんだろう…。あの時だけ本当にいい夢だった…」

 

「皆さんはただ不安が悪い夢として現れてしまい、それに耐えきれずに気を失ったんだと思います。でもこれからはもう大丈夫だと私は思います。あなた方はもう前に進むって決めた目をしていますから」

 

「本当に感謝するよ…じゃあ僕たちはもう行くよ。アイドル…だったね。秋山加奈子ちゃんでわかったよ。本当にありがとう…」

 

「筋肉だけでなく友情もまた裏切らないといいね…。さぁ二人とも!続きの撮影だよ!もっと私とナイスバルク!」

 

「はい!」

 

「ひぃ…!」

 

こうして檻の中にいた男女を助け出し事件は一件落着した。

 

杉田さんの筋肉のノリになかなか慣れない加奈子は終始息が荒くなり疲れ果ててしまった。

 

そんな疲労困憊の加奈子に結衣は自前のプロテインを手渡しトレーニング後のケアを伝授した。

 

その事で加奈子は結衣がリーダーの器を持っていると改めて感じた。

 

「結衣、あなたって結構世話焼きなところがあるんだね」

 

「うーん…何て言えばいいんでしょうか…。私は悩んだら突破口を見つけ出して自ら解決していきますけど…他人の場合は違うので放っておけないだけですよ?だって突破口も解決方法も…みんなそれぞれ違うのですから」

 

「なるほどね。その人に合ったやり方は何なのかを考えられるほど優しい子なんだね」

 

「まぁ…私にも挫折はたくさんありました。子役として限界を迎えた時にいつまでも子どもの演技だと年齢に合わなくて浮いてしまいますし、それが原因で俳優をやめた子たちも結構いるんです。とくに男の子は変声期で大きく挫折してやめちゃう子もいました。でも…私は逆に自分を変えるチャンスなんだと思いアイドルとしてやってみようって思いオーディションに参加しました。それがこんなにも刺激的だなんて思わなかったです。私にリーダーの素質があるかはわかりませんが、任された以上は全力でやるつもりです」

 

「結衣らしいね…。私はどちらかといえばみんなの前で引っ張っていくけど器用にまとめる事が下手なんだ。だからこそ私に出来る事はよりみんなの事を知って個性を磨かせ、そして周りを見る目を鍛えて自分だけがトップだと驕らない。そうなったら一緒にやってきたメンバーにも、他の子を応援するファンにも失礼だからね。だからこそ私は自分がセンターでも他の子も凄いんだと層の厚さを見せつけたいんだ」

 

「加奈子先輩はどちらかといえばサブリーダーって感じですね。ということは私のことも把握しているんですか?」

 

「うん、もちろんだよ。あなたが完璧主義すぎて他人には強制しなくても自分には厳しい。けど心が強くないとその方法は成り立たない。だから心身ともに鍛えてるんでしょう?」

 

「先輩にはなんでもお見通しですね…参りました。じゃあもっと筋トレを長続きさせるためにもっとパンプアップさせましょう!」

 

「あはは…私もジムに通おっと…」

 

つづく!



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第29話 ノリが合う

お互いに明るくてノリがいい日菜子と麻里奈はどういう訳か気が合いオシャレのことや恋バナなど積極的にする仲にまで発展した。

 

麻里奈は読者モデル時代から恋の相談もしてきたが恋愛経験そのものはなく日菜子が高の成就したときは誰よりも喜んだ。

 

日菜子も幼なじみである彼氏とデートする事を考えて女の子のオシャレを意識するようになりよく麻里奈に質問するほどだった。

 

そんな二人はある恋愛系のラジオ収録に入る。

 

「今日はよろしくね!」

 

「よろしくお願いします!」

 

「篠田さんはもう恋の成就が成されたんだったね!おめでとう!」

 

「えへへ…ありがとうございます!」

 

「板野さんは恋愛経験はあるの?」

 

「うーん…アタシは読者モデルやる前までは彼氏がいたんスけど、元カレがかなりの浮気性で好きな人が出来たから別れようって言われて見返すために読者モデルになったっつーか…。まぁあの時は太っていたから告白されて嬉しかったッスけどね」

 

「苦い経験だったねぇ…。だから雑誌の恋愛インタビューで説得力があるんだね。」

 

「まぁでもそれのおかげで読者モデルに集中できるというか、今はアイドルだし女の子の本当の手本にならないといけないので大丈夫ッスよ」

 

「なるほど。板野さんにもいい彼氏さんが出来るよう応援してるよ。じゃあ早速生放送なのでスタジオに入って!」

 

「はーい!」

 

日菜子と麻里奈はラジオの生放送で他方の緊張はあるもののいつものアットホームな空気に変えるオーラでギスギスした現場を癒す。

 

彼女たちも女の子なので緊張は当然するけど楽しくないと感じたらそれで終わりだと思っているので何事も楽しむことを意識している。

 

そしてついにラジオ収録の時間がやってきた。

 

「日菜子と!」

 

「麻里奈の!」

 

「イマドキ恋愛トークショー!」

 

「このラジオでは様々なリスナーさんのために悩める恋の相談をこちらでアドバイスを送る番組となってます!MCは篠田日菜子と…」

 

「板野麻里奈でお送りします!でさー聞いて!学校の同級生がまた彼氏と別れてさー、目玉焼きはソースか醤油かの違いだけで別れちゃったんだよねー」

 

「あーなんかわかる気がする。料理の味付けの違いで別れるってのも多いよね。価値観や方向性の違いをも受け入れられたら恋から愛に変わるらしいよ」

 

「さすが日菜子!彼氏持ちは重みがあるね!」

 

「もうやめてよー!」

 

「それはさておき…最初はアタシたちが早速送られたリスナーさんからの恋の悩みに直接アドバイスを送るコーナーから始めます。スクールアイドルとして学校のアイドルをしてきた日菜子と、読者モデルとして女の子の憧れだったアタシこと麻里奈が精一杯応援を込めてコメントするよ」

 

「じゃあ早速…ペンネーム・極嬢さんからだね。日菜子ちゃん麻里奈ちゃんこんにちは」

 

「こんちはー」

 

「私の実家が極道をやっていてクラスどころか学校や先生も私を恐れて何も意見を言わなかったり怖がられて避けられたりするのですが…私には後輩で好きな人がいるのですがやっぱり家業のせいで嫌われないか不安です。この気持ちは伝えずにそっと閉まった方がよいのでしょうか?」

 

「あーなるほど…。家族の家業が極道でみんなが怖がっているから好きな人も怖がってるんじゃないかと不安なんだねー…。うーん…極道のことはよくわかんないけどアタシは恋するのに身分なんてイマドキ関係ないかなーって思うよ!だって極道ってドラマの情報だけど義理と人情を重んじるって聞いたよ。きっと極嬢さんも鯉が叶ったとしても好きな人を巻き込んだらどうしようって不安があるんだと思う。その時はまもってあげればいいんじゃないかなー?日菜子は?」

 

「私は勇気が足りないってよりは麻里奈が言ってた巻き込みたくないって考えが本当なら極嬢さんは優しい女の子なんだなって思う。その男の子が大好きだからこそ一緒に怖がられたり哀れまれたりするのが心苦しいんだろうね。でも本当に好きなら自分も普通の女の子と気持ちは変わらないんだっていう気持ちを強く持って好きって言う勇気を出そう!私は極嬢さんの事を全力で応援するよ!これでいいかな?」

 

「うん!日菜子マジいい感じ!それじゃあ次は一旦CM入りまーす!」

 

「はいOKです!二人とも凄いね!」

 

「へへっ!まーね!」

 

「とりあえず差し入れあるからロケ弁食べてって!」

 

「はーい!」

 

~下北沢駅周辺~

 

「さて…どれだけの人間を堕落させてやりましょうか…。ふむ、部活ですか…これはちょうどいい…。不特定多数のダークネスパワーを集めて皇帝陛下に献上しましょう。ダークネスパワーよ…くだらない幻想を捨て、この世界を未来なき世界に変えよ!」

 

「うっ…うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

~下北沢のスタジオ~

 

「何だあれ…?うわっ!?人々が檻の中に閉じ込められてる!」

 

「それに何だあの化け物は…!」

 

「化け物…もしかしてあいつらだ!」

 

「早く行こう!」

 

「君たち!今はここで避難した方が安全だよ!?」

 

「いいんです!アタシたちに任せてください!」

 

「あの怪物なら何とかしてみせます!」

 

日菜子と麻里奈は休憩中に食事をすべて終えた直後なのであまり速いペースで走る事が出来なかったが、それでも街を破壊されるわけにはいかないと焦り速めのペースで走った。

 

すると魔物は巨大な一体になっていて自棄になるように暴れ回っていた。

 

日菜子と麻里奈はすかさずサイリウムを取り出して戦うために変身する。

 

「このままだと街が破壊される…!麻里奈!」

 

「オッケー!」

 

「ミューズナイツ!レッツミュージック!」

 

「HEY!HEY!HEY!」

 

「弾けるは心のビート!篠田日菜子!」

 

「彩るは心のテンポ!板野麻里奈!」

 

「現れましたか…ではあの騎士共を粉砕してやりなさい!」

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

「うわっ!こいつ何つー馬鹿力…!」

 

「やっぱり大人数のドリームパワーをダークネスパワーに変えて一カ所に集めたから魔物も強いんだよ!」

 

「おまけに理性も一人の時より失ってるってか…。このままじゃみんなが可哀想じゃん!さっさと浄化して助けよう!」

 

「うん!」

 

「おやおや、他人の夢のために助けるなんてお人好しですね。」

 

「この口調…みんなから聞いたのと違うって事はまさか!?」

 

「ブレイン!アンタ関係ない人々を巻き込んで申し訳ないと思わないわけ!?」

 

「別にどうとも思いません。我らが皇帝ゲーツィス様がある計画のためにドリームパワーからダークネスパワーへと変え新世界の神となり、人間共から未来と文明を奪うのです。あなた方がもし邪魔をすると言うなら…容赦なく首をもらいますよ!」

 

「うっ…!」

 

「こいつ強い…!」

 

「ほう、見た目が細くて華奢だからと油断したようですね。いいですよ?そういう油断が未来を失うのですから素晴らしいことですよ。そして…ここがあなた方の墓場となり永遠に眠るのです!はあぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「うわあぁっ!」

 

日菜子と麻里奈は魔物だけでなくブレインの援護によって大きくダメージを受ける。

 

魔物の理性を失った状態での怪力とブレインによる急所を突いた弓術で二人は成す術がなかった。

 

日菜子は接近戦でないと力が発揮せず、麻里奈は魔力が源なのでまだマシだがクロスボウなので普通の弓と比べて装填に時間がかかるのが弱点だ。

 

二人はいつものノリと勢いで突破口を開けるのか…?

 

つづく!



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第30話 勢い

日菜子は何とか近づこうとするも返り討ちに遭い、麻里奈も装填の時間稼ぎが出来ないか試行錯誤するも大きな魔物のリーチでゴリ押されてしまう。

 

このままでは二人はやられてしまうと思った。

 

それでも諦められない二人は突破口を開こうと勢い任せで立ち上がる。

 

「ほう…?随分諦めの悪いんですね。僕の力を示されてもなお立ち上がるとは…」

 

「仕方ないじゃん…。だって…この人たちは夢があって…破られても新しい何かに挑戦してさ…挫折するかもしれないのにワクワクが止まらないって時があるんだって思うと…どうもアタシたちって諦めきれないんだよね…」

 

「そのノリと勢いだけでさ…私たちはここまで来れたんだよね…。でも…もうそれだけでは限界かも…。だからここからは…ちゃんと考えて行動しないといけないね…。ブレイン…私たちはお前のおかげで気付いたよ…。今度は自分たちも変わる番だってね…」

 

「変化を恐れない勇気ですか…。そんなもの何のためになるのですか?」

 

「そんなものねぇ…。人間ってどうも変化する事を嫌う傾向だけど…そのおかげで自分を保てるしやり慣れた事だから安定もする…。だからこそ年齢と共に…環境や時間…そして何よりも経験と共に変わらないと安定はどっかに行っちゃうのよね…」

 

「麻里奈の言う通りだよ…。いつか訪れる変化のタイミングを失えば…もう誰も夢を見る事も…努力する事も…安定した生活を送る事も出来ないんだよ…。お前にはわからないと思うけど…ちっぽけなきっかけなんて…私たちは知らない!イナズマフォール!はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「うっ…!」

 

「ナイス日菜子!このまま狙いを定めて…レーザーショット!」

 

「ウグッ…!」

 

「よし!効いてるよ麻里奈!」

 

「アタシがクロスボウだけだと思うなよ?これでも喰らえ!」

 

「何…!?いつの間にサーベルを…!?」

 

「これが私たちが編み出した…ノリと勢いの修行の結果だ!」

 

「そしてノリと勢いは…猪突猛進なだけでなく臨機応変にもなれるって事さ!」

 

「ちっ…これだから人間は面倒なんですよ…。もういいでしょう!やっておしまい!」

 

「ウオォォォォォォォォォォォォォッ!」

 

「今だ!必殺の…クラブクラッシュ!」

 

「グオッ…!」

 

「な…!」

 

「麻里奈!」

 

「オッケー!ヒーリングショット!」

 

「ウオォォォォォォォォォォッ…!」

 

「ビクトリー!」

 

「いえーい!」

 

「ノリと勢いか…暑苦しいのは大嫌いなのでね…。一時撤退しましょう」

 

こうして檻の中に閉じ込められた男女は無事に救出され意識を取り戻す。

 

アマチュアながらゲーム制作をしている男子大学生、ドラフト指名を夢見る高校球児、会社の一大プロジェクトを任された社長令嬢、国家資格を得るために猛勉強中の女子大生、そしてまだ知られていない海の生態系を研究する女性教授はそれぞれ向かう場所へ向かい日菜子と麻里奈はホッと一息ついた。

 

しかし日菜子と麻里奈はまたラジオ収録がある事を思い出してヤバいと思って全力でスタジオに戻った。

 

するとディレクターの人はあまりにも心配したのか二人を軽く説教する。

 

「二人とも…無事だったからよかったけどこんな化け物が現れた時に無茶して出ていくなんてダメだよ?二人はまだ中学生なんだから将来の日本のためにはちゃんと命を大事にしなきゃ!ましてや二人はデビューして間もない若手なんだよ?今後はノリと勢いも大事だけどちゃんと考えるようにね?」

 

「はい…すみませんでした…」

 

「でも…本当に無事でよかった…。さっき秋山プロデューサーから電話で聞いたよ。君たちは人々の夢を奪う悪の組織と戦ってるんだっけ?」

 

「あ、はい…」

 

「芸能界や裏方の世界ではSBY48の新人たちによく似た女の子が軍服を着て魔物と戦ってるという目撃情報と噂が広がってて後で電話で聞いたら真実を話してくれたよ。今後は無理せず命がヤバいと思ったら逃げる事も覚えなさい」

 

「はい!ありがとうございます!」

 

「さて、これからラジオの続きだよ。二人とも気合い入れていこう!」

 

「押忍!」

 

こうしてディレクターに叱られながらも許された二人はディレクターの優しさに安堵して全力でその期待に応える。

 

最近芸能界で人々が檻の中に閉じ込められて魔物が現れたら軍服を着た騎士風の女の子たちが戦って浄化し夢を守っているという噂が流れている。

 

これ以上隠してたらマスコミがスキャンダルするだろうと踏んだ秋山プロデューサーは自らその事を公表し事が大きくならないように牽制した。

 

それが吉と出るか凶と出るかはまだわからないが今後どうなるかは敵の行動次第だろう。

 

つづく!



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第31話 ウマが合わない

高橋ひかりと柏木エマはケンカ仲間でエマが毒を吐いてはひかりが反応するというやりとりが最近増えてきている。

 

あかりと麻友美はその仲の悪さを心配し、ノリがいい日菜子と麻里奈はこのままヒートアップしないかじっくり見守り、結衣と加奈子は大丈夫だと言わんばかりに何もしなかった。

 

ところがあかりと麻友美はあまりの心配に秋山プロデューサーに報告をしてしまい新たな仕事が依頼された。

 

「え?オレたちがバラエティ番組に?」

 

「そうだよ。柏木エマと高橋ひかりの二人で協力系バラエティクイズ番組に出てほしい。君たちが喧嘩ばかりして仲が悪いんじゃないかと心配している子が何人かいてね。それで君たちにはコミュニケーションを取ってもらうことにした」

 

「クイズ番組って…エマたちが勉強苦手なの知ってマスよね?」

 

「そうだぜ。オレたちの学力は壊滅的だって…」

 

「エマはひかりよりはマシデスが…」

 

「こいつ…!」

 

「まぁまぁ…協力系だからただクイズに答えるだけじゃないからね。アトラクションメインでクイズはおまけみたいなものだからさ。頼んだよ」

 

こうしてひかりとエマは空気が悪い中で新たな仕事であるバラエティクイズに参加する。

 

お台場にある湾岸テレビのスタジオに向かいそこには大物芸能人が多くいた。

 

司会はいないもののメインキャストが男性アイドルグループである「HANABI」の櫻井淳太、大野友輔、松本駿、相葉誠、二宮和明の5人によるアトラクションバラエティになる。

 

ひかりとエマは早速灯の5人に挨拶をする。

 

「おはようございます!」

 

「おはようございます。二人は新人?元気がいいね」

 

「うす!」

 

「しかもこの子はハーフかな?」

 

「スコットランドから来まシタ」

 

「なるほどねぇ。今回のゲストは君たち以外にもいるからね。仲良くしてね」

 

「はい!」

 

「そろそろ本場いきますよー!」

 

「はーい!それじゃあ二人とも、いこう」

 

「はい!」

 

「5秒前!4!3!2!1…スタート!」

 

「HANABIにしやがれ!いざ開園!」

 

「いえーーーーーーい!」

 

「今日のHANABIにしやがれ!のゲストはねぇ…なんと新人アイドルが2人も出るそうです!」

 

「そうなんだ!どこのアイドルかな?」

 

「わかりませんが早速呼んでみましょう!ゲストチームの5人です!」

 

「刻め!オレのダンスは!ひかりのごとく!高橋ひかりです!」

 

「ハーイ!今日のギターソロは誰かなー?ずっとエマのターン!柏木エマデース!」

 

「ドラマ・高校歌劇(ハイスクールオペラ)レヴュースター学園の矢倉紗友紀を演じます金城彩菜です」

 

「同じく東条夏凛を演じます上原真奈です」

 

「そして同じく久留崎まひるを演じます山中亜由美です」

 

「今回は女の子ばかりですね」

 

「さぁ今日のゲストは我々HANABIに勝てるのでしょうか?」

 

「最初のアトラクションは…ランニングかご取りです!」

 

「ルールは一人がかごを背負ってみんなの指示を受けながら落ちてくるボールを拾うだけです」

 

「では最初はゲストチームから!走るのは高橋ひかりちゃんです!」

 

「おっしゃー!」

 

「ではよーい…スタート!」

 

「もう少しペース落として!」

 

「おう!」

 

「No!ペースを上げてくだサーイ!」

 

「どっちだよ!?」

 

「Oh no!そっちじゃないデース!」

 

「あーもう!どれだよクソが!」

 

「エマちゃん少し落ち着いて!2番に3倍ボールが落ちてくるかも!」

 

「了解!よっしゃ取った!」

 

「うう…!」

 

「次は4番に3倍ボールありよ!」

 

「おっしゃー!取ったぜ!」

 

「終了ー!」

 

エマは周りがあまり見えるような子ではなく、つい注意力や集中力が散漫してしまうクセがあり授業も上手くいかなかった。

 

その代わりにエマは集中力を犠牲に視野が広く普通は見えないところを広範囲で見えるのだが、今回はあちこちに落ちてくるボールに対処しきれなかったようだ。

 

ひかりは一度に多くの指示で混乱してしまい前半はボロボロだったけど今回は冷静に指示を出した女優たちに助けられた。

 

エマとひかりは休憩中に互いを責める事はなくただ無言で落ち込んでいた。

 

~お台場駅周辺~

 

「さぁて…人間共なら誰でもいいからダークネスパワーを多く集められそうな奴らは…あいつらにするか…。ダークネスパワーよ…くだらない幻想を捨て、この世界を未来なき世界に変えよ!」

 

「うっ…うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

~湾岸テレビスタジオ~

 

「そういえば大道具補助のバイトがもうすぐ来るはずだけど…どうしたんだろう?」

 

「はぁ…はぁ…!」

 

「あの人は確かそのバイトのリーダーの人だな…。何を慌てているんだい?」

 

「今日ここで仕事するバイトたちが…突然檻の中に閉じ込められて…気を失ったら胸から化け物が現れて…!」

 

「何だって…?スタッフのみんなは安全が確認されるまで待機してください!」

 

「エマ…聞いたか?」

 

「Yes…これはきっとアクムーン帝国デス!」

 

「じゃあさっさといくぞ!」

 

「OK!」

 

「高橋さん!柏木さん!今すぐ避難を…どうしていきなり飛び出すんだい!?」

 

「皆さんは安全な場所へ避難してくだサイ!」

 

「オレたちは原因を知ってますんで!」

 

「……?」

 

ひかりとエマはこれまでにない息の合った連携で人々を安全な場所へ避難させサイリウムに反応があるお台場駅に向かう。

 

するとゆりかもめを襲っている一体の大きな魔物がひかりとエマを見ると一目散に逃げていった。

 

ひかりとエマはすかさずサイリウムを出して変身する。

 

「いくぞエマ!」

 

「オーライ!」

 

「ミューズナイツ!レッツミュージック!」

 

「HEY!HEY!HEY!」

 

「刻みしは心のリズム!高橋ひかり!」

 

「煌めくは心のコード!柏木エマ!」

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「グオォォォォォォォッ!」

 

「うがぁっ…!」

 

「ひかり!こうなったら…ファイヤー!」

 

「ヌオォンッ!」

 

「Oops…!」

 

「ヌオォォォォォォォォォォッ!」

 

「ウワアァッ…!」

 

「エマ!ちくしょう…なんて馬鹿力なんだ…!」

 

「彼らの心の声を聞くデース!」

 

「よし…!」

 

「イツマデ…バイトシナケレバナラナイ…?」

 

「テンサイダトイワレテモ…オカネナイカラ…オンガクデイキテイケナイ…!」

 

「セイユウトシテカツヤクシタイノニ…オファーガコナイ…!」

 

「バンド…ケッセイシテハカイサン…イツアンテイスル…?」

 

「イモウトノビョウキ…カセガナイト…!」

 

「なるほどな…長いバイト生活に嫌気がさしたのと、天才ミュージシャンなのにお金がなく活動出来ないのと、声優として駆け出しでオファーがないのと、バンドを結成しては解散を繰り返して安定しないのと、最後に妹の病気を治すお金が必要って事はわかった」

 

「だったら今すぐに助けるデース!」

 

「そうはいくかよ!オラアァッ!」

 

「うわあっ!?」

 

「いきなり何するんだよ!?」

 

「来マシたね…ディストラ!」

 

「覚えてくれたのならちょうどいい…。お前らみたいな最悪コンビならザコも同然だな!さぁダークネスパワーよ!こいつらにいつまでも叶わない夢なんか持つよりも敵わなかった事への怒りをこいつらにぶちかませ!」

 

「グオォォォォォォォォォォッ!」

 

「うわあぁっ!」

 

「どうだ?こいつのパワーは」

 

「ちくしょう…どうやってこいつを倒し…あいつをギャフンといわせられるんだ…!」

 

「ディストラを倒すことよりも…檻の中の人々を助ける事に集中するデース…!自分の都合ばかり考えたら…あいつの思うツボデース…!」

 

「だったら…だったらどうすればいいんだよ!?」

 

「何だ?ついに仲間割れか?いいぞ…お前らの理想や夢は仲間同士で潰し合えばいいのだ!そのまま潰し合ってお互いの夢を否定し合うがいい!」

 

ひかりはエマの言ってることが理解できずについに八つ当たりしてしまう。

 

ひかりは力自慢で目の前のディストラの圧倒的パワーに負けて悔しさが込み上げて倒す事に集中してしまう。

 

一方の視野が広いエマは倒すことだけでなく閉じ込められた人々を助けてから倒しても遅くないと踏んだ。

 

ところが価値観の違いでひかりとエマは言い合いになり、このままいけば殴り合いになる雰囲気になる。

 

二人は本当に仲が悪く嫌い合っているのだろうか…?

 

つづく!



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第32話 いざという時

ひかりとエマは戦いの最中に揉めはじめて空気がガラリと悪くなる。

 

ディストラはあまりにも滑稽な姿に満足して腕を組んで二人を見つめていた。

 

同時に魔物を好き放題暴れさせて街を破壊させる。

 

次第に殴り合いになるんじゃないかと期待をするがエマとひかりは睨み合うだけで手を出すことはせずそのまま深呼吸をした。

 

「オレさ…お前の視野が広いとこが羨ましいって思ってた…。集中力や注意力がないだけだって自分でで言ってるけどさ…それって無意識に周りを見ているってことじゃないかって思うと…オレにはないいいところだなって思うんだ…」

 

「偶然デスね…エマもひかりの真っ直ぐ見据える視線に羨ましいって思いマス…。自分では猪突猛進で何も考えてないって周りに言われるって悲観していマスが…その物事への集中力がエマにあれば…さっきもあのアトラクションで指示を出すのにミスをしなかった…」

 

「だからオレたち…」

 

「気が合わないんじゃなく…」

 

「お互いが羨ましかったんだろうな…」

 

「そうみたいデス…」

 

「あ?もう言い争いは終わりか?」

 

「ひかり…アナタはとても真っ直ぐ突き進んで…自分に正直で…何事にも一本道な子デス…。だからエマ…前のバンドでエマの言葉が不愉快だと観客に陰で言われ…悔しかったデス…。でも…ひかりはそれでも本気で憎むことなく…いつもエマの言葉に乗せられつつも…翌日には普通に接してくれマシタ…。本当に…Thank you…」

 

「オレだって…エマの毒舌だけど他人の事をしっかり見てて…サブリーダーとして素人のあかりをサポートして…オレの事を信頼してるからいつも毒を吐いてるんだよな…。エマは気付いてないかもしれないけど…オレ以外の子に辛口にする時はいつも少し躊躇ってるよな…。そこだけはオレでも気付いてたぜ…?マジで…信頼してくれてありがとな…」

 

「ここからは本気出しマス。ちゃんとついてきてくださいネ?」

 

「オレを誰だと思ってんだよ。オレのビートはひかりのごとくだぞ?」

 

「何友情を確かめ合ってんだよ!そういうの見てるとムカムカするぜ!頭に来た!殺れ!」

 

「ウオォォォォォォォォォッ!」

 

「Fire!」

 

「グオッ…!?」

 

「何だと…!?」

 

「勘違いしてもらっては困りマス…。エマたちは確かに周りから見れば喧嘩ばかりで仲が悪く見えマスし、急に仲良くなったら気持ち悪いデス」

 

「けど本当に信頼し合えなかったら…こんなに本音で喧嘩なんて出来るか…?自分自身をも信頼できないのに…他人を信頼できるワケがねぇんだよ…。夢だって自分を信頼しなきゃ叶えようとも思わねぇだろ?」

 

「その通りデス…。エマにとってひかりは…唯一本音を語れる…ライバルだから!」

 

「オレにとってエマは…喧嘩仲間であり…ライバルなんだよ!」

 

「うおっ!?」

 

ひかりとエマはお互いの本音をぶつけ合う事でドリームパワーが覚醒しより強い力を得た。

 

ひかりは斧を大きく振り回し、エマは援護射撃をしつつ銃剣で物理攻撃もこなす。

 

魔物は次第に押されはじめディストラはだんだんイライラしてきた。

 

その隙にディストラを攻撃しようやく通じると魔物の体制が一気に崩れた。

 

「一気に決めるぜ!エマ!」

 

「Yes!オーシャンバーン!ひかり!続くデース!」

 

「おう!ダイナマイトボンバー!」

 

「ウガアァァァァァァァァァァァァッ…!」

 

「チッ…熱い友情とやらを見せつけられて不愉快だ…!」

 

こうして魔物は浄化され檻に閉じ込められた人々は救出された。

 

被害者はひかりが読んだ通りの境遇で終わりのないバイト生活に嫌気がさし生活が苦しい男性、天才ミュージシャンと言われてきたものの資金が底をつき引退を考えてた男性、声優デビューしたはいいもののオーディションに恵まれず仕事がない女性、バンドでいつもリーダーを任されつつも自分がやると毎回解散をしてしまうジンクスを抱える男性、そして妹の重い病気を治すための入院費を稼ぐ女子大生だった。

 

ひかりとエマはすかさず応援の声をかけ、その応援に頑張れは不要で自分や支えてくれる周りの人間を信じ、そして諦めそうになったら自分たちを思い出してほしいと伝えた。

 

そして二人は番組の収録中であることを思い出しすぐにスタジオへ戻った。

 

次のアトラクション以降はエマとひかりが喧嘩しつつも息の合ったコンビネーションで逆転勝利を収め最後のダーツに挑戦する。

 

「ではダーツの景品は…ひかりちゃんの希望でNBAのチケット3試合分です!続いて柏木エマちゃんの希望でエレキギターメンテナンスセットです!ではまずひかりちゃんどうぞ!」

 

「オレの狙いは…そこだ!」

 

「えっ…?それってエマの…」

 

「ずっと欲しかったんだろ?もらってけよ。お前とは喧嘩ばっかだけど、仲間であることには変わらねぇからさ」

 

「ひかり…だったらエマも…」

 

「ん?」

 

「エマちゃんどうぞ!」

 

「エマだって…ひかりとは喧嘩ばかりデスが…仲間だって思ってマス!」

 

「おいマジかよ…!」

 

「ひかり、アナタがバスケが好きだって事ははじめて知りマシタ。エマも今度連れてってクダサイ」

 

「エマ…おうよ!その次はエマの好きな英国ラグビー観戦しような!」

 

「うーん…この二人、最初はいがみ合ってたのに急にどうしたんだろう?」

 

「まぁでも俺たちも昔はあんなだったんだぜ」

 

「そうだね…それが今年で20周年迎えたんだ。感慨深いよね」

 

「僕たちも初心を忘れずにって神様が言ってるのかも」

 

「そうと決まったら…久しぶりにあそこへ行こう」

 

「あそこか。いいね行こう」

 

こうしてひかりとエマはいがみ合っていた関係を解消し今後は本音をぶつけ合える喧嘩仲間として友情を確かめ合う。

 

HANABIのみんなも初心を思い出して収録終了後は洋食店のボヘミアンで会食をしていった。

 

あれからエマはひかりに毒を吐きつつも言い過ぎたら謝るようになり、ひかりも怒りつつも最後は笑顔で許すようになったらしい。

 

ちなみに秋山プロデューサーはあまりの不安にこっそり収録を観客として見守っていたのはヒミツである。

 

つづく!



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第33話 小嶋萌仁香

あかりは研修生生活も大詰めになりそろそろレギュラーメンバーの仲間入りを果たしたいと思いつつも、今日はあいにくの仕事がないオフの日だった。

 

他の同期たちもみんな仕事で同じオフの人は秋山加奈子のみとなった。

 

そんな中でLINE(リーネ)である女の子からメッセージが届く。

 

「お久しぶりです、前田先輩」

 

「えっと…萌仁香ちゃんだよね。久しぶりだね。何かいいことでもあった?」

 

「あのですね…私が所属している地下アイドルグループでライブが行われるんです。よかったら先輩もいかがですか?」

 

「言ってみたい!もしよかったら何人かお誘いしようか?」

 

「え?いいんですか…?マジで喜びますよ?招待した人数をここで送ってくださいね!」

 

「わかった!お誘いありがとう!」

 

こうしてあかりはオーディション当日に助けた小嶋萌仁香という女の子の地下アイドルとしてのライブに招待され、メンバーや研修生の何人かを誘うも空いているのが加奈子のみで二人のみになってしまった。

 

それでもまだ無名な萌仁香にとっては嬉しい事であかりだけでなくもう一人来ることを喜んでいた。

 

そしてライブの時間になってすぐに二人はライブハウスへ向かう。

 

そのライブハウスは中目黒にある小さなライブハウスでアイドルがやるにはいささか地味な所だった。

 

萌仁香とそのグループの出番は最後の方で地下アイドルの中では知名度はある方だと伺った加奈子はどんなパフォーマンスか楽しみだった。

 

ライブが始まり地下アイドルたちの必死なパフォーマンスに感動したあかりはサイリウムを振り、自分にはない何かを感じた加奈子はメモを取って熱心に勉強していた。

 

ついに萌仁香の出番になりあかりたちの興奮はマックスになる。

 

「あの子…確かアクムーン帝国が人間界に攻めて来た時に助けた子だよね?」

 

「はい。それがこんなにすごいアイドルで私より先輩なんだと思うと私が大したアイドルじゃないんだと痛感しちゃいますね」

 

「うーん…あかりは可愛いし素直だし清純派なマドンナタイプだからイケると思うよ」

 

「先輩にそう言ってもらえて嬉しいです」

 

「それよりも…さっきからコワモテの男の人が泣きながらあの子を応援しているんだけど…」

 

「あ…本当だ…」

 

あかりと加奈子はコワモテの男の人を怖がりつつ近づかないように遠ざけ萌仁香を応援した。

 

イメージカラーはグレーだけどサイリウムではネイビーブルーとして青色になるので青いサイリウムを振った。

 

ライブを終えて近くの公園で萌仁香と待ち合わせをして少しだけお茶を飲む。

 

すると萌仁香はコワモテの男の人を連れて来たのであかりは慌ててどんな関係なのか聞きだす。

 

「萌仁香ちゃん、この人は一体…?」

 

「この子たちは誰だ…?」

 

「えっとぉ~…この方たちはSBY48のアイドルたちなのぉ。それでこちらは私のお兄ちゃんなんだよぉ」

 

「お前まだアイドルの時のぶりっ子演じてるのか…。えっと…小嶋翔平だ。まぁ…よろしく」

 

「よろしくお願いします」

 

「お、お兄ちゃん!それはやめてって言ったのにぃ~…」

 

「萌仁香ちゃんのそのキャラって作ったキャラなんだ…」

 

「だってぇ~…プロデューサーがそうしろって言うんだも~ん…。正直…このキャラ辞めたいんだけどぉ~…そうでもしなきゃ売れないってぇ~」

 

「あー…まぁそういうことだ。俺は高校に通わず妹のアイドル活動のために中卒で働いてるわけさ。俺には将来の夢なんてないからな。だからこそ妹の萌仁香には夢を叶えてほしいんだ。俺は土木作業やってるから中卒でもそれなりに稼ぐことは出来る。だから妹の資金援助ってやつだ」

 

「優しいお兄さんですね…」

 

「ならもう一度その女に悪夢を目覚めさせてやるぜ!」

 

「その声は…ディストラ!」

 

「そいつだけではありませんよ?」

 

「何で俺まで…」

 

「まさか…ブレインやデプレシオまで…!」

 

「もう一度あの女には悪夢を見てもらい夢を見るなんざ無駄だって証明してもらうぜ!さぁいくぞ!」

 

「へーい…」 「ええ」

 

「ダークネスパワーよ…くだらない幻想を捨て、この世界を未来なき世界に変えよ!」

 

「危ないっ!うっ…うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「きゃあぁぁぁっ!お兄ちゃんっ!」

 

「そんな…お兄さんがダークネスパワーに…!」

 

「ふはは!さぁ思う存分に暴れろ!あの女が魔物にならなかったのは想定外だが…こいつも十分夢に苦しんできたからな!」

 

「なるほど…彼は妹さんの夢のために自分の夢であるパティシエを諦めたのですね」

 

「へぇ…面白そうだから見学しよ…」

 

「イモウトノユメノセイデ…パティシエノユメ…ステタ…!」

 

「そんな…お兄ちゃんには私の夢が叶うのが夢だって言ってたのに…!本当はお兄ちゃんにも夢があったんだ…!」

 

「加奈子先輩!早くお兄さんを助けないと!」

 

「うん!いこう!」

 

「ミューズナイツ!レッツミュージック!」

 

「HEY!HEY!HEY!」

 

「奏でるは心のメロディ!前田あかり!」

 

「ときめくは心のファンファーレ!秋山加奈子!」

 

「ウオォォォォォォォォォォッ!」

 

「お兄さんはきっと檻の中で苦しんでいる…早く助けてあげないと!」

 

「そうはさせませんよ!はあぁぁぁぁっ!」

 

「きゃあぁっ!」

 

「さぁ魔物よ!この女のせいで夢が叶わなかったならぶっ潰せ!」

 

「ウオォォォォォォォォォォッ!」

 

「お兄ちゃん…そんな…!」

 

「萌仁香ちゃんっ!」

 

「来ないで!私のせいでお兄ちゃんは…自分の夢を捨てて…そしてこんな姿になった…!私なんて…いる価値はないんだから!」

 

「ウウ…モニカ…タスケテクレ…!」

 

「え…?」

 

「モニカ…!」

 

「お兄ちゃん…!」

 

魔物はわずかに理性が残っていて妹の萌仁香のために自分を犠牲にしてもなお気にかけていた。

 

萌仁香は兄の夢を犠牲にさせたことを責め続けていて自分のせいでこうなるならアイドルをやめようとさえ思ってしまった。

 

ところが兄が魔物になってもなお気にかけていたことで迷いが生じる。

 

すると萌仁香の心の中から不思議な声が聞こえた。

 

「萌仁香…聞こえるか…?」

 

「お兄…ちゃん…?」

 

「確かに俺は萌仁香の夢のためにパティシエの夢は諦めた。自分を犠牲にして体にムチを打ってまで働いている。だがそれはお前が小さい頃からアイドルになりたいって言ってて何度も挑み続けてきた。だから自然と俺は萌仁香のため何かしてやりたいって思うようになった。だから俺は後悔していないのさ。萌仁香…お前は自分を信じ、その信じた道を歩み続けるんだ。俺の事はどうでもいいからといってもお前は気にかける事は知っている。それでももし俺の事で後悔しているのなら…プロアイドルになって夢を叶えてから俺の高校進学やパティシエの夢の支援をしても遅くはない。さぁ萌仁香…自暴自棄にならず本音を言ってくれ…。俺でさえわずかな意識の中で本音を言ったんだ、お前なら言えるさ。ぶりっ子の優しいお前じゃなく…不器用ながらも自分を曲げない本当のお前でぶつけてくれ」

 

「ありがとう…お兄ちゃん…」

 

「あ…?」

 

「私…自分のためだけにアイドルになろうって思ったけど…もうそんな夢を持つのはやめた…。これからは…応援してくれる大好きな優しいお兄ちゃんのために…お兄ちゃんの夢の応援をするために…私はもう一度SBY48のオーディションを受けてプロアイドルになる!たとえ遅れたとしても…私はもう二度と自分のせいで人の夢を奪ったとか…自分を責めて諦めたりしないっ!」

 

萌仁香が強い意志を叫ぶと彼女の耳から美しいオルガンの音色と美しい混声合唱の声が聴こえた。

 

萌仁香の手元には青いサイリウムが現れ遅れながら騎士として覚醒したのだ。

 

あかりは萌仁香が覚醒したと知り変身するように叫んだ。

 

「萌仁香ちゃん!さっき私たちが叫んだ変身の呪文を唱えて!」

 

「先輩…わかりました!ミューズナイツ!レッツミュージック!」

 

「HEY!HEY!HEY!」

 

サイリウムを三回振るとフロントだけシルバーグレーのネイビーブルーの立襟の軍服でシルバーグレーのスカート、さらに両手には大きなウォーハンマーが装備される。

 

ブーツはお揃いで萌仁香は晴れて騎士として覚醒したのだ。

 

萌仁香はふと浮かんフレーズを叫んで名乗り始める。

 

「続きありしは心のフィナーレ!小嶋萌仁香!お兄ちゃん…絶対助けるからね!」

 

つづく!



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第34話 再オーディション

萌仁香が騎士として覚醒し大きなハンマーを構えながら兄である翔平に立ち向かう。

 

あかりと加奈子はようやく立ち上がりいつでも援護できるようになる。

 

魔物はもがき苦しむように頭を抱えて暴れ回る。

 

「おい!何やってんだ!テメェの憎き妹に復讐しろよ!」

 

「どうやらわずかな善意ともう一つの夢が抵抗させているようですね…」

 

「めんどくさ…ディストラ。さっさと操ってよね」

 

「わかってるよ!オラッ!こいつのせいで夢を捨てたんだろ?だったら

この女を殺せ!」

 

「ウッ…ウオォォォォォォォォォォッ!」

 

「うわっ!?」

 

「何…?この魔物に何があったの…?」

 

「おそらくわずかなドリームパワーと今のダークネスパワーがぶつかり合って理性を失っているんだと思うよ!きっとお兄さんは萌仁香さんに助けてほしいんだよ!」

 

「私が…お兄ちゃんを…?」

 

「萌仁香ちゃん!援護は私たちがやるから翔平さんを助けてあげて!」

 

「わかりました…やってみます!えいっ!」

 

「グオッ…!」

 

「やっぱり効いてる…!」

 

「今度は私たちだよ!やあぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「グオォッ…!」

 

「今だよ!萌仁香ちゃん!」

 

「はい!お兄ちゃん…今度は私がお兄ちゃんの夢を叶えさせてあげるね!ミョルニルメテオハンマー!」

 

「ウア…アウ…!」

 

「これで騎士が9人揃いましたか…厄介ですね」

 

「クソッ!これでは皇帝陛下のメンツが立たねぇ!」

 

「俺たち三銃士でもこれか…まぁいいや。正直に報告しようっと…」

 

こうして小嶋翔平を助けた萌仁香はすぐに変身を解いて檻から抜け出せた翔平をキャッチするように抱きかかえる。

 

重さのあまりに倒れるも兄を庇うように受け身を取って倒れ込み見事に救出できたのだ。

 

翔平は意識を取り戻し萌仁香を見てこう言った。

 

「萌仁香…」

 

「お兄ちゃん…」

 

「お前は…お前の信じた道を行け…。俺の事はもう大丈夫だ…。お前は俺の事はほっといて…自分のアイドルを続け…」

 

「ううん…萌仁香は…お兄ちゃんにも夢を叶えてほしいなぁって思うの…。小さい頃から…よく家族にお菓子を作ってくれたよね…。あの時のお菓子は凄く美味しかったの…。でもいつからかな…お兄ちゃんがお菓子を作らなくなって萌仁香のために応援するようになったの…。でも…萌仁香ならもう大丈夫…今度はお兄ちゃんの夢を…応援させて…?」

 

「萌仁香…うう…ちくしょう…!俺は…ずっと萌仁香に気を使わせてたのかよ…!どうしてもっと早く気が付かなかったんだよ…ちくしょう…!」

 

「萌仁香のために…ごめんね…お兄ちゃん…!」

 

兄妹で抱き合いお互いに気を使わせたことを謝ると二人は今までの苦悩が解き放たれたように大泣きした。

 

あかりと加奈子は萌仁香だけでなく兄の翔平の夢も応援したいと心から願った。

 

するとあかりはスマホを取り出して何やら誰かに電話をする。

 

「前田さん…?」

 

「もしもし…秋山プロデューサーですか?」

 

「ああ、前田さんか。オフなのに突然どうしたんだい?」

 

「小嶋萌仁香という女の子が前のオーディションで落選したことを覚えていますか?」

 

「うん、覚えているよ。まさか君は…」

 

「はい。彼女を再オーディションさせてくれませんか?彼女は経った今、騎士として覚醒したばかりなんです。だから小嶋萌仁香ちゃんを…」

 

「それは出来ないよ。確かに騎士として覚醒はしたけれど、個人の感情だけで再オーディションさせるという贔屓(ひいき)的な真似は出来ないんだ。そんなの不公平だし平等じゃないでしょう?」

 

「それは…」

 

「前田さん、ちょっと変わって。もしもしパパ?加奈子です。このまま手放せばもう彼女にも会えないですし騎士として私たちが管理する事も出来なくなると思うんだ。再オーディションは無理でもレッスンは見てあげてもいいと思う。もしそれでアイドルとして実力がないと判断したら…私が責任持ってアイドルを引退するよ。」

 

「それがお前の覚悟か…わかった、再オーディションを認めよう。その代わり約束に二言はないよ?」

 

「うん、ありがとう」

 

「先輩…いいんですか?」

 

「いいの。それにその方が彼女も気合いが入ると思うし」

 

「あの…萌仁香のためにいいんですかぁ…?」

 

「あなたは私たちと同じ騎士として覚醒した。だからあなたを放っておくわけにはいかないんだ。それに…ようやくミューズナイツが9人揃ったもの、アイドルとしてもスタートを切れるって考えたら嬉しいんだ。小嶋さん、父はあなたにかなり厳しい審査をするけど、アイドルとしての自分を信じてぶりっ子ではなく本当の自分をさらけ出してもいいんじゃないかな?」

 

「でも…今のプロデューサーは…萌仁香の本当のキャラだと売れないってぇ…」

 

「心配しないで、ありのままの自分でも受け入れてくれるから。パパは元々の素材を活かす方が得意なんだから信じて。私はありのままの小嶋さんを見てみたいな」

 

「えっとぉ…」

 

「俺もオーディションに応援に行くから安心しろ」

 

「お兄ちゃん…わかりました!やってみます!」

 

こうして再オーディションが開催され歌とダンスとパフォーマンスで秋山プロデューサーに厳しい審査をされた。

 

萌仁香は今までさらけ出すのが怖かったありのままの自分を出し、ダンスとサービス精神旺盛なパフォーマンスでみんなを魅了させた。

 

それだけでなく今まで媚を売ってぶりっ子ぶってたキャラからスパイスの効いた素直じゃない本当のツンデレに路線変更してから特定のファンが付き人気を博した。

 

そして結果発表の時が来た…

 

「小嶋萌仁香さんね…君は前までどこか自分の殻の中に閉じこもってて思うようなパフォーマンスが出来なかったから落選させた。でも君は生まれ変わったかのように本来の自分を勇気を出してさらけ出した。そして君はそんな自分が嫌いだったものの誰かに認められて吹っ切れた。本当に変わったよ…君は合格だ。晴れて研修生として頑張ってね」

 

「ありがとう…ございますぅ…!」

 

「やったな…萌仁香…!これで心置きなく…定時制の高校受験に専念できるよ…!」

 

「マイクいいですか…?お兄ちゃん…ううん、兄さん。萌仁香のために今までありがとう。これからは兄さんも自分の信じた道を進んで本当の夢を叶えてください…」

 

「おう!萌仁香も頑張れよ!」

 

「それと小嶋さんにはもう一つお知らせがある。君を欲しがっている系列のグループがいるんだ。すぐに指定した場所へ行ってほしい」

 

「え…?」

 

秋山プロデューサーは萌仁香を何か嬉しそうにサプライズを用意していて指定した部屋へと案内する。

 

萌仁香は何が起こったのかわからなくなり言われるがままその部屋へと移動した。

 

その部屋に着くと緊張のあまりにドアをノックするのを忘れて部屋に入る。

 

「失礼します…!って…え…?」

 

「お、ようやく来たね!」

 

「いらっしゃーい!」

 

「あの…はじめまして…」

 

「ウェルカム トゥ ミューズナイツ!」

 

「この時をずっと待ってたんだぜ!」

 

「あの…これはどういうことですかぁ…?」

 

「ここミューズナイツというアイドルグループの楽屋だよ。あなたはここに選ばれ私たちと一緒に活動するんだ。」

 

「先輩…ようやく9人揃いましたね!」

 

「うん!さぁまずは新入りの小嶋萌仁香の歓迎パーティを行います!みんな…かんぱーい!」

 

「かんぱーい!」

 

小嶋萌仁香が新たにメンバー入りをしてミューズナイツも新しいスタートを切る。

 

目標だった9人を集める事を達成し残るはデビューシングルを出すこととPVで知名度と話題性を呼ぶことだ。

 

後日に萌仁香は秋山プロデューサーからミューズナイツの事を聞かされ受け入れてくれた先輩たちのために一緒に戦う事を決意する。

 

こうしてミューズナイツの歴史は始まったのだ。

 

つづく!



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第4章
第35話 紅白へ


新暦2018年も年末に近づきついに紅白歌合戦の選出が発表された。

 

SBY48は安定して選ばれ秋山プロデューサーは紅白の準備で忙しくなった。

 

だが同時にレギュラーメンバーの脱退や卒業、研修生からの昇格など研修生にとってチャンスでもある。

 

萌仁香は前の事務所と地下アイドルグループを脱退しSBY48の専属事務所に移籍し、あかりにもレギュラーメンバー入りのチャンスが訪れる。

 

そしてついに紅白歌合戦の準備が始まった。

 

「さてと…こんなものかな。ミューズナイツも活動を始めたし、グループのソロライブでも出番もあるしいい感じだね。それに…2月の秋山拓也の48グループ総選挙と3月には研修生期間終了の知らせもあるしあの子たちのためにも心を鬼にしないとだね…。ん…?」

 

「失礼します。秋山加奈子です」

 

「加奈子か、どうぞ」

 

「ついに紅白歌合戦の出場が決まったんだね」

 

「うん。その紅白のメンバーに前田さんを入れ、今後はレギュラーメンバーに昇格しようと思う。それに教育係の研修生3年目の5人も昇格だ。彼女たちのサポートのおかげで前田さんも一人前のアイドルになれたし、彼女たち自身も教える立場になって急激に成長した。今日の夕方に全員を劇場に集めるよう伝えてほしい」

 

「わかった。あかりやその子たちにも昇格の知らせも伝えておくね」

 

「頼んだよ。ふぅ…」

 

「お疲れ様、あなた」

 

「ヴィオラ…君には本当に苦労をかけたよ。君の国は今どうなっているんだい?」

 

「国民たちは無気力になったり卑屈になったりとまだダークネスパワーに侵されているわ。でもあの子たち9人がいい感じにドリームパワーを集めたおかげで少しずつ心を取り戻しつつあるわ」

 

「そうか…僕もそろそろ…自分を変える必要があるね…」

 

「あら、あなたはまだおじさんだと言うの?」

 

「うん…大島さんを見るといつまでも年を言い訳にしてられないからね。この事件が終わったら覚悟を決めるよ」

 

「応援してるわ、あなた」

 

「さて、残るは紅白出場メンバーの選出だ。最後の一仕事を二人で終わらせよう」

 

秋山プロデューサーとヴィオラ女王は二人でSBY48の紅白出場メンバー48人を選出すべく最後の仕事に入った。

 

他の同じ系列のUMD48やTYT48などは秋山プロデューサーの弟子たちがプロデュースしておりその人たちに全権を任せている。

 

本家でありナンバーワンのSBY48は直接プロデュースをできる唯一のグループだ。

 

そのためか研修生でさえプロ意識が高くレベルで言えば地方のグループでセンターを取れる程度の実力が揃っている。

 

そんな中で紅白に出れるのは総勢100人の中から48人のみで厳しい登竜門が今晩行われるのだ。

 

そして夕方になり100人全員が集まり紅白出場メンバーの発表をする。

 

「皆さんよく仕事を頑張り集まってくれたね。もうみんなは知ってると思うけど紅白歌合戦に10年連続出場が決まった。そしてその出場するメンバーを研修生含め48人選出する。それと…研修生の中からレギュラーメンバー入りをする6人を発表する。長門有梨さん、松実柊さん、萩原瑞歩さん、有原亜里沙さん、東郷実里さん、そして…前田あかりさんおめでとう。では続いて紅白歌合戦メンバーの発表をする。最初に呼ばれた人ほどセンター側だよ。ではまず…秋山加奈子」

 

「はい」

 

「続いて…」

 

こうしてメンバーは続々と発表され以下の48人が選ばれた。

 

秋山加奈子

 

長門有梨

 

松実柊

 

萩原瑞歩

 

有原亜里沙

 

東郷実里

 

伊吹未来

 

大島結衣

 

七島春歌

 

新田美優

 

石川あゆみ

 

遠藤沙綾

 

篠田日菜子

 

高橋ひかり

 

板野麻里奈

 

柏木エマ

 

渡辺麻友美

 

織田竜華

 

松田李衣奈

 

趙真理

 

西野里花

 

波野あさり

 

矢部桃花

 

林綾香

 

園城寺さやか

 

近藤レナ

 

前田あかり

 

森島七海

 

園田つばき

 

桜坂美波

 

横山光代

 

大崎照

 

黄瀬さつき

 

青木麗子

 

緑川直美

 

大坂沙織

 

虹野夢美

 

菊池真

 

小嶋萌仁香

 

飛鳥明日香

 

小池恵美

 

加藤絵里奈

 

山田花子

 

田中里美

 

沢村栄子

 

岡和恵

 

礒部美里

 

岸部由香

 

「以上です。残りの子たちはそれぞれ別の仕事を振ってある。選ばれなかったからと落ち込まず次のワンマンライブに選ばれるように備えてほしい。それから…秋山加奈子、前田あかりさん、大島結衣さん、篠田日菜子さん、渡辺麻友美さん、高橋ひかりさん、板野麻里奈さん、柏木エマさん、そして小嶋萌仁香さんは個人的に話があるから残ってほしい」

 

「はい!」

 

「おめでとう前田さん。といっても私たちも選ばれたんだけどね」

 

「先輩たちがずっとご指導してくださったおかげです。先輩方もおめでとうございます」

 

「いいの。これでようやく3年目の終了という名のクビを間逃れたから」

 

「それよりも前田さん、プロデューサーが個人的に残るように言ってたけど何かやった?」

 

「えっと…わかりません…。何も身に覚えがないです…」

 

「そう。まぁあなたは何も悪い事してないからきっとあの子たちと何か新しい仕事でも来たんでしょう。どんな話であっても頑張って」

 

「はい!」

 

あかりたちは秋山プロデューサーの個人的な話が気になりつつもまさか引退勧告ではと不安になる麻友美と日菜子、新しい仕事なんだとワクワクするひかりと麻里奈、何か悪いことしたっけと考えるあかりと結衣、そしていきなり呼ばれてワケが分からない萌仁香がそわそわしながら移動する。

 

加奈子はもう何の話なのかはすでに知っていてミューズナイツの今後の事だろうなと思いつつもまた別の話がありそうと考察していた。

 

呼ばれたメンバー以外全員劇場から出ると秋山プロデューサーは咳払いをして深刻な顔をして話を始めた。

 

「いきなり悪い話ですまないが…アクムーン帝国がついに人間界に宣戦布告をするらしい」

 

「えっ…?」

 

「ヴィオラの手元から脅迫状が届いたんだ。この世界の暦が1になった時、お前たちの夢とやらを奪い壊しそして無力だと思い知らせてやる。それまでせいぜいくだらない夢見るお姫さまにでもなっているがいい…と」

 

「ママ…」

 

「それに我が国民たちがどうやら希望を持った人から奴隷として働かされているの。このままではユメミール王国はアクムーン帝国に完全に乗っ取られてしまうわ。そこであなたたちが人間界でドリームパワーを集めアイドルグループのミューズナイツとして本格的に始動してほしいの。最初のデビュー曲は…夢を見るあなた専属応援チアリーダーをテーマに本気・やる気・頑張る気という曲名よ。松田智也くんが専属作曲家として曲を作ってくれたの。これがあなたたちのデビューシングルよ」

 

「どれどれ…?」

 

「なるほど…ありがとう…智也…」

 

「メッチャいい曲じゃんか…」

 

「これなら…皆さんに夢を与えられますね…」

 

「紅白歌合戦を終えた翌日に君たちだけ先に会場を後にしてPVやレコーディングの準備をするよ。そしてミューズナイツは3月にSBY48のワンマンライブがあるだろう?そこで空前絶後の音楽の騎士現るとしてデビューを飾ってほしい。ミューズナイツプロジェクトはここから始まりだ。一緒に頑張ろう」

 

「はい!」

 

ミューズナイツ…新暦2019年にて始動!

 

つづく!



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第36話 紅白本番

新暦2018年も年末になりもう世の中は紅白歌合戦ムードになる。

 

最近はあかりも神7候補として名乗りを上げつつあり他の同期たちも先輩たちを続々と追い抜いていった。

 

先輩たちは焦りを見せつつもあかりたちの急成長に感心し自分たちも負けてられないと紅白メンバーを中心に奮起した。

 

そんな中でついに…紅白歌合戦の本番の日が訪れた。

 

「さぁお待たせしました!第100回紅白歌合戦、今開演です!司会は私、白組の島田慎二と…」

 

「紅組の本田綾香でお送りいたします!今年もまたいろんな事がありましたね!」

 

「ええ、今年は何と言ってもたくさんの芸能人が一気にデビューした年でしたね。そんな中でフレッシュな初出場もいますので乞うご期待ですね」

 

「私的にはアルコバレーノに期待しています!」

 

「なるほどー、では参りましょう。白組のトップバッター、Phantomです!」

 

「よっしゃー!ロックにいくぜー!」

 

アルコバレーノと同じ事務所のロックバンドのPhantomが先頭を仕切りNHTホールをすぐに熱狂させた。

 

SBY48の出番は女性アーティストの紅組の大取りを務めるので最後になる。

 

あかりは緊張しつつもたくさんのアーティストのパフォーマンスを見て熱心にメモを取って勉強していた。

 

結衣はその勉強熱心な向上心のおかげであかりはここにいるんだと何度も先輩たちに語っていたことはヒミツである。

 

続いて秋山プロデューサーが個人的に気になるアーティストでアイドルのアルコバレーノの出番になりメンバー全員を集めて舞台袖でパフォーマンスを目にさせる。

 

「あの子たちって…」

 

「最近話題の個性はアイドルグループらしいですね…」

 

「へぇ…そんなやつらがアイドルやってたとはな」

 

「でも何だか…不思議な力を感じるデース」

 

「うん…間違いなく何か力を感じる…」

 

「みんな。感心するのもいいけど私たちは私たちのやれる事を全力でファンに届ける事だよ。私たちが怯んでたらファンに失礼だよ」

 

「は、はい!」

 

「加奈子先輩ハンパねぇ…これが神7のトップ…」

 

「といっても神7候補は…結衣さん、日菜子さん、ひかりさん、エマさん、麻里奈さん、私、そしてあかりさんみたいです…。加奈子先輩は…卒業がささやかれていて選挙からはずれるとの噂があります…」

 

「でも加奈子先輩はミューズナイツとして私たちを先導する役目があるんだよ。そう簡単にやめるはずがないよ」

 

「確かにそうだね…」

 

「みんな、無駄口を叩いてないであの子たちのパフォーマンスを見なさい。あかりをよく見なさい、私の声すら気付かないくらい集中してるんだから」

 

「お、おう…」

 

あかりたちはアルコバレーノのパフォーマンスに圧巻され自分たちにはない個性のぶつかり合いと協調性にいつの間にか48人全員が魅了されていった。

 

萌仁香はあまりのパフォーマンスにキャラ作りを忘れかけるほどだったくらいだ。

 

次の注目アーティストの月光花は京都のローカルアイドルで近いうちにUMD48と関西王者を争う存在になるといわれている。

 

そんな彼女たちからもミューズナイツの9人はアルコバレーノや自分たちとは違う何か不思議な力を感じすれ違うだけで自分たちの行いを悔いてしまうほどだった。

 

紅白歌合戦も終盤にかかり日菜子と麻友美は振り付けの打ち合わせをしていると金髪でウェーブがかかった赤いリボンを付けた女の子が威圧的に声をかけた。

 

「そこ!わたくしのテリトリーに入らないでくださる?あなたたちのような下民が入る隙なんてないですわよ?」

 

「何こいつ…!?」

 

「あの…ここは皆さんで共有し合うところでして…」

 

「わたくしに歯向かうつもりですの?まぁさすが下民というべき存在ですわね。いいですわ、今回は譲って差し上げますわ。ですが…次はないとお思いなさい」

 

「何こいつ…何かムカつくんだけど…!」

 

「確かに怖いです…」

 

「あ、いた。日菜子、麻友美。あ…すみません、この子たちまだ新人で不安なところがあって話し合ってただけなんです。それでは…失礼します」

 

「ふん!」

 

「加奈子先輩!何であんな奴に敬語で下手に出るんですか?あんな奴に頭を下げるなんて納得いきません!」

 

「あの…日菜子さん…私は気にしてませんから…」

 

「高飛車きらら…あの子の両親が世界中の大手企業や大物たちを買収して大きくなった超巨大企業なんだ。そしてそれに逆らった会社や国々はあらゆる手で蹴落とされて社会復帰が困難になるほどの制裁を受けてしまったんだ。その企業の名は…高飛車財閥」

 

「何ですかそれ…?」

 

「高飛車財閥…数々のアニメ制作会社やゲームメーカーを買収していろんなシェアを独り占めしている悪徳企業です…。まさか芸能界にまで手を出すだなんて…きっとあの子はその一人娘かもしれません…」

 

「目を付けたって事は…今後あの子には注意して。どんな手段で陥れられるかわからないから」

 

「は、はい…!」

 

日菜子と麻友美は不幸な事に高飛車きららに目を付けられてしまい加奈子の説明と麻友美の情報で三人は不安になってしまった。

 

その高飛車きららは圧倒的ワンマンパフォーマンスでありながらも実力は歴代の神7を凌駕するほどで文句のないものだった。

 

あかりは熱心にメモを取るもどこか悲しげで苦しそうな表情に疑問を覚える。

 

そして日菜子と麻友美と加奈子が合流し全員揃いもうすぐ出番が来る。

 

日菜子はムッとしていて麻友美は不安げで加奈子は高飛車きららを警戒していたが他の子たちは緊張しているだけだと流していた。

 

「この大舞台で緊張するのもわかるけど、私たちはアイドル界の王者ってだけでなくファンを応援する最高のアイドルでもある。その誇りを胸に紅白歌合戦の大取りを務めよう!」

 

「はい!」

 

「S!B!Y!」

 

「48!」

 

こうしてSBY48は新人を10人以上抱えてもなお最高のパフォーマンスを発揮し周りを引き寄せないほどのオーラで会場を最後の最後で大きく盛り上げた。

 

SBY48名曲メドレーで締めくくり加奈子は自分がセンターになるだけでなく他の子たちにもソロやセンターなどを譲るなど自分だけが主役じゃないと層の厚さを見せつけた。

 

あかりたちも慣れない先導に戸惑うも次第に慣れてきたのか適応できるようになった。

 

パフォーマンスを終えるとアルコバレーノのみんなが舞台袖からお出迎えしてくれて拍手に見舞われた。

 

あかりは桃井さくらという子に憧れられていると気が付き声をかけた。

 

「これが私たちSBY48です。皆さんとても素敵なパフォーマンスでした。また共演出来たらよろしくお願いします」

 

「あかりちゃんもよろしくね。アイドルのトップであるあかりちゃんとお友達になれてよかった」

 

「それにしても…高飛車きららは気になるな…。何であんなに他人を見下していやがるんだ…?」

 

「うーん、何か過去にあったのかもしれないね。今後彼女には気を付けてくださいね」

 

「わかりました」

 

ミューズナイツの9人は騎士の力であるドリームパワーですっかり注目を浴びてしまい新たなる神7候補現るとして話題になった。

 

中にはもう世代交代で加奈子もろともあかりたちはもう神7なのではとささやく者もいた。

 

結果は紅組の勝利で全員未成年のためお酒は飲めず打ち上げには参加する事が出来なかった。

 

それでも充実した年末年始になり平和な日常を送る…はずだった。

 

つづく!



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第37話 ミューズナイツ始動

1月になり宣言通りミューズナイツはSBY48の系列でデビューを果たす。

 

最初のレコーディングやダンスのレッスンは一通り終えていてセンターをあかりに置くことが決まった。

 

そしてついにPVの撮影の時が来た。

 

「さぁ、今日からPVの撮影だよ。応援団のつもりでチアガールと応援する学生たちを演じてほしい。勉強を頑張る学生や仕事を頑張る社会人への応援だから気合い入れていこう」

 

「はい!」

 

「先輩方…萌仁香すごく緊張してますぅ…」

 

「ええ、私もこんなに緊張するのははじめてよ」

 

「うう…」

 

「麻友美ー大丈夫かー?」

 

「いえ…その…あんまり…です…」

 

「そんな時はこれだよ。失敗して当たり前だから全力でやろうって気持ちになるんだよ。神さまでさえ何度も失敗を重ねてきてようやく神さまになったんだもの」

 

「イエス。エマの信じる神さまも失敗を重ねてロックの神さまになりマシタ。だから麻友美が怖がる必要はないのデース」

 

「あかりさん…エマさん…。そう思うと少し楽になりました…。ありがとうございます…」

 

「じゃあ智也、ここで見ててね!」

 

「おう!頑張れよ!」

 

「メイクもヘアーもOK!メイクさんありがとー!」

 

「いっちにっさんっしっ!うし!準備完了だぜ!」

 

「みんなそれぞれ準備万端って感じだね。じゃあ監督さんに挨拶に行こう」

 

「はい!」

 

「おお、今日はよろしくね」

 

「よろしくお願いします!」

 

こうしてミューズナイツのみんなはPVの撮影に入る。

 

1月になった時にアクムーン帝国が攻めてくるというけれど今のこの状況で攻められたらミューズナイツの活動に大きく影響が出てしまう。

 

そのためみんなは何度も来ないようにお祈りをしてきた。

 

最初の撮影は学生服風の衣装で振り付けを踊り、そして所々で何人かと組んではしゃいだり抱き合ったりして喜びを表した。

 

萌仁香はPVに慣れてないのにライブ慣れしているのか撮られることに慣れている感じだった。

 

萌仁香の緊張は先輩たちの足を引っ張らないかの事であり失敗することではないのでスムーズに進んでいった。

 

あかりも研修生からレギュラーメンバー入りしただけでなく神7候補として選ばれている自覚を持ってから急激に成長している。

 

加奈子のプロデュースを先導に他のみんなもそれぞれの個性に合った応援のし方で撮影をスムーズに進める。

 

制服だけでなくチアガール衣装でも振り付けを踊るので次の撮影はチアガール衣装へと着替える。

 

メガホンとポンポンを持って振り付けとは違うダンスを踊るので加奈子以外は苦戦を強いられた。

 

「ちょっと一回休憩入ろうか!ここまでずっと休みなしでやっちゃったからなぁ…」

 

「はぁ…はぁ…!」

 

「わかりました。お昼休憩入ります」

 

「ちょっと楽しみすぎて調子に乗っちゃったな…」

 

「マジで…アタシらやれば出来るんじゃん…」

 

「けど…飛ばし過ぎもよくないわね…反省したわ…」

 

「おいおいもうバテたのかよ?」

 

「ひかり…アナタはどうしてそんなにタフデスか…?」

 

「あ?決まってんだろ。毎日激しい運動とダンスをしてきてんだ。これくらい出来ねぇとライブでヘバるぞ?」

 

「あかりさんも…平気そうですね…」

 

「私の学校はテニスの強豪校だから結構ハードな練習を普段からやってて、それで体力と精神力は鍛えられたかな」

 

「すごい…あかりの意外な一面だ…」

 

「渋谷芸術学園はテニスの強豪だっけ?確かあかりって去年全国大会でベスト16じゃなかったっけ?」

 

「加奈子先輩どうしてそれを…?」

 

「パパが管理している履歴書とかプロフィールを読んだんだ。そうしないと他のみんなを引き出せないでしょ?それにみんなの事を知る事でよりグループのパフォーマンスを発揮できるって思うんだ」

 

「だから私たちの事をこんなに知っていたんですね。リーダーとしてまだまだですね」

 

「これからだよ結衣ちゃん。加奈子先輩は長年グループにいたから出来るんだと思うよ」

 

「それもそうね。私ももっとみんなの事を知らなきゃ」

 

「じゃあ結衣、オレとジムでどっちが力持ちか競い合おうぜ!」

 

「相変わらず脳筋デース」

 

「何おう!?」

 

「もうまた…」

 

「お、みんななかなか合流できないのに仲がいいんだな。喧嘩し合ってる子たちもいるから心配だったけど杞憂(きゆう)だったみたいだな…。よし、そろそろ休憩を終わりにしよう!撮影を続けるよ!」

 

「はい!」

 

チアガール衣装の撮影を再開しみんなはお互いの事を話し合って意外な一面を知り合う事が出来た。

 

そのおかげか撮影は想像以上にスムーズに進み監督の予想を超えるチームワークで撮影を完璧にこなしていった。

 

これにはさすがの加奈子も驚いてみんなの急成長を糧にもっと自分を高められると実感した。

 

そして…

 

「よし!これで撮影は全部終了です!お疲れ様でした!」

 

「お疲れ様でした!」

 

「よっしゃあー!終わったー!」

 

「エマは何か洋食が食べたいデース!」

 

「萌仁香もオシャレな食べ物がいいですぅ」

 

「じゃあ私の奢りで洋食店に行こう」

 

「やったー!先輩マジ太っ腹!」

 

「ゴチになります!」

 

加奈子はそれなりに稼いできたのでお金に余裕があり9人分の食事を払えるほどだった。

 

みんなは渋谷にある隠れ名店の洋食店に足を運びみんなそれぞれ食べたいものを注文する。

 

あかりと麻友美はホットケーキ、結衣と加奈子はスパゲッティ、ひかりとエマと日菜子はステーキ、そして麻里奈と萌仁香はオムライスを注文した。

 

それぞれ自分の事や友達の事、芸能界に慣れてきたかどうかの会話をしミューズナイツは本格的に始動したんだと実感がわく。

 

さらに結成会見を秋山プロデューサーが記者を呼んで夕方に開きミューズナイツは順調に注目を浴びる…はずだった。

 

店を出た直後に突然アクムーン帝国の三銃士が奇襲をかけ渋谷の街を荒していったのだ。

 

「うわああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「助けてえぇぇぇぇぇっ!」

 

「ママー怖いよー!」

 

「あーあ…皇帝陛下のご命令とはいえ何で破壊なんかしないといけないんだろ…」

 

「そう言わないでください。我らが皇帝ゲーツィス様は人間共の夢や可能性を潰してある目的を果たし無気力化させるのですから」

 

「ふはははは!くだらない夢なんざ見るから平和ボケをするんだよ!その花畑な頭と心を反省して絶望しろ!」

 

「やめて!これ以上この街を壊さないで!」

 

「あ?」

 

「やれやれ…ただの人間がまた来ましたか…」

 

「よくも私たちの街を…人々の夢や平和を…!みんな!いくよ!」

 

「はい!」

 

「ミューズナイツ!レッツミュージック!」

 

「HEY!HEY!HEY!」

 

「みんな!いくよ!」

 

「うん!」

 

「へぇ…そんなに張り切って大丈夫…?お前たちが今戦えば…この街を滅ぼすだけでなく人間共のドリームパワーを奪う事も出来るし…何なら無気力化させてから殺すけど…?」

 

「何ですって…!」

 

「そこでジッとして我々を見逃すか…抵抗して皆さん諸共世界を滅ぼすか…二つに一つお選びください」

 

「なんて卑怯な奴らだよ…!」

 

「こんなの…あんまりだ…!」

 

「ふざけるな!オレたちはテメェらのために利用されてるんじゃねぇ!全員まとめてぶっ潰してやる!」

 

「待ってひかりちゃん!早まらないで!」

 

「おらあぁっ!」

 

「ふふっ…かかりましたね。ふんっ!」

 

「うがあっ!」

 

「ひかり!」

 

「へへっ!今の衝撃で飛んで火にいる夏の虫こと野次馬が来たようだな…。お前らの命知らずさを称えくたばれっ!」

 

「間に合わない…!」

 

「そんなこと…させないよ!やあぁぁぁぁぁぁっ!きゃあぁぁぁぁぁっ!」

 

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「しまった!」

 

「加奈子先輩!」

 

「そんな…街の皆さんが…」

 

「守れなかったのね…私たち…!」

 

「ミューズナイツに告げる。もしも我々アクムーン帝国と戦いたくば帝国に足を運ぶが。いい。来週の今頃に代々木公園にて入り口を設けます!来ても来なくても人間共の夢や希望を奪い世界を破滅に追い込みましょう。では…」

 

そう言ってアクムーン帝国の三銃士は渋谷を破壊するだけしていってそのまま消えていった。

 

加奈子は何とか軽傷で済んだものの巻き込まれた一般の人は少なくとも10人は重傷で3人ほど意識不明の重体になった。

 

そしてミューズナイツに更なる試練が襲ってくるのだ…

 

つづく!



