精霊の使い魔 (ちっぱい眼鏡っ娘が好き)
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プロローグ

茶色の作業着のツナギを着た男が、(くわ)え煙草で道を歩ている。

 

擦れ違う人たちは、その男の事を特に気にした様子も無く擦れ違って行く。

 

年の頃は、40代半ばも過ぎた頃だろうか。

 

男は、雑居ビルの前で立ち止まると空を見る。

 

《良い天気だなあぁ~。》

 

空を見て心の中で思う。

 

今は、9月半ば。

 

残暑の残る季節。

 

ズボンのポケットから携帯灰皿を取り出して。

 

(くわ)えていた煙草を入れて揉み消す。

 

そして男は、ビルの中に入っていくと、エレベーターのボタンを押してドアが開くと中に入り6階を押す。

 

エレベーターが止まり、廊下に出て右側に歩く。

 

十数歩の所で、左側のドアを開けて中に入る。

 

いや、入ろうとした。

 

そのまま黙って、ドアを閉めて部屋番を確認する。

 

601 と確認できた。

 

 

間違ってはいない。

 

男は大きく息を吸って吐き出す。

 

心の準備を整えて、再びドアノブに手を掛けて開く。

 

部屋の中には、男性4人と女性2人が居た。

 

「何か。 見えちゃいけない者が見えているくらいに身体の調子が悪いので。 このまま帰らせてもらいますね。」

 

右手で額を揉《も》み解《ほぐ》しながら言い。 ドアを閉めて退室しようとしたのだが。

 

芳乃(よしの)ちゃん。 現実逃避しちゃダメよぉ~。」

 

いつの間にか、男の右腕を自分の両手で抱きしめていた緑色の髪の女性が言う。

 

「諦めろ。 芳乃(よしの)・・・・。」

 

部屋の中の最奥の椅子に腰かけた中年男性が言う。

 

芳乃《よしの》は、部屋の中に視線を向け、もう1度見渡して。

 

何もかも諦めたような表情で部屋の中に入る。

 

「それで・・・。 なんで大精霊様が4人揃ってんですかね? 世界の破滅(ハルマゲドン)でも起こるのですかね?

 

どう考えても、厄介事しか浮かんでこないんですけどね。 大門(だいもん)さん。」

 

大門(だいもん)の前に立って言う芳乃(よしの)

 

「当たらずとも遠からずだ。」

 

「はぁ!?」

 

「あのな芳乃(よしの)。 魔王が降臨する。」

 

茶色の髪の男性が言う。

 

「はあぁ?」

 

「だから、魔王が現れると言っておるのだ。」

 

赤色の髪の男性。

 

「魔王? って?」

 

「だから、魔王だと言っているでしょう。」

 

緑の髪の女性。

 

「えっと・・・。 魔王? 魔の王と書いて魔王?」

 

「そう。その魔王よ。」

 

水色の髪の女性。

 

「どこに?」

 

「地球《ここ》にだ。」

 

大門。

 

事務所(ここ)に魔王が降臨?」

 

「違うわっ! 地球に魔王が降臨するんだよっ!」

 

赤色の髪の男性が怒鳴る様に言う。

 

「うるせえよっ! イフリートっ! 大体にして地球だぞ此処はっ!

 

なんで魔法世界(ファンタジー)の象徴みたいな魔王なんてのが降臨するんだよっ!」

 

「よく考えるのじゃ芳乃(よしの)よ。 我ら大精霊が居るんだぞ。

 

魔王や勇者が居ても不思議ではあるまいに。」

 

 

 

「十分不思議だわっ! 大体! あんたら、大精霊だけでも、俺の頭の中は許容(キャパ)オーバーなのに。

 

このうえに魔王とか訳わからんわっ!」

 

この場に居る、俺を除いた6人の内、4人は大精霊と呼ばれる存在。

 

赤色の髪の男性は、火の大精霊イフリート。

 

水色の髪の女性は、水の大精霊ローレライ。

 

茶色の髪の男性は、土の大精霊ベヒーモス。

 

緑色の髪の女性は、風の大精霊ジン。

 

黒髪の中年男性は、この事務所の所長の 大門(だいもん) (さとる)。 ロマンスグレーの似合う40歳。

 

もう一人の男性は、中嶋(なかじま) 紘一(こういち)。 イケメン28歳。

 

内閣特殊調査課 の室長だ。

 

「落ち着いてください。 七五三さん。」

 

中嶋君が、俺の名前を呼ぶ。

 

さて、ここで問題だ。

 

七五三 と書いて何て読む?

 

初見で当てれたら大したものだ。

 

「落ちつけれると思うかい!? 中島君! こいつらと知り合ってから。 俺が、どれだけ苦労させられてると思ってるんだ!」

 

4人を睨むように見る芳乃(よしの)

 

「何を言ってるのか。 私たちの能力(ちから)を存分に使っているだろうが。」

 

ベヒーモスは言う。

 

「そうそう。 水よ癒せっ! とか。 大地よ拘束せよっ! とか。

 

楽しそうに使ってるじゃないの。」

 

ローレライが言う。

 

「くっ!」

 

床に手と膝を着き、うなだれる芳乃(よしの)

 

七五三(しのしめ)さん。 黒歴史の1つや2つ。 誰でも持っているものですよ。」

 

そう言って、俺の肩に手を置き。 遠くを見つめるように中嶋君。

 

そう。 俺こと七五三(しのしめ) 芳乃(よしの) 当年50歳。

 

大精霊たちの使い魔である。

 

 



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邂逅

50のオッサン異世界に行く (完結済み)

ēエブリスタで公開中。良ければ読んでください


西暦 2020年 3月6日

 

めでたく、俺はリストラされた。

 

 

七五三(しのしめ) 芳乃(よしの) 50歳。 独身。

 

 

結婚歴無し。 家族も居ない。

 

天涯孤独と言えば聞こえは良いが。

 

ようは、ボッチ人生まっしぐら。

 

両親は、既に他界して居ない。

 

妹が居て結婚したのは知っているが。

 

正直、30年ほど顔すら合わせても居ない。

 

まぁ、だからと言って、特別逢いたいと言う訳では無い。

 

公園のベンチに腰かけてボーっとしていると。

 

目の前を小さな子供を連れた家族が通り過ぎて行く。

 

結婚願望が無かったわけではない。

 

相手がいなかったと聞かれれば居なかった訳でもない。

 

付き合った女性はいたし、結婚話も出た事も在った。

 

ただ、機会を逃した。と、言えば判るだろうか。

 

気が付いたら、40台を過ぎていて。

 

付き合っていた女性とも疎遠に為って居た。

 

ただ、それだけ。

 

50に為ろうと言う今でも、見かけは結構いけてる方だと思う。

 

なにせ、見かけだけは若く見られる。

 

手に持つ缶コーヒーを飲み干しベンチを立つ。

 

リストラされて、2週間ほどは何もせずに暮らしていた。

 

先程済ませた面接。

 

雑居ビルに在る小さな派遣会社。

 

人手不足なのか、何と即採用されてしまった。

 

まぁ、週明けからの出勤に為るので。

 

今日と明日は、何の用事もない。

 

駅に向かって歩いていると、小さな女の子が泣いているのが見えた。

 

年の頃は、幼稚園か小学生の低学年くらいだろう。

 

(そば)には、同じ年ごろの男の子が女の子を慰めている。

 

《迷子か?》

 

ふと、足を止めて、子供たちを見る。

 

子供が泣いているのに、通行人たちは誰も気に留めようとはしない。

 

まぁ、今の御時世(ごじせい)

 

下手に声をかけると、誘拐犯に不審者にロリコンとかと勘違いされて通報されかねない。

 

関わらないのが、一番なのだ。

 

しかし、派手な髪の色だ。

 

赤色に、緑色って・・・。

 

染めているんだろうけど。 ちと派手過ぎないか?

