ギレンの野望?なんだそれは・・・ (国連宇宙軍)
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第1章 前日譚
第一話


よろしくお願いします。


 僕はどこにでもいる普通の中学三年生だ。今日は友達と一緒に映画館にいった。その帰りに友達を庇って交通事故にあってしまい死んだはずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん?」

 

 目を開けると見知らぬ天井が広がっていた。体を起こし、よく自分の体を観察する。肩幅が広く身長も大きい。そして、一番目立つのは鍛えられた筋肉。全く、本の中だけだと思っていた転生を自分がしてしまうとは思っても見なかった。とにかく今は状況を把握しなくては。ベッドから起き上がり近くにあった鏡を見る。そこには、僕が最も好きなアニメの登場人物であるドズル・ザビが写っていた。

 

「……」

 

 一瞬言葉を失ってしまった。どうせ転生するならあのチート級の主人公が良かった。よりにもよって強面の全く政治ができないとされる戦闘バカに転生してしまうとは。しかもドズルといえば父からはほとんど愛されず兄弟二人に見捨てられ最後はチート級の主人公に討たれてしまう僕にとっては可哀想な人物だ。まあドズルは指揮・統率力に優れており、原作でも部下には〔青い巨星〕ランバ・ラル、〔白狼〕シン・マツナガや〔ソロモンの悪夢〕アナベル・ガトーがいる。なんとか原作のような最後は回避し、ジオンを勝利に導かなければならない。他の兄弟に見捨てられて、生身でガンダムに挑むなんて絶対に嫌だ。といっても生粋のガノタじゃない僕は原作知識なんてしっかり覚えてないし、なにより正史通りに進む可能性は低いかもしれない。

 

 まあそんなことは置いといて、今は何年の何月だ? UC 0069、8月12日か。ということはジオン公国宣言はまだだな。うまくあの兄妹を懐柔できればジオンの勝利は一気に近づくだかもしれん。一か八か賭けてみるか。

 

 

 

 数時間後

 

件の兄はムスッとした顔でこちらを見ている。一方の妹は広い部屋に連れてこられワクワクしているようだ。それとバーで暇を持て余していたランバ・ラルも呼んでおいた。

 

 

「キャスバル、久しぶりだな。俺のこと覚えているか?」

 

 ドズルはこんなしゃべり方だったか? 難しいな。

 

「ええ、覚えております」

 

返事に棘を感じるな。父親を殺されたと思っているなら無理はないだろうが、悪いのはデギンであって俺らではない。そこらへんは分からせないとな。

 

「そうか、単刀直入にいうが君たちの父を殺したのは十中八九ザビ家だろう。というか100%デギンだ」

 

 キャスバルの目が鋭くなる。おお、怖い怖い。ドズルの中にあった記憶によると暗殺はデギンの独断だったらしいから、なんとかならないだろうか。

 

「そして君たちは追手から逃れるためジンバ・ラルとともに地球に降りる。違うか?」

 

「……そうです」

 

 何秒か経った後、キャスバルが答える。

 

「お前らは必ず父の命によりキシリアの諜報部隊辺りに狙われるだろう。そこでだ、ランバ・ラルお前も地球に向かえ。お前の父だけではキャスバルたちを自分の私利私欲のために利用するかもしれん。それに戦力的にも不安だからな」

 

 それまで後ろの壁で腕を組み寄りかかっていたランバ・ラルが初めて口を開く。

 

「確かに、キシリア様辺りなら必ず暗殺計画を立てるでしょう。しかし、その前にこのコロニーを脱出できるかも怪しい」

 

「そこは、任せてくれ。必ず脱出出来るように手配する」

 

「……そうですか、分かりました。それでは、私もお供いたしましょう」

 

「それとキャスバル、デギンに報復を考えているなら手伝う用意もある。大きくなったら戻ってこい」

 

 キャスバルは一度こちらを睨み、部屋をでていく。それに続いてアルテイシアとラルも部屋を出ていく。

 これでキャスバルの恨みが少しでもなくなるといいんだけどな。ガルマを殺されたらジオンは負けだ。あとは、モビルスーツを一刻も早く造らなければ。あの厄介な三社はそのうち統合だ。そうすればゲルググももっと早くできるはずだ。そんななかでも一番の問題はコロニー落とし、あれだけはとめなければならない。

 

 

 

 

 

 8月15日

 

 今日は正式にジオン公国宣言が行われた。今ごろ、ダイクン兄妹は俺の名前入りの貨物でサイドを脱出しただろう。なんかキシリアがこちらを睨んでいるが気にしないでいこう。さて、これからどうするか。とりあえずミノフスキー粒子が立証されるまでは待つか。話はそれからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 UC 0070 3月

 

 ミノフスキー博士を急かしまくったら予定より二ヶ月早くメガ粒子砲が完成した。それに伴いチベ級重巡洋艦はあと1ヶ月で一番艦が完成する。ムサイ級巡洋艦の設計図も開発部に提出したが、原作では死角が多く対空性能もゼロに等しくなっている。そのため船体を少し大型化し、モビルスーツ格納庫下部に後方に射撃できるメガ粒子砲を増設した。さらに船体各所に対空機銃を配置し、連邦の艦載機に取りつかれても対応できるようになっている。そして、整備性と被弾時の生存性を高めるためにムサイ級にはブロック制を採用。被弾時には強制パージ可能である。それと並行してミノフスキー博士に接触し、モビルスーツの要である小型核融合炉の開発にも着手させた。年内には開発完了予定との報告が上がっている。そういえば、地上にいったキャスバルたちがキシリアの刺客に襲われたみたいだ。さいわいランバ・ラルを向かわせたお陰で被害はなかったみたいだが、あの兄妹はテキサスに行ってしまった。これは運命なのだろうか。そこで僕はふたたびあの二人に接触し、キャスバルにはシャアの名前を、アルテイシアにはセイラを名乗らせた。やはり二人はこの名前がしっくり来る。ちなみにだが、付近に住んでいたアズナブル一家に同名のシャアがいたが許可はもらうことができた。

 

 

 

 6月

 

 小型融合炉が完成し、作業用モビルスーツに取り付けを行った。テストパイロットは黒い三連星である。この調子でいけば再来年辺りには旧ザクまで行けそうだな。あと、ザンジバルまで再来年でできそうだ。あとで、ドロスの設計図を書いておこう。

 やべ、キシリアから呼び出されてしまった。なんかやっちまったか? 

 

「兄さん、最近小型融合炉の開発に成功し人型兵器を作っていると噂に聞きますがその真偽をお聞かせ願いたい」

 

「それはだなキシリア。連邦は戦力増強のために新型の宇宙艦を開発していると聞く。だがミノフスキー粒子が証明された以上、連邦のような機械に頼った精密射撃はできなくなるぞ。それはジオンも同じこと。そこで、人型兵器の出番だ」

 

「なるほど、そういうことでしたか。」  

 

紫ババアは原作でも暗躍しているので、敵にはまわしたくない。

 

「なにか言いたそうな顔をしているな。」

 

「兄上、こちらにもその情報を分けていただきたい」

 

「タダで譲るわけにはいかんな。」

 

「...何をしろと?」

 

「ダイクン兄妹から手を引け。それから父とは適切な距離を置け。悪いがあの人は衰え始めている。お前まで飛び火しかねんぞ。」

 

なんとなく予想はしていたのだろう。キシリアはすぐに頷いた。

 

「わかりました。」

 

ここでキシリアを味方に引き入れられたのはでかいぞ。



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第二話

一話投稿しただけでUA が2000を越えた・・見てくださった皆さんありがとうございます。そしてお気に入り登録してくれた皆さん、これからもよろしくお願いします。


 UC 0071 1月

 

 キシリアにモビルスーツ開発の情報を与え半年が経った。多分、連邦側に情報が漏れるだろうがそれは仕方ないだろう。今、兄弟内で派閥争いをしている場合ではないからな。しかし、思わぬ収穫もあった。キシリアから局地型モビルスーツの提案があったのだ。僕はもちろんこの話に乗り、ついでにあの厄介な三社を合併してしまった。もちろんギレンには許可を貰っている。そして今日はギレンに話があり、ギレンの部屋に来ている。

 

「なんだ、ドズル。話があるらしいが?」

 

「兄貴、回りくどいのは嫌いなんでな、単刀直入に言うぞ。近い将来に連邦と戦争をする気があるだろう」

 

 あのギレンが一瞬だけだが顔に表情を浮かべる。ドズルに心の中に秘めた事を言い当てられたことが悔しかったのだろう。

 

「そうだとしたらなんだ?」

 

 顔をいつもの仏頂面に戻し、何事も無かったかのように振る舞う。しかも少し、圧力を感じる。おお~怖い怖い。

 

「戦争については俺も賛成だ。しかし、同じスペースノイドを敵に回すようなことは許さないぞ兄貴」

 

「ふっ、そこまでお見通しか。私も顔に何か出るようになってしまったようだ。それでドズルの意見はなんだ?」

 

「兄貴も耳に挟んでるだろうが今モビルスーツという人型兵器を作っている。モビルスーツは発見されたミノフスキー粒子の影響を受けることなく攻撃を仕掛けられる。これがあれば連邦の艦船なんて一ころだ。しかし、数がなければ意味がない。だが、ジオンの国力は連邦の国力の三十分の一にも満たない。そこでだ、他のサイドと連携しモビルスーツの生産拠点として利用できれば物量の差は多少なりとも縮めることが出来るだろう。どうだ?」

 

 

「……いい案だ。確かに他のサイドを敵に回して何がスペースノイドの独立だ。すぐに交渉を始めさせてもらう」

 

「それと、兄貴。これは俺も実現するとは思わないが親ダイクン派ともう一度やり直すことは出来ないのか?」

 

「・・どういうことだ?」

 

声音が変わった。やべぇ、完全に怒ってやがる。

 

「いや、ダイクン派にも優秀な人物はたくさんいるのでな。少しでも人材は多いほうがいいだろう?」

 

「・・それは無理な相談だ。」

 

「そうか。余計な事を言って済まなかった。忘れてくれ。」

 

「ゴホン!ドズル、これは提案なんだが……お前にはモビルスーツ開発部の責任者になってほしいのだが?」

 

 僕がモビルスーツ開発ね。原作の知識を持っている者が開発なんて担当したらあっという間にゲルググまで作れそうだな。

 

「兄貴がそれを望むなら俺は構わないが」

 

「辞令は改めて送らせてもらう」

 

「それと兄貴、モビルスーツ適性試験を開始してくれないか? なるべく早く慣らさせてあげたいからな」

 

「分かった。お前も言うようになったな」

 

「そうだ、兄貴。俺は戦いは好きだから、戦争が始まりそうになったら前線指揮官にでもしてくれよ」

 

「ふっ、考えておく」

 

 僕はギレンの部屋を出て、自分の部屋に戻る。おお~、正直まじで怖かった。顔面の圧力半端ないな。怖すぎてチビる寸前だったぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 2月

 

「兄上、これをご覧下さい。今後開発予定の局地型モビルスーツです」

 

 キシリアが見せてきた資料にはグフとゴッグが記載されていた。ふむふむ、スペックは原作どうりだな。

 

「このグフっていうモビルスーツの内蔵式のフィンガーバルカンは整備性が悪いと思うんだが?」

 

「確かに、その通りです。外付け用の武器を同時に開発し、左手もマニュピレーターにして持たせられるようにします」

 

 キシリアはさも予想していたように代案を示してくる。これは、僕の技量を試しているな。ふん、僕が戦闘バカではないところを見せてやる。

 

「それにグフは全ての武器が近距離用ではないか。これはコロニー内部用のモビルスーツだろう。これでは、接近する前に連邦の戦車に囲まれてあっという間に終わるぞ」

 

「そうですね、一応ザク用に開発が進められているマシンガンとバズーカは装備可能ですが何か新しい武器を考えてみます」

 

 あとはゴッグか。

 

「ゴッグについてだが全体的に生産コストが高すぎる。あとアイアンネイルは汎用的ではないな。まあ、水陸両用はあとでもいい。今は宇宙用に集中してくれ」

 

「……分かりました」

 

 キシリアは渋々企画書を取り下げた。

 

「それでは、失礼します。開発部長さま、本日は貴重な時間をありがとうございました」

 

 キシリアは皮肉を含めた挨拶をして部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 9月

 

 原作ではヴァッフと呼ばれているモビルスーツが完成した。これは来年にはザクが出来そうだな。

 

 

 

 

 

 

「土星エンジン?」

 

 今日は元ジオニック社、ツィマッド社、MIP社の三社が合併した現ジオン新兵器開発局の代表者三人が開発統括部長である僕にプレゼンを申し込んで来たのだ。

 

「はい、短時間で200m/秒の加減速が出来るエンジンです」

 

 おいおい、土星エンジンって確か空中分解の原因だったような……

 

「すごいスピードが出るのは分かったが、本体はそれに耐えられるのか? 速度を上げたら空中分解したなんてことになったら洒落にならんぞ」

 

「ええ、それについては大丈夫です。三社の力を合わせることによりその問題も完全に解決しました」

 

「なるほどね」

 

 三社を合併したのが良かったのか。確かにこれを開発すればドムの開発も出来そうだな。

 

「それで試験機はいつ出来るんだ?」

 

「来年中には出来ると思いますが」

 

「そうか、わかった。開発を進めてくれ」

 

「ありがとうございます」

 

 三人は喜びを顔に浮かべながら部屋を出ていった。



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第三話

第二話を少し修正しました。もう少し多めに書きたいのですが、まだしばらくはこのくらいの字数になってしまいます。すみません。


お気に入りが70だと?いつの間に! 嬉しい限りです。これからも宜しくお願いします。






 UC 0072 1月

 

 ギレンが指揮していたアステロイドベルト調査隊(仮)がソロモンとア・バオア・クーを連れて戻ってきた。これでサイド3本土を守る防衛線を形成できる。もうすぐでザクⅠの試作機も出来ることだし早く生産拠点に改造しなくては。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1週間後

 

「ドズル、これを見てくれ」

 

「兄貴、この書類はなんだ?」

 

「貴様がいっていたモビルスーツ適性試験の結果の書類だ」

 

 渡された紙束を見てみるとそこには、おびただしい数の名前が書かれていた。

 

「この間、試作機が完成したザクⅠとヴァッフのデータを入れて試験した。サイド3だけではなくサイド1とサイド4からも応募がたくさんあり、のべ人数は五千人以上に及んだ」

 

 五千人か、すごいな。

 

「その中で試験に合格したのは三千人余りだ。まだモビルスーツの生産が追いついていない段階だが、生産が完了次第配備を開始し、実践訓練を開始する予定だ。その前に、士官学校に入学しなければならないがな」

 

「そうだな。そうか、もう士官学校も出来るのか」

 

 ギレンと会話ながら、ページをめくるとランバ・ラル、ジョニー・ライデンにシン・マツナガ、それにサイクロプス隊メンバーなどエース級の名前が勢揃いしていた。

 

「兄貴、実践訓練が始まったら成績のいい人物たちを集め、教導大隊を作りたいんだがどうだ?」

 

「……ふむ、いいだろう。そういえば局地型モビルスーツの開発はどうなっている?」

 

「砂漠や荒野などで性能を発揮するグフというモビルスーツを作っているんだが、ジェネレータの開発に手間取っているらしくてな」

 

「そうか。キシリアにも良く言っておこう」

 

「では失礼するぞ」

 

 ドアを開けギレンの執務室を出た直後、僕は緊張の糸がほどけ汗が身体中から吹き出すのを感じた。やっぱりギレンと会うのは三回目になっても慣れないな。仕事以外では最近会わないから余計に慣れることが出来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 3月

 

 ザクⅠの試作機が完成し、ヴァッフは約五十機の生産が完了した。そして先日、二回目のモビルスーツ適性試験が行われ、前回よりも多い四千人の合格者が出た。これは、前回と比べサイド2からも前回の試験を聞きつけた者たちが参加してきたからである。この結果にはさすがにギレンも片眉を吊り上げていた。

 

 

 

 

 

 

 そして3月中旬である今日は、ある人物が僕の執務室に来ていた。

 

「ギニアス・サハリン参りました」

 

「貴様がギニアスか。今日は頼みたいことがあって呼び出した。貴様には、機動力と攻撃力を重視した移動支援火器、便宜上MAと呼ぶものを作って欲しいのだ」

 

「はあ、移動支援火器ですか?」

 

「そうだ、例えば前面からモビルスーツ隊が攻撃している間に側面から大火力で打撃を与え、機動力ですぐに離脱出来るような機体だ。また、複数のモビルスーツをフックなどで固定して敵艦隊に突撃。艦隊中央でモビルスーツを切り離し、一気に殲滅するなど様々な状況に対応出来る機体を作って欲しいのだ。無論、体の事は聞いている。無理をしない程度でいい。やってくれるか?」

 

「……施設などはどうするのですか?」

 

「施設はア・バオア・クーを予定している。資金の調達も任せてくれ」

 

「分かりました。やってみます」

 

「そうか。それとジオン新兵器開発局から何人か技術者を送る。頑張ってくれ」

 

「分かりました。失礼します」

 

 ギニアスが部屋を出た直後、電話が鳴った。相手はギレンの秘書セシリアだ。なになに? ギレンが話したいことがあるって? 

 

 

 

 

 

 

 僕がギレンの執務室に到着すると先客が二名、椅子に座っていた。

 

「ドズル、遅いぞ」

 

「いや、済まんな。少々開発部の方で用事があってな。それよりこの状況は?」

 

「ああ、その事か」

 

 どう見ても椅子に座っているのは親ダイクン派のアンリ・シュレッサーとマハラジャ・カーンだったからだ。

 

「お会いするのは二回目ですな。私はアンリ・シュレッサーです。以後、お見知りおきを」

 

 アンリは立ち上がって僕に握手を求めてくる。固く握手を交わしたあと、次にマハラジャが席を立ち、近づいてくる。

 

「ドズル閣下、お会いできて光栄です。マハラジャ・カーンです。今後も宜しくお願いします」

 

 なんだ、この感じは。この二人は僕たちザビ家を嫌っているはず。二人とも多少、棘を感じる気もするがなぜこんなに明るく接してくるんだ? 

 

「実はな、私が知っている事情を全て話したのだ。ダイクンを殺した可能性が一番高いのは、父とキシリアだ。最初は全く取り合って貰えなかったが、何回も通っているうちに心を開き始めてくれたのだ」

 

 なんかギレンの性格変わってない? そういえばコロニー落としの事を説得したときも変だったような。まあいいか。

 

「そうだったのか。俺はてっきり兄貴が何か裏で手を回したのかと思ったぞ」

 

「お前がいってくれたのだろう。連邦を相手にするのに派閥争いなどしている場合ではないと。それに、私たちの目指している道は同じだ。多少、やり方が違っただけだ。連邦からの独立について話したら分かってくれた」

 

 顔は仏頂面なんだけど言ってることがギレンじゃない。なんで? 

 

「そうか。過去に不幸な行き違いはあったが、二人とも。これから宜しく頼むぞ」

 

 もう一度二人と握手を交わし、僕は席に座ってこれからのことについて四人で一時間ほど話し込んだ。




多少ギレンの性格が柔らかくなっていますが、他のコロニーとのやり取りによって考えが少し変わったからです。考えの変化によってIQ 240がジオンを良い方向に連れていってくれるといいのですが。


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第四話

感想等お待ちしております。


 ギレンの執務室からの帰り道、僕はふと思い出した。そういえば暁の蜂起が起きればあの可愛いゼナちゃんを妻に出来るのか? そしたら僕はグヘヘヘ……やべぇ、頭が中学生に戻っちまった。僕は首を振り、その思考を頭から消す。今はどうやってコロニー落とし無しで地上の拠点を叩くかだな。先にルナツーを占領してしまうか。それとも……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 4月中旬

 

 今日は、徴兵された人々のために新しく作られた士官学校の入学式に参加していた。僕は校長に就任し、挨拶をした。(ちなみに、ガルマたちなど普通の学生が通う士官学校は別にあり、僕はそこの校長と兼任である)式が終わり、徴兵された人々ら二回目の学生生活を楽しみにしてワイワイ騒いでいた。

 

 

 

 数日後、外での訓練を見終わり書類などの確認をしようと廊下を歩いていた時だった。その時、不意に女性が僕の前を横切り、見覚えがあった僕は女性に声を掛ける。

 

「間違っていたらすまない。お前は第一次選抜試験5位のシーマか?」

 

「!! ドズル校長、私の事を知って下さっているのですか?」

 

「ああ、知っているぞ。これでも生徒の情報には目を通しているのでな。士官学校での生活はどうだ?」

 

「ええ、楽しい毎日であります」

 

「何か周りで改善してほしい点はあるか?」

 

「……正直に申しますと、配給される食事が少々不味いです。他のものたちもやる気が出ないと言っておりました」

 

「ハハハハ! はっきりとものを言うな。そうだな、確かに食べ物の不味さは学生の士気を下げる。よく料理長に言っておこう」

 

「ありがとうございます。それでは次の講義があるのでこれで失礼します」

 

 シーマは一礼をして近くにあった部屋に消えていった。そういえば、もうそろそろコロニー落としの代わりの案を出さないとな。シーマや0083で思い付くことと言えばゲルググマリーネやガーベラテトラ、それとニンジン? どれも今の段階では無理だな。まだ五年以上あるし、いいや。

 

 

 

 

 

 

 5月

 

 キシリアが新たなモビルスーツ計画を持ってやって来た。さてさて今回はどうかな? 

 

「先ずはこの資料をご覧ください。グフの新装備を考えた結果、着脱可能な三連マシンガンとシールドに装備可能なガトリングに意見がまとまりました。どの武器も使い終わったらパージ可能です。ガトリングは中距離にも有効で、十分な火力を出せると思われます」

 

 俺は渡された資料を眺める。ページをめくり、開発予算などを確認してキシリアの方を向く。

 

「そうか。ならそのまま開発を進めてくれ」

 

「わかりました。続いては宇宙専用のザクです。今開発中のMS -06Fをベースにコロニー内行動などの陸戦装備を排除し、脚部と背部を強化して推力を大幅に増加させます。これは元ジオニック社所属だったエリオット・レム氏から提案されたものであります」

 

 エリオット・レム? ああ、ジオン独立戦争記に出てきたあのおじさんか。あの人の機体、朱色だからステルス最悪なんだよね。

 

「なるほど、宇宙専用の高機動型ってところだな。確かに宇宙ではいかに早く敵艦隊に接近できるかが重要だ。これには力を入れて開発してくれ」

 

 キシリアは満足そうに笑みを浮かべ、頷く。

 

「分かりました。ただ、06Fがまだ開発を完了していないので開発開始はF型の量産が始まってからになりますがよろしいですか?」

 

「ああ、大丈夫だ。それとキシリア、これはあくまでも提案なんだが少人数で解体、組み立てが出来るモビルスーツを開発することは可能か?」

 

 キシリアは顔をしかめて聞き返す。

 

「と言いますと?」

 

「例えば、地上の連邦基地の近くに各ブロックに分解したモビルスーツを静かに運び込み、短時間で組み立て基地を急襲出来るようなモビルスーツだ。基地攻略の際にはいかに素早く敵基地の重要ブロックを制圧できるかが大切だ。そこでそのようなモビルスーツを開発できればモビルスーツが起動するまで敵基地には気付かれないはずだ。そうすれば奇襲の成功率も上がる」

 

「なるほど。分かりました。開発部に持ち帰って検討してみます。では失礼します」

 

 話が終わりキシリアが出ていこうとするが、その前に俺は去年から疑問に思っていたことをキシリアにぶつけてみた。

 

「……キシリア、お前連邦にモビルスーツの情報を流したりしてないだろうな?」

 

「ええ、そんなことはしていません。それがモビルスーツの情報を得る条件だったではありませんか。私も、バカではありません。敵に情報を教えれば我が軍が勝てる確率は下がります。そんなことはしません。それでは失礼します」

 

 へぇ、あの感じなら大丈夫そうだな。それとケンプファーは技術的にまだ出来なそうだからザクを改造かな? まあ、期待しておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 8月

 

 僕が執務室で仕事をしていると、扉がノックされ開発局の二人が入ってくる。

 

「ドズル閣下、本日はモビルスーツと艦船の生産状況についてお話いたします」

 

「ああ、頼む」

 

「先ずはモビルスーツについてです。ヴァッフは30機が新たに生産を完了、ザクⅠは12機が完成しています。06のC型は試作機が完成し、明日から量産を開始します」

 

「艦船については?」

 

「はい。チベ級が25隻、ムサイ級は48隻生産を完了しております。ムサイ級については閣下に言われた通り、ブロック制を採用し整備性を高めております。さらにブロックごとに切り離し、物資に偽装してソロモンやア・バオア・クーに運び込んでおります」

 

「分かった。報告ありがとう」

 

「いえいえ、では失礼します」

 

 状況を聞いた感じまだまだ生産しないと30倍には追い付けないな。生産拠点には頑張ってもらおう。



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第五話

評価してくださった人ありがとうございます。励みになっています。また、お気に入り登録してくださっている方もありがとうございます。これからもよろしくお願いします。


 10月20日

 

 僕の執務室に息を切らしながら開発局の人間が飛び込んできた。どうやらヅダの試作機が完成したらしい。僕はある部屋に通され、そこでスクリーンに写された映像を見ることになった。漆黒の中をヅダ3機が、加速と減速を繰り返しきれいな軌道を描きながら前方の的をめざして飛んでいる。そして、右手に装備したザクマシンガンで的とのすれ違い様に引き金を引いた。的は綺麗に破壊され、残骸を辺りに漂わせた。

 

「ほう、これがヅダか。確かにこの加速を利用できれば連邦の艦隊に近づくのも簡単だな。生産の目処は?」

 

「……コストなどの都合上、一年で四機ほどが限界かと」

 

「そんなに少ないのか。まあ、エース機と割りきれば多い方だな。分かった。このまま生産を開始してくれ」

 

「分かりました!」

 

 嬉々としているな。それにしてもこんだけGが掛かるとある程度パイロットは限られてくるな。ジョニーやサイクロプス隊のモビルスーツはこれでいいか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 UC 0074 3月13日

 

 いつものように執務室で僕が作業をしていると不意に大きな揺れが部屋全体を襲う。棚に置いてあった花瓶が床に落ち、壁に掛かっていた絵画が曲がった。数秒後、また大きな揺れが部屋を襲い、やがて静まった。とりあえず状況を聞くため僕は兄貴の執務室に連絡をとる。

 

「兄貴、何があった?」

 

「私も完全に状況を把握したわけではないが、どうやら爆発テロらしい」

 

「なんだと! 俺もすぐに行く。その間に情報を集めといてくれるか?」

 

「分かった」

 

 僕は執務室を出て兄貴の執務室がある別の棟に向かって走っていく。

 

 

 

 数時間後

 

 兄貴から聞いた状況を整理すると、ズムシティの中心部にある庁舎付近で数十人の男たちが体に爆弾を巻き付け自爆し、それによって通行人や庁舎内部に大きな被害が出たらしい。また、同時に他の場所でも同じような騒ぎが起きていて少なくとも百人規模の死者が確認されている。

 

「いま、キシリアが騒ぎの収拾をつけるために色々と動いている。ドズルは負傷者の搬送先になっている士官学校の方の対応を頼む」

 

「分かった。兄貴、こっちは任せたぞ!」

 

 ギレンはサイド3全域に状況を伝えるためにテレビ局に向かっていった。僕は士官学校に向かうため車に乗り込みエンジンをかける。今は運転手を待っている時間はない。俺はアクセルを踏み、車を走らせていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ズムシティ・士官学校

 

 隣接している2校の士官学校の校庭にはすでにテロによる負傷者が何十人も運び込まれていた。2校の生徒たちは処置や物資の搬入に追われており、あちこちを行き来していた。

 

「まさかこんな歳になって学校に通って、さらに医者の真似事をするなんて、俺たちは本当に何をしているんだろうな」

 

「ぼやくな、ミーシャ。ほら、そこに包帯を巻いてくれ」

 

「ああ、分かった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 テロの騒ぎで渋滞が起きており、学校に到着するのが遅れてしまった。既に校庭にはテントが広げられており、近くの病院から医者や看護師が治療を開始していた。僕は本部のテントに向かい、トランシーバーで指示を出している人物に声を掛ける。

 

「副校長、遅れてすまない。どうなっておる?」

 

「閣下……いえ校長みずからお越しいただきありがとうございます。校庭では既に重傷者の治療が開始され、軽傷者は校舎内で治療の順番を待っております」

 

「そうか、俺に出来ることがあったら何でもいってくれ」

 

「そんな恐れ多いです。校長はそこで休んでいてください」

 

「しかしだな……」

 

 その時、不意に後ろから声をかけられる。

 

「ドズル兄さん!」

 

「おお、ガルマか。元気にしているか?」

 

「ええ、それにしてもこの状況はどうなっているのですか?」

 

「ああ、もうすぐで兄貴からテレビを通して放送があると思うぞ。副校長、テレビを学校全体に聞こえるように繋いでくれるか?」

 

「分かりました」

 

 副校長は放送室に走っていく。数分後、学校のスピーカーからギレンの声が聞こえてくる。生徒たちの中には、手を止めて放送を聴いているものもいるが大半の生徒は聞き流している。それだけ忙しいのだろう。

 

 〔……今、サイド3全体でテロが起きております。過激派の仕業か、それとも連邦の策略なのかは断定できていませんが、皆さんどうか落ち着いてください。怪我をされた方は近くの病院または特設治療施設に向かってください。繰り返します、どうか落ち着いて行動してください。……〕

 

 威勢の良くない放送だな。やはりギレンは迫力がある方がいいな。多分無理だけど……

 

「兄さん、どうするんですか?」

 

「今は負傷者の治療に専念するべきだろう。ガルマはもうひとつの士官学校の学生の指揮を頼む。大人は全体への情報伝達などで忙しい。頼んだぞ」

 

「お任せください!」

 

 ガルマは張り切って、校庭を走っていった。さて、どうするかな。

 

「あと一時間ほどで包帯などの物資と医療団が到着する。皆、もう少しの辛抱だ。頑張ってくれ!」

 

 僕は声を張り上げ、皆を鼓舞する。あらためて周りを見回すと先程より負傷した人が増えており、中には爆発による火災によっての二次被害を受けた人もいた。

 ……しばらくは復旧作業などに追われそうだな。



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第六話

もうそろそろドズル視点だけでは物語を進めるのが難しくなるので他の人物の視点も混ぜていきたいと思います。


 あの同時テロから3日、昨日まであちこちで上っていた煙も完全に消え夜中のサイド3は静寂に満ちていた。しかし、日が経つごとに被害の全貌が明らかになってきており政治家や有力幹部たちは大慌てである。倒壊した建物の修復や負傷した人々への保険支払いのために掛かる費用はバカにならず、さらに医療品の調達や医療団の派遣などで、我々政府は多額の負債を抱えてしまった。さらにもっとも痛手なのはサイド3にある五つの生産拠点のうち、三つの拠点の生産ラインが停止したことである。そのうちの一つは全拠点の中で最大の生産数を誇っている。ザクの生産はもちろんムサイやチベ、ザンジバルの建造も行っているのだ。しかし建物や機械の損傷により最低でも3ヶ月は稼働させられないとの報告が届いている。

 

「兄貴、どうする? 今把握できているだけでも死者は三百人、怪我人は死者の倍以上だ。さらに俺たち政府が抱えてしまった負債はバカにならない金額だ」

 

「しかしドズルよ、これはチャンスだ。今サイド3の国民の連邦への評価は下がり続けている。なにしろサイドの治安を守ると言っておりながら、少ない医療品と人員を派遣しただけだからだ。このまま反連邦意識を煽れば……」

 

「ちょっと待ってくれ兄貴、まだ国力の差は埋まっていない。今の状態で仕掛けたら間違えなく負けるぞ」

 

「分かっている、まだ先の話だ。今は我慢しようではないか」

 

 その時、ドアがノックされセシリアが入ってくる。

 

「ギレン様、ドズル様、ご報告がございます。先程サイド1、サイド2、サイド4より支援金が届きました。各サイドから一千万ずつ合計三千万です」

 

 ギレンは頷き、言葉を発する。

 

「そうか、ありがたいな。騒ぎが収まったら、なにかしらお礼をしなくてはいけないぞ、ドズルよ」

 

「そうだな、そういえばこの一件での連邦の対応のお陰で、公国防衛隊の発足が認められたみたいじゃないか」

 

「その件についてか、それならアンリ・シュレッサー少将が隊の長を務めるそうだ」

 

 僕は喉が乾いたので、カップの紅茶を飲みながら疑問に思ったことを聞いてみる。

 

「兄貴、あの二人を信じてもいいのか?」

 

「アンリとマハラジャについてか? あの二人は改めて我々に忠誠を誓うと言ってくれた。大丈夫だろう」

 

「ならいいんだがな。おっとこんな時間か、このあと学校の方で用事がある。失礼するぞ」

 

 席を立ち、ギレンの執務室を出る。ふぅ、大分緊張しなくなったな。何であんなに怖いんだろうな、あの人は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一時間後 士官学校校長室

 