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第38話 内なる敵

民衆を巻き込んでしまったミューズナイツは敵の攻撃に無力だっただけでなく町のみんなを守り切れなかったことを悔やみ続けた。

 

みんなは加奈子の傷が浅い事でホッとしたものの一般の人の中には意識不明の重体の人もいる。

 

彼らの面会も関係者に断られてしまいミューズナイツにとって最悪のスタートを切る事になった。

 

だがしかし…彼女たちの苦難はまだ終わりではなかった…

 

「君たちに残念なお知らせだよ。ミューズナイツは一般の人を戦いに巻き込んだ罰としてアイドル協会からみんなの芸能界から謹慎処分が下された。僕やヴィオラのためにこんな危険な事をさせた上に…こんな目に遭わせてしまってすまないと思う…。だから協会に僕は強く言ったんだ。彼女たちを謹慎するくらいならすべてを押し付けた僕の方に責任はある。だから謹慎するなら僕の方にしてほしいと…。でも彼らはもう子どもじゃないから自分で責任を取れるようになりなさいと聞かずにこの様な処分になったんだ。僕の力が及ばなくて申し訳ない…」

 

「いいんです…。こうなる事は覚悟していました…」

 

「でも…まさかアクムーン帝国がこんな時に攻めてくるなんて…」

 

「ちくしょう…!何でなんだよ…!」

 

「それからね…僕はもうすぐマスコミから記者会見を開くように言われていてその準備をしなければならないんだ。君たちをクビにしないよう僕からも手を打ってみる。どうか自分たちを責めないで自分たちのやれる事をやってほしい。勝手な大人ですまない…それじゃあ行ってくるよ」

 

「このままじゃあ敵にやられた加奈子先輩が報われないよ…」

 

「加奈子先輩…大丈夫でしょうか…」

 

「心配いらないって言えば言うほど不安なんだよな…」

 

「えっ…ちょっと待って…!こんなの酷い…!」

 

「何かあったの?日菜子」

 

「智也から連絡があって…マスコミが私たちミューズナイツを悪魔を呼んだアイドルグループだと報道しているんだ…!」

 

「何それ…エマたちが原因だと言いたいのデスか…?」

 

「悪魔が攻めて来たのはミューズナイツが結成してからの事で彼女たちが世界に不幸を呼んだのではないか…って…」

 

「私たちは何のために戦ってたのかしらね…」

 

「ネットでも私たちに批判の声が上がってます…」

 

「何でだよ…アタシたちのせいにされちゃってんじゃん…」

 

「そんなぁ…先輩たちは悪くないのにぃ…!」

 

「とにかく批判は避けられないけど私たちのアイドル道を進みましょう。そうじゃないとファンのみんなに失礼だから」

 

「結衣ちゃんの言う通りだね…。ここでくじけたらアイドルらしくないもんね…。みんな、一緒に頑張ろう!」

 

「おー…」

 

秋山プロデューサーは記者会見を開きカメラの前で頭を下げて謝罪をする。

 

しかし記者たちの心無い質問責めに遭い秋山プロデューサーは涙をずっと堪えつつも怒りが込み上げてきている。

 

握りこぶしを強く握り歯は強く食いしばり、目には大粒の涙がポロポロとこぼれていた。

 

翌日になるとSBY48劇場の前で何やらたくさんの人たちが暴れていた。

 

「お前らのせいで俺の弟は巻き込まれたんだ!」

 

「私の友達を返して!」

 

「あの子はもう歩けないかもしれないんだぞ!どうしてくれるんだ!」

 

「ミューズナイツを解散させろ!SBY48からクビにしろ!」

 

「何が夢だ!何が努力だ!全部綺麗事で都合のいい様に言ってるだけじゃないか!」

 

「SBY48から全員出て行け!そして二度と顔を見せるな!」

 

「あいつら…好き放題言いやがって!」

 

「よしなさいひかり!ここで手を出したら火に油よ!」

 

「んなモンわかってるよ!クソがっ!」

 

「どうして…どうしてみんな私たちを悪役にするの…?」

 

「あかり…エマたちはこのまま…アイドル追放デスか…?」

 

「嫌だ…そんなの絶対嫌だ…!せっかく努力して…夢が叶ったのに…こんな形で邪魔されて…このまま終わるなんて嫌だよ…」

 

「あかりさん…!私…私…うう…」

 

「あ、ミューズナイツだ!すみません!一般人を巻き込んだことに何か謝罪の一言を!」

 

「君たちがあの悪魔たちを呼んだんじゃないですか?」

 

「あの魔物たちと君たちに何か関係は?」

 

「本当に君たちは反省しているのですか?」

 

「やめて…もうやめてくださいっ!私たちだって…精一杯やったんですよ!?それなのに…どうしてこんな形で私たちを苦しめるんですか…?これ以上追い詰めるなら早く出ていってください!」

 

「萌仁香…」

 

「あの!ミューズナイツの皆さん!早く一言を!」

 

「すみません!彼女たちは精神的に追い詰められてて今はインタビューに答える暇がないんです!どうかお引上げ願います!」

 

「智也!」

 

「ああ日菜子!ここは俺が何とかする!みんなは早くここから脱出してくれ!泣き崩れてても構わず遠くへ逃げるんだ!」

 

「ありがとう智也!みんな行くよ!変装グッズはもう持った?」

 

「ああ、この通りだよ!」

 

「よかった!急いで脱出しよう!智也の行動を無駄にしないために早く!」

 

「いきましょう萌仁香!」

 

「うう…ぐすっ…!」

 

ミューズナイツはマスコミやアンチによる追放デモでさらに追い打ちをかけられ萌仁香は悪い事をしてないのに報われない自分たちに苛立ちを覚えついにマスコミに当たってしまうほど精神的ダメージが大きかった。

 

麻友美はメンタルが元々そんなに強くないので涙を流して泣きだし、あかりが背中をそっと押して移動する。

 

ひかりは気が短いのでマスコミの対応に腹を立てて地面を蹴り、エマもあまりの無責任さに怒りを露わに英語でWhy!?と叫ぶ。

 

麻里奈と結衣と加奈子はみんなのメンタルを落ち着かせるために慰めたり抱きしめたりし、日菜子は智也の頑張りに急いでメッセージ字を送った。

 

避難先は代々木公園でみんなでそこで止まって避難する。

 

そしてこれからの事を9人で話すのだった。

 

「あれが入口だね…」

 

「ここに入れば奴らと戦えマス…」

 

「それで…これから私たちはどうすればいいのか…」

 

「あのマスコミ共に一泡吹かせてやりてぇ…」

 

「いいけど手は出さないでクダサイね?」

 

「んなもんわかってるさ。手を出したらアンチ共のいいエサになっちまうからな」

 

「ひかりも少しは成長したじゃん」

 

「そうね。ひかりは少しずつ理性を持てるようになったわね。よく頑張ったわ。そんなひかりに聞いてもいいかしら?」

 

「何だ?」

 

「今後私たちはどうすればいいのかしら?」

 

「決まってんだろ…?アクムーン帝国に乗り込んで…あいつらにリベンジをして皇帝ゲーツィスとやらをぶっ潰す!そしてオレたちのやって来たことが間違いではない事をあのマスゴミ共に証明してやんよ!」

 

「なるほど…それなら覚悟は決めたわ。私もあのアクムーン帝国に攻め込み最終決戦を挑むわ!」

 

「私も…このままみんなが夢を捨てて世界が壊れるなんて嫌だ!絶対に世界を取り戻そう!」

 

「そうと決まれば早速準備して代々木公園に殴りこみだよ!」

 

「もう二度と…皆さんが夢を捨てて…こんな形でアイドルを引退なんてしたくないです…!」

 

「やってやろうじゃん!アタシたちの底力ナメんなよな!」

 

「おっしゃあ!やってやるぜ!」

 

「待ってなさいアクムーン帝国!エマたちがお返ししてやるデース!」

 

「ここは先輩として私が真っ先に入り口に入るからみんなは後からついてきて!怖かったら無理しなくていいからね!」

 

「でも…萌仁香はやりますぅ!先輩たちを差し置いて逃げるだなんて…そんな事は出来ません!怖いけど…頑張ります!」

 

「円陣組もう!夢と希望は無限大!ミューズナイツ!」

 

「レッツミュージック!」

 

こうして加奈子を先頭にミューズナイツのみんなはアクムーン帝国に乗り込んだ。

 

マスコミによる情報操作と偏向報道、さらに人の不幸をネタにする根性とアンチによる不満のはけ口としての暴動、さらにアクムーン帝国による夢と希望の破壊と努力は無駄だと否定、さらに無気力化という多くの敵と戦うことになる。

 

ミューズナイツの運命は…すべてはこの戦いにかかっている。

 

つづく!



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第39話 アクムーン帝国

ミューズナイツのみんなはアクムーン帝国に入り戦いの準備をする。

 

そこには無気力化した人々がいてアクムーン帝国によって夢と未来を奪われてしまったんだと痛感した。

 

加奈子に至っては女王の子なので人々の姿を見て苦しさのあまりに胸が張り裂けそうだった。

 

中にはまだ夢や希望を失わずに奇跡を待つ人もいて彼女たちの姿を見るとすぐに何かを訴える目をして見た。

 

あかりはこの状況を察したのか男性に声をかけた。

 

「あの…すみません。ずっと私たちの方を見ていましたが何かありましたか?」

 

「ああ、君たちはこの国の人間ではないね。見ての通り国民たちは夢を失い希望を奪われ、そして未来をも捨ててしまって無気力化したんだ。この国では人間たちの未来のために応援して見守ったり歌って励ましたりしていたのだが…地獄界から突然アクムーン帝国を名乗る連中がドリームパワーを奪ってこの有様さ」

 

「アクムーン帝国ってどんな奴らなんですか?」

 

「かつて人間界から未来を奪おうと地獄界から現れた悪魔さ。そして我々のご先祖さまはそのアクムーン帝国に立ち向かい一度は滅ぼす事に成功したんだ。初代ミューズナイツたちによってね。ところが夢と希望をよしとしない反逆者のゲーツィスがアクムーン帝国を再構築して復活させ何者かの力によって膨大な組織になったんだ。そこでゲーツィスに仕えていた三銃士は我々ドリームランドの夢と希望と未来を奪い壊したんだ」

 

「ひどい…どうしてこんなことを…!」

 

「夢に満ちたみんなに嫉妬して自分が恵まれないからって巻き込んだ可能性があるかもしれないわね…」

 

「だったらなおさらひどいよ!」

 

「ゲーツィスは確か…何か邪神を崇拝していたような気がするんだ。悪い事は言わない、君たちは早く元の世界に帰るんだ。アクムーン帝国に立ち向かえるような騎士たちは…」

 

「その騎士がオレたちだって言ったらどうするんだ?」

 

「ひかり…!?」

 

「それはありえないよ。ミューズナイツという騎士はこの国の国民の血を引いてないとなれないからね。もし本当なら古(いにしえ)の光の棒があるはずだよ」

 

「それならエマたちが持ってマス。この通りデス」

 

「その色たちは…!?間違いない…でもどうして君たちが…?」

 

「あの…私は秋山加奈子です。この国の女王であるヴィオラの血を引く者です」

 

「ヴィオラ女王陛下の…!ということはあなた様はカナコ王女…!よくぞご無事で!」

 

「えっと…ママから聞いたのかな?私たちは初対面ですけど…」

 

「あ、申し遅れました。私はこの国の大臣のクラリネッタ・アモーレです。カナコ王女さまはともかく他の子たちは何故…?いや、今はそれよりも三銃士をどうするかを考えねば…」

 

クラリネッタ・アモーレと名乗る大臣はあかりたちはドリームランド王国の血を引いてないのになぜ騎士として覚醒できたのかがわからなかったけど今は三銃士をどう倒すかを考えていた。

 

あかりたちはこの人のために何かできないかを考えるもこれといった案が出なかった。

 

そんな中で麻友美が勇気を出して大臣に声をかける。

 

「あの…もしよろしければ…私たちが三銃士を討伐いたします…」

 

「何だって…!?しかし君たちは異世界の…いや、騎士として覚醒した以上はなりふり構ってられないな。こうなったらもう君たちが頼りだよ。城はもう占拠されたけど私の家でゆっくりくつろいでほしい」

 

「ありがとうございます…」

 

「その前にここが貴様らの墓になるのだ」

 

「誰!?その声はマジで聞いたことないけど?」

 

「あわわ…見つかってしまったか…!」

 

「ふふふ…ミューズナイツが9人揃ったようだな。我はアクムーン帝国の皇帝であるゲーツィス。貴様ら自らここに飛び込んでくるとはおめでたいやつらだな」

 

「なにおう!私たちはお前を倒すためにここに来たんだ!おとなしくこの国から出て行け!」

 

「ほう…未来に満ち溢れている目をしているな。我が最も嫌いな目をしている…。夢を持ったところで人間共が叶えられる人数などほんの数人しかあるまい。そんな幻想を抱いて生きているのが我にとっては哀れであり…憎しみであり…無謀だと思わせるのだ。貴様らの相手をしたいところだが…生憎我は人間界に用があるのだ。人間共のドリームパワーを吸収して無気力化させ、未来を奪ってある計画を実行する。語ったところで貴様らにはわかるまい。さぁ出でよアクムーン三銃士たちよ!この哀れな夢の騎士共をあの世へ送り夢など見てしまった事を後悔させるがいい!」

 

ゲーツィスと名乗る男は三銃士を呼び出してミューズナイツを葬ろうとサーベルを片手に天へと掲げた。

 

すると黒い雷が三つ落ちてクラリネッタ大臣をふっ飛ばした。

 

その瞬間にデプレシオとディストラ、ブレインが現れてミューズナイツを威嚇するように語りかけた。

 

「バカめ、まんまと俺たちの罠にハマりやがったな!」

 

「我らが皇帝ゲーツィスさまの計画のためにあなた方には私たちの生贄になってもらいますよ」

 

「とにかく…僕たちを相手するには3人ずつかかってくるといいよ…」

 

「そらぁっ!」

 

「きゃっ…!」

 

三銃士はそれぞれランダムにミューズナイツの中の3人ずつを地獄の大穴に落とした。

 

デプレシオはエマと日菜子と麻里奈を、ディストラはひかりと結衣と萌仁香を、そしてブレインは加奈子とあかりと麻友美と戦う事になった。

 

クラリネッタ大臣はあまりの恐怖に逃げ出してしまいついにミューズナイツは逃げ場を失ったのだ。

 

デプレシオのフィールドは湿地、ディストラのフィールドは岩山、そしてブレインのフィールドは町の廃墟となそれぞれの得意分野となった。

 

「へぇ…僕の相手はお前たちか…」

 

「遠距離タイプのアタシとエマと…接近戦の日菜子かぁ」

 

「これならバランスがいいデース」

 

「こうなったら援護射撃は二人に任せたよ!」

 

「けどいいのか…?僕の動体視力は人間以上だけど…?」

 

「そんなのやってみないとわからないよ!」

 

「アタシたちのノリと勢いをなめてもらったら…」

 

「絶対に後悔するデース!」

 

日菜子と麻里奈とエマは取り柄のノリと勢い任せの連携作戦でいき無気力だけど未知数のデプレシオと対決した。

 

「おいおい、女3人で俺と力比べかよ!」

 

「あんまり女の子だからってなめないでちょうだい!」

 

「萌仁香だってやるときはやるんですよぉ!」

 

「お前ら!オレたちのパワーが最強だってとこ、あの野郎に見せてやろうぜ!」

 

「威勢だけは認めてやるが、どうせ自分たちのパワーじゃ勝てねぇって事を知ってやる気すらなくさせてやるよ!」

 

結衣と萌仁香とひかりによるディストラとのパワー比べになり岩山をどうやって越えて力押しできるかが勝負となりディストラと対決した。

 

「おやおや、私の相手は王女さまと足手まとい二人ですか」

 

「足手まといだなんて…そんな…」

 

「大丈夫だよ麻友美ちゃん、私たちは騎士だからそう簡単に負けないよ」

 

「もっと自分を信じよう。それに…私の後輩を足手まとい呼ばわりだなんて随分自分に自信があるんだね」

 

「人間など無駄な夢を見て現実に打ちのめされるのですよ。足手まとい呼ばわりして何が悪いのでしょうか?」

 

「わかった…あなたたちとは分かり合えないって事がわかったよ…。いこう!麻友美ちゃん!加奈子先輩!」

 

「うん!麻友美!あいつの心理戦に惑わされないで私たちのチームワークであいつに勝つよ!」

 

「はい…!足を引っ張らないよう…頑張ります!」

 

ブレインの揺さぶりにも動じなかったあかりと加奈子は少しだけ後ろ向きな麻友美を励まし頭脳戦を予想してブレインと対決した。

 

ミューズナイツはアクムーン帝国三銃士に勝てるのか…?

 

つづく!



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第40話 デプレシオ

日菜子と麻里奈とエマはデプレシオの空間に吸い込まれてジメジメした湿地へ着地する。

 

そこには泥に草が生い茂っていて歩くにはぬかるみがあって厳しい状態だ。

 

するとデプレシオはさっきまで無気力だったのに少しだけ生き生きとしている感じになった。

 

「まさかお前たちが僕の相手だなんてね…。しかしそのノリと勢い任せの雰囲気だけはどうしても慣れないな…。やっぱりお前たちにはドリームパワーをなくしてもらってそのまま生きてるだけの置き物になってもらうよ…」

 

「そんな事したら…私の大好きな彼氏とのデートも出来なくなっちゃう!何としても止めなきゃ!」

 

「マジかよ…!アタシがどれだけ美容にお金をかけてるかわかんないの!?未来の自分を作ってくれた美容から離れてたまるか!」

 

「エマには夢がありマス…そんなエマのワガママに付き合い応援してくれるバンド仲間のためにも負けまセン!」

 

「だったらお前たちのそのくだらない夢を奪って…ゲーツィス様にそのドリームパワーを捧げてダークネスパワーを受け取ってもらうよ…」

 

「させないよ!みんな!」

 

「オーケー!」

 

日菜子はメイスを片手に持ってデプレシオに向かいおおきく振りかぶる。

 

麻里奈は銃で一撃を狙うようにクロスボウを構えてチャンスを伺った。

 

エマも接近戦では銃剣を使って突き刺そうとしつついざとなったらマスケットで一撃必殺を放つ準備をする。

 

一方のデプレシオは無気力ながらも余裕の動きを見せて片手にランスを持って3人の急所を突こうとする。

 

デプレシオはフーッと息を吐くとさらに動きに余裕が生まれついに3人は焦り始めた。

 

「もう!何で当たらないんだよ!」

 

「こいつ…無気力なのにあんなに動けるんじゃん!」

 

「Oh my gosh!エマの射撃が当たらないなんて…!」

 

「どうした…?その程度の魔力なワケ…?だったらこちらから行くけど…?ふんっ!」

 

「うわあぁっ!」

 

「ちっ…久しぶりに本気出したからかギリギリはずれたか…」

 

「マジで!?あんなに威力あんの!?」

 

「Unbelieyvable!強すぎデース!」

 

「あれが…アクムーン帝国三銃士の本気…!」

 

「まぁ…まだ慣らしてないけどね…。けど…よく無事でいられたよね…。次はそうはいかない…。お前たちの墓場を作り損ねたけど…これで勝てないってわかっただろう…?」

 

「だったら勢いつくまで私たちが勝つ!」

 

「その通り!アタシらのノリと勢いをナメるなよ!」

 

「エマたちのキズナは簡単に壊れないのデース!」

 

「面白い…なら簡単に壊してあげるよ…」

 

そう言ってデプレシオはランスをまた片手に持って今度は頭の上で振り回した。

 

3人はあの本気を見て強く警戒し何をするのかわからないので様子を見る事にした。

 

しかしそれはデプレシオも同じ事でこの3人が一緒になるのは意外にもはじめてで連携がどんなものなのかは未知数だ。

 

デプレシオは早く決着をつけたい短期決戦型でノリと勢いですぐに終わりそうだと予想をする。

 

しかしデプレシオの予想は大きくはずれる。

 

日菜子はメイスをぶん投げてデプレシオにぶつけようとしたのだ。

 

デプレシオはあまりの奇策に驚き一瞬だけ動きが鈍った。

 

すると麻里奈はクロスボウをしまってサーベルを二刀構えては曲芸のように振り回しながら斬りかかった。

 

デプレシオは身体に大分ダメージが通り少しだけ余裕を失った。

 

最後にエマは会心の一撃のために全魔力を込めてマスケットの銃口を向ける。

 

「お待たせデース!エマの一撃必殺をくらうのデース!Fire!」

 

「くっ…!」

 

「やっぱりまだ耐えるんだ…」

 

「一筋縄ではいかないって感じ…?」

 

「It’s interesting…面白くなってキマシタ!」

 

「こいつら…このピンチを楽しんでいるのか…?そんなはずはない…人間共はピンチになると投げ出したり逃げ出したりするはずだ…。それがどうしてなんだ…?」

 

「ピンチの後にチャンスありってね!アタシたちにとってピンチとは乗り越えるチャンスでもあるってワケさ!」

 

「そしてそれを乗り越えた先に…成功と達成感で満たされるって事だよ!」

 

「人の夢を笑い無気力でいさせるために鬱になってもらうyouにはわからないでしょうけどネ!エマたちはただのバカではないのデース!」

 

「なるほど…返答に感謝するよ…。お前たちを見くびった僕のミスだ…」

 

「くらえ!クラブクラッシュ!」

 

「ヒーリングショット!」

 

「オーシャンバーン!」

 

「だが…お前たちは僕を本気にさせた…。残念だけど…お前たちの夢はもう…終わりだ!はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「え…!?」

 

「嘘!?あいつ姿変わってんじゃん!」

 

「デプレシオ…これが三銃士デスカ…!?」

 

デプレシオは中性的で無気力感漂うショートヘアの15歳前後の少年の姿から肌は彩度がない緑色へと変貌し大きなコウモリの翼が生えてくる。

 

その姿はまるで様々な生物と合体させた人間でもはや原型をとどめていなかった。

 

3人はあまりの変貌にただただ呆然とするばかりで身動きが出来なくなった。

 

しかしデプレシオは残酷な事にそんな状況でも容赦なく攻撃をする。

 

「うわあぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「はぁ…はぁ…僕を追い込んだことは褒めてやるよ…!だが…この姿になったら僕の寿命は縮むが…生きて帰って来れることは絶対にない…!僕の最後の力を…出させたことを後悔するがいい…!」

 

「あの無気力野郎があんなに殺気立たせるなんて…!」

 

「マズい…日菜子!麻里奈!ヤツはまだ武器を捨てて…」

 

「遅いよ!うらあぁっ!」

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「エマ!」

 

「あの大きなランスを片手で薙ぐとか…」

 

「加奈子パイセンよりヤバいじゃん…」

 

デプレシオの本気の姿に絶望する日菜子と麻里奈。

 

エマへの一撃を見て勝てるかどうかが怪しくなりいつものノリと勢いにも陰りが見えてきた。

 

果たして日菜子と麻里奈とエマの運命は…

 

つづく!



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第41話 猪突猛進

エマは本気のデプレシオに吹き飛ばされ残るは日菜子と麻里奈になる。

 

ノリが合う二人でさえ今回の攻撃では勢いをつける事が出来ず固まってしまう。

 

するとデプレシオはその二人を無情にも攻撃を仕掛けそのままエマと同じ場所へとなぎ倒して吹き飛ばした。

 

「うう…」

 

「日菜子…麻里奈…」

 

「はは…さすがにこれはどう突破しようかな…」

 

「うん…予想外すぎて動けなかったよ…」

 

「どうした…お前たちの夢の力とやらはその程度か…?」

 

「寿命が縮みやすいとはいえ…持久戦やっちゃったらまず先にこっちがやられるしね…」

 

「ならどうしマスカ…?」

 

「やっぱり…アタシらには…猪突猛進でしょ!」

 

「だね!私たちはどんなに追い込まれても負けないもん!」

 

「Yes!エマたちはテストの時も苦手なりに前に進んでキマシタ!」

 

「だったら諦めずしぶとくいこう!ミューズナイツ!」

 

「レッツミュージック!」

 

「何っ…!?」

 

すると日菜子には黄色い光が、麻里奈には青緑色の光が、そしてエマには水色の光がまばゆく光りそれぞれの武器の中へと入っていった。

 

同時に三人は突然力が込み上げてきて何かが出来るような気がした。

 

日菜子と麻里奈とエマは顔を合わせてうんと頷くと武器を構えてもう一度戦闘体勢に入る。

 

「デプレシオ!私たちは確かに考える事をあまりしないで前に進むだけだけど…もしも諦めたら考えてたことでさえ無駄になってしまうんだ!」

 

「考えたって無駄といえば嘘になるけど…バカなりにちゃんと考えた上で猪突猛進で前に進んでいく方が案外上手くいくってモノじゃん!」

 

「自分を信じられなくなったら…その時点でもう終わりデース!エマたちは何度アナタの攻撃を喰らっても何度も立ち上がるのデース!」

 

「バカな事を言うな!お前たちはここで終わり夢を見ることへのむなしさを思い知るのだからな!」

 

「やれるもんなら…」

 

「やってみろ!エマ!」

 

「OK!Fire!」

 

「うぐっ…!どこからそんな力が…?」

 

「やっぱり最後の手段なだけあって長くいると体力的にも限界が近いみたい!」

 

「アイツは自分で短期決戦型だって言ってたからアタシらも短期決戦で決めよう!」

 

「日菜子!とどめはアナタに任せるデース!エマと麻里奈で援護しマース!」

 

「サンキュー!これでもくらえっ!メガトンクラブ!」

 

「うっ…!」

 

「まだまだ!スプリングショット!」

 

「マリンライフル!」

 

「ぐはぁっ…!」

 

日菜子の改心の一撃が命中し麻里奈とエマの射撃も続いていく。

 

必殺技を放つタイミングは相手が弱った時だが三銃士はそう簡単に弱ってはくれない。

 

そのため三人はイノシシのごとく突っ走るように猛攻を続ける。

 

するとデプレシオにも限界が訪れた。

 

「はぁ…はぁ…」

 

「今だっ!みんなで必殺技を!」

 

「オッケー!」 「イエッサー!」

 

「お…おのれえぇぇぇぇぇぇっ…!」

 

「麻里奈!エマ!」

 

「よっしゃ!いくぞ!ヒーリングショット…レガート!エマ!」

 

「オーライ!ここで決めるデース!オーシャンバーン…アジタート!」

 

「ぐわあぁ…っ!」

 

「とどめは私だっ!クラブクラッシュ…ヴィヴァーチェ!」

 

「ぐわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ…!」

 

「イエイ!ビクトリー!」

 

こうしデプレシオは最後の手段のリスクが祟り体力を消耗し日菜子と麻里奈とエマの覚醒によって敗北する。

 

ミューズナイツのノリと勢いで突破する組は見事勝利を収め三人でハイタッチをする。

 

夢というのは確かにちゃんと考えないと叶うモノも叶わないが、まず行動に移さなければ考えたところで足踏みするだけで一歩も進むことは出来ない。

 

ちゃんと考えた上で猪突猛進に前に突き進む彼女たちだからこそ持ち前の行動力で勝てたのかもしれない。

 

ところがデプレシオは完全に消えたわけではなかった。

 

それでも彼は元の姿に戻りながら倒れ、もはや虫の息で戦う事も出来ないくらい無気力状態だった。

 

念のために彼女たちは警戒するも…もうデプレシオには抵抗する力など残っていなかった。

 

「あれ…僕…生きてるの…?でも…もう考えるの…めんどくさいや…。お前たち…僕はもう時期死ぬが…そのまま死ぬのもめんどくさいし…早く殺してくれ…。僕にはもう…今更夢なんて…見る資格はない…。やれ…」

 

「ひとつだけ約束してクダサイ。もしも生まれ変わったら…めんどくさいとかやりたくないからって…何も努力せず自分を地に落とすような人間にはならないでクダサイ。」

 

「ああ…人間って…そうやって成長するんだな…。今ならわかる…僕たちは人間より上の存在…。だから努力しなくても…強くなれた…。そして…人間がこんなに頑張ってるのを見て…哀れに思ってた…。でも違った…頑張ったからこそ…達成感を感じるんだね…。お前たちを見て…ようやくわかったよ…。もうこれ以上はめんどくさいから何も言わない…殺してくれ…。この…僕のそばに落ちてる槍で…胸を突き刺してくれ…」

 

「わかった…。生まれ変わったら…ちゃんとやってね…?」

 

「ああ…」

 

日菜子たちはデプレシオが持ってたランスをみんなで持ち上げてそのまま胸元を強く突き刺した。

 

そしてデプレシオはそのまま光となって消えていった。

 

これで日菜子と麻里奈とエマは勝利を収め元の世界へ戻る。

 

一方同時にディストラと戦っている結衣とひかりと萌仁香、さらにブレインと戦っているあかりと麻友美と加奈子はどうなっているのか…?

 

つづく!



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第42話 ディストラ

一方の結衣とひかりと萌仁香はディストラと戦う。

 

岩山の足場の悪さでパワー派たちは苦戦を強いられディストラは岩山でも関係なく破壊しながら軽々と動く。

 

ディストラの大きな斧は岩をも砕くので同じ大きな斧使いのひかりは少しだけ自分の非力さを恨んだ。

 

「クソッ!あいつパワーありすぎだろ!」

 

「そうね…あんなにパワーがあるとは思わなかったわ」

 

「あの人ぉ…何であんなに破壊ばかりするんですかぁ…?」

 

「私も知りたいわ…」

 

「オレより馬鹿力なんじゃねぇのか?」

 

「お?あまりの力の差に怖気づいたか?やっぱり圧倒的な力の前で名人間というのは諦めたくなるものよ!」

 

「でも…勝てない相手じゃなさそうね。私たち三人が力を合わせれば…」

 

「萌仁香たちでディストラを超えられますね!」

 

「よっしゃあ!オレに続け!」

 

「ええ!もちろんよ!」

 

「夢見る乙女でも脳筋かよ…。だがそれが逆に面白い!死ねえぇっ!」

 

「うるせぇ!そう簡単に死んでたまるか!おらあぁっ!」

 

「うっ…!こいつ…どこにそんなパワーが…」

 

「今だっ!えいっ!えいっ!」

 

「くっ…!人間のクセに生意気なっ!」

 

「あら…私のことを忘れてもらったら困るわよ?」

 

「何ぃ…!?」

 

「それっ!」

 

「ぐふっ…!鎧越しに強引なやつめ…!」

 

「そ、それはお互い様ですよぉ!」

 

「アイツ戦いの最中なのにまだぶりっ子なんだな…」

 

「しーっ…きっと自分の性格がコンプレックスなのよ?」

 

「何か言いましたぁ?」

 

「あーいや、何でもねぇ。それより…アイツ鎧越しに強引にダメージ与えたのに…」

 

「まだノーダメージって感じね…」

 

ディストラはあまりにも重くて硬いプレートアーマーを装着していてちょっとやそっとの攻撃では通用しない相手だった。

 

おまけに身体つきも大きく筋肉がさらに防御力を上げていて典型的パワータイプだった。

 

大きな斧をひかりと同様に軽々と片手で振り回すほどのパワーで辺りをすぐに台風の様な風圧を起こすので容易に近づけないのだ。

 

すると結衣はある事をひらめき作戦会議を開く。

 

「萌仁香、あなたのその巨大ハンマーで大地震を起こせないかしら?」

 

「えっと…萌仁香ですかぁ?」

 

「ええ。あなたのそのハンマーの威力ならあいつが跳んだ隙にひかりが身体能力を活かして地面に叩き落とす。そして私がこのハルバードの穂先で急所を突くの。どうかしら?」

 

「面白ぇ…!その作戦…乗ったぜ!」

 

「か、覚悟してくださいっ!萌仁香のハンマーをくらえっ!えーいっ!」

 

「うおっ!?危ねぇ…バランスを崩すところだったぜ!ここまで跳べば人間共もさすがに…」

 

「おい、オレの運動神経をナメてねぇか?」

 

「何だと!?」

 

「これでもくらえ!オルゥアッ!」

 

「ぐはあっ…!」

 

「今よ!はあぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「ふん…俺の裏をかいたことは褒めてやるよ!だがな!ぬうぅぅぅぅぅんっ!」

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「結衣!萌仁香!」

 

「おい、お前はどこを見ているんだ?」

 

「しまっ…」

 

「オラアァッ!」

 

「うわあぁぁぁぁぁぁっ!」

 

結衣の作戦は決まる直前で失敗しディストラは少し着地にバランスを崩すものの大崩れせず着地する。

 

手を放してしまった斧をすぐに拾い上げて結衣の首を掴んで怒りを露わにしてそのまま岩山へと投げ飛ばす。

 

結衣は背中を強く打ってしまいそのまま崩れるように倒れるもディストラは結衣への攻撃をやめようとしなかった。

 

そんな時にひかりは結衣を守るために苦しみながらも立ち上がりそしてディストラにタックルを仕掛けた。

 

「オレの大切な仲間に…触んじゃねぇっ!」

 

「うっ…!」

 

「ひかり…あなた…!」

 

「へへ…心配すんな…。少しだけ足首ひねったが…騎士になると痛みは対して感じねぇのな…。それよりも…大丈夫か…?」

 

「ひかり…後ろ…!」

 

「この…ガキがっ!」

 

「させません…!」

 

「このガキ!放しやがれ!」

 

「いやっ!いやですぅっ!まだ先輩方に恩返ししてませんからぁっ!」

 

「オレも同じさ…。オレガ気が短くて喧嘩っ早いのに…結衣はそれでもオレを信じ…個性を活かすようになだめたりしてくれたんだ…。そんなオレたちのリーダーを捨てるなんて…オレには出来ねぇ!だから…そこをどきやがれっ!うおぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

「うわあっ!」

 

「立てよ結衣!こっからが本番だ!必殺技でアイツを倒そう!」

 

「ええ!」 「はいっ!」

 

「おのれ…!」

 

「オレたちの底力…受けてみやがれ!ダイナマイトボンバー!」

 

「覚悟してくださいっ!ミョルニルメテオ!」

 

「あんまり人間の夢の力をナメないで!スカーレットラッシュ!」

 

「はぁ…もういいや…!うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

「嘘でしょ…!?」

 

「萌仁香たちの渾身の一撃が…」

 

「ああもあっさり返しやがった…!」

 

「はぁ…はぁ…!テメェら…よくもこの俺をこの姿にさせてくれたな…!この姿になると俺たち三銃士は寿命を縮めるが…誰にも負けない最強の力を手にするのだ!俺の命が尽きても…お前らの命が尽きる方が先になるだろう!この姿にさせてしまった事を…あの世で後悔して自分たちの夢がいかにちっぽけだったかを思い知るがいい!」

 

ディストラは筋肉質で右目周辺に切り傷があるモヒカンの男性から角が生えてワシのような翼にライオンのような胴体、それも二足歩行で真の姿へと変える。

 

その姿はまるで獲物に飢えた獣でもはや理性も何もないパワーでごり押す戦術へと変貌した。

 

このままパワータイプの三人は圧倒的なパワーの差を埋められるのだろうか…?

 

つづく!



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第43話 自信と勇気

ディストラが最後の手段で巨大化し結衣たちはあまりのパワーに苦戦を強いられた。

 

とくに萌仁香は何かに気を遣うように遠慮がちになっている。

 

それでもひかりと結衣は諦めずにディストラに立ち向かった。

 

「コイツ…やっぱり強ぇ…!」

 

「怯まないで!私たちが負けたら誰がディストラを止めるの?」

 

「誰が怯んでるって?オレがそう簡単にあきらめる奴だと思うなよ!」

 

「ええ、知っているわ。あなたは一度決めたらあきらめが悪いって事をね」

 

「知ってて挑発したのかよ…やっぱりオレたちのリーダーには敵わねぇな。よっしゃあ!そうとわかれば一発にかけるぞ!」

 

「あの…えっとぉ…」

 

「ほう、まだ諦めねぇってか。相変わらず人間というのはワケが分からねぇな」

 

「うるせぇ!お前の方が人の夢を奪うなんてワケのわからねぇ事してんじゃねぇか!」

 

「その通りよ!人の夢を嘲笑い奪うなんて許せないわ!」

 

「やる気のあるその面…ムカつくんだよ!と言いたいところだが…どうやら一人、諦めかけている奴がいるようだな」

 

「何ですって…?」

 

「どうして…先輩方は…そんなに自分に自信が…?」

 

「萌仁香…?」

 

「そこのガキの心を読む必要がないほど独り言が過ぎるようだな。貴様…今の自分に自信が持てないんだろ?だからデプレシオに標的にされ渋谷の街で檻に閉じ込められたんだよな」

 

「何だと…!?まさかハッタリじゃねぇだろうな?」

 

「いいや事実だ。現にそこのガキは震えてる上に涙目じゃねぇか。さっさとそこのガキのように諦めて俺によって奪われるんだな!」

 

「どうしたの萌仁香!あなたの夢への思いはその程度だったの?」

 

「先輩…これが萌仁香の限界なんですぅ!自分をさらけ出したら…また誰かを傷つけて…自分の思うがままに言ったら…もう誰も萌仁香の事を好きになったり…応援する気になんてなれないんですよぉ!」

 

「あなた…それってどういう事…?訳を話せる範囲でいいわ。私たちに本音を話してみて…?」

 

「ぐすっ…萌仁香は…小さい頃からアイドルになりたくて…ずっとレッスンを頑張ってきた…。友達と遊ぶことを犠牲にしてきた…。お金がないから…陰で努力もした…。でもある日…萌仁香の事をよく思わない女の子と喧嘩して…言い合いに勝ったら…萌仁香が悪者になって…。結局その子を傷つけたせいで転校させてしまったんです…。だから…こんな性格の悪くて醜い本当の自分はもう出したくない…。前のプロデューサーは…本当の萌仁香を知っていたから…無口だと売れないから…可愛い子ぶったほうが売れるって言って…本当に売れるようなったんです…。でも…今更さらけ出して…干されたくないよぉ…!」

 

「何それ…?ただいじめに対抗しただけなのに悪者扱いされたってこと…?」

 

「うう…はい…」

 

「クソがっ!何なんだよその学校は!そんなの萌仁香は正義感が強くてただ素直じゃなかっただけじゃねぇか!オレたちだってこんなに我が強くてくせ者ばっかりなのにこんなにまとまってるじゃねぇか!お前は自分に自信がないだろうけどな…どんな萌仁香だってオレたちは受け入れる準備はもう出来てんだよ!」

 

「ひかり先輩…」

 

「それに多少ツンツンしたからってあなたを悪者扱いするほどヤワな子は少なくともミューズナイツにはいないわ。もしあなたを邪険にするんだったら…私は新人であろうとあなたを守ると約束するわ。リーダーとしてではなく…普通の大島結衣としてあなたを歓迎するわ。きっと…あかりたちもね。」

 

「うう…ぐすっ…ふえぇぇぇぇぇぇぇん…!」

 

萌仁香は何か吹っ切れたようにしばらく泣き出し結衣は萌仁香を強く抱きしめて慰める。

 

ひかりは今まで辛かったなと言うように肩をポンと叩き頭をクシャクシャになるくらいに強く撫でた。

 

今まで自分に自信があった結衣やひかりを見て自分は何者なのか、その自信はどこから現れるのか、売れない事や嫌われることが怖くないのか、本当の自分を出して夢が破られないかというたくさんの悩みを小学生の頃から地下アイドル時代まで抱え込んでいたのだ。

 

そんな中で今まで受け入れてもらえなかった自分をはじめて受け入れてもらったので嬉しさのあまりに泣きだしたのだ。

 

そんな中でイライラしているディストラがしびれを切らして怒りを露わにした。

 

「ケッ…人間による悲劇の茶番劇かよ…!もうそろそろ満足したか?死ねぇい!」

 

「ヤベッ…!」

 

「萌仁香っ!」

 

「心配しなくていいです…」

 

「何っ!?」

 

「やっとわかりました…萌仁香は自信がなかったが故に嫌われないように無理をしていたんだって…。お兄ちゃんがどうして萌仁香を応援し続けてくれたのか…自分の殻の中に閉じこもっている萌仁香のために全力を尽くしたお兄ちゃんの夢を…バカにしたアンタを許さない!やあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「うごぉっ…!こいつ…どこからそんなパワーが…!」

 

萌仁香はもう何もかも吹っ切れ本来の不器用ながらも強気な女の子へと変えた。

 

むしろ本来の姿を見たひかりは大喜びし結衣はあまりのインパクトにただ感心するだけだった。

 

寿命を縮める副作用も重なって強烈すぎるクリティカルヒットにディストラはもう弱り果ててしまいついにチャンスが来た。

 

萌仁香が吹っ切れたことでひかりにはオレンジ色の、結衣には赤色の、そして萌仁香には青色の光がほとばしり最後の力を与えた。

 

「よっしゃあ!これで決着をつけるぜ!ダイナマイトボンバーエネルジコ!」

 

「一気に決めるわよ!スカーレットラッシュアパッシオナート!」

 

「先輩方への恩返し…受けてみなさい!ミョルニルメテオヴィーヴォ!」

 

「ぬわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ…!」

 

萌仁香たちの改心の一撃が直撃しディストラはついに力尽きた。

 

パワータイプの三人の協力でついにディストラに勝利したがまだ虫の生きながらも生きていることが確認された。

 

だがしかし今のディストラにはもう戦う体力も気力も残ってなかった。

 

そんな中で残心を示すために近づくも戦う意思がもうないのか斧を再度手に持つことをせず萌仁香に語りかけた。

 

「テメェ…やれば出来るじゃねぇか…。人間なんかに…将来を与えちまった俺のミスだぜ…。力の前では夢なんてゴミのようだと思ったが…実は力ってきっかけになるんだな…。最期に思い知っただけでもう満足だぜ…。さぁ殺せ…俺の斧で…人思いに斬首しな…」

 

「アンタは将来…夢を抱いた人間になって…奪ってきた罪を償いなさい…!さよなら…ディストラ…最後に…ありがとう…」

 

こうして萌仁香が先導して結衣といひかりに支えられながら斧でディストラを斬首する。

 

ディストラに勝利を収めた萌仁香たちは元の世界へ戻り状況を確認する。

 

夢は力の前では確かにちっぽけではあるが、その力の前にしても自分を信じ抜きいかに自分の個性を磨いて這い上がるかが成功のきっかけとなる。

 

自信がないならば自分を磨いて得意なものを成長させていくのが夢が叶うコツなのだろうと萌仁香たちは改めて感じた。

 

一方のあかり、麻友美、加奈子が相手するブレイン戦はどうなっているのか…?

 

つづく!



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第44話 ブレイン

そして一方のあかりと麻友美と加奈子の三人は三銃士の頭脳のブレインと対峙する。

 

彼はレイピアを片手に持ちあかりとは違う戦術であかりたちは苦戦を強いられる。

 

さらにブレインは不敵な笑みを浮かべながら挑発をしてくる。

 

「やれやれ…私の相手は王女さまと…足手まといの二人ですか」

 

「足手まといなんて…」

 

「そうかな?私はそうは思わないよ。この子たちはあなたにとってはそうかもしれないけど、私にとっては大切な後輩だし結構伸びしろある子たちだと思ってるよ」

 

「加奈子先輩…私なら大丈夫です。麻友美ちゃんは…?」

 

「わ、私も大丈夫です…。少しだけ…心に傷がありますが…」

 

「だよね。麻友美はナイーブだからそうなるよね。ブレインによる挑発に乗らないで頑張ろう」

 

「はい!」

 

「向上心溢れる人間のドリームパワー…相変わらず不愉快ですね。いいでしょう、その強くて堅い心を簡単に崩してみせましょう」

 

「絶対に負けない!」

 

あかりとブレインはお互いのレイピアをぶつけ合い刀身を擦るように駆け引きもする。

 

加奈子はランスで間合いを取りながら刺突を試みるもブレインの左手による魔法で弾き返される。

 

麻友美はまだ動揺があるものの大鎌で斬りかかるチャンスを狙う。

 

しかしそこは三銃士の頭脳であるブレインなのでなかなかチャンスは訪れないが麻友美の得意な観察眼でブレインの動きやクセなどを見抜こうとする。

 

あかりが麻友美に注意を引きつけないようにひたすら攻撃を続け加奈子がそれをサポートする。

 

「闇雲に攻撃をしていては私の身体に傷ひとつ付ける事は出来ませんよ?それとももう希望をなくしましたか?」

 

「どうして当たらないの…?」

 

「見切られているなら私がいくよ!」

 

「ほう、王女さまですか。ですが王女さまならちょうどいい、この場ですぐに葬れればこの国を手中に収められますからね」

 

「あいにく私は王女としてではなく…この国や夢を守る騎士の一人として戦っているんだよ!それを奪おうとするあなたには絶対に負けない!やあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「ですから闇雲に攻撃しても当たらないと何度も…」

 

「果たしてそうでしょうか…?シャドウブラスト!」

 

「くっ…!いつの間に…!?」

 

「ずっとあなたの動きやクセを見ていました…。あなたのクセらしいものを探すのには苦労しましたが…あなたは重心をやや左足にかかるクセがあります…。そしてそのクセで前進をするのも…です…」

 

「なるほど…ですが私は確かに左手で剣を扱う事は出来ます。でも…何も左利きとは言ってませんよ…?」

 

「まさか…?」

 

「これでもくらいなさい!」

 

「きゃっ…!」

 

「麻友美ちゃんっ!」

 

「その子は少しずつですが自信がついてきたようですね。やはり人間の向上心は何か興味深いものがありますね。ですが…それでは困るのですよ。人間が成長するから文明が発達する代わりに地球の環境が犠牲になるのです。夢なんか見るから人は頓挫したときに堕落し誰かのせいにしたり言い訳したりと見苦しい姿を見せるのです。どうです?そう思うと人間ごときがドリームパワーを持つのは危険な事でしょう?」

 

「それは…」

 

「うん。確かに人間たちが文明を進める事で自然はかつて滅ぼされ何度も地球を苦しめてきたよ。そこはもう認める。」

 

「加奈子先輩…?」

 

「ほう…王女さま自ら認めるのですか」

 

「だけど…そんな人間も自分たちだけの繁栄を過ちだと気付き誰かを犠牲にしてまでも自分だけ叶えることはしないと成長して今に至るんだ。人間だって成長すれば反省もするし誰だって過ちは繰り返す事もある。だからこそ後悔しないために夢をどうしたら叶うか、どうやって成長するかを考える事も出来るんだよ。そんなあなたに…邪魔されて奪われるみんなの気持ちを考えたら倒さないといけないって思う。私たちだけでなく…みんなの夢の邪魔はさせないよ!」

 

「先輩…それでこそ先輩です!私もまだ叶ってない夢がいっぱいあるんだよ!その夢のために後悔もするかもしれないけど前に進んで成長し過去の自分を越えていく!」

 

「私も…前の自分だったら…逃げ出して言い訳ばかりしてました…。でも今は…たくさんの仲間たちがいて…支えてくれるファンもいて…もっと成長できるって実感しました…。私はもっと…自分を乗り越えたいです!」

 

「やれやれ…人間はおとなしく文明を発達させずに原始生活で洞穴に住めばよかったのです…。この国が建設されたせいで人間共はこんなにおめでたい下等生物に成り下がったのですから…。ならばもう一度人間らしい知能の低いままのサルにさせてあげましょう!」

 

「見えました…!彼はまだ左足に重心を乗せるクセが抜け切れてません!おそらく彼は右利きですが長らく相手をナメてたのでしょうか…本気を出すことがなかったと思います!あかりさんの今の技なら勝てます!」

 

「わかった!麻友美ちゃんありがとう!昨日の私より!さっきの私より成長しているところ見せてあげる!やあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「くっ…!こいつ…さっきまでとは気迫も魔力も違う…!」

 

「おっと、さっきも言ったけ王女としてではなく騎士として戦ってるって言ったでしょ?私だってやられっぱなしの王女じゃないからね!」

 

「うぐっ…!」

 

「今です!必殺の…シャドウトリック!」

 

「ローズスプラッシュ!」

 

「とどめは私が!ワルキューレタックル!」

 

「ふぅ…もうあなた方に気を遣うのは止めにしましょう…。はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「嘘…!?」

 

「そんな…!」

 

「まさか…まだ何かあるというんだ…!」

 

「はぁ…はぁ…この命に代えてでも…あなた方を殺すと決めました…!この姿になると寿命を縮める代わりに…誰も私を止める事は出来ません…!あなた方を道連れに…夢を見る事の愚かさを教えて差し上げましょう!」

 

ブレインはオールバックの紳士姿からゴキブリのような羽にウマのような筋肉質の体、さらに顔はトラのようになっていた。

 

知的な印象から獰猛なケモノになっていてもはや人間姿の面影はもうなくなってしまった。

 

他の二人と同じ命を削ってでもミューズナイツを葬ろうという作戦で最後の手段に出たのだ。

 

果たしてあかりたちの運命は…?

 

つづく!



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第45話 未来と繁栄

「何なの…このありえないダークネスパワーは…!近づくだけで肌がピリピリする…!」

 

「加奈子先輩…私…怖いです…!」

 

「麻友美…私も正直怖いな…。でも…みんなの夢と未来のために逃げられないよ!」

 

「逃げずに戦うのですか…?その心意気だけは褒めて差し上げましょう…。ならばあなたたちの望み通りに死ぬがいい!」

 

ブレインは大きくなったレイピアを強引に突き出し地面に大きな穴を空けた。

 

あまりの衝撃に麻友美は体を震わしあかりは恐怖で少しだけ後ずさりしてしまう。

 

それでも加奈子は先輩としてだけでなく王女として、そして騎士団長としての責任を持って真っ先に立ち向かった。

 

加奈子はランスをギュっと強く握りしめ先頭に立った。

 

「ブレイン!あなたに奪われたここの国民の夢と未来…返していただくよ!」

 

「加奈子先輩だけに負担はかけられません!私たちだってミューズナイツだから戦う時も一緒です!一緒に夢を…未来を取り返しましょう!」

 

「あかりさん…!私も…ミューズナイツの一員として…足手まといかもしれませんが…精一杯頑張ります…!」

 

「それでこそ私が選んだ後輩かつ大切な仲間だよ…。二人とも!準備はいい?」

 

「はい!」

 

「その仲間意識を壊せば夢も希望も…未来も奪われあっけなく壊れるでしょう!あなた方のそのちっぽけな夢や希望をここで砕かせていただきます!」

 

「そんなこと…させません…!私には…世界中に日本のアニメやマンガ…ゲームにコスプレを…たくさんの人々に届けて平和を共有したいんです…!そんな私の平和の夢を…簡単に壊さないでくださいっ!やあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「何っ…!?ぐふぅっ…!」

 

「麻友美…」

 

「それが麻友美ちゃんの今の夢…なんだね?」

 

「はい…。私は…アニメ文化が大好きです…。だからこそもっと繁栄させて…世界中のオタクたちと…一緒に作品を楽しみたいんです…」

 

「おのれ…人間の分際で…!」

 

「私はっ!やっと憧れのアイドルになれて…最初は苦労したけど…ようやく才能あふれるみんなに追いついてきて…プロのアイドルとして実感が湧いてきたよ!そしてプロのアイドルになってやりたい事は…私の歌とダンスで世界中のアイドルになりたくても慣れない女の子たちの手本になりたい!ううん…絶対になって日本に憧れを持ってもらう!そんな大きな夢を…あなたのような人に渡さない!やあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「ぐはぁっ…!」

 

「これがあかりの夢なんだ…面白くなってきたよ!私の夢は…パパを越えるプロデューサーになって…そして才能開花を待つたくさんのアイドル候補生をプロデュースして自分という個性をどれだけ輝かせられるかをこの目で見てみたい!きっと他のみんなも…自分とは何者なのかを分からずに悩んでいると思う!だからこそ…私はその人たちの鏡となって個性を磨けるような人になる!はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「ぐはあぁっ!」

 

「はぁ…はぁ…!」

 

「お、おのれぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ…!」

 

ブレインの寿命が近づき弱り果てるとあかりたちに不思議な光がまばゆく光る。

 

あかりには赤紫色の、麻友美には紫色の、そして加奈子には緑色の光に照らされ他のみんなと同じように力が湧いてきた。

 

それぞれの武器にドリームパワーが宿りあかりたちは渾身の力を込めて必殺技を放つ。

 

「私の夢の一歩は…私自身で進むんだ!ローズスプラッシュカンタービレ!」

 

「世界の平和を込めて…私は決めます…!シャドウトリックトランクィッロ!」

 

「私たちの夢と希望を乗せて…未来へはばたけ!ワルキューレタックルグランディオーソ!」

 

「うっ…うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ…!」

 

あかりたちの必殺技がブレインに直撃しついに撃破した。

 

ブレインは力尽きてしまいさっきの人間姿に戻りそのままうつ伏せに倒れていった。

 

レイピアを持って抵抗しようもそのような力はもう残されていないので指先すら動けなくなる。

 

あかりたちは念のために近づいて意識を確認する。

 

するとブレインは気を察知するくらいの力はあるのか死にかけの状態で声をかけた。

 

「君たちは…何故このような力を発揮できたのか…私には理解できない…。君たちのどこに…そんな力があるのですか…?」

 

「それは…」

 

「心です…。人間には心があるから…確かに落ちてしまったりします…。でも逆に…自分を高めるために努力し…そして経験値を上げて成長していくんです…。諦めたらそこで終了だって…スポーツ漫画の先生も仰ってました…。私に大きな影響を与えた恩人の一人です…」

 

「諦めたら終了ですか…いい響きですね…。私の完敗です…。ああ…私にも成長するチャンスがあったのなら…君たちとこんな形で出会わなかったでしょうね…」

 

「ブレイン…あなたはそう思えただけで十分成長してるよ?後悔という形になっちゃったけど…もし生まれ変わるなら未来のために自分を高められるようになりつつ他人を陥れないようになろう?」

 

「ええ…そうしましょう…。さぁ…私のレイピアで左側の背中を刺してください…。もうこれ以上の同情は…私にとって恥ですからね…。人思いに…殺してください…」

 

「あなたの向上心…王女として無駄にはしない…!」

 

こうしてあかりたちはブレインに勝利し彼の背中にレイピアを突き刺した。

 

するとブレインは光となって消えていった。

 

そしてあかりたちは元の世界に戻り、他の三銃士を倒したみんなも元の世界へ戻れて合流する。

 

「みんな!」

 

「おお!みんな無事だったんだね!」

 

「当然でしょ!アタシらは騎士なんだからさ!」

 

「別に…このくらい普通ですから…」

 

「あれ?萌仁香ってこんなキャラだったっけ?」

 

「う…先輩だからって見てんじゃないわよ!バカぁっ!」

 

「何だとー!?」

 

「それが萌仁香ちゃんの本当の姿なんだね?」

 

「あんまり見ないでよ…萌仁香はこのキャラが嫌いなんだから…」

 

「やっと本当の自分に自信を持てたんだ…嬉しい…!」

 

「な、泣いてんじゃないわよ…バカッ…///」

 

「えっと…これからどうしましょうか…?」

 

「決まってるわ…。皇帝ゲーツィスの元へ向かい人々の夢と未来を奪わせない!みんな!円陣組みましょう!」

 

「うん!」

 

「せーの…ミューズナイツ!」

 

「「レッツミュージック!」」

 

結衣の掛け声で円陣を組んで声を出しミューズナイツは人間界へ戻りに行く。

 

ユメミール王国は三銃士が消えたことで自由の身になるもののまだ無気力な状態が続いている。

 

皇帝ゲーツィスを倒さない限りこの国に平和は訪れないのだ。

 

ミューズナイツは人間界への扉を開き決戦へ向かった。

 

つづく!



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第5章
第46話 皇帝ゲーツィス


あかりたちは皇帝ゲーツィスの野望を止めるために元の人間界へ急いで向かった。

 

渦の中に入り人間界に戻ると何やら薄暗くなっていた。

 

人間たちは地べたに寝転んで覇気を感じなかったりであかりたちがいない間に何が起こったのか…。

 

SBY48劇場が心配になったあかりたちは一度渋谷に戻って確認する。

 

するとメンバーとスタッフ全員が劇場の外に出ていて騒がしい様子だった。

 

「あの、すみません!私たちが避難している間に何が起こったんですか?」

 

「ああ、加奈子ちゃんだね。実は謎の男が駅前で演説していて聞いてしまった人々が突然無気力になって何のやる気もない状態にされたんだ。幸い我々は彼の演説に興味がなかったから害はなかったが、他の人たちはあの男の言いなりになるかのように聞き入ってしまったんだ。このままでは人々は何の感情も持たない生きた人形になってしまう…」

 

「先輩…それはおそらく…」

 

「皇帝ゲーツィス…」

 

「それで…パパとママは無事ですか?」

 

「ヴィオラさんは先に避難しているが…秋山プロデューサーは男の元へ行ってるよ。プロデューサーも餌食にならなければいいが…」

 

「マズいですね…行きましょう!」

 

「うん!パパ…」

 

秋山プロデューサーが渋谷駅前に向かった事を知った加奈子は不安げに駅前に走っていく。

 

あかりたちも先輩に続けといわんばかりに後を追っていった。

 

劇場にはたくさんの落書きが書かれていてミューズナイツを中傷するものばかりだった。

 

それでもあかりたちはそんな彼らの夢のためにも戦わなければならない。

 

そのような中傷落書きに構っていられないのだ。

 

駅前に着くと皇帝ゲーツィスが祭壇らしきものを建てていて聴く者を魅了させるような美声で演説をしていた。

 

「人間たちよ!諸君らの夢は叶わぬ夢かも知れないのにも関わらず何故夢や幻想を抱くのだ?どこにそんな心を持っているのか…我には理解が出来ぬ!だが安心するといい…そのような夢や希望を持たずとも諸君らは生きる事が出来る!未来に進むより今を楽しく生き成長や発展するより今の快楽に溺れる方が有意義ではないか!今は辛くても未来には楽しみがあるからって何も我慢する必要はない!さぁ!今すぐにそんなやる気を捨てて我と共に未来を捨てよ!」

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

「何てことだ…このままでは人間はもう成長する事が出来なくなる…!ミューズナイツはドリームランドに向かってから何の連絡もない…どうすれば…!」

 

「パパ…私ならここだよ…!」

 

「その声は…加奈子…!加奈子なのか…!よく無事で帰ってくれた…!」

 

「アクムーン三銃士はもう倒しました…。あの男の演説を止めないと…」

 

「前田さんたちも無事でよかった…!そうだね…奴の美声で魅了されて心を奪われ未来に生きる事を放棄してしまうのだろう。だが演説を止めたところで奴のダークネスパワー派とんでもなく高い。何か方法があれば…」

 

「あの…智也が作った曲だけど…これを私たちで歌うのはどうかな?それも…奴の美声をかき消すくらいの声を出してさ…ダメかな?」

 

「日菜子の彼氏やるなぁ…」

 

「これは…応援歌…ですか…?」

 

「うん。これは未来が見えないみんなのための応援ソングで自分を磨く事で新たな発見があるんだよというのをテーマにした曲なんだ。実は作詞はあかりにてつだってもらったの」

 

「本当はミューズナイツのワンマンライブでやるつもりだったけど…もし使う機会があるなら今かなって思ってたんだ」

 

「なるほど…あかりと日菜子は陰でこんなに努力し私たちに貢献したのね…。もっとあなたたちを知るべきだったわ。後はどうやって奴より大きな声でより多くの人々に聴かせられるかね…」

 

「だったらイチオーキューを使えばいいじゃん。あそこならステージも小さいけど作れるしマイクがないならドリームパワーを喉に込めればいいし!」

 

「なるほどな!それなら声量も上げられるかもしれねぇしな!」

 

「となれば決定デース!早くやりましょう!」

 

「でもどうやってやんのよ?」

 

「それは…」

 

「それなら…振り付けはあえてシンプルにしてバラード調にするのはどうでしょう…?」

 

「麻友美…!」

 

「パパ、これで編曲できるかな?」

 

「うん、僕も急いでその曲を完成させるよ。それに…君たちもそうと決まればレッスンして完璧にしてほしい。アイドルであり騎士である君たちなら出来ると信じているよ」

 

「私たちは劇場に戻って早速レッスンします!それじゃあ…劇場に泊まり込んで合宿しよう!」

 

「うん!」

 

ゲーツィスの美声が渋谷どころか日本中に響きこのままでは日本の人々は未来を失いやる気をなくしてしまう。

 

そうはさせないと秋山プロデューサーはすぐに事務所に戻ってパソコンで編曲作業をする。

 

あかりたちは振り付けをどうするか、ボーカルのパートをどうするかを話し合う。

 

衣装は麻里奈が5分も経たずに完成させ残るは衣装を作るだけとなった。

 

衣装作りは上野衣服専門学校付属に通う麻里奈に任せつつもデザインが得意な麻友美が補助に回る。

 

振り付けはひかりと結衣、エマと日菜子が運動神経を利用しながらもなるべくシンプルになるように考察する。

 

パート分けは芸術学校通いのあかりとプロデューサーの子の加奈子、そして地下アイドル時代に作詞もしたことがある萌仁香によってパート分けが決まった。

 

だがここである問題が起きてしまった…

 

つづく!



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第47話 妨害

あかりたちは劇場でレッスンを行い何泊もしてアイドルらしい方法で皇帝ゲーツィスに対抗する。

 

しかし今回はプロデューサーのみのサポートでファンはみんな避難しているので誰も助けてはくれない状態だ。

 

そんな中であかりたちは自分や仲間を信じてレッスンをたった3日で終わらせイチオーキューへ向かった。

 

ところが…

 

「夢を語る化け物め!SBY48から出て行け!」

 

「お前らの顔なんか見たくないんだよ!」

 

「秋山加奈子のファンだったけど騙されたよ!」

 

「悪の魔女め!殺してやる!」

 

「うわっ…あの時のアンチたち…!」

 

「何で戻って来たことを知ってるんだよ…」

 

「わかりませんが…何者かが操っている可能性も…」

 

「ゲーツィス…アイツに違いないデス!」

 

「だとしたら急ぐわよ!」

 

「行かせない!お前らをここで殺す!」

 

「ちょっ…そこをどいてよ!」

 

「うるせぇ!ここで魔女狩りをしてやる!」

 

「皇帝ゲーツィス様バンザーイ!」

 

「きゃあっ…!」

 

「ふんっ!」

 

「うぐっ…!」

 

暴徒と化したアンチたちは皇帝ゲーツィスの演説に感動したのか夢も希望も捨て未来を生きる事を放棄した人たちばかりだった。

 

いわゆる洗脳を受けてしまいミューズナイツを悪魔の魔女と認定して襲いかかったのだ。

 

ところが大柄の男がアンチのナイフを持った右手を押さえるだけでなくそのまま背負い投げをしたのだ。

 

「あれ…?」

 

「結衣ちゃん、大丈夫か?」

 

「あなたは…ジムのトレーナーさん!」

 

「まったく…日菜子は相変わらず無茶ばっかするよな」

 

「智也!避難してたんじゃ…?」

 

「HEY!エマ!」

 

「アンナ!」

 

「どうしてみんなが…?確か避難していたはずじゃあ…」

 

「それは私たちが話すわ」

 

「先輩!?」

 

「前田さん、あなたたちが私たちに内緒で何をやってたかをプロデューサーからようやく聞きだせたの。ずっと隠していたのは何でなんて言わないけど、私たちは先輩だからちょっと頼ってほしかったな」

 

「すみません…」

 

「まぁプロデューサーがそうしろと言ったんだと思うからいいよ。前田さんたちが行方不明になったのを心配して私たちはプロデューサーに聞きに行ったの。そしたら全部話してくれて…私たちの夢や未来のためにずっと戦ってくれて…本当にありがとう。だから…この人たちは私たちメンバーとSNSを通じて事情を知ったファンのみんなで何とかするからみんなは早くあの男の野望を止めて!」

 

「でも…」

 

「行こう…萌仁香ちゃん…。先輩方やファンのみんなの強い意志を無駄にしないためにも…」

 

「わかった…絶対に無茶だけはしないでくださいよね?」

 

「その時は男である俺たちに任せてくれよ?」

 

「さぁ行くわよ!ミューズナイツ!」

 

「「レッツミュージック!」」

 

「頑張って!」

 

グループのメンバーや真実を知った全国のファンたちの援護でアンチたちの妨害を乗り切りイチオーキューへ向かって走った。

 

渋谷駅前では相変わらず皇帝ゲーツィスが美しい声で民衆を魅了させてミューズナイツを葬ろうとさせていた。

 

それを聞き入ってしまった人々はすぐに洗脳されてミューズナイツを見かけると襲いかかってくる。

 

それでもあかりたちはステージ衣装に早着替えしてライブの準備に取り掛かった。

 

「みんな!準備はいい?」

 

「はい!」

 

「この際だからコール&レスポンスはなしにしてそのまま歌おう!音響と証明はパパの人脈で確保しているしもう準備は出来ているよ!後は私たちの歌声がみんなに届くよう…全力でパフォーマンスするだけ!音響さん!お願いします!」

 

加奈子の合図で証明を全部切ってそれぞれのポジションに着く。

 

センターはあかりで衣装はデビュー曲とは異なる詰襟衣装でみんなの夢を叶えるための騎士というテーマで作られている。

 

あかりたちは今までの自分を信じて歌い始めた。

 

「ん…?何だこの不愉快な声は…」

 

「ああ…やめろ…!やめろっ!」

 

「夢なんて…夢なんて金の力の前ではどうしようもないんだぞ!」

 

「綺麗事だけで叶うと思うな!」

 

「人をたぶらかす魔女め!」

 

「才能のない奴は野垂れ死にすればいいんだよ!俺みたいにな!」

 

「ちくしょう…!何でこんなに…ムカつくのに…涙が出るんだよ…!」

 

「うう…ちくしょうー!」

 

「悔しいよ…こいつらに救われる気がするなんて…!」

 

洗脳されて暴徒になったアンチたちはみんな自分が努力不足または方向性を間違えて夢が叶わず未来を見失ったのをミューズナイツのせいだと思い込みその思いがエスカレートしたところをゲーツィスの演説で嫉妬に火がついたのだ。

 

ところがミューズナイツの大きなドリームパワーで自分たちがいかに自分の不幸を他人に押し付け足を引っ張ろうという愚かな行為だったかを痛感し涙を流して抵抗をやめるのだった。

 

これでアンチの彼らも自分を見つめ直し未来に向かって歩み続けるだろう。

 

パフォーマンスを終えるとファンによって拍手喝采に見舞われ声で勝機を取り戻させる作戦は成功した。

 

演説の声が消えるとミューズナイツはすぐに駅前に向かって走った。

 

するとゲーツィスはすぐにミューズナイツの気配に気づき彼女たちを見ると口説くように諭してきた。

 

「人間たちが夢を持ち未来に進もうと頑張るからこそ才能と財力に負けて苦しい思いをするのに何故君たちは成長しよう努力しようと考えるのだ。そんなものを持っていればいずれ自分を犠牲にし結局は苦しい思いをするというのに…そのような感情をなくせば人間らしい本能だけの楽な生活を送れるというのだ。そんなに未来を生きたいか?そんなに過去の栄光で満足しないか?だとすれば君たちをここで放っておくわけにはいかない。今ここで夢の騎士たちを粛清してみせよう」

 

「人は挫折をして確かに苦しい思いをして投げたくなるけど…それでも工夫をしてみんな叶えたい夢を叶えるために努力をしているんだよ!」

 

「そんな人間たちの…せっかく見つけた夢や掴もうとする未来を妨害するなんて…私たちは許さない!」

 

「夢だけじゃない!仕事や恋愛、趣味なども自分を高めていくからこそ発見もあるし心だって成長するもん!」

 

「あなたのような…自分の欲望だけで…他人の足を引っ張ったり…やる気をなくさせるような行為は…最低です!」

 

「オレたちだって夢があるし掴みたい未来があるんだ!テメェのような夢泥棒に負けてられねぇんだよ!」

 

「こんなの努力しているのに邪魔して何が楽しいワケ?目標があるからこそ頑張れるし苦しいからこそ達成感を得られるんじゃん!」

 

「いつだって人々は好奇心の中で自分を知り新しい世界を作ってきたのデース!過去を経験し今を生きて未来に進むからこそ発展をしてきたのデース!」

 

「アンタみたいな奴に萌仁香たちの夢や希望の邪魔なんかさせないんだから!人を都合のいい様に使って夢の邪魔させるなんて最低な事…よくもやったわね!」

 

「もう私たちは諦めたり逃げ出したりしないよ!皇帝ゲーツィス…あなたの野望をここで止めてもう一度この世界に夢を見る事や未来に進むことの良さを伝えてあげるよ!」

 

「ほう、面白い…。ならばかかってくるがいい。君たちのちっぽけな力じゃあ私に勝てないと思うがね」

 

「やってみないとわからないよ!みんな!」

 

「うん!」

 

「「ミューズナイツ!レッツミュージック!」」

 

つづく!



