ガンダムビギニングダイバーズ (カシュー)
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スタートとリスタート

Re:RISEを最終話まで通しで見た勢いで書きました。
処女作です。拙い文章かもしれませんが、楽しんでいただけると幸いです。


コントロールレバーを動かしながら、目の前に広がる仮想のフィールドを駆け回る。無機質なアラートと同時に周りに無数のビームが降り注ぐ。

 

「くっ……!!」

 

背後には巨大な4枚羽を持つ機体が姿を見せている。

クシャトリヤ…大量のファンネルを駆使して戦う機体である。

 

「距離を取るだけで勝てる相手ではないよな…一気に攻めるか!!」

 

俺が搭乗する機体はガンダムエクシア。7本の剣で戦う近接格闘用モビルスーツ。リーチは相手の方がある分こちらが不利だが、一気に接近すればなんとかなるだろうか…

機体に貯蔵されているGN粒子を一気に放出し、最高速度で接近する。相手は予想外だったのかファンネルのビームはあらぬ方向に発射された。

 

「これなら‼︎」

 

GNソードを展開し、巨大なバインダーユニットを切り裂く。対するクシャトリヤも反撃の胸部メガ粒子砲を発射するが、エクシアのその機動性でなんとか避ける。即座にショートソードとロングソードをクシャトリヤに胸部の発射口に突き刺し、さらにGNソードでコクピットを破壊する。

クシャトリヤは動きを止め、直後に『WINNER Takumi』の文字が表示される。

 

 

【ガンプラバトルネクサスオンライン】、通称【GBN】。ガンプラを読み込んで仮想空間で実際に乗り込んでいるかのように操作し、戦わせることが出来る、まさに夢のオンラインゲーム。

俺、『アオヤマ・タクミ』はそれに心を奪われ、夢中になってプレイしていた。

 

フリーバトルが終わってロビーに戻るとさっきの映像がモニターに表示されていた。

こうやって客観的に見るとまだ自分の操作には粗があるように思えてしまう。いや、実際には粗だらけだ。俺にもっと操作技術があればもっと早く決着がついていただろう。俺はまだまだ弱い。

 

「どっかのフォースに参加した方がもっと強くなれるのかな……?」

 

俺はフォース、所謂チームに所属をしていないソロダイバーだ。何か特別な理由があるわけではなく、ただ最初はソロでランクをあげて行こうと考えていたからだ。

 

「なあ、あれって……」

「ああ、【レイア】のガンダムF91キリアだよ……久々に見たけど、やっぱりカッケェな‼︎」

 

周りのダイバー達のザワつきを聞いて彼らの視線の先に目を向ける。どうやらさっきのバトルの映像は終わっており、純白のMS、【ガンダムF91キリア】が戦っている映像に切り替わっていた。。数か月前の映像だ。

レイアはここ一年で特に戦績を伸ばしていたフォースに所属していたダイバーで、フォース脱退後は、トップ10入りしている他のフォースにも勧誘されたという噂もある。

俺もその映像に釘付けになっており、映像が終わった頃には、もう午後8時を過ぎていた。

 

「やばいな、早く帰らないと閉め出される‼︎」

 

俺は急いでログアウトし、現実のGBN用ゴーグルを外す。いくつかの筐体が設置されたいる部屋から出ると、この模型店の店長が声をかけてきた。

 

「随分と熱中してたみたいだね!お母さん達が心配しないうちに帰らないとダメだよ?」

 

その手には俺のバトル映像が流れているスマホが握られていた。

 

「はい!すぐに帰ります‼︎」

 

笑顔でそう返すと俺は走って店を出ようとした。しかし、

 

「あら、その制服、うちの生徒じゃない」

 

店の出入り口で一人の女性と出会った。

 

「えっと、ホウジョウ先輩……これは、違うんです……」

 

【ホウジョウ・レイ】先輩、同じ高校の先輩で、生徒会に所属しており、少々真面目な性格から無愛想だと周りの人にはあまり慕われていないものの、学校一と噂されるその美貌から男子生徒からは高嶺の花として人気がある。そういう俺も彼女に憧れている。

なんとかごまかそうとするが、制服のままこの時間までGBNで遊んでいたことをうまくいかない。

 

「制服のままで外に出ていいのは8時までって校則がうちの学校にあるのを忘れたわけじゃないでしょうね?」

「いやいや、忘れてたわけじゃないんですけどね‥‥‥とっとりあえず、反省文なら明日書きますから‼︎」

 

俺は先輩を振り切ってとりあえず逃げた。

 

「あっ‼︎ちょっと待ちなさい‼︎」

 

なんとか先輩から逃げて、門限時間までに家につくことができたが、母さんには結構怒られてしまった。

 

 

 

翌日、学校でいつも通りの授業を終え、GBNにログインしようと学校を出ようとしたとき、同じクラスの女子に呼び止められる。クラス委員の【シノミヤ・カナ】だ。

 

「アオヤマ君、先生が至急職員室まで来るようにって…何かしたの?」

「あぁ、ありがとう。別に大した用事じゃないと思うけど」

 

多分昨日のことだろう。

軽くため息をついて職員室に向かった。

 

 

 

「確かに、この高校の校則は厳しいとは先生も思う。だがな、校則である以上は守るべきだとも思う。一応、反省文は原稿用紙一枚以上かけたらそのあと先生がなんとかするから、今度からは守れよ?」

 

そんな先生の説教が終わって、職員室を出るとホウジョウ先輩が職員室の前を通るところだった。

 

「アオヤマ君、お説教が終わったところかしら」

「ええ、そうっすね……そういえば、俺の名前知ってたんですね」

「あのお店の店長に聞いたのよ」

 

あの店長、顧客の個人情報はちゃんと保護しろよ‼︎

 

「そういうあなたこそ、私の名前は知っていたのね」

「えっ……まぁ、学校一の美人って噂になってる先輩なら名前ぐらい知ってますよ」

「あら、嬉しいこと言ってくれるのね」

 

……そういえば……

 

「先輩って昨日あの店にきてましたけど、何の用だったんですか?」

 

それを聞いて先輩は少しバツが悪そうな反応を見せる。

 

「……えーっと…あれは……」

 

先輩は少し黙り込んでしまう。

 

「……絶対笑わない……?」

 

先輩が小さい声で確認をとってくる。

 

「いや、笑わないと思いますけど…」

「……誰にも言わない……?」

「知られるとやばいことしてたんですか⁉︎」

 

先輩は顔を何度も横に振って否定する。そしてまた少し経った後、ゆっくり口を開いた。

 

「実は……私、ガンプラが趣味で……」

「まぁ、そんなところだとは思ってましたけど」

「それじゃあ、なんでわざわざ言わせたのかしら?」

 

先輩が俺をにらむ。

なんというか、話してみたらそれほど堅い感じがしないような、先輩の意外な一面を見たような気がする。

 

「わざわざ隠すことでもない気がしますけどね、俺もGBNにログインしてますし」

「いやいや、それは男子だからよ。女子がガンプラって色々言われかねないのよ……変な噂も立つし、『オタサーの姫』なんてあだ名もつけられるし、周りの女子からのあたりもひどくなるし……」

 

やけに具体的な被害妄想がどんどん出てくる。先輩の顔もひどいことになっている。

 

「いやもういいですよ‼︎誰にも言いませんから‼︎」

 

先輩をなんとか慰めた後、別の話にすり替えることにした。

 

「あっ、そういえば先輩はGBNはやってないんですか?良かったらこの後、俺と一緒にやりませんか?」

「やっていたけれど……私、あまり上手くないわよ?」

「大丈夫ですよ。上手くなくてもみんなでやる事が楽しいんですから」

 

先輩は少し考える仕草を取り、小さく独り言を言ってから承諾した。

 

「それじゃあやりましょうか」

「はい、筐体は昨日の店にあるんで、今から行きましょう!!」

 

少し楽しみになって急いで店に向かおうとする俺を先輩は引き止めた。

 

「その前に、反省文ね?」

 

その声はどこのなく圧を感じるものだった。

 

 

 

反省文が書き終わると、既に5時をすぎており、直ぐに模型店に向かった。

先輩は律儀に反省文を書き終わるのを待っていてくれたあたり、やはり無愛想には感じず、むしろ優しい人なのだと再確認した。

 

「俺、タクミって名前でログインするので、見つけたら話しかけてください」

「うん、わかった」

 

そう言って先輩は筐体に座り、慣れた手つきでログインを始める。

俺も待たせる訳には行かないため、急いでログインする。

 

 

 

いつものロビー、時間が時間だからかダイバーも少なくなってきていたが、正直誰が先輩なのか分からない。

そんな中、誰かに肩を叩かれる感覚を覚える。振り返ると長い銀髪の女性が立っていた。

彼女のことは知っている。この人は……昨日の映像で戦っていたソロダイバーのレイアだ。

 

「もしかして……先輩……なんですか…?」

「ええ、かっこいいでしょう?このドレス」

 

レイア…先輩は見せびらかすようにドレスを見せる。そんなことを言っているが未だ俺は混乱している。

 

「先輩ってあのレイアなんですか.....?!」

「あのってどのレイアかは分からないけど、私がレイアよ?」

「….トップソロランカーのどこが上手くないんですか……!!」

「まぁ、それは置いといて.....どうするの?どんなミッションにするの?」

 

しれっと話題をそらされたが、せっかくあのレイアと戦えるのならやはり……

 

「フリーバトルにしませんか?」

 

先輩と俺にどれほどの実力差があるのか、1番わかりやすいのは実際に戦うことだろう。

 

「ええ、もちろんいいわよ」

 

 

 

なんというか、いつものフリーバトルとは感じるプレッシャーが全く違う。やはり相手が先輩だからだろうか…

額からは汗が流れ、少し落ち着かない。

目の前にカタパルトが映る。左のモニターはカウントダウンを始めており、残り5秒を切っていた。

大きく深呼吸をして、大きく声を出す。

 

「タクミ…ガンダムエクシア、いきます!!」

 

カタパルトから、エクシアが発射され、その先の荒野が一面に広がる。そしてその先にいるのは、純白のガンダムF91キリアだ。

何度もログで見てきた機体。それが目の前にいる。

丁寧な塗装と細いスジ彫り、やはりかなり高い完成度だ。

だが、その機体が普通のF91と武装が変わらないのなら、対策はある程度できる。ヴェスバーと質量を持った残像。その2つを対処できるなら何とか勝つことが出来る。

牽制としてビームライフルを撃って接近する。キリアはなんともないように避け、ビームを撃ち返してくる。

間合いが近づいて俺はGNソードを展開し斬り付けようとする。しかし、F91キリアはそれを避けてエクシアの胴体に蹴りを入れる。

 

「なんであれを避けられるんだよ!!」

 

さらに追い討ちのヴェスバーを発射するが、俺はGN粒子の噴出で旋回して避ける。

 

『上手く避けたわね、タクミ君。でも、まだ動きが堅いんじゃないのかしら?』

 

通信から先輩の声が聞こえたあと、エクシアの左腕を掴まれ、ビームサーベルで切断される。このままGNソードで斬ろうとしたが、即座に避けられる。F91キリアはエクシアの射撃を避けながら岩を盾に隠れる。機動性が高いため、捕捉することすら難しい。

 

「一体どこに行った…?」

 

そう呟いた瞬間。GNビームライフルがF91キリアに撃ち抜かれる。

撃たれた方向にGNショートソードを投げるが、既にそこにはF91キリアの姿はない。

その直後さらに、右足をビームサーベルで切断され、エクシアのバランスがさらに悪くなる。

 

「リミッター解除無しでこの機動性かよ?!」

 

攻撃の手段も減らされ、最早勝つことは不可能とさえ思ってしまう。

 

「これが…トップソロランカーの実力……」

 

しかし、一矢報いることが出来ればもしくは…

F91キリアがビームサーベルを片手に接近してくる。俺はGNロングソードで迎え撃つが、綺麗に避けられ背後に回られる。そのまま背中を蹴られ、地面に叩きつけられる。追撃に対抗するために180度回転し、F91キリアを迎え撃つ。高速で接近したF91キリアはビームサーベルでエクシアを突き刺す…

 

「っ……!!まだだァ!!」

 

ことは出来なかった。エクシアが赤く光り、通常の数倍の速度で回避する。

 

『TRANS-AM…でも、その完成度じゃ…』

 

その通り。このエクシアのクオリティではTRANS-AMは起動しても数秒で過負荷で爆発する。だから、たった1秒だけ起動すればいい。その1秒で回避して反撃が出来ればそれでいいのだ。

エクシアはビームサーベルを引き抜き、反撃に転じる。しかし、俺の視線の端にF91キリアの姿があった。

 

「なっ?!」

 

目の前にいたはずのF91キリアは既に姿がなく、その代わりに何体ものF91キリアが画面に映る。だがそれは、さっきまでのF91キリアの姿とは違う。装甲が展開し、その隙間から赤く光るサイコフレームが露出している。F91キリアの真の姿、【ディバインモード】だ。ユニコーンガンダムのフルサイコフレームとNT-Dが搭載されており、F91のリミッター解除とユニコーンのNT-Dを合わせることで更に性能が向上するのだ。

 

「これが…F91キリアの質量を持った残像…?!」

 

レーダーは誤認のしすぎで使い物にならない。

全方向から何発もヴェスバーを撃たれ、エクシアの全身が破壊されていく。

エクシアが爆発を起こし、『WINNER Leia』が表示される。

 

 

 

「まさか、ディバインモードまで使うことになるとはね。少し侮っていたみたいね。でも、とても楽しかった……」

 

ロビーに戻り、先輩は微笑みながらフリーバトルの余韻に浸っていた。

 

「……先輩って、ワールドランキングでどれぐらいまで行ったんですか?」

「それほど細かくは覚えていないけれど、去年にトップ50ぐらいには行ったかしら」

 

単純に考えても先輩よりも強いダイバーが50人もいるということか……

 

「そろそろ、ログアウトしましょうか。楽しかったわよ、あなたとのフリーバトル」

「…先輩、次は絶対に勝ちますね」

 

それを聞いて先輩は挑発するような顔で微笑んだ。

 

「そう、楽しみにしてるわね」

 

そう答えて、先輩のアバターが消える。その後、俺もログアウトする。

 

 

 

VRゴーグルを外し時計を見ると6時半になる頃だった。別に校則違反でも門限ギリギリという訳では無いが先輩とは解散する雰囲気となっていた。

 

「アオヤマ君、明日もログインする予定はあるの?」

「多分すると思いますよ」

「そう…これ、私の連絡先…」

 

先輩はSNSのIDが書かれたメモを俺に渡した。

 

「それじゃあまた明日、学校でね?」

 

手を軽く振りながら先輩は帰っていく。

俺はそのまま模型店でガンプラを探す。

 

「店長〜!!なんかいいガンプラない?」

「随分と抽象的な質問だねぇ?!」

 

俺はもっと強くなる。そのために、このエクシアもより強いガンプラに改造しなくては……

 

 

 

この出会いはなんてことの無い出会いだ。でも、もしかしたら自分の運命を変えるものなのかもしれないと、心のどこかでそう思っていた。




基本的に週一ぐらいの感覚で投稿していく予定です。


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強敵との因縁

すいません、いろいろ書き足しているうちに投稿が少々遅れてしまいました。


先輩とのフリーバトルをした日の夜、俺は先輩にアドバイスを求めた。

 

『今回、戦ってみて改善した方がいいところとかありますかね?』

『動き自体は悪くなかったと思うけど、ガンプラの方の性能がまだ低く感じるわね』

『だとしたら、どんな感じでエクシアを改造したらいいでしょうか?』

『射撃精度を上げた方がいいかもしれないわね。今日の戦いも十分いい射撃をしていたと思うけど、接近戦をメインにしながら銃撃戦も視野に入れておいた方がいいと思うわ』

『だとしたら、ダブルオーセブンソードのGNソードIIブラスターとかがいいですかね?』

『確かにそれなら近接格闘能力も向上するでしょうからいいかもしれないわね。当然、それを両立させるために基本工作もしっかりしないといけないわよ』

『はい、色々御教授ありがとうございます』

『次は勝ってみせるのよね?期待してるわ』

 

そんなメッセージと「おやすみ」と書かれた猫のスタンプが送られる。こっちも「おやすみなさい」とメッセージを送り。エクシアの改造に取り組む。アドバイスで出てきた武器は今は持っていないため、他のジャンクパーツでエクシアのディテールアップを施し、他にも他のキットの武器を追加して、戦闘力の向上を目指す。

 

「下手に武器は付け過ぎないほうがいいか…とりあえず、シールドにリード線をつけて………」

 

改造が終わった頃には午前5時を過ぎていた。

 

 

 

完全な寝不足の状態で学校に向かったが、頭はガンプラの改造のことで頭がいっぱいだった。

教室に着いたが、正直眠い。

 

「どうした?あくびなんかしてさ」

 

後ろから男の声で話しかけられる。俺の友人である【シライ・カズミ】だ。彼もGBNに【カズ】という名前でダイバーをやっている。

 

「カズミか…いや、ちょっとガンプラの改造で寝不足でな…」

「ふ〜ん、それで?良いのは出来たのか?」

「まぁ、まだ手探りだな…明確なビジョンもないって感じ…」

「そっか、出来ることがあったら手を貸すぜ?」

「ありがとうな。そういえば、お前の方はどうなんだ?」

「昨日、ライトアーマーが完成して、次はアサルトアーマーを制作する予定……そうだ、今日GBN行かね?ライトアーマーのテストがしたいんだ」

「あ〜ごめん、今日先約があるんだ…」

「そっか、それは残念だな……………女か?」

 

カズミの声に殺意がこもる。

 

「………いやいや、そんなわけないだろ……」

 

当然のように嘘をついた。

 

「女なら紹介しろよ?」

「だから、彼女とかじゃないって…」

 

そんなくだらないことを言っていると、携帯が震える。一応、カズミに見られないように確認すると先輩、もといレイアからのメッセージだ。一応念の為に先輩からレイアという名前で登録させられたのだ。

 

『色々話したいこともあるし、昼ごはんを視聴覚室の隣の空き教室で一緒に食べましょう』

 

俺は昼飯は弁当だし問題は無いので快諾したが、女性と二人きりでご飯を食べるということも初めてであるため、結構緊張してしまう。

 

『それは良かったわ。昨日のエクシアを持ってきておくのよ?』

『なるほど、ガンプラ関係の話もするから食堂じゃないんですね』

『そういうこと。使用許可はどうにかしてとるから先に待っていてくれると嬉しいわ』

 

「了解しました!」というスタンプを送って、カズミとまた会話をする。

 

「お前は今日、GBNに行くのか?」

「あぁ、お前が来なくてもライトアーマーのテストはしたいしな」

「それっていつもの模型店で?」

「一番近いところがそこだからな」

 

不味いな…先輩がGBNをしているってバレるぞ……

 

「一応、先輩に言っておくか……」

 

俺は小さく呟いた。

 

 

 

四限目の授業が終わり、昼休みに入った。それまでの授業は眠さで正直身についてはいなかったが、なんとかなるだろう。とりあえず、俺は空き教室に向かった。

空き教室について、中に入ろうとしたとき、背後から声をかけられる。

 

「あら、今来たところだったみたいね」

「あっ、先輩。お疲れ様です」

 

声の主は先輩だった。どうやら許可を貰ってきたところのようだ。

 

「どうしたのかしら、中に入らないの?」

「あっ、いや、すぐ入ります」

 

先輩は、購買で買ったであろうパンを鞄から取り出し、口に運ぶ。

 

「そうだ、昨日のエクシア、少し見せてもらえるかしら?」

「あっはい、どうぞ。昨晩に少し改造したんですが…」

 

鞄からエクシアを取りだし、先輩に渡した。

 

「一晩でよくここまで作れたわね、塗装も綺麗ね」

「塗装は追加武装だけなんですが…」

「シールドの中にワイヤークローを仕込んで、背中にはソードインパルスのエクスカリバー…攻撃のバリエーションを増やしたわけね…いい改造だと思うわ」

「ありがとうございます……」

 

ここまで褒められると少し、照れくさい……

先輩も鞄の中からあるものを取り出す。

 

