ゴジラ対エヴァンゲリオン(仮)  リメイクver (蜜柑ブタ)
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序章  第三新東京の危機

勢いで書いちゃった……。


どうしても書き直してみたかったんです。


第一話に当たる、この序章を特に。


いきなり、ネルフとゼーレがピンチ?

シンジ可哀想? 初号機も扱い悪いです。




それでもOKって方だけどうぞ。


 2015年。現在。

 

 セカンドインパクトが起こる、約20年前……。

 

 当時子供だった大人達は、あの頃よりは夜眠れるだけマシになったと呟くほどの、騒乱の時代があった。

 

 水爆大怪獣ゴジラを始めとした、怪獣と分類される巨大生物達が人類と戦いを繰り広げていた時代である。

 

 ゴジラを筆頭に始まった戦いは、終わりを見せない。けれど、それでも知恵を絞り、手と手を繋ぎ結束した人類は絶滅してなるものかと怪獣達と戦い続けた。

 

 そんな時代の最中に突如として降りかかったが、セカンドインパクトと呼ばれることとなる大災害だった。

 

 この大災害は、災害が起こる20年前に地球防衛軍の尽力により南極に封印された大怪獣ゴジラを南極もろとも消滅させ、さらには、それまでいた怪獣達をも消し去ったかのように怪獣が姿を消すこととなった。

 

 かつて青かった海は赤く染まり、海面上昇、地球の軸のズレ、それは、世界滅亡に匹敵する傷を残した。

 

 それでも人類を始め、多くの生命は生き延びようと適応した。

 

 その適応により、突然変異か、ミュータントと呼ばれる特殊能力と優れた身体能力を持った人類が現れ始める。

 

 怪獣の消滅と共に、縮小された地球防衛軍により、M機関というミュータント専門組織が作られ、セカンドインパクトの爪痕を復興させるために力を尽くし、ミュータントへの偏見はそれほどかからずなくなった。

 

 地球の軸のズレにより、四季が消え、年がら年中夏となった日本では、今の時代に絶対的な権力を持つネルフという組織が第三新東京という新しい都市の地下に建設された。

 

 怪獣と戦うという大義名分を失い、縮小されていく地球防衛軍に代わる世界を牛耳る組織としてネルフは、その権力と惜しみも無く振るい、賛否両論を生んだ。その横暴さゆえに、地球防衛軍の時代を知る大人達からは多くの反感を受けることとなる。

 

 地球防衛軍の復活をという、一般人のデモも、政界や軍部での動きもあったが、ネルフにより潰されたのは言うまでもないだろう。

 

 対怪獣のために作られた多くの兵器は、その破壊力を言い分に、一部を除いて多くが解体処分された。これ見よがしに兵器を解体する現場を放送するなど、かつて地球防衛軍の科学や技術者として人類のために貢献してきた者達を泣かせ、地球防衛軍の牙を奪うことで、旧き時代の守護者達をネルフは、あざ笑う。

 

 その背景には、ネルフという隠れ蓑を作ったゼーレという秘密結社があったのだが、一般人がその存在知ることは無い。彼らは古き時代から人類の文明に関わってきた存在だ。死海文書と呼ばれる預言書を使い、人類を導き、操ってきたのだ。

 

 しかし、彼らの預言書に記されていない存在があった。それがゴジラを始めとした怪獣だった。

 

 怪獣がいた時代、彼らの手を離れて地球防衛軍を結成して戦い続けた人類。その長い時代はゼーレにとっては、暗黒だっただろう。しかし、人類を守るためには自分達の影響を一切受けない地球防衛軍の存在に頼らざる終えなかった。その反動が、セカンドインパクトの後に地球防衛軍へと牙を剥いた。

 

 ゼーレにとっては、自分達の信じる預言書の通りの時代がようやく戻って来たと喜ぶときだった。

 

 

 だが……、その喜びは、間もなく絶望へと代わるのだ。

 

 

 南極と共に消滅したと決めつけ存在を忘れ去ろうとしていた、怪獣王ゴジラの存在。

 

 そして牙を抜かれ、徐々に消滅させられようとしていたが、ただでは転ばぬとその時に備え続けていた地球防衛軍。

 

 

 

 

 それは、第三新東京を目指すように動く、現代兵器で最強を誇っていたN2地雷ですら屠ることができなかった使徒と呼ばれる超生命体の出現と、エヴァンゲリオンなる、ネルフが用意した最終兵器が投入される時に始まる。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 真っ暗な夜中。

 銀と赤に彩られた、ゴジラを模した新型対怪獣用兵器に乗る、赤と金の混じった髪をした男が、打ち震える。

 海より第三新東京へと上陸しようとする100メートルもある黒い巨体の怪獣の咆吼に。

 歓喜に震える。

 

『…ムグ…。椎堂ツムグ! 聞いているのか!?』

「……なに?」

『さっさと返事をせんか!』

 通信機からのうるさい声に、椎堂ツムグと呼ばれた赤毛の男は、やーれやれと肩をすくめた。

「浸らせてくれてもいいじゃん。」

『こんな状況を喜ぶのは、世界中探してもお前だけだ! それよりも準備は整っているのだろうな!?』

「終わってるよ。あとは、運んでもらうだけ。」

 ツムグは、コックピットに設置されているヘルメットを被りながら言った。

 頭を全部覆えるヘルメットの後部には、奇妙な管や線が繋がっている。

 

『起動準備を開始します。』

 

 そんなアナウンスが聞こえ、コックピット内の様々な計器が動き出し、光が灯る。

『シンクロ率、起動範囲内到達。DNAコンピュータ正常稼働。動力、異常なし。』

 

 

『機龍4式コード・フィア型。起動完了!』

 

 

 対ゴジラ兵器、機龍4式の目にカッと光りが灯った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

  一方そのころ。

「35年ぶりか…。短い平穏だったなぁ。」

「バカ言うな。セカンドインパクトがあったんだぜ?」

「ああ、悪かった。さっきのは訂正するぜ。」

「まあ、おまえの言い分は分かるぞ、熊坂。俺らは、最前線で怪獣と戦ってきた同志だからな。」

「何をやってる! ゴジラがすでに東京湾に侵入したんた! ミュータント部隊の配置を急がせろ、熊坂!」

 高い階級であることを示すバッチを付けた軍人が熊坂ともう一人の軍人に怒鳴った。

 

 軍用トラックの中では。

「いよいよ怪獣王とご対面か…。怖いか? 尾崎?」

「…正直、怖いよ。でも戦わなければ沢山の犠牲が出てしまうんだ。逃げるわけにはいかない。」

 尾崎と言われた青年は俯いてはいるが、その目には強い意志を宿していた。

「おまえらしいな…。」

「風間、ムチャだけはするな。嫌な予感がするんだ。」

 風間と呼ばれた青年は、尾崎の様子に呆れていたが、尾崎は顔を上げて風間に向ってそう言った。

「そんなの関係ない。戦うだけだ。」

「風間!」

「尾崎…、“カイザー”だからっていい気になるなよ。」

「二人とも落ち着いてください!」

 同じトラックに搭乗している仲間が二人を止めに入った。

『総員に次ぐ! Gが東京湾に侵入! 熊坂の指示に従い、配置に付け!』

『ミュータント部隊出撃せよ!』

 M機関は、この日をもってミュータント達が社会奉仕する組織という皮を脱ぎ去った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 碇シンジは、自分が今置かれている状況に激しく後悔していた。

 今、なぜこんなことに自分が巻き込まれているのだと?

 彼が乗る、いや乗せられているエヴァンゲリオン初号機の眼前には、使徒と呼ばれる異形の生物が立っている。

 第三新東京のネルフ支部に来るまでに、目撃した。自分が今乗っているエヴァンゲリオンなる存在を圧倒した、あの使徒という怪物を。

 会いたくも無かった父親・ゲンドウに呼び出され、ミサトという女性に案内された場所で、いきなり乗れと言われたのだ。初号機に。

 何年もほったらかされて、子供である自分にかけられた第一声がそれだったのだ、シンジは当然反発した。

 そしたら帰れと言われ、そして傷だらけの青い髪の少女が運ばれてきて、ゲンドウは冷徹に彼女にもう一度だと命令していた。

 その痛々しい姿に、シンジは立ち止まり、そして使徒からの攻撃でぐらつくネルフの天井から降ってきた建物の一部から少女を守ろうとした、すると初号機が守るように手を出し、振ってきた物から助かった。ミサトはソレを見て、なぜかイケる!っと言っていた。

 シンジは、痛々しく、苦しんでいる少女を抱えたまま、その少女の姿に心が痛み、逃げちゃダメと自分自身に自己暗示を掛け、渋々ではあるが乗ると言った。

 14歳という若き少年であるシンジは、いきなり人類滅亡をかけた戦いに放り込まれ、わけの分からぬまま、そして流されるままでいるしかなかったのだ。

 LCLという液体に苦戦しつつ、出撃準備が整い、あとはリフトオフだけとなった時だった。

 

 どこからともなく、凄まじい咆吼が聞こえた。

 

 使徒がビクッとなり、キョロキョロと周りを見回し、シンジもその咆吼がなんであるか分からず周りを見回した。しかし、どこかで聞き覚えがあるものであった。

 そうだ、実習授業で見せられたビデオ映像で……。あれは……、確か…。

 

 

 一方、咆吼を聞いたのはシンジだけではない。

 もちろん戦いを見守ろうとしていたネルフにもばっちり聞こえていた。

 副司令官である、60代の冬月は、顔面蒼白になって腰を抜かしかけていた。

「どうしたのだ?」

 ゲンドウが訝しむ。

「い…、碇……。そんな…、馬鹿な……、あれは……、あれは35年前に南極で封印されて、セカンドインパクトで死んだはずでは…!」

 冬月は、現実を理解したくないといわんばかりに首を振り、震えていた。

「あれとはなんだ?」

「そうか、おまえは当時13歳だったな…。しかしそれぐらいの年代なら覚えているはず…、いやそんなことは今はどうでもいい! それよりもっ」

『報告! 高濃度の放射線量を感知! 測定値計測不能!』

『東京湾より、なにかが上陸しました!』

「モニターに映せ。」

「よせ、碇!」

 淡々と指示を出したゲンドウに、冬月が思わずまったをかけた。

 そしてモニターに映ったのは…。

 100メートルをはあろうかというほど巨大な黒い怪獣が、第三新東京の周りを囲う山を乗り越え、武装ビルをなぎ倒しながら使徒と初号機に接近していく光景だった。

「ああ…、あああ……、ご…ゴジラ…!! ゴジラだ!!」

 冬月は、ついに床にへたり込んでしまった。

 ゲンドウも、幼い頃の記憶が蘇り、汗をかいた。

 

 

 司令塔のところがこんな状態である一方、ゴジラの恐怖をあまり知らない若年層が占める指令室では……。

「な…なんなのよ! あの黒いの!? 新手の使徒!?」

「あれは…、怪獣?」

「怪獣って…、リツコ? あの怪獣?」

「そう…、セカンドインパクトが起こる前、世界中で現れていた巨大生物よ。あの鱗…、背びれ…、水爆大怪獣と呼ばれるゴジラと一致するわ。」

 リツコはすぐにパソコンを開き、データを照合した。するとネルフのスーパーコンピュータであるMAGIが、完全一致と答えを出した。

「生きていたの?」

 リツコが知る限り、南極に封印され、セカンドインパクトで南極もろとも消滅したとされていたゴジラが、今、自分達の前に現れたのだ。

「放射能数値、更に上昇!」

「ああ!!」

 次の瞬間、歩きながらゴジラが口から放射熱線を発射した。使徒めがけて。

 使徒は、横に向かってスライディング回避を見せ、ギリギリで熱線を回避した。放射熱線が着弾し、大爆発が起こる。そして射出機に固定された初号機が爆風で煽られ、シンジはその熱さと衝撃に悲鳴を上げた。

 ゴジラは、口を閉じ、さっきのスライディングで倒れている使徒を睨んだ。

 使徒は慌てて起き上がるが、それよりも早く、ゴジラの手が使徒の頭部の上辺りを掴んだ。

 ゴジラは、軽々と使徒を持ち上げ、そして片手で使徒を叩き付けるように投げつけた。使徒は大きくバウンドし、何度か小さくバウンドしながらも転がって止まった。使徒は、ヨロヨロと起き上がる、先ほどの一撃で体中がやられたのか、四肢がグニャグニャだ。

 そんな使徒にゴジラが接近すると、使徒は、ビクッと震え、逃げようとするようにグニャグニャになった手足で胴体を動かす。

 しかし、無慈悲。

 ゴジラは、使徒の顔を掴むと、そのまま再度持ち上げ、後ろの方へ再び叩き付けるように投げた。

『うわあああああああああ!?』

 シンジの悲鳴と共に、バウンドして吹っ飛んできた使徒が初号機に衝突し、射出機がひん曲がり、初号機もろとも倒れた。

 重なるように倒れた使徒と初号機。使徒は、ゴロリッと初号機の上から転がり落ちた。そしてヨロヨロと起き上がる。

 ゴジラは、その使徒の背中を見つめながら背びれを光らせた。

 その直後だった。

 無数のミサイルが飛んできて、ゴジラの体に着弾した。

 ゴジラは、ギロリッと空を見上げる。

 すると、赤と銀の巨大兵器が搬送用のジェット機から切り離され、第三新東京の地に落とされ、着地した。

「こっちと遊ぼうよ。ゴジラさん。」

 機龍4式コードフィア型、通称機龍フィアが、使徒を蹴っ飛ばして初号機から距離を離させた。

 ゴジラは、なんのつもりだ?っと言いたげにピクリッと眉間を寄せた。

 機龍フィアに蹴っ飛ばされて結構遠くまで転がった使徒は、ヨロヨロと起き上がり、逃げようとする。

 それを見たゴジラは、逃がすか!っと言わんばかりに背びれを光らせて、熱線を吐いた。

 今度こそ使徒に命中した熱線は、使徒を燃やし尽くし、最初よりも強力な爆発となって第三新東京に大穴を開けた。

「お見事ーー!」

 機龍フィアに乗っているツムグが拍手した。

 それに反応してか、ゴジラがギロッと機龍フィアを睨む。

 その目を見て、ツムグは、ゾクゾクと震えた。喜びで。

「その目だよ…。ずっと待ってたんだ。ゴジラさんが必ずココへ来ることは分かってた! その全てを焼き尽くす怒りに燃えた炎が欲しかったんだ!!」

 ツムグは、狂ったように笑う。

 そのツムグの笑いに気づいてか、ゴジラが突進してきたため、機龍フィアで受け止め、ジェットを吹かし、初号機から引き離すようにゴジラを後ろへ押しやった。

 一方でネルフは、いきなりのことの連続でポカーンとしていたが、やがて初号機に群がる黒い人影達に気づいて慌てた。

「ちょ、ちょっとぉ! 初号機になんかされてるわよ!」

「あれは……。」

「国連からの緊急連絡あり! モニターに映します!」

 オペレーター達により、国連の者達の顔がモニターに映された。

『こちら国連軍と戦自の共同司令部。ネルフに告ぐ、今すぐエヴァンゲリオンを退避させろ。もしくはパイロットを下ろした後、エヴァンゲリオンを自爆させるなりして粉々に破壊しろ。』

 いきなりとんでもない指示が入った。

「どういうことよ! エヴァを退避させるどころか、破壊しろですって!? 天下のネルフに向ってなんてこと言うのよ馬鹿じゃないの!? 何の理由があってそんな…。」

 ミサトが噛みつく。

『ゴジラは、使徒とエヴァンゲリオンを破壊するために第三新東京に上陸したのだ! エヴァンゲリオンがある限り奴は第三新東京に来るぞ!』

「話にならん。」

 ゲンドウがひと蹴り。すると国連の者達は顔を歪めた。

『ならば、決裂だ。M機関のミュータント兵達が今、パイロットだけでも保護するべく活動中だ! そちらが何もしないのなら、こちらが動くしかないのだから文句はあるまい。』

「なっ! やめさせろ!!」

『これまで偉そうにふんぞり返って、好き勝手してきたことを後悔するがいい!』

 そして通信が切れた。

「M機関ですって? じゃあ、あれは、ミュータント達? ただの奉仕組織じゃなかった?」

 リツコが初号機からエントリープラグを引っ張り出して、シンジを保護している黒い兵士達を見てそう呟いた。

 エントリープラグ内でぐったりしていたシンジは、運び出され、近くに待機していたM機関の医療チームに委ねられて第三新東京から遠ざけられた。

 

『エヴァンゲリオンのパイロット保護完了!』

『了解! 総員! 戦闘配置につけ!』

 保護活動を終えたミュータント兵達が、大型バズーカや、大型メーサー銃を担いで、走り出した。

 

「さーて、あの少年の保護も終わったし。本腰入れようか。ゴジラさ~ん。戦ってね?」

 ツムグは、バキボキと手を鳴らし、それから操縦桿を握り直した。

 つかみ合っていたゴジラと機龍フィアだったが、機龍フィアの腹部が開閉し、絶対零度砲が発射された。たちまちゴジラの体が凍るが、ゴジラは、ビックリしたものの、すぐに氷を割り、機龍フィアに頭突きをかました。そして機龍フィアの片目が割れ、オイルが涙のように流れ出る。するとパッと手を離した機龍フィアが僅かに距離を取り、グリンッと回転して尻尾による攻撃を与えてゴジラを吹っ飛ばすがゴジラは体制を整えてすぐに着地した。

「うーん、やっぱり強度もパワーも足りないか…。」

 そう呟くツムグは、ビービーとなる計器に表示された破損箇所と負担の数値を見ていた。絶対零度砲もさっきの一発でダメになった。

「これ以上は、無理か…。尾崎達に指示しまーす。ゴジラさんの足止めお願い!」

 そう言ってツムグは、機龍フィアを後退させて倒れたままの初号機の傍に来た。

 ゴジラがうなり声を上げながら接近しようとすると、第三新東京の建物に登った尾崎達の攻撃が目や鼻などの急所に当たり、ゴジラは僅かに怯んだ。背中を向けている機龍フィアに接近しようとすると、戦闘機やメーサータンクが攻撃してきて足止めをくらった。ゴジラは、ギリッと歯を食いしばり、邪魔だとばかりに蹴散らした。

「ハッチをこじ開けて~。」

 壊れた射出機の部位を、無理矢理に更に破壊し、ぽっかりと空いた射出機の穴に、初号機の足を掴んで引っ張っていくと、そのまま逆さまにして放り込んだ。それを見ていたゲンドウが狂乱していたが、伝わるはずもないし、ツムグは分かっていたが無視した。

「よし、オーケー! 邪魔な物はなくなった! これより、ゴジラさんを海に帰すから!」

『機龍を壊すんじゃないぞ! 機龍だけは無事に戻せよ!?』

「分かってるって。」

 そう言ってツムグは、機龍フィアを操縦してゴジラに振り返り、迫ってきたゴジラに掴みかかって、それから強化ワイヤーを何十本も出してゴジラに巻き付けた。

 ゴジラが暴れるのも構わずそのままジェットを吹かして飛び上がり、ゴジラごと浮き上がると、猛スピードで海へと向かった。

 それから夜の夜明けを迎え始めた海の上を飛行し、太平洋辺りでワイヤーを切った。そしてゴジラは、海に落下した。

「ゴジラさんを帰しました~。これより帰投します~。」

 歌うように報告して、ツムグは帰路についたのだった。

 

 

 

 こうして35年の月日を越えて復活したゴジラとの初戦は、辛くも人類側の勝利で終わった。

 

 

 

 

 




書き換えたのは、地球防衛軍が解散されていないことと。

サキエルとの戦いを長引かせた(?)こと。

ゴジラとの戦いが圧勝ではなく、ギリギリな感じにしたこと。



セカンドインパクト後で、パワーアップしたゴジラにいきなり勝つ方が難しかったはずだと、読み直していて違和感があったため、この展開です。
結果、遠くの海に捨てるという強引な技で勝ちました。(ゴジラ作品では何度かあったこと)


ながちゃんが好き様の方でも投稿しようと考えています。


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第一話  地球防衛軍、復活!

地球防衛軍、復活。



二話目は、かなりコピーペーストしました。読み返すと、よく書けたな…っと当時の自分に感心してしまう。



ネルフと、ゼーレアンチです。注意。


 第三新東京に襲撃した、使徒サキエルは、東京湾より上陸してきた復活したゴジラにより一方的にやられ、そして熱線で殲滅された。

 碇シンジの初陣も、エヴァンゲリオンの初戦かつ、勝利で終わるはずの戦いは、ゴジラの乱入により阻まれた。

 ネルフが国連や戦略自衛隊に偉そうにお前達が出る幕じゃないと態度を取っていただけに、使徒どころか、ゴジラの乱入に対応すらできなかったことは、赤っ恥なんてもんじゃないすごい大恥をかく結果を残したのだった。

 ネルフは当然だが、あの戦いで来たゴジラに似た赤と銀の巨大兵器や、緊急通信で伝えられた言葉にあったM機関のこと、そして解体されたはずのメーサータンクのことなどで猛抗議してきた。

 これについては、国連も戦自も、数日後の国連会議で伝えると通達しただけで答えなかった。

 今までネルフに尻込みしていた国連や戦自が急に強気に出てきたことにネルフ側は驚いたが、ここでなめられてはいけないと抗議を続けるも何も回答は得られなかった。

 そして、数日後に予定通り国連会議が行われた。

 

 

「ご覧になっていただいた映像がゴジラが第三新東京に上陸し、そしてネオGフォースの最新兵器、メカゴジラ、4式機龍コードフィアの成果です。」

 

 

 会議場の大型モニターに映し出された、あの夜の戦闘の映像が終わった。

 いつの間にっと、会議に参加していたネルフの代表者達が顔を赤くしたり、青くしたり忙しかった。映像を徴収して削除したくても、ここには各国の要人達や軍部の人間達が集まっていて、すでに全部視聴した。

 地球防衛軍司令官・波川玲子の声が議会場に響いた。

「波川司令、ゴジラの復活はすでにネオGフォースは知っていたのですか?」

 国連議員の一人が挙手して質問をした。

「国連の管理下にあるG細胞完全適応者、椎堂ツムグの言葉からゴジラが生きている可能性が非常に高いと見て、ネオGフォースは、数年前からゴジラを探索し続けました。」

 波川は、部下に指示を出し、モニターに資料映像を出した。

「アフリカの対岸に巨大な生物に腹を噛みちぎられた形跡のあるクジラの死体が発見され、歯型を照合したところ、ゴジラのものとほぼ一致したのです。それから太平洋を横断する放射能物資を輸送していたタンカーが海中から浮上してきた巨大何かによって真っ二つに破壊されたという情報が生き残った乗り組み員の証言で得られました。背びれのようなものと太くて長い尾が海面から出たのが見えたと証言しています。ゴジラは、怪獣王の異名の他に水爆大怪獣という異名を持ちます。これはゴジラが水爆実験で突然変異したジュラ紀の恐竜であることからそう呼ばれるようなったのです。ですからゴジラは、常に行く先々で放射能をまき散らし、放射能による熱線を攻撃手段としていて、さらにゴジラは、放射能物資を捕食する習性があります。過去、ゴジラは、原子力発電施設を襲撃した事例も多く報告されており、放射能物資を輸送していたタンカーを襲ったのも放射能物資が目当てだったと考えればゴジラの犯行であることは間違いないでしょう。また同じ海域を潜航していた原子力潜水艦が二隻、消息を絶っています。」

「ゴジラの姿を映像に収めたり、居場所は特定することはできなかったのですか?」

「ゴジラは、深海を常に泳いで移動しており、またその速度も速く捉えるのはゴジラを封印した35年前から困難でした。ゴジラとの戦いはいつもゴジラが上陸してからがほとんどで…、私達は、市街での戦いを余儀なくされ続けてきました。そんな中、G細胞完全適応者の出現が一筋の光をもたらしたのです。彼は、一定の範囲内でならゴジラの居場所、どこを目指して移動しているのかを感じ取ることができたのです。南極でゴジラを封印できたのも、彼の協力があったからこそです。」

 しかしっと波川は、苦しげに表情を歪めた。

「彼は、人間とゴジラの中間という非常に不安定な存在でした。ゴジラが移動する場所が分かると言うことは、ゴジラの気持ちが分かるということなのです。彼がもしゴジラに同調し、ゴジラと同じ人間への怒りに染まってしまったら、彼はゴジラに並ぶ最強最悪の敵となっていたでしょう。ですから、我々は彼をできる限りゴジラと接触させたくなかったというのが本音なのです。彼が今日まで我々人類の味方でいてくれたことに心から感謝しています。」

「では、G細胞完全適応者が今後敵となる可能性はないということですか?」

「あります。」

 波川がキッパリ言うと、会議場がざわついた。

「だが新型メカゴジラには、そのG細胞完全適応者がパイロットだったと聞いているぞ! これは矛盾だ!」

 議会に参加していた軍人の一人が席を立って叫んだ。

 その言葉に同調した者達が口々にそうだそうだと声をあげはじめた。

「そのことについては、今からお見せする映像とお手元にお配りする資料をご覧になっていただきながら説明します。」

 モニターに新たな映像が映し出された。

 それは新型メカゴジラである、機龍フィアの解剖図のような画像だ。

「機密上の問題ですべてとはいきませんが、これが新型メカゴジラ、4式機龍コードフィア……通称機龍フィアです。」

 波川が席に座り、今度はネオGフォースの技術者が説明を始めた。

 スクリーンに映し出された機龍フィアの資料映像に、機械関係の技術に携わるか、それを好み認識がある者達が驚嘆の声をあげた。

「機龍フィアの前の機体に当たる3式機龍に導入されていた、DNAコンピュータは、3式機龍に利用されていた一代目のゴジラの骨髄幹細胞を使用したため、二代目のゴジラ、つまり現在のゴジラに共鳴してしまい暴走し大惨事となりました。そこで3式のDNAコンピュータをゴジラのものとは別の物に変えることで暴走を防ぎました。しかし3式は、ゴジラとモスラを交えた混戦の際に自我を持ち、モスラの幼虫の糸で拘束されたゴジラを抱えてゴジラと共に日本海溝へ沈むという最後を迎えました…。」

 そこまで説明して、一旦言葉を置いた。目をつむり何か耐えるように。

 技術者は、メカゴジラの開発に携わったベテランの技術者であるため機龍への思い入れがあるのだ。哀悼の意を込めているのだろう。

「話がそれてしまいましたな。話を戻しましょう。この新型メカゴジラ・機龍4式コードフィア型と名付けたメカゴジラは、3式がゴジラの骨を使用したのに対し、G細胞完全適応者・椎堂ツムグの細胞を使って開発したものです。」

「G細胞完全適応者の細胞を!?」

「それは運用の問題はないのか!?」

「資料の5ページをお開きください。」

 5ページには、G細胞完全適応者である椎堂ツムグと、機龍フィアの開発に利用された経緯が書かれていた。

「G細胞完全適応者の細胞は、G細胞を取り込んだ人間の細胞なのです。割合は、見事に半分半分。まさに理想。G細胞の良い部分だけを手にした超人! しかも人間の細胞が混ざっているためゴジラとの共鳴で暴走する率も極めて低く、ゴジラの居場所を割り出すレーダーとしての力もあり、G細胞の特徴であるエネルギーを吸収し変換する能力もあり、ゴジラの熱線を被弾してもエネルギーを吸収、無効、拡散させることができるのです。此度の戦闘では披露することはありませんでしたが、ゴジラの熱線を吸収、飛散させる事も可能です。が……、完成形とはまだ言い難いのです。」

 えっ?完成じゃないのかっという空気の中、グスッ…っと涙ぐんだ技術者は涙声で語り出す。

「なにせ初陣……、そして何より、少ない予算を絞りに絞って……、ネルフの馬鹿どもの目に引っかからぬよう隠して開発は非常なんてもんじゃないほど難航しましたとも。理論上から言えば、3式の数十倍の機体性能が期待できただけに、初陣で負ったこのダメージ!」

 技術者が、モニターに映った戦闘後の機龍フィアの有様と、ダメージデータを指差した。

「泣きましたよ…。そりゃもう!」

「これは酷いな…。」

「確かに…。」

 堪えきれずとうとうワーっと泣き出した技術者に同情の目が集まる。どれだけ彼らが苦労してこの機龍フィアを作ったのか…、地球防衛軍の現在の扱いと待遇を考えると容易に想像できる。

「グス…っ…、失礼しました。なお、この機龍フィアには、7つほどパワーを押さえるためのリミッターがかけられております。今回の初陣においては、リミッターはひとつも解除致していません。解除していたらどうなっていたか……想像したくもありませんがね。」

「なぜリミッターを? フルパワーで戦えれば苦労はしないでしょうに。」

「理由のひとつは、エネルギー暴走による爆発を防ぐためです。……機龍フィアのリミッターは、G細胞完全適応者の椎堂ツムグにしか解除できないようにしてるのです。その理由は、椎堂ツムグと機龍フィアのDNAコンピュータが近親間のシンクロで他のパイロット以上の性能を発揮するからです。しかしそのシンクロが問題なのですよ。シンクロ率が上がれば上がるほどにシンクロしている椎堂ツムグに負荷がかかり、最終的に機龍フィアのダメージが椎堂ツムグも感じるようなってしまいます。7つのリミッターをすべて解除した時、それはもうエネルギー暴走です。デストロイアの時のゴジラのようにメルトダウン寸前のゴジラと同じです。数百万度近い灼熱を纏った最強の状態になります。灼熱に焼かれ続ける機龍フィアの暑さの苦しみを椎堂ツムグが味わうことになり、長くは持ちません……。そして暴走のあと最悪大爆発を起こす可能性が高いのです。その爆発は日本国を分断できるぐらいの威力はあるとネオGフォースのスーパーコンピュータは割り出しています。ですから機龍フィアがリミッターを解除するのは、極力避けたいのです。機龍フィアに変わる新しい兵器が開発される目途がつくまでは機龍フィアには、ゴジラと戦ってもらわなければなりません。ですから、機龍フィアを一番うまく操縦し、パワーを引き出せるのは…、機龍フィアの素体にした細胞の提供者である椎堂ツムグが一番なのが現状なんですよ。そのために第三新東京での初陣では、あらゆる方法で記録をとり、それを機龍フィアの改良に生かし、椎堂ツムグ以外でもゴジラを相手にできるほどの力で戦えるようにします。もちろん新しい兵器の開発にも生かしていきます。」

 そこでなのですが…っと、技術者が言う。

 すると波川が立ち上がり、会議場にいる人間達を見渡す。

「現在、ゴジラと渡り合える戦力として存在する機龍フィアの修繕、改良において、皆様に折り入って頼みたいことがあります。」

「言われずとも…。」

 国連の代表者達は、何を頼まれるか分かっている様子だ。

「波川司令。資金については、ネルフに出資している資金を、ネオGフォースに回します。いや、ネルフの維持費も最低限に抑え、そちらに。」

 即決である。

「なっ!?」

 ネルフの者達が目を見開き驚愕した。

「ありがとうございます。」

「そんなことは許さないぞ! たかが旧時代の守護者だった燃えかす共が!」

「その旧時代の守護者の燃えかすが、今この時をもって、再熱するのですよ。」

 国連の者達の冷たい視線がネルフの者達に向けられ、ネルフはゾッとした。

「エヴァンゲリオンがゴジラに対してまったくの無力だと分かった以上、その開発、維持に金を割く必要などこれっぽっちもありませんからな!」

「復活を果たした、あの怪獣王との戦いのため、存分にお使いください。」

 もう言いたい放題である。これまでのネルフの態度(主にゲンドウのせい)に鬱憤がたまっていたのだ。

 何か言いたげなネルフの使い達だったが、口出しできる状況ではないし、口出ししても無視されそうな雰囲気を出していた。

「話に水を差すようで申し訳ないが、どうやら使徒は、第三新東京に襲撃してきたものだけじゃなく、これから先何体も現れると小耳に挟んだのだが…。」

「つまり今後ネルフに、いや第三新東京に使徒が現れると…、ゴジラが来る口実が第三新東京に集中して現れるのか。これは、使わない手はありませんな。波川司令!」

「はい。あの日の夜、ゴジラが接近していることを緊急で知らせたにもかかわらず『バカバカしい』っと切ったあげく、通信拒否した彼らにはお灸を据えねばなりません。そしてゴジラをおびき寄せるだけの餌となった彼らご自慢の兵器エヴァンゲリオンの開発のために湯水のごとく使い続けた多額の国債と用途不明の資金繰りについても、彼らに払っていただきましょう。ゴジラをおびき寄せる的(マト)として!」

 冷静な指揮をすることで有名な波川だが、よっぽどネルフに恨みでもあるのか珍しく声を荒げ、机をバーンッと叩いた。あまりの荒っぽさに、議員達や、特にネルフはビックーっとなった。

 

「皆さん。お話は、一旦ここまでにして、大事な宣言を忘れてはいませんか?」

 

 国連の代表の一人が、優雅な声でそう言った。

「おお、大変なことを忘れていましたな!」

 議会に参加している者達がざわざわと囁きあった。

「では、ここは日本の議会場なので、私が代表して宣言を言う大役をさせていだきます。」

 日本の首脳が立ち上がると拍手が起こり、そして静まった。

 日本の首脳の宣言を今か今かと待つ全員の真剣な眼差しが首脳に向けられる。

 

「今この日、この時をもって! 地球防衛軍の復活を宣言する! 諸君! 35年前の戦いの続きの始まりだ!!」

 

 首脳の宣言が終わると同時に議会場にいた者達が席を立ちを手を上げて力強い声援上げた。

 その頃には、ネルフの使い達は、誰にも見つからないように会議場から逃げていた。

 

 

 

 2015年。地球防衛軍は、15年の歳月を経て、復活した。

 

 

 

 縮小され続け、やがて消える定めといじめられていた地球防衛軍は、水を得た魚のように活気づき、表向きは解体されていた対怪獣用兵器を次々に表に出した。

 ネルフ側は、今まで解体されていた兵器類が贋物だったとこの時始めて気づいたが後の祭り。

 実は牙を抜かれてたように見せかけていただけで、地球防衛軍は、来たるべきこの時(ゴジラ復活)に備えて弱っていくフリをしていただけだったのだと知らしめたのだった。

 地球防衛軍の復活はすぐに大々的に報道され、地球防衛軍の復活を根強く待ち続けた一般人や、ネルフに強く出られず歯がみしていた者達や組織が歓声をあげたのだった。

 なお、ゴジラや怪獣を教材程度にしか知らない若者達は首を傾げたとか?

 そして地球防衛軍の復活の報せと同時に、15年前にセカンドインパクトで死んだと思われていたゴジラが第三新東京に上陸し、ゴジラが完全復活したことを報じた。

 ゴジラの恐怖を知る年代の者達は、最悪最強の悪夢の復活に竦み上がり、ゴジラを本や学校の授業などでしか知らない若い世代はゴジラに純粋な興味を抱くか、無関心だった。その若い世代も間もなくゴジラの恐怖を身を持って味わうこととなる。ゴジラは、現在、使徒とエヴァンゲリオンの破壊に固執しているが、本質である人類への敵意は変わっていない。だから街に、都市に上陸し、破壊の限りを尽くすのだ。

 セカンドインパクトの爪跡がまだ大きく残された地球に、まだセカンドインパクトが起こらなかった頃に殺すことができず封印するのが限界だった最強の怪獣王が降臨した。例え激変した地球の環境であろうとゴジラがやることは変わらない。ただ使徒とエヴァンゲリオンを破壊するのにやたら固執するのを抜けば。

 しかしそれでも人類は戦う。生き残るために戦うのだ。

 ゴジラの復活は、かつて地球防衛軍の誕生の時と同じように、セカンドインパクトでバラバラになっていた人類を一致団結させるきっかけにもなるのだ。

 

 使徒を倒さなかったら…、エヴァンゲリオンが動かなかったら…、負けたらサードインパクトという滅亡がどうとかいう話は、ゴジラという存在一つでクラッシュされたのだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 地球防衛軍の復活。このことで一番嘆いているのは、恐らく……、人類の歴史を操り、現在は国連を隠れ蓑にしてネルフを裏で操っている秘密結社ゼーレであろう。

 どこかの位部屋の空間にモノリスが浮かび、中央にバイザーを身につけた老人が座って頭を抱えている。周りのモノリスは、11個。

『キール議長……、お気持ちはお察ししします。』

 お通夜みたいなムードの中、モノリスの一つが中央にいるキールという老人に向って弱々しい声で慰めの言葉をかけた。

「慰めの言葉などいらぬ!」

 ガバッと顔を上げたキールは、顔を怒りで歪めていた。

「ゴジラだと…、太古に滅んだ種が人類の愚かな行為(核実験)で怪獣となり、人類を断罪するかのように都市の破壊をしているシナリオにない最悪のイレギュラーめ。南極で起こしたセカンドインパクトでエリアGもろともLCLに還元されたと思っていたが、まさかあの状況で生き延びていたとは…、しかも使徒とエヴァを狙っているだと!? そんな馬鹿な話があるか!」

『落ち着いてください!』

『そうです! まだゴジラが使徒とエヴァを狙っていると決まったわけでは…。』

『何を言っておるのだ! G細胞完全適応者が、ゴジラから読み取った感情からゴジラが使徒とエヴァを狙っているからこそ、ゴジラは第三新東京で使徒を殺し、さらに初号機を破壊しようとしたではないか! 初号機を破壊される前にああもタイミング良く地球防衛軍の奴らが駆けつけれたのもすべては地球防衛軍どもがゴジラの行動目的を確かめるために使徒とエヴァを餌にしたからだ! ゴジラは、知恵が高い怪獣だ。何か目的があるのは間違いない!』

『貴様! 地球防衛軍の肩入れをするというのか!』

『そういうことではない! 問題なのは、ゴジラがなぜ使徒とエヴァを狙うかなのだ! 非常に考えたくないことであるが…、ゴジラは、セカンドインパクトの真実と人類補完計画のことを南極消滅の際に知ったのではないか?』

『放射能で突然変異した怪獣王などと大げさな二つ名を持つ畜生がか? バカバカしい。怪獣ごときが我々の崇高なる計画を理解し、それを阻止するために使徒とエヴァを狙っていると言いたいのか?』

『しかもゴジラは、ATフィールドを持つ使徒に対し、力業でメチャクチャにした挙げ句、得意の熱線で跡形もなく焼き尽くしてしまった…。ATフィールドが通用しないとは、一体どういうことなのだ?』

『あの映像を見る限りでは、使徒はゴジラに怯えていたように見える。そして逃げようとしていた。』

『ゴジラがATフィールドかアンチATフィールドを持っているとは考えられぬ。単純に奴の力が絶対領域を簡単に破壊できるほど強いだけだとしたら……。すべての使徒が束になってゴジラと戦ったとしても勝ち目は、ゼロだ。』

『それは、エヴァシリーズも同様だ。確かメカゴジラといったか。あの兵器は。」

『機龍フィアという、3式機龍の次世代機らしい。』

『そうその機龍フィアというロボット…、あれは使徒が手も足も出なかったゴジラを相手に互角に渡り合っていた…。解体したはずの地球防衛軍が有する対怪獣用兵器、そしてM機関のミュターント部隊、どれをとってもエヴァなど足下に及ばない優れた力を秘めている。武器についてまだ開発段階のエヴァにゴジラに対抗する手段は全くない。』

『さらに第三新東京にゴジラが襲撃した時、初号機にサードチルドレンの碇の息子が乗っていたらしいが、M機関のミュータントどもが初号機のハッチをこじ開けて碇の息子を救出、現在身柄は地球防衛軍に保護されている。』

『なぜネルフは、初号機を戻さなかった?』

『映像の通りだろう。射出機を戻す前にゴジラに投げられた使徒と衝突してもろとも倒れたのだ。なんたる失態! 貴重な依代の候補をみすみす地球防衛軍どもの手に渡してしまうとは!』

『ゴジラの復活など裏死海文書にも記されていない。そもそもゴジラが最初に現れた1900年代のあの時からすでにおかしかった…。ゴジラに続き多く怪獣の出現。ゴジラは一匹目は殺せたのに、二匹目が現れた。一部では、ゴジラを人類の犯した罪を断罪する者だと考えている者がおり、中には神と呼ばれることすらあるらしい。確かにあれほどの不死性と巨大な力を前にすれば恐怖のあまり崇拝したくなってしまうのも致し方ないことであろうな。』

『ゴジラのおかげで我々のシナリオは、大幅な修正をせねばならなくなった。ゴジラが南極で我々の目的を知ったと想定したうえでこれがすべて偶然でないとするならば、ゴジラは、我々の神への道に進むための儀式、人類補完計画を阻止するつもりか? だからこそ人類補完計画の要である使徒とエヴァを自らの手で破壊しようと…。』

『怪獣などという畜生に、人類を新たな段階へと導く偉大なるこの計画を理解できるわけがない!』

「そうとは言い切れぬ…。」

『議長!?』

「人類補完計画がどのような形で遂行されるかを知っているからこそ、ゴジラは、核実験以上の人類の罪と判断し、わざわざ第三使徒が出現した時に姿を現した。そうとしか考えられぬほどタイミングが良すぎる。セカンドインパクトを生き延びたゴジラがセカンドインパクトが我々のシナリオに沿って行われたことだと知っていたとしたら、あれは我々に見せつけるためでだったのではないか? おかしいと思わぬか諸君?」

『ぎ、議長! 議長までそのようなバカバカしいことを…。』

「黙れ! バカバカしいと切り捨てた結果、我々はゴジラの生存にすら気づくことができず、解散させた地球防衛軍の復活をみすみす許してしまったのだぞ! 人類の歴史を陰から動かしてきた我々が…、我々が表舞台の者共に出し抜かれたのだ!」

『その通りだ! 我々は、M機関が単なるミュータントの社会的奉仕機関だと認識していたが、真実は対怪獣戦闘部隊で、ネオGフォースの新たな戦力を育て上げるための組織だった! それ以前にGフォースが地球防衛軍収縮後も密かにゴジラを警戒して我々の目の届かぬところで活動していたことが問題だ!』

『なぜだ! なぜ我々は、奴ら(ゴジラ含む)の行動に気付くことができなかったのだ!? 国連…、いや地球防衛軍は、我々の隠れ蓑としての役目を放棄した! 怪獣どもを一掃するために黙認して、地球防衛軍は再び我々の隠れ蓑に戻ったかと思いきや裏切りおって!』

『おのれゴジラめ! おのれ地球防衛軍め!』

 

 暗い空間にゼーレ一同の怨む叫び声が木霊し続けた…。

 機械化している彼らに涙を流す機能があったなら、きっと血の涙を流してるに違いない。

 

 

 

 




二話目は、原文はかなり長いのですが、分けました。

資金を断たれたら、さすがのネルフもゼーレも大打撃だと思って……。

二話は、これまでのネルフの横暴が祟って国連の議会やスポンサーなどから見放されてしまうという展開ですね。
お金を出す側の人間などを舐め腐るなって話かな。


次回は、原文の二話目の後半であった、シンジを回復させる回かな。人類保管計画もろバレ回。


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第二話  壊れた子供の心と、初号機の幼き意識

精神崩壊したシンジの治療回。


人類保管計画もろバレ回。



原文とほぼ同じです。書き加えたり、書き換える余地がほとんど無かったので……。


 

 地球防衛軍が復活したとメディアが発した、数日後。

 

「精神感応による治療?」

 地球防衛軍の医療機関に集められたミュータント達。その中に尾崎や風間もいた。

 医療機関の医者の一人が説明を始めた。

「保護した碇シンジ君は、ゴジラに殺されかけたショックで精神に大きなダメージ受けています。肉体的には健康ですが心の治療までは我々の技術をもってしてもできません。そこでミュータントの特殊能力の一つである精神感応で碇シンジ君の精神を正常に、そして正気に戻るよう働きかけ、彼の心を治療することを考えました。」

「皆さんが忙しいのは、分かっていますが…、ミュータントの皆様はセカンドインパクト後の復興の際にその能力で心神にダメージを受けた被災者の心を癒すこともあると聞いていますので、どうかお力を貸して抱けませんか? どうかお願いします!」

 看護師の一人が悲痛な顔をして頭を下げた。

 わざわざM機関に直接依頼して頼み込んできたのだ。よっぽどシンジの容態は危険な状態ということらしい。

 動けない初号機の中でゴジラに襲われる体験をしたのだ、14歳足らずの子供が耐えられない方がおかしいぐらいの恐怖であっただろう。怪獣と戦うのがあの第三新東京でのゴジラとの戦いが初陣だったミュータント部隊の尾崎達ですら、ゴジラの迫力と圧倒的な力に恐怖で押し潰されそうであったぐらいだ。だがゴジラを倒すなり(これはほぼ不可能に近いが)追い返すなりしなければそれ以上の犠牲が出てしまうという正義感と使命感が彼らを動かし、ゴジラを追い返した後も次の戦いに備えいつでも動けるようになっているのである。

「俺は構いませんよ。なあ、風間?」

 尾崎が風間に話を振ると、風間は、何か考えるように腕組をしていた。

 それを見て、尾崎は、風間はこの手のことは不得意な方だということを思い出した。だが風間は負けず嫌いだし、数値化したデータから見た能力面から見ればやろうと思えばできる奴だ。現に被災地で心に傷を負った被災者を不器用ながら励ましながら救助し、その被災者の回復を早めたことだってたくさんある。なのだがそのことを風間は知らないし、教えても照れ臭くて心にもないことを口走ってしまうだけだろう。

「命令なら…、従います。」

 風間は単調な口調でそう言った。口ではこう言っているが、戦闘狂気味の風間からしたら苦手分野だろうに。それでも負けず嫌いだから挑むのだ。

 尾崎、風間と同期のミュータント達は、風間のその不器用さを知ってるため心配そうに風間を見ていた。

 そんなこんなで、手が空いてるミュータント達が交代で医療機関に保護されている碇シンジの治療にあたることになった。

 尾崎に番が回る前、先にシンジの治療にあたった仲間が、それは酷い状態だったと悲しそうな顔をしたり、本気で泣いたり、同調のために顔を青くして疲れ切った様子でシンジの病状を語っていた。

 風間は、残念ながらあまり成果を出せなかったらしく、そのことが悔しいのか、終わった後、悔しさを発散するためか訓練でやたら暴れていた。

 やがて尾崎が治療にあたる日になり、シンジがいる病室にノックして入った。

 シンジは、上体を起こせるベットに背を預けたままどこを見ているのか分からない目をして動く気配を感じさせない。死体かと一瞬間違えそうなるほど生気が感じられなかった。

 わずか14年しか生きていない少年がこんな有様になっているのを見てしまっては、正義感が強く他人を守ることを優先する尾崎なら見過ごしてはおけない。

 尾崎は、シンジが寝かされているベッドの横にある椅子に腰かけ、シンジの細い手を握って目をつむった。

「うぅっ!」

 途端に流れ込んでくる壊れてしまったメチャクチャな感情の波が尾崎の脳髄に叩きつけられ、尾崎は思わず呻いた。

 感情の放流はすぐに消え、後には、シンジの心の残骸と思われるものが散らばる暗い暗い精神が視えた。

 これはもはや肉体は生きていても心が死んでしまっているいっても過言ではない状態である。

 しかしそれでも治してやりたい。未来ある子供がこんな惨い最後を迎えていいはずがない。

 尾崎は、シンジの心の中を探索した。シンジの生きようとする意志が少しでもあればそれをすくい上げて壊れた心を繋ぎ合わせて治すことができるはずだと信じて。

 ちなみに、ここまで人の心の中に深く入り込めるのは、尾崎だけである。

 

 それは、尾崎がミュータントに数百万分の一の確率で生まれる、“カイザー”と呼ばれる超越者であるからだ。

 

 その気になれば世界を支配、あるいは滅ぼせるほどの力を持つのだが、尾崎はそんな特別な存在である自分に慢心することなく、いたって正義感の強い心優しい青年であることを選んでミュータント部隊の一員として人類のために戦い、守ることを誇りとしている。

 だからこそシンジという一人の少年のために全力を尽くすのだ。

 たった一人を救えなくて、その他大勢の者達を救うことなどできない。尾崎はそう考えている。

 心の欠片が散らばる暗い世界を走っていた尾崎や、やがて小さな、本当に小さな光の粒を見つけた。

 尾崎はこれがシンジの生きようとする意思だと確信し、ソッと優しく、それに手を伸ばした。

 光に手が触れた途端、世界が白く染まった。

 尾崎が目を開くと、そこは知らない施設の中だった。

 白衣を着た、女性がいる。

 髪色は違うが、顔立ちが、シンジに似ているような気がした。

 言葉は聞こえないが、傍にいる同じく白衣を着た男と話し合っている。尾崎の目から見て、二人の仲はとても良く、恐らく恋人か夫婦という関係のようだ。

 更に場面が変わる、なんか視点が低い。

 そして尾崎は目を見開いた。

 そこにあったのは、エヴァンゲリオン・初号機だったのだ。

 外見は第三新東京で見たものと違うが、外装を付ければちょうど初号機になるだろう。たぶん尾崎が見ているのはエヴァの中身だと思われる。

 なぜこれが初号機だと尾崎が分かったかと言うと、尾崎がシンジを救出するときに初号機に登った時に特殊能力で初号機から無意識に波長というかなんというか、個体を識別する何かを覚えてしまっていたからだ。

 なんか初号機(素体)(断定)の周りで人が大騒ぎしている。

 何があったんだ?っと尾崎が首を傾げていると、景色が消えた。

 次に見た光景は、どこかの駅だろうか、最低限の荷物が入ってそうなそれほど大きくない鞄を隣に置いて大声を上げて泣いている幼い子供と、その子供に背を向けて去っていく男の姿だった。

 子供の顔は、シンジの顔立ちに似ていたので、これは、シンジの幼い時の記憶だと分かった。

 そしてまた景色が変わった。

 夕日に照らされた電車の中に尾崎がいる。

 向かい側の席には、小さい子供が座っている。顔は、陰になって見えない。

「君は…。」

『お母さんがね…。消えちゃったの。』

 小さい子供が尾崎に言った。今にも泣きそうな声で。

『お母さんがカイブツの中で溶けて消えちゃったの。でも生きてるんだって。父さん達が言ってた。』

「お母さん…、カイブツ…、怪物って、なんだい?」

『お母さんと父さんも、毎日イーケイカクで忙しくって、ボクは、いつも一人だったんだ。』

「いーけいかく?」

『ジンルイは、このままじゃダメになるからって、お母さんが一生懸命考えたことなんだって。』

「お母さんは、一体何をしようとしたんだい?」

『ジンルイ……、ホ…カン……。』

 景色が急にテレビのノイズのようにザラザラとかすみ始めた。

「待ってくれ!」

 尾崎が少年に向って手を伸ばした。

 そして世界は、ガラスが砕けるように砕け散った。

 

 

 

 

「尾崎…、尾崎!」

 尾崎は、ベットの端に顔を押し付けた状態で突っ伏した状態で揺さぶられていた。

「うっ……。シンジ…く…ん。」

 のろのろと顔を上げた尾崎は、彼を心配する医者達の声を無視して、彼がいまだ手を握っているシンジの方を見た。

 シンジは、随分と安らかな顔で静かに眠っている。最初に見た、死体と間違えそうな様子とはまるで別物だ。

「大丈夫かい? あれからもう3時間以上もダイブしていたんだ。次の人に交代して、君は休みなさい。」

「いいえ。もう一度、もう一度! この子の心に入らせてください!」

 がばっと起き上がった尾崎が医者にそう訴えた。

「どういうことだ? いくら君でもこれ以上は…。」

 尾崎がかなり消耗していることを医者は見抜いている。これ以上精神感応させれば危険なことは目に見えている。

「お願いします! あと少し…、あと少しで、シンジ君を…、それと重大な何かに近づけるはずなんだ。」

「重大ななにか? 君は何を見たんだい?」

「それはあとで…。では、もう一度やります。」

 尾崎は、両手でシンジの手を握り意識を集中させた。

「ぐっ!」

 途端、ビクンッと体を跳ねさせた尾崎がシンジの手を握ったまま横に倒れていった。それを傍にいた医者が支えたので床に体が落下することはなかったが、尾崎はシンジの手を握ったまま意識を失っていた。

「あああ! いわんこっちゃない! 誰か! 誰か、M機関に連絡を!」

 

「その必要はないよ。」

 

 どこからともなく現れた、赤と金色の髪の若い男。

 その声と顔を、地球防衛軍のあらゆる研究機関の関係者の人間に知らぬ者はいない。

「お、おまえは、G細胞完全適応者! なぜここに!?」

「お気に入り君が大変そうだから、手伝ってやろうと思って~。ちょっとどいて。」

 ツムグは、尾崎を支えている医者を押しのけて尾崎を抱きしめた。

「“カイザー”だからって限界はあるよ。尾崎シンイチ。驕らないのと、その力を他人のために全部使おうとするのは、おまえの良いところだけど、限度ってものがあるんだよ。きゅ~しゅつ開始。」

 ツムグの赤と金色の髪が、ほんのりとした青白い光を放ちながらふわっと逆立った。

 

 

 再びシンジの心の中に入った尾崎は、自分の意識が凄まじい速度で落下していくのを感じた。

 精神と肉体が離れ離れになる非常事態が起こったかもしれない。

 尾崎は顔を青くしたが、生還を果たすため、そしてシンジの心の中で見て聞いたことを現実に持ち帰るために己を奮い立たせた。

 体制を整え、いつ着地地点に来てもいいように備えた。

 どれくらい落ちていたか分からない。だが着地した。あの夕日の中の電車の中で。

「やあ…、また会ったね?」

 尾崎は流れる汗を拭いながら、席に座っている子ど身に向って笑いかけた。

『お兄ちゃんって、ムチャするんだね。』

 最初に出会った時と違う、泣きそうな声じゃなく、同じ声だがはっきりとした声で子供が喋った。顔は、陰になっていて見えないが、おかしそうに笑っているような気がした。

「君は…、違う…、誰だ、誰なんだ? さっきの子じゃないだろ。」

『分かる? やっぱりお兄ちゃんは特別だから分かる? そうだよ、ボクは、シンジの声と姿を借りてるんだ。』

 シンジではない何者かが、シンジの声と姿を借りて尾崎に語りかける。

「何者だ? おまえはどうしてシンジ君の中にいるんだ?」

『シンジは、心を壊す直前までどこにいたのか、覚えてるでしょ?』

「どこって…、エヴァンゲリオン? まさか、おまえは、エヴァンゲリオンだって言うのか?」

『うん。人間は、ボクのことをエヴァンゲリオンとか初号機って呼んでるよね。ボクには、名前なんてないよ。ボクは、生まれた時からボクだし。勝手に好きな名前で呼べばいいよ。ボクは名前なんてどうでもいい。』

 シンジあらため、シンジの声と姿を借りた初号機が衝撃の事実を尾崎に明かした。

「初号機は、…いや、エヴァンゲリオンは、ただのロボットじゃないのか?」

『人造人間って言われてるよ。本当は、人間が使徒って呼んでるモノからボクは生まれたんだ。ううん、違う。ボクは、造られたんだ。好きで生まれてきたんじゃないよ。』

「エヴァンゲリオンが使徒だって!? だから使徒と戦えるのはエヴァンゲリオンだけって理論があったのか…。使徒は昔からいたってことなのか?」

『そうだよ。お兄ちゃんが見たことがあるのは、三番目の使徒だよ。一番目は、アダム。二番目は、リリスっていうの。それでね、驚かないでね。人間は、18番目の使徒、リリンなんだよ。』

「なっ…」

 尾崎は言葉を失った。全く異なる生物だと思っていた使徒が、人間と同類だったなどと考えもしなかったからだ。

『それだけじゃないよ。他の生物も全部、使徒から生まれたんだよ。だから使徒は、みんなのお父さんでお母さんなの。』

「嘘だって…、思いたいけど、本当なんだろうな。」

 尾崎はこめかみを抑えてここがシンジの心の中であるから、相手が幼いシンジの姿を借りた初号機でも嘘は言っていないのを理解している。だが使徒がすべての生命の起源だという話は受け入れがたい衝撃的な事実だった。

『お兄ちゃん、疲れてるでしょ? 座ったら?』

「ああ…。」

 尾崎は、初号機の向かいの席に座り込んだ。

『ねーねー、お話し、続けていい?』

「…ああ。」

 無邪気に話しかけてくる初号機(?)に尾崎はそう返事をした。

『でね、使徒には、アダムから生まれた命と、リリスから生まれた命がいるの。リリンと他の生き物はね、リリスから生まれたんだよ。使徒は、アダムから生まれたの。ゴジラに殺されちゃった使徒はね、サキエルって言うんだよ。あと使徒はアダムとリリスを入れて全部で17いるの。リリンは別だよ。だってコア退化しちゃってて使徒とは違っちゃったんだもん。』

「それってつまり…、あと14体も使徒が現れるってことだよな?」

『そうだよ。使徒はね。アダムに還りたがってるの。だからアダムを探してるの。でもね、アダムは、南極でバラバラにされちゃったんだ…。でも失敗しちゃったの。だから南極も世界中も壊れちゃったんだ。』

「はあ!? どういうことなんだ!」

 尾崎はそれを聞いて身を乗り出して叫んだ。

「アダムが南極でバラバラになって、それが失敗で南極と世界が壊れたって…、まさかセカンドインパクトのことを言ってるのか!? 隕石の落下が原因っていうのは嘘だったっていうのか!?」

『うん。嘘だよ。アダムをバラバラにした人間達がね、アダムのこと、隠すために嘘ついたんだよ。』

「…南極で一体何が起こったんだ? なぜアダムが南極にいたんだ?」

『アダムとリリスはね、月と一緒に来たんだよ。本当はひとつの星に、月が一つなんだけど、この星には二つ月が来ちゃったんだ。その月に、アダムとリリスがいたの。アダムの白い月は南極に落ちて、黒い月は…、どこだったっけ? 忘れちゃった。あの人達はね、アダムを卵にしたかったの。だからわざとあんなことしたんだよ。でもちょっとだけうまくいかなくって、そのせいで南極はなくなっちゃって…。』

「それでセカンドインパクトが起こった…。自然災害じゃなく、人為的災害だってことなのか。なぜそのことを隠したんだ? 誰が、何の目的で?」

『ジンルイホカンケイカクのためだよ。あのね、あの人達のこと、シンジのお父さん達は、老人達って言ってたけど、どういう意味?』

「老人達? さあ、俺には、ちょっと分からないな。それよりジンルイホカンケイカクっていったい何のことだ? それを教えてくれないか?」

『あのね…。裏死海文書っていう預言書にね書かれてたんだって。人間が…、リリンがもうこれ以上進化できないから、自分達の力で進化しようって、シンジのお母さんが考えたんだよ。』

「シンジ君のお母さんが!? それに人類を進化させるって…、そんなことが可能なのか!?」

『サードインパクトを起こして、みんなを1つにするの。南極がね、真っ赤になったでしょ? あれはね、南極の生き物がみーんな溶けちゃった後なんだよ。みんな、ああなるの。それでみんなが1つになった後に、真っ赤になった海から進化したリリンと他の生命が復活するの。それがジンルイホカンケイカク。』

「そんな…、そんなのは進化じゃない! ただの滅亡だ!」

『どうして? 進化できるんだよ? みんながお兄ちゃんみたいに特別になるんだよ? お兄ちゃん、ひとりだけ特別だから、寂しいでしょ?』

「寂しくなんかない。俺には、仲間がいる。愛する人がいる。守るべき人達がいる。そんなまがい物の進化なんてさせない! 教えてくれ、一体誰がそんなことをやろうとしているだ!」

 尾崎は立ち上がって初号機に詰め寄ろうとしたができなかった。立ち上がることすらできなかった。

「なっ!?」

 慌てて背中を見ると、ベッタリと血管のようなミミズのような物が座席から生えていて背中に張り付いていた。

『お兄ちゃん…、嘘ついちゃダメだよ。お兄ちゃんは、この世界で一人しかいない、特別なんだよ? だから、みんな一緒になればもう寂しくないよ? 嬉しいでしょ?』

「違う! 俺はそんなこと思ってない! おまえは、俺に何をしたんだ! うっ!?」

 尾崎が首を振って初号機の言葉を否定し叫ぶと、いつの間にか向かいの席に座っていた初号機が尾崎の目と鼻の先に立っていた。

 幼いシンジの姿をした初号機の両手が尾崎の胸に添えられた。

 途端、尾崎が座っている席から、血管のような触手が伸びてきて尾崎の体に絡みつき始めた。

 体に絡みついてきた血管のような触手から流れ込んでくるモノに尾崎は目を大きく見開いた。

「やめろ! 俺は、シンジ君の心を治して現実に帰らなきゃならないんだ!」

『お兄ちゃん、一つになろうよ。そしたらきっととてもとても気持ちいいよ? 一緒に行こうよ、シンジのお母さんみたいに。使徒も怪獣も、みんなみんな一つになった世界に行こう。』

「離せ! 俺はいかない! 俺はまだやらなきゃいけなことがあるんだ! やめろ、離せ、離せぇぇ!」

 初号機の小さな手に押され、尾崎の体が電車の席にズブズブと沈んでいく、尾崎は抵抗できず叫ぶことしかできない。

 

 

 一方、ネルフでは。

「初号機に異常発生!」

「電力供給無しで起動しました!」

「コアに高エネルギー反応! これは…、一体……。エントリープラグも刺さってないのに…。」

「何が起きたの!?」

 駆けつけたリツコがモニターを確認した。

「これは…、どういうこと? 誰も乗っていないのに、シンクロ率が急上昇している。しかもこの数値は…。」

「シンクロ率上昇中! 間もなく400%に達します!」

 初号機が収まっているドッグでは、初号機が顎のジョイントを引きちぎり、身をよじって凄まじい雄叫びをあげていた。

 その叫びは、まるで喜んでいるかのように…。

 

 

「碇、初号機が突然起動して謎のシンクロ率上昇を始めたらしいぞ。…400%だそうだ。」

「どういうことだ? ユイ……、何をしようとしているんだ?」

 冬月が通信機を片手に今起こっている異常をゲンドウに伝えると、ゲンドウは、眉間に皺を寄せて初号機の中にいまだ眠り続ける妻・ユイに問いかけるのだった。

 彼らは、この異常事体がユイではなく、初号機が自身が起こしていることだということを全く知らない。知る方法がない。

 

 

 

 そしてシンジの心の世界で、尾崎は、初号機に精神(魂)を取り込まれる真っ最中だった。

「ぐぅうう…、やめ…ろ…。」

『ボク、お兄ちゃんのこと気に入ったんだ。だから、一緒に行こうよ。一緒にいよう。一つになってずっと、ずっと一緒に…。』

 尾崎の体はもう、電車の席に半分以上飲み込まれ、唯一の抵抗だった声をもほとんど出せなくなっていた。

 もうだめだと、抵抗する力も使い果たした尾崎が目を閉じかけた時だった。

 

「はいはいはいはいはい~、そこまでにしろー。」

 

 緊張感のない声が聞こえ、白い熱線が、尾崎と初号機の間に炸裂し、初号機は向かいの席の方に吹き飛ばされ、尾崎は電車の席と血管のような触手から解放されて床に倒れこんだ。

「尾崎く~ん、相手が見た目子供だからって油断し過ぎだって。」

「ツムグ…?」

 よろよろと顔を上げた尾崎が見上げた先には、椎堂ツムグが仁王立ちしていた。

「相手は、使徒のコピーとはいえ、一応使徒なんだから普通に接しちゃダメ。特に尾崎みたいなお人好しは付け込まれるよ? あと少しで初号機本体の方に魂が取り込まれて、病室にいる尾崎の体がLCLって生命のスープになってたとこだよ? サードインパクトも起こってないのに真っ先にスープになっちゃダメでしょうが。」

 ツムグは、床に倒れている尾崎の傍に腰を落として、その頭に軽く空手チョップを何度もお見舞いした。

 そして尾崎の耳に口を寄せて。

「ミユキちゃんが泣くよ?」

 そう囁かれた途端、尾崎は、ガバッと物凄い速さで起き上がった。

「そうそう、まだ尾崎は死んじゃダメ。かといって使徒に取り込まれちゃうのもダメだから。」

 ツムグは、じろりと初号機の方を見た。

 シンジの姿を借りてる初号機は、向かいの席の傍らで両手両膝をついて蹲っていた。

『どうして?』

 初号機が悲しそうに寂しそう言った。

『どうして一つになってくれないの? お兄ちゃん、ボクのこと嫌い? ボク、お兄ちゃんと一緒にいたいだけなのに…。』

「方法がダメ。あかん。嫌がってる相手を無理やり連れて行こうとしたら嫌われるのは当たり前だって。」

 ツムグは、ズバズバと初号機にダメ出しをする。

『だって…、お兄ちゃんは、特別だから、きっと寂しいって思ったから。』

「あのな…。尾崎は、全然そんなこと思ってないから。勝手に自分の思い込みを押し付けるんじゃないって。」

『嘘だ…。』

「いい加減、おまえは本体の方へ帰れ。シンジを媒介にして尾崎に会いに来たまではいいが、このままじゃシンジが起きれない。だから、か・え・れ!」

 ツムグが初号機の頭を掴みそのまま持ち上げ、電車の窓に向って放り投げた。

『わあああ!』

 初号機の悲鳴と共に世界が壊れた。

 

 

 

 

 そして現実。

「う…。」

「あ、起きた。」

「尾崎! 大丈夫か!?」

「早くベットで寝かせてやってよ。命に別条はないよ。…たぶん。」

「たぶんって…、不安になるようなことを言うな、G細胞完全適応者! 誰か搬送用ストレッチャーを持ってきてくれ!」

 ぐったりしている尾崎は、治療室に搬送されていった。

 残された椎堂ツムグは、尾崎が運ばれていったのを見届けた後、スヤスヤと安らかな寝顔で眠るシンジの方を見た。

 そっと手を伸ばし、柔らかい黒髪を撫で、ツムグは柔らかい笑みを浮かべた。

「もうあんな粗悪なオモチャに乗らなくったっていいんだぞ? おまえのこと捨てた父親にこだわることはもう必要ない。ここにいれば、みんな優しくしてくれるさ。君は、一人じゃない。目が覚めたらたっぷりそのことを教えてもらえる。それまでゆっくりお休み。」

 そう言って、ツムグは、病室から出て行った。

 

 

 

 

 

 

 その頃、ネルフでは。

「…初号機、沈黙。」

「シンクロ率がゼロになりました。」

「一体なんだってんでしょうか? 先輩…。」

「ごめんなさい、私にも分からないわ…。あとで初号機を調べてみましょう。」

 結局、初号機は停止し、謎の暴走は謎のままになるのだった。

 ドッグにある初号機は、拘束具を無理やり外して身を動かしたため、首をだらりと垂らした状態になっていた。

 光のないその目から、一筋の液体が零れたが、外装が破損しただけだろうということで処理され、深い意味があることを知られることはなかった。

 

 

 

 そして後日。

 第三新東京に第四使徒シャムシエルが現れる。

 そして東京湾にゴジラが再び現れる。

 

 

 

 

 

 




この頃からだったかな?
尾崎が変なのに目を付けられやすいというのを考えたのは。


人類保管計画は、ジンルイホカンケイカクという形でバレたけど、首謀者や方法までは知られていません。



・初号機の意志
碇ユイとは別に存在する幼い存在。
尾崎のことをMAGIを通じて知り、特別な存在だからと勝手に決めつけ同化しようとした。
旧『ゴジラ対エヴァンゲリオン(仮)』では、一応ラスボスとして登場させました。


次回は、シャムシエル回。


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第三話  ネルフの愚行と、機龍フィア停止

シャムシエル回。


エヴァ弐号機が登場してます。



あと、扱い悪いです。




アスカと弐号機ファンの方、注意!!


 

 尾崎がシンジの傷ついた精神を治すために過度の精神感応能力を使いすぎてぶっ倒れた後日。

 第三新東京に、次の使徒が出現した。

 

 使徒が現れる…、それすなわち。

 

『東京湾にゴジラ出現! まっすぐ第三新東京を目指し進撃しています!』

 

 ゴジラが使徒をぶっ殺しすために上陸してくることである。

 

 第三新東京は、地球防衛軍の出した厳戒令によりゴジラ迎撃エリアに指定されたため、そこに住む住民達は、地球防衛軍の保証のもと、他県へ移住を強制されることとなった。

 サキエル襲撃時にゴジラが来て、機龍フィアとネオGフォースの激戦は、すでに都民に知れ渡っており、その被害も凄まじかったため地球防衛軍の令で強制移住となってもすんなりそれを受け入れた。

 避難しつつ、移住の真っ最中の住民達の中に、ゴジラの襲来の放送を聞いて顔を怒りに染める少年が一人いた。

 鈴原トウジ。サキエル襲来時にシェルターに妹と共に避難したのだが、ゴジラの襲撃によってシェルターがもたず負傷者が出てしまったのだ。その負傷者の中に彼の妹がいたのである。

 だからトウジは、大事な妹に怪我を負わせた原因を作ったゴジラに憎しみと怒りを抱くようなったのである。

 だが相手は、授業や教科書でも耳にタコになるほど聞かされてきた伝説の怪獣王ゴジラである。なんの力もない民間人が相手になるわけがない。

 再び第三新東京に来たゴジラに、トウジはただただ悔しさに拳を握り、歯を食いしばって耐えることしかできなかった。

 そんな彼に悪魔の囁きがかかることとなる。

「なあ、トウジ…。ちょっと話があるんだけど。」

 クラスメイトで友人の相田ケンスケである。

 大人達の目を掻い潜り、物陰で二人はヒソヒソと話し合った。

「なんやケンスケ、こんな時に?」

「俺らもうすぐ他県に移住するだろ? それも地球防衛軍の命令で。」

「せやな。第三新東京がゴジラと戦うための戦場になるさかい…。」

「それなんだよ! ゴジラってさ、別に東京じゃなくったって世界中あちこちの都市や街を襲ってるのに、なんで第三新東京なのかって疑問湧かないか!?」

「んー、確かニュースじゃ、使徒がゴジラを呼び寄せて、第三新東京に使徒が必ず来るからそいでゴジラが来るからとかやったような…。」

「そこ、そこなんだよ! なんでゴジラは使徒を狙うのかって詳しい情報がまだ開示されてないんだって! ネルフのサイトも閉鎖されちゃってさ、パパのIDでも全然情報が得られないし、それになにより! 機龍ってあのゴジラそっくりのロボットだ! そうメカゴジラ!」

 ケンスケはオタクである。しかも悪い方向での。

 ついでに学校では女子の写真を勝手に盗撮して、売りさばいているとか…?

 しかも父親がネルフの職員なのを利用して勝手にIDを使い、ネルフのホームページに勝手にログインして軍事機密を引き出して、それを自作のホームページに掲載するという重大な違反を犯しているとか…。

 そんな彼が地球防衛軍の復活と対怪獣兵器の戦いに興味を持たぬはずがない。

「これはチャンスなんだよ! メカゴジラを生で! ゴジラと戦うメーサータンクとか戦闘機も見たいんだよ! そして映像に収めたいんだ! なあトウジ! ゴジラが倒されるとこ見てみたくないか!?」

「ゴジラが…、倒されるとこやて?」

 ケンスケの言葉の最後の方にトウジが反応した。

 ゴジラは憎いが子供である自分は戦うことはできない。

 だがゴジラが痛めつけられ倒される姿はこの目で見たい。

 しかし、戦場に勝手に侵入すればどんな罰が与えられか分かったものじゃない。

 しかし、しかしである。若さゆえに、トウジは、自分の感情に負けてしまった。

「ええで…。」

「さっすがトウジ! ありがとう!」

 ケンスケは、トウジがゴジラを憎んでいる理由を知っていながらこの危険なことに巻き込んだのだ。死ぬかもしれないというのに、己の欲望のためだけに親友を巻き込み、最悪戦闘の妨害になるかもしれないのに。自分本位の欲を優先した。

 それが、二人の分岐となることを、二人は知らない。

 

 

「安心してね。ちゃんとケンスケには、罰が当たるので……。」

 二人から完全に死角になっている場所に、背をもたれさせて二人の会話を聞いていた椎堂ツムグが、シーッと口の前に人差し指を持って行って、クスクス笑いながら誰か(?)に向ってそう言った。そして音もなくそこから姿を消した。

 機龍フィアに乗るために。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 一気に解散されず、ジワジワと弱らされるという悪質な手段で弱らされてきた地球防衛軍がすぐに復帰できたかと言ったら嘘になる。

 潜伏させていたネオGフォースにより、軍事的戦力は整えられたし、波川達のように窓際に追いやられながらも諦めなかった者達により迅速に立て直されていったが、使徒は待ってくれない。ゴジラはもっと待ってくれない。

 人員不足もあるが、全盛期当時の体勢を整えるのは難航していた。

 しかし、使徒もゴジラも待ってはくれない。

 守るためには、言い訳などできないのだ。それは、怪獣達が全盛期だった頃から変わりはしない。あの頃は毎日がギリギリだった時期だって少なくなかった。ゴジラを南極に封印するまで、その後も…気の休まるという時期は無かったかもしれない。

 時代は変わり、セカンドインパクトで世界が傷つき、使徒という謎の生命体の出現があれど、ゴジラは蘇り、今は第三新東京に現れる使徒とエヴァンゲリオンを目指して第三新東京を目指して出現するが、やがて使徒がいなくなればその破壊の矛先を人類へと変えるだろう。

 ゴジラは決して許しはしないだろう。

 時代が変わろうとも、生きるために戦うしかないのだ。

 

 使徒シャムシエルは、紙飛行機のようにフーワフーワと空を舞っていて降りてこない。

 サキエルとはまた違った奇妙な形状をしている。手足らしき部位も羽もないのに浮いているのが変であるが、これまで地球防衛軍が戦ってきた怪獣を思い起こせば、変な形状でも空を飛ぶことも可能なのかもっという考えが出てきてしまう。

 

「使徒を怪獣と区分してもいいような気がしますな。」

「しらさき、第三新東京上空にて待機中! 機龍フィア、いつでも投下できます!」

「ゴジラは?」

「東京湾より上陸を開始! まもなく第三新東京圏内に入ります!」

「波川司令! 緊急報告あり!」

「なんです?」

「上空権より伝令! ネルフの配送機が第三新東京圏内に潜入! エヴァンゲリオンと思しき赤い人型兵器を確認!」

「赤ですって?」

「情報が正しければ、おそらくはエヴァンゲリオン弐号機かと!」

「この状況でなにを考えているんだ、ネルフは!?」

「ああ! エヴァンゲリオン弐号機! 搬送機状態から使徒に射撃!」

「使徒が地上へ降下!」

 

 使徒シャムシエルは、エヴァンゲリオン弐号機からの攻撃をスイスイ避けてからフワリッと地上へ降下した。

 降り立ったシャムシエルは、足の無い胴体の先端だけで立つ。

 ネルフの配送機から切り離された弐号機がクルクルと体勢を整えながら、シャムシエルに向かって落下の力を利用した飛び蹴りを食らわそうと体勢を作った。

 するとシャムシエルは、頭の下にある出っ張りから光るムチのような物を伸ばし、迫ってきた弐号機の足に絡みつけ、そのまま弐号機を地面へと叩き付けた。もうもうと土煙が上がる中、ガガガガガ!っと弐号機が持っている兵器から弾を撃ち出す。シャムシエルは、落ち着いた様子でそれを体の受けるが、ダメージになっていないようだ。弾丸が砕けて視界が悪くなる。

 

「解析完了! エヴァンゲリオン弐号機が使用しているのは、劣化ウラン弾と判明!」

「なにーーーーー!?」

「アホなのか、馬鹿なのか!? ウランだと!?」

「水爆大怪獣の近くで放射能物質をばらまいたら……。」

 

 そうこうしていると山を越えてきたゴジラが風に乗ってきたウラン弾の煙を鼻で吸って、クンクンとさせギロリっと弐号機の方を見た。

 

「ああ! いわんこっちゃない!」

 地球防衛軍指令室では、ほれ見たことか!っと頭を抱える事態になっていた。

 これで弐号機はゴジラの標的になった。ウラン(放射能物質)を持っているから。

 それに気づいてか、使徒が弐号機からササササっと後ろへと離れていく。足も無いのに速い。

「ど、どうなさいますか? 波川司令?」

「捨て置きなさい。エヴァンゲリオンは、弐号機だけではありませんから。」

「はい。」

 弐号機、そしてその搭乗者であるアスカ・ラングレーが見捨てられた瞬間だった。

 ゴジラがズンズンと弐号機に迫っていく、気づいた弐号機が劣化ウラン弾を使う兵器でゴジラを撃つがダメージになるわけも無い。放射能を好む、水爆大怪獣にウランを撃ち込んでいるのだ。ダメージどころかエサやっているようなものなのだが、弐号機の搭乗者は知らないのか。

 すると。

『こちら、椎堂ツムグ。オートー願いまーす。』

「なんだこんな時に!?」

『すぐそこの山が見えるでしょ? あそこに子供が二人いるよ。こっちからデータ送るよ。』

「機龍フィアより送信されたデータと、スーパーコンピュータと照合! 生体反応二つ確認!」

「M機関に保護するようすぐに指示を!」

 避難していた住民の中から、二人の少年が二人いないことがすぐに分かり、住民達の避難、警護に当たっていたミュータント部隊が一部、山へと向かうこととなった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

『全然効かないじゃないの!? もっと他に武器はないの!?』

『くっ…、さすがは怪獣王ってあだ名がつくだけのことはあるってことね!』

『違うわよ…。あんた達、ウラン弾の成分がなんなのか分かってる? 相手は水爆大怪獣よ? 撒き餌してどうするのよ?』

『どういうこと?』

『はあ…、ホント無様ね…。ゴジラは、放射能物質を好むのよ。原発があった時代、そして原子力潜水艦や放射能物質を移送していた船をゴジラは積極的にそれらを襲ってきたわ。理由は簡単。ゴジラが放射能物質を好むのは、ゴジラが誕生した経緯に問題あるわね。そのことは色んな教材や授業で習っていたはずよ? 忘れた?』

『ええ~と…。』

『あっきれたわね…。ビールで脳みそ膿んだんじゃないのかしら? あのね…、ゴジラは、水爆実験で誕生したのよ。そんな放射能兵器から生まれた怪獣に、同じ放射能物質のウラン弾が効くわけがないわ!』

『マジで!? アスカ! 逃げて!』

『けど、まだ使徒が健在よ! 逃げるわけには…、っ、キャアアアアア!?』

『アスカ!』

 ネルフ側がギャーギャーとアレコレしている間に、接近したゴジラに弐号機が捕まった。

 エヴァンゲリオンは、80メートル。ゴジラは、100メートル。すごい身重差のある両者である。

 ゴジラは、掴んだ弐号機の手に握られていたウラン弾の兵器を口に運び、強靱な顎で銃身もろともウラン弾を噛み砕いた。

 その間にも弐号機は暴れてゴジラの手から逃げようとするが、まるで歯が立たない。

『この!』

 アスカが弐号機の肩の出っ張りにあるニードルのような兵器を発射し、ゴジラの下顎を狙った。だが、当たった瞬間、ゴジラの鱗に阻まれカンカンっと空しい音を立ててニードルが落ちていった。

『ウソ…。』

 アスカは、青ざめる。自分が相手をしているモノの圧倒的さにようやく気づいたのだ。

 銃身の残骸をペッと吐き出したゴジラは、ジロリッと弐号機を見おろした。そして掴んだ腕を引っ張り、弐号機の体を引きちぎろうとする。ゴジラの怪力により、ミシ、ベキ、ブチっと、弐号機の機体が悲鳴を上げるようにイヤな音が鳴り、体液が零れ、装甲が壊れ、装甲の下の生体素体部位が千切れていく。

『ギャアアアアアアア!』

 シンクロによって伝わるダメージにアスカは悲鳴を上げた。

 リツコが急いでシンクロを切るよう命令を出そうとした時。

 弐号機の後ろの方に着地した機龍フィアが、カパッと口を開け、弐号機の後ろから100式メーサー砲をゴジラに向かって撃った。

 ゴジラの顔に命中し、ゴジラはたまらず弐号機から手を離し、弐号機が地に落ちた。

「邪魔。」

 ツムグは、弐号機の頭を掴み、ぺっと横へ放り投げて遠ざけた。投げられた弐号機は何度もバウンドしながら転がって、止まった。

 なんのつもりだ?っと言いたげに、ゴジラが唸る。

「彼女に死なれるわけにはいかないんだ。“まだ”ね……。」

 ツムグは、ヘルメットの下でニヤリと笑った。

「それより、横取りしちゃっていいの?」

 機龍フィアの指で、高みの見物をしていた使徒シャムシエルを示す。シャムシエルは、それに気づいてビクッとなっていた。

 ゴジラが忌々しげに眉間を寄せた。そして背びれが光る。

 シャムシエルがハッとして逃げようとしたが、それより早く放たれた熱線。そして機龍フィアは、サッと避けて熱線はそのままシャムシエルに命中し、大爆発が起こった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 一方その頃、近くの山では。

「すっげー! あの使徒って化け物を一撃で! ゴジラ半端ねーー!!」

「なんちゅう奴や……。」

 爆風にもめげずカメラを回し続けるケンスケと、青ざめぼう然とするトウジ。

 トウジは、機龍フィアを見つめた。

 先ほどエヴァンゲリオンという兵器がまったく歯が立たなかった相手と睨み合う姿に、少しだが希望が湧く。

「なんでもいい!! ゴジラをぶん殴ってくれーーーーー!!」

 トウジは、願いを込めてそう叫んだ。

 その叫び声に反応してか、ゴジラがギロッとトウジ達の方を見たため、二人は青ざめるのを通り越して真っ白くなり、失禁した。

『ゴジラさーん。こっちと遊ぼうよ。』

 機龍フィアがジェットを吹かし、ゴジラに体当たりをした。

『リミッター解除! ワン&ツー!!』

 禁止されていたリミッター解除を、同時に二つ起こったな。

 ビービーとうるさく警報が鳴るが構うこと無く、解除した。

 リミッター解除による活性化に伴い、血管のようにエネルギーが機龍フィアの表面を駆け巡る。

 ツムグの目の色が、黒から、金色に光った。

『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

 ツムグの絶叫と共に、機龍フィアは、ゴジラの顎にアッパーカットをかまし、更に胴体を回転させて尻尾攻撃をした。ゴジラの横っ腹にもろに入った尻尾攻撃により、ゴジラは、横へ吹っ飛び倒れた。

 倒れたゴジラに追撃しようと機龍フィアが凄まじい速度で接近し、ゴジラの尻尾を掴むと、ゴジラがギッと機龍フィアを睨み上げ、赤い熱線を吐いた。熱線をもろに受けた機龍フィアは、装甲で吸収し、掴んだ尻尾を持ち上げ、ゴジラを遠くへ投げた。ゴジラは体勢を整え着地し、機龍フィアに突進すると機龍フィアも突進し、両者がぶつかり合った。

 直後、ブツンッと音を立てて、機龍フィアが突如機能停止に陥った。

 現在の耐久力の限界による強制停止装置が働いたのだった。

 ゴジラが訝しむが、ゴジラが少し離れると、機龍フィアは、手と首をダラリとさせ、機体の関節から黒煙を漏らしながら動かない。

 機龍フィアが動かなくなったことで、このままトドメを刺されると思った地球防衛軍側は覚悟したが、ゴジラは、やる気をそがれたとばかりに、フンッと鼻息を漏らし、背中を向けて海へと帰っていった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

『……助かったってところかしら。』

『くっ……。』

『ミサト。あんたの思い通りになるほど世の中甘くはないわ。』

 自分の作戦指示で使徒を倒せなかったことに歯がみするミサトに、辛うじて助かった弐号機にヤレヤレと胸をなで下ろしているリツコが言った。

 

 

 その後、勝手なことをやったなと、地球防衛軍側から抗議を受け、ネルフの更なる資金縮小がなされたので、ゲンドウは、うまく事を運べなかった責任をアスカやミサトらにぶつけようとしたが、それより前にツムグがゲンドウの指示だったことをチクったためゲンドウは、地球防衛軍とゼーレの板挟みでメッチャ怒られたのだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 機龍フィアの回収が迅速に行われ、ゴジラによる被害報告、そして避難場所から勝手に抜け出し、危険な戦場に忍び込んだ二人の少年にきつい罰が与えられた。もちろんケンスケが戦場を撮影したデータが詰まった撮影機器は、没収された。

 だがケンスケがかなり機械に強いことがトウジの口から洩れたたため、撮影映像を他の方法で残しているかもしれないと疑われ、他県への移住のために積み込まれていた積み荷からケンスケの大量の荷物が運び出されることになった。

 ケンスケは、人権侵害だとか、パパがネルフの職員だから訴えてもらうとか叫んでいたが、ネルフはすでに実権を失っており、ケンスケの父親はネルフを辞めて地球防衛軍の特に一般人の対応をする部署、つまり普通の公務員と変わらない仕事をしているところに転職していたのだが、片親で子供を養うためほとんど家に帰らないことや普段父親と顔を合わせず部屋に籠って盗撮した映像の編集や掲示板などに参加しているケンスケはそのことを全く知らなかった。ケンスケの父親に確認したところ、留守録とメールにネルフを辞めたことや転職したことを送っておいたらしいのだが、ケンスケは、父親のいつもの自分の趣味(盗撮含む。父親は盗撮のことは知らない)を良く思わないお叱りの言葉が入っていると思い込み留守録を聞くことなく、メールも差出人を見ただけですぐに削除してしまっていたらしい。

 ケンスケは、父親の転職のことを警察組織の取調室で知らされ、愕然としたという。ネルフが実権を完全に失っていることも同時に伝えられたが、今度は地球防衛軍がネルフを切り捨てたことについて立場も弁えず勝手に職員に質問攻めし、ネルフが保有するエヴァンゲリオンがゴジラを呼び寄せる要因になっているというネットでの書き込みの事実確認を行おうとしたため、その情報の入手先について調べるたところケンスケが父親のIDで不正ログインやハッキングをして軍事機密をネットに流していた、あるいは別のハッカーの存在が発覚しネット住民達の一斉捜査が行われ国内、外国問わず逮捕者が何人も出る騒ぎになった(中には指名手配されていた大物のネット犯罪者もいた)。あとケンスケが情報や盗撮した写真を買っていた業者も見つかり逮捕されるという事件まで起こった。

 その間にケンスケの荷物を調べていた監査官が、ケンスケが盗撮の常習犯であることがカメラ専用の記憶媒体やパソコンのデータから知ってしまい、実質廃校になった第三新東京市立第壱中学校を調べたところ女子更衣室、女子トイレなどに卓越した技術を持つ犯罪者顔負けの巧妙な隠しカメラが仕掛けられており調査しに行った人間達を驚かせると同時にケンスケをもはや未成年という免罪符で罪を軽くできないとしてケンスケへの罰はますます重たい物になっていった。

 盗撮の罪の重さや、国家機密への不正アクセス、そして勝手に安全圏から出て(しかもクラスメイトを巻き込んで)危険な怪獣の出現エリアに入ったことがどれだけ沢山の人の迷惑をかけたかを丁寧に小さい子供でも分かるように説明したのだが、ケンスケは、盗撮は自分はジャーナリストを目指す自分を鍛えるための経験値稼ぎと御小遣い稼ぎを兼ねたものだと盗撮された少女達への罪の意識や盗撮映像を売りさばくことがどのような結果を生むのかを全く考慮しておらず、さらには人には知る義務があると主張したり、地球防衛軍の規制を知る義務の侵害だと酷い自己中心的な言い訳を言うばかりで一切反省しなかった。

 このまま少年院に入れても更生はできないと判断した大人達は、彼の父親にケンスケの罪を知らせ、承諾を得てケンスケを特別厚生施設に送ることが決まった。更生施設行きが決まった時と、護送される時、ケンスケは、大変見苦しい姿を晒したという。ケンスケの悪行のことは、どこから漏れたのかあっという間にクラスメイト達の間に広まり、ケンスケへの印象は最悪、評価も落ちるところまで落ちたそうだ。

 ケンスケの父親は、子供をまともに育てられなかった責任を取って仕事を辞め、ケンスケがやった犯罪の被害者達に謝罪し、遠く離れた田舎で隠居した。ケンスケの父親の誠意ある対応に、被害者達や被害者の保護者達も本当に彼がケンスケの父親なのかと本気で思ったぐらい驚き、その誠意を受け入れて逆にケンスケの父親を憐れに思った。子は親を選べないが、親もまた子を選べないのだ。

 あと彼が務めていた職場人間達も事情を聞いたが辞めることになった彼にお別れの花束を渡すなどしてせっかくできた新しい職場の仲間がいなくなることを惜しんだそうだ。そのためか犯罪を犯すような子供を育てた父親として世間から白い目で見られることも、心無い罵声も悪口が書かれた張り紙などもなかったそうだ。中には遊び半分に批判するのを楽しんでいるタイプの人間が様々な角度からケンスケの父親を貶そうとしたが、ケンスケの父親の人柄と誠意を知る者達によって妨害されたため被害はほとんどなくケンスケの話題はやがて忘れられていった。

 

 そんなケンスケとは対照的に、ケンスケの言葉に乗せられてゴジラが地球防衛軍に撃退される姿を目に焼き付けてゴジラへの怨みの感情を発散したかったトウジは、自分達がゴジラ出現エリアにいたために避難所の警護にあたっていた戦力の一部を二人の救出のために裂かなければならなくなって、応援していた地球防衛軍に多大な迷惑をかけてしまったことを深く反省し、取調室で説明を行った職員に向って床で頭を打ち付けて、泣きながら謝罪の言葉を叫びながら何度も何度も土下座を繰り返した。

 職員や警察官達に宥められて落ち着きを取り戻したトウジは、前回のゴジラ襲撃で妹が負傷したことばかりに目が行っていたため全く他のことが頭に入らない状態だったが、あの時シェルターが壊れた時の犠牲者は彼の妹だけじゃなく、彼の妹よりも重傷で中にはいまだ意識不明、あるいは社会復帰が難しい障害を負ってしまった者や、死亡した者も何人もいたことを初めて知った。ゴジラを憎み、ゴジラと戦う地球防衛軍に期待を寄せているのは自分だけじゃないのだと理解し、自分とケンスケがやったことはそんな人達の希望や想いを完全に踏みにじってしまった愚かな行いだったとまた深く深く反省した。

 面会に来た家族と車椅子に乗った怪我がまだ癒えていない妹に、トウジは、自分がやったことを職員の説明も交えて家族にすべて伝えた。すると車椅子に乗った彼の妹が兄のトウジをビンタした。

 そして彼女は、言ったのだ。自分の兄は本当の漢になるっていつも豪語してる、憎しみや恨みに捉われない真っ直ぐな馬鹿だと。

 叩かれた頬を押さえて妹が涙ぐみながらそう叫んだことで、トウジは、罪の意識から解放されることになる。もちろん自分がやったことを忘れたわけじゃない。

 ただ自分が真にやるべきことが何なのかを妹の言葉で悟ったのだ。

 ゴジラをただ恨むのではなく、友人の言葉に惑わされて命がけで戦う地球防衛軍に迷惑をかけてしまったことに対する罪の意識に捉われるのではなく、ゴジラとはいわずとも大きな脅威から自分や家族のように被害者になってしまった者達がこの先でないように、今度は自分が守る番だという考えに行き着いたのだ。

 将来は、人を守る職業に…、地球防衛軍に入隊する。トウジは、その場で家族と地球防衛軍の職員に向って宣言した。

 家族は、一瞬呆気に取られたら、トウジが自分が犯した罪を反省し、それにとらわれることなく未来を見据えて元気を取り戻したことを喜び、妹はそれでこそトウジだと明るく笑った。

 彼に付き添っていた職員や、面会室の出入口にいた地球防衛軍の軍人や警察関係者達は、少年の決意に涙ぐみ、だが同時にゴジラとの戦いは、子供達の平和な未来は、自分達大人が築かなきゃならないと語り合い、できることならトウジが命の危険にさらされる地球防衛軍に入隊する前にゴジラを倒して将来の選択の幅を広めてやらなきゃなと、現在進行形で人々の平和のために命がけで戦っている者達は自分達が背負う使命と戦いへの決意を新たにしたという。

 こうして、ケンスケとトウジは、それぞれまったく違う道を歩むこととなるが、この物語には関係の無いことである。

 

 

 

 




シャムシエル回を変えようと思って考えに考えたら、弐号機を出しちゃってました。

さて、ガキエル回はどうしようかな?

それとも劇中では、自己で消滅したってことになっている四号機を運ぶ任務でガキエルに遭遇させるか……。


ケンスケとトウジは、原文でもここ以外ではもう登場しなかったけど、後々にそれぞれ違う方向で出そうかと悩んでいる。
トウジは、予備自衛隊みたいな形で試験と訓練を受けるときにシンジと出会うとか。
ネルフが四号機とかにケンスケを乗せるとか……。

うん、色々と案が思い付く!


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第四話  椎堂ツムグの影響力?

シャムシエル戦後の話。



リメイク前と違って、地球防衛軍は、ネルフと…?


あと、オリキャラ椎堂ツムグの影響力について。


 

 地球防衛軍の兵器格納施設に収容された機能停止した機龍フィア。

 機龍フィアの開発と整備に関わっていた科学者の一部が機龍フィアの酷い有様にショックで泡を吹いて倒れたとか。

 使徒とゴジラが来るまでに前の戦いでの傷を修理しきれていなかったのもあるが、まだまだ改良中とあって戦闘にならなければ分からない問題点が多々ある機龍フィアは、ゴジラと戦うためとはいえ七つあるリミッターの内、二つを同時解除した途端に脳と繋がっているDNAコンピュータから逆流してきた信号でパイロットの椎堂ツムグがバーサーカー化してしまい、機龍フィアの機体の耐久性を無視して凄まじい近接攻撃でゴジラを攻撃し、赤い熱線を真っ向から浴びながらも戦えたのは、かなりの成果であったがリミッター二つを同時解除した反動による機体への負担と機体の損傷のためDNAコンピュータの判断で強制シャットウダウンがなされた。

 ゴジラがあのまま追撃していたら機龍フィアは、パイロットの椎堂ツムグごと破壊されていただろう。悔しい話だが、見逃してくれたゴジラに感謝しなくてはならない。なぜ見逃したのかは謎であるが、過去にゴジラは、機龍フィア以外のメカゴジラに情けをかけたように今回のような行動をとったことがあったので、今回もそれに似た理由があったのかもしれない。

 一つ以上リミッターの解除の問題と、パイロットの椎堂ツムグがバーサーカー化したことについて、技術部は、上層部からこってり絞られた。念のため追記しておくが開発担当者達がこうなることはちゃんと想定してそのための対策はとっていた。しかし頭の中で描いた予想図と現実は違う。いまだ未知数の椎堂ツムグのG細部と人間の細胞の融合した細胞で作ったDNAコンピュータが一つ以上のリミッター解除するとパイロットの椎堂ツムグにそんな影響を与えると予想していなかった。

 3式機龍の時もそうだが実戦になって分かる部分があまりに多すぎる。

 しかし使徒シャムシエルの襲来のこの一件で、機龍フィアは確かに機能停止する事態に陥ったが、同時に科学者や技術者も予想していなかった良い変化を起こした。

 それは、損傷していて修理が必要だった機体の伝達回路が素体として使われていた椎堂ツムグの細胞によって生物と無機物が融合した形で修復され回路の修理が必要なくなったことだ。

 また熱線で焼け焦げ、煙を吹いた関節部分も細胞の働きで自動的に再生を始め、修理する部分は表面の装甲と人の手が必要なジェットと射撃武器などの武装だけだった。なお外装部分も、一部細胞が浸食しておりその内装甲も修理がいらなくなるのではと予想された。

 生体細胞が無機物と融合し、更に破損を修復する様は、機龍フィアの開発に携わった特にマッドだと言われるタイプの生物学者達を狂喜乱舞させた。彼らにとって機龍フィアの開発も、その材料として細胞を提供した椎堂ツムグも自分達の好奇心と研究意欲を満たすための足掛かりで道具にしか過ぎない。

 機龍フィアの開発と改良、そして戦いの記録は、生物化学部門の糧にもなっていた。

 G細胞の素晴らしい特性は、セカンドインパクト前から研究者達に知られていた。だがその副作用(怪獣化)ゆえにいまだにうまく利用する方法が見つからないままだった。

 そんな時に現れたのがG細胞を取り込みながら人間の形と意識を保っているG細胞完全適応者である椎堂ツムグである。

 椎堂ツムグの細胞は、怪獣化の副作用なくG細胞を活用できる光が見えたとして科学者達はこぞって彼の細胞を研究した。

 しかし調べれば調べるほど、椎堂ツムグの細胞は、ゴジラと同じく持ち主に依存しており、他者に与えれば拒絶反応が起こることが分かってしまった。動物実験で末期癌に侵された病気の動物に椎堂ツムグの体液から採取した細胞を与えたところを凄まじい勢いで癌細胞を正常な細胞にしていったが、治癒の過程で凄まじい細胞の変異に耐えきれずその実験動物は死んでしまった。怪獣化はしなかったが、解剖したところ全身を侵していた悪性の腫瘍は綺麗になくなっていて、それ以外の体の不調も改善されていたという記録が残された。また投与されたツムグの細胞も死体を変異させず死体の中に僅かに残っている程度で治療の過程で消耗してツムグの細胞が消滅することが分かった。つまり酷い怪我や重い病気の体になら本物のG細胞と違い体内に残らないのだ。

 結論として、怪獣並みの生命力がなければ医療目的に椎堂ツムグの細胞は使えないということが分かった。人間の細胞と融合した純粋じゃないG細胞とはいえ、そのパワーは凄まじくただの人間はおろか、ミュータントでも健康体になる代償に即死してしまう。隅々まで健康な死体…、まったく嬉しくない。

 生物の細胞は、それ一つ一つが大なり小なりパワーを持っている。そのパワーの強さは個体により違うが、例えば電気ナマズや電気ウナギなどのように自らの体で放電という凄まじい現象を武器にするような体と細胞の並び方を持つ生物がいるが、彼らの放電は命をかけた武器である、つまり多用できない。それに比べて怪獣ともなるとデンキナマズなどが命がけで行う放電も息をするように簡単に行う。怪獣と普通の生物では、細胞のパワーが違いすぎることの表れだ。

 どうにかしてG細胞のパワーを抑えられないかと試みる研究が行われているが、G細胞は制御しようとすればするほど、細胞が抵抗し、薬品などを使用した場合抵抗力をつけてより厄介なものに変異したため、危うくバイオハザードが起こりそうなったこともあった。

 G細胞を活用する研究を熱心にやっている科学者達が、八方塞がりだと頭を抱えているということが科学者の卵達の間でもっぱら噂になっている。

 研究そのものは国家の命令で行われているが、8割ゴジラを完全抹殺する方法を探す、残り2割が有効活用する方法を探すためみたいな割合である。

 過去、個人的な目的のためにG細胞(ゴジラの)を利用し、ビオランテという怪獣を誕生させた科学者の一件もあるので、G細胞を扱うための規制はかなり厳しい。またビオランテのような怪獣を生み出せばゴジラを呼び寄せる要因にもなるからだ。

 ともかくG細胞は様々な目的を達成するために毎日研究されているのである。

 

 

 そしてG細胞の研究に一筋の光をもたらしたと一時期謳われたG細胞完全適応者の椎堂ツムグは、その頃…。

 

 

「…火傷、打撲、骨折などは収容された時にはすべて完治していました。ですが、脳へかかった負荷が大きかったらしく、まだ意識が戻っていません。」

 青い顔をした医者兼科学者が椎堂ツムグの体の状態を記した書類を挟んだボードを両手で持って、司令部の面々に説明した。

 ツムグは、ごっついカプセルの中で眠っている。強化ガラス越しに表情は苦しそうに歪められているのが分かる。

「やはりDNAコンピュータからの信号の逆流が原因なのですね?」

 波川が聞くと、担当医は恐らくと頷いた。

「脳は、肉体すべての機能を司るもっとも重要な器官です。昆虫のように脳を持たない生物ならまだしも、椎堂ツムグは、怪獣並の生命力をG細胞から手に入れていますが、一応…“人間”ですからね。人間は、特に脳が多く発達している生物ですから、脳へのダメージは、ゴジラと比較したら遥かに大きくなるのでしょう。あとこれはあくまで推測なのですが、彼の脳の奥に埋め込んだ監視装置と自爆装置がDNAコンピュータからの信号で大きく揺らされた脳を圧迫したという見方もできます。」

「回復の見込みはあるのですか?」

「脳波は、随分と弱っていますが、時間を経るごとに徐々に回復に向かっています。目を覚ますまでそれほど時間はかからないと思います…。意識が戻ればあっという間に元通りになるでしょう。ただの人間なら間違いなく脳死していたでしょうがね。さすがG細胞と言うべきでしょうか…。しかし今までどんな実験でも気絶すらしなかった椎堂ツムグが意識を失うほどとは…、あの、私ごときが意見をするのもなんですが…、新型メカゴジラは、本当に使えるのですか?」

「……そのことは、技術部にすでに言っています。今回のことでDNAコンピュータの大幅な見直しを行うと報告を受けているわ。椎堂ツムグには、まだ死んでもらっては困るのよ。まだ椎堂ツムグ以外のパイロットでも十分な戦闘ができるように調整も次の対策もできていないのですから。」

「…はい。」

 冷たさしか感じられない波川の口調と言葉に、担当医は、恐怖を感じながらもなんとか返事をした。

 波川は、司令官としての立場があるため時に冷酷で残酷な決断を下さなければならないことは多々ある。

 椎堂ツムグの件もそうだ。貴重な検体であり、ゴジラを倒すこととG細胞の平和利用に繋がるかもしれない希望。それと同時に最悪最強の人類の敵になりかもしれない危険すぎる可能性もある存在。

 椎堂ツムグが発見されたのは、今から約40年前。

 ゴジラとゴジラと敵対した怪獣との戦いで壊滅した街で、特に遺体の発見すら困難な場所で不自然に無傷な姿で発見されたたった一人の生存者。それが椎堂ツムグであった。どこが不自然だったかというと、彼は大きな瓦礫が散らばる場所の影で座り込んでおり、衣服は破れて半分以上焼けていて、その下の肌は火災による煤まみれになっていたのと、血だけじゃなく骨や内臓から出る特有の体液が彼が座り込んでいる場所を中心に大量に流れた跡がカラカラに乾いていたことだ。保護した時に汚れを落としてみると、傷は一切なく、精密検査をしても骨折も内臓に損傷もない健康体そのものだったのだ。発見した時の状況から見て明らかにおかしいということで細胞の検査をしたところ…、彼がゴジラの細胞で変異した人間だということが判明したのだ。そして彼は、G細胞完全適応者という名称を付けられ怪獣を研究する機関に送られた。

 椎堂ツムグの名前は、彼の本名ではない。彼が発見された場所にあった看板などの文字を繋げて付けた適当な名前だ。

 本名その他。一切不明なのは、彼が保護された時、自分のことについて何も覚えていなかったからだ。

 ただ、漠然とゴジラのことと、ゴジラのおかげで自分の体に大きな変化が起こり生き延びたということだけを覚えていた。そのせいか彼は、ゴジラに対し、ある種の尊敬のような信仰のような感情を抱いている。ゴジラのことをわざわざ「ゴジラさん」と呼ぶのは、40年前から変わっていない。

 人間でも怪獣でもない自分自身の立場や、監視下に置かれて様々な惨い実験をやられてもどこまでもマイペースで、当時の科学者達や地球防衛軍の者達を困惑させたと言われている。

 発見された当時、10代後半か、20代前半ぐらいの外見はまったく変わっておらず、G細胞の不死の力が彼を本当に不老不死にしたのでは思われているほどだ。記憶がないので正確な年齢は不明だが、20代だったとしたら、今年でもう60は過ぎている計算になる。

 外見は若いまま、すでに60歳を過ぎている彼の扱いは変わっていない。むしろ機龍フィアが開発されることが決定された時、恐らくもっとも過酷な実験に身を捧げなければならなくなった。

 ゴジラを倒すための兵器を開発し、実戦でしか得られないデータを収集して彼以外でもゴジラと対等に、それ以上に戦うことができるようにするために機龍フィアに乗せて戦わせる。一歩間違えればツムグがゴジラの思考に侵されてしまう可能性も、彼に埋め込まれたナノマシンや機器によって管理され、もしもの時は体内のそれらの機器のセットされたもしもの時の保険と、機龍フィアもろとも自爆するようプログラムされている。データを取るためとはいえ人類の敵になる可能性を高めてしまうゴジラに接近させる機会を与えているのはいつでも殺せるよう(殺せるぐらいの痛手を負わせる)にされていたからだ。

 二体目の使徒の襲来と二回目のゴジラ進撃とその戦いで脳へのダメージを受け、今までどんな実験でも気絶すらしたことがなかったのに意識を失う事体が起こった。

 このことは、機龍フィアのDNAコンピュータを大幅に見直し、更なる改良がされる糧になった。

 あと機龍フィアの素体になっている彼の細胞が機龍フィアに浸透し、生物と機械の完璧な融合による自己修復能力を機龍フィアが手に入れる結果を生み出した。

 波川は、椎堂ツムグがいる施設から去った後、大きなため息を吐いた。

 波川は若くない。椎堂ツムグのことはよく知っているし、対話だってしている。椎堂ツムグの扱いについては、超危険レベルの毒物か兵器を扱うような規定になっているが、組織の内部では椎堂ツムグのマイペースさがベテラン勢に浸透してしまったのかはたまた勝手に監視施設から自由に脱走しては気楽に組織の人間に話しかけてきたりする姿に慣れてしまったのか、組織の中で神出鬼没、勝手に脱走はするけど外界に影響を与えたり悪さはしたことがない椎堂ツムグの行動を一々咎めなくなってしまった。

 大問題なのだが、その勝手な行動が思わぬ助けになることもあり、もう誰も問題視しなくなったのだった。

 そうなれば椎堂ツムグのことを長年知る人間は、少なからず情を持ってしまうようになる。波川もそうだ。担当医の前でああは言ったが本当は心が痛かった。昏睡状態に陥った椎堂ツムグを心配していた。

 しかし椎堂ツムグの犠牲がなければ手に入らない平和な未来のため、情を捨てなければならない。人間らしい優しさなどが欠如したマッドなタイプの科学者達はともかく、人間らしい心を持って下の者達を導いていかなければならない波川は、人間らしい良心と冷たい司令官として立場の間で苦しむ。

「ゴジラが人間を許さないのは、こんなことをずっと昔から続けて何も変わろうとしないからなのかしら…。」

 波川は、迎えに来た車内で、窓の外を眺めながらそう呟いた。

 

 ゴジラは、人類が作ってしまった最悪の兵器の炎とまき散らす毒を浴びて生まれた。

 そして人類を断罪する、人類の罪そのもののように人類を蹂躙する。

 もしもG細胞完全適応者の椎堂ツムグが人類の敵になったなら、それは自業自得だ。散々惨い実験に利用し、その細胞からゴジラを殺すために兵器を開発し、そしてその兵器に乗せて、彼にとって命の恩人、あるいは神に等しいであろうゴジラと戦わされているのだ。

 はっきり言って、椎堂ツムグが人類のことをどう考えているのか分からない。いつ敵になってもおかしくはないのに、彼は、マイペースに人類に付き合っている。

 

 終わらないこの繰り返しが、いつか終わる日を、ただ願うことしかできない。波川は、自分の机に積まれた書類に目を通しながらそう自虐なことを考えた。

 

 

 半日ぐらいの時間が経過して、椎堂ツムグは、意識が戻った。

 目を覚ました彼は、担当医や研修医達を見つけて目が合うなり、子供みたいに笑って。

「おはよう。」

 っと元気に挨拶したそうだ。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 機龍フィアが機能停止になったが、椎堂ツムグの細胞によって自己再生能力が付き、ほとんど人の手も、費用も掛からず万全な状態で次の使徒襲来でやってくるはずのゴジラに備えることができた。

 

 地球防衛軍では、使徒はただゴジラに蹂躙されるだけの怪獣にも満たないが人類にとっては脅威に他ならない正体不明の生命体という認識だ。

 使徒の研究を第一線で行っていたネルフに使徒についての資料の提供を呼びかけたが、赤木リツコがゲンドウとゼーレからの命令でMAGIのプロテクトで何百ものガードをさせたため、資料を出すことができなくなっていた。

 頑なに彼らが極秘と定めているデータを地球防衛軍に渡したがらない態度に、地球防衛軍の上層部は、こめかみをピクピクさせて漫画なら沢山の怒りマークがつくほど怒った。

 いっそN2地雷を落としたろうか?っとか危ない発言が出るほどだ。

 するとギスギスした会議室に、波川のとんでもない発言が出る。

「エヴァンゲリオンとの共同戦線というのはどうでしょう。」

「波川司令!? 本気なのですか!?」

 会議室にいる偉い人間各位が驚いて波川を見た。

「向こうがこちらに応じないのなら、反応を示す手をコチラがちらつかせてみるのです。喉笛を見せたところを噛み砕けばよいのです。」

「…噛み砕いたあとの肉と骨はどうするのです?」

「食べられるところだけ食べてしまえば良いのです。食べられなければ、野に捨てればいい。」

 それは、喰えるところ(情報や技術など)さえあれば美味しく食べれば良いが、もし喰えなかったら簡単に滅ぼしてしまえということだ。食べちゃっても食べる部位が無くなれば捨てるより他にないのである。つまりどっちみちネルフには未来が無いのだ。

 ネルフに少しでも情がある者は、せめて喰えるところがネルフにあることを祈るより他なかった。せめて喰えたら吸収という形ではあるが、ネルフの人間達がコチラ側に来れる可能性があるからだ。

「まあ、こう言っては何ですが、向こうもあわよくばコチラを喰らう気でしょうしね。ならば、向こうが何か言い出す前に、コッチが折れたように見せかけてみるのですよ。」

「なるほど。ならば向こうが簡単に喉笛を見せてくるでしょうね。あの男ならば。」

「良いですか?」

「喰えるところがあればいいですがね。」

「私が獣ならば、願い下げですが…。喰えるモノは喰っておきましょう。」

 っということで、ネルフとの共同戦線という形が取られることとなった。

 後日、そのことをネルフに伝えると、そりゃもう目をぱちくり、驚いている様子であったが、ゲンドウは内部から地球防衛軍を喰らうチャンスだとばかりにこの共同戦線話を受け入れた。

「分かっていたとはいえ、こうも簡単に食いついて貰えると、拍子抜けします。」

 ところで、なぜ波川がゲンドウの思惑を知ったかというと……。

「目的のために手段を選んでられなくなったんだろうね。」

 波川の執務室で、ツムグが机の上に座っていた。

「その目的とは?」

「秘密。」

 ツムグが、ゲンドウの考えを読んでチクったからだ。

「またそれですか? あなたのその言葉は聞き飽きたわ。」

「まあまあ、これでも食べて落ち着いて。」

 そう言ってツムグは、駄菓子を手渡した。

「懐かしいわ。」

「地球防衛軍の復帰のために毎日頑張ってるんだからさぁ。“使えそうなモノ”に、少しぐらい寄りかかってもいいと思うんだ。ま、それの強度が弱くって折れてもその時はその時だよ。折れようが折れまいがどっちでもいいんだし。」

 鼻歌を歌いそうなほど楽しそうにツムグは、言葉を紡ぐ。

 波川がエヴァンゲリオンとの共同戦線を提唱した背景には、ツムグのこの進言もあったのだ。

「ネルフが横暴を働いてたのは、背後にいるあの老人達の地球防衛軍への鬱憤もあっただろうけど、まあ、自業自得だし? 波川ちゃんの例え通り、食べられれば万々歳だけど、食べれなければ食べれないで捨てちゃえばいいんだし、どう転んでも別にいいんだもんね。今までネルフが好き勝手出来る特権を実質失っているんだからさ。」

「……ゴジラとの戦いは我々が。使徒との戦いは、エヴァンゲリオンが。表面上の役割分担はそうしたわ。彼らは果たして理解しているのか。戦えば戦うほどにコチラに旨味のあるデータを与えることになり、やがて味の無くなったガムのように捨てられることを。」

「怪獣との戦いで培った技術力と科学力を舐め腐ってる節があるからね~。たぶん、赤木リツコ博士だけは分かってると思うだろうけど、たぶんそれを理解した上で共同戦線を楽しむんじゃない? 赤木博士は、コッチに興味津々みたいだし。」

「そうなの?」

「そういえば、地球防衛軍管轄の病院に移した病院の患者に、ファーストチルドレンの綾波レイって子がいるでしょ? あの子のことどーするの?」

「まだ何も。ただ、あの少女については何も情報が無いものですから。医療機関の調べでは、おそらくまともな出生の人間ではないということだけは分かっているわ。」

「登録情報が、名前以外に抹消されてるんだもんね。あの髪色といい、目の色といい、普通じゃないのは当たり前だけど。」

「怪我も完治してない以上、多くは干渉しません。尋問したとしても情報を持っていないと思いますし。」

「あ、そう思うんだ?」

「…あくまで憶測に過ぎませんが。あの少女は、エヴァンゲリオンに乗るためだけに存在させられている存在だと思うのですよ。そのような少女がネルフの機密を知っているとは思えませんので。」

「当たらずも遠からずかな?」

「なんですか? あの少女が何か重要な存在だと?」

「おおっと、口が滑った。じゃあね、波川ちゃん。」

「あっ。……もう…。」

 一瞬にしてテレポートで消えたツムグに、残された波川は肩をすくめたのだった。

 

 

 

 




リメイク前と違って、ネルフとかエヴァンゲリオンの影を少しでも濃くしようと考えた結果、こうなりました。

なお、レイについては、ネルフが資金を失ったことで収縮せざる終えなくなり、病院患者を保護した結果、レイもそっちに行ってしまったということにしています。
ゲンドウはまだそのことに気づいてない? たぶん。


エヴァンゲリオンとの共同戦線なので、メカゴジラ・機龍フィアと肩を並べて戦う場面もこの先やるかも。
ただ……たぶん弐号機が主役格になるかもしれませんが。
シンジとレイは、リメイク前通りにしたいので。


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第五話  ラミエルの閃光、使徒の反撃!