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第48話 ウォール・サタン

あかりたちはサイリウムを発行させて3回振り変身をする。

 

ゲーツィスは杖を持って仁王立ちをして変身を見守りニヤリと笑った。

 

変身を終えるとひかりと日菜子、エマと麻里奈は勢いに乗ったままゲーツィスに立ち向かった。

 

「テメェの野望をここで止めてやるよっ!」

 

「皇帝ゲーツィス…これでもくらえっ!」

 

「みんなの夢の邪魔はさせないのデース!」

 

「アタシらのドリームパワーをなめんなっ!」

 

「待ちなさい!」

 

「もう遅いっ!ぬうぅんっ!」

 

「うわっ!?」

 

「どうだ。これで無闇に近づけまい」

 

「杖を地面に叩いただけで鋼の壁…?」

 

「これでは攻撃が出来ません…!」

 

「私のウォール・サタンを越えられる者はいない。これを越えたくば私の顔に傷一つでもつけてみるといい」

 

「めっちゃ硬ぇ…!」

 

ひかりの斧も簡単に弾き返しエマや麻里奈の銃弾や矢をも貫通しなかった。

 

あのパワー派のひかりでさえも壊せないとなるとミューズナイツにとって最大の壁となった。

 

麻友美と加奈子はまず一呼吸置いて状況を把握する。

 

そう考えているうちにゲーツィスは加奈子と麻友美に杖で攻撃を仕掛けた。

 

「貴様ら二人は厄介だな…倒れるがよい」

 

「まずい…二人の頭脳を見破られたわ!二人を守って!」

 

「もう遅いぞっ!」

 

「きゃあぁっ!」

 

「麻友美ちゃんっ!加奈子先輩っ!」

 

「なんてパワーなの…!」

 

「こうなったら萌仁香が行くわ!えいっ!」

 

「うっ…!」

 

「そのまま強引に体勢を崩すわよ!くらいなさいっ!」

 

「なるほど…ハンマーで強引に地響きを起こすとはな。だが…まだまだ甘いぞ!」

 

「うっ…!」

 

「萌仁香っ!」

 

萌仁香はハンマーで強引に攻撃を通すもゲーツィスの魔法による片頭痛で萌仁香は倒れる。

 

ゲーツィスは催眠術で体調をコントロール出来るのであかりと結衣は厄介だと感じた。

 

あかりは勇気を出してレイピアを突き出して壁に攻撃をする。

 

「えいっ!えいっ!」

 

「あかり…!あなたのパワーじゃその壁は壊せない…!」

 

「いいえ、たとえ100回壊れる壁があっても大体の人は99回でやめちゃうものなのよ。あと1回で壊せるのに何回叩けばいいかわからないから諦めてしまうの。あかりは元々諦めが悪い子だから…私も続くわ!」

 

「結衣…!」

 

「無駄だ。100回叩いても私の壁は壊せない。あの三銃士が何回叩いても壊れる事がなかったのだからな」

 

「へっ…テメェはあの二人の事を何もわかってねぇ…」

 

「ほう…?」

 

「あかりと結衣は…その諦めの悪さで…何度も突破口を開いてきたのデース…」

 

「彼女たちは…大きな夢があって…その目標のために…努力を欠かしませんでした…」

 

「だからこそ…アタシらのリーダーであり…新人ながらも急成長したセンター候補ってワケ…」

 

「そして先輩たちは…萌仁香たちを受け入れ…猫を被っていた萌仁香を許し…そして今は対等な関係にもなれたの…」

 

「恋も…ダイエットも…センターやレギュラーメンバーの取り合いも…応援しながらも刺激し合って…自分自身も高めてきたんだ…」

 

「あかりと結衣は…そうやって自分を鍛えて成長させてきたから…私にとっても大きな脅威なんだよ…だから…」

 

「やあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「何っ…!?」

 

「あの子たちをあんまりなめない方がよかったね…」

 

あかりと結衣は諦めの悪さから全身にドリームパワーを溜め続け攻撃ラッシュを繰り返した。

 

するとウォール・サタンは1万回も叩いたおかげで崩落し突破口を本当に開いたのだ。

 

恐らく限界を超えてきたので相当なスピードで攻撃してきたのだろうと麻友美は考察しボロボロながらも立ち上がって二人を抱きかかえた。

 

そのまま倒れ込むとあかりと結衣は息が切れていて腕はパンパンに張っていた。

 

麻友美は労うように二人を抱きしめ嬉しそうに涙ぐんだ。

 

「お二人は本当に…私たちの誇りです…」

 

「えへへ…ちょっと無茶しちゃったかな…」

 

「私も…普段は無茶しないようにしているのに…負けたくなかったからかな…」

 

「お二人はここで少しだけう休んでてください…。後は私たちがやります…」

 

「あかりや結衣も頑張ってるんだ…。私が…こんなところで倒れるわけにはいかない!」

 

「オレだって…ここで諦めたら…やられっぱなしになっちまうぜ…。そんなの…オレのプライドが許さねぇ!」

 

「アタシにはまだ覚悟がなかったっつーか…あまりの強さに怖気づいちゃったって感じ…?でももう覚悟は決めた…アンタを…アタシたちが倒す!」

 

「日本だけじゃない…スコットランドにも応援してくれるファンがいマス…。こんなところで逃げたり諦めたら…彼らを裏切る事に…そんなのいやデース!」

 

「先輩としてカッコ悪いところ見せちゃったなぁ…。でももう大丈夫…私はこの一撃だけで負けるほど…ヤワじゃないよ!」

 

「うう…頭が痛い…。でも…お兄ちゃんのためにも…萌仁香自身のためにも…萌仁香は…アンタなんかに負けないんだからっ!」

 

「皆さん…!」

 

「さっきはよくもやったわね!アンタの事は許さないんだからっ!」

 

「もう立ちはだかる壁はねぇ!一気に決めさせてもらうぜ!」

 

「いいねそれ!さっさとあいつを倒して平和を取り戻そう!」

 

「援護は任せて!この矢で仕留めるからさ!」

 

「当たれっ!Fire!」

 

「ぬっ…!」

 

「ダメージが通った…!奴は無敵なんかじゃない!一気に総攻撃するよ!」

 

「やるではないか…。だがそう簡単に倒れるほど私は弱くはないぞ?」

 

「そんなモン…わかってるんだよ!それぇっ!」

 

「何…!?うわっ!」

 

「あかりたちの意志…無駄にしないのデース!突撃っ!」

 

「勢いだけはやるようだな。しかしいいのかね…?一人だけ動かぬ者もいるのだが?」

 

「動けないのではありません…動く必要がないのです…」

 

「何だと…?」

 

「あらかじめあなたの周りに陣形を作っておいたんだ!ゲーツィス!あなたには麻友美の術にかかってもらうよ!」

 

「なっ…動けぬ…!?」

 

「ここで一気に私が決めます…!シャドウトリックトランクィッロ!」

 

「なっ…ぐはぁっ!」

 

「やりましたか…?」

 

「いい一撃だったぞ…。しかし…貴様は私の戦術にかかったようだな」

 

「何ですって…?うっ…!」

 

「麻友美!」

 

「麻友美の右腕が…!」

 

「石になっていく…!」

 

「そんな…右腕が…動かない…!」

 

麻友美はゲーツィスダメージを与えたもののこっそりとツバを吐いて右腕にかけたことで麻友美の右腕が石になっていく。

 

大鎌だと両手で持たなければならないのでまともに持つことが出来ずに左腕だけで持つことになった。

 

あかりと結衣はまだ動ける状態になくついに3人も一時戦闘不能になる。

 

このままでミューズナイツは皇帝ゲーツィスに勝てるのか…?

 

つづく!



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第49話 封じられた麻友美

麻友美は右腕を石にされてついに動きを封じられた。

 

あかりたちにとって麻友美の頭脳は欠かせない存在なのでかなりの痛手を負った。

 

ゲーツィスはそれを一瞬で見抜きあえてツバを吐いて石にしたのだ。

 

余裕の笑みを浮かべたゲーツィスは挑発するようなトーンでこう言う。

 

「どうした?夢と未来を守るのではなかったのか?」

 

「まさか麻友美が封じられるなんて…」

 

「そんな…麻友美先輩の頭脳は萌仁香たちにとってありがたい存在なのに…」

 

「心配いりません…。腕は使えなくなりましたが…まだ声は出せます…。希望を失えば…誰がこの世界を守るのですか…?」

 

「麻友美…あなたは強くなったわね。私も…ここで負けていられないわね!」

 

「結衣さん…!」

 

「麻友美ちゃんがここまで頑張ってるんだもの…。私だって…諦めずに来たからみんなに追いつく事が出来たから…絶対に負けない!」

 

「あかりさん…!」

 

「潔くないな…ならばここで貴様ら全員まとめて地獄の底へ落としてみせようぞ」

 

ゲーツィスは杖を地面に強く叩きつけて地響きを起こしミューズナイツをけん制する。

 

それでも運動神経抜群のひかりと日菜子の二人は軽々と高くジャンプして飛び越え一気に叩きつける。

 

壁がない今は攻撃も通るし無敵ではない事がわかったので遠慮なく攻撃を仕掛けられるのでひかりにとってはやりやすかった。

 

麻里奈とエマも援護射撃しつつも近接攻撃でかく乱をする。

 

萌仁香も力いっぱいのハンマーで一気に叩き潰しゲーツィスの杖も間に合わなくなる。

 

そしてあかりは切っ先にドリームパワーを一点に込めて突撃をする。

 

「ここで一気に決めるんだ!ローズスプラッシュカンタービレ!」

 

「ぐわあぁっ!」

 

「やった…!胸元に切っ先を当てられた!」

 

「ぐぅ…なかなかやるではないか。だがこの武器が杖だといつ言ったのかね?」

 

「何だって…!?」

 

ゲーツィスは杖を突然握り替えまるで剣を抜くように抜き始めた。

 

それは杖と見せかけて叩きつければ魔法が使える強力な両手剣だったのだ。

 

あかりたちはまだ本気じゃなかったことを悟り調子に乗った自分たちを反省したがもう手遅れであった。

 

「私を本気ににさせたことを褒めてやろう。これで貴様らはもう終わりだ!ふんっ!」

 

「きゃあぁぁぁぁぁっ!」

 

「どうだ、我が魔剣エスカリボルグは。大した威力であろう。」

 

「たった一振りで当たってもないのになんて風圧なんだよ…!」

 

「Oh no…こんなの聞いてないデース…!」

 

「今までが本気じゃなかったってマジかよ…!」

 

「けど…それなら倒せばいいだけの話だと思うよ…?私に続いて…!」

 

「加奈子先輩…」

 

「これだけ力の差を見せつけられてもなおまだ立ち上がるというのか…。人間は何ともしぶとい生き物なんだ…。ここで諦めれば何もかも失い楽になれるというのに…哀れな生き物よ」

 

「黙りなさい…。哀れだと思うなら勝手だけど…誰かの夢を奪って…自分さえ叶えればいいって…最悪にカッコ悪いでしょ…?誰かを陥れて自分だけ幸せなんて…その夢を諦めざるを得ない人にとって…最悪の不幸なんだから…。あなたにはわからないでしょうけどね…」

 

「こんなに追い詰められてもまだ他人を気遣うか…所詮は弱き人間よ」

 

「何が悪いの…?格好を気にしたっていいじゃない…。どんなにカッコ悪くても…頑張る姿はいつだってカッコいいんだよ…。だから私たちは応援したくなる…。だから私たちは見守りたくなる…。それは私たちにやっているファンも同じ…。みんなそれぞれ夢があるから…お互いに支え合って応援して成長して叶えていくものなんだよ!なりたい自分と現実の自分に悩みながら…どうすればいいかを試行錯誤して未来に生きていくんだよ!あなたのような悪夢を与える奴に…私たちは負けたくない!」

 

「ほざけ…ならばさっさとかかってくるがよい。貴様らの戦闘力ではこの私に敵わないがな」

 

「やってみないとわからないよ!私たちは騎士として…あなたを倒して平和を取り戻してみせる!みんな!」

 

「うん!」

 

「あのっ!私にいい考えがあります…!ゲーツィスは風圧だけで私たちを吹き飛ばす事が出来ますが…杖の時と比べてやや大振りになり隙が出来ると見ました…。両手で扱うので片手で振り回すよりは楽ですが…やはり動きがやや鈍っているのがわかります…。そこで…同じ両手持ちの萌仁香さん…結衣さん…ひかりさん…そして私に一撃を…託してください…」

 

「燃えている…。麻友美があんなに燃えている…」

 

「オッケー。せっかく麻友美が本気を出しているんだ。アタシら遠距離組は援護させてもらうよ!」

 

「でもエマの銃剣で近距離攻撃も仕掛けるデース!」

 

「まだ麻友美の右腕は石にされているからゲーツィスの呪いを解く方法を探そうよ!」

 

「こうなったら一気に行こうぜ!」

 

「いいわ!任せて!萌仁香の一撃でアイツにギャフンと言わせるんだから!」

 

「じゃあいくよ!よーい…ドン!」

 

加奈子の合図でそれぞれのポジションに着き麻里奈は素早く装填して矢を放つ。

 

エマも装填に時間をかけずに発射の準備をして連射をする。

 

同時に近づいたら銃剣で戦う用意もする。

 

あかりと加奈子、日菜子の片手武器組は接近戦に持ち込んでゲーツィスを後ろへと追いやる。

 

それでもゲーツィスは両手剣を軽々と動かし両手でコントロールする。

 

そこで隙を突かれたあかりは片手に持ち替えられたゲーツィスにハーフソードという持ち方で胸元を刺されかける。

 

ギリギリのところで加奈子がランスを伸ばして弾き返しあかりは一命をとりとめた。

 

「先輩!ありがとうございます!」

 

「大丈夫?あかりが無事で本当によかったよ」

 

「まだまだっ!えいっ!えいっ!」

 

「攻め続けたところで結果は同じだ。せいぜい攻めすぎて疲れるといい」

 

「今だよ!エマ!麻里奈!」

 

「OK!オーシャンバーンアジタート!」

 

「よしきた!ヒーリングショットレガート!」

 

「何だと…!ふんっ!」

 

「マジで!?」

 

「Oh my gosh!アレを防ぎマスか!」

 

「不意打ちで裏を返したことは褒めてやろう。だが詰めが甘かったな」

 

「詰めが甘いのはどっちかな?オラアッ!」

「また貴様か…兄も考えずに突っ走るなど血迷ったのか?ふんっ!」

 

「うわあっ!」

 

「一発!ドカーン!」

 

「ぬおっ!?」

 

「今よ!スカーレットラッシュアパッシオナート!」

 

「ぐはあぁっ!」

 

「やりました…!」

 

「くっ…!人間はやはり成長するが故に厄介な存在だ…。しかしまだあの女の右腕は石になったままだ…。このツバの効果は1時間後には元に戻ってしまうのでな…。短期決戦に切り替えようではないか。どの道貴様らはここで死ぬがね!」

 

「止めてみせます…必ず!今は動けなくても…長期戦に持ち込んで…皆さんと豪慰留してみせます!」

 

つづく!



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第50話 破れない意志

麻友美の右腕が封じられている今の状態であかりたちは麻友美の指示の下で攻撃を仕掛ける。

 

麻友美は元々王政大学や永治大学など高レベルなところに進学可能なほどの頭脳を持ちながら頭の回転が速くない人向けの指示の出し方も的確なのでひかりたちにとってはありがたい存在だった。

 

日菜子と麻里奈、エマ、ひかり、萌仁香は単純かつ頭はそんなに良くないので麻友美の分かりやすい指示は個性に合っててすごく的確なので思うように体が動く。

 

「両手剣だか何だか知らないけど…やっぱり大振りになっているね!」

 

「けどアイツ何だか余裕そうじゃん!」

 

「だったら一発!ドッカーン!」

 

「ふん…甘いっ!」

 

「きゃっ!」

 

「Fire!」

 

「生ぬるいわっ!」

 

「Oh…アレを弾くデスか!」

 

「クロスボウより今はこっちだな…。アタシをナメんなっ!」

 

「短剣ごときで私に敵うと思ったか!バカめ!」

 

「うっさいなぁ!アタシは囮だっつーの!」

 

「何を…」

 

「そこぉっ!」

 

「うっ…!」

 

「ナイス日菜子!」

 

「ナイス麻里奈!」

 

「頭が悪い分際でやるではないか…。これだから人間は面倒なのだ…」

 

「へっへーん!どうだ!」

 

「私たちもいる事を忘れないで…?」

 

「覚えているぞ…貴様らはウォール・サタンを壊した者共だな。忘れるはずがなかろう」

 

「いいえ、もう一人偉大な先輩騎士もいるわよ?」

 

「ほう…?」

 

「上からくらえ!ドリルスマッシュ!」

 

「ぬんっ!」

 

「防いだ!?」

 

「王女さまもこの程度の力か。それともこれが限界か?」

 

「さぁね…今の私にはこれが限界かもしれない…。だからこそ…みんながついているよ!」

 

「Fire!」

 

「うっ…!」

 

「当たりマシタ!」

 

「エマ!ありがとう!」

 

「加奈子先輩もGoodデース!」

 

「むぅ…なかなかやるではないか…。もうお遊びはこのくらいにしよう…。ぬぅんっ!」

 

「うわっ!?」

 

「剣を地面に突き刺し…」

 

「マズい…早くこの場から離れて!」

 

「もう遅い!ジゴファイヤー!」

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

ゲーツィスは剣を地面に強く突き刺し十字を切りながら呪文を唱えると地底から黒い火柱が走りあかりたちを襲った。

 

とくにひかりはエマを庇うために直撃してしまい右脚に大きなやけどを負ってしまう。

 

エマはそれを見てショックを受けたと同時にゲーツィスへの怒りが込み上げてきた。

 

「ひかり!」

 

「へへ…エマが無事ならそれでいいんだ…。左足をずいぶんやけどしちまったが…まだまだ動けるぜ…?」

 

「仲間を庇うなどおめでたいものだ。夢を見るなら他人などどうでもよかろうに」

 

「ゲーツィス…You are crazy!絶対に許さないデース!」

 

「あのエマがキレた…!」

 

「それよりも…ひかりさんを私の方へ…」

 

「わかったわ!ひかり先輩、立てますか?」

 

「ああ…悪いな…苦労をかけて…」

 

「バカな事言ってないで早くしてください!まったく…ひかり先輩は仲間に熱く猪突猛進なんだから…心配させないでよ…バカ…」

 

「へへっ…すまねぇな萌仁香…」

 

「ひかりさん…あなたはここで休んでてください…」

 

「麻友美…もう戦えるのか…?」

 

「少しずつですがこの状態になれてきました…。今なら少しですが戦えます…」

 

「ほう…やっと合流か。貴様一人入ったところで何が出来るというのだ?」

 

「何も出来なかったとしても…何かをすることをバカにする権利は…誰であってもないんです!足を引っ張るかもしれませんが…皆さんを全力でサポートします!」

 

「麻友美がいれば百人力だよ!」

 

「おかえりなさい!麻友美ちゃん!」

 

「さぁ、ひかりの無念をここで晴らすわよ!」

 

「うん!」

 

「どこからでもかかってくるがいい!」

 

「じゃあこっちからいくよ!」

 

日菜子の奇襲でゲーツィスは一歩だけ後ろに下がり連続でメイスでぶっ叩く。

 

まるでバトントワリングをしているかのように変則回転をかけて動き回りゲーツィスをかく乱していった。

 

結衣もハルバードをギュっと握りしめて先端で突き刺そうとする。

 

バランスを崩されたらすかさず体を避けてかわす。

 

あかりは切っ先を、加奈子は穂先を向けてありったけのドリームパワーで刺突する。

 

萌仁香も遅れて合流し先輩たちの動きを観察しながら巨大ハンマーで一振りして一撃を狙う。

 

麻里奈とエマは援護射撃のため本来なら連射は出来ないもののドリームパワーを上手く利用して連射する。

 

麻友美は不慣れな右腕封じに苦戦を強いられついに右腕を掴まれた。

 

「しまっ…」

 

「その右腕にもうすぐ慣れるころだろうが残念だったな。石になったという事は砕けばもう右腕をなくし戦う事は出来まい。ここで右腕を砕き再起不能になってもらおう」

 

「そんなこと…させません!私はまだ…世界中にアニメやゲームを通じて…平和を与える仕事があるんです…!あなたに壊されるほど…私の身体は弱くなんかありません!」

 

「ぐおっ!?」

 

「きゃっ!?」

 

「麻友美…あなた…!」

 

「ちょっと麻友美…右腕…!」

 

「ああ…右腕が元に戻っていきます…」

 

「これで麻友美先輩も戦えますね…」

 

「麻友美ー!おかえりー!」

 

「はい…ただ今戻りました…!」

 

麻友美が自分の夢を強く叫ぶと強大なドリームパワーが宿り右腕を回復させるという奇跡を起こした。

 

それがドリームパワーなのか効果が切れたのかはわからないけどこの奇跡に感謝して麻友美は両手でギュっと大鎌を強く握りしめる。

 

ゲーツィスは時間間隔を研ぎ澄まし残念そうにつぶやく。

 

「うーむ…まだ効果が解けるまでの時間は過ぎていないはずだが…?打が解けたものは仕方あるまい…。ならばもう一度ツバを吐いて石にするまでだ!」

 

「そうはいかないよ!萌仁香!」

 

「わかったわ!プレートアーマーメイクアップ!」

 

萌仁香はハンマーを上に掲げて呪文を唱えるとあかりたちの服が金属の鎧ことプレートアーマーへと変えた。

 

これならツバが染み込んで石になる事もないし動きは鈍くなるが防御力や耐久力も上がる。

 

あの威力が高い両手剣では女の子であるあかりたちには衝撃が強く耐えるのが精いっぱいだ。

 

あかりたちの新たな姿にゲーツィスに敵うのか?

 

つづく!



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第51話 応援してる

あかりたちはプレートアーマーを装着し強い攻撃に耐えられるようになる。

 

同時に麻友美の右腕もドリームパワーで回復しこれで司令塔が復活する。

 

ひかりも麻友美の回復魔法で左足を治しこれで全員揃う。

 

「サンキュー麻友美。おかげで動けるようになったぜ」

 

「いいえ…ひかりさんのパワーと運動神経は私たちに必要ですから…」

 

「こいつ…オレたちと接してから本音を言うようになったじゃねぇか」

 

「成長したね…麻友美」

 

「イイカゲンその成長したという茶番を終わらせてやろう。これでもくらうがいい!」

 

「きゃっ!」

 

「あかり先輩っ!」

 

「萌仁香ちゃん!私なら大丈夫!それよりも前見て!」

 

「え…あ、はい!」

 

「どうした?さっきの方が動きが素早かったぞ!」

 

「このままではやられるわ…。何か突破口は…」

 

「ゴチャゴチャ考えても無駄だ!ふんっ!」

 

「きゃぁっ!」

 

「結衣っ!どうすればいいんだろう…!」

 

「チキショー!こいつの弱点はねぇのかよ!?」

 

「いいえ…あります!それは…あかりさんの一突きにかかってます…」

 

「私…?」

 

麻友美は何かを思いついたようにあかりを見つめその弱点への攻撃を託す。

 

あかりは一体何をすればいいのかわからず一瞬だけ硬直しそれを狙われるも冷静な判断力でギリギリのところでかわす。

 

日菜子と萌仁香とひかりはあかりに近づかせないようにしようと無意識に体が動きゲーツィスから遠ざけようとした。

 

あかりは麻友美の言った事が理解できず麻友美に質問をする。

 

「ゲーツィスの弱点って何かわかったの…?」

 

「はい…。彼の心臓部にもの凄いダークネスパワーを感じました…。もしかしたら心臓部の宝石がダークネスパワーの核になっているんじゃないかなって思いました…。一か八かの賭けですが…あかりさんの一突きに託してもよろしいでしょうか…?」

 

「…私に出来る事があるならやってみるよ!みんな!私を援護して!」

 

「オッケー!」

 

「Yes sir!」

 

「今更何をするのかと思えば結局何も考えないのか…。これは私の勝利は確実…」

 

「陣形アルファです!」

 

「ほう…?」

 

麻友美の一声で萌仁香が先頭に立ち大きく振りかぶって地面に振り下ろした。

 

同時にあかりたち8人は空中へジャンプしそのままゲーツィスの元へ飛び込んだ。

 

ゲーツィスは上を見上げるあまりに萌仁香の存在を忘れてしまい地響きに揺らされてバランスを崩し始める。

 

「くっ…!だが何人がかりでかかってきても無駄だ!この一振りで一気に薙ぎ払ってやる!」

 

「そうはいかないわ!みんな!陣形ベータよ!」

 

「うん!」

 

「今度は一列に並ぶか!だったら串刺しにして終わらせる!」

 

今度は結衣の一声であかりを一番後ろにして一列に並び誰がどこから攻めてくるのかわからなくする。

 

そして一列になる事で風の抵抗をなくしより素早いスピードで移動する事が出来る。

 

ゲーツィスは一気に突き刺して串刺しにしようとするも先ほどの地響きで足元が地割れを起こし不安定になっていたからか踏ん張りが効かなくなって目線がぶれる。

 

そのため剣の攻撃も目線がぶれたことで不安定になり当たるものも当たらないのだ。

 

「もうヤツは動けまセーン!あかり!とどめを刺すデース!」

 

「みんな!ありがとう!ローズスプラッシュ…カンタービレ!」

 

「うっ…うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ…!」

 

ゲーツィスの隙を突いてついに心臓部にある核となる宝石に切っ先が命中しゲーツィスは悲痛な悲鳴を上げた。

 

ゲーツィスの核はそのまま砕け散りしばらくすると前から倒れ込んだ。

 

ついにやったか…誰もがそう思った。

 

「ふふ…。ふふふ…。ふははははははははは!まさか私の核を破壊するほど追い詰めるとは…人間の成長力は大したものだ!」

 

「そんな…どうして…?」

 

「まさか…弱点じゃなかったのですか…?」

 

「ふぅ…麻友美と申したな。確かにこの核は私にとって弱点でありダークネスパワーの中心部だ。そこを狙われると暴発して私はダークネスパワーに呑まれて消滅してしまう。そして私は命を落とし貴様らの勝利となっただろう。だが…もう既に遅かったようだ!人間共のダークネスパワーが想像以上に溜め込まれ壊されてももう暴発する事がなくなった!いわばこの核はダークネスパワーの核でありエネルギーであり…進化の悲報なのだ!」

 

「そんな…!じゃあ人々を演説で支配したのも…あえて私たちに核を攻撃させたのも計算のうちってこと…?」

 

「その通りだ。満タンになったところで核を壊せば強大なダークネスパワーによって体を包み込み真の進化を遂げるのだ!さぁダークネスパワーよ!我に最後の力を生み出し人々を悪夢の世界に導くのだ!うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ…っ!」

 

ゲーツィスの策略にハマってしまったあかりたちはまだ戦いは終わってないんだと悟り戦闘体勢に入る。

 

ゲーツィスの威厳ある紳士風の姿から黒と紫の毛深い獣人となり翼はまるで竜のよう、頭髪はメデューサのように無数の蛇が生えていた。

 

演説に感動した人々が渋谷に集まり右手を真っ直ぐ上に掲げて忠誠を誓う。

 

あまりのダークネスパワーに渋谷どころか都内の人々はみんな無気力化し地べたに寝そべってしまった。

 

ゲーツィスが最後の姿になると大きな雄叫びを上げミューズナイツを威嚇する。

 

「これで人間共のドリームパワーを吸いとり…人間共の発展を邪魔し…元の原始時代へと還れる…。人間は本来いてはいけない存在なのだ…。未来など描くから…感情など持つから…いつだって破壊と略奪ばかりしてきたのだ…。人間共を無気力化し…原始の時代へ還ろうではないか…」

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

「さっきまで洗脳受けた人が…」

 

「ダークネスパワーに巻き込まれて魔物化した…!?」

 

「このままではマズい…!一度撤退を…」

 

「もう遅い!死ねぇい!」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

ゲーツィスの剣による一振りだけでミューズナイツ全員を吹き飛ばしたくさんの切り傷を負わせ背中をビルに強打して崩れたところにまたミューズナイツを襲う。

 

瓦礫(がれき)に埋もれてしまった彼女たちは身動きが取れず徐々に希望を失っていった。

 

自分たちが今まで頑張ってきたのは無駄なんじゃないか…今までの努力は時間を消費しただけじゃないか…こんな運命を背負うんじゃなかった…脳裏にはこんな事ばかり浮かんでドリームパワーがダークネスパワーに汚染されてしまう。

 

そんな時だった…

 

「ミューズナイツ!ミューズナイツ!ミューズナイツ!……」

 

「俺たちの夢はみんなにかかってるんだ!」

 

「あなたたちが諦めたら誰が夢を叶えてくれるの!?」

 

「みんなが立ち上がれないなら僕たちが戦うよ!」

 

「フレー!フレー!ミューズナイツ!」

 

「Go! Fight! Win!Go! Fight! Win!」

 

あかりたちは遠くから声が聞こえ耳を澄ますと自分たちを応援する声が聞こえた。

 

こんな危険な場所なのに危険を顧みずに自分たちを応援してくれている…。

 

諦めかけた中でみんなは平和を諦めていなかったことに気付いたあかりたちは自分たちの不甲斐なさに瓦礫の中で涙を流し声を出して泣いた。

 

「そうだ…私たちは夢を与えて未来への一歩を踏み出す勇気を与えるアイドル…」

 

「私たちが諦めたら…もう誰も前に進めないわね…」

 

「あーあ…諦めちゃった自分が恥ずかしいな…」

 

「でも…皆さんに応援されると…」

 

「もっとやんなきゃって思えるぜ…」

 

「やっぱり諦めたくないんだなぁ…アタシたち…」

 

「エマたちならもっとやれるかもデス…」

 

「私たちが諦めたら…」

 

「誰が夢を叶えるんだ…」

 

「私たちは自分を諦めない…だって私たちは夢と未来の騎士…」

 

「ミューズナイツだから!」

 

ミューズナイツが改めて諦めない心を強く持つとドリームパワーが大きく輝きあかりたちを包み込む。

 

そこには彼女たちだけでなく近くにいたゲーツィスや民衆たちにも美しいオルガンの音色と混声コーラスの声が聴こえた。

 

ゲーツィスや演説を聞いて堕ちてしまった人々にとっては心地悪く、ミューズナイツや彼女たちを応援する人々にとっては心地よかった。

 

瓦礫が崩れるとミューズナイツは中から復活し光に包まれてゲーツィスの元へ着地した。

 

覚醒したミューズナイツの運命は…?

 

つづく!



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第52話 エール

瓦礫の中に埋もれていたミューズナイツは大きなドリームパワーで復活しファンの声援のおかげで心も回復する。

 

あかりと日菜子と加奈子は片手で、結衣と麻友美、ひかり、麻里奈、エマ、萌仁香は武器を強く握り返す。

 

ゲーツィスは両手剣を油断ならないと構えはじめ本気でかかってくる。

 

「貴様ら…どんな力を使ったか知らないがどう足掻いたところで叶わぬものは叶わぬのだ!無駄な幻想を抱く前に殺してくれるわ!」

 

「叶わなかったとしても誰のせいでもない!気持ちも技術も…運も確かに必要だけどそれを邪魔する権利なんて誰にもない!人にはたくさんの選択肢がある…。その限られた人生の中で人は決断をして行動し、そして夢を見てそれに向かって叶えさせるんだよ!」

 

「ほざけ!夢見る前に悪夢でも見ているがいい!こうなったら民衆ごと悪夢に落としてみせようぞ!」

 

「そんなことさせないよ!ゲーツィス!あなたとの因縁をここで絶ってみせるよ!」

 

「王女さま自ら向かいに来るとは愚か者め!」

 

「愚かでも何でも言ってもいいよ!私は自分で愚かだと思わないから!」

 

「先輩!恐らく上から振り下ろしに来ます…!」

 

「王女さまから先に葬ってくれよう!」

 

「もうあなたのパターンは見切ったよ!あなたは一気に片づけたがるからすぐに上から攻撃を仕掛けるんだ!これでもくらえ!ドリルスマッシュ!」

 

「ぐはぁっ!」

 

「日菜子さん…今のあなたなら出来ます!練習したあれをやりましょう…!」

 

「オッケー!ずっと練習してきたあの技を…いっけぇぇぇぇぇっ!バタフライムーンサルト!」

 

「何だと…ぐはぁっ!」

 

日菜子はずっと練習していたムーンサルトの動きと同時にメイスを空中に舞わせながらキャッチし落下し長田叩く技を成功させる。

 

それが成功するとファンのみんなは日菜子コールで応援をする。

 

防御力が最も堅い萌仁香と麻里奈でファンを守りつつ攻撃を仕掛けゲーツィスも次第に追い詰められる。

 

続いて麻里奈とエマの射撃も命中率が上がるだけでなく矢や銃弾もパワーアップしている。

 

ひかりと萌仁香の力ずくの攻撃も通るようになり麻友美もあかりたちの扱いに慣れてきて指示を出しやすくなっている。

 

完全にミューズナイツのペースになったこの空気はファンを盛り上げる。

 

「いけ!ミューズナイツ!」

 

「あいつに負けないで!」

 

「ゲーツィス様の…邪魔をするな!」

 

「おっと!テメェらの相手はオレだ!ギガフレイムアックス!」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ…!」

 

「どうだ!」

 

「ひかり!YouはPowerful girlデス!」

 

「エマ!テメェにしては珍しく褒めるじゃねぇか!」

 

「当然デス!エマの喧嘩仲間には手を出させまセン!」

 

「あの子たち、いつの間に仲良くなったのね…。あかり!努力の成果を見せましょう!」

 

「うん!」

 

「ここがアタシの花道…そこをどいて!ヒーリングショットレガート!」

 

「ぐふっ…!」

 

「これは…あの子たち…!」

 

「ヴィオラ…もうそろそろアレを使う時が来たんじゃないかな?」

 

「そうね…。アレを使いましょう。ユメミール王国の伝説の歌を…。皆さん!この歌を覚えてください!今から歌います!Ah~…」

 

「何だろう…この心地いい歌声は…」

 

「ママのその歌…ずっと小さい頃に聞いた歌と同じだ…。懐かしいなぁ…」

 

「同時に何だ…この誇り高い気持ちと…」

 

「やる気に満ち溢れるような心は…」

 

「その歌には心清き者のやる気を最大にしドリームパワーをより強化させる歌よ!今のあなたたちなら耳コピで歌えるはずよ!」

 

「わ、わかりました…やってみます…!皆さん!」

 

「うん!」

 

「Ah~…♪」

 

ミューズナイツが歌うとドリームパワーが一気に集まり彼女たちのドリームパワーが大きくなる。

 

それぞれの武器が黄金の光りを輝かせ彼女たちを包み込んだ。

 

すると騎士服姿から宮廷服のコートが重ね着され両手には白い手袋が付けられた。

 

それぞれのイメージカラーのマントもつけられ最後の力を生み出したのだ。

 

そして…

 

「ミューズナイツの皆さん…今こそ最後の必殺技を出すときです…。私はユメミール王国初代女王のソナタ・シンフォニアです。あなた方にミューズのご加護を…」

 

「必殺技…知らないはずなのにどうしてだろう…何故か知っている…!みんな!ここで一気に決めるよ!」

 

「うん!」

 

「うぐ…おのれぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 

「いくよ!これで最後だ!」

 

「ミューズナイツ!シンフォニーグランド…フィナーレ!」

 

「ぐ…ぐわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

ミューズナイツの最後の必殺技がゲーツィスに直撃し被弾後はそのまま元の姿に戻り倒れていった。

 

残心を示すももう虫の息で戦う意志はあってももう身体が動かないのだ。

 

ミューズナイツとファンのみんなは勝利を確信し一斉に飛び出して抱き合ったりした。

 

「勝った!ミューズナイツの勝利だ!」

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

「ミューズナイツー!ありがとうー!」

 

「そんな…ゲーツィス様が負けるなんて…!」

 

「嘘だ…こんなのありえない!あいつら魔女にそそのかされたんだ!」

 

「ミューズナイツを殺せ!」

 

「うう…」

 

「ゲーツィス様!生きていたんですね!?

 

「まだ動くというのか…!」

 

ゲーツィスは虫の生きながらも無理矢理にでも身体を動かそうとしアンチたちの希望となった。

 

しかし最終手段の進化をしてしまった後なので寿命が尽きるのももう時間の問題だ。

 

警戒を強めるもと突然ゲーツィスの頭上から黒い雷が命中する。

 

「ぐぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「ゲーツィス様っ!」

 

「何よ…あの禍々しいダークネスパワーは…!?」

 

「そんな…まさか…エンプサーナさま…どうして…!?」

 

「君のような捨て駒を放っておいた私が馬鹿だったようだ。ダークネスパワーはもう十分集まった。今までよく役に立ってくれた。だがもう君は用済みだ、この民衆もダークネスパワーの回収によく貢献した。だがもう君たちには要はない、私自身で悪夢すら見れないよう葬ってやろう」

 

「何だよそれ…理不尽だろ!俺たちは今まで報われなかったんだぞ!」

 

「頑張っても無駄だったしどうやっても無理だったのに死ねってのか!」

 

「許さない…この世なんてなくなればいいんだ!」

 

「もういい!早く殺してよ!私なんていなくなればいいんだ!」

 

「ちょっ…みんなやめなさい!どうしてそんな事言うのよ!アンタたちねぇ…萌仁香たちを散々貶しておいて死んで逃げるっていうの!?」

 

「萌仁香よせ!」

 

「いいだろう…君たち諸共粛清してやろう。さらばだ」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

エンプサーナという謎の女性がと突然霧状に現れゲーツィスとアンチたちを発火させて火の海にした。

 

もはや死体どころか灰すらも残らず燃え尽き魂はもう転生することなく消えてしまった。

 

あかりたちはあまりの残虐さに怒りと同時に恐怖と狂気を感じて身動きが取れず悪寒が走った。

 

エンプサーナはミューズナイツに気付くとすぐに彼女たちの方を向いてこう言った。

 

「私は悪夢の女帝エンプサーナ。かつて西洋を悪夢の世界に導いた闇の三姉妹の長女だ。今頃妹のアンゴル・モアとホロビノミコも水面下でそれぞれの魔力を溜めているだろう。だが生憎まだダークネスパワーが足りなくてね、あと1年後に完全体として君臨し人間が二度と成長しない世界を創り出す。いずれ君たちの前に現れ葬ると約束しよう。ではさらばだ…」

 

そう言い残してエンプサーナは消えミューズナイツの戦いは終わってないんだとファンやプロデューサー夫妻の前で知らされる。

 

ヴィオラはエンプサーナと聞いて何か知っているような気がしてずっとうつむいていた。

 

勝利ムードは一気に消え気が沈んだがリーダーの結衣とエースの加奈子が大声で演説をする。

 

「みんな!この通りまだ強い敵がいて黒幕がいたことがわかった!人々の成長を止めて未来を奪おうとするダークネスパワーに屈しず私たちはこれまで戦ってきた!でも…もし私たちが不安になったら殺気みたいに応援してほしい!みんなの力があってのドリームパワーだから!」

 

「あなたたちの不安は私たちの不安でもあるの!正直まだ終わってないんだと絶望はしたわ!でも…だからこそ人々は成長し昨日の自分の越えて過去に勝ってきたわ!それだけでもあなたたちは誇ってもいいのよ!ここは私たちに任せて後はあなたたちなりに平和な時間をかみしめて私たちの勝利を祈り見守ってね!」

 

「ミューズナイツ…!」

 

「あなたたちの覚悟は聞いたわ!私たちは安全な場所に避難しちゃうけど応援してるわ!」

 

「夢と未来の騎士道を見せつけてやろう!」

 

「悪夢の女帝なんかに負けるな!」

 

「ミューズナイツ!ミューズナイツ!ミューズナイツ!」

 

絶望した空気が結衣と加奈子の一声で一変し一気に希望の空気に変わる。

 

あかりはこれがリーダーとエースのカリスマ性なんだと感心しずっと二人を見つめた。

 

それから渋谷は徐々に復興を進め元通りの日常へと戻っていった。

 

つづく!



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第6章
第53話 取り戻した日常~謹慎


ゲーツィスが粛清されたとはいえアクムーン帝国の魔の手から守り切ったミューズナイツはアンチの残党が名誉棄損で逮捕されネガティブキャンペーンしたマスコミの一部は信用を失い大赤字になるほどの影響力を持った。

 

同時にミューズナイツは人々の英雄として称えられ渋谷の通りで凱旋パレードを行う。

 

萌仁香はまだファンのみんなに本当の自分を見せたくないのかいつものぶりっ子を演じる。

 

それを見ていた結衣はクスリと笑いひかりと日菜子はまだそれを演じるんだ…と感心した。

 

そしてそれぞれ仕事に入るもSBY48には3月に行われる年度末の総選挙を控えている。

 

あかりたちにとっては最初の総選挙でいかに人気者になりセンターを勝ち取るかの勝負になる。

 

しかしあかりたちの試練はまだこれだけではなかった…。

 

秋山プロデューサーは突然LINEに研修生やスタッフなども含めた全員にあるメッセージを送り劇場のライブハウスに集めた。

 

「研修生含め全員集まったね。これから大事な連絡をするよ。」

 

「急にどうしたんだろう…?」

 

「私たちの事かなぁ…?」

 

「まず…ミューズナイツは先の戦いでアクムーン帝国と戦い、途中でエンプサーナという悪夢の女帝が現れ粛清されたとはいえこの世界を守りきり勝利を収めた。そしてこれから政府や警察、自衛隊などによる感謝状をもらいに行く。前田あかりさん、大島結衣さん、篠田日菜子さん、渡辺麻友美さん、高橋ひかりさん、板野麻里奈さん、柏木エマさん、研修生の小嶋萌仁香さん、そして我が娘の秋山加奈子を称えよう」

 

「ありがとう、ミューズナイツ」

 

「私たちもセンター目指し頑張るね」

 

「本当にお疲れ様」

 

秋山プロデューサーがミューズナイツの名前を呼ぶと仲間たちが温かい拍手を送りSBY48結成以来の出来事となった。

 

秋山プロデューサーは嬉し涙を流す反面、何か思いつめたような顔を浮かべる。

 

加奈子は事前に話を聞いているのか緊張のあまりに父である秋山プロデューサーをジッと見守っている。

 

涙を吹いた後に深呼吸をすると秋山プロデューサーから悪いお知らせが届く。

 

「それから悲しいお知らせがあるんだ。僕はこのヴィオラ・シンフォニア女王と結ばれユメミール王国を取り戻す使命を娘だけでなく新人の8人に背負わせてしまったんだ。そして勝利したからよかったものの未成年の女の子を死なせかねないほどの危険な事をさせてしまったことが世論で批判されているんだ。そこで日本アイドル協会は…僕、秋山拓也を1年間の謹慎処分という判決を下した。僕は1年間SBY48だけでなく地方にある系列のグループもプロデュースが出来なくなるんだ。本当にすまない…君たちをこんな形で巻き込んでしまって…。娘たちを…自分たちの都合で利用した上に…こんな危険な事を押し付けて…」

 

「プロデューサー…」

 

「そこで僕の代理プロデューサーを紹介するよ。実はアイドルだけでなくプロデュースにも前から興味があり一度やらせてほしいという熱意を持っている人がメンバーの中にいるんだ。紹介するよ、我が娘の秋山加奈子だ」

 

「加奈子が!?」

 

「嘘!?加奈子ってプロデュースできるの!?」

 

「だから加奈子先輩は私たちの事を把握してたんですね…!」

 

「皆さん、今日から父である秋山拓也の代理プロデューサーを務めさせていただきます秋山加奈子です。まず皆さんの事を把握しているつもりですがまだまだ知らない事もあり完全に知り尽くしているわけではないですが、より皆さんと身近な存在だからこそ遠慮なく質問も出来ると思いますし、父の背中を見て一度アイドル目線だけでなくプロデューサー目線で自分がどう映っているのかを確かめたいって思うようになりました。だからこそ今のこの時は私にとってもチャンスであり皆さんにとっても大きなチャンスだと思います。もうすぐ総選挙があります。それぞれの仕事に励んで頑張りましょう」

 

「僕からは以上だ。質問はありますか?」

 

「…………。」

 

「ないみたいだね。それじゃあ今日はここまで。ありがとうございました」

 

「ありがとうございました!」

 

「まさかプロデューサーが謹慎なんて…!」

 

「プロデューサーは相当私たちの事を気にかけて悩んでいたはずですが…」

 

「チキショー…!あまりにも重すぎるだろ!」

 

「どうしてこんな厳しい事するの…?抗議してもいいですか?」

 

「ダメよ萌仁香。あなたが抗議したら私たちにまで処分が下されるわ」

 

「みんな…。ううん、もうこうなってしまったものは仕方ないと思う。まず私たちにやれる事はプロデューサーがいなくても自分たちのやれる事に集中してどんどん成長し、プロデューサーを驚かせることなんじゃないかな?じゃないとこんなに助けてくれたプロデューサーに申し訳がないよ…」

 

「そうデスね…。あかりの言う通りデス」

 

「このまま立ち止まったら確かにプロデューサーが悲しむもんね!加奈子先輩…ううん、加奈子プロデューサーがただの代理じゃないってとこを私たちで見せてやろうよ!」

 

「そうね。加奈子先輩だけでなく私たちにとって成長するチャンスだもの。立ち止まっていられないわ。総選挙に向けて前に進むわよ」

 

「先輩方…。はぁ、わかりました。萌仁香も頑張ります。けど…今更本当の自分をさらけ出すの怖いです…」

 

「明日は萌仁香はあかりと結衣と一緒だろ?失敗したとしてもフォローしてもらえよ」

 

「ひかりは相変わらず軽薄デス。萌仁香の性格をわかっているデスか?」

 

「うっせぇ!エマだってわかってんのかよ!」

 

「まぁまぁいいじゃん。いざとなったら先輩を頼んなよ?アタシらだって一応アイドルの先輩なんだからさ」

 

「ありがとうございます…。もし本性が出たらお願いします」

 

秋山プロデューサーは1年間の謹慎処分が下され直接プロデュースする事が出来なくなる。

 

それでもミューズナイツは加奈子がプロデューサーになる事をすぐに受け入れ自分たちにやれる事をやって成長して驚かせようと奮起する。

 

他のメンバーたちもミューズナイツのやる気に感化されて心に火がつく。

 

今はまだ2月だが残りわずか数日で総選挙が行われる。

 

2018年度SBY48神7は誰の手になるのか。

 

つづく!



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第54話 大嫌い

今日はあかりと結衣、そして萌仁香が同じ現場の仕事で集合して湾岸テレビのスタジオに入る。

 

今日の仕事はバラエティでクイズ番組だが今回はおバカタレントといわれている芸能人を中心としたものであかりと結衣は事前テストで全問に答える。

 

ところが…萌仁香はどうも学力があまり高くなかったのか人には言えない回答もしていて本人も自覚あるのかうーっ…っと唸りながら解答用紙に記入する。

 

そして本番の時間が来た。

 

「デキタゴン!クイズパレード!」

 

「いえーーーーーい!」

 

「さぁ始まりましたデキタゴンでございます。司会はわたくし今田紳助です。今回初登場しましたSBY48の3人です。この番組の事はご存知でしたか?」

 

「はい。ずっと見ていました」

 

「私もよく見てました」

 

「萌仁香も見てましたぁ」

 

「おおそうか。今回はアイドルという事で楽しみだな。ではまず順位を発表します。最下位が近いほど順番が後になっていきます。じゃあ順位発表です」

 

「まず1位は…上田虎太郎さんです。」

 

「よし!」

 

順位が発表されると順位ごとにチーム分けされ3チームに分かれる。

 

結衣は18人中5位、あかりは9位と問題なく通過したものの今回はレベルが高くあかりでさえ9位と結衣は学力の高さを思い知った。

 

そして運命の15位以降だが萌仁香は今だに呼ばれず結衣に嫌な予感がよぎった。

 

するともう17位の発表になり萌仁香は祈るようにうつむいた。

 

そして…

 

「17位は…小嶋萌仁香さんです。」

 

「やったー!」

 

「うわ―マジかよ!」

 

「小嶋さん、アンタも笑えないくらい学力低いよ?最下位のいつものおバカなゆずの剛士さんと一点差って…」

 

「だってぇ…難しかったんだもん♡」

 

「これは新たな開拓者が現れましたね…。じゃあ早速クイズいきましょう」

 

「萌仁香…あなたって学力に自信がなかったのね…」

 

「あはは…去年二人であんなに勉強会やったのになぁ…」

 

「うう…許してにゃん♡」

 

「もういいわ…。汚名返上しましょう」

 

「最初は早押しクイズです。回答権は最も早くこのボタンを押した人になります。準備はいいかな?では問題」

 

「京都のわらべうたである通り名の歌ですが、冒頭から始まるこの歌詞の空欄を埋めよ」

 

「おっと小嶋さん!」

 

「えっとぉ~…ねうしとらうたつみ?」

 

「違います!」

 

「ええ~っ!?」

 

「そんなわけないだろ。京都をどこだと思ってるんだ。…まさかアイドルっておバカしかいないんですか?まったく…と思ったら大島さんか、どうぞ」

 

「まるたけえびすにおしおいけ」

 

「せいかい!」

 

「京都に月光花というライバルがいるんですが、彼女たちにそのわらべうたを歌ってもらって覚えてました」

 

「さすが学力の名門の品川学園ですね!では次の問題!」

 

「フォルティッシもの意味を答えよ」

 

「おっと前田さんか」

 

「より強く」

 

「せいかい!」

 

「渋谷芸術学園に通ってますからこのくらいは答えられますよ」

 

「さすがお金持ちの芸術学校ですね…」

 

(ヤバい…このままじゃ萌仁香がバカみたいじゃない…。何とかして回答しないと…)

 

「問題!」

 

「伊能忠敬は日本中を回って何を作ったでしょう?」

 

「おっと小嶋さん!」

 

「プリクラ!」

 

「プリクラは江戸時代にはない」

 

「じゃあネイル!」

 

「ネイルもまだ日本にはない」

 

「メイド服!」

 

「メイド服はまだ日本に伝わってない」

 

「そんなぁ~…」

 

「そんなぁ~じゃないよまったく…はぁ…」

 

今田さんの淡々としたツッコミに会場は笑いが走るもののあかりは苦笑いを続け結衣は舌を向いてため息が漏れる。

 

あまりの学力の低さに結衣は日菜子たちを思い浮かべまた勉強会合宿をやる時が来るのかと憂鬱になってきた。

 

休憩時間に入り萌仁香は一人で落ち込んでいるとあかりはリンゴジュースを買ってきて萌仁香の頬に当てる。

 

「きゃっ!?」

 

「こんなところで落ち込んでたら笑顔が逃げちゃうよ?」

 

「あかり先輩…」

 

「萌仁香ちゃんって勉強は嫌い?」

 

「嫌いというか…なんで将来役に立ちそうもないのに勉強しないといけないのかなって…。そう思うと勉強してても意味なんてあるのかなって考えると…ってそんなもの言い訳ですよね。そんなことはわかってるんです。でも…どこかで萌仁香は可愛子ぶって妥協しているのかもしれないですね…」

 

「うーん…難しい事は言えないけど萌仁香ちゃんなりに一生懸命やってるから私は頑張ってるなって思う。わからないなりに必死に答えて知ろうとしている姿勢、私は好きだよ?」

 

「あかり先輩…」

 

「結衣ちゃんはあまりいい顔しなかったけどね…」

 

「ああ…そうですね…」

 

「ヘイ彼女。この収録終わったらご飯に行かない?」

 

「えっと…どちらさまですか?」

 

「ここのスタッフだよ。俺はアイドルとご飯を食べに行くっていう夢があってね。君たちミューズナイツは夢の騎士として戦い世界を守ったんだろ?だったら俺の夢を叶えさせてくれよ。悪いようにはしないさ、大丈夫だよ」

 

「ちょっ…やめてください!あまり知らない人からの甘い誘いには乗らないように言われてるので!それに…私は未成年ですから親の許可がないと…」

 

「親の事はどうでもいいんだよ。今から俺と…」

 

「アンタね…あかり先輩が嫌がってるのまだわからないの!?アンタはいい年して未成年を誘って何が目的なの?最近そうやって騙して売春させるの萌仁香は知ってるんだから!」

 

「何だよ…君も可愛いね。けど性格きついねぇ…でも可愛いから一緒にご飯でも…」

 

「また同じ事言わせるつもり!?アンタねぇ…嫌がってるのに無理に誘うなんて最低なんだから!いい?今度あかり先輩に近づいたら許さないからね!」

 

「ちっ…お前みたいなブスなんかもう誘わねぇよ!」

 

「萌仁香ちゃん…ありがとう。私を護ってくれて…」

 

「いいんです。あーいう最低な男…大嫌いですから」

 

(あの女…小嶋萌仁香といったな…。早速会長に言いつけてぶっつぶしてやる…!せっかくきららお嬢さまの株を奪いかねない前田あかりを潰そうと思ったのに…だがいいカモが出たな…♪)

 

休憩中にあかりはナンパに遭い萌仁香はナンパ男を撃退する。

 

あかりは一息つき萌仁香はナンパ男を鬼の形相で睨みつける。

 

気を取り直して収録を続け最後のクイズコーナーで順番で答えて正解したら抜け全員抜けたら有償というルールの下でクイズをする。

 

あかりと結衣は一発正解をするも後ろから二列目に入るともう回答がおかしなものばかりで萌仁香が来る前に珍回答タイム連発をしてしまった。

 

ついに萌仁香の番が来るも最後まで珍回答を晒し最下位に沈んでしまった。

 

収録を終えて帰宅時間になりタクシーで劇場に向かいながら結衣の優しい説教が始まった。

 

「萌仁香…このままだとあなたはレギュラーメンバー入りしても学力が基準に満たないとテレビの出演どころか活動を追試を終えるまで禁止になるのよ?秋山プロデューサーが文武両道をモットーにしている以上は自覚を持ってちょうだい」

 

「う…すみませんでした…」

 

「けど…ナンパ男からあかりを守ってくれてありがとう。あかりはちょっと押しに弱いところがあるから助かったわ」

 

「いえ…萌仁香はあーいう男は本当に嫌いですから」

 

「本当にありがとう、萌仁香ちゃん」

 

「別に…あかり先輩はちょっと純粋だから…」

 

「照れてる萌仁香ちゃんも可愛いよ?」

 

「うう…ずるいです…。学力もう少し頑張ります…」

 

こうして平和な時間を過ごし萌仁香もプロデビューし徐々にレギュラーメンバー入りも近づいてくる。

 

今田さんから後でメッセージが来たけれど萌仁香の本性を知りながらも事情があってぶりっ子を演じているんだと察してくれたのか秘密にしておくというのが届いた。

 

だがしかし…さっきのナンパ男は何やら企んでいた…

 

つづく!



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第55話 選挙

ついに3月になりSBY48最大のイベントである系列含む人気総選挙が行われる。

 

UMD48の白石美穂はいつも2位でシルバーコレクターだと称されたが今年は一味違うという気持ちで臨んでいる。

 

一方のあかりたちはまだ新人ながらも世界を救ったアイドル騎士としても話題になっている。

 

全員楽屋で待機し研修生含む千人くらいのアイドルたちの中からベスト50を選ぶが仕事と重なっている子たちも少なくはないのでその内の30人は楽屋で待機している。

 

もちろんあかりたちミューズナイツは全員楽屋にいる。

 

「総選挙…緊張しますね…」

 

「うん…。こんなに緊張するなんて…告白の時でもこんなに心臓痛くないよ…」

 

「だけど一年間ここまで頑張ったもの。自分の人気や知名度を信じるしかないわよ」

 

「確かに結衣の言う通りだね…。自分自身を信じられなきゃ人気も得られないもんね」

 

「もうすぐ開演の時間ですね…。萌仁香は別に緊張なんてしてませんが…」

 

「手が震えてマスね」

 

「エマ先輩はすぐ人に毒を吐くのやめてくださいよ!もう!」

 

「その割にはエマも足がガタガタじゃねぇか」

 

「シャラップ!ひかりに言われたくないデス!」

 

「まぁまぁ…」

 

「もう開演の時間だ…」

 

「お待たせしました!秋山拓也プロデュースアイドル総選挙!今開幕です!」

 

「Fu------------!」

 

「司会はわたくし本田綾香がお送りいたします!みんな!盛り上がってる!?」

 

「いえーーーーーーーーい!」

 

「さぁまずは各グループのライブパフォーマンスで盛り上げていこう!渋谷を救ったヒーロー!ミューズナイツです!」

 

「みんな!いっくよー!」

 

ミューズナイツが先陣を切ると劇場は大盛り上がりを見せファンを熱くさせる。

 

順位発表をするにはまずボルテージを上げてより緊張感を増させるやり方でファンを焦らす。

 

それが秋山プロデューサーのやり方で最初は批判されていたが根強いファンからはそれほど全員に自信があるんだと思われている。

 

全グループのパフォーマンスを終えると順位発表に入る。

 

そんな中で楽屋では白石美穂が加奈子に声をかけた。

 

「今回はミューズナイツという素晴らしい方たちのおかげで激戦区になりそうだね」

 

「だとしても私は3連覇を目指すよ。たとえ世界を救ったとしても絶対に驕る気はないからね」

 

「だからこそ加奈子はトップアイドルになれたんだものね」

 

「ううん、トップアイドルは茶山くるみさんだよ。彼女は歴代の神7全員が束になっても勝てないほどの天才アイドルだから。私なんてまだまだ低い方だよ」

 

「ふふっ、やっぱり謙虚なのは変わらないんだね。でも…今年はいいライバルに巡り合えたからもっと磨いてきたよ。絶対に負けない」

 

「私もだよ、美穂」

 

「あの二人って永遠のライバルって感じデスね」

 

「ああ…。まるで幼い頃から切磋琢磨しているかのようだぜ」

 

「秋山プロデューサー直系の加奈子先輩とその友人の一人娘の美穂先輩はデビューも一緒でよく共演しては競ってた仲だったみたいだよ」

 

「あかり詳しいわね」

 

「ずっと二人の事を応援してたからね」

 

「さぁ50位の発表です!」

 

50位から16位まで順調に発表しそれぞれ無名ながらも喜んでいた。

 

16位以上ともなるとさすがに有名どころが出てきてまだあかりたちの名前は呼ばれなかった。

 

さすがに一年目からだと指名はないか…そう諦めかけてた時に10位の発表で会場がどよめく。

 

「10位は…白石美穂さんです!」

 

「ざわざわ…」

 

「あの美穂たんが10位…!?」

 

「どうなってるんだよ…!?」

 

「波乱だ…!」

 

「嘘…!」

 

「あの美穂が10位…!?」

 

「どうやら私では世界を救った皆さんには敵わないみたい。何となくそんな気がしてました。悔しいけど…ベスト9はきっともう決まってると思う。おめでとう」

 

「えっと…その…」

 

「今みんなが何を言っても遠慮しがちだから代表して私が言うよ。まだ私たちは指名されていないから確信は出来ないけど…ありがとう」

 

「では9位です!9位は…小嶋萌仁香さんさんです!」

 

「誰…?」

 

「知らない…」

 

「ほら、あのハンマー持ってたクルクルツインテールの子だよ」

 

「ああ…そういやこの渋谷を救った最後のヒーローだった…」

 

「嘘…!?萌仁香が…美穂先輩を越えたっていうの…?」

 

「おめでとう萌仁香ちゃん!」

 

「やるじゃねぇか萌仁香!」

 

「Congratulations 萌仁香!」

 

「ありがとうございますぅ…!」

 

「では8位です!8位は…秋山加奈子さんです!」

 

「あの加奈子ちゃんが8位…!?」

 

「絶対的神7の美穂ちゃんといい加奈子ちゃんも破られるなんて…!」

 

「そういやいつもの神7はみんなベスト16止まりだ…!」

 

「では7位です!7位は…板野麻里奈さんです!」

 

「マジで!?」

 

「おめでとう麻里奈!」

 

「6位は…篠田日菜子さんです!」

 

「嘘ぉ!?私!?私恋人いる系だよ!?」

 

「それでも人気があるという事は凄い事よ、日菜子」

 

「えへへ…」

 

「第5位は…大島結衣さんです!」

 

「私なのね…!」

 

「おめでとう結衣ちゃん!」

 

「第4位は…渡辺麻友美さんです!」

 

「私が…ですか…?」

 

「いいじゃん麻友美!おめでとう!」

 

「第3位は…柏木エマさんです!」

 

「Unbilievable…!エマが3位デース…?」

 

「エマ!やるじゃねぇか!」

 

「第2位は…高橋ひかりさんです!」

 

「うおっ!?まさかの2位か!」

 

「今回は負けを認めマース!」

 

「何でオレには素直に褒めねぇんだよ!」

 

「栄えある第1位は…前田あかりさんです!」

 

「嘘…!?私が1位…?」

 

「あなたほど努力してトップに相応しい子はいないわ。表彰台に行きなさい」

 

「でも…私でいいの…?」

 

「あかりだからこそ負けを認められるんだよ。悔しいけどトップはやっぱりあかりだよ」

 

「ほら、ボヤボヤしてると置いていくぞ!」

 

「Championはあかり、アナタデース」

 

「もう皆さんも私も納得していますから…。胸を張って行ってください…」

 

「もう私と美穂の時代も終わって世代交代かぁ…。残念だけど受け入れないとね。最高の後輩を持ったよ。行ってらっしゃい」

 

「早く行きなさいよ。いつまでも敗者に構ってるつもり?

 

「ファンのみんなが待ってるぞ。トップアイドルなんだからちゃんと挨拶しなよ?」

 

「みんな…ありがとう!ひかりちゃん!エマちゃん!一緒に行こう!」

 

「Yes!銅メダルをいただきマース!」

 

「銀メダルを遠慮なくもらうぜ!」

 

秋山拓也プロデュースアイドル総選挙はプロデューサーが不在なものの成功に終わりあかりたち新世代が加奈子たちの世代を越えついに世代交代の時が来た。

 

美穂も悔しがりながらも渋谷を救った9人の勇姿を見て納得し自分はまだまだ2位に甘んじているなと痛感したと同時にもっとい成長できるという期待の感情が込み上げた。

 

ミューズナイツは2018年度を締めくくり2019年度へと向かっていった。

 

そして4月を迎えた…

 

つづく!



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第56話 新年度

2019年度を迎えたミューズナイツはグループそのものの活動も増えついに日本でも人気のグループになった。

 

人々は夢を持ち大志を抱き、そして未来に向かって日々努力している。

 

後にアルコバレーノや京都の月光花が一緒に共演してレギュラー番組を持つなど大きく出世した。

 

そしてあかりたちもまた新しい一歩を踏み出した。

 

「ついに来た…。ミューズナイツのワンマンライブ」

 

「ここまで来るのにたくさんの挫折があったけれどようやく来たわね」

 

「うーっ!早くみんなの前で歌いたいな!」

 

「緊張しますが…ここまで楽しみだと思った事はありません…」

 

「オレたちだけのライブだぜ!うおー!」

 

「本当にここまで頑張った甲斐があるって感じ!」

 

「世界中にエマたちのパフォーマンスを見せるのデース!」

 

「萌仁香たちもアイドルの仲間入りですね!」

 

「みんな気合い入っているね。私も張り切っちゃうよ」

 

「あの加奈子先輩が武者震いするなんてな!」

 

「やっぱり緊張しますか?」

 

「もちろんするよ。はじめて自分が主体となって動いたんだもん。いつもはパパがやってたからプロデューサーと兼任しながらは大変なんだよ」

 

「加奈子先輩だからこそ出来たと思いマス。本当にお疲れ様デス」

 

「エマ…。その一言に報われた気がするよ。それじゃあいこう!掛け声は神7のトップのあかりからいこう!」

 

「やっぱり…?それじゃあ…ミューズナイツ!」

 

「レッツミュージック!」

 

ミューズナイツのライブ内容はSBY48のカバー曲だけでなくミューズナイツのシングル曲、たくさんの既存の応援ソングのカバーなどを歌う。

 

バックダンサーにはチアリーディングチームや大学の応援指導部なども駆けつけてくれている。

 

バンド音源もなるべく生演奏でより会場に臨場感を出そうとする加奈子の案だ。

 

バスドラムが大きく鳴り響くとファンのみんなもおおっ!と驚き応援指導部の団長がミューズナイツのエールを送り入場する。

 

ポップアップ形式で入場するとファンから黄色い歓声が湧き人気アイドルとなる。

 

最初の曲であるSBY48のカバー曲でスタートを切り最初のMCに入る。

 

「みんなー!せーの!」

 

「アッカリーン!」

 

「前田あかりです!みんなのおかげで神7に選ばれました!本当にありがとう!これからもミューズナイツとしてよろしくね!」

 

「結衣はいつでもー?」

 

「ストイックー!」

 

「大島結衣です!選挙の結果はいい成績だけどそこに驕らずこれからも成長していきます!」

 

「よっ!みんな元気?」

 

「めっちゃ元気ー!」

 

「日菜子を見たらー?」

 

「大元気ー!」

 

「みんなの幼なじみの篠田日菜子だよ!みんなの応援のおかげで大好きなみんなに出会えたんだ!本当にありがとう!」

 

「あの…えっと…キラッ☆」

 

「天使まゆっち俺の嫁ー!」

 

「うう…いざ言われると恥ずかしいです…。渡辺麻友美です…。まさか自分がこんな大きな場所で歌えると思いませんでした…。えっと…頑張ります…!」

 

「刻め!オレのダンスは!」

 

「ひかりのごとく!」

 

「高橋ひかりだぜ!アイドルとしての自覚はまだないと言われがちだけど…それでもオレなりのアイドル道を刻んでいくぜ!」

 

「アタシの花道は…ここよ!」

 

「ここが麻里奈ロード!」

 

「板野麻里奈です!こんなノリのいいファンに囲まれてアタシは幸せだよ!これからもノリノリでアゲていこう!」

 

「ハーイ!今日のギターソロは誰かなー?」

 

「ずっとエマのターン!」

 

「My name is 柏木エマ!スコットランドから日本に来てエマは毎日が楽しいデース!今日も楽しんでくだサーイ!」

 

「盛り上げるのはー?」

 

「加奈子かなーん?」

 

「秋山加奈子です!選挙は残念だったけどみんながいれば自然と力が湧いてくるし納得してます!それでも私のことを応援してくれる皆さんに感謝です!」

 

「お帰りなさいませご主人様!」

 

「萌え萌えきゅーん!」

 

「萌仁香は小嶋萌仁香でぇす♡萌仁香はぁ一生懸命頑張ります♡先輩方にも負けないパフォーマンスするから応援してね♡」

 

「お前まだそのキャラで売るのかよ」

 

「ちょっとぉ。キャラってどういう意味なんですかぁ?」

 

「そのぶりっ子、正直気持ち悪いデス」

 

「ちょっとどういう意味よ!」

 

「あの…萌仁香ちゃん…?」

 

「あ…」

 

「えっと…萌仁香は前のグループの名残でちょっと猫を被っていたけれど本当はこんな嘘の仮面を速く脱ぎたいけど脱ぐタイミングを逃しちゃって…。えっと…隠しちゃってごめんなさい!」

 

「か…」

 

「かわいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」

 

「僕も罵ってください!」

 

「ツンデレ萌え属性キターーーーー!」

 

「私も妹に欲しいわ!」

 

「嘘…こんな萌仁香を受け入れてくれるの…?」

 

「当たり前じゃない。どんな萌仁香でもファンは受け入れるし応援するに決まってるわよ」

 

「何か…肩の力が抜けてきたかも…。えっと…こんな不器用な萌仁香だけど…よろしくお願いします!」

 

「萌仁香!萌仁香!萌仁香!」

 

「あー!もっと早く本当の萌仁香ちゃんに気付いてれば投票したのに!」

 

「まぁまぁ…。ちょっと話が長くなったけど次の曲に行ってもいいかな?」

 

「いえーーーーーい!」

 

「それじゃあいくよ!ここからは帝応義塾大学、覇世田大学、皇京大学、聖教大学、永治大学、そして王政大学の応援指導部とチアリーディング部、ブラスバンド応援団も含む応援ソングメドレーをいくよー!」

 

応援ソングメドレーでもっとヒートアップした武道館はかつてないほどの盛り上がりを見せミューズナイツがいかに平和を取り戻したかがわかる。

 

萌仁香のツンデレで素直じゃない本当の姿もすぐに受け入れられファンからはツンデレ萌え属性と名付けられ人気になる。

 

元々正義感の強い子なので不正や不誠実が嫌いでよく突っかかってたがアイドル界ではそれだと売れないと圧迫されてぶりっ子を演じていたのだ。

 

それでもこんなキャラをやめてリラックスした本当の自分を見てほしい反面、本当の自分を出して嫌われるのが怖かったのだ。

 

だがメンバーはともかくファンも受け入れてくれるとは思ってなかったのか早着替えの休憩中には感極まって泣き出すほどだった。

 

そして最後のミューズナイツのシングル曲を歌いきりアンコールの新曲で締めくくった。

 

こうしてミューズナイツのワンマンライブは成功し秋山プロデューサーが不在でも何とか活動出来るようになる。

 

加奈子もプロデューサー業に慣れてきたのか徐々に敏腕さが出るようになった。

 

ミューズナイツ2019年度、ついに始動!

 

つづく!



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第57話 危険

あかりたちはアイドルサマーライブに向けてSBY48と同時にミューズナイツとして準備をする。

 

あかりもレギュラーメンバー入りを果たしただけでなく徐々にグループに慣れてきて新たな研修生から昇給した後輩を迎え入れられるようになる。

 

そしてその中には萌仁香も含まれている。

 

さらにナモリがMCを務めるUTAU STATIONに出ないかというオファーも来てミューズナイツは独立した人気を誇っていた。

 

「今日はよろしくお願いします」

 

「よろしくお願いします!」

 

「あっ、あかりちゃん!」

 

「さくらちゃん!」

 

「正式に神7に選ばれたんだね!おめでとう!」

 

「ありがとう!ここからは正式にライバルだね!」

 

「へへっ!アタシらアルコバレーノも負けねぇぞ!」

 

「何おう!オレたちの方が上だ!」

 

「今日は共演よろしくお願いします」

 

「ええ、こちらこそ」

 

「それじゃあ皆さんそれぞれ楽屋に入って待機してください!」

 

「はーい!じゃあまた本番でね」

 

「Heyひかり。早く行くデス」

 

「ほむらちゃん。行きましょう」

 

こうしてアルコバレーノとミューズナイツは楽屋に入り本番に向けて準備をして待機する。

 

ところがアルコバレーノの楽屋の様子がおかしく隣では何やら言い合いが起こっていた。

 

気になってしまったあかりと麻友美と日菜子はこっそりと覗きに行く。

 

「入りますわよ。あら皆さまごきげんよう。」

 

「何だ…このボロボロの楽屋は…。高飛車財閥を何だと思っているのだ…。」

 

「高飛車きらら…!」

 

「そういや貴様も出演者であったな…!」

 

「あなたは…高飛車会長…!」

 

「おや黒田くん、久しぶりだね。相変わらず貧相な面構えをしているね」

 

「ナモリはパパの古い付き合いでしてね。わたくしが出るのは当然ですわ」

 

「自慢をするなきらら。相手にする価値など微塵もない」

 

「申し訳ございません、パパ」

 

「この人がきららちゃんのお父さん…!」

 

「この人…何だか苦手…」

 

「ふむ、どいつもこいつも貧相で下民のような顔ぶれだな。まぁせいぜい楽しむがよい、せいぜい…な」

 

「では皆さまごきげんよう。わたくしはこんなとこにいるつもりはございませんので」

 

そう言って高飛車きららとそのお父さんが偉そうに楽屋を去るとあれが世界中の企業や著名人を蹴落として自分がトップとして支配している高飛車財閥の会長と娘かと全員がすぐに理解した。

 

だが同時にきららの顔はどこか辛そうで無理している表情をしていると結衣は感じた。

 

収録の準備を終えるとスタジオの様子がおかしかった。

 

どうやら共演者の先頭を仕切るアーティストが来ていないらしい。

 

予定ではガールズバンドの生徒会役員のはずだが今日は見かけていない。

 

何があったんだろうかとスタッフの会話を聞いてみると不審な会話が聞こえた。

 

「生徒会役員さんがいないと先頭を仕切れないのに…。どうすれば…」

 

「それならアルコバレーノを先頭にしてはどうかね?生徒会役員たちなら事務所の社長が倒れたって言って一時的に戻っていったよ」

 

「そうか…そういう事なら仕方ないな。黒田さん、アルコバレーノさんを急遽先頭でお願いできますか?」

 

「わかりました。念のために生徒会役員さんに連絡をお願いします」

 

「わかりました」

 

準備完了前までいたはずの彼女たちは突然行方が分からなくなったので不審に思い麻里奈は勇気を出してスタッフに話を聞いてみた。

 

話によれば生徒会役員の所属するレコード会社の社長が突然病に倒れて彼女たちは見舞いに向かっているとの事だ。

 

麻里奈はその事を伝えると麻友美と結衣は何かを悟った。

 

今度は自分たちに牙を向くと…

 

少しだけ喉が渇いたあかりは自動販売機のあるところに向かうとそこには泣き崩れている桃井さくらの姿があった。

 

心配したあかりはすぐにさくらに声をかける。

 

「どうしたのさくらちゃん!?何かあったの!?」

 

「うう…!私は…私は…!」

 

「ダメだ…パニックになってる…!黒田さんを呼んでくるから待っててね!」

 

あかりはさくらを思うあまりに珍しく慌ただしく走り黒田純子を呼びに行く。

 

事情を説明して案内すると黒田純子はさくらの元へ駆け寄り会話が不可能と感じた純子はそのまま肩を貸して運んでいった。

 

ステージにはさくら抜きでアルコバレーノのパフォーマンスが行われている。

 

アルコバレーノの出番を終えるとみんなすぐにスタジオを後にしていった。

 

不安がよぎる中で楽屋に戻ると萌仁香ときららの言い合う声が聞こえた。

 

「アンタね…他人を陥れてまでトップになりたいっての!?バッカじゃないの!?」

 

「わたくしにはトップにならなければならない理由があるのですわ!あなたのような下衆に構ってる暇なんてないですのよ!さっきからあなたは頭が高いですわ!そこをお退きなさい!」

 

「アンタねぇ…!財閥だか何だか知らないけどいい気になりすぎなのよ!大体…」

 

「ふん!あなたの本性は聞いた通りでしたわね!あなた、この本性をバラしてほしくなければ跪きなさい!」

 

「はぁ!?ここで脅迫なの?アンタの言いなりになんて…」

 

「これを見ても…ですのね?」

 

「それは…」

 

「あなたがもしもファンの皆様にこれを見られ嫌われたらどうなるかしらね?もう二度とアイドルとしてやっていけませんわよ?今すぐにSNSで暴露してもよろしくてよ?」

 

「や、やめてよ…!萌仁香はまだ…自分に自信がないんだから…!」

 

「ならばおとなしくアイドルをやめてくださる!?正直迷惑ですわ!」

 

「そんな…!」

 

「萌仁香!大丈夫!?」

 

「結衣先輩…!うう…萌仁香…アイドルに向いてないんですか…?」

 

「さっきから会話はずっと聞いてたわ。あなた…高飛車きららと言ったわね?」

 

「あら?誰かと思えば天才子役の大島結衣じゃない?随分お高く留まっていますわね」

 

「権力を使ってまでトップになりたいの?他人を陥れて苦しめてまで自分を強く魅せたいのかしら?」

 

「わたくしにはどうしてもトップになる資格がありましてよ!トップにならなければ…わたくしなんて価値がないですのよ…!」

 

「……?」

 

「ふん!こちらの話ですわ!ミューズナイツと言いましたわね?おとなしく解散してグループで傷の舐め合いでもすればいいのですわよ?ではごきげんよう…オーッホッホ!」

 

「萌仁香はただ…あかり先輩を守ろうと…」

 

「わかっているわ!あかりから話は聞いてたもの!それよりあの子…まるで操られている悲劇のヒロインって感じね…。念のために灰崎記者にあの子の事を調べてもらおうかしら…」

 

「萌仁香ちゃん…」

 

生徒会役員も桃井さくらも、そして仲間の小嶋萌仁香も高飛車財閥の策略にハマりついに高飛車きららはトップに上り詰める。

 

結衣はきららのあまりにも寂しげで辛そうな表情に収録を終えた直後に加奈子に知らせ灰崎記者に調査を依頼する。

 

仲間の侮辱に怒りを露わにしたひかりは大声で叫び、エマと麻里奈と日菜子もノリを感じなくなり麻友美は深く悲しんだ。

 

このままミューズナイツは萌仁香がスランプに陥りせっかくのスタートが台無しになってしまうのか…?