 僕とキャスバルは向かい合ってソファーに座っている。

 

「まさか、キャスバルがガルマと同じ学年だったとはな。推薦状は渡したが同期になるとは思っていなかった」

 

「閣下から士官学校への推薦状を頂き、入学しましたところガルマ様と同期であった次第です」

 

「そうか、まあそれはいい。それでザビ家に復讐する気はまだあるのか?」

 

 キャスバルは目を細め、俯く。

 

「……はい」

 

「分かった。復讐は必ずさせる。ただ、二つだけお願いがある。一つはガルマだけは生かして欲しい。あいつはまだ黒く染まっていないからな。もう一つは、連邦との戦争が終わるまで待って欲しいってことだ。ジオンはあと少しで連邦と戦争を始めるだろう。コロニーの自治権を獲得しスペースノイドの独立を成し遂げるまで待って欲しいんだ」

 

「分かりました。それと、ドズル様に復讐する気はありません。私が殺したいのはデギン・ザビとキシリア・ザビだけです」

 

「ギレンの兄貴はどうなんだ?」

 

「ギレン様については直接話し合いを行い和解しました。正直申しますと、イメージと違いました」

 

 やっぱり、原作とギレンの性格が変わってるんだよな。

 

「そうか、分かった。まあしばらくは、学業に励んでくれ。卒業したら晴れて軍属だ。ゆっくりと上に上がってこい。部下として受け入れるぞ」

 

「ご配慮、ありがとうございます」

 

「それとガルマの面倒を見てくれないか? あいつはまだ世間を知らなすぎる。親父に甘やかされ過ぎたんだ」

 

「了解しました。それでは失礼します」

 

 キャスバルは僕に一礼して、部屋を出ていく。

 

 復讐したいのはデギンとキシリアだけか。原作よりはましだな。末弟のガルマが黒く染まらないように注意しとかないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ズム・シティ郊外 ジオン新兵器開発局

 

 ジオン新兵器開発局の二階にある会議室では、連日のように会議が行われていた。会議が終わり、資料をまとめていたエリックとラースはある一枚の紙を見つける。

 

「おい、これを見ろ。ギレン様からの極秘開発指令書だ。なになに……ドズル様の専用機を作って欲しいだってさ。何か案はあるか?」

 

「そうだな、今生産中のF型をベースにすればいいんじゃないか? あれなら能力的に今あるモビルスーツの中では最高峰だ。ただし、ドズル様は巨漢だからコックピットは拡張しなければならないな。まあ、後で設計図を書こう」

 

「そんなことより今はこの情報流出をどうするかを考えよう。幸い盗まれたのは最初期のモビルワーカーの試験結果だからそれほど問題はないと思うが一応上に報告はしといた方が良いだろう」

 

「分かった。俺から報告しておくよ」

 

 エリックは情報流出の証拠が記してある紙を持って部屋を出ていった。



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第七話

お気に入りが200を超えた。こんなに嬉しいことはない・・


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 数時間後 

 

 エリックはズム・シティの大通りに面しているビルの一部屋に入っていった。

 

「キリング様、開発局の人間に情報流出がばれてしまいました。しかし幸いにもばれたのは一名だけでしたので奴が持っていた証拠を隠滅し、あとで奴も暗殺したいと思います」

 

「暗殺まではしなくても良いでしょう。どうせあとで、もっと大きな情報を盗みます。知ってしまった人間を始末するのはその時で十分です。ただし、もう少し慎重に事を運びなさい、エリック。わかりましたか?」

 

 キリングは手に持っているグラスにワインを注ぎ、口に運ぶ。

 

「承知いたしました。決行の日付はいかがなさいますか?」

 

「そうですね。半月後にサイド3に連邦の高官が訪れる手筈になっています。ザクの情報を盗むのはその前日にしましょう。今回の事でわかりましたが、開発局から情報を盗んでからバレるまで五時間ほどしかかかっていません。よって高官に情報を渡す数時間前に情報を盗むのが妥当だと思います」

 

「わかりました。それでは失礼します」

 

 エリックが部屋を出ていった後、キリングはあるところに通信を送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 公王庁・大会議室

 

 公王庁の大会議室では、1時間前から定例のザビ家会議が開かれていた。

 

「話は変わるがドズル、半月後に連邦の高官たちがサイド3を視察しにくることになったとジャブローの連邦政府から通達が来た」

 

「このタイミングでか?」

 

 僕は方眉を釣り上げ、聞き返す。

 

「サイド3の間では反連邦意識が高まっているからな、見過ごせなかったのだろう。50人ぐらいの予定でレビルと副官のエルラン、それにゴップという男が他の高官を引き連れて来るらしい」

 

「そうか、それは手配が大変になりそうだな。今はほとんどのホテルを被災者のために解放しているんだ。しかもVIPルームとなるとさらに確保がしにくいぞ」

 

「その点については大丈夫です、兄上。連邦の高官たちにはホテルに泊まってもらい、被災者にはこの公王庁に泊まって貰いましょう。幸いにも、この施設は空き部屋が多く、食事もホテル並みですから我慢してもらえるでしょう」

 

 僕がまったく思いつかないことを、キシリアはさらっと口に出してしまう。

 

「公王庁に風呂はないぞ、キシリア。その点はどうするのだ?」

 

 ギレンも負けてないな。

 

「それは手間がかかりますが、ホテルのお風呂を使って貰いましょう。車はこちらが出せば文句は言われないはずです」

 

「それが一番の策だな。キシリア、各方面への根回しは任せるぞ」

 

 

 ギレンとキシリアで話をまとめ、会議は終了した。……僕、最後の方全然会話に参加できなかったんだけど、やっぱり政治能力は皆無なのかな? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地球・南米ジャブロー

 

 地下の一角では、連日ジオン公国への対応が会議されていた。無駄に広い会議室には、連邦の幕僚15人が集まり机を囲んでいる。

 

 

「ジオン公国では、ムサイ級やチベ級と呼ばれている艦船の生産が続けられており、さらに独自の自己防衛用機械を量産していると言う噂も出てきている」

 

「こちらには、小惑星帯から比較的大きな岩石を持ってきて、戦略基地に改造していると潜入している諜報部員から報告が上がってきているぞ。このままスペースノイドの好きにさせてはいけないのではないか?」

 

「確かに、こちらに牙を向けてきてからでは遅いぞ。こちらもマゼラン級やサラミス級の数を増やすべきではないのかね、レビル君?」

 

「そうですな。艦船だけではなく、開発中の防宙用の戦闘機やセイバーフィッシュも量産した方が良いでしょう。そのために、月面都市などからさらに支援を頂けると生産もはかどるのですがね」

 

「……分かった。相談してみよう」

 

 高官の一人が渋々頷くと、レビルは話を続ける。

 

「それと、今ジャブローにある宇宙軍の本部をルナツーに移しましょう。ジャブローに権限が集中しすぎるのは後々仇になる可能性が高いですから」

 

 15人のうち、6人が顔を曇らせる。

 

「そういえば、半月後にサイド3に視察に行くと聞いたが?」

 

「ええ、サイド3では反連邦意識が高まっており放置しておくのは危険だと判断しました。それと同時に諜報部の人間を送り込む予定です」

 

「なるほど、視察ではなく送り込むのが本命って訳だな?」

 

「ええ、それと平行して各コロニーに駐在している部隊へ追加で61式戦車を配備しましょう。これからは暴動も多くなると思います。そのための抑止力です」

 

「分かった、こちらから配備要請を出しておく。では、サイド3に対する会議は今日で閉会とする」

 

 次々と高官が部屋を出ていき、レビル1人だけが部屋に残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、地球連邦の各サイドに対する政策が発表されそれがさらに反連邦意識を高める原因になった。サイドに対する各税金の値上げ、さらにサイド3への軍備縮小要請と特別税金の要求、艦船の増産に伴うサイドからの軍資金の調達など、スペースノイドに対する弾圧に拍車が掛かったのだ。しかも、政策についてレビルは知らされておらず、弾圧の緩和を求めるもののすぐに訴えは退けられてしまった。

 

 

 



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第八話

お気に入り登録してくださっている皆様ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。


 連邦の各サイドへの政策を発表した翌朝、サイド2では連邦の駐屯基地に大勢の住民が押し寄せ、暴動が起こった。対する基地職員たちは鎮圧の為に催涙ガスや強制逮捕を実行し、暴徒たちは二時間ほどで鎮められた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 サイド3・ドズル執務室

 

「……以上がサイド3の生産拠点の修理状況になります」

 

「そうか、報告ありがとう」

 

 報告が終わったラースは、こちらを伺うように見ている。

 

「どうした?」

 

「……あの、ドズル様は開発局の情報漏洩についてご存じでしょうか?」

 

「なんのことだ? ……情報漏洩だと?」

 

「はい、盗まれたのは最初期のモビルワーカーのデータなのですが、やっぱり報告は上がっていませんでしたか」

 

「ああ、そんな報告は来ていない」

 

「そうですか、同僚のエリックが上に報告すると言って証拠を持っていったのですが」

 

 僕は腕を組んで考える。そして、キシリアに連絡を入れる。

 

 

「……キシリアか? ちょっと調べてもらいたいことがある。……ああ、開発局のエリックっていうやつについてだ。よろしく頼むぞ」

 

 俺は受話器を置き、ラースに顔を向ける。

 

「キシリアの諜報部がエリックについて調べるが、お前もエリックに不審な点がないか注意してほしい。いいか?」

 

「分かりました。こちらでも慎重に調べてみます」

 

 ラースは敬礼をして部屋を出ていく。

 

 

 さて、どうするか。情報が漏れていた以上セキュリティの強化は必須になるが、その前にどこの誰が情報を欲したのか突き止めて処分しなければならないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1週間後

 

 キシリアの諜報部から報告書が届いた。報告書にはエリックの出身地や家族の情報とこれまでの経歴などが示されていた。さらに、人間関係やこれまでの恋人までもが調べられ表にまとめられていた。……キシリアの諜報部隊恐るべし。

 

「ラース君、エリックの動きに怪しいところはあったか?」

 

「はい、一日に一回どこかに通信をしています。また、書類を確認したところ何枚か紛失しているものがありました」

 

「そうか、報告ありがとう。引き続き彼の動向に注意してくれ」

 

「はっ! 失礼します」

 

 さて、ギレンに話をするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 別階・ギレン執務室

 

 僕がノックをして部屋に入ると、ギレンは書類に目を通していた。

 

「兄貴、この間話したスパイについての続報が入った」

 

「そうか、教えてくれ」

 

「ああ、彼の名はエリック・クロイツェ。同僚の話によると一日に一回どこかに通信を送っており、さらに何枚か書類の紛失があるようだ」

 

 ギレンは顎に手を当てて何かを考えている仕草をしている。

 

「……前に話を聞いてから考えていたのだが、1週間後に連邦の視察が来るだろう。その中に、エリックと繋がっている誰かが混じっていて開発局の情報を盗むつもりなのだと思う」

 

「そうか! なるほど、ではすぐに逮捕要請を出さなくては」

 

「うむ、ちょっと待ってろ」

 

 ギレンは受話器を持ち、どこかに電話をかける。

 

「アンリか? こちらギレンだ。……すぐに逮捕してもらいたい人物がいる。動いてくれるか? ……ああ、ありがとう。では失礼する。……これで平気だ」

 

「これで情報が漏れることがないといいんだけどな」

 

 

 ギレンは椅子から立ち上がり、部屋に備え付けられている窓からズム・シティの町並みを見下ろす。

 

「これが彼が一人でやったことなら収束するだろうが、上に誰か指示していたものがいるならまだ油断はできん」

 

「そうだな、俺も連邦の視察が終わるまで開発局には神経を配らせておこう」

 

「開発部長としての義務を果たせ。場合によっては責任を取ってもらわなければならなくなるぞ」

 

「分かってるよ、兄貴」

 

「まあエリックを逮捕するのは勿論、他の開発局の面々にも目を配らせるように公国防衛隊とキシリアの諜報部に言っておく。そこまで案ずることはない」

 

「ああ、そうだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数時間後

 

 郊外に位置する開発局の新兵器開発部では人々の往来が多く、全員が忙しそうに動いていた。そんな時、入り口のドアが勢いよく開き十人ほどの男たちが入ってくる。

 

「我々は、公国防衛隊だ! エリック・クロイツェに情報漏洩の容疑で逮捕状が出ている」

 

 その言葉を聞いた瞬間、エリックが走り出し窓を開け外に飛び降りた。

 

「ちっ、逃がすな、追いかけろ! それと、付近の警戒に当たっている諜報部にも連絡を入れてくれ」

 

 公国防衛隊の隊員たちは建物を出て、エリックを追いかけ始める。

 

 

 

 

 

 

 一方のエリックは開発局の敷地を出て、大通りをズム・シティ市街地に向けて走り始めた。

 

「なんとしても逃げ切らないと……くそ!」

 

 前から走ってくる複数人の男を確認し、急いで横道にそれる。そしてちがう大通りに出てまた走り始める。

 

「エリック、止まれ!」

 

 後ろから男の声が聞こえるが、エリックは気にせずに走り続ける。なんとしてもあの方と合流しなければ。息が切れているのも気にせずに、大通りを直進していく。時間は夜中に近く、大通りでも人通りはない。そんな中をエリックは駆け抜けていくが、前方に人影を見つけて立ち止まる。人影は段々とエリックに接近してきた。その手には銃が構えられておりエリックは待ち伏せされていたことを悟った。背後に気配を感じ、後ろを振り向くとと公国防衛隊の面々が銃を構えて立っていた。

 

「手を挙げて、頭の後ろに組み膝をつけ」

 

「はぁ、ここまでか」

 

 エリックは手を後ろで組んで、地面に膝をつく。それを確認した男たちはエリックの手に手錠をかけ、拘束する。そして付近に待機させてあった車両に乗せて、公国防衛隊本部へと連行していった。



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第九話

 新兵器開発部

 

 ラースside

 

 まさか、同僚のエリックが情報漏洩の犯人だったなんて。まあ、無事に逮捕されたしもう情報漏洩はないだろう。

 さて、これからドズル様の専用機に関する会議だ。生産コストを上げてもいいからMS 全機に脱出装置を付けろとか、全長二キロ以上の艦船を作れとか無茶を言う人だが他人のために動いてくれるいい人だぜ、ドズル様は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 会議室

 

 会議室には新兵器開発室の面々だけではなくギレン様もお越しになられていた。……なんで? 

 

「これから会議を始める。今回はギレン様も会議に参加される。皆、失礼のないように」

 

「うむ、よろしく頼む」

 

 みんな怖がってるんですけど、その仏頂面なんとかなりませんかね? 

 

「それでは何か案がある人いるか?」

 

 周りを確認し、僕は手を挙げる。

 

「はい。まず、生存性を高めるために装甲の強化は必須です。さらに、戦果をたくさん上げてもらうため火力も必要になってくるでしょう。そして、装甲を強化すればその分推力は落ちます。よって推力の強化も必要になると思われます」

 

 

 腕を組んで聞いていた室長が口を開く。

 

「確かに、だがそうなるとF型をベースにするのではなく新規に作った方がいいかもしれんな」

 

「そうですね」

 

「なにか、いい案があるやつはいるか?」

 

 室長は意見を求めるように辺りをみまわす。

 

「……あの、ヅダをベースにするのはどうですか? あれなら、装甲を追加しても余るほどの推力がありますから」

 

「なるほど、確かにヅダならやれるかもしれん。ラース、設計図を持ってきてくれ」

 

「わ、分かりました」

 

 ラースが部屋を出ていって数分、ヅダの設計図を握りしめ部屋に戻ってきた。そして、机の上に設計図を広げる。

 

「これがヅダの設計図になります。ヅダの改土星エンジンを付けられるようにF型を改良するか、ヅダ本体に改造を加えるかどちらかになりますね」

 

「うむ、とりあえず両方のプランとも並行して進めていこう。ザクの開発を指揮していたリディに聞く。ザクを改良すればヅダの改土星エンジンを取り付けることは可能か?」

 

「はい、理論上は可能です。しかし改土星エンジンに耐えられる装甲を付けるとなると、多額のコストがかかります。それならば、ヅダを改造した方がよろしいと思います」

 

「ではベースはヅダということでいいな? それでは、どういう機体にするか考えていこう」

 

 

 

 

 

 

 

 それから何時間か経ち、とりあえず一応のプランはまとまった。

 

 

 まず装甲はザクや普通のヅダと変わらない超硬スチール合金だが装甲の厚さを二倍にし、防御性能を高める。特にコックピット周りの装甲は他の部分より厚くすることにより、ドズル閣下の生存性を高められるようにする予定だ。火力の面では専用のシールドにウェポンラックを増設、ザクバズーカと新規開発中の90mmマシンガンを携行出来るようにする。さらに機体各所に近接防御用のミサイル発射菅を設置、連邦の小型戦闘機等の迎撃を目的とする。そして近接戦闘用の格闘武器として、ヅダの全高とほぼ同じ大きさのジャイアント・ヒート・ホークを折り畳み式にして装備させることに決まった。ちなみにこの武器は新規開発となる。そして莫大な推力に比例するように燃料の消費が激しいため、背部にプロペラントタンクを二本取りつけることになった。

 

 

 プランの内容としてはこんな感じだ。ちなみにギレン様は私達の話に耳を傾けているだけで終始静かであった。しかし最後に機体各所に金色の装飾を施すように要望をだし、室長に礼を言って帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドズルside

 

 公国防衛隊に逮捕されたエリックは、自分が単独で行ったとの一点張りで情報漏洩を指示した人物の名前を吐こうとしない。拷問をすることも可能だが、バレたら市民たちの非難に晒されるので許可しなかった。エリックから情報を得られないとなると、キシリアの諜報部と公国防衛隊に頼むしかないな。さてと……

 

 

 

 

 

「兄貴、この軍縮要請と特別税金についてどうするんだ?」

 

「軍縮についてはソロモンとア・バオア・クーにサイド3のザクやヅダを隠せば誤魔化せると思うが、特別税金については誤魔化せんからな。しっかりと抗議する予定だ」

 

「隠すだけで誤魔化せると思うか?」

 

「ソロモンやア・バオア・クーも調査すると言うなら、此方もルナツーやジャブローを視察すると言えば、スペースノイド嫌いの連邦高官は拒否するだろう」

 

「なるほど、あいつらなら自分の生活圏にスペースノイドを入れるのは嫌だろうな」

 

「特別税金については、来週の視察の時に抗議するさ」

 

「それにしても、スペースノイドへの弾圧が年々強くなっていくな。まだサイド3で暴動は起きていないが、いつかは起きるだろうな。それに、連邦は各サイドの駐屯地に61式戦車を追加配備した。弾圧対策だとは思うが、さすがにやり過ぎだ」

 

「そういえば、捕まったエリックというやつはまだ吐いていないのか?」

 

「ああ、終始一人でやったと繰り返し発言している」

 

 ギレンは手元の時計を確認し、立ち上がって机を整理し始める。

 

「そうなのか。まあ、今日はもう遅い時間だ。続きは明日話そうではないか」

 

「そうだな、じゃあ俺は失礼するよ」

 

 僕はギレンの執務室を出て、自分の執務室へ歩いていった。



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第十話

この世界に司法取引があるのかは分かりませんが、この作品ではあるという設定で行きたいと思います。





それとTwitterを始めました。詳しくは後書きをご覧ください。


 3月26日

 

 ドズルside

 

 レビル達がサイド3に来るまで後2日しかない。未だエリックに指示をした人物は特定されておらず、公国防衛隊とキシリアの諜報部は必死になって黒幕を探してくれている。

 

「それで昨日の続きだが、エリックは黒幕について全く口を割ろうとしない。やっと口を開いたと思えば、〔私が一人でやった、獄刑に処するならさっさとしろ〕としか言わないんだ。兄貴、エリックは本当に一人でやったと思うか?」

 

「何か言えない事情でもあるのかもしれんな。例えば、身内を人質に取られているとか、他人には話せない秘密を握られているとかな。その辺についてもう一度エリックに聞いてみたらどうだ? それと、司法取引も一つの手だぞ」

 

「なるほど、司法取引か。それならば応じてもらえるかもしれん。ありがとう兄貴、お陰で黒幕がわかるかもしれん」

 

「ああ、礼には及ばないさ。昔読んだ書物の中に似たようなことを題材にしたものがあって、それを思い出しただけだからな」

 

「そうか、それでも助かった。では、ちょっと行ってくる」

 

「うむ」

 

 僕はギレンの執務室を出て、自分の部屋へと戻った。そして、公国防衛隊の本部に回線を繋ぐ。

 

「こちらドズルだ。少しエリックと話をしたいのだが……そうか、ありがとう。ではこれから向かうぞ」

 

 通信を切ったあと、運転手を呼びだし庁舎の外に止めてある僕専用の車に乗り込んで、公国防衛隊本部へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 公国防衛隊本部内

 

 数分後には車は本部前に着き、僕は車を降りてドアを閉めた。入口には出迎えの隊員達が10人ほど待機しており、僕はすぐにエリックがいる取調室へと通された。その途中である報告を隊員から聞き、僕は取調室へと入っていった。取調室に入ると一つの机があり、机の向こう側にはエリックが座っていた。僕は手前の椅子に座り、机の上で手を組んだ。……座った直後に体重で椅子が少し変形した気がするが気のせいだろう。

 

「久しぶりだな、エリック。最後に会ったのは生産拠点の状況についての報告の時だったよな?」

 

「……」

 

「早速本題に入るが、君が逮捕される前にキシリアの諜報部から君の身辺調査の結果が届いたんだ。そこには、君の家族として高齢の母親の名前が載っていた。そこで公国防衛隊の何人かが君の情報を聞くために母親の元へと行ったのだが、その時は丁度不在だったらしく数時間待っても帰ってこなかったので諦めて帰ったらしい。そして今朝また母親の元へと向かったが、やはり母親は家におらず不審に思った隊員達は近所に事情を聞き、近所の住民達は母親を一ヶ月ほど目撃していないと証言したそうだ。ここからは俺の勝手な推測になるが、母親を誰かに誘拐され脅されているのではないか? それで仕方なく、開発局から情報を盗んだ。違うか?」

 

 エリックは母親の話になった途端に、僕の方をむき驚いた表情を見せる。

 

「……そうです。一ヶ月ほど前、仕事が終わり家に着くと普段は居るはずの母親の姿がなかった。そして、30分ほどたった頃四人の男達が家のドアを無理矢理こじ開けて入ってきたんです。そして、〔母親は預かった。返してほしければ開発局から機密情報を盗め〕と言われました。何を言っているんだこいつは、と思いましたが銃を突き付けられ、一枚の写真を見せられました。そこには、椅子に縛り付けられたアザだらけの母親が写っていたんです。それで仕方なく、情報を盗み奴らに届けました。そして逮捕される直前、指定されたアカウントにザクの情報も送ってしまったんです」

 

 

「ザクの情報を送った? それは本当なのか?」

 

「ええ、本当です」

 

「そうか、それでお前に指示を出していた人物は誰だ? そいつに関する情報を貰えれば君の罪を軽くし、出所後の援助や仕事についても保証することを約束しよう」

 

「……キリングという名前で、背は小さめでサングラスをかけていました。モビルワーカーについての情報は手渡しだったのですが、市内にある店舗が入っていないビルで情報を渡しました」

 

 ん? 前世で聞いたことある名前だな。それに容姿もなんとなく聞き覚えがある。

 

「成る程、話してくれてありがとう。母親はこちらで必ず救出しよう。君の処罰についてはあとで正式に下されるだろうが、軽くなることを約束しよう」

 

「ありがとうございます」

 

 エリックは涙を流しながら何度も僕に頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 僕は部屋を出て、アンリに話しかける。

 

「アンリ、話は聞いていたな。明後日には連邦が来る。その時にキリングは情報を渡すつもりだろう。それまでになんとしても逮捕してもらいたい」

 

「分かりました。公国防衛隊の総力をあげて、キリングという男の捜索を行います」

 

「頼んだぞ」

 

「お任せください。よい報告をあげてみせます」

 

 アンリは部下に指示を出すため、どこかに歩いていった。僕は時計を確認する。今は午前9時半を過ぎたところだ。9時半……あれ、確か今日って士官学校の卒業式じゃなかったけ。あと30分しかないじゃないか、急がなくては。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数時間後

 

 なんとか遅刻せずにすみ、ガルマの1つ上の先輩達の卒業式は無事に幕を閉じた。全く、テロ騒ぎのせいで1週間延びたのをすっかり忘れてたぜ。ん? 校長室に電話だと……

 

「ドズル校長、公国防衛隊のアンリ様よりお電話です。お繋ぎしますか?」

 

「ああ、頼む」

 

 電話が切り替わる。

 

 〔ドズル様、公国防衛隊のアンリです。キリングという男が見つかりました〕

 

 はえーな、おい。

 

 〔ただエリックの母親の場所はまだ判明していませんが、とりあえず本部に来てもらえますか? 〕

 

「分かった。すぐに行こう」

 

 〔お待ちしております。〕

 

 

 さて、この事件ももうすぐ解決だ。僕は、専用の車に乗り込んで本部へと向かっていった。

 




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第十一話

戦闘描写って難しいですね。こうした方がいい等アドバイスがあれば、感想欄にお願いします。今回も会話文多めになってしまった…


 10分後 公国防衛隊本部

 

 僕は会議室のドアをノックし、アンリがいることを確認して部屋に入る。

 

「アンリ、キリングの居場所が分かったとは本当か?」

 

「はい、エリック氏の話を聞いて名前と容姿に聞き覚えがあり調べたところ、元ジオニック社重役ルーベンス・キリング氏の子息であるヘルシオ・キリングだと断定しました。そこでルーベンス氏にヘルシオの居場所を聞いたところ、今はヘルシオの自宅にいて午後2時からのルーベンス氏主催のパーティーに参加するそうです」

 

「エリックの母親の居場所は掴めそうか?」

 

「今、ズム・シティ内をくまなく探させています。それと、ルーベンス氏の複数ある別荘にも捜索の範囲を広げており、発見は時間の問題かと思われます。ヘルシオの自宅には既に捜査員を20名ほど向かわせており、エリック氏の母親が見つかり次第突入させる手はずになっています」

 

「なるほど、分かった」

 

 アンリの話に相づちを打った瞬間、ドアが勢いよく開きアンリの部下が入ってくる。

 

「エリック氏の母親が監禁されている場所が判明しました!」

 

「場所はどこだ?」

 

「ズム・シティ東側に位置する、ルーベンス氏の別荘の1つです」

 

「分かった」

 

 アンリは会議室の端にある電話を手に取ると、施設内全体に向けて指令を出す。

 

 〔監禁されている女性の居場所が判明した。これより我々は、女性の救出任務に向かう。万が一のためにA班は本部で待機。それ以外のBからF班は武器を携行し、2分後に車庫に集合せよ! 〕

 

 そう告げるとアンリは電話を置き、こちらに振り返る。

 

「ドズル閣下も行かれますよね?」

 

 僕も行くの? という顔をする時間があるわけもなく、僕は頷くしかなかった。あとで、ギレンに怒られるが仕方ないだろう。

 

「ああ、一緒に行かせてもらおう」

 

「では、私についてきてください。こちらです」

 

 アンリはそそくさと歩いていき、僕はついていくしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これより我々は、女性の救出任務に向かう。相手も拳銃など火器を使用している可能性が高い。激しい銃撃戦が予想されるが、あくまでも、第一目標は女性の救出だ。皆、心してかかるように!」

 

「了解!」

 

 車庫に集合した隊員たちは敬礼をして、各班専用の装甲車に乗り込んでいく。僕がアンリの装甲車に同乗して数分、準備が整った救出部隊はアンリの装甲車を先頭にして車庫を出ていった。別荘に向かう道中、アンリはヘルシオの自宅を監視している隊員に通信を入れる。

 

「こちらアンリだ。ヘルシオの様子はどうか?」

 

 〔動きはありません。まだ、自宅内にいます。〕

 

「そうか、今我々はエリック氏の母親の監禁場所に向かっている。我々の監禁場所への突入と同時に、君たちもヘルシオの身柄を拘束してくれ」

 

 〔承知しました。〕

 

 通信機のスイッチを切ったアンリは、腰のホルスターに入っている拳銃を手に取り、なかに入っている銃弾を確認する。そして、確認を終えると僕に拳銃を手渡した。

 

「ドズル閣下、念のためにこれをお持ちください。ですが心配することはありません。念のためですから」

 

 そんな笑顔で言われても困るし、もちろん銃なんて撃ったことないし……

 

「分かった。ありがとう」

 

 僕は仕方なく拳銃を受け取り、腰の空いているホルダーにしまった。

 

「あと10分ほどで別荘に到着します。到着後、アンリ様とドズル閣下は、装甲車の後ろに隠れてください」

 

「分かった」

 

 

 

 

 

 

 それから約10分、エリックの母親が監禁されていると思われる別荘に到着した。先ほど言われた通り、僕は装甲車の後ろに隠れた。アンリは、各班に指示を出している。

 

「B、C班は正面の入り口に、E、F班は裏口に回れ。D班は他の班が敵を引き付けている間に窓から侵入し女性を救出してくれ。D班以外は今から1分後に同時に突入し、敵をひきつけろ」

 

 装甲車から降りた各班は拳銃を構え、すばやく配置につく。アンリはそれを確認すると、通信機を手に取る。

 

「こちらはまもなく突入する。そちらもヘルシオの身柄を拘束してくれ」

 

 〔了解しました。これより身柄を拘束します。〕

 

 通信機の向こうからの返事を確認すると、周波数を切り替える。

 

「5、4、3、2、1、突入!」

 

 各班の隊員はアンリの合図と同時にドアを蹴破り、中に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 B班班長side

 

 俺達が突入した途端、銃声が玄関全体に響き渡った。

 

「避けろ!」

 

 咄嗟に近くにあった部屋に転がりこんだため銃弾は服をかすっただけで済んだが、後ろを進んでいた班員は銃弾を2発ほど防弾チョッキにくらい、その衝撃で後ろに倒れこんだ。B班の後から入ってきたC班はすぐに反撃を開始し、玄関で激しい銃撃戦が始まった。それとほぼ同時に、裏口からも拳銃の発射音が断続して響いてき始めた。俺は流れ弾が当たらないように倒れている班員を安全な所に運び、俺自身も玄関での銃撃戦に加わった。相手は八人ほどいたが、他の班の活躍によりすでに半分の四人にまで数を減らしており、制圧は時間の問題だった。銃撃が止んだタイミングで顔を出し、壁に隠れようとしていた一人の腕を撃ち抜いて無力化。続いて、反撃しようと壁から出てきたもう一人の腹部に向かって拳銃を発射し、腹部に銃弾を食らった相手は床に崩れ落ち倒れ込む。刹那、俺は壁の裏に隠れる。その直後、先程まで俺がいた場所を銃弾が通過していき、それを確認した俺はほっと息をついた。そして反撃とばかりにC班が拳銃を撃ち、敵二人は床に倒れたのだった。

 

 数分後

 

 防弾チョッキに備え付けられた通信機からアンリ様とD班の会話が聞こえてくる。

 

 〔こちらD班、女性の身柄を保護しました。〕

 

 〔了解した。別荘内に敵はいるか? 〕

 

 〔別荘内の部屋をくまなく捜索しましたが、拘束した者達以外には見当たりませんでした。〕

 

 〔そうか、分かった。〕

 

 無事に任務は完了だ。

 

 

 そういえば忘れていたが、倒れこんだ班員を起こしに行かなくては……

 

 

 

 

 ドズルside

 

 装甲車の後ろに隠れて待っていたら、十五分ほどで制圧は完了してしまった。さすが、仕事が早いね……

 

 

「ドズル閣下、無事にエリックの母親は保護しました。そして先程、ヘルシオの身柄を拘束したと連絡が入りました。これでもう大丈夫でしょう」

 

「結局、この銃は使わなかったな。返すぞ」

 

 アンリがこちらに向かってくる。俺もアンリに近づこうと車の影から出て銃を返そうと、ホルダーに手をかけたその瞬間、

 

「うおおおお!!!」

 

 装甲車の後ろから拳銃を構えて、敵の生き残りが走ってきた。僕は返すため手に持っていた拳銃を走ってくる奴の足に向け、人を撃つ恐怖で震える手を押さえながら発砲した。放たれた弾丸は見事に命中し、転ばせることに成功する。

 

「なにをやっている! すぐに確保しろ! ドズル閣下、お怪我はありませんか?」

 

「ああ、怪我はないから大丈夫だ」

 

 倒れこんだ人物は駆け寄ってきた班員に確保され、足を引きずりながら連れていかれた。

 

 これで、なんとか一件落着したかな……



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第十二話

今回は、話が短めになります。


 エリックの母親の救出作戦が予想より早く終わった事により、ヘルシオの取り調べはその日の内に行われることになった。僕も取り調べに立ち会ったが、ヘルシオの犯行動機には驚きを隠せなかった。

 