ラミエル編。


ラミエル回は、リメイク前を書いてたとき使徒が負けまくってるから、そろそろ頑張って貰おうかなって思ってこの展開にしたんだったかな?


今回は、新劇のラミエルを少し取り入れました。


なお、エヴァの出番無しです。注意!


 

 

 地球防衛軍の管理下にある病院に、一人の少女が入院していた。

 青い髪の毛に、赤い瞳。それだけで普通じゃないことが分かる外見の美少女である。

 彼女は、まだ包帯が取れていない体を起こして、病室の窓の外を眺めていた。

 彼女の名は、綾波レイ。

 ネルフの最終兵器エヴァンゲリオンのパイロットであるファーストチルドレンである。

 彼女は最初はネルフの病院にいた。

 しかしネルフが大半の経費も維持費も失う有様になったことで、ネルフが管理していた病院などの一部が地球防衛軍の管轄下になった。

 病院が徴収されたことで患者も地球防衛軍の管理下にある病院に移されることになり、レイもその中に入っていた。

 レイは、ただ無表情のまま窓を眺めている。

 地球防衛軍の管理下にある病院に移る時、レイがファーストチルドレンであることを国連の人間が言ったため、レイには、ネルフの現状と、ゴジラのことと、地球防衛軍のことなどをすべて説明した。

 表情の変化も乏しく、感情も薄い彼女が大きな反応を見せたのが、エヴァンゲリオンがゴジラに破壊される対象なっているため、地球防衛軍としては今すぐに破棄してしまいたいという意見が出ているという言葉が説明をしていた職員の口から出た時だ。

 人形のような印象の少女がはっきりとした意思を示したことに、説明した職員が尋ねた。なぜエヴァンゲリオンが無くなるのを恐れているのかを。

「…絆だから。」

 レイは、小さな声でそう答えただけだった。

 詳しい事情を聞きだそうとしても、レイは、黙秘しますと淡々と答えるだけで何も語ろうとはしなかった。

 レイの経歴が抹消されていることについては、すでに地球防衛軍側に知られている。

 彼女の治療にあたった医師は、念のため彼女の血液と細胞の一部を研究機関に送り検査を依頼した。

 そして提出された結果は、99.89%までは、人間の遺伝子と合致するという奇妙な結果だった。

 残り0.11%の差はなんだ?っという疑問が湧くのは当然である。

 使徒についてに研究していないが、最初の地球防衛軍が結成されてから、弱体化までに培われた怪獣の研究とその技術が僅か時間でレイがただの人間ではないことを解明させた。

 レイの青い髪がその僅かな人間の遺伝子のと差異である未知の部分によるものだとしたら、レイは、ネルフが何かしらの人体実験によって弄られたか、一から作られた人造人間である可能性がある。もしそういうことなら、経歴が白紙なのも説明がつく。

 レイが黙秘を貫くのもマインドコントロールによるものか、あるいは自分のことを他人に教えたくないという自己防衛なのかは、分からない。

 レイの件についてネルフに問いただすべきではないかと、医療機関と研究機関が上層部に報告し、ネルフへの聴取を頼んだ。

 上層部は、レイについての報告書を見て、ネルフが隠している使徒との関連を疑い、極秘でレイの細胞と、第三新東京でゴジラに瞬殺、熱線で燃やし尽くされた使徒の残りカスのサンプルとの照合と調査・研究を行うよう、医療・研究機関に命じた。

 レイのことを突き出したとしてもネルフが固く閉ざした口を開くとは到底考えられなかったというのが上層部の答えだった。

 病室にいるレイは、自分の置かれた立場を知ってか知らずか、それとももう諦めてしまっているのか、ただそこにいるだけだった。脱走をするわけでも、自殺に走るわけでもなく、ただ生きているだけだった。

 レイの体から包帯が取れる頃になって、三体目の使徒が第三新東京に現れた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 変。

 変だ。

 とにかく変だ。

 

 もうその言葉しか出てこないヘンテコぶりのその使徒。

 

 夏の日の光を浴び、ガラスのような光沢を持つツヤツヤの表面。

 美しい完璧な線で象られた形。

 目もないし、口もない。手足もない。

 これが生物に見えるかと聞かれたらほぼ全員が否と答える見た目だった。

 巨大な青い正八面体が無重力で宙を舞い、第三新東京を目指してゆっくりと飛行する様は、前回の使徒とは違う意味で不気味だ。そして怖い。

 

 使徒ラミエルは、ある地点で止まった。宙に浮いたまま。

 

 巨大な美しい青い正八面体という形状が、ただそこに浮かんでいる。何をするわけでもなく浮かんでいる。

「まるで何かを持っているようだ…。」

「まさか…?」

 何かを待っている。ふと発せられた地球防衛軍指揮官の言葉にイヤな予感が過ぎる。

 

 

 

 

 その一方その頃。

 

『メカゴジラによる偵察ですって!?』

「敵の攻撃手段、及び射程距離を測るため、強度から見て機龍フィアが適切だ。」

『使徒との戦いは、コチラが担当する手はずだったはずでは!? これは規約違反よ!』

「そのようなことは、そちらに提出した共同戦線の書類には記していないはずだが?」

『ですが、使徒はエヴァでなければ…。』

「そのエヴァンゲリオンだが、前の戦闘映像から見ても、偵察には向かないのだ。良くて使い捨てにする気かね? これまでと違って金を湯水のごとく使えない状況で? 貴女はネルフを潰したいのかね?」

『くっ…。』

『自由にするがいい。』

『碇司令!』

『だが、何かあろうとも、コチラは関与しない。』

「それはコチラの台詞でもありますがね。」

『……。』

 ゲンドウは、冷静にしているが、きっと内心では腸が煮えくりかえっているだろうにっと、地球防衛軍司令部は、内心で笑っていた。

 結局、ミサトの思い通りにはならず、弐号機は発射準備状態で待機し、第三新東京の端から機龍フィアが少しずつラミエルに接近するという作戦が取られた。

 

『ゴジラさんはー?』

『太平洋側より接近中との報告はある。あと十数分程度で東京湾に入るだろう。』

『はいはーい、了解。このまま接近していけばいいんでしょ?』

『ああ、頼むぞ。』

 そんなやりとりをしつつ、機龍フィアは、少しずつラミエルに近づいた。

 しかし、接近していっていてもラミエルが何かしてくる様子が無い。

 あと、数十メートルとなったところで、ツムグは機龍フィアを止めた。

『どうした?』

『このままだと目と鼻の先に来ても何もしてこないだろうからさぁ。こう。』

 機龍フィアの手を使って前の戦闘で出来た瓦礫を拾い上げた。

『おい、なにを…。』

『そーれ。』

 機龍フィアが手にしていた瓦礫をラミエルに投げつけた。

 するとガキーンっと分厚いATフィールドが発生して瓦礫を防ぎ、その瞬間に、ラミエルの角部分がカッと光った。

 角部分から発射されたのは、強力な荷電粒子砲だった。その光りはまっすぐに機龍フィアの腹部と胸部の間に命中した。

『粒子砲エネルギー、吸収・飛散! 機龍フィアの表面温度上昇!』

『椎堂ツムグ! 退却だ!』

『へいへ~い、りょーかーい。』

 機龍フィアがジェットを吹かして空へと飛んだ。機龍フィアがいなくなるとラミエルは、粒子砲を止めた。

 ラミエルの攻撃手段と、ATフィールドの強度の計算は、すぐに算出された。

『弐号機出さないでいてよかったね~。』

 っと、ツムグがコメントし、メカゴジラが偵察に行くことに歯がみしていたミサトは、悔しがった。

 一旦弐号機から降ろされたアスカは、なにもできなかったことにぷりぷり怒っていたが、リツコから、あのまま出撃していたら的になって死んでいた可能性があると聞いて、弐号機に執着する彼女からしたら弐号機が無事で済んでよかったとホッとしていた。

 

 そうこうしていると、第三新東京にゴジラの咆吼が響いた。

 

「来た!」

 リツコが素早く自分のパソコンを開いて、状況の見物を始めた。

 普段の彼女からは想像も出来ない喜々とした様子に、ミサトすら引いたほどだ。

 ゴジラが第三新東京に入り、ラミエルと進撃する。しかしラミエルは動かない。そして目と鼻の先ほどにゴジラが接近したとき。ラミエルが変形した。

 それは、より強い荷電粒子砲を撃つための形態だったようだ。グニャグニャというか、メキメキというか、音も無く変形したラミエルが中心から極太の荷電粒子砲を発射した。

 そしてゴジラの胴体に着弾した。

 予想外の大火力の攻撃に、発射された直後ゴジラは驚いて目を見開き、接近し過ぎていたこともあり避けることもできず荷電粒子砲を胸と腹の間にもろに喰らうことになった。

 ゴジラの巨体が、超重量の体が、ゴジラの苦痛を訴える雄叫びを残しながら荷電粒子砲で一気に後ろへ飛んでいった。

 そしてラミエルが豆粒に見えるぐらいの距離までゴジラが荷電粒子砲で飛ばされていったところで、やっとラミエルは、極太で大火力の荷電粒子砲を発射するのを止めた。

「なんてこと…、あの威力…、もし弐号機を出してたら上半身が消し飛んでるわ!」

 リツコが口を手で押さえる。さすがのミサトもそれを聞いて青ざめた。

 一方で地球防衛軍側も、ゴジラになすすべもなく殺されるしかないと思われていた、ゴジラに劣る奇妙な生命体の使徒が、まさかゴジラを痛めつけるほどの攻撃力を発揮してゴジラを攻撃したことに言葉を失っていた。

 それも地球防衛軍のどの兵器でも実現できないような100メートル級の怪獣を一撃で遥か遠くに飛ばすほどの荷電粒子砲で…。

 過去見た目からは想像できない攻撃力を見せつけてきた様々な怪獣と戦い続けていたはずの地球防衛軍のベテラン勢は、敵を見た目で判断してはいけないのだという初歩中の初歩のミスを猛反省した。

 やがてゴジラが、むくりと起き上がると、ラミエルの荷電粒子砲の発射口が光った。

 次の瞬間には、再び荷電粒子砲がゴジラの、それも頭に着弾し、ゴジラの体が地面に転がされた。これによってまた距離が離れた。

 その後、ラミエルは、ゴジラが起き上がろうとするたびに、荷電粒子砲を発射し、ゴジラを転がすという作業を延々と続けた。

 ラミエルのしつこい攻撃の仕方を見た地球防衛軍の前線指揮官は。

「今まで虫けらのように殺された仲間のための復讐か?」

 ラミエルは、前の来た二体の使徒の無念を晴らすかのように容赦なく自慢の荷電粒子砲でゴジラに反撃の機会を与えずに攻撃を続けている。

 まるでゴジラしか眼中にないような…、いやゴジラを放っておいたら自分が何かする前に容赦なくゴジラに殺されるからゴジラに集中するしかないのかもしれない。

 それにしてもあれだけの大火力の粒子ビームを発射し続けているのに、ラミエルに変化はない。攻撃力も落ちない。

 これは、ネルフから言わせれば使徒が持つS2機関という永久機関によるものなのだが、地球防衛軍はそれを知らないため、ゴジラを攻撃し続けるラミエルを固唾をのんで見守ることしかできない。

 戦闘に介入しないのは、ゴジラが使徒を殺してからゴジラを追い返すなり、あわよくば倒すためである。地球防衛軍にとって、使徒は人類の敵という見方よりも、ゴジラを地上へ上陸させてしまう原因の一つとしてしか見ていない。

 だからラミエルが、まさかここまでゴジラを追い詰めるほどの武器を持っていたとは考えていなかった。

 ネルフが実権を握っていた頃、彼らがなぜ使徒を危険視していたかという理由を今になって彼らは理解した。

 もしかしたら使徒は、怪獣以上の敵になりうるかもしれない。怪獣と戦ってきたベテラン勢は、その最悪の展開が起こる可能性に嫌な汗をかいた。

 

 

 しかし、しかしだ。

 ラミエルが相手をしているのは、ゴジラだ。

 

 

 地球防衛軍を、人類を長年苦しめ、敵対したたくさんの怪獣達を葬り、南極に封印するまで終わりが見えない戦いを繰り広げてきたゴジラだ。

 強力な荷電粒子砲でゴロゴロ転がされているだけですみはずがないのだ。今まで地球防衛軍だけじゃなく、様々な怪獣を相手に時に苦戦を強いられながら勝ち抜いてきた(たまに怪獣がタッグ組んだり、未来人が介入したりしてゴジラを海に封印したりしたのはノーカウント)。その怪獣王が黙ってやられたままでいるはずがないに。

 ゴジラが、再び上体を起こした。するとまた荷電粒子砲が飛んできた。

 しかしゴジラは、荷電粒子砲が頭に着弾しても怯まず、転がることもなく、ゆっくりと立ち上がった。

 ゴジラを転がすために発射された荷電粒子砲は、すぐに止まる。

 ゴジラは、ただでさえ鋭い目を、さらに鋭く、目を怒りの炎を宿したようにぎらつかせ、ラミエルの方をぎろりと睨んだ。はるか遠くにいるラミエルは、豆粒より小さく見えるぐらいの距離が離れているがゴジラの目は真っ直ぐラミエルを睨みつけていた。

 立ち上がったゴジラは、今日一番の大きな雄叫びをあげ、ラミエルに凄まじい勢いで進撃していった。

 ゴジラが荷電粒子砲を浴びても怯まず、起き上がったことに驚いて固まっていたのか、ラミエルは、ゴジラが自分のところへ向かってきたからやっと現実に戻ってきたらしくエネルギーを集中させた。

「使徒のエネルギーが更に上昇! 最初の粒子砲以上です!」

「使徒に限界はないのか?」

 前線指揮官は、報告を受けて、そう呟いた。

 ラミエルが、ゴジラを最初に吹き飛ばした以上の荷電粒子砲を発射した。

 ゴジラは、それを真っ向から受けた。しかし吹き飛ばされることなく、歩みは止まらない。凄まじいエネルギーの熱がゴジラの体を焼き尽くさんと手加減なしに浴びせられているのにゴジラは怒りのままに進撃を続けるだけだ。

 ゴジラがラミエルの攻撃にまったく怯まなくなったことに状況を見ていた地球防衛軍は、怪訝に思ったが、ゴジラのある特性を思い出すことであっちらこちらから大変なことを忘れていたことを思いだしたという叫び声があがったという。

 

 ゴジラの特性。それは、あらゆるエネルギーを取り込み、自分の物とする能力である。

 

 ゴジラは、自分の力の源である放射能を摂取する以外に、この能力で一時的なパワーアップや回復を行い、様々な怪獣に勝利してきた。

 地球防衛軍の兵器の攻撃を受けても吸収はされないので、ゴジラがその気にならなければできないことなのだろう。もしくは、緊急時の一か八かの賭けという部分が強いのかもしれない。

 ラミエルは、外見から見て分かるが荷電粒子砲以外に攻撃手段がない。唯一のその攻撃を逆利用される状況に陥ってしまったら、もう……打つ手はない。

 しかしそれでもラミエルは、荷電粒子砲を発射し続ける。

 他の二体のように逃げようともせず、ゴジラに挑み続ける。

 ゴジラへの反撃は、終わった。終わってしまったのだ。

「…っ、これは、使徒のエネルギーが下がっていきます! この状態だと、あと一、二分ほどで粒子砲は止まると思われます!」

「そうか…。根競べでも使徒は、ゴジラに勝てなかったか…。あのゴジラを少しだけでも反撃させる暇も与えず転がし続けられたのは、驚嘆に値するぞ。使徒よ…。」

 機械に表示された使徒のエネルギーの量が急激に下がり始めているという報告を受け、指揮官は、どんどん細く弱くなっていく荷電粒子砲を発射し続けるラミエルと、ラミエルのエネルギーを喰らいながら背びれを凄まじく発光させつつラミエルに近づいて行くゴジラの光景を眺めながらそう言った。

 そして、ゴジラが目と鼻の先まで近づいた時、ラミエルの粒子砲は発射口から消え失せた。発射を止めたのではなく、力尽きて。

 途端に宙に制止していたラミエルが正八面体に戻り、グラリと傾き地上に落ちそうになった。それをゴジラが掴み、熱線を溜めた口を開けて噛みついた。

 そしてラミエルの中に、ラミエルから吸収した荷電粒子砲の分を倍にして返すぜと言わんばかりの熱線が注ぎ込まれ、ものすごい速度でラミエルの表面に白く光るひび割れが走り、正八面体が粉々に砕け散る直後、ゴジラを巻き込んだ凄まじい爆発が起こった。

 やがて光は収まり、爆発による煙の中、立っていたのは、黒い巨体。ゴジラだけだった。ラミエルの残骸は残っていない。恐らく燃えカスすら残らず死んだのだろう。

 呆然とする人間達を正気に戻したのは、ゴジラの雄叫びだった。

 

 

「すごい…!」

 戦況を見ていたリツコが驚嘆の声を漏らした。

「くうぅ…っ。」

 ミサトは、歯がみした。結局自分達の出る幕が無かったことに。

 

『地上部隊、メーサータンクでゴジラを攻撃し、機龍フィアを援護せよ!』

 

 前線指揮官の命令により、地球防衛軍とゴジラの戦いが始まった。

「ちょっ、待ちなさい! 私達だってまだ…。」

『ここからは、我々の戦いだ! ゴジラに手も足も出なかったエヴァンゲリオンを出して、潰されたいのなら話は別だがな! もちろん修理費は出さん!』

「なっ!? それじゃあ、共同戦線の意味が…!」

「黙れ、葛城一尉。」

「しかし、碇司令!」

「黙れと言っている。命令を聞け。聞けぬのなら、貴様を作戦本部長から外す。」

「!?」

 衝撃を受けるミサトに、さっきまで興奮していたリツコは、あら?っと、何か感心したようにゲンドウの方を見た。

 あの男が喰われると分かっていて共同戦線に同意したのだろうかと。

 妻のユイに執着するあまりに世界を引き換えにでも取り戻そうと考えているのだ、おそらくネルフそのものを使い捨ててでも自分の目的を達成しようという腹かもしれない。

 そうなると、彼の目的のために絶対必要なのが、息子である碇シンジである。彼は現在地球防衛軍の保護下にある。

 それと、あとは、綾波レイだ。リリスの魂を持つ彼女がゲンドウの求める計画の要となるのだから、シンジとレイ、この両者をなんとしてでも取り戻したいだろう。

 リツコの予想だと、すでにレイがただの人間ではないことは地球防衛軍側に知られているはずだ。そうなれば簡単に返すはずもないだろう。ならば暗殺なりして魂だけでも奪還するという強硬手段をするに違いない。もっとも、暗殺者を送り込めるだけの穴が地球防衛軍にあればの話ではあるが。

 何をするにしてもゲンドウの目的を達成するのは困難に違いない。

 リツコは、顔に出さないようこっそりとほくそ笑んだ。恨みある男が足掻く様を見られることに、密かに地球防衛軍やゴジラに感謝したのだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 ところで、ゲンドウの横にいつもいる冬月がいなかったのであるが、誰もツッコまなかった。

 

「はあ……、あと12体の使徒が来るのか。その都度、ゴジラが来る…。気が滅入る…。」

 本部の中庭で、冬月が黄昏ながら独り言を呟いていた。

「はあ……、こんなことになるなら、ゲンドウに協力などしなかったのだがな…。生きているうちにまたあの悪夢(ゴジラ)に遭遇する羽目になるとは、フッ…、これが人類最大の大罪を犯した者達への罰なのだろうな。ゴジラは、核爆弾という罪から生まれた。セカンドインパクトで消滅した南極に眠っていたはずのゴジラは、死なず、15年ぶりの使徒の出現に呼応するかのように第三新東京に現れ、使徒を殺し、エヴァを破壊しようとした。ゴジラは、セカンドインパクトの真実を知っているというのか? 南極のLCLを取り込みその記憶を垣間見たとしたら……。そういうことならば、ゴジラの行動も説明が付く。ゲンドウの奴はまだユイ君のことを諦めていないようだが、最強最悪の怪獣王を相手に何ができる? いい加減、現実を見るべきなのに、奴ときたら…。ゴジラが生きているともっと早く分かっていたらユイ君もE計画を発案せず、地球防衛軍の科学者として活躍していたかもしれんな。はあ…、すべては後の祭り。ユイ君…、君は初号機の中で見ているか? 君らが幼い時に暴れていた怪獣王が更に強く、更に怒りを増して人類補完計画を阻止しようとし、人類を断罪しようとしているのを……。」

 冬月は、サキエル襲来時にゴジラが第三新東京に出て以来、ずっとこんな感じだ。

 ゲンドウと違いゴジラがもたらした恐怖を骨の髄まで染みつけているため、冬月は、ずっとゴジラの悪夢に苦しめられていた。それは、ゴジラが封印されても、セカンドインパクトで死んだのではと世間に噂が広まった時も変わらない。

 セカンドインパクトで南極もろともゴジラも消滅したと、冬月は信じていた。信じたかった。

 しかし現実は非情である。

 よりにもよって自分が協力したゼーレとネルフ、ユイが考えた人類補完計画がゴジラの標的になってしまったのだ。

 もう年老いた自分は、先は長くない。しかし生きている間にセカンドインパクトを生き延びて強くなったゴジラの悪夢から脱することはできないと思った。

 絶望を通り越して、もうすべてを諦め、何もせず傍観しているだけである。

「あの老人達がいかなる手を尽くしても、ゴジラを止められるはずがない。罪の象徴に勝てるはずがない。」

 冬月は、ブツブツと独り言を呟きながらネルフ本部にある自室に帰って行った。

 

 

 

 




ラミエル殲滅は、リメイク前と同じにしました。

黄昏れる冬月。だいたい合っている。


このネタでのゴジラ↓

南極に封印されていたが、セカンドインパクト発生で南極が消滅した際に、その強靱な意志力でLCL化せず海に投げ出されLCLを飲んでセカンドインパクトや人類保管計画などの記憶を知り、更にセカンドインパクトの力で消滅した怪獣達の魂を無意識に体の内側に保管している。
怪獣達の魂を保管したことやセカンドインパクトのエネルギーを取り込んだことでパワーアップしており、完全に無意識でアンチATフィールドを使うことが出来るようになっている。ATフィールドを持つ使徒を倒せるのはこのため。



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第六話  シンジの起床と、エヴァンゲリオンの実態

ラミエル戦後の話。


シンジが目覚め。


あと、リメイク前と違う展開として、フォースチルドレンが決まるが……?


 

 ラミエルとの戦いの後、ゴジラを追い返した。

 

 その後の地球防衛軍の病室の一室で。

「って、感じで、今回はこんなに早くゴジラを海へ追い返せたわ。」

 折り畳み椅子に座った音無がノートパソコンの画面を操作しながら説明した。

「機龍フィアの改良がここまで進んだんだな。」

 病室のベットで上体を起こしているのは、尾崎。

 シンジの心を治すために無理な精神感応をしてから、意識を失い、数日ほど寝たきりになるほど疲労してしまったのだ。

 ミュータントは、生命力が常人のそれを遥かに上回り、特に稀に生まれるとされる“カイザー”という超越者の尾崎もだが、肉体的ダメージは、治りが早いが、精神に負ったダメージはさすがに治しようがない。特に尾崎は、シンジの心の中でひと悶着あったのでダメージが大きかった。並みのミュータントなら精神崩壊して廃人になっていたか、最悪脳死していたと、ミュータントの医療を担当する医師から怒られた。

 目を覚まして意識がはっきりしてからは、風間を含めた同僚や音無らから面会を受け、怒られたり、心配されたり、回復したのを喜ばれたりした。

 今、尾崎は、自分が戦線から離脱している間に何が起こっていたのかを音無から教えてもらっている真っ最中だった。

 

 実は、尾崎シンイチと、音無ミユキは、恋仲である。

 

 きっかけは、音無の護衛をした時だったらしいが、最初は二人はツンツンな関係だったのだが、お互いに相手を見ているうちに相手を見直し、そして恋人関係になるまでに仲を深めていた。

 二人は、立場上このことは隠している。……つもりだが、二人とも恋愛関連のことには経験がほとんどないので隠しているつもりでも態度や行動に出ているため、二人がそういう関係なことは周知の知になっていたりする。周囲にばれているのを知らないのは、尾崎と音無だけである。

 それなりに付き合いが長いので、そろそろプロポーズしてもいいんじゃないかと周りは思っているのだが、臆手な尾崎は、中々プロポーズとまではいかない。そのことに一番イライラしているのは、風間だったりする。尾崎に直接言わないが、イチャイチャしてる二人を見かけては、いい加減くっつけと言わんばかりに殺気立ってると同僚のミュータント兵士が怖がっていた。

 話は、現実に戻り、音無に見せてもらった映像を見終わった尾崎は、音無に聞いた。

「あの子は…、シンジ君はどうしてるんだい?」

 尾崎がここまで弱るほど頑張って助けようとした少年が今どうしているのか気になった。人を守ることを優先する尾崎らしい。

「まだ意識が戻っていないわ。でも、血色はとてもいいし、いつ目覚めてもおかしくないのに…、どうしてかしら?」

「……“あいつ”のせいか?」

「なに?」

「んっ、何でもない。シンジ君の様子を見に行きたいな。」

「またムチャするんじゃないでしょうね?」

 音無がジーッと疑り深い目で尾崎を見つめる。

 音無にそう言われ、その視線に、尾崎は、視線を彷徨わせた。尾崎の性格上、自分より他人を優先するのでやらないという保証がない。

 やったら絶対怒られるのは目に見えているし、今までムチャをして音無から雷を落とされたこと数知れず…。

 尾崎は、やらないと返事が出せず、無意識にダラダラと汗をかいた。音無はそんな尾崎を見てため息を吐いた。自分がどれだけやめるよう言っても聞かないのはもう分かりきっているのだが、愛する人の身を案じるのは当然である。

「私も行くから、行くなら早く行きましょ。ダメって言ってもついていくからね。」

「…分かった。」

 音無の監視のもと、尾崎は、シンジがいる病室に向った。

 病室に入ると、最初の頃と違い、沢山あった医療機器がなくなり、最低限の機器がシンジの体に繋がっていた。

 近づいて見ると、死体と見間違えそうなほどゲッソリと酷い状態だったシンジは、すっかり顔色がよくなっており、静かな寝息を立てて眠っている。音無の言う通り、もう目を覚ましても不思議ではない状態だ。

「よかった…。ずいぶん元気になったんだな。」

「そうね。ここに運ばれてきた時に比べたら雲泥の差ね。」

 尾崎の安心した言葉に、音無も同意してそう言った。

 尾崎が、シンジの瞼にかかっていた髪の毛をそっとどけようと手を伸ばし、指先が触れた時だった。

 シンジの瞼がピクピクと反応したのだ。

 目覚めの予兆に尾崎と音無は、顔を見合わせた。

 そして二人の目の前で、シンジは、微かなうめき声を上げながら、ゆっくりと瞼を開けた。

 何日も眠り続けたためか、ほとんど光を認識しきれていないらしく、目の焦点があっていない。

 しかし徐々に目の機能が回復を始め、眩しそうに目を細め、やがてベットの横に立っている尾崎と音無の存在に気付いて、そちらを見た。

「………誰…、ですか?」

 掠れた声でそう言った。

「よかった。目を覚ましたんだな。」

「気分はどう?」

 二人が優しく聞くと、シンジは、困惑した表情をした。

「ここ…どこ? 僕は…、確か………。ヒッ!」

 シンジがあの時のことを思い出したらしく、恐怖で顔を歪めて頭を抱えた。

「大丈夫! 大丈夫だ! ここにはゴジラはいない! 君はもう、エヴァンゲリオンに乗らなくてもいいんだ!」

 恐怖でガタガタと震えるシンジの体を、尾崎が包み込むように抱きしめた。

「い、いやだ…、やだ、やだ…、やだ、やだやだやだやだ! 怖い怖い怖い!」

 尾崎を振りほどこうとシンジが暴れた。

「大丈夫だ! 本当に、もう…、大丈夫だから。君はもう、お父さんに怯える必要はない。怖いのを我慢して戦わなくたっていいんだ。君のことを責めたりなんかしない。君は、ここにいていいんだ!」

 尾崎の最後の方の言葉に、シンジがびくりと体を跳ねさせ、硬直した。

 尾崎は、初号機からシンジを救出するとき、そしてシンジの壊れた心を治療するために精神感応で精神をダイブさせた時、シンジが何に怯え、どういう経緯でエヴァンゲリオンに乗らなくてはならなくなったのか、そして何を渇望しているのかを感じ取っていた。

 尾崎に抱きしめられたまま固まっていたシンジは、やがて、嗚咽を漏らしてボロボロと涙を流し始めた。

 尾崎には(というかミュータント全般)、相手の気持ちを感じ取る能力の他に、相手に自分の気持ちを伝える能力もあった。だからシンジは、尾崎の言葉が、気持ちが本物であることを直に感じている。

 孤独な幼少期を送ったシンジが求めていた本気で自分のことを想ってくれる情がものすごい勢いでシンジの中に流れ込んでいた。

「ううぇええ……、ぼぐ…、ごごにいて…いいの?」

「ああ。もちろんだ。」

「う…う、うわあああああああ…。」

 シンジは、尾崎の胸に顔を押し当てて大声を上げて泣いた。

 音無は、二人の様子を温かい目で見守っていた。

 やがてシンジは泣きつかれてまた眠ってしまった。壊れた心が治ったばかりで数日も眠っていて体力が長続きしなかったのだろう。

 シンジの意識が回復し、精神状態も良好であることなどをナースコールで呼んだ担当医にちゃんと伝え、尾崎と音無は、寝ているシンジに挨拶をしてから病室を後にした。

 なお担当医に尾崎は、シンジが目を覚ました時に言ったことも全部伝えている。なのでシンジのためにもしばらくは地球防衛軍で保護することが決まった。地球防衛軍側の諜報部がシンジの経歴を調べたところ、あまりにも巧妙にシンジの精神を他人を渇望するようにされたとしか思えない環境で育ったことが分かり、それが8年前に彼の父親であるゲンドウが赤の他人を金で雇って親戚と偽りシンジを預け、ただの金づるとしてしか扱われない環境で育てさせ、そんな環境だから学校の方でも他人と関わって傷つくのを恐れ、表面上は受け応えはするものの他人との壁を作るため親しい友人もおらず、本心では自分以外の相手を求め続けているという悪循環を作ってしまった。そして彼が14歳になった時、シンジを捨てたゲンドウがエヴァンゲリオン・初号機に乗せるパイロットの“予備”として、手紙とも言えない手紙で呼び出し、エヴァに乗らないのなら帰れと、誰にも必要とされないことを何よりも恐れる彼の心を抉り、重体の綾波レイを脅迫材料にしてついに初号機に乗らなければ存在価値がないと彼に思いこませる条項に追い込んで乗るのを承諾させていたことが判明した。

 ゴジラの乱入がなければ、何の訓練もしていない普通の中学生のシンジに初号機で使徒サキエルを倒させた後、彼をサードチルドレンとして徴兵させる予定になっていたことも分かり、子を持つ諜報部の者は怒りで顔を真っ赤にしていたという。

 最初は、シンジが回復して日常生活に問題なしと判断されたら地球防衛軍の保護が解除され、彼を普通の中学生に戻す手筈になっていたが、シンジの経歴と保護されるまでに至った経緯が判明した今、いまだに腹の底で何を考えているか分かっていないネルフの総司令のゲンドウを警戒して、シンジを地球防衛軍の保護下に置くことが決定された。

 あと綾波レイの方もである。ただの人間でないということもあるが、チルドレンというエヴァンゲリオン専門のパイロットというものに得体のしれない不信が高まった今、チルドレンとして登録されている者をネルフに帰すのは得策ではないという判断だ。

 これについてネルフ側からファーストとサードの返還をしてほしいと連絡が入ったが、『誰のことだ?』と聞き返し、綾波レイと碇シンジとのことだとやっと言われ、理由を問いただすと、零号機と初号機のパイロットだからだと返答が帰ってきたので丁重に断った。

 当然だが猛抗議が返ってきたが、共同戦線の約束を白紙にすることを盾にして無理矢理黙らした。

 これは、何かしら手を打ってくるだろうと踏んで、シンジとレイの保護と警護に力を入れることが決定された。

 シンジをM機関の奥の方に保護し、レイの方も要人用の病棟に移してネルフの手が及ばないよう手を尽くした。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 地球防衛軍のネルフへの不信が高まった頃、地球防衛軍の上層部から地球防衛軍の艦隊にある命令が下された。

 

「エヴァンゲリオンをネルフ日本支部に輸送?」

 鼻の下のヒゲと、どう見ても堅気じゃない風貌に、茶色の軍服コートの上からでも分かるごつい鍛え抜かれた肉体を持つ50代過ぎくらいの男が、片眉をあげてモニターに映る波川の言葉に対してそう言った。

『そうです。ゴジラが使徒とエヴァンゲリオンを狙って第三新東京に現れるようなったことはすでに知っていることでしょうが、ネルフは、各国にある支部に開発途中のエヴァンゲリオンとすでに完成しているエヴァンゲリオンを保有しています。ゴジラがそちらに向かってしまい、その国に甚大な被害をもたらす前にすべてのエヴァンゲリオンをネルフ日本支部に集めるのです。ですが、輸送途中でゴジラに襲われては元も子もありません。そこで轟天号での輸送をすることが決まりました。』

「ハッ、俺たちゃ宅配便じゃねぇ。ごつい箱に詰めて他の連中に頼むんだな。」

『ゴードン大佐! これは、地球防衛軍の総意の命令なのです。ゴジラをおびき寄せる餌を失うわけにはいきません。ゴジラを引き寄せる要因が一か所になれば、これまでのゴジラとの戦いと違い民間への被害も損害も少なくて済み、また我々も作戦を立てやすいのです。』

「それくらい分かってる。だがな、久しぶりの轟天号の初仕事が荷物の輸送だってのが気にくわないだけだ。」

『大佐…、あなたのお気持ちは察します。ですが、輸送途中でゴジラが海中から襲って来る可能性がある以上、逃げ切れるのは現段階で轟天号だけなのです。そしてあなたの艦長としての腕がなければセカンドインパクトを耐え抜き復活してより強くなったゴジラから無事にエヴァンゲリオン四号機を運ぶことはできない。我々は、あなたに期待しているのです。』

「フン。まあ、いいぜ。やってやろうじゃねぇか。」

『言質は取りましたよ。それとですが、エヴァンゲリオンの輸送と同時にネルフ関係者を一人、一緒に乗せてネルフ日本支部へ移送させてもらいます。』

「ちょっと、待て。人間まで運ぶのか? タクシーじゃないんだぞ。」

『四号機の“おまけ”です。適当に客人として部屋に閉じ込めて置くなりしてくれてかまいません。何かしらの問題行動を起こしたならば捕虜として扱ってもいいです。それは、大佐に任せます。ただし、殺さないようにしてください。』

「仕方ねぇ、その仕事引き受けた。」

『感謝します。ダグラス=ゴードン大佐。』

 

 

 

 

 こうしてアメリカ支部にある、エヴァンゲリオン四号機を轟天号が移送することとなった。

 

 轟天号。これは、対怪獣戦のために開発された先端がドリルとなっている万能戦艦である。空水両用で、宇宙での活動も可能な技術の粋を結集した最強の戦艦と言われている。

 ゴジラが封印された南極での戦いで初代轟天号が出撃し、たまたま起こった地震でできた地割れにはまったゴジラに向って氷山をミサイルで撃って破壊し、崩れ落ちてきた雪と氷でゴジラを封じ込めた、歴史の教科書にも載っている伝説の戦艦である。

 その新型機が、ゴジラ封印後に開発され、その間に暴れていた他の怪獣との戦いで頭角を現したが、セカンドインパクトの発生でゴジラの行方が不明となり怪獣が消えたことで地球防衛軍が解体され、対怪獣兵器はその破壊力から危険だということで解体されることになった。轟天号もそうである。

 ……表向きはそうだった。

 しかし実際は、地下に潜伏していたネオGフォースが対怪獣兵器と轟天号を管理しており、いつでも使えるよう整備をして、そして第三新東京でゴジラの復活が確認され、地球防衛軍が再結成された時、地下に隠されてきた轟天号と対怪獣兵器は、再び日の光を浴びることができたのだった。

 

 

 アメリカへと出発した轟天号の機体が太陽の日を浴びて濃い銀色に輝くさまは、歴戦の勇者を彷彿させるほど神々しかった。

 轟天号がアメリカに向けて海の上を飛行している最中、その下の海中に白い巨体を持つクジラとも魚ともつかない姿をした使徒が轟天号を追跡していた。しかもレーダーに引っかからないように絶妙な距離を保ちながら海底近くを泳いでいたため轟天号側は使徒に追跡されていることに気付いていない。

 そして轟天号がネルフ・アメリカ支部に到着し、せっせとエヴァ四号機を搬入する頃、太平洋の海底で眠っていたゴジラが、ゆっくりと目を開け、太くて長い尾をくねらせてその体型からは想像もできない速度で海中を泳ぎ、アメリカへ向かって行った。

 

 

「ゴジラさんの次の戦いは、海で行われるのか…。まあ、あの使徒(ガキエル)があの形だし仕方ないか。で、35年ぶりの轟天号との再会か…、うーん初代じゃないから若干違うけどゴジラさんにとっては記憶に残る好敵手だったんだよね? ゴジラさんきっと喜ぶだろうな。ゴードン艦長も。ゴードン艦長なら機龍フィアがなくてもやれるはずさ。」

 日本の地球防衛軍の施設の高台からドイツのある方角を眺めながら椎堂ツムグが、実に楽しそうに笑いながら独り言を言っていた。

「ツムグさ~ん、ツムグさ~ん。」

「な~に~?」

 そこへひとりの看護師の女性がやってきたてツムグに馴れ馴れしい感じで名前を呼ぶと、ツムグも慣れた様子で返事をして振り返った。

「波川司令から連絡で~す。」

「はいはい~。」

 ツムグは、高台から飛び降りてスキップしながら自室へ戻っていった。

 そして自室の通信モニターを起動させる。するとモニターの画面にすぐに波川と他の指揮官達の顔が映った。

「話って?」

『あなたならすでに察していると思っていましたが?』

「やーん。俺そんな万能じゃ無いよぉん?」

『ええーい! キモい反応をするな! その反応はすでに分かっているんだろうが!』

「フォースチルドレンのことでしょ?」

『話が早くて助かります。』

 そう波川達が言いたいことは、ネルフ側が新しいチルドレン…つまりエヴァンゲリオンのパイロット候補を見繕い、フォースチルドレンとして登録したことだ。

『やはりというか…、まず間違いなく、エヴァンゲリオン四号機に乗せるためなのだろうが…。』

「なーんだ、そこまで分かってるなら俺に話振らなくてもいいじゃん。」

『我々だってお前なんぞに頼りたくはない!! だがな、お前の予言の的中率の高さがどうしても必要なのだ!』

 波川以外が心底イヤそうにしているので、ツムグは、ヤレヤレっと肩をすくめた。

「例えそれが悪い予言でも?」

『構いませんよ、ツムグ。』

「……フォースチルドレンに選定されたのは、相田ケンスケ。14歳。第三新東京市立第壱中学校の2-Aクラスの元生徒。つい最近、大事故になりうる重大トラブルと、盗撮、盗聴、及び国家機密ハッキング、その情報漏洩をした罪で、特別更生施設送りになったはずだった。ところがネルフの特権徴兵により檻から出された。…でしょ?」

 すると、モニターの向こうにいる波川以外の者達が、やっぱり知ってやがった…っと頭を抱えていた。

 ツムグは、笑みを消し、ベットの上であぐらをかき、頬杖をついて続けた。

「相田ケンスケは、母親がいない。ケンスケが幼いときに、母親の浮気で離婚してる。けど、その母親の再婚先で、ケンスケがフォースチルドレンになったとほぼ同時期に行方不明になってるんだ。これについておかしいってことでしょ?」

『ええ、その通りよ。第三新東京私立第壱中学校の、2-Aクラスは、片親が多いことが分かっているわ。……このご時世だから仕方ないと言ったらそこまでだけれど、明らかに不自然なのよ。』

「離婚、病死、事故死、入院……、いずれも片親が何かしら理由で幼いときに離れているかしているね。身も心が育つ時期に育ててくれる親を失うのは相当な衝撃を記憶に残す、忘れていても潜在している。そういうのはその後の成長で精神構成に大きくな影響を与えるんだから。そもそも、第三新東京私立第壱中学校自体がネルフの管轄下にあった中学校だって事は、一部教師だけが知っていて、ほとんどの教師達も親御さん達も知らないことだしね。」

『…それは初耳ですが?』

「自分の子供や、伴侶や親類が、実は人造兵器のパイロットと材料だなんて知られるわけにはいかないじゃ~ん。…おっと、口が滑っちゃった。」

 わざとらしくツムグがとぼけるが、モニターに映っている波川達は絶句していた。

 そりゃそうだ、エヴァンゲリオンのパイロットが14歳の子供に限定されているという謎の法則だけじゃなく、実はその材料に身内の人間が利用されているという新事実を知ってしまったのだから。

『エヴァンゲリオンは…、ロボットじゃ無いのか!?』

「あれは、人造兵器。つまり、生体兵器なんだよ。弐号機がゴジラに壊されかけた時、生っぽい部分なかった? 中身は人間に近いよ。」

『すぐにネルフに事実確認を…。』

「放っておいてもいずれはバレることだよ。」

『しかし! 相田ケンスケの母親が…。』

「もう手遅れだよ。」

『!?』

「四号機が輸送完了したらすぐに調整するために、もう“材料”化させられてる。」

『なんてことだ……。』

『すぐにネルフに抗議文を送るべきだ!』

「証拠は?」

『落ち着きなさい。ここでの会話を証拠としても、何も出ないでしょう。』

『ですが、波川司令!』

「ネルフは、あれでも証拠隠滅にかけては相当な力があるからね~。ましてやまだ本部の内部構造に関しては、謎が多すぎるでしょ? 隠すことにかけては、向こうの方が上手だよ。現時点ではね。」

 ツムグがそう言うと、波川以外の指揮官達が悔しさに顔を歪める。

 一般人の死をみすみす見逃してしまったのだ。しかも、共同戦線の約束を交わした相手にだ。

 ましてやいきなり14歳の子供を徴兵するというか、子供でないと動かせないエヴァンゲリオンの兵器としての有用性もどうかと思うが、その実態が実は人間を使っていた生体兵器で、なおかつ自分達はその非人道的な兵器を運用している相手と共同戦線を結んでいるのだ。一般社会にエヴァンゲリオンの実態が知れれば非難囂々だろうし、その実態に気づけなかったとして地球防衛軍への飛び火も考えられる。

 すると指揮官の一人がツムグを睨んだ。

『お前…知っててこの事態を?』

「何度でも言うけど、俺はそこまで万能じゃ無いんだよ? 回避しようのない絶対的な死はどうしようもないしね。ケンスケの母親はどうしようもなかった。材料になって死ぬか、別の方向で死ぬかの違いでしかないよ。さて、どうするの? 知った上で食べきるまで共同戦線を続けるか、まだ有用な情報を食べきっていないうえで放り捨てるか。」

 地球防衛軍とて、まったく手を汚したことがないと言ったら、全くのウソだ。地球防衛軍だって一枚岩じゃなかった。当然人間同士のトラブルだってあったし、非人道的な実験に手を出したことだってある。なので一般人をエヴァンゲリオンの材料にしたとしてネルフを責めるのはお門違いなのである。

 ハッキリ言って地球防衛軍の運営状況は、縮小からいきなり復活したため、まだ脆い状態だ(人手不足も祟っている)。それゆえに要らぬトラブルは避けたかったのだ。そんな中で発覚したのが、エヴァンゲリオンの実態だ。無視して放っておいても、世間に公表しても痛手は避けられない。

「使徒が派手に、デカいことをやってくれれば世間の目をそっちにズラして、シラを切ることぐらいはできるんじゃない? だいたいここでの話だって、波川ちゃん達しか知らないし。」

『あっ。』

 その声を誰が漏らしたかは分からない。少なくとも波川ではない。

『いずれにせよ…、ネルフとの共同戦線は、継続します。……相手の中枢にまだ牙を立ててないので。』

 

 こうして、波川を始めとした一部指揮官がツムグからエヴァンゲリオンの実態を知った上で共同戦線の継続を行うと決定した。

 

 

 

 




ツムグも万能な存在じゃない。
ケンスケの母親については捏造です。

ケンスケを選んだのは、単純に動かせる人間が他にいなかったからです……。トウジは地球防衛軍側ですし。
なお、今の予定としては後々トウジも出す予定。地球防衛軍側で。



ガキエルは、次回にしました。


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第七話  逃亡戦!

ガギエル編。



展開は、アスカじゃなくケンスケが登場していて序盤はだいぶ違いますが、ガキエル殲滅方法はリメイク前と同じです。



ネルフの出番は無いです。注意!!


「うぉおおおおおおお! 轟天号メッチャカッけぇぇぇぇ!!」

 

 眼鏡の少年、相田ケンスケが、ネルフ・アメリカ支部に停泊している轟天号を間近で見てうるさく叫ぶ。

 エヴァンゲリオン四号機の搬入のため、忙しく働いていた地球防衛軍の作業班は、なんでこんなところに子供がいるんだ?っと不思議がった。

「ああ、カメラカメラ! あっ、そうか、さっき没取されたんだった! もう僕のカメラ返せよ! 天下のネルフのチルドレンだぞ!」

 そう言っているので、ああ、なるほどっと納得する。

 話に聞いていたフォースチルドレンなのだ、彼は。しかし、疑問が再び浮かび上がる。なぜアメリカ支部に、日本にいるはずのチルドレンである彼がいるのかと。

「相田君、ここには軍事機密があるの。だからカメラは持ち込めないって出発前に説明したわよね?」

「で、でもミサトさん! こんな絶好の機会なんて一生無いんだし…。」

「機密は機密なのよ。チルドレンから外されたくなかったら、言うことを聞くことを覚えなさいね。」

「…はーい。」

 ケンスケは心底不服そうに返事をした。

 なんで、ネルフの作戦室の人間がここにいるの?っと更なる疑問が湧いてくる。

 なので作業の手が遅くなっていると。

 

「おまえら! 仕事はどうした! さっさと終わらせねぇと日が暮れちまうぞ!」

「ハッ! 申し訳ありません、ゴードン大佐!」

 

 轟天号に乗る地球防衛軍の者達が一斉に声がした方を向いてビシッと背筋を伸ばして敬礼した。

 迫力のある男の怒声に、ケンスケはビックーっとなり、そちらを見ると、大股でブーツの靴底を鳴らしながら歩いてきたのは、大柄なガッシリ体系の50代ぐらいの超強面の軍人だった。腰には業物らしき日本刀がベルトに刺さっている。

 焦げ茶色のコートの襟に付けられたバッチから階級が大佐であることははっきりとしている。

 見た目もさることながら纏うオーラの次元が違う。そのため彼の登場にアメリカ支部のネルフ職員達も思わず彼に向って敬礼していた。なおミサトはしていない。

「なら、とっとと仕事に戻れ!」

「イエッサー!」

 地球防衛軍の者達は一斉に仕事に戻って行った。

「四号機の搬入お疲れ様です。ゴードン大佐。」

「…誰だ?」

「ネルフ本部、作戦本部長、葛城ミサトです。」

「……聞いてねぇな。」

「はっ?」

「俺達は、四号機とネルフの人間を一人。運ぶよう言われただけだ。お前のことは聞いていないぞ。」

「連絡の行き違いがあったのでしょう。私と相田ケンスケ君を乗員させていただきます。」

「ダメだ。」

 速攻で断られた。

「なぜ…?」

「てめぇらは信用ならねぇんだよ。」

「っ…。」

「た、たたた、大佐だかなんだか分かんないけど! ミサトさんになんてこと言うんだよ! こんだけデカけりゃ乗せてくれたっていいじゃないかよ!」

「やめて相田君!」

「あいだ…。ああ、チルドレンとかいうエヴァンゲリオンのパイロットのことか。なんだってこんな所にいるんだ?」

「四号機は、彼が乗る予定になっていて、機体の説明や微調整を…。」

「そんなもん日本でやればいいだろう。なぜアメリカまで来てやる必要がある?」

「少しでも使徒との戦いに備えられる準備を…。」

「それこそ日本でやるべきだと思うがな。」

「これは、ネルフの総司令部からの指示です。」

「…まるで示し合わせだな。」

「えっ?」

「まるでこれから使徒が襲ってくるから四号機で迎え撃つためってようにも思えるぜ。」

「えっ!?」

 今度はケンスケが驚いて、ミサトを見た。ミサトは、たらりと汗を一筋垂らした。

 険悪なムードとなる中。

 そこへ、ひとりの男がやってきた。

 

「お疲れ様です、ゴードン大佐。」

 

「えっ!? な、なんであんたがここにいんのよ!?」

「…知り合いか?」

「ええ、旧知の仲です。自分は、加持リョウジ。四号機共々、よろしくお願いします。」

「ああ、お前が運ぶ予定のネルフの人間か。」

「申し訳ありませんけど、ネルフからの追加連絡で、彼女らを乗せてやってはくれませんか?」

「はあ?」

「これが書状です。」

 加持が恭しく書類をゴードンに渡した。

 ゴードンは、書類を受け取りそれに目を通すと、面倒くさそうな顔をした。

「チッ。面倒なこったな。」

「ありがとうございます。」

「加持君…どういうつもり?」

 ミサトが加持を睨む。だが加持はどこ吹く風といった様子で肩をすくめた。

「別に何も? 俺は新しい追加命令を伝えただけだぜ?」

「もしかして轟天号に乗れるんですか!?」

「ああ、そうだとも。君と葛城が乗ってもいいって決まったんだ。」

「やったーーーー!」

 ケンスケは飛び上がって喜んだ。

 すると、遠くから四号機の搬入が終わったという声が聞こえた。

「ちょ、ちょっと待って! まだ調整もなにもしてないわ!」

「行こうぜ。早くしないと防衛軍側の機嫌が悪くなるぜ?」

「あ! 四号機見てない! あとで見たい!」

「おらぁ! お前らトロトロしてんなら置いてくぞ!」

「早く乗ろう。」

 なんやかんやあったが、ミサト達も乗船することとなった。

 色々と設備を見て回りたがるケンスケを連行する形で引きずって行き、轟天号内の一室に放り込まれた。

「なんだよー! 乱暴な奴ら! 地球防衛軍って乱暴だ!」

「まあ、彼らもピリピリしてるんだ。乗せて貰えるだけ有り難いんだから文句言っちゃいけないよ。」

「くっそ~! 狭いし、窓も無いし、外が見えねーよー! うるさかったけど見学だけでもしてやる! って、鍵かかってる!? これじゃあまるで牢屋じゃないか!」

「徹底して轟天号内を見せない気ね。」

「そりゃそうだろうな。地球防衛軍や社会からのネルフの評価も好感度も落ちるところまで落ちているんだから。」

「なんで!?」

 扉を開こうと躍起になっていたケンスケが加持の言葉に反応した。

「いや~、アメリカ国内でのネルフへの風当たりがすごかった…。今まで好き勝手したツケが回ってきたんだ。小さい罪からデッカい罪まで、特権を利用されて泣き寝入りしていた連中が多いからな。」

「ね…ネルフって、そんな悪いことばっかしてたんですか?」

 恐る恐る聞くケンスケに、ミサトは口を閉ざした。

 それを肯定と取ったケンスケは、ウソだろ…っと口元をひくつかせた。

「ケンスケ君。世の中にはヒーローなんてものはいないんだ。君がなにを理想としてチルドレンになったかは分からないが、エヴァンゲリオンに乗るって事は決して英雄(ヒーロー)になれることじゃないんだ。むしろネルフが社会的に悪者扱いされている今、エヴァンゲリオンのパイロットなんて口に出せばどんな批判や暴力が来るか…。」

 加持がそう語ると、ケンスケは、そんなぁ…っと青ざめた。

「更生施設から無理矢理出して徴兵したとは聞いてたが……、何も話してなかったんだな、葛城。」

「チルドレンには無関係の事よ。世間一般からのクレームを受けるのは。」

「ネルフの一般職員でさえ、今まで顔なじみだった店に顔を出せない有様だってのにか?」

「防衛軍も防衛軍よ。共同戦線って言いながら、全然コッチのフォローしないし。」

「そりゃ、お前…、コッチが喰われる側だからさ。」

「くわれる? なによ、コッチはシマウマみたいな扱いなわけ?」

「文字通りさ。地球防衛軍は、こっちが抱えている情報を入手したいんだ。サードインパクトを防ぎたいのは共通の目的ではあるが、地球防衛軍は必要情報さえ入手すれば、あとは自分達でやっていけるだけの力があるし、自信もある。長い年月ゴジラや怪獣と戦ってきた経験値は35年経った今でも生き続けてるんだ。必要な情報さえ食い終われば、ネルフはすぐにでも捨てられるだろうし、最悪これまでの横暴を盾に潰されるのがオチだろうしな。」

「ーーーっ! アイツらぁ!」

「この轟天号の中での俺達の扱いが、今の地球防衛軍とネルフの立場だ。」

 そんな会話をしていると、警報音が鳴った。

 

 

『緊急事態! 巨大な未確認生物が轟天号の真下を潜航中! 総員緊急配置につけ!』

 

 

 轟天号艦内にそんなアナウンスが流れた。

「どうやら…、来たようだな。」

「なにが? …まさか?」

「使徒だ。」

「え…、ええ!?」

 青ざめぼう然としていたケンスケがそれを聞いてやっと現実に戻って来たのだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 一方、轟天号の中枢。つまり管制室では。

「解析完了! パターンブルー! 使徒で間違いありません!」

 コンピュータで解析していたオペレーターが中央の席に堂々と座っているゴードンに報告した。

「…使徒は第三新東京に現れるんじゃなかったのか?」

 ゴードンは、思わぬ場所に使徒が現れたことにそう呟いた。

「現在、使徒は轟天号の真下にぴったりついてきています。今のところそれ以外の変化は見られません。」

「まさか、このまま一緒に第三新東京に行くつもりなんでしょうか?」

 副艦長が冗談交じりにそんなことを言った。

 使徒は、なぜわざわざ轟天号の真下にぴったり合わせて泳いでついてきているのか。そしてついてきていること以外に何もしてこないのが不気味だ。

「飛行高度と速度を上げてまきますか?」

「このまま様子を見ろ。」

「了解。飛行高度、速度をこのまま維持せよ。」

「風間。たぶん、奴が来るはずだ。頼むぞ。」

「Roger(ラジャー)。」

 轟天号の操舵手である風間が、鋭い目つきでモニターを睨みながら淡々とすごい良い発音でゴードンに返事を返した。

 このまま膠着状態が続くと思われたが、僅か数分後に新たな警報を知らせる表示が出た。

「艦長! 轟天号の後方から使徒以上の巨大な物体が接近中!」

「これは…、ゴジラです! ゴジラが海中から追ってきています!」

「なんだと!?」

 それを聞いた副艦長が驚きで目を見開いて叫んだ。

「艦長! この事態は、一体…。」

「ハッ…、そうきたか。」

「艦長?」

 副艦長がゴードンを見て指示を仰ごうとしたら、ゴードンはすでに何かを見抜いたかのように鼻で笑い、艦長の席の腕かけのところに頬杖をついて口元を釣り上げて笑っていた。

「真下にいやがる使徒は、これが狙いだった。自分を餌にゴジラをおびき寄せて轟天号とゴジラを戦わせて、漁夫の利を得ようって算段だな。」

「…そ、そんなことが……。あ、だからさっきからついてくるだけで何もしてこなかったということですか!? 艦長、指示を! このままでは、ゴジラは、使徒とエヴァンゲリオンを運んでいる我々を狙ってきます!」

「そいつも計算の内だろう。使徒にしてみりゃ俺達もエヴァンゲリオンも共倒れしてくれりゃこれ以上ない喜ばしい状況になるだろうからな。」

「熱源感知! ゴジラの熱線が来ます!」

「風間!」

「フッ!」

 ゴジラが海中を泳ぎながら背びれを光らせ熱線を海の上を飛行する轟天号に吐いたのを、風間が紙一重で回避した。

 熱線の余波が轟天号に伝わり船体が揺れた。

「ハハ…、マジでセカンドインパクト前より強くなったんだな、ゴジラよ…。」

 ゴードンは、慌てることなく、むしろ喜んでいるように口元を緩めながらそう呟いた。

 ゴジラの攻撃から逃げるため飛行速度が上がる。使徒もついてくる。

 ゴジラは、使徒より轟天号の方を先に撃墜しようとしているらしく連続で海の中から上空へ向かって熱線を吐き続ける。

 それを風間が眉間に皺を寄せて、時々唸りながら回避していく。風間は、尾崎に次ぐミュータント部隊のエースだ。それゆえに明らかに異常なまでの操縦テクニックを発揮する。ちなみに尾崎は、轟天号に兵器管制を担当しているのだが、今は尾崎が入院中なため別の者が担当している。兵器管制を任されるほどなので実力はあるのだが、この非常事態に汗をダラダラ垂らして兵器を発射するための幹を握る手が震えている。

 なお、ゴジラに撃墜される危機に瀕してる状況だというのに、風間は懸命に操縦桿を操作しながら兵器管制につかされた者を観察して、シンジを治療するために危うく死にかけて入院沙汰になってしまった尾崎に向って心の中で文句を垂れていた。基地に帰ったら真っ先に尾崎に入院沙汰になるようなムチャをしたことについて怒ってやると決めた。

 念のために、風間は今兵器管制を担当している仲間に不満があるわけじゃない、彼にとってライバル的な位置にいる尾崎が何日も入院してて訓練やそれ以外の仕事の時も張り合いがなく本人は無自覚にストレスを溜めているだけだ。

 日本まではまだ遠い。風間の操縦テクのおかげで直撃は免れているが、強化されたゴジラの熱線の余波は防ぎきれない。ゴジラの熱線を回避するごとに船が揺らされるため、船内にいる人間達に負荷がかかる。それに風間だって長くはもたない。このままでは消耗する一方だ。

 尾崎がいたらなら、ゴードンは、この状況を好転させるために上層部から怒られるのを承知でムチャクチャな作戦で攻撃をしていたに違いない。しかし残念ながら尾崎はいない。尾崎の代わりの兵器管制を担当している兵士を軽んじているわけじゃないのだが、いかんせん緊張のあまりガチガチになっているので、今後のためにも経験を積ませてやりたいところだが一歩間違えれば全滅は免れない。ゴジラがゴードンが知るゴジラ以上に強くなっていることも問題だ。そこは轟天号の最高責任者である自分の判断にすべてがかかっている。

 そしてゴードンは、決断した。

「全速力で海へ潜れ! 海底付近までだ。」

「艦長!? 何をするつもりですか? まさか使徒とゴジラを相手に…。」

「少し違うな。」

「はい?」

「エンジン全開! 潜水モードへ移行!」

「海へ突入します! 総員、衝撃に備えよ!」

 ゴードンと副艦長のやり取りが行われている間に、テキパキと優秀な船員達が轟天号を操作し、轟天号はエンジンをフル稼働させて全速力で船首のドリル部分から斜めに海へ突入した。

 轟天号が海中を潜航し、海底付近まで潜っていく間に使徒ガギエルは、轟天号に追いつき、海底すれすれで轟天号の下に潜り込むと、轟天号の腹のあたりの外装の一部にその大きな口を開けて噛みついた。

「使徒が轟天号の下部に噛みついてきました! 使徒は外装に噛みついたままです! 泳いでいません! どうやらコバンザメみたいに張り付いているようです!」

「自分もろともこの轟天号と心中するつもりか!? 艦長! このままでは、使徒もろともゴジラに撃墜されてしまいます! どうするおつもりですか!?」

「海底火山がこの海域にあったはずだ、そこまでお連れしな。」

「えっ?」

 それを聞いた船員達全員がいや~な予感がした。特に副艦長などはゴードンと轟天号で怪獣と戦った経験の持ち主であるため、ある怪獣との戦いの記憶が蘇って真っ青になりダラダラ汗をかき始めた。

「か、艦長…、それは…、それだけは…! 船員達はまだ怪獣との戦いの経験のない者達ばかりなのですよ! それに使徒にその戦法が通じるか…。」

「うるせぇ。今回は、戦って勝つんじゃない。逃げ切るのが目的だ。」

「…了解!」

 腹をくくった副艦長は敬礼し、察した船員達も覚悟を決めた。

「間もなく、海底火山のエリアに入ります!」

「よし、海底火山に向ってミサイルを撃て。」

「えっ? …ら、ラジャー。」

 兵器管制を担当しているミュータント兵士がゴードンの命令に一回後ろの方にいるゴードンの方を見ようとしたが、なんとかこらえて、数発のミサイルを海底火山に向って発射した。

 ミサイルが着弾したことで海の底で赤々と燃え盛るマグマを噴出し続ける海底に亀裂が入り、海の底に灼熱のエリアが広がった。そこに使徒が引っ付いた轟天号が突入した。

 轟天号の真下は灼熱のマグマ。轟天号の下には、使徒。轟天号よりガギエルの方が熱で炙られている。

 ゴジラは、マグマなどものともせず追跡してくる。ゴジラは、その性質上熱に強いのでマグマなど屁でもないのだ。大体熱線の温度は90万度もあるのだからそれをバンバン吐きだしまくるゴジラが熱に弱いわけがない。ゴジラ撃退用の武器に冷却兵器がよく使われるのもこのためだ。

「船内温度60度突破! 冷却機器がオーバーヒート! 船内温度の上昇が止まりません!」

 オペレーターが血を吐きそうな勢いで叫ぶ。

「まだだ、進め!」

 慌てる船員(風間以外)達に、ゴードンが命令する。

 マグマの熱で炙られまくるガキエルが、身をよじり始めていた。白い体は炙られて所々黒ずみ、焼け焦げはじめていた。

「船内温度90度!」

「かんちょー!」

 普通の人間でもミュータントでもやばい温度に突入して、轟天号のシステム全体が悲鳴を上げるように火花があちこちで散り、蒸気が漏れたり、船員の中に熱にやられて席から倒れる者が出始めた。風間は汗を垂らしながら操縦桿を握りモニターを睨みつけて耐えている。

 マグマの熱で轟天号の船体が熱で赤く染まり始めた頃、ガギエルは轟天号の外装に噛みついてはいるがジタバタ暴れ始めていた。焼け具合ももはや表面だけ黒こげで中身は生焼け状態寸前の焼き魚状態だ。

 そしてついにガギエルが海の中で悲痛な鳴き声をあげて轟天号の外装から口を離した。そして一目散にマグマの熱から離れようと温度の低い方へ泳いで行った。

 追跡していたゴジラが、轟天号から離れて移動していく使徒の方へ針路を変えた。

「今だ、離脱しろ!」

 ゴードンの合図と共に風間が操縦桿を操って海底火山エリアから脱出するよう進路変えた。

 轟天号は、マグマの熱から逃れたことで海水で冷却されながら潜航を続ける。

 ゴジラと使徒ガギエルとは、まったく違う方向へ…。

「ゴジラよ…。戦いは次に持ち越しだ。次は正々堂々戦おうぜ。」

 轟天号からは、もう遥か遠くの方で、ガキエルに襲い掛かっているゴジラに向けて、ゴードンはそう呟いた。

「艦内より報告! ネルフ職員、及びチルドレン、熱中症にて倒れているとのこと。医療班の報告によると命に別状はありません。」

「艦内の冷却装置がダメになったんだ…、そりゃ倒れに決まってる。ああ…、それにしても今回の逃亡戦で負った轟天号の損害についてなんて報告したら…。使徒とゴジラから逃げるためということで、少しは目を瞑って貰えるだろうか?」

 事が終わったあとのことを考え、副艦長は頭を抱えたのだった。

 そして轟天号は、飛行モードに移行し、無事に第三新東京に到着するのだった。

 四号機と共に、ミサト、ケンスケ、加持は、ネルフに降ろされた。

 基地に帰った轟天号は、すぐさまドッグで修理され、乗っていた船員達の中に出た負傷者は医療機関に行き、ゴードンと副艦長は、司令部へ呼び出された。

 ゴードンは堂々とした態度を崩さないが、副艦長は汗をダラダラかいて上層部から下されであろう処罰に暗くなっていた。

 しかし上層部から言い渡されたのは、緊張でガチガチになってた副艦長を拍子抜けさせるほど軽い罰だった。

 

 そんなこんなで、セカンドインパクト後、轟天号の初仕事となったエヴァンゲリオン四号機と、加持達の移送任務は終わったのだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 轟天号を破損させた罰で、独房で数日過ごすことになったゴードンは、簡素な格好でベットの上で刀を磨いていた。独房行きやら始末書などは、上層部を怒らせることが多い彼には慣れっこだった。

「お疲れ様ぁ~、ゴードン大佐。」

「なんだ…、おまえか。」

 独房の檻越しに椎堂ツムグがゴードンに話しかけてきた。ちなみに足音はしていなかった。

 ゴードンは、椎堂ツムグとの付き合いが長いので別に驚きはしない。

「聞いたよ。大変だったんだんだね? 折角のゴジラさんとの再会だったのにねぇ。」

「なーに、奴と戦う機会はこれからまだまだ沢山ある。焦るこたないさ。」

 ゴードンは、ニヤリと笑って楽しそうにそう言った。

「それでこそゴードン大佐だね。ゴジラさんも轟天号と戦えなくて、残念がってたからそう言ってくれると俺も嬉しいよ。」

「ゴジラが? あの野郎、昔の戦いの続きをしてるつもりか。」

「たぶんそうだと思うよ。轟天号は、ゴジラさんが封印された時に最後に見た人類の武器だし。特に印象に残ってるんだ。」

「そうか。おい、ツムグ。ゴジラに言っておけ。あの時、テメーを氷の中に封印したのは、この俺だってな。」

「大丈夫だよ。言わなくたって、戦ってればゴジラさんがゴードン大佐のこと知るからさ。それに、ゴジラさんは、他のことで忙しいからたぶん地球防衛軍との戦いはしばらくそっちのけになると思うよ。」

「使徒か…。」

「あとエヴァンゲリオンもね。…ま、それだけじゃないんだけどさ。」

「どういうことだ?」

 ゴードンが立ち上がり、檻を間に挟んでツムグと向かい合った。

「そのことは、尾崎から聞くと良いよ。人間のことは、人間で解決した方がいいと、俺は、思うから。」

「尾崎が? あいつが何を知ってるってんだ?」

「ちょっとね。色々あって無理やりそうなっちゃっただけだよ。独房から出たら、尾崎と風間とミユキちゃんが内密な話をしたいって来ると思うから、周りに気を付けてね。」

「ほう? そりゃよっぽどのことなんだな?」

「当り前じゃん。だってゴードン大佐は、尾崎達に信頼されてるんだよ。ねえ、ゴードン大佐、俺ね、どっちでもいいんだよ。人類がどうなろうと。でも、ちょっと気に入らないんだ。ゴジラさんの怒りはもっとものことだ。」

 ツムグは、そう言うと背を向けて立ち去って行った。

 残されたゴードンは、独房のベットに再び腰かけ。

「『人間のことは、人間で解決した方がいい』か…。誰だ? 誰が何を企んでやがる? 俺達を無視するほどゴジラを怒らせることをやったのは、誰だ?」

 ゴードンは、そう独り言を呟いた。

 そして彼は、静かに、静かに独房の中で時が来るのを待つ。

 

 

 

 




ケンスケとミサトがアメリカ支部に来たのは、四号機をすぐに動けるようにさせるためでしたが、そもそも閉じ込められていて出番無し。

リメイク前の時は、アスカが弐号機を勝手に起動させてワイヤーで宙吊りになってしまうという展開でしたが、リメイク後のは四号機が動ける状態じゃなかったのでできませんでした。

この後、四号機はケンスケのために調整され、材料化させられたケンスケの母親の魂を組み込まれて今後出撃します。



次回は、イスラフェルかな。
その前にシンジがM機関の食堂で働き始めたり、レイを助けて交流が始まるところも書かないと。


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第八話  来ないゴジラ

イスラフェル編。


タイトル通りです。



ユニゾンはありません。


 

 風間は、普段の不機嫌そうな顔を余計に不機嫌にしてぶす~っとしていた。

「なあ、風間。いい加減、機嫌治してくれないか?」

「うるさい、黙れ。」

 あれから尾崎が退院してからというもの、風間はこんな調子だ。

 轟天号がエヴァ四号機を輸送し終えてから、間もなく退院した尾崎が帰還したばかりの風間に顔を合わせにきたのだが、風間は何も言わず寮に帰ってしまった。

 それから顔を合わせるたびに機嫌が悪い~っというオーラ全開で、なのに不機嫌な理由を喋ろうとしないため尾崎も他の仲間も困っていた。

 悪く言えばお節介な尾崎は、風間が機嫌が悪い理由を聞こうと早足で歩く彼を追いかけてる。

「せめて理由を教えてくれよ。」

「言わない。」

「風間…。」

 このやり取りはもう何度もやっている。しかし頑なに風間は理由を話そうとしない。

 だが風間が機嫌が悪くなったタイミングが尾崎が退院して、帰還した風間に顔を合わせに来た時だったことから尾崎絡みのことで機嫌が悪くなっているのは間違いないのだが…。

 

「あいつには、少しばかり素直さが身に付くよう、尾崎の爪の垢煎じて飲ませてぇな。」

 

 っと、M機関のミュータント部隊の訓練と指揮をする士官である熊坂は不器用で素直じゃない風間についてこう独り言を言っていたとか。

 食事の時間を告げるアナウンスと音楽が流れたので、交代でM機関の食堂に行く時もぶす~っとしてる風間を追いかける尾崎の姿があった。

 尾崎は入院し、風間の方は尾崎の代わりとして仕事をするためにM機関の本部から離れていたため、二人とも食堂に来たのは久しぶりだった。

 そこで二人は思わぬ人物と出会う。

「シンジ君じゃないか!」

 給食着を身につけて食堂の調理場で働く大人達に交じって働いているシンジの姿を見つけて、尾崎は調理場の方に身を乗り出した。

「どうしてここに?」

「あ、尾崎さん…。あの…、その、えっと……。」

 シンジは手を止めてモジモジと手を動かして俯く。

「尾崎君、それは私が説明するよ。」

 シンジに変わって説明をすると出てきたのは、食堂で一番長く働いているおばちゃんだ。尾崎達がM機関に来た時からずっとお世話になっている一番の顔見知りである。親がいない仲間の中には、彼女を母親や祖母のように慕っている者もいるぐらいだ。

「この子はね、タダでここ(地球防衛軍)に保護されてるのが悪い気がするから、何でもいいから働かせてくれないかってお医者さんを通じて頼んだよ。それで、今人手が足りてないここ(食堂)でパートに入ってもらったわけ。」

「そうだったんですか…。でもシンジ君、体の方はもう大丈夫なのかい? 無理しちゃダメだよ。」

「もう大丈夫です。お、尾崎さんのおかげで…。」

 精神崩壊状態からの回復と、目覚めてから錯乱した時に優しく宥めてもらったことを思い出したのか、シンジは、微かに頬を染めて尾崎に頭を下げた。

 シンジは、はっきり言ってどちらかと言うと女顔な方であるため、14歳と若いのもあり、頬を染めて身を小さくするその仕草が女の子と錯覚しそうな可愛らしさがある。尾崎が恋人持ちだと知ってる大勢の人間がいるこの場所じゃなかったら確実に尾崎との間に何かあるという誤解が生まれて広まっていただろう。

 残念というかなんというか…、尾崎もシンジもどっちもそういうことに鈍いため全然そんなことに気づいてはいない。

 一方、風間は、シンジの治療の時に少しだけ死体みたいな状態だったシンジに精神感応を試みたっきりシンジを見ていなかったので、すっかり元気になったシンジをじーっと見ていた。

 シンジが顔を上げた時、尾崎の隣にいる不機嫌な顔をした風間が目に入った途端、少し固まり、数秒置いて顔色を悪くして慌てておばちゃんの後ろに隠れてしまった。

 そのシンジの反応に風間は片眉を吊り上げた。よく被災地の子供に避けられがちな風間は、子供に好かれにくいと自負していたが、シンジにそんな反応される心当たりがなかったので驚いた。

「…風間君、何かしたのかい?」

「何も…。」

 後ろにシンジが引っ付いたおばちゃんが、風間に向って目を細めて聞くと、風間は首を横に振った。

 尾崎は、顎に手を当てて、風間の横顔を見て少し考えた。

 そしてシンジの反応の理由に気付き、手を叩いた。

「風間、ちょっと来い。」

 尾崎は、風間の肩を掴んで調理場の方から離れた。

 そして顔を近づけて、ヒソヒソと話した。

 風間の機嫌悪そうな顔が、シンジの父親であるゲンドウの印象と重なってしまったんじゃないかということを。そしてシンジがゲンドウに何をされたのかを話した。

「シンジ君には悪気はないんだ。怒らないでやってくれ。」

「おまえは、俺がそんなことで怒ると思ってやがるのか?」

「あ、いや…別にそんなつもりじゃ…。」

「……悪かったな。」

「えっ?」

「おまえが子供一人を助けるのに死にかけたのを、まだ気にしてたってことだ。」

「風間…。」

 風間は、退院してきた尾崎と会ってからずっと不機嫌だった理由を話すと、照れ隠しで尾崎から素早く離れて料理を受け取る窓口に向かってズカズカと歩いて行った。

 尾崎は、風間の様子を見て、苦笑した。そして機嫌が悪い原因が分かってホッとした。結局自分に原因があったということだ。もっと言ってしまえば単純に心配されていただけだったということだ。

 風間は定食を受け取ると、わざわざ調理場からできる限り見えない位置の席に座って、しかも角度的に顔が見えないようにしていた。

 やっぱり風間は不器用なだけで、根は尾崎に負けない優しい奴なのだと尾崎は風間のことを再認識した。風間がわざわざそうしたのは、シンジのトラウマを刺激しないように気遣ったからだ。

 回復してからそう経ってないのでシンジがあんな反応をしてしまったのはやむおえなかったのだろうが、時間が経てば直るはずだ。シンジだってそのことは分かっているはずなので、風間にあんな態度を取ってしまったことを後悔しているだろう。

 あとで風間のことについてフォローしようと、尾崎は心の中で決めて、自分も料理を受け取って席についた。

 

 食堂の出入口で、こっそりと椎堂ツムグが覗いて、クスクス笑っていた。彼は、風間と尾崎が席について食事を始めて一分ぐらいでその場から立ち去った。

 

 

 

 

 シンジがM機関の食堂で働くことになって何日も経った頃、第三新東京に新たな使徒が出現する。

 新たな使徒、第七使徒イスラフェルの出現と戦いは、今までとは違う形で行われることになる。ある意味で、第五使徒ラミエルとは違う意味で地球防衛軍に冷や汗をかかせることとなる。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 第三新東京に新たな使徒が出現した。

 二本足だが、頭部はなく、弓のように湾曲した腕と一体化した肩、顔らしき部分は大極図のような形をしていて二色、下腹部あたりにコアと思われる部分があるが、すごく特徴的なというか、独創的な外見が最近続いていたのもあり、すごくびっくりするような見た目ではなかった。(十分、変なのだが、ラミエルとかもっと変なのが続いたから)

 湖からゆっくりと第三新東京に向って歩いていくが、今のところサキエルのように顔からビームを撃ってくるような攻撃はない。

 第三新東京に配備された地球防衛軍の部隊は、神経を尖らせながら、時を待った。

 

 そう、ゴジラがいつものように来て使徒を殺すのを待っていたのだ。

 

 ゴジラは、必ず使徒を殺しにくる。

 だからそれはもうゴジラの習性として認知されていた。

 

 しかしそれは、ただの思い込みであったというのを間もなく思い知らされることとなる。

 

「使徒が間もなく第三新東京エリアに入ります!」

「ゴジラは、まだ現れません!」

「どういうことだ?」

 使徒の出現とほぼ同時に東京湾に現れるはずのゴジラがまったくその姿を見せないのだ。もちろん東京湾だけじゃなく、それ以外の海域も探知しているが、ゴジラはいない。

 このままでは、使徒が第三新東京を襲い、地下にあるネルフ本部を攻撃するのも時間の問題と判断した司令部は、前線の防衛軍に指示を出した。

 

『前線部隊に告ぐ! 作戦変更! これよりエヴァンゲリオンによる迎撃作戦に入る!』

『ネルフ本部より、エヴァンゲリオン弐号機、及び四号機出撃!』

『波川司令!』

『前線を下がらせなさい。ネルフのお手並み拝見と行きましょう。』

 現れぬゴジラ。そして使徒と戦うのは、共同戦線の約束でエヴァンゲリオンだということで、地球防衛軍側が下がり、リフトオフされた二機のエヴァンゲリオンが荒廃した第三新東京に立った。

 地球防衛軍は、ゴジラの探知を継続しつつ戦いを見守った。

 

『あたしの足引っ張んじゃないわよ、メガネ!!』

『わ、分かってるよ…。』

 

 弐号機に乗るアスカからやる気に満ちた声とは対照的に、これが初陣であるケンスケは弱い声で答えたのだった。

 ところでケンスケのほっぺたにはグーパンの後が残っている。これは、プラグスーツという体型丸わかりのエヴァンゲリオン用のパイロットスーツを着たアスカについ鼻の下を伸ばしてしまい、キレたアスカに殴られたのだ。軍人として訓練したアスカと普通の中学生(オタク)だったケンスケとじゃ力が違いすぎる。一発でケンスケは鼻血を吹いて倒れ、気絶したものの、無理矢理起こされ怪我の度合いについては問題なしということで出撃させられたのである。

 イスラフェルは、のっしのしとゆっくりした歩みで近づいてくる。眼球らしき部位がないため、エヴァンゲリオンを見ているかどうかは分からない。

『相田君は、パレットガン一斉掃射! アスカは、ソニックグレイブで攻撃!』

『私を狙うんじゃないわよ!』

『分かってるって! 言われなくても…。』

『攻撃開始!』

『わああああああ!』

 ケンスケは、もうなるようになれとばかりにパレットガンを撃った。弾丸はイスラフェルに当たるが、煙が上がるばかりでイスラフェルの歩みは止まらない。

『馬鹿! 煙で見えない!』

『関係ないわ! はあっ!』

 アスカがかけ声と共に弐号機で飛び上がり、薙刀型のブレードで煙の中から姿を現わしたイスラフェルを一刀両断した。

 すると、イスラフェルが二体になった。色違いの。

『うそ!? キャアアアアア!』

『アスカ! 相田君、援護を!』

『えっ、あっ…えっ?』

 二体になったイスラフェルに襲いかかられる弐号機からアスカの悲鳴が上がる。しかしケンスケは、突然のことに対応できなかった。

 元は1体。それ故に息ぴったりの動きをするイスラフェルに翻弄され、ボロボロになっていく弐号機。そして海へと放り投げられ、上半身が沈み、足だけ出た状態で倒されてしまった。弐号機を倒し終えたイスラフェルが二体が四号機を見た。

『ひっ!』

 短い悲鳴を上げたケンスケは、四号機が手にしていたパレットガンを落とした。イスラフェルが二体が迫ってくる。

 次の瞬間、イスラフェルが二体の目と思われる顔の穴から光線が放たれ、四号機の足下に着弾して四号機がはね飛ばされた。

『相田君!! ここで逃げたらダメよ! 男の子でしょ!?』

『み、ミサトさん…。はい!!』

 ミサトからの激励を受け、ケンスケは恐怖をかなぐり捨てて立ち向かおうとした。

 しかし、今回のこの戦いが初陣であるケンスケ。一体でありながら、二体の特性を持つイスラフェルにたったひとりで勝てるはずもなく……。

 

 弐号機と違い、近くの山へと上半身を埋められ、犬●家状態にさせられたのだった。

 

 

「これ…、笑っていいのか?」

 なんともシュールな敗北の様に、指揮官のひとりがそんなことを呟いたのだった。

 しかし状況は笑い事では無い。

 エヴァンゲリオンが二体とも倒された。これは、ネルフの敗北であり、第三新東京の下にあるネルフ本部へ行かせることになってしまうのだ。それは即ち、サードインパクトの発生に繋がる。

 すぐに下がっていた前線の部隊が前に出ようとすると。

『俺がやるよ。』

 待機していた機龍フィアに乗っているツムグがそう言い、前線部隊より早く前に出た。

 するとイスラフェルが二体がピタッと止まり、ジッと機龍フィアを見た。

『ん? なになに? 俺に興味があるの? …違うか。そっか、ゴジラさんと似た匂いがするから頭が混乱してる?』

『共同戦線の規約違反だ! メカゴジラを下がらせろ! N2爆雷を使う!』

『馬鹿か! ゴジラの復活したご時世に純粋水爆など使えるか!? アホなのか!?』

『使えば我々の前線部隊も無事では済まない! 椎堂ツムグ! 速攻で勝負をつけろ!』

『りょーかーい。さあ、使徒ちゃん。遊ぼうか?』

 ツムグがニヤッと笑って機龍フィアの手で手招きすると、イスラフェルが二体が同時に目から光線を放ってきた。それをゴジラの熱線をも吸収・飛散させる装甲で防ぎ、ブレードを両腕に展開してイスラフェルが二体に斬りかかった。

 イスラフェルが二体が息の合った動きで飛び退くが、エヴァンゲリオンより大きいのにエヴァンゲリオンより速い機龍フィアの動きに対応できず、切り刻まれた。

 しかし、すぐに修復して復活した。

『ふーーーん? 面白いね。』

 するとイスラフェルが機龍フィアの前と後ろに回り込み、飛びかかってきた。

 そして鋭い爪を機龍フィアの関節の隙間に突き刺してきた。

 だが、突き刺した瞬間、ビクッとイスラフェルが震え上がり、機龍フィアから二体とも転がり落ちた。

 その爪の先端は焼けるように溶けていた。

 二体のイスラフェルが怯んでいると、機龍フィアの鋭い爪のある手が二体のコアを同時に掴んだ。

 イスラフェルは、ジタバタと暴れて逃げようとする。

『やっぱりココ(コア)がいいんだ?』

 クックッと悪い笑みを浮かべたツムグが、イスラフェルが二体からコアをつかみ出した。

 残されたイスラフェルの体がドロドロとなりながら、機龍フィアに絡みついてくる。まるでコアを返せと言わんばかりに。

『…ごめんね?』

 ツムグがそう謝罪すると、機龍フィアが二つのコアを握りつぶした。

 コアが失われたイスラフェルの体は、そのままドロドロに溶けていき、地面に落ちて広がった。

 

『…パターン青、消滅。』

 ネルフ側の作戦本部に空しく感じるほど静まりかえった中に、オペレーターの声が響く。

 ハッと我に返ったミサトが、オペレーター達にすぐに確認をした。本当に使徒が殲滅されてしまったのかと。

 しかしいくら聞いても、いくら調べても結果は機龍フィアによって使徒イスラフェルが倒されたということだけだった。

 ミサトは、それをイヤでも認識せざる終えず、唇を噛んだ。

「……不思議ねぇ。」

「なにがよ!?」

 戦いを中継で見ていたリツコの呟きに、ミサトが噛みついた。

「だってそうでしょう? 使徒にはATフィールドがあるわ。けど、機龍フィアは、まったくATフィールドを無視して攻撃してる。ゴジラ並みに簡単に突破してるわね。」

「なんですって! 地球防衛軍にはもうそれだけの技術が!?」

「うーん、っというよりは、あの機龍フィアの特性かもしれないわね。」

「なによ?」

「あら? 知らないの? 機龍フィアの素体には、G細胞…つまり、ゴジラの細胞を遺伝子レベルで取り込んだ唯一の人間と認証されている、『椎堂ツムグ』という人物の骨髄細胞が使われてるらしいわよ? やはり、ゴジラと同じ力を持っているのかもしれないわね。」

「んな……。そんな兵器を…。」

「それってこっちが言えた事じゃないわよ。人造人間なんて肩書きがある生体兵器を運用してるんだから。ま、その兵器もついさっき負けちゃったわね。」

「くっ…。」

「ところで、ゴジラは本当にどうしたのかしら? 来ないなんておかしいわね。」

「ネルフ、ドイツ支部より緊急伝令! ゴジラがエヴァンゲリオン試作機を破壊し、そのままドイツやヨーロッパ諸国で暴れています!!」

 

『そっちかーーーい!!』

 

 ネルフと地球防衛軍の叫びが重なった瞬間だった。

 

『ゴジラさんって、たまに気まぐれだからね。』

 ツムグは、ひとりだけ納得している様子で、コックピット内で腕組みして、ウンウンと頷きながらそんなことを言っていた。

 

 その後、機龍フィアをしらさぎで輸送し、ヨーロッパ諸国で暴れ回っているゴジラを止めて海に追い返し、ネルフは、ゴジラを呼び寄せるエヴァンゲリオンを作っていたことがどこかかバレてますます肩身が狭くなるのだった。

 

 

 

 

 




イスラフェルの倒し方は、リメイク前から少し変えました。
機龍フィアに倒されるというのは変わりませんが。

シンジ、尾崎に懐き、M機関の食堂にパート入り。なお、勉強なども保証してもらっています。なので進学にも差し支えありません。


ネルフがN2兵器を使ってイスラフェルを一時行動不能にさせてから、アスカとケンスケにユニゾンを叩き込むというのも考えましたが、ケンスケの能力じゃ無理だな…っという答えしか出てこなかったのでやめました。




次回ぐらいで、シンジとレイの交流とかにしようかな?


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第九話  レイとシンジと防衛軍の大人達

タイトル通り。


イスラフェル後の話。



※ほぼほぼ、リメイク前と同じです。コピーペーストしました。


 

 使徒イスラフェルと地球防衛軍の初戦闘は終わった…。

 ヨーロッパ諸国は、ゴジラの進撃でかつて怪獣が世界中で暴れ回っていた頃の恐怖が蘇り、すでに様々な情報源から全世界に広まっていたゴジラが使徒とネルフの兵器エヴァンゲリオンを狙っているということが真実であることが分かり、ネルフに対する抗議デモが起こった。これによりネルフは、ますます肩身が狭くなるのであった。

 そしてこの件で、すべてのエヴァンゲリオンを第三新東京に移す作業を早めるのだが、もっと早くエヴァンゲリオンを移送していればヨーロッパ諸国がゴジラの襲撃を受けなくてすんだはずだという世論の非難は地球防衛軍に向けられ、地球防衛軍は、メディアを通じて被害を受けた都市の遺族に謝罪し、すぐに保障と復興のために動いた。

 残りのエヴァンゲリオン参号機が第三新東京に輸送され、第三新東京にすべてのエヴァンゲリオンが集まった。

 ついに第三新東京が、本当の意味でゴジラを迎え撃つための場所になったのだ。

 ゴジラとの戦いの歴史で、ここまでゴジラの来る位置を狭めうまく誘導できたことがあっただろうか?

 このことは、あらゆる情報媒体から全世界に報じられ、ゴジラと人類の戦いの決着と人類の存続がこの地ですべて決まるかもしれないと、全世界の人々が注目した。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 地球防衛軍が有する最強の対ゴジラ兵器である機龍フィアがイスラフェルを倒したことに一番驚いたのは、ネルフよりも、恐らくはゼーレの方であった。

 よく分かんない薄暗い空間に複数のモノリスとバイザーをつけた老人がいる。

『地球防衛軍どもが作ったオモチャがあの使徒を倒してしまった…。』

『こんなことはシナリオには書かれてない。』

『あの兵器は、G細胞と完璧に融合した人間を素体にして作られていると聞いている。だから、ゴジラと同じようにATフィールドを簡単に破り、いとも容易く…。』

『おのれ…、どこまでも邪魔をするか、ゴジラめ…! 自らが手を下さずとも同じ細胞を持つ者なら殺せると踏んでエヴァ量産機を破壊するためにヨーロッパ諸国に上陸したのか!』

『おかげで我々の配下である僕どもが多く失われてしまった…。修正は容易ではないぞ。』

『四号機は、失われるようシナリオに組んでいたが…、まあこれは別にいい。しかし、我々の手足として動いていた者達が多くいたヨーロッパの主要都市まで破壊していきおった。暴れるだけしか能のない畜生め…!』

 モノリス達に涙を流す機能があったなら、滝のような涙を流していただろう。

 彼らの隠れ蓑だった国連が地球防衛軍としてゼーレから離れ、地球防衛軍がゼーレを切り離すきっかけとなったそもそもの原因であるゴジラに、ゼーレは人知れずボロボロにされていた。

 ゼーレが目指す人類補完計画を遂行するために用意したネルフもエヴァンゲリオンも地球防衛軍に抑え込まれ、しかもエヴァンゲリオンをゴジラが狙っているため下手に表に出したらゴジラを呼ぶだけだ。

 サードインパクトには、第一使徒アダムの生命の実と、第二使徒リリスの知恵の実、そしてロンギヌスの槍と儀式の依代としてリリスが必要なわけだが……、ゴジラが使徒を殺しまくって依代の候補であるエヴァもぶっ壊すために動いているので、儀式なんてやってたら絶対その最中にゴジラが来て邪魔される図しか思い浮かばない。

 MAGIでいくら算出してもゴジラが邪魔しにくる確率は、100パーセントとしか出ない。1以下でも外れる確率はないのかといくら頑張っても、答えは変わらない。

 人類の歴史を裏から操ってきた秘密結社のゼーレも、ゴジラという最強最悪のイレギュラーを前に手も足も出ない有様である。

 最悪なことに第三使徒サキエルが現れた時に復活してきたゴジラは、自分が封印されていた南極の消滅を乗り越えたせいか、封印される前よりも強くなっている。ゴジラのパワーアップは、セカンドインパクトの原因になったアダムをバラバラにした時に発生したエネルギーを吸収したからじゃないかとゼーレの僕として働いている科学者は答えている。

 ゴジラには、相手から受けたエネルギーを吸収して自分の力に変換する能力があるので、この説は大体合っていると思われる。

 人類補完計画のためにやったことが最強最悪のイレギュラーを強化させて、人類補完計画を台無しにすることになるとは、誰も考えていなかった。

 そもそもセカンドインパクトのあの大破壊から生き延びたゴジラが異常過ぎるのだが…。

『例えサードインパクトを起こしたとしても、あの怪獣は殺せそうにない気がしてきたのだが…。』

『貴様! 弱気になるな! 怪獣とはいえ所詮は生物なのだぞ! 神に勝てるわけがなかろうが!』

『ゴジラは、破壊神と言われているのだが…。』

『それはただのあだ名だ! 奴が本当に神というわけではない!』

『議長…、いかがしましょうか…。議長?』

「……」

 モノリスの一人が中央にいるキールに話しかけたのだが、キールが片手で額を、もう片方の手で腹を押さえて俯いたまま、動かない。今気付いたが、キールが座っている席に色んな種類の胃薬と頭痛薬があった…。

『ああ…、議長。お気持ちはお察しします……。』

『やはりゴジラをなんとかせねば人類補完計画どころではない。しかし我々にはゴジラに対抗できる力がない。』

『地球防衛軍どもがゴジラを駆逐するのを待つしかないと言うのか? それではあまりにも時間が足りぬ!』

『そうだ! 我々に残された時間は少ない! 待ってなどいられるのだ!』

 

 ゼーレは、……結構追い詰められていた。

 実は、ゴジラは、見えないところでコソコソしているゼーレの老人達も殺してやろうとしているのだが、それを知るのは、ゴジラの気持ちが分かる椎堂ツムグだけである……。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 ゼーレが見えないところで追い詰められて苦しんでいるのを知っている椎堂ツムグは、基地内にある研究機関の自分の自室(彼専用の檻とも言える)のベットの上で寝っ転がったままケラケラ笑っていた。

「プッ…、くっ、ハハハハハ…、あのおじいちゃん達ってばホント諦め悪いっていうか、しぶとい油汚れよりしぶといっていうか。人類のためとかいう無理心中やる前にやれることやれって感じ。そんなだから地球防衛軍に切り捨てられて、なーんにも上手くいかないのにさ。あー、おっかしー。」

 そんなに質が良いというわけじゃない簡素なベットの上で枕を抱えてゴロゴロ転がりながら笑っている様は、異質以外の何者でもない。

 しかし笑い転げていたツムグは、急にピタッと止まり、表情を無にした。

「……そっか…、“あの子”のことすっかり忘れてたな。」

 枕を放って、むくりと起き上がり宙を見上げる。

「あっちは、あっちで。こっちはこっちで面倒なことやっちゃって…。可哀想に。しっかし…、今は他の使徒とエヴァがあるからともかく、ゴジラさんが見逃すはずないし…。あの子が生きるには…。おぉ?」

 太ももの上に頬杖をついてぶつぶつ呟いていたツムグは、ふと別のことに気が付いて目を丸くした。

「あ、アハ…、そっか。そうだよな。人間のことは、人間で解決した方がいいって言ったの俺なのに、忘れてた。ゴードン大佐に怒られちゃうよ。アハハハ。」

 そしてまた笑い出す。

 

「あいつは、何を笑い転げてるんですか?」

「さあ? G細胞完全適応者の考えていることなんて、40年以上たってるがいまだに分かってないから、さっぱりだ。」

 

 ツムグは、G細胞完全適応者なので監視されている。しかしこの監視はあんまり意味がないのだが、一応形式上はやっておかえなばならないことである。

 監視カメラを見ている研究者達が、ツムグの…、いつもの奇行にそんな会話をしていた。

 ツムグは、G細胞のおかげか特殊能力を持つミュータント以上に普通じゃ分からないことを見て聞こえているので、他人から見たらただの奇行にしか見えない行動や言動が多い。ツムグの細胞の研究の関係で付き合いが長い研究者達は、すっかり慣れていて、いつものことと思ってしまっている始末である。

 

 ちなみに、ツムグは、外見年齢二十代くらい。

 G細胞完全適応者として発見された当時に、その年齢だったと換算すると……、すでに60は軽く越えているのだが(実は冬月より年上かもしれない)、外見はまったく変わっていなかった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 シンジは、食堂でパートとして働くことになってからもう何日も経った。

 覚えが早く手際がいいシンジは、初めての仕事とはいえすぐに仕事を覚え、大人達の中で頑張って仕事をしている。

 その頑張りが認められ、職場の人達と打ち解けるのにそう時間はかからなかった。

「ふう…。今日もいっぱいがんばった…。」

 明日の仕込みも後片付けも終えて、地球防衛軍から貸してもらった寮の一室に帰ろうとしていた。

 いまだ風間に対してちょっと苦手意識が働いて避けがちだが、そのことで怒られることはなく、尾崎から風間は避けられていることについては気にしてないと聞かされていた。だが勝手な理由で関係ない相手を避けてしまうのはシンジの気持ちが許さない。なんとかできないものかと自分なりに考えているが、そう簡単に直るものじゃない。

 シンジは、そのことで溜息を吐きながら歩いていると、ふと足を止めた。

 進もうとした先の分かれ道を、見た覚えがある青い髪の毛の少女がゆっくりとした足取りで歩いて行くのを見たのだ。

 あまりにゆっくりと、しかも俯いて歩いている姿に、一瞬幽霊かと思ってしまいそうになるほどだった。

「あの子は、あの時の…、どうしてここに? どこへ行こうとしてるんだ?」

 シンジは、あの少女が初号機に乗せられる直前に初号機のドッグに運び込まれてきた大怪我を負っていた少女だというのを思い出した。

 すっかり怪我は治っているようであるが、どうも様子がおかしい。

 シンジは、嫌な予感がして咄嗟に彼女の後を追いかけていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 一方そのころ。

 人気のない基地の建物間で、尾崎、音無、風間の三人がいた。

「話って、なんだ?」

 風間が自分がここに呼ばれた理由である内密な話について聞いた。

「風間…、信じられない話だと思うが、俺はシンジ君に精神をダイブさせた時にとんでもないことを知ってしまったんだ。」

「とんでもないこと?」

「世界が…、滅亡するかもしれないんだ。それも人の手で。」

 尾崎が真剣な顔で、そして拳を握りしめて語る姿に風間は眉間に皺を寄せた。

「ゴジラや使徒が暴れてるんだ、世界が危険な状況だっていうのは分かっている。だが、人の手で滅亡っていうのはどういうことだ?」

 尾崎がこういうことで嘘を吐く奴じゃないことは、風間はよく分かっている。

「誰がどうやってそれをやろうとしているのか、まだ分かってないんだ。だけど……。あれは、事実だと思うんだ。」

「おまえは、あの子供の中で何を見た?」

「風間、エヴァンゲリオンのことをどう思ってる?」

「ただの使い物にならない無いオモチャだろ? この間の使徒の戦いでも醜態さらしてたな。それがどうした?」

「エヴァンゲリオンは、使徒だ。」

「なに?」

「私も最初は信じられなかったわ。」

 黙っていた音無が話に入ってきた。

「けど、調べてみて分かったの。ツムグの力借りて、ネルフのMAGIにハッキングしてね。」

 そう言って音無は、ポケットから携帯端末を取り出し、その内容を風間に見せた。

「E計画。十年以上前からエヴァンゲリオンの開発は行われていた。けれどこの開発段階で何人もの人間が死亡しているの。その中には、シンジ君のお母さんがいるの。」

「…それで?」

「それだけじゃないわ、死亡とはいかなくても、実験の事故で精神を病んでしまった人もいて、その人は自殺しているわ。その人は…、セカンドチルドレンのアスカ=ラングレーのお母さんなのよ。」

「あのオモチャのパイロットの身内ばかりが死んでいるってことか?」

「あと気がかりなことがあるわ。第三新東京市立第壱中学校は、ネルフの監視下にあった。それも2-Aクラスには、片親か、両親が死亡しているか、病院でずっと入院している子供ばかりで構成されていたの。いくらセカンドインパクトの被災があったとはいえ、都合よくそういう経緯のある子供ばかりが集められているのは不自然だと思ったから、調べてみたわ、そしたらこの子達の親は、この子達が物心ついた時に何かしら事故や病気になってた。だけど、搬送先の病院がネルフの管理していた病院で、死亡するとまでいかない処置さえすれば助かる状態でも間もなく意識不明になったり、死亡届けが出ているの。今は地球防衛軍の管理下に置かれたネルフの監視下にあった病院の記録も調べてみたわ。ほとんどデータは消されてたけど、地球防衛軍の技術にかかれば復元は可能だった。そしたら……、死んでいなかったの。子供達の親は、死んでないのに死亡したことにされて、遺体も返されていなかった。表面上は葬儀とお墓に遺体を埋めることはしているけれど、この記録が確かならお墓の中には遺体はないはずなのよ。」

「墓を暴いてみたのか?」

「…さすがに無断でお墓を暴くなんてできなかったわ。このことは、正式に諜報部と監査部が調査しているわ。」

「その行方不明になった親達とエヴァンゲリオンと何が関係がある?」

「初号機と弐号機。この二体には、シンジ君のお母さんと、アスカちゃんのお母さんが関わってる。初号機の実験でシンジ君のお母さんが死亡して…、そして弐号機の実験でアスカちゃんのお母さんが精神崩壊に陥っているの。初号機に乗ったばかりのシンジ君は、なんの訓練もしていないのに初号機との高いシンクロ率を出し、そしてアスカちゃんも。エヴァンゲリオンのパイロットは、片親か親のいない14歳の少年少女だけなんておかしすぎるわ。エヴァンゲリオンを起動できる確率は、たったの0.000000001%! それなのに今まで普通の中学生だったシンジ君が長く訓練をしていたアスカちゃんに並ぶ高いシンクロ率を叩き出すなんてあまりにも出来過ぎてるわ。」

「ああ、確かにおかしいな。だが、そのこととエヴァンゲリオンが使徒だっていう証拠はあるのか?」

「セカンドインパクトで南極が消滅し、南極があった海が赤く染まっているのは知ってるな?」

 尾崎が言った。

「ああ…。隕石が落ちたとかだったか?」

「それは嘘なんだ…。」

「なに?」

「セカンドインパクトは、仕組まれたことだったんだ。いや…、正確にはあることをやっていて、それが失敗してあんなことになってしまったんだ。」

「南極で何が起こったのかも、精神にダイブした時に知ったのか?」

「ああ…、セカンドインパクトは、南極にいた第一使徒アダムをバラバラにした時のエネルギーで起こった人的災害だ。あの赤い海は、南極の生物が液体になった跡らしい。」

「生物が液体に? それに第一使徒? 使徒は、第三新東京に来たあれ(サキエル)が初めてじゃなかったのか?」

「ああ、使徒は、遥か大昔に月と共に来たらしい。普通なら月は一つしか来ないはずが、地球には二つの月が来た。その中にアダム、そして第二使徒リリスがいた。リリスから地球のすべての生命が生まれ、アダムからは、使徒が生まれたらしい。人類は、18番目の使徒リリンだそうだ。」

「おい、わけが分かんなくなってきたぞ…。つまり? 使徒は神話に出てくるアダムとイヴで? 使徒って化け物は実は俺達と同類どころか親戚だってことか?」

「だいたい、そういうことね…。」

 音無がそう言って頷いた。

「マジかよ…。気色悪いな。」

「ええ、もっと気色悪いことにゴジラに殺されて残った使徒の残骸(燃えカス)を解析した使徒のDNAは、99.89%は、人間と同じなのよ。これだけ一致した遺伝子を持つのに、あの巨体でしょ? エヴァンゲリオンを作ることだって可能だと思わない?」

「……できそうだな。」

「それとエヴァンゲリオンの操縦席に満たされるあの液体…、LCLって言うんだけど、あれは、簡単に言うと生物が生きたまま溶けてできたスープよ。」

「うぇ…。だから血生臭かったのか。」

 サキエルが現れたあの日に、初号機からシンジを救出するときにエントリープラグから溢れ出た液体がやたら血の匂いがした理由が分かって風間は心底嫌そうな顔をした。

「生物が溶けたスープを使う理由ってなに? 石油の原料は、古代のシダ植物の化石だけれど、生きた生物が液体になったものを使うなんて、不自然だわ。機龍フィアだって機体の素体っとDNAコンピュータに椎堂ツムグの骨髄幹細胞を使っているけど、これはゴジラと同等の戦闘能力を再現するために部分的に組む込んだだけ。丸ごとってわけじゃない。だから定義上は生物兵器じゃなく、機械兵器ってことで登録されてるわ。エヴァンゲリオンは、人造人間って肩書がある通り、ロボットじゃない。ロボットならロボットって表記すればいいのに、どうしてわざわざ人造人間ってことを強調するのかしら? ネルフが自分達の技術を誇示したかったのもあるかもしれないけれど、パイロット条件といい、こんなに兵器として欠陥だらけのモノに時間とお金をかける理由が、もし水面下で起こっている使徒を巡る恐ろしい計画かなにかが関わっていて、人類滅亡を防ぐとされる兵器だったエヴァンゲリオンも実はその計画の一部に過ぎなかったら? シンジ君のお母さんやアスカちゃんのお母さんの事故もその計画が進められるために必要だったことだったら? 2-Aクラスに集められた肉親の不幸を抱えた子供達のことも、そして普通の中学生のシンジ君をいきなり初号機に乗せたことも説明がつくのよ。」

「子供達の親は、エヴァンゲリオンの材料…?」

 風間が今までの話を聞いて出した答えに、音無は顔を悲しみで歪めた。

「真実はまだ明らかになってないけれど、生きた生命を液体に変える現象を人為的にできるのなら……。そして使徒と人間のDNAがほとんど変わらないこと…。使徒から作られたエヴァンゲリオンに、生きた人間を組み込むことは、十分可能なはずよ。」

「っ、胸糞悪い話だな。」

 風間は、舌打ちと共にそう吐き捨てた。

「サードインパクトだ。」

 尾崎が口を開いた。

「ネルフは、初め、使徒を殲滅しなければ世界が滅亡するというサードインパクトを防げないと言っていた。だが、エヴァンゲリオンがジンルイホカンケイカクという計画のために作られ、セカンドインパクトが起こされて、そして音無博士が説明したようにエヴァンゲリオンが使徒と同じなら…、ネルフは、サードインパクトを防ぐんじゃなく、むしろサードインパクトを起こそうとしているんじゃないかと思うんだ。」