 

劇場に戻り報告を終えると結衣と加奈子は何かを思いついたかのように飛び出して行きそのまま走り去っていった。

 

つづく!



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第58話 トップの資格

結衣と加奈子は灰崎記者に依頼をするももう既に行動に移しており高飛車財閥の裏の顔を調査していた。

 

同時に桃井さくらと生徒会役員の活動が自粛されいかに高飛車財閥の影響が大きいかがわかった。

 

萌仁香は脅迫されただけで済んだもののそのせいか委縮してしまい思うようにパフォーマンスが出来なくなる。

 

そんな仲間の恐怖を見過ごせないみんなはある行動に出た。

 

「高飛車財閥…一体どんな所なんだろう…?」

 

「何かに執着しているというか…何だか憑りつかれているみたいに利益ばかり求めてる感じする…」

 

「でもこれ以上オレたちの仲間を苦しめるのは許せねぇ…!」

 

「でもどうやって萌仁香さんを助けるのでしょう…?」

 

「決まってマス…。敵陣に乗り込むのデス」

 

「だけどそれは私たちが捕まるリスクと隣り合わせよ。それに本h差のセキュリティはかなり頑丈だと聞いたわ」

 

「でもこのまま放っておくワケ?」

 

「かと言って何もせず黙って見過ごすわけにはいかないわ。そこで…同じジムに通う高飛車財閥に勤めている人に協力を申し出たの。社会見学として高飛車財閥の下見してどんな職場なのかを知りたいって言ったら会長に交渉しに行ったわ。そしたら…駒として使う丁度いい機会だからいいだろうって答えだったわ」

 

「何それ…?従業員を駒だと言いきるの…?」

 

「彼も凄く悔しそうだったから彼のためにも調査をする必要があるの。そこで社員証を利用して見学という名の調査よ。萌仁香の無念を私たちで晴らしましょう」

 

「いいねそれ。私も行動に出ようと思ってたけど後輩に先手を打たれちゃったよ。ただ本名ではなく偽名で予約をした方がいいと思うよ。もし本名ならスパイだと思われるし」

 

「だと思って偽名と変装用のメイクやウィッグを用意しました。演じるのにそういうのも必要だと思ってたけどまさかこのタイミングで使うと思わなかったわ」

 

「おし…そうと決まれば早速行こうぜ!」

 

「Yes!」

 

「オッケー!」

 

「うん!」

 

結衣の行動でミューズナイツは変装しながら高飛車財閥に社会見学という名の調査の準備をする。

 

偽名はそれぞれ前田ありさ、大島芽衣、篠田美奈子、渡辺亜由美、高橋のぞみ、板野恵理奈、柏木ニーナ、秋山可奈美、そして小嶋萌になる。

 

巣の自分を出さないように結衣が訓練をして演技力を磨く。

 

数日経つと灰崎記者から高飛車勝利会長の情報を得る事に成功する。

 

元々捨て子で親戚に預けられ優秀だったものの認めてもらえず親も親で犯罪などの経歴もあり学校からも悪い扱いを受けトップになって跪かせてやると闇堕ちしていき、アイドルのプロデューサーになるもなかなか売れず芸能界に復讐を誓った元アイドルと結婚し妻の方は報道会社を設立。

 

さらにその一人娘を利用して芸能界を牛耳り、その影響力を示すべく不正で手に入れた資金力で数々の大企業や世界の財閥を強引に吸収合併し名実ともに世界一の企業にさせるなど抜かりない人物という情報が入った。

 

さらに従業員を安月給で働かせ辞めようものなら圧力をかけて辞めさせないなどブラック企業でもあった。

 

だが訴えても資金力で弁護士を操りすべて無罪にされるなど誰も逆らえなくなり今に至るという事だ。

 

そんな高飛車財閥に9人で乗り込んだ。

 

「ここが本社の受付だ。君たちはまだガキだからわからないがわが社を陥れようとたまにスパイが入り込むんだ。そんなスパイを行方不明にすべく受付嬢も戦闘のプロにしているのだ」

 

「抜かりないんですね…。さすが世界一の大企業です」

 

「君たちは見たところ中高生だろうからあまり奥には進ませないがこの辺までなら自由に見学しておけ。わが社は商社で吸収した子会社を動かして生産しているのだ。会長室には絶対に近づかない事だ」

 

「はい」

 

「そろそろ昼休憩だな。食堂で昼休みにしたまえ。それ以降は見学は勝手にしろ」

 

「はい」

 

「はぁ…何で私がこんなガキどもを…。こっちは有給で休めるはずだったのにあいつめ…余計な仕事を押し付けやがって…」

 

「何か案内が雑だね…」

 

「よほど彼に休みを奪われて機嫌が悪いのね…」

 

「これで自由行動になったわけだが…昼飯食ってさっさと会長室へ行こうぜ」

 

「ひかりに賛成」

 

「そうと決まればお昼ごはんにしよう。お腹が減ったら全力で逃げられないもんね」

 

「はい」

 

食堂で昼食を食べあかりたちは会長室へ向かう。

 

あまりの規模の大きさに迷い込み社員に怪しまれないように挙動に注意する。

 

六本木ヒルズ並みの規模なのでエレベーターで上の階に行かないと体力的にも厳しくなるのが欠点でまだ学生のあかりたちには気が遠くなるほどの調査だった。

 

だがしかし…ここで最悪の人物に見つかる。

 

「そこのあなたたち!ここで何をしているんですの!」

 

「げっ!高飛車きらら!」

 

「マジかよ!何でそこにいるんだよ!」

 

「Oh no…こんな時に見つかるなんて…!」

 

「まさかパパの本性を突き止めようと言いますの?」

 

「テメェのせいで萌仁香を追い詰めたことを覚えているからな!」

 

「アンタ…まさかまた萌仁香たちを…」

 

「まったく…だったらもう少し早くわたくしに言ってくださる?わたくしだってパパのやり方にはもう…」

 

「何をブツブツ言っているのデス!アナタのしたことがどれだけ多くの人を苦しめたか思い知るデス!」

 

「待って!ここは私に任せて。きらら、さっきの独り言はどういう事?」

 

「……。」

 

「何とか言ってよ!」

 

「日菜子ちゃん落ち着いて!」

 

「もしかして…きららさんはお父さんの邪悪さに薄々気が付いていたのですか…?」

 

「そちらのお二人は気付いてましたのね…。もうすべて白状しますわ。パパは昔から人に認められずに育ってきたせいか蹴落としてでもトップになるという使命がありますの。そこで一人娘のわたくしにアイドルのトップにさせるべく英才教育を受けましたわ。勉強も運動も芸術もすべてトップになるためにですわ。だけど…はじめて勉強で負けた時にそのわたくしに勝った幼なじみを…強制的に日本から追放させて本性に気付きましたわ…。パパはわたくしを利用して自分をトップにさせようとしていたと…。でももし逆らえばわたくしでさえ排除し社会的に潰しにかかりますわ。だからこそ逆らわずネコを被ってあんな高飛車で自分勝手なキャラを作りましたわ。正直辛いですわ…。他人を陥れてトップになるのは好きではなくてよ…」

 

「そう言えば月光花のもみじちゃんが言ってた…。きららちゃんの本当の姿は負けず嫌いの努力家だって」

 

「あの子の知り合いでしたのね。負けず嫌いはお互い様ですわよ。もしパパに近づくのならおススメしませんわ。パパはもう…人間としての心を失い悪魔と契約を結びましたの。わたくしはそれを桃井さくらに伝えなければなりませんわ」

 

「そんな見え透いた嘘をついて保身でもするつもりなの?バッカじゃ…」

 

「待って。彼女の言ってることは恐らく本当。目がそう訴えている。私にはわかるよ。でもごめんね高飛車さん…どうしてもこの目で確かめたいんだ。だからあなたは急いで桃井さんに伝えてきて」

 

「酷い事を散々したのに…優しいですわね。あなたたちのお言葉に甘えわすわ。会長室ならここをまっすぐ行けば着きますわよ。ではごきげんよう…」

 

そう言い残しきららは急いで走っていった。

 

きららの言った事が本当ならばエンプサーナが関係しているかもしれない。

 

そう思うと急いで会長室に向かった。

 

そこで見たものとは…

 

つづく!



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第59話 接触

会長室へ秘密を探っていると高飛車きららと遭遇しまさかの事態に見舞われる。

 

あの散々酷い事をして来たきららが父親のやり方に離反をしていたのだからあかりたちは少しだけ困惑している。

 

一体会長はどんな人なのかを知る必要がありきららの言う通りに進んでいった。

 

「おそらくあの子は本当は努力家で他人の権力なんかなくてもトップに上り詰める事が出来たんじゃないかしら…?」

 

「おいおい結衣、お前まさかあいつを庇うってのか?」

 

「いいえ、少し違うわ。さっきの態度がもしも本当だったらあの辛そうな表情は嘘じゃないって事なのかしらって思っただけよ。私は一応演技のために心理学を勉強しているからそういう行動も常にチェックしているの」

 

「抜かりないなぁ…」

 

「そこが結衣さんらしいですね…」

 

「実は私も薄々感じてたんだ。こう見えて人間観察は得意で歯を食いしばりながら悲しそうに顔はこっち向いてても目だけ背いていたからね」

 

「加奈子先輩もさすがですね」

 

「やっぱりリーダーを経験するとそんなことも出来るんデスネ」

 

「たまたま勉強してたのが活きただけよ。大したことじゃないわ」

 

「私も経験値だけで大したことはしていないよ。それよりもあかり…さっきから何もしゃべってないけど何かあった?」

 

「えっと…すみません。前に進むごとにダークネスパワーが徐々に近づいているせいか感じるんです…。近づいたら何もかも奪われる感じがすると言いますか…」

 

「だとしたらもう近いんじゃね?アタシもちょっとだけ怖いよ…」

 

「こうなったら当たって砕けろだよ。いこう!」

 

会長室にだんだんと近づきあかりたちは肌だけでピリピリとダークネスパワーを強く感じ取り恐怖と不安がよぎる。

 

それでもきららは勇気を出して会長室に近づき謎の悪魔と契約していたことを伝えに来てくれたのだ。

 

彼女の勇気に敬意を持って前に進むと会長室が見えてきた。

 

「ここだね…」

 

「うん…。ドア越しにダークネスパワーを感じる…」

 

「けど…この違和感は何でしょう…?」

 

「そのまま開けて突破するか?」

 

「ダメだよ。正面突破したら私たちが捕まっちゃうよ」

 

「じゃあどうしろってんだよ?」

 

「ここは萌仁香に任せてください。クリスタルローレライ…!これで少なくとも普通の人間には一時間だけ姿が見えません。正面突破しても問題なくなりました」

 

「Thank you萌仁香。これで忍び込めマス」

 

「じゃあ行きましょう」

 

会長室に入るとそこには大きなシャンデリアやまるで宮廷のような壁紙やカーペットがありいかに自分だけ贅沢してきたかがわかる暮らしっぷりだった。

 

高飛車会長の姿は会長専用の椅子にもなくただからっぽの空間のみだった。

 

だがあかりたちが感じた違和感はこの部屋ではなくもっと奥の場所だった。

 

「ふぅ…少し疲れちった。ここで一休みっと…うわっ!」

 

「麻里奈!」

 

「大丈夫!?」

 

「いったた…!この壁…忍者屋敷でよくある仕掛けの壁じゃん!」

 

「ナイスだぜ麻里奈!」

 

「しかも奥に続いてるみたいだ…。中に入ってみよう」

 

麻里奈が偶然奥に続く部屋の入り口を見つけ加奈子は奥の部屋に入るように指示を出す。

 

奥に進んでいくとやはり違和感がだんだん確信へと近づいていきこの部屋は会長の身の秘密の部屋なんだと実感する。

 

一番奥まで進むと黒い霧があかりたちを包み込み不穏な雰囲気を出す。

 

部屋に出るとそこには…あかりたちも見たあの女性の姿があった。

 

「エンプサーナさま。ミューズナイツの一部の行動を制限致ししました」

 

「ご苦労だ高飛車勝利。あの駒どもももう少し使えると思ったがまさか追い詰められるとは思わなかったな。私の妹たちもよくやっている。アルコバレーノと月光花…そしてミューズナイツは私たち地獄の三姉妹にとって邪魔者だからな。そのまま人間共の夢を奪い未来を壊し世界を破滅の道へ進ませるのだ」

 

「ははっ!」

 

「ところで…先程から強いドリームJパワーを感じるぞ?ついに突き止めたのだな…ミューズナイツよ」

 

「何だと…!?

 

「そんな…!萌仁香ちゃんの技で見えないはずじゃあ…!?」

 

「まさか…高飛車会長ならともかくあの化け物には効かないっての…?」

 

「そういえば普通の人間には効くって言ってましたが…やはりエンプサーナのような人間じゃないものには見えるのですね…!」

 

「こうなったら戦って切り抜けてやる!」

 

「貴様ら…よくも私の計画の邪魔をしてくれたね…。エンプサーナさま。アンゴル・モアさまとホロビノミコさまと共に復活の準備をなさってください!」

 

「よかろう。殺れ」

 

「ははっ!ミューズナイツ…貴様らをここで生きて還すわけにはいかないようだ。武術もトップに上り詰めた私の拳でしばらく眠らせてあげよう!」

 

「うっせぇ!これ以上テメェの好きにはさせねぇよ!よくもオレたちの萌仁香をはめやがったな!」

 

「絶対に許しまセン!アナタをここで成敗しマス!」

 

「あんたのせいで萌仁香は…ぶっ潰してやるわよ!」

 

「ならば力づくで止めてみるといい!はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「これは変身するまでもないね…」

 

「えいっ!」

 

「ぐはぁっ…!」

 

「あかりさん…!?」

 

「あなたのような最低な人には負けない!これは今までの世界中のみんなの分の怒りなんだから!」

 

「うぐっ…!」

 

「さて…こいつどうする?あかりの強すぎるビンタで気絶しちゃったけど…」

 

「とりあえず会長室へ運ぼう。この秘密の部屋はアタシが壊すから!」

 

「エマも手伝いマス!」

 

「いくぞ!ヒーリングショットレガート」

 

「オーシャンバーンアジタート!」

 

「さぁ逃げよう!もうすぐ崩れるから!」

 

こうして高飛車会長を運びながら秘密の部屋を崩壊させ完全に封鎖する。

 

高飛車会長を会長室まで運んでから地べたに置いていて大事にならないように天井からエレベーターまで向かい脱出する。

 

脱出を成功させると財閥内は大騒ぎで警察を呼ぶも警察はもう既に何者かが高飛車財閥の悪事をばらまき会長を逆に逮捕した。

 

あれから数日後…ある会見が行われた。

 

「高飛車勝利のやり方とは言え…わたくしも賛同してたくさんの方たちを陥れてきたのは事実ですわ。その責任を持ってわたくしはアイドル界を離れある計画のために動きます。その名も…きらめきコーポレーションですわ。あれだけの賠償金を払ったにもかかわらずまだたくさんの遺産がありわたくしの個人財産で高飛車財閥を吸収合併し新たな他業種をしていこうと思います。そして旧子会社たちを完全に独立させ連携取引先として今後もお付き合いいたします。この度は父とわたくしたちの言動や行動のせいで世界を恐怖に陥れたことをお詫び申し上げますわ…」

 

「警察に通報し弁護士を使って法廷で勝ったのもきららってやつが裏で行動を起こしてたんだね」

 

「そうみたいだね。もう父のやり方についていけないってところだと思う」

 

「だとすりゃあよく今まで耐えられたな。オレだったらすぐ離反すっけど」

 

「エマも喧嘩して勘当されると思いマスネ」

 

「まったく…だったら最初から言いなさいよねアイツも…」

 

「まぁまぁ萌仁香さん…。気を悪くするのはわかりますが…」

 

「だけどあのエンプサーナが関わっていた以上これからも戦いは続くんだよね?」

 

「ええ…。あれから高飛車会長に任せるかのように自分だけ逃げたんだもの。人を駒としか思ってないのが悔しいわね」

 

「みんな!これから厳しい戦いになるけど…もっと強くなるためにSBY48だけでなくミューズナイツとしてもたくさん活動して頑張ろうね!」

 

「おー!」

 

つづく!



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第60話 アイドルサマーライブ

アイドルサマーライブの時期である夏になりSBY48は本番まで調整をする。

 

高飛車財閥の一件が解決し生徒会役員も活動を再開するというニュースも出て芸能界は元通りになる。

 

もちろんライバルのアルコバレーノも通常通りに活動しまた競い合う関係になった。

 

そして本番を迎えたものの…あかりと桃井さくらが掛け声について譲り合っていてそれが長引いている。

 

「ここはやっぱり、SBY48の永遠のセンターであるあかりちゃんがいいって思うよ」

 

「私はさくらちゃんがいいかなって思うよ。あの厳しい戦いを乗り越えたんだから」

 

「このままでは二人の譲り合いが終わらんぞ」

 

「あかりさんも遠慮しやすいですから…」

 

「一生終わんねぇからいっそのことじゃんけんにしたら?負けた人が合図を仕切るってのがいいな」

 

「そうするね。いくよ、じゃんけん…」

 

「ポン!」

 

「私負けちゃった」

 

「それじゃあ合図をお願いします、あかりちゃん」

 

「わかった。それじゃあ…私がアイドルー!って叫んだら、みんなはサマーライブ!って叫んでね。円陣組んで右手をVサインにして円を作り、そのまま頭の上まで手をVサインのまま上げてね。いくよ!アイドルー…」

 

「サマーラーイブ!」

 

じゃんけんにまけたあかりが掛け声を仕切り最初の今川メイドリーミングが双子ならではの息の合ったパフォーマンスでボルテージを上げる。

 

それも自家製のお菓子をファンにプレゼントとして投げるなど心遣いもメイド並みでさらに盛り上げた。

 

次の藤沢拓海はバイクの大道具に乗って不良ならではのパワフルなパフォーマンスにギャルたちに人気を呼んだ。

 

とくにやんちゃな不良たちからの人気がありバイク好きも彼女を応援しているのだ。

 

ここでついにあの天才アイドルの出番が来た。

 

「先輩、いっちょ派手にいきましょう!」

 

「うん…。見てて…」

 

「いってらっしゃい♪」

 

「彼女が茶山くるみさんですね。先輩方から話を伺いました」

 

「麻里奈ちゃん、そうだったんですか?」

 

「ええ、彼女のアイドルとしての才能はSBY48の歴代最強メンバーが束になっても勝てないって言われてたんです。黒田さんはそんな先輩に尊敬されていたんですね」

 

「はい、社長は本当にすごい人です」

 

「おおっ!先輩がクラッカー鳴らしてお客さんに紙吹雪を!」

 

「サプライズ好きは社長そっくりですね♪」

 

天才といえど日々の努力は欠かさずいかにファンを楽しませるかをずっと考えた上でのクラッカーでのサプライズだった。

 

その才能に驕らない姿勢を見習わなきゃと必死にモニターを見るあかりと結衣、いつまでも王朝が続くわけではないなと不安がる麻友美、あまりのパフォーマンスに開いた口が塞がらない日菜子と萌仁香とエマ、逆にやる気全開なひかりと麻里奈と加奈子だった。

 

努力が成功するとは限らないが成功者は必ず努力している、そう改めて思うミューズナイツだった。

 

次のアフタースクールズは全員が幼なじみでバンド演奏しながら踊ったりと目新しさを武器に盛り上げる。

 

他にもそれぞれの学校からスクールアイドル、ネット界で活躍するネットアイドル、外国から海を渡った外国のアイドル、シークレットアーティストにはアイドルを引退した栗山真希さんと沙希さんがライブをし、上の人たちを感動させていた。

 

しかし何やら楽屋が慌ただしくなり何が起こったのかわからないあかりたちは様子を見に行った。

 

そんな中でさくらだけ何かを知っているかのように走っていった。

 

するとある大物ゲストがやってきた。

 

「遅くなってごめんなさい!チェリーブロッサムです!」

 

「ああ、海外ツアーから帰ってきたんですね!早速ですが衣装にお着替えください!」

 

「わかりました!」

 

「お母さん!花音叔母さんも間に合ったんだね!」

 

「さくら!また会えて嬉しいわ!」

 

「えっ…?あのチェリーブロッサムって…さくらちゃんのお母さんと叔母さんだったの!?」

 

「げっ!マジかよ!そんな大物が何でここに来てんだ!?」

 

「Oh unbilievable…!」

 

「さすがの私もビックリした…!まさか桃井花恋さんと桃井花音さんがさくらの親族なんて…!」

 

「ごめんね、実はファンだけじゃなく出演者全員をサプライズしようってなったの。私が推薦したんだけど、まさか本当に採用されるなんて思わなかったよ」

 

「ぐぬぬ…私たちも負けてられないよ!」

 

「大取りだからって怠けてられないじゃん!」

 

「一体どんなパフォーマンスをするのでしょう…?」

 

チェリーブロッサムがシークレットで登場し楽屋でさえ大騒ぎなのにステージに上がると大騒ぎどころか興奮度がマックスで客席が桜色一色になっていった。

 

中にはあまりの驚きに失神したり泣きだしたりするファンもいてアイドル界をかつては牽引していた名残があったんだと加奈子どころか天才の茶山くるみでさえ感じた。

 

次の白銀雪子は氷のソプラノ姫と呼ばれるアイドル界の新星でいずれ世界を魅了するのではないかとささやかれるほどでオペラ歌手のような歌声と透き通るようなクリアボイスを使い分けていった。

 

さらにアルコバレーノも負けじと個性あふれるパフォーマンスでそれぞれの長所を活かしたものとなった。

 

だがしかし次の月光花であかりたちは何かを感じ取る。

 

「ではよく見ていくといい。私たち月光花のパフォーマンスを」

 

「日本らしさと私たちらしさをご覧になられてください」

 

「では参りますでございます」

 

「紺野るり…モデル以上のスタイルの良さじゃんか…!」

 

「常盤わかばさんはあの皇京大学並みの学力を誇る凄い人です…!」

 

「冬野つばき…彼女は確かなぎなたの全国に出場したと聞いたけどアイドルもやっているのね」

 

「日向ひまわり…あいつバカっぽいくせに学力は高いんだよな…!」

 

「紅葉もみじ…同い年なのになんて落ち着きなのよ…もう!」

 

「藤野すみれかぁ…何かカッコよかったなぁ…!」

 

「春日はなちゃん…実家の神社はもう大丈夫なのかな?」

 

「それよりもみんな感じた…?私たちとは何か違う魔力を感じたんだけど…!」

 

「Yes…!それに関係者席から何か怪しげな雰囲気を感じるデス…!」

 

「エマが言ってるやつは誰なんだ…?」

 

月光花から感じた妖魔の力はあかりたちには不気味かつ不思議な力で一体その魔力が何なのか分からなかった。

 

もしかしたら自分たちと同じ何かの魔力を持っているのではいかとさえ感じた。

 

月光花を終えると最後の大取りであるSBY48の出番になり48人全員でそれぞれのスタート地点で待機する。

 

最後を飾るだけあってファンのみんなもスタミナの限界を迎えるもその疲れを吹き飛ばすほどの圧倒的パフォーマンスで王者っぷりを発揮した。

 

最後のテーマソングの合唱をする時…白銀雪子の様子が豹変し嫌な予感がよぎった。

 

「次は白銀さんです。…白銀さん…?」

 

「はぁ…はぁ…!」

 

「白銀さん…!まさか…!」

 

「雪子ちゃん!」

 

「しっかりしろ!誰か救急車を呼ぶんだ!」

 

「皆さん落ち着いてください!白銀さんは今、体調を崩してしまい、病院まで搬送します!」

 

「白銀さん!白銀さん!」

 

「誰か人工呼吸を!」

 

「そんな…嘘だろ…!あの白銀さんが…!?」

 

雪子が搬送されるとアルコバレーノは救急車に乗って同伴しそのまま病院へ運ばれていった。

 

テーマソングは最後まで歌いきったもののファンにとっては衝撃のシーンを見てしまいざわめきが収まらなかった。

 

そこで加奈子はアドリブでみんなを落ち着かせるために人声かける。

 

「皆さん、先ほどは驚かせてしまい申し訳ありませんでした。さっき搬送されている時にアルコバレーノの関係者から話を伺ったところ、白銀雪子さんは心臓病を生まれつき抱えていてその発作が出てしまったのだと思います。だからこそ慌てずに彼女の無事を祈りましょう…。絶対に復帰する事を願いましょう。私からは以上です。不安にさせてすみませんでした。最後までありがとうございました!」

 

加奈子のフォローでファンのみんなの不安は少しだけ和らぎ何とか騒ぎを収めた。

 

撤収の時間になり他のアイドルたちも雪子の無事を祈った。

 

しかし運命は残酷だった…

 

数日後…白銀雪子は心臓病が元で死亡したというニュースが流れてきたのだ。

 

つづく!



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第61話 限られた命

虹ケ丘エンターテイメントの新星だった白銀雪子の悲報を聞いたあかりたちは正式に追悼のコメントを送りアルコバレーノの気持ちを慰める。

 

それでもミューズナイツは愚かSBY48としての仕事も数多くありそれをこなさなければならない。

 

あかりたちは気持ちを切り替えて仕事に励み秋のSBY48のドームツアーに控えた。

 

「今日はこの辺にしよう!みんなお疲れ様!」

 

「お疲れ様でした!」

 

「やっぱり今日もハードだったー…」

 

「もうすぐグループのドームツアーだもの」

 

「札幌、名古屋、大阪、福岡、そしてゴールの東京…。私たちに出来る事は全部やったから大丈夫だよね?」

 

「大丈夫っしょ!私たちSBY48は王者の誇りがあるんだもん!」

 

「それに…あの子たちもここまで頑張ってるしね!」

 

「あかり、さっきのステップだけど…いいかしら?」

 

「うん、いいよ」

 

「ここのターンはひかりらしくダイナミックにするといいデス」

 

「エマもエアギターをもっと激しさよりもイギリスらしいロック感を出すといいぜ」

 

「麻友美はもう少し笑顔を意識した方がいいかもねー」

 

「そういう麻里奈も体幹トレーニングをステップアップしたら?」

 

「日菜子さんはちょっと動きすぎな気がします…」

 

「先輩方、少しいいですか?」

 

「何かな?」

 

「萌仁香が気になったところがあるんですけど…萌仁香の目線が別の方向になっててどうすればいいか…」

 

「その場合はあえて意識しないでしてみたら?萌仁香は集中力が強すぎて疲れてしまうと思うんだ」

 

「あ、ありがとうございます…」

 

「ミューズナイツのみんなはストイックだなぁ…」

 

「私たちのグループもどこかで自主レッスンしよ…」

 

ミューズナイツのストイックさに感化された他のメンバーは自分たちももっと頑張ろうと思うようになり居残りこそしなかったものの各自で自主レッスンに励む。

 

10月から次の紅白の近くまでドーム公演するのでみんなが張り切るのも無理はなかった。

 

アイドルサマーライブも終えてひと段落ではないこの大手グループは世界中、とくにアジアで人気もあるので休んでなんていられないのだ。

 

だがしかしミューズナイツにとって衝撃的なニュースがまた飛び込んできた。

 

「みんな!白銀雪子さんが生き返ったって!」

 

「何ですって…!?」

 

「それ本当なの日菜子ちゃん!?」

 

「ほら!灰崎記者の記事!」

 

「えーっと…白銀雪子は奇跡的な生還を果たし臨死体験をした…。証言によると母と再会し歌声もより磨かれて病院内で歌ったら氷のソプラノ姫から細氷の歌姫へと変貌する…ですか」

 

「亡くなってライバルが減ったと思ってたけどより手強くなってきたんだ…超面白いじゃんか!」

 

「燃えてきたぜ!ライブを絶対成功させてやろうぜ!」

 

「お見舞いは一人ずつにしましょう。あんまり大勢で行くと白銀さんも困惑するから」

 

「そうだね。白銀さんは心臓病が完治したわけじゃ…」

 

「待ってください!まだ続きがあります…。白銀雪子は持病だった心臓病も完治したことで完全に克服し、歌声に磨きがかかったのは余命への焦りがなくなったともいわれている…。そして退院してすぐに滝川留美によって声楽の国際コンクール出場の推薦が出されドイツへ旅立つか…?もう世界へ旅立つんですね…!」

 

「萌仁香たちより早いとか…生意気なんだから…!」

 

「よかった…!本当によかった…!」

 

「この限られた命の中で私たちはアイドルをやっている。そのためにはこのドームツアーライブを成功させてSBY48の誇りを持って歴史に名を刻もう」

 

「加奈子先輩…!」

 

「さぁもうすぐ札幌ドームだよ。気を引き締めていこう!」

 

「はい!」

 

こうして札幌ドーム、福岡ドーム、大阪ドーム、ナゴヤドームのライブを成功させ残るは東京ドームのみとなる。

 

しかし東京ドームライブ当日の天気は生憎の曇りでいつ雷が鳴ってもおかしくなかった。

 

それでもライブは決行され選抜の48人が集まって円陣を組む。

 

「ついにきたね…SBY48ワンマンドームツアーライブファイナル。私たちがここまで積み上げてきた歴史をさらに積み上げて最高のライブにしよう!」

 

「はい!」

 

「たまにはリーダーである私以外に…センターに任命した前田あかりさんにコール&レスポンスを仕切ってもらおうかな」

 

「やっぱりですか…?それじゃあ…最高のライブにしてファンのみんなを楽しませよう!SBY!」

 

「48!」

 

あかりの掛け声で心を一つにさせ最初の全員でパフォーマンスする曲で出だしに成功する。

 

MCは神7のみが許されているので加奈子と萌仁香は今回はMCなしで、とくにあの秋山加奈子が神7から陥落したことが噂になり革命起こした新人アイドルたちの晴れ舞台に期待されていた。

 

あかりももう素人ではなくなりだんだん現場慣れしたもののまだメモを持っていて初心を忘れないようにしていた。

 

全員のパフォーマンスを終えるとそれぞれが所属しているミニグループ部門になりミューズナイツ以外のミニグループのパフォーマンスが行われる。

 

あかりが研修生時代にお世話になった先輩方も別のグループで活動していてもうプロになったんだとより自覚を持った。

 

結衣があかりの背中をポンッと叩いて鼓舞させるとあかりはうんと頷きみんなを見て安心する。

 

そしてついにミューズナイツの出番がやってきた。

 

「私たち…」

 

「ミューズナイツです!」

 

「みんなも知っての通りアクムーン帝国との戦いを終えて今こうして平和な時を過ごせて私たちは幸せです!諦めずに戦えたのも皆さんのおかげです!本当にありがとう!」

 

「皆さんの応援がなかったら私たちの夢も叶わず未来を捨てきっと廃人になっていたと思いマス。でも…未来を捨てたら明日がなくなり希望も消えてしまいマス。だからこそ感謝デース!」

 

「本来は私一人のはずだったけど…みんなが私のために一緒になってくれて嬉しかった!センターこそ譲っちゃったけどかけがえのない仲間であることには変わりません!それに…まだ戦いは終わってないけどそれでも勝ちます!応援よろしくお願いします!最後の曲いく前に…皆さんは早く東京ドームから離れてください!さっきからものすごいダークネスパワーが…」

 

「加奈子先輩!後ろ!」

 

「え…?きゃあぁぁぁぁぁぁっ…!」

 

「加奈子先輩っ!」

 

「ちっ…遅かった…!」

 

「ユメミール王国の王女がまさかここにいたとはな…。女王の血を感じてきてみればまさか忌々しいミューズナイツだとは…」

 

「その声はまさか…!」

 

「エンプサーナ!どうしてここが…」

 

「貴様らほどのドリームパワーを探すのに時間など不要だ。見つけることなど容易い事だ。だが王族の血を探すのにはさすがに苦労したぞ。だが王女は殺し損ねたが気を失いもはや戦える状態にあるまい。ユメミール王国は確かにアクムーン帝国が牛耳り貴様らが倒してから解放されたが…奴らがいなくなったところで陰で命令をしていた私を仕留め損ねたようだな。これでやつらのダークネスパワーと魂を引き換えに私は回復とパワーアップを果たしたのだ。ミューズナイツに告ぐ。ここでは代々木公園だったな…そこにもう一度ユメミール王国への扉を用意した。ここの暦では1月と言ったな。その月末までに訪れなければ全人類のドリームパワーを奪いは完全に廃人と化させることに成功する。私を倒したくばそこに来るといい。ではさらばだ…」

 

突然エンプサーナが現れ東京ドームは大騒ぎになる。

 

あまりの状況に会場はパニックに陥りファンのみんなは一斉に外へ逃げ出した。

 

さらに加奈子も先ほどの雷に直撃して気を失い戦闘不能になる。

 

運営の判断でSBY48のライブは中止になり最悪の幕切れとなった。

 

つづく!



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第62話 先輩

雷に直撃した加奈子を病院まで運び集中治療室へ運ばれていった。

 

年末の紅白歌合戦の出場を急遽辞退する事になりSBY48としての活動が出来なくなっている。

 

ミューズナイツも精神的支柱かつ偉大な先輩を失いどうすればいいのかわからなくなり行動も遅くなっている。

 

大晦日になると紅白歌合戦がいつも通りテレビで流れ本来なら自分たちもそこにいたんだろうなと思うと胸が痛くなる。

 

このまま見続けていたら悲しくなるのでチャンネルを変えようとした瞬間…加奈子の息が吹き返った。

 

「ふーっ…ふーっ…」

 

「加奈子先輩…?」

 

「加奈子先輩が…生きてる…!」

 

「やった…やったーっ!」

 

「んっ…んー…」

 

「加奈子先輩!オレたちここにいるぜ!目を覚ましてくれたんだよな!?」

 

「ん…みん…な…」

 

「喋ったデース!」

 

「私先生呼んでくる!」

 

あかりが病院の先生を呼ぶと集中治療室から一般病棟へと移動する。

 

本来なら面会は許されないが一緒に戦ってきた仲だという事で特別に許されているので移動も一緒についていける。

 

今でこそ紅白歌合戦がテレビで流れているものの世界では戦争や治安の悪化などが起こり京都の平安館では謎の日本風の城が、東京湾では空に浮かぶ洋風の城が現れたというニュースもある。

 

あかりたちは先生が病室から出ると加奈子はみんなに何か伝えようとベッドから起き上がる。

 

「みんな…私からお願いがあるんだけど…」

 

「ちょっと先輩!今はまだ起き上がっちゃダメですよ?」

 

「いいから聞いて…。私はおそらく戦いに参加できるか怪しいけど…ママから聞いた話だけど…ミューズナイツはミューズに選ばれた夢の騎士であって未成年の女の子にしかなれないわけじゃないんだ…。もし自分を強化したいなら…ユメミール王国で眠りについて初代ミューズナイツに会いに行って鍛えてもらうんだ…。名前は…リーダーのカリオペ…サブリーダーのクレイオ…光速のエウテル…司令塔のメルべネ…力自慢のテルプシコラ…技巧派のタレイア…狙撃手のエラトー…最年長のボリュムニア…そして最年少のウラーニア…。私はもう既にボリュムニアの試練を突破しているんだ…。王女として…騎士を十年やってる身としてね…。だから…私の代わりに試練を突破してきてほしいんだ…。私も早く回復するようにするから…」

 

「先輩…アンタには敵わないや…。アタシらの成長のために自分を犠牲にして後を託すなんてさ…ズルいっすよ…もう…。こうなったら行こう!これはノリでも勢いでもない!先輩はこうして生きているけど…仇を取らないと気が済まないんだ!」

 

「麻里奈!落ち着きなさい!」

 

「これが落ち着いて…っ!?」

 

「気が済まないのはあなただけじゃないのよ?私だって…いいえ、みんなも同じよ。一月中にユメミール王国に来いと言ったわね…。ならば正月早々にそこに行き先輩が言ってた初代ミューズナイツの試練を突破しましょう。そしてエンプサーナという悪夢の女帝を倒しましょう!」

 

「異論はないよ!」

 

「先輩の意志…無駄にはしないデス!」

 

「あの野郎…絶対ぶっ潰す!」

 

「ここまで来て負けたくないもん!」

 

「あんな奴に萌仁香の夢なんて渡さないんだから!」

 

「みんな…!」

 

「そうと決まれば代々木公園に行こう!もうすぐ日付が変わるからすぐに行こう!加奈子先輩…いってきます!」

 

「みんな…いってらっしゃい…」

 

加奈子が戦線離脱し残りの後輩たちで日付が変わる前に代々木公園へ向かう。

 

あかりたちは電車を悠長に使うことなく渋谷駅から走って向かい加奈子の仇を討つという気持ちで臨んだ。

 

代々木公園に着くと今までにない禍々しいダークネスパワーが溢れ出ていて近づくだけでも希望を失いそうだった。

 

加奈子の母であるヴィオラもユメミール王国に帰省してからいまだに帰ってこないのだが加奈子はそれを言わずにずっと溜め込みつつも待っていたのだろう。

 

そして同時に真の黒幕の存在を知っていたのか一人で挑みに行ったんだと思いあえて何も言わずに自分は信じて待ったんだと思うと自分たちの行動力のなさを痛感した。

 

そのせいで加奈子は奇襲をくらい戦線離脱する事になった、だからこそ後輩である自分たちでけじめをつけようと決心したのだった。

 

「ここだね…」

 

「Yes…ここが入口デス」

 

「前の時よりも禍々しいですね…」

 

「近づくだけで恐怖がよぎったよ…」

 

「でも…私たちは戦うって決めたんだもん。逃げたら加奈子先輩に申し訳がないよ…。私…先に行くね」

 

「あかり…。芸能界の先輩である私たちが後れを取っちゃったわね…。リーダーとして負けてられないわ!」

 

「大好きなアイツのためにも…こんなところで怯んでられないや!行くぞ!」

 

「不安でも…怖くても…夢を失い生きるための感情を失うくらいなら…戦って守り抜きます…!」

 

「あの野郎をぶっ潰して加奈子先輩の無念を晴らしてやる!」

 

「アタシらの未来をあんな奴にぶっ潰されてたまるかっての!」

 

「夢を持ち未来に進むことがどれだけ素晴らしいかを見せつけてやるデース!」

 

「萌仁香だって叶えたい夢があるんだから!あいつに絶対ギャフンと言わせてやるんだから!」

 

「みんな!」

 

「うん!」

 

こうしてミューズナイツは加奈子を除いて全員でユメミール王国の入り口に入り戦う決意を叫ぶ。

 

全員戦う意思を強く持って向かった先にはまだ無気力状態の王国民の姿があった。

 

前にここに来た時はもっと重症だったけど少しずつ回復しつつある。

 

あかりたちは闇雲に進んでも仕方がないと判断し一度城に行くことにした。

 

城に着くとまだ荒廃しているもののある程度兵士たちは動けるようになっていて回復の兆しが見えてきた。

 

玉座に着くといつもの見慣れた人たちが二人いた。

 

「みんな!来てくれたんだね!」

 

「久しぶりね…ミューズナイツのみんな!」

 

「秋山プロデューサー!ヴィオラさん!」

 

「やっぱりここにいたんだ!」

 

「でもどうしてここにいるんですか…?」

 

「それよりも…秋山プロデューサーこんなに引き締まってましたっけ?」

 

「ああ…君たちが戦っているのに謹慎処分のまま何も出来ないのが悔しくってね。それでこっそり大島さんが通っているジムの会員になり肉体改造をしたんだ。君たちがエンプサーナに宣戦布告される前に戦えるようにね」

 

「なるほど…」

 

「それでなぜここにいるかなんだけど…ヴィオラから伝説の初代ミューズナイツの事を聞いてね。君たちがここに来てもいい様に準備していたんだ。かつて初代ミューズナイツが眠っていたベッドだ。九人分あるけど加奈子はどうしたんだい?」

 

「それが…」

 

あかりたちは加奈子がいない事を心配した秋山夫婦に質問されどう答えていいか困惑する。

 

それでも現状を報告するのがSBY48のルールで怖がりつつも勇気を出してあかりが説明する。

 

すると秋山プロデューサーの表情が曇りヴィオラに至っては涙を流してしまった。

 

「そんな…あの子がまさか…!」

 

「何てことだ…そうなる事に気付いていれば僕は…!」

 

「加奈子先輩を守れなくて申し訳ありませんでした…!」

 

「いいの…あの子はみんなを庇うためにした事ですもの…。責めても何も始まらないわ…。さぁミューズナイツの皆さん…夢の国に向かう準備はいいかしら?」

 

「はい!」

 

「ではこのベッドで眠りにつくんだ。そうすれば初代ミューズナイツに会えるかもしれない。かつて加奈子もこの試練に参加し突破していったんだ。君たちなら出来る。頑張ってくれ」

 

「はい!では…おやすみなさい」

 

こうしてあかりたちはベッドで眠りにつき初代ミューズナイツに会いに行く。

 

なかなか寝付けない子もいればすぐに寝付いた子もいてここでも個性が出てくる。

 

一時間後には寝付きが悪い日菜子とひかり、そして萌仁香がようやく眠り全員快眠状態になる。

 

あかりたちは試練を突破できるのか…

 

つづく!



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第7章
第63話 光速のエウテル


日菜子はなかなか寝付けない中でよく眠れるようにストレッチをする。

 

そして大好きな彼の事を思い浮かべると照れて寝づらいのであえて何も考えないようにする。

 

するとストレッチで体が火照っていき徐々に眠くなっていった。

 

日菜子は夢の中に入るとそこには広い果樹園が広がっていた。

 

木にはリンゴやオレンジ、ぶどう、もも、そしてナシが生えていて今にも食べられそうで食べたくて仕方がなかった。

 

「うう…夢の中とはいえお腹がすいたな…。あの果物食べられないかな…?しかしここはどこなんだろう?夢の中なんだろうけど誰が私を鍛えるんだろう…?まぁいいや、歩いていこう」

 

日菜子は考えるより歩いてみる事にした。

 

この果樹園はたくさんの果物があり食いしん坊の日菜子には耐えるので精いっぱいだ。

 

歩き続ける事数分でもう空腹に耐えきれずに果物に手を出した。

 

「モグモグ…これ美味しい!あ、ヤバい!止まらないや!」

 

「おっ!いい食べっぷりだね!この国の果物は美味しいよね!」

 

「んっ…!ゴホッゴホッ…!」

 

「あっ…ビックリしちゃった?ごめんね!」

 

「ん…水…!」

 

「はい!飲みかけだけど!」

 

「んぐっ…んぐっ…ぷはぁっ!水をありがとう!それで…あなたは誰ですか?」

 

「私?私はエウテル。あなたは?」

 

「篠田日菜子です。あなたはもしかして…初代ミューズナイツのエウテルさん!?」

 

「あー…ミューズナイツももう後世に伝わってるんだ。あなたが何代目かはわかんないけど私がいた頃よりもヤバいって感じかな?」

 

「えっと…はい!そうなんです!エンプサーナという悪夢の女帝が水面下から現れて人間界が大変なんです!」

 

「人間界にも…!?もしもこのままにしたら人間たちは未来を諦めまた原始的な暮らしをしちゃうよ!それであなたは…ただ私に会いに来たわけじゃなさそうだね?」

 

「はい!エウテルさん!私を鍛えてもらえますか?」

 

「鍛えるか…私もついにそういう立場になったんだ。えーっとね…日菜子は何かを続ける時って楽しいって思えたことある?」

 

「え…?何科を続けるかぁ…。うーん…やっぱり大好きな幼なじみと野球観戦したりアイドル鑑賞して一緒に歌ったりするのは楽しいなって思う。でも…楽しいだけじゃダメなんだよ。実力がついて来ると評価が厳しくなったり楽しむ暇がなくなったりするからね。いくら楽しんでいてもいつかは壁に当たってしまう。だからこそ苦しくても努力して頑張らないと…」

 

「なるほどねぇ。確かに厳しい事もあるし楽しむだけじゃ夢なんて叶わないよ。技術と努力、そして継続力に精神力がないといくら叶ったところでガタが来てしまう。それは正しい事だよ」

 

「やっぱりそうですよね…。楽しいだけじゃ夢はかなわないんです…」

 

「でも待って。楽しむことってそんなにいけない事かな?辛いのを楽しむって一言で言っても辛い事を我慢して楽しめってことじゃないと私は思うんだ。辛い事もあってどんなにやめたいと思っても…こんなの意味があるかわからないとなっても…目標があるってこと自体を楽しめば苦しい事や理不尽な事も経験値として得て乗り越える楽しさを感じると思うんだ。我慢してでも楽しまなきゃって使命感なんかじゃなくてその先には楽しみがあるからそれを信じようって思う事で夢に向かって頑張る事を楽しめるんじゃないかなって思うんだ」

 

「エウテルさん…!」

 

「何より楽しくなければ辛くても続ける事なんて出来ないって思う。勝利や利益ばかり求めると目先の楽しみはあっても結局負ける不安にやられちゃうんだよ。でも…楽しむって言ってもこれだけは絶対にしてほしくないものがあるよ」

 

「何でしょうか?」

 

「自分だけ楽しんで他の人をつまらなくすることだよ。そうすると他の人の楽しみを奪ってしまうし好きだったものを嫌いにさせてしまう事もある。せっかく新しい人が来たのに自分勝手な楽しみで追い出すのも何だか酷いと思うでしょ?自分だけでなくみんなで楽しむ、または誰も不幸にせず自分だけ楽しむのが何かを続けるコツだと思う」

 

「なるほど…!確かに同じ自己満足の楽しさでも全然違いますね!」

 

「わかってくれたみたいだね!でも…それだけではあいつに勝てないよ。それなりの技術がなければ叶う事すらできないからね。私と戦闘してみない?」

 

「エウテルさんと戦うんですか…?やっぱり教えてくれてる割には簡単すぎるって感じてた…。戦わせてください!」

 

「私はこん棒使いだからあなたと同じだよ。ちょうどアクムーンモンスターがこの世界に来たか…!どっちがたくさん倒し撤退させるか勝負だよ!」

 

「望むところです!いくぞ!」

 

夢の国にまでアクムーン帝国のダークネスパワーが侵攻しこのまま浸食されれば人々は夢を見る事が出来なくなってしまう。

 

日菜子とエウテルはこん棒とメイスを持って参戦する。

 

エウテルのこん棒はまだ時代を感じる木製のもので日菜子のメイスはそのこん棒の進化版になる。

 

それでもエウテルは圧倒的ドリームパワーで日菜子を圧倒する討伐数を誇った。

 

「すごい…世の中にはまだそんな人がいるんだ…!」

 

「どうしたの?手が止まっているよ!それとも私の実力でもうやる気なくしちゃった?」

 

「この人に勝てば…世界は救われるんだ…!私だって出来るはず…!いくぞ!やあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「うっ…!何このスピード…?」

 

「智也…大好き!あなたの世界を絶対に守る!そして…いっぱいデートして大好きをもっと伝えるんだっ!クラブクラッシュ…ヴィヴァーチェ!」

 

「きゃあっ…!」

 

日菜子の渾身の一撃がエウテルごと魔物に命中し魔物を完全に全滅させる。

 

日菜子の顔には未来への想像によりこれまでにない笑顔で溢れていた。

 

おかげで無駄な力がなくなり素早く必殺技を放つほどリラックス状態になりエウテルはあまりの笑顔にフフッと微笑んでこう言った。

 

「なーんだ。私より楽しむ秘訣をもう会得してるじゃん。どう?未来のために頑張るのって結構楽しいでしょ?進化している自分を想像して動くって気持ちいでしょ?」

 

「はい…!おかげでポジティブシンキングが出来るようになりました!」

 

「ネガティブなのは悪い事じゃないけどポジティブになれば体の力がスッと抜けていつも以上のパワーを発揮するんだよ。そして足取りも軽くなりフットワークもよくなる。もし落ち込みそうになったら成功した自分を思い浮かべてみて?ただの妄想だって言われるかもしれないけど想像するのなんて個人の自由だもん。想像出来たから人間は進化したんだよ。もうすぐあなたは起きる頃か…もっと果物を食べながら会話したかったけどあなたには使命がある。それに私はもうこの世にはいないんだ。私が守れなかった未来をあなたに託すよ。じゃあ…また夢の世界で会おうね!」

 

「もちろんです!エウテルさんの分まで頑張ります!」

 

こうして日菜子は夢の国で夢を叶えるためにはまず何事も楽しむことだと学び現実世界へ起床する。

 

その心はポカポカと温かくどんなことが起きても楽しんで乗り越えられそうな気がした。

 

日菜子はこうして試練を突破した。

 

つづく!



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第64話 司令塔メルべネ

麻友美は夢の中に真っ先に入り深い眠りについた。

 

すると麻友美は静かな森の中にいて深呼吸するとあまりの綺麗な空気に自然と一体化するような感覚になった。

 

まるで自分自身が風になっているようだと感じた麻友美はしばらくその場から動かずただ立ち尽くしていった。

 

「空気がおいしいですね…。こんなに心地がいいのならずっとここにいたいです…」

 

「そうですか…。ここに来た人間は誰もがそう思うのですね」

 

「その声はどこから…?」

 

「あなたが来るという予感が何となくしていました。ずっとお待ちしていたんですよ?」

 

「あなたは…?」

 

「申し遅れました。私はメルべネと申します。あなたは…私の跡を継いでくださった渡辺麻友美さんですね」

 

「どうしてそれを…?はじめて会うはずですが…?」

 

「そのドリームパワーは私と同じ能力ですので。それにこの世から去ってもずっと見守ってたのですよ?」

 

「そうでしたか…。それよりもメルべネさんにお願いがあります…!」

 

「言わなくてももうわかっています。あのエンプサーナが復活し人間界を襲っているのでしょう。あの世越しでもわかります…。あのダークネスパワーはそういないでしょうね…」

 

「でしたら…私をより強くしてください…!お願いします…!」

 

「うーん…ではひとつあなたに聞きたい事があります。夢を叶えるには動くことだけでなくどうすればいいのでしょうか?」

 

「それは…」

 

麻友美は質問を返されてどう答えていいのか困惑する。

 

自分の場合は夢のために動けなかったことを悔いてもっと行動的になろうとしていたのでいきなり動くだけではだめなのかと思い知る。

 

おそらく動く系の事を言えば不正解で出直しを求められるだろうと察した麻友美はこう答える。

 

「えっと…難しい事は言えませんが…。ただ行動するだけなら誰にでも出来ますし動きすぎるといつか疲れ果てて結局挫折する事もあります…。正直…私にも同じ事が何度もありました…。コスプレする時も動いて売れようとし過ぎて結局売れずに辞めようと思ったことあります…。でもそれは間違いでした…。あえて行動するよりも一度休憩して心を整えたり…反省点やよかったところを考えて学んだりもしました…。そしたら今まで動き回って多分の疲れが取れて楽になったんです…。時には静かにして考えて天命を待つというのもひとつの手かなって思いました…」

 

「人事を尽くして天命を待つ…ですね。実際に体験してここまで達観する人はそういないでしょうね。シャドウトリックトランクィッロ…トランクィッロは音楽では静かに演奏するを表します。音楽でも動きすぎるだけではないのです。時には静かにすることで緩急をつけてより生きた音にさせます。それは人生でも同じです。そして…あなたはまだ成人にも達してないのにその考えに至った…だからこそあなたはミューズに選ばれたのでしょう」

 

「そんな…私は対した人じゃありませんよ…」

 

「そういうのは自分では気づかないものですよ?自分で気づいたと自負すると人というのはそれに溺れて傲慢になり結局叶ったとしても短命で終わります。夢は叶えるものであり持続させるものでもあるのです。それだけ心が成長していれば直接教える事はないでしょう。ただ…戦闘力では別ですけどね…」

 

「やはりただでは試練を突破させてくれそうにありませんね…。もしかしてあなたと戦うのですか…?」

 

「さすがミューズナイツの司令塔です。その通り…この私と戦って勝利すればエンプサーナを越える事が出来るでしょう。我々初代ミューズナイツでさえ敵わず封印で手いっぱいだったのですから私に勝てないようでは奴を倒すことは不可能という事を教えて差し上げましょう」

 

「やはりそうですよね…。その試練…受けて立ちます!」

 

麻友美は大鎌をギュっと握りメルべネは大鎌ではなくゲーツィスと同じような杖を持って構えた。

 

その杖で体を支える事も出来るし物理で叩く事も振り回して身体を守る事も出来る応用が利く杖だ。

 

それだけでなく魔法も放つことも出来るので麻友美にとっては最悪の相性だった。

 

それをすぐに察知した麻友美は警戒態勢に入るもメルべネはそれをいち早く気づき奇襲をかける。

 

「くっ…!」

 

「その武器では遠距離と相性が悪いって気付いたようですね。あなたは賢いだけでなく勘も鋭いようですね。正直頼りない感じで油断しましたよ。でも…ここからはあなたを名将だと思って全力でいきます!」

 

「負けません…!私にも夢と意地があるんです…!ここで負けたら…皆さんに合わせる顔がありません!」

 

「正面突破とはいい度胸ですね!これでもくらいなさい!」

 

「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「くっ…!どこからそんなパワーが…!?」

 

「皆さんと約束しました!全員で突破してエンプサーナを倒し…平和を取り戻してもう一度初心に戻り夢を追うんです!そして…人々に夢を与えて未来を築こうって誓ったんです!こんなところで負けられません!」

 

「なるほど…返答に感謝します。ですが…遠距離を突破されても誰も私が戦闘力がないとは言ってませんよ!ふんっ!」

 

「うっ…!」

 

「離れましたね…そこです!」

 

「きゃあっ!」

 

メルべネの物理攻撃で距離を取られその直後にまた遠距離魔法で影を縛られ動けなくなったところを黒い炎が麻友美を包む。

 

麻友美は自分はここまでなのか…と自信を失うも仲間の顔がふと浮かび自分はこの程度で負けるほどもう弱くないと思い込むようになり立ち上がった。

 

メルべネはまだやるんだ…と感心しつつも止めを刺すべく最大の黒い炎を放出した。

 

「これであなたの負けです!闇の炎に抱かれてしまいなさい!」

 

「すぅ…はぁ…!」

 

「今更深呼吸しても私の最大魔法はかわせませんよ!」

 

「見切りました…そこです!やぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「なっ…!?」

 

麻友美は深呼吸で息を整えてあえて直撃寸前まで動かず近づいたところを大鎌で一気に斬りかかった。

 

あまり動くと無駄に疲れる上に逃げたところであの大きな火の玉は避けられないと考えいっそのこと真っ二つに斬ってやろうと思いついたのだ。

 

動だけでなく静を制した麻友美はメルべネの最大魔法の反動で動けないところの隙を突く。

 

「静を制する者は動をも制するのです…!メルべネさん…あなたはどちらも優れ私を翻弄するほどでした…!ですが今度は私の番です!シャドウトリック…トランクィッロ!」

 

「うわぁっ…!」

 

麻友美の渾身の一撃がメルべネに直撃し闇に呑まれてそのまま倒れ込んだ。

 

麻友美も疲労困憊で大鎌を杖の代わりにしてメルべネに近づく。

 

近くまで来るとメルべネはヒョイと起き上がり微笑みながら握手を求めた。

 

「悔しいですが私の負けです。動く事は確かに突破口を開くのですが動きすぎは逆に疲労を生みます。だからこそあえてクールに徹し動かず考える事も大事です。夢を叶えるのにも行動だけでなくきちんと考えてからでも遅くはないんです。闇雲に進んだらいつかバテてしまいます。その心をいつまでも忘れないでくださいね」

 

「はい…!メルべネさん…ありがとうございました…!」

 

「さてと…後継者が私を越えたことでもうこの世に未練はないですね。きっと他の皆さんも同じでしょう…。もう私は天に還りミューズの元へ向かいます。どうかお元気で」

 

「メルべネさんが叶えられなかったエンプサーナの討伐…必ず達成してみせます!」

 

こうして麻友美はたまには静香にすることも大事だという事を覚え考える事といったん休憩する事を身につけた。

 

闇雲に進むと人は必ず疲れて怠けたりやる気をなくしたりする。

 

だからこそあえて休んだり考える事でペース配分が守られるのだと思う。

 

こうして麻友美は目が覚め試練を突破した。

 

つづく!



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第65話 豪力テルプシコラ

ひかりは睡眠を心掛けるもなかなか寝付けずにどうすればいいか考えた。

 

がやっぱり考えるほど眠れなくなるとすぐに考えを改めいっそ寝る事だけに集中しようと試みる。

 

すると冬というのもあってベッドの温かさでぐっすりと眠った。

 

ひかりが夢見た世界は赤古代ローマの建物が多く並んでいる町だった。

 

町なのに人が少ないどころかいない事に疑問に思ったひかりは不安げに歩いてみる。

 

「どうなってんだよ…?町なのに人が誰もいないなんてよ…。やっぱり夢の中といっても異世界だと違うのか…?」

 

古代ローマを思わせる建物が並んでいるのに不思議と人がいない事に不安を覚えたひかりは歩きから小走りに変えて移動する。

 

それでも人が誰もいないのでふと目に入ったコロッセオ風の建物の中に入ってみる。

 

するとステージには腕まくりをした女性が仁王立ちして誰かを待っているような態度だった。

 

ひかりはその女性に興味を持ちとりあえず声をかけてみる。

 

「よぉ。ここで誰を待っているんだ?」

 

「ん?ああ、アタイはここでアタイと同格の騎士を待っているのさ。アタイと同じドリームパワーを持ったミューズに選ばれし騎士をな」

 

「ミューズに選ばれたドリームパワーを持つ騎士…それってオレの事か!?」

 

「お前がミューズに選ばれし騎士だと?へぇ…自惚れだと思ってたけど目を見ればわかるぜ。その発言が事実だって事をな」

 

「ムカつくって思ったけど…オレもよくそうやって人を怒らせたっけなぁ…」

 

「お前、名前は何ていうんだ?」

 

「オレは高橋ひかりだ。お前は何だ?」

 

「アタイか?アタイは…テルプシコラってんだ」

 

「そうか…お前がオレの探してた初代ミューズナイツ…!」

 

「ミューズナイツを知ってるだと?じゃあお前が後輩ってわけか!」

 

「おう!会えて光栄だぜ先輩!」

 

ひかりとテルプシコラは性格が似ているせいかすぐに意気投合し世代を越えた友情を感じた。

 

最初は遠慮がなさすぎて腹が立つと思っていたがお互いに自分もそうだと見つめ直し同時に仲良くなれそうだとも思った。

 

ナポレオンジャケットにも関わらず腕まくりをするテルプシコラの豪快さにひかりは感銘を受けて自分より力が強そうだと予感した。

 

テルプシコラはひかりを見てさらにこんな事を言った。

 

「ひかり、お前…奴が復活したんだろ?エンプサーナ…悪夢の女帝と呼ばれる悪魔がよ」

 

「やっぱりわかるんだな…」

 

「まずアタイを探すって事はドリームパワーを持つ者にしかわかんねぇよ。アタイは少なくとも人間界の人間じゃねぇし普通の人間に見つかるわけねぇからな。まぁおそらく…このアタイの試練を受けてアタイを越えたところで討伐するんだろ?だったら話が早い、協力するぜ」

 

「話が分かる人でよかったぜ!」

 

「んじゃあ早速聞くぞ。ひかり…力強さとは何だ?」

 

「げっ、いきなり質問かよ…!」

 

「お前がパワー派だというのはアタイの勘でお見通しだぜ?いい筋肉しているからな。さぁ早く答えろよ」

 

「それは…」

 

テルプシコラのあまりの圧にひかりも少し遠慮気味になり力強さとは何かと言われて言葉に詰まる。

 

ひかりは難しい事や理論的な事が苦手でいつも感情のままに動いていたからいざそう言われると悩ましいものだった。

 

考える時間が長くなると次第にせっかちなテルプシコラもイライラしはじめヤバいと焦りも生じる。

 

だがひかりはもう考えても無駄だと思うようになり自分の気持ちを正直に伝える。

 

「まぁそうだな…力強さは筋力やパワーが優れていることだけに囚われてるといつか自分の目的や目標をも失うだろうな。力に溺れると誰もが自分より弱いやつをターゲットにして自分は強いと錯覚を起こし結局心が弱いままになるだろうな。もし心の力が強ければ…自分をもっと磨き続け成長を促すと思うぜ。だってそれは…弱さを認めたうえで強くなろうと頑張るって事だからよ。オレは…正直それが出来ているかなんてわからねぇ。わからねぇからこそもっと体だけでなく心も鍛え抜いて本当の力強い生き方をしたいって思う!」

 

「へぇ、まだ未熟なガキだと思ったけど魂を感じるぜ…。なるほどな…その心の強さで自分の夢だけでなく他人の夢を応援するって事でいいんだな?」

 

「ああ。心まで強くなきゃ嫉妬で他人の足を引っ張ろうとしてしまうからな。夢に向かって突き進む力強さだけでなく他人の背中を押してあげる力強さもなければ信用されねぇしよ」

 

「そうかい…。心の方はアタイが鍛える必要はねぇな。だが…実力が伴ってねぇとそれはただのビッグマウスになるぜ?お前、覚悟は出来てんだろうな?」

 

「ちっ…やっぱただで合格させるわけねぇよな。上等だ!絶対に先輩に認められるように勝ってやる!」

 

ひかりとテルプシコラは大斧を両手に構えて戦闘体勢に入る。

 

テルプシコラは地面に突き刺していた斧を片手で軽々と引き抜きひかりはこれで自分以上の力自慢だと察しが付く。

 

それでも無情にテルプシコラは片手で大斧を振りかざしひかりよりも圧倒的なパワーで地面を破壊する。

 

「うおっ!?何てパワーだ…オレや結衣以上だぜ…!」

 

「何だ?お前の力強さはこんなものでビビるほど見せかけだけか?」

 

「面白ぇ!見せかけじゃねぇってところを見せてやる!」

 

ひかりとテルプシコラはそれぞれ大斧でつばぜり合いをし両者一歩も引かないパワーを見せ合う。

 

それでもテルプシコラは片手で大斧を扱っているのでひかりもいつもなら自分もと対抗するがそれでは自分が不利だと思い我慢して両手で挑む。

 

だがそれが仇となってしまった。

 

「両手だと確かに体の負担は減るがよ。それじゃあ可動域が狭くなり隙ががら空きだぜ!うらぁっ!」

 

「うがっ…!」

 

テルプシコラが放った一撃がひかりの胸部に命中したもののわずかなドリームパワーで直撃を防ぐ。

 

それでも一撃が重いのでひかりは少しだけ呼吸が苦しくなる。

 

ひかりが苦しさのあまりにうつむくとテルプシコラは容赦なく襲いかかった。

 

「これでとどめさしてやる!終わりだ!」

 

「やっぱりアンタはすげぇや…。オレの力じゃ敵わねぇよ…。でも…諦めない限りパワーは無限大だってな…。NBAの選手がみんな言ってたんだ…。オレは最後まで諦めねぇ!先輩!オレの一撃を喰らいやがれ!ダイナマイトボンバー…エネルジコ!」

 

「な…!このパワーはアタイが生み出した時のダイナマイトボンバーエネルジコと同じ…いやそれ以上だ!ぐはぁっ!」

 

「はぁ…はぁ…!っしゃー!」

 

「うぐ…まったく…お前はこのアタイを一瞬で越えやがって…。少しは手加減しろよと言いたかったがお前には無理そうだな。これでアタイはこの世に未練がなくなった。お前は自分の体だけでなく心をつよく信じ力強い生き方をするんだぞ」

 

「うっす!先輩!鍛えてくださりありがとうございました!」

 

「最後に一つ言わせてくれ!力を付けたからって怠けたり驕ったりすんじゃねぇぞ!その瞬間から蹴落とされたり勝手に落ちたりするからな!」

 

「当然だ!オレはもっ自分を高みへと登らせ続けるぜ!先輩との約束を果たすから見守っててくれ!」

 

こうしてテルプシコラと別れ最後に力強さとは何かというものを教わった。

 

ひかりは自分が元々持ってた身体的パワーだけでなく心の力強さを兼ね備えた真のパワーファイターへと成長した。

 

こうしてひかりは夢の世界から目覚めた。

 

つづく!



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第66話 技巧派タレイア

麻里奈は普段から美容のために早く眠る事を心掛けていてこんな中途半端な時間に眠れるのだろうかと不安もあったが長旅の疲れが勝ってしまい珍しくウトウトと眠りについた。

 

夢の世界に行くとそこには大樹が一本生えている公園だった。

 

公園にはブランコとすべり台、ジャングルジムなどがあったが砂場はなく地面は芝生だけだった。

 

大樹の方に近づいてみると一人の女性が何やらクロスボウで的を狙っていた。

 

「……。」

 

「うわっ、この緊張感は…まるでウィリアム・テルじゃん…。ちょっとだけ静かにしてよ…」

 

「そこだっ!」

 

「うわっ!?」

 

「あっ…ごめーん!てっきりダークネスパワーだと思った!」

 

「もう!いきなり危ないじゃん!アタシじゃなかったら避けれなかったよ!」

 

「へへへ…ごめんごめん!……ん?アンタ…どこかで会ったことあったっけ?」

 

「え…?いきなり何さ…?」

 

「あーごめんね。私はちょっと自分とノリが合うなーって思った人には懐かしいなって気持ちになっちゃうんだよね。私はタレイア。一応初代ミューズナイツの技巧派とも言われているよ」

 

「えーっ!?技巧派って言うからてっきりもっとクールだと思ってた!マジでヤバい!あ…そうだ。アタシは板野麻里奈。ヨロシク♪」

 

「なるほどー。あのダークネスパワーに対抗できる新しいミューズナイツか。そういや私が開発した技を使いこなせてる?ヒーリングショットレガートっていうの」

 

「ああ、バッチリッス!なんかさ…ここ一発で放つぞって時になると失敗しない気になれるというか、身体が滑らかに動くんだよね」

 

「うん。そのレガートっていうのはなめらかにって意味で流れるように演奏するんだ。ガチガチに固まるのも時にはいいけど…やっぱり滑らかじゃないとせっかくの技術とか経験が台無しじゃん?麻里奈だっけ?その滑らかさというのにどんな印象持ってる?」

 

「えーっと…アタシは…」

 

麻里奈は突然何を聴きだすんだろうと思ったが予想外の質問に困惑する。

 

滑らかさとは何だと言われても人生に役に立つのかが分からないので適当に答えようも中身がないと結衣に怒られそうな言葉しか浮かばず黙ってしまう。

 

しかし麻里奈は考え込むのは自分らしくないと思いいつものノリと勢いで行きつつ自分なりの意見をまとめてこう言った。

 

「まぁやっぱりスムーズに動くとか慣れてる感じでいくってのもまた滑らかさなんだろうけど、時には何も考えずに時の流れに身を任せるってゆーか?ここまで頑張ったんだから残るは結果を待つことも大事だって思うんだ。アタシもモデルになる前は何も考えずにしたら太った。努力を怠ったら身を任せるじゃなくてただのサボるなんだよ。そこで考えて努力して突っ走った先に時の流れに身を任せるようになるんじゃないかなーって思う。サボるのと委ねるのは別って感じじゃないかなってね」

 

「ふーん…。なんか軟派そうだと思ったけど以外にも自分の考えってのがあるんじゃん。私もちょっと技術があるからって努力を怠って時間だけ無駄に過ごしてはじめて騎士団長に負けてさ…凄く悔しかった。だから必死に頑張ってリベンジする時に自分の全てをぶつけて結果に委ねたら負けたけど剣を弾き認めてもらったんだよね。ある意味その場のノリで突き進むってのも悪くないのかもね。アンタの言う通りだよ。これなら私の後継者に相応しいかも」

 

「よっしゃ!…かも?」

 

「んー…でもやっぱりただで後継者と決めつけるのは早いかなーって思ったな。どう?ここで腕試ししない?ここは射撃場にもなってて撃ち合いしながら相手の陣地にある的のど真ん中を先に撃ち抜いた方が勝ち。サバイバルゲームだっけ?それに近いゲームをやるのさ。準備が出来たらこのライトでチカチカさせて。ちょうど夜中だし見えるっしょ」

 

「へー!面白そうじゃん!パイセンの試練ってやつ?乗り越えてみせる!」

 

麻里奈とタレイアはノリと勢いで試練を開始する。

 

お互いに自陣に入り準備が出来たので夜空に向かってライトをチカチカ点滅させる。

 

合図を終えるとお互いにいいスタートを切って敵陣の方へ向かう。

 

ところが…

 

「ここならど真ん中だしどうせ合流するっしょ!そこだ!ってあれ…?いないじゃん…」

 

「へへへ…誰も公園の敷地内とは言ってないよ。残念だけど学力はどうあれ頭の回転は早くないと勢いに乗れないよ…」

 

「あっれー…?どこにいるんだー…?」

 

「今だ…残念でした!私はここだよー!それっ!」

 

「うっ…!」

 

タレイアはあらかじめ掘っていた穴の中に入り公園の地面の下に潜んでいた。

 

ただこのまま進んでも地盤が固くて進めないのも把握していてあえて麻里奈を待ち構えてそこから正面突破しようと踏んだ。

 

タレイアの一発が麻里奈の胸に命中しそのまま麻里奈は倒れ込んだ。

 

「クッソ…まさかこんな手で来るなんて…!」

 

「言ったっしょ?流れに身を任せるには考え込んだ上で成功するんだって。闇雲に委ねてもそんなものはただの無策と一緒なんだよ。闇雲に夢に向かっても叶いにくいんだよ。ノリは計算された上での衝動ってわけさ」

 

「はは…先輩には敵わないや…。やっぱり初代の人に任せるべきだったかなぁ…」

 

「えー?もう諦めるの!?後輩って頼りないなー。じゃあアンタはここでリタイア…」

 

「なーんちゃって…♪こっからが世代交代ッスよ!さっきは凄く痛かったんだかんね!」

 

「嘘!?短剣二つ!?アンタ接近戦も出来るの!?そんなの聞いてないよ!」

 

「ぶっちゃけこれは勘だけど…先輩は最初に会った時にクロスボウの動きには慣れてたけどアタシの反射神経とスピードに驚いた上に体のバランスの崩れ方があまりにも酷すぎて体幹力がないって気付いたのさ!おかげで体術や接近戦が苦手ってヤマを張ったんだ!」

 

「うっわー、もうその一瞬でわかっちゃったかー…」

 

「アタシの女の勘をナメんな!くらえっ!」

 

「うっ…!」

 

「今だ!アタシがここで決めてやるっ!ヒーリングショット…レガート!」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁっ…!」

 

「はぁ…はぁ…!どや!」

 

麻里奈の渾身の一撃がタレイアの全身に命中しさすがのタレイアも耐えきれずに倒れ込んだ。

 

麻里奈は全力全開で放ったため疲れ果てて座り込む。

 

するとタレイアは突然ピンピンしたように起き上がり武器を置いて麻里奈に近づいた。

 

「なーんだ、やれば出来んじゃん!麻里奈はただのノリと勢いだけのイノシシちゃんかと思ったけど勘が鋭く運命に委ねるのが上手いんだね。私の完敗だよ。これで私の試練はもうおしまい。おめでとう!」

 

「あざっす!って先輩苦しいッスよー!」

 

「おめでとうのハグだし!遠慮なく受け取れしー!このこのー!」

 

「あはははっ!」

 

麻里奈とタレイアは気持ちが調和されたのかハグしながらくすぐり合い両者の健闘を称えた。

 

少し時間が経つとあっという間に過ぎたかのように感じ二人はベンチで座り込む。

 

タレイアはいつもの明るい性格とは逆に少しだけナーバスになって麻里奈に語る。

 

「ぶっつけ本番ってのは気持ちで負けたらせっかくの勘も鈍るし、だからって出来なかった事を違う形で受け入れたらそれは成長じゃないってワケ。世の中はノリと勢いだけで上手くいくほど甘くはない事は確かに事実だよ。でも時にはノリと勢いに任せるところもあってそこが上手くいけば人生が滑らかになるんだよ。この音楽のようにね。麻里奈、アンタとはここでお別れだけど悪夢の女帝なんかに負けんなよ?」

 

「りょ!このアタシにお任せあれ!」

 

「あーあ。後輩に負けたのは悔しいけどこれで悔いはなくなったなー。じゃあ…現世の世界を頼んだよ」

 

こうしてタレイアは消えていき麻里奈は彼女の遺志を受け継ぐ。

 

勘とかノリとか勢いがあると物事がスムーズに進み無駄な力を抜くことも事実だ。

 

だがそれはちゃんと考え組み立てたから成り立つものであって無計画すぎると得たものがあるのに持ち腐れてしまう。

 

麻里奈はその心を胸に刻み目が覚めた。

 

つづく!



