転生者・暁 遊理の決闘考察 (T・P・R)
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プロローグ

私こと(あかつき) 遊理(ゆうり)がこの世界に生を受けて早くも12年が過ぎました。

 

自身が前世の記憶を持つ、いわゆる転生者であることを自覚したのは3歳のころです。

前世の記憶が蘇ると同時に、この世界が漫画『遊戯王』の世界であることにも気づきました。

 

戸惑いは思いのほか少なかったですね。

というより、思い出した前世の記憶があまりに断片的すぎてイマイチ戸惑えなかったというのが正しいかもしれません。

前世の名前はおろか性別すら不明。

当然、前世の両親の事なんて欠片も記憶になく、現在の両親との不和に悩むこともありませんでした。

そんな穴だらけな記憶だったがためか、精神年齢が不自然に高くなることもなく年相応に育って……今に至ります。

 

むしろ、これだけ他の記憶が曖昧なのにデュエルモンスターズの知識だけはっきりしていることの方が不思議ですね。

よほど好きだったのでしょうか。

 

閑話休題。

いくら断片的とはいえ、前世の知識があることが遊理の人生に全く影響を与えなかったかと言われたらそうでもないわけで。

 

まず前世と遊戯王(こんせ)の違いはありありと感じさせられました。

まるで野球やサッカーなどのワールドスポーツのごとくカードゲームがド氾濫した世界。

 

最初は楽勝だと思いましたね。

カードゲームで強くなるだけで勝ち組になれる世界なんてチョロイにも程があると考えました。

 

……浅はかなり。

チョロイのは私の方でした。

 

というのも、前世の漫画の世界を模しただけのオフィシャルカードゲーム『遊戯王デュエルモンスターズ』と、本場本物の『デュエルモンスターズ』はまるっきり別物だったのですよ。

 

まず、カードが違います。

前世ではそれは材質的には何の変哲もないただの紙でしたが、この世界のカードはただの格好いい絵の描かれた紙じゃないのですよ。

 

何とも信じがたいことに、迷信とか思い込みとかの話ではなく純然たる事実としてカードに精霊が宿っているのです。

当然、そんな特別なカードであるが故にカード単価も前世とは比べ物にならないわけで。

デッキに必要なカードをそろえるだけでも一苦労なのです。

この世界において、カードデッキは財布より重いのですよ。

 

おまけに、宿る精霊の格が影響するためか、カードに物理的重量とかカード効果とはまったく異なる“重さ”が発生するわけで。

 

例えば、仮に上級モンスターカード『ブラックマジシャン』39枚と、低級モンスターカード『クリボー』1枚を混ぜて、合計40枚のカードの束を作り、それをシャッフルして上から1枚ドローしたとしましょう。

 

確率的に考えるなら、これでクリボーを引き当てる確率は40分の1です。

前世であれば。

 

しかし、カードごとに“重さ”が異なるこの世界だとその常識は通用しません。

上級モンスターで“重たい”カードであるブラックマジシャンはデッキの下の方に沈み込み、逆に軽いクリボーはデッキの表面に浮かび上がるのです。

結果、何度やっても、単純な確率では40分の1であるにも関わらずクリボーしかドロー出来ないというおかしな現象が発生しちゃいます。

 

物理法則や確率論なんかまるで機能していない、究極のオカルトなのです。

おまけに宿る精霊には重さ以外にも相性などもあるらしく、精霊(カード)の組み合わせによってはシナジーとかの問題以前に全く馴染まなかったりするのです。

 

さて、そんな事実を踏まえて、

前世における精霊の重さや相性などを完全無視した、所謂ガチデッキを組んだらどうなるか……

 

事故る。

 

事故る。

 

とにかく事故る。

 

もし仮に確率的には99パーセント事故らないという奇跡のデッキを組めたとしても、残りの1パーセントを確実に引き当てて事故ってしまうのですよ。

 

例えるなら、あれです。

個々の選手の性格をまるで考慮せず能力だけで選抜された野球チームみたいなものです。

チームワークなんてどこにもなく連携(コンボ)なんてとても出来るわけがないのでした。

 

意気揚々とガチデッキを組んで、好きなカードでデッキを組んでいる人たちを上から目線で素人扱いし、何十何百とデュエルして…その全てに敗北し続ける事3年ちょっと。

ようやくその事実を実感し、受け入れることが出来ました…浅はかなり。

 

もっとも、監督が余程の名監督ならこの世界におけるダメデッキでもそれなりに使いこなせたりするみたいですが。

この場合、監督にあたるのはデッキの使い手、すなわち決闘者(デュエリスト)の事ですが……悲しきかな私には監督(デュエリスト)の才能はなかったのですよ。

 

カードに宿る精霊同士の相性や重さも計算してデッキを組んでみたりもしてみたんですが、私には終ぞ回すことが出来ませんでした。

そのデッキと使いこなす才能が私にはなかったのです。

現在、そのデッキは弟が使用中。

結構使いこなしてます。

かなり強いのだとか。

 

気づけば私は『決闘(デュエル)は弱いけど、デッキ構築は上手い女の子』として近所で評判になってました。

…どうしてこうなったし。

 

神様はどうしてデッキ構築の才能だけじゃなくて決闘(デュエル)の才能もくださらなかったのか…

 

というか、この両者の才能がセットじゃなかったという事実にびっくりですよ!

 

そう、何はともあれ才能です。

才能で決まっちゃうんです。

 

運に才能も実力もあったもんじゃない、という常識が通用したのは前世での話です。

この世界では比喩でも慰めでもなくマジで『運も実力のうち』なんです。

 

というのも、この世界の人間は皆生まれながらに『確率を操作する程度の能力』を個人差あれどデフォルト装備しているらしいのですよ。

 

言い換えれば、人間の能力をゲームキャラクターなどにあるステータスで表現した場合、筋力、知力、などの数値に混じって幸運(ラック)があるといいますか。

 

しかも信じがたいことに筋力や知力同様、幸運もレベルアップする…つまりは鍛えることが出来ちゃうのです。

道行く迫力満点のボディビルダーみたいなムキムキのマッチョマンが決闘(デュエル)でも強かったりするのはそういうわけですね。

 

この世界にいるプロデュエリストはまさにその幸運を鍛えに鍛えまくった奴らなのですよ。

スポーツ選手が体を鍛えるのと理屈は全く同じです。

 

そんな鍛え研ぎ澄まされた確率操作能力者同士のカード対決は、もはや単なるカードめぐりの運勝負にはなりえません。

自分にとって都合のいい可能性の奪い合いになるのです。

どこの世界のイザ○ギですか。

 

決闘者(デュエリスト)間の幸運の値が極端だったら、ほとんどの場合強い側の先行ワンターンキルになってしまうのですが、両者の幸運度(実力)が高い次元で拮抗していると、奇跡のディスティニードローや華麗なる連続コンボがぶつかり合う前世では100回に1回しかありえないような名勝負になるのですよ。

 

派手に発達した立体映像装置(ソリッドビジョンシステム)も相まって戦略的にも見栄え的にも見応え抜群のド迫力な決闘(デュエル)……人気になるわけですね。

事実私もはまったわけで…

 

そしてそんな決闘者(デュエリスト)たちが幸運を発揮するのは何も決闘(デュエル)だけではないのです。

社会で成功するのはより強力な幸運を備えた者です。

もちろん、それだけではないですが、それでも幸運(ラック)の影響力は少なくないです。

 

気づけば、社会を動かす重鎮、会社などの組織で高い役職に座る連中のほとんどが凄腕の決闘者(デュエリスト)という、決闘(デュエル)至上主義社会になったのでした―――

 

 

 

「―――以上。暁 遊理によるこれまでの人生観から考察する遊戯王の世界観でした…」

 

「姉ちゃん? いったい誰に向かって話してるんだ?」

 

放っておいてください。

ただいま現実逃避中なのですから。

 

「そんなことしても、入試の決闘(デュエル)テストはなくなったりしないよ?」

 

「分かってますよそんなことは!」

 

私は勉強机からガバッっと身を起こして弟を睨みつけました。

ほとんど涙目でしたけどね。

 

一体どこの誰ですか、カードゲームに強いだけで勝ち組になれる社会なんて楽勝だなんて言ったのは!?

裏を返せば、カードゲームに弱いというだけで他がどれだけ優れていようとも…そう、勉強とかデッキ構築が上手くても負け組ということじゃないですか!

 

そして現在私は崖っぷちです。

具体的に言えば落ちそうなのです。

なんで中学の入学試験に決闘(デュエル)があるんですか?

 

普通ならそれほど難しい試験じゃありません。

試験官に勝たなくても、試験官のライフポイントを2000ポイント減らす、あるいは10ターン耐えしのぐだけでも合格なのですから…

 

…私が極端に弱くなければ。

ライフを1ポイントたりとも削れないばかりか、今までの私の常敗無勝という悲劇の戦歴を鑑みれば先行ワンターンキルもありえる……いえ、試験官がそこまでエグイことはしないかもですが…それでも絶望的なことには変わりありません。

 

本気で人生ドロップアウトしかねないこの状況、いったいどうすれば…

 

「やっぱり新しいデッキ組んで試してみたら? ひょっとしたらうまくいくかも」

 

「もうさすがにネタが尽きました…相性が悪いんですよ」

 

カードの精霊間に相性があるように、精霊と人間との間にも相性があるのです。

やたらHEROモンスターに好かれたり、マシンカードだけ異様に上手く扱えたり…

この世界でデッキを代えず気に入った1つのデッキを終始使い続ける人が多いのはそういう理由があってのことですね。

 

複数のデッキを使いまわせるような決闘者(デュエリスト)はごく一部の限られた実力者だけですね。

例えるなら、妻妾同衾で家内円満を実現するような…ってさすがに違うかこれは。

つまりはそれだけ難しいということです。

 

そして私の場合、大抵の強力な精霊全般と相性が悪いというおよそ致命的な特性を抱えてしまっているわけです。

どうすりゃいいのですか。

 

「…じゃあ、こうしよう」

 

「?」

 

弟はふと立ち上がると、押し入れからカードの入った箱を取り出して、中身を部屋中にぶちまけました。

ヒラヒラと桜の花びらのように部屋に舞い散るカード。

 

「一体何を?」

 

「この中から目をつぶって1枚選び取る。そのカードを中心にデッキを組む」

 

「!?」

 

精霊や神、そして神に好かれた幸運者が跋扈するこの世界において、偶然なんてものは存在しない。

であるならば…

 

「姉ちゃんがカードを選ぶんじゃない。精霊(カード)が姉ちゃんを選ぶんだ。大丈夫いけるって」

 

根拠なく言い放つ弟。

 

確かに、今までこういうことは一度もしたことがありませんでしたね。

私はそんなことを考えつつ静かに目をつむりました。

 

自分だけの闇の中で、かすかに何かが光ったように見えました。

私はほとんど無意識に、その光に手を伸ばし、1枚のカードをつかみ取っていました。

 

 

 

そのカードは―――

 




遊戯王の二次創作を読んでいて思いついた、というか考えたネタ。

あの世界にガチデッキ使いがいない理由を大人の事情(つまらない)以外の理由で何とか説明できないかと頭ひねっていたらいつしかこんなことに…


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入学編
1話


続ける気はなかったんですが、いろいろ意見を聞くうちに続けたくなったので続きを書いてみました。
需要あるかはさておき。

それと、とある読者の方から指摘を受けたのでここで答えておきます。
本当なら続きを書く上でそれらの矛盾を説明するべきなのでしょうけど、現在そこまで続きを書くかどうか未定なので。

弱いカードがデッキの上の方に浮かぶなら弱いエクゾディアとか簡単に揃えられて無双できるか?
たぶん出来ると思います。
条件を満たせばですが。
まずあの世界で、エクゾディアパーツはそうそう揃えられるような代物ではないのではないかと。
デュエル内で手札にそろえる以前にデッキを組む前段階での困難が予想されます。

あと作中の主人公の考察ではモンスターのカードとしてのレベルではなくカードに宿る精霊の格によって重さが決まるのではないかと推測しました。
カードのレベルは低くても異様に重い。
レベルが高いのに軽い、なんてのもあるかと思います。
そして多分、エクゾディアは重いです。

それでも決闘者(デュエリスト)の幸運が高ければ、もしくはそれを考慮してデッキを組めばそれなりのことができるのでは? というのですが。
遊戯クラスなら出来るでしょうね。
それこそどこかの虫使いが対抗手段を思いつかず、結局海に投げ捨てるなんていう暴挙に出てしまうくらいに。

こういう考察って物凄い大好きなんですよね。


道中にあるカードショップに寄り道して購入した5枚入りのカードパックの袋を、私『暁 遊理』は無造作に開きました。

中身に期待はしません。

幸運の値が個人単位で決定されている世界です。

強力なレアカードは相応の強力な幸運を備えた決闘者(デュエリスト)のもとに赴く、この世界風に表現するなら『カードは所有者を選ぶ』のです。

私のような弱小決闘者(デュエリスト)のところにはそうそう良いカードなんて来ないのですよ…おかげでデッキを構築する以前にカードプールを広げる事すらままなりません…余程の大金持ちならともかく。

 

ああ、私がライトロードやBFに好かれていれば世の中本気でチョロかったでしょうに…この世界に存在しているかどうか知りませんけど。

全てがカードゲームの勝ち負けで決定される世界、なかなかどうして世知辛いのです。

 

あの日、運命のカード(?)に出会ってから2年あまり、紆余曲折を経て全く勝てないという事態からはある程度脱した私ですが……相変わらず決闘者(デュエリスト)として底辺に近いのでした。

 

「墓荒らし、強制転移、エクスチェンジ…マジックアームシールド…相も変わらずの偏ったラインナップですね」

 

今回に限った話じゃないですが、どのパックを買ってもモンスターカードが異様に少ないんですよね。

改めて思いますが、精霊(モンスター)による私の評価はいったいどうなっているのでしょうか?

ここまで毛嫌いして避けられる私っていったい…

 

『モンスターカードもあるじゃない? トーチ・ゴーレムだって…良かったじゃん。上級モンスターのレアカードだよ』

 

「いや効果からして裏切る気満々じゃないですか…」

 

 

【トーチ・ゴーレム】

悪魔族・闇・星8・攻3000/守300

効果モンスター

このカードは通常召喚できない。

このカードを手札から出す場合、自分フィールド上に「トーチトークン」(悪魔族・闇・星1・攻/守0)を2体攻撃表示で特殊召喚し、相手フィールド上にこのカードを特殊召喚しなければならない。

このカードを特殊召喚する場合、このターン通常召喚はできない。

 

 

自分フィールドじゃなくて相手フィールドに召喚されるモンスター。

しかもご丁寧に攻撃力0の的まで用意する周到さ。

死ねと言ってるのですか?

私に決闘(デュエル)的に死ねと言ってるのですか?

 

『別に嫌われてないと思うけどな~、むしろ好かれてるんじゃないかな? ほら人間にもいるじゃない、好きな子に意地悪しまくる子』

 

「冗談でもやめてください」

 

普通に迷惑です…

 

『好かれやすい体質……の亜種なのかもね。いうなれば精霊に舐められやすい体質、みたいな?』

 

「なんですかその不思議体質は?」

 

精霊にしろ動物にしろ好かれやすい人はいるんでしょうけど、舐められやすい人なんて聞いたことがないのですよ。

私は駅で電車の切符を買いつつそう言い返しました。

周囲の人が怪訝な顔で私を見ますが、無視です。

 

『ある意味、精霊に好かれやすい人よりレアだよね』

 

「ちっとも嬉しくない!」

 

『いやでも実際希少だよ? こうして私が見えているわけだし』

 

彼女はそう言ってコロコロと笑います。

 

さっきから極当然のように私の隣で半透明に透けながらふよふよ浮いて話しかけてくる彼女ですが、当然ながら人間ではありません。

この子こそ、私が部屋中にばら撒いたカードの中で私が選んだ……否、私を選んでくれた精霊(カード)です。

 

ですが、私は彼女を元にデッキを組むことはできませんでした。

必要なカードが足りなかったとか、そういう理由じゃありません。

というのも、彼女が思いっきり公式ルールに違反する禁止カードなのですよ。

要するに私は使えるカードと相性が悪く、逆に禁止(つかえない)カードと相性が良い体質であるということなのでした……道理でまともに組んだデッキが言うこと聞いてくれないわけですね。

つまり、この世界の通常の決闘者(デュエリスト)のように相性のいい気の合った精霊(カード)でデッキを組めば、その時点で私は反則確定になってしまうわけです。

 

電車の到着を待つ間、私は改めて思います。

どうしてこうなったし。

 

『人間が決めたルールでしょ? 勝手にカードにしておいて、勝手に禁止にするなんてひどいと思わない? 良いじゃん、お互いはみ出し者同士仲良くしましょうよ。希少なのよ? 精霊が見えてましてや会話ができる人間って。それも貴女みたいな小難しい理屈屋は特に。理論派決闘者(デュエリスト)のほとんどは精霊(わたしたち)の存在を信じないからね』

 

「いや、そんなこと言われても私は貴女をデッキに入れるわけには行けないんですよ」

 

自分がやや擦れていることは自覚していますが、それでもグレるわけにはいかんのです。

 

あと、私が精霊が見えてましてや会話までできるのは才能云々の話ではなく、前世の記憶と比較して幸運度―――この世界の言葉で言えば『(バー)』でしたかね―――の存在を明確に認識したからです。

ちなみに精霊は『カー』というそうです。

総じて『存在する(見える)けど、見えないもの』です。

そしてそれら『見えるけど見えないもの』を誰の目にも見えるようにするのが立体映像装置(ソリッドビジョンシステム)なわけで。

この世界における決闘(デュエル)とはいわばより強い(バー)を持つ者を精霊(カー)をぶつけ合うことで判定する、オカルト的要素満載の代理召喚対決なのですよ。

これのどこが単なるカードゲームなのかって話ですね。

 

前世のそれとは全然違います。

特撮玩具と本物のヒーローベルトくらい違うのです。

 

この世界の決闘者(デュエリスト)は前世のカードゲーマーに比べてややプレイングがおおざっぱというか、あまり洗練されてないのもこのあたりに理由がありますね。

なまじパワーがあるだけに、小手先の小技はあまり必要ないのです。

体格の優れたスポーツ選手にテクニシャンが少ないのと似たような理屈です。

 

エンドサイクとかしませんからね。

勝てる人は―――(バー)が強い人はそんなことしなくても結局勝てるんですよ。

 

『で、話は戻るけどそのカードは結局入れるの? デッキに』

 

「…………いれます」

 

出会いは重要です。

偶然が存在しないこの世界においてすべての現象は必然。

ならばこのカード(トーチ・ゴーレム)が私の手元に来たのも何かしらの理由と意味があると考えてしかるべきでしょう。

それが良い意味か悪い意味かは解りませんが。

 

『天邪鬼ね~、むしろこれはツンデレなのかな? 私はそんな貴女が大嫌い(大好き)だよ』

 

「天邪鬼とか、貴女にだけは言われたくないですね」

 

私は改めて彼女の姿を見やりながらそう言い返しました。

左半分からは天使の白い翼、右半分からは悪魔の黒い翼。

左右非対称の一対の翼が生えた少女。

 

 

【心変わり】

通常魔法(禁止)

相手フィールド上に存在するモンスター1体を選択して発動する。

このターンのエンドフェイズ時まで、選択したモンスターのコントロールを得る。

 

 

相手のモンスターをノーリスクでこちら側に寝返らせる破格のカード。

モンスターが言うこと聞いてくれないという悩みを抱える私にとって、この効果は喉から手が出るほど欲しいんですけど……ちなみに私はひそかに彼女のことを心の中で「ココロちゃん」と呼んでます。

 

「禁止じゃなければなぁ…」

 

あれ以来、すっかり口癖になってしまったその一言を呟きながら私は到着した電車に乗り込んだのでした。

行先はデュエルアカデミアの入試試験会場です。

 

 

 

 

 

 

よもや電車が事故で遅れるとは思いませんでした。

相も変わらず幸運(ラック)が、(バー)が足りてません。

 

『貴女は別に運に見放されているわけじゃないと思うよ? むしろ好かれてるんじゃないかな? ただし幸運にじゃなくて奇運にだけど』

 

「なお悪いです!」

 

奇運に好かれたって良いことなんて一つもないじゃないですか!

でもまあ、それでも試験自体には間に合ったのは不幸中の幸いでしょう。

ある意味ラッキーと考えるべきかもです。

 

デュエルアカデミアの入試はペーパーテストの筆記と、試験官と決闘(デュエル)の実技の二段階制です。

 

とりあえず、筆記試験の結果は上々でしたとだけ。

順位は上から数えて21番目。

筆記受験者の合格者人数は120人くらいだったはずなので、上の中くらいの成績ということになります。

まあまあですね。

もっとも、私の場合問題は此処からなんですけど。

 

筆記試験をパスした受験者だけが受けることが出来る決闘(デュエル)実技ですが…

地元の中学受験の時は勝たなくてもOKだったので何とかすり抜けることが出来たのですが、今回は勝たないといけません。

試験官は試験用に強さを調節されたデッキを使うとはいえ、難易度ははるかに上です。

 

大丈夫ですかね…?

見た感じ、試験官に強い(バー)を感じる人はいませんが…それでも受験生より平均して強いです。

 

『何人か(バー)の強い人間がいるね』

 

ココロちゃんが実技試験会場の観客席を見ながら言いました。

確かに、周りより一回り強いオーラを放ってる人がちらほら見えますね

皆エリートの証であるオベリスクブルーの制服を着ているのですよ。

こういう光景を見てると、名門学校に来たんだなぁと実感します。

 

<22番の決闘(デュエル)は終了しました。次、21番の方どうぞ>

 

あ、アナウンスで呼ばれました。

実技の順番は筆記の成績が低い順に行われるみたいです。

いよいよですね。

 

 

 

「「決闘(デュエル)!」」

 

私と試験官の先生は試験フィールドを挟んでお互いに向き直りました。

 

「先行は受験生からです」

 

「あ、そうなんですか?」

 

ではお言葉に甘えてドロー、私は6枚の手札を眺めて……眺めて…………まあ、こうなることはある程度覚悟はしていたんですけど、それでも実際に起こるとやっぱり絶望しますね。

 

『……モンスターこないね~、見事に魔法(みどり)一色』

 

ココロちゃんが私の手札を覗き込んで苦笑い。

うう、一応デッキには先ほど入れたばかりのトーチ・ゴーレムも含めて17枚もモンスターカードが入ってるはずなのですが……

 

「わ、私は場に2枚のカードをセットしてターンを終了します」

 

「おや、手札事故ですか? ついてませんね」

 

「いえ、いつものことですので」

 

私の最初のターンは大体いつもこんな感じです。

私の決闘(デュエル)に即攻の文字はないのです。

いつだって相手の攻撃を耐え凌ぐところからスタートです。

もし耐え凌げなかったら……うん、その時は素直に負けるしかないです。

 

「では、私のターン、ドロー。私はフィールド魔法、伝説の都 アトランティスを発動します」

 

 

【伝説の都 アトランティス】

フィールド魔法

このカードのカード名は「海」として扱う。

このカードがフィールド上に存在する限り、フィールド上の水属性モンスターの攻撃力・守備力は200ポイントアップする。

また、お互いの手札・フィールド上の水属性モンスターのレベルは1つ下がる。

 

 

「このカードの効果は、水属性モンスターをパワーアップさせるかわりにレベルを1つ下げることです。この効果によりレベル4になったギガ・ガガギゴを手札より通常召喚」

 

「うわぁ…」

 

 

【ギガ・ガガギゴ】

爬虫類族・水・星5・攻2450/守1500

通常モンスター

強大な悪に立ち向かうため、様々な肉体改造をほどこした結果恐るべきパワーを手に入れたが、その代償として正義の心を失ってしまった。

 

 

1ターン目からいきなり攻撃力2450…いえ、フィールド効果でさらパワーアップして2650ですか。

正直キツいです。

どうしてこの世界の人たちはこうも簡単に強力なカードを初手から引けるのでしょうか?

 

「さらに手札より【古のルール】を発動」

 

 

【古のルール】

通常魔法

手札からレベル5以上の通常モンスター1体を特殊召喚する。

 

 

「手札よりレベル5以上の通常モンスターを特殊召喚します。私は【ゴギガ・ガガギゴ】を特殊召喚!」

 

 

【ゴギガ・ガガギゴ】

爬虫類族・水・星8・攻2950/守2800

通常モンスター

既に精神は崩壊し、肉体は更なるパワーを求めて暴走する。

その姿にかつての面影はない…。

 

 

「……」

 

私はフィールドに並んだ舌を噛みそうな名前の二足歩行のムキムキ武装トカゲを呆然と見つめました。

タクティクスは別段驚くようなことじゃないです。

問題は詰み込み紛いの超絶な神引きです。

ホント、この世界の物理法則はどうなってるんでしょうか…

 

『で、どうするの? このままだと直接攻撃(ダイレクトアタック)で終わりだよ?』

 

「そんなこと言われなくても分かってるんですよ!」

 

私はココロちゃんの他人事のような突っ込みに叫び返しながらリバースカードオープン!

 

「……? さっきから貴女は何を一人で…」

 

「速攻魔法、月の書!」

 

試験官の先生が何か言ってきますが無視です!

 

 

【月の書】

速攻魔法

フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、裏側守備表示にする。

 

 

「フィールド上のモンスター1体の表示形式を裏側守備表示にします。私はゴギガ・ガガギゴを指定!」

 

指定されたゴギガ・ガガギゴの姿が消えて裏側表示のカードになりました。

これでフルアタックは防げたはず。

 

「でも、ギガ・ガガギゴがそのままですね。ギガ・ガガギゴでダイレクトアタック!」

 

「くぅ!」

 

 

暁 遊理

LP4000→1350

 

 

攻撃力2650のダイレクトアタックは普通に痛いです。

理屈で言えば単なる立体映像装置(ソリッドビジョンシステム)の実態のない攻撃なのですが……何というか理屈じゃない衝撃があるんですよ。

身体じゃなくて(バー)に直接響くというか……普通の決闘(デュエル)でもこうなんですから、この世界のどこかで行われているであろう闇の決闘(デュエル)とかはもっとキツいんでしょうね。

 

「カードを1枚伏せて、ターンを終了します」

 

「私のターン、ドロー」

 

私はダイレクトアタックの衝撃によろけながらもデッキからカードを引きました。

 

『ねえ? あの伏せカード』

 

「(分かってますよ)」

 

どう見ても(トラップ)カードですね。

それもかなり強力な。

 

 

この世界のカードはただのカードではなく、精霊の宿った特別なカードです。

故にとんでもなく強力な精霊が宿ったレアカードだったりすると、目には見えない威圧感を放っていたりするのです。

私は見たことはないですが神のカードとかはさぞかし物凄いんでしょうね。

重要なのはその理屈はモンスターカードだけでなく、魔法カードや罠カードにも適用されるということで。

ざっくり言えば、戦況を一発でひっくり返せるような強力なカウンタートラップはたとえ伏せ状態でもなんとなく「これはヤバい」みたいなのが分かっちゃうんですよ。

余程巧妙に仕掛けない限り一発でバレてしまいます。

ミラーフォースなんかは特に威圧感と存在感がパない上に有名過ぎるので引っかかる決闘者(デュエリスト)はほとんどいませんね。

そのせいで、カウンタートラップをデッキに多用してしかもちゃんと使いこなせる決闘者(デュエリスト)は実はとても珍しいのですよ……以上、以前パーミッションを使ってボロ負けした暁 遊理の体験談に基づく考察でした。

 

 

で、そんなわけであの伏せカードは要注意です。

この重圧、ミラーフォース級の地雷である可能性が大です。

 

『もっとも、モンスターを召喚できなきゃその地雷を踏むことすらできずに終わるけどね』

 

「やかましいですよさっきから。それにモンスターはちゃんと引けました!」

 

「……ずっと気になっていたのですが、貴女はいったい誰と会話をしているのですか?」

 

「独り言です! 私はモンスターをセット、さらにリバースカード、太陽の書を発動!」

 

 

【太陽の書】

通常魔法

フィールド上に裏側表示で存在するモンスター1体を選択し、表側攻撃表示にする。

 

「このカードにより先ほど私のフィールド上にセットした裏側守備表示モンスターを表側攻撃表示に変更、反転! 幻惑のラフレシア!」

 

 

【幻惑のラフレシア】

植物族・地・星2・攻300/守900

リバース効果モンスター

リバース:ターン終了時まで相手フィールド上表側表示モンスター1体のコントロールを得る。

 

 

反転召喚で不気味にうごめいて花粉をまき散らす毒々しい花がフィールドに現れました。

 

「幻惑のラフレシアのリバース効果発動! 相手フィールド上の表側表示モンスターを選択してコントロールを奪い取ります!」

 

「何っ!?」

 

「私はギガ・ガガギギョ……ギガ・ガガギゴを指定!」

 

「……」

 

『……』

 

変な沈黙が場を支配する中、花粉を吸ったギガ・ガガギゴが虚ろな表情でこちらのフィールドにやってきます。

 

『なんでこのタイミングで噛むかな…』

 

「(うるさい!)」

 

全部、このトカゲの名前が言いにくいのが悪いんです!

