シーランド帝国召喚 (鈴木颯手)
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第0章【転移】
第一話「始動」


a.t.s51(皇歴51年)/12/31/23:50/シーランド帝国本土ブリテン島

「はぁ」

 

ロンドニウムに住むデイヴィッドは雪が降る帝都の街並みを見ながらため息をついた。彼は一月前に務めていた会社で大きなミスをしてしまい解雇されていた。一ヶ月もの間職を探したが中々見つからず年が明けたら帝都を出ようと考えていた。今日は帝都で過ごす最後の夜なのだ。

 

「ほんと、この街が住み心地が良かったのに……」

 

アイルランドから帝都にやってきたデイヴィッドは18からの10年間もの間過ごしていた。故郷のアイルランドにはその間一度も帰っておらず朝昼は仕事をこなし夜は街に繰り出すのが日課になっていた。

 

「悲しいけど別に来れなくなる訳じゃない。次は観光目的で来るとするか」

 

マンションを解約しホテルで一夜を過ごすデイヴィッドは東アフリカ自治領産の紅茶を飲みながら帝都の風景を目に焼き付けんとばかりに窓からのぞく。近年類を見ない積雪量はまるでなにかを暗示しているかのようであった。

 

「……離れたくないな」

 

ポツリ、とデイヴィッドは呟く。彼の脳裏には10年間の思い出がよみがえる。辛くもあった画楽しい日々もあった帝都の生活は彼の心を留めるには十分だった。

 

「……はぁ、何かハプニングが起きてロンドニウムに留まれないかな~」

 

デイヴィッドは空になったカップを机に置くとそう呟きベッドに潜り込んだ。明日は10時の便に乗りアイルランドに変えるのだ。夜遅くまで起きる事は出来なかった。

故に、彼は気付かなかった。日付が変わると同時にブリテン島が忽然と姿を消していたことに。

皇歴52年、西暦2019年1月1日シーランド帝国は地球から消えた。この出来事のせいかは分からないが2020年に第三次世界大戦が勃発。シーランド帝国の友好国は皆敗北し国土を焼かれるのであった。

 

 

 

a.t.s52(皇歴52年)/1/6/14:46/シーランド帝国本土ブリテン島

「どういう事だ!」

 

シーランド帝国二代目皇帝ライオネス・ロバーツ・ペンドラゴンは顔を真っ赤にして叫んでいた。年明けと共に一部の衛星などが使えなくなり更には新生ブラジル帝国などの国々との連絡が出来なくなったのだ。ライオネスは怒りに任せ机をたたく。ゴン!という鈍い音が部屋に響く。現在ライオネスは閣僚と共に緊急会議を開いていた。ライオネスの怒気にほとんどの者が顔を青くしている。

シーランド帝国の権勢の礎を築き上げたライオネスは内外から恐れられており特にこうしてともに仕事をする閣僚にその傾向が大きかった。

 

「何故連絡がつかない?技術者はなにをやっている!?」

「しかし父上。現在新生ブラジル帝国方面に向けて二機の戦闘機を向かわせております。時期に報告が届くでしょう」

 

そんな中彼の怒気にひるまず発言する人物がいた。皇太子であるウィリアム・ロバーツ・ペンドラゴンである。父とは違い誠実な人物であり次期皇帝して期待されていた。25歳になったばかりだが高齢であるライオネスを良く補佐し既に彼の仕事の一割を引き継いでいた。

そんな自慢の息子に諭すように言われたライオネスは怒気を抑え穏やかな笑みを浮かべた。

 

「そうか、なら今は待つとしよう。きっと良い報告を持ってきてくれるはずだ」

 

そんなライオネスの思いをぶち壊すように戦闘機から報告が入った。

 

『新大陸は存在せず代わりに未知の大陸が存在する!』

 

更に各自治領からも隣接する他国の土地が消えていると連絡が入りライオネスの機嫌は大きく下がるのだった。

そして父に代わりウィリアムが新たに発見した大陸に艦隊を送るのであった。

 




シーランド帝国
第二次世界大戦にて疲弊したイギリスを打倒した国家。初代皇帝アルフレッド・ロバーツがクーデリアの鎮圧と引き換えに戦死したためライオネスが約40年に渡って皇帝として君臨している。各地に侵略を繰り返しており世界中に自治領を保有する。
イギリスと関係の深いインド共和国を中心に敵視する国が多く存在している。

新生ブラジル帝国
シーランド帝国の友好国。何かと結びつきが強く皇族同士の婚姻も行っている。

インド共和国
シーランド帝国が現状唯一敵国として扱っていた国。ビルマへの侵攻時に一度やり合っている他ビルマの国境で緊迫した状態が続いていた。


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第二話「侵攻」

艦隊が新たに発見された大陸に向かった頃、ライオネス・ロバーツ・ペンドラゴンはそれとは別に周辺の島々への侵略を行っていた。

シーランド帝国の本土であるブリテン島の周囲には小さな島が存在していおり中には中世的な国を形成しているところも存在した。ライオネスはそこに侵攻する事で情報を得ようと考えたのだ。

 

「……という状況からここが異世界であると推測されます」

「ほう、中々に奇想天外な事になっておるな」

 

ライオネスは閣僚の報告に面白そうに答える。技術状況は分からないがシーランド帝国を打破しうる国は存在しないと考えられた。とは言え今まで征服したのは小さな島国のみだ。新大陸にはもっと技術が進んだ国がいても可笑しくなかった。第二次世界大戦の時の各国の植民地を征服して技術力を侮る様なものだ。その様な事をしては国が亡ぶとライオネスは考えている。

 

「……ウィリアムが送り込んだ艦隊はこの大陸に向かっておるのだな?」

「はい。その通りです」

 

ほぼブリテン島の西に存在する大陸を指さしライオネスは考える。島々から手に入れた情報と戦闘機などの偵察から西側には様々な大陸が存在しているのを確認していた。特に北西にある大陸はデカい上に周辺諸国の中心となっているとあった。

 

「……新大陸を見つけたイギリスもこの様な感じだったのだろうか」

「は……?」

「この大陸に使者を出せ。船は途中までは艦隊を出し近づいたら島々から鹵獲した帆船を使え。そうだな……、国名はシーランド王国と名乗らせろ。帝国と言うよりは問題ないだろう」

「分かりました。直ぐに手配します」

 

閣僚は皇帝の命を伝えるために部屋を後にした。執務室に一人残されたライオネスは自身の後ろに貼ってある旧世界の地図を見て笑みを浮かべるとそれを引き裂いた。

 

「この世界に何があるかは分からんが我が覇権の邪魔をするインド共和国も愚かな三重帝国も世界の中心を気取るエーレスラントもおらん。我が帝国はこの世界で!覇を唱えるのだ!」

 

ライオネスは希望に満ち溢れる未来を想像し高らかに笑うのであった。

 

 

 

 

 

 

一方、ウィリアムの命で派遣された艦隊は大陸にあるクワトイネ公国との接触に成功していた。同艦隊に同行していたウィリアムは直接交渉する事でクワトイネ公国との国交を樹立させた。更にクワトイネ公国南部に位置するクイラ王国との国交樹立にも成功しシーランド帝国の孤立状態を何とか回避させることに成功したのである。

 

「殿下、ロウリア王国は潰すしかありません」

「そうか……」

 

クワトイネ公国の公都にて用意された屋敷で寛いでいたウィリアムは一緒に来ていた閣僚や軍人からの報告を受けていた。内容はクワトイネ公国の西に存在するロウリア王国についてだ。クワトイネ公国からの情報提供である程度の情報を得たウィリアムだったが確実に相容れない存在だった。

 

「殿下が望んでいた友好関係も今の人間至上主義はともかくとしてもいろいろな面で敵対しかねません。また、国交を樹立したクワトイネ公国やクイラ王国とも仲が悪く近いうちに侵攻する可能性すらあります」

「そうなれば国交樹立も水泡に帰す、か」

 

ウィリアムは悲し気な表情で外を見る。彼とて軍事力の大切さなどは知っているがそれでも好きには慣れない上に

 

「父上は、これを聞いたら悠々として侵攻するだろう」

 

父はそう言う人だからな、と呟く。40年に渡り皇帝の座につき祖父が興した帝国を反江尾に導いた人物だが好戦的なうえでの覇権主義者であった。今頃ライバルが消えた事で狂喜乱舞しているかもしれないとウィリアムは思う。

 

「しかし、陛下にお伝えしないのは流石に……」

「分かっている。この件は私が父上に直々に話す。成るべく被害を抑えられるように務めるつもりだ」

 

ウィリアムは決意と共にそう宣言するのであった。

 



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第1章【ロデニウス大陸編】
第三話「戦争」


二か月ぶりです


「ロウリア王国か。腕試しには丁度良いだろう」

 

皇太子ウィリアムからの報告書を見たライオネスは獰猛な笑みを浮かべてそう言った。ライオネスの目にはこの世界に来て最初の獲物にしかロウリア王国はもはや見えていなかった。ロウリア王国を降す事で得られる富を考えながらライオネスは指示を出す。

 

「ウィリアムの下に軍を送れ。そうだな……10個師団(約15万人)がいれば良いだろう。編成は任せる」

「かしこまりました」

 

ライオネスは近くで待機していた宰相のローレンス・E・キングストンに命令を伝えた。ローレンスは皇帝の命を最大限実行できるように頭の中で軍の編成を行いながら執務室を出て行く。

それを見届けたライオネスはウィリアムが送ってきたロデニウス大陸の地図と哨戒機が撮影した同大陸の写真を見ながら笑う。

 

「ふ、フハハハハハ。エーレスラントもインドもいない世界……。素晴らしいではないか!ここでなら我が野望を叶えることが出来よう!」

 

ライオネスの笑い声はこの後一時間近く聞こえたという。

 

 

 

クワトイネ公国との接触から一月後のa.t.s51(皇歴51年)/2月16日。湾港都市マイハークにシーランド帝国軍10個師団が到着した。ローレンスが厳選した精鋭たちが多くおり彼らはライオネスの命の元ウィリアムの指揮下に入りロウリア王国との国境がある西方へと進軍する事となった。更にシーランド帝国艦隊も同時に動き出しロウリア王国へと航行を開始する。

原子力空母キング・オブ・ライオネス級を筆頭としたシーランド帝国の主力艦隊である第一艦隊の様子はクワトイネ公国にも確認できた。

 

「しゅ、首相……」

「シーランド王国、いや帝国か。侮れないな」

 

クワトイネ公国の首相カナタはシーランド帝国艦隊を一目見るべくマイハークに赴いていた。そしてシーランド帝国の皇太子が理知的で戦争をあまり求めていない性格という事に安堵した。このままなら彼が皇帝となりシーランド帝国の舵取りを行う事になるだろう。そうなればシーランド帝国の強大な力がクワトイネ公国に向く事はない。同時にこれから滅ぼされるであろうロウリア王国に対し同情するのであった。

 

 

 

a.t.s52(皇歴52年)/2/16/13:12/ロウリア王国王都ジンハーク

「陛下!シーランド帝国の使者と名乗る者が一方的に宣戦布告してきました!」

「ほう?」

 

日課の入浴を行っていたハーク・ロウリア34世は部下の報告に反応した。彼にとってシーランド帝国はよく分からない国である。クワトイネ公国とクイラ王国と国交を結んだとしか分かっておらずどのような国で、何処にある国なのかさえ分かっていなかった。しかし、マイハークなどで多く目撃されている事から東にある国と推察している。しかし、ロデニウス大陸の東側には海が広がっているだけで島はほとんどない。

新興国か?とも考えたが両国の様子からそれもないと結論していた。パーパルディア皇国の支援を受けているとは言え予想外の事態はなるべく避けたい。そう言う意味ではシーランド帝国と接触するべきだろうが宣戦布告の使者が現れるまでシーランド帝国の関係者が訪れた事はなかった。

 

「パタジンよ。兵をクワトイネ公国との国境に配置せよ。クワトイネ公国から攻めてくる可能性もある」

「はっ!」

「それとシャークンに艦隊を出向させるように伝えよ哨戒を配置しシーランド帝国の襲撃に備えるのだ」

「了解しました!」

 

パタジンは王の命を伝えるために大浴場を後にする。パタジンが出て行ってからも彼は思考を止める事はなかった。

 

「(こちらにとって最も不利な点はシーランド帝国の位置が分からない事だ。我らはシーランド帝国に直接攻撃が出来ないが奴らはこちらの事を知っている。シーランド帝国がやって来る前に何としても敵の位置を知らなければ……。幸いこちらもクワトイネへの侵攻の為に軍拡を行ってきた。シーランド帝国の強さがどの程度かは分からないが直ぐに負ける事はないだろう)」

 

しかし、ハーク・ロウリア34世は直ぐにシーランド帝国の恐ろしさを知ることになる。

 




エーレスラント連合王国
めっちゃヤバい国。シーランド帝国が世界の覇者を諦めた原因であると同時に絶対に敵対したくない相手。

インド
シーランド帝国絶対殺すマン。戦ったらシーランド帝国は負ける(ほぼ確実に)


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第四話「ロデニウス沖大殲滅戦」

a.t.s52(皇歴52年)/2/16/15:47/ロデニウス沖

「目的地に到着しました」

「よし、これより攻撃を開始する」

 

ロウリア王国の湾港都市に到着したシーランド帝国第一艦隊は出向の準備を行っているロウリア王国の木造船へと砲を向けた。

 

「砲撃開始!」

 

艦隊司令官の指示に従いシーランド帝国のD6級イージス艦が速射砲を放つ。更に戦艦も自慢の40センチオーバーの砲塔から砲撃する。速射砲によって丁寧に沈められる船に艦砲射撃で重大な被害を受け始める湾港都市。僅か数分で湾港都市は火の海となり海兵や住民の叫び声が聞こえてくる。

 

「港に停留していた敵艦隊の2割を殲滅!」

「よし、そのまま砲撃を続けるぞ」

「はっ!」

 

シーランド帝国は容赦なく攻撃を続ける。港から出ようとした船は優先的に沈められ船から下りれば艦砲射撃の爆風で爆発四散した。彼らロウリア王国の海兵たちは物陰に縮こまり悪夢の如き攻撃が止む事を祈っている事しか出来なかった。

それは海将シャークンとて同じことだった。自らが乗艦する船から周りの船が一瞬で沈んでいくのを茫然と眺めていた。

 

「何故だ……。なぜこんな事、に……」

 

シャークンはシーランド帝国の隔絶した力に恐れと絶望を抱きながら目の前に迫ってきた砲弾にぶつかり上半身をバラバラになる事でこの世から消えた。

 

 

 

攻撃は約三時間に渡って行われた。途中ワイバーンの襲来があったが対空ミサイルによりワイバーンは一騎残らず撃墜され空に血と火薬のグラデーションを作り上げた。ワイバーン達は第一艦隊すら視認出来ず自分たちがどうやって攻撃されているのかさえ把握することなくこの世から消えていった。

このように第一艦隊の戦果は十分すぎるものとなった。しかし、彼らの攻撃はまだ終わらない。キング・オブ・ライオネス級原子力空母以下全ての空母より艦載機が発艦、テイトジンハークを目指して超高速で侵攻し始めた。

 

「司令、全機発艦完了しました」

「うむ、我らは予定通りロウリア王国のほかの港を攻撃するぞ」

「はっ!」

 

発艦し終えた第一艦隊は更に進みロウリア王国の港を攻撃しに進む。ロウリア王国の生き残った将兵や平民は自分たちを一方的に攻撃してきた悪魔ともいうべき第一艦隊を恐怖の目で見送るのだった。すでに彼らに、抵抗する気力は残っていなかった。

 

 

 

a.t.s52(皇歴52年)/2/16/18:03/ギム

「殿下、第一艦隊がロウリア王国艦隊を撃滅。皆とも攻撃し大打撃を与えたようです」

「……そうか」

「更にワイバーンの編隊も飛来したようですが対空ミサイルで全て撃沈したとのことです」

「……」

 

ウィリアムは部下の報告に湾港都市にいた民間人のことを思う。彼らは全く関係のない民間人だった。無論敵国の民ではあるがそれでも避難する時間は与えるべきだったと考えていた。

 

「(第一艦隊の話は生き残りから瞬く間にロウリア全土に伝わるだろう。そうなれば戦後ロウリアと良好な関係を続けることは不可能。最悪の場合クワトイネ公国やクイラ王国との国交も危うくなるかもしれない)」

 

ウィリアムはそこまで考えて軽くため息をつく。自分のやりたい事と父がやっていることがあまりにも違い過ぎる。それは国政にかかわる前から分かっていたことであったが実際に経験すると悲観せずにはいられなくなっていた。せめてロウリア王国との戦争後に出来る限りの事をしよう。

そう心に誓うウィリアムは知らなかった。ロウリア王国がこのまま独立を維持するわけではない。そして列強諸国がいないシーランド帝国の暴走とも言える拡大思想を。ウィリアムがそれを知るのはもう少し先のことである。

 



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第五話「ロウリア王国の終焉・1」

「何!?ワイバーンが全滅だと!?」

「は、はい。今も通信を行っているのですが全く反応がありません。それに港の方も同様です」

 

ハーク・ロウリア34世はパタジンからの報告に思わず立ち上がった。港からの救援要請が来た時、彼は万全を期すために王都にいる全ワイバーンを向かわせた。その数は500近くさすがのシーランド帝国も苦戦するだろうと思っていた。しかし、結果は全滅。話を聞く限り敵のワイバーン等の勢力による攻撃ではないと思われた。

 

「(それはつまり空を自由に飛ぶワイバーンを攻撃出来る術をシーランド帝国は保有しているという事になる。しかも近づけることなく一方的に。一体何をしたというのだ!?まさか、神聖ミリシアル帝国の様に古の魔法帝国の技術を持っているという事か!?奴らは遠く離れた地から一方的な攻撃が出来たという。シーランド帝国もそれに近い技術を持っているもしくは発掘したという事か?だがもしそうならパーパルディア皇国を超える力を持っているという事か!なれば我が国に勝ち目は……)」

 

彼はそこまで思案すると力なく椅子に座った。突然の王の様子に重臣たちは何事かと慌てるが次の言葉で凍り付いた。

 

「降伏しよう」

「なっ……!」

 

突然の言葉にその場の全員が驚く。まさかワイバーンの全滅の報告をしただけでそうなるとは思っていなかったのだ。しかし、そんな重臣たちにかれははなしを続ける。

 

「考えても見よ。敵の本土は分かっていない上にこちらの艦隊が停留していた港は壊滅。おそらく艦隊も壊滅したのだろう。そうなればロデニウス大陸から遠征することなど不可能。例えシーランド帝国の本土の位置が分かったところでこちらからは何も出来ない。なのに敵はクワトイネより軍を派遣できる。陸で勝てたとしても海で負けている以上シーランド帝国に勝利することは出来ない。和睦か降伏か。初めからロウリア王国にはその二つしか選択肢はなかったのだ」

「ですが……!」

「パーパルディア皇国の件もある。彼の国が劣勢の我が国を助けてくれるとは思えん。それどころかシーランド帝国と一緒に攻めてくる可能性すらある。そうなれば我が国は完全に消えるだろう」

 

彼の言葉に重臣たちは一気に青ざめる。パーパルディア皇国はロウリア王国があるロデニウス大陸の北方にあるフィルアデス大陸にある大国だ。パーパルディア皇国を中心とした第三文明圏の盟主であり列強第四位の国家である。ロデニウス大陸の中では強いという程度のロウリア王国とパーパルディア皇国では圧倒的に国力が違った。

シーランド帝国がどのような戦後処理をするのかは不明だがパーパルディア皇国の様に全てを絞りつくすような政策をする事はないだろう。もしそうだったとしても無駄に長引かせてパーパルディア皇国の介入を許すよりは圧倒的にマシであると言えた。

 

「クワトイネにいるかは分からないが最悪の場合仲介を頼むとしよう。すぐに用意を」

「……はい」

 

重臣たちは皆沈んだ様子で動き出す。彼らにも理解できてしまった最悪の未来に誰もが顔を暗くする。

しかし、最悪の事態は降伏の使者が王都を離れてすぐに訪れた。

 

「陛下!上空に謎の竜が!」

「何だと!?」

 

第一艦隊より発艦した艦載機群が降伏ムードとなった王都を灰燼に帰すために襲いかかった。

 



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第六話「ロウリア王国の終焉・2」

ロウリア王国の王都ジンハークの上空では第一艦隊より発艦した艦載機が群がっていた。その数は200近い数がおりジンハークを壊滅させるには十分な数と言えた。

 

『全機、攻撃開始』

『『『了解!』』』

 

隊長の言葉に従い一斉に攻撃が開始された。ただ上空を見上げ呆けていたロウリア王国の民にミサイルが、機銃が火を噴き肉塊へと変えていく。家に逃げる者が居ればミサイルにより建物ごと吹き飛んでいき地面に伏せるだけの者はただの的とばかりに銃弾が体を粉々にしていく。逃げる者も隠れる者も命乞いする者も等しく死を与えていく。彼らの助かりたいという願いは全く通じることなくただただ命を奪っていく。

シーランド帝国の圧倒的な暴力は王城にいるハーク・ロウリア34世にも確認できた。シーランド帝国は不思議と王城への攻撃は行っていない。まるで国の主要人物に自らの力を見せつけているようだ。民の悲鳴がハーク・ロウリア34世の耳に入るたびに恐怖が心に募っていく。ゆっくりとだが着実に彼の心をむしばんでいく。指示を出そうにも彼の唇はまるで固まったように動かない。呼吸すら忘れて王都の惨劇を目に、脳に焼き付ける。目を話すことは出来ない。目を話した瞬間、あの力が自分に向けられるような気がして目を話すことができない。

王都から逃げ出そう者がいれば隊から分かれた少数の艦載機が襲い掛かる。王都内とは違い圧倒的な力が彼らのみに向けられる。肉塊ではなく肉片へと変えられた彼らは等しく絶望の表情を浮かべていた。

シーランド帝国の攻撃は約一時間にわたり続いた。途中何機かが王都を離れたがそれだけでは何の気休めにもならなかった。王都の民には等しく死という絶望が与えられたのだ。艦載機が任務を終えて撤退する頃には王都はそれまでの栄光の都市から一変し血と肉と瓦礫の集まりへと変貌した。王城を除き無事な建物は無くそこら中に肉と血と木と石があるのみだった。煙がいたるところでくすぶり香ばしいような肉の匂いが鉄の匂いで打ち消されている。パチパチと木が燃える音を除けば死肉をあさりに来た鳥の鳴き声しか聞こえてこない。生きている人間の声、それどころかうめき声の一つすら聞こえてこない。ロウリア王国の王都ジンハークは今ここに消え去ったのだ。

 

 

 

 

 

a.t.s52(皇歴52年)/2/18/11:43/ギム

その日シーランド帝国皇太子ウィリアム・ロバーツ・ペンドラゴンのもとにロウリア王国の使者がやってきた。二日前にハーク・ロウリア34世の命で降伏の使者として向かわされた者である。彼は破壊される王都を後方に必死に馬を走らせ国境を越えギムへとたどり着いていた。

 

「改めて私が皇太子ウィリアム・ロバーツ・ペンドラゴンです」

「ロウリア王国より参りましたリオンと申します」

 

使者、リオンはウィリアムを失礼にならない程度に観察する。着ている服や姿勢から次期皇帝として必要な要素を満たしているように見えた。少なくとも凡愚の類ではないという事が見て取れた。あとは彼が降伏を受け入れてくれるかどうかであった。

 

「して、私に一体何か用でしょうか?」

「実は我が王ハーク・ロウリア34世より降伏文書をお持ちしました。本来なら正式な手続きが必要なのでしょうが急だったのでご了承ください」

「なんと……!」

 

まさかの降伏の使者だったことにウィリアムは驚く。確かにロウリア王国の艦隊と駐留していた湾港都市は壊滅しそのすぐ後に王都も壊滅したが逆算するに王都壊滅前に王都を発ったことがわかる。艦隊全滅の段階で降伏することを決めたとはウィリアムの目にはハーク・ロウリア34世に抱いていたイメージが崩れ去っていた。ウィリアムは亜人排斥を狙う暴君の如き者だったが今回の件で弱腰もしくは状況判断が鋭い人物という二つのイメージに変化していた。

 

「……ご用向きの内容は確認しましたが残念ながらそれを了承することは出来ません。皇太子と言えど父である皇帝陛下の許可なく了承は出来なくなっています。一度確認するので暫く時間をいただくことになると思います」

 

ウィリアムは悔しそうにそう言った。ウィリアムはかつて現シーランド帝国領ベチュアナランドでの一件で勝手な了承を禁止されていた。ウィリアムは2015年のボツワナ侵攻の総司令となっていた。しかし、ボツワナが侵攻前に降伏しそれをウィリアムが了承してしまったのだ。ライオネスは逆らわないようにするために侵攻して政権を倒すことを常套手段としていたが今回はそれが出来ずウィリアムの指示のもとボツワナ政権の政治家を大量投入した異色の自治領が誕生したのだ。これに対し自分の息子には甘かったライオネスは大激怒し一時期は国家反逆罪で処罰される寸前まで行ったのだ。何とかウィリアムの妹や重臣たちの説得で事なきを得たがそれ以来ウィリアムの権力は大きく制限され自分だけではほとんど何もできない状況になっていた。そしてこれはウィリアムが皇帝即位後もライオネスと同じ思想を持つ宰相に一部権力を奪われる原因となるのだがそれはまた別の話である。

 

「……分かりました。降伏を了承してくれることを願っています」

 

リオンは既にシーランド帝国に対する闘争の意志はなくなっていた。王都の外から見えた破壊されていく王都、ワイバーンが全滅していたとはいえあそこまでの力をワイバーンではできない。そしてギムで見たシーランド帝国の様相。明らかに練度も装備もシーランド帝国が上であった。もし陸でもあの鉄竜の如き力を行使できるなら……。リオンには返答が来るまでの間精神的に追い詰められていくのであった。

 



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第七話「ロウリア王国の終焉・3」

a.t.s52(皇歴52年)/2/18/13:09/シーランド帝国本土ブリテン島

「陛下。クワトイネ公国のギムにいる皇太子殿下より連絡がありました。なんでもロウリア王国の使者が来ているとの事です」

「ほう?彼の国の使者とな?」

 

宰相の言葉にライオネスは面白げに聞き返す。丁度良い事にライオネスはロウリア王国への本格侵攻の許可を出そうとしていたところであった。あと一時間報告が遅ければ降伏は認められずに全土がシーランド帝国に破壊され自治領として惨めな最期を迎えることになっていただろう。

 

「内容はなんだ?」

「それが、何でも降伏の使者らしく……」

「降伏だと?そんなもの認めるわけがなかろう」

 

ライオネスは不快そうにそう言った。ロウリア王国を徹底的に叩き潰すのは予てから決められていたことで今更変更する気などなかった。ロウリア王国の影響を完全に消してその後の統治をより良く行うためには現政権の人間を殺す必要があった。しかし、戦死では意味はなくロウリア王国の民の前で公開処刑してこそ反抗する意志をくじけるとライオネスは信じている。実際シーランド帝国の自治領で起きているレジスタンス活動は小規模なものばかりで精々が嫌がらせ程度のものであった。それでも自治領指導者(自治領を統治しているトップ)が殺されたり軍事物資の強奪などと言った無視できな出来事も起きてはいた。

 

「愚息に伝えよ。ロウリア王国の使者を殺し軍勢を率いて侵攻せよ、とな第一艦隊は引き続き沿岸部の掃討だ」

「かしこまりました。それと他国への使者はどうしますか?」

「ふむ、そうだな……。クワトイネ公国の話ではパーパルディア皇国?だったかを除けば何処も同じような文明なのだろう?」

「はい。神星ミリシアル帝国が代表を務める第一文明圏、ムーが代表を務める第二文明圏はともかくパーパルディア皇国が盟主となっている第三文明圏はせいぜいが17世紀ほどの技術、文明となっています。現在打ち上げが急ピッチで進められている各種衛星からの情報が加われば更なる情報を獲得できると思われますが……」

「今はそれだけ分かればそれでよい。少なくとも同じ転移国家でも現れない限り我が国の周辺は雑魚しかいないのであろう?」

「その通りでございます」

 

宰相の言葉にライオネスは不敵に笑う。

 

「ならば単純だ。ロウリア王国を攻撃中の第一艦隊、我が国の制海権を現在哨戒、防衛している第二、第三艦隊を除いた第四、第五、第六艦隊を連れて各国に向かえばいい」

「砲艦外交ですか。この世界独特のワイバーンが気になりますが第一艦隊の戦闘記録を見るに十分対処可能ですな。それで?最初の国は何処にしますか?」

「我が国の北部に位置するこの環状の島とパーパルディア皇国が存在するフィルアデス大陸に近いこの島、そしてロデニウス大陸とフィルアデス大陸の間にあるこの島だな」

 

ライオネスが差したのはカルアミーク王国、フェン王国、ガハラ神国、シオス王国がある場所である。ロデニウス大陸を除けばシーランド帝国に最も近い位置にありここを実効支配ないしこちら側に引き込めば本土及び自治領の安全は確保されると言っても良かった。

 

「まずは艦隊を連れ外交を行え。外交中は適当に空砲でも撃ってビビらせればいい。もし攻撃してくるようなら容赦なく滅ぼし自治領なり直轄領なりにして統治すればいいだけだからな」

「分かりました。すぐに手配します」

 

宰相は早速実行に移すために執務室を出る。ロウリア王国の降伏はあっけなく握りつぶされつつシーランド帝国はこの世界で領土を広げるべく新たな行動を取るのであった。

 

 

 

a.t.s52(皇歴52年)/2/18/14:24/ギム

「殿下、陛下より返答が来ました。『ロウリア王国の降伏は認められない。今すぐに使者を殺しロウリア王国に侵攻せよ』との事です」

「馬鹿な……!」

 

ウィリアムはその返答に驚いた。あの父なら降伏を認めないことは薄々分かっていたが使者を殺し侵攻せよとまで言ってくるとは思っていなかった。

 

「それは事実なのか?これでは、我が国は野蛮と取られても可笑しくないぞ!」

「ですが陛下の命令に逆らう訳には……」

「殿下と言えどこれ以上の反抗は処罰される可能性があります」

「くっ……!」

 

自分の思うように行動することができない。その事実がウィリアムを苦しめる。次期皇帝と言われていても所詮今はただの皇太子でしかない。一部の政治を任されているとは言え最終決定権は皇帝であるライオネスが握っているのだ。ウィリアムは初めて父を呪い無力な自分を呪った。

 

「……使者は私が相手をする。せめて、愚かな皇帝の息子として、責任は負う」

「殿下……」

 

悲痛そうなウィリアムの姿にその場の誰もが書ける言葉が思いつかなかった。しかし、皇帝の命に逆らえない彼らはすぐに準備に取り掛かる。せめてロウリア王国の民が少しでも生き残れるように。軍人たちは心の中でロウリア王国に同情し、謝罪をするのであった。

 

 

 

a.t.s52(皇歴52年)/2/18/19:24

ギムより10師団(15万人)のシーランド帝国軍がロウリア王国に侵攻を開始した。

 

a.t.s52(皇歴52年)/2/19/8:56

各都市に第一艦隊より発艦した艦載機が襲い掛かり住民たちを虐殺していく。更に第一艦隊が沿岸部を、ウィリアム率いる軍勢が内部より攻撃を開始する。この日だけで十万以上の民が犠牲となった。

そしてこれらは全都市の攻撃が完了するまで続きロウリア王国の滅亡と全土占領が皇帝ライオネスより発表されたのはa.t.s52(皇歴52年)/2/22/13:10の事であった。

総人口約3800万人のうち把握できた人数だけで500万人が死亡した。更に行方不明者や把握できていないおおよその数だけで1000万人近くが死亡したと予測された。

ロウリア王国の王城にいたハーク・ロウリア34世以下王国の主要幹部はブリテン島に運ばれ処刑された。こうしてライオネスの腕試し目的で始まったロウリア王国侵攻は一方的な虐殺という形で幕を閉じることとなった。

 




シーランド帝国の領土
シーランド帝国は北アメリカを除くすべてに領土を持っている。
ブリテン島、アイルランド島を始めガイアナ、スリナム、ナイジェリア、南アフリカ、ビルマ、マレーシアと広大な領土を持っていた。しかし、その分かつての大英帝国の様に統治に相当な手間を要するがシーランド帝国では領土を保有する上での醍醐味と考えられている。


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第八話「戦後処理」

転移から二月も経たずに一国を占領したシーランド帝国は戦後処理を行う事となった。ロウリア王国はシーランド帝国の徹底的な攻撃により都市はほぼ壊滅。沿岸部も都市だけではなく漁村まで攻撃を受けたため沿岸部の被害は一番多かった。更に人口の4分の一以上が死んだためいろいろな方面で人手不足となっていた。それどころか領土全体の情報伝達も壊滅したため各村ごとに分裂する状態となった。

シーランド帝国は早速人を用いて全領土の掌握を開始した。最初に村レベルで分裂している現状を回復させるところからであった。直接人を派遣しロウリア王国が滅んだこととシーランド帝国が統治することを伝え今後の開発に流動的に動けるように指示を出していく。中には抵抗を示す村も存在したがロウリア王国ですら一方的だったシーランド帝国軍相手に村人程度が出来ることは限られていた。

次にインフラの整備であるがこれはすんなりと進んだ。そもそも街道には攻撃が行われていないため復旧の必要がなかったのだ。その為補強をするだけで済んだがそれでもコンクリートを用いた近代的な道が出来るのはまだまだ先の話となる。

こうしてシーランド帝国による復旧と開発は行われ始めたが一方のブリテン島でも戦後処理を行っていた。

会議室には皇帝ライオネス以下宰相に国の重心が集まりロウリア王国の今後を決めていた。

シーランド帝国に置いて新たに手に入れた領土は三つの道がある。一つは自治領。自治領指導者を通して統治する方法で二つ目が直轄地とする事。最後に属国にする事であるが今回の件でいえば属国になるのはあり得なかった。そもそもロウリア王国の政治中枢にいたものは全て処刑が済んでおりシーランド帝国から人を派遣して属国にするなら自治領にした方が良いというのが大半の考えだった。

つまりロウリア王国は国として残ることは出来ず自治領として間接的な統治を受けるか直轄領として直接統治をされるかという未来しかなかった。因みにシーランド帝国に置いて直轄領となっているのはイングランド直轄領を除けばナイジェリアのみとなっている。

 

「今後の事を考えるなら自治領にするべきだろう。ナイジェリアとイングランドで現状精いっぱいなのにこれ以上は負担でしかない」

「おっしゃる通りですな」

 

ライオネスの言葉に宰相が同意する。宰相の頭には自治領指導者を誰にするか、自治領をどのように統治させるかなどと言ったことが既に展開していた。

その後も話は進みロウリア王国は滅ぼしシーランド帝国領ロウリアとしてシーランド帝国の支配下に置くこととなり自治領指導者にはアリスター・デュ・ゴーマンは就任した。マレーシアの自治領府で長年活躍していた人物でマレーシアの自治領指導者だったクリントン・G・ブルーノが今の自治領指導者を推薦しなければ自治領指導者となっていただろうと言われる人物だった。彼は早速自分の仕事の引継ぎを終え復興の準備を始めているロウリアに渡った。自治領府は比較的無事だったクイラ王国の国境付近にあるリスギに置かれることとなった。更にシーランド帝国では恒例となっているブリテン島から少なくない移住者がロウリアへと渡った。彼らは上級国民としてロウリア自治領での利権を手に入れていくこととなる。これらはシーランド帝国が領土拡大するたびに行われてきたことでありブリテン人を中心に白人が優遇される傾向にある。ブリテン島で貧しい思いをする者たちは領土が拡大されるたびにブリテン島を離れ自治領で生活を向上させるのだ。

ロウリア人は今後ブリテン人による差別のもと復興、繁栄していくロウリアの富のお零れを必死になって奪い合いかつてのロウリア王国の繁栄を思い浮かべながら毎日を生きていくこととなる。

 

 

 

 

「何という事だ……」

 

ギムからマイハークに戻ってきたウィリアムはロウリア王国の戦後処理を聞き絶望した。ロウリア王国の滅亡に自治領化。予測は出来ていたが実際に聞かされると心に来るものがあった。

 

「この世界に来て初めての自治領か……。私も赴いたベチュアナランド以来か」

 

約5年ぶりの領土拡大にシーランド帝国、とりわけブリテン島では活気づいていた。ブリテン島では既にロウリアに向かうための準備を終え飛行機や船を待っている者もいるらしい。とはいえロウリアは都市部の大半が更地と化しインフラはほぼ無事であるが文明国としてみれば整備されていないと言われても仕方のない出来栄えだった。これからは都市の形成やインフラの整備が行われるだろうがよほど気が早い者でもない限りある程度落ち着いてから向かう事になるだろう。

ロウリアの今後を考えている時だった。ウィリアムの部下が慌てた様子で部屋に入って来る。

 

「大変です!本国が北部の環状島に攻撃を行いました!」

「何だと!?状況はどうなっている!?」

「そこにあった王国は滅亡。艦隊の弾薬がほぼ尽きるまで攻撃が行われたそうです」

「何という事だ……」

 

ロウリア王国の裏で動いていた本国にウィリアムは頭を抱える。幸いな事にシーランド帝国の行動はロウリア王国を除けば伝わっておらずまた隣国のクワトイネ公国やクイラ王国との国境は閉鎖している為両国がロウリア王国の現状を詳しくは知らない。その為両国とはこれまで通りの関係が維持できるだろう(最悪の場合滅ぼされる可能性すらあるが)。

ウィリアムはまだ転移して一年も経っていないのに行動を起こす本国にシーランド帝国の行く末を案じるのであった。

 




自治領指導者
その名の通り自治領の最高責任者。皇帝に代わり統治している。レジスタンスの攻撃や内乱などで死亡率はとても高い(2人に1人の確立で死んでいる)。

クリントン・G・ブルーノ
全自治領指導者の中で最も有能と言われていた人物。人生の大半をビルマとマレーシアの自治領指導者として過ごした。ジェラルディンという女性にマレーシアの自治領指導者として推薦して定年退職した。様々な人からとても高評価されているが唯一の欠点がジェラルディンを自治領指導者に指名したこと(理由はいつの日か話すかも)。

シーランド帝国領ロウリア
シーランド帝国が異世界に転移して初めて手に入れた領土に建てた自治領。アリスター・デュ・ゴーマンを初代自治領指導者とした。現状では戦争による爪痕がデカすぎるため全土の掌握すら困難な状況。並みの人なら統治を諦める。


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閑話1-1~
第九話「戦間期・1-1」


漸く外伝の竜の伝説を読みました(web版)。カルアミーク王国の詳細が結構判明すると同時に軌道修正を余儀なくされた……


a.t.s52(皇歴52年)/3/13/15:30シーランド帝国領ロウリア、クワトイネ公国国境付近

クワトイネ公国の商人ハーヴェスはシーランド帝国を恐れていない数少ない人物だった。ロウリア王国滅亡はそれまで圧力をかけられていたクワトイネ公国からすれば喜ばしいと思うと同時にそのロウリア王国を短期間で滅ぼしたシーランド帝国への恐怖が募ることとなった。幸い公都クワトイネやマイハークではウィリアム皇太子が必死にシーランド帝国のヘイトの軽減を行っている為そこまでではないがギムやエジェイなどではシーランド帝国への恐怖が強まっていた。彼はそんなギムからやってきており狙いはロウリアへの販路の拡大であった。彼はギムでは誰もが知っている程の大商人だがギムを一歩出ればその知名度は一気に低くなる。彼としてはギムでやっていければそれでいいと思っていたがそんな時にロウリア王国が滅亡したことを知った。更に噂だがどの都市もシーランド帝国の攻撃で打撃を受けているという。ハーヴェスは降って湧いたこのチャンスにいち早く行動を開始した。幸い彼はウィリアム達シーランド帝国陸軍が駐留していた時にシーランド帝国への通行許可証を貰っていた。それも皇太子直々の指印までされている為これほど安心して通行できるものは皇帝のもの以外ないだろう。

 

「ふむ、ロウリアでの商売が目的か」

「はい。販売物は食料となっています」

「……うむ。なら積み荷を軽く見せてもらえれば問題ないな」

 

ハーヴェスは国境に作られた簡易関所で通行許可証を見せ軽くつみにを確認されてすぐに通る事を許された。戦後直ぐなら誰であろうと通れなかっただろうが既にロウリア王国降伏から約ひと月が建っている。復興は全く住んでいないが人の移動は緩和されつつあった。

馬車一杯に食料を積み込んでいたハーヴェスはまずは近くの都市に向かうかと思いながら馬車を進める。目当ての都市がない事も知らずに。そして彼は知ることとなるだろう。大半の都市がなくなりロウリア王国の流通が完全に死んでいる事を。餓死者は出てないながらもこのままでは餓死者が大量に出るであろうことを。

彼は直ぐに食料を格安で売ると再びギムに戻った。そして今度は大量の食糧を持ってロウリアへと向かった。ロウリア人の間でハーヴェスの人気が高まりクワトイネ公国内でよりも知名度が高まっていくがそれはまだ先の話である。

 

 

 

 

シーランド帝国の北部にある環状島には三つの国が存在している。彼らはその島の形状故に外界との接触が出来なかった事もあり世界とは彼らにとって環状島の中のことをさした。

そんな島にシーランド帝国は艦隊を派遣した。外交官を連れた艦隊は島の近くまでくると空母より大型の輸送ヘリを発艦させた。そして驚かすことになるだろうが外交をするためには仕方がなかった。だが彼らは運がなかった。彼らが降り立ったのは三大諸侯の一角マウリ・ハンマンが統治する領土だった。更に丁度大魔導士オルドが遺跡より発掘した技術を用いての新兵器の開発が行われていた。外交官らは降り立った瞬間に攻撃を受けヘリ自体は火喰い鳥に火炎を吐かれながら逃げようとしたがプロペラに火喰い鳥がぶつかり墜落した。外交官3名、操縦員3名、護衛が2名死亡する結果となった。

シーランド帝国艦隊はこれを一方的な攻撃と受け取り臨戦態勢に移った。艦隊は対地ミサイルをヘリが墜落した周辺を中心に攻撃を開始した。更に空母からは艦載機が発艦。殉職した外交官たちの仇を討つべく環状島に侵入、攻撃を行った。

大魔導士オルドはミサイルや艦載機のすがたを見て驚きながら爆死しマウリ・ハンマンは何が起きたのか知ることもなく肉片も残さずに死亡した。しかし、艦載機の攻撃はこれでは終わらなかった。そもそも環状島がどうなっているのか知らないのである。その為艦載機は更なる攻撃対象に人が多い都市、王都アルクールに攻撃を開始した。王都は謎の飛行物体の襲来にパニックに陥るがミサイルの攻撃や重火器の前に命を散らしていった。王都は瓦礫尾の山となるまで攻撃が行われ全弾を打ち尽くした艦載機群は悠々と空母へと戻っていった。そして入れ違いに武装した兵士を乗せたヘリがいくつも現れカルアミークを占領していく。王国は僅か一日で滅亡したのである。これに驚いたのが残りの2国である。2国はシーランド帝国に接触し国家としての命を保たせることに成功すると同時に手違いで滅びることとなった不運なカルアミークに同情するのであった。

しかし、残りの2国はその後に行われたカルアミークの復興事業にシーランド帝国の技術力を思い知った。それと同時に自分たちでは決して叶わない相手であることも。カルアミークが滅びてから二か月後、2国はシーランド帝国に従属を願い出た。2国は併合され旧カルアミーク王国領とともに環状島連合と名称を変えシーランド帝国の属国となるのだった。環状島連合は後に行われるグラメウス大征伐の空軍前線基地として活躍し様々な技術を吸収し大繁栄を遂げていくこととなる。

 




カルアミーク王国
環状島の中にあった国。本来なら約二年後にマウリ・ハンマンの反乱を招くはずだったがその前にその要因諸共滅びたかわいそうな国(エネシー?知らない娘ですね)。残りの2国は当初は国交を結ぶだけだったがシーランド帝国に従属し環状島連合として生まれ変わった。
余談だがシーランド帝国がワイバーンを運用していないため竜はいまだに伝説の生物となっている。


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第十話「戦間期・1-2」

シーランド帝国の帝都ロンドニウムはかつて存在していたイギリスの首都ロンドンであった。第一次ブリテン戦争と呼ばれるシーランド帝国が勢力を拡大することとなった戦争においてロンドンはシーランド帝国の手に落ちた。しかしその後に起きたクーデター騒動で廃墟と化したがその後はライオネスがすべてを更地にして一から作り直された。その為ロンドン塔などの建造物は全て再建されたものとなっている。そして唯一バッキンガム宮殿は再建されずその周辺の土地ごと用いたキャメロット城が建設された。それは建設後皇族の住まう城として運用されている。

そんな城の皇帝の執務室でライオネスは驚愕の声を上げていた。

 

「それは事実か!?」

「はい、残念ながら事実と言わざるを得ないでしょう」

 

思わず立ち上がったライオネスに対し宰相は本当に残念とばかりに追随する。執務室のデスクの上にはカルアミーク王国よりもたらされた資料の報告書が置いてあった。

そこに書かれていたのは古の魔法帝国が用いていたコア魔法、原子爆弾らしきものを運用しており更に長距離弾道弾も存在していた可能性すらあったのだから。

 

「この世界の技術力は低いと思っていたがどうやらそうではなかったようだな」

「はい、ロデニウス大陸や環状島はそうでもなかったようですがフィルアデス大陸も同じかどうかは分かりません」

「全く、もう少し情報を得る必要があるな」

 

ライオネスは苦虫を噛み潰したような顔をして再び報告書を見る。楽に覇権を握れると思っていた世界はシーランド帝国を脅かす可能性のある世界だったのだから。もしその国が現在も存在している場合シーランド帝国はその国を放置できず対立なり有効なりをしなければいけないだろう。これならまだ前の方が良かったかもしれない。ライオネスは心の中でそう悪態をつく。とはいえそんな事を考えている事態ではなかった。ライオネスは宰相に指示を出す。

 

「核兵器の配備を急がせろ」

「核兵器ですか?確かに今後の事を考えれば必要でしょうが……」

 

宰相は難色を示す。そもそもシーランド帝国では核兵器に対する忌避感が強くあまりそう言った方面に力を注いではいなかった。その為核技術に関しては原子力発電などを除けば他国より一段劣っていた。それはライオネスも似たようなものだが嫌いだからといって力を入れないわけにはいかない。

 

「念のためだ。使わないならそれに越したことはない。使う必要がある場合のみ使用すればよいのだ」

「……分かりました。直ぐにその方向で手配を行います」

 

宰相は渋々と言った様子で頷く。

 

「それと、他の艦隊に関してですが……」

「ふむ、確かフェン王国とシオス王国だったか?環状島に関してのみ気が行っていたからな」

 

ライオネスは残りの外交に関する報告を催促する。宰相は手元に持った報告書を見ながらライオネスに伝える。

 

「まずフェン王国に関してですが国交樹立の件はつつがなく完了しました。ただ、半年後に行われる軍祭に出場して欲しいらしいです」

「軍祭?なんだそれは」

「その名の通り軍の力を大々的に発表するもののようです。観艦式に近いでしょうか?」

「成程。ならば我らの実力を見せるにはうってつけだな」

「はい。どうやら他の国も参加するようなので他国にも我らの実力を広めることができるでしょう」

 

ライオネスは思わぬ事態に喜んだ。ロウリア王国に関してはロデニウス大陸ではシーランド帝国の実力が広まりつつあるが一歩大陸を出るとその知名度は一気に下がっていた。その為シーランド帝国としては自国の実力を見せつけられる場を探していたのである。

そして半年後であるならどんな部隊や艦隊でも参加可能であり陸海空全ての実力を見せることも可能だった。

 

「ふむ、どうせならわが軍の主力を見せつけるとしよう。海軍は第一艦隊を出せ。陸軍に関しては本土防衛用の師団がいいだろうな」

「分かりました。その様に進めます」

「分かっているとは思うがシーランド帝国の実力を見せることを重要視するのだ。もし敵対的な者が居れば現場の判断で攻撃してもよい」

「それらがパーパルディア皇国のような大国とまではいかないまでも強い事を祈りましょう。そうなればより我が国の実力を示せますからな」

宰相とライオネスは同じような笑みを浮かべた。

 

「さて、シオス王国についてですが新興国と侮られ、追い返されたため艦砲射撃とミサイルによる王都攻撃を実施。国王以下王族の大半を失ったシオス王国は我が国に降りました」

「ふむ、意外と脆かったな。これならロウリア王国の方が強かったか?」

「ロウリア王国に関しては王都の消滅が原因で全土に情報が伝わっていませんでした。一概に強弱をつけることは不可能かと」

「ふん、どちらにしろその程度の国力しか持っていないという事であろう。シオス王国に関しては属国として残った王族がそのまま統治せよ。それと余の代理人である総督の地位を設けその者に従うように厳命せよ。総督に関しては追って誰にするかを決める」

「かしこまりました。直ちに手配いたします」

 

こうしてシーランド帝国は転移から三か月ほどでフィルアデス大陸東部に勢力を作り始めていた。その手は少しづつだがフィルアデス大陸にも及ぼうとしていた。

 





【挿絵表示】

※シーランド帝国に関しては細かいのでこの辺にあると考えてください。
青:シーランド帝国領(環状島に関してはミスで属国です)
緑:友好国?
藍色:属国

シーランド帝国
核兵器は野蛮という考え。ありとあらゆる物を根こそぎ使いたいシーランド帝国にとって放射能をまき散らす核兵器が害悪以外の何物でもない。その考えの為侵攻を諦めた国には容赦なく使用する(隣国など領土が近い国は除く)

古の魔法帝国
最近知った国。太古の昔にその技術力でブイブイ言わせていた国というのがシーランド帝国の印象。自分たちもそうしたい←!?

シオス王国
原作とは違いシーランド帝国の力を見誤り王都の壊滅と大半の王族の死亡という手酷い状況となってシーランド帝国に降伏。属国とされた為辛うじて滅亡は避けられた。なお、生き残った王族はシーランド帝国に対する恐怖心から絶対の忠誠を誓っているらしい?

フェン王国
純粋にシーランド帝国の実力が見たいという剣王の要望をシーランド帝国が快諾した。原作のような礼を欠いた行いは無かったため滅亡や属国は避けられた。シーランド帝国の実力を見せられるため印象はそれなりに良い。

パーパルディア皇国
フィルアデス大陸の大国らしい……


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第十一話「戦間期・1-3」

シーランド帝国が世界の東側で着々と勢力圏を広げているころ、西側ではある国が転移をしていた。その国の名はグラ・バルカス帝国。別名の第8帝国とも呼ばれる彼らは前世界ユグドでは世界最強の国家であった。彼らはあと一歩でグラ・バルカス帝国の次点に立つケイン神王国を滅ぼせるところまでいたが転移によりそれらが水泡に帰すこととなった。しかし、彼らはこの世界に転移後は侵略行為を続けてきた。しかし、文明国の存在を知ってからはさすがのグラ・バルカス帝国も慎重になった。その為グラ・バルカス帝国は第二文明圏のあるムー大陸に外交官や諜報員を派遣することとなった。諜報員はムー大陸のみならずその先の中央世界、フィルアデス大陸、ロデニウス大陸と派遣していた。彼らは派遣された先で様々な情報を本国へと送り今後のグラ・バルカス帝国の活動の情報源となっていた。

しかし、そんな矢先に慎重派筆頭の皇族ハイラスが列強レイフォルの筆頭属国であるパガンダ王国によって処刑された。これにより皇帝グラルークスは大激怒しパガンダ王国へと攻め入り滅亡させた。勿論そんな事をすればパガンダ王国を従属させていたレイフォルは怒り狂いグラ・バルカス帝国と戦争状態となった。

しかし、グラ・バルカス帝国は技術面でいえば世界最強の神星ミリシアル帝国をも超えており列強最弱と呼ばれるレイフォルが勝てるわけがなかった。結果的に戦争突入から5日目にして首都レイフォリアをグラ・バルカス帝国最強の戦艦「グレードアトラスター」の艦砲射撃を受けて焼け野原になり国家の中枢部分は消滅。残った軍部は降伏した。更にレイフォルの属国だった国々はグラ・バルカス帝国に降伏しレイフォルの勢力圏の大半をそのまま手に入れることとなった。

こうしてグラ・バルカス帝国は列強を降しその力をこの世界に見せつける事となった。しかし、最近彼らを悩ませる存在がいる。遥か東方の国、シーランド帝国である。最近ロデニウス大陸にあったロウリア王国を滅ぼし自国領に加えているとはグラ・バルカス帝国も耳にしていた。シーランド帝国の力を見るためにロデニウス大陸にも諜報員を派遣したのだが誰一人として報告が上がってこず加えて戻って来る者もいなかった。

この世界特有の災害で通信ができないのか?それとも不慮の事故でもあって全滅したか。諜報員を送り込んだ情報局は大きく困惑することとなったが派遣してからそこまで時間が経過していないため様子を見ることとなった。結局、誰一人として連絡も帰還する者もおらず追加で送った諜報員も同じようになりロデニウス大陸及びシーランド帝国の防諜体制は高いかもしれないというあやふやな事しか分からないのだった。そんな彼らは反撃とばかりに潜水艦でレイフォル領にシーランド帝国の諜報員が入り、様々な工作をしている事に今のところ全く気付いていないのだった。

 

 

 

 

隣国の列強国ムーはレイフォル陥落に対して大きく反応した。レイフォルはムーから見れば足元にも及ばない国だがさすがのムーでも首都を1隻で陥落させることは不可能だ。その事からムーはグラ・バルカス帝国の実力を大まかに把握し始めていた。それと同時に自分たちでも適わないという最悪の可能性にも。永世中立を掲げるムーだがグラ・バルカス帝国がそれを律義に守るとは思えない。いきなり攻めてくるという事はないだろうがいつかは確実に侵攻してくるだろうことはこれまでの様子から分かっている。

ムーはグラ・バルカス帝国の情報と更なる技術開発、グラ・バルカス帝国が攻めてきても戦えるように第二文明圏の国々との連携を密にするべく動き出すのだった。

 

 

 

ムーが危機感を持ち始めている中、世界最強の神星ミリシアル帝国は全く動じなかった。というよりは相手にすらしてなかった。自分たちは世界最強の国家であるというプライドがグラ・バルカス帝国への危機感を薄れさせていたのだ。一応列強を倒したことで情報を得ようとしているがそれだけでありなんなら次の列強に任じようとすら考えている程だ。確実にムーが反発するだろうが最終的には受け入れるだろうというのが神星ミリシアル帝国の考えであり実際その様に行動しつつあった。

そんな国の為東西で勢力を拡大し続ける大国に挟まれているという事実に気付かずに世界最強の自負を抱えながら今日も栄華を謳歌するのだった。

 




シーランド帝国
ロデニウス大陸に入ろうとしている不審者を大量に取り締まった。なんか諜報員みたいだったから優しく(・・・)尋ねたらグラ・バルカス帝国の諜報員と知りその存在を知る。なんかむかつくからレイフォルに諜報員をいろいろ活動中。
グラ・バルカス帝国「なんか東部に良く分からない国があるらしい……」

グラ・バルカス帝国
シーランド帝国と同じく転移してきた国。前の世界では覇権を握りかけていたが直前で転移。マジ許せん。でもそんな事は関係なく戦闘機でワイバーンを落としながら、戦車で歩兵を吹っ飛ばしながら、グレードアトラスターで木造船相手に夢想しながら領土を拡大中。最近列強(笑)のレイフォルを降しムー大陸に上陸した。
シーランド帝国「西部に良く分からない国があるらしい……。ムカついたから諜報員送り返してやったwww」
ムー「やべーよ。グラ・バルカス帝国マジでコエーよ」
神星ミリシアル帝国「世界最強(ドヤァ」

ムー
遥か昔にこの世界に転移してきた国。ムー大陸は仲良く奪われました()。最近お隣さんのレイフォルが滅ぼされたことで軍拡と周辺諸国と連携を密にしている。シーランド帝国の事を知るのは何時になるのか……
シーランド帝国「ムー?おとぎ話の大陸ですか?」
グラ・バルカス帝国「え?この国伸びしろヤバくね?」
神星ミリシアル帝国「世界最強(ドヤァ」

神星ミリシアル帝国
世界最強(笑)の国家。古の魔法帝国の遺跡から様々な技術を手に入れたが模倣しているだけ(しかも性能は落ちている)。しかしそれでも国力、軍事力はムーを超えており世界最強の名は伊達ではなかった……が、グラ・バルカス帝国にはあらゆる面で劣りシーランド帝国との差は笑えるレベルまで開いている。それでも神星ミリシアル帝国は世界最強(ドヤァ)の自負のもと世界の安定を目指している?
グラ・バルカス帝国「強いの?ねぇ、本当に強いの?」
ムー「助けて」
シーランド帝国「世界最強なの?その程度で?」


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第十二話「戦間期・1-4」

関係ない話ですけど『ゼロの使い魔』、『GATE』、『日本国召喚』のワイバーンってどれが強いんですかね?個人的には
1位:ゼロの使い魔
2位:日本国召喚
3位:GATE
だと思ってます。やっぱり火炎を放てるゼロ魔と召喚のワイバーンが強いと思うしそうなると乗り手がほぼノータイムで魔法を使えるゼロ魔が一歩有利なのかなって思いました。さすがにワイバーンロードやオーバーロードが相手だと分が悪いどころか負ける未来しか見えませんが。
それとゼロ魔の世界って人口少なすぎません?ガリアが約1500万人で一番見たいらしいから総人口だと5000万いくかいかないかくらいですかね?10万の軍勢を軽く出せる帝国(GATE)や人口7000万人いるパーパルディア皇国と比べると大きく見劣りするような気がします(パーパルディア皇国に負けたアルタラス王国が丁度1500万人ほど)。そう考えると国力や軍事力だとゼロ魔が一番下でワイバーンロードやリンドヴルムといったものを運用するパーパルディア皇国(神星ミリシアル帝国やムーは除外。あれらを出したらぶっちぎりの上位になる)が帝国より上?でもゼロ魔には優秀なメイジもいるし……。いや、数にはさすがに敵わないかな?



シオス王国がシーランド帝国に従属したという話はあっという間に周辺諸国に広まった。そもそもシオス王国はロデニウス大陸とフィルアデス大陸のほぼ中間に位置しており両国を行きかう旅人や商人で賑わっていた国だ。アルタラス王国ほどではないにしろロデニウス大陸の国々ならまだいい勝負ができる程度の力は持っていた。

しかし、結果はシオス王国の王都の壊滅と属国化である。最近似たような出来事を西から聞いた気がするがアルタラス王国にとってはそんなことは今はどうでもよかった。今重要な事はそんなシオス王国を一方的に叩きのめせる国の勢力圏が隣に出来た事である。アルタラス王国は世界有数の魔石産出国でありもしそれを目的に圧力をかけて来られたら……、と恐れていた。そしてシオス王国の属国化から1か月後に外交官が艦隊とともにやってきた。アルタラス王国海軍はシーランド帝国の艦隊を見て顔を青ざめ絶対に勝てないと悟ったという。

 

「お父様。シーランド帝国の使者がやってきたとか。私も同行させてください」

「ルミエス……」

 

アルタラス王国国王ターラ14世は愛娘のルミエスの言葉に難色を示した。まさか外交の場で攻撃をして来るとは思えないがそれでも万が一の事を考えると外交の場に出したくはなかった。しかし、そんな父の思いを感じ取ったのかルミエスは更に続ける。

 

「私もこの国の王族としてシーランド帝国という国を見定めたいのです。それにシーランド帝国と友好関係にあるクワトイネ公国、クイラ王国は攻撃を受けたという話はありません。シオス王国に関しては王族が無礼な行いをしたという情報があります。なので我が国がきちんと誠意を見せて応対すれば何の問題もないと思われます。一方で王女である私が外交の場に出ない場合相手がこちらを下に見てくる可能性もあります」

「う、うむ。そうだな……。分かった。同行を許可しよう」

「ありがとうございます」

 

娘に甘いターラ14世はルミエスの願いを無下に断れなかった。しかも理路整然と言われては余計に断れない。斯くしてルミエスもシーランド帝国の外交官と会う事となった。

しかし、これはある意味ではアルタラス王国に幸運を運ぶ事となる。

 

 

「初めましてターラ14世殿。私はアーロン・フェニックス・ペンドラゴンと申します」

 

そう言ってシーランド帝国の外交官として派遣されたアーロンは自己紹介をする。30になったばかりの彼はシーランド帝国の皇帝ライオネスの弟の第6子、4男である。シーランド帝国の皇族はミドルネームを分家ごとに変えている。アーロンが名乗っているフェニックス家はペンドラゴン家の中で最も子沢山の家でライオネスが「余の子種は全てお主の妻に流れたのか?」と本気で尋ねる程であった(ライオネスには長年子供がおらず皇太子のウィリアムとは歳が50も離れている)。そんな分家に生まれた彼はシーランド帝国を支える外交官として活躍していた。

 

「ターラ14世である。こちらは娘のルミエスだ」

「アーロン殿。ルミエスです」

 

ターラ14世の紹介にルミエスは自己紹介をする。アーロンは一瞬彼女に目を向けすぐにターラ14世に視線を向ける。ここは外交の場。最高決定権を持つターラ14世ではなくその娘のルミエスに視線を向け続けるのは無礼だろう。アーロンはそう考えすぐに外交官としての顔つきになる。

 

「では、我が国としては貴国との国交樹立を望みます」

「それは問題ない。我が国としても貴国との国交が結ばれる事は喜ばしい事だ」

 

ターラ14世の言葉は事実であった。少なくとも今の「国交を結んでいない大国」というより「国交を結び正式な交流を持つ隣国の大国」ではその脅威や恐怖が全然違う。

その後は通商に関して矢領事館や大使館の設置などを話し合い無事外交は完了した。アーロンは通信機で本国に報告をするとアルタラス王国が開いたパーティーに参加する事となった。アーロン以外にも十数名が参加しアルタラス王国の関係者と中を深めていく。

そんな中アーロンは少し手持ち無沙汰となり会場の隅の方で料理を食べていた。

 

「アーロン殿」

「……ルミエス殿か」

 

料理を上品に食べるアーロンに話しかけたのはルミエスだった。外交の場とは違いドレスを見に纏い下品にならない程度に化粧が施された彼女は別人のように思えた。

 

「パーティーは楽しめていますか?」

「勿論です。料理もおいしく見た限りそちら側の方々の雰囲気も悪くない。……それにしてもこの国は豊かですね」

 

アーロンは文明圏外と呼ばれる国に属している割には豊かなアルタラス王国を不思議に思う。シーランド帝国は情報の大半をロデニウス大陸や属国から仕入れているがその情報には偏りがある上に積極的に聞いていないことも相まってアルタラス王国に関しては断片的にしか知らなかった。

 

「我が国は世界でも有数の魔石産出国なので」

「成程。確かそれらを加工したもので帆船を自由に動かせるとか」

「その通りです。……シーランド帝国は確か帆船ではありませんでしたよね?」

「はい、詳しくは申せませんが別の動力を用いて動かしているのですよ」

「まぁっ!それはまるでムーの様ですね」

 

その様にルミエスとアーロンの会話は終始いい雰囲気で続き気づけばパーティー終了直後まで話し込む事となる。

後日、シーランド帝国から届いた便りを嬉しそうに抱えるルミエスを見てショックを受ける国王がいたらしいが完全なる余談であった。

一方のアーロンもアルタラス王国から届く手紙を大事そうに抱えているのを見て同僚たちは不思議そうに見ていたらしいがそれも完全なる余談であった。

 




アルタラス王国
シオス王国と違いきちんとした応対をした結果普通にシーランド帝国と良好な関係を築くことに成功する。シーランド帝国としては第一文明圏にまだ進出するつもりはないためアルタラス王国には壁としての役目を期待している。
……が、最近その国の王女と外交官として活躍しているとある皇族の仲がよろしいという噂が広まっている。実際文通までやっている(凄い時には2日に1度)からそうなのだろう。その外交官は同僚に揶揄われているらしいが一方の王女の父親はその外交官の手紙を見て嬉しそうにする娘を見て血涙を流したとか。
王女「アーロン殿///」
外交官「ルミエス殿///」
国王「お前なんかに娘はやらんぞぉ!」


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第2章【フィルアデス大陸編・前編】
第十三話「新たなる戦争の予感」


今回より第2章【フィルアデス大陸編】となります


a.t.s52(皇歴52年)/9/25/11:35 フェン王国首都アマノキ

今日、フェン王国では5年に1度開催される軍祭が主催している軍事的な祭りが行われる。軍祭は文明圏外の国々は自国の武技や武器を披露しその実力を見せ他国を牽制する役割を持っている。フェン王国としては文明圏の国も招待したいが見せつけるまでもない、蛮族の祭りに参加する意味がない、と一度として参加したことはなかった。

だが、今年の祭りは一際注目度が高まっていた。文明圏外の国々の間では既にパーパルディア皇国を超えると予想されるシーランド帝国が参加するのだから。半年前には参加する事が決定しており今年は今まで参加したことがないような国からも参加国があった。アルタラス王国やシオス王国(シーランド帝国属国)、クワトイネ公国やクイラ王国といった親シーランド帝国の国々が続々と参加する事となった。更に一番の驚きは文明圏の国からも参加する国が出た事である。マール王国とパンドーラ大魔法公国である。しかし、両国ともにパーパルディア皇国の属国であるため非公式の参加となった。

 

「ふむ、ワイバーンを何度も見ても慣れんな」

 

軍祭に参加する事となり準備万端でこの日を迎えた第一艦隊の司令長官は上空を飛んでいるワイバーンを見て目を細めている。彼は齢60を超えるがその眼光には鋭く全身からは覇気を噴き出す猛将であった。そんな彼もワイバーンという約10か月前までは空想上の生物だったものに慣れていなかった。ロデニウス沖大殲滅戦では遠距離からの対空ミサイルで封殺したためこうしてみるのは初めてだった。兵の中にはクワトイネ公国で見かける者もいたが本格的に触れ合った人物は誰一人としていない。シーランド帝国領ロウリアは都市の壊滅も相まってすべてのワイバーンが死滅しており一匹も生息していない。あとはシオス王国だが彼の国は属国であるため簡単に訪れることは出来ない。

 

「し、司令長官!大変です!」

 

外の景色を眺めていた司令長官は慌てた様子の部下の言葉で現実に引き戻される。

 

「どうした!」

「右舷上空にいるワイバーンですが、どうやらロウリアやクワトイネ公国で見たワイバーンとは違うようでレーダーを用いています」

「ほう?」

 

電波を扱う生物に司令長官は驚いた様子であった。詳しく聞けばそれを用いて仲間との通信をしている様であるとの事でそのワイバーン、ガハラ神国の風竜に対し警戒心が生まれ始めていた。

 

「……帰還後にステルス艦の開発を進言してみるか?いや、まずはステルス戦闘機が先だろうな」

 

司令長官が帰還後の報告書の内容をまとめていると漸くシーランド帝国の番となった。

シーランド帝国が行うのはまず艦隊による廃船への攻撃。そのあとに陸での模擬戦であった。とはいえシーランド帝国は艦隊で参加する事となったため本来予定されていた廃船4隻に加えて海に浮かばせたそれなりに大きい漂流物を10個用意することとなった。

 

 

 

第一艦隊の戦艦の主砲が廃船とその付近の漂流物へと狙いを定めた。瞬間、40㎝オーバーの主砲より弾がはじき出され寸分たがわずに廃船へと命中した。命中した弾は材木を破壊しながら船の奥深くへと進みそのあとを送れてやってきた衝撃波が広げていく。やがて一番下まで来た弾はそこで止まったが瞬間巨大な爆発が起こり弾が当たっただけで沈みかけている廃船を吹き飛ばした。それが4つ同時に起こりあっという間に廃船は無くなった。

その事実に驚く各国の武官をよそに次の攻撃が開始される。吐き出されたばかりの主砲より第二の砲撃が行われたのである。しかし今度のは先ほどとは違い対地用に作られた特殊弾で一定の地点に達すると表面がはがれ中に内蔵された爆弾が周囲に落下。広範囲を吹き飛ばすというものだった。それを海面で行えばどうなるか?

漂流物が浮かぶ周辺ごと爆発が起こり水柱すら立つことなく周囲を吹き飛ばした。勿論漂流物は一瞬で吹き飛び後に残ったのは荒れる水面だけだった。

先程の通常弾と今回の特殊弾の威力に各国の武官はシーランド帝国の力を思い知る。それは軍祭を主催したフェン王国も同じであり特に剣王シハンの衝撃はすさまじかった。シーランド帝国が初めて訪れた際、シハンは少し横暴とも言える態度で力を見せてほしいといった。もし、あの場であれ以上の態度を取っていたらあの砲撃を受けていたのは廃船や漂流物ではなくアマノキだったかもしれない。シハンは自分の軽率さに体中から熱が消える感覚に陥った。一歩間違えればフェン王国の滅亡に繋がっていたかもしれない事はシハンにシーランド帝国への恐怖を植え付けた。今後、彼はシーランド帝国の要望を断ることは出来ないだろう。例え無理な要望もそれを承知で快諾してしまう。そんな未来が思い浮かんだがそれも仕方のない事だった。この場においてシーランド帝国に恐怖を持つ者はいても敵対しようと思う者は誰一人としていない。神星ミリシアル帝国とシーランド帝国、どちらかと戦争をせよと言われれば迷わずに神星ミリシアル帝国に戦争を吹っ掛けるだろう。

こうしてシーランド帝国は海軍のみで参加国に対して自国の力を見せつける事に成功した。しかし、シーランド帝国の力を見る機会はまだ終わっていない。

 

『西方よりワイバーン多数接近中』

 




フェン王国
軍祭でシーランド帝国の力を見て恐怖と畏怖を刻み込まれる。以後自ら尻尾を振りシーランド帝国の力を恐れ媚びを売るようになる。……哀れ。

ガハラ神国
なんとシーランド帝国とは今回初めての交流。ガハラ神国の風竜は現代国家にとっては警戒させるに十分だった。きっとシーランド帝国から物凄い圧力とかかけられると思うけど強く生きて!

