少女はゾルディック家から逃げ出したい (turara)
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少女は、地獄へ送られる
「紹介するわね。こちら私たちの子供のマリア。とても可愛いでしょう?」
キルアは親父に呼び出され、ある少女の自己紹介をうけていた。
この場にいるのは、ゾルディック家の全員とその数人の執事そして、今紹介を受けている少女とその家族だった。彼女はこれから2年、親の仕事の関係でこのゾルディック家で預けられるらしい。
「ほら、キルア。お前と同い年だ。挨拶しなさい。」
そう父のシルバに言われ、キルアはその少女に挨拶をする。
「俺、キルア。よろしく。」
少女は、キルアの顔をちらっと見て、やっぱり母親の後ろへ隠れてしまった。
「すみません。恥ずかしがり屋で。」
そう、その少女の父は言う。挨拶の出来ない少女を全くとがめることのしない両親は、少女にとても甘いらしい。
キルアは、後ろに隠れてしまった少女を見て、少しテンションがあがっていた。誰であったとしても、自分と同い年の友達ができるかもしれないと思うとうれしいものがあった。これまで、キルアの周りには友達と呼べるものなのいなかったからである。
「なかなか可愛いらしい娘じゃの。」
ゼノは、そう言いにこやかに少女へ近づく。少女は未だに母親の後ろへ隠れたままだ。
少女は、自分がここへ預けられることに納得がいっていないらしい。誰が話しかけても、頑なに母親の後ろへ隠れ話そうとはしなかった。
そんな様子に、少女の親は少し困り顔である。
しかし、しょうがないことなのかもしれない。まだ、6才の少女が親から2年も離れ、よくわからない所へ預けられるのは恐怖だろう。それに、少女は、両親ともに愛情いっぱいに育てられている。受け入れられないのは当然とも思えた。
「マリア。2年経てば絶対に迎えに来るから。」
そう、少女の父親は言うが少女は不満そうな顔をしている。
それでも、少女が泣き出したり、「嫌だ」と叫ぶようなことはしなかった。少女は、自己主張が出来ない子なのか。それとも、ここへ預けられることの意味を理解していたのかはわからない。
しかし、どちらにしてもこの少女は普通とは違う、特別な才能を持っていることは確かだった。
と言うのも、この少女の親はゾルディック家と親しい間柄である。それは、このゾルディック家が特殊なように、この少女の親も特殊だということである。
少女の両親は共に、かなりの実力者で、それは、キルアの父であるシルバ、また祖父であるゼノが認めている。
少女の両親は情報屋をやっており、裏の情報から表まで、依頼されれば確実に情報を手に入れる。
ゾルディック家は、どうしても手に入らない情報や、特別大切な任務の情報などを、この少女の両親が請け負っていた。
裏ではかなり有名な存在だが、実際にアポをとれるのは相当限られてくる。彼らが受ける依頼は金ではなく、信頼である。どれだけ金を積もうとも、決して依頼を受けることはない。そのため、裏では伝説の情報屋として知れ渡っていた。
そんな情報屋である少女の両親が今回、少女を預けることになったのも、その辺の事情が絡んでいる。
少女をここへ預けるほかないほど、危ない情報の任務が舞い込んだのである。
両親は、娘が生まれて以来、娘に影響がない程度の仕事しか受けてはこなかった。しかし、今回特別な事情があり、それを受けるしかないほど少女の両親は追い込まれていた。
少女がここへ預けられることになったのも、それが事情である。
少女は、いたって普通に育てられたが、その才能は未知数である。
強い両親の血を受け継ぐこの少女もまた、戦いの才能があることは確かだった。
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少女は、毒物を食わされる
少女は両親をゾルディック家の玄関まで見送る。少女は、本当は今すぐにでも両親に抱きついて一緒に帰りたかったが、そうできないことは重々わかっていた。
少女は、両親の仕事について両親が思っているより理解していた。突然ふらっといなくなる父親や、時々怖い顔をして電話している母を見かけると、普通の家庭とは違うと言うことを思い知らされた。
少女にとって一番最初に疑問を抱いたのは保育園年長組のことだ。母や父は急いでいると普通に2回の窓から飛び降りるし、お弁当を忘れると、歩いて30分かかるはずの道を何故か5分で届いたりする。