「そのサードインパクトが、じんるいほかん…とかいう計画ってことか? セカンドインパクトにしろ、ネルフにしろ、エヴァンゲリオンも全部、サードインパクトという滅亡をやるために仕組まれてたってことか?」

「俺がシンジ君の心の中で知ったことを、総合すると、そういうことになると思う…。」

「世界を滅ぼすんなら、もっと他に方法があるだろ? なんでそんな回りくどいことをするんだ? それも知ってんだろ? 尾崎。」

「……人類を…、進化させるため、らしい…。赤い液体に変えて1つにして、そこから進化した人類が生まれるように……。」

「セカンドインパクトで死んだ20億人は無視か!?」

「誰かが…、いや、複数人なんだ。老人達と言っていた。どこの奴らがそんなことをするために15年前の大災害を起こして、地球上のすべて生命を滅ぼそうとしているのか、分からないんだ。あいつは、俺に言ったんだ。」

 尾崎は、俯いて少し間を置いた。

「みんな俺と同じ“特別”になるって…。俺は、そんなこと望んでいない! 例え、この世界でたった一人だとして、みんなを殺すなんて許せない!」

「尾崎君…。」

 尾崎が激しく首を横に振って怒りで喚く姿に、音無が心配して言った。

「おまえらしいな…。」

 風間は肩をすくめた。

「俺だってそんなことはご免だぜ。何が悲しくてドロドロの液体にならなきゃならないんだ。…それで? どうするんだ?」

「風間?」

「どうやってそのふざけた計画を止める気なんだ? まさか何も考えてないとか言うんじゃないだろうな?」

「風間、信じてくれるのか?」

「おまえがこういうことで嘘を吐かないってことぐらい、嫌ってほど知ってるぜ。信じるも信じないもクソもあるか。」

 風間はそう言い、フンッと鼻を鳴らしてそっぷを向いた。

「ありがとう…! 風間。」

 尾崎は、泣き笑いしそうな顔で風間にお礼を言った。

「別におまえのためじゃ……。んっ?」

「どうした風間?」

 風間がふと宙を見上げて訝しんだことに尾崎は疑問をぶつけた。

 風間は、答えず、少しの間そのままの状態だったが、突然二人に背を向けて走り出した。

 二人の声を無視して全速力で走り建物の隙間から出た風間は、1つ隣にある建物の上を見上げた。

「くそっ! なにやってやがるんだ!」

 風間の目に映ったのは、建物の屋上から落下しそうになっている青い髪の少女の手を掴んで、今にも自分ごと落ちそうになっているシンジの姿だった。

 風間は、器用に建造物の凹凸を足場にして飛び、少女と少年のもとへ急いだ。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 青い髪の少女こと、綾波レイは今まで感じたことのない感情に困惑していた。

 彼女の赤い目に映るのは、必死に歯を食いしばり彼女の手を握って落ちないように踏ん張る同じ年ぐらいの少年。

 レイも軽い方だが、少年の方も同じぐらい軽いのでズルズルと少女の重みは重力に引っ張られて少年ごと高所から固い地面へ落とそうとしている。

「離して。あなたまで落ちてしまう。」

「ダメだ!」

 レイは、感情のない顔と単調な口調で少年に自分の手を離すよう言うが速攻で拒否される。

 レイは、ますます困惑する。

 なぜ、この少年は高所から飛び降りた自分を助けたのか。このままでは二人もろとも死ぬと分かっているのに、どうして離そうとしないのか。どうして知らない間柄なのにこんなに必死になってくれるのか。

 エヴァンゲリオンに乗れなくなり、ネルフから引き離されたレイは、自分の唯一の身のよりどころであった場所も他人と自分を繋ぐ絆を失ったと思い、刷り込まれた消えたいという感情に引きずられるまま病室を脱走して投身自殺を図ろうとしたのだ。

 喪失感のあまり後ろから追いかけてきていたシンジの存在に気付くことなく、レイは、屋上に来て身を投げた時に駆けつけてきたシンジに手を掴まれて、やっとシンジの存在に気付いた。

「お願い。私は消えなくちゃいけないの。あなたまで巻き込めない。」

「だからって死ぬなんておかしいよ! くぅう!」

「でも…、私は……。ダメ、お願いだから、この手を離して…。」

 少年の半身が高所から出始めた時、レイは知らず知らずのうちに自分の顔が悲しみで歪んでいたのに気づかなかった。

 このままでは、二人とも死んでしまう。それではダメだと思うけれど、どうしたらいいかレイには思いつかなかった。それほどレイは混乱していた。

「ううう、うわぁあああ!」

「!」

 そしてついに少年がレイを掴んだまま屋上から落ちた。

 重力に従い落ちていく二人、それでも少年はレイの手を離そうとはしなかった。

 落ちていく最中、酷く時間が長く感じられた。

 その間、レイは、ようやくどうすれ少年を巻き込まずに自分だけが死ねるか思いついた。

 そして意識を集中しようとした時だった。

 

「うおおおおおおおおおお!!」

 

 斜め下の方から男の雄叫び。

 そちらを見た時、黒いジャンプスーツを身につけた青年が垂直の壁を凄いスピードで横走りしてきて、そして少年と少女の体を抱きかかえた。

 そして青年の腕につけられたワイヤー発射装置からワイヤーの先端が発射され、建物の凹凸に引っかかるとそのまま止まるのではなく、落下速度を少しずつ抑えながら三人を地面に降ろしていった。

 やがて三人が地面に降りると、別の青年と女性が駆けつけてきた。

「シンジ君!」

「風間少尉!」

 風間がレイとシンジを降ろす。レイは、座り込み、シンジは尻餅をついて荒い呼吸を繰り返していた。

「ムチャしやがって…! 分かってるのか!」

「ひう…。」

「風間、あまり怒鳴るな。シンジ君、大丈夫かい? そっちの子は…。」

 汗を乱暴に腕で拭う風間に怒鳴られ身をすくめるシンジの肩を優しく掴みながら尾崎がシンジの身を心配し、もう一人の少女、レイの方を見た。

「あなたは、確かファーストチルドレンの…、綾波レイ。どうしてあんなことを?」

「私には…、もう絆がない。だから消えなくちゃいけないと思った。」

 音無の怒りが含まれた口調に臆することなく、レイは、単調な口調で答えた。

「きずながない?」

「私にとってエヴァに乗ることは、みんなとの絆だった。でも、もう、エヴァに乗れないなら、私がこの世界にいる理由なんてない。だから死のうと思った。けれど…、彼が、私を止めた。」

 レイは、シンジを見た。

 その目は、非難する感情はなく、むしろ不思議な物を見るような目をしてた。

「いくら私が離してって言っても離さなかった。二人とも落ちて死ぬところだったのに、どうして?」

「分からない…、咄嗟だったから…。」

「咄嗟? それだけで死にそうになったの?」

「……えっと…。」

「…コラっ。」

 理由を聞かれてうまく言葉が出ないシンジに、レイが更に疑問を投げかける。

 見かねた風間がレイの頭を軽く叩いた。

 尾崎と音無は、びっくりし、レイも驚いて軽く目を見開いて頭を摩った。

「こいつ(シンジ)の振り絞った勇気を蔑ろにする気か? こいつがおまえが落ちないように踏ん張ってなかったら、俺がお前達を助けられなかったんだぞ?」

「私は、助けてもらいたかったわけじゃない。私はここにいる理由がないのに…、消えなくちゃいけないのに…。私はあなた達と何の関係もないのに、どうして?」

「確かに俺はおまえのことなんて何一つ知らないな。けどな、死なれたら目覚めが悪いだよ。例え他人でもな。」

「そうだよ。君は自分が死んでも誰も気にしないって思ってるだろうけど、世の中には例えどんな悪人でも放っておけない人がいるんだ。」

「この尾崎は、その典型だ。」

「とにかく、君がこの世からいなくなってもいいなんて思ってても、君がいなくなった時、何も思わないでいられる人はいないってことさ。少なくとも俺はイヤだよ。だから、もう簡単に死のうとしないで。」

「………ねえ。あなたも、私がいなくなったら、イヤ?」

 レイは、尾崎の言葉に少し俯いてから、シンジを見て聞いた。

 シンジは、少し考えて。頷いた。

「そう……。そうなの。でも、そしたら私はどうしたらいいの? 私は、エヴァ以外に何もない。」

「何もないなんてことはないさ。」

「そうよ。何もないって思うなら、見つければいいのよ。ねっ?」

「見つける?」

「こいつ(シンジ)は、見つけられたぞ。」

 風間がシンジを指さして言った。

「あなたは、見つけたの?」

「えっと……、ここにタダでいさせてもらうのは悪いかなって思って……、食堂のお手伝いをさせてもらってるよ。」

「そう…なの?」

「そうだ。ならいっそのこと君もシンジ君と一緒に働いてみたらどうだい?」

「えっ!?」

 尾崎の提案にシンジが驚いてバッと尾崎を見た。

「尾崎…、簡単に言うな。」

「そうね。それがいいかもしれないわね。合ってないなら合ってないで他のことを考えればいいわ。」

 音無は携帯を出すと、テキパキと人事に電話を入れてレイのことを話した。

 あまりにあっさりな流れに風間は、ガクッと頭を垂れた。

「それでいいのか!?」

「いいじゃない。今どこもかしこも人手不足なんだから、猫の手も借りたいのよ。」

「私は、必要なの?」

「ええ、地球防衛軍が再結成されたのいいけど、まだまだ人が足りてないのよ。手伝ってくれる?」

「…私なんかでよければ。」

「そんなネガティブな言い方しちゃだめよ。あ、まず言わなきゃいけないことがあるわよ。」

「えっ?」

「あなたのために勇気を出したシンジ君と、あなたとシンジ君を助けるために頑張ってくれた風間少尉にお礼を言うことよ。」

 音無は、レイの肩に手を置いて、二人の方を指さした。

 音無の笑顔と風間とシンジを交互に見て、レイは、すくっと立ち上がり。

「…ありがとう。」

 っと少し恥ずかしそうに言い、お辞儀をして顔を上げると微笑んだ。

 それを見て風間は、なんだ笑えるのかと感情が薄いので人形のようだったレイを見直し、シンジは、ボンッと顔を赤くした。

「シンジ君、大丈夫かい?」

「…おまえは、少しはこういうことを理解できる脳力(のうりょく)を付けろ!」

「な、なんで怒ってるんだ、風間?」

 シンジの反応の意味が分かってない尾崎に、風間が青筋を立てて低い声で怒鳴った。尾崎は風間がなぜ怒っているか分からず混乱しただけだった。

 そんないつもの二人の様子に音無はクスクスと微笑ましく笑い。レイは、よく分かんないのか首を傾げていた。

 シンジは、まだ座り込んだままだが風間と尾崎のやり取りを見ていて、風間への印象が変わっていた。風間にレイと一緒に助けられたというのもあるが、風間への苦手意識は緩和され、普通に接することができるようなるのだが、まだこの時は知らない。

 

 

 そして後日、レイは、シンジが働ている食堂で給食着を身につけてシンジや食堂の大人達に挨拶をすることになった。

「綾波レイです。今日からここで働くことになりました、よろしくお願いします。」

「…うそぉ……。」

「ほらシンジ君、今日からあの子の先輩なんだから仕事教えたりフォローしてあげたりしなよ? もちろんわたしらも助けてあげるけど、やっぱり年が近いんだしさ。」

「えええええっ!?」

「よろしく、碇君。」

「うう…、よ、よろしく…。」

 同い年の女の子、それも超絶美少女が同じ現場で一緒に働くことになってシンジは、年相応に緊張してガチガチになるのであった。

 

 

 

 

 

「あー、よかったよかった。とりあえず、あの子のことは、これで当分大丈夫だな。あとは…、ああ、コレ、コジラさんが来たら日本中の火山がやばいかも。どーしよ。」

 レイが地球防衛軍で落ち着いたのを確認したツムグは、自室のベットの上で転がりながら今度は別のことで頭を悩ませていた。

 

 

 

 

 それから数週間後。

 浅間山火山に、使徒の蛹が発見される。

 

 

 

 

 




ジワジワ苦しめられているゼーレ。

初号機越しに人類保管計画もろバレ。(でも詳細情報はまだ知られていない)

シンジとレイの交流のきっかけと、それを見守る(覗き?)ツムグ。


次回は、サンダルフォン発見と、アスカとケンスケの仲違い。


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第十話  マグマの中の卵

サンダルフォン編。


発見しただけで殲滅には至っていません。



あと、アスカとケンスケの仲違い。


 

 使徒というのは形もヘントコだが、怪獣と違って何の前触れもなく出てくるから準備が大変だと、地球防衛軍の誰かが疲れたように言った。

 

「資料映像をお見せします。」

 地球防衛軍の会議室には、基地の司令部他前線で部下達を率いて戦う階級の高い軍人達も集まる。

 その中には、ゴードンもいた。ちょうど独房での謹慎が終わり、今回の会議に参加しているわけだ。

 恐らく現場側で、もっとも強く、もっとも頼りにされている男。

 損害を考えず成果を出すため上層部に疎んじられていても、それ以上に頼りにもされているのは事実だ。彼にはそれだけの力と実績があり、なおかつ彼に信頼を寄せる部下達がダントツで多い。さらに一番下の兵士からの叩き上げであることもあり、キャリアでのし上がった同じ階級の人間達からは目の敵にされている。

 ゴードンが自分に向けられる眼を無視して堂々とした態度で椅子に座っていると、やがてモニターに映像が映された。

 

 それは、火山調査の機関から提供された映像で、そこに映っていたのは。

 膜で覆われた使徒と思われる巨大な生物だった。

 透き通って見えるその姿は、かなり成体に近いもので、これは卵というより蛹といった方が合っているかもしれない。

 

 映像を見て会議場がざわざわと騒がしくなった。

 ゴードンは、映像を睨みつけ、どっしりと椅子に座りなおした。

「これは、浅間山のマグマの内部の映像です。浅間山で火山の観測を行っていた研究所からの映像です。ご覧のとおり、これは、生物……、いえ、使徒です。」

「我々地球防衛軍の研究所の解析でも、パターン青と表示されました。使徒で間違いありません。」

 白衣を着た研究所の責任者が資料を片手にそう説明した。

「使徒の幼体ということですか?」

「そういうことになります。いつからこの使徒が浅間山のマグマの中に潜伏していたのかは分かりませんが、まだ孵化すらしていません。」

「問題なのは、この使徒が見つかった深度が1780メートルなのです。この映像を撮影のためにマグマ用の潜水機器が深度の限界を超えて失われる損害が出ました。海とは違います。灼熱のマグマなのです。地球が生きていることの証明というべきこの赤くドロドロに溶けたマグマ中に、この使徒が! 潜んでいるのです!」

 白衣を着た研究所の責任者の男が大げさな身振り手振りで説明しながら机を拳で叩いた。

「ゴジラは、まだこの使徒の存在に気付いていないと思われますが…、時間の問題でしょうな。もし、仮にゴジラが浅間山に向かい、この使徒を殺そうとした場合、どうなるか、みなさん! 想像できるでしょうか!」

 大げさな身振り手振りで顔を焦りと恐怖による混乱から興奮し、顔を真っ赤にした研究所の責任者が司令達や、現場の責任者の軍人達に問うた。

「ゴジラなら、…火山ごと使徒を駆逐すんじゃねぇのか?」

 静かになってた中、ゴードンが言った。

「その通りだ!」

 研究所の責任者は、答えを出したゴードンを指さして叫んだ。

「35年前のゴジラなら、できたかできないかであろうが、今のゴジラならそれぐらい簡単なことだ! 通常の熱線でも威力が上がっているのに、赤い熱線…、いやそれ以上の威力のある熱線で火山を吹き飛ばし噴出するマグマから放り出された使徒を奴は殺すだろう! だが火山をひとつ破壊され、マグマを大きく刺激されたらどうなるか! この国は…、日本は火山国だ! 四つのプレートの上にできた火山災害と地震災害の多い土地なのです! 活動している火山の数…、休火山…、そのすべてが影響された時にもたらされる災害は、セカンドインパクトに比べれば微々たるものかもしれないが、日本、そして隣国のアジア諸国に影響を与えてしまうのだ! 皆さん! ゴジラに、この使徒を殺させてはいけない!」

「落ち着いてください。あなたの言いたいことは十分伝わりました。」

 波川に宥められ、助手に水を渡された研究所の責任者は席について息を整えはじめた。

「先ほどの科学・技術部からの説明の通り、これまで我々地球防衛軍は、使徒をゴジラに殲滅させてからゴジラと戦うという流れを基準に戦ってきましたが、今回は絶対にそれはできません。」

「波川司令! この使徒を先に殲滅することは可能なのですか!?」

「残念ですが、使徒のいる深度が深すぎます。それに使徒にはATフィールドというエネルギーシールドがあり、並の武器では殺傷するのは困難。この使徒は、蛹の状態で、いつ羽化するか分からないですが、羽化すればどういう動きをするか、まだ不明です。ただ使徒はほぼ必ず第三新東京を目指します。恐らくこの使徒も第三新東京を目指すでしょう。」

 ほぼ、というのは、使徒ガギエルが第三新東京とは関係ない場所に出現したからだ。

「波川司令、過去ゴジラは、海底のマントルを通過して休火山の富士山から出現し、富士山を噴火させた前歴があります。活火山の浅間山に同じ方法でマグマ内部の使徒を殲滅する可能性があるのでは?」

 挙手した男がモスラとバトラの一件でゴジラが富士山から出てきて噴火させたことを交えて意見を述べた。

「その可能性もシュミレート済みです。防衛軍が保有するスーパーコンピュータ、並びに機龍フィアのDNAコンピュータから算出した確率では、ゴジラは、浅間山へ正面から来る可能性がもっとも高いと出ています。」

「正面からの正攻法か…。」

「まあ、ゴジラらしいと言えばらしいが…。」

 過去のゴジラの行動や防衛軍と怪獣との戦いで、ゴジラが真っ向勝負を好み、小細工を好まない傾向があることは証明されている。35年ぶりに復活してから使徒を殲滅するにあたっても、不意打ちのような小細工はしていない。例外としてガキエルは、自らがエサとなって轟天号を巻き込もうとしたので逃げるような形でゴジラに追跡されていたが、結局ゴードンの策で海底火山で炙られて黒焦げになるほどの痛手を負わされて耐えきれず退散し、追いかけてきたゴジラにあえなく殲滅されてしまった…。

 現時点でゴジラを探すのに特化した最高精度を誇る椎堂ツムグの遺伝子から作られたDNAコンピュータの出した答えは、ゴジラが離れた場所にある海底のマントルを通らず陸上から浅間山へ来る可能性がもっとも高いということ。

 先ほどあった科学部門の説明もあったが、セカンドインパクトを経て異様に強化されたゴジラなら、浅間山ぐらい熱線で消し飛ばせるだろう。山を破壊せずとも火口から熱線を叩きこめば熱線の爆発力で火山の深部を膨張させて大噴火させ、使徒を外に放り出すことだってできる。

「ネルフはこの件については?」

「彼らは、エヴァンゲリオンによるマグマ潜航をしてこの卵の使徒の捕獲をと提唱していますが……、そんな悠長なことをしている間にゴジラが来るのがオチでしょう。浅間山ごと潜航したエヴァンゲリオンが吹っ飛ばされます。」

「この間の使徒の死体を渡さなかったことで、彼らはかなり苛立っているようですがね。」

「我々とすれば生きたサンプルが手に入れば万々歳ですが、危険は犯したくありませんし…。」

「つまりこういうことか?」

 ゴードンが口を挟んだ。

「使徒が羽化するまで、ゴジラから浅間山を守る。そして羽化した使徒がマグマから飛び出してきたら、エヴァンゲリオンか…、ゴジラか、機龍フィアで殲滅させる。そう言いたいんだろ?」

「…ええ。その通りです。」

 ゴードンの言葉に波川は深く頷いた。

 二人の言葉で会議場がまたざわざわと五月蠅くなった。

 今回の戦いは、倒すべき使徒をあえて守るのだ。ある意味で怪獣より厄介で気味の悪い存在である使徒を、使徒が潜んでいる浅間山をゴジラに破壊された余波で日本全土の火山に影響を与えないための作戦だ。

 この使徒を殺させない。いや最終的には倒すのだが倒せる状態になるまでとはいえ守ってやらなければならないのだから皆の心情は複雑だ。

「今回の戦場は、灼熱のマグマが煮えたぎる活火山です。ミュータント部隊は危険なので後衛支援に回ってもらいましょう。また使徒が孵化した時の影響も考えて火災や火砕流などの災害に備えてもらいます。万が一に備えて、日本全土の火山の近隣に住む住民に勧告し、各地の災害対策組織にいつでも対応できるよう備えます。機龍フィアは、しらさぎで輸送後、浅間山で待機。遠距離からのゴジラの熱線を防ぐため、各方向から改良を重ねた量産型のスーパーX2のファイヤーミラーで防御。ゴジラの接近、及び熱線発射のタイミングは、機龍フィアのDNAコンピュータの信号と椎堂ツムグが教えてくれます。」

「波川司令。G細胞完全適応者をこのままゴジラと戦わせ続けるおつもりなのですか?」

 体格からしても内勤が主な重役が席を立って波川に厳しい口調で言った。

 G細胞と完全融合した唯一の存在である椎堂ツムグは、発見された時、そしてこの40年間もの長い研究機関の研究でゴジラの精神に流され最悪の人類の敵に回る可能性を秘めていることがずっと語られていた。

 今のところ椎堂ツムグは、人間の味方として行動してはいるが、その言動にはゴジラを尊敬し崇拝するような部分が見られ、他のことなどどうでもいいようなことを喋るため、あらゆる場面でゴジラと接触させることを反対する声が上がっていた。彼の細胞を素体にした機龍フィアの実質正規パイロットな状態になったことも反対する動きがあり、機龍フィアの改良と新たな兵器の開発のためのデータを取るためとはいえ、機龍フィア越しとはいえ、ほぼ直接ゴジラと接触しなければならないのだ。

 最悪の可能性がある以上、反対意見が寄せられるのは致し方ない。

「反対の意見のある方々のお気持ちは分かっているつもりです。ですが、現状機龍フィアの力を100パーセント以上引き出せるのは、椎堂ツムグだけなのです。」

「いつになればG細胞完全適応者以外でも機龍フィアを扱えるようなるのですか?」

「一代目のゴジラの骨髄幹細胞を使った3式機龍と違い、機龍フィアは、G細胞と人間の細胞が融合している椎堂ツムグの細胞を使っています。なので暴走する確率、安定性も3式とは比べ物にならないほど素晴らしい結果を出しています。しかし、第四使徒襲来の際のゴジラとの戦いで一度機能停止に陥りました。その原因は、第三使徒襲来のときにゴジラを退けた際に破損した兵器系統の伝達回路の修理ができていない状態で、一つ以上リミッターを解除したことによるDNAコンピュータから信号が逆流し椎堂ツムグの脳を侵して一時的にバーサーカーに変えてしまい、過度の運動とゴジラの赤い熱線をまともに受けたダメージで強制シャットダウンしたのです。簡単いいますと、DNAコンピュータの戦闘プログラムの想定外のバグでした。」

「機龍フィアは、DNAコンピュータの安定性が売りだったのではないのですか!?」

「…こればかりは、実戦にならなければ分からなかったとしか答えられません。機龍フィアの強制シャットダウンを教訓に、大幅な見直しがされ、一つ以上のリミッターを外しても暴走の恐れはもうありません。」

「保証はあるのか!?」

「そうだそうだ!」

 反対派の者達の野次が飛ぶ。

「ピーチクパーチク…、うるせえな。現場を知らねえ奴らがゴチャゴチャ言ってんじゃねぇぜ。」

 頬杖ついたゴードンが嫌味を込めてそう言った。

 それによって反対派達の視線が一気にゴードンに集まった。

「口を慎め、ゴードン!」

「また軍法会議にかけられたいのか貴様!」

「我々は、危険性を考慮して…。」

「だったらてめえらが、機龍フィアに乗れよ。ツムグの奴ほどじゃないが操縦の仕方を知らなくてもDNAコンピュータと接続すりゃ他の奴でも動かせるんだぞ? ツムグを乗せたくないって言うなら、自分が乗れ。で、ゴジラとやりあえ。」

 文句を言っていた者達、つまり椎堂ツムグに機龍フィアに乗せて戦わせることに反対する反対派は、ゴードンの言葉に、顔を青ざめさせて急に口を閉ざした。

 それを見てゴードンは、呆れたと大げさにでかいため息を吐いて見せた。

「現場に出もしない、口だけは達者な腰抜けが偉そうに文句ばっか並べて情けねぇ。今の機龍フィアじゃ、ツムグ以外じゃゴジラとまともに戦えない。これが現実だ。ツムグの奴がそれを一番分かってんだからな。」

 ゴードンは、ニヤニヤ笑う。反対派の者達は顔を怒りで赤くして震えていた。

「波川。とりあえずおまえのその作戦で行くが…、保険はかけさせてもらうぜ。」

「ええ。ゴードン大佐に任せるわ。もしもの時は…、存分にやりなさい。」

「フフ…、その言葉。忘れるなよ?」

 ゴードンは、愉快そうに笑い、席を立って会議室から出て行った。

「あの…、保険…とは?」

 ゴードンが去ったことで静まった会議場に恐る恐る重役の一人が質問した。

「それは極秘です。」

 ゴードンとの間に交わされたことを極秘とし、波川は、不敵に笑った。

 こうして、使徒サンダルフォンが羽化するまでの浅間山の防衛と、羽化した後のことについての作戦会議は終わった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「ふっっっざけんなってのよ!」

「うわっ!」

 ドカッと壁を蹴ったアスカに、ケンスケが怯んだ。

「ど、どうしたんだよ? 惣流? そんな怒って…。」

「うるさい!」

「ひぃ!」

 再びアスカは、壁を蹴った。

 アスカが怒っている理由。それは、前回の醜態もあるが、今回の使徒サンダルフォンの羽化までの待機命令にあった。

 ケンスケは、まだ詳しくは知らないが、何年もエヴァンゲリオンのパイロットになるべく訓練を続けてきたアスカには今回の使徒のことと、ネルフの考えが地球防衛軍から却下されたことなどが伝えられている。

 前回の使徒との戦いでネルフの名誉挽回もかねて奮戦するつもりだったが、あっさりと敗退してしまったこと、そして使徒を地球防衛軍(機龍フィア)が倒してしまったことは後になって聞いた。使徒イスラフェルからの攻撃で気絶してしまったアスカは、あのゴジラに似た怪獣型ロボットに使徒の首級を奪われたことで、ゲンドウから叱られたのも怒りの原因になっている。

「あんたもあんたよ! メガネ!」

「な、なんだよぉ? 僕が何かしたわけ?」

「あんたがもっときっちり戦ってればあんな醜態さらして終わらずに済んだっての! 前回の責任はあんたにもあるわ! それ分かってるわけ!?」

「僕はまだチルドレンになって日が浅いんだぞ? そんな上手く立ち回れな…。」

「あんたさぁ…、駄々こねて訓練拒否ってるらしいわね?」

「ギクッ! なんでそれを…。」

「あんたねぇ! エヴァのチルドレンになるってことは、軍人として徴兵されたってことよ!? まさかゲームみたいに選択、ポチっ、ハイ、ステータス上昇! …なんて軽々しく考えてたんじゃないでしょうねぇ?」

「う…うぅぅ…。」

「ばっかじゃないの! これは現実よ! ゲームやアニメじゃないんだから痛みも苦しみもあるわ! 苦しみを伴わない訓練なんてないのよ! シンクロ率もギリギリだってのに……。」

「ぼ、僕だって…、好き好んでチルドレンになったわけじゃ…!」

「ミサトから聞いてるわよ。あんた更生施設の檻から出して貰えるって聞いただけで、すぐに承諾したらしいわね?」

「な…っ!」

「ホント、馬鹿! こんな使えない奴が同じチルドレンだなんて思いたくないわ!」

「そこまで言うことないだろ! 僕だって更生施設行きにならなきゃちゃんと考えて判を押したさ!」

「特別更生施設行きになるほどの悪やっておいて、よくもそんなこと言えるわね? どーせ檻の中の節制された空間に早々に根を上げたんでしょうが。そんな根性無しで、ちゃんと考えるですって? 現実と非現実の区別もできないあんたはきっと考え無しにホイホイ判を押したでしょうよ。」

「悪って言ったって…、ただ避難民からちょっと出ただけ…。」

「盗撮、盗聴、軍事機密の漏洩……。あたしが聞いたのはそういう罪よ。」

「あ、あれは、小遣いと将来のジャーナリストになるための知る権利って奴で…。」

「気持ち悪い。」

「はあ!?」

「あんたの盗撮被害者があたしと同い年とか年が近い子だって聞いたときの感想よ。ホント、少しで良いから役に立ってから死んで欲しいって思ったわ。」

「そ、そんな…ただ写真に撮っただけで…。」

「じゃあ、今からあんたの盗撮写真を世間にばらまいてやるわ。」

「やめろよ! そんなこと! 人権侵が…、あっ。」

 ケンスケは、言いかけてハッとした。それを見たアスカは、心底呆れたとばかりにため息を吐いた。

「そういうことよ。分かったかしら? ところで、聞くところによると、あんたに盗撮されて写真を売られたせいで、心身症を患っちゃった子もいるらしいわよ? ジャーナリストって、罪もない女の子を傷つける仕事だったかしら?」

「う…。」

「そういうことだから、ちょっとでもいいから役に立ってから、死んでよね?」

 アスカから侮蔑の視線と笑みを向けられ、ブルブルと震えるケンスケは、アスカが憂さ晴らししてスッキリして去って行ってもその場に残っていたのだった。

 

 

 

 そうしてネルフ側、特にエヴァンゲリオンのパイロットのチルドレン達は、最悪なコンディションで使徒サンダルフォン防衛作戦に挑むこととなる。

 

 

 

 

 

 




ツムグの機龍フィア搭乗をよく思わない者達も多いけど、現状機龍フィアを最大限に扱えるのはツムグだけなんです。


アスカとケンスケの仲違い。

アスカは、自分が使徒を倒せず、しかも犬●家状態にされたという醜態と、その敗北についての責任をゲンドウに怒られてストレスが溜まり、ケンスケにやたらめったら当たりました。
果たしてケンスケは、どうなるのか……。

ネルフ側(チルドレン達)は、最悪の状態でサンダルフォン防衛作戦に挑むことになります。


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第十一話  敵(使徒)を守るための戦い!?

サンダルフォン編、その2。


ほぼコピーペーストしました。


またもエヴァンゲリオンの出番が無い……!


サンダルフォンは、原作でもマグマに潜航している弐号機が戦ってたけど、リアル時間で見てたけど描写がいまいち分からなかったからなぁ…。これ以外の展開が思い付きませんでした。


 

 浅間山に地球防衛軍の陣営が張られるまで実に早かった。伊達に地球防衛軍という大層な名を名乗る組織だけのことはある。むしろこれぐらいできなければゴジラを封印する前やセカンドインパクトが起こるまで人類の存亡をかけて戦ってはいけなかった。

 しらさぎにぶら下げられているのではなく、地上で待機状態の機龍フィアの頭の上で、椎堂ツムグは、専用のパイロットスーツを身につけた状態で寝転がり、退屈そうに欠伸をしていた。

 100メートルのゴジラと同等の体格を持つ機龍フィアの上からは地上で忙しなく働いている地球防衛軍の面々の姿を眺めることができる。

 今回の作戦が作戦なので経験が少ない者達はもちろん、ベテランですら焦りの色を浮かべている。

 敵(使徒)を倒すために、敵(ゴジラ)から守る。

 しかも今回の使徒は、マグマの深部で卵の状態で羽化を待っている状態だ。

 羽化した瞬間、他の使徒のように(ガギエルは除外)第三新東京を目指すはずなので、そこをゴジラか機龍フィアに殲滅させる。

 それからゴジラと応戦するというのが今回の作戦だ。

 ツムグは、腰のあたりをボリボリとかいて、横になって寝転がっている。その姿は奇妙なパイロットスーツを身につけてなければ、ただのおっさんだ。ツムグの外見は若いのだが、中身は60歳を超えてるので年相応になるのも仕方ないのかもしれない。

 そうしてツムグが退屈していると、ふいにツムグは、がばりと起き上がり、東京湾の方角を見た。

「ほんと……、ゴジラさんの邪魔ばっかりしてごめんね。ゴジラさんにしてみれば、日本中の火山が噴火してたくさんの被害が出て、日本って国の機能が止まれば万々歳だろうけど、俺としては日本を壊すわけにはいかないからさぁ。」

 ツムグは、自分の感知できる範囲に入ったゴジラに向かってそう呟いた。

 そしてしばらくしてく、ゴジラが現れたことを示す警報音が浅間山の周りにしかれた陣営に響き渡り、準備のために来ていた非戦闘部隊が大急ぎで現場から離れていった。

 

 

 東京湾から上陸し、第三新東京を無視して浅間山へ真っ直ぐ突き進むゴジラが、浅間山に陣を構えている地球防衛軍を挑発するように雄叫びをあげた。

 浅間山へゆっくりと向かって来るゴジラの前に、機龍フィアが立ちはだかった。

「頼むから早く羽化してよ…、使徒ちゃん…。」

 機龍フィアの操縦席でツムグは、そう呟いた。

 

 浅間山のマグマの中にいる使徒は、まだ動かない。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 地上には、エヴァンゲリオン弐号機と四号機も待機している。

 使徒が殻を破って出てきた時に戦えるように備えているのだ。

 なお、出撃までにすったもんだあった。というのもケンスケのシンクロ率が安定しなかったのだ。

 地球防衛軍にこれ以上手柄を取られるの良しとしないネルフ側は、アスカが早くしろとキレるし、ケンスケを更生施設に逆戻りさせるぞと脅したり、リツコが頑張って落ち着かせたりと大変であった。なんとか起動する水準までシンクロ率を安定させ、やっとこさ出撃したときには地球防衛軍の陣は完成していた。

 アスカは、あんたが遅いからよ!っとぶちくさ文句言っていたが、リツコがこれだけ速いのはネルフでも難しいとコメント。アスカは、それを聞いてばつが悪そうにしたが謝罪はしなかった。

 ところでケンスケは、浅間山ではなく、離れた場所にある地球防衛軍の防衛陣営の方を見てウズウズしていた。ケンスケが見ているのは、機龍フィアの上の方や斜め上の方で浮遊している特殊戦闘機だ。

「スーパーX2だ…!」

 それは地球防衛軍関連の資料の本にしか掲載されていなかった、地球防衛軍の兵器だ。

 スーパーX2は、ファイヤーミラーという武装を持ち、これはゴジラの放射熱線を吸収して反射攻撃を行う対ゴジラ用に開発された兵器だ。

 ビオランテの一件の時に初出動し、ゴジラを痛めつけたが、熱線を吸収反射を繰り返し過ぎたため、ファイヤーミラーの中枢の大事な部分が熱でやられ、撃墜されてしまった苦い歴史がある。

 しかしそういった苦い歴史をバネにして戦ってきたのが地球防衛軍だ。

 ケンスケが、図書館の資料でしか見たことがなかったスーパーX2に興奮していると、低迷していたシンクロ率が跳ね上がったりしていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 浅間山からは見えない遠くの位置に待機しているのは、轟天号。

 修理が終わり、“保険”のために待機しているのである。

「どうだ、何か動きはあったか?」

「現在、機龍フィアがゴジラと戦闘を開始。浅間山の深部にいる使徒に、変化はありません。」

「ったく、使徒ってのは、ある意味怪獣より面倒な奴らだぜ。」

 ゴードンは、そうぼやいた。

 ゴジラと他の怪獣との戦闘の経験がある超ベテランのゴードンも、使徒の特殊性に頭痛を感じていた。

 何の前触れもなく現れ、なぜか第三新東京に来る(ガキエルは除外)、そして個性豊かすぎる姿形。

 ATフィールドというエネルギーシールドもあるが、色んな意味である意味怪獣より厄介な敵だ。

 数が決まっているのが唯一の救いかもしれないが、こうも個性的な使徒が次々に現れると、対応が大変だ。

 まあ、使徒を殺すのは大抵はゴジラで、使徒イスラフェルを殺したのは機龍フィアなので機龍フィアも使徒を殺せることが証明された。

 今後、ゴジラだけに使徒を殺すのを任せるのではなく、隙あらば機龍フィアで使徒を撃退することになる。

 イスラフェルのように分離したりできるタイプが現れた場合、その方が使徒の殲滅が早く終わるだろうから。

「使徒の様子はどうだ?」

「いいえ。変化はありません。」

「……まさか、羽化する気がないなんてことは、ないよな?」

 ゴードンの言葉に船員達が一斉にゴードンの方を見た。

「火山越しとはいえ、ゴジラと機龍フィアが待ち構えてんだ。わざわざ殺されに行くようなマネをするとは思えねぇ。保険をかけといて正解だったかもな。」

 ゴードンは、頬杖をついてにやりと笑った。

 轟天号の兵器管制担当に復帰した尾崎は、ゴードンの言葉に息を飲んだ。

 

 その時、轟天号から見ることができる浅間山の方から爆発炎上する炎と煙があがった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 機龍フィアの後方で、量産されたスーパーX2の一機が地面に墜落した。

 

 そのスーパーX2の改良版で、かつネルフに回されてた莫大な資金が地球防衛軍に回ってきたことで量産体制が整い数機のスーパーX2が今浅間山をゴジラの熱線から守るために出動していた。

 その内の一機が撃墜された。機龍フィアの肩越しにゴジラが吐いた“通常”熱線をファイヤーミラーで受け止めた途端、爆発炎上して墜落した。

 セカンドインパクトを乗り越えてパワーアップしたゴジラの熱線のデータをもとに改造されていたのだが、予想はいつだって裏切られるものである。特にゴジラに関しては特にである。

「あ、これ、ダメなやつだ。」

 ゴジラとぶつかり稽古みたいに押し合いへし合いしていた機龍フィアに乗るツムグは、ゴジラが隙をついて吐いた通常熱線で量産型のスーパーX2が撃墜されたのを見て、そう言った。

「ゴジラさん、スーパーX2は、高いんだから勘弁してよ~。」

 なぜならファイヤーミラーには、ダイヤモンドが使われているからだ。(自然界のダイヤモンドより固い合成ダイヤモンドだが)

 しかしだからといって手加減してくれるゴジラじゃない。南極に封印される前も合わせれば、もう目も当てられない損害を出しまくっているのだ、今更である。

「機龍フィアは、もっと高いけどね。」

 開発費を比較されば機龍フィアの方が高い。だがエヴァンゲリオンの開発費の半分にも満たない。安くて高性能が技術大国日本の神髄である。

 ツムグは、浅間山からゴジラを遠ざけるためにゴジラに迫るが、ゴジラは、絶妙な距離を保ちながら、まるでこの状況を楽しんでいるように今までと違って積極的に攻撃してこない。

 そして隙をついて熱線を吐き、機龍フィアに当たらないよう確実にスーパーX2を撃墜していく。

『何をやっているんだ、椎堂ツムグ! もたもたするな!』

「分かってるよ。でもゴジラさんが面白がってて…。ねえ、まだ使徒は孵化しない?」

『まだだ! 羽化する前兆もない。いいか、椎堂ツムグ! これ以上スーパーX2を犠牲にするな!』

「分かってるってば、もう…、ゴジラさん、勘弁してよ…。今まで散々痛めつけちゃったのは悪かったと思ってるんだから…。」

 椎堂ツムグは、珍しく困ってしまっていた。

「…もしかして、使徒はこれを狙ってわざと羽化しないでいる? うわっ…、どうしよ。機龍フィアじゃ、マグマの潜航はさすがに…、やろうと思えばできるけど…。かといってメーサー砲で火山を…、って、できるかぁ! 波川ちゃんに怒られちゃうじゃん!」

 ツムグは、つい頭に浮かんだ可能性にヘルメットで覆われた頭を抱えた。

 頭に、そして体全体の神経を駆け回る”痛み”のような感覚に汗が伝う。

「この…感覚は? ……ああ、そうか、組み込んだのか…、スーパーX2に…。」

 ツムグは、頭痛を推して操縦桿を握り直した。

 機龍フィアの中でツムグが困っているのを知ってか知らずか、ゴジラはグルル…っと喉を鳴らし機嫌が良さそうに尻尾を振った。

 

 

 

 

 

 

「艦長、浅間山の陣がかなり追い込まれているようです!」

「スーパーX2が、マーク4まで四機が撃墜されました。」

「今のゴジラの熱線は、改良型のファイヤーミラーで防ぎきれなかったか!」

 報告を受けて副艦長が悔しさを露わにし拳を握った。

「使徒はまだ孵化しないのか!」

「まだ反応はありません!」

「はあ…、やっぱりか。奴ははなからこうなるように俺達を誘い込みやがったんだ。」

「ま、まさか、艦長…、使徒はまだ羽化する前の幼体なのですよ?」

「エヴァンゲリオンを輸送する途中で出たあの魚みたいな使徒もそうだが、奴らは見かけ以上に相当頭がいい。どんな姿形であろうとな。マグマの中の蛹も俺達とゴジラを潰し合わせるエサに自分から名乗り出たんだろうな。」

「では、艦長! 使徒は、自分ごと火山を吹き飛ばさせて日本をメチャクチャにする代償に、彼らが狙っているネルフ本部に打撃を与えるつもりでいると!?」

「可能性は十分ある。」

「そんな…。」

 兵器管制のシステムを司る座席に座っている尾崎がたまらずそう言った。

 操縦席に座る風間も腕組をして大きく舌打ちをした。

 船員達に凄まじい不安と焦りの色が見え始めた時、ゴードンが帽子を被りなおして命令を下した。

 

「轟天号発進。地下に潜行して深さ1780メートル付近まで掘り進め!」

 

 ゴードンが波川の許可を取って用意していた保険が使われる時が来た。

 轟天号は、浮遊するとドリルを高速回転させて地面に突っ込み、凄まじい速度で地下を掘り進んでいった。

 

 

 

 ゴジラが熱線を吐くタイミングを見抜き、やっと隙を突かれずに熱線を吐くのを邪魔できるようなったツムグだが、背後のスーパーX2は、もう半分しか残ってない。

 ファイヤーミラーが使えないと分かり、機体を犠牲にして熱線を浅間山に当たらないようにするしかないスーパーX2は、退却することができない。

 まさに捨て身の防衛である。

 量産型スーパーX2は、無人機である。オリジナルのスーパーX2も無人機であった。乗員を守るため、そして各種データ取るためである。

 ところがこの量産型スーパーX2には、新たな戦力強化と開発を目的に試験的に機龍フィアと同じツムグの遺伝子から作られたDNAコンピュータが積んであった。

 ゴジラに対する彼にしかない独自の共感能力を持ち、なおかつ本人が機龍フィアを双子の兄弟のようなものだと認識しているのもあり、同一のDNAを持つコンピュータが破壊されるたびに“痛み”によく似た衝撃が嫌でも伝わってきていた。

 

 技術開発部は、間違いを犯してしまったのだ。

 ツムグのDNAコンピュータの量産がどんな結果をもたらすのかを。

 

「……ふざけんなよ。使徒ちゃんよぉ…。お仕置きが必要だと思わない? ねえ、ゴジラさん?」

 ツムグは、口元をひくひくさせた笑みを浮かべながら目の前のゴジラに向かってそう問いかけた。

 マイペースな彼には珍しく、かなり感情がぶれていた。

 ヘルメットと全身を覆い尽くす特殊スーツ越しに青白いゴジラの背びれに輝きに似た発光を放ち、彼の脳と接続されているDNAコンピュータが、その感情のぶれに反応してエラーを示す文字を、ヘルメットに映る文字やモニターに出していた。

 ツムグの心の動きによる危険信号が司令部及び科学・技術部に伝達されるようなっているため、基地ではツムグの異変に顔面蒼白なる者が出始めていた。

 伝えられる危険信号とは、ツムグの精神がゴジラの怒りと破壊の権化のような狂暴な精神になりかけているという内容だ。

「そうだよね? お仕置きは、必要だよね。ありがとう、ゴジラさん。ほんと気が合うよね。当り前か。だって俺、ゴジラさんの細胞を持ってるんだもん。人間ってさ、ほんと面倒くさい時が多いよ。今だってそうだ。ゴジラさんがやろうとしてるみたいに、火山ごと使徒を殺せるのにさぁ。他の自国民や周りの国のためにできないって言うんだ。あのさ、俺…、どこうか? ゴジラさんのやりたいようにぶっ飛ばしてスッキリさせる?」

 ツムグの目が金色に光ってはいるが、そこにゴジラの目に宿るものと似た狂暴な炎が揺らめき始めていた。そして物騒なことを喋りはじめていた。

 ツムグは、動きのない使徒への怒りからゴジラに精神を引きずられていた。

 地球防衛軍が彼を保護した時から危惧してきた最悪の事態が起こりつつあるのだ。

 ツムグの監視と世話をしている科学部門が集まって、ツムグの脳や心臓に埋め込まれている自爆装置を作動させるスイッチを押すタイミングを図っていた。

 だがしかし、ツムグを失うことは地球防衛軍最強の兵器である機龍フィアを失うことに繋がる。またゴジラを感知できる最強のセンサーでもあり、非公式ではあるが第三新東京になる前の東京でメルトダウン寸前だったゴジラを元に戻し、南極にゴジラを封印した時のようにゴジラを追い詰める切り札にもなった貴重な存在だ。

 しかしツムグ以外にG細胞完全適応者が発見されていない、またそれに匹敵するものもない以上、ツムグを死なせる(死に至りそうな重傷を負わせる)のは、戸惑われた。

 ツムグを危険視する反対派達が急かせるが、波川らのようにツムグを失うリスクを危惧する者達が必死で止めている状態だ。

 波川は、この非常事態の中、保険を託したゴードンのことを思った。

 連絡は入っていないが、すでに動いているはずである。

 波川は、汗を垂らしながら歯を食いしばり、ゴードンが早くこの事態を好転させてくれることを願うことしかできなかった。

 

 

 そして、彼女の願いは、それほどかからず叶うこととなった。

 

 

 浅間山を観測していた基地の科学部門と浅間山の方で観測を行っていた部隊からの緊急伝達で、浅間山の火口から胴長な平たい魚みたいな姿をした使徒が飛び出てきたのだ。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 時は、少し遡り。地中を掘り進む轟天号は、予定の地点で止まった。

「地熱で機体が熱されていますが、今のところ異常はありません!」

「四号機の輸送あとで対熱性と冷却装置を改良したからな。」

 浅間山の活動で熱された地下の地熱は凄まじいが、改良されたこともありマグマに直接ダイブするよりはマシだ。

「使徒の位置はどうだ?」

「観測された深度1780メートル地点からほとんど変わっていません。」

「よし。尾崎! 蛹の中で寝こけてるお寝坊さんを冷やして、たたき起こしてやりな!」

「了解! メーサー砲発射!」

 轟天号のドリルの先端から、極太の絶対零度砲が発射された。

 メーサー砲は、地熱で熱されている地中の中で一切威力を殺されことなく突き進み、やがて浅間山のマグマの中に到達して、目標であった使徒の蛹に着弾した。

 その瞬間、蛹の周りのマグマが急速に温度を失い、マグマの中にちょっとの間であるが氷が発生するという現象が起こった。

 氷がマグマの熱で溶け、固まったマグマも溶けた後、蛹に大きな変化起こり、そして蛹の中から長い胴体をくねらせる使徒が現れ、一目散に浅間山の火口へ向かって上昇して行った。

 火口から飛び出した使徒は、平たくて細長い胴体から平たい大きなヒレを広げ、空へ舞いあがった。

「よし! 全速力で後退し、地上へ戻れ!」

「ラジャー!」

 風間が操縦桿を思いっきり引いて、轟天号をもと来た道から地上へ飛び立たせた。

 中空へ舞い上がった轟天号がまず目にしたのは、浅間山の上のあたりの宙で苦しそうに悶えながら飛行する平たいカレイやヒラメが少し胴長で、細長い腕のようなものがある、エイのような大きなヒレを広げた姿へ変異した使徒サンダルフォンだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 いきなり轟天号の最大の兵器であるメーサー砲で冷やされたため使徒サンダルフォンが蛹から無理やり出てこなければならなくなり、灼熱の中に適応していたサンダルフォンは体が慣れるまで浅間山の上でヒラヒラと舞いながらクネクネと身をよじっていた。

 機龍フィアの顔がそちらに向けられて、中にいるツムグも同じ体勢でポカンッとサンダルフォンを眺めていた。

 ゴジラもゴジラで飛び出してきたサンダルフォンを機龍フィア(に乗ってるツムグ)と一緒にジッと見ていた。

 その間に、怪しくなっていたツムグの目とその心が急速に安定して、ゴジラのそれから遠ざかっていった。接続しているDNAコンピュータもエラーを知らせるのをやめた。

「あ…、保険ってそういうことだったのか。さすがゴードン大佐。ダメだな~、俺ってば。アハハハ、60過ぎてるってのに、何やってたんだろ?」

 ゴードンが轟天号を使って浅間山の中でだんまりを決め込んでいたサンダルフォンを引きづり出すのに成功したことを知ったツムグは、ヘルメットの上から額を押さえ、ケラケラと笑った。

 

 ツムグが元に戻ってくれたことに、基地の司令部では、全員がぐったりしてでかいため息を吐いていた。

 特に波川は、ツムグを殺すのに一番躊躇していただけに一番ぐったりしていた。

 

 やがてサンダルフォンは、温度の変化と殻から出てマグマから出て変態したことに適応し、クネクネするのをやめた。

 変化が終わったからか、体の皮膚は硬質化し、昆虫のような鎧めいたものになっている。こう見るとまるで太古の海に生息していた原始生物の化石にそっくりだ。

 サンダルフォンが体が安定して一息ついていると、浅間山の付近、つまり自分の下の方で自分を見ている黒い巨体と、赤と銀の鉄の塊に気付いて、宙に浮いたまま固まった。飛行状態を維持するのにヒレをヒラヒラと上下させているが。

 使徒の反応は、まさに、あっ、ヤベ…っという感じだ。

 ヒラヒラとヒレを上下させていたサンダルフォンは、少しずつ後退していった。地面に足がついていたなら後退りのそれだ。

 カレイやヒラメみたいに目が片方に偏った位置といい、顔の形がどうなってるのかさっぱりなグロめの形状をしてるのだが、漫画表現なら全身からダラダラ汗をかいているのが見ていて分かるのが不思議だ。

 しかしサンダルフォンの背後には、サンダルフォンを超える巨大な戦艦、轟天号が待ち構えていた。それにまったく気づいてない様子でジリジリと轟天号のドリルに向かって行っている。

 

「……艦長、このまま撃ち落しますか?」

「フン…、こっちの胆を冷やさせてくれた礼だ。たっぷりと後悔させてやる。やれ!」

「メーサー発射!」

 ゴードンから許可を取った尾崎は、メーサーの発射スイッチを押し、轟天号のドリルの先端からついさっきサンダルフォンを蛹から無理やり引っ張り出したメーサー砲を発射した。

 メーサー砲は、無防備なサンダルフォンの背中に命中し、サンダルフォンは、悲痛な甲高い鳴き声をあげながら、宙に浮いたままカチカチに凍った。

 体の芯まで凍り付いたサンダルフォンは、そのまま地面に落下していったが、落下する直前に、放射熱線と、ミサイルやレーザーなどの射撃武器が飛んできてサンダルフォンの体を木端微塵に粉砕して焼き尽くした。

 サンダルフォンを攻撃したのは、ゴジラと機龍フィアだった。どう見ても、たった今、熱線を吐きましたよというのを示す開いた口と、小さな煙を立ち昇らせている突きだした砲門と、可変した機体の一部から出たレーザーの砲門が見えてる。

「ツムグ…。」

 尾崎は困ったように呟いた。

 数秒してゴードンが艦長の席で大笑いし始めた。

「こりゃ傑作だ! こんな共同作業、地球防衛軍ができてから一度だってなかったろうな!! 上層部の間抜け面が目に浮かぶぜ!」

 ゴードンは、ついに腹を抱えて笑い続けた。

 サンダルフォンを殲滅し終えた後、機龍フィアは砲門を閉じ、ゴジラは口を閉めた。

 ゴジラは、一度だけ轟天号の方を見てから、もう用は済んだといわんばかりに背中を向けて海に向かって去って行った。

 

 なんだこのゴジラの潔さは?

 

 ドイツでエヴァンゲリオン量産機の試作機を破壊し、ヨーロッパ諸国の都市で暴れ回った今も昔も変わらぬ暴れん坊があっさり帰った…。

 地球防衛軍側は、量産型のスーパーX2を何機も破壊され損害を受けたが、35年以上も前から遡るゴジラとの戦歴を見ればこんなに被害がなく、さっさとゴジラが帰ったのは夢か幻のような錯覚にさえ思えるほどだ。

 

 

 

「もしかして…、ゴジラは、浅間山ごと使徒を破壊するつもりなんて最初からなかったのかしら?」

 地球防衛軍本部にある科学部門の室内で、白衣を着た音無がそう呟いていた。

 音無のその言葉で、サンダルフォン対策でゴジラに浅間山を熱線で破壊された時の被害もろもろを力説していた責任者が机にゴンッと頭を打ち付けて脱力した。

 しかし音無の言い分だとゴジラの気持ちが分かるツムグがそのことに気付くはずだ。

 危惧されていたゴジラの精神寄りになるという問題が起こりかけたが、彼がゴジラが最初から浅間山を破壊する気がなかったとは言っていなかった。

 つまりゴジラが浅間山を破壊して中にいる使徒を殺す気はあったのは間違いない。

 だが轟天号の介入もあり蛹のサンダルフォンを無理やり火山の中から出すのに成功したため、浅間山を壊す理由がなくなっただけなのだろう。

 現に機龍フィアと共にメーサーでカチカチに凍ったサンダルフォンを殲滅しただけで帰って行った。

 

 35年以上も前から、間に35年ぐらいのブランクはあっても長い間戦ってきた相手だというのに、全然ゴジラの考えていることが分からないものである…。

 ゴジラの気持ちを感じ取れる椎堂ツムグがいてもいなくても、なぜかそれだけは覆しようがないのだから本当に困ったことだ。

 

 

 

 ゴジラが海に帰っていって、浅間山の安全が確認されたあと、地球防衛軍の陣営は撤退した。

 機龍フィアがドッグに戻され、ツムグが降りてきた後、ツムグにはすぐに司令部と科学部門からの質問攻めになった。

 内容は、ゴジラがなぜ今までと違いまるで遊んでいるようにスーパーX2を破壊するだけで積極的に使徒サンダルフォンが潜む浅間山を攻撃しようとしなかったこと。

 そしてサンダルフォンが出てきて、轟天号に凍らされたあと、機龍フィアと協力する形でサンダルフォンを殲滅して、それ以上のことはせずさっさと海に帰って行ったことだ。

 このこのことについて、ツムグはこう語った。

「ゴジラさん、珍しく遊びたいって気分だったみたいでさ…。なんか機嫌良さそうだってんだよね。なんか良いことでもあったのかな? 詳しいことは分かんないけど。」

 なぜか上機嫌だったらしいゴジラ。

 ツムグは、今回に限って感情のぶれが大きかったためゴジラの思考の詳細内容までは分からなかったらしい。

 

 後に分かることだが、この時ゴジラが機嫌がよかったのは、セカンドインパクト後に標的として定めた抹殺対象のエヴァ一機(量産機)を破壊できたのと、久しぶりに派手に大都市で暴れられたのと、上陸した国(ヨーロッパ諸国)の大都市に標的のひとつであるゼーレの手足になっているゼーレに忠実な人間達が多くいてそのほとんどの命を葬ってゼーレを追い詰めて苦しめるのに成功したからだった。

 

 結果として、地球防衛軍は、ゴジラに遊ばれてしまったのだという事実に上層部は頭をかきむしったり、胃薬、頭痛薬を飲んだりと荒れたという。

 また回収された残った量産型スーパーX2の記録と機龍フィアのDNAコンピュータの記録と信号をキャッチした時の記録のデータの照合の結果、試験的に量産型スーパーX2に搭載していた機龍フィアと同じDNAコンピュータを破壊された時の瞬間がツムグの脳に大きなダメージを与えていたことが分かり、これがツムグの暴走寸前になるのを招いたことになる。

 これによりツムグのDNAコンピュータの他の兵器への使用、及び開発は即座に凍結。

 ツムグのDNAコンピュータを機龍フィア以外の兵器搭載と開発を推していた技術部のチームは、上層部に呼び出され、危うくツムグが最悪の敵になる寸前までいってしまった結果について問われたが、こんな結果は予想外だったと答え、改良さえすればツムグ無しで無人機による大幅な戦力増強になると力説したものの、このことでこのチームがツムグの共感能力の強さと、ツムグのDNAコンピュータがツムグにとって心と体の一部みたいに強い繋がりが発生している資料があったのにそれを完全に考慮せず、いや理解せずツムグへ影響を避ける処置を一切していなかったDNAコンピュータを今回浅間山の陣営に出撃させた量産型スーパーX2に搭載させていた事実が浮き彫りになり、ツムグのDNAコンピュータの開発を力説し、なおかつ開発の凍結を解除を願ったチームリーダーが波川をはじめとした上層部の面々からでかい雷を落とされたのは言うまでもない。

 ツムグのDNAコンピュータを他の兵器に使うという許可書に判を押したのは波川だ。しかしその許可を貰いに来た開発チームがツムグの危険性を理解していなかったことを見抜けなかった。彼らにとってツムグは有能な試験パイロットで兵器の材料程度にしかなかったのだ。

 ゴジラに浅間山を破壊させないための重大な作戦の時に起こった痛恨のミスは、そのチームを有していた技術開発部全体の評判を落としただけじゃなく、機龍フィアを兵器として使い続けることとツムグを生かしておくことの危険性による不安を防衛軍全体に広めてしまう爪跡を残してしまった。

 

 

 活火山に潜んでいた使徒サンダルフォンに振り回された今回の戦いは、こうして幕を下ろしたのだった。

 

 なお、地上でほぼ放置状態で待機していたエヴァンゲリオンの2機は、結局なにもできないまま電力と出撃のための労力と費用を掛けただけに終わってしまい、アスカが荒れ、ミサトやゲンドウは約束が違う!っと、地球防衛軍に抗議したが無視されたとか?

 

「へ~。メーサーだけは通るのね?」

 っと、リツコだけは、楽しそうに中継を見ていて分析していた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 一方、ネルフ本部では。

 前に突然謎のシンクロ率上昇と、電力供給も無しに暴れだしたために破壊された顎のジョイントがすでに修復された初号機の目に、怪しく光が灯った。

 

 オ  ニ  イ  チャ  ン

 

 もしドッグに人がいたならその不安定な子供の声を耳にしていただろう。

 残念ながら個人的な理由で初号機に固執するゲンドウも、初号機の異変を知ることはなかった。

 

 

 




コレを書いた当時、スーパーX2が無人だと知らずに上げたため、無人だよっとご指摘を貰った記憶があります。
教えてくださった方、ありがとうございます!


スーパーX2は、量産機ですが、パワーアップしたゴジラに合わせて改良はされています。でも、それ以上に強かったゴジラでした。


メーサー砲がATフィールドを通るというのは捏造ですので。


なお、ケンスケのシンクロ率が悪かったのは前回のアスカからの罵詈雑言のせいです。


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第十二話  風間、ネルフにて

マトリエル編、前。



風間が護衛の仕事でネルフに。



シンジとレイの交流は、いじれなかったのでそのままコピーペーストしました。



 

 浅間山で使徒サンダルフォンが見つかり、火山国の日本への影響を考えて浅間山ごと破壊されまいと命を懸けて陣をしいた。

 ところがゴジラは、轟天号に乗るゴードンの機転で無理やり蛹から出てこなくてはならなくなって火山から飛び出してきたサンダルフォンを機龍フィアと共に殲滅すると、特に暴れることなく潔く海に返ってしまった。

 気を張ったのが馬鹿らしくなるゴジラの気紛れもうそうだが、浅間山を防衛するために出撃していた改良を重ねていたスーパーX2のファイヤーミラーが今のゴジラの熱線に耐えられず何機かを撃ち落された。

 量産型のこのスーパーX2には、地球防衛軍所属の技術開発部でツムグのDNAコンピュータのその他兵器への搭載を推していた開発チームが、ツムグのことを理解しないで搭載した小型のツムグのDNAコンピュータがあり、破壊されるたびにツムグに大きな影響があり、そのせいでツムグが暴走寸前になる事件を引き起こしてしまった。

 開発チームと、DNAコンピュータを応用する開発を許可した上層部の大失態であった。

 DNAコンピュータのその他兵器への応用の開発は凍結。開発チームも解散となり、兵器開発の大幅な見直し、更に技術開発部の評判が悪くなってしまったり、ツムグの処遇について反対派が増えたりと混乱が広がった。

 

 それから何週間もの間、使徒は出現せず、ゴジラも第三新東京に現れることなく、ふとすると緊張感がなくなりそうな平穏な日々が過ぎていっていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 シンジは、なぜ今自分はこういう状況になったのだろうと考えていた。

 天気は快晴。セカンドインパクトの影響で年中夏の日本であるが、今日は実に良い風か吹いている。

 地球防衛軍の基地の庭。正確には違うのかもしれないが、柔らかい芝生の広い敷地がある。

 シートを敷いて、大きな日よけ傘で紫外線と直射日光を避け、バスケットを開けて、そこに入れていた水筒とキュウリと人参と果物の三種類のサンドイッチを広げている。肉類は一切使ってない。ただしバターなどの乳製品はパンに水分が沁みないようにするために使っている。

 シンジの隣には、両手でサンドイッチを持ってもくもくとサンドイッチを食べている綾波レイがいる。

 実は野菜と果物のサンドイッチをリクエストしたのは、レイである。

 ついでにこの庭(たぶん)で一緒に食べようと言い出したのもレイだ。

 昼の食堂で出す日替わりランチのサンドイッチセットを作っていた時、レイから急に言われたのだ。

 基地に庭があるから、お昼の仕事が終わったらそこでシンジが作ったサンドイッチが食べたいと。

 そして肉類は食べられないから肉は無しでと。(あとで理由を聞いたら血の味がするからだそうだ)

 いきなりのことに固まったシンジの返事を待たず、違う仕事に行ってしまったレイに理由を聞くことができず、シンジは、混乱しながらリクエストされた肉なしの野菜と果物のサンドイッチを作り、お弁当を詰めるバスケットにお茶を入れた水筒も用意した。シートと日よけ傘は、レイが用意し(どこから持ってきたんだ?)、そして現在に至る。

 シンジは、緊張のあまりサンドイッチが喉を通らず途方に暮れていた。

 しかしこのままではいけないと、せめて理由だけでもと精いっぱい頑張った。

「あ…、あのさ…。」

「なに?」

 レイは、相変わらず淡々としているが、少し前のように人形のようなものではなく、呑気さを感じさせる。

「な…なんで、僕のこと……、じゃなくて…、えっと……お昼…。」

 頑張るけど中々言葉にならない。

「これ、美味しい。」

「えっ?」

「だって、碇君、料理が上手だって聞いたから…。それに今日のサンドイッチセット美味しそうだったから。」

「えっ? えっ? つまり、僕の作ったサンドイッチが食べたかったから?」

 言われたことを理解できず知らず知らず間抜けな顔になってしまったシンジが聞くと、レイは、こくりと頷いた。

 ここの食堂は、一週間の交代で食堂の職員のまかないを作るのが義務付けられている。義務化された理由は、プロの調理師がなんらかの理由で仕事に来れなかったり、もしも非常時でサバイバル状態に陥った時に腹を壊さず飢えをしのぐための術として簡単ではあるが適切な調理ができるように訓練するためである。ゴジラに始まり、怪獣との死闘を繰り広げてきた地球防衛軍と被災地で食事事情で苦労した一般人達の体験から決められたことであった。

 新人でまだ学生の身であるうえに、特殊な理由で基地に身を置くシンジも漏れずその義務を負わされる。

 自炊経験が幸いし、初めて他人のために作ったシンジのまかない料理は好評で、シンジは他人のために料理を作る楽しさを覚えて食堂で働くことに幸せを感じ、初めはタダで基地においてもらうことに負い目を感じて頼み込んだことだったが、今はここ(M機関の食堂)に来て本当に良かったと思っている。おかげでシンジの調理の腕は食堂で働くプロの調理師に匹敵するほどまでに上達された。

 なのだが、まさか、同い年の、それもとっても綺麗で可愛い女の子に料理をリクエストされて、更に一緒に食べようと誘われるなんてシンジは、夢にも思わなかった。

 だが理由を聞いてみれば、実はシンジの料理が美味しいと聞いたから食べてみたかったのと、今日の日替わりランチメニューのサンドイッチが美味しそうだったからだったということが分かり、シンジは、そのまま横に倒れそうになるほど脱力した。(レイの方に倒れてない)

 レイはまだシンジのまかないを食べたことがないが、来週はシンジの担当なので食べれたのに…。予定表のカレンダーにもしっかりそのことが記されているのに我慢できなかったのか?

 しかし…、しかしである。

 二人は、多感なお年頃の少女と少年だ。こんなどう考えても勘違いするシュチュエーションになるような形で頼まなくたっていいだろうに。

 残念なことにレイは、その出生と育った環境によりそういう知識がまったくと言っていいほどないので、全然気付いてない。だから無意識にこんなことになってしまったのだ。

 シンジは、レイが普通の人間よりそういう常識的な部分が欠けているのを聞いていたし、食堂で一緒に働いていてもレイが食べるこという行為がただ体を維持するための義務としか認識してないなどの問題に直面したりしていて食事の大切さを食堂のおばちゃん達と一緒に教えたのは記憶に新しい。

 体は大きいけれど、これではまるで自分より年下の子供を相手にしているようだとシンジは思った。

 そのことをすっかり忘れて二人きりでお昼を食べようと誘われて、レイを普通に異性として意識して健全な男の子として反応してしまったのことに、シンジは脱力し、罪悪感と共に恥ずかしくて思わず体操座りになって顔を隠した。

「碇君、首と耳も赤い。熱があるの?」

「ちが…。ううっ…。」

 シンジは、レイに淡々と指摘されて、ますます恥ずかしくなって、半泣きなった。

 

 

 

「がんばれ、少年! 近いうちに報われるから!」

 

 庭を見ることができる、基地の建物の隙間から、椎堂ツムグが、こっそり覗いていて、聞こえない音量でシンジを応援した。

 

「その子だっておまえのことちゃんと意識はしてる。ただまだ自覚がないだけだ。性に目覚めてないだけだ。頭は良いからそう遠くない未来に報われるって! ……ん?」

 

 シンジを応援していたツムグだったが、ふいに何かに気が付き、後ろを向いて、宙を見上げた。

 そして不愉快そうに眉を寄せた。

 

「……おいおい。どうなってんだ? あいつ…、意外に粘着質だな。絶対、尾崎には近づけさせないぞ。」

 

 ツムグは、誰かに向かってそう言うと、その場から姿を消した。

 ツムグが去った後、レイがシンジの腹の虫の音を聞いて、シンジお手製のサンドイッチを食べさせようとシンジの気も知らず、そして可愛くて綺麗な女の子が思いっきり近寄ったら普通の男の子がどんな気持ちになるかも知らずに、サンドイッチを片手に迫ってシンジを余計に赤面させてゆでダコみたいにさせるのだった。

 完全に混乱してるシンジをよそに、レイは、食事というのはかつて自分が住んでいた殺風景なマンションの一室でひとりで食べるより、今日のようないい天気の日に誰かと一緒に食べる方が美味しいのだということを理解し、シンジにまた頼もうと呑気に無邪気に考えていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 ネルフ本部の一角にて。

 

 

 黒いつなぎのジャンプスーツにプロテクターという特徴的な地球防衛軍のミュータント部隊の戦闘服を纏った青年がいた。

 名を、風間カツノリ。

 風間は、頭を狙って高く蹴り上げられた細く白い足を左腕で防いで、変なモノを見る目で少女を見た。

「なんのつもりだ?」

「黙って蹴られなさいよ!」

「急所(頭)狙っておいてよくも言えるな?」

「はあ!」

「ふんっ。」

「キャア!」

 受け止められた足を素早く降ろし、顔を狙ってパンチを繰り出すが、その手首を逆に掴まれ、そのまま背中に腕を回され回り込まれて床に取り押さえられた。

「ぐっ、くっ…!? なんて力…、これがミュータント…!?」

「おい、責任者。ってか、保護者はいねーのか?」

「アスカ! ちょっと、その手を離しなさい!」

「コイツが先に手を出してきたんだ。離せばまた襲ってくる。」

 駆けつけたミサトに風間が苛立ちながら言った。

「アスカ…、どうしてそんなことを? まさか八つ当たり?」

「うるさい!」

「はあ…、チルドレンってのは、教育がなってねぇな。」

「なんですって! いっ…!?」

 怒るアスカの腕を捻り上げ、風間はため息を吐いた。

「いくら軍人とはいえ、いきなり共同戦線相手の組織の人間に襲いかかるか? お前の行動ひとつでせっかくの共同戦線が破られて敵対する可能性も考えないか?」

「……っ、今まで散々コッチのこと蔑ろにしておいて、よくも言えるわよ!」

「それは否定できないな。」

 風間はそう返すと、アスカを離した。

 アスカは腕をさすりながらギッと風間を睨むが、風間はどこ吹く風だ。それを見てカッとなるアスカをミサトが宥める。

「お願い抑えて、アスカ。」

「でも、ミサト!」

「ここで貴女が問題を起こして、地球防衛軍との共同戦線が打ち切られたら、ネルフは終わりよ。そうなればどれだけの人間が路頭に迷うか…。」

「えっ?」

 アスカは、思わずミサトを見た。

 風間は、その間にさっさとその場から離れた。

 風間がここに来たのは、ネルフに回している資金の使い道をハッキリさせるための監査官の護衛のためだ。あと何人か仲間が来ている。

 ところで、アスカとの一連の流れを見られていたわけだが。

「容赦ないっすね。」

「子供だとかどーとかじゃない。仮にも軍位を持った軍人だからな。」

「はは…手厳しいな。風間少尉は。」

 などと話をしながら通路の向こうへ行ってしまった。

「共同戦線が切れたら、ネルフが終わるってどういうことよ?」

「言葉のままよ。今や国連からの資金は、地球防衛軍によって管理されているの。その気になれば資金を全部打ち切ってネルフを潰すなんて造作でもないわ。」

「なんでそんな状態に!?」

「司令のミスよ…。」

「えっ?」

「早い話が共同戦線の書類をよく読まずに二つ返事で承諾しちゃった結果ね。その結果…、喉笛(資金)を咬まれた状態になっちゃったわけ。……エヴァでの戦績が良ければ回して貰える資金も変わっていたでしょうけど。」

「なにそれ…。それじゃあチルドレンのせいだっていうの!?」

「そこまでは言ってないわ。作戦本部の責任よ。そして何より司令の早とちりが原因だから。」

「でもさっき戦績が良ければって!」

「…高望みはするのは良くないんだけど……。」

「やっぱりあたし達が悪いって言いたいんじゃない!」

「アスカ!」

 アスカは、ミサトを振り払い、走って行ってしまった。

 

 

 

 

「……あの子には悪いけど、状況が良くなることはこの先ないしな。」

 ツムグは、通路の分かれ道に身を隠しながら走り去っていったアスカを見ていた。

「さてと…、初号機、初号機。」

 そう呟きながら暗い道の先へと進んでいった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 風間がネルフに来たのは、地球防衛軍からネルフに行くよう命令された監査官の護衛のためだ。

 護衛にあたっているのは風間だけではない。風間の仲間のM機関所属のミュータント兵士も何人もいる。

 風間は、その護衛として派遣されたミュータント兵士達の指揮を執る立場である。

 護衛対象の監査官は、ネルフ総司令官ゲンドウと副司令の冬月がいる指令室に籠っている。でかくてごっつい旅行用カバンに書類を詰めていたのだから、ねっちねち責めているに違いない。

 監査官の身に何かあってもすぐ対応できるよう仲間を配置し、風間はネルフ本部を見て回っていた。

 いまやほぼ全ての権限を失い、ゴジラを誘き寄せるためのエサ扱い状態のネルフだが、マッピングなど情報を頭に叩き込んで置くに越したことはない。もしも使徒が侵入した場合の対応に即座に備えられるから、これも仕事の一環だ。

 ネルフ本部のマッピングは勿論だが、風間は無駄に広大で入り組んでいるネルフ本部の中で、ある物を探していた。

 

 探し物は、エヴァンゲリオンである。

 

 尾崎と音無からエヴァンゲリオンが使徒から作られたもので、幼い子供の親を材料にしている疑いがあること。そして尾崎がシンジの心にダイブした時に仕入れた情報からサードインパクトとジンルイホカンケイカクなる謎の災厄の鍵である可能性があるため、その真実を確かめるためである。

 しかし、さっきからずっと歩き回っているのだが、一向にエヴァンゲリオンのところに辿り着けずにいる。

 決して方向音痴ではない。むしろ持ち前の特殊能力もあって一度通った場所はまるでゲームや本に挟む栞のように頭に記録している。

 権限を奪われる前に機密としていたのでそう簡単には見つからないようにしているのだろう。世界最高峰の技術力と情報網を持っていたネルフがミュータントの特殊能力で機密が暴かれるのを防ぐ対策をしていても不思議ではない。

 M機関の設立は、ミュータントの社会的地位の保証と同時に、犯罪に走るミュータントを無力化させる技術を編み出すことになるのだ。

 ネルフにもしっかり、その技術が使われていることに、風間は、舌打ちした。

 

「あら? お仕事はいいのかしら? M機関の方。」

 

 プシュッと音が鳴って、通路沿いにあった扉の一つから白衣をまとった金髪の女性が出てきた。

 その容姿を見て、風間はすぐにこの女性が誰なのか思い出した。確か地球防衛軍がまとめたネルフの要人リストで一番重要な存在だと明記されていた…。

「赤木リツコ…。」

「まあ、私のことをご存知なの? 光栄だわ。」

 リツコは、悪戯っぽく微笑んだ。その美しく妖艶な表情に、風間は思わずたじろいた。

 年頃は、ミサトと同じぐらいなのだが、随分と雰囲気が違う。同じ女なのにこうも差が出るのかと風間は無意識に感心した。

「何か困った事でも? 私でよければ力になりますわよ。」

「……エヴァンゲリオンは、どこにある?」

 大人の女性の雰囲気が前面に出ているリツコが年下の風間にそう言うと、風間は、遠慮なく言った。

 するとリツコの雰囲気が変わった。表情も硬くなり、風間に向ける眼差しが鋭くなった。

「理由を聞かせてもらえるかしら?」

「確認したいことがある。見せてもらえるだけでいい。」

「…分かったわ。案内するからついてきて。」

 リツコは、背中を向けて歩き出し、風間はその後を追った。

 

 

 

 リツコと風間が通路の先へ進んでいった後、二人の後方にある通路の曲がり角から、そ~っと椎堂ツムグが顔を出した。

 

「風間くんは、仕事ついでの調査か…。尾崎みたいにお人好しじゃないから適任かも。あの方向…、赤木博士が見せるのは、参号機か…。零は暴走した後のまま放置だし、初号機は………、あっ! 忘れてた、俺の目的は、初号機だった! 俺の馬鹿! 機龍フィアのDNAコンピュータの接続で頭がボケたかな? まっ、いっか。急ご。」

 などと独り言を口走り地団太を踏んで、大急ぎで違う方向へ走って行った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 リツコに案内されたエヴァンゲリオンの格納庫のハンガーにかかっている黒っぽいエヴァンゲリオン参号機の頭部を、風間は見上げた。エヴァンゲリオンは、LCLに漬かっているので頭部と肩の部分しか見えない。エヴァンゲリオンの全長は80メートルもあるので見えてる部分だけで十分すぎるほどでかい。

「これがエヴァンゲリオン・参号機よ。」

「さんごうき…。」

 見た目は、黒っぽい色を抜けば、角がない初号機といった感じだ。口の形や頭の造形は、初号機によく似ている。

 だが、形だけは似ていも、何か根本的な部分が初号機とは全く違うと風間は思った。

「もしかして他の機体を希望してたかしら?」

「いや、十分だ。エヴァンゲリオンを一度しっかり見ておきたかっただけだからな。」

「そう…。そういえば、あなた達は、第三使徒襲撃の時、初号機によじ登ってたわね。」

「パイロットを保護しろと命令されたからだ。」

「そう。あの子は元気?」

「それを聞いてどうする?」

「ただ気になっただけよ。…あんな方法で無理やり乗せたから。」

「…ふぅん。自覚はあったのか。」

 シンジに初号機に乗るよう誘導したことに少なからず罪悪感を持っているのを感じ取った風間は、目を細めてリツコの横顔を見た。

「レイのことも保護してるんでしょ? あの子、免疫が弱いから定期的な処方が必要だったんだけど、地球防衛軍の医療技術なら問題ないわね。」

「単刀直入に聞かせてもらうぞ。」

 レイのことで少し感傷にふけるリツコに、風間がきつい口調で言った。

「エヴァンゲリオンは、使徒なのか?」

 風間の言葉に、リツコは答えなかった。それを風間は肯定と受け取った。

「…なるほどな。じゃあ、俺はそろそろ仕事に戻る。俺の要求に応えてくれたことには、感謝するぞ。」

「これぐらいなんでもないことよ。ねえ、言うこと聞いてあげたんだし、お礼に私の我儘聞いてもらえるかしら?」

「……なんだ?」

 急にニコニコ笑いだすリツコに、風間は思わず一歩後ずさった。

 

 数秒後、『いでぇ!』っという風間の短い悲鳴があがった。

 

 

 

 

 風間と別れたリツコは、それはそれはご機嫌な様子で研究室に戻ってきた。

 戻ってきて数刻せず、研究室の扉が開き、オペレーターのマヤが現れた。

「あの先輩、頼まれてた書類が……、あの、随分ご機嫌ですね? 何かあったんですか?」

「ええ。いい退屈しのぎができたの。ウフフフ。」

 リツコは、マヤから書類を受け取り、マヤが退室した後、白衣のポケットから、シャーレに入った毛髪を宙に持ち上げて顔を和ませた。

 この毛髪は、風間の髪の毛である。

「ウフっ、ミュータントの細胞に触れる機会が巡ってこなかったから大収穫だわ。それもピチピチの若いイケメン現役ミュータント兵士。最高だわ…!」

 リツコは、風間の髪の毛が入ったシャーレに頬ずりしそうなほど顔を緩ませて興奮していた。

 

 

 

「風間…、どんまい。」

 研究所の外の扉の横に立ってるツムグが、両手を合わせて風間を憐れんだ。

 ツムグは、この数秒後にまた目的を忘れていたことを思い出して、大慌てで移動したのだった。

 

 

 

 尾崎と音無の協力者として秘密裏にエヴァンゲリオンの視察をして、監査官の護衛の仕事に戻った風間。

 地球防衛軍の基地で異変を感じとって駆けつけてきた椎堂ツムグ。

 それぞれがそれぞれの理由で奔走している間に、異変そのものが動いていた。

 ネルフの中枢であるMAGIをリツコに悟られず支配し、本部全体に仕掛けられている対ミュータントの仕掛けを巧妙に操り、風間らに気付かれず行動した。

 ソレは、怪獣王の細胞を持つ椎堂ツムグの本能と直感をも騙すため、ネルフ本部の地下深くに隠された己に近いモノを利用した。

 そうすることで椎堂ツムグから自分の身を守るために…。

 ツムグが感じ取った異変の元凶は、自分が手引きして招き入れた反乱異分子がネルフの電力系統を落とす瞬間が来た時、最後の仕上げだと笑みを浮かべ、自分が収容されているドッグから抜け出し、地上を目指した。

 

 第三新東京のネルフ本部の真上では、ザトウムシのような形をした使徒、マトリエルが現れていた。

 

 

 

 

 

 




前回のサンダルフォン防衛作戦で、ほっとかれたことにアスカ、ストレスMAX。
つい風間に当たり散らすがあっさり撃退されてしまう。

共同戦線の約束には、簡単な罠が仕掛けれており、国連の全面協力を得ている地球防衛軍がネルフへの資金を操れるようなっていたということにしました。
地球防衛軍を内部から食い荒らすつもりが、すでに喉笛を咬まれていたというね……。

そういえば、これ書いた当初、シンジとレイはともかく、勢いで風間とリツコにフラグ立てたような記憶がある。


次回、マトリエル戦かな。


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第十三話  白兵戦

マトリエル編。


マトリエルの攻撃案が浮かばなかったので、神話のマトリエルが司るとされる雨を武器にさせてみました。
でも、たいしたことないけどね……。



ほぼ、コピーペーストしました。


エヴァンゲリオンも出番ありません。




 

 マトリエルが出現したことで地球防衛軍の基地の本部は大忙しだった。

「あのバカは、どこで油を売ってるんだ!?」

 あのバカとは、椎堂ツムグのことである。

 正式ではないが機龍フィアのパイロットであるツムグがどこを探してもいない、いつもなら親しい人間が探すか、どこからともなく自分から来るかして機龍フィアに乗るのだが、今日に限っては姿が見えないのだ。

「だから奴のは監視を見直すべきだと進言したのだ! どうするのだ!」

「使徒は第三新東京の中心。つまり地下のネルフ本部の真上の位置に急に出現したらしいな、まったく…、使徒はどこからどうやって現れるのか分からん!」

「機龍フィアは、ツムグじゃなくとも操縦できる! 適当にパイロットを見繕って出撃させるしかない!」

「だが、G細胞完全適応者以外のパイロットについての機龍フィアの起動とシンクロ実験の成果は、まだ1割にも満たされてない! 例えミュータントのエースを乗せてもただの木偶だ! 自動操縦の方がまだマシだ!」

「なら自動操縦で行けばいいだろう!」

「そうと決まれば機龍フィアのDNAコンピュータのオートパイロットプログラムによる使徒の迎撃をせよと、ネオGフォースに指示を出せ!」

「よろしいですね! 波川司令!」

「ええ…。どこへ行ったの? ツムグ…。」

 ツムグがいないことで迷惑被っている司令部は大変だった。

 

 

 地球防衛軍が右往左往して、ネルフはネルフで停電事件が起こっている間。

 使徒マトリエルは、ザトウムシのような大きな足を折り曲げ、地面すれすれに体を降ろすと、下腹部の目玉のような部分から、ドロドロと液体を吐きだし始めた。

 液体は地面を溶かし、その下にあるネルフ本部を覆い隠す装甲を少しずつ溶かしていった。

 

 

「……地味だな。」

「地味ですね…。」

 前線に配備された地球防衛軍の前線司令部が、マトリエルの動きを見てそう言っていた。

 見た目のインパクトはある。虫嫌いは生理的に受け付けない見た目なうえに、何しろでかい。

 だが、今までの奴らの派手だっただけに(特にラミエル)、マトリエルの攻撃方法が溶解液だけなので残念な印象を持ってしまう。

「大変です!」

「どうした?」

 走ってきた兵士の一人が前線司令官達に言った。

「ネルフとの交信が取れません! どうやら本部の電力が落ちていて本部全体が停電状態にあるようです!」

「確か、本日は、監査官と護衛としてM機関の風間らがネルフ本部に行くことになってたと…。」

「つまり監査官も風間達も本部に取り残されているのか? なら余計にあの使徒を早く殲滅しなければ!」

「基地からの伝達です!」

 前線のオペレーターがヘッドフォンを片手で押さえて司令官達の方に振り向いた。

「椎堂ツムグが行方が分からず、地球防衛軍司令部は、機龍フィアをオートパイロット状態で出撃させる決定をしました! ですが、オートパイロットプログラムの起動がうまくいかないトラブルが発生しているとのことです!」

「別のパイロットを乗せないのか!?」

「ツムグ以外のパイロットでの起動実験では、現状の機能の2割程度しか使えないと聞いているぞ。そんな状態じゃ木偶人形と変わらん!」

「オートパイロットといい、G細胞適応者以外のパイロットの件といい、技術部は何をやっているんだ!?」

 前線も前線で大変だった。

「とりあえずあの虫みたいな使徒の攻撃を止めさせるために、メーサーをありったけ撃つぞ!」

 イスラフェルの時の経験でATフィールドを貫通できたメーサーによる攻撃が開始された。

 いくら攻撃方法が地味でも、地味は地味なりに地道に確実にネルフ本部を守る鉄板の束を溶かしている。ほったらかしていいわけがない。

 いきなり現れたこの使徒マトリエルもだが、それ以上に問題なのが…、ゴジラが来るのが時間の問題だということだ。

 マトリエルの出現位置と、出現してから現在までの時間はそれほど経っていない。ゴジラがまだ使徒の出現に気付いていないことを祈りたいが、サキエルやシャムシエルの時のことを思い返すとゴジラが使徒の存在を察知するまでそんなに時間はかからないようだ。

 今頃海の中を進撃しながら第三新東京を目指してるゴジラを想像しただけで、現場の人間達は汗が噴き出てくる。基地にいる人間では分からない、現場で実際にゴジラを目の当たりにした者でなければ分からない凄まじい緊張感だ。

 使徒マトリエルは、ゴジラが来るかもしれない危機感をまったく考えてないのか、そもそも考える頭がないのか、変わらず地味にボタボタと溶解液を出し続けている。

「なんなんだ、あの使徒は?」

 今までのヘンテコながら強敵であることを示してきた使徒なのに、その部分が今のところ見られないマトリエルの様は、違う意味で変な奴っという印象をもたせた。

 ところがである。

「ん? 雨…? これは……。」

 不意に雨が降ってきた。

 しかし軍服に当たった瞬間、ジュッと微かな音が鳴る。それにいち早く気づいた前線部隊長。

「いかん! 酸性雨だ! 総員! 待避! 待避!!」

 

 

 マトリエル。

 その名は、雨を司る天使の名である。

 

 マトリエルの周辺のみに、スコールのごとく酸性雨が降り出していた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 停電したネルフ本部の中を走り抜け、地下へ地下へと進み続けた椎堂ツムグは、ある場所で足を止めていた。

 そこは、セントラルドグマと名付けられた場所であり、ネルフが抱える最大の秘密を隠された場所だった。

 ツムグは、意図してここまで来たわけじゃない。寄り道し過ぎたのを反省して考えずに走って、はたっと気が付いたらここまで来ていたのだ。

「……やっちゃった。」

 誰もいないのに誰かに向かってテヘッと舌を出してふざけてみたりする。

 しかしふざけたところで現実は変わらない。

「あ~あ…、こういう秘密の場所には、ゴードン大佐や尾崎達が来るべきだろ。俺が来ちゃだめだろ…。ど~しよ、かな。……んん?」

 腰を落とし膝を抱えてどんよりしていたが、ツムグは、ふいに顔を上げて鼻をヒクヒクとさせて匂いを嗅いだ。

「この匂い……。あと気配。………やられた!」

 顔に怒りの感情を浮かべ立ち上がったツムグは、目の前にあるパスワードやら認証が必要な扉を蹴飛ばした。

 それだけで強固な扉は破壊され、ツムグは、激情のままに遠慮なく中に入り、片手を差し出して青白く発光する光で部屋を照らした。

 

 そこにある巨大な水槽の中を漂うのは。

 透けるような白い肌。

 青い髪の毛。

 赤い瞳。

 瑞々しい十代半ばの少女の造形。

 

 何人も。何十人もいた。

 

 お昼ご飯を基地の庭でシンジと一緒に食べていた、あの少女。

 綾波レイとまったく同じ姿形をした心を持たないモノが、水槽の中という限定された世界でただ生かされているだけの異常な世界がそこにあった。

 ツムグは、眉間に皺をよせ、もう片方の手で口を押えた。

「あの…野郎……! 同じ匂いと気配を持ってる“コレ”を囮にしたな!」

 ツムグは、天井を見上げて、自分を騙した相手に向かって怒りを露わにした。

 

 レイという存在は、初号機と同化してしまったシンジの母、碇ユイをサルベージしようとした時に出てきた偶然の産物である。

 使徒と人間の遺伝子の近親性が生んだ碇ユイの遺伝子と初号機の素体に使われた使徒の遺伝子が混ざって生まれた、使徒と人間のハイブリッドなのだ。

 ユイの遺伝子を持つため、科学的に見ればユイのコピーと言えるが、クローンのそれとは違う。

 水槽の中にいるレイ達は、最初に生まれたレイから作られ、増やされたコピーのコピーであろう。

 レイと違い水槽の中でしか生きられない脆弱な生命でしかないレイ達は、さしずめ取り換えがきくレイという存在の予備の器だ。ゲームに例えるとコンテニュー回数といったところだ。

 現在いるレイが死ねば、その魂は、このレイ達の中のいずれかに移り、レイは蘇生するというサイクルになっているのだろう。

 つまりネルフから離されて自殺を図ったレイが仮に自殺に成功したとしても、消えたいいう願いは成就されず、恐らく最低限の記憶だけ受け継いでそれ以外はリセットされるなりして、別人のレイとしてこの世に連れ戻されていたのだ。

 そういう意味では、シンジが勇気を振り絞って今いるレイに手を差し伸べたのは幸運だったいえる。

 恐らくレイは、死ねばこうなることを知らなかったのだろう。だから安易に自殺に走ったのだ。

 

「なんて…、酷いというか…、奇妙な運命だなぁ。」

 ツムグは、ゆっくりとした足取りで水槽のガラスに近づき、片手を添えた。

 ツムグの姿を認識した無垢なレイ達が水槽の中で漂い、泳ぎながらガラスの向こう側にいるツムグに純粋な好奇の目を向けてくる。そのさまはさながら人懐こい動物のようで、ツムグは、思わず微笑んでしまった。

「はあ…、ネルフの資金が最低限で、しかも停電状態でここだけしっかり稼働してるってことは…、シンジを捨てた馬鹿親父の独断だな。どんだけ奥さんに執着してんだ。子供を見習えよ。このまま放っておいたら、間違いなくあの子(※現在いるレイ)が暗殺なりで殺された場合ここに移るから…、ダメダメ、あかん、せっかく育ち始めた甘酸っぱい少年少女の物語にドロドロの臭いどぶのヘドロをぶっかけるなんてできるかぁ!」

 ツムグは、片手の発光を止め、ガラスに添えていた手を握り、握りこぶしを作った。

 ツムグは、暗くなった部屋の中で、水槽から数歩後退った。

 彼の赤と金の髪が青白く発光する。その光は全身に広がり、部屋を眩しく照らした。

「何が正しいかなんて、分からるわけない。けど…、これが……、俺の決意だ!」

 ツムグは、そう叫び、青白い熱線を纏った右腕を振りかぶった。

 

 

 熱線で焼き尽くされるレイ達を管理している水槽と、レイの基となる素材。

 地球防衛軍の技術力をもってしても再生は不可能なほど念入りに破壊した。

 ……ただしここで何があったのか、ここに何が隠されていたのかは、“カイザー”である尾崎が全力でサイコメトリーすれば分かるだろう。自分がレイ達を殺したことと、破壊した件についてはその時に話し合えばいい。

 人間の罪から作られた外では生きられない悲しき命達を独断で殺した事実は変わりないから。

 

「は~あ…、俺ってさ、人間でも怪獣でもない…。俺が“椎堂ツムグ”になったあの日が俺が俺だという記憶の始まりで、40年以上生きてて…、どうすればいいのか、どうなりたいか…、何にも決めてなかった。その場に勢いと気紛れで周りに流される適当な生き方してた。『おまえは、何も考えてないだろ?』っとか、『マイペースに気楽な人生送ってるな』っとか言われてきたけど、ずっと、ずっと…、考えてた。ゴジラさんの細胞を持ってるのに怪獣でもない人間でもない俺はどう生きればいいかって。何ができるんだろうって。だからどんな実験にも付き合ったし、機龍フィアを作る時だって、データ取りのためにゴジラさんと戦わされても俺にできることだからって思ってた。けど、なんか、足りなかったんだ。それがはっきりしないままズルズル来て、ここであの子の分身達を壊して殺して、俺は……、何かがカチッてはまった気がした。俺は、あの子に…、生きていてほしいんだ。せっかく築いたシンジとの絆…、幸せってものを掴んでほしいって…、俺なんかが親気取りしたってなぁ。」

 焼け焦げた地下プラントで、両手を広げたツムグがケラケラと笑っていた。

 その目からツーッぽたりと透明な滴が零れて焼け焦げた床に落ちた。

 G細胞完全適応者になる前の記憶がなく、怪獣でも人間でもない世界でたった一人の存在であるツムグは、マイペースに周りを振り回すお気楽なキャラクターを気取りながら心の内では、数十年のも歳月をかけても出せない自分自身の存在意義についての大きな悩みを抱えていたのだ。

 G細胞の爆発的なパワーもあり、“カイザー”である尾崎にすらその心の内に見抜かせなかった、隠し続けた本音。

 

 ネルフ本部の地下プラントにあった綾波レイのコピー達を殺し、レイが二度と歪んだ輪廻を繰り返させないようにし、レイの新たな人生のために力を尽くそう。

 それが、ツムグが自身の存在意義に繋がる決意の一つとなる。

 

「アハハハ、目に煤が入っちゃったかな? って、そういえば、肝心のアイツ! 初号機はどこだ!?」

 地下プラントの一部を破壊したツムグは、ゴシゴシと腕で涙を拭うと、瞬間移動のごとくその場から消えた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 一方そのころ。

 大停電に陥ったネルフ本部内。

 今現在、加持は、とても気まずい気持ちで一杯だった。

 加持がなぜそんな気持ちで一杯なのか、少し時を遡る。

 

 ネルフ本部が暗くなった。

 非常時の時のために持っていた小型の懐中電灯を取り出して通路を照らした時。

 すごく見覚えがある頑丈そうな黒いブーツとジャンプスーツで覆われた足が目に入った。

 懐中電灯の光を下から上へ移動させたら、機嫌悪そうな若い男の顔が真っ直ぐこちらを見ている状態が分かった。

 ミュータントの能力ならこんな真っ暗な状態でも光も無しで普通に行動できる。現に加持の数メートル前の方にいる風間が暗い中で加持の存在を認識していた。懐中電灯で照らした顔がそれが真実だと物語っている。普通なら暗から明に急に変わったら咄嗟に目をつぶるなりして反応するものだが、ミュータントの、それも戦士として訓練された風間はまったく微動だにしない。恐らくそういう訓練もメニューとして取り入れられているのだろう。

「…か、風間少尉殿。どーされたんです?」

 顔が引きつりそうになりながら加持が言う。

「そんなことを言っている場合じゃないだろうが。」

 風間がますます機嫌を悪くしたと言う風に低い声で言った。

「さいですね~。いや~、何が起こったんでしょうね?」

 ここで黙ると後々頭が上がらなくなると踏んだ加持は、ごますりしそうなベタベタな態度で風間と会話を続けようとした。

「何も知らないのか?」

「いや~、自分、ここの職員じゃないんで。けど、もしかしたらメインの動力が落ちたのかしれませんね。今は、予備動力で本部そのものの維持はできてるはずですけど。」

「以前にもあったのか?」

「いいえ。今回が初だと思いますけど?」

「なるほど。」

「ところで、関係ない話になりますけど、風間少尉、葛城を見ませんでしたか?」

「誰だ?」

「…赤いジャケットを着た髪の長い女性ですよ。」

「会ってないな。」

「そうか…。」

 ミサトの奴、間違いなく迷子になってるなっと加持は心の中で結論付けた。

 加持がそう考えてると、風間が背を向けて去って行こうとした。

「あ、待ってくださいよ! どちらへ行くんです?」

「おまえは、ここで待つつもりか?」

「い、行きます! 行きますよ!」

 後で聞くことになるが、風間は護衛対象の監査官からの命令で大停電の中、無駄に広いネルフ本部の中で閉じ込められるなりして取り残されている人間を救出していたのだ。

 ネルフ職員は総司令のゲンドウと副司令の冬月、そしてMAGIの管理者であるリツコなど、ハッキリ言って資金を地球防衛軍に管理されてから無駄な人件費を払えないため多くがクビを切られている。残ったのは本部や戦闘時に備えられる人員達など最低限だ。

 職員ではない加持は範囲外なのだが、放っておくわけにはいかないので、避難場所に案内することにしたのだ。

 ちなみにミサトは、他のミュータント兵士が見つけて避難場所に運ばれていた。どうやら迷子のあげくこの停電で足を滑らして、手すりすらない通路から落下したらしい。結構な高所から落ちたというのに気絶だけすんだあたり、ミサトの頑丈さについて彼女はミュータントじゃないかと疑われたがミサトと腐れ縁なリツコが速攻で否定した。

「ミサトがミュータントなら、もっとマシに…、それにこんなところ(ネルフ)で腐ってないわよ。」

 っというリツコ。加持曰く、ミサトの友人らしいが、本当に友人同士なのかは、このリツコの発言ではまったく分からない…。

 まだ気絶してるミサトを睨むリツコに、何か清々しさすら感じた地球防衛軍から派遣された監査官と風間らミュータント兵士達であった。

 ところでこの場にアスカとケンスケがいないのだが、二人はエレベーターに閉じ込められており、電力が落ちた今、救出する側も、エレベーターから通風口を使って脱出を計る側も必死であった。なお、ケンスケが通風口への足場にさせられたのだが、うっかり、『あっ、白…。』っと、アスカの下着を見てしまい蹴られて二人してエレベーターに逆戻りして一方的な大げんかになるのだが、この話には関係ないことである。

「赤木博士。ネルフ本部の動力の復旧の目途は立っているのですか?」

 監査官が話題を変えようとリツコに言った。

「急ピッチで動力の復旧をさせていますわ。どうやら、ネズミが入り込んだようで…。」

「おや? 今のネルフを狙うとは、世間知らずもいたものですな。」

 権限を失ったネルフを軽く疎んじる発言をする監査官に、リツコはクスッと笑っただけだった。

「ええ。どこかの馬鹿な男のせいで随分と敵が多くて…。下の者…、つまり現場のことなどひとつも考慮しないのでほんと困っていますわ。」

「…そのこともペナルティとして叩きつけましょう。」

 リツコのため息交じりの愚痴に、監査官は同情し、手帳にスラスラとメモを書いた。

 監査官の対応にリツコは、笑顔で、ありがとうございます、っとお礼を言っていた。意外とこの監査官と気が合ったらしい。リツコを先輩と慕うオペレータの女性を焦らせていた。

 しかしリツコが真剣な表情に変わり、不可解なことを口にした。

「ですが、おかしいのです。動力炉のような重要な場所にはそう簡単に入り込めるようにはしてませんでした。誰かが手引きでもしなければ…、絶対に入り込めるはずがないのに…。」

「ネルフが誇るMAGIでも感知できなかったっと?」

「そういうことは真っ先に感知するよう命令していたわ。停電が起こる直後までMAGIの定期検診を行っていた時、プログラムの一部が書き換えられていたのを見つけた。MAGIのプロテクトを越えてハッキングを行うなど、この地球上の人間の文明なら地球防衛軍が保有するスーパーコンピュータでもなければ無理だわ。」

「我々を疑っているのか?」

「いいえ。こんなことをしてもあなた方にメリットはない。先ほども言われましたわよね? 今のネルフを狙うなんて世間知らずだと。」

「確かに…、その通りだ。だとするならば他に容疑者に心当たりは?」

「残念ですが、“私は”、まったく心当たりはありませんわね。せめてシステムが復旧さえすれば足跡を辿れるのですけれど。」

「それは、参りましたな。辛抱して待つしか……。ん?」

 その時、監査官の懐にある通信機が鳴った。

 監査官が通信機からイヤホンを伸ばして耳に差し込み、通信を繋げた。

 ノイズが十数秒ほどして、急にはっきりとした声がイヤホンから監査官の耳に届いた。

『おお! やっと繋がったか!』

「こちら、Y-81。通信状況は良好です。どうぞ。」

『そちらの状況を確認したい。何が起こっている?』

「現在ネルフ本部が大規模な停電状態陥っています。現在復旧を急いでいるとのことです。」

『停電? なるほど、そうだったのか。赤木博士はいるのか?』

「ええ。現在、避難場所にした場所に共にいます。」

『できる限り早くネルフ本部から安全に地上へ脱出する経路を確保してしておいてもらえるか? 現在地上では使徒が出現し、溶解液で装甲を溶かし本部を攻撃しようとしている。』

「使徒ですって!?」

 監査官が思わず声をあげると、リツコを始めとしたその場にいた面々が驚いた。

『まだゴジラは、来ていない。だが時間の問題だろう。しかもG細胞完全適応者が行方不明で機龍フィアが出撃できない状況だ。地上部隊が使徒を攻撃しているが、攻撃を少し妨害する程度で撃滅とまではいけない。』

「なんてことだ…。」

 監査官は、地上で使徒が現れていて、戦闘が起こっていることに愕然とした。

 監査官が口にした言葉から出た使徒という単語から、リツコは、現在使徒が第三新東京でネルフ本部を破壊しようと活動していることを見抜いた。

 そしてリツコは、監査官に進言した。

「監査官殿。私、赤木リツコが使徒の殲滅に協力させていただけませんか?」

「りっちゃん!?」

「先輩!?」

 リツコの言葉に加持とマヤが驚きの声を上げた。

「…どういうつもりだ?」

「言葉のままですわ。私は、ネルフで使徒の研究を続ける恐らくこの世界でもっとも使徒に精通した人間です。念のために言っておきますが、これは、私個人の言葉です。ネルフのためではなく、生き残る最良の道を開くために力を貸したいのです。」

「神に誓ってもか?」

「生憎と、神様は信じていません…。ただ、私はここで死ぬつもりはありません。死にたくないから戦うのです。」

 リツコは、一息置いて、しかし…と言い。

「私は拳銃程度しか使えない貧弱な研究者でしかありません。強い戦士の力が必要なのですわ。」

「ほう…? つまり私の護衛として来ている風間少尉達に戦ってもらいたいということかね?」

「その通りですわ。」

「っ…。」

 それを聞いた風間は、訝しげにリツコを見た。

 風間と目が合ったリツコは、笑ってウィンクをした。それを見た風間は溜息を吐いて腕組をした。

「命令なら、俺は構わない。」

「それでいいのか? 風間少尉。」

「怪獣を相手に白兵戦を行うことを想定した訓練を一日と欠かさず続け来た俺達が…、使徒ごときに負けるとでも?」

 風間がそう言うと、それに同調した護衛として来ていたミュータント兵士達が一斉に強い意志を宿した視線を監査官に向けた。ミュータント兵士達の迫力に監査官は思わずたじろいた。

「い、いや…、そんなつもりは…。しかし使徒への白兵戦はぶっつけ本番だ。何が起こるか分からない。」

「あんたが生き残ったら、上の連中にこう言え。『すべては、風間の独断だと』な。」

「な、それは…、風間少尉!」

 風間の肩を掴もうとした監査官の手を振り払い(手加減してます)、念のために持ち込んでいたミュータント部隊に支給される武器の入ったトランクを担ぎ上げ、風間はリツコの前に来た。

「それで? どうすればいい?」

「力を貸してもらえるの?」

「じっとしてるのも飽きたからな。」

「ありがとう。それで、監査官様はいかがされます?」

「……仕方がないですな。生きて外の空気を吸いましょう。」

「感謝しますわ。」

「先輩…、私達はなにをすればいいですか?」

「MAGIが使えない今は、あなた達にやれることはないわ。ここで待機してて。」

「分かりました。」

「そうっすか…。」

「そんな…。」

 日向マコト、青葉シゲル、伊吹マヤは、それぞれリツコの指示に違う反応をした。特にマヤは、リツコの手伝いさえできないことに落胆していた。

 リツコは、ネルフの主力のメンバーに指示し終えると、風間と監査官に向き直った。

「まず、監査官には、地上の状況と使徒の形状などを地上の地球防衛軍から聞いてもらえますか? 現在、地上と交信できる手段は監査官が持っているその通信機しかありません。どうか、お願いします。」

「分かった。こちら、Y-81。地上の戦況はどうなっている?」

 こうして地球防衛軍(ネルフに派遣された監査官と護衛のミュータント兵士達)とネルフの赤木リツコによる秘密の共同戦線が始まった。

 

 

 

 

 風間達が使徒殲滅のため共闘を始めてた頃。

 地下プラントから出て、初号機を探してネルフ本部の中を移動していたツムグは、自分の足元に転がる複数人の人間を見おろしていた。

「……反ネルフ組織の残党か。それも熱心な信者。匿名で送られた情報で動力炉まで侵入して停電騒ぎを起こした…。本当ならネルフ本部ごと爆破して自決するつもりだったわけか。よくあるテロリストのやり口だな~。でも実際にやってみたら動力炉を爆発させられず停電止まり。焦って、こうなりゃ物理的に動力炉を破壊しようとしてたところに俺が来て、今こうしてのびてるわけだ。」

 通路に転がるテロリスト達は死んでない。

 2、3日ほど意識不明で、目を覚ましても頭痛のあまりしばらくまともに動けない程度に超能力で精神と脳などの神経細胞にダメージを与えてやったのだ。さすがに熱線を使うと火傷じゃすまない。

 このテロリスト達が侵入した理由と動力炉の稼働を止めるまでの流れとその後のことをツムグが知ることができたのは、テロリストの一人を残して他の者達を昏倒させた後、残った一人をG細胞を持つ者である自分にしかできないゴジラによく似た威圧感と殺意を浴びせて脅迫し、失禁させ、白目をむいて泡を吹かせて隙のできた精神に割って入って脳の中を覗き見たのだ。それで分かったのが、先ほどの独り言の内容である。なお、その他もろもろのあんなことやこんなことも全部見えたのだが、関係ないので除外した。

 テロリスト達をその辺に転がしておいて、ツムグは、頭の後ろで両手を組んで歩きだした。

「さ~て、さてと。赤木博士と風間達の共同戦線か…。ゴードン大佐が聞いたらまた笑い転げるんじゃないかな。それにしても、赤木博士は、中々人を見る目はあるなぁ。……あの男の愛人ってのを抜けば。ま、元々お母さんの件で複雑な事情があってそういうことになったわけだし、今まで人生を捧げてきたネルフがこのありさまだし、愛想は完全に尽かしてるっぽいけど。あの人を地球防衛軍に勧誘する? ん~、それは、無理か。っというか、時期じゃない。赤木博士は、地球防衛軍よりネルフにいてもらう方がいい。」

 ツムグは、独り言を言いながら、ブラブラと歩いて行った。

 当初の目的だった初号機だが…、彼は、また完全に忘れており、この数分後に思い出してまた走り回るのだった。

 

 

 

 

 地上では、地球防衛軍とマトリエルとの戦いが続いている。

 戦いと言っても、一方的にマトリエルに対して地球防衛軍が酸性雨が降ってない遠くから砲撃を行いネルフへの攻撃を妨害しているだけである。

 マトリエルは、淡々としており、当たった個所によっては少しぐらつくも、多く長い足でしっかりバランスを取り、変わらず溶解液を吐きだし続けている。

 他の使徒のように、胴体の部分にある複数の目玉から発射するようなビーム兵器を使う様子もなく、本当に淡々としている。

 それが逆に気色悪い。

 淡々と、地味、だが確実に、マトリエルの溶解液はネルフ本部を覆い隠す、第三新東京という装甲を溶かしていく。

 その時、マトリエルの胴体の斜め下辺りのハッチが開いた。

 

 メーサー銃を肩に担いだ風間と数名のミュータント兵士達がメーサー銃を構えた。そして斜めすぐ下からマトリエルの目に向かって、メーサー銃の引き金を引いた。

 放たれる閃光。そして潰れたマトリエルの目玉の一つからブシュッと大量の鮮血が噴き出た。

 マトリエルは、ギロリッと残った他の目で風間達の姿を捉えると、足の一本を持ち上げ、風間のいる場所を踏みつけた。

 しかし風間達は、マトリエルが足を振り上げてる間にさっさと潜り込み、その場から退散していた。

 

「この使徒のコアは、溶解液を吐きだしている目玉に似た部分の中心よ。それを潰せば使徒は殲滅できるわ。」

 

 風間は、仲間を率いて第三新東京の地下通路を走り抜けながらリツコの言葉を思い返し、別のハッチを開くと、再びマトリエルの目玉(溶解液を出している腹部の目玉じゃない)部分を狙ってメーサー銃を構えた。

 

 

 

 

 

 

 一方、地球防衛軍の基地では。

「ゴジラが東京湾内に侵入!」

「とうとう来たか…。」

「随分と遅い登場だが。まだ機龍フィアは起動できないのか!」

「オートパイロットプログラムの再起動とフリーズを繰り返しているとの報告が…。」

「あああああああ! 椎堂ツムグめ! 本当にどこへいったのだーーー!」

「ツムグ…。」

 

 ゴジラがついにマトリエルの気配を察知し、第三新東京に上陸するのが秒読み段階に入った。

 

 ゴジラとの対決で一番の武器であった機龍フィアが万全でない状況。

 ネルフの科学者赤木リツコとの共闘して使徒マトリエルを殲滅戦を白兵戦で挑む風間。

 初号機を探しして彷徨う椎堂ツムグ。

 

 

 彼らと、この状況を嘲笑うように、“異変”は、その時をジッと待っていた。

 

 

 

 




ツムグが、レイのクローンを破壊するのは変えたくありませんでした。
念入りにサルベージに必要な機器なども破壊しているため、もうレイのコピーは作れません。


映画『ファイナルウォーズ』では、エビラ相手にミュータント兵達が戦っているので、マトリエルぐらいなら相手できかなって思って、こちらも変えませんでした。


そして、どんどん影が薄くなっていくチルドレン達……、どうしようかな?