マール王国、パンドーラ大魔法公国
パーパルディア皇国の属国。原作だとあまり出てこない影の薄い国達(おい
シオス王国の一件を聞きシーランド帝国の力を見たくて非公式に参加。結果パーパルディア皇国よりもヤバい(技術が)国として認知されるようになる。パーパルディア皇国を倒してほしいと密かに願う(その場合属国という事で併合か属国化のどちらかになるかも……)。

アルタラス王国
シーランド帝国が参加するという事で初参加(オリジナル設定)
結果シーランド帝国の実力を目の当たりにする。シーランド帝国と敵対したくない理由が追加されることとなった。
……因みに、今回非公式にとある王女様が参加し某帝国の皇族兼外交官と軍祭そっちのけで逢引きをしていたという目撃情報が多数寄せられたとか寄せられてないとか。
アルタラス王国の未来は安泰?


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第十四話「偶発的な対空戦闘」

「司令長官!西よりワイバーン多数接近中!」

「西?確かパーパルディア皇国があったな。彼の国も招待されている……わけではあるまい」

 

司令長官はパーパルディア皇国の情報を思い出し即座に自分の言葉を否定する。

パーパルディア皇国。それは第三文明圏の盟主であると同時に列強第四位に君臨する大国。5つの文明国と67の文明圏外国を属領としているまごう事なき侵略国家。人口は7000万を超えワイバーンを超えるワイバーンロードを多数配備しているという。その為文明圏外国はその力を恐れているという。

やがてワイバーンの姿が司令長官が乗艦している原子力空母からも視認できる距離まで来た。その姿を見た司令長官は部下に対し何時でも攻撃できる準備をさせる。

そしてワイバーンは二つの隊に分かれ一つはフェン王国の王城の最上階に炎を放った。直撃した王城は勢いよく燃え始める。明らかな敵対行動を前に司令長官の決断は早かった。

 

「対空戦闘用意。目標、所属不明ワイバーン22騎」

「はっ!対空戦闘用意!」

「敵の半数がこちらに向かってきます!」

 

司令長官の淡々とした言葉に部下たちは慌てることなく標準を合わせる。最初に対象となるのはこちらに向かってきている11騎のワイバーンであった。

司令長官の乗艦する原子力空母を守るように輪形陣を描いていた各艦艇より艦対空ミサイルが発射された。各目標に2発という生存を決して許さないその徹底ぶりにワイバーンたちは次々と撃ち落とされる。必死に旋回し逃げようとするがピッタリと後ろに張り付き自分たちの何倍もの速度で迫って来るミサイルに恐怖を覚え一瞬の激痛とともにその命を刈り取っていく。既に王都上空は肉塊となり空に絵を描いたワイバーン達で彩られていた。その姿はロデニウス沖大殲滅戦で湾岸都市の人々が見た光景にそっくりであった。ただ、今回は前回と違い見上げる人々は絶望せずただ茫然とその姿を見ている事だ。

司令長官たちは気づいていなかったがこの時フェン王国にやってきたのはワイバーンではなくその上位種であるワイバーンロードであった。攻撃力や防御力こそ通常のワイバーンと変わらないがその速度は大幅に上昇しており第三文明圏及びその付近の文明圏外国では最強の存在と恐れられていた。

そのワイバーンロードが呆気なく撃ち落とされていく。軍祭に参加していた各国の武官たちはワイバーンロードを簡単に落とすシーランド帝国に恐怖と同時に希望を持つこととなった。

一方、生き残ったワイバーンロード11騎は絶望していた。何せ今同輩たちが呆気なく撃墜されたのだから。彼らには撤退するという道もあった。司令長官はまだ第二派の攻撃を許可していないためこのまま逃げれば確実に生き残ることができた。更に目的であるフェン王国への懲罰行動は完了していたのだから逃げても問題なかった。しかし、その場合撃墜された11騎の事でいろいろと言われるのは確実で最悪の場合敵前逃亡と取られる可能性もあった。

その為、彼らが取ったのは攻撃の道だった。目の前の大型艦を沈めてこそ11騎が撃墜されたことによる失態をカバー出来る。そう考えた彼らは無謀な突撃を開始した。

 

「敵ワイバーン、接近してきます」

「撃ち落とせ」

 

決死の覚悟で挑むワイバーンロード部隊に非常にも先ほどと同じ艦対空ミサイルが襲い掛かる。1騎、3騎、6騎と撃ち落とされていく。彼らも先ほどの11騎と同じく空中に血花火をつくるだけだった。

そんな中竜騎士レクマイアは雄たけびを上げながら原子力空母に突撃を開始する。レクマイアはこの空母を見たとき敵にもワイバーンを海上運用できる力があるのかと驚いていた。最も、敵のワイバーンが出てくるまでもなく仲間たちは撃墜され王都やその近くの海上に消えていった。絶望的なこの状況にレクマイアは諦めなかった。彼はただひたすらに、一直線に原子力空母へと迫る。途中ミサイルとすれ違うがそんな事はお構いなしに原子力空母のみを視線にいれる。相棒のワイバーンロードもそれに答えるように導力火炎弾の発射準備を行う。

そしてついに導力火炎弾の射程圏内まで近づくことに成功した。レクマイアは発射の指示を出そうとしたが瞬間原子力空母より放たれた光の球を体中に受け意識を失う事となった。相棒のワイバーンロードも光の球、シーランド帝国が開発したファランクスによって体中に風穴を開け原子力空母の近くに落ちていった。

艦橋からもはっきりと敵の姿が見えるほど接近したワイバーンロードを見た司令長官は、

 

「目標撃墜しました」

「うむ、状況終了。戦闘態勢を解除せよ」

 

何時もと変わらず淡々としていた。レクマイアの必死な突撃は司令長官以下シーランド帝国の主力艦隊を脅かす力は全くと言ってなかったのである。レクマイアの攻撃は「敵の残党がこちらの攻撃圏にゆっくりと入ってきた」程度の認識であり音速の(戦闘機)との戦いを想定する彼らにとって時速300程度のワイバーンはアリ一匹が視認している人間に挑むようなものであった。

パーパルディア皇国のワイバーンロードを危なげもなく降したシーランド帝国の実力に軍祭の参加者たちは直ぐに繋ぎを取ることとなるのだった。

 




シーランド帝国
軍祭に参加したら空飛ぶトカゲ(ワイバーンロード)に絡まれた。落としたら各国の見る目は変わった。いまだに保有する知識に偏りがある(ワイバーンとロードの区別どころかロードの存在すら知らない)。一体何時になったらこの状況を打破出来るのか(出来ないだろうなぁ……)

フェン王国
シーランド帝国に恐怖した上にパ皇に城燃やされて踏んだり蹴ったりな状況。場所が自国の為墜落したワイバーンロードと騎乗主の死体の片づけをする羽目に。誰か手伝ってくれよ……

パーパルディア皇国
生意気なフェン王国に懲罰してやる!と息巻いてワイバーンロードを送ったら全滅した()。キレたから艦隊連れてフェン王国焼きに行くめう

軍祭に参加したその他大勢の人々()
空の王者の呆気ない撃墜にワイバーンの限界とシーランド帝国の力を見せつけられることに。でもワイバーン以外の航空戦力なんてないのでもうしばらくはワイバーンを配備する予定
そして某王女と某外交官はその間も逢引きをしていたらしい()。リア充爆発しろ


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第十五話「嵐の前1」

日本国召喚を5巻まで買ったのに読めてない……。というかやりたい事多すぎて手が回らない今日この頃
それとアンケートは今日中で締め切ろうかと思っています


a.t.s52(皇歴52年)/9/25/14:01 シーランド帝国帝都ロンドニウム

「陛下!軍祭に参加した第一艦隊がパーパルディア皇国のワイバーンと交戦!全騎撃墜したとの事です!」

「何?」

 

慌てた様子で入ってきた部下の言葉にライオネスは不思議そうに眉を顰める。何故軍祭に参加して戦闘に陥るというのか?ライオネスは報告の続きを促す。

 

「同行したアーロン様の話によるとフェン王国は以前にパーパルディア皇国からの不当な要求を断っていたとのことで今回はそれに対する威嚇行為の可能性があるとのことです」

「ほう?そんな状況なのに我らには一言も言わずにいたと?」

「陛下、フェン王国は我が国の力を持ってパーパルディア皇国からの要求を断りたかったのでは?」

「気に食わないがそうであろうな。全く、事前報告があればこれに乗じて攻められたものを……」

 

今からではどう頑張ってもフィルアデス大陸遠征を難なく行えるようになるまで三か月近くはかかる。と、ライオネスは悪態をつく。最近痛むようになった頭を抑えながらフェン王国にどんな懲罰行為をするか考え始める。

 

「そ、それと……。フェン王国にパーパルディア皇国の艦隊が迫ってきている様で応戦する許可を求めています」

「……いいだろう。この際だ。我らの力を教えるために一隻を残し全て沈めろ。勿論将兵もだ。海に落ちた者は容赦なく砲撃や機銃掃射で天に送ってやれと伝えろ」

「かしこまりました」

 

部下はそれだけ言うと早足で執務室を後にする。あと数十分もすれば第一艦隊は堂々とパーパルディア皇国の艦隊を返り討ちにしてシーランド帝国の力を見せつけるだろう。ライオネスはそう考えてふと、パーパルディア皇国の情報があまりない事に気付いた。

 

「宰相。パーパルディア皇国について知っている情報はないか?」

「確か部屋にその報告書があったと思います。取りに行ってきます」

「うむ、なるべく早めに頼むぞ」

 

宰相に情報を取りに行かせたライオネスはやはり情報収集は行うべきかと漸く国家機関を動かすことを検討し始めるのだった。

 

 

 

東の大国、パーパルディア皇国にとって一番の不幸はシーランド帝国の情報をあまり持っていなかったことにある。その為皇国監査軍東洋艦隊が一隻を残し全滅したと報告が来ても誰も信じられなかった。しかし、実際に皇国監査軍は一隻を残し全滅している。

生き残りの将兵によると迎え撃ったのは皇国監査軍どころかパーパルディア皇国のどの船よりも大きい船体の艦隊で、パーパルディア皇国の砲よりも高威力、高射程を持ち発射時間も早い方で次々と命中したといい、更には逃げようと反転する生き残りの船の周囲に着弾させ恐怖心を煽って来るほどだったという。更に海に落ちた将兵は丁寧と言ってもいい程に砲撃で殺されており既にあの場に生存者はいないと思われるとの事だった。

パーパルディア皇国はこれを機にシーランド帝国の情報を集め始めるが意外にもすんなり集まってきた。

まずシーランド帝国はロデニウス大陸を既に手中に収めており更にはシオス王国すら属国にしていた。この事実に調査を行った第3外務局は今まで知らなかったことに恥じると同時に危機感を覚えた。シオス王国はロデニウス大陸とフィルアデス大陸の丁度中間に位置しておりフィルアデス大陸の前哨基地としてはこれ以上ない立地にあった。

ならばワイバーンロードで攻撃もできると考えられるが、シーランド帝国が皇国監査軍を倒したと考えるならその前に行われたワイバーンロード部隊による強襲もシーランド帝国によって撃ち落とされたと考えられた。

 

パーパルディア皇国の主力であるワイバーンロードを殲滅できる力を持つ国がシオス王国を手に入れた。

 

この事実に第3外務局の局長であるカイオスは直ぐにシーランド帝国との接触を図ろうとするが中々うまくいかなかった。何故ならシーランド帝国はパーパルディア皇国を避けて外交を行っており直接的な繋ぎは存在していなかったのである。しかし、こちらから出向くのはフェン王国の一件から難しいうえに列強故のプライドが邪魔をして派遣は出来ない。それならばと隣国に仲介を頼もうとするがシオス王国は全面的に拒否しフェン王国は後述の理由から不可能。ガハラ神国はそもそもシーランド帝国とのパイプがなくロデニウス大陸にはシオス王国を経由しないといけないがそれすらも拒否しため実行不可能。唯一アルタラス王国は手ごたえを感じたためそこから少しづつ仲介を依頼しようとしていた。

 

 

 

a.t.s52(皇歴52年)/10/3/9:53 アルタラス王国王都ル・ブリアス

アルタラス王国国王ターラ14世は悩んでいた。理由はシーランド帝国がフェン王国の軍祭で示した力であった。シオス王国を属国にしたことからかなりの力を持っているとは予想していたがまさかパーパルディア皇国のワイバーンロードを呆気なく撃墜できる実力を持っているとは予想もできていなかった。

幸いなことにシーランド帝国とは良好な関係を続けられており、加えて娘のルミエスはシーランド帝国の皇族と恋仲に発展しつつある。このままいけば婚約まで行き婿入りなり嫁入りなりする事になるだろう。シーランド帝国とて自国の皇族と深い関係にある王女の国を理不尽な扱いをしたりしないだろう。

ターラ14世はシーランド帝国の力に恐怖を感じつつアルタラス王国がまだ恵まれている事に安堵するのだった。

 




シーランド帝国
フェン王国に多少のイラつきを持ちつつ対パーパルディア皇国戦の準備を開始。そしてようやく国家レベルでの情報収集の予感……。いい加減自国が一番という考えを捨てなきゃ

パーパルディア皇国
皇国監査軍をボコボコにしたシーランド帝国の存在を漸く知る。情報収集を行うもやばい国という事実が発覚。外交関係のない状態で急いで繋ぎを作ろうと(カイオスが)頑張っている

アルタラス王国
異世界ではおそらく最も運が良かった国。シーランド帝国の力に怯えつつもその力がこちらに向くことはないという安心感も感じている。
メタいがアンケート次第で今後の対応が大きく変わる。


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第十六話「嵐の前2」

a.t.s52(皇歴52年)/10/6/15:35 シーランド帝国帝都ロンドニウム

「殿下、この書類のサインもお願いします」

「分かった」

 

シーランド帝国の皇太子ウィリアムは宰相の手伝いを受けながら皇帝の仕事を代理で行っていた。皇太子として既にやるべきことを把握しているウィリアムは滞る事無く書類をさばいている。

皇帝ライオネスは現在頭痛や吐き気などに襲われて寝込んでいる。シーランド帝国でも最高峰の医師の話では病気とかではなく単純な老衰とのことでライオネスは寝室で休んでいる。回復するまでは皇太子であるウィリアムが代理で仕事を行う事になっており三か月ほど前にクワトイネ公国より戻ってきたウィリアムが行う事になったのだ。

ウィリアムは代理ではあるが皇帝と同等の権力を保有したことで自分のやりたかったことを試験的に行う事にした。その一つが各国への使者である。シーランド帝国と国交を結んでいる国は少ない。クワトイネ公国、フェン王国、クイラ王国、アルタラス王国を除けば民間レベルでの交流程度しかない。特にフィルアデス大陸の国々とはそれすら行われていない。この孤立状態をウィリアムはなんとかしたいと考えていた。

しかし、フィルアデス大陸のパーパルディア皇国とは戦闘行為があったため宰相以下政治家たちは難色を示したためフィルアデス大陸、特に南部との交流は見送られることとなった。現在シーランド帝国では対パーパルディア皇国戦を想定した軍備の拡張を行っている。計画は既に完成しパーパルディア皇国全土の占領後の統治計画まで作られている程だ。ただの代理でしかないウィリアムにこれを止める術はなくパーパルディア皇国で人々が少しでも犠牲が出ないようにさせるのがせいぜいだった。

そんな訳でウィリアムが選んだのはフィルアデス大陸の先、中央世界と呼ばれている大陸やその先、ムー大陸への外交官の派遣である。特にムー大陸は伝説の大陸名故に力を入れており国交樹立後は歴史などの情報が欲しいと考えていた。中央世界に関しては国交を結ぶ事よりも繋ぎをつくることを優先させている。中央世界と言うだけありプライドが高く今まで関わった事のないシーランド帝国と国交を結んでくれるとは思えないからだ。

 

「殿下、トーパ王国の使者がフェン王国を通して連絡を送ってきました。どうやら国交を結びたいとのことです」

「分かった。使者殿にはこちらから使者を派遣すると伝えてくれ」

「了解しました」

 

さすがに相手から求められては否定しづらいのかこの件に関して宰相が特に言う事はなかった。ウィリアムはその間も仕事をつづけながら自分のやりたい事を整理していく。

初めて持った強大な権力に興奮と緊張感、そして恐怖を持ってウィリアムは父ライオネスのような政策をしないと心に誓いながら今日の分の仕事を終わらせるのだった。

 

 

 

フェン王国にとって幸いだったのはライオネスの代わりにウィリアムが処遇を決定したことだろう。ウィリアムは「次からはきちんと事前連絡を貰えれば問題ない」として懲罰の類は一切しないと発表した。宰相などはこれに反対したが最終的に押し切りフェン王国との国交を回復させた。シーランド帝国ではロデニウス大陸以外の他国の為様々な人が観光に訪れた。フェン王国の堅い雰囲気を持つ民族性も好感度を上げるのに役にたち観光業界では新たな観光スポットとして注目を浴びつつあった。それに伴い定期便の設定やそれらが入港できる港の整備などフェン王国に次々と幸運とも呼べる出来事が入って来るようになった。

シーランド帝国の発表に剣王シハン以下政治を行っている者全てが安堵しシーランド帝国との関係をより強固にするべく様々な交流を行うようになる。

 

 

 

 

 

「兄上、大丈夫ですか?」

 

ライオネスの寝室を知っている者は少ない。皇帝である以上暗殺の危険性を考えこのような処置をされている。知っている者は皇族の各分家の当主に宰相などの一部の政治家のみで皇太子のウィリアムですら知らず、また調べる事を禁止されていた。

そんな寝室に一人の男性が訪れる。彼の名はアブロシウス・アレン・ペンドラゴン。分家のアレン家当主でライオネスの弟にあたる。彼はライオネス並みの野心家であり一時期は皇帝を狙っていたことすらあった。現在は長男に当主の座を譲り楽隠居状態にあった。

 

「ああ、少し寝ていれば回復するそうだ」

「そうですか……。それで?私をここに呼んだ理由とは?」

 

アブロシウスは態々今住んでいるウェールズ自治領から遠く離れた帝都のキャメロット城に来ているのはお見舞いのためではなくライオネスに呼ばれたからであった。そもそもアブロシウスとライオネスの仲はお世辞にも良好とは言えず一時期は皇帝位の座を巡り争ったほどだ。今の本人にその気持ちがなくてもそうであった事実に変わりはなくアブロシウスの入城に警戒する者も居るほどだ。その為アブロシウスとしてはさっさと要件を終わらせて戻りたいと考えていた。

 

「何、お前にとっても悪い事ではないぞ。ウィリアムに関してだ」

「む?お前の息子がどうかしたか?」

「あいつは国家のかじ取りをする能力は高いし人を惹きつけるカリスマ性も持ち合わせている。前の世界でなら十分にやっていけただろう。だが、この異世界ではあいつでは渡り切るのは困難だろう」

「ふむ、確かにな」

 

アブロシウスはライオネスの言葉に同意する。ウィリアムは次期皇帝としての素質は十分すぎるほどに持っているがこの世界を乗り切る器量を持っているかと問われれば微妙であった。現在は各国に外交官を派遣し各国との繋ぎを持とうとしているらしいがうまくいくとは思えなかった。

 

「そこでだ、ウィリアムには悪いがあることを頼みたい」

「いいだろう、といいたいところだが先ずはそのあることを聞いてからだな」

「勿論だとも。あることとはな……」

 

その後、アブロシウスとライオネスは数時間に渡り話を続けアブロシウスはウェールズ自治領の家に帰っていった。様々な人が何を話していたのか聞いたそうだが一切話すことはなかったという。

 



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第十七話「決裂」

フェン王国に襲来した監査軍のワイバーンロードって20騎だったんですね。この作品ではこのまま行こうと思います
アンケートは嫁入り√と婿入り√が同数だったので今後はどちらかの√を採用します。どうなるかは今後のお楽しみという事で


a.t.s52(皇歴52年)/10/18/12:01 アルタラス王国王都ル・ブリアス

「(漸くここまで来た)」

 

第3外務局局長カイオスは心の中でそう呟いた。彼は祖国を離れフィルアデス大陸南部に位置するアルタラス王国の王城にいた。彼が座っている部屋にはカイオスの他に三人の局員もおり全員カイオスが信頼する部下たちで全員に心してかかるように厳命している。

一方、彼らのほかにもこの部屋にはおり丁度カイオスと対面する形で二人の男性が座っている。自らが望んでいたこの状況になった事に安堵とともに緊張感を持っていた。

先ずは最初の挨拶をとカイオスは口を開く。

 

「私はパーパルディア皇国第3外務局局長のカイオスといいます」

「私はシーランド帝国の外交官のアーロン・フェニックス・ペンドラゴンです」

「在アルタラス王国大使のビクターと申します」

 

カイオスとその正面に座る二人、シーランド帝国のアーロンとビクターは挨拶を交わす。カイオスは事前に聞かされていた事を思いだしながら何気ない話から始める。

ビクターは最近やってきた大使であるがまだアルタラス王国に関してはそこまで知っているわけではない。これらは別にどうでもいいが無視できないのが次のアーロンだった。シーランド帝国の皇族でありアルタラス王国の王女ルミエスとは恋仲になりつい最近婚約者となった。外交官としての実力は確かなものでミスを犯さず利を持っていくという。実際事前に第3外務局の局員が接触した時はいいように言いくるめられたという。カイオスはそうならない自信があるが何時までも局長の自分が交渉や対話をするわけにはいかない。今回は特異な出来事だった為自らが直接来たが今後は局員に任せようと考えていた。その為ここにいる局員にはシーランド帝国とのやり取りを経験させておきたかったのだ。

 

「それで?貴国が我が国との交渉を望んでおられるとは聞きましたが一体何の用でしょうか?」

「(!来たか!)実は我々も最近知ったのですがシオス王国を属国にしたとか。ほかにもフェン王国への懲罰行動を行っていた我が国の監査軍をいきなり攻撃してきたとか」

「ああ、その事ですか。我が国としては降りかかる火の粉を払ったのみに過ぎません。シオス王国に関してもあちらから挑発的な行動を行いそれに乗った結果でしかありませんよ」

「ひ、火の粉ですか……」

 

カイオスは自らが指揮権を持つ監査軍を火の粉と言われ怒り狂いそうになったがグッ、と我慢する。事実だけを見ればその通りだからだ。フェン王国の軍祭に参加したらパーパルディア皇国に襲われそうになり身を守るために返り討ちにした。

確かに理屈は通っているし軍祭の時を狙い監査軍を派遣した第3外務局の慢心だったのだろう。しかし、パーパルディア皇国の軍を返り討ちにしたことでパーパルディア皇国の権威に傷が付いていた。本来ならこの場で地面に頭を付け誠心誠意謝罪することこそ筋といえるものだ。カイオスはそう考えて発言する。

 

「確かに、貴国は素晴らしい力を持っている様ですな。ですが、パーパルディア皇国の監査軍を返り討ちにしておいてその態度が許されると思いですが?我が国が本気を出せばいくら監査軍を破れる力があろうと貴国に勝利はあり得ませんよ」

 

カイオスの脅迫とも言える言葉にアーロンとビクターは目を丸くする。まさか攻撃してきた者を倒して文句を言われるとは思っていなかったのだ。前の世界ではそんな事は起こらなかったしシーランド帝国もそんな事は言わなかった。そもそもこの状況になったら倒した国に文句を言うのではなく軍部の怠慢と慢心という方向に行く。決してこんな()()()()()真似は出来ない。

カイオスの言葉に呆れたアーロンは諫めるように言葉を放つ。

 

「カイオス殿、確かに貴国パーパルディア皇国は列強国としてのプライドがあるのでしょうがそのような高圧的な外交では結べる条約、国交など無いに等しいですよ」

「なっ!お前たちは!パーパルディア皇国を侮辱するつもりか!」

 

遂に我慢出来なかったのか局員の一人が声を荒げ立ち上がる。残りの二人も同じような考えの様でアーロンとビクターをにらみつけていた。

ビクターはアーロンの言葉に気付かれないように息を吐く。彼は知らないことだが高圧的な外交ならシーランド帝国でも幾度か経験がある。それも行う側として。アーロンの様にきちんと対等に話す者は全体の4割ほどだ。勿論場合によっては、エーレスラント連合王国やインド共和国と言った大国に新生ブラジル帝国やブランデンブルク帝国のような友好国にはこちらもきちんと礼儀をただすし決して侮ったり、侮蔑的な態度をとることはない。そんな事で彼の国々との関係が壊れたり戦争に発展すればその外交官のみの責任では済まなくなる。最悪の場合激怒した皇帝に全外交官を死刑にする可能性すらあった。外交官に含まれるビクターは皇族という事で扱いづらいアーロンを持て余していた。

そんな風にビクターが考えている間に両者の言い合いが始まっており只の罵り合いに近いものとなっていた。

 

「たかが22騎のワイバーンロードを落としたからと言って天狗になっているようだがな!監査軍としては多いかもしれないがパーパルディア皇国としてみれば一部に過ぎない。今なら貴様の首と皇帝の謝罪で許してやるぞ」

「それはそれは。寛大な対応をありがとうございます。ならこちらは貴様等の身柄とパーパルディア皇国の皇帝の謝罪を要求しよう。無論膝をつき我が国の帝都で謝罪をしてもらおう」

「き、貴様!陛下を侮辱する気か!」

「先に侮辱したのはそちらであろう!?」

「我らは列強だ!貴様等のような文明圏の蛮族と同一に扱っていい存在ではない!」

「は!こちらとしても貴様ら如きと一緒に叔父上を一緒にしてほしくはない。叔父上はパーパルディア皇国の全てよりも重いのだからな」

 

既に外交官としての理性ある応対は出来なくなっておりそれどころか行きつくところを過ぎていた。と、それまで黙っていたカイオスが手を上げ局員を黙らせた。カイオスの顔には憤怒が浮かび上がっており既に我慢の限界のようだった。ビクターは今後の事を予測して頭が痛くなっていた。

 

「……貴国の思いは伝わりました。きっちりと陛下にお伝えしましょう。精々、残り少ない平和を享受するといいですよ」

「その言葉、そっくりそのまま返しましょう」

 

こうしてパーパルディア皇国とシーランド帝国の交渉は決裂し、パーパルディア皇国はシーランド帝国を敵国としてみるようになりシーランド帝国もパーパルディア皇国との戦争の準備を急ピッチで進めるようになるのだった。

 




シーランド帝国
皇太子ウィリアムが皇帝代理として政務に励んでいる。その一方で外交官を各国に派遣し各国との繋ぎを作ろうとしている。……が、アーロンの報告書を見たウィリアムはパーパルディア皇国との戦争が起こると考え胃を抑えるようになった。狂喜乱舞して戦争しようとする父とは正反対であった。
ウィリアム「え?なんでそんな事になってんの?やめてよ……」
ライオネス「え?戦争になりそう?関係ねぇ!こっちから攻めるぞ!」

パーパルディア皇国
シーランド帝国と外交の場であったのに何時もの感じでやったら決裂した。侮辱されたことで怒りのまま決裂してしまったカイオスは後から若干後悔をしているとか。

アルタラス王国
ルミエスとアーロンが婚約者になって若干浮かれ気味。
その一方でパーパルディア皇国とシーランド帝国の仲介をしたら決裂した。カイオスには帰り際に「このままシーランド帝国との友好関係を続けるようならどうなるか分かっているな?」と脅された事でパーパルディア皇国に対して警戒するようになった(シーランド帝国?皇族同士で婚約しているのに警戒する必要ある?少なくともパーパルディア皇国みたいに攻めては来ないでしょ)。


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第十八話「前哨戦1~火の粉迫るアルタラス王国~」

ウィリアムを修羅に落とすか悩む……

というかなんでアルタラス王国担当大使の名前が変わったんですかね?ウェブ版の名前はブリカスに似ているせい?


a.t.s52(皇歴52年)/11/5/11:45 アルタラス王国王都ル・ブリアス

「何だこれはぁっ!」

 

シーランド帝国とパーパルディア皇国の交渉決裂から2週間以上が過ぎたころ、アルタラス王国にパーパルディア皇国からの要請書が届いた。毎年贈られてくる指示書のようなものだが今年のは冗談といえるレベルを通り越して酷かった。

 

〇アルタラス王国は魔石採掘場・シルウトラス鉱山をパーパルディア皇国に献上せよ

〇アルタラス王国は1000人の奴隷を献上せよ。また、アルタラス王国はパーパルディア皇国への謝罪の為に前記とは別に2000人の奴隷を献上せよ

〇アルタラス王国は今後パーパルディア皇国人を国王とし現王族は全員平民とする事

〇アルタラス王国はシーランド帝国との国交を断絶し王女ルミエスの婚約を解消せよ

〇アルタラス王国の法を皇国が監査し、皇国が必要に応じ、改正できるものとする

〇アルタラス王国は今後あらゆる船の保有、所持を禁止する

〇アルタラス王国はワイバーンを保有、所持する事を禁止する

〇アルタラス王国は今後国家予算の2割を皇国献上金としてパーパルディア皇国に献上せよ

〇アルタラス王国王女ルミエスを奴隷としてパーパルディア皇国に献上せよ

 

なんとも無茶苦茶な内容であった。これが通ればアルタラス王国はパーパルディア皇国の属国に落ちることと等しかった。いや、それ以上に属領となるといっても過言ではない。

 

「こんな要求、受け入れられるかぁっ!」

 

アルタラス王国国王ターラ14世の叫びはその場にいる者たちの共通の思いであり同じように怒り狂いたくなった。ターラ14世は指示書を破り捨て何度も踏みつけることで怒りを抑えようとする。それでも怒りは残っているが今は一刻も惜しいと指示を飛ばす。

 

「わしはこれよりパーパルディア皇国の出張所に出向く!この馬鹿げた要求をつき返しになぁ!お前たちはシーランド帝国の大使館に行きパーパルディア皇国と戦争になると伝えろ!出来るなら援軍も要請したいが今からでは間に合わない可能性もある!ルミエスには急いでシーランド帝国に逃げろと伝えよ」

 

怒鳴り声で指示を出したせいか最後の方は息も絶え絶えになっていたが怒りは収まったようで息を整えると怒鳴り声ではなく普通の声で指示を出していった。

 

「おのれパーパルディア皇国め。こんな要求をして本当に受け入れると思っているのか……」

 

ターラ14世にはどう見ても戦争で全てを手に入れるために無茶な要求をしているようにしか見えなかった。ターラ14世は僅かな衛兵と外交官とともに王都ル・ブリアスにあるパーパルディア皇国第3外務局の管轄であるアルタラス王国出張所に向かっていった。

アルタウス王国出張所はパーパルディア皇国の建築様式で建設されておりアルタラス王国ではとても目立つ建造物だった。加えて国力を見せつけるためかかなり荘厳であり領主の館にすら間違われそうな程だった。

そんな出張所にやってきたターラ14世は職員の案内のもと大使室に向かう。ターラ14世の怒気は職員にも伝わっているのか眉を顰めて煩わしそうにしている。パーパルディア皇国人の職員の為アルタラス王国の国王であっても文明圏外の蛮族と馬鹿にしているのであろう。

そして漸くお目当ての大使室についたターラ14世は更に怒りを募らせた。そこにはアルタラス王国担当大使カストが椅子に座った状態で出迎えておりそれの他に椅子やソファは見当たらなかった。床の色からやって来ることを想定して撤去したようであった。

更に大使カストは

 

「待っていたぞ、ターラ14世!」

 

と、とても一国の王にいう言葉遣いではなかった。ただでさえ指示書のせいで苛立ちが募っているにも関わらずこのような扱いをされては我慢が出来なかったがターラ14世は右手を握り込む事で怒りを抑える。それを受けて連れてきた外交官も無礼に無礼で返すように挨拶もせずに話を始める。

 

「あの文書の真意を伺いたい」

「内容の通りだが?」

 

カストは「そんな事も理解できないのか?」と言わんばかりに見下した様子で答える。

 

「あのような内容ではアルタラス王国が滅びてしまいます!貴国は我が国を滅ぼす気か!」

「貴様!たかが蛮族の外交官の分際でこの俺に歯向かう気か!?皇国の大使である俺の石は即ちルディアス様の言葉と同義であるぞ!蛮族風情が!誰に向かって口をk……ぎゃっ!?」

 

カストは最後まで言葉を続けることができなかった。遂に我慢できなくなったターラ14世の放った拳により顔面にクリーンヒットしたからだ。カストは椅子ごと後ろに倒れ込む。そんなカストに近づきターラ14世は言い放つ。

 

「貴様らパーパルディア皇国の要求は全部拒否させてもらう。そして今日中にこの国より出ていけ。明日以降に見かけた場合は即刻首をはねる」

 

話は以上だ、と茫然と見ている外交官や衛兵を連れて大使室を後にする。後方でカストが何やら騒いでいたがターラ14世は全く反応することなく出張所を後にするのだった。

 




アルタラス王国
シーランド帝国との交渉が決裂したパーパルディア皇国が腹いせに無理な要求を突き付けられる。国王ブチ切れで大使を殴るという結果に。ただ、このままいけば原作同様(最悪それ以上の)悲惨な結果になりかねない。

パーパルディア皇国
アルタラス王国に対し無茶苦茶な要求を突き付ける(完全な八つ当たり)。原作同様ルミエスの奴隷化はカストの後付けだがそれでも前述がひどすぎてそれどころじゃなかった。

シーランド帝国
本国は未だ今回の一件を把握していない。


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第十九話「前哨戦2~ターラ14世の意地~」

a.t.s52(皇歴52年)/11/5/12:52 アルタラス王国王都ル・ブリアス

「ターラ14世殿、パーパルディア皇国と戦争になるというのは本当ですか!?」

 

パーパルディア皇国アルタラス王国出張所から戻ってきたターラ14世を出迎えたのは愛娘ルミエスと婚約したばかりのアーロン・フェニックス・ペンドラゴンだった。彼は大使館にやってきたアルタラス王国の使者の言葉を聞き急いで王城にやってきたのだった。彼の隣には不安そうにしているルミエスもおり父親の言葉を待っている。

 

「そうだ。我が国はパーパルディア皇国と戦争になる。だが、我が国は確実にパーパルディア皇国には勝てない」

 

いくら文明圏外国の中では文明圏の国に匹敵する国力を持つアルタラス王国でもその文明圏すら従える列強のパーパルディア皇国に勝てるわけがなかった。パーパルディア皇国が大量配備しているワイバーンロードはこの国にはないうえにワイバーンの数すら劣っている状況なのだ。更に海上戦力、陸上戦力ですら満足に戦えるほど拮抗していない。

 

戦えば確実に負ける

 

それがパーパルディア皇国とアルタラス王国の国力差を如実に表していた。それでもターラ14世は戦争する道を選んだ。

 

「パーパルディア皇国の要求は確認しましたがさすがにあのような暴挙に出るとは……。本当に申し訳ございません」

 

アーロンはターラ14世に頭を下げる。確実にアルタラス王国への要求はシーランド帝国との交渉決裂が原因であった。アーロンはあの場でもう少し良い方向に交渉できたのではないか?もっと相手に配慮することができたのではないか?そんな考えが頭の中を延々と巡っていた。

そんな彼の肩に手を置くターラ14世。その目はとても穏やかで優しい瞳をしていた。

 

「婿殿、貴殿は何も悪くはない。そもそもパーパルディア皇国との仲介をした時点でこうなる可能性はあったのだ。婿殿は自分に出来ることをやっただけだ」

「しかし……「もし!」っ!」

「もし、本当に後悔しているのであれば我が娘ルミエスをどうか頼む。そなたはルミエスの婚約者なのだ。ルミエスを幸せにしてくれ」

「お父様……」

 

ターラ14世の言葉にルミエスは悲しげにうつむく。一瞬見えた目じりには少し涙が溜まっていた。アーロンは自分の無力さを噛みしめながら頷く。

 

「……分かりました。必ず幸せにします」

「その言葉を聞けて良かった。……さぁ、早く避難しなさい。一週間もしないうちにパーパルディア皇国はやって来るだろう」

「……ターラ14世殿は?」

「私は国王として、まだやることが残っている。それに民を置いて一国の王が逃げる事など出来ないのだよ」

 

パーパルディア皇国には勝てない。それなのに逃げることなく迎え撃つ。その言葉がどれほど重く自分程度では揺るがすことができないとアーロンは感じ取った。皇族ではあるがその事を笠に着ることもなく外交官として今までやってきた彼には国の王としての責任感は分からなかった。

それでも、ターラ14世の言葉に従う。ルミエスは荷物をまとめるために自室に戻りアーロンも大使館の撤収準備を始める。アルタラス王国が戦争になる理由を考えればこのまま居続けることは出来なかった。大使のビクターをはじめ職員たちは重要な物を中心にまとめ始めていた。アーロンに気付いたビクターが駆け寄って来る。

 

「アーロン殿、やはり戦争になるか?」

「その様です。それと、ルミエスを含め一部の人間を一緒に避難させてほしいと」

「ターラ14世殿は?」

「……」

「……そうか。分かった。明後日の正午までにシオス王国に停泊中だった貨物船がやって来るそうだ。多少人数や荷物が増えても問題はないだろう」

 

ビクターはそう言って荷物の整理に戻っていく。アーロンも自分に割り当てられた部屋に行き荷物をまとめる。ルミエスと婚約する事になりアルタラス王国の外交からは外されることとなっていたアーロンの荷物は最小限だった為難なく準備を終えることが出来一人ベッドに座り込む。この世界に来てから怒涛の日々の連続であり彼はこれまでの事を思い返しながら意識を闇に落としていった。

 

 

 

 

 

a.t.s52(皇歴52年)/11/4/23:16 シーランド帝国帝都ロンドニウム

「反対だ」

 

皇太子ウィリアムはきっぱりとそう言った。彼の目の前には困ったような表情をしている一人の女性がいた。

 

「ですが、フェン王国からの正式な招待状ですよ?いかないわけにはいかないでしょう?」

「だが……」

 

ウィリアムは彼女、皇太子妃であるグィネヴィア・ロバーツ・ペンドラゴンの言葉に渋る。

実はフェン王国からパーティーの招待状が届いたのである。本来は皇帝に届いたものだが現在ライオネスは療養中でありウィリアムは慣れない皇帝の仕事に忙殺されていた。その為皇太子妃であるグィネヴィアが代わりに出席しようという事になったのだ。……しかし

 

「パーパルディア皇国とは実質的な戦争状態に入っている。パーパルディア皇国の近くにあるフェン王国に向かうなど自殺行為にも等しい」

「ですが断るというのも外聞が悪いのではないですか?正式な招待状ですしフェン王国は友好関係を築けている国の一つです。断った場合友好関係に亀裂が入る可能性もありますよ?」

「……」

 

ウィリアムはその言葉に悩む。確かにパーパルディア皇国がフェン王国に攻めてくる可能性は低い。王都アマノキへの攻撃もあったがあれはシーランド帝国のせいであると発覚しているしフェン王国に矛先が向かう可能性は低い。それでも、グィネヴィアを溺愛するウィリアムは許可することが出来なかった。

結局、この日はグィネヴィアがフェン王国に向かう話は却下されたがその翌日にアルタラス王国の一件が入った。これを聞いた宰相は「いくらパーパルディア皇国でもフェン王国まで侵攻する可能性は低いですしここは殿下が叫ばれている各国との友好関係の構築を優先されてみれば?」という進言によりグィネヴィアのフェン王国行が決定することとなる。

しかし、彼は後にこの決定を深く後悔しシーランド帝国の50年後までの方針にも影響を与えるようになるがこの時誰もその事を予想できていなかった。

 




アルタラス王国
滅亡はほぼ確定したうえにカウントダウンに入っている。シーランド帝国の大使館は撤収しその際にルミエスも避難。シーランド帝国本土ブリテン島に向けて出発した。ターラ14世は国王としてアルタラス王国に残り最後の意地を見せる。

シーランド帝国
パーパルディア皇国の話を聞き戦争準備を着々と完了させつつあるが未だ70%ほど。加えてウィリアムがなれない政務で手早く進まないことも相まっている。その一方でフェン王国の招待状を受けて皇太子妃がフェン王国に向かう事になる。

フェン王国
あれ?原作でこんな事あったっけ?(すっとぼけ)


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第二十話「前哨戦3~予想外の侵攻~」

a.t.s52(皇歴52年)/11/14/14:43 シオス王国臨時王都ケサ

シオス王国の国王となったリガ2世は最近増えたシーランド帝国関連の書類を見てため息をついた。書類はシオス王国で作られている空港や港に関してでありリガ2世はその大半の書類に許可を出していく。書類はリガ2世のもとに来る前に一度シーランド帝国から派遣された総督にチェックされている。国王より権力を持つ総督が許可を出したのだから却下する事は出来ず流れ作業の様に許可を出すのが仕事となっていた。

 

「シーランド帝国は本気でパーパルディア皇国とやりあうつもりなのか」

 

アルタラス王国の一件は既にシオス王国にも伝わっているし約一週間前にはアルタラス王国の王女ルミエスがこの都市に一日だけ滞在していた。リガ2世もルミエスに挨拶しアルタラス王国の事などを話した。

 

「王都の再建は後回しか。まぁ、仕方ないか」

 

シオス王国の王都マログはシーランド帝国の艦隊の攻撃を受けて壊滅し属国になってからも復興が全く進んでいなかった。そして漸く復興に関する計画が作成され始めたときに今回のパーパルディア皇国の交渉決裂である。結果シオス王国はその立地関係からシーランド帝国の対パーパルディア皇国戦の前哨基地となることが決定され急いでその関連の施設や基地、滑走路などが作られるようになった。港に関しては軍港と呼べるほどの規模は出来ていないが補給のみなら問題なくできる程度には完成しつつある。

しかし、シオス王国としてみれば自国民を戦争に出さなくていいとは言えあのパーパルディア皇国である。いくらシーランド帝国の実力が高いと言っても攻撃を受けるのではないかという不安は少なからず発生していた。その為北部に住む人々が南部やロデニウス大陸へと逃げようとして軽い混乱が起きている。逃げようとしている人は総人口から見れば大したことはないがそれでも無視はできない。シオス王国国王として君臨することを許されたからには半端な政治は許されない。大半が死んだとは言えまだ王族は残っているのだ。リガ2世が失政をすれば容赦なく国王を変えられるだろう。まだ死にたくないリガ2世としては全力で取り組むしかなかった。

リガ2世は今日も属国となったシオス王国の国王(お飾り)としてシーランド帝国の意向の下政務に励むのだった。

 

 

 

 

a.t.s52(皇歴52年)/11/14/14:43 パーパルディア皇国 皇都エストシラント

パーパルディア皇国の皇都エストシラントは第三文明圏において唯一の列強国であるにふさわしい都市であった。この地を訪れた者はだれもが列強国パーパルディア皇国の力と権威を思い知るだろう。そしてエストシラントの北部に位置する皇宮であるパラディス城はその威を示すためパラディス城は柱の一本に至るまで繊細な彫刻が施されている。その城はまさにパーパルディア皇国の皇帝が住まう居城にふさわしいといえるだろう。

そんな城にて第3外務局局長のカイオスは跪いていた。彼の前にはこの国の皇帝ルディアスがいた。27歳という年齢からは想像できない他者を圧倒する覇気と威厳、人を惹きつけるカリスマ性を持っている。まさに後の歴史で中興の祖と呼ばれるにふさわしい人物であった。

加えてカイオスの他に第1外務局の局長エルト、第2外務局の局長リウス、皇国軍最高司令アルデ、皇帝の相談役であるルパーサのほか、各機関の局長が勢ぞろいしている。

 

「面を上げよ」

「はっ!」

「カイオス、アルタラス王国侵攻の準備は整ったか?」

「はい。今回は監査軍のみならず本軍も派兵するとの事なので監査軍が先に出兵する事となっています」

「うむ、アルタラス王国の王女とシーランド帝国の皇族が婚約者らしいからな。シーランド帝国も軍を派遣する事を考えて行動せよ」

「かしこまりました。……それと、例の件ですが漸く了承しました」

「ほう?このタイミングでか?」

「どうやらシーランド帝国よりもパーパルディア皇国に未来を感じたようで準備は整っているとの事です」

 

ルディアスはその報告を聞き満足げに笑みを浮かべた。ルディアスの提案の下、カイオスが実行した案件だが無事にうまくいったようで彼は最終段階に進めるように言う。

 

「なれば、作戦を実施せよ。軍の準備は出来ているだろう?」

「はい、陛下の命令次第で作戦が動き出します」

「ならば許可を出す。見事成功させて見せよ」

「かしこまりました!」

 

カイオスは自身に課せられた使命を見事成功させられることに興奮を覚えていた。うまくいけばもう一度第1外務局の局長に戻れるかもしれない。カイオスは再び頭を下げるとその場を出て行った。

 

 

 

 

 

11月16日、パーパルディア皇国とシーランド帝国それぞれに報告が届いた。パーパルディア皇国にとっては吉報で、シーランド帝国にとっては国を揺るがすほどの凶報だった。

 

 

 

 

a.t.s52(皇歴52年)/11/16/12:31 フェン王国ニシノミヤコにて反乱が発生。同時にやってきたパーパルディア皇国軍と合流。

そして、シーランド帝国皇太子妃グィネヴィア・ロバーツ・ペンドラゴンがパーパルディア皇国に捕らえられた。

 




さぁ、運命の分かれ道だ

シオス王国ってシオス→オスシ→お寿司に見えたので関連の名前を用いました。
リガ2世→ガリ
ケサ→鮭(サーモン)
マログ→マグロ


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第二十一話「前哨戦4~反乱~」

a.t.s52(皇歴52年)/11/16/12:14 フェン王国ニシノミヤコ

シーランド帝国皇太子妃グィネヴィア・ロバーツ・ペンドラゴンはこの地にて歓待を受けていた。ニシノミヤコには西部に多大な影響力を持つテオリが事前に歓迎の準備を行っておりグィネヴィアが到着したころにはニシノミヤコ総出での大歓迎となったのだ。

グィネヴィアは馬車の窓から手を振り歓迎してくれている民衆に返した。元々ウィリアムと同じ大学に通っていた事から知り合っただけの平民だった彼女にとって皇太子妃としての公務は精神的な疲労を感じさせるものだったが決して表には出すことはなかった。その為きっちりとした所から嫁を取ろうと考えていたライオネスすら認めさせ慣れない公務をきっちりとこなす彼女への好感度は高かった。

そんな彼女は入城するまで終始手を振り続けシーランド帝国の皇太子妃の存在をニシノミヤコの人々に刻み込むことに成功するのだった。

 

「グィネヴィア様。今回接待をさせていただきますテオリと申します。滞在予定の3日間を楽しく過ごせるように誠心誠意務めさせていただきます」

「テオリさん、そこまで下出に出る必要はありませんよ」

 

グィネヴィアは態度が低いテオリに対してそう言った。元平民だった彼女にとってこういう低姿勢でいられるのは少し辛いものがあった。その為余ほど公的な場でもない限りそう言う事は遠慮してもらっていた。

 

「……分かりました。それと食事の準備は既に完了しています。こちらになります」

 

テオリはグィネヴィアの言葉を受けて異常とも言える低姿勢を止めた。そして彼女を案内すべく自らが先頭に立って歩き始める。

向かう途中、テオリはふと思い出したようにグィネヴィアに話しかけた。

 

「それはそうとグィネヴィア様」

「どうかしましたか?」

「貴方様は戦争というものをどのように感じていますか?」

「戦争、ですか?」

「はい。ご存じかもしれませんが現在フェン王国はパーパルディア皇国との戦争になる可能性があります。ここニシノミヤコでも城主ゴタン殿の指揮の下戦争の準備を行っています。パーパルディア皇国はアルタラス王国に侵攻するようなのでこちらはそのあとになるでしょうが国力差を考えれば滅亡までの時期が延びたに過ぎません」

「……パーパルディア皇国に関してはこちらも把握しています。夫であるウィリアムも今回の招待状には難色を示すほどですので」

「ウィリアム様はとても慈悲深いと聞きます。民を大事にし相手の国にも配慮するとか」

「はい、あの人は……。とても素晴らしい人です」

 

そう言ったグィネヴィアの頬は少し赤くなっていた。ウィリアムが語っていた世界の平和を目指す心にグィネヴィアは惚れいばらの道であろう妃という道を選びウィリアムと共に歩んでいくと決めたのだから。

そんなグィネヴィアにテオリは納得したような顔をしとある扉の前で止まった。

 

「成程、ウィリアム様は素晴らしいお方の様ですね。……もう少し話を聞きたかったのですがそれはまたの機会に。こちらが目的の場所にございます」

 

そう言ってテオリは扉を開けグィネヴィアに入るように促した。グィネヴィアはその部屋に入り、漠然とした。

部屋は中央にテーブルが置かれ十人分ほどの椅子が並べてあったが肝心の食事どころか食器さえ用意されていなかった。料理がないのは納得できるが食器さえないのは不自然だった。

 

「テオリ殿?部屋を間違えたのではないですか?」

「……いえ、あっていますよ。グィネヴィア様」

 

テオリはそう言うと扉の裏手に隠されていた剣を手に取りグィネヴィアの首に突き付けた。突然の事にシーランド帝国から共に来た護衛の兵士が驚きテオリを取り押さえようと動こうとしたがそれをフェン王国の兵士が抑え込み地面に組み伏せた。更に奥の扉から武装した兵が入ってきてグィネヴィアとその護衛に槍を突き付けた。グィネヴィアは漸く事実を悟り険しい顔になる。

 

「……貴方の新しい主君はパーパルディア皇国ですか?」

「流石はウィリアム様のお妃といった所ですか?その通りです。あなたにはシーランド帝国を降すための贄となっていただきます」

「……私をどうしようとパーパルディア皇国が勝てるとは思えません」

「分かりませんよ?貴国は素晴らしい技術を持っている様ですがパーパルディア皇国に勝てるとは思えません。それに慈悲深いウィリアム様ならグィネヴィア様の事を考え国を明け渡してくれるかもしれませんよ?」

「ありませんよ。ウィリアムが例え国を売ろうともその周りの者たちが許しません」

 

現状ウィリアムは代理で皇帝の政務を行っている皇太子に過ぎない。皇帝も健在なこの状況で国を売ることなど出来るはずがなかったがテオリにはうまく伝わっていなかったようだ。

そうしていると城のあちこちからざわめきが聞こえてくる。その喧騒を聞いたテオリは口角を上げた。

 

「始まったようですね」

「……成程。全て計算の内、という事ですか」

「ええ、その通りですよ。まもなく上陸してくるパーパルディア皇国の監査軍と合流します。そしてその後は監査軍に貴方を引き渡すことで私の任務は完了します。ですのでそれまでは無駄な抵抗はなされないように」

「……」

 

数分後、突如西岸部に現れた監査軍は砲撃と上陸を同時に行い混乱するニシノミヤコを陥落させた。更にグィネヴィア・ロバーツ・ペンドラゴン以下100人以上のシーランド帝国人(ブリテン人)を捕虜とする事にパーパルディア皇国は成功した、成功してしまった(・・・・・・・・)のであった。

 




原作では1000人以上の日本人が滞在していたニシノミヤコですがこの世界ではパーパルディア皇国に近いという事もあり観光客はそこまで多くありません(原作の観光客の多さは戦争に巻き込まれないと思っていた、日本と雰囲気が似ている、治安が良かったなどが重なった結果だった)。むしろシーランド帝国人の引き上げを開始しようとしていました。ニシノミヤコにいたシーランド帝国人は戦争になる前に思い出を作ろうとしていた者達です(時期的にパーパルディア皇国がフェン王国に侵攻する可能性が低かったため)。

テオリという名前はとある神様を裏切った人物からもじりました。名前の響きが丁度良かったので


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第二十二話「前哨戦5~激怒~」

今日は二話連続投稿です。次話は16時頃に投稿します


a.t.s52(皇歴52年)/11/25/13:40 パーパルディア皇国皇都エストシラント

シーランド帝国の外交官カラムは怒りで我を忘れそうになる心を必死に押し殺していた。彼の目の前には第3外務局局長のカイオス、ではなく彼からシーランド帝国との交渉を引き継いだという皇族のレミールがおりカラムを見てニヤニヤと笑みを浮かべていた。レミールは見た目麗しい女性だが生理的に受け付けない何かをカラムは感じていた。

 

「……さて、愚かにも我が国に対して無礼な態度を取ったシーランド帝国が一体何の用かな?」

「貴国が捕虜とした我が国の皇太子妃様を返却願いたい」

 

カラムは外交官としては有るまじきシーランド帝国の希望をいきなり伝えた。しかし、レミールはその事に気にする様子はなくむしろその言葉を想定していたのか更に笑みを深めた。

 

「ほっほっほ、何のことかな?我が国はフェン王国から手に入れた領土にてスパイ活動をしていた犯罪者を捕縛しているだけだが?」

「彼らは我が国の大切な臣民です。決してスパイなどではない!」

「それはそちらの言い分であろう?将兵の中には実際にスパイ活動をしているところを目撃したという証言(・・)も得ている。状況から察するに十分だと思うが?」

「なっ……!」

 

カラムはその言葉に絶句した。まさか証言のみでここまで言ってくるとは思っていなかったのである。しかし、カラムには分かっている。これがなんの意味もなくシーランド帝国に対する手札として利用している事に。

 

「貴国は我が国に対して無礼を働きあまつさえ監査軍を撃退するという愚行を行った。しかし、皇帝陛下は寛大でいらっしゃる。貴様等に厚生の余地をお与えになった。貴様等がこれを受け入れるのなら今までの無礼を許してやろう」

 

そう言ってレミールは呼び鈴を鳴らし使用人が持ってきた紙をカラムに渡す。そこには以下の様に書いてあった。

 

〇シーランド帝国はシーランド王国と改名し国王には皇国から派遣された皇国人を置く事

〇シーランド帝国内の法を皇国が監査し、皇国が必要に応じ、改正できるものとする

〇シーランド帝国は皇国の求めに応じ、軍事力の必要数を指定個所に投入しなければならない

〇シーランド帝国は皇国の求めに応じ、毎年指定数の奴隷を差しだす事

〇シーランド帝国は今後外交において、皇国の許可なくして、新たな国と国交を結ぶことを禁ず

〇シーランド帝国は現在把握している資源の全てを皇国に開示し、皇国の求めに応じて差しだす事

〇シーランド帝国は現在知りえている魔法技術のすべてを皇国に開示する事

〇パーパルディア皇国の民は皇帝陛下の名において、シーランド帝国民の生殺与奪の権利を有する事とする

〇シーランド帝国は……

 

まだまだ書いてあったがこれだけでも飲める内容など一つもなかった。カラムは怒りを通り越して頭がすっきりとする感覚を感じた。それどころか「ああ、怒りを通り過ぎるとこうなるのか」という達観した意見すら出てくる程だ。

 

「……貴国のような国力に見合わない要求をして来る国は初めてですよ。まだロウリア王国の方が理知的な国家でしたよ」

 

カラムは思い出す。処刑される寸前までロウリア王国の国王として堂々としていたハーク・ロウリア34世を。見せしめの意味合いが強かったが彼の者の姿勢はシーランド帝国臣民に国王としての姿を見せ人気を高めていた。彼に続くはずだった一部の者は処刑を免れており強制労働の後に釈放される予定となっている。カラムは彼と今のレミールを比べ侮蔑的な視線を送る。

その視線に気づいたレミールは顔を真っ赤にして怒りを露にする。

 

「貴様……!その様な態度を取って只で済むと思うなよ。……おい!あれを持ってこい!」

 

レミールは怒りのままに控えていた使用人を怒鳴り命令する。使用人は顔を青くしつつ部屋を出てとある装置が運ばれてくる。一昔前のテレビに似ているそれをカラムの正面へと向ける。

 

「これは魔導通信を進化させ、音声だけでなく映像まで見れるようにした先進魔導技術の結晶だ。この映像付き魔導通信を実用化しているのは、神星ミリシアル帝国と我が国くらいのものだ」

 

カラムは「この世界のテレビのようなものか」と冷めた目で見ている。シーランド帝国では自治領ですら売れないな、と思いつつ何がしたいのかレミールの意図が分からず眉を顰める。

 

「貴様等には理解しづらいかもしれないがそんな事はどうでもいい。これを見るがいい」

 

そう言ってレミールが指を鳴らすと画面に質の悪い映像が流れ始めた。そして、それを見た瞬間カラムの目は大きく見開かれた。

 

「なっ!?皇太子妃様!?」

 

そこに移っていたのはボロボロになった皇太子妃グィネヴィア・ロバーツ・ペンドラゴンだった。奴隷が着ているようなボロボロの布を着せられているが局部は全く隠されておらず大事な部分を守るという衣服としての機能は全く果たせていなかった。

加えて、グィネヴィアの体中には拷問されたであろう痕が大量に残されていた。カラムがかつて見たグィネヴィアの一切の傷跡のない肌は赤く腫れあがり無数の切り傷やミミズ腫れがカラムの視覚を通じて痛みを送って来る。

グィネヴィアの両手には鉄の枷が填められそれと直接つながっている鎖は天井に繋がっておりぐったりとするグィネヴィアを無理やり立たせていた。手足の爪は全てはがされており赤黒く変色している。

それだけではなくグィネヴィアの股からは白く濁った液体が垂れており凌辱を受けていたことを示していた。明らかに一国の皇太子妃に対する扱いではなかった。

 

この時、カラムは漸く悟った。パーパルディア皇国に前の世界のような文明国家として対応をしたことは間違いであり彼らは野蛮な獣と変わらないという事に。しかし、時すでに遅くもう引き返すことなど出来ない状況に陥っていたのであった。

 




パーパルディア皇国、さらば


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第二十三話「前哨戦6~修羅~」

今日は二話連続投稿です


「貴様、我が国の皇太子妃様にこのような事をしてただで済むと思っているのか!?」

「ほっほっほ、蛮族の国の者はさわがしいのぅ」

 

先ほどとは違い落ち着いているレミール。その口元には隠しきれない笑みが浮かんでおり瞳にはカラムを見下す冷たい視線があった。

 

「今すぐ皇太子妃様を解放しろ!」

「『解放しろ』だと?貴様はまだ立場が分かっていないようだな」

 

そう言うとレミールは魔導通信を手に取り命令する。

 

「やれ」

「!何を……」

 

直ぐに画面に変化が起きる。扉の開閉音とともに画面上に複数人の男が入ってきたのである。彼らは全員下種な笑みを浮かべてグィネヴィアを舐め回すように見ている。彼らがこれから何をするのか、その事に気付いたカラムが思わず立ち上がりレミールに掴みかかろうとした。しかし、いつの間にか後方に立っていたパーパルディア皇国の衛兵に抑えられ無理やり画面を見せられる。

 

『へへっ、蛮族の姫様にしては極上の体つきだな!』

『ほらほら!いい声で鳴いてくれよ!』

『うっ、ぐぅ!……あぁっ!』

 

カラムは流れ出る涙をこらえることも出来ずに画面を凝視する。敬愛する皇太子妃様が汚されていく様を押さえつけられたカラムはただ見る事しか出来ない。カラムはこの時ほど自身の無力さを痛感することはなかった。

一体どれ程の時が流れただろうか?体中を汚されたグィネヴィアはぐったりと床に倒れ込んでおり体中を痙攣させるばかりでそれ以上の反応は全くなかった。

 

「ふむ、そろそろか」

 

楽しげに見ていたレミールはもう一度魔導通信機を使って命令を下す。

 

「処刑せよ」

「なっ!?」

「シーランド帝国の外交官よ。よくその目に刻み込め。これが、我が国の意志だ」

 

倒れ込むグィネヴィアの体を男たちが抑える。そして一人の男がのこぎりをグィネヴィアの首に這わせる。

そして、

 

『おらぁっ!』

『ギッ!?ガ、ぁっ!』

 

男はわざと全力でやらないようにしているらしくグィネヴィアの声にならない苦痛の悲鳴がカラムの耳を侵食する。既に瞳には先ほどの光景と今の処刑の光景が焼き付きカラムの心を少しづつ壊していた。

 

『しねぇっ!』

 

ブチィ!