「これを君にあげるわ、君のために昨晩作っておいたのよ」

 

先輩が俺に取り出したものを手渡す。それはガンプラの武器だった。

 

「これって……昨日話してた……」

「ええ、GNソードIIブラスターを改造した、名付けて『GNブレードブラスター』。いいネーミングセンスでしょう?」

 

ネーミングセンスはどうであれ、GNブレードブラスターは流用パーツはあれど、クオリティはかなりの高さだった。

 

「これこそすごいクオリティじゃないですか!!これって昨日の相談の後に作ったんですか?」

「ちょっと……詰め寄り過ぎないで……近いってば……!!」

 

近づきすぎていた俺を、顔を赤らめた先輩は押して離そうとする。

 

「あっすいません……つい興奮して……」

「もう……そうだ、今日のGBNは何をするのかしら?」

「そうですね…今日は普通のミッションにします?」

「いいわね、最近はフリーバトルばっかりしていたから、気分転換にはちょうどいいわね」

「あっあと、昨日の店は多分うちの生徒が来ると思います」

「なんでそんなことが分かるのかしら?」

「いや、俺の友達が今日GBNにログインするって言ってたので…」

 

それを聞いて先輩は大きくため息をついた。

 

「今日はデパートのゲームセンターに行ってログインすることにするわ」

「それがいいと思います」

 

もうそれに関しては苦笑いするしか無かった。

 

「……せっかくならその友達とも一緒にミッションをするのはどうかしら?」

「えっいいんですか?!…ちょうどあいつも新作のガンプラのテストをしたいって言ってたからあいつはいいでしょうけど……」

「ええ、レイアの姿なら私って分からないでしょうし……それに、あなたの友達っていうのなら、バレても多分大丈夫でしょう?」

 

そう言う先輩はどこか嬉しそうな顔だった。

 

 

 

放課後になり、俺はいつもの模型店に、先輩はデパートへ向かった。デパートの方が高校から遠いため、きっと俺が先にログインすることになるだろう。

模型店に着いた時、ちょうどカズミと出会った。

ログインする準備をしながらカズミが話しかけてくる。

 

「なんだ、お前もGBNに来る予定だったのか」

「その先約もGBNでの先約だったんだよ」

「あぁ、そうだったのか」

「なんなら、会ってみるか?その人に、お前の話をしたら是非会ってみたいって言っててな?」

「そうなのか、俺は別にいいけど」

「それじゃあ、先にログインしておこう。少し遅れるみたいだし」

 

ログインし、いつものロビーで先輩を待っている間、カズに先輩のことを聞かれる。

 

「お前らは今日、何をするんだ?」

「適当にミッションにしようと思ってるんだが、カズがいいんだったら3人で行きたいと思ってたんだけど…」

「テストできるなら問題は無いぜ?」

「あぁ、それなら良かった。でも、テストならバトルがメインのミッションがいいよな」

「だったら、対戦ミッションとかがいいかな」

「だな、NPC相手よりダイバー相手の方がいいテストになる」

 

挑戦するミッションが決まったところでメッセージが届く。

 

「例の人、もう着いてるんだけど、どこにいるか分からないって」

「手を上げて振っとくから探してって言っといて」

「わかった」

 

先輩のメッセージに返信すると、すぐに先輩が手を振ってこちらに来る。ただ、昨日のドレス姿ではなく、勲章だらけの軍服を着ていた。

 

「ごめんなさい、遅れちゃって…」

「大丈夫ですよ、それほど待ってないですから」

「はじめまして、カズって言います」

 

カズが丁寧に頭を下げ、お辞儀をする。

 

「はじめまして、タクミ君から話は聞いていました。レイアっていいます。よろしくお願いしますね?」

「えっ?!本物のレイアさん?!えっと…ファンです……握手してください……」

「ええ、もちろんいいわよ」

 

先輩と握手をするカズは照れくさそうに頭を搔く。

 

「それで?なんのミッションにするかは決まった?」

「はい、対戦ミッションにしようと思います。3対3のバトルなら結構集まりそうですしね」

「いいわね、それじゃあ早速行きましょうか」

 

受付でミッションの参加を受理してもらい、ミッションのエリアへ向かう。

対戦ミッションは2人以上のダイバーが同じ人数の他のダイバーと対戦するというもので、フォースの所属などが関係なくチーム戦ができるという点で人気のあるミッションだ。

 

「それが最新作か?いい出来じゃないか!!」

「そういうお前のエクシアもなかなか悪くないじゃないか」

 

カタパルトから出撃する時、カズの【ジェイライン・ライトアーマー】が見える。ジェスタの各装甲を軽量化し、その代わりとしてスラスターを増加することで、機動性が向上させているようだ。武装もビームライフルとシールドというシンプルな構成だ。

 

「カズ…ジェイライン・ライトアーマー、出撃する!!」

「ガンダムF91キリア、レイア…出ます」

「タクミ…ガンダムエクシアカスタム、行きます!!」

 

3機のガンプラが出撃する。ミッションエリアは結構近くにあるようで、どうやら大阪の新世界に似たマップのようだ。

 

 

 

ミッションエリアに近づくと、既に相手のダイバー達のガンプラが立っているのが見える。グリムゲルデ、二機のレギンレイズの3機だ。それぞれトールギス、ヴァイエイト、メリクリウスをイメージしているようだ。

 

「エースとその支援機、スタンダードな構成ですね」

「……もしかして、あれって……」

「レイアさん?」

 

ミッションエリアに入ると【MISSION START】の文字が表示され、戦闘が始まる。

3機でビームライフルを連射するが、赤いレギンレイズがプラネイトディフェンサーを展開することでそれを防御する。

 

「だったら接近戦で!!」

 

エクシアのブレードブラスターで1基ずつプラネイトディフェンサーを破壊していくが、その隙にグリムゲルデが大型ランスを持って突撃してくる。

 

「させない……」

 

先輩のF91キリアがカバーに入ってくれた。そんなとき、

 

『貴様、まさかレイアか?』

 

グリムゲルデののパイロットからの通信が聞こえる。

 

「久しぶりね、こっちもあなただとは思わなかったわ」

 

先輩がその声に応える。俺は、先輩がグリムゲルデの相手を相手をしている間に赤いレギンレイズと戦うことにする。

 

「鉄血のオルフェンズの機体ならビームは効かないな、でもこれなら!!」

 

右手のブレードブラスターでレギンレイズの腕を切り裂き、左手に持ったエクスカリバーでコクピットを貫く。

 

「よし、こっちも!!」

 

青いレギンレイズは接近戦に弱いらしく、ジェイラインのダメージは入っていないものの、圧倒されている。

 

「カズ、これを使え!!」

「あぁ!!」

 

俺は、エクスカリバーをジェイラインに投げつける。それをジェイラインはつかみ、レギンレイズに突き刺す。

 

「後は、エースのみ…………え?」

 

先輩たちの方を向くと、F91キリアは片腕を失い、バックパックには大剣が突き刺さっている状態だった。

目を疑った。トップランカーである先輩が負けるはずがないと確信していたからだ。

 

『レイア……貴様、フォースを抜けて何をしていた?ずいぶんと弱くなったな』

 

グリムゲルデはF91キリアを何度も踏みつける。先輩は何も出来ないようだ。

 

 

「カズ、行くぞ」

「あっあぁ……」

 

カズもその様子に動揺しているようだったが、すぐに持ち直して、二人で加勢に入る。

 

『なんだ?あんな雑魚とつるんでいたのか……弱くなるわけだ』

「なんだと……?」

 

グリムゲルデがこちらを向き、高速で接近する。

 

「はっ速い!!」

 

カズがビームライフルを撃つが、グリムゲルデは何もないかのように接近する。

 

「こいつもナノラミネート装甲かよ!!」

 

ビーム兵器が主体であるジェイラインはグリムゲルデと相性が悪く、何もできずに大型ランスで貫かれる。

 

「カズ!!」

 

ジェイラインは動かなくなり、グリムゲルデはこちらを向く。

 

「雑魚どもが、これで終わりだ!!」

「くそ!!なめるな!!TRANS-AM!!」

 

エクシアが赤く光り、グリムゲルデの攻撃を避ける。

 

「これで!!」

『TRANS-AMを……読めていないとでも?』

 

ブレードブラスターでグリムゲルデを切り裂こうとしたが、それを読んでいたのか、グリムゲルデは避けた方向にキャノン砲を発射していた。

 

「な!?」

 

エクシアはその砲撃の直撃し、動きを止めてしまう。

 

『弱い、こんなのが俺の代わりだとでもいうのか……』

 

グリムゲルデのパイロットが訳の分からないことを言い出す。その隙に反撃に動こうとしたが、ランスを投げつけられて、右腕をつぶされる。

 

『消えろ、弱者は……』

 

グリムゲルデが改めてキャノン砲の狙いを定める。

 

「ディバインモード!!」

 

そのキャノン砲が発射される直前に目の前にF91キリアが現れて、壁になる。

 

「タクミ君、今よ!!」

 

俺はとっさにブレードブラスターを銃の形に変形させて狙いを定める。

それを見て、グリムゲルデはシールドを構える。

 

「いっけぇぇぇ!!」

 

ブレードブラスターから出たビームはグリムゲルデのシールドに直撃する。

 

『くっ!!なんだとっ!!』

 

シールドは破壊されたが、グリムゲルデ本体は大したダメージはない。

一方、エクシアはその武器の反動で、機体が所々崩壊する。

 

『武器の威力は申し分ないが、それ以外はまだまだだな。なぜレイアはこんなやつを……』

 

圧倒的…その言葉が頭をよぎる。昨日の先輩の時に感じなかったのは、その威圧感の違いだろうか。

そのまま、グリムゲルデの大剣でエクシアのコクピットが破壊され、【MISSION FAIL】の文字が表示される。

また負けたということを考えながら、ロビーに返されるのだった。

 

 

 

「レイアさん、あのダイバーと知り合いなんですか?」

 

その後、ロビーで先輩に詰め寄る。

 

「……彼は、私が前にいたフォースのメンバーだった人、名前はマサト」

「マサトっていや、【冷血の伯爵】って異名がついてるダイバーじゃ……」

「それについてはあまり知らないのだけれど、まぁ、優秀なダイバーであることは間違いないわね」

「なんか、揉めている感じでしたけど」

「そんな感じだったかしら、何もないから気にしないで」

 

先輩は作った笑顔でそう答えると、これ以上のことは言わなかった。あまり触れるべきことではないと判断し、俺とカズはこれ以上のことは聞かなかった。というより、聞けなかったのだ。

 

 

 

「あんまり、テストとしてはうまくいかなかったな」

「あぁ…俺も課題点ができたしな」

「まぁなんだ、俺たちはもっと強くなれるよ。負けたことはあまり気にすんなよ」

「あぁ、そうだな」

 

そんなことを帰り道にカズミと話しながら、俺は先輩のことをぼんやりと考えていた。



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もう一つのスタート

「ねぇ、アオヤマ君、聞きたいことがあるんだけど」

 

昼休み、弁当を食べようとしていた時、短い茶髪の少女に話しかけられる。クラス委員のシノミヤ・カナだ。

 

「どうした、シノミヤ?なんか用か?」

「いや、そのね?GBNって知ってるかなって思ってさ」

 

意外な人物から意外な言葉が出てきたため、少し固まってしまう。

 

「知ってるけど、なんでそんなことを?」

「GBNって確かガンプラを使って戦うことができるんだよね。それで、私にガンプラバトルを教えて欲しいの」

 

また、意外なことを言ってきた……

 

「別にいいんだけど、なんでまた…」

「うちの生徒会にホウジョウ先輩って人がいるのは知ってる?私、その先輩に憧れてるんだけど…その人がGBNをやってるみたいで、できれば私も戦ってみたいの」

「は?」

 

俺は再び固まってしまう。

なんで先輩のことを知ってるんだ?多分俺しか知らないことなのに……

 

「昨日、近くのデパートでそのゲームをやってる所を見かけて…」

 

シノミヤはスマホでその様子の写真を見せる。それは先輩が周りを警戒しながらGBNの筐体に座ろうとしている所だった。

 

「ガッツリ撮られてんじゃんか……」

 

俺は先輩に少々呆れながら呟く。

 

「それで、アオヤマ君がガンプラに詳しいって聞いてさ」

「あぁ、それでか……」

 

今日は別に予定はないしな……

 

「なんなら、今日の放課後にでも、ガンプラを買いに行くか?」

「いいの?予定とかない?」

「まぁ、どうせGBNにログインすることぐらいの予定だったし」

「それじゃあ、お言葉に甘えようかな」

「あと、先輩のことは他言しないでほしい」

「うん、わかった」

 

シノミヤは笑顔で答えた。

 

 

 

今日は先輩に呼び出されることはなかったので、カズミと一緒に昼食を食いながら、昨日の対戦ミッションの映像を見ていた。

 

「昨日、あの後マサトってダイバーについて調べてたんだけどさ」

「タクミもか、俺も調べてたんだ」

「あのダイバー……フォース【烈火組】の全盛期の一軍の一人だったんだな」

 

烈火組は一年前にトップクラスのフォースに仲間入りしたのだが、メンバーが次々独立や脱退していき、現在はたった二人だけでトップ層に残留しているフォースだ。しかし、未だ元メンバーに信頼が寄せられ、烈火組とその傘下ははGBN内の一大勢力となっている。

メンバーたちの独立のきっかけとなったのが、レイアこと、先輩が突然脱退したことなのだ。

 

「一軍ともなれば、当時から相当の腕だったんだろう。先ぱ……じゃない、レイアさんを圧倒していたのも一応納得できる」

「あの【トールギス・アイアンヴレイヴ】も、過去のログで見たことがあったが、昨日のは更にクオリティを上げていたな」

「なんていくか、全く敵わない相手なんだけどさ、いつかは勝ってみたいって……分不相応な対抗心を燃やしてんだよな」

 

自重するように俺は笑う。カズミもそれを聞いて笑うが、その笑いは決して俺を馬鹿にする笑いではなかった。

 

「いいじゃないか、分不相応で。今は分不相応でも、いつかは肩を並べることが出来ると、俺は信じてる」

「あぁ、そうだな。そうだよな」

 

そのカズミの言葉を聞いて、なんとなくすっきりした感覚を覚える。

 

「ありがとうな、なんか気が晴れたよ」

 

それを見て、カズミは軽く笑った。

 

 

 

放課後、俺はシノミヤと街を歩いていた。目的地は当然、いつもの模型店だ。

 

「GBNって意外とガンプラを持っていなくても、オープンワールドゲームとして楽しむ人もいたりするんだけど、やっぱりバトルが目的始めるなら、自分用のガンプラは作っておいたほうがいいと思うよ」

「それで今から私のためのガンプラを買いに行くってこと?」

「そういうこと。一応行きつけの模型店だから、店長もガンプラ選びに協力してくれるはずだしな」

 

そんなことを話していると、店についた。ほかの客はいないようだ。

 

「おっタクミ君、いらっしゃい。おや、その子はお客さんかい?」

「いや、俺も客ですよ?」

「はじめまして、シノミヤって言います……」

 

シノミヤは丁寧に店長にお辞儀をする。

 

「もしかして、タクミ君のこれかい?」

 

店長が小指を立ててこちらに見せる。

 

「「違います!!」」

 

偶然にも同じタイミングで否定する。

 

「あはは、ごめんごめん。それで?シノミヤさんはガンプラを買いに来たのかい?めぼしはついてるの?」

「いえ、まだそこまでは決まっていなくて、店長さんのおすすめを聞きたいなって思ってまして」

 

すると店長はわかりやすくうれしそうな表情を浮かべる。

 

「そっかぁ、何がいいかな。最近の作品だとバルバトスやGセルフかな、いっそ初心に帰ってファーストとか?」

「アオヤマ君は何がおすすめなの?」

「初心者なら下手に癖のある機体よりもストライクみたいなシンプルなほうがいいと思うけどな」

「ストライクってこれのこと?」

 

シノミヤがエールストライクの箱を持ってくる。

 

「うん、癖がある機体だと改造するときにその癖に引っ張られることが多いんだよ。逆に、シンプルな機体だと改造の幅も簡単に広がると思うんだ」

「なるほど、たしかにシンプルながいいかも」

 

そう言ってシノミヤはシンプルそうなガンプラを探して回る。とはいえ、ガンダムのことをほとんど知らないシノミヤがそれぞれの機体の性能などわかっていないのだが、真剣に探しているところが正直ほほえましい。

 

「あっ、これなんかどうかな?かっこいいし!」

 

シノミヤが見せてきたのは、フォースインパルスのガンプラだった。確かに、多少の可変機構はあれど、それほど癖が強いわけではなく、それでいて機動性も高い、いい機体だ。

 

「いいんじゃないか?扱いやすいガンプラだと思うし」

「僕もそれがいいと思うよ!後は、ガンプラを作るための工具だけど、レンタル代はサービスしてあげるよ」

「いやいやいや、さすがに申し訳ないですって!!」

「いいんだよ、僕はガンダムのファンが一人でも増えてくれればそれぐらいのサービスは惜しまないよ」

「せっかくだし、いいんじゃないか?」

「えぇ……それじゃあ、お言葉に甘えて……」

 

そうシノミヤは笑顔で答えた。

 

 

 

この模型店の奥にはプラモデル作成用のスペースがある。俺はそこで、シノミヤの初めてのガンプラ制作のサポートをすることにした。

 

「基本的には、ニッパーでパーツを切り離してから、ヤスリとかで切った跡を削って消していけばいいんだけど、今回はニ度切りでいいと思うよ」

「まって、何言ってるのか全然わからない!!」

 

シノミヤが今、プラモデルのことを全然知らないということを忘れて、専門用語ばかり使って話をしていたことに気がついた。

 

「あっ悪い、わかりづらかったな。要は、ニッパーでパーツを切り離すときは、二回に分けて切った方が切った跡が比較的きれいになるって話だ」

「ほんとだ、きれいに切れた」

 

シノミヤがうれしそうにパーツの切った跡を見せてくる。インパルスが出来上がっていく度にシノミヤはより楽しそうな顔になっていく。

 

「プラモデルって楽しいね。自分の手の中で何かが出来上がっていくのって、なんかわくわくする」

 

インパルス本体が完成し、最後にフォースシルエットが完成する直前、シノミヤはそう言った。

 

「ガンプラ、少しは楽しめそうか?」

「少しなんて物じゃないよ、これまでやってきたことで一番楽しいかもしれない。しかも、GBNではこのガンプラに乗ることができるんでしょう?楽しみになるに決まってる」

 

シノミヤは満面の笑みを浮かべる。俺は、自分の好きな物を同じように好きな人には何度か会ったことがあるが、これから好きになっていく人に会うことは初めてであり、これまで感じたことのない高揚感を覚えた。

 

「できた、できたよ!!アオヤマ君!!」」

「うん、見てる。見てるから、あまり叩かないで」

 

シノミヤが何度も肩をたたいてインパルスを見せてくる。初めて作ったと考えれば、十分きれいに作られているように思う。

 

「じゃあ次はGBNにログインだな」

「確か、向こうの部屋に筐体があるんだよね。早く行こうよ」

「あっ、まずダイバーギアを貰ってこないと。多分店長に言ったらもらえると思うし、行ってきなよ」

「わかった、先に向こうの部屋で待ってて」

 

筐体に座って、鞄からエクシアとダイバーギアを取り出してセットしておく。

 

「お待たせ、これとガンプラを筐体にセットするんだよね」

 

部屋に入ってきたシノミヤは始める準備をする。

 

「アバターの作成で時間はかかると思うから、先にログインしておくな。あと、ログインしたら、近くに喫茶店みたいな雰囲気の部屋があると思うからそこで待ち合わせることにしよう」

「そっか、初めての場所だと迷子になるかもしれないしね」

「あぁ、アバター次第では、誰が誰だかわからなくなるだろ?でも、待ち合わせ場所さえ決めておけばなんとかなると思ってな」

「どんな見た目にもなれるんだ……」

「それじゃあ、またGBNで」

 

俺は軽くシノミヤに手を振ってGBNにログインする。

 

 

 

 