「私が情報漏洩を指示した理由? そんなの決まっているではありませんか。父親の復讐ですよ。私の父親はジオニック社の重役でした。しかし、三社併合によって父は重役の座を解雇されてしまいました。あの優秀な父が解雇されるなんてことはあってはならない! だから私は開発局を潰そうと思ったのです。私の父を評価しない会社などこの世に存在してはいけないのです! 貴方もそう思うでしょう!」

 

 ヘルシオは机を叩き椅子から立ち上がって、取り調べをしているアンリに掴みかかろうとした。しかし記録係をしていた隊員が慌てて止めに入ったことにより、ヘルシオは椅子に座らされることになった。それにしても話を聞く限り、あいつは父親から退職理由を聞いてないようだ。うん? 誰かこちらに向かって走ってくる音が聞こえるな……

 

 

 

 

 

「この大馬鹿者が!!」

 

 誰かがドアを蹴破るようにして部屋内に入ってくる。僕が後ろに振り返ると、そこに立っていたのはヘルシオの父親であるルーベンス氏だった。彼は自分の息子に近づき胸ぐらを掴むと、そのまま床に叩きつける。そして、驚いて顔をあげたヘルシオの頬を力強くビンタした。

 

「父上、なにをするのですか!」

 

「お前はキリング家の名前を汚した! それがどういう意味だかわかるよな。もうキリング家が名家と呼ばれることはなくなったのだよ」

 

「ですが私は父上のために」

 

「なにをいっている? 俺は重役の座を解雇されたわけではない。自分から辞めたんだ」

 

「で、では私はただキリング家の名前に傷をつけただけ……」

 

「そういうことだ。当たり前だが今日のお茶会も中止になった」

 

 そう、ルーベンス氏は三社統合の際に解雇されたのではなく自分から退職している。理由は、人生の余生を息子や旧友と楽しみたいから。ヘルシオは勝手に勘違いして自分の手と家名を汚しただけなのだ。彼は床でうなだれている息子を一瞥するとこちらに振り返る。

 

「ドズル様、お見苦しい所をお見せしてしまい申し訳ありません。愚息の処分に関しましてはそちらにお任せしますのでよろしくおねがいします。公国防衛隊の皆様にも迷惑をおかけしまして、本当に心が痛いです。お騒がせして申し訳ありませんでした」

 

 僕達に向かって一礼すると、ルーベンス氏は部屋を出ていった。それから約一時間取り調べは続けられ、罪について追求が行われた。やがてアンリは席から立ち上がり、ヘルシオの目の前に移動すると

 

「……さて君の処分について、軍の最高機密漏えい及び誘拐、監禁、暴行の指示等により終身刑が妥当だとは思うが、刑務所での態度によっては減刑も視野にいれる事とする。ドズル様、それでよろしいですか?」

 

 といって僕に同意を求めてくる。僕も不満はないのでそれに頷いた。

 

「ああ、問題ない」

 

「では手続きを開始します」

 

 ヘルシオは刑務所へと連れていかれた。ちなみに余談だがルーベンス氏が帰ったあと、ヘルシオは今までのことが嘘のように正直に話すようになった。よほどショックだったのだろう……

 

 

 

 その後エリックにも懲役3年が言い渡された。これは司法取引による減刑が考慮された結果である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2日後

 

 情報漏えい事件も無事に解決し、連邦の視察団が訪問してくる日となった。既に彼らはサイド3に到着しており、こちらが出した送迎用の車で向かってきている。だがテロ事件からは半月が経ち、破壊された建物等の修復作業は約85%完了した。被災し怪我を負った人々も続々と退院し始めている。いくら地球とサイド3は離れているとは言え、通達のなかにあった慰安訪問と言うには遅すぎるタイミングだ。命題にあった視察が本命だとは思うが、あのレビルが率いてくるんだ、何かしら裏があると思ったほうがいいだろう。そんな事を考えていると、ドアをノックする音が聞こえた。

 

「連邦の御一行が到着されました。応接間までお越しください」

 

「分かった」

 

 僕は立ち上がり部屋を出る。するとギレンとキシリアも応接間に向かって歩いていたため合流し、3人で部屋に入る。

 応接間の真ん中には大きなテーブルが置かれており、机の両端には3つの椅子が置かれている。レビル、エルラン、ゴップの3人は既に着席していて、僕達が入って来ると一斉に立ち上がった。

 

「私は連邦軍中将のゴップです。そしてこちらは少将のレビルとエルランです。まずはこの度のテロにより被災した方々の怪我の早期ご回復を切に願います」

 

 3人は深々と頭を下げる。

 

「ここに来る道中町並みを拝見しましたが、もうすっかり復興していますな」

 

 ゴップは真っ直ぐこちらを見据えながら、ゆっくりとした口調で話を進める。

 

「ええ、公国防衛隊や大工の面々が頑張ってくれていますから。それで本日はどのようなご用事でサイド3に?」

 

「文面で送った通りですよ。被災した方々へお見舞いが主な理由です」

 

 お互い、顔は笑っているが目が笑ってないんだよな……

 

 

 

 

 

 

 

 



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第十三話

ガンダムなのにモビルスーツが出てこなくて申し訳ございません。もう少しだけお待ちください。





やはり評価って一応気にしたほうがいいのかな?あと気軽に感想頂けると嬉しいです。


「ゴップ殿、世間話はこれくらいにしてもうそろそろ本題に入っていただけますか?」

 

 一時間ほど続いた世間話に痺れを切らし、兄貴は切り込んだ。

 

 

「ああ、そうですな。……この間の地球連邦の声明は聞いていただけましたかな? こちらからの要求はあれの通りです。各種税金の値上げ、サイド3へ対する軍縮要請と特別税金の徴収、それと声明には入っていませんでしたが小惑星2つの内部視察です。以上の事をサイド3に対して要求させていただきます」

 

 それを聞いた僕は、思わず声を荒らげる。

 

「……お言葉ですが、事件の爪痕は消えかけているとはいえ医療費や修繕費などで財政は逼迫しています。増税と特別税金の徴収は待っていただけないでしょうか?」

 

 僕の返答に対して、口を開いたのはゴップではなくエルランだった。

 

「地球連邦は地球全体の管理をしている。貴様らスペースノイドは私達がいないと生活すらままならない。貴様らは私達に従っていればいいのだ。意見などするな」

 

 その衝撃的な発言に僕を含めたザビ家3人は固まってしまった。

 

「口を慎め、エルラン!! ……ザビ家の皆様、申し訳ございません。エルランに変わり謝罪いたします」

 

 ゴップは立ち上がり、深々と頭を下げた。それに続き、レビルも頭を下げる。エルランはずっとそっぽを向いていたがゴップが無理やり頭を下げさせた。

 

「……ゴップ殿、連邦軍でエルラン少将を拘束してもらってもよろしいですかな?」

 

 そう言葉を発したのはギレンだ。

 

「それはどういうことでしょうか、言葉が過ぎたとは言え、拘束されるいわれはないはずですが」

 

「先日、サイド3内で軍事機密が漏洩するという事件が起こりました。首謀者は逮捕したのですが、その者がこう発言しているのです。[連邦軍のエルランという高官にジオンの情報を渡す代わりに連邦軍で私と父の重要ポストを約束してもらった]と」

 

 その発言を聞いたゴップは顔をしかめ、エルランを睨んだ。

 

「エルラン、その話は本当なのか?」

 

「……その首謀者が勝手に話を持ちかけてきたのです。私は関係ない」

 

 鼻で笑いながらそう言うと、エルランは腕を組んで椅子に座り直した。

 

「ほう、それはおかしいですな。こちらには首謀者が録音していた音声データもあるのですがね」

 

 ギレンは、懐からひとつのディスクを取り出した。

 

「ここにはエルラン少将と首謀者の会話がすべて録音してあります。もちろん連邦にとって不利な会話もたくさんありました。また、スペースノイドに対する暴言もね。今回の各サイドに対する要求を全て撤回していただけるなら、このディスクは貴方達にお渡しします。しかし撤回していただけないのであれば、これを地球と各サイドに公開します」

 

「それを公開されたら地球連邦はスペースノイドだけでなく地球に住む人からも反感を買ってしまう。…………分かりました。要求は撤回しましょう。その代わりにそれをこちらへ渡してください」

 

 ゴップは完全に青ざめ、顔をひきつらせていた。一方、エルランは目をつむり下を向いていた。

 

 

「その前に、すぐに会見を開いてもらいます。渡すのはそれからです」

 

「……分かりました。案内してください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 数分後、すでに準備してあった会場でゴップは会見を始めた。

 

「連邦軍のゴップです。先日各サイドに対して要求した政策についてですが、全て撤回させていただきます。理由としては、サイドに対して余りにも横暴な要求だったからです。不快な思いをした皆様に対して、深くお詫び申し上げます。……」

 

 その後3分ほど続いた会見は終了し、ゴップはギレンに近づいた。

 

「これでいいでしょう? それを渡してもらえますか」

 

「そうですな。ただし、そちらで音声を加工し我々が不利になるような会話にして公開した場合はどうなるか分かっていらっしゃいますよね?」

 

「それはもちろんです」

 

 その返答を聞いたギレンは、ゴップにディスクを手渡した。その後、ゴップは部下にエルランを拘束させ、宿泊する予定だったホテルへと帰っていった。それを見送ったギレンは、隣に立っていた人物に話し掛ける。

 

「……助かりました、レビル殿。あの情報のお陰で私達は要求をのむことを回避することが出来ました」

 

「いえ、あの声明は我々連邦のスペースノイドに対する偏見が生んだ横暴なものでした。それを正すことが出来てよかったです。それに強硬派の一員だったエルラン少将を失脚させられそうですから。ただ、スペースノイドに対して穏健だったゴップ中将に責任を被ってもらってしまったのは少し心苦しかったですね」

 

「今回の情報漏洩事件は連邦の強硬派が穏健派の勢いを押さえ、無理やり理由を作ってサイドを弾圧するための口実の1つとして仕向けた事でしょう。しかし、穏健派のゴップ中将を代表としたことが裏目に出てしまった。結果的に自分達で仕向けた事が自分達の首を締ることになった。これで連邦の強硬派はしばらくおとなしくなるでしょう」

 

「そうですな。このまま大人しくしていてくれれば良いのですがね。それでは怪しまれると困るので私は失礼します」

 

 レビルは待機させていた車でホテルへと帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギレンとレビルの会話を隣で聞いていた僕は、その会話に驚きを隠せなかった。

 

「兄貴、あの情報はどこで手にいれたんだ? 俺が取り調べに立ち会ったときは、ヘルシオは何も言ってなかったぞ」

 

「レビル少将達が来る前日、私に彼の部下が接触してきた。その時、あの情報を手にいれたんだ。レビル少将達の穏健派は、強硬派が何か仕掛けることを予期して強硬派の人間の部屋に盗聴器を仕掛けていた。そして、偶然にもあの音声を聞き、強硬派を潰すために情報をこちらに流してきた。私は国民を苦しめることになるあの要求を止めるために、レビル少将達に協力したんだ。多少嘘をついてしまったが、要求を止めることが出来て良かった。」

 

 

「なるほど、そういうことだったか。理解できたぞ」

 

「これで穏健派が連邦政府を掌握すれば、スペースノイド達は弾圧されずにすむ。我々がスペースノイドのために戦争を起こす必要もないだろう。しかし強硬派が掌握し続ければ、戦争は避けられない。さて、どちらになるか……」

 

 そう発言したギレンはうっすらと笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 



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第十四話

投稿が遅くなり申し訳ございません。一年戦争開戦に向けて、これから忙しくなっていきます。


 UC 0075 5月

 

 ズム・シティ ドズル執務室

 

 あの情報漏洩事件から1年の月日が流れた。復興に全力を注いだことによりズム・シティは完全に元の姿に戻り、破損した生産施設も修理を完了した。これらの施設は約1ヶ月前から艦船やMSの生産を再開し始めている。

 一方、連邦軍では、事件後しばらくレビルたち穏健派が主導権を握っていたが、最近地球で起きた大規模な災害の対応に奔走しているうちに強硬派に主導権を取り戻されてしまったらしい。去年ギレンが言った通り、あっという間に連邦政府は強硬派が牛耳った。これでは、やはり戦争は避けられないだろう。僕は、そんなことを思いながら開発局から提出された書類に目を通し、サインをする。

 

 

 

 

 

 

 同時刻 ジャブロー

 

 地下洞窟中心にある連邦司令部内の会議室では、災害支援任務に就いていた左官や部隊が召集され勲章授与並びに昇格辞令の交付が行われていた。各部隊への授与・交付が終わり、最後に名前を呼ばれたのはレビルであった。

 

「ヨハン・イブラヒム・レビル少将、災害対応の功績から現時刻をもって中将に昇格とする。同時に、連邦宇宙軍司令官並びにルナツー基地司令の役職を命じる」

 

 最後の一文を聞いたレビルはわずかに顔をしかめた。辞令を受け取り一礼をした彼の後ろで、待機していた各部隊の隊員が彼の辞令を聞いて小声で会話を始める。

 

「ルナツー勤務……事実上の左遷かよ」

 

「強硬派は穏健派を厄介払いしたようだな」

 

 連邦軍の拠点で唯一宇宙空間にあるルナツーは僻地とされており、連邦軍兵士には嫌われていた。そこで強硬派は穏健派の筆頭であるレビルをルナツーに送ることによって、穏健派の発言力を低下させ封じ込めようとしていた。

 

「静粛に! これにて終了だ。各部隊は速やかに、持ち場に帰るように。以上」

 

 

 

 

 

 

 

 レビルがルナツーに向かうという情報は各地にすぐに広まり、抗議の声もちらほらと聞こえ始めた。だが、それはすぐにおさまることになる。ジャブローで抗議の声をあげた者が逮捕されたためである。

 

 

 2日後、レビルは副官のティアンムを連れてルナツーへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 9月中旬 ズム・シティ郊外 開発局内第2格納庫

 

 今日はギレンに呼ばれ、開発局に来ている。辺りにいる開発局の連中もさっきからそわそわしているし、なにが始まるのだろうか? それにモビルスーツっぽい物もおいてあるし……

 

「ドズル、貴様は前線指揮官になりたいと言っていたな。だから専用機を作ってやったぞ」

 

 ………………………………は? 

 

「これがドズルの専用機だ。諸君、布をはずしてくれ」

 

 ギレンがそう指示すると、格納庫に置いてあったモビルスーツの布を4人がかりで取り外した。そこに現れたモビルスーツに、僕は見覚えがあった。

 

「これはヅダか?」

 

 顔や特徴的な腕などからヅダであることは間違いない。しかし、胸部の装甲を中心として細部が僕の知っているヅダとは異なっていた。

 

「そうだ、ヅダをベースとしている。ラース、説明してくれ」

 

 ギレンがラースに声をかけると、彼はヅダの後方から姿を現した。どうやら各部の点検をしていたようだ。

 

「分かりました。このEMS-04Dは、先ほどギレン様がおっしゃられたようにEMS-04ヅダをベースとして開発したドズル様の専用機になっています。基本性能はあまり変わりませんが、装甲の厚さは2倍になっています。また、コックピットがある胸部周辺は他の箇所よりもさらに厚くしております。重量は増加しましたが脚部にスラスターを追加しており、ベースのヅダより瞬間加速力は増えています。ですが、あまり無理な加速はなさらないようにお願いします」

 

 ラースがこちらに同意を求めてきたので、僕は頷く。

 

「分かった」

 

「では次に装備についてですが、背面にプロペラントタンクを2基つけています。さらに任務によって追加でもう1本つけることもできるようにしてあります。主武装は120㎜ザクマシンガンとシールドに懸架しているザクバズーカ、90㎜マシンガンになります。格闘武器は、特注で作ったジャイアント・ヒート・ホークです。ヅダの全高と同じ大きさとなっているので、取り回しには注意が必要になりますが艦船相手ならば問題はないでしょう。そして、塗装は銀と黒、そして各所にエングレービングを施しています」

 

 そう話すとラースはEMS-04Dの取説と性能が書かれた紙を僕に手渡した。

 

「操縦方法等はここに書いてありますので、こちらをご覧ください」

 

 渡された紙に目を通そうとした時、ギレンが口を開いた。

 

「ラース、説明ありがとう。下がっていいぞ」

 

「はっ、ギレン様」

 

 彼は敬礼をして、奥へと下がっていった。

 

「すぐにでも操縦練習をさせたいところだが、なにぶん此処は連邦の目が光っている。ア・バオア・クーの裏側の極秘演習場までいくぞ」

 

「そうだな、久しぶりに行くか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2日後

 

 ア・バオア・クーまでは、今存在している艦艇の中で一番速度が出るザンジバルを使っても最低2日はかかる。だが、サイド3のズム・シティや開発局を中心とした軍事施設は連邦軍に監視されており、現状としては製造されたモビルスーツは各パーツに分けられ、ソロモンとア・バオア・クーで組み立てを行っている状況だ。サイド3では、ムサイなどの艦船が月に数隻づつ就役しているだけである。もっとも、貨物船でムサイの各ブロックを2つの施設に運びこんでいるで実際に就役している艦は公式に発表されている数よりは多いが。このように、情報漏洩を防ぐ観点からモビルスーツの稼働試験や演習なども2つの施設で行っているのだ。特にア・バオア・クーは宇宙唯一の連邦施設であるルナツーとは地球を挟んで反対側にあり、連邦軍の目は届きにくい。さらに要塞の裏側にまわってしまえば、月に何度か要塞を巡回している部隊にも見つかる確率は限りなく低くなる。そのため、ギレンも此処を選んだのだろう。

 

「さて、ドズル。まずは耐G試験を受けてもらうぞ」

 

「……」

 

 僕の顔から、どんどん血の気が引いていく。

 

「ヅダはその仕様上、どうしても体に大きな負担がかかってしまう。そのため、ヅダのパイロットは必ず耐G試験を1週間以上受けるという決まりがあるのはお前が一番知っているだろう?」



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第十五話

お久しぶりです。学業が一段落したのでやっと投稿することが出来ました。お待たせしてしまって、申し訳ありません。これから投稿頻度を戻していきたいと思いますので、よろしくお願いします!


 訓練開始から2日、Gには多少だが慣れることが出来た。それでも、訓練が終わった後は吐き気に襲われトイレに一時間以上滞在することもある。

 

「明日にはヅダに乗っての訓練だぞ? この調子でいいのか、ドズル」

 

 ギレンが顔面で圧力をかけてくる。圧力だけで実弟を殺しそうなんですけど、この人は。

 

「大丈夫だ、それまでには完全に慣れてみせる」

 

 ふぅ、それにしても大変だなパイロットも。だが原作のドズルもMAに乗っていたんだ、このくらいはこなしているだろう。僕も頑張らなくてはいけないな。僕は再び訓練に臨んだ。

 

 

 

 

 

 

 翌日

 

 僕は第一格納庫に置いてあるヅダのコックピットにいる。昨日はあのあと5回以上訓練を行い、全くトイレに行かないまま今日を迎えることができ、全くトイレに行かないまま今日を迎えることが出来た。

 

 [これより、ヅダでの訓練を開始します。準備はできていますか、閣下?]

 

 通信機から聞こえてくるのは、ラースの声だ。彼もヅダの稼働に合わせて、ア・バオア・クーに来ている。

 

「ああ、大丈夫だ」

 

 特別設計されたコックピットは、僕が乗っても少し余裕がある。その部分には通信機が積まれており、格納庫近くの通信室にいるラースと繋がっているのだ。

 

 [それでは、動かす前に確認です。閣下の右側にこの機体のマニュアルが置いてあります。それはご覧になられたと思いますが、操縦方法は理解出来ていますか?]

 

「もちろん理解しているぞ」

 

 [それではこれよりヅダの訓練を開始します。まずは基本動作ですね。マニュアル通りに操作してみてください。]

 

「分かった」

 

 2つの操縦桿を前方に倒し、ペダルにかけた足に力を込める。すると連動するようにヅダのバーニアが火を吹き始め、前に進んでいく。格納庫を出て演習宙域に達した僕は、続いて操縦桿を右に倒し、右旋回。同じようにして左旋回も行う。そしてズダ特有の伸縮式の右腕の可動などをマニュアル通りに操作していく。そして30分ほど動いたあと、不意に通信機が鳴る。

 

 [基本操作項目は合格です。次に加速訓練を行います。]

 

「わかった」

 

 次の項目は、加速。ズダの特徴とも言える瞬間的な加速力は、訓練しなければパイロットの体が持たないだろう。たとえ耐G試験に合格しても、実戦でいきなり使いこなすことができるのは一握りの天才だけだ。だからこそ、訓練の過程でも、項目に加速を入れてあるのである。

 僕はペダルに乗せた足に力を入れ、思いっきり踏み込む。それに呼応するように機体はだんだんと加速し、コンマ数秒で100m/秒に達した。これは新幹線の最高速度より少し速い。そして、最新鋭のザクすらも凌駕している。だがこの時点で体はシートに少し押し付けられており、最高速度に達したらどうなってしまうかは分からない。

 

「くっ!」

 

 僕が苦しんでる間にもズダは加速し続け、加速度を示すメーターは176を表示している。

 

 [閣下、余り無理はしないでください!]

 

 通信機からラースの声が聞こえてくるが、僕にそれを聞く余裕はなかった。メーターは上昇し続け、いよいよ200に到達する。モニターから見えるのは、現れては流れるように消えていく無数の光点ばかりだ。同宙域で訓練を行っていた他の兵達には僕が訓練していることは伝えられていないので、流星のように見えているかもしれない。体が押し付けられている中、メーターが200に達したことを確認した僕は段々と足の力を抜いていき、やがてペダルから足を離す。機体の動きは止まり、一息つくことが出来た。そして、パイロットスーツの中が冷や汗でぐっしょりと濡れていることを初めて認識する。

 

 [ドズル様! お体に異変はないですか? 怪我などはしていませんか?]

 

「大丈夫だ、心配かけてすまない。これより格納庫に戻る」

 

 [了解しました。お待ちしております。]

 

 数分後、格納庫へと戻った俺はラースと救護班に囲まれている。怪我と体調の確認をすると救護班は帰っていき、代わりにギレンが歩いてきた。

 

「ドズル、あまり無理をすると体が持たんぞ」

 

「すまないな、兄貴」

 

 ギレンは呆れた表情を一瞬だけ見せたが、すぐに仏頂面に戻し話を進める

 

「まあいい。訓練はひとまず終わりだ。サイド3に戻るぞ」

 

「もう帰るのか?」

 

「明後日は定例会議があるだろう、今回はサスロも帰って来てるはずだ」

 

「サスロ兄? 2年ほど姿を見ていなかったがどこにいたんだ?」

 

「その話は、明後日に直接語ってもらう」

 

 

 

 大型格納庫で整備が完了していたザンジバルに乗り込み、ア・バオア・クーをあとにした僕達は2日間かけてサイド3に戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 サイド3

 

 サスロ・ザビは屈強な肉体を持っているが、ドズルとは正反対の頭脳派の男である。原作ではテロに巻き込まれ死亡したが、この世界では生きている。

 

「これより定例会議を始める。まずはサスロ、貴様が地球で得た情報を話せ」

 

 なるほど、サスロは地球にいたのか……

 

「俺が地球に2年間も居たのは、連邦軍にスパイを潜り込ませることにあった。そして、その過程で得た一番重要な情報が連邦宇宙軍本部の移設だ」

 

「本部の移設、それは本当なのか? サスロ兄」

 

「本当だ。移設先は小惑星ルナツー。そして司令はヨハン・イブラハム・レビル」

 

「ふむ、おおむね想定通りだ。他には?」

 

「レビルによって宇宙軍の戦力が大幅に増強された事と新たな艦艇が極秘裏に建造されている事くらいだな」

 

 そう話すとサスロは一つの資料を机に置いた。表紙には極秘と書かれている。

 

「バーミンガム級大型戦艦か…マゼラン級が戦艦と分類されているはずなので、必然的にマゼラン級より強いということになるな」

 

 バーミンガムは確か0083に出て来たよな……僕のせいで歴史に影響が出ているのか? 

 

「いま分かっているのは、名前のみなので詳細は分からん。用心に越したことはない程度で考えたほうがいい」

 

「そうだな。さて、次の議題に移ろう。キシリア、前回言っておいたサイド3全体の土地の空きについて調べてくれたか?」

 

「はい、サイド3全体の空いている土地は約3割となっております。兄上、これがどうかしたのですか?」

 

「ああ、それについてだが空いている土地全てに街を作ろうと思っている」

 

「街だと!?」

 

 

 僕は思わず、口に出してしまった。

 

「街といっても、ハリボテというわけではないが一時的に利用するための仮設住宅みたいなものだ」

 

 そういうと、ギレンは不敵な笑みを浮かべるのだった。

 

 



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第十六話

少し短いですが、やっと投稿できました。


 ギレンside

 

 2日後 サイド5[ルウム]

 

「よくぞお越しくださいました、ギレン殿。さあ、こちらに座ってください」

 

 サイド5の政府代表は、私を応接室の椅子へと案内した。椅子に腰掛け、出されたお茶を1口飲んだ私は向かい側に座る男の目を見据えた。

 

「それでお話というのは、なんでしょうか」

 

 

「単刀直入に申し上げます。各サイドをまとめる代表に就任していただきたい。このまま連邦との関係が悪化していけば、戦争は避けられないでしょう。そうなれば、最初は優位に進められてもいずれ国力の小さいサイド側が負けるのは明白です。それを防ぐためにはサイド全てが総力をあげて戦いに挑む必要がある。そして、それをまとめられるのはジオニズムを提唱なされたジオン公国の総帥であるあなたしかいません」

 

「なるほど、確かに良い案ですな。しかし、なにか見返りはあるのですか? こちらが矢面にたつことになり、サイド3だけが悪者にされかねませんが」

 

 私に睨まれ男は、肩身を狭そうに話を進める。

 

「もちろんこちらからは人材と資源をお渡しします。また、矢面に立っていただくのは申し訳ないと思っております。しかし、こちらとて住民の命が一番ですので……」

 

 はぁ、連邦からは独立したいが自分たちが矢面に立つのは避けたいのが本音か。元々、戦うのは私たちだから関係はないが、大役を押し付けられるのはめんどくさいぞ。それに短期決戦で終わらせたいのに、全面戦争になってしまうではないか……

 しかし、これは利用出来そうだな。

 

「分かりました、全サイド代表は引き受けましょう。その代わり、戦争に突入する際に[ルウム]そのものをお借りしたい」

 

「……と申しますと?」

 

「このコロニー群は地球から最も近い位置にあります。このコロニーを地球に落とすと宣言すれば、連邦軍は血相を変えて阻止に動くはずです。そして誘い出した連邦宇宙艦隊を潰します」

 

「コロニーを落とす!? そんなこと認められるわけないじゃないですか!」

 

 代表は机を叩き、立ち上がった。

 

「まあ、落ち着いてください。実際に落とす必要はありません。連邦さえ出てきてくれればそれで終わりです。しかし、戦場はこの宙域になります。なのでこのコロニーの住民はその間サイド3に移ってもらいます。この計画はデキン公王からも許可をいただいています」

 

「………………コロニーに被害を出さないのなら、承諾しましょう」

 

 しばらく悩んでいた彼だったが、やがて決心した顔で言葉を放った。

 

「合意ですな。それでは早速、サイド全ての代表を呼んで会議を開くとしましょうか」

 

「1つお聞きしてもよろしいか。ギレン殿はこうなることを予想して、計画を練っていたのですか?」

 

 ふむ、いい質問だな。

 

「成り行きですよ。ここで計画が進まなくても他に手はありましたから」

 

 実際には計画は存在せず頭の中の妄想だけだったのだが、ザビ家定例会議でハリボテ住宅を作ると口走ってしまったので焦っていた所だ。偶然の出来事ではあったが利用しないわけにはいかないだろう。

 

 数時間後、各コロニーに会議の召集がかけられた。開催日時は一週間後、場所はサイド3である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドズルside

 

 ギレンがサイド5から帰ってきた。先日ハリボテ住宅を建設すると言われたときには驚いたが、肝心な理由を言わずにサイド5に赴いてしまったので、残された僕たちは数日餌をお預けにされた気分だった。特にキシリアはもう少しで禁断症状が出かけていたところだ。妹はギレンが帰ってきた瞬間に部屋へと突撃し、問い詰めていた。僕とサスロも部屋に着き、兄は話し始める

 

「兄上、先日の定例会議での件についてお聞きしたい。ハリボテ住宅を建てる理由はなんでしょうか?」

 

「ふむ、説明せずにサイド5へ赴いてしまってすまなかったな。それでは理由を話そう。サイド5[ルウム]の住人全員をここに移住させる」

 

「「「は?」」」

 

 何を言ってるんだ? サイド全員を移住なんて無理に決まってる。それに出来たとしても、問題が多すぎる

 

「順を追って説明しなければあるまい。全体会議を開こう。すぐに幹部を集めてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大会議場

 

 いつも定例会議が行われる場所とは異なり、議会議員や政府幹部などサイド3運営に関わるすべての人間が入れる場所でそれは開かれた。集められたのは政府幹部と軍上層部、防衛隊のアンリに開発局の者たちだ。ここにいる者が連邦と繋がっていないのは全員調査済みである。ギレンは中央に立つとマイクを持って話し始める。

 

「サイド会議に先立ち、総帥ギレン・ザビはここに宣言する。サイド3はスペースノイド独立のため、地球連邦と戦争を行う! 開戦は0079年1月1日である」

 

 とうとう口に出したな。おかげで会場内にどよめきが広がっている。

 

「これはまだここにいる者たちだけの話である。しかしいずれは公表しなければならんだろう。そのために色々と準備しなければいけないことがある。まずは軍の再結成である。次に兵士の育成も必須だ。4年後の1月1日に宣戦を布告し戦争に突入するまで時間は少ない。そしてもう一つ…

 

 

 サイド3の複数のコロニーにサイド5[ルウム]の住民をすべて移住させる!」

 

 再び会場内に先程よりも大きいどよめきが起こった。

 

「理由は明確で、開戦直後の作戦にコロニーをまるごと使用するからである」

 

 コロニーをまるごとか…まさか落とさないよな? 



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第十七話

 演説でのギレンの話をまとめるとこうだ。連邦と戦争するといっても彼らの大半は地上におり、攻略するには地球に降下しなくてはならない。だが降下するための足がかりとなる地球軌道上は連邦宇宙艦隊が常時監視していて、監視の目をかいくぐることは大変困難である。そのためまずは連邦宇宙艦隊を排除するために、コロニー1つを使って誘き出すというものだった。その際人的被害が出るとまずいから、コロニーを作戦に使用している間は住民を避難させるようだ。(コロニー丸ごと囮とは考えたものだな、ギレンよ)周りを見渡すと、小声でなにかを話している人が多い。

 

「なにか意見や反論があるものはいるか?」

 

 ギレンが問うと、恐る恐る挙手をする者がいた。

 

「恐れながら総帥、国力の差が段違いである連邦に戦争を仕掛けるのはどうかと思うのですが。それにコロニー1つ分の人数となると、場所が足らないのではないでしょうか?」

 

「ふむ、いい反論だな。資源や食料の面ではそうだろうが、軍事力の差は今では半分程度だ。それに戦いは数だけではない。質と数が合わさるからこそ、勝利へと近づける。連邦の腐った戦争理念には負けんよ。そして、場所については問題がないことは確認済だ」

 

 連邦の腐った戦争理念か、大艦巨砲主義に偏った物量過信など原作でも酷かったからな。この世界線ではどうなるのかな?

 

「それでは各自、よろしく頼む。それと新たな軍組織の辞令についてはそのうち出されるだろう」

 

 出席していた人たちが退室した後、ギレンはこちらに顔を向け……あれ、満面の笑みだぞ? 嫌な予感がするな。

 

「ドズル、お前に軍の総司令を命ずる。明日までに役職と配属についての意見をまとめた書類と就役している艦数・モビルスーツ数を提出するように」

 

 …………総司令が僕……だと? 

 

「総司令は兄貴じゃないのか?」

 

「私は国をまとめないといけないのでな。それに権力を1つに集中させすぎるのはよくないぞ」

 

 開発部長に総司令に校長などなど、僕には十分権力が集中していると思います! なんて言っても聞き入れてもらえないんだろうな。それに書類提出明日までとかきつくない? 課題多いのに提出期限1日とか意味のわからないことを言う先生みたいだな。処理能力追いつかんぞ。

 

「これは各役職のリストだ。これに当てはまる人物を選び出してくれ」

 

 彼はそう言って、紙の束を僕に渡す。

 

「ああ、分かった」

 

 今日は徹夜だな。徹夜は転生前の期末以来か。エナドリ、この世界にもないかな? 