 

その音とともに乱暴に引っ張られたグィネヴィアの頭が胴から離れる。頭を失った体はビクッ!ビクッ!と痙攣しグィネヴィアの苦痛を現すように震えている。頭には絶望し苦痛によって歪んだグィネヴィアの表情が浮かんでいた。そんなグィネヴィアを当然とばかりに蹴ったり頭を転がしたりして侮辱する男たち。やがて満足したのか頭と胴を放置して出ていく男たち。画面には放置されたグィネヴィア以外が映らなくなり、そこで画面は消えた。

 

「ほっほっほ、中々面白い余興であったであろう?本来なら捕らえたほかの百人も処刑を見せたいのだがそれはこちらで処理をしよう。貴殿は我が国の意志をそちらの皇帝に届けるといい。時間をやろう。次に会う時は貴国の誠意を見せてもらうぞ。ああ、あの女の死体は返却しよう。我が国には必要ないからな」

 

こうして、パーパルディア皇国は何時もの様に見せしめを行った。相手がどんな国なのかも把握できずに。外交官カラムにもたらされた情報はシーランド帝国を震撼させた。ウィリアムと同じく国民、臣民問わず慕われていた皇太子妃が死んだ。それも一国の皇太子妃を扱ったとは思えない悲惨な殺され方で。シーランド帝国中で怒りが巻き起こったが一番怒りが激しい場所があった。帝都ロンドニウム、キャメロット城である。

 

 

 

 

 

 

a.t.s52(皇歴52年)/11/27/11:19 シーランド帝国帝都ロンドニウム

「ウィリアムはどうしている?」

「まだ部屋に引きこもっています」

 

政務に復帰したライオネスの質問に宰相は淡々と答える。ウィリアムは昨日からずっと部屋に引きこもっており時折怒鳴り声と泣き声が聞こえており使用人たちに心配されていた。

ライオネスとしてもパーパルディア皇国の行いに怒りを感じておりパーパルディア皇国への攻撃の準備を急ピッチで完了させていた。

 

「ウィリアムには立ち直れとは言わんがせめて顔を見せる位はしてほしいものだ。二日間も部屋にいられては心配にもなろうて」

「ですが殿下と皇太子妃様の仲を考えればひと月は確実に出てきませんよ?」

 

ウィリアムとグィネヴィアの仲の良さはシーランド帝国の誰もが知っていると言っても過言ではなく仲睦まじい姿を何度も見せていたからだ。それだけに今回の一件でこうなるのは予想できていた。しかし、ウィリアムは皇太子でありライオネスの死後は皇帝となる者だ。いつまでも部屋に引きこもっている事を許される立場ではなかった。

 

「パーパルディア皇国侵攻の総司令はウィリアムに任せようと思っている。今のあいつならパーパルディア皇国に手心を加える事は無いし皇太子自ら指揮を執るという事で内外へのアピールに繋がる」

「むしろみなごろしにしてしまわないか心配になるほどですね」

 

ライオネスと宰相にパーパルディア皇国に負ける、劣勢になるという考えは無い。確実に勝てるという絶対の自信があり負けるという事自体があり得ないと思っていた。パーパルディア皇国の事を知れば知るほどその傾向にあった。

 

「まずはフェン王国の救援だ。次にアルタラス王国の開放。こちらはルミエス殿に総司令をしてもらう」

 

占領されている自国を王女自ら率いて開放する。こちらも内外へのアピールにはうってつけであった。

アルタラス王国は既にパーパルディア皇国によって全土を占領されておりアルタラス統治機構と呼ばれる機関によって統治されている。ライオネスとしては自分の親族と王女が恋仲にあり婚約関係もあるためアルタラス王国開放に関してはパーパルディア皇国戦よりも密に準備を行っていた。

戦争の準備は完了しあとは最後のピースであるウィリアム次第だがこれは意外にもあっさりと解決した。数時間後に泣きはらした顔であったが部屋から顔を出したのだ。そしてライオネスの命を受けてパーパルディア皇国遠征軍総司令に就任しグィネヴィアの仇を討つべくブリテン島より出兵するのだった。

 




パーパルディア皇国遠征軍
シーランド帝国が入念な準備の末に誕生した遠征軍。歩兵戦力40万、機甲戦力約10万、航空機約1万機。更に第一艦隊、第二艦隊、第三艦隊、第一潜水艦隊を指揮下に置く大規模な物となっている。総司令にウィリアム・ロバーツ・ペンドラゴンが就きパーパルディア皇国によって殺されたグィネヴィアの仇を討つべく士気は高い。一方で今までのウィリアムからは考えられない眼光を放っているため周囲からは心配されている。

アルタラス解放軍
アルタラス王国王女ルミエスを総司令とした軍勢。パーパルディア皇国遠征軍よりも規模は劣るがアルタラス王国を開放するだけには過剰とも言える戦力となっている。

フェン王国救援軍
上記の二つよりも規模は小さいがそれでも侵攻中のパーパルディア皇国監査軍を殲滅するには十分な戦力を有している。更にこの軍には別の命令もありグィネヴィアがパーパルディア皇国に捕まる原因となったテオリの生きたままの捕縛でありフェン王国の救援よりもそちらを重要視するように厳命されている。


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第二十四話「殲滅1~フェン王国~」

a.t.s52(皇歴52年)/11/29/15:30 ムー 某所

第二文明圏の盟主であり列強第2位に君臨するムーは元々この世界の住人ではない。一万年以上前にこの地に転移した国家であり大陸全土を統治していたが相次ぐ異民族の侵入で北東部を支配するのみだった。しかし、機械文明を発展させ列強第2位というのは紛れもない事実であり今では遥か彼方の第三文明圏にすらその権威が伝わっている程だった。

そんなムーではパーパルディア皇国とシーランド帝国の戦争でどちらに観戦武官を派遣するかを議論していたがこれはあっさりと決まった。

 

「パーパルディア皇国に観戦武官を送るなどあり得ないな」

 

一人の男の言葉に周囲の人間は頷く。彼らはシーランド帝国の実力を把握していた。何せ初めて接触した時にその技術力を見せつけられたのだから。もしシーランド帝国がグラ・バルカス帝国の様に見境なく侵略する国家だったのならムーに勝ち目はなかったが同郷と分かってからシーランド帝国でムーの人気が上がっていた。その為ムーにはシーランド帝国の製品が数多く流れて来る事になりそのどれもが技術力の高い物ばかりであった。結果ムーでは国民に至るまで「自分たちより進んだ技術を持つ同郷」という事実が広まっていた。

そんな訳で自分たちにすら勝てないパーパルディア皇国がシーランド帝国に勝てるとは思えない上に皇太子妃の殺害の件もありパーパルディア皇国が何処まで残るのかを賭けるものまで現れる程だ。

 

「最悪、パーパルディア皇国は影も形も残されない可能性がある。何せ総司令には皇太子殿下が就くそうだ」

「となるとパーパルディア皇国は良くて滅亡、悪ければ民族浄化か?」

「属領や属国も被害を受けそうだな。パーパルディア皇国の大使館は撤収させるか?」

「その方が良い。パーパルディア皇国に滞在しているすべての者に避難するように通告しなければな」

 

その後も議論は続いたがシーランド帝国の勝利という予想は一度も覆ることはなかった。

その翌日、技術士官マイラスと戦術士官ラッサンはシーランド帝国に向けて旅立った。そして彼らの目にした光景は後のムーにとって重要な役目を果たしていくこととなる。

 

 

 

 

a.t.s52(皇歴52年)/11/29/10:24 フェン王国アマノキ

フェン王国はパーパルディア皇国の突然の侵攻により混乱していた。元々攻めてくると予想はされていたがあまりにも早い襲来でありニシノミヤコはテオリの反乱もあり僅か数時間で陥落し橋頭堡の確保を許してしまった。その後も満足に戦う事は出来ずに少しづつ、だが確実にアマノキに近づきつつあった。そんな中遂にシーランド帝国から救援部隊が到着したのである。

 

「初めましてシハン殿。フェン王国救援軍総司令コーディ・アレン・ペンドラゴンです」

 

そう言って少年、いや少年に見える青年は挨拶をする。何処か瞳に闇を見せる彼はニコニコと人当たりのよさそうな笑みを浮かべていた。

 

「うむ、此度の救援感謝する」

「礼には及びませんよ。僕としても怒りの矛先を向ける相手が欲しかったので」

 

そう言って笑うコーディの瞳に怒りが灯っていた。コーディにとってグィネヴィアは少し年上の姉的存在であった。中学時代の一件で女性不信となっていた彼は新生ブラジル帝国より嫁いできたアリシア・ランペルツ・ブラサンガとの接し方が分からず途方に暮れていたところを助けてもらったことがあった。その時はグィネヴィアにも女性不信をいかんなく発揮したが彼女は全く態度を変えずに接し続けコーディの信頼を勝ち取ったのだった。

そんな訳でコーディはグィネヴィアを殺したパーパルディア皇国に怒りを持っておりその怒りはウィリアムに匹敵する程だ。しかし、彼はまだ19歳であり戦場に出向く事など出来なかった。しかし、ウィリアムの進言でフェン王国救援軍の総司令に就任し怒りを向ける先が用意されたのだ。

 

「これからわが軍はフェン王国西部を占領するパーパルディア皇国軍を殲滅します。シハン殿、宜しいですね?」

「無論だ。好きにやってくれて構わない」

「分かりました。それと反乱を起こしたテオリという奴はこちらでもらい受けます。よろしいですね?」

「我が国の裏切り者故にこちらで処刑したいが……、仕方ないだろう」

 

シハンとしてはこんな事でシーランド帝国との関係を悪化させたくはないため受け入れた。シハンもグィネヴィア捕縛の原因を作ったテオリの身柄を要求することは分かっていたし理解も納得も出来たため特に反感する意味がなかったことも要因だが。

 

「安心してください。フェン王国にいるパーパルディア皇国人は誰一人として生きて返しませんよ。フェン王国に来たこと、シーランド帝国を怒らせたことを後悔させますよ」

 

コーディの言葉通りシーランド帝国軍はフェン王国にいるパーパルディア皇国監査軍を殲滅した。生存者は一人もおらずシーランド帝国の怒りを如実に表していた。途中、降伏したいものが続出したが一切受け入れずにみなごろしにされアマノキからニシノミヤコにかけて血の通り道が出来た。フェン王国の人々はシーランド帝国の力を改めて思い知ると同時にその怒りに触れたパーパルディア皇国を自業自得と考えるようになった。

 



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第二十五話「殲滅2~アルタラス王国~」

第2章の名前を変更しました。まぁ、前編と付けただけですが


a.t.s52(皇歴52年)/11/29/12:45 シオス王国臨時王都ケサ

ルミエスは視認できない遠くに存在する故郷の方角を見て思いをはせていた。ルミエスはこれから自らを総司令とするアルタラス解放軍とともにアルタラス王国へと向けて出兵する。ルミエス自身に指揮能力は存在しないためお飾りではあるがそれでも占領されている国の王女が軍勢を率いて故郷を取り戻しに行くというのは内外的に多大なアピールが出来る。実際、アルタラス島でレジスタンス活動をしている元王国第一騎士団長ライアルとの接触に成功しその士気を上げていた。アルタラス島では大小様々な抵抗活動が起き始めておりパーパルディア皇国の動きをある程度制限し始めているとの事だった。

 

「お父様、必ず国を取り戻します……っ!」

 

ルミエスが誓いを立てていると上空を轟音とともに爆撃機が通過する。解放軍に先駆けて出陣する彼ら爆撃機隊はパーパルディア皇国の重要施設への爆撃を行った後挑発と視線を逸らすことを目的として低空飛行を行う事になっている。それで墜落しては元も子もないので安全マージンは確保したうえでの行動である。その後にシーランド帝国の艦隊が海上戦力を一掃しアルタラス島に上陸、陸上戦力の殲滅を行う事となっている。ルミエスは一番最後、陸上戦力の大半を殲滅もしくは完全開放後に上陸する予定だ。流石に王族の中で唯一の生存者であるルミエスを戦地に送ることは避けたかった。その為ルミエスのやることは開放したことの宣言などのプロパガンダ的行動がほとんどで作戦実行中はやることはなかった。

 

「姫様、そろそろ時間です」

 

と、ルミエスに付いてきた上級騎士リルセイドが呼びに来た。リルセイドはシーランド帝国の軍服を着用しておりリルセイドの凛とした容姿を際立たせていた。実際、シーランド帝国の軍人だけではなくシオス王国の国民などから熱い視線を向けられることが多かった。因みに、熱い視線を送っていたのはほとんどが女性であるが完全なる余談である。

ルミエスはアルタラス王国の民族衣装を身にまとっているためこの場ではかなり浮いていたが今のルミエスは気にしていなかった。

 

「分かりました。向かいましょう」

「……姫様、無用な心配かもしれませんがアルタラス王国は今後どうなるのでしょうか……。最悪「リルセイド」っ!申し訳ありません」

「貴方が心配する気持ちは分かります。……シーランド帝国の一部になる可能性についても考えなかったわけではありません。ですがパーパルディア皇国に比べてシーランド帝国との関係は良好です。ロウリア王国やシオス王国、そしてこれからそうなるであろうパーパルディア皇国に比べれば随分とマシです」

 

ルミエスがシーランド帝国に亡命してからずっと頭の中を離れない属国化や併合するというシーランド帝国の行動。その可能性は十分ある。とはいえそれでシーランド帝国が酷使するという事はないというのはこれまでの事から分かっている。ルミエスは以前参加したブリテン島での宴の際に皇族の一人が言っていた血筋の事を思いだす。シーランド帝国の皇帝は今で二代目。初代は元々平民(イギリス時代の大貴族と友人関係はあったが)の為血筋という面で見ると論外であった。シーランド帝国はその血筋の薄さを他国の王族との婚姻関係を結ぶことで解消しようとする傾向にありルミエスが知らない事だが新生ブラジル帝国や神聖アメリゴ連合帝国、ブランデンブルグ帝国といった国々との婚姻を結んでいた。

それはこの世界でも行っておりルミエス自身とアーロン・フェニックス・ペンドラゴンの婚約はまさにそれだった。ターラ14世という名前から分かる血筋の長さはシーランド帝国から見れば婚約してその血を取り込む対象としてふさわしかった。シーランド帝国は知らないことだがアルタラス王国はかつて魔王と呼ばれる存在に滅ぼされた国の末裔でありその血統は(いろいろとあるが)十分魅力的なものであった。

そんな訳でアルタラス王国に対してひどい仕打ちをする事はないだろうし後はアルタラス王国の民の反応だが今回の一件やルミエスとアーロンの結婚が無事に済めば主だって反対する者は現れないだろうと予測していた。

以上の理由からルミエスにとってみればアルタラス王国が併合しようが独立国家として再建できようが心配はしていなかった。むしろ独立国家として歩む方が大変かもしれないとすら思うほどだ。リルセイドやアーロンに言ったことはないがブリテン島の洗練された技術や文化に少しだが触れたルミエスはもっと見てみたいという好奇心が生まれていた。その感情はアルタラス王国を取り戻すという思いで封じ込めているがいずれ爆発するであろうことは予測ができた。だが、この場においてそれらは完全なる余談であり現在起きている戦争には全く関係のない話であった。

 

 

 

翌日、制空制海権を失ったパーパルディア皇国に対し止めを刺すべくアルタラス解放軍が上陸を開始した。それに呼応するようにレジスタンス組織が一斉に蜂起。パーパルディア皇国軍の混乱を作りシーランド帝国の助力をこなし見事アルタラス王国の開放に一役買う事に成功した。更にその翌日、ルミエスはアルタラス島に上陸しアルタラス王国の独立を宣言した。ルミエスを出迎えた民たちはこれに雄たけびを持って返した。パーパルディア皇国軍が完全にアルタラス島より消えたのは更に3日後の12月4日の事だった。アルタラス統治機構は僅か二週間ほどで消滅しその間にいろいろな事を行ったせいで職員の大半が無残な死に方をしていくのだった。

 



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第二十六話「文明圏外国の選択~大東洋諸国会議開催~」

今回で前編は終了します。閑話として【魔王征伐編】を挟んだ後に後編を行います


a.t.s52(皇歴52年)/12/1/14:00 クワトイネ公国マイハーク

ここマイハークでは大東洋諸国会議が開催されていた。これは何か大きな出来事が起きた場合に開催されるもので今回は話題がたくさんあった。因みに参加国の殆どが文明圏外国の為会議の存在意義を見出せず文明圏の国は軒並み不参加となっている。それによって本音を打ち明けられるという国際会議としては珍しい場でもあった。

 

「これより大東洋諸国会議を開催します」

 

そう言ったのはクワトイネ公国の進行役である。今回の会議はクワトイネ公国が主催しているため彼は議長役も行っている。

そして各国の代表には予め今回の議題である国、シーランド帝国の大まかな事が記載されていた。

要約すると以下の通りになる。

〇シーランド帝国は大東洋に突如として現れた新興国家である。本人たちはこの世界に突如として転移したと申し立てている。しかし、国家単位の転移は神話に記述があるのみで、歴史上の実例は無い。

〇シーランド帝国との最初の接触はクワトイネ公国にシーランド帝国の鉄竜が侵入したことによる。

〇シーランド帝国は皇太子ウィリアムの提案によりクワトイネ公国との国交樹立を求めこれに成功している。

〇クワトイネ公国とロウリア王国の関係を知ったシーランド帝国は接触から僅か1カ月後にロウリア王国に侵攻。僅か3日で全土を占領する。

〇シーランド帝国の侵攻の理由は自国の腕試しと思われる。

〇シーランド帝国の本質はパーパルディア皇国に似ているがパーパルディア皇国の様に無理難題を押し付けられた国は存在しないがシオス王国の様に属国にされた国もある。

〇一方でアルタラス王国の様に友好関係を結んでいる例もある。

〇フェン王国の軍祭に参加したシーランド帝国の艦隊がパーパルディア皇国のワイバーンロード部隊を短時間で全滅させる。その後同艦隊はフェン王国に接近中だった監査軍を一隻を残し全て撃沈した。

 

「これがシーランド帝国に関してです」

「この会議に参加している国の大半は未だ国交を結べていないだろうが認識で共通しているのは『シーランド帝国はとてつもない力を持った国だ』ということじゃ」

 

クワトイネ公国のハンキ将軍が進行役の言葉に付け加えた。

 

「各国の認識をお願いしたい」

 

進行役がそう促すとマオ王国の代表が挙手した。

 

「我が国はシーランド帝国と国交はないが、彼の国を危険な存在とみなしている。何故ならばシオス王国の様に気に食わない国は滅ぼしているからだ。いつ、何がきっかけでこの力が自分たちに降りかかってくるかが全く持って不明である。非常に危険だ」

 

マオ王国の意見はシーランド帝国をよく知らない国としては一般的な意見である。シオス王国の事を知らない国からすれば『気に食わないシオス王国を滅ぼした』と言われても仕方がない行動だった。最も、国交を結ぶために艦隊を連れて空砲で脅すような真似をする行為を見て怒らない方が珍しいとは思うが。

マオ王国の意見に続くようにトーパ王国の代表が挙手する。

 

「トーパ王国です。我が国としてはシーランド帝国に関しては脅威とみなしているがうまく付き合えば利がある国と思っています。我が国は彼の国と国交を結んでいます。その結果彼らはトーパ王国を訪れる自国民の為に格安で港や空港の整備を提案してきました。結果、我が国はこれまで以上に発展しています。パーパルディア皇国の様に奴隷を献上せよとも言ってこない、領土を寄越せとも言ってきていません」

「アワン王国です。我が国もシーランド帝国と国交を結んでいますがあまり関わらないという選択肢はまずいと思っています。我が国の外交使節団がシーランド帝国の本土であるブリテン島に行きました。……パーパルディア皇国のエストシラントですらシーランド帝国の地方都市の方が上だったそうです。それに最近ではフェン王国とアルタラス王国を開放したそうですよ。どちらも攻撃を仕掛けて3日以内に。パーパルディア皇国との戦争ですらその程度の時間しかかからずに殲滅できるのです。関わらない選択肢を取ってはシーランド帝国からどのような要求をされるのか分かりません」

 

トーパ王国は積極的擁護派、アワン王国は諦めの入った擁護派といった感じであった。ほかの国々も大体似たような感じであったがトーパ王国のような積極的な擁護派はほとんどいなかった。あのクワトイネ公国でさえアワン王国のような状態であった。

 

「……どちらにしろ、結局はシーランド帝国の機嫌次第という事になりますな」

「ですが聞いたところ皇太子は現皇帝と違い他国との協調、友好を大切にする方と聞いていますが」

「分からないぞ。なんでもパーパルディア皇国に妃を殺されたらしい。民にも慕われる妃だったらしくその怒りは相当なものだと聞いているぞ。……パーパルディア皇国との戦争でも自ら指揮を執るほどらしいからな」

「パーパルディア皇国、か。つくづくあの国は余計な事しかしないな!」

 

結局、会議はその後も続いたが以下の内容のみ決定する事となった。

〇シーランド帝国とは()()()敵対しない

〇シーランド帝国との関りを持ちつつシーランド=パーパルディア戦争の様子をうかがう

 

参加国の国力を合わせてもロウリア王国以下の力しかない参加国はこれ以上の事を出来なかった。それでもシーランド帝国の方がパーパルディア皇国より脅威であるという認識は各国に広まり、戦後自分たちの行いは正しかったと安堵する事となる。

 




クワトイネ公国
シーランド帝国と最初に接触した国だが食料は自国(植民地含めて)で補えるシーランド帝国にとって国交を最初に結んだ国という印象以外は存在しない。とはいえシーランド帝国の実力は中枢近くまで見ることとなったルミエスの次に認識しているため今回の諸国会議はむやみにシーランド帝国と敵対させないようにするという意味合いもあった(シーランド帝国の方から敵対した場合は考えていない)。現状維持かもっと交流するか、離れるかで毎日の様に議論がされているらしい。

アワン王国
メタいが影が薄い国(今回の話をつくるまで存在そのものを忘れていた)。一方でシーランド帝国とは早い段階で国交を結んでおりトーパ王国より距離が近いという事で詳細な情報を入手しているためシーランド帝国の力を完全に把握しているわけではないがパーパルディア皇国より上であるという認識は持っている。

トーパ王国
この世界で数少ないシーランド帝国との友好関係を築けた国。国内はシーランド帝国による大規模なインフラ整備で発展しておりパーパルディア皇国よりシーランド帝国に付くと現時点で考えている国でもある。シーランド帝国の認識ではアルタラス王国の次に良好な感性を築けている国で最近では北部にある世界の扉を目的とした観光客が増えている。
12月1日時点でトーパ王国に滞在中の観光客は1000を超えている(パーパルディア皇国の侵攻の可能性はほとんどない為旅行先として人気が出ている)。
この後とある出来事に巻き込まれることになるらしい。


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閑話・魔王軍征伐編
第二十七話「古の魔王1~襲来~」


a.t.s52(皇歴52年)/12/5/9:13 トーパ王国世界の扉

トーパ王国という国はこの世界の中でも勝ち組と言える国だった。その理由はシーランド帝国との友好関係の構築に成功したからだ。

トーパ王国とシーランド帝国の出会いは意外と拍子抜けするものだった。シーランド帝国は転移後にこの世界の魚介類を調べるために漁業関係者に高値で魚を買い取っていた。値段は普通に売るよりも高く特に前の世界には生息していなかった魚に関しては倍以上の額を支払っていた。その為漁業関係者は挙って漁に精を出しまた未知の魚の美味しい食べ方などを研究(勿論食べられると判断されたもののみ)する事でちょっとした経済特需が生まれていた。そしてその中の漁船の一つがトーパ王国付近までやってきてトーパ王国の漁師と接触したのだ。当初こそ良く分からないことで警戒していた両者だったが気づけば共に漁を行う仲にまで発展しておりそこでトーパ王国の漁師という事が判明したのだ。

両国の漁師は互いの国にこの事を報告。トーパ王国の使者がシーランド帝国にやってきたことで国家交流が行われたのだ。因みに、最初の外交は国交の樹立ではなくお互いの漁を行う上での注意や線引きといったものでそれらが纏まった後に国交樹立はなった。

シーランド帝国との関りはトーパ王国を今まで以上の発展を促した。シーランド帝国との通商にはトーパ王国の港では満足に行えなかった。それを聞いたシーランド帝国は港の拡張、建設を行い周囲のインフラも整備した。結果、トーパ王国の沿岸部はコンクリートとアスファルトの近代的な物へと変貌した。その後、シーランド帝国からやって来る船はそのどれもが巨大で速く、頑丈だった。更にグラメウス大陸とフィルアデス大陸を分け隔てる世界の扉を知るとシーランド帝国の観光業界は大いに食いついた。

 

『古き時代に建設された世界の扉。それは魔物蔓延るグラメウス大陸よりフィルアデス大陸、ひいては世界を守るために作られた。それは今も機能し魔物から世界の平和を守り続けている』

 

このような言葉と共に新世界おすすめの観光スポットとして紹介された。結果、フェン王国の情勢悪化に伴い民間人の渡航が不可能となった現在はトーパ王国に観光客が集中していた。パーパルディア皇国との戦争が開始されてからは本土に戻る者も多くいたがそれでもトーパ王国、特に世界の扉付近には1000以上のシーランド帝国国民や臣民が多くいた。

そんな最近では見慣れた光景になっている現状を傭兵のガイは暇つぶしに見ていた。

 

「平和だねぇ」

「こらこら、街の様子じゃなくてグラメウスの方を監視しろ」

 

ガイの呟きに幼馴染のエルフ騎士、モアが注意する。しかし、ガイはめんどくさそうに答える。

 

「だけどよぉ、魔物はほとんど来ないじゃないか。パーパルディア皇国への奴隷の献上を止めると言ったけど結局攻めてくる様子はないし」

「攻めて来ないのではなく攻めて来れないのだろう」

「お、やっぱり騎士だけあって上の情報は入って来るのか?」

 

ガイは暇つぶしに聞かせてくれとばかりに目で訴えてくる。その様子にモアはため息をつくがやがて観念して話だす。

 

「この都市にも来ているシーランド帝国とやりあっているらしい。上層部から聞いたんだが、パーパルディア皇国は負けているらしい数日前にはパーパルディア皇国の本土に上陸したらしい」

「マジかよ。あれでも列強の一つだぞ?シーランド帝国はそんなに強いのか?」

「詳しくは知らん。ただ、この国に駐留しているシーランド帝国軍を見た事はあるが……、騎士の存在意義を見失いかけたな」

「?どういうことだ?」

「戦い方が根本的に違かったんだ。トーパ王国は騎士による接近戦を主体にしているがシーランド帝国は銃による遠距離戦を主体にしている」

「銃?あんな連射が効かない物を使っているのか?」

 

トーパ王国にも銃は存在するがパーパルディア皇国のものに比べれば連射性は悪かった。ガイはシーランド帝国の意図が読めずに困惑する。

 

「ああ、俺も最初はそう思っていたがシーランド帝国の銃は連射が出来る。一秒間に数十発を放てる物もあるらしい」

「は?なんだそれ、そんなもの存在するわけないじゃん。シーランド帝国は体面を気にする国なのか?」

「いや、本当さ。実際俺もこの目で見てきたからな」

 

モアは思い出す。遠く離れた距離、魔法も届かない距離から銃で的に当てている姿を。連射が出来る銃で的を粉微塵にするすがたを。モアはその様子を見たとき今まで積み上げてきた騎士の矜持が崩れ去っていくのを感じた。それは他に見学していた者もそうでありトーパ王国では銃の重要性を理解しシーランド帝国に対して買えないか交渉するようになった。

そんな幼馴染の様子を感じ取ったガイはシーランド帝国の軍隊を見てみたいと思うようになった。シーランド帝国人に関しては良く見かけるがどういう国かは知らなかった。ガイはこの仕事を終えたらシーランド帝国に行ってみようと心の中で思った。その時はモアやもう一人の幼馴染も誘って。

 

「……な、なぁ。今度「ガイ!あれを見ろ」どうした?……あ、あれは」

 

ガイの言葉を遮りモアはグラメウス大陸の方を凝視する。モアの視線の先、そこには1000を超える魔物、ゴブリンの大軍とそれらを率いるオークにオーガ。そして伝説の魔物、レッドオーガとブルーオーガの姿だった。

 

「つ、通信兵ぇぇぇぇぇっ!!!」

 

モアの叫びとゴブリンの大軍が城壁に殺到するのはほぼ同時であった。

 

 

後に魔王討伐を目的とした『グラメウス大征伐』と呼ばれる大規模軍事遠征、その原因となる魔王侵攻が開始された瞬間だった。

 



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第二十八話「古の魔王2~戦線崩壊~」

a.t.s52(皇歴52年)/12/5/13:01 トーパ王国城塞都市トルメス

ガイとモアは魔物の襲来を受けて二人は城壁を離れ城塞都市トルメスに来ていた。トルメスでは既に非常招集をかけており魔王軍に対抗するべく準備中であった。

2人は直ぐに守備隊長のいる緊急本部に通された。

 

「現状を報告せよ!」

「はっ!今日の午前にてグラメウス大陸方向より魔物が地を埋め尽くす勢いで侵攻!ゴブリン及びロード、オークを多数引き連れて王立古文書に記載された伝説の魔獣、レッドオーガとブルーオーガを各1体を確認しました!」

「レッドオーガとブルーオーガか。となるとそれらを従えている魔王もいるはずだがどうだ?」

「それが……、魔王の姿はなくレッドオーガとブルーオーガが指揮を執っているように見えました」

「ふむ……、魔王がいないのは不自然だがだからと言って何の気休めにもならないな。通信兵!王に緊急魔信!『伝説のレッドオーガとブルーオーガが魔物を引き連れて襲撃をかけてきた!魔王復活の可能性大!国軍を全力投入する必要あり!』と送れ!」

「はい!」

 

1人の通信兵が返事をするが直ぐに別の通信兵がこえを上げる。

 

「しゅ、守備隊長!」

「何事だ!」

「世界の扉が突破されました……。城壁常備兵は全滅です」

 

その報告はまさに凶報だった。

 

 

 

a.t.s52(皇歴52年)/12/5/14:01 トーパ王国王都ベルンゲン

「何という事だ……」

 

王都ベルンゲンの北部に位置する王城ニーベル城にて国王ラドスは頭を抱えていた。その周りにはトーパ王国の重臣がおり彼らも深刻な顔で頭を抱えている。

彼らには魔王軍(レッドオーガとブルーオーガの存在によりそう呼称された)の襲来と世界の扉を突破されたことは既に伝えられている。城塞都市トルメスは魔王軍に包囲され猛烈な攻勢を受けているという。それを受けて1万5千の軍勢が王都を出発していたが魔王軍は2万を超えておりとてもではないが倒せるとは言えない数だった。

 

「本当に魔王が復活したのか?魔王の姿は見えなかったというが……」

「ほぼ事実でしょう。でなければこんな大攻勢を魔物が行えるはずがありません」

「それに魔王の配下であったレッドオーガとブルーオーガがいる事から魔王が関わっている事は事実でしょう」

 

ラドスのそうであって欲しいという願いは理論的に否定された。トーパ王国単体では絶対と言っていい程勝てない相手の登場にここにいる全員が頭を抱えるが彼らは二つ忘れていることがあった。

 

一つは城塞都市トルメスと世界の扉には()()()()の観光客が大勢いるという事。

もう一つはその国は現在軍事行動中であり何時でも軍を動かせる状態にあり加えてトーパ王国に駐留中であること。

 

『お、お待ちください!現在陛下以下重臣の方々が会議中で……!』

 

頭を抱える国王の耳に廊下より慌てた声が聞こえてきた。その声は段々と大きくなり遂に扉が勢いよく開かれた。

突然の事に誰もが驚き扉の方を見る。そこには軍服に身を包み真剣な表情をしている()()()()()()()の将校の姿があった。

 

 

 

a.t.s52(皇歴52年)/12/4/21:23 トーパ王国王都ベルンゲン

シーランド帝国はトーパ王国に駐留軍を送っていた。これはトーパ王国へのインフラや港の整備の代わりに駐留させてほしいとライオネスが言った事でありラドスはこれを了承した。国内にはこれに否定的な意見も多かったが結局押し切られることとなりインフラや港が整備され様々な物がシーランド帝国よりもたらされるようになると反対意見は段々と鎮静化していった。

 

「……分かった。帰る前に一度立ち寄るなら出迎えるよ」

 

シーランド帝国トーパ王国駐留軍の総指揮を執るヘイグ・K・グレゴリー陸軍中将は世界の扉を観光中の娘との電話を行っていた。嫁いで行った娘を溺愛している彼は駐留軍の指揮官としてこの地に赴任する事で離れるのが辛かったが娘と久しぶりに会えるという事もあり上機嫌であった。普段彼は厳しく笑顔を部下に見せた事がなく今の彼の姿を見たら部下の誰もが驚き天変地異が起きるのでは!?と疑うだろう。とはいえ厳しいが部下を大事にする彼を慕う者も多くここにいる駐留軍の大半はそれに部類される。……その事もあって彼はこの地に赴任しているのだがそれは完全な余談だった。

 

「……ああ、明日会えることを楽しみにしているよ。それじゃお休み」

 

ヘイグは名残惜しい気持ちを我慢して電話を切る。彼の娘は夫と二人の子供と共にトーパ王国への2泊3日の観光に来ている。明日で最終日を迎えトーパ王国の王都に建設された大型空港で住んでいるビルマ自治領へと帰る予定だ。その前に彼と久しぶりに会う約束をしていた。

彼は明日を想像する。久しぶりの愛娘との再会。それと同じくらいに愛する孫たち。娘を信頼して嫁がせた義理の息子。話せる時間は少ないだろうが彼はその少ない時間を楽しみに残っている仕事を片付ける。普段より何倍も速く捌けていると感じつつ30分後にはすべてを終わらせて眠りについた。明日、何が起こるのか考えもしないで。

 




魔王ノスグーラって結構気に入っているんですよね。何か別の作品かいてみたいな(こっち疎かになるフラグ)


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第二十九話「古の魔王3~強襲上陸~」

a.t.s52(皇歴52年)/12/5/14:13 トーパ王国王都ベルンゲン

「トーパ王国国王殿、お困りの様ですね」

 

会議に乱入したヘイグはそのまま国王に近寄る。重臣や衛兵が止めようとするが手で制しある程度の距離で止まる。本来なら無礼と取られても可笑しくない行動だったが今は非常事態であり余計な礼儀をして時間を潰すのがもったいなかった。

 

「単刀直入に言いましょう。我が駐留軍も魔王討伐に力を貸しましょう」

「おお!それは誠か!」

「ええ、勿論です」

 

ヘイグの言葉に国王ラドスは笑みを浮かべる。ラドスも駐留軍の演習などを見てその力と練度を知っている。数も千近くはおり十分魔王軍と戦えると予想した。

しかし、喜ぶ国王とは違い重臣たちは懐疑的あった。いくら何でもシーランド帝国の動きが早すぎた。何か裏があるのでは?と疑うがそれを感じ取ったのかヘイグは話し始める。

 

「……世界の扉には我が国の観光客が大勢います。我らとしては一刻も早く彼らを救出したいのですよ。それに、そこには私の娘達も居ます。親としては無事であってほしいと願っており今すぐにでも助けに行きたいのです」

 

ヘイグの言葉を受けてその場の誰もが納得する。確かにヘイグの表情は真剣だったが瞳の奥には焦りと怒りが燃え盛っておりヘイグの言葉の信憑性を後押ししていた。

国王ラドスはヘイグの言葉に大きくうなずき決断する。

 

「……分かった。トーパ王国としてシーランド帝国に正式に救援要請を行う。加えて貴殿ら駐留軍の国内の軍事通行権を与える。どうか、我が国の民も救ってほしい」

「勿論です。それでは失礼します」

 

ヘイグがそう言って出ていこうとした時衛兵が血相を変えて入ってきた。

 

「大変です!王都南部に大量の海魔が現れました!更に赤竜に乗った魔王ノスグーラがいます!」

「な、なんだと!?」

「魔王ノスグーラは海魔に乗せた魔物を次々と陸上に上げています!このままでは王都まで侵略を受けます!」

 

魔王ノスグーラの名を聞き国王ラドス以下重臣たちの顔は真っ青になった。城塞都市トルメスに向けて軍を送ったばかりで今の王都にまともな軍勢は存在しなかった。しかし、それはあくまでトーパ王国のみの話である。

 

「国王陛下、強襲上陸部隊は我らで対応します。よろしいですね?」

「も、勿論だ。今の我らに戦える戦力は無いに等しい」

 

ヘイグは国王ラドスの許可を得てすぐに迎撃態勢に移るように無線で伝える。元々すぐに動けるように準備はされていたためトーパ王国駐留軍凡そ1000名は当初の目的地であるトルメス、ではなく王都南部へと進軍を開始した。

 

 

 

 

魔王ノスグーラにとって封印される前に戦った太陽神の遣いを脅威に感じていた。あれから1万年以上の時が経過しているが魔王にはそんな事知る由もないが部下たちの報告から途方もない年月が経過しているのは明らかだった。

とはいえ魔王ノスグーラは安楽的に考えることは出来なかった。太陽神の遣いとの戦争はそれだけ魔王に深い傷を残したのだ。魔王は考え戦略を用いた。

 

レッドオーガとブルーオーガに魔物を率いて戦うように言い自分は気づかれないように海魔を用いて戦線の南部、トーパ王国の王都へと奇襲、上陸する。その際に敵の主力が北部に向かうのを待つ。そして敵の大本の指揮系統を奪い取り混乱する敵主力を後方と正面より挟み込んで撃退する。それが魔王ノスグーラが考えた作戦だった。

 

実際これはうまくいき南部よりやって来るとは想像していなかったトーパ王国は混乱した。このままうまくいけば王都を占領し国王以下重臣の大半は死ぬ事となり主力はトルメスとベルンゲンのどちらに向かうかで混乱しその隙をついて程々で暴れるのをやめ南下するレッドオーガとブルーオーガと挟み撃ちに出来たはずだった。

もし、シーランド帝国が駐留軍を置いていなければシーランド帝国が到着する頃にはフィルアデス大陸北部を支配下に置き多大なる犠牲を払う事になっていただろう。

魔王ノスグーラにとって一番の不幸は太陽神の遣いを超える戦力を有するシーランド帝国の軍勢が王都付近にいた事だった。

 

「あれは……」

 

ゴブリン3000、ロード100、オーク10、と共に王都南部に上陸した魔王ノスグーラの前にシーランド帝国の駐留軍1000名がゆくてを阻むように布陣する。それを見た魔王ノスグーラは嫌な予感に襲われた。そう、太陽神の遣いも似たような布陣をしていたのだ。

魔王は手始めにゴブリン300を突撃させる。敵兵の動きを見るためとは言え全ゴブリンの10分の1を繰り出すことに抵抗を感じたが念には念を入れた結果であった。

そして、魔王の嫌な予感は的中した。ある程度近づいたゴブリンたちは乾いた音と共にはじけ飛びその場に崩れ落ちた。300のゴブリンが全滅するのにかかった時間は1分以内。それを見た魔王の頭の中に二つの案が浮かぶ。

一つはこのまま攻撃を続けること。300を失ったがそれは雑兵のゴブリンであり数は少ないがオークやロードはまだ健在である。更に自ら前線に立てば否応にも敵の目標は自分に引きつけられる。その間に敵に接近すれば何とかなる可能性がある。相手は万のような大軍ではなくどんなに多くても2千ほどと魔王は布陣する敵を見て予測を立てた。

もう一つは撤退する道だ。敵は防衛線を念頭に置いている様で攻めてくる様子はない。太陽神の遣いの可能性が高い以上自らの命も危うい可能性がある。300の被害で抑えてレッドオーガとブルーオーガに合流、北部より侵攻するというものだ。

しかし、両方ともに魅力的であるが撤退すれば次も同じことを出来るとは思えないしこのまま攻め込むには不安要素が多すぎた。太陽神の遣いの実力を知っているが故に魔王は目の前の軍勢を無視できず二の足を踏むこととなった。それが、目の前の軍勢、駐留軍にとっては都合のいい事とも知らずに。

 





【挿絵表示】

トーパ王国の地図です

【挿絵表示】

トーパ王国への魔王軍侵攻ルートです

【挿絵表示】

ベルンゲンに置ける両軍の布陣図です。



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第三十話「古の魔王4~撃退~」

ふと思ったけど描写上シーランド帝国の最初の死亡者はグィネヴィアという事になるのか……


「先遣隊と思われる奴らを出してから動きませんね。何を考えているんだか」

 

トーパ王国の王都ベルンゲンの南に布陣した駐留軍は魔王ノスグーラ率いる軍勢を迎え撃つべく守りの態勢を維持しているが敵は先遣隊(ゴブリン300)を出してから全く動かなかった。その事を不思議に思った将兵が総指揮を執っているヘイグに自らの疑問を言った。しかし、ヘイグはむしろ魔王に対して侮れない敵と認識をしていた。

 

「敵の魔王、だったか?そいつが軍を指揮しているなら随分と慎重だな。聞いた話だがゴブリンは雑魚だがそれでも十分脅威になりうる存在らしい。まぁ、そうでなくても約300を瞬殺されれば戸惑うのも無理はないだろう」

 

むしろ全軍で向かって来ないだけ理性的だなとすら思っていた。だが、ヘイグとしては直ぐにでも北部に向かい娘家族(とその他大勢の観光客)を助けたかった。こうしてにらみ合っているだけでも魔王軍にとっては十分利となっている。

ヘイグは短期で決めるべく指示を出す。

 

「機銃斉射で敵を潰すぞ。……ここからでも十分殲滅可能という事を魔王に教えてやれ!」

 

ヘイグの指示で機銃による一斉射撃が開始された。隊列もなくただ並んでいるだけのゴブリンに無数の弾が当たりその体に風穴を開けていく。突然の事に驚くゴブリンたちを見てヘイグは更に攻める。

 

「一気に決めるぞ。ランチャーを放て」

 

本来なら不必要ともとれるランチャーの使用に将兵は驚くもすぐに準備を行う。目標は敵の後方、魔王の前、オークやロードがいる場所である。

巨大な爆風と共に直線に突き進むロケット弾。その数は3つでそのすべてが混乱するゴブリンの直上を超えてぼんやりとロケット弾を見ているロードとオークに衝突する。周囲も吹き飛ばす爆発が三つ起こり周辺の魔物を巻き込んでいく。爆風が収まればそこにあるのは肉塊へと変わったオークとロード、巻き込まれたゴブリンの死骸のみで生存者は存在しなかった。

ヘイグの指示によって攻撃を開始してから僅か数分。3000以上いた魔王軍は1000以下まで減っていた。オークやロードといった種戦力は全て殺され残っているのは騎士相手に勝つことが出来ないゴブリンと魔王、赤竜のみだった。

 

 

 

 

魔王は漸く自分の認識の甘さに気付いた。撤退か交戦かなんて考えている場合ではなかった。敵が攻撃をしないうちにさっさとどちらかを決めて行動すべきだったのだ。魔王はうめき声を上げるゴブリンたちを見てすぐさま行動した。自分の後方に控えている赤竜にまたがるとそのまま逃走を開始した。魔王としては有るまじき行動だがそんなことを言っている暇はない。実際逃げ始めた自身を見て敵の攻撃がこちらに集中しており中にはオークやロードを殲滅した攻撃も飛んできていた。赤竜の重力魔法で無効化しているが何時までも防げるわけではない。一刻も早く敵の攻撃範囲外に向かわないといけなかった。

 

「やつらは、太陽神の遣いよりも装備面は良い……」

 

明らかに太陽神の遣いより洗練された攻撃を見て魔王は悔しげにつぶやく。敵の攻撃はどれも自身を脅かす攻撃ばかりであり太陽神の遣いよりも技術が高い事を察することが出来た。出来てしまった。

彼らがいる限りフィルアデス大陸への侵攻は相応の犠牲を覚悟しなければいけない。万の軍勢を投入して敵十人を殺す。そんなふざけているとも言える犠牲が必要だ。魔王ノスグーラは一旦レッドオーガとブルーオーガと合流すべく南に飛んだ後北東、北西と順に進路を変えつつ敵を警戒するのだった。

 

こうして突如として迫ってきた魔王ノスグーラの奇襲は防ぐことは出来たがそれでも危機は過ぎ去っていない。城塞都市トルメスでは未だに猛烈な攻防戦が繰り広げられている。一刻も早い救出が要求されていた。

 

魔王を退けた駐留軍はその日休息を取り直ぐに北上した。ヘイグにとっては休息すら惜しい状況だがなるべく万全な状態で戦えるように焦る気持ちを押し殺していた。その頭には常に娘の安否を考えて。

 

 

 

 

レッドオーガとブルーオーガは現在魔王の言いつけ通りトルメス城を包囲する軍勢と捕まえた人間を監視する者を置いて南下していた。目的は北上してくるであろう敵の軍勢を相手に迎え撃つためである。その数は1万ほどと減っているが魔王に続く実力の持ち主であるレッドオーガとブルーオーガ、更にオークやロードを多めに連れてきているため返り討ちに出来る力は有していた。

 

「魔王様は随分と策を練るようになったな」

「それだけ太陽神の遣いは恐ろしかったという事だろう」

 

レッドオーガとブルーオーガは準備を終え本陣にて料理を食べていた。魔物が食べる物は基本的に人間であるため彼らが食べている物も勿論人間である。中にはエルフやドワーフも食べるが今彼らが食べているのは人間の骨で出汁を取りエルフの肉で煮込んだシチューのようなものである。

 

「魔王様はうまくやられたのであろうか」

「勿論だろう。あの魔王様だぞ?むしろ我々が役目をきちんと役目を果たさないといけないだろう」

「それもそうだな」

 

彼らは一片たりとも魔王の失敗を考えていなかった。太陽神の遣いに負けその後は封印されたとは言え彼らの中では未だ魔王の権威は衰えていなかった。出なければ封印が説かれた後も付き従ったりしていない。

二人は料理を食べ終えるとやって来るであろう敵の襲来に備えるのだった。

 





【挿絵表示】

魔王の撤退ルートとトーパ王国軍主力の凡その進路です。


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第三十一話「古の魔王5~赤と青の鬼の最後~」

a.t.s52(皇歴52年)/12/8/11:37 トーパ王国ベルンゲン=トルメス間の街道

「グレゴリー中将、進行方向より大量のトーパ王国軍が来るのですが……」

「何だと?」

 

ヘイグ率いる駐留軍が北上してから二日が経過した。駐留軍は自動車に乗せられるだけ人員を乗せて乗り切れなかったものは徒歩で向かわせている。その為自動車部隊と歩兵部隊は大きく引き離されることとなったが代わりに先に出発したトーパ王国軍に近づきつつあった。

しかし、トーパ王国軍の兵が南に向かってやって来るようになりそれはまるで”逃走”のようであった。そしてついにそれまでの数人から大きく逸脱した百を超えるトーパ王国軍と鉢合わせした。

ヘイグはトルメスに早く行きたい気持ちを抑えてその百人を保護する。その百人の中には貴族も交じっておりシーランド帝国軍を見た彼らは一様に安堵の息を付いていた。

 

「一体何があったんだ?」

「レッドオーガとブルーオーガが、この先で待ち構えている」

 

一人の貴族が話し始めた事で漸く詳細な情報を手に入れることが出来た。

トーパ王国軍は先日の午前中にこの先で布陣する魔王軍を発見、撃退しようとそのまま交戦するがレッドオーガとブルーオーガが全線で猛威を振るい更にオークやロードの連携の取れた攻撃によりまともな抵抗も出来ずに敗走、一部の軍はトルメスを救援するべく街道を外れてそのまま向かったそうだが大半が魔物に見つかり食料となったとの事だった。

大物がこの先で待ち構えているという事とトーパ王国軍を正面から打ち破れる軍の力に貴族たちは恐れていたがヘイグ達駐留軍は冷静に受け止めていた。

 

「状況から察するに王都を魔王が陥落させていたらトーパ王国軍は南北から挟まれる形となっていたのか」

「可能性は高いですね。王都を直接攻撃する以外の目的があったのならそうなのでしょう」

「北にはレッドオーガとブルーオーガがいてそいつらに負けた軍が王都に逃げ帰るとそこにはそいつらを従える魔王が待ち構えている……。敗北した軍の士気を折るには最良とも言える行為だな」

 

駐留軍の間で魔王ノスグーラへの評価は上がっていくが同時に侮れない相手であり気を引き締めていないといけないと感じていた。

現代兵器にはかなわないという事は強襲上陸戦で把握しているがだからと言って無双できるわけではない。むしろ現代兵器を活用しきれない乱戦や接近戦を仕掛けてくる可能性もある。加えて駐留軍1000しかいない上に自動車部隊は約300人程だ。

対して魔王軍は布陣しているとは言え1万を超える軍勢で街道に陣取っている。そこを通らなくてもいけなくはないが整備されていないところを自動車が通れるかは分からないし森にでも出くわせば乗り捨てなければいけない。それにこのまま放置して近くの村や都市を襲わないとも限らない。そうなれば被害は増えトーパ王国の国力は大きく落ちるだろう。

シーランド帝国としてみれば魔王軍は遠距離武器を持たないため総合的に見ればパーパルディア皇国以下という判断を執るだろう。駐留軍は知らないが魔王の能力の一つである魔獣を操れる能力もシーランド帝国に魔獣はいないため使う事は出来ないし爆撃に耐えられるほど強靭でもない。それでもトーパ王国を簡単に滅ぼせる力は有している。

ヘイグは決断する。

 

「……このまま進むぞ。だが、こちらの力を最大限に使えるようにする。先ずは……」

 

三時間後、魔王軍と駐留軍は遂に対陣した。レッドオーガとブルーオーガ率いる魔王軍約1万と駐留軍300、トーパ王国軍残党約150は向かい合う事となった。

レッドオーガとブルーオーガはシーランド帝国の自動車部隊を見て太陽神の遣いか?と思うが似てはいるが全く違うモノの為気のせいと思い突撃を開始した。両オーガが先頭に立ち鼓膜を破らんばかりの声量で咆哮しながら向かってくる姿は駐留軍ですら恐怖を感じる程だ。しかし、だからといって手元を来ることがないところに練度の高さを感じさせる。そして、結果は呆気なく訪れる。

駐留軍はしっかりとひきつけてから一斉攻撃を開始する。300人による銃とランチャーによる蹂躙、更にトーパ王国軍による手榴弾(駐留軍から借り受けた)の投擲が行われた。レッドオーガはロケット弾が命中し上半身を吹き飛ばしブルーオーガは体中に銃弾を受け蜂の巣となった。周りの魔物はもっと悲惨で原型をとどめない者、爆発四散する者、死にきれずその場に倒れ込みうめき声を上げる者など死んでいったオーガたちの後を追うように死に導かれていく。

弾切れによる射撃の停止で収まったが目の前には地獄が広がっていた。後方にいた魔物を除きすべての魔物が息絶えるかうめき声を上げていた。その数凡そ4000。その中にはレッドオーガとブルーオーガも含まれており魔王軍は一瞬にして万の軍勢に匹敵する戦力を失う事となった。

 

「この機を逃すな!敵の後方部隊にも攻撃開始!」

 

指揮官を失い立ち往生する魔王軍にヘイグの指示のもと容赦ない攻撃が開始される。銃弾とロケット弾の第二一斉攻撃が後方にいた魔王軍に襲いかかる。距離があるためトーパ王国軍の手榴弾投擲は行われていないがそれがなくとも問題ないと言える程魔王軍は被害を増やしていく。指揮官を失った事で指示を出す者が消えた事も原因で結局逃げ出す者が現れるまで魔王軍、特にゴブリンはその場で蹲り攻撃が当たらないことを祈るしか出来なかった。

こうしてトーパ王国軍主力を壊滅させた魔王軍一万を撃退したヘイグ達駐留軍は包囲されるトルメス城及び魔王軍の捕虜となっているであろうトーパ王国の民とシーランド帝国の観光客を救うべく進み始めた。

 



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第三十二話「古の魔王6~魔王軍の撤退~」

魔王編はこれで終了です。次回からパーパルディア皇国を殺戮()していきます。


a.t.s52(皇歴52年)/12/10/9:11 トーパ王国城塞都市トルメス

魔王ノスグーラは撤退の決断をした。

レッドオーガとブルーオーガが敗れ一万近い数の軍を失った事を知ったのは魔王とレッドオーガとブルーオーガが率いていた魔王軍の残党が城塞都市トルメスにほぼ同時に到着してからだった。もはや魔王軍に残っている戦力は微々たるものでこの世界で上位に入る実力を有する魔王ノスグーラを除けばトーパ王国にすら敗れる程度しかいない。ゴブリンはまだまだいるがロードやオークは二桁前半程しか存在していない。魔王軍全体で見れば合計で漸く一万いくかいかないかだ。これ以上ここにいても自らを降した敵がやって来るだろう。その前に撤退しなければ。魔王はそう考えていた。

古の魔法帝国によって作られ人間の技術力を抑える役目を追っている魔王ノスグーラとしては撤退するのは違反とも取れるものだがそもそも意地を張って死んだのでは意味がないと無理やり納得させた。

そして彼はゴブリンたちに命じて今回の攻撃で手に入れた人間たちを出来る限りグラメウス大陸に運び込んだ。戦力を回復するためには食料である人間は多いに越したことはなく同時にこれらを交配して繁殖させようと考えていた。現在魔王軍は手に入れている人間の総数は1000人近い数が居りそれらすべてを極寒のグラメウス大陸に運ぶには手間と時間が掛かる。魔王ノスグーラは配下に撤退の準備を優先させると同時に自らはトルメス城に赴く。目的はトルメス城に籠る人間の殲滅である。本来なら食料として生きて捕まえるのがいいのかもしれないがそんな事をしている暇はない。

魔王ノスグーラは自身を見て騒ぎ立てる城内の兵士を見ながら短期で終わらせるべく魔力を籠め始めた。

 

 

 

 

a.t.s52(皇歴52年)/12/10/17:20 トーパ王国城塞都市トルメス

ヘイグ達駐留軍が到着した時トルメスに生きた人間はいなかった。同時に魔王軍の姿もなく周囲の物の散乱具合から慌てて撤退したという事がうかがえた。

 

「手分けして生存者を発見しろ!それと魔王軍が周囲に潜んでいる可能性もある!十分に気を付けよ!」

「「「はっ!」」」

 

ヘイグの命令に駐留軍の兵士は忠実に従い生存者の捜索を開始する。トルメスに一刻も早く着くために合流したトーパ王国軍は置いてきているためこの場で戦えるものは駐留軍しかいない。

 

「ちゅ、中将!」

「どうした!?」

 

ヘイグは一人の将兵の言葉にすぐに反応する。その将兵は直ぐ近くにおり彼の視線はヘイグのところからは見えない建物の影の方を向いていた。ヘイグはその将兵に近づき同じ場所を見る。

……そこには、トーパ王国の民が着ているような服ではなく現代風の衣装に身を包んだシーランド帝国の国民の死体があった。首から上は存在せず服装と体つきから辛うじて女性という事が分かった。ヘイグは一瞬愛娘か!と思ったが直ぐに特徴と違う事が分かり安堵の息と同時に焦りを感じ始めた。ヘイグは陸軍中将として全体を見つつ愛娘を探し始める。居てほしいと思いつつも居てほしくないと思いながら死体を一つ一つ確認していく。頭がない者、四肢を切断され達磨となっている者、下半身もしくは上半身を欠損している者などバリエーション豊かと言っていい程死体は様々な状況となっていた。

 

「中将!」

「……なんだ」

「トルメス城ですが、城壁が爆弾でも使ったかのような壊れ方をしていました。生存者は……、今のところ見つかっていません」

 

その将兵はトルメス城を見に行った者の一人の様で悲痛な表情で報告をした。ヘイグはそれを聞きトルメス城の方を見る。城壁で囲まれたその城は確かに北部の方が崩れておりそこから敵が侵入したことがうかがえた。ヘイグはその城の中に愛娘がいないか探し始める。トルメス城はまだ煙が上っており攻撃を受けてからそこまで時間が経過していないことがうかがえた。城内にいる兵士の死体は皆絶望したような表情で死んでいた。

 

「……ここには魔王でも攻め入ったのか?」

「可能性は高いですね。レッドオーガとブルーオーガと思われる個体を倒した今魔王軍で突出した実力を持っているのは魔王くらいらしいので」

 

ヘイグの疑問に将兵が答える。やがてヘイグ達は総司令部と思われる場所にたどり着くがそこにも生存者はいなかった。中には指揮官と思われる人物とそれを守る二人の兵士、ヘイグは知らないが二人の名前はモアとガイと言う。ほかにも肉片と化した死体や外傷がない死体などばかりが見つかり生存者はいなかった。

 

 

 

 

結局、12月20日に世界の扉までトーパ王国が奪還する事で魔王軍を撃退したと王国中に発表された。今だ魔王が健在であるがその両腕たるレッドオーガとブルーオーガを討伐できたことでトーパ王国の民たちの表情は明るかった。

……もし、魔王軍が生き残りを攫って行ったという事を知っていれば討伐軍なりを起こして奪還に向かっただろう。しかし、生存者はいないという内容が一般的となった彼らは世界の扉の復旧を行うのみで攻めようとはしなかった。

トルメスの民とシーランド帝国の観光客の生き残りがいたという事を知るのはシーランド帝国によるグラメウス大征伐終了まで待たなければいけなかった。

それまでの間、一人の将校が絶望し、シーランド帝国軍を去ることとなるが今の段階ではどうしようもなかった。

 



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第3章【フィルアデス大陸編・後編】
第三十三話「列強の落日1~皇国の狼狽~」


a.t.s52(皇歴52年)/11/30/11:00 パーパルディア皇国皇都エストシラント

「どういう事だ!」

 

パラディス城に一人の男の怒声が響き渡る。聞いた者の体を震わせ恐怖に陥らせるような迫力が籠った声を第3外務局局長のカイオスが真正面から受けていた。カイオスは顔を青くし汗を流しながら必死に頭を下げている。そんなカイオスに男、ルディアスは顔を赤くし誰から見ても怒っていると分かる表情で睨みつけている。

 

「フェン王国に侵攻していた監査軍は全滅、アルタラス王国に派遣した軍もワイバーンロードは全滅、艦隊も海に沈んだというではないか!貴様は何をやっていたんだ!」

「も、申し訳「誰も謝罪など求めておらぬぞ!」申し訳ございません!」

 

カイオスは必死に頭を下げて謝罪を口にする。今にも膝すらつきそうな勢いのカイオスにルディアスの怒りは積もるが呼吸を落ち着かせるために息を整える。

 

「……アルタラス王国を占領している軍はどうなっている?」

「ここに来る前に敵が上陸を開始したと報告がありました。……全体で、劣勢もしくは敗走中です」

 

ルディアスの問いに皇国軍最高司令のアルデが答えるがその内容はとてもではないが吉報でもなんでもなく、凶報だった。アルタラス王国を占領している軍にはリンドヴルムを多数配備しているがマスケット銃の弾丸ですら致命傷となる程度の外殻しか有していないリンドヴルムに戦車などを配備したアルタラス解放軍に適う訳がなかった。アルデの下にはまだ報告が行っていないがアルタラス王国の地上軍は陸と空、場所によっては海からの強烈な火力を受けてほぼ壊滅状態にあり全土開放も時間の問題となっていた。加えて現地のレジスタンス組織により場所は直ぐに把握、解放軍に情報が行くため隠れてもすぐに見つかり攻撃を受けていた。

 

「……ここまで文明圏外国にコケにされるとはな。これより、パーパルディア皇国はシーランド帝国に対し殲滅戦を行う!ロデニウス大陸にも軍を派遣しシーランド帝国と友好関係を結んでいる国を全て滅ぼすのだ!」

 

ルディアスの殲滅戦の宣言にアルデ以下誰もが否定的だった。シーランド帝国の力は予想以上に高い事はここまでの戦闘で分かっておりこのままではいずれ本土にすらやって来るのではないか?というのが噂ながら皇国の上層部に出回っていた。

しかし、同時にシーランド帝国に対していい気持ちを持っていないのも事実で理性では否定的だが本能の部分では大いに賛成している状態だった。頭では理解していても心で反発していたのだ。

ルディアスが早速その趣旨をシーランド帝国に伝えるように命令しようとした時だった。突然一人の兵士が入って来る。

 

「何事だ!今は会議中だぞ!」

「申し訳ございません!ですが、急を要する報告が入りました!」

 

兵士はルディアスの怒鳴り声に恐怖しつつその報告を大声で言った。

 

「先ほど!南東部にシーランド帝国の軍勢が上陸しました!その数、50万近くいるとのことです!さらに、ワイバーンロードより早く動く鉄竜に鉄の地竜も複数確認されています!それと工業都市デュロが空爆を受けています!被害は不明です!」

 

パーパルディア皇国、最後の時が訪れようとしていた。

 

 

 

 

 

a.t.s52(皇歴52年)/11/30/10:50 パーパルディア皇国商業都市ヴェヌ

皇都エストシラントと工業都市デュロの丁度中間に位置するこの都市はパーパルディア皇国により統治されるようになってから急速に発展した。元はただの漁村だったが今では商業都市としてパーパルディア皇国と文明圏外国との貿易の中心部になっている。

そんな都市故にエストシラント、デュロ、アルーニに続く陸軍基地と海軍基地がおかれている。しかし、そもそもパーパルディア皇国の都市を襲う国など存在しない上に属領の中で最も安定している地域の為鎮圧といった行動に出た事がなかった。結果、ここにいる兵士たちは怠け始めていた。4年目になるカルーも見張り台に立っているがまともに監視などしておらず同じく見張り台にいるモーガと共に駄弁っていた。

 

「……暇だ」

「俺もだよ」

 

娯楽品など持ち込めないためもっぱら二人が行うのはお喋りであった。何時もなら属領に関してや女の話ばっかりだが今日は違った。

 

「なぁ、フェン王国の監査軍が負けたって本当か?」

「ああ、どうやら本当らしいぞ。シーランド帝国という国によって一人残らず殺されたらしい」

「でもその国って文明圏外国だろ?なのに帝国を名乗るとか何を考えているんだか……」

「いや、ただの文明圏外国ではないだろ」

 

カルーのつまらなそうな呟きにモーガは真剣に否定する。情報通のモーガは限られてた情報からシーランド帝国という国を分析していた。

 

「俺も詳しくは知らないがシーランド帝国は確実にパーパルディア皇国と戦える力を持っている」

「おいおい、なんでそう言い切れるんだよ」

「確かに監査軍なら何とか出来る国もある。だが、ワイバーンロードを全滅させられる国なんてそうそういないだろ?奴らはそれを成し遂げた。……自力でそれを行えたのか、それともどこかの国が支援しているのかは分からないけどな」

「パーパルディア皇国と互角に戦える戦力を用意できる国って……、ムーや神星ミリシアル帝国か?」

「まだ分からないぞ。自力で技術力を上げた可能性だってあるんだから」

「まさか、今までそんな国存在しなかっただろ?」

 

モーガの真剣ではあるが何処か楽し気な声にカルーは反発するように答える。しかし、そんな彼らの会話もそれ以上続かなかった。何故なら轟音と共に彼らのいた見張り台が爆発したのだから。

突然の事態に驚くヴェヌに地平線を埋め尽くさんばかりのシーランド帝国の大艦隊が姿を現した。

そして、地獄が始まった。

 




ヴェヌのモチーフはヴェネツィアです。理由とか特にないです


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第三十四話「列強の落日2~デュロ空爆~」

a.t.s52(皇歴52年)/11/30/10:43 パーパルディア皇国工業都市デュロ

パーパルディア皇国の工業力を支えていると言っても過言ではない工業都市デュロはシーランド帝国から見ればまさにカモと言えるものだった。東側の沿岸部に面している上に敵の基地が多数存在している。ワイバーンロードでは絶対に届かない位置から爆撃を行えるシーランド帝国からすれば敵の工業力と兵力、艦隊を一気に潰せるチャンスであった。

その為皇太子ウィリアムが自ら指揮を執る皇国遠征軍の上陸と同時に爆撃を行うべくブリテン島より爆撃機隊が出発していた。部隊の士気は高く全弾命中させると息巻いていた。爆撃機隊を指揮する部隊長も同じような感じでありシーランド帝国の力を見せてやると誰よりも今回の作戦に燃えていた。

 

「隊長!まもなく工業都市デュロ上空です!」

「うむ、爆撃用意!ハッチを開け!」

「ハッチ開きます」

 

全翼機を採用しステルス性を求めたシーランド帝国の爆撃機は高価ではあるがそれに見合う性能を持っていた。そんな爆撃機が30以上の群れを成して工業都市デュロに襲いかかろうとしていた。

 

「爆撃ポイント入ります!」

「よし!爆撃開始!」

 

隊長の命令に従い大量の爆弾が投下されていく。空を切る独特の音と共に爆弾は地面に向けて急速に落下していく。その様子はデュロにいた市民や兵士も確認できた。聞きなれない音にいぶかしみ上空を見上げた彼らが目にした物は自らに向けて落下してくる爆弾群であった。

黒い爆弾が地面に激突し周囲を爆発と爆風で破壊する。しかしそれらは新たに落ちてきた爆弾の爆発でうまく威力が流れず上空へと押し上げられる。人どころか建物すら無差別に破壊していきそこに住まう人々を肉片に変えていく。彼らは自らに何が起こったか分からないまま意識を失っていくが彼らはまだ幸せであった。不幸なのは爆弾が大量に振ってきていると認識出来る場所にいた者たちだ。彼らは一様に悲鳴を上げ迫りくる爆風と爆発が逃れようと走り出すが無情にも彼らの近くに爆弾が落ちていき彼らを物言わぬ屍に変えていく。爆風で前に飛ばされた者が次の瞬間には目の前に落ちてきた爆弾を諸に受け体を散り散りに吹き飛ばされていく。ある者は爆弾が頭に当たり肩すら潰す勢いで頭部を凹ませ、次の瞬間には爆発で体中を吹き飛ばされる。ある者は幸運にも五体満足で逃げることが出来たが挟み込むように落ちてきた爆弾に体の中央部を残し爆発で吹き飛んだりした。

兵士だろうと皇国民だろうと植民地の人間だろうと平等に命を奪っていく。爆撃機隊30機による爆弾が全て投下された後は工業都市デュロを中心に黒煙で包まれた平地が残された。しかし、爆撃機隊はこれで終わるつもりはない。

彼らは舵を切り再びの爆撃体制に入る。五体満足で生きていられる者は誰もいないだろうと思われるにも関わらず彼らは撃ち漏らしがないようにしっかりと爆撃を行う。辛うじて生き残った者は再び絶望する事となるだろう。友を、家族を、愛する人を奪った爆弾が再び落下してくるのだから。彼らは逃げきれないと悟りその場で硬直する者、地中に逃げようと穴を掘る者、この場から少しでも離れようと背を向けて逃げ出す者などに分かれたがそんな彼らを容赦のない爆撃が襲い掛かる。一瞬の熱気と痛みと共に意識を失っていく彼らを見ることもせずに部隊長が満足げに頷いた。

 

「うむ。うむ!本国に伝えよ!『デュロ爆撃部隊周辺ゴト殲滅セリ』だ!」

 

パーパルディア皇国の工業力を一気に奪い彼らから継戦能力を奪い取ったシーランド帝国はほぼ同時刻に商業都市ヴェヌに50万を超える軍勢で上陸を果たしていた。

 

 

 

 

 

a.t.s52(皇歴52年)/12/1/21:30 シーランド帝国領ロウリア 自治領都ニューパース(旧ジンハーク)

シーランド帝国の自治領となった旧ロウリア王国は急速に復興、発展していた。主だった都市が全滅したロウリアはシーランド帝国からやってきた移民により都市が掲載され少しづつ余力が生まれつつあった。とはいえ未だ復興の最中でありジンハークだった場所に建設されたニューパースを除けば遅々として進んでいなかった。それでもニューパース(旧ジンハーク)は近代的な都市になりつつありロウリアの中心地となっていた。

そんな都市部の郊外には竜の酒という飲み屋が存在する。かつてジンハークに存在した同じ店で空爆前にここのオーナーが所用で離れていたため生き残ることが出来たのだ。結果、位置は違えど再び店を持つ事が出来るようになったのだ。

そんな店は少数のロウリア人と大多数のシーランド帝国の国民、数える程度のクワトイネの人で繁盛していた。

 

「おい、聞いたか?デュロの話」

「ああ、聞いたぜ。爆撃機隊が周辺ごと焼け野原にしたんだろ?その様子も放送されていたから見たけどスカッとしたよな」

「ああ、俺もそうだがネットに上がっている動画を見ることをお勧めするぞ。逃げ惑う皇国人の姿が良く見えるからな」

「マジかよ!?早速見なきゃ!」

 

とあるシーランド帝国の国民がその様な話で盛り上がっている中ロウリア人の表情は暗い。

 

「……パーパルディア皇国は皇太子妃様を殺したんだろ?」

「ああ、そうらしいぞ」

「……パーパルディア皇国も終わったな」

「そうだな」

 

そのロウリア人は南部にある都市の生き残りでシーランド帝国の力を間近でみた人物だった。それだけにパーパルディア皇国の行いがどれほど恐ろしい事なのかを理解できた。この王都では一時期シーランド帝国の国民の憎しみが籠った怒号が響き渡っており中には志願兵となって入隊した者もいる程だ。最近は少し落ち着いてきたが未だに喧騒は収まりきっていない。

 

「……俺たちってさ。民族ごと消えてなくならなくて運が良かったんじゃないか?」

「そうかもな。パーパルディア皇国は確実に地図から消えるだろうしな」

 

二人のロウリア人は生きていることに改めて感謝しつつ明日の仕事に響かないように解散するのだった。

 





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黒の矢印は皇国遠征軍の侵攻路
赤は爆撃機隊の空路
薄紫はフェン王国救援軍


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第三十五話「列強の落日3~愚か者の最後~」

a.t.s52(皇歴52年)/11/29/21:56 フェン王国ニシノミヤコ

シーランド帝国を怒らせる要因を作ったテオリはシーランド帝国が取り戻したニシノミヤコにて息を潜めていた。

自ら積極的にパーパルディア皇国に付くことであわよくばフェン王国を統治させてもらえないかと考えていた彼はパーパルディア皇国の侵攻はまだまだ先という噂を流し手土産にするためにシーランド帝国の皇族、特に継承権が高い者を呼び寄せようとした。結果的に皇太子妃であったグィネヴィアしか来なかったがそれでもテオリは十分だった。皇太子のウィリアムはグィネヴィアを溺愛しており側室すら持っていないという。テオリはその情報を聞きこう考えた。

 

-溺愛しているという事は彼女を人質に取れば簡単に国を明け渡してくれるのではないか?そうでなくてもパーパルディア皇国に歯向かおうという意志は削ぐことが出来皇帝との間に溝が出来るだろう。そうなれば皇太子と皇帝との間で国が割れパーパルディア皇国が攻めやすくなる-

 

そう考えたテオリはグィネヴィアをニシノミヤコに呼び寄せた。タイミングよくパーパルディア皇国の監査軍も侵攻してきた為反乱は上手く行きグィネヴィアを捕らえることに成功した。更にパーパルディア皇国の奇襲とテオリの反乱で混乱するフェン王国に積極的に攻撃する事でパーパルディア皇国への忠誠も示すことが出来た。テオリの頭にはフェン王国を統治する自分の姿が思い浮かんでいたが彼は3つ思い違いをしていた。

 

1つ目はそもそもパーパルディア皇国はテオリに領土を与えるつもりはなく適当に金で済ませようと考えていた。勿論彼のフェン王国西部に置ける影響力は消え落ちぶれることは必須だった。

2つ目はシーランド帝国の中身である。皇太子ウィリアムと皇帝ライオネスとの間にはどうしても埋められない溝がありそれを理解しているライオネスは皇太子ウィリアムに最低限の権力しか与えていなかった。例えウィリアムがライオネスに反発したところで現状のウィリアムに付いてくる者は全体で見れば少なく簡単に制圧できるだろう。

3つ目はパーパルディア皇国のグィネヴィアの使い方である。グィネヴィアはパーパルディア皇国にとってみれば「大量に存在する文明圏外国の姫」程度しかなくテオリ程その存在を重要視していなかった。その為レミール主導の下凌辱と無残な処刑が行われシーランド帝国に対し警告するに至ったのだ。それを知ったウィリアムが大激怒する事も、シーランド帝国の国民がパーパルディア皇国憎しの感情に染まることも把握していなかった。

 

結果、穏健派だったウィリアム自ら総司令官としてフィルアデス大陸に侵攻しフェン王国、アルタラス王国のパーパルディア皇国軍は全滅した。テオリは運よくシーランド帝国軍の攻撃を逃れることに成功しニシノミヤコに潜伏したが手勢は全滅。シーランド帝国が高い懸賞金とかけてテオリを捜索しているため外に出ることも出来なくなった。

 

「(何故だ!?何故こうなったのだ!?)」

 

テオリは薄汚いローブを羽織って顔を隠しながら部屋の隅で震える。空き家の一室に閉じこもっているが食料は既になく空腹感がテオリを襲いつつあった。

 

「(シーランド帝国が!シーランド帝国がさっさと降伏してくれればこうならずに済んだのだ!全てあいつらのせいだ!あいつらが降伏すれば俺はフェンの統治者になれたのに……!)」

 

この期に及んでテオリが考えていたのはシーランド帝国への罵倒だった。自らの行いを正当化しシーランド帝国を罵るその様はまさに愚か者と呼ぶにふさわしかった。

その時だった。シーランド帝国への憎しみを募らせていたテオリは外が騒がしい事に気付く。見つかったのか?と思ったがどうやら違うらしかった。テオリは細心の注意を払いながら窓を覗く。そこには大通りをシーランド帝国軍に守られながら進むシーランド帝国の皇族とそれを歓喜を持って歓迎する民衆の姿があった。

 

「おのれ……!愚かな民衆どもめ……!本来敵であるシーランド帝国に媚びを売るとは……!待てよ?」

 

テオリは愚かな民衆を見て苛立ちを募らせるが頭に良案を思いつく。

 

「(確かここにいる軍の総大将はシーランド帝国の皇族と聞く。そいつを人質に取ってシーランド帝国の軍を動かせればまだ逆転できるのではないか?そうなればパーパルディア皇国に頼らなくてもこの国の王になれる……!そしてそのままシーランド帝国にも攻め入り国を落とせば……!)」

テオリはそこまで考えると剣を持ち外へと出る。丁度皇族が目の前を通ったところであった。遠目では分からなかったが中々の美形でありテオリはニヤニヤと下種な笑みを浮かべる。グィネヴィアの時はパーパルディア皇国に引き渡すために味見(・・)も出来なかったが今度は何をしたっていいだろう。そう考え民衆を弾き飛ばしながら皇族、コーディ・アレン・ペンドラゴンに向かって突撃した。

 

「フハハハハハ!これでフェン王国は俺のも、の……!」

 

瞬間、テオリの体を無数の弾丸が貫く。一瞬の出来事故にテオリは何が起きたのかさえ分からずに大量の血を吐き出しながら崩れ落ちた。

 

 

 

 

「……本当に出てきたね」

 

コーディは騒然とする民衆に目を向けることもなくテオリを冷ややかな目で見ていた。今回のパレードに現れてくれれば良いかなとコーディは思っていたが本当に現れ無謀にも襲おうとして来るとは思っていなかった。

 

「コーディ様。この死体はどうしましょうか?」

「うーん、晒しても良いけど血の後始末が大変そうだし処分しちゃっていいよ」

「はっ!」

 

部下に命令を下したコーディはグィネヴィアの仇の一人であるテオリの死を目の前で見ることが出来満足しつつ民衆にテオリの事を伝えるのだった。

 




戦力分析、状況判断が出来なかったテオリ。更に自らの行いを反省する事もせず正当化するだけの無能。


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第三十六話「列強の落日4~北と南~」

a.t.s52(皇歴52年)/12/1/11:56 パーパルディア皇国商業都市ヴェヌ(シーランド帝国占領中)

商業都市ヴェヌを占領したシーランド帝国軍は三つの軍勢に分かれて進軍を開始した。一つは壊滅したデュロを占領するための北東軍。一つはパーパルディア皇国の属領の占領を目的とした北部軍。そして最後の一つは皇都エストシラントに侵攻する西部軍。それぞれ10万を超える大軍であり現代装備で固められた彼らはパーパルディア皇国より数で劣ろうと何倍もの力を持っていた。

皇太子ウィリアムは西部軍の指揮官として同行しており商業都市ヴェヌは部下に任せていた。

 

「グィネヴィア……。必ず、仇を取るからな」

 

ウィリアムは濁った瞳でそう呟く。彼の首にはグィネヴィアの顔写真が入ってあるペンダントがあった。転移前にキャメロット城の庭で撮った写真であり恥ずかしそうにしつつこちらに向けて微笑んでいるグィネヴィアが写っている。ウィリアムはこの写真を見るときだけ穏やかな顔になるがそれと同時に怒りと憎しみが込め上げてくる。今のウィリアムにとってこのペンダントは大切な動力源となっている。精神的に崩れ落ちそうになるウィリアムを支えている物であるため彼の部下もペンダントを見ないように言う事は出来ず不安そうに見る事しか出来なかった。

 

「殿下!先鋒より連絡です。近くの村の長を名乗る者が降伏しに来ました」

「そうか」

 

ウィリアムはそれだけ言うとペンダントを握り締める。そして目を閉じると数秒後に命令を下した。

 

「殺せ」

「は、はっ?」

「殺せと言ったんだ。その者たちはパーパルディア皇国の民なのであろう?皇国の為に働き皇国の為に死ぬ愚か者であろう!我らは皇国を滅ぼすために来ているのではない!()()()()()()()()()()()()()来ているのだ!皇国に従う民は我らにとって不必要だ。故に、殺せ」

「……分かりました」

 

ウィリアムの命令に兵士は一言だけ答え戻っていく。数分後、一発の銃声がウィリアムの耳に聞こえてきたが関係なかった。死んだであろう村長の事も、パーパルディア皇国という国さえどうでも良かった。

ウィリアム率いる西部軍は三つの軍勢の中でも最も速度が遅かった。しかし、その分殺傷した数は最も多く彼らの進んだ道に皇国の民は誰一人として存在しなかった。皇都エストシラントに到着する頃には東部における人口は大きく減少しその後のシーランド帝国の統治者を悩ませることとなるが今は関係のない話である。

 

 

 

 

a.t.s52(皇歴52年)/12/1/11:56 リーム王国王都ヒルキガ

「今こそ好機ですよ」

 

王都にある王城にて国王バンクスはとある人物と会談していた。その人物はリーム王国と同じ文明国であり隣国のシパールケ共和国の人間だった。

シパールケ共和国はリーム王国よりも強大な力を持っている。何せ元は()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのだから。第三文明圏の国々の中で唯一パーパルディア皇国と対等の関係を維持しパーパルディア皇国と同等の軍事力を持っている国だった。

そんなリーム王国からすればパーパルディア皇国並みに雲の上の存在ともいえる国から連絡があり会談を持ったわけだが彼らの提案は簡潔だった。

 

「共にパーパルディア皇国を攻める、か」

「パーパルディア皇国は現在滅亡の淵にあります。このまま全土をシーランド帝国に取られるのは貴国とて面白くはないでしょう?」

 