いつものロビーにつくと、いつも通り平日にも関わらず大勢のダイバーが集まっている。

アバター作成は10分もかからない。待ち合わせ場所においてある椅子に腰をかけて待つことにした。

 

「たぶん、待ち合わせ場所はここじゃないかしら?」

「あっ、ここだと思います。ありがとうございました」

 

部屋の入り口に二人のダイバーが立っている。一人は茶髪のロングヘアーをポニーテールでまとめた少女。ブレザーをモチーフにしたアイドルの衣装のような服装をしている。もう一人は、紫色の髪に赤い服の男性?どことなく女性っぽさも兼ね備えていて、変わった雰囲気の人だ。というか、フォース【アダムの林檎】のマギーさんじゃないか?世界トップクラスのダイバーで初心者用のアドバイザーとしても活動していると噂では聞いたことはあったが、実際に見たのは初めてだった。

 

「もしかしたら、彼がそうなんじゃない?」

「かもしれません、ちょっと話しかけてみます」

 

二人は、俺を見ながら何やら話をしている。すると、女の子の方が俺に近づいてきて話しかけてくる。

 

「もしかして、アオヤマ君ですか?」

 

聞き覚えのある声、俺の名字を知っていると言うことで、俺は彼女がシノミヤのアバターであることに気がついた。

 

「やっぱりそうだった。なんて言うかあれだね、リアルの方がかっこいいって言うか、何というか……」

「それは褒めてるの?それとも貶してるの?」

「ごめんごめん!!そんな、貶すつもりはなかったんだけど……」

「それならいいんだけど……ええっと?」

 

さすがにオンラインゲームの中で、本名で呼び合うわけには行かないだろう。すると、それを悟ったようにシノミヤが口を開く。

 

「こっちでは【シノ】って名前にしたの、できればそっちで呼んでくれる?」

「あぁ、俺もタクミって呼んでくれ」

 

そして、シノはマギーさんの方へ行き、俺を紹介している。

 

「彼が、私にガンプラバトルを教えてくれるタクミ君です、それで、このお姉さんが私に待ち合わせ場所を教えてくれたマギーさん」

「もうっ!!お姉さんだなんて、シノちゃんったらうまいこと言って!!はじめまして、私がマギーよ♪よろしくね?」

 

マギーさんが握手を求めてくる。

 

「はっはじめまして、タクミって言います。会えて光栄です」

 

俺も握手で答えた。ただ、相手が有名なダイバーであるためか、少々緊張している。

 

「さて、タクミ君。先ずは何をしたらいいの?」

「まぁ、チュートリアルミッションからだな。最初にそれをクリアして、ほかのミッションにも参加できるようになるんだ」

「初めてなのに詳しいのね、調べてきたのかしら?」

「あっ、俺はシノの付き添いなんですよ」

「あら、そうだったの。ごめんなさい、勘違いしてたわ」

「いやいや、気にしないでください。自分もまだまだなんで」

「そんなことないわよ、練習すれば簡単に強くなれるわ。それじゃあ、格納庫で機体を確認して、チュートリアルミッションに行きましょうか!!」

 

 

 

 

格納庫に行くと、俺のエクシアとシノのインパルスが立っている。その姿にシノは見とれているようだった。

 

「すごいね、タクミ君。自分が作ったガンプラに今から乗れるのよね?作るだけでもあんなに楽しかったのに、それに乗るなんて、一体どんな感覚なんだろう」

 

シノがわくわくしているのは顔を見れば十分わかる。

 

「チュートリアルミッションのエリアは少し離れていて、乗り物に乗って向かうダイバーもいるんだけど、シノちゃんはこのインパルスで行きたがってるみたいね♪」

「はい!早くこの子に乗ってみたいです!!」

 

シノは興奮気味にそう言った。

 

 

 

 

「そういえば、操作方法とか全然知らないけど大丈夫かな?」

 

デッキで出撃する直前のコアスプレンダーに乗りながら、シノは俺に聞いてくる。

 

「ある程度感覚で行けばできるとは思うし、一応俺もいるから操作の練習をしながらエリアまで向かおう」

「うん、わかった」

「それじゃあお先に、タクミ…ガンダムエクシアカスタム(ツヴァイ)、いきます!!」

 

レバーを思いっきり前に押しだし、エクシアがカタパルトから射出される。

 

「レバーを前に押し出すと、カタパルトが動くようになっているんだけど、インパルスはちょっと特殊でカタパルトとか関係なく、レバーを押し出すとコアスプレンダーが射出されて、ほかのパーツと自動でドッキングされるから、あまり難しい操作はないよ」

「わかった、やってみる。シノ、インパルスガンダム……行っきまーす!!」

 

出撃したコアスプレンダーは、同じく射出された他のユニットと何も問題なく、合体する。

 

「すごいよ、合体した!!」

「今回はオートでの合体だったけど、慣れてきたらマニュアルでの合体も覚えた方が、戦うときにいろいろ使えるかもしれないぞ」

「わかった。今度練習してみる!!」

 

シノミヤは決して完璧ではないものの、この短時間でインパルスを飛行させることが出来ていた。

 

「なんて言うか、末恐ろしいな……」

「タクミ君のガンプラはなんていうガンプラなの?」

「俺のは、ガンダムエクシアを改造した物だよ。名前はまだちゃんとは決まってない」

 

昨日の対戦ミッションの問題点を解消するために、俺はガンダムエクシアカスタムにさらなる改造を施した。リアアーマーにミキシングで作ったオリジナルのブースターユニットを二つ取り付け、各部にディテールを施した。そうやって、機体そのものの出来を上げることで、昨日のように武器の反動で機体が壊れないように防御力を上げている。

 

「とはいえ、今回はバトルはないんだけどな……」

「タクミ君のオリジナルってことか……いいなぁ。私もこの子を改造したいなぁ」

 

そんなことを言っていると、チュートリアルミッションのエリアに到着した。場所はファーストガンダムのニューヤークのようだ。

 

『はーい、ここからはシノちゃんひとりでミッションをやって貰うわ♪』

「えっ?タクミ君はミッション、やらないの?」

「チュートリアルミッションだからな、始めたばかりのダイバーしか参加できないんだ」

『とはいっても、相手は最弱に設定してあるNPCだから、あまり気張る必要はないわ♪』

「はい、がんばります!!」

 

インパルスがミッションのエリアに入ると、三機のザクが出現する。

 

「よーし、出てきた出てきた」

 

インパルスがビームライフルで射撃をするが、ザクはビルを盾にして避ける。

 

「あれっ?!当たらない!!」

 

避けたザクとは違う別のザクが、マシンガンでインパルスを攻撃する。

 

「うわああ!!ってあれ、全然ダメージが、入ってない……」

「インパルスはVPS装甲を持ってるからな。実弾の射撃によるダメージはある程度軽減される。射撃はよく狙って慎重に撃つんだ!!」

「よくわからないけど、相手からの攻撃はあまり気にしなくていいってことね」

 

とはいえ、一機を相手にしている隙に他の二機に攻撃されるという、数の力に追い詰められていく。

 

『頑張ってー!!自分の得意なところを活用して戦うことが、うまく勝つコツよ♪』

「自分の得意なところ……もしかして、相手がいつまでも飛んでこないのって……」

 

インパルスは一気にニューヤーク上空に飛翔する。

 

「これなら、死角はとられないはず!!」

 

ザクは空を飛び回るインパルスを迎撃しようとするが、シールドで完璧に防御される。

 

「挟み撃ちにならないように、先ずは端から!!よく狙って…慎重に……」

 

シノはその言葉通り、精密な動きで、右端のザクの胸部をビームライフルで撃ち抜く。一機目は崩れ落ちるように倒れ、インパルスは即座に二機目を捕捉する。

 

「当たった!!よし、次!!」

 

インパルスは二機目を左手に持ったビームサーベルで腹部を両断する。二機目は爆発し、その煙の中、三機目も撃ち抜く。大きな爆発音とともに、『MISSION CLEAR』の文字が表示される。

 

『お疲れ様~!!三機相手によく頑張ったわね♪』

「はい、ありがとうございます」

 

シノは嬉しそうに答える。

 

「あっ、クリア報酬でこんなの貰った」

 

シノは、俺のモニターにクリア報酬を見せる。指輪のようだ。

 

「これって、チュートリアルキャンペーンのレアアイテムじゃないか?確か千分の一ぐらいであたるっていう……」

「えっそうなの!?」

『あら、おめでとう!!あなた、強運の持ち主ね♪』

「へぇ~そうなんだ……」

 

シノは嬉しそうに指輪を見つめる」

 

「タクミ君も、ありがとうね」

「え?俺は別に何もしてないけど……」

「いやいや、タクミ君のアドバイスがあったから射撃がうまくいったんだから、感謝して当然だよ」

「あれぐらいのことなら、わざわざ感謝しなくたって……」

『もう、ありがとうって言われたなら、素直にどういたしましてぐらい言いなさい?」

「えぇ……じゃあ、どういたしまして……」

 

マギーさんの軽い注意を受け、素直に答えることにした。シノはそれを聞いて笑っている。

 

「それじゃあ明日もいろいろ教えてね、師匠?」

「誰か師匠だよ……」

 

それを聞いて更にシノは笑った。



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VSスナイパー

「たっくん、今日はどんなミッションにしようか」

 

放課後、いつもの模型店に向かう中、シノミヤが話しかけてくる。

 

「あんまり、たっくんって呼んでほしくないんだけど……」

「じゃあ、師匠って呼ぶね?」

「やっぱり、たっくんでいいわ……」

 

シノミヤがGBNを始めて、一週間が経った。その間、俺はシノミヤにほぼつきっきりでガンプラの操作を教えることとなり、そのおかげで、元から高かった彼女の操縦技術はさらに向上し、俺やカズミに肩を並べるほどになった。

 

「今日はカズくんも来るのかな?」

「あぁ、今日は何もすることがないから行くって言ってたよ」

 

カズミも度々、俺たちとミッションをすることが多くシノミヤとも仲良くなっていた。

 

「カズくんのガンプラも結構すごかったよね、あれを一人で作ってるんだもんね」

「あいつは小学一年の頃からガンプラを作ってるって言ってたな。そりゃあ改造の腕もあるってもんだよな」

「継続は力なりってことだね。始めたばかりじゃ相手にならないな」

「そんなこともないと思うけど……とりあえず、今日は適当にミッションを選ぶか」

「そういえば、先輩はGBNをしないのかな」

「きっと今日もログインしてないだろうな」

 

先輩は対戦ミッションをした日以来、GBNにログインしていない。SNSで話をすることはあるのだが、誘いは用事があるからと断られる。

 

「あのダイバーと何かあったのか……?」

 

いろいろ推察するが答えがわからない以上は考えても意味はないだろう。

 

「そうだ、ちょっと腕試ししてみない?」

 

 

 

 

「なるほど、確かに腕試しにはちょうどいいかもしれないな」

「でしょ!!前から気になってたの」

 

シノが提案したのは大型アップデートで実装された、百人のダイバーの中で最後の一人になるまで戦うバトルロイヤルミッションだった。

 

「チームとかはないが、数をある程度減らすまでは協力するのもありだしな」

 

カズはすでにログインしており、一戦終わらせてきたらしい。

 

「決まったら早く行こうよ!!」

 

シノは走って会場に向かおうとする。

 

「すごい生き生きしてるな」

「本当にGBNが好きなんだろうな」

 

俺とカズは急かすシノについていった。

 

「あっ、そういえば二人に言いたいことがあったんだけどど忘れしちゃった」

「いやなんの報告だよ」

 

カズはあきれながらシノをツッコんだ。

 

 

 

 

バトルロイヤル用のフィールドは広大で、山岳地帯に市街地、海も存在し、それぞれのガンプラの得意な地帯で戦うことが出来るのだ。

 

「先ずは山岳地帯はあまり人はいないみたいだし、そこに向かおう」

「「了解」」

 

ミッションが始まると、カズが指揮を執る。カズのガンプラはジェイラインのスタンダードアーマー。前のライトアーマーに比べると機動性が落ちたが、その分防御力が向上し、うまくバランスがバランスがとれたガンプラになっている。

 

「すごいね……始まってすぐなのに、もう撃墜されてる人がいる」

 

一方、シノのガンプラはバックパックのシルエットユニットが変わり、フォースシルエットから更に機動性を特化させた物になっている。

 

「市街地は結構な激戦区って話だからな。最初は隠れて漁夫の利を狙おう」

「にしたって、減り方が異常に早い気がするけど……」

 

カズの言うとおり、相手のガンプラがいつも以上に早く撃墜されていく。

 

「高ランクのダイバーがいるのかもな、警戒しておこう」

 

その後、何機かは隠れている俺たちに気がついて攻撃してきたが、三人で連携してそれらを撃退した。

 

「何かあっけないね、もっと難しいものだと思ってた」

「これからだろ、結局残るのは強いダイバーだ。気を抜くなよ」

「うん、そうだね。油断はしちゃいけないね」

 

シノミヤがそう言って気を引き締めたとき、フリーダムが接近してくる。

 

「噂をすれば、来たよ!!」

「さっきの陣形で行こう!!」

「了解」

 

俺たちは散らばって、フリーダムを包囲しようとするが、あらぬ方向からフリーダムはビームで撃ち抜かれる。

 

「なに今の!?」

「もう一機こっちを狙ってるやつがいるのか」

「近くにはいないってことは狙撃か。とりあえず岩場に隠れるぞ」

 

散らばったまま各自で潜伏するが、敵の位置が全くわからない。

 

「タクミ、その武器の射程距離は?」

「射程がないわけじゃないが、撃ち合いには自信がないぞ」

「隙を作るだけでいい。その間に俺とシノで敵を討つ」

「うん、このラピッドインパルスの速さならなんとかするよ。私たちに任せて」

「は!?ちょっと待てって!!」

 

シノのインパルスとカズのジェイラインが前に先行する。俺は、仕方なく二人が見えるようにブレードブラスターを構える。二人が攻撃を受けた時に、敵の位置を特定しやすくするためだ。

 

「さっきの狙撃から時間が経ってるから移動してるかもな……シノ、危ない!!」

 

カズが、シノをタックルするように退かす。その瞬間、敵の狙撃のビームがジェイラインの足を撃ち抜く。

 

「敵は北西、市街地の方にいる。狙え、タクミ!!」

「見えた!!」

 

俺は北西に見えたガンプラの影に向かってブレードブラスターを発射する。直撃はせず、そこにあった岩を破壊する程度しか出来なかったが、敵機の逃げた方向はわかった。

 

「そのまま、市街地の方に向かった。カズ、いけるか?」

「なんとか動ける。タクミは別方向から向かえ。俺たちとお前で挟み撃ちにするんだ」

「わかった」

 

カズは起用に片足を破壊されたジェイラインで器用に移動する。逃げた狙撃手を追って市街地に入ると、派手な戦闘の跡が残っていた。これなら、敵機も隠れやすいだろう。

 

「まぁ、狙撃ポイントになりそうなところが潰されてるのはありがたいけど……」

 

そんなことをつぶやいていると、右斜め前も方角で大きな爆発が起こる。

 

「タッ君、狙撃手を見つけたよ!!緑色のガンダムだよ!!両肩に壁みたいなのを担いでる」

「デュナメスか……わかった!!すぐに向かうから、深追いはするなよ」

 

そう伝えると俺は、爆発が起きた場所に向かう。ただ、敵機に悟られないように距離をとっておく。俺がいることを知られた以上はある程度警戒されているだろうが、意識させるに越したことはないだろう。

市街地の離れにある高台に上り、カズたちの戦闘を見張る。デュナメスはカズたちの相手をしながら、やはりあたりを気にしているようだ。

ジェイラインががビームサーベルを抜き、デュナメスに斬りかかる。デュナメスはそれを避け、追撃に来たラピッドインパルスからGNフルシールドで身を守る。更にそのままGNハンドガンで反撃までしている。

 

「何でこれをしのげるんだよ。背中にも目がついてんのか!!」

 

カズは悪態をつきながら後ろに下がって距離をとる。

 

「あの反応速度なら、TRANS-AMで狙撃も避けられるだろうな」

「ならどうするの?簡単に隙なんて作れないし…」

「だから、一回ブレードブラスターを撃って、こっちに注目させる。それなら隙を作ることが出来るだろ?」

「そうだな。もし、TRANS-AMを使われてもお前のエクシアでどうにかできるしな」

「決まったなら早速行くぞ」

 

俺は、デュナメスの足下を狙ってブレードブラスターを発射する。デュナメスはGN粒子を放出し、回避する。その間に俺はTRANS-AMを起動して別の位置からの狙撃を狙う。

 

「TRANS-AM!!カズ、シノ、今だ!!」

 

デュナメスにジェイラインとインパルスが挟み撃ちの形で襲いかかる。それに対してデュナメスは赤く光り、その攻撃を回避する。

 

「タクミ、TRANS-AMだ!!」

「あぁ、わかってるよ……予想通りだ」

 

俺はブレードブラスターを発射する。その先にいるのはジェイラインの背後に回っていたデュナメス。そのまま、右肩のフルシールドとハンドガンを破壊した。

 

「先週の俺の動きから動きを呼んだが、想像以上にドンピシャだな」

 

一週間前の敗北で、俺も少しは学習したということなのだろう。

 

「よし、体制が崩れた!!」

「背後に回ったら同時に行くぞ、シノ!!」

 

カズはデュナメスの正面から攻撃を仕掛ける。しかし、デュナメスは膝蹴りでジェイラインの隙をつくり、インパルスには左手に持っていたハンドガンで迎撃する。更に、デュナメスの右膝部装甲が開き、中のGNミサイルがジェイラインに直撃する。

 

「なっ!?しまった!!」

「カズ君!!」

 

カズのジェイラインは腹部のコクピットが破壊されており、爆発と共に消失する。

 

「シノ、一回下がれ。状況を立て直す」

「わっ…わかった」

 

一度、シノのインパルスと共にビルの影に隠れてデュナメスを観察する。デュナメスはハンドガンとビームサーベルで他のガンプラを迎撃している。

 

「さっきの攻撃は何だったの?」

「デュナメスの膝と腰アーマーにはGNミサイルが内蔵されてるんだ。HGのキットではオミットされてたからすっかり忘れてたな」

「ってことは、接近しても油断できないってことか……どうする?」

「一応策はある」

 

 

 

 

俺はデュナメスに正面から突撃する。デュナメスは左膝のミサイルで迎撃してくるが、ブレードブラスターでそれを撃墜する。

 

「この程度なら…!!」

 

俺はシールドのワイヤークローでデュナメスを捕らえる。それに対し、デュナメスはハンドガンを連射するが、エクシアの装甲なら耐えきることが出来るだろう。

 

「まだだっ!!」

 

デュナメスは腰アーマーからミサイルを数発発射するが、またブレードブラスターで撃ち落とす。爆発によって視界が一瞬遮られるが、デュナメスに動きはないので何も問題ないだろう。

ブレードブラスターでデュナメスに狙いを定める。もしそれが避けられても接近戦で押し切る。

 

「これならいける!!」

 

勝利を確信したそのとき、左右の道路からのGNミサイルがエクシアに直撃する。

 

「なんで……そんな方向から……!?」

 

ミサイルの弾道は直進やアーチ状のように、あらかじめ設定することが出来る。ついさっきまでミサイルは直進のものばかりだった。

 

「リアルタイムでミサイルの弾道を再設定したのか……!?」

 

ハンドガンを連射しているうちに弾道を再設定し、腰アーマーのミサイルを二つに分けて発射し時間差で攻撃出来るようにしたのだ。

 

だからってあんな状況で出来ることじゃねぇだろ……

 

その後、ハンドガンでコクピットを数発撃たれ、エクシアは爆散した。

 

でも、こうなることも想定済みだ……

 

エクシアの爆発の中からビームサーベルが現れ、デュナメスの頭部を貫く。ラピッドインパルスだ。

 

「うおぉぉぉ!!」

 

シノの叫びと共に、デュナメスに突き刺さったビームサーベルは下へ向かってコクピットを両断した。

ラピッドインパルスはエクシアの背後におり、いわゆるジェットストリームアタックの要領で二段構えの攻撃を繰り出したというわけだ。

 

「よし!!やったよ!!カズ君、たっくん!!」

 

デュナメスの爆発と共に、シノは大声を上げて喜ぶ。

まぁ、そのまますぐに他のガンプラに撃墜されたのだが……

 

 

 

 

 

 

「あんな倒され方じゃ、しまらないなぁ……」

 

ロビーに戻り、シノが悔しそうにつぶやく。

 

「まぁ、あのデュナメスを倒せたんだから良しとしようぜ」

「それはそうなんだけどさ~」

 

それでもシノはブツブツとつぶやく。

 

「あっそこの三人組!!」

 

俺たちを呼び止める声。その主は中世の騎士を思わせる男装麗人だった。いや、正しくは中世の騎士をモチーフにした歌劇の登場人物のようだった。白いハロを小脇に挟んでいる。

 

「さっきのバトルロイヤルミッションで戦った子たちだよね?」

「あっもしかして、さっきのデュナメスのダイバーですか!?」

「あぁ、そうだよ。ダイバーネームはベル、傭兵プレイで色々なフォースを転々としている。いやー、見事だったよ。面白いバトルだった」

『オモロイ!オモロイ!』

「このハロはゲストアバターじゃないんですね」

「あぁ、少し前のミッションのシークレット報酬で貰った、NPCのハロを改良したら、なぜか関西弁になっちゃってね」

 

ベルさんは微笑んでハロを軽く叩く。

 

『ナニスンネン!ナニスンネン!』

「あぁ、わかった!!」

 

カズが何か腑に落ちたかのような顔をする。

 

「わかったって何が?」

「背後に目がついてるみたいって言ってただろ?他にもミサイルの弾道の再設定とか。このハロがサポートをしてたってことだろ」

「正解。よくわかったね」

「あ~なるほど。レアアイテムだからわからなかったな」

「それにしても、いいコンビネーションだった。いいチームになるんじゃないか?出来れば三人ともフレンドになってほしいんだけど、いいかな?」

「はっはい!!勿論!!」

 

ベルさんはフレンド交換したあと、楽しそうに帰って行った。ただ、一言独り言を残して。

 

「やはり、フォース戦の方がおびき寄せやすいか……」

 

言葉の意味はいまいちわからなかったが、何かを探しているのだろうか。

 

「いいチーム……あーー!!思い出した!!」

 

 

シノが大声を上げる。

 

「二人に言いたいことを思い出した」

 

シノは俺たちを指さす。

 

「私たちでフォースを組もう!!」




次回、先輩回。


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ビギニングダイバーズ

あら、ホウジョウさん。ずいぶんと俗な遊びを楽しんでいるみたいですわね?