 

まぁ、人様の家庭に口を挟むのも間違っているかもしれないが。

 

 

「はあぁ・・・。」

 

大きく溜め息をつきながら頭を掻き、子供たちの方に向かって歩き出す。

 

「迷子になっちゃったのかな?」

 

子供たちに、視線を合わす様に腰を落として話しかける。

 

「うん。」

 

男の子方が、女の子を庇うように前に出て言う。

 

「そっか。 おじさんと、おまわりさんの所に行くかい?」

 

出来るだけ怯えさせないように優しい口調で聞く。

 

「お母さんがいい・・・。」

 

小さな声で、女の子が答える。

 

「そっか。 お母さん。 どこだろうねぇ。」

 

「わかんない・・・。」

 

目に涙を溜めながら答える少女。

 

「お名前は言えるかな?」

 

2人の子供に聞く。

 

「%&@*$ωλ」

 

「γ?@#%$&¥ν」

 

《あれ? 何て言った?》

 

そう、俺が思った瞬間だった。

 

目に見えているものから音と色が消えた。

 

いや、正確には。 俺と子供たち以外の景色の色が灰色一色になった。と、言った方が良いだろう。

 

そして、次に気が付いたのが。

 

人が居なくなっていた。

 

あれ程、多くの人たちが往来していたのに。

 

目の前の子供2人以外の人が全て消えていた。

 

 

「なんだ・・・。これ・・・。」

 

周囲を見渡すが、子供たち2人以外は誰も居ない。

 

 

更に、少し向こうには。 何かが見える。

 

 

いや、多分。 何が見えているのかは理解できている。

 

ただ、自分の思考が、それを拒否している。

 

「マジかよ・・・。」

 

向こう側に見えるのは、全身緑の色をした小さな鬼が見える。

 

和風に言えば小鬼に餓鬼。

 

西洋風なら、ゴブリンと言えばいいだろう。

 

それが、5匹。 こちらを見ている。

 

子供たちが、俺の身体の後ろに隠れて小さな手で服を握りしめる。

 

ゴクリ。っと、いつの間にか、口の中に溜まっていた唾を飲み込む。

 

「ギャギャギギ!」

 

少し大きめの小鬼(ゴブリン)が声を上げた。

 

すると、他の4匹は、腰にぶら下げていた短い剣を抜いて、こちらに近寄って来る。

 

等間隔に広がり、俺たちを包囲するかのように。

 

少しずつ、少しずつ。

 

此方へと間合いを詰めてくる。

 

右腕に女の子を。左腕には男の子を抱えて、一目散に逃げだす。

 

戦う? ぜってええぇ無理っ!

 

そして、走り始めて驚く!

 

両腕に子供を抱えて走っているのに、まるで一流のアスリートの如く物凄いスピードで走れているからだ。

 

余りの驚きに、目の前に壁が迫ってきているのに気付くのが遅れて。

 

「うおっ!」

 

咄嗟に、身体を反転させて、子供たちを守る様に背中から壁に激突。

 

「いったあ・・・・くない?」

 

壁にまともに激突したのに、思ってたよりも身体に痛みが伝わってこない。

 

益々混乱する思考。

 

だが、小鬼(ゴブリン)たちは走って俺たちの方に来ている。

 

慌てて、姿勢を戻して、小鬼(ゴブリン)どもから逃げようとする。

 

「おい。おっさん。」

 

男の声が聞こえた。

 

 



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許容範囲超えてるんですけど

 

声のした方に振り向けば。

 

全身真っ赤な男が立って居た。

 

揶揄《やゆ》ではない。

 

年の頃は、20台半ばと言った感じか。

 

髪の色、瞳の色、長袖のシャツ、ズボン、靴。

 

全てが赤い色で統一されている。

 

「パパ!!」

 

男の子が声を上げる。

 

「ママ!」

 

女の子も声を上げる。

 

男性の隣には、これまた緑色の髪に、緑の瞳。

 

緑の帽子に、緑色のワンピースに、緑色のサンダルを履いた、20台前半くらいの女性が立って居た。

 

両親の姿を見て、俺から飛び降りて両親の元に向かう子供たち。

 

「再会の感動中に悪いんだが。 早く逃げた方が良い! 化け物がコッチに向かってきてるっ!」

 

「心配いりませんわ。 ほら。」

 

母親の方が、小鬼《ゴブリン》を指さす。

 

そこには、1人の少女が小鬼《ゴブリン》を3匹倒していた。

 

手には木刀を持ち。

 

黒く長い髪を靡《なび》かせて、4匹目の小鬼《ゴブリン》を木刀で薙ぎ払った。

 

木刀なのに、小鬼《ゴブリン》の身体が上下に別れる。

 

血飛沫が舞い、少女のセーラー服に付着する。

 

顔にも数滴の血の跡が見れる。

 

少女の血ではない。 小鬼《ゴブリン》どもの返り血だ。

 

少女は最後に残った、大き目の小鬼《ゴブリン》を見る。

 

少女と大き目の小鬼《ゴブリン》までの距離は、およそ15メートルほど。

 

次の瞬間には、少女は大きめの小鬼《ゴブリン》の首を刎《は》ねていた。

 

時間にすれば、瞬《まばた》き1つ。

 

ブン。と木刀を一払いして、俺たちの方に近寄って来る少女。

 

「お怪我は?」

 

「ない。」

 

少女の言葉に父親が答える。

 

「良かった。」

 

そう言って、少女が笑顔を見せる。

 

その笑顔に、迂闊にも心臓の心拍数が上がってしまう。

 

それを自覚して、50にも為ろうと言うのに。 何を中学生くらいの年頃の女の子にトキメイているのだと自己嫌悪に。

 

「それで、こちらの方は?」

 

「知らん。」

 

子供たちの父親が、俺を見て言う。

 

「あ。えっと・・・。 七五三(しのしめ) と言います。

 

迷子に為ってた、その子たちを見つけて・・・。」

 

どう説明したらいいの分からずに、言葉を詰まらせる俺。

 

「私が聞いているのは、そう言う事ではありません。

 

何故、一般人の貴方が、この結界の中に入れているのですか?」

 

少女が睨みながら、俺に聞いてくる。

 

「・・・・・。 結界?」

 

一瞬。 漫画かアニメの見過ぎの痛い子なのかと思うが。

 

先程の小鬼《ゴブリン》の死体は、そこに目視できている。

 

軽く口の中で、自分の舌を噛んでみる。

 

普通に痛い。

 

おもむろに、少女たちから5歩離れて、上着の胸ポケットから煙草を取り出して火を点ける。

 

煙草の煙を肺の中に取り込んで吐き出す。

 

「スマン。 少し頭の中を整理させてくれ。 意味が分からん。」

 

そう言って、煙草を満喫して、今の状況から逃れる事にした。

 

 

 * * * * * * *

 

 

「・・・・と、言う訳です。」

 

煙草を吸い終わり呆けている所を。、父親の方に首根っこを掴まれて、少女たちの方に連れ戻される。

 

そこで、少女の話を聞かされる羽目になる。

 

少女の名は 姫宮《ひめみや》 十花《とうか》。

 

私立 聖桜花(おうか)学院の生徒で、歳は14歳の中学2年生。

 

身長は160くらいだろうか。

 

陰陽師で、姫宮《ひめみや》の舞姫らしい。

 

妖魔、妖怪、異世界の怪物。っと言った物を退治する存在だとか。

 

うん。まぁ、此処までは、100歩譲って、何とか許容内。

 

うん。 無理やりだが、許容内。

 

 

そして、子供たちの父親。

 

全身赤色の男性。

 

彼の名前は、イフリート。

 

精霊界での大精霊。

 

そして母親。

 

全身緑の女性。

 

彼女の名前はジン。

 

同じく、精霊界での大精霊。

 

そして、男の子が。 未来の精霊王《オベロン》の孝也《たかや》。

 

女の子の方が、未来の精霊女王《ティターニア》の美優紀《みゆき》。

 

勿論、地球での呼び方。

 

 

「あぁ、うん。 どうも、お手数をおかけしました。

 

ご両親にも会えたようなので、私はこれで。」

 

5人に向かって御辞儀をして、子供たちに向かって手を振り立ち去ろうとする。

 

「待て。 何処に行く気だ?」

 

おもむろに、父親《イフリート》に首根っこを掴まれる

 

「自分の家に帰ろうかと?」

 

「私達の秘密を知っておいて。 帰れると思っているのですか?」

 

「いや! 待って! 俺から聞いたわけじゃないよね!? 勝手に自分たちで喋ったんだよね!?