シパールケ共和国からの代表者の言葉にバンクスは眉を顰める。そもそもリーム王国はパーパルディア皇国の現在の情勢を掴んでいなかった。シーランド帝国という文明圏外国と戦争にあるという情報しか回ってきていないためパーパルディア皇国が負けるとは思えなかったのだ。

その為、バンクスの返答は決まっていた。

 

「我々は動かない。攻めるというのなら貴国らだけでやればいいだろう。我が国を巻き込まないでもらいたい」

「……そうですか」

 

シパールケ共和国の代表者は失望ともとれる視線をバンクスに向けるが直ぐにその視線を消した。

 

「分かりました。ならば我々だけでやらせてもらいます。……ですが、貴国らは何があってもパーパルディア皇国に攻めないでくださいよ?侵攻したら我々が貴国に攻め入りますので」

「むろんだとも」

 

バンクスはシパールケ共和国の代表者の殺気ともとれる圧に冷や汗をかきながらもリーム王国の国王として堂々と返答する。シパールケ共和国の代表者はそのまま部屋を出ていきそれを確認したバンクスは冷や汗をぬぐいながらため息をつくのだった。

 

こうしてシパールケ共和国の提案はリーム王国によって却下された。しかし、シパールケ共和国にとってリーム王国への提案はハイエナ的侵攻を防ぐ意味合いが強かったため特に気にした様子はなかった。

 

 

a.t.s52(皇歴52年)/12/2/14:02 シパールケ共和国は共和国統制軍指揮官ヨアン・スマイラスを指揮官とした15万という大軍勢でパーパルディア皇国北部に侵攻。周辺の反パーパルディア皇国勢力を取り込みながら一気に南下を始めたのだった。

 




シパールケ共和国
パーパルディア皇国の前身であるパールネウス共和国時代の貴族が建国した国家。人口は3000万程。パーパルディア皇国に次ぐ国力を持っているがパーパルディア皇国の様に属領任せの国家運営はしていないためこっちの方が余裕はある。名前の通り共和制だがそれは十数年前までで現在は軍部によるクーデターで軍事政権となっている。それでもリーム王国なら片手間で倒せる程度には強い。


【挿絵表示】

フィルアデス大陸南東部の様子。


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第三十七話「列強の落日5~対応するパーパルディア皇国~」

a.t.s52(皇歴52年)/12/3/11:24 シパールケ共和国=パーパルディア皇国の国境付近の都市ティルロー

パーパルディア皇国にとってシパールケ共和国は信頼する相手であった。その為国境付近には大した軍は配置されておらず加えてシーランド帝国との戦争が始まったため南部に軍を送っておりシパールケ共和国に最も近い都市ティルローには僅か数百しかいなかった。

その為、シパールケ共和国軍15万が襲来した時はまともな抵抗も出来ずに降伏したのは自明の理だった。

 

「スマイラス閣下!ティルローを完全掌握しました!」

「うむ、なら一部の兵士を除きこのまま侵攻するぞ」

 

ヨアン・スマイラスは部下からの報告に満足げに頷くとそう命じた。彼は共和国大統領であるオーガスタの命令によりパーパルディア皇国の北部領の切り取りを命じられている。ティルローだけに固執するわけにはいかなかった。

スマイラスは数百のみティルローに配置し残りの軍勢で一気に南下を開始する。目標はブラーナ峠を超えた先にある都市ポーツァである。そしてその南にはクーズがあり取り合えずそこまでが最終目標となっていた。

 

「しかし、閣下。よろしかったのですが?」

「何がだ?」

「今回の出兵、シーランド帝国には何も伝えていないのでしょう?」

 

部下の懸念はシーランド帝国に関してだった。元々シパールケ共和国はシーランド帝国との関係はない。シパールケ共和国が内陸国でありリーム王国やマオ王国、パーパルディア皇国を通さないとまともに外交が出来なかったからだ。しかし、リーム王国はシーランド帝国との関係は全く持っておらずシーランド帝国の実力を知っている国が多い中戦力の把握も出来ていなかった。マオ王国はシーランド帝国を警戒しており仲介などを頼むのは困難でパーパルディア皇国はそもそもシーランド帝国と敵対していた。

 

「問題ないだろう。我々はシーランド帝国と共同で攻めるわけではない。()()、侵攻する時期が被っただけさ」

「……そうですか」

 

部下はスマイラスの若干希望的観測が混じった思考に一抹の不安を感じつつそれ以上は何も言わなかった。どちらにしろ既に侵攻しているため今更何を言った所で変わらないだろうし何より上層部が警戒する程シーランド帝国が強いという事が信じられなかった。その為パーパルディア皇国が何時攻撃をしてきてもいいように警戒していた。

ふと、部下は上空を見る。そこにはシパールケ共和国が保有するワイバーンロード部隊が居りポーツァに向けて飛んでいた。これから彼らはポーツァに空襲をかけて被害をあたえ本命の陸戦がうまくいくようにするのだろう。

部下は愛用するフリントロック式のマスケット銃を握りながら自らの国の勝利の為に戦おうと決意するのだった。

 

 

 

a.t.s52(皇歴52年)/12/3/15:02 パーパルディア皇国皇都エストシラント

パーパルディア皇国にとってシーランド帝国の強襲上陸よりもシパールケ共和国の侵攻がもたらされたときの方が衝撃が大きかった。同じ民族であり古い同郷が攻めてくる。その事実は一時的にパーパルディア皇国を混乱させティルローを呆気なく陥落させるという失態となった。

 

「馬鹿な……!何故奴らが攻めてくるのだ!?我々はっ、同郷の徒であろう……!」

「陛下、今すぐ対応しないとポーツァまでもが陥落します!そうなれば北方の属領のことごとくがシパールケ共和国に寝返る可能性もあります!」

 

皇国軍最高司令のアルデは迅速な対応を皇帝ルディアスに求める。アルデはシパールケ共和国は皇都エストシラントまで攻めてくることはなく北部の切り取りのみを目標として来る、と思っている。だが、シパールケ共和国といえど他国に領土を切り取られるわけにはいかないため敵を倒す必要性があった。

しかし、それに待ったをかけるように第1外務局のエルトが話す。

 

「だが、シパールケ共和国よりもシーランド帝国を何とかする方が先決ではないか?このままでは東部の領土を失うぞ?」

 

シーランド帝国の侵攻速度は異常なほど早かった。既に南東部はほぼ占領されデュロの目前にまで迫っている。更には皇都エストシラント方面にも侵攻しておりこのままではここも危ないとエストは考えている。しかし、軍務に疎い彼女に分かることを軍人のアルデが気づかないはずはなく既に対策は行っていた。

 

「そちらに関しては皇都のワイバーン()()()()ロードを全て投入している。ほかにも地竜を含む10万近い軍勢を向かわせてある」

「オーバーロード!?そんなものを使用するのか!?」

 

ワイバーンオーバーロードは遥か西方の列強であるムーが新型戦闘機の開発に成功したという報告が上がりワイバーンロードではいずれ性能的に劣勢となると考えられた。その為にワイバーンロードを超えるワイバーンの作成が行われた結果誕生したのがワイバーンオーバーロードである。最高時速は450㎞とワイバーンロードよりも早いがその分ワイバーンロードよりも三倍もの予算が必要となる。とはいえ素だけの価値がある存在でありまさに皇国の切り札と言っていい者だった。

それを投入するという采配にエルトは驚くがそれはほかの者も同じだったようでざわめきが起こる。しかし、それをルディアスが制した。

 

「アルデの話は既に余が許可を出してある。シーランド帝国がすぐ近くまで迫ってきている以上ただの文明圏外国ではないという事だ。奴らを潰さない限りロデニウス大陸や本土への侵攻も満足に行う事は出来ん。何より我らが土地に土足で踏み込んできたのだ。徹底的に返り討ちにするべきであろう?」

 

ルディアスの言葉にその場の誰もが同意した。ざわめきが収まったタイミングを見てルディアスはアルデに命じる。

 

「シパールケ共和国に関しては外交官を派遣すると同時に軍も出す。アルデ、具体的な事は全て任せる。なんとしても追い返せ。ただし、シパールケ共和国に攻め入る必要はない。追い返すだけで十分だ」

「了解しました」

 

アルデは恭しく頭を下げる。

こうしてシパールケ共和国に対して十万規模の軍勢が対応する事となり北上を開始した。同時にシーランド帝国軍とワイバーンオーバーロードを含む軍勢が衝突した。……この時パーパルディア皇国の誰もが勝利を疑わなかっただろう。

しかし、数時間後に来た報告でシーランド帝国の実力を改めて思い知ることとなる。

 

 

『ワイバーンオーバーロード及び地竜全滅。死傷者8万を超えほぼ壊滅状態。……敵への損害は軽微』

 





【挿絵表示】

小説版の地図を見ると皇都エストシラントが微妙に沿岸部によってたので位置を修正しました。


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第三十八話「列強の落日6~メロ平野の戦い~」

ゲームの出力にパソコンが付いていけないせいで使えないときってすごく残念な気持ちになる……


a.t.s52(皇歴52年)/12/5/11:43 パーパルディア皇国南部メロ平野

この日、シーランド帝国皇太子ウィリアム率いる西部方面遠征軍約10万とパーパルディア皇国軍約10万が接敵した。両者ともに迂闊な攻撃を控え陣を形成していく。周囲は何処までも続く平野であるが両者ともに脇からの奇襲をする気配はない。パーパルディア皇国はそんな真似をするのはプライドが許さないためであり正面から堂々と叩き潰そうとしていた。

一方のシーランド帝国は両翼を伸ばしパーパルディア皇国軍を包み込むような形で布陣していた。

両軍の布陣図を見る者が見ればまさに武田信玄と徳川家康が激突した三方ヶ原の戦いにも見えるだろう。

 

【挿絵表示】

 

シーランド帝国の布陣を見たパーパルディア皇国の将軍ラーマックは鼻を鳴らして見下すように呟いた。

 

「ふん、我が軍相手にあの様な陣形を取るとは……。敵は戦争というものを理解していないようだな」

「全くですな。先鋒の地竜だけで敵を食い破れるのではありませんか?」

「敵は愚かにもパーパルディア皇国の領土に土足で踏み入っております。これ以上増長させないためにも徹底的に殺す必要があるでしょう」

 

ラーマックの言葉に配下の将兵たちも同意する。パーパルディア皇国の先鋒には地竜部隊がいた。パーパルディア皇国をここまで強大化させた最大の要因であり第三文明圏およびその周辺国でこの地竜を運用できている国は存在しなかった。

 

「よし!では地竜部隊よ!前進せよ!一気に敵の中央を食い破ってやれ!」

「将軍!オーバーロードが到着しました!これで陸と空から敵は一方的な虐殺を受ける事になるでしょう!」

 

 

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将兵の報告にラーマックは下種な笑みを浮かべて満足そうに頷く。ラーマックは文明圏外国の蛮族にオーバーロードを使用するなど過剰すぎると思っていたがオーバーロードの力を見せつけるいい機会と思っていた。

地竜部隊が前進を始めると同時にラーマック達の上空をオーバーロードが飛翔する。比較的低高度を飛んでいたためラーマック達に突風が襲い掛かるが頼もしさを感じる風だった。

 

「見ろ!敵が浮足立ち始めたぞ!」

「漸く誰を相手にしているのか分かったようだな!」

 

将兵たちが一斉に騒ぎ出す。ラーマックも相手の方を見れば何やら蠢いている敵の姿があった。敵には飛竜の姿は見えない。ラーマックは一騎のワイバーンもいないとは、と呆れていたが同時に少しだけ相手に同情する。空の覇者たるワイバーンの最新の品種改良型であるワイバーンオーバーロードを相手する事になったのだから。しかし、その感情もパーパルディア皇国に攻め入ってきたお前らが悪いと一刀し敵が死んでいく蹂躙劇に胸を躍らせた。

 

そして、

 

空の覇者たるワイバーンオーバーロードが

 

すさまじい速度で落ちてきた何かにぶつかり

 

大爆発する姿を目撃した。

 

 

「……え?」

 

丁度両軍の中間に落下するワイバーンオーバーロード()()()()()。その場にいる誰もが、その光景を信じられず呆けた。まるで出来の悪い夢を見ているような心地になり、やがてこれが現実だと全体感が教えてくる。

ラーマックは震える右手でオーバーロードの死骸を指さす。

 

「な、なんだ……、あれは」

 

思考を停止するラーマックだが無情にも戦場において時は待ってはくれない。地竜部隊は撃ち落とされたオーバーロードに構うことなく進み続けるが(シーランド帝国)の後方、本陣の左右の陣地より大量の砲声が響く。それらは音の発生のすぐ後に地竜部隊に降り注ぎ地竜を上から叩き潰すように砲弾が直撃、爆発していく。そして僅か数分後に砲弾は止んだがそこには血を噴き出し肉が周囲に飛び散った地竜の死骸が転がっていた。パーパルディア皇国が保有する魔導砲でもここまで悲惨な状況を作り出すことは不可能であり余りの衝撃に将兵の一人が口元を抑え本陣を離れていく。

地竜、リンドヴルムはパーパルディア皇国にのみ生息していると言われている竜であり拡散する火炎を吐き弓矢程度なら弾くほどの強力な鱗に守られている。パーパルディア皇国の国旗にも使われている程パーパルディア皇国を()()する生物であり、それがなすすべなく全滅する様はパーパルディア皇国の運命を物語っているようにも見えた。

しかし、それは決して受け入れられない運命であり絶対にあり得ないものだとラーマックは震える自分の心を押し殺して命令を下す。

 

「歩兵を突撃させろ!敵に肉薄し殲滅するのだ!」

「し、しかし!敵は魔導砲を所持しています!しかも我々が持つ魔導砲よりも射程、威力が高い……」

「うるさい!そんな事は見ればわかる!だからこそ肉薄して砲を打てない状況にするのだ!さっさと突撃させろ!」

「は、はっ!」

 

将兵を怒鳴り無理やり命令を伝えさせる。ラーマックのその剣幕にその場の誰もが動くことが出来ずに固まりラーマックの命令が伝えられていく。そして歩兵の突撃が開始されたがその動きは明らかに遅い。目の前でパーパルディア皇国が誇る地竜が瞬殺されたのだから仕方がなかった。今飛び込めばあの砲撃が自分に飛んでくるのはいくら歩兵といえど分かる事であり、その結果全体で動きは異常に鈍かった。

そして、そんなパーパルディア皇国の動きを待つほどシーランド帝国は甘くも、優しくもない。

陣の中央、本陣の前に布陣したシーランド帝国の戦車部隊が前進を開始したのだ。そして両翼も前進を開始し包囲するように動き出した。

 

 

斯くして、後にメロ平野の戦いと言われる()()()()()()()()()()()()として歴史に名を刻む事となる戦いは最終局面を迎えようとしていた。

 



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第三十九話「列強の落日7~つみ~」

うーん、ストックが尽きた。いつ毎日更新が止まっても可笑しくない……


パーパルディア皇国の歩兵たちは広がるように進む(シーランド帝国)の両翼を無視して中央部に位置する敵の本陣めがけて前進する。しかし、先程の強力な魔導砲を目にした歩兵たちは及び腰であり隊毎に前進するスピードが違っていた。その様を見た者の誰もが統率がとれていないと断言できるほど酷い有様だった。

 

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それは両軍の本陣からでも確認できたが、パーパルディア皇国はそれどころではなく進むようにラーマックが怒鳴り、ウィリアムはそんな敵を呆れると同時にこんな屑どもにグィネヴィアは殺されたのかと怒りを募らせていた。

そんなパーパルディア皇国の中央部、最も敵に近づいている部隊を率いているフロウは自ら先頭に立つことで味方を鼓舞していた。

 

「いいか!そろそろ敵の射程圏内に入ると思われる!我らが一番前進しているのだ、砲が集中するだろうが決して退くことは許されない!勝ちたいなら!生き残りたいなら前のみを見て進むのだ!」

 

フロウは地竜の死骸を盾にしつつ前方を見る。シーランド帝国は前衛の鉄の地竜を前進させていた。シーランド帝国も地竜を運用していることに驚いていたが同時に地竜の弱点は理解していた。堅い鱗を持っている地竜だが皇国の最新式のマスケット銃には全く歯が立たない。その為フロウは鉄竜がマスケット銃の射程圏内に入るのを待つ。

 

「いいか!敵の鉄竜はおそらく鉄板を地竜に巻き付けているのだろう!だが!我らの最新式のマスケット銃の前に敵はない!幸い敵の魔導砲は沈黙している!このチャンスを逃す訳にはいかないぞ!」

「「「おおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」」」

 

フロウは味方を鼓舞すると自らも参加するようにマスケット銃を正面に構える。死んだ地竜で下半身を隠しつつ敵の接近を待つ。やがて大きな地響きと共に敵の鉄竜がすがたを現した。鉄竜は何の警戒もしていないのか最大速度でこちらに近づいてくる。その様子を見たフロウは今にその慢心を命を持って気づかせてやるっ!と鉄竜の頭部と思われる鉄の棒が突き出している左側を狙う。

そして十分に引き付けたと感じたフロウは声を張り上げる。

 

「てぇっ!!!」

 

その言葉と共に無数の銃弾が敵の鉄竜にめがけて放たれる。それらは大半が敵の鉄竜に向かっていき、甲高い音と共に弾かれた。

 

「なっ!?」

 

まさか弾かれるとは思わなかったフロウは驚きのあまり目を見開いてしまうが直ぐに次弾の装填を命令する。しかし、フロウはふと敵の方を見る。そこにはこちら側に棒を向けている敵の鉄竜の姿があった。

その時フロウは漸く認識した。自分たちが見慣れたものよりも小さいがまさにあれは魔導砲であった。同時にフロウは銃を投げ捨ててその場に蹲る。

瞬間、敵の鉄竜が火を噴き近くにいた味方の兵士を地竜の死骸ごと吹き飛ばした。それを皮切りに次々と敵の魔導砲が砲撃を始めた。ほかにも銃弾の音も響き渡りフロウの近くの味方兵士は死亡していた。そして遠くの方には逃げようとしている味方の兵士とその背中に銃弾が叩き込まれている姿があった。フロウが恐る恐る地竜の死骸から敵の陣地を見る。そこには両翼を広げ終え逃げ惑う味方の兵士に発砲する姿があった。

 

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「敵は……、我らより強い銃を持っていたのか……」

 

フロウはこちらに向けられている砲を見て自嘲するように力なく笑う。敵の行動に呆れていたが敵との技術的格差を目にした今では戦い方が違っていたことを痛感していた。そしてパーパルディア皇国は今後どうなってしまうのか、生き残ることが出来るのか考えながら、戦車砲によって体は吹き飛びこの世から姿を消した。

 

 

 

メロ平野の戦いと後に言われるこの戦いはパーパルディア皇国の歴史的大敗で幕を閉じた。

前面に展開していた歩兵を叩き潰した戦車部隊はそのまま突き進んだ。更に上空に待機していた戦闘機群も燃料限界まで逃げ惑う敵の掃討を行った。

最終的に敵将ラーマック以下本陣にいた兵は逃げる前に突入してきた戦車部隊によって戦死した。この戦いでパーパルディア皇国の死傷者は9万を超え、生き残りの7割はエストシラントに向かわずに北方へと逃げていき皇都に逃げ戻ったのは僅か二千ほどだった。

既に皇都周辺から徴兵を行った後であり、これらを除けばエストシラントにいる兵は万にも満たない程度しか残っていなかった。シーランド帝国はなおも前進を続けておりシパールケ共和国に対応させるために北上中の軍隊を戻しても間に合わないところまで来ていた。

パーパルディア皇国は再び決断を迫られることとなる。

……しかし、パーパルディア皇国がどう動こうと彼らの負けは決まっており状況はまさに“詰み”と呼べるものだった。

パーパルディア皇国が皇都エストシラントの放棄を決定したのはシーランド帝国の先鋒がエストシラントを視界に収める直前のa.t.s52(皇歴52年)/12/9の事だった。

 





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a.t.s52(皇歴52年)/12/9の地図です


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第四十話「列強の落日8~皇都陥落~」

実家に帰るので正月明けまで投稿を中止します(ストックを貯める意味も兼ねて)。次回の投稿は1月4日月曜日11時50分となります。
それでは皆さんよいお年をお迎えください。


a.t.s52(皇歴52年)/12/9/10:44 パーパルディア皇国皇都エストシラント

「陛下、残念ですが我らに抗う力は残されていません」

 

皇帝ルディアスはそう断言したルパーサを絶望した表情で見る。ルディアスにはメロ平野の戦いでの結末が伝えられている。同時にエストシラントの陥落も近い事も理解していた。

 

「そうか……、世界を征服しようと考えていたがどうやら余は皇国を繁栄に導く英雄ではなく皇国を亡ぼす愚帝として歴史に刻み込まれることになるのだろうな」

「陛下……」

 

ルパーサは憔悴するルディアスを見て涙ぐむ。ルディアスの相談役として長年仕えてきた彼だがこんな姿を一度としてみた事がなかった。それだけ今の状況に追い詰められているという事でありパーパルディア皇国存亡の危機であると言えた。

ルパーサは心の中に決意を固めながらルディアスに進言する。

 

「陛下、皇都エストシラントからお逃げください」

「なっ!?」

 

ルディアスはルパーサの進言に驚く。まさかそんなことを言うとは思っていなかったからだ。しかし、同時にルパーサの進言は妥当にも思えた。それだけ現在のパーパルディア皇国の状況は酷いのだ。東からはシーランド帝国が、北からはシパールケ共和国が迫ってきている。後者は平時なら犠牲は覚悟のうえで倒せる相手であるがシーランド帝国はそうではない。皇国が誇るワイバーンオーバーロードと地竜は全滅し10万もの被害を出した。パーパルディア皇国を支えていたデュロは真っ先に破壊され各国と取引を行っていたヴェヌも陥落した。南東部は既にシーランド帝国の支配下にあり皇都エストシラントに迫っている軍勢を除けば大した進軍はしていないがそれでも十分脅威であることに変わりはない。加えてフェン王国には未だシーランド帝国の軍勢がいる。これらが援軍としてフィルアデス大陸に上陸すればパーパルディア皇国を降すうえでダメ押しとなるだろう。

 

「陛下は今すぐ身の回りの物を持って避難してください。避難先には西方領土の要であるルパースィがよろしいかと」

「……そなたはどうするのだ?」

「私はここに残りシーランド帝国への使者となりましょう。彼の国が話を聞いてくれるかどうか分かりませんがやらないよりはマシでしょうな」

「……すまない」

 

ルディアスの悲痛そうな言葉にルパーサはカラカラと笑う。

 

「何のなんの、このおいぼれの最後のご奉公ですよ。……それと、レミール皇女も残っていただかないといけません。彼女には悪いですがこの状況の元凶として引き渡す必要があるでしょうからな」

「……分かった。あとのことは、頼むぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一時間後、ルディアスは僅かな供回りを連れて西方領土の要であるルパースィに向かった。運河に囲まれた鉄壁の要塞都市でパーパルディア皇国も攻め落とすのに十年近い時間を必要とした都市である。

そして、それに続く形でアルデやエルトといった重要人物たちが一塊にならないように西へと逃げ始めた。そんな彼らをパラディス城から見送るルパーサは人気が一気に減った王の間にて息をつく。これから行う事は皇都エストシラントを危険にさらすことだが既にパーパルディア皇国に逃げ道はない。そんな中で最善の手を打たない限り未来に残るのは皇国人()()()()()()()()記録のみだろう。それだけは避けねばならなかった。

 

「ルパーサ殿、既に陛下がエストシラントを放棄された話は広がっています。一部の住民は逃げようと門兵といざこざが起きています」

 

ルパーサは再び息を吐くと報告してきた男、カイオスに視線を向ける。

 

「逃げたい者は逃がせばよい。既にこの皇都エストシラントは機能していない。この都市の最後の役目はシーランド帝国に引き渡されるという不名誉な事のみだ」

「……シーランド帝国がここまで行った責任は私にもあります」

 

カイオスが思い起こすのはアルタラス王国での外交だ。あの時はパーパルディア皇国を侮辱された事で怒りを露にしたがこうしてシーランド帝国の実力が分かってきた今では彼らは理性的な存在だったのだと漸く気づかされた。それだけではなく自らが指揮する監査軍がフェン王国にてシーランド帝国の皇太子妃を捕らえた事も影響しているだろう。あれがなければまだ交渉の余地はあった。

 

「……シーランド帝国は占領した地域の住民を見境なく殺している。何人かは殺し損ねて占領地域外に逃げた事でこうして判明したが……。シーランド帝国は本気で我らをみなごろしにするつもりだろう。彼らは属領や属国関係なく殺している。それだけ皇太子妃は慕われていたという事か……」

 

ルパーサは思う。ルディアスやレミールといった皇族が殺されてパーパルディア皇国は怒りを露にするだろうか?おそらく皇国人は怒り悲しむだろうが属領や属国の民はいい気味と思うだろう。それだけパーパルディア皇国は嫌われている。

 

「……シーランド帝国は降伏の合図として白旗を掲げる様です。遠くからでもわかるように巨大な白旗を作らせていますが……」

「最悪の場合わかるように白い布を振るしかないだろうな。……ところで、レミール様はどうしている?」

「自らの邸宅に籠っています。兵士に見張らせているので逃げることはないでしょうが……。何やらぶつぶつと呟いているとの事で」

「仕方ないだろう。パーパルディア皇国を滅ぼすきっかけを作ってしまわれたのだから」

 

レミールは自らが犯した行いのせいで精神的に壊れてしまっていた。少しずつ近づいてくるシーランド帝国に怯え過去の自分に何度も恨み言を吐いていた。そこに皇女として威厳ある姿は何処にもなくただ死に怯える一人の女性の姿しかなかった。

 

「レミール様をシーランド帝国に渡さないと彼らとて怒りは収まらないでしょう。……レミール様だけで怒りが収まるのかは分かりませんが」

「それもすべてシーランド帝国次第だ」

 

ルパーサとカイオスがそうやって話していると兵士が慌てた様子で入ってきた。

 

「報告します!エストシラント東北東にてシーランド帝国と思われる人影を発見しました!おそらく一時間もしないうちに襲来すると思われます」

「漸くか。いいか、決してワイバーンロードは飛び立つな。魔導砲もシーランド帝国に向けるな。敵の鉄竜が向かってきたら白い旗、いや布でもいい。とにかく相手に伝わるようにするのだ」

「は、はっ!失礼します!」

 

矢継ぎ早に兵に命令したルパーサは少しづつ感じてくる胃の痛みに顔を歪めながらパーパルディア皇国皇帝ルディアスの相談役としての最後の奉公をするべく王の間を後にした。

 



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第四十一話「列強の落日9~滅びゆく栄光~」

皆さん新年あけましておめでとうございます。今日から投稿を再開していきます。
一週間以上時間が空いたので前までの話を覚えてない人の為に

~フィルアデス大陸編・後編のこれまでのあらすじ~
シーランド帝国はパーパルディア皇国との戦争に突入した。工業都市デュロを更地にして商業都市ヴェヌ(当作品オリジナル都市)にウィリアム率いる50万の軍勢が上陸した。一方でパーパルディア皇国の前身パールネウス共和国時代の人間が建国した国家シパールケ共和国(オリジナル国家)はシーランド帝国の力を見てパーパルディア皇国に宣戦布告して侵攻した。東と来たから攻め込まれたパーパルディア皇国は対処するために合計20万の軍勢を用意し両者に当てるがシーランド帝国に対応した軍は10万のうち9割の損害を出して敗走。これを受けて皇帝ルディアスはルパーサやレミール、カイオスなどを置いて皇都を放棄し西部領へと逃亡した。そして有力者がほぼいなくなったエストシラントにウィリアムが直接率いるシーランド帝国軍10万が襲来し最高指揮官となったルパーサは戦わずに降伏の道を選んだ。しかし、それはシーランド帝国との交渉をするための捨て身とも言える行動だった。



a.t.s52(皇歴52年)/12/10/11:00 パーパルディア皇国皇都エストシラント(シーランド帝国占領中)

「面を上げよ」

 

シーランド帝国皇太子ウィリアムの言葉に従いルパーサ、レミール、カイオスが頭を上げる。彼ら三人は体を拘束された上で数十もの兵に銃口を向けられつつウィリアムと面会していた。……いや、面会というよりは裁判の如き状態だった。

ルパーサは自らの皇帝よりも若い皇太子を見ながら必死に頭を回転させていた。前日にエストシラントはシーランド帝国に降伏し完全に占領された。ルパーサ達残っていた重臣たちは殺されることはなかったがこうして捕縛されていた。隣にいるカイオスはどうあっても自分の命は助からないと思っているためか全てを諦めた表情をしていた。

そんなカイオスとは対照的にレミールは顔を青くさせ絶望とも悲しみともとれる顔でウィリアムを見ていた。

そんな彼らを見下ろすようにルディアスが使用していた玉座に座ったウィリアムは口を開く。

 

「……貴殿たちはパーパルディア皇国の重臣、それも政治の中枢に関わる者たちで良いな?」

「……おっしゃる通りにございます」

「貴殿らの皇帝は逃げたようだが何故逃げなかった?」

「……パーパルディア皇国の使者としてシーランド帝国にお願いを聞いてほしかったためです」

 

ルパーサがそう言うと同時に周囲の兵士たちの怒気が強くなる。ウィリアムの命令一つで彼らは弾が切れるまで銃弾すべてをぶつけるだろう。それだけの怒りを彼らに感じていた。

しかし、ウィリアムは特に反応することなく聞き返す。

 

「……貴殿らに交渉できるほど余裕があるとは思えないが?」

「交渉ではありません。降伏を願いたく」

「ほう?我らが貴様等の降伏を受け入れると、本気で思っているのか?」

「思っては居りません。ですが、ここにいるカイオスは貴国の皇太子妃グィネヴィア様を捕縛する計画を立て、実行しました。その隣レミール様は処刑を実行した者にございます」

「ふん、それで許せと?パーパルディア皇国の存続を許可し何もなかったようにせよと?貴様ら、何様のつもりだ」

 

ウィリアムから段々と怒気が伝わって来る。ルパーサはやはり無理かと思いつつ続ける。

 

「図々しい事は承知しています。ですが我々は皇国人がころされていくのを見ていられるほど図太くはありません。パーパルディア皇国の降伏は受け入れられなくても民の命はどうか……」

「成程、そちらが本命か」

 

ウィリアムはくだらないと切り捨てる。彼にとって皇国人は全て殺すべき対象であり一人とも残さず殺したい者たちだった。二十数年の命の中で初めて感じた心の底からの怒りにウィリアムは振り回され若干暴走していた。

 

「……皇太子様の怒りはごもっともでございます。ですが、どうか民の命をお救いください……」

「……」

 

必死に頭を地面にこすりつけ嘆願するルパーサにウィリアムの怒りが少しだけ下がる。と、同時に様々な事を思考し始める。

ウィリアムとて今は怒りに身を任せているが本来の性格はこんな感じではない。むしろ他国との協調を重んじる人物だった。パーパルディア皇国の一件で怒りのあまり民族浄化という事をしようとしていた。

そこまで考えて漸くウィリアムは怒りを心のうちに抑える事に成功した。そして怒りは感じないが冷ややかな視線をルパーサへと向ける。ルパーサはその瞳を見て全身から血の気がなくなるのを感じた。それだけウィリアムの瞳は冷たく見る者を恐怖させる瞳をしていたのだ。

 

「……確かに、民に罪はないのかもしれないが今まで好き放題してきたのだ。その報いを受けるときが来ただけだ。……だが、貴殿らの勇気に免じて交渉する機会を設けてやろう。ただし、どちらが上で、どちらの意見を尊重するべきか。それは分かるな?」

「も、勿論。です……」

「ルパーサと言ったか?貴殿は開放する。しっかりとお前らの皇帝にシーランド帝国の意志を伝えろ。……勿論、次は皇帝が来てくれるのだろう?亡国となるか、民族ごと消えるかはその交渉で決めてやる」

「……ありがとう、ございます」

 

ルパーサの命を懸けた言葉によりシーランド帝国はパーパルディア皇国との交渉の機会を設けることを正式に認めた。ルパーサと一部の兵のみ開放されルディアスの下へ向かっていった。

そしてシーランド帝国は北上を開始。デュロ以北のパーパルディア皇国東部領土の占領を目的としポーツァを陥落させ北部領土の一部を占領中のシパールケ共和国に対応するためでもあった。

 

 

 

 

 

 

a.t.s52(皇歴52年)/12/10/19:45 シーランド帝国帝都ロンドニウム

「ウィリアムからパーパルディア皇国との交渉の場を設けると連絡が来た」

「何と、意外ですな」

 

キャメロット城の執務室にてライオネスは皇太子ウィリアムから送られてきた連絡を宰相に伝えていた。ウィリアムの怒りを分かっていた二人には今回の件は予想外の出来事だった。二人は怒りに身を任せてパーパルディア皇国を滅ぼすとばかり思っていたからだ。

 

「とは言え勝手にこのような事をさせてよろしいのですか?」

「あいつには出発前に『パーパルディア皇国に関しては好きにしていい』と言ってある。今更反故にするわけにはいくまい」

 

今のウィリアムにはこの命令の方が自由に動けると見越しての許可だったがこうなることに使われるとは思わなかった、とライオネスは楽しげに笑う。高齢の為少しづつ弱ってきているライオネスのこの類の笑みは暫く見ていなかったなと宰相は思いつつ「そうですか」と返した。

 

「どうやら怒りは少し収まったようだな。報告によると実行犯のレミール、計画立案と実行者のカイオスを捕縛したらしい。今はヴェヌに護送しここ(本土)に連れてくる最中のようだ」

「そうなると後はパーパルディア皇国領を完全占領するのみですな」

「だが、シパールケ共和国という国は北部を奪っているようだ。……こういうハイエナ的行動は好きではないのだがな」

「弱肉強食と言ってしまえばそれまでですが少し節操がなさすぎますな。名前の響きからしてパーパルディア皇国と関係があるのでしょうか?」

「詳しくは分からないがなんでもパーパルディア皇国の前身の国の関係者が建国したらしいぞ。第三文明圏ではパーパルディア皇国に次ぐ国力と軍事力との事だ。……パーパルディア皇国に劣る相手なら十分対処可能だろう」

「そうだとよろしいのですが……」

「……何か気になることでもあるのか?」

「いえ、内陸という事はこちらの航空戦力がうまく運用できません。戦闘機は空港が存在しないため沿岸部を除き使用不可能です。戦闘ヘリでワイバーンを相手にするのは危険では?」

「そこに関しては空港の建設を急がせるしかないな。最悪の場合弾道ミサイルでも使用して敵の主要都市を壊滅させればいい」

「そうなれば政治的空白地帯が生まれることになりますが……」

「徒党を組んで対抗されるよりはマシだろう?」

「では、こういうのはどうでしょうか?……」

「ほう、良いな……」

 

二人は話し合う。パーパルディア皇国に対して、シパールケ共和国に対して。シーランド帝国でも一番と二番に権力を持つ二人の話し合いは夜明けまで続くこととなる。

 




パーパルディア皇国戦は一旦ここで終了し次話からはシパールケ共和国戦となりますそのあとはペスタル大陸編を挟んでグラ・バルカス編となります

※投稿再開初日で申し訳ないですがパソコンが壊れてデータがおじゃんになったので暫く投稿出来ません(涙


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第四十二話「列強の落日10~北進~」

お待たせ


a.t.s52(皇歴52年)/12/12/10:00 シパールケ共和国首都ルーパ

シパールケ共和国はパーパルディア皇国に比べればプライドは高くはない。しかし、それはあくまでパーパルディア皇国と比べたらである。ほかの文明圏の国々よりもプライドは高くパーパルディア皇国に関すること以外では自らが主導者とならないと気が済まなかった。

その為シーランド帝国が明らかにシパールケ共和国を意識した北進を始めた際にはシパールケ共和国政府は激怒した。我々が譲歩してやっている(・・・・・)のに一体何が不満なんだ!という声が上がる程でシパールケ共和国はこれに対応するために臨時の会議を開いていた。

 

「シーランド帝国は明らかに我々に向かって侵攻してきている」

 

シパールケ共和国大統領オーガスタは開口一番にそう言った。彼の言葉に参加している議員に怒りの感情が沸きあがる。しかし、オーガスタは手を上げてざわめきが出そうになるのを抑え続きを話す。

 

「まだ攻めてくるとは限らない。もしかしたら我が国の南下を経過して先に北側から落とすつもりなのかもしれない」

「それはないのではないでしょうか?それなら軍を広範囲に展開させるのでは?」

 

オーガスタの希望的観測にすぐさま一人の議員が話す。軍務省で働く議員の為軍事関係に関しては多少知識を持っていた。

その議員の発言はほかの議員のざわめきを呼んだ。「そうだ」と思う者も居れば「いや、こうではないか?」と第三の案を話す者もいた。だが、ここにいる者の共通点としてシーランド帝国と真正面から戦闘を行わないという事があった。

既にこの場の議員はシーランド帝国の力をある程度は把握している。同時に自分たちでは敵わないという事も。

 

「兎に角、シーランド帝国には既に使者を送ってある。上手く行けばパーパルディア皇国の北部は我らの物となるだろう」

 

その後も会議は続いたが使者からの報告待ちで会議は終了した。これ以上の話し合いは結果を聞くまで進めることが出来なかったのだ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

a.t.s52(皇歴52年)/12/13/15:00 パーパルディア皇国中部

皇太子ウィリアム率いるシーランド帝国は北上を続けていた。パーパルディア皇国の聖都パールネウスとカースを支配下に置くと少しの休憩のみを行い北へと向かった。エストシラントまでの道のりの様に虐殺を行っているわけではないため進軍速度はとても早い。それでも大した整備をされていない道を通るためどうしても戦車や機甲部隊などは遅くなってしまっていた。それでもこの世界、特に第三文明圏で見ればその速度は異常ともとれるものだった。

 

「殿下、前方にパーパルディア皇国軍がみえます」

「そうか」

 

部下の報告を聞きウィリアムは前方に視線を向ける。部下の言うとおり薄っすらと軍隊の姿が見えていた。更に近づくとこちらに向けて白旗を振っているのが確認できた。

彼らは侵攻してきたシパールケ共和国に対応するために皇都エストシラントを出陣した軍勢であった。クーズ南部に陣を敷いた彼らはまさにクーズに向けて進軍しようとしたタイミングで皇都より魔信を受けたのだ。結果的にこの地にとどまりシパールケ共和国の対応をシーランド帝国に任せるようにと命令が下りシーランド帝国が到着するまでこの地にて待機していたのだ。そして彼らはシーランド帝国に敵意がない事を知らせるために白旗を振り無抵抗をアピールしていた。

 

「お初にお目にかかります。この軍の指揮を任せられているノーマといいます」

 

パーパルディア皇国軍の将軍はそう言ってウィリアムに頭を下げた。将軍ノーマはパーパルディア皇国では珍しく列強としてのプライドは全く持っていなかった。というのも彼の母親は属領の平民で偶々父親である貴族に見初められて貴族となった経緯があったからだ。母親のせいで跡目になる事は出来ないがノーマはそう言った欲を持っていなかったため今のママが一番だと考えていた。それでも軍の指揮能力は高かったためこうして将軍の地位に就くことが出来ていた。

 

本国(パーパルディア皇国)よりシパールケ共和国への対処はシーランド帝国に任せるようにと言われています。こちらが現在の情報と周辺の地理、シパールケ共和国に関する情報です」

 

ノーマは事前に用意していた資料をシーランド帝国に引き渡した。読みやすいように工夫されたその資料を見たウィリアムはノースへの評価を上げつつ資料に目を通す。

 

「……成程、お前ら(パーパルディア皇国)の同郷という訳か。名前が似ているのもそのせいか」

「その様でございます。とはいえ侵攻してきた以上彼の国は敵となりました。同郷だからといって領土を無償で渡すわけにはいきません」

「パーパルディア皇国が滅びようとも、か?」

「勿論です」

 

ウィリアムの鋭い視線を真正面から受け止めるノーマ。彼の部下は顔を青くしつつ二人の様子を見守る。

……やがて、ウィリアムが視線を逸らしたことでこのにらみ合いは終わりノーマと、その部下は皆一様に安どの息をついた。ウィリアムの怒りを買って全滅だけは避けたかった。

 

「……お前らは西方に行くといい。パーパルディア皇国の皇帝はそちらに行ったそうだからな。あとは任せて消えろ」

 

ウィリアムは冷たい声でそう言うと陣地の掌握を命じて自らもその場を後にするのだった。

 




データ消滅でモチベーションが下がってしまったけど何とか投稿は続けていこうと思っています。最悪でもフィルアデス大陸編は終わらせたい……


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第四十三話「列強の落日11~使者~」

丁度一か月ぶりです。何とか書き上げました。最近は就活も始まって忙しくなってきました(本音言えば働きたくないけど)。次話は何時になるのかは分かりませんが完結に向けて頑張ろうと思います


a.t.s52(皇歴52年)/12/13/14:10 シーランド帝国帝都ロンドニウム

「お初にお目にかかります。シパールケ共和国外交省所属、東部方面外交局局長のミケーレと申します」

 

この日、シーランド帝国の帝都ロンドニウムにてシパールケ共和国の使節団がやってきていた。リーム王国の船舶を借り受けてやってきた彼らは皇帝ライオネスに恭しく挨拶を行った。使節団を束ねているのはミケーレと名乗る男でライオネスの目には“胡散臭い男”というイメージに映っていた。そんなミケーレはライオネスが感じた印象など知る由もなく笑みを浮かべて話し始める。

 

「本来ならいくつか話をして親交を深めたいのですが生憎時間がありませんので単刀直入ですが、我々と同盟を結んでいただきたい」

「ほう?貴国らと同盟を結ぶ事で我らは何を得られるのかな?」

「簡単な話です。戦線の拡大を防げます」

 

ライオネスの挑発的な質問にミケーレはきっぱりとそう告げる。ミケーレの頭には北進するシーランド帝国軍の情報からライオネスへの言葉を決めていた。

 

「貴国はパーパルディア皇国を降す力を持っているのはこれまでの戦況から分かっております。ですがそれと占領、統治は別です。膨れに膨れ上がったパーパルディア皇国の民たちがあなた方の統治に従うと思いますか?そしてこの広大なパーパルディア皇国領を占領しきる国力をあなた方は持っていますか?持っていないですよね?故に我らと同盟を結ぶことにより戦線の拡大は防ぐことが出来且つ我らが北部、貴国が南部を併合する事で占領と統治を行いやすくします」

「……」

「領土の分割はパールネウスやエストシラントをこちらでもらい受けたいですが既に貴国の手によって占領されています。故にここは我らが()()しますのでパールネウスより数キロ以北を我ら、それ以外を貴国シーランド帝国という形でどうでしょうか?」

「話にならないな」

 

自信満々のミケーレの言葉をライオネスは一蹴した。それどころか軽く殺意すら湧き上がっていた。それはこの場にいるシーランド帝国関係者も同じでありその殺意に気付いたシパールケ共和国の使節団が顔を青ざめていた。殺意に気付いていなかったのは素晴らしい提案だと本気で思って説明していたミケーレのみだった。

 

「なっ!よく考えていただきたい!我らはパーパルディア皇国に劣らぬ()()!その我らが文明圏外の中では突出した貴国らにこうして使節団を送り提案()()()()()()()のに何故なのだ!」

「……もし、本気で言っているのならシパールケ共和国は人選を誤ったな。上層部の人間を連れてくれば良いわけではないというのに……」

「ひっ!」

 

そこでようやくミケーレは気づく。ライオネスの瞳に宿る殺意に、今にも殺さんとばかりにこちらをにらみつけてくるシーランド帝国の関係者たちに。ミケーレはその場で腰を抜かし後ずさる。

 

「貴国らの意志はよく、理解した。きちんと精査したうえで返答の使者を送ると伝えると言い。話は以上だ。去れ!」

 

瞬間、ライオネスの怒号と共にミケーレは使節団を置いてその場を逃げ出した。その眼には恐怖の感情が浮かぶと同時に怒りの感情も浮かび上がっていた。

 

 

 

 

 

 

a.t.s52(皇歴52年)/12/15/11:03 パーパルディア皇国ポーツァ(シパールケ共和国占領中)

「共和国第一空中戦闘団準備完了しました!」

 

ヨアン・スマイラスの前には見事な整列を行い彼の指示を待つ共和国きってのエリート部隊がいた。彼ら第一空中戦闘団は共和国の高官や貴族の息子たちによって構成されており団長を務めている人物も侯爵の地位を授かっている貴族だった。彼らは内地においては模範的なエリートだが敵地に入れば別の顔を見せた。

 

「うむ、貴殿らの活躍を期待している。既にクーズは陥落したも同然である!ならば目標はクーズの南に展開するパーパルディア皇国軍だ!……とは言え貴殿らにとっては何時もの事(・・・・・)を行ってほしいだけである。襲撃し、敵を焼き!敵を殺せ!被害を与え我らの恐ろしさを感じさせるのだ!」

「「「「「はっ!」」」」」

 

第一空中戦闘団はいつもの、戦地における虐殺や奇襲という慣れた任務であり皆一様に笑みを浮かべていた。模範的にいる事へのストレスは戦地でこうした攻撃を行わせる事でストレスのはけ口にしていた。第一空中戦闘団には自由な行動が許されており彼らの通った道には何も残らないとして有名だった。時には狩の様に対象をわざと逃がしながら遊んだりワイバーンロードから降りて強姦や略奪などを行うなどしていた。

 

「それでは!貴殿らの成功を祈る!出撃せよ!」

 

スマイラスの指示により第一空中戦闘団総勢500はワイバーンロードに乗り空へと向かっていく。彼らは空中で即座に編隊を組むと南下を開始する。目標は、クーズの南部に展開するパーパルディア皇国軍野営地。

しかし、彼らはまだ知らない。既にシーランド帝国が合流している事に。そのあり得ないくらいの行軍速度は彼らシパールケ共和国の想定を超えていた。

それにより起こる悲劇は、シパールケ共和国の運命を決定づけるには十分な物となったのだった。

 



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第四十四話「列強の落日12~虐殺~」

皆さんお久しぶりです


a.t.s52(皇歴52年)/12/15/12:21 シーランド帝国駐留地

「殿下!北部より此方に向かってくる飛行物体を探知!シパールケ共和国のワイバーンロードと思われます!」

 

この地に布陣していたパーパルディア皇国軍を西に追いやり新たに駐留したシーランド帝国のレーダー網はシパールケ共和国のワイバーンロードの接近を簡単に察知した。その報告は迅速に総司令のウィリアム・ロバーツ・ペンドラゴンに伝えられた。報告を聞いたウィリアムは聞くなり命令を出す。

 

「戦闘機を出せ。殲滅せよ」

「はっ!」

 

既にシパールケ共和国と本国が交渉決裂した事はウィリアム達の耳に届いている。故にシパールケ共和国への攻撃をためらう必要もなかった。

 

ウィリアムの命令を受けてシーランド帝国の戦闘機が迎撃に出る。現在駐留している場所はまだ滑走路の整備が出来ておらず整備が完了したヴェヌより戦闘機が発進していた。まだまだ規模自体は小さい為この時に発進したのは十数機しかいなかったがこの世界においては最強と言えるシーランド帝国の戦闘機であれば充分と言える数字だった。

 

「殿下。ただいま本国より命令が届きました」

「ん?」

 

ウィリアムは部下が持ってきた命令書を読む。そこにはシパールケ共和国を滅ぼすようにという命令とライオネスの宰相の捺印がしてありこれが正式な文書であることを示していた。それだけシパールケ共和国の態度が酷かったという事だった。

 

ライオネスはシパールケ共和国の使節団を追い返してすぐに会議を開き滅ぼすことを決定していた。会議の参加者も反対派特になかったため正式な文書にする方が大変だったという状態になっていた。

 

「パーパルディア皇国に対しては交渉を行い降伏させるそうです。まぁ、降伏しなかった場合は徹底的に滅ぼすとの事ですよ」

「なら我らは直ぐに北上するぞ。確か北にはクーズがあったな?」

「はい。その北にポーツァがあり国境の都市ティルローがあります」

「まずはそこまでを落とす。進撃の準備だ。一部はここの拡張と維持の為に置いていくが残りは全軍でシパールケ共和国を滅ぼす」

「はっ!」

 

こうしてウィリアム率いる軍勢は南下する敵航空団撃滅後に前進する事となった。

 

 

 

 

 

 

a.t.s52(皇歴52年)/12/15/12:41 とある空域

シパールケ共和国の第一空中戦闘団は駐留地までまもなくという所まで来ていた。ここまでの間にワイバーンロードは飛びっぱなしだがそんな様子を一切見せずに飛ぶその姿はまさに精鋭を思い起こさせた。

 

「団員諸君!まもなく駐留地が見えてくるぞ!パーパルディア皇国のワイバーンロードに気を付けろ!」

「ですが団長!もう上がってきてもおかしくないのに全く姿が見えません!何か罠の可能性があるのではないですか?」

「それは無い。ワイバーンロードを落とせるのはワイバーンロードだけだ。世界最強の神星ミリシアル帝国や第二文明圏のムーなら違うのだろうがな」

「という事は敵はワイバーンロードを上げる余力もないという事でしょうか?」

「かもな。シーランド帝国はムーと同じ飛行機械を用いるという。ムーのマリンだったかという飛行機械はワイバーンロードでは相手にならないらしいからな」

 

長年空の覇者だったワイバーンは今ではその地位を大きく落としている。それでも第三文明圏や文明圏外国の間では最強の存在である事に代わりは無かった。

そう、シーランド帝国が現れるまでは。

 

「噂に聞いたが上は飛行機械の開発に着手したらしい」

「飛行機械をですか?」

「ああ、何でもペスタル大陸の……、何て国だったかは分からないがその国が初歩的な技術だが飛行機械製造の技術を提供してくれるらしい。この戦争が終わり次第受け取るという噂だ」

「それならパーパルディア皇国がボロボロの今、我らが第三文明圏で一歩抜き出た勢力になれますね」

「場合によってはフィルアデス大陸の統一も可能だろう。……っと、その前にシーランド帝国を相手にしないといけないがな」

 

団長がそう言った時だった。団長と話していた団員の隣のワイバーンロードが爆発した。続いて団長の隣の今まではなしていた団員も吹き飛ぶ。

突然の事態に団長は一瞬固まるもすぐに命令を出す。

 

「敵襲!全員全方向に気を付けろ!敵は我らを一撃で葬る力を持っている!」

「了解!」

 

団長は周囲を確認する。すると今向かっている南の左、南東部より何かが近づいてくるのが分かった。そしてそれは一瞬ともとれるスピードで近づき団長の後ろのワイバーンロードに命中した。それ以外5騎も一斉にやられ煙の花を空中に咲かせた。

 

「くそっ!」

「団長!これは……!」

「ああ!パーパルディア皇国にこんな力はねぇ!つまり!シーランド帝国の攻撃だ!全騎回避行動を取れ!そして退却だ!」

「で、ですが!」

「こうなった以上駐留地に向かってもまともに攻撃なんて出来ねぇ!これ以上は犠牲を増やすだけだ!」

 

団長がそう命令を下し自身も回避運動に入る。その時に団長は目にした。遠くに見えるパーパルディア皇国の駐留地、今まさに自身が向かっていた場所にはパーパルディア皇国の旗ではなく別の旗が掲げられていた。

団長はそれがなんの旗かは分からなかったがシーランド帝国のものであることは直感で分かった。

 

「(シーランド帝国はここまで早く来れるのか!?不味いぞ……!ポーツァではシーランド帝国はまだずっと南と予想されている!このままでは相手に奇襲を許すことになる……!この報告を届けないと……)」

 

しかし、団長の思いは伝わらなかった。方向転換を完了したと同時にシーランド帝国の戦闘機より発射されたミサイルがぶつかり団長が騎乗するワイバーンロードごと爆死する事となった。そしてその数分後には第一空中戦闘団は空中に爆発の花を咲かせて全滅するのだった。

結果、ポーツァのシパールケ共和国軍はシーランド帝国の行軍状況を知ることはなく奇襲を許す状況になるのだった。

 



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第四十五話「列強の落日13~パーパルディア皇国の終焉~」

取り敢えず先にこっちを片付けて……


a.t.s52(皇歴52年)/12/16/11:02 パーパルディア皇国臨時皇都ルパースィ

皇帝ルディアス以下エストシラントを脱出した高官はパーパルディア皇国の西部にある大都市ルパースィにいた。彼らは各地から逃げてくる関係者を集めながらパーパルディア皇国の再編を行っていた。軍隊に関してもシーランド帝国に追い出されたノーマ将軍率いる軍勢を中心に回復が始まっている。しかし、工業都市デュロと商業都市ヴェヌを失い国土の半分以上を喪失したパーパルディア皇国は平時の4割以下の国力しかもっていなかった。それどころかガシロイ以外の地域では混乱が続いており中には反乱が発生している地域もあった。その為事実上今のパーパルディア皇国が使用できる力は微々たるものでしかなかった。

 

「……」

 

ルパースィの行政府の一角は皇帝の私室として使われているがとうの皇帝ルディアスは生気のない表情で窓から見える景色を眺めていた。

エストシラントに残ったルパーサが戻ってきてシーランド帝国の意志を伝えて以来ルディアスはこの様になっていた。そして、解放される際に渡された通信機によってやり取りを行った結果、今日パーパルディア皇国の終焉が決まった。ルディアスは既に手続きを行っているシーランド帝国の行政官の指示に従い正式な降伏宣言を行い戦争裁判で裁かれる事が決定していた。そして、その内容も既に把握済みだった。

パーパルディア皇国は解体されエストシラントを含む南部とデュロ周辺をシーランド帝国領フィルアデスとして、ヴェヌを含む領土をアーロン・フェニックス・ペンドラゴンを国家元首とするアーロン副王国として、ヴェヌとデュロの間とリーム王国国境部などにウィリアムの兄であるリチャード・ロバーツ・ペンドラゴンを国家元首とするリチャード副王国の建国が決定されている。そして残った土地がフィルアデス連邦となりシーランド帝国の衛星国となる事が決定された。これら一連の出来事にパーパルディア皇国の意見は全く含まれていない。

というのもルディアス以外でも大半の政府関係者の裁判が決定している。フィルアデス連邦で外交担当として採用されているエルトはパーパルディア皇国人ではないという理由から対象外となったノーマなど以外ではリウスやカイオスなどの外務局局長、アルデやバルスなどの軍関係者などが裁判で裁かれる事が決定している。因みに裁判官はライオネスとウィリアムの息がかかった者しかいない為ほぼ処刑が確実となっている。中には強制労働なども考えられているが反乱を起こす可能性があり、大量に労働力があるナイジェリア直轄領などから取り寄せればいい為極力処刑にするように言われている。

特にグィネヴィアの処刑を命令したレミールはむごたらしい死が約束されていた。彼女は現在シーランド帝国の強制収容所におり、移送中はシーランド帝国の臣民による()()()()()を受け、強制収容所では朝から囚人と仲良く(・・・)したり昼には()()()()()で囚人の目を潤し、夜には看守たちによる()()を受けている。彼女の為に本来は違法な行為も皇帝の権限で捻じ曲げられて行われており囚人は絶好の機会を得てやる気を見せていた。心が折れても壊れないように細心の注意を払って行われる()()は死ぬ時までレミールを多いに苦しめる事となる。

 

「陛下。お時間です」

「……分かった」

 

ルパーサの呼びかけにルディアスは力なく答える。パーパルディア皇国の皇帝としての最後の務めを果たせば彼はシーランド帝国の本国に送られ裁判を受ける。そして確実に処刑が行われる未来にルパーサは静かに涙を流すことしか出来なかった。

 

「初めましてルディアス殿。私はフレディ・K・マイソンと申します。パーパルディア皇国解体後はフィルアデス連邦の連邦統括官に就任する予定です」

 

降伏宣言を行う謁見の間にて出迎えたのは三十代の男だった。彼はフィルアデス連邦のトップに就く事が決まっておりルディアスに敬語を使っているが見下している様子がにじみ出ていた。

 

「ルディアス殿は降伏宣言を行った後速やかに本国に送ります。降伏宣言後はただの犯罪者です。そこからは何の権力もないのでご注意ください」

「分かっています」

「よろしい。ではここに立ちこのカメラ……、ああ失礼。貴殿らでは分からないですな。これは遠く離れた場所に映像を送れる機械です。……おっと、貴殿らも持っていましたな。我が国の皇太子妃を殺すのに使っていたからな」

「……」

 

フレディの怒りの籠った言葉にルディアスは何も答えない。負けた以上何を言われても仕方ないと諦めていたのだ。そんな様子のルディアスを見てパーパルディア皇国の者は涙を流しシーランド帝国の者は冷めた目で睨みつけるのみだった。

そして、指定された場所に立ったルディアスはシーランド帝国の用意した原稿を手に持ちパーパルディア皇国の無条件降伏を宣言するのだった。

 

 

 

 

 

 

『……フィルアデス大陸においてこれまではパーパルディア皇国が猛威を振るっていた。しかし、今のパーパルディア皇国は負けフィルアデス大陸をまとめる力はもはやない。故に私はシーランド帝国皇帝ライオネス・ロバーツ・ペンドラゴンの名のもとにフィルアデス連邦の建国を宣言する。そしてフィルアデス大陸を引っ張っていくことになるこの国はこれ以上の大陸の不和を望まない。

故に、現在大陸にて狂犬の如き暴れるシパールケ共和国に対し宣戦布告する事をここに宣言する!

これはフィルアデス連邦の国家元首たる連邦統括官であるフレディ・K・マイソン以下連邦の総意である!連邦の臣民諸君!大陸の安寧の為に力を尽くせ!』

 





【挿絵表示】

世界地図


【挿絵表示】

フィルアデス大陸南部の地図
青:シーランド帝国領フィルアデス
灰色:アーロン副王国
薄灰色:リチャード副王国
薄紫:旧パーパルディア皇国の属国たち

次回からシパールケ共和国にパパっと攻めて滅ぼします


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第4章【フィルアデス大陸南部の統一】
第四十六話「驚愕する文明圏外国家」


a.t.s52(皇歴52年)/12/18/10:05 リーム王国王都ヒルキガ

「何と……!」

 

リーム王国の国王バンクスは宰相からの報告を聞いて顔を青ざめる。報告した宰相も顔は青く体中が震えている。

それもそのはずで二日前に建国されたフィルアデス連邦の情報が今朝漸く届いたからだ。しかし、それはこの場の誰もが信じられない気持ちだった。何せフィルアデス連邦はパーパルディア皇国の領土に建国されたのだから。一部地域で勝手に建国されたのならまだ分かるがパーパルディア皇国を降したうえで建国されたという事に誰もが信じられない思いだった。

とは言えこれは紛れもない事実であり既に第二、第一文明圏にもこの報道は行われており近いうちに世界中を驚愕させる事は違いなかった。

 

「シーランド帝国とは……、そこまで強大なのか……」

 

バンクスはそう呟くと同時に心の中で安堵する。約二週間前に訪れたシパールケ共和国の誘いに乗らないで良かったと。シパールケ共和国は何をしたのかシーランド帝国とも敵対しておりパーパルディア皇国を滅ぼす力を持つ彼の国相手に勝てるとは思えなかった。加えて、共に侵攻していたら自国も攻撃されていたかもしれなかったのである。シーランド帝国を過小評価したおかげで助かったのは皮肉だがバンクスはこれからの行動を考える。

 

「シーランド帝国とは、国交を結ぶべきだ。それも強固な、絶対に敵対してはいけない相手として。それが出来なければ我が国は滅びる……!」

 

バンクスのその言葉に反対する者は誰もいなかった。列強であるパーパルディア皇国をひと月もかからずに滅ぼしたシーランド帝国。リーム王国に取ってはパーパルディア皇国よりも恐ろしい国であり絶対に敵対してはならないと強く誓う事となった。

 

「王よ。直ぐにでも使節団の派遣を行います。場合によってはシーランド帝国を“宗主国”とする事も辞さない覚悟で行います。よろしいですね?」

「構わん。なんとしてもシーランド帝国と敵対しない道を模索するのだ」

 

こうしてリーム王国の属国になる事すら厭わない外交姿勢は結果的に上手く行きリーム王国はフィルアデス連邦で生産される各製品の輸出先として重宝されるようになりそれらの製品でリーム王国の軍事力は少しづつ増大していくこととなる。

 

 

 

 

 

a.t.s52(皇歴52年)/12/17/??:?? クワトイネ公国公都クワトイネ

一方のクワトイネではシーランド帝国の快進撃に胸をなで下ろしていた。明確にシーランド帝国側にいるクワトイネは(可能性は低いとはいえ)シーランド帝国が負ければ共に滅ぼされる可能性があったからだ。

首相であるカナタ以下政府首脳部の顔色は良かった。

更に、シーランド帝国からの依頼がありクワトイネの幸運は続く事となる。

 

「食料を、ですか?」

「ええ、その通りです。現在、フィルアデス連邦では穀倉地帯が戦場となっており近いうちに飢餓が発生すると思われます。その為、食料自給率の高い貴国に食料を提供してほしいのです」

 

突然やってきたシーランド帝国の外交官の言葉にカナタは困惑するが直ぐに納得した。今までクワトイネの土壌には興味を示していたがそれ以上の事はしてこなかったシーランド帝国がいきなり何なんだと思ったが新たな領土であるフィルアデス連邦関連なら話は別だ。彼の国は人口も多く穀倉地帯がやられた以上食料が必要なのだろうとカナタは考えていたが実際は少し違う。

パーパルディア皇国は第三次産業に集中しており第一次、第二次産業は全て属領に任せていた。しかし、穀倉地帯である北部はシパールケ共和国軍が居りシーランド帝国が侵攻するまで占領される事となる。必然的に戦場となり貴重な穀倉地帯が焼け野原となる可能性があるしシパールケ共和国軍のせいでそうなっている場所もあったのである。

 

「分かりました。直ぐにでも準備を行いましょう。どれほど必要ですか?」

「取り敢えずこれだけを早急に、自給率が回復するまではこのくらいを……」

 

そう言って提示してきた量はクワトイネ公国が十分提供できる量でありむしろまだまだ余裕が残っていたくらいだ。カナタはこれでシーランド帝国と交流が深まればいいがと思いつつ外交官からの提案を受けるのだった。

 

 

 

 

 

a.t.s52(皇歴52年)/12/17/??:?? アルタラス王国王都ル・ブリアス

「彼の国の寿命は短ったですね……」

 

ルミエスは設置されたテレビから流れてくる放送を見てそう呟いた。テレビには連邦統括官に就任したフレディ・K・マイソンの姿がありフィルアデス連邦の建国を宣言していた。そしてそのまま連邦の行政や司法についての大まかな説明を行っている。

一度は占領された王国を取り戻してから約二週間。ルミエスとその夫であるアーロンはずっとアルタラス王国の復興に動いておりシーランド帝国軍よりパーパルディア皇国滅亡の話を聞くまで全く知らなかったのである。

しかし同時に多少の同情もあった。彼の国は領土拡張によって国家を維持してきた国である。それをやめれば国家として破綻する為彼らは無謀だろうと戦い続けなければいけなかった。その結果がこれ(滅亡)であった。

 

「ルミエス、大丈夫か?」

 

ふと、アーロンの手がルミエスの手を包み込む。ここで初めてルミエスは自分が震えていた事に気付く。そして、何故震えているかも理解し涙があふれてくる。アーロンは何も言わずにルミエスを抱き寄せるとそのまま彼女が泣き止むまで抱きしめ続けた。

父との唐突な別れから祖国の滅亡。そこから奪還、復興と忙しく動き続けていたルミエスはここに来て父の死を現実に感じ涙を流したのだ。

 

「ご、ごめな。さい……」

「いいんだ。今は泣くといい。次に涙を流せるときが何時になるか分からないのだから」

 

王女であるルミエスには自分の時間が少ない。その為こうして震わして涙を流す事など次に何時出来るか分からなかった。

ルミエスはアーロンの言葉に甘え父の死を涙を流しながら悲しむのだった。

 



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第四十七話「前進」

あまり出来は良くないですが47話になります


a.t.s52(皇歴52年)/12/18/5:00 シーランド帝国駐留地

この日、シーランド帝国は日も昇りきらないうちに軍勢を進めていた。暗視装置を付けて進む彼らの表情は真剣そのものでこれから滅ぼす敵への慢心は一切見られなかった。そんな彼らが向かう先はシパールケ共和国が占領しているクーズである。彼らに先行して戦闘機部隊が向かっており途中ですれ違い、攻撃が終わると同時に陸軍が到着する計算であった。

クーズを開放すればポーツァ、ティルローと開放していきシパールケ共和国内に雪崩れ込む予定である。彼らがこれまでいた駐留地は急ピッチで整備が行われ戦闘機の離着陸が出来るようにする予定でありヴェヌから様々な重機が向かってきていた。

 

「殿下。我らは後衛と共に出発します。そろそろ戦闘指揮車に……」

「ああ、分かっている」

 

この軍の総司令を務めるウィリアムは暗闇で何も見えない中、クーズの方角を見ていたが部下の言葉に従いその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

a.t.s52(皇歴52年)/12/18/13:00 シパールケ共和国首都ルーパ

「一体どういう事だ!?」

「あり得ない……」

 

首都で開かれている臨時会議は紛糾していた。シーランド帝国の同盟の拒否とフィルアデス連邦の建国と宣戦布告。彼らにとってみれば寝耳に水な状況であった。そもそもなぜシーランド帝国がこちらの要求を断ったのかさえ分かっておらずただただ困惑していた中で今回の事である。

 

「大統領!このままではシーランド帝国とまともに戦う事になります!勝てるのでしょうな!?」

「勿論だ。我らはパーパルディア皇国すら降せる大国だぞ」

 

大統領のオーガスタは堂々と言ったがパーパルディア皇国を降伏させたのはシーランド帝国でありシパールケ共和国がやった事はハイエナの様な不快感を示す行いである。それを分かっているのかそれとも本気で分かっていないのかは今の彼からは読み取れない。

オーガスタは続けて言う。

 

「クーズは占領済みであり街も把握済みだ十分に防衛は可能でありそうなれば戦線が伸び切っているシーランド帝国は満足な補給を行えずに干上がるだろう」

「だが、フィルアデス連邦が支援をしたら……!」

「それはない。シーランド帝国の技術はパーパルディア皇国より進んでいる。劣化品では満足しないだろうしそれ以外、食料などはクーズを中心とした北部に集中している。防衛が成功すればシーランド帝国は穀倉地帯を喪失する事になる」

「確かにそれなら……」

 

オーガスタの堂々とした態度に次第に議員たちも納得していく。彼らとて自分たちが負けるとは思っていない為心配さえ取り除かれれば納得するのは速かった。

その後も臨時会議は続いていくがシーランド帝国に対する対応は夢想に等しい内容ばかりであったが議員たちはそうなると信じて行動していく。それが自分たちの破滅に繋がるとも思わずに。

 

 

 

 

 

a.t.s52(皇歴52年)/12/18/14:3 0 フィルアデス連邦クーズ(シパールケ共和国占領中)

楽観的なシパールケ共和国だったが現場の兵士はそうではなかった。何しろ精鋭である第一空中戦闘団が全滅したのだから。通信が届かない上に時間を過ぎても誰一人戻ってこなかったのだから。

上空を南に向けて飛ぶ彼らを見送ったクーズ占領中の兵士は南からやって来るであろうシーランド帝国軍に怯えていた。

 

「な、なぁ。シーランド帝国はかなり強いって本当なのか?」

「ああ、どうやらそうらしいぞ」

 

クーズの大通りから外れた場所で三人の兵士が話し合っていた。彼らはシパールケ共和国の兵士であり見回りの最中であった。

 

「パーパルディア皇国を降伏させたらしいし次は俺たちを攻撃してくるようだ」

「そ、そうなるとここ(クーズ)は危なくないか?」

「だけど逃げたら脱走兵になってそれこそ“死”が待っているぞ?」

「逃げてもたちむかっても死なのかよ……」

「……お前らは馬鹿か?」

 

弱気な同僚を見て黙って聞いていた兵が良かったような口調で言った。彼はシパールケ共和国への愛国心にあふれた人物で気弱な二人とは違い本気でシパールケ共和国の勝利を信じて疑っていなかった。

 

「俺たちが負けるわけないだろ」

「で、でも空中戦闘団が変える所を見てないぞ?」

「当たり前だろ。さっさと攻撃すれば帰るだろうが同じルートを飛ぶとは限らないだろう?敵のワイバーン次第で遠くで戦う事になるだろうしな」

「そうか?」

「ああ、だから俺たちはいつかやって来るだろうシーランド帝国相手に勝てばいいのさ」

「本当に倒せるのか?」

「当たり前だろ?俺たちは最強のシパールケ共和国軍だぜ!誰が来ようと返り討ちさ」

 

自信満々に兵士がそう言った時であった。彼らの近くに何が突っ込んできて大爆発を引き起こした。同様の現象はクーズのいたるところで起きておりその内の一つ、シパールケ共和国軍の司令所は完全に破壊されていた。

そんなクーズの上空を轟音を出しながら素早く飛ぶ、鉄竜。シーランド帝国の戦闘機部隊の姿があった。彼らはミサイルを放つと逃げ惑う人間に向けて銃撃を行っていく。空中戦用の弾薬のみを残して撃ち尽くした彼らは煙を上げるクーズから颯爽と去っていくのだった。そんな彼らに攻撃をする者は、誰もいなかった。

 



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第四十八話「絶望」

ちょっと短いです。そして駆け足気味。さっさと終わらせてグラ・バルカス編に行きたい……


「うっ、一体何が……」

 

先ほどまでシパールケ共和国の勝利を疑っていなかった兵士は朦朧とする意識の中体を起こした。耳なりが兵士の感覚を狂わし目はぼやけて焦点が合わなかった。それでも素早く自身の体を触って怪我の有無を確認する。幸い、怪我はなく出血している感触もなかった。