 

うるさい

 

このような方を何というのでしたかしら?……あぁ、確かオタサーの姫だったかしら?

 

うるさい!

 

貴女のような低俗な方に話し掛けられたくないわ

 

うるさい!!

 

うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい

 

「うるさい!!」

 

そんな自分の声で私は目が覚めた。先週、マサトと再会して以来、また毎日この夢を見るようになった。

 

「ここ数ヶ月は見ないようになってたんだけど……」

 

今から一年前、は隣街の女子校に通っていた。いわゆるお嬢様高校と言われるようなところで、生徒もやけにプライドが高く、「この学校に通っていない人間など人ではない」などということを当たり前のように言う人間ばかりだった。

私はその環境にある程度に馴染んでいたのだが、趣味であったGBNとガンプラについて噂が広まったことで高校生活が崩壊した。いわゆる村八分のような扱いを受け、陰口や無視など当たり前、ひどいときはけがを負うこともあるという状況が続いた。状況を見かねた父によって、今の高校に転校することになったが、それ以来GBNにログインすることが怖くなった。

 

次の高校でも私の好きな物を否定されるかもしれない。

 

だから、私が好きな物が好きなタクミ君と出会ったことで、その恐怖心は少し軽減されたと思っていたのだけど、それはただの気のせいだった。マサトと対峙したとき、手の震えが止まらなかった。よみがえった恐怖感で固まってしまった私は一方的にマサトに倒された。

 

結局私は変わったつもりでいただけ……

 

それ以来、また私はGBNにログインしないようになった。

 

「本当に、私は何をしてるんだろう」

 

私はため息をついて、ベッドから降りる。それとほぼ同時に扉からノック音が聞こえる。

 

「おはよう、レイ。朝ご飯、そろそろ出来るよ」

 

そう言って部屋に入ってきたのは、私の父である【ホウジョウ・イオリ】だ。私のガンプラを教えた張本人で、ある企業で社長をしていた。今は早期退職し、専業主夫として第二の人生を謳歌している。ちなみに、母は国立大の教授として生涯現役を目指しているらしい。

 

「おはよう、パパ……」

「また夜更かししてたんだろ…なんだったっけ?アオヤマ君って子とまたメッセージのやりとりしてたんだろ?」

「まぁ、そんなところかな?」

「よかったじゃないか、最近はGBNにも行ってるんだろ?」

「っあ…いや、ここ数日はあまり……」

「ん?そうだったのか……やっぱりまだ立ち直れないか」

「うん、いい加減立ち直らないといけないとは思ってるんだけど」

 

すると、パパは私のガンダムF91キリアを手に取って、懐かしそうに見る。

 

「また、GBNを楽しめるようになるといいな」

「……うん」

「よし、じゃあ朝ご飯を食べようか」

「あぁ、ごめん。ちょっとメッセージを確認させて」

 

私は枕元に置いていたスマホを手に取りメッセージの通知を確認する。しかし、一通も届いておらず私は無意識にため息をついた。

最近、タクミ君とのメッセージのやりとりが密かな楽しみになっている。今思うと、ここまで親しく話をしたのは彼が初めてではないだろうか。

 

「おや、残念。アオヤマ君からは来ていないみたいだね」

 

気付いたら、パパが後ろからスマホをのぞき込んでいる。

 

「パパ、それ思春期の娘に一番やっちゃいけないことだから」

「別にいいだろう、後ろめたいことがあるわけじゃないんだし」

「そういうことじゃないでしょう」

 

私はそんな父を部屋から追い出し、身支度をする。制服に着替え、顔を洗い、リビングに向かうと、テーブルにはヘルシーな朝食が並んでいる。私がしているダイエットに父が合わせてくれているのだ。

 

「どういう子なんだい?アオヤマ君って」

「そうね、少し校則を破ったりすることはあるけど、明るくていい子よ。」

「へぇ、お前がそんなに他人を語れるというのも珍しいな。基本的にクラスメイトもあまり話したことがないから知らないで済ますのに」

「まぁ、確かにそうね。そういえば、なんだかんだリアルで年下の男の子と話すのも初めてかも」

 

別に多く友達を持ちたいという願望があるわけではないが、ここまで他人とコミュニケーションをとらないというのもなかなかの問題ではないだろうか。

 

「それほどの子なら、一度会ってみたいものだ」

「やめて、パパが動くとロクなことにならなさそうだから」

 

そう言って私はレタスのサラダを口に運ぶ。

 

「ロクなことにならないってことはないだろ!!」

「まぁ、時が来たら会わせるわよ。ご馳走様でした」

 

朝ご飯を食べ終わると、学校に向かう。

 

「行ってきます。今日は生徒会で少し帰るのが遅くなるから」

「いってらっしゃい、夕飯は何にしようかな……」

 

 

 

 

 

家が郊外にあるため、学校までの道は途中でバスに乗っても少し長く感じる。正直退屈だ。

 

「こんな時にタクミ君がいれば、退屈も紛れるんだろうな……」

 

……なぜ今、タクミ君のことを考えたの?

 

確かに彼との会話は楽しいけれど、四六時中彼のことを考えているなど、あり得ない。きっとパパとタクミ君の話をしたからだろう。きっとそうだ。

 

「……絶対に違う。あり得ないあり得ないあり得ない」

 

そんなことを何度もつぶやいている私は、端から見たら下手に触れない方がいい人だろう。

 

「きっと私は疲れてるんだろうな」

 

ため息をつきながら登校していると、少し前に見覚えのある男子高生が見える。例のタクミ君だ。

少し驚かそうと、後ろから忍び寄ろうとした瞬間、タクミ君に見覚えのない女子高生が話し掛けてきた。

 

……クラスメイトか何かだろうか?

 

「たっくん、おはよう!!」

「あぁ、シノミヤ。おはよう」

 

……たっくん?

 

私は少し眉をひそめた。まぁ、タクミ君もクラスメイトと挨拶することも、あだ名をつけられることもあるだろう。

 

ただ、少し距離が近くないかしら……ただのクラスメイトにしてはベタベタとしすぎているような……

 

その後の授業はあまり集中できなかった。あくまで『あまり』だ。ずっとタクミ君のことを考えていたわけじゃない。その点は誤解しないでほしい。

最近、タクミ君と面と向かって話す機会が減った。SNSなら何も気にならないが、対面で話すととてつもなく気まずく感じる。

 

……まずい、またタクミ君のことを考えている。

 

放課後になっても私は未だタクミ君のことでモヤモヤしていた。

 

「本当に私は何をしているんだ」

 

私は自嘲するように笑った。

 

 

 

 

 

一学期中盤の生徒会の仕事は実に楽だ。生徒総会、体育祭、文化祭など、生徒会が忙しくなりそうな行事はすべて二学期に行われる。

仕事も今後の予定の確認程度だ。現に他の役員もそれぞれ生徒会と関係のないことをしている。

 

「もう今日は仕事も終わったし、もう帰ろうか」

 

生徒会長のやる気のない声で解散を宣言する。

私は真っ先に家に帰る。

 

もう、生徒会も辞めようかな……

 

別にこの学校を真剣によくしたいとも思うわけではないし、誘われたからには真面目にやろうとは考えているが、ここまでやることがないのなら、別のことに時間を使いたい。

 

とはいえ、何かがしたいわけではないんだけど……

 

そう考えながらも、私の脳裏にはGBNが浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

家に帰ると、私はベッドに飛び込む。マサトと再会した頃からあまり、いいことがない。

 

「パパの手伝いでもしようかな」

 

そうつぶやいて、部屋を出ようとした時、スマホのバイブ音がなる。確認すると、タクミ君からの電話だった。驚いて、一度スマホを落としてしまうが、冷静を装って電話に出る。

 

「もしもし、どうしたのかしら?」

『あっ先輩!!こんばんは……今時間、大丈夫ですか?』

「勿論、大丈夫だけど……何かよう?」

『そうだった。話っていうのがですね、このたびカズとクラスの女子と俺の三人でフォースを組むことになったんですよ』

 

クラスの女子って今朝の子か………

 

「そうだったの。頑張ってね」

『それでですね、出来ればでいいんですけど……俺たちのフォースの入ってほしいんです」

「……えっ?」

 

正直、想定していない頼みだった。

 

『俺たちはまだ素人に毛が生えた程度の実力です。先輩がいるだけで心強いんです』

「それはそうかもしれないけど……」

『もしかして、ダメですか……?』

「……ごめんなさい。私はフォースに入るつもりはないの」

『そうなんですか……理由とか、聞いて大丈夫ですか?』

 

私は少し悩んだが、前の高校の話をした。

タクミ君は何も言わずに話を聞いてくれた。

 

「また、同じことが起きるのが怖いの……私は、自分の好きな物を否定されたくないの……」

『……でもそれは前の学校の話ですよね?また同じことが起きると決まったわけじゃないですよ』

「それはそうだけど……」

『もったいないですよ。過去を気にして好きな物が出来ないだなんて……』

 

私はこれ以上答えることが出来なかった。

 

『明日、いつもの模型店でGBNにログインするんで……待ってますから』

 

そう言い残して、通話が終わった。

 

「まさか、フォースに誘われるとはね……」

 

タクミ君の言う通りであることはわかっている。でも、私はまだ…………

 

 

 

 

 

 

翌日、私は結局模型店の前にいた。

 

いやいや、直接断るために来てるんであって、別にフォースに入るつもりは……

 

模型店の中では、タクミ君達が話している。

 

「まだ、フォースの申請には行かないのか?」

 

聞いたことがある声、多分カズ君のリアルの姿だろう。

 

「ごめん、まだ少し待ってほしいんだ」

「誰かを待ってるってことか?」

「あぁ、そういうこと」

 

どうやら私を待っているみたいだ。

 

「でも、来るって言ってたわけじゃないんでしょ?」

「まぁ、そうなんだけどさ……信じたいんだよ、きっと来てくれるって」

「そっか、それで?誰が来るんだ?」

「それは会った時のお楽しみってことで」

 

タクミ君はにやりと笑う。

 

 

……もういいんじゃないかしら……結局ここに来たのも……

 

私は模型店の中に入る。タクミ君は待っていたと言わんばかりに表情を浮かべる。

 

「ホウジョウ先輩……えっ?この人を待っていたのか!?」

「なるほど、そういうことだったんだね」

 

他の二人は少し驚いた表情を見せる。

 

「改めて紹介するよ。ホウジョウ・レイ先輩。GBNにはレイアって名前で活動しています」

「でも、いくつかは条件はあるわよ?まず一つはあなた達も私ぐらいのレベルを目指せるように特訓をすること」

「別に俺たちはいいですよ」

 

タクミ君の言葉に二人もうなずく。

 

「二つ目はフォースのリーダーはタクミ君。あなたよ」

「え!?」

 

次はタクミ君は驚いた声を上げる。

 

「いやいや、先輩の方がいいでしょう!!」

「いいんじゃないの?合ってると思うよ」

「うんうん、俺も賛成」

「いやだからって……!!」

「みんな、あなたがきっかけで出会ったのよ?だったら、あなたの方が指揮が執りやすいと思うわ」

「……わかりましたよ。やりますよ」

「それじゃあ三つ目、フォースを組む以上、目指すは頂点。トップフォースよ」

「「「……はいっ!!」」」

 

こうして、私はもう一度GBNを本格的に始めることになった。

 

「それで?名前は決めたの?」

「あっ忘れてました」

「それなら私、このフォースの名前とか好きです」

 

シノミヤさんはとあるフォースのデータを見せてきた。

 

「ビルドダイバーズか……伝説のフォースじゃないか」

「とはいえ、そのまんまじゃダメだよな。どう改変する?」

「何かいい単語を入れるとかは?」

 

みんな黙りこくって考える。

 

「【ビギニングダイバーズ】……」

 

そう無意識に私は言っていた。

 

「いい名前ですね!!私好きです」

「確かに、結構いい名前だな……」

「うん、俺もいいと思います」

 

思った以上に好評だったが、私も自分で言うのも何だがありだと思った。

もう一度、一から始める。タクミ君たちにとっては始めて出来たチーム。みんなの【始まり】が集まったフォース。

 

「それじゃあ、ビギニングダイバーズで決定!!」

 

タクミ君がそう宣言する。

 

 

 

私たちの物語はここから始まる。

私はもう、悩んだりしない。彼らと共に進むんだ。

 

私は強く拳を握った。



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初のフォース戦へ

フォースの名前が決定し、俺達はフォースを結成するための申請をしにGBNのロビーにいた。

 

「普通、フォースって何人ぐらい集まるんですか?」

 

シノが先輩に聞く。

 

「多くて十数人って所かしら。まぁ、トップフォースだと三桁を超えることもあるでしょうし、逆に一人でやってるフォースもあるわよ」

「十数人!?だったら、うちもメンバーもっと増やしてから結成した方がいいんじゃないの!?」

「いや、いいんじゃないか?これぐらいで」

 

カズはシノの言葉を否定する。

 

「えぇ、増やしすぎると、それぞれの目標にズレが生じやすいの。それがきっかけでフォースが崩壊するなんてこともよくある事例ね。特に新造のフォースが初対面のダイバーを何人も入れるのはいい手とはいえないわね」

「そうなんですか……」

「とはいっても、一人ぐらい後衛のダイバーがいると心強いけれどね」

「後衛ですか……」

「昨日のバトルロイヤルミッションのログを見させて貰ったんだけど、あの陣形は良かったと思うわ。ただ、実際にこのフォースであの陣形を再現すると、あのブレードブラスターでは限界があると思うの」

 

それについては先輩の言う通りだ。俺の腕の問題でもあるが、あの武器はそれほどの精密射撃が出来る物ではなかった。

 

「カズ君のジェイラインは元ネタから考えると、中遠距離用武器を装備したバックパックに換装できるのでしょうけど、それだけでは後方支援が足りないと思うの」

「それは確かに……」

 

カズのジェイラインにはモデルがある。ガンダム戦記というゲーム……実際はゲームが初出ではないのだが、ややこしくなるので今はその話はおいておこう。とりあえずそのゲームに登場する、ジーラインという機体だ。その機体は、アーマーやバックパックの武装を出撃時に換装することであらゆる作戦や状況に対応できるようになっている。そのコンセプトを採用しているジェイラインも、武装の換装を可能としているが、遠距離に対応しているものは存在しないのだ。

そんな時、シノが何かに気がつき、人混みから1人のダイバーを連れてくる。

 

「どうしたんだい?出会った途端に引っ張ったりしてさ」

 

そのダイバーはベルさんだった。後ろから白いハロもついてきている。

 

「おや?昨日いなかった人もいるんだね。初めまして、ソロで上位を目指してるベルって言います」

「こちらこそ。レイアと申します。初めまして」

「ベルさんって、フォースに入ったりはしないんですか?」

「そうだね、傭兵として短期間所属することはあるけど、今はどこにも所属していないよ」

『ヒトリミ!ヒトリミ!!』

「それだったら、今から作る私たちのフォースに入りませんか!?」

「おい、シノ!!勝手に話を進めようとするな!?」

「いいんじゃないかしら、あの方は話の流れでは遠距離に対応できるダイバーなのでしょう?」

「えぇ……!?だからって……」

「そうだね……確かにフォースに入った方が楽しいかもしれないね……うん、是非入らせてくれ」

「はいっ!!よろしくお願いします!!」

 

シノは嬉しそうに頭を下げる。

 

「また、私のガンプラも見せておいたほうがいいね」

「あれ?デュナメスじゃないんですか?」

「うん、あれはあくまで腕試しのつもりで使っていたんだよ。普段は別のガンプラを使ってるんだ。とはいっても、狙撃機だけどね」

「そうだったんですか。それじゃあ、申請にいきましょうか」

 

フォース結成の受付に行くと、少し面倒な手続きをして、晴れてビギニングダイバーズが結成することになった。

その時に、各メンバーの個人ランクを見ることが出来た。

 

タクミ、ランクD

レイア、ランクS

カズ、ランクD

シノ、ランクD

ベル、ランクA

 

まだ、先輩には届きそうにないな……

 

その事実を可視化することで、少しへこんでしまう。

それこそ、俺はまだスタートラインに立ったに過ぎないということだ。

 

「それで、次は何をしたらいいんですか?」

 

ベルさんにシノが聞く。

 

「今ちょうど、フォースデビューキャンペーンがあるから、フォースバトルを早速やろうか」

「それってどんなキャンペーンなんですか?」

「新造のフォースどうしがバトルして、両陣営共にかなりの量の経験値がもらえるっていう、一種のボーナスキャンペーンだよ。ここ最近はもらえる経験値が結構減らされたんだけどね」

「結局、経験値だけ集めてプレイヤースキルがまだまだじゃ、上に行ってもすぐに落とされるだけ。コツコツ経験値を稼ぎながら、実力をつけるのが長い期間で上位ランクに留まる最善の方法よ」

 

先輩がベルさんの説明に補足をつける。

 

「でも、ベルさんもレイアさんもいるから楽勝なんじゃない?」

「油断はいけないよ、シノ君。どんな相手でも全力で応えるのが礼儀というものだ」

『ユダンスナ!ユダンスナ!!』

「うっ……こんな小さいのに怒られた……」

 

シノがわかりやすく凹む。

 

「まっまぁ、どんな相手か分からないしさ、万全の準備をしてフォースバトルに臨もう」

 

カズがシノを慰めている。

 

「それじゃあ、フォースバトルの申請に行くんで、先輩についてきてほしいんですけど……」

「えぇ、勿論いいわよ」

 

 

 

 

 

「どんな感じです?ベルさんは」

 

申請が完了するまで、先輩と何気なくベルさんの印象を聞いてみた。初対面の相手が急に仲間になるということは、結構な戸惑いになると思う。

 