 

「……だが、その効果はこのターンの間だけ、しかも私のフィールドには守備力3000のゴギガ・ガガギゴがまだいます!」

 

試験官の先生、スルーしてくれてありがとうございます。

私は若干顔を赤くしつつ

 

「はい、ですので私は奪い取ったギガ・ガガギゴに装備魔法を装備します」

 

「攻撃力を上げて攻撃するつもりですか?」

 

「いえ、攻撃はしません」

 

トラップが怖いですからね。

 

「私は手札より装備魔法、反目の従者を2枚、ギガ・ガガギゴに装備します」

 

「っ!?」

 

鋭い目つきの鳥がカードから2羽現れて、ギガ・ガガギゴの肩に止まりました。

 

「私はこのままターンを終了します」

 

私がそう言った瞬間、虚ろだったギガ・ガガギゴに光が戻り、試験官側のフィールドに帰っていきます……肩にとんでもない爆弾を止まらせたまま。

試験官の先生が顔をひきつらせて後ずさりましたが、もう手遅れです。

 

 

【反目の従者】

装備魔法

装備モンスターのコントロールが移った時、装備モンスターのコントローラーに装備モンスターの元々の攻撃力分のダメージを与える。

 

 

「ターン終了により、幻惑のラフレシアの効果が切れ、ギガ・ガガギゴのコントロールが相手に戻ります。そして戻った瞬間、装備していた反目の従者の効果発動。装備したモンスターのコントロールが移った時、装備モンスターのコントローラーに装備したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを与えます。装備しているギガ・ガガギゴの元々の攻撃力は2450、反目の従者は2枚なのでその倍の4900ダメージを相手に与えます」

 

ギガ・ガガギゴが試験官のフィールドに足を踏み入れた瞬間、反目の従者が試験官に襲い掛かりました。

 

「ぐあああああ!?」

 

 

試験官

LP 4000 → 0

 

 

「…勝った」

 

『勝ったね…しかもワンショットキル』

 

気づけば観戦していた人たちが騒いでいます。

全然気づきませんでした…

 

「負けました。素晴らしいコンボでしたよ」

 

試験官の先生が手を差し伸べてきました。

私はそれに応じながら

 

「いえ、別に……ところで1つ聞きたいのですが、結局あの伏せカードは何だったのですか?」

 

「ミラーフォースだよ。攻撃には警戒していたんだが…まさかあんな方法でLP(ライフポイント)を削りに来るとは」

 

「やっぱり」

 

 

【聖なるバリア -ミラーフォース-】

通常罠

相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。

相手フィールドの攻撃表示モンスターを全て破壊する。

 

 

攻撃しなくてよかったです。

どのみち攻撃なんてできませんでしたけど。

 

<21番の決闘(デュエル)は終了しました。次、20番の方どうぞ>

 

アナウンスを聞き流しつつ、私はフィールドを後にします。

…ふと思い、デュエルディスクからデッキを外し、一番下のカードをめくってみました。

 

……強欲な壺でした。

 

『…よく合格できたね』

 

「はい」

 




僕はポケモンを捕まえる時、たとえ意味がないと分かっていてもボタンを連打するタイプです。
そして多分、遊戯王の世界ではボタン連打行為が無意味じゃない。
気合で幸運を引き寄せる、なんてことがリアルで可能なんだと。
腹が減っては決闘(デュエル)は出来ぬ、みたいなセリフをアニメのどこかで聞いたような気がしますし。

ところで、世界観はなんとなくGXにしましたけど良かったのですかね。
一応まだ修正できなくもないですが…

なお僕自身は遊戯王は漫画にもゲームにもアニメにも詳しくありません。
何か明らかなプレイミスとかがあったら指摘お願いします。
無論誤字報告も。


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2話

いろいろ考えた結果、原作はGX。
主人公は原作主人公と、同学年にしました。


なお、はっきり明記しておきますが、僕はガチデッキを否定する気は毛頭ありません。

内容が内容だけに賛否が物凄い別れてるんですよねこの物語。


『おお、島の真ん中にでっかい火山がある! 火山島なのかな? それにしてもこんな島をよくまるごと学校にできたよね!』

 

私こと暁 遊理について……憑いて? とにかく一緒にいる魔法カード【心変わり】の精霊、通称ココロちゃんがヘリの窓に張り付いてはしゃいでいます。

小学生か……そういえば精霊に年齢の概念はあるのですかね。

 

決闘者(デュエリスト)養成学校「デュエルアカデミア」は太平洋上の孤島をまるごと敷地にしたという極めて贅沢な学校です。

今回、入学試験をパスした生徒は私を含めて全員―――と言っても30人くらいしかいませんが―――ヘリに乗って学園島まで移動します。

 

「たかが火山でそこまで興奮しなくても…精霊界にはもっと幻想的な光景があったのでは?」

 

『さあね~あるかもしれないし、ないかもしれない』

 

「要領を得ませんね。どういう世界なのですか?」

 

『要領を得ない世界なのよ』

 

禅問答みたいです。

まあ、見えるけど見えないものが住まう世界なんて大体そんな感じなのかもしれません。

 

 

 

デュエルアカデミアに通う生徒は編入試験の成績によって3種類の制服、3つの寮に分けられます。

 

中等部からくり上がり組の成績優秀者は、湖に面した絢爛豪華な学生寮オベリスクブルーに。

青を基調とした制服が目印です。

 

高等部から編入試験をパスした成績優秀者は日当たりのよい丘の学生寮ラーイエローに。

制服の色は黄色ですね。

 

そしてそれ以外の生徒、様々な理由で成績が振るわなかった生徒は全部まとめて断崖絶壁の海に面したボロボロの学生寮オシリスレッドに。

赤い色の制服はレッドゾーンの危険な奴らを意味するそうです。

 

各寮の名前の由来は、3幻神のカード【オベリスクの巨神兵】【ラーの翼神竜】【オシリスの天空竜】なのでしょうけど……オベリスクが最上位で、オシリスが最下位なのは何故なのでしょう?

強さ順なら太陽神ラーが最上位でしかるべきです。

この世界のラーはマジで強いんです……見たことないのでたぶんですけど。

前世のあれはラーじゃなくてヲーです。

 

それはさておき私の寮は最上位(オベリスクブルー)なのです。

高等部からの編入なのにオベリスクブルーに入れた理由は成績優秀だったから……では勿論ありません。

前世ではどうだったか覚えてませんが、この世界においては決闘者(デュエリスト)の男女比は著しく偏っているようで、アカデミアの生徒はほとんどが男性なのですよ。

そのためか、希少な女子生徒は成績の高低に関係なくオベリスクブルーの女子寮に配属されるそうです。

というか女子寮がここしかありません。

 

といっても実際はほとんどの女子生徒が中等部出身の成績優秀者で、高等部から試験を受けてまで編入してくる女子生徒はめったにいないそうで。

今年はたった1人だけ……つまり私だけです。

肩身が狭い……

 

周囲が全員中等部からの顔見知りで私1人だけ部外者という圧倒的疎外感と場違い感に耐え切れず、私は寮を飛び出しました。

 

何というか、空気が煌びやかすぎて庶民である私は馴染める気がしないというか、そこに住んでる女子生徒もどこか浮世離れしているのですよ。

というか、どいつもこいつも身長が高い!

プロポーションが凄い!

ついこの間まで中学生だったとは到底思えないモデル体型ばっかりです。

どうなってるんでしょうか?

 

『皆(バー)で肉体が活性化されているからね~。そりゃ発育もよくなるでしょ』

 

何でもないことのようにココロちゃん。

 

「……そういえば、男性のプロデュエリストもパワーデッキ使いは体格がいい人が多かったですね」

 

極端だと下手なボディビルダーなんかよりムキムキだったりします。

そして私の見た限り、女子生徒で一番強い輝きを放っている(バー)の持ち主は私と同じ新入生であるにもかかわらず上級生を差し置いて一番の巨乳でした。

決闘(デュエル)の実力も相当なものらしく、あだ名はなんと女王様。

突っ込みたいけど事実として女王の名に相応しいカリスマと輝きを備えているから突っ込めない…

胸囲の……もとい驚異の格差社会なのです。

 

『別に気にすることないと思うよ~?』

 

「身長が足りないんですよ」

 

背は別に高い方じゃないとは思ってましたが、よもや周囲から頭1つ小さいとは思わなかったです。

ノースリーブミニスカートという、やたらスタイリッシュな女子制服が欠片も似合わない……仕方なく長袖の制服を着てみたのですが今度は袖がブカブカ…余計に小さく見えるのですよ。

 

と、そんな益体もないことをココロちゃんと言い合いながら特に目的もなく学校の中を歩いていたら何やら広い空間が見えてきました。

体育館……いえこれは闘技場ですね。

決闘(デュエル)用の特設コロシアムです。

 

『でっかいね~』

 

「ですね」

 

私は素直に感嘆しました。

決闘(デュエル)ディスクがあるので、決闘(デュエル)自体は場所を問わず何処でも行えますが、それはそれ、これはこれです。

それぞれの良さがあるのですよ。

今まで何百人、何千人という決闘者(デュエリスト)がここで決闘(デュエル)をしてきたのでしょう。

長い時間をかけて染みついた目には見えない闘志のうずまきを肌で感じるのです。

 

『相変わらずそういうのに敏感よね~。やっぱり遊理は特別なのかも』

 

「そういうのじゃないと思いますよ」

 

むしろ弱いからこその資質なんじゃないかと。

いわばこれは草食動物とかの危機察知能力に近いような気がしますね……自分で分析して悲しくなるような結論ですけど。

 

「匂う、匂うぞ~決闘(デュエル)の匂いだ!」

 

「え~? 決闘(デュエル)の匂いって~?」

 

「『決闘(デュエル)の匂い?』」

 

初めて聞く言葉です。

これをそんな風に表現するとか、なかなかぶっ飛んだセンスをお持ちで……何やら聞き覚えのある声なのです。

というか、私以外にも感じ取れる人がいたんですね。

 

「あ! 勝手に入っちゃっていいの!?」

 

闘技場に入ってきたのは、見るからにヤンチャ坊主な男子生徒と眼鏡をかけた気弱そうな男子生徒の2人組でした。

両者ともオシリスレッドの制服を着ています。

 

『あの元気そうな方の男の子って…』

 

「はい、実技でクロノス先生を破った110番のHERO使いですね」

 

エリートであるオベリスクブルーの生徒と比較しても何ら遜色ない(バー)の輝き、そして彼の周囲をつかず離れず飛び回る精霊(ハネクリボー)

見間違えようがありません。

彼は私と同じように電車の事故に巻き込まれて遅れたらしく試験受付ギリギリに到着し、結果としてアカデミアの決闘(デュエル)最高技術顧問であるクロノス教諭と戦い、そして打ち破るという快挙を成し遂げたのでした。

良い意味でも悪い意味でも新入生の中では注目の的になっています。

『遊理の奇運もなかなかだけど、彼の悪運も大したもんだね』とはココロちゃんの評価です。

 

「おお~すげ~」

 

彼はキラキラと目を輝かせて周囲を見渡します。

 

「ここって最新設備の決闘(デュエル)フィールドだよ! 音響システムも体感システムもニューバージョンだ! いいなぁ、こんなところで決闘(デュエル)やってみたいなぁ…」

 

心底羨ましそうにフィールドを見つめる眼鏡少年。

 

「やればいいんじゃないですか? 幸い今は誰も使ってないみたいですし」

 

急に話しかけたのがまずかったのか、ビクッと飛び上がる眼鏡少年。

その反応は地味に傷つきますね…同じくらいの身長で親近感抱いていたのに。

 

「え、でもいいのかな…」

 

「遠慮することないと思いますよ、だって私も貴方たちもアカデミアの生徒なんですから」

 

決闘(デュエル)の腕を磨くために入学したんですから、決闘(デュエル)は積極的に推奨されこそすれ禁止されるなんてまずないでしょう。

アンティールールや闇のゲームとかなら話は別ですが。

 

「そいつの言うとおりだぜ。そうだ、お前も一緒にどうだ? 俺、遊城(ゆうき) 十代(じゅうだい)! 十代でいいぜ」

 

こっちの少年―――十代君は物怖じしませんね。

類まれなる(バー)の輝きといい、これは将来大物になる予感がします。

 

(あかつき) 遊理(ゆうり)です。よろしく」

 

「ぼ、僕は丸藤(まるふじ) (しょう)ッス…」

 

こっちの眼鏡の弟分は翔君ですね、覚えました……ってココロちゃん?

ココロちゃんは私たちが自己紹介している間、十代君の顔の前でしきりに腕を振っていました。

何してるんですか貴女は?

 

『いや、決闘(デュエル)の匂いなんてものを嗅ぎとれるんだから、ひょっとしたら精霊(わたし)が見えるんじゃないかと思ったんだけど……当てが外れたか』

 

残念、と肩を落とすココロちゃん。

 

「(今は無理でしたけど、将来的にはまだ可能性あると思いますよ)」

 

『クリクリ~』

 

今の時点でも、精霊に好かれる素養はあるみたいですし。

と私は彼の肩に止まっているハネクリボーを見ながら思います。

 

「……? 俺の肩に何かついてるか?」

 

「さあ? いずれ気づくといいですね」

 

さて、どうなるやら『クリクリ~』十代君もいずれ『クリクリ~』精霊『クリ~』見えるよう『クリクリクリ~』にってうっとうしい!

さっきからなんですかこの羽の生えた毛玉は!

私にまとわりついてクリクリ笑っています。

ひょっとしなくても思いっきりからかわれてますね私。

 

『ハネクリボーに限らず、クリボーは皆人懐っこいからね。遊理と遊びたい……いや遊理()遊びたいんじゃない?』

 

「私は玩具ですか!」

 

「うお!? どうしたんだ急に?」

 

「失礼、取り乱しました」

 

「意味わかんないッス……」

 

突然叫びだした(ように見える)私にオシリスコンビが若干引いています。

元を正せば十代君についてる精霊の所為なのに……そもそもHERO使いであるはずの彼が何故ハネクリボーを連れているのでしょう?

 

「まあいいや、とにかく決闘(デュエル)だ! 決闘(デュエル)すれば遊理がどんな奴なのか大体わかるし分かり合える」

 

たとえどんな変な奴でも。

そんなセリフが十代君の言葉の後に聞こえてきたような気がしたのは私の被害妄想でしょうか?

 

「おっとそういうわけにはいかないんだよなぁ」

 

突然私たちの間にオベリスクブルーの制服を着た男子生徒の2人組が割り込んできました。

 

『何奴ッ!?』

 

『クリクリッ!』

 

物凄く良いリアクションをする精霊コンビ。

久方ぶりに自分以外の精霊を見たせいか、やたらテンション上がってますねこいつら。

 

「上を見てみろ」

 

「オベリスクの紋章が見えないか?」

 

割り込んできた男子生徒の2人が、不遜な態度で壁の紋章を示します。

あれは……確かにオベリスクの巨神兵の顔ですね。

えっと? つまりここはオベリスクブルー専用ってことですか?

 

『勿体ない……』

 

ココロちゃんが唖然としてつぶやきましたが、私も同感です。

これだけの設備を限られた生徒だけにしか使わせないなんて贅沢がどうとか言う以前の問題として設備の無駄でしょう。

 

「ご、ごめん知らなかったんだ……寮に帰ろう兄貴?」

 

翔君は気後れしたように言います。

 

「う~ん、なんかしっくりこないなぁ……じゃあ、お前が俺と勝負しないか? それならいいだろ?」

 

対して十代君は欠片も怯んでいません。

さすがに豪胆です。

 

「クロノス先生に勝っただけのことはありますね~」

 

途端、私のつぶやきを聞いたオベリスクブルーの2人組がギョッとしたように私を振り返り、改めて十代君を見つめました。

 

「だ、誰かと思ったら!」

 

気づいてなかったんですか?

 

「万丈目さん! クロノス教諭に勝った110番ですよ!」

 

「こっちの小娘も、試験官のライフポイントを一撃で0にしたやつだ!」

 

いや、小娘って…同い年ですよ? 見えないかもですけど、それは翔君とて同じはず。

それはさておき、呼ばれて出てきたのはオベリスクブルーの制服を着た目つきも髪型も鋭い男子生徒。

 

『何奴ッ!?』

 

『クリクリ~!』

 

精霊(あんた)ら本当にノリ良いですね。

現れた万丈目君は、生意気な遊城 十代(オシリスレッド)を見て目を細め、そして(オベリスクブルー)を見て表情を緩めました。

選民思想に染まった、まさにエリートって感じですね。

ただ不遜なだけではなく、恵まれた(バー)の強さに裏打ちされた絶対の自信を感じさせるのです。

 

「ああ、俺遊城 十代! よろしく! で、あいつは?」

 

十代君は相手が誰でも欠片も態度を変えませんね。

 

「お前万丈目さんを知らないのか! 同じ1年でも中等部からの生え抜き、超エリートクラスのナンバーワン!」

 

「未来の決闘王(デュエルキング)との呼び声高い、万丈目(まんじょうめ) (じゅん)様だ」

 

いや、知るわけないでしょう。

いくら有名でも、それは中等部内の話で高等部からの編入組である私達には知りようがないのですよ。

 

「おかしいな」

 

「何が?」

 

「だって決闘王(デュエルキング)って1番ってことだろ? この学園の1番は俺だからさ!」

 

『言うね~アンタのご主人』

 

『クリクリ~』

 

生え抜き集団(オベリスクブルー)に負けず劣らず不遜な十代君のセリフに、2人組は一瞬ポカンとした後、大声で笑いだしました。

 

「ドロップアウト組のオシリスレッドが身の程知らずな…「ビークワイエット、諸君、はしゃぐな」万丈目さん?」

 

生意気な態度に怒りをあらわにした2人組を万丈目……さんがやんわりと制止しました。

 

「そいつら、お前たちよりやる。入学試験決闘(デュエル)で手抜きしたとはいえ、一応あのクロノス教諭を破った男と、苦し紛れとは言え試験官相手にワンショットキルを成し遂げた女だ」

 

「まぐれですよ」

 

とはいえ、この世界に必然ではない偶然なんて存在するのか微妙ですけど。

あと私を引き合いに出さないでください。

 

「俺はまぐれじゃないぜ。実力さ」

 

「フフン、その実力ここで見せて欲しいもだな」

 

「いいぜ」

 

睨みあって闘志をぶつけ合う2人。

 

『おお、好敵手(ライバル)だね~』

 

『クリクリ!』

 

そしていつの間にやら蚊帳の外になっている私と翔君。

とりあえず、私が決闘(デュエル)する流れにならなくて良かったです。

何故かって? ほぼ確実に負けるからですよ。

(バー)を見るだけで分かります。

 

 

「貴方達! 何してるの?」

 

剣呑とした空気をまたもや突然の乱入者が打ち破りました。

静かな、それでいて凛とした張りのある声です……今度は女王様のご登場ですか。

 

『何奴ッ!?』

 

『クリクリ!』

 

精霊コンビはまたしてもそのリアクション、気に入ったんですか?

 

『いやここまで来るともう、お約束かと思って。だったら守らなきゃいけないじゃない?』

 

「お約束」と「約束」は全然違いますよ。

 

「誰だ?」

 

疑問の表情を浮かべる十代君

私がこっそりと教えます。

 

「明日香さんですよ。天上院(てんじょういん) 明日香(あすか)さん。オベリスクブルー女子生徒の新入生にして頂点。女王様って呼ばれている実力者です」

 

その存在感は十代君にも万条目さんにも負けていません。

 

「へぇ、そうなのか。あいつとも決闘(デュエル)してみてぇなぁ」

 

キラキラと目を輝かせる十代君。

 

しかし、改めてみると凄い光景ですね。

新入生でも指折りの実力者が揃い踏み……なんでこんな場所に居合わせちゃったのでしょうか?

場違いすぎて泣けてきます。

 

「天上院君」

 

万丈目さんの顔があからさまに穏やかになりました。

わかりやすい。

それにしても男子である万条目さんがさん付けで、女子の明日香さんを君付けするとか、何だかあべこべなような…

 

「やあ、この新入りがあまりに世間知らずなんでねぇ。学園の厳しさを少々教えて差し上げようと思って」

 

親しげに話しかける万丈目さんですが、明日香さんは終始鋭い顔で威圧感を放ったままです。

 

「そろそろ寮で歓迎会が始まる時間よ?」

 

文脈を無視したその言葉は言外にとっとと帰れと言っていました。

 

「っ……引き上げるぞ」

 

取り巻きの2人組をひきつれてその場を後にする万丈目さん。

 

「貴方達、万丈目君の挑発に乗らないことね。あいつらロクでもない連中なんだから…」

 

万丈目さん達が立ち去った後、そう私たちに忠告する明日香さん。

仲悪いのですかね?

 

「へぇ~、わざわざそんなことを教えてくれるなんて、ひょっとして俺に一目惚れか!?」

 

「兄貴そんなあり得ないことを!」

 

重くなった空気をぶち壊そうとしたのか、おどけた様に十代君はそんなことを言いました。

おかげで、険しい表情だった明日香さんも笑顔になり空気が少し軽くなりました。

 

「オシリスレッドでも歓迎会が始まるわよ」

 

「っそうだ! 寮に戻るぞ!」

 

「あっ、待ってよ兄貴~」

 

赤い制服の2人はあわただしくその場を後にする…かと思いきや十代君はくるりと振り返り

 

「そうだ! 言い忘れたぜ。俺、遊城 十代! よろしくな明日香! それじゃまたな遊理! お前も結構凄い奴だったんだな!」

 

十代君はそれだけ言い残すと、今度こそ翔君と一緒に駆け出していきました。

 

『最後の最後まで調子の良い男の子だったね~。クリボーくんが気に入るのも分かるなぁ』

 

「さて、そこの貴女……遊理と言ったかしら? 私達も女子寮に帰るわよ」

 

十代君の元気に当てられてか、当初より幾分柔らかい表情で明日香が私の腕を引っ張ります。

 

『十代君と翔君も凸凹コンビだったけど、こっちはこっちでアンバランスだよね~、同い年には到底見えないわ』

 

ココロちゃんが苦笑いしていますが、今は構っていられません。

 

「うぇ?…け、欠席するわけには…」

 

「そんなわけにはいかないでしょ。それでなくても高等部から編入する女子は珍しいのに、あまつさえその娘が試験官相手にワンショットキルをしたって、皆興味津々なんだから」

 

「そんなに注目されてたんですか私!?」

 

こ、これは予想外です。

どうしよう?

空気になって目立たないようにやり過ごそうと思っていたのですが。

 

その後、私は何処の貴族の晩餐ですかと突っ込みたくなるような歓迎会の中心で揉みくちゃにされたのでした。




続きを書くにあたって、まず決めようと思ったのは主人公の容姿の設定でした。

なんとなく女子の平均身長くらいに設定して……そのあと、明日香さんの身長を調べて170センチと判明してびっくりです。

ちなみに翔君は150センチでした。

あとは髪型ですけど…
ヒトデやカニやエビが跋扈する中、これに対抗できる髪型は……


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3話

久方ぶりの連続投稿です。

今回はアニメの3話のエピソードですね。


私は自分の手札を見て思わず笑みがこぼれました。

悪くない、どころか最高の手札です。

これはひょっとしたら勝てるかもしれません……いや勝つんです!

 

「手札より魔法カード、大嵐を発動! これで貴方が場に伏せている魔法、罠カードはすべて破壊なのです!」

 

よし、これで相手のリバースカードはもうありません。

壁モンスターもいませんし、あとはモンスターでダイレクトアタックすれば私の勝利です。

 

さて、破壊した相手の3枚のリバースカードは…

 

 

 

―――ジャックポット(セブン)×3

 

 

 

「―――っは!? ゆ、夢か」

 

ずいぶん懐かしい夢を見てしまいました。

 

『うなされてたね~。悪夢でも見たの?』

 

「ええ、ちょっとしたトラウマを」

 

 

【ジャックポット(セブン)

通常魔法

このカードをデッキに戻してシャッフルする。

また、このカードが相手のカードの効果によって墓地へ送られた時、このカードをゲームから除外する。

この効果によってゲームから除外された自分の「ジャックポット7」が3枚揃った時、自分はデュエルに勝利する。

 

 

相手に破壊されることによって勝利を確定する特殊勝利条件カード。

これのお蔭で私は手札抹殺とか大嵐みたいな除去カードは二度と使わないという誓いを立てさせられたのですよ。

デッキ破壊なんてもってのほかです。

というか、この手の一掃カードをデッキに入れて、都合よく私の手元に来るときは大抵相手が有利になるパターンなのですよね。

暗黒界とか黄金の邪神像とか……うう、またトラウマが。

おかげで今の私があるわけなのですが。

 

 

 

太平洋上の孤島、デュエルアカデミアでの生活にもだいぶ慣れました。

四六時中デュエルモンスターの事ばかり学ぶのかと思っていましたが、別にそんなことはなく一般教科もちゃんと学ぶようです。

そのあたりは普通の学校と大差ないですね。

体育設備もあるんですよ。

体育館、運動場はもちろんの事、テニスコートや温水プールなんかも完全完備です。

恐るべきマネーパワーです。

 

教科と言えば、一般的な数学や歴史の時間割の中に錬金術が混じっていることに気づいたときはさすがに度肝抜かれましたね。

担当教員はオシリスレッド寮の寮監でもある大徳寺先生。

最初は何をバカなと思っていましたが、実際受けてみてびっくりなことに意外と本格的でした。

大徳寺先生曰く、デュエルモンスターズというゲームの起源をたどれば古代エジプトの錬金術に到達するそうで。

(見えないもの)から(見えるもの)を生み出す学問である錬金術を学ぶことで精霊(カー)(バー)についてより理解を、ひいてはデュエルモンスターズというゲームの深い部分に通じることが出来るそうです。

コンボやタクティクスとは全く違うベクトルからのデュエルモンスターズへのアプローチを試みるその内容はあまりにも新鮮で斬新で魅力的でした。

元から精霊が見えていた私は好奇心のままに大徳寺先生に質問をぶつけまくり、気づけば一番熱心に受講する科目になっていました。

 

それで、肝心の決闘(デュエル)の授業ですが、基本的にはカード効果を学ぶ座学で実戦はあまりしませんね。

担当教員はクロノス教諭です。

 

オベリスクブルーの寮監でもあるクロノス教諭ですが、どうにも自分を破った110番、遊城 十代がとにかく気に入らなくてたまらないようです。

理由は彼がドロップアウト組のオシリスレッド寮の生徒だから……だけではありませんね。

少なくとも他のオシリスレッド寮生にはそこまでの態度ではないですし。

 

問題は十代君の授業態度でしょう。

クロノス先生の授業に限らず、どの授業も基本寝てるだけ。

決闘(デュエル)の授業ですら寝ています。

本当なら真面目に授業を受けないと強くなれませんよと叱りたい、でも結果を出してしまっているから叱るに叱れない。

教師からしたら溜まらんでしょうね、自分の存在意義を全否定されたに等しいのですから。

明日香さんの話によれば、夜中にこっそりオベリスクブルーのエリート、万丈目さんと決闘(デュエル)して対等以上に渡り合ったそうですし。

良い意味でも悪い意味でも手に負えない問題児。

 

ごちゃごちゃ理屈を並べましたが、要するにまあ、こういうことです。

 

 

 

オシリスレッドの新入生、遊城 十代君は天才なんですよ。

 

 

 

女子寮の設備はどれもこれも豪華ですが、一際ゴージャスなのはなんといってもお風呂場でしょう。

下手な旅館より広いのはもちろん、天上がガラス張りでしかもむっちゃ高い。

開放感が半端ないです。

 

 

「本当、明日香さんってばスタイル抜群でうらやましいですわ~」

 

「そんなにジロジロ見ないでよ、恥ずかしいじゃない…」

 

「ももえもまた胸が大きくなったんじゃない?」

 

「もう! ジュンコさんってばどこ触ってるんですか!?」

 

 

開放感だけでなく疎外感もまた半端ないですが。

もう身長がどうとか胸がどうとか言う次元じゃありません。

大人と子供です。

 

「何言ってるんですか! 遊理さんだってこんなに可愛らしいのに!」

 

『そうだよ! 需要あるって!』

 

「分かりましたから、ナチュラルに頭撫でるの止めてくれませんかね?」

 

どう考えてもそれは同い年の同級生に対する愛情表現じゃないでしょう。

ココロちゃんも慈しみの籠った目で私を見るな。

というか、何故ここにいるんですか?

カードは部屋に置いてきたはずですが。

 

「それにしても、今年入学の男子はロクなのがいませんね」

 

風呂場の女子のぶっちゃけトークは気づけば異性の話になってました。

 

「特にあの遊城 十代ときたら! うるさくて下品で生意気で! ねぇ、明日香さん?」

 

「どうでもいいわ……あんな奴」

 

「ダウト、明日香さん本当は気になって仕方がないんですよね?」

 

「えぇ!? 明日香さん!?」

 

「ち、違うわ! 決闘(デュエル)の腕に興味があるだけよ! 本当にそれだけ!」

 

さあ、どうでしょうかね。

私の見る限り脈はありそうですけど…

 

『う~んどうだろ? 明日香さんはともかく十代君は朴念仁男子の典型だし……でも他に明日香さんと釣り合いが取れる新入生ってなると、(バー)の強さ的にはあの万丈目ってやつか、ラーイエローの三沢(みさわ) 大地(だいち)くらいしかいないし』

 

「ラーイエローの三沢さんも素敵な殿方ですよね」

 

さりげなく会話に混ざるココロちゃん。

何故に言葉のキャッチボールが成立するのですか?

ひょっとして見えて…

 

 

「…………?」

 

ふと、お風呂場の外。

かすかにですが、強い(バー)の気配を感じました。

 

「遊理さん?」

 

「……誰かいる?」

 

「誰かって…誰ですの?」

 

「ひょっとして覗き?」

 

ジュンコさんが目を吊り上げます。

 

いやさすがにそれはないかと。

鍵だってかかってるし…

 

 

「覗きよ!」

 

「キャー痴漢~!」

 

 

マジですか?