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第十四話  マトリエル(雨)、後にゴジラ

マトリエル殲滅。



ゴジラと機龍フィアのバトルシーンは、そのままコピーペーストです……。


 

 酸性雨が降る中、マトリエルに接近していく一人の人間がいた。

 茶色のコートがマトリエルの巨体から来る空気の流れではためく。

 一見年代物に見える茶色のコートであるが、地球防衛軍の技術の粋を集めている特殊コートは、酸性雨の中でもモノともせず、頭に被ったコートの一部が頭部を守る。

 度重なる使徒とゴジラと機龍フィアが荒らしまくったせいで廃墟どころか荒野(?)みたいな荒れた場所となった第三新東京を、腰に業物の刀を引っかけたその男が進んでいく。

 数十メートル級の使徒にとって人間など蟻んこも同然。さらにマトリエル自身、現在自分を攻撃してくる相手を探すのに忙しいので茶色のコートの男の接近にまったく気付いていない。

 マトリエルの足の一本の付近まで来た男は足を止め、マトリエルを見上げた。

「…フンっ。神の使いを名乗るぐらいなんだから、ちったあ楽しませろよ?」

 男は、腰の刀に手をかけた。

 

 そして、マトリエルの足の一本が突然、根元辺りから切断され、胴体から離れた。

 突然のことに固まったマトリエルの目が切られた足の方を見た時、地面に向かって降下していく刀を手にした茶色のコートの人間の男の姿があった。

 その男と目が合った時、男が降下していく最中、ニヤッと笑ったのを見て、マトリエルは、ある感情に支配された。

 

 その感情は、恐怖という名を持つものである。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「なにやってんだーーーーーーーーーーーー!!」

 遠く離れた基地と前線の陣営とで同じ叫び声をあげていた。

 マトリエルの足の一本を刀で切り落としたゴードンに、悲鳴を上げる者、行き場のない感情にパニックになる者、さすが人類最強と目を輝かせる者と反応は様々だった。

 マトリエルの胴体が折りたたまれた足のおかげで地表に近いとはいえ、元々マトリエルは巨体なので人間からしたらとんでもない高さである。

 そこにあっという間によじ登り(どうやって?)、刀一本で足の一本を切り落とし(一見細いが人間の大きさと比較したら圧倒的に太い)、切り落とした後、普通の人間なら無事じゃ済まない高所から地面に降下し、難なく着地する。

 

 もはや人間の領域じゃない!

 

 地球防衛軍は、科学的な部分と超人レベルに鍛えられた戦士達が集まることから、はっきり言って非常識だと昔から言われることはあった。(ミュータントが発生する前である)

 人智を超えた怪獣達や、怪獣王ゴジラを相手に戦わなければならないのだ。怪獣は非常識レベルなんだから、こちらも非常識なレベルにならないと相手はできない。必然だった。

 いくら超人レベルに鍛えたからといっても所詮は人間である。巨大な怪獣相手に生身で戦うなどセカンドインパクト後に確認されるようなったミュータントによる戦闘集団が考案されるまで人間が戦う場合は策を巡らせ、あるいは命を捨てて間合いに入り特殊な武器を打ち込むなどばかりであった。

 ダグラス=ゴードンという人間が頭角を現すまでは……。

 彼は、普通の兵士からの叩き上げである。それも35年前の南極でのゴジラ封印の時の戦いで初代轟天号のモブ乗組員だった。

 たまたまゴジラの封印のとどめとなった氷山の破壊のため、ミサイルの引き金を引きはしたがそれがきっかけではないことは確かである。だが彼がゴジラをライバル視し、手段を選ばぬ指揮官になる原点ではあった。

 何がどこで、どうしてこうなった?っと、ゴードンの同僚達がいくら頭を捻ってもゴードンが人類最強と呼ばれるまでに強くなった過程を思い出せない。地球防衛軍所属の人間に義務づけられている定期的な健康診断では、ゴードンがミュータントではなく、ただの人間であることははっきりしていた。

 椎堂ツムグがこの場にいたなら、こう答えていた。

 

 ゴードン大佐は、怪獣との戦いで成功と失敗をたくさん積んだから、強くなろうとして、強くなっただけ。

 

 ……ツムグに言わせれば、細胞の突然変異による進化で強くなったミュータント呼ばれる新人類にたいし、ゴードンは極限まで心身ともに鍛え上げた結果それが実を結んで50代過ぎだというのに人類最強と呼ばれるほど強くなったただの人間なだけなのである。

 しかしあくまでゴードンが人間であるとなると、同じ人間の括りになってる他の者達は複雑である。

「なあ…、人間の限界ってあるのかないのか分からなくなる時ってないか?」

「……あの人(ゴードン大佐)見てると人間ってなんだろ?って思うよ…。」

「分かる分かる。」

「おまえが言うな熊坂! ってそう言う意味じゃおまえも同類か!?」

「ゴードンが目立ち過ぎて忘れてたけど、そう言えばそうだった!」

 M機関の士官である熊坂は、ミュータント兵士を育て上げた教官であり、人間でありながら常人を超える身体能力を持つミュータントと互角に渡り合える戦闘能力の持ち主である。ちなみに彼も健康診断では、ちゃんと人間であることがはっきりしている人物である。

「いやいやいや、自分なんてゴードン大佐殿に比べればまだまだですよー。」

 などと謙虚に振る舞いつつ、ケラケラ笑う熊坂。

 しかし“普通”の範疇にある周りから見れば『どこが!?』っと言いたい状態である。

 よくよく考えてみれば、M機関のミュータントを対怪獣部隊として育て上げることについて、ミュータント達に強くなるためのレクチャーをしてそれを統制下に置くことができるかという問題が今まで問題視されなかったのか?

 下手をすれば戦う術を身につけたミュータント達が反発して反乱を起こす可能性だってあった。そうなれば人類対新人類という最悪の事態になっていた。

 それが起こらずミュータント達が地球防衛軍の新たな戦力となり、自らの誇りとして日々精進しているのも、すべては彼らの教官として彼らの上に立ってきた熊坂の存在があったからこそだ。

 共に汗を流し、笑いあい、涙を流し、悪いことをすれば叱る。ゴジラ封印後の怪獣との戦いの世代であることもあり、若年層が占めるミュータント達よりも年上なことも彼らの心を射止めたのだ。まあ、いわゆる父性愛という奴であろう。セカンドインパクトで被害が大きかった被災地での覚醒率と出生率が高いため、親がいない、身内がいない者が多い若いミュータント達には、熊坂の存在は同族の仲間とは違う意味でもっとも身近なものになっていた。

「……当り前みたいに受け入れてたが、改めて考えてみれば人類最強枠(じんるいさいきょうわく)って結構いるな?」

「なんだその、人類最強枠って? んなこと言ってたら…、ゴジラと戦うために日々厳しい訓練を積み重ねてきた地球防衛軍の軍人達は凡人だって言うのか? 自衛隊の陸上自衛隊のですら一般人の目から見れば超人だって言われるんだぞ?」

「そ、そうだけどなぁ…。その超人って言われてる側から見てもゴードン大佐も熊坂も次元が違うっていうかなぁ…。」

「そこまでこだわることか?」

「まあ、なんだ? そういう基準的なものを付けたいって時あるだろう? それだ、それ。」

「俺と大佐殿は珍獣扱いか!?」

 ゴードンが暴れてたことで、色んな意味で色々とクラッシュされカオスな空気になっていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 一方、基地の司令部では…。

「波川司令! さすがに此度のことは軍紀違反とかそういう範疇で済む問題じゃありませんよ!」

「問題はないわ。ゴードン大佐を行かせたのは私ですから。」

 波川の爆弾発言で右往左往していた司令部内の空気が凍った。

「な…、なぜ?」

「使徒については、まだまだ未開です。それにこれまでの使徒はゴジラに燃えカス程度しか残らないほど焼かれるか、機龍フィアにこれでもかというほど潰されるかでしたからサンプルとしてはあまりよくありませんでしたから、そろそろ傷の少ないサンプルを手に入れるべきだと考えたので。」

「まさか、ゴードン大佐にあのままあの使徒(マトリエル)を仕留めさせるつもりなのですか!?」

「仕留めるとまではいかなくても、サンプルさえ取れれば頃合いを見て撤退するようには指示を出していますわ。」

「いやいやいやいやいやいや、ちょっとお待ちを…、頭の整理が……。」

「なぜに!? なぜに生身で、それも単身で行かせたんですか!? サンプル回収だけなら機龍フィアか、あるいはミュータント部隊でもやれることですよ!?」

「節約です。」

「…はい?」

「対使徒のために怪獣用の兵器の大幅な改良をするにあたり、かなり費用がかかったので…。経済への負担を考慮して、体がなまってると言っていた大佐に頼ることにしたのです。」

 波川が顔色一つ変えずはっきりとそう言ったら、周りの者達は、開いた口が閉まらない状態になった。

 使徒独自のものであるATフィールドと強靭な生命力に対抗するため、現在ある対怪獣用兵器の改良と、新たな兵器開発に思いのほか費用がかかり、波川はセカンドインパクトの影響がまだ色濃く残る世界経済のことを考慮してゴードンを単身で使徒にぶつけるという普通ならあり得ない案を採用したのであった。

 ゴードンが人類最強じゃなかったら、どうする気だったんだこの人!?っと、波川以外の者達は同じことを思ったという。

 侮られがちな女であれど、司令官としてのその実績は地球防衛軍においてトップの波川は、セカンドインパクト前の数々の怪獣との戦いで鍛えられたせいか、時々とんでもない案を実行するのである。

 …ある意味この人もゴードンと似てるかもしれない。ただ損害を考えるか考えないかの違いだ。常識外れの怪獣を相手にしてるベテラン勢は、怪獣との戦いの経験がない若い世代とはちょっと感覚がずれてるのかもしれない。

 基地の司令部でそんなことが起こっている間に、マトリエルのたぶん左側(前後が分からない)の足がもう一本切断され、バランスを取れなくなったマトリエルの体が大きく傾いて胴体の部分が地に激突した。

 

「これぐらいでいいな。あとは、頼むぞ。…風間。」

 

 ゴードンは、刀についたマトリエルの血を刀を振って払い、鞘に納め、マトリエルの方を一度見てそう言い、マトリエルに背を向けて去って行った。

 なお彼の懐中には、サンプルを厳重に保管するための研究所のビンがあり、その中にはマトリエルの胴と足の間の肉片が入っていた。

 

 マトリエルの胴体が斜めに地面に接している状態の時。

 マトリエルのコアがある真下の腹の下では、マトリエルが激突した衝撃でハッチが一部壊れて開いてしまっていた。

 しかしそのハッチの真下でメーサー銃を構えた風間がいた。

 風間の目が爬虫類のように縦長に変化した時、マトリエルの下腹部にあるコアと一体化した目が風間の姿を捉えた。

 その瞬間、メーサー銃の無数の閃光がマトリエルの目とコアを貫いた。

 マトリエルは、ビクンビクンと数回大きく痙攣し、長い脚をズルズルと地面を抉りながら横に伸ばし、やがて動かなくなった。

 マトリエルの死と共に、雨は止んだ。

 

 使徒マトリエルは、機龍フィアどころか、人間サイズの戦士達によって殲滅された。

 

 マトリエルが死んだそのタイミングで、ズシンッという重い足音と地震と間違えそうな地響きが第三新東京に響いた。

 前線部隊と、そして地下にいるネルフの者達、装甲版の中で使徒と戦っていた風間ら全員に緊張が走った。

 ゴジラが到着したことに。

 

 第三新東京を囲う山の上に立ったゴジラは、もうピクリとも動かない状態になったマトリエルを見ていた。

 グルルっと唸るゴジラは、死んだマトリエルを見て鋭い目を更に鋭く細めた。

 ゴジラがどう動くか分からないので身構えていた前線部隊の真上を、銀と赤の巨体が猛スピードで横切っていった。

 ジェットを吹かしながら弾道ミサイルのごとくゴジラ目がけて飛んできた機龍フィアを、ゴジラは、真正面から受け止め、しかし衝撃で受け止めた機龍フィアごと山から転がり落ちた。

 

『オートパイロットプログラム起動に成功! 前線部隊は、ゴジラと交戦せよ!』

 

 ついに機龍フィアの自動操縦プログラムが正常に作動し、ゴジラと初の無人での戦闘を開始することとなった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 ハッチの下に通じる通路に移動した風間は、メーサー銃を膝に置いて、壁に背を預けて座り込んでいた。

「…はあ。どうだ。ったく、何が神の使いだ。」

 風間は、疲労感のため荒くなる呼吸を整えるのをあとにして、仕留めた使徒マトリエルにそう言った。

 風間の耳にある通信機が反応し、風間はけだるそうにスイッチを押した。

『風間少尉。使徒の殲滅が確認された。』

「それで? ゴジラが来たのか?」

『第三新東京エリア付近の山の上で殲滅した使徒を見ていたらしい。そこにオートパイロットプログラムが起動した無人の機龍フィアが突撃して、前線部隊と共に交戦しているとのことだ。』

 監査官との通信の最中、急に通路の照明が点いた。

「…停電が復旧したみたいだな?」

『そのようだな。一旦こちらへ戻って来てくれ。』

「めんどくせぇ。」

『まあ、そう言わないでくれ少尉。今回は非公式とはいえ、ネルフの赤木博士との共同戦だったんだ。一時的とはいえ手を取り合ったんだ、一言声をかけるぐらいのことはした方がいい。ゴードン大佐ならそうするだろう。』

「……チッ。」

 風間は舌打ちをして、立ち上がり、メーサー銃を肩に担いで歩きだした。

 

 風間が歩き出した時、ハッチの真下から巨大な何かが地上に向かって飛び出した。

 風間がバッと振り向いた時に目にしたのは、紫色。

 ガリッ、グチュッという音がして、死んだマトリエルから出ていた体液の匂いが更に濃くなる。

 風間がメーサー銃を構えて、紫色の何かを睨んでいると、やがて紫色の何かは目にも留まらぬ速度で下へ潜って行った。

 風間が走り、紫色の物体を探すも、紫色の物体が開けた巨大な穴の中には紫色の物体の姿はなかった。

「な、なんだ? あれは……、一体?」

 そして風間は、ハッとして、上を見上げた。

 マトリエルの死体。胴体の部分が噛みちぎられていたのだ。ドロリっとした臓物らしき物がはみ出てて、そこにも噛みちぎられた跡が生々しく残っている。噛み跡からして犯人がかなり巨大であることが分かる。

 先ほどの紫色の何かは、使徒を…食った?

 風間は、吐き気が込み上げてきたが、グッと力んで我慢した。

 そして通信機のスイッチを押した。このことを伝えるために。

 

 

 

 

 

 

 

 一方ツムグは。

「ゴジラさんの接近に気付けなかったってどういうこと? なんかネルフ来てからおかしいことばっかりだな。どういうことなんだろ? ま、いっか。とりあえず今は…。」

 ネルフから地上へ出たツムグは、オートパイロットプログラムで動く機龍フィアを見ていた。

「自動操縦って確か、俺の操縦データを基にプログラムしたんだっけ? うん。中々動くね。そりゃそうか、俺の動きを再現してるんだし。でもゴジラさん、つまらなさそうだね。そりゃそうか。だって無人で、あと使徒を殺しに来たのに使徒が死んでたから不満たらたらなんだね? よし! ゴジラさんの不満を解消させるため! 頑張らせていただきます!」

 ツムグは、両手を上げてそう言うと、その場から瞬間移動し、パイロットスーツなしで機龍フィアのコックピットに現れた。

 コックピットにぶら下がるヘルメットを掴み、頭にかぶる。

 DNAコンピューターが瞬時にツムグの存在を認識し、オートパイロットプログラムが解除され、ツムグとのシンクロが開始された。

 機龍フィアの目に光は灯っていたが、ツムグとのシンクロで輝きが変わったことに、ゴジラは、すぐに気が付く。

 

 そして、今日一番の雄叫びをあげた。

 

「光栄だね。そう思ってもらえるなんて。さあ、不満解消させてあげるね。ゴジラさん!」

 ツムグが操縦桿を握った。

 オートパイロットプログラムから、椎堂ツムグの操縦に切り替わった機龍フィアとゴジラの戦いが始まった。

 

 ちなみにオートパイロットプログラムによる戦闘時間は、わずか4分だった…。

 この短時間稼働について、必死にオートパイロットプログラムを開発・起動させた技術部は、怨嗟の声をあげたとか?

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

『機龍フィアのオートパイロットが解除されました! DNAコンピュータからの信号によると、椎堂ツムグが搭乗したもよう!』

「遅い! まったく! あいつはこっちの苦労も知らずに…!」

 オートパイロットプログラムの起動で苦労させられていた技術部は怒りで頭をかきむしっていた。

 怒っているのは、大半はベテラン。

 その下で働いてる技術部の大半の若年層技術者達は、あんなに苦労したのに、っと大泣きしていた。

「でも、いいデータは、取れましたよん。」

 ……中にはマイペースな奴もいる。マッドなのは、意外と順応性高い。

 少しだけであったが機龍フィアによるオートパイロットプログラムの戦闘という貴重なデータは取れたのは確かだ。これは、今後の機龍フィアの改良にも使えるし、他の兵器にも応用できる。無人というものは、戦闘でもそれ以外のことでも重宝されるコンピュータやロボット工学で強く求められている分野だ。人を乗せる事で人命の危機や、人が入れない危険な環境で活動できるし人員削減などいいことづくめではある。

 しかし無人であることは必ずしもいい結果をもたらすことはない。

 一つは、暴走である。何らかのトラブルで遠隔での命令を聞かなくなったり、無人機の頭脳部分やプログラムの故障で暴走し被害が出ることだ。

 高度な電子頭脳が反乱を起こすという事体だってある。SFフィクションによくあることだが、それが現実になるほどの技術力が地球防衛軍にはある。

 意思を持たないはずの機械に意思が灯る。その現象の一例として地球防衛軍のベテラン技術者の記憶に強く残るのは、3式機龍のことだ。

 3式機龍は、ゴジラの骨髄幹細胞のDNAコンピュータから別物に取り換えられるも、なぜか突然自我が発生し、ゴジラと共に海に沈んでいる。一代目のゴジラの骨を使用したメカゴジラだった3式機龍は、ゴジラの骨を兵器として使うことを死者への冒涜だと言った小美人達の言葉通り静かに海の底で眠りたかったのだろうか…、3式機龍が永遠に失われた今となっては、永遠に答えは分からない。

 日本では古い物や魂を込めて創られた物には魂が宿るというのが昔から浸透している。いわゆる付喪神(つくもがみ)という概念だ。あらゆるものには魂が宿っているという神話や言い伝えが生活に浸透している日本だからこそ無機物に意識が芽生えても案外簡単に受け入れてしまえるのである。

「パイロットスーツなしだからDNAコンピュータとのシンクロ率が低いな…。それに波長が乱れている。脳との接続と手動操作だけでどこまでやれるか。これも貴重なデータだ、しっかり記録しろ。」

 機龍フィアから伝達される情報を管理するシステムのモニターを見て、メカゴジラの開発技術者の一人がそう命じた。

 シンクロ率が低いといっても、椎堂ツムグ以外が万全装備で乗った場合に比べれば雲泥の差である。どれくらい低くなってるかいうと、150パーセントから145パーセントと…、わずか5パーセント足らずであるのだが…。

 そこまでシンクロに差が出ないのは、機龍フィアの素体とDNAコンピュータがツムグの細胞から作られているからである。これは、エヴァンゲリオンのシンクロとよく似たものだが、エヴァンゲリオンとの大きな違いは、機龍フィアは、遺伝子(細胞)の提供者の椎堂ツムグとは同一人物、あるいは一卵性双生児といえる関係であり、遺伝子の近親性による共鳴が万全装備じゃない状態でも高いシンクロ率を叩き出す要因になっている。

「新しい監視用の物を作っておいて正解だったな。」

 今回のツムグ失踪事件で苦労させられたことにでかいため息を吐いたベテラン技術者は、開発室にあるとある装置のスイッチを押して細長いカプセルのような物を穴からせり上げさせた。藍色の液体は、ナノマシンである。

 ゴジラとの戦いが終わったらこれをツムグの体内に注射することになるだろう。

 監視用のナノマシンの開発は、G細胞完全適応者を警戒する上層部の命令である。ツムグが解散前の地球防衛軍に保護され、監視下に置かれてから、脳や心臓に埋め込まれた自爆装置や監視装置、更に精神がゴジラ寄りになった時の危険を知らせるなどの情報を伝達する様々なナノマシンを技術部が開発し、科学部と医療部との共同でツムグの体に埋め込んできた。

 たまたまG細胞と融合していたことが分かり、記憶がないことから椎堂ツムグという名を与えられた一人の人間に、約40年物の月日をかけて監視や万が一のためと惨い手術を施し続けてきた。G細胞の異常性もあり、ツムグは死にもせず、弱らず、狂いもせず、最近ゴジラ寄りになりかけた(サンダルフォンの時)ことはあったものの、怨み頃すら言わずマイペースに地球防衛軍の束縛の中で生きている。

 危険を回避するためと監視のためと開発された自爆装置やナノマシンを始めとした機器も、もう何十個目となるだろうか?

 それが全て普通の人間のサイズのツムグの体に入れられた。その内の半分以上はG細胞の再生能力で吐きだされたり、機能が停止したので手術で取り出されたりしている。だが入れられている箇所が通常なら手の出しようがない急所ばかりなので手術はいつも地獄絵図となる。G細胞の回復力もあり、再生が済む前に捌いて中のものを取り出さなければあっという間に元通りになるのでやり直しになるため地獄絵図に拍車をかけており、ツムグの手術に立ち会った科学者や医者は、約40年の間に6割が精神を病んだ。

 しかし椎堂ツムグにやってきたこれらの非人道的な人体実験は、地球防衛軍の生物化学や医療技術などの向上にもつながっており、すべてがマイナスというわけではないのだから皮肉である。

 新しいナノマシンとナノマシンと連動している監視装置を詰めたカプセルを厳重なアタッシュケースに詰めて施錠したベテラン技術者はまたため息を吐いた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 緊急出動の時に行方をくらましていた椎堂ツムグに対して、地球防衛軍側で新たな監視のための処置が決定していた頃。

「うぉりゃああああ!」

 ツムグは、手動操作でゴジラを巴投げしていた。

 機龍の体系からして巴投げは無理…なのだが(足の長さと尻尾が)、できないことをやれるぐらいじゃないとゴジラとのガチバトルなんてやってられない。

 ぶん投げられたゴジラは、受け身を取り、すぐに起き上がると機龍フィアと掴みあった。

 押し合いへし合いしている最中、ゴジラが戦いを楽しんでいるというのがツムグには分かり、ツムグは、汗をかきながら楽しそうに笑った。

「アハハハハ! ゴジラさん楽しんでくれてる!? 嬉しいな! 俺も楽しいよ!」

 命がけの戦いだというのに本当に楽しそうに笑い声をあげながら、操縦桿を巧みに操り、機龍フィアの片手をゴジラの手から離すとゴジラの顔を殴ろうと振りかぶった。するとゴジラも離された手で拳を作り、機龍フィアを殴ろうと振りかぶった。

 前代未聞のゴジラとメカゴジラのクロスカウンターが発生し、機龍フィアの下顎が横にずれて火花が散った。

「つよーい、やっぱりゴジラさん、強いよー。パイロットスーツなしだからか、ちょっと調子出ないし、どうしよう…、こうなったら……、リミッター解除! 三つだ!」

 いつもとシンクロ状態が違うため少々頭がぐらぐらしたツムグは、ヘルメット越しに頭を押さえながら、そう叫び、リミッター解除を行った。

 途端、ツムグの両目が黄金に輝いた。DNAコンピュータからの信号の逆流による脳への負担を歯を食いしばって耐える。

 よろついた機龍フィアにゴジラは、尻尾による一撃を入れようと体を大きく捻らせた。その尻尾が機龍フィアに掴まれ、ゴジラの体が浮いた。機龍フィアがゴジラの尻尾を掴んで持ち上げ、後方に放り投げたのだ。

 仰向けに倒れたゴジラに、機龍フィアが馬乗りになり、マウントポジションを取って、これでもかと殴り始めた。

 殴られていたゴジラの背びれが輝き、ゴジラの体内熱線によって大爆発が起こり、機龍フィアとゴジラの体が飛んだ。

 お互いに地面に落下したが、すぐに立ち上がり、また取っ組み合い体制に入るのだが、リミッターを三つ解除した機龍フィアの馬力に押され、ゴジラが凄い勢いで後方に押されていった。

 しかしゴジラは、学習し絶え間なく強くなっていく、怪獣王たる力を備えている。サキエルが襲来した時の戦闘もあっても機龍フィアの特性をもう把握したのかサキエルの時より多くリミッターを解除した機龍フィアの寄り切りに堪えて踏ん張った。

「ガフっ!」

 コックピットの中で、ツムグが、吐血した。

 顔を覆うヘルメットと、膝と床が赤黒い血で汚れた。

「あ、頭……、潰れそう…。血が、沸騰してるみたいに熱い。スーツの端子って大事なんだな…。よく分かった。アハ。確か、負荷軽減だったっけ? ……ま、いっか。どーせこれぐらいじゃ、死なないし。そろそろ終わりにしようか、ゴジラさん。もっと戦いたかったけど…。ごめんね。」

 わずか5パーセント足らずの差だが、内容が問題であった。パイロットスーツの背中の端子を指す部位は、開発目的は搭乗者とDNAコンピュータのシンクロの安定のためであるが、もともとシンクロ率が異常に高いツムグにはシンクロによる肉体への負担を軽減させるものになっていたのだ。波長の乱れという基地に伝達される情報は、負担の増減に関わるものだった。

 機龍フィアの腹部が開閉し、絶対零度砲の発射口が出ると、ゴジラは、それにいち早く気づき、機龍フィアから素早く距離を取って絶対零度砲のダメージを軽減しようとした。だが発射はされなかった。

 ゴジラがそれに気付いて訝しんだ時、ゴジラの顔の真横に機龍フィアの肩にある砲台が押し付けられた。

 ゴジラの目が機龍フィアの顔を見た時、機龍フィアは下顎が横に歪んでいるし、表情も変わらないというのに、ゴジラには、機龍フィアが笑ったように見えた。

 第三新東京に響き渡る轟音と共に、ゴジラの顔面にゼロ距離の砲撃が決まり、ゴジラの頭部が爆発の炎と煙で包まれてゴジラの体がぐらりと傾いた。

 この砲弾は、一撃で怪獣の体に風穴を空けられる威力を持つ新調された対怪獣用兵器だ。

 爆炎のあと、ゴジラの足元に砕けたゴジラの歯が落ちた。

 煙が晴れるか晴れなかの合間にゴジラの背びれが青白く光り輝き、すぐ傍にいる機龍フィアの顔面に向かって大きく口を開いた。

 すると機龍フィアも歪んだ下顎を部分を無視して、大きく口を開けた。3式機龍に搭載されていた99式2連装メーサー砲の強化版である、100式メーサー砲を発射するためだ。

 ゴジラの熱線と、機龍フィアの100式メーサー砲がぶつかった。

 異なるエネルギーのぶつかり合いによる凄まじい閃光が第三新東京を覆い、前線部隊も戦闘状況を見守っていた地下のネルフの方も目を覆った。

 光が治まると、機龍フィアとゴジラがお互いにそれなりに距離が離れた位置に仰向けで倒れていた。

 ゴジラがゆっくりと起き上がる。顔の片側がさっきの至近距離の砲撃で分厚くて固い皮膚が抉れ、上下の歯が何本か無くなっている。出血は止まっているので、すでにG細胞による再生が起こっているのは間違いない。

 少し遅れて機龍フィアが起き上がった。片手で歪んだ下顎を掴み元の位置に戻す。それだけで壊れたはずの関節部や頭部の装甲などが自己修復された。

 起き上がったゴジラは、顔の血を煩わしそうに手で乱暴にこすり、機龍フィアを睨んで、唸り声をあげた。

 機龍フィアは、グッと身構える体制になり、それに呼応するようにゴジラも同じような形で身構えた。

 100メートル級、さらに超重量級の怪獣とその怪獣を模した姿をしたロボットが、その巨体からは想像もできないスピードで動いた。

 熱線も近代兵器も使わない、まさに泥仕合。殴り合い、つかみ合い、投げ技。怪獣プロレスなどという単語…、誰が最初に言った?

 機龍フィアが押し倒されると、機龍フィアは、鋼鉄の尾っぽを振るい、土を抉って器用にゴジラの横顔に土をぶつけた。目に土が入り怯んだゴジラを押し返して起き上がるとブレードを展開して傷が癒えていない反対側のゴジラの顔を目と一緒に切りつけた。ゴジラは、土で潰された目とブレードで切り付けられた目を押さえて悲痛な鳴き声をあげた。

 ゴジラが両目を潰されて怯んでいる間に、機龍フィアは、ぐぐ~っと頭と背中を後ろにしならせ、次の瞬間、ゴジラの頭部に強烈な頭突きをくらわした。その結果、機龍フィアの額が割れ、左目の部分が砕けた。オイルが垂れ、まるで血の涙のように機龍フィアの顔と首を濡らした。

 頭突きをされたゴジラは、バランスを崩して倒れそういなったが、土をくらった眼を薄く開けてなんとか倒れずにすんだ。鼻からボタボタと血が垂れており、先ほどブレードで切られた反対側の目と砲撃で抉られた部分が瘡蓋になっており、瘡蓋はやがて剥がれ落ちて新しい黒い皮膚が現れた。そしてポロポロと折れた歯が落ちて新しい歯が生え変わる。やがて切られて閉じられていた目が開いた。

 地球防衛軍も地下のネルフも、固唾をのんで戦いを見守っていた。

「なんて奴だ…。」

 前線部隊と合流したゴードンがゴジラの回復力を見てそう呟いた。

 確かにゴジラは、凄まじくタフで、不死と言っていいほどの回復力を持つが、怪我をしたり強力な相手と戦った後は、大抵一か月、長くて数年ぐらい寝て全快するという感じであった。

 なので顔面にあれだけダメージを受けて、目の前で傷が癒えていく様は地球防衛軍の記録にない。セカンドインパクトを経て、どうやら熱線の威力の上昇だけじゃなく、回復力もパワーアップしたらしい。つくづくゴジラ細胞…略してG細胞というのは厄介であると改めて実感させられる。

「は…、はあ! はあ、はあはあはあ!」

 機龍フィアのコックピットの中で、荒い呼吸を繰り返しながら口から唾液が混じった血をダラダラと垂らし続けるツムグ。足元は流れた血が広がり、ゴジラとの肉弾戦で機体が凄まじく揺れ動いたためコックピット全体に血が飛び散っていた。

 ツムグは、止まらない血を見て感じた。どうやら体の中の沢山の血管が破けてしまったらしい。G細胞による修復ができていない。だが死ぬには至らない。出血に合わせて血液が生産されているのだ。

 内臓からの出血なのだ、痛くないはずがないし、大量の血を喉から吐き出す苦しさは、常人でもミュータントでも耐えられるものじゃない。

 だがG細胞が。椎堂ツムグというG細胞を取り込んだ椎堂ツムグを形作るすべての細胞が彼を死から遥か遠くに遠ざけている。どんな惨い実験でも気絶すらせず耐えたということは、意識を失っても仕方がない苦痛から逃げられないということだ。マイペースにのらりくらりと平気そうにしていたが、もしツムグにただの人間だった頃の記憶があったなら…、とっくに狂っていた。彼が取り込んでしまったG細胞は、狂うことすら許さない。本当なら死んでいたはずの彼が偶然G細胞に触れてしまい、死の淵から甦らされ、その過程でG細胞完全適応者に相応しい精神が再構築されたのではないかと、彼の細胞の研究を担当する研究者が口にしている。

 だからツムグは、こう考える。

 

 『俺(椎堂ツムグ)は、ゴジラさんの細胞と一つになったあの日生まれた。』

 

 逆流してくる信号によるノイズのようなビジョンが脳内に映し出されるような錯覚の中、ツムグは、自分の出自について考えていた頃に出した自分なりの答えを思い出していた。

 過去がない。自分がかつて何者だったかを解明する物も知人もおらず、その辺にあった物についていた言葉を繋ぎ合わせてつけられた『椎堂ツムグ』という名前。この名前が自分の呼び名だと認識した時が、空っぽだったツムグの頭の中の記憶の始まりだった。

「はあ、は…あ、…ゴ、ジラ…さん。ゴジラさん、ゴジラさんゴジラさん、ゴジラさんゴジラさんゴジラさんゴジラさんゴジラさんゴジラさんゴジラさんゴジラさんゴジラさんゴジラさんゴジラさんゴジラさんゴジラさんゴジラさんゴジラさんゴジラさんゴジラさんゴジラさんゴジラさん。」

 ツムグは、笑いながら、DNAコンピュータから映し出されるゴジラを見てゴジラの名前を呼び続けた。

 自分を、いや、機龍フィアを睨みつけ、いつでも飛び掛かれるよう体制を整えるゴジラに、ツムグは、ゴジラの名を呼びながら無意識に手を伸ばしていた。

 それはまるで、唯一信じる神に縋るかのように…。

「ゴジラ…さん……。ああ、ゴジラさ…ん……。」

 ツムグは、震える声で、甘えるような声色でゴジラの名前を呼び続ける。

 コックピットの外では、ゴジラと機龍フィアが睨みあった状態で膠着していた。

 すると、ゴジラが急に構えを解いた。

 機龍フィアを見つめるゴジラの目に先ほどまでの泥仕合で燃え上がっていた怒りの炎が静まりつつあった。

 やがてゴジラは、唸り声をあげて、やがて海に向かって行った。

 

『……しらさぎに告ぐ。機龍フィアの回収を急げ。』

 

 ゴジラが退散したのを見届けた基地の司令部は、機龍フィアの輸送を担当している戦闘機しらさぎにそう命令した。

 マトリエルの襲来、そしてツムグの失踪で機龍フィアが出せないやら、ゴードンが派手にマトリエルの足をぶった切ったり、ネルフにいた風間らがマトリエルを仕留めたりと騒々しい一日が終わりを告げた。

 マトリエルの死体は、今までの使徒と違い、ゴジラに殲滅されずに済んだためほぼ完ぺきな形で残ったため、貴重なサンプルとして全部回収された。生きている間に取ったゴードンが持ち帰ったサンプルも死ぬ前と死後との違いの比較に使える貴重なサンプルになった。

 これについてネルフは、猛抗議してきたが、マトリエルを倒したのがM機関所属の風間達だということでその抗議を抑え込み、さっさと回収した。

 機龍フィアが格納庫に収容された後、中で気絶してたツムグを担架で運ぶ最中、何度もツムグは吐血して激しく咳き込んだ。

 ツムグの体調管理などを任されている研究所に運ばれすぐに検査が行われた。

 結果は、ツムグが強力な熱線を使用したことによる負荷で、本人も知らぬ間に内臓の血管が脆くなっていて、その状態で機龍フィアに乗って力んだために血管が破裂していただった。

「ツムグ…。どこで熱線を使ったんだ?」

「黙秘しまーす。ゲフっ。」

 ツムグと付き合いが長い研究者兼医者がじと~っと怒りをにじませた視線と共に尋ねても、ツムグは、沢山の機器に繋がれて横になったまま黙秘するとマイペースに答えてまた吐血していた。

「この十数年の間に熱線なんてまともに使ってないからここまで負担がかかったんだ。それにしてもおまえの中の監視システムからの電波が届かないなんて、一体どこで油を売ってたんだ? おまえの治療優先で来てないが、波川司令達が怒り心頭なんだぞ?」

「ごめんねー。ちょっと散歩してたら迷っただけだから。グフっ。」

「…おまえの監視体制は、地球の裏側にいても特定できるはずなんだがな? 何が妨害したんだか?」

「あ? そうなの、ガハっ。」

「あんまり喋らせないであげてくださいよー! さっきから喋るたびに血ぃ吐いてますって!」

「この程度じゃこいつは、死なん。緊急時に勝手にいなくなった罰だ。」

 さすがに見かねた研究者の卵が止めたのだが、ツムグの吐血を無視して話しかけていたこの医者は漫画表現なら怒りマークつけた状態でツムグを睨みながら言った。オロオロする研究者の卵とは裏腹に、睨まれてるツムグは、口を血で濡らした状態でニッと笑った。ツムグにしてみればこの程度のことはスキンシップみたいなものであったのだ。緊急時に自分がいないことでどれだけの危険と損害が出るかぐらい分かっているからこそ、自分に与えられるこの苦痛は相応のものだと受け止められる。

 ツムグが横になってる色んな機器だらけのベットの枕元が血塗れだった。

 結局、ツムグの吐血が止まるまで、翌日までかかった…。

 精密検査で全身の血管が修復されたのを確認されてから、新しい監視のためのナノマシンが注入された。

 ツムグがどこにいるのか捕捉できなかったことについて、監視衛星や世界中にある地球防衛軍の施設のデータからも、ツムグが機龍フィアに乗る直後まで完全にロストしていたことが分かり、ツムグにどこにいたのか聞きだそうとしてもツムグは黙秘を貫くため謎のままだった。

 それはツムグにとっても予想外のことで、まさかネルフにいただけで自分の監視の目が届かなくなったことに驚いていた。

「どういうことなんだろ? 調べる必要があるけど…、しばらくは大人しくしとこ。」

 続けざまに消えたら自分が親しい者達が迷惑するので、しばらくは大人しくしようと思ったのだった。調べに行った時、マトリエルさえ来なければ調べに行ったのだが…。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 マトリエルが殲滅され、ゴジラを海に退散させた後。

 ネルフの地下の一部がこれでもかというほど焼き尽くされ、破壊されていたことが分かり、現場に急行したネルフの総司令ゲンドウ(※なぜかズボンをまくり上げていて、水で濡れた裸足)が前のめりに倒れ担架で緊急搬送されたりしていた。

 破壊された場所を見て、赤木リツコは、額を抑えて大きなため息を吐いた。

 レイのクローンは、エヴァンゲリオンに搭載されるダミープラグという自動操縦プログラムの開発にも利用されていたのだが、サキエルの襲来のすぐ後にネルフが実質あらゆる特権を奪われたためダミープラグの研究も停止していた。

 それなのにレイのクローンの培養、維持が行われていたのは、ゲンドウの独断であり、維持費はゲンドウのポケットマネー(金の出所は不明)である。

 ゲンドウの最愛の妻ユイのコピーといえるレイは、彼にとってユイの忘れ形見であるシンジよりも外見や遺伝子的にユイに近いことから思い入れが圧倒的に強く、現在いるレイが地球防衛軍の手に渡ってしまった時の荒れっぷりからもその執着ぶりが明らかだ。

 地球防衛軍にいるレイがあらかじめ刷り込んでおいた消えたいという願望から自殺して、プラントのレイのクローンのいずれかに入って手元に戻るのを待っていたが一向にその兆しがなく、暗殺を企てようとしていた矢先にレイのクローンと、その材料のすべてが焼き払われて失われてしまった。そのため現在地球防衛軍にいるレイ以外にもうレイはこの世に存在しないということになる。

 レイの育成やクローン体の維持などの研究をすべて任されていたリツコは、母親絡みの確執もあり、ゲンドウに対する復讐をかねてレイを利用していたのだが、何者かにこうも徹底的に破壊されてなんかもう色々吹っ切れてしまった。

 レイのクローン体の破壊は、自分の手でと考えていたのに、っとリツコは、自虐的に笑った。

 そして顔面強打でサングラスを粉砕して額を割り、鼻から大量の血を流しながら運ばれていったゲンドウの情けない姿を思い出し、地下プラントを破壊してくれた犯人に感謝した。

 ゲンドウのことだから、初号機からサルベージを行いレイを作ろうと躍起になるだろうが、そのための機器も施設も破壊され、一から作ろうにも地球防衛軍の監視は厳しく、秘密裏に建設しようものならすぐ気付かれるだろう。仮にレイのような使徒と人間のハイブリッドの作成に成功しても、そこにレイの魂が宿ることができるかと言ったら微妙なところだ。世界有数の頭脳であるリツコの力をもってしてももうレイを作ることは不可能なのである。

 しかし、ここまで徹底的に初号機以外のレイに関係する機械や素材を破壊したということは、犯人はレイのことをすべて知っていた上でやったということだ。ゲンドウはきっと犯人捜しに奔走するだろうが、きっと見つからないだろうとリツコは想像している。なぜかそんな気がした。だいたいこの場所を焼いた温度をMAGIが調べたところ、推定90万度に匹敵する温度だと分かり、そんなことゴジラでもなきゃできないはずだ。けれど、ゴジラの巨体が入れるスペースなんてないが、そんな高温で焼かれたら復元したくてもできない。

 リツコは、復讐を果たすためゲンドウに従い、身を亡ぼす気で今まで生きてきたが、この短期間で随分と自分自身が変わったというのを実感した。

 思い返せばサキエルの襲来のときに復活したゴジラと、その後の地球防衛軍の復活からすべてが変わった。

 そしてつい最近で思い出すのは、エヴァのことで自分を訪ねてきたミュータント兵士の一人である風間のこと。

 あの不機嫌そうな顔に反して、守りたいもののために戦う戦士としての強さを宿した眼差し。リツコは、不覚にもそんな風間を美しいと思っていた。捻くれ者が見れば偽善だのなんだのと好き勝手に貶すであろうあの真っ直ぐさこそ、心という見えない物を進化させてきた人類が持つ強さなのではないかとも思った。ああいう者達で構成された地球防衛軍だからこそ、地球防衛軍は、長らくゴジラを始めとした怪獣達と戦い続ける強さを維持できたのだろう。

「奇妙な巡り合わせだわね。」

 リツコは、クスクスと笑った。

「あの子(風間)、また来てくれないかしら?」

 そんなことを口にするリツコであった。どうやら彼女の心からはすっかりゲンドウはいなくなっているようだ。

 

 リツコが風間のことを思い返していた時、基地に帰った風間がくしゃみをしていたとか?

 

 

 

 

 

 




ゴジラと機龍フィアの泥仕合みたいな戦いは、リメイク前以上のが無理でした。


風間の年齢は、確か一応20代前半ってことにしてたはず。
さて、リツコとのフラグは、どうしようかな?
リメイク前だと、ラストまで微妙だったし。


リメイク前の時、これを書いてた当初は、ツムグは、すぐにボロボロになる(?)けど死ねないキャラっていう設定が少しずつ出来上がってきたんだったかなぁ?
初めて書いてた当初は、ここまでボロボロになるキャラ設定じゃ無かったと思う。(たぶん)


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第十五話  堕ちてくる災厄

サハクィエル編。



戦闘描写は、ほぼコピーペーストしました。
巨大だけど、攻撃手段が限定されているサハクィエルは、これ以外での殲滅方法が浮かびませんでした。


そしてやっぱり出番が無いエヴァンゲリオン……。
タイトル詐欺もいいところだなと…反省している。


 

 その頃。

 地球防衛軍の基地、科学部の研究所のひとつ。

「大丈夫?」

「ああ…。」

「風邪でも引いたのか?」

 くしゃみをした風間を音無と尾崎が心配した。

「それで、研究結果はどうなってるんだ?」

 風間が音無に聞いた。

 音無は、分子生物学博士なので怪獣などの生物の研究の他、使徒の解析にも立ち会っている若き天才である。

 聞かれた音無は、ノートパソコンを開き起動させると保存されたデータを二人に見えるようにした。

「使徒の燃えカスと、あのザトウムシみたいな使徒から採取したDNA配列と照合してみたけど、結果は、99.88パーセント、人間の遺伝子と一致する結果が出ているわ。燃えカスから得られなかった新たな情報としては…、使徒の細胞はあのATフィールドをほぼ常時発動できるほどの莫大なエネルギーを生産できるということ。そのエネルギーの生産はどうやっているのかはまだ分からないけど、急所であるコアが使徒の体の機能のすべてを司っているわ。ここまでコアに依存している仕組みじゃ、コアを潰されたらそれで死んでしまうのも無理もないわ。はっきり言って使徒はコアだけですべての体の機能を維持していると言ってもいいわ。つまりコアさえ無事なら体のどの部分を失っても平気ってことよ。」

「二つに別れた状態で活動した使徒が良い例か…。」

 尾崎はイスラフェルのことを思いだして言った。

「ええ。使徒という生物は、生命としてはまさに究極と言っていいわ。これまで確認された使徒の形状から見ても分かるけど、生物として絶対必要な食事や排せつなどがまったく必要ない形をしている。コアの部分だけで生命活動のすべてを維持しているのよ。生命としての完成度なら怪獣の遥か上を行くわね。」

「怪獣よりも上位の生物…。」

「だがその完璧な生物とやらもゴジラのあっさり殺されてるぞ? 機龍フィアにだって負けてる。俺でも仕留められたしな。」

「完璧、完全、究極。…なんて言葉ほど、不完全なものはないわ。少なくとも私はそう思うもの。」

 音無は、そう言って肩をすくめた。

「使徒は、急所であるコアを潰されなければN2兵器でも殺せないわ。だけどコアさえ潰せれば、風間少尉やゴードン大佐でも倒せるってこと。異常な生命力のすべてをコアという急所に全部かき集めた体の構造が仇になってるわね。そう言う意味では、完璧だけれど、凄まじく弱いってこと。」

「…コアを潰すとか言う前にゴジラの熱線で跡形もなく焼き払われてるけどな。」

「それは…、うん。ATフィールドという特殊なエネルギーの壁については、まだ解明できないんだけど、ゴジラの熱線やメーサー砲なら貫通できる。だから何かしらのエネルギーの波長が突破口になっているのは間違いないのよね…。あ、そうそう。」

 音無は、思い出してパソコンを操作し、別のデータを表示した。

「風間少尉の報告で、何かがこの使徒を食べて姿を消したってこと、調べたんだけど…。ネルフ本部が停電してたから使徒を食べた相手の正体に関する情報は何も掴めなかったわ。」

「そうか…。」

「歯型が残ってたから調べてみたんだけど、少なくとも数十メートルぐらいはある巨大な生物の口だったわ。適合する生物の歯型がなかったから、分かったのはそれだけ。唾液と思われる分泌物も見つけたから解析したけど、人間の唾液とほぼ一致したのよ。どういうことかしら?」

「数十メートル? 確かに…、俺が見た物はかなりでかかった。一瞬だったから全部を見れたわけじゃないが、唾液が人間と同じだと…? まさか…、そんな馬鹿なことが。」

 風間は、停電前に見た三号機の口の形を思い出し頭を振った。

「心当たりがあるのか? 風間。」

「正直、考えたくもねぇ。もしそうなら余計に訳が分からなくなっちまう。」

「教えてくれ。それがヒントになるかもしれないぞ。」

「……エヴァンゲリオンだ。」

 渋々答えた風間の言葉に、尾崎と音無は目を見開いた。

「え、エヴァンゲリオンって…、あのエヴァンゲリオン? あれが? 使徒を? 確かに初号機の外装から見れば口らしい部分は……、ちょっと待って、確かにそうだとしたら風間少尉が認めたくない気持ちがすごく分かるかも。でもエヴァンゲリオンは、膨大な電力があって始めて動けるのよ? 大停電の状態で、誰も乗ってない状態で自力で動くなんて考えられないわ。」

「初号機に意思があったらどうだ?」

「尾崎君?」

 困惑していた音無に、風間が言った。

「エヴァンゲリオンは、使徒だ。ロボットじゃない。生物だ。意思があっても不思議じゃない。」

「尾崎、おまえ…。」

 風間が不審げに尾崎を見た。

 尾崎が初号機に意思があるとはっきりと言っていることに、何かを察したらしい。

「おまえ…、あのシンジってガキの心の中で、初号機の意思って奴に接触したのか?」

「……ああ。」

 ずばり言い当てた風間の言葉に、尾崎は肯定した。

「どうして話してくれなかったの?」

 音無の非難を込めた言葉に、尾崎は、ゆるく首を横に振った。

「言いづらかったんだ。ごめん…。」

「もう…。私って信用ない?」

「そ、そんなことない! ミユキはすごいよ! 俺は君のことをすごく頼りにしてるんだ!」

「ほんと?」

「ほんとだって!」

「要するに、尾崎、おまえは、初号機から直接聞いたってわけか? 使徒のことと、ジンルイホカンケイカクのことも、全部!」

 恋仲の尾崎と音無の世界が展開されそうになったので、無自覚イチャイチャ馬鹿ップルにうんざりしている風間が強い口調で無理やりその世界を破壊した。

 フォローしておくが、風間は尾崎と音無の仲を妬んでいるわけではない、むしろ一番応援している。

「そ、そうだ。そうだよ…。あいつが、小さいシンジ君の姿と声を借りた姿で現れて、それで話をしたんだ。まさか、あんなことを聞かされるなんて思いもしなかったよ。信じられなかった。信じたくなかった。でも、嘘偽りのない精神の世界だからあれが全部真実だって分かるんだ。あの後、意識がなくなったから夢だったかもしれないって無意識に自分に言い聞かせようとしてたのもあるせいで、自信が持てなかったんだ。だからシンジ君の心の中で初号機の意思に会って重大な話を聞いたってはっきり言えなかったんだ。すまない…。信用してなかったんじゃない。俺が悪いんだ。」

 俯き、そう語る尾崎を見て、風間は大きく息を吐いて、頭をかいた。

「生死の境を彷徨ったんだ。記憶が曖昧でも仕方ない。むしろそこまではっきり覚えてる方がおかしいぐらいだ。」

「えっと…、すごい頭に焼き付いちゃってたから。だってすごい情報だったからつい…。」

「さすが“カイザー”ってとこか? 普通のミュータントなら、脳が焼け焦げて死んでたってのに…、おまえはマジで規格外だな。ま、そのおかげで、とんでもない貴重な情報を持ち出せたわけだから、その規格外さに感謝しないとな。」

「そうだな。」

 尾崎はただでさえ人間を超越した新人類であるミュータントでも、更に上をいく突然変異体である“カイザー”と名付けられた存在である自分自身をあまり良く思ていない。彼が心優しく、自分より他人を優先する正義感が強い性格であるため自分が誰よりも優れた力を持っていることが辛いと思うことがあるのだ。シンジの心の中に精神感応でダイブした時、初号機に指摘されたことに即座に否定はしたが、実は少なからず“孤独”を感じていたことがあった。

 自分だけがこの世界でたった一人しかいないということ。数百万分の一というぐらい低確率で生まれるという科学的なデータがあるものの、現在尾崎以外に“カイザー”がいないこと。

 強すぎる力は、諸刃の剣である。

 使い方次第。あるいは、周りの認識で力の持ち主を悪魔にして、どこまでも傷つけてしまう。

 強すぎる力を持て余す尾崎の優しすぎる性格に、力では劣る者達が妬まないはずがない。その妬みを知るたびになぜ自分がこんな強い力持たなければならなかったのだろうかと繰り返し考えた。自分じゃなく、もっと力を持つに相応しい者達がいるはずだと思った。

 しかしM機関の社会貢献の仕事の時、その大きな力で沢山の命を救い、仲間を守ることができた。

 力を持たぬ正義と優しさでは何もできない。他の者達ではどうすることもできない悲しき無力と、力を持たない優しき者達の傷を自分のことのように感じ取り続けた尾崎は、強すぎる力への迷いを捨てる決意をした。

 迷いを捨てたことで尾崎の見る世界が変わった時、彼はかけがえのない仲間との絆と、風間という友と、初めて愛した女性である音無を得た。

 だから、尾崎は初号機に反発したのだ。残念ながら幼い精神を持つ初号機には、尾崎のその心中は伝わらなかったが…。

「もしかして…、おまえが死にかけたのは、その初号機のせいだったりするか?」

「うっ…、う~ん、当たらずも遠からずかな?」

 あの時、魂を取り込まれかけたことについては、尾崎はほとんど覚えていない。ただツムグの助けがなかったら今こうして三人で一緒にいなかったというのは漠然と覚えている。

「…ネルフ行った時にぶっ壊してくればよかったか。」

「なんでそうなるんだ!?」

「前から思ったけど、風間少尉って、尾崎君のことになると過保護になるよね?」

「好き好んでやってんじゃねぇよ!」

「お、怒らなくてもいいだろ? 俺がなんか悪いことしたか?」

「あー! ったく、おまえは、面倒な奴だよ!」

「えー?」

 放っておいたらほうほい自ら死にに行くような真似をする、面倒見てないと危ない無自覚な尾崎に、風間は怒鳴った。

「もう、二人ともやめて。それにしても、何のために使徒を食べたのかしら? 使徒を食べるメリットっていったい…。使徒を生け捕りにして構造を調べられればいいんだけど、そうはいかないわよね。たぶん次の使徒はまた全然違う姿だろうし。…ねえ、尾崎君、私、もーれつに嫌な予感がするの。」

「俺もそう思ってた。」

「いきなり現れるうえに、ここまで形が違う奴ばかりだしな……。だが今まで現れたのは、エヴァンゲリオンと同じぐらいか、少々でかいぐらいの奴らばかりだった。ネルフがサードインパクトとの関連性を主張したぐらいだから、俺達の想像を超えるような使徒が現れても不思議じゃないぜ。」

「あまり想像したくないな…。」

「同感だわ。」

「ああ、まったくだ。」

 次に来る使徒について嫌な予感がしている三人は、揃ってため息を吐いた。

 

 

 そして三人の嫌な予感は的中する。

 

 地球の衛星軌道上に、これまで確認された使徒ととは比較にならない巨大な使徒が出現した。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 衛星軌道に巨大な物体が突如出現した。

 地球防衛軍の衛星や天体観測施設での解析で、出現したこの物体が使徒であることがすぐに分かった。

 使徒マトリエルを殲滅してからそれほど時間が経ってない、立て続けの使徒の襲来であった。

 観測され、衛星写真で撮られたこの使徒の姿と全長に観測者達は恐怖で絶望したという。

 

 地球防衛軍本部の会議室では、浅間山でのサンダルフォン殲滅作戦以来久しぶりに緊急会議が開かれることとなった。

「ザトウムシによく似た使徒の殲滅後、この使徒は出現しました。今から映像を映像をスクリーンに映します。」

 そして巨大スクリーンに、観測された衛星軌道上に出現した使徒の姿が映された。

 その姿は、まさに美術品のような、カラフルなアメーバというか…、もしくは古代文明の遺跡にありそうな壁画とかオカルト系の書物に描かれるような模様に目玉がついているようなそんな異様な姿だった。目玉がなければ、これが生物だと判断できないような奇怪な形だ。

「全長はおおよそ20キロメートルから40キロメートル。発見されてから、現在まで動きは見られない状態です。この途方もなく巨大な使徒の攻撃手段やそれ以外の性質は、まだ解析できていません。」

「40キロメートルっ…!? なんなんだその大きさは! そんなものが今、地球の空から地上を見おろしているというのか!?」

「やはり、突然現れたのですか?」

「ええ。何の前触れもなく突然出現しました。衛星と天体観測施設の記録が必要ですか?」

 マトリエルの後に続けざまに出現した使徒は、怪獣との戦いの経験者達ですら経験したことがない途方もなく巨大であった。

 それも地球の衛星軌道上を漂っており、今のところ大きな動きはないが、宇宙空間に出現したことと、その巨大さだけで、もう不安と恐怖で多くの者達は顔が青くなっていた。

 机に肘をついていたゴードンも、巨大すぎる使徒が映されたスクリーンを睨みつけ口元を歪めていた。

 宇宙から来た怪獣や宇宙人はいたが、まさかなんの前兆もなく数十キロメートル級の使徒が現れるなど誰が考えた。さすがのベテラン勢も嫌な汗が伝う。

「スペースゴジラやミレニアムとはわけが違うぞ!? どう立ち向かえというんだ!?」

「地球防衛軍の兵器で地球衛星軌道上の物体を狙えるような兵器がそもそもあるのか!?」

「単発式だが威力を重視しすぎたプロトタイプのメーサー砲なら格納庫で埃被ってるがな。」

「ならそれを引っ張りだすべきだ!」

「待て、あれ(プロトタイプの巨大メーサー砲)で40キロメートルもあるあの化け物を仕留められる保証はない! それにあれは爆発の恐れが高いから実戦に投入されなかったんだ!」

「仮に爆発しなかったとしても衛星軌道にいる奴まで攻撃が届くとは限らない!」

「なら轟天号をロケットエンジンで宇宙に飛ばすのは!?」

「だめだ、時間がかかり過ぎる! 地球防衛軍の技術開発部が総力をあげても数十時間は必要だ!」

「くそ! 宇宙空間にいる化け物退治など前代未聞だぞ! ゴジラといえど、あんな場所にいる使徒をどうやって仕留め…っ…、ちょっと待ってください、あれだけ巨大な使徒のことをゴジラはもう気付いている…はず…ですよな?」

 ふと我に返った上官の一人が、巨大使徒の存在についてゴジラが気付いている可能性について言った。

 今まで80メートルくらいか、あるいはそれより少し大きいぐらいの色んな形をしていた使徒であるが、宇宙空間に出現した使徒はとにかく巨大である。今まで出てきた使徒をほぼ漏らさず(イスラフェルの時のみエヴァ四号機を破壊しにアメリカに上陸したが)見つけて襲ってきたゴジラが宇宙空間にいるとはいえ、巨大使徒を発見できていないというのはおかしい。

「そーいえば、ゴジラの野郎の熱線は宇宙まで飛距離はあったな…。」

 ゴードンがそう呟いた。

 ちなみにこの宇宙まで届くというゴジラの熱線は、セカンドインパクト前のゴジラの熱線である。

 つまりセカンドインパクト後でやたらパワーアップしている今のゴジラならば…。

「馬鹿みてぇにでかいあの使徒も簡単に燃えカスにできそうだ。」

 ゴードンの言葉に、混乱して大騒ぎしていた議会場内の者達が静まった。

 使徒を仕留めることに躍起になっていたが、今考えてみれば最初の内はゴジラが使徒を仕留めてからゴジラと戦うという流れであった。急な使徒よりエヴァ破壊を優先したことや使徒がいた場所が悪かったことや、ミュータント兵士が白兵戦で仕留めたのを抜けばほとんどの使徒はゴジラに殲滅されている。

 騒然となっていた場が、それでなんとか落ち着き始めていた時。

 彼らの予想を裏切る最悪の事態が起こった。

 

「緊急事態発生!」

 

 波川の隣にいた秘書が耳にかけたヘッドフォンを手で押さえて波川に知らせた。

「地球防衛軍の天体観測施設からです! 軌道衛星上にいる使徒に動きがありました!」

「ライブ映像を!」

「了解!」

 巨大スクリーンの映像が衛星からのライブ映像に切り替わった。

 そこに映されたのは、横長?縦長?な体の両端をジリジリと引きちぎるように切り離していく奇妙な動きをする巨大使徒だった。体をちぎっていく様は、分裂していく単細胞生物のように見えなくもない。

「なんだ、何をする気だ?」

「……っ、波川!」

 動きを出した使徒の様子を見守っていた議会場の人間達の中でゴードンが突然立ち上がり叫んだ。

「奴の…使徒の現在位置はどこだ!?」

「どこにいるのか分かる?」

 波川は秘書に映像の情報を教えるよう促した。

「現在使徒は、ユーラシア大陸、…ロシアの上空を飛行中です。」

「ああ! 使徒が分離したぞ!」

「落下していく! まさか自分の一部を地上に落下させるのがこの使徒の…!?」

「落下予定位置を割りだせ! 急げ!」

「ゴードン大佐? なにをそこまで…。」

「馬鹿かおまえらは! あんなでかい奴の一部が落ちてきたら、どうなるか自分の頭で考えられないのか!」

「そ、そんな…、いくらなんでも大気圏で燃え尽き…。」

「科学部からの報告です! 切り離された使徒の一部から強力なATフィールドを確認! 更に削れながら落下位置を修正しています! 落下予定地は……、地球防衛軍・ロシア基地!!」

 ゴードン以外のこの場にいた者達全員が目を見開いた。

 ライブモニターに映された、体の真ん中を残して両サイドの体の部分を切り離した使徒の本体と、地球の重力に引かれるまま落下して凄まじい高熱を纏い落下速度を増していく使徒の一部。

 落下していく使徒の一部を追ったカメラが映し出したのは、ロシアだった。

「ロシア基地に緊急避難指示を!」

「りょうか…、っ、科学部研究部からの解析結果の緊急報告! エネルギー測定によると、落下すれば基地だけじゃなく、地下及び周囲およそ数キロメートルに、落下による衝撃が広がる可能性が…! 間に合いません!」

「うわああああああああああああ!」

 ロシア人の上官の一人が頭を抱えて絶望の悲鳴を上げた。

 そして数分後、衛生のライブモニターで、ロシアの基地があるはずの場所に大きな炎が膨れ上がった。

 皆言葉がなかった。出せなかった。僅かな間だった。大国ロシアにあった地球防衛軍の基地の一つが広範囲を巻き込んで地図上から消え去ったこの瞬間を、ライブ(生中継)で見てしまったことに。

「……ロシア基地は…?」

 波川が体を小刻みに震わせながら、なんとか冷静に保とうとしている声で指示した。

「……ロシア基地に…、通信は……、つ、繋がりません…。」

 秘書が震える声でそう伝えた。

 それを聞いて、先ほど絶望の悲鳴を上げたロシア人の上官が席から崩れ落ち床で声を上げて泣いた。

「そんな、馬鹿な…、使徒は第三新東京を狙うはずでは?」

「まさか…、今まで邪魔をしてきた我々に標的を変えた? なぜ、今なんだ? なぜなんだ!?」

「使徒の動きは!? 今、どこを飛んでる!?」

 ロシアの基地が一瞬で消滅させられたという衝撃に、ほとんどの者達がパニックになる中、ゴードンが憤怒の表情を浮かべて波川の部下に確認を急がせた。

「使徒は、今、アラビアとヨーロッパ諸国の間ぐらいの位置に…。波川司令、モニターの使徒が…!」

「ええ。もう再生を始めているわ。つまりこの使徒は、真ん中を抜いて両サイドの体の一部を爆弾として地上に落下させて攻撃するということです。この様子だと弱点のコアは、真ん中の目玉にあるのでしょう。次に使徒が狙うのは…、アラビアか、ヨーロッパ諸国の基地! 使徒がまだ落下攻撃に移る前に緊急避難を完了させなさい!」

「了解!」

「他の基地も忘れんな! もちろんここ(日本)もだ! 奴がいつ落ちてきてもいいように遺書でも用意しとけよ!」

「書いた遺書も吹っ飛びますって!」

「ハハハハハ! それもそうだな。」

「冗談言ってる場合かー!」

「こういう時だからこそ緊張を解きほぐすだ。そうすりゃ大どんでん返しだってできるさ!」

「ちくしょー! 普通なら阿呆が気狂いしてほざいた言葉だって激怒するか無視するとこだが、ゴードンが言ったら必勝フラグに聞こえるー!」

 ゴードンは、上層部の一部やキャリア系の指揮官達からは嫌われているが、彼らの内心ではゴードンはある種の必勝確定みたいな認識が無意識のうちに広まっていたりしていた。嫌っていながら、結局無意識のうちにゴードンに信頼しているのである。

 

「ネオGフォースは、これより軌道衛星上にいるこの巨大使徒を殲滅する兵器開発チームを作りなさい。そして使徒の攻撃を迎撃して落下を阻止する防衛陣を敷き警戒に当たりなさい! 科学研究部は観測施設と衛星でこの使徒を監視、変化が少しでもあれば即報告、使徒の解析を行うこと。以上!」

 

 こうして、空の使徒、サハクィエルとの戦いの火ぶたが切って落とされた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 使徒サハクィエルの出現は、すぐにネルフも知った。

 そしてネルフ本部のある第三新東京を無視して、関係の無い地球防衛軍のロシア基地を攻撃したことも。

 衛星軌道上からの攻撃はそれだけデカかったのだ。

 アスカは、ざまぁみろ!っとにやけていたし、ゲンドウも似たような状態だったが、リツコが待ったをかけた。アスカにではなく、ゲンドウに向けて。

「使徒がココ(ネルフ本部)を目指さないのは、おかしいです。まるでネルフにはもう用がないとでも言いたげではありませんか?」

 

 

 要約:つまり地下にあるのがアダムじゃなく、リリスだってことがバレてるんじゃね?

 

 

 それを聞いてゲンドウは、真っ青になり、リツコにヤレヤレと呆れられていた。

 きっとゼーレも大騒ぎになっているだろう。

 作戦本部に戻ると、ミサトがオペレーター達に出させた使徒サハクィエルのデータの書類と睨めっこしてウーンウーンと作戦を考えようとしている。

 ハッキリ言って無駄だろうにっと、リツコはため息を吐いた。

 アスカはまだマシだが、ケンスケが問題だ。それにエヴァンゲリオンの数も動かせる者が二人しかいないので実質2体しかない。そんな状態であんな巨大な使徒を相手にする作戦を立てたとて、防ぎきることは不可能だろう。

 地球防衛軍も、きっと今頃はこの巨大な使徒を迎撃するため必死だろう。

 アスカがまた荒れるだろうが、今回の戦いは完全に地球防衛軍が頑張らないといけない。というか、ネルフが手も足も出せないから、地球防衛軍が頑張らないといけないのだから。

「だとすると……、ゴジラが気づいてないのはおかしいわね。」

 あれだけ派手に攻撃してきた使徒の存在に気づかないほど、今のゴジラが鈍いわけがない。

「ああ…。地球防衛軍が頑張らなくても、ゴジラに任せるってのもアリね。」

 敵同士を戦わせて勝った方を攻撃すれば良いのだ。それは、これまでの地球防衛軍の戦いの歴史でもよくやっていたことだ。

「ならだいじょうぶね。」

 リツコは、余裕そうに鼻歌歌いそうなほどな上機嫌でパソコンで中継を見守った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 地球防衛軍のロシア基地が地図上から消されて約三十分後。

「強い優秀な人を妬んじゃうってもう本能だよね。本能だからあがらいようがないよね。どう頑張って改善しようとしても歴史は、繰り返す。簡単に治せるもんならゴジラさんみたいに苦労しないのに。そうじゃなきゃそもそもゴジラさんが生まれてくることもなかったから、ちょっと複雑。」

「独り言を言ってる暇が合ったら集中せんかい。」

「けち~。」

「おい、G細胞完全適応者! すっとぼけてる場合じゃないんだぞ!」

「分かってるよ、空にいる使徒に基地一個消し飛ばされたんでしょ? あんな大爆発あったら海の向こうでもすぐ分かるって」

「分かってるならしっかりDNAコンピュータを安定させろ!」

「もう、どケチ。」

 技術者達に怒られながらツムグは、マイペースさを保ちつつ目を閉じるなどしてDNAコンピュータとのシンクロに集中した。

 現在、倉庫の奥で埃被っていた試作品の怪獣兵器を引っ張り出し、急ピッチで使えない部分を取っ払って宇宙にいる使徒を迎撃するための兵器にするために技術開発部が総力を挙げて頑張っているところだ。

 その武器の中心となるのが機龍フィアなわけで、機龍フィアが臨時で兵器の核となり、エネルギープラントから直接エネルギーを充填できるよう大量の管を接続したり外したり、大忙しである。

 こうしている間にも宇宙にいる特大級の使徒がまた体の一部を爆弾として落としてくるかもしれないので現場のピリピリは最高潮だ。

 40キロメートルの巨体が地球衛星軌道という地上から遠い場所にいること、そしてATフィールドを纏っていること、そして兵器の耐久力から膨大な計算を行い正確に使徒を狙撃しないといけないため兵器の核となる機龍フィアのDNAコンピュータの正常な稼働が不可欠となる。なので現在DNAコンピュータとの近親性からDNAコンピュータを想定以上の能力を引き出せるツムグが機龍フィアに乗ってる状態でシンクロし兵器を完成させるための各種データと機龍フィアが纏うことになる巨大砲塔との接続、正常に稼働するか試すことが繰り返して使徒を狙撃する兵器の完成させようとしていた。

 シンクロと言っても脳と接続してDNAコンピュータを活性化させるだけなので、正直ツムグは暇だった。

 マトリエルの時の吐血の原因になった高出力の熱線の使用による内臓の血管のダメージは、すでに治っている。新たに監視用のナノマシンと機器を埋め込まれるなどしたが、ツムグはいたって元気だった。

「ゴジラさん、なにしてるかな~?」

 外で技術者達が走り回ってたり、指示を飛ばしていたり、材料を運んでたり、様々な機器を操って使徒を狙撃する兵器の完成のために動き回っているのを見ながら、ツムグは暇そうに足を組んだ。

 ゴジラは、日本近海にはいない。ツムグが探知できる範囲は日本全土ぐらいなのでその範囲にいないということは、少なくとも国外にいるのは間違いない。

 会議室で軍の上官らが考えたようにゴジラは巨大使徒の存在にはすでに気付いているはずだとツムグも考えているが、共感できる範囲に来ないとゴジラの気持ちを感じ取ることができないので、ゴジラが何を思って行動しているのかは、今は分からない。

 ツムグがDNAコンピュータから算出した予想では、少なくともあと数時間ぐらいで狙撃する兵器は完成するはずである。ただしこれであの空にいる使徒、サハクィエルを倒せるかは別問題だ。

「そういえば、轟天号を宇宙へ飛ばす計画も一応やってるんだっけ? まあ、念には念だよね。準備しておくに越したことはないよね。それにしても、なんで使徒は急に地球防衛軍の基地を狙いだしたんだろ? 第三新東京を無視してさ…。フフ…、って誰も聞いちゃいないか。やれやれ独り言多いって言われても仕方ないよね。俺なんかと進んで仲良くなろうなんて奴、そうそういないし。」

 

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「ん?」

 ヘルメットから何か音を拾ったのかと思いヘルメットの耳のあたりを触ったりして確かめた。

「気のせいか…?」

 

 -----ェル。

 

「……気のせいじゃないか。キミは、誰? って、なーんて、今更誰って聞くのもおかしい話か。だって“オマエ”は、一緒に戦ってくれてたんだからさ。分からないわけない。ねえ? 聞こえてる? ……まだお喋りは得意じゃないか。少しずつ慣れていこう。そしたらもっと喋ろうね。世界で唯一の俺の同胞、機龍フィアちゃん。」

 機龍フィアに起こりつつある嬉しい変化に、ツムグは、愛おしそうに座席に横向きに寝て、甘えるように体を摺り寄せた。

 

『……? 椎堂ツムグ、一体何をやった? DNAコンピュータの波長に妙な値が出たぞ?』

「その内分かるよ。」

 DNAコンピュータの僅かな変化に困惑した顔をする技術者の一人の問いに、ツムグはそう答えた。

『…そうか。まあ別にこの程度なら問題はないが…。おかしな真似はするなよ?』

 短いツムグの返答に納得ができない様子ではあったが、最後に釘を刺して技術者は作業に戻った。

 ツムグは、やれやれと肩を竦め、暇だからもう寝てしまおうかと目を閉じようとした時、ふいに止まった。

「使徒ちゃんには、こっち(地球防衛軍)を狙ったことをたっぷり後悔するといい。まったく、神の使いの名前の癖にいい迷惑だ。」

 などと文句を垂れながら、ツムグは後頭部に両手を置いた。

 

 数分後、ヨーロッパの地球防衛軍基地に向けて落とされたサハクィエルの一部がGフォースの轟天号を筆頭とした空中戦艦と戦闘機の陣に撃ち落され、地上に落下する前に粉々にして燃え尽きさせるのに成功した報せが入る。

 対使徒のために改良された新しい対怪獣兵器の実戦投入はどうやら成功をおさめたようだ。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 サハクィエルは、空気もない宇宙空間から地球を見おろしていた。

 サハクィエルにとって宇宙空間にいることが強みであり、体の大きさ、そしてATフィールドを持つ己を、地球防衛軍が殲滅するのは容易なことではないと分かっていた。

 サハクィエルは、怒っていた。先に死んでいった同胞達の魂を引き継ぎ記憶を共有して、自分がこの世界に姿を現した瞬間に湧きあがった最初の衝動(※感情かどうかは理解してない)であった。

 アダムとの融合を邪魔してくる最大の敵である地球防衛軍を滅ぼしてやる。そのつもりで第三新東京を後回しにし、世界各地にある地球防衛軍の基地を破壊しようとしたのだ。その基地の一つを消滅させるのに成功し、彼らに絶対的な恐怖を植え付けるのに成功した……はずだった。

 サハクィエルは、人間を見誤っていた。それもセカンドインパクト前に怪獣との戦いを繰り広げてきた意地と根性の人類の代表格みたいな地球防衛軍の底力というか、諦めの悪さを。

 二度目に落とした自分の一部があっさり撃ち落され、燃え尽きて消えてしまった。

 アダムの系統として生まれ落ちた使徒の一柱である己の中のアダムの記憶が訴える。

 リリスの子孫であるリリン(人間)の知恵の恐ろしさを。

 知恵の実で進化したリリスの系統を侮ってしまった。だが今更遅いが喧嘩を売ってしまったからには、後には引けない。

 二度目の攻撃は防がれてしまったが、そう何度も防げるはずがない。知恵を武器とする人間でも空の彼方にいる己に届く武器を作るには時間がかかるであろうし、圧倒的物量と生命の実による無限の生命の前にいつか屈するだろう。

 サハクィエルは、じっくりと腰を据えて地球防衛軍を根絶やしにしてやろうと地球を見おろしていた。

 しかし落ち着いて行動していたサハクィエルは、アダムの記憶にある恐ろしい殺意に気付いた。いや、それどころか先に死んでいったほとんどの使徒が殺される瞬間に最後に目にしたあの世界を焼き滅ぼしそうなほどの怒りに燃えるあの目が自分に向けられていることに気付いてしまった。

 地球防衛軍にばかり意識を向けていてすっかり忘れてしまっていた、あのリリン(人間)の罪から生まれた、この星の理から外れた最悪の存在を。

 自分より先に死んでいった同胞達(イスラフェルとマトリエルは別)を殺した相手のことを。バラバラに砕ける前の白い月の中にいたアダムが南極で眠っていた頃、氷の中で封じられていた時も失せることのなかった世界を焼き滅ぼすほど怒りの炎を感じ取って、白い月の中にいたアダムが怯えていたのに。

 奴が自分を見ている。空の彼方にいる自分を真っ直ぐ見ている。自分を殺すために見ている。

 サハクィエルは、殺意が発生している地点へ向けて移動した。

 そしてサハクィエルが見たのは、セカンドインパクトによる海底の隆起によってできた小さな小島の上に立つ、黒い怪獣王が空の彼方にいる自分を睨みつけている姿であった。

 怪獣王ゴジラをしっかりと認識したサハクィエルは、疑問を持つ。

 

 

 ナゼ我々(使徒)ヲ滅ボソウトスル?

 

 

 自分達は、アダムへ還りたいだけなのに、なぜあの黒い破壊者は自分達を殺すのか。

 おまえの存在意義はリリン(人間)に復讐することじゃなかったのか。

 サハクィエルの問いかけに、ゴジラは何も答えはしなかった。

 その代りのように、サハクィエルが見おろすゴジラの背びれが青白く発光した。

 それを見たサハクィエルは、両端にある自分の体を即座に千切り、ゴジラに向けて落下させた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 雲よりも高い遠い空でオレンジ色の熱線と、二つの巨大な高熱の塊がぶつかり光の粒となって空に飛散した。

「ようやく動き出したか、ゴジラめ。派手な花火だな。」

 飛行する轟天号内でゴードンが愉快そうに笑って言った。

「宇宙からの飛来物を正確に、それも一撃で撃ち落とすなんて…! くっ、相変わらず出鱈目だ!」

「デタラメだからこそ奴らしいじゃねーかよ。こうでなきゃ戦いがいがない。」

「艦長もたいがいデタラメですがね!」

 波川の命令とはいえ、普通の人間なのに、身一つで、刀で使徒マトリエルの足を二本切り落としたからだ。副艦長の言葉に他の船員達も心の中で同意した。

「観測施設からの報告! 使徒は再生する速度を速め、再度ゴジラ目がけて体の一部を落下させる動きを見せているとのことです!」

「そんな、今まで本気じゃなかったというのか!?」

 オペレータの言葉を聞いた副艦長が目を見開いた。あの巨体で体を千切るという荒業を武器にしているのに第一攻撃から第二攻撃までの合間が短くなっているのだ。

 アートな見かけに完全に騙された、大火力の荷電粒子砲をほぼ休みなく発射し続けていた使徒ラミエルのこともあるので、使徒の再生力や攻撃のためのエネルギーの生産量は科学の粋を越えているのかもしれない。

「使徒が再び落下攻撃を開始したとの報告! 落下速度、ATフィールドのエネルギー量が倍になっているとの報告が!」

「ゴジラの熱線が発射されました!」

 サハクィエルの落下攻撃は、更に強力なものになり、ゴジラを目指してサハクィエルの一部が二つ落下していく。

 それと同時にゴジラが再び熱線を吐いた。さっき吐いた熱線よりも色が赤く、太い。

 熱線は、二つの強力な爆弾を貫通し粉砕しただけじゃなく、大気圏を突破してサハクィエル目がけて真っ直ぐ飛んでいった。

 サハクィエルは、さすがに危険を感じたか、器用に体を後ろにグネッと捻らせて熱線を回避した。しかし空気がない宇宙空間なためか、空気などの邪魔な物質がない分、熱線の破壊エネルギーを遮るものがなかったために、サハクィエルの横を通り過ぎた熱線の余波でサハクィエルのコアがある真ん中の体の四分の一が焼けて削れてしまった。横を通り過ぎただけでこれだ。これでもし体にかすってたらコアまでやられていたかもしれない。

 ゴジラの熱線で粉砕された二つの爆弾は無数の大きな粒となってゴジラとその周囲に落下した。

 その幾つかがゴジラに被弾したものの、ゴジラの黒く厚い皮膚を傷つけるまでには至らなかった。

 

 

 

「あの使徒の野郎は、ただデカいだけで、ゴジラにゃ脅威にすらならないか…。」

「あんなスピードで落ちてくる飛来物を正確に熱線で撃ち落とせるゴジラの目は一体どうなってるんでしょう?」

 轟天号内では、もう使徒の負けが決まったなというムードになっていた。

 

『まだだよ。』

 

「通信に割り込み! これは…。」

「なんだ、ツムグか。どうした?」

 急に轟天号の通信網に割り込んできたものに驚くオペレータだったが、通信に割り込んできた相手のIDを見て目を丸くし、ゴードンは、声だけで相手が椎堂ツムグだと分かったので落ち着いて対応した。

『まずいよ、ゴードン大佐。ゴジラさんに向かって行く潜水艦がいるよ。それも数隻も。』

「なんだと?」

『ゴジラさんを邪魔する気だよ。急いで…。アイツらを逃がさないで。』

「おい! ツムグ! おい! チッ、毎回おかしなこと言いやがって! ゴジラを目指して全速前進しろ!」

「し…、しかし艦長!」

「ツムグの預言は外れたためしがねぇ! ゴジラに近づいてる正体不明の連中を生かしたまま捕まえる!」

「りょ、了解!」

 ツグムからの通信によって、轟天号は突然艦隊から離れ、ゴジラに向けて最高速度で向かって行った。

『ダグラス=ゴードン! どういうつもりだ!』

「うるせぇ! 時間がねぇんだ、説明は後だ!」

 艦隊と作戦本部からの通信を強引に切った。

 

 轟天号が全速力で向かう最中、空を見上げて使徒を睨みつけているゴジラの背後に、海中から数隻の潜水艦が迫っていた。

 

 

 

「エネルギー充填65パーセント!」

「くそっ、思ったより貯まらない! エネルギープラントの出力をもっと上げろ!」

「……う、冷却が間に合わない! 一発目が撃てるか撃てないかだぞ、これは…。」

「その前に砲塔が爆発するかも…。」

「悪い方に物を考えるな!」

 ついに完成した宇宙にいるサハクィエル狙撃用のその場限りの兵器が完成し、発射体制に入ろうとしていた。

 しかしもともと欠陥がある試作の兵器を無理やり改造したものなので問題ばかりである。

 ツムグは、兵器に包まれたような形になっている機龍フィアの中で、目をつぶり、長く息を吐いた。

 ゴードンに言ってはいないが、ツムグには、ゴジラを邪魔しようとしている潜水艦の正体を知っている。

 こんな時にゴジラを邪魔する奴など、あの“老人達”ぐらいしかいない。

「ゴジラさんを邪魔すればどうなるか…、分からないほどボケちゃった?」

 ツムグは、ニヤッと笑って、ザ・命知らずな老人達を嘲った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 サハクィエルは、ゴジラに勝てないと判断した。

 だが自身を突き動かす怒りという衝動をどこへぶつければいい?

 サハクィエルは、ラミエルの記憶からその答えを導き出した。

 答えを出したサハクィエルの体が、再生を始めていた全長40キロメートルの途方もない巨体が大気圏に突入し、高熱を纏った。

 目指すは、ゴジラ。

 己ができる最大の攻撃にして最後の武器をゴジラにぶつけてやる。

 アダムがバラバラになった時のあの大破壊の震源地で生き延びた奴を殺すのは無理だろうが、S2機関を全開にして生きた爆弾と化した40キロメートルの落下物の破壊をノーダメージでやり過ごせるはずがない。

 使徒サハクィエルが、アダムとの融合のために第三新東京へ行くことを放棄した瞬間だった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 降下を始めたサハクィエルそのものをゴジラは睨みつけ背びれを激しく発光させ、エネルギーを溜めていた時、ふとゴジラは、気付いた。

 己の背後に自分と“同族特有の匂い”がすることに。

 咄嗟に後ろを振り返った時、ゴジラが知らない間に浮上していた複数の潜水艦からゴジラの無防備な顔面に向けて砲撃が飛んだ。

 それは爆弾でもなければ薬品でもない。いわゆるトリモチ的な粘着質な物質である。それも怪獣用の。

 いきなりのことにゴジラは、背びれを輝かせるのを辞めて、口と両目を覆ってしまったネバネタのものを剥がそうと両手を使い、身をよじった。

 続けて潜水艦がゴジラの両腕に砲撃した。これもトリモチ系で、一時的であるがゴジラの両手の自由を奪った。

 ゴジラが呻き声を上げながら身をよじる状態にした数隻の潜水艦は、役目は終わったとばかりにそれ以上の動きはなかった。

 サハクィエルの最後の攻撃となるサハクィエル自身の落下が迫る。

 一時的なこの妨害攻撃による僅かな時間が、ゴジラの圧勝か、サハクィエルの最後の悪あがきによる痛手を受けるかの分かれ道となる。

 トリモチみたいなものは、ゴジラの体表温度でどんどん粘着度がなくなり、拘束する力を失っていく。この怪獣用兵器は、核エネルギーを全身に行き渡らせているため体温が高く、しかも体内熱線という必殺技を持つゴジラには不向きでゴジラ以外の温度の低い怪獣の足止めなどに利用されていたものだ。

 ただ怪獣用の粘着物とあって後始末が大変なことから、今回潜水艦が発射したように使うのではなくトラップとして使うのが主な、場所を選ぶ代物である。

 ゴジラ封印後、セカンドインパクトの影響で他の怪獣が消えてから生産がストップしていた地球防衛軍の対怪獣用兵器の一つである。それを複数の潜水艦が武装として積んでいたのは、セカンドインパクトに乗じて闇の市場に流れた物が彼らの上の者達の手に渡ったのである。

 潜水艦の乗員達が忠誠を誓う秘密結社は、ゴジラに僅かでも今まで邪魔された恨みを晴らすためにこんなことをしたのだ。

 潜水艦も乗務員もサハクィエルの落下による破壊で消滅し証拠は残らない。

 

 しかし、秘密結社は、……老人達は、最初から失敗していた。

 

 地球防衛軍には、すでに老人達を見つけて、現在進行形で様子を見ている、ある意味ゴジラより厄介なイレギュラーがいて、この場所に最強の戦艦を呼び寄せていたことに。

 老人達は内容こそ分からなくても失敗したのだと理解する。先端に巨大なドリルを持つ地球防衛軍最強の万能戦艦・轟天号がその大きさからは予想もできない速度で飛んできて潜水艦の真上を通り過ぎ、通り過ぎる直後にゴジラに向けて数発のミサイルを発射していた。

 ミサイルの着弾による爆発と熱により、ゴジラの体温で溶けかけていたトリモチみたいなものはあっという間に剥がれ、目を怒りで血走らせたゴジラがあと数百メートルぐらい迫っていたサハクィエルを睨みつけた。その直後、遥か遠くからとんでもなくでかい高エネルギーの弾丸がサハクィエルに直撃し、恐らく咄嗟だったのだろうが、コアを守ろうとして動いたためにサハクィエルの落下速度が少しだけ減速した。

 その少しだけ稼いだ時間だけで、十分であった。ゴジラにとっては。

 ゴジラの口が大きく開かれ、青白い光を越えて、赤々とした光を纏った背びれを輝かせたゴジラは、極太の熱線を吐きだした。

 サハクィエルの巨大な体の中心、つまり目玉部分が熱線で貫通され、コアが燃え尽きるとともにサハクィエルの巨体は、失速して燃えカスのようにボロボロに崩れて風にあおられて空へ舞い上がり、その燃えカスもどんどん小さくなって消滅した。

 空を司る神の使いの名を持つ使徒は、その名の通り空へと還されたのだった。

 轟天号の登場と、ゴジラが轟天号のミサイルで拘束が解けたのと、地上に落下する数秒前というぐうらい迫っていたサハクィエルに向かってとんでもない弾丸みたいなエネルギーが飛んできてそれでサハクィエルの落下速度が少しだけ遅くなり、その隙に力を貯めたゴジラが熱線でサハクィエルの中心を貫いてサハクィエルが殲滅されたという、怒涛の流れに、数隻の潜水艦の乗り組む員達はまず思考が停止していた。

 

『国籍不明の艦に告ぐ! 大人しく投降せよ!』

 

 彼らの思考が動くきっかけとなったのは、轟天号からの投降を呼びかける音声だった。

 作戦の失敗とサハクィエルの落下による自分達の死が回避されてしまったため、彼らが取った行動は、潜水艦もろとも自爆することだった。

 しかし自爆スイッチを押しても引いても、うんともすんともいわず、彼らは混乱する。

 なんとか理性を保てた者が、逃亡を指示した時、ゴジラの影が彼らが乗る数隻の潜水艦を覆った。

 トリモチみたいな対怪獣用兵器で邪魔されたことにゴジラが怒り、熱線を吐こうとした。

 そこに轟天号のレーザー砲が飛び、肩を攻撃されたゴジラは、轟天号を睨みつけ、今日一番の雄叫びを上げた。

 今がチャンスだと潜水艦が逃げようとしたが、今度は動力が止まって潜水することすらできなくなった。

 次から次に逃げ道を奪われる状況に得体のしれない恐怖に駆られた彼らは先ほどより混乱した。

 すると、通信機が勝手に作動し、ノイズに交じって若い男の声が、すべての潜水艦に響いた。

 

『……逃がさないよ…。もうすぐ、そっち行くからね…。』

 

 妙に落ち着いた(マイペース)、けれどノイズが混じってて、メリーさんみたいな恐怖しかなかったと後々語られることになるその声に、老人達の秘密結社に忠誠を誓っていた彼らは、初めて忠誠を誓う相手を心の底から恨んだ。

 混乱と恐怖で、自力で死ぬという方法すら思いつかないほどに。

 

 

 一方、潜水艦の近くでは、ゴジラと轟天号の戦いが勃発していた。

 ゴジラは、小さな小島から海へ進み出た。ちなみに潜水艦がある方向は逆反対だ。轟天号が反対側を向くよう、うまく誘導したからだ。ゴジラは南極で自分を氷漬けにした相手(※厳密にはゴジラを封印したのは轟天号の旧型)を前にして35年前の闘志を刺激されずにいられなかった。

 ガギエルとの三つ巴(?)の戦いの時、使徒より轟天号を撃墜したくて海中から熱線を撃ちまくったぐらいだ。ある意味ゴジラは轟天号に執着しているようだ。もっともあの時は、ゴードンがガギエルを振り切るために海底火山で炙ってダメージを与え、耐えられなくなったガギエルが轟天号から離れたため、使徒を殺すのが本来の目的だったことを思いだしたゴジラが仕方なく轟天号を諦めて逃走したガギエルを追いかけて仕留めることになったため、ゴジラ的に大変不満の残る戦いであった。

 その時の不満を思い出したのか、ゴジラは、使徒という邪魔無しでやれる轟天号との戦いに闘志を燃やし、雄叫びを上げた。

 

 

 

 

 更にもう一方で、急ごしらえの対サハクィエルのための兵器が一発撃っただけで破損し火花と煙を吹かした。コードの先にある変換装置などが爆発したりと大変だ。

 慌てる技術者達や地球防衛軍の軍人達を尻目に、兵器を纏っていた機龍フィアが機体を振って破損した兵器を機体から剥がしていった。100メートル級の機龍フィアを包んで余りある巨大な兵器はいとも簡単にバラバラになり、地面に崩れて落ちていった。その様は、まるで脱皮のようだったと、現場にいた者達は語ることになる。

 兵器を剥がし終えた機龍フィアは、中にいるツムグと同じ動きでやれやれというふうに首を動かした。

 

『まっ、ゴジラさんならやってくれるって信じてたよ。』

 

 っと、言っていた。

 

 だがこの時、ツムグは、気づいてなかった。

 機龍フィアのコックピット内にドロリとした青く透明な粘着質のある液体が天井にしみ出していたことに……。

 

 

 

 

 




最後の方の機龍フィアのコックピット内に現れた液体は……、アイツです。
サハクィエルが死んだことで即座にソッチに出現しました。

ツムグは、万能ではないのです。


次回は、ゴジラvs轟天号。


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第十六話  ゴジラvs轟天号

サハクィエル戦後。


また、コピーペーストばっかです。



やっぱり出番無しの、エヴァンゲリオン。


 

 使徒サハクィエルは、ゴジラの熱線に焼かれて死んだ。

 ゴジラに勝てないと悟ったサハクィエルがせめて最後に多少の痛手をゴジラに負わせてやろうと、本体であるコアごと40キロメートルの巨体である自分自身を降下させ、ゴジラに向かって落下した。

 降下するサハクィエルを睨みつけて熱線で迎撃しようとしたゴジラだが、ゴジラの背後に現れたゼーレの刺客である数隻の潜水艦にもう生産されていない怪獣用のトリモチを使われゴジラは攻撃を妨害された。なぜかこの時、ゴジラが潜水艦の方を向いて、サハクィエルから注意がそれて隙ができたためあっさりとトリモチをくらうことになったのである。

 怪獣用のトリモチは、高熱を纏うゴジラには不向きな代物であるがサハクィエルが落下してくるまでの時間稼ぎにはなった。

 もしあのままゴジラがサハクィエルの落下を許してしまったら、ゴジラの周囲数百キロメートルに爆発が広がり、地球全土に影響を与える惨事になっていたであろう。

 ゴジラの復活により当初の計画をバキリっと真ん中から叩き折られ、地球防衛軍の復活も相まってもう修正のしようがない状況に追い込まれたゼーレは、やり場のない怒りと憎しみをゴジラにぶつけるべく忠実な駒達を使い、ゴジラの妨害工作を行ったのである。

 もしサハクィエルが落下していたなら、刺客として送り込まれた数隻の潜水艦とその乗組員は、跡形もなく消し飛んでゼーレの工作だという証拠は消える予定だった。万が一生き残る事態になっても地球防衛軍に捕捉される前に自爆するよう命じていたためゼーレに身も心も捧げる信者である彼らがそれを忠実に実行していたはずだった。

 

 ……ゴジラの細胞を取り込んだ人間。世界で一人しかいないG細胞完全適応者に筒抜けでなければ。

 

 G細胞完全適応者、椎堂ツムグに潜水艦のことを知らされた地球防衛軍の最強の万能戦艦・轟天号がゴジラのもとへ急行し、サハクィエルの落下が迫る危機の中、ゴジラの横を通り過ぎる間際にミサイルをゴジラに命中させ、ゴジラの動きを封じていたトリモチを一気にはがし、更に試作兵器を流用した急ごしらえの対サハクィエルのための兵器でサハクィエルの落下を僅かに妨害した。これによりゴジラのために時間稼ぎをし、ほんの僅かな時間で十分なエネルギーを溜めたゴジラは、熱線でサハクィエルを焼き尽くし、サハクィエルを殲滅した。

 短時間で起こった事態に潜水艦に乗っているゼーレの信者達も現実を認識するまでに時間がかかった。

 轟天号からの投降を呼びかける声が彼らの耳に入るまで馬鹿みたいにポカンとしていたのだ。

 ゼーレの信者達はすぐに自爆しようとしたが、なぜか自爆装置は作動せず、焦っていたところに電子機器から『逃がさない』、『今からそっち行く』っという、メリーさんを連想させる怖い声に、ゼーレの信者達は、生まれて初めて忠誠を誓う相手である老人達を恨んだほどだった。

 自爆の他に自殺するという手があったが一時的に混乱した彼らはすぐにそれを思いつくことができなかった。

 しかし間もなく聞こえた爆発音と揺れと、ゴジラの雄叫びで我に返り、すぐに自殺を決行したのだが……。

 彼らは、死ぬことはできなかった。

 銃は不発に終わり、刃は抜いた途端に粉みじんになって使い物にならず、ひも等を使おうとしても千切れるなどし、更に舌を噛むという自傷を行っても噛もうとした瞬間だけ顎が痺れるという謎の症状に見舞われ、彼らは得体のしれない恐怖にパニックを起こし正常な思考を放棄することとなった。

 彼らが潜水艦の中でパニックを起こしている頃、外では潜水艦から離れた場所でゴジラと轟天号の戦いが勃発していたのだが、彼らがそのことを気にする余裕は一切なかった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 世界最強の戦艦。

 怪獣を知らない世代でも、今ここで起こっている戦いを見たら間違いなく脳細胞にそう刻み込まれるだろう。

 ゴジラを相手に怯まず戦う、一隻の空飛ぶ万能戦艦・轟天号。

 ゴジラにとっては、つい昨日のことのように記憶に残る35年前の南極での戦いで最後に見た人間が作った自分と戦うために作られた兵器。

 ゴジラの記憶にある轟天号とはだいぶ姿は違うのだが、そんなことは些細なことである。ゴジラの本能が、今の轟天号を轟天号だと認識した。それだけで十分である。

 ゴジラの熱線を紙一重で回避しつつ、船体の横から一発も外さずゴジラに砲撃を命中させる。

 なんで高速で飛行しながら、熱線を回避しながら、百発百中の命中精度を叩き出せるんだっと、知らぬ者は驚きで固まるだろう。

 しかも的確に、ゴジラの弱いところ(皮が薄いところ)を攻撃する。ネオになる前のGフォースが保管していたゴジラの戦いの記録とゴジラを倒そうと燃えていた先人達が綴った研究成果であるのだが、それを実戦でできるかどうかは別問題なのだが、轟天号はそれを実行してみせている。

 弱いところといっても、新調された対怪獣用の砲弾もあまり効いていない様子である。なぜなら当たっているのに怯まないからだ。

 第三新東京で追い払った時は、あの時はあり得ないほど運が良かっただけのことで、運も実力の内とは名言と言えるかもしれない。

 ……本当にそう思う。

 轟天号に乗る、怪獣との戦いの経験がない若い船員達はそう思い、サキエル襲来時にゴジラを追い返せたことで地球防衛軍の力に己惚れたことと、轟天号の乗組員になれて浮かれていた少し前までの自分を殴りたいと思った。

 

「ゴジラに新兵器が通用していない!? 艦長!」

「狼狽えるな。野郎はあれだけ高出力の熱線を連続して吐いたんで体に熱をもってだけだ。興奮して痛みを忘れてやがる。」

 

 攻撃が通用していないのではなく、興奮しすぎて痛みを感じなくなっているだけである。っとゴードンは分析していた。

 実際、極度の緊張と興奮状態は恐れや痛みを忘れさせるものである。

 さらにゴジラは、デストロイアの一件でバーニングゴジラなる形態になってしまった時、進化を遂げたデストロイアのオキシジェンデストロイヤー並みのミクロオキシゲンを使った攻撃を受けてもへっちゃらだったという前例があり、核エネルギーの暴走によるG細胞の異常な活発化で強さが何十倍にも上がるらしい。

 だがあの時は、メルトダウンによるゴジラは体内からボロボロに溶けていく状態に陥っていたため痛みを感じるのを通り越してしまっていたというのが正しいかもしれない。

 ゴジラとて怪獣王という異名こそあれ命ある生き物だ。怒りの感情の権化のようでいて、ミニラやゴジラジュニアなどの同族には情を見せるある意味で感情豊かな存在だ。圧倒的な暴力で分かり辛いが知能も優れている。

 40キロメートルという巨体のサハクィエルを殲滅するため、ごん太の熱線を連射したことでゴジラの体はエネルギーを生産するために凄まじい熱を帯びていた。ゴジラの体に触れている海水が蒸発し白い煙となって舞い上がっている。しかしメルトダウンに比べれば大した熱ではない。熱線を主力の武器とするゴジラには今の状態は日常生活程度のものでしかない。

 しかしだ。セカンドインパクトの後、行方知れずになって間、ゴジラがどんな生活をしていたかは謎だ。

 ゴジラと思われる痕跡は幾つか確認はされていたものの、ゴジラらしき姿があったという確認でしかなく、少なくともゴジラ自身は第三新東京に使徒サキエルが現れてから、サキエルを殺しに行くまでまともに陸に上陸せずひたすら待っていたのだろう。

 自分の復活を預言(ツムグの預言)して潜伏していて、自分の復活と同時に復活した長年の宿敵(地球防衛軍)との戦いも再開できて、椎堂ツムグに言わせればゴジラは柄にもなくワクワクドキドキ感で興奮していたのだ。

 

「いくら痛みを忘れてようが、一時的な興奮は長くは続かない。諦めるな!」

「はい!」

「ミサイルの再装填完了!」

「尾崎、ゴジラの顔を狙え。機龍フィアが抉ったところを。」

「了解! ミサイル発射!」

 

 ゴードンの力強い声に鼓舞された船員達が大きな返事を返し、発射体制が整ったミサイルを轟天号の兵装管制である尾崎が発射した。

 轟天号の左右から発射されたミサイルは、まるで生き物のような動きをしながらゴジラの熱線を掻い潜り、ゴジラの顔……、つい最近(使徒マトリエルの時)機龍フィアに至近距離で砲弾を撃ち込まれて顔に大怪我を負わされた箇所を中心にゴジラの首や肩に着弾した。そして二本ほど突き刺さってから爆発した。

 セカンドインパクトを経て強化された回復力によりすっかり傷は塞がって皮膚も歯も綺麗に治った状態であるが、ゴジラは派手に暴れたり大怪我すれば寝て回復するという習性があり、それを急に切り替えさせるには時間がかかるはずである。

 だから表面上は治っていても、完璧ではない。ゴジラとの戦いの経験があるゴードンはそう考えた。

 そして、ゴードンの読みは当たる。

 尾崎の正確な狙いと、そして科学者がひっくり返るだろうあり得ない動きをしたミサイルがゴジラの顔の横に着弾して爆発したことでゴジラが低く苦しそうな鳴き声をあげて首を曲げてやられた顔の横に手を持っていこうとした。

 やっと痛みを思い出したらしい。海に浸かっているため体温が下がったのもあるのかもしれない。

 顔を怒りで歪めたゴジラは、ギッと轟天号を睨むと、熱線を吐いた。

 赤みを帯びた熱線を紙一重で回避するが、高熱と衝撃は完全に回避できず、轟天号の上部の装飾と横面が削れた。

 轟天号のダメージは、船内にも響き渡りゴードン達のいる発令所も火花が散り、煙が出た。

 モニターの方もぶれて映像が乱れた。

「エンジン出力、80パーセント!」

「左側面ミサイルシステムダウン!」

「プラズマメーサービーム砲2門破損!」

「くっ…!」

 オペレーター達からの被害報告が飛び交う中、操縦桿を握りしめる風間は船体のバランスを整えようと悪戦苦闘して歯を食いしばった。

「風間! 前を見ろっ!」

「っ!」

 船体を傷つけられ体制が崩れるのを立て直した直後、ゴードンが風間に向かって叫んだ。

 風間が反応した時、直ったモニターの大画面にゴジラの顔面が映っていた。

 本気でやばい時と言うのは物事がスローになるものだというのを、経験の少ない若い者達は身を持って知った。

 風間は、絶叫を上げながら操縦桿を思いっきり引っ張って轟天号を全速力で逆噴射させた。

 するとゴジラは、逃がさんと、轟天号の先端、つまりドリル部分を掴んで轟天号を捕まえた。捕まえたと同時にゴジラの背びれが青く輝いた。

 その時、尾崎が咄嗟の判断でメーサー砲を発射した。最大出力で。

 轟天号のドリルの先端から凄まじいエネルギーが発射されると同時に、ゴジラの口から熱線が放たれた。

 轟天号のメーサー砲も改良されており、発射されたそれは、ゴジラの通常熱線を僅かに凌駕し、ゴジラの喉辺りに当たった。

 ゴジラは、怯み、喉を押さえるために手を離した。ゴジラの手から逃れた轟天号は一目散にゴジラから距離を取った。

「今のはさすがに股座が縮んだぜ…。」

 バランスを無視してとにかく逃げることを優先したために大きく揺れる船体。ゴードンは、顔の横から汗を一筋垂らしていた。さすがの彼も今のは死を間近に感じたらしい。

「メーサー発射システム熱暴走寸前です! 冷却完了まで5分少々かかります!」

「もっと早く終わらせろ!」

「ダメです! どう計算しても最低でも5分かけなければ、このまま撃てしまったら、メーサー砲そのものが大破してしまいます!」

 ゴジラから離れるために咄嗟に撃ったメーサー砲は、エネルギー充填による負荷を完全に無視していたためメーサー砲というシステム全体に大きな負担をかけてしまった。

「っ…。」

 尾崎はさっきの自分の判断が間違っていたかもしれないと思った。

 だがあそこで撃たなければ轟天号は撃墜されていただろう。頭では理解できていてももっといい方法があったのでは?っという疑念がついてまわる。

「チッ。…兵器開発の連中にちょいと話をしに行くか。」

「やめてください! 彼らの胃に穴が空きますって!」

「冗談だ。」

 副艦長が上層部と前線の現場に板挟みになって凄まじく苦労している技術開発部を思ってゴードンを止めようとした。そしてゴードンは、冗談だと軽く言った。

 副艦長はこう言っているが、技術開発部は機龍フィアのことで問題児の椎堂ツムグとの絡みが必須なのでとっくの昔に胃に穴が空いた患者が続出していたりする。そんなんだから防衛軍の病院では胃腸科の医師の数と設備がすごいことになっている。

 喉を押さえて呻いていたゴジラは、顔を上げ、目に怒りの炎を燃やし轟天号を睨みつけた。

 現状での最大出力のメーサー砲を近距離でくらった喉の部分は、ブスブスと爛れ、くり抜かれたような穴が空いており、轟天号尾睨んでいたゴジラだったが、ほどなくして口をパクパクさせて苦しそうに体を丸めた。

 熱線はどころか、声すら出せない状態らしい。呼吸すらままならないのかもしれない。

 狙ったわけではないがこのチャンスを逃すわけにはいかない。ゴードンは、指示を出した。

「先端ドリル回転速度最大! 目標! ゴジラの心臓!」

 メーサー砲が使えないため、一か八かの接近戦で急所を狙い息の根を完全に止める。しかし、ゴジラの懐に飛ぶ込むので失敗すれば、良くてゴジラと相討ちである。高確率でゴジラに撃墜される危険な賭けだ。

 メーサー砲が使えたとしても、ゴジラの心臓を射抜くのは難しい。喉の部分…つまり首すら貫通できなかったということは、ゴジラの分厚い胸板の奥にある一番大切な部分である心臓まで届く可能性も低いといえる。地底の地盤をいとも容易く砕いて掘り進めるドリルは、過去に絶対零度砲でカチカチに凍らせた怪獣を粉々に砕いて倒したことがあるから…、ゴジラの心臓を破壊するのは十分可能であろう。

 問題があるとしたら、やはり近づきすぎることで撃墜されてしまう危険だ。

「しかし、艦長! ゴジラには体内熱線という手が!」

 すかさず副艦長がゴジラの攻撃手段が口からの熱線だけじゃないことを指摘した。

「よく見ろ、ゴジラは呼吸さえできてない有様だ! 奴の息の根を止めるこのチャンスを逃せば次はいつ来るか分かったもんじゃない! 時間を置けば傷が塞がって終いだ! それとも…怖気づいたか!?」

「っ! いいえ!」

 ゴードンとは戦いを共にしてきたベテランである副艦長はきっぱりと言って首を振った。

「てめーらも怖いか!? どーなんだ!?」

 先ほどゴジラに捕まってあわや撃墜されそうになったが、尾崎の機転でなんとか逃れ、しかも今ゴジラを倒せる大チャンスとなったが、モニターに映ったゴジラの顔のアップと熱線を吐く瞬間の映像は船員達に恐怖という名の枷となっている。今度は自分からゴジラに接近しなければならないのだ、怪獣との戦いを知らない若い世代が占める船内に恐怖による緊張で息を飲む音が響く。

 ミュータント部隊のエースの、実戦経験が浅い尾崎と風間も、頭ではゴードンの判断を理解してても、日々の訓練で抑え込むようにしている恐怖心が抑えきれず大粒の汗がダラダラと垂れ、手足が震えた。特に尾崎は、死の可能性から脳裏に日本にいる恋人の音無の顔が過っていた。

 

 轟天号の船内が凄まじい緊張感に包まれていた、その時。

 ガクンと船体が傾いた。

 

「どうした!?」

「動力回路3番と7番から火災発生! 消火装置作動しました! 飛行状態を保てません!」

「チィっ! 着水だ!」

「ラジャー!」

 轟天号が受けたダメージは思っていた以上に大きかったらしく、動力炉と船体を繋ぐ回路が熱暴走で火災が発生し、飛行している船体を保てなくなってしまったのだ。

 轟天号は、捲れた船体の装甲の隙間からモクモクと黒煙を出しながら海に着水した。

「火災の危険により安全装置が稼働中! 動力回路修復中!」

「修復を急げ!」

 なにせすぐそこにゴジラがいるのだ。ここで攻撃されたら終わりだ。

 ゴジラを倒すとか言ってる場合じゃななくなったその時だった。

 緊張の空気が支配する中、それを破壊する音が響いた。

 

「きゅ…救難信号? ……そ、そんな…、っ!?」

「どうした!?」

「この信号は、機龍フィアからのものです…!」

「はあ?」

 轟天号がこの場に急行した理由を作った張本人からの助けを求める信号だったと聞き、ゴードンは堪らずわけが分からないと声を上げた。他の者達も同様である。

「艦長! ゴジラが!」

 機龍フィアから送られて来た突然の信号に気を取られている間であった。

 喉の傷で苦しんでその場で動かなかったゴジラが、海に潜り、姿を消したのだ。

「ゴジラは、海中から東に向かいました。追いますか?」

「…っ、もういい。」

 ゴードンは、ゴジラを倒せるかもしれなかったチャンスを逃し、悔しさで顔を歪め、拳を握りしめて耐えながらそう答えた。

 若い船員達は、ゴジラを倒すチャンスを逃してしまったと理解し、迷ってしまったことについて自責の念にかられた。

 結果だけを見れば、引き分けの戦いだったが、ゴードンの指示にもう少し早く答えていればゴジラを仕留められたかもしれない。轟天号の動力回路が火を噴く事態が起こって結局はダメだったかもしれないが、恐怖に負けたのと、覚悟を決めて挑んだが失敗したのでは全然違う。

 もっとも大きなリアクションをしたのは、仲間や上官から戦闘狂などと言われる風間だった。事が過ぎてしまったことを認識してから風間は、唇を噛み、操縦桿を殴り、己の未熟さを恥じた。尾崎と比べて戦いに容赦ない彼であるが本質はまだまだ年の若い若者で、怪獣との戦いの経験がないという点では他の若い船員と同じだ。

 しかしそうはいったものの、勝利のためや、負けたとしても後の者達のために命を投げ捨て戦ってきた先人達のことや、その先人達のことを踏まえて日々の訓練でいざとなれば命を投げ打つ覚悟を教えられてきた。この場にいる者達は、そのいざという時がきたのに身動きが取れなくなってしまった。その結果がこれだ。ゴジラを取り逃がしたことでゴジラがこれから先も災いを振りまくであろうし、終わるかもしれなかった戦いがこれからも続けられることになった。

 やがて頭が冷えてきて、艦長であるゴードンからどんな叱責が来るかと船員達は身構えた。

 だって、ゴードンがどれだけゴジラのことをライバル視しているか知っているからだ。

「…ツムグがなんだって? どうしたんだ?」

 気持ちを切り替えたゴードンがオペレーターに聞いた。

 ゴードンの様子を見て、これは、いわゆる怒りを通り越してしまっているなと船員達は別の意味で汗をかいた。

「いえ…、あの…それが……。」

「はっきりしろ!」

「き…機龍フィアの…DNAコンピュータから、みたいです。」

「それが、……、どういうことだ?」

 信号の内容を解析したオペレーターのなんだかはっきりしない言葉にイライラしたゴードンが眉間をグローブで覆われた指で押さえ怒鳴りかけるが、何かを察して表情を変えた。

「はい…、この信号は、DNAコンピュータから直接送られたものです。」

 それが意味することは、操縦者が何かしらの事情で行動不能になっていて操縦者の安全のための配備でDNAコンピュータが味方に助けを求める信号を発することができるようなっているが、よっぽどじゃないと使われないそれが今使われたということだ。

 機龍フィア自体が現段階での世界最高峰レベルの兵器としての機密の塊であり、その反面、現段階でゴジラとほぼ互角に戦える戦力であるため失ってしまった時のリスクから、救け(たすけ)を求める信号は機龍フィア独自のものが使われており、滅多にお目にかかれない代物であるため解析したオペレーターも歯切れが悪かったのだ。

「機龍フィアはどうなっている? 応答は取れるのか?」

「いいえ、機龍フィアとの通信回線が切れています。信号が送られた回線は一方通行で返信はできません。」

「あのバカ…、何やってやがんだ。」

 ゴードンは、額を抑えた。

「機龍フィアからメッセージが届きました!」

「なんて書いてあるんだ?」

「えっと…『フトドキモノヲ、ツカマエロ』…どういうことでしょうか?」

「…あぁ、すっかり忘れてたぜ。ゴジラを邪魔してた国籍不明の潜水艦を拿捕するぞ。」

「了解!」

 

 すっかり忘れていたが、ゴジラを妨害した国籍不明の潜水艦達がいた。

 ほとんど同じ位置で動いた形跡がない。

 潜水艦のところへ移動した。

 潜水艦の横に止め、武装した船員が潜水艦の一隻を制圧するため浮上している潜水艦に飛び乗った。

 その直後、ハッチが急に開いて、真っ青な顔をした人間が這い出てきた。

「動くな! 両手を頭の後ろにやれ!」

 銃口を向け、そう叫ぶと、ハッチから出て来た潜水艦の乗員は、今にも死にそうな顔をしてノロノロとしゃがみ込んでしまった。

 訝しんだ船員が近づくと、何やらブツブツと呟いていて正常な状態じゃないことが分かった。

 何人かが潜水艦の中に侵入し、他の乗員を抑えに行くと、こちらの方も似たようなもので、換気はしっかりしているのにどんよりした重たい空気に満ちていて思わず吐き気を催すほどだった。

 すると、潜水艦が大きく揺れた。

 潜水艦に侵入した轟天号の船員達に緊急の通信が入る。

『N2兵器…、来るよ。』

「! 撃ち落とせ!」

 飛んできたN2ミサイルを撃ち落とし、上空でN2兵器が爆発した。その爆風によって、轟天号の船体と謎の船艦が大きく揺れる。

 すると戦闘機が飛んできた。

「チッ、戦闘機まで持ってきたか。…国籍マークがない。ゴジラを邪魔したことといい、ただの武装集団じゃないのは間違いないが…。」

「先ほど確保した潜水艦の乗員にも国籍を示すものは身につけておらず、艦内にもそれらしきものはありませんでした。」

「これだけの艦と、N2兵器に、闇商に横流しされた怪獣兵器を用意できるんだ。かなり大物だぜ。」

「艦長! 戦闘機がこちらに向かってきます!」

「特攻か! 撃ち落せ!」

 轟天号と隣接している最後の潜水艦を狙い、戦闘機が機体を最後の武器に特攻を仕掛けてきた。武器がなくなったからだ。

 それを迎撃せよとゴードンは指示を出し、轟天号のレーザー砲が戦闘機の翼の片方を蒸発させた。猛スピードで回転しながら戦闘機は潜水艦の反対側。つまり轟天号とくっついている側とは逆の方向へ墜落し、海に沈んだ。

 敵の増援はない。しかし気は抜けない。ゴジラも近くにいるし、さっさとこの場からの離脱をするべく、最後に残った国籍不明の謎の潜水艦の乗員達を艦内に連行し、必要最低限の潜水艦内の情報を取るなどの作業を速やかに終わらせた。

 それから間もなく、轟天号を追ってきた対サハクィエルの艦隊に合流し、機龍フィアが緊急を知らせる信号を艦隊や基地にも送っていたことが分かる。

 機龍フィアは、なぜか沈黙状態。

 乗っているはずのツムグからは、いまだ何の反応もない。

 

 

 

 

 轟天号は、地球防衛軍からの通信を拒否状態にしていたのを解除し、サハクィエルのために編成された艦隊と上層部からのあらゆる文句やらなんやらを聞きながら、艦隊に囲まれて地球防衛軍の基地に帰還した。

 作戦にない勝手な行動を犯したとして、船員全員が一時拘束されることになり、轟天号の最高責任者であるゴードンと副艦長が査問委員会に出頭し、なぜ轟天号をゴジラのいるところへ向かわせたのか説明し、轟天号に収容していた国籍不明の潜水艦の乗員達の取り調べなども行われ、形式的な査問委員会による始末書や規則違反の罰則などが言い渡された。

 尾崎達も形式的な罰は受けた。地球防衛軍の規律と体面のため形だけでも裁きを下さなければ納得しない者達がいるからだ。

 無断に艦隊を離れて、ゴジラと戦い、ゴジラを倒せそうなところまで行ったという記録が轟天号内に残っていたのでこれを提出。

 ゴードンや副艦長はともかく他の若い船員達が臆したためにゴジラを倒すチャンスを逃した件については、賛否が分かれたが、結果として経験が浅いとされる人材でゴジラをここまで追い詰められたという快挙を成せたということを褒めるべきだという流れになり、また船員達はゴジラを逃がしてしまったことや覚悟が足りなかったという自覚を持って反省しているということで、褒められこそすれ、ゴジラを倒せなかったことを咎められることはなかった。

 轟天号は、普通の船として動くならなんとかなるが、飛行戦艦として活動するには少しばかり時間がかかるということになった。動力回路が火を噴いた原因は、メーサー砲を限界以上で発射したことだった。なので修理も急ぐが、メーサー砲の改良が急がれることになった。

 

 

 

 

 解放された尾崎を最初に出迎えたのは、音無だった。

「お疲れ様。」

「…ああ。」

 音無の顔を見て、今だ高ぶっていた神経が少し落ち着いたのか、尾崎の顔が少し穏やかになった。

 尾崎と音無は並んで歩き、会話をした。

「国籍不明の潜水艦隊がゴジラを邪魔するなんて……、一体何が目的だったのかしら?」

「それを今調べてるところだろ?」

「それはそうだけど…、それにしたって変じゃない?」

「ああ、そうだな。」

「ゴジラに恨みのある過激派だったとしても、潜水艦を数隻に、怪獣用の兵器、それに戦闘機まで揃えるなんてそんじょそこらのテロリストじゃないわ。あれから潜水艦の方も回収して調べたの。回収したって言っても、機龍フィアとゴジラの戦闘で大破しかけてたんだけどね。でね…、尾崎君…、とんでもないことが分かったの。」

「とんでもないこと?」

「そう。G細胞があったの。」

「なっ!?」

「ほんの少しだけれど。それもね、最近の物じゃない、全然新鮮じゃない古いものだったの。でもゴジラの注意を向けるには十分だわ。G細胞が入ってたカプセルの品番から、ゴジラを封印する35年以上も前のものだってことも分かったの。……当時の地球防衛軍と国際組織が厳重に保管していたものが、セカンドインパクトに乗じて闇に流れたものなのか…、それとも当時の関係者が持ち出したのか。詳しく調べたくっても、セカンドインパクトで色々と不明になったことが多すぎて…。」

「主犯を特定できないってことなのか?」

「今の状態じゃ…、そうなるわね。悔しいけど。」

「捕まえた奴らが証言してくれれば…。」

「そのこともだけど。かなり精神が衰弱してるのよ。うわ言で『来る。何かが来る』ってずっと怯えてるわ。とてもじゃないけどまともな受け応えができそうにないみたい。」

「どうして…。それじゃあ、聴取を取ることもできないじゃないか。」

「まともに喋れるようなるまで待つしかないわね。」

 使徒サハクィエルを迎撃しようとしていたゴジラの邪魔をした謎の人間達を捕えたのはいいが、まともな精神状態じゃないということで回復を待つしかない状況と知った尾崎は拳を握った。

 超能力を使って頭の中の情報を引き出すという手も考えられたが、精神が崩壊しておらず、かといって正常ではない中途半端な状態だと無意識の抵抗により脳細胞が壊れて死亡するか運よく生き残っても二度と元には戻れない。

 尾崎が精神崩壊していたシンジに超能力を使ってシンジに後遺症を残さずにすんだのは、精神の治療のための特殊な訓練を尾崎が積んでいたのと、あの時のシンジの精神にも肉体にも他人の力(精神)の侵入に抵抗する力がなかったからだ。

 ……だからこそ、あの時初号機の意思が入り込み、堂々とシンジの幼い時の姿を借りて精神世界で尾崎に接触できわたけである。

「そうか…。」

 尾崎は、残念そうに息を吐いた。

「あ、そうそう。」

 何か思い出した音無が白衣のポケットをゴソゴソ探り、メモリーカードを取り出して尾崎に差し出した。

「これは?」

「ザトウムシ(※使徒マトリエル)の後から立て続けで渡しそびれたから。」

「? ……ああ。分かった分かった。」

 尾崎は何か思い出したという反応をして音無からメモリーカードを受け取った。

 このメモリーカードには、一見何の変哲もない文章と映像が保存されている。

 しかしこれは暗号化されたデータで、その内容は、報告である。

 尾崎達は、内密にゴードンに協力を求めたのである。

 尾崎が昏睡していたシンジの精神世界で手に入れたサードインパクトに関わると思われる重大な情報は、あまりに壮大すぎて現実に起こせるはずがないとすぐに否定されるような代物だった。けれど尾崎達が信じたのは、嘘偽りのない精神世界の最深部辺りで入手した情報で、更にエヴァ初号機だと名乗ったシンジではない別の精神がシンジの姿(幼いころの)を借りて尾崎にセカンドインパクトの原因とサードインパクトと関係しているとジンルイホカンケイカク(※漢字表記を尾崎達は知らないので尾崎達はカタカナで認識しています)なる人類を滅ぼす恐ろしい計画のことが語られたのだ。初号機の言動が幼げだったこともあるし、何より嘘偽りのない世界での会話だったため初号機の語ったことが真実であるのは間違いないのである。

 当事者である尾崎と尾崎の恋人で優秀な科学者である音無と尾崎のライバル(風間からのやや一方的な)で親友の風間だから壮大な空想じみたこの情報を信じたわけだが、他の人間に話してもらえるはずがないという前提と、尾崎がそれらの重大な情報を知ってしまったことをセカンドインパクトを起こしたうえにジンルイホカンケイカクを実行しようと狙う輩達に知られてしまう恐れがあったから、尾崎達はこの話をする相手を選ぶのに慎重になった。

 慎重になったものの、真っ先に頼りたい相手として頭に浮かんだのがゴードンだったのである。ゴードンなら大丈夫という謎の絶対的な信頼感があったからだ。

 そういうわけで音無が代表としてゴードンに協力を求め、ゴードンは、話を聞いて豪快に笑って承諾してくれたのだ。

 音無が行ったのは、音無の姉がゴードンと…仲が良いからである。しかも付き合い長い。(※ゴードンとは20くらい年が離れてます)

 ちなみに音無ミユキの姉…、名をアンナというが、ニュースキャスターで、色んな番組で引っ張りだこになるぐらいに人気者で、姉妹揃って才色兼備である。

 真実と虚偽が混ぜこぜで、世界を容易に動かし、間接的に命を奪うことすら可能な情報社会の大部分を占めるテレビの仕事をしている以上、ざっくり分類するとただ渡されたカンペを読み上げるだけの飾りになるか、情報の真偽を見極めそれを力とする側になるかに別れてくる。音無の姉・アンナは間違いなく後者だ。

 アンナは、セカンドインパクトの被災後、女手一つで妹の美雪を育てている時、あるきっかけがあってゴードンと知り合い、ニュースキャスターとして活動する傍ら、地下に潜伏していたGフォースの協力者となっていた。その伝手で音無は元地球防衛軍のスカウトを受けて現在に至ったわけである。

 実は、アンナの身に起こったそのきっかけ…、それを作ったのは椎堂ツムグだったりする。

 本当にこっそりと、何かを予言するわけでもなく、教えるわけでもなく、普通の言葉で接触するようタイミングが合うように動いただけである。

 ただし、ゴードンとアンナが立場とか年齢を越えたそういう情愛のある関係になることまでは予想していなかったので、意外だと驚きつつ、相乗効果で音無ミユキがゴードンとプライベートで知人になったのを素晴らしいことだと喜び笑ったとか?