 

それに、仮に誰かに話しても。 俺の方が奇人扱いされるよね!? 精神病院紹介されちゃうよ!?」

 

「おじちゃん・・・・帰るの?」

 

精霊女王《ティターニア》の美優紀《みゆき》が泣きそうな顔で言う。

 

「うっ!」

 

子供大好きな俺としては、この表情は反則で在り。

 

「おじちゃん・・・。」

 

精霊王《オベロン》の孝也《たかや》が手を伸ばしてくる。

 

「まだ帰らないさ。」

 

孝也の頭を撫でて、同じように美優紀の頭も撫でる。

 

 

「それでは、結界を解いた後に。 私の家で話すと言う事で宜しいでしょうか?」

 

「そうしてくれ。」

 

十花《とうか》の言葉に、イフリートが返事を返す。

 



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姫宮

十花(とうか)が、ポケットの中から2枚の札を取り出す。

 

「浄化。」

 

十花《とうか》の言葉に反応し。 手に持つ1枚の紙が消えて十花(とうか)の服と顔に付いていた血が消える。

 

「解。」

 

残りの1枚の紙も消え。 次の瞬間には、灰色一色の景色から、色の有る景色に変わり。

 

多くの人が往来していた。

 

「こっちです。」

 

十花(とうか)に着いて行くと、黒色のワゴン車の前で止まる。

 

十花(とうか)は、車の後部座席のドアを開けて中に入るように促す。

 

全員が乗り込むのを確認して、十花(とうか)自身は助手席の方に乗り込む。

 

「実家の方へ。お願いします。」

 

「分かりました。」

 

運転手の男性は、短く返事をすると車を走らせる。

 

 

 * * * * * * *

 

 

移動中の車の中。

 

孝也と美優紀は芳乃(よしの)の膝の上で寝ていた。

 

芳乃(よしの)の服を、ギュっと握りしめて。

 

「よほど、貴方の事が気に入ったみたいですね。

 

母親のジンが、孝也と美優紀を見ながら言う。

 

「子供。 好きですから。」

 

優しい手つきで、孝也(たかや)と美優紀《みゆき》の頭を撫でる。

 

「ご結婚は?」

 

「残念ながら。 機会を逃してしまいまして。」

 

「そう。」

 

「それで。 お前は、一体何者なんだ?」

 

ジンと芳乃(よしの)の会話に割って入るイフリート。

 

「何者って言われても・・・。 ただの一般人ですが。」

 

戯言(たわごと)を言うな。 ただの一般人が、孝也と美優紀の姿を認識出るはずが無いだろう。」

 

「えっと・・・。 認識できるはずがない?

 

それって、普通は見えないって事ですか?」

 

「その通りだ。 孝也と美優紀には、普通の人間たちには見えないように結界を張っている。

 

2人を認識できるのは、姫宮の様な特殊な血筋の者か。

 

魔の者と契約を交わした者たちだけだ。」

 

そう言って、芳乃(よしの)を少しきつめの視線で睨むイフリート。

 

「イフリート。 少なくとも、魔の眷属では無いですよ。

 

なにせ、孝也と美優紀の加護が付いているのですから。」

 

2人の顔を見ながら言うジン。

 

「あの・・・加護って?」

 

「お前。 孝也と美優紀の真名《しんめい》を聞いただろ。」

 

「え? 真名(しんめい)?」

 

「孝也と美優紀の名前を聞いた時に、意味不明な言葉が聞こえませんでしたか?」

 

「あ・・・。 ああぁあ! 聞こえました。 言葉と言うよりも、何か音の様な物が?」

 

「それが、真名《しんめい》だ。

 

俺たち精霊の言葉は、人間には解釈できず。 意味の分からない音として認識される。」

 

「そして、私達が真名《しんめい》を明かすと言う事は。

 

その者に、命を預けると言う意味でもあるのです。」

 

ジンの言葉に、ポカンと為る芳乃(よしの)

 

「孝也と美優紀。 2人は、お前に命を預けたと言っても良い。」

 

「はっ?」

 

「その代わり。 お前は、孝也と美優紀の能力(チカラ)を使う事が出来る。

 

「へ?」

 

余りにも、突拍子の無い事柄に、思考が飛んで固まる芳乃(よしの)

 

「着きました。」

 

十花(とうか)が、芳乃《よしの》たちに伝える。

 

 

 * * * * * * *

 

 

着いて最初に驚いたのが。

 

家の大きさ。

 

もうね、どう口で説明すれば良いのか分からなくなく位にデカい。

 

何せ、玄関で靴を脱いで、目的の部屋に着くまでに歩いて10分・・・。

 

オカシイだろ。 この大きさは・・・。どこのダンジョンだよと言いたくなってしまう。

 

方向感覚には自信はあるが。 トイレに1人で行ったら確実に迷う自信がある。

 

 

孝也と美優紀は、俺の腕の中でスヤスヤ寝息を立てている。

 

途中で、女性の方2人が。 孝也と美優紀を起こさない様に俺から引き離してくれた。

 

そして、案内された部屋に入り。中を見渡す。

 

そう。見渡す。

 

おおよそ、50畳以上は在るのじゃないかと思われる部屋。

 

 

そして、何処に座れば良いのか迷っていると。

 

「こちらに。」

 

女性の方に言われて着いて行くと。

 

上座寄りの座布団の位置に案内される。

 

訂正する。

 

上座寄りでは無く。 上座の正面の位置だ・・・。

 

そして、右側にイフリート。

 

左側にジンが座る。

 

そして、目の前に茶を出される。

 

出された茶を、遠慮なく喉に流し込む。

 

適度な冷たさが気持ち良い。

 

「ふぅぅぅ。」

 

一気に飲み干して、息を吐き出す。

 

なにせ、緊張しっぱなしで。 喉がカラカラなんだ。

 

直ぐに替わりの茶が出てくる。

 

「ありがとうございます。」

 

茶を持ってきてくれた女性に礼を言う。

 

女性は軽く頭を下げて後ろに下がる。

 

時間的には10分ほどだろうか。

 

上座の席に、1人の男性が座る。

 

年の頃は40代半ばと言った所か。

 

威厳と風格を兼ね備えている。

 

「初めまして。 精霊の王と女王に祝福されし者よ。

 

私が姫宮(ひめみや)の現当主。 姫宮(ひめみや) 喜一《きいち》。」

 

そう言って、軽く頭を下げた。

 

 



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加護を受けし者

姫宮(ひめみや) 喜一(きいち)の左側に、十花(とうか)が座る。

 

「初めまして。 七五三(しのしめ) 芳乃(よしの)と言います。」

 

「志野締君。で良いかな?」

 

「あ~、多分。 しのしめって漢字違いしてると思いますので一応。

 

漢数字で、七五三(しちごさん)と書いて、七五三(しのしめ)です。」

 

「これはまた。 珍しい苗字だな。」

 

「よく言われます。」

 

「それでは。 改めて、七五三(しのしめ)君。

 

娘の十花(とうか)と、中嶋君からの報告も聞いているのだが。

 

君に聞きたい事が在る。」

 

「はい。」

 

「まずは。 こちらの中嶋君だが。」

 

そう言って、先ほどのワゴン車を運転していた運転手に目を配らせる。

 

「車の中で顔は合わしましたが。

 

私は、内閣特殊調査課に所属する、中嶋(なかじま) 紘一(こういち)と言います。」

 

そう言って、軽く礼をする。

 

「内閣特殊調査課とは。 現代日本に置いての。

 

心霊現象。 超常現象。 等と言った非現実的な事柄を秘密裏に調査して処理を行う機関です。

 

表立っての公表はしておりませんが。

 

その歴史は古く。 平安の時代から組織されていたと言われています。

 

が、事実は不明です。」

 

そう言って、にこりと笑う中嶋。

 

緊張感を出しておいて、気を抜きに来るとは。

 

なかなかに食えない人だ。

 

まぁ、国仕えの人が食われるようじゃ、それはそれで困るのだが。

 

「ぶっちゃけ。 内閣特殊調査課 なんで仰々(ぎょうぎょう)しい看板を出してますが。

 

つま弾きにされている部署と言った方が早いかもしれませんね。」

 

そう言って、肩を(すぼ)める中嶋。

 

「姫宮家の方たちとは、国を挟んでの共同戦線を構えさせて戴いております。

 

とは言いましても。 情報収集とバックアップが主な仕事ですが。」

 

「卑屈になるな。 中島君たちが裏で動いていてくれているから、我ら姫宮が表舞台に出ないで済んでいるんだ。

 

持ちつ持たれつ。 適材適所。 だろ。」

 

喜一が、中嶋を見ながら言う。

 

「それでは、改めて。 七五三(しのしめ)さん。

 

今までの情報を整理しますと。

 

貴方は、孝也くんと、美優紀ちゃんの姿を、宝橋駅に向かう途中で見かけて声を掛けたと。

 

間違いは在りませんか?」

 

「はい。 迷子かと思って声を掛けました。」

 

「そして、次に。

 

七五三(しのしめ)さんは、2人の名前を尋ねた。

 

その時に、2人の真名(しんめい)を聞いてしまった。」

 

「はい。 言葉と言うよりも。 音と言った方が良いでしょうか。

 