「そうね……まだ出会ったばかりだし分からないけれど、いい人だと思うわよ」

「そうですか……それならいいんですが……」

「気を遣ってくれてるのね……ありがとうね、でも大丈夫よ」

 

先輩は微笑んで俺の頭をなでる。

 

「からかわないでくださいよ……」

 

俺は手を払うが、先輩はまた楽しそうに微笑む。

 

「さて、申請も終わったようだし、みんなの所へ帰りましょうか」

 

帰って行く先輩の後を追い掛けた。

みんなの元に帰ってくると、カズが待っていた。

 

「お帰り、で?いつに決まったんだ?」

「デビュー戦は三日後の夜に決まった。学校が終わってすぐログインすれば、なんとか間に合うと思う」

「じゃあ、この三日間はガンプラの改造と作戦や戦術のミーティングに費やすことになるな」

「そうなるな。なら、この三日以内にエクシアも完成させないとな……」

「私もインパルスをもっと改造したい!!」

 

シノが割り込んで会話に入ってくる。

 

「どう改造したいの?」

「そうですね……もっと速く動けるようなガンプラにしたいですね」

「それなら、ミッションのクリア報酬の、ブースターユニットをプリンターで生成したらいいんじゃないかしら。ほら、このミッションとか簡単そうよ?何なら、私も一緒に挑戦しようかな」

「いいんですか!?是非行きましょう!!今行きましょう!!」

 

シノが興奮気味に答えて、先輩を引っ張っていく。

 

「私たちはどうしようか、二対一で一戦やるかい?」

「そうですね、やりましょう」

「その意気だ。今度は負けないからね」

 

こうして、俺とカズでベルさんに挑むことになったが、まさか全敗するとは思っていなかった。

 

 

 

 

 

 

そして三日後……

 

「やっとだな……何か緊張してきた……」

 

フォースバトルの会場に向かう中、シャトルの一室で最後のミーティングをしていた。

 

「ふふっ……最初は何でも緊張するものだよ。とりあえず落ち着くといい」

「大丈夫よ。これまで何回もミーティングを重ねてきたんだから。ガンプラのテストも完璧でしょう?」

 

先輩とベルさんが励ましてくれる。

 

「そうですね……なんとか落ち着きました……ありがとうございます」

「もももううう!!なな情けないなあああ……こここんなことで……きき緊張なんかしちゃってさささ」

「お前も落ち着け……」

 

シノも声も体も震えて手に持ってるマグカップから紅茶がこぼれ落ちている。

 

「みんな、そろそろリボーコロニーに着くってさ」

 

どこかに行っていたカズが部屋に帰ってきた。今回のフォースバトルは基地の攻略戦だ。リボーコロニー内の秘密基地に格納されているガンダムNTー1を破壊すれば勝利になる。ポケットの中の戦争の4話を再現したバトルだ。

 

「よし、それじゃあ行こうか」

 

伸びをしながら、ベルさんが立ち上がる。

 

「さっきもいったけど、初めてのことに緊張するなんてことは当たり前のことだよ。結局の所、戦いっていうものはどれだけ準備をしてきたかで決まる。大丈夫。私たちは強い」

 

ベルさんが最後にみんなを鼓舞する。

 

「そういう旨のことを今からリーダーが言うので心して聞くように」

「いや、全部言っちゃったじゃないですか!?」

 

そんなベルさんの冗談でみんなが笑う。シノも緊張がほぐれたようだ。

 

「まぁ、ベルさんみたいなかっこいいことは言えないけど、できる限りのことをやればきっと勝てるよ」

「なんか、ベルさんの方がいいこと言ってたな」

「そりゃあ言いたいことのほとんどを言われたからな!!」

 

 

 

 

 

リボーコロニーの宇宙港に着くと、相手のフォースが待っていた。俺達と同じ五人組のようだ。

 

「おまたせしてすいません。俺、フォースバトルの相手をするビギニングダイバーズのリーダーのタクミです。よろしくお願いします」

 

俺は右手を出して握手を求める。だが、相手はそれをどうでも良さそうに無視する。

 

「あぁ、そういうのいいから。早くやって負けてくれればいいから」

「え?」

「どうせ、俺達が勝つんだから、早くやろうぜ」

 

相手のフォースのリーダーみたいな人が気怠そうにつぶやく。

 

「俺達は負けるつもりはないんですけどね……」

「はぁ?何言ってんだ?俺達は全員ランクBのフォースだぜ?お前らみたいな雑魚フォースなんか勝てるに決まってんだろ?」

 

リーダーみたいな人の隣にいる取り巻きみたいな人が威張り散らす。

 

何かすごい舐められてる……

 

「おい見ろよ!!今時、レイアフォロワーだぜ!!」

「一年も前にGBNをやめたダイバーのフォロワーなんて気が知れないな!!」

 

後ろの方にいる相手のダイバーの二人が先輩を指さしながら笑う。先輩は何も言わない。

 

「まぁ、始めようぜ。早く準備しろよ?」

 

そう言い残して相手のフォースは去って行った。

 

結局、最後まで名乗らなかったな……

 

「何あいつらの態度!!失礼にもほどがあるよ!!」

「多分、経験値欲しさに何回もフォースを作っては潰してを繰り返してる連中だね。やけに威張っている様子だったけど、気にする必要はないよ」

「はい、別に気にしてません」

 

それよりも、馬鹿にされてた先輩の方が心配だ。気にしてないといいけど……

 

「タクミ君……」

「はっはい!!」

 

先輩が話し掛けてくるが、その声にとんでもない圧を感じる。

 

「あのダイバーたち全員、私が潰してもいいのかしら?二度と笑えなくなるようなトラウマを与えたもいいのかしら?」

「先輩、気持ちは分かりますが抑えましょう……すっごい気持ちは分かりますが抑えましょう!!」

「分かっているわよ。せっかくみんなで決めた作戦を無駄にする気はないわ。ただ、彼らが許せないだけ……」

 

滅茶苦茶怒っていた。出会ってこれまで見たことないぐらい怒ってる。

 

「とっとりあえず、準備をしましょう。一応待たせるわけにもいきませんし」

「そうだな、確かスタート位置は工場地帯って話だったな。ここからすぐ近くじゃないか」

「なるほど、それならここの高台も早めに占領できそうだ」

「それじゃあ行きましょうか」

 

スタート地点には5軒の建物があった。中に入るとそれぞれのガンプラが仰向けに倒れている。

 

「それに乗って、天井を破って出撃するの。ケンプファーの出撃シーンの再現ね」

 

それぞれ散らばって、ガンプラに搭乗する。

すると、モニターに『BEGINNING DIVERS VS CRIMSON SCHWARTZ』の文字が表示される。

 

「クリムゾンシュバルツって、英語なのかドイツ語なのか……」

「赤いのか黒いのかどっちなんだろうな……」

 

カズとシノが相手のネーミングセンスに文句を言う。

 

「勝った後で聞けばいいだろ。そろそろ行くぞ」

 

建物の中に隠されていた五機のガンプラが立ち上がる。

そして、モニターに次は『ARE YOU READY?』と表示される。

 

「タクミ、ガンダムアサルトエクシア……」

「レイア、ガンダムF91キリア……」

「カズ、ジェイライン・スタンダードアーマー」

「シノ!!ラピッドインパルスフルバーニアン!!」

「ベル、ガンダムケルディムタイガ……」

 

一回深呼吸をして、高らかに声を上げる。

 

「フォース【ビギニングダイバーズ】!!行きます!!」

 

そして、『FORCE BATTLE START』の文字が表示され、戦いの幕が上がった。



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初陣と成長

「センサービットを展開した。各機、準備はいいかな?」

 

ベルさんの声が聞こえる。作戦通りに事が進みそうだ。

 

「カズ、いけます」

「シノはすぐにでもいけます!!」

「レイアもいけるわ」

「タクミ、今、地点に着きました」

「タクミ君、作戦考案者が遅れてどうするの……?」

 

先輩がモニター越しに冷たい視線を送ってくる。

 

「すいません、すぐに準備します……」

「まぁまぁ、まだ相手の位置も特定できてないし、焦る必要はないよ」

 

ベルさんはそう言っているが、先輩が言っていることは正論だ。

 

「あっ、見つかったよ。11時の方角に1機、12時に3機、1時に1機。3機の中心に建造物があるから、多分そこが秘密基地だね」

 

ベルさんのケルディムガンダムタイガには、センサーを拡張させるセンサービットが6基装備されている。それらを中継させることで、一方向だけではあるが、2500000メートルほど先の機体を感知できるようになっている。だが、それを狙撃出来るかはその狙撃手の腕次第なのだが。

 

「私が一回狙撃するから、それから四人で一気に攻めてくれ」

「「「「了解」」」」

「ハロも、撃った弾道の解析と修正は頼んだ」

『マカセトキ!!マカセトキ!!』

 

ベルさんは秘密基地らしき建造物に狙いを定め、スナイパーライフルの引き金を引く。放たれたビームは建造物の端かすめ、その向こう側に飛んでいく。

 

「すまない……直撃させることが出来なかった」

「気にしないでくださいよ。元々当たったらラッキー程度にしか考えていなかったんですし」

「シノ、それ微妙にフォローになってない……」

 

相手のダイバー達はこちらから見ても焦っている様子だ。その中の二機が狙撃を受けた方向に向かっていく。

 

「あっベルさん!!二機がそっちに行きましたよ!!」

「私が護衛に回ります」

 

先輩がベルさんの方に向かっていった二機を追う。

 

「俺達も行くぞ!!」

「おうっ!!」

 

俺は両手で頬を叩きい気合いを入れた。

 

 

 

 

 

 

『何なんだよ!!どっから撃ちやがった!?』

 

デュエルガンダムアサルトシュラウドとフルアーマーユニコーンが狙撃された方向に向かっている。

 

『背後にも一機!?F91ってことは例のレイアフォロワーか!!』

 

アサルトシュラウドがこちらを振り向いて肩部ミサイルを放つが私はビームシールドで耐える。

 

「先ずはこっちから」

 

ビームサーベルを引き抜き、アサルトシュラウドに斬りかかる。

 

『そんな攻撃でぇ!!』

「ベルさん、今です」

「そんなに狙撃の的になりたいのか!!」

 

アサルトシュラウドは高く飛んでそれを回避するが、そこをケルディムガンダムタイガの狙撃で撃ち抜かれる。

 

「レイア君、ナイス誘導!!」

「ベルさんも、完璧な狙撃でした」

 

モニター越しに私たちはサムズアップを向け合う。

 

『クソが!!』

 

フルアーマーユニコーンが背部のバズーカやミサイル、グレネードをこちらに発射する。私は後退しながらバルカンでそれらを撃ち落とすが、いくつかは撃ち損じる。

 

「まぁ、当たらないんだけどね……」

 

私は撃ち損じた分を避ける。更にベルさんがフルアーマーユニコーンを狙撃するが、ユニコーンの特性か、ビームが通らない。

 

「ベルさん、その武器ではダメージが入りません。ここは私に任せて三人の援護に行ってください」

「申し訳ない、ここは頼んだ!!」

 

ベルさんはタクミ君達の元に向かう。

 

『お前、さっきのレイアフォロワーだよな?』

 

相手のダイバーがオープン回線で話し掛けてくる。

 

『一つ聞きたいんだ。何で今時レイアなんかのファンになったんだ?』

 

今時……ねぇ……

 

『もう引退して一年だ。新参勢があいつを知る機会なんてそうないだろ?』

 

どうやら私はこの一年で「あの人は今」的な扱いになっているらしい。

 

「気が知れない……かしら?」

 

さっき彼らが言っていた言葉を返す。

 

『あぁ、そうだな。あいつは、烈火組の仲間のおこぼれを貰ってただけの、お荷物だったろ!!あんなやつのファンになる奴なんて馬鹿だ!!気が知れねぇよ!!」

 

なかなかに嫌われているようだし、なかなか好き放題言ってくれる。

 

自分で言うのも何だけど、それなりに個人での実力はあると思うのだけれど……

 

確かに、今時私のことを応援してくれているファンは少ないだろう。

ただ、ファンいないわけではない。

 

 

 

 

シノさんはどうしてGBNをやろうを思ったの?

 

三日前、シノさんと二人でミッションの周回を行っていた時、ふと気になって聞いてみたのだ。

 

「実は先輩に憧れて始めたんです」

 

私に?

 

私に憧れている人がいるなど思ってもみなかったため、少しあっけにとられた。

 

それは、レイアとしての私に憧れたってことなのかしら?

 

「いえ、元々学校での先輩に憧れてたんです。先輩がGBNで戦っている映像を見てからはレイアさんとしての先輩にも憧れてますけど」

 

シノさんは照れくさそうに笑っていた。

正直、私に魅力があるとは思えない。

 

「要は私が先輩のファン一号ってことですよ!!っあ、でも復帰前からのファンもいるから一号ではないか……」

 

そしてシノさんはそんな下らないことで考え込んでいた。

 

 

 

 

「私のファンがいてくれる限りは……どんなことを言われても私はもう折れない……」

 

もう、あの時の私ではない。

 

「ディバインモード!!」

 

F91キリアの装甲が展開して、サイコフレームが露出し発光する。

 

『はっ!?それってまるっきりレイアのガンプラの……』

 

相手のダイバーは少し驚いた声をあげた後、何かに気がついたかのように更に驚いた声を上げる。

 

『まさか……本物の……!?』

「えぇ、私があなたが言っていたお荷物よ」

『……でもいくら本物だからって……お荷物には負けねぇよ!!』

 

フルアーマーユニコーンが武器を構えて撃とうとする。だが、ユニコーンは固まったかのように動かない。

 

『……あれっ!?何で撃てねぇんだよ!!』

「あなた。サイコフレームはサイコミュがフレームに組み込まれているって知ってるかしら?」

『はぁ?何を急に……まさか……』

 

サイコミュジャック……フルサイコフレームによって感応波を増幅させて周辺のサイコミュ兵器を支配する現象。

 

「そう、あなたのユニコーンのサイコフレームを支配して、動きを止めたの。良かったわ、あなたがデストロイモードの方を買ってくれて」

 

まさかここまで出来るとは思っていなかったけれど、まぁ良しとしよう。

 

「確かに気が知れないけれど、あれでもかわいい後輩達なの。私は何を言われてもかまわない。でも、私のファンになってくれたあの子達を悪く言うのはやめてくれるかしら?」

 

ユニコーンが装備していた三つのシールドがひとりでに動き始める。

 

『こっちもかよ……!!俺だってそれ、出来たことないのに……!!』

 

GBNで強くなるにはコツがある。一つ目がプレイヤースキル。操作技術があればある程度勝ち上がることは出来るだろう。しかし、使うガンプラのクオリティが高くなければ勝ち上がった先で壁に遮られる。もう一つのコツというのが、そのガンプラのクオリティなのだ。

 

「それじゃあ、早速終わらせてもらうわね」

 

F91キリアが右手をユニコーンに向ける。その瞬間、宙を舞っていた三つのシールドがユニコーンのコクピットに高速で突き刺さる。

 

『うわああああああああ!!』

 

相手のダイバーの叫び声と共にユニコーンが姿を消す。センサーからも反応が消えたことが、撃墜されたことを物語っている。

 

「さて、行きましょうか」

 

極力、エネルギーを使いたくなかったけれど、予定以上に抑えることが出来て何よりね。

 

私は、タクミ君達のもとへ、戻ることにした。

 

 

 

 

 

「また敵の反応が消えた!!先輩達が倒したんだね!!」

「あぁ、こっちも戦果を上げないとな」

 

敵機はV2ガンダムA(アサルト)B(バスター)、パーフェクトストライク、少し二機とは離れているがフルアーマーガンダム。中でも脅威となりそうなのは、リーダー機のV2ガンダムだ。だが、こちらの狙い通り、動きが消極的になっている。

 

「このまま、行けるぞ!!」

 

ガンダムアサルトエクシアがブレードブラスターを大剣のように持って、パーフェクトストライクに接近する。改造のクオリティが上がって、前よりもアサルトエクシアの性能が上がっている。

パーフェクトストライクの対艦刀とつばぜり合いになり、シールドに搭載したブレードで追撃を狙うが、ストライクが後退することで回避する。

 

「シノ、今だ!!」

「そこだっ!!」

 

その隙にシノのラピッドインパルスフルバーニアンがパーフェクトストライクの背後に回って、ビームハンドガンを連射する。

 

『なっ!?いつの間に……!!』

 

ラピッドインパルスフルバー二アンは両肩、両足に搭載された可動式のスラスターユニットや二丁の連射性に優れたビームハンドガンによって、高機動と小回りの良さを両立させたガンプラに仕上がっている。

 

エンジンに直撃を受けたパーフェクトストライクはマルチプルストライカーを切り離し、廃棄するが、ただのストライクが挟み撃ちにされている状態で勝てるはずもなく、あえなくシノに撃墜された。

 

「ナイスキル、調子よさそうだな」

「ありがと……でも、まだ守りが堅いね」

「敵の数を減らせば、それだけ秘密基地を狙いやすくなる。アサルトバスターがやっかいだけど、作戦通り行けば勝てない相手じゃないよ」

 

シノはフルアーマーガンダムと戦っているカズの加勢に向かった。

それなら俺はアサルトバスターの相手をするとしよう。

アサルトバスターはメガビームライフルを俺に向けて発射する。俺はそれを避けてブレードブラスターを撃つが、Iフィールドで防御され、反撃のマイクロミサイルでブレードブラスターを破壊されてしまう。

 

『甘いんだよ、そんな攻撃でこのアサルトバスターが倒せるとでも!?』

「ビーム兵器が通らないな……実体剣で攻めるか!!」

 

俺は背部に装備していた二本のGNエクスカリバーを連結させて、構える。ソードインパルスのエクスカリバーを元に、実体剣の部分をクリアグリーンのプラ板の取り替えて、OO系統の武器に合わせている。個人的には自信作だ。

俺はGNエクスカリバーで突くようにアサルトバスターに攻撃するが、大型の盾に阻まれてうまくダメージを与えられない。

 

「クソッ!!そう簡単にはやらせてくれないか!!」

『だから、甘いって言ってるだろ!!』

 

一方、カズ達はこの三日間、練習した連携でうまく立ち回っている。

 

「カズ君、右側に攻撃を集中させた方が倒しやすそうだよ!!」

「さっきの攻撃で装甲にヒビが入ったのか……」

 

二人はフルアーマーガンダムの右側の装甲に射撃を集中させる。装甲が破壊され、体制が崩れた所を、ジェイラインのビームサーベルで腹部を両断される。

あっちは問題なかったようだ。問題があったのはこっちか……

俺は後方へ下がり、体勢を立て直そうとするが、その瞬間、アサルトバスターはメガビームライフル、メガビームキャノン、ヴェスバーを展開し、一斉射撃の準備を始める。

 

『これで終わりだ!!』

「やばいっ!!TRANS-AM!!」

 

 

左手に持っていたGNエクスカリバーを犠牲になんとかアサルトバスターの攻撃を回避する。その勢いのまま、シールドを射出する。先端部のブレードが展開され、間からビーム刃が発生する。

 

『これは……デスサイズのバスターシールドか!!』

「ご名答!!」

 

射出されたバスターシールドはアサルトバスターの盾をはじき、手放させる。アサルトバスターのダイバーは予想外の攻撃に戸惑い、大きな隙を見せる。

 

「ここだ!!」

 

その隙を見逃さずに、GNエクスカリバーを構え、突進する。アサルトバスターはビームサーベルを引き抜き、カウンターを仕掛けるが、ビームサーベルはアサルトエクシアの頭部を破壊し、GNエクスカリバーはアサルトバスターのコクピットを貫く。

アサルトバスターは爆発し、アサルトエクシアは仰向けに倒れた。

 

「一人でよく頑張ったわね……タクミ君」

「お疲れ様、私たちの完全勝利だね」

 

モニターに【WINNER BEGINNING DIVERS】の文字が表記され、F91キリアとケルディムタイガが遅れてやってきた。

 

「……ありがとうございます」

「今、シノ君達が秘密基地を破壊したところだ」

「そうみたいですね……なんとか勝ててよかったです」

 