 

 

 

女子寮の風呂場の横に現れた人影を取り押さえてみたところ、それはオシリスレッドの気弱な生徒、遊城 十代君といつも一緒にいる気弱な眼鏡の男子、丸藤 翔君でした。

私の感じた(バー)は彼じゃなかったんですが……どういうことでしょうか?

勘違い?

 

『鍵見てきたよ、鎖が切られてたわ』

 

「…誰かが切ったんでしょうね」

 

しかし、件の侵入者である翔君は見たところ鎖を切れるような凶器は持ってません。

どういうことでしょう?

共犯者がいる?

 

「まあ! 明日香さまからラブレターですって?」

 

翔君の告白に目を丸くするももえさん。

証言を信じるのであれば、彼はラブレターでここに呼び出されたらしいのでした。

 

「うん! えへへ、ね?」

 

ニコニコと明日香さんに笑いかける翔君。

こうして縛られて拘束されていてなお、彼は全く悪びれる様子がありません。

本気で悪いことしたという自覚がないんでしょうね。

すぐに誤解が解けて解放されると信じて疑っていません。

 

「バカね、オベリスクブルーの女王明日香さんがオシリスレッドのアンタなんかにラブレター書くわけないでしょ?」

 

「ウソじゃないよ、今夜女子寮の裏で待ってますって、僕のロッカーに…」

 

「待ってください翔君。ロッカーって更衣室のロッカーですか? 男子の?」

 

「うん!」

 

「……そこって女子は立ち入り禁止なのですけど」

 

普通に考えたら女子である明日香さんが侵入できるはずがないのです。

 

「そ、それでも手紙がちゃんと…」

 

翔君はやや慌てた様子で手紙をポケットから取り出し、すぐさまそれをジュンコさんに取り上げられました。

ジュンコさんは私たちの前でその手紙を広げて……

 

「私、こんな汚い字書かないわ」

 

ばっさりと否定する明日香さん。

 

「オシリスレッドの殿方はそんなことも分からないのですね」

 

やれやれと呆れたようにももえさん。

 

「ええ? じゃあ、いったい誰が…」

 

「あら? この手紙、あて名が遊城 十代になってるわ」

 

「えええ!? う、ウソぉ?」

 

「ほら」

 

「ほ、ホントだ」

 

がっくりと崩れ落ちる翔君。

哀れです。

こんな穴だらけの偽のラブレターにあっさり騙されてのこのこあらわれ、しかも止めに間違いという。

かける言葉が見つからないのです。

 

「それで? どうします?」

 

さすがにこのまま覗き犯として学校に突き出すのは酷でしょう。

ある意味彼も被害者です。

はっきりしているのは、誰かが明日香さんの名を騙って十代君を陥れようとしたということです。

 

「そうね……私に考えがあるわ」

 

明日香さんはそう言って不敵な笑みを浮かべました。

 

 

 

明日香さんはもともと十代君とは前から戦ってみたかったようなので、今回の事件はまさに渡りに船だったのでしょう。

 

文字通りの意味で。

 

翔君を人質に十代君を呼び出した明日香さんは、翔君の身柄をかけて決闘(デュエル)することになりました。

そこまでは良いんです、やや展開が急転直下な気もしますが別にそこは良いんです。

 

だけど……

 

「ねえ! 戦うのは良いんですが、もっと別の場所でやりませんか? 何もこんな不安定な小舟の上で…」

 

「仕方ないわ、寮の近くじゃ先生に見つかる恐れがあるもの」

 

明日香さんと十代君は、それぞれ不安定な小舟の上に立って湖を挟んでお互い向き合っています。

いつでも何処でも誰とでも決闘(デュエル)できるのがデュエルディスクの利点ですが、何も湖の真ん中でしなくてもいいと思います。

 

湖に浮かんでいる小舟は全部で3つ。

 

1つは十代君と翔君が乗っている小舟。

翔君は座っていますが、十代君は決闘(デュエル)のため立っているので不安定です。

 

さらにもう1つは明日香さん、ジュンコさん、ももえさんの3人で乗っている小舟。

こちらも十代君と同様、明日香さんがデュエルディスクを構えて立っているので不安定です。

 

そして最後の1つは、私が1人で乗っている小舟です。

さすがに4人乗りで1人立つみたいな無茶はできなかったがゆえの余りですね。

明日香さん側に近い、両者の小舟に挟まれる位置で漂ってます。

 

この場で一番不安定なのは3人乗りの明日香さんたちの小舟でしょう。

転覆しないといいんですが…

 

「「決闘(デュエル)」」

 

私のそんな心配をよそに、2人は決闘(デュエル)を開始しました。

 

 

遊城 十代

LP 4000

 

天上院 明日香

LP 4000

 

 

「さて、どっちが勝つでしょうね…」

 

「そんなの明日香さんに決まってます!」

 

「オシリスレッドなんかに負けるはずがありませんわ!」

 

さあ、どうでしょうね。

私の見る限り、両者の実力は拮抗しているように見えます。

 

(バー)的には互角……いや明日香さんの方がやや上…くらいかな?』

 

「安定感なら明日香さん有利、でも瞬間的な爆発力なら十代君ってところですかね」

 

要するに、どちらが勝ってもおかしくないってことです。

あ、先行は明日香さんみたいですね。

 

「私のターン、ドロー! エトワール・サイバー! 召喚!」

 

 

【エトワール・サイバー】

効果モンスター

星4/地属性/戦士族/攻1200/守1600

このカードは相手プレイヤーを直接攻撃する場合、

ダメージステップの間攻撃力が600ポイントアップする。

 

 

明日香さんに負けず劣らずスタイリッシュな女性モンスターが湖の湖面に現れました。

 

 

……派手な水しぶきとともに。

 

 

「だから、こんな場所で決闘(デュエル)するのは反対だったんですよ…」

 

『おお~水も滴るなんとやらだね~』

 

ちょうど近くにいた私は水しぶきを頭からかぶる破目になりました。

相も変わらずの幸運不足(アンラック)……せっかくお風呂に入ったのに。

 

「カードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

しかも決闘(デュエル)に集中しているせいか誰も気づいてくれません。

酷い…

まあ、いいか、こういうことは昔から慣れっこで今更気にしていません。

それにこういう目に度々遭っていたからこそ、私は精霊の存在をいち早く認知できたとも言えますし。

ただの立体映像だったらこんなのこと絶対にありえないのですから。

 

とりあえず、場所を変えましょう。

このまま明日香さんの近くにいたら、モンスターを召喚するたびにスプラッシュ直撃です。

 

私はオールを慣れない手つきで動かして十代君側に移動して…

 

「次は俺のターンだ! ドロー! E・HERO スパークマンを召喚!」

 

「!?」

 

 

(エレメンタル)HERO(ヒーロー) スパークマン】

通常モンスター

星4/光属性/戦士族/攻1600/守1400

様々な武器を使いこなす、光の戦士のE・HERO。

聖なる輝きスパークフラッシュが悪の退路を断つ。

 

 

全身に青白い稲妻をまとったヒーローモンスターが出現しました。

 

バリバリバリッ!

 

まき散らさられる電撃。

 

「ほぎゃあああ!?」

 

直撃する私。

 

『しかも事前に水を浴びせることによって、電導率まで完璧という……なんという無駄のないコンボ』

 

「そんなコンボがあってたまりますか!」

 

ハネクリボーもこっち見て笑うな!

 

『遊理もある意味神に愛されてるよね~、笑いの神に』

 

「笑えません!」

 

あ、スパークマンさんがこっち見て申し訳なさそうにしています。

別にいいですよもう。

誰が悪いって、湖の上(こんなところ)で雷モンスター呼び出した十代君が悪いです。

 

そして十代君は明日香さん同様、私の存在に気づいてませんね。

大した集中力です。

 

 

「スパークマンで、エトワール・サイバーに攻撃だ! スパークフラッシュ!」

 

 

『リバースカードは警戒しないんだね』

 

「みたいですね。見た感じ攻撃反応系のトラップ……でも、カウンターでも無効化でもなさそうです」

 

 

「リバースカード、オープン!」

 

明日香さんがリバースカードを発動しました。

さて、何が飛び出すのか…

 

 

「ドゥーブルパッセ! 発動!」

 

スパークマンの手のひらから放たれた電撃がエトワール・サイバーに直撃する前に進路を変えて、明日香さんにぶつかりました。

うわぁ、痛そう。

先に受けたからこそ分かるこの感覚。

 

 

【ドゥーブルパッセ】

通常罠

自分フィールド上の表側攻撃表示モンスター1体が相手モンスターの攻撃対象になった時に発動できる。

そのモンスターの攻撃は自分への直接攻撃になる。

その後、攻撃対象になったモンスターはこのターン相手に直接攻撃をすることができる。

 

 

「何!?」

 

「ドゥーブルパッセは相手の攻撃をプレイヤーへのダイレクトアタックに切り替える」

 

 

天上院 明日香

LP 4000 → 2400

 

 

「そして、攻撃対象となったモンスターは相手にダイレクトアタックが出来る! エトワール・サイバーの特殊効果! プレイヤーへのダイレクトアタック時、攻撃力が600アップ!」

 

 

エトワール・サイバー

攻撃力 1200 → 1800

 

 

「ぐああ!」

 

 

遊城 十代

LP 4000 → 2200

 

 

『凄いトラップを仕掛けてたわね……でもなんでこんなカードを使ってまであのモンスターを?』

 

「それだけ、あのエトワール・サイバーってモンスターが明日香さんにとって特別だってことでしょう。初手から手札に来てたみたいですし」

 

何より、私の知っているOCG版の【エトワール・サイバー】とは効果が微妙に異なるのですよ。

直接攻撃時に攻撃力がアップするのは同じですが、私が知っているのは600じゃなくて500でした。

 

 

こういうモンスターは異常に多い……というか、全く同じカードなんてこの世界には存在しないのです。

カードイラストもカードテキストも全部バラバラなんて、工業製品でしかなかった前世のOCGでは絶対にありえないことですが、この世界のカードは精霊の宿るカードです。

全く同じ精霊が存在しない以上、全く同じカードもまた存在しえないのですよ。

同じ効果で同じ名前のカードなら腐るほどあるでしょうけど、それでも厳密には違うんです。

心変わりのカードは世界中にあるでしょうが、ココロちゃんは世界で唯1人なのです。

 

私の知っている変わり種としては、カードイラストがアフロなワイトとか、やけに目つきの悪いブラックマジシャンとか、召喚されるたびにスッ転ぶドジッコなブリザード・プリンセスとか……最近だと、何故かトラップに引っかかってしまうポンコツ古代の機械巨人(アンティーク・ギアゴーレム)とか、戦闘ダメージどころか効果ダメージまでシャットアウトする優秀なハネクリボーとか…

 

まるで金のかかった間違い探しのごとく微妙に絶妙に違うので、過去に覚えた効果テキストを鵜呑みにするとひどい目にあいます。

というか、あいました。

無駄に奥が深いゲームです。

 

と、考え事している間に、十代君はターンを終了したみたいですね。

次は明日香さんのターンです。

 

 

 

 

 

その後、決闘(デュエル)は紆余曲折を経てエースモンスター対決になり、僅差のところで十代君が勝利し、そのまま約束通り翔君をつれてレッド寮に帰っていきました。

 

「あんなのまぐれですわ!」

 

「そうです! 次やったら絶対明日香さんが勝つに決まってますわ」

 

憤慨しているジュンコさんとももえさん。

愛されてますね明日香さん。

 

『明日香さん惜しかったね~、あと一歩のところまで十代君を追い込んだのに』

 

「違いますよ。あれは追い込んだんじゃなくて、削りきれなかったんです」

 

結果、十代君の逆転勝ち。

やっぱり、天才っているんですねぇ。

明日香さんが惹かれるのも分からないでもないのです。

 

「ところで、なんで遊理さんは水びだしに?」

 

「十代君がサンダー・ジャイアントを召喚した時の衝撃でボートが転覆しました」

 

さらにその後、電撃攻撃(ボルティックサンダー)の追撃コンボ。

本気で溺れるかと思いました。

その時は、湖に現れた謎の影に助けられたんですけど、結局あれは何だったのでしょう?

 

「そ、それは災難だったわね」

 

「良いんですよ」

 

慣れっこですから。

それよりも、お風呂場がもう閉まってしまっていることの方が個人的に大問題です。

謎の影の正体も、翔君を陥れようとした犯人も分からないままですし。

一応、大団円ですが、何1つ謎は明らかになってないんですよね。

 

まあ、それはさておきです。

今1番の問題は……

 

『風邪ひかないといいね』

 

全くです。

 




今回も主人公デュエルなしです。

設定的にプレイヤーよりも取り巻きとして動かした方が光るんですよね。
能力とかも解説者向けですし。

次は主人公のデュエルが書けるといいなぁ。
今回の考察は要するにブラックマジシャンはいっぱいいるけど、マハードさんは1人ですよってことです。
ポケモンに近いんじゃないかと思いました。


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VS十代編
4話


連続3話投稿です。



「遊理が、俺の対戦相手? なんで遊理と俺が決闘(デュエル)を……」

 

デュエルアカデミア実技試験当日。

 

十代君が目の前にいる私のことを驚きの表情で見つめています。

無理もありませんね。

通常、実技テストは同じ寮の生徒同士が戦うのですから。

普通ならブルー寮である私と、レッド寮である十代君では戦うことができないはずなのですよ。

 

「入学試験で、あれほどの成績を残した君とオシリスレッドの生徒では釣り合いが取れなイーノデス。そこで! シニョリーナ暁こそが君の対戦相手に相応しいと判断いたしましターノデス!」

 

クロノス先生がもっともらしい理屈を並べたてます。

言い訳臭いというか言い訳そのものなのですが、実際十代君がレッド寮らしからぬ実力を備えていることは事実なので私は何も言いません。

 

「もちろん君が勝てば、ラーイエローに昇格するってことになりマースノ。デスガ、如何でスーノ? 遊城 十代君? この申し出、受ける気なりますデスカーノ?」

 

フィールド外で観戦している生徒がざわつきます。

前代未聞、かどうかは分かりませんがかなりの珍事であることに変わりはありません。

さて、十代君の答えは……まあ、決まりきっていますよね。

 

「いいぜ! 俺、いろんな奴と決闘(デュエル)をやってみたい! どんな奴からの挑戦でも受けたいんだ!」

 

十代君の目が熱く燃えています。

それでこそ、十代君です。

 

「ナラバ! シニョリーナ暁との決闘(デュエル)を受けルーノデスネ?」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします、十代君」

 

「ああ! 思いっきり楽しもうぜ!」

 

 

「「決闘(デュエル)!」」

 

 

暁 遊理

LP 4000

 

遊城 十代

LP 4000

 

 

「こんな形で遊理と戦うことになるとは思わなかったぜ」

 

「私もです。本当は戦いたくなかったのですが、いろいろあって気が変わりました」

 

「いろいろ?」

 

「こっちの話ですよ……あ、そうそう十代君、言い忘れていたことがありました」

 

「ん? なんだ?」

 

「実はですね……」

 

 

 

 

 

 

テストの時期になりました。

デュエルアカデミアでは恒例行事らしく、この時期になると一部の例外を除いて皆勉強に精を出します。

それはつまり、ほとんどの生徒が寮に籠っているということです。

 

『誰も通りかからないね』

 

「ですね、当てが外れました」

 

私こと暁 遊理は閑散とした校舎をとぼとぼと歩いています。

 

 

 

あの翔君の覗き冤罪事件以降、私はずっとあの事件の真相を探っていました。

十代君を嵌めようとした犯人が誰なのかも気になりますが、それ以上に気になる懸案事項として私を助けてくれた謎の影の正体が知りたかったんです。

最初は明日香さんの助力も期待していたんですが、明日香さんは決着がどうであれ十代君と心行くまで決闘(デュエル)できたことでいろいろと満足してしまったらしく、先の事件は完全に終わったものとして興味を失っており今更蒸し返す気はさらさらないようでした。

よって、調べているのは現在私だけです。

 

調べる、と言ってもやっていることといえば道行く人にひたすら声をかけて話を聞くだけなのですが。

元より専門家ではなく、これと言った機材もノウハウもない素人である私の思いつく捜査なんてそんなもの、しかしやらないよりはマシです。

ですがテストの日が近づくにつれ、通りかかる人がどんどん少なくなり、ついには誰も見かけなくなってしまいました。

ただでさえ遅々として進んでいない素人調査がこれで完全に行き詰りです。

 

現在、分かっていることと言えばあの謎の影は湖に住んでいる野生生物とかの類ではなく人間であるらしいことと、その人間が結構な(バー)の持ち主であることくらいです。

ちなみに前者の証言者はココロちゃん、後者は私の感覚だよりの曖昧なものです。

 

要するに聞き込みによる調査進展はゼロだということです。

 

決闘(デュエル)フィールドの方に行ってみる? ひょっとしたら誰かいるかもよ?』

 

「……そうですね、行ってみます」

 

テストの内容は入学試験の時と同じく筆記と実技(デュエル)の二段階制です。

ただし入試が筆記をパスした者だけが実技に進めたのに対し、月一テストはたとえ筆記が落第点でも実技試験に挑めるのです。

最終成績は筆記と実技を総合して算出されるため、極端な話をすれば筆記が壊滅状態でも決闘(デュエル)の評価が上々なら真ん中程度まで成績を持ち直すことが出来るわけです。

今の時期でもデッキの調整も兼ねて決闘(デュエル)している人がいる可能性は十分に考えられるのですよ。

 

ちなみに、逆もまたしかりで実技がダメダメでも筆記で巻き返すなんてことも可能なので、私はもちろんこのパターンです。

 

『そういえば、遊理は勉強しなくて大丈夫なの?』

 

「無論完璧……と言いたいですが、実際はあまり大丈夫じゃありませんね」

 

まあ、それでも上の中から中の上くらいの点数は稼げると思いますが……

 

「今やめても気になって勉強に手がつかないのは目に見えてますし、とりあえず今日は心行くまでとことん調査するのですよ」

 

『ふ~ん、ま、そこまで覚悟完了してるなら私は止めないわ』

 

と、そんなことをココロちゃんと話しているうちにフィールドに到着しました。

残念ながら、フィールドには誰もいませんでしたが。

 

「またしても当てが外れた、ついてないですね」

 

『そうかな? 遊理の場合、ついてないって言うよりむしろ……待って、あそこに何か落ちてる』

 

ココロちゃんの言うとおり、決闘(デュエル)フィールドの端っこに何か落ちてます。

 

「……財布?」

 

レトロなガマグチ財布です。

 

「今時まだ使ってる人がいたんですね……って重ッ!?」

 

なんとなく拾い上げようとして、その中身がぎっちぎちに詰まっていることをありありと感じさせる重量感に思わず私は息をのみました。

こ、これはどうすれば? 全く予想していない幸運(?) に私は戸惑いを隠せません。

 

『こういうのって、確か拾い主は1割貰えるんだったよね? やったじゃん。いつになくラッキー』

 

「何言ってるんですか! と、とりあえず交番に……デュエルアカデミアに交番なんてありましたっけ?」

 

いや待て落ち着け私。

島に到着した際にめぼしい設備はそれなりに案内されました。

その中に、確か警備関係の設備があったはず。

ひとまずそこに届けて「――ノーネ!」……?

 

慌てる私の耳にエラク特徴的な語尾の声が聞こえてきました。

 

「何処に!? 何処に落としたノーネ!?」

 

 

クロノス・デ・メディチ教諭。

オベリスクブルーの男子寮長にしてデュエルアカデミアの実技担当最高責任者、実質アカデミア校長のマスター鮫島に次ぐナンバー2。

攻撃時に相手の魔法・罠の発動を封印する機械族モンスター群「古代の機械(アンティーク・ギア)」を主力とした暗黒の中世デッキを使いこなすその実力は間違いなく本物なのですが、入試の際に自分を破った遊城 十代をはじめとする劣等生(オシリスレッド)には事あるごとに嫌味を言い、逆に優等生(オベリスクブルー)は優遇するという差別的言動が目立つ教師です。

 

「何処!? 何処なノーネ!?」

 

クロノス教諭は顔を真っ青にして何かを探しています。

何を探しているかは……考えるまでもありませんね。

 

「クロノス教諭」

 

「なんデスーノ! 今私はとても忙しいノーネ……って、おおシニョリーナ暁!」

 

「…………」

 

なぜ、他の女子は呼ぶときはシニョーラなのに、私だけシニョリーナなのでしょう?

いや、間違ってないんですが……意味を鑑みればむしろ他の女子をシニョーラと呼ぶ方が間違ってるんですが……なんかモヤっとします。

 

まあ、それはそれとして置いといて。

 

「お探しの物はひょっとしてこれですか?」

 

「おお! おおおおおお!! 間違いないデスーノ! 私のウォレットなノーネ!」

 

『ウォレッ……イマイチ国籍が分かりにくい先生よね、ポルトガル人だっけ?』

 

「(イタリア人です……確か)」

 

そしてウォレットは英語。

ガマグチ財布は日本特有。

ちなみにアンティークはフランス語です。

改めて考えると物凄いチャンポンですね。

教師をやる前は世界を股にかけて仕事とかしていたのかもしれません。

 

「それにしても凄いですね、普段からそんな大金を持ち歩いているのですか?」

 

さすが、貴族のお金持ちは違うのです……かと思いきやクロノス先生はノンノンと首を振って

 

「違うノーネ、今回は特別な買い物のために貯金を下ろしただけデスーノ」

 

「……特別な買い物?」

 

デュエルアカデミアは学園島です。

当然ながら、島の住人は教師を除けばほとんどが学生です。

島の物価もそれに合わせてほとんどが学生料金の低価格なのです。

そんな学園の島で、これほどの大金を擁する買い物と言えば……

 

「……カードの買い占めでもする気なのですか?」

 

そういえば、もうすぐ購買部に新しいカードが入荷する時期でしたかね。

 

「ギクギクギクリンチョ!? なんでバレたノーネ!?」

 

「ビンゴ……ってか本気ですか?」

 

ほとんど当てずっぽうだったのにまさかの正解です。

しかし、ただでさえ実技試験が迫っていてデッキ強化が急務であるこの時期に貯金を下ろしてまでカードの買い占めとか、クロノス先生も鬼ですね。

 

「こ、このことは内密に!」

 

やけに慌てたような様子で口止めするクロノス先生。

何故そんなに知られたくないのでしょうか?

確かに買い占めは褒められた行為ではないですが別段犯罪というわけではないのに。

というか、この手の金や権力に物を言わせた行為はオベリスクブルーのお坊ちゃま(ボンボン)が度々行っているのですし(結果、強力なレアカードのほとんどがオベリスクブルーに集中して、各寮に実力以上の格差を生み出しています)寮長のクロノス先生も黙認していた筈。

となると、目的はカードの買い占めそのものじゃなくて……

 

「……そうまでして十代君をギャフンと言わせたいのですか?」

 

「ドキドキ!? シニョリーナ暁は心が読めるノーネ!? いやいやそんなオカルトありえませンーノ!」

 

『ビンゴ2回目……遊理ってこっちの才能はあるよね』

 

ココロちゃんが感心したように言いますが生憎と私は探偵になる気はないのです。

もしそんな才能が本当にあったら今頃とっくに謎の影の正体を暴いているでしょうし。

何より普段のクロノス先生の態度を見れば丸わかりだと思うんですが。

顔どころか声にまで全部出ているのですよ。

普段はギャグなんじゃないかってくらい開けっぴろげなのに一度決闘(デュエル)になると手の内を読ませない気迫を発揮したりするからつくづく世の中理解できません。

 

「どうして、そんなに十代君を目の仇にするのですか?」

 

「そんなの決まってまスーノ! 我がエリート学園、デュエルアカデミアに、あんなドロップアウトボーイはふさわしくないノーネ!」

 

開き直ったのか、クロノス先生は目を三角形に吊り上げて思いのたけをぶつけ始めました。

ま、まあいろんな意味で学園の枠組みからは外れた存在であることは確かですが。

 

「で、カードを買い占めてどうするんです?」

 

「今度の実技試験で、あのドロップアウトボーイの対戦相手にレアカードを渡してコテンパンさせるノーネ!」

 

「無理だと思いますよ~いくらレアカードを渡したって、対戦相手もオシリスレッドの生徒なんでしょう?」

 

劣等生だってバカにする気はないですが、それでも十代君に匹敵するような実力者がレッド寮に他にいるとは思えません。

 

「そこは、権力の職権パゥワーなノーネ! どうにかして適当な理由をでっち上げて、オベリスクブルーの生徒と対戦させマスーノ!」

 

「……ま、まあ頑張ってください……(どうせ勝てないでしょうけど)」

 

この程度の逆境、性格からして十代君は笑顔で切り抜けるでしょうし。

ちょっとお金とレアカードに恵まれたくらいのお坊ちゃまなんかには、十代君には敵わないのですよ。

 

「それでは私はこれで」

 

「アデュ~。風邪ひかないように気を付けるノーネ」

 

「……っ!?」

 

私は思わず振り返りました。

風邪ひかないように?

 

何故そこでそのセリフが飛び出すのですか?

 

「……先生こそ、夜の水泳は控えた方が良いですよ?」

 

「分かってマスーノ。もう懲りたノーネ」

 

「……」

 

ワザと?

ワザと私に教えてくれているのでしょうか?

 

「やっぱり、あの時私を助けてくれたのって……」

 

「っっ!!? 違いマスーノ! 私はブルー寮の湖で泳いだりなんかしてないノーネ!」

 

私はここまで見事に語るに落ちた人を他に見たことがありません。

 

『遊理、やっぱりこっちの才能あるわ』

 

しきりに感心しているココロちゃん。

いやこの場合、クロノス先生が迂闊すぎるだけかと…って今はそんな話をしている場合ではなくて!