イフリートさんと、ジンさんから。 その意味を聞くまでは、私自身が理解しておりませんでした。」

 

「そうでしょうねぇ。

 

なにせ、私達も。 親御さんである大精霊さま達でも初めてなんですから・・・。」

 

その言葉に、思わずイフリートとジンの顔を見てしまう。

 

2人は、大きく頷いて見せた。

 

「元来。 我ら精霊と呼ばれる、精神世界(スピリチュアル)側の存在は。

 

産まれ出た瞬間に真名(しんめい)を授かる。

 

その真名(しんめい)は、自分以外に知られない様にするのが普通だ。

 

と、言うか。 真名(しんめい)を知られると言う事は。

 

自分の命を握らせている様なものだ。

 

真名(しんめい)を知られると。

 

真名(しんめい)を言った者の言葉には逆らえなくなる。」

 

そう言って、芳乃(よしの)の顔を見詰めるイフリート。

 

「ですが、幸いと言うべきか。

 

七五三(しのしめ)さんには、私たち精神世界(スピリチュアル)側の言葉は、人間には音として聞こえて伝わり。

 

孝也と美優紀の正確な真名(しんめい)は伝わっていないのが救いとも言ってもいいでしょう。」

 

ジンも芳乃(よしの)の顔を見て言う。

 

芳乃(よしの)は黙ったまま。

 

「しかし、理解していないとは言え。 真名(しんめい)を名乗った事で。

 

孝也と美優紀の加護が、コイツに宿ってしまった。」

 

「覚醒していないとは言え。

 

仮にも、精霊の王と女王の加護を受けてしまった七五三(しのしめ)さんは。

 

私たち、大精霊にも匹敵する能力(ちから)を持ってしまったとも言えます。」

 

イフリートと、ジンの言葉で。 芳乃(よしの)に視線が集中する。

 

「特に、変わった様子は・・・。」

 

無い。 と、言いかけて。

 

芳乃(よしの)は思い出す。

 

2人を抱きかかえて走った時の記憶を。

 

意識せずに、2人を抱いたまま難なく走った事を。

 

日頃から、身体を鍛えているのなら別だが。

 

生憎と、自分(よしの)は特に身体を鍛えている訳では無い。

 

お腹も出ているし、身体に張りも無く。

 

まさに、何処にでも居る おっさん そのものだ。

 

「意識せずに、あの身体能力だ。

 

きちんと、意識をして使いこなせるように為ったら。

 

それこそ、人間離れした動きも可能だ。」

 

「それに加えて。

 

私たち、大精霊の能力(ちから)も自由に使えるようになるでしょう。」

 

 

「・・・・。 俺、どうなるんでしょうか?」

 

 

 

「はい。 そこが、一番の問題点でして。

 

もう、言い作ろうが。 オブラートに言おうが。 遠回しに言っても仕方が無いので。 率直に言わせて貰います。

 

七五三(しのしめ)さんには、私たち内閣特殊調査課の監視下の元で、内閣特殊調査課で働いて貰う事に為ります。」

 

「はっ?」

 

中嶋さんの言葉に、間の抜けた声が出てしまう。

 

「先に言って置きますが。

 

七五三(しのしめ)さんには拒否権は在りません。

 

これは、決定事項です。

 

拒否すると言うなら。 姫宮(ひめみや)と大精霊たちが、命を懸けて貴方を消しにかかります。」

 

「物騒だな! おいっ!」

 

思わず突っ込む。

 

「冗談では在りませんからね。

 

能力(ちから)を制御して使いこなしだしたら。

 

七五三(しのしめ)さん1人で、世界を敵に回せる戦力に為ってしまうのですから。

 

そんな事に為らないように。

 

内閣特殊調査課の監視下の元で、大精霊様達と姫宮(ひめみや)の側で監視できる方が都合が良いのです。」

 

中嶋の説明に、返す言葉も無くなってしまう。

 

頭を抱えて転がり回りたい気分だ。

 

 

「拒否権は無いんだな・・・。」

 

「はい。 有りません。 人生を終わらせたいなら。 どうぞ、拒んでくださっても構いませんよ。」

 

笑顔で言う中嶋。

 

「・・・・・。」

 

「安心してください。 きちんと給料は出ますし。

 

休みも有ります。 有休も有りますし。

 

残業手当もつきますので。」

 

「給料って、いくらくらい?」

 

俺の言葉に、中嶋がツーっと寄って来る。

 

「これを。」

 

何か書かれた紙を置く。

 

書かれた内容を良く読む。

 

3度ほど見直す。

 

「宜しく、お願いしますっ!」

 



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新しい住居

「こんなものか。」

 

三日後。

 

部屋の中の荷物を纏め終わった俺は、迎えが来るのを待っていた。

 

姫宮(ひめみや)の家で、内閣特殊調査課で働く事と為った俺は。

 

内閣特殊調査課が用意した部屋に移り住む事に為った。

 

現在の、月4万8千円のボロアパートから。

 

内閣特殊調査課が用意した、郊外の一軒家に移り住む事に為る。

 

勿論。 家賃は無料(タダ)で、光熱費も無料(タダ)の上に家具付き。

 

なので、持って行くのは衣服と必要雑貨だけ。

 

いやぁ~、これで基本給が手取り35万で、別料金もあるとか夢みたいだわ。

 

少しして、ドアを叩く音が聞こえた。

 

「はいはぁ~い。 空いてますよぉ~。」

 

ドアを開けて入って来たのは中島君。

 

「荷物の方は、纏め終わったようですね。

 

それじゃ、荷物は業者に任せて。

 

私たちは、先に向かいましょうか。」

 

「了解!」

 

中島君が運転するワゴン車に乗って、一足先に郊外の家に向かう。

 

 

 * * * * * * *

 

 

「で・・・。 何で、姫宮(ひめみや)さんが居るのかな?」

 

そう。 家に着いたら。

 

何故か姫宮(ひめみや) 十花(とうか)さんが居るのだ。

 

「何故って。 私も一緒に住むからですが?」

 

「誰と?」

 

「貴方とです。」

 

「・・・・。」

 

「・・・・。」

 

おもむろに、中島君の方に向きなおす。

 

「中島君。 俺聞いてないよね?」

 

「はい。 急遽、決まったもので。」

 

「なんで、姫宮(ひめみや)さんなの?」

 

「そんなの決まってるじゃないですか。」

 

意外な事に、言葉を投げて来たのは十花(とうか)だった。

 

「万が一もに、貴方が暴走でもした時に。 力ずくで取り押さえられる者が、姫宮(ひめみや)の血に連なる者しかいないからですよ。」

 

バカなの貴方? と言わんばかりの表情で言う十花(とうか)

 

「うん。ごめん・・・。 俺が言いたのは、そう言うのじゃなくてさ。

 

姫宮(ひめみや)さん。 女性だよね。」

 

「失礼ですね。 成長期で、今から大きくなっていく予定です!」

 

「いや! まって! そう言う意味じゃないからっ!

 

おれ男! 姫宮(ひめみや)さん女! おk!?」

 

「だから何です?」

 

「だからっ! 俺は男で! 君は女性! ってこと!」

 

「で?」

 

「で? じゃないっ! 良いのかっ! 君は! 見知らぬ男と 一つ屋根の下に住むんだぞっ!?」

 

「正直言えば。 私だって、同い年の女性か。 もうちょっと格好いい男性の方が望ましいのですが。

 

生憎と、貴方と力勝負できるのは。

 

舞姫(まいひめ)の私か。 剣姫(けんひめ)苺花(まいか)。 もしくは、五天の人しか居なのですから。」

 

「だったら! その5点でも10点でも良いから!

 

その人たちに変わってもらえ!」

 

「無理です。

 

剣姫の苺花(まいか)は、現在内閣特殊調査課の依頼で北海道に行ってますし。

 

五天の人たちは、世界魔術協会(WMC)での任務で世界に散らばっています。

 

貴方を力でねじ伏せれる、手の空いている姫宮(ひめみや)は私しか居ないのですから。」

 

「それで良いのかっ!?」

 

「そうそう! 貴方と一緒に住む事で良い事もあるのです!

 

なんとっ! お見合いをしないで済む事に為るのですっ!