 

 

 

 

 

 

 

 30分後・執務室

 

 リストの一番上には僕の名前が記載されている。その下に書かれているのは宇宙軍司令と地上軍司令そしてその隣の空欄2つ。その下には様々な役職名が書いてあり、めちゃくちゃ多い。はぁ、本当に面倒くさそうだ。試行錯誤しながら、作業を進めていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 10時間後

 

 

「失礼するぞ、兄貴。言われたものを作ってきた。それともう1つ。就役している艦艇数は合計で204隻。内訳はムサイが123隻、チベが58隻、ザンジバルが22隻、親父専用のグレート・デギンが1隻だ。続いてモビルスーツだが、合計で382機。内訳はヴァッフが193機、ザク1が30機、ザク2C型が112機、ザク2R1型が47機。以上だ」

 

「ふむ、ご苦労だったな。これをもとに役職を作成させてもらう」

 

「そういえば兄貴、もうすぐ大模擬戦場がソロモンとア・バオア・クーに完成する。ヴァッフはザクの下位互換であり、性能としては遅れを取っているため大部分を練習機として使いたいと思っている。大丈夫か?」

 

「ああ、あと一週間で生産を終了すると言っていたな。問題はない」

 

「了解だ。じゃあ俺はこれで」

 

 執務室を出た僕は、その足で開発局へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 開発局内の会議室には、いつもの面々とギニアスがすでに座っている。

 

「遅れてしまってすまないな。それで、話というのは?」

 

 ラースとギニアスが互いに顔を見合わせ、譲り合いを始めた。数十秒後、押し負けたギニアスが先に話し始める。

 

「閣下に開発を命じられていたモビルアーマーが完成いたしました。名前はビグロ。一撃離脱を主点においており、閣下が求めておられた性能をフルに発揮できます。武装はチベ級のメガ粒子砲より数倍上の威力を持った単装高威力メガ粒子砲を中央に1つ、8連装ミサイル・ランチャーを片側に2基ずつ搭載し、高火力を実現しております。また、モビルスーツ用ラックを4つ取り付けております。しかしビグロの速度に対応できるモビルスーツはヅダぐらいです」

 

 ふむ、よくできているな。なんか設計図見るとクローがついてるけど姿勢制御用なのか。

 

「要求通りに作ってくれたことに感謝する。だが、生産性はどうだ?」

 

「高速戦用に作ってあるため、コックピットは耐G機能をモビルスーツより高くしてあります。その分コストも掛かるので多少生産性は劣ると思われます。ただし、量産できるように簡略化も検討しておりますので、生産性についてはもう少し時間を頂きたいです」

 

「分かった。よろしく頼む。ラースの方は?」

 

「はい、ドロス級の開発が終了しました。今はソロモンの裏に係留してあります。データをご覧になられますか?」

 

 渡された紙を見ると、全長は約2キロで艦船50隻、MS200機も搭載できると記述されている。ドロス内で艦船を整備できるのはとてもありがたい。要望したのは僕だが、化け物を作ってしまったのかもしれないAHAHAHA……。対艦火力は要塞並みだが搭載能力に割りふった分、対空火力は期待できないので直衛機をつけることは必須だ。防御については申し分ないが、速力はムサイの半分程度しか出ない。主力艦隊と行動をともにすることは不可能だろう。そこを視野に入れて運用していかなければならないな。

 

「そしてもう1つ、ギレン様から要請があった、ドズル様とキシリア様の座乗艦について建造の目処が立ちましたので、開発部長であるドズル様に確認をして頂きたいのですがよろしいでしょうか」

 

 そんなこと頼んでたのか、ふーん。どーせ2人ともグワジン級でしょ、わかってますよ。

 

「構わない。見せてみろ」

 

 僕の座乗艦はザンジバル級改ワルキューレ、キシリアの座乗艦はチベ級重巡改パープル・ウィドウという名前らしい。スペック表を見ると2隻とも新規設計で作られていて、火力や推力といった基本性能だけでなく居住性等も改善されている。グワジンじゃないのね。

 

「問題はないと思うぞ。このまま建造を続けてくれ」

 

「承知いたしました。これで本日のお話は終わりました。お忙しい中お越し下さりありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1週間後

 予定より1日早く模擬戦場が完成した。そのため、訓練用に使われるヴァッフ200機をソロモンとア・バオア・クーに運び込む作業も1日繰り上げられ、2つの要塞の周りは輸送船の往来が激しくとても慌ただしい。そして肝心な僕はというと2つの士官学校の卒業式に来ていた。生徒たちはここを卒業したあと、軍属となりMS操縦や艦の運航など実際に訓練していくのである。

 

「諸君らはここを卒業し、自分達が目指す道へと進んでいく。そしてジオンを守る立派な軍人となるためにたくさんの経験を積み、様々な事を乗り越えることだろう。時には辛く投げ出したいこともあるだろうが、それを乗り越えた先にこそ成長があると俺は思う。諸君らの選んだ道に幸があることを願い、贈る言葉とする」

 

(幸なんてないがな。未来ある若者を戦場に送り出すために鍛え上げるなんて、こんな世の中はさっさと終わらせなくてはならない)

 卒業式終了後、彼らは家へと帰っていった。限りある時間の中で、家族と楽しく過ごすのだろう。

 

 

 そんなこんなで半日が過ぎようとしていたとき、新体制の軍役職が開示されたのだった。総司令はもちろん僕である。そして宇宙軍を束ねるのがマハラジャ・カーン、ジオン公国親衛軍の長をキシリア、親衛軍の中で遊撃任務に当たる独立遊撃部隊の隊長をアンリ・シュレッサーが務める。なお、アンリが就任したのは新体制確立により公国防衛隊が親衛軍に吸収されたためである。そして地上軍の司令はとりあえず空席になっていた。まだ必要ないという判断だろう。あとの細かい人事については追々話していくとしよう。

 

 

 

 

 ギレンside

 今日はいよいよサイド全体会議の日である。すでに会場には全ての代表者が集まっていた。

 

「この度はサイド3にお越し下さりありがとうございます。サイド3代表、ギレン・ザビです。本来なら余分な世間話をするところですが、時間がもったいないので最初から本題に入らせていただきます。近年、各コロニーに駐留している連邦軍による事件が数を増してきております。暴力沙汰に強姦、強制的な徴収などその事件は多岐に渡ります。しかし、この問題はほとんどが揉み消されており公にはなっていません。さらに連邦上層部は、コロニーに対する強硬政策をどんどん可決し、我々の生活は苦しくなるばかりです。そこでサイド3ジオン公国は来る0079年1月1日、連邦軍に宣戦を布告し、スペースノイド独立のため戦うことを決めました。そして皆様には表に立っていただいてともに戦っていただくのではなく、資源や資金の提供、艦艇整備のための港創設など私達を支えて頂きたいのです。各サイドには私どもの艦隊を常駐させ、戦争による被害を及ばせないことはお約束します。どうか協力願えないでしょうか」

 

 私は頭を下げ、頼み込んだ。(何人賛成してくれるかわからないが、支援を受けられなくても戦争は始まってしまう)そう思いながら顔をあげると、その場にいた全員が立ち上がり拍手を始めた。思わず脱力しそうになってしまったが、驚いたのはその後の彼らの発言であった。「出来ることは何でもしたい。困ったことがあったら言ってほしい」という彼らの発言を聞いて、思わず涙が出そうだった。その後は細かい取り決めや支援の仕方などを確認し、解散したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、時代は動き出す。



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第2章 大戦
第十八話 開戦前夜


 U.C.0078 12月31日 PM06:00

 

 ソロモン・作戦司令室

 

「サイド5[ルウム]住民全ての移動を確認。最後の輸送船が作戦宙域を離脱しました」

 

 

 開戦の場所に位置するコロニーの内部からは誰もいなくなり、静けさに包まれている。デブリ衝突による外壁の損壊により、酸素漏れのため修理が必要となったという誤情報をサイド5上層部が流し、住民をうまくサイド3へと誘導することが出来たからである。数日後にはここから数十キロの地点で戦闘が開始され、それが終わるまではここに人が戻ることはないだろう。

 

 

「よし、ドロスは作戦宙域へと発進せよ。そして第1・第2艦隊も発進の準備へと入れ!」

 

 船足の遅いドロスはMS200機とムサイ級50隻分のブロック部を載せ、主力艦隊に先行する形でソロモンを出発する手筈になっていた。

 

 

 [ドロスは主力艦隊より先行し、ルウム宙域へと向かいます。]

 

 ドロスを係留していたワイヤーが外され、艦長はエンジンを点火させた。そして、ゆっくりと艦は進んでいく。司令室のモニターでそれを確認した僕は、隣に立っているマハラジャに声を掛ける。

 

「あと数時間後には、我々もここを立つ。この戦闘の勝利の鍵は、艦隊がどれだけ連邦軍の注意を引けるかにかかっている。頼んだぞ、マハラジャ」

 

「お任せください。宇宙軍司令の名に恥じぬ戦いをご覧になれることと思います。それでは準備がありますので、私はこれで」

 

 彼は司令室を出ていく。だがこの司令室にもう1人、高官がいることを忘れてはならない。彼は椅子に座り、足を組んでモニターを見つめている。

 

「兄貴、そっちの準備は順調か?」

 

「ああ、問題ない。もう準備は終わった」

 

 ジオン公国総帥である彼がなぜここにいるのか。それはある作戦を彼が率いるからである。その作戦とは、ルナツー攻略作戦。連邦宇宙艦隊の大半がコロニー落としーブリティッシュ作戦ーを防ぐために出撃すると予想されるため、ルナツーはいくら宇宙軍司令部と言えど手薄にならざるをえなくなる。そこを突き、一気に地球降下への足掛かりを作ろうというのだ。

 

「それに、サスロとキシリアの方も準備は整ったみたいなのでな。あとは時が来るのをひたすらに待つだけである」

 

「兄弟総出だ。こんなのは初めてだな」

 

 本来宣戦布告を宣言するはずのギレンがここにいるので、本国で声明を送るのはサスロの役目だ。宣言ならソロモンでも出来るじゃないかという意見もあるだろうが、ここは人で溢れかえっている。なぜなら、4艦隊計320隻程度が集結し、作戦発動まで待機しているからである。演説を行えるほど広いスペースは存在していない。以上の理由から今回だけはサスロが行うことになったのだ。

 そしてキシリアの方はというと、宣戦布告と同時にサイド3にある全ての連邦駐屯地を強襲するという命を公国親衛軍が受けているため移動指揮車両でズム・シティにある連邦駐屯地に向かっている。ほかの部隊もすでに各地へと展開済みであるため、時間になればすぐにでも行動を開始するだろう。そんなことを考えていると、不安そうな顔をしたギレンがこちらを向いている。

 

「ドズル、MSに乗って戦場に出たとしても無理はするな。お前が死んでは元も子もない」

 

「大丈夫だ。これでも操縦技術で右に出るものはいないと言われているからな」

 

 3年前に初めてヅダに乗ってからというもの、暇を見つけては1人で訓練を重ねてきた。それは全ての国民を守り、可愛い部下を死なせないためだ。

 

「あの頃が懐かしいな。重力に耐えきれず嘔吐を繰り返していたお前が、ジオン内でトップのMS乗りになるとは.」

 

 

「その話は持ち出さないでほしいぞ、兄貴」

 

 ギレンが笑っている。それにつられ、僕も自然と笑みが溢れる。兄弟で笑い合うなんて何年ぶりだ。こんな幸せがずっと続いたらいいのにな。

 

 

 

 

 

 

 PM10:00 

 

 作戦開始までの時間が迫っている。両作戦に参加する艦隊は展開を終え、出発を待っている状態だ。僕達の艦隊はドロスにMSをすべて搭載したため、積み込み作業がなく遅延は起きていない。だが隣の第3・第4艦隊はすこし慌ただしいか。初の実戦なんだ、無理はないだろう。さて、もう1つやることをすませておくか。

 

 

 

 

 ソロモン内・第1艦船ドック

 

 ここにはザンジバル級計20隻が係留され、地球降下用MS輸送機[HLV]をルナツーまで牽引するための整備が行われている。そのためドックはほぼ埋まってしまっているのだ。ブリティッシュ作戦が終わったらすぐにでも地球攻略が始まる。それを見据えての用意だ。

 

「ザンジバルとHLVの準備はどうか?」

 

「はっ! 両方とも準備は完了しています。ご命令があればいつでも移動可能です」

 

 この降下部隊の搭載MS数は200機、さらにザンジバル級も作戦に参加させるとなると320機のMSを1度に地球に送ることが出来る計算だ。

 

 

「グフの搬入作業はどのくらい進んでいる?」

 

「60%ほどが積込を終えました」

 

「分かった。くれぐれも頼んだぞ」

 

 これで全ての準備は終わった。あとは開戦を待つのみだ。僕もマハラジャがいる旗艦ワルキューレへと戻ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 PM11:30

 

 ジャブロー内

 

 地球は夜の闇に包まれ、静寂である。南米ジャブローも例外ではなく、当直の兵士と一部の高官以外は眠りについている。連邦軍強硬派筆頭であるジーン・コリニー大将は自分のオフィスで強硬派の会合を行っていた。彼のオフィスは司令部棟3階の奥に位置しており、普段は階下の喧騒など聞こえない。だが深夜であることが幸いし、廊下を走って近づいてくる部下の足音にいち早く気づいたのだった。椅子から立ち上がりドアに近づいた彼は大声で、声を発する。

 

 

「こんな時間に何事か!」

 

「コリニー閣下、大変です! サイド3に潜伏している諜報員からの情報で、取り急ぎご報告をと思いまして、走ってきた次第です」

 

「どうしたと言うのだ」

 

「ジオンがコロニーをここに落とすとのことであります!」

 

「な……なんだと」

 

 席に座っていた他の高官も慌てて立ち上がる。

 

「緊急警報だ! 寝ている者は叩き起こせ! ルナツーのレビルに連絡、なにがなんでも阻止しろ!」

 

「はっ!」

 

 数刻後、ジャブロー全体に警報が鳴り響く。忙しく人が動き、主要な軍メンバーは会議室へと集まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 AM0:00

 

 そして眠れる獅子が連邦に牙を向く

 

 

 

 



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第十九話 宣戦布告と作戦開始

今回は前回より短めです。


 UC 0079 1月1日 AM0:00

 

「地球連邦に告ぐ。本日1月1日、ジオン公国はスペースノイド独立のため地球連邦に宣戦を布告する。スペースノイド独立を認め、すべてのサイドの自治権を承認せよ。さもなくば、地球連邦は滅びることになるだろう」

 

 この放送は地球全土に向け放送され、深夜の各連邦基地は大混乱であった。そして時を同じくして、ルナツーでは大艦隊が発進を待っていた。ブリティッシュ作戦を迎撃するため、総艦艇の約8割240隻ほどがルナツー宙域に集結し、その光景はまさに異様である。

 

 

 [ティアンム君、あれが落ちたら地球環境は荒廃してしまうだろう。それだけは防がなくてはならない。頼んだぞ。]

 

「しかしながら果たして間に合うでしょうか? ここからルウム宙域まで3日半はかかります。それまでにジオンがコロニーに到達したら。」

 

 [その時はその時だ。最善を尽くすしかあるまい。]

 

「そうですな。この連邦艦隊が負けることはないでしょうし。お任せください。この艦の能力も証明して見せます」

 

 ティアンムは通信を終了する。彼が乗るバーミンガム級タイタンは艦隊の中ほどに位置していた。連邦の最新技術を詰めこんだこの艦は各宇宙艦隊の旗艦として合計5隻が就役している。そのうちレビルのアナンケとタイタンを除いた3隻がジオン艦隊迎撃のために、急遽ジャブローより打ち上げられた。

 

「レビル将軍の前では大口を叩きましたが、この戦い、果たして勝てますかな」

 

 そう独り言を発し、彼はブリッジへと上がっていった。

 

 

「全艦、発進せよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ソロモン・旗艦ワルキューレ

 

「戦争の火蓋は切られた。ここから先は命をかけた戦いが始まる。この戦争の目的は故郷で待っている人達が弾圧されず蔑まれる事がない世界を実現させる事だ。この作戦を成功させ一刻も早く、連邦を降伏させられるように皆全力を尽くしてほしい。だが、いちばん大切なのは自分の命である。命が失くなれば、いくらこの世界が平和になろうとも意味はない。刺し違えようという気持ちは起こすな。必ず生きて作戦を成功させろ! ジーク・ジオン!」

 

 ワルキューレの通信機能は普通のザンジバルよりも強化されており、画質もきれいだ。原作で有名なギレンの演説に真似をして、僕は片手を突き上げる。

 

「ジーク・ジオン! ジーク・ジオン!」

 

 この光景、何回もテレビで見た光景だ。

 

「出撃する。全艦エンジン始動、発進だ!」

 

 高揚感に包まれつつ、号令をかける。数刻後、ワルキューレを先頭にして僕の率いる艦隊はソロモンから離れていく。ほぼ同時刻、ギレン艦隊もルナツーへ向けて出撃し宇宙軍総出の作戦が始まった。

 さて、ここからルウムまで3日だ。内訳としては先行しているドロスに追いつくまで丸1日かかり、足並みを揃えてルウムまで着くのが2日かかるという計算だ。だが、いくらゆっくり見積もってもルナツーからの艦隊よりは先に着けるはず。すでにドロス内でMSの装備の点検などは行っているはずだから、すぐにでも戦闘に突入できる。

 

「連邦はどのくらいで到着しますかな。私達よりも先に着くことはないと思いますが、彼らの到着が遅ければ遅いほど私達はゆっくりと準備できますから」

 

「そうだな、ルナツーからだと遅くても4日にはルウムに到着するだろうな。あとはどれだけ戦力を削げるかだ。兄貴に迷惑をかけるわけにはいかん」

 

「あちらは大丈夫でしょう。士官学校7期主席のガトー少尉を始め、数々の優秀なメンバーがあちらに配属されておりますゆえ。そういえば、ギレン様繋がりですがギレン様のご親友のシリウス・マイ殿はこの艦隊所属でしたな。私が言うのは恐れ多いですが、彼はとても温厚な性格で、必ずやジオンを支えてくれる優秀な将官になるでしょう」

 

「シリウスさんか……小さい頃から俺だけでなくキシリアやガルマの面倒をみてくれていた方だ。俺にとっては叔父のような人でな。あの人には、とても世話になった。最近は会えていなかったが、この作戦が終わったらゆっくり話をしたいものだ」

 

 シリウス・マイはMSイグルーのオリヴァー・マイの父だ。とても優しい性格で面倒見のいいおじさんといった印象だな。ドズルの記憶にあるだけなので、僕は会ったことはない。資料に目を通したとき、強化型ムサイの1番艦に乗っていると記載があったはずだ。装甲と通信機能強化を軸として改良された強化型ムサイは、マゼランの主砲であっても簡単にやられることはない。将官クラスに与えられた特殊な巡洋艦だ。ふと時計を見ると出航から1時間が経過していた。

 

「1時か……もうそろそろキシリアの方は佳境を迎えた頃だろうか」

 

 

 

 

 

 

 AM0:46 サイド3ズム・シティ

 

「よし、司令部を一気に押さえる! 第1小隊は右から、第2小隊は左から突入せよ」

 

 市街地郊外にある連邦駐屯地内は、まさに駐在連邦兵からすれば地獄絵図といっても過言ではないだろう。皆が寝静まっている深夜に宣戦布告が発表された影響で、彼らは上官に叩き起こされ広場で臨時召集がかけられた。地獄絵図になっているのは皆が集まり集会が始まった直後に、戦車の砲弾が広場を直撃したからである。先程まで喋っていた隣の仲間が、一瞬で吹き飛ばされ息絶える。これまで人の死に直面したことがなかった彼らは、仲間を弔う暇もなく次々と降り注ぐミサイルを避けながら銃を構え、なだれ込んでくるジオン兵を迎え撃とうとする。しかしまともに対人戦闘訓練を受けていない駐在兵が、練度の高いジオン兵に勝るわけはなく次々と凶弾を受け倒れていくのだった。一方キシリアは的確に部下へ指示を出し、15分も経たないうちに司令部へと到達した。そして数分でサイド3駐屯地司令部を制圧するのだった。他のコロニーでも終始ジオン側が圧倒し、やがてサイド3駐屯地は全て壊滅した。



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第二十話 ルウム戦①

今回少し他作品ネタが入っています。

それと深夜に書き上げたので、不自然なところがありましたら随時直していきます。すみません


 1月2日 AM1:00

 

 ソロモンを離れて1日、着々と戦闘は迫ってきている。艦内は緊張感が増し、異様な静けさに包まれていた。僕も例外ではなく、艦内の空気にあてられ、寝つくことはできなかった。

 

 [ドズル様、ドロスをレーダーで捉えました。ブリッジまでお願いします。]

 

 やがて部屋の通信機が鳴り、僕はベッドから起き上がる。

 

「すぐに行く」

 

 通信を終了し、軍服に着替えてから部屋を出る。

 

 

 ワルキューレ・ブリッジ

 

 今は夜中だ。戦闘態勢でもないためブリッジは最低限の人数しかいない。マハラジャは僕と交代で休息をとるため、今はブリッジにいる。

 

「おはようございます、閣下。ドロスに追いつくまで10分程度だと思われます、もうそろそろ準備をお願いします」

 

 艦長席から立ち上がったマハラジャは、こちらに歩み寄る。

 

「マハラジャ、こちらの指揮は任せたぞ。指揮は出発前の会議通りに頼む」

 

「お任せください。閣下こそ、ご無事の帰還を」

 

 僕の目を真っ直ぐ見据えた彼の目は不安に満ちていた。宇宙軍司令の立場というよりは、副官として数年共に過ごしてきた過程で生じた信頼から来たものだろう。

 

「大丈夫だ。総司令として死ぬわけにはいかんからな。それに信頼する上司がいなくなったら、士気に関わるだろ? なあ、マハラジャ」

 

 僕が笑っておどけると、彼も安心したように微笑んだ。

 

「娘も心配しておりますゆえ、本当にご無事で帰ってきてください。そうでないと、娘に怒られてしまいますので」

 

「ハマーンか…最近はマハラジャの家に遊びに行っても口もきいてくれないが、心配してくれているのか?」

 

「もちろんですよ。なにしろ娘は…」

 

 マハラジャの言葉を遮るように、オペレーターが告げる。

 

「ドロスと接舷まであと5分です」

 

「さっきの話の続きだが……」

 

「いえ、なんでもありません。お気になさらず」

 

「そうか。では俺は、ドロスに移るとしよう」

 

 数分後にはワルキューレは接舷し、俺は自分の機体が載っているドロスへと移ったのだった。

 

 

 

 AM8:00

 

 翌朝(といっても宇宙なのであまり実感はないが)件の戦闘に向けて戦略を確認するため、僕は彼らを召集した。

 

 [教導大隊各隊長はブリーフィングルームへ集合せよ。繰り返す、各隊長はブリーフィングルームへ。]

 

 数分後、5人が部屋へと入ってくる。ゲラート・シュマイザー、シュタイナー・ハーディ、ダグ・シュナイド、ノリス・パッカード、ヘンリー・ブーンと原作でも名の知れた彼らであるが、この世界線では戦前は教官としてMS訓練を担っており、新兵の育成に尽力していた。開戦が決まってからは教官だけに少佐以上の階級が与えられ、隊長として隊を率いることになった。

 ちなみに教導大隊という名前はMS訓練の際に使っていた名称の名残で、今回の作戦ではあの時と全く同じ隊編成なので使わせてもらっている。1大隊につき40機を基本とし、5大隊である。もっとも、戦闘に臨む戦力としては少なすぎる数だがギレンが1200機ほど持っていってしまっているし、今回は艦隊の方にもあまりMSを積んでいないから仕方がない。僕は彼らが着席したのを確認すると、ある端末を机の中心に置く。

 

「朝早くに呼び出してすまないな。これは偵察部隊からの映像だ。遠距離偵察班によると連邦艦隊は前衛・中衛・後衛の3つの隊に別れ、侵攻してきている。前衛にはサラミス級を中心とした機動部隊、後衛はコロンブス級などの航宙機を搭載した空母が多数、そして中衛に新型戦艦4隻を中心とした打撃部隊という配置だ。これはおおよそ予定通りで、戦略に支障はない。ただし新型戦艦の性能は未知数だ。考えたくはないが艦隊が甚大な被害を受けることも想定しておかなければいけないだろう。そのため、君たちの優先目標をこの戦艦に変更する」

 

 彼らは黙って頷く。新兵の育成を長年担当してきた彼らはすでに貫禄があり、頼れる存在だ。

 

「ゲラート、シュタイナー、ヘンリーの隊は俺の後に続いて先に前衛艦隊を攻撃。その後、中衛艦隊へと移動する。ダグとノリスは後衛艦隊を壊滅させ、中衛艦隊の後方から強襲せよ」

 

 再び彼らが頷く。

 

「まずマハラジャが前衛と交戦に入る。それと同時にビグロを後衛に放つ。これは、航宙機を発艦させる前に空母を叩くためだ。その後、俺たちが頭上から襲いかかる」

 

「そこまでは分かりました。そこで質問なのですが、彼らが転進または撤退する際は追撃は許可していただけますかな?」

 

 そう話すのはゲラート中佐だ。普段は冷静沈着だが、模擬戦など実戦に近い訓練になると話は別だ。何と表現すればいいのか分からんが、とりあえず好戦的と言っておこう。

 

「追撃する必要はない。どうせ彼らに帰る場所などないからな。だが、1度戦闘に入ればあとは混戦だ。俺は把握しきれないだろう」

 

 彼らがルナツーに着く頃には、陥落しているだろうからな。深追いしなくても勝手に絶望してくれるだろう。

 

「ご配慮感謝いたします」

 

「だが無茶はするな。お前の機体はすこし古い設計だ。無茶をすれば損壊する可能性もある」

 

 彼が駆るのはおもに訓練用として配備されているヴァッフだ。型式が古く、予備部品も少ない。さらに、独自のチューンをしているため1度破壊されたら修復に手間が掛かる。

 

「分かっております」

 

「他の皆も自由に暴れていい。だが、部下に迷惑は掛けるな。話は以上だ。それでは戦闘が始まるまで、ゆっくり休んでくれ。呼び出してしまってすまなかった」

 

 

 

 

 解散後、ヅダがある格納庫を訪れるとラースがなにやら部下と作業を行っていた。

 

 

「ラース、ヅダの整備は万全だな?」

 

「ええ、もちろんです。それで、ビグロについてですが発進はどのタイミングで行いますか?」

 

「そうだな、連邦艦隊が我々の射程に入る直前ぐらいか。大きく回り込んで後ろに肉薄する必要があるからな」

 

「分かりました。ケリィとトクワンには伝えておきます」

 

「頼んだぞ。彼らがいかに速く空母を落とせるかによって、新兵たちの負担が変わってくる」

 

 ラースは小走りで、格納庫から出ていく。僕は自分のヅダに目線を移し、しばらく眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 1月3日 AM0:18

 

 ドロス含め全ての艦が作戦宙域に到着した。少し遅れは出たものの連邦がまだいないのは幸いだ。しばらく太陽は惑星の影に隠れ、辺りは暗闇になる。

 

「低電力モードに移行。通信機能以外は全てダウンだ。太陽が当たらない闇夜に紛れる。作戦開始までパイロットは各自のMSで待機」

 

 ドロスは艦隊の後方3キロの地点で停止し、パイロットは全員各自のMSに乗り込んだ。僕もヅダに乗り込み、その時を待つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 連邦艦隊旗艦タイタン

 

「ジオンの艦隊編成はまだ分からんのか?[ルウム]まで半日なんだぞ!」

 

「索敵機を飛ばしていますが未だ連絡はなく……」

 

 くっ、こんだけ探しているのに見つからないとは奴らどういうルートを通っているのだ? 

 

「索敵は継続しろ。CICは何かあったら報告を!」

 

(まさか、コロニー落とし自体が嘘ということはあるまいな。だがコロニーでも落とさない限りジャブローは落とせないぞ)

 

 PM1:30

 

「まもなく[ルウム]宙域に到着いたします、提督」

 

「うむ、結局奴らは見つからず……か」

 

「そうですな、まあスペースノイドの糞どもが考えた嘘に乗せられた形ですか」

 

「そういうな、副長。奴らだって無知ではあるまい。なにか裏があるのかもしれん。周囲の警戒を怠るな」

 

「CICより連絡! 前方にデブリ帯とのこと!」

 

(デブリ帯? この辺は事故なども起こってないはずだぞ。っ! ……まさか)

 

 とっさに前方を見たティアンムは恐怖した。なぜなら前方の暗黒から姿を現した奴らの影はとても多く、とても国力の差が大きいとは思えないものだったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ワルキューレ・ブリッジ

 

「全艦、エンジン始動! ミノフスキー粒子高濃度散布。準備が整った艦より砲撃を開始せよ!」

 

(閣下の作戦通りだ。熱源を絶つことで連邦の索敵網に引っ掛からず、奴らはまんまと我々の射程距離に入ってきた。そして彼らの射程ではまだ我々には届かない)

 

「メガ粒子砲撃て!」

 

 ワルキューレから放たれた複数の光跡は、一番先頭を航行していたサラミス級の横腹を抉り取って通り過ぎていった。その後を追うようにして、先程とは比べ物にならないほどの光跡が雨のように連邦艦隊へと降り注ぐ。中には弾薬庫に直撃し一撃で沈むサラミス級もあったが、多くは軽く表面を抉るだけでそこまでの被害は与えられていない。しかし、それも作戦のうちである。

 

(まだ沈まれちゃ困る。これからが本番だ)

 

 

 

 僕が考え事をしながらヅダで待機していると、ブリッジから光が断続的に見え始めたと報告が入った。

 

(始まったようだな、さて行こうか) 

 

 通信機のスイッチを入れ、この艦の全てのMSに通信を始める。

 

「全機、発艦する。俺に続け。ドズル・ザビ、ヅダ出るぞ」

 

 MSハンガーを離れ、発進口から一番乗りで漆黒の宇宙へと飛び出す。後ろから彼らが付いてくるのを確認し、ペダルを踏み込む。向かう先は前方に見える戦だ。奴らはまだ知らない、この後どのような結果になるのかを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 [まだ射程距離じゃないです!][…………早く撃てよ!][……あんな奴らに……]

 

「艦長、前線は混乱しているようです」

 

「まだセイバーフィッシュの発進命令は来ないのか?」

 

「ちょっと待ってください! ……来ました、全機発進せよとの事です」

 

 

「よし、格納庫開け! 全機、前線の支援に当たれ!」

 

「レーダーに反応! 3時、9時より高速で接近する反応あり……ですが航宙機の速度ではありません! 未知の反応です……」

 

「構わん、今は発進を優先しろ!」

 

 

 

 

 後衛艦隊へと高速で接近する機影が2つ。戦闘開始直前にドロスから放たれた2機の猟犬は互いに大きく弧を描きながら移動し、戦闘開始直後に後衛艦隊の左右へとたどり着いた。そして、鋭利な牙で獲物へと噛み付いていく。ビグロのパイロット、ケリィ・レズナーは笑みを浮かべ、モニターに映る獲物を射程に入れた。

 

「連邦の訓練では横1列に並ぶなとは習わないのか? MAの戦い方、教えてやる!」

 

 ビグロの先端に位置する砲口カバーが開き、戦艦と同格の砲口が姿を現した。

 

「メガ粒子砲最大出力、発射!」

 

 砲口から放たれる最大火力の光芒は、発艦を急ぐコロンブス級の横腹を目掛け向かっていく。分類としては補給艦である同級の装甲はとても貧弱で、熱によってあっという間に融解しあえなく貫通を許した。1隻目を容易く貫通した光芒は、さらに不幸なことに横並びで位置していた隣の艦の装甲をも溶かしきり、3隻目、4隻目と次第に減衰しながらも、最終的に1機目を射出し終えたばかりの5隻目まで溶かしきったのだった。そして、同じことが艦隊を挟んだ反対側でも起こり、連邦宇宙軍の精鋭航宙隊は一機の発進以外許されず母艦と共に宇宙へと破片をばらまいた。

 

「逃がすかよ、子ネズミが!」

 

 コロンブス級から発進できた唯一のセイバーフィッシュは、命令通り前衛艦隊の支援へと向かおうとしていた。だが、その任務は果たされることなく終わる。ケリィが最高速度であっという間に追い付き、クローを使って文字通り粉砕したからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ、副長。艦隊損耗率は?」

 

 前衛艦隊の指揮を執るサラミス級のブリッジでは断続的な揺れが続き、艦長は焦りを見せていた。

 

「20%を超えました。ですが、前衛艦隊の中でも後方に位置する艦はジオンからも射程外のようで被害は受けておりません。まだ、大丈夫かと……」

 

 その時、ブリッジの後方の船窓から見えるサラミスの1隻が火を吹き始める。

 

「さ、36番艦が被弾!」

 

 先程の二人のやり取りを聞いていたレーダー手は、目の前の窓から見えた光景とモニターの情報が一致したことに驚きを隠せず絶句した。

 

「副長! どういうことだ!」

 

「ちょっと待ってください! …………CICより連絡、頭上よりなにかが来ます!」

 

 その言葉を受けブリッジのクルー全員が窓の外に目を向けると、確かに頭上からなにかのバーニアの炎が見えていた。だが、それはとても数えきれる数ではなかった。それを見たクルーは、冷や汗をかき、鳥肌が全身を覆うのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 連邦艦隊へと向かって下っていく部下たちを眺めながら、僕はある言葉を口にした。

 

「物量を過信する愚か者よ。力は力によって滅ぼされると知れ!」



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第二十一話 ルウム戦②

資格勉強をしていたため更新が遅くなりました。すみません。


「物量を過信する愚か者よ。力は力によって滅ぼされると知れ!」

 

