リンちゃんにもぐもぐされたい豚まん (ジェームズ・リッチマン)
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リンちゃんにもぐもぐされたい豚まん
「思いっ切り寝過ごしたーっ!」
時間は五時過ぎ。入った温泉が気持ちよくて、ご飯食べて、気がついたらこんな時間だ。
外はもう真っ暗。これからキャンプだっていうのに……ああもう、暗い中で設営とかしんどいぞこれ。
法定速度をそこそこ守りつつ飛ばしてるけど、到着は……六時半を回るかも。お腹も空くよなぁ。うう……いや、待てよ。
「“アレ”買わなきゃ……!」
夜道の脇でぽつんと浮かんでいたコンビニの灯りに誘われ、ひとまず休憩。
食材を買うついでに、目当てのアレを買っておかなくちゃいけない。
時々なかったりもするんだけど……まぁこの時期だったら平気なはず。
(あった。二個残ってる!)
(豚まん)*-∀-)ン?
保温器の中には豚まんがふたつ残っていた。皮もまだ萎びてないし、超美味しそう。
あと飲み物と小さめのお菓子と、……結構あるけど、まぁ大丈夫だろう。着いたらお腹はすいてるはずだ。
「ジューシー豚まん二つください」
「551円です」
うぐっ……今日はちょっとお金使いすぎかもしれん……。
……いや、いや! もう私も高校生なんだ。このくらいは許される贅沢……。
/紙袋/∀)))ガサガサ キャー
あれ? 今なにか甲高い声が聞こえたような。
……まぁ気のせいか。寝起きだし……。
その後、湯冷めした身体を風に晒しつつ、さっむーい思いをしながらもどうにかルート通りに進む。
暗いし寒いし道も酷いし通行止めにあったりもしたけど、大垣千明のおかげでどうにか遠回りすることもなく目的地に到着した。
陣馬形山。
暗くてほとんど何も見えないけど、遠目に見える夜景は……綺麗だ。
「……じっくり見たいけど、早く設営しないとな」
(レジ袋) ガサガサ… ミィー…
「猫の鳴き声が聞こえる……夜は食べ物出しっぱなしにしないようにしなきゃな」
もちろん普段からしっかり片付けてるけど。
強風の中、何度か
飛ばされて山の彼方に消えてたら今度こそ踏んだり蹴ったりだったけど、どうにか一つのギアも紛失することはなかった……ついてないなぁ今日。
設営し終えたので、今更感はあるけど施設の確認をしておく。
人も全くいなかったのでトイレの近くに設営してあるから便利だ。
水場は冬のせいか水道が止まっていた。コンビニで水買ってなかったら本当にオワタって感じだ。
……今日の私のギリギリで生きてる感に拍車がかかっている……。
山小屋もあったし鍵もかかってなかったけど、雰囲気が怖い。
いざという時は中に避難できるけど……まぁ使わないだろう。使わないことを祈りたい。
「……ふう」
色々と見て回ったけど、明るい内に済ませておきたかったな。
そうしたらもっといい景色が見えていたんだろうし。
「……あ」
でも、やっぱり遠くに見える夜景はすごく……美しかった。
……トイレ近くの便利な場所に籠もっているのも良いけど、今日は他に誰もいない。
せっかく貸し切りなんだ。……もう少し、贅沢感を味わうことにしよう。
「えーとクッカークッカー……」
(レジ袋)∀)ノシ リンチャーン
テントから荷物を取り出して、かばんに入れる。
そして私は電波塔近くの展望台まで登り、絶景スポットまで辿り着いた。
……うん。やっぱり展望台は展望台らしいところに作られるもんだな。
写真を取って、みんなに送る。……画像じゃ綺麗さはほとんど伝わらないだろうけど、今日一日ガイドしてくれたんだ。精一杯の報告はしとかないとね。
しかし、風が強いなここ。
……登ってる時はいい運動になったけど、じっとしてるとやっぱり寒いや。
風邪を引く前に、お茶とご飯にしよう。
そう、今日のご飯は少し特別。
家から持ってきた地味に重いホットサンドメーカーを使って、焼き豚まんを作るのだ。
バターを塗ったプレスでぺちゃんこにした豚まん。絶対美味いやーつ。
まずはガスストーブをつけて、温めたホットサンドメーカーにバターを塗って広げておく。
うーん、この時点で既に美味しそうな匂い……バター最強。
二枚の鉄板にほどよくバターを塗り込んだら、あとは豚まんを挟むだけだ。
もう時間が経っちゃっててさすがに袋の中にあるのは冷えてるけど……ふふ。ホットサンドにすれば問題なく温かいごはんにできるって寸法よ。
しかも今日は豚まんを二つも買っちった。二度も楽しめ……あれ?
「なんぞこれ」
豚まんを入れてるレジ袋が、まだほんのり温かい。
おかしいな。こんな寒空の下じゃ温かさが残ってるはずもないのに……。
あれ? ていうかこれ、二つともじゃないな。
一つだけが異様に、普通に温かいままっていうか……。
ガサガサ……
/紙袋/*・∀・)ヤァ!
「……」
袋から取り出した豚まんには、顔がついていた。
「うわぁ!?」
/鉄板/*×∀×)ベチッ ギャァアアア
なんぞこれ! なんぞこれ!
思わず挟んじゃったけど!
「あ、悪霊退散!?」
/鉄板/ジュワー ギャァアアア…
思わず挟んじゃった上に焼いちゃったけど!
大丈夫……なのかこれ!? いやなんだいまの! さっきの!
「ど、どうしよう……ていうかなんだろう……」
閉ざされたホットサンドメーカーはじゅうじゅうと静かな焼き音を立てている。
もう豚まんの顔は見えないし、聞こえてた……かもしれない叫び声とかも聞こえない。
……果たして今調理してる豚まんは、普通の豚まんなのだろうか……。
「うう……どうしよう……」
自分でもよくわからない葛藤をしているうちに、焼き加減も程よい時間になってきた。
これ以上は焦げる……いや、焦げるとか気にする次元の話なのかもわからんけど……。
と、とりあえず開けてみよう……。
「……お、おーぺん!」
勢いよくホットサンドメーカーを開くと……そこには、綺麗な焼色にプレスされた美味しそうな焼き豚まんがあった。
/焼×∀×/ ホクホク…
生地に染み込んだ焼きバター。閉じ込められた肉汁のなんともいえない香り……。
そこにあるものは間違いなく、焼きたての、美味しそうな豚まんだった。
「……食っちゃえ」
ていうか食うしかない。
私はさっきまでの葛藤なんて少しもなかったかのように、焼き上がったそれが冷めないうちにと、頬張った。
「……うまー」
もぐもぐ。超うまい。
さっきまでの顔も声も全部忘れた私は、絶品の豚まんを美味しくいただいたのだった。
「あ、ほうじ茶も淹れないと」
うん。貰ったほうじ茶も良い香り。口の中もさっぱりする。
……さっきのこの味なら、二つ目も余裕そうだ。
「二個買って良かった」
この後めちゃくちゃもぐもぐした。
にくまんちゃんはかわいいなぁ
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