暫くその場に座っていると漸く耳鳴りは収まり視界が戻って来る。そして、周囲が見えるようになった兵士は絶句した。

先ほどまで喋っていた同僚“だったモノ”が周囲に飛び散っており原型はまともに残っていない。もはやただの肉片と化した二人の同僚に何が起きたのかは分からないが自分が運よく助かった事だけは理解できた。肉片の先には大きな穴が開いておりそこで大きな爆発が起きた事が分かる。

建物は崩れおち廃墟と化しておりそれが延々と続いている。クーズの街並みは僅かな間に大きく変貌していた。

 

「どう、なっているんだ……」

 

兵士は茫然としつつ立ち上がり歩き始める。生き残った人々が必死に救助や瓦礫の撤去をしているが全員ボロボロであり命からがら助かった事を伺わせた。

兵士は茫然としていたが自然と司令部のある方向に向かっていた。無傷な建物の方が少ない街の中をゆっくりと歩きながら向かうと、他の建物とは違い僅かな瓦礫しか残っていない司令部にたどり着いた。同じように考えたらしい兵士が茫然としており中には絶望のあまり崩れ落ちている兵士もいた。

 

「これが、シーランド帝国の力なのか……」

 

自分たちをこんな風にする相手は現状一つしか思いつかない。しかし、そんな事は信じられなかった。兵士はシパールケ共和国が勝つと信じており、膝を付き頭を下げて許しを請う敵の皇太子の姿を笑ってやろうと、そんな事を考えていた。

しかし実際はこうして自分たちがボロボロにされていた。あまりにも強大過ぎる敵に兵士は足元が崩れてなくなる感触を感じる。自分が信じていた事が実際はそうでもなかったという事。自分たちを簡単に殺せる国が今まさに向かってきている事。それは兵士の心を折るには充分すぎる出来事であった。

 

「シーランド帝国軍だ!」

 

何処からか聞こえてきたその声に兵士は振り向く。そこには煙を上げながらゆっくりとこちらに向かってくる敵兵の姿があった。空からの攻撃の後の陸での攻撃。これほど合理的なことはないな、と兵士は何処か現実逃避気味に思った。そして自分たちに抗う力が残されていない事が分かり兵士は持っていた銃を無意識のうちに落としていた。

 

 

 

 

数分後、クーズへの攻撃が開始された。市民への発砲すら厭わないシーランド帝国軍の攻撃は指揮者がいない上にボロボロのシパールケ共和国軍を圧倒。僅かな抵抗を退けた彼らはクーズの占領に成功した。心が折れた兵士以外は皆殺しに遭い、残った兵は縛られて後方に送られていった。

シーランド帝国軍は補給を素早く済ませると更に北上しポーツァへの攻撃を始める。機動戦を受けたシパールケ共和国軍はまともな抵抗も出来ずに敗走。要所であるブラーナ峠にたてこもりシーランド帝国軍を迎え撃つ体制を整えた。

しかし、シーランド帝国軍は兵の休息と後方からの補給を待つために一旦停止しポーツァとクーズの占領統治を開始するのだった。

両軍が攻撃を開始したのはそれから三日後の12月21日であった。

 

 

 

 

 

a.t.s52(皇歴52年)/12/21/15:23 ブラーナ峠

「脆いな」

 

ウィリアムはシパールケ共和国軍の兵士の死体が転がる峠を見てそう言った。シパールケ共和国軍がここから先には通さないという覚悟で挑んだ決戦は僅か3時間で終了した。

第一段階として空軍による空からの攻撃。第二段階に戦車砲や野砲によるロングレンジ攻撃。第三段階で歩兵による接近戦闘だったが第二段階の時点で生き残ったシパールケ共和国軍は撤退を始めており歩兵が前進する時には生きている敵兵の姿はなかった。

伏兵に気を付けつつ周辺地域の安全を確保し終えたのが数分前の事でウィリアムは安全となったブラーナ峠を渡ろうとしていたのである。

 

「パーパルディア皇国より少し劣る程度の奴らだ。こうなる事は予想していたが……」

 

三日も間をおいての決戦だったにも関わらず呆気なく潰れた敵にウィリアムはため息をつく。せめてもう少し粘って欲しかったと感じながら彼はブラーナ峠を抜け山道を下っていくのだった。

 



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第四十九話「クリスマスの前に」

a.t.s52(皇歴52年)/12/22/12:23 フィルアデス連邦クーズ

クーズはシーランド帝国の空軍により破壊されシパールケ共和国の兵士以外の一般人にも多数の犠牲者を出していた。しかし、彼らはパーパルディア皇国やシパールケ共和国と次々と国が変わっていく中でシーランド帝国の占領統治下に置かれた。正確にはフィルアデス連邦の領土だが連邦政府は未だまともに機能しているとは言えず連邦首都となったルパースィがある西部領土しか掌握出来ていなかった。

それでもクーズの人たちの表情は明るい。自分たちを虐げて来たパーパルディア皇国がすさまじい速度で滅亡し自分たちの街を占領していたシパールケ共和国も消えた。シーランド帝国がどのような統治をするのか分からないが今までよりはマシだと感じていたのだ。

それは炭鉱夫だったハキも同じである。彼はクーズ王国の騎士の息子だったがクーズ王国滅亡後は炭鉱夫となっていた。そんな彼はパーパルディア皇国滅亡に伴う混乱で臣民統治機構の統制が崩れた隙をつきクーズに戻ってきていた。彼の目には破壊されたクーズが映っているが他の人と同様に表情は明るかった。

彼は明るい未来を想像しながら瓦礫の撤去を行っている市民たちの手伝いをするのだった。

 

 

 

 

 

 

a.t.s52(皇歴52年)/12/23/10:23 フィルアデス連邦首都ルパースィ

元パーパルディア皇国第1外務局局長エルトは二徹でくらくらする頭を必死に動かしながら書類整理を行っていく。パーパルディア皇国皇帝ルディアスを始め主要な幹部は牢に入れられて処罰を待っていたがエルト以下一部の人間はフィルアデス連邦でそれなりの役職を与えられ働かされていた。というのもフィルアデス連邦は建国から数日しか経っていない為人不足が激しく仕方なくパーパルディア皇国の人間を使う事になっていた。

しかし、それでも人不足は解消されずエルト達は寝る間もない程働いていた。

 

「これなら、陛下たちの方がマシかもしれない……」

 

処刑が決まっているとは言えそれまでは牢に入れられているだけのルディアス達をエルトは羨む。普通なら死ぬ人間を羨んだりしないがエルトはそれだけ頭が正常ではない上に大変な仕事をしていたのだ。

 

「エルト様……。首都の改名に関する書類に、サインを……」

「分かった。そこに置いていてくれ……」

「いえ、大至急と言われておりまして……」

「分かった……」

 

エルトは同じようにボロボロの部下(勿論パーパルディア皇国人)から書類を受け取ると目を通していく。簡潔に言えばルパースィはニューイングランドという名前に変更されるという事でルパースィという名前を使用する事を禁ずるというものだった。

それを見たエルトの表情は消えた。何せ今さっきまでサインをした書類の半分はルパースィの名前が使われていたのだから。そして引き延ばそうにも大至急と言われている為サインをしない訳にはいかない。

 

「これが、敗戦国の末路か……」

 

エルトは崩れ落ちそうになる体を無理やり動かしサインをすると先ほどまで片付けた書類をもう一度最初から確認していくのだった。

 

因みに、この日も徹夜をしたエルトはクリスマスイブという事で休息する事を許可されると体の汚れを落とす事も忘れて眠りにつき一時の英気を養うのだった。

 

 

 

 

 

a.t.s52(皇歴52年)/12/23/10:14 フィルアデス連邦首都ルパースィ

エルト達が死にそうになりながら書類整理をしている中、別の部屋では連邦統括官フレディ・K・マイソンがシーランド帝国から連れて来た部下と話し合っていた。

 

「殿下はブラーナ峠に展開していた敵軍を壊滅させたらしい」

「それならシパールケ共和国が占領している領土の全土奪還も近いですね」

「ああ、そこで殿下はクリスマス中に大攻勢を仕掛けるようだ」

「クリスマスにですか?もう少し後でもいいでしょうに」

「さっさと敵首都を落として降伏に追い込みたいらしい。殿下としてはレミールへの処刑方法を色々と考えたいらしくてな」

 

パーパルディア皇国の殲滅から方針転換したウィリアムだが心の中で溢れる怒りを収めたわけではない。彼は愛する人を殺したパーパルディア皇国や張本人であるレミールに対して激怒しておりさっさとシパールケ共和国を滅ぼして敵討ちをしたいと思っていた。

エルト達を用いながらも忙殺させている理由の一つでもありフレディは近いうちに皇帝となるウィリアムに取り入ろうと考えていた。その為、パーパルディア皇国人を酷使しレミールは死なない程度に弱らせておりいずれ報告できる際に喜んでもらえる準備を行っていた。

 

「ウィリアム殿下を“陛下”と呼ぶ日は近い。この世界に転移してから元気になったライオネス陛下だが何時倒れても可笑しくない。後継者への引き付ぎが迅速に行える環境にしておく必要はあるだろう」

「我々ももっと努力しないといけないですな」

「そうだ。ウィリアム殿下は怒りで過激になっているが元々穏健派の人物だった。どのような方針をとっても可笑しくはない。それこそ、シーランド帝国の歴史を真っ向から否定するような事をしてもな」

 

フレディは世界を支配するシーランド帝国を目指している。その際にウィリアム殿下がそれを否定する際にはパーパルディア皇国の件を持ちだしてそれを阻止できるように様々な準備とコネクションの作成を進めていくのだった。

 



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第五十話「クリスマス大攻勢」

a.t.s52(皇歴52年)/12/24/9:00 フィルアデス連邦ティルロー(シパールケ共和国占領中)

シーランド帝国はイギリスを滅ぼし誕生した国家であるがイギリスから引き継いだものは多い。クリスマスもその一つでこの日、シーランド帝国本土では明日のクリスマスに向けて様々な準備が進められていた。隣のフィルアデス大陸では今も戦争が行われているが二代目皇帝ライオネス・ロバーツ・ペンドラゴンがずっと拡大政策を続けてきた為彼らにとっては戦争は日常の一部となりつつあった。

そんな本土ではお祝いムードとなっている中ティルローでは熾烈な攻撃が行われていた。シパールケ共和国が攻めてくるとは思っていなかったパーパルディア皇国だがそれでも国境都市らしく城壁に囲まれた立派な都市だがそんなものは現代兵器の前には無意味である。戦車砲や野砲が容赦なく火を噴き城壁を飛び越えて都市にあたったり城壁にぶち当たりまるで脆いかのように呆気なく破壊していく。

比較的距離があるため歩兵による銃撃は行われていないがそれが必要ないくらいの攻撃が行われている。決戦で主力を失ったシパールケ共和国軍はこの都市に逃げ込み英気を養っていたが結局シーランド帝国の攻撃の餌食となっていた。

 

「スマイラス閣下!こちらです!」

 

攻撃は司令部にも届き軍の総司令官であるスマイラスは部下の手引きで地下通路を通って逃げ出そうとしていた。スマイラスの表情は硬く汗を流しながら必至に進んでいる。ブラーナ峠でどんどん減っていく自軍を見て以来シーランド帝国への評価を改めた彼だが時すでに遅しであった。

ブラーナ峠に展開した軍はほぼ全滅し生き残った兵も今まさに行われている攻勢でその数をさらに減らしている。もしかしたら生き残っているシパールケ共和国軍はここにいる者のみなのかもしれない。そんな思いがスマイラスの心を支配していく。

地上で爆発が起きるたびに石のかけらや砂がパラパラと落ちてくる。そこまで頑丈な作りではないこの地下通路の真上に敵の攻撃が着弾すれば崩落する可能性もあった。しかし、ティルロー全体を更地にする勢いで攻撃されている地上よりはマシであった。

 

「ぐっ!」

 

と、懸念が現実となりスマイラスの後方が崩れ落ちる。スマイラスより後ろにいた兵は皆下敷きになるか道を分断された。一気に護衛の兵は半分となったが15万もの兵を失っている為今更であった。スマイラスは焦りを抱えつつ地下通路を進む。

結果的にスマイラス達は地下通路を無事渡りきりティルローから逃げる事に成功した。しかし、この時にはついてきた兵は数名程にまで減ってしまった上にそれ以外の兵の大多数は全滅するのだった。ティルローを消滅させたシーランド帝国は更地と化したティルローを進みシパールケ共和国へ雪崩こんだ。更にヴェヌ上陸後にデュロに向かった別働隊も数日遅れでシパールケ共和国に入った。両軍は首都ルーパへと向けて前進するのだった。

 

 

 

 

 

 

a.t.s52(皇歴52年)/12/22/??:?? ムー

ムーに取ってパーパルディア皇国の滅亡とフィルアデス連邦の建国は驚愕に値する出来事であった。というよりもパーパルディア皇国にいる駐在大使ムーゲと連絡が取れていなかった理由が漸く判明した。ムーはシーランド帝国に関しては名前のみ知っていたがグラ・バルカス帝国の方に注視していた為第三文明圏で起きている事に関しては全く知らなかったのである。

そして、パーパルディア皇国人ではないと分かったらしくムーゲから連絡が入りシーランド帝国の事を詳しく知る事が出来、軽く絶望した。何せシーランド帝国のやっている事はパーパルディア皇国と、引いてはグラ・バルカス帝国と変わりないのだから。精々の違いが友好国が存在する事だがパーパルディア皇国をひと月もかからずに降伏させている事から強力な軍事力を持っているのは確定的であった。

 

「敵対したら、ムーは東西から殺される」

 

ムー上層部の人間の思いは一つにまとまった。彼らは急遽ムーゲを仲介としてシーランド帝国とコンタクトを取る事に成功した。ムー上層部は使節団の派遣を決定しシーランド帝国に向けて出発させるのだった。

 

 

 

a.t.s52(皇歴52年)/12/25/12:00 シーランド帝国帝都ロンドニウム

「ムーか。まさかおとぎの国が存在しているとはな」

「私も驚きました」

 

ライオネスは少し痩せた体を玉座に深々と預け宰相と話し合っていた。内容はムーについてであり今まさに使節団が向かってきているという。

使節団はアルタラス王国に駐留している艦隊が迎えに行きそこからアルタラス王国まで引き返しジャンボジェット機で帝都に来る予定である。アルタラス王国の空港はムーが設置したルバイル空港があったが上陸前の爆撃で完全に破壊されていたがその後に突貫工事で滑走路が完成していた。今はシパールケ共和国に爆撃を行うための爆撃機隊が集まっており数時間もしないうちにフィルアデス大陸に向けて旅立つ予定である。運が良ければ使節団は爆撃機隊を見る事が出来るかもしれなかった。

 

「ムーの技術はどの程度のなのだ?」

「詳しくは分かりませんが少なくとも機械化には成功している様ですしパーパルディア皇国で作られたオーバーロードはムーの最新鋭機に触発されて作ったようなのでオーバーロードと同等の能力を持つ飛行機械を運用できていると考えるべきでしょう」

「……危険だな」

「はい。私もそう思います」

 

ムーがいずれシーランド帝国の様な技術力を持つ可能性があった。そうなればシーランド帝国はこれまで以上に警戒して動く必要が出てくる。かつての世界のように……。

ライオネス含めシーランド帝国の上層部の大半はそうなる事を望んでおらずシーランド帝国を世界の覇者にしたかったのだ。

 



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第五十一話「無条件降伏」

大分大雑把ですがさっさと終わらせます


a.t.s52(皇歴52年)/12/25/21:00 フィルアデス大陸中央付近

シーランド帝国でクリスマスが楽しまれている中、爆撃機隊はまともに祝う事もせずに空の人となっていた。とは言え彼らは爆撃を追えれば一日遅れのクリスマスを仲間たちと楽しむ予定であるため悲壮感はない。むしろ自分たちの攻撃がシーランド帝国の勝利を決定づけると思えば興奮すらしていた。

 

「全機に告げる!まもなく爆撃予定地点だ!」

 

爆撃機隊を率いる隊長が通信でそう言った。シパールケ共和国を含む大半の国は魔力を用いた通信の為無線封鎖を行う必要がなかった。その為こうして堂々と使っていた。流石に私語は許されていないが。

 

「よし!爆弾倉を開け!」

 

隊長の指示に従い胴体の下部分が開き大量の爆弾が姿を見せる。そして、

 

「投下!」

 

隊長の言葉と共に爆弾が投下される。空気を切る独特な音を奏でながら爆弾は自由落下で落ちていく。落ちる先にあるシパールケ共和国の都市の住民は独特な音に不思議がっているが爆弾が地面と接触して爆発を起こすと一気に大混乱を引き起こした。しかし、彼らが逃げる事は許されていない。十数もの爆撃機が都市から離れた場所にまで落としていくため彼らは落ちてくる爆弾の爆発によって吹き飛ばされていくのだった。

 

これらの出来事はシパールケ共和国の各地で起こり首都ルーパを除く主要都市はこの一夜の間に壊滅するのだった。

夜という事でワイバーンでの迎撃が出来なかった彼らはシーランド帝国の常識外れの戦術に驚愕すると同時に恐怖する事となる。

 

 

 

 

a.t.s52(皇歴52年)/12/26/16:00 シパールケ共和国首都ルパースィ

この日、会議に出席した者達の表情は暗かった。首都を除く主要都市の壊滅にパーパルディア皇国侵攻部隊の全滅。更にそれらを軽く超えるシーランド帝国軍がシパールケ共和国内を侵攻しているのである。首都への到着は間近でありそうなれば首都は攻撃を受け壊滅するだろう。シパールケ共和国は首都の陥落と同時に滅亡するという事は確定的であった。

 

「なぜ、このような事に……」

「だ、大統領!貴方がパーパルディア皇国に侵攻するなど言いださなければ!」

「その通りだ!シーランド帝国は我らと手を結ぶどころか攻撃してきている!」

「補給切れする様子もないではないか!何時になったらシーランド帝国の攻撃は終わるのだ!」

 

口々にオーガスタを攻める議員たちに彼は目を閉じ腕を組んだまま黙っている。次々と飛んでくる罵声もオーガスタがなんの反応も見せない為段々と止んでいき最終的に誰もが黙ってオーガスタを睨みつけるように見ている。

罵声が止んだのを確認したようにオーガスタは目を開けた。

 

「……我らはシーランド帝国を侮っていた。それだけだ」

「“それだけ”だと!?どう責任を取るつもりだ!」

「このままではパーパルディア皇国のように滅びてしまうぞ!」

「今更過ぎるであろう。そもそもパーパルディア皇国領から手を退けばこうはならなかったであろうな」

「オーガスタ!貴様何を他人事のように……!」

「兎に角」

 

オーガスタは憤る議員たちを遮るように手を上げた。全員が黙ったのを確認したオーガスタは話を続ける。

 

「我らに残された道は降伏か、滅亡か、だ。ならば我らが取る方法は一つだ」

「まさか降伏するというのか!?そんな事は認めないぞ!」

「何かまだ手はあるはずだ」

 

オーガスタの言葉に反対するように議員たちはそう言うがオーガスタは冷めた目で彼らを見ると手を叩いた。すると兵士が雪崩れ込んできて武器を議員たちに向ける。

 

「な、何の真似だ!?」

「シパールケ共和国はシーランド帝国に対し無条件降伏を行います。私含めあなた方も極刑となるでしょうが仕方ないですね」

「馬鹿な……!」

 

オーガスタの強固な行動によりシパールケ共和国は無条件降伏を行った。大統領オーガスタ以下議員たちは全員拘束された。

シパールケ共和国はフィルアデス連邦に併合される事が決定されシパールケ共和国がここに完全に滅びる事となるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「これで良い」

 

オーガスタは抵抗する事無くシーランド帝国の兵士に拘束されていく。周りには青ざめた議員たちが同じように縛られており中には抵抗して射殺されている者もいた。

オーガスタはシパールケ共和国建国以前にあった国の貴族の家系で代々シパールケ共和国への恨みを忘れる事無く受け継いできた。オーガスタはシパールケ共和国の内部から取り壊す事を考え大統領になると周辺諸国への侵略を始めた。そして、シパールケ共和国が孤立無援となりいずれ列強辺りに滅ぼされる事を考えていたがシーランド帝国の力を知った彼はその力を利用する事とした。

彼自身ここまで上手く行くとは思っていなかったがシパールケ共和国が滅びる事は確定した。彼は人知れず笑みを浮かべるのだった。

 




展開が早い?ぶっちゃけシパールケ共和国との戦争を描くのが辛くなってたからさっさと終わらせたかったのです


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第五十二話「新年」

a.t.s53(皇歴53年)/1/1/10:00 シーランド帝国帝都ロンドニウム

ロンドニウムで公務員をしている男は新年を迎えると同時に嬉しい報告を聞いていた。

 

『先ほどライオネス陛下がシパールケ共和国の完全征服を宣言なされました。これによりシパールケ共和国全土の掌握が完了しフィルアデス連邦への併合が完了しました。パーパルディア皇国による卑劣なる行いから始まったこの戦争は約ひと月に渡り行われ皇太子妃グィネヴィア様以下尊い犠牲を出しました。しかし、その様な行いをした者は全て捕縛され半月後に開かれる戦争裁判にて厳しい判決が下されます。皇太子ウィリアム様は6日にロンドニウムに帰還予定で滞在するムーの使節団と挨拶を行う事となっており……』

 

戦争が日常化したシーランド帝国では戦勝の報告は祝い事であった。年明けという事もあり町は大盛り上がりとなるだろう。

男も愛する妻と娘と共に長い休暇を旅行で過ごす予定であり祖国の戦勝を祝いつつ旅行という事ではしゃぐ娘の下に向かうのだった。

 

 

 

 

 

a.t.s53(皇歴53年)/1/1/10:09 シーランド帝国帝都ロンドニウム

「まさかパーパルディア皇国どころかシパールケ共和国にすら短期間で勝ってしまうとは……」

 

ムーの技術士官マイラスはあてがわれたホテルの一室でテレビから流れる放送を聞いて乾いた笑い声をあげた。昨日到着した彼らはロンドニウムを見て驚くと同時に大暴れをするシーランド帝国の帝都にふさわしいと感じていた。彼らはロンドニウムの歴史を聞き長い歴史を持つ都市であると同時に内乱で一度は壊滅したと聞き驚いていた。

 

「ウィリアム・ロバーツ・ペンドラゴン……。彼は一体どんな人物なのだろうか……」

 

マイラスはフィルアデス大陸で軍勢を率いるシーランド帝国の皇太子について考える。シーランド帝国という巨大で凶悪な国家を率いていくことになる人物。彼次第でシーランド帝国がどう動いていくのか変わって来る。ムーとの敵対はしてほしくないと考えつつ帰国する際にコネクションを作っておかなければと覚悟を決めた。

その時、部屋の扉がノックされ戦術士官のラッサンが入ってきた。シーランド帝国を『文明圏外の田舎国家』と蔑んでいた彼だが迎えに来た艦隊を見て以降はそんな態度と思いは鳴りを潜めていた。それどころかムーでは絶対に勝てないと思っておりそれは使節団全員の共通した認識だった。

ムーの最新鋭戦艦ラ・カサミですらシーランド帝国の旧式戦艦にあらゆる面で劣っているだろう。何より海軍国家であるシーランド帝国は数も多く例えスペックで上回っていたとしても物量の前に負けるだろう。

 

「マイラス、ちょっといいか?」

「勿論だ。一体どうしたんだ?」

「いや、この国の皇太子について意見が欲しくてな」

「それなら丁度良かった。今その事について考えていたんだ」

 

マイラスは今まで考えた事をラッサンに話し二人は様々な考察をしながらそれぞれ今日回る地点に向かうために着替えて外に出るのだった。

 

 

 

 

 

 

a.t.s53(皇歴53年)/1/1/11:22 フィルアデス連邦首都ニューイングランド(旧名ルパースィ)

「では本日の議題を終了します」

 

司会を務めるエルトの言葉と共に会議に参加していた者達が立ち上がり部屋を出ていく。

フィルアデス連邦はまだまだ機能しているとは言い難い状況にあった。それでも漸くクーズなどの一部の都市との連絡網が形成されつつあり数か月もしないうちに国家として機能すると予測されていた。更に、フィルアデス大陸に建国された二つの副王国も必要な人員が配置されつつあった。

 

「本国では今頃年明けを祝っているのだろうな……」

 

連邦統括官フレディ・K・マイソンは窓の景色を見ながらそう呟く。彼の呟きに答える者はおらず動き回る人の音でかき消された。フィルアデス連邦のトップである彼の下には本国から様々な情報が送られてくるがそのほとんどが仕事に関係する者ばかりで街の様子などの情報は来ていなかった。

 

「望んでここに来たがやはり住みづらいな」

 

未だシーランド帝国の人間はこの街では“よそ者”と言う風潮が強くパーパルディア皇国人が幅を利かせている場所もあった。流石に今は無理だがいずれ取り除くとフレディは決心していた。

 

「……さて、パンドーラ大魔法公国とマール王国に使者を派遣しなければいけないからな」

 

フレディは少しの間故郷の風景を思い出すと再び仕事に戻っていった。

 



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第五十三話「広がる世界」

a.t.s53(皇歴53年)/1/??/??:?? パンドーラ大魔法公国

パンドーラ大魔法公国はパーパルディア皇国の属国でありトップである学連長は公爵の地位を持っていた。しかし、パーパルディア皇国がシーランド帝国によって滅ぼされ、フィルアデス連邦が建国されると事実上の独立を果たした。

パンドーラ大魔法公国は今後どうするかを考えているとシーランド帝国より使者がやってきた。使者は、

 

「シーランド帝国に従属するか、抗って滅びるか選べ」

 

とだけ言いフィルアデス連邦に戻っていった。

当然大魔法公国は大いに悩む結果となった。国力と軍事力を見れば従属以外に手はないのだが誰もが認められるものではなかった。とは言え勝てないのは明白なのでより良い待遇で従属できるようにパンドーラ大魔法公国は使節団の派遣を決定し、すぐさまシーランド帝国に向かわせた。

シーランド帝国の発展した都市は大魔法公国の使節団の心をわしづかみにすると同時に絶対に敵対してはならないと心に決める事となった。その後は皇帝ライオネスとの謁見が許されパンドーラ大魔法公国は最終的に

 

〇パンドーラ大魔法公国は全ての魔導技術をシーランド帝国に開示、提供する。

〇シーランド帝国はパンドーラ大魔法公国の独立を認め領海、領土、領空への許可なき越境を行わない

〇学連長はパンドーラ大魔法公国が決定しシーランド帝国はその地位を保証する

〇パンドーラ大魔法公国はシーランド帝国の求めに応じ入港権、軍事通行権を即座に提供する

 

となった。

結果だけを見ればパンドーラ大魔法公国には大分不利な要求となったが奴隷の提供や魔石などの資源の要求はなく基本的にシーランド帝国軍がパンドーラ大魔法公国内を迅速に移動できるようにされた他は魔導技術の開示と提供のみ。パーパルディア皇国に握られていた学連長の指名権は自分たちが持つ事が出来た上にその地位はシーランド帝国が保証してくれる。もっと苛烈な要求を予想していたパンドーラ大魔法公国の使節団は行きの様な地獄に向かう船に乗るような表情ではなく明るい表情で帰還した。

 

2月某日、両国は『シ=パ友好条約』という正式な形で調印された。

事実上シーランド帝国の後ろ盾を得たに等しいパンドーラ大魔法公国はより一層魔導技術の研究を盛んに行うようになった。たまに流れてくるシーランド帝国の機械技術の知識を得ながら後に彼らは世界で最も洗練された魔導技術を持つ国として知られるようになる。

 

 

 

 

 

a.t.s53(皇歴53年)/1/??/??:?? マール王国

一方、マール王国にもシーランド帝国からの使者が到着していた。内容はパンドーラ大魔法公国と同じであり用件のみを伝えると使者はさっさと帰っていった。

その後、国王以下王国の上層部は会議を行った。パーパルディア皇国から受けていた圧力が無くなった途端の従属要求であり国王たちは頭を悩ませた。

しかし、こちらもシーランド帝国に歯向かう度胸も力もなかったため結局国王自らシーランド帝国に赴き従属する事を決定した。マール王国は産業に乏しく、珍しい物が何一つなかった為シーランド帝国はマール王国内における軍事通行権、入港権、領空、領海、領土への無許可侵入の許可を要求された。

後にシーランド帝国の属国たちの技術革命に乗り遅れたマール王国はフィルアデス連邦に合流し王族の血筋を残しつつマール王国領を発展させる事となるがそれがまだまだ先の話である。

 

 

 

 

 

a.t.s53(皇歴53年)/2/??/??:?? 

パーパルディア皇国とシパールケ共和国を僅か二週間ほどで降したシーランド帝国の名はあっという間に世界中に広がった。文明圏外国だろうと気に入れば対等に接するシーランド帝国の姿勢は文明圏外国からの外交官や使節団の派遣を相次がせる結果となった。中には従属して技術を流して欲しいと願う国までおりシーランド帝国の外務省傘下の国際外交局は異例の忙しさとなり急遽増員と規模の拡大をする羽目になった。

一方で列強やそれに続く大国達との外交も進んでいた。ムーの使節団は無事にウィリアム・ロバーツ・ペンドラゴンとの謁見が出来近い将来にシーランド帝国を背負っていくことになる男を見る事が出来た。その後、ムーはシーランド帝国と国交の樹立し友好関係を築いていくこととなった。

そして、ムーを仲介にそのほかの第二文明圏との交流も行われた。特にマギカライヒ共同体は魔導技術と科学技術を併せ持った技術を持っている為発達したシーランド帝国の科学技術には興味津々であった。後にマギカライヒは第二文明圏で二番目の友好国として様々な貿易をしていくことになる。

 




>>神聖ミリシアル帝国は一気に二席も空いてしまった先進11ヶ国会議の席にそれぞれシーランド帝国とグラ・バルカス帝国を追加する事を決定しそれぞれに使節団を送る準備をしており事前に使者の派遣などを行っていたが条約などの締結は行われなかった。
最後にあったこの箇所を削除します。理由としては最新話にて神聖ミリシアル帝国の使節団を改めて出してしまったためです


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第五十四話「恐怖する西の帝国と備える東の帝国」

a.t.s53(皇歴53年)/3/??/??:?? グラ・バルカス帝国

グラ・バルカス帝国にとって不幸だったのはシーランド帝国の動きを理解できてしまった事である。

彼らはパーパルディア皇国戦で投入された戦車や野砲の洗練された武器に戦艦や空母を見て自国より強大な国家という事が分かった。数では勝っているかもしれないが質では圧倒的に負けている事が判明した。

 

「シーランド帝国とは敵対しないように動こう」

 

グラ・バルカス帝国はこの意見で一致したがその後にある事に気付いた。シーランド帝国はパーパルディア皇国を滅ぼすきっかけとグラ・バルカス帝国がレイフォルを滅ぼした経緯が似ている事である。同時に彼の国が侵略的行為を行っている事から拡大主義という事もうかがえた。

グラ・バルカス帝国とシーランド帝国。お互いは似た国家である。グラ・バルカス帝国はこの世界では上位に、場合によっては第二位に慣れる力を持っていると予想できた。そんな力を持つ国を彼の国が放っておくだろうか?グラ・バルカス帝国ならこれ以上の増長を許さないために早めに叩き潰すだろう。もし、それがシーランド帝国でも起きていたら?グラ・バルカス帝国は滅ぼされる可能性が高かった。

この意見が出るとあっという間に上層部に広がりグラ・バルカス帝国の力を信じる者はシーランド帝国を侮り、きちんと把握できている者は絶望的な未来に頭を抱えた。

加えて、隣国のムーがシーランド帝国と友好関係を築いたことが判明した。さらにムーを仲介に第二文明圏の国々もシーランド帝国と国交を持つようになっていった。

 

「侵略先がなくなったか……。宣戦布告すればシーランド帝国が出てくる可能性が高い……」

 

グラ・バルカス帝国が第二文明圏の国と戦争を行えばシーランド帝国は喜び勇んで戦争に参加するだろう。距離的問題もあるため直ぐにどうのこうの出来るとは思えないがそれでもレイフォルにいる軍勢は無事ではすまないだろう。唯一良かった点は未だ本国の位置を悟らせていない事であり本国への直接攻撃は避けられると予想していた。

しかしそれもシーランド帝国が血眼になって調べればすぐにばれるだろう。その場合、グラ・バルカス帝国は二度と今のような武器を持つ事は出来ず、この世界の文明圏外国のようにお粗末な文明レベルにまで落とされるだろう。

グラ・バルカス帝国は明るい未来が見えない将来に絶望しつつ新兵器の開発を行いシーランド帝国と戦争になった際に少しでも対抗できるように準備を進めるのだった。

 

 

 

 

 

a.t.s53(皇歴53年)/2/??/??:?? シーランド帝国帝都ロンドニウム

一方のシーランド帝国はムーの事を知るに連れ彼らが地球でムー大陸と呼ばれる空想上の物と同一の存在であることが判明していた。

ライオネスはこれをすぐに臣民に教え数千万年の時を得てかつての同胞との再会と大々的に発表した。これによりムーへの関心は高まる事となり一月後にはムー大陸への観光業が盛んに行われる結果となった。

しかし、そんなムー大陸の発見によりシーランド帝国の上層部ではある仮説が浮かんできていた。

 

“かつて存在したというラヴァーナル帝国。実際に存在していていずれ本当に戻って来るのではないか?”

 

この世界を好き勝手にしていた古の魔法帝国と呼ばれるラヴァーナル帝国。環状島連合で発見された核弾頭と思わしき物などから精査した結果シーランド帝国にとって国家存亡レベルの敵と認識出来る実力を持っている事が判明していた。しかし、あくまで神話の国家であるためかつてそんな国がいたという程度だったがムー大陸を見て神話でも実在する可能性があると認識が変わった。シーランド帝国はそれを受けて軍事物資の補充と拡充を行い始める。何時戻って来るのかは分からないが明日にでも転移してきてもいいような準備を始めつつあった。

それ故、エモール王国からの特使が来た時は歓迎した。何しろ『古の魔法帝国の情報』を持ってきたのだから。前の世界では大した力を持っていなかった占いだがエモール王国の空間の占いは予知に近い性能を持っておりその占いでラヴァーナル帝国の復活とそれを打倒できるシーランド帝国の存在が出てきたのである。その為、エモール王国はすぐさまシーランド帝国に特使を送ったという訳である。

 

「ラヴァーナル帝国が復活する時期は正確には分かりませんでした。しかし、近いうちに復活する可能性が高くそれに抗える貴国と友好関係を築いておきたいのです」

 

特使の言葉にライオネスは承諾しエモール王国との国交が樹立された。これによりシーランド帝国はラヴァーナル帝国の知識を大量に知る事が出来るようになった。第二文明圏でグラ・バルカス帝国の脅威が増す中、シーランド帝国は一足早く対ラヴァーナル帝国を見据えた軍拡と戦略的行動を開始するのだった。

 





【挿絵表示】

現在の世界地図
青:シーランド帝国直轄領(自治領含む)
灰色と薄灰色:シーランド帝国の副王国
黄:フィルアデス連邦
藍色:シーランド帝国の属国
緑:シーランド帝国の友好国
黄緑:友好国ではないが国交を持つ国(大まかに)
紫:グラ・バルカス帝国の勢力範囲
薄紫:潜在的敵国(グラメウス大陸では魔王のみ)


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第五十五話「独立保証」

a.t.s53(皇歴53年)/4/??/??:??

ムーとの国交を持ったシーランド帝国だが正直に言ってグラ・バルカス帝国よりラヴァーナル帝国への備えを優先したかった。しかし、それを行えばいずれグラ・バルカス帝国が増長し無視できない存在になる可能性があった。その為、シーランド帝国はムーを始めとした第二文明圏の国々と安全保障条約を結ぶことを決定した。この条約をシーランド帝国と結んだ国がグラ・バルカス帝国に宣戦布告された場合シーランド帝国がグラ・バルカス帝国に宣戦布告するというものである。これを結ぶ事でグラ・バルカス帝国がこれ以上の領土拡大を行えなく出来る。更に、即座に行動できるようにムーの港に陸海軍の基地の建設を行いグラ・バルカス帝国の奇襲にも対応できるようにした。

ムーとしては難色を示す行動だが現実問題として自分たちでは抗う事は出来ない為渋々ながら受け入れる事になった。シーランド帝国としてもどこにラヴァーナル帝国が転移するのか分からない為遥か西方に転移してもすぐに軍を送れるように前線基地が欲しかったのである。

4月中旬には『シ=ム安全保障条約』が締結された。続く形で約一週間後にマギカライヒと、5月に入りニグラート連合、ソナル王国とも結びヒノマワリ王国、イルネティア王国は大分遅れて7月に入って条約を締結した。

これによりグラ・バルカス帝国は第二文明圏での領土拡大を実質的に封じ込まれた形となり攻撃をする際にはシーランド帝国の攻撃を受ける状態となった。更にムーとマギカライヒでシーランド帝国の技術を多少なりとも得る事で技術革命を起こしていき今は簡単に征服できると思われていたムーすら征服が難しくなっていくこととなる。

 

「シーランド帝国によって我らはこれ以上の領土拡大を押さえつけられた。だが、我が国が滅びたわけではない」

 

グラ・バルカス帝国帝王グラルークスはそう言って頭を抱える上層部を激励した。彼はシーランド帝国の情報を見て正確に彼の国の力を理解していた。どれほどの力を持っているのかは流石に分からなかったが自分たちでは勝てない事も。そして、いずれ脅威となるであろうムーを滅ぼす事は適わず、最悪の場合技術面で並ばれる可能性も理解していた。

それでも、シーランド帝国の行った事はグラ・バルカス帝国がこれ以上武力によって勢力を拡大する事を抑えたに過ぎない。それ以外の方法での勢力の拡大は可能であると。

 

「シーランド帝国とて我らの行動一つ一つを制限する事は出来ないだろう。ならば我らはシーランド帝国が攻撃を躊躇するくらいには強く成ればいいのだ」

 

グラルークスのこの言葉によってグラ・バルカス帝国は武力による直接侵略から政治的侵略行動に変更する事となった。その一環として第二文明圏との対立関係の改善やイルネティアやヒノマワリと言った国力の低い国への武力を用いない方法での影響力増大を行っていくこととなる。

更に国内では新規技術の開発に予算を回しジェットエンジンや誘導弾の開発を進めていくこととなる。他にもシーランド帝国の詳しい情報を民衆に流し絶対に敵対してはならない事などを周知させていくことになる。勿論今まで順調だったグラ・バルカス帝国がすぐに変わる事はない。しかし、それは上層部も分かっており十年後を見据えた改革として地道に、根気よく行っていくこととなる。

後に、グラ・バルカス帝国はシーランド帝国の影響力が強いムーやマギカライヒ以外の第二文明圏の国々を勢力圏内に取り込むことに成功しシーランド帝国ではかつての敵対国であるインド共和国と同じように認識して行く事となるがそれは大分先の話であると同時に一つの未来である。

 

 

 

 

 

a.t.s53(皇歴53年)/3/??/??:?? シーランド帝国

『打ち上げ10分前』

「漸くか……」

 

シーランド帝国のとある自治領に設置されたロケット発射台。そこでは異世界初の人工衛星の打ち上げが行われようとしていた。パーパルディア皇国とシパールケ共和国との戦争では衛星が使えず弾道ミサイルが使えなかったが今後はそうではない。シーランド帝国が誇る人工衛星“カボットシリーズ”は全て消失してしまったが10号、11号、12号機がそれぞれ打ち上げられる。

そんな三機のロケットを見て人工衛星担当の技術者たちは感慨深げであった。“カボットシリーズ”は12号機までであり今後は新たな人工衛星が作られる。彼らもそれらを担当する事になるが今まで製造に携わって来た彼らに取ってはとても悲しい物であった。

 

『3…2…1……10号機リフトオフ。続いて11号機リフトオフ』

「頼んだぞ、アリエス、ピスケス、カプリコーン」

 

技術者は次々と打ち上げられていくロケットを、涙を流しながら見送るのだった。彼らは他に打ち上げられる人工衛星と共にシーランド帝国の民衆に転移前と変わらぬ営みを与えると共にシーランド帝国が用いる事の出来る戦略の幅を増やしていくことになるのだった。

 




そろそろ閑話を挟んで次の章に行こうかな。因みに第5章はオリジナルで凍結したアルゼンチン帝国でやろうとしていたペスタル編をやろうと思っています


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閑話4-1
第五十六話「戦間期4-1」


a.t.s53(皇歴53年)/3/??/??:?? フィルアデス連邦

建国から三か月が経ったフィルアデス連邦は漸く国家として動き出した。フィルアデス連邦による統治は隅々まで行き届き反抗する者は徹底的に鎮圧された。独自の軍隊は出来ていない為シーランド帝国軍10万が駐留している。

パーパルディア皇国とシパールケ共和国で行われていた武器生産はそのまま運用されている。それらはシーランド帝国と友好的な関係を持っていた国々に売られて行き旧第三文明圏と文明圏外国の国力の増大に役立てていた。とは言え生産数は以前より回復していない為売られている数も少ないが。

更にシーランド帝国にはいないワイバーン、ワイバーンロードの運用も開始された。パーパルディア皇国とシパールケ共和国時代の技術者はそのまま製造職として働かされている。パーパルディア皇国では最新式の歩兵銃であったマスケット銃はシーランド帝国では骨董品でしかないが第三文明圏や文明圏外国では最新式であるため輸出用に作られている。創設予定の連邦軍はシーランド帝国の旧式装備をそのまま流用して使うためフィルアデス連邦だけでも第三文明圏の盟主となるには十分な軍事力を持つ予定である。

 

「我らフィルアデス連邦は各副王国と連携しフィルアデス大陸の安定と統一を図っていくことになる」

 

連邦統括官フレディ・K・マイソンは連邦職員にそう宣言しパーパルディア皇国の地位を継ぐようなものと発表した。以降フィルアデス連邦が連邦軍を揃え始めるとフィルアデス大陸の統一に乗り出していくことになる。

一方、国内のインフラは駐留軍の動きやすさも考えて迅速に整備されていた。首都ニューイングランドからエストシラントやデュロ、ヴェヌやクーズへと続く道がアスファルトで整備されシーランド帝国と同じような道となっていく。鉄道も用意され各地に線路が敷設されて行き人や物の輸送を助ける事になるが今のところは計画が始まったばかりなのでまだまだまかかりそうであった。

兎にも角にも、フィルアデス大陸南部はフィルアデス連邦を中心に大きく変動を迎えようとしているのであった。

 

 

 

 

a.t.s53(皇歴53年)/5/??/??:?? シーランド帝国

『シ=マ安全保障条約』の締結はシーランド帝国とマギカライヒの関係をさらに友好的なものにした。共産的な政治体制という事で当初こそシーランド帝国は警戒したが共産主義を広げる事もなく自然とそう言った政治体型になっただけだったので共産主義者が大頭しないように国内で気を付けるだけでマギカライヒとの関係を切るような事はしなかった。

その為、条約締結後はマギカライヒから使節団が派遣されシーランド帝国の優れた機械技術を少しでも学ぼうとし始めた。

 

「シーランド帝国……。機械のみでここまで発展しているとは……」

 

マギカライヒのとある技術官は帝都ロンドニウムを見てそう言葉を漏らした。列強第一位の神聖ミリシアル帝国の帝都ルーンポリスでさえここまでの発展はしていないと心の中で呟く。マギカライヒの代表の一人として幾度かルーンポリスを訪れた事のある彼女は目の前に広がる摩天楼とルーンポリスを心の中で比べる。確かにルーンポリスも凄いがロンドニウムも違う意味で凄かった。技術者としてどうやってこの建造物を作っているのか気になるが先ずは予定されているシーランド帝国との交流会を優先する事にした。

 

「皆さま、今日は我が国とムー、マギカライヒ共同体の三国による交流会です。どうぞお楽しみください」

 

司会の言葉で立食パーティー式の交流会が開始した。技術官の彼女も普段は着慣れないドレスに身に纏い女性らしいふるまいをしていた。別に普段が女性らしさの欠片もない、一生独身を貫きそうな技術者という訳ではない。決してないのである。

そんな彼女だが、ドレスを着たからと言ってやる事に変わりはない。シーランド帝国の技術者の下に行き自分の疑問やアイディアなどを伝えつつ相手の話も聞き交流を図っていく。見た目20代前半に見える(実際はもっと上)女性から飛び出す専門用語に当初こそ戸惑っていたシーランド帝国の技術者だが直ぐに打ち解け互いの意見を伝えあっていく。

本土で生産された質の良いワインを潤滑油代わりに飲みながら二人は交流会終了後も話し合った。他の人たちも兼がね良好に終わり交流会は大成功で終了した。

シーランド帝国はマギカライヒ、ムーとの関係をより一層深めていくことになり距離の遠さもありシーランド帝国が従属を要求しなかったことから対等な関係を維持していく事となった。

 

 

 

因みに、技術者の彼女は帰国後も話し合っていたシーランド帝国の技術者と手紙のやり取りをするようになり数年後には結婚する事となった。世にも珍しい技術者同士の国際結婚である。因みに両者ともシーランド帝国とマギカライヒ共同体の国籍を取得し思い思いに両国を行き来しながら愛を育んでいくことになる。

 




次はペスタル大陸編に入ると思います。それ終われば先進11ヶ国会議です(多分)


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第5章【ベスタル大陸編】
第五十七話「ベスタル大陸統一戦争」


a.t.s53(皇歴53年)/4/18/??:?? ベスタル大陸

外の世界ではベスタル大陸と呼ばれているこの大陸はとある一つの大国によって急速に一つにまとまろうとしていた。アクハ帝国第12代皇帝ペリアシアン帝は技術的に充分機が熟したと考え大陸内ではセイダイケン大陸と呼ばれるこの大陸の統一に乗り出した。

 

「ついに始まったか……」

 

アクハ帝国の東に位置する小国ペルム国の王プルーム・パン・ケアは王宮の窓より王都を眺める。シーランド帝国が見れば古き良き古都というイメージを持つ王都には数万の人間が住んでいた。40年以上見て来た王都が戦火に呑まれる可能性がある事がとても悲しかった。

 

「とは言え私に出来る事は無いに等しい」

 

ペルムはこの世界では珍しい立憲君主制を採用している。その為議会が権力の全てを握っている為王が命じて何かをする事は出来なかった。それでも、議会の者も現在の状況は把握している。既にペルム国軍はアクハ帝国との国境に展開しておりアクハ帝国軍の襲来に備えていた。更にアクハ帝国に従属するトスリア公国との国境にも兵が配置され侵攻しても対応できるようにしていた。

 

 

 

 

 

a.t.s53(皇歴53年)/4/18/15:29 アクハ帝国=ペルム国国境

「チクショウ!敵の連射速度はどうなっているんだ!?」

 

ペルム国の若い兵は雨のように飛んでくる銃弾に震えながら叫ぶ。銃を持ち、横一列にアクハ帝国軍に向かって進んだペルム国軍だったが突如として銃撃を受けたのである。横一列で進んでいたペルム国軍はどんどん倒れていき彼も右腕に銃弾を受け仲間の死体に身を隠したがその間にも弾幕は続き隠れている死体が少しづつ削られていく。

既に彼の仲間や友人はその辺の死体の一つになっている。このまま敵の銃弾が続けばいずれ彼も死体の一つとなるだろう。

 

「このままじゃ全滅してしまう……!」

 

若い兵は見える範囲を見渡す。敵の銃撃は続いている為か生きている兵士は見渡らない。しかし、銃弾の音に紛れて悲鳴のようなものが聞こえてくるため生き残りはまだいると思われた。

その時、銃撃が止み静寂が訪れた。若い兵は恐る恐るアクハ帝国軍の方を見る。遥か彼方にいるアクハ帝国軍に目立った動きはない。更にその遠くに国旗が掲げられている。

 

「一体何が……?」

 

若い兵が困惑しているとドンッ!ドンッ!という音が響く。その音には若い兵は聞き覚えがあった。最近ペルム国でも採用された銃より大口径の巨大な砲、魔導砲である。

 

「不味い!」

 

若い兵は走った。ここにいては危険だと瞬時に判断したためである。先程までの右肩の痛みは感じない。今はこの場から逃げだしたいという気持ちがあったからだ。

隠れていた兵が出て来た事で再びアクハ帝国軍の射撃が開始された。体をかすめる銃弾も気にせずに走り抜ける。しかし、魔導砲の射程から出るよりも先に放たれた砲弾が着弾した。

周囲の死体諸共地面を掘り返すように爆発する砲弾に若い兵は爆風で倒れ込みそうになりながら走る。

そして、射程圏内から出たと思った時、彼の頭部を一発の弾丸が突き抜けた。

 

 

 

 

 

 

a.t.s53(皇歴53年)/4/18/15:43 アクハ帝国=ペルム国国境

「命中確認」

「ヒュー。流石帝国のエース。このくらいは朝飯前か」

 

アクハ帝国軍の狙撃手ヴェルトは野砲をかいくぐり後方に逃げおおせた兵にヘッドショットを決めるのを確認すると一言呟いた。それを聞いた相棒のラプーは軽口をたたく。事前に掘られた塹壕より横並びで前進するペルム国軍を半壊させた歩兵の跡を引き継ぐように野砲部隊が砲撃を行いそれを生き残った兵士をヴェルトなどの狙撃手が確実に仕留めて行った。

 

「しかし、ペルム国軍がここまで弱いなら攻め込んでもいいんじゃないか?」

「必要ない。軍は壊滅状態。艦隊が首都を攻撃して壊滅させれば自然と降って来る」

「降伏しなかったら?」

「徹底的に叩き潰す。らしい」

 

ヴェルトの言葉を聞きラプーはそうなって欲しいなと願いながら淡々と狙撃を行うヴェルトを見るのだった。

 

 

 

 

 

 

a.t.s53(皇歴53年)/4/19/8:10 ペルム国首都近くの海域

「司令長官。ペルム国首都パン=ケアが見えてきました」

「うむ。砲撃用意」

「砲撃用意!」

 

ペルム国軍が壊滅した翌日の早朝、ペルム国の首都が面する海域の近くには複数の艦隊の姿があった。装甲艦10隻、駆逐艦20隻というアクハ帝国海軍が誇る大艦隊であった。彼らは司令長官の指示に従い露出する回転砲塔に弾丸を込めていくと同時に標準を付ける。彼らに気付き慌てるパン=ケアに向けて一回目の一斉射撃が放たれた。首都に当たれば良いという感じで放たれたそれらはバラバラに着弾しパン=ケアに爆風と火災を引き起こす。

 

「初弾命中!なれど重要施設には着弾しなかった模様」

「よし。今の着弾から修正して一斉射撃を行う」

「はっ!」

「司令長官。敵の戦列艦はどうしますか?」

「機銃掃射で帆を狙って撃て」

「了解しました」

 

アクハ帝国艦隊はどんどんと砲撃を放っていく。停泊する戦列艦の魔導砲が届かない位置から一方的な攻撃を行う彼らの前にペルム国の首都はただ破壊され、燃えていくのみだった。

 

数時間後、艦隊は帰還し首都は焼け野原となった。国王プルームは死亡。隣国のデボンにいた王女テチス・パン・ケアを除いた王族が全て死亡した。数日後、越境を開始したアクハ帝国軍を見てペルム国は降伏。併合された。

それを見たデボンはアクハ帝国に従属しテチス王女を引き渡そうとしたが彼女は間一髪のところで船で逃げおおせる事に成功したが船は直ぐに嵐で沈み王女の行方は分からなくなるのだった。

 




ちょっと強くし過ぎたかもしれない……。シーランド帝国に取っては大差ないけど
初期では黒船来航ぐらいだったのに気づいたら日清辺りにまでなっていた


【挿絵表示】

戦争の大まかな動き


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第五十八話「ペルム国の王女様1」

卒制もあるので更新何時止まっても可笑しくない状況です


a.t.s53(皇歴53年)/4/29/??:?? とある海域

「とうちゃん!女の人がいる!」

「はぁ?何馬鹿な事を言って……、本当じゃねぇか!しかも別嬪さん!いけねぇ!急いで引っ張れ!」

 

マレーシア自治領で漁業を営むとある親子はこの日空からならぬ海で女の子を見つけた。直ちに引き上げられ応急手当をすると村に戻り医者の下に運ばれる事となった。

幸い漂流物に捕まっていたおかげで疲労はあれど水を飲みこんでいなかったことから命に別状はなかった。その後、目が覚めた女性はペスタル大陸以外の土地にやってきた事を知り驚くと同時に国の上層部に合わせて欲しいと頼み込むのだった。

彼女、テチス・パン・ケアの願いは上層部に簡単に届き皇帝ライオネスの下に情報が送られるのだった。

 

 

 

 

a.t.s53(皇歴53年)/6/13/??:?? シーランド帝国帝都ロンドニウム

「ベスタル大陸の王族か」

「いかがなさいますか?陛下」

 

皇帝ライオネスは下からやってきた情報に溜息をつく。第二文明圏で進めている安全保障条約の締結も残すはヒノマワリ王国とイルネティア王国を残すばかりとなったこの時期に飛び込んできた新たな火種とも言える出来事にライオネスは半ば投げやりに答える。

 

「本当なら見過ごせないが先ずは情報収集からだ。ペスタル大陸についての情報を急ぎ集めよ」

「かしこまりました」

 

ライオネスの命令に宰相は答え部屋を出ていく。一人になったライオネスは最近酷くなって来た頭の痛みを感じながら今後の展開を想定していくのだった。

 

 

 

 

 

a.t.s53(皇歴53年)/6/1/??:?? マレーシア自治領シンガポール

「この国は一体……」

 

ペルム国の王族の唯一の生き残りであるテチス・パン・チアはシンガポールの摩天楼を見て呆然と呟く。少し前に目が覚めた彼女はペスタル大陸から逃げきれたのと、ここがシーランド帝国と呼ばれる国の自治領であることを知った。彼女は多少強引だがペルム国開放の手助けをしてほしいと頼み込んだ。今はその回答が来るのを待っている状態にある。

その為彼女はシンガポールの様子を軽く見たのだが祖国を滅ぼしたアクハ帝国よりも栄えた街並みは圧巻であった。案内をしてくれた自治領の行政府の人間が言うにはシーランド帝国の帝都ロンドニウムにも劣らないらしいと聞いた時には彼女は軽く気絶しかけたほどである。

 

「この国は王が権力を持っているのですね……」

「その通りですがどうかしましたか?」

「いえ、何でもありません……」

 

ペルム国では国王は権力を持たない立憲君主制を採用している。その背景にはかつて権力を持った鏖が暴走してペルム国を滅ぼしかけた事があったからである。その為、ペルム国の民、特に王族は権力を世襲制で渡していくことを嫌っていた。特にテチスはその傾向が強くアクハ帝国がその様な政体も相まって拍車をかけていた。

シーランド帝国を()()()立憲君主制の立派な国と思っていたテチスの失望感は強かったが今はこの国に保護されている以上その感情を表に出す事は避けていた。それでもたまに表に出てしまい嫌悪の表情を作ってしまう事があった。

 

「(この国の技術力は素晴らしいですがここまで発達している以上他の国も同じような発展を遂げているのでしょう。ならばこの国を見限って他の国に援助を求めるべきでしょう……)」

 

ベスタル大陸はあまり他の大陸との交易を行ってはいない為外の状況が入りにくかった。その為、彼女は第三文明圏が既にシーランド帝国の勢力下にある事。シーランド帝国並みの軍事力を持つ国は存在しない事。居たとしてもプライドの高い、態々国交もない亡国の王女の求めに応じて軍を出す国など存在しない事を知らなかった。

 

「(この国の王が援軍を出してくれればいいのですがその際に一体どんな要求をされるのか。何せ王が力を持っている国です。どんな無理難題を吹っ掛けてきてもおかしくありません。いえ、その場合は王を誘惑していい条件を出させてもいいでしょう。自慢じゃありませんが容姿には中々自身がありますし……)」

 

心の中で王族とは思えない計画を立てている彼女だがシーランド帝国の皇帝が今では干からびて棺桶に片足突っ込んでいる様なお爺ちゃんである事、皇太子も仲の良かった妻を亡くしたばかりであることは知らなかった。皇帝はともかく皇太子を誘惑すれば激怒するのは間違いなしだが彼女一人で計画している為周囲で教えてくれる者はいなかった。

そんな偏見と情報不足の中で突っ走る彼女は祖国の為に扮装するのだった。

 




原案だと王女は普通にいい感じになるはずだったけど書いている途中で自分の中の何かが「これが良い!」とささやいてきたから急遽偏見持ちつつ突っ走るやばい感じに仕上がってしまった……。ま、まぁ。誰だって厚生は出来るし、ね?


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第五十九話「情報収集と仮の統一」

何時もよりちょっと長くなった


a.t.s53(皇歴53年)/7/1/??:?? シーランド帝国帝都ロンドニウム

「……」

 

ライオネスはベスタル大陸の情報を見てため息をついた。クワトイネ公国、クイラ王国、フェン王国、シオス王国、アルタラス王国、フィルアデス連邦(旧パーパルディア皇国)と様々な国の者に教えてもらったが欲しい情報は大して出て来なかった。

そもそもベスタル大陸はその立地に反して半鎖国的な状況にあり交易を行っていたのは北西の半島に領土を持つブリアンカ共和国ぐらいだった。その為ベスタル大陸の情勢が今どうなっているのか分からなかったのである。

しかし、アルタラス王国はこの中で一番近い位置にあるからかマシな情報は持っていた。

アルタラス王国の外交官曰く、

 

〇ベスタル大陸は南部に領土を持つアクハ帝国が統一戦争を始めようとしている

〇外界との接触があまりないせいでワイバーンなどの飛行能力を持つ大型生物は存在しない

〇科学技術が魔導技術より重きを置かれている

〇アクハ帝国で技術革命があった

 

という情報のみだったが他が最悪な状況なのでこれでも十分にありがたかった。

飛行型の大型生物がいないという事で人工衛星からの衛星写真と偵察機の高高度偵察によりベスタル大陸の情報が集められた。その結果、アクハ帝国を中心にベスタル大陸は無視できない勢力という事が判明した。

国境部には初歩的なレーダー施設らしきものが置かれており更に対空砲陣地の様な物が多数形成されている。

 

「アクハ帝国はワイバーンに対抗する為に同じ空で戦うのではなく撃ち落とす方向に決めたようだな」

 

そのほかにも船舶は19世紀末という事も判明している。歩兵の装備に関しては分からなかったが大体同じあたりだろうと推測された。

この結果をもとにすると

 

〇アクハ帝国はムーの完全下位互換だが新技術の開発や改良のスピードは凄まじく将来性で言えばムーを超える

〇戦争になれば多少の被害は出るかもしれないが簡単に勝利出来る

〇我が国の勢力圏付近に技術がある国が存在するのは危険である

 

という事になりベスタル大陸への干渉は必要という事が判明した。

 

「パーパルディア皇国よりは抵抗が激しそうだが……」

 

問題はその方法である。シーランド帝国は人工衛星の打ち上げによりGPSを使えるようになった。弾道ミサイルの発射が可能となった今態々歩兵を投入する必要はないがそれはそれで味気ないと考えていた。

 

「弾道ミサイルによる敵陣地の破壊後、間髪入れずに強襲上陸をするか?」

 

シーランド帝国が数年にわたり行ったクウェート侵攻の様な無茶は出来ないしやる必要もない。ライオネスはアクハ帝国の早急な侵攻を決め軍部に計画を練らせるのだった。

 

 

 

 

 

 

a.t.s53(皇歴53年)/5/19/??:?? ジュラ共和国首都アモナイト

「馬鹿な……」

 

ジュラ共和国首相は上空で起こっている事が理解できなかった。

ペルム国を滅ぼしデボン国を従属させたアクハ帝国はペルムとデボンの掌握を追えるとすぐに侵攻を開始した。ジュラ共和国は同じくアクハ帝国と敵対するルシル王国と同盟を結び対アクハ帝国共同戦線を結成し徹底抗戦に出た。しかし、奇襲を仕掛け領土内に侵攻したルシル王国とは違いジュラ共和国は敗戦に次ぐ敗戦を繰り返していた。

アクハ帝国の装填から発射まで異様に早い歩兵銃(ボルトアクション小銃)とそれすら超える勢いで発射できる連射する銃(機関銃)によりジュラ共和国軍の半数以上が死んでいた。

しかし、ジュラ共和国には秘策があった。それは20頭のワイバーンである。とある国から国家が傾きかけるほどの金額で買い取ったこれらを用いてジュラ共和国はペスタル大陸で唯一且つ初めての飛行部隊の設立に成功していた。それらを今まさに行われている首都アモナイト攻防戦に投入したのだが……

 

「全滅など……」

 

空から攻撃を始めたワイバーンに地上より銃弾の嵐が襲い掛かりワイバーンは避ける事も出来ずに全騎が撃ち落とされていた。他にも槍上の何かが高速で上空に飛び、爆発を起こす兵器なども用いられておりワイバーンに次々と突き刺さっていったのである。

アモナイトは郊外は完全に占領され敵の魔導砲(野砲)によって破壊された城壁から街に入られている。街から上がる煙が首相の方に向かってきている事から劣勢であることがうかがえた。

 

「首都はもう持たない。急ぎ避難するぞ!」

 

ワイバーン部隊による攻撃を見届けようと首都に留まっていた首相はそう宣言するとその場を離れようとした。しかし、そこにワイバーンを討ち取った鉄の槍が突き刺さり爆発を起こした。ほぼ爆心地にいた首相達は爆死しジュラ共和国軍は指揮系統を失い混乱するのだった。

 

 

 

 

 

「敵行政府に命中5!至近2!それ以外は全て外れました!」

「やはり命中精度はそこまで良くないか……」

 

アクハ帝国軍の野砲部隊を率いるトリケラスは観測班からの報告にそう呟いた。彼は新兵器である火槍と呼ばれている兵器のテストを兼ねた攻撃を行っていた。火槍とはシーランド帝国における初歩的なロケット弾であり野砲を超える距離を攻撃でいるとして注目されていた。しかし、ミサイルのような誘導弾ではない為命中率は野砲以下というものだったが対空攻撃や敵陣地への攻撃は一定の効果を上げていた。

 

「既に市街地戦となっている以上砲撃は邪魔か……。今後は支援砲撃の要請があった場合のみ砲撃を行う」

「はっ!」

 

部下に指示を出したトリケラスは懐から煙草を取り出すと吸い始めた。煙を吐くと同時に黒煙を上げているアモナイトを見る。

 

「敵の虎の子の飛竜は潰した。ギリギリだったが全騎撃墜できて安心した。後はルシル王国のみだな」

 

トリケラスは後は消化試合の様なものと思いながら煙草を吸うのだった。

 

 

約一時間後、アモナイト守備隊は降伏。首相以下大半の支配者層が死んだ事でジュラ共和国は分裂状態に陥りアクハ帝国軍によって各個撃破されていくことになった。

2日後、アクハ帝国領に侵攻していたルシル王国軍が生存者一割を残し全滅した事で対アクハ帝国共同戦線は瓦解した。5月30日にジュラ共和国最後の都市が陥落し事実上の滅亡。6月4日にルシル王国王都リグーニンの陥落と同時にルシル王国は降伏した。

残った国々はまだあるがデボン国とトスリア公国はアクハ帝国に従属しておりブリアンカ共和国が中立を掲げつつも不可侵条約と同盟を結んでいる為敵対国は既に存在していなかった。

 

「セイダイケンは我らによって統一された!我らの英霊となった初代皇帝の悲願はかなえられたのである!」

 

6月20日に開かれた統一記念祭にて皇帝ペリアシアン帝は力強く宣言した。トスリア公国はアクハ帝国の経済に完全に依存しており近いうちに併合される事が決まっていた。デボンもアクハ帝国の要求を断る事は不可能でありブリアンカ共和国は外との交易をしなければアクハ帝国の経済に飲み込まれる事は必然だった。

ペリアシアン帝は近い将来セイダイケン(ペスタル)唯一の国家の王として君臨する事を夢見ながら仮の統一を祝うのだった。

 




アクハ帝国について軽く説明
大陸統一を目指す帝政国家。初代皇帝の代から大陸統一を目指していた。
ムーと同じ純粋な科学技術を発展させてきた国(他は魔導技術極振り)。数年前から十数年前に技術革命が起こり地球で言うところの18世紀ほどの技術力から19世紀末まで一気に飛躍した。
その結果、
歩兵銃はボルトアクション小銃に。機関銃や野砲は洗練された。初歩的ながらレーダーの技術も確立、運用されている(地球だとレーダーの運用は1930年代より)。自分たちが持たないワイバーンなどの大型飛行生物を警戒して対空砲の開発と研究、生産が一番盛んに行われている。残念ながら飛行機は概念すら生まれなかった。因みに戦車も同じく概念すらない
海軍は日清戦争辺りの技術。艦の大型化は周囲がそこまで強くなかった(ペスタル大陸では)為されなかった。
勿論対空機銃や対空砲は艦に見合わない程充実している。
というように完全にムーの下位互換ながらここまでの技術を十数年で発展、運用、生産しているというシーランド帝国からすれば非常に危険な国となった。


【挿絵表示】

ペルム国滅亡前のベスタル大陸の様子

【挿絵表示】

ジュラ共和国首都アモナイト攻防戦開始前の戦況。
紫線:アクハ帝国の前線
橙線:対アクハ帝国共同戦線の前線

軽く触れたクウェート侵攻についての(どうでもいい)説明
シーランド帝国がクウェートに侵攻中に本土(ブリテン島)で内乱が起こった為一旦撤退する事になったが反撃を受けて上陸した軍の半数を失った。クウェートとは講和を結ぼうとしたが返り討ちにしたと浮かれたクウェートは拒否した上に降伏勧告まで出した。これに切れたライオネスが6年(・・)に渡ってクウェートを更地にして上陸、占領したという戦争。因みに再建する為に余計な費用を出すという結果となった


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第六十話「ペルム国の王女様2」

ふと思ったけどこのベスタル大陸だけこの作品のまま原作という状態の作品を書きたくなった。GATEでもありかなとか思っていたりする。

シーランド帝国をGATEで繋げると確実にイギリス辺りが発狂する未来が見えるから書けないや。

他には日本国召喚のクロスオーバーはストパンとかコードギアスとかも良いかなと思っている。GATEなら戦ヴァルやりたいとか思ってる

コードギアスなら神聖ブリタニア帝国が一番いいかもしれない。エリア11(日本)を転移させずに南北アメリカ大陸のみにすればいけそう。まぁ、シャルルとかの計画が潰れて発狂しそうな気がするけど、それはそれで邪魔な動きしないから良いかもしれない

とは言えこれ書き始めたらこっちがエタると思うからやらないけど


a.t.s53(皇歴53年)/7/9/??:?? シーランド帝国帝都ロンドニウム

ペルム国の王女の生き残りであるテチス・パン・ケアはこの日、帝都ロンドニウムにいた。シンガポールにて保護されていた彼女は皇帝ライオネスから招待されてここに来たのである。

シンガポールに勝るとも劣らない見事な街並みを見ながら彼女は迎えに来た車に乗っていた。用心保護の為か黒い窓ガラスのせいで外の様子はあまり分からないがそれでも発展と繁栄をしている事だけは分かる。

 

「(王が力を持っていながら何故ここまでの発展を……?)」

 

テチスはシーランド帝国の発展具合を見て疑問に思っていた。アクハ帝国やシーランド帝国はペルム国をはるかに超える国力と技術力を持っていた。テチスが今まで信じて来た“王が力持つ国は暴政でとても貧しい国となる”と言う前提を大きく崩していた。

中にはシーランド帝国に反抗的な者もいるのでしょうがそれも少数なのでしょう、とテチスは諦めが籠ったため息を吐く。

ここまでの間にテチスは周辺諸国について調べていた。しかし、その結果は悲惨なものだあった。力のない国は軒並みシーランド帝国と誼を結び、力のある国は既に滅ぼされている。そして、力のある国は総じてプライドが高かった。試しに第二文明圏のマギカライヒ共同体の駐在大使に国の奪還する手伝いを頼んだが雑に扱われて終わった。仲介したシーランド帝国の外交官曰く「我々の仲介がなければ会えることすらなかったでしょう」との事でテチスは周辺諸国に応援を頼む事は止めていた。

 

「(今から会う皇帝も齢70を超える高齢の方の様ですし、色仕掛けは通じないでしょう。その場合、頭を下げてでも国を取り戻す事を願わなければ……!)」

 

テチスは決意を新たにしていると車は止まった。彼女の目の前には巨大なキャメロット城が聳え立っておりテチスを威圧している様であった。

テチスはシーランド帝国の使者の案内のもと皇帝がいる謁見の間に向かって歩く。その間にもどのように話を始めればいいのかを考えながら周囲をそれとなく見る。皇帝の居城だけあって調度品はとても高そうな物ばかりであるが置きすぎて景観を崩すような事もしていなかった。

そうして歩いていると遂に謁見の間に到着し扉が開かれた。そこには複数人の男たちがいた。

玉座と思われる場所に深々と座った皇帝らしき人物とその下にいる宰相らしき人物。そんな二人と対面していた男。テチスはその男を見て目を見開いた。

 

シーランド帝国から見ると19世紀くらいの貴族が着ていそうな服、テチスから見るとアクハ帝国の貴族服を着ておりテチスは一気に警戒する。一方、男の方はテチスを見て穏やかに笑みを浮かべた。

 

「おや?貴方はペルム国のテチス王女ではありませんか。私はアクハ帝国で外交官を務めておりますテュラノスと申します」

 

そう言って恭しく頭を下げる男、テュラノスだがその目は決してテチスを敬っておらずそれどころかその目の中ではテチスを見下しているように見えた。アクハ帝国に取ってはテチスなど亡国の姫でしかなく敬う必要性は感じていなかったのだ。

 

「何故、アクハ帝国の外交官がここに?」

「理由は単純ですよ。外交以外に何かありますか?」

「それは……」

 