 先に降下していった部下達を追って、ペダルを強く踏み込み眼下に展開している連邦艦隊へ一気に接近していく。ミノフスキー粒子の散布によって、連邦軍お得意の対空火器管制システムは意味をなさず、貧弱な対空放火は容易く回避できた。右手にバズーカを構え、照準をサラミス級のブリッジへ定めると、僕は引き金を引いた。そのまま勢いを殺さず着弾と同時に艦隊の間を通り抜けると急旋回し、今度は下からエンジンを狙って2発を撃ち込む。数秒後、サラミスは破片を撒き散らしながら爆発した。

 

「巡洋艦1隻に3発か……もっと効率的にやらんと弾薬がいくつあっても足らんな」

 

 装備しているバズーカの予備弾倉は3つ。ひとつの弾倉につき装填数は3発だから単純計算で撃沈できるサラミスはあと3隻……

(あとでもう少し武装ラックを増やしてもらおう)

 次に狙うは前衛艦隊中央に位置する旗艦とおぼしきサラミス級。再びペダルにかけた足に力を込め、艦隊の間を縫うように抜けていく。

 

「狙うは弾薬庫とエンジンのみ!」

 

 両手構えで狙いを定めると、船体側面のミサイル発射管周辺に向け引き金を引く。いくら弾速が遅いと言えど、艦船相手なら問題はない。弾はしっかりと命中し艦前方で大きな爆発を起こした。さらに後方のエンジンブロックへと弾をぶちこめば、あっという間に沈められる。その場を離れ、中衛艦隊へ向け機体を進めていると、一機のザクが接触回線で呼び掛けてくる。

 

 [ドズル閣下、自分の予備弾倉を使ってください。]

 

「シャアか。お前は初陣だ。ここで戦果をあげないと何も始まらんぞ。しっかり暴れまわれ」

 

 [すみません、配慮ありがとうございます。それでは失礼します。]

 

(いくら弾倉を変えながらで速度を落としてていたとはいえ、このヅダに追い付けるとはな)

 

 シャアの潜在能力に恐怖しつつ、僕は機体を駆り艦隊の間を抜けていく。

 

 

 

 

 前衛艦隊より後方1キロ地点

 バーミンガム級4番艦「ドラッグ」

 

 連邦宇宙軍第4艦隊司令ジャミトフ・ハイマン大佐は、前方で繰り広げられている前衛艦隊の醜態を見て憤りを隠せなかった。それはブリッジにいる誰もが感じていた。だが直後に入ってきたコロンブス級壊滅の報を聞き、ジャミトフはかすかに笑みを浮かべ、それを見たブリッジ要員は恐怖するしかなかった。

 

「スペースノイド如きに勝てぬ奴らは、ゴミ以下だ。もう生きている価値はない。そのまま宇宙のゴミとなるがいい」

 

「……」

 

 ブリッジが静まり返る中、彼は指示を出した。

 

「私が直接出る。エンジン全開並びに戦闘用意。ゴミを掃除する時間だ」

 

「はっ! ドラッグ、前に出ます」

 

「大艦巨砲主義の真髄であるバーミンガムの恐ろしさを見せつけてやろうではないか」

 

 ゆっくりと前進を始めたドラッグは段々と加速し、前方の戦場へと進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

「マハラジャ司令、レーダーに反応ありました! 新型戦艦の一隻が動き出した模様です」

 

「分かった、そのまま警戒を続けてくれ。こちらの被害の状況は?」

 

「ムサイ4隻が撃沈され、少なからず被害を受けた艦は被弾したブロックをパージし、後続のムサイと交代しています」

 

「そうか、分かった。後はドズル閣下率いるMS隊がやってくれるだろう。我々は支援を主体に動く!」

 

「新型戦艦周辺より高熱反応! ……これは!」

 

 その時、ワルキューレのブリッジが閃光に包まれた。数刻後、ブリッジを衝撃と爆発音が襲う。

 

「隣を航行していたムサイ強化型が轟沈! 敵艦主砲による攻撃と思われます……」

 

「マゼラン級と互角以上に戦えるように再設計された強化型が一撃で……」

 

 ブリッジはざわめきに包まれる。

 

(あの船にはシリウス中佐が乗っておられたはずだ……しかし、これ以上被害が広がる前に射程外に後退するしかないか)

 

 感情を押し殺し、マハラジャは素早く指示を出す。

 

「回避運動を開始! 砲撃は続けながら、敵艦の射程外へと後退する!」

 

 MS隊による撹乱の効果でジオン艦隊への砲撃は弱まっていたものの、敵を目前に舷側を向けるのは普通なら自殺行為だ。だが、こちらの射程外な以上、後退して砲撃を躱すしかない。マハラジャは唇を噛むしかなかった。

 

 

 

 

 

 連邦前衛艦隊の間を抜けていた僕は、太い桃色の閃光を視界の左端に捉え足を止めた。

 

「今の砲撃、バーミンガム級からか! あんなもの乱発されたら、艦隊なんて全滅だぞ!」

 

 その時悪寒を感じ、身震いが止まらなくなる。

 

「なんだこの感じ……!」

 

 直感的にシリウスさんの事が頭をよぎり、後方のジオン艦隊を振り向くと、一隻のムサイが爆発するのが見えた。

 

「強化型ムサイ。やはりシリウスさんの艦か!」

 

 この艦隊に配備されている強化型ムサイは宇宙軍参謀を務める彼だけに与えられている。唯一の艦が撃沈されたということはそういうことだろう。僕は怒りと憎しみが渦を巻くのを感じながら、閃光を発した主に向けて急速に機体を進める。

 

「バーミンガム級、ここで沈めなかったら必ず災いとなるだろう。この場で地獄を見せてくれるわ!」

 

 バズーカを舷側に向け引き金を引く。放たれた弾頭はまっすぐ進んでいきバーミンガム級の前方側面に連続して直撃した。だが完全に装甲を剥がすことは出来ず、たいした被害は受けていなそうだ。対空砲火を避け、弾倉を変えながら艦艇の上側から主砲3基に狙いを定めて、引き金を引いた。放った弾頭はすべて命中したが、破壊できたのは2基のみ。

 

「新造戦艦だけあって本当に硬い! だが」

 

 通信機になにか通信が入ってきている。怒りで周りが見えなくなっていたが、この通信のおかげで冷静になることが出来た。

 

 [第4艦隊司令、ジャミトフだ。くだらない戦闘はやめて投降せよ。貴様らスペースノイド如きが我々地球連邦に勝てるわけがなかろう]

 

 スペースノイド如きか。スペースノイドを軽視する奴にはテコ入れが必要だな。

 

「こちらはジオン軍総司令、ドズル・ザビである。貴官らの指示に従うつもりはない。その固まりきった思想ごと叩き斬ってくれるわ!」

 

 弾薬切れのバズーカを捨てて、バックパックに取り付けてある大型ヒートホークに持ち替える。身の丈と同じ大きさのこの大斧には推進機が付いていて、ラースによるとズダの推力と合わせれば絶大な破壊力を手にするらしい。バーミンガムの船体を踏み台にして一気に艦橋構造物へと近づいた僕は、両手でヒートホークを振りかぶった。推進機を起動し、下部にある艦橋めがけて横薙ぎに一閃する。続けて大きく上に振りかぶり、司令艦橋めがけ唐竹割りのように振り下ろす。そのまま艦橋構造物の根本辺りまで刃は進み、やがて止まった。破孔からヒートホークを抜き、一度船体から距離を取る。指令系統が完全に沈黙したことで、艦全体の動きも止まったみたいだ。

 

 [ドズル様!]

 

「ゲラートか、どうした?」

 

 [前衛艦隊があらかた片付いたので中衛艦隊へと向かっていたところ、戦闘をしているドズル様を見かけたので駆けつけた次第です。]

 

「ちょうど良かった。部下たちにバーミンガムには5機以上で対処することを徹底してくれ。装甲が硬い上に火力も高い。俺が行動不能にさせるから、そこを叩いてくれ。頼んだぞ」

 

 [承知しました。]

 

「それと、俺が今行動不能にさせたこいつは、曳航して本国の開発局に持っていく。だからこれ以上損傷させないように頼む」

 

 [分かりました]

 

 その時、船体の下部から脱出艇が2機出現する。彼らは中衛艦隊の方へ向かって進もうとしていたようだ。ナントカっていう司令も艦橋ごと斬ったし、僕は見逃すつもりでいたのだが隣にいたゲラート君が、マシンガンの銃口を向けあっという間に撃破してしまった。

 

「…さて本隊の討伐へと向かうか。ヘンリーとシュタイナーにもさっきのことを伝えといてくれ」

 

 [了解です。]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ティアンム提督、ドラッグが撃沈されました。我が艦隊損耗率は6割を突破。ジオンはそのままこちらへとやってきます……いや一機だけ異様に速い!? 先頭のマゼラン級の防衛システムが追い付きません!」

 

「なんとしても落とせ! 中核まで侵入させるな!」

 

「だめです、2隻やられました! 奴はあと10秒ほどでここまで……」

 

「くっ、仕方ない。撤退の準備だ。砲撃をしながら転進する。この状況では勝ち目はない。損害を出来るだけ抑えて反抗の時を狙う。全艦に通達を!」

 

 

 

 

 

 艦隊の中心で一際目立つ艦……あれがタイタンか。ティアンムはレビル派だ。無理に殺る必要はない。狙うは両翼のバーミンガムのみ

 

「悪いがバズーカが弾切れだ。一撃で行動不能にさせてもらう」

 

 1隻目はすれ違いざまに艦橋を一閃する。ヅダのスピードとヒートホークの推進機が合わさり、艦橋構造物の上部ごと刎ね飛ばす。そのまま大きく弧を描きタイタンの右へと反転した僕の機体は、後方からもう1隻の船体を切りつける。相手の弾幕は厚いが、なにか違和感がある。何かを狙っているような周囲からの砲撃を掻い潜りつつ、一度連邦艦隊の上部へと抜け下を見ると、各艦が左に舵を切り始めていた。

 

「退却か。前衛艦隊は半数が沈み、後衛艦隊はほぼ壊滅状態。適切な判断だ。ではプランBへと移るとしよう」

 

 プランB それは連邦が撤退を開始した際に発動されるもう一つの作戦であり、撃沈優先のプランAと違い継戦能力を奪うことを優先する。少しでもルナツー攻略部隊の負担を減らすため、主力である中衛艦隊の武装を集中して破壊するのだ。そして深追いはせずある程度でこちらも引くことになっている。

 

 すでに各隊長は部下に指示を出したようだ。散らばっていた200機が集結しつつある。一方の連邦艦隊は対空砲火を続けながら、2/3程が回頭を終え速力を最大にしてこの場を離脱しようとしていた。僕は対空機銃を優先して壊そうと、降下を開始する。自分自身の成果はどうでもいいが、ここもルナツー攻略部隊にも初陣である新兵しかいない。濃密な対空砲火の中で全てを避けながら、目標を達成するのは難しいだろう。彼らの危険は少しでも排除しておかなければ.

 

「連邦に新兵を殺させる訳にはいかないんでな、やらせて貰う!」

 

 ザクマシンガンを右手に持ち、マゼラン級の対空機銃に照準を合わせる。連続して引き金を引き、複数の機銃を一気に潰していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 30分程経過し周りの状況を確認した僕は、照明弾をあげ攻撃を止める合図を出す。それを確認した新兵達は反転し、ドロスやジオン艦隊の方角へと戻っていく。僕もそれに続き、ワルキューレへの帰途についた。

 

 

 

 

 

「モビルスーツ撤退していきます。我々の損耗率は80%を突破しました。追撃はないようですが、一応警戒しておきます」

 

 タイタンのブリッジ内はあちこちで火花が散り、船内では火災が複数確認されていた。ティアンム自身も負傷し、部下に支えられている状況だ。

 

「ジオンめ……ルナツーに戻り修理が終わったら、必ず部下の仇を取る。待っていろ」

 

 彼らはまだ知らない。帰るはずだったルナツーが戦場になっているということを……

 

 

 

 

 

 

 

 

「着艦する、格納庫を開けてくれ」

 

 ワルキューレの格納庫へと帰投した僕は早足でブリッジへと向かった。一歩踏み入れると、ブリッジ内はとても戦闘に勝利したとは思えないほど重い空気に包まれていた。

 

「マハラジャ、艦隊の指揮ご苦労だった」

 

「お帰りなさいませ、ドズル様」

 

 顔には出していないが、彼も心に傷を負っているはずだ。目の前で味方の船が四散した、それだけで新兵や戦闘を経験したことがない者にとっては精神に異常をきたしてもおかしくないだろう。

 

 

「皆も落ち込むな。戦場に死は付きものだ。散っていった同胞や連邦の勇敢な兵士に対し黙祷を捧げる。黙祷!」

 

 ブリッジ内の全員が前方の戦場へ黙祷を行う。

 僕だってドズルに憑依してから会ったことはないとはいえ、ドズル自身は親密な関係を築いていた。それに起因するかは分からないが、家族を失った気持ちだ。それでも指揮官として動揺するわけにはいかない。

 

「こちらの被害を早急に確認し、修理が終わり次第ルナツーに向かう。それまで戦闘要員は休息をとれ」

 

「ドズル様、この後はルナツー攻略部隊と合流するのですか?」

 

「そうだ、兄上にはルナツー攻略が終わった後の作戦がもう決まっているらしい。ガルマもその時のために準備している。ただ、俺達がつく頃には戦闘は終わっているはずだ。万一戦闘が継続していても俺一人で出る。マハラジャ達は後方で戦闘が終わるのを待て。それまでは君もゆっくり休んでくれ」

 

「分かりました」

 

 僕も少し休むとしよう。さすがにあれだけのGが掛かると少しきつい。これからは少し自制しよう。まだまだ忙しい時は続くぞ。

 



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第二十二話 ルナツー攻略戦

皆様、明けましておめでとうございます。正月を挟んだらとても拙い文章になってしまいました…


 ギレンside

 

 ルナツー宙域へと足を踏み入れつつあるギレン率いる第3・第4艦隊は、長距離索敵部隊を出撃させルナツー付近の状況を調査していた。

 

「ザクフリッパー隊より通信。連邦艦隊は要塞の外に展開。総数は確認できるだけで約60隻。ルウム艦隊の撤退を考慮して総数は100隻前後かと思われます」

 

 私は通信機を持ち、席を立った。

 

「ふむ、それではルナツー攻略を始めようではないか」

 

 一度深呼吸をして、マイクを持ち直した。

 

「この基地を押さえることはジャブローを押さえるにあたりとても重要な意味を持ってくる。皆頑張って欲しい。ジーク・ジオン!」

 

 拳を高々と掲げる。そして通信を終えると、私は副官に指示を出す。

 

「Aプランでいく。MS隊は全て発進。艦隊は後方から援護射撃を行う。各艦、戦闘配置だ」

 

 

「はっ! MS隊は2つの隊に別れ、要塞前面に展開している連邦艦隊を攻撃せよ!」

 

 初めてにしては良い指揮であるな。この分なら私は座っているだけでも良さそうだ。

 

「ここにはレビルがいる。うまく接触できればいいが……」

 

 私は誰にも聞こえないように呟いた。

 

 

 

 ルナツー 連邦艦隊 

 

 ティアンムを送り出したルナツー残留艦隊は基地前面に展開し戦闘準備を整えていたものの、実際にジオン艦隊が攻めてくるとは夢にも思っていなかった。各艦の中ではトランプなどの娯楽を楽しむ者、睡眠をとる者などがほとんどで実際に戦闘準備を整えている艦はレビルの直接の指揮下にあった数隻のみであった。そんな中、アナンケのレーダーが、ルナツーに高速で接近してくる反応を捉える。

 

「レーダーに反応あり! 高速で近づく熱源が100、200.数えられるだけで800の熱源を確認! ミノフスキー粒子が高濃度散布されており、統制精密射撃は不能」

 

「窮鼠猫を噛む。…か。噛まれたな、思いっきり。各艦戦闘準備は整っているはずだ。砲撃を開始させよ」

 

 

 [敵の襲撃を確認。各艦砲撃を開始せよ。繰り返す。]

 

 アナンケから全艦に通信がなされた。だが突然の襲撃ということに加え、配置についている者は少なく実際に砲撃が開始されたのは、レーダーに熱源を捉えてから3分ほど経ってからであった。その頃にはジオンのMS隊は連邦艦隊からわずか2キロという位置まで接近しており、とても迎撃が間に合うとは思えなかった。

 

 

 

 

 

 

 アルマン少尉side

 

 [全機、目標を捉え次第攻撃を許可する。但し、要塞を傷つけることはできるだけ避けろ。]

 

 MS隊を率いるのはノイエン・ビッター少将だ。彼は将校でありながら自らザクを駆り、我々新兵を鼓舞してくれている。しかしここにいるビッター少将を含めMS隊は全員が初陣であり、皆が緊張と高揚感に包まれている。そんな中、旗艦グワジンから戦闘開始の命令が下り、僕達は前方に展開する連邦艦隊へと機体を進め始めた。既にミノフスキー粒子は戦闘濃度で散布されており、かの有名な連邦の精密射撃は意味をなしてはいない。

 

「ジオンは必ず勝つ! 僕はそのために敵を討つ!」

 

 バズーカを肩に構え、綺麗に隊列を組む連邦艦隊の奥深くを目指して真っ直ぐ突き進む。隊列の先端にいたサラミス級を射程内に捉えると同時に、バズーカの引き金を引く。放たれた弾頭はサラミスの艦橋へ直撃し、一撃で巡洋艦を大破へ持っていった。時をほぼ同じくして連邦艦隊の本格的な迎撃が開始され弾幕の雨が、順調に進みつつあったMS隊へと降り注ぐ。

 

「そんな薄い弾幕で僕を落とせると思ったら大間違いだぞ!」

 

 サラミスの主砲がこちらを照準に捉えると同時に機体をロールさせ、放たれた光条を避ける。パイロットの技量が低ければ命中する可能性はあるがその心配はないだろう。敵艦の主砲の動きをしっかりと見れば、砲撃のタイミングはなんとなく掴める。

 

「ドズル閣下が仰る通り、砲撃のタイミングと弾道は予測できる。このまま奥へ進み、大物を狩ってやる」

 

 機体のスラスターを吹かせ艦隊の中核まで進もうとしたが、モニターにザク3機を捉えた。そのザク達は黒を基調とした色に塗装されており、誰の機体かはすぐに分かった。

 

「黒いザク…ギレン様直属の特務隊だ。こんなところでお目にかかれるとは…」

 

 彼らの機体は付近の艦艇を3機で連携攻撃して撃沈しながら、連邦艦隊中核へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一際目立つ艦艇、あれがアナンケだ。オルテガ、マッシュ、仕掛けるぞ! うまく攻撃し、レビルを脱出させる」

 

「まずは1発目! 出てこいレビル!」

 

 マッシュが対艦ライフルをアナンケの船体へ撃ち込む。続けて2発目、3発目と立て続けに放ち、弾が尽きたのを確認すると弾倉を取り替えた。一方ガイアは砲塔をバズーカで潰して回り、アナンケを無力化していく。数分も経つと船体の各所で爆発が起こり始め、完全に戦闘不能に陥った。

 

 

 

 

 ブリッジ内は炎に包まれ、辺りにはモニターの破片やブリッジ要員の血が浮いている。

 

「CIC応答なし。機関出力低下。戦闘継続は不能。この艦ではもう戦えません」

 

「レビル将軍、お怪我はありませんか? 旗艦を移しましょう。こちらへ」

 

「うむ」

 

 副官に連れられ、レビルはブリッジを出る。

 

(ジオンは予想以上に本気だ。我々は眠れる獅子を起こしてしまった)

 

 

 

 

 

「後は俺に任せろぉぉぉ!」

 

 オルテガはザクの全高程もある大斧を振り上げる。推進機のスイッチを入れ、そして一気に振り下ろした。艦橋上部から付け根に向け一直線に溶断していく。それとほぼ同時にレビルを乗せた脱出艇が発進した。偶然船体下部にいたマッシュがいち早くそれに気づく。

 

「船体下部から脱出する船を確認。レビルの船以外は落とす」

 

 対艦ライフルを構え、一番最初に出てきたランチを破壊する。次に出てきたランチには装飾が施され、船窓から目標の人物を視認した。

 

「よし、このランチごとグワジンに持って帰る」

 

 ガイア、マッシュの二人でランチを抱え込み、反転して母艦を目指す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グワジン内・ブリッジ

 

「ルナツー艦隊の損耗率は約6割を突破。このままいけばあと数十分で制圧できると思われます」

 

「艦長、全艦に反転の命令を出せ。もうすぐ出掛けてた住人が帰ってくるはずだ」

 

「ルウム迎撃艦隊ですね。承知しました。全艦反転及び一斉射用意!」

 

 数秒後、ジオン艦隊はその場で艦首をルウム方向へと向ける。敗走してくるティアンム艦隊を壊滅させるため、全ての艦が砲撃準備を整える。

 

「レーダーに敵艦隊の反応を確認! 有効射程距離まであと1分、数は32!」

 

「撃ち方用意!」

 

 ブリッジ内に緊張が走る。全員が息を飲み、その時を待つ。

 

「あと30.20.10.5.4.3.2.1.射程内に入りました!」

 

「撃て!」

 

 刹那、ジオン艦隊からの嵐のような砲撃がティアンム艦隊を襲った。しかし彼らの艦隊は既に満身創痍であり、反撃出来たのはほんの一握りである。あとの艦は一方的に攻撃され、あっという間に暗い宇宙の塵となっていった。その戦闘はまさに一方的な蹂躙であり、ティアンムはその怒涛な攻撃に恐怖した。

 

 

 

 

「上出来だな。通信士、特務隊から連絡は?」

 

「はっ、数分前に目標を達成したと通信が入っております」

 

「そうか、グワジンに彼らが到着したらオープン回線で連邦軍への降伏勧告を行う。準備しておけ」

 

(これで作戦の第一段階は成功だ。あとはルナツーを占領するのみだな)

 

 数刻後、特務隊の3人がグワジンへと帰還した。ルナツー司令のレビルを連れて。

 

 

 

 

 

 グワジン内にある応接室。そこにレビルは連れてこられた。

 

「ようこそレビル司令。お待ちしておりました。どうぞ、こちらへ」

 

「ギレン殿、これはどういう事です? 私は捕虜になったのでは?」

 

「そんなわけないでしょう。私はあなたと話がしたかった。この戦争にジオンが勝つには、ジオンに貴方が必要なのですよ」

 

「つまりジオンに寝返ろと?」

 

「そういう事です。是非検討していただきたい」

 

「……分かりましたとは言えませんな。こちらはほぼ全滅状態。違う派閥の人間だとしても、同じ部隊の者が大勢殺されている。その部隊の長が敵に寝返ったなんてことあってはならないでしょう」

 

「そうですか、残念です。ですが貴方はいずれ、必ずこちらにつくと思いますよ。仕方ないですが本日はお帰り頂きましょう」

 

 

「帰る? どこにですか?」

 

 レビルは顔に皺を寄せ、疑問を口にした。それもそのはずだろう。交渉が決裂した時点で捕虜になるはずだからである。

 

「もちろんジャブローへです。私と貴方が話しているうちに外は停戦しています。こちらの降伏勧告の内容はルナツーの明け渡し。さすればレビル司令は解放すると伝えました。その結果彼らは戦闘を止めた」

 

「そうですか。では貴方の言う通りジャブローに帰るとしましょう」

 

「彼をランチまでお連れしなさい」

 

 私の護衛にレビルをランチまで誘導させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてルナツー守備艦隊はティアンム艦隊も含め、全てが地球へと撤退を完了。ルナツー攻略戦はジオンの圧勝であった。こちらの被害はザクの小破2と中破3のみという微々たるものだった。

 

 

「ドズルが来るまでになんとか片付いた。さて祝杯の用意でもしておこうか」



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幕間 つかの間の休息

(アステロイドベルトから資源衛星として運ばれてきたルナツーは、原作では戦略的価値が低く連邦軍唯一の拠点として反攻作戦の足がかりとなった。だがこの世界では一番最初に制圧され、地球攻撃の一大拠点となる。元々ジオンが勝利するために原作とは違う道になるように試行錯誤してきた。だがその結果、ジオンと連邦の両勢力の人間の性格に原作との違いが出てしまっている。ギレンの性格軟化、ジャミトフ・ハイマンのスペースノイドへの憎悪など僕の知識ではどうにもならないことが起こり始めた。この先原作の知識がどこまで役に立つのか)

 

 

 そんな事を考えていると、ブリッジから通信が入る。

 

「まもなくルナツーに到着します。ブリッジへお上がりください」

 

「分かった。すぐに行く」

 

 椅子に掛かっていた軍服を羽織り、自室を出た。

 

 

 

 

 

 

 ルナツー攻略戦から3日。元連邦宇宙軍司令部があった件の小惑星は既に工作部隊によってジオンの基地へと姿を変えている。我々の艦隊はドッグに入港、整備に入った。乗組員には簡易的ではあるがベッドが用意され、激戦の疲れを癒やすことが出来る。皆がベッドに入る中、僕はギレンがいる司令室へと向かった。司令室にはワインとグラスが置かれており、彼は椅子に腰掛けて何かを考えていた。

 

「兄貴、入るぞ」

 

「ドズルか。ルウムの戦闘、ご苦労であった。まあ座ってくれ」

 

「兄貴も大変だっただろう」

 

 僕はギレンの反対側の椅子へ腰掛けた。その時、グラスに違和感を覚えた。

 

「このワインは、祝杯をあげるためのものだろう? なぜグラスが3つなんだ?」

 

「もう一つはシリウスのためのものだ。そういえば一緒ではないのか?」

 

 その言葉を聞いて、僕はとても申し訳ない気持ちになる。

 

「シリウスさんはバーミンガム級の砲撃を受けて戦死なされた。本当にすまない」

 

「そうか。もう一度酒を飲みたかったが、これは戦争だ。戦場に死はつきものであるから、お前が悔やむことではない」

 

「そう言ってくれると心が軽くなる。自分自身、戦闘では何回もヒヤリとした。死の恐怖を直接感じた」

 

「とても現状撃墜数トップの奴の言葉とは思えんな。もっと自信を持て。お前は強い」

 

 ギレンが注いでくれたワインを飲んでいたが、衝撃的な一言に思わず口の中のワインを吹き出しそうになった。

 

「待ってくれ、俺が撃墜数一位なのか?」

 

「そうだ。戦闘記録は読んだ。お前は撃沈数8隻。2位とは4隻も離れている。ちなみに2位はガルマと同期のアルマン少尉だ」

 

 知らない名前が出てきたぞ? 

 

「まあそのうち誰かが抜かすだろう。そんなことより、地球攻略作戦の概要を纏めたものがこれだ。総帥に作戦実施の許可を頂きたい」

 

「ふむ。見せてみろ」

 

 ギレンに冊子を手渡すと、数分ほどで返事が帰ってきた。

 

「問題はなさそうだな。このまま続けてくれ」

 

「承知した」

 

 その後はお酒を嗜みながら、他愛もない会話を続けるうちに時間は過ぎていった。

 



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第二十三話 地球降下作戦①

 僕達の艦隊がルナツーに到着してからさらに2日経ち、ガルマ率いる地球降下用の部隊が到着した。ルナツーは地球を攻略するための足がかりでしかなく、戦争の本番はここからである。

 

「ガルマ、待っていたぞ!」

 

「ドズル兄さん、ルウム戦の勝利おめでとうございます。いよいよ地球攻略ですね」

 

「ああ、部隊編成さえ終わればすぐに作戦は開始される。特にお前が担当する北米地区は連邦の軍事拠点キャリフォルニア・ベースや政治的に重要なニューヤーク等とても軍事的価値の高い場所が多い。気を抜くなよ」

 

「お任せください。私が親の七光りで北米方面軍の司令に昇格したのではないと証明してみせます」

 

 原作では地球方面軍司令ではあったものの、その肩書はお飾りと言っても過言ではないだろう。だがこの世界では活躍してもらわないと困る。お坊ちゃまは卒業だ。

 

「さて、部隊編成の時間だ」

 

 ルナツー内にあった会議室を使用し、ガルマとともにルナツーへと赴いた将兵を招集する。

 

 

 

 

「皆集まったな。これより地球降下作戦の概要と編成について話す」

 

 モニターに世界地図を表示する。

 

「我々の目的は地球の連邦基地の殲滅及び資源の確保だ。そのためにまずは主要な基地を宇宙から制圧する。目標は石油や豊富な資源を確保出来るオデッサと周辺地域、連邦の生産拠点であるキャリフォルニア・ベースを含む北米全域、アジアの一大拠点であるペキン基地、オセアニアのトリントン基地、アフリカ大陸のキリマンジャロ基地の5箇所を同時にである」

 

「同時にですか?」

 

「そうだ、同時にでなければ意味がない。各地で敗走した部隊が1箇所に集結してしまえば脅威となるだろう。それは防がなくてはならない」

 

「なるほど」

 

「まず初めにルナツーのマスドライバーを使って質量弾をジャブローに落とす。これで本拠地をいきなり攻撃された連邦は大混乱だ。それを合図としてアンリ率いる遊撃部隊が、地球降下作戦の標的である5つの基地の対空砲や格納庫など対空戦闘能力を奪う。破壊工作が完了次第、我々が降下し占領する。占領後はオデッサを地球方面統括司令部とし、他の地区を方面軍とする」

 

 

「人員の配置は?」

 

「いい質問だな。オデッサ方面は俺の率いる第1軍が担い、北米はガルマ・ザビ大佐の第2軍、アジア地区はユーリ・ケラーネ少将の第3軍、トリントンをエギーユ・デラーズ中将の第4軍、キリマンジャロ基地をノイエン・ビッター中将の第5軍に任せる。どこも戦略的価値の高い場所ばかりだ。皆頼んだぞ」

 

 名前を呼ばれた4人の軍団長は力強く頷いた。

 

「作戦は質量弾発射開始時刻の45分後、地球時刻PM3:45を目安として開始される。それまでに準備を終え所定の位置につくように。以上だ。なにか意見のある者はいるか?」

 

 そう言って彼らを見るとデラーズが手を挙げた。

 

「占領後の地域の統括はどうされるのでしょうか。アースノイドである住人に一方的な恨みを持ち、スペースノイドであることを驕り残虐な行為に走る者も必ず現れるでしょう」

 

「その点について答えは一つだ。絶対にジオンの評判を落とすことをしてはならない。これは開戦前からギレン総帥が仰っていた。俺もその意見に賛成だ。占領地域の住民とは友好的な関係を築くように部下に徹底してもらいたい。もし残虐な行為が露呈した場合は即懲罰対象になる」

 

 あえてギレンの名を出したのはギレン信奉者であるデラーズなら彼の言う事なら従うと思ったからであるが、どうやら効果は抜群だったらしい。デラーズはギレンの名が出た瞬間、素直に従う素振りを見せた。正直言ってデラーズは怪しいんだよなあ。

 

「それでは諸君の健闘を祈る。解散!」

 

 会議が終了した後、僕はギレンに呼び出された。

 

 

 

 

 

「いよいよだな、準備は順調であるか?」

 

 専用の椅子に座り足を組んでこちらを見る彼はまさにジオンの総帥の顔をしていた。

 

「ああ、全てが上手く進んでいる」

 

「なら良い。だが一つだけ忠告しておこう。占領した地域の住民とはできるだけ良好な関係を築くことを忘れるな。彼らとて連邦の被害者だ。ないがしろにすれば必ず災いとして返ってくるだろう」

 

「ああ、その事は理解しているつもりだ。先程の作戦会議でもその点については徹底させた。大丈夫だろう」

 

「私はサイド3へと戻る。良い報告を待っているぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジャブロー・軍法会議

 

 ルナツーから撤退したレビル達を待っていたのは、敵前逃亡及び司令部の放棄による責任の追求であった。強硬派の連中はここぞとばかりにレビルを叩き、軍法会議にかけた。

 

「ヨハン・イブラハム・レビル大将。貴殿はジオンの侵攻に際し、宇宙軍司令部があるルナツーを放棄し地球へと撤退した。これは立派な敵前逃亡である。なにか申し開きはあるか?」

 

「いえ特にありません」

 

「さらに情報によれば、ジオンの一時的な捕虜となりその後開放された。その際に情報をジオンに渡した可能性すらある。これはスパイ容疑を掛けられてしまっても仕方ない。さらにルウム沖の戦闘でもジオンに敗北し撤退とある」

 

「それについてスパイ嫌疑以外は事実であります」

 

「以上の点を考慮し判決を下す。この時点で本来なら銃殺刑であろうが、生憎今は戦時だ。レビル大将は個人財産等をすべて取り上げたうえ、無期限の独房入とする。そして部下であるティアンムを含めルナツー所属だった者は自宅にて軟禁生活を送るように」

 

 この事実は軍内部にすぐに広がった。だがプロパガンダ統制により世間へと広まる事はなかった。

 

 その後、レビルから押収した財産に目を通していたジーン・コリニー大将はある資料を発見する。

 