 そんな裏話は置いておいて、とりあえず尾崎達はゴードンの協力を得ることができたわけで、ただの科学者とミュータント兵士ではできないことをゴードンが自ら築き上げた人脈を使ったり、時に自分で行動して不定期で暗号化した進行状況の報告を尾崎達に送ってもらっているのが現在の状態である。

「大佐の力でも中々見つけられないみたいよ…。」

 先に暗号化された報告を見ていた音無が、残念そうに息を吐いた。

「敵は一体何者なんだろう?」

「わざわざあれだけの人員や資金をはたいてゴジラの邪魔をするような相手でしょ? ロクでもないのは間違いないわね。ツムグは知ってるっぽいのに絶対喋ろうとしないし…。本当に面倒な奴よ。」

「悪い…。」

「どうしたの?」

「君を…、巻き込んでしまった。本当は、危ない目に合わせたくなかったんだけど。」

「なに言ってるのよ。馬鹿っ。」

「痛っ。」

 申し訳なさそうに俯く尾崎のおでこに、音無がデコピンした。

「私ってそんなに頼りないかしら?」

「そんなことない! 俺はただ……、ミユキに何かあったら…。」

「何それ…、私の事守り切れないって前提? 私の事守るって言ったの嘘だったの?」

「嘘じゃない! 俺は君を守る!」

「じゃあ、大丈夫ね。安心した。」

「えっ?」

「えっ、じゃないわよ。尾崎君が守ってくれてるから私だって全力で頑張れるだよ? 約束、ちゃんと守ってね。……ずっと。」

「ミユキ…。」

 にっこりと明るく笑った音無の笑顔を見て、尾崎は自分には守るべき愛する人がいることを再認識した。

 無意識に音無に伸ばした手を、音無が両手で握り、引っ張るようにしてポスッと尾崎の胸に飛び込むと尾崎は少しびっくりした顔をしたが、音無を優しく抱きしめ、二人はしばらく抱きしめ合っていた。

 

 

 

 一方。

「…………人目を気にしろって、いつもいつも言ってやってるのに…、あいつらは…!」

「おさえて! おさえてください! 二人に悪気はないですから!」

「落ち着け風間ー!」

 実は、人通りがそこそこある廊下で、一連のやり取りをしていた尾崎と音無を見てしまったため、風間と同僚がいた。ちなみに小声である。

 風間は、人目を一切気にしてない(気付いてない)カップルに、今日も血管を浮かせてイライラしていた。

 

 

「いっそのこと風間先輩も彼女作ればいいのにさ…。」

「馬鹿! それができるような人だと思ってるのか!? ただでさえ戦い以外に興味ないのに…。」

「…なんか言ったか?」

「いいえ何も!」

 

 念のために…、風間はモテないわけではない。むしろモテる。だが戦闘狂気味な性格のせいか、自分の色恋沙汰には興味がないのである。

 人の事(尾崎)ばかり気にせず少しは自分のことを考えればいいのに…っと、仲間のミュータント兵士達は今日もため息を吐く。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 謹慎で独房に入ることには慣れきっているゴードンは、簡素なベッドに寝転がっていた。

 考えていることは、ゴジラを邪魔したあの国籍不明の潜水艦隊のことだ。

 結構前にツムグと交わした会話で、『人間のことは、人間で解決した方がいい』という言葉があり、謎の襲来者である使徒のこと、そしてその使徒と戦うために作られたとされるエヴァンゲリオンなる兵器のこと、ゴジラが使徒とエヴァンゲリオンを狙って行動している裏に何か妙な輩が絡んでいるのではないかと考えていた。

 ゴードンの人脈をもってしてもその姿なき敵の存在を見つけられていなかった。

 宇宙に出現した巨大な使徒の一件でゴジラの邪魔をした謎の潜水艦隊が出没してようやく敵の手がかりを掴めたと思った。

 しかし実際には、ツムグが敵を捕らえるためにあれこれやらかしたせいでまともに証言ができる状態じゃなくなっていたため、まともに受け応えできるようなっても記憶が正確に残せているか怪しいものだ。

 ツムグがそれぐらいやらないと生け捕りにできないほど徹底した集団であることが分かっただけ良しとするべきなのか…。

 ゴジラとの不完全燃焼な戦いもあり、不満から来るストレスからかゴードンは、少しばかり気分が優れなかった。

 謹慎を利用してしばらくはふて寝しておくかと思ったその時。彼のもとに来訪者が現れた。

 

「ダグラス=ゴードン大佐殿ですよね?」

「…誰だ?」

 

 一眠りしようかと目を閉じた途端声をかけられ、ゴードンは、機嫌悪そうに声を低めて言うと、鉄格子の反対側にいる者はへらりと笑った。

 

「自分は、加持リョウジっつーもんです。一度だけお会いしたことがあるんですけど、覚えてません?」

「俺は今独房に詰められるのに忙しいんだ。とっとと失せろ。」

「まあまあ、そう言わずに。」

「エヴァンゲリオンとかいう玩具の運搬はとっくに終わってんだ。クレームか? そんなもんは間に合ってるぜ。」

「ハハ、覚えててくれたんですね。いや~、感激です。人類最強と謳われる方に覚えててもらえるなんて、ホント光栄ですよ。」

「…手短に要件をすませな。俺は眠い。」

「あ、それはすみませんでした。では、またの機会にゆっくりとお話をさせてください。……おたくらが捕まえた連中の事とか色々と。」

 加持が最後に妙な含みを込めてそう言うと、去って行った。

 ゴードンは、上体を起こした。

「……ったく、まともに昼寝もできやしねぇ。」

 まあいい。向こうから来てくれたんだ、お望み通りゆっくりじっくり話をしてやるぜっと、ゴードンは思い、口の端を釣り上げた。

 ゴードンは、ガシガシと頭をかき、今度こそ一眠りした。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 一方。いつも通りどこなのか分からない妙な空間で談義している秘密結社ゼーレ。

 今回も今回でみんなで頭を抱えていた。

 とはいえ、大半はモノリスの姿でこの場にいるのでその姿はキール以外に確認できないのだが…。

 なんというか…、空気の重さだけならお通夜のような感じである。

『…宇宙に身を置く使徒も殲滅されたな……。』

『地上からの熱線発射って……、どこまで規格外なんだゴジラは…!』

『さらには我々が仕掛けた妨害も、よりのよって地球防衛軍どもに阻止され、しかも奴らにまんまと拿捕されてしまった! なぜ自爆なり自殺なりしなかった!』

『我々のしたことが裏目に出ることとなるとは…、地球防衛軍の彼奴ら我々の動きを察知しているということか? 馬鹿な…。ミュータントどもの能力でも我々を見つけることなどできはしないはず。』

「……たった一人…、それができそうな輩がいるにはいる。」

『なんと! その輩とは?』

「カイザーという突然変異の男がM機関にいる。名を尾崎シンイチという。M機関のミュータント部隊の少尉をしている男だ。」

『カイザー(皇帝)…とは随分と大層な呼び名だな。』

「データによると、カイザーという個体の能力は、通常のミュータントを遥かに凌ぎ、その気になれば世界を支配下におくことも容易いとされている。いまだにその力の底が見えんとも言われる。セカンドインパクトの被災地の復興作業において、土壇場で限界だと思われていた範疇を越えたことをする場面が何度も確認された。尾崎という男の軟弱な精神が本来の力の開花を遅らせているという調査報告もある。そのような未知数の力を有する男ならば我々の動きを察知するのも容易いかもしれん。」

『なるほど。』

 キールの言葉に、モノリス達も筋が通ると納得した。

 キールは、尾崎を疑っているが…、残念ながら外れてる。

 地球防衛軍側にばれているというのは、合っているようで合ってないような…。微妙なラインである。

 なにせ姿を隠しているゼーレを見ていて、轟天号に邪魔をさせるよう働きかけた本当の犯人が、G細胞完全適応者である椎堂ツムグで、本人がゼーレのことを見つけて動きが見ていることを他の者に伝えていないのだ。つまりツムグだけに全部筒抜けになっていて、ツムグが他の者に教えていないから他の者達は知らないというのが正しい。

 ゼーレが入手したデータには、ツムグの能力については記されておらず、そのためゼーレは尾崎の能力の高さにだけ目がいってしまったのだ。

 しかしツムグの能力の規格外さは、G細胞の力も相まってカイザーの力など話にならないレベルだった。

 データ化できなかった部分もあるし、発見されてから約40年間の間にありとあらゆる方法で調べられたデータがセカンドインパクトで一回ほとんど失われたのも大きいかもしれない。失われたデータの穴埋めのため再度調べられて地球防衛軍に新しいツムグに関するデータが作られたのだが、ゼーレが有するMAGIと技術では地球防衛軍のセキュリティを越えられなかったため入手できなかったのである。

「非常に遺憾だが、地球防衛軍どもにこれ以上好き勝手にさせるわけにはいかぬ。これより尾崎シンイチをマークし、隙を見て抹殺する。カイザーは、尾崎しかおらぬからこれで我々に向けられている彼奴等の目と耳は潰せるだろう。ゴジラの相手は、地球防衛軍どもにやらせればいい。我々は地球防衛軍どもがゴジラの相手をしている隙に、速やかに確実に人類補完の儀を執り行えるよう準備を進めればよい。」

 こうして、勘違いしたままゼーレは、動き出すこととなる。

 お通夜状態は最初だけで、尾崎を抹殺すると決めたあたりからゼーレは明るくなっていた。

 

 

 この勘違いにより、尾崎の親友の風間を含むM機関の精鋭陣と、尾崎の恋人の音無と尾崎の上司のゴードン大佐を含めた地球防衛軍の主力達と、尾崎のことを気に入っているツムグを怒らせるのは…、遠くない先の話である。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 ゼーレが勘違いによる対策を始めたことで、別のところにも勘違いが伝染することになった。

 

 ネルフの司令室の机の椅子に座ったゲンドウが、書類が挟まったボードを両手で持った状態で震えていた。

 いつものサングラスの下、彼の額には大きな絆創膏が張られている。

 レイのクローン体が培養施設ごとすべて燃やし尽くされ、復元不能を通達され、たまらず自らの足で現場に来てその惨状に意識が遠退き、顔面から倒れたためだ。

 精神ダメージもあり、少し入院し、額に絆創膏を貼った状態で完治を待っている状態である。顔面から思いっきりいったが、幸い骨に異常はなかった。

 彼が今震えているのは、ゼーレから送られてきたある情報をまとめた書類の内容を見たからだ。

 書類の内容を簡単に説明すると…。

 

【地球防衛軍・M機関のミュータント兵士・尾崎シンイチ(推定二十代)に、人類補完計画の情報を知られ、地球防衛軍側に漏れた可能性有り】

 

 …で、ある。

 

 ゲンドウもあくまで資料の上辺程度であるがミュータントの能力については知っている。

 しかしネルフ本部そのものがミュータント対策の仕掛けや妨害する仕組みを組み込んでいるため、ミュータントのスパイが入り込んでも対処できる状態だった。だから物理的な攻撃以外ではそれほど脅威には感じていなかったのだ。

 ところがゲンドウは、ミュータントの中に数百万分の一で、圧倒的に強い突然変異の個体が生まれる可能性があることは知らなかった。

 ゼーレからこうして直接情報がもたらされるまで、その突然変異の個体であるカイザーというものを知らずに一生を終えたかもしれない。

 そのカイザーである尾崎の能力をもってすれば、対ミュータント技術も意味をなさないという研究データがあり、そのデータによると通常のミュータントに効くことが、尾崎にだけは効き目がないのである。

 圧倒的に能力が高いことから、通常のミュータントには障害にしかならないことも障害にならないのだ。

 現在までに確認された突然変異の個体であるカイザーは、尾崎のみで、尾崎さえ抑えることできればミュータントという超人を戦力として保有する地球防衛軍の耳と目を潰せるはずであるとゼーレは考えている、だからゲンドウにもそれに協力しろということである。

 書類に載っている尾崎の写真には、ゲンドウは見覚えがあった。

 サキエルが現れ、ゴジラが来て、初号機にミュータント兵士がよじ登り、初号機のハッチを無理やり壊してシンジを持っていかれてしまった時だ。

 拡大映像で見た、エントリープラグからシンジを抱えて出て来た男……、そいつだ。

 そういえばシンジを救護班に任せた尾崎が、その後、ネルフのカメラに向かってこちらを睨んできた…ような気がする。まるでカメラの位置が分かっていて、しかもカメラ越しに誰がいるのかが分かっているような…、そんな目をしていたような…?

 曖昧な記憶が妄想と混ざってしまい、ゲンドウは、真偽はともかく尾崎に対して暗い感情の炎を燃やし始めていた。

 書類の写真からも感じ取れてしまう、若さだけじゃなく、内面から出ている強く、けれど優しい正義の心。

 E計画のために身も心も捧げてしまった最愛の妻ユイをただただ追いかけ続け、ついに人類の全てを犠牲にしてでもユイを取り戻そうとすらしている心の弱い男であるゲンドウには、とてつもなく眩しく見えた。

 ユイが、自分を温めてくれる優しい温もりの光なら、尾崎は周りを照らす強烈な光の太陽だ。

 ゲンドウは、殺意に至るほどの憎しみを抱いた。

 自分にはない強い心を持つ男。しかも容姿もいいし、写真だけでこれだけ印象が出ているのだから、さぞかし周りから好かれているに違いない。

 他人との馴れ合いが苦手でユイに出合わなければ孤独な人生を送っていた可能性が高いゲンドウにとって、実物を目にしたわけじゃないが尾崎という他人から好かれる輝きを備えた人物は、存在するだけで殺害する動機になるほど憎しみにかられる。

 ゲンドウは、こうしてゼーレとは別の理由で尾崎を敵視した。

 ゲンドウは、自分の目的を諦めずに引きずる傍ら、尾崎について独自に調べることになる。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 ゼーレやゲンドウが勘違いによる行動を起こすことを決めている一方で。

 ゼーレやゲンドウも予想だにしていなかったとんでもない事態が発生し、彼らだけじゃなく、その事態に直面してしまった地球防衛軍側にも激震が走ることになった。

 

 日本に帰還し、あとは基地を目指すだけというところで、機龍フィアがしらさぎと連結している部位を引きちぎって無理やり地面に着地したのである。

 

 突然のことに周りが驚愕している合間に、機龍フィアは勝手に歩き出したのである。

 地上を歩行して突き進む機龍フィアの機体は……、青っぽい光の筋が血管のように赤と銀のボディカラーの表面に走り、機龍フィアの目は稼働していない時の暗いままという、不気味、の一言に尽きる有様であった。

 騒然となる司令部と原因解明を急ぐ科学部と技術部が、ゆっくりした足取りで前進を続ける機龍フィアのボディを汚しているものを遠隔で解析した時、戦慄が走ることになった。

 

 

 パターン青……、すなわち、使徒を示す結果が出たのだ。

 

 

 

 

 




取って付けたように、尾崎に勘違いをするゼーレとゲンドウとか、当時も今も違和感があるが、これ以外の展開が思い付かなかった……。
なぜツムグのことを疑わなかったのか?
それは、ツムグがそんなことをしても得をしないからという勝手な思い込みもあるかと。
あと、ゲンドウが自分と正反対な感じ(※人に好かれ、そして自分より相手を守るために戦う正義漢なところ)の尾崎に敵意を持つシーンが書きたかったんだろうなぁっと思い返してみる。


そして、最後、イロウル登場。


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第十七話  その名は、恐怖(IREUL)

イロウル編。



今回もコピーペースト多いけど、エヴァンゲリオンが二機あるので、そこら辺の描写は追加しました。


 

 

「そんな! なんてこと!?」

 マギを通じて送られて来た地球防衛軍からの緊急の知らせだった。

 宇宙区間に現れた超巨大使徒は、ゴジラに殲滅され、その後間もなくゴジラと轟天号の戦いが勃発し、ゴジラが海へ消えたという映像や情報を見て楽しんでいた時に来た驚愕の知らせだった。

 

 現状での最強の対怪獣兵器・4式機龍コードフィア型が、使徒に操られ、第三新東京を目指して動いているということ。

 そのため最悪の事態に備えるようにという通達だ。

 

 中継を繋ぐと、使徒に侵された機龍フィアが、まっすぐに街中さえ横切って進んでいく姿があった。

 使徒イスラフェルを難なく倒した戦歴もあり、幾度もゴジラと戦ってきた勇士と言える最強の味方が敵になってしまった。

「ゴジラを恐れる使徒が、ゴジラの類縁のようなG細胞完全適応者から作られたモノ(機龍フィア)を強奪するなんて…、毒(ゴジラ)は、毒(G細胞完全適応者)をもって制せというのを使徒は学んだということかしら? 大胆な行動に打って出たものだわ。」

 機龍フィアに取りついて操っている使徒について、リツコなりに驚嘆、感想を呟いた。

 

 間もなく、地球防衛軍側から連絡が入る。

 

 使徒に乗っ取られた機龍フィアは、まっすぐに第三新東京を目指しているので、エヴァンゲリオンによる迎撃をしろとのことだ。

 

 破壊するつもりでも構わないから止めろと。

 

 それを聞いたリツコも、ミサトも、そしてゲンドウですら驚いた。

 機龍フィアは、地球防衛軍側の最強の対ゴジラ兵器だからだ。その兵器を破壊してもいいというお達しをもらってしまたからだ。

 地球防衛軍が不手際でそう言ったのでは無いだろう。実際、中継で見ると、街中を横切っていく機龍フィアを破壊する勢いで攻撃はしているのだから。

 しかし、悲しいかな!

 地球防衛軍側の技術の粋を集めに集めた対ゴジラ用兵器!

 そんなもんは、作った側でも簡単に壊せるわけが無かった……。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 ゴジラよりも重たい、鋼の塊の歩行は、それだけで破壊を生む。

 地響きが起こり、地面が陥没し、木が倒れ、コンクリートが砕け散り、踏み出した一歩の下にある物はなんであれペシャンコになる。

 ゆっくりと、だが確実に歩を進める機龍フィア。

 前進を続ける機龍フィアの周囲を、軍用ヘリとしらさぎなどの戦闘機が飛行し、機龍フィアの状況を司令部と他の部隊に実況し続けていた。

 

『機龍フィアは現在…、第三新東京へ向けて進行中!」

 

「やはり第三新東京か…。」

「おい、使徒を示す解析結果は間違いないんだろうな!?」

「機龍フィアの進路上には群馬の都心のど真ん中であります!」

「群馬は第三新東京の住民達をのほとんどが移住しているエリアだぞ! この進路を維持し続ければ都内をまっすぐ突っ切ることになる! なんとかして止めるべきだ!」

「待て! 使徒の全貌も分かっていないのにそれは危険だ!」

「乗っているG細胞完全適応者はどうしたんだ!?」

「ともかく進路上の住民に即刻避難勧告を!」

「コチラの攻撃がまったく通用していない! 波川司令!」

 予想だにしていない非常事態に司令部はパニックになっていた。

 現状での最強の対ゴジラ兵器に使徒がついている。使徒イスラフェルをあっさり殺してみせた機龍フィアが易々と使徒に操られているのだ。最強の手札を正体不明の敵に奪われてしまったのだ。

 波川は、映像に映る機龍フィアを睨むように見つめていた。

「波川司令!」

「……ツムグからの反応は?」

 波川がようやく口を開いた。

「いいえ。通信回線が閉じられています。それどこかG細胞完全適応者の体内にある発信機からの電波も妨害されているようです。」

 波川の秘書が送られて来た解析結果を報告した。

「つまり生死は不明ですか…。」

「ですが…。」

「なにか?」

「一方通行の回線からですが、DNAコンピュータからたどたどしい信号のようなデータが送信されているようです。」

「……研究部門と技術部門に、至急、DNAコンピュータの伝達回路と機龍フィアの設計図と最近までの機体の整備状況の記録を調べ、現在の機龍フィアの状態との照合を急ぎ行うよう指示を。」

「司令! 攻撃の許可を!」

「…許可します。使徒に取りつかれている機龍フィアの足止めを! そして群馬の全住民に避難指示と迎撃部隊の配置を急ぎなさい!」

「了解!」

「轟天号の出撃は!?」

「アホか! 修理がまだ終わっていないぞ!」

「そーでしたー!」

 サハクィエルの時のゴジラとの戦いでエンジンやらその他武装や機体自体が大きなダメージを残してしまった轟天号は、出撃できる状態じゃなかった。そんな下手な漫才みたいなやり取りを聞いた波川は、疲れたため息を吐いた。

 宇宙空間に現れた超巨大な使徒サハクィエルにロシアの基地が破壊され、他の国の基地もやられる危機に対する緊張感がサハクィエルの死で解かれて間もなく機龍フィアが新たに現れた使徒に乗っ取られるという非常事態になり、ただでさえ多忙な波川の疲労はピークだった。

 

 

 多くの人間達が住み、第三新東京から移された人間達も多く住まわされている群馬の都内に向け前進を続ける機龍フィアに、戦闘機からの爆撃が行われた。

 特殊超合金のボディは、怪獣用のミサイルでも傷がつかず、歩みを止めることすらできない。ゴジラの放射熱線を拡散し無効化する装甲はレーザー系の兵器も無効化した。

 歩みが遅いため、進路の先に陸軍が待ち構え、メーサータンクやその他砲撃隊が集中砲火を浴びせるが、これも意味をなさない。

 最強最悪の怪獣王(セカンドインパクト後で何故か強化されたバージョン)との戦うために作られた兵器が、こんな形で自分達に牙を剥くなんて、誰が想像した?

 使徒を第三新東京に行かせるわけにはいかないし、機龍フィアを使徒に奪われたままにするなんてもって他。

 機龍フィアを奪還するにしても、破壊するにしても、どちらを選ぼうにも機龍フィアに取りついている使徒の生態がまったく分からないのでは打つ手がないと言える。

 一番いいのは操縦席にいるはずの椎堂ツムグから何か情報がもたらされるか、あるいはせめてDNAコンピュータから使徒に関する情報が少しでも送受信できればよいのだが今はそのどちらもできない状態だ。

 

 機龍フィアを操っている使徒の退治の仕方が見つからず焦りが募る研究室に、更なる絶望を知らせる放送が響き渡った。

 

『G(ゴジラ)が、日本海側から上陸! まっすぐ…、機龍フィアにいる方へ進行を始めました!』

 

 

 使徒の出現、それすなわちゴジラ出現という流れ(一部例外あり)を、この騒ぎでうっかり忘れてしまっていたのである。

 このうっかりについてフォローをすると、轟天号との戦いで大怪我をしたゴジラが海に逃げたという報告があり、怪我を癒すためにゴジラがすぐには動かないだろうと考えたからである。

 しかしそういう期待は裏切られるものである。特にゴジラ関連では…。

 

 

「うまくいけばゴジラに機龍フィアについている使徒を剥がさせることもできるのでは!?」

「その前に群馬が焦土と化しそうですが…?」

「人口の密集に反応してゴジラが復興した都市を破壊して回るかもしれないんだぞ! なんとかして第三新東京に誘導させられないか!?」

「無理を言うな! 時間がない!」

「ゴジラは使徒を優先するなら、このまま機龍フィアを第三新東京に行かせ、ゴジラを誘導させれば…。」

「待て! ゴジラの様子がおかしいぞ!」

 映像に映るゴジラは、使徒がついている機龍フィアを目指して地上を突き進むが、喉が焼き爛れ、抉れており痛々しい傷口が露わになっていた。その喉の傷のせいか、ゴジラの表情は痛みを堪えているようにしかめっ面であり、歩き方もどこか辛そうに見える。

「あれは…、轟天号の攻撃で受けた傷ですよね?」

「傷が治っていないのに、それでも使徒を殺すことを優先するのか…。」

「ですけど、あの喉の傷じゃ…熱線が吐けないなんじゃ…。あっ。」

 

 熱線が使えない、つまり、物理攻撃という流れが頭に浮かんだ。

 

「き、機龍フィアが…、ば、ば、バラ、バ、バラバラにされたらどうしますか…?」

「……。」

「遠い目をして逃避するな!!」

「ゴジラが完全回復するのが先か、機龍フィアの奪還が先か…、祈るしかないな。ハハハ…。」

「だから現実逃避しないでください!」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 一方。

 科学研究部と技術部の方は小数点以下であろうとも勝利の可能性を探すために動いていた。

「DNAコンピュータの方は使徒にやられていないのは間違いないんだな?」

「何度も言っているでしょう。DNAコンピュータから発信されている信号はDNAコンピュータ自体が無事な状態でないと発信できない特殊なものなんですよ。信号が何度も発信されてきているということは、DNAコンピュータは使徒に支配されていないということなんですよ。」

「使徒に乗っ取られたうえで使徒がこちらを欺くために発信している可能性だってあるだろう。だから確認しているんじゃないか。」

「まったく! 頭しか使わない科学部は頭が固くて困るね! 機龍フィアのDNAコンピュータが共同開発じゃなかったら関わり合いたくなんてないよ!」

「G細胞完全適応者の細胞の研究データを提供してやったのになんて言い草だ! これだから古臭い頑固職人共の集まりは…。」

「…っ、無駄な喧嘩をしている場合じゃないのが分からないの!?」

 科学部と技術部の微妙に仲違いをしているところが今になって浮上し両者が互いを罵っていると、音無が机を叩いて怒鳴った。

「こうしている間にも民間人や前線の部隊が危険に晒されているのに、無意味な言い合いなんてする暇なんてないわ! そんなことする暇と力があったらあの使徒をなんとかする方法を探すために使えばいいのよ! それもできないお荷物なんていらない! とっとと出て行って!」

「お、音無博士…、お、落ち着いて…。」

「あんたもオロオロしてないでこっちの計算式解いて!」

「は、はい!」

「それ終わったら、次はこれ! そこ! このデータの解析をやって!」

「あの…自分…、上司なんですが…。」

「はぁ? だから?」

「ヒィッ! やります! やらせていただきます!」

 科学部が音無の怒りによってある意味で纏まりだした。

 それをポカンっとして見ていた技術部の者達は、さっきまでつまらない意地を張ってやるべきことを怠ってしまった己を恥じ、遅れを取らないように動き始めた。

「……うん、うん…、うん、なるほど、確かにDNAコンピュータは、無事みたいね。」

 技術部と力を合わせて解析を行った結果、機龍フィアの頭脳であるDNAコンピュータは、使徒に侵されていないことがはっきりした。

「使徒がボディを支配しておいて、頭(DNAコンピュータ)をそっちのけっていうのは、おかしいですな?」

「それに機龍フィアの動きがぎこちなすぎ。これは、全ての制御系統をDNAコンピュータから奪い支配下においたのではなく、部品を無理やり動かして他の箇所を動かしているというほうが正しいような気が。」

「二体に分裂する使徒と戦いの際に、使徒が機龍フィアの肩の関節の隙間に爪を突き刺そうとして、まるで火傷でもしたかのように慌てて爪を引っ込めていた動きがありましたが…、関係があるのでは?」

「機龍フィアの関節には、G細胞完全適応者の細胞が浸食しています。これは二番目にきたイカみたいな使徒(※シャムシエル)襲来の時のゴジラとの戦いで故障した時にその故障箇所を補うように骨組み内部にあるG細胞完全適応者の遺伝子が動いたのではないかという報告書があります。」

 機龍フィアの素体とは、この場合、機龍フィアの体を支える背骨を中心とした骨のことを指す。

 3式機龍が1代目のゴジラの骨を使ったので、後継機にあたる機龍フィアはゴジラの骨に似せた形に作り上げたG細胞完全適応者の椎堂ツムグの骨髄から採取した遺伝子細胞で、設計図上での機龍フィアの素体として記載されている物の正体だ。

 骨型の素体の中の遺伝子細胞は生きて活動しており、DNAコンピュータからの刺激を受けて細胞が怪獣級(この場合ゴジラ)の細胞エネルギーを生産し、背骨以外の骨がそのエネルギー増幅・変換し機体全体に隅々に行き渡らせ、機動力と武装の威力、そして防御力に活かすのである。人間の細胞に依存したG細胞の亜種みたいな、本物のG細胞とは異なる遺伝子細胞ではあるが、遺伝子細胞の活動から生産されるエネルギー量は人間など足下にも及ばない本物の怪獣並(この場合ゴジラ)だったため、3式機龍の後継機の素材にG細胞完全適応者・椎堂ツムグの細胞を使おうということになったのである。

 なお、使徒シャムシエル襲来の時にゴジラとの戦いの最中に強制シャットウダウンするほど壊れてしまった後、負荷がかかった関節に素体の遺伝子細胞が浸食して自己修復・自己進化と取れる現象を起こしたのは、完全に想定外のことであった。これについてやはり遺体ではなく生きているツムグを使ったのは間違いだったのではという意見も飛び交ったが、関節にツムグの細胞が沁みていたため、度々やっているゴジラとのプロレスでも壊れなくなったし、使徒イスラフェルが機龍フィアの肩関節を壊そうとしたのを防げたので、壊されにくくなったという点では、一応は結果オーライということになっている。

「使徒にとってG細胞は毒?」

「初めに第三新東京に現れた使徒も、ゴジラを酷く恐れて逃げようとしていました。」

「しかし、G細胞完全適応者と本物のG細胞は大きく異なるはず…。」

「使徒が恐れる要素が何なのかは今は置いて置いて、今は機龍フィアを使徒から奪還することが先決! 使徒がG細胞を恐れていることが間違いないのなら、この使徒がDNAコンピュータを支配しようとしない理由も頷ける。DNAコンピュータには、G細胞との融合個体・椎堂ツムグの遺伝子が使われているのだから。」

「動きがぎこちないのは、骨格及び関節などの主要部分のツムグの細胞を避けて、細胞の浸食がされていない部品を使って無理やり機龍フィアの機体を動かさせているからということ…。」

「それなら……、ツムグの細胞を活性化させれば使徒は機龍フィアの中にいられなくなるんじゃないのかしら?」

「どうやって?」

「最初の細胞の浸食が起こった時のように、刺激するればいいのよ。素体…、一番細胞が詰まっている背骨を!」

 

 科学部と技術部が考案した機龍フィアのとりついた使徒を取り除く作戦。

 機龍フィアの素体(背骨=脊椎)を攻撃して内部に詰まっている椎堂ツムグの細胞を活性化させて、使徒が機龍フィアの中にいられなくさせてしまうというものだ。

 速やかに裏付けとなるデータと共に司令部に伝えられた。

 

 彼らが機龍フィアに取りつく使徒と、その使徒を狙って大怪我を負っていながら上陸してきたゴジラに対応するために動いている最中も、ずっと機龍フィアのDNAコンピュータからは弱々しさが感じ取れる信号が送信され続けていた。

 その信号の履歴と信号の内容などを分析した音無は。

 

「…3式に自我意識が芽生えた時のデータに、似てる…?」

 

 過去の記録に残っている3式機龍に自我意識が芽生えた時の数値のデータの資料を、音無は見たことがあり、それに近いような気がしていた。

 気になった音無は、科学者の仲間に使徒の経過観察などを任せ、機龍フィアのDNAコンピュータから送信される信号の数値を調べることにした。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 さらに一方その頃。

 

『……やられた。ってか、参ったなぁ…。』

 ツムグは、機龍フィアの操縦室の中で他人事のように目の前にあるモノを眺めながらそう呟いた。

 ツムグが見ているのは、繭のような形状だが下手な鉱物より圧倒的に固い物質で操縦席ごと覆われてピクリとも身動きが取れなくなっている自分自身だ。

 操縦室全体に硬質化した繭のような物質の線が張り巡らされ外部からの通信を遮断している。

 ツムグは、精神の一部を硬質化した繭の外へ出して状況を確認し、何が起こったのかを理解して最初の言葉を吐いたのである。

 精神の一部を外へ出したことで、自分の本体を覆って拘束している繭のような物体が使徒が作り出したものであること、精神の一部を外へ出さなければそれを認識することすらできない完璧な封印を仕掛けられていたことを理解した。

 そしてミュータント(ちなみに尾崎以上)の超能力などもほとんど使えない状態だ。どうやらヘルメットのDNAコンピュータと脳との接続部分から直接脳機能を強制的に睡眠状態になるように働きかけられているらしい。

 完璧と言えるほどの不意打ちだったため、長らく防衛軍やその他諸々を困らせてきた自由奔放の源だった力を抑えられてしまい、高い身体能力も脳機能の強制睡眠で発揮できない。

 脳がまだ完全に睡眠状態に入っていないので、意識があるうちに精神の一部を外へ出して状況の確認を行ったのである。だが徐々に残っている意識も睡眠後の世界に引きずり込まれようとしている。もし眠ってしまったら夢さえ見ない深い深い眠りに落されるだろう。

『操縦席がこれじゃ…、機龍フィアちゃんの方もやられてるってことだよな。ってかむしろ、機龍フィアの中に入り込んでなきゃこんなことできないし…。』

 使徒がどうやって機龍フィアに取りついたのか、その過程をツムグは、思い浮かべた。

 

 他の使徒に触る機会は、三度あった。

 一回目は、イスラフェル。こいつ(こいつら?)は、機龍フィアでコアをつぶして殲滅した。

 二回目は、死んだマトリエルを基地に運ぶのを手伝った(吐血状態から復帰後)。

 三回目は、ゴジラに焼き尽くされて空に粉塵となって舞ったサハクィエルの一部が風に乗って…。

 

『…まさか……。』

 サハクィエルの部分で、ハッとツムグは気付いた。

 使徒がどうやって機龍フィアに取りつき、今自分を抑え込むまでに至ったかを。

 ツムグは、自分の推理が正しいかどうか確かめるため残っている脳機能をフル回転させて、遠くを見る力を使い、機龍フィアの両手を見た。

 幽霊のようにだらりと垂れさせられた両掌には、機龍フィアの両掌の大きさに対して大きすぎず小さすぎもしない丸みのある塊のような物が張り付いている。死角になっていて地球防衛軍側はこの物体の確認が取れていないと見た。

 更によくよく見ると機龍フィアの表面に走る青白い光がその部分から出たり入ったりしているように見える。

『あの双子(?)使徒のコアの粉塵と、超でっかい使徒の灰を触媒にして機龍フィアの中に瞬時に現れた…ってところか。ゴジラさんより弱いけど変な方向に規格外だな、使徒って! うっ…。やばっ…。』

 ツムグが頭を抱えていると、ふいに強い睡魔が襲ってきて膝をついた。

 精神の一部を外に出した今のツムグの状態を維持できなくなったのだ。

『アハ…ハハハ……。眠りにはちょっと弱いってのが…、こんな…とこ…ろ…で……、仇に……な…っ…た……。』

 ゴジラは、ひとしきり暴れた時や、地球防衛軍や怪獣との対決などで怪我をした時は、住処に戻り深く眠る習性がある。その眠るという部分というか…貪欲というかそういうものがG細胞の変異の細胞を持つツムグにもある程度受け継がれてしまっていた。なので大きなダメージを受けた時は寝て過ごすことが多いし、眠ることが嫌いじゃない、むしろ好きなぐらいであった。それが今仇になり、使徒からもたらされる強制的な眠りに逆らえなくなってしまったのだ。

 ざまあないっという表情を浮かべたツムグの精神の一部は、宙を仰ぐように首を動かして、やがて消えた。

 機龍フィアの操縦室の機器が、ツムグの変化に反応して、まるでツムグに呼びかけるように機械音を鳴らし、光を点滅させた。

 

 ---------ォ-キ、テ-------ォ------キ------テ------

 

 弱々しく、小さいその音…。よーく耳を澄ませれば声のように聞こえるその音が空しく響いた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 使徒に取りつかれた機龍フィアを迎え撃つための布陣を引いた地球防衛軍。

 尾崎は、特殊な貫通弾が詰まったロケット砲を担いで、周りに控える仲間で隊の部下であるミュータント兵士と共に、その時が来るまで待機していた。

 音無がいる科学部と機龍フィアの開発・改造をしている技術部から伝えられた使徒への対抗策が司令部を通じて前線部隊に伝えられた。

 機龍フィアの超合金のボディの下にある素体(ゴジラの骨格の形にコネて固めたツムグの遺伝細胞の塊)に大きな刺激を与えてすでに関節などに浸食しているツムグの細胞を活性化させて機龍フィアの機体を無理やり動かしている使徒を追い出す…、または機体の内部で死滅させるのである。

 そのために白兵戦や戦車などの移動兵器扱うことを主とするミュータント部隊に支給されたのが、目標に当たると爆薬の詰まったドリルが目標を貫いてその内部で爆発するという特殊な貫通弾であった。これは、土砂崩れや倒壊した建物の復興の役立っていた製品でもあり、その威力はこれを使ったことがったり使われた現場を見たことがある者は皆太鼓判を押す代物だ。

 ただ、機龍フィアの超合金に穴を空けられるかといったらそんなことはない。むしろドリルが粉々になって表面で爆発するだけで終わる。あくまでも今回の目的は、機龍フィアの素体の内部に詰まっているツムグの遺伝細胞の活動を活発化させることなのだから、内部に影響が少しでもある武器が必要だったのだ。なので攻撃目標は自然と背骨部分になる。ここが一番素体に近いといえるから。

 機龍フィアの歩行による地響きが徐々に大きくなっていく。待機している尾崎も仲間達も、他の場所に配置されている部隊にも緊張が走る。

 気候の都合で霞がかっていた景色の中から、ぬぅっと不気味な様子で青白い光の筋を全身にまとった機龍フィアが現れた。

『作戦開始!』

 マイクから熊坂の号令がかかり、待機していたすべての部隊が動き出した。

「尾崎少尉! 頼みますよ!」

「ああ! 分かってる!」

 歩行を続ける機龍フィアが起こす地響きに臆することなく、機龍フィアを目指して走る尾崎の部隊。

 別の方向では風間も部隊を率いて頑張っている頃だ。

 尾崎は作戦が伝えられた時、現時点で尾崎にしかできんだろうということで特別な指示が下された。

 機龍フィアは、基本的にDNAコンピュータと操縦者によって内部から機体をコントロールするのが基本であるが、万が一のため外部から手動で操作が効くように保険がついている。まあこれについては他の軍事兵器だけじゃなく、一般の物にも備え付けられていることであるのだが。

 機龍フィアは、七つのリミッターを組み込まれており、これを解除するとすべての機能が高まる設計になっている。要するにこのリミッターは、素体の中にあるツムグの細胞の活動を抑え込んで、いざ外すと反動で活動が活発化するのを利用したピンなのだそうだ。

 通常は操縦者(椎堂ツムグ)の判断で解除、または蓋をし直す物なのだが、何らかの理由で内部からの制御でリミッターが解除できなかったり、逆に蓋のしなおしができなかった場合に備えての緊急時用として外部に取り付けたリミッター制御装置があることを技術部が科学部に教えたのである。

 なにせもしもの時、つまり緊急時…、それでいてまだ一度も作動させたことがないため正常に作動するかはぶっつけ本番なのだとか…。ちなみに取り付け自体は機龍フィアの開発時に行っていた。だが未知数のG細胞完全適応者の遺伝子細胞を使っているため制御装置がきくかどうか分からず機龍フィアに何かしらの変化が起こったり修理や改良のたびに新しく作り直された物を取り換えていたので結果としてぶっつけ本番になってしまったのである。

 この外部に取り付けられたリミッター制御装置を使えば、攻撃目標の素体…、この場合背骨部分に無駄弾を使わずともツムグの遺伝子細胞を一気に活性化させられるはずらしいのだが、問題なのは、その取り付けられている場所である。

「なんで首の後ろの付け根なんでしょうかね!? もっと低いところにつけろって話ですよ、まったく!」

「試行錯誤してるんだ、仕方ないだろ…。」

 ……首の後ろの付け根(背骨の左方向)にあるというのである。

 100メートルの一番上ではないが、それでも高すぎる位置にある。しかも不安定。それでいて動いている。あとその制御装置の設計図によると手動で捻る代物らしい。

 そこまで登るのなら尾崎じゃなくても、風間や高いところに登るのが得意なミュータント兵士でもできることであるのだが、なにせまだその性質や形状などが不明な使徒が取りついてる機龍フィアに登るとなると使徒から攻撃を受ける可能性が非常に高く危険すぎた。そこでカイザーである尾崎に白羽の矢が立ったのである。尾崎の素質はまだまだ底が見えないため本人の心の在り方のせいか力が抑えられ気味なところがあり、感情の高ぶりやヤバい時の咄嗟のことで普段以上の力が発揮される場面がこれまでに多々あった。だから使徒(敵)の懐に飛び込むにあたりサイキックによるバリアを張って身を守りつつ、かつその状態を維持しつつ外部に取り付けられた制御装置を作動させるために機龍フィアの巨体を登らなければならない。そうなると風間や他のミュータント兵士では無理なのである。

 作戦を伝えられた時、風間は自分もと志願しようとしたものの、尾崎と風間の両名が失われる事態になった時にリスクを説かれ、それでも引こうとしなかった風間を熊坂が殴るという事件が発生したものの、熊坂に叱られ、やるべきことを説かれた風間は、殴られたことで口の端から血を垂らしながら悔しさに拳を握りしめながら感情を押さえた。

 走り続け、やがて機龍フィアとの距離が目と鼻の先になった時、尾崎達は止まり、そして仲間達が陣形を組んだ。

 尾崎を、機龍フィアのボディに飛ばすために。

「頼んだぞ、みんな!」

 尾崎が部下であり仲間であるミュータント兵士達の顔を見渡して言うと、彼らは力強く頷いた。

 ミュータント兵士達の超能力が集まり、尾崎の体を機龍フィアへ飛ばすバネを作り出していく。

 地響きと舞い上がる砂塵に妨害されつつもついに完成された跳躍のための超能力のバネが完成し、尾崎が助走をつけてそこへ向かって走った。そして地を蹴り飛んで、その見えないバネを踏みしめた時、尾崎の体が僅かな残像を残して消えた。

 尾崎が消えた後、バネを作るのに尽力したミュータント兵士達は、膝を地に着いたり、その場に腰を落とすほどの疲労感に襲われた。

「たの…み……ます…、少尉…。」

 膝をつくだけじゃ足りず手もついたミュータント兵士が、機龍フィアへ飛んでいった尾崎に向かって祈った。

 

 

 何人ものミュータント兵士の超能力を束ねた強い力で瞬時に機龍フィアのボディすれすれのところへ瞬間移動した尾崎は、フックを飛ばして機龍フィアの体の凹凸に引っかけ、機龍フィアのボディの上、腰のあたりに足をついた。

 次の瞬間、機龍フィアの体に走っていた青白い光が生き物のように反応した。それを尾崎はすぐに察知し、全身にバリアを張ると、機龍フィアのボディの表面からネバネバとした形状の青白い光が尾崎を襲おうとしてバリアに弾かれた。

「っ、くっ!」

 フックについたワイヤーを握る手に違和感を感じてそちらを見た時、引っかけたフックを伝って青白い光を放つネバネバがワイヤーを溶かしながら尾崎の手に向かってきていた。

 尾崎は素早くワイヤーから手を離し、ほぼ垂直に機龍フィアの体に立った。

 弾かれても襲って来る使徒と思われる青白い光のネバネバが波のように動いて尾崎に迫りくる。尾崎は、機龍フィアの首の付け根を目指してほぼ垂直で、しかも凹凸がある機龍フィアのボディの上を走った登った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「M-1班からです。尾崎少尉を機龍フィアに飛ばすのに成功したと。」

 前線司令部のオペレーターがヘッドフォンに片手を当てながら司令官に伝えた。

「M-2班から、機龍フィアの背骨への攻撃を開始の合図ありました。」

「機龍フィアの動きはどうだ?」

「変化は今のところありません。使徒を識別する反応も相変わらずです。」

「やっぱ物理的に素体(骨格)の殻を破るのは難しいか…。まあ、簡単に壊れるようじゃゴジラとプロレスなんざできるわけないしなぁ。」

 熊坂がそう呟いて大きく息を吐いた。

「それならどうやって機龍フィアの関節に細胞が浸食するんだ? その殻ってのはメチャクチャ固いんだろ?」

「聞いた話じゃDNAコンピュータからの危険視号に反応したツムグの馬鹿の遺伝子細胞が、普通の生物みたいに傷ついた体を治そうとする動きをしたかららしい。殻が固いっつっても簡単には骨が折れないようにするための固さであって、素体自体は柔らかいって話だ。人間サイズのツムグの細胞を培養しまくってよぉ…、それをなんかあれやこれしてゴジラの骨の形にコねて固めて…、3式のゴジラの骨を使っていた部分の代わりにするってなぁ……。科学者の連中はどうしてもゴジラでゴジラをぶっ倒そうって腹みたいだな…。」

「下手すると機龍フィアが第四のゴジラになる可能性が高そうだな…。」

「今回の作戦がもし成功したなら、機龍フィアの内部を浸食する生体の部分が増える。……そんな結末が来ないことを祈るしかないな。」

 機龍フィアを奪還するにしてもしないにしても、機龍フィアに待つ未来は決して良いものではなかった。

 決して良い未来が待っていないという意味では、機龍フィアの素材の提供者であるツムグと同じである。

 機龍フィアは、DNAコンピュータもツムグの遺伝子から作られているので、そう言う意味では一卵性の双子のような、同一遺伝子のクローンのような非常に近しい関係だ。

 もしも機龍フィアが人の制御を完全に離れ、機械と生体を融合したG細胞の怪獣……第四のゴジラになってしまった場合、同一の遺伝子細胞のツムグは確実に引きずられて最悪の人類の敵に成り果てるだろう。浅間山の一件で、量産された不完全なDNAコンピュータを乗せたスーパーX2の量産機がゴジラ撃墜された時のツムグへの影響力の大きさが分かり、ゴジラそのものに引きずられるより、自分と同じ存在に引きずられやすいとうことは間違いない。強いて言うなら、ゴジラとDNAコンピュータとでは、従弟と一卵性双生児ぐらいの違いなんだから近い方に引っ張られるのは当たり前と言える。

「ゴジラが間もなく、作戦エリアに来ます!」

「深手を負ったゴジラと、メカゴジラに寄生してる使徒か……。どうなる? この戦い…。」

「尾崎…、頼んだぞ。」

 ゴジラの接近が間近に迫り、あとは勝敗がどのように決するか待つしかないと熊坂達は覚悟した。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 第三新東京を目指して全身を続ける、使徒に乗っ取られた機龍フィアの背中の真ん中あたりで、尾崎は、機龍フィアの背筋の凹凸を掴んで宙ぶらりんになっていた。

「くっ…! あと少しなのに…!」

 首筋の下を目指してほぼ垂直な機龍フィアの上へを走っていたが、ネバネバした形状で襲って来る使徒の妨害が激しく、使徒から身を守るために張っているバリアを保つために余計に体力が消耗されてしまい、このままではまずいと方向転化した時、使徒からの攻撃がこない部分があることに気付き、慌ててそこの部分に移動したのだが…。

「背筋は使徒がついてないのか? 初めから背筋を登って行けばよかった…!」

 今更悔やんでも仕方ない。登っている途中、風間や他の部隊から攻撃が背筋に向かって行われていたので背筋を避けて動いていたからだ。

 ゴジラも迫ってきているし、とにかく時間がないので消耗した体力の回復を待たずに外部に設置されたリミッター制御装置を目指すしかない。

 尾崎は意を決してバリアを張り直し、再び機龍フィアの表面を登り始めた。

 安全圏から出たことで再び使徒からの攻撃が始まったが、それを乗り越え、やがて目標の首筋の後ろに到達し、作戦を知らされた時に見たデータに記載されていた外部に取り付けられたリミッター制御装置を探して周りを見回した。

「! あった!」

 背筋の後ろのやや横辺りに禁止マークが描かれた不自然な装甲の板があり、尾崎はそこへ向かって足を踏み出そうとして…。

「っ、なんだっ!?」

 ズボリッと足が沈んだ。

 装甲に見せかけた使徒の塊に足を取られ、その隙をついて、周囲から花弁のように浮き上がった青白いネバネバが、尾崎を取り囲み、尾崎を飲み込んだ。

「ーーー!!」

 飲み込まれまいと足掻くも不定形な使徒の中で溺れるように尾崎は包み込まれ、機龍フィアの首筋付近に人ひとり分ぐらいの繭のようなものが出来上がった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 使徒に乗っ取られた機龍フィアは、ついに第三新東京に着いた。

 そこで待ち構えていたのは、弐号機と四号機。

 弐号機がカウンターソードという新装備を、四号機は、ガトリング砲を二丁。

『で…? アレ、ぶっ壊して構わないのね?』

『ええ…。壊す勢いで構わないから止めろってお達しよ。』

『んん?』

『どうしたのよ、メガネ?』

『なんか…、メカゴジラが止まった。』

 荒れ果てた第三新東京をある程度進んだところで、使徒に侵された機龍フィアが立ち止まった。

 シーンっと静まりかえった中。

『機龍フィア内部に高エネルギー反応!』

『地球防衛軍からの伝令! 使徒により、機龍フィアの動力炉が暴走を開始! このままでは、爆破するとのこと!!』

『なんですって!?』

『ああ~…、なるほどなるほど。』

『リツコ!? なにひとりで納得してるわけ!?』

『いやあね。使徒がわざわざ使いにくい機龍フィアを乗っ取るなんて真似をしたのか気になってたのよ。ようするに、爆弾代わりに使おうって腹だったってことよ。』

『爆弾代わり!?』

『コレを見て。』

 リツコがパソコンのモニターに、MAGIが出した爆発予測データをミサトに見せた。

『何コレ…、なんで縦に爆発してるの?』

『機龍フィアの動力炉の形だとこう爆発する可能性が高いってことよ。まあ、横側の範囲からしても第三新東京を木っ端微塵にはできるわね。N2兵器と違って頑丈さじゃ、世界最強だろうし、使徒からしたらこれ以上は無い殻代わりにもなるし……。あとは、のんびりと動力炉が爆発するまで待ってればいいだけなのよ。」

 なーんてことないとばかりに言うリツコの様子に、ミサトはワナワナと震えた。

『り、リツコ、あんた…、この最悪の状況でよくもそんな…。』

『ええ、そうね。最悪だから吹っ切れたのよ。悪いけど、MAGIの出した答えだと、機龍フィアの爆発を止めるなんてできないわ。そもそも機龍フィアを壊すことさえ無理よ。』

『っ! やってみないと分からないじゃない! アスカ、相田君! 攻撃開始よ! なんとしてでも機龍フィアを爆破させないで!』

『分かってるわよ! いくわよ、メガネ!』

『ほ、本当に壊しちゃって良いのかよぉ…?』

『ぶっ壊さないと世界が終わるのよ! 文句言わないで!』

『分かってるよぉ…。』

 

 エヴァンゲリオン、2機による、攻撃が開始されようとしていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 真実を知る者達はともかくとして、地球防衛軍に知らされているのは、使徒がネルフの深部に到達すれば、サードインパクトが発生するという話である。

 狂言じみたその話が真実であるように第三新東京を目指す使徒。

 その可能性が確定しかけていると言っても過言ではない状況が出来上がったことに、世界の終わりを予感した多くの者達が、恐怖した。

 

 

 イロウル。その名の意味は、“恐怖”である。

 

 

 

 

 




イロウルもリアルで見てたからちょっと覚えてる程度なんだけど、コイツの進化能力でこーできないか、あーできないかと試行錯誤した記憶がある。

その結果が、機龍フィアに取り憑いたという展開でした。


イロウルは、その生態系だから、物理的に倒すのは難しいと思ったので、尾崎が内部(※精神)から攻撃する展開に行くよう、コピーペーストしました。


リメイク前を書いた当初、イロウルの名前の意味を知ったとき、ビビッときた記憶がある。


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第十八話  エヴァンゲリオンvs機龍フィア(イロウル)

イロウル編、その2。



コピーペースト多いけど、エヴァンゲリオンと機龍フィア(※イロウル乗っ取られ状態)との戦いを追加しています。


でも戦闘結果は………、あまりよろしくありません。




 

 尾崎が使徒に飲み込まれた時、基地にいた音無は、ハッとして席から立ち上がった。

「音無博士?」

「……おざき…くん?」

「えっ?」

 胸を押さえ、焦燥した表情を浮かべる音無の姿に、科学部の仲間達は訝しんだ。

 

 その時、音無のパソコンに何かが通知された音が鳴った。

 その音で我に返った音無は、パソコンを操作した。

 そして手を止めた。

 

「………ナノサイズの…群体…、使徒……、名…は、…IREUL(イロウル)?」

「音無博士、それは?」

「機龍フィアのDNAコンピュータからの信号をまとめて、翻訳したものです…。DNAコンピュータが、使徒の解析を送ってくれた。使徒の正体がやっと分かった! イロウル! ナノマシンサイズの群体の使徒! この解析が正しければ、環境適応能力が武器でG細胞に必死で適応しようと自己進化を続けているから機龍フィアを動かすことができたんだわ! だとしたら…、素体の中のツムグの遺伝子細胞を活性化せても使徒を倒せるかどうか…。」

「そのデータを至急こちらにも回してくれ! 諦めるわけにはいかん!」

「尾崎君…。」

「しっかりするんだ! 君がそんな状態でどうする! 尾崎少尉のためにも気をしっかり強くもて!」

「っ! はい!」

 尾崎のことで悪い予感が脳裏を過った衝撃から放心しかける音無を、上司の科学者が肩を掴んで言い聞かせて正気に戻させた。

 機龍フィアのDNAコンピュータから送られて来た使徒イロウルに関するデータが科学部と技術部に行き渡り、今までの使徒とはまったく異なる形質を持つこの使徒を倒すための方法を探した。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 機龍フィアを乗っ取っている使徒の正体が明らかになったことは、前線部隊にも伝えられ、衝撃を走らせた。

「微生物の使徒の集まりだとぉぉぉ!?」

 届いた報せとその内容に前線司令官がたまらず叫んだ。

「だ、だとしら…、機龍フィアに直接登って行った尾崎少尉は…。」

 副司令官が恐る恐る、M機関の士官を務めている熊坂の方を見た。

 熊坂は、使徒イロウルに乗っ取られている機龍フィアを睨みつけて、固く拳を握っていた。

「熊坂…。」

 熊坂とは旧知の仲の前線司令官は、熊坂の心中を思い、彼の背中を見た。

 

 

 そうこうしていると、エヴァンゲリオンによる攻撃が始まった。

 

『ミサトさん! 全然効果ありませんよー!!』

 ガトリング砲を二丁抱えて撃ちまくっているケンスケであるが、ガンギンゴンギンっと鈍い音が鳴るばかりで機龍フィアの装甲に傷ひとつ付かない。

『でやあああああああああああ!!』

 アスカがカウンターソードで斬りかかる。だが刃が接触した瞬間、ガキーンッと鋭い音が鳴りカウンターソードが3分の1折れた。

『っ、ウソでしょ!? 分子レベルで切り裂く刃でも切れない装甲って…!? なにで出来てんのよ!?』

『アスカ! 怯んでる場合じゃない! 首よ! 首の関節を狙うのよ!」

『ちぃっ!』

 アスカは、歯を食いしばり、折れたカウンターソードを突き出して機龍フィアの首と顎の間の関節に折れた部位を突き刺した。そして柄のトリガーを引き、カウンターソードの弾丸を発射した。しかし……、弾丸が砕けて煙が出ただけでやはり機龍フィアには傷ができない。

『腹ぁ!』

 ならばと弱そうな部位を狙う。腹部の絶対零度砲のある部位を狙ったが、ガキンッ!と空しい音が鳴り、更に手足の関節、高く飛び上がって頭部を狙ったがだんだんとカウンターソードの長さが短くなるばかりでやはり傷ひとつ付かない。

『あああああ!! イライラするーーーー!!』

 アスカがエントリープラグの中で頭をかきむしった。

 すると。

 

 

 ーーーーーAUTO PILOT PROGRAM BOOT

 

 

『えっ?』

『アスカぁ! 避けて!』

『なに、あっ?』

 次の瞬間、ゴウッと横から来た銀と赤の太い尻尾を見てアスカは、一瞬呆けた瞬間、弐号機の横っ面に機龍フィアの尻尾攻撃が当たっていた。

『ガッ…!?』

 シンクロでダメージが伝わり、首の骨がグキビキッとなる感じがした。

 弐号機は、吹っ飛ぶが、吹っ飛んでいく直後その右足を機龍フィアが掴み、ジロッと四号機を見た。

『ひっ…!』

 ガトリング砲を撃ちつくして立ち往生していた四号機に乗るケンスケが自分に矛先が向けられて焦った。

 機龍フィアは、弐号機の足を掴んだまま、引きずりながら突撃してきた。

『ひ、いぃいい…、うわあああああああああああああああああ!!』

『相田君!?』

 ケンスケは、あろうことかガトリング砲を落とし、敵前逃亡を図った。

 すると、ブンッと背後から弐号機が投げつけられ、逃亡する四号機の背中にクリーンヒット。

『ぐぎゃっ!?』

 背骨がやられる音がしたような気がしながらケンスケは、白目を剥いた。

『ぐ……、この馬鹿メガネ…! 逃げようとしたわね!? あとで覚えてなさいよ!? ちょっと聞いてるの!?』

 しかしケンスケからの返事は無い。四号機内部を映したモニターを見ると、ケンスケは、白目を剥いて気絶していた。

『ほんと…! 使えないんだから!!』

 アスカは、そう怒鳴りながら立ち上がった。その瞬間、機龍フィアの蹴りが下からきて、基本猫背のエヴァンゲリオンである弐号機の胸当たりに当たり、吹っ飛んだ。

『あああ!!』

 ドンッ、ゴロゴロっと、荒れ地の上に転がった弐号機は、立ち上がろうと手を踏ん張ると、そこにあっという間に近づいた機龍フィアが弐号機の頭部を踏みつけた。

『いっ…ぎっ!』

 弐号機の頭に機龍フィアの重量がかかる。機龍フィアの足の下でもがくが、まったくびくともしない。あと少しで踏み潰されようとしたとき。

 

「ゴジラが機龍フィアに接近!」

 

 喉に重傷を負ったゴジラは、目を血走らせ、歯をむき出して使徒に操られている機龍フィアの背後から掴みかかっていた。

 そして、機龍フィアがそちらに気を取られた瞬間、弐号機から足がどかされた。だがアスカは、痛みと、リツコの判断によるシンクロの遮断により弐号機を操作できなくなっていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 使徒が機龍フィアを乗っ取って、ネルフの真上で機龍フィアを爆発させようとしているというのを聞いて、ゼーレは、ゼーレでパニックになっていた。

『あの忌々しい黒い怪獣を模した木偶が逆に利用し、防衛軍のくそ共を追い詰めるや良し! だがネルフの特殊装甲の上で爆発して、爆発に乗じてネルフ本部に使徒に行かせるのは、いかん! いかんぞぉ!』

『どうするのだ! こんな事態は想定外だぞ!』

『何かいい方法があるなら誰か言ってみろ、こらっ!』

『このままでは我々の計画が…、ただでさえ修正が埒が明かないというのに…!』

『まだ6体の使徒が現れてもいないのに、ネルフ本部あるエヴァシリーズまでもを失ったら…。』

『ネルフ本部が自爆すればリリスも失われてしまうぞ!』

「…我々の想定以上に使徒が強化されてしまっておるようだな。」

 ギャアギャア騒いでるモノリス達と、中央で肘をついて表面上は冷静に分析しているキールだった。

 

 どうやら機龍フィアに使徒イロウルが取りついて、ネルフの上部にある特殊装甲を破壊して本部の地下へ行こうとしているのは、彼らのシナリオを越えたことだった。そのせいで彼らの計画に必要なエヴァシリーズもリリスも全部消し飛びそうになっていて、ゼーレは、秘密結社としての威厳はどこへやらでパニックになってしまったのだった。

 

 ところで、機龍フィアがここで失われてしまったら、ゴジラと互角にやりあえる人間側の最強の武器がなくなり、ゴジラ側が有利になってしまうという危険が待ち構えていたのだが…、ゼーレは、それを考える余裕がなかった。

 しかし腐っても人類の文明の陰で暗躍していた秘密結社。そのことに気付いて頭を抱えることになるのだが、それは別の話である。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 無機物やら有機物が焼けた、不快な悪臭がした。

 その匂いを嗅いで、ツムグは、目を覚ました。

「あれ、……ここは?」

 そこは崩壊した街中だった。

 目をこすり、それから周りを見回すと、倒壊した建物の瓦礫の隙間や、下敷きになったその下や、グシャグシャにへしゃげた車の中など、とにかく色んな所に人間の死体があった。

 原形が残っている死体は、はっきり言って少ない。この大規模な破壊で原形がある死体が残るという方が難しいだろう。

 ツムグは、死体に特に関心を持たず、あてもなく破壊された街中を歩いた。

 とぼとぼ歩いていると、ふと立ち止まる。

 目の前には、巨大な生物の足跡。

「…ゴジラさん?」

 ゴジラの足跡だった。その足跡の中心には、ペッちゃんこになった…辛うじて人間?って判別ができる形で地面の染みになっている死体があった。

「なんでまた? 使徒ちゃんは何がしたいんだか…。」

 自分を無理やり眠らせた相手のことはしっかり覚えている。脳に手出しされたとはいえ、精神がグチャにならないのは、G細胞のせいだろうか?

「ま~、とりあえず何とかして起きないと…。っ?」

 頭をボリボリとかいて、再び歩き出そうとしたツムグは、巨大な地響きを感じた。

「ゴジラさん? あっ。」

 思わずゴジラを探して宙を見上げた時、大きな瓦礫がこちらに向かって飛んできた。

 咄嗟に避けると、足元にじわりと赤い血の小さな川が流れて来た。

「場面が変わった? なんだなんだ?」

 飛んできた瓦礫とその下から流れて来た血を見ているうちに、微妙に場面が変わったことに気付いて周りを見回した。

 ふいに足に何かの看板が当たって転がった。

 ツムグがそれを反射的に見た時、ツムグは、ピタッと止まって、それからスゥっと目を細めた。

「悪夢を再現して…、俺の精神(こころ)を壊そうってか?」

 『椎堂(しどう)』と辛うじて読める壊れた看板の一部。

 足元を汚している血が示すことは、つまりそういうことだろう。

「あいにくとさぁ…、俺、全然覚えてないんだわ。俺が今の俺になるまでの事。だからどーでもいいんだ。マ・ジ・で。」

 ツムグは、そう吐き捨てると、乾いていない血を下から流している瓦礫の塊を殴って砕いた。

 その瞬間、粉々になった瓦礫の下から青白い鋭い爪を持つ無数の手のような物がツムグに向かって伸びて来た。

 爪がツムグの体に突き刺さろうとしたが、ツムグの体の表面に触れた瞬間、爪の先から青白い手はガラスが砕けるように微塵になった。

 キラキラ光る青白い粒は、宙を舞い、渦を作りながらツムグを見おろすように動いた。

「チャレンジ精神は認めるよ? 俺を無理やり眠らせたり、機龍フィアちゃんの全部とは言わずとも、ほぼ全身を乗っ取ったのもさぁ。俺が覚えていない過去を悪夢にして俺に見せるってアイディアもG細胞に直接触れない使徒ちゃんの攻撃手段としてはいいと思うよ。でもさぁ…。」

 青白い光の粒は、数を増し、やがてツムグにとって崇拝する相手の姿を象っていった。

 ツムグは、それを気に入らないという目で見つめる。

「その“もてなし”は、すっげーーーーーーーーーーイヤ!」

 青白い光で出来たゴジラの形を指さし、ツムグが絶叫した。

 使徒が模した青白い光のゴジラがゴジラをマネした雄叫びを上げ、足を上げてツムグを踏んだ。

「下手なマネなんかするなーーーー!」

 一目で偽物だって分かるが、ツムグにとって崇拝する相手を敵が模しているのは心底気に入らなかった。

 ツムグは、踏まれた瞬間、地面に空いた漆黒の闇の中に落下しながらそう叫んだ。

 ツムグが穴の中に消えると、ゴジラを象っていた青白い光は散り散りになり、ツムグを追撃するべく穴の中に入って行った。

 

 その様子を離れた場所から見ている存在があった。

 パッと見、影のようにも見える辛うじて人型のそれは地に膝をつき、どうすればよいのか途方に暮れていた。

 

 -----------ツムグ…、----…--- ツ ム グ -----

 

 どこか儚さを感じさせる女の子のような声が、響いた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 ゴボリッと。

 尾崎は、口から泡を吐いた。

 光のない、青黒い奇妙な液体の中に閉じ込められた尾崎は、上も下も分からないままもがいた。

 機龍フィアを支配し、操っている使徒に捕まり飲み込まれた。

 脱出をしようと手足を動かすも触れるのは、液体のような感触だけでそれ以外がない。

「(…息が……。)」

 液体の中なので酸素が得られるはずがない。

 息を大きく吸う暇もないまま、捕まって飲み込まれたためどんどん苦しくなっていく。

 しかし諦めるわけにはいかないと、最後の最後まで足掻こうと尾崎は動いた。

 

 その時、尾崎の目の前で強い光が発生した。

 

 閉じた瞼の上からでも感じたその光に反応して目を開けると、自分がいまいるはずがない場所で尾崎は倒れていた。

「こ、ここは?」

 起き上がり、周りを見回す。

 倒壊した建物や車や家電、それ以外にも様々な物が転がっている。

 座り込んでいる地面の感触も本物のようだ。

 リアルだが、おかしい点がいくつかあった。周りに音がない。そして空気の動きない。匂いもない。つまり時が止まったように尾崎以外のすべてがおかしかったのだ。

 とりあえず状況を整理しようと尾崎が思考しようとした時、強烈な血生臭い匂いと共に手に液体が触れる感触があった。

 驚いてそちらを見ると、大きな瓦礫の下からドロドロと赤黒い液体が流れ出ていた。

 瓦礫の下に生き物がいる。だが…、流れ出てくる血の量といい匂いといい、被災地の救助と捜索経験がある尾崎は、瓦礫の下には死体があると認識せざるおえなかった。

 リアルな夢とはいえ、放っておくのは忍びないと感じた尾崎は立ち上がり、せめて瓦礫に潰されている状態から解放しようと思い、立ち上がって瓦礫に近づいた。

 するとなぜかは分からないが、見えない力に吸い寄せられるように瓦礫の傍に落ちている衣類の切れ端のようなものや、文字盤の破片や、オモチャだったと思われるが原形がほとんど失われた物に目が行っていった。

 丁度いいぐらいにそれぞれ一文字ずつぐらい字が残っていた。

 それらの文字を組み合わせると、つ、ム、ぐ、となる。

 尾崎は、あれ?っと思った。どこかで聞いたことがある話の内容と、今の状況が似ているというよく分からない確信みたいまものが脳裏に浮かんだからだ。

 更に追い打ちをかけるように、ちょっとだけ離れたところに、『椎堂』と書かれた看板の一部みたいなものが落ちていた。形からするに『椎堂』は中間か後半部分の文字だったっぽい。

「なんでだ?」

 なぜ自分が他人の過去の映像の幻の中にいるのか、そもそもこれが本当に“彼”……、椎堂ツムグの過去が再現された光景なのかどうかすら謎だ。

 ツムグの名前の語源が、発見された場所に落ちていた物から適当につなぎ合わせてつけた仮の名前であることは聞いていた。名前の語源になった物の詳細は知らないが、ゴジラと怪獣の戦いが繰り広げられ破壊され尽くした現場にあった物だから形を保っている物はほとんどなかったはずだ。だから自分が目にしている文字が残っている壊れた物類が後のツムグの名前になった可能性が高い。

 だとすると…。

「この下に、いるのは、…ツムグ? ツムグなのか?」

 瓦礫の下から流れ出ている血は、乾く気配がない。それどころか、瓦礫の下の隙間からブクブクと血が泡立ち始めている。

 破壊し尽くされた街の中で、誰にも知られることなく密かに胎動し、そしてG細胞完全適応者『椎堂ツムグ』と呼ばれることになる、あの神出鬼没のトラブルメーカーで、とりあえずは味方なんだがゴジラを崇拝しているところがあり、よく分かんない変な奴で、機龍フィアの材料にしてその操縦者となる者が生まれてくる。

 ブクブクと泡立っていた血が、勢いを増してボコボコと激しく泡立ち始めた。人間の大人よりも大きい瓦礫がグラグラと動き始めていた。

 その激しい変化に、尾崎は思わず後退りした。

 被災地の救助と捜索で、酷い死体は幾らでも見たし、その死体を回収することもした。あの時は吐き気とかそういうものなんかより、死体になってしまった者達が哀れで、救うことができなかったというショックの方が大きかった。

 今目の前で生まれてこようとしている、奇妙な知人(?)の様は、それまで尾崎が感じたことがない強烈な吐き気と悪寒を湧きあがらせた。

 そして、まるでそのタイミングを見計らったかのように、尾崎の体に、背中から衝撃が走った。

 衝撃で思わず退けぞったため、ゆっくりと目線を後ろにやると、青白く光る捻じれた槍のようなものが背中に突き刺さっていた。

 激痛と共に喉をせり上がってきた鉄の味を堪えながら、尾崎は咄嗟に、これは夢だ、幻だと己に言い聞かせた。

 超能力の活用の訓練と同時にそれに対する耐性を養う訓練と、人体などの神秘についての勉強などで“病は気から”という言葉通り思い込みで肉体に外傷や毒や病にならなくても死亡すると教わり、一歩間違えば死に直行レベルの精神系の超能力の攻撃を受けて耐えたり退ける術を体で覚えさせられた(※能力の有無に個人差があるのでレベルの上限は人によっては違う)。

 今いる場所が現実ではないと分かっているからこそ、ここで死んだとしたら現実の自分も死ぬと理解していたからこその対応だった。

 これは夢だ現実じゃない!っと繰り返し強く念じ続けていると…。

 

 ど派手なガラスが砕けるような音がして、尾崎がビクンッと反応してそちらを見た。

 

 それと同時に背中に刺さっていた槍みたいなものも光の粒なって飛散し、尾崎の周りを漂いだした。

 尾崎の視線の先には、中空に空いた穴から落ちてくる、椎堂ツムグがいた。

 ツムグは、尾崎を見つけてギョッとした。

『尾崎ちゃんんん!? なんでここにぃぃぃい!?』

 尾崎を指さしながら落ちていくツムグは、地面に接触した途端、地面が粉々に砕けて空いた暗闇の穴に吸い込まれるように落ちて消えてしまった。

 尾崎は、ポカーンっとツムグが消えた場所を見つめていた。

 なぜかは不明だが、尾崎がさっきまで刺されていた箇所も元通りに戻っていた。

「えっ、ツムグ? 一体、何が?」

 何が何だかさっぱり分からんと尾崎は膝をついた。

 そこにきて尾崎は、やっと自分の周りにある青白い光の粒に気付いた。

「なんなんだこれは!? まさか、使徒か!?」

 自分に纏わりついていた光を体を振って払い落しながら、尾崎は光の粒の包囲から脱出した。

 竜巻のように渦を作っていた使徒は、その外へ逃げ出した尾崎を見おろすように動く。

 尾崎は、身構えながら自分が今置かれている状況を確認した。

 機龍フィアの首の後ろ辺りある、外付けリミッター解除装置を使おうとかなり近くまで接近できたまではよかったが、機龍フィアの装甲に擬態していた使徒に捕まって丸呑みにされてしまった。

 丸呑みにされた後、窒息しそうになったが、使徒はなにを考えたのか夢の世界から攻撃をしかけ、夢の世界で殺そうとしてきた。

 しかもなぜかツムグの過去っぽい映像。たぶん機龍フィアの操縦室に閉じ込められているツムグから得た情報を基にこの夢を作ったのだろう。

 機龍フィアの表面に走る青白い光の筋と同色なので、目の前にいる光の粒々が使徒であることは間違いない。

 今まで固形の形で出現してきた使徒だったが、この使徒は粒の一つ一つが使徒だというのを見抜いた。

 つまりこれまでの使徒と違い、弱点のコアを潰せばそれで終わりじゃない。粒を残さずすべて消さないと倒せないということだ。

 

 しかし…、尾崎は、むしろこの状況はチャンスだと考えた。

 

 精神を直接攻撃は、対処法が分からなければそのままドツボにはまってお終いだ。

 だが尾崎はその訓練をしているし、ミュータントでも特殊であったことから実験ついでにミュータントの能力がどこまで通用するのか、どんな応用ができるのかという個別訓練を行ったことがあった。

 その実験&訓練とは、コンピュータなどの人工知能のプログラムに超能力で干渉し、超能力でプログラムを操るというものだ。

 パスワードやセキュリティを強引に破り、自分が必要としているデータだけを引っ張り出して入手、脳を記憶媒体としてデータを運ぶ。

 生体や無機物から情報を読み取りその情報を記憶できる超能力から、普通の人間より脳の記憶容量が大きいと判断されたことから始まった実験だったが結果は予想を遥かに上回るものだった。

 ちなみに実践に使うかどうかはまだ検討中である。取り換えが利かない脳細胞に負担がかかるからだ。

 それは置いといて、精神攻撃と電子プログラムに関わるその実験の検体として参加していた尾崎である。今この状況は恐らくであるが現実世界よりも圧倒的にこの使徒に対して有利な状況かもしれないのだ。

 いくら無数の微生物の集まりからなる使徒とはいえ、それを統一している意思は一つであるはずだ。

 ましてや今、ツムグの過去を再現したリアルな夢の世界を作り出し、そこから攻撃を仕掛ける大掛かりなことをやってきたのだから、微生物の集まりの使徒の意思に直接手を下すことが可能だ。仮に現実世界で何らかの保険をかけてあって大部分を失っても生き残れるようにしていてもだ。

 

 つまり、夢を通じて殺すことができる。

 

 尾崎は、ぐっと身構え、使徒をまっすぐ見据えた。

 使徒の意思は渦を巻いていたが、渦を巻く方向を変え、密集度を高めドリルのように鋭い形の渦を作るとその先端を尾崎に向けた。

 次の瞬間、目に見えないと例えれるような速度でドリルのようなそれが尾崎に突っ込んでいった。

 尾崎は、まったく無駄のない動きで跳躍し、難なく回避すると、右手を振りかぶって橙色の精神エネルギーを纏わせて使徒の意思に向かってその拳を叩きこんだ。

 ガラスが砕けるような大きな音と、橙色の光が花火のように広がった。

 少し間をおいて耳に刺すように大音量の甲高い悲鳴が木霊した。

 尾崎は着地し、使徒の意思を見た。使徒の意思は、尾崎の攻撃に混乱しているのか、その粒々のほとんどが動きに法則性を失っている。量もさっきまでの半分ぐらいしかない。

 やがて混乱が治まってきたのか何とか統一性を取り戻した青白い光の粒が尾崎のいる方向とは逆方向へ動き出した。

 逃げようとしているらしい。

 しかし、尾崎は、根は優しいが、自分以外の大切な人達を守るという使命感の強い青年だ。ましてや相手が世界の滅亡に関わる使徒で、しかも現在進行形で機龍フィアを乗っ取って操り大きな危機を招いているのだ。逃がすわけにはいかない。

「負けるわけにはいかないんだ!」

 尾崎が気合と共にそう叫ぶと、尾崎の身体から橙色のオーラが放たれ、周囲に広がり、使徒の意思の行く手を遮った。

 逃げ道を塞がれ、甲高い鳴き声のような音を出した使徒の意思は、恐る恐るという様子で背後にいる尾崎を見るような動きをした。

「…お前達、使徒は、アダムのところに行きたいだけなんだから、俺達と敵対するつもりなんて本当はないのかもしれない……。けれど、俺達は、戦いを止めることはできない。お前達がアダムのところへ行ったら世界が終わってしまうというのが本当なら止めなきゃいけない。ゴジラもいるし、俺達は、負けられないんだ! 生き残るために!」

 尾崎は、右手の拳により一層強い橙色の光を纏わせ、使徒の意思に向かって拳を振った。

 放たれる強大な精神エネルギーによる攻撃。

 微生物のひとつひとつが使徒であるため倒すのが困難な現実じゃなく、それを統一するひとつの意思がいる夢の世界での直接の攻撃に、使徒イロウルは、更に大きな悲鳴を上げた。

 

 

 捨て身で機龍フィアを乗っ取った使徒イロウロの大誤算は、尾崎をただのミュータント兵士と侮り、夢の世界に引きずり込んで身も心も壊して喰おうとしたことであろう。

 

 

 ナノサイズの微生物の集まりであるイロウルの大本たる意思の方が大ダメージを受けたせいか、精巧に作られていた夢の世界が崩壊を始めた。

 ひび割れた空に赤と金色が混じった電気のような光がスパークし、ゴジラに似た、けれど機械から発せられる雄叫びみたいな声が響き渡った。

 

 

 現実世界では、機龍フィアが顎の関節を引きちぎるほど大きく口を開けて電子音交じりの雄叫びを上げていた。

 機龍フィアの両腕を引きちぎろうと踏ん張っていたゴジラは咄嗟に止まるし、地球防衛軍側もいきなりのことに固まらざるおえなかった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 暗黒空間にできたヒビから這い出てきたツムグは、ゲホゲホとむせた。

「で、溺死とか…。昔さんざんやられたことだし。結局、細胞が適応して無酸素状態でも平気になっちゃったけど。ま、いいや。それにしても尾崎ちゃんとあんなところで会うなんて…、使徒ちゃんも何考えてんだか…。」

 咽た時に出た唾を口元を手で拭うと、後ろに振り返った。

 青白い光の粒が宙を舞っている。だが初めに遭遇したものよりも明らかに量が少なく、動きにも元気がないように見える。

「尾崎ちゃんの一撃は効いた? 痛いでしょ~?」

 ツムグは、腰に手を当て、にや~っと笑って使徒を見上げた。

 使徒はそのの言葉を聞いて悔しいのか、それともわけが分からないと混乱しているのか、どちらとも取れる動きを見せる

「アホだな~。っていうか、なんで尾崎ちゃんを喰おうとしたわけ?」

 それを見てツムグは、呆れた笑みを浮かべながらそう言うが使徒から返事はない。

 使徒は、もう放っておいていいと考えたツムグは、顎に手を当て、ここから脱出することを考えた。

 しかし使徒から受けた封じが思っていた以上に作用しており、ドつぼにはまっていて、肉体の方に帰ることが難しいことに気付いた。

 自力で脱出となると脳の活動を止めている部分。ヘルメットに繋がっている管とコードに浸食している使徒の変異(脳の活動を止めるための物なので使徒とは別物化している)を取り除くか、あるいは、死にそうになるほどダメージを受けて死から再生するときの一時的な細胞のエネルギーの増加で活動を止めている部位も活性化させるか。

 思いついて、ツムグは、肩を落とした。

「どっちも第三者がいなきゃできないじゃん! うわ~、まさかこんなドつぼにはまるなんて俺、どんだけ油断してたの!? 誰かに助けてもらいたくても俺の身体、機龍フィアちゃんのコックピットの中だし!? ……もう過去は戻らない。どーしようか…。ホントにどーしよう、十五年ぶりにヤバいって状況だよ!」

 両手を両頬にあてて顔を青くして叫ぶツムグ。普段の彼を知っている者達のほとんどが見たことがない慌てぶりである。

 ツムグが焦っていると。

 

 -------ムグ------…

 

「ん?」

 

 -----------バカ----…

 

「えっ? 馬鹿って…、何事? っていうかこの声誰!? 子供? 女の子?」

 

 -----! バカバカバカバカ!!

 

「連呼された!」

 

 ツムグの……、バカーーーー!

 

 そう叫ぶ声が響き渡ったと同時に、ツムグの足の下の方から銀色と赤の巨大な物体の頭部が浮上してきた。

 

「あーー! ごめんねーーーー!」

 

 浮上してきた機龍フィアの頭に吹っ飛ばされて、ツムグは、暗黒空間の彼方へ飛んでいった。

 ツムグがいなくなったあと、暗黒から頭を出した機龍フィアが、くるりと後ろにいる使徒の方を見た。

 そしてガバッと口を開けた。残し少ない使徒の粒はすべて機龍フィアの口の陰に覆われた。

 さっき尾崎にやられた痛みにのたうっていた使徒は、機龍フィアの口に気付いた時には、機龍フィアの口が閉じられる直前だった。

 口が閉まる、直前で気付いたことと、使徒自体が粒々だったので、折角残っていた量の4分の3を失いながら残り4分の1が命からがらという状態でこの空間から逃げていった。

 ガジガジと使徒を噛み砕く動きをしていた機龍フィアは、やがて怒りが収まらないという風に苛立った電子音混じりの雄叫びをあげた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 電子音混じりの機龍フィアの雄叫びに皆が驚いていた。

「な…、何が?」

「動力炉の温度上昇が止まりました!」

「温度が低下しています! 安全値まであと5分!」

「とりあえず危機は脱したらしいな。」

 機龍フィアからは温度上昇による湯気がもうもうと出ている。

「いやいや、別の危機が起こっていますよ?」

「本部からの伝達! 機龍フィアのDNAコンピュータの活性率が300を突破!」

「なんだそりゃ!?」

「機龍フィアの背中側、首付近に高いP・K(超能力)反応有り! 信号を確認! 尾崎少尉です!」

「生きていたか!」

 

 機龍フィアの変化により、使徒イロウルに飲み込まれていた尾崎が解放された。

 繭のような球体が破れ、そこから飛び出した尾崎は、機龍フィアの首筋を横走りしリミッター解除装置に近づいた。

 そこからは目にも留まらぬ速さとはこのことという速さで尾崎はハッチを壊すように開け、中にある回転型のスイッチを掴みグリングリンと右に左に、事前に頭に記録させられたマニュアルに従い回転させる。

 最後にグリッと押し込んだ時、リミッター解除装置が四角い枠ごと爆発した。その衝撃で尾崎の身体は、宙に投げ出され、機龍フィアの首筋から落下した。

 尾崎は身を捻り、ゴジラに掴みかかられている機龍フィアにぶつからないように、そして潰されないよう着地点に気を付けて落ちていった。

 リミッター解除装置があった場所から蒸気が漏れ、やがて鈍い灰色の背骨が朱色っぽい明るい赤い色に染まりだした。

 その色は機龍フィアの全身に広がっていた青白い血管のような色を塗りつぶすように広がっていき、鼓膜を刺すような甲高い悲鳴が木霊した。

 イロウルの断末魔だ。青白い血管のように広がっていたイロウルは、端から火が灯り、ジワジワと燃えていってしまった。

 静かに燃え尽き、使徒イロウルは死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 




オートプログラムが作動したのは、攻撃を受けると自己防衛のために作動するように技術部が設定してからです。イロウルにそれを利用される結果となりました。


機龍フィアは、とにかく硬いです。
結果としてエヴァンゲリオン側の武装では破壊不可能なほどの強度にしちゃいましたが……、もうちょっといい勝負できたんじゃないかと思いつつも、それだとゴジラの無双感が無くなるのでいい勝負はお蔵入りになりました。

なお、機龍フィアは、戦闘のたびに改良が進められていて、初期(序章)の時と比べるとかなりパワーアップしています。


イロウルは、精神世界での尾崎からの反撃と、機龍フィアのDNAコンピュータの覚醒で弱らされたところを、リミッター解除を受けて焼き殺されました。


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第十九話  イロウルの事後処理と、風間の災難?

タイトル通り。



序盤は、ほぼコピーペースト。


後半は、リツコが風間と……?


 

 機龍フィアが元のボディの色を取り戻した頃。

 

「パターン青。消滅…。」

「勝った…のか?」

 

 微生物の集まりの使徒が死んだという反応が確認されても全く安心できなかった。

 なにせ微生物。一つ一つがコアを持つ使徒と判明してしまったことが大きい。

 だから油断できない。

 イロウルが殲滅されたという報告がされても、緊張は解けれない。

 そんな中、ゴジラが雄叫びを上げた。

 喉がやっと治ったらしい。完治とは言い難いがそれでも鳴き声を出せるほどには回復したようだ。

 だがその直後。

 

 機龍フィアに、ゴジラは、ビンタ、された。

 

 しかもビンタの強さは、ぺちんっという程度である。

 ゴジラも、地球防衛軍もみんなポカーンである。

 しかしすぐに我に返ったゴジラは、怒りを露わにして機龍フィアに殴りかかろうとしたが、それよりも早く機龍フィアが両腕を上から下へ振り上げゴジラを殴打した。傍から見ると、それは子供が駄々をこねて両手を振り回すそれだ。

 機龍フィアが爆発させられそうになった危機を脱したはいいが、今度は機龍フィアに起こった別の異変で地球防衛軍は慌てた。

 連続で叩いてる割にはダメージはとても低いらしく、ゴジラは、なんなんだ?っという感じに眉間を寄せている。

 その時。

 

 

 

『ツムグのバカーーーー!』

 

 

 

「喋った!?」

 

 電子音混じりの子供のような声が機龍フィアから出た。

 口が動いているわけじゃないのでスピーカーか何かから出ているのだろうが、喋れるようにしてはいなかったはずだ。パイロットが操縦席から外に向かって声を向けることはあれど。

 いきなり子供の声を発したことは、機龍フィアの開発に関わった科学者達や技術者達を混乱させた。

 ゴジラもちょっとびっくりしていた。

『バカバカバカ!! いっつもゴジラ、ゴジラって! ツムグのバカ!』

 操縦席にいるツムグに向かって怒鳴っている。

『ツムグは、“ふぃあ”のだもん! “ふぃあ”のだもん! ゴジラのじゃないもん!』

 

 

「…微妙に発音が……。」

「科学部からの報告で、音声の解析結果、平仮名で“ふぃあ”って言っているとのことです。」

「機龍“フィア”だから、“ふぃあ”なのか?」

「つまりあの声は機龍フィアのDNAコンピュータということか。」

「自我意識が芽生えただと? それじゃあ3式と同じ…。」

「いやいやいやいや、3式機龍とは明らかに違いますって! 資料で見てますけどあんなんじゃなかったですって。」

 

『あげないもん! あげないもん! ツムグは、あげないもん!』

 

「椎堂ツムグが好きなんだな…。」

「あいつの遺伝子細胞から発生した意識なら普通なんじゃないか?」

「ハハッ、あいつモテんじゃねーか。」

「違うと思うぞ!? むしろ兄弟とかそんな感覚だと思うぞ!?」

「司令部はさぞかし大騒ぎだろうな…。」

「そうでしょうね…。」

「あっ」

 前線部隊が基地にいる司令部の混乱を心配していると、事は動いた。

 黙って叩かれていたゴジラは、我慢の限界をむかえたのか呆れたのか、機龍フィアを強烈な張り手で倒すとくるりと背中を向けて海の方へ去っていった。

「帰りましたね…。」

「使徒もいなくなったしな…。」

「喉の怪我も治り切っていないようだし、無理して来たってのもありそうだな。」

「というか、呆れて怒りも治まったんじゃないか?」

 

『ウゥ~~、ツムグ、起きてよ~!』

 

「って、あいつ(ツムグ)起きてないのか!?」

「そもそも意識がなくなっていたなんて初耳だぞ!」

「仕方ないだろ、内部の情報が入ってこなかったんだから…。」

「どーすんだ、これから? 司令部からの指示はまだか?」

「仕方ない。俺達は俺達でできることをやればいいだろ。」

「それもそうだな。」

「尾崎少尉が見つかりました!」

「そうか! ん? 何かあったのか?」

「それが……、数十キロ離れたところからテレパスで近寄るなと言っていて…。」

「? ……まさか。科学部に指示を仰げ! 全軍に伝達、尾崎をSS級危険物として警戒しろ!」

「は、はい!」

「どーした熊坂!?」

「使徒につかれてた機龍フィアに直接触ったんだ…。発信機が途中で途切れたのは使徒に捕まったか何かされたに違いない。あいつのことだ…、それに気付いて味方に近寄らないようにしてるんだろう。」

「あっ…。」

 

『ツムグ~~。う~、ん? だぁれ?』

 

「なんだ? 様子がおかしいぞ?」

 

『えっ? ほんとう? ツムグだいじょうぶ? ほんとにほんとに? うん。分かった。』

 

 機龍フィアがキョロキョロと首を振りながら誰かと会話をし、やがて大人しくなった。

 自我が芽生えたことで勝手に動いていた機龍フィアが大人しくなったため、その隙にと回収することになった。

 暴れるかと思われたが、嘘みたいに大人しかった。

 後で分かったことだが、機龍フィアに話しかけて大人しくするよう説得したのは、尾崎だった。テレパシーを使ったらしい。

 

 機龍フィアが回収されるのと同時に、問題の尾崎の方も回収となった。

 微生物の使徒に侵されている可能性に、尾崎と親しい者達は不安の色を浮かべた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「……ん?」

 ツムグが目を覚まして最初に目にしたのは、手術室の強烈なライトだった。

「やっとお目覚めか。」

「おはよ~。」

 頭がまだボーっとするが、目をこすりながらツムグは、起き上がった。

 マスクをして白衣を着た自分の管理者の一人がカルテを片手に持って立っている。

「脳の活動は若干にぶいが、事情聴取だ。」

「大丈夫。大体把握してるから。」

 寝たままヒラヒラ手を振ると管理者は呆れたように息を吐いた。

 それからは使徒サハクィエルが殲滅された直後に機龍フィアをなぜ飛ばしたのか。いつ使徒イロウルにやられてしまったのか。硬質な繭みたいに変化したイロウルに強制的に眠らされていた状態についてなどを話した。

「普通なら脳死ししているか、運が良くても脳に重大なダメージを受けるがな。G細胞の力だな。」

「尾崎ちゃんは?」

「…なぜおまえが知っている?」

「夢の中で尾崎ちゃんと会った。」

「そうか…。おまえには説明が必要ないな。」

「自分でも便利だなぁって思うよ。でさ、尾崎ちゃんの様子は?」

「かなり参っているみたいだ。無理もない。いまだに得体のしれない化け物に身体を侵されているかもしれないからな。」

「検査中ってこと?」

「今回の使徒は微生物だ。少しでも残っていたら復活する可能性が高いからな。」

「その心配はないよ~。」

「はっ?」

 ツムグは、むくりと起き上がり、ニッと笑った。

「尾崎ちゃんのところ、連れてって。」

 そう言われて管理者の一人は、言葉を失った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 科学研究が行われたり、検査といったことも行われる特別な実験所がある。

 恐らく世界で1、2を争う防護、防菌の場所であろう。

 怪獣がいた頃からフル稼働のそこに、尾崎はいた。

 正確には…、監禁されていた。

 簡素な病人服の恰好で、室内の外が見える窓にソッと手で触れる。

 機龍フィアのリミッター解除装置を使うために出動したはいいが、目前のところで使徒に捕まった。

 使徒は微生物の集まりだったことをあの時はまだ判明していなかった。少なくともこれまで現れた使徒と生態が全く異なるとは分かっていたがどのような生態を持つ使徒なのかは分からなかったし、何より機龍フィアを奪還することを優先しなければならず、機龍フィア自体がミュータントの強力な超能力をほとんど受けつけない仕組みだったのもあり仲間の力を合わせても接近できるのが尾崎しかいなかった。

 アメーバのように変態した使徒に捕まり、その液体を口にしたうえに、精神攻撃まで受けたのだ。体の中に使徒が入り込んで生き延びている可能性は非常に高いということだ。

 尾崎は、壁に背を預けてその場に座り込んだ。

 清潔すぎる白い部屋はあまりいい気分にはならない。

 正式にM機関への戦士になる前、尾崎には実験動物も同然の扱いを受けた時期がある。

 初めのうちは他の者達と同等の扱いだったが、検査や訓練を受けるにつれ、自分だけが違う場所に移動する機会が増え、やがて引き離された。

 尾崎でも、シンイチでもなく、割り振られた番号でもなく、“カイザー”という名称で呼ばれるようにもなり当時は混乱した。

 普通の人間ではないという自覚はあり、同じ力を持つM機関に保護された仲間達との出会いを通じてそれを理解したし、その力の扱い方や高め方などを学ばなければならない理由だって理解した。

 なのになぜ自分だけが違う場所に連れてこられたのか。子供に分かるわけがない。

 あのままだったら尾崎真一という存在は実験体として終わっていたかもしれないし、尾崎自身が現在の尾崎として精神を保てていたか怪しい。

 膝に顎を乗せてあの時のことを思い出す。

 金色の混じった赤色と、なぜか奇妙に見えた笑みを思い出した。

 そう、実験室に閉じ込められていた尾崎を解放したのは、ツムグだった。

 しかし正確なところは解放したと言えるのかどうか今思うと微妙なところではある。

 何をやったかというと…、ツムグが、襲って来たのである。

 …殺すとかそういう意味の方である。

 子供時代の尾崎は当時出せる全力で抵抗したので軽症ですんだ。普通ならトラウマになりそうだが、奇跡的にトラウマはならなかった。っというよりは、戦っている間に記憶が飛んでてしまったのでトラウマが残らなかったというのが正しいかもしれない。子供の身体で強大な超能力を多用して負担がかかりすぎたせいだとカルテには残っている。

 能力の高いミュータントより、そんなミュータントを遊び半分に殺そうとしたG細胞完全適応者の方の対処の方が優先となり、尾崎は解放されたのだった。

 セキュリティ厳重で病原菌が入るのも困難な場所に音もなく入り込んだツムグの異常さは狂気の域だということらしい。

「今思うとツムグのおかげだったんだな…。」

 結局は今逆戻りしているが、子供時代に出ることができたのはツムグのおかげだったのだと今更ながら思う。

 あとで聞いた話だが、殺そうとしたのは単なるパフォーマンスであり、本気ではなかったらしい。なにせその後も遊びと称した突然のバトルを持ち込んできたり、覗きや盗聴の常習犯だったりして、もういちいち気にしてたらやってられないと周りの空気もありいつの間にか慣れてしまったのである。

 そういえばツムグは、今どうしているだろうとも考えていると、実験室の窓を叩く音がした。

 顔を上げて窓を見て、尾崎は目を見開いてすぐに立ち上がった。

「ミユキ!」

 手足の先まで防護服で覆われているので人相が分かり辛いが一目で音無であることが分かった。

 窓に手を添えると、その手に重ねるように音無が窓の外から手を添えてきた。

 口が動いているが音は聞こえない。

 尾崎は、胸をえぐられるような申し訳なさを感じて胸を抑えた。

「ごめん。心配かけて。」

 彼女の泣きそうな顔に今すぐに彼女を抱きしめたいのを堪える。

 自分の体の中にはまだあの使徒が潜んでいるかもしれない。使徒がもういないことがはっきりするまで外に出るのは不可能だろう。

 もしかしたら一生…。その考えが過って尾崎は絶望した。

 が、その時。

「それはない。それはないから。」

 後ろからポンッと誰かに肩を叩かれた。

 …昔、同じことがあったような…。

「で、デジャヴ?」

「空気ぶっ壊して悪いけど、手っ取り早く、ね?」

「どうやって入ってきたんだ!?」

 慌ててツムグから距離を取る尾崎。窓の向こうにいる音無も驚愕している。シリアスの空気どこ行った?