テチスは苦々しくテュラノスを見る。ペルム国の領土を奪還するべくシーランド帝国の協力を得ようとしているわけだがアクハ帝国が先に接触していた。もし、アクハ帝国とシーランド帝国が友好関係になった場合テチスが領土を取り戻す事はほぼ不可能となる。アクハ帝国と戦争になればシーランド帝国とも戦う可能性が出てくるため、態々敵対してまでペルム国の為に戦おうとする国は現れないだろう。それどころか第三文明圏やその周囲の文明圏外国は敵になる可能性が高かった。

 

「……話は済んだか?」

「おっと、失礼しました」

 

蚊帳の外に置かれていた皇帝ライオネスの言葉にテュラノスが頭を下げる。そして、テュラノスは外交官としての話を始めた。

 

「この度は謁見の場を設けていただき誠にありがとうございます。私はアクハ帝国から全権代理人としてこの場に来ています。アクハ帝国は貴国、シーランド帝国と友好関係を築きたいと思っております」

「ほぅ?」

「……!」

 

テチスは嫌な予感が当り顔が真っ青になる。皇帝ライオネスの言葉次第で自分の運命は決まる。テチスは青い顔のまま彼らの外交を固唾をのんで見守るのだった。

 



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第六十一話「ペルム国の王女様3」

a.t.s53(皇歴53年)/7/9/??:?? シーランド帝国帝都ロンドニウム

「我々アクハ帝国はあなた方がベスタルと呼ぶ大陸を統一しました。とは言っても不可侵条約と従属させた国が残っていますが“我々と敵対する国”は完全になくなりました」

「ほう、それは良かったではないか」

 

ライオネスはテュラノスの言葉に賛同するように返答する。ベスタル大陸について調べ始めた時点で統一は目前だったが予想外にも手早く統一した事は心の中で評価していた。そして、彼らが“ベスタル大陸”と言っている事から大陸外の事についてもきちんと調べ上げているという事に他ならなかった。

 

「(態度もかなり良い。内心ではどう思っているのか知らんが少なくとも表面上はこちらを敬っている。我らについてどこまで知っているのか分からないが実力を持ったこの世界の国にしては好感が持てる)」

 

シパールケ共和国の使者との謁見では怒り狂いそうになるほど酷かったがこちらは今のところは、とつくが好感が持てていた。

 

「そして、我らは大陸内が落ち着いた事で外との交流を持とうと思いこうして外交官を派遣しているわけです」

「何故態々我が国に? 他にも国はたくさんあろう」

「ええ。ですが、ベスタル大陸より東側は貴国、シーランド帝国の勢力圏となっていると確認しましたのでこうして挨拶に来たわけです」

「事前の情報収取もばっちりか。貴国とは良い関係が築けそうだ」

「それは良かったです」

 

ふと、ライオネスはテュラノスの方で震えているテチスが目に入った。顔は青を通り越して白に近い状態になっており体を震わしていた。自分の悲観的な運命を悟っているのだろう。

 

「(確かに今の会話を聞けばそうなるだろう……)」

 

ライオネスは心の中で苦笑する。既に、アクハ帝国を潰す事はシーランド帝国では決定している。現在の技術力はともかく今後の発展具合はムーを超える可能性がある。自国の勢力圏の近くにその様な国が誕生するのは避けたかった。

ライオネスは少し残念に思いながらテュラノスに話しかける。

 

「貴国との交流は好ましいものになるだろう」

「! なあ「だが」」

「残念ながら貴国とは国交を結ぶことは出来ない」

「……理由を伺っても?」

「簡単だ。貴国の技術力は我らにとって危険と判断した。今まで築き上げた機械文明と技術を全て放棄するという事なら貴国との交流も出来るが……」

「それは無理なご相談ですな」

 

テュラノスは険しい表情だが努めて冷静に会話を続ける。そこにテチスに向けたような蔑む感情は見受けられない。ただ、強大な敵に立ち向かう兵士の様な感情が出ていた。

それを見たライオネスは軽く笑みを浮かべた。

 

「我が国の実力をある程度は分かっているようだな」

「勿論です。貴国が途方もない力を持っているのは調べました。ですが、我々とてただで負けるつもりはありませんし勝つ気でもいます。この事は本国に持ち帰らせていただきます」

「勿論だ。貴殿がベスタル大陸に戻るまで……凡そ数日と判断し7月15日をもって宣戦布告する。よろしいな?」

「ええ、その時は我らも貴国を滅ぼす気でかからせてもらいますよ」

 

そう言うとテュラノスは踵を返して扉に向かう。途中、何が起こっているのか分からないテチスにそっと話しかけた。

 

「テチス・パン・ケア。貴殿は恵まれていると同時に哀れな存在だな」

「それはどういう……」

 

テチスが聞き返そうとするがテュラノスは開け放たれた扉より謁見の間を出てしまう。彼が出てすぐに扉は閉められシーランド帝国の者以外はテチスのみがいる状態となった。

 

「さて、テチス・パン・ケアよ」

「っ!?」

「大体察しているが、何のようだ?」

 

ライオネスは先ほどとは違い威圧感を出しながらテチスに問いかける。真っ向から圧を受けたテチスは先ほどと同じように顔を青くするが直ぐに覚悟を決めた表情で言った。

 

「祖国を、我が祖国を取り戻す手伝いをしていただきたい」

「我が国のメリットは?」

「それは……」

 

テチスはここに来るまでにシーランド帝国のメリットを考えてきた。しかし、態々手を貸してまで渡せるものはペルム国にはない。魔導技術も、資源も、財産もそして人さえも、彼らにとっては“無いよりはマシ”程度だ。だが、先程のテュラノスとのやり取りがテチスに僅かな希望を与えていた。

 

「もし、アクハ帝国と戦争する際は私を使ってくれて構いません」

「ふむ、それだけでは伝わらないぞ」

「私はテチス・パン・ケア。アクハ帝国に滅ぼされたペルム国の王女です。私を保護し、ペルム国奪還という“大義名分”を掲げれば貴国は戦後処理やその後の統治を楽に行えると思います」

「一理あるな。“ペルム国を不当にも滅ぼし占領するアクハ帝国に鉄槌を降す”とでも言えば反対は出て来ないだろう。我が国の統治に不満を抱く者も主だっては批判はできなくなる。が、我らは大義名分などなくとも戦争を行い領土を広げてきた。今更何が変わるというのだ?」

「……貴国は転移国家であると聞きました。そして、貴国がこれまでに行った戦争は大きく分けて二つ。ロウリア王国という国とパーパルディア皇国に対してです。両方とも大なり小なり大義名分があります」

 

ロウリア王国の場合は“国交を結んだクワトイネ公国を救うため”。

パーパルディア皇国の場合は“殺された皇太子妃の弔い合戦”。

意図してこのようにしたわけではないが結果的にこのような大義名分がついていた。

 

「つまり、この世界の人にとってシーランド帝国は“大義名分がある場合は戦争を起こす”と思われていても可笑しくありません。そして何より、大義名分を用いずに戦争を行えば国としての信用は地に落ちます」

「……」

 

テチスにとっては唯一キレるカード。だが、その効果は絶大でありシーランド帝国を納得させるだけの力があった。少なくとも宰相は納得している様で何か考えている様子だった。

テチスは恐る恐るライオネスの方を見る。瞬間、彼女の表情は一気に真っ青になる。今まで感じた事の無い寒気と嫌悪感が襲ってきたのである。

その様な感情を感じているテチスにライオネスは一言だけ言った。

 

「却下だ」

 



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第六十二話「ペルム国の王女様4」

半分タイトル詐欺見たいなもの


a.t.s53(皇歴53年)/7/9/??:?? シーランド帝国帝都ロンドニウム

「却下だ」

 

ライオネスの冷たくも突き放す言葉にテチスは絶望する。手ごたえはあったはずなのにライオネスは淡々と断ったのである。

テチスは震えそうな声で問いかける。

 

「な、何故でしょうか?」

「単純だ。その態度が気に食わん」

「え?」

 

テチスは更に混乱する。一体自分の何がいけなかったのか?どうすればいいのか?答えの出ない自問自答に答えたのは意外にもライオネスだった。

 

「大義名分がなければシーランド帝国が信用を無くすと言うがそれだけで失う信用など最初からないも同然である。そして何より、この世界で我が国と対等に外交できる国など存在してほしくないのでな。いずれムーなどの列強は滅ぼしたいところだが……」

 

ライオネスはそこまで言って言葉を区切る。流石に国交を結びムーへの興味があふれている現状では滅ぼす事は出来ないだろう。やれば確実に実行前に止められる事はライオネスにも分かった。

ライオネスは立ち上がりゆっくりとテチスに近づく。宰相はこれから行われる事を理解したのか呆れたように息をつくと玉座の後ろにある扉から出て行った。

 

「あ、あの……?」

「なに、最近は体力がなくてな。直ぐに終わらすさ」

 

そう言うとライオネスはテチスの服を引きちぎった。そして、数秒遅れてテチスの悲鳴がキャメロット城中に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

a.t.s53(皇歴53年)/7/15/??:?? シーランド帝国帝都ロンドニウム

【偉大なるシーランド帝国の臣民諸君! 我らは新たな敵と戦う事となった。ベスタル大陸にあるアクハ帝国である。余は“寛大な態度”を示したにも拘わらず彼らは“横暴な振る舞い”で拒否をしてきた。故に! そして、我らの下には彼の国に滅ぼされた亡国の姫がいる。彼女は我が国に助けを求めてきた。遠き友人となった彼女の為にもアクハ帝国は滅ぼさねばならない! 臣民諸君も我らの勝利を信じよ! オールハイルシーランド!】

 

この日、シーランド帝国中に歓声が上がりそれらを背にシーランド帝国軍30万とそれらを乗せた輸送船団、そして第一、第二艦隊が出撃するのだった。

キャメロット城の一室で艦隊の出撃をテチスは“濁りきった瞳”でそれらを見るのだった。

 

 

 

 

 

a.t.s53(皇歴53年)/7/15/??:?? アクハ帝国帝都テレスクイ

「いよいよか……」

 

アクハ帝国皇帝ペリアシアン帝は王宮のバルコニーから東の方を眺めながら呟いた。占領したペルム、ジュラ、ルシルの旧領には対空陣地とレーダー施設が建設されシーランド帝国を迎え撃つ準備をほぼ完了させていた。

アクハ帝国が誇る巡洋艦隊も順次出撃し周辺海域の偵察と防衛を行っている。例え敵が上陸して来ようと上陸できる場所には塹壕が掘られている。それらを陰から支援する占領地の統治も完璧に行われていた。数日前にはペルム国のレジスタンス組織を複数壊滅させており亡国の抵抗組織の力を確実に削り取っていた。

 

「敵は強大と聞くが……」

 

短い時間ながら最良の情報を集めたアクハ帝国だったがシーランド帝国とは相容れないだろうと予想がついていた。誰だって自分一強の中で近くに自国と同じ力を持つ国が現れれば嫌だろう。その為、この結果は予想が出来ていた。とは言え友好関係を築けるのならそれに越したことはなかったが。

ペリアシアン帝は未だにシーランド帝国がそこまでの力を持っているとは思えなかったが情報収集を行った者の必死の様子から信じる事が出来ていた。

僅か十数年で技術革命を起こしセイダイケン大陸において並ぶ者はいない強国となった祖国を超えるシーランド帝国。ペリアシアン帝にとっては未知と恐怖が入り混じった複雑な思いが心の中でくすぶっていた。

 

「願わくば我らの力で撃退できればいいのだが……」

 

ペリアシアン帝はそう呟くと再び東の空を眺めるのだった。

 

 

 

 

 

 

a.t.s53(皇歴53年)/7/15/??:?? シーランド帝国の某自治領

【発射一分前】

 

転移前は国防の要であると同時に敵を穿つ最強の矛であった弾道ミサイル。それらは転移によって使えない兵器と化しており作業員が埃を取り払うだけの日々が続いていた。

しかし、今日この日を持って異世界でもシーランド帝国最強の矛として活躍する日が来ていた。

 

【発射10秒前……5……4……3……2……1……発射】

 

アナウンスの予告通り弾道ミサイルに火がつき勢いよく空へと飛びあがっていく。それらは幾つもの煙の線を描き全てが西に向かって進んでいく。

ベスタル大陸に向かう艦隊と軍勢を支援するべく30箇所以上の目標に向かって弾道ミサイルは飛来していくのだった。

 



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第六十三話「無情にも降り注ぐ破壊の槍」

a.t.s53(皇歴53年)/7/15/??:?? アクハ帝国旧ジュラ共和国のとある沿岸

ジュラ共和国との戦争で野砲部隊を率いて活躍したトリケラスは対空用に改良された火槍陣地で待機していた。周囲には対空砲が等間隔に並び空から会ってくる敵を迎え撃たんとその銃口を向けていた。

とは言え、シーランド帝国からセイダイケン(ベスタル)大陸までは距離がある。宣戦布告と同時に攻撃を行うならまだしもそうではない場合若干の時間があった。今回は後者でありトリケラスは休息を取っていた。勿論敵が来てもいい様に直ぐに動ける準備は怠っていなかったが。

 

「まだ見ぬワイバーンの為に発達した対空火器。これらが何処まで通じるのか……」

 

トリケラスは情報部に勤める友人から話を聞きシーランド帝国が音速を超える飛行する機械を持っている事が分かっている。情報部のそれは直ぐに上層部に伝えられたがそれを受けて研究員たちが早速飛行機械の開発に乗り出しているらしかった。

 

「なんで飛行機械が生まれなかったのかねぇ」

 

そう呟くトリケラスだが何となく想像は出来た。ワイバーンなどの飛行する大型生物は見たことが無かった。故に迎撃するのみで十分と考えてしまったのだろう。トリケラスとて火槍を実際に使うまではその運用に疑問を持っていたのだから。

 

「まぁ、確実に飛行機械を戦闘に出せる頃には熾烈な戦いが繰り広げているだろうけどな」

 

そう呟くトリケラスの耳に地響きのようなものが聞こえ始めた。彼は腰かけていたイスから立ち上がると双眼鏡を使って東の方を見る。そして、偶々トリケラスは視認する事が出来た。上空をこちらに向けて高速飛翔する槍の様な物の存在に。

 

「っ!? 敵の火槍か!? 対空迎撃用意!」

 

トリケラスは自分の部下にそう怒鳴る。それに一拍遅れて鐘がけたたましくなる。飛行生物襲来時にならされるもので事態を把握出来ていない兵士たちも対空迎撃の用意を始めた。

しかし、標準を合わせる暇もなく“それ”はやって来る。トリケラス達がいる対空陣地に落ちるように突き進んでくるのは3つ。“ただの”火槍なら十分迎撃は可能だった。

 

「対空迎撃開始!」

 

トリケラスの指示に従い自身の部下たちが一斉に砲撃を始める。空中で爆発し破片をまき散らしていくが“それ”には全く当たらなかった。

そして、一番遠い陣地に一発目がぶつかり大爆発を起こす。爆風で飛ばされそうになる中トリケラスは命令を下す。

 

「対空火槍発射!」

 

風で少しそれつつも“それ”に向かって進む火槍は運良くトリケラスの真上から向かってくるやつにあたり大爆発をお引き起こした。それに少し遅れて今度は反対側に落ちトリケラスに迎撃出来た喜びを与えさせずに砂で包み込む。

 

「ぐ! くそ! 被害は!?」

「砂が対空砲に入り込みましたが無事です! 兵士も全員生存!」

「よし、それなら良かった……」

 

トリケラスは改めて周囲を確認する。合計で百は超えていた陣地はたった二発でその大半を破壊していた。結局、トリケラスとその部下以外で生存者はおらず防衛は無理と判断し対空砲の破壊と武器弾薬の回収を指示して一人煙草を吸う。

 

「(あれは火槍だったな。だが、意志を持つようにまっすぐ進んでいたうえにあり得ない角度で曲がってもいた。それが可能なら火槍の地位は大幅にあがるな。実際、こちらの陣営はほぼ壊滅状態にある。しかも敵の火槍はまだまだあった。それが全ての陣地に降り注げばこちらの対空能力は失われる。……いや、首都や主要都市に落とすだけも効果は絶大だ。どちらにしろ俺たちは遠くから一方的に攻撃できる国と戦争をしているという事か……)」

 

トリケラスは想像を絶するシーランド帝国の力の一端を理解し軽く絶望するのだった。

そして、トリケラスの予想通りアクハ帝国の対空陣地は全て破壊された上に主要都市にも降り注ぎ指揮系統の混乱を生み出すのだった。

 

 

 

 

 

a.t.s53(皇歴53年)/7/17/??:?? とある海域

シーランド帝国の原子力潜水艦20隻で構成された第四潜水艦隊はシーランド帝国の艦隊の支援をするべく海中を潜っていた。

そんな彼らの前に獲物が出現する。

 

「識別完了。アクハ帝国の艦隊と思われます。数は約30」

「敵の主力艦隊だな。魚雷戦用意」

 

司令長官はすぐさま攻撃命令を下す。もしかしたら別の国の船かもしれないがこの艦隊はもう少しでシーランド帝国艦隊のレーダー網にかかる位置にまで来ていた。わざわざ艦隊に無駄弾を使わせる意味はない為撃沈を決定した。

 

「魚雷準備完了しました」

「うむ。発射せよ」

 

原子力潜水艦20隻から一斉に魚雷が放たれ一隻に数発というオーバーキルとも言える攻撃を開始するのだった。

 



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第六十四話「対照的な陸と海の戦闘」

a.t.s53(皇歴53年)/7/17/??:?? とある海域

アクハ帝国の主力艦隊はシーランド帝国の主力艦隊に備えて周囲の海域を偵察していた。艦船用に建設されたレーダーには何の反応もなかった。とは言えこのレーダーはまだ初歩的なものでありあまり信用できるようなものではなかった。その為、双眼鏡を持って目で見張る兵が大量にいたのである。

 

「そろそろ接敵しても可笑しくないが……」

 

司令長官は未だ見えぬシーランド帝国の艦隊に警戒と不安の気持ちがあふれてくる。それでも自身の役目を果たそうとしている時だった。伝声管を通じて見張り員の悲鳴のような叫び声が聞こえてきた。

 

【水中を進む影あり!】

「水中だと?」

 

その見張り員は運が良かった。偶々海面付近を進む第四潜水艦隊が発射した魚雷が見えたのだから。しかし、彼らは水中を進む魚雷を止める方法など持っていなかった。

 

【本艦に急速接近中!】

「っ! 回避行動を取れ! 急げ!」

 

司令長官の迅速な命令で回避が始まるが日清戦争くらいの艦船が最新式の現代魚雷を避ける事など出来るはずがなかった。

見張り員は自身の下の部分に魚雷が突き刺さる光景をスローモーションで見ていた。そして、当たると同時に彼の視界は真っ白に包まれると同時に全身に痛みを感じ意識を失うのだった。

 

【右側に着弾!】

「被害はどうなっている!」

【浸水を確認! 復旧は無理です!】

「何と……!」

 

謎の攻撃が装甲艦を沈めるには充分な威力を持っていた事に驚愕するがそんな司令長官を嘲笑うように下から大量の爆発が響き船を一時的に持ち上げた。

 

「ぐっ!」

 

直ぐに落下し司令長官は椅子から転げ落ちダメージを受ける。それは他の者も一緒で中には打ち所が悪くて倒れたままの者もいた。

 

「何が起こった!」

【船底に複数命中した模様! 船底はほぼなくなっています! このままではすぐに沈みます!】

「馬鹿な……!」

 

アクハ帝国が誇る最強の艦隊の旗艦が呆気なく沈む。その事実に目をそむけたくなるが直ぐにあらたな絶望が舞い込んできた。

 

「司令! 他の艦隊も同じ攻撃を受けたようです!」

「何だと!?」

 

司令長官は急いで窓に近づくと様子を見る。そこには同じ攻撃を受けたらしい艦の姿があり急速に沈む様子があった。中には船を安定させる事が出来なかった艦もあるようで横に倒れ込み沈む船もあった。

そこで漸く船が傾きつつあることに気付く。ゆっくりとだが確実に右側に倒れ込んでおりその内脱出も出来なくなると思われた。

司令長官は絶望を感じながら茫然とする船員に言った。

 

「総員、退艦せよ。この船はもうだめだ」

「司令……」

 

悲痛な声で言う司令長官に船員も同じような気持ちになる。自分たちが誇る最強の艦隊。それが呆気なく沈むのはとても悔しかったのである。

数分後、司令長官が乗艦した旗艦はゆっくりと沈んだ。生き残った船員たちは数が少ない救命ボートや瓦礫にしがみ付きながら自分たちの艦隊の最後を見届けるのだった。

彼らは捕虜とするべく艦隊から離れた一部の輸送艦と軍艦に救助された。そして、シーランド帝国の軍艦が自分たちの船より洗練されている事に気付き「艦隊戦を行っても勝つどころかダメージを与える事さえ不可能」と口をそろえて言うようになる。

彼らに取って不幸だったのは木造船ではなく鉄船だったことだろう。魚雷では木造船を沈める事は難しくその場合艦隊からミサイルが放たれるか砲撃船で逃げる暇もなく沈められていただろう。ある意味彼らは木造船ではなかったからこそ生き残れたが想定していた艦隊戦すら出来なかったと言えた。

 

 

その様な似た光景はベスタル大陸東の海でいくつも起きシーランド帝国の艦隊がベスタル大陸に到着する頃にはアクハ帝国の軍船は港に寄港中の物を除き全て沈められる事となった。

その様にアクハ帝国が海軍能力をほぼ喪失した7月18日、遂にシーランド帝国の艦隊はベスタル大陸に到着した。いくつかのポイントに分かれシーランド帝国軍30万は上陸を開始するのだった。

 

 

 

 

 

a.t.s53(皇歴53年)/7/18/??:?? 旧ジュラ共和国の沿岸

シーランド帝国の兵士であるトーマスは緊張した面持ちで砂浜に足を付ける。しかし、後方にはまだまだ兵士がいる為直ぐに少し走りその場でうつ伏せに倒れ敵の攻撃に備える。

地球では弱小国相手とは言え上陸戦を行ってきた為こういった動きの手際は良かった。トーマスも地球では未体験だが転移後はヴェヌ上陸の一番手として活躍していた。

トーマスが上陸した場所は砂浜の直ぐ隣に森が広がっていて視認性は悪かった。事前に軍事施設は叩かれていたがそれでも反撃が無いとは言い切れない。トーマスは敵が出てきても対応できるように小銃を構える。彼の後方では戦車の上陸も始まろうとしておりそれが終われば周囲の偵察が始まる。

 

「ん?」

 

その時、トーマスの耳に聞きなれた音が響く。そしてそれを理解したトーマスは顔を青くしてその場に蹲った。瞬間、トーマスの周りに砲弾が辺り爆発を起こす。更に初歩的なロケット弾らしきものが海上を渡る上陸用舟艇に降り注ぐ。回避しようとしたり迎撃を行おうとする船もあったが一歩間に合わずに船や海上に突き刺さり大爆発を起こしていく。歩兵の損害はそこまでではなかったが上陸前の戦車は全て舟艇と共に海に沈んでいく。砂浜の兵も砲撃が辺り吹き飛ばされたり爆散する者もあらわれておりパニックに陥っていたが砲撃は直ぐに止み周囲を静寂が包み込んだ。

実を縮こませていたトーマスはゆっくりと目を開け周囲を確認する。丁度トーマスがいた付近には当たらず無事だったが他の兵士たちはそうではなく死体や負傷者で埋め尽くされていた。

海にはシーランド帝国の戦車が半分浸かった状態だったり沈んでいたりしており無事な戦車は一両もなかった。

 

結局、このポイントに上陸した兵のうち三十名が死亡、100名以上の負傷者を出した。更にはこの地に展開する予定だった戦車と一部の野砲は使い物にならなくなり著しく力がそがれる結果となった。

これはシーランド帝国がこの世界に転移して初の、敵軍との戦争で発生した“損害”と言える被害であった。この戦闘は楽に勝利できると考えていたシーランド帝国側に大きな衝撃を与えるとともにアクハ帝国が進む未来を地獄へと変貌させる出来事であった。

 



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第六十五話「衝撃」

ストック切れました。多分次話の投稿は少し間が空きそうです


a.t.s53(皇歴53年)/7/18/??:?? 旧ジュラ共和国の沿岸より少し内陸に行った場所

「命中確認!」

「よし、撤退するぞ!」

 

トリケラスは部下からの観測結果を聞くとすぐにこの場を離れる命令を下す。用いた野砲や火槍はそのままに、小銃や弾薬などのみを持ちその場を離れる。

対空陣地を離れたトリケラスは丁度良い立地にあったこの場所に野砲と火槍の陣地を築き敵が上陸した際に攻撃出来るようにしていた。そして、敵の攻撃が来る前に終わらせるために野砲は数発のみ撃つ事となっていた。

 

「隊長! 後数発撃っても問題ないのではないですか?」

「いいや。敵に損害を与えられたのならそれで充分だ。余計な欲を出して死ぬのだけは避けねばならない」

 

トリケラスの言葉に部下の一人が反論しようとした時だった。先程までいた野砲陣地に複数の砲弾が降り注ぎ高台を更地にしていく。運よく部隊の全てが砲弾の当たらない距離まで来たため問題なかったがシーランド帝国の反撃が早く、狙いが正確な事に部下は驚愕している。がトリケラスだけは「やはりか」と呟く。

 

「これ以上ここに留まっては俺達の命がないのはこれで分かっただろう? 俺たちのほかにどれだけ軍が無事なのかは分からないが本土に戻って体勢を立て直すぞ」

「はっ!」

 

トリケラスは部下を率いて旧ジュラ共和国領を横断するように進む。そしてそのまま道を避けて通った為山越えをする羽目になるがその結果、シーランド帝国には見つからずに済むのだった。

 

 

 

 

 

a.t.s53(皇歴53年)/7/18/??:?? シーランド帝国にあるとある収容所

「ふふ、アクハ帝国は不幸だな……」

 

その房には一人の女性が収容されていた。収容から半年を越えているが女性は半年しか収容されていないとは思えない程憔悴していた。しかし、彼女の名前を聞けば納得すると同時にまだ足りないと思うようになるだろう。彼女の名前はレミール。シーランド帝国の皇太子妃グィネヴィア・ロバーツ・ペンドラゴンの凌辱と殺害を指示した人間でありシーランド帝国の臣民に恨まれている彼女。その恨みはこの収容所でもレミールに牙を抜いた。

収容されたその日に彼女は囚人たちのストレス発散も兼て凌辱された。代わる代わる犯されつつも死なせる訳にはいかない為暴力的行為は一切許可されてはいなかった。それでも高貴な彼女の心を砕くには充分だった。その後も定期的に凌辱を受けており彼女の心身は衰弱していった。ゴミの様な残飯と不衛生な水が朝に出される。それがレミールの一日の食事であり夜に回収される際に残していたら折檻を受けた。排泄は部屋の隅に設置された壺で行うしかなく朝食が運ばれてくると同時に前日の分が回収されるがそれらは全て男が行い蔑むような眼で見下し、嘲笑する。

体を洗うと称して場所によってはあざが出来そうな威力のホースで冷水をかけられる。その間は地面に倒れる事は許されず座ったり膝をつけば乗馬用の鞭でひたすら叩かれる。そして腫れたところには塩などをすり込められる。

これらは24時間監視カメラでばっちり録画されておりレミールにもその話は伝えてある。気付かない場所で自分の裸や排泄中の場面を異性に見られていると知った彼女は発狂しかけたほどだ。

死なない程度に加減されているとは言えそれに耐え続ける事など不可能でありレミールは何かされない時はずっと虚空を見て過ごしていた。

そんな彼女だが外の情報は近くにある看守の部屋から漏れる音から知っている。嫌がらせか就寝時間後にテレビのニュースを大音量で日照まで流される。そのせいで最初の頃は寝不足だったレミールも適合しうるさい中でも眠る事が出来ていたがそれを許す看守ではなく今は別の方法で睡眠を邪魔する準備を始めていた。

 

「彼らも知る事になるだろうな。シーランド帝国の恐ろしさを……」

 

レミールはそう呟くと開かれた扉から入って来た囚人五人に視線を向け乾いた笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

a.t.s53(皇歴53年)/7/20/??:??

シーランド帝国軍が損害を受けたという情報は直ぐに精査されて報道された。

 

【アクハ帝国の反撃!? 上陸部隊に多数の死傷者】

 

このようなタイトルで報道されるのはビニールシートで包まれた死体であり周りには友人らしき者達が泣いている姿が映し出された。転移後初の損害はシーランド帝国の臣民たちに大きな衝撃を与えた。

 

『アクハ帝国はそこまで強いのか?』

『パーパルディア皇国との戦いだってこんな損害は出なかったのに……』

『もしかして、このまま負けたりしないよな?』

『俺たちはこの世界では最強なんだ。負けるなんて……』

 

悲観的な意見も上がっておりそれだけ今回の出来事がいかに大きかったかを物語っている。

 

【我らは敵を侮っていました。事前に弾道ミサイルによる軍事施設への攻撃は行われていましたがだからと言って敵軍が無力化されたわけではありません。今後、軍はこれ以上の損害を出さずに済むように敵を徹底的に叩き潰します】

 

軍部からの発表により多少なりとも混乱は落ち着いたがそれでも“アクハ帝国は脅威”と言う認識はシーランド帝国の臣民たちの中に刷り込まれていくこととなるのだった。

 




すっかりレミールの事を忘れていた……


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第六十六話「とある人物の静養」

昨日日本国召喚の6巻と外伝Ⅰ、Ⅱを買いました。5巻だけ売ってなかったので持ってませんが。
魔王軍きっと太陽神の遣いとならいい勝負をしたのだろうなと思っていたのですが見事に予想をうち破られました。本の半分は魔王の逃亡って……。
そんな訳で多少強引な展開ですが魔王の再登場です


a.t.s53(皇歴53年)/2/??/??:?? グラメウス大陸

 レッドオーガとブルーオーガを失いながらもグラメウス大陸に撤退した魔王ノスグーラは一人悩んでいた。彼は今のままではラヴァーナル帝国より与えられた使命を完遂出来ない。今攻めても返り討ちに遭うだけだろう。オーガやオークは全て失われ残っているのはゴブリンのみであった。連れて来た人間を交配させて家畜化はさせている為食料に困る心配はなかった。更に魔王ノスグーラが封印されていた間、魔物たちをコントロールしていたマラストラスがエスペラント王国と呼ばれている国を管理していた為食料事情は大分よくなっていた。

 とは言え戦力的にはマラストラスと魔王ノスグーラ以外にまともな存在はいなかった。

 

「このままではかつての時の二の舞だ……!」

 

 魔王ノスグーラは思い出す。フィルアデス大陸を征服しロデニウス大陸に逃げ込んだ人間族を滅ぼす一歩手前まで追い込んだのに太陽神の遣いによって全てを台無しにされた事を。4体いたオーガも半分まで減りそして今、全てを失った。

 

「人類の滅亡。それは諦めるしかないのか……」

 

 魔王ノスグーラは天を見上げながら呟く。ラヴァーナル帝国でないと彼らを倒す事は出来ない。自分たちでは手も足も出ない。太陽神の遣いを超えていると魔王ノスグーラは思う。

 

「……」

「魔王様」

 

 魔王ノスグーラが黄昏れていると後ろからマラストラスが声をかけてくる。魔王ノスグーラは何も言わなかったが彼の方を向いた。

 

「一度お休みになってはいかがですか?人間の管理なら私にもできます」

「そうだな……」

 

 マラストラスの意見にノスグーラは頷く。ここまで戦い続きであり今は管理をするために忙しくしていた。少し、心を休める目的も兼て休息を取るべきなのかもしれない。ノスグーラは決意した。

 翌日、マラストラスに全てを任せノスグーラは自室にて休息を取る事となるがやる事もなく暇を持て余し始めた。そこで、シーランド帝国がいないであろう場所で少し赴いてみるかと考え始めた。心の傷が治っておらず何処か可笑しくなっていた故の思い付きだったが彼は疑問に持つ事もなく行動を開始した。彼はグラメウス大陸から気付かれないように出るとフィルアデス大陸を西側から、太陽神の遣いに追い立てられた道順の逆を進むように海を泳ぐ。

 そして、彼がたどり着いたのはベスタル大陸であった。

 

 

 

 

 

 

a.t.s53(皇歴53年)/7/15/??:?? アクハ帝国帝都テレスクイ

「何故だ……。何故こうなった?」

 

 ノスグーラは()()()()()()()()()()()にて頭を抱える。彼の座る目の前には大量に積み上げられた書類の束が置かれていた。

 ベスタル大陸に付いた彼は魔力を人間並みに落とすと人間の姿に変装し街に繰り出していた。彼から見れば食料が歩いているように見えるが理性を働かせて人間のようにすごしていた。そして、僅か数日で賭博に入り浸るようになり持ち前の身体能力を十分に用いてイカサマをしたり逆に相手のイカサマを見抜き大金を稼いでいた。彼が数日で稼いだ金額だけで小さなとばく場は幾つも潰れ大きい所も甚大な被害を受けていた。

 そうしているうちに気付けば賭博を好んでいたアクハ帝国のとある政治家と意気投合し彼に助言を行うようになっていた。

 

「ワイバーンはそれなりに厄介だぞ。他の大陸ではワイバーンを持っていない国などいないからな。大国になるとロードという上位種がいる(太陽神の遣いやシーランド帝国というアイツらには通用しないがな)」

「レーダーは多い方が良いぞ。敵の動きを事前に察知すればそれだけ選択肢が増える。それと通信手段だな。魔信は内容だがこの無線?という物をもっと発展させればいけるかもしれんぞ(それと同時に敵を侮らない事も重要だ)」

「あ? 船はどうかって? んなもんしるか。ただ海魔と呼ばれる魔物もいる。水中の敵に攻撃出来る手段は必要だ(太陽神の遣いはどうだったか覚えていないが……、シーランド帝国は持っているだろうな)」

 

 このように助言を行っている内に政治家に連れられて行政府に出入りするようになった。科学が発展し、魔力を感じる技術がない為明らかに異様な魔力を持っているノスグーラに気付かなかったのも原因の一つである。知っていればそもそも出入りを許さないだろう。

 そうして気づけば部屋を与えられ文官のまねごとをするようになっていたのである。とは言え彼も命が脅かされないこの生活を気に入り始めていた。

 

「この大陸にシーランド帝国の影響はない。まさに最高の場所だな」

 

 ノスグーラがそう言った時だった。何かが空を切り裂く音が響いたと思ったら近くに何かが衝突し爆発した。一瞬の事だったが彼の部屋の窓は爆風で吹き飛び彼に襲い掛かるが直ぐに防御魔法を使って無傷だった。

しかし、割れた窓から見える景色からノスグーラは自分の平穏が無くなりつつあるのを悟るのだった。

 



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第六十七話「とうそう」

お久しぶりです。久しぶりに日本国召喚を見て書きたくなったので続きを書いてみました。
久しぶり過ぎて一部設定忘れとかありますが大目に見てくだせぇ


a.t.s53(皇歴53年)/7/15/??:?? アクハ帝国帝都テレスクイ

 帝都テレスクイに謎の物体が墜落した翌日、ノスグーラの下にも情報が届けられた。そして、彼には届いていなかった驚愕の事実も判明した。

 

セイダイケン(ベスタル大陸)を仮統一したアクハ帝国は大陸外の事にも目を向けた。先ずは情報を集めその結果シーランド帝国という国が東側の覇者だと判明した

〇使者を送るも既に行方不明だったペルム国の王女テチス・パン・ケアがいた上にこちらを脅威と思っていた様でそのまま宣戦布告を受けた

〇7月15日、つまり昨日からシーランド帝国とは戦争状態にあった。帝都への落下物もシーランド帝国から攻撃の可能性がある

〇ノスグーラに知らされなかったのはあくまで政府内で進められていた事で助言や手伝いをしてくれている彼は外部(・・)の人間の為知らされなかった

 

 という物だった。気づかないうちに出会わないようにしていたシーランド帝国と戦争状態になっていた。しかも一歩間違えれば自分が死んでいた可能性があった。落下した場所は軍の将官や元帥がいた軍の施設であった。更にレーダー施設や対空機銃陣地にも攻撃が行われておりノスグーラはそれが大陸中で行われている事を悟った。態々山脈を挟んだ西側の帝都の軍事施設を襲う必要はない。だが行われていたという事はここも含めてすべての施設が攻撃を受けているという事である。

 

「冗談じゃない!」

 

 ノスグーラは情報を手に入れるとすぐにテレスクイを出ていく。向かうは沿岸部で港町などではなく崖など“攻撃を受けるメリットがない”様な場所である。助言を行っていた政治家に挨拶をする間もなく混乱する市民に紛れるように帝都を出る。馬車は使わずに徒歩で向かいつつ物陰に隠れて進む。幸いな事に敵の攻撃を受けた事でテレスクイは混乱状態にあり、ノスグーラ一人だけなら難なく逃げ出す事に成功した。

 

「静養のはずがまさかシーランド帝国との戦争に巻き込まれるなんて!」

 

 ノスグーラは予め用意していた海魔に乗るとベスタル大陸を離れていく。目指すは北西。まだシーランド帝国がいないであろう海域だ。

 

「とは言えこれで東側はシーランド帝国が勢力圏として確立したも同然となった。これなら大陸に引きこもって大人しくしているのが一番だろうな」

 

 ノスグーラは他大陸での静養を諦めて自らの勢力圏で大人しくする方針を固めると海魔に急がせる。シーランド帝国の攻撃があった以上ベスタル大陸に一秒でも長くいるのは危険だったからだ。

 そして、それゆえだろう。ノスグーラは逃げる事に意識を削ぎすぎて爆発音が一回聞こえるまで()()に対して気付けなかった。

 

「ん? なんd……」

 

 ノスグーラが気付いた時、それは目の前に迫っていた。黒く自らの胴と同じくらいの大きさを持つそれは太陽神の遣いやシーランド帝国が用いていた……。

 

「しま……っ!」

 

 直後、ノスグーラの体は爆発に包まれた。彼を乗せていた海魔は一撃で死滅し、悲鳴を上げる事さえ出来ずに海の藻屑となって沈んでいくのだった。

 

 

 

 

 

「海魔と思われる生命体に着弾を確認。目標、沈んでいきます」

「うむ、他にもいるかもしれん。レーダー、目視両方での確認を怠るな」

「はっ!」

 

 ノスグーラを攻撃したのは来た周りでベスタル大陸を迂回していたシーランド帝国の艦隊だった。彼らはテレスクイやアクハ帝国内の主要都市を破壊するべく動き出していた。強襲上陸は東側を中心に行われている。攻撃を受け辛い西側にも損害を与えるのが目的だった。

 

「やはりこちらに敵はいないようだな。敵の目が東に向いている証拠だ」

「我々はその後ろから敵を攻撃する、と言う訳ですね」

「そうだ。誰だって後ろに目はない。しかも丁度弾道ミサイルが直撃して混乱している頃だろう。この機を逃す手はない」

 

 その様な話を司令長官と艦長が話していると作戦開始ポイントに到着した。司令長官は表情を引き締めると命令を出した。

 

「艦対地ミサイルを発射せよ。目標、各主要都市!」

「座標を確認。第一波発射準備完了しました」

「うむ、発射せよ」

 

 司令長官の許可の下、艦隊は一斉にミサイルを発射する。それと同時に次のポイントに向けて移動を開始する。弾道ミサイルの直撃を受けて混乱する各都市は更なるミサイルの到来で更なる混乱を産む事になる。しかし、彼らがミサイルが来た方角の捜索をする頃には艦隊は作戦を終えて離脱をしている頃だった。

 作戦を無事に終えた艦隊は達成感と共に帰還するがそんな彼らの下に上陸兵に死傷者が出たと通信が行くのは数日後の事だった。

 

「どうやら我々は敵を侮っていたようだな」

 

 司令長官はそう声を漏らし弾薬や燃料の補給をするとすぐにベスタル大陸へと戻る。彼らの下には新たな命令書が届いていた。内容は完結だ。

 

【愚かにもこちらに歯向かうアクハ帝国と言う国を崩壊させよ】

 

 もしこれがロウリア王国のようにこの世界の軍事演習を兼ねたものだったのなら、パーパルディア皇国のように皇太子妃を陵辱したというのならこの程度ではすまなかっただろう。しかし、逆を言えばシーランド帝国に歯向かえるだけの中途半端な国力を持ってしまったが故に彼らは亡国への道を歩んでしまっているとも言えた。

 ベスタル大陸と言う中で完結しつつ技術の更新をし続けた彼らは素晴らしい者達だったかもしれないが時期と場所が悪かった。もっと西に大陸が位置しているかシーランド帝国の技術が200年程先だったりベスタル大陸の発展が100年前から起きていたのなら結果は違っていたかもしれない。

 しかし、結局の彼らは不運であり、アクハ帝国と言う国の滅亡へのカウントダウンが少しずつ近づいていくのだった。

 



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第六十八話「終結」

展開急だけど許して


a.t.s53(皇歴53年)/7/21/13:00 シーランド帝国帝都ロンドニウム

 強襲上陸部隊の損害が出た事を受けてシーランド帝国では今後の対策会議が数日に渡り行われた。会議には皇帝ライオネス・ロバーツ・ペンドラゴンを始め直ぐにロンドニウムに集まる事の出来た上層部全員が参加する大規模な物となった。

 

「我々はアクハ帝国と言う国家を再認識する必要がある」

 

 ライオネス・ロバーツ・ペンドラゴンのこの発言から会議は始まりアクハ帝国を()()()()()()()を真剣に話し合う。とは言えライオネスを始めシーランド帝国の上層部にアクハ帝国に負けるという意識は存在しない。いくら蒸気機関を用いていると言っても彼らとてでは未だに大きな国力差が存在している。これからも多少の損害は出てくるだろうが戦況を一辺させるような事にはならないというのが総意だった。実際、長距離弾道ミサイルによってアクハ帝国の都市部に存在した基地は破壊されている。長距離弾道ミサイルを今後も使用すればアクハ帝国はまともな戦闘を行う事も出来ずにその力を削がれていく事になる。そしてそれらを止める術を持っていない以上こういった意識になるのは仕方のない事だった。

 

「本来ならアクハ帝国は解体したうえで属国にするつもりであったが気が変わった。アクハ帝国と言う()()()()()()()()()()

 

 ライオネスが主導して対アクハ帝国戦略を再構成していった。約3時間の会議によりシーランド帝国は今後の方針を決定した。

 

【アクハ帝国に滅ぼされし各国を独立させよ】

 

 損害こそ受けたものの、ほぼ全ての部隊を上陸させていたシーランド帝国軍は海岸線に橋頭堡を作りつつ前線基地を築き上げていたが損害を受けた事を重く見た上層部により侵攻は停止されていたが皇帝ライオネスの命令の下侵攻が開始された。旧ジュラ共和国、ルシル王国領に広く厚く展開されたシーランド帝国軍はまるで色を塗るように旧両国を進んでいく。この動きに事実上アクハ帝国の属国となりつつあったデボン国が反応した。

 

「我らはアクハ帝国と言う沈み始めている船に乗るつもりはない! 属国になるのならより強大な国家の方が良い!」

 

 すぐにそう決めるとシーランド帝国軍に使者を送り従属する事を申し出た。この動きは会議でも想定済みでありシーランド帝国軍は従属を受け入れ軍をデボン国内に進めた。ただしそれらはアクハ帝国から防衛乃至侵略するためである。それでもシーランド帝国軍の洗練された武器を見たデボンの国民は歓迎しシーランド帝国軍の支援を行った。

 一方、海軍でも動きがあった。各地に分散していた艦隊は勢力圏内の制海権維持のための最小戦力だけを残してベスタル大陸に集まってきていた。彼らの標的はアクハ帝国本土の沿岸部の壊滅及び占領である。この中には敵海軍基地の破壊や占領も含まれておりアクハ帝国の海上戦力を完全に奪うつもりであった。

 

「敵のロケット砲には気を付けろよ! 当たらないとは思うが当たった場合は厳罰ものだからな!」

 

 空母から発艦していく戦闘機隊の一つではその様な話をしつつ飛び立っていった。ワイバーン相手ならまだ可能性があった火槍も音速を超えるジェット戦闘機相手では分が悪すぎた。ただでさえ命中率が悪いのにジェット戦闘機相手では当たるのは奇跡だろう。

 

「戦闘機隊が先行し、我ら艦隊が敵に止めを刺す。場所によっては海兵隊を送って占領。敵の運が良ければ長く()()だろうが精々明日の昼頃までだな」

 

 とある艦隊の司令長官は懐中時計を見ながらそう呟いた。実際、司令長官の言う通りシーランド帝国海軍は侵攻が再開した22日より苛烈に攻撃を行い翌日にはアクハ帝国本土の沿岸部を破壊若しくは占領する事に成功した。

 

 

 

 

a.t.s53(皇歴53年)/7/23/8:00 アクハ帝国帝都テレスクイ

 各地の戦況がペリアシアン帝の耳に入る頃にはアクハ帝国の敗北は()()()()()()。ジュラ共和国では旧首都アモナイト付近にまで迫ってきておりルシル王国では残党が決起して首都を奪い返していた。デボンはアクハ帝国への従属を誓う寸前まで言っていたがシーランド帝国軍の動きを見てそちらに従属を誓った。トスリア公国も不穏な動きをしており強気な態度を取ればどう出て来るか分からなかった。

 そんな状況での本土沿岸部の消失である。海軍は既に壊滅していたが今回の動きで全滅し、帝都に本部を置いていた司令部だけが生き残った状態となった。まさに四肢をもがれた状態に等しい。一方で陸軍も先の上陸戦で激しい痛手を受けていたが内陸部への侵攻で壊滅状態に陥っている。一部ではゲリラ戦を展開して敵に損害を与えている部隊もいるが全体で見れば敗走中と言えた。

 

「今の我らは箒に吹き飛ばされている塵に等しい……。一体どうすればいいのだ……」

 

 ペリアシアン帝は苦悩するがもはやこうなってしまってはどうしようもない。もし、この状況に陥らずに済む方法があったとしたら統一戦争を仕掛けない事だっただろう。あるいは損害を与えるような事をしない、技術革命が無ければアクハ帝国はベスタル大陸を統一した国家としてシーランド帝国と良き関係を深められたかもしれない。

 

「兎に角、テレスクイ(ここ)を始めとして主要都市は守らないt……」

 

 ペリアシアン帝は今後の動きを考えようとしたがそれを邪魔するように彼がいた宮殿を数発の長距離弾道ミサイルが襲い掛かった。他にもテレスクイには10を超えるミサイルが着弾し、これだけで皇帝を始めとしてアクハ帝国の主要メンバーは全員が死亡した。

 陸軍と海軍の壊滅と言う四肢を奪われた状態のアクハ帝国はここで頭脳まで失い機能不全に陥った。命令が発せられる事はなくなり各都市や軍の残党は自分たちが判断しないといけない状況に追い込まれていくが考える間もなくシーランド帝国軍がやって来る。既にアクハ帝国の未来は決まっていた。

 

 

 a.t.s53(皇歴53年)/7/27。最後まで抵抗していた都市が更地となった事でアクハ帝国は滅亡したと判断され、ベスタル大陸との戦争は終結したと翌日に皇帝ライオネスはそう宣言するのだった。

 



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第六十九話「三者三様の結末」

a.t.s53(皇歴53年)/7/28/??:?? ベスタル大陸某所

 シーランド帝国による戦争終結宣言から翌日、トリケラス以下数名の部下はベスタル大陸中央部に聳え立つ山脈にて潜んでいた。かれこれ1週間以上は山脈で抵抗を続けていた彼らだが山を下りて偵察をした部下からもたらされた祖国の滅亡と言う情報によって今後の動きを決める必要に迫られていた。

 

「隊長、降伏しましょう。既に我らには武器も食料もありません。このままでは敵と戦闘する事も出来ずに餓死してしまいます……」

「いや、それなら最後の抵抗をするべきだ! アクハ帝国軍人としての最後の意地を見せつけるべきだ!」

「このまま山に籠る……と言う訳にはいきませんね。食料も武器もない以上近くの村から略奪するしかなくなります。そうなれば山賊になってしまいますからね」

 

 部下たちは自身の意見を言っていくがアクハ帝国軍として見ればどうしようもない意見ばかりだった。尤も、武器も食料も人員すら足りていない現状で軍人らしい動きが出来る訳がなかったが。

 

「我々が出来るのは精々降伏して命が助かる事を祈るか山賊になりゲリラ戦を展開するか、か……。仕方ない、降伏しよう」

 

 アクハ帝国が未だに戦闘を継続しているのなら山賊となる事も辞さなかっただろう。しかし、アクハ帝国は既に滅びている。忠誠を誓うべき国が存在しない以上トリケラスが考えるのはここまでついてきてくれた部下の事だ。彼らを奈落に落とすような行為は出来ないと決定を降した。

 

「シーランド帝国が我らの命を奪わないとは限らないがこのまま意地を貫いてもしょうがない。幸いな事に我らはシーランド帝国に一矢を報いたのだ。それで満足しようではないか」

 

 抗戦を主張する部下をなだめるようにそう言ったトリケラスは部下を連れて山を下り、近くにいたシーランド帝国軍に投降した。前線部隊の指揮官でこそあったが地位的にはそこまで高くなかった事、アクハ帝国の帝都や主要都市を吹き飛ばした事が原因でアクハ帝国軍人における一般兵の詳細が分からなくなっていた事が幸いしトリケラス達は捕虜収容所で戦後処理が終わるのを待った後釈放となった。

 トリケラスは釈放後は再び軍人としての道を歩み始め、新兵器にも臨機応変に対応できる事を見込まれシーランド帝国軍に所属するようになり、異世界出身者として最初の入隊を果たす事になる。

 

 

 

a.t.s53(皇歴53年)/7/29/??:?? ベスタル大陸西部海域付近

「ここ、は……」

 

 魔王ノスグーラは海に揺られつつ意識を覚ます。至近距離で砲撃を受けたノスグーラだったが幸いな事に防御が間に合い気絶こそしたが助かる事は出来ていた。更に海に漂っていたとはいえベスタル大陸から少しずつ流されていた為シーランド帝国軍に発見される事もなく奇跡的に生きながらえる事に成功したのである。

 

「そうか……。私は助かったのか……」

 

 しかし、助かった代償と言える物として空腹で死にそうなのとずっと冷たい水につかっていたせいで低体温症になりかけている事だろう。魔王と言う規格外の存在でなければ死んでいただろう。

 

「体を動かすのも辛い……。このまま潮の流れに身を任せるのもありか……。西に流れて言ってくれればいいが……」

 

 ノスグーラは自力で体を動かす事を諦め潮の流れに身を任せる事にした。空腹はなけなしの力を振り絞り死体だと思って近づいてきた魚を食べる事で凌ぎそれ以外は体から力を抜きただ流されるままとなった。

 そして彼の巨体を海は少しずつ流し始め、彼の願い通りやがてその体は西へと向かい始めた。彼が陸地にたどり着くのはおおよそ半年以上先の事となる。彼がたどり着いた島の名はブシュパカ・ラタン。アニュンリール皇国の出入り口である。これが後に彼をどのように導くのかは分からないがこれからも彼のシーランド帝国に怯える日々が続くのは確実な事であった。

 

 

 

a.t.s53(皇歴53年)/7/30/??:??  ベスタル大陸ペルム

 テチス・パン=ケアは久しぶりに祖国の土地を踏んだ。しかし、その表情に笑みはない。不安も悲しみも怒りも浮かばずただただ無の感情が浮かんでいた。

 

「……」

「テチス殿()? どうかなされましたか?」

「いえ、何でもありませんわ」

 

 突然足を止めたテチスを気遣ってか隣にいた()()()()()()()()()()()が話かけたが首を振りなんでもないと答え、再び歩き出した。

 彼女の祖国ペルムはベスタル大陸統一戦争の初期に併合された国家であるため復興が始まっていたがそれはアクハ帝国式の都市であり祖国の面影は少しずつ消えさっていった。このままシーランド帝国との戦争にならなければ一年以内にアクハ帝国の一地域と呼べるほど同化が完了していただろう。

 しかし、シーランド帝国がアクハ帝国との戦争を決意したことでこの地は解放され再びペルム国が復興する事となった。その事をこの地にやって来たシーランド帝国軍から聞いた国民は喜び、帰国を果たしたテチス達を歓喜を持って迎え入れた。その歓迎具合に政治家は少し呆れを含んだ声で呟く。

 

「まったく……。自らの国がどうなっていくのかさえ分からない愚民どもが……」

「……」

 

 自国の国民を貶す政治家の発言にもテチスは眉一つ動かさない。度重なるライオネスとの交わりは彼女の心を完全に壊し、シーランド帝国にとって都合の良い人形へと変貌させられていた。彼女が心を取り戻す事は二度とないだろう。シーランド帝国にとってもその方が都合がいいのだから。

 国民から歓迎を受けながら首都の行政府にやって来た一行は今後の動きについて会議を行う。

 

「ではこれよりペルムの()()()()()()()()()

 

 政治家のこの言葉から分かる通りペルムは人知れずシーランド帝国の属国と言う立場となる事が決定していた。その証拠としてこの会議に参加するメンバーはテチスを除けば全てシーランド帝国から派遣されてきた人物だ。

 

「ペルム国はテチス王女による絶対君主制のもと生まれ変わります。反対する者はこの国には必要はありません。そしてテチス王女を我々が補佐します。ここまではいいですね? では次に国内の……」

 

 会議と言う名の国家方針の確認作業は一時間ほどで終了し、本格的にペルム国はシーランド帝国の属国として歩みを始めた。国家を取り戻して喜ぶ国民たちが自分たちの実情に気付くころには全てが手遅れとなり、二度と独立国家として返り咲く事はなかったのだった。

 




次はアクハ帝国のその後についてです(多分)


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第七十話「戦後処理」

 主要都市のほぼ全てを破壊され国家としての機能を失ったアクハ帝国は僅かな生き残りを集めてシーランド帝国が開く講和会議に出席した。とは言ってもシーランド帝国の要求を突き返す国力は残っていない彼らにとっては悔しい結果となるだろう。

 事実、シーランド帝国が要求した内容は以下の通り最悪なものだった。

 

○アクハ帝国は帝国を解体する。

○アクハ帝国内で独立を希望する者達はシーランド帝国の保護下において独立を認める。

○アクハ帝国は現在保有する全ての技術をシーランド帝国に譲り渡す。

○アクハ帝国はシーランド帝国が決める範囲外の技術の開発、研究、売買をしてはいけない。

○アクハ帝国は賠償金として毎年の国家予算から3割をシーランド帝国に支払う事。

○アクハ帝国は固有の軍隊を持つことは永劫に許されず、国防の全てをシーランド帝国軍にゆだねる事。

○アクハ帝国はシーランド帝国が許可を出す国家、地域、組織以外との交流を持ってはいけない。

○アクハ帝国は国内に持つ全ての資源をシーランド帝国に譲渡する事。また、新たな資源が発見された際も同じようにシーランド帝国に譲り渡す事。

 

 突き付けられた要求を全て呑めばアクハ帝国は国家として完全に崩壊するだろう。更に賠償金に関しては期限が一切決められていない為アクハ帝国が存続する限り永遠と搾り取られる事を意味する。

 怒りをあらわにしそうになるアクハ帝国側の関係者だが自分たちは滅びかけの国家の代表である。相手の要求を呑む以外に出来る事など存在しない。

 

【シーランド帝国は現時刻を持ってアクハ帝国との戦争終結を宣言する!】

 

 皇帝ライオネスの公式発表により8月2日、アクハ帝国との講和がなりベスタル大陸での戦争は完全に終結した。更にこの講和内容が公表されるとアクハ帝国と言う泥船から逃れようと様々な諸侯が独立を宣言していき、アクハ帝国の領土は10分の1近くまで縮小する事となる。更に沿岸部は完全に喪失し、ベスタル大陸外に進出する事も不可能となり、アクハ帝国は帝政を解体し、様々な政治形態を試しながら復興を進めていく事となる。

 一方の独立した諸侯たちだが真の独立へと至る事はなかった。シーランド帝国は独立を宣言した諸侯たちを属国として組み込むとアクハ帝国とは別の要求を突き付けた。

 

○諸侯はシーランド帝国の属国となる。

○諸侯はシーランド帝国が決める範囲外の技術の開発、研究、売買をしてはいけない。

○諸侯は固有の軍隊を持つことは永劫に許されず、国防の全てをシーランド帝国軍にゆだねる事。

 

 アクハ帝国よりは軽いものの諸侯たちにも似たものがつきつけられた。諸侯にも技術規制を強いる辺り、シーランド帝国に与えた影響の大きさがうかがえる。それだけベスタル大陸での技術革新を警戒している表れだった。

 そして独立を宣言してしまった諸侯はこれらの要求を呑むしかない。吞まなければシーランド帝国軍によって滅ぼされるのだから。実際、複数の諸侯が拒否して当日中に滅ぼされている。最終的にアクハ帝国から独立したのは5つとなった。それ以外は吸収・滅亡・撤回を行い次々と脱落していった。

 これらの国々はシーランド帝国が許可を出した技術内で細々と国家運営を行っていく事になる。また、アクハ帝国が保有していた海軍基地はシーランド帝国海軍の基地として再利用される事となり、その周辺は関係者以外立ち入り禁止区域となっていく事になる。

 また、デボンにおいては諸侯やアクハ帝国のような技術規制は受けつつも大分緩いものであり、ペルムと並んでベスタル大陸内で最も発展した国家へと成長していく事になる。トスリア公国は諸侯と同じ要求が突き付けられつつもシーランド帝国の海軍基地が大量に置かれた事でその恩恵を受けて他の諸侯よりはマシ程度に国力を伸ばす事に成功する。

 アクハ帝国に一度は滅ぼされたルシル王国とジュラ共和国はシーランド帝国から返還された領土の復興を行っていくがシーランド帝国の半属国と言える立ち位置となりベスタル大陸でブリアンカ共和国と並んで数少ない独立国となった。アクハ帝国と不可侵条約を締結しつつもベスタル大陸統一戦争、シーランド帝国との戦争において中立を維持したブリアンカ共和国は立地的重要性からシーランド帝国と同盟を結ぶ事となり、シーランド帝国勢力圏の西の出入り口として栄えていくことになる。

 

 

 

 

a.t.s53(皇歴53年)/8/11/??:?? ベスタル大陸某所

「やっと大陸の混乱も収まって来たな」

 

 アクハ帝国から独立を果たした諸侯の一つにある海軍基地にて一人の若手仕官がそう呟いた。ここ一週間ほどは講和後の混乱で忙しく、今日になって漸く落ち着けるようになったのだ。尤も、海兵である彼よりも陸軍の方がもっと忙しくしていたがそんな事は彼の知った事ではなかった。

 

「それにこれで俺達にちょっかいを出すような国もなくなっただろ」

 

 この世界に転移して1年と半年で立て続けに戦争が起こり、そのどれにも勝利をしてきたがさすがに勢力圏が一気に拡大しすぎていた。これ以上の拡大は人員不足が起こり、維持する事も困難になるだろう。

 だがアクハ帝国を滅ぼしたことでこれ以上シーランド帝国を脅かす国は存在しない。神聖ミリシアル帝国やグラ・バルカス帝国のような強大な国家は存在するがそれらと戦争になる可能性は今のところ低い。少なくとも数年は戦争にならないだろう。

 

「祖国が勝利して力を増していくのは良いけどそろそろ一休みもしたいよなぁ……」

 

 若い士官はそう呟きつつ今日の分の仕事にかかっていく。転移後のシーランド帝国では珍しい、戦争に関する任務がない平穏な日の出来事だった。

 





【挿絵表示】

戦争後のベスタル大陸
藍色:属国
黄色:独立国
番号はアクハ帝国並びに独立した諸侯(国名とかはまだ決めてないです)。アクハ帝国は②です


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閑話5-1~
第七十一話「戦間期5-1」


あの人が死にます。一応リョナ?注意


a.t.s53(皇歴53年)/9 /14/??:?? 神聖ミリシアル帝国

 世界最強と自負する第一文明圏の盟主、神聖ミリシアル帝国はこの日漸く第三文明圏に関する情報を正確に入手した。第三文明圏とは言いつつも自分たちからすれば格下の格下である事から軽視していたのが原因だった。

 パーパルディア皇国は跡形もなくなくなり、祖を共にするシパールケ共和国もハイエナ的行動を行ったせいで巻き添えを喰らった。その広大な領土は二つの副王国と直轄領以外はフィルアデス連邦として統合された。残った第三文明圏の国家も軒並みシーランド帝国の配下に降り、第三文明圏はシーランド帝国を盟主とする大勢力圏へと姿を変えていた。

 一応情報局のアルネウスが情報を集めていたものの、詳しい情報を得るころにはパーパルディア皇国は滅亡していたのである。結果的に神聖ミリシアル帝国はパーパルディア皇国の後釜として先進11ヶ国会議への参加を要請するついでに使節団を派遣することを決定した。

 

「彼の国はグラ・バルカス帝国と同様に侵略行為を行っている。……上手く交渉が行う事が出来ればいいのだが……」

 

 神聖ミリシアル帝国の皇帝ミリシアル8世はシーランド帝国に警戒を示していたが結果的には神聖ミリシアル帝国使節団の受け入れは歓迎された。シーランド帝国と言えどここまで戦争続きであったためそろそろ国際的調和を取るべきだろうという意見が出てきており、神聖ミリシアル帝国の提案は渡りに船と言えた。

 神聖ミリシアル帝国は直ぐに各技術者や武官から使節団としてシーランド帝国に向かう人選を選ぶ事となる。

 

 

 

a.t.s53(皇歴53年)/9 /16/??:?? シーランド帝国某所

 犯罪者としてシーランド帝国の収容所に入れられたレミールは最後の時を迎えようとしていた。収容から2か月以上、レミールは遂に処刑日を迎えたのである。ここまでの期間で様々な暴力、凌辱、辱めを受けた彼女の体はボロボロであり元は美しかった容姿はまるで幽霊の如く青白く、生気がなくなっていた。体もちょっとした力で折れそうな程細くなっており、今も処刑台に向かって歩く彼女はフラフラとおぼつかない足取りをしていた。

 

「……」

「おい。さっさと歩け!」

 

 少しでも遅れようものなら四方を取り囲む軍人たちに暴力を振るわれる。それでも言う事を聞かなければ首に繋がれた鎖を引っ張られ無理やり引きずられる。そうやって長い道のりを進んだ先には自らの命を終わらせる一本のロープに厳しい表情を浮かべるウィリアムの姿があった。

 

「皇太子殿下! 犯罪者レミールを連れてきました!」

「ああ、ご苦労。早速だが取り掛かってくれ」

「はっ!」

 

 ウィリアムの命令の下レミールに付けられた首輪は外され、代わりにロープが括りつけられる。そしてそのロープの真下に移動させられたレミールにウィリアムは話しかけた。

 

「いよいよお前の最後だ。……これでグィネヴィアを失った事に対する怒りが消える訳ではない。だが、これ以上は衰弱死しかねない状況だからな。勝手に死なれるよりは処刑する事にした」

「……」

「何か最後に言っておくことはあるか? 我が国最悪の犯罪者の最後の言葉だ。しっかりと聞いてやろう」

「……」

 

 レミールは答えない。ただただ足元を見ているだけだ。ウィリアムはその様子に眉を顰めるがため息をつくとその場を離れていく。それと同時にブザー音が響き渡り軍人たちが部屋を退出すると扉が閉じ、処刑台のある部屋にはレミールだけが残される。

 

「……ふ」

 

 ふと、レミールは乾いた笑いを上げる。死の直前という事が分かった為か、彼女の口からは狂ったような笑い声が漏れる。

 

「はは、ハハハハハハハ! アハハハハハハハハハギィッ!」

 

 そしてそんな彼女を殺すために無慈悲にも足元の床が抜け落ちる。重力に従い彼女の体は落下するがそれは彼女の首のロープによって途中で止るが首には強烈な負荷がかかる。彼女の細い首をへし折り、僅かな激痛と共にレミールを殺すには充分だったがそんな彼女を確実に殺さんとばかりに側面より火炎放射が放たれる。

 強烈な炎によって彼女の体は燃えカスとなっていき、地面へと崩れ落ちていく。地面にはベルトコンベアが通っており、それらは屋外のごみ処理施設に通じている。シーランド帝国におけるもっとも厳しい処刑方法であり、これが執行された者は亡骸すら残す事が出来ずにゴミに交じって捨てられるのである。

 

「……」

 

 体全体が燃えた事でバラバラに焼け落ちていくレミールの死体を眺めるウィリアムの表情は複雑な顔となっていた。最愛の妻を殺した相手をそれ以上に痛めつけて殺したが胸のモヤモヤは消える事はなかった。むしろただただ空しいという気持ちだけが広がっていく。

 

「グィネヴィア……。俺はどうすればいいんだろうな……」

 

 ウィリアムは天を見上げながらつぶやくが、その言葉に対する答えは当然返ってこない。それでも問わずにはいられなかった。ウィリアムは今後、グィネヴィアを失った悲しみを抱えながら皇太子としての職務を果たす事になるが優しい性格をしていた彼は父ライオネスのように敵対者には苛烈になっていく事になる。そして、そんな苛烈さを世界に知らしめるのはすぐそこにまで近づいてきていた。

 



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第七十二話「戦間期5-2」

ちょっとした最新話のネタばれ?があるので注意してください
そして今後は4巻の内容に入っていくわけですが何故か4巻だけ手元にありません。ここだけウェブ版を参考にしたり休日に探すなりして対処する予定です。なので書籍版と違った話になる可能性もあるので注意してください


a.t.s53(皇歴53年)/11 /10/??:?? フィルアデス連邦西部

 数日前に神聖ミリシアル帝国の帝都ルーンポリスを出発した使節団はシーランド帝国の属国となったフィルアデス連邦西部の都市に到着しようとしていた。ここで彼らが乗る天の浮船と呼ばれるゲルニカ35型の燃料となる魔石を補給する予定である。これはフィルアデス連邦東部の空港でも同様に行われる予定であり、それが終わればいよいよシーランド帝国の本土であるブリテン島に着陸する事となる。

 

「ふぅ、しかし第三文明圏は遠いな」

 

 着陸態勢に入る事でシートベルトを締めるフィアームは苛ただし気に呟いた。第三文明圏を土地が広いだけの低文明の集合体と見下している彼女にとって態々こちらから出向く理由が理解できなかったのである。皇帝の命令でなければ断っていただろうと誰もが予測できるくらいには今回の使節団への参加は不服だったのだ。

 とは言え彼女の隣に座るライドルカは情報局員と言う事もありシーランド帝国の実力をはっきりと理解していた。無論、完全に理解できている訳ではないが最低でも自国と同等の軍事力を有しているとは予想していた。実際、彼の上司であるアルネウスも同じ意見であり、彼に対してシーランド帝国の力を少しでも見抜く様に言い聞かされていた。

 

『間もなく着陸します。なお、都市周辺にはシーランド帝国軍が駐留しておりますが事前に通達済みであるためご安心ください』

「シーランド帝国軍? こんな所にもいるのか?」

「フィルアデス連邦となったとは言え西部国境は変わっていません。その為この地に軍が駐留しているのではないですか?」

 

 フィアームの呟きにライドルカは答える。実際、この都市から西に少し行けばパンドーラ大魔法公国が存在する。まさに西部国境の重要都市と言えた。

 

「私としてはシーランド帝国の軍隊が見れる訳ですし楽しみではありますな」

 

 そんな二人の会話に入って来たのは技官としてこの使節団に同行したベルーノである。彼としてはシーランド帝国軍が用いる兵器に興味があるためむしろ幸運と感じていた。

 そしてそんな三者三様の思いを乗せたゲルニカ35型は都市部郊外に位置する、シーランド帝国軍の基地と化した空港に着陸した。そこには戦車を始め多数の軍用車両が配備されていた。

 

「これは……!」

 

 そして何より、神聖ミリシアル帝国の使節団を驚かせたのは10を超えるジェット戦闘機の姿であり、フィアームは洗練された航空機に茫然とし、ライドルカはその実力を知っている事から冷や汗をかき、ベルーノは祖国では理論上の段階でしかない後退翼のジェット戦闘機に大興奮していた。

 

「凄い凄い! アルパナ殿! あれは音速を超える事を想定した戦闘機ですぞ! 是非ともあれが動いている姿を見てみたい!」

「ベルーノ殿、落ち着いてください。見ればわかります。ですがここは見ての通りゲルニカ35型が着陸すれば滑走路は埋まる小規模なものです。恐らく離陸する時でしか見れないと思いますよ?」

 

 ベルーノの隣に座っていたアルパナは肩を揺さぶられて若干の酔いを感じつつ冷静に返答する。彼もあれが戦闘機であろうことは理解できる。そしてあれは自分たちの天の浮船より高性能であろうことも。それゆえに、彼は文明圏外国と言う認識を改め、シーランド帝国を自国と同等の大国として認識するようになっていた。

 無事に着陸した後は神聖ミリシアル帝国側の人間による主導のもと魔石の交換が行われる。その様子をシーランド帝国の軍人たちは興味深そうに見ているが邪魔をする気は内らしくあくまで遠目から伺うのみだ。

 

「……彼らの様子から見てもシーランド帝国は魔力を使わない、ムーのような純粋な科学技術の国家の様ですね」

「こうして見ても信じられんな。科学技術とはそこまで進化するのか?」

「分かりませんぞ。我々の扱う魔導技術も古の魔法帝国が使用していたから可能性があると分かっているだけで科学技術も同様の可能性があるという事でしょう」

「そうなると彼らは自力でここまで発展させたというのか? そんな国をパーパルディア皇国が見過ごすとも思えんが……」

「彼の国は転移をしてきたという話も聞きます。もしかしたら本当の事かもしれませんよ? 若しくは圏外文明国から流れて来た技術かもしれませんよ?」

 