「V作戦。なんだこれは?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 1月10日 PM3:00

 

「マスドライバー、発射準備完了しております」

 

「よし、地球降下作戦を開始する。マスドライバー発射開始せよ」

 

 号令とともにルナツーから質量弾が発射される。本来なら物資等を遠くへ打ち出すための装置であるが、武器にも転用できる。第一宇宙速度で放たれた岩塊はとてつもない威力を発揮するはずだ。次々と放たれる岩塊は全てジャブローへと向かって落ちていく。その姿をモニターで見ていた僕は、これを迎撃しようとするであろう地球連邦に思わず同情してしまいそうだ。

 

 

 

 

 空から降ってくる災いに最初に気づいたのは北米大陸に住む人々だった。しかし誰もが流れ星だと勘違いし、ジオンの攻撃だと気づく者はいなかった。

 1つ目の岩塊が地表に着弾する直前、地球連邦も事態を把握した。しかし迎撃が間に合うはずもなく、岩塊はいともたやすくジャブローの地表を抉った。その威力は絶大で落着地点には大きなクレーターができ、網目のようなアマゾン川は流れを変え、クレーターへと流れ込んでいった。その衝撃はジャブロー全体を揺らし、臆病な高官たちは我先にと緊急シェルターへと避難を開始した。地殻を貫通するほどではなかったものの洞窟上部には亀裂が入る。だが、本当の地獄はここからであった。先程、一発の岩塊であれ程の衝撃と被害が出たのに、空を見上げるとその元凶が無数に降ってくるからである。ジャブロー司令部は、これ以上の被害を抑えるため対空ミサイルによる迎撃を指示を出した。

 

「貧弱なミサイルで、あれを止められるとは思えないがな」

 

 この言葉を発したのは、ジャブロー地表にある迎撃システム管理塔の部隊長だ。先程の岩塊の被害をその目で見た彼は、司令部から発令された命令に対し反発したもののその進言は即時却下され、改めて発射の指示が出た。そのため仕方なく発射態勢に入ることになった。地上にある管理塔からの脱出の許可が出なかったということは、上層部は彼達を見捨てたのである。死期を悟った彼らは、それでも与えられた命令を全うしようとした。2個目、3個目の迎撃は速度的に不可能なため諦め、4個目の岩塊に照準を合わせミサイルを発射した。放たれたミサイルは4発、全てが岩塊を目指して飛んでいった...はずだった。だがミサイルの速度では第一宇宙速度で落ちてくる岩塊に間に合わず、目標を失ったミサイルはフラフラと飛び、やがて互いに衝突し四散した。

 

「働く場所間違えたな...」

 

 そして皮肉にも迎撃に失敗した4個目の岩塊は、管理塔付近に落着。辺りは一瞬で焦土と化した。

 



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第二十四話 地球降下作戦②

※この作品はグフ=グフカスタムです。前日譚にちょこっと載ってるだけなので補足しておきます。


 ジャブロー基地は厚い岩盤に覆われ、連邦政府高官からは難攻不落の要塞として有事の疎開地として選ばれるほど堅固なはずであった。だが質量弾のシャワーが降り始めてから約30分、その岩盤は絶え間なく注ぐ質量弾によって至るところで崩壊、地下空洞が姿を現していた。臆病なモグラどもは基地深くのシェルターに隠れ出てくる気配はない。そのため、ジャブローの中では階級の低いはずのカラス中佐が指示を出し、部下は被害をなるべく抑えるために忙しく動いていた。だが地上の対空砲やトーチカ等はほぼ全てが破壊され、被害の規模は既に甚大であった。

 

「ジオンがこのまま攻めてくるやもしれん。全戦車隊は岩盤の崩壊により外が見えるようになった位置に配置し、空からの奇襲に備えよ。間違えても地上には出るな、あそこはもはや戦車の移動に適した地形ではない。地上の対空戦力はどのくらい残っている?」

 

「対空砲が十数基残っているのみです」

 

「元の10分の1にも満たないな。無駄だとは思うが迎撃は続けさせろ」

 

 その時、不意に継続的な振動が止んだ。誰もがその状況を理解できず、司令部内は時が一瞬止まったように静まり返る。

 

「状況報告を!」

 

「は、はい!...攻撃止んだ模様です。どうなさいますか中佐?」

 

「これは一時的なものだろうが、今は体制を立て直す方が先だ。岩盤が崩壊したところには作業員をまわして、岩盤残骸の撤去をさせろ。崩壊したところには臨時のバリケードを築く。戦車隊はそのまま待機だ」

 

「わかりました。全軍に指示を出します」

 

「私はコリニー大将に今後の対応の指示を仰いでくる。少しの間任せたぞ」

 

「承知しました。ここはお任せください」

 

 カラスは指令室を出て、シェルターを目指して歩き始める。

 

「臆病なモグラめ、いつか必ず地上に引っ張り出してくれる」

 

 彼はボソッと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 PM3:15 (ジャブロー攻撃開始から15分) オデッサ付近

 

 黒海沿岸に位置するオデッサには巨大な採掘現場と周辺地域を統括するオデッサ基地がある。原作でも重要な場所とされた此処には、遊撃部隊隊長アンリ自らが赴いていた。

 

「別働隊より通信。[ジャブロー攻撃から15分経過、ジャブロー基地の被害甚大なり]」

 

「了解した。各基地付近に展開している仲間に攻撃開始を指示。我々も出撃する。シートを剥がせ」

 

 その合図とともに近くに停車していた3台のトレーラーの荷台に被せられていたシートが剥がされた。そこに乗せられていたのは、通常のザクとは容姿が少し異なった機体。ザク・アサルトタイプと命名されたこの機体は、ソロモン製であり基地の強襲を目的とし製造された。ドズルが開発局に設計を依頼していた、[敵基地近くで素早く組み上げ、一撃離脱を主とした高機動のMS]というコンセプトを参考にギニアスが開発した機体である。特筆する点として一番に挙げられるのは、彼の独断でビグロの高機動試験の結果が反映されているということだろう。推力は通常のザクの4倍、推進剤の消費はザクの3倍となっている反面、装甲は極限まで削られておりとてもピーキーな機体である。

 

「パイロットは私、ゼナ、ケムトの3人だ。準備は出来ているな?」

 

「はい! いつでも出撃可能です」

 

「よし、ターゲットは既に設定されている。破壊して離脱するだけの簡単な仕事である。出撃するぞ」

 

 そう言うとアンリはザクへと搭乗する。それに続き2人も自分の機体へと乗り込んで、起動作業へと移る。

 

「システムオールグリーン。ザク・アサルトタイプ出る」

 

 3機のザクはトレーラーからゆっくりと起き上がる。そして、オデッサ基地を見つめモノアイを光らせた。

 

「アンリ少将、ご武運を!」

 

 彼等の駆る機体は姿勢を前傾にすると背部のスラスターを最大で噴かし、一気に基地との距離を詰め始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、各地の連邦基地は大混乱に陥っていた。本拠地ジャブローが攻撃されたという情報が緊急通信で伝えられたものの続報はなく、それどころか通信が一切通じない状態に陥ってしまっているからである。所詮本部の高官の操り人形でしかない基地司令達は慌てふためいているだけで、特に行動を起こそうとはしなかった。そのため基地内の混乱は更にひどくなり、まともに行動しているのは熟練の戦車乗りと航空部隊の隊員のみであった。混乱は基地周辺の警戒網にまで影響を与え、ジオンを懐まで侵入させる要因となる。

 

「司令、ご指示は?」

 

「今通信を試みている、黙って待っていろ!」

 

 司令の癇癪に呆れたレーダー担当者は、画面に目を戻す。だがそこに映し出されていたのは地獄へのカウントダウンだった。

 

「あっ、数分前に熱源3機が第1警戒ラインを突破した模様! 第2警戒ラインまで10秒!」

 

 その報告に反応したのは副司令だった。

 

「何故見落とした? すぐに警報を鳴らせ! 全部隊は緊急発進! 対空砲起動、目標は謎の熱源だ」

 

 [航空隊及び戦車大隊は直ちに発進せよ][フライ・マンタ、滑走路離陸どうぞ][戦車大隊、司令部を背後に攻撃陣形]

 通達はすぐに格納庫に伝わり、発進準備を終えていた各部隊は格納庫を出て基地の敷地内で戦闘陣形を取る。

 

 

 

 

 

 

「無能な将の下に有能な兵は育つか...」

 

 モニターで敵戦力の確認を終えたアンリは、敵部隊の展開の速さに思わず驚嘆する。

 

「各機、対空砲だけでなく航空機も優先して潰せ。ドズル閣下に負担を掛けさせるなよ」

 

「はい! ドズル様にご迷惑は掛けさせません。絶対に!」

 

 そう言い切ったのはゼナ・ミア少尉だ。彼女はドズルへ人並みならぬ思いを抱いているらしい。

 

 

 

 基地付近へと急速に接近したザク3機は、まず基地航空隊の爆撃を受けることになった。落ちてくる爆弾を避けると、その爆弾は基地の外壁を巻き込みながら爆発した。

 

「3時の方向から再度爆撃機5機が接近中、迎撃します!」

 

 ゼナ機が腕部に備え付けてあったガトリング砲を展開し、空へ弾幕を張る。相対した5機は毎分300発という苛烈な発射速度に対応出来ず破片を撒き散らしながら爆発する。

 

「あまり時間はない。迅速に目的を達成し、離脱する。ケムトは左、ゼナは右だ」

 

 アンリ達は壊れた外壁から敷地内へと侵入した。それと同時に対空砲の自動迎撃システムが作動し、すぐに弾丸の雨が降り注ぎ始める。しかしザク・アサルトタイプの機動力には追いつくことが出来ず、全て地面を削るだけで終わっていた。作戦は順調に進んでいると思われたが、左回りで1つ、2つと砲塔を確実に落としたケムト機が司令部の建物近くにあった3つ目を破壊しようと広い場所にでた時だった。爆音とともに大口径の砲弾の集団が一度にケムト機を襲ったのだ。30発という砲弾は正確にケムト機の予想到達地点へと打ち込まれ、うち3発がケムト機に直撃した。左腕、右足、頭部を一度に吹き飛ばされた彼の機体は地面へと転がり、立ち上がることは困難だった。左腕と一緒に胸部の装甲まで剥がれ野晒しとなったコックピット内にはロックオン警報が鳴り響き、破片によって傷つけられた体は血まみれで、いつ事切れてもおかしくはなかった。そんな状況でも意識を保っていたケムトは、モニターの中でまさに2射目を放たんとしている戦車隊に狙いを定めた。

 

「...1人じゃ...逝かない...お前...たちも.道連れだ...」

 

 その言葉と共にバズーカの引き金を引く。それとほぼ時を同じくして横たわるケムト機に向かってトドメの2射目が放たれた。互いの攻撃は交差し飛んでいくが、先に目標へと到達したのは戦車隊の一斉射だった。その砲撃によって、元々装甲が薄いアサルトタイプのコックピットは跡形もなく消し飛び、パイロットのケムトも凄惨な死を遂げる。だが彼が死に際に放った置き土産は、しっかりと戦車隊へ届けられることになる。

 

 

「ケムト! くっ、ゼナ目標は全て破壊したか?」

 

「ターゲットは全て破壊してあります!」

 

「分かった、まもなく時間だ。離脱するぞ」

 

 

 

 

 

 オデッサ基地に配属されている112戦車大隊は軍の中でも異様に練度が高く、複数のテロ事件を鎮圧した実績もある優秀な部隊だった。そんな彼等はジオンとの戦争で初めてモビルスーツを撃破するという大金星を挙げ、後世に名を残すことになった。だが敵の放った弾が前衛の目前に着弾し、少なくない被害を受けた。

 

「4両は大破、3両が履帯を破壊され行動不能。乗員は脱出し、司令部内へと入りました」

 

「そうか。他の人型はどうなった?」

 

「基地内の対空砲全てと飛行中隊の格納庫を破壊し、逃げたようですね」

 

「ふむ、所詮奴らは宇宙でしか行動できん人間の退化の象徴だ。連邦軍の庭へ入ったことを後悔しているだろう。だが、飛行中隊をほぼ壊滅させてくれたことには感謝だな。あいつらは嫌いだったからな。まあそんな事はどうでもいいか。全員帰投するぞ」

 

「た、隊長! 宇宙から何かが来ます!」

 

 部下の報告を聞き、空を見上げた隊長の目に映ったのは無数のHLV。

 

「帰投命令は撤回、迎撃準備!」

 

 

 だが隊長の意識はそのHLVから放たれた1つの弾頭によって永遠に途絶えることになる。

 

 

 

 

 

 

 ドズルside

 

「目標の撃破を確認。ガトー、無理を言ってすまなかった」

 

 まだ高度は500m程あったものの開いたハッチから身を乗り出し、司令部前の広場に集まっていた戦車隊に向かってバズーカの引き金を引いた。新規開発されたジャイアント・バズは射程も威力もザク・バズーカとは比べ物にならない。とはいえ最大射程は200m程度。今回は特殊案件で射程もクソもないが重力に引かれた弾頭は目標にしっかりと命中した。

 

「降下中のHLVからの射撃なんて無謀過ぎます」

 

「ああ、分かっている」

 

「それにしても静かですね。アンリ殿が上手くやったんでしょうか?」

 

「だろうな、彼は優秀だからな」

 

 [まもなく地上です。全機出撃に備えてください。]

 

 その合図と共に、他の2か所のハッチも開いていく。僕の機体も体勢を整え、発進に備える。着地したわけではないが、このくらいの高度ならスラスターを吹かせば着地できるな。

 

「ドム、ドズル・ザビ出るぞ!」

 

「アナベル・ガトー、グフ出撃する!」

 

「シン・マツナガ、出る!」

 

 2人の部下と共に出撃した僕は、司令部の前へと降り立つ。他の兵たちも続々とHLVから降り、虚しく抵抗を続ける飛行中隊と戦車隊の残兵を手早く処理していく。僕は司令部に銃口を向け、オープン回線で呼び掛ける。

 

「ジオン公国総司令ドズル・ザビである。地球連邦軍オデッサ基地に告ぐ。今すぐ降伏せよ」

 

 [ここは連邦軍の基地でも大規模だ。降伏などしたら他の基地に笑われる。降伏など出来ない。]

 

「そうか、残念だ。では消えろ」

 

 その言葉と共に司令部は一瞬で吹き飛んだ。

 

「格納庫は全て潰せ。通信施設などは壊すなよ!」

 

「「了解!」」

 

 数分後、オデッサ基地は陥落した。まあグフ40機で攻めたら、既に手負いの基地など余裕で落とせるよな。




ドズル君のドムは開発局に置いてあったドムの試作機をラースに頼んで改修してもらったものです。後で挿し絵として載せます。


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第二十五話 思わぬ収穫と災難

今回は短めです。





それと前回登場したドズルのドムについて、参考程度に画像を載せます。

【挿絵表示】


スライドして見てください。


 ドズルside

 

 諸君、ごきげんよう。ドズル・ザビだ。1度こういう挨拶をやってみたかった。まあそんな冗談は置いといて、あまりにもあっさりとオデッサ攻略が終わってしまったため、今は工作部隊による地上軍司令部建造が急ピッチで進められている。こんなに早く基地を陥落させられたのはアンリ率いる遊撃部隊の活躍あってこそなんだが、彼らの機体の性能を見て驚いた。ギニアスからMSを遊撃部隊に渡したとは聞いていたが、あの時はルウム戦の直前で資料によく目を通していなかったから、現在スペック表を見ているわけだがほぼケンプファーの試作機といっても過言ではないだろう。これに少将であるアンリが乗ったなんて信じられん。もう2度とこんな危ない機体には乗せられない。そして驚いたことがもうひとつ。一足先に地球へ降りていた遊撃部隊の面々とは2年近く会っていなかったのだが、原作ではありえない人物がそこにはいた。

 

「ドズル様、お初にお目にかかります。ブライト・ノアであります」

 

 そこには、宇宙世紀において唯一4人の主人公ニュータイプと関わりを持った男がいたからである。

 

「アンリ、彼はどこで?」

 

「1年半前のヨーロッパで災害が起こった時、我々はそこにボランティアとして数名を派遣しました。その際、彼は瓦礫に埋まりそれを私の仲間が助けた。それが縁となり今に至ります」

 

「そうだったのか。アンリ、ナイスだ」

 

 僕の言葉に、アンリは不思議そうに首を傾げる。僕はブライトに向き直り、話しかけた。

 

「ブライト君、ジオン軍総司令ドズル・ザビだ。よろしく頼む」

 

 握手を交わし、彼の目を真っ直ぐと見つめ話を続ける。

 

「君は軍属ではない。あくまでも協力関係にある一般人だ。だが、ジオン軍に入り、アンリの部下としてやっていく気はないかね?」

 

 その言葉に彼の表情は明るくなる。

 

「もしよろしければ、是非入隊させて頂きたいです」

 

「その答えを待っていた。本当は正規の手続きを踏んで、士官学校に入らなければならない所ではあるが、生憎と今は戦時だ。総司令の権限で一人ぐらいはねじ込める。そのままアンリの下で働いてくれ」

 

「ありがとうございます」

 

 ブライトは僕に向かって敬礼をして遊撃部隊の夜営地へと帰っていった。

 

 

「ドズル様、ご配慮ありがとうございます」

 

「構わんさ。そんなことより今回の作戦、本当によくやってくれた。部下も含めてしばらく休暇を与えよう。羽を伸ばすといい」

 

 部下への気遣いは上司の役目だ。

 

 

 

 ちなみに戦闘が起きたのはオデッサ基地だけで、他の所では一切戦闘は起きず制圧できたらしい。というか原作ではザクだったのに、この世界ではグフで各部隊100機程配備したらまあそうなるよな。そうなるように動いたのは僕だが、自分でも恐ろしい。

 しばらくは領土拡大で忙しくなるが、北米だけは僕も出向きたいんだよな。あそこにはオーガスタ基地っていうヤバい場所があるからだ。

 

 

 

 

 そんなこんなで基地として機能し始めた頃、ギレンから通信が来た。

 

 

 [地球降下作戦の成功、よくやってくれた。]

 

 

「戦いはまだまだ続く。しばらくは忙しくなるな」

 

 [だろうな。連邦軍にはさっさと降伏して欲しいものだ。忙しいといえば、ルナツーからオデッサに降下するザンジバルに君の秘書を乗せておいた。少しは負担を軽減してくれるだろう]

 

 

「秘書? 俺に必要か?」

 

 [誰かの制止がないとお前はすぐに前線に出るだろう。私は地上には行けないので、代わりに彼女に制止役になってもらう]

 

「彼女? その秘書は女性なのか?」

 

 [フッ、まあ楽しみにしておけ]

 

 そう言ってニヤけるギレンはとても恐ろしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 後日、追加戦力としてオデッサにはザンジバル8隻とグフ200機が到着した。そらに伴い兵も増え賑やかになったオデッサ基地であるが、その中で異様な雰囲気を放つ金髪の女性が1人いた。

 

「本日よりドズル・ザビ大将の専属秘書として着任するセイラ・マスです。よろしくお願いします」

 

 この後ゼナとセイラの間でひと悶着起こるのだが、僕は関係ない……と思いたい。

 

 

 

 



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第二十六話 前進

 ドズルside

 

 地球降下作戦から1ヶ月。ジオン地上軍は補給線を確保しつつ少しずつ占領地域を広げつつあった。特にヨーロッパ地域の占領速度は凄まじく、既に91%がジオンの勢力圏になっている。そんな快進撃をしてる最中であるが僕はオデッサ基地の自室で書類業務に追われる日々で、前線には全然出れていない。部屋にあるモニターにはリアルタイムでヨーロッパ地区の情報が表示されているが、それが僕の戦闘意欲を掻き立てムズムズしている。

 

「占領は順調だな。セイラ、他の方面軍の侵攻状況はどうなっている?」

 

「各軍団長からの報告によりますとアジア地区が53%、北米地区が76%、アフリカ地区43%、オーストラリア地区23%となっております」

 

「おおむね順調であるが、やけにオーストラリア地区の占領が遅れているな。なにか理由はあるのか?」

 

「デラーズ様からの情報によりますとトリントン基地から北西部は採掘場を利用した塹壕が作られ、思うように進軍出来ていないとのことです」

 

 理由にはなっているか……

 

「1度視察に行った方が良さそうか……北米に行くついでに寄ります?」

 

「ドズル閣下は自分で戦闘がしたいだけでしょう。ちがって?」

 

「そ、そんなことはないぞ。コホン、仕方ないからトリントン基地にはうちから第6師団と第8師団のグフ計150機を増援として送っておけ」

 

「承知しました。すぐに手配します」

 

(ここ1ヶ月セイラと共に仕事をしてきたが、俺の扱い方を熟知してる気がする。いったい誰の差し金だ……)

 

 口では順調と言ったものの連邦軍の反撃により各方面軍が苦戦しているのも事実だ。連邦の歩兵と戦車の連携はグフをも退けるほど厄介なのである。原作では無理に戦線を伸ばした結果、補給が行き届かず膠着状態となってしまった。これを防ぐために占領速度を落とし地域の住民との関係も良好を保っているわけだが、その間に連邦軍は防衛ラインを何重にも引いたため進軍は予想以上に難航している。僕が指揮するヨーロッパ戦線はガトー中尉とマツナガ中尉、そして遊撃部隊から転属になったゼナ少尉が防衛ラインをどんどん破壊しているため関係ないが、他の地域では少なくない被害が出続けているのだ。

 

「ガルマから連絡はないか?」

 

「まだ連絡はありません」

 

「そうか、いつでも出れるようにザンジバルの発進準備は終わらせておいてくれ。それと俺のMSはヅダも積んどいてくれると助かる」

 

 セイラは頷き部屋を出る。

 

 

 

 

 

 

 シャアside

 

 北米 キャリフォルニア・ベース

 

 連邦の一大生産拠点があった此処は現在ガルマ指揮する第2軍の主要な拠点になっていると共に、兵器開発局の地上支部が置かれて新兵器の開発が日々行われている。ここから西には海もあるため、水陸両用MSを作ろうとラースが張り切っていた。かくいう私は北米での大規模作戦へ向けて基地司令部内でガルマと机の上の地図を見ながら作戦会議を行っている。

 

「ニューヤークまではあと少しという所だな。だが今一つたどり着けないのはピッツバーグの抵抗が続いているから.か。仕方ない、ピッツバーグへは私が直接出向こう」

 

「シャア自ら行ってくれるのか? 確かにあそこは苦戦しているが、君が出るほどではないだろう?」

 

「君に華を持たせてやりたいんだ。同期として君の出世を手助け出来るなら構わんさ」

 

「なら君の提案に甘えるとしよう。攻略が終わればニューヤークへは入れる。あとはドズル兄さんの援護を待ってオーガスタに集まっている残存部隊を狩るだけだ」

 

 ガルマの返しを聞いた私は疑問を口にする。

 

「その事なんだが、ガルマは不思議に思わないか?」

 

「なんのことだ?」

 

「連邦が集結しているオーガスタは民間の医療研究所があるだけだったはずだ。いくら連邦でも市民を盾にはしないんじゃないか……と思うんだが」

 

「シャアの言う通りだな。ドズル兄さんもオーガスタ付近は注意しろと開戦時から言っていたし、連邦の秘密施設でもあるのかもしれないな。一度偵察部隊を出してみよう」

 

「そっちは任せたぞ、私は2個大隊を率いて出撃する」

 

 私は部屋を出ようと歩き始めるが、ガルマに呼び止められた。

 

「出撃する前にラースの所に行くといい。君にプレゼントがあるそうだ」

 

 

 

 

 司令部を出て滑走路へと歩みを進めると、輸送機の前で私を待ち構えるラースの姿があった。

 

「おっ、シャア少佐お待ちしておりました! こちらへどうぞ」

 

「ガルマから話は聞いた。プレゼントとはなんだ?」

 

「ルウム戦の功労者である少佐が普通のグフに乗るのは駄目だと総司令に言われたので、チューンを行いシャア少佐専用機を作ったんですよ」

 

「ほう、それはありがたい話だな。でどういう機体なんだ?」

 

「まあそう慌てずに、まずはこれを」

 

 彼はマニュアルを渡す。

 

「それでは詳しく説明します。まずは移動能力についてですが、ヅダのエンジンとホバークラフトを応用したものを使うことでMSでもホバー移動できるようにしました。これによりグフでも通常の三倍のスピードを出せるようになっています。ホバーは時期主力MSに標準搭載される予定ですが、現時点で搭載されているのはドズル閣下の機体とシャア少佐の機体だけですね。反応速度はルウム戦時のデータを反映し近づけていますが、宇宙と違い重力があるので多少異なると思いますのでその点はご注意を。武装については他のMSと共用なので説明の必要はないですね」

 

「ホバー移動か、私にうまく使えるか?」

 

「少佐なら出来ます。それに数週間後には一般兵も乗るんです。あなたが扱えなければ誰も乗れません」

 

「その言い方気に入らんな。まあうまく扱ってみせるよ」

 

「ご武運を!」

 

 そう言って笑顔で敬礼した彼に敬礼を返した後、私は輸送機に入り目の前に置かれている赤色のグフに目をやった。改めて見ると上半身はほぼ変化ないが足はとても太くなっている。早速コックピットへと乗り込み、マニュアルを見ながら機体を起動する。操作性も普通のグフより良くなっているのではないかと思うほど滑らかだ。これなら私でも活躍出来るはず。私を闇から救ってくれたドズル・ザビのために必ず勝利を掴んで見せる

 

「各員機体の最終チェックを済ませておけ。すぐ戦場だ」

 

 

 1時間後、北米大陸最大の激戦区であるピッツバーグ上空へと到着した。眼下ではグフ部隊が多数の61式に囲まれ苦戦しており、予断を許さない状況だ。即座に援護が必要と判断した私は降下可能高度になっていない輸送機から飛び降りる準備をする。

 

「降下する。付いて来い!」

 

 輸送機から飛び降り、味方と敵の中間地点へと着地する。連邦軍は突然現れた輸送機に気を取られ、ほんの一瞬攻撃が止んだ。私はそこを見逃さず左腕のガトリングを戦車隊へ向け、迷わず引き金を引いた。左腕から連続して放たれる弾丸の雨は戦車隊の装甲をたやすく貫き、あっという間にその数を減らす。目の前の戦車隊を数秒で蹂躙し、次の目標を探すために移動を開始すると通信機から連邦の通信が聞こえてきた。どうやらオープン回線で会話しているらしい。

 

 [赤いMSだと? まさかシャア・アズナブルか! ][赤い彗星!? ][銀の流星よりはマシだ、破壊しろ! ]

 

(私も舐められたものだ……しかし、ドズル・ザビには敵わなくて当然か。だが私とて戦車隊に遅れを取るほど弱くはないぞ!)

 

 部下のグフと共に立ちはだかる戦車を破壊しながら陣形の深くへと侵入していく。目指すは陣形の最奥に位置する大型指揮車両だ。コックピットのモニターにその姿が映し出されると、私は弾切れのガトリングをパージし、スラスターを最大限噴かして一気に距離を詰める。道中指揮車両から激しい砲撃を受けるが、この機体を止めるには至らない。ほぼ0距離へと近づき、手に持っていたヒートソードを指揮車両のブリッジに向かって振り下ろす。刃は装甲を溶かしながらブリッジを消し飛ばして振り抜かれる。その一撃で司令系統を破壊された北米守備軍は白旗を掲げる者とオーガスタに向けて後退する者の2択に分かれた。

 

「…シャアだ。ガルマにピッツバーグを落としたと伝えてくれ」

 

 



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第二十七話 オーガスタ研究所

 オーガスタ研究所……原作ではジム・カスタムやジム・クゥエルなどのオーガスタ系MSやRX78シリーズから、果てはペイルライダーまで作っており、残しておけば我々を恐怖に陥れること間違い無しの場所だ。僕は原作の知識を持っているのでそこで何が起きているのか知っているが、他の方々は知らないためどう攻めるか考えあぐねていたところ、ちょうど連邦軍が集結しているらしく手早く破壊できることになった。そんなこんなで現在僕はザンジバル8隻、MS50機弱を率いてキャリフォルニアに赴いている。

 

「兄さん、来てくれてありがとう。ここからは兄さんが指揮を……」

 

 その言葉を遮る。

 

「何を言っているんだ? この作戦の指揮官はあくまでもお前だ。俺はお前の指示で動く」

 

「……分かったよ、兄さん」

 

 未来のジオンを担うはずの男だ。しっかりと経験をさせなければいけないからな。……というのは建前で本当は前線で戦いたいからなんだが、言うと止められるので言わないでおく。

 

「それで作戦についてなんだけど、東、南北の3方位から挟撃しようと思うんだ。兄さn、コホン、総司令はどう思われますか?」

 

「西に逃げられた場合にはどうする?」

 

「西にはシャア少佐の部隊を伏兵として置いています。もし逃れようとした敵がいた場合、彼が殲滅するでしょう」

 

 ふむ、しっかりと練られたようだ。これならこのままでも平気だな。

 

「合格だ、この作戦で行こう。南からの進撃は俺が引き受ける」

 

「分かりました。作戦開始は翌々日の朝とし、準備を進めます」

 

 ここさえ制圧すれば北米は暫く安泰だ。さっさと終わらせよう。それはそれとしてオーガスタでは何が起きているんだ? まだ試作MSさえいない段階でオーガスタ系MSの開発をしてるとも思えないし、やっぱり強化人間とか非道な実験とかなのか。いやそれも時系列的にはおかしい。いくら歴史がねじ曲がってるとはいえでもだ。直接突入して確かめるしかないか……

 

 

 

 

 

 

 テム・レイside

 

 

「テム・レイ少佐、少しお話があります」

 

「忙しいのだが、何かね?」

 

 オーガスタ研究所内の一角に置かれたMSグフを解体しながら私はそう答える。

 

「数時間後にジオンがここに攻めてくるそうです」

 

「っ! だから私はここに集結するのはやめろと言ったんだ! V作戦が進まなくなるではないか」

 

 コリニー閣下の顔に泥を塗るわけにはいかないというのに。

 

「その件についてコリニー大将から伝言を頂いております。サイド7で開発を続けるようにとのことです」

 

「サイド7だと? ルナツーが陥落した今あそこは危険ではないのかね」

 

「ジオンは地球攻略に必死で民間のコロニー建設に目を光らせるほど暇ではない……と仰っていました」

 

 ある程度MSの構造は把握した。少し不安も残るが開発の続きが出来るというならばサイド7へでもどこでも行ってやる。

 

「分かった。機材や研究者などをまとめ、移動の準備を」

 

「はっ、すぐに手配致します!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2日後

 

 今朝キャリフォルニア基地を出発した僕の隊は南から大きく回り込み、オーガスタ地区から南15キロの地点に陣を置いた。北から攻めるガルマの隊、東から攻めるグレーデン大尉の隊とは緻密に連絡を取りながら少しずつ包囲を縮めつつある。だが我々の背後には連邦のジャブロー基地があり、いつ増援が到着するか分からないため、隊を2つに分け後方警戒も行いながらの進軍で他の隊よりも負担は大きい。その分沢山戦闘が出来るかもしれないので僕にとっては良いことではあるが、部下には申し訳ないので本当に増援が来たら1人で対応しようと密かに思っている。

 

「閣下、連邦軍が動き始めました」

 

「よし、各自攻撃を許可する。思う存分暴れてこい」

 

 今回はガトーを連れてきた。彼は専用にチューンされたグフに搭乗し、オデッサ戦線では一ヶ月で61式を100両以上葬ったと報告を受けている。オデッサ戦線の要であるガトー中尉とマツナガ中尉を同時に連れ出すことは出来ないので2人で話し合ってもらった結果、次回の遠征ではマツナガ中尉を連れていくことを条件に今回は彼に折れて貰ったのだ。

 

「南無三!」

 

 モニターの前で繰り広げられる光景は連邦にとってはまさに地獄絵図だろう。ある程度近づかれれば仰角の制限で攻撃手段を失ってしまう戦車にとって、MSはまさに天敵なのだから。そのうちオデッサの悪夢とか言われそうだよね、ガトーさん。

 

 僕自身ドムには搭乗しているもののこれといった出番はなく、ただ部下の活躍を眺めているだけでとても退屈だ。そんなことを思っていたのが裏目に出たのか、連邦軍の援軍は本当に来てしまったようだ。

 

「ドズル様、レーダーが南米より接近中のミデア型を十数機捕捉しました。低空飛行のようです」

 

 無理矢理にでも61式を降ろすつもりか、なかなか勇気のある部隊だな。

 

「ガトー、こちらの戦場は任せる。制圧が完了次第こちらに合流せよ」

 

「承知しました。閣下、無茶はなさらないように。すぐに合流いたしますので」

 

 ガトーからの返事を受け、僕はドムを駆り南に向かう。このドムなら数分でミデアの姿を捉えられるはずだ。予めヅダの対艦ライフルを持ってきておいて正解だったな。そして僕の予想は当たり、数キロ南に下った所で遠方から近づいてくる小さな機影をモニターに捉える。

 

「まだ少し遠いか? いや当てて見せる!」

 

 その場で膝立ちになり対艦ライフルを構え、スコープを覗いて照準をミデアのブリッジに定めた。刹那ライフルから放たれた弾丸はミデアのブリッジをあっけなく貫通し、操縦不能となった1機目は地面へと落ちていった。次弾を装填し2機目、3機目も次々落としていく。そんな中、複数のミデアから61式が放たれた。数は……全部で36だ。

 

「厄介だな、距離を詰めさせてもらう!」

 

 対艦ライフルを捨てて背中にマウントしてあったザクマシンガンを構える。それと同時にホバーを使って戦車隊との距離を一気に縮めた。一番手前にいた61式に狙いを定め、引き金を引く。ターゲットにされた61式はあっという間に蜂の巣になり破片をばら撒きながら四散した。その後も薬莢を地面へとばら撒きながらマシンガンは火を吹き続ける。1両、また1両と確実に数を減らし数分も経たないうちに戦車隊はほぼ壊滅状態となった。後方にいた61式はこちらに砲撃を放つが、僕がそれを見逃すはずはない。タイミングよくしゃがみ砲弾を避けると、反撃とばかりに弾丸の雨をお返しする。ふと空を見上げると戦車隊を下ろした奴等の姿はすでに見えない。

 

「ミデアは逃げたか」

 

 

 その時、ガトーのグフが僕に追い付いた。

 

「閣下、研究所付近の制圧が完了致しました。ガルマ様が突入の指揮を取るようです。閣下もお早く」

 

「こちらもちょうど片付いた。連邦が追加戦力を投入してまで守りたかったもの……果たしてどんなものか」

 

 ガトーと共に研究所へと戻り、ガルマ率いる突入部隊へと合流する。拳銃の安全装置を外し、銃弾の装填を確認する。

 

「総司令はここで待っててくれるとありがたいのですが?」

 

「俺だって軍人だ。それなりの訓練は積んでいる。それに情報漏洩事件の時には戦闘に参加していたようなものだ。俺も連れていけ」

 

「分かりました。ですが何が待っているかは分かりません。命の保証は出来ませんよ」

 

「無論分かったうえだ。俺の事は気にしなくていい」

 

 ガルマは心配性のようだ。ドズルはオリジンでは爆破されても死ななかった男だ。そう簡単にはやられんさ。

 

 

 と気合を入れて突入した我々だったが

 

「全員武器を置いて手を、?」

 

 目の前に現れた光景に思わず絶句する。眼前に広がっていたのは戦争中の収容所のような風景だった。ここにいる人達は痩せ気味で栄養状態は良くないようだ。これが連邦の抱える闇なのか? 