 

「ぜひ一言お礼が言いたかったのですよ。あの時はありが「違うノーネ! 私じゃないノーネ!」……」

 

むむむ、意地でも認めない気ですか。

仕方がないですね……

 

「…では、もし偶然湖で溺れそうになった私を助けてくれた人に会ったら伝えてください。ありがとうございます。貴方にはとても感謝していますと」

 

「……解りましターノ」

 

『面倒ね~。ていうか、あれ? あの影の正体がクロノス先生ってことは、偽のラブレターで十代君を嵌めようとしたのも先生ってこと?』

 

そうなるでしょうね。

だからこそ、クロノス教諭はかたくなに認めなかったわけですが。

本当なら退校処分ものの犯罪なのでしょうが……それでも恩人ですし。

 

何か恩返しできればいいのですが……あ、そうです。

良いことを思いつきました。

 

「クロノス教諭、あと2つほど頼みたいことがあるのですが」

 

私の申し出はよほど意外だったのか、クロノス教諭はその時目を真ん丸に見開いたのでした。




意外に難しかったクロノス口調。

何でも当初は声優さんのアドリブであったとか……


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5話

連続投稿2つめ。
ようやく主人公の決闘(デュエル)シーンです。


「十代君、この決闘(デュエル)で1つ賭けをしませんか? もちろん賭けるのはカードではなく」

 

「賭け?」

 

フィールドを挟んで構えている十代君は怪訝な表情で私を見つめています。

 

「はい、賭けです。この決闘(デュエル)でもし十代君が私に勝てなかったら、今後授業を真面目に受けてください。あと「知識と実力は関係ない」などの発言も取り消してくれると嬉しいです」

 

もともと、十代君にはいろいろと物申したいことが結構あったんですよ。

恨みはないですが、湖の一件で借りはありますし。

 

「うう、せっかくの決闘(デュエル)の時に授業の話は勘弁してくれよ~」

 

十代君が頭を抱えてボヤキます。

 

「そんなに嫌なら勝てばいいんですよ?」

 

「そうか……そうだな。俄然負けられなくなってきたぜ! 気合入ってきた~」

 

そんなに勉強が嫌ですか…そうですか…

 

「では、私が貴方に勝てなかった場合、責任を持って十代君に勉強を教えることにします」

 

「うぇ!? そ、それじゃ俺は勝っても負けても…」

 

「良かったですね? もうドロップアウトとは呼ばれませんよ。というか私が呼ばせません。その実力に見合った模範生徒になってもらうのですよ」

 

うわあ~と、のたうつ十代君。

そんな嫌なら賭けに乗らなきゃいいのに、真っ直ぐすぎる十代君はその選択肢は概念レベルで存在していない模様。

デュエル脳の一種なのですかね。

 

『これもある意味直接攻撃(ダイレクトアタック)なのかな? ライフじゃなくて精神に直撃的な意味で』

 

知りませんよそんなこと。

というか、私は私なりの方法で十代君をギャフンと言わせてみせるつもりでしたが……この時点で目的は半場達成しちゃいましたね。

 

「おい! いい加減はじめろ!」

 

「そうだそうだ!」

 

と、さすがに引き延ばしすぎましたか。

 

「とりあえず、賭けは成立で良いですね?」

 

「え? ああ、うん」

 

「言質はとりましたよ、では私の先行! ドロー」

 

私は6枚になった手札をさっと一瞥。

さて、気になるその内容は……

 

魔法(みどり)が2枚に、(むらさき)が4枚……相も変わらずモンスター(ちゃいろ)がこないね~』

 

ココロちゃんが手札を覗き込んで苦笑いしていますが、この程度私からすれば日常茶飯事、不運の内に入りません。

逆境、苦境どんとこいなのです。

 

「私は手札より魔法カード、エクスチェンジを発動します!」

 

「っ!?」

 

『はあ!?』

 

ざわ…

 

私のこの行動に、相手の十代君、ココロちゃん、観戦していた生徒、クロノス教諭をはじめとする教師陣、この場にいるほぼ全員がぎょっとした表情をしました。

そりゃそうですよね。

通常、このカードは場にカードを伏せるなどして手札をなるべく絞ってから使うべきなのですから。

 

 

【エクスチェンジ】

通常魔法

お互いのプレイヤーは手札を公開し、それぞれ相手のカード1枚を選択して自分の手札に加える。

 

 

単純明快な手札交換カード。

手札バレという多大なリスクをはらむうえ、交換で得たカードもよほど汎用性が高いかミラーマッチ(同じデッキ)でもない限り使えません。

正直、リスクばかりでリターンの少ない使いにくいカードです。

あと前世では、カードに傷防止のため独自のスリーブ(カードカバー)をかけている場合が多く、交換したカードがバレバレになるリスクをはらんでいたりします。

公正を期すためスリーブを外そうとすれば、ルール以前のマナートラブルが発生したりもするのでなかなかに審判泣かせなカードと言えるでしょう。

 

まあ、そんな話はさておいて早速十代君の手札を拝見。

 

融合

E・HERO スパークマン

E・HERO クレイマン

融合解除

E・HERO バーストレディ

 

おおう、予想はしていましたが何という神引き。

いきなり私を溺れさせかけたビリリとニクいアンチクショウが召喚できてしまうじゃないですか。

 

『おまけに融合解除で追撃の用意も万全……壁なしでターンエンドしてたらその時点で終わってたね』

 

全くです。

 

「とりあえず、融合をもらいます」

 

「っく!」

 

悔しそうにする十代君。

さすがに1枚だけということはないでしょうが、それでもヒーローデッキにとって融合を奪われるのは相当の痛手になるはず。

 

そして対する私の手札ですが、

 

反目の従者(魔法)

ドレインシールド(罠)

便乗(罠)

ピケルの魔法陣(罠)

洗脳解除(罠)

 

微妙です。

物凄く微妙です。

この露骨なまでの引きの内容の違いに、私と十代君の実力差が思いっきり表れているのですよ。

……想定通りですけど。

 

「……俺はドレインシールドを選択する」

 

「毎度あり~」

 

『ねえ、手札交換(エクスチェンジ)するにしてもなんでその前にドレインシールドをセットしておかなかったのよ? それならたとえサンダージャイアントを召喚されても……』

 

「(いいんですよこれで)私はカードを1枚セットしてターンエンドです」

 

「俺のターン、ドロー!」

 

十代君の顔には油断はなく、むしろ警戒した様子で私がセットしたカードを見つめます。

そう、それで良いんですよ。

 

『どういうことよ?』

 

「(元よりエクスチェンジは相手のカードを奪うためではなく、こちらの手札を見せつけるために発動したってことです)」

 

もちろん舐めプでもありません。

 

「(私は十代君がヒーローデッキを使うことを知っています。しかし十代君は私がどんなデッキを知らないのですよ)」

 

『フェアな対決がしたいってこと?』

 

「(まさか、私が言いたいのは十代君が今必死に頭をひねっているだろうということです)」

 

おそらく、今見せた手札から私のデッキがどういうタイプなのか考えているはずです。

ですが十代君は勉強不足故に、カードの効果に詳しくありません。

彼がドレインシールドを選んだのも、そのカードが汎用性の高い使いやすいカードだから、というよりそれ以外のカードについてよく知らなかったからでしょうね。

使い方が分からなかったんです。

 

ならば、彼は私の偏りまくった手札を見てこう考えるはずです。

 

なんかよく分からない罠カードがいっぱいあったから、とにかく罠カードには気を付けよう。

 

ならばこのターン十代君が引き当てて、召喚するモンスターは……

 

「(ワイルドマン!)」

 

「俺はE・HERO ワイルドマンを召喚する!」

 

 

(エレメンタル)HERO(ヒーロー) ワイルドマン】

効果モンスター

星4/地属性/戦士族/攻1500/守1600

このカードは罠の効果を受けない。

 

 

「ビンゴ!」

 

『ウソ!? 当たった……凄い…って待って、この読みにいったい何の意味が?』

 

「(特にありません)」

 

『アホなの!?』

 

「ワイルドマンにトラップは効かない! ダイレクトアタックだ!」

 

筋肉が大きく盛り上がった半裸の野性的な男性戦士のモンスターが私に襲いかかります。

 

「ワイルドスラッシュ!」

 

私は予想通りというか、予定通りというか、なすすべなく吹っ飛ばされるのでした。

 

「……くはっ!」

 

 

暁 遊理

LP 4000 → 2500

 

 

「カードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

『どうすんのよ。これじゃ単なるプレイミスじゃない』

 

「(とりあえずこれでいいんですよ)」

 

少なくとも今のところは。

 

「私のターン、ドロー……私は魔法カード、手札抹殺を発動します」

 

「また手札の交換……」

 

 

【手札抹殺】

通常魔法(制限カード)

お互いの手札を全て捨て、それぞれ自分のデッキから捨てた枚数分のカードをドローする。

 

 

よし、これでお互い手札は全て交換できます。

 

「さて、そろそろ動かないと不味いですね」

 

『動けないから不味いんじゃないの?』

 

言わないでくださいココロちゃん。

余裕ぶった態度で誤魔化しているだけで、実は普通に順当にいつも通りピンチなのですよ。

このまま対処できなければ、何の山も谷もなく決闘(デュエル)に負けてしまうのです。

 

何とか巻き返さないと……で、肝心の新しい4枚の手札ですが……

 

『ここでこの(モンスター)がくるか…』

 

「来ちゃいましたね」

 

 

同じ名前で同じ効果な同じカードでも、宿る精霊は全て違います。

そういう意味で、全く同じ精霊(カード)なんて存在しません。

つまりはどんなカードにも特有の個性があるということなのですが……このカードは数いる精霊の中でも超絶ピンの際物です。

 

 

『え? 出すの? 召喚するの? ただでさえ苦しい状況がさらに悪化するだけじゃ……』

 

「それでも出さないわけにはいかないでしょう……」

 

でないと烈火のごとく怒るでしょうし。

文字通りの意味で。

 

前に彼女を怒らせたときどんな目にあったか……

 

『……とりあえず部屋のカーテンが焦げただけで済んで良かったね』

 

小火がマシに思える時点で感覚がマヒってます。

 

 

「……私は、十代君のフィールドのモンスター、ワイルドマンをリリースします」

 

「俺のモンスターをリリース!?」

 

「ヴォルカニック・クイーン! 召喚!」

 

ワイルドマンが音もなく炎上し、最初に現れたのは蛇のように長い炎の龍でした。

そして、炎の龍の眉間が紅蓮に発光、爆発し―――

 

 

 

『ひぃゃああああああはハハははっははははっははははアははっはあはははあヒャヒャハははははっハハハハッハ!!』

 

 

 

―――フィールドに狂ったような哄笑が轟きわたりました。

 

 

【ヴォルカニック・クイーン】

効果モンスター

星6/炎属性/炎族/攻2500/守1200

このカードは通常召喚できない。

相手フィールド上のモンスター1体をリリースし、手札から相手フィールド上に特殊召喚できる。

1ターンに1度、このカード以外の自分フィールド上のカード1枚を墓地へ送る事で、相手ライフに1000ポイントダメージを与える。

また、自分のエンドフェイズ時にこのカード以外の自分フィールド上のモンスター1体をリリースするか、自分は1000ポイントダメージを受ける。

このカードを特殊召喚するターン、自分は通常召喚できない。

 

 

見た目は女の子の上半身が額から生えた炎の龍です。

バーン効果、つまり直接効果でライフを削る能力を持つ炎属性炎族のモンスターシリーズ「ヴォルカニック」の1体であり、このモンスターも例にもれず強力なバーン効果を持っています。

 

ですが私に言わせれば、この精霊(カード)の事を語る場合、そんな効果の説明はおまけでしかありません。

私の大きな転換点にもなった12歳のあの日、最初に選んだカードは心変わり(ココロちゃん)でしたが、最初に私の目の前に姿を現して話しかけてきた精霊(カード)は彼女なのですよ。

交流した時期で言えばココロちゃんより古い顔馴染みと言えます。

ですが、未だこの精霊とは分かり合える気がしません。

 

『来たあああああああ! 来た来た来た私の出番ついに来たあああ! 寂しかったよおおおおおぉぉぉおおぉぉおおおう!!』

 

彼女のテンションを表すかのごとく、竜の長い身体は出現した十代君のフィールドでグネグネウネウネ動き回り、本体である炎の女の子の眼は危うい輝きを爛々と放っています。

物理的にも精神的にも近寄りがたいモンスターの出現に、さすがの十代君も腰が引けている様子でした。

 

「な、なんだこのモンスターは?……」

 

「私の腐れ縁ともいうべきモンスターです…………まあ、仲良くしてあげてください」

 

出来ればですが。

 

「く、腐れ縁? いったいどういう『ひっどおおおおおぉおおぉぉぉおおおおい! 私の事腐れ縁だなんて!』…!?」

 

彼女は決闘(デュエル)の進行を完全に無視し、龍の長い身体をグイ~ンと伸ばしてこちらのフィールドに身を乗り出して

 

『互いに遊理ちゃん、ルカちゃんって呼び合う仲だったじゃない? カードについて熱く語り合ったじゃない? 精霊界の話で夜も眠れなくなるくらい盛り上がったじゃない!?』

 

『ひい!?』

 

フィールドを離れてはるか遠くに避難するココロちゃん。

こら逃げるなというか私を1人にしないでお願いですから。

 

 

とまあ、これが私のヴォルカニック・クイーン通称ルカちゃんです。

便利なカード、強力なカード、レアなカードとデュエルモンスターズのカードは多々ありますが、私は彼女以上に厄介な精霊(カード)を知りません。

精霊というか……まるっきり悪霊です。

 

『あの日の約束、遊理は覚えてる? 覚えてない? 私は覚えてるよ? 精霊界に行ってみたいって言ったよね? あの時の私たちは熱く燃え上がっていたよね!?』

 

「え、ええ覚えてますよ……」

 

忘れもしない、13歳の冬の日の事。

私は比喩ではなく文字通りの意味で私は熱く燃え上がったのです。

あやうく霊になって煙と共に(精)霊界に旅立ってしまうところでした。

その臨死体験以来、私の霊感というか、精霊に対する感度センサーは思いっきり振り切れ状態です。

 

『覚えてくれたんだ! 私達相性ばっちりだね! 永遠の友達だね、親友だね!』

 

「何でもいいからとにかく今は十代君のフィールドに引っ込んでください。決闘(デュエル)中です」

 

あの日以来、ルカちゃんはずっと私を(ともだち)にするチャンスを虎視眈々と狙っているのです。

つくづく油断なりません。

 

『ああん、冷たいよでも大丈夫私の熱い炎で凍った心を溶かしてあげるからさあ燃やそうすぐ焼こううねり狂う情熱のままに骨の髄まで灰も残さず恋焦がそう! バトル!』

 

「いや、まだ私のメインフェイズは終了してませんが!? 私は一時休戦を発動します」

 

 

【一時休戦】

通常魔法

お互いに自分のデッキからカードを1枚ドローする。

次の相手ターン終了時まで、お互いが受ける全てのダメージは0になる。

 

 

『そんなぁあああぁぁぁ~』

 

これで何とか次のターンまではルカちゃんの脅威はしのげるはず。

ひとまず安心ですね。

 

『貴女たちはいったい誰と戦っているのよ……』

 

あ、ココロちゃん、戻ってきたんですね。

誰とって、もちろん自分自身(のデッキ)ですが?

あと、十代君。

 

「俺はついでかよ!」

 

「そんなことありません。貴方()強敵です。私はカードを1枚伏せてターンエンドです」

 

 

暁 遊理 手札 2枚

LP 2500

フィールド セットカード 2枚 モンスターなし

 

遊城 十代 手札 5枚

LP 4000

フィールド ヴォルカニック・クイーン セットカード 1枚

 

 

「……まあ、お前も苦労してんだな」

 

「ハハ、もう慣れっこです………………お前()?」

 

「あ、れ? なんだろう? なんか遊里が他人事に思えなくて……」

 

ひたすら首をひねっている十代君。

ひょっとして彼も病んだ精霊に憑りつかれた経験が?

 

『やめてよ。こんな精霊が何人もいたら堪らないわ』

 

ココロちゃんが身を震わせてそう言います。

ですよね!

こんな精霊はルカちゃんだけですよね!

……嫌な予感しかしないのは何故でしょう?

 

「俺のターン! ドロー! 俺は魔法、ミラクル・フュージョンを発動する!」

 

 

【ミラクル・フュージョン】

通常魔法

自分のフィールド・墓地から、

「E・HERO」融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを除外し、その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。

 

 

「このカードは墓地に存在するヒーローを除外して新たなヒーローを融合召喚できる! 俺は墓地のバーストレディとクレイマンを融合! 現れろ! E・HERO ランパートガンナー!」

 

 

(エレメンタル)HERO(ヒーロー) ランパートガンナー】

融合・効果モンスター

星6/地属性/戦士族/攻2000/守2500

「E・HERO クレイマン」+「E・HERO バーストレディ」

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

このカードが表側守備表示の場合、守備表示の状態で相手プレイヤーを直接攻撃する事ができる。

その場合、このカードの攻撃力はダメージ計算時のみ半分になる。

 

 

分厚い鎧に身を包んだ女性戦士が銃と盾を構えた守備表示でフィールドに現れます。

 

『せっかく、融合カードを奪ったのに…』

 

「そりゃ、融合モンスターを召喚する方法は融合だけじゃないでしょうよ」

 

十代君のフィールドに並んだ2体のモンスター。

対するこちらはフィールドにも手札にもモンスターはいません。

一応セットカードはありますけど、どちらも防御手段にはなりえませんし……いよいよもって巻き返しが困難になってきましたよ…

 

「さらに永続魔法、悪夢の蜃気楼を発動」

 

「っ!? そのカードは…」

 

 

【悪夢の蜃気楼】

永続魔法

相手のスタンバイフェイズ時に1度、自分の手札が4枚になるまでデッキからカードをドローする。

この効果でドローした場合、次の自分のスタンバイフェイズ時に1度、ドローした枚数分だけ自分の手札をランダムに捨てる。

 

 

単体で使えば単なる手札交換カードです…ですが。

 

「カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」

 

「あの伏せカードは…」

 

『うん、私にも分かった。絶対非常食だよね』

 

「ですね」

 

ただし、分かったからと言ってどうすることも出来ないわけですが。

これで一時休戦の効果も消失。

 

さて私のターンです。

このターンで何とかしないといけないと負け確定なわけですが……そのためにはまずモンスターを引かないといけません。

頼みますよ私のデッキ。

逆転は望みません。

ただ、もう少し持ちこたえられるだけの力を貸してください……




僕にはハイレベルな頭脳戦やチェーンが何重にもつながるコンボとかは到底描写できないって今回はっきり思い知りました。

反面、茶番の類が多くなっています。

ヴォルカニック・クイーンは原作ではオブライエンのデッキテーマ「ヴォルカニック」シリーズのカードですが、主人公は単体でデッキに入れて(?)います。
ライバルはユベルです。


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6話

遊戯王二次を書く場合カードテキストを書く書かないは作者の自由であり、僕は書く派です。

というか、無いと僕自身が何をしているのか分からなくなってしまいます。
所詮遊戯王はニワカってことなのでしょうね…


「うう、やはりシニョリーナ暁では、力不足でしたノーネ……」

 

教員用の観覧席にて。

クロノス・デ・メディチ教諭は暗澹たる思いで十代と遊理の決闘(デュエル)の様子を観戦していた。

 

当初はオベリスクブルーのエリート、万丈目を十代にぶつけるつもりだったのだ。

わざわざ事前に貯金を下ろしてまで新カードを買い占め、入手したレアカードを万丈目 準に譲渡し、圧倒的なカード差と実力差で遊城 十代(ドロップアウトボーイ)をギャフンと言わせる計画だったのだ。

もともと、筆記は壊滅している十代である。

これで実技でも敗北したとなれば退校は必至だった。

 

しかし、落とした財布を遊理が拾ったことが切っ掛けで、クロノスの思惑は少しずつ狂い始めた。

 

暁 遊理

入学試験デュエルで試験官を相手にワンショットキルを成し遂げた生徒。

成績は優秀だが、もともと成績優秀者だけが集められたオベリスクブルーの中では指して目立たない平凡な生徒でしかない。

一応、入学試験デュエルでは試験官を相手にワンショットキルを成し遂げたらしいが、実際に十代との決闘(デュエル)でのタクティクスを見ていると、それも単なるマグレだったんじゃないかと疑ってしまう。

 

初手のエクスチェンジの発動タイミングと言い、わざわざ相手フィールドに上級モンスターを召喚するという意味不明な行動と言い、はっきり言ってむちゃくちゃだった。

本当に勝つつもりなのか疑わしくなるほどである。

 

「せめて、買い占めたレアカードでデッキを強化できていれば……」

 

遊理はかたくなに受け取らなかった。

私はこの子たちに選ばれていない、というクロノスからすれば訳の分からない理由で。

 

このまま成績優秀者である遊理が、落第生である十代に負けてしまえば、ギャフンと言わせるどころか、暗に十代の「知識と実戦は関係ない」という言葉を全肯定してしまう結果になってしまうだろう。

 

最悪の場合、遊理の退校もありえた。

 

「奇跡よ、起こってくれナノーネ」

 

 

 

 

 

 

「私のターン、ドロー」

 

さて、私の引いたカードの色は……茶色!

モンスターカードです!

 

ようやく来てくれましたか、これで何とか巻き返せる……と良いなぁ。

 

「この瞬間、悪魔の蜃気楼の効果発動! デッキから手札が4枚になるようにカードをドローする!」

 

十代君が一気にデッキからカードを3枚ドローしました。

 

「さらに速攻魔法! 非常食!」

 

 

【非常食】

速攻魔法

このカード以外の自分フィールド上に存在する

魔法・罠カードを任意の枚数墓地へ送って発動する。

墓地へ送ったカード1枚につき、自分は1000ライフポイント回復する。

 

 

やはり先ほどの伏せカードは非常食でしたか。

 

「これで悪夢の蜃気楼を墓地に送り、ライフを1000回復!」

 

 

遊城 十代

LP 4000 → 5000

 

 

悪夢の蜃気楼のデメリットを回避した挙句、回復までされてしまいました。

割と有名なコンボですが、実際にやられると溜まったもんじゃないですね…

 

「私はモンスターを裏側守備表示でセット。さらに魔法カード、太陽の書を発動!」

 

 

【太陽の書】

通常魔法

フィールド上に裏側表示で存在するモンスター1体を選択し、表側攻撃表示にする。

 

 

「これにより私のフィールドのモンスター1体は表側表示になります。反転! ブレイン・ジャッカー!」

 

表れたのは人間の脳髄に悪魔の手足やら翼やら目玉やらがくっついた不気味なモンスターです。

 

 

【ブレイン・ジャッカー】

効果モンスター

星2/闇属性/悪魔族/攻 200/守 900

リバース:このカードは装備カード扱いとなり、相手フィールド上モンスターに装備する。

このカードを装備したモンスターのコントロールを得る。

相手のスタンバイフェイズ毎に、相手は500ライフポイント回復する。

 

 

「ブレイン・ジャッカーのリバース効果。相手フィールド上のモンスターにこのカードを装備カードとして装備することでそのコントロールを奪い取ります!」

 

「何だって!?」

 

『よし、これでランパートガンナーが奪えれば少しは…「いえ、私はヴォルカニック・クイーンを選択します」なんで!?』

 

ギョッとした様子でこちらを振り返るココロちゃん。

十代君も不思議そうな表情です。

いいんですよ、ちゃんと考えがあってのことです。

ことですが……

 

『ねえ!? わざわざ私を呼んだってことは、私をついに受け入れたってことだよね!?』

 

ちょっと早まってしまったかもしれません。

ルカちゃんの炎の身体に装備カードとしてくっ付いたブレイン・ジャッカーが燃えています。

炎にまかれてのた打ち回るブレイン・ジャッカー。

ルカちゃんはうっとりした表情でそれを眺めています。

夢に見そうな光景です。

 

『マジ引くわ…』

 

『またまた、本当は仲良くしたい癖に』

 

『そんなわけないでしょ! こっちに来るな、寄るな、精霊界に帰れ変態!』

 

『うんうんわかってるよココロちゃん、心変わり(あまのじゃく)なココロちゃんのこと私はよく分かってるよ!』

 

『無駄にポジティブに好意的に解釈してんじゃないわよ!?』

 

いえ、ココロちゃん?

ワイワイ言い争うその光景は、とても喧嘩友達(なかよし)に見えますよ?

 

『で、それはそれとして、どうするの? 攻撃するの?』

 

「無理ですね」

 

ルカちゃんの攻撃力とランパートガンナーの守備力は同じ2500、突破不可能なのですよ。

おそらく十代君は、これを見越して数あるHEROの中からランパートガンナーを選んで召喚したのでしょうね。

これが戦略ではなく勘によるものだとすれば大した直観力です。

一応バーン効果を使えばダメージを与えられなくはないですが……今は止めておきましょう。

 

『本当に何のために奪ったのやら……』

 

言わないでください。

 

「私はカードをさらに1枚伏せてターンエンドです」

 

これで私手札はゼロ、フィールドの伏せカードは3枚になりました。

十代君はそれをワクワクというかドキドキした表情で見ています。

何を伏せたのか気になっているようですね…

 

 

ふっふっふ、まさか全部防御カードでもカウンターでもなくブラフだとは思うまい。

 

 

『使えないカードならなんでルカちゃんのコストにしないのよ?』

 

「さてね」

 

これもとりあえずは計算の内です。

それよりも問題はこっちです。

 

『わざわざ手間暇かけて私を呼んだってことは、私を愛してくれるってことだよねぇ? 凄くうれしい! 嬉しすぎて体中が熱くなる! だから私も遊理を愛するよ!』

 

 

だから心置きなく燃えてね?

 

ルカちゃんの全身から一際熱い炎が噴き出しました。

 

 

『これは単なる効果処理じゃない! 愛の炎なんだよおおおおぉぉおぉぉぉおおぉおぉ!!』

 

「いゃあああああ!」

 

『ちょっ、なんで私までってうわちゃああああ!?』

 

 

暁 遊理

LP 2500 → 1500

 

 

ルカちゃんのエンドフェイズにコントローラーに対して1000ポイントのバーン効果。

自分の場にモンスターがいればそれを身代りに回避できるのですが、フィールドどころか手札にもモンスターがいない私にはなす術がありません。

 

 

「お、俺のターン、ドロー……」

 

「ブ、ブレイン・ジャッカーの効果。スタンバイフェイズごとに相手のライフを500回復します」

 

「回復が必要なのは俺じゃないだろ…」

 

 

遊城 十代

LP 5000 → 5500

 

 

いよいよライフの差が絶望的になってきましたね。

 

「バトル! ランパートガンナーの効果! このモンスターは守備表示のまま相手プレイヤーに直接攻撃することが出来る! ランパート・ショット!」

 

『守備のまま攻撃? しかも直接!?』

 

ランパートガンナーの銃から放たれたミサイル? がルカちゃんを避けるように迂回して私に直撃しました。

 

「っ!」

 

 

暁 遊理

LP 1500 → 500

 

 

「ただし、この効果を使用した場合攻撃力は半分になる。ターンエンドだ」

 

内と外との波状攻撃で私の残りライフはとうとう500に。

いよいよ追い詰められましたね。

 

『ちょっと~ なんなのあのモンスター?』

 

『本当、私を無視するなんて』

 

 

ランパートガンナーは確かに守備表示のまま攻撃力を半分にして直接攻撃が可能なモンスターです。

しかし、その効果は相手フィールドがガラ空き状態、つまり直接攻撃可能な状態でないと使えないものだと思っていました。

明らかにOCGとは違うユニーク効果。

この世界に生まれてそれなりの時間を過ごしていますが未だにこういう場面に出くわすと混乱しちゃいます。

 

ですが…

 

「確かに予想外の効果でしたが、この状況そのものは予想外ではありません。むしろ計算通りと言えるのですよ」

 

『どういうこと?』

 

「十代君の攻めが普段からは考えられないほどに手緩いんですよ」

 

こう言ってはなんですが私ごときに止めを刺し損ねるなんて普段の十代君からすれば考えられない事態なのです。

それも悪夢の蜃気楼と非常食のコンボを使ってまで手札を増やしたにもかかわらずこの体たらく。

明らかに十代君の調子が上がっていませんね。

もし本調子の彼ならルカちゃんを正面から撃破して一気にライフを0まで削りきることも十分に可能だったでしょうに。

 

『そういえばそうよね…でもなんで? 遊理が何か仕掛けたの?』

 

 

「まさか」

 

これは私が何かしたからこうなったのではなく、十代君がもともとそういう特質の持ち主だったってことです。

今までは推測でしかありませんでしたが、実際に向き合って確信できました。

 

「たぶん十代君は窮地にこそ真の実力を発揮する、いわばクラッチ決闘者(デュエリスト)なのですよ」

 

『なるほど、こんな圧倒的過ぎる状況じゃ燃えないってわけか~』

 

思えば十代君は、今までは圧倒的強者を前に不利な状況を覆すようにして勝利してきました。

しかし今回は私という格下相手に最初から最後まで優勢なんて内容の一方的決闘(デュエル)です。

ジャイアントキリングの大番狂わせがアカデミアでの日常になっている十代君からしてみれば初めての体験なのでしょうね。

慣れない状況での決闘(デュエル)が彼に戸惑いを生んで、調子を落とす結果になっているのです。

 

つまり私と十代君というある意味ミスマッチな組み合わせがこの微妙な停滞を生んだわけですね。

さて、この空白のターンをどう生かすか……

ここまではイレギュラーをはらみつつも概ね予定通りですが……

 

手札0、残りライフ500。

フィールドには防御には全く役に立たない伏せカード3枚とエンドフェイズに私を焼くヴォルカニック・クイーン。

 

対する十代君は残りライフ5500もある上、フィールドには守備表示のまま直接攻撃が可能なランパートガンナーにセットカード1枚。

 

これでキーカードが引けなきゃ終わりですね。

 

「私のターン、ドロー」

 

さて、私が引いたカードは……

 

「……十代君」

 

「?」

 

「どうやらこの決闘(デュエル)、当初の予定通り私の独り勝ちで終わりそうです」

 

十代君だけはなくココロちゃんやルカちゃん、つまらなそうに観戦していた周囲の生徒や、教師も含めて。

その場にいる私以外の全員が息をのみました。

 

「っ!? この状況をひっくり返せるっていうのか!? ってか予定通りって……」

 

「はい、見ていてくださいね。私はモンスターを裏側守備表示でセットします」

 

 

「って、結局守備表示じゃないか!」

 

「はったりかよこのオベリスクブルーの恥さらしが!」

 

 

ヤジが飛びますが無視です。

 

「セットした瞬間、トラップ発動! 硫酸のたまった落とし穴!」

 

 

【硫酸のたまった落とし穴】

通常罠

フィールド上に裏側守備表示で存在するモンスター1体を選択して発動できる。

選択したモンスターを表側表示にして、守備力が2000以下の場合は破壊する。

守備力が2000より上の場合は裏側守備表示に戻す。

 

 

「落ちろ、私のセットモンスター!」

 

 

突如あいた大穴に落ちていく私のモンスター。

自分で召喚したモンスターを自分で罠にはめて突き落とすというこの行為にまたしても周囲にざわめきが広がります。

 

「自爆する気か? 自棄になったのか」

 

「半分正解です。そして反転して破壊された私のセットモンスター、幻惑のラフレシアのリバース効果発動!」

 

 

【幻惑のラフレシア】

効果モンスター

星2/地属性/植物族/攻 300/守 900

リバース:ターン終了時まで相手フィールド上表側表示モンスター1体のコントロールを得る。

 

 

「モンスター1体頂きます。来なさい! ランパートガンナー!」

 

「そんな!? 俺のヒーローがあああ!」

 

花粉を浴びて朦朧とした女銃戦士がふらふらとこちらのフィールドにやってきます。

 

『やった、形勢逆転! これでルカちゃんのバーン効果と合わせて総攻撃を仕掛ければライフはピッタリ0で遊理の勝ち!』

 

そう息巻くココロちゃん。

確かにそう上手くいけば私の勝ちですが、はたしてそう上手くいくでしょうか?

 

「無理ですね」

 

だいたい、それで勝てても意味がないというか、当初の目的が達成できません。

そもそもの前提として私の目指すところは十代君をギャフンと言わせることであり決闘(デュエル)の勝利ではないのですよ。

 

「私はさらにセットカードオープン、融合!」

 

「融合!? そうか、最初にエクスチェンジで交換して……」

 

「お察しの通り、ずっと伏せてました」

 

 

【融合】

通常魔法

自分の手札・フィールドから、融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。

 

 

「フィールドのランパートガンナーとルカちゃ……ヴォルカニック・クイーンを融合!」

 

相手モンスターを素材とした融合召喚。

ある意味、セルフ超融合です。

 

 

「召喚! E・HERO ノヴァマスター!」

 

ルカちゃんとランパートガンナーが融合の渦に吸い込まれ、現れたのは炎を模した鎧を身に着けた紅の戦士です。

 

 

(エレメンタル)HERO(ヒーロー) ノヴァマスター】

融合・効果モンスター

星8/炎属性/戦士族/攻2600/守2100

「E・HERO」と名のついたモンスター+炎属性モンスター

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊した場合、自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 

 

「俺の知らない……E・HERO」

 

「? 知らなかったんですか?」

 

「ああ! すげえぜ、こんなヒーローがいたなんて! 遊理はずっとこれを狙っていたのか!」

 

 

十代君は興奮を隠しきれないといった表情でした。

本当に知らないみたいですね。

この世界では余程のレアカードなのでしょうか……だったらなんで私のところに?