「気にしない気にしない。」

 ツムグは、笑う。

 おかしい…、あの一件からセキュリティは強化されてツムグでも入り込めないようされていたはずだが…。

 ツムグは、右手を前に出して、グッと拳を握った。すると拳から血が垂れた。

「今から証明するから観察よろしく。」

 宙を見上げて、恐らくここの管理者達や研究者、そして事を観察していた上層部の人間達に向かって言った。

「しょうめい?」

「ようは使徒が残ってなければいいってことでしょ? 今から俺と握手して。こっちの血の付いた方で。」

「それで分かるのか?」

「なぜか知らないけど、使徒はG細胞に触ると火傷しちゃうんだよ。機龍フィアにとりついてた使徒もね、体を焼きながら耐えて耐えてたわけ。かなりしんどかったはずだよ。あれって微生物だからなんとかなってたんだろうけど。さすがに無理がたたってたと思うよ? でさ、もし尾崎の中に使徒が残ってたら俺の血を触ったら大ごとだ。残ってなかったらなんともない。簡単でしょ?」

「…うーん。」

「グダグダ考えても、ここから出られないよ?」

「いや…その…、ツムグの血って、死ぬんじゃなかったか?」

「あれは体内に入れた場合。注射しなけりゃ大丈夫! …な、はず。」

「不安になるだろ!」

「触っただけでダメなら、あの虫みたいな形した使徒の時に大変だったって!」

 使徒マトリエル襲来時に、ツムグは、内臓から出血して吐血した。更にそのままゴジラと戦ったため操縦席は血塗れになった。いや、床が血の海なので開けた瞬間に…。

「あっ、そうか。」

「で、やる? やらない? ミユキちゃんと一生はなればな…。」

「やるに決まっているだろう!」

「良い返事。さっ、グッと。」

 そうして、尾崎はツムグの血の付いた方の手を握った。

 握って…、1分後。

 

『パターン青。確認できません。尾崎少尉の解放を承認します。』

 

 っという、放送が聞こえ、部屋の鍵が開いた音がした。

「おめでとう、尾崎。晴れて自由の身だ…って、早っ。」

 ツムグが言うが早いか、尾崎はすぐさま部屋から飛び出し、外にいた音無を抱きしめた。

 ツムグは、その様子を見てから部屋から出ていき、二人を残して去っていった。

 監視カメラで様子を見ていた側も外で待機していた側も赤面する甘い空気がたちこめていたが、このまま放っておくわけにいかないで、二人に話しかけ、実験室からの退出となった。

 実験所の外で尾崎を出迎えたのは、M機関の仲間で、その中でジトッと見てくる風間がいたので心配をかけたことを話しかけようとしたら、まず拳が飛んできた。そのまま掴みかかられそうになったので仲間達が風間を抑えて、音無が間に入って、熊坂が落ち着けとチョップ入れたりしてなんやかんやあったが無事に戻ってこれたことを祝福されているのは嫌でも分かったので尾崎は涙した。

 尾崎に泣かれて風間はプイッとそっぷを向いた。

 それから、無事に戻ってこれたことを祝われて落ち着いてから言われた。

「戻る前にあの子らにも顔を見せとけ。」

「えっ?」

「シンジ君達の事よ。みんな心配してたんだから。」

「泣きつかれて面倒だったんだぞ。」

「すまない…。」

 尾崎が大変だったことは、シンジ達にも伝わっていた。ただし詳細は明かされず、ただ二度と会えない可能性があることを遠回しに言われ情緒不安定になったシンジが泣き出してしまったのである。

 本人は自覚なく尾崎を心の支えにしていたために不安定になり、泣き出してしまった彼を宥めようとした者達の声を聞いた途端、声を上げて泣くという事態にもなってしまい、尾崎の安否確認をしようと風間に縋ったり、相変わらず表情の乏しいレイが撫でたり抱きしめたりして慰めようとしたという。

 食堂にいると聞いたので行ってみると、普段はM機関の者達が座る席にシンジとレイが並んで座っていた。その周りには二人を心配そうに見ている食堂の職員達がいた。

 レイが尾崎の存在に気付いて振り向き、すぐにシンジの肩を叩いた。

 シンジがゆっくりと泣き腫らした顔で後ろを向く。無表情だった顔がみるみる変わった。

「お、おざきさん…。」

「心配かけてごめん。もう大丈夫だから。」

 尾崎は優しく笑って自分のもとへ駆けて来たシンジを抱留めてその頭を撫でた。

 食堂にいたおばちゃん達もホッとした顔をしてその光景を見守っていた。

 レイもどこか母性を感じさせる柔らかい眼差しでシンジと尾崎を見ていた。

 食堂の入り口で背中を預けていた風間は、肩の荷が下りたというように長生きを吐いていた。しかしその表情はほんのりと明るい。

 

 

 

 こうして恐怖の名を持つ使徒がもたらした恐怖は去った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 一方その頃。ネルフにて。

 

「基本は人間だけど、脳の発達に伴う身体能力の強化が見受けられるわね…。これがミュータント…。」

 使徒マトリエル襲来直後位に風間から貰った(千切った)髪の毛から採集したデータである。

「ああ…、できればあの身体を直接触って計器にかけて、あれやこれ、あんなことやこんなこと、それからそれから…。」

 リツコは、熱の篭った息を吐きながらそんなことを呟いた。その表情は実に色っぽい。

「あぁもう! 髪の毛だけで済ますんじゃなかったわ!」

 ついにはそんなことまで言いだしてしまう始末である。

 

 遠くにいる風間が肌をゾワッとさせていたとか?

 

「ああ! 辛抱たまらないわ!」

 

「あの……、先輩?」

「あら、マヤ、どうしたの?」

 後輩のマヤがやってくるとキリッと切り替えるリツコであった。だがしかし、さっきの変な色っぽいが鼻息荒い醜態はバッチリ見られている。

「あの…調べ物をしろと司令が…。」

「なに? 見せて。」

 よそよそしい彼女に無遠慮で書類とメモリカードを受け取り、パソコンにデータを映し出し、書類と照らし合わせる。

「……ミュータントの変異種“カイザー”の調査?」

「変ですよね? ……なんでこんな時に、ミュータントの調査なんて…。」

「……………これは、使えるわ。」

「えっ?」

「んん? なんでもないわよ。」

 イヤイヤ、すっげ~~~良い笑顔ですよ、赤木リツコさん?ってツッコミがどこからか聞こえてきそうなほど、リツコは笑顔だった。

「調査するにしても、肝心のカイザーは、M機関所属の尾崎シンイチ以外にいないわけだし……、地球防衛軍に依頼しても突っぱねられるのは目に見えてるわね。でも、それ以外のミュータントなら、この間の群体型使徒の調査を名目に身体を調べても……。」

「せんぱ~い。ヨダレ。」

「あら、つい…。」

 ジュルッとリツコは、普段の彼女からは想像も出来ない欲望のヨダレをハンカチで丁寧に拭いたのだった。

「そうと決まれば、突っぱねられる前提だけど、ダメ元でミュータントの身体調査をさせてもらうよう依頼してみましょうかしら。」

 これで、風間が釣れればリツコ的には万々歳。

 都合が良いことに、風間はM機関ミュータント専門組織の兵隊でもエースであるうえに、尾崎シンイチと同じ階級。聞くところによると前回の使徒(イロウル)との戦いの際に、前線での部隊を二手に分ける際にも、尾崎と分けられて文句を言ってミュータント兵達の教官に殴られたと聞いている。つまり風間はカイザーではないが、尾崎と並ぶだけの強い個体なのだ。まあ、カイザーである尾崎が予測データほどの力を出してないのは性格的な部分が大きいだろうが……。(戦闘狂であるかどうかの違い)

 

 まあ、そんなこんなでリツコは、風間目当てでミュータントの身体調査の依頼をM機関に提出してみた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………断れないのか?」

 

 

 

 依頼書を貰って目を通した風間の第一声がそれだったとか?

 そして、心底イヤそうにしていたと、その場にいた同僚達と上官は後々語る。(たぶん、ミュータントとしての直感でリツコが絡んでいると感じたのかもしれない)

 しかし、これで尾崎を調査対象として差し出すわけにはいかないということは、風間も十分承知しているため、自分や自分に次ぐM機関所属のミュータントが数名行くことになった。

 そして。

 

 

「お久しぶりね。か・ざ・ま・くん。」(※語尾にハート)

「やっぱり俺が本命だったんじゃねーかよ…!」

「あら、予感しててくれたの? 嬉しいわね。」

「嬉しかねーよ!」

「イヤだった?」

「イヤに決まってるだろうが!」

「あん…、そんなに拒絶しなくても…、年上は嫌い?」

「いや、嫌いじゃ…、って何言わせやがる!」

「連絡先教えてくれた加減してあげるわよ?」

「……。」

 

 

 リツコに宛がわれている、ネルフの独立研究室(※ネルフ職員曰く、『赤木リツコ博士の秘密の研究室』)に順番最後(※わざとだ)で入った風間は、悪い予感的中よって、壁にガンガンと額をぶつけてやり場の無い怒りやらなんやらなのか分からない感情に苦しむことになるのであった。ネルフのマッドサイエンティストとはいえ、手を上げないところは彼なりの紳士さと言えるかもしれない。(それでも風間は、女子供関係なく敵なら殴るタイプなのだが)

 

 

 その後、風間がどんな目に遭ったかは、調査対象として来ていた同僚達は知らないし、知ることも出来なかったが……、とりあえず研究室から出てきたとき、ゲッソリ、ぐったりするぐらいの目に遭ったのは間違いないだろうというのはすぐに分かったのだが、問題の風間自身がナニをされたのか語ってくれないため、謎のままである。

 

 

 

 




別にエロいことはされてない…はず?


コピーペーストが多いから、何か新しい展開できないかな~って、考えながら書いてたら、風間が不憫なことになってた……。ごめんね、風間。





ええーと…、もうすぐレリエル編かな。
その前に戦いばっかだったから、日常生活回ってのもありかな?


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第二十話  つまらないが、変わり行く日常

今回は、日常(?)回。


戦闘無し。
ネルフ出番無し。ゼーレも。



筆者が若干お気に入りのオリキャラ・宮宇地(30代過ぎ)さんを出したり、トウジを再登場させたりしています。


そして、後半にヤンデレさんオリキャラ・ナツエさんも出てるので流血注意?





 

 ある日のお昼後。

「宮宇地さん。」

「なんだ、シンジ少年。」

「たまに聞くんですけど…、ミュータントに、先天性とか、後天性ってあるんですか?」

「ああ、そうだな。俺は、後者だ。二十代ぐらいからの若い連中は、先天性が多いんだぞ。」

 

 M機関調べでは、ミュータントには、基本的に二種類いるとされている。

 それが先ほどシンジが聞いた、先天性ミュータントと、後天性ミュータントの違いだ。

 ようするに生まれた時からミュータントか、普通の人間からミュータントとして覚醒したかの違いだ。

 尾崎、風間など、20代のミュータントから先天性ミュータントの年代。30代過ぎの宮宇地のように後天性ミュータントが現れたのは、セカンドインパクト後の話である。

 どういうわけだか、セカンドインパクトでの被害が大きい地域でミュータントは発見され、その後世界中各地に現れ始めたのだ。

 

「僕はミュータントじゃないから分かりませんけど…。」

「なんだ?」

「やっぱり、急にミュータントになるって大変でしたか?」

「大変というか…、いきなり力が使えるようになってビックリはしたぞ。まあ、デカいたちの悪い屁が出るまでのことだ、1回力を出してみればあとはトントン拍子で加減を覚えていけばよかったしな。なにせ俺の場合は、シンジ少年ぐらいの歳での覚醒だったからな、若さでカバーできたよ、そこら辺は。」

 ハッハハハ!っと朗らかに笑う宮宇地に、シンジは一瞬呆気にとられたが、すぐに正気に戻り『そうですか…』っと、要らない心配だったと思いつつも微笑んだ。

 しかし、不意に宮宇地は笑うのを止めた。

「まあ…、俺の場合はその程度でどうにかなったが、中には自分の能力に押しつぶされて精神に異常をきたしたとか、果ては暴走して死んだってケースもあったからなぁ…。地球防衛軍が、早い段階でM機関を作らなかったらどうなってたかと考えるとゾッとする。」

「…差別……。」

「だろ? まあ、生きているに、そういうことが起こらなくてよかったとは思ってる。争いは無いに越したことはないからな。……ん、でも待てよ…。アイツがいたおかげってのもあるかもしれないな?」

「アイツって誰のことですか?」

「『椎堂ツムグ』。名前聞いたことないか?」

「えーと…、なんかの本に載ってたような?」

「ま、少年の世代じゃそんなもんか。G細胞…、ゴジラの細胞を取り込んでいるのに人間のままでいる人間。ある意味じゃミュータント以上の突然変異だな。40年以上前からいるんだが、全然見た目が変わりゃしない。これから先、地球防衛軍にいるつもりなら、いずれ見るかもしれないが、赤毛に金が混じった髪の色してるから、一目で分かると思うぞ。もしかしたら……、イタズラされる可能性も無きにしろ非ずだがな…。気をつけろよ?」

「えっ?」

 宮宇地に軽く軽くポンポンと叩かれ、キョトンとするシンジ。

「注意されてなかったか? じゃあ、覚えておけ。椎堂ツムグは、地球防衛軍内で、ある意味で大問題児だ。一応は監視されているってのに、監視の目を盗んで自由に歩き回って…、ハッキリ言ってナニをしでかすか分からないから…、本当に気をつけろ。」

「み、宮宇地さん達もナニかされたんですか?」

「……。」

 シンジが恐る恐る聞くと、宮宇地は眉間を指で押さえて押し黙ってしまった。

 シンジは、聞いてはいけない禁句だったと思い至り、『ごめんなさい!』と慌てて謝った。

「いや、少年は悪くない…。ま、とりあえず、気をつけろよ?」

「はい…。」

 

 

「ヒトのこと、どういう変質者だと思ってるのかな~?」

 

 

「ひっ、ぃい!?」

「噂をすれば、出たな。」

 シンジの背中をツーっと指でなぞり、ゾゾゾッとさせているツムグから、宮宇地はシンジを庇い、背中に隠した。

 長すぎず、短すぎない赤い色に金が混じった独特な髪を揺らし、ケラケラとおかしそうに笑うツムグに、宮宇地は頭痛を覚えた。

「ヤッホー、おひさ? でもって、元気になって良かったね、碇シンジ君?」

「えっ?」

「会うのはこれが初めてだから、一応自己紹介するよ。俺は、椎堂ツムグ。よろしくね。」

「よろしくはないぞ?」

「つれないな~。まあ、嫌われてるのは知ってるけど。」

「何しに来たんだ? ただの自己紹介のためだけに来たわけじゃないだろ?」

「はいはーい、その通りでーす! 次のワゴン販売いつ?」

「明日の午後からだが?」

「買い物リスト送っとくからお願いね。」

「それだけか?」

「それだけだよ。じゃあね、販売員の宮宇地さん。」

 そして、ツムグが消えた。

「き、消えた…?」

「テレポートだ。アイツの得意技だ。」

「なんか……。」

「だいじょうぶか?」

「……分からないけど、気味が悪いというか…。なんなんだろう? この変な不快感というか…。」

「アイツに対して、好印象を持つって輩はそうはいない。なぜだか分からないがな。……ああいう奴だから、今後気をつけろ。いいな?」

「はい…。」

 宮宇地は念を押して言うと、シンジは怯えた様子で返事をした。そんなシンジを落ち着かせようと宮宇地はシンジの頭を撫でた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 地球防衛軍は、自衛隊のように予備、あるいは候補として普通の一般人でも受けられる試験や訓練を実施している。

 軍事機密に大きく関わることはできないし、やれることもボランティアに近いが、場合によっては直々にスカウトや、希望があれば正式に地球防衛軍の一員になれる試験も可能である。ただし、正式に受けるとなると学生であれば学校を、社会人として会社勤めなどしてれば会社を辞めなければならない。

 鈴原トウジ(14歳)は、予備候補になるべく、今年の試験会場に来ていた。

 トウジのように若くして予備候補になろうと夢見る者は決して少なくはない。勉学や自己トレーニングを経て正式な試験に受ける者、そして予備候補から正式な一員になろうと考える者。思いはそれぞれだ。

 もっとも、トウジの場合は、現役の中学生というのもあるが、本人が早く地球防衛軍の力になりたいという思いが強く、予備候補の試験と訓練があると聞くやいてもたってもいられず、どうどうっと家族が落ち着かせながら来たのである。

 体力には自信はある。だが…、問題があるとしたらやはり筆記試験だろう。トウジは、典型的な体育系(成績のほとんどは体育で稼いでいる派)であるから。

 渡された試験番号に従って会場をウロウロとし、最初の筆記試験会場へ。

 必死に頭を悩ませながら問題を解き、時間切れで焦りながらも筆記試験終了。

 次に体力測定。

 これは自信ありなトウジは、持ってきていた動きやすい服装に着替えて挑んだ。(服装は各自持ってくることになっている。無い場合は、貸し出し)

 持久試験で、大きく出遅れた少年がいた。身体の線が細く、トウジと同じぐらいの年頃だったので、ゼーゼー…っと息を切らしている彼につい話しかけていた。

「だいじょうぶかいな?」

「う…うん…、平気…。……僕、落ちるかも…。」

「なんや? ここまでやっといて泣き言かいな?」

「筆記は…自信あるけど……。」

「なんやねん。それ自慢かいな。わしなんて筆記ボロボロやで?」

「ふーん…。結構簡単だったのに?」

「嫌みかいな…。どーせわしゃ馬鹿や。わし、鈴原トウジゆうねん。そっちは?」

「僕? 僕、碇シンジ。鈴原君も予備候補になるために?」

「当たり前や。なしてそれ以外でココにおんねん!って話やで?」

「それもそうか。」

「わしの夢やねん。」

「なに?」

「地球防衛軍に入隊することや。ほんまなら予備やなんややなくて、キチッとした試験とか受けてぇな、一から頑張るのが一番やねんのは分かっとるねん。けどな…、防衛軍の力になれることなら些細でも良いからって、我慢できんかった。」

「それって、立派だと思うよ。」

「碇はどないして試験に来た?」

「それは……、僕も似たようなモノかな? 僕は恩返ししたいって気持ちが強かったかも。」

「それかて立派な理由やて。」

「そ、そうかな?」

「なんや、これも縁やと思うし、合格したら祝杯一緒にあげようや! 碇の奢りでな!」

「なんで僕が払うことになるのさ?」

「冗談やじょーだん! 炭酸で祝杯や! そや、お互い合格したか分からへんから、連絡先交換しよ!」

「うーん…。」

「なんや? えらい気乗りせんか?」

「イヤじゃ無いんだよ? でも、僕の今の状況だと、相談しないと難しいかなって……。」

「碇は、どこ住んどるん?」

「それは、秘密…にしろって言われてて…。」

「なんやそれ?」

「ごめん、ちょっと聞いてくるから。」

「あっ、おい…。」

 そそくさと人をかき分けて行ってしまったシンジに、伸ばし掛けた手をそのままにトウジは困った。

 少しして、シンジが戻って来た。

「ごめん、お待たせ。」

「早かったな。それで、どないなった?」

「色々と秘密を守れればいいよって。」

「なんやねん? ダチに秘密ってアリかいな?」

「でも、そうしないと鈴原君と連絡はしちゃダメだって…。」

「うー、仕方ないのう…。ほんじゃ、着替えたら試験会場入り口で待っとるからそこで連絡先交換や。」

「…あの……。」

「なんや?」

「ぼ…僕と本当に連絡先交換して良いの?」

「なんやねん、今更なこと言うて…。もうわしらダチ同士や。ええな?」

「う…うん!」

 トウジがニカッと明るく笑うと、シンジは、一瞬目を見開いたがすぐに何度も頷いた。

 

 その後、すべての試験が終わり、試験会場入り口でトウジはシンジと連絡先を交換し、合否の有無を1週間後に伝え合った。

 結果は、トウジは、筆記試験でギリギリ。シンジは、逆に体力測定でギリギリ。それぞれ合格したのだった。

 だが、結局シンジがいる地球防衛軍側が身柄保護状態のシンジと、一般人のトウジが会うことを許してくれなかったため、コンビニで炭酸を買って祝杯をするというのはできなかった。

 トウジは、そんなシンジの事情を知らないため、首を傾げつつも深くは追求せずにいた。これがかつて友達として付き合っていた相田ケンスケだったなら、すぐに怪しんで根掘り葉掘り聞いていただろう。そういう意味ではとても運が良かった。シンジもトウジも。両者ともに。

 

 

 

 

 

「それは、正史になかった物語。それは、正史に無かった友情の形。それは、あり得たかも知れない物語。」

 

 

 

『おい…、また変な呟きしてるんじゃないぞ?』

「いいじゃーん。今暇なんだし。」

「お疲れ様でぇす。」

「ナっちゃん。」

 三十代そこそこの白衣の女性が小走りで近寄ってきたのでツムグが反応した。

 ナっちゃん。

 ナツエというのだが、彼女はG細胞完全適応者であるツムグの監視役の一人の看護師で、ちょっと(?)マッド。

 なぜかツムグにたいして好意をもってる変わり者である。

「ツムグさん、これどうぞ。うふふっ。」

「わー、ありがとう。」

 ちょっと不気味に笑うナツエから差し入れとしてドーナツを受け取った。

「やっぱ甘いものは脳にいいね。」

 海外からの進出店のとびきり甘くて(歯が溶けそうなと言われる)高カロリーな品のドーナツを食べる。

「うふふ…。よかった。」

 結構可愛いんだけど影が見える不気味な笑い方をするナツエに、ツムグは若干苦笑いを浮かべた。

 人からの好意は嬉しいが、自分なんぞ好きになっても人生無駄にするだろうとツムグは思っているし日頃そう言っているのだが…。

 ナツエがもし普通の人に好意をもったら、確実にたちの悪い方向に行っていたんじゃなかろうかというのを、精神感応で精神構造をうっかり読み取ってしまった時は、相手が人間じゃないツムグだったし、合法的にほぼ四六時中見ていられる環境だったのがよかったと思ったのは黙っておく。

 あとツムグは年齢的に恋愛感情が枯れているのでナツエの想いには応えれずにいる。

 さらに付け加えると、ナツエがツムグにたいして向けるモノは好意以外にもあり、それが問題だった。

「どこに行くんですかぁ?」

「波川ちゃんとこ。」

 テレポートしようとしたら、その瞬間に腕を掴まれた。

「お仕事の邪魔しちゃだめですよぉ。」

「分かってるよ。」

 そう言ってツムグは、背中を向けた。

 そして動こうとした直後、背中にドンッと衝撃が走った。

「……また?」

「……。」

 ナツエに背中から刺されたのである。マジで。グッサリと。

 『あっ、コレ内蔵まで行ったな。』っとのんびり考えながら、ツムグは、背中にメスが刺さった状態でナツエの方に顔を向ける。

 恒例行事化していることである。ものすごい物騒であるが、ツムグだからできることである。

 ナツエの問題。それは、嫉妬深いのである。

 恋愛的な意味でも友愛的な意味でも。なので彼女に好んで近寄る人間はそうそういない。

「嫉妬してくれるのは嬉しいけど、スーツに穴が空くのと、血が出てるとあれこれ言われるから少し控えてって言ったし、言われなかった?」

「でもぉ…。」

「俺も女の人喋るのは控えるように努力するからさ。それに一番はナっちゃんだよ?」

「それならいいですぅ。」

「ハハハ…。」

 メスを抜かれてすぐに塞がった傷口を撫でて確認しながら、ツムグは苦笑いを浮かべた。

 

「っていうか、コレ何プレイ?」

 

『こっちに聞くな。』

 

 こういう謎のやりとりも恒例行事。

 

 

 

 

 




リメイク前は、あんまりキャラが確立されていなかった宮宇地さんを、練り直してみた。



キャラ設定(現段階:2020/09/02)

>宮宇地(みやうち)
後天性ミュータント。30代過ぎ。(リツコより少し年上)
一応、少しだけ尾崎達の先輩にあたる。
シンジを自分の息子みたいに可愛がる。
ミュータント兵だが、M機関内でお菓子等の食品や家電製品以外の日用品の販売を行う販売員もやっている。


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第二十一話  ワガママ『ふぃあ』と、白黒使徒

機龍フィアのDNAコンピュータの自我意識『ふぃあ』(※誤字に否ず)。



あと、レリエル編。


序盤は、ほぼコピーペースト。


戦闘は、四号機を始め、エヴァンゲリオンの出番有り。でもそこまで活躍してない……。


 技術開発部と科学研究部の二つの部署は、困っていた。

 理由は。

 

『ヤだヤだ! 触るな触るな!』

 

 機龍フィアの自我意識に子供みたいに拒否されていたからだ。

 子供みたい、というよりも、ホントに子供なのかもしれないが、『コレは酷い』っと技術者達や研究者達は頭を押さえざるおえなかった。

 自我意識が芽生えたからには、調べる必要があるので必要な事だからと説明して説得しようとしても聞き入れてもらえない。

 無理やりやろうものなら、巨体を捻って振り落される。死人はギリギリで出なかった…。

 結局ツムグでなければダメだという結論だ。

「いい加減言うこと聞きなさい。」

 椅子に座って足をプラプラさせながら様子を見ていたツムグが、溜息を吐きながら言う。

『ヤだ、ヤだ! くすぐったいんだもん、くすぐったいんだもん!』

 そう駄々をこねる機龍フィアの自我意識、自称“ふぃあ”。

 子供のような高い声で、機械から発せられるせいか男なのか女なのか判別が困難な音程である。

 しかも発音がところどころおかしい。

「同じ言葉を繰り返す癖があるなぁ…。精神年齢は、十歳以下かな?」

「データ量は防衛軍のスパコン並なはずなんだが…。なぜこんなに低いのか謎だよ。」

 ツムグは隣にいた書類を片手に頭を押さえている技術者に話をふるとそういう答えが返ってきた。

「人格の年齢と知能は比例しないということではないのか?」

「しかしこのままでは正確なデータが取れない。なんとかしろ、ツムグ。」

「分かってるって。ふぃあちゃーん、くすぐったくっても我慢しよう。これ以上みんなを困らせないで、ねっ?」

 椅子から立ち上がったツムグが機龍フィアに近寄って顔を指さして言った。

『うゥ~。でもォ。』

「でもじゃない。このままだとふぃあのこと削除とか言われるよ?」

『ヤだ! それ、ヤだ!』

「だったらここにいる人達の言うこと聞きこと。くすぐったいのは慣れるから我慢しなきゃ。」

『う~~、分かった…。ツムグが言うなら言う通りにする。』

「いい子いい子。」

『ワ~い。』

 

 こうしてなんとかふぃあを大人しくさせることできたのである。

 ふぃあの精神年齢は低いうえに、データ量の割に成長性も晩成型であるというのが現在の見解である。

 それは、逆に言えばそれだけ長く多くの経験値を吸収し、高度に成長できる可能性を持った、将来有望とも言える。

 

『ねえねえ、ふぃあイイ子? ふぃあイイ子? イイ子してたら褒めてくれる?』

「うん。いい子だから首をこっちに向けないようにね。人が落ちちゃうから…。」

『ツムグ、見てる、見てる?』

「体こっちに向けちゃダメ! 周りが壊れるから!」

『ツムグ~!』

「あとでいっぱいお喋りしてあげるから、今は静かに動かないように! お願いだから大人しくして!」

『うん! 大人しくする!』

「大人しくしてないー!」

 

「…あの馬鹿(ツムグ)を困らせるとは、こりゃ相当だぞ。」

 ツムグによく振り回されている技術開発部と科学研究部の者達は、ツムグがふぃあに振り回されている様子を珍しいモノを見るように見ていた。

「しかし…、一応は想定していたとはいえ実際に自我意識が芽生えてしまったわけだが、上層部はどう判断するだろうな?」

「4式の開発のプロジェクトでその辺の資料は見せてるし、渡してるはずだろ?」

「しかもこの人格ですからな…。機龍フィアの運用自体に支障が出る可能性もありますな。」

「そうなったら徹底抗議だ。我が子も同然に育て上げた作品でもあるのだから。」

「我が子…と言う割には、まったく我々に関心がないみたいですけどね。」

「それは言うな…。」

 そう言った技術者は、くっ、と泣いた。

 自我意識が突然芽生えたとはいえ、一応は想定していたことだったのもあり技術者達と研究者達の適応は早かった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「……以上が、科学部と技術部からの報告です。」

 会議場が、機龍フィアについての説明を聞いてざわついた。

「こうなることは想定していたというのは間違いないのですか!?」

「4式機龍開発プロジェク発足時から自我意識の発生は予測されていました。3式機龍という前例がある以上、生体コンピュータの運用において独自の思考が発生する可能性は避けられないものとしてプロジェクトは進行していました。」

「機龍フィアの操縦はどうなる!? 今後は自我意識に戦わせるというのですか!?」

「自我が芽生えた直後の出力の記録では、予定出力の半分程度と出ています。」

「つまり現状の戦闘能力を出すには操縦者が必要ということです。」

 機龍フィアについての状態についてや、今後の運用について質問が飛び交う中、一人の男が場の流れを変えることになる。

「メカゴジラの運用以前の問題を忘れてはなりませんよ。」

「問題?」

「この映像をご覧になってください。」

 そう言って合図を出しモニターに映し出したのは、使徒に乗っ取られた機龍フィアが暴走したあとの爪跡だった。

 踏みつぶされた道路その他、車や建物。群馬の市内をまっすぐ通り過ぎた後の惨状であった。

「暴走したメカゴジラは、基地のドッグ目前で運搬船から落下し、そのまま第三新東京までまっすぐ突き進みました。この惨状について、国民にどう言い訳をなさるつもりで? 波川殿。」

「言い訳などしません。ありのままに説明するのみです。」

「馬鹿正直になったところで国民の感情を抑えられるとお思いなのか?」

 モニターの映像が変わり、プラカードや紙などを掲げて集団抗議する団体や、機龍フィアと地球防衛軍を非難するニュースの映像が映し出された。

「我々地球防衛軍の存在を理解せず権利ばかりを主張する馬鹿に油を注いだばかりか、その馬鹿に上辺だけ同調した集団行動が横行しつあるというのに、ここで馬鹿正直に敵にこちらの最強の駒を奪われたことを説明できるわけがない。」

「だから言って弾圧をしても良いわけではありません。」

「世界の命運がかかっているのだ。やむ終えないでは?」

「それこそ火に油を注ぐのではないですか? 和臣(かずおみ)殿。」

「理想論ばかりで組織が守れるとでも? ロシアのことについても、まだ始末がついてない。」

「……。」

「……。」

 波川と和臣の睨み合いが炸裂し、会議場にいる者達は、たらりと汗をかいた。

 その空気を変えたのは、一つの連絡だった。

「な、波川司令。たった今…。」

「来たのね。」

「波川殿?」

「戦うための駒がなければ、増やすまでですわ。」

 モニターの映像がまた変わった。

「! これは!?」

 和臣も、会議場にいる人間達も驚いた。

 

「ようやく、連れて帰ることができたわ。」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 機龍フィアの今後についての会議が行われて間もなく。

「結局、機龍フィアの運用一時凍結か…。傍から見たら事情なんて分からないし。」

 ツムグは、壁に背を預けてそう呟いた。

「これを機に“アレ”を日本に持って帰ってきたし。使徒は、今のところ割と簡単に倒せてるけど、使徒側だって簡単に負けてられないだろうし、どうなるかな? イロウルはあのおじいちゃん達の想像を超えてたみたいだし…、次がどうなるかな?」

 使徒サキエルに始まり、使徒イロウルまで倒れた。

 残るは6体であるが、地球防衛軍側は何体の使徒が存在するのか知らされていない。

 使徒がネルフの最深部に到達すると世界が終わるとされるサードインパクトが起こるという本当なのか否か首を捻りそうになる情報だけが伝わっている。

 それが事実であるように使徒がネルフを目指すという不可解な習性が認められたものの、一部はネルフを目指すことよりもゴジラへの迎撃や地球防衛軍への攻撃を優先したものがいた。

 使徒ラミエルがゴジラをひたすら狙撃したり、使徒ガキエルが第三新東京とは全く関係のない海に出現したり、衛星軌道に出現した使徒サハクィエルがロシアの基地を破壊したり、使徒イロウルが機龍フィアにとりついて機龍フィアをネルフの真上で自爆させようとしたりした。特にサハクィエルは、その後も他の国の基地を狙って攻撃を仕掛けた。途中でゴジラに狙いを変えなかったらそのまま地球防衛軍の基地を攻撃し続けていたであろう。

 6体中、4体が“ネルフの最深部を目指す”と仮定された使徒の習性を無視して動いているのが分かる。

 原形がほぼ残っていた使徒マトリエルの死体を回収し分析を行い、使徒の正体を突き止めようと科学部が頑張っているが、分かっていることは、すべての体機能をコアに依存した生命体であること、遺伝子構造が99.89パーセントまで人間と共通していることである。

 二足歩行ならまだともかく、どう見てもザトウムシな見た目のマトリエルからなぜ100パーセントに限りなく近い遺伝が出てくるのか…、多くの科学者が頭を抱えた。

 構造的に見て怪獣のそれよりも非常に優れた生命体で、イロウルのような微生物型という想像を超えた形態を持つモノすらいる始末である。

「…無理して立て続けに出てくるから間があくだろうな。ゴジラさんも、大怪我してるし…。ああ…、ゴジラさん。」

 その場にズルズルとへたり込んで体を抱くように腕を回してツムグが溜息を吐いた途端…。

 大きな音と建物が揺れる振動が来た。

 

『ツムグは、ふぃあのーーー!』

 

 数枚の壁越しでも聞こえる大音量で、そんな子供の叫び声が聞こえてきた。

 

「……使徒が来ない間にこっちの問題をなんとかするのが吉だな。慕ってくれるのは嬉しいけど、独占欲(?)が強いのがちょっとなぁ。」

 ツムグは、立ち上がり機龍フィアのところに戻ろうとした時、ふと立ち止まった。

「えっ…、嘘でしょ…。う~ん、なんでこう問題って立て続けに起こるのかな? あとで教えとこ。」

 頭に過った未来のビジョンに、ツムグは、額を抑えて唸った。

 ツムグは、超能力系統の力が細胞のエネルギー量により凶悪レベルになっているため本人の意思に関係なく暴発しやすい。それゆえに盗聴、覗きが息をするようにできてしまう。未来予知だってできてしまう。聞きたくて聞いているわけではないし、見たくて見ているわけでもない、そういう誤解が……多少、あるのだが、本人は日常なのでその事実の裏返しでとぼけるのも普通になってしまっていた。

『G細胞完全適応者! どこにいるーーー!?』

 機龍フィアの格納庫からの放送の呼び出しがきた。

「はいはーい、今から行きますよと。」

 呼び出されたツムグは、軽い足取りで向かった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「尾崎さんお疲れ様。」

「ありがとう。シンジ君。」

 

 

「……傍から見ると誤解されそうな光景よね…。」

「そうーだなー。」

「そー見えてるのはおまえらだけ…。」

「年上年下の組み合わせとか鉄板だよなー。」

「そうよね~。」

「おまえらいい加減口を閉じろ! 腐女子、腐男子コンビ!」

「だって可愛いんだも~ん。」

「だってカッコいいんだも~ん。」

 

「?」

 仲間達がギャイギャイワーワーやっているのを見て、話の内容が聞こえていない尾崎は、シンジからもらったコーヒーを飲もうとしようとカップに口を近づけようとして急にピタッと止まった。

「尾崎さん?」

「…シンジ君、このコーヒーは、そこのコーヒーメーカーのだよね?」

「はい。」

「…あそこにいる人だれ?」

「えっ? あの人は僕が入るよりも前からいた人ですよ?」

「……。」

 困惑するシンジとは反対に、尾崎の空気を察した仲間達の雰囲気が変わった。

 尾崎は仲間の一人にカップを渡すと、食堂の中に向かった。

「? なんですか?」

「なんのつもりかは取調室でしようか。」

「は? 何のはな…し……、っ、っっ!?」

 何の話だとその人物が言いかけた時、尾崎がその右肩を掴んだ。すると急に顔色が悪くなり、尾崎を振り払って背中を向けて裏口の方へ走ろうとした。

 しかし横から飛び出た足に払われ、転倒。そのまま取り押さえられた。

 仲間内でしか伝わらない合図で裏手に回っていた仲間が足払いをして取り押さえたのである。

「ばけ、ばけものめ!」

 顔面蒼白、顔から出る者全部出した変装した不審人物は、錯乱した状態でそう叫んだ。

 尾崎が肩に触った時、超能力を使って脳をかき回されたのである。サイコイリュージョンという幻覚を見せる技だが、カイザーの尾崎のはかなり強力で、恐らく尾崎が化け物に見えているのだろう。

 尾崎を殺そうとした不審者を連行し、毒薬が入ったコーヒーカップを証拠品として渡したあと、尾崎は茫然としているシンジのもとへ戻ってきた。

「シンジ君?」

「あ…、お、尾崎さん…。」

 声を掛けられて我に返ったシンジは、震えだした

 いつの間にか殺し屋が少し見知った顔の人間に入れ替わっていたことと、何より毒薬を受け渡す中継にされたことに。

「君のせいじゃないよ。」

「なんで尾崎さんが…。」

「それは…。」

「?」

 なぜ尾崎が狙われたのか疑問をもつシンジに、尾崎は何か心当たりがあるのか言葉を詰まらせた。

「知らないのか?」

「宮宇地。」

「何がですか?」

「こいつが狙われるのは、こいつが特別だからなのさ。」

「とくべつ?」

「やめてくれ宮宇地。俺はそんな特別なんかじゃ…。」

「認めたがらない気持ちは分からんことはないがそのせいで周りが巻き込まれて平気か? 何も教えないことが幸せとは限らないぞ?」

「っ…。」

「自分で説明できないのなら、俺がしてやろうか?」

「いや、自分でするよ。」

「そうか。」

 宮宇地は、そう言うと、手をヒラヒラさせてその場から去った。

 尾崎は、このあとシンジに自分の身の上について説明した。

 自分がミュータントの中でも特別だとされる存在で、カイザーと呼ばれる個体であること。

 そのため幼少期に実験体として閉じ込められたり、出ることが許されてからも閉じ込めようとする輩がいたことと、ついには死体でもいいからと命を狙われるようなったりしたことなどを語った。

 殺そうとしてきた者達を次々に捕まえたりして処分したので最近では少なくなったが、あんまりにもやられすぎたので、すっかりそういうことに敏感になり今回すぐに気付くことができたのであった。

「そんな、尾崎さんが…。」

「ごめん。秘密にしていたつもりはなかったんだ。」

「いいえ、いいです。話したくなかったんですよね? 特別に見られたなかったから。」

「うん。ごめんね。」

 

 オ…ニイチャ…

 

「!?」

「? どうしたんですか?」

「あ、いや、なんでもないよ。」

 なにか聞こえた気がして周りを見回した尾崎をシンジが不思議そうに見上げたので、尾崎はなんでもないと気のせいだと笑っい、シンジの頭を撫でた。シンジは、気恥ずかしそうに頬を染めた。

 

 

 

「やっぱり、可愛いね~。」

「やっぱり、カッコいいね~。」

「いい加減にしろ、腐ったコンビども。」

 

 こっちはこっちで変わらずだった。

 

 

 

 その翌朝、緊急出動を知らせる警報が鳴り響く。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 空が時ともに青から紫、橙へ、そして青黒い夜の闇から溶け出して形作られたように、そいつはやっぱり突然現れた。

 

 アートな白黒模様。美しい円…、いや巨大な球体。

 

 またもやというか…、やっぱり、“変”なのが現れたっと、地球防衛軍側はまず思った。

 

 宙で静止しているその巨大な白黒球体は、動かない。浮いたまま動かない。

 立体的な四角形(※使徒ラミエル)から、球体に変わった……っと思って侮った。

 

「パターン、オレンジ! 使途と確認できません!」

「あんなに、目立つのにか?」

 まさに、『えっ?』である。

 オレンジということは、実体が無いということだからだ。あんなクソ目立つ白黒物体で、下にもあんな影が広がっているのにそれはあまりにもおかしい。

 

 

「マズいのが来たね…。」

『なんだ? なにがマズいんだ、椎堂ツムグ?』

「とりあえず、攻撃しちゃダメ。無駄な死人を出したくなかったらね……。」

『はあ?』

『エヴァンゲリオン到着! これより、ネルフ陣営による戦闘が開始されます!』

「あーー……、ヤバいよ。んー、でも、エヴァンゲリオンで済むんなら安いか?」

『だからお前はなにを…?』

 

 

 四号機が、山の上からスナイパーライフルを撃つ。

 その瞬間、白黒の物体が一瞬にして消えた。

 

 

『………………………へっ?』

 一瞬呆けるケンスケ。そして四号機の真上に白黒球体が現れ、下に黒い影が広がった。

 すると、山の上の地形にある木々や岩などを、エヴァンゲリオン四号機ごと影に吸い込み始めた。

『うわああああああああああああ!? た、助け…、助けて!!』

 下半身が沈み、慌ててライフルで影を撃ちまくるが弾は沈むばかりでまったく効果が無く、あっという間に上半身まで沈んでいってしまった。

『メガネ!』

『相田くん!』

『ミサ…ト、さん! ミサトさーーーーーーん!!』

 そして四号機は完全に影の中に沈んでしまった。

『この……!』

『アスカ! 攻撃中止!』

『なんで!?』

『見えているあの球体は…、ダミーよ! 攻撃したらカウンターで影みたいな本体の方に取り込まれてしまうわ!』

『……チッ!』

 アスカは、どうにもならないことを理解し舌打ちをした。

 

『前線部隊に告ぐ!! 攻撃中止! 攻撃中止! 絶対に使徒に手を出すな!』

 

 

 

『おい、椎堂ツムグ! これはどういうことだ!?』

「だから言ったじゃん。ヤバいって。どうする? 一旦基地戻った方がいい?」

『……フォースチルドレンが不憫だ。』

 フォースチルドレン、相田ケンスケの事情を知っている者達から、ちょっとだけ同情が向けられたのだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 影から身を守るため、遠望鏡と無人機で使徒レリエルを監視しつつ、基地の兵装整備ドッグで、機龍フィアに乗ったままのツムグに、対レリエルのための助言を請うこととなった。

 ツムグに対して反感や嫌悪感を持っている者達は難色を示すが、35年前、南極でゴジラと決戦をするよう進言したのもツムグであり、封印に至ったなど、人類への貢献度から無視できる存在でもなく、渋々といった様子でツムグに教えを請うこととなった。

「この使徒なんだけど……。“ふぃあ”ちゃん、モニターを。」

『はーい。』

 ツムグが、DNAコンピュータ“ふぃあ”に使徒レリエルの画像をモニターに出すよう指示した。

「ようするに、影に見える方が本体で、丸に見えるのが影なわけ。見た目とは真逆。それでいて、ディラックの海だっけ? 無限に広がる空間を持っていて、それをATフィールドで極薄の身体で支えているってかなり危ない身体してるよ。」

「では、取り込まれたエヴァンゲリオン四号機は?」

「まだ時間的にLCL液っていう酸素吸入ができる液体が濁ってないはずだから、生きてるよ。生命維持装置が働いてるんだからね。でも時間の問題だろうけど。早く引っ張り出してあげないと死ぬ。」

「その方法が分からないから、こうやってお前に聞きに来てるんだが?」

「この使徒の身体の作りだと……、内側からぶっ壊す?」

「はあ!? できるか!」

「だよね~。かといって機龍フィアをディラックの海に放り込むこともできないし? かといって全然期待されてないエヴァンゲリオンですら手も足も出ない超生物の使徒の虚空空間の内側からぶっとばすほどの技術力がまだないしね。時間を掛ければ出来るだろうけど、それまでに確実にフォースチルドレンは死ぬ。」

「……最も時間のかからない解決策は?」

「こういう時こそゴジラさんでしょ!」

「アホか!!」

 波川以外の指揮官達が口を揃えて怒った。

「いや、マジな話だけど? ようするにこの使徒は、ATフィールドで極薄かつ無限空間の開閉を攻撃手段に出来るけど、その代わりに極限まで脆い身体を持ってるわけだから、その生命線になってるATフィールドを破壊できる存在…、つまりこの場合、ゴジラさんか、機龍フィアでやるしかないんだよ。あー……、でも、手段を選ばなければこういう手もあるにはあるけど…。」

「なんだ?」

「俺の体液を、除草剤みたいに撒けばいいんだよ。」

「なんだと? そんなことでいいなら…。」

「ただし、後者の方法はディラックの海への出入り口を封じてしまうかもしれないから、四号機を助けるのは諦めた方が良いかもね。」

「!」

「かといって…、ゴジラさんをディラックの海に入らせると…、四号機が無事で済むという確証もないか…。どうする? 波川ちゃん?」

「……ネルフに、四号機とフォースチルドレンの生死が確実でないことを伝えてください。」

 波川は秘書にそう伝えた。

 

 ネルフにすぐにそのことを伝えると、すぐに回答が返ってきた。

 

 

 ……その内容に、ある意味で波川を始めとした指揮官達が顔をしかめることとなる。

 

 

 

 『フォースチルドレン及び四号機の無事の有無問わず。』

 

 

 

 それは、ネルフが四号機とそのパイロットであるフォースチルドレンの相田ケンスケを見捨てたということだ。

 

 

 

「そう言うと思った。」

 ツムグは、機龍フィアの中で待機していて、そのことを超能力で知りつつ、やーれやれと足組み、腕組みしてドカリとコックピッ内の椅子に座り直した。

 

 

『東京湾よりゴジラ上陸!』

 

 

 結局、作戦としては、ゴジラに内部からの攻撃を期待しつつ、それでダメなら、ツムグの体液をミサイルに積んで散布することになった。

 レリエルが浮遊している山間には、天気予報で近々雨が降る予報となっていた。その雨雲に向けてミサイルを撃ち込み、雨に乗せてツムグの体液を広範囲に広がっているレリエルの本体である影に散布するのだ。ダミー(白黒球体)を攻撃するとカウンターとして瞬間移動をして対象を本体が開いたディラックの海に取り込むという攻撃方法からして、自分からは率先して動くタイプじゃないだろう。

 やがてゴジラがレリエルの影に踏み込んだ。

 すると待ってましたと言わんばかりにレリエルの影にゴジラの下半身が取り込まれ始める。

 ゴジラは、慌てるどころか、下を見てから、上にいる球体を見上げ、やがて全身が影に消えた。

 

 

「あとは、時間経過…。」

 

 ゴクリと、誰かが息を呑んだ。

 

 そして、ツムグの体液の散布予定時間に達する。

 

「ゴジラでもダメだったか…。」

「……ミサイル発射。」

「ミサイル発射! …、!? 使徒の球体から高エネルギー反応!」

 

 

 ミサイル発射直後にその反応があったため、モニターを切り替えると、白黒球体の部分の下辺りが急に割れ、大量の赤い液体が溢れ出た。その液体の中に赤く染まったゴジラの背びれと尻尾がダラリと出てきた。

 カッと背びれが輝き、その瞬間、体内熱線の爆発が起こった。

 爆風の中から、ポーンッと大きな何かが転がり落ちた。それが、黒焦げになったエヴァンゲリオン四号機だと気づくのに少し時間かかった。

 そこへ雨、爆風により大きく流れ出した雲の中に、発射されたミサイルが割れ、ツムグの体液が雨に混ざって降っていく。そして、影であるレリエルの本体の残り部分を溶かしていった。

 爆風が雨により消え、残されたのはゴジラと、黒焦げで転がる四号機だけ。

 ゴルル…っと、雨に濡れながら唸るゴジラは、ある方向を睨んだ。

 

 

 

「フフフ…、ゴジラさん。俺はここだよ。」

 ゴジラが睨んだ先にはツムグがいた。

 ツムグは、両腕を広げうっとりと笑った。

 焦げた赤い液で汚れていたが雨で徐々に綺麗になっていくゴジラは、ツムグのいる方向に向かって進撃した。

 

 

 

 




レリエルは、難しい……、マトリエルとはまた違った難しさがある。
なにせほとんどカウンターで、相手をディラックの海に取り込むって戦法だから。

原作でのレリエルの倒され方からすると……、浮いている方のダミー(レリエルの影)の方に取り込まれたモノが行くのかな?
それとも初号機が内側から帰還する際に出口がソコだったのかな?
分からねぇ……。



次回は、MOGERA。


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第二十二話  MOGERA vs ゴジラ

タイトル通り。


また、ほぼほぼコピーペーストだけどね……。色々考えたけど、戦闘描写はこれ以外には無理でした。



一部書き加えたりはしています。


 

 ツムグのいる方向へ進撃していたゴジラがふいに足を止めた。

 そして上空を見上げる。

 

 銀と青緑の巨体がスーパーX3に運ばれて飛んできた。

 機龍フィアよりは、少々大きく。

 両手と口のドリル。

 目の部位が金色に光り、スーパーX3から切り離されて地面に着地した。

 

『MOGERAマーク5、戦闘に入ります!』

 

 両腕のドリルを前に突き出して構えたMOGERAマーク5がゴジラに突撃した。

 それを横にどくことで避けたゴジラは、フックをかまそうと腕を振ったが、それをドリルの腕で防ぐMOGERA。

 MOGERAの目から、レーザーキャノンが発射された。

 ゴジラは、発射されたレーザーを横にずれて避け、MOGERAに掴みかかろうとしたが、それよりも早くMOGERAが後ろに急速に下がったため掴もうと伸ばした両手が空を切った。

『一斉発射!』

 目のプラズマレーザー、腹部のメーサーキャノンを同時に発射した。

 ゴジラの体に着弾し、ゴジラの巨体が吹っ飛んだ。

 すぐに体勢を立て直したゴジラは、口を開けて放射熱線を吐いた。

 青緑と銀の機体に命中した放射熱線は、表面を焼くどころか染み込むように吸収されたためダメージはなかった。

 ゴジラがそれに驚いて口を閉じた時、MOGERAの体から吸収した熱線が発射されゴジラに当たった。

 MOGERAの青緑の部分は合成グリーンダイヤコーディング。

 一代目のMOGERAが持っていたブルーダイヤコーディングの強化版である。エネルギーを吸収、発射。または反射が可能なボディだ。

 ゴジラが吹っ飛んだと同時に、MOGERAの両腕のドリルが二つに割れるように開閉し、中からミサイルが発射された。

 ミサイルの着弾による爆発が起こり、ゴジラが煙に包まれた。

 その煙が膨れ、ゴジラがタックルをする体勢で飛び出してきた。そのスピードに追いつけず、避けることができなかったMOGERAは、もろにタックルを喰らい、後方に大きく押された。

 追撃にゴジラが体を大きく捻って尻尾攻撃を行い、MOGERAの機体が横に吹っ飛んだ。

 背中から落下したMOGERAを更に追撃しようとゴジラが襲い掛かる。

 足を踏み下ろされる直前で、左側のジェットを吹かし、回転して避けると、ジェットを使って起き上がった。その動きは生物的な機龍フィアに比べて機械的である。まあ、MOGERAには生体が使われていないので当たり前と言えば当たり前。

 しかしそれゆえか、タックルされた部分がちょっと凹んでる。弾力性では機龍フィアの方が高い。そして自己修復機能がある。

 腹にあるメーサーキャノンからメーサーが発射され、ゴジラに当たるがゴジラは怯まず再び体を捻って尻尾攻撃を行った。間一髪でMOGERAは避けたが頭部を掠り、頭部の装甲の一部が剥がれた。

 そのせいで片目のレーザーキャノンが壊れ、壊れた影響で出力が下がった。

 戦闘長引くとともに、戦いゴジラが有利となり、MOGERAが不利になっていくばかりである。

 ゴジラは、まるでつまらんと言いたげに、フンッと鼻を鳴らした。

 

『なぜ倒れないんだ!』

『35年前のゴジラならとうに膝をついているはずだぞ、なんなんだあの耐久力は!?』

『やはり35年前の封印前よりも強くなっているのか。こんな奴を相手にしていた新型メカゴジラって…。』

『機龍フィアの凍結は失敗だったんじゃないのか!? 今すぐにでも応援に出すべきでは!?』

『MOGERAマーク5の頭部に強力なP・K反応あり!』

『なんだなんだ!?』

『信号を探知! G細胞完全適応者です!』

『何やってんだあのバカは!』

 

 MOGERAの頭部に降り立ったツムグは、目の前のゴジラを見つめた。

「ゴジラさん。今回はつまらなくてごめんね。でもって、ふぃあちゃん連れてこれなくてごめん。次は思う存分やりあおう。」

 そう言って膝をつき、両手をMOGERAの装甲に添えた。

 次の瞬間、操縦系統を支配されたMOGERAがゴジラに突進した。

 距離が近かったため避けられずにゴジラは、MOGERAを受け止めた。突進による勢いでゴジラが後方に押された。

「今回は帰って。」

 ツムグがそう言うのが早いかMOGERAの腹部のメーサーキャノンが発射された。

 ただし、限界出力を越えた無理やりの威力で。

 一斉発射と違い、目のレーザーキャノンがないにも関わらずゴジラが吹っ飛び。そしてテレポートされて遥か彼方の海に放り出された。

 ゴジラが消えた後、MOGERAは、オーバヒートを起こし、関節各部から黒煙を吹き、火花を散らして両腕をだらりと垂れさせて緊急停止した。

 

 地球防衛軍は、シーンっとなっていたが、我に返った指令部からツムグにたいして激しい怒声が飛ぶのは1分後のことである。なお、波川は怒るのを通り越して頭を抱えていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 一方その頃、M機関では。

「っ…。」

 レイが右腕を押さえながら建物に急いで入って行った。

 服の腹部を辺りを破って急いで右腕に巻きつけいく。

 布地に赤黒い染みができ、巻きつけた縁に爛れた皮膚が覗いていた。

「…熱い、痛い……。」

 顔を歪めて堪らずそう口にしてしまうほどの苦痛が右腕から湧きあがってきて、レイは歯を食いしばった。

 脂汗をかきながら急いで最寄りのトイレに駆け込み、水道で右腕を乱暴に洗った。

「どうして、そこまで…、怒っているの?」

 火傷のような傷の進行が止まり、ヘナヘナとその場に膝をつきながらレイは誰に聞かれることなくそう疑問を口にした。

 傷は、洗浄したおかげか、赤い色を残して傷が塞がっていった。

 

 レイが苦しんでいる頃、外ではちょっとした強風と雨が降っていた。

 

 使徒レリエルに降らせるはずだったツムグの体液混じりの雨は、その爆風によって一部が流れ、土地から土地へ、そして基地ににわか雨と共に降り注いだのだ。

 

 使徒と人間のハイブリッドという特異な存在であるレイは、その使徒の要素のため、ツムグの薄まった体液でも火傷してしまうのだ。もし全身に浴びていたら死んでいただろう。

 レイは、慌てて周りの目に気をつけながら宛がってもらった寮の部屋に帰った。そして自分で処置するため用にある薬箱から包帯を引っ張りだし火傷箇所を隠すようにグルグル巻きにしたのだった。

 ジクジクと痛む腕の火傷を押さえて、レイは、壁に背を預けて耐え忍んだ。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「一応あの新型兵器が勝った(?)みたいですよ。」

「……そうか。はあ…。」

「まあまあ、そんなにため息ついてると老け込んでしまいますよ?」

 ジオフロンに作られたスイカ畑で畑仕事をしている加持と、畑の横で座っている冬月がそんな会話をしていた。

「生きている間にゴジラの復活に立ち会ってこれがため息を出さずにいられんよ…。」

「俺らの世代はゴジラを知らなくって、そのお気持ちはわかんないんっすけど、まあ…あれだけ使徒を殺しまくってりゃ恐れられているのも分かる気がしますね。」

 約35年という歳月は、ゴジラの恐怖を薄れさせるに十分な時間だったようだ。

 しかも15年前のセカンドインパクトでゴジラが死んだと思われていたのも効いている。

 追い打ちを掛けるようになんかゴジラが強くなっているのも痛い。ゼーレ属の研究者の見解ではセカンドインパクトのエネルギーを吸収したのでは?っとなっている。

「なぜよりによってゴジラを南極に封印したのか…。そもそも生きていたこと自体おかしいぐらいだがゴジラならあの程度で死ぬはずがなかったのか…。ああ…、生きているうちにゴジラを再び事の目に映すことになろうとは…。長生きはするものじゃない…。」

「思いつめ過ぎですって…。」

 くら~い口調でぶつぶつ呟き続ける冬月に、加持はただそれしか言えなかった。

 

 

 

 一時間後ぐらいだろうか、テレポートで飛ばされたゴジラが怒った状態で戻ってきたため、やむ終えず機龍フィアが出撃することになり、第三新東京の上でバトルに突入するのだった。

 そしてもう一回ツムグにテレポートさせられ、今度は地球の真裏に飛ばしたと言われるまで三十分。

 地球の真裏に飛ばされて、怒りが収まらないゴジラが八つ当たりで近くにあった無人島を粉砕した。幸い津波の心配はなかった。

 ゴジラを地球の裏側に飛ばすほどのテレポートを使えたことについて責められたツムグは、かなり膨大なエネルギーを消費するからもうしばらくは使えないと答えた。

 

 

 ネルフに回収された四号機からは、ギリギリで生きていたケンスケが保護され、シンクロ率の変動を防ぐために1度は見捨てたことは一切ケンスケの耳に入らぬよう工作された。

 なお、ケンスケは、軽い精神汚染の影響かは不明だが、レリエルのディラックの海に沈む時と、その間の記憶が飛んでいた。悪い記憶が無かった結果、次のシンクロの実験で、一瞬ではあるがシンクロ率がアスカを上回った時があり、それを別の場所でシンクロの実験をしていて聞いていたアスカが機嫌を悪くしたのは別の話である。

 アスカのシンクロ率は、僅かずつだが、下がってきていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 MOGERA。

 

 正式名称は Mobile Operation Godzilla Expert Robot Aero-type (対ゴジラ作戦用飛行型機動ロボット)。

 

 スペースゴジラとの戦いの時に投入されたGフォース(※現在はネオGフォース)の兵器である。

 

 最初のMOGERAは、スペースゴジラとゴジラの戦いで失われた歴史から始まる。

 

 

 

 

 

 そのMOGERAの五代目にあたる、MOGERAマーク5は、日本に持ってこられて早々に壊れた。

 壊れた原因の半分以上は、ツムグのせいだ。

 ツムグに無理やり威力を底上げされたメーサーキャノンを撃たされたからだった。

 あの後ツムグは、MOGERAを壊した罰として、頭部を爆破飛散させられた。

 頭からの再生は、とてもじゃないがお見せできない状況になる。他の部位の再生もお見せできないが、これが一番えぐい。

 なにがえぐいって、再生のため心臓が肋骨と胸を破って肥大化することだ。

 一時的ではあるが体より巨大化するのでマッド系以外はとてもじゃないが見ていられないおぞましい光景である。

 頭が再生すると、溶けるように萎むのでこの再生の構造は謎である。人間の遺伝子に依存しているため、人間の体の容量で怪獣並みの再生力を実現するとなると心臓を巨大化せるしかないのでは?っという見方がある。

 ちなみに心臓を破壊した場合は、大量出血は一瞬あるがすぐに再生が始まるため身体的な変化はほとんどない。

 頭部と心臓の同時破壊の場合、再生にびっくりするほど時間がかかるためナノマシンを使い再生を遅らせれば死亡すると計算されている。だから体内に爆弾の他、ナノマシンを仕込まれたのだ。

 頭を壊されるのが一番嫌だとツムグは、ぼやいている。麻酔無しで腹を裂かれても手足を失っても平気なくせにである。

 記憶が無くなるかららしい。ちょっとしたきっかけで戻るので支障が出たことはないらしいが、記憶が無くなっている間が気持ち悪いそうだ。

 

「それで? なぜMOGERAを壊した?」

 頭を再生させた後、ツムグはMOGERAに手を出した理由を尋問された。

「…壊すつもりはなかったよ。ゴジラさんを飛ばすのにエネルギーを絞ったら…。」

「そしたら壊れたと? 馬鹿か!?」

「ごめん。」

「謝ってすむなら警察はいらん! おまえのおかげで機龍フィアの凍結の解除が決まった! まさかそれが狙いだったのか!?」

「違うよ。あのままじゃMOGERAが負けるのは目に見えてたし、あそこでMOGERAを全壊させるわけにはいかないじゃん? おれがやるしかなかったんだよ。」

「ちょっと待て、負けるのが目に見えていたとは心外だぞ?」

「35年前のゴジラさんになら勝てただろうけど…、今のゴジラさんは無理だよ。」

「謝れぇ! 命がけで亡命した黒木達に謝れぇ!」

 MOGERAマーク5は、海外に亡命した黒木という人物とその仲間達が製作した新型の対ゴジラ兵器であった。

 セカンドインパクト後に地球防衛軍が弱体化させられる際に、黒木が仲間を連れて海外に亡命した際にMOGERAの設計図も持って行っていたため、マーク5までが作られたのである。

 亡命した理由は、ゼーレからの暗殺を逃れるためだったのだが、そのことを知るのはごく一部である。

 結局、黒木自身は戻ることはなかったがMOGERAだけが地球防衛軍に戻ることになった。

 波川がやっと連れて帰ることができたと言ったのは、このためだ。

「あと5回ぐらい頭吹っ飛ばす?」

「やったところでおまえに効き目薄いから、これ以上の厳罰はなしだ。」

「その代り、ゴジラさん来たら思う存分ヤるからさ。」

「おお、そうしろそうしろ。おまえにはそれしかない。」

「ゴジラさんが死んだらお役御免だね。」

「ぜひそうなってほしいものだがな。」

「そーだね。」

 吐き捨てるように言われ、ツムグはフフッっと笑った。それはそれは楽しそうに。

 

 ツムグは、それから、何か悪戯でも思いついたみたいにニヤッてしていて周りから不気味がられたのだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 どこか分からない暗い空間。

 ゼーレは、いつも通り集まっていたはずだった。

 

『……。』

『どうした? なぜ黙っている?』

『何か騒々しい音がするが…。』

 “04”と記されている奴のところから、何かドタバタ騒々しい音が聞こえてきていた。

『………あっ! 繋がってたのか!』

『気が付かなかったのか?』

「何があったのだ?」

『ぎちょ…、申し訳ありません! 以後気を付けます!』

『何もないのならよいのだが。』

『さてこれから、ウホヒョォ!?』

『なんだ! 変な声を出して!?』

 “02”が急に変な声を出した。

『せ、背中! せなか! ぬるってした、ぬるぅううって!』

『ぬるって何がだ!? 何が起こったのだ!?』

『ブフゥ!』

『今度なんだ!?』

『こ、紅茶……、千枚漬けが……ウグゥ。』

『せんまいづけってなんだ!?』

『ギャーーー!』

『どうした!?』

『アーーー!』

『ギョエーーー!』

『何が起こっているーーー!?』

「ええーい、鎮まれ!」

 ホログラムと一人のサイボーグしかいない空間なのに大騒ぎになっていた場を、サイボーグことキールが一喝した。

 混乱していた空間に、微かなうめき声とすすり泣く声が木霊した。

「…まったく、このような時に取り乱しおって、そんなことでは神への道は開けぬぞ。」

『ハッ! 申し訳ありません!』

 たぶんであるが、ホログラムの向こう側にいる11名のゼーレの面々が敬礼していると思われる。そんな声色だった。

「それで尾崎シンイチについてのちょう…さ。」

 キールが言いかけて言葉を止めた。

 聞こえたのだ。耳元で。

 他のモノリス達も黙った。

 カサカサカサっと……。実に不快な音、というか存在自体が不快なソレ。妙に静かな空間であるせいか異様にその音が響いた。

 キールは、手元にある書類の束をクルクルと巻いた。

 

 その日のゼーレの会議は、会議どころじゃなくなった。

 主に殺虫効果のある煙を炊くので忙しくって。

 

 その後。

 『秘密結社って言っても、ゴキには敏感なんだね? 意外。』っという一通のメール(出所不明。もちろん送り主不明)が届き、ゼーレは、会議そっちのけで犯人探しに奔走したが、犯人は見つかることはなかったという。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 ゲンドウは、書類の束を前にして不機嫌丸出しの顔をしていた。

 書類に記されているのは、尾崎に関する情報である。

 自分の部下に収集された情報であるが、まあ、なんというか…ゲンドウには腹の立つ内容でこんな顔になっているのである。

 

 一言で言い現わすと、『リア充』という奴だ。

 

 友達多いし、更に彼女までいるときたものだ。

 周りから好かれる優男なのだから彼女がいても不思議ないのだろうが、いざ分かると腹が立つものである。ましてや、一方的に、ゲンドウが敵視しているのであるから尚更である。

 これで相手の女が美人だったりしたら血管が切れるかも…っと少し思ったりしながら、尾崎の彼女らしき女の写真を見た。

 そして血管も切れて机に思いっきり額を打った。

 科学者らしき清潔な白衣の下に自己主張をするような赤い服、邪魔にならないよう上でまとめられた髪の毛、強気な気性が見て取れる瞳と表情、整った目鼻立ちはモデルにいても不思議じゃない肢体と相まってまさに美人という言葉が合う。

 白衣姿の若い女科学者と言う部分で一瞬ユイを重ねかけたが、気の強そうな眼差しは、ユイとはまるで正反対に思えた。

 自立して生きようとする自他ともに厳しいタイプといえばいいのか。若い早熟の科学者でこの見た目だから周りから揶揄われることも多かろうはずだから、そのせいでそういう風に振る舞っているのかもしれない。

 はっきり言って、ゲンドウには苦手なタイプだ。美人なんだけど(大事なことなので)。

 正義感のある好青年の尾崎と、美しく才気あふれる強気なこの女性が並んだら……。

 そりゃもう、絵になること間違いなしであろう。

 ゲンドウは、想像して机を殴った。

 

 グチッ ネチャッ

 

 机を殴った時に、何かを潰した。

 程よい固さがあり、そして潰した時に出て来たネバネバ……。

 拳を上げないといけないのだが上げたくない。見たくない! だがこのまま触っていたくもない。

 震える腕をゆっくりと持ち上げゲンドウが見た物は…。

 

 

 加持がゲンドウのところに来た時、ゲンドウは司令室不在で、探したら手洗い所で狂ったように手洗いしているゲンドウがいたという。

 

 

 

 

 




バルディエル編を書きたいばっかりに急いでしまった……。


MOGERAが弱いんじゃない……、ゴジラが強くなりすぎているんです。(言い訳しとく)


これ書いた当時、ゲンドウは、たぶん気の強いタイプの女性は苦手じゃないかと勝手に想像していたような気がする。なのでこのネタでは、音無みたいなのは苦手としました。


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第二十三話  過去の残骸

体調不良の尾崎くん。


なぜかセカンドインパクトの時のゴジラの記憶を一部見るが……?


 

 近頃、尾崎は夢見が悪かった。

「……。」

「大丈夫か、尾崎。」

「えっ? あ、いや…。」

「寝不足すか?」

「ああ、ちょっとな。」

「エキサイトっすか? 恋人さんと、アダッ!」

「アホなこと言うな、馬鹿。」

「アホ馬鹿って言うなっす!」

「ハハハっ…。はあ…。」

 

 奇妙な夢を見る。

 

 何か巨大なモノが迫ってくるような、それに捕まったらマズイと感じているから逃げようともがく。

 

 迫って来るモノの正体は分からない。そこだけ黒くぼやけてはっきりと思い出せないのだ。ただ危険だというのは分かって、逃げるために夢から目覚めようと念じるため十分な睡眠がとれなくなってきていた。

 

 日に日に距離を詰められているのも感じていた。

 

 ついに最近では、自分を捕まえようとする相手の手の象が見えるようなった。全体像がはっきりと全部見えてしまったら…。

 

 本能がそうなったらお終いだと囁いていて、ゾッとした。

 

「そういえば、風間って明日には帰って来るんだよな?」

「ああ、ロシアの基地の復旧の目途が立つからなぁ。」

「帰ってきたら一番に尾崎と手合わせだろうな。どっちに賭ける? ……って、本当に大丈夫か尾崎?」

「顔色悪いっすよ。」

「だ、大丈夫だ。」

「ほんとかよ?」

「尾崎。…今日はもう上がれ。」

「えっ、でも…。」

「命令だ。倒れられたら元も子もない。」

「分かりました…。」

 顔色の悪さで定時前に帰らされることになってしまった。

 自分の部屋に戻った尾崎は、寝不足で重たい頭を押さえて、ベッドにすぐに横になった。

 せめて少しでも熟睡して寝不足を解消しなければと思い、目を閉じた。

 体が睡眠を欲しがっているのか、恐ろしい速さで眠りに落ちた尾崎を、部屋の隅にいる小さな子供の影のようなモノが見ていた。そして、足音も無く寝ている尾崎に近づき、影は尾崎の上に覆い被さる。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

『ネーネーネー。』

 

「なぁに?」

 機龍フィアが収まっているドッグで、今日もツムグは、ふぃあと話をしていた。

 ツムグは、操縦席でくつろぐ姿勢で座っている。

 会話内容は外に漏れていない。

『外、イイ天気?』

「うん。いい天気。」

『毎日、ナツーっ』

「夏だね~。セカンドインパクトからずっと夏だよ。」

『チキュウの軸ずれちゃったモンね。』

「そーだね。」

『アダ…。』

「ふぃあちゃん。それは内緒。」

『なんで?』

「俺がいいって言うまで内緒。いいね?」

『うん! 分かった! ツムグがイイって言うまで言わない!』

「いい子だ。」

『エヘヘ。ふぃあイイ子。』

「いい子いい子。」

『ワーイ!』

「……。」

 ナツエもそうだが、自分に好意を寄せても無駄な事だからやめた方がいいのにっと常々ツムグは思っている。

 ゴジラがいるから自分がいる。生きている理由はゴジラの存在があるからだ。それ以外にないと思っている。

 細胞だけが必要なら死体で十分であろうし、自我意識がある方が邪魔であるはずだ。地球防衛軍の技術なら体の各部位の細胞をそれぞれ補完すれば事足りる。なのに椎堂ツムグとしてここにいるのは、ゴジラを倒すために他ならない。

 機龍フィアの開発計画は、ツムグの細胞の研究の一環でもあり、放射能の吸収や超再生など持っている能力の割に使い道がほとんどないという利用性の低さを解決するという目的もあった。

 なぜ使い勝手が悪いのかは謎であるが、一時はG細胞の平和利用に最適などと言われてもてはやされたこともあった。

 現在は使徒に有効だと分かったのである意味で平和利用できることは分かった。

 ところで、ふぃあからの好意は、同一の細胞から発生した自我意識だから親子、兄弟感覚から来るものじゃないかと推測している。雛が親を慕う感覚なのではないか。

「ふぃあちゃん。俺のこと好き?」

『スキ!』

「俺はゴジラさんが…。」

『ヤダ!』

「ん? 何がヤダなの?」

『ツムグは、ふぃあの! ゴジラのじゃないもん!』

「ゴジラさんのこと嫌い?」

『キラーイ!』

「そっか。俺にとってゴジラさんは、好きとか嫌いとか越えてるんだよ。ふぃあちゃんには分かんないでしょ?」

『ふぃあ、ワかんない。』

「分かんなくていいと思うよ。俺にもよく分からないから。」

『ツムグもワかんない? ふぃあと同じ~。』

「たぶん違うだろうけど、同じってことにしようか。」

『同じ同じ!』

 こんな感じで会話を続けていた。

 その時。通信音が鳴ったのでスイッチをオンにした。

 

『椎堂ツムグ!』

 

「ん?」

『今すぐ出てこい! 緊急事態だ!』

「なになになに?」

『話はあとだ、さっさと出てこい!』

「ん、分かった。」

『ナニナニナニ?』

「ごめんね、ふぃあちゃん。お話はお終い。ちょっと行って来る。」

『いってらっしゃーい。』

 ツムグは、機龍フィアの外へ出た。

 

 自分を呼びに来た科学者に連れられ、歩きながら話をした。

 

「で? 何の用?」

「おまえ…、把握してないのか。珍しい…。」

「何もかも分かるわけじゃないから。」

「尾崎少尉が…。」

「尾崎ちゃんが?」

「目を覚まさないんだ。」

「…は?」

 

 呼ばれた理由を聞いたツムグは、軽く目を見開いた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 病室に来たツムグは、ベッドの上で意識がない尾崎を見て片眉を吊り上げた。

「こりゃまた…、面倒なことになって…。」

「なんとかなりそうか?」

「やれるだけのことはやるよ。」

 熊坂に聞かれ、ツムグは、肩をすくめた。

 ツムグは、尾崎の傍に近寄ると、片手を伸ばした。

「いっ!」

 しかし触れようとした直後、見えない何かに噛みつかれたように手首に傷ができ出血した。

「なっ!? おい、ツムグ!」

「だいじょうぶだいじょうぶ、傷は浅い。けど…、これ……。」

 熊坂に心配されつつ、ツムグは、尾崎に触れようと噛まれた手を押し出す。

 噛んでいる見えない何かが踏ん張っているのか、傷口がどんどん深くなり、力が入っているので腕が震えた。更にミシミシ、メリメリと見えない歯が食い込んでいく。全然傷は浅くない。

「……ちょっと目ぇつむって。」

「はっ?」

 病室にいる人間達にそう警告すると、ツムグは、放射熱線を放った。

 パンッと弾ける熱線の力が病室に衝撃波をもたらし、部屋のカーテンや布団などがはためいた。

 熱線でツムグの手を噛んでいた何かがいなくなったのか、ツムグの手がようやく尾崎に触れた。

 ツムグは、目をつむり、意識を集中させた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 視界が真っ暗になった。

 何が起こったのか分からない。

 目を開けているはずなのに何も見えない。

 ただ、何かの気配が迫ってきているのを感じた。

 巨大何かだ。

 何かが迫って来るのだが、逃げられない。

 逃げたくても体が動かない。

 このままだと捕まると、分かっても動くことができない。

 もう目の前まできている。

 尾崎は何も見えない中、自分を捕えようとしている何かの衝撃に固く目をつむろうとした。

 その直後、視界が突然破裂するような光で一杯になった。

 視界に映る色が劇的に変化した。

 目の前はどこまでも真っ赤だった。

 果物や野菜のような赤さではなく、生命の中に流れる血のような赤さだ。

 自分がその中を漂っているのが分かる。漂っているということは液体の中にいるということだろう。

 だが不思議なことに息は苦しくなかった。

 ここはどこだろうと思っていると、液体が大きく揺らいだ気がした。

 下の方から何かが浮上してくる。

 浮上してきたモノを見て、尾崎は叫びかけた。

 

 ゴジラだった。

 

 ゆっくりと尾崎の目の前を通り過ぎてゴジラが上へ上へと浮上していく。

 すると視界が急に変わった。

 真っ赤な海と思われる場所の中空に変わり、下を見ると、ゴジラがちょうど頭を出したところだった。

 ゴジラは、動く様子がなく、頭の一部を出した状態でじっとしていた。

 どれくらい時間が経っただろうか、ゴジラがゆっくりと目を開いた。

 その目には何の感情もないように見えた。どこか夢心地というか…、意識がはっきりしていないのか。

 

『夢を見てるんだよ。』

 

 少年のような声が聞こえた。

 

『ゴジラさんは今、夢を見ているんだ。この海に溶けた生命の夢を。』

 

 ……“さん”?

 

 ゴジラのことをそう呼ぶ奴は尾崎が知る限り一人しかいない。

 しかし知っている人物にしては声が幼い気がする。

 

『ここは南極。ここでゴジラさんは知ったんだ。』

 

 なにをっと声に出せないが聞こうとすると。

 

『セカンドインパクトのことを。あと何がこれから先起るのかを。』

 

 そう語られた直後、ゴジラの目に怒りと憎悪の火がともり、ゴジラが吠えた。

 尾崎が知るゴジラの鳴き声以上に大きく、殺意に満ちた凄まじい声だった。

 

『ゴジラさんはね、世界を救いたいわけじゃないんだ。ただ、許せないんだよ。』

 

 ゴジラが戦うのは世界を救いたいからではないのだと語られる。

 確かにゴジラについての歴史を振り返ると世界のために行動しているとは言い難い。怪獣と戦うのだって敵対するきっかけがあったからそうなったというわけだから、使徒を攻撃するのも何か理由があるのは間違いない。

 これまで現れた使徒が直接ゴジラにちょっかいを出したとかで敵対心を煽ったわけではない。

 南極で眠らされていたゴジラが、使徒アダムから発生したセカンドインパクトの破壊で叩き起こされて、そこから原因とサードインパクトのことを知ってしまったというダブルパンチで現在の状況になったということだった。

 そりゃゴジラが怒り狂うはずだと尾崎は納得した。いや…、怒り狂うなんてもじゃないのかもしれない…。

 尾崎がそう考えていると、ゴジラが海に沈んでいった。

 力尽きて沈んだのではない。泳いでどこかで眠るのだろう。そして15年後の世界で目覚めるのだ。

 

『こんなことがあったんだから、ゴジラさんが許してくれるわけがないよね。』

 

 それはそうだ。そうでなくても南極の氷の中に閉じ込められて眠らされているのだ、そこをあんな起こされ方をしたら許す許さないの問題じゃない。死ななかったゴジラがおかしいぐらいだ。

 セカンドインパクトの大破壊でも死ななかったゴジラに、果たして自分達は勝てるのか?

 そんな疑問が浮かんだ時、視界にノイズが走った。

 それとともに意識が遠のいていくような感覚があり…。

 

 

『尾崎! 目ぇ覚ませ!』

 

 その叫び声が聞こえた時、世界が白い光に包まれた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「…うぅ…う……、ハッ!」

 

 顔を歪めて呻いていた尾崎がカッと目を覚ました。

 

「こ、ここは?」

「目を覚ましたか!」

「熊坂士官…、俺は? 一体…。」

 

「……うぅ。」

 

「! ツムグ!?」

 ベッドの横にツムグが倒れているのに気づいた尾崎は身を乗り出した。

「…ヘーキ。まったくもう…、心配かけて。」

 ツムグがへろへろ状態でベッドの端に手を掛けながら身を起こした。

「俺の身に何が?」

「ただの睡眠障害。」

「えっ?」

「ちょっと体調が悪くて眠れなくなってただけだよ。別に何か変なものに取りつかれたとかじゃない。睡眠不足なうえに自覚症状がなくって幻覚系の超能力が自分に向けて暴発したから悪夢を見てたんだ。」

「前の実験のせいか。」

 幻覚系の超能力の特訓を兼ねた実験を数日前に行っていた。

「まあ、それもあるかもね。色々積み重なってこんなことになっちゃったわけだからそれが原因とは言い難いけど。例えるなら風邪をこじらせて肺炎になりかけたみたいな? 尾崎ちゃんの脳に溜まってった疲労をこっちに移したからしっかり寝れるはずだよ。ミュータント兵士の疲労が超能力の暴発に繋がるから疲労度の診察を義務付けるべきだね。」

「あの声も幻聴だったのか…。」

「……そうだろうね。尾崎ちゃんの超能力は強くてドツボにはまってたから俺じゃなかったら引っ張り戻せなかったぞ。体調が変だと思ったらすぐに言うこと。いい?」

「分かった…。次から気を付ける。」

 ツムグの言葉に妙な含みがあるような気がしたが、気のせいだと思うことにした。

「すまんなツムグ、部下の体調管理を怠った俺の責任だ。」

「助けが必要ならいつでも呼んでくれていいよ。M機関のみんなのことは好きだし。遠慮はいらないから。」

 ツムグはそう言って笑った。

 

「尾崎!」

「風間?」

 

 そこへ病室のドアを乱暴に開けて風間が入ってきた。

 風間はズカズカと尾崎のところに来ると、ベッドの上にいる尾崎を見おろし睨む。

「なんで病室にいやがるんだ?」

「えっと、これはその……。」

「体調不良だとさ。」

「はあ?」

 熊坂の言葉に風間はわけが分からんと声を漏らした。

「ツムグ、大丈夫か?」

 尾崎がぐったりしているツムグに声をかけた。

「なんとか…。」

「なんでてめーがいるんだ?」

「さっき、尾崎の体調不良の原因になってた脳の疲労感をこっちに移したとこ。」

「何してやがるんだ…。」

「詳しいことは熊坂に聞いて。俺…、帰る。」

「おお、休んどけ。すまんかったな。」

「いいよ、別に。じゃっ。」

 ツムグは、ヒラヒラと手を振るとフラフラの足取りで病室から出ていった。

「大丈夫なのか?」

「ま、奴のことだから大丈夫だろう。まあ、とにかく休むことだ。いいな。」

「はい、分かりました。」

「残念だったな風間。せっかく尾崎との手合わせを楽しみにして戻ってきたってのに。」

「違います。」

 笑う熊坂に風間はムスッとしてそっぷを向いた。

 素直じゃない風間はよくこういう反応をする。

「すまない、風間。」

「うるせぇ。とっとと寝とけ。」

 そう言って風間は出ていった。

 熊坂も出ていき、残った尾崎は再びベッドに横になった。

 

 しっかり休めた尾崎は、後日復帰した。

 

 なおツムグは、弱点と言える脳に負荷をかけてしまったのでフラフラしていた。それを聞いた尾崎が慌ててお見舞品を持って駆けつける小さい騒ぎがあったりした。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 音無は、イライラしていた。

 尾崎がまた倒れた。

 心配する身にもなれといつも言っているのにこの様である。

 原因が訓練と実験による脳の疲労だったと聞いたから完全に尾崎の責任とは言えないのだが、今日はどうにも収まりがつかなかった。

 何回倒れた? もはや数えるのも億劫である。

 自分が傷つくことより他人が傷つくのを嫌う性格なのは熟知していたつもりだ。

 しかしこうも倒れてたらいい加減にしろと殴りたくなる。

 いや、もう殴ったのだが…、それでも改善されないわけで…。

「あああ、もう!」

 まとめて結んでいた髪の毛をかきむしって音無はイライラを露わにした。

 イライラしながら廊下を歩いていると、台車を押しながら歩いてくるシンジを見つけた。

「あ、音無さん。どうしたんですか?」

 音無の様子がおかしいことにシンジは気付いた。

「…シンジ君!」

「えっ! は、はい、なんですか!?」

「ちょっと付き合って!」

「えっ? え、ええええ!?」

 音無に近寄られて手を掴まれてそう言われ、シンジは混乱した。

「買い物付き合って! お願い!」

「あっ…、買い物か…。ビックリした。」

「あ…ごめんね、勢いで。」

「いえ、だいじょうぶですから。なにかあったみたいですけど、深くは聞きませんよ。」

「ありがとう。シンジ君は良い子ね~。弟にしたい。」

「わっ。」

 感極まった音無にギュッと抱きしめられ、シンジは、ビックリした。

 

 

 

 

 

 

『……サードチルドレンを発見。』

 

 

 音無とシンジの姿を遠くから見ているフードを深く被り、能面のような仮面をつけた男が腕時計型の通信機でそう言っていた。

 フードから僅かに覗いた髪の毛は、銀色だった。

 

『…確保します。』

 

 仮面の男は、そう言って通信機を一旦切った。

 そして、ツカツカと音無とシンジへと近づく。

「? あなた…どこの…、っ!?」

 音無がその足音に気づいて振り返った瞬間、仮面の男が拳を振って、音無の鳩尾を殴った。

「音無さん!?」

「サードチルドレン、碇シンジ。来て貰うぞ。」

「えっ? わっ!」

 男がシンジの右腕を掴んだ瞬間、男は仮面の下で顔をしかめ、振り向き様に音無の手を踏んだ。

「ぐっ!?」

 音無の手から緊急サインを送る機械が落ちる。男は念入りにその機械を踏み潰して破壊しておいた。

「タフな女だ…。」

「音無さん!」

「……サードチルドレン。この女が無事でいてほしいなら大人しく来い。」

「えっ!?」

「!?」

 男は、シンジを掴んだままついでだとばかりに音無の身体に手を触れると、テレポートが発動されて二人は男に連れ攫われた。あとには、音無が持っていた緊急サインを送るための機械の残骸だけが残った。

 

 

 

 




リメイク前は、音無がシンジを連れてショッピングなんてやってますが、シンジが保護対象なのに外に出ているのが違和感あったので、リメイク版は地球防衛軍内にヲルカ(オリキャラの敵)が侵入して二人を攫うという展開にしました。

ヲルカ(オリキャラの敵)の描写としては、顔を隠した方が良いと思ったので、覆面ではなく、仮面にしてみました。


次回は、バルディエル。


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第二十四話  粘菌の使徒

バルディエル編。その1。



バルディエルとの戦いは、基本コピーペーストしましたが、後半のエヴァンゲリオンとの戦いは書き下ろしました。


たぶん、バルディエルは本来ここまでしつこく厄介な奴じゃないと思いますが……。


 

 

 音無とシンジが攫われた時間帯。

 その時間帯に、ある実験が執り行われようとしていた。

 

 それは、本当にゴジラがエヴァンゲリオンを狙うのかどうか、という実験だ。

 

 ようするにエヴァンゲリオンをゴジラのエサにしてみて、釣れるかどうか試すだけである。

 そこで、現在乗り手であるチルドレンがいない、参号機が選ばれ、空輸されていた。

 参号機は、空輸されている最中、雲を掠った。

 その時、参号機の装甲に錆色のカビのようなものが生じた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 音無とシンジが攫われて間もなく。

 

「尾崎少尉?」

「…嫌な予感がする。」

 

 

 

 っと、その時。基地が揺れるほどの爆発が外で起こった。

 鳴り響くサイレンの音と共に、更にゴジラが出現したことを伝える警報音が鳴り響いた。

 

 なぜゴジラ!?っと、基地にいた者達は一瞬焦った。

 

 

 

 

 ゴジラは、海からまっすぐに……地球防衛軍・日本基地に向かってきていた。

「なぜゴジラがここ(基地)に?」

「理由を調べるのは後にしろ! 総員、戦闘態勢に入れ!」

「防衛ラインを突破させるな!」

 第三新東京を目指さず、基地に向けて進撃してくるゴジラに地球防衛軍はすぐに戦闘態勢に入って応戦した。

 

 ゴジラの雄叫びが基地まで届くほど響いた時。

 戦艦を収容しているドッグから爆発が起こった。

 そして煙の中から、火龍がゆっくりと浮上した。

 基地の爆発の原因は、火龍である。

 

「火龍!? 出動許可は出ていないぞ!」

「待て! ドッグを爆破させたのは火龍なのか!?」

「船員は誰も乗っていません!」

「なんだと!? じゃあ、なぜ動いて………まさか…。」

 

 いきなり動き出した無人の火龍が、砲塔を出して、基地に攻撃を行った。

 その砲塔にはネバネバとした筋のようなものが張り付ていた。

 

「パターンブルーを検出しました! 使徒です!」

「今度は戦艦を奪われたのか!!」

「全軍に通達! 火龍…、いや使徒を迎撃せよ!」

「ゴジラが基地を狙ったのは、このためだったのか!」

 

 ゴジラは、いち早くそれに気づき使徒が潜んでいる場所、つまり地球防衛軍の日本基地に向かって来たのである。

 

 宙に浮いた火龍からの砲撃が続いている。

 地球防衛軍が応戦して砲弾を撃ち込むと、火龍の周りにATフィールドが発生し防がれた。

 火龍が撃ってくるミサイルに弾切れがないのかどんどん撃ってくる。これも使徒のなせる業なのだろうか。

 ミュータント部隊が超能力を使いミサイルの弾道を曲げて防いだり、撃ち落とすなどでして基地への被害を抑えようとした。

 

「機龍フィアの出動はどうした!?」

「椎堂ツムグがヘロヘロで操縦ができんらしい! こんな時にあのバカは!」

「轟天号を出します。」

「し、しかしまだ修理が終わったばかりでは?」

「一刻を争います、急ぎなさい。」

「は、はい!」

 

『おい、いつまで待たせる気だ?』

 

 そこへ通信が入り、ゴードンの声が響いた。

「準備は万端なようですね。」

『あったりめーだ。さっさと発進許可を出しな。』

「ゴードン大佐、許可もなく轟天号に乗り込んだのか!』

「轟天号出動。目標は、使徒に乗っ取られた火龍の殲滅。徹底的にやりなさい。」

「波川司令! 火龍を完全に破壊するのですか!?」

「それ以外に方法がありますか?」

「う…。」

 波川にじろりと見られ、司令室の人間の一人が言葉を詰まらせた。

「科学部から使徒の名は、バルディエル、粘菌型の使徒だというデータが届きました!」

 なお、使徒の名前とタイプの情報をもたらしたのは、機龍フィアのDNAコンピュータ・ふぃあである。

「微生物の次は、粘菌…。まったく同じタイプの使徒はいないのね。」

 波川は、これまで現れた使徒がどれも被っていないことについて、息を吐いた。

「…気味の悪い存在だわ。」

 

 怪獣のような生物らしさというか、そういうものが感じられず突然現れ、何を目的に行動しているのかも不明で、倒さなければ世界が終わるという曖昧な情報だけしかない謎の生命体。

 それが、使徒と呼ばれているモノだ。

 

「そして、なぜゴジラは、その使徒を敵と認識しているのか……。」

 波川は、ゴジラがなぜ使徒を敵視しているのか、その理由を知らない。

 ツムグが何か知っていそうなのだが、喋ろうとしない。

 ツムグは、色んなことを知っているはずだ。だがあえて喋ろうとしない。

 ツムグの力を最大限に使えば、すべての物事を自由にすることができるだろう。

 だがそれは望まれぬことだ。そんなことではダメなのだ。

 ゴジラは、人間が生み出してしまった。これは人間が立ち向かわなければならない問題だ。

 すべてを見聞きできるツムグの力を使うことは人間が受けるべき試練を台無しにしてしまう。それは成長を妨げ未来を台無しにすることに繋がる。

 機龍フィアのシンクロシステムを普通の人間でも操縦可能にしようとする試みもそのためだ。

 本当ならツムグを乗せて戦わせたくはない。だが現状はツムグを戦わせなければゴジラの迎撃が難しいのだ。

 使徒を迎撃する時もあまりの得体の知れなさから意見を求めなければならない時だってあった(レリエルの時)。

 ツムグが知っていることを喋らないのは、波川のその心中を知っているからだろう。だが急を要することは伝えてくる。おかげで大惨事を防げるわけだ。

 ツムグは、いつか自分が必要とされなくなることを望んでいる。

 いつか自分が死ぬことを夢見ているのではないかと思われる。

 だからああも悟ったような口ぶりをするし、何をされても受け入れるのだ。

 ツムグがいない世界…。

 波川はそれを想像するが、想像できなかった。

 それほどツムグがいる日常が当たり前のようなっていたのだ。

「彼のいる日常が、いつの間にか普通になっていたのね…。」

 波川は、そっと微笑んだ。

「轟天号と火龍の戦闘が始まりました!」

「ゴジラが熱線を吐きました! なっ…。」

 ゴジラが防衛ラインの途中から遠距離で熱線を火龍・バルディエルに向けて放った。

 しかしバルディエルのやや上の方に命中したかと思うと、熱線は緩やかな斜め方向に弾かれた。

「あれはATフィールド!? しかしゴジラの熱線はATフィールドでは防げなかったのでは!?」

「あの使徒のATフィールドがこれまでの使徒の中でトップクラスに強固だということか!?」

 確かにバルディエルのATフィールドは固い。

 しかしゴジラの熱線を完全に防げるほど固いのではない。

 ATフィールドを一点に集中強化したうえで、ATフィールド斜めにし、船体も斜めにすることで熱線を受け流したのである。だから斜めといっても緩やかなものになったのである。

 使徒なりの対ゴジラ対策であった。

 ゴジラもそれには驚いたのか、鼻を鳴らした。

 するとそこへ、若干ふらついているように見えなくもない機龍フィアが登場し、ゴジラと相対した。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 火龍・バルディエルを前にした轟天号は、敵の出方を待った。

 バルディエルが轟天号が来た途端に砲撃を止めたからだ。

 まるでこちらを観察しているような…、そんな感じがする。

「粘菌型とはまた…、気味の悪い使徒ですね。」

「……風間! 来るぞ!」

「はっ!」

 次の瞬間、バルディエルからミサイルが数発発射された。

 それを間一髪で逆噴射して後ろにずれることで避けた。

 ミサイルは、追尾式でないはずなのに、轟天号を狙って飛んできたので撃ち落とした。

 撃ち落すと爆発とともに粘菌のようなネバネバが燃えるミサイルの残骸に張り付いていた。

「野郎…、轟天号まで乗っ取る気だな。」

「ま、まさか、そんな! それはマズイのでは!? このままではこちらまで。」

「接近し過ぎんじゃねぇぞ。」

「ラジャー。」

「艦長!」

「倒せりゃいいんだ、倒せりゃな。」

 そう言って豪快に笑うゴードンに、副艦長は溜息を吐いた。

 再びミサイルを発射してきたバルディエルだが、そのミサイルをプラズマメーサーで焼き落とす。

 バルディエルは、ブレードメーサーを展開し、轟天号に急接近を試みようとしてきた。

 風間の操縦で絶妙な距離を保ちながら、轟天号は応戦するべく砲撃を開始した。

 メーサーが弾かれるのを見て尾崎が驚愕したが、すぐにATフィールドの向きやバルディエルの船体の向きが関係しているのを見破り、高出力のメーサーを撃って弾かせた隙をついて、他の向きから攻撃を加えた。すると防がれることなくバルディエルに命中した。

「科学部からの報告! 火龍の動力炉付近に動力炉とは異なる高エネルギー反応があり、そこにコアがある予想されるとのことです。」

「船の中心か…。」

「中心に攻撃を届かせるとなるとやはりドリルのメーサー砲でしょうね。しかしあのATフィールドの張り方と使い方では、弾かれてしますよ? かと言ってドリルアタックは…。」

「できるわきゃねーだろうが。奴に乗っ取られる。」

「ですよね。」

 そんなやり取りをしている間にもバルディエルがまたミサイルを飛ばしてくる。

 どうしても轟天号を乗っ取りたいらしい。

 それを撃ち落しながら攻撃は続いた。

 バルディエルは、ガバッと口を開くように縦に割れ、轟天号に向かって来た。

「! 見えた!」

 その口の奥にコアらしきものが見えたのを見逃さなかった。

 轟天号がバルディエルを避けると、バルディエルは、旋回して轟天号の後ろから噛みつこうとまた襲って来た。

 轟天号が逃げるとそれを追いかけてきた。

「後ろから追ってきますよ!?」

「右に回れ!」

「えっ!?」

「いいからやれ!」

 ゴードンの指示で右に舵を取ると、その直後、轟天号を掠るように…。

 

 機龍フィアのミサイルの流れ弾が通り過ぎ、バルディエルの口の中に入った。

 

 口の中、それでいてコアのところで爆発したことにより、バルディエルは悲痛な鳴き声を上げ、地面に落下した。

 

 

 バルディエルが地面の上でもがいていると、バルディエルの周りに放水車が集まってきた。

 

「放水開始!」

 その合図により放水が始まった。

 

 G細胞完全適応者(椎堂ツムグ)の体液入りの水を…。

 

 バルディエルは、声にならない叫び声をあげた。

 もうもうと煙が上がり、ブスブスと焼け焦げていく。

 4分の1くらい焼け爛れたところで、グググッとバルディエルの内部から盛り上がってきたものがあった。

 それはコアだった。

 バルディエルは、コアを出すと、粘菌状の身体と取り込んでいた火龍を残してコアを上空に超高速で飛ばした。

 その上空には轟天号がいた。

 コアから蜘蛛の巣のように粘菌が噴出され、轟天号のドリルに張り付いた。

「艦長! 使徒が! 轟天号が乗っ取られる!」

「尾崎、撃て。」

「ラジャー!」

「えっ、尾崎! 待て!」

 副艦長が止める間もなく、尾崎が兵器の発射スイッチを押した。

 轟天号からミサイルが発射され、コアが張り付いたドリルに命中。

 粘菌が散り、コアがプラプラとドリルに引っかかっている状態になった。しかしそれでも意地でバルディエルは、轟天号に張り付こうとした。すでにコア近くに当たった機龍フィアのミサイルとツムグの体液でかなり弱っている。

 粘菌の体には、液体が染み込みやすかったらしい。

「メーサー砲用意!」

「ラジャー!」

 ドリルにエネルギーが集約され、メーサー砲の準備が整った。

「発射!」

 尾崎がメーサー砲の発射スイッチを押した。

 ドリルに集約されたエネルギーが放出され、バルディエルの中心を撃ち抜いた。

 撃ち抜かれた中心、つまりコアは、砕かれ、要をであるコアを失ったことで粘菌状の身体を維持できなくなり硬質化したバルディエルの体の組織はボロボロと崩れていった。

「パターンブルー、消失。」

「使徒の殲滅を確認。」

 轟天号のオペレーター達が使徒の殲滅を伝えた。

「……あっけねぇな。」

 ゴードンは何か腑に落ちないと言う風に呟いた。

「そうでしょうか? 十分厄介な敵だったと私は思いますが?」

「ゴジラは?」

「機龍フィアと交戦中です。」

「エヴァンゲリオンはどうなっている?」

「? エヴァンゲリオン参号機は、いぜん東京湾に…、……!? 参号機の反応消失!」

「ちぃっ! 面舵いっぱい! 第三新東京を目指せ!」

「艦長、一体何か!?」

「火龍はデコイだ! 本物の奴は参号機の方だ!」

「馬鹿な、エヴァンゲリオンが!?」

「本部からの通達! 轟天号は速やかに第三新東京に急行せよと!」

「ゴジラが機龍フィアを振り切って第三新東京を目指し始めました!」

「今回は騙されたぜ…。」

 ゴジラも地球防衛軍も、使徒バルディエルに騙されたらしい。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 その頃、第三新東京の…跡地?

 度重なる戦いで原形をとどめていない第三新東京に、不気味な雰囲気を醸しだしながら、参号機に取り憑いたバルディエルが歩いてきた。

 そのバルディエルを迎え撃つべく、弐号機と四号機が地上へ送り出された。

『み、ミサトさん! あれって…エヴァンゲリオンですよね!?』

『相田君! 敵はもう目の前よ。集中して!』

『て、ててて、敵って…?』

『メガネ! ボサッとしてるんじゃないわよ!』

『け、けどぉ…。』

『死にたいの!? なら勝手にしなさい! 死ぬなら役に立ってからね!』

 

 するとバルディエルが口を大きく開けて、咆吼した。

 ケンスケがその咆吼にビクッとなった時、バルディエルは、四つん這いになり、獣のように走ってきた。

 

『でやああああああああ!!』

 アスカは、斧型ブレードを手にして迫ってきたバルディエルに振り下ろした。

 参号機の頭を切り裂くブレードは、頭の半分くらいで止まる。そして切断面から粘液が飛び出て、斧型ブレードに絡みついた。

『くっ!』

 バルディエルが腕をムチのように伸ばして振るってきたため、アスカはやむを得ず斧型ブレードを手放して飛び退いた。

 バルディエルは、空いてる手で頭に刺さった斧型ブレードを掴み、引っこ抜いて、今だ棒立ちの四号機に向かって投げた。

『うわっ!』

 粘液まみれの斧型ブレードを寸前で躱したが、左腕を擦った。その傷口から粘菌型の使徒の一部が侵食した。

『うわああああああああ! 腕が!』

『左腕部(さわんぶ)! 切断急いで!』

 四号機が左腕の付け根から切り離された。粘菌に侵された四号機の腕は、ひとりでに跳びはね、バルディエルに引っ付くと、バルディエルの腕になった。

 ケンスケは、シンクロ状態での左腕の切り離しの衝撃と痛みに、悲鳴を上げていた。

『たかが左腕程度でうるさいわね!!』

 アスカは、イライラしながら叫ぶ。

 そして弐号機を操り、バルディエルと殴り合った。

『死ね、死ね、死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇぇぇぇぇ!!』

 結果を浮かせ、怒鳴り散らしながらアスカは、バルディエルを殴り、蹴った。

 ボコボコになっていくバルディエルだったが…、不意にあり得ない動きで首を動かし、口から粘菌を吐き出した。

『ぁっ…!? あ…!』

 粘菌を咄嗟に右腕で防ぐと、あっという間に浸食を受けた。

『右腕(うわん)! 切り離し!』

『ぐぅうううう!』

 ミサトのその命令が聞こえたと同時に、弐号機の右腕が切り離された。胴体に浸食されるギリギリであった。

 ボコボコになっていたバルディエルの姿があっという間に修復され、背中から翼のように粘菌の腕が生えてきた。そして腕のひとつが弐号機の頭部を殴り飛ばした。

『ご…っ!』

『そ、惣流だって人のこと言えねぇじゃねーかよ!』

『!』

『ああああああああああああああああああ!!』

 ブロッシングナイフを右手に手にした四号機が、横からバルディエルの目を抉った。

『だ、だいぶコツは掴んできたぞ! 強く…そうだ! 強く考えればその通りに動くんだ!!』

 四号機は今までの体たらくがウソのように良い動きでバルディエルの攻撃を回避しながら、ブロッシングナイフでバルディエルを切りつけた。

 確かに訓練の練度から言えば、ケンスケはアスカにまったく及ばない。

 だが、ケンスケは、オタクだ。オタクを悪く言うわけでないが、想像力だけで見たらケンスケはずっとアスカを上回るのである。

 最近上がり始めたシンクロ率に乗って、その想像力が反映され、四号機は片腕がないにも関わらず凄まじい活躍を見せた。

『前から思ってたけどさ! 役立たずだの死ネだのなんだのうるさいだよ! 僕だってなぁ、男なんだ! やるときゃやるってとこ見てろ!』

 ケンスケは、キレ気味で叫びながらバルディエルを攻撃し続ける。

『死ぬなら、お前が死ねよ、惣流!』

 調子に乗って禁句とも言える言葉を吐き出していた。

 その瞬間、アスカの何かがキレた。

『うるさあああああああああああああああああい!!』

『グゲッ!?』

 まさかの弐号機からの鋭い蹴りを受け、四号機が腹に重い一撃を受けて吹っ飛び、倒れた。

 エントリープラグ内では、下手にシンクロ率が上がったため、痛みも同時に感じるようになったケンスケが泡を吹いて気絶した。

『アスカ! なんてことを!』

『うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!! コイツ…、私に向かって死ねって言ったのよ!! この役立たずのクソメガネが!!』

 アスカは、髪を振り乱して狂乱した。

 

 その時、ゴジラの咆吼が聞こえた。

 

 バルディエルは、ピタッと止まり、顔を上げて首を捻るようにしてフクロウみたいに回してゴジラの方を見ると、倒れている四号機も膝をついている弐号機も無視してゴジラの方へ移動し始めた。

 ハッとしたアスカが左腕を伸ばすが、バルディエルを掴むこと無く、その手は空しく空を切った。

 

 

 

 

 




アスカがキレたのは、最近シンクロ率でケンスケに負け始めているのと、バルディエル相手にいい勝負し始めたケンスケの動きと言葉ですね。


おかしいな…?
当初の予定では、アスカは、もうちょっと扱いよくしようとしてたはずだったのに……。なんでこうなったし……。


次回は、バルディエルとの戦いに加え、ゴジラと、シンジと音無奪還の戦いかな?


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第二十五話  何つ巴!?の戦い

バルディエル戦、その2?


バルディエルと、ゴジラと、初号機と……、なんか乱闘?



コピーペーストした箇所もありますが、半分くらいは書き下ろしかな…。


 

「…ユイ……。」

 ゲンドウは、今は亡き妻の名を呟いていた。

 

「準備が整いました。いつでもいけます。」

 そこに顔をフードで半分隠し、そこから僅かに覗く銀の髪に、能面のような仮面をつけた男が入ってきてゲンドウにそう伝えた。

「そうか。」

「しかしあなたも悪い父親だ。実の息子を妻を呼び戻すために利用するなんて…。」

「それぐらいしか使い道がないからな。」

「本当に酷い人だ。」

 

 

 そんなんだから、お前は失敗するのだ

 

 

 仮面の下で侮蔑の笑みを浮かべながら、男は去って行った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 ネルフ本部の上。つまり装甲板の上にある第三新東京の跡地(?)で、ゴジラとバルディエルの戦いが勃発していた。

 粘菌状の体組織から作り出した腕に2本と、取り込んだ四号機の左腕を使い、見えぬほどの速度でゴジラの身体を上から下まで殴打するバルディエル。

 しかし、ゴジラは微動だにしない。まったく効いてないようだ。ただ黙って攻撃を受けていた。

 やがてバルディエルが後方へ飛び、四つん這いになる。そして地面に付けている両手を突っ込み、ゴジラの尻尾の方へ両手を出して尻尾を掴んで固定し、バルディエルは腕を伸ばしたまま走り、跳び上がって綺麗に体勢を整え、強烈なドロップキックをゴジラの頭に当てた。

 ゴジラが少しだけ首をのけぞらせるが、ギロッとバルディエルを睨む。

 『つまらん!』っとばかりに、鼻を鳴らし、尻尾を振っていまだ掴んだままのバルディエルの両手を振りほどいた。

 距離を保とうとするバルディエルにあっという間に近寄り、胸ぐら辺りを掴んで頭から地面に叩き付ける。あまりの怪力に一発でバルディエルの顔がグシャグシャに潰れ、ブシャアっと、赤い体液が飛散し、射出機の出入り口に流れ込んだ。

 ビクンビクン!と残った胴体と四肢が痙攣するが、ゴジラは、その足を掴んで別方向へ投げつけ、背びれを輝かせた。

 そして発射した熱線はバルディエルの胴体に命中し、爆発炎上した。

 爆風と塵が風に乗って消え、ゴジラは、膝をついている弐号機を見た。そして背びれを光らせ口から熱線を吐いた。

『アスカ! 逃げて!』

『これくらい!』

 アスカは、すぐにATフィールドを張った。だが……。

『えっ! あっ…。』

 っと言う間に貫通した放射熱線の光を前にアスカは、間抜けな声を漏らしてしまった。

 弐号機に当たる直後、銀色と赤の巨体が弐号機を突き飛ばし放射熱線をくらった。

『アチチチチ!』

 熱がる男の声が聞こえ、アスカは我に返った。

 熱線がやむと、全身から湯気を出す銀と赤のゴジラによく似たロボットが弐号機を庇うように立っていた。

 

 ゴジラからやや離れた位置からせり上がって来るものがあった。

 ゴジラは、そちらを見て気分を害されたと言う風に顔を歪めた。

 

 それは、射出機に固定された初号機だった。

 

 

 

『……た、…助けて……。』

 

 初号機の内部からか細い少年の声が響いたが、ゴジラに伝わるはずがなかった。

 ゴジラは、初号機を前にしてすぐには動かなかった。

 さすがに不自然に思ったのだろう。多少は警戒しているらしい。

 

 

『…嘘でしょう。なんてこった。』

 オーバーヒート状態の機龍フィアの中で、様子を見ていたツムグは、額を手で抑えた。

『シンジ君…!』

 

 初号機には、シンジが乗せられていたのだ。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 リツコは、ゲンドウを睨んでいた。

 ゲンドウは、どこ吹く風でモニターを眺めているだけだ。

 今リツコの周りは武装した集団で取り囲まれていた。

 その中にはミサトもいて、ミサトに背中から銃を突きつけられていた。

「ミサト…。」

「……。」

 ミサトは何も言わない。いや、言葉が発せないのだ。

 彼女の目にまともな光がない。恐らく強力な暗示がかけられているのだろう。

 マヤ、日向、青葉は、青い顔をしていた。

 作戦本部の床には、腕を縛り上げられて、床に転がされている、女性が一人。

「うぅ…。」

 何度も殴られたのか口の端から血を流している。

「なんてことを……。それでも父親なの!?」

 彼女は、ゲンドウに向かって叫んだ。

「親が子を使って何が悪い。」

「あんた…、最低!」

「司令! なぜこのようなことを! そうまでして初号機を覚醒させたというのですか!」

 初号機の秘密を知る者の一人であるリツコは、叫んだ。

 そうゲンドウの目的は、初号機の中に眠るユイの魂を覚醒させることである。その鍵として息子であるシンジが必要となり、誘拐したのだ。たまたま一緒にいた音無はついでである。シンジの言うことを聞かせる為に人質とされた。

「そうだ。」

 リツコの問いに、ゲンドウはあっさりと返事を返した。

「あ…、あなたという人は…。」

 リツコはワナワナと唇を震わせた。

「例え初号機を覚醒させたとしても、ゴジラを倒すなど無理です!」

「彼女は負けない。」

「何体の使徒がゴジラに無残に殺されたかあなたも見ているはずです!」

「赤木博士を黙らせろ。」

「はい…。」

「っミサ…!」

 ゲンドウの言葉にミサトが反応し、リツコを後ろから関節技をかけて倒した。

 リツコは関節技を決められた痛みに顔を歪めた。

 

 

「葛城…。」

 

 物陰から加持が作戦本部の様子を見ていた。

 ミサトの様子がおかしいとは思ったがまさか暗示がかけられていたとは。

 あの従順ぶりからするにかなり深く長い間暗示がかけられていたのではないかと思われる。

 そんなに長く暗示をかけるとしたら少なくとも自分がミサトと付き合っていた時期からとなるのだろうか。

「まさか……。」

 犯人に心当たりがあった。

 しかしだとするとなぜミサトにそんなことをしたのか分からない。

 そこまで彼女が重要だったのだろうか?