 

「総司令、これを」

 

 ガルマに呼ばれ振り返ると、彼は青ざめた顔をして俯いていた。渡された紙に目を通した僕は思わず声を上げる。

 

「政府に異を唱える者を使用した人体実験だと?」

 

 大規模なデモが起こった際に拘束した人たちをここに運び非道な人体実験を行っていたらしい。資料によると拷問や生体実験、薬物を投与した強化プランなど沢山列挙されている。ここにいるのはその被害者だろう。怯えた目でこちらを見ている彼らをここに放ってはおけまい。ただ気になるのは渡された紙の中にあった名簿だ。そのうち10人ぐらいが移送済みと書かれている。どこに移送されたのか突き止めて助け出さないと。

 

「ドズル様、大変です!」

 

「ラース、そんなに慌てているんだ?」

 

「これを御覧ください」

 

 ラースの手に乗っていたのは一本のネジ。

 

「これはグフにしか使っていないネジです。開発した私が見間違えるはずはありません」

 

「連邦が我々のMSを解析したということか。まずいことになった」

 

 放棄したMSは連邦に回収されないように必ず破壊処理させている。それがどこかの部隊で行われなかった可能性が高い。早急に調査して明らかにしないといけない。また仕事が増えたぞ。



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第二十八話 杞憂

 オーガスタ基地に囚われていた人々の中にはニューヤークで誘拐された一般市民も確認された。そのためガルマは彼らを連れてニューヤークに入り、市長のエッシェンバッハと会談を行った。市長である彼にとってニューヤークの市民が誘拐された事には憤りを隠せないようであり、今回の件で連邦への信頼は完全に地に落ちたようだ。彼は財界の名家出身で連邦への資金援助を行っていたようであるが、援助はジオンへと切り替え武器の調達や輸送の手配など各方面に手を回してくれるらしい。これで北米大陸は完全にジオンの勢力圏となった。現在我々はエンシェンバッハ主催のパーティに呼ばれ、ニューヤーク市の迎賓館に来ていた。財界には連邦の息のかかった奴もいるが、ここに呼ばれているのは市長と仲のいい穏健派又は連邦反対派の者達ばかりだ。彼らとの社交辞令の挨拶を交わしてから数分、ガルマとともに夜風に当たるため建物のテラスへと出た。

 

「ドズル兄さん、この度は本当にありがとうございました」

 

「いや気にすることではない。まだまだ戦いは続く。気を引き締めろよ」

 

「ええ、分かってます。兄さんはこの後どうされるんですか?」

 

「俺は一度宇宙に戻る。兄貴に直接相談したいことがあるからな」

 

「例の件ですか。まあ兄上なら「そんなこと気にするな」と言いそうではありますが……北米は私にお任せ下さい」

 

 そう話すガルマの顔は一家の可愛い末っ子ではなく、兵の命を預かる責任者の顔だった。これならシャアに裏切られて特攻することはないだろう。連邦がMS開発に足を踏み入れたなら、そう経たないうちに地球圏の戦いは地獄絵図と化す。もしもが来た時のために有能な兵を残しておくのが今の僕の責務である。特にガルマは死なせたらジオンに勝ち目はないほどのキーマンだ。たとえ僕が死んだとしても弟は守り切ると決めている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 AM.01:35 アジア

 

 ドズルが北米に向けオデッサを発った頃、ユーリ率いるアジア方面軍はペキン基地から北、西、南へと着実に勢力圏を広げていた。その中でもアジア南方にあるエデン基地とマドラス基地には連邦の宇宙艦隊打ち上げ設備が存在しており、ユーリ自ら部隊を率いての制圧を試みていた。しかし、連邦の執念の防衛陣形に苦戦し思うように進んでいない。

 

「トップ小隊との連絡はついたか?」

 

「いえ、現在捜索を行っておりますが発見の報は入っておりません」

 

「そうか」

 

 現在索敵任務に就いている彼らとは通信が繋がらない状態となっており、進軍を止めて捜索を行っている状況だ。

 

「この辺に連邦の大きな基地はあったか? もしかしたら大部隊と鉢合わせした可能性も否めん」

 

「この辺ですと一番近いのはマドラス基地ですかね。とはいえ30kmは離れています。その可能性は低いんではないでしょうか」

 

 時刻は真夜中。辺りは深い霧に包まれており、いくらMSといえど迷ってしまうであろうことは策略などには疎いユーリでも容易に想像出来た。

 

「厄介ごとに巻き込まれていなければいいが……」

 

 

 

 

 本隊から約22キロの地点。霧に覆われた森林にトップ小隊の姿はあった。彼女の隊はルウム戦で戦艦3、巡洋艦7という戦績を挙げ晴れて昇格、現在はユーリ直属の兵として日夜戦場を駆けていた。

 

「ったく、すっかり迷っちまった。もうマドラス周辺まで来ちまったかね?」

 

「どうしますか、大尉? このまま霧が晴れるまで待ちますか?」

 

「すんません、俺のせいで……」

 

「アスが気にするようなことじゃないよ。判断を誤ったのは私だ。デル、本隊との連絡はつかないのかい?」

 

「何度も試みてますが繋がる気配はありません」

 

「仕方ない。霧が晴れるまでここで待機だ。デル、ソナーに反応があったらすぐに教えてくれ」

 

「了解しました」

 

 

 デル中尉のグフには高精度のソナーが搭載されており、部隊の索敵役を担っている。地面に片膝をつきバックパックから伸びるソナーを地面へと打ち込んですぐに索敵を開始した。

 それから数十分が経過し、なにも起きぬまま時間は過ぎていく……その時だった。

 

「っ! ソナーに反応あり、11時の方向……これは車両です。複数の音が聞こえます」

 

「軍用車か……マドラス基地は本当に近そうだね。夜間ということに加えてこの濃い霧だ。奇襲には持ってこいだね。デル、アス行けるかい?」

 

「「いつでもいけます」」

 

「よし、デルはそのまま索敵を続けて車両がどっちに向かうか特定してくれ。おおよその場所が分かり次第仕掛ける!」

 

 耳に流れ込む音に意識を極限まで集中させ、車両が進む向きと数を把握する。

 

「…………6時の方向に向かって行きます。数は16両」

 

「よし、作戦開始だ!」

 

(戦闘が落ち着いたら必ず会いに行くからな)

 

 デル機のコックピットにはサイド3に残した娘の写真が貼り付けられている。その写真を左手で撫でてから、先に移動を開始した2人に追いつくためデルの機体も歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 2月26日・サイド3

 

 ガルマとパーティーに参加した2日後、僕はサイド3に着いた。戦争の火蓋が切られてから此処に戻ってくるのは初めてだな。色々したいこともあるが、今はギレンに会うのが先だ。

 

「ドズル、わざわざ戦勝報告をしにきたのか?」

 

「いや、いささか面倒なことになってな。兄貴の知恵を借りにきた。どうも俺は戦略面には疎くてな」

 

「そうか、ならゆっくりと話を聞こう。まあ座れ」

 

 椅子に座り、これまでの戦闘の経過と件の事を伝えるとギレンは笑みを浮かべる

 

「連邦がMS開発か。だが今は情報が圧倒的に少ない。こちらでも調べは進めるが、そんなに気にすることではないだろう」

 

「何故だ?」

 

「ジオンには最強の矛、〔銀の流星〕がいるからだよ」

 

 こちらを見てニヤつくギレン、それを聞いて察する僕。

 

「まさか〔銀の流星〕って俺のことか?」

 

「知らなかったのか。兵たちの間では英雄として崇められているぞ」

 

「まじかよ」

 

「それに連邦のMSが開発されるなら、奪取してしまえばいい」

 

 僕はネームドのエースかよ。特にネームドになるほどの活躍なんてしてないんだけどね。

 

「不確定な未来の話などする前に、早く地球を占領してくれると助かるのだがな」

 

 どうやら僕が悩んでいたことはギレンの中ではとても小さい事らしい。とんだ無駄足だったようだ。

 

 

 



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第二十九話 トップ小隊

霧が覆う闇夜の中、マドラス基地は静寂に包まれている。そこへ到着した車列があった。乗っていたのはイーサン・ライヤー大佐。彼はアジア方面軍司令でありペキン基地司令でもあった。しかしペキン基地はジオンに奪取され、ライヤーは少数の部下と共に南アジアへと撤退するしかなかった。ペキン基地陥落から数日後にはマドラスはアジア方面軍の本部となり、沢山の人員と戦力が配備されることになる。最前線に司令部が置かれることに反対する者は多かった。だがジオン憎しと燃えるライヤーは全ての批判をはね除けて、司令部設置を強行した。その真の目的は戦功を上げてジャブローへと栄転することであり、その為ならどんな犠牲も構わないという彼なりの覚悟であった。

 

「ジャブローのエアコンは快適だ。まあ今は修理中だろうが、ここよりはマシであろう。君もそう思わんかね?」

 

「私はエアコンというものが苦手です。それにここよりもジャブローの方が生活しづらいと思いますがね」

 

部下のコジマ中佐はライヤーの誘いを否定した。中佐の生活しづらいというはそのままの意味で、連邦本部ジャブローは全機能を現在の場所から東100キロの地点へと引っ越しさせている最中なのだ。普段なら最前線に司令部を設置するという暴挙を許すことは絶対にしないであろうが、現在引っ越しで忙しいため隙が生まれてしまった。その隙をライヤーは見逃さず、配備を完了させた。

 今日はエデン基地の視察に出掛けていたが、ジオンが南下しているとの一報を受け急遽戻ってきたのである。数分後敷地内に入った車列が司令部の建物の前で停車し、彼らが車両から一歩出たときだった。霧の中を飛んできた物体が目の前の建物を粉砕したのである。飛び散った破片の雨はまだ車両から出ていなかった他の幕僚たちを押し潰し、ライヤーの左腕をも吹き飛ばした。

 

「ライヤー大佐!」

 

「ふん、またジオンか・・・ククク、つくづく私の野望を邪魔してくれるな」

 

左肩を押さえながら立ち上がった彼はふらふらと歩き始める。

 

「コジマ中佐、すぐに兵を出撃させろ。出来るだけ被害を押さえつつ撤退の準備を整える。アジア方面軍はエデン基地まで後退。そこを最終防衛線として抵抗を続ける。」

 

「分かりました。すぐに命令を出します。」

 

コジマは直接宿舎へと赴き、右往左往している部下に活を入れる。戦車隊は隊列を組ませ基地後方へと展開。航空隊はこの霧では飛べないので機体を放棄し、予備として置いてある車両で先に退避した。あらかたの事を終えてライヤーのいる場所まで戻ってくると、彼は今にも倒れそうなほど青ざめていた。

 

「大佐、まずは治療を!」

 

「周りを見てみろ。どこで治療が出来ると言うのかね?」

 

コジマが顔を上げるとすでに基地内の至るところで炎が上がり、断続的な爆発音が聞こえ続けている。どうやら焦りで周りの状況が見えていなかったようだ。とりあえず持っていた布を使ってライヤーの止血を行い、使える車を探す。

 

「この霧と闇は撤退する側にとっては有利に働きます。今のうちに下がりましょう。」

 

近くにあったバギーを拝借し瀕死のライヤーを乗せると、エデン基地へ向かって移動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

「アス、砲撃はもういいよ。さすがの腕だね。ご覧の通り基地は満身創痍さ」

 

コックピットを開け双眼鏡で基地を覗いていたトップは、あまりの正確な射撃に思わず舌を巻いた。アス少尉が駆るグフには背中に280ミリのキャノン砲が搭載されている。デル機と合わせて運用されるこの機体は索敵データを共有することにより高精度な砲撃を可能にしていた。

 

「ここからは私の出番だ!あまちゃんども、まとめて掛かってきな!」

 

トップはスラスターを最大で吹かし、一気に基地内へと着地する。背部のガトリングを前方へ展開し、分厚い弾幕を戦車隊に向けて発射し始める。対するマドラス守備隊は先手を取られて数を減らしつつあったものの時間差射撃で応戦を開始した。相手からの砲撃を目視したトップは最小の動きで全て避けつつ、戦車隊との距離を詰めた。右手に携行していたバズーカを構え、ありったけの砲弾を辺りに撃ち込んだ。

 

「手応えがないねぇ、もう終わりかい?」

 

爆発の煙が晴れた時、辺りに残っていたのは戦車であったはずの残骸と霧の中不気味に立つグフのみだった。一部の戦車隊の決死の玉砕により時間を稼ぐことに成功した連邦軍は、マドラス基地戦力の実に80%を温存したままエデン基地までの退路を確保したのである。

 

 

 

 

 

 

 

「おい、まじでマドラスを落としたのかよ...」

 

戦闘の光を捉えたユーリは本隊を率いてその地点へと急行する。そして到着した彼らが見たのは半分廃墟となったマドラス基地とそこに佇む3人の部下の姿だった。無傷で生還した彼女らは英雄と呼ばれ、尊敬の眼差しで見られることになる。

 

「ユーリ閣下、迷った挙げ句勝手な振る舞い申し訳ありませんでした。」

 

トップは素直に謝罪する。隠密作戦の途中、独断での戦闘行為は重大な作戦妨害に繋がる可能性もあり許されることではない。

 

「気にするな。お前たちはマドラス基地を落とした。これは必ず戦局を左右する事に繋がるはずだ。よくやってくれた」

 

戦局はこちらが圧倒的に優勢だと語るユーリを見て一安心したトップは、自分の愛機を整備するために戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サイド7

 

地球から見て月の反対側にある建設途中のコロニー、それがサイド7である。ここはルナツーの庭と言っても過言ではなく、開戦前から連邦の息の掛かった会社が建設を進めていた。ルナツーがジオンの手に落ちた今もその関係は続いており、連邦製MS開発に利用されることになった。また一年ほど前から民間人の移住も始まり、カモフラージュは完璧だった。そしてこの日、サイド7へ向かう複数のシャトルがあった。民間企業のためジオンのパトロール艦隊に目をつけられることもなく無事に大気圏を離脱した機内には、所狭しと機材が積まれている。

 

「サイド7・・・確か少佐のご子息も移住されていたと記憶しておりますが」

 

「アムロのことか。あいつは機械いじりが好きでね、今もサイド7にある自宅の部屋に籠もって何かしているはずだ。」

 

「仲はよろしいので?」

 

「昔は懐いていたが、今はさっぱりなんだ、母親と離してしまったからかな。まあ私の身の上話はここまでにして、仕事の話に戻ろう。V作戦の第一開発目標であった長距離支援MS完成だ。まあMSと呼ぶには乖離しすぎているかもしれんが、大きな一歩であろう。」

 

「そうですね、このまま順調に進めばあっという間にジオンの技術を追い抜くでしょう。故郷で待つ家族のためにも、早期の完成を目指さなくてはいけませんね」

 

テムは窓の端に見える青く輝く星を見つめながら、アムロの事を気にしていた。



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第三十話 潜入

 サイド7内部

 

 サイド7の居住地に住んでいる15歳の少年アムロ・レイは、幼馴染みのフラウに頼まれて朝から車の修理をしていた。そこへ一人の男が現れる。

 

「坊主、どうかしたのか?」

 

 アムロが顔を上げると、そこにいたのは30代半ばの男。彼はアムロの後ろから作業を覗き込んだ。

 

「そこはそう繋ぐのではダメだ。貸してみなさい」

 

 彼はアムロから工具を借りるとエンジンをいじり始める。

 

「えっと……あなたは?」

 

「私はランバ・ラルだ。こういうことは昔から好きでね」

 

 そう言いながら彼はほんの数分で修理を完了させる。

 

「あ、ありがとうございました。僕はアムロ・レイです」

 

「アムロ君か、機械いじりは好きなのかね?」

 

「は、はい」

 

「そうか、いい趣味を持っているな。いつか役に立つかもしれん、そのまま続けるといいぞ」

 

 短い世間話が終わると、ラルはその場をあとにする。アムロは去っていくラルの背中をずっと眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ランバ・ラルとその部下3名は住宅密集地から少し離れた郊外の空き家に仮設の作戦室を作り情報収集を行っていた。

 

「隊長、例の青年には会えたんですか? ドズル様は戦況を左右することになる奴だと言っていましたが」

 

「どうやら連邦士官の息子らしい、そのことについて閣下は仰っていたのかもしれん」

 

 アムロ・レイの身元調査はある程度進んでいた。それと並行してサイド7内の研究施設への潜入計画もまもなく始まる。ドズルから連邦の極秘作戦阻止と[アムロという青年に接触し可能ならこちらの陣営に引き入れること]との命令を受けたランバラル隊は表向きには長期休暇という名目でソロモンを離れた。それから一ヶ月経ちサイド7内の連邦軍の活動は活発的になりつつある。

 

「明日から連邦施設へ潜入し、さらに詳しい情報を集める。今日はゆっくり休んでくれ」

 

 裏ルートで手に入れた連邦の制服を部下に渡すと、ラル自身も休息のため自室に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 5月

 

 オーストラリア大陸・トリントン基地

 

「デラーズ閣下、我が第3師団はオーストラリア中部に陣を置いていた連邦残存部隊主力の殲滅に成功致しました」

 

 司令部の玉座に座るデラーズに頭を垂れているマ・クベだ。彼は不敵の笑みを浮かべていた。

 

「その際思わぬ土産を手に入れました。こちらをご覧ください」

 

 そう言って手渡したのは1枚の紙。

 

「……核か。このような物を持って逃げていたとはな。よくやった、マ・クベよ」

 

「閣下の野望は現実味を帯びてきました。この戦争が終わり次第、実行に移されるのですか?」

 

「まだ判断するには時期尚早だ。だがザビ家はギレン様だけでいいだろう」

 

 ギレンの信奉者であるデラーズは既に戦争終結の先を見ていた。彼が求めるのはギレンによる地球圏全体の独裁。それを邪魔する可能性のある他の兄弟はデラーズにとっては不要な塵であった。

 

「先ずはオーストラリア全体の制圧である。核にさえ耐えうる此処を拠点とすれば如何なる侵攻も阻止できるであろう。そしてドズルのいるオデッサは核の射程圏内だ。ボタン一つでヨーロッパは壊滅する」

 

「素晴らしいお考えです。このマ・クベ、一生貴方の側で支えましょう」

 

「高き忠誠感謝する。共にジオンを気高きものにしようではないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドズルside

 

 北米地区の完全制圧の報、これは他の地区で戦う兵士にとって戦闘の士気を格段に高めることになった。地上のミリタリーバランスはジオンが7割を占めている。それでも降伏しない連邦は強固な防衛線を構築しいつまでも抵抗を続けている。原作のように膠着状態に突入してしまっているのだ。それでも原作とは違い生産活動の要所は全てこちら側の手にある。数ヶ月もすれば物資が底をついた連邦は降伏するであろう。

 

「気がかりはV作戦か……」

 

 ジャブローに潜入している工作員の情報からV作戦が進められているのは把握している。そのためランバ・ラルをサイド7へと送り込んだ訳だが、どうしても不安は拭えない。正史とは完全に違う道を進んでいるため、どんな化け物が開発されるか分からんのだ。下手したら一機のMSだけで、今の状況がひっくり返される可能性だってあるのだ。

 

「こちらもMS開発を加速しなければいけないな」

 

 そう思い立った俺はキャリフォルニアのMS開発局へと向かった。

 

 

 

 

 

「グフやドムに変わる次世代MSですか? まだドムの生産は始まったばかりですよ?」

 

 開発局のラースを訪ねた僕は自分の考えを率直に伝えた。

 

「それは分かっている。だが既にグフは十数体、ドムに関しても3体鹵獲されているのは事実なんだ。解析される前に新たなMSを開発し連邦より何歩も先をいかなくてはいかない」

 

「それは分かりますが、現在ここの開発局はドム、グフ、そして水陸両用MSの改良で占められています。本国や他のサイドのラインでないと生産はおろか開発も難しいでしょう」

 

「そうか……いきなり申し訳なかった」

 

「いえ、こちらこそお力になれずすみません」

 

 焦りすぎか……だがいやな予感がするのは気のせいではないだろう。

 

 

 そして戦争は完全な膠着状態となる

 

 

 



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第三十一話 転機

 戦争膠着から2ヶ月。我々は水陸両用MSの数を揃え、連邦最大の海洋拠点であるハワイの攻略に乗り出した。ここまで攻略が遅れた理由はオーストラリア及び北米の残存部隊が合流したことに起因する。第1次侵攻では大隊規模の爆撃機により少なくない被害を受け撤退を余儀なくされた。ハワイに拠点を置く海軍の艦艇数は約200隻、航空戦力が約1200機と元々大部隊だったのに加え、残存部隊が合流したとなるととても侮れる数ではない。こちらもそれなりの準備が必要だった。

 

「潜水艦が100隻にズゴックが350、ゴックが150か。それにフェンリル隊とアンリの遊撃部隊を加えれば勝利は確実だろう。敵を分散させるため、ペキン、キャリフォルニア、シドニーの3方向から挟撃する。そして海軍艦隊及び航空機を掃討した後にシャア大佐率いる第1師団に第6師団の半数を加え、総数180機の上陸部隊が増援として空からハワイ基地に降下する」

 

 作戦室にはモニターがあり、この作戦を指揮する各部隊の隊長達が通信で参加している。中央モニターに太平洋の地図を表示させて、地図を指差しながら指示を出す。

 

「ハワイの連邦海軍を潰し制海権を確保すれば連邦は降伏するしかなくなるはずだ。この作戦に今後の情勢の行く末が掛かっている。気を引き締めて作戦を遂行してほしい。諸君らの健闘を期待する!」

 

 僕が敬礼し隊長達も敬礼を返すと通信は終了した。

 

「コーヒーです。お飲みください」

 

 セイラは落としたてのコーヒーを机に置いた。それを一口貰い、机上の写真に目を移す。

 

「ハワイの件はいいとして、問題はこれだ。なぜこいつがこの時代に……」

 

 ジャブローに潜入している工作員からの情報でV作戦について詳しく知ることが出来たのだが、問題というのは母艦についてだ。ペガサス級強襲揚陸艦〔アルビオン〕木馬の兄弟艦である。バーミンガムがいた時点でなんとなく察しはしていたが、まさかこいつまで出てくるとは思わなかった。これは思ったより苦戦するかもしれん。

 

「セイラ、ルナツーのコンスコンに繋いでくれ」

 

「承知しました」

 

 

 

 

 

 

 

 太平洋のほぼ中心に位置するハワイ基地。近海には何重にも防衛線が築かれ、空海戦力による強固な防御力を備えていた。連邦海軍最後の砦であり、ここを落とされれば連邦の拠点は本拠地ジャブローとベルファスト、そして各地に点在する小規模基地だけである。

 

「ポイントA、C、Dに反応あり。ジオンの侵攻です!」

 

 オペレーターが叫ぶ。基地内に一気に緊張が走った。

 

「航空機はスクランブル発進! 先行し、ジオンの足止めを行え! 第1から第4艦隊はポイントA、第5から第9艦隊はポイントC、第10から第15艦隊はポイントDへ展開。対潜攻撃用意だ!」

 

 ハワイ基地司令は的確に指示を出した。そして奥歯を噛み締める。

 

「あと少しで配備されるというときに……」

 

 

 

 発進から十数分、ジオンの潜水艦を捉えた400機の爆撃機は攻撃を開始する。しかし、爆弾が海面へと落ちる前に海中から激しい対空砲火が航空隊を雨のように襲った。物量で押しきろうとする連邦であったが数分経った頃には編隊はその半数を失ってしまう。だがその足止めが功を奏し主力艦隊が海域へと到着した。

 

「対潜攻撃始め!」

 

 対潜攻撃機を放出したヒマラヤ級空母群は機雷を投下、海に潜むジオン軍の殲滅を狙う。一方対潜攻撃機はその性能をフルに活かし、確実にMSを撃破していく。だが、着々と死は近づいてきていた。機雷を掻い潜ったジオンMS隊は艦艇の死角である真下から攻撃を始める。

 

「機雷原を突破されました! MSが距離を詰めてきています」

 

「ドンエスカルゴは何をやっている! 爆撃隊は全滅したのか?」

 

「付近に展開した爆撃隊は全滅した模様です。艦艇にも被害が出始めています!」

 

「海洋最強を謳歌した我々連邦海軍の命運もここまで……か」

 

 その時旗艦の甲板に一機のMSが着地する。そのMSは艦橋を一瞥するとアイアンネイルで容易く貫いた。

 

 

 

 

「こちらアンリ、ペキンルートの敵艦隊の一掃に成功。降下部隊に連絡を」

 

 [了解しました]

 

「我々は潜水艦ドックより基地内に侵入する。全機ついてこい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハワイ上空に到着した上陸部隊は輸送機から飛び出し、降下を開始した。

 

「事前に決めた通りに行動だ。間違っても功を焦るな」

 

 ハワイ基地は対空能力のほぼ全てを航空機と空母群に頼っていた。そのため基地上空の弾幕はほぼ皆無に等しい。一度上空まで入ってしまえば、占領自体は容易いのである。そのため1時間も経った頃には小島も含めて制圧を完了したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 オデッサ・司令部執務室

 

「ドズル様、シャア大佐より緊急連絡です」

 

「何? 繋いでくれ」

 

 モニターに映し出されたシャアの顔は困惑に満ちていた。

 

 [ドズル様、私達はハワイの制圧に成功致しました。]

 

「勝利報告の割には暗い顔をしているが、何かあったのか?」

 

 [緊急連絡とさせていただいたのは、ハワイの地下に巨大な施設があったからです。まずはこちらを御覧ください]

 

 画面が切り替わり、シャアが撮影したと思われる映像が流れる。そこに映し出されたのは地下と思われる場所に作られたMSの格納庫だった。

 

「これはMSの格納庫……だな。どのくらいの大きさだ?」

 

 [しっかりとした調査はこれからですが少なくともMS500機は容易に整備可能かと。これが本島の規模であります。他の小島の地下にも小規模の施設が複数見られることから、連邦は既にMSの量産体制を整えているのかもしれません]

 

 まだV作戦も完了していない段階だぞ。V作戦と並行して地上でもMSの量産が進んでいたということなのか? 事態は思ったより深刻なようだ。

 

「そうか、報告ありがとう。引き続き調査を進めてくれ」

 

 [はっ! ]

 

 敬礼とともに通信が終了する。

 

「この戦争、泥沼化するかもしれん」

 

 勝利の兆しが見えた途端にこれとは……これも歴史の修正力というやつなのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルナツー

 

「パトロール艦隊より通信。[地球軌道上にて連邦宇宙艦隊の打ち上げを確認。我、静観せり]です」

 

「予定通りそのままこの宙域まで来てもらう。あくまで侵攻を受けたという形で迎え撃たなければならないからな」

 

 連邦の侵攻を確認してもルナツー司令部は落ち着いている。何故かといえばこれが陽動作戦であると知っているからだ。連邦の狙いはルナツーに駐留するジオン軍の意識を侵攻してきた大部隊に向けさせ、その間にアルビオンをサイド7へ届けることであった。すでにその作戦はジオンへと筒抜けだった訳だが、陽動に掛かったふりをするようにドズルから指示が出されていた。[できるだけ戦闘を引き伸ばし、なおかつ自軍の被害は最小限に留めよ]との指令を受けたコンスコンは、駐留部隊を3つに分け補給と整備のローテーションを作り長時間戦闘への準備を整える。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルナツー宙域で戦闘が開始されたようです」

 

 アルビオンのブリッジでオペレーターが淡々と告げる。

 

「宇宙の猿はこんな低レベルの作戦にも引っかかるのか。流石は知能を持たない下等生物だ」

 

 艦長を務めるバスク・オムはそう吐き捨てた。

 

「予定通り10:00にはサイド7へ入港します。その後はガンダム等を回収し、ジャブローへと帰還する手筈です」

 

「コリニー大将からのご指名だ。必ずやり遂げて彼の立場を確かなものにする」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サイド7

 

 その日研究施設内は慌ただしく時が過ぎていた。ラルの工作によりMSの搬出作業が遅れていたためである。ラルは隠れ家で一人の少年と話をしていた。

 

「アムロ君、本当に私達に着いてくるんだな。後戻りは出来ないぞ」

 

「父の暴走を止めるために僕はできることがしたいです。僕はあの人が許せない」

 

「分かった。では港に迎えのシャトルがある。そこに向かってくれ。私達はMSを奪取したら合流する」

 

 アムロは隠れ家を出た。ラルも準備を終え部下と共に研究所へと向かう。

 




この小説の豆知識 ズゴック→ズゴックE ゴック→ハイゴック


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第三十二話 2機のガンダム

 AM 11:00

 

 アルビオンは予定時刻ジャストでサイド7へと入港した。その頃、ラルとその部下は搬出作業の進む研究所の中へ侵入していた。連邦軍の制服を着用していたため怪しまれることなく格納庫へとたどり着くことに成功し、トレーラーに横たわるMSに目を向ける。

 

「MSを起動したら武器を手に入れ、予め開けてあるハッチに向かえ。シャトルと合流後、ルナツーへと帰投する」

 

 そう言い終えると、ラルは手に持っていたスイッチを押した。それと同時に艦船ドックに仕掛けられた複数の爆弾が起爆する。数秒後には警報が鳴り響き、辺りは一気に騒がしくなった。兵士の意識が艦船ドックに向いてるのを確認して、MSに掛けられたシートを剥がした。コックピットに乗り込み、予め手に入れていたマニュアルを見ながら起動操作に入る。

 

「ザクとは操作方法が大きく違うな。連邦独自の規格が出来ているのか」

 

 その時、携帯していた小型無線機から部下の声が聞こえる。

 

 [1号機が見当たりません、いかがしますか? ]

 

 元の計画ではガンダム2機とキャノンタイプの奪取が目的であった。しかし、肝心の1号機はどこにも見当たらない。1秒にも満たない時間であらゆる可能性を想定したラルは、最短での脱出を選んだ。

 

「構わん、近くにあるキャノンタイプを奪取しろ」

 

 [承知しました]

 

 トレーラーからゆっくりと立ち上がり、格納庫の扉を破って外へ出る。近くのコンテナに入っているガンダム専用の武器を持ち上げると、ハッチへ向けてスラスターを吹かす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 アルビオンの艦内は慌ただしくなっていた。爆発の余波を受け右舷MSデッキが破損し、搬入作業が停滞してしまったのである。復旧の指揮を取っているのはアルビオンの設計を行ったテム・レイであったが、そんな彼のもとに最悪の知らせが入る。

 

「ガンダム2号機、ガンキャノン2機が強奪されました!」

 

「なんだと? 他の機体は……1号機は無事なのか?」

 

「1号機は無事です。既に搬入も終了しています。敵はシャトルで脱出した模様です」

 