 文明圏に所属していない国家でも一つの例外がある。それは様々な理由で世界に知られていない国家が所属する圏外文明国だ。過去にはこれらによって大災厄が起こっており、基本的に対応は最寄りの列強国が対応する事となっていた。それをシーランド帝国が勝手に接触なり略奪するなりして技術を発展させた可能性もあるとベルーノは予測を建てたが本人は直ぐに否定した。

 

「いや、流石にそれはないな。この戦闘機だけではなく他の兵器や乗り物を見ればわかる。これらは他所から奪ってきた兵器ではない。自分たちで工夫・改良・製造して造られた努力の結晶体だ。少なくともシーランド帝国はこれらを作り出せる技術力を持っているという事だ」

 

 ベルーノの予測が正しければ古の魔法帝国の遺産に頼り切り、自分たちで発展させる事をしていない神聖ミリシアル帝国より上という事になる。実際、これらを見ただけでも軍事力においては神聖ミリシアル帝国を超える事が分かる。

 フィアームを始め、使節団はシーランド帝国と言う国に対する恐怖心を抱く事になるがそんな一行を乗せゲルニカ35型はシーランド帝国本土に向けて再び空へと舞い上がるのだった。

 




早速出て来たばかりの圏外文明国を取り入れました。とは言っても話に出てきた程度ですが……


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第七十三話「戦間期5-3」

4巻が家にない……。実家にあるんだ……(家から車で一時間以上の距離)


a.t.s53(皇歴53年)/11 /16/??:?? シーランド帝国領ウェールズ首都カーディフ

 フィルアデス連邦でシーランド帝国軍の力の一端を垣間見た神聖ミリシアル帝国の使節団一行は二度の補給を得てシーランド帝国の本土にして国家としての中核、ブリテン島にたどり着いた。彼らが着陸したのはシーランド帝国の自治領となっているウェールズの首都カーディフであり、自治領都は思えぬほどの発展具合に使節団は目を丸くして驚いていた。

 

「シーランド帝国の力は知ったつもりでいたがそれすら超えて来るか……!」

 

 出発前は文明圏外国と何処か見下していたフィアームはフィルアデス連邦での補給時に見たシーランド帝国軍の姿を見て彼らの力を知った気になっていた。しかし、実際にはそれすら彼らの力の一端でしかなかった。カーディフと言う町は歴史を感じさせる古い街並みを揃えつつ近代的な摩天楼が聳え立つ大都市だ。シーランド帝国最初の自治領と言う事もあり、イングランド直轄領並みに投資が行われている。結果として大都市はコンクリートジャングルを有するようになり、地方都市ですら海外自治領の首都並みの発展具合を見せていた。

 

「シーランド帝国にも自動車が普及している様ですな。……しかも我々の物よりも洗練されている。我々が勝っている点は魔導技術くらいでしょう。フィアームさんはどう思いますか?」

「魔導技術も使わずにここまでの発展を見せる。正直に言えばこの国の国力が非常に読みづらいというのが本音だ。恐らく我々よりムーの方がシーランド帝国の国力を正確に読み取れるかもしれんな」

「その結果として友好関係を築いたのではありませんかな?」

「……そうか。そう言えば彼の国は、いや……。第二文明圏は既にシーランド帝国と友好関係にあったな」

 

 第二文明圏でシーランド帝国に最初に接触を果たしたムーは同じく科学技術のみで発展している事から、シーランド帝国の実力を瞬時に理解した。所々自分たちでは分からない技術などもあったがそれはそれだけ技術の差が開いている事を示しており、ムーは直ぐにシーランド帝国との友好関係の構築に乗り出した。

 結果としてムーが同じ地球から転移して来た伝説の大陸だった事から友好関係の構築は思いのほか上手くいくことが出来た。現在ではグラ・バルカス帝国に滅ぼされたレイフォルとパガンダ王国以外の国家はシーランド帝国との関係を構築している。グラ・バルカス帝国を封じ込める意味合いもあってムーを含む全ての国々がシーランド帝国の独立保証を受けていた。独立保証をしている国が第三国に宣戦布告された場合にはシーランド帝国軍がその第三国に攻め入るというものであり、軍事行動を制限させる意味合いがあった。

 

「エモール王国もいつの間にか交流を持っていますし我らは大分出遅れましたな」

 

 いくら世界最強の国家としてのプライドがあったからと言って相手が悪すぎた。第二文明圏はシーランド帝国との友好関係を築き、エモール王国は第一文明圏で唯一国交を持つ国家として優位に立っている。シーランド帝国も()()()()()()()()()()()()()()と言う風に考えるようになるだろう。

 

「とは言え我らは出遅れたが手遅れになった訳ではない。ここからシーランド帝国との関係を構築するぞ」

 

 フィアームは使節団として訪れた事を幸運と捉えた。でなければ世界最強と言うプライドで凝り固まり、正常な判断が出来なくなっていっただろうから。そう意味ではシーランド帝国の報告書を提出する際にはありのままを書いても信じてはくれないだろうな、と自分がそうであったが故に上層部の対応が簡単に想像が出来て憂鬱な気分となるのだった。

 

 

 

 

「神聖ミリシアル帝国の皆さま。態々我がシーランド帝国までお越しいただきありがとうございます。今回、我が国の説明をさせていただくマーク・サイモンと申します」

 

 シーランド帝国側の代表として一人の老人が話を始める。老いているとは思えない程鋭い眼光に威圧すら感じる風格。まさに歴戦の猛者と言う言葉が相応しい人物だった。

 フィアームは交渉の場であればいい様にやられていたかもしれないと感じつつもそれだけの人物が対応してくれていると感じ傷ついた心が少し癒されるのが分かった。

 

「早速ですがこちらをご覧ください。先ずは我が帝国の帝都ロンドニウムに出発する前に文化、法、規則などを説明させていただきます。これは神聖ミリシアル帝国の皆様方が不注意でそれを犯さないようにするためです」

 

 国によっては独自のしきたりも存在する。弱小国家ならいざ知らずお互いに()()であり憎しみあいそうな不穏な芽は予め摘んでおく必要があった。神聖ミリシアル帝国としてもシーランド帝国の尾を知らぬうちに踏みつけるような真似はしたくはない。使節団は真剣な表情で頷いた。

 そこからマーク・サイモンによるシーランド帝国での注意事項が説明された。使節団は様々なシーランド帝国の洗練された法令に驚きつつもシーランド帝国におけるタブーを理解し、万全の状態でもってカーディフを出てロンドニウムに向けて出発するのだった。

 




明日も更新できるかは分かりません。十中八九出来ないと思いますが


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第七十四話「戦間期5-4」

何か書けた


a.t.s53(皇歴53年)/11 /16/??:?? シーランド帝国帝都ロンドニウム

 シーランド帝国の帝都にして同国最大の都市。ブリテン島の中心地にしてシーランド帝国における最先端の地。そこに今フィアーム達神聖ミリシアル帝国の使節団は足を踏み入れた。とは言ってもカーディフから通じている鉄道から町並みを見ているだけであるが。

 それでも、自らの帝都ルーンポリスとは比べ物にならない大都市にもはや使節団は声も出ない。だが、ただ一人だけ。フィアームだけは不敵な笑みを浮かべた。

 

「ハハハ……。ここまでくれば笑ってしまうな……。ライドルカ、私は思い知らされるよ。世界にはこんな国が、都市があるのだな」

「フィアームさん……」

 

 ライドルカはフィアームの様子を見て心が壊れたのではないかと心配するが彼女は何かを見据えた瞳を持ち、真剣な表情で続きを話し始める。

 

「ならば我らも学べばいいのだ。古の魔法帝国の遺跡を解析してその力を実用化する事で祖国は世界最強の座へと就いた。今回も同じだ。シーランド帝国の方が我らより強く圧倒的であるならば彼らから様々な事を学び、得て、自分の力にすればいいのだ。ライドルカ、神聖ミリシアル帝国の未来はシーランド帝国との関係がどうなるかにかかっているぞ」

 

 まるで子供のような何処かキラキラとした瞳で語るフィアームの言葉はライドルカの胸にすとんと入って来る。実際にそうなのだ。神聖ミリシアル帝国がムーのように自力で魔導技術を発展させてきたのならシーランド帝国を見てもプライドを潰されてお終いだっただろう。しかし、神聖ミリシアル帝国は元々古の魔法帝国の遺跡の恩恵で強大になった国家である。猿真似や劣化コピーが精々でも世界最強の座に至ったのだ。それだけ古の魔法帝国は強大な国家であったと言える。

 ならば今度はシーランド帝国をその対象にすればいいのだ。技術を学び彼らを模倣し、自分たちにあう様に改良を施していく。中には劣化コピー程度しか作れない物もあるだろう。しかし、古の魔法帝国の遺跡とは違いどうしてそうなったのかを理解できる現物をシーランド帝国は持っている。修正はいくらでも可能だ。勿論これらは神聖ミリシアル帝国がシーランド帝国との友好関係を構築できたらの話ではあるが。

 だからこそ外務省の外交官であるフィアームの責任は重大と言える。最初に公式で接触する外交官なのだ。彼女の態度次第では関係構築も水泡に帰すだろう。

 

「そのためにはやはりこの国の皇族との関係を深める必要があるな。確かこの国には皇帝の親族が沢山いたはずだな?」

「え、ええ。我々(情報局)が調べた限りですと皇帝の弟と妹が分家を形成しています」

「つまり人数はいるという事だ。陛下に許可をもらう必要はあるが政略結婚などの結びつきも考えた方が良いな」

「それはきちんと我々の任務を果たしてからでもいいのではないですか? それに数世代先の孫も溺愛する陛下が納得するかどうか……」

「確かにな。陛下は孫を大切にしているからな」

 

 フィアーム達はそんな話をしながら残り少ない鉄道の旅を楽しんだ。

 その後は皇帝と皇太子に謁見をし、自分たちの目的を伝え先進11ヶ国への参加を要請した。それは国際的信用を得るには手っ取り早いものであり、皇帝ライオネスは快諾。詳しい説明や日程を伝え、使節団は帰路へと就いた。

 使節団の表情は様々だが行きのような何処か面倒くさい空気は感じなかった。全員がこの国で知り、学んだ事を自国に活かそうと、そして理解してもらおうと脳内で考えていた。そして、全員の表情は何処か希望を感じる明るい雰囲気でもあった。

 

 

 

 

 

 

a.t.s53(皇歴53年)/11 /18/??:?? シーランド帝国帝都ロンドニウム

「先進11ヶ国会議か……」

 

 ライオネス・ロバーツ・ペンドラゴンは自室のベッドに横になりながら二日前に聞いた内容を思い出していた。先進11ヶ国会議はまさに旧世界における国際連盟と同じような物であり、世界中が見守る物となるだろう。

 

「我が国はついに国際社会に打って出るという訳だな。まぁ、既に出ている様なものではあるがな」

 

 第三文明圏は支配下に置き、第二文明圏ではグラ・バルカス帝国勢力圏以外の国々との交友関係を持ち、第一文明圏でもエモール王国と国交を持ち、神聖ミリシアル帝国すらもこちらに興味を持っている。関係がない、興味がない国はアニュンリール皇国くらいであろう。

 

「我々は東方世界を支配下に置いたがまだ足りない……! 第一文明圏を飲み込みいずれは第二文明圏も屈服させる! そうすれば前の世界では叶わなかったシーランド帝国による覇権を確立できる! そうなれば……っ!」

 

 ライオネスは興奮のせいか痛み出した頭を抑える。最近多くなって来た頭痛はライオネスから正常な判断と睡眠を少しずつ奪っていたがまだまだ現役で皇帝として君臨できる状態ではあった。しかし、今回のはあまりにも酷かった。数分で痛みが引いたとはいえこれが続くなら考えねばならないと思いつつ眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それが永遠の眠りになるとも知らずに。

 




次回から4巻の内容、と言うか先進11ヶ国会議らへんの話になります。つまり第6章です


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第6章【新たな世代】
第七十五話「混乱」


お待たせしました。4巻がどれだけ探してもなかったので勿体ないですけど購入してきました。これで今後の展開も書きやすくなった……筈。


a.t.s53(皇歴53年)/11 /19/??:?? シーランド帝国帝都ロンドニウム

 この日キャメロット城を一言で表すのなら阿鼻叫喚と言う言葉がふさわしかった。使用人は悲鳴を上げ、騒ぎだし、大慌てで城中を駆け回っている。本来なら注意をするべき立場のメイド長、執事長も似たような状況故に混乱が収まる気配はない。

 それもそのはずだろう。朝ライオネスの様子を確認しに来た使用人が冷たくなった本人の姿を見たのだから。そこからはハチの巣をつついたような大騒ぎとなったのである。皇帝の死という衝撃的な情報はあっという間に城中に伝播していた。このままでは城外に広がるのも時間の問題だろう。

 

「落ち着け!」

 

 それを抑えられるものは皇族を置いて他にいない。それも皇太子であるウィリアムなら適任と言えた。大混乱に陥っていたキャメロット城は彼の一言で冷静さを取り戻した。

 

「まずは叔父上たちに説明を! それと詳しい説明は私がするがそれまでは関係者以外に漏らすな! 数日以内に正式な発表を行い、戴冠を行うぞ」

 

 戴冠。それは次の皇帝が決まるという事であり、それが出来るのはウィリアムを置いて他にいない。しかし、実の父が亡くなったにも関わらず淡々と指示を出していくウィリアムの姿は皇帝らしいと思わせると同時に何処か人ではないような印象を周囲に与える事となっていた。

 

「外務省にはシーランド帝国皇帝の代替わりを通達しろ。それとこの機に乗じて反乱を起こす自治領も発生する可能性がある。その為軍務省には暫くは各自治領の引き締めを行えと伝えろ」

「は、はっ!」

 

 次々と命令を出していくウィリアムに促されるように使用人たちは迅速に動いていく。キャメロット城は非常事態と言う事で慌ただしく動いているがそれでも混乱で命令が行き届かない、なんてことには陥らなかった。ウィリアムの迅速な対応と指示により皇帝ライオネスの死は迅速に、だが秘密裏に各行政機関、自治領府に通達されていく。それと同時に新皇帝としてウィリアムの戴冠の準備も始まり、代替わりの混乱を最小限で乗り切っていく事になる。

 そして翌週の11月23日、皇太子ウィリアムから皇帝ライオネスの死とそれに伴い自らが三代目皇帝として戴冠する事が発表された。ウィリアムの根回しによって国内での混乱は最小限に抑えられ、ウィリアムが戴冠する事が決定された12月25日のクリスマスの祝日までシーランド帝国では通常運転と変わらない程混乱なく乗り切る事に成功するのだった。

 

 

 

 

 

 

 シーランド帝国は混乱を最小限で抑えられたが、それに伴う国際社会への影響も最小限であったかと言われれば否と答えるほかない。

 まず、東方世界においてはアルタラス王国の女王ルミエスの夫アーロンは叔父の死に衝撃を受けており、暫くの間凡ミスを連発する事になった。フィルアデス連邦では少なくない独立派の反乱が発生し、シーランド帝国駐留軍はその対応に追われる事になる。

 それ以外の国々でも代替わりを迎える事でこれまでの関係が崩れるのではないかと懸念する国も多かった。特に距離が近いクワトイネ公国やフェン王国はその懸念が強かったがシーランド帝国の動きを見て胸をなでおろしている。少なくとも自分たちと敵対するような事にはなっていないと。

 しかし、東方世界ではこの程度の影響で済んでいたが遥か西、第二文明圏はそうもいかなかった。何しろこの皇帝の死を見て大きな動きを見せた国が存在したのだから。

 

「今こそ第二文明圏を我らの手に!」

 

 グラ・バルカス帝国ではそう主張する軍人や国民が多く存在した。その声は日に日に大きくなってきており、帝国も軍を動員するなどして対応に当たっているものの焼け石に水だった。むしろそうやって鎮圧しようとすればするほど声は大きくなっていった。

 

「馬鹿な……! 国民はシーランド帝国の実力を知らないのか!?」

 

 グラ・バルカス帝国の皇帝グラルークスは無謀とも言える行動を取れと叫ぶ国民と軍部に思わずそう叫んでしまうがシーランド帝国の実力をはっきりと理解できている者が少ない故の結果でもあった。シーランド帝国は自身の目で見ない限りその全貌を把握する事はこの世界やグラ・バルカス帝国には難しかった。

 とは言えグラルークスもグラ・バルカス帝国が勢力を一気に拡大できる最後の機会でもあろうと理解していた。シーランド帝国が今後も代替わりで混乱すれば可能性はあるが皇帝に即位したウィリアムは20代の若者だ。彼が皇帝位を譲るのは速くても30年、最大でその倍はかかるだろう。その間にグラ・バルカス帝国を取り巻く周囲の状況は更に悪化している可能性が高く、地理的状況故にあまり手が伸びていない第二文明圏を自らの勢力下に置くには今動くしかない。

 とは言えシーランド帝国の実力を把握出来ている者からすれば命を賭けてでも止めるべきかもしれないが不幸にも今のグラ・バルカス帝国にシーランド帝国の実力をきちんと出来ている者は上層部にはいなかった。情報局員のナグアノを始め末端の中にはどれだけの技術力を有しているのか理解している者はいても彼らの報告がきちんとした形で上層部に届く事はなく、結果としてグラ・バルカス帝国は未だに“シーランド帝国は技術面で上回っている国”としか分かっていなかった。

 

「我らグラ・バルカス帝国の力を見せつけよ!」

 

 そして更にグラ・バルカス帝国の不運は続く。皇太子グラ・カバルが国民たちに同調したのである。これにより皇太子と言う心強い味方を手に入れた過激派と呼ばれるようになる大半の国民と半数近い軍人たちがグラ・バルカス帝国で強い影響力を持つようになっていく。そしてそれらの力が暴走するのも時間の問題であった。

 

 9月23日、グラ・カバルを首班とする軍事クーデターが発生。グラルークスを始め一部の上層部の人間は捕縛された。グラルークスは強制的に退位させられ、大多数の国民と軍部の指示のもとグラ・カバルが戴冠する事となった。

 



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第七十六話「老人の決断」

今気づいたけど先進11ヶ国会議って中央歴1642年なんですね。1641年だと思ってました。ライオネス殺すの早すぎた……


a.t.s54(皇歴54年)/1 /22/??:?? シーランド帝国帝都ロンドニウム

 前皇帝ライオネスの急死とそれに伴う元皇太子ウィリアムの戴冠と言う一連の流れを無事にこなしたシーランド帝国は漸く落ち着きを取り戻していた。とは言えそれでも代替わりをしたことで行わなくてはならない仕事も発生しており、暫くは何処の者達もそれらに忙殺される事だろう。皇帝となったウィリアムがそれを一番感じているのだから。

 この世界に転移してからはライオネスの政務の一部を手伝っていた彼だがいきなり全ての政務を捌く事は出来ない。後半年ほどは政務を全て期限内に裁く事に慣れなければいけない。

 

「陛下、アブロシウス様との会談の時間です」

「もうその時間か? 分かった。直ぐに行こう」

 

 この日、ウィリアムは叔父にあたるアブロシウスから面会を求められていた。妹や息子を除けば皇位継承権最上級に位置するこの者の訪問はウィリアムを始め帝国上層部を警戒させるには充分だったがただただ面会を求めている以上受けない訳にもいかない。

 

「叔父上、話とは?」

 

 ウィリアムは余計な儀礼を全て取っ払い、用件だけを簡潔に聞く。アブロシウスがどのような目的で訪れたのか分からない以上本音で話し合うのが一番効率がいいと判断しての対応だった。

 

「何、今は亡き兄上からの頼みごとを果たしに来たまでですよ」

「父上の? 一体何を……」

「もし自らが急に倒れるような事があった際には息子の為に犠牲になってくれとな」

「何?」

 

 思わぬ言葉にウィリアムは目を丸くする。皇帝ライオネスがアブロシウスに生前頼んでいた内容はあまりにも予想外と言えるものだった。

 

「わしとてもう長くはない。最近ではここから(自治領ウェールズ)まで行き来する事だけで体調を崩すようになってしまった。いずれ町を出る事も叶わないようになるだろう」

「……そんな叔父上が一体何の犠牲になるというのです?」

「簡単な話だ。わしとお主はこの会談において仲たがいをする。理由は簡単だ。老いを理由にお主はわしから残っている権力を取り上げようとしたがそれにわしが反発するというものじゃ」

「……それで一体何が起こる、と……」

 

 怪訝そうな表情をするウィリアムだがその意味をよくよく考えて目を見開いた。この状況でウィリアムと仲たがいを起せば反帝国系の不穏分子が集まって来る可能性がある。中には実力に伴わない権力を得たい愚か者もいるだろう。そういったものを集めて自分ごと葬れというのだ。

 

「収容所の()()()も可能性はあるだろう。何しろ本人の自我は無いに等しいがその血筋は本物だからの。とは言え収容所から助け出すという工程を挟まないわしの方に多くが流れてくるはずじゃ。何しろわしは前科があるからの」

 

 アブロシウスの野心は国内外で有名だ。一度は本気でクーデターすら辞さない所まで言っていただけに今回も本当の事だとほとんどの者が思うだろう。

 

「……彼女は私が皇帝に即位したのなら釈放するつもりでした。本来、この地は彼女のものであり、我らがそれを奪ったのです。それに、親を捌く必要はあれど子に罪はありません」

「……そうか」

 

 硬い意思を感じさせる表情で言い切るウィリアムにアブロシウスはまだまだ若いなと感じつつも皇太子妃を失い、優しさが消え去った彼が見せるやさしさに何処か安堵する気持ちもあった。

 

「(ただただ苛烈では兄上の様に多くの敵を作ってしまう。半世紀に渡りこの帝国を統治するであろう甥には少しばかり酷だからの)とにかく、これはわしと兄上がずっと決めていた事じゃ。迷惑はかけん。頃合いを見て息子たちに密告させる」

「密告ですか」

「罰せられるのはわしだけで良いだろう。それに密告とは言え一族から反逆者を出すのだ。本家の力を強めるには絶好の機会だろう?」

 

 ライオネスを宗家とし、シーランド帝国の皇族は3つの分家が存在する。一つはほぼ他者に嫁いで影響力は低いが皇位継承権上位者で占められるアブロシウスのアレン家、一族が最も多いフェニックス家等が存在する。いくら彼ら彼女らに皇位を簒奪する気が無くても高い権力を有している現状では周囲にどう思われるのか分からない。それゆえの対応策でもあった。

 

「これはシーランド帝国が今後も反映する為に必要な事じゃ。反対とは言わせんからの?」

「……分かっています。叔父上の決断、大変ありがたく思っています。必ず不穏分子は一掃し、アレン家はこれからも皇族の一員として行けるようにすると約束します」

「それだけ聞ければ問題ない。若き皇帝のお手並み拝見とさせてもらおう」

 

 この会談から数カ月後、グラ・バルカス帝国でクーデターが発生する直前の9月21日に皇帝ウィリアムはアレン家の密告によりアブロシウスのクーデター計画を発見した。それによりアブロシウス以下主要メンバーから末端に至るまでを摘発した。アブロシウスは捕縛時に抵抗を見せたため即射殺され、他のメンバーも少しでも抵抗すれば射殺されていった。

 更に、カーディフ湾に浮かぶシーランド帝国特別収容所に収監されているとある王女を助け出そうと襲撃をしてきた旧連合王国派の人間を返り討ちにするとそのお返しとばかりに彼らのアジトを襲撃した。そして、この襲撃があったからではないが王女は罪はないと判断され釈放され、スコットランドで余生を過ごす事になる。

 この一連の動きによりブリテン島の不穏分子及び反乱勢力は全て駆逐され、ウィリアムの権力は盤石な物となった。未だ自治領では不穏な動きがみられる事はあるがシーランド帝国の安定度は過去最大の数値をたたき出す事となる。

 



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第七十七話「二人の新皇帝」

a.t.s54(皇歴54年)/10 /2/??:?? グラ・バルカス帝国帝都ラグナ

 9日前に起こったクーデターの混乱は未だにグラ・バルカス帝国全土で発生している。皇太子グラ・カバルが首班だったとはいえその実情は軍部の過激派による軍事クーデターに等しく、各都市は軍人たちによる治安統制が行われていた。

 

「グラ・バルカス帝国はこの世界も支配する国である!」

 

 この世界に転移して来た事を支配せよという神の意思だと本気で思っているグラ・カバル新皇帝は戴冠の際にそう宣言した。そして彼は今後この国がどのように動くべきかを語り軍部はそれを歓喜を持って褒め称えた。

 とは言え、帝国の三将と呼ばれるカイザルなどの一部軍人たちはこの一連の動きを苦々しく思っていた。元皇帝グラルークスを始め一部の上層部は粛清もしくは捕縛されていたがその異名と軍部への影響力から恩赦として今後も軍部で働く事が決まった彼は決してシーランド帝国を軽視している訳ではなかった。それどころか内心ではグラルークスと同じ穏健派や共存派と呼ばれるようなシーランド帝国との友好関係構築を目指すべきと主張する人物であった。しかし、この状況になってしまった以上彼にそんな発言が許されるはずがなかった。

 

「(この国は一体どうなってしまうのか……)」

 

 内心でそう声を漏らしながら考えるのはグラルークス達捕縛された者の事だ。彼らは本土にある各収容所に収監されているが決して待遇が悪いわけではないがほぼ軟禁状態に置かれている。カイザルとしては助け出したい気持ちがあるものの、メンバーはばらばらに収監されている為一人では不可能だ。かと言って誰かに協力を仰ごうものなら密告される恐れすらある。何しろ彼の周囲は大半が過激派なのだから。

 

「まずはイルネティア王国だ! 第二文明圏の西部海域を我が帝国の手中に収め、万全の状態で侵略するのだ!」

「ですがムーとマギカライヒに侵攻した場合、シーランド帝国がこちらに攻めて来るのではないですか? 他の国々はともかく両国は関係が深いので……」

 

 軍部の一人がグラ・カバルの言葉に水を差すように意見を言う。それに対してグラ・カバルは一瞬怒りを含んだ目を向けるが直ぐに不敵な笑みを浮かべた。

 

「安心するがいい。その際はシーランド帝国など救援に来れない程のスピードで滅ぼせばいいのだ! その為には両国以外を我が領土としておく必要がある。両国はその後だ」

 

 流石のグラ・カバルもシーランド帝国に負けるとは思っていないが被害が出るとは思っている様で具体的な案を出してきた。しかし、それも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の話ではあったが。それこそシーランド帝国がイルネティア王国侵攻時にでも動き始めればグラ・カバルの戦略は呆気なく破綻する事になるがその事に本人は気づいていない。大半の過激派もシーランド帝国が動いたところで何が出来ると軽視していた。

 これまでの自国の栄華に胡坐をかき、他者を軽視して現実を見れない、見ない。そんな集まりが過激派とも言え、グラ・バルカス帝国の命運を最悪な方向に転がす原因となっていた。

 そして12月10日、グラ・バルカス帝国はシーランド帝国の独立保証がかけられたイルネティア王国に突如として侵攻を開始。僅かひと月あまりで王都キルクルスを陥落させて同国を併合するのだった。

 

 

 

 

a.t.s55(皇歴55年)/1 /1/??:?? シーランド帝国帝都ロンドニウム

 代替わり後2回目の新年を迎えたシーランド帝国は去年と比べて格段に落ち着き、心の底から新年を祝えるだけの安定度を見せていた。この日は誰もが家族とお祝いし、新しい年を晴れやかな気持ちで迎えていたが皇帝ウィリアムを始め帝国上層部の顔色はそれほどよくない。正確には真顔でムー大陸を凝視するウィリアムに顔を真っ青にして上層部が恐怖していた。

 

「……グラ・バルカス帝国は領土拡大に打って出たか」

 

 彼らが短期的に、そして一気に領土を広げるタイミングとしては上出来だろう。その選択肢そのものが悪手であったとしても。

 

「い、イルネティア王国ですが、エイテス第一王子は脱出に成功したものの、そのほかの王族は全滅、した……との、事で……」

「グラ・バルカス帝国は早まったな」

 

 現在他国に外交使節団に交じって派遣されていたエイテスはムーの仲介の下シーランド帝国に向かってきている。ウィリアムとしてもグラ・バルカス帝国を攻撃する大義名分とも言える彼を歓迎するつもりでいる為国賓待遇で扱っていた。

 

「……それで。グラ・バルカス帝国をどうしましょうか?」

「今は何もしない」

 

 ウィリアムの言葉に周囲の人々は驚く。てっきり直ぐにでも懲罰戦争を起こすものだと思っていたがあまりにも予想外の答えであった。とは言えそれはウィリアムも理解していた様で補足する形で続きを話し始める。

 

「後3か月半で先進11ヶ国会議が開催される。国際的な行事の場で今回の事を非難すればいい。イルネティア王国の王子を使えば周囲の国々もこちら側につくだろう」

 

 そうしてグラ・バルカス帝国を完全に孤立させて叩き潰す。それがウィリアムの考えであり今後シーランド帝国が取るべき道であった。他の国々も見ている中で参加予定のグラ・バルカス帝国の外交官を非難する。その後に自国の力をふんだんに使ってグラ・バルカス帝国を滅ぼす。いかにそれが侵略的、蛮族的行為だったとしてもグラ・バルカス帝国の自業自得として国際社会は見るだろう。シーランド帝国のみを頂点とし、武力を前面に押し出して版図を広げたライオネスと、他国と協調しつつ、シーランド帝国の版図を合法的に、誰もが認めるような形で広げるウィリアムとの違いと言えた。

 

「諸君! 残された時間は少ない。先進11ヶ国会議に向けて全力を尽くせ! グラ・バルカス帝国を後悔させながら滅ぼすぞ!」

 

 ウィリアムの言葉に誰もが答える。これよりシーランド帝国は先進11ヶ国会議にてグラ・バルカス帝国を非難するべく準備を始めた。イルネティア王国の王子エイテスとの会談やムーやマギカライヒなどの会議参加国への根回しなどあらゆる準備を整えていった。

 そして、その準備が実る皇歴55年、中央歴1642年4月22日。先進11ヶ国会議の開催日を迎えた。

 



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第七十八話「先進11ヶ国会議1~シーランド帝国の入港~」

a.t.s55(皇歴55年)/4 /22/??:?? 神聖ミリシアル帝国カルトアルパス港

 2年に1度開催される先進11ヶ国会議は必ずと言っていい程カルトアルパス港が選ばれる。これは決してこの世界で最強と言われている神聖ミリシアル帝国の重要拠点だからではなく、11もの国家の船を収容するのに適している港が他に存在しないからである。しかし、流石のカルトアルパス港でも11の国家の船団が集まれば何時もは広く感じる港も手狭に感じてくる。

 ここの湾港管理責任者であるブロントはこの会議の参加国がどのような船で訪れるのか2年に1度の楽しみとしていた。とは言え2年程度で大きく変わっている国などなく、固定参加国の船はもうすでに見飽きていた。

 それ故に、今回初参加となるグラ・バルカス帝国とシーランド帝国の船を楽しみにしていた。この湾港都市には帝都すら超える程の情報が集まって来る。それらを精査すれば両国ともにけた外れの力を持っている事など簡単にわかる。流石に実物を見ない限り正確な事は言えないが少なくともムーを超え、自国にすら匹敵する力を持っていると考えていた。

 

「おお、なんと……!」

 

 そして、ブロントの期待に応えるように最初に現れたのはグラ・バルカス帝国が誇る戦艦グレートアトラスターだった。全長250を超える巨体は周囲の文明圏の船が玩具に見える程異様で、存在感を放っていた。

 

『ぶ、ブロント局長……!』

「ん? どうした?」

『シーランド帝国の()()が到着、しました……』

「そうか。ならば第三文明圏の『それが……』どうした? はっきりと話せ」

 

 どこか言い辛そうに、信じられないと感じさせる声色にブロントは急かすがやがてその意味を理解する。部下からの報告より先にシーランド帝国の船と思われる艦隊が姿を現したがそれらはグレートアトラスターを超えていた。

 

キング・オブ・ライオネス級原子力航空母艦5隻

クイーン・グィネヴィア級航空母艦5隻

リヴァプール級巡洋艦11隻

D4級イージス艦8隻

D5級イージス艦14隻

 

 20万トンを誇るシーランド帝国の象徴であるキング・オブ・ライオネス級原子力空母を始めとして最新鋭艦で構成されるシーランド帝国最強の第一艦隊の姿がそこにはあった。250を超えるグレートアトラスターの船体も約400m近いキング・オブ・ライオネス級の前には巡洋艦にすら思えてくる。

 この艦隊にはブロントも開いた口が塞がらなかった。そして同時にシーランド帝国が何故これほどの艦隊を持ってきたのかその意味を図りかねていた。何しろこの会議は国際会議の場である。決して戦争をするための会議ではない為護衛として連れてくる艦隊も小規模にとどめて居た。にも拘わらずシーランド帝国がこれほどの艦隊を用いて来た意味。

 

「……見せつける為か。自らの実力を」

 

 それ以外に考えられない。他の考えとしては不気味な程静寂を保つイルネティア王国侵攻に対する報復かもしれないがそれよりは自らの武を世界各国に知らしめる意味の方がしっくりと来る。実際に、ブロントを始めこの場にいる者は誰もが第一艦隊の姿に目を奪われている。これを見れば誰もがシーランド帝国を極東の文明圏外国と馬鹿には出来ないだろう。それをするのはよほど軍事に詳しくないド素人か、現実を見れていない大バカ者くらいだろう。

 

『局長、あの艦隊全てを収容するのは難しいかと……』

「そうだな。仕方ない。シーランド帝国さえ良いのなら艦隊を分けて第一文明圏や第二文明圏の港を使わせよう」

 

 あまりにもでかく、数が多い第一艦隊はバラバラになりつつそれぞれ着岸した。そしてキング・オブ・ライオネス級原子力航空母艦第一番艦より降り立つはシーランド帝国の使節団及び、グラ・バルカス帝国に祖国を滅ぼされたばかりのイルネティア王国の王子エイテスだった。僅か18にも満たない青年は覚悟を決めた表情でシーランド帝国の使節団と共に会議の場へと向かい始めた。それが一体何を意味するのか? それが分からない程カルトアルパス港の住人達は馬鹿ではなかった。

 

 

 

 

 

 一方、ブロントの様に第一艦隊の姿に目を奪われた人物がいた。シーランド帝国より先に入港したグレートアトラスターに乗っていた外交官のシエリアやグレートアトラスターの艦長ラクスタルは顔を青くしていた。何しろ自分たちがこの後行う事は卑劣とも取れる行為であるがそれらをこの第一艦隊は跳ね返してしまえるだけの実力があると理解できてしまったのだから。

 

「……陛下を連れて来るべきだったな」

 

 ラクスタルはシーランド帝国は実物を見ないと分からないなと思いつつ、自分の命運もここまでだなと最後の忠義を果たす覚悟を決めた。グレートアトラスターだろうとこの艦隊の前には戦力不足だ。

 そして、皇帝の言葉を全世界に伝える役目を負ったシエリアは始まってすらいないのに胃が痛くなっていた。人前の為、腹部を抑えるだけでしかしていないが一人だけだったらその場に蹲り発狂すらしていたかもしれない。

 

「……艦長、私帰っても良いですか?」

「それが出来ると思いますか?」

「全く」

 

 シエリアは後悔する。何故こんな役目を志願してしまったのか? 出来るなら今すぐ別の人に任せてそのままカルトアルパスの町に消え去りたい。そうなれば自分を襲うこの胃痛ともおさらば出来るだろうと。勿論、そんな事は出来ないと頭の中では理解できてしまっているが。

 

「……私、生きて帰れますかね?」

「捕虜としてなら生きられると思いますよ」

 

 無慈悲とも言えるラクスタルの言葉だが第一艦隊を見ればそう答える他ないだろう。シエリアは胃痛に悩まされつつグレートアトラスターを降りるとまるで死刑台を登る囚人の気分を味わいながら会議が行われる帝国文化館へと向かっていくのだった。

 





【挿絵表示】

現在の勢力図
青:シーランド帝国の直轄領
藍色:シーランド帝国の属国
灰色、薄灰色:シーランド帝国の副王国領
黄:フィルアデス連邦領(シーランド帝国の属国)
緑:シーランド帝国の友好国
黄緑:国交締結国
紫:グラ・バルカス帝国領
薄紫:魔王勢力圏


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第七十九話「先進11ヶ国会議2~公開と通告~」

a.t.s55(皇歴55年)/4 /22/??:?? 神聖ミリシアル帝国カルトアルパス港帝国文化館

 先進11ヶ国会議の会場である帝国文化館に入ったシーランド帝国の使節団は周囲の注目を一斉に浴びた。亡国の王子であるイルネティア王国のエイテスを連れてきている事を含めて第二文明圏で侵略行為を行ったグラ・バルカス帝国に対してシーランド帝国がどのような行動に出るのか誰もが興味があった。

 とは言え当の本人たちは落ち着き払っており、ムーやマギカライヒなどの関係のある国家の代表と二、三話すと自分たちの席に座った。

 

『間もなく、先進11ヶ国会議を開催します。関係者の方は席へお戻りください』

 

 それからしばらくして館内放送が響き渡る。この放送を聞き関係者は自分の席へと向かっていく。先進11ヶ国会議は列強と呼ばれている神聖ミリシアル帝国、エモール王国、ムーが常時参加国となっている。列強と呼ばれていたパーパルディア皇国とレイフォルは滅亡して既に存在しない為その穴を埋めるようにシーランド帝国とグラ・バルカス帝国が呼ばれていた。今はまだだが両国ともに列強を降した事から列強に名を連ねるのは時間の問題だろう。特にシーランド帝国はパーパルディア皇国よりも広大な勢力圏を確立している為実質的に列強と変わらない存在となっている。

 そして、今回はこれらの国々の他にも以下の国家が参加していた。

 

第一文明圏

○トルキア王国

○アガルタ法国

第二文明圏

○マギカライヒ共同体

○ニグラート連合

第三文明圏

○ブリアンカ共和国

南方世界

○アニュンリール皇国

 

 国際的な集まりという事で招待されているアニュンリール皇国を除き全ての国が大国乃至ある程度の国力・影響力を持つ国が招待されていた。特に第三文明圏からはブリアンカ共和国が初参加を成し遂げているがこれはシーランド帝国がベスタル大陸を征服したことで大陸外の国家との交流が活発になった影響でもあった。約二年でブリアンカ共和国は会議に参加出来ると判断されるくらいの影響力を保持しているという事でもあった。

 

『これより、先進11ヶ国会議を開催します』

 

 アナウンスに従い会議が始まった。シーランド帝国は初参加と言う事もあり末席に位置しており議長らが座る席からは大分遠い位置にあった。

 

「流石は異世界といった所か。人間以外の種族も数多くいる」

 

 使節団の一人が感嘆するように呟いた言葉に全員が同意する。人間しか知能的種族がいなかった地球では想像も出来なかったエルフやドワーフなどの存在。そんなおとぎ話に登場するような種族が一堂に会している。まるでファンタジー世界に紛れ込んだかのようであった。とは言え実際に迷い込んでいると言えるしファンタジー世界で通例のメルヘンさとはかけ離れた舐められればお終いと言う地球以上に過酷な世界ではあったが。

 そんな意見がシーランド帝国で出ている中、一人の男が手を上げた。今まさにシーランド帝国側でファンタジーさを感じさせる要因となっていた竜人族の男だ。シーランド帝国にはその顔に見覚えがあった。何しろエモール王国がシーランド帝国に来た時に使節団の長を任されていた人物なのだから。

 その男、モーリアウルはプライドが高く、多種族を見下す竜人族とは思えない程殊勝な態度を取っている。

 

『エモール王国のモーリアウルである。今回は何よりも先んじて、みんなに伝えなければならない事がある。火急の要件につき、心して聞いてもらいたい』

 

 魔導通信機と呼ばれる神聖ミリシアル帝国の拡声器(マイク)より聞こえる声には緊張感が籠っており、明らかにただならない様子に誰もが口を閉ざし、場が静まった。

 

『……先日、我が国は“空間の占い”を実施した。その結果をこの場を借りて公表したい。……古の魔法帝国、忌まわしきラヴァーナル帝国が近いうちに復活すると判明した』

 

 瞬間、場内は一気にざわめく。誰もが顔を青ざめ、隣の者と顔を見合わせている。

 

『空間の歪みが酷く、正確な復活時期は観測できなかったがこれより4年から25年の間にこの世界のどこかに出現すると考えている』

 

 その言葉に遂に場内のざわめきはピークに達した。1万数千年と言う途方もない時間が経過した現在でもラヴァーナル帝国は各国の脅威であり恐怖の象徴でもあった。この場において発狂する者が出ていないだけマシであろう。唯一落ち着き払っているのは事前に知っていたエモール王国とシーランド帝国、そして事の重大さに気付いていないグラ・バルカス帝国くらいだろう。

 

「(ラヴァーナル帝国とか言うおとぎ話の国家を本気で信じるとは……)」

 

 グラ・バルカス帝国の代表であるシエリアは内心そう呆れるがそれ以上に彼女が行うべき役目が存在する。とは言えそれを出来る状況にあるとは言えないが。

 

「(完全に戦力不足の現状でシーランド帝国を含む全世界に宣戦布告をする? そんなの無理に決まっているだろう! それどころか返り討ちに遭いかねないぞ!)」

 

 自らの職務と現実に圧し潰されそうになる錯覚を感じつつシエリアは必死に頭を巡らす。自分たちの安全を確保しつつ宣戦布告する方法を。

 

「(……そうだ!)」

 

 必死に頭を巡らしたあまり血が上りすぎて可笑しくなったのか? シエリアは妙案を思いついたとばかりに笑い声をあげた。

 

「アーッハッハッハッハッ! まさかそんなおとぎ話を本気で信じるなどエモール王国と言う国はたかが知れているな!」

『なっ!?』

 

 唐突に馬鹿にされたモーリアウルは目を見開き驚愕するが直ぐにその顔は憤怒の表情に変わっていく。しかし、そんな事は知らないとばかりにシエリアは続ける。

 

「そんな貴様等にも我がグラ・バルカス帝国は寛大だ。そこのトカゲ擬きだけではなくこここに居る全ての国家に告げる! 我がグラ・バルカス帝国はこの世界を支配するべく行動を開始する! 抵抗すれば蹂躙し、降伏するなら寛大な心で受け入れよう! 別に我が国の国力を知った後でも構わないぞ。レイフォル行政府で何時でも受け付けよう。尤も、その時にはかなりの損害を出しているだろうがな」

 

 シエリアはそう言うと立ち上がった。

 

「我が国は劣等国家どもとぬるいなれ合いをするつもりはない。今回この会議に参加したのはこの事を伝える為だ。……精々勇気ある決断を下すがいい。それが貴様等の未来へとつながるのだからな」

 

 どこか目をグルグルさせて混乱しているようにも見えるシエリアはそう言い切ると少し速足で会場を出ていくのだった。後に残されたのは絶句する者達と怒りで顔を真っ赤にするモーリアウル、そして無表情とも取れる厳しい表情を浮かべるシーランド帝国の使節団のみだった。

 




原作だとパンドーラ大魔法公国が参加してますが属国が参加しても良いのかと思いブリアンカ共和国に変更しました。情勢的に特に影響もないですし


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第八十話「先進11ヶ国会議3~迫りくる敵~」

a.t.s55(皇歴55年)/4 /22/??:?? シーランド帝国帝都ロンドニウム

「そうか。グラ・バルカス帝国は予想していたよりも愚かだったようだな」

 

 ウィリアムは使節団からの報告を聞き呆れを込めたため息をつく。これではエイテスを連れて言った意味がない、と。本来の予定であればグラ・バルカス帝国相手にエイテスを使って非難を行い、世界を味方につけつつ合法的に叩き潰すつもりだったが蓋を開けてみればシーランド帝国が発言する前にグラ・バルカス帝国は帰ってしまった。それもこの世界における重要な国際交流をする気が無いと言って。

 

「グラ・バルカス帝国はどうやら国際というものがどれほど重要か分かっていないようですな」

「分かっていればこんなバカな事はするまい」

 

 シーランド帝国はかつて敵対していた相手を叩くために周辺諸国と関係を改善、強化をしていた時期があった。まさに包囲網と呼ぶべきそれはあと一歩のところで完成、その国を亡ぼす準備を整える事が出来たがその前に宿敵であるインドが大頭を始め、その国と同盟を結んだことで包囲網は瓦解した。その国ならともかくインドと関係を持つ国は多かったのだから。

 

「この世界だって同じことだ。確かに地球に比べれば圧倒的に技術、国力で劣る国ばかりだ。とはいえ結局のところこの世界でも人は人だ。孤立状態で戦えるのは相手より圧倒的に力が上回っていないと出来ない。そして、グラ・バルカス帝国に孤立状態で戦う事は不可能だ」

 

 確かに神聖ミリシアル帝国やムーと言った列強相手に圧勝出来る実力はあるかもしれないがシーランド帝国から見ればかつて滅ぼしたイギリスの国力にすら劣る。その程度のものに負けるつもりなどなかった。アクハ帝国戦で損害を出し、弱小国相手にも油断や慢心してはいけないと学んだシーランド帝国に抜かりはない。グラ・バルカス帝国を滅ぼすためなら全力で持って潰すだろう。

 

「兎に角だ。グラ・バルカス帝国はこれから侵攻を行う可能性がある。第一艦隊には現場の判断で攻撃を許可するように伝えろ。それと第四潜水艦隊も出せ。第一艦隊が戦闘を始めた時に海中から支援させるのだ」

「分かりました。グラ・バルカス帝国の潜水艦に関する思想は分かりませんが対策も潜水艦そのものも保有していると想定して動きます。見つけられるとは思いませんが損害は出さないようにします」

「頼むぞ」

 

 宰相に細かい指示を出したウィリアムはシーランド帝国の領土が追加されたこの世界の地図を見る。これらは衛星を用いて正確に記されており、地図の東側はシーランド帝国の勢力圏を示す青色で塗られていた。

 

「俺はシーランド帝国を武力で拡大させようとは思っていないがこちらの脅威となるような動きをする国に対して容赦をするつもりはない。二度と、二度と大切な者を失うつもりはないからだ……!」

「分かっております。我らも陛下の思いを汲み、全力で支える所存にございます」

 

 宰相は深々と頭を下げ、部屋を出ていった。その後、皇帝の命令はすぐさま使節団に伝えられた。使節団や第一艦隊はグラ・バルカス帝国の宣言から現場ですぐに対応しなければならない事態になるだろうと予測し、()()()に備えて準備を行うのだった。

 そして、その時は僅か二日後に訪れる事になる。

 

 4月23日、神聖ミリシアル帝国第零魔導艦隊が攻撃を受け全滅。

 4月25日、グラ・バルカス帝国、カルトアルパス港に襲来。

 後にフォーク海峡海戦と呼ばれるように戦闘が勃発するのだった。

 

 

 

 

 

a.t.s55(皇歴55年)/4 /25/??:?? 神聖ミリシアル帝国カルトアルパス港

「グラ・バルカス帝国はこの細い海峡を封鎖するように船を待機させるだろう」

 

 第一艦隊の司令長官を務めるフォーブスは神聖ミリシアル帝国から貸与されたカルトアルパス港周辺の地図を使いながら各艦長及びそれに準ずる者達に説明をする。シーランド帝国の栄えある第一艦隊の司令長官を務める人物だけあり実力、経験共にトップに位置するといっても過言ではない人物であり、文字通りシーランド帝国海軍最強の人物と言えた。

 そんな彼に率いられる第一艦隊はスペック以上の働きをこれまで見せてきた。そしてそれはこれからも、今回も変わらないだろう。誰もがそう信じている。

 

「神聖ミリシアル帝国が言うには敵はレシプロ機の航空艦隊を持ってきている。確実に敵には空母がいる。それにあのグレートアトラスターとか言う戦艦もいるはずだ。俺がグラ・バルカス帝国なら確実にこのグレートアトラスターで蓋をする」

 

 僅か幅14キロしかない海峡の奥に位置するカルトアルパス港はそこを防がれると出入りは完全に出来なくなる。グラ・バルカス帝国はそれを狙ってカルトアルパス港を干上がらせるだろうというのがシーランド帝国側の読みだった。

 

「陛下は現場に任せるとおっしゃられた。つまり、先制攻撃も視野に入れていいという事だが、今回先手はグラ・バルカス帝国にやってもらう」

「国際世論を味方につける為ですね?」

「そうだ。神聖ミリシアル帝国が上空を警護するとの事だがなんちゃってジェット戦闘機でグラ・バルカス帝国相手にどこまで戦えるのか不明だ。少なくともグラ・バルカス帝国は第二次世界大戦時レベルの技術力だ。一方的乃至劣勢であることは変わらないだろう」

 

 カルトアルパス港近くに設置されていた神聖ミリシアル帝国の飛行場から飛び立っていった天の浮船と呼ばれる飛行機を思い出す。ジェット戦闘機の利点を完全に潰し、音速どころかそれに近い速度さえ出せないまるで素人が見よう見まねで作ったかのようなあれには流石のフォーブスも呆れるしかなかった。

 

「神聖ミリシアル帝国は魔法帝国の遺跡から発掘された技術で発展してきた国だと言っていたな。基礎的技術力がないとこの様な結果を生み出すのだな」

「いえ、流石に地球の様に見本が存在する場合は違っていたのでしょう。遺跡から得たというのがポイントと考えます」

 

 地球で言うなら古代文明の遺跡から二足歩行ロボットでも作り上げるようなものなのだろうか? 細かな技術はともかく、現代が最も発展していた地球においてこの世界のようなかつて自分たちより技術を持っていた国が存在していたなどと言う事はなかったため、想定が難しかった。

 

「……まぁいい。我々の任務はグラ・バルカス帝国を返り討ちにする事だ。神聖ミリシアル帝国が接敵、戦闘開始すると同時にこちらも戦闘機を出す。ジェット戦闘機とはどういう物なのかをグラ・バルカス帝国と神聖ミリシアル帝国、両方に教えてやるぞ」

「「「「「はっ!」」」」」

 

 数十分後、神聖ミリシアル帝国が誇る戦闘機エルぺシオ3とグラ・バルカス帝国戦闘機アンタレスが戦闘を開始した。そして、僅か十分ほどでエルぺシオ3は全滅する事になる。

 しかし、それを確認したことで遂に、シーランド帝国が動き出した。

 



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第八十一話「先進11ヶ国会議4~ジェット対レシプロ~」

a.t.s55(皇歴55年)/4 /25/??:?? 神聖ミリシアル帝国カルトアルパス港

 戦力外故にさっさと退散したアニュンリール皇国を除き、カルトアルパス港には先進11ヶ国会議参加国の艦隊が待機していた。その為、シーランド帝国の動きを間近で見ることが出来ていた。

 

「何と……!」

 

 この世界最大と言っても過言ではないキング・オブ・ライオネス級原子力航空母艦より大量のジェット戦闘機が飛び立っていく。神聖ミリシアル帝国のエルぺシオ3の様にプロペラを持たないそれは明らかにそれらより性能面で凌駕しているのがうかがえた。何しろエルぺシオ3を超える速度を悠々と出しているのだから。

 

「シーランド帝国より通信! “エルぺシオ3に代わり我々が敵航空機隊を迎撃する”!」

「確かにあの航空機なら可能だな。……まさか極東の文明圏外国に空の安全を守られる事になるとは……」

 

 トルキア王国の戦列艦を指揮する提督は次々と空の彼方へと消えていくシーランド帝国のジェット戦闘機を茫然と見ながら世界の常識が塗り替わっていくのを実感する事になった。

 そしてそれは他の国々とて変わらない。

 

「シーランド帝国、やはり侮れない。いや、敵対できないと言った所か」

 

 ブリアンカ共和国は今回の先進11ヶ国会議に参加するにあたりパドル付きの戦列艦10隻を同行させていた。技術的停滞を見せ始めているベスタル大陸において唯一と言っていいその余波を受けていないブリアンカ共和国はシーランド帝国の危機感をあおらないようにアクハ帝国の技術を吸収・運用していた。その結果としてパドル付きの戦列艦が誕生する事となったがこれらのエンジンには魔石が用いられている為科学技術のみで造られたわけではなかった。

 

「こうして見ればアクハ帝国がどれだけ異常だったが分かるな」

 

 未だに戦列艦が主力と通用する国が多い中でアクハ帝国は蒸気船を用いた艦隊を運用していた。大半が外輪船だったがスクリュープロペラの開発に成功していた為数年すれば外輪船は戦力外となっていただろう。

 そうなればアクハ帝国はパーパルディア皇国やレイフォルを超える軍事力を有する大国へと昇華していたのは間違いがなく、確実に列強入りを果たす事になっていたはずだ。

 

「シーランド帝国に追いつかないと属国化はすぐそこだろうがそれが出来ればアクハ帝国は滅びたりしないか」

 

 ブリアンカ共和国の提督は将来自らの国家が待ち受ける未来を想像しながら既に目視では確認できないシーランド帝国の航空機隊の武運を祈るのだった。

 

 

 

 

 

 キング・オブ・ライオネス級原子力航空母艦を始めとして各空母より発艦したジェット戦闘機の数はおおよそ200機。その倍以上の戦闘機が待機状態だが敵とほぼ同数であるため数的不利有利は存在しない。後は機体の性能とパイロットの腕が勝敗を分ける事になる。

 

『敵機発見! 各自戦闘を開始せよ!』

 

 エルぺシオ3を撃墜し、戦意を高めているだろうアンタレスの群れにシーランド帝国のジェット戦闘機が襲い掛かる。エルぺシオ3を小鳥とし、アンタレスをカラスとするならジェット戦闘機はハヤブサと言えるだろう。小鳥たちの戯れに世界最速の狩人が襲いかかるに等しい。

 そして、それは正しく、上空から降り注ぐように襲い掛かったジェット戦闘機隊50機はすれ違いざまに5分の1近い約40機を撃墜した。慌てて回避行動を取るアンタレスに今度は別の50機が2組、違う角度から襲い掛かる。波状攻撃と言えるそれらはアンタレスを次々と撃墜していく。

 

『敵は脆い! だからこそ一機たりとも逃すな!』

 

 ばらばらに逃げだすアンタレスを残りの50機が追撃とばかりに襲いかかっていく。そこに最初に攻撃した50機も加わり攻撃が行われる。そして、接敵から10分程でアンタレスは全て海に沈み、空には甲高い音を響かせるジェット戦闘機隊が一機も欠ける事無く飛行していた。

 

『予定より少し早いが問題ないな。我らはこれより敵艦隊を攻撃する! 各自ミサイルの点検を再度行え! 動作不良がある機体は無理をせずに帰投せよ。無理して敵に撃墜戦果を与える必要はないからな!』

 

 ジェット戦闘機隊を率いる隊長の言葉に従い彼らは更に南下。東進しているだろうグラ・バルカス帝国の艦隊に向けて針路を変えるのだった。

 

 

 

 

 

「先発隊……敵航空機隊を殲滅! こちらの被害0! 敵機全滅!」

「よし! 次に移るぞ!」

 

 ジェット戦闘機隊からの通信を受け取ったフォーブスは直掩機とその予備を残して主力航空機隊を発艦させる。先発隊は敵航空機と戦闘するのが目的であったため、対空ミサイルと対艦ミサイルを7:3程の割合で装備していたが次に発艦するジェット戦闘機隊は対艦ミサイルをガン積みした艦隊攻撃仕様となっていた。

 パイロット達は笑みを見せつつ決して驕った様子を見せていない。敵を確実に潰す。そんな強い意志を感じさせた。

 

「グラ・バルカス帝国の艦艇を我らは詳しく知らない。ないとは思うがこちらが不利になるのなら戦闘は避け帰投するように」

 

 第一艦隊は空母機動艦隊だが別に航空艦隊での攻撃しかできない訳ではない。駆逐艦、巡洋艦には対艦ミサイルを始め戦闘艦に相応しい火力を有している。空母だって砲撃は難しくとも戦闘機から身を護る術を有している。ましてや敵は自分たちより性能面で劣る相手だ。慢心するわけではないがフォーブスは多少の損害が出る可能性を考えつつもそれだけを持って勝利できると確信していた。

 そして、その思いが正しいのかどうか。それを決定するであろう戦闘がまさに始まろうとしていた。

 



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第八十二話「先進11ヶ国会議5~襲い掛かる音速の群れ~」

連続投稿止まると思います


a.t.s55(皇歴55年)/4 /25/??:?? 神聖ミリシアル帝国ケイル島沖南部

 グラ・バルカス帝国は現在我が世の春と言っていい状態にあった。無事に任務を果たす事に成功したシエリアを乗せたグレートアトラスターは神聖ミリシアル帝国の最新鋭艦が多数配属している第零式魔導艦隊を全滅させた東部方面艦隊と合流した。そして、まさにこれからカルトアルパス港を襲撃するというタイミングでエルぺシオ3を撃墜したアンタレスが敵の攻撃を受けていると通信が入る。

 

「シーランド帝国か?」

「おそらく……。ですが何度呼びかけても応答がなく、確証が得られません!」

「馬鹿か! それはつまり全機撃墜されたという事だろう!」

 

 第零式魔導艦隊を全滅させた東征艦隊の司令長官を務めたアルカイドは兵士の言葉を聞き怒鳴りつけた。彼自身、シーランド帝国の国力を朧ながらに理解しているが上官であるミレケネスがクーデター側についたために引っ張られる形で参加していた。その為、現在主流となっているシーランド帝国軽視の思想には染まらずに現実を見る事が出来ていた。

 

「(確かに通信が繋がらないのならば通信障害とも思うがシーランド帝国は今回の会議に10隻の空母を連れてきている。しかもそのどれもが巨大だというではないか! 単純計算で300機以上の艦載機がいるという事だ。艦載機の性能次第では全滅もあり得るな)敵が来るかもしれない! 見張りを厳重にせよ! 機動艦隊にも直掩機を出すように要請せよ!」

「司令! 北から飛行物体が急速に接近してきています! アンタレスの速度を軽く上回る速度です!」

「何だと!?」

 

 アルカイドが指示を出した時、既に手遅れとなっていた。この時、レーダーが捕らえたのはまさにアンタレスを呆気なく全滅させ、目標を東部方面艦隊に定めたシーランド帝国の先発隊だった。先発隊は音速を超える速度を持って東部方面艦隊に接近すると先行していた東征艦隊には目もくれずに空母機動艦隊に襲いかかった。

 

「くっ! やはり先に空母を叩き、制空権を握るつもりか……!」

 

 分かっていた事とは言え制空権の重要性を知るシーランド帝国にアルカイドは歯噛みする。先行する自分たち東征艦隊に攻撃をしてくるのではないか? と言う淡い期待は呆気なく崩れ去り、無慈悲な現実が突き付けられている。

 

「っ! あれは……!」

 

 そして目視にてシーランド帝国の機体を確認したアルカイドは戦慄した。アンタレスのようなテーパー翼ではなく、後翼機の機体を用いているそれは前部にプロペラがない姿をしている。グラ・バルカス帝国では未だ構想段階のジェットエンジンを採用した戦闘機が目の前にいた。

 音すら置いて行きそうな速度で持って脇を通過するジェット戦闘機隊にアルカイドは呼吸が出来ない程の衝撃に見舞われる。隣で兵士が指示を求める言葉を発しているがそれがどこか遠くで聞こえてくる。少し視界が暗くなっていき、足元が今にも崩れ落ちそうな間隔に襲われながら必死に考える。

 

「(あの戦闘機はジェットエンジンを搭載している……! それはつまり敵はミサイルも持っている可能性が高いという事だ! 我が国では細々と研究される程度のそれらが運用される姿を見せつけられている……! 無理だ。我らでは、あれには勝てない……)」

 

 後方から聞こえてくる爆音。通信兵が味方の被害状況を必死に説明する声を辛うじて確認しながらアルカイドは全てを諦めたようにその場に崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

「喰らえ!」

 

 空母機動艦隊の護衛と思われる東征艦隊を通り抜けたジェット戦闘機隊は輪形陣の中心にいる空母に向けて攻撃を開始した。第二次世界大戦時のような対空砲火が行われるがそんなものに簡単に当たるような未熟者はここにはいない。楽々と躱して空母の弱点である飛行甲板に対艦ミサイルを発射していく。対艦ミサイルは慌てて発艦しようとしていたアンタレスを巻き込みながら大爆発を起こして巨大な穴をあけていく。更にその穴から艦内部に侵入したミサイルが様々な区画を食い破りながら一定の衝撃を受けた事で爆発を起こした。

 複数の爆発の後に大爆発を起こした空母を最初の爆沈艦にし、次の獲物へと取り掛かっていく。出撃していったアンタレスと同じ200機が50機ごとに分かれてそれぞれの役目をこなしていく姿は高い練度と功績を焦らなくても問題ない体制かエリート部隊である余裕からなのかを示している様だった。

 

「ちくしょう! 落ちろ落ちろ落ちろ落ちろおおぉぉぉぉ!!!!」

 

 狂ったように叫びながら対空機銃を撃ちまくる兵士にジェット戦闘機から放たれたバルカン砲が命中し、肉塊へと変わっていった。それらの景色は至る所で見られ、グラ・バルカス帝国の死者を確実に増加させていった。

 

『っ! これが最後のミサイルだ!』

 

 先発隊は空対空ミサイルと空対艦ミサイルを併用している。その為、嵩む空対艦ミサイルは2発ずつしか積んでいなかった。そして、空母への攻撃を行っている戦闘機隊が遂に最後の空対艦ミサイルを使い切った。最後の一発は炎上し、傾きつつあった最後のグラ・バルカス帝国の空母に命中し、撃沈させていった。

 

『隊長! 全機ミサイルを撃ち尽くしました! ですが目標の敵空母を全て撃沈! 制空権を完全に掌握!』

「よし! 我らはここまでだ! 直ぐに後続が来る! 後は彼らに任せて我らは帰投するぞ!」

『『『『『了解!』』』』』

 

 戦闘機隊はミサイルを全て撃ち尽くすと用は済んだとばかりにさっさと引き上げていく。海上には黒煙を上げて沈んでいく最後の空母とそれらの残骸、大小さまざまな損害を受けた機動艦隊の護衛艦だけが残された。

 

「た、助かったのか……?」

 

 一人の兵士が漏れ出した様な声量で呟く。たった十分程の戦闘で誰もがボロボロであった。しかし、それらの猛攻を我らは耐えたのだ! そう言う感情が込みあがってきた時、帰投する戦闘機と入れ替わるように新たなジェット戦闘機群の姿が出現し、グラ・バルカス帝国東部方面艦隊に更なる絶望が襲い掛かってきた。

 

「空母は全て沈めたのか……。と言う事は制空権はこちらのものか。喜べ諸君! 先発隊のおかげで敵は艦載機を上げる事が出来ないぞ! 対艦仕様の我らの実力を見せつけてやるぞ!」

 

 空母がいないという事に気付いた後続部隊の隊長は獰猛な笑みを浮かべるとそう味方を鼓舞し、逃走を図ろうと動き出した東部方面艦隊に襲いかかった。

 

 

 

 

 

 4月25日。後に第二次マグドラ沖海戦と呼ばれるようになるこの戦闘でグラ・バルカス帝国は()()()2()()()()()()()()()()()、大敗を喫する事になる。更に今回の動きの為に一時的に東部方面艦隊に組み込まれていたグレートアトラスターはこの世界で行った偉業を覆す目的の為だけに武装などを破壊された上でシーランド帝国に拿捕される事となり、生き残った乗員は捕虜となった。

 グラ・バルカス帝国による世界征服は序盤から大きく躓く結果となったのである。

 



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第八十三話「先進11ヶ国会議6~戦いを終えて~」

a.t.s55(皇歴55年)/4 /25/??:?? 神聖ミリシアル帝国カルトアルパス港

 3日ぶりに姿を現したグレートアトラスターだがその様相は大きく異なっていた。自らの威容を見せつけるようにたった一隻で訪れた彼の艦は武装を破壊され、乗員を全て捕縛され、シーランド帝国の艦隊に曳航されるというまさに屈辱とも言える姿をしていた。3日前には見る人全てを驚愕させていたが今では憐れみと同情、侮蔑などの感情しか向けられていない。

 

「まさか航空機だけで一艦隊を全滅させるとは……」

 

 ブロントはシーランド帝国が発表した情報を軍の関係者から得ており、それらを基に軍人や政治家以外では唯一と言っていい程事の詳細を正確に理解していた。

 エルペシオ3を全滅させたグラ・バルカス帝国の戦闘機を全て撃墜したシーランド帝国の先発隊はそのまま敵艦隊に襲いかかり、空母を全て沈めると残った艦の掃討を後続に任せて撤退。後続はその役目を見事全うし、グレートアトラスター以外の艦を全て沈める事に成功した。その際に撃墜された戦闘機は皆無であり、グラ・バルカス帝国はまさに一方的な攻撃を受ける事になったのである。そう、これまで自分たちが行ってきた事の様に。

 

「シーランド帝国はグラ・バルカス帝国に似ているがその力は軽く凌駕しているのか……。これでは世界最強の名を持つ我が国は道化にしか映らないではないか……」

 

 ブロントはこれまで感じて来た祖国の世界最強の称号が新たに誕生した二つの国によって呆気なく瓦解していく姿を幻視しつつ、シーランド帝国の規格外の強さに言葉を無くすのであった。

 

 

 

 

 

同時刻、帝国文化館

 グレートアトラスターすら拿捕できるという事実はシーランド帝国の権威を増大させる結果となった。末席に存在した席は一気に議長の近くにまで変更されており、第二文明圏、第一文明圏を問わず、全ての国がシーランド帝国の使節団に畏怖とも取れる感情のこもった視線を向けていた。関係の深いムーやマギカライヒの外交官すらこれほどの戦果を挙げるとは予想にしていなかった。尤も、シーランド帝国と言う国に深く内通している訳でもないので当然と言えば当然の反応とも言えた。

 

「いやぁ、これほど素晴らしい位置に移動できたのは最高ですな」

 

 そう言ってニコニコと笑みを浮かべているのは使節団の一人であるカラムだ。一時期はグィネヴィアが処刑される所を直接見た事で精神を病んでいたが2年と半年という時間の経過を経て回復していた。そして、その復帰後最初の仕事がこの使節団の一人として先進11ヶ国会議に参加する事だった。

 

「カラム殿、シーランド帝国の実力は聞いていましたが予想以上ですな」

 

 そう言ったのはエモール王国の外交官であるモーリアウルだ。竜人と言う事でプライドの塊のような人物が他者を、特に竜人以外を褒める事など珍しかった。それだけ、今回シーランド帝国が行った事は大きかった。

 

「グレートアトラスターはこちらで有効活用させていただきます。捕虜に関してはグレートアトラスターの乗員のみ。それ以外は捕虜にしたいという方が拾ってくればいいでしょう」

 

 グレートアトラスターをボコボコにしたシーランド帝国はそれの乗員を全て捕縛、捕虜にしていたがそれ以外の撃沈時に生き延びた他の艦の乗員については無視して放置していた。戦闘艦ばかりであり、捕虜を収容する区画が無いという事と別に捕虜を取る必要性がなかったことが原因となっていた。

 

「ならば生き残りはこちらで回収させていただきます。我らとしてもこのままと言う訳にはいきませんからな」

 

 結局、生き残りを回収すると言ったのは神聖ミリシアル帝国のみだった。とは言えそれ以外の国にとって全く無関係と言っても過言ではなく、もしカルトアルパス港襲撃を経験していれば違ったのかもしれないが結果的に自分たちに危険が及ばなかった各国の外交官は捕虜を取る必要性を感じていなかったのだ。

 

「それで? 今後はどうするつもりなのですか?」

 

 話を次に進めるように言ったのはブリアンカ共和国の外交官である。鎖国状態が続いていたベスタル大陸において数少ない大陸外との交流を昔から持っていた人物で、国際情勢に明るい事から今回派遣されてきていた。

 

「グラ・バルカス帝国には今回の襲撃に関する罪を問います。とは言えこんな大それたことをする国です。素直に要求を受け入れるとは思えません。その場合、我が国はグラ・バルカス帝国に対し、宣戦布告します」

 

 カラムの言葉に会場がざわめく。確かに今回の一件はグラ・バルカス帝国の国際的信頼を喪失させる結果となっていたがだからと言ってシーランド帝国が本格的に動くとは予想外と言えた。しかし、それはカラムにも分かっていた事であり、話を続ける。

 

「皆さんも察していると思いますが我らはイルネティア王国の王子エイテス殿下を保護しています。この件を本来は先進11ヶ国会議にて問いただすつもりでしたがこうなっては仕方がありません。シーランド帝国皇帝ウィリアム陛下はグラ・バルカス帝国の態度次第では宣戦布告も辞さないとの言葉を受けています」

「しかし、グラ・バルカス帝国を攻撃するのは良いとして本土がどこにあるのか分からない現状では第二文明圏から追い出す事しか出来ないのではないか?」

「問題ありませんよ。我らはグラ・バルカス帝国の本土の位置を把握しています」

 

 そう言ってカラムは持参した地図を公開する。それは第二文明圏より西に存在する大陸と言うには小さい巨大な島が映っており、それがグラ・バルカス帝国の本土と記載されている。

 

「我らはこの様に天より地理を確認する術を有しています。グラ・バルカス帝国がいくら隠そうとも我らの前には無駄な努力に過ぎませんよ」

 

 それこそ本土の位置を知られたくないのなら本土を移動できるようにすればいい。カラムはそんな夢物語とも取れる言葉を言う事はなかったがシーランド帝国の目から本気で逃れるのならそれくらいの事をしないといけないという事実がシーランド帝国の実力を垣間見せていた。

 各国は改めてシーランド帝国の恐ろしさを目の当たりにすると同時にそんな相手を敵に回しそうなグラ・バルカス帝国に対して多少の同情を見せるのだった。

 