 

最近なにかと、お見合いをしろと父が(うるさ)かったので、正直それが救いと言えば救いですね。」

 

ニコリと笑顔で言う十花(とうか)

 

「見合いって・・・いくつだよ君・・・。」

 

「もうすぐ15歳ですよ。 来年から高校生です。」

 

嬉しそうに言う十花(とうか)

 

その笑顔に、またしても不覚にドキリとしてしまう。

 

「まぁ、安心してください。

 

例え下心を出して襲ってきても。

 

今の貴方なら、返り討ちに出来ますので。」

 

「安心できんわっ!」

 

と、まぁ。 こんな訳で。

 

姫宮 十花(とうか)と俺。

 

15歳の少女と、50歳のおっさんの同居生活が始まる事と為った。

 

 



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おっさん特訓する





 

十花(とうか)との、共同生活が始まって三週間が経つ。

 

結論から言おう。

 

俺は、十花(とうか)に指一本触れていない。

 

いや、 十花(とうか)どころか。

 

十花《とうか》の支配下の式神の紅葉(もみじ)にも勝てていない。

 

式神の紅葉(もみじ)。 見た目は10歳くらいの少年。

 

しかし、見た目に反して紅葉君。 めちゃくちゃ強いのだ。

 

最初こそ、その見た目に騙されて、舐めてるのか? っと、思ったのだが。

 

紅葉君と相対して、僅か三秒で、俺は地面に寝転がされていた。

 

「10秒くらいは頑張れると思ったのですが・・・。」

 

紅葉(もみじ)と対戦した時の、十花(とうか)の発した言葉がコレだった。

 

しかも、物凄く残念な物を見る目で。

 

 

まぁ、俺も。 この三週間で、かなりの成長はしている。

 

精霊の能力(ちから)の使い方や、(なま)りきった身体を鍛え直している。

 

そうそう。 紅葉(もみじ)君と手合わせした時に。

 

精霊の能力(ちから)を使おうとしたんだ。

 

十花(とうか)の作った異相空間(色の無い世界)の中で。

 

異相空間とは。 符術と魔術を組み合わせて作った結界の事で。

 

時間軸は同調させたままで。 空間軸だけを別の(ずらした)所(違う次元)に作って、現実の世界に被害を出ないようにする結界で。

 

発明元は、世界魔術士協会(WMC)の結界術らしい。

 

この世界魔術士協会とは魔術だけではなく。

 

要は、占星術、陰陽術、退魔師、魔術師、聖職者、仙人などと呼ばれる人たちの集まりの集団の総称の事で。

 

世界中から、優秀なその関連の人材が集まって、世界各地での人ならざる者どもと戦っているのだとか。

 

勿論、戦うだけじゃなく。 結界術の様に新たな術式の開発もしているのだとか。

 

そして、肝心の俺。

 

精霊の能力(ちから)を行使しようと、十花(とうか)の作った結界の中で精霊の能力(ちから)を発動させたのだが・・・。

 

結果。

 

火の大精霊の能力(イフリートのちから)を制御しきれずに。

 

危うく結界ごと壊しそうになって、大惨事一歩手前と言う所で。

 

十花(とうか)紅葉(もみじ)君と2人掛かりで、俺の意識を刈り取って何とか無事故で終わらせてくれたと言う結末に・・・。

 

意識を取り戻してから、十花(とうか)に延々と説教されたのは言うまでもない。

 

15歳の少女に説教される、50のおっさんの立場って・・・。

 

まぁ。 そんなこんなで三週間。

 

大精霊とはいかないものの、下級精霊(サラマンダー)の能力《ちから》は何とか制御できるようになっていた(少しだけだが)。

 

紅葉(もみじ)君とも、10分ほどならやり合える様になった(手加減されて)。

 

 

因みに能力(ちから)を制御と言っているが。

 

大精霊たちから言わせると、精霊の能力(ちから)を制御して使っているのではなく。

 

精霊たちから能力(ちから)を分けて貰って使わせて貰っている。

 

と、言うのが正しいらしい。

 

そもそもにして。

 

物質世界(マテリアルサイド)と、精神世界(スピリチュアルサイド)では。

 

精神世界(スピリチュアルサイド)の方が高位に存在しており。

 

物質世界(マテリアルサイド)の方が下位に為るらしい。

 

なので、漫画や小説やアニメ等でよく使われる言葉。

 

精霊使い(エレメンタラー)

 

と言うのは間違いであって。

 

人間が精霊を使役するのではなく。

 

精霊の能力(ちから)を、人間が使わせて貰う。

 

と、言うのが正しい見解らしい。

 

よって、精霊使い(エレメンタラー)ではなく。

 

精霊の使い魔(エレメンタルファミリア)。 と呼ばれる方が正解だとか。

 

そして、俺の正直な感想。

 

どっちでも良いよ。

 

 



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初仕事






 

「お早う御座います。」

 

ドアを開けて中に入る。

 

「おはよう。七五三(しのしめ)くん。」

 

大門《だいもん》さんが挨拶を返してくる。

 

 

ここは、家から歩いて10分の所に在る雑居ビルの601号室。

 

表向きは、小さな興信所を(よそお)っているが。

 

このビルその物が、内閣特殊調査課の所有物なので。多少の問題が起きても対処する事が出来る。

 

まぁ、興信所と言っても。 実際の所は、依頼など来る筈も無く。 毎日が開店休業状態。

 

なら何故、こんな所に居るのだと言われれば。

 

世間体の問題だ。

 

家に居るだけだと、世間体が悪いとの事なので。

 

それだけの理由の為に、近場のビルを買い取って世間体を繕う。

 

税金の無駄使いだろっ! っと突っ込みを入れたくなるが。

 

他の階層は、ちゃんとした営業をしているので見逃してほしい。

 

「訓練の方はどうかね?」

 

大門さんが尋ねてくる。

 

「自分では、前よりはマシになっていると思っていますが。」

 

「そうか。 なら簡単な仕事でもやってみるかい?」

 

「僕だけで。ですか?」

 

「そうだよ。」

 

笑顔で答える大門さん。

 

大門(だいもん) (さとる)。 40歳。 妻子持ち。

 

俺よりも年下だけど、顔と貫禄だけなら、俺の方が年下に見える。

 

中島君の部下の1人で、元は他の部署で働いていたのだけど。

 

と或る事情で、部署異動で中島君の元に。

 

「もちろん。 姫宮(ひめみや)と大精霊の許可は得ているよ。」

 

当然だな。

 

まだまだ、ヒヨッコの駆け出しも良い所なのだから。

 

「なら、お願いします。」

 

俺の返事を聞くと、1枚の紙を差し出してくる。

 

「それが、仕事内容です。」

 

内容を読むと、こんな感じだった。

 

市内に在る、取り壊し予定のビルに捕り憑いてしまっている低級霊の浄化もしくは除霊。

 

浄化と除霊の違いだが。

 

浄化は説得、もしくは納得して貰って成仏して貰う事。

 

除霊とは、力業(ちからわざ)で無理やり成仏させる事(昇天とも言う)。

 

「無理だと思ったら、すぐに逃げてくるようにね。」

 

「判っています。 無茶も無理も、するつもりは無いので安心してください。」

 

「ほんと、君が年配の方で助かったよ。

 

若いと、無茶、無理、無謀、無鉄砲が多くて困るからね。」

 

俺の言葉に、クスリと笑う大門さん。

 

 

 * * * * * * *

 

 

問題のビルに入る。

 

ビルの大きさは10階建て。

 

広さ的には、横10メートル。縦20メートルと言った感じ。

 

周囲には、内閣特殊調査課の人や、姫宮(ひめみや)の非戦闘関連の人達が人払いをしてくれている。

 

何でもかんでも、自分1人で動いているとは思うな。

 

周囲で戦うこと以外で動いてくれて居る人たちが居るからこそ、戦闘する者たちも安心して戦えると言うものだ。

 

まぁ、安心して戦うと言うこと事態が変な話と言えば変なのだけど・・・。

 

胸のポケットから1枚の符を取り出す。

 

「結界術。 解。」

 

俺の言葉に反応して符が消えて、ビル全体を霊的地場が覆う。

 

これは、異相結界とは違い。

 

霊的地場で周囲を覆い、霊的な力を遮断してくれる結界。

 

これで、ビルの敷地内で霊的な力を行使しても、ビルの外には被害が出ないように為る。

 

との事。

 

実際に使用するのは、今日が初めて。

 

「おーい。 俺の声が聞こえているか?」

 

1人、ビルの中で立って大声で叫ぶ。

 

孝也と美優紀の加護を持った事で。

 

俺の言葉には、霊的な働きが在るとの事。

 

つまり俺は。

 

幽霊とか亡霊とかの存在に、直接的に話す事が出来るようになった。

 

「誰?」

 

俺の言葉に反応して、白い靄の様な物が目の前に現れる。

 

声からして女性のように感じるが。

 

「初めまして。 俺は七五三(しのしめ)と言う者だ。

 

国からの依頼で、君に成仏して貰いに来た。」

 

出来るだけ威嚇に為らないように言う。

 

「成仏って言われてもねぇ・・・。

 

わたし自体が、何で成仏できないのか分からないのよねぇ・・・。」

 

白い靄は、人の姿に為り。

 

そして、その姿が白のワンピースを着た女性だと分かるようになる。

 

その姿は、ちゃんとした人間の女性の姿をしていた。

 

漫画やアニメみたいに、足が無いなんてことは無く。

 

普通に足もついている。

 

違う所と言えば、足が地面に着いて居ないと言う事だ。

 

正直、話の通じる相手《霊》で助かった。

 

問答無用で襲ってくる霊が多いらしいので。

 

 



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捕り憑かれる?