まあ、今はそんなことを考えてる場合じゃありませんね。

 

「バトル! ノヴァマスターで十代君にダイレクトアタック!」

 

私は攻撃宣言しました。

が、ノヴァマスターは動きません。

なんで?

 

「ノ、ノヴァマスター? いやノヴァマスターさん? いったいどうして……」

 

するとマスターさんがこちらを振り返って指をチッチッチと振っています。

一体何が足りないと?

 

『これはあれね。たぶん、技名を言ってほしいんだと思う』

 

「技名!?」

 

ど、どうしようそんなの考えて……

慌てる私。

早くしろと急かしてくるノヴァマスターさん。

さらにテンパる私。

えっと、えっと、ノヴァは確か新星って意味だから……

 

「ノ、ノヴァマスターさんの攻撃! スーパーノヴァエクスプロージョン!」

 

直訳で超新星爆発。

即興で考えた割には悪くない筈。

 

あ、ようやく動き出してくれました。

気に入ってくれたようで何よりです。

 

しかし、なんか締まらない展開ですね…

 

『それにこれで攻撃が通っても、ライフが5500もある十代君を削りきれないよ?』

 

「いや、そもそも通らないでしょうね」

 

『ええ?』

 

「トラップオープン! ドレインシールド!」

 

 

【ドレインシールド】

通常罠

相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。

攻撃モンスター1体の攻撃を無効にし、そのモンスターの攻撃力分だけ自分のライフを回復する。

 

 

「へへっ、エクスチェンジで交換したカードをずっと温存してたのはお前だけじゃないぜ!」

 

ドレインシールドの効果で、現れたバリアのような障壁に、ノヴァマスターさんの炎は残らず吸い込まれていきました。

 

 

遊城 十代

LP 5500 → 8100

 

 

「まあ、こうなるでしょうね」

 

『終わった……』

 

4000ルールではなかなか見られない数値にまで達した十代君のライフを見て絶望するココロちゃん。

まあ、これで終わりであることは確かですね。

 

「結局、知識と実戦は違うってことだな。どれだけ計算しても決闘(デュエル)は予定通りになんかならないぜ!」

 

「いえ、予定通りですよ? そもそもそれは私のカードですし、想定していないわけがないのです」

 

「何!?」

 

「これで全ての準備が整いました。ようやく発動できますよ。最後のリバースカードをオープン! 自爆スイッチ!」

 

「自爆スイッチィ!?」

 

 

【自爆スイッチ】

通常罠

自分のライフポイントが相手より7000ポイント以上少ない時に発動する事ができる。

お互いのライフポイントは0になる。

 

 

「遊理、お前まさか最初から!?」

 

「その通りですよ? 不思議に思いませんでした? 相手にわざわざライフ回復カードを渡したり、自らライフを削るようなプレイングをしたり」

 

そう、全てはこの瞬間のためです。

 

「言った通り、これで私の独り勝ちです」

 

私は眼の前に出現したドクロマークのスイッチを躊躇いなく押しました。

 

 

暁 遊理

LP 500 → 0

 

遊城 十代

LP 8100 → 0

 

 

私と十代君のライフが同時に0になったことにより、決闘(デュエル)引き分け(ドロー)で終わったのでした。

 

「楽しい…決闘(デュエル)だったかなぁ? とりあえずガッチャ」

 

「ガッチャ、です。それはさておき、賭けを覚えていますよね?」

 

「ああ、俺が勝ったら、遊理は俺に勉強を教えて、負けたら真面目に授業を受けろってのだろ?」

 

十代君は不完全燃焼そのものの様子でやや不満そうにしつつも、ニヤリと笑い

 

「でも、引き分けだったから賭けはお互いなしってことで「違いますよ? 十代君」……え?」

 

 

「私はこの決闘(デュエル)で貴方に()()()()()()()勉強を見るといったんです。そして十代君が私に()()()()()()()真面目に授業を受けるようにとも、あと実戦と知識は違うっていうセリフを取り消せってのもありましたね。そして試合の結果は引き分け。どちらも互いに勝てませんでしたよね??」

 

「……それじゃあ、賭けは?」

 

「もちろん、私に勝てなかったので約束通り提示した条件を全て飲んで頂きます。真面目に授業受けてください。もちろん私も十代君に勝てませんでした。一緒に勉強しましょう!」

 

「お、お前まさか全部最初から?」

 

「そのセリフは2度目ですが、何度でも言います。その通りですよ?」

 

故にこの結果は私の独り勝ちなんです。

これで全ては計画通り。

 

「じょ、冗談じゃないぜ!」

 

十代君は慌てた様子でその場から逃げようとします。

逃がすわけないでしょう?

 

私は素早く十代君の前に回り込み、1枚のカードを突き付けます。

 

「そ、そのカードは!」

 

「E・HERO ノヴァマスター。十代君は持っていないのでしたよね? どうです? 条件、飲んで頂けるのでしたらこのカードを差し上げても構いませんが?」

 

ゴクリ、と十代君が唾をのみ込みます。

その目はノヴァのカードに釘付けです。

 

『詭弁に鞭、さらに飴まで準備万端とか……やっぱり遊理ってこっちの才能あるよね絶対』

 

もともと、決闘(デュエル)ではまともに戦ったら不利なんです。

だったら、それ以外で勝利するだけです。

 

しばらく悩んだ末、ようやく十代君は口を開きました。

さあ、十代君の返答やいかに?




遊戯王の主人公は、追い詰めると覚醒してディスティニードローを繰り出してくる。
ではどうすればいいか?

遊理は「追い詰めなければいいじゃない」という結論に至りました。
実際効果あるのか微妙ですが。


ノヴァマスターは融合エレメンタルヒーローの中で唯一アニメにも漫画にも登場しない、つまりはOCGオリジナルのカードです。

OCG知識に精通した転生者である遊理とはそれなりの縁があったんでしょうね。
素材のヒーローとは仲良くないので、十代との対決以外では使えないカードでした。



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VSタイタン編
7話


本命のナルト二次より思いつきのネタで書いたこっちの方が反響が大きい……

いや読んでくれる人が多いのは嬉しい、ですけど、なんか複雑です。


先日の実技試験決闘(デュエル)以来、我らが主(笑)暁 遊理は定期的に学園島の中心から遠く離れた絶壁にあるオシリスレッド寮の十代君の部屋を訪れるようになった。

無論、勉強を教えるためであり、それ以上でもそれ以下でもない……と本人は言い張ってるけど、これって人間の言うところの『通い妻』ってやつじゃないの?

そう指摘したら真っ赤な顔で枕を投げつけられた。

当然のごとく避けた。

まあ、仮にヒットしても透り抜けるだけなんだけどね。

 

 

 

「なんでこんなにカードの効果覚えないといけないんだよ~、自分の使うカードだけで良いじゃないかぁ」

 

とある日のレッド寮の一室、十代君の部屋にて。

十代君が教科書を放り出しながらぼやいてるのを遊理が呆れたように見つめている。

 

「自分の使うカード()()知らなかったせいで私との決闘(デュエル)があんな結果に終わったのによくそんなセリフが言えますね……」

 

そんな2人を、十代君の弟分にしてルームメイトの翔君と、同じくルームメイトの【デスコアラ】に似た風貌のレッド生、前田(まえだ) 隼人(はやと)さんが、そして【心変わり】の精霊である私と同じく精霊であるハネクリボーが、それぞれの内心を抱えつつ眺めていた。

 

「うう、兄貴……あんな卑怯な戦法にやられるなんて」

 

「珍しいこともあるもんだな。ブルーの生徒がこのレッド寮に来るなんて。しかもあの十代がこんな風にやりこめられるなんて」

 

翔君は恨めし気な、隼人さんは信じられないといった様子で、それぞれ遊理と十代君を観察している。

 

「こんなの覚えきれるかよ~」

 

「さすがに私も全部のカードを熟知しろとは言いません。それでも主要なカードは覚えておくべきです。決闘の最初のターンにエクスチェンジの効果で私の手札を見た時、カードの効果を知っていれば、私が伏せたカードが見せかけのブラフだと即座に気づけたでしょう」

 

そうなれば、十代君は次のターンでワイルドマンとは違うカードを引き当てて、決闘(デュエル)はもっと違った結末を迎えたかもしれません、と言外に語る遊理。

 

このあたりの理屈が、遊理が他の―――三沢 大地みたいな完全理論派決闘者(デュエリスト)と決定的に違う部分なんだろうなぁと私は思う。

理論派じゃなくてもまともな思考の持ち主なら、そんなことは考えもしない。

主張しても「デッキをシャッフルしたわけでもないのに、ドローするカードが変わるわけないだろ」と突っ込まれて終わるでしょうね。

 

それでも遊理は変わっていただろうと割と本気で信じているみたい、いや信じていないのかな?

 

デッキには無限の可能性が詰まっている……なんて夢みたいなことを遊理は考えているわけじゃない。

ただ、シュレディンガーの箱並に信用していない。

遊理にとってデッキとは何が起こるか分からないブラックボックスであり、絶望(てふだじこ)しか詰まっていないパンドラの箱であり、いつも驚かされるびっくり箱。

時折、入れた覚えのないカードが偶然紛れ込んで飛び出したりするから、なおの事予想がつかないみたいね。

 

デッキ管理が甘いだけだと思う?

遊理ごときに管理されてあげるような素直な精霊(カード)がこの世にいるとでも?

少なくとも私をはじめとする遊理の元に集まってくる精霊たちはどいつもこいつも曲者だらけ。

その曲者が更なる曲者精霊を呼んで…手に負えないったらありゃしないわ。

 

人間の世界の諺に「類は友を呼ぶ」ってのがあるらしいけどまさにこのことよね。

この言葉に科学的根拠はない。

それでもこれは紛れもなく世界の真理の一端を示しているわ。

 

遊理はそのことに気づいているのかな?

 

「こうなりゃ遊理! もう1度俺と決闘(デュエル)だ! 俺が勝ったらこの勉強地獄から解放してもらうぜ!」

 

「そうだ! やっちゃえ兄貴! 負けそうになったら自爆スイッチで自爆するような卑怯な奴に負けるな!」

 

「ちょ、自爆スイッチは卑怯じゃないです! あれは戦略に基づいた立派な戦術で……」

 

「遊理! こんな時間まで何をやってるの! ブルーの女子寮に戻るわよ!」

 

「うぇ!? 明日香さん!? どうしてここに……」

 

「門限過ぎているから迎えに来たのよ。ルームメイトの夜遊びは見過ごすわけにはいかないわ」

 

「夜遊びって、まだ7時にもなってないじゃないですか! 私は子供ですか!」

 

「そうだ! 帰れ帰れ! 小っちゃい子供は帰れ!」

 

「小っちゃくないです! ってか翔君にだけは小っちゃいとか言われたくないのですよ!」

 

「助かったぜ明日香~」

 

「ブルーの女子生徒が2人も……槍が降るかもしれないんだな」

 

決闘(デュエル)でずっと負け続きだったということは、裏を返せば遊理の周囲には常に強い決闘者(デュエリスト)で溢れかえっていたということで。

 

(つよいちから)(つよいちから)を呼ぶ……遊理は気づいているかなぁ~?』

 

「何のことですか!?」

 

遊理は即座に叫び返し、突然叫びだしたように見える周囲は目を丸くした。

 

『クリクリー』

 

ハネクリボーがそれを見てクリクリ笑い、私もそれにつられて笑う。

十代君(強者)明日香さん(強者)に囲まれて揉みくちゃにされている遊理を見て、笑う。

 

 

 

 

 

 

もともと私は、使えないカードばかり好んで使う変わり者という扱いでした。

しかし、この間の十代君との一戦以来、定期的にレッド寮に通うようになってからより一層レッド贔屓の奇人扱いになりました。

 

「納得いきません。一応、クロノス先生を破った十代君と引き分けたんですよ?」

 

結局、明日香さんや十代君に押し切られて、私は明日香さんに手を繋がれてレッド寮を後にすることとなりました。

本当はもう少しノルマを達成したかったんですけど仕方がありません。

一応、十代君にはきちんと復習するように言い含めておきましたけど……絶対に守る気ないですね。

昨日の夜も、勉強すっぽかしてモンスターカードの束で『引いたカードのレベルだけ怖い話をする』という謎のゲームをしてましたし。

カードでゲームするなら決闘(デュエル)しろよ、なのです。

 

私との約束なんて別に守らなくてもいい、みたいに思われてるのかも……ノヴァマスターのカードも結局受け取ってもらえなかったんですよね。

 

「俺は俺を選んでくれたヒーロー達と共に戦う!」なのだそうです。

格好いいなぁコンチクショウ。

それに比べて私の戦い方(スタイル)のなんと無様なことか……コントロール奪取とかまるっきり悪役(ヒール)の戦術ですし。

 

『いつになく卑屈ね~。別に守らなくていい、とは十代君もそこまでは考えてないと思うよ? ただ、なんというか……子ども扱いというか、甘く見られてるのは確かかも』

 

やっぱりココロちゃんもそう思いますか。

事実、レッド寮の去り際にお土産として飴とかチョコとかお菓子をたくさん渡されたし……

いえ、嬉しいんですよ?

お菓子を貰えたこと自体は嬉しんです……お菓子好きですし……でも、お菓子で私の機嫌を取ろうとしたことにはいささか以上に納得しかねます。

 

なんでこんな扱いなんでしょう……

 

「大丈夫。私はちゃんと貴女の事分かっているわ」

 

「ありがとうございます」

 

でも明日香さん? その手のかかる妹を見るような目で私を見るのは止めてくれませんか?

手を放しても迷子になんかなったりしませんよ?

それなのに、しっかりと握られた手は離れる気配はありません……同い年なのに、同い年のはずなのに!

 

『私からすれば妥当で的を射た評価だと思うけど? 実際小さいし、実際奇人だし。いったい何を不思議に思うことがあるのやら』

 

いつも近くで観察していた私が言うんだから絶対よ、とココロちゃん。

奇人なのは私じゃなくて精霊(あなた)たちだと突っ込みたい。

それに繰り返すようですが私は小っちゃくないです!

周りが人達の身長が高すぎるんです。

女子の平均身長が160後半ってどう考えてもおかしいでしょうに……

 

『おお~見事な棚上げ。自爆スイッチをデッキに仕込む奴が変人じゃなかったらなんだっていうのよ。そんな決闘者(デュエリスト)世界中くまなく探しても遊理だけだね絶対』

 

別に良いじゃないですかちょっとくらい変なカード入れたって!

凄いんですよ、自爆スイッチ。

このカードをデッキに入れてから私の敗北率が大幅に下がったのですよ!

 

問題は敗北率が下がっても勝率が全く上がってないことなのですが……まあ些細なことです。

 

『ダメじゃん』

 

ダメとか言わないでください。

 

『……百歩譲って遊理が変なカードばかり使うのはそういうカードに好かれているからだとしましょうか。でもね遊理、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?』

 

「…………」

 

おのれ、必死に考えないようにしていたのに。

そんな私を生暖かい目で見下ろすココロちゃん。

 

「あ、そうだ。女子寮に帰る前にちょっと寄りたいところがあるんだけど、いいかしら?」

 

「もう、どうでもいいですよぅ……」

 

もう好きにしてください。

 

 

 

 

 

 

突然ですが、明日香さんは私のブルー女子寮におけるルームメイトです。

この世界に偶然はない、というのが私の持論です。

ならばこの縁も何かしらの意味があるはずなのですが今のところそれは分かりません。

 

誰かが意図した必然なのか単なる偶然なのか、真相はさておき同じ部屋で過ごすことになって自然と明日香さんとは話す機会が増えてそれなりに親密になりました。

また、親密度に比例して明日香さんの過保護度も上がりました。

明日香さん曰く「見ているとなんだか凄くハラハラする」とのこと。

同い年なんですからもっと対等な友人関係を築きたかった……って、相手がブルーの女王様の時点で対等な関係なんて築けないのですけどね。

どうしてこんな雲の上の人と同じ部屋になったのでしょう?

十代君と翔君が同じ部屋になったのと同じ理屈ですかね。

 

実際、十代君も明日香さんと同じく面倒見がいいんですよね……翔君が兄貴って呼び慕う気持ちもわかります。

……私も明日香さんの事を「お姉さま」って呼ぶべきなのか……

 

 

 

 

 

 

私達が立ち寄ったのは学園島の奥深くに位置している今は使われていない元特待生専用の学生寮でした。

エリート至上主義のアカデミアらしく建物は大きくて立派ですが、すでに廃墟になってます。

 

明日香さんは、その建物に何かしらの思い入れでもあるのかじっと見つめて……いえ、睨みつけて動きません。

かくいう私も、その建物から目が離せませんでした。

 

建物は見る限り、使われなくなってからそれほど月日が経ってないことが伺えます。

ほんの数年前までは現役だったのではないでしょうか。

 

にもかかわらず、その外観はまるで何十年も放置していたかのようにボロボロです。

明らかに経年劣化以上に何かの要因で朽ちてますね。

 

『なんなの此処? あからさまにダークな気配が漂ってるんだけど……』

 

ココロちゃんが顔をひきつらせて呻きます。

 

かつて十代君は決闘(デュエル)フィールドに漂っていたその気配を『決闘(デュエル)の匂い』と表現しました。

それにならって、この廃墟に渦巻いているこれを表現するならばいわば……

 

「『闇のゲームの匂い』がします……」

 

それも、数年足らずで豪華な特待生寮をボロボロに朽ちさせてしまう程度に強烈かつ濃密に。

 

(バー)精霊(カー)の存在を認知してから十数年、この世界のどこかにはあるんだろうなとは予想してはいましたが今まで一度も見たことがなかった『闇のゲーム』。

それがまさかこんな目と鼻の先にあったなんて。

 

「遊理は分かるの?」

 

「……はい」

 

よく見れば、寮の入り口のところに花が供えられています。

どうやら定期的に明日香さんは此処に立ち寄っているみたいですね。

やっぱり、ここで何か良からぬことがあったんでしょう。

 

「数年前、この寮で何人もの生徒が行方不明になる事件が起きたの」

 

「……それが廃寮になった原因ですか」

 

恐ろしい話です。

こうして明日香さんが様子を見に来ているということは、その消えた生徒の中に近しい、もしくは親しい人がいたのでしょう。

恋人とかそういう雰囲気ではなさそうなので、おそらく血縁。

事件が起こったのは数年前で、消えたのは此処に通っていた生徒でしょうからおそらく特待生のエリート。

しかも建物がオベリスクブルーの男子寮に似ていることから推察するに……

 

「消えたのはひょっとして兄ですか?」

 

明日香さんの顔が驚愕に染まりました。

ほとんど勘頼みの当てずっぽうだったのですが……ビンゴみたいですね。

 

『時々、遊理って実は妖怪(さとり)なんじゃないかって思う時があるわ……』

 

ココロちゃんが呆れたように言います。

心なんて読めません、ただ臆病で、それ故に過敏なだけです。

 

「遊理、どうして分かっ…………待って! 話し声が聞こえるわ」

 

急に周囲を警戒する明日香さん。

それにならって私も意識を集中します。

 

確かに、馴染みのない(バー)の気配がします。

……そして馴染みのある(バー)の気配も…というかこれは

 

「しかし、隼人が来たがるなんて意外だぜ。いつもは授業に出るのも面倒くさがるくせによ」

 

「別に俺、出不精でも勉強が嫌いなわけでもないよ? ただ……」

 

「ただ?」

 

「嫌なんだ、決闘(デュエル)で勝つことだけの授業が」

 

「勝つ方法以外に決闘(デュエル)で勉強することなんてあるの?」

 

「え、えっと…あるよきっと、例えば『闇のゲーム』とか…」

 

そんな会話をしながら現れたのは、ついさっき、レッド寮で別れたばかりのオシリス三人組でした。

勉強してって言ったのに……

 

「貴方達!」

 

「明日香!? それに遊理も!? なんでこんなところに」

 

「それはこっちのセリフです。勉強どうしたんですか?」

 

って、ここにいる時点で聞くまでもありませんでしたね。

あんなに拝み倒してお願いしたのに、結局無駄でしたか……

 

「こ、これはあれだ! 勉強の一環として夜の探検……じゃなくて噂の心霊スポットツアー……でもなくて闇のゲームの実地調査をだな……だから泣くな!」

 

「泣いてません!」

 

泣きたい気分なのは確かですけど。

ところで、十代君のそのセリフは子供をあやすような物言いに聞こえるんですが気のせいですかね?

 

「貴方達、誰から聞いたかは知らないけど、知ってるんでしょう? 何人もの生徒が行方不明になってるって」

 

そう言って十代君に詰め寄る明日香さん。

口調こそ厳しいですが、これは心配の裏返しですね。

 

「そんな迷信、信じないね」

 

十代君?

貴方ついさっき、自分がなんて言ったか覚えてますか?

 

決闘(デュエル)の匂いなんてものが嗅ぎ取れる十代君なら、ここに渦巻く匂いが分からないわけはないでしょう?」

 

十代君は確かに豪胆ですが、同時に繊細でもあります。

ちゃんと向き合いさえすればすぐにでも感じ取り理解できるはずなのです。

 

「闇のゲームは実在します」

 

「お、脅かそうったってそうはいかないよ!」

 

翔君が前に出て言いますが、声がどうしようもなく震えています。

隼人さんに至っては全身がガクブル状態……よく十代君について来れましたね。

 

「闇のゲーム云々は別にしても、生徒の行方不明事件は本当よ。遊び半分で来る場所じゃない。それに此処は立ち入り禁止のはず。学校に知られたら騒ぎになるわ」

 

「そんな怖くて探検なんてできないぜ」

 

「真剣に聞きなさい!」

 

「なんだよ? やけに絡むなぁ…」

 

血相を変えて叫ぶ明日香さんを怪訝な表情で見つめ返す十代君。

たかが迷信になんでそこまでムキになるのか分からないといった様子です。

 

本気で信じていませんね。

 

「そっちこそ、質問に答えてないぜ。お前等はどうしてこんなところにいるんだよ?」

 

人の事言えるのかよ、と暗に言う十代君。

返答に窮する明日香さん。

 

「……勝手にすればいいわ」

 

「あ、待ってください明日香さん!」

 

踵を返す明日香さんを私は小走りで追いかけます。

と、明日香さんはふと立ち止まり

 

「ここで消えた生徒の中には、私の兄もいるの」

 

それだけ言うと、今度こそ私たちはその場を後にするのでした。

その後、十代君達がどうしたかはわかりません。

出来れば思いとどまってくれるとうれしいんですが……

 

この時、私はうっかりしていました。

意識を集中した時に感じた十代君とは別の(バー)の気配の事を私はすっかり忘れていたのです。

 

 

 

 

 

 

旧特待生寮の消えた生徒の噂は、此処デュエルアカデミアではそれなりに有名です。

それこそ気合を入れて調べなくても、すぐに耳に止まる程度には。

しかし噂の内容は、闇のゲームで負けた生徒が消えたとか、強力な精霊(モンスター)を召喚する際の生贄にされたとか千差万別でイマイチ信憑性がないのです。

十代君が信じないのも無理ないですね。

故にこの話はどこかの噂好きが流した作り話であると考えられていて、私もずっとそう思ってました。

しかし、実際に件の廃墟を目の当たりにして私は逆にこう思うのです。

 

 

『噂は全て作り話である』という話の方こそ真実を隠ぺいするために誰かが流した作り話なのではないかと。

 

 

 

 

 

 

(どうしてこんなことに……)

 

明日香さんが倒れています。

そして私の目の前には突如目の前に現れた、唾の広い黒い帽子と黒いコートを身に纏った大男が立ちはだかっています。

目の部分だけを覆うように仮面をかぶっていて感情が読み取れません。

やたらと大きくてゴツいデュエルディスクをプロテクターの様に腕と胸に装着していて、あからさまにただ者じゃない気配。

 

明日香さんは、その男がコートのポケットから取り出したピラミッドを逆さにしたような形の物から発せられた謎の光を浴びせられ、気絶させられたのでした。

私が無事なのは明日香さんに庇われたからです。

 

「な、何なんですか貴方は?」

 

姿もそうですが、(バー)もまた凄まじいのです。

対峙しただけで分かります。

ものすごい実戦経験の差と、決闘(デュエル)に勝利してきた数……学生と教師しかいない筈の学園島に、どうしてこんな奴が……

 

「ふふふ、貴様等には、遊城 十代を誘き出す餌になってもらおう…」

 

(―――ッ!? 狙いは十代君ですか!)

 

『また十代君か……人気者だね十代君』

 

顔をひきつらせつつも呆れたようにココロちゃん。

ちっとも羨ましくないですが。

そんなことはさておき気になるのはこの男の素性です。

 

「貴方は何者ですか?」

 

「私は闇の決闘者(デュエリスト)、タイタン」

 

「『!?』」

 

闇の決闘者(デュエリスト)ですって?

驚愕を隠せない私とココロちゃん。

 

『こいついったい何者?』

 

「(分からない、けど大体予想はつきます)」

 

おそらく、誰かに金で雇われた決闘(デュエル)請負人でしょう。

 

この世界において、決闘者(デュエリスト)とは、単なるカードゲーマーを指す称号ではなく、職業としての側面があるのです。

しかし、一口に職業決闘者(デュエリスト)と言っても、稼ぐ方法は様々です。

 

テレビなどで華々しく決闘(デュエル)するプロ。

学校などで時代の決闘者(デュエリスト)を育てる教師。

大会などに出て賞金を狙う賞金稼ぎ、などが合法的な職業決闘者(デュエリスト)ですが、中には違法な手段に手を染める決闘者(デュエリスト)もいるわけで。

 

アンティルールを持ちかけて、レアカードを狩るレアハンター。

賭博の一環として決闘(デュエル)するギャンブラー。

そんな犯罪決闘者(デュエリスト)達が普通の犯罪者と違う点は、何と言っても強い決闘者(デュエリスト)の常として、とてつもない強運に守られていることです。

やることなすこと全てうまくいく補正がかかった犯罪者ですので、決闘(デュエル)未経験で(バー)がロクに鍛えられていない警察官などが束になってかかっていったとしても捕えることは容易ではありません。

圧倒的強運と、活性化された身体能力で切り抜けられてしまいます。

撃った弾丸は悉くはずれ、爆発に巻き込まれても無傷で生還、まるで映画の主人公みたいな補正に守られた犯罪者にどう対抗するか。

 

決闘者(デュエリスト)に対抗できるのは決闘者(デュエリスト)だけです。

そんな需要に駆られて誕生したのが決闘(デュエル)を代行する決闘者(デュエリスト)、請負人であり、目の前の大男ということです。

意外と多い、というかプロも副業でやってたりしますね。

相手を超える運命力で追い詰め、決闘(デュエル)をしかけて相手の(バー)を攻撃し、疲弊させ、相手の幸運(ラック)をはぎ取るわけです。

しかも目の前のタイタンとやらは、ただの請負人ではなく闇の決闘者(デュエリスト)とのことです。

幸運どころか魂まるごとはぎ取るのでしょうか。

明日香さんは無事なんですかね。

 

というか、こんな奴を差し向けられる十代君は何処のどなたにどんな恨みを……

 

「餌は多いに越したことはない。お前も眠ってもらおう……」

 

「しまっ―――!?」

 

ごちゃごちゃ考えている暇があったら、この窮地を脱する方法を考えるべきでした!

再び逆ピラミッド型の小道具が光りだして、それを浴びた私の意識は急速に遠のいて行ったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

『―――理、遊理!』

 

「うにゃ、ちょっ、痛っ……ううん」

 

気が付けば、ココロちゃんが私の頭に蹴りを入れまくっていました。

この世界においては実体を持たない精霊であるココロちゃんですが、私限定で触ることが可能なのです。

もっとも、特異なのはココロちゃんではなく私の方らしいのですが。

『私が特別人間(ゆうり)に触れるんじゃなくて、遊理が特別精霊(わたし)に触れるくらいに敏感なのよ』とのこと。

正直、メリットのない(むしろ決闘(デュエル)での体感ダメージが増加するのでデメリットの方が大きいのです)特性ですが、今回初めて役に立ちましたね。

起こし方にはいろいろと物申したい気分ですが。

 

『キスの方がよかった?』

 

「心の底より遠慮します! もう少し他の選択はないんですか!? で?……ここは?」

 

そこは棺の中でした。

身体にこれと言った外傷は見当たらないですが、両手が縛られていて身動きが取れません。

そしてすぐ隣には同じように縛られている明日香さん。

まだ気がついてはいない様ですが見た限りこちらも無事ですね。

 

『なんかタイミング逃したっぽいけど、それでも一応聞いとくわ、生きてる?』

 

「生きてますよ。明日香さんも気がついてはいないものの無事みたいです。ふふ、棺桶の中の生者。いったい何の暗喩なのやら」

 

【浅すぎた墓穴】、【早すぎた埋葬】。

いろいろ連想できそうですね。

思わず乾いた笑みがこぼれます。

 

『なら、私の呼びかけはさしずめ【リビングデットの呼び声】ね。……って、なんか本気で余裕そうね』

 

ココロちゃんがほっとしたように息をつきます。

 

「……あの男は?」

 

私は周囲を警戒しつつココロちゃんに尋ねました。

辺りに漂う妖気というか闇の気配が濃密すぎて(バー)が上手く感じ取れません。

明らかに旧特待生寮内部ですね。

えらい場所に連れ込まれちゃいました。

 

『ん、今はいないみたい』

 

それはチャンスですね。

今のうちに、明日香さんを起こしてとっとと逃げちゃいましょう。

幸い、縛られているのは両手だけで足は縛られてないようですし、走って逃げるくらいなら余裕のはず。

 

私はそう思って棺から抜け出して……

 

「……この散らばっているカードは何ですか?」

 

『あ~、それ? もちろん遊理のデッキ。棺桶に放り込まれた時にデッキケースから零れ落ちたのを見てたよ』

 

「そんなことだろうと思ってましたよ!」

 

もちろんって何ですかココロちゃん。

うう、決闘者(デュエリスト)の嗜みとして普段からデッキを持ち歩くようにはしてたんですけど、今回はそれが裏目に出ましたか。

 

『裏目に出なかったことあったっけ?』

 

「やかましい!」

 

ココロちゃんに叫び返しつつ、私はいそいそと棺桶を抜け出します。

カードを置いていくわけにはいきません。

同じカードが存在しないこの世界において、デッキは文字通り掛け替えが効かないのですから。

 

しかし、改めて周囲を見渡してみると学生寮の部屋というよりなんか洞窟みたいな空間です。

壁もゴツゴツの岩肌がむき出しになってますし、寮の地下になんでこんな空間が……ってそんなことを考えている場合ではありません。

私はてんやわんやしながら手首の拘束をほどいて、部屋をちょこちょこ駆け回ってカードをひたすら回収して……

 

 

「何をしている? 小娘」

 

 

……ようやく全部拾い終わったところにタイタンさんが戻ってきてしまいました。

うん、こうなることは分かってました。

 

世の中そんな上手くいくわけないのです。

 

 

 

「驚いたな。もうしばらくは目を覚まさないと思っていたが」

 

「わ、私は眠りが浅いのですよ……」

 

まさか精霊(ココロちゃん)に無理やり蹴り起こされたとは思うまい……ん?