それがふつうと思っていたのだが、どうやらそれは違うらしい。ふつうの家庭は、どれだけ急いでいてもちゃんと一回の玄関から出るし、お弁当を忘れると、車で届けない限り、ちゃんと30分後にとどく。初めてできた友達は、少女がそういうことを言うと、少女のことをうそつき呼ばわりしたので、あまり言わない方がいいと気がついたのだった。
そう言うこともあって、少女は、両親にとってどれだけ自分がお荷物であるということを感覚的に理解していた。自分がいれば、自分を狙うやからがいて、それが両親の弱みになるかもしれない。
しかし少女は、決して悲観的な考えにはなってはいなかった。それは、両親の仕事にとって自分は邪魔なだけで、愛されていることはわかっていたからだ。
少女はだからこそ、両親の決定したことに何の抵抗もしなかったし、泣いたりもしなかった。
しかし、だからといって、この状況を喜んで受け入れるほど、少女も人間が出来ていない。少女だって、相手側に受け入れてもらえるよう、愛想良くしようと思っていたのだ。
それなのに、そんな心構えは、一瞬で吹っ飛んでしまった。
待っていたのはムキムキの大男に、「暗殺」と書いた怪しい服を着用しているおじさんに、包帯ぐるぐる一つ目の女の人に、目に全く光のないお兄さん、おでぶのお菓子を食べてるお兄さんだった。唯一まともそうなのが、白い髪をした少年だったが、周りのインパクトの強さに少女は一瞬でやられてしまった。
少女はこのときほど、両親の考えが理解できなかったことはない。確かに、ここが一番両親の敵から身を守るには安心できる場所であると思った。しかし、少女は、両親の敵なんかよりもこの家族のほうが危ないんじゃないかと本当に強く思ったのだ。
だから少女は、とてつもない葛藤にさいなまれていた。両親のことを思えばここにいるべきである。しかし、どうしてもこの家族と2年間も付き合っていける気がしなかった。
少女は、いやな予感ばかりここへ来て感じていた。
そしてその勘が、正しかったことは、とんでもない早さで露見した。
それは、その日の夕食でのことだ。
少女は、なんやかんやもてなされ、そのまま夕食の時間になった。
豪華な長い机に、少女が見たこともないような料理が次々と並ぶ。お皿も、コップも、フォークやスプーンまでもが少女の予想もつかないほどの値段がするもにばかりである。
上を見上げると、とてもでかく、光り輝くシャンデリアが部屋を照らしている。
普通なら見たこともない家にテンションがあがるものかもしれない。それは、夕食に限ったことではなく、家中が高価なものであふれていた。
しかし、少女は逆に、家に入れば入るほど、少女の警戒アラームの音は強くなっていった。
そして今、一番少女の警戒アラームがマックスに鳴り響いているのがこの料理である。
美味しそうな料理のはずなのに、少女には何か異様な、毒々しい雰囲気を感じた。
周りの人たちは、挨拶をいい、ご飯を食べ始める。
少女も、食べないとと思うが、いっこうに箸が進まなかった。自分の中の本能が、この料理を食べることを全力で拒否していた。
少女が、なにも食べないでいると、大柄の男が、少女に話しかける。
「食べないのか?」
少女は、その圧にびびる。まるで、これを早く食べろと言っているように少女は感じた。しかし、その通りだろう。ご飯をよばれているのに一口も食べないのは変だ。
少女は、無理やり体を動かし、料理に手を着ける。
すると、いきなり包帯の女の人が「あらやだ!」と言い立ち上がった。
少女はそれに驚く。
「どうしたんだ?」
「マリアちゃんの分、毒を抜くのを忘れてたわ!危なかった。ついうっかり殺しちゃうところだった。」
包帯女は、そう言う。
その発言に少女は驚愕した。冷や汗が止まらなくなる。自分は危うく殺されかけていたのだ。
しかし、頭のねじの飛んでいるゾルディック家は、謝りはしない。それどころか、少女の勘の良さをほめたたえている。
流石、情報屋の娘だ。勘がいい。
うむ。全くじゃ。
そう言う会話が、少女の目の前で繰り広げられる。
少女は、自分は2年も生きてはいられないだろうと心のどこかで思った。
あっぶね~。いきなり終わるとこだったぜ(^^;)
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