 

「君が、此処に居ると。 ビルの解体が出来なくて困るんだ。

 

僕としても、出来るだけ穏便に済ませたいのだけど。」

 

「そう言われてもねぇ・・・。」

 

困ったような表情に在る女性の霊。

 

「僕の能力(ちから)で、無理やり成仏させる事もできるけど?」

 

「う~ん。」

 

悩む女性の霊。

 

「あなた、変わってるわね? 私の様な物が、貴方の側には一杯いる。」

 

どうやら、女性の霊には。

 

俺の周囲に居る、下級精霊たちの存在が見えるようだ。

 

「ちょっと訳アリで、僕は精霊たちと仲良くなってね。

 

その、お陰で。 こうして、君のような存在と会話が出来るようになったんだ。」

 

「そう。」

 

「で。 どうする?」

 

「ん~。 自分で成仏出来ないし。

 

何が未練で成仏できないのかも判らない。

 

かと言って、貴方に無理やり成仏させられるのも何か嫌だし・・・。

 

どうしたら良いと思います?」

 

質問してるのに、質問で返されちゃったよ。

 

「大体。 なんで、私は死んじゃったの?」

 

「さあ? 俺も、依頼を受けて来ただけだし。」

 

微妙な空気が漂う。

 

「・・・・・・。」

 

「・・・・・・。」

 

お互いが無言のまま、数十秒の時が流れる。

 

「えっ! そんな事が出来るんですか!?」

 

唐突に、女性の霊が声を上げる。

 

「どうかしたのか?」

 

「あっ! はい! 実はですね。

 

その貴方の側に居る緑の子の話だと。」

 

緑の子? あぁ、風の下級精霊のシルフだな。

 

「貴方に捕り憑けば問題ないって言われたんです。」

 

「は?」

 

「何でも、私の存在って、精霊寄りに近い存在らしく。

 

地に縛られるのでは無くて。

 

貴方に縛られれば、私は貴方に憑いて行く事が出来るって。」

 

「そうなの?」

 

俺の側に浮いている、シルフに尋ねると頷いて肯定している。

 

「どうする?」

 

「ご迷惑でなければ、捕り憑かせて貰っても良いでしょうか?」

 

精霊たちが納得しているのなら。 俺に害意は無いだろう。

 

何せ、精霊たちは。 俺に害意が有る者に対しては容赦しない。

 

俺に害が在る=精霊の、王と女王にも害が及ぶ。と、言う思考が精霊たち全員の思考と言っても良い。

 

もし仮に。 捕り憑いている途中で、俺に害意が芽生えた瞬間。

 

精霊たちは容赦なく、この女性の霊を除霊するだろう。

 

いや、除霊などと言う優しさなどない。 駆除だ。

 

「俺は、別に構わないが。」

 

「それでは、遠慮なく。」

 

女性の霊が、地の縛りから解かれて。 俺への縛りに。

 

「なんか、落ち着かねえ・・・。」

 

何せ、等身大の女性の霊が、俺の横に居るのだ。

 

「なら。 これでは?」

 

そう言うが否や。 女性の霊が小さくなる。

 

その大きさは、まるで下級精霊たちの様に、5センチほどの大きさに。

 

「うん。まぁ、これなら?」

 

「それでは、宜しくお願いします。 ええと・・・。」

 

七五三(しのしめ)だ。 漢数字の七五三と書いて七五三(しのしめ)

 

七五三(しのしめ) 芳乃《よしの》。」

 

「宜しくお願いします。 七五三(しのしめ)さん。

 

わたしは・・・・。」

 

女性の霊が、言葉を詰まらせる。

 

「名前を、お思いだせないのですが・・・。」

 

「そっか・・・。」

 

またも、沈黙の数十秒が。

 

「名前。 付けてくれませんか?」

 

「良いのか?」

 

「余り酷いのは辞めてくださいね。」

 

にこりと、笑顔を向ける女性の霊。

 

「んじゃ、女性の霊さなんで。 レイさんで。」

 

「安直ですねぇ・・・・。」

 

「嫌なら、自分で考えてください。」

 

「いえ。 レイで良いです。」

 

「んじゃ、宜しく。レイさん。」

 

「宜しくです。 七五三(しのしめ)さん。」

 

こうして、俺は。 レイに捕り憑かれた。

 

 



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おっさん困る

 

依頼を終えた事を、大門さんに電話で連絡を入れて自宅に帰る事を伝える。

 

事後処理は内閣特殊調査課の方がしてくれるので、俺は自宅に帰る事にする。

 

家に戻ってドアを開けると、玄関には姫宮(ひめみや)の靴が在るので帰宅しているのが分かる。

 

「ただいまぁ。」

 

そう言って靴を脱ぎ、自分の部屋に戻ろうとした時に、リビングに居る姫宮(ひめみや)と目が合う。

 

「お帰り・・・。」

 

言葉が途中で止まる姫宮(ひめみや)

 

そのまま、自分の部屋に行こうとすると。

 

姫宮(ひめみや)に後ろ襟を掴まれる。

 

「ぐぇ!」

 

変な声が出てしまう。

 

「ちょ! いきなり何をするんですかね?」

 

「貴方こそ、何をシレっと部屋に行こうとしているのですか?」

 

「ああ、依頼を無事に終わらせたよ。」

 

「そうですか。 それは、おめでとう御座います。」

 

「んじゃ。そう言う事で。」

 

「だから! 待ちなさい!」

 

再び、姫宮(ひめみや)に襟首をつかまれた。

 

「だから! なんなの!?」

 

「だから、何をシレっと部屋に行こうとしているのですか!」

 

「仕事を済ませて、今から報告書を纏めないといけないんですが!?」

 

「それは分かります! 仕事なんですから!」

 

「だったら、部屋に行かせてくださいませんか!?」

 

「その前に、私に言う事があるでしょう!」

 

「なにを?」

 

「ソレは何ですか! ソレは!?」

 

と言って。 俺の肩の辺りを指さす。

 

「俺に、取り憑(・・・)いてる、霊のレイさん。」

 

俺の言葉に合わせて、レイさんが礼をする。

 

「そうですか。 霊のレイさんですか。

 

じゃなくて! なんで! そんな物を憑けているのか説明しなさい説明をっ!」

 

仕方が無いので、リビングに戻って、姫宮(ひめみや)に説明をする。

 

 

 

「はぁ・・・。 非常識にも程があります・・・・。」

 

いや、姫宮(ひめみや)に言われたくない。

 

非常識が、服を着て歩ているような人物なのだから。

 

「一応、言って置きますが。 レイさん。

 

くれぐれも、七五三(しのしめ)さんに害意を持たない様にしてくださいね。

 

万が一にも、七五三(しのしめ)さんに害意を持ったり、働いたりした場合は。

 

精霊たちが、貴方を駆除しに掛かりますので。」

 

「はい。 その事は、シーちゃんからも聞いて理解してます。」

 

等身大の大きさに戻り、俺の横に座ったレイさんが言う。

 

「シーちゃん?」

 

レイさんの言葉に、思わず言葉に出してしまう俺。

 

「はい。 シルフの精霊のシーちゃんです。」

 

嬉しそうに言うレイさん。

 

「理解しているのなら結構です。

 

七五三(しのしめ)さん。 くれぐれも、彼女に変な事はしないようにしてくださいね。」

 

「変な事って・・・。 君の中での俺は、どういった人物像なのかな?」

 

「理解不可能な人。」

 

「酷くねっ!?」

 

「貴方の存在そのものが。 既に、私たちの理解を超えているのですから。

 

当然と言えば当然でしょうに。」

 

「いや、僕からしたら。 姫宮(ひめみや)たちの方が理解できない存在だからねっ!」

 