 その言葉を聞いてテムは狂気的な笑みを浮かべる。

 

「そうか1号機は無事か。復旧作業は中止だ、メカニックを全員左舷デッキに集めろ」

 

 そう指示を出した後テムはブリッジと通信を繋いだ。

 

「バスク艦長、復旧作業は停止させて頂きます。私はガンダム1号機に乗り、奪取された2号機を追いますので」

 

 [そんな独断的行動を認めるわけがないだろう。貴様は所詮ただのメカニックだ、私の指示に従ってもらうぞ。貴様にはデッキを復旧するという命令を与えたはずだ。それにガンダムは最高機密だ。一概のメカニックが乗っていい機体ではない。分をわきまえろ]

 

「あなたの意見は聞いていません、ともかく復旧作業は行いませんので」

 

 テムはそう吐き捨てる。その言葉を聞いてバスクの顔がみるみる赤くなっていく。そして唾を撒き散らしながら喚きだした。

 

 [貴様ぁぁ、上官の指示に従えないものは銃殺刑だぞ! 分かっているの]

 

 テムはこれ以上会話の必要はないと判断した。途中で通信を切り、左舷デッキへと向かう。

 

「全メカニックに告ぐ。これより10分で1号機のFSWS装甲への換装を行う、一刻も早く2号機を取り返さなくてはならない。全力で事に取り組んでくれ」

 

 左舷デッキに集まったメカニックはテムの指示で一斉に動き出す。テム自身も換装作業に加わり、換装作業は予定通り10分で終了した。

 

「メカニックは全員退避! ハッチを開けろ、出撃するぞ!」

 

 1号機は射出用カタパルトに足を乗せる。そして前方のハッチが開いたのを確認すると、デッキから飛び出した。

 

「待ってろ、父さんが今助けに向かうぞ!」

 

 1号機は宇宙港を抜けて漆黒の闇へと消えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 MS3機の奪取に成功したラル達は、港で待機していたシャトルと合流しルナツーを目指していた。ガンキャノン2機は格納し、2号機はシャトルの安定翼に掴まっている状態だ。機内ではアムロがハモンと世間話をしながら、格納されたガンキャノンを眺めていた。

 

「ハモンさん、あなたも軍属なんですか?」

 

「私はあの人に付いてきてるだけよ。軍籍はないわ」

 

 その時、接触回線でラルが呼び掛ける。

 

 [何か嫌な予感がする。ハモン、私はここに残る。ルナツーに戻ったら増援を呼んでくれ]

 

「分かりました。お気をつけて下さい」

 

「ラルさん、僕もなんだか嫌な感じがします。無理はしないで下さい」

 

 [ボウズの勘が当たるのはこの数ヶ月で何度も経験している。今回ばかりは当たらないで欲しいがな]

 

 2号機は安定翼から手を放し、みるみる遠ざかっていった。

 

「坊や、少し飛ばすわ。舌を噛まないようにね」

 

「わ、分かりました!」

 

 シャトルは1段階加速し、ルナツーを目指して飛び続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ鬼が出るか蛇が出るか……」

 

 ラルはモニターを注意深く睨む。その集中力は凄まじく静寂に包まれた宇宙が映し出されている中で、一瞬だけ現れた光点を見逃さなかった。

 

「くっ!」

 

 機体をロールさせ緊急回避を行う。その刹那、元々機体がいた場所を桃色の光芒が通りすぎた。ラルが光芒の放たれた方向に視線を向けると段々と近づいて来る機体を視認する。それはラルが奪ったのとは違う見た目をした黒いガンダムであった。ラルは咄嗟にライフルを構えるが、対するガンダム1号機は距離を保って静止した。その行動にラルは困惑の表情を見せる。その時、1号機のパイロットからオープン回線で呼び掛けられた。

 

 [息子を返して貰おうか! ]

 

「貴方はテム・レイ少佐ですな。アムロ君なら本人の意思で既にルナツーへと向かっている。本人が嫌がっているのに返すわけにはいかんでしょう」

 

 ラルは対話で解決できると判断し、テムとの会話を試みる。しかし、その期待は次の言葉で裏切られた。

 

 [アムロ? そんな名前の奴は知らん。私が返して貰いたいのはその機体だ。私の息子である2号機を返してくれ]

 

 冷徹な言葉に、ラルは思わず感情的になる。

 

「貴方は自分が何を言っているのか分かっているのか!? 私がアムロ君と初めて会った時、彼は貴方を尊敬していた! そんな彼を冷たく扱い、挙げ句実験のためのモルモットにしようとするとは……それでも貴方は1人の父親か!」

 

 [何度も言わせないでくれ。私の息子は1号機と2号機だけだ。返して貰えないのなら、無理にでも連れて帰る! ]

 

 1号機はバックパックからビームサーベルを抜いた。そして一気に距離を詰めてくる。

 

 [さあ返して貰おうか! ]

 

「頑固な父親だな。しかし、焦りは自らの滅びを招くぞ」

 

 コックピットを狙い正確な横薙ぎを繰り出した1号機に対し、ラルはスラスターを吹かして後ろに下がることで回避しながら、同時に牽制のバルカンを放つ。

 

 [そんなもので私を止められると思うな! ]

 

 

 1号機はシールドで全て弾くと、2号機の懐に入り込むため一気に加速した。今度は避けられないと感じたラルはビームサーベルを抜き、応戦の構えを見せる。距離を詰めた1号機は上から刃を振り下ろす。その一撃を難なく受け止めたラルは1号機の腹部を蹴り、その反動を使って1号機から離れる。

 

「もうそろそろ終わりにしましょう。貴方は既に檻の中だ」

 

 その言葉でテムも初めて自分が置かれている状況に気づいた。1号機は十数機のザクに囲まれていたのだ。

 

 [これで私を追い詰めたつもりか? そうなら残念だよ]

 

 1号機はなんの前触れもなく、いきなりビームライフルの引き金を引いた。予期していなかった攻撃に一瞬対応が遅れた小隊のザクが直撃を受け爆散する。

 

「狙いを定めずに放った……のか? 奴の視界には映っていなかったはずだぞ。それにザクを一撃で葬り去るとは、連邦が開発した武器は戦艦並みのようだな。これは少し苦戦するかもしれん」

 

 



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第三十三話 ガンダム1号機

「各機動きを止めるな! 的になるぞ」

 

 1号機を囲んでいるのはジオン軍の中でも上位に入る練度を誇る第41機甲中隊だ。そのうちの1機が不意打ちとはいえ即座に落とされたことはランバ・ラルをも動揺させた。それでも数コンマのうちに思考を切り替え、指示を出す。自身もバルカンで1号機を牽制しながら、足を止めることはしない。中隊のメンバーも1号機を逃がさぬよう上手く立ち回っている。そんな中、中隊の隊長から通信が入る。

 

 [大佐はお下がり下さい。コンスコン司令より死守の命令が出ています。私たちはここで足止めしますので]

 

「しかし……!」

 

 [連邦製のMSを持ち帰れば我が軍の技術はさらに向上するでしょう。それをみすみす潰す訳にはいきません。]

 

「分かった。だが少佐も無理はしないでくれ。君たちを失うことは何にも替えがたいことだ」

 

 [それはどうか分かりませんが、命令は完遂して見せますよ。……今です! 抜けてください]

 

 全機で一気に弾幕を張り1号機の動きを封じる。その間にランバ・ラルは全速力でルナツーを目指し、宙域を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 テム・レイside

 

 

「そんな数で私を止めるつもりか! 生憎息子という不安要素がない今、私を止めるのは不可能だよ」

 

 私は近くにいたザク3機をビームライフルで続けて撃破する。だが残りのザクは怯む様子もなく攻撃の手を緩めようとはしない。

 

「私の邪魔をするな!」

 

 スラスターを一気に吹かしザクとの距離を詰め、左手のビームサーベルで一閃する。爆発する寸前のザクを足場として飛ぶことで推進材を節約し、近くで隊列をなしていたザクも袈裟斬りで葬る。その時、ロックオンを知らせるアラームが鳴った。

 

 [それ以上は許さんぞ! 部下の仇取らせてもらう]

 

 ザクの隊長機は部下を失い焦ったのだろう。本来なら遅れないであろうロックオンから射撃までが1秒遅れた。その1秒は私が回避を行うのには十分すぎる時間だった。回避と同時にライフルの照準を合わせるとそのまま引き金を引く。そして無慈悲にもその一撃はザクのコックピットを正確に貫いた。私が隊長機を撃破する光景を見ていた他のザクは踵を返し、撤退していく。ビームライフルで射撃を行い複数機を葬ったものの残りには逃げられてしまった。

 

「散々邪魔しておいて撤退とは、逃がす理由はないだ……ゴハッ。ちっ、時間切れか」

 

 ヘルメット内に漂う血の塊を視認し、私は追撃を諦めた。仕方なくアルビオンを目指してサイド7へと戻る。

 

 

 [1号機着艦! 物資の搬入を再開せよ]

 

 1号機がアルビオンへ着艦すると、クルーは中断していた積込作業を再開する。しかし彼らは気づかなかった。帰投した1号機のツインアイが不気味な赤から黄色へと戻っていることに……

 

 

 

 

「テム・レイ少佐、入ります」

 

 私はバスクに呼び出され、士官室へと赴いた。机に座るバスクは明らかに苛立ちを顔に表している。

 

「貴様、私の命令を無視した挙げ句軍の機密を無断で持ち出すとは良い度胸をしているな」

 

「はっ、申し訳ありません。しかしながらあそこでみすみすとガンダムを逃すことは私には出来ませんでした」

 

「結果的には逃がしているわけだが……よくここに帰ってこれたな」

 

 彼は椅子から立ち上がりゆっくりとこちらに近づいてきた。

 

「これはV作戦のために作られた母艦です。戻ってこないほうがおかしいでしょう」

 

「それもそうだな。だが貴様は軍人としてあるまじき行為を働いた。その報いは受けてもらうぞ」

 

 そう言うと同時にバスクは私に平手打ちを見舞った。

 

「これは貴様のふざけた精神の修正だ。しばらくは独房で過ごしてもらう事になるだろう。連れていけ」

 

 その言葉と同時に腹心が腕を拘束し、私は引きずられるように連行された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルナツー

 

 ランバ・ラルは無事にハモンらと合流し、ルナツーに帰還した。件の2号機とガンキャノンは連邦の回収を防ぐため直ぐに本国へと輸送されていったという。今は休息を取る暇も無いままコンスコン中将に報告を行っている。

 

「ランバ・ラル、ご苦労であった。さすがは青い巨星だ」

 

「お褒めに預かり光栄であります。して、第41機甲中隊はどうなりましたか?」

 

「帰還したのは2機のみであったと聞いている。他の13機は奴に殺られたのだろう。隊長機も未帰還だ」

 

「そうですか……連邦のMS3機と引き換えに彼らを失う事は耐え難い事であります」

 

「貴殿が案ずることではない。戦争とはそういうものだ。ああそれとゆっくり休息を取って欲しいところではあるのだが、どうも最近連邦軍の動きがきな臭いらしく1日の休息の後オデッサに降りてくれと総司令から直々に命令が出ている」

 

「承知いたしました」

 

 ラルは司令に敬礼し部屋を出た。そのまま司令部を出て居住区へと向かう。目的はアムロだ。彼の為に用意された部屋に着くとノックし、扉を開ける。

 

「失礼するよ、アムロ君。少々話があってね」

 

「ラルさん、どうかされましたか?」

 

 椅子に座りアムロと向かい合うと話を切り出す。

 

「明後日にはオデッサに降りることになった。アムロ君にも着いてきて欲しいんだ。何故かは分からないがドズル閣下はえらく君の事を気にしていてね」

 

「分かりました。僕はどこまでも貴方に着いていきますよ、命の恩人ですから」

 

 そう言うアムロの目は憧れの眼差しであった。

 

「お父さんに刃を向けることになるぞ。それでもいいのか?」

 

「父はガンダム……いえ1号機に取り憑かれています。僕は1号機を破壊し父を救いたいです」

 

「分かった。では閣下に進言しよう。明後日からアムロ君は軍人だ。今日と明日はゆっくり休んでくれ」

 

 ラルはアムロの潜在能力に勘づいていた。そしてこのラルの判断が後に明暗を分けることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 2日後

 

 ランバ・ラル隊はアムロを連れてオデッサへと降下した。それとほぼ時を同じくして、サイド7からアルビオンが出港する。

 

「本部より通信が来ています。モニターに出します」

 

 通信士が操作を行い、ブリッジの通信モニターに映像が表示された。

 

 [バスク、予定より大幅に出港が遅れたようであるが何か問題でもあったのか? ]

 

「コリニー大将、申し訳ありません。サイド7でジオン特殊部隊の襲撃を受けガンダム2号機以下MS3機を奪取されました。出港が遅れたのは艦の修理と搬入作業に時間が掛かってしまったからであります」

 

 その言葉を聞いて、画面越しのコリニーはあからさまに不機嫌になった。バスクは自分の額を流れる冷たい汗を感じた。

 

 [お前ともあろう男が失敗するとはな。]

 

「しかしガンダム1号機はジオンを追撃し、13機の新型ザクを単独で撃破致しました。成果は十分かと」

 

 [ふん、それで今の戦力は? ]

 

「ガンダム1号機、ガンキャノン4機、ガンタンク2機であります。ですが1号機に関しましては正規パイロットがジオンの襲撃によって操縦不能なほどの大怪我となり、臨時にメカニックであるテム・レイ少佐が操縦していました。現在は規律違反のため独房に拘束しております」

 

 [ではすぐに拘束を解きたまえ。ガンダムを操縦できるのは彼だけなのだろう? ]

 

「お言葉ですが彼はメカニックです。軍の機密を動かした以上、適当な処置と存じますが」

 

 バスクは自分の意に沿わなかったテムをどうしても独房から出したくなかったのだ。

 

 [貴様は私の意見に従っておれば良い。それとも最前線の戦車隊にでも左遷してやろうか? ]

 

「も、申し訳ありません。ではこれよりガンダムのパイロットはテム・レイ少佐と致します」

 

 [あと少しでトラッシュ作戦も開始される。早くジャブローに戻ってこい]

 

 バスクは歯ぎしりするしかなかった。通信が終了した後、持っていた指揮棒を床へと叩きつける。

 

 

「大気圏への突入準備だ。さっさと動け」

 

 

 アルビオンはジャブロー降下コースへと入った。だがそこまでの道のりがジオンの制宙圏であることを彼らは甘く見ていたのだ。



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第三十四話 大気圏突入

ここから更新速度あげていきますm(__)m


 連邦製MSの奪取作戦の一連の報告を聞いた宇宙軍司令マハラジャは、母艦を逃がさないために直ぐに展開できる位置にいたパトロール艦隊のチベ級5隻、ムサイ級8隻、MS30機余りを予想進路上に先回りさせた。敵艦1隻に対して過剰過ぎる戦力であると反対する者もいたが、先の被害報告から妥当であると最終判断を下した。

 

 

 

 その頃、アルビオンは戦闘配備状態のまま大気圏降下を目指していた。このまま順調に進めば真っ直ぐジャブローに降りることが出来る。だが艦内の空気はとても重いものだった。

 

「ジオンがいつ仕掛けてくるか分からない。レーダー手、警戒を怠るな。MSはスタンバイさせておくように。テム少佐は前線を1人で張ってもらう。他のMSはアルビオンから離れないように。ガンダム以外はこの艦の護衛だからな」

 

 コリニー大将から言われてしまってはテムを邪険に扱う事が出来ず、バスクは苦虫を噛む思いで指示を出している。そして彼の言葉通り、ジオンはすぐそこまで迫ってきていた。数分後には、最新鋭のレーダーが熱源反応を捉える。

 

「3時、11時方向に感あり! これは……チベ級2、ムサイ級3! 11時方向からはチベ級3、ムサイ級5が接近してきています!」

 

「ちっ、害虫どもが! MS隊を全機発進だ、先ほどの指示通りに行動させろ。大気圏まではあと少しだ、なんとしても撃破して貰わなければ困る!」

 

「了解!」

 

「MS発進後、10秒間の艦砲射撃を行う。準備しておけ」

 

 バスクは的確に指示を出し、艦窓に映る地球を見つめる。

 

 

 

 

 

 艦内が一気に慌ただしくなる中、既にコックピットで待機していたテムはブリッジからの通信に困惑するしかなかった。

 

 [少佐……ガンダムは単独で敵の撃破との命令が出てます。さらにアルビオンは10分後には大気圏降下を開始します。それまでには戻ってきてください! ]

 

「君、何かの手違いではないのかね? 敵の数は聞いたが、さすがに遂行不能と思うんだがね。それに10分で戻れなど不可能に近い」

 

 [バスク艦長は先の通りおっしゃっています。ご武運を! ]

 

 そして一方的に通信は切られた。

 

「ヤツはまだ根に持っているのか……まあいい、息子の実力を皆の前で示すのにいい機会だ」

 

 テムは一本の注射器を取り出し、腕に刺す。中の液体を全て注入し終えると、注射器を抜き操縦桿を握る。

 

「1号機出るぞ!」

 

 アルビオンのカタパルトから勢いよく飛び出した1号機は、右舷から接近してくるジオン艦隊に向かっていく。その時、ツインアイが黄色から赤に変わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「新造艦がMSを射出! 数は5、そのうち4機は新造艦に張り付いています。もう1機はまっすぐこちらに向かってきているようですがドレン大尉、いかがなさいますか?」

 

「あれが噂のMSか。新造艦はトクメル隊に任せて、我々はあれを叩く。MS隊全機発進させろ! 絶対に地上に降ろしてはならんぞ」

 

 ドレンの指示で、スタンバイしていたMS16機が各艦の格納庫から出撃する。

 

 

 

 

 

 

 [アルマン君、君は我が隊にとっての宝だ。出来るだけ後方での支援に徹してくれるとありがたい]

 

 母艦の前面に展開したアルマンは、静寂に包まれるコックピットの中で、出撃時に隊長から言われた言葉を思い出していた。ルウムでの初陣を終えた彼は中尉に昇進、その後パトロール艦隊に配属となった。エースパイロットとして配属された彼にはロールアウトしたばかりのゲルググが与えられている。様々なプレッシャーに耐えてきた彼は精神的にも確実に成長していた。

 

 

 

 [相手は41中隊を壊滅させた野郎だ。ジオン宇宙軍の名に懸けて絶対に落とせ! ]

 

 数分後、1号機を捉えたMS隊は散開して迎撃体制を整える。だが1号機が照準を合わせていたのはMS隊ではなかった。奴の銃口から放たれた複数のビームはMS隊を通り過ぎ、1隻のムサイの艦橋とエンジンを正確に貫いたのだ。爆散こそ免れたもののムサイ級は航行不能に陥いることになった。そして奴の銃口がアルマンに向けられる。

 

「あの距離からの正確な射撃.くそっ!」

 

 こちらに向けて放たれたビームを間一髪の所で躱し、試作型ビームライフルで応戦する。だがその一撃をいとも容易く躱した1号機はさらにジオン艦隊との距離を縮め、牽制の為に近づいたザクのコックピットを正確に撃ち抜いた。それから数分が経ち、1機、また1機とジオンMS隊は数を減らしていく。アルマンも必死に射撃しているが、1号機はビームの軌道を分かっているような動きで避けてしまう。戦友が次々と宇宙に散っていく中、1号機の動きに疑問を感じたアルマンは頭の中で仮説を組み立てた。

 

(未来予知でも出来るのか? いやそんな奴いるはずがない。奴がもしシステムで予測してるとするならば……)

 

 仮説を検証するため1号機に銃口を向ける。だが引き金を引く直前に照準を機体の右側にずらした。そして1秒も経たぬうちに放たれたビームは、奴の左肩の装甲を溶かす結果になる。その結果を受けアルマンは確信した。

 

(奴は殺気を検知して攻撃を行う。また向けられた武器の弾道予測線を表示する。そしてパイロットはそのデータをもとに避けている……)

 

 だがそれが分かった所で1号機を仕留められるわけではなかった。奴はアルマンを優先目標と認定し、ビームサーベルを抜きながら一気に加速したのだ。一歩遅れてアルマンも回避行動を取るが、1号機の方は既にビームサーベルを振り抜いていた。後ろに下がることで胴体を切り裂かれる事はなかったものの右腕を損失しバランスを崩した所へ、さらに蹴りによる追撃が飛ぶ。激しくコックピットを揺らされ、モニターに強く頭を打ち付けたアルマンの意識は闇の中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

「時間がないな……やむを得ん」

 

 目の前で沈黙したゲルググに止めを刺そうとしたテムであったが、タイムリミットを確認し機体の方向を変えた。目指すは艦隊旗艦であるチベ級。周りを護衛のザク達に固められてはいるが、突破は容易い。寸分違わず胸部を射抜きつつ、対空砲火を掻い潜りながらチベの上へと位置取る。だがその時、1号機の背後から急接近する影があった。

 

 [これ以上味方を殺らせるものか! 化け物め、落ちろ! ]

 

 その影の主である隊長機はぎりぎりまで接近し、ヒートホークを1号機目掛けて振り下ろす。意識外からの渾身の一撃は1号機を確実に捉えたと思った。だが1号機は右腕を体とザクとの間に入れ、犠牲にすることでその一撃を受け止めたのだ。予期せぬ結果に驚いた隊長であったが、思考をすぐに切り替え1号機と距離を置く。しかし、それは逆に致命的な動きとなってしまった。1号機のシステムは瞬時に隊長機の行動を演算し最適解を表示する。テムはそれを確認し振り向き様に射撃、隊長機を一撃で撃破した。これで1号機を襲う脅威は無くなり、テムは改めてチベ級へと照準を合わせる。

 

 

 

 

 

 

「MS隊ほぼ壊滅しました。ビーコン反応があるのはアルマン機のみですが、通信に応答はありません」

 

 オペレーターが淡々と告げる。死の瞬間が刻一刻と迫る中にも関わらず、旗艦のブリッジ内はとても落ち着いていた。

 

「そうか。あと少し時間を稼げればルナツーからの増援も到着しただろうにな。残念だ。別動隊には撤退の信号弾を上げろ」

 

 

 ドレンが話を終えた直後、ブリッジは桃色の閃光に包まれた。間一髪信号弾は上がったものの、船体の弱点を射抜かれチベ級は四散する。それから間を置かず僚艦4隻も全て撃沈され、ドレン率いる第13パトロール隊の本隊は壊滅した。気絶しているアルマンだけを残して……

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、別動隊の襲撃を受けているアルビオンは劣勢を強いられていた。キャノンとタンクが1機ずつ撃墜、アルビオン自体も少なくない損害を被っている。それでも撃沈まで至らないのは単に艦の性能であろう。相対している別動隊のMSも3割を損失しているのが、アルビオンの迎撃力の高さを物語っている。

 

「左舷エンジン付近に直撃弾! 出力11%低下なれど、降下には支障ありません」

 

「被弾した箇所の隔壁は閉鎖しろ。なんとしても降下軌道までたどり着くのだ!」

 

 

 バスクの言葉には怒気が含まれている。自分の采配ミスにより、責任を取らされることを恐れているのだ。降下軌道に到達するまでは残り2分。その時、3時方向で信号弾が上がった。それを確認したジオンのMS隊は踵を返し、撤退していく。

 

「1号機が帰投します。ジオンは全機撤退しました。付近に反応はありません」

 

「なんとか凌いだようだな。1号機を収容しだい、大気圏に突入する」

 

 アルビオンは無事にジオンの制宙圏を突破し、ジャブローへの突入コースへと入った。サイド7からジャブローまでの1号機の戦闘記録はすぐに他のMSへとフィードバックされ、連邦の反撃の礎となるだろう。

 

 

 

 

 

 その頃、地球軌道ではルナツーからの増援部隊が宇宙空間に漂うゲルググを発見。他の生存者と共に救出され、ルナツーへと運ばれることになった。そして1ヶ月後、ジオンに遅れを取り続けていた連邦軍はある作戦を発動する。

 

 




サイド7から地球突入までの1号機の戦果

チベ級2隻 撃沈
ムサイ級3隻 撃沈
ザク高機動型 26機 撃墜


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第三十五話 反撃の礫

 ドズルside

 

 地球軌道での戦いから一ヶ月あまり。アルビオンがジャブローに到着したという報告以後、連邦軍は沈黙を貫いていた。最前線での抵抗も下火となっており、その沈黙は逆に恐怖を感じるほどであった。そのため、しばらくは戦闘らしい戦闘も起きていなかったのだが、この日ついに奴らが重い腰を上げて動いた。戦局の変化を告げるその報告は僕が執務室で仕事をしていた時に舞い込んできた。

 

「海岸に面している拠点が次々と連邦軍の攻撃を受けているようです。そして一部の情報によりますと、敵部隊はMSと……」

 

 セイラが発した言葉に思わず顔が強張る。サイド7での件、そしてハワイ島の地下にあった広大な格納庫から予想はしていたが出来れば聞きたくなかった単語だ。原作よりもパワーバランスの差は小さくなっているものの、未だに連邦の国力は侮れない。下手したらここから一気に押し返される可能性もあるのだ。

 

「とうとう奴らも戦争に本腰を入れてきたわけか。よし、遊軍として置いている部隊を各拠点への増援として派遣しろ。それと同時に内陸の基地も状況の変化にいつでも対応出来るように要請を」

 

「承知しました」

 

 僕は直ぐに指示を出した。対応が後手に回ってしまえば勝てる戦いも勝てなくなってしまう。それだけは避けたい。

 

「それと今回の件に関してなにか潜入班から情報はないか?」

 

「未だ調査中とのことです。ですが、まもなく報告出来ると」

 

「そうか、ありがとう」

 

(それにしても何故いくつもの基地を襲う? 得意の物量とはいえ、戦力を集中させ1点突破した方が良いはずだが……何かあるな)

 

 僕は人知れぬ不安に駆られていた。

 

 

 

 

 

 同時刻 ペキン基地

 

 この日、海岸線の哨戒任務に出ていたのはトップ中隊であった。様々な戦場を戦い抜いてきた彼女らは、新兵20名弱を率いるまでになっていた。そしてその偶然が、基地へと迫る危機を早期に発見するという結果に繋がる。

 

「司令部聞こえるかい! 上海地区の東からミデアが接近中! 数はざっと50機、私らはこれより迎撃に動く。すぐに増援と各地区の警戒態勢を!」

 

 トップは司令部に通信を入れると背部のガトリングを展開、すぐに厚い弾幕を張る。それに呼応するように、デルとアスもマシンガンの引き金を連続して引く。

 

「新兵ども! 今までの訓練の成果を私に見せてみ!」

 

 他の新兵達は上官の素早い行動に一歩遅れを取りつつ、近づいてくるミデアへと攻撃を加え始めた。新兵といえど練度の高い射撃にミデアはなす術も海へと次々と墜落していく。だが何機かは運良く突破に成功、浅瀬に積み荷を投下した。その積み荷をモニターで捉えたトップは、思わず体が強張る。なぜなら彼女等の前に現れたのは、連邦のMSだったからだ。その刹那、ユーリ中将から通信が入る。

 

 [トップ聞こえるか? お前達の地区の他にも複数の場所から連邦MSが上陸したとの連絡が入っている。これより海岸線を第1防衛ラインとして設定し、迎撃にあたれ。以上だ]

 

 ユーリは用件だけ伝えるとすぐに通信を切る。どうやら基地司令部も慌ただしく動いているらしい。

 

「ちっ、せっかく新兵の育成も終わって休暇が取れそうだったってのに、めんどくさいことになったもんだね。これより対MS戦闘へと移行する。1機も後ろに通すんじゃないよ!」

 

「「了解」」

 

 背部のガトリングをパージし、ヒートソードを抜きながら一気に加速する。離れていたはずの距離は瞬く間に縮まり、連邦MSの懐へと入り込むとコックピットへと正確に刃を突き刺した。一突きで主を失った連邦MSは、脱力したように活動を停止する。トップは骸となった機体を弾避けとして利用し他の敵からの射線を遮りつつ、左手の3連ガトリングで敵を葬っていく。数分経つ頃には海岸線は無数の残骸で溢れ、降下したMSは全滅していた。これで一息つけるはず……だがトップの思いはデルからの通信で消えることになった。

 

 [隊長、東より新手のミデアが複数接近中。数がどんどん増えています! ]

 

 東から接近してくるのは先ほどの数の比ではないミデアの大群。とても休息を取れる状態ではなかった。

 

「対MS戦闘に移行したのは不味かったか……デルは他の部下と共に出来るだけミデアの数を減らしてくれ。アスはMSが着地した瞬間を狙って砲撃、出来れば仕留めて欲しい。私は撃ち漏らしたMSを片っ端から切り伏せる。あと少しの辛抱だ、気合い入れな!」

 

 トップは一度陸地に上がり態勢を立て直す。既にデル率いる射撃部隊は攻撃を開始、複数のミデアが煙を上げ高度を下げ始めた。それでもMS隊の降下をさせるのは輸送隊の意地というところだろうか。だが無事に降下出来たとしても待ち受けているのはアスの正確な砲撃だ。着地する瞬間を狙われれば避ける術はない。

 

「やっぱりアスの砲撃は正確無比だ。しかし妙だね……さっきのより敵の動きが滑らかになっている。なにか仕掛けがあるようだ。しかし、後ろには通さないよ!」

 

 

 後ろにも防衛ラインはあるとはいえ海岸線で食い止める事が出来れば、基地全体としての負担は少なくなる。ペキン基地の主戦力であるトップ隊が最前線で敵を食い止めていれば、その間に防衛準備を整えられるのだ。その思いを胸に彼女は愛機を駆り、砲撃を運良く避けた敵MSを切り伏せていく。

 

 

 

 

 

 

 同時刻・ペキン基地司令部

 

「増援部隊より通信、あと30分程で到着するそうです」

 

 副官のアブスト少佐がユーリに通信の内容を告げる。

 

「そうか、此処もこれで持ちこたえられそうだな。他の基地も小規模な侵攻だったみたいだし、追い詰められて連邦は頭がおかしくなったんじゃねぇか?」

 

 ユーリは冗談を言いつつも、内心思考を巡らせていた。

(ジャブローから侵攻しやすいキリマンジャロやキャルフォルニア、オーストラリア東部などは分かる。だが何故ジオンの制空権である太平洋を越えて此処を襲撃できた? 何かおかしい……)

 

「増援部隊が到着次第、第1防衛ラインの部隊を下がらせる。予め知らせておけ。それとお前に頼みがある」

 

 他の者に聞こえぬようにアブストに耳打ちをする。

 

「それは!! ……分かりました。準備しておきます」

 

「まあ最悪の保険だ。現実にならなきゃそれでいい。頼むぞ」

 

 直接命令を受けたアブストはどこかへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 太平洋

 

 ハワイより西200キロの地点に連邦軍のヒマラヤ級が数隻位置している。そして偶然にも何故かその海域だけジオンの哨戒は行われていなかった。

 

「作戦の首尾はどうか? どこが堅いかは判明したのかね?」

 

 そう発したのは、連邦軍大将の地位にいるグリーン・ワイアットである。彼は特別に用意された椅子に座り、ティーカップを片手に作戦を指揮していた。

 

「上海地区海岸線がとても防御が堅いようです。投入した部隊がことごとく全滅しています」

 

「そうか。崩すならそこだ。死神を投入せよ」

 

「承知しました。プランBに移行! 死神を投入する」

 

 

 艦長の指示の下、一機のミデアがヒマラヤ級の甲板から飛び立つ。

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘開始から2時間程経った頃、ウジのように沸いていた連邦の増援はぴたりと止んだ。最前線で相対していたトップ中隊の機体はその殆どが弾薬切れを起こし、負荷も限界であった。

 

 [こちら司令部だ。内陸からの増援部隊がまもなくそちらに到着する。トップ中隊は基地に帰還し、整備と補給を受けてくれ]

 

 その通信を聞いて、新兵は歓喜の声を上げる。トップ自身も自然と笑みがこぼれ、緊張の糸がやっと解けたようだ。

 

「ほらほら、基地に帰るまでが任務だ。私たち3人が殿を務めるから、お前達は先に戻っていいよ」

 

 こうして激戦を終えたトップ中隊は基地への帰路を歩き始めた。その時、デルが音を捉える。

 

「後方よりミデアが高速で接近してきます!」

 

「ちっ、残弾がある奴は迎撃を……なに!?」

 

 それが普通のミデアであったなら、激戦を経たとはいえ直ぐに撃墜することが出来ただろう。しかし、速度が違いすぎた。奴はトップ中隊が構える前に頭上を通り過ぎていたのだ。そして、一番前にいた新兵二人の前に何かが現れる。それを即座に視認したのはトップだけであった。

 

「避け……」

 

 だが咄嗟の彼女の声が新兵に届くことはなかった。既に2機は一振で両断され、新兵はその短いパイロット人生を終えていたからだ。それから1秒程遅れて、他の者が敵を視認する。爆風の中に佇んでいたのは、漆黒に塗られた謎の機体。

 

「新兵は全員散開して逃げろ! 躊躇うな! こいつは私達が引き受ける!」

 

 



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