俺は笑って答える。

 

 

 

 

 

「本当に失礼なことを言ってしまった」

 

相手のフォースに挨拶を言いに行こうとすると、フォースのリーダーが頭を下げて謝罪をしてきた。先輩を笑っていた二人に至っては土下座までしている。さっきとは全く違う対応に少しばかり戸惑ってしまう。

 

「いやいや、やめてくださいよ!!何もそこまでしなくても……」

「そんなわけにはいかない。俺達はあんた達を舐めていた……」

「それはそうなんでしょうけど、みんなもそれほど気にしてるって事もなかったですし……」

「寛大な返答に感謝したい……だが、連携か……あまり考えていなかったな」

 

相手のリーダーは顎に指を当て考える。

 

「やはり、ずっと同じ事を繰り返していても、何も成長できないって事か……そういえば、あんた達は【轟炎フォース祭】には出場するのか?」

「なんなんですか?その轟炎なんとか祭って……」

 

シノがベルさんに聞いている。

 

「たしか、トップランクのダイバーが運営と協力して今度、大会を開催するんだよ。フォースだったらどのランクでも参加できるんだよ」

 

シノさんはシノにわかりやすく説明する。

 

「俺達も、参加する予定でな。そこであんた達にリベンジしたいって話をさっきしてたんだよ」

「そうですね、元々その予定はなかったですけど、そういうことなら参加してみようかな……」

「まぁ、本当にリベンジできるかは、お互いの頑張り次第ね」

 

先輩が相手のリーダーを挑発する。

 

「はっ!!言ってろ!!」

 

リーダーは笑って答える。その表情はフォースバトルを始める前のめんどくさそうな顔ではなく、活気にあふれていた。

 

 

 

しかし、この時の俺達は知らなかった。この大会が長い戦いの始まりであることを………



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応えるべき期待

「初勝利を祝して……」

「「「「「かんぱーい!!」」」」」

 

初のフォースバトルを終え、俺達はGBN内のカフェで打ち上げをしていた。

 

「これ凄い美味しいです!!ゲームの中なのに味を感じる……」

 

シノは美味しそうにケーキを食べている。

 

「この前の大型アップデートで五感の認識をリンクできるようになったからね……おなかを満たすことはなくても、ほとんど実際に食べているのと変わらないよ」

 

ベルさんはそう言うと、可憐に紅茶を飲む。

 

「それで?轟炎フォース祭ってのは、いつまでに申し込めば良いんだ?」

「そういえば……そこまで考えてなかった……もう終わってないよな……」

「いや、確か当日まで申し込みが出来るはずだよ。主催者が初めて大会の主催をするらしいから企画がこけないように参加受付を緩くしたって話だ」

「なるほど、そうだったんですね」

 

そんなことを話していると、先輩が周りを気にしている。

 

「先輩、どうかしましたか?」

「いえ、気のせいかもしれないのだけれど、周りの人たちにジロジロ見られてるような気がして……」

 

確かに、先輩が言うように周りのダイバー達はこちらを見ながらひそひそと話している。

意識し始めるとこちらも落ち着かなくなってきた。

 

「俺達何か変なことしてますかね?」

「ここはそんなマナーに厳しいところでもないと思うし、それほどのマナー違反はしていないのだけれど……」

「あら♪シノちゃん達じゃないの!!ちょうど探していたのよ~♪」

 

そんな中、マギーさんが話し掛けてきた。

 

「それにレイアちゃんも、久しぶりね♪」

「ご無沙汰してます……マギーさんも、お変わりないようで安心しました」

 

先輩もマギーさんとは知り合いだったようでお辞儀をしている。

 

「それで、どうしたんですか?私たちを探してたって……」

「そうなのよ!!あなた達がフォースを作って、しかも少し話題になってるって聞いてね♪」

「話題……になったって……私たちが?」

「あら、まだ知らなかったのね……この配信を見たらわかると思うわ♪」

 

 

そう言うとマギーさんは一本の動画を見せてきた。それはついさっきまで配信していた動画のようだ。

 

 

 

 

 

 

「はーい、【フォースバトルを勝手に実況&解説!!シリウス君のわくわく☆実況部!】、はーじまーるよーーーー!!!」

 

パーカーを着た少年がテレビ局のスタジオを思わせる部屋で大きく手を振っている。

 

GーTUBE……GBN内で閲覧できる動画共有サービス。そこで動画を配信する者をジーチューバーと呼ぶ。

彼の配信はそのタイトルの通り、フォースバトルを実況や解説を行う物であり、彼のファン以外にも純粋にバトルが好きなダイバーからも支持されているらしい。

 

『待ってた』『こんばんはーー!!』『シリウスきゅん、かわいい!!』『初見です』『初見さんだ!!ものども囲め囲め!!』『落ち着けwww』『初見が逃げるぞwww』

 

視聴者のコメントが画面を流れていく。

 

「あはは……初見さん、こんな所だけど、楽しんでいってね~!!さて、僕、ついにSランクに到達しましたーーー!!なので今回はその記念にスペシャルゲストにお越しいただいております!!」

 

『おぉ、ついにか』『おめでとう!!』『すげーーー!!』『スペシャルゲストだって!?』『誰だろ?』『シリウスきゅんかわいい!!』『どうせ、フォースの仲間だろ。だまされんぞ』『ジョージいて草』

 

その言葉にコメントがざわつく。

 

「いやいや、本当にスペシャルな人なんだって!!」

「あっはっは!!君は信用されていないな、これまで何をしでかしてきたんだい?」

 

シリウスとかいう少年の隣からやけに渋い声がする。

 

「あぁ、ダメですよ…ロンメル隊長……まだ紹介してないんですから」

 

シリウスはその隣のダイバーを静止するが、そのダイバーの白い手……もとい前足が映っている。

 

『今、ロンメル隊長って言ったな』『まじでか』『ファ!?』『マジのスペシャルゲストで草』

 

「あっ!!言っちゃった!!もういいや、スペシャルゲストの第七機甲師団の智将ロンメル隊長でーす!!」

 

カメラが隣にいる、軍服を着た白いフェレットの姿をしたダイバーを映す。

 

「どうも、第七機甲師団のロンメルです」

 

ロンメルが画面に映ると、コメントが一気に湧き上がる。

 

『すげーーーーーー!!』『マジじゃねぇか!!』『ロンメル隊長ーーーーーーーー!!俺だーーーーーーーーー!!結婚してくれーーーーーー!!』『よく出てくれたな……』

 

「というわけで、今回はロンメル隊長と共にフォースバトルを勝手に実況解説していくのですが……今回はこのバトル!!」

 

シリウスがそう言うと、2人が映っている画面が小さくなり、もう一つウィンドウが現れる。そこには見覚えのある景色とガンプラが映っている。というか、これってさっきまで俺達が……

 

「ビギニングダイバーズVSクリムゾンシュバルツを実況していきます!!」

 

 

 

 

 

「はああああああぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

俺は思わず驚きの声を上げた。みんな五月蠅そうにしているが動揺しているのは間違いないだろう。

 

「凄いな……あの智将ロンメルにバトルを見てもらえる機会なんて滅多にないぞ……」

「視聴回数三万回……それだけ私たちのバトルが見られてたって事!?」

「こんなことになってたら、周りに見られるのも納得ね……」

「まぁ、とりあえず続きを見るとしよう……」

 

ベルさんがそう言って動画の一時停止を解除する。

 

 

 

 

 

フォースバトルの映像が流れている間、シリウスとロンメルは好きにバトルを実況していた。ここがうまいと言った賞賛や、ここはもっとうまく出来たはずというような厳しい言葉も出ていたが、やはり、SSランクとSランクのダイバーであるため、どれも適格な物であった。

そして、バトルの映像が終わり、二人の画面が大きくなる。

 

「さて、結果としては、ビギニングダイバーズの完全勝利に終わりましたが、ロンメル隊長としてはどう感じましたか?」

「ふむ、まずはクリムゾンシュバルツについてだが、バトルの形式毎の戦い方を考えていなかったことが大きな敗因の一つと言えるだろう」

「形式毎の戦い方……ですか」

「今回のバトル形式は変則的な防衛戦。防衛対象を守るというよりも隠すということが、この形式の戦い方と言えるだろう」

「なるほど、クリムゾンシュバルツは防衛対象に護衛機を集中させてしまったことで位置がばれてしまったということですね?」

「その通り。その時点でクリムゾンシュバルツは大きく劣勢になってしまったということなのだよ」

 

『これは結構なポカだよな』『普通の防衛戦なら常套手段なんだけどなぁ』『正直、ここで勝敗が決まったまである』

 

ロンメルはキメ顔で解説する。コメントも考察に興じているようだ。

 

「この場合だと、防衛対象を偽装するために護衛機を散らばらせるのが最善だろう」

「そして、そこでビギニングダイバーズは超遠距離狙撃によって防衛対象を攻撃しました。この狙撃には驚きましたね」

「ここまでの遠距離狙撃はトップフォースでもそうそう見れる物ではない。誰が相手をしても想定できる物ではないだろう。この狙撃はいくつかの効果があった」

 

『あれはマジで興奮した』『俺も狙撃手やってるけどあれはできないわ……』『操作してるダイバーはとんだ変態だな!!』『シモ・ヘイヘかお前は』『狙撃による効果か……なんだろ』

 

「先ずは、いくつかの護衛機を動きづらくさせた。下手に防衛対象から離れると、いつ狙撃をされるかわからないからね。そして、もう一つは空に飛びづらくなった。空中は射線が通りやすいからね。更に加えて、狙撃に意識をそらせることで、接近戦も仕掛けやすくなる。狙撃を印象づけて、警戒させるように促す作戦と言うことだろう」

「たった一回の狙撃にそこまでの意味が……ビギニングダイバーズの指揮官はなかなか考えていらっしゃる」

「まぁ、これはあくまで私の考察だがね。だが、アサルトバスターがこれ以降飛ばなくなったように、一回の狙撃でクリムゾンシュバルツの動きが大きく制限されたことは事実だ」

 

そう言ってロンメルはワインが入ったグラスを口元で傾ける。

 

「それに対し、クリムゾンシュバルツは二機のガンプラを狙撃を抑えるために動かしましたが、これは一見正しい行動に見えますが?」

「それは確かに間違った行動ではない。それに対するカバーでビギニングダイバーズも一機動いているが、そちらに狙撃の意識を逸らす事に成功している。結果としては二機とも撃墜されてしまったが判断としては正しいと言えるだろう」

 

それを聞いて、シリウスは話を進める。

 

「そこで、二体二と三対三にそれぞれ分断されることになります。先ずは二対二の方ですが、ビギニングダイバーズは精密狙撃とまさかのサイコジャックでアサルトシュラウドとフルアーマーユニコーンを撃破しましたが、どうでしょうか?」

「狙撃の方はさっきも言っていた空中は射線が通りやすいというものの実例と言えるだろう。対するサイコジャックもトップフォースでもそう見れる物ではない。ガンプラの性能差の違いがなせる技だ。なかなか貴重な映像だろう」

「つまりは、今回だけのスペシャル技ということでしょうか?」

「そうなるだろうね。ただ、サイコジャック自体はあのF91キリアが元々持っていた機能だろうし、ファンネル対策程度に搭載していたのだろう」

 

ロンメルが言ったその機体名にコメントも更に盛り上がる。

 

『やっぱあれ、レイアか。復帰してたんだ』『約一年ぶりか。前より強くなってね?』『ていうか、ガンプラそのものをジャックって何だよ』『全盛期の烈火組一軍だった人だぞ。それぐらい出来ても不思議に思わん』『ごめん、知らないダイバー何だけどそんな凄い人なの?』『今のシリウスと同等かそれ以上』『たしか純白の戦姫って呼ばれてたよな』『何でそんな人が新造のフォースにいるの?』

 

「コメント欄もレイアさん一色になってますね」

「昨年にフォースを脱退してきりだったからね。まさかの復帰には私も驚いたよ」

「私はGBNをデビューして間もないので彼女のことは噂程度にしか、聞いていなかったので、是非いつか戦ってみたい物です」

「ただ、彼女が復帰すれば、烈火組も元の形に戻る物と思っていたが、そう簡単な話ではなかったようだな」

「さて、話を戻しますが、続いては三対三。防衛対象周辺での戦いですね」

 

少し脱線しかけた話をシリウスはどうにか修正する。

 

「こちらは至極シンプルな戦いだった。個人で戦おうとしたクリムゾンシュバルツと連携を意識して戦っていたビギニングダイバーズ。ドズル・ザビが言っていたように戦いとは数だ。同じ戦力だったとしてもその戦力の使い方でここまで差が生まれる」

「なるほど、ビギニングダイバーズはこのフォースバトルにおいて、常に連携を意識して戦っていた。その点がこの戦いの大きなポイントであるわけですね」

「更に言えば、ビギニングダイバーズはそれぞれのガンプラを役割を意識して改造している。例えば、このインパルスは機動力を重視することで、意識を集中させるおとり役、隙を見せた相手への奇襲役を担っている」

 

『あのジェスタも中距離支援用みたいだったし、うまくバランスがとれたフォースだよな』『基本が出来てるフォースは強い。でも、基本が出来てないフォースって意外といるんだよな』

 

コメントも俺達に注目しているようだ。

 

「とはいえ、コメントにも書き込まれているようだが、これぐらいの連携は基本中の基本。トップフォースを目指す以上、出来て当然といえる物さ。これに満足することなくその上を目指すことが、ビギニングダイバーズの次の目標となるだろう」

「戦術のレベルが一緒なら、差が生まれるのはそれぞれのダイバーの実力……ということですね?」

「その通り。狙撃手のベル君とレイア君は十分な能力を持っているが、リーダーを含む三人のルーキーはまだ実力不足。上を目指す以上は個人の力量を向上させる必要があるだろうな。そのような未熟な点もまだまだ存在するフォースであるが、今後の彼らの活躍に期待している自分もいる。彼らと公式戦で戦える日まで期待して待っておくとしよう」

 

『ロンメル隊長が新造のフォースにここまで注目するのも珍しいな』『今のうちに、フォースバトル申し込んでみようかな』『マジで、これは申し込みが殺到しそう』『これは神回』『ゲスト回はすべて神回定期』『毎回神回定期』

 

「さて、そろそろお時間になってしまいましたが、最後に何かコメントをいただけますか?」

「ふむ、後半はビギニングダイバーズについての解説が多かったように感じるが、当然クリムゾンシュバルツにも期待している。今回のフォースバトルで見える課題も多かっただろう。それを改善すればそのランクに見合った技術を身につける事が出来るだろう。是非頑張っていただきたい物だ」

 

そう言い終えたロンメルを見て、シリウスは両手を合わせて締めに入る。

 

「ロンメル隊長。本日はご出演いただき、本当にありがとうございました」

「いや、こちらも普段は見ることがない新造フォースの活躍を見れて、良い刺激になったよ。是非また機会があれば出演したい物だ」

 

『今回は特に参考になった』『面白かったです!!』『やはり神配信だったか……』『今配信してることに気づいた』『残念。もう終わるところだ』『まぁ、ライブラリには残るだろうから、気を落とすな』

 

「というわけで、今回の配信はここまで!!お相手はセイクリッド旅団のシリウスと」

「第七機甲師団のロンメルがお送りしました」

「それでは皆さん、また次回~!!」

 

シリウスの締めの言葉で動画は終了した。

 

 

 

 

 

 

動画が終わっても、俺達は黙ったままだった。ふと、自分のメッセージ欄を見てみると、読み切るのに根気が必要そうな量のメッセージが届いていた。

 

「これは……今度の大会、予選落ちなんかじゃ期待外れだろうな」

「まぁ、元から、勝ち進んでいく予定だったじゃないしね。予定が絶対になっただけだよ」

「そうね、要は負けなければ良い。ただ、それだけの話ね」

 

フォースバトルになれているからか、先輩とベルさんは余裕そうに言っているが、残りの俺達は気が気でない。シノに至っては、シャトルに乗っていたときのように、体を震わせている。

 

「でも、そうですよね。期待されてるからには、応えたい。そのためにも、俺達はもっと強くならないと」

「あぁ、そうだな」

「また明日から忙しくなりそうだね!!」

 

俺がつぶやいた言葉に、二人も同調する。

 

「みんな、頑張ってね~♪」

「あっ、マギーさん、待ってください」

 

立ち去ろうとするマギーさんを先輩が呼び止める。

 

「あら、どうかした?」

「これから、久々に一戦どうです?次の大会までにブランクの差を埋めておきたくて」

「良いわね。それと、勝った方がマグナリアのケーキを一ピースおごって貰うってのも追加でね♪」

「えぇ、勿論負けるつもりはないですよ」

 

先輩は楽しそうに、マギーさんと話している。

 

「ということだから、私はここで少しバトルしてくるから……お先に失礼させてもらうわね」

 

そう言い残して、マギーさんと立ち去っていった。

 

「さて、私もそろそろログアウトさせて貰うよ」

「それじゃあ、俺達も……お疲れ様です」

 

ベルさんがログアウトするのに合わせて俺達もログアウトすることにした。

 

 

 

 

 

そんな中、彼らを十分ほど前から見ていたダイバーがいた。

 

ビギニングダイバーズの面々が打ち上げをしていると聞いて、ここに急いできて良かった。

 

「本当に面白そうだな。今度、あのリーダー君に声かけてみようっと!」

 

フードを外してそのダイバー、さっきまで動画の配信をしていたシリウスは席を立ち、どこかへ立ち去っていった。




作中の登場人物、ガンプラ、オリジナル設定等はビルドダイバーズシリーズの二次創作であれば、良識に沿った範囲内でご使用いただいてかまいません。


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烈火の王

今回は青いカンテラさんの「GBN総合掲示板」のキャラクターをお借りしています。


見渡す限りの焼け野原。数時間前までただの市街地だったフィールドの空には四つの羽を広げた竜が舞っている。【ジャバウォック】、様々な武器を搭載したそのガンプラは複数のサブユニットと共に、己を討伐せんとする挑戦者に牙を向く。一方、無数のビームの雨を避け、ジャバウォックに接近する挑戦者、【ゴッドガンダム修羅】はたった一本の刀でフェザーファンネルを切り伏せていく。

 

「おいおい、もっと手加減してくれたって良いんじゃないのか?」

 

ゴッドガンダム修羅のダイバーが軽い調子で冗談をつぶやく。なんとか攻撃を避け、ガンプラへのダメージを抑えても、神経は消耗する。冗談は言っているが、実際の所、そんなことを言っていられるほどの余裕はない。

 

『あら、【烈火の王】もそろそろ限界かしら?』

「ぬかせよ、小娘!!」

 

スラスターを拭かし、高く飛び上がったゴッドガンダム修羅が居合い斬りの要領でジャバウォックの右腕と右の羽一枚を切断する。その速さにはジャバウォックを操作するダイバー、クオンも目で追うことが出来なかった。その勢いを殺さずに方向転換し、刀を構える。背部のエネルギー発生装置が展開し、火炎の輪が発生すると共に、刀が火炎状のエネルギーを纏う。

 

「行くぞ、【火剣:狂神(たぶれがみ)】!!」

 

火炎を纏った刀を振り下ろし、ジャバウォックの背中を叩き斬ろうとするが、フェザーファンネルとサイコプレートが盾になることによって威力が分散され、致命傷になることはなかった。だが、相殺しきれなかったダメージによって、ジャバウォックの動きが少し鈍くなる。

 

『なるほど、まだ力を抑えていたということか……』

 

ジャバウォックも180度旋回し、両肩のサブアームに搭載されたビームガンと、腕部五連メガ粒子砲を発射する。ゴッドガンダム修羅は手の甲に取り付けられたビームシールドで防御するが、ジャバウォックの尾に取り付けられていたワイヤーブレードに刀を弾かれる。

なんとかゴッドガンダム修羅が着地し、そのダイバーはカメラ越しにジャバウォックを睨む。

 

「そろそろ、締めに入ろうか」

 

ゴッドガンダム修羅は両手を広げて、構えをとる。

ジャバウォックはその大きな(アギト)を開き、二装ビーム砲をゴッドガンダム修羅に向ける。

 