「精霊の王と女王の真名(しんめい)を聞いた。 などと言う七五三(しのしめ)さんに言われたくは有りませんっ!」

 

「あの~。 ちょっと、宜しいでしょうかぁ~?」

 

俺と、姫宮(ひめみや)の会話に、レイさんが割り込んでくる。

 

「ええ。 どうぞ。」

 

姫宮(ひめみや)が言う。

 

「お二人の、関係を聞いても?」

 

「「仕事上での関係です。」」

 

声が揃ってしまった。

 

思わず、お互いの顔を見てしまう。

 

「仲が良いのですねぇ~。」

 

「「誰がっ!?」」

 

また、ハモった。

 

 

と、まあ。

 

なんとか、姫宮(ひめみや)の許可を得て。

 

自分の部屋に戻って、パソコンを開いて、報告書を纏めて、中嶋君にメールで送る。

 

「ふう。 終わったぁ~~。」

 

「お疲れ様です。」

 

レイさんが(ねぎら)いの言葉をくれる。

 

「ありがと。」

 

素直に返事を返し、カップに残っていた冷めたコーヒーを喉に流し込む。

 

 

そして。 そのまま、1階に降りてトイレに入る。

 

用を足そうとして、自分の息子を取り出そうとすると、息子が元気にコンニチワしている。

 

疲れマラと言う奴だ。

 

「大きいですねぇ~。」

 

と、声が聞こえる。

 

ふと、横を見れば。 レイさんが、俺の元気に為った息子を凝視している。

 

えっ!? っと思いつつも。 一度、出だすと、止められないもので。

 

そのまま、レイさんに見られた状態で用を済ます。

 

ここで慌てて息子をしまおうとすると、チャックに皮を挟みかねない。

 

レイさんと言えば、何やら小声でブツブツと。

 

ブルルっと息子を揺らして露を払い。 息子をそっとしまう。

 

「あっ・・・。」

 

何やらレイさんが、小さな声を上げる。

 

手を洗って2階に向かい。

 

自分の部屋では無く、姫宮(ひめみや)の部屋の前でドアを叩く。

 

「なに?」

 

姫宮(ひめみや)が顔を出す。

 

「助けてください!」

 

ドアの前で、俺は姫宮(ひめみや)に向かって土下座をする。

 

 



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おっさん、頼みごとをする

 

 

姫宮(ひめみや)に事情を説明して、家の中に霊的地場を施す結界をして貰う。

 

この結界の中なら、レイさんは、俺の側を離れる事が出来る。

 

流石に幽霊とは言え、トイレや風呂の中まで御一緒は遠慮させて貰いたい。

 

着替え程度なら、見られていても平気で着替えるが。

 

いくら50歳の初老の域に入ってるとは言え、他人に見慣れながらの排泄や風呂に入る性癖は俺に備わっては居ない。

 

「レイさん。 私の部屋には入れないようにしているからね。」

 

「あっ!はい!」

 

俺の部屋にも。 っと、頼もうとしたら。

 

七五三(しのしめ)さんに捕り憑いてるのに、七五三(しのしめ)さんと離れたら意味が無いでしょう。」

 

と。先手を打たれてしまった。

 

どうやら、俺はプライバシーと言う物を失くしてしまったらしい。

 

「あの、自己処理する時は言ってくださいね。 離れていますので。」

 

レイさんが、恥ずかしそうに言う。

 

「・・・・・・。」

 

しねえよっ! などとは言える訳も無く。 どう返事を返して良いか分からずに無言を貫く。

 

姫宮(ひめみや)には、何か汚物を見るような目で見られたが・・・。

 

 

 * * * * * * *

 

 

明けて翌日。

 

事務所に行って、昨日の件を大門さんに説明する。

 

「それは、災難?だったのかな?」

 

微妙な表情で、大門さんが言う。

 

そして、レイと言えば。

 

お盆の上にカップを乗せて、俺たちの所にコーヒーを持ってくる。

 

「・・・・・。」

 

その光景を、大門さんが無言で見ている。

 

昨日まで、レイは物に触る事は出来なかった。

 

しかし。 しかしだ。

 

寝て起きて目が覚めたら、何故かレイは物に触れる事が出来るように為って居た。

 

「マジックか、何かを見ているような気分だ。」

 

目を揉み(ほぐ)しながら言う大門さん。

 

大門さんには、レイの姿は見えていない。

 

内閣特殊調査課の過半数以上の職員は、霊的な能力(ちから)を持っていない。

 

と、言うか。 霊的な能力(ちから)など持っている方が珍しい。

 

大門から見れば、お盆が宙に浮かんで動いていると感じる。

 

「まぁ、彼女の事は、こちらでも調べてみよう。」

 

「お手数を掛けます。」

 

大門に向かって頭を下げる。

 

レイも頭を下げているが、大門には見えていない。

 

「なに、君の身柄は国の方でも最重要人物指定扱いだからね。

 

その、お願いを無下に断る訳にもいかんさ。」

 

まるで危険人物扱いだが、あながち間違ってもいないんだなコレが。

 

今はまだ、精霊の能力(ちから)を使いこなせていないが。

 

姫宮(ひめみや)や、内閣特殊調査課は勿論の事。

 

世界魔術士協会(WMC)でも、俺の事は【最重要監視対象人物】として登録されているらしい。

 

精霊の王と女王の能力(ちから)とは、それ程に危険であり有用でも或る。 との事。

 

危険人物とみなされたら、世界魔術士協会(WMC)が総がかりで俺の事を消しに来る。

 

「なんか、色々とスイマセン。」

 

深く頭を下げる俺。

 

「気にするな。 君ほどじゃない。」

 

大人な対応で返してくれる大門さん。

 

 



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おっさん、困って土下座する





 

依頼を終えた事を、大門さんに電話で連絡を入れて自宅に帰る事を伝える。

 

事後処理は内閣特殊調査課の方がしてくれるので、俺は自宅に帰る事にする。

 

家に戻ってドアを開けると、玄関には姫宮(ひめみや)の靴が在るので帰宅しているのが分かる。

 

「ただいまぁ。」

 

そう言って靴を脱ぎ、自分の部屋に戻ろうとした時に、リビングに居る姫宮(ひめみや)と目が合う。

 

「お帰り・・・。」

 

言葉が途中で止まる姫宮(ひめみや)

 

そのまま、自分の部屋に行こうとすると。

 

姫宮(ひめみや)に後ろ襟を掴まれる。

 

「ぐぇ!」

 

変な声が出てしまう。

 

「ちょ! いきなり何をするんですかね?」

 

「貴方こそ、何をシレっと部屋に行こうとしているのですか?」

 

「ああ、依頼を無事に終わらせたよ。」

 

「そうですか。 それは、おめでとう御座います。」

 

「んじゃ。そう言う事で。」

 

「だから! 待ちなさい!」

 

再び、姫宮(ひめみや)に襟首をつかまれた。

 

「だから! なんなの!?」

 

「だから、何をシレっと部屋に行こうとしているのですか!」

 

「仕事を済ませて、今から報告書を纏めないといけないんですが!?」

 

「それは分かります! 仕事なんですから!」

 

「だったら、部屋に行かせてくださいませんか!?」

 

「その前に、私に言う事があるでしょう!」

 

「なにを?」

 

「ソレは何ですか! ソレは!?」

 

と言って。 俺の肩の辺りを指さす。

 

「俺に、取り憑(・・・)いてる、霊のレイさん。」

 

俺の言葉に合わせて、レイさんが礼をする。

 

「そうですか。 霊のレイさんですか。

 

じゃなくて! なんで! そんな物を憑けているのか説明しなさい説明をっ!」

 

仕方が無いので、リビングに戻って、姫宮(ひめみや)に説明をする。

 

 

 

「はぁ・・・。 非常識にも程があります・・・・。」

 

いや、姫宮(ひめみや)に言われたくない。

 

非常識が、服を着て歩ているような人物なのだから。

 

「一応、言って置きますが。 レイさん。

 

くれぐれも、七五三(しのしめ)さんに害意を持たない様にしてくださいね。

 

万が一にも、七五三(しのしめ)さんに害意を持ったり、働いたりした場合は。

 

精霊たちが、貴方を駆除しに掛かりますので。」

 

「はい。 その事は、シーちゃんからも聞いて理解してます。」

 

等身大の大きさに戻り、俺の横に座ったレイさんが言う。

 

「シーちゃん?」

 

レイさんの言葉に、思わず言葉に出してしまう俺。

 

「はい。 シルフの精霊のシーちゃんです。」

 