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第67話 狙撃手エラトー

エマはベッドの中に入りルーティーンのイギリスの英雄への祈りを捧げてから眠りにつく。

 

同時に日本の英雄たちへの祈りも捧げ日本とイギリスを思いやりながら眠りについた。

 

夢の世界に入るとそこは広い草原で後ろには大きな湖があった。

 

その湖は底が見えるほど透き通っていてエマは泳ぎたいと思った。

 

同時に呑んだらどんな味がするのかと好奇心が湧きその水を口にする。

 

「Uh…delicious!こんな美味しい水ははじめてデス!こんなの毎日飲めるなら目覚めるのが惜しいデスネー!」

 

「そうですか。あなたにはこの湖が美しく見えるのですね」

 

「What…?」

 

湖が美しく見える…こんなに美しい水があるのに声をかけた女性は何を言っているんだとエマは疑問を持った。

 

その女性は凛としつつも礼儀正しそうでまるで英国淑女だと母国を思い出した。

 

少しだけ懐かしい気持ちになりつつもさっきの発言が気になったエマは質問を返す。

 

「こんなに美しい水の湖が汚く見えマスか?」

 

「いいえ。私にも美しく見えますよ。ただここは心が穢れ堕落した者には薄汚くて飲むには毒だと思わせるのです。きっとあなたの心が美しく向上心のある人だから飲めるほど美しく見えるのです。そしてその水を飲んだ者は潜在能力が引き出されるといいます。逆に穢れたまま飲むと胸が痛くなり時間が経てば自分の愚かさを反省すると言われています」

 

「そういえばエマの視力が少しだけ回復したような…」

 

「なるほど…私の時代からもう長い年月を経た様ですね。目を酷使するほど便利な世界になったのでしょう」

 

「どうしてそれを知っているのデスカ…?」

 

「どうしてですか…。それは私はもうこの世にいない人間だからですね。だからこの世を見守っているのですよ。私はエラトー。よろしくね」

 

「エラトー…アナタが初代ミューズナイツの…!」

 

「ミューズナイツ…懐かしい名前ですね。そうです、私はかつてそう呼ばれていました。ミューズナイツを知っているという事はあなたは後継者ですね。でしたら話が早いでしょう。あなたは夢が叶わなかったときに苛立ったり激しく感情を暴走させますか?」

 

「え…?エマに限ってそんな事は…ないとは言えないデス…」

 

エマも実際にかつてイギリスでガールズバンドとしてイギリス中を沸かせる最高のバンドになるという夢があった。

 

だがメンバーの離脱や資金難でそれが叶わなくなり誰もその事を責めなかった。

 

だけど本音は叶わなかった事へのメンバーや自分への怒りがありやろうと思えば堕落する事も簡単だった。

 

それでもエマやデビュー時に助けたアンナはやらなかった…それは何故かを自分に問い詰めてみた。

 

「エマは…昔はイギリスに住んでいて大切な仲間たちとガールズバンドをやっていマシタ。最初はスコットランドだけでなくウェールズやイングランドにも活動を広げ知名度も上がりついにメジャーデビュー目前までいきマシタ。でも…メインボーカルのエリザベスの家族に不幸があって介護のために小学生なのにすることになって看板を失いエマたちは自分も将来不幸があって続けられなくなるんじゃないかと不安がよぎりイップスになりマシタ…。でもエマは怒りという感情はありマシタ。神さまなんていない…神さまなんかエマたちを助けてくれない…そう嘆いて恨んだり苛立ちマシタ。でも恨んだところでエリザベスはもう戻ってこない。だったらエマだけでもデビューして後悔しないようにしようって決めマシタ。あえて苛立ちのエネルギーを憎しみではなく成長に振り切って今のエマがいるのデス」

 

「なるほど…挫折への苛立ちを別のエネルギーに変えて八つ当たりせず堕落せずに這い上がってきたのですね。ですがほとんどの人間は苛立ちからか言い訳して責任逃れをしたり誰かのせい環境のせいと何かを責めたりするんですよ」

 

「それはその人がその程度の夢と希望だったってことデス。本当に目指しているのならどんなに辛くても立ち向かうエネルギーに変えるのデス。怒りや苛立ちを誰かに…何かに当たるなんて見当違いもいいとこデス。エマには何かのせいにする暇なんてありまセンから…」

 

「なるほど…それがあなたの苛立ちのコントロールですね。返答に感謝します。あなたの考えは素晴らしくその通りだと思います。堕落した人からは綺麗事とか暑苦しいと思うでしょうがその程度の気持ちで夢を追ったり語ったりするなという事でしょう。そう捉えておきましょう」

 

「Yes…堕落するほどエマは甘くないデス」

 

「エマさんの夢への執着心はわかりました。でも悪夢の女帝エンプサーナはそんな向上心をも打ち砕く悪魔です。私に勝てないようでは口だけの騎士という事になりますよ?私に勝って口だけではないところを証明なさい」

 

「やっぱりタダでは認めてくれないようデスネ…。アナタの試練にチャレンジしマス!」

 

エマとエラトーはマスケット銃を上に構えながら行進し、お互い向かい合って撃つ準備をする。

 

先攻はエマで先手必勝と見たエマはすぐに装填してエラトーを目掛ける。

 

「いきマス!Fire!」

 

「甘いですね…」

 

「Why!?何故当たらないデスか!?」

 

「技術も度胸も視力も私より上ですが何故当たらないかわかりますか?焦りを見せるほどの心の弱さがあったからです。私なら外す前提で当たれば幸運と思って撃ちます!Fire!」

 

「きゃぁっ…!」

 

エマは自分が動揺していることを読まれ絶対に当たると思っていたが急に自信をなくし手元が震えいざ外すとショックを隠せなかった。

 

その反面にエラトーは外したとしても次は当てればいいやと軽い気持ちで臨んだ分、無駄な力を入れずに済んだのだ。

 

エマはマスケットの射撃の腕に自信があったので外したことにショックだったが英国史をいざ振り返ってみる。

 

「マスケット…そういえばマスケットは元々命中率よりも装填の早さと弓よりも手軽に遠距離攻撃が出来る上に訓練も楽だったような…。それが魔法によってカバーされていつの間にかエマは自分の腕を過信して驕ってしまったんデスネ…。自分の情けなさにイライラしマスが…嘆いても何も始まりまセン!こうなったら正面突破しマス!」

 

「命知らずですね!至近距離ほどマスケットはよく当たるんですよ!Fire!」

 

「No problem!跳べばいいだけの話デース!」

 

「そんな…!」

 

「これで一気に近づいたデス!やぁっ!」

 

「うぐっ…!」

 

「今デース!オーシャンバーン…アジタート!」

 

「きゃあぁぁっ…!」

 

エマの渾身の一発がエラトーに命中し大きな渦巻きは消えていった。

 

エラトーは倒れ込んでしばらくは動かなかったけど急に起き上がって元気になりエマは戦闘体勢に入る。

 

しかしエラトーはマスケットを置いてエマの肩をポンと叩いた。

 

「苛立ちをコントロールすれば上手く反省しそれを経験として活きる事が出来ます。同じ後悔でもステップアップ出来るきっかけを作るのとただ落ちていくだけのものがあります。あなたはまだ若いのですから怒りの矛先を間違えるかもしれませんがその負のエネルギーをコントロールし利用して正しい事に使いなさい。」

 

「Yes sir!」

 

「さぁもうお別れの時間です。今までのミューズナイツは私の試練を誰も突破できなかったのですが、あなたがはじめて突破してくれたおかげで悔いはもうありません。天に還ってあなたのご武運を祈っています」

 

「ミューズナイツの先輩であり夢の騎士という英霊に…敬礼!」

 

こうしてエマはエラトーと別れ目を覚まし心も体もパワーアップしていった。

 

つづく!



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第68話 秘密兵器ウラ―ニア

萌仁香はベッドに入りスキンケアをしてから眠りにつく。

 

スキンケアをして質のいい睡眠をここ掛けている萌仁香はすぐに寝付きそのまま夢の世界へ入っていった。

 

すると萌仁香はメリーゴーラウンドや観覧車などオーソドックスな遊園地にいた。

 

遊園地という事で遊びたい衝動に駆られると一人の女性が萌仁香に声をかける。

 

「珍しいわね。アンタみたいな人間がこの国に来るなんて」

 

「は?いきなりなんなのよ?じゃなくて…。もう~どうしたんですかぁ~?」

 

「いや今更遅いわよ…」

 

「チッ…。もういいわ。今の見なかったことにしたら示談で済ませてあげる!」

 

「何だか面倒な人ね…。まぁいいわ。私はミューズナイツのウラ―ニアよ。あなたは?」

 

「小嶋萌仁香…。ってアンタが初代ミューズナイツ!?」

 

「この夢のベッドで眠りについてここに来るって事は私を探しに来たんでしょ?多分だけどアンタが私の後輩ね」

 

「何だか偉そうなんだけど…。まぁそうですね」

 

「アンタ…さっきのぶりっ子だっけ?イキイキとしてないでしょ?やってて楽しくないって感じがしたんだから」

 

「う…!それは…仕方ないでしょ!そうしないと男のハートを掴めないって前のマネージャーが言ったんだから!」

 

「マネージャー?何の事か知らないけど猫かぶってないと何も出来ないって言い方ね。そんなんじゃ生きてて楽しいって思えないわよ」

 

「うっ…!」

 

萌仁香は過去の自信のなさを簡単に見抜かれ主導権を握られる。

 

咄嗟に猫を被るももう既に遅く猫をかぶれなくなった。

 

そこであまり好きではない本来の性格で接すると今度は生きてて楽しくないでしょと指摘され図星を突かれて言葉に詰まる。

 

萌仁香は言い訳をせずありのままの自分の答えを言った。

 

「楽しくないね…確かに猫をかぶってると嫌いだけど本当の自分をさらけ出せなくて生きてるって感じがしないわね。誰かに好かれようとしてムリしたキャラ作りして正直ストレスだったわ。自分に嘘をついているみたいで他人を騙しているって思うとさっさとやめたいって思ったもの。でも…正直そんなキャラやめてよかった。そのおかげで今まで受け入れてもらえなかった本当の自分を受け入れてもらえたし徐々に本当の自分の事が好きになりつつあるの。それ以来生きてるって感じがするし何をやっても楽しいって思えるようになった。前に進むって時には後ろを向きながらでも歩いていくのも悪くないかなって思ったわ。嫌いな一面も含めて自分自身だしそれを受け入れないとやっぱり何をやっても楽しめないって思う。受け入れるには相当な勇気も必要だと思うけど…その勇気がなくちゃ何も進展しないし楽しいって感情をなくし生きる意味を見失うもの。萌仁香だって先輩方と出会ってやっと気づいたんだから。イキイキするならまず弱くて嫌いな自分の一部をも受け入れて活かさなきゃ。楽しくなきゃ人生なんて空っぽになるだけよ」

 

「ふーん…。アンタ経験浅そうに見えて結構深い経験を重ねているわけね。上から目線で見て悪かったわ」

 

「まったくよ。アンタ萌仁香よりも年下でしょ?」

 

「ん?確かにミューズナイツでは最年少だけどこう見えて七十歳過ぎて死んだんだからね?霊界では好きな姿に変えられるのよ?」

 

「霊界…?はぁ!?萌仁香って死んだの!?」

 

「そんなわけないでしょ。死んでたらもっと身体が軽いはずよ。それにここはその一部の夢の国だから安心して。それよりも一応アンタよりは年上なんだからわきまえなさいとは言わないけどもう少し遠慮しなさいよ」

 

「うっ…悪かったわよ…」

 

「でもその度胸があってこそ辛い経験を乗り越えたのよね。アンタなりに自分を乗り越えて夢を叶えそして生きる楽しさを覚えた。おかげで遅咲きながらミューズナイツに覚醒したのよね。わかったわ、アンタを認めてあげる。ただし…この私に勝てないようではあのエンプサーナにすら勝てないという事も忘れないでよね」

 

「まったく…タダで認めてもらえると思った萌仁香がバカだったわ…。もうこうなったら力づくで認めさせてやるんだから覚悟しなさい!」

 

目上であるはずのウラ―ニアにも臆さない態度で萌仁香は巨大ハンマーを構える。

 

ウラ―ニアは萌仁香と比べて小ぶりなハンマーだが代わりに実際の西洋で使われたウォーハンマーで尖った部分で叩かれるとひとたまりもない威力である。

 

ウラ―ニアはその子ぶりなハンマーを活かして素早い動きで萌仁香を翻弄させる。

 

「アンタ随分大きなハンマーなのね!そんなんじゃワタシヲ捉えるのは不可能なんだからね!そぉいっ!」

 

「きゃっ!」

 

「どうしたの?動きと判断が鈍いわよ!」

 

「もう!どうしたらアイツをギャフンと言わせられるのよ!」

 

「さっきの逆境を楽しむという威勢はどこにいったの?それとも口だけ?この程度だと思わなかったわ!」

 

ウラ―ニアは小ぶりさを活かし萌仁香の大きすぎる武器を逆手に取り攻撃を続ける。

 

威力は大きい方が有利…なんてことはなく大きすぎると威力が分散され重さに耐えきれないなんてことも少なくはない。

 

逆に小さくても重ければ一点集中で大きなパワーを生むこともあり萌仁香は派手さにこだわった自分を反省した。

 

「もうおしまいならこっちがとどめ刺してあげる!くらいなさいっ!」

 

「もういいや…」

 

「はぁ?」

 

「もう捉えようとするのはやめたわ!やっぱり当たって砕ける方が性に合うわね!そーれっ!」

 

「きゃっ…!」

 

萌仁香は早く相手を捉えようと考えすぎて集中力が悪い方向に行ってしまっていた。

 

それをやめて気を楽にするには重すぎる目標を捨て力を抜く事で逆境を楽しめるようになりついに萌仁香はウラ―ニアを捉える事が出来た。

 

ハンマーの面積が大きいためどこに逃げても逃げ場がなく避けれたとしてもかすることもあるので一長一短なのだ。

 

萌仁香は覚悟を決めて必殺技を放つ。

 

「萌仁香の本気をここで受けてみなさい!ミョルニルメテオ…ヴィーヴォ!」

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ…!」

 

萌仁香のさらに大きくなったハンマーは隕石のごとくウラ―ニアを叩きつぶした。

 

遊園地自体も大きな地震に見舞われまるで隕石が衝突したような衝撃を与えた。

 

それでもウラ―ニアは元気そうにしていて萌仁香はもうダメだと思ったが…ウラ―ニアはハンマーを置き去りにして萌仁香に歩み寄った。

 

「大したものじゃない。アンタのその吹っ切れた時のパワーは。もういいわ、アンタを認めるどころかこの私を越えたわ。あのエンプサーナを倒す使命をアンタに託すわ。人生をイキイキとしなきゃ何をやっても叶ったとしても楽しむことが出来ないって事を覚えておきなさいよね」

 

「最後まで偉そうなのね…まったく」

 

「でもこれで心置きなく霊界に還れるわね。私が成し遂げられなかったダークネスパワーの消滅を頼んだわよ」

 

「ええ、わかったわ」

 

萌仁香はウラ―ニアの試練を突破しウラ―ニアの魂は他の初代ミューズナイツと同じように天に昇っていった。

 

萌仁香は徐々に意識がもうろうとして体が重くなり目覚めの時が来たんだと感じる。

 

目が覚めると萌仁香は心から逆境を楽しもうと思えるようになりもうあの猫かぶりとはさようならをしようと決めたのだった。

 

つづく!



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第69話 副将クレイオ

結衣は寝る前に少しだけストレッチをして身体を温め眠れるように準備をする。

 

すると結衣は緊張する事もなく早めに眠りについた。

 

結衣は夢の国に入りそこにはギリシャの神殿風の建物が多く並んでいた。

 

見渡してみるとまるでギリシャ神話の世界に入ったような感じがした。

 

少しだけ歩くと一人の美しい女性が髪をなびかせて誰かを待っていた。

 

その女性が気になった結衣は勇気を出して声をかけてみる。

 

「あの、すみません。もしかして誰かを待っているんですか?」

 

「ええ。私には予感がするの。ここにいつか私の跡を継ぐドリームパワーの持ち主が現れるって。そしたら本当に現れた…あなたのようなドリームパワーを受け継ぐ騎士がね」

 

「私ですか…?いいえ、どうしてドリームパワーをご存知なのですか?もしかしてあなたは…初代ミューズナイツの方ですか?」

 

「ミューズナイツ…あなたが知っているという事はやっぱり…!」

 

「はい。大島結衣です」

 

「結衣ね。はじめまして、ミューズナイツのクレイオよ。あなたが来るのを千年の時が経るまで待っていたわ」

 

「光栄です。あなたのような偉大な方に会えるなんて」

 

「今までも後継者は何人もいたけれど平和な時間ばかりで誰もドリームパワーを高められる子はいなかったの。それに力を得て途中で堕落する子も少なくはなかったわ。それでもあなたは堕落することなく私と同格のドリームパワーを得た。それだけでも充分凄いことなのよ」

 

「そう言われると少し恥ずかしいですね」

 

「あなたにはさらに心を見ると情熱に溢れているわ。どこからその情熱が溢れるかはわからないけど一体何をモチベーションにしているの?」

 

「そうですね…。確かに私は演劇で百年に一人の逸材と言われ続け自分の才能に驕る時もありました。でもそれじゃあダメだって気付いたのはすぐだったわ。大人の名優ともなると私なんかよりも経験を積んでかつ上を見て高め続けているって気付き自分のちっぽけさを思い知ったんです。今の自分がちっぽけならもっと努力して一番になろうって思って頑張りました。でも…努力だけではどうしようもない事もあり何度もやめようと思ってました。どんな時に今の仲間たちに出会って切磋琢磨し合える環境になりもっと自分も頑張らなきゃって思えるようになった。今でも自分を磨いて一番になるための努力は欠かしません。もちろんそうする事で批判や悪口も言われます。でもそんな奴らに構っているより応援してくれるみんなの声を聞いてモチベーション上げる方が有意義なんです。それに筋肉トレーニングにはそんなストレスからも力で発散できて誰も傷つけない自分を鍛え抜くんです。こんな大きなメリットはそうそうないはずです。だから…落ちる暇があったら自分を磨き認められるような人になるって決めたんです」

 

「なるほど…。まだ二十歳にも満たない女の子がここまで達観できるなんて思わなかったわ。これなら霊界に行っても天国へ還れそうね。そしてミューズにも選ばれ驕ることなく高め続ける…全ての人がそうであれば、あなたのような子がもっといれば世の中はいい方向に行けたのにね。人間の中には生まれ持ってからダークネスパワーに染まる人もいて一度陥るとなかなか抜け出せず夢をバカにしたり夢の邪魔をするの。今の世の中は便利すぎて心を失い邪魔ばかりしてない?

 

「言われてみれば昔と比べて知らない人からの悪口や悪評が目立ちますね」

 

「あなたと違って真逆の情熱を注ぎ火傷どころか地獄の業火になり他人を傷つけるの。そうなると人はダークネスパワーに染まり自分を高められず結局死後に地獄に堕ちてしまう。これは神さまがそう決めたルールなのよ。ミューズに選ばれたという事はそういう運命を変える役目もあるの。あなたは器用だからきっと出来るはずよ」

 

「ありがとうございます」

 

「もちろん…戦いともなればそれだけでは突破できませんけどね?」

 

「何かしら…この凄まじいドリームパワーの圧は…!?」

 

「エンプサーナが復活したという事は世の中がダークネスパワーに染まりきったという事よ。私に勝てないようでは奴に勝つことなんて不可能なんだから」

 

「おそらく他のみんなも…!わかりました。あなたの試練を突破してみせましょう!」

 

結衣はいずれ越えなければならない壁を越えるチャンスだと言わんばかりにハルバードを構えた。

 

クレイオもハルバードを構え自分と同じ武器だと判断した結衣はリーチの取り合いから始まると予想する。

 

するとクレイオは予想外の攻撃を仕掛ける。

 

「ふんっ!」

 

「いきなり武器を投げ捨てた…?」

 

「その一瞬の隙が命取りよ!」

 

「しまっ…きゃぁっ!」

 

「まだ終わりじゃないわ!」

 

「さっき投げ捨てた…!」

 

「くらいなさいっ!」

 

「うっ…!」

 

「安心しなさい。首を斬るまでには至らなかったけど少し眠ってもらうわ。でも…エンプサーナはこの程度じゃ済まないわよ?」

 

結衣はハルバードの柄でみね打ちされてそのまま気を失う。

 

クレイオは結衣を見て将来性を感じるも自分に勝つにはまだ早いのかな…と諦めた空気を漂わせた。

 

結衣は意識が遠のき走馬灯が浮かぶ。

 

「あれ…?私…もう死ぬのかしら…?」

 

「結衣は何をやっても天才ね!これはもう大島家最高傑作よ!」

 

「信じられないよ…!まさかパパやママより優秀なんて!他の子とは大違いだな!」

 

「妹ばっかり褒められてムカつく…!何でアイツが生まれたんだよ…!」

 

「お姉ちゃんばっかり褒めないでー!私のことも褒めてー!」

 

「あんたたちは親に歯向かう暇があったらいい成績を残しなさい!」

 

「よせ。こいつらはもう期待しないと言ったろ?」

 

「うわーーーーん!」

 

「クソッ!こんな家出ていってやる!」

 

「ああ…優一兄さんは今どこでどうしているのかしら…。妹の麻衣も元気かしら…?」

 

「結衣。お前は…あのクソ親の元で育つだろうから言っておく。俺みたいにはなるなよ?お前が実は人一倍努力家なのは知ってるからよ。次会う時は…ないかもしれないからな。ライブ…楽しみにしてるからやめんなよ?」

 

「お姉ちゃんが頑張ってるのは麻衣も知ってるよ。もしお父さんたちの教育が辛かったら一緒に出ていこうね?アイドル頑張ってね!」

 

「私のせいで家族が崩壊したのならいっそ…!いいえ…兄さんと妹と約束したもの…!アイドルとしてもう一度楽しかった家族に戻るって…!ここで死んだら…もう叶わなくなっちゃう!はぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「うっ…!このドリームパワーはまさか…!?」

 

「家族のために…こんなところで死ぬわけにはいかないの!あなたに夢の力を受けさせてあげるわ!スカーレットラッシュ…アパッシオナート!」

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ…!」

 

結衣はかつて自分のせいで家族の中が崩壊したことを思い出しつつも兄や妹が自分を憎みながらも応援してくれてそれが元で努力室Ⅾ透けていることを思い出す。

 

自分の中で限界を決めつけていたのか力をセーブしたことを改めて反省しもっと自bふんを信じようと決めた。

 

するとしばらくしてクレイオは元気に立ち上がり結衣に歩み寄った。

 

「家族か…。応援してもらえるって夢が叶うきっかけの一つなのよね。あなたにそう教わったわ。私もまだ下の世代に学ぶこともあるわね。あなたはもう私を越えたのよ。おめでとう」

 

「ありがとうございます…!」

 

「これでもうこの世に未練はないわ。あなたはエンプサーナに勝つ使命を背負って戦いなさい。あなたの活躍…天国で見守っているわ」

 

こうしてクレイオは満面の笑みを浮かべて消えていき天に還っていった。

 

結衣は目を覚ますといつもより寝付きがよく気持ちも頭もスッキリしていたのだ。

 

こうして結衣は目を覚ました。

 

つづく!



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第70話 隊長カリオペ

あかりは普段から睡眠を心掛けているのか寝付きがいい。

 

はずだったが今回は偉大な人に夢の中で会うと思うと緊張していつもの寝付きのよさがなくなっていた。

 

深呼吸をしてもう一度と思うと余計な力が入り眠りにつくのが遅くなる。

 

やむを得ないと思ったヴィオラはユメミール王国に伝わる子守歌を蓄音機で流してであかりに強引に眠ってもらう事にした。

 

するとあかりも徐々に眠くなり本当に眠りについた。

 

夢の中では大きな教会がそびえ立っていて入るものを拒まない空気が漂っていた。

 

あかりはその教会に誘われるがままに扉を開けて中に入る。

 

中に入ると一人の女性が祈るように跪いていた。

 

「あの…」

 

「ミューズよ…人々の未来のために光を与えたまえ…」

 

「えっと…声をかけちゃまずいかな…?」

 

「ん…?あ、ごめんなさい。あなたが来たことに気が付かなかった。」

 

「いいえ!こちらこそお祈りの邪魔をしてすみません!えっと…初代ミューズナイツの人たちを探しているのですが知りませんか?」

 

「ミューズナイツ?どうしてあなたがそれを知っているの?」

 

「実は私もミューズに選ばれてミューズナイツになったんです。ドリームパワーを受け継いでいます」

 

「なるほど…。じゃあ隠す必要もないかな。私はカリオペ。ミューズナイツ結成時の隊長だよ。あなたは?」

 

「前田あかりです」

 

「あかりね。よろしく。これからあなたに伝えないといけない事があるの。それも今までの後継者が誰も出来なかった事を」

 

「わかりました」

 

「あかり、歌っていいよね。人々が生み出した文化の極みだと思うの。あなたはどう思う?」

 

「えっと…改めて聞かれると困っちゃうな…」

 

あかりは改めて歌についてどう思うと聞かれどう答えていいか困り果てる。

 

カリオペの考える事が分からず少しだけ考え込みあかりなりの答えを生み出そうとする。

 

そこで自分が感じた歌についての考えを言葉にする。

 

「歌があるから人々は娯楽を覚え夢を見るようになり心も共感する事でいろんな文明が栄えたんだと思います。でも時には解釈次第で奪う事も破壊する事も出来て暴力に走る事もあると思います。それは人間が感情を持った以上仕方ないと言われたらおしまいだけど…だからこそいろんな人がいて、いろんな個性があってたくさんの夢が生まれるんです。歌はそれを後押しするものにすぎませんがだからこそ尊くてその人にとって宝物になるんだと思います。いろんな人がいるようにいろんな歌もあり、そして私がまだ分からない景色も見えるのかなって思います。歌がなくなったら…きっと人々の夢と感情を失いただ生きるだけのものになるでしょう。だからこそ歌も人も面白いって感じるんです」

 

「十人十色…人間界の誰かが言った言葉をここまで表してくれるなんてあなたは本当に人間観察が出来るんだね。あなたのその観察眼でさまざまな努力をしてみんなに認められうようになったのかな。だとしたらあなたはもう私たちを越えているのかもしれない。あなたの夢は何かな?」

 

「私の今の夢は…アイドルとしてみんなの夢の後押しが出来る存在になってたくさんの歌でみんなの未来を築かせたいんです!」

 

「アイドル…?あの人間界にある歌って踊るあれかな?」

 

「はい。そのアイドルです」

 

「人間界ってもうそんな文明まであるんだね知らなかったよ。あかりならそれを叶えられる魂を感じるよ。どんなに邪魔されても夢は叶うと保証するよ」

 

「ありがとうございます!」

 

「でもね…気持ちだけではどうしようもない時もあるの。そのための技術や思考力がなければ宝の持ち腐れになってしまうんだ。あなたがそれほどの器なのかここで試してもいいかな?」

 

「やっぱりそうですよね…。あなたに勝てなかったらエンプサーナに勝てない、そんな気がしてました。」

 

「話が早くて助かるよ。それじゃあ…準備はいいかな?マイロード!」

 

「マイロード!」

 

あかりとカリオペはレイピアを構え決闘の挨拶をする。

 

レイピアを縦に持って顔の前に上げ正々堂々と戦う決意をし二人は立ち向かっていった。

 

あかりはカリオペの圧倒的スピードに翻弄されはじめ次第に体を斬られてしまう。

 

レイピアは確かに刺突が得意だが斬れないわけではない。

 

あかりはそれを再認識し今度は警戒態勢に入った。

 

「レイピアって斬れるんだね…。知らなかった…もっと世界史を勉強しておけばよかったかな…」

 

「いくらドリームパワーが大きくて歴代最強レベルでも所詮は素人って事かな?このままだと奴どころか私にすら勝てないよ!」

 

「どうすればあの人の動きを…?」

 

「遅いよ!」

 

「きゃっ!」

 

「まだまだっ!」

 

「うっ…!早い…!」

 

カリオペの連続刺突をギリギリかわしあかりは危機を逃れた。

 

さすが最初んにミューズに選ばれただけの事はある…あかりは本当にこの人に勝てるのか不安になる。

 

ましてや隊長という事で実力はトップなのに私なんかに勝てるのかなと諦める気持ちになりかけた。

 

そんな時に仲間の事を思い浮かべた。

 

どんなに壁に当たっても努力を惜しまない結衣、持ち前のポジティブさで恋を成就した日菜子、臆病でネガティブながらも陰での努力をし続けた麻友美、猪突猛進で前に突き進むひかり、コンプレックスを乗り越え今も努力を欠かさない麻里奈、遠い国から来て仲間のために頑張るエマ、嫌いな本当の自分と偽りの自分を演じながらありのままを受け入れた萌仁香、そして自分だけでなく周りのサポートもして今も私たちを想っているであろう加奈子の姿が浮かびあかりは心を入れ替える。

 

すると突然フレーズが浮かびあかりはそれを口に出して歌う。

 

「Ah~~~~~~…」

 

「その歌はまさか…!?」

 

「何だろう…?力が込み上げてくる…!」

 

「このままだと彼女の潜在能力が目覚めてしまう…!早く決着をつけるよ!」

 

「ふぅ…!」

 

「えっ…?」

 

あかりは一呼吸置いてから動くと一瞬でカリオペに近づきカリオペも何が起こったのかわからないほどの動きをした。

 

あかりはその一瞬でカリオペが動く前に近づきナックルガードで右手を殴ってレイピアを弾き飛ばし切っ先で胸元を寸止めした。

 

カリオペはこの子にはもう勝てないと悟り動くのをやめる。

 

あかりは本来は優しすぎて敵でないものに攻撃するのを躊躇うが今回は試練だからと割り切って苦しみながらも必殺技を放つ。

 

「本当は痛い思いはさせたくないけど…あなたを越えるために心を鬼にします!ローズスプラッシュ…カンタービレ!」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ…!」

 

あかりの一突きがイバラとなって絡みつきそして貫通していった。

 

カリオペは直撃の衝撃で倒れ込むもしばらくすると何事もなかったかのように立ち上がりあかりに歩み寄った。

 

「見事な必殺話だね。時には非情になって判断するのもまた夢を叶える一歩なんだよ。でもだからって他人を不幸に陥れるのはよくない。残酷な決断をする時は苦しいかもしれないけど誤った判断で自他共に不幸にさせないでね」

 

「はい!」

 

「さて…ここは夢の国とはいえ霊界の一部だからもう死んだ私はそろそろ霊界に戻るね。あなたみたいなすごい後継者がいると聞いて神様に特別に夢の国で待つことを許されたの。そしてようやく自分を越える騎士が現れもう未練はなくなったんだ。後世の世界をあなたに託すね」

 

「わかりました!必ず悪夢の女帝エンプサーナを倒します!」

 

「じゃあ…さよならあかり。最後にあなたに会えてよかった…」

 

こうしてカリオペは霊界に還りミューズナイツは試練を突破した。

 

あかりは今までの人生の中で最も寝起きがよくここまでスッキリした起床ははじめて感じた。

 

しかしあかりが目を覚ましたのが最後でいかに苦戦を強いられたかがわかった。

 

秋山プロデューサーとヴィオラ女王が全員起きたことに気付き声をかける。

 

「みんな!よく起きてくれた!スッキリした顔つきって事は試練を越えたようだね!このままエンプサーナの城に行くなら僕もついていくよ!保護者として見過ごすわけにはいかないからね!」

 

「はい!」

 

「私もついて行くわ!奴らに支配されたのは女王である私の責任だもの!最後の戦いをサポートさせて!」

 

「わかりました!」

 

「じゃあ円陣組みましょう!私たちは夢の騎士!」

 

「ミューズナイツ!」

 

「絶対勝ちましょう!SBY!」

 

「48!」

 

つづく!



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第8章
第71話 悪夢の女帝


あかりたちはゲーツィスから取り戻した城からゲーツィスが拠点にしていた城を探す旅に出る。

 

そこのどこかにエンプサーナが潜んでいると見たあかりたちはダークネスパワーを察知する力を使い集中して探す。

 

するとあかりは真っ先に見つけそこを向く。

 

「感じる…!ダークネスパワーの中心があそこにある気がする…!」

 

「もう見つけたのですか…?」

 

「ちょっとオレも察知してみるわ。…うげぇ…!これはヤベェな…!」

 

「本当に!?私も!…何だろう…?この肌が焼けるような感じは…!」

 

「じゃああそこにアクムーン城があるんですね…!」

 

「ええ。あそこに向かうからにはたくさんの罠があるかもしれないから警戒して行きましょう」

 

「うん…!」

 

あかりが見つけるとひかりと日菜子も気になって察知し、同じ場所にダークネスパワーを感じあまりの恐怖に怖気づいた。

 

それでもあかりたちはエンプサーナを倒して人々だけでなく自分たちにも夢と未来を与える役目がある。

 

ここで退いたら二度と人は夢を持たなくなり感情というものがなくなってしまう。

 

その気持ちを持って城へ向かった。

 

約3km進むと城が見えてきたものの周りには毒の沼地があり迂闊に近づくと体を溶かしそうなくらいに毒々しかった。

 

「Oh…!これは進んだらスライムになりそうデース…」

 

「これ本当に進めるの…?」

 

「物は試しに…それっ!」

 

「うわっ!石が溶けてんじゃん!」

 

「このままここで進めないのですか…?」

 

「ここは萌仁香に任せてください!えーーーーーーいっ!」

 

萌仁香は自分の出番だと言わんばかりにハンマーを担ぎ強引に地面を叩き割った。

 

すると地響きだけでなく地割れも起きて地面が浮き出てそれをハンマーで叩き飛ばしたのだ。

 

沼地は強引に埋められこれで城に進めるようになる。

 

「どんなものよ!」

 

「萌仁香…あなたのその発想力は私も見習うべきかな…!」

 

「マジかよ…!スゲェパワーじゃんか!オレも負けてらんねぇ!」

 

「悔しいけど私よりパワーがあるわね…!もっと筋トレで追い込もうかしら…?」

 

「それよりも早く進みましょう…!この状態もきっと長くは持ちません…!」

 

「確かにそうだね…行こう!」

 

沼地は埋められたもののいくら分厚い地面でもいずれ沼地の毒で溶かされ気kky区元に戻ると踏んだ麻友美はみんなを催促し中に入る。

 

麻友美の計算通りに時間が経つと地面が溶けはじめ麻友美の計算力の高さにあかりたちは感心する。

 

ホッと一息ついた直後に中に入りエンプサーナを探す。

 

複雑に要りこんではいるけれど一方通行な構造なのですぐに玉座にたどり着く。

 

「ここが玉座だね…」

 

「ここにゲーツィスが座って指示を出していたんだ…!」

 

「だけどあのヤローの気配をまったく感じねぇ…!」

 

「もう!一体どこにいんのよ!」

 

「もしかしてこのパターンは…あのゲームに似ているのでは…?だとすれば…」

 

「麻友美ちゃん!?どうしてカーペットをはがすの!?」

 

「もしかしたら足元に隠し階段があると思うんです…!皆さんも協力してください…!」

 

「わかった。僕らも協力しよう」

 

こうしてあかりたちは足元をよく調べ隠し階段の行方を探す。

 

麻友美は過去にモンスタークエストことモンクエを経験しておりその経験を活かしてその攻略法を思い出す。

 

すると勘の鋭い麻里奈は足元に違和感を覚え一気にカーペットをはがす。

 

「ここが怪しいな…せーのっ!よいしょっ!あっ!隠し階段みーっけ!」

 

「本当に!?」

 

「ほらここ!」

 

「本当だ!」

 

「渡辺さん…君やるじゃないか!」

 

「えへへ…たまたまです…」

 

「そうとわかったら早速奥へレッツゴー!」

 

隠し階段を降りると一気に明かりがなくなり薄暗い廊下を進む。

 

不安になったあかりたちは何か明かりが欲しいと感じその辺で拾った木の棒に火をつけてたいまつを作る。

 

たいまつを持ったまま奥に進むが一向に前に進んでる感じがなく本当にこれで合ってるのだろうか、自分たちは迷ったのではないかと不安がよぎった。

 

しばらく歩いていくとピラミッド状の祭壇がありたいまつで周りを確認してもそこ以外に道がなく仕方なく登ることにした。

 

頂上まで登りきると突然周りのろうそくに火が付き何やら不吉な儀式が行われる雰囲気が漂った。

 

警戒態勢に入るとエンプサーナが近づきあかりたちにこう言った。

 

「よくぞ我が城に来た。お前たちの勇敢さとたくましさに免じて我が悪夢の儀式への参加を認めようぞ。悪夢こそ美しく人が未来を持つなど元々愚かしいのだ。現にこうやって人間共は欲に溺れ驕りそして絶望していくのだ。そしてまた深い罪を背負い無駄に生きていくのだぞ。そんな人間など存在する価値がないのだ。お前たちにその気があるのなら人間を無気力化し滅ぼした後に世界の半分をくれてやろう。どうだ、悪い話ではあるまい」

 

「究極の選択ね…!」

 

「みんな…!」

 

「あなたにとってはいい話かもしれないけど…人は夢を持つことで自分らしく生きる事が出来るのを私は知っているもん!あなたのように未来を奪って滅ぼそうとする奴に私たちは負けないから!」

 

「私だって挫折して絶望する事もあるわ!それでも頑張れるのはみんなの応援のおかげなのよ!その応援を無駄にしないためにあなたには負けないわ!」

 

「恋する事もくだらないと言うのなら…私はお前を絶対に許さない!恋をするからこそ人は発展し希望を持つことが出来るんだから!」

 

「臆病だった自分を変えるのもまた夢の一環だと思います…!きっかけってそんなに邪魔なんですか…?あなたを倒して…夢はくだらなくなんかない事を証明します!」

 

「よくもオレたちの夢をバカにしやがったな!テメェだけはぶちのめしてやらねぇと気が済まねぇ!オレの熱いハートを受けてみやがれ!」

 

「確かに挫折して苦しい事もやめたい事もあるよ!そこを乗り越えた先に未来があるんだからアタシらの未来の邪魔すんじゃねーよ!」

 

「それを奪うだなんて…アナタはCrazyデース!せっかくの夢の足を引っ張るなんてそんな悪魔みたいなことを見逃すわけにはいかないのデース!」

 

「あんたのせいで萌仁香たちは辛い思いをしたんだから覚悟しなさい!それに…加奈子先輩の仇を討ってみせるんだから!」

 

「いい話だと思うのだが残念だ…。ならばその愚かな心ごと打ち砕き何もやる気が出ないようにしてやろう!」

 

「みんな!諦めない気持ちを聞かせてくれてありがとう!どうか…僕らの分まであいつに勝ってくれ!」

 

「もちろんですプロデューサー!絶対に勝ってみせます!みんな!」

 

「うん!」

 

つづく!



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第72話 討ち取った

あかりたちは戦う意思を見せエンプサーナに立ち向かう。

 

秋山夫妻はあかりたちの後ろで見守りただ勝利する事を祈るだけだった。

 

エンプサーナはロングソードを片手に持ち十字を切るように何かを誓った。

 

「マイロード…。まず戦う前には武器で十字を切りそしてお辞儀をするのだ。騎士道精神で言っただろう」

 

「アイツ…騎士道を知っているんだね…!」

 

「わかりませんが…私たちも十字を切ってお祈りしお辞儀をしましょう…」

 

「わかった!マイロード…」

 

「ふむ、これで遠慮なく殺す事が出来るな。この祈りは死をも受け入れる戦いの祈りだ。貴様らもこの戦いに挑む覚悟は出来たと捉えておこう」

 

「だったら早く決着をつけるのデース!Fire!」

 

「ふふっ…その程度の弾で私を貫けるとでも?ふんっ!」

 

「Why!?」

 

「何だこの程度か。それなら私からいくぞ!ふんっ!」

 

「させるかっ!ふんがっ!」

 

「ひかりっ!」

 

「へへっ、勘違いすんなよ?もう二度と喧嘩が出来なくなるのは勘弁だからな!このままあの野郎に支配されたらオレたちの夢が叶わなくなっちまうからな!絶対にぶっ潰してやろうぜ!」

 

「Yes sir!ひかり!恩に着るデース!」

 

「だけどこの遠距離での威力…やっぱり悪夢の女帝はダテじゃないわね…!」

 

「だったらアタシがいくぞっ!当たれぇっ!」

 

「先ほどの銃の方が威力があった…」

 

「甘いっしょ!」

 

「むっ…?うっ…!」

 

「やったわ!」

 

「アタシはただの囮さ!本命は萌仁香の一撃ってワケさ!」

 

「貴様…なんて強引な…!」

 

「猪突猛進が私たちのポリシーなんだよね!私だって続くもん!」

 

「くっ…!」

 

「それは日菜子ちゃんやひかりちゃん、エマちゃんと麻里奈ちゃん、萌仁香ちゃんだからでしょ…?」

 

「あはは…加奈子先輩がいたら少し呆れるかもね」

 

「だが残念な事だ…。貴様らは考える力がない様だな。これでも喰らうがいい!ふぅんっ!」

 

「え…?うわぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

エンプサーナは剣なのにまるでサーベルを扱うかのように片手で真横に振り回しカミソリのような真空波が日菜子たちを襲った。

 

ギリギリのところでかわしたためかすり傷程度で済んだものの祭壇は真っ二つに割れその威力を思い知った。

 

あれで当たったらと思うとあかりたちは顔を青ざめこれで勝てるのか不安になる。

 

「そう驚くことではない。さすがにこの剣だと刀ほど切れ味があるわけではないからな。だがダークネスパワーで何もかもを切り裂けるほどの威力にして切れ味をカバーしているのだ。しかしこれをかわすとはさすがミューズナイツよ」

 

「はぁ…はぁ…!アイツはまだ息を切らしていないなんて…!」

 

「もう…何なのよアイツ…!」

 

「マジでキツイわこれ…!」

 

「エンプサーナの懐に入れさえすればきっと勝機は…。何か考えましょう私…。皆さん…あと少しだけ時間を稼いでくれませんか…?私はしばらく攻撃をやめます…」

 

「えっ?こんな時に何を言って…」

 

「なるほどね…わかった!私は麻友美ちゃんを信じるよ!」

 

「あかり…?」

 

「ええ…その方がよさそうね!」

 

「結衣まで何を言うのデス?」

 

「とりあえず麻友美の言う通りにしなさい。あの子には何か考えがあるのよ。きっとアイツの懐に入る隙を伺っているのよ。だから一旦休んで麻友美の得意な観察眼で相手のクセを見抜く作戦よ。これが上手くいけば…」

 

「何言ってるかわかんねぇけど要は時間を稼げばいいんだろ?」

 

「自分だけ逃げるとか楽をするだったら承知しませんからね?」

 

「麻友美はいい子デスからそれはないデース」

 

「だったら作戦変更だ!いくぞ!」

 

「うん!」

 

「ほう…一人を置いて攻撃を仕掛けるか。もうあやつは勝負を捨てたのか?」

 

「まだまだぁっ!」

 

「……。」

 

麻友美は一度大鎌を置いてエンプサーナのクセを見抜くことに集中する。

 

あかりと日菜子は接近戦に持ち込み萌仁香と麻里奈とエマが援護して結衣とひかりがパワーで押し通す。

 

エンプサーナも腕は二本のみなのでさすがにこの人数が一気に押し寄せると返り討ちにするのに手間がかかり徐々に押されはじめる。

 

それでも圧倒的ダークネスパワーであかりたちを圧倒し押し返しながら返り討ちにする。

 

すると麻友美は何かに気付き始める。

 

「これなら…今ならいけます!ヴァンパイアムーンサルト!」

 

「ぬっ…?ぐはぁっ…!」

 

「やりました…!」

 

「なるほど…エンプサーナは私たちよりパワーはあるけど連動性に欠けていて動きが鈍いんだ!」

 

「えっ!そうなの!?」

 

「ええ。筋力は確かに身体能力に欠かせないものだけど所詮は基礎的なものでパワーを上げれどそれを扱える連動性と柔軟性、そして持久力がないとせっかくの筋力も発揮できないの。パワーだけあってもそれを扱えるほどの技術としなやかさがなければ宝の持ち腐れなのよ」

 

「さすが筋肉オタク…。こういう知識はあるんですね…」

 

「萌仁香も毒を吐くようになったな…」

 

「ぐぬぬ…おのれぇっ!」

 

「こうなったら日菜子とあかりのスピードにかかってるわ!二人で決めてちょうだい!」

 

「オッケー!」

 

「わかった!」

 

「そうだ…あの時バレエと新体操の訓練をやったじゃん!アレをやろう!」

 

「アレだね!やってみよう!」

 

「うん!」

 

あかりと日菜子の武器は比較的軽くて扱いやすくしかも片手サイズなので走る事も飛ぶことも可能なのだ。

 

実際のレイピアとメイスは重くて現実では不可能だがドリームパワーという特殊な魔法を持っているのでそれが可能なだけである。

 

それでも現実離れした動きでバレエと新体操の動きを取り入れてアクロバットに動くとエンプサーナも徐々に目を回し始める。

 

「今だ!ローズスプラッシュカンタービレ!」

 

「ここで決めてやる!クラブクラッシュヴィヴァーチェ!」

 

「うっ…ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ…!」

 

エンプサーナはついにあかりと日菜子のスピードについていけずそのままレイピアで貫通されメイスで叩き潰された。

 

結衣と麻友美は念のために残心を示しまだ戦いは終わってないと身構える。

 

もう終わっただろうと安心した麻里奈と萌仁香は後ろに振り向いて一息つく。

 

ひかりとエマに至ってはハイタッチをするほどだ。

 

だがあかりと日菜子は討ち取ったにもかかわらずあまり気分はよくなかった。

 

それもそのはず…感触は討ち取ったとしてもあまりにもアッサリすぎるのだ。

 

真の黒幕がこんな簡単にやられるわけがないと考え込みあかりと日菜子はゆっくり後ろを見ながらみんなと合流する。

 

するとあかりと日菜子はさらに強大なダークネスパワーを察知しすぐに振り向いた。

 

「オーッホッホッホ!これでアタシを討ち取ったつもりかしら?おバカさんにもほどがあるわよ!アタシが見せる悪夢は世界一美しいのよ?アンタたちに見せてあげるわ♡」

 

「何よコイツ…?急に打キャラ変わって気持ち悪い…!」

 

「まるでオネエじゃん…!」

 

「いやエンプサーナは女だぜ…?」

 

「やっぱり簡単にはいかないよね…!」

 

「通りでアッサリすぎると思ったんだよ!まだ私たちの戦いは終わってないよ!」

 

「あら?アタシのダークネスパワーに気付いた子がいたのね。アンタたち二人はどうやら夢を見るだけじゃないみたいね。ならばその向上心ごと奪ってア・ゲ・ル♡」

 

「うげぇ気持ち悪い…!そのしゃべり方やめろ!何かムカつく!」

 

「そうよ!アンタのそのキャラは腹が立つのよ!もう怒った!覚悟なさい!」

 

「萌仁香!早まらないで!」

 

「ホントにアンタはおバカさんなんだから…。美しくない夢なんてこうするんだからっ!」

 

「きゃぁぁぁっ…!」

 

「萌仁香ちゃんっ!」

 

エンプサーナの第二形態に腹が立った萌仁香は挑発に乗り一気に突っ込んでしまいそのまま返り討ちにされる。

 

あかりと日菜子の悪い予感は的中し先ほどのパワー重視から結衣が説明した連動性と柔軟性も追加されよりパワーが増した。

 

おまけに筋肉質な女性からしなやかで健康的なスリムボディに変わり麻里奈も羨むほどのスタイルの良さだ。

 

ミューズナイツはエンプサーナ第二形態に勝てるのか?

 

つづく!



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第73話 悪夢の美

萌仁香はエンプサーナの口調による挑発に乗り簡単に攻撃を受けてしまう。

 

しかも前のようにパワーだけのものではなくしなやかさも兼ね備えている為よりパワーが最大限出るように活かされていた。

 

結衣はこうなる事を少しだけ恐れていたが、いざ本当にそうなると恐怖さえも感じた。

 

「さすがに弱点を分かっていないわけではなかったわね…」

 

「やっぱり女帝だからあえてパワー重視で様子を見たのかもしれない…」

 

「それよりも萌仁香!大丈夫デスか?」

 

「うう…大丈夫です…!」

 

「ハンマーの面積が盾になってマシって感じだね」

 

「よくも萌仁香を…許さねぇ!」

 

「オーッホッホ!おバカさんがアタシの挑発に乗っただけでしょう?夢見るおバカさんはアタシの美貌と悪夢に負けて無気力になればいいのよ!それともまだ悪夢を見足りないかしら?」

 

「一筋縄ではいかなさそうですね…」

 

「麻友美はさっきの頭脳戦でもう疲れているかぁ…。こうなったら私も頑張るよ!」

 

「日菜子に続けー!」

 

日菜子と麻里奈はいつものノリと勢いでエンプサーナに突っ込む。

 

しかしただ突っ込むだけでは当然エンプサーナには勝てない。

 

そんな事は二人もわかっていた。

 

だからこそ二人は二手に分かれて近づいて攻める。

 

「あら?その中でもとくにおバカさんがない頭を絞っているのかしらねぇ?慣れない事して頭が痛くなっても知らないわよ?」

 

「うっさい!アンタなんかに言われてもどうでもいいし!」

 

「それにバカで結構だよ!私たちはバカなりに考えてお前を倒すって決めたんだから!」

 

「何度挑んでも無駄なのよ!死になさぁい!」

 

「今だっ!ウィリアムテルショット!」

 

「きゃっ!」

 

「額に当たったっ!」

 

「ここで決めてやる!はぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「近づけたことは褒めてあげるわ!でも残念ね!アンタは地雷を踏んだのよ!」

 

「ふんだ!お前を狙ったわけじゃないし!」

 

「はぁ?じゃあ錯乱しちゃったのかしら?」

 

「エマ!」

 

「準備OK!Barn!」

 

「うぐっ…!」

 

日菜子はエンプサーナの視線をこっちに移るようにあえて空振りを狙いエマから視線を外させる。

 

すると今更気付いたエンプサーナはエマの弾丸に命中し胸から黒い血が流れだした。

 

だが五秒くらい経つと先ほど撃たれた胸と額は回復しあかりたちは絶望しかけた。

 

「ふん!ダメージを与えてくれたことは褒めてあげるわ!だけど残念ね…アタシの美しさは無限なのよ!故にどんなにダメージを与えても回復するから無駄よ!今度はアタシの番ね!死になさぁぁぁぁぁぁいっ!」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

エンプサーナの自動回復と同時に日菜子と麻里奈はカウンターを喰らい結衣とひかりが受け止めるもあまりの強さに体ごと押され後ろに追いやられる。

 

さすがの力自慢の結衣とひかりでさえ支えるのが精いっぱいで最終的に圧し掛かられるように後ろへ倒れ込む。

 

あかりとエマに起こされて立ち上がり次はどうするか作戦を考える。

 

すると麻友美はまた何かひらめいた。

 

「スピードとパワーで敵わないなら…今度は体力勝負にしましょう…!」

 

「体力勝負…?」

 

「この中で体力があるのは恐らく…ひかりさんと結衣さん…そしてエマさんですね…。ひかりさんはストリートバスケで鍛えた俊敏性…。結衣さんはトレーニングで鍛えたパワー…。そしてエマさんは最近チアリーディングを始めたらしいですね…?」

 

「応援団デスからチアガールも練習してるのデース」

 

「そのしなやかさを活かしてエンプサーナに奇襲をかけましょう…。それに二人のパワーならアクロバットな動きもサポート出来るはずです…。エマさんのその銃口にある銃剣に全てがかかってます…」

 

「だったらさっさとやろうぜ!」

 

「ダメよ!やるとしてもタイミングがバレたらエマだけがダメージを受けるわ!その為に対策を考えないと…」

 

「心配いりません…。私とあかりさんが援護します…。幸い私は休んでから体力も残っていますし最近トレーニングを始めてから基礎体力だけはついてきましたから…。頼りない私ですが…たまには頼ってもいいんです…」

 

「麻友美…成長したわね…。だったら私とひかりでエマをサポートしましょう!」

 

「背中を預けるデス。失敗したら恨みマスからね?」

 

「うるせぇ!少しは普通の頼み方しろよな!でもやってやるぜ!いくぞ!」

 

「うん!」

 

萌仁香と日菜子、そして麻里奈は負傷していて動けないため残りの動けるあかりと麻友美が援護に入りひかりと結衣が一撃必殺のエマの土台になる。

 

エマは重大な役割なためイギリスの英雄に祈りを捧げ心の準備をする。

 

あかりと麻友美はエンプサーナに立ち向かい攻撃を仕掛ける。

 

「アンタたちがアタシの悪夢の美に酔いしれるのね!アタシの手で永遠に眠り悪夢にうなされなさい!」

 

「そんなことさせないもん!私たちの夢は私たちが決めるんだ!」

 

「悪い事が美だなんて私たちは嫌です…!もっと自分を信じ…あなたを倒します!」

 

「無駄なあがきはおやめなさい!ふんっ!」

 

「きゃぁっ!」

 

「乗ったデース!」

 

「こっちも準備できたわよ!」

 

「一気に上に飛ばすぞ!せーのっ!」

 

「それっ!」

 

「いけ!エマ!」

 

「Yes sir!」

 

「ふぅ…やれやれね。おとなしく悪夢の美に酔いしれればいいものを…」

 

「どこを見ているのデース!?」

 

「え…?」

 

「アナタはちょっと集中しすぎて周りが見えないのが弱点デース!やっぱり目が前にある以上は視野が狭いデスか?」

 

「しまっ…」

 

「それっ!」

 

「ぐはっ…」

 

「やった!銃剣で喉を刺した!」

 

「Non non…近づいたのはエマだけじゃないのデース…」

 

「え…?結衣ちゃん!ひかりちゃん!」

 

「頭からかち割ってやるよ!ダイナマイトボンバー…エネルジコ!」

 

「味方の背中を預けても敵に背中を見せさせる!それが私の作戦よ!スカーレットラッシュ…アパッシオナート!」

 

「ぐはぁっ…!」

 

「とどめはエマデース!喉ごと吹っ飛ぶのデース!オーシャンバーン…アジタート!」

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ…!」

 

エンプサーナの第二形態は断末魔も美しくそのまま散っていった。

 

ひかりとエマはハイタッチをし結衣はホッと一息つく。

 

あかりと麻友美もさすがに安心し座り込みながらもすぐに立ち上がって萌仁香たちの元へ行く。

 

ところが…悪夢はまだ終わってなかったのだ。

 

突然黒い雷が一カ所に集中して落ち次第に黒い炎が燃え盛ると祭壇は崩れ落ち城も崩壊していった。

 

あかりたちは急いで脱出し負傷者を手分けして運んで外に出る。

 

するとエンプサーナは巨大化し身体は美しく仕上がり服装は王子様のようなきらびやかな服装からプレートアーマーになり背中からドラゴンのような翼、口元は吸血鬼のようなキバ、ツメは人狼のように鋭く目はメデューサのように石にしてしまいそうな目つきだった。

 

プレーとアーマーといっても所々錆びていて欠けているところもあり完全に守られているわけではなかった。

 

それでも頑丈そうな鋼鉄の身体で守られもはや騎士王という風格さえあった。

 

エンプサーナは雄叫びを上げながらあかりたちを挑発する。

 

「ふははは!愚か者どもめ!これで終わりだと思ったか!私の悪夢には終わりがないのだ!せいぜい夢見る乙女ぶって悪夢という現実に絶望するがいい!そして己の罪深き行動を後悔するがいい!」

 

「まだあるのデース!?」

 

「もういい加減しつこいぞ!」

 

「早く終わらせたいわね…」

 

「うう…」

 

「日菜子ちゃん!萌仁香ちゃん!麻里奈ちゃんも大丈夫!?」

 

「えへへ…。このくらいでくたばったりしないよ…」

 

「萌仁香たちを誰だと思ってんのよ…?」

 

「アタシらだって夢と未来の騎士なんだ…。そう簡単に死なないって感じ…?」

 

「皆さん…!諦めるのはまだ早いです…!どんなに壁が厚くても…壊せない壁はありません!壊せなかったとしても途中で諦めるか…壊す方法を知らないかだけですから…諦めずにエンプサーナを倒しましょう!」

 

「麻友美…!」

 

「うん!いこう!」

 

つづく!



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第74話 復活

エンプサーナは第三形態になって巨大化しミューズナイツの大きな脅威となる。

 

その姿はまるで悪夢をリアルで見ているような感覚でありながらあかりたちは怯まずに挑む。

 

武器をギュっと握りしめ戦線離脱している加奈子の事を思い出す。

 

「まだ先輩は回復してないと思う。ここで先輩抜きでも勝てるってことを証明しよう!」

 

「りょ!アイツを倒して人々に夢を見る素晴らしさとそれを叶えるためにどうすればいいかを考えてもらおう!」

 

「無駄なあがきをまだやるかミューズナイツよ!思えば奴らも貴様らと同じ目をしていたな!忌々しいその目をぶっ潰し二度と夢など見れないようにしてくれるわ!」

 

エンプサーナは女性とは思えない禍々しい声を出しミューズナイツを威圧する。

 

今回は巨大化して武器を持つ必要がないのか素手で攻撃を仕掛け圧倒的なパワーを見せつける。

 

あまりのパワーに地響きが起こりユメミール王国に大地震が起きた。

 

「何てパワーなの…!このまま地響きを起こされたら大地震で国が滅んじゃう…!」

 

「そんなことさせっかよ!オレたちがこの国とオレたちの世界を守るんだぞ!」

 

「それにまだみんなに助けてもらったお礼をしていないしね!」

 

「秋山プロデューサーたちは遠くに避難してください!こればかりはプロデューサーたちには手に負えません!」

 

「そ、そうするよ!みんな!絶対に生き残ってくれ…!」

 

「はい!」

 

「行かせるわけがなかろう!女王夫妻をここで葬ってやるわ!」

 

「プロデューサーや女王さまを守るわよ!」

 

「うん!」

 

秋山プロデューサーとヴィオラ女王を守るべくあかりたちは遠くに逃がす作戦を決行する。

 

エンプサーナは女王やミューズナイツの育て親を放っておくわけにいかず先に葬ろうと手を出す。

 

そこで萌仁香のハンマーがさく裂し足元を揺らしてバランスを崩させる。

 

エマも麻里奈もドリームパワーを最大限に発揮させ今まで難しかった連射をする。

 

あかりと日菜子、麻友美の接近戦組はジッとチャンスを狙っている。

 

ひかりと結衣のパワー派も一撃必殺のチャンスを伺った。

 

だが近接組の思いもむなしくエンプサーナの隙のない攻撃に徐々に押されていく。

 

「ふははは!どうしたミューズナイツ!お前たちのパワーは口だけか?」

 

「やっぱり強い…!」

 

「私たちで本当に勝てるのかな…?」

 

「あかり先輩!弱気になっちゃダメでしょ!」

 

「そうデース!あかりらしくないデース!」

 

「ここで諦めたらアタシらの夢は誰が叶えるのさ!」

 

「そうだった…!諦めたら私らしくないよね…。もうアイツのダークネスパワーに負けない!」

 

「ならばこれはどうかな?」

 

「うっ…!」

 

「あかり!」

 

あかりのやる気に気付いたエンプサーナは額にある第三の目を開いて強引に眠らせる。

 

あかりはしばらく眠りにつき起きる雰囲気がないのであかりも戦線離脱する事になった。

 

戦いを続けているとあかりの様子がだんだんおかしくなりしまいにはうなされるようになった。

 

「うう…!うう…!」

 

「結衣!あかりの様子が変だよ!」

 

「何ですって…!?」

 

「何だか苦しそうです…!まるで悪夢を見せられているような…!」

 

「いや…!みんな…!死なないで…!お願い…!」

 

「あかり…!」

 

「……。」

 

「萌仁香…?」

 

あかりの悪夢に見かねたのか萌仁香はあかりに近づいて何かアクションを起こそうとする。

 

手を出さないか不安になった麻友美は念のために近づいて様子を見る。

 

寝言に声をかけてはいけないと聞いたことがある日菜子は必死に萌仁香を止めようとするが結衣によって止められる。

 

すると萌仁香はあかりを無言で強く抱きしめて頭を撫でる。

 

「うう…!」

 

「……。」

 

「萌仁香…」

 

「あかり先輩はいつだって優しすぎるんですよ…。いつも萌仁香たちの事をきにかけてさ…。本当にムカつくくらい優しくて気が利いて…萌仁香たちはアンタから学んでばかりなんだから…。あかり先輩の悪夢を正夢にしないためにもここを乗り切りますよ!」

 

「オッケー!」

 

「エンプサーナ!よくもあかり先輩を苦しめたわね!その落とし前をつけてもらうんだから!」

 

「やれるものならやってみるといい!」

 

「前田さんは僕が運ぶよ!」

 

「お願いします!」

 

秋山プロデューサーは鍛え抜いた体であかりを抱きかかえヴィオラ女王と共に遠くへ走っていった。

 

結衣たちはあかりと加奈子抜きにして戦うので大事な主力が抜けてモチベーションが下がるところを逆に燃えていた。

 

だがエンプサーナの圧倒的力を前に主力なきミューズナイツは苦戦を強いられる。

 

その翼で風お越しを起こされ立ち上がるので精一杯で鋭いツメで引き裂かれそうになり丈夫なプレートアーマーに攻撃も通じなかった。

 

「どうしたらアイツを倒せるんだよ!」

 

「こうなったら気合いと根性だろ!」

 

「あまりいい響きじゃないけどそれしかなさそうね!」

 

「エマたちのドリームパワーを見せる時デス!」

 

「皆さんと一緒なら負ける気がしません…!」

 

「よーし!底力を見せてやろう!」

 

「先輩たちの分も萌仁香も頑張るんだから!」

 

「ミューズナイツ!」

 

「レッツミュージック!」

 

心を一つにするべく掛け声をかけ気合いを入れ直す。

 

いつもは理性派の結衣は果敢に自ら前に出てリーダーとしてみんなを鼓舞した。

 

日菜子は大好きな彼氏やみんなを思い浮かべ絶対に負けられないと闘志をむき出しにする。

 

ひかりはいつもの力任せではなく仲間のアシストに専念しいざという時に一撃で決めるチャンスを待った。

 

麻友美もいつものネガティブさはなくなりどうすれば攻略できるかを考えた。

 

麻里奈もノリと勢いだけでなく弱点を突くためにどこを射抜けばいいかを観察する。

 

エマはいつもの毒舌は鳴りを潜めいかに効率よくダメージを与えるかに集中する。

 

萌仁香はあかりの事を気にしながらも助けられたお礼と言わんばかりに気合いが入る。

 

だがエンプサーナのその頑丈なプレートアーマーを簡単に攻略できるほど甘くはなかった。

 

攻め続けて体も徐々に体力が失われ精神力だけで戦うのも限界があったのだ。

 

「もう終わりか?ならばここでとどめをさしてやろうぞ!死ねっ!」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ…!」

 

「ドリームパワーなどというくだらない魔力は偉大なるダークネスパワーには敵わないのだ!もう無駄なあがきをやめて「ここで永遠に眠るといい!」

 

「ここまでなの…?」

 

「このまま私たちは…」

 

「負けてしまうのですか…?」

 

「ちくしょう…!」

 

「死にたくないよ…!」

 

「諦めたくないのに…」

 

「もう身体が…」

 

「そろそろ悪夢にうなされ徐々に苦しみ死ぬといい!さらばだミューズナイツ!」

 

第三の目が開こうとした瞬間だった。

 

突然大きな竜巻が一直線にエンプサーナの第三の目を貫通しエンプサーナはこの世のものとは思えない大きな悲鳴を上げてのたうち回った。

 

結衣たちは何が起こったのかわからず呆然としていると見上げたら加奈子が颯爽とやってきたのだ。

 

「みんな…お待たせ!」

 

「加奈子…先輩…?」

 

「これは夢デスか…?」

 

「いや…痛みはあるから…」

 

「加奈子先輩が帰ってきたのですね…!」

 

「もう…遅いわよ…バカ…!」

 

「おかえりなさい…先輩…!」

 

「酷い傷だね…。私に任せて!Ah~…」

 

「傷が回復している…!」

 

「加奈子先輩の歌声って癒される…!」

 

「ぐぅぅぅ…おのれぇぇぇぇぇぇっ!」

 

「私はユメミール王国の第一王女!そして選ばれし夢と未来の騎士ミューズナイツの秋山加奈子!あなたを倒して世界に平和をもらたらしてみせる!」

 

つづく!



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第75話 影の騎士ボリュムニア

第三形態のエンプサーナに苦しんだ結衣たちだったが加奈子が復活の援護をしエンプサーナに大ダメージを負わせることに成功する。

 

第三の目は完全に潰されもう悪夢を強引に見せる事は出来なくなった。

 

加奈子は着地して一息つくと結衣たちは嬉しそうに駆け寄る。

 

「加奈子先輩!おかえりなさい!」

 

「うん、ただいま」

 

「本当に心配したんですからね!バカッ!」

 

「もう大丈夫なんですか…?」

 

「うん、もう大丈夫だよ。それよりもあかりはあの第三の目にやられた感じかな?」

 

「そうなんですよ!あの目を潰さなかったらアタシらの誰かがどうなったことか…」

 

「でも回復するの早かったデスネ。何かあったのデスカ?」

 

「話せば長くなるけれど…」

 

加奈子はなぜこんなにも早く復活できたのかのいきさつを結衣たちに話す。

 

そこには初代ミューズナイツの残りの一人であるボリュムニアが絡んでいたのだ。

 

~回想~

 

加奈子がまだ重傷を負って動けず病院にいたあの時…加奈子は突然意識を失うかのように深い眠りについた。

 

でも不思議と死への不安はなくどこか懐かしい雰囲気で身体も軽くまるで浮いているかのようだった。

 

するとそこにはまだ中世ヨーロッパ風で古い建物が並んでいる町に着きまだ新築されたユメミール城が後ろにあった。

 

そう…そこは夢の国だったのだ。

 

「ここって確か…三年前に私が試練を突破したときと同じだ…」

 

加奈子はあまりの懐かしさに思い出に浸ったと同時に苦しかった試練の事を思い出した。

 

そしてあの時の感覚を思い出すべく街を散策しもう一度ボリュムニアに会えるのではないかと淡い期待を寄せた。

 

しばらく歩いていると花畑で小鳥と戯れている美しい女性が立っていた。

 

「あの姿は…まさかボリュムニアさん?小鳥と遊んでて邪魔したらマズいかな…」

 

「ララララ~…♪」

 

「やっぱりボリュムニアさんの歌声は美しいな…。まるで聴く人の心を穏やかにすると同時に燃え上がる感じがするよ…」

 

「ふぅ…。そこにいるのはわかっているよ加奈子。しばらく会わないうちにたくましくなったね」

 

「お久しぶりです。もうあれから三年でしたっけ?アクムーン帝国は私たちの手で討伐しましたよ」

 

「うん、わかってるよ。でもまさか私たちでさえ封印するのに苦戦したエンプサーナが復活するとは思わなかったけど」

 

「それは…」

 

「あなたは仲間を庇って重傷を負い魂が霊界とリンクしてしまった。その結果ここに来てしまったんだよ。でも安心して、あなたは死なないから」

 

「はい、わかりました。それで…後輩たちは今どうしてますか?」

 

「エンプサーナを連携で苦しめているけどまだ真の姿を隠している感じだね。私たちミューズナイツが戦った時はもっとおぞましくて大きくそして第三の目を持っていたよ。その第三の目は人を強引に眠らせるだけでなく悪夢を見せてドリームパワーを奪い感情というものを奪うんだよ。もしその第三の目と目が合ったら…死ぬよりも苦しい思いをして最終的に行き絶人形となり廃人化するんだよ」

 

「そんな…!だったら早くみんなと合流して助けないと…!」

 

「どうしてそんなに焦るの?あなたはまだ回復しきれていないし今行ったところで足手まといになるだけだよ?」

 

「うっ…!」

 

「思い出して…?あの時の厳しかった試練を…」

 

「あの時の試練…!そういえば…壮大な人生を迎えるには自分らしくしつつ他人と協調し…合わなければ無理に合わせず自分を強く持って考えて前に進む事…。そうすれば人生は壮大な運命に巡り合い私自身を変えてくれる…!」

 

「今あなたが仲間たちに慕われてあなたのために戦っているという事は、あなたが今までやってきた信頼を築き上げてここまで来たんだよ。たとえあなたがいなかったとしてもあなたと一緒に戦っているんだよ。あなたにとって壮大な運命は…最高の仲間とベストな状態で戦い勝利する事。そして…人々に夢を与え未来を創り上げつつ自分を犠牲にせず日々成長する事。それがあなたのやるべき事だと私は思うよ」

 

「わたしがやるべきこと…!それは身体が回復するまでにちゃんと休んで心も強く持ち最後にはみんなと一緒に戦って勝利し笑顔で帰るんだ…!