「これで決める!!【炎掌:聖鬼(ひじりおに)】!!」

 

前腕の小手が展開し、先ほどの攻撃のように、今度は掌にエネルギーが集中する。

ジャバウォックがビームを吐き出し、ゴッドガンダム修羅は掌からエネルギーをパルマフィオキーナと共に一気に放出する。

二人が放ったビームがぶつかり合い、その衝撃に互いのガンプラも崩壊を始める。拮抗する二人の攻撃は徐々にゴッドガンダム修羅が優勢となり、その勢いのままジャバウォックの頭部を破壊する。

 

『そんな……ジャバウォックが押し負けるなんて……でも、我の勝ちだ』

 

最後の一撃の放ったゴッドガンダム修羅は膝から崩れ落ち、ジャバウォックの有線式ビームサーベルによる反撃に対応出来ずに胸部を破壊される。

『WINNER KUONN』の文字が表示され、フォースバトルが終了した。

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様。良いバトルで我もつい熱くなったわ」

「あぁ、結構良い線行ってたと思うんだけどな」

 

GBN内のバーでドリンクのグラスをぶつけ合い、二人のダイバーが談笑していた。羊の角に蝙蝠の羽、竜の尻尾を生やした少女、【クオン】と、黒いスーツと白いワイシャツを着こなし、首元には桜の入れ墨が除いている、端から見ても闇社会のトップにしか見えない男、【烈火組】のリーダーである【ホムラ】だ。ホムラはハイボールを飲み、クオンはまだ未成年であるため、ノンアルコールカクテルを飲んでいる。

 

「それでも、たった二人でトップフォースに名を連ねている時点であなた達も相当化け物だと思うけれど……」

「とはいえ、フォースバトルでもフリーバトルでもお前に敵わないんじゃ、どうしようもないけどな」

 

ホムラはグラスを傾け、ハイボールを喉に流し込む。

 

「そういえば、【テンペスター】ってダイバーの話、知っているかしら?」

 

クオンがミルクを飲みながら聴いてくる。

 

「聴いたことがないが、最近力をつけてるダイバーとかか?」

「いいえ、まだ噂程度にしか広まってないんだけど、フォースバトルの乱入しては両フォースのガンプラを破壊して去って行く……まぁ、一種の荒し行為を働くダイバーよ」

「……ちょっと待て、そのダイバーはどうやってフォースバトル中のガンプラを攻撃できる?本来なら不可能な行動だ」

 

フリーバトルであっても、フォースバトルであっても、バトル中はフィールド全体を強固なバリアーのようなもので守られている。バトル中のガンプラに攻撃することは本来、誰であってもシステム上不可能なのだ。

 

「そうなの、そこが噂になってる理由。それに加えて、そのログを視聴できなくされていると来た。二年前のこと、覚えてるでしょう?」

「またマスダイバーが出てきたと?」

 

二年前、GBNではブレイクデカールによるチート行為が多数確認され、トップダイバーによる有志連合によって、鎮圧された。それ以降、ブレイクデカールは使用不可能になったのだ。

 

「さすがにそうだとは思っていなけれど、マスダイバーの模倣犯がいてもおかしくないと思ってね」

「とはいっても、あくまで噂なんだろ?なぜそんな話を?」

「あなたが主催する大会、轟炎フォース祭だったかしら?それも狙われるんじゃないかと思ってね。噂って言っても、火のない所に煙は立たないでしょう?」

「ふむ、確かにお前の言う通りだな。後で、ゲームマスターに進言しておくよ」

「でも、まさかあなたが大会の主催をし出すなんて思ってもみなかったわよ。どういう風の吹き回し?」

 

クオンはノンアルカクテルを一口のみ。目を細めてホムラを見る。

 

「いや何、いつものトップ連中のバトルを見るのも良いが、普段見ない奴らのバトルを見るのもまた一興だろ?」

「結局の所、いつものみんなも集まってしまっているけれどね」

 

クオンの皮肉にホムラは苦笑いで返すしかない。

 

「それに、バトルが何より好きなあなたが運営側に回っているのが一番解せないのよ」

「人を戦闘狂みたいに言うな」

 

ホムラは少し呆れる。

 

「別に深い意味なんてないさ。ただ、バトル以外の何かに挑戦してみようと思ってな」

「挑戦?」

 

クオンは聞き直す。

 

「このGBNには、無限の可能性ってのがあると思うんだ。土地を買い占めて資産家になりきる奴、情報屋としてこの世界を知り尽くそうとしている奴、お前みたいにバトルをエンターテイメントに昇華させる奴。バトルは当然面白いけど、それだけやるだけじゃGBNを完全に楽しんでいるとは思えないんだ」

「無限の可能性……」

「だから、バトルに参加する意外のことをしてみようと思ったんだ。バトルに関してはこの状況に満足してるしな」

「今の状況で満足って事は、フォースバトルはずっと二人でやっていくつもりってこと……?」

 

烈火組の全盛期から今に至るまでを知っているクオンは何度も聴いた疑問を投げかける。だが、それに対する返答はいつになっても変わらない。

 

「まぁ、そうだな。あいつらが帰って来ることがあれば、少しは考えるかもしれないが、今のところはメンバーを増やす予定はない」

 

そう言ってホムラは笑う。ただ、その表情に悲しみが帯びている事を、クオンは知っている。

 

「あいつらは俺達の元から離れてそれぞれの道を進もうとしている。それを引き留めて、戻ってこいなんて言えねぇだろ?」

 

ホムラは笑ってハイボールを飲み干す。

 

「まぁ、レイアの奴はGBNそのものを辞めてしまったらしいけどな……」

「あら?あなた、知らないの?あの子、どうやら話題になってるみたいなのよ」

 

クオンはきょとんとした顔を見せた後、一つの動画を見せた。

 

 

 

 

 

 

フォースバトルの翌日、俺達はジャパンディメイション、烈火組のフォースネストに向かっていた。なんでも、烈火組のリーダーが俺達と話したいというメッセージが先輩に送られてきたというのだ。

 

「何なんですかね?話って……」

「それが、私にもわからないの。ただ話があるとしか書かれていなくて……」

 

烈火組のフォースネストは純和風のお屋敷といった雰囲気だ。俺達五人がフォースネストの前に立つと、門が開き、その先には一人の男の人が立っていた。

 

「ようこそ、ビギニングダイバーズ御一行」

「初めまして!!ビギニングダイバーズのリーダー、タクミです!!」

「あぁ、烈火組のリーダー、ホムラだ。はじめまして」

 

ホムラさんは俺の後ろに立っている先輩を少し見ると何事もないように俺達を中に案内する。

 

「実はお前達の初陣を見させて貰ってな、都合良く古い知り合いがそちらにいるし、是非話してみたいと思ったんだ」

「そうだったんですか……」

 

案内しながらホムラさんは明るく話している。

大広間は縦に広い、畳の部屋だった。ホムラさんはそこにおいてある座布団に俺達を座らせる。

 

「さて、早速本題に入りたいんだが、お前達とアライアンスを組みたいと思っている。」

 

ホムラさんはさっきと打って変わって真剣な顔でそう言った。

 

「アライアンス……って、同盟みたいなものですよね……」

「あぁ、こっちが言うのも何だが、悪い提案じゃないはずだ」

 

俺はその誘いに少しためらってしまう。

トップフォースがそんな誘いをしてくれる機会などそうそうある物ではないだろう。だが正直な話、なんでホムラさんがそんなことをしてくれるのかが分からない。

 

「頭、なぜ私たちにそんなことを提案するのですか?それも教えずにアライアンスを組めと言うのは不躾だと思うのですが」

 

隣から先輩がホムラさんに抗議する。

 

「ふむ、それは確かに……基本的に俺達のフォースに所属していた連中がまたフォースを作ったらアライアンスを組むようにしてるんだよ。理由としては……そうだな……GBNの改革……かな」

「改革……?」

 

ホムラさんは多分言葉を選んで言っている様だったが、俺にはいまいちピンとこなかった。

 

「GBNのサービスが始まってずいぶん経ったが、トップの連中は代わり映えしないんだよ。それこそ二年前に出てきたビルドダイバーズは良い線行ってたんだが、たった一組でそうそう変わるものじゃねぇ」

 

ホムラさんはため息をつく。

 

「だから、若い連中が切磋琢磨してトップを目指せるように、アライアンスを組んだフォースを集めて試合をさせたりしてるんだよ。そうしたら、自分の課題点も相手の課題点も見つかりやすくなるだろ?」

「それは確かに……」

 

もしかしなくても、このアライアンスは承認すべきじゃないか?だが、このアライアンスに俺が気づいていないデメリットがあるのかも……

 

そんな考えが頭の中を満たす。

 

「先輩はどう思います?」

 

いくら考えても答えが出なかった俺は先輩の助け船を求める。

 

「私は組んだ方が良いと思うわよ?私たちがトップフォースの仲間入りを果たす上で最短ルートではないかしら」

 

先輩はそう言うってことはそういうことなのだろうか……

 

「それなら……よろしくお願いします……」

 

俺は自信なさげに承認した。

 

「……それじゃあ、よろしく頼むぜ?リーダーさん?」

 

ホムラさんは少し黙った後、笑顔で俺に握手を求める。俺は慌ててそれに応えた。

そんな中、大広間に一人の女性が入ってくる。

 

「ただいまーーー!!って、お客さんが来てるのかい!?」

「おう、お帰り」

「お帰りじゃないよ!!お客さんがいらっしゃるって知ってたらお茶ぐらい出すってのに……」

「良いよ、そこまでしなくたって……あぁ、紹介するよ。ウチの副リーダーのカリンだ」

 

ホムラさんはそう言って紹介すると、カリンさんも俺達の方を向いて礼儀正しくお辞儀する。

 

「はっ初めまして……」

「姐さん、お久しぶりです……」

 

俺達もそれに応えるように頭を下げる。先輩はホムラさんの時と同じように俺達よりもかしこまって頭を下げている。

 

「久しぶりね。何にも変わってなくて安心したわ」

「少しこのタクミとマンツーマンで話がしたいから、お前は他の四人に稽古をつけてやってくれるか?」

 

ホムラさんは立ち上がり俺の頭に手を置くとカリンさんにそう言う。

 

「えぇ、勿論良いわよ。みんなはガンプラの準備をしてきな。10分後にジャパンディメンションのロビーに集合ね」

「分かりました。タクミ君、あなたも気をつけてね」

 

そう言い残すと、先輩達はフォースネストを出る。

 

「気をつけるようなことはないですよね……?」

「まぁ、そこはお前次第かな」

 

ホムラさんの笑っている様子から冗談で言っているのは分かるが、緊張している俺は身構える。

 

「レイアをGBNに復帰させたのはお前か?」

 

ホムラさんは俺に聴く。

 

「はっはい、そうですけど……」

「そうか……ありがとうな。これでもレイアのこと、心配してたからさ。でも、楽しそうにして安心したよ」

 

ホムラさんは照れくさそうに笑う。だが、すぐに真剣の顔になる。

 

「それで、ここからはフォースのリーダーとしての話だが……お前、なぜ俺達とアライアンスを組んだ?」

「それは……組んだときのメリットが魅力的だった……」

「いや、違うだろ。お前はさっきレイアの意見を鵜呑みにしただけだっただろ」

 

食い気味に指摘された俺はついひるんでしまう。

 

「これは俺の持論だが、リーダーって奴はメンバーに意見を聞くことが重要だと思う。皆を引っ張っていくリーダーも、皆を支えるリーダーも、メンバーに意見を聞いて判断する物だ。だが、さっきのお前はただその意見をそのまま採用しただけだった」

 

ホムラさんは正論で俺を叱責する。俺はもう何も言えなかった。

 

「本当は悩んでいたんだろ?悩むことは悪いことじゃない。ちゃんと話し合って改めてアライアンスの組むか、考えてくれ」

「はい、ありがとうございます」

 

お言葉に甘え、俺はこのアライアンスのデメリットについて聴くことにした。

 

「さっきも言ったとおり、メリットは様々なフォースの特徴と自分達の弱点を知れるという点だ。その逆で、デメリットは自分達の弱点を大勢に晒すことになる。それが気になるってんなら、この話はなしにした方が良いな」

「……いや、やっぱり俺はホムラさん達とアライアンスを組みたいと思います。誰かの意見に流されていない、ビギニングダイバーズのリーダーとしての意思です」

「そうか。それじゃあよろしく頼むぜ、ビギニングダイバーズ」

 

ホムラさんは右手を差し出し、握手を求める。俺はそれに応えるが、ホムラさんの手を握る力が強すぎて、笑顔が若干引きつってしまったのは多分気のせいだろう。



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押しかけ師匠

ハードコアディメンション【ヴァルガ】、そこはお互いの同意なくバトルを行える戦闘狂の巣窟。そこでは多くのトップランカーが自己鍛錬のために訪れては天災のように暴れて回ることがある。

【冷血の伯爵】と呼ばれるマサトもそのトップランカーの一人だ。愛機の【トールギス・アイアンヴレイヴ】を駆り、次々と目の前を敵を葬っているのだ。特にここ数日は荒々しい戦い方をしている。理由は至極単純。かつての目標であったレイアが初心者ダイバーとつるんでいる内に腕を落としていたからだ。

 

「リーダー、ここにいましたか」

 

背後に青いレギンレイズが現れる。

 

「フウか……どうかしたか?」

「いや、そろそろ轟炎フォース祭に向けてミーティングなどをしておいたほうが良いのではないかと思いまして」

 

レギンレイズのダイバーである【フウ】は堅苦しい口調でそう言うが、マサトは否定する。

 

「そんなことをしなくとも、相手のフォースに合わせて臨機応変に作戦展開をすることは出来るだろう。お前達は個人の力をつけていれば十分だ」

 

フウとその双子の弟のライは、個人の実力はそれほど高くないが、連携しているときは上位ダイバーに食ってかかれるほどの力を持っている。マサトはそれを見込んで彼らをフォースのメンバーに入れているのだ。

 

「とはいえ、ここで戦うのもそろそろ飽きてきた頃合いだ。フォースネストに帰ろうと思うが、その前にしておきたいことがある」

「しておきたいこと……ですか?」

 

 

 

 

 

「これでいいのかな……」

 

烈火組とアライアンスを組んだ翌日、俺たちは轟炎フォース祭の申し込み登録をしていた。

 

「わざわざ、みんなで集まる必要はなかったんじゃないですか?」

 

申し込みはリーダー1人で行うことが出来るため、俺一人が来るだけで十分なのだ。

 

「別に良いんじゃないかしら。ついでよ、ついで」

 

先輩は伸びをしながらそう言う。

 

「さて、これで申し込みは終わったみたいだけど、どうする?これで解散でもいいと思うんだけど」

「そうですね、俺もアサルトアーマーの完成を急ぎたいし……」

 

ベルさんとカズはそう言うし、今日はこれで解散することになった。

 

「たっくん、ちょっとこれから付き合ってくれる?」

 

そんな中、シノが俺に話し掛けてきた。

 

「どうした?何に付き合えば良いんだ?」

「ビルドコイン……だったっけ。あれが結構貯まってきたから、服でも買おうかなって思ってさ」

「あぁ、なるほど。それでも、俺はそういうのは詳しくないから、調べながら行くことになるぞ?」

 

正直、俺はGBN内でのファッションには興味がない。だから、俺の服装はデフォルトのパーカーを羽織っているだけだ。

 

「でも、たっくんと二人で行きたいんだよ。男の子の意見も聴きたいしね」

「そっか……それなら、行くか」

 

 

 

 

 

調べてみると、ジャパンディメンションの市街地にはブティックが多く営業しているということが分かった。

 

「こんなにあるとどこから行くか迷っちゃうな……」

「時間はあるんだ。片っ端から見て回ろう」

 

こうして俺達はブティックで服を見て回った。時に試着をしてみたりもしたが、シノの容姿が良いからか、何を着てもよく似合っていた。ただ、さすがにミーア・キャンベルの服は着させないことにした。

 

「でも良かったよ。たっくん、リーダーになってから結構気張ってる感じだったから……」

 

店を回っているとき、シノがそう言って俺に微笑みかけた。

 

「そうかな……別にそんなことなかったと思うけど……」

「それは自覚がないだけだよ。初めてのフォースバトルの時も、ホムラさん達とアライアンスを組んだときだって、顔もこわばってたし、緊張してるみたいだったよ?」

「マジか……」

「でも、ホムラさんと話をした後は緊張もほぐれたみたいだったけどね」

 

それは確かにそうだ。昨日、ホムラさんと話をしたことで、俺はリーダーとしてのあり方を知った。緊張がほぐれたように見えるのはつまりはそういうことなのだろう。

 

「それじゃあ、次はたっくんの服も買いに行こうか」

「え?俺の分もか?」

 

予想していないことを言われて素っ頓狂な声を上げてしまった。

 

「当たり前だよ。今日の目的の七割はたっくんのその地味な服装をなんとかするためなんだもん」

「地味で悪かったな……」

「とりあえずこの服着てみてよ。きっと似合うから」

 

シノが渡してきたのは特定のキャラのコスチュームというわけではなく、このゲームオリジナルの服だ。俺は素直にシノの言うことを聴く。

 

「うん、やっぱり似合ってる!!これを買おう」

 

鏡で服を着た自分を見てみるが、確かに似合ってる。

 

「正直、最初は俺には合わないと思ってたけど、着てみると凄く合ってたよ

……!!よくこれを持ってきたな……」

 

俺はつい感心してしまう。

 

「服とか見てると、これならあの子に似合いそうとか、いつも考えてしまうんだよ」

「なるほど……経験がなせる技ってことか」

 

そう言うと、シノは微笑んでドヤ顔を見せる。

 

「本番にはこれを着て来てよ!!」

「わかってる、わかってるよ」

 

俺は笑ってシノの言うことを聞く。そんな中、俺の前に一人の男が立っていた。

 

「実際に面と向かって会うのは初めてだったが、こんな不抜けた顔だったんだな」

「は?」

 

その男はかつて俺が敗北したマサトだった。

 

「えっと……この人はどちら様?」

 

シノは少し戸惑い気味に聴いてくる。

 

「烈火組の元メンバーだよ。それにしても、なんでここに……?!」

「一昨日のフォースバトル……まだまだだが、少しは良くなったらしいな」

 

こいつもあの動画を見たのか……あのジーチューバーの影響力がそれほど強いということなのか?

 

「それはどうも……わざわざ皮肉を言いに来たのか?」

「いや、俺がするのは警告だ。貴様達も轟炎フォース祭に出るんだろう?ならば、レイアの顔に泥を塗るような真似はするなよ?」

 

マサトは俺の胸ぐらを掴んで睨みつける。

 

「ちょっと!!何するんですか!!」

 

シノがマサトの腕を掴んで止めようとする。

 

「私たちは全力で頑張ってるんです!!先輩に恥をかかせるとか、そんなことは絶対に有り得ません!!」

 

それを聞いて、マサトは俺の胸ぐらから手を離す。

 

「シノの言う通りだ。俺たちは全身全霊で戦う。お前たちを倒すのは俺達だ!!」

 

俺はさっきのマサトのように睨みつける。

 

「だったら、轟炎フォース祭で証明して見せろ。お前達が俺達と戦うにふさわしいということを」

「言われなくたって!!」

 

そう言い返すと、マサトは踵を返し、立ち去っていく。

 

「たっくん、大丈夫?」

「あぁ、まさかこんなことになるとは思っていなかったけど……」

 

シノに気を使わせないように俺は笑って答える。

 

「でも、こうやって啖呵をきったんだ。これで負ける訳には行かなくなったな」

「いいんじゃない?元々負けるつもりはなかったでしょ?」

 

シノはそれが当然であると笑って答えた。

 

 

 

 

シノと別れ、1人になった俺はログアウトしようとしていた。だが、その直前に男に話しかけられる。またマサトだと思っていたが、別の人物だった。だが、俺はその男を知っていた。

 

「君、タクミ君だよね」

「あなたは……確かシリウスさん」

 

今度は俺達のフォースバトルを解説する動画を配信したジーチューバーのシリウスだった。

 

「あの動画、見てくれてたんだ!!結構反響が良かったんだよ!!ありがとうね!!」

 

シリウスさんは大きな声を出しながら、俺の背中を何度も叩く。

 

「それで?俺に何の用ですか?もうログアウトする予定だったんですが」

「いやいや、ちょっと待ってよ!!君にも損は無い話だからさ!!」

 

シリウスさんは必死に俺を止める。その必死さに負けて、俺は少し話を聞くことにした。

 

「話っていうのは、俺の弟子になってみないかってことなんだけどさ」

「は?」

 

さっきのマサトに言われたことよりもピンと来なかった。というか、こういうものはこっちから頼むものじゃないのか?