嬉しそうに言うレイさん。

 

「理解しているのなら結構です。

 

七五三(しのしめ)さん。 くれぐれも、彼女に変な事はしないようにしてくださいね。」

 

「変な事って・・・。 君の中での俺は、どういった人物像なのかな?」

 

「理解不可能な人。」

 

「酷くねっ!?」

 

「貴方の存在そのものが。 既に、私たちの理解を超えているのですから。

 

当然と言えば当然でしょうに。」

 

「いや、僕からしたら。 姫宮(ひめみや)たちの方が理解できない存在だからねっ!」

 

「精霊の王と女王の真名(しんめい)を聞いた。 などと言う七五三(しのしめ)さんに言われたくは有りませんっ!」

 

「あの~。 ちょっと、宜しいでしょうかぁ~?」

 

俺と、姫宮(ひめみや)の会話に、レイさんが割り込んでくる。

 

「ええ。 どうぞ。」

 

姫宮(ひめみや)が言う。

 

「お二人の、関係を聞いても?」

 

「「仕事上での関係です。」」

 

声が揃ってしまった。

 

思わず、お互いの顔を見てしまう。

 

「仲が良いのですねぇ~。」

 

「「誰がっ!?」」

 

また、ハモった。

 

 

と、まあ。

 

なんとか、姫宮(ひめみや)の許可を得て。

 

自分の部屋に戻って、パソコンを開いて、報告書を纏めて、中嶋君にメールで送る。

 

「ふう。 終わったぁ~~。」

 

「お疲れ様です。」

 

レイさんが(ねぎら)いの言葉をくれる。

 

「ありがと。」

 

素直に返事を返し、カップに残っていた冷めたコーヒーを喉に流し込む。

 

 

そして。 そのまま、1階に降りてトイレに入る。

 

用を足そうとして、自分の息子を取り出そうとすると、息子が元気にコンニチワしている。

 

疲れマラと言う奴だ。

 

「大きいですねぇ~。」

 

と、声が聞こえる。

 

ふと、横を見れば。 レイさんが、俺の元気に為った息子を凝視している。

 

えっ!? っと思いつつも。 一度、出だすと、止められないもので。

 

そのまま、レイさんに見られた状態で用を済ます。

 

ここで慌てて息子をしまおうとすると、チャックに皮を挟みかねない。

 

レイさんと言えば、何やら小声でブツブツと。

 

ブルルっと息子を揺らして露を払い。 息子をそっとしまう。

 

「あっ・・・。」

 

何やらレイさんが、小さな声を上げる。

 

手を洗って2階に向かい。

 

自分の部屋では無く、姫宮(ひめみや)の部屋の前でドアを叩く。

 

「なに?」

 

姫宮(ひめみや)が顔を出す。

 

「助けてください!」

 

ドアの前で、俺は姫宮(ひめみや)に向かって土下座をする。

 

 



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おっさん自覚する





 

 

「風よ 切り裂け。」

 

俺の言葉に合わせて、イメージを精霊たちが読み取って力を貸してくれる。

 

風の刃が、目の前の小鬼(ゴブリン)を上下に分ける。

 

風の刃は、目の前の小鬼(ゴブリン)だけに留まらず、後方に居た5匹の小鬼(ゴブリン)を切り裂いた。

 

「水よ 氷と為れ。」

 

地面を氷が覆い、複数の小鬼(ゴブリン)を巻き込んで小鬼(ゴブリン)の氷の彫像を作る。

 

「後ろっ!」

 

レイの言葉に反応して、咄嗟に前方に大きく飛び地面を転がる。

 

「唸れ 大地。」

 

大地が隆起して、俺を襲った豚人(オーク)が態勢を維持できなくなり転ぶ。

 

「火よ 焼き尽くせ。」

 

火柱が豚人(オーク)を包み込んで、骨も残さずに焼き尽くす。

 

 

豚人(オーク)を倒して周囲に目を這わせる。

 

少し離れた所では、姫宮(ひめみや)大鬼(オーガ)を相手に戦っている。

 

あの様子なら、加勢は必要ないだろうと判断する。

 

 

その判断は正しく。

 

姫宮(ひめみや)大鬼(オーガ)の首を、手に持つ木刀で切り刎ねる。

 

ズンッ。と大きな音を立てて、大鬼(オーガ)の巨体が地面に着く。

 

姫宮(ひめみや)が俺の方を見て、こちらに近づいて来る。

 

 

「大分マシに為ってきましたね。」

 

「そりゃ、どうも。」

 

「レイに助けられたのは見逃してあげます。」

 

一月半(ひとつきはん)で、此処まで成長したんだ。 多少の減点は勘弁してくれ。」

 

こちとら、戦闘どころか。 格闘技すらしていなかった一般人だぞ。

 

と、言いたくなるが。

 

「敵は勘弁してくれませんよ。」

 

「精進します・・・。」

 

姫宮(ひめみや)の言葉は正解で。

 

敵は、俺が未熟だろうと熟練だろうと関係なく襲ってくる。

 

自分の命が惜しければ、自分で自分の身を守るしかない。

 

 

 * * * * * * *

 

 

家に着いて、今まで疑問に思っていた事を姫宮(ひめみや)に尋ねる。

 

「なぁ、姫宮(ひめみや)

 

あの小鬼(ゴブリン)豚人(オーク)達って、どこから来てるんだ?」

 

「異世界ですよ。」

 

返って来たのは、トンデモ発言だった。

 

 

「は!? 異世界!? 在るのか!?」

 

「ええ、在りますよ。

 

じゃなければ、あの小鬼(ゴブリン)豚人(オーク)の説明がつきませんよ。」

 

異世界。 地球とは違う次元軸に存在する世界。

 

この次元軸が、時折屈折して、地球と異世界とを繋げてしまうらしい。

 

この時に、地球側から異世界に行ってしまい。

 

帰って来れなくなった人たちの事を、地球では神隠しと呼ばれている。

 

また、その逆もあり。

 

異世界から地球に来て、元の世界に帰れなくなった人たちも居る。

 

それが、姫宮(ひめみや)の一族や、世界中に居る魔術師たちの祖先でもある。

 

「魔術師って、結構いるんだな・・・。」

 

「はい。 一般的には知られていませんが。

 

それなりの数の魔術師は存在しますよ。

 

もっとも、漫画やアニメみたいに、都市を壊滅させるような殲滅魔法などと言う魔法は使用できませんけど。」

 

「それって。 やっぱり、アニメや漫画の様に、地球に魔力ってのが無いからか?」

 

「それも有りますが。 基本的に1人で使う事の出来る魔力なんて知れています。

 

私だって、その気に為れば周囲数十メートルくらいの範囲で術を行使できますが。

 

それを、都市規模で行使しろと言われれば無理です。」

 

「出来るのかよ・・・・。」

 

「そして、七五三(しのしめ)さん。

 

貴方に至っては、災害規模で能力(ちから)を行使するのが可能です。」

 

姫宮(ひめみや)の言葉に、俺は唖然として口が半開きになってしまう。

 

 

「今はまだ、下級の精霊の能力(ちから)しか行使できていないですが。

 

大精霊さまの能力(ちから)を行使できるように為れば、それこそ単騎で国を相手に出来ます。

 

ましてや、精霊王と精霊女王が覚醒し。

 

貴方が、その能力(ちから)を振るう事が出来れば。

 

それこそ、地球規模での現象が起こせるほどです。」

 

開いた口が塞がらないとは此の事で。

 

姫宮(ひめみや)の言葉に、俺は半開きの口が閉じれずにいた。

 

「そもそもにして。 下級精霊と言われている存在の精霊の能力(ちから)でさえ、私たち魔術師の熟練者の域なのです。

 

たった、一か月半足らずで、ただの一般人の貴方が。 何の取り柄もない貴方が。

 

此処まで能力(ちから)を振るえること自体が異常も異常。 大異常なのですよ。」

 

軽くディスられているが。

 

俺は、それどころじゃない。

 

思考が追い付いて来ていない。

 

多少の自覚は持っていたが。

 

まさかのまさか。 そこまで危ない存在に為って居るなど、誰が自覚できようか。

 

せいぜい、危ない力を持った奴。 くらいの認識だったんだよ。 今までは。

 

「お・・・俺は・・・。 そんなに危ない存在(もの)に為ってたのか?」

 

「はい。 端的に言えば。 地球の人口の9割を貴方は滅っする事が出来ます。」

 

姫宮(ひめみや)の言葉に、俺は視界が歪んで目の前が暗くなる。

 



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