 確かにミサトは、セカンドインパクトの発生場所となった南極でたった一人の生存者である。

 それゆえに存在自体が極秘と言ってよかった。

 しかし彼女はただの人間のはずだ。それはゼーレの下にいる自分が入手した情報で知っている。

 綾波レイのような人間と使徒の混合でもなく、あのゴジラの細胞を混ぜこぜして生まれたらしい突然変異の椎堂ツムグとも違う。本当にただの人間のはずだ。……多少タフ(?)ではあるが。

 

『うわああああああああああああ!』

 

 作戦本部のモニターから少年の悲鳴が木霊した。

 その声を聞いて加持は体が跳ねた。

 

「……君は誰かな?」

 ジャキッと金属音が聞こえ、加持の頭に銃口が押し付けられた。

 ハッとした加持が見たのは、不気味な能面のような仮面と、耳に残った銃声。そして視界が暗転した。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「うっ! これ、マジ、やばいかも!」

 クラクラする頭のツムグは、操縦桿を握る手を震わせてそう呟いた。

 初号機に迫ろうとするゴジラにズルズルと少しずつ引きずられていた。

 ゴジラは、直接、手で初号機を潰す気でいるらしく放射熱線を吐く気配がない。

「ゴジラさ、ん! お願い! 勘弁して! サードインパクトの引き金を潰すチャンスなのは分かってるからさ! 逃げて少年、早く~!」

 ゴジラは、なぜか知っている。

 初号機がサードインパクト(人類補完計画)の要のひとつであることを。

『椎堂ツムグ、アレ(初号機)に子供が乗せられているのは間違いないんだな!?』

「間違いないって! 碇シンジと音無博士が誘拐されたってのはもう知ってるでしょ! これが目的だったんだよ!」

『まだ確証が得られたわけじゃないが、おまえが言うならそういうことなのだろうがすべて鵜呑みにするのもホントどうかと思うがな!』

『ネルフから声明文と映像が届きました! 映像解析の結果、人質は音無美雪博士で間違いないとのことです!』

「チィ! また椎堂ツムグの予言通りになったか…。』

 ツムグの言う通りに事が進むのが気に入らない人間は少なくない。

『ネルフはなんと?』

『エヴァ初号機に手を出すな、手を出せば即座に女を殺すと。』

『この状況で我々に手を出すなだと? ゴジラにエヴァンゲリオンを生贄にするつもりか!?』

『機龍フィアの機能が低下している状態では、これ以上ゴジラを抑えるのは無理なのでは!?』

『椎堂ツムグめ! どこで何をしたんだ!』

 ツムグの脳の調子が悪いため、機龍フィアの機能も低下していた。

 なぜ調子が悪いのか、事情を知る者はごく一部である。

「あんの男、自分の妻を過信してんのか!? じゃなきゃ、こんなアホなことやるわけないよね!?」

 サキエル襲来の時、本来なら初号機が暴走してサキエルを倒すシナリオだった。

 それがうまくいかず、今度はゴジラに初号機を暴走させる引き金を引かせようとしているのである。

 しかしサキエルもそうだが超越した生命体である使徒を一撃で葬る力を持つゴジラを初号機にぶつけて、そんな都合よくいくだろうか?

 答えは否だろう。

 暴走によって力を引き出しても今のゴジラ(※セカンドインパクト後、強化されています)を倒すのは…。

 次の瞬間、ゴジラの背びれが光りだした。

「やめて!」

 察したツムグが素早く操縦桿を操作し、下からゴジラの顎を掴んでゴジラの顔を上向かせた。

 放射熱線が斜め上空に飛んでいった。

 ゴジラの何かが切れた音が聞こえたような気がしたと思ったら、機龍フィアが投げられ、地面に頭から叩きつけられていた。

「う、ぐっ。」

 頭がグワングワンとする。

 すると再びゴジラに投げられ叩きつけられ、機体のどこかがへしゃげる音がした。

 そしてまた投げられ叩きつけられる。それを何度も繰り返された。

 いつも機龍フィアで投げていたから、仕返しだろうか?

 ともかくゴジラが本気で機龍フィアを壊す気でいるのだけは、分かった。

 皮肉にもそれが時間稼ぎになった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 彼女は、これが正しいと信じていた。

 彼女には、それを成し遂げたいという願いと、それを成し遂げるだけの力があった。

 しかし運命の悪戯と言うべきか、何かを成し遂げようとすればそれを妨害する何かしら力が働くものである。

 誰が想像した? 誰がこんなことになると思った?

 天才であった彼女ですら想像もしなかった災い、ゴジラによって彼女の描いた理想は修正できないほど壊れていた。

 残念なことに彼女はそのことを知ることができなかった。

 神のごとき存在へ昇華する前段階の状態で眠っていたために、外で起こっていることを知ることができなかったのだ。

 眠っている状態であるが、彼女は感じた。

 

 我が子が酷く怯えている。

 

 自分がお腹を痛めて産んだ子の存在が今の自分の中にあるのは感じたが、その子が酷く怯えている理由が分からなかった。

 確かにこんなこと……、人類補完のために我が子を駆りだすのは心が痛まないわけじゃないが、これは必要なことだと彼女は思っていた。

 うまくいけば我が子が進化した最初の人類になるかもしれない。神話になるかもしれない。

 これは決して悲劇などではないのだ。停滞した人類を進化させ、罪を清算するチャンスだ。

 別れは辛いだろう。しかし一時の別れにすぎない。すべての命が赤い海に溶けるだけだ。一つになるだけだ。

 だから安心してほしいと伝えたくても、今の彼女にそれを伝える術がない。

 できることは我が子を神の使い達の名を架する者達から守り、我が子を導くことだ。

 

「助けて……、助けて助けて、お、ざき、さん…。」

 

 体を丸めてグスグスと泣いて震えている我が子が助けを求める。

 

 

 ……………オザキって誰?

 

 

 傍で守っている自分より、知らない誰かを求めているのが若干気に入らなかった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 尾崎の部隊と風間の部隊が別々の入り口から潜入し、ネルフの中枢にある作戦本部を目指して進んでいた。

 風間を先頭にした風間のミュータント部隊は、立ちはだかった障害に足止めをされていた。

「ちくしょう!」

 思わずついた言葉が電力節約でかなり暗い通路に響いた。

 通路を進むことができないのだ。

 

 進もうとすると見えない壁が発生して彼らを拒むのである。

 

「機龍フィアがゴジラに潰される前に中枢へ向かわないと!」

「分かってる!」

「これってひょっとしてATフィールドって奴じゃないですか!? 模様が似てます!」

「使徒がいるのか?」

「まさか! 使徒はゴジラに殲滅されたし、なぜ使徒がネルフを守るなんてことを?」

「どっちにしろこのままじゃ進めないことには変わらん。」

「使徒だとしたらツムグの体液が有効ですけど…。」

「……アイツは、コレを見越していたのか?」

 風間は、腰に引っかけていたスプレータイプのボンベを取り出した。

 薄めたツムグの体液が詰った物だ。

 イロウル(ウィルス?)やバルディエル(粘菌)のようなタイプの使徒に遭遇した場合を想定して配布されていた物だ。

「アイツに頼るのは癪だが…。」

 時間が無いのだ。だから迷ってられない。

 風間は躊躇なくボトルの中身をATフィールドへ散布した。

『ギャア!』

「悲鳴!?」

「ATフィールドが消えました!」

「行くぞ。」

「は、はい!」

 一行は使徒らしき存在を確認せず、走った。

 更に、走る風間達の行く先を、戦闘服を纏った覆面達が遮った。

 向けられる武器を目にして、ネルフ内部に異変が起こっていることをだいたい把握した風間達は、覆面集団との戦闘が勃発した。

 能力の妨害がされているとはいえ、身体能力ではミュータント兵士の方が遥かに上だ。だが敵は戦いの経験があるらしく、実戦経験値の差がある。

 膠着するかと思われた戦いは、風間は特攻に近い攻めでミュータント部隊の優勢になった。

 覆面集団がたまらず道を開けるとその隙に彼らを無視して風間達は奥へと走って行った。

 あくまでも目的は中枢にある作戦本部にいる音無の救出と総司令部の制圧だ。

 背後から怒声と銃撃が来るが足の速さで普通の人間(鍛えていても)が叶うはずがなく、あっという間に風間達は覆面集団を振り切った。

 

「ちっ……。」

 

 風間達が通り過ぎた通路の影から、肩を抑える上から下まで黒づくめの覆面の男が出てきて舌打ちをした。

「…、退化したリリンと黒トカゲが混ざったゲテモノの体液だって?」

 服を破いて肩を露出すると、ジュクジュクと皮膚と肉が焼けただれていた。

「人類補完こそすべてを救済するただ一つの方法…、必ず実行されなければならない。そのために邪魔なのは…、排除しなければ…。」

 そう呟きながら、男はフードを掴んで一気に脱いだ。

 薄暗い空間に銀色の毛髪が妙に輝いていた。

 銀髪に仮面の男は、腕時計型の通信機にスイッチを入れた。

「碇ゲンドウは、これでお終いです。あの男は大切な妻の魂を宿した初号機をゴジラに破壊させる暴挙に出ました。あの男が望む補完計画はこれで潰えることでしょう。」

『そうか…。ご苦労だった。』

「すべては人類補完のために。」

 男は、通信を切ると、音もなくその場から姿を消した。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 機龍フィアを地面に頭から埋めた状態にして、ゼーゼーと息を整えたゴジラが改めて初号機の方へ向いた。

 モニターにゴジラが一歩一歩と初号機に迫っていく光景が映っている。

「そうだ…。行け、行け! ユイ、間もなくだ、もうすぐ…!」

 

 っと、その時。

 警報が鳴り響いた。

 それは、使徒が出現した時の警報音だった。

 

「な、なんだと!?」

 使徒はすでにゴジラに殲滅されたはずだった。

「何事だ!」

「特殊装甲板内部の配管に使徒が浸食しています!」

「! さっきの使徒…。こんな時に!」

 

「グッドタイミングか?」

 

「!」

「おらよ!」

「ぐお!」

 背後から風間の蹴りを受け、ゲンドウは倒れた。

 周りにいた覆面の男達は、いつの間にか他のミュータント兵士に背後を取られ両手を上げた状態になっていた。

「風間少尉!」

 音無は、味方が来てくれたことに歓喜した。

「風間くん!」

 リツコは、見知った男の出現に心底安堵した。

「碇シンジを今すぐエヴァンゲリオンから脱出させろ!」

「さ…せない…。」

「なに!?」

 リツコを押さえていたミサトが突如として動いた。

 突然のことに驚いた近場にいたミュータント兵士がミサトからの攻撃にダウンした。

「エヴァ………、うぅ…う。し…と。……おとう…さ…ん……。」

 うわ言のように言葉を紡ぎながら凄まじい戦闘能力で次々にミュータント兵士を倒していくミサト。その巻き添えで覆面の男達までダウンする。

 その動きはもはや人間のそれじゃない。

「ちぃっ!」

 ゲンドウを押しのけて下へ飛び降りた風間がミサトと対峙した。

 鋭く思い蹴りを受け止め、床にたたきつけるが、ミサトは掴まれている足を折って回転し、風間に一撃を入れた。

「ぐ…、なめるな……!」

 手加減なしの殴打がミサトの体に打ち込まれ、ふらついたところで腕をつかみ床に叩きつけて両の肩を外した。

 さすがに四肢を負傷したミサトは、ピクピクと反応するがこれ以上の動きはなかった。

「ミサト…。」

 リツコが悲しげに眉を寄せた。

 

「か、葛城…。」

 

「加持君!」

 そこへ頭から血を流した加持がフラフラと歩いてきて、ミサトの傍に跪いた。

「葛城…、葛城…。」

 加持はミサトの頭を抱き起し、抱きしめた。

 

 モニターから凄まじいゴジラの雄叫びが聞こえた。

「しまった、初号機が!」

「あ、あれは…。」

 ハッとしてモニターを見た時、そこに映っていたのは。

 

 ゴジラの後ろからダイブするようにしがみつき、ゴジラを前のめりに倒した土まみれの機龍フィアだった。

 もう目の前までゴジラが迫っていたため、初号機に当たり、射出機ごと初号機が斜め横に倒れた。

「エントリープラグ、強制排出、急いで! 配管を切断して電流が流して使徒の侵入を止めるのよ!」

「了解!」

「ダメです、信号を受けつけません!」

「初号機の信号がブロックされています!」

「なんですって!」

 騒然とする中、ゲンドウの狂ったような笑う声をリツコは聞いた。それを聞いたリツコは、ギリッと爪を噛んだ。

「機龍フィアに連絡を! 初号機から何が何でもゴジラを遠ざけて!」

「機龍フィアから高エネルギー反応!」

「ああ、ゴジラが!」

 次の瞬間、目と関節や装甲の隙間が赤々と光りだした機龍フィアの腹部から絶対零度砲が放たれ、ゴジラを凍らせた。

 凍らせたゴジラから崩れ落ちるように地面に倒れた機龍フィアが全身から煙を吐きながらすぐに立ち上がり、初号機に近寄った。

 機龍フィアの手が初号機を掴もうとした瞬間、初号機の右腕が振られ、機龍フィアのその手を払った。

「!」

「シンクロ率マイナス! 初号機、謎の起動!」

「なっ…、ま、まさか!?」

「は…はは…ハハハハハハハハハハ! ユイ!!」

 

 暗かった目に光りを灯し、顎のジョイントを壊して不気味な咆吼をあげる初号機の姿に、取り押さえられたゲンドウが笑った。

 

 

 

 




バルディエルとの戦いは、次回で終わり。(まだ続くんかい)


次回は、初号機(ユイ)とゴジラの戦いです。でも勝敗は……。


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第二十六話  ゴジラvs初号機(ユイ)!

初めて、ゴジラ対エヴァンゲリオン実現かな?


バルディエルもここで終わりです。



あと、初号機がG細胞を取り込んで変異していますが。これは公式で発表されたG初号機の形態を参考にしています。


 

 

 ゴジラは、顔をしかめた。

 射出機を振りほどいて動き出した初号機の姿に。

 別に怯んでいるわけではない。決して初号機を恐れてはいない。ただ、気味悪いのだ。

 ゴジラが感じている使徒のソレだが、ソレとはまた少し違った気味の悪さ。

 初号機が消えた。

 ハッとすると、下から強烈なアッパーカットが入った。

 いつの間にか下に来ていた初号機をギッと睨み、ゴジラが身体を振って尻尾を振るった。

 すると軽く跳躍した初号機が、背びれを掴み、しがみつくと、ゴジラの肩首辺りに噛みついた。

 ゴジラは、グルル!っと唸り、初号機を振り飛ばそうと身体を大きく振る。

 ミチ、ミチっとゴジラの皮膚と肉が噛みちぎられ、振られた衝撃を利用してついにゴジラの肉を噛み千切った初号機は、肉をくわえたまま飛び退いて四つん這いで着地した。

 表面を軽く噛みちぎられただけだが、おそらく今回のコレがゴジラがエヴァンゲリオンに与えられた初めてのダメージだろう。

 初号機は、噛みちぎった赤黒いゴジラの肉をガジガジと噛みしめた。

 

『なんてことを……。』

 

 ツムグの弱々しい声がそう言った直後、初号機の細い身体に異変が起こった。

 背中が大きく膨らみ、ただでさえ猫背だった背中がより丸くなる。手から太い爪が伸びた。丸みを帯びて隆起した筋肉の背中に背びれが現れる、その形状は限りなくゴジラにそっくりだった。その背びれに沿って背骨が尾のようにびて、地面についた。

 ゴジラの細胞……G細胞を取り込んだ初号機が血走った緑の目をギョロギョロとさせ、身体をのけぞらせて天に向かって咆吼した。

 

「……司令。これもあなたの思い通りでしたか?」

「ユイ……?」

 

 リツコが聞くと、ゲンドウは、愕然とした様子で呟いていた。

 さすがにこれは予想外だったらしい。

 初号機を覚醒させ、ユイの魂を呼び覚ますこと、それが目的だったが事態は予想外の方向に行く。

 ユイは、何を考えたかゴジラの肉を食ったのだ。あの忌まわしく恐ろしい力の一部を。

 ゴジラは、忌々しげに歯を見せて唸る。噛みちぎられた箇所はとっくに治っていた。

 初号機は、少しの間ボーッとしていたが、ふと我に返ったようにゴジラをその目に映すと咆吼をあげながらゴジラに迫った。

 ゴジラの背びれが光ると、初号機の背びれも光った。

 そしてゴジラが熱線を吐くと同時に初号機も熱線を吐いていた。二つのエネルギーがぶつかり、爆発する。

 ゴジラが突進し、爆風の中にいる初号機に突撃、初号機は手を構えてゴジラを受け止め、ズリズリと後ろへ下がったがやがて止まった。

 初号機は、長く伸びた自分の尻尾をゴジラの首に絡ませ、その尻尾の力でゴジラの後ろへと移動すると、ゴジラの尻尾を掴んで、持ち上げ投げた。

 背中を打ち付けられたゴジラの上に馬乗りになり、ゴジラの胸の上に噛みつく。すると、初号機の頭部に血管のような筋が走り、脈動した。

「ゴジラを…食べてる?」

 マヤが口を手で押さえた。

 すると凄まじい警報音が鳴り響く。それは初号機の異変を伝えるための警報だった。

「なるほど…。彼女は…もう…。どうやら、初号機を出した時点で詰み、でしたわね。司令。」

 リツコが嘲るように笑う。

「なに?」

「分からないのですか? ユイ…、初号機は、とんだ間違いをしたのです。おそらくは力だけ奪う算段だったのかもしれませんが、そんな上手くいくほど人間の罪にして、怪獣王たるゴジラは簡単な存在じゃい。かつて、ミレニアムと呼ばれた怪獣がいましたわ。アレと同じ失敗をしたのですよ。ゴジラの細胞を取り込むと……、副作用で怪獣となってしまうのに。」

「!?」

「そしてミレニアムは、怪獣化によりその知性も理性も失い、完成度を求めて本能でゴジラを喰らおうとした。結果……、死んだのですわ! 知性も理性もなにもかも失ったゴジラモドキのような醜悪な姿へと変わり果てて!」

 リツコが高らかにそう叫ぶと、ゲンドウは何事か声にならない悲鳴を上げた。

 

 初号機の身体がより大きくなっていく。

 さらに肥大化していく背びれを、横から機龍フィアが掴んだ。そして頭と肩の中間を押さえつけ、背びれごと背中の肉を剥がしていく。

 剥がした肉の間にあったエントリープラグを見つけると、機龍フィアは、優しくそれを爪で摘まみ、引きずり出した。

 エントリープラグを掴み直した機龍フィアが初号機から離れると同時に、初号機の割れた背中が広がり、ゴジラを包み込む。

 直後、青白い光りが輝き、爆発した。

 粉々になっていく初号機の肥大化した肉が黒焦げになって散らばった。

 憤怒の表情を浮かべたゴジラが起き上がり、ピクピクと痙攣している初号機の頭を掴んで持ち上げると、見えぬ速度で地面にその身体を叩き付けた。

 胴体も四肢もグシャグシャに潰れるが、ゴジラは、構わず何度も何度も初号機を地面に叩き付け続けた。

 肉片が飛び、骨が砕け、内臓が飛び散って潰れる。あまりの惨状に、マヤはとうとう嘔吐していた。

 あらかた破壊すると、フーフーっと怒りによる荒い呼吸をしながらゴジラは一旦後ろへ下がった。

 そして背びれを赤く光らせた。

 

 

 

 

 

 オイし、い

 美味しいお肉

 このオ肉をもっと

 あら? あの子がイナイ

 ドコへ、行ったの?

 ワタシの、カワイイあの子

 

 

 

 

 G細胞の副作用で消え行く意識の中、ユイが見たのは、赤い光りと、憤怒の表情を浮かべた黒い怪獣の顔だった。

 

 

 

 

 シニタクナイ!

 

 

 

 

 最後に、どこからか、子供の声でそんな悲鳴が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 そして初号機は、熱線で焼かれ、爆散した。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 粘菌型の使徒バルディエルは、戦艦火龍、エヴァ参号機と順に取りつき…、そして今はネルフ本部を覆っている特殊装甲板の下にある配管に取りつき、ネルフに侵入しようとしていた。

 取りついた物を自在に作り変える能力を持つバルディエルは、配管を作り変え、蛇のような姿へと変じた。

 軟体の身体を巧みに操り、狭い隙間を潜り抜け、ネルフ本部へと向かっている途中だった。

 参号機の時にコアを潰されたことと、さすがに三度も取りつくものを変えたため、これ以上は劇的な変化はできないが、アダムのもとへ行くには十分だと判断した。

 しかしバルディエルは、ふと立ち止まった。

 進んだ先に誰かが待ち構えている。

 

 小さい。

 集団だ。

 リリンだ。

 しかし、なぜだろう?

 先頭にいるリリンは小さいのに大きく見える。……ような気がする。

 

 バルディエルは、尾崎の姿を見て僅かにたじろいた。

 

「放水開始!」

 

 尾崎が手を上げると同時に、尾崎の後ろに控えていたミュータント兵士達がホースを構えた。

 猛烈に嫌な予感がしたバルディエルは、もと来た道を猛スピードで引き返し始めた。

 自分がさっきまでいた場所に水が流れ込んでくる。

 

 あの水(?)に触れたらマズイ!

 

 っという思考がアダムのところに行こうとする思考を上回り、とにかくバルディエルは水(?)から逃げた。

 しかしある程度引き返したところで後方に人間達の気配があるのに気づいた。

 

「撃てーーー!」

 

 光る弾(メーサー銃)を発射され、ATフィールドで防ごうとしたもののなぜか貫通した。

 以前の記憶(使徒マトリエル)から、これで一回死んでいることを思い出した。なぜ、すぐに思い出さなかった? 混乱してるからだ! 水(?)から逃げるので!

 人間達(ミュータント兵士)の襲撃にあい、バルディエルは混乱していた。

 自分よりもはるかに劣る小さい存在が、粘菌型の使徒である自分に勇敢に、それでいて策をめぐらせて挑んでくる。

 後方に水(?)、前方にメーサーの銃撃。

 逃げるならば…、下だ!

 配管を破壊し、狭い中をを軟体の身体を利用して潜り抜けて行く。

 ネルフ本部にさえ行ければ、アダムに会える。

 アダムに会って融合することが自分達、使徒の存在意義も同然だ。

 

 邪魔をするな、リリン。

 

 だだ広い通路の天井から落下したところで待ち構えていたのは、数台のメーサータンク。

「怯むな!」

「メーサータンク、前へ!」

「撃て!」

 ATフィールドを貫通し、メーサーの光がバルディエルの体を所々砕いた。

 他の部位で空いた部分を補修するとバルディエルの体は失った分だけ縮んだ。

 もう増殖するほどの余力が残っていないのである。

 バルディエルは、頭部にあたる部位を縦に割って口とし、叫び声のような鳴き声をあげながら突撃し、メーサータンクと兵士達を蹴散らした。

 すると天井からメーサーを撃たれた。メーサータンクに比べると弾は小さい。

 見ると、自分が空けた天井の穴から尾崎がワイヤーを伝いながらメーサー銃を撃ってきていた。

 

 なぜだ?

 なぜ己は、このリリンを……。

 

 背筋はないが長い身体が震える。知らない感覚にバルディエルは、一瞬硬直した。

 

 こんな“モノ”、知らない。

 

 バルディエルは、その感覚を振り払うように尾崎に向かって頭を伸ばし、口を開けた。

 そのまま尾崎を丸呑みにした。

 

 こんなモノ知らない。こんなモノ知らない。こんなモノ知らない。こんなモノ知らない。こんなモノ知らない。こんなモノ知らない。こんなモノ知らない。こんなモノ知らない。こんなモノ知らない。こんなモノ知らない。こんなモノ知らない。こんなモノ知らない。こんなモノ知らない。こんなモノ知らない。こんなモノ知らない。

 

 こんなモノ(恐怖)など知らない!

 

 バルディエルの腹部にあたる部位が、橙色の光が発生し、ボコンッと膨れ上がった。

 メーサー銃の弾が内側から貫通し、穴をあけた。

 

 なんだ!?

 何が起こって…。自分は、何を?

 このリリンは、……ナ、ニ、モ、  ?

 

 疑問が次々に浮かんできては消え、バルディエルは、徐々に視界も思考も暗闇に飲まれた。

 鋼鉄の床に頭部にあたる部位が倒れこみ、バルディエルは、息絶えた。

 

 バルディエルの口から、尾崎が這い出てきて、動かなくなったバルディエルを確認した。

 

 

「………俺が、何者かって?」

 

 バルディエルの最後の思考を感じ取った尾崎が呟いた。

 

「…俺は、……俺だ。そのはずだ。」

 もう動かないバルディエルに向けて、尾崎は言った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 特殊装甲板の上。つまり第三新東京では、ゴジラと機龍フィアの戦いが続いていた。

 全身から湯気を出し、金属のあちこちが赤々となっているオーバーヒート状態であるが、ゴジラとやり合う機龍フィア。

 科学部の推測だと内部の冷却装置がイカレテしまっているかもしれないということらしく、操縦席の方は灼熱地獄もいいところだとか。中にいるツムグは、オーブンで焼かれているも同然の状態かもしれないとも言われた。

 初号機から引き抜いたエントリープラグは、ゴジラが初号機を潰している隙に近くの部隊に渡しておいた。

 ゴジラが、ふと手を止めた。

 何かがいなくなったのを感じたかのように。

 そして機龍フィアとある程度距離を保ったまま、宙を見上げ、それから俯いて舌打ちでもするように口元を歪めた。

 機龍フィアは、その隙にそれぞれ左腕右腕を失い動けないでいるエヴァンゲリオン二機を庇うように、ゴジラから守るように立った。

 ゴジラは、そんな機龍フィアをちらりと見た後、フンッと鼻をならし、東京湾の方へ歩き出した。

 

「おいおい、ゴジラがエヴァンゲリオンを無視しして行くぞ。エヴァンゲリオンは、攻撃の対象じゃなかったのか?」

「さあな、ゴジラにはゴジラなりに優先順位ってのがあるんじゃないか?」

「とにかく今回も何とかなったな。」

 

 色んな事があったが、多くの者達がホッとした。

 

 

 

 エントリープラグの中にいたシンジは、保護され、意識がなかったためすぐに救急隊によって運ばれていった。

 人質にされていた音無も保護され、事件の犯人であるゲンドウは、心神喪失状態で連行されていった。

 意識を失っているシンジについて、エヴァとの神経接続の過程で精神汚染などの脳や他の神経への障害が発生した可能性があるとして、赤木リツコが診察をさせてほしいと願い出た。

 リツコはネルフから離れることを禁止されていたが、彼女以上にエヴァに詳しい人間がいないため、その願いは許可された。

 

 総司令ゲンドウの暴走により、ボロボロになったネルフの実権は副司令の冬月へと委託された。

 冬月は、戦いについても、今後のネルフの運営についても消極的で、ゲンドウと結託したそもそも発端である初号機が失われた今、彼も人類保管計画に執着する理由も無くなり、エヴァンゲリオンを運営しつつも、地球防衛軍に全面的に従うとした。

 作戦本部長であったミサトも、ゼーレがあらかじめ仕込んでいた暗示をゲンドウに利用される形で使われてしまい、脳への深刻なダメージを残した可能性があり、まともに生きられるかも危ういという結論が出された。これについて、元恋人である加持は青ざめ、ミサトが寝かされているベットの傍で泣いたという。

 

 そして残されたチルドレン2名であるが、ケンスケは、意識を取り戻した後、アスカに難癖を付けてしまい、ボコボコにされた。アスカは、危うくケンスケを殺す寸前まで痛めつけたため、麻酔を打たれ、ケンスケから引き離される形で落ち着くまで牢屋に入れられた。

 これにより、ケンスケが自分の方が正しいと増長し、ある意味でシンクロ率をアップさせ。逆にアスカは、誇りを穢されたと思い、シンクロ率を落とすこととなる。

 

 

 

 

 

 

 こうして、使徒バルディエルとの戦いは幕を下ろした。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 いつものどこだか分からない暗い空間で、ゼーレの会議が開かれていた。

『碇の計画は潰えた。』

『これで我々を阻むもののひとつが消えた。』

『初号機が潰された今、リリスによる補完を。』

『神への道を。』

『破壊神などと呼ばれるゴジラも次の使徒を前に大手を振るってはいられまい。』

 次に現れる使徒について、ゼーレはすでに把握していた。

 

 

 

 

 




本当は、もっと早くシンジを救出するのを考えてましたが、結果として変異してからになりました。
なお、シンジは無事です。G細胞による浸食もないです。


初号機(ユイ)がなぜゴジラを喰ったのか…、理由としてはゼルエルにやったことと似ています。ゴジラの力を奪おうとしたけど、副作用によって失敗したというか。

初号機は、これで一時退場。ユイは、完全に退場。


次回は、とりあえず日常回のような後片付けかも。
あと、シンジとレイを進展させたい。


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第二十七話  少年少女の想い

リメイク前からのほぼコピーペースト……。


これ以外の展開が思い付かなかったし、書けなかった……。



当ネタは、シンジ×レイです。




 M機関の食堂のおばちゃんこと、志水(しみず)は、気になっていた。

 レイの様子がおかしいのである。

 本人は隠しているのだろうが右腕を庇うように動いているのである。

「レイちゃん。右腕どうしたの?」

「…なんでもないです。」

「嘘おっしゃい。さっきからずっと庇ってるでしょ。」

「…なんでもないです。」

「……今日は帰りなさい。時間給とはつけておくから。」

「…平気です。」

「いい加減にしなさい!」

「っ!」

 志水に右手首を掴まれ、レイは顔を一瞬歪めた。

「見せてみなさい!」

「やめ…っ」

 レイが止める間もなく袖をまくられた。

 右腕の半分以上が赤く腫れていた。

「これどうしたの? 火傷?」

「……。」

「…悪いけど、今から医務室にこの子連れて行くからよろしくね。」

「あっ…。」

 志水はその場にいた者達にそう言い、レイを引っ張って食堂から出ていった。

 医務室に連れてこられたレイの顔色は悪い。

 なにかに怯えているようなそんな雰囲気がある。

 レイの腕を診察した医者は。

「熱湯でも浴びたのかい?」

「いいえ…。」

「それか劇薬を被ったとか。」

「いいえ…。」

「治り始めていて、この分なら跡も残らないでしょう。」

「それはよかったわ…。」

 傷跡が残らないと聞いて志水はホッとした。

 レイのような若い子に傷が残ったら大変だと心配していたのだ。

「薬を出しておくから患部に一日三回塗って様子を見てね。水仕事や重い物を持つ仕事は控えるように。」

「はい…。」

 レイは、少しホッとした様子だった。

 その様子を志水は少し怪訝に思った。

 

 

 その後、レイは、シンジが寝ている病棟にお見舞いに行った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 数日の昏睡の末、目を覚ましたシンジは、左手に温かい物があることに気付いた。

「…綾波?」

 怪訝に思って横を見ると、ベッドの端で椅子に座ったレイが頭をのせて寝ていた。

 温かさの正体は、シンジの手を握るレイの手だった。

 スウスウと静かな寝息を立てて眠っているレイの寝顔。

 シンジは、じっとレイの顔を見た。

 白い。こういうのを病的と言うのだろうか、透き通るようなと言うのだろうか、とにかく白い。

 こんなに白くても一応は健康らしい。

 不思議な青い髪の毛。

 綺麗な顔のラインと目鼻立ちは、どこかで見覚えがある面影があるものの、シンジには思い出せなかった。

 それにしても…だ。

 薄紅色の唇に、つい目が行ってしまう。なぜだろう?

 レイは、起きる気配がない。

 シンジとて男だ。それも思春期真っ只中の。

 病室のベッドではあるが、ベッドの横で気になっている美少女が寝ていて、しかも起きる気配が全くない状態だとどんな気持ちになるか。

 レイの綺麗な寝顔に見惚れつつ、シンジは無意識に唾を飲んだ。

 恐る恐る、ゆっくりと、シンジの顔がレイに近づいていった。

 その時。

 

「シンジ君!」

「!? わあああああ!」

 

 バターンッと病室の扉が開いて音無が入ってきたので、シンジは体を起こして悲鳴を上げた。顔と首を真っ赤にして。

「大丈夫!? シンジ君!」

「し…心臓止まるかと思った…。」

「えっ!? 心臓が!?」

 びっくりしたという意味と、今自分がやろうとしたことについての羞恥によるものなのだが、音無は結構勘違いしている。

「ナースコールしないと!」

「あ、あ、ああ、ち、違います! びっくりしただけですから!」

「えっ、そうなの? よかった…! とにかく、無事で!」

 シンジの肩を掴み、項垂れ涙する音無に、シンジは、若干混乱した。

「えっ? あの…、何が?」

「…覚えてないの?」

「えっ…っと……、僕………………、そうだ…、またあの紫色のロボットに…、それで、…頭痛い……。」

 思い出した途端頭痛が走り、シンジは顔を歪めた。

 シンジは、額を押さえながら音無をちらりと見て、音無の顔の片頬に大きなガーゼが張ってあることに気付いて目を見開いた。更に青あざや、瘡蓋などが顔のあちこちにあった。

「お、おおお、音無さん、顔!」

「あ、これ? 大丈夫よ、これくらい。」

「で、で、でも…。」

「う……うん? 碇君?」

 その時、レイがやっと目を覚ました。

 目をこすりながら、寝ぼけた目でシンジの顔を見たレイは、みるみる内に目を見開いて。

「碇君!」

「わっ! あああああああああ、あや、なみぃ!?」

 ギュッと抱き付かれてシンジは、茹蛸のように真っ赤になった。

「………よかった。」

「っ…。」

 ぽつりと呟かれた言葉で、レイがどれだけ心配していてくれたのかが分かって、シンジは我に返った。

 

「目が覚めたのね?」

 

 そこへ、リツコが現れた。

 リツコの姿を見たシンジは、頭の中にハテナマークが浮かんだ。

「あらあら、お邪魔だったかしら?」

 と言ってクスクス笑われ、シンジはますます混乱した。

「レイちゃん、そろそろ離してあげなさい。」

 音無が苦笑しながらレイをシンジから引き離した。レイは不満そうにしていた。

「気分はどう? 頭が痛む?」

「えっと…、ちょっと頭が痛みます…。」

「そう…、しばらく痛みは取れないでしょうけど、頭痛薬でも処方したほうがいいかしら?」

「あ、あの…。」

「なにかしら?」

「あなたは、誰ですか…?」

「…まあ、あれっきりだったし覚えてなくても仕方ないわよね。私は、赤木リツコ。ネルフの科学者で、あなたが乗ったエヴァンゲリオンを作って管理していたのよ。」

「えっと…、うーん。ここまで出かかってるんですけど。」

 と言って喉を示すシンジに、リツコはクスッと笑った。

「もしかして覚えてないのかしら? 最初のあの時よりはマシみたいね。」

「最初? ………あっ。」

 言われて、何のことかと思い出そうとしたシンジは、あの恐怖と衝撃を思い出し顔を青くした。

 音無が慌ててシンジの背中を摩った。

「碇君。」

「…、ハアハアハア…。だ、大丈夫。」

 汗が噴き出て呼吸が荒くなるが、心配するレイにシンジは、笑顔を向けた。

「その様子なら、問題なさそうね…。私はこれで失礼するわ。ゆっくり休みなさい。」

 そう言ってリツコは、笑顔を浮かべ、病室から出ていこうとした。

「赤木博士。」

 レイが、リツコを呼び止めた。

「どうするかはあなたの自由よ。」

「…はい。」

 リツコは、振り返らずそう言うと今度こそ出て行った。

 リツコが出て行った後、レイは、何かを決心したような表情をして音無に向き直った。

「音無博士。お話を聞いてもらえますか?」

「なに? ここじゃ言えない話?」

「?」

 レイは、音無に話があると言った。シンジは首を傾げレイを見た。

「はい…。」

「そう…、じゃあ、隣の空き病室で話をしましょう。」

「はい。」

 レイは、音無と共に隣の空いている病室に行った。

 残されたシンジは、何を話しているのか気になったが、盗み聞きするわけにはいかないのでここにいることにした。

 

「シンジ君!」

 

「尾崎さん!」

 病室の扉が開いて、尾崎が飛び込んできた。

「よかった! 無事だったんだね。」

「はい。なんとか…。あ、音無さんが…。僕のせいで…。」

「君の責任じゃないよ…。悪いのは……、君の、お父さんだ。」

「……父のせいなんですよね。」

 シンジは、音無と自分を誘拐したのが自分の父であるゲンドウであることを覚えていた。

「やっぱり僕のせいだ。僕がいたから音無さんが巻き込まれたんだ。」

「そんなこと言ってると美雪にデコピンされるぞ?」

「でも…。」

「君のせいじゃない。いいね?」

 強く、言い聞かせるように言われ、シンジは、それでも食い下がったが、仕方なくといった様子で頷いた。

「君のお父さん。碇ゲンドウは、地球防衛軍が管理する監獄に送られた。」

「……当然だと思います。」

 シンジは、恐怖の対象だった父親が最凶最悪と謳われる監獄行きになったと聞いても何も感じなかった。それほどまでに情は無くなっていたらしい。

「シンジ君は賢いから、何も言う必要はないね…。」

「あの人がそれだけのことをしたのは理解しているつもりです。」

 シンジは、どこか自虐めいた笑みを浮かべて見せた。

 尾崎はそれを見て、これ以上言うのはよくないとこの会話を終わらせた。

 するとそこへ、レイと音無が戻ってきた。

「ミユキも来てたのか。」

「尾崎君、シンジ君。大事な話があるの。聞いてくれる?」

「……。」

 真剣な表情でそう言う音無と、音無の隣で黙っているレイに、尾崎とシンジは、顔を見合わせた。

 

「碇君…、尾崎さん……、私……、人間じゃない。」

 

 レイが、語った。

 自分は人ではないのだと。

「正確に言うと、人間と使徒の混合らしいの。」

「…どういうことだ?」

「火傷するのよ。」

「やけど?」

「ツムグの体液で。」

「!」

 それが意味することを理解し、尾崎は目を見開いてレイを見た。

 レイは、無言で右腕の包帯を外し、火傷を見せた。

「それ…、ツムグにやられたのか?」

「違う…。雨が…。」

「影のような使徒の時にツムグの体液を散布したでしょ? それを浴びたらしいのよ。」

「綾波? どういうことだよ?」

「碇君…、私…。」

「綾波が人間じゃない? なんで?」

「私は、あの人に…作られた…。人形だった。」

「あの人って、碇ゲンドウのことでしょ。」

「!?」

「レイちゃんには悪いけど、あなたが保護された時に細胞の検査をしたのよ。」

「そう…。」

 レイは、すでに調査が及んでいたことにそれ以上は追及しなかった。自分の容姿が人間離れしていることは自覚していただけに。

「詳細情報は、赤木博士から直接聞くしかないけれどね…。」

「私が頼んだって言えば…、私の資料…、送ってくれるかも。」

「本当にそれでいいの? 黙っていることだってできたはずよ。」

「ダメ……、今のままじゃ……、私……、ゴジラ……が、来る。」

 レイは、胸の前で両手を握り俯いてそう言った。

 それを聞いた三人は、驚愕した。

 レイが使徒の要素を持つせいで、いずれはゴジラを呼び寄せる可能性を秘めていることに。

 今のところゴジラは、使徒を倒すことに優先し、その次にエヴァンゲリオンを破壊する(一部無視したりと気紛れを発揮しているが)。

 それが全て終わった後どうなるか。考えもしなかった。今が精いっぱいで。

 もし少しでも使徒の存在に過敏に反応するのなら、レイのような存在を見逃すだろうか?

 少しのG細胞に反応するゴジラが見逃すとは思えない。

「みんなを……、死なせたくない。」

「レイちゃん…。」

 レイが微かに震えていることに音無が気付いた。

 音無は、レイの肩を掴んで。

「大丈夫! 私達があなたを救う方法を探すわ!」

「でも…。」

「でもじゃない! 可能性はあるわ!」

「み、ミユキ。」

「だって、あのバカがこんなこと見逃がすはずがないじゃない!」

「! それもそうか、なんであいつはいつも黙ってるんだろうな。」

「あ、あの…、話が見えないんですけど。」

「???」

 何か心当たりがあるらしい音無と尾崎の反応に、シンジもレイもハテナマークを浮かべていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「……なあ。」

「……。」

「常々バケモノだって思ってたけどよ…、改めてバケモノだって思い知ったって感じだぜ。」

「そうだな…。」

 

 ツムグの監視ルームで、そんな会話が行われていた。

 機龍フィアがドッグに収容された後、凄まじい高温に曝されていたツムグが操縦席から運び出された。

 まずハッチを開けた時の、人肉が蒸し焼きされている時の独特の悪臭が立ち込め、そして運び出されたツムグの有様に嘔吐する者達が続出。

 骨までじっくり蒸し焼きされたというのに、あっという間に全回復。

 これをバケモノと言わずしてなんという。そんな話でもちきりだった。

 ちなみにツムグが発見された当初から、彼の体を使った人体実験に立ち会ったことがある古参は、生きたまま数千度の熱で焼くという実験があったのを知っていたので蒸し焼きされてもすぐに回復したことについてあまり驚きはしなかった。

「うふふふ…、さすがです、痺れちゃいますぅ。」

「いやいや、ナッちゃん痺れちゃだめだよ。」

 全裸のツムグがナツエに背中を拭いてもらっていた。

 看護師のナツエは、ツムグの身の回りの世話などを任されている。

 皮膚も肉もすべて再生したことで、スベスベになっており、ほんのり赤みを帯びた皮膚はまだ熱をもっている。その肌をうっとりとした顔をして拭いている。

「まるでオーブンで焼かれる豚の丸焼きみたいな状態だったのに逆再生したビデオみたいに治っていくんですもの。すごいですよぉ。」

 嬉しそうにツムグの体を拭きながら言ってくるナツエに、ツムグは微妙な顔をしていた。

「正直、あんまり嬉しくないかな…。」

「そうですかぁ? 不老不死って大昔からの永遠の憧れだと思うんですけどぉ。」

「俺は、不老不死じゃないよ。」

「またまた~。」

「いつか死ぬよ。いつか、ね。」

 ツムグは、そう言って微笑んだ。

 ナツエに着替えを手伝ってもらったあと、ツムグは立ち上がった。

「どこか行くんですかぁ?」

「ちょっと、大事な話をしにね。」

「いってらっしゃ~い。うふふ。」

「いってきまーす。」

 ナツエに向かってひらひらと手を振り、ツムグは、その場から消えた。

『……なぜ止めない。』

「止めても止められないですよぉ。」

 監視ルームからのツッコミに、ナツエは肩をすくめて答えた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 ツムグがテレポートした先には、尾崎と音無がいた。

「ツムグ! いいところに来たわね。」

「二人が俺のところに尋ねに来ると思ったから、手っ取り早くこっちから来たよ。」

「そうか。なら話は早いな。」

「あの子…、レイちゃんのことでしょ?」

 ツムグがそう言うと、音無がジトッとツムグを睨んだ。

「やっぱり知ってたのね?」

「あの子が普通じゃないってことは、自分の口から言った方がいいと思ったんだ。それにまだゴジラさんは気付いてないし。まだ時間はある。」

「彼女をゴジラから守ることはできるのか?」

 尾崎が聞くと、ツムグは大げさにう~んと唸って考える恰好をした。

「微妙だね。」

「びみょうって…。」

「言葉のままだよ。こればっかりは、俺もどうしようもないっていうか…。賭けになる。」

「かけ?」

「あの子を完全な人間にすることができるよ。」

「なんだって!」

 まさかの言葉に二人は驚いた。

「ただし。」

 ツムグが人差し指を差し出した。

「賭けになるって言ったよね? 失敗すればあの子は確実に死ぬ。」

「何をする気なの?」

「俺の血…、いや体液…、まあ何でもいいけど、骨髄液が一番いいかな? それをうす~~~くしたのを一定量注射するだけ。」

「…そ、それだけ?」

「濃度と量間違えたら、即死。」

「賭けもいいところだろ!?」

「身長とか体重とか、その時の体調とか…、一番は本人の生きたいって意思力に関わって来るから、言いたくても言えなかったんだよね。だってあの子、最初の頃死にたがりだったわけだし。」

 レイは、地球防衛軍に保護された最初の頃は、消えたいという願望に取りつかれており、実際に自殺未遂(シンジにより未遂で終わる)をしている。

 また人間らしさというものが薄く、最近になってかなり人間らしい部分が強まったと思われるが…。

「これって成功すれば、俺の体液で死なずに健康になるってとうの昔に諦められてたことが叶うんだよね。ただ個人差があるからさ…。ほんと一発勝負になるよ。それでも人間になりたいならやってみるかどうか、あの子に聞いてみたら?」

「そうなったら一気にツムグの細胞の有用性が高まるってわけね。」

「それは、俺としてはよくない傾向なんだよね~。」

 ツムグは、複雑そうに顔を歪めた。

「ツムグは嫌なのか?」

「嫌って言うか、よくないなって思ってる。人間ってさ便利な方に行っちゃう癖があるから、色々間違えちゃうじゃん? 俺みたいなのに頼るのはダメだよ。」

 ある意味で死にたがりのツムグにしてみれば、戦って死ぬために生かされていることより、人類のためだとかそういう大義のために生かされることに抵抗があった。

 ましてやナツエが言っていたように、不老不死などと言われるのは…。

「でもさ、目の前で泣いてる子供がいたら、それはもっとよくないから、こうして来ちゃったわけなんだけど。」

「ツムグ…。」

「ほんとに賭けだから。はっきり言って確率は、10パーセントもないと思う。」

「ゼロ…ではないのね。」

「0パーセントじゃない。それだけは言える。」

「分かった。」

「でもさ…、あの子俺のこと怖がってるんだよね。そこんとこ大丈夫かな?」

「…なんかやったの?」

「何もしてないって。たぶん本能? が…、俺を拒否ってるじゃないかな。全身の細胞が生まれ変わる以前に、恐怖のあまりにショック死起こさなきゃいいけど…。」

「不吉なこと言わないで!」

「ミユキちゃん達だけじゃできないから、防衛軍の科学部とか、赤木博士とかの協力がいると思うよ。まずは、資料請求。そこからだと思う。」

「言われなくてもそうするしかないわ。」

「よろしく頼むよ。」

「ツムグ、ありがとう。」

「どういたしまして。」

 ツムグは、そう言って笑った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 その後、あっという間に、レイが純粋な人間ではないことが広まった。

 

 自分とは違うものに過敏になるのは、生物の本能として当たり前と言えば当たり前である。

 青い髪の毛、赤い瞳、白すぎる肌。綾波レイは、見た目から人間離れしていた。

 彼女自身の立ち振る舞いもあり、他人と親しくなかった彼女であるが、地球防衛軍では意外にもすんなり受け入れられていた。

 それは使徒の要素を持っていると事が周りに知れても変わらなかった。

 そのことに一番驚いたのはレイ自身だったりする。

 

「人外って言ったら、あいつがいるから慣れているのもあるんだろうな。」

 

 食堂にいる同僚がそう言ったので、レイは目を丸くしたのだった。

 あいつとは、椎堂ツムグのことである。

 

「人間じゃないって言ったら、尾崎君達もそうじゃないって言えるでしょ? 一々気にしてられないわよ。」

 

 志水にそう言われ、レイは、あっと声を漏らした。

 人間じゃないと言ったら、ミュータントと呼ばれる者達もそうなる。

 G細胞完全適応者と呼ばれる人外であるツムグがちょろちょろして、周りが慣れたというのが一番大きいかもしれない。

 それになにより……。

 

「人外って最高じゃないですかぁ。」

 

 なんて言うマッドな人間達がいるのだ。

 さすがにこれにはレイも若干引いた。

 

「わたしは君には興味はあまりない。」

 

 っと、40代そこそこの白衣にメガネという見るからに研究者という見た目の男、阿辺(あべ)が言った。

 彼は、レイの体細胞の検査をした中心人物なのでレイの体の検査を担当した。

「奴の印象が強すぎるから案外君に興味のある人間は少ないんじゃないかな? 生きたまま解剖されるなんことはないだろうから安心したまえ。」

「……。」

 そう言われて、レイは、ちょっと複雑だった。

「とは言え、奴の体細胞を使った実験には興味があるから参加したがってる人間は多いよ。もちろん私も。」

「…奴というのは、しどうつむぐのこと?」

「そう、そいつ。ところで一応聞くが、君は頭部を粉々にされても復活するのかい?」

「……無理です。」

「そう、それは残念だ。やはり私好みじゃない。」

 

「頭を粉々が好みとか、それどうなの?」

 

「ショット!」

「おおっと!」

 すかさずツッコミを入れて来た神出鬼没のツムグに向けて、どこから出したのかショットガンを、躊躇なく頭に向かって撃つ阿辺。間一髪で避けるツムグ。

「こら、壁に穴があいじゃないか。避けるんじゃない。」

「血と脳をぶちまけて汚す方がいいって?」

「それで、何しに来たんだ?」

「んー。ちょっとね。」

 ツムグは、そう言いながらレイの方を見た。

 ツッコみができる人間がいたら、上記の物騒なやり取りを日常会話みたいにやっていることについて、危なすぎる!っとツッコんでいただろう。

 ツムグの視線を受けたレイは、びくりっと体を震わせた。

 ツムグは、無言でレイを見つめた。レイは、たらたらと汗をかき、不安と恐怖を和らげるためか胸の前で手を握った。

 それから数分ぐらいだろうか、その状態が続いた。

 やがてツムグが、フッと笑い。

「俺が怖い?」

 レイは何も答えなかった。

「俺は君に危害を加えるつもりはかけらもないけど?」

「……。」

「君達には幸せになってほしいって思ってるんだけどな…。」

「っ…。」

「怖がるのは悪いことじゃない。君はどうしたい? 生きたい? それとも死にたい?」

 ツムグの問いかけに、レイは、唇を微かに震わせた。

「………た、ぃ。」

「ん?」

「…生き…たい。」

「よく言えました。じゃっ。」

 そう言って笑ったツムグは、姿を消した。

 ツムグがいなくなり、レイは、ヘナヘナと崩れ落ちた。

「まったく、何をしに来たんだ、あいつは。大丈夫か?」

「……。」

「大丈夫そうだな。」

 全然大丈夫じゃないのだが、そう判断された。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 一通りの検査を終えたレイが廊下を歩いていると、廊下の先にシンジが立っていた。

「碇君…。」

「あ…。」

 レイの声でシンジがレイの方に振り返った。

 しかしすぐに目をそらされてしまい、レイは、俯いた。

「…ごめんなさい。」

「なんで謝るの?」

「だって私は…。」

「人間じゃないのは聞いた。音無さんからも聞いた。」

「それだけじゃないの。私は…。」

「母さんのこと?」

「えっ? ……聞いたのね。」

 シンジは、音無から聞いていた。

 リツコから渡されたレイについての資料に、碇ユイ…つまりシンジの実の母親のことが記されており、レイとどういう関係にあるのかを。

 検査結果と資料から、レイは、シンジとは従弟くらい離れた位置にいるということが分かっている。

「私は存在してはいけなかったのかな…。」

「なんだよそれ…、死にたいってこと?」

「あ…、ちが…。」

「あの時僕が助けなきゃよかったって思ってるってこと?」

「違う!」

 レイは、すぐに否定した。

「碇君がいたから私は今ここにいる。碇君いたから…。」

「音無さんから聞いた…。綾波が完全な人間になる方法があるって。でも、死ぬかもしれないって聞いた…。」

「……死ぬ確率がずっと高いらしいわ。」

「……。」

「ねえ、碇君……。」

「…なに?」

「…私、生きていてほしい?」

 レイは、胸の前で手を握って、俯いて弱い声で聞いた。

 シンジは黙ってしまった。

 レイは、手が震えるのを抑えるように手首を握った。

 そして。

 

「綾波が好きだ。」

 

「……えっ?」

 その言葉に、レイは顔を上げた。

 シンジは俯いており、肩を震わせていた。

「…今の忘れて。」

「あっ。」

 シンジは、早口でそう言うと、背中を向けて走り去ってしまった。

 レイが伸ばした手は空を切った。

 レイの足元に、ポタリッと水滴が落ちた。

「あ……、これ、なみだ? 泣いてるのは…、私?」

 次々に目から溢れ出てくる涙に、レイは、驚いた。

「私…、私は…。」

 涙を止めようと目をこするが、なかなか止まらない。

 そうしてレイは、しばらく泣いた。

 なぜ泣いているのかその理由がわからないまま。

 

 

 

 




なお、この様子をツムグは、覗きしています。(覗き常習犯)


ツムグは、純粋(?)に、二人を応援しているだけだし、レイを人間にするよう導こうとしているだけです。


コレ書いた当時、すっごい顔を赤くしながら書いた記憶があるような……。(恋愛物には耐性が無い筆者)


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第二十八話  初恋は結ばれて

シンジ告白後。


レイの背中を押したのは?





ほとんどコピーペースト……、そして短め。
これ以上長くも出来なかったし、展開も思い付かなかった。


「…っっっ!」

 ツムグは、手術用ベットの上で顔を両手で押さえてゴロゴロ転がっていた。

「……なに悶絶してやがるんだ。」

「いやぁ…、甘酸っぱい展開があったからさぁ…。」

 ついには感涙までするので、手術着姿の研究者は気持ちわりぃな…っと呆れ返った。

「お前は、昔も今も、何が何だかさっぱりだ。」

「で、使えそう?」

「切り替え早いな。それについては無問題だ。…腹立たしいほど素晴らしい結果だ。」

 今やっている作業と検査は、ツムグの骨髄細胞を抜いて、レイを人間にする実験に使えるかどうか調べることだった。

 結果は、問題なし。

 レイから採取した細胞に使用する実験が近々行われる予定だ。

「科学部的には、あの子のこと、どうしたいわけ?」

「それをおまえに言う必要があるんだ?」

「聞いてみただけだよ。」

「他の連中がどう考えてるかは知らんが、おまえの体液で全身の細胞が作り変わった初の生きた症例として記録には残るんじゃないか?」

「あの子が人間として生きていくぶんには問題なしっぽい?」

「さぁな、そっちは専門外だからなんとも言えないが、隔離する理由がないんならそうなるんじゃないか?」

「そっか。」

 ツムグは、手術台の上で寝返りを打った。

 研究者から見えない位置で、笑った。

「…ひとつ気になることがあるとしたら…。」

「なになに?」

「あの少女は…、月経がないらしい。つまり子供が作れないということだ。おまえの細胞の投与が行われたらどうなるか分からんが。今のままだと将来的に支障が出るんじゃないか?」

「その点は問題ないと思うよ。」

「おまえがそう言うならそうなんだろうな。」

 そこら辺は変な意味で信頼はある。それもこれもツムグの予言の的中率の高さ故だ。

 

 レイの体に、ツムグの細胞を投与する実験は着々と進んでいった。

 

「おーい、椎堂ツムグはいるかー?」

「はいはーい、いるよ~、な~に~?」

「波川司令がお呼びだ。」

「分かった。ありがと。」

 ツムグは、飛び起きるようにして手術台から降りて部屋から出て行った。

「なあ、聞いたか?」

「なにが?」

 ツムグを呼びに来た男が、話しかけた。

「ほんとかどうかまだはっきりしてねぇんだけどな…。実は…。」

 ヒソヒソと話された内容に、話しかけられた側は目を見開いた。

「なに~!? 世界ロボット競技大会!」

「声、でけぇよ。」

「ま、まさか…、あいつが呼ばれたのって…。」

「そうなんじゃないのか? はっきりしてねぇんだけど。」

「…機龍フィアって100パーロボットじゃないぞ?」

「そこらへんはうまく誤魔化すんじゃないのか? 知らねーけど。」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 一方そのころ。

「………そんなところで何をしている?」

 風間は、通路の隅で座り込んで体を小さくさせているレイを見つけた。

 レイは、びくりっと震えて顔を上げた。

 もとから赤い目を赤く腫らし、頬に涙の痕を作ったレイの顔を見て風間は顔をしかめた。

「泣いてたのか?」

「あ……。」

「何があった?」

 尾崎と違い遠慮のない口調で風間は語りかける。

 レイは、少し怯えながらポツリポツリと何があったのか話し始めた。

 話を聞いた風間は、呆れたように息を吐いた。

「それでこんなところでベソベソしてたっていうのか? おまえは何がしたいんだ?」

「私…は…。分から…ない。」

「シンジに好きって言われて、おまえはどう思ったんだ?」

「どう……。」

 レイの目からまた涙が零れた。

「なんで…涙が……。」

「………嫌だったのか?」

 風間が聞くと、レイは、ふるふると首を横に振った。

 風間は、イライラとした様子で頭をかいた。

「そいつは、嬉し涙だ。」

「うれし…?」

「涙ってのは、嬉しくても出るんだよ。」

「私…、碇君に……、言われて…、嬉しい?」

「それはおまえの気持ちだ。俺が知るわけない。」

「私の気持ち…。」

「…言ってくりゃいい。」

「えっ?」

「どーした? シンジに返事をしないままでいる気か? 告白されたんなら、好きか嫌いか返事を返すのが常識だ。行ってこい。」

「でも…。」

「いいから、行ってこい!」

 風間の苛立った声にレイは、ビクッとなったが慌てて走って行った。

 残された風間は、ヤレヤレと後頭部をかいた。

 

「へ~え、風間少尉ってばやるじゃない。」

 

「うぉ! 音無…博士。それに尾崎!」

 後ろから音無の声がして驚いて振り返ると、音無と尾崎がいた。

「風間がレイちゃんの背を押したんだ。」

「俺は別に…。ただイライラしただけだ。下手に長引かせて拗れるよりは、マシだろ…?」

 ばつが悪そうにそっぽを向く風間に、尾崎は終始ニコニコしていた。

「それにしてもシンジ君がレイちゃんに告白か…。うまくいくといいわね。」

「そうだな。」

「……。」

 音無と尾崎は、純粋に二人の恋の成就を祈り、風間は風間でレイを導いたことに今更ながら照れ臭くなり、ぼりぼりと頭かいていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 シンジが自分に与えられている寮の部屋に帰ろうとしていた時だった。

「碇君!」

「綾波?」

 走ってきたレイに、シンジは驚いた。

「どうしたのさ?」

 レイは、走ってきたため息を切らしていた。

「……き…。」

「えっ?」

「…碇君…の……こと…。」

 レイの目から涙が零れた。

 表情が乏しかったレイの顔は、涙でくしゃくしゃになった。

「…す…き。」

「……えっ!? 綾波…、今、なんて…。」

「いかり、君が…、しゅ…き……、好きっ。」

 レイは、目をこすりながら必死に言葉を紡いだ。

 シンジは、目を見開き、ポカンッと口を開けた。

「私も……、好き。碇君が好き。」

 頬を染めて、泣きながらレイは、…笑った。

「あ、綾波…! ほ、ほんとに?」

 シンジの顔が真っ赤になった。

 レイは、こくりっと頷いた。

「ほ、ほ本当に、いいの?」

「なにが?」

「僕なんかで…、いいの…?」

「碇君だから。」

「あ、綾波~!」

 感極まってレイの肩を掴もうとしたシンジだったが。

 

 っとその時。

 ぐうううっという腹の虫が鳴った。

 

「……、お腹すいた。」

 レイのお腹だった。

 検査のため絶食していたためだ。

 地球防衛軍に来てからというもの、結構食いしん坊になっていた。

「あは…は、はぁ。なんか作ろうか?」

 雰囲気が壊れたため、シンジは、ふらつきそうなりながらそう言った。

「卵丼。」

 賄いで食べて以来、レイのお気に入りの料理だ。

「分かった。作ってあげるよ。」

「うん。」

 レイは、嬉しそうにこくりと頷いた。

 シンジは、自分の部屋にレイを招き、卵丼作った。

「いただきます。」

 両手を合わせて、レイは、箸を丼に向けた。

 箸で、出汁で煮込まれた半熟の卵とご飯を持ち上げ口に運ぶ。

「…美味しい。」

 ホワンッと、素直な自然な表情を浮かべるレイ。

 食堂で働き始めてから、美味しい物を食べるのが幸せなことなんだと知ったらしい。

「おかわりいる?」

「うん。ねえ、碇君。」

「なに?」

「私が人間になったら…、またサンドイッチを作って、食べたいの…。碇君と一緒に。」

「綾波…。うん。いいよ。」

「私、生きたい…。碇君と一緒に…、生きていきたい。」

「僕も…、綾波と一緒に生きたい。」

 レイとシンジは、見つめ合った。

「碇君…、あのね。」

「なに?」

「…………怖いの。……だから…、触って。」

 レイがもほんのり頬を染めて言った言葉に、シンジは、吹きだしかけた。

「ええええ!? 綾波、どういう意…。」

「こう。」

 シンジが混乱していると、レイは、シンジの両手首を掴んで引っ張り、ちょうどレイの体を抱きしめるような形に持って行った。

「あ、綾波!?」

「こう……ぎゅ? して。」

「っ!」

 つまり抱きしめろと言われ、シンジは、真っ赤になって固まった。

 レイが、上目づかいでシンジに潤んだ目を向けてくる。

 シンジは、呼吸が乱れそうになるのを押さえながら、レイの体を抱きしめた。

 その体の細さに驚き、レイの体温が低いことにも驚かされた。

 でも…、密着した個所から、レイの鼓動の速さが伝わってきて、シンジは、たまらずゴクリッと唾を飲んだ。

「碇君…、あったかい。」

 レイがシンジの体にスリスリッと頬をこすりつけてきたため、シンジは、顔真っ赤かなり、悶絶しそうになった。

「碇君、実験が始まる時も、またギュッてして。」

「う…、うん。」

 落ち着けー、自分落ち着けーっと心の中で自分に言い聞かせながらシンジは返事をした。

「碇君にギュッしてもらったら、怖くなくなってきた。」

「そ、そう、よかった、ね…。」

「…ずっとこうしていたい。」

「……ぼ…、僕も…だよ。」

 二人はしばらく、抱きしめ合い続けた。

 それが終わりを告げたのは、火にかけていた卵丼の出汁が焦げた匂いが部屋に充満してからのことだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「いや~、めでたいめでたい。」

 

「どうしたの?」

「ちょっとね。それはそうと、波川ちゃん、マジで機龍フィアを大会に出すの?」

 波川の執務室で、ツムグは波川の机に腰かけながら言った。

 ついでにM機関の売店で買った駄菓子をポリポリと貪ってもいる。(※波川にも分けている)

「MOGERAも出します。」

「地球防衛軍の宣伝のためとはいえ、対ゴジラ兵器を出さなきゃいけないのかぁ…。」

「一般へのお披露目でもあるわ。機龍フィアにたいする反感を少しでも緩和できればと。」

「…使徒にやられた時(※使徒イロウルに乗っ取られた)に、街中を突っ切っちゃったから…。」

 あの時の被害から、機龍フィアへの反感と、その運用反対を掲げる運動が起っている。

「3式機龍の時もそうだ。街中で暴れたし。」

「その反省を踏まえての4式開発計画だったのよ。」

「使徒はどうしようもなかったわけだけど、一般人は納得しないよね。どこかにぶつけないとやってられないわけだしね~。」

「競技大会で、メインとして、機龍フィアには、模擬戦を行ってもらうわ。」

「対戦相手は?」

「ジョットアローン。通称、JA。」

「…秒殺しないように心掛けるよ。」

 名前を聞いた時点で勝負にならないと思ったのは、黙っておく。

「お祭りと思って気楽にやりなさい。」

 それは波川の方も思ったことらしい。

「あっ、ふぃあちゃんがそこらへんのこと理解してくれるかどうか分かんないから、事前に話しとくよ。」

「うまく制御しなさい。」

「…がんばる。」

 ピシッとツムグは、敬礼した。ちなみにツムグには軍位はない。地球防衛軍に貢献しているが、正式には地球防衛軍に監視されている身であって、兵隊とかでもなんでもないのだ。

 機龍フィアのDNAコンピュータに宿る自我意識“ふぃあ”をいかにして、暴走しないようにするか。そこら辺が鍵になりそうである。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 第三新東京で、バルディエルに乗っ取られたエヴァンゲリオン参号機は、ゴジラに惨殺された。

 そして、ゴジラに破壊されたエヴァンゲリオン初号機。

「これ…、回収する意味あったのか?」

 ゴジラの熱線で超ウェルダンの焼き加減の初号機。ウェルダンってか、炭とも言うか?

 初号機の方は、散々潰されて原型がないうえに、ゴジラの放射熱線でとどめとばかりに焼かれたため、もはやこれが初号機だったと分かる人間はいないというありさまである。

 辛うじて骨だったと思われる箇所が残っていたことと、ネルフを守る要である特殊装甲板の修理のため重機が入った際に、抉ってみると生の組織が出たことから回収が決定され、運び込まれたのである。

 炭化した部分を剥がすと、確かに生きた細胞と思われる物が出てきて、面白い物が見つかったとマッドな科学者達は喜んでいた。

 

 ところで、なぜゴジラがエヴァンゲリオンを無視したかについては、ツムグは。

 

「俺、あの時蒸し焼きされてる真っ最中で、ゴジラさんの思考を見る余裕なかったんだ…。」

 

 機龍フィアの中から引っ張り出された時の惨状を思えば、余裕がなかったのだろう。

 ツムグは、すごく落ち込んでそう答えたのだった。本当は蒸し焼きされただけじゃないのだが…、頭クラクラだったことは蒸し焼きの段階で忘れられた。

 ツムグがあの時のゴジラの思考を読み取っていない以上、なぜ弐号機と四号機を無視したのかその理由は謎のままになった。

 

 二人のチルドレンであるが、あれからアスカは牢屋から出されたものの、ケンスケを見つけると殺しに行く勢いで襲いかかるため完全に二人を会わせないという決定がされ、ケンスケは、ホッとし、アスカは、自分よりケンスケなのかと塞ぎ込み、かなり面倒なことになっている。

 

 ゴジラに無視され命拾いしただけなのだが、ケンスケは、きっとゴジラは自分を恐れてるんだっとか、自分は英雄(ヒーロー)になれるんだっとか、トンチンカンなことを言っているが、保護者をしていたミサトがいない今、話をまともに聞く相手はいなかった。それでもベラベラと増長した妄言を吐く様は、一種狂っていると言っていいかもしれない。

 

 

 

 

 




レイって卵食べれたっけ?
肉は苦手って言ってたけど。ニンニクラーメン、チャーシュー抜きって言ってるぐらいだし、卵や出汁程度ならだいじょうぶかな?


リメイク前のIF短編で、確か読者さんからのアイディアで、レイを風間の妹にするっていう展開もありました。(この場合、シンジの相手はアスカ)


このネタでのレイは、周りの刺激を受けて人間部分が強まったことで暢気で食いしん坊になっております。シンジにベタベタしているのは無自覚です。


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第二十九話  ロボット、ロボット!?

JAとの模擬戦闘。



ほぼほぼコピーペースト……。

これ以外に展開が思い付かなかった……。


 

 ポンポンパンパンと花火が舞う。

 軽やかな音楽がお祭り気分を盛り上げ、屋台も軒を連なりたくさんの人々が行きかっていた。

 

 世界ロボット競技大会。

 

 ゴジラやら、使徒やらが暴れているご時世にそんな悠長なことやっていたいいのかという意見もあるが、こんな時だからこそ盛り上がる楽しいイベントが必要なのである。

 ちなみに開催地は、アメリカだ。

 

「盛り上がってるな~。」

「ツムグさぁん、牛串買ってきましたぁよぉ。」

「ナッちゃん…、無理してついてこなくても…。」

 なぜかいるナツエに、ツムグは苦笑いを浮かべながら振り返った。

「え~、でもツムグさん体調万全じゃないんですよぉ。だから来たんですよぉ。心配でぇ。」

「あ~…、そう。ありがとう。」

 ナツエからの心配については素直にお礼を言いつつ、牛串を受け取るツムグ。精神感応でちょっと見えたナツエがついてきた理由は…、レイと話をしたことであるということが分かっている。レイに危害が加わらないようについて来てもらって正解だったかもしれないと思ったのは言わないでおく。刺されたらシャレにならん。

 ちなみに二人がいるのは、地球防衛軍に割り振られたエリアで、人目に付かないトラックの中である。外の状況は、トラック内のコンピュータ機器のモニターで見ていた。

 G細胞完全適応者であるツムグのことは、一応秘密事項となっているので人目に付かない場所にいるよう命令されていた。機龍フィアのパイロットがツムグであること自体が機密となっているというのもある。

 まあ、もっとも、ツムグのことを一目で分かる人間は、部外者ではほとんどいないのであるが。なにせ発見されてからかれこれ数十年経過しているからだ。

 G細胞完全適応者という単語は、本などにも記載されているが顔までは載っていない。その理由については、外見が全く変わらないからだという諸説がある。

 また地球防衛軍が、1度は消滅寸前まで追い詰められた結果、これまで貢献してきた陰の功労者であるツムグの知名度が自然消滅しつつあったのもあるかもしれない。

「機龍フィアの方はどうなってるかな?」

 現在機龍フィアは、展示会場の方に置かれていた。

 その隣には、修理が終わったMOGERA。それと他のロボット達と並んで立たされているのを、見物客や様々な業界人達が見て回っている。

 ちなみに二体とも他のロボット比べて巨大であるため特に目立っていた。

『ツムグ~、つまんない!』

 ツムグの目の前にあるコンピュータ機器から、ふぃあの声が響いた。

 機龍フィアのDNAコンピュータから、自我意識のふぃあがトラック内のコンピュータに人格が移されている状態なのだ。

「がまんがまん。」

『え~、ヤだ!』

「いい子にしてたら褒めてあげるから、じっとしてて。」

『ウ~~~、…分かった。』

 こんなにたくさん人がいる状況で100メートル級メカがジタバタされたら大惨事なので抑えないといけない。それこそイロウルに乗っ取られた時より人が密集している分、酷いことになること間違いなし。

「よしよし。がまんがまん。…ん、固い。」

 ツムグは、コンピュータを撫でながら牛串を齧った。お祭りの牛串だしこんなものだろう。

 噛みごたえがある無駄に脂っこい肉(たぶん牛脂注入の加工肉)を噛んでいると、ふいにツムグは、動きを止めた。

「? どうしたんですかぁ?」

「ん~…、ちょっとね。」

「あなたの“ちょっとね”は、すごく大変な事じゃないかと記憶してますけどぉ。」

「……よくないことが起きそうだなって思って。」

「はっきり見えないんですかぁ?」

「ただすごく嫌な予感だけがする。はっきりしてることは…、ここ(ロボット競技大会)じゃ起きないことだってことだ。ロボット競技大会は無事に終わる。それだけは確か。」

「こんなご時世ですしねぇ。」

 ゴジラの復活。使徒の出現。何よりセカンドインパクトの爪跡が酷い崩壊した地球。

 こんな環境でも人間はしぶとく生きている。

「なんだか楽しそうだね、ナッちゃん。」

「ツムグさんの預言が当たる瞬間が楽しいんですよぉ。うふふふ。」

「もしもの話だよ…。もしも、ナッちゃんが死ぬって預言をしたらどうするの?」

「うふふ…、その時は私のことを少しは想ってくれますぅ?」

 ツムグの後ろからツムグの肩に手を置き、寄りかかって来るナツエ。

「それは、その時にならなきゃ。」

 ツムグは、そう言って微笑んだ。

「ところでデザートにカキ氷が食べたいな~。ブルーハワイで。」

「は~い、分かりましたぁ。ちょっと待っててくださいねぇ。」

 ナツエにカキ氷を頼んで、ナツエがトラックから出て行った後、入れ替わりに波川が来た。

「波川ちゃん。」

「ツムグ。あと2時間でJAとの模擬戦闘を始めるわ。準備をしなさい。」

「了解。」

 ツムグは、そう言って立ち上がった。

「そういえば、JA作った時田って人が俺に会いたがってたんじゃなかった?」

「機龍フィアのパイロットは、秘密。あなたのことを一目で分かる人間がそうそういなくても、G細胞完全適応者がパイロットだということを知られるわけにはいかない。」

「そうか。」

「カキ氷持ってきましたぁ。あっ、波川司令。」

「ナッちゃんありがと。」

 波川の横を通り過ぎ、ナツエからカキ氷を受け取ると、ツムグは、トラックから出て行った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 ロボット競技大会のメインとも言える巨大ロボット同士の模擬戦闘イベントを、お客達は心待ちにしていた。

 模擬戦闘のイベントに出場する片方である、ジェットアローンは、すでに会場入りしており、模擬戦闘の戦闘場で沢山のスタッフによって念入りに準備が整えられていた。

 大きさは、80メートルはありそうな巨体で、今は足を曲げているのでそれよりは小さく見えるが立ち上がればエヴァンゲリオンとそう変わらない大きさかもしれない。

 長い両腕。首の部分はなく、頭部は胴体と一体化したような形をしており猫背。背中に数本の棒のような物が生えているというかなり独特な姿である。

 政府関係者や企業関係者に配られたパンフレットによると、日本重化学共同体…通称日重という企業が中心になって製作した物だと記されており、一般企業がこれだけのロボットを作ったのは驚嘆に値するだろう。

 対する機龍フィアは、地球防衛軍、作。

 ある意味で一般企業対地球防衛軍という図式になる。

 もうすぐイベントが始まるというのに、機龍フィアが来ない。

「波川司令殿。メカゴジラはどうしたのですか?」

 さすがに焦れた日重の重役が波川に話しかけた。

「ええ…。少し整備部が手間取っておりまして。」

「地球防衛軍最強の兵器の整備が遅れるとは、どうしたことでしょうか。」

 そこへジェットアローンの開発の中心人物である時田が現れた。

「ご自慢のメカゴジラに不備でもあったのですか?」

 時田は、相手が地球防衛軍の司令官だというのもものともせずそう言った。

 波川は顔色一つ変えない。

「なにぶん戦場での出番の多いものなので、油断ならないのです。」

「日本の市内を暴走したケースもありますから、確かに油断なりませんね。」

「あれについては、使徒に乗っ取られたと説明してあるはずですが。」

「あっさりと敵に奪われるようでは、防衛軍の警備体制にも問題があったと言わざる終えないのでは?」

「使徒はいまだにその生態・出現パターンが定まらず、怪獣と長らく戦って来た我々でも解明できていない未知の敵。まさか、機龍フィアの内部に出現するなど想像もしていませんでした。」

「なら、今回のイベントにメカゴジラを出したのは、名誉回復のためですか?」

「それも勿論ありますが…。」

「波川司令。機龍フィアの準備が整いました。間もなくしらさぎで会場に輸送されます。」

 そこへ機龍フィアの準備が整い、会場に運ばれることが伝えられた。

 しらさぎに吊るされた機龍フィアが会場の中空を飛んできて、機龍フィアをゆっくりと地面に降ろした。

 日の光を浴び、銀と赤の巨体がきらめく。その圧倒的な姿に会場の観客席も、日重の重役達もどよめいた。

 やはり本物は、テレビや写真越しに見る姿とはまるで違う。

「準備はできたのですか?」

 波川が付き人から渡された通信機を使い、機龍フィアに話しかけた。

『オッケー。ふぃあちゃんも大人しくしてくれてるよ。』

「そう。その調子でお願いするわ。」

「ご自慢のメカゴジラは、パイロットがいると聞いておりますが。どのような方が?」

「それは秘密事項なので、答えられません。」

「ジェットアローンは、遠隔操作を採用しております。」

「それがなにか?」

「安全性においてもその方がよいと判断し、我々は遠隔操作を採用しました。メカゴジラに遠隔操作を搭載するご予定は?」

「遠隔操作では機龍フィアの力を引き出せませんので。」

「…何か引っかかりますな。その言い方は。」

「気のせいです。」

「時田さん、JAの準備が整いました。」

「分かった。では、波川司令殿。また後程。」

 スタッフに呼ばれ、時田は去っていった。

「あそこまでよく自信が持てるものですね。」

 波川の付き人が呆れたように言った。

「まあ、自信を持つのも分からんでもないがな。」

 そう言っているのは、機龍フィアの開発に関わった古参の技術者である。

「遠隔操作に力を入れただけあり、AIの構成だけなら機龍フィアのオートにも匹敵するんじゃないっすか?」

「ほう…。」

 波川の付き人は、それを聞いて素直に感心した。

 機龍フィアのオートパイロットプログラムは、マトリエルの一件の時に約4分間しか使われなかった。使った理由だって、あの時ツムグがいなかったための緊急だった。ツムグが操縦席に乗ったことでオートパイロットプログラムは解除されたため、約4分間だけの使用となったのである。

 オートパイロットプログラムは、遠隔操作ではなく、ツムグの戦闘記録を基にした戦闘プログラムである。そのため動きは、ツムグの戦い方を再現するものになっている。

 ただ所詮は再現しただけのプログラム。記録にない動きには対応できない。4分だけで済ませることができたのが奇跡だったかもしれない…。

 まあ、自我意識“ふぃあ”が発生した今ならオートパイロットプログラムの性能も違うものになったかもしれないが。

「おかげで再構成し直しで、若い連中が血の涙流しそうな勢いですがな~。」

 ハハハハッと軽く笑っている。というか笑うしかないというレベルなのである。

 そうでなくてもオートパイロットプログラムを起動させるのに苦労したのだ、それをすべて1からやり直しとか死ねると、まともな神経をした若い技術者が絶叫するぐらいだ。

「もうすぐ始まりますよ。」

「ええ…。」

 

 模擬戦闘の始まりを告げるブザーが鳴った。

 

 

 もう見るからに勝負あったという空気が観客席からもVIP席からも漂っていた。

 そりゃそうだ。なにせ大きさだけで20メートル近くも違うのだ。

 先に動いたのはジェットアローンだった。

 節が多数ある両腕を振りながらの独特の動きをしながらの突進。

 見かけによらずかなり早かったが、それを機龍フィアの片手がジェットアローンの頭部分を押さえて止めた。

 観客席から、ああ~っという声が上がった。その声色は、やっぱりかっという意味がこもっていた。

 重量もまるで違うのか、突進を続けるものの機龍フィアは微動だにせず、ジェットアローンの足に接している地面ばかりが抉れていく。

 

「う~ん、これはいかんな~。」

『ツムグ~、つまんない!』

 操縦席で腕組をして唸っていたツムグに、ふぃあが文句を言った。

『もう壊しちゃってイイ? 壊しちゃってイイ!?』

「ダメ。あ~、ここからどう盛り上げればいいのか困るな…。」

『もう壊したい、壊したイい!』

「ふぃあちゃん、我慢。壊しちゃダメ。…う~ん。」

『もうヤダ! 壊す!』

「って、わーーー! ふぃあちゃんダメーー!」

『っ、アウッ。』

 慌てて操縦桿を動かそうとした次の瞬間、ふぃあの短い悲鳴が上がった。

 見ると、機龍フィアの顔が上にのけ反っていた。

 下からジェットアローンのしなやかな腕が殴り上げたのである。しかも機龍フィアが頭を押さえていた手を弾いて。

 これには、会場がシーンとなった。

 数秒置いて、顔を戻した機龍フィアが弾かれた手とは逆の手をジェットアローンに振り下ろそうとしたら、ジェットアローンが、その場から動かず片手を鞭のように振るって弾き火花が散った。

 これには観客席から歓声が上がり、立ち上がる者もいた。

「……へぇ…、中々。」

 意外な攻撃にツムグは、素直に感嘆の声を漏らした。

『うぅ~。なにコイツなにコイツ! 壊す、壊してヤるゥウゥ!』

「ふぃあちゃん落ち着いて!」

 それでもふぃあは止まらず、機龍フィアの手がジェットアローンを捉えようと振り下ろされるが、また弾かれる。

 なぜ弾かれるのか。

 機龍フィアの機体の出力はパイロットとのシンクロ率によって左右される。

 今、機龍フィアは、接続はしているもののツムグがシンクロに集中していないことと、オートパイロットプログラムでもなく、あくまでパイロットの戦闘サポートなどをするためにあるふぃあが独断で動いているため機体の出力が本来の半分くらいで止まっていた。だからジェットアローンは、振り下ろされる機龍フィアの腕を弾くことができるのである。なにせ腕力が半分くらいなのだから。

 何度も機龍フィアの手を弾くジェットアローンに、観客席から歓声が上がり、応援する声が上がるようなった。

 見た目からして圧倒的な差がある相手に果敢に挑むその姿に、VIP席の客もどよめくほどであった。

『うう~、ううう~、ツムグ~、ちゃんとシンクロして~! 力出ない!』

「力出したら瞬殺になるからダメ。でもそれにしても良い動きするなぁ。名前聞いた時に勝負にならないとか思って悪かったな。ごめん。」

 ツムグが操縦席で両手を合わせて頭を下げた。

 その時だった。

 

「時田さん、JAのOSが!」

「制御が利きません! まさか…、暴走!?」

「そんな馬鹿な!」

 日重側のオペレーター達が慌て出し、傍で指示を出していた時田がありえないと声を荒げた。

 

 

 ジェットアローンが、その体格からは想像もできない跳躍力で飛んだ。

「あっ…。」

 ツムグがポカンッと驚いている間に、上から振り下ろされたジェットアローンの腕が機龍フィアの頭部に振り下ろされた。

 重い一撃によって首が下に反った。

 着地したジェットアローンは、両腕を交互に振り、機龍フィアの頭部ばかりを狙って打ち続けた。

『アン、アッ、アウぅ! もうしつこいよォ!』

 ふぃあが声を上げるが…、実際のところダメージにはなっていない。

 打たれるたびに火花が散り、宙にキラキラと金属片が散っていた。

 機龍フィアの特殊超合金を打つたびに、ジェットアローンの腕の金属が削れているのだ。

『ツムグ!』

「なに? 波川ちゃん?」

『JAのOSが暴走を始めたわ。JAを沈黙させなさい。』

「暴走…。」

 波川からの指示を聞いて、ツムグは、少し考え込んだ。

「まーさーかー…。ふぃあちゃ~ん。」

『な、ナニナニ、ツムグ、ナニ?』

 不自然に焦っているふぃあの声に、ツムグは確信した。

「こら。」

『してないしてない! 暇だったからウィルスなんて作ってない!』

「はい、アウト!」

 ジェットアローンの暴走の原因が、ふぃあが作ったコンピュータウィルスによるものだと分かった。

「今すぐワクチンプログラムを作れ!」

『適当に作ったのだから解析に時間かかる~!』

『ツムグ、…どういうこと?』

「聞いた通りだよ。ふぃあちゃんがやらかした。」

『……まったく。うまく手綱を握ってほしいわね。』

「ごめん…。」

『ウェ~ン。』

「ともかく解析を急いで。あれ(ジェットアローン)を壊してもウィルスが他に移るってことはない?」

『移んないよ…。LANケーブルでも繋げないと…。』

「それなら…。」

 一人納得し、うんうんと頷きながら、ジェットアローンを見る。

 そして操縦桿をしっかりと握り、シンクロを開始した。

 打ち続けるジェットアローンの片腕が、途中で千切れ飛んだ。しかしそれでも攻撃を止めようとしない。

「ごめんね。」

 そう言った瞬間、機龍フィアの尾がジェットアローンの胴体を直撃しジェットアローンの巨体が軽々と吹っ飛び地面に落下した。

 わき腹からバチバチと放電し、立ち上がろうともがこうとしていたが、全身を支える胴体が大きく破損してしまってはできない。

 放電は少しずつ弱まっていき、やがて完全に停止した。

 会場がシーンッと静まり返り、機龍フィアは、体の向きを変え、ジェットアローンの冥福を祈るように首を垂れた。

『ツムグ~。』

「なーに?」

『こいつ、イイところ見せたかったって言ってる。』

 ジェットアローンのOSを解析したふぃあがそう言った。

「そっか…。生みの親の時田さんに良いところ見せたかったんだ。親思いのいい子じゃん。」

『ふぃあ、悪い子…?』

「ふぃあもいい子。」

『ワ~イ!』

「いい子だから、お仕置きするから、ジッとして。しばくから。」

『ワーーーン!』

 接続しているDNAコンピュータから、精神感応を使ってコンピュータプログラムであるふぃあをしばいた。

 

 

 こうしてジェットアローンとの模擬戦闘は、終わった。

 

 

「波川司令殿…。」

「時田殿。」

「申し訳ありませんでした。」

 時田は、波川に土下座した。

「ご無礼の数々…、そしてJAを止めてくださりありがとうございます!」

「面を上げてください。」

「しかし…。」

「我々は、やるべきことをやっただけです。しかしJAを無傷でお返しすることができませんでした。」

「いいえ! あの状態では破壊しない限り止めることは…。」

「JAのことですが…。OSの構成プログラムは、中々の物のようですね。随分と親思いだと聞いています。」

「えっ? し、しかし…JAには自立意思は…。」

「精魂込めて作った物には魂が宿ると、いう言葉がわが国にはあります。OSの暴走は製作者であるあなたに良いところを見せたかったからだったようですわよ。」

「な、なぜ…そのようなことを…。」

「我が地球防衛軍が誇る機龍コードフィア型に搭載されたDNAコンピュータがそう解析したのです。ところで、我々地球防衛軍は、JAのOSの研究の支援をと考えていますが、いかがでしょう?」

「なっ…、そ、そそそそそんな、恐れ多い!」

「あなた方が製作したOSの技術は、我が軍でも流用できそうだと、技術部の人間も太鼓判を押しています。」

「ああ、このプログラムは、ぜひとも使いたいねぇ。」

「そ、そんな…。本当ですか?」

「本当です。では、後日、詳しい説明をしますので。」

 

 こうして時田のチームは、ジェットアローンのOSの技術提供を行うことになった。

 引き抜きではなく、時田が所属する日重との商売である。

 これにより機龍フィアのオートパイロットプログラムの構成がスムーズになり、性能アップすることになるのだった。これには、プログラムを組むのに日夜励み過ぎてゾンビ状態だった技術者達に光明が見えて日重の時田に感謝する者達が多数いた。

 

 ……けど本当の狙いは、ジェットアローンのOSに入ってしまったふぃあ製作のウィルスのことが明るみになるのを防ぐためだったのであった。

 

 

 

『くすぐったいィ。』

「こら、我慢しなさい。メンテのたびにくすぐたがってたらメンテができないでしょ。」

『う~。』

「慣れるように頑張ろう。」

『む~。』

「よしよし、いい子だね。」

『ふぃあ、イイ子?』

「うん、良い子。」

 ツムグは、機龍フィアの操縦席で、機器の一部を撫でた。

『ワ~イ。』

 ふぃあは、喜んだ。

「でも拳骨ぐらいはした方がいいかもね? ふぃあちゃんのせいで波川ちゃんに余計な仕事作っちゃったから。」

『ヤダーー!』

 上げて落とす。

 

 

 それからしばらくして、緊急を知らせる通信が入った。

 ゴジラが、日本海側から上陸し、第三新東京を目指して進撃を始めたのだ。

 すぐに機龍フィアは、しらさぎで輸送され、第三新東京でゴジラとの戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 




ジェットアローンこと、JAの回は見たことないんですよね。
噂によるとゲーム版だと難易度によっては相当厄介な敵らしいですが。
なお、このネタのJAは、核融合炉は使っていません。

とりあえず、JAが登場するのは、これっきりだと思う。


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第三十話  死ねぬモノ

vsゴジラ。


ほぼコピーペースト……。


ツムグの苦労? なんなんだろう?


 

 

 アメリカ、ロボット競技大会会場から、第三新東京。

 

「どぉりゃああああ!」

 ゴジラと機龍フィアのバトルは続いていた。

 ゴジラを一本背負いするも、着地され逆に投げられ、受け身を取りまた投げる。の、繰り返し。面白いぐらい投げ技ばっかりである。

「いい加減、投げるのも飽きたな…。」

 っとツムグは、ぼやいた。

 ゴジラにもそれが伝わったのか、グルルっとゴジラが鳴いた。

「あっ、ゴジラさんもそう思う? じゃあ、殴り合おう!」

 言うが早いかゴジラとの殴り合いが始まった。

 ゴジラが尻尾を振った時、機龍フィアも尻尾を振って、尾っぽ同士がぶつかった。

「おおぅ、じ~んっときた。」

 機龍フィアの背筋を伝ってぶつかり合った時の衝撃でツムグはちょっと痺れた。

 その隙をついてゴジラが機龍フィアの頭部に尻尾攻撃を与えた。

 横に倒れる機龍フィアを、ゴジラは蹴って転がした。

 再び蹴りが入りそうになるとその足を掴み、起き上がるのと同時にゴジラをひっくり返して馬乗りになってゴジラの顔を殴打した。

 ゴジラが放射熱線を吐き、機龍フィアは、のけ反って避けるとゴジラが起き上がって機龍フィアに掴みかかり、二体は地面を転がった。

 機龍フィアは、肩のキャノンの砲塔を伸ばし、ゴジラの顔を狙って撃った。

 至近距離で撃たれたものの、前に似たようなことをされて学んだのか大した傷にはならずゴジラは顔を押さえて機龍フィアからどいた。

「久しぶりに…、リミッター解除。3つ!」

 7つあるうちの3つを解除し、機龍フィアの目が輝き機械の雄叫びをあげた。

 ゴジラも負けじと雄叫びを上げ突進してきた。

 その突進を受け止め、ゴジラとの押し合いへし合いが続き、機龍フィアの腹部が開閉した。

 ゴジラは、それを察して体内熱線を放ち、機龍フィアを吹き飛ばした。

「ヤーラーレーター。アハハハハハ!」

 目を金色に光らせたツムグは、操縦席で狂ったように笑った。リミッター解除による信号の逆流でテンションがおかしくなっているのだ。

『ツムグー、ツムグー、しっかりしてー!』

「えっ、なに? ヘーキヘーキ、ふふ、フハハハハハハ。」

『ウワ~ン。ゼンゼン平気じゃな~い。』

 笑いっぱなしのツムグに、ふぃあは頭を抱えた。

 笑っていても操縦はしっかりしており、むしろ正常時より操縦桿の操作が早い。リミッター解除による機能の向上は、ツムグの操縦技術もアップさせるらしい。しかもほとんど無意識で動かしてるらしく、ゴジラにも動きが伝わらないのかゴジラが翻弄される。

 ツムグの様子を観測していた司令部や科学部は、ツムグのテンションが異様に高いことを訝しんだ。なので急いで技術部と連携して原因を究明した。

 ツムグのテンションは伝わっているのか、ゴジラはかなり苛立っており、顔がどんどん歪んでいく。

「ゴジラさ~ん、ゴジラさ~ん。アハハハハ。」

『ワーン! ツムグは、ふぃあのー!』

 ゴジラ、ゴジラと連呼するツムグに、ふぃあが声を上げた。

 ふぃあの絶叫に呼応してか、ブレードが展開されゴジラの左手が切り付けられた。

 手を押さえてゴジラが呻いた。

「…ゴジラさんの内臓って何色だろ?」

『ナニ言ってるの!? ナニ言ってるの!?』

 急に表情を無にして、ヤバイことをボソッと言いだしたツムグに、ふぃあが声を上げた。

「ゴジラさ~ん、見せてほしいな~~~~。」

 歌うように言いつつ、機龍フィアを操作してジリジリと迫ると、ゴジラはツムグの異様な空気を感じたのかジリジリ同じだけ後退した。

 ゴジラがドン引きするってどんだけだ?

 その時。

「あ…?」

 ツムグの鼻から鼻血が垂れた。

『ツムグー!』

「あれ…、おっかしいなぁ。頭…、イタ…。これ、毒?」

 突然の頭痛とともに体から力が抜けるのを感じた。

 次の瞬間、機龍フィアが飛んだ。いや飛ばされた。

 ゴジラのタックルが決まったのだ。

 地面に背中から落下する機龍フィア。

 中にいるツムグは、操縦桿から手を離して白目をむいて、口から血混じりの泡を吹いていた。目からも血が垂れる。

「……。」

 しかしその目にすぐに光が戻り、操縦桿が再び握られた。グッと閉じた口から血が溢れる。

 起き上がった機龍フィアがゴジラにタックルする。ゴジラは、それを受け止め足が地面を抉った。

「………こんなんじゃ死ねない。」

 ツムグは、自虐的に笑い操縦桿を操作してゴジラと殴り合った。

 

 しばらく肉弾戦が続き、やがてゴジラが海に引き返して戦いは終わった。

 

 基地に帰還した後、ツムグは、顔を血で汚した状態で飛び降り。

「尾崎がシンクロする前に分かってよかったよ。俺じゃなきゃ死んでる。」

 と言った。

 その後、間もなく脳とシンクロするための管の一部から猛毒が検出された。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 綾波レイへのツムグの体液を投与するための実験は、着々と進んでいる。

 一発勝負となるこの実験のため、ツムグの体液(骨髄液)濃度の念密な計算が行われなければならない。量と濃度を間違えば、レイは死ぬからだ。

 まず事前に採取したレイの細胞に、ツムグの体液を投与するとどうなるか調べる実験が行われた。

 顕微鏡のシャーレに乗せた微量のレイの細胞に、ツムグの体液(骨髄液)を当てるとどうなるか、まずその変化を調べる。

 

 次の瞬間、シャーレが爆発した。

 

 幸い調べていた研究者はひっくり返っただけで大きな怪我はなかったが、研究室が騒然となった。

 結論から言うと、ツムグの体液の量が多かったから爆発した。

 細胞のエネルギーが大きいため、使徒の要素に反応した結果そのエネルギーが暴走したのではないか。

 爆発飛散したレイの細胞は、欠片も残らず焼き尽くされていた。それが意味することは、失敗すればレイは……。

「しかし、なぜ使徒の細胞にG細胞が反応するんだ?」

 そもそもその理屈自体が謎である。

 恐らくではあるが、それがゴジラが使徒を滅ぼそうとする理由なのではないか。可能性は高いだろう。

 しかし肝心のツムグは語ろうとはしない。

「せめてクローン体が残っていればな…。」

 レイに関する資料に記載されたクローンについて呟かれた。

 クローンはすべて失われ、現在いるレイただ一人だけしかいない。もしクローンがあれば科学者達は遠慮なくそちらを利用していただろう。実験が一発勝負ではなくなっていたはずだと舌打ちさえあるぐらいだ。

「ともかくやりましょう。綾波レイがゴジラに目を付けられる前に。」

 ゴジラに目を付けられたら実験どころじゃなくなる。

 

 レイの実験まで、準備を進める研究者達を尻目に、別のことをしている研究者達もいた。

 

「せめてもっと増やせればな…。」

 焼けた初号機から回収された微量の細胞を調べていた。

 体長80メートルもあったのに、散々潰されたうえに、放射熱線も受けているため細胞のイキが悪い。このまま死滅しないのが不思議なくらいだ。

 せめてもう少し増やせれば色々と実験に使えるのだが…っと、その研究者が肘をついて唸っていると。ふと、試験管に入ったツムグの骨髄液が目に留まった。

 その瞬間、ピコーンとその研究者の頭に電球が光った。

 微量の初号機の細胞の一部を切り取り、シャーレに移す。そこにものすご~く薄めたツムグの骨髄液を投与した。

 

 すると細胞のイキが良くなった。

 初号機の細胞に対し、骨髄細胞が少なかったため骨髄細胞は燃え尽きるように消滅して、初号機の細胞だけが残された。

 

 うまくいったとその研究者は心の中で小躍りし、ツムグの細胞を増量すれば初号機の細胞も増やせると思って増やそうとして、ふと手を止めた。

「……ゴジラのメルトダウンの時のデータってあるか?」

「なんで?」

「メルトダウンが鎮静化されたのは、椎堂ツムグが関わっているんだろう?」

「なるほど…。」

 そう言って、デストロイヤの事件の時の資料が引き出された。

 

 ゴジラのメルトダウン。

 ゴジラの住処であるバース島の消滅の際に、その原因となった地下の天然ウランの影響で体内炉心の核エネルギーが不安定になったために起こったことである。

 圧倒的な怪物と化したデストロイヤを圧倒するほどの力を発揮したが、体内から溶けて行くほどのエネルギーを暴走させあと一歩で核爆発か、メルトダウンによって地球が灼熱の星になるかもしれない危機が迫った。

 これを防ぐために冷却兵器が使用されたが、防ぎきれずメルトダウンが始まってしまう。

 ところが突然メルトダウンの症状は徐々に収まっていき、約数十時間で赤々とした熱を帯びていたゴジラの体は熱を失い、大量の放射能を吐きだしたものの核エネルギーの暴走は収まった。

 その放射能もゴジラの再起動により再びゴジラに吸い込まれ、当時の東京は放射能の汚染を逃れたのだった。

 そしてゴジラが何かを吐きだし、ヨロヨロの状態で海へ帰還した後、ゴジラのその嘔吐物からドロドロに溶けかけた椎堂ツムグが発見された。

 持ち前の再生能力がほとんど機能しておらず、ツムグの回復には年単位で時間を要したものの、ツムグは全快。

 ゴジラは、数年間もの月日も姿を現すことはなかった。

 これがメルトダウン寸前のゴジラが元通りになるまでのことである。

 

 メルトダウンというもうどうしようもない現象を抑えたツムグの偉業については当時の情報操作により隠ぺいされた。そうでなくてもツムグの存在が隠されている以上公にはできなかったのだ。

 どうやってツムグがゴジラのメルトダウンを防いだのか、当時の科学者達が調べたり、ツムグ本人から聞き出そうとした。

 結論としては、ツムグがゴジラの核エネルギーの炉心である心臓に直接取りつき、自らの細胞を劇薬としてゴジラの細胞の回復力をアップ。炉心の回復によって暴走した核エネルギーは鎮静化され、メルトダウンは治まったということらしい。

 ツムグは、ツムグで炉心の心臓にとりついて細胞を与えるため半融合状態になってしまい、その結果ドロドロに溶けてしまったが、完全に溶ける前にゴジラに吐きだされて今に至るらしい。もし吐きだされなかったらツムグはゴジラに溶けて死んでいたとされる。

『ゴジラさんのいけず…。』

 喋れるようなった時のツムグの第一声がこれだったとか。

 

「この一件でツムグの監視体制がより厳しくなったんだったな。」

「ああ、ゴジラを助けたからな。隙さえあらばゴジラに味方する気満々だってことを主張したようなもんだし。」

 ナノマシンと爆薬を体内に仕込まれたのもこの時期からだ。

 研究者は、なんとかして初号機の細胞の培養をしたかった。

 初号機の構造が分かれば何かヒントが得られるかもと思い、ゴジラに破壊されている時の映像を閲覧した。

 その時、ゴロリと転がり出て来た球体を見て、使徒の体にあるコアと酷似していることに気付き、もしかしたらと思った。

 そこで保存されているザトウムシ型の使徒マトリエルから回収されたコアの一部を切り取り、クローニングを行う。

 クローン復元された使徒のコアに初号機の細胞を当ててみる。

 しかしコアの方はクローン復元されたにも関わらずほとんど機能していない。なので初号機の細胞に対して何の意味もない。

 なにかコアの代わりとなるものがあればと考えた時、あるモノの存在が頭に浮かんだ。

 

 

 改造巨人フランケンシュタイン

 

 

 太平洋戦争末期にドイツから日本へ運ばれたとされる、“フランケンシュタインの心臓”と呼ばれる不死身の心臓なるものから生まれた巨人である。

 しかし、怪獣バラゴンとの戦いで絶命。

 その後、ガイラとサンダと名付けられた分身が戦うという事件が起き、両者ともに海底火山に巻き込まれて絶命。

 ガイラの方であるが、ガイラは、サンダの細胞の一部が海底で成長した者で、フランケンシュタインの不死身の心臓の凄さが分かる一例として資料に残っている。

 国際放射線医学研究所にフランケンシュタインが保護されていた時に採収されていたフランケンシュタインの血液が、後に地球防衛軍に回収されて厳重に保管されたわけだが……。

 

「不死身の心臓か…。」

 

 もしかしたらという思い付きで、引っ張り出されたフランケンシュタインの血液の一部を、機能を停止しているマトリエルのコアに注入する。

 しかし長らく保管庫にあったことや、微量であったため、変化は見られない。

 そこで更に、ツムグの骨髄液を注入してみる。

 するとコアが活性化し、初号機の細胞もそれに触発されて増えた。しかし活性化は急に下り坂になった。

 そこから活性化状態は微々たる状態で停滞。完全に活動が停止しないのは、フランケンシュタインの不死身の細胞の影響であろうか。

 使徒の細胞は非常に吸引率がいいというか、適応能力が高い。この現象からすると使徒の細胞がG細胞完全適応者の細胞を吸収し、細胞が活性化しすぎて、結果、細胞が焼けて火傷となってしまうのではないかという答えが得られた。人間(orミュータント)に注入した場合は、全身が超健康体になる代わりに即死してしまい、体内に残らないというデータがある。

 使徒の細胞の場合だとそのずば抜けた適応能力によって吸収したG細胞完全適応者の細胞を自らの方に変質させようとする力が発生し、持ち主の遺伝子に依存しているG細胞特有の性質と大喧嘩になるのではないか。

 その結果、反発しあうエネルギーが行き場を失い細胞が焼けてしまうのでは?

 ツムグがもたらしたレイを人間にするための一定量のツムグの細胞というのも他の使徒にも当てはめることができるならば、火傷せずに死者蘇生のごとく死んだ使徒の細胞を活性化させる最適な量があるのではないか。

 その反発しあうモノ同士をくっつける接着効果が、フランケンシュタインの心臓から出たフランケンシュタインの血液で叶うのではないか。

 現に機能を停止していたマトリエルのクローンのコアが微妙な状態であるが復活したではないか。

「よっしゃ!」

 成果に研究者はガッツポーズを取った。

 恐らくこれがうまくいけば、エヴァンゲリオンだけじゃなく使徒の構造も解き明かすことができると考えて研究者は実験を続けた。

 

 こうして徐々に増えて行く初号機の細胞。

 

 増えて行く細胞と共に復活していく、意思の存在に気付くことはなく…。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

『死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたく死にたくない死にたくない死にたく死にたくない死にたくない死にたくない死にたく死にたくない死にたくない死にたくない死にたく死にたくない死にたくない死にたくない死にたく』

 

 

「っ……! ハッ!」

 

 尾崎は飛び起きた。

 額を抑えるとびっしょり汗をかいていた。

 尾崎が見た夢は、真っ暗な中、聞き覚えがある幼い子供の声が、死にたくないと叫んでいた。

「しょごうき?」

 あんな破壊のされ方をしたら、黙って成仏などできるわけがないだろう。だが尾崎にはどうするこもできない。

 残留思念をサイコメトリーで読み取ることはあるが、あくまで物体に残る過去の情報でしかないため死者を成仏させるようなことができるわけじゃない。せいぜい祈りを捧げることぐらいであろう。

「俺には、どうすることもできないよ…。」

 夢の中で死にたくないと叫んでいた初号機(たぶん)に向けて、尾崎はそう言った。

「そういえば…。」

 ふと尾崎は思った。

 なぜゴジラは、使徒を滅ぼうそうとしているのか。

 前に倒れた時に、ゴジラがセカンドインパクトの真っ只中、消えた南極のど真ん中の赤い海で怒りの咆哮を上げた映像は視た。

 その時にゴジラは、セカンドインパクトが人為的に起こされたことと、これから先何かが起こることを知ったらしい。

 使徒を放っておけばサードインパクトで世界が滅ぶとされている。なぜ第三新東京を目指すのかは分からないが、何かがあるのは間違いない。(※まだリリスの存在は知られていない)

 ゴジラは、世界が滅ぶのを阻止したいのではないのだと、ツムグっぽい声(※本人とは断定されていない)が語っていた。

 ただ許せないのだと言っていた。

 何をそこまで許せなかったのか。人間を許せないのなら使徒を狙う理由にはならない。

 確か、使徒と人間は、ほとんど同じであるらしい。あんなにも姿形が違うのにだ。

 人間は人間で、使徒であることは初号機の口から語られている。

「……同じだから?」

 まさかそういうことかと尾崎は額を押さえた。

 ゴジラにとって人間が許せない存在で滅ぼしたいと考えているように、それに近い存在である使徒もまた人間と同じく許せないから滅ぼそうとしている?

 南極の消滅は、南極で眠っていた使徒アダムを人間がバラバラにしてしまったことが原因であるが、南極が消えて世界が滅びかける原因の力の大本たる使徒アダムを憎悪しているのだとしたら?

 それともゴジラは、南極で眠らされている間にアダムの存在を感じるなどして、使徒を敵として認識するきっかけを作ってしまったのだろうか?

「ううう…、分からない。」

 考えれば考えるほど分からなくなってきて、頭痛がしだしてきた。

「ツムグは何もしゃべらないからな…。」

 ゴジラの思考が読めるはずなのに詳しいところは喋ってくれない。

 ツムグは、結局のところ味方なのか敵なのか…。その気になれば人類の敵になっても不思議じゃない存在だとは聞かされているが、今のところこちら側(人類側)の味方でいてくれている。だが正直なにを企んでいるのか分からない。

 未来予知すらしているらしいが、ツムグは未来に何を視たのか…。

 少なくともサードインパクトが起こることは、よくないと思っているっぽいのは間違いないが…。

「……こーいうときには来ないんだな。」

 神出鬼没のくせにこういう時には来ない。本当に何を考えているのかさっぱりである。

 まだ時間も早いので、尾崎は寝なおすことにした。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「……。」

 ツムグは自室で、ベットに寝っ転がりながらテレビを見ていた。

 テレビでは、ちょうど赤ちゃん特集をしていた。幸せそうな家族が次々に映されている。

 それを見てツムグは、苦笑した。

「俺には永遠に見れない光景だな…。」

 

 ツムグには、子供を作る能力がない。

 

 G細胞の力を持つ人類などツムグ以外に発見されていないため、発見された当初、ツムグのクローン、あるいは子供を作ろうとする動きはあった。

 しかし、なぜかそれはできなかった。

 健康診断では普通の人間よりもミュータントよりも健康なはずなのにだ。つまり性欲はあり、不能ではないのだ。

 保管はできてもクローンなどで培養し新たな命を作るには至らない。ツムグの形にすらならないのだ。そして培養液から出せば瞬く間に細胞はその力を失う。

 機龍フィアの素体を作るにあたり、あの大きさまでツムグから搾っては注入し、搾っては注入しを繰り返して素体を作ったのだ。そこに機械が加わることで“ふぃあ”という自我意識が誕生したが、あくまでふぃあは、コンピュータの意思でしかない。ツムグの体から生まれた命とは言えないだろう。現にふぃあには、ツムグの能力は受け継がれていないし、コンピュータの端末に移されるだけで簡単に封じられてしまうのだ。

 ツムグは、ベッドの上で寝返りを打ち、目を閉じた。

 すると脳裏を過る、小さな光の粒の映像。

 ツムグは、フフッと笑った。

 

 

 




なぜか子供、あるいはコピー(クローン)すら作れないツムグ。
本人も理由を知らない。

DNAコンピュータのふぃあは、あくまでも機械なのでツムグの子でもないし、兄弟というわけでもない。
ツムグの細胞のエネルギーを得て発生した付喪神みたいなものかな?