ということはこの大男、精霊(ココロちゃん)が見えていないということでしょうか?

 

「まあいい、もう一度眠って……」

 

「ま、待った!」

 

私はタイタンさんが謎の光を放つ小道具を取り出す前にストップをかけます。

 

 

「なんだ?」

 

「わ、私と決闘(デュエル)しましょう! 私が勝ったら……」

 

私は床に頭をこすり付けるように限界まで下げて

 

 

 

「どうか! 私と明日香さんを見逃してください!!」

 

 

 

五体投地、全身全霊をかけた土下座でした。

冷静な思考による行動ではありません。

ほとんどヤケクソです。

 

『腰、低っ!』

 

何とでも言いなさい。

助けてもらえるならいくらでも下手に出るのですよ。

 

「いいだろう……ただし、私が勝ったらカードは全ておいて行ってもらおう」

 

「ええ!?」

 

そんな!

カードに代えは効かないのに!

 

「それだけはご勘弁を!」

 

「ダメだ」

 

く、私はどうすれば!?

 

『勝てばいいじゃん』

 

ココロちゃんが正論過ぎる突っ込みを放ちますが、それでも勝てる気がしないんですよ。

ですが、それでもやるしかありません。

 

「ふふふ、覚悟は決まったようだな……では闇のゲームを始めると「あ、待ってください」……何だ?」

 

「デュエルディスク、貸してください」

 

 

「…………」

 

 

『……なぜ、決闘(デュエル)申し込んだし』

 

放っておいてください。

タイタンさんは快く貸してくださいました。

闇の決闘者(デュエリスト)らしいですけど、意外といい人かもしれません。

 

 

 

 

 

 

「「決闘(デュエル)

 

さあ、紆余曲折ありましたが、気を取り直して決闘(デュエル)開始です。

 

 

暁 遊理

LP 4000

 

タイタン

LP 4000

 

 

「レディーファーストだ。先攻は譲ってやろう」

 

「ホントですか!?」

 

やった!

いや~、最初に見たときは怖い人かと思いましたけど、案外本当に良い人かもしれません。

 

『……子ども扱いされて舐められてるだけなんじゃ』

 

「私のターン、ドロー!」

 

私はココロちゃんの呟きを聞かなかったことにしました。

今は決闘(デュエル)に集中するときなんです!

 

手札は魔法(みどり)一色。

想定通りですね……想定通り過ぎて涙が出そうです。

 

これで負けたら奪われちゃうっていうのに、こんな時でも力を貸してくれない私のデッキって……って泣き言を言っている暇はありませんね。

不利なのはいつもの事、いつも通り引っくり返すだけです。

 

「私は永続魔法、天変地異を発動します!」

 

「『何ぃ!?』」

 

タイタンさんとココロちゃんが揃って驚きの声を上げました。

 

 

【天変地異】

永続魔法

このカードがフィールド上に存在する限り、お互いのプレイヤーはデッキを裏返しにしてデュエルを進行する。

 

 

この効果はいわば、お互いのデッキトップを常に確認できるようにするというものです。

前世では決闘(デュエル)中にデッキトップが斜めになって二番目のカードが見えてしまったりするので、ある意味使いにくいカードの1つでした。

 

で、なんで私がこんなカードをデッキに入れているかというと……

 

「フッフッフ、やはり(そこ)にいましたか!」

 

デッキトップにはニヤリ笑いの顔が付いた緑色の壺のイラストが描かれたカードが。

発動条件もコストも一切なしで手札を1枚増やしてくれる元祖にして最高のドローソースカード【強欲な壺】!

 

「次のターンのドローフェイズが楽しみですね。私はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

実は、決闘(デュエル)で一度も使ったことがないんですよねこのカード。

下手すれば前世でも使ったことがないかも。

禁止カードでしたし。

ガラにもなくワクワクしています。

 

『不憫すぎて涙出てきた……』

 

目頭を押さえるココロちゃん。

 

いろいろ物申したいですが、それよりもまずは相手の、タイタンさんのデッキトップの確認しなければ。

私のところからじゃ、距離が空いているうえに周囲が薄暗いのでよく見えないんですよね。

墓地とかもそうですが、ルール上では公開情報のはずなのに実戦では確認できないなんてことはざらにあるんですよ。

 

私はじっくりと目を凝らして……え~と何々、ジェノサイドキング……

 

「私のターン、ドロー!」

 

「待って! せめてそのカードがデーモンなのかサーモンなのか確認させてください!」

 

一番肝心な部分を確認する前にドローされちゃいました!

 

「見せるわけないだろう」

 

デスヨネ~……目先の(エサ)につられてとっととターンエンドしてしまったのは明らかに私のミスでした。

……本当にどっちでしょう?

個人的にはシャケであってほしい、というかデーモンであってほしくないです。

もし、デーモンだったら……デーモンデッキだったら。

 

「……私はシャドウナイトデーモンを召喚する」

 

現れたのは、全身を西洋風の甲冑に身を包み、鋭い剣と爪を装備した悪魔族モンスター。

あ、ダメです。

しかも、チェスデーモン……

 

「リ、リバースカードオープン! 月の書! 発動!」

 

私は絶望しつつも、リバースカードを発動します。

無駄であることは重々承知、それでもやらないよりはマシ、そんな心境でした。

 

 

【月の書】

速攻魔法

フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、裏側守備表示にする。

 

 

「モンスター1体を裏側守備表示に変更します!」

 

「ふ、ならばシャドウナイトデーモンの効果発動」

 

 

【シャドウナイトデーモン】

効果モンスター

星4/風属性/悪魔族/攻2000/守1600

このカードのコントローラーは自分のスタンバイフェイズ毎に900ライフポイントを払う。

このカードが相手のコントロールするカードの効果の対象になり、その処理を行う時にサイコロを1回振る。

3が出た場合、その効果を無効にし破壊する。

このカードが相手プレイヤーに与えるダメージは半分になる。

 

 

「この場においてはサイコロの代わりにこのルーレットを用いる。さあ回れ、運命のルーレットよ」

 

タイタンさんのすぐ横に浮かびあかった1から6の数字に、炎が円を描くように順番に灯っていきます。

ルーレットはびっくりするほど早く止まりました。

当然のごとく「3」の数字に。

 

「ルーレットの出目は3、よって月の書の効果は無効となり破壊される」

 

あっさり無効化されて破壊された月の書。

これで私のフィールドはがら空き。

 

『遊理……ひょっとして状況かなり悪い?』

 

「言うまでもなく最悪です」

 

 

チェスデーモン。

サイコロデーモンとも呼ばれ、その名の通りサイコロを用いたギャンブル効果を持つモンスター群。

 

そして私は、今まで一度たりともこの手のサイコロやコインを用いたギャンブルカードを対戦相手が使って失敗したところを見たことがありません。

時の魔術師のタイムマジック成功率は100パーセントだったし、アルカナフォースは当然正位置、ゾークは毎ターンサンダーボルトを放ってくる上、リボルバードラゴンはトリガーハッピーで、ダイスポッドの反転召喚はホルアクティを召喚されるのと同義でした。

 

はっきり言いましょう。

 

チェスデーモン使いのタイタンさんと私の相性はこの上なく最高(さいあく)です!

 

『……どうするの?』

 

「どうしましょう?」

 

むしろこっちが教えてほしいくらいです。

ふと、シャドウナイトデーモンが容赦なく斬りかかってきました。

私は絶望と主にそれを受け止めるのでした。




本当は決闘パートと合わせて連続投稿しようと思ってましたが、あまり投稿間隔をあけると失踪を疑われそうだったのでやむなく。

なるべく早く次回投稿したいです。


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8話

遅れました。
というのも、当初考えていたコンボが不可能だと後日解って急遽内容を変更する羽目に……
チェスデーモンがフィールドだけじゃなく墓地からの効果にも反応するなんて聞いてませんよ。


「速攻魔法! エネミーコントローラー! これで相手のモンスターの表示形式を」

 

「私のシャドウナイトデーモンが効果の対象になった時、ルーレットが回る。ルーレットの出目は3、よってエネミーコントローラーの効果を無効にし、破壊!」

 

「反転したX・E・N・Oのリバース効果発「デーモンの効果発動! ルーレットの出目は当然3! 無効、破壊!」ってせめて最後まで言わせてください!」

 

 

手も足も出ない、とはまさにこのこと。

 

私とタイタンさんの決闘(デュエル)は終始一方的なのでした。

何なんでしょうね、この決して開かない鉄の扉を爪楊枝で必死に突き刺そうとしているかのような絶望感は。

 

 

暁 遊理 手札 1枚

LP 1000

フィールド モンスターなし 永続魔法【天変地異】 セットカード 3枚

 

タイタン 手札 4枚

LP 3000

フィールド シャドウナイトデーモン ジェノサイドキングデーモン 永続魔法【デーモンの宣告】 セットカード 1枚

 

フィールド【万魔殿-悪魔の巣窟-】

 

 

【デーモンの宣告】

永続魔法

1ターンに1度だけ、500ライフポイントを払いカード名を宣言する事ができる。

その場合、自分のデッキの一番上のカードをめくり、宣言したカードだった場合手札に加える。

違った場合はめくったカードを墓地へ送る。

 

 

万魔殿(パンディモニウム)-悪魔の巣窟-】

フィールド魔法

「デーモン」という名のついたモンスターはスタンバイフェイズにライフを払わなくてよい。

戦闘以外で「デーモン」という名のついたモンスターカードが破壊されて墓地へ送られた時、そのカードのレベル未満の「デーモン」という名のついたモンスターカードをデッキから1枚選択して手札に加える事ができる。

 

 

フィールドも相手の得意な戦場に塗り替えられしまい、完全アウェー。

ただでさえなす術がないのに加えて、せっかく発動した天変地異もデーモンの宣告で逆利用されるという悪循環。

どうしてこうなったし。

というか、なんで宣告が入ってるんですか!

確かにデーモンってつくけどデーモンあんまり関係ないでしょうに。

デーモンギャンブルデッキなのですか?

 

私が……この私がギャンブルで勝てるわけないじゃないですか。

 

「もう諦めてもいいかな? 最後に壺も使えたし」

 

『ダメよ!? 頑張って、というかそんなささやかなことで満足しないでよ! 遊理のサティスファクションはこれからよ!』

 

そんなこと言われても、いつもならとっくに諦めている状況なんですが。

でもまあ、今回は精霊(カード)がかかってるわけで、諦めるわけにはいけないのも確かです。

 

もう少し挑戦してみますかね。

 

「次こそは……次こそは」

 

『い、いやねえ? もうルーレットで勝つのは無理なんじゃない? 諦めないにしても別の可能性を模索すべきというか』

 

「それでもルーレットで勝たないことにはどうしようもないんですよ」

 

私のデッキはリバースコントロール、相手のモンスターを奪うことに特化しています。

つまりカードのほとんどがモンスターを対象にするものばかり、なのでチェスデーモンのギャンブルに勝たないことには私に勝機は訪れないのですよ。

 

そんな風に気を引き締めなおしている私を見て何を思ったのかタイタンさんは不敵な笑みを浮かべて

 

「何を1人でぶつぶつと……恐怖のあまり気でもふれたか?」

 

「……まあ、そんな感じですかね」

 

「そうか。ならばもう諦めて楽になったらどうだ? 自分の身体をよく見てみるがいい、闇に呑まれてほとんど残ってはいまい」

 

闇のゲームであるらしいこの決闘(デュエル)ではライフポイントが減るにつれて身体がどんどん消えていくルールなのだそうで。

そして現在残りライフが1000ポイントである私は、胴体の大部分が消えてしまい、頭と手首から先と足しか残ってません。

 

でもそれがどうしたっていうんですか。

 

「まだ立ち上がる足があります。カードをドローする手があります。考える頭も残ってるのです。ライフはもちろん手札もデッキも尽きてない。うん、諦めるにはまだまだ早いですね」

 

「虚勢を張るのはよせ……身体を抱えて震えているではないか。闇のゲームは精神を浮き彫りにする。怯えを、恐怖を隠すことは不可能だ」

 

「怯えてなんかいません! 震えてるのはあれです。こ、これは作戦なんです」

 

決して怖くて震えてるわけじゃないのです!

本当ですよ?

 

『怯えたふりをするのにいったいどんな意味があるのよ……同情でも誘うつもり?』

 

プロ相手にそんな手が通用するわけないじゃない、とココロちゃん。

 

「う、うそじゃないもん! 怖くないもん!」

 

生憎と地獄ならとっくの昔に体験させてもらったことがありますからね、ルカちゃんに。

地獄のデーモンがなんだ!

闇のゲームどんとこいなのです!

 

「だ、断じてビビってなんかにゃいのです!」

 

「『…………』」

 

タイタンさんの目もとは仮面で隠されていて、その表情はうかがい知ることはできません。

しかし、それでも私は憐みの視線を感じ取ることが出来ました。

良いじゃないですか、ちょっとくらい噛んでも!

ビビって無くても緊張はするんです!

 

「……ならば見せてやろう、本物の地獄というものを。私のターン、ドロー」

 

あ、スルーしてくれました。

やっぱり良い人かもしれません。

 

永続魔法【天変地異】の効果のおかげで、タイタンさんが何をドローしたのか確認できます。

プリズンクインデーモン……チェスデーモン最強のモンスターを早くも手札に呼びましたか。

ただでさえ絶望的なのにさらなるピンチ。

 

しかし同時にこれはチャンスでもあります。

 

「私は、フィールドの2体のモンスターを生贄にささげる。現れろ! 我が最強のデーモン、プリズンクインデーモン!」

 

ジェノサイドキングデーモンとシャドウナイトデーモンをリリースして現れたのは、細身で高貴な雰囲気を漂わせる女性デーモンです。

 

 

【プリズンクインデーモン】

効果モンスター

星8/闇属性/悪魔族/攻2600/守1700

このカードのコントローラーは自分のスタンバイフェイズ毎に1000ライフポイントを払う。

フィールド上に「万魔殿-悪魔の巣窟-」が存在し、このカードが墓地に存在する場合、自分のスタンバイフェイズ毎にフィールド上に存在するレベル4以下の悪魔族モンスター1体の攻撃力はエンドフェイズ時まで1000ポイントアップする。

 

 

『うわ、絶望的』

 

「いえ、むしろ助かりました。これは希望です」

 

『?』

 

「もはやライフを払って宣告の効果を使うまでもない。これで終わりだ! プリズンクインデーモンの攻撃! 獄氷滅葬!」

 

「この瞬間、(トラップ)カードオープン!」

 

「何!? 防御のカードをセットしていたのか!」

 

警戒するタイタンさんですが、オープンしたカードを目にして目が点になった……ように思いました。

仮面付けているので解りませんが。

 

 

【ゴブリンのやりくり上手】

通常罠

自分の墓地に存在する「ゴブリンのやりくり上手」の枚数+1枚を自分のデッキからドローし、自分の手札を1枚選択してデッキの一番下に戻す。

 

 

「発動! ゴブリンのやりくり上手!」

 

「ふざけているのか!? 今更そんなカードで何になる!」

 

「何とかするんです! さらに2枚目のゴブリンのやりくり上手を発動! からの~、最後のリバースカードをチェーン発動! 非常食!」

 

「!?」

 

 

【非常食】

速攻魔法

このカード以外の自分フィールド上に存在する魔法・罠カードを任意の枚数墓地へ送って発動する。

墓地へ送ったカード1枚につき、自分は1000ライフポイント回復する。

 

 

「非常食の効果により、たった今発動したゴブリンのやりくり上手2枚と天変地異を墓地に送り、ライフを3000回復します!」

 

 

暁 遊理

LP 1000 → 4000

 

 

回復直後、プリズンクインデーモン攻撃がヒット!

強烈、ですが回復した今のライフなら持ちこたえられるのです!

 

 

暁 遊理

LP 4000 → 1400

 

 

「セーフ!」

 

「っく、おのれ!」

 

タイタンさんは悔しそうに唇をゆがめます。

 

『油断してくれて助かったね。相手がセットカードに無警戒じゃなかったらこうはいかなかったわ』

 

「油断したんじゃなくて、油断させたんですよ。怯えたふり作戦が上手くいったんです」

 

同情は誘えませんでしたが、油断(プレイミス)は誘えたようです。

ついでに天変地異の情報アドバンテージも地味に効いてます。

相手のデッキトップを一方的に知れたのは大きいのですよ。

手札が分かってると対処もしやすいです。

 

『一方的? 天変地異のデッキトップ公開効果は双方向のはず……!?』

 

怪訝な顔を私に向けたココロちゃんの顔が引きつりました。

ふっふっふ、どうやら気づいたようですね。

私の怯えたふり作戦の陰に隠したもう1つの華麗なる作戦に。

 

タイタンさんも気づいたらしく目を見開きました……仮面越しなのでたぶんですけど。

 

「こ、小娘! もしや貴様、天変地異を発動した時から……!?」

 

「言ったはずですよ? これは作戦だって」

 

私は別に伊達や酔狂で闇のゲームに怯えているふりをしていたわけではないのですよ。

その目的は、タイタンさんの油断を誘うためともう1つ、震える身体を抑えていると見せかけて、()()()()()()()()()()()()()()()()ことに気づかせないことです。

 

実際気づいてなかったみたいですしね。

お互いにデッキトップを公開して手札が筒抜け状態のはずなのに、こちらが何をセットしていたのか解らなかったのですから。

お蔭で、意表を突くことが出来ました。

 

『いくらなんでもせこすぎよ!?』

 

「卑劣な…!」

 

「はっはっは、なんとでも言いなさいなのですよ~」

 

 

過去、対戦相手に「ちょっと墓地のカード確認させてもらっていいですか?」と聞いて町中の嗤い者になったことがあります。

 

決闘(デュエル)の最中に何言ってるのバカじゃないのか? と

 

公開情報だからって、それが決闘(デュエル)中にいつでも確認できるわけじゃないというのは、前世と今世の対戦の大きな違いの1つです。

何故なら、私たちはカードゲーマーではなく決闘者(デュエリスト)であり、行うのは単なる遊戯(ゲーム)ではなく決闘(デュエル)なのですから。

 

ごちゃごちゃ理屈を並べたてましたけど、要するにこういうことです。

 

 

「私は悪くない!」

 

それでももしこの場に悪い奴がいるとすれば、それは私を怯えるだけの小娘と油断してちゃんと確認しなかったタイタンさんなのです!

文句があるなら、審判かもしくは警察でも連れて来いってんですよ!

ただし、その場合捕まるのは闇のゲームでアンティをふっかけてきたタイタンさんの方ですけどね。

法廷では加害者より被害者の方が圧倒的に強者なのです。

 

「見損なったぞ! 決闘者(デュエリスト)の誇りはないのか!」

 

「貴方には言われたくないですね。闇の決闘者(デュエリスト)……いえ、()()闇の決闘者(デュエリスト)さん?」

 

「っ!?」

 

タイタンさんが目に見えて狼狽えました。

解りやすい人ですね、何のための仮面なのやら。

 

『……どういうこと?』

 

「どういうことも何も、もしタイタンさんが本物であるなら、ココロちゃんが見えないわけがないということですよ」

 

『……そういえば』

 

私の周囲をふよふよ飛んでいるココロちゃんに、タイタンさんは終始無反応でした。

 

闇のゲームを実践できるほど(バー)に精通しているなら、精霊(カー)の存在を認知できないなんてあるわけないのです。

つまりタイタンさんは偽物、ペテン師や催眠術師の類だということです。

こうしてライフ減少により身体が消えていくのも、単なる視覚と暗示を応用したトリックでしかないのですよ。

決闘者(デュエリスト)の誇りが聞いてあきれます。

 

「貴方は闇の決闘者(デュエリスト)なんかじゃありません! ただの嘘つきのペテン師です。この卑怯者が!」

 

「貴様にだけは言われたくないわ!」

 

『どっちもどっちよ……ある意味これも類友なのかしらね』

 

ギリッ……歯をきしませる音が響きました。

タイタンさんです。

憤怒の形相を浮かべているのが仮面越しでもわかります。

 

「……どうやら私は貴様の事を少々見誤っていたようだ。よろしい、ならばこれはもはや決闘(デュエル)ではなく誅伐だ」

 

「いいですね、正直、決闘(デュエル)では勝てそうになかったんですが、誅伐なら何とかなりそうです」

 

ライフこそ崖っぷちですが、これでなんとなく希望も見えてきましたよ。

 

『……最低ね…そんなにしてまで勝ちたいの?』

 

軽蔑したようにいうココロちゃんに私は返答を返しません。

しかし、勝ちたいのは確かです。

ようやく希望が見えてきたところなんです。

こんなときに諦めるほど私は潔くないのですよ。

 

それに希望は他にもありますしね。

希望というか、不確定要素というか。

 

私はちらりと自分の手札を見やりながら思考を巡らせます。

そこには私に馴染みのないモンスターがいました。

 

 

【エトワール・サイバー】

効果モンスター

星4/地属性/戦士族/攻1200/守1600

このカードは相手プレイヤーを直接攻撃する場合、ダメージステップの間攻撃力が600ポイントアップする。

 

 

当然私のカードではありません。

これは明日香さんのカードですね。

何かの拍子に紛れ込んだみたいです。

 

おそらくこの場所にバラかれたデッキを拾い集めた時ですね。

その時に気絶した明日香さんが落としたカードもあったんでしょう。

普通に考えれば1枚1枚確認している暇がなかったが故の事故ですが、私はこれを単なる事故だとは思いませんでした。

 

明日香さんのカードが私のデッキに紛れ込んだのは、精霊(カード)の意思。

もし勝機があるとすればこれでしょうね。

 

「効果処理を行います。非常食の効果で天変地異が墓地に送られたことにより、ひっくり返っていたデッキが元に戻ります。さらに発動したゴブリンのやりくり上手の効果、自分の墓地に存在する「ゴブリンのやりくり上手」の枚数+1枚を自分のデッキからドローします。墓地のやりくり上手の数はたった今非常食のコストになった2枚、よって3枚ドロー!」

 

これぞ一気に手札を補充して圧倒的なハンド・アドバンテージを得るドローコンボ、通称『やりくりターボ』です。

非常に強力なコンボではあるのですが、このコンボを成立させるのに必要なカードであるやりくり上手と非常食はいずれも単体では活用しづらいカードであるため、実際デッキに仕込んで活用している決闘者(デュエリスト)はほとんど見ませんね。

ちなみに私は何故入れているかというと、この手の(単体では)使えないカードとはそれなりに好相性であるがためです。

 

閑話休題。

 

私はデッキトップのカードを触った時、感覚的に理解しました。

これは明日香さんのカードだと。

さて、お願いですよ明日香さんのカード。

明日香さんを助けるためにもどうか力を貸してください。

 

そんな祈るような期待するような心持でドローしたカードは……

 

 

【ドゥーブルパッセ】

通常罠

自分フィールド上の表側攻撃表示モンスター1体が相手モンスターの攻撃対象になった時に発動できる。

そのモンスターの攻撃は自分への直接攻撃になる。

その後、攻撃対象になったモンスターはこのターン相手に直接攻撃をすることができる。

 

 

「…………うん、これはあれですね! 明日香さんのカードはきっと私に「力を合わせて一緒に戦おう」って言ってくれてるのですよ!」

 

『そうなの? 私には「雑魚ならせめて盾として役に立て」と言ってるようにしか思えないんだけど』

 

言わないでください!

ちなみに他の2枚のカードは一時休戦、ギブ&テイクでした。

 

「…やりくり上手の効果処理を続行。自分の手札を1枚選択してデッキの一番下に戻します」

 

戻すのはもちろん今1番要らないカードです。

さらばドゥーブル、貴方の犠牲は無駄にしません。

そして2度と私の手札に来るな。

 

「さて、気を取り直して2枚目のやりくり上手の効果、再び私は3枚ドロー、そして1枚をデッキの1番下に戻します」

 

これで手札は5枚……ですが、逆転できるカードはありません。

これだけドローしてもダメですか……

 

「どうやら望んだカードは来なかったようだな。私は手札より、二重魔法を発動する」

 

 

二重魔法(ダブルマジック)

通常魔法

手札から魔法カードを1枚捨て、相手の墓地の魔法カード1枚を選択して発動できる。

選択した魔法カードを自分フィールド上の正しいカードゾーンに置き、使用する。

 

 

「コストとして手札から魔法カード1枚を墓地に送り、貴様の使用した魔法カードをこのターン使用する。使用するのは非常食、デーモンの宣告を墓地に送りライフを1000回復」

 

 

タイタン

LP 3000 → 4000

 

 

「カードを1枚セットし、ターンエンドだ」

 




良い子はルールとマナーを守って、楽しく決闘(デュエル)しよう!!

…タグに外道を追加すべきか検討中。


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9話

感想にて、僕のもう1つの投稿作品であるナルト二次の主人公と、この遊戯王二次の主人公が似てるんじゃないかと指摘を受けました。

確かに口調とかは同じだと思いますけど、さすがにここまで擦れてないと信じたいところ。
ただし、擦れてない代わりに若干病み気味ですが。


暁 遊理 手札 5枚

LP 1400

フィールド モンスターなし セットカードなし

 

タイタン 手札 1枚

LP 4000

フィールド プリズンクインデーモン セットカード 2枚

 

フィールド【万魔殿-悪魔の巣窟-】

 

 

「私のターン、ドロー」

 

引いたカードはブレード・スケーターでした。

 

 

【ブレード・スケーター】

通常モンスター

星4/地属性/戦士族/攻1400/守1500

氷上の舞姫は、華麗なる戦士。

必殺アクセル・スライサーで華麗に敵モンスターを切り裂く。

 

 

またしても明日香さんのカードです。

これはもしかして……

 

「私は魔法カード、一時休戦を発動」

 

「小癪な時間稼ぎを……弱者のあがきなぞ見苦しいだけだというのに」

 

「時間稼ぎだって立派な戦術です」

 

 

【一時休戦】

通常魔法

お互いに自分のデッキからカードを1枚ドローする。

次の相手ターン終了時まで、お互いが受ける全てのダメージは0になる。

 

 

この効果でさらに1枚ドローです。

これであのカードが来てくれれば…………来た!

正直、信じられません!

 

「私は魔法カード、融合を発動!」

 

 

【融合】

通常魔法

自分の手札・フィールドから、融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。

 

 

「手札のエトワール・サイバーと、ブレード・スケーターを融合して、サイバー・ブレイダーを召喚します!」

 

現れたのは、明日香さんのエースモンスターである全身をレオタードに包んだ女性モンスターです。

 

まさか私が召喚できる日が来るとは思いませんでした。

かつて湖にて水をぶっかけられたことは文字通り水に流しましょう。

さあ、今こそ力を合わせて戦い―――

 

 

ザパァアアアン!!

 

 

―――突如、激しい水の渦がフィールドを包み込みプリズンクインデーモンと召喚したばかりのサイバー・ブレイダーを飲み込み押し流したのでした。

水がようやく収まった後のモンスターゾーンには何も残されていません。

 

 

【激流葬】

通常罠

モンスターが召喚・反転召喚・特殊召喚された時に発動できる。

フィールド上のモンスターを全て破壊する。

 

 

「ふん、他愛もない」

 

「そんなっ!?」

 

最期の希望があああ!?