 

「なら今は無理しない事だよ。それに…あなたの回復力には驚いたよ。今まで安静にした分、ドリームパワーが蓄積されて心身を強くしたと同時にまた試練突破の時よりもドリームパワーが大きくなってる。それにさっき思い出したことでさらに回復スピードが上がっているよ。きっとミューズさまがお力を分け与えてくれたんだよ」

 

「ミューズ…!じゃあ女神さまが私に力を…?」

 

「ユメミール王国には聖堂があってそこでミューズに祈りを捧げているからちゃんと感謝を伝えて祈っておいで。さぁもうすぐあなたは目覚める時間だよ。明日にはもう完全に動けるはずだからそれまで安静にしててね」

 

「はい!」

 

「じゃあ私は霊界に還るからあなたはこの世でもう一度夢を与えられる存在になっておいで。私はミューズさまの元で見守っているよ」

 

「ありがとうございます!また会いましょう!」

 

こうして三日間の入院生活を終え完全に動けるようになったことに先生と看護師は驚きリハビリの先生もリハビリの必要がないくらいに回復したことを奇跡と呼んだ。

 

退院してすぐに加奈子はユメミール王国に向かいサイリウムで変身して入り口に入る。

 

すると移動中に秋山プロデューサーとヴィオラ女王があかりを背負って走っているのが見える。

 

加奈子は両親に気付き声をかけた。

 

「パパ!ママ!」

 

「加奈子!?もう動くのか!?」

 

「うん!この通りだよ!それよりも…あかりに何があったの?」

 

「実はこの子…エンプサーナの第三の目を見てしまって眠ってしまったのよ。そしたら時間が経つにつれてうなされるようになって苦しそうなの。今も…」

 

「いや…死なないで…!みんな…!」

 

「酷い…!そうだ…ママ!王家に伝わるあの歌なら悪夢から目覚めるかな?」

 

「わからないけど…やってみましょう!」

 

「いくよ…!ラララ~ララ~…♪」

 

加奈子はあかりの隣で歌うと周りの木々に潤いが出て荒野だった大地に芽が出て空は少しだけ明るくなった。

 

秋山プロデューサーも加奈子の歌声に魅了され涙を流すほどだった。

 

するとあかりは目を覚まし何が起こったのか状況の整理がつかなかったのか少しだけ寝ぼける。

 

「あの…ここは…?そうだ…!エンプサーナは!?」

 

「目が覚めた?あかり」

 

「加奈子先輩…?どうしてここに…?まだ夢の中ですか…?」

 

「あかり、あなたはエンプサーナの額にある第三の目を見てしまって眠りについたんだよ。そして悪夢を見ているのかかなりうなされてて苦しそうだった。何で私がいるかの説明は後だよ!早くみんなと合流しよう!」

 

「は、はい!」

 

~回想終了~

 

「そんな事があったんだ…!」

 

「それともう一つ…ほら!」

 

「みんな!心配かけてごめんね!」

 

「あかりさん…!」

 

「おー!もう大丈夫なの?」

 

「もう大丈夫だよ!加奈子先輩に助けられたんだ!」

 

「まったく…二人とも萌仁香に心配かけさせて!バカバカっ!バカーっ!」

 

「まぁいいじゃないの。これで全員揃ったしエンプサーナも弱っている頃だから今がチャンスよ!」

 

「ここは私に任せて!王女としてこの力…受けさせてみせる!ワルキューレタックル…グランディオーソ!」

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ…!」

 

「やった…!今度こそ…」

 

「いいえ!まだよ!奴はまだ浄化していないわ!」

 

「うぐ…ぐお…!おのれ…ミューズナイツ…!身体が…身体が崩れていく…!もう許さんぞ…!貴様ら全員殺してやるぞ…!」

 

「なんつー執念なのよアイツ…!」

 

「あまりにもタフすぎてもはや尊敬するよ…」

 

「もう早く決着つけたいデース!」

 

「三日間も戦ったんだ…。本当に頼もしい後輩だなぁ…」

 

「三日も…?じゃあ私たちは人間界でいうと三日も戦ってたんだ…!」

 

「どうやらそうみたいです…!」

 

「でも何でかな…府仕事腹も減らないし眠くもないぜ?」

 

「きっとこれはミューズが私たちに力を与えたんだよ。世界に夢と未来をもたらしてって…」

 

「加奈子先輩…!一時離脱した私が言う事じゃないけど…みんなで勝って笑顔で帰ろうね!」

 

「うん!」

 

つづく!



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第76話 帰ろう

ミューズナイツが心を一つにしエンプサーナとの戦いに決着をつけようとする。

 

エンプサーナは崩れかけの体で悪あがきして剣を強く握りしめて抵抗する。

 

さすがにプレートアーマーもボロボロになりいつ剥がされてもおかしくない状態だ。

 

あかりは自分の武器では切っ先が細くて無理だと判断し一歩下がってみんなに指示を出す。

 

「みんな!私のレイピアじゃあとてもじゃないけどエンプサーナの頑丈な装備を貫くことは無理だと思う!だからみんなは装備を剥がすようにしてほしい!私はみんなが剥がしやすいように援護に集中するから!」

 

「確かにあかりのレイピアだと威力は強いけどあのプレートアーマーじゃまともなダメージは通らなさそうね…」

 

「それなら私のメイスと…」

 

「オレのこの斧で…」

 

「ちょっと!萌仁香のハンマーも忘れないでください!」

 

「大鎌ならある程度リーチもありますから奇襲にもいけます…」

 

「それに私もハルバードだからある程度殴打出来るわね」

 

「私もランスで突き刺す事も出来るし」

 

「アタシのクロスボウなら牽制になるだけじゃないし」

 

「エマもマスケット銃なら威力も十分デス」

 

「でもやっぱりドリームパワーが最も大きいのはあかり…あなたよ」

 

「私…?」

 

「あなたに最後の一撃を託すわ。私たちはあの装備を剥がしいつでも必殺技を放てるようにしましょう!」

 

「うん!」

 

「じゃああかり!援護を頼んだよ!」

 

「うん!任せて!やぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「ぐご…無駄だ…!我の身体にダメージなど通らぬ…!この鎧がある限りな…」

 

「だからって攻撃をやめたりしないよ!隙間からいっけぇぇぇぇぇっ!」

 

「なっ…ぐふっ…!」

 

「そうか!レイピアは突き刺すだけじゃなくて一応斬る事も出来るんだっけ!?」

 

「だから一撃必殺よりも鎧の隙間を突いて動きを封じるのデスネ!」

 

「これならいけます…!ゴーストロック!」

 

「なっ…体が動かぬ…!」

 

「さっすが麻友美!」

 

「これで狙いが定まったって感じ!いっけぇぇぇぇぇっ!」

 

「Fire!」

 

「ぐごごぉ…!」

 

「まだ終わらないよ!これでもくらえっ!」

 

「いくわよ!ドッカーン!」

 

「ぶっ飛ばしてやるぜぇっ!」

 

「あなたを倒して世界に未来を与えるのよ!」

 

「ぐがぁ…!」

 

あかりたちの猛追がエンプサーナを襲いついに鎧も錆びてきていつ剥がれてもおかしくない状態になった。

 

このままならいける……そう思った瞬間だった。

 

エンプサーナは苦しみながらも瞑想して何かを唱え始めた。

 

まだ攻撃をしていない加奈子は攻めようとしたがエンプサーナの不審な動きを見て攻撃を中断しみんなに叫ぶ。

 

「みんな!早くエンプサーナから離れて!嫌な予感がするんだ!」

 

「えっ…?」

 

「もう遅い!ここで地獄の悪夢にうなされてるがいい!アトミックナイトメア…ビッグバン!」

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ…!」

 

エンプサーナは自分の体力を犠牲にしミューズナイツもろとも心中して亡き者にしようと爆風に巻き込んだ。

 

その爆発はあまりにも大きく周りの町は爆風と炎で完全に破壊された。

 

ミューズナイツはそれを至近距離で被爆してしまいもう終わりかと思った…

 

「あれ…?私たち確か爆発に巻き込まれたんじゃあ…?」

 

「そうよね…?でも何で無事なのかしら…?」

 

「おいっ!あれを見ろっ!」

 

「え…?」

 

「しかも聞こえますか…?あの美しいオルガンの音色と混声合唱の声が…」

 

「Yes…聴こえマス…」

 

「もしかしてあれが…私たちミューズナイツに力を与えたミューズ…!?」

 

「皆さまの後ろを振り返りつつも前に進む姿勢と過去を受け入れつつも未来に希望を持つ心…しかと見届けました。ミューズナイツは元々私が生み出した子どもたちで結成されたのです。そしてその我が子たちの意志を受け継いだ子孫たちが何代もいました。そしてあなたたちは我が子たちを越えエンプサーナを最後まで追い詰めました。私の力を持ってしても敵わなかった彼女に…です。さぁミューズナイツよ…私が編み出した最後の必殺技を放ちなさい。今のあなたたちのドリームパワーなら出来るはずですよ。その名は…ミューズナイツドリーミンググランドフィナーレです。心を一つにしつつ未来の自分を想像し描き出しながら祈りを捧げダークネスパワーにぶつけるのですよ。さぁお行きなさい愛する後継者たちよ…」

 

こうして突然現れた女神ミューズはあかりたちにドリームパワーを分け与えて天に昇っていった。

 

あかりたちはあまりの神々しさに見惚れ戦っていることすら忘れてしまいそうだった。

 

そして最後の力を分けてもらい心身共にドリームパワーが漲ってきた。

 

エンプサーナは自分を封印した忌々しい記憶がよみがえり発狂する。

 

「おのれミューズゥゥゥゥゥゥゥゥッ…!貴様がいなければ人間共から夢と未来を奪い感情をなくし…無気力な人形として駒にする計画がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ…!」

 

「ミューズ…ありがとう…。みんな!心を一つに祈りを捧げよう!」

 

「はい!」

 

「ぐが…うごぉぉぉぉぉぉぉっ…!」

 

「エンプサーナ!ここで全て終わらせて…私たちはみんなと一緒に元の世界に帰るんだ!そして…人々に夢を見て叶える素晴らしさをまた伝えに行くんだ!だから…ネガティブな夢なんて出ていって!」

 

「ミューズナイツ!ドリームパワー…グランドフィナーレェェェェェェェェェェェェッ!」

 

「くっ…こんなもの…!ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ…!」

 

あかりたちが祈りを捧げて現れたのは光で作られたプレートアーマーの大男の騎士で両手剣をエンプサーナを突き刺そうと切っ先を向け閃光を放った。

 

一方のエンプサーナは崩れかけの体で受け止め弾き返そうとする。

 

あまりの粘りにあかりたちも疲弊しいつ光の騎士が消えてもおかしくはなかった。

 

あかりたちは今一度自分たちの夢を浮かべ思いを全力で叫ぶ。

 

「私の夢は!アイドルになってみんなに私の歌を聴いてみんなの未来の懸け橋になる事!そして自分自身の未来の架け橋も作って世界中に夢と未来を与えるんだっ!」

 

「私はこのアイドルを卒業したら本格的にもう一度女優になって芝居を通じて新しい自分に出会う事よ!そうすれば新しい道が切り開かれ進路に悩むみんなの手本になれると信じているんだからっ!」

 

「私は大好きな彼と結婚して…子どもを産んで幸せな家庭になる事!それと同時に歌手としてたくさん彼と歌を作って音楽は素晴らしいんだと世界中の人々に思わせる事だっ!」

 

「私はネットアイドルを続けつつコスプレも出来る声優になって…日本のアニメは世界一だという事を証明したいです…!日本が誇るアニメとゲーム文化は…私自身でもっと素晴らしいものだと伝えてみせますっ…!」

 

「オレは少しでも女らしくなろうと思ったがそれは違ったんだとみんなを見て気付いたぜ!オレはオレらしく自分を貫いて最高のストリートダンサーになってオレのダンスで世界中を熱くさせてぇっ!」

 

「アタシはもう太ってて暗かった頃の自分を思い出しながらもっと健康的にスタイルをよくしてパリコレなどファッションショーで入賞する!同時に自分だけのファッションブランドを立ち上げてオシャレを極めてやるっ!」

 

「エマはもう一度仲間たちを集めてバンドを再結成するのデース!だからその再結成を信じてみんな日本に来れるようにして資金を集めるために…世界一のギタリストになってエマともう一度やりたいって思わせるデース!」

 

「私はアイドルを引退したら世界中を旅してアイドルの原石を見つけ出しそれを育ててアイドル最盛期を創り上げるんだ!パパを越えるプロデューサーになってもっと世界中のみんなの事を知りたいっ!」

 

「萌仁香はまだ新しい将来の夢はないけど…こんな自分をもっと好きになっていつかは芸能界を席巻するほどの影響力のあるタレントになってみせるんだからっ!」

 

「私たちの夢も…」

 

「「みんなの夢も…」」

 

「「叶えてみせるっ!!はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」

 

「ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ…!」

 

こうしてエンプサーナは最後の切り札に飲み込まれてついに朽ち果てる。

 

あかりたちは最後の切り札を使った反動で崩れ落ちしばらく動けなかった。

 

果たしてあかりたちの運命は…?

 

つづく!



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第77話 三姉妹

最後の必殺技を放ったあかりたちはエンプサーナにとどめの一撃をぶつける。

 

エンプサーナは直撃してもう立つことも出来ないがそれでも這いつくばって悪夢への執念を見せた。

 

だがもう既に限界を超えていて立つことが出来ずそのまま倒れ込んだ。

 

その大きな体が倒れた瞬間に大きな地響きが鳴る。

 

あかりたちはその巨大さを思い知ったが勝利を確信した。

 

だがエンプサーナは虫の息ながら不気味に笑いはじめる。

 

「ク…クク…クククク…!」

 

「何がおかしいの…?」

 

「ミューズナイツよ…よくぞこの我を倒したな…。夢への執着と未来への希望を最後に見届けたぞ…。だがひとつ残念だったな…。我を倒したところで世界は絶望に包まれることには変わらぬ…。何せ私は絶望三姉妹の一人…一番上の姉なのだ…。」

 

「何が言いたいんだよ…?」

 

「ククク…わからぬか…?つまり人間に絶望を与えているのは我だけではない…。今頃東京には次女のアンゴル・モア…。京都には末っ子のホロビノミコが世界を絶望に陥れているのだ…」

 

「何ですって…!?」

 

「そんな…!」

 

「我の肉体が滅びても…絶望三姉妹を全員討たぬ限りはこの世界に明日はない…!ふははははははっ…!ぐふっ…!」

 

そう言い残してエンプサーナは雄叫びを上げて朽ち果てていった。

 

こうしてユメミール王国に平和は戻ったものの人間界にはまだエンプサーナの妹たちが残っていた。

 

今から討伐しに行きたいが先程の戦いで完全に疲れ果ててしまいそのまま倒れ込んだ。

 

それから七日間が経ち、目を覚ますと城の救護室にいた。

 

「みんな…!聞こえるかい…?」

 

「ん…プロデューサー…?どうしてここに…?確か避難していたんじゃあ…?」

 

「先ほど大臣が君たち全員が倒れているのを見てすぐに馬車を呼んで知ろまで運んでくれたんだよ…。君たちは本当に僕の想像の遥か上を行くね!」

 

「あなたたちは私たちのご先祖さまでさえ封印するのに精一杯だった悪夢の女帝エンプサーナを完全に倒しこの国の平和を取り戻したのよ!」

 

「でも…まだ戦いは終わってないです…!東京にアンゴル・モアが…京都にもホロビノミコが…」

 

「その心配はないよ!君たちが倒れてから謎の女の子たちがどちらも倒してくれたんだ!こんな傷だらけの状態で救援に行く必要がなくなったんだ!」

 

「そう…なんですか…?ああ…意識が…」

 

「しっかりするんだ!前田さんっ!」

 

「あなた!きっとあの子たちはエンプサーナが最後に何を言ったかわからないけど…さっきの関係者が倒されたと聞いて力みが取れただけよ」

 

「うーん…だといいんだけどね…」

 

「女王さま!国民たちにそろそろ奪還のスピーチを!」

 

「ええ…そうね。それじゃああなた、行ってくるわね」

 

「ああ、行ってらっしゃい。この子たちは僕が見ているよ」

 

あかりたちはアンゴル・モアやホロビノミコが何者かによって倒されたと聞き安心して力が抜け全員眠ってしまった。

 

ヴィオラ女王は国民たちにユメミール王国の奪還とミューズナイツは永遠の英雄として祀るようにスピーチを行う。

 

「皆さん、この度は長く辛い経験をなさった事…私の力不足で王国がアクムーン帝国に奪われた事をお詫び申し上げます!ですが…この幾度の戦いによってユメミール王国を奪還しただけでなく、九人の騎士たちによって外の世界である人間界に夢と未来を与えそして守り抜きました!今その騎士たちは長い戦いで疲れ果てて眠っていますが…ここにユメミール王国の再建を宣言します!」

 

「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「女王陛下ばんざーい!」

 

「ミューズナイツばんざーい!」

 

「みんな…みんなのおかげでこの国は平和になっただけでなく…僕たちの世界を守り抜いたんだ…。君たちの事を誇りに思うよ…。僕のワガママに付き合ってくれてありがとう…」

 

(プロデューサー…!)

 

秋山プロデューサーは感謝の言葉をあかりたちに投げかけ涙をこぼしながらお礼を言った。

 

するとあかりたちは意識を失いながらも秋山プロデューサーの言葉は聞こえていてその言葉に感動して気付かれないように涙をこぼした。

 

奪還と再建を宣言した翌日…あかりたちは大分回復してきてご飯も食べられるようになった。

 

昼食を終えると車いすに座りながら凱旋パレードをして国民たちと交流する。

 

そして夜が明けてあかりたちは元の世界へ帰る準備をする。

 

「それじゃあみんな、準備はいいかな?」

 

「はい!」

 

「ヴィオラはもう少しこの国に残って再建を手伝う役目があるから置いていくことになるけど何か一言挨拶はあるかな?」

 

「あの…女王さま!一つだけお願いがあります!」

 

「何かしら?」

 

「初代ミューズナイツのお墓はどこにありますか?彼女たちに感謝を伝えたいんです…!」

 

「それなら…城の隣にあるミューザ聖堂にあるわよ。そこに歴代のミューズナイツが眠っているの。もしよかったら会いに行ってらっしゃい」

 

「はい!」

 

最後に歴代のミューズナイツに別れと感謝を込めて挨拶をしたいとあかりがお願いしヴィオラ女王の許可が下りてミューザ聖堂へ向かう。

 

そこにはヨーロッパの大聖堂風で中庭にはたくさんのお墓があった。

 

歴代ミューズナイツ全員のお墓参りはさすがに厳しいので供養しながら聖堂の中でお祈りを捧げる。

 

「歴代のミューズナイツさま…あなた方が平和と未来を築かれたおかげで今の私たちがいます…。これからも私たちの未来を見守り…そして応援してください…」

 

「こちらこそありがとう…。私たちに出来なかった事をあなたたちはしてくれた…。だから…霊界で見守っているね…。がんばって…」

 

「…っ!?」

 

あかりたちは心から声が聴こえ誰なんだと言わんばかりに急に立ち上がって辺りを見渡した。

 

しかし誰もいなくて誰が自分たちに声をかけたんだろうと不思議な気持ちになった。

 

天井にはあかりたちには見えていないが歴代の百代も続く過去のミューズナイツたちが上から見守っていた。

 

声をかけたのは初代ミューズナイツのリーダーのカリオペだった。

 

しかしカリオペの声に気付かずあかりたちはミューザ聖堂を後にし人間界へ戻っていった。

 

つづく!



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第78話 再始動

エンプサーナを倒してお祈りを済ませたあかりたちは帰る準備をしてユメミール王国の民衆たちに見送られる。

 

ヴィオラ女王はこの国に残って再建を目指し秋山プロデューサーはあかりたちと一緒に人間界へ戻る事となった。

 

そして城で休養を取ったあかりたちも回復し墓地でお祈りを済ませて元の人間界へ戻ると代々木公園からはマスコミと民衆がたくさんいた。

 

「お!ミューズナイツだ!」

 

「あのライブの化け物はどうでしたか?」

 

「帰ってきたという事は勝ったのですか?」

 

「へへっ!あったりめーだ!」

 

「あんな化け物アタシらにかかれば勝つってことよ!」

 

「結構苦戦しましたが…やりました!」

 

「Victory!」

 

「みんなの応援のおかげだよ!ありがとう!」

 

「ビッグニュースです!ただいまミューズナイツがライブ中に現れた化け物を異世界で討伐してきました!そして見事帰還しました!」

 

「ミューズナイツ!ミューズナイツ!ミューズナイツ!……」

 

「見てください!この応援に来てくれたファンの皆さんを…!これだけのファンが代々木公園に集まりこんなにも応援してくれたのです!さぁ皆さん!ミューズナイツにまた大きな拍手を!」

 

こうして英雄になったあかりたちはテレビ出演も増えラジオでもMCを務めるようになりたくさんの作曲家たちがミューズナイツにうちのうたを歌ってほしいという依頼も増えた。

 

あれからあかりたちがエンプサーナを倒し何者かがその妹であるアンゴル・モアやホロビノミコを討伐し世界にまた平和が戻った。

 

秋山プロデューサーもその功績で謹慎処分が早く明けてSBY48の再始動をする。

 

そして秋山プロデューサーはミューズナイツの記者会見を開く。

 

そこには隣に加奈子もいる。

 

「秋山プロデューサー、謹慎処分明けお疲れ様でした」

 

「お疲れ様でした」

 

「まずは…あの…その…凄い肉体改造ですね」

 

「はい。あれから僕はただ彼女たちを待つだけでなく自分もいざとなったら戦おうという決意をして体を鍛えたんです。前から不健康な身体を治したいと思っていましたので丁度良かったです」

 

「なるほど。では今回の戦いについてコメントをお願いします」

 

「はい。まず隣にいる娘の秋山加奈子が化け物の奇襲でファンの皆様を庇って負傷しましたが…それがきっかけで他のみんなも絶対に勝つという気持ちになりたくさんの試練を乗り越え見事勝利致しました。でも…化け物の死に際にまだ伏兵がいると聞いたらしいですが、名前を聞いたところアルコバレーノと月光花でしたか…彼女たちが倒した化け物と同じできっと彼女たちもまたミューズナイツとは別の力で悪魔を倒したのでしょう。僕自身はまた何も出来なかったけど、みんなはそれぞれの夢と未来を背負って戦った。それだけでも誇らしいよ。でも今度は…僕が指導者としてみんなを導く番だ」

 

「え…?パパ…アルコバレーノと月光花って…?」

 

「ん?ああ。アルコバレーノは何でもマイナスエネルギーと対峙する何かの魔法でアンゴル・モアを。月光花は罪魔の力と対峙する力でホロビノミコを倒したんだよ。まさかあの子たちが加奈子たちと同じだったとはね」

 

「そうなんだ…。だからあの子たちに不思議なパワーを…」

 

「コホン…。さてと…まず加奈子さんに私から謝罪しなければならないことがあります。あの時に見てしまったんです。病院からすぐに代々木公園まで急いで駆けつけたあなたの姿が。そして謎の金色の門の中に入っていったところを。そして私はこっそりついて来たんです。そしたら…ライブの時に見た悪魔と戦っている前田さんたちの姿があったんです。そこで私はあなたたちが眠っている間に秋山プロデューサーに情報を伝えてテレビで早とちりながらニュースにしてしまいました。勝手な行動をしてすみませんでした」

 

「えっと…顔を上げてください。確かに早とちりはいけないことですけど、その行動力のおかげで真実を報道する事が出来ましたし、何より危険な中で報道するプロのマスコミ魂を感じました。とても怖かったと思います。あなたの勇気ある行動のおかげであの子たちが誤解されずに済みました。本当にありがとうございます」

 

加奈子の行動を終始見ていたテレビ局のスタッフがずっとミューズナイツの戦いを見ていてその結果をいち早く報道しミューズナイツを英雄にしてくれていた。

 

そのおかげかミューズナイツの知名度もアルコバレーノや月光花と同じくらいに上がり世界でもその三つは英雄として扱われた。

 

記者会見を終えると秋山父子はプライベートの時間に入り二人でパフェを食べる。

 

「加奈子…君が負傷したと聞いたときはショックだったよ。僕がユメミール王国にいる間にそんなことがあったなんてね」

 

「心配かけてごめんね。ファンや後輩たちを巻き込みたくなかったんだ」

 

「その正義感は本当に君らしいよ。それで頑固な先輩たちをすぐに認めさせてルーキーながらセンターを勝ち取った。ひいきだって言われても結局実力で文句を言わせなかった。ひいきをすることが嫌いな僕でも安心してセンターを任せられるようになった。成長したね…僕の知らない間に」

 

「もうパパ。辛気臭いことはなしにしてパフェを食べようよ」

 

「それもそうだね」

 

父子水入らずの会話はあかりたちの話題になり今後は自分を越える存在になると予想したり自分がサポートしなくてももう一人前だと言ったりミューズナイツの今後の話などで盛り上がった。

 

秋山プロデューサーは娘の加奈子の成長を喜ぶ一方で加奈子の本当の夢であるプロデューサーへの夢は諦めたのだろうかという不安もあった。

 

実際に加奈子がプロデューサーになったら自分の築き上げたものを簡単に脅かす存在になるが自分の死後に後継者がいなくなり48グループがバラバラになる事を恐れてもいた。

 

しかしそれを加奈子も察していて自分はアイドルを続けるべきなのか本当の夢であるプロデューサーになるべきなのかを悩んでいた。

 

加奈子は実際に人を良く観察してその人の個性を磨かせてよりいい武器を神器にさせるのが上手い子だ。

 

こんな逸材をいつまでも取っておくわけにいかないだろう。

 

パフェを食べ終えた後は劇場に足を運びミューズナイツのレッスンに入る。

 

レッスンを終えると秋山プロデューサーに着信がありそれに出る。

 

「もしもし?秋山です。はい…はい…。それは本当ですか…?わかりました。あの子たち全員に伝えます。では…失礼します」

 

「プロデューサー、何かあったんですか?」

 

「今日19時に休みの子も研修生も仕事から帰った子も全員劇場に集まるように連絡してほしい。連絡を知らない子は僕がやるよ。大事なお知らせがあるんだ」

 

「え…?あ、はい。わかりました!」

 

秋山プロデューサーは何やら真剣な顔であかりたちにメンバー全員に連絡を入れろと必死になる。

 

あかりたちは何の事だかわからず考えながら知ってるメンバー全員の連絡先に集合の連絡をする。

 

19時になり全員が劇場に集まると秋山プロデューサーは深呼吸をして拡声器で重大発表をする。

 

「全員集まったね。今から重大な発表をするよ。実は昼頃に電話があってね…その電話の内容はね…今年の年末に全世界のアイドルを対象に武道館にてワールドアイドルオリンピックが行われるんだ」

 

「ざわ…ざわ…」

 

「そこで今回はSBY48として出るか、各グループで選抜制か立候補制か…または全グループ参戦かだ。最初に書類選考して合格した後に世界中の予選グループ会場でライブし、優勝したアイドルが武道館でライブをして世界中のリアルタイムで審査をされるんだ。じゃあみんなに聞くよ…SBY48として出たい人…!」

 

「はい!はい!はい!」

 

「おお…全員か…!正直言えば賞を確実に獲るならミューズナイツとSBY48は別々の方がいいだろう。だがミューズナイツのメンバー全員がSBY48として出たいと言ったという事は…みんなで団結して勝ちに行かなければならない。どうか選ばれなくても嫉妬せずに応援してほしい。以上!」

 

こうしてワールドアイドルオリンピックが行われることを知らされ各メンバーはやる気に満ちてレッスンしたり仕事に励んだりした。

 

つづく!



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第9章
第79話 お知らせ


ワールドアイドルオリンピックが開催されることを知った各メンバーたちは張り切りだしそれぞれの仕事とレッスンに打ち込んだ。

 

それだけでなく自分をいかに売りだせるかなどの自己プロデュース力を上げるために見次から営業に出る子も少なくなかった。

 

あかりたちもいつまでも神7のままではいられないと意気込み加奈子を越えるアイドルになろうと必死に努力を続けた。

 

しかしそんな中でSBY48を揺るがす問題が二つほど出てしまう。

 

「今日もお仕事お疲れ様。ここでワールドアイドルオリンピックについてこれから説明をするよ。まずワールドアイドルオリンピックの選抜メンバー48人だ。センターは…前田あかりさんに任命する」

 

「は、はい!」

 

「おめでとうあかり」

 

「私もセンターになりたかったなー」

 

「でもミューズナイツを仕事で引っ張ったのは彼女だもの。誰も文句は言えないよ」

 

「それで選抜メンバーを発表するよ」

 

前田あかり

 

大島結衣

 

篠田日菜子

 

渡辺麻友美

 

高橋ひかり

 

板野麻里奈

 

柏木エマ

 

秋山加奈子

 

小嶋萌仁香

 

長門有梨

 

松実柊

 

萩原瑞歩

 

有原亜里沙

 

東郷実里

 

伊吹未来

 

七島春歌

 

新田美優

 

石川あゆみ

 

遠藤沙綾

 

織田竜華

 

松田李衣奈

 

趙真理

 

西野里花

 

波野あさり

 

矢部桃花

 

林綾香

 

園城寺さやか

 

近藤レナ

 

森島七海

 

春江さくら

 

桜坂美波

 

冬島あさ美

 

大崎照

 

黄瀬さつき

 

青木麗子

 

緑川直美

 

大坂沙織

 

虹野夢美

 

菊池真

 

飛鳥明日香

 

小池恵美

 

加藤絵里奈

 

山田花子

 

田中里美

 

千葉六花

 

岡和恵

 

礒部美里

 

岸部由香

 

「以上になる。そして悲しいお知らせが二つほどあるんだ。まずは…秋山加奈子はプロデューサーになるために世界中を旅するという事で今季限りのアイドル引退となる。つまりワールドアイドルオリンピックで有終の美を飾るために有償を狙うしかなくなった。加奈子、一言頼むよ」

 

「実は私には父である秋山プロデューサーの背中を追ってここにいるみんなの事を観察して自分を磨きすぐにセンターになった理由は…プロデューサーとして今後の世界のアイドル界の発展のために何か恩返しがしたいって思っててこの決断をしました。ここに飛び級で入ってもう5年になるけど…私の最後だからって委縮したりしないで今まで通りみんなのアイドル道を究めていってほしいな。私はみんなが自分らしく輝いてくれるその姿が大好きだよ。だから…優勝も大事だけど自分を見失わないようにしてね。そしてアイドル引退後は…世界中を旅してアイドル界を牽引するプロデューサーを目指す。だからみんなは私の引退後は…応援してください。今までありがとうございました」

 

「加奈子先輩…!」

 

「あの子が引退…?」

 

「このままだと私たち誰を頼れば…!」

 

「夢のためだから仕方ないけど…」

 

「秋山さんが抜けると穴が大きいなぁ…」

 

「加奈子の卒業ライブは3月の第一日曜日になる。ちゃんと見送ってあげてね」

 

加奈子の固い決意をした顔を見てあかりたちはただ見守るしか出来なかった。

 

ミューズナイツの今後については恐らくまた後日に話をするのだろう。

 

加奈子の卒業ライブと同時にワールドアイドルオリンピックに向けてライブをしなければならないのでグループとしてはかなり忙しくなるだろう。

 

だがもう一つ悲しいお知らせとは何なのか今から口にする。

 

「もう一つは…実は僕はワールドアイドルオリンピックの決勝ブロックの審査員に選ばれたんだ。それが何だという話になるが…審査員に選ばれたプロデューサーとマネージャーやスタッフはそのアイドルのプロデュースを一切禁じられている。当然レッスンも見てあげられないし指導も出来ない。そこでプロデューサーの修行として加奈子をまた臨時プロデューサーに任命する。加奈子、また君に負担をかけてしまって申し訳がないと思ってる。でも…君が一番の頼りだという事も忘れないでほしい」

 

「わかってるよ。パパも大一番の仕事を任命されたから娘である私はそれを誇りにみんなを優勝に導いてみせるよ」

 

「ありがとう…。お知らせは以上だ。お疲れ様でした」

 

「お疲れ様でした!」

 

劇場ではしばらく加奈子の話題になり引退と卒業でもう寂しさが溢れてくる。

 

何せ5年も陰から支えた上に自分の成長も忘れないストイックな精神と観察眼で鍛えたアイドルとしての実力と勤勉性で精神的支柱だったのだから。

 

そしてそこに大きな影響を受けるのはSBY48だけではない。

 

ミューズナイツも例外なく大きな影響を受けるのだ。

 

「そんな…加奈子先輩がいなくなるなんて…!」

 

「これからは私たち8人で頑張るしかないわね」

 

「でもなんか…応援したいのにいなくなってほしくないなぁー…」

 

「加奈子先輩には助けられてばかりでしたからね…」

 

「最後の戦いの時も…加奈子先輩がいなかったら負けてたっつーか…」

 

「こんなにも存在感のある先輩だったんだな…」

 

「なんだか寂しいデス…」

 

「先輩たち…」

 

「私…加奈子先輩を引き留めたい…!せめてアイドルは引退してもプロデューサーとして残っててほしい!こんな形でお別れなんて嫌だよ…!」

 

「あかり!まだわからないの!?加奈子先輩は自分をより成長させるために自ら苦渋の決断を下したのよ!ここで引き留めたら加奈子先輩の夢も叶わなくなっちゃう…。ミューズナイツは夢と未来の騎士よ、そんなことでいいの…?それともあなたの応援する気持ちはこの程度なの…?」

 

「それは…」

 

「まぁ気持ちはわかるよ。私だってお別れなんて嫌だもん。でも結衣の言う通り加奈子先輩の進路を邪魔する権利は私たちにはないと思う。もし加奈子先輩日本刀に戻ってきてほしかったらさ…私たちがもっと成長していつでも戻って来れるようにお出迎えする準備をしようよ!」

 

「そうデース。あかりは優しい事は知っていマスが…ここまでワガママ言うなんて珍しいって思いマシタ。エマたちも同じで加奈子先輩にはいなくなってほしくないデス」

 

「ミューズナイツはこんな形で終わらないってゆーか、終わらせないって思えばいいじゃん」

 

「私も寂しいですが…心から応援したいと思っています…」

 

「先輩…それでも引き留めるつもりですか…?前田あかりはその程度の気持ちでアイドルをやって、萌仁香をスカウトしたのですか…?」

 

「うん…そうだよね…。私、もう決めたよ…。加奈子先輩の夢を応援する。そして…例えミューズナイツは解散しても私たちの心はひとつだってことを証明しよう!」

 

「それでこそあかりってモンだぜ!あかりはやっぱりポジティブでなきゃな!」

 

「加奈子先輩に有終の美を飾れるようにミューズナイツも頑張ろうね!」

 

「おー!」

 

つづく!



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第80話 もう一度選挙

ダークネスパワーとの戦いを終えて一息ついてようやく平和が戻り気を取り直してあるイベントに取り組む。

 

2月になり一年があっという間に過ぎていったことがわかる。

 

そして2月といえば…今年度の神7を決める秋山プロデューサーのグループアイドルの総選挙だ。

 

各地域にある48グループの中で最も人気のあるアイドルたちが選ばれる名誉な事で今回は各地域に新メンバーのオーディションが行われたことでいつもの50位から100位に変更されたなど変化もある。

 

そんな中でついに総選挙が行われる…

 

「さぁお待たせしました!秋山拓也プロデュースアイドル総選挙!ここに開催です!司会はわたくし本田綾香がお送りいたします!みんな!盛り上がってる!?」

 

「Fu---------!」

 

「いいねぇその盛り上がり!私、盛り上がってるの大好き!さぁ今年度は一体どんなアイドルたちが総選挙に選ばれるのか!?それともUMD48の白石美帆が下剋上か!?またはミューズナイツ王朝の始まりになるのか!?」

 

「王朝だってさ」

 

「もう、本田さんは気が早過ぎるのデース」

 

「でもアタシらってそこまでのことをしちゃったから言いたくなるのも無理はないか」

 

「すごく嬉しい事だよ。私もここまでみんなと続くなんて思わなかったから」

 

「確かに最初は個性豊かでまとめるの大変だったわ。成績が芳しくないのが9人中5人だものね」

 

「それは言わないでよー!」

 

「結衣先輩は厳しすぎるんです!」

 

「まぁまぁ…。でも皆さん全てのテストを乗り切ったから大丈夫ですよ…?」

 

「さぁおしゃべりは後だよ。これから総選挙が行われるからステージに立つ準備をして」

 

「は、はい!」

 

「加奈子先輩、いつもよりピリピリしてるね…」

 

「無理もないわ…。加奈子先輩にとって最後の総選挙だもの」

 

「だけど選ぶのはファンだから誰も責める事は出来ねぇ…」

 

「うん…。残酷だけどエン虚子ない方がいいね…」

 

「さぁ早速ベスト100から50まで一気に行ってみよう!」

 

「ちょっと待って本田さん。その前に全グループによるパフォーマンスからだよ?」

 

「あっ、ごめんんさい!つい早く結果が見たくて…私ってせっかちだなぁ…。じゃあまずはSBY48から!」

 

最初のSBY48のパフォーマンスが始まり会場のボルテージはいきなりマックスになる。

 

しかもワールドアイドルオリンピックに出場するメンバーともなれば盛り上がるのは必然だ。

 

それも全グループがその選抜メンバーならなおさら盛り上がらないわけがなかった。

 

まだ予選ブロックの組み合わせは決まってないけれど早くも決勝ブロックに行くアイドルは誰なのかを予想するファンも中にはいた。

 

全てのパフォーマンスを終えるとグループごとの制服に着替えて順位発表で呼ばれるのを待つ。

 

最初にベスト100から50までだ。

 

100位ともなると売れ始めている研修生も中にはいてダークホースとも呼ばれる子もいた。

 

というよりもそれぞれのプロデューサーの意向で会えて研修生を売り出してレギュラーメンバーに喝を入れるのもあるのだろう。

 

あかりたちは前回は好成績だったためまだ出番はないと思われがちだが、やっぱり当の本人たちは緊張のあまりにただ祈る事が精いっぱいだった。

 

あの頃はまだ新人で勢いがあった上に戦いでずっと留守にしていたからきっと芸能界での印象も薄いだろうという不安もあったからだ。

 

今はもう新人のビギナーズラックも通用しないくらい売れてしまい芸能界を留守にしたハンデは大きいと予想もした。

 

一気に49位から17位までを発表するとあかりたちの心臓の音が聴こえるくらいドキドキしていて、周りを見れば各グループのエース級の子たちでさえソワソワするほどだ。

 

そしてついにベスト16の発表だ。

 

16位にはKKR48のエースの林友希菜、15位はWRD48でロシア出身のアナスタシア・ウラジーミル、14位には同じくWRD48ながらエースでエチオピア出身のアンナ・アベティ、14位はUMD48の指原文乃、13位には同じくUMD48の小泉るいか、12位はTYT48のエースの星野きらり、11位はTHK48のエースの島田真侑になった。

 

そしてここからベスト10の発表だ。

 

「さぁここからはベスト10です!10位は…UMD48のエース白石美帆ちゃん!」

 

「えぇーーーーーーーーっ!?」

 

「うそー!?低すぎだろ!?」

 

「じゃあまず美穂ちゃんに聞いてみましょう!今の心境は?」

 

「はい。まぁ…皆さんは納得いかないと思いますがベスト9はもうわかると思います。私には出来なかった平和を取り戻した救世主…ミューズナイツの方型だと思います。さすがに芸能界をずっと留守にしていたとはいえ救世主を上にしないなんて事はないと思ってました。だから私は納得しています。どうか彼女たちを誹謗中傷しないでくださいね?」

 

「ああ…あの子たちなら仕方ないな」

 

「そうだな。俺たちの夢を救ってくれたもんね」

 

「それだけじゃない…今ここにいるあの子たちの夢でさえ守ってくれたんだ」

 

「なら文句はないな…」

 

「じゃあ気を取り直して9位です!9位は…板野麻里奈ちゃん!」

 

「あー!アタシが9位かー!」

 

「では今のお気持ちを!」

 

「んー、やっぱり1位じゃないのは悔しいけど…エースじゃないのにエース級の子たちに勝てたのは誇らしいかな。次は下向上してみせるよ!」

 

「では8位です!8位は…大島結衣ちゃんです!」

 

「ここで私なのね…。そうですね、リーダーとして責任もある中でこの順位に来れたのは嬉しく思います。これからはもっと上を目指し頑張ります」

 

「では7位です!7位は…篠田日菜子ちゃんです!」

 

「んー!悔しい!でも…応援してくれたみんなのおかげで幼なじみはここまで来たよ!ありがとう!」

 

「では6位です!6位は…小嶋萌仁香ちゃんです!」

 

「ええっ!?萌仁香なの!?えっと…嬉しくないんだから!なんて思ったけど…やっぱり嬉しい!ツンツンしている萌仁香を選んでくれて…ありがとう…」

 

「小悪魔だー!じゃあ5位です!5位は…柏木エマちゃんです!」

 

「Oh…エマデスカ…。結果は残念デシタが…ここまで来たら悔いはないデス!」

 

「じゃあ4位です!4位は…渡辺麻友美ちゃんです!」

 

「私は4位ですか…?えっと…こんなに上だなんて思ってませんでした…。応援してくださって…ありがとうございます…!」

 

「それでは栄光の3位です!3位は…高橋ひかりちゃんです!」

 

「あー!もう少しで銀メダルだったか!まぁでも…こんなに票を入れてくれてサンキュー!これをきっかけに自信を持てるぜ!」

 

「では栄えある2位です!2位は…前田あかりちゃんです!」

 

「やっぱり先輩には敵わないなぁ…。えっと…あの時はビギナーズラックでしたが今回は実力でこんなに高い順位で選ばれました。本当に感謝しています!」

 

「では最も人気のあるアイドルは…秋山加奈子ちゃんが1位です!」

 

「おおーーーーー!」

 

「嘘…私なの…?これからアイドル引退するはずなのに…」

 

「先輩は戦闘の時で引っ張ってくれたじゃないですか」

 

「あの時、先輩が庇ってくれなかったら私が重傷を負ってました」

 

「最後の戦いだって加奈子先輩がいなかったら…私たちはどうなっていたか…」

 

「むしろ負けていたと思いマスよ…?」

 

「今回は先輩に譲りますよ」

 

「でもやっぱり1位になりたかったなぁ…」

 

「さぁ先輩、ファンのみんなが待ってますよ?」

 

「そうだね…待たせたら失礼だもんね。じゃあ行ってくるね」

 

「さぁ加奈子ちゃん!有終の美の一言をどうぞ!」

 

「皆さん、今年度からアイドルを引退する私を選んでくれてありがとうございます。皆さんもニュースで聞いた通り、私は父を越えるプロデューサーにあるためにアイドルを引退し世界中を旅しようと思ってます。だからこそ後輩たちには負けたくないって思ってました。でもそれよりも…後輩たちや仲間たちがあっての私でありセンターでありグループだとも思っています。だから私自身は1位がどうこうではなく、みんなと一緒にワールドアイドルオリンピックで金メダルを取る事を近います。そして…他の48グループの皆さん、正々堂々と競い合い決勝ブロックで会いましょう」

 

「おーっと!ここで宣戦布告だ!これはアイドル界も盛り上がってきました!以上総選挙でした!」

 

総選挙の1位は秋山加奈子に決まり有終の美を飾る事が出来た。

 

ただ残るはワールドアイドルオリンピックで金メダルを取るのみでSBY48だけでなく各48グループはSBYを越えようと意気込んでいた。

 

それから2019年度を終え、4月から2020年度に入る。

 

つづく!



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第81話 もう一度運動会

5月に入りついに恒例の運動会に入る。

 

前回の去年は戦いに備えて仕事がハードで運動会には不参加だったがミューズナイツ不在の中でSBY48の他のメンバーが優勝を取り戻していた。

 

あかりたちは他のメンバーもまた自分たちより優秀だと感じ神7だからといって油断したら抜かれるとちょっと焦る。

 

そんな中でまた運動会が開催された。

 

「ああ…また運動会に出るんですね…」

 

「麻友美は運動が苦手だからなー。やっぱり嫌だったかな?」

 

「まぁその時はオレたちに任せなよ」

 

「頑張ろうね、萌仁香ちゃん」

 

「は、はい…。萌仁香頑張ります…」

 

「あっれー?もしかして緊張してる?」

 

「し、してませんよ!」

 

「そう固くなる事はないわ。私たちがついているもの」

 

「そうそう。私たちはあんなに辛い戦いを乗り越えたんだからいけるよ。さぁみんな、行進しよう」

 

「はい!」

 

「前回優勝チーム、SBY48」

 

「ミューズナイツが全員不在の中でメンバーが団結して優勝を取り戻しました」

 

「前回準優勝チーム、UMD48」

 

「白石美帆の今季限りの卒業が発表されて今や話題になっています」

 

「TYT48。THK48。KKR48。STN48。そして特別出場、WRD48」

 

「愛知県の豊田市、東北6県、福岡の小倉、瀬戸内海の広島と岡山、香川に愛媛のメンバーだけでなく海外の選抜48人も出場しています」

 

「選手宣誓。SBY48、前田あかり」

 

「じゃあ、いってくるね…。宣誓!我々アイドル選手一同は!スポーツマンシップだけでなくアイドル道に則り!正々堂々と戦い!そして…ファンの皆さんを楽しませることを誓います!選手宣誓!SBY48!前田あかり!」

 

最初の100m走では前よりも体力が上がった結衣とひかり、日菜子、麻里奈、エマ、加奈子がそれぞれ1位を獲得。

 

あかりはハイレベルの組に入り普通なら1位のところを今回は3位となった。

 

だが麻友美は相変わらずのぶっちぎりの最下位、萌仁香もスタートダッシュで出遅れただけでなく途中で転んでしまった。

 

これでメンバーは萌仁香が運動が苦手だと悟った。

 

「何よ…?萌仁香運動苦手ですけど文句あるんですか!?」

 

「いや…それもまた可愛いよ!」

 

「こんなの可愛くありませんっ!」

 

「一緒に運動が苦手同士…頑張りましょう…!」

 

「はい…」

 

次の綱引きは結衣とひかり、そして萌仁香の出番になる。

 

綱引きでは結衣とひかりの筋力が中心となりSBY48はすぐに決勝へ進出。

 

そして決勝ではSTN48と競い萌仁香がここで覚醒し圧倒的パワーを見せつけた。

 

「萌仁香…あなた力はあるのね!」

 

「運動は苦手ですけど…ジムで筋トレはしていました」

 

「わかった!身体能力は高いけどその扱いが下手なんだな!」

 

「ハッキリ言わないでください!ひかり先輩のバカーっ!」

 

次の玉入れは麻友美の出場でいつも周りを見ている麻友美は無難なやり方で地道に入れた数を増やし2位にさせた。

 

ドッジボールでは加奈子とあかりの番であかりが外野に行き加奈子が内野で相手ボールを捕ってはあかりがそれを投げて当てる作戦がハマり優勝。

 

昼食の屋台でひかりとエマは大食いを始め萌仁香も負けないくらい多く食べた。

 

結衣と麻里奈は計算されつつも好きな食べ物を賢く食べ、みんなのお腹を膨らます。

 

午後の部に入り借りもの競争に入ると麻里奈は張り切ってスタート地点へ行く。

 

借りもののお題は「乙女ゲーム」でそんな都合よく持ってきている人なんているのか…と考えてすぐに財布を取り出して競技場から出ていきゲーム屋に向かった。

 

そこで新発売の「ゆざくらSPRING」というゲームを購入し強引にゴールする。

 

棒引きでは日菜子とエマが自慢の体力で無双するもチームは最下位で疲労のせいかチームワークに乱れが発生する。

 

そして最後は…

 

「さぁお待たせしました!華のグループ対抗リレーです!全員出場ですので頑張ってくださいね!」

 

「アンカーはあかり、あなたに託すわ」

 

「私?」

 

「あかりはそこそこ体力もありマスしテニスで鍛えた脚力なら大丈夫デス」

 

「先輩の事信じてますからね?」

 

「私たちでは足を引っ張りますが…気にせず走ってくださいね…」

 

「わかった!みんなの分まで頑張るね!」

 

「On Your mark…set…」

 

ピストルが鳴り第一走者の麻友美が精一杯のスタートを切るもすぐに大差をつけられる。

 

第二走者の萌仁香は出遅れた上にフォームは汚いもののスピード自体は悪くなく少しだけさを詰める。

 

そこから後続のメンバーが続き第10走者の日菜子、第15走者の麻里奈、第19走者の結衣が追い上げを見せ第24走者のひかりがトップになる。

 

第31走者のエマが徐々に差をつけていき第47走者の加奈子まで行く。

 

そして…

 

「あかり!これはみんなが繋いだバトンだから…余計なプレッシャーを背負わずのびのびと走っておいで!」

 

「先輩…わかりました!」

 

「前田あかりが走る!走る!後続も追いつこうと必死に食らいつくが追い詰めるももう遅い!神7の座は運動会でも譲らない!譲らない!並ぶことのないレース!王者はこの私だっ!絶対に王座は渡さないっ!ここでゴール!前田あかり、文句なしの優勝ロードへまっしぐらだ!」

 

「S!B!Y!S!B!Y!S!B!Y!」

 

「まったく…あの子たちは王者の誇りで勝負してるのね…」

 

「でも王者なのに泥臭いって感じじゃけぇ…」

 

「これは初心を忘れずアルネ…」

 

「ウチらも初心に戻ろか…」

 

「んだんだ…」

 

「あの子たちこそ王者ばい…」

 

「では閉会式を始めます!順位発表から参ります!」

 

一気に6位から2位までの発表に入る。

 

6位・WRD48

 

5位・STN48

 

4位・TYT48

 

3位・KKR48

 

2位・UMD48

 

「では1位の発表です!1位は…得点新記録達成!SBY48!」

 

「やったーーーーーーーーっ!」

 

「最下位の7位は…THK48です!」

 

「あー…」

 

こうして運動会はSBY48の優勝に終わりミューズナイツの9人で祝賀会を開く。

 

加奈子はあれから高校三年生になり進路はどうするかと聞かれる。

 

進路先はアメリカのハリウッド芸能大学への留学が決まりそこでプロデューサーの勉強をしながら旅に出る。

 

あかりたちも進路をそろそろ考えないといけないなと思い将来を考えるようになった。

 

つづく!



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第82話 もう一度テスト勉強

芸能界の仕事は学生のうちは仕事だけでなく学業との両立もある。

 

前回ひどい目に遭った日菜子、ひかり、麻里奈、エマは勉強を続けるものの…散々な結果に終わってしまった。

 

そしてもう一人…萌仁香もその一人の仲間入りを果たす。

 

「あなたたち…まだその点数なの?本当に学生という自覚あるの?」

 

「うう…ごめんなさい…!」

 

「べ、勉強する暇がないっつーか…?」

 

「オレたち売れているからまだ安泰ていうか…」

 

「訳がわからないデス…」

 

「あなたたち4人は想定通りだけども萌仁香…あなたまでなの?」

 

「うぐ…!萌仁香だって精一杯頑張りましたもん…」

 

「じゃあどんな勉強法だったのか正直に話してくれる?」

 

「えっと…セルフチューブでわかりやすい解説動画を見て…そのからおススメの動画に釣られて…後半は勉強してないです…。はい…」

 

「やっぱりね…。無闇に長い努力をすればいいってものではないけど…あまりにも弛んでいるわ!やっぱりもう一度秋山邸で勉強会合宿よ!」

 

「Oh my gosh!」

 

「あの地獄の合宿は嫌だぁぁぁぁぁぁ!」

 

「鬼教官結衣が本気じゃん!」

 

「それだけは勘弁してくれ!」

 

「合宿…?」

 

「とりあえず教えるのが上手い麻友美と家を提供する加奈子先輩、そして努力家で成長速度が早いあかりも誘うからちゃんとやりなさいよ?」

 

「はい…」

 

こうして日菜子たちは地獄の勉強会合宿を行い、加奈子は家を提供するために秋山プロデューサーに相談する。

 

するとまたか…と頭を抱えて溜息をつき合宿の許可を出す。

 

もちろんあかりたち教える組は仕事しながらなのでハードスケジュールだが、教わる組は仕事が一切振られず勉強に集中させるようにした。

 

結衣たちがいない間は大学を卒業したメイドたちに教わるといいよと加奈子もさすがに協力しざるを得なかった。

 

そして合宿当日…

 

「では本日の勉強会合宿の教師を務めさせていただきます坂口芽衣です。皆さんよろしくお願いします」

 

「よ、よろしくお願いします…」

 

「普段はSBY48の経理を担当するOLですが…みんながここまで点数が酷いと思いませんでした。柏木さんと小嶋さん、板野さんと篠田さんは赤点の10点台、高橋さんは一桁の点数ですか…わかりました。まずはその答えを理解することろからですね。説明するにはまず自分がわかりやすい説明をすることから始めます。じゃないと自分が理解できないのに他人が理解するわけがありませんからね。まずこの図式を説明してください」

 

「えーっと…ここがこうでこうだから…あれ…?わかんないや」

 

「あー…図式なんか細かすぎてわかんねーよ!」

 

「何よこれ…全然意味わかんない!」

 

「もうお手上げッス!」

 

「エマもこんなの無理デース!」

 

「はぁ…皆さんの考える力がよくわかりました。まぁ数学は得意苦手が分かれますから仕方ないですね。では科目を変えましょう。徳川家康が率いる東軍と石田三成が率いる西軍が戦った西暦の戦国時代の出来事は?」

 

「そんな事言われても…」

 

「これは小学生でも習いますよ?」

 

「えーっとえーっと…何とかヶ原の戦い!」

 

「その何とかを答えるのですよ?わかってます?」

 

「徳田ヶ原!」

 

「そんな地名はありません!」

 

「戦場ヶ原デース!」

 

「何かのアニメの影響受けてます?」

 

「榊原の戦い!」

 

「ヶ原のヶが抜けてますし不正解です!」

 

「関何とかの戦い!」

 

「何故後半が分からないんですか!?もう正解出ていますよ!?」

 

「豊臣の戦い!」

 

「はぁ…もういいです。あなた方が過去にとらわれないのはわかりましたから次に行きましょう…」

 

メイドの坂口もさすがにあまりの学力と向上心のなさに呆れはじめ徐々に疲れが目立ち始めた。

 

元々メイドの坂口はセールスにはお帰りくださいませご主人様…と脅迫をするほど面倒事が嫌いなのだ。

 

しかも勉強に至っては青山学園大学を出ていてそれなりに学力が高く教員免許も持っている。

 

そんな彼女でさえこの有様なのでさすがにそろそろ援護が欲しいと思った。

 

すると夕方になりあかりと麻友美、加奈子が帰ってきてメイドの坂口は加奈子に報告する。

 

「お疲れ様、どうだった?みんなは」

 

「はい…あの子たちは勉強するどころか寝たり遊んだりと自由放題しています。やはり大島さまがついていないと結局集中力が切れてしまうのでしょう。一昨年も去年も私は劇場で経理をしていて皆さまにご負担をおかけしまして、その罪滅ぼしに勉強を教えられたらと思ったのですが…力不足で申し訳ありませんでした」

 

「ううん、いいんだ。多分私も同じ結果になると思う。坂口さんは明日シフト入っているけど休んでいいよ。というか…休んでください」

 

「感謝いたします。では…前田さまに渡辺さま…加奈子お嬢さまをお願いします」

 

「はい、ありがとうございました。」

 

加奈子たちと合流し日菜子たちもやる気が出た…かといえばそうではなく、むしろ逆効果で気が余計に緩みあかりと麻友美はついに日菜子たちの自由さに翻弄される。

 

加奈子はあいにく脅迫が苦手で同じ脅迫しても迫力がないと指摘され少しだけ落ち込み、はやく結衣に来てほしいと心から願った。

 

するとその願いが叶ったのか結衣が仕事を終えたとの連絡が入り、今から秋山邸に向かうというメッセージを見た瞬間…日菜子たちの顔は青ざめて慌てて勉強の準備をした。

 

だけどもう時すでに遅し…今更勉強する気になどなれず集中力が切れて居眠りしてしまった。

 

夕方の20時30分、ようやくその時が来た。

 

「申し訳ないわ、仕事が長引いて遅れちゃったわ。それでみんなは真面目に…するわけないわよね」

 

「結衣ちゃん…もう私たち…ダメかも…」

 

「精一杯教えたのですが…皆さん開き直っちゃいまして…」

 

「もう家庭教師やめてもいいかな…さすがに私でも手に負えないよ…」

 

「ああ…加奈子先輩たちの疲れっぷりを見て全部察しました。まずは起きてもらう事からね…。さてと、この子たちはあのアラームでは起きるのよね。よーし…」

 

結衣は少しだけ意地が悪そうな笑みを浮かべ日菜子たちに近づく。

 

今までは大きな音を立てたり気分転換させたりとしたがどれも逆効果でこれは最後の切り札だった。

 

脅迫も最初は効いていたが次第に効果も薄れてきてしまい、結衣はついに心を鬼にして行動に移した。

 

「もしもし智也くん?大島結衣です。日菜子との件なんですけど…勉強を真面目にやらないのは付き合ってることで浮かれていると思うんですよ。ええ、なるほど…じゃあそんなに浮かれているならこっちから別れるという事…」

 

「んーーーーーっ!それだけはやめて!智也もグルにならないでよ!」

 

「おはよう日菜子。ええ、起きたから何でもないわ。巻き込んでごめんなさいね、ではまた。さてと…光のスリーさーずや身長と体重は加奈子先輩からもう聞いているからフリフリの可愛い洋服を買ってきたけど…今は寝ているから今のうちに着せようかしら?」

 

「おいそれだけはやめろって言っただろ!」

 

「あらひかり、おはよう。それもあなたの口座をご両親から借りて実費で払ったわ。」

 

「図ったなぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「もしもしAILですか?柏木エマさんの帰国の手続きなんですが…スコットランドのエジンバラ行きで往復ではなく単路にしたいんですが…」

 

「Non non non!エマは帰りまセーン!」

 

「おはようエマ。強制送還も考えたわ。あとは…麻里奈は一人暮らしなのよね。じゃあ加奈子先輩、秋山邸のコックと警備員を借りてもいいですか?」

 

「何をするのかな?」

 

「麻里奈の今後の献立を勝手に決めてもらい、そしてそれを完食するまで家に出れないようにしてあえて不健康になってもらうんです」

 

「不健康な生活だけはやめて!もうモデル出来なくなるじゃん!」

 

「やっと起きたわね、麻里奈。残るは萌仁香ね…今はお兄さんはパティシエの修行中だったわね。そのお兄さんはパティシエをやめて萌仁香の勉強のために全財産を賭けるって言ったわねぇ…」

 

「お兄ちゃんは関係ないでしょ!巻き込まないで!」

 

「これでみんな起きたわね?じゃあこれから…今後ずっと赤点を回避するまで好きな事や趣味を禁止にします!そして再度赤点を取ったら…さっき言った嘘の脅しを実現させますのでお楽しみにね?」

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ…!」

 

こうして結衣の完全なる怒りを買った日菜子たちは徹夜をしてまで勉強に励み、いつも以上に学力を蓄えられた。

 

あれから追試を受けたら全教科で赤点どころか50点を全員越える事が出来た。

 

これでもう二度と家庭教師はしたくないとおもう結衣たちであった。

 

つづく!



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第83話 文化祭

あかりたちはある学校の文化祭に赴くことが決定した。

 

そこは勉強も部活も名門な都内の聖英学園で野球部は十字軍と言われるほどの有名な学校だ。

 

さまざまな宗教の教えを教育に活かし、精神的に優れた人間を育成するこの学校は加奈子が通う山手芸能学校もライバル関係になる。

 

そんな中で文化祭のライブが行われ、あかりたちはまず文化祭を満喫する。

 

「この学校って大きいね…」

 

「鳥居だけでなくモスクや聖堂、寺院などがあるなぁー」

 

「様々な宗教の教えを取り入れて教育に活かし優秀な生徒を輩出しているのよね」

 

「ただの選ばれし精鋭ってわけじゃなさそうだね」

 

「ああ、そうだな。オレもバスケで何度もここにやられたんだよなぁ」

 

「ひかりは日本スポーツ科学大付属池袋高校のバスケ部なの?」

 

「まぁな。バスケと芸能界の二刀流で上手くやっているぜ!」

 

「最初のうちは苦戦してマシタけどね」

 

「うっせー!今が上手くいけばいいだろ!」

 

「まぁまぁいいじゃん。それよりもこの学校の魅力について知った方がいいと思うよ」

 

「麻里奈の言う通りだよ。私たちも楽しもう!」

 

「賛成です!」

 

麻里奈の案で全員行きたいところへ行くことになりあかりと萌仁香は吹奏楽部へ、結衣と麻里奈は演劇部、日菜子とエマは軽音楽部、加奈子とひかりはダンス部、そして麻友美はマンガ・アニメ部へ行くことになった。

 

今回はSBY48としてではなくミューズナイツとしてなので秋山プロデューサーは同伴せず他のスタッフさんがついて来る。

 

あかりと萌仁香の吹奏楽部はたくさんの演奏を聞いて吹奏楽の名門だと思い知り、最後の野球部の応援歌メドレーで盛り上がるところで野球部も強いんだ…と知った。

 

実際に萌仁香はあかりに憧れて同じ渋谷芸術学園に奨学金で入試して合格し、同行の野球部はまだ弱小だからか強豪の威圧感を思い知ったのだ。

 

一方、結衣と麻里奈は演劇部で演技の様子を見る。

 

演劇部の演技力に関心を示す結衣と、演劇部が作ったであろう衣装に興味がある麻里奈はそんなやり方があったのか…とメモを取って勉強していた。

 

素人だからって何も学ばないのではプロとして失格というのがミューズナイツの教えで学べるものは何でも学べと秋山プロデューサーに言われてきたが、もう既に結衣たちは勉強家なので取り入れようとしているのだ。

 

軽音楽部ではエマはギターソロのレベルの高さに感服し、日菜子はボーカルのパフォーマンスになるほど…と頷きつつもオリジナル曲がない事にちょっとガッカリもした。

 

ダンス部ではストリートダンスにはない創作ダンスでひかりは目を輝かせ、加奈子はそれを見ていい刺激になったなとひかりを見守った。

 

マンガ・アニメ部では同人誌の即売会が開かれ麻友美は欲しかった同人誌を購入し、早速クラスの出し物である喫茶店でくつろぎながら買った同人誌を読んだ。

 

その同人誌はちょっと宗教的なところもあるけれど道徳観が試されるマンガになってて麻友美もなるほど…と頷き少しだけ勉強になった。

 

そしてライブの時間が近づいたので全員体育館に集まり楽屋へ入る。

 

「どうだった?文化祭の自由行動は?」

 

「私は吹奏楽部の野球部応援メドレーで自分の学校の野球部がまだ弱小なんだと思い知っちゃった」

 

「あかり先輩と同じです…」

 

「そういや萌仁香はあかりに憧れてアイドルはじめただけでなく学校も一緒だったね。中学が日暮里だから通うの大変じゃない?」

 

「大丈夫です。劇場で慣れてますから」

 

「演劇部は?」

 

「主役を演じた子もそうだけど、名脇役って感じの子もいてあの子はきっと将来大物俳優になるかもしれないわね」

 

「衣装も全部自家製だと後でその生徒に聞いてアタシもビックリしちゃったよ。演劇部はうちの高校と同じで全部自家製でやってるんだって。軽音楽部は?」

 

「うーん…やっぱり全員作曲経験がないからか版権曲ばかりだったかな?うちの高校はよく作曲する人もいるからね」

 

「それは智也くんがいたからデース。日菜子とは違うのデース」

 

「うっ、それはそうだけど…。エマはどう思ったのさ?」

 

「ギターソロは素人ではなかなか出来ないものデスが、全員それなりに練習してきたからかなかなかデシタ。まぁエマには敵いマセンが」

 

「ちゃっかり自慢かよ!」

 

「ダンス部は?」

 

「ダンス部はストリートダンスとは違うジャンルに度肝を抜かれたな!影を使ったダンスにオレもやられたって感じだった!」

 

「私もあのダンスの発想はなかったなぁ。アイドルにはない創作ダンスは本当に参考になるよ。それで麻友美…あなたのその本の量は一体…?」

 

「これはコミックマーケットでも有名な高校生同人作家さんの作品で…絶対にこれだけは欲しいと思った本です…。他の子たちの同人誌も宗教的なものから王道な恋物語…ヒーローものなどたくさん興味のあった作品ばかりで…つい買いすぎました…」

 

「オタク趣味な麻友美ちゃんらしいね」

 

「ミューズナイツの皆さん!そろそろ準備お願いします!」

 

「はい!じゃあ掛け声…やろっか」

 

「はい!」

 

「ミューズナイツ!」

 

「レッツミュージック!」

 

ライブが始まると生徒たちはそれぞれのサイリウムを発色させスタートダッシュを切る。

 

9色に輝いたその景色はアルコバレーノや月光花よりも美しく、そしてカラフルな光景で加奈子もさすがに惹かれていった。

 

最初はデビュー曲の応援歌で次に夏のインターハイの主題歌、さらにはカタオモイに悩む女の子へのエールなども歌いMCに入る。

 

「みんなー!せーの!」

 

「アッカリーン!」

 

「前田あかりです!今日という日を楽しみにしていました!この特別ライブももっと盛り上げていこうね!」

 

「じゃあみんな!いくわよ!結衣はいつでもー?」

 

「ストイックー!」

 

「大島結衣です!この聖英学園のライブを待っていました!文化祭もライブhも楽しんでいくわよ!」

 

「よっ!みんな元気?」

 

「めっちゃ元気ー!」

 

「日菜子を見たらー?」

 

「大元気ー!」

 

「篠田日菜子でっす!この学校にもたくさんの幼なじみがいて楽しいな!これからも盛り上げていこうね!」

 

「あの…えっと…キラッ☆」

 

「天使まゆっち俺の嫁ー!」

 

「その…渡辺麻友美です…!やっぱり緊張しますね…。でもミサ難に会えることを楽しみにしていたのは本当です…。最後まで楽しんでくださいね…!」

 

「刻め!オレのダンスは!」

 

「ひかりのごとく!」

 

「高橋ひかりです!ダンス部にも負けないダンスパフォーマンスを見せてやるからオレにも注目してくれよな!」

 

「さてと…私の花道は…ここよ!」

 

「ここが麻里奈ロード!」

 

「板野麻里奈でっす!演劇部の衣装はアタシ好きだなぁ。あーゆーの着てみたいなぁ。でもアタシらの衣装も負けないくらい素敵なんで注目してね!」

 

「ハーイ!今日のギターソロは誰かなー?」

 

「すっとエマのターン!」

 

「柏木エマデース!この学校は凄いところばかりデスが、ちょっと盛り上がりが足りないんじゃないデスカー?最後までちゃんと楽しんでってクダサーイ!」

 

「やりづらいなぁ…。でも…盛り上げるのはー?」

 

「加奈子かなーん!?」

 

「秋山加奈子です!3月には卒業しちゃうけど…今日はこの学校でライブが出来て最高です!最後まで応援してってください!」

 

「お帰りなさいませご主人様!」

 

「萌え萌えきゅーん!」

 

「小嶋萌仁香です!今日はその…べっ別に楽しみにしてたわけじゃないんだからねっ!」

 

「嘘だぁー。一番楽しみで眠れなかったって言ってたくせに」

 

「もう!そういうのは言わないでって言ったでしょ!?麻里奈先輩のバカーっ!」

 

「あはは…。それじゃあここからあと3曲で最後になりますが…」

 

「ええーーーーーーーっ!?」

 

「一気に3曲も新曲を作りましたのでついて来てくださいね!それではいきます!」

 

MCも終えて新曲と言われている麻里奈がセンターの美しくなりたい女の声をエール、エマがセンターの海外への挑戦曲、そして萌仁香がセンターの変わる事に勇気はいるけどその勇気が第一歩になると言う励ましの曲で締めくくり聖英学園のライブは成功した

 

都内一の名門校でのライブはかなりの宣伝になりミューズナイツだけでなくSBY48のワールドアイドルオリンピックへの前進となる。

 

そしてついに…ワールドアイドルオリンピックの出場が決まる書類選考の結果が届いた。

 

つづく!