とりあえず、初号機復活フラグはここで立たせました。


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登場人物設定(リメイク版)(※2020/09/19時点)

一応、登場人物設定。



リメイク版での設定です。


 

◇地球防衛軍とネオGフォース関係者

 

・椎堂ツムグ(しどうつむぐ)

 オリキャラ。(※出番多いけど、主人公ではない)

 ゴジラが封印されるずっと前、ゴジラと他の怪獣の対決で破壊された都市で発見されたゴジラ(G)細胞に完全に適応した唯一の人間。

 男。

 外見年齢は、二十代か半ばぐらいだが発見されてから現在(※2015年ぐらい)までで、すでに60過ぎており、外見がひとつも変わっていない。

 赤に金色が混じった独特の髪色をしている。

 本名ではなく、周囲にある物から適当に合わせてつけられた名前。“椎堂”、“ツム”、“ぐ”。

 使徒イロウルの一件で過去が明らかになったが、自分の出生には興味なし。イロウルが見せた過去の映像によると、潰れた遺体にゴジラの細胞が合わさったことで再構成されたのが現在の姿らしい。瓦礫で完全につぶれていたため本来の人相や性別は不明。

 手から放射熱線を放つ他、例え頭を潰されても、心臓を失っても再生・復活する異常な再生力を持ち、カイザーである尾崎をも超える特殊能力者であるため、表向きは監視・拘束状態になるもののいかなる拘束にも縛られず好き勝手している。

 またそのうざい性格で周りを振り回し、預言者として、ゴジラと戦うために必要とされる一方で、実は死ぬことを強く望んでおり、自分がいつか不必要になる日が来るのを待っている。

 個人に対しては興味関心を持ったり、助け船を出したりはするが、基本的にはゴジラを崇拝しており、人間社会に批判的。

 

 

 

 

・尾崎シンイチ(真一)

 『ファイナルウォーズ』より。

 M機関に所属するミュータント兵士。階級は少尉。

 先天性ミュータントだが、ミュータントの中でも数百万分の一の確率でしか生まれない“カイザー”と呼ばれる超越者。

 だが本人はその力に溺れることなく人を守る優しさを優先する正義感が強い青年である。

 第三新東京にゴジラが進撃した時、動けない初号機からシンジを救いだし、その後彼の療養のために精神感応で心を癒すのに尽力した結果、シンジに懐かれる。

 その強すぎる能力のため、シンジを介して意図せずセカンドインパクトの真実と人類補完計画の全容を知ってしまう(ただしそれらの情報のほとんどは初号機の意思を経由しているため誰が首謀者なのかは知らない)。そのためにゴジラとは違う方法でサードインパクト(人類補完計画)を阻止するために、恋人の音無らと共に行動する。

 ミュータント兵士として鍛えているので強いし、生まれつきの潜在能力も凄まじいのだが、まだ完全覚醒しているわけではない。

 突発的な感情や仲間などを助けるときなどにその力が一時的に出ることはあるものの、性格的な問題で力を抑え込みがちで覚醒に至れないらしい。

 

 

 

 

・風間カツノリ(勝範)

 『ファイナルウォーズ』より。

 M機関に所属するミュータント兵士。階級は少尉。

 先天性ミュータント。

 何より敵と戦うことを信条としそれが使命だと心得ているが、その戦闘意欲の高さゆえに人を守る優しを優先する尾崎と衝突しがちな青年。

 尾崎とは幼馴染みで、ライバルで、同僚。

 本人曰くベジタリアンなため、LCLの独特の匂いが苦手。

 ムスッといつも不機嫌そうで、子供と接するのも苦手なところがあり、M機関に保護されたシンジから一時期苦手意識を持たれてしまった。M機関に来てからずっと一緒の尾崎曰く、不器用なだけらしい。

 尾崎がシンジを介してセカンドインパクトや人類補完計画のことを知ったことを知らされ、人類補完計画を阻止するために尾崎らと行動を共にする。

 要人護衛のためにネルフを訪れた際にリツコと出会い、リツコから興味を持たれてしまったが、風間は若干引いている。

 

 

 

 

・音無ミユキ(美雪)

 『ファイナルウォーズ』より。

 地球防衛軍に所属する分子生物学者の女性。

 モデルと見紛うほどの美貌と若さゆえにそのことでからかわれがちだが、非常に優秀な科学者である。

 G細胞完全適応者の椎堂ツムグの細胞の管理を担当しており、研究者の卵時代から椎堂ツムグと知り合っているため付き合いは長い。

 使命感が強く、尾崎らと共に人類補完計画を阻止するために動く。

 尾崎とは、恋仲。二人は隠してるつもりだが、周囲には知られている。

 あとついでに彼女の姉のアンナ(杏奈)は、ゴードンと仲が良い。

 

 

 

 

・波川レイコ(玲子)

 『ファイナルウォーズ』より。

 地球防衛軍の女性司令官。

 セカンドインパクト前、他の怪獣が暴れていた頃、アジア、オシセアニア区間の作戦司令室で冷静に地球防衛軍各隊の指揮をとっていた大ベテラン。

 約15年前に地球防衛軍が解散された後は、国連軍で窓際の席にいる職員として無抵抗な仮面を被り、裏で地下に潜伏しているGフォースの指揮を執っていた。

 地球防衛軍の再結成までの間に、ネルフと何かあったらしくネルフに対してかなりご立腹で、地球防衛軍が再結成され指揮官として戻った時は、迷うことなくエヴァを保有しているネルフをゴジラをおびき寄せるための餌にすると宣言している。

 サキエル襲来後に再結成された地球防衛軍で、実質トップの位置にいる。

 

 

 

 

・熊坂

 『ファイナルウォーズ』より。

 M機関のミュータント兵士達の訓練教官。自らはミュータントではないが、ミュータント兵士と互角に戦えるほどの身体能力を持つベテラン軍人。

 ゴジラとの戦いの経験はないが、他の怪獣との戦いの経験はある怪獣世代と呼ばれる年代で、セカンドインパクトで特に被害の酷かった地域出身が多いミュータント達を厳しく指導しつつ、プライベートでも彼らの心を支える父性愛によりミュータント達の精神的成長に大きく貢献する。

 

 

 

 

・ダグラス=ゴードン大佐

 『ファイナルウォーズ』より。

 地球防衛軍が保有する万能戦艦・轟天号の艦長。

 35年前の南極でのゴジラとの戦いでは、ひとりの兵士として初期の轟天号に搭乗しており、氷の地割れに落ちたゴジラを封印するために当時の艦長の命で氷山に向けてミサイルを発射させてゴジラを封印した。

 損害を顧みずあくまで敵と戦うことを主義とし、自らの信念に従って行動するため組織の中でハミ出し者の烙印を押されているが、尾崎達や部下達からの信頼は厚い。

 セカンドインパクトの後、15年前の地球防衛軍縮小時に地下に潜伏したGフォースと行動を共にし、椎堂ツムグのゴジラ復活の預言を信じてゴジラの戦いに備えあらゆる方面で準備を整える。

 地球防衛軍の再結成後は、長い地下潜伏を発散するかのごとく新・轟天号の艦長としてゴジラとの戦いの場では活躍をする。

 南極でのゴジラとの戦いの経験と封印の時のとどめを刺したことから、ゴジラを好敵手として見ている節がある。

 艦長としての手腕も確かだが、本人の戦闘能力も極めて高く、周りからは人類最強との呼ばれるほどガチで強い人、腰に日本刀を差している。

 尾崎達から人類補完計画のことを伝えられ、尾崎らに協力する。頼もしい味方。

 音無の姉・アンナ(杏奈)とは内縁に近い仲。

 

 

 

 

・志水

 オリキャラ。

 地球防衛軍・M機関の食堂の古株おばちゃん。

 何かとシンジとレイに世話を焼いている。

 

 

 

 

・ナツエ

 オリキャラ。

 ツムグの監視役のひとりで、看護師。

 ヤンデレ気質でツムグに好意を持っている。

 

 

 

 

・宮宇地

 オリキャラ。

 30代のミュータント兵士。尾崎達の先輩。

 後天性ミュータント。

 

 

 

 

・村神(むらかみ)

 オリキャラ。

 初号機の細胞の研究を担当する研究者。

 フランケンシュタインの血液やクローン再生したマトリエルのコアなどを利用して初号機を蘇生させる。

 

 

 

 

 

 

 

◇チルドレン(残念ながらエヴァでの活躍なし)

 

・碇シンジ

 ネルフの総司令碇ゲンドウと碇ユイの間に生まれた息子。14歳。

 母を無くして間もなく8年前にゲンドウに捨てられ、親戚だという人間に育てられるが愛情注がれることなく育てられたため自分は誰にも必要とされていないと思い、人から必要とされたいという愛情に飢えた弱い心を持つ人間に育ってしまった。

 14歳になってゲンドウから手紙とも呼べない手紙で呼び出され、ネルフに連れて行かれた後、初号機に乗って使徒と戦うよう強要され、大怪我を負った綾波レイを前にして逃げちゃだめだと自己暗示をかけて初号機に乗ることを承諾してしまう。

 複雑な事情によりなんの訓練もしていないも関わらず高いシンクロ率を叩き出すも、発信直後に第三新東京にゴジラが進撃してきたため初陣とはならず、それどころか危うく初号機もろともゴジラに殺されかけることになって完全に戦意喪失、ゴジラへの恐怖で心が壊れてしまいその後M機関に保護された。

 精神崩壊状態なため、ミュータントの精神感応で心を癒す治療が行われることになり、特に力の強い尾崎によって正気を取り戻し、心から自分のことを心配してくれた尾崎に懐く。逆にしかめっ面で不機嫌そうな雰囲気の風間には、父ゲンドウが重なってしまったため苦手意識を持ってしまった。(後に改善)

 ただでお世話になるのは悪いと感じ、頼み込んでM機関の食堂で働かせてもらうことなる。間もなくエヴァに乗れなくなったことに絶望して投身自殺を図ろうとしたレイを助けるために咄嗟に動くなど精神的に大きく成長する(体重が軽いのでレイと一緒に落ちそうになったが風間に助けられ二人とも助かり、これがきっかけで風間への苦手意識は克服した)。

 その後、レイと一緒に食堂を手伝うようなると、レイとの交流でレイの人間の部分を強くさせることになる。

 

 レイが人間ではないことを自ら告白した後、レイに対する好意を告白し、レイからOKをもらい喜ぶもののレイの恋愛観が幼いためまだまだ発展途上。

 

 

 

 

・綾波レイ

 ネルフのファーストチルドレン。14歳。

 青い髪と、赤い瞳を持つ美少女。顔立ちがシンジの母ユイと瓜二つ。

 第三使徒サキエルが出現する前に、零号機の起動実験に失敗して重傷を負ってしまい、火傷を顧みずエントリープラグのハッチを開けてくれたゲンドウを信頼する。しかしそれらは、すべて彼女を依存させるために仕組まれた事であるのだがレイはそのことを知らない。

 『無に帰りたい』という暗示をかけられており、死に対して恐怖心がなく、エヴァに乗るのも自分の存在意義でありそれが絆だからだと思っている。

 サキエル襲来の際に、初号機に乗るのを拒否したシンジを初号機乗せるため、大怪我のまま初号機のドッグに運び込まれ、シンジを初号機に乗せるための脅迫材料に利用された。

 ゴジラ襲撃後、ネルフの病院にいたが、ネルフがあらゆる権限を剥奪されたため、入院していた彼女も半ば強制的に国連あらため地球防衛軍に保護されることとなった。

 その正体は、実は、リリスと碇ユイの細胞から作られた使徒と人間のハイブリッドで、その魂は、ネルフ本部の地下に封印されているリリスのものである。もっと正確に言えば、初号機からユイをサルベージしようとした時に偶然生まれた産物。

 現在のレイは、二人目で、一人目は赤木リツコの母親に首を絞められて死亡し、ネルフ本部の地下にあるレイのクローン体に魂が移行され二人目となった。つまり彼女は死ぬと代わりの肉体に魂が移るように仕組まれている。このレイのクローンについては、椎堂ツムグがジオフロントに侵入した際に破壊したためレイは魂が移らなくさせられた。

 地球防衛軍の医療機関に搬送された時にすぐに人間でないことがばれる。しかしそのことは研究機関で機密にされる。

 エヴァに乗れなくなったことを知らされて絶望し、怪我が治ってからは、自殺しようとしたが無条件で自分を助けようと身を徹したシンジに心を許す。そしてシンジと共に地球防衛軍内の食堂で働くようなり徐々に人間らしくなっていく。

 その過程で自分がゴジラを呼び寄せる因子になる可能性があることを察し、自分が人間でないことをシンジ達に打ち明ける。

 椎堂ツムグから自分の体液を倍に薄めたものを適量投与して使徒の部分だけを死滅させて人間に生まれ変わる方法を提示されるのだが、ショック死の可能性が高いことから迷うも、シンジからの告白を受けたことでシンジへの想いを自覚、人間としてシンジと共に生きたいと願い実験に挑むことを選ぶ。

 

 

 

 

・惣流=アスカ=ラングレー

 ドイツ支部にいるセカンドチルドレンの少女。14歳。

 母親に褒められたいがために幼少期から努力しエヴァのパイロットに選抜されるも、その日に母親は自殺してしまう。

 飛び級で大学まで卒業しており、強気で自信過剰な性格をしているが、レイとは別の意味でエヴァに依存している。自分が乗る弐号機を自分の物だと豪語している。

 第三新東京にゴジラが襲撃した後、ゼーレがネルフの名誉挽回のためにドイツから弐号機と共に日本に招集される。

 エリート意識が強く、ポッと出のケンスケを見下していたが、ネルフの失墜や度重なる敗戦を経てプライドがズタズタになり、シンクロ率を落とすことになる。

 その結果、ケンスケにシンクロ率でも負けてしまい、彼に対して殺意すら抱くほどようになっていった。

 

 

 

 

・相田ケンスケ

 第三新東京市立第壱中学校に通っていた、鈴原トウジのクラスメイトで友人。14歳。

 軍事オタクで親がネルフの職員らしく、何か悪いことがあると親がネルフだと脅し文句に使っていたが、ネルフの弱体化・縮小によってその言葉の効果を完全に失ったのだが全然そのことを知らない。

 第三新東京が復活した地球防衛軍によってゴジラ迎撃エリアに定められた理由と、生のゴジラと、ゴジラと戦う地球防衛軍を映像に収めたい欲求を抑えられず、ゴジラに恨みがあるトウジを誘って戦闘区域に勝手に侵入しとんでもなく酷い目に合う…。命が助かったのが奇跡。ゴジラと使徒と機龍フィアの戦いの映像を写した彼のカメラは没収された。

 トウジを誘い巻き込んだということでトウジ以上に怒られ、学校での盗撮の常習や父親のIDを使って軍事機密をホームページで公開したりと叩けば叩くほど犯罪と悪事が出てくるし、しかもまったく反省してない上に罪悪感も欠片もないので、このまま社会に出したらロクなことにならないし、犯罪者として人生を捨てることになるからと判断され、厚生施設に強制収容される羽目になる。

 

 リメイク版では、ネルフの特権徴兵により檻から出され、フォースチルドレンとして、エヴァ四号機のパイロットになる。

 最初は戦いや訓練をかなり甘く見ていたため、役立たずだったが、シンクロ率の高まりとエヴァの操縦のコツを掴んだことで劇的に戦闘能力が上がっていく。

 しかし、一方で調子に乗り、トンチンカンな妄言を吐くようなるなど、自覚無しに狂っていっている。

 

 

 

 

・鈴原トウジ

 チルドレン候補の少年。14歳。

 第三新東京市立第壱中学校に通っていたが、地球防衛軍が第三新東京をゴジラ迎撃エリアとして定めたため他の都市へ家族と移住することになる。

 第三使徒サキエルの襲撃時の避難中に妹が負傷したが負傷の原因がゴジラにあることからゴジラを憎むようなる。

 地球防衛軍に誘導されて第三新東京を離れる際に、第四使徒シャムシエルが第三新東京に出没したため、ゴジラも使徒を殺そうとして再び第三新東京に上陸したため、軍事オタクの友人ケンスケの誘いに乗ってしまい、地球防衛軍がゴジラを倒すさまを目に焼き付けてやろうと戦闘区域に入ってしまい案の定酷い目に合ってしまう…。死ななかったのが奇跡。

 憎しみに囚われ、沢山の人に、特にゴジラと戦う人達に迷惑をかけたことを深く反省し、妹からの激励もあり中学を卒業したら、地球防衛軍に入隊するという人生目標をたてる。

 

 リメイク版では、地球防衛軍の予備候補の試験会場でシンジと知り合い、普通に友達になった。

 

 

 

 

 

◇ネルフ関係者

 

・碇ゲンドウ

 シンジの実の父親。48歳。

 ネルフ本部の総司令。

 ゼーレに従いゼーレのシナリオに沿って行動するように見せかけ、自分の目的のためにゼーレとは違う意味でサードインパクトを起こそうとしている。

 その目的は、初号機に取り込まれた妻・ユイにもう一度会い、神となることで、そのためなら息子であるシンジも、ユイのクローンであるレイも道具として利用する。

 しかしその目論見も第三新東京に進撃してきたゴジラによってクラッシュされた。初号機は覚醒せず、初号機の覚醒の鍵となるシンジをM機関に奪われゼーレと同じぐらいゴジラの復活と地球防軍を恨む。

 ついでにレイまで地球防衛軍に保護されてしまったため、レイを三人目に移行させるために暗殺を企てたりするも、レイのクローンを椎堂ツムグにすべて処分されてしまい、それはできなくなってしまう。

 謎の銀髪の人物の協力のもと、シンジと音無を誘拐し、シンジを無理やり初号機に乗せてゴジラを使って初号機の中にいるユイを覚醒させさせるが、ユイの暴走によりゴジラの細胞を取り込んだため失敗し、ユイもろとも初号機をゴジラに破壊され廃人となった。

 その後、逮捕され、監獄行きとなった。

 ちなみに地球防衛軍の司令官である波川がネルフを嫌うようなったのは、ゲンドウに原因が有るらしい。

 

 

 

 

・冬月コウゾウ

 ネルフの副司令。60歳。

 ネルフの副司令だが、もとは、大学の教授で、ゲンドウとユイの恩師に当たる人物。

 ユイを取り戻すというゲンドウの目的に賛同し、行動を共にしている。実は、ユイに恋心を抱いていたらしい。

 年齢からも分かる通り、ゴジラや他の怪獣が暴れ話待っていた頃の被災経験があり、その恐怖を今日まで忘れることができないほど脳の隅から隅まで焼き付けられてしまっており、35年を経て死んだと思われていたゴジラが第三新東京に出現した時には、恐怖のあまり腰を抜かすほどである。

 ゴジラが出てきた時点でゲンドウの目的は絶対に達成できないと即座に判断し、ゴジラがセカンドインパクトから生き延びていたのならゲンドウと行動なんて絶対しなかったのにな~っと後悔して、もうなるようなれとすべてを諦めている。

 ネルフの中庭で黄昏がれてる姿がよく目撃されるとか?

 

 

 

 

・赤木リツコ

 ネルフの技術者で科学者。30歳。

 ネルフの中枢であるMAGIというスーパーコピューターを開発した赤木ナオコの娘で、MAGIの管理とエヴァンゲリオン全般の開発を担当していた。

 レイのクローンの製作と管理も行っており、レイの体調管理などもすべて彼女が担当していた。

 ゲンドウの愛人で、ユイに執着するゲンドウの姿にユイに対して嫉妬と愛憎の感情を心に秘めている。ちなみに彼女の母親であるナオコもゲンドウに恋しており、その愛憎から一人目のレイを殺害し、自殺している。

 人類補完計画の重要な鍵であるE計画(エヴァンゲリオン)のために使徒の研究もしているため、この世界でもっとも使徒に詳しい人物であるといえる。だがネルフの主要人物であったため使徒の研究はおろか、地球防衛軍の戦闘やその他に参加することが叶わなくなった。

 使徒は、エヴァでなければ倒せないという絶対的な理論を持って開発に着手していたが、復活して第三新東京に進撃したゴジラでその理論も常識云々もクラッシュされた。だがそこは科学者、ゴジラを見て資料でしか見たことがないゴジラがセカンドインパクトによる南極の消滅から生き延びた本物のゴジラだと見抜き現実を理解して受け入れた。

 ネルフが実権を失ってからは、本部の維持のための仕事しかないため、暇で、MAGIから地球防衛軍の活躍を観戦したり、ゴジラや地球防衛軍の資料を読み漁るなどして意外と有意義な時間を過ごしている。

 色々と超スピードで状況が変わったためか、ゲンドウに対する憎悪云々は吹っ切れた。

 使徒マトリエル襲来直後にエヴァのことを調査しに来た風間と出会い、彼に興味を持つ。

 

 

 

 

・葛城ミサト

 ネルフの戦術作戦部作戦局第一課所属。29歳。

 リツコと加持リョウジとは同じ大学で、加持リョウジは元恋人の関係。

 15年前に、南極で父親が体調を務める葛城調査隊と共に南極に同行していた。その時セカンドインパクトに遭遇し、父親にカプセルに押し込まれたことでただ一人の生き残りとなる。父親と仲が良くなったためこの一件で父親へ抱いていた思いを変化させた。その結果としてセカンドインパクトの原因となった使徒を憎むようになり、ゼーレのシナリオによりとんとん拍子でネルフの作戦部長として使徒と戦うことができる立場に収まることとなった。

 地球防衛軍には良い感情を持っていない。

 ゴジラを最大の脅威と認識する頭と、強力な暗示によって不安定になりそれをゲンドウに利用され…。

 

 

 

・加持リョウジ

 表向きはネルフの特殊監査部の人間だが、ゼーレ、日本政府の三重スパイをしている。

 ミサトの元恋人。

 日本政府が地球防衛軍の一員として復帰してからは、変わらずスパイとして活動し、ゼーレに地球防衛軍のことを知らせている。

 アスカと弐号機をネルフ本部に輸送するときアスカと共に新・轟天号に搭乗して轟天号の内部構造を調べようとするが、艦長のゴードンに見抜かれていたのと弐号機を狙ってきたゴジラの襲撃でそれどころじゃなくなり成果は出せなかった。

 ミサトがゼーレにより強力な暗示をかけられていたことを知るとゼーレに不信を抱き、ミサトを救うためゴードンに助けを求める。

 

 

 

 

 

・碇ユイ

 シンジの母で、ゲンドウの妻。

 表向きは死亡したことになっているが、実際はエヴァの実験の際にエヴァに取り込まれコアの中に冬眠することになっており、一応生きている。

 ゲンドウが人類補完計画を遂行しようとするのは、ユイとの再会のためである。

 初号機に乗ったシンジの初陣で覚醒する予定だったが、ゴジラが進撃してきたため覚醒ならず、いまだ眠ったままである。そのためまったく外の状況が分からないままだった。

 初号機独自の意識とは全く別人である。

 音無を人質に取ったゲンドウがシンジを強制的に初号機に乗せ、ゴジラを使って覚醒させようとしたゲンドウにより目論見通り覚醒に至る。

 だが、ゴジラの肉を喰らったことでG細胞の副作用を受け、初号機もろとも怪獣化してしまい、変異途中の体から機龍フィアによってエントリープラグを引っこ抜かれ、よりゴジラに近づこうとゴジラを吸収しようとしたが失敗に終わり、体内熱線で焼かれたり投げられ潰され、トドメに放射熱線を食らって初号機もろとも完全に破壊されたが……?

 

 

 

 

 

 

 

 

◇その他

 

・ゴジラ

 言わずと知れた怪獣王。別名、水爆大怪獣。

 王と呼ばれているが、この呼称は人間がつけたもので実際に怪獣達の頂点であるわけではない。他の種類の怪獣とは基本的に敵対関係にある。

 個体としては2代目で、1代目はオキシジェンデストロイヤーで死亡、それ以降は2代目がゴジラとして人類と対立している。

 約35年前に南極での決戦で氷の中に封印されるが、その20年後に起こったセカンドインパクトで南極が消滅し消息不明になる。その強大な意志力でLCL化せず、海の溶けたLCLを飲み、セカンドインパクトのエネルギーを喰ったことでセカンドインパクトとサードインパクトなどの知識を得たばかりか、更に強くなってしまい人類への怒りをより強くしてしまった。

 その怒りの強大さと吸収したセカンドインパクトのエネルギーによりアンチATフィールドを発生させられるようなっているため、使徒やエヴァンゲリオンのATフィールドを容易に破壊できるようなったのだが、ツムグに言わせればそのことをゴジラは自覚していない。

 基本的には戦闘狂らしく、強い相手を求めており、歯ごたえが無く、戦う相手にすらならない相手を無視するなど、割と気紛れな部分もあり、地球防衛軍側を時々困惑させる。

 自分の細胞を取り込んでいる唯一の人間のツムグを気持ち悪いと思い、嫌っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・少しずつ増やしていく予定

 




ツムグは、目立ってるけど主人公ではない。(強調)


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第三十一話  レイの頑張りと、風間の頭痛?

レイが、シンジとの仲を進展させたくて頑張るが……?



風間、不憫?


 

 

 シンジがレイに告白し、二人が結ばれてから何日か経過した頃。

 

「どうしたらいいか分からない?」

「……。」

 レイはこくりっと頷いた。

 相談された志水は、シンジがレイにたいして好意を寄せていたのはなんとなく察していた。

 いざ二人が結ばれたというのをレイが暴露してシンジが赤面して蹲ったのは最近のことだ。ちなみにレイは無邪気に微笑んでた。(悪意はない)

 たぶんレイは、恋愛云々の知識はほとんどないだろうなっと思っていたのでもしかしたら自分に相談してくるかもと想定はしていたが、シンジじゃなく、レイの方が来るとは思わなかった。

「シンジ君は何か言ってたかい?」

「いいえ…。」

 それを聞いて志水は、腕組して唸った。

 志水は、今でこそ独り身だが異性との交わりがないわけじゃない。

 レイは、どこかで恋人同士が何をするのか知識を手に入れたのだろうか?

 その考えが浮かんだが、レイの顔を見るとそれは違うと思った。

 シンジは、誰が見ても分かるほどよく気が付く子だ。火傷をする前からしょっちゅうレイの手助けだってしている。恋人同士の進展を気にしているというよりは、シンジに助けられてばかりで自分も何かしたいという気持ちから相談に来たのだろう。

 恋愛云々にまだ疎いレイに、変に知識を与えてシンジとの仲が拗れることになっては大変だ。かと言って年頃の女の子らしさというものを芽生えさせるのは…。

 それを考えて、志水の頭にピコーンとひらめいた。

「参考になるか分からないけど…。」

「?」

 現在いる休憩室にある本棚から、本をレイに渡した。

 変に拗れるかもしれないと何も教えないのはいけないと考えた志水は、起爆剤にと渡したのは………、少女漫画だった。

 レイは、パラパラと漫画を読んで。だいたい読み終わると本を置いた。

「どう、がんばれる?」

「……がんばる。」

 レイは、立ち上がると足早に休憩室から出て行った。

 残された志水は、漫画を本棚に戻しながら。

「シンジ君…、これは試練よ。」

 レイの頑張りが実ることと同時に、シンジの健闘も祈った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 その後……。

 

「で……? なんで俺に相談なんだ?」

「えっと…。尾崎さんいないし…、音無さんも忙しそうだったし…。」

 何故かシンジから相談相手に選ばれた風間であった。

 なんでもっと話しやすいはずの宮宇地でもなく、自分なんだと問いたいが……。そういえば宮宇地も留守だったと思い出した。

「まあいい…、それで? 何があった?」

「えっと…。」

 そこからシンジは、これまでにあったことを語り出した。

 

 まず、レイが通路の曲がり角でパンを咥えてぶつかってきた。

 

 結果:ぶつかるタイミングが悪く、シンジが盛大に後ろにこけて後頭部強打で、大変なことに。なお、レイはこけなかった(※恐らく身体は細いがチルドレンとして鍛えられた部分が強かったんだと思われる)。

 

 

 効果のほど:そもそも恋が始まる云々は、すでに起こっているので無意味だったことにレイが気づいて落ち込んだ。

 

 

 幸い気絶しただけで済み、後遺症も無かった。レイは、メチャクチャ謝った。

 

 次に、ベンチに座ってたら、隣に座ってきた。まではよかった。

 しかし、レイがペシペシと自分の腿を叩いて注意を引くので、思わず『なに? どうしたの?』っと聞いたら、レイは、ふて腐れようになって去って行った。

 その次にジーッと近距離で顔を見つめられ、見つめられて赤面したシンジが『どうしたの?』って聞くと、そこへ尾崎がちょうど来てしまい、急にレイはまたふて腐れて去って行った。

 

「なにがなんだかさっぱりで……。」

「……。」

 風間は頭痛を抑えるべく、額を手で押さえた。

「誰が…。」

「?」

「あの娘っこに、そんなベタなこと教えたんだか…。」

「えっ?」

「正直言いたかねぇが、言わないとお前は分からないと思うから説明する。」

「は、はい。」

「まず、お前は少女漫画を読んだことあるか?」

「漫画はあまり…。」

「……パン咥えて曲がり角でぶつかった相手と恋に落ちる…、まあベタベタでチャチな少女漫画の展開だな。」

「えっ…?」

「お前と恋人云々の関係になるフラグでも立てようかと思ったが、とっくに立ってるのに気づいてなかっただろう。」

「ふら…。」

「次にベンチで太ももを示してたのは……、膝枕しないかってことだ。」

「ひざ…。っ!?」

「最後の方は、たぶんキスでも待ってたんだろう。そこに尾崎が邪魔しちまって、それで機嫌悪くしたんだろうな。」

「き…!?」

「ようするに、お前との関係を進展させたかっただろう。」

「わーわー!!」

 想像したシンジは頭に浮かんだ汚れた(?)妄想を振り払おうとする。

「で? お前的にはどうなんだ? 今の関係以上のことは?」

「えーーー!?」

「お前がちゃんとリードしろ。もしくは教えろ。」

「ぼ、ぼぼぼぼぼ、僕…、女の子に告白したのも…全部初めてで…。」

「できる限りフォローしてやるから、さっさと行け! あの娘っこのところに!」

「は、はい!!」

 シンジは、立ち上がりビシッと背筋を伸ばしてから急いで走って行った。

 残された風間は、ハーっとため息を吐いた。

「……ごめんね。」

「…あんたか? 教えたのは。」

 コソッと出てきた志水に、風間が聞いた。

「…起爆剤程度にしか考えてなかったの。」

「行動力のある無知ほど怖い。」

 やってしまったと落ち込む志水に、腕組みした風間がため息混じりにそう言ったのだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「綾波!」

「……。」

 M機関の敷地にある芝生のベンチに座っていたレイを見つけ、シンジは駆け寄った。

「あの…その…。わ、分かんなくてごめん。でも…、あれ、あんなところでやつことじゃないよ…?」

「……。」

「聞いてる? えっと……その…。」

「…分からないの。」

「えっ?」

 レイがポツリと言った。

「碇君に好きって言って、それからどうしたらいいか分からないの…。碇君と何をすればいいのか。碇君にしてあげれること…、何か分からなくて…。」

「……ぼ、僕も実は分からないんだ。」

「えっ?」

 レイは、それを聞いてようやく顔をシンジの方へ向けた。

 シンジは、頬を染めてポリポリと指で頬をかいた。

「偉そうなこと言えないけど、僕も、その…女の子と……、えっと…、好きになった子と何をしたらいいか、分かんなくって…。」

「碇君も?」

「うん…、ごめん。」

「じゃあ…、一緒?」

「うん、そうだね。」

「……私、間違ってた?」

「ううん。綾波はただ僕と仲良くする方法を知らなかっただけだよ。人のこと言えないけど…、一緒に…考えながらさ…、その…、これからのこと…。」

「…うん。」

 レイは、微笑みを浮かべて頷いた。

 

「クワ~。」

 

「えっ? な、なにそれ?」

「あっ、さっきから引っ付いてきてたの。」

「なのそれ?」

「温泉ペンギン。」

「ペンギン?」

 ベンチの下から出てきた温泉ペンギンなる生き物。

 南極が滅んだ今となっては、ペンギンは超希少生物である。

 なお、その温泉ペンギンの首には、PEN2と掘られたプレートが引っかかっていた。

「ペン、に(2)? いや、ペンペン?」

「クワー。」

「あー、ペンペンなんだ。」

 頭良いな…と思いつつ、なんでM機関にこのペンギンが?っと疑問を持っていると。

「あっ、こんなところにいたか!」

「クワー!」

 白衣の研究者が現れ、ペンペンをを見つけて近寄ろうとすると、ペンペンは、レイの足の後ろに隠れてしまった。

「これは、困ったな…。」

「あの、どうしたんですか?」

「その温泉ペンギンは、ネルフのとある職員からの預かり物でな。なんか色々と事情があって飼えなくなったらしいから、うちで預かることになったんだが…。」

「逃げられた?」

「ペンペン君。別に君を解剖しようってわけじゃないんだぞ~?」

「クワクワーー!」

「これは困ったな…。……そうだ。君、部屋に余裕はあるかい?」

「えっ? はい?」

 話を振られてレイは少し戸惑った。

「このペンギンを預かってくれないか? 餌はこっちで用意するから。なんだったら世話代を払ってもいい。」

「えっ?」

「えっ、でもいいんですか?」

 レイじゃなくシンジが聞いた。

「いいもなにも、元々はペットのペンギンなんだ。人慣れしてるし、見ての通りかなり頭も良い。野生に返すわけにもいかないし、誰かが世話をしないといけないんだ。」

「分かりました。私が預かります。」

「助かるよ。」

「クワ~。」

 レイがしゃがみ、ペンペンを抱き上げた。

 

 

 ペンペンは、ネルフ作戦本部長だった葛城ミサトのペットだったのだが、ミサトと接点が失われたシンジの知るところではない。

 ちなみにペンペンを連れてきたのは、加持である。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 一方その頃。

「ハ~~~~~~~~…。」

「長い溜息だな。」

 青葉と日向がネルフ本部の休憩室にいた。

 青葉は机に突っ伏し、向かい側に座っている日向は本を読んでいた。

「どうしたんだ?」

「就職試験落ちた…。」

「またか。これで何回目だ?」

「15回…。」

「なにやってんだよ。」

 弱々しく言う青葉に、日向は呆れ顔で言った。

 日向達、ネルフのオペレーター達は、ネルフ本部が権限を失ったことでとにかく暇だった。

 つい最近の出来事で、ゲンドウの暴走に事件の後、一時自爆装置の権限を奪われていたMAGIの復旧作業や破損したエヴァの格納などの作業があり、少々忙しかったことはあったが、終わってしまえば暇になる。

 本部の維持については、本部中枢を担うMAGIの管理者であるリツコが中心となって行われており、今までの職員のほとんどが切られ、本部の維持に必要な人材も最小限、日向達のようにギリギリで残っている職員達がいるだけである。

 ネルフが失墜したことで元ネルフ職員という肩書は枷となり、再就職を困難にさせた。

 大量の失業者達が路頭を迷いかけたが、そこに救いの手を差し伸べたのが、ある意味で元凶である地球防衛軍だった。

 再結成されたばかりで人材が足りないということで、審査に受かれば地球防衛軍での働き口(職種様々)を紹介してもらえた。再就職ができずにあえいでいた元ネルフ職員達の多くがこれにしがみつき、殺到した。結果としてこれが機密の多いネルフ内部の情報を地球防衛軍に漏れさせることになり余計にネルフの重要性がなくなるきっかけにもなった。

 しかし、それでも再就職が難しかった者達もいる。

 すでに機能を失った作戦本部のオペレーターである青葉などがその代表と言える。

 オペレーターとして防衛軍に入りたくてもすでに司令部のオペレーター枠はかなり難問。そして事務作業の方も上限がいっぱい。

 色々と運が悪く事務職の枠が埋まってしまったばっかりに、再就職に漏れてしまったのである。

 ちなみに日向は。

「おまえ技術部オペレーター、まだ目指してんの?」

「まあな。」

 日向が今読んでいる本は地球防衛軍が発行している入隊試験勉強の教科書だった。

「地球防衛軍は子供の頃からの憧れだったからな。この機会を逃したら二度と巡ってこないよ。」

「そりゃよかったな…。」

 目をキラキラさせて言う日向の様子に、青葉は少しうんざり顔で言った。

 

 

 

 一方で伊吹マヤは。

「先輩、コーヒーをどうぞ。」

「ありがとう。マヤ。」

 パソコンの前にゆったりと椅子に座っているリツコに、マヤがコーヒーの入ったカップを渡した。

「…マヤ。」

「はい。なんでしょうか?」

「あなたは、このままここにいるつもりなのかしら?」

「はい。先輩を置いていくなんてできません。」

「今のネルフにいても何もないし、収入も少ない、贅沢を控えれば十分生活できる。そんな生活を続けることになるわよ?」

「大丈夫です。」

「若いあなたが、こんなところで人生を終わらせるなんてことないのよ?」

「いいんです。これが私の選んだ道ですから。」

「あなたなら防衛軍の技術職でやっていくことだってできるのに、勿体ないわね。」

「それは、先輩の指導がおかげです。」

「私のためなんかにここ(ネルフ)に残らなくたっていいのよ?」

「私、先輩に憧れているんです。」

「落ちぶれた組織の管理しかできない科学者なんて憧れても、失望するだけよ?」

「でも先輩、最近楽しそうじゃないですか。」

 マヤが言うリツコが楽しそうという意味は、ゴジラが出てきてからというもの、ゴジラ関連の資料や、ゴジラと防衛軍の戦いを生中継で視聴していることだった。

「それにMAGIの管理だって先輩一人よりやりやすいと思うんですよ。それとも私じゃダメですか?」

「そんなことないわ。ありがとう。」

「そう言っていただけるだけで十分です。」

 マヤはにっこり笑い。リツコは、やれやれと言う風に肩をすくめ微笑んだ。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 波川の執務室で、波川とゴードンが机を挟んで対峙していた。

「…要件はなんですか?」

「ゼーレを知っているか?」

 それを聞いた波川は、眉を歪めた。

 波川の表情を見てやはりかとゴードンは呟いた。

「どこでその言葉を?」

「言う必要はない。」

「……。」

「……。」

 そして再び沈黙が流れる。

 先に口を開いたのは波川だった。

「私もすべてを知っているわけではないわ。“彼ら”のことは。」

「全く知らないわけじゃないんだな?」

「セカンドインパクトが起こる前…、解散する前の地球防衛軍にいた頃、彼らに従う者と接触した。彼らは地球防衛軍を良く思っていなかったらしいから内側からどうにかしたかったのね。危うく殺されかけたことだってあったわ。」

「人類の文明が始まった頃から存在するとかしないとか…、歴史を裏から支配していたとは聞いたぜ。」

「あら、それだとあなたの方が良く知っているかもしれないわ。」

「………使徒が人類の可能性だってこともな。」

「なんですって?」

 ここから先は、ゴードンが加持から聞いたことである。

 使徒は、使徒アダムから生まれた生命の実を持つ人類。

 人間は、使徒リリスから生まれた知恵の実を持つ人類。

 両者は争う運命にあり、互いに持たない物を手に入れて完全な生命になることが目的である。

 人間は、使徒から生命の実を。使徒は、人間から知恵の実を。手に入れるために。

 使徒が持つ生命の実と言うのが、使徒の体を維持しているコアであり、S2機関という永久機関だという。

「人類の可能性だから、人類とほとんど同じ遺伝子を持つわけだ。ある意味当り前のことだった。使徒が人間に敵意を向けるのは俺達人間にしかない知恵の実とやらが欲しいから。……そして人類は、生命の実、永久機関のS2機関を欲しがった。ゼーレとかいう連中の目的はそれだろう。」

「その二つを手にした人類が覇者になるということかしら? 単に頂点に立つことだけを狙っているとは、思えないわね。」

「おまえもそう思うか?」

「人間の歴史の裏にいた彼らが、“その程度”のために動いているとは思えない。もっと面倒なことを考えて行動してそうね。」

「人間を進化させるためだっつったら信じるか?」

「…その話、どこで?」

「どーでもいいだろ。

「情報の出所は重要よ。」

「おまえがゼーレとかいう連中と繋がっている可能性はどうだ。」

「信用がありませんか?」

「戦自も国連も、ゼーレの隠れ蓑だったらしいからな。」

「それはどこの情報かしら?」

「ゼーレと繋がりのある奴らを片っ端から上げてもらおうか。」

「それを言ったらほとんどの人間達がそうなるでしょうね。ですが彼らはゼーレを良く思っていないらしいわ。」

「…ゴジラか。」

 地球防衛軍が誕生するきっかけとなった最悪最強の敵。

「そうでしょうね。ゼーレからの離反が増えたのも、ゴジラを始めとした怪獣の出現がきっかけではあったらしいわよ。」

 ゼーレにとって完全なイレギュラーであったゴジラを始めとした怪獣の多くの怪獣の出現は、ゼーレの隠れ蓑とされていた政治家や軍部などに自立する力を湧きあがらせ、ゼーレの威光が及ばない地球防衛軍が人類の存続を賭けてゴジラと怪獣達と戦いを繰り広げた。

「尾崎の命を狙っているのもゼーレか?」

「また命を狙われているとは聞きましたが、ゼーレとは断定できませんわ。」

「…連中は何か勘違いしているかもな。」

「その根拠は?」

「あいつ(尾崎)の力もそこまで及ばないということだ。」

「なら、本当に彼らのことを探ったのは、ツムグということになるかしら。」

「奴ならそれぐらい朝飯前だろう。」

「ですが、ツムグは何も喋りませんからね。」

「奴は何を企んでいる。」

「それは分かりません。」

「ったく、面倒な奴だ。」

「同感ですわ。」

 ゴードンと波川は同時に溜息を吐いた。

 

 

 と、その時。

 

 

 警報が鳴った。

 

「波川司令! 使徒が現れました! 至急本部に!」

 波川の部下が駆けこんできた。

「使徒か。」

「行きますよ。」

 波川とゴードンは、波川の執務室から出た。

 

 

 

 この使徒がもたらす悪夢を、まだ二人は知らない…。

 

 

 




パン咥えてぶつかるって展開、誰が思い付いたんだろう?
そもそもネタの出所が分からん。




次回は、ゼルエル編。


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第三十二話  その名は、『神の腕(ゼルエル)』

ゼルエル編。



機龍フィアとの戦いはコピーペースト……。


エヴァンゲリオンとの戦いは、書き下ろし。



グロ注意かも!!


 

 

 その使徒は、ずんぐりした黒を基調とした体に、首が無く特徴的な白い顔がずんぐりしたその身体に埋まっているような形をしていた。腕らしき物は見当たらず、足も短く、足として機能するのかどうかも怪しい形状をしていた。

 そんな使徒が宙を浮遊し、ゆっくりと第三新東京へ向かっていた。

 地球防衛軍の戦闘機や地上部隊からの砲撃を受けても平然としており、ATフィールドを張ってもいない。

 完全に無視している様子は、奇妙な顔の形も相まって非常に不気味であった。

「完全にこちらを無視していますね…。」

「しかも避けようともしていない。」

「チッ、嘗めた真似を…。」

 地上の前線部隊の指揮官が舌打ちをした。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

『前線部隊の攻撃には全く興味を示していない。メーサー砲も全く効果なしだ。』

「だろうね~。」

 ツムグは、操縦席で足を組んでくつろぐように座りながら答えた。

『なんだ…、おまえは、知ってたのか!?』

「いや、競技大会の時に嫌な予感だけはしてたからさ。」

『予感がしようがしまいが、出撃だ。』

「はいはい。」

 ツムグは、足を正して操縦桿を握った。

 しらさぎから機龍フィアが切り離され、使徒の進路上に着地した。

『ツムグツムグ、あいつの名前、ゼルエル!』

「ぜる、える…?」

 ツムグは、名前を聞いて眉を吊り上げた。

 

 ゼルエル。

 『神の腕』。

 簡単に言うと、力(ちから)を意味する。

 

 ツムグは、その名前と意味を理解した途端、猛烈な不安を感じた。

「嫌な予感的中…?」

『大丈夫だよ、負けないもん!』

 ふぃあは、自信満々に言った。

 まだ生まれたばかりで危機感が薄いらしい。

『椎堂ツムグ! 使徒が行ったぞ!』

「う…。」

 そうこうしているうちに使徒ゼルエルが機龍フィアの前に舞い降りた。

 表情の変わらない顔と何も映さない空洞みたいな両目がこちらを見ている。ツムグは、思わずたじろいた。他の使徒だって似たようなものなのに、こいつに限っては妙な圧力を感じたのだ。

『ツムグ?』

 いつもと違う様子のツムグにふぃあが不安げに声をかけた。

 と、その時。ゼルエルの目が光った。

「うわっ!」

 間一髪で操縦が間に合い、機龍フィアを横にずらすと機龍フィアのスレスレでゼルエルが放った光線が機龍フィアの肩にあるキャノンの右側を消滅させ、後方にある山を消滅させた。

「ゲッ…! ヤバイ!」

『ツムグ! 来るよ! 来…。っ!?』

「なっ…。」

 次の瞬間には、機龍フィアの右腕が根元から切り離されて後方に飛ばされた。

 カッター状に伸びた平たく薄いゼルエルの腕が目にも留まらぬ速さで機龍フィアの右腕を切断したのだ。

『う、ウソー、ウソー! 速い! なにアイツなにアイツ!?』

「ふぃあ、落ち着け!」

 ツムグは、残った左腕からブレードを展開しゼルエルに突撃した。

 ゼルエルの平たい腕がブレードを払うと、ブレードが真ん中から折れて地に刺さった。

 近接武器を失い、ならばと口を開けて100式メーサー砲を正面から放つ。

 すると数十枚ものATフィールドが発生し、十数枚を破って100式メーサー砲を防いだ。

「これを防ぎきるか!」

 ゼルエルがずいっと前のめりになった途端、新たに張られたATフィールド飛んできた。

 地を抉りながら飛んできたATフィールドを真正面から食らい、機龍フィアの巨体が吹き飛んだ。

「ATフィールドを飛ばすって、そんな使い方でき…。っ!?」

 素早く立ち上がった途端、ボキリっと大きな音を感知し、そのすぐ後にツムグの体に大きな衝撃が走った。

 恐る恐る下を見たツムグは。

「ぁ…。」

 口から血を大量に吐いた。

 ツムグの半身を上半身と下半身に分けたのは平らな何か。

 それはゼルエルの腕であった。

 機龍フィアの体を貫き、中にいるツムグの体の胸から下を切断していた。

 ツムグの体を貫いたことで血液などの体液で汚れた端からブクブクと沸騰するように水泡が出来ていった。

 ツムグの体液と細胞で焼け爛れるとゼルエルは、腕の根元辺りを切り離した。そして再び根元から薄っぺらい腕が生えて来た。

 首を折られたあげく、胴体をカッター状のゼルエルの腕に貫かれた機龍フィア。貫かれ切断された背骨から赤黒いドロドロの液を噴出した。その目から光が消える。

 動かなくなった機龍フィアの横を、ゼルエルは浮遊しながら通り過ぎて行った。

 この一連の展開に、地球防衛軍の司令部も前衛も後衛も、言葉を失って固まってしまった。

『…お…おい…、おい、おい! 椎堂ツムグ! 返事をしろ! 聞こえてるのか!?』

「………動ける…、…うにな、る…ま、で、待っ…て。」

 口から大量の血を吐いた状態でぐったりと操縦席にもたれかかっているツムグは、切断された部位を撫で再生の具合を確かめながらそう返事をした。内臓が全部出て、操縦室を血の海にしている光景な上に、再生のために切断面と内臓が終始動いているのはとてもじゃないがお見せできない状況である。

『生きてたか! 状況を説明しろ!』

「いや…その…うん……、体、真っ二つに…され、た…。上と下が…離ればなれ。……機龍フィアは、素体部分まで切断されて…。今から再生させるから、待って…。」

『そんな状態でも生きているのか……。』

「乗ってるのが俺で…よかったね。」

『……(ザザ)ッ…、ツム、グ、…ダ、だ、大丈夫?』

「ふぃあちゃんも…無事だよ。」

『…意外と元気じゃねぇか……。』

「あはは…、そーでもないよ。まだ内臓全部出てるし。」

『うげっ、早く治せ!』

「ムチャ言わないでよ。」

 ツムグは、大惨事にかかわらず気楽に笑っているが、いくら再生力が高くても、時間は使う。もちろん痛いのだが……。

 機龍フィアの方も自己再生で素体部分の切断面を塞ぎ、折れた首がギギギッと治ってきていた。だがさすがに消し飛ばされた右肩のキャノンは治らない。右腕も地面に落ちたままだ。

 再起動できるまで機龍フィアは、ゼルエルを追うことはできそうになかった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 地球防衛軍は、大騒ぎとなった。

 機龍フィアが使徒ゼルエルの前に呆気なくやられてしまった。

 ゼルエルは、相変わらず前線部隊の攻撃を無視して、第三新東京を目指してゆっくりと飛行していた。

「機龍フィアが…。」

「なんなんだあの使徒は! これまでの使徒とはわけが違うぞ!?」

「前線部隊の攻撃が一切通用していないし、どうすればいいのだ!?」

「機龍フィアの再起動までどれだけかかる!?」

「分かりません!」

「ああああ、もう使えん!!」

「このままでは使徒が第三新東京に行ってしまう! なんとしてでも止めねば…。」

 

 しかし司令部の願い空しく、地球防衛軍の防衛を難なく突破したゼルエルは、ついに第三新東京に辿り着いた。

 

 

『よーーーし、やるぞーーーー!!』

『うるさいわね!』

 第三新東京にエヴァンゲリオン、二機が待ち構える。

『いいかね? 君らは、機龍フィア、及びゴジラが来るまでの時間稼ぎだ。間違っても勝とうなどと思わないことだよ!』

『なんですかそれ? 俺ら時間稼ぎ?』

『んなの聞いてられるないわよ!』

『もう一度言う。君らは時間稼ぎをするんだ。いいかね?』

 冬月が重ねてそう命令した。

 ゼルエルは、やがて第三新東京の中央辺りに降り立った。

 そして、海の方を向く。

『あれ?』

『……!』

 エヴァンゲリオンに対して完全に横向きである。

『…あんの使徒!!』

 その舐め腐っているようにしか見えないゼルエルの行動に、アスカは憤慨した。

『俺が怖いからって余裕ぶってんのか~? よし後悔させてやろうぜ、惣流!』

『なんであんたが仕切ってんのよ! アンタなんかどーでもいいわ! 私は私でやる!!』

『あっ! おい!!』

 アスカが斧型ブレードを手にしてゼルエルに走って行った。

 しかしゼルエルにあと一歩のところで、ガギーンっと弐号機はATフィールドに阻まれた。

『この!!』

 アスカは斧型ブレードを振り回し、何重にも重なっているATフィールドを破っていく。

 次の瞬間。シュパンッと見えぬ速度でゼルエルのペラペラの腕が伸びていた。

 そして、弐号機の腹が大きく切れて、内臓が飛び出した。

『アアアアアアアアアアア!?』

 シンクロによる痛みでアスカは絶叫していると、カウンターソードを手にした四号機が弐号機の後ろから跳び上がってゼルエルに刃を振り下ろした。

 ムチのように振られたペラペラのゼルエルの片腕が、その刃を四号機もろとも弾き飛ばし、四号機は地面に着地した。

『やるな、お前! でも、俺の敵じゃ…。』

 そう言って場違いに不敵に笑うケンスケだったが、次の瞬間に首に激痛を感じ、首筋から血があふれた。

『……えっ?』

 何が起こったのか分からないでいると、エントリープラグから見たのは、血を撒き散らしながら飛んでいく四号機の頭だった。

 四号機は首から上を失い、そのまま倒れ込んだ。

 高まっていたシンクロ率によるショック死しかけたケンスケだったが、すぐに行われたプラグスーツに備えられた心肺蘇生装置により一命を取り留めたのだった。

 その時。

『……裏コード、モード反転!! ……ザ・ビースト!!』

『ダメよ、アスカ! それは…!!』

『倒せりゃ…いいのよ!! か、勝てば……、ぅう、あああああああああああああああああああああああ!!』

 隠されたエヴァンゲリオンのリミッター解除コードである、ザ・ビーストを発動したアスカにリツコが静止をかけるが、アスカは聞かない。

 弐号機の背骨から無数の管が飛び出し、メキメキと体の筋肉が隆起、そして隠されていた口部分が割れるように開いて無数の鋭い歯が露わになって弐号機は咆吼した。

『しぃねぇええええええええええええええええ!!』

 赤い光りに染まったエントリープラグ内は、ボコボコと沸騰し、暴走状態に精神を持って行かれたアスカが目を緑に光らせ、白目を血走らせて叫ぶ。

 獣のように跳び上がり、ゼルエルへと襲いかかるが、強固で何重にも重なったATフィールドがそれを阻む。ATフィールドの上に乗り、両腕を振り上げては振り下ろしATフィールドをバリンバリン!っと破っていった。弐号機が暴れるたびに腹の横から飛び出していた腸がぶらんぶらんと揺れて体液が散らばるためそのグロテスクな有様に、オペレーターのマヤは吐き気を堪えていた。

 やがてあと1枚と迫ったところで、ゼルエルに動きがあった。

 クルクルとペラペラの両腕を回し、丸い筒状に変えたのだ。

 そして、筒状になった腕を伸ばして弐号機を貫いた。

 側頭部と、腹部の半分以上を失い、弐号機は吹っ飛ばされ地面に落ちたが、それでも執念深く四つん這いで起き上がり、咆吼をあげて、少し露出した頭の脳部分や、破れたり更に溢れ出た他の内臓から出る体液を吹き出しながらゼルエルに迫る。

 まっすぐに伸ばされたペラペラのゼルエルの腕が、横へと振られると、弐号機の体が上下で二つに切断された。

 上半身だけでもガサガサと動いて、それでもなおゼルエルに迫ろうとする弐号機。だが、やがて内蔵バッテリーが切れて機能停止した。

『クソ…クソ、クソクソクソクソクソ…!!』

 弐号機の暗くなったエントリープラグ内で、アスカは吐血しながらガチャガチャと操縦桿を動かしてゼルエルを睨んでいた。

 しかし、ゼルエルはそんなアスカなど目もくれずその場に佇んでいた。

 ちなみに、ゼルエルはその場から一歩も動いていなかった。

 

 

 

 

 海から放射熱線が飛んできて、ゼルエルは、それを何重にも重なったATフィールドで防ぐ。すべてのATフィールドが破れたところで熱線は消えた。

 

 

 

 

「き、来た!」

 緊張が走る。

 ゴジラがやがて海から姿を現し、ゼルエルからそこそこ距離を取った状態でその前に立った。

 ゴジラを目の前にしてもゼルエルは、一切慌てる様子もなくその場に佇んでいた。

 両者の睨みあいが1分ほど続いた後、両者がほぼ同時に動いた。

 

 

 怪獣王ゴジラと、力の使徒ゼルエルの戦いが始まった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「最強の拒絶型…。」

 ネルフ本部でリツコが呟いた。

 機龍フィアがゼルエルを前に敗北したのも生中継で見ていた。

 これまでの使徒でも、ゴジラ相手でも耐えることができた機龍フィアの特殊超合金が、いともたやすく切断され、右腕が飛び、首を折られ、体の中心を背中の方まで貫通された。箇所から見て操縦席と思われる。中にいるパイロットは、間違いなく無事ではないだろう。

「だとしたら、今までの使徒とはわけが違う…。ゴジラは、果たして勝てるの?」

 リツコですら、この戦いの勝敗に大きな不安を感じていた。

 それほどの力を持つのが使徒ゼルエルなのである。

「きっとあの老人達は、期待しているでしょうね…。この使徒に。」

 ゼーレがゴジラを排除することに期待しているのは目に見えている。倒さずとも致命傷を負わせて人類補完計画実行まで大人しくさせたいはずだ。

 ゼーレにとって、ゴジラは完全なるイレギュラー。

 なんとしてでも排除したかったから、地球防衛軍の結成と活動にもほとんど口出ししなかった。それが結果として、これまでゼーレに従っていた者達の離反を招く結果となってしまったのだが……。

 今やゼーレの目的は、変わりつつある。そのことに彼らは気付いていない。

「人類の進化のための計画が、自分達に逆らう者達への報復になりつつあるのに、気付いているのかしらね…?」

 ゼーレに従わなくなったとはいえ、リツコはMAGIを使ってゼーレの様子を見ていた。ゼーレがMAGIのコピーを使っている以上、MAGI本体を操るリツコに筒抜けなのである。

 ゼーレから漂う不穏な空気にリツコは、多少の不安を覚えていた。

 と、その時。大きな振動が本部を揺らした。

 上ではゴジラとゼルエルの戦いが激しくなっている。

「……ゴジラが勝つことを願っている自分がいるわ。恐ろしい…。…っ?」

 頬杖をついてパソコンのモニターを見つめてため息を吐いていると、なぜかどこかで誰かがニヤリッと笑った気配を感じて、リツコは周りを見回した。

 

 

 

『それ悪いことじゃないよ~。赤木博士。』

『ツムグ…、もうくっついたの?』

『まだ。』

『えー。』

 

 

 

 

 




動画で見た新劇のザ・ビーストが印象的だったので、アスカに発動させました。
ケンスケは、ギリで生きています。



次回、ゴジラvsゼルエル。


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第三十三話  ゴジラの退屈と、アダムの行方

ゴジラvsゼルエル戦。



何度も何度も書き直して、結局この展開。

最初の展開はコピーペースト……。


途中からゼルエルは……。




何回書いてもなんかしっくりこなかったけど、とりあえず強引に終わらせました。


 元武装ビルの瓦礫と残骸が散らばる荒れ地となった第三新東京に、赤黒い血が飛び散った。

 ゴジラの顔の左側が切り裂かれたのだ。

 ゼルエルは、ペラペラの両腕をヒラヒラさせてまるで挑発している。動かない顔の表情もあって、かなりムカつく感じだ。現にゴジラは苛立ったのか、唸っている。

 シュンッと残像が見えないほどのスピードでゼルエルの腕が迫ると、ゴジラは爪を立ててその腕を切り裂いた。しかしペラペラのゼルエルの腕はすぐに修復された。

 その直後、ゴジラの右肩辺りから血が噴き出た。先ほど引き裂いたゼルエルの腕が先にゴジラの肩を切り裂いていたのだ。ゴジラの右肩の出血はすぐに止まる。

 さすがのゴジラもこの一撃には驚いたのか、ゼルエルを見ている目が少し見開かれている。

 だがやられてばかりのゴジラではない。

 続けて振られたゼルエルの腕を掻い潜り、ゼルエルに突撃する。

 分厚く、何枚も重ねられたATフィールドが阻み、割れる音と激突する音が響いた。

 ゴジラは、ATフィールドを掴むようにして破くが、何枚も重ねられたATフィールドはすぐには突破できない。

 ゼルエルの目が光り、凄まじい爆炎がゴジラを包んだ。

 だがすぐにゴジラが顔を出し、残りのATフィールドに喰らいつき破る。

 ゴジラの顔がゼルエルに接触するかしないかの距離に迫り、ゴジラの口に熱線の光が込められた時だった。

 ゼルエルのずんぐりした体が“ほどけた”。

 そのためゴジラの熱線はその隙間から回避され、ゼルエルは上へ逃れた。

 足が無くなり、胴体が黒いが腕と同じヒラヒラの体の組織に変わる。白い肋骨のようなものに囲われた赤いコア、そして特徴的な顔だけがあるその姿は、更に不気味と言わずしてなんと呼ぶというような姿であった。

 ゴジラがハッと上を見上げた途端、何十枚ものATフィールドが放たれ、ゴジラを押し潰して土煙が大きく立った。

 土煙が晴れた後には、ゴジラがうつ伏せになって地面にめり込んだ姿があった。

 ゼルエルは宙に浮いた状態で更にATフィールドが発生させ、倒れているゴジラに放った。何度も何度も。

 そのたびにゴジラはますます地面にめり込む。しかしゴジラもやられてばかりではないと言わんばかりに、ATフィールドを押し戻すように立ち上がろうとする。放たれたATフィールドがゼルエルの方に押し戻されそうになったり、押したりを繰り返す。

 押し戻した一瞬をついて、ゴジラが上を向いて太い熱線を吐いた。

 赤い熱線がATフィールドを貫き、ゼルエルに迫る。

 ゼルエルの姿が熱線に飲まれるが、直後、ゴジラの左太ももが抉れた。

 ゴジラが悲痛な声を上げた時、ゼルエルがずんぐりした体に戻りゴジラの背後に立った。ゼルエルの体は、熱線で焼かれたためか湯気が立っているが、元々の体が硬いことと、ATフィールドで威力を殺したためほとんどダメージになっていないらしい。

 ペラペラの両腕がゴジラの体に絡みつき、その巨体を持ち上げて後ろへ頭から叩きつけた。

 そしてもう一度持ち上げ、前方へ放り投げられるゴジラ。

 ゴジラが立ち上がろうとすると、ゼルエルの両腕がトイレットペーパーのように巻かれ、二本の棒状の形になりゴジラに向かって伸ばされた。

 真っ直ぐ伸ばされたゼルエルの腕がゴジラの首の横とわき腹を抉った。

 大きく出血したゴジラが後方に吹き飛ばされ、仰向けに倒れた。

 ガフッとゴジラが血を吐く。どうやら気管まで抉れたらしい。

 ゼルエルは、腕を上へ伸ばすと、その先端でドスドスっとつつくようにゴジラの胸の上を突いた。突かれるたび、ゴジラがビクンビクンとなり、たまにガフッと血を吐いた。

 地球防衛軍側にも、ネルフ側にも絶望が広がる。

 その時、ミサイルとメーサー砲が飛んできてゼルエルに着弾した。

 ゼルエルが振り向くと同時に、ドリルがゼルエルの顔に突き刺さった。

 素体から噴出した赤黒い液で汚れた機龍フィアが、くっつけた右腕から展開したドリルでゼルエルの顔を突き進む。

 ドリルがゼルエルの顔を貫き、胴体をも貫通しようとした時、ゼルエルのペラペラの両腕が機龍フィアに巻き付いた。だが巻き付いた端からジュッと音を立てて焼けて溶けていった。機龍フィアの素体…つまり赤黒い液はツムグの細胞なのだ、使徒が触れればたちまち焼ける。

 ゼルエルは、グズグズに焼けた腕を切り離し、新たに腕を精製。そして新しい腕を巻いて、二本の筒状にし、機龍フィアを貫こうとしたが、寸前で横へ避けられ、顔に突き刺さっていたドリルが抜けた。顔に空いた穴は塞がり、目が光る。そして光線が発射されると同時に、機龍フィアの手がゼルエルの顔の下を掴んで上向かせたため、光線は斜め上へと発射された。

 ゼルエルはペラペラの両腕をまっすぐに伸ばし、振り回した。ガキンガキンっと機龍フィアがドリルの先端でその鋭いペラペラ腕を弾く。

 直後、ゴジラの目に光りが戻った。

 このまま嬲られてばかりかと思われたゴジラだったが、不意に起き上がり、ハッとしたように振り向いたゼルエルが見たのは自分を睨むゴジラだった。

 その目は、『いい加減にしろよ、テメー』って言ってるような気がした。次の瞬間、ゴジラの背びれが光った。

 体内熱線。ゴジラを中心に爆発するように熱線のエネルギーが放たれ、ゴジラに掴まれていたゼルエルの両腕が焼けて消滅し、ATフィールドでも相殺しきれなかった衝撃波がゼルエルを襲い、ゼルエルの体が吹っ飛んだ。あと機龍フィアも。

 後ろへ倒れ込み仰向けになったゼルエル。素早く起き上がったゴジラがペッと唾と血を吐いて、ゼルエルに馬乗りになった。

 ゴジラが腕を振り上げ、ゼルエルを殴る。殴る、殴る、殴る、殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る!!

 形を失うゼルエルの顔と肩と一体化した顔周り。そしてコアを守っていた肋骨のような部位。そして肋骨が壊れてコアが露わになると、慌てるようにゼルエルの他の体組織がコアを守るように集まった。ゴジラは構わずコアを破ろうと攻撃を続ける。

 ゼルエルのペラペラの両腕が再び棒状になり、ゴジラを貫こうとしたが、それをゴジラは牙と爪で引き裂いた。ゴジラの体は、体内熱線と怒りにより血管のような赤い筋が走っていて凄まじい熱を持っていた。先ほど傷つけられた首と脇腹の傷も、太ももの傷ももう癒えている。

 シュルリッと、新たに作られたゼルエルの両腕がゴジラの首に見えぬ速度で巻き付いた。

 ゴジラは、そのペラペラの両腕を再びの体内熱線で焼き尽くし、ゼルエルの体を焼いた。

 体内熱線の後、ブスブスと焦げるゼルエルは、再び体をほどかして無数の布みたいな体になってゴジラの下から逃れた。

 その布状の体の一部をガシッと掴み、ゴジラはゼルエルを地面に叩き付けた。

 叩き付けられ地面にめり込んだゼルエルは、ピクピクとしばし動かなかった。その顔をゴジラが思いっきり踏みつけた。

 使徒の様子がおかしい。それは中継を見ていた者達が思ったことだ。

 圧倒的な力と耐久力を見せたゼルエルだったが、ゴジラに散々殴られ抉られてから妙に勢いが無くなっていた。

 

 

『物事には、限界ってのがあるからねぇ。』

 

 

 ツムグからのコメント。

 

 ツムグしか知らないことであるが、ゴジラは、アンチATフィールドが宿っている。しかし、その力そのものに自覚が無いためか、ロンギヌスの槍に比べると弱めだが、その弱めの力が元々の、更にパワーアップした力に混ざることでゴジラは使徒に対して絶対的な力を発揮できた。

 簡単に言うと、ゼルエルは、ゴジラというロンギヌスの槍に近い力でボコクソに攻撃されているのだ。RPGなどのゲームで言うと、毒攻撃をずっと食らわされているようなものだ。

 ATフィールドとは、すべての生命体が持つ存在を維持する力でもあり、それを反転させ、存在を維持できなくさせる力がアンチATフィールドである。

 このアンチATフィールドによってATフィールドを失うと、失った生命体は、たちまち生命のスープであるLCLになってしまう。

 なお、ゼーレが目論む人類保管計画とは、このアンチATフィールドを世界中に広げて、すべての人類と生命をLCLにし、ひとつにまとめることである。

 が…、まさかゴジラがアンチATフィールドを宿すことになるという、イレギュラー・オブ・イレギュラーを起こすなどとは誰が想像した?

 まあ、ゴジラの封印が南極にあって、そして南極で使徒・アダムの永久機関を起動させる実験をして、セカンドインパクトを起こしてしまったのだから、とにかく色々と悪いことが重なったとしか言いようもないが……。だいたいセカンドインパクトの大破壊で死ななかったゴジラがおかしいと言ったらそこまでであるが……。

 そして、今、最強の拒絶型である力の使徒ゼルエルを追い詰めつつあるゴジラ。

 アンチATフィールドを持つ度重なる攻撃を加えられ、いくら永久機関を持っていても、永久機関を持つコア以外の部分が限界が迫ってきていたのだ。現に再生が上手くいかなかったのか形がおかしく再生した部位がある。

 何度も何度も踏みつけられる。そしてゴジラは足の下にいるゼルエルの布状の体を掴みあげる。踏まれて形がおかしくなったゼルエルの顔。しかも顔から変な液を吐いていた。目とか口から。

 その様は泣いているようにも見え、まるで『やめてください…。これ以上は…』っと訴えているようにも見えなくもない。

 しかし、それで許すゴジラではない。やる気が失せて無視することはあれど。

 すると。

 

 もう飽きた。

 

 そう言わんばかりに、ゴジラが無慈悲にゼルエルのコアを掴んで引きちぎった。

 ブルブルと大きく震えるゼルエルが奪われたコアに弱々しく腕を伸ばすが、それよりも早く、ゴジラはコアを握りつぶして破壊した。

 その瞬間、石になったようにゼルエルはそのまま動かなくなった。

 ゴジラは、そんなゼルエルを蹴飛ばして転がし、フンッ!と鼻息を吐いた。体に走っていた血管のような赤い筋は消えた。

 

『ゴジラさん。不完全燃焼なら、遊ぶ?』

 

 ツムグがそう言うと、ゴジラは、機龍フィアを見た。

 しかし、フンッと再度息を吐くと、もう用は済んだとばかりに海へと帰っていった。

 

『……ふーん。そうなんだ。』

『おい! 椎堂ツムグ! ゴジラは何を?』

『サイキョーの使徒だから楽しめるって思ったんだって。まあまあ、だったみたい。』

『………それだけか?』

『それだけ。ゴジラさんってば、使徒との戦いを楽しんでるだけみたいだけど、あんがい歯ごたえがないからやる気なくなってきてるみたいだけど。』

『歯ごたえがないって…、最初アレだけやられていたのにか!?』

『うん、そーだね。だからちょっと本気出したらさ、あんがいあっさりだったから拍子抜けしたみたい。使徒って、コアに依存してるからコアを狙うと脆いからだって。』

『……。』

 もうノーコメントである。

 本気じゃ無かったゴジラに敗退した最強の拒絶型であるゼルエル。

 っていうか、今までもゴジラは本気じゃ無かったということである。

 そう言えば、体に走っていた血管みたいな光りは、なんとなくメルトダウン状態のゴジラを彷彿とさせた。

 もしかしてゴジラは、セカンドインパクトを経てメルトダウン状態すらも操れるようになったのか!? そんな不安が過ぎる。

『ともかく、ゴジラさん、とってもヒマしてるみたい。よーし、こうなったら、俺がその埋め合わせしてあげないと! 機龍フィアの改良よろしく!』

『お前な~!』

 マイペースなツムグやゴジラに振り回される地球防衛軍であった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 ゼルエルは退けられ、大破したエヴァンゲリオンは、まだ使徒が残っているということで修繕費は出された。

 だが、問題はチルドレン達だ。

 ケンスケは、完全に戦意喪失。首を切られた時の衝撃により生死を彷徨ったのも大きい。死の恐怖がこれまで有頂天だった彼を蝕む。

 アスカは、裏コード・『ザ・ビースト』を発動した事による後遺症が残っており、怪我の治療も含めてすぐに復帰は難しい。

 けれど、次のチルドレンを見繕う余裕は無く、使徒は待ってくれないし、ゴジラはもっと待ってくれない。

 冬月は、このままエヴァンゲリオンを封印し戦闘をしないという方向に転換しようとしていることをアスカが耳にし、病院を脱走する勢いで自分はまだやれる!っと主張し、怪我を悪化させる事態が起こったりもした。

 

 

 

 

 ところ変わって。

 相変わらずの、どこだか分からない薄暗い場所で。

 

『……………誰か何か言わんか。』

 ゼーレの面々はお通夜状態のように静まり返っていた。そんな中、そのうちの一人が呟いた。

『最強の拒絶型の使徒が……。』

『ゴジラが本気じゃ無かっただと?』

『つまり…、最強の拒絶型は、本気じゃないゴジラに合わせた力しかなかったと?』

『議長、このままでは…。』

『……。』

 話を振られたキールは、腕を組み、黙っていた。

『残る使徒は三体、ゴジラにすべて退けられてしまうのか…。』

『まだ敗北が決まったわけではないだろう! 諦めるな!』

『エヴァもない、使徒も残り少ない、どう勝てと…?』

『おのれゴジラめ! 貴様さえいなければすべてがうまくいっていたというのに!』

『ゴジラさえいなければゴジラさえいなければゴジラさえいなければゴジラさえいなければゴジラさえいなければ…。』

 ついにはブツブツとそんなことを言う者さえ現れ始めるほどゼーレは追い詰められていた。

「ことは一刻を争う。」

 キールが口を開いた。

『議長?』

「最終手段を取るしかない。」

『ぎ、議長! しかし!』

「ならば良い案があるのか?」

『っ…それは。』

『……。』

 黙ってしまう面々にキールは、深く息を吐いた。

「我々人類はこのままゴジラに滅ぼされるわけにはいかんのだ。だがしかし、奴を滅ぼすには、もうこれしかあるまい。」

『ゴジラを滅ぼすため…。』

『そのために我々は進化の道を捨てなければならないか…。』

『セカンドインパクトでも死ななかったのを、サードインパクトで殺せるのか? フギャっ!?』

 その疑問を出したら、もう本当に方法が無くなってしまう。これを言った構成員は、キールが電流を流してお仕置きをした。

「ゴジラを滅ぼさねば人類の進化もクソもない。我々が取るべき道はほとんど残されていないに等しいのだ。これも人類のため…。覚悟を決めよ。」

 キールの静かな言葉に、他の構成員達は見えないが深く頷いた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 ゴジラが海に帰還した後、轟天号が機龍フィアを助け起こすためにしらさぎや他の船隊と第三新東京に着艦していた。

 そんな中、ネルフにいるリツコのもとにある人物が訪ねた。

 

「これはこれは大佐さん、何の御用かしら?」

 ゴードンだった。

「アメリカから運ばれて来た荷物があるって聞いたもんでな。」

「あら、そんなものあったかしら?」

「とぼけるな。」

「ご気分を損ねたかしら?」

 ゴードンの言葉に、リツコは、クスクスと笑った。

 リツコは、席から立ち。

「マヤ、しばらく席を空けるからMAGIの方をお願いね。」

「はい、分かりました。」

 マヤにMAGIを任せ、リツコは、ゴードンの近くに来た。

「こちらですわ。ついてきてください。」

 リツコの後ろにゴードンがついていった。

 最低限しか機能していないネルフの中を歩いて、やがて辿り着いたのは総司令室だった。かつてここでゲンドウが座っていた席がある。

 司令の席に設置されているキーボードをリツコが操作する。

 すると広い司令室の中央辺りの床が開き、何かがせり上がってきた。

「これですわ。」

 それは頑丈なトランクを乗せた台だった。

「こいつは?」

「あら、内容は聞いていないのですか?」

「開けてみてからの楽しみだとか言ってたな。」

「そう。」

 そう言いながらリツコは、トランクのパスワードを解いていく。

 そして開けられたトランクに詰まっていたのは…。

「あの男の企みにどうしても必要だったモノ。今となっては無用ですけれど。」

「おい、どういうことだ?」

「これは、卵。かつてアダムと呼ばれていたモノが還元された姿。」

 トランクの中で胎動するそれは、半透明な殻に包まれた何かの胎児のようなモノ。

 リツコは、それをアダムだと言う。

「セカンドインパクトの元凶ってわけか。」

「あら、そこまで知っているの?」

「とある男から聞いた話だ。誰がやったのかは知らねぇ。」

 リツコは、ゴードンの言葉から、ゴードンがセカンドインパクトの事実は知っていても、ゼーレやミサトの父親達のことは知らないことを察した。

「これをどうするのです?」

「預からせてもらう。」

「そう。でも気を付けてください。これがあると使徒がそちらに行きますわよ。」

「どういうことだ?」

「使徒の目的はアダム。アダムの波動に魅かれ、そこを目指す。もし使徒がアダムと接触されば…。」

「サードインパクトが起こる。」

「そこまで知っているのなら気を付けてくださいね。」

「それだと妙な話だ。」

「といいますと?」

「これが運ばれたのはあの魚みたいな使徒の時だ。だったらそれ以前の使徒は何を目指してここ(第三新東京)に来た? ココにはまだなにかあるんじゃないのか?」

「…お見通しなのね。でしたら…。」

 リツコは、観念したと言いたげに大げさに肩をすくめて見せた。

 そして、彼、ゴードンをある場所へ案内した。

 

「これで、ネルフが隠す物は、もうありませんわ。」

 

 そう言って見せた物は。

 

「これは…。」

「これはリリス。黒い月に乗ってやってきた私達人類の祖先と言うべきかしら。」

 

 十字架に磔にされ、槍で串刺しにされた白い巨人だった。

 

 

 

 

 

 地球には二つの月がやってきた。

 

 白い月には、アダム。

 黒い月には、リリス。

 

 アダムは、生命の実を。

 リリスは、知恵の実を。

 

 それぞれが生命の起源となる果実を持っており、本来なら一つの月しか来ないはずの惑星に二つの月が来たことで、両者は対立する宿命となった。

 彼らがどこからやってきたのかは分からない。

 だが彼らは、使徒を含め地球の全ての生命の起源となった。

 アダムは、自らの眷属である使徒と共に白い月のある南極で眠り、地球には知恵の実を持つ生命で溢れることとなった。

 やがてリリスの子孫である知恵の実の集大成と言える、人間という種族がアダムに干渉しようとした。

 生命の実であるS2機関を起動し、自分達の物とするために。

 そして起こったのがセカンドインパクトと呼ばれる大災害。

 ロンギヌスの槍という槍でアダムが砕かれ、卵に還元されたその余波であるという。

 地球はどうしようもないほど破壊され、多くの人類と他の生命も死滅した。

 人類と対立してきた怪獣達も姿を消した。

 それでも生き残った生命は、意地でもこの地球で生きている。

 そんな中、使徒が現れ、アダムを目指し、サードインパクトの危機がおとずれようと、ゴジラが復活しようと。

 それでも戦い、生き残る。戦うために生き、生きるために戦う。それを繰り返す。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 アダムとリリス。

 

 その存在が、リツコにより開示され地球防衛軍は騒然となった。

 どちらも使徒であるし、しかも地球上の生命の起源であると言うのだから信じられないし、アダムに至ってはセカンドインパクトの元凶ともいえるのだから。

 アダムの卵については、加持の情報によるものだが表向きはゲンドウが隠していたのをリツコが見つけたということになった。

 使徒が第三新東京を目指して行動する理由が、アダムと接触するためであることも明らかになった。

 だが実際には、第三新東京にはアダムはなく、リリスが代わりにいるのであり、アダムは、魚型の使徒(ガキエル)の襲来の時にドイツから運ばれて来たということらしい。魚型の使徒が轟天号を狙ったのは、轟天号が運んでいたのが四号機だけじゃなく使徒アダムも一緒に運んでいたためだったそうだ。

 こうしてネルフは、隠していたほとんどすべての重要な情報を出したことになる。

 

「できればMAGIは残しておいてほしいわ。これは私の母の忘れ形見だもの。」

 

 使徒が第三新東京を目指す理由が分かった以上、ネルフがある意味も失われたも同然だった。

 だが使徒とゴジラの決戦の地としては、第三新東京以外にないため、引き続き最低限の維持を命じられた。

 回収されたアダムについて地球防衛軍の科学研究部で解析をと言う声が多々あったが。

 

「またセカンドインパクトのを起こしたのかよ。いや、次はサードインパクトか。」

 

 ゴードンの鶴の一声でアダムを研究しようという声はピタッと消えた。

 セカンドインパクトのあの惨状から、アダムに手出しするのは臆され、だがそのままではアダムが成長しサードインパクトの引き金になるということで…。

 

 

「なんでまた、俺に?」

 

 ツムグに一任された。

「おまえがこの手のことには適しているんだよ。」

 と言われて、アダムの入ったトランクを渡される。

「そんなこと言って、何をするかはもう決まっているのにさ。」

「こっちだってコレ(アダム)を処分するのは、勿体ない限りなんだ。他の連中が勘付く前にとっととやれ。」

「はいはい。」

 ツムグは、やれやれと肩をすくめて、トランクを開けた。

 胎動する卵を取り出し、そして。

 

「あーん。」

 

 一口でいった。

 

「…うわっ。マっっっっズ!」

 口と腹を押さえて、ツムグは、嫌な顔をした。

 その後もマズイマズイと連呼しながら涙目。

 アダムを持ってきた人も嫌そうな顔をしている。

「ねえ、吐いちゃダメ?」

「吐くな。そのまま腹に入れてろ。アダムの波動を出さないようにするには、そこ(ツムグの腹の中)が一番なんだとさ。」

「赤木博士が言ったの?」

「使徒にとって、おまえの細胞は天敵だからだとさ。」

「だったら俺の胃袋なりを摘出して、それに入れたら?」

「胃袋程度でアダムの波動を防げたら喰わさないわ。」

「あっ、そう。…うぇ…。」

 もう吐きそうと言わんばかりに、ツムグは気持ちの悪いという顔をした。

 こうしてアダムは、ツムグの腹の中で保管(?)されることになった。

 

 リリスの方は、とにかくでかいのと、磔にされているのと、地下深く過ぎて運び出せないということで、ネルフの地下に残っている。

 それにまだ現時点で使徒にアダムがリリスだということがバレていないはずなので、引き続き使徒を引き寄せるためというのもあった。

 

 

 

 




 ゼルエルとの戦闘描写は、かなり悩みました。
リメイク前は、ゼルエルが何故かゴジラの細胞を食べて怪獣に変異してしまい自滅するという展開だったので。
 使徒は、前の戦いに合わせて戦闘スタイルや形態を変えるというどこかの設定を参考にしました。
 なので、ここでのゼルエルは、『本気じゃないゴジラ』に合わせてしまったため、本気を少し出したゴジラに敗退したという結果にしました。

 この後に続くアラエルは、物理的な強さのイタチごっこだと悟ったということで精神攻撃系にします。

 ツムグは、アダムを食べたけど、ゲンドウみたいに体に融合されたとかいうわけじゃありません。腹の中に入ってるだけです。
 ツムグの体細胞は、使徒にとって毒なので融合は不可能です。




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第三十四話  使徒は理解したい

アラエル編。


でも1話で終わり。


コイツの退治方法は、リメイク前と同じにしました。


 

「ツムグ。」

「なに?」

 ツムグがアダムを食べて、数日後、尾崎達がツムグを訪ねた。

「ネルフの地下に行ってきたんだ。もう何が言いたいのか分かるよな。」

「ああ。うん。」

 とうとう来たかっと、ツムグは顔に出さず思った。

「なぜレイちゃんのクローンをすべて焼き払ったんだ?」

 地下にあったレイのクローン体の全てを熱線で焼き払ったことがバレたようだった。

 しかしそれは想定の範囲内であるツムグは、特にリアクションはせず。

「あのままじゃ、あの子が暗殺されるなりして殺されて、あそこにあるクローンに魂が移ってたかもしれないじゃん。」

 と、悪びれもなく答えた。

「ツムグ…、あんたは…。」

「あそこの映像は尾崎ちゃん、見たんでしょ? あんなの見せられたら尾崎ちゃんはそのままにしてられる? 誰かに見せたいと思う?」

「……。」

 培養液の中を漂っていたレイのクローン体達の映像を尾崎は超能力で見ている。尾崎は何も言えず押し黙った。

「それとも実験したかった? 音無博士。」

「っ、やめて。」

「そうだよね。分かっててもやりたくない。それでいいじゃん。」

 わざとらしい身振り手振りでそう言うツムグ。

 尾崎達は、ツムグのその態度に怒りを覚えたが、過ぎてしまったことなのでこれ以上の追及はできなかった。

 

 

 

 なおアダムが地球防衛軍の手に堕ちたと知って、ゼーレは、阿鼻叫喚であったらしく、取り返そうと刺客を送ったりしたものの、アダムの所在を掴めず徒労に終わることになるのは別の話である。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 そんな中、新たな使徒が出現した。

 

 サハクィエルに続いて、またも宇宙空間に現れたその使徒は、光そのもののような体をしており、翼を広げた鳥のようにも見える形をしていた。

 サハクィエルの時のこともあり、落下攻撃を警戒していたが、落下攻撃をしてくる素振りはない。

 翼を広げて暗い宇宙空間をバックにそこにいる姿は、これまでの使徒の中で特に美しく神々しかった。

 

 この使徒の名は、アラエル。鳥を意味する。

 

「宇宙への攻撃について、前回の使徒(サハクィエル)の時に使用したメーサー砲を使うことを提案します。」

「しかしあれは、あの時(サハクィエルの時)に大破したのでは?」

「新たに開発した物がある。」

「轟天号を宇宙に打ち上げるのは?」

「使徒の攻撃方法が分からぬ以上、それは他の艦隊による総攻撃のために取っておけ。」

「モゲラも加えましょう。」

「いい案だ。」

 モゲラは、ゴジラとの戦いで一回大破(※壊したのはツムグ)して以来出番がほとんどなかった。機龍フィアの運用に疑問符を持つ者達はモゲラの活躍に期待を寄せている。機龍フィアが修理中なのもありモゲラを宇宙へ飛ばす案は案外すんなりと通った。

 そして宇宙空間にいるアラエルへの攻撃のため、準備が始まった。

 巨大砲塔を空へ向けて整え、モゲラや轟天号を始めとした艦隊を打ち上げるためのロケットの準備をしていた。

 その時だった。

 

 柔らかく眩しい光を、アラエルが地上に向けて発し始めたのである。

 

 それが巨大砲塔を整備していた地上班に降り注ぐと……。

 突然彼らは頭を抱えて苦しみだした。工具を投げるように手放し、高台にいた者は高台から転がり落ちるなどの被害が発生した。

「なんだ!? 何が起こっている!?」

「あの光か…! これがあの使徒の……っ!?」

 地上で待機していた部隊にも光が降り注ぎ、彼らも漏れず苦しみだした。

「うわああああ!」

「やめろぉぉぉぉ!」

「いやだ、イヤダ! イヤダーーー!」

「見るなミルな見るな! 俺の心に入って来るなーーー!」

「やめてくれぇぇぇぇぇ、入って来るなぁぁぁぁ!」

 口々に泣きながら叫ぶ彼らの言葉から、アラエルの攻撃方法が分析できた。

「精神干渉!? それがあの使徒の攻撃か!」

「物理攻撃でもなんでもなく、精神そのものに直接攻撃してくるとは…、いったいなぜ…?」

「ともかくあの光に…、っ!? まずい、光がこちらにも来ているぞ!」

「退避! 退避! 建物内へ逃げろ!」

「あの光に触れるな!」

 光に触れずにすんだ他の部隊が大急ぎで建物内へ逃げ込んでいった。

 アラエルの光は、やがて場所を移動し、地球防衛軍の基地の方へと向かってきていた。

「使徒の光が基地に! 基地に応答願う! あの光に触れるな! 触れたら精神を侵されてしまう!」

 想像を超えた使徒の攻撃に、現場も基地も騒然となった。

 

 地上で待機していたミュータント部隊にも、光は降り注いだ。

 精神系の超能力で耐性があるはずのミュータント達ですら、アラエルの強力な精神干渉に負け、頭を抱えて苦しみだす。

「クソぉぉぉぉ!」

 頭を抱え、悔しさをぶちまける風間。

 このまま全員アラエルにやられてしまうかと思われたが。

 

 ところが。

 

「風間! みんな!」

 

 なぜか尾崎だけは光の中で普通に活動できた。

「やめろ、やめてくれ! みんなの心を犯すのをやめてくれ!」

 尾崎は、遥か彼方にいる使徒に向かって叫んだ。

 尾崎には、何をされているのか理解できていた。だが彼はアラエルの精神干渉で苦しまなかった。

 風間は、尾崎だけが光の中で立っている姿に、驚きを隠せないでいた。

「な…んで…、おま、え、だ…け…。」

 風間は、目の前が暗くなる中そう呟いた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 包帯みたいなモノでグルグル巻きになった弐号機が、ボジトロンライフル(陽電子砲)を手に照準を天空へと向ける。

 無駄に電力ばかり喰うその兵器だが、飛距離や威力から言って相当なモノで、宇宙空間にいる敵にも達するほどの飛距離はある。

 ただし兵器としては未完成であるため、大型メーサー砲と比べると兵器としての質は落ちるだろう。しかし、そんな物でも使わざるを得ないのだ。なぜなら設置していた大型メーサー砲が外にあり、そこにアラエルの光が降り注いでいるため使えない状況なのだ。

『殺してやる…!』

 アスカは、凶悪に歯をむき出して声を低める。

 なお、ケンスケは、ミサトがいなくなったミサトのマンションで同居の時に宛がわれていた自室に引きこもっている。ひっそりと加持によりペンペンがいなくなったことも知らない。食事すらも満足に取らず、暗い部屋で足を抱えて顔を伏せていた。

 もしゲンドウがまだ総司令だったなら無理矢理引きずり出されて使える限りエヴァンゲリオンに乗せられていただろう。戦闘に消極的な冬月が総司令をしているため、実質ほっとかれているのだ。それが良いのか悪いのか……。

 光が僅かに差し込む雨雲の向こう側、遙か空の彼方にアラエルはいる。

 照準がそのアラエルに合わせられ、発射する合図が来ると、アスカは引き金を引いた。

 電子のエネルギーを纏った高威力の弾丸が発射され、雨雲を散らし、空の彼方へ飛んでいく。

 しかし、四方八方に張り巡らされた広範囲のATフィールドにより、アラエルへの攻撃は防がれた。

 アラエルが発している柔らかく眩しい光の正体は、ATフィールドなのだ。

 すると地球防衛軍基地に降り注がれていたアラエルの光が第三新東京の方へ移動した。

『退却だ!』

『照準はまだ!?』

『そんなことはいい! アスカくん! ボジトロンライフルを捨てて射出口へ!』

『でも…。』

『いいか! 今回の出撃はあくまで地球防衛軍基地から使徒の注意を引くだけのためだ! それは口頭でも説明したはずだ!』

『っ…!! あたしは、まだやれる!』

『アスカくん! いい加減にしろ! 命令が聞けぬのならエヴァから降ろす!!』

『嫌よ! そんなことならここで死んだ方がマシよ!! ぅ…!?』

『心理グラフ乱れ! 精神汚染が始まります!!』

『いやああああああああああああああああああ!! やめて、私の心に入ってこないで!! 私の心を見ないで見ないで見ないで見ないで!!』

 ボジトロンライフルを落としシンクロで頭を抱えて錯乱する弐号機と中にいるアスカ。やがて弐号機は身体を丸めてその場に横たわった。そうなってやっとアラエルからの光は止んだ。まるで興味が失せたように。

 その後、アラエルは、再び地球防衛軍基地へと光を注ぎ始めた。

 まるでそこに興味を示す相手がいるかのように。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「それでまた俺に?」

 アラエルの対処方法が分からないため、ツムグに意見を仰ぎに行くことになった。

 レリエルの時もだが、ツムグに意見を求めることに良い顔をする者は少ない。

 ツムグが出す言葉がほぼ100パーセント当たることだけに頼りたくないのと、極力ツムグと接触したくないという嫌悪感からだった。

 機龍フィアが修理中なため部屋で待機していたツムグに、使徒の映像が映されたパソコンを見せた。

「…なんか随分と思い切ったことするなぁ。」

 ツムグが感心したように言った。

「どういうことだ?」

「こいつ(アラエル)、人の心を理解しようとしてるって感じだ。別に攻撃のために精神干渉をしてきてるわけじゃないってこと。」

「なんだと!? 使徒が人の心を!?」

「使徒にしてみりゃ人間って、自分達にはない知恵の実を持つ存在じゃん。だから知りたくなったんじゃないかな。知恵の実がもたらした心ってモノを。その強さを。パワー(力)だけの強さはすぐインフレするから限りが無いし。自分達が勝てば、心ってのを手に入れるんだし。事前調査?」

「攻撃が目的じゃないのか…。奇妙なことだ。」

「しかし、それだとなぜ地球防衛軍基地を重点的に狙う? その理由は…。」

「表にいたミュータント部隊で、たった一人だけ無事だったのがいるじゃん。」

「尾崎少尉?」

「尾崎少尉が基地にいるから、基地を狙ってきてるわけ。」

「なぜ?」

「探れなかったからだよ。まったく見えなかったからだよ、心が。だから知ろうとしている。尾崎の心を知りたがってるんだ。」

「それじゃあ…。」

「それはともかく、こいつに弱点はないのか? どうやったら倒せる?」

「そーだねー。」

 ツムグが勿体ぶるように足をブラブラさせる。

「ちょっと協力してもらおうか。」

「は?」

「赤木博士に連絡して、協力してもらおう。」

「なんだと!?」

 驚く彼らに、ツムグは、ニッと笑った。

 

 

 ツムグが示したことは以下の通りだ。

 ターミナルドグマにあるリリスを磔にしている槍…、ロンギヌスの槍というものがあるので、それを使いたい。

 引っこ抜くのには現時点でエヴァンゲリオンの零号機が最適なので、零号機を動かすためにファーストチルドレンであった綾波レイに協力が必要なこと。

 

「……。」

「レイちゃん、無理しなくてもいいんだよ?」

「いいえ。私、やります。」

 招集されたレイは、承諾した。

「ツムグは、一体何を…。」

 尾崎もそれに同行することを命じられた。

 尾崎が出て行くと、アラエルの光がそれを追いかけるように移動した。

 

 

 そしてネルフで放置されていた零号機を起動。

 ターミナルドグマへは、ロープに捕まって零号機を降下。

 目の前にしたリリスの姿に、零号機に乗っているレイは、苦しげに眉を寄せた。

『レイちゃん?』

「…大丈夫です。」

 昇降機からターミナルドグマに降りた尾崎からの通信に、レイは、そう答えた。

 最低限の整備しかされていないため零号機は、若干動きがぎこちないが、リリスに突き刺さっているロンギヌスの槍に手をかけた。

 一気に引き抜かれると、リリスの下半身が一瞬にして再生した。

『足が生えた!?』

『落ち着いて。リリスの下半身が再生しただけよ。』

 尾崎と共にターミナルドグマに降りたリツコが言った。

『…リリスは、死んでいるんですか?』

『……魂がないのよ。』

 リツコは、少し合間を置いてそう答えた。

「……。」

 その会話を聞いていたレイは、複雑な心境になった。

『それで、一体ここからどうするんだ?』

 通信機でツムグに繋ぐ。

『ロンギヌスの槍に触ってみて。』

『は? 触るって…、何の意味が…。』

『時間ないんだから、ちゃっちゃやろうね。』

『…分かった。』

『レイ。ロンギヌスの槍をこちらに。』

 疑問が残るが言われたとおりにするしかなく、零号機に乗るレイにロンギヌスの槍を尾崎の所に近づけさせた。

 目の前にしたロンギヌスの槍は巨大で、とてもじゃないが尾崎がもてるはずがない。

 ツムグが言うのだから何かがあるの間違いないがそれでも疑ってしまう。

 時間もないので恐る恐るといった様子で尾崎はロンギヌスの槍に手を触れた。

『っ、なっ!?』

『えっ!?』

 次の瞬間、ロンギヌスの槍が白く光るとあっという間に縮小し、尾崎が持てる大きさになってしまった。

『槍が…、小さくなった!』

『これは! どういうことかしら?』

 リツコもこれには驚いている。ロンギヌスの槍にそんな機能があることを初めて知ったのだ。

『その槍はね、自由に大きさを変えられるんだ。それ投げればあの使徒は倒せるよ。』

『投げるって…。宇宙まで届くわけ…。』

『届くよ。あの使徒を倒したいって気持ちを込めればね。その槍は強い意志に反応する。さ、早く早く。そうしないと使徒はいつまで経っても倒せないよ?』

『…分かった。やってみる。』

 尾崎は通信機越しに頷いた。

 リツコは、ロンギヌスの槍を持っている尾崎と小さくなったロンギヌスの槍を交互に見て、何か考え込んでいた。

 

 

 

 第三新東京の大地に出た尾崎は、ロンギヌスの槍を持ち直しながら空を見据えた。

 遥か空の彼方、宇宙にいる使徒アラエルはいぜんそこに存在する。

 アラエルの光が第三新東京に降り注ぐ。まるで尾崎が出てくるのを待っていたかのように。

 尾崎は、槍投げ選手のように構え、そして。

「いけえぇぇぇぇぇ!!」

 恐ろしい速さで投げ放った。

 

 ロンギヌスの槍は尾崎の手を離れるとその大きさを変え、どんどん巨大化し、やがて大気圏を突破した。

 そして、アラエルに命中。

 アラエルは、真ん中から引き裂かれるようにロンギヌスの槍に貫かれ、宇宙空間で消滅した。

 アラエルを滅したロンギヌスの槍は、そのまま宇宙空間を飛行し、やがて月に到達した。

 

「や…やった?」

 

 尾崎は、アラエルの光が消えたことで使徒の消滅を感じ取った。

 

 

 

 こうして使徒アラエルは、殲滅された。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「尾崎君!」

「ミユキ。」

 基地に帰還した尾崎を音無が出迎えた。

「風間達は?」

「風間少尉は意識が戻ったらしいわ。他の人達はまだ治療中よ。」

 そう会話していると、風間が少し足を引きずりながら尾崎のところへやってきた。

「風間、無事だっ…、っ!?」

 風間の無事を喜ぶ尾崎を、風間はガッと殴った。

「…チッ。」

 舌打ちをした風間は、踵を返し、去っていった。

「風間…。」

 殴られた頬を抑えた尾崎は、去っていく風間の背中を見つめることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 




ケンスケは、引きこもり。アスカは重体。

風間は、潜在能力で尾崎に劣るため尾崎に嫉妬しています。

アラエルは、その攻撃手段と、いる場所が問題なため、ロンギヌスの槍以外での撃破が思い付きませんでした。

あと、アラエルが尾崎に集中攻撃をしたのは、尾崎の心が見えなかったためです。
アスカに攻撃しておいて途中で止めたのは、心が簡単に見えたからです。そのため見えなかった尾崎を『理解』しようとソッチを集中攻撃。

ちなみに、ツムグの心の方を見た場合、見えないか、もしくは拒絶反応を起こすかも。


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第三十五話  不器用な者達

やっと書けた…。
メッチャ苦労した…。


前回の終わりに尾崎に嫉妬爆発した風間と、分かってない尾崎に振り回される周りの苦労と。

アダムを喰って調子悪いツムグ。


最後の方で、終わりの使者が出てるけど、まだ使徒としては覚醒していません。っというご都合主義で。




 

「あー、腹の具合悪いー。」

 ツムグは、そうぼやきながらベッドでゴロゴロしていた。

「何か変な物でも食べたんですかぁ?」

「まあね。」

 使徒アダムを喰わされたことを知らないナツエに言われ、ツムグは笑って答えた。

 と、その時。ドクンッと腹の中でアダムが暴れた。

「ウッ!」

「本当に大丈夫なんですかぁ!?」

「だいじょーぶだいじょーぶ。…たぶん。」

 腹を撫でながら汗をかくツムグ。顔色は最悪だ。

 それにしてもと、ツムグは声に出さず考えた。

 

 地球防衛軍に持ってこられてから、アダムの活動が激しくなっている気がするのだ。

 まるで何かに反応するように。

 

 ツムグの腹の中に入れてなかったら孵化していたんじゃないかというぐらいだ。

 

「死ねないとはいえ、つらいなー。」

「“死なない”んじゃないんですかぁ?」

「“死ねない”だよ。ナッちゃん。」

 死ねないと、死なないじゃ、意味が違ってくる。

 自分は『死ねない』のだとツムグは、あえて訂正した。

 

 

 使徒を呼び寄せ、サードインパクトの引き金となるアダムをツムグの腹に入れることで封じたはいい。

 だが結果としてこれが、ツムグの感覚を鈍らせることになるのだが……。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 ツムグが腹の中のアダムに苦しめられていた頃。

 

「こ、これは。」

 巨大な水槽の中を見て、その研究者は驚愕していた。

 水槽の中には、ほんのり赤い液が満たされており、その中を透明な膜で包まれた胎児のような物が漂っていた。

「エヴァンゲリオン初号機の細胞がいつの間にこんな形に…、なんて生命力だ。」

 そう、初号機の僅かな細胞から蘇生されたモノだった。

 水槽の前にタッチパネルを操作している研究者の男がいた。

「…村神(むらかみ)、おい、村神。」

 村神と呼ばれたその研究者は、肩を叩かれたやっと気が付いた。

「なんだよ?」

「なんだよじゃないぞ。どうしたんだよこれ。」

「あー…。」

 胎児のようなものを指さされて何を言わんとしているのか察した。

 村神と呼ばれたこの男。

 初号機の僅かに生き残っていた細胞を研究していて、フランケンシュタインの血液を使ったり、クローン再生された使徒マトリエルのコアを使うことを考案した人物でもある。

「あのアメーバみたいなのが、どうやったらこう(胎児みたいに)なるんだ!?」

「それを今から調べるんだ。こっちだって何がどうしてこうなったのか分からないんだからな。」

「把握してないのかよ!」

「ちょっと目を離したらこうなってたんだ!」

 村神はそう答えた。

 初号機の細胞は、始めはアメーバのような状態だった。

 形が定まっておらず、マトリエルのコアに纏わりついているような状態だった。

 それが少し目を離した隙に胎児のような姿へと変化したのだ。

 これが常識を遥かに超えた生命体である使徒の生命力なのだろうかと研究所内がざわついた。

「アダムの研究ができれば…。あれ卵だったからな。」

「セカンドインパクトの二の舞になりたいのかよ。」

「上の連中もそんなことを恐れてアダムを遠ざけやがってなぁ…。」

「そんなことっておまえ…。」

 村神はこういう奴だ。

「そんなことはそんなことだろ。」

「そーだな、おまえはそういう奴だよ。」

「科学の発展のために犠牲は付き物だ。」

 こういう奴である。

 

 その時。

 ポコンっと胎児に目が生じ、ジロリッと水槽の外にいる村神達を見た。

 

「わっ、こっち見てる!」

「あー…。」

 村神の隣にいた男が気が付いてびびるが、村神は腰を落として胎児の目を見つめた。

 顎に手を当てて考え込み。

 そして。

「切って(解剖して)みるか。」

「えっ? これを!? やめとけって! なんか嫌な予感しかしないから!」

「嫌な予感がどうした? 失敗を恐れて科学者が務まるか。」

「そ、それはそうだが…。もしこいつがアダムと同じような物だったら…。」

「それがどうした?」

「…もう知らねぇからな!」

 村神を止める術を持たない研究者の男は、そう言って逃げるように去っていった。

 村神は、特に気にせず、水槽の中にいる初号機の胎児のようなモノを解剖する準備を始めた。

 手術着に着替え、解剖用の設備の揃った一室に、水槽から出した胎児を運び込む。

 手術台の上に、でろんとプルンと胎児が震える。

 メスを取り、胎児の表面を切ろうとすると。

 バチンッと光が弾け、メスが弾き飛ばされた。

「! 身の危険を感じたのか。」

 弾かれた時の衝撃で手が痺れ、村神は手首を握った。

 村神の言葉に反応するように、ジロッと胎児の目が村神を睨んだ。

「なんだ? 私のことが分かるのか?」

 胎児は何も答えることなく、村神を睨みつけている。

「やれやれこりゃ捌くのも難しいな…。さてどうするか…。」

 村神は、睨んでくる胎児の目線にも臆することなくこれからのことに思いをはせた。

 

 ………に…たく……な…い……

 

 微かなその声は、村神の耳には届かなかった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 使徒アラエル殲滅から十日以上が経とうとしていた。

 尾崎は困った顔でチラチラと風間を見ていた。

 風間は十メートル離れた場所で背中を向けている。

 アラエル殲滅後に帰還した時、風間に殴られてからというもの、風間は尾崎と口を利かなくなった。

 なぜ殴られたのか、尾崎には分からず風間に理由を聞こうとしても無視される。そして露骨に避けられる。

 周りも風間の様子を見て事情を聞こうとしたりなどしたが、風間ははぐらかすだけで語ろうとしないため困ってしまった。

 風間が自他共に尾崎のライバル兼親友をしているのはみんな知っている。しかし、こんな露骨に尾崎を避けるのは初めてのことだった。二人のことを幼いときから見ている宮宇地は、なんとなく察した。

「これは…、どっちが悪いとかじゃないな。」

「どういうこと?」

 宮宇地の呟きに、仲間の兵士の一人が訝しんだ。

「尾崎の鈍さと、風間の不器用さが悪い方向に働いた結果だ……。」

「はあ? じゃあどーすんだよ! こんな気まずい空気のまま戦いになったら確実に総崩れだぜ!?」

「そう言われてもな…。」

 一応目上として気にはしているが、原因が原因なのでどう対応したら良いか宮宇地も頭を悩ませた。

 風間が尾崎に嫉妬していることは知っている。尾崎がカイザーという突然変異ゆえに、ただの先天性ミュータントである風間よりも潜在能力が高いからだ。それは、どちらかという甘い性格の尾崎と対照的な戦いに容赦のない性格の戦闘狂気味の風間からしたら悔しい限りなのだ。自分より甘っちょろい性格の奴が自分より強いという事実が。

 ぶっちゃけガキ臭い嫉妬理由だが、子供の頃から共に切磋琢磨して大人になった二人なのだ。尾崎は風間すごーいって信頼してるし、逆に風間は尾崎との差を痛感しているのだろう。痛感しているだけに拗れたのだ。だって、生まれつきの素質の違いはどうにもならないからだ。残念なことに鈍い尾崎はそんな風間の劣等感に気づいていない。

「宮宇地さーん…。なんとかならないんすかね~?」

「だからなんで俺を頼るかな~?」

「ここ(M機関)での生活は、なんやかんやでアンタが一番長いじゃないかよ。」

「一応一番先輩なんだしさ~。」

「う~ん…。」

 ここまで後輩達に頼られると、断りづらくなる宮宇地だった。

 

 

 結局どうしかというと、尾崎の鈍さも問題ということで、時間があるときに話をしようと持ちかけたのだが、ほどなく久しぶりの地震で復興していた都市に被害があり、緊急出動命令がかかることになった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 機龍フィアは、使徒ゼルエルとの戦いで壊れた。

 機体の中心を貫かれるは、素体の背骨部分も壊されるは、装甲もボロボロだはとにかく酷い状態だった。

 修理は順調に進んでいたが……。問題が発生した。

 

「頼むから機嫌治してよー。」

『……。』

 DNAコンピュータに宿る意思、ふぃあがへそを曲げてしまったのだ。

「…まいったな。どうしよう?」

「私達に聞くな。」

 ツムグでもどうしようもない状況に、技術部と科学部の面々は頭を抱えた。

「いつものおまえならちゃっちゃと解決しそうなのに、どうしたんだ?」

「……。」

 言われてツムグは、まいったな~っというリアクションをした。

 確かに変だと周りの人間達も思った。

 いつも何でもお見通しで何でもこなしてしまうツムグの様子が少し変だ。

「ちょっと調子がいまいちでさ。」

 ツムグは、正直に言った。

「んなアホな!?」

 あり得ないと周りが声を上げた。

 今までそんなこと一回もなかったのにどういうことだと。

 今までどんな大怪我をしても、毒を盛られても平気な顔をしていたのにいったいどうしたことだと。

「ごめん。本当に調子がよくなくて。ふぃあちゃんとも話ができそうにないし、今日は勘弁してね。」

「あっ、おい!」

 ツムグは、そう言い残すとその場からいなくなった。

 今までになかったツムグの体調不良に、技術部も科学部もざわついた。

 この後、ツムグがベットで腹を押さえて寝込んでしまったことで、波川に相談が行くことになる。

 

 

「やはり原因は、アレでしょう…。」

「アレじゃないですか…?」

 

 アレとは、アダムのことである。

 ツムグの腹の中に封じてから、ツムグの調子が悪いことは監視役の報告で受けていた。

「ですが、アダムを彼の体内から取り出すことはできませんよ?」

「その通りです。」

 アダムを出せばその波動に魅かれて使徒が来る。

 使徒とアダムが接触すればサードインパクトが起こると言われる。

 使徒の研究の第一人者である赤木リツコがツムグの腹に入れることがもっともアダムを封じるのに適していると推奨したぐらいだ。

 しかし…、天敵のツムグの腹の中に入って死なないアダムもアダムである。さすがは使徒の始祖というべきか。

「機龍フィアの修理は順調ですが、DNAコンピュータの方がへそを曲げてしまったらしく今後運用に差し支える可能性があります。」

「そうですか…。」

「機龍フィアとのシンクロ実験でツムグに変わる新たな操縦者を見繕いたいという意見が多数寄せられています。椎堂ツムグの体調不良がシンクロに支障を出す可能性がある以上、新たな操縦者の育成を進めた方が良いのでは?」

 波川の側近がそう意見した。

 波川は少し考えて。

「ツムグにばかり頼ってばかりはいられません。新たな操縦者の選定に力を入れなさい。」

「はい。」

 ツムグの調子が悪いので、ツムグに変わる機龍フィアの操縦者を選ぶことに力を入れることになった。

 ちなみに別の操縦者を探すこと自体はずっと行われていた。

 だがシンクロ実験がうまくいかず中々決まらなかったのだ。

 その原因としてDNAコンピュータ(=ふぃあ)の非協力的な状態があげられるが、ツムグとの仲が悪くなっている今ならうまいく可能性がある。

 まあ、今ふぃあがだんまりなのでもしかしたらDNAコンピュータそのものが破損している可能性も否定はできないが……。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「おかわり。」

「レイちゃん、ほんとよく食べるようになったわね。」

 茶碗を受け取りながら志水が微笑んだ。

 ちなみにご飯三杯目だ。

 食に興味がなかった頃を思えば、随分と健康的になったが、ちと食べ過ぎじゃないかとシンジは思う。

 食べないよりはいいかもしれないが、食べすぎもよくはない。

 しかしレイは、瘦せすぎであるため、食べたほうがいい。

 心なしか初めて会った時よりちょっと(?)ふっくらしたような気はする。気のせいかもしれないが。

 シンジが少し考えていると、ふと視線を感じた。

 前の席にいるレイの視線がシンジのおかずに向けられている。

「食べる?」

「いいの?」

 おかずが足りないと感じていたようなのであげると言うと表情が少し明るくなる。

 その表情の変化も嬉楽しいのでついレイにおかずを分けてしまう。というか甘やかしたくなる。

「碇君の足りなくない?」

「僕はもうお腹いっぱいだよ。だから大丈夫。」

 心配してくれるレイに、シンジは微笑んで答えた。

 

「綾波レイはいるか。」

 

 ほのぼのしたお昼ご飯の時間に乱入者が現れた。

 白衣からして科学部の者と思われる。

「はい。」

 レイが席を立った。

「実験について話があるので、食事が終わったら来てもらいたい。」

「分かりました。」

「以上だ。」

 そう言って白衣の男は去っていった。

 レイは、席に座り直した。

「実験って…、例のこと?」

「…そうだと思います。」

 志水が聞くとレイは、頷いてそう言った。

 実験とは、レイを完全な人間にする実験のことだ。

 話があるということは、つまり……。

「いよいよってこと?」

「っ!」

 シンジは、その言葉に反応した。

 実験が行われるということは、失敗すればレイが死ぬことになるのだ。

 実験についての説明は音無から聞いてはいたが、非常に危険な賭けであることは間違いない。

「…ごちそうさまでした。」

 レイは、ささっと食事を終わらせ、席を立とうとした。

「あ…、綾波。」

「行って来る。」

 レイは、そう言って食堂から出て行った。

「心配かい?」

「はい…。」

 実験が失敗したら…っという不安が重くのしかかる。

「僕に、できることなんて…。」

「あるよ。」

「えっ?」

「傍にいてやりな。」

「…はい!」

 そういえばレイから、実験の時はギュッ(と抱きしめて)してほしいと言われていたのを思い出し、シンジは、少しだけ気持ちを強く持つことができた。

 

 

 後日…。

 

「尾崎さん…。」

「どうしたんだい?」

「いや、どうしたっていうか…、それを聞きたいのは僕の方ですよ。」

「ん? あ、ああ…。」

 

 地震による救援後、銀髪の美少年をくっつけて歩いてる尾崎を見つけ、シンジは、複雑な心境になったのだった。

 そんなシンジを尾崎の後ろから見て、銀髪の美少年は、クスッと笑っていた。

 

 

 

 




シンジの複雑な心境は、お兄ちゃん取られた弟みたいな心境です。


ツムグは、『死なない』んじゃなく、『死ねない』が正解。本人はまったく望んで不死身じゃない。



次の更新はいつになるやら……。


あれー? 前作と違って、宮宇地が妙に重要キャラっぽくなってきたような?


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