 

決闘(デュエル)とは常に非情なのだ。さらにもう1枚のセットカードオープン、速攻魔法、デーモンの駆け引き!」

 

 

【デーモンの駆け引き】

速攻魔法

レベル8以上の自分フィールド上のモンスターが墓地へ送られたターンに発動する事ができる。

自分の手札またはデッキから「バーサーク・デッド・ドラゴン」1体を特殊召喚する。

 

 

「このカードは、レベル8以上の自分フィールド上のモンスターが墓地に送られた時に発動できる。そして自分の手札またはデッキからバーサーク・デッド・ドラゴンを召喚する! 現れよ! 地獄に堕ちてなお君臨する破壊の王者! バーサーク・デッド・ドラゴン!」

 

 

【バーサーク・デッド・ドラゴン】

効果モンスター

星8/闇属性/アンデット族/攻3500/守 0

このカードは「デーモンとの駆け引き」の効果でのみ特殊召喚が可能。

相手フィールド上の全てのモンスターに1回ずつ攻撃が可能。

自分のターンのエンドフェイズ毎にこのカードの攻撃力は500ポイントダウンする。

 

 

「……デーモンデッキじゃなかったんですか」

 

私は、めちゃくちゃな威圧感を放つ巨大なガイコツドラゴンを呆然と見上げます。

 

「……私はカードを1枚伏せてターンエンドです」

 

伏せたのはギブ&テイク。

防御カードでもカウンターでもありません。

つまり見せかけです。

しかし、諦めたわけじゃありません。

サイバー・ブレイダーだって、いつか必ず過労死するくらいに使い倒してやるんですよ。

 

「私のターン、ドロー。私は手札より魔法、死者蘇生を発動」

 

 

【死者蘇生】

通常魔法(制限カード)

自分または相手の墓地のモンスター1体を選択して発動できる。

選択したモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する。

 

 

「再び冥府より甦れ、ジェノサイドキングデーモン」

 

 

【ジェノサイドキングデーモン】

効果モンスター

星4/闇属性/悪魔族/攻2000/守1500

自分フィールド上に「デーモン」という名のついたモンスターカードが存在しなければこのカードは召喚・反転召喚できない。

このカードのコントローラーは自分のスタンバイフェイズ毎に800ライフポイントを払う。

このカードが相手のコントロールするカードの効果の対象になり、その処理を行う時にサイコロを1回振る。

2・5が出た場合、その効果を無効にし破壊する。

このカードが戦闘で破壊した効果モンスターの効果は無効化される。

 

 

『攻撃力2000のデーモンが復活したか』

 

「それだけじゃないですよ。墓地にプリズンクインデーモンがいます」

 

次のターンでは攻撃力3000のモンスターとなって私に襲い掛かってくるでしょう。

バーサーク・デッド・ドラゴンも健在だし、万事休すです。

 

「一時休戦に救われたな、ターンエンドだ」

 

この瞬間、バーサーク・デッド・ドラゴンの攻撃力は自身のデメリット効果で500ポイント下がり3000になりましたが、正直何の助けにもなりません。

 

 

暁 遊理 手札 2枚

LP 1400

フィールド モンスターなし セットカード1枚

 

タイタン 手札 2枚

LP 4000

フィールド バーサーク・デッド・ドラゴン ジェノサイドキングデーモン セットカードなし

 

フィールド【万魔殿-悪魔の巣窟-】

 

 

「私のターン、ドロー」

 

おそらくこれが私のラストターンでしょう。

ここで逆転できなければ終わりです。

そんな思いで引いたカードは手札抹殺。

逆転できるカードではありません。

これはもう、諦めるべきなのかもしれませんね。

 

「私は手札より魔法カード、手札抹殺を発動します」

 

 

【手札抹殺】

通常魔法

お互いの手札を全て捨て、それぞれ自分のデッキから捨てた枚数分のカードをドローする。

 

 

「ここにきて手札の交換とは……貴様の諦めの悪さは驚嘆に値するな」

 

「何分、それだけが取り柄なものでして」

 

「だが、その様子を見るに逆転のカードはとうとう引けなかったようだな……もう諦めて決闘(デュエル)など止めてしまえ。貴様は決闘者(デュエリスト)の器ではない。戦った私には分かる」

 

「ははは、よく言われますよ。自分でもそう思いますし。モンスターもデッキも天邪鬼で全然私の言うこと聞いてくれなくて……」

 

「そうだろうそうだろう。私の目に狂いはない」

 

「……でも、だからでしょうね」

 

「?」

 

「勝利を諦めた直後に、私のデッキ(この子たち)は途端に生き生きと動き出すんですよ」

 

本当に天邪鬼で厄介で扱いにくい子ばっかりで。

特にこの子はとりわけ面倒くさい精霊(モンスター)です。

 

「私は墓地にいる悪魔族モンスター、X・E・N・O、ブレイン・ジャッカー、憑依するブラッドソウルの3体を除外」

 

「なんだと!? 何時の間にそんなモンスターを墓地に……手札抹殺で捨てたカードか!」

 

「はい、ついさっきたった今墓地に送ったところです。おかげで条件を満たせました。さあ、出番です。ダーク・ネクロフィア!」

 

周囲の漂う闇の気配をさらに塗り潰すかのような漆黒のオーラ。

 

圧倒的存在感。

 

私の墓地から3枚の悪魔族モンスターが取り除かれ、フィールドの浮かび上がったカードから、青白い不気味な女性人形モンスターが、壊れた女の子の人形を抱きかかえて現れて……現れて……

 

 

「「『…………』」」

 

 

前言撤回、現れません。

そのかわり、フィールドに浮かんだカードの中から「とてとて、バタバタ」と何やら慌ただしい音が聞こえてきます。

それに加えて「バタンッゴツンッ」と何かにぶつかるような音が……時折悲鳴らしき声も聞こえてきます。

何やってんですかいったい?

 

そんなこんなで待つこと数十秒。

ようやく彼女は現れたのでした。

 

『ご、ごめんなさい、おまたせしました…』

 

「ええ、待ちましたよ。とっても」

 

『はうっ、すみません』

 

『デートに遅れた恋人かっ!』

 

 

【ダーク・ネクロフィア】

効果モンスター

星8/闇属性/悪魔族/攻2200/守2800

このカードは通常召喚できない。

自分の墓地に存在する悪魔族モンスター3体をゲームから除外した場合に特殊召喚する事ができる。

このカードが相手によって破壊され墓地へ送られたターンのエンドフェイズ時、このカードを装備カード扱いとして相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体に装備する。

この効果で装備カード扱いになっている場合のみ、装備モンスターのコントロールを得る。

 

 

カードから飛び出してきたのは、青白い女性マリオネットと、それを糸で操っている小さな女の子の人形です。

本体であるらしい小さな少女を模したアンティークドールは当たり前のように壊れてないし抱きかかえられていません。

壊れてないどころか、甘ロリ全開な服で球体関節などが隠れ、表情も豊かにクリクリ変化するのも相まって見た目には普通の女の子にしか見えないという、どこの世界の薔○乙女ですかと突っ込みたくなるような容姿をしています。

 

いやまあ、修理したのは私なんですが。

本人たっての希望でもあったし、何より何時までも壊れたままというのもかわいそうと思ったので毎日少しずつコツコツ修繕したのでした。

ただし、身体は治っても中身のポンコツ具合は治りませんでしたが。

 

「な、なんだこのモンスターは?」

 

「ご紹介します。ダーク・ネクロフィアのフィアちゃんです」

 

『よろしくおねがいします!』

 

見えていないにも関わらず、ぺこりと青白いマリオネット共々お辞儀するフィアちゃん。

お遊戯みたいです……いや遊戯なんですけど。

 

人形なのに、全く人形らしくありません。

というか、精霊らしくもなく、ドジッコなところも含めて人間くさいです。

 

どのくらいのドジッコかというと、真夜中に勝手にデッキから抜け出したかと思えば心霊現象(うっかり)で部屋の物を壊し、それを何とかしようとして更なる被害を生み出して、もうどうにならなくなって助けを求めて部屋の外にふらふらと飛び出していったかと思えば、その先で迷子になってしまうくらいのドジッコです。

 

朝起きたら知らぬ間に部屋が荒らされていて、さらに突然非通知で『ふえぇ、ここどこぉ?』なんて電話がかかってきた時は本気でビビりました。

何とも心臓に悪いモーニングコールです。

つうか、外に飛び出す前にまず私を起こせよ。

いやまあ、無自覚に被害を拡大するのはオカルトモンスターらしいと言えばある意味そうなんですけど。

決闘(デュエル)で共に戦う仲間というより、いろんな意味でひたすら手のかかる妹みたいな心境です。

ルカちゃんとは別の意味で目が離せません。

 

 

「……ずいぶんと信頼しているモンスターのようだな、だが所詮攻撃力2200。ジェノサイドキングデーモンは倒せても、バーサーク・デッド・ドラゴンは倒せまい。さらに私の手札にはデスルークデーモンがいる」

 

 

【デスルークデーモン】

効果モンスター

星3/光属性/悪魔族/攻1100/守1800

このカードのコントローラーは自分のスタンバイフェイズ毎に500ライフポイントを払う。

このカードが相手のコントロールするカードの効果の対象になり、その処理を行う時にサイコロを1回振る。

3が出た場合、その効果を無効にし破壊する。

自分フィールド上の「ジェノサイドキングデーモン」が破壊され墓地に送られた時、このカードを手札から墓地に送る事で、その「ジェノサイドキングデーモン」1体を特殊召喚する。

 

 

「今更何をしようと無駄だ。貴様には敗北以外のゴールはない!」

 

「そんなこと言われなくても解ってます。言ったはずですよ、勝利は諦めたって。私は自分フィールド上に2体のトーチトークンを特殊召喚」

 

此処からは賭けですね。

何せ初めて召喚するモンスターです。

さて、どんな奴なのか……できればまともであってほしいところです。

 

「召喚! トーチ・ゴーレム!」

 

拷問(トーチ)の名前の通り、頭部に凶悪な丸鋸が取り付けられた機械のようなゴーレムがフィールドに現れました。

いや~、これは頼もしいですね。

フィアちゃんと比べると余計に。

 

 

【トーチ・ゴーレム】

効果モンスター

星8/闇属性/悪魔族/攻3000/守 300

このカードは通常召喚できない。

このカードを手札から出す場合、自分フィールド上に「トーチトークン」(悪魔族・闇・星1・攻/守0)を2体攻撃表示で特殊召喚し、相手フィールド上にこのカードを特殊召喚しなければならない。

このカードを特殊召喚する場合、このターン通常召喚はできない。

 

 

これで自分のフィールドに現れてくれるなら言うことなしだったんですが……いや、敵に回すとおっかないことこの上なしです。

 

「貴様ふざけているのか!? 自分フィールドに役に立たない雑魚を召喚し、相手フィールドに攻撃力3000のモンスターを召喚するなど!」

 

「まあまあ、勝利を諦めた弱者のあがきです。黙って見ていてくださいよ。さて、フィアちゃん? トーチ・ゴーレムに攻撃です」

 

『はいっ、がんばりま…………え?』

 

「トーチ・ゴーレムに攻撃です」

 

『……じぇのさいどきんぐでーもんじゃなくて?』

 

「トーチ・ゴーレムです」

 

『む、むりです、かてないよ。ばらばらにされちゃう!』

 

「はい、バラバラにされてください」

 

『鬼がいる……』

 

何を言ってるんですかココロちゃん?

自爆特攻は立派な戦略の1つです。

何も悪くないです。

 

『う、うわああああん! ばけてでてやるううう!』

 

「はい」

 

それがフィアちゃんの仕事です。

マリオネット共々、涙目になってトーチ・ゴーレムに突撃して言ったフィアちゃんは、振り下ろされたゴーレムの拳にあっさりと潰されました。

プチっという音が何とも印象的に響きます。

しかし、トーチ・ゴーレムも容赦ないですね。

 

『……不器用なもんで』

 

『喋れたんだ……』

 

まあ、何はともあれご苦労さまですフィアちゃん、これが終わったらまた修理してあげますから。

 

 

暁 遊理

LP 1400 → 600

 

 

「ターンエンドです」

 

「本当に何がしたかったんだ?」

 

「まあ、見ててください。この瞬間、墓地のダーク・ネクロフィアの効果発動! このカードが相手によって破壊され墓地へ送られたターン終了時、このカードを装備カード扱いとして相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体に装備します。この効果で装備カード扱いになっている場合のみ、装備モンスターのコントロールを得ることができます。さあフィアちゃん、宣言通り化けて出てください!」

 

『は、はい!』

 

墓地から飛び出したやや汚れたフィアちゃんが、指先から糸を伸ばしてトーチ・ゴーレムにくっ付けました。

糸に操られたトーチ・ゴーレムはこちらのフィールドにやってきます。

ふっ、機械は説得が楽でいい……機械族じゃなくて悪魔族ですけど。

 

「なるほど、上級モンスターを奪ったか。だが…」

 

「それだけじゃありません。さらにこの瞬間、(トラップ)発動! ギブ&テイク!」

 

 

【ギブ(アンド)テイク】

通常罠

自分の墓地に存在するモンスター1体を相手フィールド上に守備表示で特殊召喚し、そのレベルの数だけ自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体のレベルをエンドフェイズ時まで上げる。

 

 

「さあ、再び相手フィールドに甦れ、明日香さんのエース、サイバー・ブレイダー! 今度こそ活躍して貰いますよ」

 

そう、過労死するほどに。

 

 

【サイバー・ブレイダー】

融合・効果モンスター

星6/地属性/戦士族/攻2100/守 800

「エトワール・サイバー」+「ブレード・スケーター」

このモンスターの融合召喚は上記のカードでしか行えない。

相手のコントロールするモンスターが1体のみの場合、このカードは戦闘によっては破壊されない。

相手のコントロールするモンスターが2体のみの場合、このカードの攻撃力は倍になる。

相手のコントロールするモンスターが3体のみの場合、このカードは相手の魔法・罠・効果モンスターの効果を無効にする。

 

 

 

タイタンさんのフィールドに召喚されたサイバー・ブレイダーはそのままくるくると踊り始めました。

 

「な、なんだ?」

 

「サイバー・ブレイダーは相手フィールドに存在するモンスターの数に応じてその効果を変化させる極めて特殊なモンスターです。この場合の相手のフィールドとは私のフィールドです。私のフィールドにはトーチトークンが2体と、先ほどコントロールを奪ったトーチ・ゴーレムの合計3体! よって、相手の魔法、罠、モンスター効果を全て無効にします! パ・ド・カトル!」

 

瞬間、トーチ・ゴーレムの行動を支配していたフィアちゃんの操り糸が切れて、タイタンさんのフィールドに帰っていきます。

それとほぼ同時に、サイバー・ブレイダーのステップも変化しました。

 

「フィアちゃんの効果が無効化され、トーチ・ゴーレムのコントロールが再びタイタンさんに戻ります。トーチ・ゴーレムが貴方のフィールドに帰還したことによってモンスターの数は2体に減りました。よって、サイバー・ブレイダーの効果が変化します。モンスターが2体の場合、攻撃力は2倍になります。 パ・ド・トロワ!」

 

と言っても、守備表示なので何の意味もありませんけどね。

重要なのは、サイバー・ブレイダーの攻撃力が上がったことではなく、無効化効果が消えた事です。

 

「無効化効果が消えたことにより、再びダーク・ネクロフィアがトーチ・ゴーレムのコントロールを奪い取ります!」

 

『ちょっと待って、これって……』

 

「モンスターの数が再び3体になったことにより、サイバー・ブレイダーのモンスター効果がまたまた変化、パ・ド・カトル!」

 

再び、ステップを変更するサイバー・ブレイダー。

 

「ま、まさか…」

 

「魔法、罠、効果全てが無効化されたことにより、トーチ・ゴーレムは再び貴方のフィールドへ帰還します。そしてモンスターの数が2体に減ったことによりサイバー・ブレイダーの効果が変化! パ・ド・トロワ! あとはもう言わずもがなでしょう。効果変更により、無効化消失、トーチ・ゴーレムが私のフィールドに再びやってきます!」

 

『無限ループ!?』

 

『むげんるーぷ?』

 

「無限ループだと!?」

 

「そう、無限ループです! しかもデッキ切れでもライフ切れでも止まらず任意解除も不可能な完全(パーフェクト)(むげん)ループです! つまり、サイバー・ブレイダーは赤い靴を履いた童話の少女のごとく、止まることなく不眠不休で永久に踊り続けるってことなのですよ!」

 

サイバー・ブレイダーの顔が恐怖にひきつりました。

逃がしませんよ?

明日香さんを助けるためにも、過労死するまで存分に舞い狂ってください!

 

『鬼がいる……』

 

『ひゃわわ』

 

「貴様、こんなことしていったい何のつもりだ!?」

 

「何もしませんよ?」

 

「なん……だと?」

 

「そんな驚くことですかね? 私に敗北以外のゴールはあり得ないと断言したのは他でもない貴方のはずですよ」

 

私はそのセリフを否定しません。

実際その通りでしたし、その運命をひっくり返すだけの実力もありませんでしたから。

それだけできることが限られているなら、選択肢はたった1つです。

 

「私はその敗北のゴールに到達するまで道のりを可能な限り引き延ばすまでです」

 

私はその場にぺたんと腰を下ろしつつ言い放ちました。

といっても、さすがに本当に永遠に引き延ばすつもりはありませんけどね。

決闘(デュエル)のルール的には永遠でも、人間はもちろん精霊の体力にも限りはありますし。

 

私はポケットをひっくり返し中身をぶちまけます。

出てきたのは大量の兵糧もといお菓子類。

感謝しますよ十代君。

 

「さて、手始めに3日ほど粘って見ましょうか。貴様は本当にそれでも決闘者(デュエリスト)か! とか思ってるかもしれませんけど。これはもはや決闘(デュエル)ではないと言ったのも貴方であることをお忘れなく。誅伐は十分できたでしょう。ならばここからは私のサバイバルに付き合ってください。あ、やっぱり無理して付き合わなくてもいいですよ? 限界だと思ったらどうぞご自由にゲームを中断してこの場から立ち去ってください。私は追いませんから」

 

さて、こんなもんですかね。

私は言いたいことを全部言い尽くした後、のんびりと見せつけるようにフルーツバーを口に頬張ったのでした。

飲み物がないのがちょっと辛いなぁとか思いつつ。




どうしようもない格上を前に敗北以外の決着はありえない、ならどうするか。

遊理は「決着つけさせなければいいじゃない」という結論にたどり着きました。

実際、アニメでは決闘(デュエル)を途中で放棄して決着を付けずに中断することは珍しくないわけで。
先々週の放送でもやってたし。


何というか、こういうことするから普通の感性を持った一般の精霊に嫌われるんでしょうね。
遊理の不幸もなかなかですけど、サイバー・ブレイダーはもっと不憫です。


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幕間
10話


Fateの二次創作書きたいなぁ→しかし未完の作品をいくつも並べるのはどうなのか→ならばキリのいいところまで、せめてサイバーブレイダ―を開放してあげないと。

というわけで続き再開です。
正直忘れられていると思いますが、一応けじめとしてあと一回は遊理に決闘させます。

Fateに限らず、SAOとかAWとかHPとかFTとか書き始めたい作品は多々ありますが、完結させられるかとなると途端に………

ちなみに僕はゼロのキャスターコンビが大好きです。
それと同じくらいライダーコンビも好きです。
行為はどうであれ仲良しなのは良いことです。


私こと暁 遊理がデュエルアカデミアに入学してから、ずいぶんと月日が経過しました。

春、夏も終わり秋も中ごろ、もうすぐ冬です、冬休みです。

 

「みたせみたせみたしてみたせと………くりかえすつどに4度………」

 

『5度よ』

 

「あれ、そうでしたっけ? みたせみたせみたしてみたしてみたせ、うん。今度こそ間違いなく5度。ただみたされるときをはきゃくする………合ってますよね?」

 

『一応、呪文は合ってるんだけど………なんだろう、正解不正解以前の問題として致命的に何かが間違っている気がするわ』

 

「奇遇ですねココロちゃん、私もです」

 

それなのに私はいったい何をやっているんでしょうね。

というか、本当にこれは精霊を呼び出す呪文なのでしょうか?

なんとなく別のものが呼び出されそうな手ごたえなんですが。

 

客観的に見ても不可解極まりない光景でしょう。

草木も眠る丑三つ時、こっそり忍び込んだアカデミアの図書館(図書室にあらず)で、ろうそくの明かりのみを頼りに本物かどうかも定かではないやたらと年季の入った魔術書(古本屋で税込み5万円也、おかげで金欠気味です)を片手に首をかしげながら精霊召喚の儀式を遂行している私。

そんな私の目の前には私の血で書いた魔法陣(おかげで貧血気味です)、陣の中心には大枚をはたいてわざわざ購入したレアカード『人造人間サイコショッカー』(おかげで貯金もゼロです)、隣には儀式を見物している『心変わり』の精霊であるココロちゃん。

そして背後には全ての発端たるオベリスクブルーの男子3人組。

 

改めて思います。

カードゲームの学校まできてなんで私は心霊術の真似事なんかしているのでしょう?

 

「すげえ………」

 

「ああ、さすが遊理さんだ」

 

自他ともに認めるオカルトマニアであるオベリスクブルーの男子3人が熱っぽく目を輝かせて何やら囁きあっているのが聞こえてきます。

自らの趣味に一直線で周囲の理解を顧みないタイプの、所謂マニアと呼ばれる人間であり、何かとエリート志向で高飛車な普通のブルー生徒とは別の意味で付き合い方に困る人たちです。

世の中には酔狂な人がいるものですね。

 

と、そんなことを考えているうちに、精霊からのコンタクトを受信しました。

私も含めたこの場にいる4人の署名が書かれた誓約書(ギアスロール)がひとりでに浮かび上がって光り輝き、誰も触れていないはずのウィジャ盤がガタガタと音を立てて文字を指し示します。

 

うおお、と畏怖とも称賛ともつかないうめき声をあげる3人組。

 

「え~と何々? 『さんにんのいけにえをささげろ。さすればわれはよみがえる』………あれ? 私たちが呼ぼうとしてるのってサイコショッカーの精霊ですよね? なのに生贄3人って………」

 

『なんかすごい欲張りというか重たいわね、神にでもなったつもりなのかしら?』

 

全くです。

上級モンスターでありながら生贄が1体で済むという『軽さ』こそがサイコショッカーの利点の1つだというのに。

………いや、それ以前の問題ですよこれ。

 

「どうしますか高寺君? 生贄が必要みたいですけど」

 

「大丈夫ですよ。生贄なんて3体と言わず10体でも100体でも」

 

そういって大量のカードが乱雑に詰め込まれたかばんを持ち出してくる3人。

 

「何枚あるか数えてないけど、これだけあれば十分でしょう」

 

「ああ、こんな屑カードならいくら失っても痛くないしな」

 

「違いない」

 

「いや違いますよ?」

 

そんな精霊(カード)に対する敬意のかけらもない彼らの物言いに若干イラっとしつつ、私はなにやら勘違いしている彼らを訂正します。

 

「3体じゃなくて3()です」

 

「「「………え?」」」

 

「いやだから、リリースコストじゃなくて生贄です」

 

要するにこのサイコショッカーの精霊はカードじゃなくて人間の生贄を3人用意しろって言ってるんですよ。

いやもう悪霊でいいんじゃないすかねこれ。

人間3人も要求するサイコショッカーとか重い軽い以前の問題として普通に害悪です。

 

『不必要にバカ丁寧に儀式をし過ぎたわね、調子に乗って付け上がっちゃったんだわ』

 

「嘆かわしいですね。真摯な対応には真摯な姿勢で返すのが礼儀でしょうに」

 

『そういう礼儀が通じないから悪霊なんでしょうよ』

 

「………ま、そんなの用意できっこないので丁重にお帰りいただきましょうか」

 

『できるの?』

 

「無論です」

 

用意した誓約書はあらかじめ一部を少し書き変えてあり、署名した人全員の合意があれば儀式を中断して精霊をクーリングオフできるようにしておいたのですよ。

今まで散々精霊に一方的にやられてきた私も学習しました。

今夜の私に抜かりはありません。

 

「さあ、高寺君、向田君、井坂君みんなでこのギアスロールにサインを………あれ皆は?」

 

ふと、振り返るとそこには私以外誰もいない真っ暗空間が。

放り棄てられたらしいカバンの口からカードが零れ落ちています。

 

「ちょっ、3人ともいったいどこに!?」

 

『遊理が生贄の定義を訂正したあたりから逃げ出してたよ。3人とも』

 

「んな!?」

 

ちょ、ちょっと待って下さい、それじゃ………

 

焦る私を置いてけぼりにして魔法陣からズモモモと背の高い人型の機械族モンスターが現れて―――

 

『……問おう、貴様が我が召喚主にして生贄か?』

 

 

 

 

 

 

「―――っは!?」

 

『あ、おはよう遊理。いや、まだ夜なんだけどね。またなんか凄いうなされてたみたいだけど?』

 

汗びっしょりになって目を覚ました私を、いつものようにココロちゃんがからかい7割気遣い3割程度の言葉を投げかけてきました。

ふと窓から外を見てみれば、空は雷鳴轟く大荒れの雨模様。

雷にびっくりして目を覚めるとか子供かと自分でも思いますが、今回ばかりは目覚めることが出来てよかったです。

 

「イヤな夢を見ました………」

 

まだまだ空は暗いですが、もう眠れる気がしません。

 

『うん、いつも通りだね。当ててみようかな。………そうね、決闘王が憑依(?)した神楽坂君にバーサーカーソウルドローモンスターカード16連コンボを食らった時の夢と見た!』

 

「とりあえず外れです。 ってか思い出させないでくださいよ………」

 

デュエルアカデミアで開催された決闘王のデッキの展示会。

開催前夜にフライングしてこっそり覗いてみようぜと十代君に誘われ、ホイホイついていったのが運の尽き。

私は事情がよくわからないまま、武藤遊戯のデッキを盗み出した神楽坂君と遭遇して決闘(デュエル)する展開に。

 

神楽坂君。

決闘者(デュエリスト)の才能はあってもデッキ構築が下手だったラーイエローの生徒。

デッキ構築の才能はあっても決闘者(デュエリスト)の素質がなかった私とはちょうど真逆の特性を持っている彼でしたが、強いデッキを手にし欠点を克服した彼はそれはもう鬼の強さで、デッキの中のモンスターカードをきっちり全部使いきってのオーバーキルをぶちかましてくれました。

いったい私の何が神楽坂君の逆鱗に触れたというのでしょう。

 

夜だった上に十代君ともはぐれていたので「もうやめて、遊理のLPはとっくにゼロよ!」って止めてくれる人が都合よく周りにいるはずもなく、魔道騎士ブレイカーにさながら格闘ゲームのごとく空中連続コンボを決められて遥か彼方に吹っ飛ばされた私はそのまま星になりました。

落下地点が海で良かったです。

今でもたまに夢に見るんですよ………今日は違いましたけど。

 

『じゃあ、何の脈絡もなく突然現れたサルにさらわれて危うく18禁な展開になりそうになった挙句、捕まえに来た飼育員さんに麻酔銃を誤射されて崖落ちした時の夢とか』

 

「それも外れです。ってか思い出させるな!」

 

あの時はわけがわからな過ぎてどうにかなりそうでした。

明日香さんや十代君たちと一緒に失踪した万城目君を探しに行ったと思ったら、出てきたのはデュエルディスク装備した謎のサル。

麻酔で朦朧としていたせいで動けなかった私をさらったサルを崖まで追い詰めた十代君が「俺が勝ったら人質(ゆうり)を解放しろ! 俺に勝てたらお前は自由だ!」とかなんとか叫んで決闘を始めて………決闘(デュエル)の衝撃で崖が崩れ私はそのまま海ポチャしたのでした、勝敗関係ないじゃん。

麻酔の影響を気力のみで克服し私が何とか陸に這いあがったとき事態はすでに大団円………あんな目にあったのに蚊帳の外って酷くないですか。

我ながらよく生きて帰れたものです。

 

というか、海に落ちすぎじゃないですかね私。

もはや様式美というか、ギャグアニメみたいな頻度で星になってる気がします。

 

『う~んこれも違ったか、ここ最近では間違いなく一番ダイ・ハードな体験だったはずなんだけど………それじゃヤンデレ後輩に誤解されてほうちょ』

 

「違う!」

 

早乙女さんとはあの後ちゃんと話し合って和解したんですから!

何より後腐れなくキッチリカイザー亮さんにフラれて失恋したからその話はもう終わったんです。

………終わりましたよね?

そういえば、最後に分かれた時の早乙女さんの十代君を見る目がちょっと桃色っぽかったような………そして十代君と話す私を見る目が少し………ちょっと不安になってきました。

 

『ああ~もう候補が多すぎるわ。参った降参! 遊理の勝ち』

 

「ひと欠片も嬉しくない………」

 

不幸なんていつもの事といえばそれまでなんですが、何度そんな目にあっても一向に慣れません。

というより希望を捨てきれないというか。

哀しきかな決闘者の性です。

くるわけない、くるはずがないと、どれだけ自分に言い聞かせてもカードを購入するのを止められないんですよね。

 

『なんかいつかギャンブルで身を滅ぼしそうな、いや、ある意味すでに滅ぼしかけてるのかな………で、正解は?』

 

「………サイコショッカーの件です」

 

『あ~あれか、そうそうあれも相当きつかったわねぇ』

 

しみじみ語るココロちゃん。

そう、あれはまだ冬休みに入る前のこと。

『デュエルモンスターズの精霊について何卒ご意見を!』とかなんとか叫びながら突然押し掛けてきた高寺君、向田君、井坂君の3人組。

自分たちをデュエルのオカルト面を研究する集まり『高寺オカルトブラザーズ』と自称し、大徳寺先生の錬金術授業で一番の理解を示し、決闘でも他の決闘者とはまるで違う異質なプレイングをする私をスカウトに来たのでした。

彼らは一方的に私を心酔して一方的に私の周りに集まり………気づけば私は彼らと一緒にサイコショッカーの精霊を呼び出す儀式をする流れに。

結果、悪霊の中の悪霊を呼び出すことに大成功してしまい、あわや私は自業自得で捕らわれの身になったのでした。

 

その後、いろいろあって十代君に助け出されるのですが、そもそも私は一体何処で何を間違えたんでしょうか。

手抜きは一切せず、保険だってちゃんと用意したのに。

 

『手抜きしなかったのが間違いなんじゃないかな。遊理はもう少し加減を知るべきだと思うわ。誰もあそこまで本格的な儀式やれなんて言ってなかったのに』

 

「………一理ありますね」

 

最後に加減したのはいつでしたっけ?