 

「君の戦いを見て、もっと君の実力を伸ばしたいと思ったんだよ」

「……それは、嬉しい話なんですが…」

 

それを聞いても、やはり、分からない。昨日のホムラさんのこともそうだったが、俺はイマイチ人の親切を信用しきれない。何か必ず裏があると疑ってしまうのだ。

 

「どうする?君が嫌って言うなら俺も諦めるつもりだけど」

 

だが、これを断れば、こんな機会は二度と訪れない。

 

「いえ、是非お願いします!!」

 

俺はシリウスさんに弟子入りすることになった。

 

 

 

 

「さて、弟子になったって事で、君の実力を知っておきたい。フリーバトルで一戦しようか」

 

シリウスさんは自身のガンプラを出現させる。それはベースとなっているガンプラが一切分からない、まるで中世の騎士のような鎧を纏っている。鎧にヴェイガン系統のガンプラのパーツが使われていることはかろうじて分かったが、鎧の中のガンプラについては見たことがない。

俺もそれを見てが生まれるを出現させる。

 

「それじゃあ始めようか。【キャバルリ・シリウス】!!行くよ!!」

 

シリウスさんのガンプラ、キャバルリ・シリウスはレイピアを構え、アサルトエクシアに襲いかかる。

 

「はっ速い!!」

 

俺はあっけにとられながらも、キャバルリの攻撃を避ける。反撃に移ろうとしてもその余裕はなく、すぐに追撃が迫る。

先輩やマサトと戦ったときとは違うプレッシャーを感じる。

 

「まるで、俺の次の動きを知っているみたいだ……!!」

 

口ではそう言っているが、頭の中ではそのプレッシャーの正体は知っていた。

シリウスさんは俺達のフォースバトルを見て、それを実況解説していた。それならば、通常以上に観察しているはず。自分で意識していない癖、とっさの回避方法、反撃のための動き、そのすべてが一昨日のフォースバトルの出ているわけではなかったが、そこはこれまでの実況解説でパターンのプロファイリングをしていると言うことだろう。

 

「どうした?動きが鈍いんじゃないか?」

 

そんな口を叩きながらシリウスさんはアサルトエクシアをレイピアで斬りつける。

 

「クソッ!!このままじゃ!!」

 

俺は後退して状況を建て直そうとする。しかし、レイピアの刃が射出され、アサルトエクシアの右股を貫く。

刃を失ったレイピアはキャバルリの腰に取り付けられたホルスターで刃を補充する。

 

「これはまずいな……」

「まだ本気じゃないだろ?早く本気を見せてくれよ」

 

キャバルリの動きは先輩やマサトのそれとは違う。先輩達の動きが精密な機械だとするならば、シリウスさんの不規則な動きは野生の動物に近い。それでいて正確に弱点を突いてくるのだから余計に質が悪い。

 

「それじゃあ、行きますよ。TRANS-AM!!」

 

アサルトエクシアが赤く光り、キャバルリの背後に回る。

 

「なかなかの速さだ!!でも、その動きは知っている!!」

 

キャバルリは即座に振り向き、レイピアで斬ろうとするが、その距離にアサルトエクシアはいなかった。そのレイピアの先にギリギリ当たらない距離に立ち、それよりもリーチのあるGNエクスカリバーで反撃する。

 

「見事だよ。攻撃を受けながらレイピアのリーチを探っていたという訳か!!」

 

反撃はキャバルリの左小手に大きな傷を作っただけではあったが、その傷によって左腕は死んだ。

 

「想像以上だ……!!ここからはこっちも全力で行くよ!!」

 

そう宣言し、キャバルリは一気に距離を縮めようとする。対する俺は距離をとるように後退する。

 

「反撃の機会をうかがっていても、攻めの姿勢じゃないと勝てないよ!!」

「誰が受けの姿勢なんですか!!」

 

俺はGNブレードブラスターを構え、キャンベルの頭部を狙う。引き金を引き、ビームが発射されるが、キャバルリはレイピアをそのビームに突きを繰り出す。すると、ビームはまるで傘のように八方に分散され、無効化される。

 

「はぁ!?」

「動揺で隙だらけだよ!!」

 

予想だにしていなかった、回避方法にあっけにとられ、そのままコクピットをレイピアの貫かれる。

 

 

 

 

「お疲れ様!!思ってたよりも動けるようで安心したよ」

「とは言っても、負けましたけどね……」

 

バトルが終わり、俺はシリウスさんと休憩をしていた。

 

「それでも、課題が見つかっただけでも万々歳じゃない?まず最初に教えることは、動きのレパートリーを増やすことだ」

「動きの……レパートリー……?」

 

シリウスさんの顔が真剣になり唐突にレッスンが始まった。

 

「例えば、回避方法、動きがフォースバトルの時と全く同じだった。これから戦うことになる相手は君達のことを必ず研究する。そんな中でパターン化された動きを知られたら、必ずそこを突かれる。動きが読まれるわけだ」

「そのために、回避方法を増やして動きを読まれづらくさせる……ということですか」

「その通り、僕が最後に見せたビームの無力化は、轟炎フォース祭が始まるまでに習得させるからね?」

「えっ、マジですか!?」

「マジだよ。それじゃあ、まずはNPD相手にやってみよう。後、これからは僕のことを師匠と呼ぶように!!」

「はっはい!!師匠!!」

 

こうして、俺と師匠に数日にわたる修行が始まった。

最初はNPD、ある程度慣れてきたら実戦でヴァルガの乱戦に参加するなど俺がより実践に強くなれるように修行メニューを考えてくれたのだ。

 

 

 

 

 

そして修行の日々が終わり、轟炎フォース祭の幕が上がる。



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予選開始

「ビギニングダイバーズの皆様ですね。お待ちしておりました。こちらへどうぞ」

 

運営の職員が俺達を大会の会場に誘導する。

 

「申し遅れました。私、皆様の案内を担当させていただくハヤカワと申します。以後お見知りおきを」

 

ハヤカワさんは深くお辞儀すると、広いホールのような所に俺達を入れた。

そのホールには200人ほどのダイバーが集まっており、豪勢な食べ物を口に運びながらそれぞれ談笑に花を咲かせている。中には俺でも知っているトップランカーやそのフォースもいる。

 

「やばい、また緊張してきた……」

 

隣にいたカズが顔をこわばらせる。

 

「まぁ、確かにここまでとなると緊張するのも仕方ないね……」

 

さすがにベルさんも平常心というわけにはいかないらしい。

 

「よう、ビギニングダイバーズ!!来てくれたか!!」

 

落ち着いていない俺達にこの大会の主催者であるホムラさんが話し掛ける。

 

「ご無沙汰してます……こんなにダイバーが集まってるとは思ってませんでした……あの集まりなんて【アヴァロン】ですよね……」

「あぁ、そうだな。って、もしかして緊張してんじゃないだろうな?」

 

ホムラさんは笑ってそう言うが、緊張しない方がおかしいんじゃないだろうか。

 

「もうすぐに開会式らしいから、今のうちに知り合いに挨拶してきてもいいかもしれないな」

 

ホムラさんが帰ると、カズがそう言った。

 

「知り合いって言われてもな……」

 

そこまで言ったところで、師匠の存在を思い出した。師匠のフォースもこの大会に出場すると、この数日の間に聞いていたのだ。

 

「ちょっと師匠……シリウスさんに挨拶してくるよ」

「あぁ!!例のジーチューバーか。そう言えば、前に弟子入りしたって言ってたもんね」

 

あの敬意を考えると弟子入りという表現は合わない気がするけど……まぁ、いいか。

 

「そうね、私も挨拶したいし、私達も同行して構わないかしら?」

「それはいいですね。ぜひ行きましょう」

 

先輩の言葉に俺も同調したことで師匠に会いに行くと、師匠はとある四人組と話をしていた。

 

「あ……師匠、こんにちは」

「やぁ、タクミ君。いよいよだな」

「おっ、こいつらが噂のフォースか!!」

 

四人組の一人、ヒーローのような服装の筋肉質の男が師匠に聴く。

 

「うん、ビギニングダイバーズって言うんだ。そして、この子が僕の弟子のタクミ君。タクミ君、彼はBUILD DiVERSのリーダーのカザミだ」

 

師匠がその男を紹介する。BUILD DiVERSといえば少し前に話題になっていた、未知のストーリーミッションをクリアしたフォースだ。かくいう俺も、カザミが投稿した攻略動画には手に汗握って夢中になっていた。

 

「よう!!話は聴いてるぜ!!俺はカザミ!!こいつらはフォースメンバーのヒロトにメイ、パルヴィーズ。あともう1人メンバーがいるんだが、リアルの方で遅れるらしいんだ。とりあえずよろしくな、ビギニングダイバーズ!!」

 

後ろにいる三人は頭を軽く下げ、カザミは右手を差し出す。俺達はそれに応えて頭を下げ、握手する。

 

「よろしくお願いします!!」

「おう!!って言っても、今回は敵同士なんだけどな」

 

カザミは笑ってそう言う。

 

「そういえば、

「それにしても、運営の方を度々見ますけどなぜでしょうか?」

 

カザミの後ろにいるパルヴィーズが辺りを見回しながら言った。

 

「最近噂になっている【テンペスター】を警戒しているのだろう。昨日もまたフォースバトルに乱入したという話を聞いた」

 

パルヴィーズの言葉にメイが答える。テンペスターの噂は俺の元にも流れていた。まだ証拠も見つかっていない以上、運営が動くことはないと思っていたが、このホールにも職員がいるのはやはり大会自体が運営と協力しているからだろうか?

 

「でも、なんて言うか……不気味ですよね……目的が分からないのって……」

 

パルヴィーズは不安そうに呟く。確かに、テンペスターはフォースバトルに乱入しては暴れ、ガンプラを破壊し尽くすと去っていくと言われている。わざわざ乱入なんかするのだからバトル自体は目的では無いのだろう。

 

「君達はそいつに会ったことはないのかい?」

 

ベルさんはBUILD DiVERSの四人と師匠に聞く。

 

「いや、俺達も噂で聞いたことがある程度だ」

「僕も動画の視聴者がたまに話題に挙げているのを聞いたことがある程度だね」

「そうか……ならいいんだ」

 

ヒロトと師匠の答えにベルさんはどことなく残念そうな表情を浮かべた。

 

「ベルさん、どうかしましたか?」

「いや、少し気になってね……そういえば、カザミ君。君の動画のファンなんだ。サインをくれないか?」

「おっおう!!もちろんだとも!!」

 

カザミは嬉しそうにベルさんが差し出した色紙にサインをする。何というか、露骨に話を逸らされたような気がする。

 

「あっそろそろ開会式が始まるみたい!!」

 

シノがステージを指さす。そこにはホムラさんと、ガンダイバーの姿をしたゲームマスターが立っていた。

 

「あっ、俺もそろそろフォースの皆の所に戻るよ。皆またね!!」

「また後で!!」

 

立ち去っていく師匠に俺は手を振って見送る。

 

『さて、そろそろ轟炎フォース祭を始めたいんだが、まず一つ話をしたい』

 

ホムラさんはマイクを持って挨拶を始めた。

 

『お前達のライバルとは一体誰だ?この問いかけにはかっこいい常套句がある。己のライバルは己自身って奴だ。だが、俺にはあれが適当に答えているようにしか思えない。お前達のライバルはここにいるお前以外のダイバーだ。比較できる誰かがいるから進むべき方向を知ることができる。孤独なままでは進んでいる道が正しいのか分からないままだからな』

 

ホムラさんは真剣な表情で持論を語っている。少し、偏見もあるようだが、俺も概ね同意見だ。

 

『だからこそ、俺はこの大会を開催しようと思った。お前達がまだ見ぬライバルとであう場所としてな。トップフォースも参加しているのはさすがに予想外だったが、ここなら目指すべき相手、越えるべき相手、何だって揃うだろ?お前達に言っておきたいことは、ただ戦うな!!勝利の美酒を味わうために、敗北の苦汁を啜らないために、お前達が見せる最上級のバトルを見せてくれ!!轟炎フォース祭の開会を今宣言する!!』

 

ホムラさんのその宣言にダイバー一同は大いに盛り上がる。

 

『まず、予選を行う。予選で好成績を残した64組のフォースが本戦に出場出来る、シンプルな構成にしている。そして、予選の種目はこれだ!!」

 

満足げな表情を浮かべるホムラさんは右手でモニターを指す。

 

『変則バトルロイヤル!!』

 

ホムラさんがそう宣言するとモニターにも同じ文字が表示された。

 

 

 

変則バトルロイヤルは、その名の通り通常のバトルロイヤルとは違う。制限時間が設けられており、その制限時間までに撃墜した敵機の数の合計が高いフォースが本戦トーナメントに出場できるが、逆に撃墜されてしまった場合はそれまでの撃墜した記録がゼロになる。つまり、フォースのメンバーが全滅した時点で予選敗退が確定してしまうのだ。

そして、このバトルロイヤルのフィールドはそのために貸切になっているディメンション全体だ。そのあまりに広大すぎるフィールドで散り散りになったフォースの仲間と合流できる可能性は、そう高いものでは無い。

 

「これで6機目か……みんなはまだ撃墜されてないよな……?」

 

予選が始まって10分が過ぎた。俺は地球の外縁、ユニコーンに出ていたラプラス宙域で戦闘をしていた。

 

「それにしても、神経を研ぎ澄ますにもそろそろ疲れてきたな……10分でこれか…」

 

これまで俺がバトルをしてきたのは重力下であることが多かった。無重力環境では左右前後だけではなく上下も警戒しなければならないのは意外と神経を使うのだ。

そんな時、ひとつの光の線が視界の端に映る。少しすると、それが一機の可変機であると分かった。

 

「速い…これって、俺が狙われてるよな……」

 

その可変機はビームバルカンをこちらに発射している。シールドで防御し、反撃のブレードブラスターを撃ち返す。それを避けた可変機が変形し、ビームバルカンを内蔵しているであろう槍を構える。

 

『よう!!さっきぶりだな、タクミ!!』

 

その聞き覚えのある声は、BUILD DiVERSのリーダーのカザミだった。

 

「なるほど……これが噂の、イージスナイト……!!」

 

イージスナイトが槍で突いてくる。それを避けてGNエクスカリバーで反撃するが、巨大なシールドで受け止められる。

 

「硬い……!!でも、まだ行ける!!」

 

俺はシールドを蹴り上げ、イージスナイトに隙を作らせ、ブレードブラスターの刃で肩装甲を切り裂く。

 

『クッ!やるな!!』

「伊達に、シリウスさんの弟子じゃないんですよ!!」

 

俺たちは笑いながら睨み合った。

 

 

 

 

 

市街地、モデルはSEEDのオーブだろう。

そこにはカズのジェイラインと、ベルのケルディムガンダムタイガが潜伏していた。

 

「ベルさん、これで何機目ですか?」

「12機目だね。もっと集まってるものだと思ってたけど、意外と少ないね」

 

その瞬間、多くな爆発と共に高層ビル群が崩壊する。

 

「敵影、3時の方角だ!!」

「って、煙で何も見えない……!!」

 

崩壊したビル群が発生させた煙が晴れると、一機の影が見えた。

 

「もしかして……あいつ一人でやったのか……」

「あぁ、どうやらそうらしい。というか、彼ならこれぐらい造作もないだろうね……」

 

豆粒ほどの影をスコープで見ると、胸のAの文字が見えた。紺色の塗装、手に持つ巨大なビームソード、肩のビット兵装、間違いない。クジョウ・キョウヤのガンダムトライエイジマグナムだ。

 

「チャンプって、そんなの勝てるわけないじゃないですか……」

「でも、ここからの狙撃ならもしくは……」

 

ベルはスナイパーライフルを構え、トライエイジマグナムに照準を合わせる。

 

「いけ!!」

 

ベルは引き金を引く。放たれたビームはまっすぐトライエイジマグナムを目掛けて進む。この距離なら気づかれない。気づいても、避けられるはずがない。そう信じていた。

しかし、トライエイジマグナムはその巨大なビームソードでこちらを一切見ずにビームを切り払った。

 

「……は?」

「……気づいていての、あの反応だったのか……!?」

 

圧倒的……その言葉は二人の頭を満たした。

 

「もうダメです!!逃げましょう!!」

「あぁ、彼がそう易々と逃がしてくれるならね……」

 

 

すでに彼はこちらに向かっている。たどり着くのも時間の問題。二人は一目散に逃げながら、一矢報いる策を頭の中を巡って、考えるのだった。

 

 

 

 

こういう戦いもなかなか面白いわね……

 

山岳地帯で私のF91キリアは岩場に隠れて正面の狙撃手の出方を伺っていた。紺色の狙撃手はこちらにスナイパーライフルを構え、睨んでいる。

これまで何人もの狙撃手と相手をしてきたけど、彼はなかでも結構器用だと思う。けれど、あのガンプラはこれまで見たことがない。そのそのベース機も分からない。まさかとは思うけれど、フルスクラッチと言うことはないでしょう。

 

「この一年で実力をつけたダイバーって事なのかしら……」

 

とはいえ、このまま動かないのも性に合わないし、撃墜数も稼げない。

私はさっきサイコミュジャックで利用できるように達磨の状態にして放置していたキュベレイをその狙撃手を目掛けて投げつける。そのまま私はそのキュベレイをヴェスバーで撃ち落とす。大きな爆発を起きた隙にビームサーベルを持ってその狙撃手に接近する。

 

「一気に落とさせて貰うわよ」

 

しかし、そこに降り注いだビームの雨に私は侵攻を防がれた。

 

『うまそうな奴らがそろってるじゃねぇかよ……!!お前らまとめて味わわせろ!!』

 

舞い降りた赤鬼は私の向かって剣を振り下ろす。ガンダムGPー羅刹天……獄炎のオーガの愛機もこの一年で更に強化されているようだ。

 

「あら、つまみ食いは少しマナー違反ではなくて?バトルグルメ……!!」

『そう言うなよ……うまそうな匂いをさせてたお前らにも問題があるんだからなぁ!!』

 

オーガの相手をしながら、私はさっきの狙撃手に目を配る。そこには私にとっては驚愕の光景が映っていた。

 

『コアチェンジ……ウラヌストゥマーズ!!』

 

紺色の装甲がパージされ、どこからともなく現れた支援機の赤い装甲と大剣が小さなガンダムの全身に纏われていく。全く別の機体に変身したそのガンプラは大剣で私たち二人に襲いかかる。私は羅刹天に蹴りを食らわせて回避行動を取る。

 

「装甲を換装して……戦闘スタイルを一新するガンプラですって……!?」

 

そのような機体はガンダムシリーズのは結構存在する。しかし、ここまでのクオリティの、それも完全フルスクラッチともなれば、GBNでもそうそう見ない。

 

「まったく、GBNには馬鹿しかいないのか……!!」

 

そして私もこの馬鹿達の一人であることは重々理解している。私の中の馬鹿が騒ぎ出している。

 

「そう言うなら、つまみ食いとは言わずに平らげて貰ってもいいのよ?ただし、逆に私に食い尽くされなかったらの話だけれどね……!!」

 

それを聞いたのか、オーガは笑ってこちらに剣を向ける。

 

『よく言った!!その言葉……訂正させねぇぞ!!』

『俺も、負けるつもりはありません……!!』

 

どうやら、二人の赤い剣士は結構乗り気のようだ。

私は久々に味わった感覚に感動を覚える。

 

やっぱり私は、本当にGBNが大好きらしい。

 

「ディバインモード!!」

 

F91キリアを変形させ、二人を睨む。

 

「少しの間だけれど、私に付き合って貰うわよ!!」



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