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第84話 開幕

秋になり、ついにミューズナイツだけでなくSBY48として最大のイベントが行われる。

 

2020年から始まるワールドアイドルオリンピックに向けて、選ばれたメンバーはそれぞれ仕事をこなし準備をして来た。

 

その48人はこの日のためにレッスンも積み、予選ブロックまで努力をし続けた結果…書類選考で合格し、予選ブロックの抽選票が届く。

 

Aブロック アメリカ・ニューヨーク

 

Bブロック イギリス・ロンドン

 

Cブロック オーストラリア・シドニー

 

Dブロック アメリカ・ロサンゼルス

 

Eブロック 中国・上海←ここ

 

Fブロック インド・ムンバイ

 

Gブロック ブラジル・リオデジャネイロ

 

Hブロック 韓国・ソウル

 

決勝ブロック 日本・東京

 

参加グループ

 

SBY48・日本

 

WLD48・国際グループ

 

TYT48・日本

 

マトリョーシュカ・ロシア

 

クレオパトラ・エジプト

 

St.MARIA・日本

 

娘々好・中国

 

Vita・ドイツ

 

となった。

 

「いきなりWLD48や愛知のTYT48と当たるのかー…」

 

「身内同士の潰し合いデスネ…」

 

「秋山プロデューサーが直接指導できない以上は私たちにもある意味ハンデってところだね」

 

「うーん…ちょっと違うと思う」

 

「あかり?どういう事なの?」

 

「多分だけど私たちは秋山プロデューサーに依存しすぎているから、いなくても機能できるか試されてるんだと思う。おそらくアルコバレーノや月光花も同じだとしか思えない」

 

「となれば私たちがトップになるために証明しないといけないわね」

 

「結衣さんの言う通りですね…。気を引き締めていかないと…!うう…緊張でめまいが…」

 

「麻友美先輩!ほら酔い止めあげますからしっかりして!」

 

「萌仁香さん…申し訳ないです…」

 

「とにかくこれで王者としてよりも挑戦者としてこのオリンピックに挑むんだ。誇りだけでなく向上心を持って行かないとね。ここで驕ったらパパに申し訳がなくなってしまうし」

 

「確かにそうですね…。ミューズナイツだけでなく他の子たちもいますからね。私たちだけじゃないってところを見せなければ」

 

「層の厚さを思い知らせるためにも私だけでなく、ミューズナイツのみんなも周りの先導を頼むよ」

 

「う、うす!」

 

飛行機の中でトップであるミューズナイツによる作戦会議の中で麻友美はあまりの緊張で寄ってしまい少しだけ横になる。

 

萌仁香は背中をさすって後輩らしい気遣いをして、作戦会議の際はちゃんとメモをする。

 

加奈子だけでなくリーダーの結衣も発言が増え、あかりやエマも副リーダーとしての責任も持てるようになりまとめ役になるようになった。

 

上海に着くとたくさんの中国人にお出迎えされる。

 

「ミューズナイツだ!」

 

「俺、ファンなんだよ!会えてよかった!」

 

「私もファンなの!生で見れて生きてるって感じ!」

 

「おう!お出迎えサンキューな!」

 

「ひかりさん…あんなにはしゃいで楽しそうですね…うぷっ…!」

 

「麻友美は無理しないの。ほら、歩ける?」

 

「はい…何とか…」

 

「それにしても上海ってビルが多く建っててすごいなぁー!」

 

「中国の中でも香港に並ぶ国際都市でよく外国人観光客だけでなく海外企業も訪れているそうだよ」

 

「日本企業も例外じゃないわね。さぁ会場に行きましょう。誰か麻友美を支えてあげて。二人がいいわ」

 

「じゃあオレが」

 

「萌仁香もエマも手伝いマス」

 

上海に到着した48人はホテルでチェックインする前に少しだけ観光を堪能する。

 

中国の屋台に感動した日菜子はインストグラムに投稿し、中国のファッションに興味津々な麻里奈はキックトックに、中国でも日本のアニメは盛んなんだと喜びつつも、まだ緊張で疲れ切っている麻友美はそれぞれ嬉しそうだった。

 

ひかりとエマも麻友美が少しずつ回復していくのを見て徐々に支えるのをやめ、自分たちも上海を楽しもうと観光していった。

 

ホテルに戻ると早速宴会場のステージを貸しきってレッスンを始める。

 

といってもハードなものは一切やらず最後の調整程度にした。

 

そして夜を迎えて48人それぞれの部屋に戻り、すぐに眠りについた。

 

翌日の本番にはもう全員準備は出来ていて会場に向かう。

 

そこでリハーサルをしてリアルタイムでのファン投票で1位になれば決勝ブロックに進出できる。

 

リハーサルを終えてすぐに楽屋に戻り開演を待つ。

 

そして…

 

「皆さん大変なが楽お待たせしました!ワールドアイドルオリンピックEブロック予選、これより開催します!今回の優勝候補は…ミューズナイツ率いるSBY48!東海地区を総なめするTYT48!そして日本以外の世界中のアイドルを集めた国際精鋭アイドルグループWLD48です!さぁこの出場するアイドルグループはどんなパフォーマンスを見せるのか!?まず最初に…SBY48からです!」

 

決勝ブロックでも優勝候補と言われているからか抽選もなしにいきなり先頭を任されるSBY48。

 

加奈子は抽選に行こうとしたらスタッフに呼び止められてしまい、メンバー全員を集めて戦闘は完全に確定となった。

 

これはハンデだとスタッフに言われたが、ひかりとエマ、日菜子と麻里奈、萌仁香は納得しなかったが結衣の説得で落ち着く事に成功する。

 

だがあかりと加奈子は逆に燃えていて他のメンバーもこの二人に負けるなと言わんばかりに気合いが入っていた。

 

その事を日菜子たちは反省し円陣を組む。

 

「じゃあ最後の円陣だから私が掛け声出すね」

 

「加奈子先輩、お願いします!」

 

「私たちは王者なんかじゃないよね?」

 

「え…?」

 

「今ここで王者の誇りを捨てて挑戦者としてここに挑むんだよ。だから…無駄な驕りを捨てて自分たちが最高のパフォーマンスが出来るという誇りを胸に!音楽を奏でよう!S!B!Y!」

 

「48!」

 

予選ブロックのルールで完全な新曲で勝負したSBY48。

 

その曲には王が亡き国を騎士たちが団結して王の遺志を継ぎ発展させるミュージカルものを5分でまとめた曲で挑む。

 

モチーフは…9人の騎士たちでミューズナイツを中心にダンスをする。

 

他のメンバーは民衆ながらも自ら行動し騎士だけにいい格好はさせないようにする。

 

そのパフォーマンスが功を成し99点という高得点を取った。

 

しかし後続はあのTYT48やWLD48でさえプレッシャーとなり、思うようにパフォーマンスが出来なくなるなどSBY48の王者の貫禄は見事なものだった。

 

ましてや味わったことのなかったロシアのマトリョーシュカ、エジプトのクレオパトラ、中国の娘々好は戦意を失うほどだ。

 

ただ唯一対抗していたのは…聖英学園のスクールアイドルのSt.MARIAだった。

 

「この前の文化祭をこの目で見てきたけど…そんな子たちを中心としたグループと同じステージに立つなんて私たちは幸運なんだよ!その幸運を噛みしめて全力のパフォーマンスをしよう!Oh Maria!」

 

「Hallelujah!」

 

St.MARIAはSBY48のパフォーマンスを目の前にしても諦めず、むしろ憧れと同じステージに建てる事がラッキーなんだと開き直り、今までにないパフォーマンスをした。

 

宗教は違えど人を思う気持ちはひとつなんだという願いの歌で国籍も民族もバラバラなスクールアイドルたちは団結して全力を出した。

 

しかし反撃もここまで…

 

「では得点です!得点は…95点!ということは…SBY48の優勝です!」

 

「やったー!」

 

「SBY48さん、おめでとうございます。やっぱり王者には敵わなかったなぁ…」

 

「日本のアイドルとは何かを思い知ったよ。WLD48は選挙でも今回でも負けましたが次は負けません」

 

「エジプトの神々は言っています。あなた方が金メダルを取ると…。頑張って」

 

「これ、実家の小籠包です。ゲン担ぎに食べてください」

 

「ミューズナイツのアイドル力は本物…。悔しいけど認める…。負けたら承知しない…」

 

「あーあ残念。ロシアから来たけど最下位かぁ。でもあなたたちなら優勝するのも納得だよ。ロシアから応援してるよ!」

 

「文化祭の時は来てくれてありがとうございました。おかげでこの大会に出る決意が固まり、あなた方と共演出来たことを誇りに思います。次はその…私たち3年生は引退ですが、後輩たちはあなた方を越えてくれるでしょう。絶対に…負けちゃいやですよ?」

 

「皆さん…ありがとうございます!皆さんの分まで頑張ります!」

 

ミューズナイツ率いるSBY48はEブロックを優勝し上海を後にする。

 

次は年末に行われる武道館での決勝ブロックだ。

 

その日に備えて無理せず追い込みレッスンを積み重ねた。

 

つづく!



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第85話 ワールドアイドルオリンピック

ワールドアイドルオリンピックの決勝ブロックが開演されるも、最後の追い込みという事で一日目のソロ部門とデュエット部門の見学をせずレッスンに打ち込んだ。

 

グループ部門の名簿を見ると、そのシンデレラロードというグループがいて、それが何者なのかまだ解明されていない上に本人たちが見た人に秘密にしておいてほしいとの事で情報が未公開だ。

 

その事であかりと麻友美は気になったものの、今やるべき事に集中しないと負けると思いレッスンに集中した。

 

そして年末の二日目、ついにグループ部門が開演となる。

 

「ついに始まったね…」

 

「はい…。緊張で眠れませんでした…」

 

「ソロ部門の優勝が茶山くるみさんじゃなくて新星の白銀雪子さんだなんて…。きっと素晴らしい歌声だったのね」

 

「確かドイツの声楽コンクールで審査員特別賞をもらったそうだよ」

 

「じゃあ凄いんじゃん白銀さん」

 

「デュエット部門では双子姉妹の今川メイドリーミングで、トリオ部門がキューティ―クローバーZらしいじゃねぇか」

 

「今度は萌仁香たちが世界を圧倒させる番ね!」

 

「さてと…スクールアイドルで気になった子がまさか同じステージに立つとは思わなかったよ。夜月暁子さん」

 

「うん!お兄ちゃんは元野球部でアルコバレーノの事務所の社員だから、そのノウハウを活かしてここまで来たんだよ!野球部との兼任は大変だったけどね」

 

「すごいなぁ、同い年とは思えないや。どっちも中途半端にせず全力でやった結果、野球部でも全国優勝だっけ?おめでとう」

 

「えへへ…ありがとう!」

 

「夜月さん、参りますよ?」

 

「あ、はーい!じゃあ篠田さん、また後でね!」

 

「うん!」

 

「あの子は知り合いなの?」

 

「スクールアイドル仲間だよ。中学の時に一度だけ競った事があって、その時は負けちゃったんだ。だから彼女にはリベンジだね!」

 

「それにアルコバレーノや月光花もいるものね。ここで燃えなきゃアイドル失格よね」

 

「うん。じゃあ早速だけど…ちょっと他の子も見てくるね」

 

「はい!加奈子先輩やっぱり周りが見えててすごいなぁ…」

 

「それでは皆さん!もうすぐ開演します!最初のアフタースクールズさん準備お願いします!」

 

「はーい!」

 

「それじゃあリーダーの鈴香、いつもの掛け声いこうか。」

 

「オーケー!みんな!放課後はー…」

 

「フリーダム!」

 

「私たちアフタースクールズは…」

 

「幼馴染み!」

 

「いつも心はひとつ!いくよ!」

 

「イエーイ!」

 

「ではトップバッターは…メンバーの5人、日野鈴香、沖田つかさ、加藤恵美、諸星ひかる、そして早乙女レナは幼稚園から王政大学までずっと一緒!軽音楽部のバンドからアイドルに転向し、ブレイクを果たした新生アイドルグループ…アフタースクールズです!」

 

アフタースクールズの日野鈴香と沖田つかさはソロ部門にも出場していて、このグループの中心なんだとエマは感心した。

 

とくに諸星ひかるのギターソロはとても熱いのにクールでエマにとってはいい刺激となった。

 

次のこちらもソロ部門に出場した音原エリーゼ率いる聖フォルテ音楽大学付属女学院スクールアイドル部はエリーゼの美しい歌声にコーラスのハーモニーが重なり合い聴く者を魅了していった。

 

次の国立東光学園アイドル研究部選抜では元・月ノ姫のメンバーである美月輝夜が層の厚さをアピールしつつ、運動神経がよく明るい新星・夜月暁子がはじけるようなパフォーマンスとアイドル慣れした歌とダンスで意外性を見せてくれた。

 

とくに日菜子が注目した夜月暁子には何か不思議な力をあかりたちは感じていたのだ。

 

エリーゼの歌声については結衣が興味を示し、麻里奈はあのスクールアイドル部の中世的な衣装はどうやって作ったのか気になった。

 

国立東光学園アイドル研究部選抜のパフォーマンスが終わり、暁子は日菜子たちに近づいた。

 

「ふぅ…。今回は日菜子はプロアイドルになって遠いところに先に行っちゃったけど…私はまだプロアイドルへの道を諦めたわけじゃないよ!それに…女子プロ野球選手兼プロアイドルになって世界中に女子野球を広めて野球を世界一のスポーツにするって夢があるから今回は負けないよ!」

 

「望むところだ!中学の時の雪辱を晴らすよ!」

 

「日菜子が燃えてる…!」

 

「えっと次は…シンデレラロードですね…。ここまで情報が全くない謎のグループです…」

 

「シンデレラロード…?確かメンバー表にきららって子がいなかった?」

 

「えっと…灰崎きららのことデスカ?」

 

「ずっと気になってたんだけど…もしかして高飛車きららちゃんのことじゃあ…?」

 

「それは気のせいだと思うよ?灰崎って名前なんて灰崎記者くらいしか聞いたことないし、あの人に姉妹なんかいないって聞いたような…」

 

「さすがアイドル博士の前田あかりさんですわね」

 

「うおぉぉぉぉぉっ!?」

 

「その声は…!?」

 

「やっぱりあなただったんだ…!きららちゃん!」

 

「ええっ!?あの高飛車きらら!?」

 

「その割には随分とまるくなったわね…」

 

「おまけに態度も雰囲気も違う…!?」

 

「ええ、違ってても不思議ではないですわ。あの時にパパがした事のけじめをつけるために世界中を回って謝罪と賠償をし、そして世界を旅しながらわたくしと共にアイドルをしてくれる逸材を探してましたの。アイドルから身を引いたとはいえ、この大会があると聞いて諦めきれずにわたくしが選んだ精鋭たちを集め、ここに参りましたわ。今度はパパの権力なんてない、正真正銘の実力で正々堂々と戦いますわ。この自ら灰を被り生まれ変わった…灰崎きららとして!」

 

「灰崎…?」

 

「ミューズナイツ結成会見以来ね。ミューズナイツの皆さん」

 

「灰崎記者!?どうしてここに!?」

 

「あら、私がここにいるって事はすぐに気付くはずよ?私の夫はプロデューサーとして指導し、行き場を失ったこの子を妹として引き取り灰崎の子になったの。私たちシンデレラロードは…アルコバレーノや月光花、そしてSBY48とスマイリング娘。に挑戦します!真のアイドルの王者をかけて!」

 

「自ら灰をかぶり生まれ変わったわたくしを…アイドルに憧れて諦めた中でどん底から成り上がった彼女たちをご堪能くださいまし!」

 

「はい!きらら様!」

 

「もうその堅苦しいのはやめましょうって言ったはずでしたのに…ふふっ、この際だからもういいですわ。それじゃあ行きましてよ!」

 

「はい!」

 

「きらら、私を誘ってくれてありがとうね…」

 

「もう、ほたるったら…。あなたがわたくしをアイドルに誘ったのですから。あなたが誘ってくださったから、今のわたくしがいるのでしてよ?」

 

「そっか…お父さんが横やり入れたとはいえ、今はもう自由の身だもんね。ならおもいきりやっちゃおう!」

 

「ええ!」

 

プロデューサーの灰崎アスカはとてもスパルタで口答えは一切許さないプロデュースでライブを叩き上げてきた。

 

その結果、自身と実力が身につき厳しいレッスンをこなしただけでなく夢を叶える素晴らしさを知っている彼女たちはどんな困難でも乗り越えられた。

 

希望を持ち、ある程度罪を背負いながらも夢を掴む。

 

全部きららがアルコバレーノや月光花、ミューズナイツに教わったことだ。

 

そのきららを中心にしつつもいつもなら自分中心のきららが今度はみんなを導くために前に出てみんなを引っ張る。

 

いい意味でリーダーシップが取れるようになった彼女はもはやトップアイドルそのものだった。

 

そのあまりのダークホースっぷりに点数は97点を取り会場やネットは大荒れした。

 

つづく!



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第86話 アイドル戦国時代

シンデレラロードというダークホースのパフォーマンスを前にSBY48だけでなくスマイリング娘。、アルコバレーノ、月光花まで大きなプレッシャーとなる。

 

加奈子はそんなかつての敵だったきららの本領発揮に燃えてきた。

 

だがその次であるスマイリング娘。の吉原かえではあまりの重圧に前進が震え上がっていた。

 

それも無理もない、何故ならかつてスマイリング娘。は20年前までは世界中を笑顔にして世界一のアイドルグループと言われ続けたのだから。

 

しかし10年前にSBY48が現れて急に失速し、堕ちた王者とも揶揄されてその王政復古を目指してきたのだからシンデレラロードの存在はプレッシャーなのだ。

 

そんな時に清楚なまとめ役の川島清美はかえでのほっぺたを指でツンツンする。

 

「清美…。」

 

「私たちはスマイリング娘。よ。ファンの前ではスマイルを絶やさない、それが私たちの王者としての誇りよ。でも…かえではスマイルになってる?」

 

「え…?」

 

「あなたがかつての栄光にこだわって復権を目指しているのは私たちも知っているのよ。」

 

「でもそれってウチららしくないじゃん。いつも時代の先取りをして未来を明るくってのがモットーじゃん。」

 

「たとえ強敵が相手でも問題ありません。リーダーは無責任にファンを楽しませて私たちをも巻き込むことだけを考えてください。あなたをリーダーに任命したのは…私たちなんですから。」

 

「みんな…うん!弱気になってごめんね!私たちのスマイルは世界のスマイル!政権奪還がなんだ!私たちは私たちらしくいくよ!」

 

「ゴー!ゴー!スマイリング!」

 

いつもと掛け声が変わったことにアルコバレーノやあかり世代より以前のメンバーたちは驚いた。

 

スマイリング娘。のパフォーマンスはファンが笑顔になれるなら何でもしてきて、今回もまた最高の笑顔にするべくパフォーマンスを続けた。

 

お姉さんが初期メンバーでお笑いでも何でもやる天王寺あかね、台湾人で日本のアイドルが大好きなファン・メイユン、インド人とのハーフでカレー屋さんを経営する霧島モカ、日本人ながら石油王で中東の発展に貢献した父を持つ新川ありさ、女子バレーボールの全国大会経験者で全日本強化選手にもなった稲垣奈津美、星のような明るさで天真爛漫な月島星乃、いつも眠たげでゆるふわマイペースな花園ゆめ、元々は在日韓国人だったが日本が大好きで日本国籍を取得した金子香織、そして日曜大工が趣味でお祭り女の長谷部梨花というそうそうたるメンバーだった。

 

吉原かえでは心配性でありながら責任感が強く、そしてメンバーの笑顔を絶やさないように健気に励ましてきた。

 

そんなスマイリング娘。のパフォーマンスが終わった時、月光花は燃えてきたのか戻る前に円陣を組む、

 

「あの…えっと…緊張するね。」

 

「私たちは花柳先生の厳しい稽古にずっと耐えたじゃないか。自信を持ってもいいのだぞ。」

 

「そうだね。私たちは京都のみんなの星だからね。私なんて殺陣でウォーミングアップしたくらい興奮しているよ。」

 

「それに…アルコバレーノの皆さんにもSBY48さんにも挑めるだなんて光栄なことでございます。私たちローカルがこの大舞台に立てているのでございますから。」

 

「みんな…。」

 

「さぁ時間です先輩。こんな大舞台では一筋縄ではいかないですが、私たちにはこの世界だけではない方々も応援に来ているのですから期待に応えなければなりません。」

 

「そうだね…。でも…その事は秘密だよ?」

 

「ええ、私たち月光花だけの秘密…。妖魔界のみんなも見守っているわ…。」

 

「すぅ~っ…。みんな…掛け声しよう!」

 

「うん!はなが率先して掛け声出すなら私たちも頑張るよ!」

 

「日ノ本に咲く黒き花!」

 

「「夜空を灯す淡い月!」」

 

「月光花!」

 

「「いざ参る!」」

 

月光花の番になると和の雰囲気に欧米のネットが大反響で大和撫子の再来というコメントが多かった。

 

ところが日本ではUMD48を破ったことで嫉妬なのか誹謗中傷の被害に遭い、月光花を窮地に立たせた。

 

そんな中で新たにプロデューサーになった焔間ひめぎくの敏腕さで乗り越えてきたのだ。

 

あかりたちは月光花を尊敬し、同時に同じ不思議な力を持っていると感じた。

 

月光花を終えると今度はあかりたちの番だ。

 

「さぁみんな、今までの集大成をここで出そう!」

 

「ええ、もちろんよ!」

 

「よーし!オレも興奮してきたよ!」

 

「うん…頑張ろうね…!」

 

「エリスも輝いたのでワタシも頑張るよ!」

 

「ショータイムはこれからのようね!」

 

「今日はあいつのためだけじゃなくて…みんなのために歌うよ!」

 

「日菜子ちゃんの幼馴染みって秋山プロデューサーの弟子になったんだよね?」

 

「うん!作曲をプロ目線で教わって、今日の新曲で勝負曲を作ってくれたんだ!」

 

「それじゃあ負けられないわね!」

 

「それに私たちにはドリームパワーがあるわ!それじゃあ行くわよ!」

 

「待って!センターじゃないみんなも総選挙で残念だったみんなも…今日は全員がセンターになってファンのみんなを盛り上げようね!SBY!」

 

「48!」

 

あかりが掛け声を仕切り、48人のメンバーは心を一つにそれぞれのポジションへ立った。

 

曲目は最初は新曲でツインテールに恋する男の子の歌で始まり、二曲目のミューズナイツの曲を48人がカバーし、最後の人気曲のファンのみんなに会いたかった気持ちを爆発させるアイドルの歌で締めくくった。

 

そして最後のアルコバレーノの番が回る。

 

「みんな凄いよ…!ボクたちこんな凄い子たちと競い合うんだね!」

 

「私、普段は冷静だって言われるけれど…こんなの見せられて燃えないはずがないわ。」

 

「早くファンのみんなの笑顔が見たい!もう勝ち負けなんてどうでもいいよね♪」

 

「そうだな!私たちは希望を導く存在である!」

 

「よっしゃあ!燃えてきたぜ!」

 

「さくらさん!いつものあれ、やりましょう!」

 

「うん!希望を導く7つの光!輝け!」

 

「アルコバレーノ!」

 

「さぁここで最後の出場者になります!」

 

「えーーーーー!」

 

「では最後の大取り、アルコバレーノです!」

 

アルコバレーノのパフォーマンスはいたって普通のアイドルそのもので、目立ったところは何もなかった。

 

というより今大会はハイレベルで今までのパンチの効いたパフォーマンスと比べる取ってだけで実際はとてもハイレベルなのだ。

 

しかし本題の三曲目に入ると…審査員の黒田純子の顔が急に変わり始める。

 

「え…そんな…!」

 

「この曲って日本語じゃなかったかしら…?」

 

「しかもこれ…振り付けも手話に変わってますよ…?」

 

「ああ…オレたち…」

 

「完全にやられたって感じ…」

 

「これ…完全にイングリッシュデス…」

 

「世界を意識しているって事…?」

 

「ふっ…これはもう…決まったかなぁ…。優勝して…みんなとの最高の思い出にしたかったなぁ…。こんな形で引退したくなかったなぁ…。悔しいなぁ…」

 

「加奈子先輩…!」

 

加奈子はアルコバレーノの三曲目のパフォーマンスで世界の人や障碍者をも意識したパフォーマンスに急遽変更したことに真っ先に気付き、もう自分たちがどんなに最高のパフォーマンスをしても勝てないと確信した。

 

そのせいか加奈子は最高のメンバーと最高の形で有終の美を終えたかったと未練を残して引退することとなった。

 

その事を悟った加奈子は悔し涙を流し、声も出ないほどに泣き崩れた。

 

それを見たあかりたちミューズナイツのメンバーは、加奈子を囲んで抱きしめ慰めた。

 

結果は…

 

「さぁここから得点です!スマイリング娘。の96点!シンデレラロードの97点!月光花の98点!そしてSBY48の99点を果たして超えられるのか!?アルコバレーノの結果は…来ました!これは…100点です!ということは…文句なしの優勝です!!」

 

「やったーーーーーーっ!」

 

有償が決まったアルコバレーノは一斉に抱き合い、嬉しさのあまりに涙を流した。

 

ミューズナイツ以外のメンバーは自分たちが負けたことで悔し涙を流し、加奈子に最高の形で引退してほしいという気持ちが叶わなかった事でショックを受けた。

 

一方のスマイリング娘。はホッと一息をつき、シンデレラロードはやりきったし悔いはないという顔つきで、月光花は悔しさで涙を流したけれどリーダーの常盤わかばが大人の対応で優勝をお祝いし握手をした。

 

同時に月光花には世界ツアーがあり、そのために準備をしなきゃともう次の事を考えていた。

 

一方SBY48は…

 

「加奈子先輩…」

 

「もう大丈夫だよ…。でも一人にしたら多分また寂しさと悔しさが溢れて泣いちゃうからみんなにはそばにいてほしいな…。悔しいけど…SBY48は引退するのは私たった一人。アルコバレーノは桃井さくらさん以外の全員が引退するんだよ。有終の美に対する気持ちの重さが違いすぎる。私の引退の重さの6倍の差があった。そこは認めないといけないよ。アルコバレーノこそが…伝説のアイドルグループであり、真の王者なんだ。だから…あかり、結衣、日菜子、麻友美、ひかり、麻里奈、エマ、そして萌仁香…アルコバレーノのみんなの楽屋に行ってお祝いしよう」

 

「先輩…はい!」

 

こうしてワールドアイドルオリンピックは閉幕し、アルコバレーノの優勝に終わった。

 

表彰式ではアルコバレーノが金メダル、SBY48が銀メダル、そして月光花が銅メダルを授与され熱かった世界はゆっくりとクールダウンされていった。

 

あれから加奈子たちはアルコバレーノに御祝いの言葉を交わし、加奈子もアイドルを引退する事を知らせ、アルコバレーノのさくらは加奈子ほどのトップアイドルを越えられたことを誇りにファイナルライブをしてきますと宣言した。

 

そしてSBY48は…秋山加奈子の卒業引退ライブに向けて準備を進めた。

 

つづく!



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第87話 ドームライブ

ワールドアイドルオリンピックが閉幕し、熱気も冷めてきた年始。

 

各アイドルたちはそれぞれの仕事をこなし、それぞれの目標へと進んでいった。

 

そしてSBY48も例外ではない…

 

「今日のレッスンはここまで!お疲れ様でした!」

 

「お疲れ様でした!」

 

「ここのところレッスンが厳しいですね…」

 

「2月に東京ドームでライブをするんだもの。ずっとワールドアイドルオリンピックで忙しかったからって言い訳してたらファンに失礼だもの」

 

「結衣は相変わらずストイックだなー」

 

「でもおかげで体力もついてきたよね」

 

「ははっ!間違いねぇや!」

 

「それに…加奈子先輩と話し合って決めたこともありマス…」

 

「そうですね…」

 

あかりたちはミューズナイツとして加奈子の引退を見守るだけでなく、そのメンバーの一人が抜けるという現実もある。

 

そんな中で合間を取って9人で話し合い、当日の東京ドームライブでミューズナイツとして出た後にファンに向けての発表をすると決めた。

 

あかりたちは正直に言って解散はしたくないと思ったが、加奈子の意志を尊重した上で解散を受け入れた。

 

ミューズナイツはこの9人じゃないとミューズナイツとはいえないという結論に至ったのだ。

 

1月はライブ出演メンバーは全員仕事を少なめにしてドームライブに向けてのレッスンに集中する。

 

下旬にもなるとレッスンもハードになっていき、たまにレッスン中にリタイアする子も出てくる。

 

同時に2月は総選挙でもあるので研修生や他の系列グループにとっては逆転のチャンスでもある。

 

何故ならSBY48のレギュラーメンバーはテレビやラジオを少なめにしている分、表舞台に出る事が減ったのだから。

 

そしてついに2月のドームライブ当日になり、開演の時間を待つ。

 

「やっぱり緊張するね…」

 

「ファンしかいないともなるとあの時とはまた違う緊張があるよ…」

 

「もう、今更緊張なんてしなくてもいいじゃないですか」

 

「そういう萌仁香だって脚が震えてマスネ」

 

「言わないでくださいよ!隠してたのに!」

 

「いや見え見えじゃねぇか」

 

「うー…!」

 

「ほらほら、もうすぐ開演だから喉を大切にね?リラックスも大事だけど、しすぎて故障なんて笑えないからね」

 

「は、はい!」

 

「大丈夫…大丈夫…大丈夫…!」

 

「加奈子先輩…!」

 

「やっぱり加奈子先輩でも緊張するんだね…」

 

「そうみたいね…」

 

「かーなこ先輩っ!いつもの笑顔とリーダーシップが隠れちゃってますよ?」

 

「日菜子…」

 

「やっぱり解散の発表するのが怖かったりします?だとしたら当然ですよ…。これだけ短い期間で解散するんですから…。私も正直言って、もっと先輩とグループしたかったです。けどこれだけは確信できるんですよ。遠い将来、このみんなでもう一度集まって何かを成し遂げるって気がするんです。だから加奈子先輩はファンのみんなを信じましょう。そして…最高のありがとうと、またねを込めて伝えましょう!」

 

「日菜子…!ありがとう、おかげで目が覚めたよ。私らしくみんなの前では堂々としてようと思ったけど、不安もやっぱりあったみたい。今はみんなが背中を押してくれる。だから…たまには後輩たちにも頼っちゃおうっと」

 

「先輩…」

 

「さぁ集まって!もうすぐ開演だから48人で円陣組むよ!S!B!Y!」

 

「48!」

 

ドームライブが開演されて48人のメンバーはそれぞれのポジションに着く。

 

ポップアップだったり舞台袖からの入場だったり、客席からの登場だったりなど様々な登場でファンを驚かせた。

 

SBY48は銀メダルながらもアジア圏では絶対の人気を誇っているので熱狂的な外国人ファンも多くいる。

 

最初はワールドアイドルオリンピックでも発表した新曲を披露し、会場のボルテージをアップさせる。

 

グループでライブした後は、それぞれの個人グループでのパフォーマンスになりミューズナイツは一番最後になる。

 

あかりが研修生時代にお世話になった先輩たちは個人グループで活躍し、あかりの成長を誰よりもそばで見てきたのか自分たちもさらにトップアイドルへと近づいていた。

 

次のグループも個性的なオタクユニットや学校の同級生ユニットなどバラエティ豊かなパフォーマンスになり、ミューズナイツにも負けないくらいの人気ぷりが伺えた。

 

そしてついに…ミューズナイツの番が来た。

 

「ミューズナイツ!レッツミュージック!」

 

「Fu-------!」

 

ミューズナイツの登場は掛け声と同時に天井からの登場で、ワイヤーに吊るされながら降りていく登場になる。

 

客席が9色のサイリウムで染められて美しい騎士団員たちの団結が見られた。

 

MCに入り、いつものコール&レスポンスを終えると、加奈子は深呼吸をして重大発表をする。

 

「あのっ!みんなに絶対知らせないといけない事があるんだ!」

 

「おーっ…?」

 

「えっと…その…」

 

「先輩、私たちがついてます。だからもし批判的な事を言われたら私たちに任せてください」

 

「あかり…ありがとう。みんなは私がアイドルを引退するって事はもうわかっているよね?もちろんアイドルで培った経験を無駄にしないし、もっと自分を高めていこうと思う。もちろんミューズナイツでの思い出も忘れない。でもアイドル引退とはつまり…ミューズナイツでいられなくなるって事なんだ。それに伴い、ここにいる最高の仲間たちと話し合って決めたんだ。よかったら聞いてくれるかな?」

 

「いえーーーーーい!」

 

「加奈子ちゃんがんばれー!」

 

「泣かないでー!」

 

「えっとね…秋山加奈子の引退に伴い、ミューズナイツは…今日でおしまいにします!」

 

「……。」

 

「ミューズナイツは私が始めたワガママから始まったけど、プロデューサーやミューズナイツじゃない仲間たちからささやかれてきたんだけど、やっぱり私達も感じてた。ミューズナイツはこの9人じゃないとダメなんだって思ったんだ。だから私が抜けたら、いくらこの子たちが人気アイドルでも、結局人気も落ちるしイメージが湧かないまま自然消滅してしまうんじゃないかって考えじゃって…。だからいっそのこと活動休止という形で一度おしまいにして、もし私の代わりになる子が出てきたら活動を再開しようって話し合いで決めました。だから…こんなに短い期間だったけど、応援してくれて…ありがとうございました!」

 

「……。」

 

「あのっ!その事でショックだったとしても…加奈子先輩の事を嫌いにならないでくださいね!加奈子先輩はずっとミューズナイツの事を憂いてきて、将来の事も一人で考え込んだこともあったの!そのミューズナイツの事を誰よりも想っている加奈子先輩がここまで悩んで決めた事だから…受け入れてほしいとは言わないけど、加奈子先輩の事を嫌いにならずに応援してください!」

 

「そっか…加奈子ー!今までありがとうー!」

 

「短かったけどお疲れ様ー!」

 

「活動再開を待ってるわねー!」

 

「みんな…本当にありがとう!それじゃあミューズナイツ最後の曲!いくよー!せーの…」

 

「ミューズナイツ!レッツミュージック!」

 

「「HEY!HEY!HEY!」」

 

ファンのみんなと一つになってコール&レスポンスを成功させてミューズナイツは活動休止への有終の美を飾る。

 

活動休止と入ったけれど、実質加奈子のような逸材はそう簡単には見つからないし、引退したともなれば加奈子の代わりはいない、ましてや人気アイドル同士なので再度集まるのは難しいので実質解散という事になる。

 

それでもファンのみんなだけでなくあかりたちも、もう一度活動を再開する事を込めてあえて活動休止という風に発表した。

 

ミューズナイツとしての有終の美を終えて、最後のSBY48としてのパフォーマンスで締めくくり、加奈子にとって最高の思い出となった。

 

「ありがとう!それでパパから重大発表があるんだ!ミューズナイツは…SBY48の永久欠番に任命します!私たちミューズナイツは…永久に不滅です!」

 

こうしてミューズナイツは永久欠番になり、もう今後新たなメンバーを入れる事はなくなった。

 

それからもライブは続き、最後までSBY48としてアンコールを終えてカーテンコールをし、ライブも無事に終えた。

 

ちなみに…後日行われた総選挙の結果はあかりが1位で、話題の加奈子は2位となり、ライバルのUMD48の白石美帆は3位となった。

 

つづく!



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第88話 ユメミール王国

東京ドーム公演やアイドル総選挙も終えたミューズナイツ一行は久しぶりにユメミール王国へ行くことになった。

 

せっかくの全員オフの日だからゆっくりすればいいのにと秋山プロデューサーは言うが、やっぱりあかりたちにとってユメミール王国はかけがえのない存在で、自分たちの夢が叶って今も追いかけられるのはこの国が陰で支えてくれたからと感謝の気持ちを込めて訪れたいと聞かず日帰りで赴くことになったのだ。

 

あかりたちはワクワクしながら誰にも見つからないように代々木公園に向かい、いつもの入り口に集まり入る準備をする。

 

「ここに来るのも久しぶりデスネ」

 

「そうですね…。あのディアボラーナとの戦い以来ですね…」

 

「あの時は本当に苦労したよなー」

 

「けどこうして平和でいられるのは本当にありがたいことですよ?」

 

「もうダメかと思ったところに加奈子先輩が駆けつけたのよね」

 

「正直、間に合うかギリギリだったんだよ?」

 

「それでも本当にありがとうございます」

 

「さぁ、入ろうか。その前に…パパ、そこにいるんでしょ?」

 

「バレてしまったか。実は僕も久しぶりに妻に会いたくなってね。ついでに日菜子が心配だからって聞かない子もついてきちゃったんだ」

 

「へへ…悪いな」

 

「智也!どうしてここに!?」

 

「日菜子が言ってた国がどうしても気になっちゃってな。俺も一目見てみたかったんだよ。それに…助けられたお礼も兼ねて行きたくなったんだ」

 

「なーんだ。そういう事ならついてきて!でも迷子にならないでね?智也は方向音痴なんだから」

 

「はは…善処するよ」

 

「それじゃあ改めて…入ろうか」

 

「はい!」

 

あかりたち9人だけでなくゲストとして秋山プロデューサーと、作曲の弟子入りしてもう一人立ちした日菜子の幼なじみの松田智也も一緒になる。

 

入口に入ると智也は緊張なのか少しだけ委縮していて日菜子の手をギュっと握る。

 

日菜子は大丈夫だよと握り返し、少しだけ智也は安心した。

 

ユメミール王国に着くと前に行った去年末よりも復興が進んでて本来の美しい中世から近世のヨーロッパの街並みになっていた。

 

智也は見慣れない異世界の風景にあたりを見回して写真を撮るほど興奮していた。

 

あかりたちに気付いた国民たちは一斉に集まって歓声で迎え入れた。

 

「おお!この方たちが今のミューズナイツ!」

 

「よくぞあのディアボラーナを倒した!」

 

「本当にありがとう!」

 

「おお…!日菜子たちってこの国では英雄なんだな…。いいのかな、俺がついてきても…」

 

「智也も陰で私たちを支えてくれたんだからいいんだよ!ほらほら、私についてきて!」

 

「惚気(のろけ)はいいからちゃんと手を振れよなー。こんな機械二度とねぇんだから」

 

「はーい」

 

「ミューズナイツ御一行さまですね!ようこそユメミール王国へ!そして女王陛下のご主人さまもよくぞいらしました!それでこの少年は…?」

 

「あ、えっと…俺はこちらの篠田日菜子の恋人で、こちらの秋山拓也さんの弟子の松田智也です。日菜子にはダークネスパワーに支配された時に助けられて、それ以降は陰で曲を作ったり一般の人を巻き込まないように誘導してました」

 

「ということは…陰の騎士ですね!あなたもミューズナイツの関係者でしたら歓迎しますよ!ささ、王宮はこちらです!」

 

「王宮!?」

 

「まぁ城だからってそんなに遠慮する事はないんだよ?」

 

「とは言っても板野さん…。俺って一応部外者だからさ。勝手について来た俺が悪いけど…」

 

「緊張しそうになったら私から何とか説明するから、松田くんは安心してゆっくりしてて」

 

「加奈子さん…ありがとうございます」

 

あかりたちに気が付いて声をかけた兵士の男はすぐに王宮へ案内し、完全にゲストの智也をも受け入れて歓迎する。

 

あかりたちにとっては何度も訪れた王宮だったが、智也に至っては直接戦ったわけではないので緊張するものだ。

 

それも相手はおそらく女王であるヴィオラなのだから緊張するのも無理はなかった。

 

王宮に着くとヴィオラ女王の美しい姿がお見えになり、智也は思わず息を飲んで見惚れた。

 

そんな中で日菜子は嫉妬する様子もなく、ただ「あの美しさは見とれるよね、わかるわかる」という目で見守っていた。

 

ヴィオラはあかりたちに気付きすぐに玉座から立ち上がって声をかけた。

 

「女王陛下の御なーりー!」

 

「ミューズナイツの皆さん、よくぞおいでなさいました。あなたもお疲れさま。それでそちらの男の子は…?」

 

「僕の作曲の弟子で篠田さんの恋人の…」

 

「えっと…松田智也と申します。いつも日菜子さんがお世話になっています」

 

「まぁ…あの日菜子ちゃんの恋人さん…!うふふ、あなたも隅に置けないわね♪」

 

「えへへぇ…///」

 

「女王さまの前で何ニヤけてるのデース」

 

「だってぇ…///」

 

「この国もだいぶ復興が進み、かつての美しい夢のある国になりつつあります。今も人間界には夢が破れて自暴自棄になって堕ちてゆく者もいますが、昔と比べると夢が叶わなくとも新しい夢を見つける努力をしたり、叶った後がスタートだと意気込むようになりました。おそらくミューズナイツがアイドルとして活躍し、たくさんの曲が評価されているおかげかもしれません。主人から聞きましたが、その曲を作ったのは松田くんかしら?」

 

「はい。俺が作りました」

 

「そう…。あなたのおかげでミューズナイツは度重なる苦難を乗り越えられました。本当に感謝します」

 

「いえ…元はと言えば、あの時に俺がアクムーン帝国の標的にされて鳥かご型の檻に閉じ込められ魔物になった時に日菜子さんに助けられたんです。そんな中で秋山プロデューサーが俺を見つけ、こうして陰で支える側に回れています。ここまでこれたのもかけがえのないミューズナイツや秋山プロデューサーのおかげです」

 

「謙虚でも自信に溢れるそのドリームパワー…あなたは将来、作曲家として大きな成長を遂げると約束するわ。さぁ国民の皆さん!こちらのミューズナイツと私の夫の秋山拓也、そしてミューズナイツを陰で支えてくださった客人を迎え入れ、復興記念の宴を開きましょう!ミューズナイツの栄光とユメミール王国の今後の繁栄に…乾杯!」

 

「かんぱーい!」

 

あかりたちは英雄として受け入れられて少しだけ照れくさくなったのか、乾杯の際に下を向いてしまった。

 

ひかりと麻里奈、日菜子、エマ、萌仁香は自信満々で、結衣と加奈子は謙虚ながらも堂々とし、麻友美に至っては緊張のあまりに乾杯が遅れるなどバラバラながらも息がピッタリだった。

 

宴を終えるとあかりたちは国を散策し、美しい歌声と楽器のハーモニーを聴き日帰りの観光を堪能した。

 

一方の客人の智也はこんなフレーズがあったんだ…と興味津々に図書室の楽譜に夢中になり、司書さんも感心するほどの集中力を見せた。

 

秋山プロデューサーはヴィオラ女王と加奈子の家族水入らずで会話をし、SBY48がワールドアイドルオリンピックで銀メダルだった事、加奈子がアイドルを引退して世界を旅する事、4年後にリベンジする事、総選挙であかりが1位を獲った事を話した。

 

夕方になり帰る時間となったあかりたちはヴィオラ女王に挨拶をする。

 

「すみませんヴィオラさん、ちょっと長居しすぎちゃいました」

 

「いいのよ。あなたたちはこの国の英雄なんだからもう少しゆっくりしていってもよかったのよ?」

 

「とは言っても…そうはいかないんです。加奈子先輩の卒業ライブがあるのでアイドルとして仕事をしなければならないんです」

 

「という事なんだぜ。よかったらヴィオラさんもライブに来いよ」

 

「萌仁香たちはいつだって待ってますからね!」

 

「二人とも…女王様の前ではしたないわよ…?」

 

「うふふ、構いませんよ。私たちとの仲なのだから。それじゃああなた、いってらっしゃい。愛しているわ」

 

「ああ、僕も愛してるよ。それじゃあ…娘の最後の勇姿を見守るために、いってきます」

 

チュッ

 

「きゃー!///」

 

「パパとママはいつもこうだよ?」

 

「だとしてもいざ見ると恥ずかしい…」

 

「さすが一人娘…毎日見慣れてやがるぜ…」

 

「デスネ…」

 

「ミューズナイツが旅立たれる!敬礼でお見送りを!それでは…いってらっしゃいませ!」

 

ユメミール王国民とヴィオラ女王に見送られ、あかりたちは日帰り旅行を終える。

 

人間界の代々木公園に戻り、劇場にて最後の調整を行う。

 

そしてついに…加奈子先輩の卒業公演が行われる。

 

つづく!



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第89話 卒業

3月上旬、アルコバレーノのファイナルライブを迎えた東京ドームでは最高のライブが行われていた。

 

その事で話題でもあったが、やはりSBY48の話題も尽きなかった。

 

そう、あの秋山加奈子の卒業ライブだ。

 

SBY48の黄金期が来たのは9年前でそれから衰退していったものの、秋山加奈子が飛び級でレギュラーメンバー入りしてすぐに復活し、ついに第二次SBY48ブームを呼びよせたのだ。

 

そして加奈子自身初の個人グループであるミューズナイツでさらに加速し、神7ではなく神9という概念を創った功績もある。

 

そんな秋山加奈子は今日…SBY48及びアイドルから卒業する。

 

「加奈子先輩、もう大丈夫デスカか?」

 

「うん、大丈夫。あの時の緊張と比べたら平気だよ」

 

「加奈子先輩は本当に強いですね。やっぱり最強のエースですね」

 

「うーん、トップになったあかりに言われてもなんかなぁ…」

 

「そんなー!先輩ひどいですよー!」

 

「ふふっ、冗談だよ♪」

 

「もうー!」

 

「あかりがチョロすぎデス」

 

「リアクション面白いもんな」

 

「わかるー」

 

「みんなまでひどい…」

 

「まぁまぁ。それよりもこの卒業ライブは加奈子先輩だけでなく、私たちも加奈子先輩がいなくなってから勢いが落ちたなんて言われないようにしないと」

 

「確かにそうだな。オレらが人気を落としたらシャレにならねぇしな」

 

「そうだね」

 

「もうすぐファンのみんなとお別れかぁ…。何だかあっという間な6年間だった気がする」

 

「えーっと…すみません!もうすぐ開演の時間です!」

 

「はーい!じゃあ最後の掛け声を加奈子先輩!お願いします!」

 

「うん!それじゃあ…私に遠慮することなく、私がいなくても大丈夫ってところを見せるように目立っていいからね!S!B!Y!」

 

「48!」

 

「開演しまーす!」

 

加奈子の一声でSBY48のメンバーの気合いが入る。

 

とくにミューズナイツのメンバーは加奈子を最も近くで見てきたため成功させようと気合が入っていた。

 

最初はSBY48としての人気曲で本来は加奈子がセンターではない曲だが、今回は特別に加奈子をセンターとした振り付けアレンジで挑んだ。

 

しかし加奈子はアドリブでミューズナイツではないメンバーの子をセンターに立たせるなどされ他の子は困惑する。

 

それでもベテランの子や同期の子は「やっぱりそこは加奈子なんだな。敵わないなぁ…」という笑みで見守った。

 

次の曲も加奈子がセンターだがやっぱり他の子にもスポットライトを浴びせるアレンジでお返しされ、次第にみんなはそれに慣れてきたのかもう加奈子のそういうところを活かしていこうというスタイルにまた変更された。

 

最初のMCに入るとそれぞれのコール&レスポンスで盛り上げる。

 

「今日で加奈子は卒業だけど、まだまだ私たちもいるし、後輩たちも成長してSBY48の勢いを止めないように頑張るね!」

 

「いえーーーーーい!」

 

「それにもう最初の全盛期を越える事も出来て嬉しく思います!永久欠番のミューズナイツにも支えられて本当に残る私たちは幸せ者です!」

 

「いえーーーーーい!」

 

「加奈子、何か一言!」

 

「私?うーん…私は自分自身のおかげで全盛期を越えたとは思っていません。ここにいるみんなのことを知ろうと必死にコミュニケーションを取ったり、プロデューサーのパパの元に行ってみんなのことを教えてもらったり、レッスンや仕事の時も観察、さらには自分を知るために自己投資や研究との両立したりしたなぁ。だから私一人じゃ絶対に全盛期を越えるなんて無理だった。ここにいる仲間たちと切磋琢磨し、先輩たちの意志を受け継ぎ、後輩たちに成長してもらったからこんなに凄くなったんだよ。私だけでなく…仲間やファンのみんなに支えられて大きくなったと思ってます。本当に…今までありがとう!」

 

「加奈子ー!」

 

「こっちこそありがとう!」

 

「あの頃よりも楽しかったよー!」

 

「それじゃあ…ミューズナイツの…」

 

「あら、もうミューズナイツは永久決断で活動休止でしょ?」

 

「あ、そうでした」

 

「先輩方…w」

 

「じゃあまずは板野さんから!」

 

「はーい!アタシは正直さ、加奈子先輩の事が苦手だったんだよね。最初の頃はエースという風格に押されて、なんか型にはめそうだなーって勝手に思ってた。でも実際に話したら違ってた。アタシの学力はともかく、アタシの武器である美意識とポージングなどを活かそうとモデルの勉強もしてきて、衣装のアドバイスもすごく参考になった。加奈子先輩はアタシにとってはモデルとしては後輩でも…永遠に越えられない偉大な先輩だと思ってます!今までありがとうございました!」

 

「麻里奈…」

 

「次は大島さん!」

 

「えっと…最初はミューズナイツも8人で活動してて、リーダーを決めようってなった時に私をリーダーに任命してくれましたよね。あの時は何で私が?って思ってて、私なんかでリーダーは務まるのかなって不安でした。でも加奈子先輩は私の適性を見て判断し、自分に厳しくするところまで見抜かれて今となってはリーダーの経験をしてよかったって思ってます。おかげで加奈子先輩を失っても、私がみんなを引っ張ろうと思えるようになりました。責任感を教えてくれて…ありがとうございました!」

 

「結衣…」

 

「次は小嶋さん!」

 

「萌仁香は…えーっと…最初に加奈子先輩に会ったのは、まだ萌仁香が地下アイドルだった頃でした。あの時は本当の自分が好きなのに嫌いと言い張って、前のプロデューサーの言いなりだった萌仁香を変えてくれて本当に感謝しています。今となっては本当の自分をさらけ出してもファンのみんなに受け入れられて、批判があってもかばってくれた。この音は絶対に忘れないんだから…心配になって戻ってきたなんて言わないでくださいよね…?ありがとうございました…」

 

「萌仁香…」

 

「次は篠田さん!」

 

「んーっとね…私が彼氏が出来ても真っ先に応援してくれたし、彼氏が作曲家デビューしたときはすぐにお祝いしてくれたよね。あの時はすっごく嬉しかった。今は私がプロデューサーと一緒に作詞するようになったし、いろんな挑戦をしようって思わせてくれたのも加奈子先輩だった。今日で先輩がいなくなるなんて信じられないけど…これからは私たちがこのグループを引っ張っていくから安心して夢を叶えてください!ありがとうございました!」

 

「日菜子…」

 

「次は渡辺さん!」

 

「うう…先輩…!私…自分に自信がなくて…いつも引っ込んでばかりなのに…それでも諦めずに最後まで面倒を見てくれましたね…。それが凄く嬉しくて…いつも励みになっていました…。私が臆病なばっかりに迷惑をかけたりしても…絶対に嫌な顔せずに見てくれました…。今も泣いて迷惑をかけているのに…こうして見守ってくれて…。加奈子先輩は優しいです…。そんな加奈子先輩を…私は大好きです…。ありがとうございました…!」

 

「麻友美…」

 

「次は高橋さん!」

 

「うす!加奈子先輩…オレが失礼なくらいにタメ口で効いているのに全く注意しないで受け入れてくれたな…。でもやっぱり…しおらしくなると気持ち悪いと言われそうなのであえていつものオレで言わせてくれ!加奈子先輩はオレみたいなバカでも合わせてくれて、見捨てずに一緒に頑張ってくれた。その事はもう感謝しても足りねーくらいだぜ。もう卒業するなんて嘘だと言ってほしいくらい寂しいけど…夢を叶えるために頑張れよ!ありがとうございました!」

 

「ひかり…!」

 

「次は柏木さん!」

 

「加奈子先輩…エマは幸せ者デス。こんなにお手本のような先輩はイギリスにもいませんデシタ。加奈子先輩はアイドルとして自分だけでなくエマたちのことにも気にかけて、全員でチームなんだと言って誰も見捨てずに見てくれマシタ。こんな最高のリーダーを失うのは痛いデスが…いつもはちょっと意地悪を言っちゃいマスが…今回は言えそうにないデス…。エマにもう一度希望を与えてくれて…アリガトウゴザイマス…!You are top idol。Kanako be ambitious!」

 

「エマ…!」

 

「最後に…前田さん!」

 

「はい!加奈子先輩…加奈子先輩はレギュラーメンバーだけでなく、研修生の様子もよく見てくれましたね。あの見守りのおかげで私だけでなく、研修生の先輩方も頑張ろうって思えたんです。知ってましたか?そのおかげで誰も研修生からクビになった子は出ていないんです。加奈子先輩がみんなの個性を最大に活かすためにアドバイスをくれたり、一緒にレッスンして自分を知ったりと成長の手助けをしてくれました。最後になりますが…先輩は将来、絶対に秋山プロデューサーを越えるプロデューサーになるでしょう。そんな未来が私には見えるんです。約束です、もし本当にそうなったら…またこの9人で渋谷で集まって活動再開を宣言しましょう!ありがとうございました!」

 

「あかり…!笑顔で卒業しようと思ってたのにズルいよ…。本当は卒業なんてしたくなかったのに…その気持ちが溢れちゃうよ…!でも…せっかく夢のために羽ばたくチャンスを捨てたくないし、応援してくれるみんなを裏切れない。だから…秋山加奈子は、アイドル及びSBY48を卒業します!じゃあ卒業ライブ名物のあの曲…いこっか!せーの!」

 

「旅立ちは別れじゃない!」

 

最後の卒業ソングを歌って卒業ライブを終える。

 

48人の美しい合唱は劇場を感動の渦に巻き込み涙を流すファンも多かった。

 

そして残るメンバーだけでなく、加奈子も今まで流したことのない涙を流し感動が溢れていった。

 

こうして…秋山加奈子の6年間のアイドル道が終わったのだ。

 

あれから4年後…ワールドアイドルオリンピックでリベンジを誓うも僅差で月光花に敗れまた銀メダルとなった。

 

ただし2022年度から毎年行われる国際アイドルチャンピオンシップでは9連覇を果たしている。

 

そして2026年にあかり、結衣、日菜子、エマが卒業。

 

2027年に麻友美、ひかりが卒業。

 

2028年に萌仁香が卒業しミューズナイツは本当の意味で永久欠番となったのだ。

 

時は流れ2030年…また新たな活動をするあかりたちだった。

 

つづく!



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最終章
第90話 あかりの未来


時は流れて2030年、前田あかりはアイドルを卒業してからテレビに出演するアイドル系タレントとしてデビューし、アイドルについて詳しい情報を伝えるようになった。

 

彼女が評価したアイドルは必ずブレイクし、アイドル界ではアイドル評論家とも言われている。

 

27歳になったあかりはタレントとしてだけでなく女優や歌手としてもマルチな活動をしていた。

 

そんなある日の事だった…

 

「本番5秒前!4!3!2!1……スタート!」

 

「オールスターカーニバル祭りー!」

 

「いえーーーーい!」

 

「さぁ今年も始まりましたオールスターカーニバル祭り!司会はわたくし、島田慎二と……」

 

「アナウンサーの増田ひなたがお送りします!」

 

「今回はいつも通り早押しクイズだけでなく正解者の中で一番遅かった人が脱落するという毎春と毎秋でおなじみのクイズゲームです。今回のゲストは……」

 

「ドラマ・カンザスシティドリームチーム!ドラマ・ルーキーチームズチーム!ドラマ・渡る世界は修羅ばかりチーム!芸人事務所の吉原興業チーム!芸人事務所の全力社(ぜんりょくしゃ)チーム!タレント事務所のタナベエンターテイメントチーム!そしてタレント事務所の虹ヶ丘エンターテイメントチームです!」

 

あかりはタナベエンターテイメントにタレントとして所属先が決まり、ミューズナイツのメンバー全員とは離れ離れになってはいるものの、個人的に連絡先を知っていてたまに一緒に食事をしたりするほどの仲だ。

 

ドラマチームの中に結衣はいなかったがあかりのやることはクイズでいかに正解して賞金を稼ぐ事だ。

 

最初のクイズが行われるとあかりは難なく正解し生き残りに成功する。

 

次の問題以降も正解をするも4問目で不正解となり脱落する。

 

だが次のコーナーに行くときは全員復活してもう一度早押し問題に参加できるのだ。

 

そのチャンスを活かして最後まで残るもチャンス問題に届かなかった。

 

そしてついにこの番組名物のあの企画の投票が行われる。

 

「さぁ当番組名物、赤坂ミニマラソンコーナー!今回もまた出演者様の投票でマラソンへの参加をしてもらいます!今回はいつも通り10キロメートルのマラソンとなります!では投票をどうぞ!」

 

「前田さんはどうする?」

 

「私はもちろん……」

 

あかりの答えはもう決まっていてマラソン大会に出場することとなった。

 

参加者は全員で48人であの時と一緒だとあかりは少しだけ嬉しそうだった。

 

その中にはトライアスロン完走や駅伝経験者、運動神経抜群の俳優さんや芸人さんもいてあかりにとっては脅威となった。

 

それでもちゃんとしたハンデがあり、その中から1位を狙いに行く。

 

ゲストには…

 

「ゲストランナーはやはりこの人!エドワード・ワーグナーさんです!」

 

「エドワードさん!お気持ちはいかがでしょうか?」

 

「引退して10年経ったのに毎年誘ってくださってありがとうございます。前回の春は1位を逃しちゃったけど、今回の秋は1位を狙います」

 

「やっぱり2020年の東京オリンピック金メダリストは自信が違いますね!ではマラソン参加者は準備をお願いします!」

 

あかりを筆頭に48人の出演者はマラソンの準備をするために別の待ち合わせ場所へ移動する。

 

その前に楽屋で運動着に着替えてからスタート地点に向かいウォーミングアップをする。

 

着替え終えるとあかりと同じ参加者の虹ヶ丘エンターテイメント所属でモデルの小野愛梨と会話をする。

 

「ねぇあかりちゃん、いつもは参加しないのに今回は参加するんだね」

 

「はい。いつもなら体力に自信はあってもマラソンは苦手だから遠慮してたんですが、このままだとダメだって思って思い切って参加を決めました」

 

「へぇ、やっぱりウチの事務所の桃井さくらちゃんと張り合うだけはあるなぁ。今回は同じハンデなしの一般女性枠として負けないよ!」

 

「私も負けません!テニスの全国大会で鍛えた精神力と、走り込みで鍛えた体力を見せます!」

 

ウォーミングアップをしばらくするとクイズの方は盛り上がっていてニートたかしによる理不尽なクイズで視聴者の笑いを取ったり、ローションを塗ったトラックでヌルヌルと競争をしたりと体を張ったコーナーで盛り上がっていた。

 

そしてついに…10キロメートルのマラソン大会が行われる。

 

「さぁお待たせしました!当番組名物!赤坂ミニマラソンコーナー!不参加の皆さんは誰が1位になるかを当てていただき、正解者同士で賞金の山分けをすることが出来ます!ではレディゴー!」

 

「投票終了!では何人が誰に賭けたのか見ていきましょう!」

 

1位の予想は相変わらずエドワードで、その次にはトライアスロン完走経験者の森明健次郎、箱根駅伝経験者の芸人コンビ・どこからのアンディえのもとが多数を占めた。

 

そんな中で一部の女性タレントが高校テニス全国ベスト8のあかりに入れるなど混戦だった。

 

そしてついに……スタートの時間がやってきた。

 

「On your mark……」

 

ピストルの音が鳴りあかりたち一般女性は一斉にスタートをする。

 

その30秒後に一般男性、その30秒後に運動経験者の3人、その20秒後に地方選抜組、その1分後にマラソン完走経験者、さらに1分30秒後に森明さんとアンディえのもとがスタートする。

 

最後の5分後にエドワードがスタートし、赤坂は興奮の渦に巻き込まれた。

 

あかりはいまだトップを走るものの次第に男性陣に距離を縮められてくる。

 

それでもあかりはテニス部引退後でも走り込みをやめずに走り続けた。

 

今までミニマラソンに参加しなかったのは、まだ体力が仕上がってないからで仕上がった今のタイミングで出場を決めたのだ。

 

そう簡単に負けたくないという気持ちが強く出ていて少し疲れてもペースが落ちる事はなかった。

 

しかしやはり男女の差は大きかった。

 

「がんばれーあかりちゃん!」

 

「あかりちゃんファイトー!」

 

「はぁ…はぁ…!」

 

「おっとここでフルマラソン完走経験者の国宮千尋が追い上げてきた!やっぱりマラソン経験者はスタミナが違うようです!前田あかりがついにトップ陥落!テニスの体力もここまでかー!」

 

「中継です!エドワードさんが残り5キロで既に半分を抜いています!」

 

「国宮千尋に抜かれて以降、前田あかりは失速!続々と運動神経抜群組に抜かれています!前田あかり、ついにトップ10から陥落だー!」

 

あかりの健闘もむなしく結果は15位に終わり、最初にしてはなかなかの成績だったものの、マラソンの経験の差が出てしまった。

 

あかりはもっと体力を鍛えて結衣に笑われないようにしようと心の中で誓った。

 

クイズの結果は賞金がなく残念だったけど毎回出演させてもらった上に楽しませてもらっているので充実した一日だった。

 

事務所に報告すべく今日の仕事を終えましたと電話で報告し終えてタクシーで家まで送られ帰宅する。

 

そんな時だっ……

 

「ん?誰からのメールだろう……?えっと……久しぶりだね。突然だけど今年の大晦日に渋谷駅のハチ公前に集まってほしいので、仕事をオフにして時間を空けておいてください。秋山加奈子より……って加奈子先輩!?どういうことなんだろう……?」

 

加奈子から連絡が来たあかりは半信半疑でメールを確認し、後日に事務所に相談してみたら間違いなく本人のだとわかった。

 

そのため大晦日だけ仕事をオフにしてもらい、大晦日が訪れて言われた通りにハチ公前に向かった。

 

そこには……?

 

つづく!



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第91話 結衣の未来

同じ時を経たところで一方の大島結衣は……アイドルを卒業してすぐに女優として再デビューし、一年目でもう帝国劇場の舞台で主演を勝ち取るほどになった。

 

天才子役は今もなお健在で、百年に一人の女優とも評された彼女は今のままで満足せず日々向上を続けている。

 

そんな結衣は大手芸能事務所のタナベエンターテイメントに所属した。

 

今の結衣は、さいたまスーパーアリーナで行われるあるミュージカルで主演をすることになり、その稽古中だった。

 

「ようやく現れたようだな。そろそろこちらから出迎えようとしていたところだ。なぜ人は夢を見続けるのか?夢など見て何になると言うのか?我を崇拝すれば夢など見る必要もなく幸せになれるというのに。その夢見る想いとやらを我に示してみよ!」

 

「大魔王インキュベータ……!お前の好きになんかさせないぞ!人は夢を見るから心が向上するんだ!お前なんかに……人々の夢を奪わせやしない!みんな、いくぞ!」

 

「うん!」

 

「この命が~果てるまで~♪悔いのないように~♪」

 

「死を覚悟して~立ち向かえ~♪夢の勇者たちよ~♪」

 

「はいOK!うん、こんなところかな?大島さんもだいぶ主人公の勇者の気持ちに慣れてきたかな?立ち回りもお客さんだけでなくキャラの事も意識しているのが伝わるよ!」

 

「ありがとうございます!」

 

「お?いつもはまだまだ……って追い込むのに今日は珍しいね?もしかして少し追い込みすぎたって自覚した?」

 

「それもあるかもしれません。やはり万全な状態じゃないとベストな芝居なんて出来ませんから」

 

「健康管理でもストイックだなぁ……。俺たちも見習わないと……」

 

結衣は共演者の人たちと和気あいあいと会話が弾む。

 

ここにいる俳優さんたちは本義用の先輩たちだけでなく、勇者役のオーディションでは一般人も参加するほどだった。

 

サラリーマンや小学生、主婦などもいた中で結衣は女勇者として選ばれ、いかにこの「モンスタークエスト」というゲームが人気だったかが伺えた。

 

それに結衣は先頭の経験も豊富で、戦った時は剣ではなかったが立ち回りなどは完璧だった。

 

僧侶役の風間祐介、戦士役の剛力武、魔法使い役の石田未来は結衣の芝居への熱心さに心を打たれた人たちで、自分も負けてられないとオーディションを合格してきた。

 

とくに風間祐介はアルコバレーノのサポートもしてきたので結衣の戦闘での活躍も耳にしている程度だが知っていたからライバル意識が強いようだ。

 

そしてついに月日は流れ……本番の時が来た。

 

「さぁここからが本番だ!みんな、しまっていこー!」

 

「おー!」

 

風間祐介の掛け声で気合いを入れ、それぞれの待機場所でスタンバイする。

 

最初は女神さまが勇者のユイに話しかけるところで、モンスタークエストの第三部のプロローグを再現する。

 

「ユイ……ユイ……。私の声が聴こえますか……?私はあなたの心に話しかけているのです……。まずあなたがどのような性格なのかを当ててみせましょう……」

 

最初の女神さまの質問に答える結衣は正直に自分自身の性格と心理を話し、女神さまにストイックで向上心が強い努力家だと指摘された。

 

後にベッドから目覚めて父親の仇である魔王バラガスを討伐してほしいと王様に依頼される。

 

そこで戦士のゴードンを派遣して出会いの酒場で魔法使いのサリーと僧侶のフラスコと出会う。

 

旅の途中で魔物と戦うシーンは結衣の手慣れた動きで観客は「おおーっ……!」と興奮していた。

 

「ここはロマーニャ城です。ゆっくりしていってくださいね」

 

「ここは闘技場もあるんだなぁ」

 

「そうですね。魔物同志を戦わせるんでしたね」

 

「ねぇねぇ!ここのパスタ美味しいよ!」

 

「ちょっとサリー、そんな急がなくいても逃げないわよ?」

 

「ユイー!はやくはやくー!」

 

「本当にあの子は魔法使いなのでしょうか?」

 

「嬢ちゃんもあのじゃじゃ馬には苦労するよな」

 

「ええ……。でもあの子は何事も楽しんでいける。それが私には羨ましいなって。私はお父さんの仇の事しか考えてないから……」

 

「何を言ってるんだよ。俺たちがついてるじゃねぇか。嬢ちゃんには嬢ちゃんの事情があるのは俺もよく知ってる。お前のお父さんにはお世話になったからな。失ったのはお前だけじゃないんだ。俺もまた……大事な師匠を失っちまったのさ」

 

「そうなんですね。僕もユイさんのお父さんには何度も助けられましたし、きっとサリーさんもあなたのお父さんが魔王バラガスによって殺されたことにショックを受けていると思います。あの子にとって魔法を教えてくれた先生はあの人しかいませんからね」

 

「そうでしたか……。皆さんも父の事を知ってるんですね。なのにゴードンさんは強く、フラスコさんは恩を感じ、サリーは元気に振る舞っているんですね。だったらこのみんなで魔王バラガスを倒そう!」

 

「そうこなくっちゃな!」

 

「はい!」

 

「ユイー!こっちこっちー!ロマーニャの王さまが助けてほしい事があるってー!」

 

「今行くよー!」

 

結衣の芝居に観客も夢を感じ、魔王バラガスを倒してほしいと願う子どもたちの眼差しが見えた結衣は、アドリブでジッと見ている子どもを想定して優しく微笑んだ。

 

その事に気付いた子どもの観客は嬉しそうにキャッキャと笑い、結衣はその笑顔に癒された。

 

物語の後半には魔王バラガスのさらに上である大魔王ボーマが現れるところで、観客のリアクションは「まだ上の魔王がいるんだ……」とざわついた。

 

最後のうたのシーンでアイドル時代に鍛え抜いた歌唱力で観客を感動の渦に巻き込み、ミューズナイツはまだここにいたんだと思わせた。

 

「ミュージカル・モンスタークエスト みんなの物語」は無事に千秋楽を終えて成功し、結衣は主人公を演じきったと満足げだった。

 

「大島さん。君の芝居は本当に惹きこまれるよ」

 

「ありがとうございます。風間さんは黒田純子社長とは順調ですか?」

 

「うん。子どもも大きく成長したし僕も俳優として、父としていい手本にならないとね。たまには桃井さんと一緒にご飯でも食べておいで」

 

「はい。機会があれば誘ってみます」

 

「結衣先輩、お疲れ様です」

 

「ええ、お疲れ様。あなたはあまり前に出るタイプじゃないからサリーを演じるのは大変だったでしょう?」

 

「いえ、違う自分になれてすごく楽しかったです。女優になろうと思ったのは、結衣先輩がまだ子役だった頃にドラマを見て、それに感動して芝居の仕事がしたいって思ったんです。たくさんの劇団のオーディション受けたんですが……結局どこもダメだったので諦めようと思った時に、今のマネージャーさんがスカウトしてくださったんです。本当に……共演してくださってありがとうございます」

 

「いいのよ。私に憧れてくれてありがとう」

 

「大島さん、よかったらこの4人パーティの役者同士で外食でもしようや。なぁに、俺が寿司でも驕るよ」

 

「ありがとうございます!」

 

剛力さんの奢りで寿司を食べた結衣は事務所のマネージャーに報告すべく事務所に電話をかけた。

 

そして日課のスポーツクラブのジムでトレーニングをして今晩も鍛え抜く。

 

トレーニングを終えてシャワーを浴び、着替えて後にすると一通のメッセージが届いた。

 

「こんな時に匿名からメッセージなんて珍しいわね。どれどれ……久しぶりだね。突然だけど今年の大晦日に渋谷駅のハチ公前に集まってほしいので、仕事をオフにして時間を空けておいてください。秋山加奈子より。って……加奈子先輩?どうして今になって……?とりあえずスケジュール確認の電話しなきゃ……!」

 

結衣はそのメッセージを見て慌てて事務所に連絡をする。

 

秋山加奈子が急に連絡をくれたことに詐欺じゃないかと一瞬疑ったが、過去10年の履歴を見てみると連絡しないだろうと消してあった加奈子の連絡先そのものだった。

 

その事を知った結衣は嬉しい反面、何で急に集まってほしいなんて言ったのか不思議だった。

 

もしかしてミューズナイツで同窓会でもするのか……そう思う結衣であった。

 

つづく!