少しでも手を抜いたら転落するような低空飛行が当たり前になりすぎて力の抜き方なんてわからなくなってしまいました。

 

遠い目をしだした私に気を使ってか、話題を変えるココロちゃん。

 

『思えば、あれからだよね。遊理に悪魔とかそういうあだ名というか異名が付き始めたのは』

 

「あ~確かに。広がったのはあの一件からですね」

 

あの一件のせいで『私がオベリスクブルーの男子3人を生贄に悪魔を召喚しようとした』なんて真実と虚実の隙間を通すような微妙に絶妙な噂がアカデミアに蔓延した結果、待ち受けていたのはアカデミア中からの悪魔呼ばわりです。

格だけでいえば明日香さんの女王の異名に匹敵しなくもないかも………無理やりポジティブに解釈しようとしましたが無理でした。

その後、十代君たちの助けもあり何とか誤解は解けたんですが、それまでの学校生活は針の筵もいいところでしたし。

 

『誤解、誤解ねぇ………悪魔呼ばわりは別に誤解じゃないような気もするけど? あのタイタンとかいう自称闇の決闘者にも去り際に言われてたし』

 

「む、あれはちょっと羽目を外し過ぎたというか必死だったというか、それ以外に手がなかったというか………」

 

まあ、確かに一番最初に私を悪魔呼ばわりしたのはタイタンさんなんですけど。

あの時は悪魔(デーモン)使いが何を言っているのやらと呆れたものですが、今思えばそういわれてもしょうがないようなプレイングをしてたような………

 

『いや、ようなじゃなくてあの時の遊理は客観的に見ても十二分に悪魔的デュエルしてたわ』

 

何やら畏怖とも称賛とも取れないコメントをするココロちゃんに私は苦々しく笑うしかありませんでした。

あの後、結局どうしたんでしょうねタイタンさん。

3日どころか10分ほども粘ることなく捨て台詞残してデュエルを放棄しどこかにいってしまいましたけど。

その後は十代君曰く、デュエルで負かしたらいきなり『本物の魔法みたいに目の前から消えた』らしいですが………

 

「本物………かぁ」

 

『ん? 何か思うところでも?』

 

「いやね。クラスのみんなは今でも私の事よく悪魔呼ばわりするんですけど、それって本物の悪魔族の精霊なダーク・ネクロフィア(フィアちゃん)とかトーチ・ゴーレム(トーちゃん)とか心変わり(ココロちゃん)からすれば、ちょっとばかり失礼な話なんじゃないかなと。どうも、私こと暁遊理は悪魔であります! なんて名乗っちゃっていいものかどうか」

 

ちなみに私は悪魔以外にもいろんな呼ばれ方をしています。

 

『自爆神』とか『裏切られの魔女』とか『ルールブレイカー』とか。

 

自爆スイッチを多用して、事あるごとに自分のモンスターに攻撃され、デュエルのルールそのものに喧嘩売ってるようなプレイングをすることからついたあだ名なんですが………私としてはどれもこれも嬉しくないあだ名です。

女王とかカイザ―とまでは言いません、だけどこう、もっとポジティブな………

 

『うーん、どうなんだろ。もともとそういう種別は人間が勝手に決めた枠組みに過ぎないわけだし。ぶっちゃけ私達精霊からすれば、悪魔も天使も戦士も魔法使いも、強弱こそあれ皆等しくデュエルモンスターズの精霊でしかない………ってちょっと待ちなさい、今なんで私のことナチュラルに悪魔族扱いしたの?』

 

「なるほど。つまりは貴族も豪族も皇族も、暴走族も通勤族もひょうきん族も、生物学的にはみんな同じ人族、みたいなもんですかね?」

 

『そ、その例えはともかくとして、まあ間違ってはないかな………あ、私は天使族だからね?』

 

結局は、カードの属性も異名と変わらないのか。

精霊の世界もいざ蓋を開けてみればそんなもんなんですね。

 

『………あ、待って。例外があったわ』

 

「例外?」

 

『神』

 

ココロちゃんは、至極あっさりとその名を口にしました。

 

オシリス、ラー、オベリスクの三幻神。

 

この3体、いや3柱に関してだけは正真正銘本物の神なのだとか。

 

『ついでに教えとくわ遊理。デュエルアカデミアにも神がいるわよ』

 

「えぇ? そんなはずありません。だって………」

 

三幻神のカードはとっくの昔に紛失して………………。

 

「………まさか、三幻神以外にも神が?」

 

『うん、いる。感じるのよ。神気とか邪気とか瘴気とかそういう系の何かを。少なくとも神と同格かそれ以上にヤバい精霊がデュエルアカデミアのどこかにいるわ』

 

 

また、雷鳴が轟きました。

稲光に照らされて、闇の中を飛ぶ何かを見た気がしました。

 




こんな目に合っていても、上には上がいるんですよね(血界戦線を視聴しつつ)

そんなわけで、時系列をダイジェストで飛ばしつつ一気に七星王(セブンスターズ)編突入です。
遊理が決闘するところまでは割と早めに投稿できると思います。


Fate二次を書きたいとか言っておきながら(実際書くかどうかは未定)原作未プレイというのはいかがなものかと思ったので最近FGO始めました。
ガチャが渋いことで有名ですが、幸いながら遊理と違ってリアルラックにはそれなりに自信ありです。


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VSカミューラ編
11話


思ったより時間かかりました。
すみません。

今更ですが、遊理のキャラクターはもう1つのナルト二次の主人公と口調とかがいろいろかぶってしまっています。
ですので、なるべく向こうとは対極になるように設定しました。

天才ではなく凡才。
トラブルメイカーではなく巻き込まれ系で。
被虐的ではなくやや加虐気味に。
そして妹ではなく、姉。


「三幻魔のカード?」

 

「そうです。この島に封印されている(いにしえ)より伝わる3枚のカード」

 

デュエルアカデミア校長、マスター鮫島先生は酷く重々しい声色で語りました。

 

噂をすれば~とはこのことでしょうか。

まさかココロちゃんに話を聞いたその次の日に核心に迫ることになるとは。

 

午前中の授業が終わって昼休みに入ったすぐの事。

さあこれからお弁当、というまさにその瞬間いきなり校長室に呼び出されこの話を聞かされたのでした。

無論呼ばれたのは私だけではありません。

 

教師であるクロノス教諭。

帝王(カイザー)こと丸藤亮先輩と女王こと天上院明日香さんの、オベリスクブルーの二大頂点。

ラーイエロー屈指の頭脳派決闘者、三沢大地君。

最近、荒波にもまれて帰還し以前のお坊ちゃまからは一皮も二皮もむけたサンダー改め万城目君。

そして、オシリスレッド屈指の問題児にして麒麟児十代君。

 

そうそうたる顔ぶれ………校長のマスター鮫島先生も含めればデュエルアカデミアのベスト7と言っても過言ではないメンツです。

そんなのに混じって何故かいる私。

場違い感が凄まじいことになってます。

 

「間違い探しなノーネ、1人仲間はずれがおりまスーノ!」とはクロノス教諭のセリフでしたが、全く持ってその通りだと思います。

もちろん仲間外れは私です。

 

約束のため私が付きっ切りで勉強を見るようになった結果、座学も割といけるようになった十代君はもはやドロップアウトボーイとは呼べませんからね。

最近はカードに関する知識も増えて戦略や読みにキレが増してきていますし。

 

このペースなら、アカデミアを卒業するころにはミラクルフュージョンチェンジチャージミラクルフュージョンチェンジでアブゼロとアシッドを使い回しフィールドをズタボロにした挙句、思い出したようにダークロウ召喚して除外とサーチメタ、トドメに超融合喰らわせる悪夢のE・HEROデッキ使いに成長していることでしょう。

 

愉しみです。

 

『それ、もはやヒーローじゃなくて魔王もしくは覇王だよね?』

 

「(覇王十代………ありですね)」

 

『ないわ!』

 

まあ十代君の将来はそれはそれとして置いといてともかく今は三幻魔です。

 

校長曰く、そもそもこのデュエルアカデミアはそのカードが封印されている場所の上に建てられたのだとか。

古くからの伝説によれば、学園の地下深くに眠っている3枚のカードの封印が解け地上に放たれた時、世界は魔に包まれ混沌がすべてを覆い人々に巣くう闇が解放され、やがてこの世は破滅し無へと帰する。

それほどの力を秘めたカード………なのだそうです。

 

………さて、一体どこから突っ込めばいいやら。

 

(いくら神クラスの精霊とはいえ、世界を破滅させるなんてことが可能なのでしょうかココロちゃん)

 

『出来るか出来ないかって聞かれたら、ぶっちゃけた話不可能じゃないわ。本気になったら世界の1つや2つ滅ぼせるくらいの力を持った精霊は確かにいたし』

 

(マジですか………)

 

ヤバいヤバい三幻魔のカード超ヤバいです。

スケールが違いすぎます。

いや本当になんで私呼ばれたんでしょう?

場違い感がパないです。

 

「よくわかんないけど、なんだか凄そうなカードだなぁ」

 

「黙って聞いているノーネ!」

 

十代君は本当に大物になると思います。

 

「そのカードの封印を解こうと挑戦してきた者たちが現れたのです」

 

「いったい誰が?」

 

丸藤亮(カイザー)先輩の質問に鮫島校長先生はあくまで真剣な調子を崩さず応えました。

 

七星王(セブンスターズ)と呼ばれる7人の決闘者(デュエリスト)です」

 

「なんなんですかそのはた迷惑な連中は」

 

いくら常軌を逸したレアカードが跳梁跋扈するこの世界でも、世界そのもの以上に価値のあるカードなんてあるわけないのに。

いや、ひょっとして幻魔の危険性を理解していないという可能性もあるのかな?

 

『どうだろ? まあどちらにせよ、レアカードのためなら強盗や人殺しも辞さない連中も多々いる世の中ですから。カードのために世界を滅ぼす奴がいても不思議じゃないわね』

 

改めて恐ろしい世界です。

しかもそんな悪魔じみた人たちが七星王(セブンスターズ)とか微妙に格好いい二つ名で呼ばれているのが気に入りません。

善良な一般市民であるはずの私が魔女呼ばわりされているというのに何故………いったいどこで差がついたというのですか。

 

『善………良?』

 

 

 

校長の話はまだ続きます。

学園の地下の遺跡に封印されている三幻魔を開放するには、七星門と呼ばれる7つの巨大な石柱にそれぞれ対応している7つの鍵を差し込まなければならないそうで。

 

「これがその7つの鍵です。貴方たちにこの7つの鍵を守っていただきたい」

 

 

 

 

 

 

「そんなわけで、その7人の1人に俺、選ばれたんだ!」

 

「すごいや兄貴!」

 

「ふ~ん、でも俺は三幻魔のカードに興味があるんだな。一度見てみたいんだな」

 

「ああ、どんなすげえカードなんだろうなぁ?」

 

「うーん」

 

「どうした翔?」

 

「いや兄貴や兄さんが選ばれるのは納得ッスけど、あの遊理までってのがちょっと気になって」

 

「そうか? 俺は別に不思議じゃないと思うけどな」

 

「え~? でも彼女すっごい弱いし」

 

「確かにそこは否定できないけどさ。でもなぁ、もし俺がセブンスターズ? の側だったら、あいつだけは敵に回したくないな」

 

「そうなんスか?」

 

「ま、こればっかりは実際に戦ってみないと分からないだろうなぁ………それじゃ俺はもう寝るわ。果報は寝て待てってな。おやすみ~」

 

「………まだ9時半なんだな」

 

「もうすぐ、その遊理が勉強見に来る時間なのに………よっぽど苦手なんスね」

 

 

 

 

 

 

その日の夜。

私は一端オベリスクブルーの女子寮に帰り、その後オシリスレッドの十代君たちの部屋に向かっていました。

十代君との共同勉強会は未だ継続しているのです。

放っておいたらすぐサボりますからね、今もきっと寝ようとしているに違いありません。

 

「ねえ、校長先生の話、ココロちゃんはどう思います?」

 

道中、私はココロちゃんと改めて校長先生の話を反芻します。

周囲に人がいないのは確認済みです。

これを怠ると誰もいない場所でブツブツと独り言をつぶやく危ない人認定されてしまいますからね。

もうすでに手遅れっぽいのは気にしない。

 

『きな臭い、ってのが正直な感想かな』

 

やっぱり精霊(ココロちゃん)の視点からもそう感じましたか。

私は昼に受け取ったパズルのピースのような形状の鍵をもてあそびながらココロちゃんの感想に同意します。

 

校長先生の話を要約すると。

 

・学園の地下の遺跡に封印されている三幻魔のカードを七星王(セブンスターズ)なる連中が狙っている。

・三幻魔の封印を解くには7つの石柱『七星門』にそれぞれ対応した鍵を差し込まなければならない。

・鍵を手に入れるには決闘(デュエル)に勝たなければならない。

・この鍵を狙って七星王のうち1人が昨夜すでに学園に侵入している。

・そして7つの鍵の守り手として学園屈指の決闘者(デュエリスト)である、十代君、明日香さん、万城目君、三沢君、丸藤先輩、クロノス教諭、そして私が選ばれた。

 

『まず、鍵の守り手の人選が意味不明過ぎるわね。他の6人はともかくとしてなんで遊理なのよ』

 

「ですよね。数合わせでも実力的に考えて他にマシな人がいくらでもいるでしょうに」

 

『その事実を何の気負いもなく認めちゃうあたりはさすが遊理だよね』

 

「いくら弱くっても現実を直視するくらいはできます」

 

そもそも本当に世界の危機なら、何故学園は生徒を矢面に立たせるような真似をするのか。

普通は教師が、何よりも校長先生が出張る場面でしょうに。

にもかかわらず鍵を渡された教師はクロノス教諭ただ1人。

 

鍵を守るのになんでわざわざ決闘(デュエル)しなきゃならないのか金庫にでも放り込めばいいじゃんとか言う突っ込みは今更過ぎるのでスルーです。

そんな決闘者(デュエリスト)にあるまじき手段を用いようものならその瞬間に幻魔の怒りを買って世界が闇に呑まれることになるでしょう。

卑怯者(リアリスト)は人間からも精霊からも幸運からも嫌われる、古くからの言い伝え(ルール)、神々の定めたお約束とはそういうものです。

 

「単純な実力だけじゃない、何か別の選考基準がある? 校長先生や大徳寺先生、その他の教師はそれに合致しなかったから参戦したくてもできなかった?」

 

ひょっとしたら何かしらの圧力がかかったのかもしれません。

しかし学園トップである校長に圧力をかけられる存在なんて………

 

「わざわざ幻魔の封印の真上に学園を創設した理由も気になります。古の創設者たちは何故不発弾のそばに花火工場建てるようなことをしたのか」

 

かつて八百万の神々は天岩戸に閉じこもった天照大神を誘い出すために宴会を開いたといいます。

遺跡に閉じこもった幻魔の真上で決闘をするのは、封印を守るどころか逆に刺激することになってしまわないでしょうか。

場合によっては封印どころか逆に………逆?

 

「………陰謀のにおいがします。校長先生の話ぶりもどことなく伝聞系っぽかったし、実は学園理事長辺りがすべての黒幕だったりして」

 

『さ、さすがに飛躍しすぎじゃないかなぁ? ってか遊理ちょっとワクワクしてる?』

 

「………少しだけ」

 

こういう陰謀論は論じている間が一番楽しいんですよね。

幻魔がどんなカードなのかも見てみたいですし。

 

何より、戦うのは私だけじゃありませんしね。

私が負けても彼らがいるんですよ。

十代君やカイザーさんは最強なんです、誰にも負けるはずがありません。

 

………大いに油断していました。

 

 

 

「あれ、明日香さん? 明日香さんも十代君に何か用が………あれ、十代君の部屋が光って―――」

 

 

 

洗脳、人質、盗み見、誘拐。

七星王(セブンスターズ)が正々堂々とフェアプレイをしてくれる保証なんて何処にもないということを私はすっかり失念していました。

さらに言えば、実際に決闘(デュエル)するのが彼らでも、決闘(デュエル)の被害が彼らだけに留まるとは限らないということも。

 

 

 

「はっ!? ここどこ!?」

 

『アカデミアの火山だね……ってか遊理! 下! マグマ! 落ちてる!』

 

「っ!?」

 

―――次の瞬間、私は何の脈絡もなくいきなり火山上空にワープしてそのまま真っ逆さまに墜落しました。

 

 

 

 

 

 

「まさかあんな方法で殺しに来るとは………正直舐めていました。七星王(セブンスターズ)、恐るべき連中です………!」

 

『いや、さすがに遊理のあれは相手側も意図してなかったと思うんだけど?』

 

七星王(セブンスターズ)第一の刺客、ダークネス改め明日香さんのお兄さんである天上院吹雪先輩と十代君の闇の決闘(デュエル)が終わってしばらく経った、学園の保健室にて。

遊理は明日香さんと一緒に闇のゲームの反動でダウンした十代君と吹雪さんをお見舞いに来ていた。

 

「その………十代や兄さんも心配なんだけど。遊理は平気なの?」

 

明日香さんが心配そうに遊理にたずねる。

 

「大丈夫です。あの程度、実際に決闘(デュエル)した十代君たちに比べたらどうってことありません」

 

「そ、そう………」

 

いや、その理屈はオカシイ。

危うくマグマダイブしかけたのよ? なんでピンピンしてるのよ。

そりゃ確かに闇のゲームは危険だけど心変わり(わたし)からすれば、今回一番デンジャーな目にあってたのは間違いなく遊理だったと思うんだけど!?

 

本命の転移対象(十代君たち)からやや離れた位置で巻き込まれたのがまずかった。

その結果ワープ後の出現位置が微妙にずれて、火山上空に設置された光の足場の上に転移した十代君や明日香さんとは別に、遊理だけ何のとっかかりもない空中に放り出されてそのまま落っこちる羽目になった。

遊理の不運(ハードラック)はいつもの事だけど今度のこれは本気で肝が冷えたわ。

海なら何とかなる、だけど溶岩の海に落ちたら打たれ強さに定評のある遊理と言えどもさすがに死ぬ。

人質にされたとはいえまだ壁に守られていた翔君や隼人君がまだマシに見えるというあたり本当に笑えない。

 

だがそこはそれ、あらゆる修羅場(アンラッキー)を潜り抜けてきた我らが遊理は状況を即座に把握するや否や、脱いだ上着をパラシュートのように広げて落下速度と落下位置をコントロール、マグマにダイブする寸前で岩壁にデュエルディスクを杭みたいに打ち込んでしがみつくことで九死に一生を得ることに成功したのよ。

遊理が前世の記憶を持った転生者なのは知っていたけど、その前世って実は忍者か何かだったりしないかな。

 

「そりゃもうとっくの昔に痛感していることですから。ただカードゲームに強いだけではこの世界は生き残れない! って、今はそんなことよりも例のあの噂ですよ。なんか湖の近くで牙の生えた物凄い美女が現れたんですって! きっとその美女こそ次なる七星王(セブンスターズ)の刺客だと思うんですよ」

 

「そ、そうね。もう次の七星王(セブンスターズ)がこの島に来ているのね………十代も兄さんもまだ回復しきっていないというのに」

 

『………遊理も強くなったなぁ』

 

主に決闘(デュエル)と全く関係ないところが。

 

「本当にいつまでこんな哀しい決闘(デュエル)が続くのかしら」

 

「うん、もう死にかけるのは勘弁です」

 

『いや、遊理は七星王(セブンスターズ)とか闇のゲームとか全く関係なくいつも死ぬような目に合ってるような気が………ん?』

 

ふと、窓のふちに逆さまに止まっている蝙蝠と目が合った。

こんな日も高いうちから蝙蝠?

 

疑問に思っていると、蝙蝠は特に何をするでもなく目を逸らしてどこかに飛んで行った。

 

『なんだったのかしら?』

 

 

 

 

 

 

学園の湖に七星王(セブンスターズ)第2の刺客が現れた。

吸血鬼(ヴァンパイア)カミューラ。

自らを七星王(セブンスターズ)の貴婦人と称する妖艶な美女。

彼女はどうやってか湖の真ん中に堂々と己の居城を打ち建て、敗者はその魂を人形に封印されてしまうという闇の決闘(デュエル)を仕掛けてきた。

受けて立ったのはデュエルアカデミア実技担当最高責任者、クロノス教諭。

決闘(デュエル)とは本来、青少年に希望と光を与えるものであり、恐怖と闇をもたらすものではないノーネ!』と、ダメージをその身で受けながら最後の最後まで闇のゲームの存在を認めないと豪語し奮闘するクロノス教諭。

 

しかし、それでもカミューラにいっそ不自然といっていいくらいに手の内を読まれ続けた結果、惜しくも敗北、人形に魂を封印されてしまった。

 

そして―――

 

「まさか、クロノス先生に続いて亮まで………」

 

あまりの展開に明日香(わたし)は驚きを隠せない。

カイザーの異名を持つ亮はもとより、クロノス先生も実技最高責任者の肩書は伊達ではなかったはず。

そんなアカデミアの最強格がこうも立て続けに敗れるなんて。

 

カイザーの魂が封印された人形を手に高笑いしながら身体を霧に変えてその場から消えたカミューラは正真正銘本物の吸血鬼(ヴァンパイア)にしか思えなかった。

 

「お兄さん………」

 

絶望して崩れ落ちる翔君。

 

「………んだよ」

 

「兄貴?」

 

「なんなんだよこれって!! 決闘(デュエル)って楽しいはずのもんだろう? なのに何で翔が泣かなきゃいけないんだ! なんでカイザーがあんな目に合わなきゃいけないんだよ!」

 

「十代………」

 

周囲に響く十代の慟哭に私は沈痛な表情を浮かべることしかできない。

 

「俺は、こんな決闘(デュエル)をさせた奴らを許さない! 絶対勝って、奪われた皆の魂を取り戻して見せる! クソォ! 待ってろよカミューラ! 待ってろよ七星王(セブンスターズ)! 今度は俺が相手だ!!」

 

彼がここまで本気で怒っているのは初めて見た。

だけど、勇ましいセリフとは裏腹に顔には苦痛の表情が浮かんでいる。

まだダークネスとの闇の決闘(デュエル)のダメージが回復しきっていない。

 

「バカ言え、次は俺の番だ。怪我人は引っ込んでろ」

 

「いや、論理的に言って次は俺だ」

 

「………遊理?」

 

万城目君や三沢君など、集った面々が口々に義憤の声を上げる最中、遊理だけが終始無言で何かを考えていた。

何故だか凄く嫌な予感がした。

そしてその予感はすぐさま的中することとなる。

 

 

 

 

 

 

ダークネスに身体を乗っ取られ無理やり闇のゲームをさせられていた天上院吹雪(にいさん)がようやく意識を取り戻した。

 

兄さんは言う。

カミューラは闇のアイテムを用いた卑怯で卑劣な闇のゲームを仕掛けてくる。

それを破る方法はただ1つ、こちらも闇のアイテムを使うこと。

 

私はそれを信じるほかなかった。

もちろん、詳しい理屈などわからない。

だけど今、こうして目の前で起こっている現象は紛れもない事実である以上受け入れるしかない―――

 

 

「あ、遅かったですね皆さん」

 

「遊理!? 貴女どうしてそこに!?」

 

 

―――そう考えていたからこそ、湖を渡った先に待っていた目の前の光景が信じられなかった。

 

「あ~うん、言いたいことは分かりますよ。自分自身の役者不足具合は誰よりも私がよ~く理解していますとも」

 

憤る万城目君と三沢君を説得し、未だ本調子ではない十代をボートで運び、意を決してカミューラの居城に乗り込んだ矢先の出来事だった。

私たちが乗り込むよりも早く、遊理は単身城に赴いていたのだった。

 

何のために? なんて聞くまでもない。

遊理の腕に装着されたデュエルディスク、セットされたデッキ。

間違いなく、彼女は闘うつもりだった。

 

「おいおい、あいつ大丈夫かよ」

 

「無茶だ遊理! お前の力ではそいつには!」

 

「聞いて遊理! 実力の問題じゃなくて貴女では無理なの! カミューラの闇のアイテムに対抗するためには………!」

 

「闇のアイテムが必要、故にカミューラに対抗できるのは闇のアイテム所有者である十代君だけ。そうですよね?」

 

「っ!? 遊理なんで知って!?」

 

「いやはや、人生何が幸いするかわかりませんね。高寺君たちとのあのサバトモドキは決して無駄じゃなかった。お陰様で今や立派なオカルティストです」

 

「あ、暁さん………い、一体貴女はどこを目指しているのかニャ?………」

 

オカルトマニア、ですらないあたり本当に本格具合が伺えてなんか怖かった。

学園の錬金術講師、オカルトの第一人者であるはずの大徳寺先生ですら顔が引きつっている。

 

「そうだ。奴は俺じゃないとダメなんだ。だから………」

 

「だからこそですよ十代君。ここは私が闘うべき場面なんです」

 

「………!?」

 

逸る十代を遊理は慈愛に満ちた表情で静止した。

聞き分けのない生徒をいさめる教師のように、あるいは弟を見守る姉のように。

 

「無理しちゃダメですよ。十代君、まだ先の決闘(デュエル)のダメージが残っているでしょう?」

 

「っ!?」

 

遊理の言う通りだった。

確かに十代は未だ万全のコンディションとは言い難い状態にある。

本人は「こんなのもう治った!」って言っているけど、それが強がりでしかないことはずっと看病していた私が一番良く知っている。

 

「十代君が唯一無二の希望であるならば、猶の事今ここで決闘(デュエル)すべきではありません。じっくり休んで、英気を養って、万全の状態で挑むべきです」

 

「………それは、確かにその通りかもしれない。だけど!」

 

「大丈夫ですよ。確かに私は弱いですけど、時間稼ぎだけは得意なんですよ? それに弱いからこそいなくなっても戦力的には少しも痛くないってのもありますし」

 

「ちょっ!? 貴女まさか捨て駒になる気!?」

 

「さすがに無茶なんだな!」

 

「そんなこと許されることではない!」

 

「冗談ではない。俺は十代だから譲ったんだ。お前ごときに戦わせるくらいなら俺が………」

 

自分を犠牲にしようとする遊理に、その場にいた誰もが猛反発し………それを十代が制した。

 

「………十代?」

 

「………策はあるんだな?」

 

「はい」

 

「なら、いいや! ここはお前に譲ってやるぜ。でもな遊理! 時間を稼ぐのはいいけど、別に勝っちまっても構わないんだぜ? お前にはまだ俺の勉強に教えてもらう約束があるからな! 遠慮なくやっちまえ!」

 

「無論です。今日の私は一味違うんです。やってやりますよ!」

 

 

 

「なんで遊理を止めなかったんスか兄貴!?」

 

「………あいつもさ、弟がいるんだってさ」

 

「え?」

 

「前に勉強教えてもらったときに言ってたよ。あれで結構面倒見良かったりするんだぜ?」

 

「………それじゃあ、遊理は」

 

「俺のためってのもあるんだろうけど、それ以上にカミューラが許せなかったんだろうな」

 

己が生徒を守るために奮闘したクロノス先生を嘲笑い、(おとうと)を人質にして(あに)を嵌めたカミューラ。

遊理(あね)はそれを見てどう思っていたのか。

 

「俺も一応は兄貴だからな。弟分を守る兄貴分は強いんだぜ?」

 

 

 

 

 

 

「話はすんだかしら? 全くこんな寒い茶番を見せつけるなんて思わず怖気が走りましてよ?」

 

「いや~それはそれはお待たせしてしまいすみませんでした」

 

会敵して早々に侮蔑の視線を向けてくるカミューラに対して、遊理(わたし)は愛想笑いを浮かべながら謝罪の言葉を返しました。

紳士には紳士な、淑女には淑女な対応をするのが礼儀というものです。

カミューラさんにはこれで十分でしょう。

 

「………気に入らないわね。雑魚の癖に」

 

「奇遇ですね。実は私もなんです」

 

「言うじゃないの。その蛮勇を称えて可愛い人形にしてあげるわ。さあ、闇のゲームを始めるわよ」

 

「「決闘(デュエル)!」」

 

 

暁 遊理

LP 4000

 

カミューラ

LP 4000

 

 

『遊理、なんかいつになく本気?』

 

「(今度ばかりは頑張りますよ。いや、いつも頑張ってますけど、いつも以上に頑張るんです)」

 

私はデッキからカードを5枚ドローします。

十代君に言った通り、策は十分に練ってきました。

いつもいつでも引き分けたり負けたり引き分けたり有耶無耶にしたりしている私ですが(いやワザとではないんですよ?)、今回ばかりは負けられません。

 

問題はいかにして切り抜けるかです。

私はそんな風に考えつつも己の手札を見て………手札を見て凍り付いたように固まり、そして絶句。

 

『何凍り付いてるのよ? 手札事故なんていつもの事でしょうに。さてさて、今回の遊理の手札はどんなもんかな~。え~と、魔法(みどり)が2枚に、(むらさき)1枚、そしてモンスター(ちゃいろ)が2枚かぁ~、相変わらずモンスターがこな………いぃいいいいえええ!!???』

 

目玉が飛び出すんじゃないかってくらい驚いているココロちゃん。

しかもそれだけじゃありません。

 

手札2枚ある魔法カード、そのうちの1枚が………ごめんなさい十代君、明日香さん、皆、ココロちゃん。

勇ましく飛び出しておいてこんなこと言うのは非常に遺憾なのですが………

 

 

 

『初手……強欲の………壺………………だと?』

 

 

 

私、死ぬかもしれません。




「別に倒してしまっても構わんのだろう?」

「俺この戦いが終わったら………」

「この私にスリーセブン………嫌な予感がするな」

よし、フラグは立てた。
後は回収するだけです。


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