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第92話 日菜子の未来

篠田日菜子はアイドル卒業と同時に幼なじみの松田智也との結婚を発表した。

 

馴れ初め話は幼稚園の頃で、男の子に混じってよく遊んでいたためか本当に女の子なのかとからかわれることも多かった。

 

そんな中で智也は唯一、女の子として見てくれた上にこう言ったらしい。

 

「こいつは笑っている時はどんなアイドルよりも可愛いんだぞ。お前らにはわからないだろうけどな」

 

と言われたことで日菜子は恋をして、ミューズナイツ覚醒後に長年の片想いが実ったのだ。

 

その話を聞いたファンのみんなは作曲家として勢いに乗った智也に「女の子扱いしてくれてありがとう。その発言のおかげで日菜子ちゃんはアイドルになろうて思えたと思うと感謝しかないよ」というファンレターが多かった。

 

その馴れ初め話からすぐに結婚し、日菜子は歌手として活動をしていた。

 

智也は専属の作曲家で最近キーボードの練習をして、今やライブでもキーボードとしてサポートしていた。

 

グループ名は……「レモンハニー」。

 

そのレモンハニーは西武ドームでライブをする。

 

「篠田さん!そろそろ開場します!」

 

「はーい!今日はよろしくお願いします!ふぅ……」

 

「どうした?やっぱり緊張するか?」

 

「うん、やっぱりアイドルの頃から慣れてるとはいえ緊張するよ」

 

「何せあの時はグループとしてだったからな。ソロでドーム公演は初だもんな」

 

「まぁね。でもここまで来たらやるしかないよ。だって私は……猪突猛進の日菜子だもん!そのおかげで智也と結ばれたしね……」

 

「ちょ、ここで惚気んなよ!恥ずかしいから!」

 

「本当の事だもーん♪」

 

「クッソー……いい性格になったな。スクールアイドルやってた頃はあんなに鈍感だったのに」

 

「昔の話はしないでー!」

 

「おーおー、また篠田ご夫妻が痴話喧嘩してるよw」

 

「夫婦そろって仲がいいねぇ♪」

 

「もうー!」

 

「バンドのみんなは相変わらず意地悪ですね……」

 

「いいからいいから!それよりも掛け声を日菜子ちゃん頼むよ!」

 

「うう……いじっておいて酷い!じゃあいくよ!始めるレモンの香り!レモンハニー!」

 

「レッツゴー!」

 

日菜子の掛け声で智也や他のサポートメンバーにも気合いが入り開演した。

 

最初の登場曲はレモン色の照明でステージが染められる。

 

そこでいきなり日菜子はポップアップで登場し盛り上げていく。

 

歌手として初のドーム公演に緊張はあるが、いつも通り猪突猛進で突き進んでいった。

 

その結果、武道館やさいたまスーパーアリーナ、幕張メッセなど大きな会場でのライブを果たした。

 

その自信を糧に今回もライブに挑む。

 

「みんなー!こんにちはー!」

 

「こんにちはー!」

 

「いつものコール&レスポンスいっくよー!」

 

「いえーーーーーーい!」

 

「よっ!元気?」

 

「めっちゃ元気ー!」

 

「日菜子を見たら?」

 

「大元気ー!」

 

「うーん!やっぱりこのコール&レスポンスはいつやっても気持ちいいね!」

 

「それ確か中学のスクールアイドルの時からやってたよな」

 

「やってた!あの頃はみんなの幼なじみ系アイドルだったよね!懐かしいなぁ……。智也はあの頃から作曲で支えてくれたし、私が入ってた当時のグループもスクールアイドル全国大会でも結果を残したよね」

 

「それは日菜子を筆頭に当時のメンバーの努力の結果だよ。とくに実力が高かった日菜子はメンバーによってSBY48のオーディションを紹介されたっけな」

 

「でもまさかそこで合格するなんて思わなかったなぁ」

 

「それに日菜子はかつてミューズナイツとして世界を救ったしな。おかげで今の日常があるって考えたら平和がどれだけ尊くて当たり前じゃないってのを感じるよ」

 

「本当にね……。そんな尊い平和を願った新曲を聴いてくれますか?」

 

「Fu------!」

 

「ありがとう!じゃあ智也、早速タイトルコールしよっか!」

 

「あれか!よしみんな、早速行くぞー!せーの!」

 

「イエローピース!」

 

レモンハニーにとって黄色は平和と笑顔の色で、かつてアルコバレーノとして活動していた黄瀬千秋の笑顔をテーマに作ったものだ。

 

昔のライバルをリスペクトした曲はアルコバレーノファンにとっても嬉しい事で、日菜子の曲は日に日に注目度が上がっていった。

 

日菜子はその曲を笑顔で歌いきり次の曲へ入る。

 

アイドルほどの早着替えはもうないが、休憩中であろうと早く着替えてあまりファンを待たせないという意識は消えてなかった。

 

同時に自分はそそっかしいので余裕がないと慌ててしまう事も知っているのか余裕を持って行動しようと心掛けていた。

 

最初はギリギリだったものが智也との結婚を境に改善されたのだ。

 

中盤に入るとしっとりとしたラブソング系に入り、長い間片想いしてきた淡い曲を歌い上げた。

 

MCではもう馴れ初め話をしなくなったが思い出話は今も続いている。

 

そんなMCで少しだけアクシデントが発生する。

 

「そういえば日菜子、昔はよく男子と遊んでたけどさ。幼稚園の制服ってスカートだったよな」

 

「う、うん。それがどうかしたの?」

 

「当時は普段の服でスカートがなかったから、はじめてスカートを穿いた時はさ……お股がスース―するって言ってモジモジと……」

 

「きゃーっ!それは言わないでーっ!」

 

「それに激しく走り回ってたからおパン……」

 

「これ以上はNGだからー!もう怒ったもん!智也だって幼稚園に入りたての頃は女の子に間違われてスカートをはかされてたくらい可愛かったもん!」

 

「何でその事を覚えてんだよ!黒歴史だからやめれ!」

 

「あはははははw」

 

「もう!ファンに笑われちゃったじゃん!」

 

「はいはい!夫婦漫才はそのへんにしておいて!」

 

「ほらー!サポートメンバーに諭されちゃったー!」

 

「ちょっといじりが激しかったかな?」

 

「幼なじみだからって遠慮なさすぎだもん!もう……好き!」

 

「ヒューーーーーー♪」

 

「結局いつもの惚気になっちまったな。でもそんな日菜子だから遠慮なく本音で語れるし、本当に感謝している。あの時も助けられたしな、ありがとう」

 

「智也……!」

 

「さぁそろそろ後半だ。一気に飛ばしていくぞ!」

 

ライブも終盤になり日菜子も智也もラストスパートをかける。

 

もちろんアンコールも控えているし、いざライブを終えるとアンコールをファンはする。

 

もちろんアンコールの衣装はレモンイエローには変わりないが、デザインの文字が毎年変わっていて毎年売り切れが続いている。

 

レモンハニーとして初のドーム公演は成功し、日菜子と智也は所沢から事務所であるクインレコードへ連絡する。

 

夜も遅いが幸い翌日の仕事はオフで少し寄り道していく。

 

「ここで私たちは出会ったんだよね?」

 

「ああ……。あの幼稚園はまだあったんだな」

 

「思い出すね……。智也がすぐに声かけてくれてさ、よく智也のグループに入れてもらってた。女子と仲良くもなったけど男子と遊ぶ方が楽しかったんだよね」

 

「それは俺がいたから……なんて言わないよな?」

 

「さぁね、それはヒミツ♪」

 

「まったく……あざといのは変わんねぇな。なぁ日菜子……俺さ、日菜子との子どもが欲しいんだ。どうかな……?」

 

「智也……」

 

少しいいムードだったところで日菜子の元にタイミング悪く一通のメッセージが届いた。

 

いいところなのにー……と少し残念そうにする日菜子は連絡が来た携帯を手にして確認する。

 

せっかく口説いたのに残念な気持ちの智也は溜息をついた。

 

そのメッセージとは……

 

「もう、いいところだったのにー……。えーっと……久しぶりだね。突然だけど今年の大晦日に渋谷駅のハチ公前に集まってほしいので、仕事をオフにして時間を空けておいてください。秋山加奈子より。って加奈子先輩!?」

 

「加奈子先輩って、あの加奈子さんの事か!?ちょっと見せてくれ!」

 

「これだよ!」

 

「集まってほしいってまさか……同窓会でもすんのか……?」

 

「わかんないけど……ちょっと事務所に確認するね!」

 

「わかった!けどこの話は俺は乗らないでおくよ!多分メンバー水入らずで会いたいだろうしさ!」

 

「そうしてもらえるとありがたいよ!」

 

こうして加奈子の連絡が届いた日菜子は至急事務所に連絡する。

 

かつての恩師である秋山プロデューサーにも相談したところ、間違いなく加奈子のアドレスだという事が確認された。

 

日菜子はミューズナイツ同窓会という淡い期待を持って大晦日の日をオフにしてもらった。

 

つづく!



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第93話 麻友美の未来

あれから渡辺麻友美は秋葉原アニメーター学院高等部のイラスト科を卒業して本校の専門学校の声優タレント科へ入学し、大手声優事務所の青日プロダクションに所属した。

 

アイドルを卒業してから声優として活動しながらコスプレイヤーやアーティストとして活動し、ネットアイドル時代から築き上げたアニメやゲーム文化の普及に貢献している。

 

そしてSBY48にも卒業記念に何人も後輩たちを声優に導いたりとして人脈も広がりつつあった。

 

そんな中で今回の仕事は、アニメ「カプセルモンスター」の劇場版の収録で下衆と声優として招かれ、そのアフレコの現場に入る。

 

「今日はよろしくお願いします」

 

「よろしくお願いします!」

 

「麻友美ちゃん、やっぱり緊張する?」

 

「はい……国民的アニメともなるとさすがに……」

 

「君は相変わらず緊張しやすいなー。そう気を重くする必要はないよ。君の芝居力はもうみんなが認めているんだから。SBY48時代に相当場数を踏んだんだろうね」

 

「そんな……私はミューズナイツの皆さんと比べたらまだまだです……。でも……最高の仲間たちと切磋琢磨し合えたことは確かに大きいかもしれません……。そんなかつての仲間たちと別れたのは辛かったですが……今でも心は繋がっていると思います……。皆さんには今も感謝しているんです……」

 

「麻友美ちゃん……君は仲間想いな子だね。君と一緒にやってきたミューズナイツは恵まれてるよ。よし!リハーサルも張り切って行こう!」

 

「はい!」

 

麻友美はカプセルモンスターの主人公を初期からやってきた松本梨紗に励まされ今日もアフレコをする。

 

売れっ子声優ともなれば歌もダンスもやらなければならないが、麻友美にとってはSBY48の頃からやってきたのでもう即戦力としてアイドル声優として活動も順調だ。

 

最近は国民的アニメにも何度も主演で出演してきたので、アニメへの理解度は非常に高いのだ。

 

その麻友美のアフレコは……

 

「君たちもここに来たんだね?僕はソラオ、このカプモンタワーに招待された一人さ。カプモンのみんな!彼らにご挨拶だ!」

 

「俺の自慢のカプモンたちさ。こいつらと一緒だからここまで来れたんだぜ?」

 

「なぁ!カープドスって、あの凶悪カプモンのだろ?」

 

「ああ!ただ手なずければここまで頼もしいやつはそういないぜ!俺はダンってんだ、よろしく」

 

「私はスイーツよ。そして私のカプモンたちはこの子たちよ」

 

「すげぇ……みんな凄腕のカプモントレーナーばっかりだ……!」

 

「その中に俺たちもいるんだよね、サトル」

 

「何か恐れ多いわね……」

 

「はいOKです!いったん休憩しましょう!」

 

「はい!ふぅ……」

 

「お疲れさん、麻友美ちゃん」

 

「お疲れ様です……。タケオ役の上田祐一さんとカズミ役の飯塚まゆりさんに声をかけられて光栄です……」

 

「いいのよ。あなたの声優としての活動は私たちも一目置いていたから」

 

「君は声優として誇りに思っているんだろうね。アニメの普及のために海外の番組まで自らアポ入れてテレビに出たんだよね?英語も上手くてビックリだよ」

 

「はい……。一応青山学園や永治大、王政、聖教、中桜、そして学龍院大にも推薦が来たのですが……どうしても声優になりたくてどれもお断りしたんです……」

 

「学力もかなりのものだって聞いたわ。でもあなたほどの学力が大学に出なかったなんてもったいない気がするわねー」

 

「まぁそれも麻友美ちゃんの自由なんだろう。俺も大学も考えたけど養成所を選んだからね。あ、松本さんが俺たちにお茶を買ってきたみたい」

 

「はいみんな、これはアタシからの奢りさ。遠慮なく飲んでね」

 

「ありがとうございます……!」

 

「松本さん太っ腹です!」

 

「もう大垣さん、そんなにはしゃぐことじゃないよ?」

 

松本梨紗さんに大声でお礼を言ったのはサトルの長年の相棒のビリチュウ役の大垣育江さんで、養成所の先輩後輩にあたる。

 

その二人の長年の絆は相当なもので、話し合いもなしなのに意気投合した芝居力で麻友美は終始圧倒されていた。

 

自分はまだまだ駆け出し何だと実感し、結衣が言っていた努力は永遠のものだというのを思い出した。

 

休憩を終えると今回の映画の主役であるシュウツー役の市村正孝の出番が訪れる。

 

舞台俳優のあまりの芝居力にベテラン声優陣も「おお……!」と息を飲むほどで麻友美も驚きを隠せなかった。

 

それでも同じプロとして負けられないと声優陣は奮起してテンポよくアフレコを進めていった。

 

カプモンの伝統で少ない声優陣たちでカプモン役も兼任していて、麻友美はそのカプモンの鳴き声の喜怒哀楽に大苦戦していた。

 

鳴き声に苦戦した麻友美は何度もリテイクをくらっていたのだ。

 

もう一度休憩に入り、麻友美は大きなため息をついた。

 

「はぁ……。どうして皆さんあんなに上手く鳴き声を表現できるんでしょうか……。私にはやっぱりまだ早かったのでしょうか……。きゃっ…!?」

 

「ほーら!そんな暗い顔してたら可愛い顔も台無しだよ?」

 

「大垣さん……!」

 

「話なら聞いてあげるから何か悩みがあるなら話してごらん?」

 

「あ、はい……。皆さんってカプモンの鳴き声がお上手ですね……。私なんて……何度もリテイクをされて……少しだけ喜怒哀楽を表現する事に自信をなくしちゃいました……」

 

「なるほどねぇ……。私はもう30年以上もビリチュウを演じてるけどさ、年のせいもあるけど今もリテイクをくらうことはあるよ?」

 

「えっ……?大垣さんほどの声優でもですか……?」

 

「うん。それに私も最初はオーディションに受かったはいいけど、鳴き声だけでどうやってやればいいんだろうって何度も悩んだんだ。でも回数を重ねるごとにだんだん楽しくなって、もうそんな悩みなんてどうでもいいやって思えるようになったんだ。麻友美ちゃんはまだ慣れてないから少し戸惑ったり躊躇いがあるだけかなって思う。昔の私もそうだったかからね。難しい事を考えずに感じたことをそのままマイクにぶつけてみて?もちろん、ちゃんと考え抜いた上でだよ」

 

「大垣さん……ありがとうごいざいます!私……大垣さんの経験を糧に頑張ります……!」

 

「そうこなくちゃ!」

 

「どう?あの子の様子は」

 

「松本先輩、もう大丈夫ですよ。あの子はさすが元ミューズナイツって感じでした」

 

「ミューズナイツは夢と未来の騎士、向上心の化身みたいなものだからね。だから私たちも声優として彼女たちを手本に頑張り、カプモンも世界でも人気になったんだよね。アフレコもラストスパートだ、頑張ろう!」

 

「はい!」

 

こうしてアフレコもラストスパートに入り、それぞれの声優たちは渾身の芝居をやりきった。

 

こうして劇場版カプセルモンスター シユウツーの逆襲 Evolutionが完成した。

 

残るはまだラフなのでアニメーション制作の完成を待つだけだ。

 

このアフレコをたった一日で終わったのは奇跡だとアフレコの監督は言っていて、麻友美の急成長には驚いたと褒めていた。

 

麻友美は今回の経験を機に声優としてさらに成長していった。

 

アフレコ終了記念に監督が交流会を開いて焼肉を食べる事になった。

 

麻友美は普段は少食だけど、今回は成功が嬉しかったのか珍しく多めに食べて周囲を驚かせた。

 

飲み会を終えた麻友美はマネージャーに終了の報告をしてタクシーで秋葉原駅まで送られる。

 

その途中の事だった……

 

「こんな時に匿名からのメッセージなんて珍しいですね……。えっと……久しぶりだね。突然だけど今年の大晦日に渋谷駅のハチ公前に集まってほしいので、仕事をオフにして時間を空けておいてください。秋山加奈子より。って……加奈子先輩……!?」

 

「ん?どうしたの?」

 

「マネージャーさん……加奈子先輩から連絡が……!」

 

「そんなバカな……!?あの子は音信不通で海外にいるんじゃあ……?一応君の恩師の秋山プロデューサーに聞いてみるよ!」

 

マネージャーが慌てて秋山プロデューサーに連絡して内容を送った結果、加奈子本人からのアドレスだという事が判明した。

 

父子の間だけでも連絡を取っていたが、お互いに生きているし活動も順調だというくらいしか連絡していない。

 

しかも今回の連絡は麻友美だけでなく他の元ミューズナイツの8人にも来ていたという話を知った麻友美は、もしかしてミューズナイツで集まるのかな……と嬉しい予感がよぎった。

 

つづく!



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第94話 ひかりの未来

ひかりはアイドルを卒業してすぐにアメリカへストリートダンスの武者修行に行く。

 

あかりたちとも連絡を取っていて、アメリカで加奈子の目撃情報があった時は真っ先に声をかけようとしたが見失ってしまう。

 

それでもまだ声をかけるには早いかなと自己判断したひかりはダンスの方に集中する。

 

そのひかりは今、大事なストリートダンスの大会に出ていた。

 

「ひかり、今日はもうそのくらいにしておいて。あんまり追い込むと本番でバテるよ?」

 

「うっす!」

 

「あの子、飛び入り入団なのに凄い努力家だね」

 

「さすがミューズナイツだよ。私がアイドル時代にあの子に負けたんだよね」

 

「努力家なのは昔からってとこかしら?」

 

「まぁおかげで……全米ストリートダンス大会に出れるんだけどね!」

 

「私、やっぱりもう少し残るよ。ストレッチを手伝うよ」

 

「私も残る!」

 

「ひかりに感化されちゃったね……。私も残ろうかな」

 

「お?お前らも残るのか?」

 

「まぁね。ひかりの頑張る姿にちょっとね」

 

「ひかりが入ってからこのグループも活気づいてきたからね」

 

「日本には戻らないの?」

 

「うーん、戻りたいとは思うけど……やっぱり戻るにはまだ早いかなって思うんだ。まだこのグループで全米トップになってねぇしな。トップになったら日本に戻るって決めてたからさ、トップになれなかったら絶対に帰らねぇってな」

 

「おお……!」

 

「ならこのグループのGalaxy angelのエースとして引っ張ってね!」

 

「もちろんだ!」

 

「さぁストレッチはここまでよ!あんまり遅いと他のグループに迷惑だからね!」

 

「おう、もうこんな時間か!じゃあこのくらいにしとくか!」

 

「一緒にハンバーガー食べに行こうよ!」

 

「っしゃあ!レッスン後のハンバーガーは最高だぜ!」

 

ひかりはアメリカでいつも2位に落ち着いてしまっているGalaxy angelの起爆剤として飛び入り入団したが、そのメンバーの中には中学時代に武者修行を共にしたメンバーも何人かいた。

 

自慢のポニーテールも健在でかつての仲間たちはひかりの入団を誰よりも喜んだ。

 

実際にひかりは過去にストリートダンスで全米ナンバーワンに輝いた実績もあり、今回も期待されている。

 

だが今回はあの時のようなソロと違ってグループとなる。

 

上手く協調していくのがポイントとなるだろう。

 

大会当日になり、ひかりは会場の懐かしさに興奮していた。

 

「うひょー!中学の時はジュニアだったけど、この景色はやっぱり変わんねぇなー!」

 

「ひかりにとっては懐かしいかな?」

 

「中学の時にここで優勝したんだもんね!」

 

「ああ。だが今回はお前らと一緒だし、オレもお前らの足を引っ張らないようにしないとな」

 

「ひかりの足を引っ張るかもしれないけど頑張るね」

 

「バカ野郎、このGalaxy angelに足手まといなんかオレは知らねぇぞ?ここにいる全員がエースなんだからよ」

 

「ひかり……!」

 

「あっ!優勝候補のBall girlsだ!」

 

「あいつらが10連覇のストリートダンスグループか……面白ぇ!」

 

このBall girlはアメフトボールとバスケットボールを自在に操るストリーtダンスグループで、男子顔負けのパフォーマンスをしてくる。

 

しかも最近は野球ボールを自在に操る子が入団してきて、さらに戦力を強化してきた。

 

ひかりはあまりの興奮に念入りにストレッチしていた。

 

そして……

 

「さぁアメリカンガールズ!今回も始まりましたガールズストリートダンス選手権!今回の優勝候補はBall girlとGalaxy angelです!Galaxy angelが悲願の初優勝を飾るか!?それとも前代未聞のBall girlの11連覇か!?いざ開幕です!」

 

「ヤバい、緊張してきたよ……!」

 

「ここまで来たのにプレッシャーが……!」

 

「何を怯えてんだよ。オレたちはあんなにキツいレッスンを乗り越えてここまで来たんじゃねぇか。後は自分を信じてやりきるだけなんだよ。ほら楽屋で衣装に着替えっぞ!」

 

「おお……!ひかりはやっぱり強いなぁ……!」

 

「そうだね。せっかく頑張ったんだから本番はしっかり頑張んないとね!でも肩の力を入れすぎたら逆に失敗するもんね!ありがとうひかり、楽屋で衣装に着替えて準備するね!」

 

「おう!オレはトイレに行くから先に行ってくれ!」

 

「うん!」

 

(大丈夫……大丈夫……!)

 

ひかりはアイドル時代は無鉄砲で何でも勢いに任せて困難を突破してきた心の持ち主だ。

 

だが大人になってたくさんの挫折もあり、少しだけ心が大人になったひかりは今まで感じなかったプレッシャーを感じるようになっていた。

 

ひかりは自分が引っ張っていかないとというプレッシャーに呑まれてしまい、トイレで一人震えていた。

 

顔を洗って緊張をほぐそうとするも、まだ体の震えが止まらず声もブレていた。

 

強がってトイレに出ようとすると、グループの仲間全員がひかりを待っていた。

 

「ひかり!やっぱりここにいたよ」

 

「お前ら……先に着替えてろって言っただろ?」

 

「うーん……やっぱりひかりでも緊張するんだね」

 

「は?オレが……?そんなわけねぇだろ!」

 

「私たちはひかりの強さに引っ張られていると思ってた。でも違った……本当はひかりの強さに甘えて依存してたんだ」

 

「そんな中でひかりは一人で私たちを引っ張って頑張ってきた。でも前にトップになるまで戻らないって話をしていた時に声が震えてた。気付いていたのにひかりに頼りすぎて……私たちは何もしなかった」

 

「だから今度は……私たちもひかりのために頑張るよ!ひかりもさ、私たちを頼っていいんだよ!」

 

「ひかり!あなたはこのグループのエースであり、最高の仲間だから一緒にトップになろう!」

 

「お前ら……。バカ野郎……こんなに泣かせることを言いやがって……!これじゃあトップになっても日本に帰りづれぇじゃねぇか……!なぁ、約束してくれ!この大会でトップになったらさ、拠点を日本に……」

 

「いいの!?本当に!?やったー!」

 

「は……?」

 

「私たちは元から日本に住みたいって思ってたの!」

 

「着物を衣装ベースにしたダンス衣装を着てみたかったんだ!」

 

「よーし!ひかりと一緒に日本に凱旋するために優勝するよ!」

 

「Go! Galaxy!」

 

「お前ら……サンキュー!っしゃあ行くぞ!」

 

「Yes!」

 

Galaxy angelの番が訪れてひかりを先頭にステージに上がる。

 

今回のダンス曲のテーマは……日本の和楽器とアメリカのヒップホップを融合したミックスカルチャーだ。

 

日米の絆をここでアピールしてひかりを先頭にしながらアドリブで仲間たちも前に出て踊る。

 

するとBall girlのメンバーたちは、この子たちの絆には私たちじゃ勝てないと悟ったのか次の番で珍しいミスを犯してしまった。

 

エースのベッキー・アリトリアがバスケットボールのドリブルをミスしてしまったのだ。

 

優勝候補の珍しいミスに会場はざわめき、審査員もあまりの出来事に驚いていた。

 

結果は……

 

「優勝は……Galaxy angelです!」

 

「やった……やったー!」

 

「ひかりー!あなたのおかげよー!」

 

「マジか……!うっ、うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

ひかりは大きな雄叫びを上げて盛大に喜び、メンバー全員と強く抱き合った。

 

あまりの嬉しさにキャプテンのエレン・マッケンジーは号泣していて、ひかりに背中を押されて表彰式に参加した。

 

大会終了後にいつものハンバーガー屋さんで食事をして優勝祝賀会を開いた。

 

そんな時だった……

 

「あ?急にメッセージとか誰だよ。えーっと……久しぶりだね。突然だけど今年の大晦日に渋谷駅のハチ公前に集まってほしいので、仕事をオフにして時間を空けておいてください。秋山加奈子より。って、はぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

「どうしたの急に!?」

 

「いやこれ見てくれよ!」

 

「なーに?……えっ!?あの秋山加奈子が連絡!?」

 

「あの子って生存は確認されても行方不明だって聞いたけど本当に生きてたの!?」

 

「マジかよ!?」

 

「ひかり!日本の大晦日に集合場所には絶対に行くべきよ!」

 

「お、おう!でも一応プロデューサーに聞いてみるわ。本人かどうかも確信持てねぇしな……」

 

ひかりは秋山プロデューサーにこの連絡の相談をした結果、これは間違いなく本人のアドレスだっていう情報を得た。

 

親子間でちゃんと連絡を取っていたのだから間違いはないだろうとひかりは考えた。

 

メンバーのみんなもひかりが集合場所に行くことに賛成して大晦日はレッスンもライブもなしにしようってなった。

 

つづく!



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第95話 麻里奈の未来

麻里奈は高校を卒業してすぐに母体学校である上野衣服専門学校へ進学し、ファッションデザインと製作を勉強した。

 

アイドルを引退後はファッションモデルとして本格的にデビューし、今や自分だけのブランド「マイノリティギャル」を持つ。

 

麻里奈はカリスマギャルとしてのキャリアを積んで、今は小野愛梨を越える日本一のモデルとなった。

 

そんな麻里奈は今、イタリアである事をしていた。

 

「麻里奈、君に会いたかったんだよ!」

 

「おーローラ!久しぶりじゃん!」

 

「パリコレ以来だね!今回麻里奈を呼んだのはちょっと協力してほしい事があるんだけどいいかな?」

 

「モデルとして?それともデザイナーとしてかな?」

 

「どっちもって言ったらどうかな?」

 

「それなら燃えるね!」

 

「よかったー!じゃあマイノリティギャルのデザイナーとしての依頼なんだけど…私って少しだけ色黒だからそんな肌でも可愛いを追求できるデザインの服を作ってほしいの。それでモデルとしてはね、それを私と麻里奈でその服を着てこのミラノを歩き、日本の可愛いを宣伝してほしいなっていう依頼なんだ。どうかな?」

 

「いいね!でもさ、日本らしさだけでなくイタリア独自のオシャレもアタシは追及したいんだよね。これは日伊ファッション共同製作ってとこかな?」

 

「可愛いの国日本とオシャレの国イタリアの共同製作…いいね!私も自分のブランドであるウンディーネとコラボになるけどいいかな?」

 

「もち!これはマネージャーにはしばらくイタリアで仕事するって連絡入れるわ。ローラ、アタシも協力するよ!」

 

「ありがとう!」

 

このローラ・アルディーニはイタリアのモデルで、日本の可愛いファッションに憧れつつイタリアの美しさを求めたオシャレを両立してきたイタリアで一番のモデルだ。

 

そんな彼女が麻里奈に依頼をするという事はとても光栄な事で、オシャレな国イタリアで一度仕事を受けるのが夢だった麻里奈は喜びをかみしめて仕事を引き受けた。

 

麻里奈は一度ローラの家に上がって、今回のテーマに沿った服のミーティングをする。

 

「ローラが言う可愛いってそもそもどんな感じかな?ロリータ系はアタシには無理だよ?」

 

「そんなあざとい系は私も無理だよ。日本の可愛いは多分だけど、美しいと兼ね備えた清楚さだと思うんだ。だから今回は美しさとアイドル的な可愛さを両立させたいなーって思うんだ」

 

「アイドルって言ってもアタシもアイドルをやってたからわかるんだけど、アタシを手本にするとギャルっぽくなるよ?」

 

「えー、日本のギャルは可愛いじゃん!まぁそれは置いといて…ギャル=ミニスカやショーパンという概念を捨てて清楚なんだけどギャルの面影がある服がいいな」

 

「となればスラックス系か膝下くらいの長さのスカートになるかな。今は秋シーズンだからデニムジャケットなんかもいいかもね」

 

「Vネックニットとかもいいかも。あ、逆にスクール風にしちゃうのは?」

 

「スカートならチェック柄が定番だけど、あえて無地にしちゃう?」

 

「いいね!やっぱり麻里奈とは系統も似てるから気が合うよ!」

 

「そうだね!アタシら似た者同士ってところかな!じゃあもっと話し合おっか!」

 

「うん!」

 

麻里奈はローラの明るさとノリのよさでパリコレ以降はウマが合い、すぐに連絡先を交換してやり取りをしていた。

 

勉強が苦手な麻里奈もファッション大国で仕事する事を意識して、イギリス英語とフランス語とイタリア語を勉強してきた。

 

その甲斐があって今はヨーロッパでも仕事するようになり、世界一のファッションデザイナー兼モデルになりつつあったのだ。

 

麻里奈はミーティングのつもりが途中で雑談に変わってしまったり、休憩が長引いてリラックスしすぎたりとマイペースなところは変わらないが、ファッションに対してのプロ意識はさすがのもので、仕事はキッチリこなしていた。

 

インスピレーションが浮かんだらすぐに神にデザインして、没でもその案を取り入れて改変したりなど臨機応変さが昔よりよくなっていた。

 

今回のミーティングはノリのよさと勘の鋭さでわずか3日で完成してしまい、残るはローラのブランド工場で実際に製作するところだ。

 

工場ではローラの兄が経営していて、妹のファッションのために脱サラして工場を立ち上げ、今や社長になるほどの凄腕だ。

 

麻里奈は友人のブランドの様子を見て興奮し、新しいインスピレーションが浮かんだのかメモを取る。

 

ミューズナイツは大人になっても向上心を忘れないという約束があり、今も日々進化を続けているのだ。

 

製作が終わったと連絡が入り、麻里奈とローラはすぐに雑誌の撮影に取り掛かる。

 

「今日はよろしくお願いします!」

 

「よろしくお願いしまーす!」

 

「まさか元ミューズナイツの板野麻里奈がローラさんとコラボするなんてね!これも何かの縁だ、イタリアを満喫していってよ!」

 

「オッケー!でもローラと一緒にいて十分満喫できたって感じかな!それに…マイノリティギャルとウンディーネの貴重なコラボだし、せっかくだからその服を着て街を歩いてもいいかな?」

 

「いいけど…もしかして宣伝ってやつ?麻里奈は話に聞いた通りノリがいいんだなー」

 

「へへ!じゃあ早く撮影に入りましょう!」

 

麻里奈は今回の撮影と宣伝がてらの散歩が楽しみで仕方がなかった。

 

カメラマンの写真撮影の時もポージングや角度にこだわったりして、今回のコラボ企画が本気なんだと現場から伝わった。

 

しかもこのコラボはイタリア中のマスコミも参加していて、この企画が成功すれば麻里奈のブランドにとって大きな宣伝となる。

 

そんな大仕事に張り切って撮影した麻里奈は、その衣装のままローラの手を引っ張ってミラノへ出かけた。

 

街を歩くと、ミラノの人々は温かく見守るだけでなく麻里奈とローラだとわかった瞬間に人が徐々に集まり、この服が可愛いとSNSでバズった。

 

ローラの服は赤と黒のギンガムチェックスカートに黒タイツに茶色のローファー、さらに白いワイシャツに赤と黒のネクタイ、黒いカーディガンの袖に赤い二本ラインの入ったコーデとなった。

 

一方の麻里奈は青緑と黒のギンガムチェックスカートに黒タイツ、青緑とミントグリーンのネクタイ、黒のテーラードジャケットという以外にもシンプルなコーディネートだった。

 

ワイシャツとローファーはお揃いで、スクール風清楚ギャルファッションとして気崩さないスタイルで可愛さとカラーリングによるギャルっぽさを両立させた。

 

イタリアで話題になった事でマイノリティギャルの知名度が上がり、今度ファッションショーで私のコーデをデザインしてくれと本社の方に問い合わせが来たと麻里奈に連絡が多く入った。

 

ローラも今回の依頼とコラボ企画が成功したことを大いに喜び、麻里奈に思いきりハグをしてきた。

 

「麻里奈!今日のコラボは成功だよ!ありがとう!」

 

「やったじゃんローラ!って、そろそろお腹がすいたからイタリアン料理でも食べない?もう夕方だしさ」

 

「そうだね!美味しいパスタ料理店があるからそこに行こうよ!」

 

「オッケー!」

 

ローラの紹介でパスタ料理店に向かい、二人で今後の方向性について雑談する。

 

麻里奈は今後も日本だけでなくヨーロッパを拠点にして、活動の幅を広げて自分なりのオシャレを広めたいとローラに嬉しそうに語った。

 

パスタ料理店についてバジルのパスタを注文して待っていると、匿名であるメッセージが届いた。

 

「ん?誰からなんだろ?えーっと…久しぶりだね。突然だけど今年の大晦日に渋谷駅のハチ公前に集まってほしいので、仕事をオフにして時間を空けておいてください。秋山加奈子より。ってマジ!?あの加奈子先輩からじゃん!」

 

「加奈子…?」

 

「ほら!元SBY48のアイドルだった秋山加奈子だよ!覚えてないの!?」

 

「あー!あのイタリアでも人気だった伝説のアイドルでしょ!?そんな人から連絡キタの!?」

 

「うん!」

 

「ちょっと読ませて!えーっと…これは詐欺かもしれないけど、それが本当なら行くべきだよ!念のために秋山拓也さんに相談した方がいいかも!」

 

「だな!あの人は定期的に連絡入れてるみたいだし!アタシらアドレスまでは知らないからさー!ローラ、もうすぐ日本に帰るから今言うね!今日は誘ってくれてありがとう!またイタリアに遊びに来るよ!」

 

「今度は日本に行くから待っててね!」

 

「オッケー!」

 

麻里奈はあまりの出来事に嬉しさと同時に戸惑いがあった。

 

一応秋山プロデューサーに連絡を入れてアドレスを確認してもらったところ…本人ので間違いないという連絡があった。

 

麻里奈もまたミューズナイツで同窓会でも開くのかなとワクワクして、飛行機の中でずっと笑顔のまま帰国した。

 

そして大晦日の日は本社に連絡してスケジュールを空けてもらい、いつでもハチ公前に集まれるようにした。

 

つづく!



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第96話 エマの未来

エマは新橋国際高校を卒業し、大学に行かずに音楽の専門学校へと進んだ。

 

専門学校でギターの技術だけでなく作曲も勉強し、もう一度バンドを自ら結成してギタリストとして活動したいと思っていた。

 

しかしその日が訪れるのは専門学校を卒業した次の日だった。

 

シンデレラロードのメンバーだったベースの鷺ノ宮エリスがもう一度バンドをやろうと招集し、あの時に助けたボーカルギターのアンナ・ダージリン、有名大学を首席で卒業したリサ・ロングボトムと合流した。

 

そしてメインボーカルで親の病気が原因で音楽をやめた子は…

 

「やっぱりメインボーカルはエマかエリスの方がいいんじゃない?」

 

「うーん、私はベースだから弾きながら歌うのはかなり難しいよ?」

 

「エマもアイドル時代は歌いマシタが、せっかくギタリストになったんだから弾きたいデス」

 

「うーん…相変わらずみんな頑固だなぁ…」

 

「アンナはやらないの?」

 

「ドラムやりながら歌うのは疲れるんだよ!?」

 

「となればやっぱり…」

 

「私になるのかな?」

 

「その声は…!?」

 

「嘘…!?どうしてここに来たの…?」

 

「エリザベス!」

 

「久しぶりだね、みんな」

 

「え?お母さんはどうしたの?」

 

「うん、去年に亡くなったよ。だから私は独り身になってね、バンドのみんなの事を思い出して匿名で連絡を入れてたの。でもまさかみんな本当に従うなんて思ってなかったな」

 

「どういうことなの…?」

 

「実はね…日本人の夫と結婚してね、その夫はレコード会社の社員なんだ。その人脈を利用してスコットランドで活躍した子のガールズバンドだけど、このメンバーをここに集めてほしいって依頼したの」

 

「なるほど…。お母さんはもう亡くなったんだ…」

 

「てことは日本に引っ越したって事…?」

 

「うん。だからね…もう一度このみんなでバンドをやろうよ!またスコットランドで活動したように、日本で再結成しようよ!楽しかったあの頃の…SKY GARDENを!」

 

「もう本当に…心配したんだからね!」

 

「でもこれで私たちの夢が叶うね!」

 

「エマ、日本でアイドル活動して待った甲斐があったね」

 

「これで…もう一度ガールズバンドを組める…!あれ…?涙が…」

 

「もう泣かないで?」

 

「再結成を誰よりも待ってたのはエマだからね」

 

「泣くのも無理はないよね」

 

「じゃあそろそろ行こうか。私の夫が務める…サンティスに」

 

「え?あのアニメソングの名門レコード会社の!?」

 

「ということは…」

 

「うん。デビュー曲は…アニソンだよ!」

 

こうしてエマたちはかつてのガールズバンドを再結成し、メインボーカルだったエリザベス・シャンクスによってサンティスで契約をする。

 

その契約後には数々のアニメソングを作曲し、ハニーはそれをすべて楽しそうに歌い上げる。

 

エマたちもこの時を待っていたかのように楽器を演奏しながらサブボーカルを務めた。

 

再結成から7年が経ち、ついにSKY GARDENの武道館ライブが行われる。

 

エマたちは武道館でライブするのが夢だったが、まさか正夢になるなんて全く思ってなかった。

 

しかもイギリスみたいにUKロックではなく、日本でアニメソングバンドとして路線を変えてから昔よりも人気も知名度も上がっていた。

 

その事を胸にエマたちはステージに上がる前の円陣を組む。

 

「まさかあの時よりも人気になるなんてね」

 

「想像もしなかったよ」

 

「でもおかげで日本だけでなくイギリスから来た人も結構いるみたいだよ」

 

「今日ここで日本とイギリスの架け橋になっちゃおうか」

 

「いくよ!SKY GARDEN!」

 

「Here we go!」

 

解散前の掛け声を出したエマたちはそれぞれの楽器を持ってスタンバイする。

 

ライブが始まると多くのファンが完成で迎え入れてくれた。

 

サイリウムの色である空色が客席を埋め尽くして美しい空模様を描いていた。

 

昔はアンナがリードギターだったが、今はエマがアイドル時代に目立ってきたのでリードギターに変わっているなど変化もあった。

 

エマのギターソロでファンは大いに盛り上がり、空色のサイリウムを激しく振り回していた。

 

もちろんアンナもかつてリードギターをやっていたので負けじと対抗するなどメンバー全員が負けず嫌いなところを見た古いファンは相変わらずだなぁと頷いた。

 

MCに入ると再結成の話をしたところでエマがずっと待ってくれたことを暴露される。

 

エマは恥ずかしがりながらも誇らしくメンバーの事を話し、昔のようなトゲのある毒舌も鳴りを潜めた。

 

ただしそれはひかり以外が対象で、遠慮なく語り合えるひかりには相変わらず毒舌である。

 

ライブもアンコールに入ると、いつもの空色のライブTシャツに早着替えしてステージに上がる。

 

「えーっと…皆さん!再結成してからもう7年も経ちますが、私たちはこれからもSKY GARDENとして活動を続け、もう解散なんてことがないように私たちも頑張ります!」

 

「ここにいる鷺ノ宮エリスと柏木エマは、アイドル時代に切磋琢磨し合っていてアイドル卒業まで競ってたことは皆さんも知ってると思います。それでも二人は再結成を信じて日本で活動し、私やリサが日本に来れるように頑張ってきました。二人はこのバンドの再結成の功績者です!大きな拍手を!」

 

「エリスから何か言ってクダサイ」

 

「私?えっと…私はどうしてもバンドのベーシストとして成功したくて諦めきれずに何度も他のバンドで活動しました。でも結局メンバーの誰かがいつもいざこざがあって方向性の違いで解散ばかりして、神さまは私にバンドをするなと言うのかな…と悩んでいた時だった。あの高飛車財閥事件の一人娘で、今は日本新聞の記者をやっている灰崎真奈香記者の義妹になった灰崎きららと出会い、バンドじゃなくなったけどもう一度表舞台に立つチャンスを与えられたんだ。条件として将来はベーシストとして活動させてほしいって言ったら、すぐに承諾してくれて嬉しかった。そしたらきららは資金を援助してくれてベースの勉強を続けられたんだ。その結果…このメンバーが日本で活動できるようにしてくれた。そして…再結成された。それが嬉しかったんだ。ファンのみんなも待ってくれてありがとう」

 

「エリス…これじゃあエマのスピーチがかすむデス。エマもSKY GARDENが解散して行き場を失ったところで、エマは歌が上手いから日本のこのアイドルのオーディション受けたら?ってハニーに言われマシタ。でもギタリストとして活動したいエマはなかなか納得しなかったデス。それでも諦めずに勧めてくれて才能があるんだから挑戦してって背中を押されマシタ。その結果…飛び級合格してここと同じくらいかけがえのない仲間と出会えマシタ。SBY48で培った経験は全部無駄じゃないし、このアイドル活動をきっかけにみんながもう一度バンドをやりたいって思えるのならって頑張りマシタ。そしたら偶然ハニーが結婚して日本に住むようになり、再結成のチャンスが訪れマシタ。それが今回のライブをやれた理由デス。嬉しかった…ずっと待ってた…。だからSKY GARDENは…最高の仲間ス!エマたちのSKY GARDENは…永久に不滅デース!」

 

エマとエリスのスピーチでファンは感動し、最後の曲で最高の形で締めくくった。

 

ライブ終演後はバンドのメンバーで居酒屋で飲み会を開く。

 

ただし全員お酒は飲めないのでソフトドリンクで乾杯し、好きなメニューを頼んで昔の話で盛り上がる。

 

そんな時だった…

 

「ん?いきなり匿名から誰デスカ…?久しぶりだね。突然だけど今年の大晦日に渋谷駅のハチ公前に集まってほしいので、仕事をオフにして時間を空けておいてください。秋山加奈子より。Oh my gosh!」

 

「え、どうしたの?」

 

「加奈子先輩から急に連絡来マシタ!」

 

「嘘!?あの人って確かまだ行方が…」

 

「一応恩師の人に相談してみて?本人かどうかわからないから」

 

「OK!」

 

エマは加奈子宛てのメッセージを見て軽くパニックになり英語で喋ってしまう。

 

メンバーもあまりの出来事に日本語を忘れて英語になるもエリスは冷静さを保って日本語で諭す。

 

確認をしたところ、このアドレスは加奈子本人で間違いないとの連絡が入った。

 

バンドメンバーはエマに同窓会の可能性を考えて大晦日の日はスケジュールを空白にした。

 

つづく!



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第97話 萌仁香の未来

ワールドアイドルオリンピック以前の萌仁香はアイドルデビューしてから明確な将来の夢はなかったが、萌仁香の活躍によって兄の小嶋翔平が高校に復学してから中野製菓専門学校に入学し、貧乏家庭から抜け出してアイドルワールドオリンピック以降は兄がお菓子屋を開業するという夢のために必死に仕事に励んだ。

 

その結果は兄の翔平は脱サラして自家製のお菓子を売るお菓子屋になり、萌仁香は看板娘として活動していた。

 

同時にこのお店の宣伝になるかもしれないと思った萌仁香は芸能活動を続けている。

 

その仕事といえば…

 

「小嶋さん!今日もよろしくお願いします!」

 

「よろしくお願いします!」

 

「小嶋さんって、ぶりっ子の時より堂々としている方がやっぱりいいよね…」

 

「スパイスのあるツンデレから今や大人になって自信に溢れている余裕さといったところだね…」

 

「でも決して驕ることなく日々精進している。まったく、ミューズナイツは本当にすごいよ…」

 

「ん?何か言いました?」

 

「ああ、君は結構頑張り屋さんだなってね。お兄さんのお店のために告ぐことも出来たのにあえて芸能界を続けるなんてね。何か理由でもあるのかい?」

 

「はい、確かに兄のお店の手伝いもすることは出来ますが、やっぱりもっとお店の事を知ってもらうためにも芸能界で宣伝して、もっと兄の作ったお菓子の事を知ってほしいって思ったから続けることが出来ました。今はその…水着とか恥ずかしいですが、グラビアアイドルとして続けられたことを誇りに思います」

 

「萌仁香ちゃん小柄なのにスタイルが凄くいいからね。俺の目に狂いはなかったってモノよ。さぁ萌仁香ちゃん、今日も男性を虜にしつつ、女性に可愛いを魅せつけようね!」

 

「はい!」

 

萌仁香は小柄ながらも大きなバストとヒップ、そしてスリムなウエストを活かして水着や下着を中心としたグラビアアイドルとなっている。

 

ただしヌード系はNGを出している。

 

何故なら兄の面子を潰しかねない行為をしたら、お店の評判が落ちるというのを萌仁香は怖がっているからだ。

 

基本的に雑誌の表紙やPVなどの撮影、疑似コスプレを中心としたグラビア写真集を中心としている。

 

コスプレについてはプロコスプレイヤーで声優でもある麻友美が直伝しているのでセルフメイクにも自信がついている。

 

同時にポージングでは麻里奈に、パフォーマンスではあかりに、そしてスタイル維持では結衣に教わるなど今でもミューズナイツだった先輩たちと交流はある。

 

そんな中で萌仁香は撮影に入り、いつも通り可愛らしい悩殺ポーズで現場を魅了した。

 

「いいねぇ~萌仁香ちゃん可愛いよ!ああ、そのポーズだとちょっと卑猥だからもう少し太ももで隠して!」

 

「はい!」

 

「お、それいいねぇ~!スマイルしてー!オッケーでーす!」

 

「ふぅ…ありがとうございました!」

 

「お疲れ萌仁香ちゃん!今日の仕事はここまでだよ!」

 

「はい!マネージャーさんもお疲れ様でした!」

 

「気をつけて帰ってね!」

 

「はい!」

 

萌仁香はこれといって大手の事務所には所属しなかったが、新興芸能事務所であるエス・クリエイターに所属している。

 

事務所としてはまだ無名だが将来性のある所属タレントも多く、芸能活動しながら副業をしている人もたくさん在籍している。

 

もちろん…萌仁香も副業しているタレントの一人なのだ。

 

萌仁香は寄り道せずにまっすぐ自宅へ帰った。

 

自宅といっても…萌仁香は兄と二人で同居していて、お店の宣伝系看板娘として副業していた。

 

翔平は萌仁香の帰りを見つけると嬉しそうに声をかける。

 

「ただいま、お兄ちゃん!」

 

「おう、おかえり!仕事はどうだった?」

 

「いつも通りよ!それより…お義姉ちゃんは元気?」

 

「ああ、しばらくは産科で入院でもうすぐ産まれるんだ。それまでお店の工場は俺が仕切らないとな。萌仁香はいつも通りレジを担当してくれ」

 

「うん!」

 

萌仁香は兄がお菓子を作っている間にカウンターでレジを担当する。

 

それが萌仁香のお店の看板娘としての副業だ。

 

グラビアアイドルの兄がお菓子を作り、グラビアアイドルがお店の看板娘をする。

 

それだけでもSNSで大きな話題となり、今や日本どころか海外から買いに来る人もいる。

 

ところが…兄の携帯が鳴って抜けてから兄の様子がおかしいと感じた萌仁香はこっそり抜け出して覗きに行った。

 

「本当ですか!?でもまだ予定日より早いんじゃあ…?まだ店を見せるわけにはいかないけど立ち合いの約束だし…。わかりました、仕事が終わり次第、すぐ向かいます!はぁ…どうすりゃいいんだよ…!」

 

「お兄ちゃん…」

 

「も、萌仁香…!?何だ、聞いてたのか」

 

「お兄ちゃん、大事なお義姉ちゃんが陣痛起こしたんでしょ?もうすぐパパになるんでしょ?仕事一本なお兄ちゃんは大好きだけど、家庭を守れないのに仕事をするなんて意地を張るお兄ちゃんだったら萌仁香は軽蔑する。だから…お義姉ちゃんのところへ行って来てよ。心配しないで、工場やお店の事は萌仁香が何とかするから!」

 

「萌仁香…すまない!本当にあの頃から助けられてばっかだな…。お店や工場の事は頼んだぞ!」

 

「うん!お兄ちゃん!その…そういうカッコいいお兄ちゃん大好きだよ!」

 

「萌仁香ちゃんマジかよ!お菓子を自ら作れるのか!?」

 

「こう見えて兄のお菓子を誰よりも味わい、見てきましたから任せてください。工場長はいいから指揮をお願いします」

 

「あ、ああ!わかった!ちょっとでも手を抜いたらすぐにカウンターに戻ってもらうぞ!」

 

そう言って帝国病院へ行った翔平を送りだした萌仁香はカウンターを急遽他のバイトの女の子たちに任せ、自分は工場でお菓子を作る。

 

萌仁香は誰よりも翔平のお菓子を見て食べてきたから味や見た目などを完全に把握していて、常連のお客さんも翔平が出ていったのを見て心配してたが萌仁香の仕事に感心した。

 

同時にお店の評判だけでなくオーナーである翔平が妻の出産だというのをどこからか流出し、急遽お客さんが繁盛期のお店を手伝ったりした。

 

そのためかいつもより忙しいのにスムーズに仕事が進み、ついに完売にまで至った。

 

いつもより早い店じまいの後に店長と工場長から兄の様子を見に行ってくれと言われ、萌仁香は急いで帝国病院へ急いだ。

 

遅れて着いた頃には、義姉が苦しそうに叫ぶ声が聞こえ、萌仁香は不安になった。

 

翔平はただ祈るように手を強く握っていて、本当に産まれてくれるのかの恐怖と不安に苛まれていた。

 

そして萌仁香が到着してから2時間後…

 

「おぎゃーっ!おぎゃーっ!」

 

「おめでとうございます!元気な女の子ですよ!」

 

「よかった…!ありがとう…みんな本当に…ありがとう!お前もよく頑張ったな…!」

 

「うふふ…あなたと可愛い義妹ちゃんが応援してくれたからよ…?」

 

「うるせぇ…出産するのに応援しない夫がどこにいるんだよバカ…!」

 

「おめでとうお兄ちゃん。これからはパパとしてしっかりお店を支えてね?」

 

「ああ…もちろんだ。萌仁香もありがとうな…。お前が背中を押さなったら、妻に恨まれていたと思う。そうだ名前…名前を決めてたんだ!今日からお前の名前は…萌々香だ」

 

「萌々香…?」

 

「俺を何度も助けてくれた妹に敬意を込めたんだ。この子は将来、俺を何度も救ってくれるだろうって願いさ。どうかな?」

 

「いい名前ね…♪義妹ちゃんはどう思う?」

 

「萌仁香の事をそう思ってくれたんだ…嬉しい!お兄ちゃん…ううん、パパ。元気に育ててね?」

 

「ああ!」

 

こうして翔平夫婦は無事に赤ちゃんが生まれ、萌仁香は安堵してソファに座りこんだ。

 

力が抜けていたのかいきなり着信が届くと、萌仁香はビックリしてソファから飛び跳ねた。

 

「もう!脅かさないでよ!まったく…久しぶりだね。突然だけど今年の大晦日に渋谷駅のハチ公前に集まってほしいので、仕事をオフにして時間を空けておいてください。秋山加奈子より。って…え?どうして加奈子先輩が…?」

 

「どうした?萌仁香」

 

「ちょ…これ見てよ…!」

 

「どれ…?嘘だろ…!?一応事務所や秋山さんに連絡と相談しなよ。怪しい詐欺かもしれないからな」

 

「う、うん!」

 

真っ先に秋山プロデューサーに報告と連絡、そして相談をした結果は紛れもなく本人のもので間違いないという返信だった。

 

消息不明のままだとマズいと思ったプロデューサーはせめて父である自分にだけでも連絡を寄越しなさいと言っていて、代わりに旧ミューズナイツには黙ってて欲しいという約束の下で連絡を取り合っていた。

 

プロデューサーから本人だと知ってすぐに事務所に大晦日だけスケジュールを空け、お店のオーナーである翔平も萌仁香のシフトは空けておいた。

 

果たして加奈子からのメッセージは本当に本人からなのか?

 

つづく!



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第98話 加奈子の未来

加奈子がアイドルを引退してから10年間の出来事の話をしよう。

 

加奈子は引退してすぐにアメリカへ行き、すぐに芸能界のプロデュースに取り掛かった。

 

同時にハリウッド芸能大学で留学生として入学し、そこでプロデューサーや企画担当の勉強を4年間続けた。

 

卒業後はアメリカで3人ほどのスターを生み出し、ヨーロッパでもイギリスでエマのバンドの再結成に尽力、フランスでも無名劇団の公演を満員にしたりとかなりの結果を残した。

 

加奈子が日本を経ってから約10年目を迎えて韓国で、あるアイドルに憧れる中学生の女の子をプロデュースしていた。

 

「はぁ…はぁ…!」

 

「さぁ、残り5キロメートルだよ。もう少しペース落として。トバすにはまだ早いからね」

 

「はい…!」

 

加奈子はこのイ・ユナという根暗で太った女子中学生をアイドルにすべく、今までのキャリアを隠してプロデュースしていた。

 

太った理由が小学校の時にいじめられて引きこもりになり、そこから徐々に太り始めてしまったという。

 

心無い同級生からブスとかお前にアイドルは無理だと罵られてきたが、加奈子がたまたま橋の上で自殺しようとしたところに出会い、止めたところで加奈子はユナの隠れた才能を感じて自らプロデュースを申し込んだ。

 

自殺の経緯を聞いた加奈子は見返してやろうという気持ちでいっぱいになり、言葉使いこそ優しいが練習メニューが厳しかった。

 

その成果が現れたのか1年間だけでマイナス20キログラムのダイエットに成功、食事や睡眠も改善され、今やモデル並みの美貌を手に入れた。

 

しかしある問題がまだあった…

 

「はい終了!お疲れ様!」

 

「はぁ…はぁ…!」

 

「ユナちゃんって結構根性あるね。私の厳しいレッスンにも耐えられるなんて。少しは自信ついた?」

 

「えっと…わかりません…。やっぱり図々しいですよね…こんな私みたいなブスがアイドルになろうなんて…」

 

「うーん、他人に言われ続けたせいか、自分をブスと思い込むようになった感じかぁ…。ユナちゃんは肌や髪などのケアもしっかりしてるし、私の後輩たちに負けないくらいアイドル力が高いと思うけどね」

 

「加奈子先生は買いかぶりすぎですよ…。私なんてまだ…」

 

「わかった。そこまで自分に自信がないならこうしよう。韓国最大のアイドルオーディション番組って知ってるよね?」

 

「は、はい…」

 

「そこで優勝出来なかったらアイドルを諦めると同時に私は日本へ帰る。でもその間は私がしっかりプロデュースしてあげるよ。心配しないで、こう見えて私は人を見る目には自信があるから。ユナちゃんは自分が信じられないと思うけど、せめて私だけは信じてほしいな」

 

「加奈子先生…わかりました!先生だけでも信じます!」

 

「それじゃあ今日のレッスンはここまで!そのオーディションは夏に行われるからその時までよりハードにいくよ!」

 

「ひっ…!が、頑張ります…!」

 

加奈子はユナにノルマを課して自分自身にもプレッシャーを与える。

 

受ける側だけにプレッシャーを与えるとパワハラになるので、もしダメなら無能な指導者としていさぎよく去って、まぎれもない本名でSNSに結果を晒して批判を受ける覚悟も決めていた。

 

始動する自分にもプレッシャーを与える事で受ける側と連携を取る作戦で今までたくさんの才能の芽を育て上げたのだ。

 

あれから夏になり、ついに韓国最大のアイドルオーディションが行われた。

 

ユナは地区予選を難なく突破して決勝ブロックまで駒を進めた。

 

そしてついに決勝ブロックの開催日となった。

 

「これより、コリアアイドルオーディションを行います。まずはエントリーナンバー1番、カン・ユジン」

 

「はい!」

 

「どうしましょう…緊張してきました…」

 

「うん、私も緊張するよ。やっぱり何度経験してもこれだけは緊張するな…」

 

「あの秋山拓也さんの一人娘ですよね…?後で調べてようやく知りました…」

 

「あー、バレちゃったか。実は正体を隠して世界中の原石を磨くプロデューサーの修行をしているんだ。10年間も世界中を回っているけど、まだ自分に納得いかなくて日本にあれから戻ったことがないんだ。だからユナちゃんのプロデュースを終えたら日本に戻るよ。あの子たちももう自立して成長しているしそろそろ…」

 

「え…?」

 

「ううん、こっちの話。それよりもオーディション、頑張ろうね」

 

「はい!」

 

「あっれー?誰かと思ったらブスユナじゃーん!アイドルオーディションとかよく出られたわね?」

 

「誰なの?いきなり失礼じゃないかな?」

 

「あ…ああ…!」

 

「ユナちゃん?」

 

「そんな…どうして…?」

 

「見た目は随分変わったけど、やっぱり中身は根暗でブスなんじゃないの。アンタがいくら才能を磨いたって無駄なんだから諦めて豚小屋に引きこもりなさいよ」

 

「いや…やめて…!」

 

「てゆーか生きてたのね。もう死んだかと思ったんだけど?いっそ死んでくれた方がいいってゆーか?早くオーディションに落ちてこの世からバイバイしなさい」

 

「待って!」

 

「はぁ?誰なのアンタ?」

 

「私は秋山加奈子。あなたは?」

 

「パク・クネよ?何か文句あるの?」

 

「あるよ。この子がどれだけ勇気を出してこのオーディションに臨んだか。私が声をかける前にどれだけヨナさんのせいで苦しんできたか想像できる?ヨナさんのような心無い人のせいでユナちゃんの未来や可能性が潰されたかもしれないんだよ?もし心からそう思っているなら…ユナちゃんはあなたみたいな最低な子に絶対に負けない!」

 

「あら?私はアイドル二世の選ばれた存在なのよ?この子みたいなブスと同じ舞台何て困るの。せいぜい私の引き立て役になりなさい」

 

「加奈子先生…」

 

「大丈夫、あなたなら出来る。それでダメだったら加奈子は無能な奴だったと思っていいからね?それに…今はトラウマを思い出させたかもしれないけど、これを乗り越えて優勝して見返せばあの子ももうぐうの音も出なくなると思う。さぁ、自分を信じよう」

 

「は、はい!」

 

「ではエントリーナンバー7番、パク・クネさん!」

 

「はーいどうもー!」

 

ユナを今までいじめていたクネは圧倒的パフォーマンスを見せつけ、観客をすぐに魅了させていった。

 

ハイレベルな歌唱力とダンスで会場を熱気の渦に巻き込み、他の参加者も戦意喪失するほどだった。

 

ユナも戦意喪失しかけた瞬間、加奈子はこんな独り言を言った。

 

「あの子には実力はあるけどオーラがないかな…。残念だけど完成度ばかりで将来性と実用性がないね…」

 

「加奈子先生…?」

 

「このオーディションはユナちゃんで決定だね。私はそう預言するよ。後はユナちゃん自身が自分を信じて挑むだけ。頑張って」

 

「はい!」

 

「ではラスト、エントリーナンバー8番、イ・ユナさんです!」

 

ユナは緊張しつつも加奈子に恩返しする気持ちでステージに上がる。

 

曲が始まるとユナは生まれ変わったかのようにオーラが変わった。

 

そう、彼女の歌声は茶山くるみに似ていて、ダンスも柔軟性を活かした身体能力だった。

 

パフォーマンスも周りを伺う性格を利用してファンサービスを徹底させ、ユナの何もかもを引き立てるものとなった。

 

おまけに見た目もビフォーアフターされていたのか、整形手術もしてないのに美しくなったビジュアルに観客はユナ一色となった。

 

そして…

 

「優勝は…イ・ユナさんです!おめでとう!」

 

「え…?私が…?」

 

「ちょ、何でよ!こんなブスのどこがよかったのよ!」

 

「君には完成度は高かったが、ただ歌とダンスが上手いだけだった。だがこの子は一生懸命さと自分は変われるんだという気持ち、そしてファンを大切にする精神を持っていた。君にはどれもない、その決定的な差だ」

 

「何よ!こんなボロ会場じゃ私の魅力は引き出せきれないのよ!大体私を誰だと思ってるのよ!」

 

「二世だからって調子に乗るんじゃない!表彰式の邪魔だから出ていきなさい!」

 

「ムキー!」

 

こうしてユナはアイドルとして正式にデビューし、加奈子のプロデュースを卒業した。

 

事務所は日本の芸能事務所となり、留学生としてSBY48の所属となった。

 

9月に入り、加奈子は韓国を経って日本へ凱旋帰国する。

 

「もう帰国するんですか?」

 

「うん。正直、君がこんなに早く成長するなんて想定外だった。もっと長くなるかなって思ってたけどよかったよ。これでユナちゃんは私の遠い後輩だね」

 

「来年の3月にまた渋谷で会いましょう。その時は私のライブを観に行ってくださいね!」

 

「ありがとう。でも日本に着いたら、もう私は先生ではなくライバルかもよ?」

 

「それはどういう意味でしょうか…?」

 

「さぁね、日本に着いてからのお楽しみだよ。じゃあまた会おうね」

 

「はい!今までありがとうございました!」

 

「さてと…ミューズナイツのみんなに一斉送信しよっと。久しぶりだね。突然だけど今年の大晦日に渋谷駅のハチ公前に集まってほしいので、仕事をオフにして時間を空けておいてください。秋山加奈子より。っと。本当にみんなが集まったら、もう一度…」

 

つづく!



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第99話 最終回 ミューズナイツ

12月31日、ついに約束の大晦日が訪れた。

 

各自今の家から出て渋谷駅のハチ公前に集まろうとする。

 

あかりは渋谷から近いので余裕を持って、結衣は品川から、日菜子は新宿から、麻友美は秋葉原から、ひかりはアメリカから帰国して引っ越した池袋から、麻里奈は上野から、エマは新橋から、そして萌仁香は日暮里から渋谷駅に向かう。

 

加奈子は東京駅が最寄りだがまだ帰国したという情報が入っていない。

 

なので最初に到着したのはあかりで、あかりは一人でヘッドホンをつけて小さな声で歌い始める。

 

あかりの歌で周りの人々は魅了されていったが足を止める事はなかった。

 

今の人気で変装しないで行くのはマズいので、絶対にバレないようにメイクなどしっかりしてきた。

 

真冬なのでとても寒いが、あかりはカイロを貼っていたので多少の寒さはしのいでいる。

 

少し時間が経つと日菜子が到着した。

 

「あかり、お待たせ!」

 

「えっと…もしかして日菜子ちゃん!?」

 

「久しぶりだね!今はあかり一人かな?」

 

「うん。日菜子ちゃんは智也くんと上手くいってる?」

 

「もちろんだよ!子どもも生まれたし、すっかりパパとママだよ。名前は太陽と陽子っていうんだ」

 

「双子なんだね。あ、今度は結衣ちゃんだ!」

 

「お待たせ。あかりと日菜子がいるのね」

 

「結衣ー!こっちこっちー!」

 

「昔は遅刻気味だったけど、ママになって直ったのね。偉いわ」

 

「そこまで馬鹿じゃないもん…!」

 

「まぁまぁ…。それよりもあと6人だね」

 

「そういえば麻友美は私と同じ車両で一緒だったけど、今はトイレに行ってるわ」

 

「じゃあもうすぐ…」

 

「おまたせしました…」

 

「麻友美!」

 

「相変わらず変装上手いなぁ…」

 

「今日は少しだけゴスロリ少女が普段着を着たらっていうのを意識しました…」

 

「二次元のキャラなのにリアルに馴染んでて、ある意味コスプレ上手いなぁー」

 

「えへへ…」

 

「残るは5人ね。次は誰が来るかしら?」

 

「それにしても数人だけで一緒の仕事はたまにあったけど、9人集まるのは10年ぶりになるのかな?」

 

「それが本当だったら嬉しいですね…」

 

「きっとミューズナイツの同窓会を開くんだよ」

 

「だとすれば懐かしい話も出来るわね。主催は加奈子先輩になるのかしらね」

 

「わかんないけど、呼び出したのは加奈子先輩だもんね」

 

「確かにそうだね。あ、萌仁香ちゃんだ!」

 

「遅くなりました!」

 

「あら、萌仁香はまだ早い方よ?」

 

「私も今着いたところなんです…」

 

「久しぶりだね、萌仁香ちゃん。お兄さんに赤ちゃんが生まれたんだって?」

 

「はい、おかげでお店もグラビアも家庭も幸せですよ。あの頃みたいに兄妹ですれ違う事もないですし、本当の自分に素直になれなくてツンツンすることも、猫をかぶる事もなくなってスッキリしています」

 

「随分自信がついたのね、偉いわ」

 

「それほどでも…あるかもですね。だってこんな偉大な先輩方と一緒に仕事して、ある時には死を覚悟して一緒に戦った仲ですもん」

 

「萌仁香ー!君はいい事言うようになったねー!」

 

「でもひかりちゃんと麻里奈ちゃん、エマちゃんは遅いなぁ…」

 

「あー、あの3人はいつも遅刻気味だったよね。私も人の事は言えなかったけど」

 

「ですが日菜子さんは智也さんの協力で直りましたね…」

 

「うん、智也と結婚しなかったら終わってたよ」

 

「あはは。とりあえず今は寒いからイチオーキューで少しだけ暖を取ろうか」

 

「そうね」

 

あかりたちはひかりたちの遅刻癖を見越して一度イチオーキューの中に入る。

 

イチオーキューで若者のファッションコーデを一通り見て、今はこんなのが流行っているんだと勉強する。

 

その向上心は今も変わらない。

 

夕方の18時になると、ついにひかりから連絡が来た。

 

「すまん!今渋谷駅に着いたんだ!お前らに会えるのが嬉しくて、ついダンスの練習してたら遅くなっちまった!」

 

「あら、ひかりにしては早かったのね」

 

「とりあえずひかりを迎えに行こうか」

 

「もうハチ公前にいるかも、急ごう」

 

あかりたちは晩御飯を洋食屋で済ませ、ひかりが到着したという連絡が入り、すぐにハチ公前に移動する。

 

あかりは12時に着いたので、相当この時を楽しみにしてたのだろう。

 

その次に日菜子が13時、その10分後に結衣と麻友美、14時に萌仁香なので相当時間が経っての到着だ。

 

ハチ公前に着くと、ひかりが申し訳なさそうに待っていた。

 

「悪いな!待たせちまって!」

 

「本当よ。と言いたいけどあの二人よりはマシね」

 

「まったくー、遅刻癖は変わらないんだからー」

 

「日菜子…お前はいつの間に克服したんだよ…!」

 

「日菜子さんは智也さんとのご結婚を境に変わられたんですよ…?」

 

「いいなぁー!オレも結婚してぇー!」

 

「まぁまぁ…私も結婚したいけど、まだ仕事が忙しくてそれどころじゃないんだよね」

 

「萌仁香もお兄ちゃんが結婚してパパになったけど、そろそろ意識しちゃいますね」

 

「そうですね…。あ、麻里奈さんとエマさんが来ました…!」

 

「ごっめーん!お待たせー!」

 

「遅くなりマシタ!」

 

「もうー、遅いよー!」

 

「悪かったってー!ほら、謝罪がてら東京駅でお土産!東京バナナだよ!」

 

「エマと麻里奈はみんなと再会出来る事が嬉しくてお土産選びに迷ったのデス!」

 

「え?何だよお前らもなのか?実はオレも…」

 

「萌仁香もなんですよ」

 

「皆さんもなんですね…?」

 

「これは智也と選んだお土産…」

 

「ということは…」

 

「どうやらそうみたいね」

 

「えへへ…」

 

「あはははははw」

 

ミューズナイツの8人の考える事はみんな同じで、全員と再会できることがあまりにも嬉しくて各駅からお土産を持って来ていた。

 

それぞれ大きなものではないが、どれも手軽で美味しいグルメなものでみんなで交換し合って食べた。

 

残るは加奈子のみだが、なかなか来ないので今いるメンバーで懐かしい話をした。

 

「アクムーン帝国との戦い、過酷だったね」

 

「そうだね。このイチオーキューのステージでアタシらは歌ってたんだよね」

 

「ゲーツィスの演説を止めたりしてましたね…」

 

「今思えば懐かしいデス」

 

「この交差点で萌仁香はあかり先輩に助けられたんですよ。かつてSBY48のオーディションに落選して、夢は絶対に敵わないんだって諦めた時に襲われて、魔物にされた時に加奈子先輩とあかり先輩に助けられたんですよ。それがまさか…お兄ちゃんまで魔物にされて、萌仁香までミューズナイツになるなんて思わなかったです」

 

「それがあかりと萌仁香の馴れ初めってやつかー。何だか感動するぜ」

 

「そのおかげで加奈子先輩は助かったのよね。そして私たちまで騎士として覚醒してアクムーン帝国やルシファーナにも勝った」

 

「でもアルコバレーノや月光花には勝てなかったな…」

 

「アジアアイドルコンテストでは月光花に勝ちマシタけどね」

 

「世界のアルコバレーノ、東洋のミューズナイツ、西洋の月光花って言われたわね」

 

「人気の分布がしっかりしてたよね」

 

「わかるー」

 

「それにしても…加奈子先輩遅いですね…」

 

「まさか騙された…?」

 

「だとしたら無駄足じゃねぇかよ…!」

 

「どうする?もう解散する?」

 

「そうしましょう」

 

「きゃっ!?」

 

「何だ!?停電か!?」

 

「どうしよう…!これじゃあ帰れないよ…!」

 

21時をきっかけに突然渋谷の街に停電が起き、渋谷駅周辺は大騒ぎになった。

 

あかりたちは突然の事故に不安を覚え、まさかまたアクムーン帝国が復活したんじゃあ…と光のサイリウムを用意する。

 

しかしどうもダークネスパワーを感じなかったのでサイリウムを一旦しまい、とりあえず街の中を捜索しようとする。

 

すると…渋谷駅のハチ公前の改札口からスポットライトが当てられ、一人の女性が花道を通るようにハチ公前に近づいた。

 

「このドリームパワーは…!」

 

「この大きすぎるドリームパワーって…!」

 

「もしかして…!」

 

「あの人だ…!」

 

「加奈子先輩…加奈子せんぱーい!」

 

「まったく…ヒーローは遅れて登場ですか!」

 

「加奈子先輩!おかえりなさい!」

 

「もう!遅いデスヨ!」

 

「みんな…お待たせ。ようやく世界一のプロデューサーになってきたよ」

 

「ああ、間違いねぇな!」

 

「SBY48をワールドアイドルオリンピックで何度も上を行ったグループは数多くいるッスよね!」

 

「うん、それだけでなく何人もの原石を見つけてきたんだ。だから自信を持って日本に帰れるって思ってみんなを集めたんだ。だから今ここで重大発表するね」

 

「はい!」

 

加奈子が凱旋帰国して約束通りに渋谷駅のハチ公前に現れる。

 

さっきの停電やヘリコプターでのスポットライトは、加奈子の全財産をかけた演出で渋谷の街の人をも驚かす演出だった。

 

そのおかげでサプライズは成功し、今度はさらに驚くサプライズを用意していた。

 

「みんな、まずはあのサイリウムを取って」

 

「え?もうダークネスパワーは…」

 

「いいから変身しよう」

 

「わ、わかりました!みんな!」

 

「うん!」

 

「ミューズナイツ!レッツミュージック!」

 

「HEY!HEY!HEY!」

 

各自ミューズナイツとして変身して騎士服に着替える。

 

みんなは加奈子に促されるように従ったが、一体何を考えているのかわからなかった。

 

だが街の人が変身姿を見てもしかして…と半信半疑から確信に変わった。

 

その演説がこれだ…

 

「皆さんお久しぶりです!ミューズナイツだった秋山加奈子です!ここにいる前田あかり、大島結衣、篠田日菜子、渡辺麻友美、高橋ひかり、板野麻里奈、柏木エマ、そして小嶋萌仁香をここに呼び出したのは私です!そしてここにまた夢と未来の騎士が集まった…ということはもうわかった方もいると思いますがあえて言います!今ここで……私たちミューズナイツは、この渋谷にて再結成と活動再開を宣言します!もうアイドルという年齢ではないかもしれませんが、皆さんにとって永遠のアイドルはミューズナイツだと言われるようになるよう約束します!そして…父である秋山拓也と対等なライバルとして、最高のアイドルになって世界中にもう一度、夢を見て自ら叶えるために努力し、未来を描き、そして世の中のために向上心を促せるように頑張ります!だから…せーの!」

 

「「応援よろしくお願いします!」」

 

「ミュ、ミューズナイツが再結成だ!」

 

「ずっと待ってたよー!」

 

「ミューズナイツ!ミューズナイツ!ミューズナイツ!……」

 

こうして加奈子の突然のサプライズ演説に、渋谷中はミューズナイツフィーバーとなる。

 

SBY48もミューズナイツは永久欠番だったが、今回の活動再開宣言によって永久欠番を解除しSBY48公式ライバルグループとして任命する。

 

そのことが世界中のSNSでバズり、とくにアジア圏からは多くの人々が待ち望んだかのようにお祭り騒ぎになった。

 

あれから専属プロデューサーに日菜子の夫である篠田智也を筆頭に、世界中を席巻して月光花と共に世界を騒がせる存在となった。

 

その後、ミューズナイツが第4回ワールドアイドルオリンピック以降、大会史上初の5連覇を果たしたのは未来の話だ。

 

ミューズナイツは永遠のアイドルとして語り継がれ、アルコバレーノ、月光花と共に世界のアイドル100全集にも載るほどの偉大な記録を残すのであった。

 

彼女たちの死後は…SBY48劇場だけでなく、渋谷区の墓地に手厚く全員同じお墓に葬られている。

 

こうして人類は、新たな歴史を作るために日々進化していくのであった。

 

おしまい!



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