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第八十四話「先進11ヶ国会議7~終~」

駄目だ。書く気力が中々でない……。そして今後の展開も中々思い浮かばない……


a.t.s55(皇歴55年)/4 /25/??:?? カルトアルパス港

 グレートアトラスターに乗船していたシエリアは今にも死にそうな顔をしながら目の前に浮かぶシーランド帝国の軍艦を見上げている。気分はまさに死刑台へと登る死刑囚の気分だ。実際、捕虜となっている彼女は何かあればその身分へと落ちる事は想像に難くない。

 

「今更ながらに思い出す事が出来たな」

 

 ふと、第一艦隊を眺めていたラクスタルがつぶやく。航空機の攻撃を受けて大破した艦橋にいた彼だがシエリアと共に数少ない艦橋の生き残りとして捕虜になっていた。

 

「どうかしましたか?」

「パガンダ王国を滅ぼした際、我々は元の世界の常識が通じない事を理解したはずだ。しかし、実際はこうしてその常識に囚われ、無謀な攻撃を行おうとして、手痛いしっぺ返しを受けた」

「それは……」

 

 シエリアはラクスタルの言葉に詰まる。実際、彼女もどこかしら内心で元の世界の常識を基準にしていた。出なければ現実を見せられた時にあれほどうろたえる事はなかっただろう。そして、今のグラ・バルカス帝国は自分たち以上に常識に囚われ、破滅への道を直進し続けている者達が国家運営を行っている。

 

「我々がどうなるのか分からないが少なくとも良い待遇を受けられるとは思えない。そして我々以上に本国がどうなるのか、どのような結末を迎えるのかすらわからない」

「我々は、欲の為に破滅へと向かってしまっているのですね……」

 

 シエリアとラクスタルは何も分からない自分たちと祖国の行く末に暗い表情を見せるのだった。

 

 

 

 

a.t.s55(皇歴55年)/4 /26/0:12 シーランド帝国ブリテン島某所

 秘匿に秘匿されたブリテン島の某所。そこにはシーランド帝国が誇る第四潜水艦隊の基地が存在している。第四潜水艦隊は原子力潜水艦20隻のみで構成された艦隊であり、そのために海中に身を潜めている事がほとんどであり軍部の人間ですら詳細を知る人物は少ない。

 そんな彼らの次の任務はグラ・バルカス帝国に対する通商破壊である。グラ・バルカス帝国がこちらを、正確には先進11ヶ国会議が開催されていたカルトアルパス港を襲撃する姿勢を見せた報復であった。

 シーランド帝国では衛星を用いる事でグラ・バルカス帝国の本土の位置を正確に把握していた。とは言えそれはあくまで脅威であると認定されていた為に全力で捜索した結果であり他の国々の調査は疎かにされていた。特に勢力圏外の文明圏外国は調査すらしていない国も多数存在していた。

 

「出港する」

 

 司令長官のジェームズの言葉に従い20隻の原子力潜水艦は一斉に動き出した。彼らは数か月は余裕で食べられるだけの食料を積み込んだ彼らはレイフォル州を目指す。そこに往来する船を片っ端から沈める予定である。途中弾薬などの補給の為に通常動力の潜水艦隊と交代する予定ではあるがこれらは第四潜水艦隊が主導して行われる事になっている。

 

「敵が潜水艦を知っているかは分からないが地球基準で言うのなら知っている、運用している可能性は高い。駆逐艦等による対潜攻撃に気を付けつつ任務を実行するぞ」

 

 ジェームズは長年潜水艦隊を率いてきた猛者だけあり潜水艦に対する対策を取られる可能性を考慮していた。いくら敵の技術力が半世紀近く前の物であろうと沈められないとは限らないのだ。原子力艦と言う海軍において重要な艦隊を20隻も率いる彼に油断も慢心も存在しなかった。

 とは言え原子力潜水艦はまだ出港したばかりであり、彼らの力が存分に発揮されるようになるのはまだまだ先の事であった。そして、彼らの力がグラ・バルカス帝国に向かって放たれる事になった時、彼らは更に窮地に追い込まれる事になる。

 

 

 

 

a.t.s55(皇歴55年)/4 /25/10:12 カルトアルパス港ムー使節団逗留中ホテル

「我が国内に基地を建設したいと?」

「ええ、グラ・バルカス帝国と本格的に衝突する事を考えると確実にそれが必要です」

 

 ムーの外交官ヌーカウルはシーランド帝国のカラムの提案について思案する。ムーとしてもグラ・バルカス帝国の脅威をそのままにしておくわけにはいかない。最近ではイルネティア王国が滅ぼされており、元レイフォルの属国だったヒノマワリ王国もグラ・バルカス帝国に恭順する様子を見せ始めている。ヒノマワリ王国が落ちれば次に彼らの矛先が向かうのはムーだろう。それが分かるからこそ内心でシーランド帝国の提案について乗り気であった。

 

「(とは言えシーランド帝国もグラ・バルカス帝国と変わらない侵略国家だ。しかもその技術力は彼らを優に超えている。……これ以上増長させるような事になるのは不味いか)そちらの提案はこちらとしても魅力的です。ですが今のままでは承諾しかねます。先ずは詳細を知らない事には」

「(警戒している、か。仕方ない事かもしれないがムーとの距離の遠さやウィリアム陛下の性格を伝えて多少なりとも安心させる必要があるか)勿論です。先ず、こちらとしては基地を建設するにあたり……」

 

 両者の協議は日付を越えてからも続けられ、カラムが部屋を後にしたのは3時近くになった時だった。両者の協議がどのような結果を迎えたのか? それは先進11ヶ国会議後から始まったシーランド帝国の軍人達によるムー国内への軍事基地建設を見れば察しがつくだろう。ムーの全面協力の下、シーランド帝国はグラ・バルカス帝国との本格的な戦争に向けて準備を開始するのだった。

 




原子力潜水艦って電気だけじゃなくて水と空気も作れるという事実に滅茶苦茶驚いた。想像以上に原潜のメリットが大きかった……。


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第八十五話「それぞれの衝撃」

a.t.s55(皇歴55年)/5/8/13:20 グラ・バルカス帝国帝都ラグナ

 この日、グラ・バルカス帝国は初めて東部方面艦隊の全滅を把握した。と言うのもシーランド帝国がきちんとした通信をさせる間もなく片っ端から沈めていった為自体の把握を出来ていなかったのである。

 

「どうなっておる! 何故、我らが誇るグレートアトラスターがいてこの結果を迎えておるのだ!」

 

 その結果、新皇帝グラ・カバルは大激怒して軍部を怒鳴りつけている。東部方面艦隊の詳細は分からないが一隻たりとて帰還していない事から全て沈められたか拿捕されたと思われた。それはつまりグレートアトラスターも同様の悲劇にあっているという事であり、世界最大級の戦艦である事からどれほどの威信が傷つく事になったのか? グラ・カバルはその面から怒りをあらわにしていた。

 

「げ、現在詳細を確認していますので……」

「遅い! 次の会議にはきちんと報告できるようにしておけ!」

 

 グラ・カバルはそれだけ言うと会議場を出ていった。後に残された軍部の人間は皆一様に深くため息を吐き今後の動きについて考え始める。事実として東部方面艦隊が壊滅した事は確かであり一体どこの国が行ったのか?どのような戦力だったのかを把握する必要があった。例え自分たちの常識に囚われ、この世界でも覇権を握れると本気で信じている彼らだが軍人としては優秀だった。出なければ数えきれないほど存在する軍人たちの上位に君臨する事など出来ないのだから。

 

「くそ! 外交官すら戻ってきていないせいで状況把握が全くできない! もう一度艦隊を派遣するか?」

「馬鹿か!? それでは東部方面艦隊の二の舞になるぞ!」

「だがどうやって詳細を知るのだ? いくら情報局が調べていると言っても限度があろう」

 

 軍部は必死に状況の打開と情報収集を行っていくがその直後の5月10日。グラ・バルカス帝国に更なる激震が走る事になる。

 

 

 

 

 

a.t.s55(皇歴55年)/5/10/4:01 グラ・バルカス帝国レイフォル州沿岸

 ムー大陸西部に到着した第四潜水艦隊は早速自分たちの任務の遂行に当たった。到着したのは前日の昼だったがその際にグラ・バルカス帝国の商船を三隻沈めているが全く気付かれた様子はなかった。その為、ジェームズが狙った獲物は商船などとは比べ物にならない船だった。

 

「目標がこちらに気付いた様子はあるか?」

「ありません。敵は対潜警戒をしていないと見えて探針音すら聞こえてきません」

「よし、ならば始めるぞ。魚雷戦用意!」

「魚雷戦用意!」

 

 ジェームズの命令に従い第四潜水艦隊は魚雷の発射準備を始める。目標は前方を航海中のグラ・バルカス帝国の沿岸警備隊だ。沿岸警備隊と言えどその編成は凄まじく、駆逐艦や軽巡も存在するこの艦隊は水雷戦隊と呼んでも可笑しくはない大規模なものだった。それゆえに、第四潜水艦隊の初の巨大な獲物として標的にされたのである。

 

「1番から8番まで魚雷準備完了!」

「目標との距離を再度測定……。誤差修正完了!」

「全艦各目標の設定を完了! 何時でも発射可能です!」

 

 原子力潜水艦の乗員はまさにエリートで構成されている。原子力艦はシーランド帝国海軍内で最も重要と言われる艦だけありその艦に乗れる乗員は厳しいチェックを潜り抜けないといけない。一回のミスですら許容できない程の厳しいチェックを受けて見事その座を勝ち取った彼らは練度・士気はシーランド帝国軍内でもトップと言ってよかった。

 

「魚雷1番から順に発射! 魚雷発射後更に潜るぞ! 敵の下を通り抜ける!」

「了解!」

 

 100を超える魚雷は僅かな航跡を闇夜に残し完全なる奇襲でもって沿岸警備隊の全艦艇に直撃するに至った。高性能、高火力のそれらはたった一撃でもって全ての艦艇を轟沈させるに至った。乗組員たちは自分たちに何が起きたのかさえ分かる事無く海の底へと沈んでいった。そんな沈みゆく沿岸警備隊の遥か下を悠々と通過する第四潜水艦隊の面々は内心で喜びを感じつつ平静を保ったまま次の獲物の探索に移っていくのだった。

 そしてこの日よりレイフォル州とグラ・バルカス帝国本国はシーレーンをズタズタに破壊された事で直接的な交流が難しくなり、次第にレイフォル州は孤立していくことになる。

 

 

 

a.t.s55(皇歴55年)/5/15/10:00 フィルアデス連邦シーランド帝国直轄領海軍造船所

 この日、急遽建造された造船所に一隻の戦艦が収容された。主砲は全て破壊され、両脇の機銃はズタズタになっており、艦橋は上半分がほぼ吹き飛んでいた。

 これだけを見ればかつて列強レイフォルを一隻で滅ぼし、その実力をこの世界に知らしめたグレートアトラスターとは想像も出来ないだろう。かつて栄光を誇ったこの艦は戦う力を失い、敵であるシーランド帝国に好き勝手に調べられるという屈辱を受けていたが今後この艦が受ける悲劇を考えればまだ序の口と言えた。

 

「やはり第二次世界大戦時の物ばかりだな」

 

 シーランド帝国の技術者はそう呟きながら集まった情報を精査する。それらはかつて元の世界に存在した日本国の戦艦大和と似ていた。とは言えそれらはシーランド帝国建国前には轟沈している為戦後に出てきたスペックと比べての話ではあったが。

 全てを調べた結果として自国の戦艦にすら劣る骨董品と言う烙印を押さざるを得ないが技術者たちはこれからこの艦を近代化改修しないといけない。

 

「まさか政治のパフォーマンスの為にむちゃぶりを受ける事になるとはな……」

 

 グレートアトラスターがこれまでに行った偉業を屈辱で塗りつぶすために改修し、武装を一新しつつ、グレートアトラスターだと分かるように外観を保たなければいけなかった。それが成せればグレートアトラスターすら降し、自国の物と出来るというシーランド帝国の実力を国際社会に知らしめることが出来るだろう。それも時期が短ければ短い程、グレートアトラスターの損傷を知っている国にとっては大きな衝撃を与えられる。

 

「取り敢えずは消滅した艦橋部の修復から入るか……」

 

 技術者は不眠不休での作業になるだろうな、と何処か諦めの感情を抱きつつ皇帝直々の命令であるこの近代化改修に取り掛かっていく事になる。そんな技術者たちの努力が実を結ぶのは約10カ月待たないといけない。

 




原作ではラ・カサミの改修に、こっちではグレートアトラスターの改修に頭と胃をやられる事になる技術者……


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第八十六話「神聖ミリシアル帝国の覚醒」

話的には全く進んでないです


a.t.s55(皇歴55年)/7/10/10:00 神聖ミリシアル帝国帝都ルーンポリス

 世界最強と言われている神聖ミリシアル帝国の帝都には“眠らない魔都”の異名がある。これは夜も熱を持たない光源で照らされ、昼間のような活気な姿が見れるからである。そんな帝都ルーンポリスの中心地に位置するアルビオン城、そこは世界一の権力を持つ皇帝ミリシアル8世の居城であり、今日は緊急の御前会議が開かれる場でもあった。

 この会議に参加するのは同じく神聖ミリシアル帝国内で権力・影響力を持つこの国のトップに君利する者達だ。彼らは部屋に入って来たミリシアル8世を直立不動で迎え、皇帝が座った後に自分たちの席に座っていった。

 

「これより緊急御前会議を開催します。先ずは皇帝陛下よりお言葉を賜ります」

 

 ミリシアル8世と共に会場に入って来た宰相は全員がそろい、着席したのを確認して開始の宣言をする。そして、宰相に促された4000年と言うけた違いの時代を生きて来たミリシアル8世が静かに口を開く。

 

「余は、怒りを覚えておる。間違ってもこれはグラ・バルカス帝国に対してではない。世界最強と言う座に胡坐をかいてきた余自身にだ」

 

 ミリシアル8世の言葉に会場がざわめく。てっきりグラ・バルカス帝国に怒りを覚えているのかと思いきやそうではなかったのだから。そもそもこの会議に参加している者の中にもグラ・バルカス帝国に零式魔導艦隊とエルペシオ3を尽く破壊された事でプライドを傷つけられたと思っている者も多くいるのだ。そんな中で何故自らに怒りが向くのか疑問だった。

 

「我が国が誇る零式魔導艦隊は沈められたが最大の原因は我らが知らない攻撃方法であったという。そして、エルペシオ3も敵の航空機の前には歯が立たなかった」

 

 そこまで言うと宰相に目を向ける。宰相も何を求められているのか理解し、手に持った紙の束を渡した。

 

「ここにはシーランド帝国より詳細な戦況と原因が事細かに書かれている。それも零式魔導艦隊とエルペシオ3の航空機戦のものが、だ。つまり彼らには我らですら把握できない戦闘の様子を事細かに知る術があるという事だ」

 

 普通ならばそんな事をはい、そうですかと信じる事は出来ない。実際、ミリシアル8世も最初は信じていなかったがシーランド帝国の報告書は本当に知っていないと書けないような詳細まで丁寧に記されてあった。そして敗北の原因として魚雷と言う武装やエルペシオ3のジェット戦闘機とは思えない不格好な姿などが挙げられていた。これらの報告書は皇帝ウィリアムが神聖ミリシアル帝国に対して()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、衛星を使ってきちんと確認した為噓偽りのない報告書だった。

 ミリシアル8世は一旦紙の束を机に置き、手を顔に持って来る。気づけば瞳には涙が溜まっていた。

 

「余は、悔しくてたまらない……! 神聖ミリシアル帝国は世界最強と言っておきながらこうして国防すらまともに出来ないうえに諸外国すら危険に巻き込んだ。そして、その危険を全て文明圏外国と今まで自分たちより劣っていると思っていた者達に助けられた。だが! これは屈辱ではない! 我らは一体何をしてきたのか? それを突き付けられた結果だと余は思っている。古の魔法帝国の技術をサルベージするだけで一からの研究を怠った。それを見てみぬふりを、問題ないと先送りにした結果がこれだ」

 

 ミリシアル8世の言葉に心当たりがあるのだろう。誰もが表情を暗くする。転移後の混乱で領土を奪われつつも科学技術を研究して列強第二位まで上り詰めたムーに比べ、自国から発掘される遺跡の兵器の劣化品を自慢して世界最強を唄っていた神聖ミリシアル帝国。改めて知らされればなんとも滑稽と言えるだろう。

 

「これがグラ・バルカス帝国でよかった。古の魔法帝国であれば我らは呆気なく滅亡していただろう。そしてその脅威は刻一刻と近づいている。故に、余はこの場を借りて宣言しそう。我らは世界最強の座を降り、一つの国家として再び歩み始める。変なプライドは捨て基礎をしっかりと学び、研究し、理解する。幸運な事に手本は近くに存在する」

 

 シーランド帝国とて最初は小さな海上要塞を不法占拠した武装集団が始まりである。国家としての基礎も何も出来ていない中で彼らは恥も外聞も捨てて技術を学び、吸収した。その結果として世界中に大領を持つ大国へと成長できたのだ。

 

「グラ・バルカス帝国にやられた屈辱は有れどそれは慢心の結果として受け入れよう。なればこそ、今度はそんな事がない様に準備を整えるのだ!」

 

 ミリシアル8世の言葉にその場の誰もが闘志を高ぶらせた。伊達にこの元世界最強の国家を運営している者達ではない。理解し、目標さえ出来れば彼らはその能力を生かしてこの国を更なる高みへと登らせる事が出来る。

 この日より、神聖ミリシアル帝国は世界最強の座を捨て全ての技術を基礎から学び始めた。ミリシアル8世の推奨とあれば国民の誰もが表立っては反対しない。この国を長く引っ張って来た人物だ。誰もが基礎を理解する為に勉強を始めた。

 これらの成果は直ぐには出ない。神聖ミリシアル帝国は国防に専念しつつそれらを行っていき、脅威が去る頃には一通りの理解に達し、いずれ来る最悪の脅威では劣化品を並べて胸を張っていた国家とは思えない急成長でもって対抗する事になる。

 



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第7章【バルチスタ沖大海戦】
第八十七話「前哨戦」


a.t.s55(皇歴55年)/10/3/14:19  シーランド帝国領スコットランド首都エディンバラ

 この日、ブリテン島の対潜レーダーが不審な潜水艦を発見した。シーランド帝国はブリテン島を絶対防衛圏として定めており、その為の準備を転移以前から行ってきた。特に敵の早期発見につながるレーダー網の確立は先進的であり、ブリテン島に近づけば対空、対水上、対潜それぞれのレーダーによって簡単に発見する事が出来た。それはこの世界に来てからも変わらず、いや古の魔法帝国に備える目的もあって強化されていた。しかし、この世界に来てから不審な存在を見つける事はなく、今回初の出番となったのである。

 

「解析完了。旧日本軍のイ400型と同型の潜水艦です!」

「旧日本軍か……。つまりグラ・バルカス帝国の潜水艦の可能性が高いか」

 

 対潜レーダーの責任者であるダニエルは部下からの報告を聞き真っ先にグラ・バルカス帝国の船だと確信した。そもそもこの世界において潜水艦の概念はない。元世界最強の神聖ミリシアル帝国ですら魚雷と潜水艦の概念はなかったのだ。それはつまり古の魔法帝国にもなかった可能性が高い為、この世界では誕生する事すらなかったと考えられていた。

 では、そうなるとこの潜水艦は何か? 同じく転移してきたらしいグラ・バルカス帝国の潜水艦だと考えるのが妥当であろう。

 

「レーダー統合府に連絡! グラ・バルカス帝国の物と思わしき潜水艦を発見! とな。それといつも通りデータ送信も忘れるな!」

「了解!」

 

 ダニエルの指示に従い部下たちが動き出す。こういった場合の対処は徹底して行ってきており、時々行われる突発的な試験で腕が鈍っていないかを確認されるため彼らの動きは常に素早かった。

 

「統合府より返信! グラ・バルカス帝国の潜水艦と断定して地対潜ミサイルによる撃沈を行うとの事です! 我らは引き続き敵位置の更新を行えときています!」

「よし! ならば我らの役目をきっちり果たすぞ! お前ら! 間違っても敵の位置を間違えるんじゃないぞ!」

 

 十数秒後、地対潜ミサイルが発射された。その様子は対潜レーダー室もリアルタイムで確認できており、画面にはミサイルの着弾予測地点と到達時間がかかれている。

 

「修正、東に1メートル」

「了解! 東に1メートル修正!」

 

 敵が動けばレーダーがそれを捕らえダニエルが未来位置の予測をしながら修正を行う。本来は複数の目標を同時に相手できるようにAIが搭載されているが少数しか確認できない場合は腕が鈍らないようにと自分で修正を行う事があった。

 

「海面に着水! 潜航して追尾を行います!」

「よし、後は問題ないな」

 

 誘導式の魚雷は慌てたように逃げ始めるグラ・バルカス帝国の潜水艦ミラにあっという間に近づくと逃げる暇など与えないとばかりに直撃、爆発を起こした。

 

「敵沈黙! 撃沈しました!」

「統合府に連絡を入れろ。敵潜水艦を撃沈」

「了解!」

 

 グラ・バルカス帝国は自分たちの影響力が低い東方世界にも自らの実力を知らしめるために行った事だが相手が悪すぎた。前の世界では黎明期程度の技術しかないグラ・バルカス帝国の潜水艦等シーランド帝国の前では隠れたつもりでいる赤子を見つけるくらいにはたやすい。10メートル四方の白い紙の上から1メートル近い黒い点を見つける事すら上回る程簡単だ。

 これ以降もグラ・バルカス帝国の潜水艦が訪れる事はあったがそれらは全てブリテン島のレーダー網か哨戒中の艦に捕捉されて全て撃沈されていく事になる。

 

 

 

 

 

a.t.s55(皇歴55年)/10/10/10:10 シーランド帝国帝都ロンドニウム ロンドニウム国際空港

「漸くここまで漕ぎつけましたね」

 

 外交官のピーターは空港の入り口で部下2名と共に迎えの車を待っていた。彼らは神聖ミリシアル帝国との交渉を終えて帰国したばかりであり、先程まで空の人となっていた。

 

「これで我らの役目は終わった。今後は上と、軍部の仕事となる」

「ですが上も思い切った事をしますよね。神聖ミリシアル帝国やムーなどの列強国による連合艦隊ですか」

 

 本来ならば世界連合が誕生するはずだったカルトアルパス港襲撃はシーランド帝国によって未然に防がれてしまっていた為、各国は何ら被害を受ける事はなかった。そしてシエリアが宣戦布告を行わなかった事もあってグラ・バルカス帝国に対する感情は最高でも中の下程度に収まっていた。

 その為、実質的に敵となったシーランド帝国と被害を受けた神聖ミリシアル帝国以外の国にとってグラ・バルカス帝国は侵略国家以上の感情はなく、結果として様子見している状態だった。

 とは言えグラ・バルカス帝国と戦争になった以上シーランド帝国としても動かない訳にはいかない。そこで被害を受けた神聖ミリシアル帝国と隣国でその脅威を感じるムー、そして古の魔法帝国との戦いで重要となって来るシーランド帝国の力をきちんと把握したいエモール王国の4か国連合を結成する事となった。この中では最も技術が進んでいるシーランド帝国が中核をなし、神聖ミリシアル帝国は()()()()()()すら投入する事となっている。エモール王国は内陸国の為風竜のみの参加が検討されたが列強で竜母を持つ国家は存在しなかったため観戦武官を送るにとどまった。

 

「レイフォル州沖では第四潜水艦隊が猛威を振るっている。最近では敵の巡洋艦を3隻も沈めたらしい。少しずつだがレイフォル州への往来は少なくなってきているらしいし干上がるのも時間の問題だな」

 

 そこへ丁度迎えの車が到着したためピーター達は乗り込む。移動する車の中でピーターは神聖ミリシアル帝国が出す切り札について興味を引かれたがその日まで秘匿すると言っており詳細は分からなかった。とは言え元世界最強の国家の切り札である。生半可な物ではないのは確かだろう。

 

「(神聖ミリシアル帝国は古の魔法帝国の遺跡を解析することで発展してきた国……。古の魔法帝国が原子爆弾を持っていた事を考えると……)」

 

 まさかな、とピーターは胸まで昇って来た不安を無理やり抑え込む。彼らがどれ程理解しているかによるがさすがにそれを用いる事はないだろうと。しかし、その不安は後に的中する事になる。

 



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第八十八話「偉業を成した大戦艦」

a.t.s56(皇歴56年)/1/4/16:00 フィルアデス連邦シーランド帝国直轄領海軍造船所

「ふ、フハハハハハ!!!!! 我らは遂にやり遂げたぞ! どうだ! 思い知ったか!」

 

 目の周りを真っ黒にし、血走った目で発狂する技術者。その周りには力なく倒れ伏す同僚が転がっている。まるで彼一人が周囲の同僚を倒したかのような絵面だがそれは彼らがいる場所が港で、沖にはシーランド帝国の国旗を付けたグレートアトラスターの姿を見れば察しがつくだろう。

 毎日18時間労働の末に約半年で近代化改修を終える事に成功したグレートアトラスターは今日、ムー大陸に向かう第一・第二・第三艦隊に合流する事となっている。これらの艦隊は臨時で統合軍として再編成されている。

 シーランド帝国の最新鋭にして国家の象徴と言える第一艦隊。歴戦の強者がひしめく第二艦隊。若いものの、将来有望な第三艦隊とほぼすべての海軍水上戦力を合わせたこの艦隊の内訳は以下の通りである。

 

○原子力航空母艦5隻(キング・オブ・ライオネス級)

○航空母艦25隻(クイーン・グィネヴィア級、プリンセス・オブ・モードレッド級等)

○戦艦10隻(シーランド級)

○巡洋艦35隻(リヴァプール級、エディンバラ級等)

○駆逐艦66隻(D級駆逐艦シリーズ)

○補給艦・給油艦・病院船等複数

 

 統合軍の総数だけで神聖ミリシアル帝国・ムーの艦隊数を超えるだろう。まさにシーランド帝国の総力を上げた大艦隊となっている。ここにグレートアトラスターも加わるわけだが近代化改修をしたスペックも大幅に変わっている。

 

全長:263.6m

全幅:38.9m

満載排水量:73,000越

機関:SE-02ガスタービン

速力:30ノット越

兵装

・46㎝三連装砲改2基

・15.5㎝単装砲2基

・XXX垂直発射システム20セル1基(艦対空、艦対地ミサイル搭載)

・第6号全自動対空機関砲2基(CIWS)

・12.7㎜単装機銃10基

 

 初期から搭載されていた46㎝砲は破壊されてしまっていた為、修復・改良しつつ1基を外してその箇所に無理やりセルをねじ込んだ。副砲も同じく破壊されていた為全て解体して速射砲としてD級駆逐艦シリーズの最新鋭D7級駆逐艦に搭載されている15.5㎝砲を新たに前後に搭載した。更には機銃類もほぼすべてが破壊されていた為に後付けで一人で運用可能な単装機銃を付けたが対空攻撃はシーランド帝国が開発したCIWS、第六号機関砲と艦対空ミサイルが主武装となっている。

 これほどの大幅な改良であり、更には機関すら変更したことで機動性や出力も上がったがそれらを半年でこなす関係で技術者は休みなく働く事になったのである。この改修に招集された技術者は三桁を優に超えており、現場作業員も含めれば千人は超えている。しかし、今グレートアトラスターの出航を見送っているのは半分にも満たない200人程であり残り700人は疲労で休息している。残りは永年の眠りについてしまっている。

 

「くそが! 二度とこんな依頼引き受けるか! そのままどこにでもいけ! そして俺の前に現れるな! ○ね! カス! ○○○○!!!!!」

 

 技術者は疲れのあまり壊れてしまったのだろう。ドン引きするような罵詈雑言をグレートアトラスターに浴びせ続け、その姿が見えなくなった後、まるで糸が切れた人形のようにその場に崩れ落ちるのだった。

 

 

 

 

 

 

a.t.s56(皇歴56年)/1/8/11:00 神聖ミリシアル帝国帝都ルーンポリス

 シーランド帝国の統合軍が出港した事は神聖ミリシアル帝国にも直ぐに伝わったが彼らはその規模に度肝を抜かれていた。

 自分たちですら苦戦する相手を難なく倒せるシーランド帝国の艦が合計100隻を超えて参加する。グラ・バルカス帝国の規模にもよるが先ず負けるはずがないという思いが彼らの脳を占めた。

 

「シーランド帝国はレイフォル州の孤立化だけではなく本土にまで攻め入るつもりなのか?」

「これでいて海域防衛用の艦隊は残しているのだろう? シーランド帝国は一体どれだけの艦隊を保有しているのだ……」

 

 誰もが驚きを持つ中ミリシアル8世だけは落ち着いていた。

 

「シーランド帝国は本気でグラ・バルカス帝国を終わらせるつもりなのであろう。恐らく今回の遠征でグラ・バルカス帝国の海上戦力は消滅する。二度と大海原を自由に航海し、大海を支配する事など出来ない……、いやそれどころか船さえ作れない程の大打撃を受ける事になるだろう。そうなれば我らがグラ・バルカス帝国とたたかう機会は二度と訪れない。これが最後のチャンスだ。我々は我々に出来る全力で以てカルトアルパス港での借りを返すのだ」

 

 ミリシアル8世は今回の遠征をグラ・バルカス帝国との最後の一戦と考えて主力艦隊及び切り札である空中戦艦パル・キマイラを4隻投入する事を決定した。このパル・キマイラはグラ・バルカス帝国、シーランド帝国双方に大きな衝撃を与え、改めてここが異世界だという認識を植え付ける事になる。

 




軽く説明
キング・オブ・ライオネス級原子力航空母艦
シーランド帝国の最新鋭原子力航空母艦。基準排水量20万トン越えの巨大艦艇である。

クイーン・グィネヴィア級航空母艦
シーランド帝国の主力空母。名前の由来は今は亡き皇太子妃グィネヴィアであるがウィリアムが皇帝に即位した際にクイーン・グィネヴィア級へと改名された。これが何を意味しているのか、誰もが理解しているがその事を口にする事はない。

リヴァプール級巡洋艦
シーランド帝国の歴戦の巡洋艦。

エディンバラ級巡洋艦
シーランド帝国の最新鋭巡洋艦。

D級駆逐艦シリーズ
シーランド帝国が代々開発している駆逐艦のシリーズ。D1級、D2級はほぼ退役しており、現在はD6級が主力として活躍している。D7級はステルス艦として開発されている為異色の駆逐艦となっている。


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第八十九話「戦場は西へ」

a.t.s56(皇歴56年)/1/9/16:00 ブリアンカ共和国首都ノマロカーリス

「凄いな……」

 

 ブリアンカ共和国の首都は大陸最北端に位置した港町である。交通の要所であるため首都と言う事を抜いても大いににぎわっていた。そんなノマロカーリスの港を埋め尽くすように停泊しているのは補給中のシーランド帝国の統合軍である。彼らはここから陸地などで補給をしないで真っすぐにレイフォル沖に向かう事となっている。

 

「大統領。我々から何か通信をしましょうか?」

「いや、その必要はない。既に停泊前に行っているからな」

 

 ブリアンカ共和国第14代大統領ピーカー・オビパニアは官僚の言葉にそう返事をした。シーランド帝国の同盟国として繁栄しているブリアンカ共和国に対し統合軍の最終陸上補給地点として貸すように要請されていた。ブリアンカ共和国としても今の繁栄はシーランド帝国との同盟があるからこそだと理解している為、喜んで補給地点として貸していた。そしてそれは間違っていなかったとこの艦隊を見てピーカーは確信した。

 

「見よ。どれも鉄の船であるがアクハ帝国や神聖ミリシアル帝国に比べて格段に素早く動いている。旋回速度も高い。つまりそれだけ性能が高いという事だ。グラ・バルカス帝国はシーランド帝国の戦闘機に殲滅させられたと聞く。神聖ミリシアル帝国を倒した彼らが弱いわけではないのだろうがそれ以上にシーランド帝国が強いのだ。つまり、彼らこそ世界最強の国家だ」

「そう聞くとアクハ帝国は不憫と言わざるを得ないですね。今では我が国を除きほとんどの地域が貧困に喘いでいますので」

 

 アクハ帝国の急激な技術革命はシーランド帝国の危機感を煽ってしまった。その結果として二度と技術革命を起せないような状況へと陥り、大陸全体で衰退が起きていた。ブリアンカ共和国だけ無事なのはシーランド帝国の危機感を煽るような技術を持っておらず、敵対していなかったという幸運に恵まれたからだ。出なければ今頃アクハ帝国と同じ運命を辿っていただろう。

 

「幸いにもこの補給で起きる出費はシーランド帝国が全額支払ってくれる事になっている。ならば我らが出来る事は彼らが勝利し、無事に戻ってこれるように英気を養えられるように歓迎するだけだ。町の飲み屋、娼館どれでもいい! 国家が費用を負担すると伝えてシーランド帝国を歓迎するのだ!」

「了解しました!」

 

 ブリアンカ共和国大統領の迅速な対応によってシーランド帝国の将兵たちは皆満足のいく補給を行う事が出来、万全の状態で西へと出港する事が出来た。後の歴史書に中興の祖として広く知られるようになるピーカー・オビパニアの最初の活躍だった。

 

 

 

 

 

a.t.s56(皇歴56年)/1/14/??:?? グラ・バルカス帝国レイフォル州

 列強国が不穏な動きをしている。その情報を掴んだグラ・バルカス帝国はレイフォル州に大艦隊を終結させていた。本来、この地域は原子力潜水艦による通商破壊作戦が実施されていたがグラ・バルカス帝国の海軍戦力を一撃で削ぎ落す為に一時的に中止されていた。とは言え遥か深海の彼方よりグラ・バルカス帝国の動きを監視しており、何かあればすぐにでも本国に通信できる状態となっていた。

 今回、グラ・バルカス帝国が集結させた艦隊は以下の通りとなっている。

 

戦艦(ヘルクレス級戦艦、オリオン級戦艦等)15隻

空母(ぺガスス級航空母艦等)14隻

重巡洋艦27隻

軽巡洋艦30隻

駆逐艦168隻

潜水艦96隻

 

 計350隻にも及ぶ大艦隊であり、数だけを見れば統合軍の3倍近い数がそろっている。しかし、これらは本国より無理やり集められたものであり、駆逐艦などには新兵が多く乗船している為スペック通りの性能を発揮できるとは限らなかった。

 そんな寄せ集めと言っても良い艦隊を率いるのは帝国の三将と呼ばれるカイザルとミレケネスである。帝国内でも有数の将が率いるという事もあり兵たちの士気は高く、シーランド帝国や神聖ミリシアル帝国を追い払ってやると息巻いている。

 

「そんな上手くいくはずがないのにな……」

 

 そんな兵たちとは対照的にカイザルの表情は暗い。前衛をミレケネスが、後衛をカイザルが率いる事になっており、彼は旗艦となっているヘルクレス級ラス・アルケディに乗艦していた。グレートアトラスターが誕生する前は時代遅れとして冷遇され始めていたとはいえ立派に艦隊旗艦を務めていたこの艦に乗っていても不安と死の恐怖に苛まれてくる。

 

「シーランド帝国の艦隊規模は分かりませんが距離を考えれば100前後と思われます。希望的観測で距離の問題から参戦しないという事も考えられますが……」

「確実にシーランド帝国は参戦している。それも威力偵察規模ではなく、大艦隊をな。最低でも150隻は投入してくるはずだ」

 

 副司令官のカオニアは自らの意見を言うがカイザルはそれ以上の規模であり、シーランド帝国の特徴から参戦しない事はないと予測をしていた。実際、カイザルの言う通りであり、都合の良い情報しか入らない本国にいたにも関わらずにシーランド帝国を正確に把握出来ている所に軍神の異名を垣間見せていた。

 

「カルトアルパス港襲撃の情報は一切入っていないが恐らく航空機のみで全滅した可能性が高い」

「っ! シーランド帝国はその様な事が可能な技術力を有していると?」

「アンタレスとてそれらは可能だ。時間をかければ、だがな。だが東征艦隊は通信する事もなく消息を絶っている。つまり通信を送る暇さえなく沈められたという事だ。それがなされるためには機動性と火力が必要だ。……もしかしたらシーランド帝国はジェットエンジンの開発に成功しているかもしれない」

「馬鹿な!? あれは構想上の段階のものですよ!?」

「必要は発明の母と言う。我らはユグドでジェットエンジンの開発に迫られる程ひっ迫した戦況ではなかった。だから、シーランド帝国がいた世界ではジェットエンジンを使う必要がある程、それこそ国力が等しい国家が複数存在していたのかもしれない」

「……!」

 

 カイザルの予測は何の信ぴょう性はない。しかし、この状況を考えればその予測はあっているように感じられた。カオニアは想像する。グラ・バルカス帝国と同等の国家が複数存在していたのなら……。ケイン神王国すら上回る本当の意味で対等の国家。

 瞬間、カオニアは言い知れぬ不安と恐怖等の衝撃に見舞われた。何故そんな想定をしてこなかったのか? もし、そんな状況になっていればユグドは世界中で一進一退の戦争を永遠と続ける地獄のような世界となっていただろう。

 

「……グラ・バルカス帝国は恵まれていた、と言う事ですか」

「そうか否かはこの海戦で決まるだろう。シーランド帝国の力が果たしてどれくらいあるのか? 我々は手も足も出ないのか? それらは我らの命と引き換えに得ることが出来る最悪にして最高の情報となるだろう」

 

 カイザルは自らの死を直感しつつその決戦の時に備えるのだった。

 




グラ・バルカス帝国の戦力は原作の1.5倍増しとなっています。理由としては東征艦隊が全滅している事から原作以上に戦力投入をしないといけないと判断されたためです。


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第九十話「バルチスタ沖海戦1」

a.t.s56(皇歴56年)/2/5/8:11 ニグラート連合西部海域

 列強第二位のムーは今回の連合軍に際して機動艦隊を派遣した。派遣した神聖ミリシアル帝国、シーランド帝国と比べれば格下と言わざるを得ないムーだが列強としての意地を見せて約50隻に及ぶ艦隊を集めていた。

 そんな艦隊を率いるレイダーの目から見てシーランド帝国は規格外としか言いようがなかった。彼の眼にはムーの機動艦隊とその横に並ぶ空母を護衛するようにぐるりと巡洋艦と駆逐艦の姿が映っている。

 シーランド帝国は統合軍として集めた艦隊を二手に分けた。一つは主力としてムー・神聖ミリシアル帝国と共にレイフォル州に向けて北上する艦隊。もう一つは別動隊として戦況に合わせて臨機応変に対応する高速艦隊である。別動隊は主力が敵と接敵した場合に後方より回り込んで敵を一網打尽にする役目も担っている為重要なポジションにいた。

 

「神聖ミリシアル帝国が世界最強の座を降りたと聞いた時は何を言っているのかと思ったがこうして見れば納得するしかないな」

 

 神聖ミリシアル帝国が誇る第零魔導艦隊が全滅した海戦とその後に行われたシーランド帝国のジェット戦闘機との戦闘に関する資料は確認していたとはいえあまりにも次元が違い過ぎて理解する事さえ難しかった。しかし、自分たちではグラ・バルカス帝国に手も足も出ない可能性が高いという事だけははっきりと理解できた。

 自分たちがここに居ても邪魔でしかない。それでも派遣したのはシーランド帝国が呼びかけたからだ。

 

『グラ・バルカス帝国と言う傍若無人な国家を列強と言う世界の代表が共同で叩き潰す。そうすることで世界の安定と秩序は保たれる』

 

 国際協調を重要視するウィリアムはそう言った言葉を綴った親書を列強国に渡しており、彼がどのような思想をもっているのかを各国に教える事にもなっていた。

 その為、いくら邪魔になっていようともムーが艦隊を用いて参加するという事に意味があったのだ。これがエモール王国の様に内陸国であれば違ったのかもしれないが海に面し、機動艦隊を持っている以上派遣する事はほぼ絶対だった。

 

「シーランド帝国が転移する前は我々と同じ世界にいたのだろう? ならばシーランド帝国の他にもあのような軍事力を持った国家が存在していたのだろうか……?」

 

 もしそうであるならば彼らにとってこの世界は生温いと感じるかもしれない。とレイダーは1万年前までムー大陸が存在していた地球の事を考えながら敵の攻撃に備えるのだった。

 

 

 

 

 それから約30分後、シーランド帝国の統合軍旗艦であるキング・オブ・ライオネスに乗艦した司令長官フォーブスは手元の懐中時計をチラリと確認すると作戦開始の指示を出した。シーランド帝国は今回の作戦の為に衛星及び潜水艦隊による敵艦隊の監視を行っており、彼らの動きは丸裸と言ってよかった。

 グラ・バルカス帝国が何か動きを見せればそれに対応する動きを即座にとれ、敵の鈍い所を見つければそこに集中的に攻撃できる。シーランド帝国は例え技術的弱者相手であろうと一切の妥協を見せる事はなかった。

 

「ジェット戦闘機を発艦させろ。目標は北方に位置する敵艦隊前衛だ。優先順位は空母、戦艦、巡洋艦だ。駆逐艦は無視して構わない。敵大型艦を優先して沈めるのだ!」

 

 シーランド帝国の目的は敵の海上戦力の消失である。駆逐艦をいくらそろえようともそれだけなら神聖ミリシアル帝国どころかムーにすら対抗できない。その為にはグラ・バルカス帝国の大型艦を尽く沈める必要があった。

 

「敵は70年前の骨董品レーダーと目視、偵察機でのみ捜索が出来る。対するこちらは潜水艦、衛星を使い最新鋭のレーダーを用いるという三重の捜索が出来る。これならば万に一つの可能性でも敗北する可能性はないか」

 

 フォーブスは慢心するなと言われてもしてしまいそうになる圧倒的な状況に力なくため息をついた。実際、この状況でシーランド帝国が劣勢になるためには何らかの()()()()()が必要だ。そうなればグラ・バルカス帝国に劣る神聖ミリシアル帝国とムーでは対処が難しく、敗北する事になるだろうがそんな可能性はほぼ起こらない。しかし、何事にも絶対はないという事をこの後全ての人間に見せつける事になる。

 

 

 

 

 

「っ! 敵戦闘機接近!」

「何だと!?」

 

 ミレケネスが乗艦するヘルクレス級パルサーで真っ先にそれに気づいたのは目視による監視を行っていた兵士からである。レーダーは少し前から使えなくなっており、目視による監視を厳重にさせていた結果が出たと言ってよかった。

 しかし、だからと言って敵の後手に回った事には変わりはない。それ、シーランド帝国のジェット戦闘機はそれぞれが獲物を定めると更に加速してグラ・バルカス帝国艦隊前衛に襲いかかった。慌てたように対空戦闘が行われるが手動での迎撃等当たる筈がなかった。

 そんな彼らをあざ笑うように機銃斉射の間を縫って敵から対艦ミサイルが発射される。対艦攻撃仕様の彼らは一機につき4発のミサイルを積んでいる。それらは各艦艇に2発ずつ直撃していき爆発を起こしていく。

 

「馬鹿な……! 我らグラ・バルカス帝国がこんな呆気なく……! ぐあぁぁぁぁっ!!!」

 

 大型艦を優先して沈めるという関係でミレケネスが乗艦するパルサーもミサイル攻撃を受けた。しかもこの艦のみ4発もの攻撃が殺到し、先頭の主砲、中央付近の副砲、艦橋、後部主砲にそれぞれ直撃してミレケネスは即死。パルサーも巨大な爆発を起こしてあっという間に海の藻屑として海底へと沈んでいくのだった。

 戦艦と空母がそれぞれ5隻いた前衛艦隊は駆逐艦以外を全て沈められた。それも敵の攻撃から僅か1時間内での出来事である。後方からやって来たカイザルは生き残った駆逐艦を吸収しつつ敵の攻撃の激しさに大きな衝撃を受ける事になる。そして、そんな彼らを直ぐにでも次の攻撃が襲うはずだったが天は有ろうことかグラ・バルカス帝国に味方する事になる。

 



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第九十一話「バルチスタ沖海戦2」

「馬鹿な……! 何が起こっているのだ!?」

 

 フォーブスは自軍の艦隊に起きた現象に目を見開いて驚いている。彼の周りではマイクや画面に向かって叫んだり、スマホの画面を弄っている者と慌ただしくなっている。その原因は一切反応を示さない画面類を見れば察しが付くだろう。

 ミレケネス率いる前衛艦隊を沈めたジェット戦闘機隊が帰投し、次の攻撃に移ろうと指示を出そうとした時、突如として上空で放電が起きたのである。驚き固まる艦隊だが直ぐに次の現象が発生した。

 

「……駄目です! 全通信機器反応しません!」

「火器管制システムも同様です! コンピューター系が一切反応をしておりません!」

「砲塔は自動追尾システム反応なし! ですが手動による操作は生きています! しかし、全自動対空機関砲沈黙! 及び各ミサイル発射システムと誘導システムが反応しません!」

 

 シーランド帝国に訪れた悲劇、それは突如としてシステムが一切の反応をしなくなるという異常事態だった。それが戦艦から駆逐艦まで全ての艦艇で起こっており、一応訓練をしていた信号灯による各艦艇との連絡を取る事しか連絡する手段を封じられていた。

 

「不味いぞ……!」

 

 フォーブスはこの状況に焦りを感じた。ムーや神聖ミリシアル帝国では通信が出来ない程度でそれ以上の影響はほぼないものの、コンピューター制御に依存していると言っても良いシーランド帝国にとっては致命傷と言える出来事だった。本来の攻撃手段であるミサイルは発射できない上に出来たとしても追尾出来ない、誘導されないという本当に発射する事しか出来ない。砲塔も手動による旋回しかないでため自動の時よりも遅い。しかも主砲を動かす装置は外の様子をカメラなしでは確認できない艦内部に存在する。

 前提としていた衛星や潜水艦隊からの情報提供は出来なくなり自力で敵を探す必要が出てきた。しかし、例え発見できてもジェット戦闘機隊もエンジンはつくがミサイル攻撃は出来ない上に戦闘機を艦内部から出すための昇降機が動かない為飛行甲板に出ている総数100機程しか出す事が出来ない。シーランド帝国はこの状況に陥り、ムーを超える最大のお荷物と化しつつあったのである。

 無論、こうなった場合の対処方法もあるがそもそもコンピューターがやられる際にはエンジンもやられているのが普通でありこのような状況は想定していなかった。

 

「兎に角ムーや神聖ミリシアル帝国にこちらの状況を教えるんだ! それと戦闘機も出すように要請しろ!」

「よろしいのですか?」

「ないよりはマシだ!」

 

 神聖ミリシアル帝国のエルペシオ3やムーのマリンではアンタレス相手に力不足だ。それでも燃料を積んである分しか動かせないシーランド帝国のジェット戦闘機よりも敵を引き付ける囮として使用できるとフォーブスは考えた。

 

「全く……! これが一時的なものでなかった場合我が国にとって最悪の損害となってしまうぞ……! いや、その前にこの海戦を乗り切れるかどうかが先か……」

 

 フォーブスは当初の予定とは全く違った展開に大きな不安を感じながら敵がやって来るであろう北方を眺めるのだった。

 

 

 

 

 

 シーランド帝国で起きていた異変はグラ・バルカス帝国でも感じられた。しかし、神聖ミリシアル帝国やムーと同じように通信手段を封じられた程度でしかなかった。精々がレーダーが使いものにならなくなった位であるが目視観測による砲撃の訓練も積んできている為に何の問題もなかった。

 

「これは敵の襲撃の前触れか? だとするならば空母に艦載機を発艦させるように指示を出せ! そして戦艦を中心に敵に突っ込む!」

「了解!」

 

 前衛艦隊で生き残った駆逐艦の報告から敵がロケットを使っている事は把握している。その為、敵の航空機にやられる前に少しでも艦隊に近づき一撃でも与えられる体制を整える必要があるとカイザルは感じていた。それはカオニアにも通じ、指示通りに空母に発艦命令を出していく。手旗信号と信号灯を用いた通信はシーランド帝国のそれよりも手早く熟練されていた。

 空母9隻から200機近いアンタレス艦上戦闘機が発艦していく。これらは後衛艦隊の頭上を飛行し、敵のジェット戦闘機から艦隊を守る役目を受けている。とはいえレシプロ機で音速を超えるジェット戦闘機を相手にする事など不可能に近い為彼らはジェット戦闘機の襲来で死ぬことが確定している。しかし、彼らは祖国の為にと誰一人として逃げださなかった。

 出来るかは分からない物の攻撃機、爆撃機のパイロットも同じであり、少しでも損害を与えてやると士気を高く保っている。

 そんな戦意が高い航空機隊に反してジェット戦闘機が飛来する事はなく、何のアクションもないまま後衛艦隊は列強国の連合艦隊を目視で確認するまで接近に成功するのだった。

 後にバルチスタ沖海戦と呼ばれるようになる大海戦が始まった。

 



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第九十二話「バルチスタ沖海戦3」

「くっ! 砲雷撃戦用意!」

「砲雷撃戦用意! 主砲発射用意!」

 

 統合軍は何一つとして回復する事無くグラ・バルカス帝国艦隊を目視で確認した。上空にはムーと神聖ミリシアル帝国の戦闘機であるマリンとエルペシオ3が飛行しているがそれはグラ・バルカス帝国とて同じである。彼らは二国の航空機を上回るアンタレス艦上戦闘機で艦隊直上を護衛している。

 

「っ! やはり気付かれたか……!」

 

 グラ・バルカス帝国はシーランド帝国が何らかの不調を起していると感じ取ったのだろう。ぺガスス級航空母艦を始めとした敵空母よりリゲル型雷撃機、シリウス型爆撃機が飛び立っていく。フォーブスはそれを見てジェット戦闘機の発艦命令を出した。僅かな戦闘機で敵の攻撃力を削るためには主要な攻撃手段となりえる敵雷撃機、爆撃機の排除が必要不可欠だった。その為にジェット戦闘機を発艦せずに敵の動きを待ったのである。

 

「後はコンピューターが一切使えない現状で何処まで戦えるかだな」

「それはこちらにも言えますね。コンピューター使用不可の状態で砲雷撃戦なんて難しいですよ」

「それが出来なければ我々は敗北してこの地に沈むだけだ。グレートアトラスターを出せ。あれの主砲はアナログだっただろう? 現状我々の中で唯一まともな戦闘が出来る」

 

 グレートアトラスターが砲撃をする機会は訪れない。そう考えられていた事とそもそも時間が足りなかった事から主砲の操作は元々の物を直して使っていた。伝声管も損傷していたところを直していた為に艦内にスムーズに連絡を行う事が出来る。アナログであったがために現状で最も動ける艦となっていた。

 

「大分予定が狂ってしまったがグラ・バルカス帝国に屈辱を与えるグレートアトラスターを我らが運用してその砲を奴らに向ける。内容に変わりはない。グラ・バルカス帝国よ。自らが生み出した最大の戦艦によって沈められるがいい……!」

 

 フォーブスは元敵の船を頼りにしないといけないという現状になんとも言えぬ感情を覚えつつ、それを上回る敵の船で敵を沈めるという行為に高揚を覚えるのだった。

 

 

 

 

 

 

「あれは、グレートアトラスターか!?」

 

 カイザルはまさかの艦の登場に目を見開いて驚愕した。それは他の乗員も同じであり一様に目を見開いて固まっていた。世界最強と呼び、この世界で様々な伝説を作り上げた戦艦が今、敵の船として自分たちに砲身を向けている。その事実に誰もが怒りと屈辱を覚えていた。

 

「ふざけるな! グレートアトラスターを辱めやがって……!」

「落ち着け。確かに驚きはしたがだからどうしたというのだ? 敵となったのならば沈めるだけだ」

 

 怒りで顔を真っ赤にするカオニアを制止しつつカイザルはシーランド帝国の不可解な動きに疑問を持つ。今のシーランド帝国には東征艦隊と前衛艦隊を沈めた機動性と火力が全くない。それこそ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……。そこまで考えてカイザルは一つの決断に至った。

 

「(まさか先ほどの通信障害はシーランド帝国でも発生しているのか? いや、それ以上の被害を受けているのかもしれん。シーランド帝国はジェット戦闘機を開発する程のテクノロジーを持っている。それらには我々では把握しきれない何かが使われていてそれが通信障害の原因のせいで不調をきたしている? ……この状況で罠と言う可能性は低い。今の段階で考えられる最も現実的なものだ。となれば……)副指令、空母に連絡。雷撃機と爆撃機を上げろと。そして、それ以外の艦艇は砲雷撃戦を始めよと」

「司令?」

「原因は分からないが敵が何らかの理由で攻撃を封じられていると思われる。これはチャンスだ。予想より少ないがシーランド帝国の船が凡そ80、ムー、神聖ミリシアル帝国と思わしき艦艇がそれぞれ50隻。我々より数が少ないとはいえそれでも大艦隊と呼べる数だ。これを全て沈める事が出来れば我々はレイフォル州沿岸の制海権を維持する事も可能だろう」

「……分かりました! 直ぐに命令を出します!」

 

 カオニアもこの一戦がどれほど重要で、今がどれだけの好機かを理解し自ら通信兵に指示を出していく。戦艦の主砲が敵前衛を射程圏内に入ったころ、上空では制空権を巡りアンタレス艦上戦闘機とマリン、エルペシオ3の編隊による空中戦が始まった。しかし、それらはアンタレス艦上戦闘機の完全なる優勢で進んでいた。そもそもマリンはエルペシオ3以下の性能しか持っておらず、そのエルペシオ3はアンタレス艦上戦闘機に性能で負けている。そんな機体で半分ほどの数とは言えアンタレス艦上戦闘機相手に戦えるはずがなかった。マリンとエルペシオ3は楽々と撃墜されて行き、その下をリゲル型雷撃機とシリウス型爆撃機が悠々と飛んでいく。

 しかし、ここでシーランド帝国の反撃が始まった。飛行甲板に出ていたジェット戦闘機約100機が発艦した。新たな迎撃機の登場に攻撃隊は回避行動を取ろうとするがそんな彼らを音速のスピードで以て回避する間を与えずに撃ち落としていく。凄まじい轟音が少し離れたカイザルの乗るラス・アルケディにも伝わって来る。

 

「やはりシーランド帝国はジェット戦闘機を開発していたのか……! それもこの性能、明らかに開発初期とは違う! 音速の中でどうやって戦い抜くかを計算、研究された機体だ!」

 

 カイザルは改めてシーランド帝国の実力に驚かされる。なまじ知識を持ち、頭が回るだけに絶望的な戦力差を身に染みて感じるが同時に敵が本来の力を出し切れていない事も理解できた。

 

「(敵が本領を発揮できる前に叩かなければいけないな……)敵に接近する! 少しでも早く敵を攻撃するのだ!」

 

 カイザルは予想外にも勝利のチャンスが訪れた事で柄にもなく強硬策を執り始める。この動きは列強艦隊を更に苦しめていく事になる。

 約数分後、両者の間で砲雷撃戦が開始された。

 



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第九十三話「バルチスタ沖海戦4」

「D5級4番艦が被弾! 被害は不明!」

 

 砲雷撃戦が始まり十分。この間シーランド帝国はコンピューターを用いる事が出来ないにも関わらず充分戦闘をこなす事が出来たと言える。たった十分の間にグレートアトラスターが駆逐艦3隻を血祭りにあげており、それに続く様にリヴァプール級巡洋艦が敵に中破大破の損害を与えていた。

 しかし、駆逐艦の一隻が被弾した事を皮切りに一気にグラ・バルカス帝国の反撃が始まった。シーランド級4番艦が挟叉を受け、その直後にリヴァプール級巡洋艦2番艦に雷撃が着弾した。ダメージコントロールさえまともに出来ない今のシーランド帝国ではその雷撃によって生じた穴から入る水を排水する事もままならずにゆっくりと傾いていく。

 制空戦においてはジェット戦闘機の活躍もあり全てのアンタレス、リゲル、シリウスを撃墜するに至ったがそこで燃料が限界を迎えて両者は完全なる二次元での戦闘に移っていく事になった。

 結果としてシーランド帝国がその技術的優位性を押し出す事が出来ずに当初の予定とは反してグラ・バルカス帝国の有利に戦況は進んでいった。

 

「っ! グラスゴーに被弾! ああ、爆沈します!」

「何だと!?」

 

 見張り員の報告にフォーブスは目を見開く。リヴァプール級巡洋艦5番艦のグラスゴーは運が悪かったのか敵戦艦の砲撃を受け、そこが偶々弾薬庫出会った事から誘爆。大爆発を起こしてその船体を海に沈めていった。横向きに倒れ込んだ2番艦より早い撃沈であり、シーランド帝国の振りを如実に表す出来事だった。

 

「くっ! ムーと神聖ミリシアル帝国はどうだ?」

「我々以上に攻撃を受けています……。既に両国の三分の一近くが沈められている様です……」

 

 見張り員が必死に確認をしているが通信が出来ない以上詳細な報告には至らない。神聖ミリシアル帝国が魔導技術の国家であり、カルトアルパス港で神聖ミリシアル帝国の艦隊と合流した際に魔信機を艦艇分受け取っているがそれすらも反応を示していない為に神聖ミリシアル帝国との相互連携がうまく取れていなかった。

 

「神聖ミリシアル帝国の艦艇が何か旗を振っていますが解読不可能!」

「くそっ! これならお互いの連絡手段の確認をするべきだったな……! 仕方ない。我が艦以外の原子力空母とクイーン・グィネヴィア級ネームシップを後方に下げる! 空母は第二次世界大戦時や現代でも最強の攻撃力を持つ艦だ! 敵が狙ってくる可能性がある以上戦闘から少しでも遠ざける!」

 

 ひたすら増え続ける被害にフォーブスは一つの指示を出す。原子力空母はそのエンジンを原子炉であるために沈められれば途方もない被害を出す。ここがレイフォル州沿岸ならまだしもニグラート連合の沿岸である。沈められる、損害を受ける訳にはいかなかった。

 そしてクイーン・グィネヴィア級ネームシップは単に皇帝ウィリアムの心情を考えての後退である。ただでさえ今は亡き皇妃の名前を持つ艦なのである。損害を受けたり、万が一にも沈むような事があればどのような結果を生み出すのか予想する事が出来ない。

 

「っ! 雷跡確認! 本艦に4つ! シーランド級3番艦に5つ接近!」

「何だと? どこにも雷跡など見えないぞ!」

「違います! これらは……、後方からです!」

「っ! 潜水艦か!」

 

 グラ・バルカス帝国とて潜水艦を持っている事はブリテン島の防衛網で沈めている事からも判明している。しかし、潜水艦誕生の黎明期程度の技術や戦術しかない事も確認されている為に何隻来ようとも問題ないと判断していた。こんな状況にでもならない限り……。

 結果、列強艦隊は見事に後ろを取られて挟み撃ちを受ける形になった。それも魚雷を大量に打ち込まれるまで気づかないという最悪の状態で。

 

「回避行動! 敵は無誘導の魚雷である可能性が高い! そうでなくともコンピューターの障害は的にも起きている可能性がある。誘導魚雷など打てないはずだ!」

「了解! 回避行動開始!」

 

 キング・オブ・ライオネスと言う前皇帝の名を持つ原子力空母が沈むような事になれば実際の被害もさることながら様々な方面で大きく混乱と衝撃を受ける事は確実である。それらは何としても避けねばならなかった。

 

「っ! 雷跡通り過ぎます! 回避成功……! 3番艦に被弾! スクリュー付近で爆発2つ!」

 

 旗艦に乗り込んだ見張り員は優秀だった。それが今の回避に形として出ていた。シーランド級3番艦は雷跡に気付くのが遅れてしまい回避行動を取り始めた直後にスクリューに直撃。推進力と後方の装甲を失う事となった。いずれ後方から沈んでいくだろう。

 

「っ! 今度は右から雷跡! 数は……8!」

「……ここまでか」

 

 垂直に向かってくる8つの雷跡。それらを回避する事は不可能に近い。この艦が通り過ぎるか水平になるように左右どちらかに舵を切っても魚雷をやり過ごすには時間が足りなかった。フォーブスはこの艦が沈む事を確信しながら諦めたように瞳を閉じた。しかし、神はこんな状況に陥ったシーランド帝国を見捨てている訳ではなかった。

 

「っ! 雷跡と本艦の間に艦!」

 

 その報告はまさにこの艦を救う言葉であり、同時に誰かを犠牲にしようとしている言葉でもあった。

 



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第九十四話「バルチスタ沖海戦5」

「シーランド帝国の艦艇を少しでも生き残らせるのだ!」

 

 キング・オブ・ライオネスの危機を救おうと雷跡との間に飛び込んだのはムーが誇るラ・カサミ級戦艦ネームシップのラ・カサミだった。ムー機動艦隊は通信が出来なくなったものの空母を守りつつ砲雷撃戦をしていたが結局空母は半数が沈められ、ラ・カサミは敵の砲撃を避け続けている間にシーランド帝国の統合軍の中に迷い込んでいたのである。

 そして、偶々前方を航行していたキング・オブ・ライオネスに雷跡が迫っている事を確認すると迷わずに艦の速力を上げて両者の間に躍り出たのである。

 

「ここまでくれば大丈夫か……」

「艦長。乗員の避難は完了しています。後は艦長の退艦命令に従わなかった馬鹿10数名です」

 

 艦長のミニラルは躍り出る前に退艦命令を出しており、乗員の数百名は退艦していたものの、そんな命令に従わずに艦に残った10数名がいた。彼らはミニラルと共に覚悟を決めた者達であり、その一人である副艦長の雰囲気から無理やりでも退艦させるのは無理だと思わせていた。

 

「……馬鹿だな。死ぬのは私一人で良い」

「艦長一人でラ・カサミを動かすなんて無理ですよ。それにしても……。この事を知ったら上は怒り狂いそうですね」

「それだけの価値がシーランド帝国の艦にはある」

 

 副艦長の冗談にミニラルは何かを確信した様子で断言した。ミニラルはふと、隣を進む20万トンに及ぶ原子力空母の艦橋には誰かがこちらを見ているのが朧げに見えた。そんな彼らに見えてはいないだろうがと敬礼をした。

 

「艦長、それは?」

「シーランド帝国がいた地球の軍人達の挨拶だそうだ。我らはこれから彼らの盾となるのだ。彼らに伝わる方法で礼をしようと思ってな」

「成程……。それなら私も」

 

 副艦長はミニラルの言葉に納得して隣に立つと敬礼をした。それが見えていたのか分からない。だが、こちらを見ていた人も敬礼をしているように見えミニラルの顔に笑みが浮かんだ。

 

「副艦長、グラ・バルカス帝国は必ずシーランド帝国が降す。そうしたら次は古の魔法帝国だ。シーランド帝国でさえ警戒する彼の帝国との戦争の為にシーランド帝国の艦は一隻でも必要なのだ。正直に言って我らでは足手まといだからな」

「ですが我らと同じように科学技術のみであそこまで行けると分かったんです。古の魔法帝国さえどうにかなればムーの未来は明るいですよ」

「そうだな……。ムーが今後も繫栄できることを祈っていよう……」

 

 瞬間、ラ・カサミを大きな衝撃が襲う。8つの水柱が立つと同時に弾薬庫に誘爆したらしく一瞬にしてラ・カサミは船体を吹き飛ばした。乗っていた乗員は全て死亡し、ムー海軍の象徴は木端微塵に消え去った。しかし、その最後は自らの命と引き換えに希望の未来の為の尊い犠牲と言えた。

 

「……」

 

 そんなラ・カサミの一部始終を見ていたフォーブスは敬礼を止め目を閉じる。そして深呼吸をすると目を見開き指示を出す。

 

「撤退する! この状況で我らが出来る事はない! 本来の力を出せないこの状況でこの海戦に拘る必要はない! この一戦が存亡にかかわるものではないのだ! 準備を整えて再び出直す!」

「司令! 大変です!」

 

 撤退を決めたフォーブスが指示を出していると、見張り員が顔を青ざめた状態で報告をして来る。その表情はこれまでに見た事がない程であり、よほどの事態であると嫌でも教えていた。

 

「どうした?」

「ほ、北東より巨大な円盤が近づいてきています! 数は5!」

「円盤だと……?」

 

 UMAを本気で探している国家機関が存在するシーランド帝国でも流石に円盤は架空の存在と思われている。そんな円盤が異世界とはいえ存在するわけがない。そう思ったフォーブスが双眼鏡で北東を確認すれば確かに巨大な円盤が5つ接近してきていた。某国の高級車メーカーのエンブレムにも見えるそれらはゆっくりと回転しながら戦闘区域に近づいてきている。

 

「何だあれは……? いや、まて。確か神聖ミリシアル帝国は切り札を出すと言っていた。5つと報告を受けている以上もしかして……」

 

 数は一致する。方角も神聖ミリシアル帝国の領土から来たと思わせる位置だ。だが流石にあり得ないという思いが出てくる。通信可能な状況であれば直接通信するなり本国に問い合わせるなり出来るのだが今はそれらが全て出来ない。敵か味方なのかを完璧に把握する事は出来なかった。

 

「……一応警戒するように言え。今はあれを神聖ミリシアル帝国の切り札と仮称し、あれらが攻撃した相手を見て判断する」

 

 自分たちに攻撃するのなら敵、グラ・バルカス帝国を攻撃するのなら味方とフォーブスは誤射をして敵に回る可能性を少しでもなくすために到着する前に全艦艇に指示を出した。

 

「しかし……。一体どうやって浮いているのだ? まさかあれ以外にも存在すると言わないよな?」

 

 あまりにも衝撃的な光景はシーランド帝国、グラ・バルカス帝国、ムー全ての人々の視線を釘付けにした。そしてそれ、空中戦艦パル・キマイラの登場によりバルチスタ沖海戦は次のステージに入っていく事になる。

 




三笠の乗員が800超えと言う数字を見た時はびっくりした……
そんな訳でラ・カサミはここで退場です。どちらにしろムーの艦艇では今後独自に動き出す古の魔法帝国戦では使い物にならないので今のうちにいい感じで沈める事にしました。


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第九十五話「バルチスタ沖海戦6」

日本国召喚の最新話が投稿されてるぅ


「ふむ、やはり通信は出来ないか……」

 

 神聖ミリシアル帝国が誇る切り札、空中戦艦パル・キマイラ1号機に乗り込んだ艦長のメテオスは戦闘区域突入前より行っていた通信が出来ない事を改めて確認した。もしかしたら距離が近づいてくれれば通信が回復するかもしれないという予想は消え去った。

 

「とは言えこちらを知っている同胞の艦隊から攻撃が来る事はないだろう……。シーランド帝国の様子は?」

「損害は出ていますが列強艦隊の中では一番少ないですね。主力艦はほぼ健在です」

「これ以上の損害を出させるわけにはいかない。本来の動きとは大分違ってきているが我々がする事は変わっていない。グラ・バルカス帝国に攻撃を仕掛けるぞ!」

 

 驕りを捨てた神聖ミリシアル帝国の行動は慎重かつ大胆だった。空中戦艦パル・キマイラは神聖ミリシアル帝国内に7機存在しており、その内5機が稼働できる状態だった。にも関わらずパル・キマイラは5機全機が出撃している事から神聖ミリシアル帝国の本気度がうかがえた。

 

「制空戦は共倒れか相打ちか……。轟連式対空魔光砲(アトラタテス砲)の必要はなさそうだが準備はさせておけ。……それで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「ええ、問題なく使えます」

 

 メテオスの言葉に部下はきっちりと答える。実際、ここまでに至るまでパル・キマイラはモニター通信をつないだ状態でやってきていた。遥か下で起こっている通信障害、コンピューター系統の動作不良など起こっていないかのように。実際、それらの障害はパル・キマイラに起こっておらず、その理由をメテオスは予想していた。

 

「古の魔法帝国の復活が近いというのは本当だろう。遺跡の一つで似た兵器を発見しているからな」

()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()……。しかしそんなものを持っている、しかも運用できる国などいる筈が……」

「考えられるのは二つだ。一つは今も遥か天空よりこの地を見下ろしている僕の星が何らかの理由。それこそ()()()()()()()の為に発動したか。それか実は我々が知らないところでジャミング装置を運用できる国が存在する」

「っ! 一つ目はともかく二つ目はあり得ません! それならその国は今頃もっと大々的に動いているはずです!」

「否定から入るのは止めたまえ。陛下は驕りをしないように改革をすると宣言された。その為には我々一人一人が今までの常識で全てを判断するべきではない。実際、世界最強と言われていた我らはシーランド帝国とグラ・バルカス帝国に勝てないのだからな」

 

 メテオスは鋭い視線を部下に向ける。元々合理主義で敵味方関係なく全てを偏見なく見る彼はミリシアル8世の言葉に感激し、自ら率先して既存兵器をより知るために学び始めていた。そんな彼からすれば未だに常識内で止っている部下の発言は許せなかったのだ。

 

「兎に角、それが出来るとしたら我々とは一定の距離を持っているか関わっていない国になる。候補としてはアニュンリール皇国辺りが怪しいかもしれないぞ? 北方の島のみを開放して残りの本土である大陸は誰もが訪れる事が出来ないようにしている。とは言え今更動き出すとは思えないがな」

「……分かりました。ですが通信障害の考察より今は敵への攻撃に集中しましょう」

「それもそうだな。では魔導砲発射用意! 我々が味方であるとシーランド帝国とムーに、敵であるとグラ・バルカス帝国に教えてやるのだ! 敵の攻撃にはくれぐれも注意せよ! 我々は通信障害を受ける事無く即座の連携が可能だ! この利点を生かすぞ!」

 

 古の魔法帝国のジャミング装置である以上味方の通信には支障がない様に工夫がされている。あまりにも隔絶した技術ゆえにそのまま使用していた事が吉と出た形となり、パル・キマイラ5機は敵の上空から砲撃を開始した。その動きは敵か味方か迷っていたシーランド帝国とムーにどちら側なのかを理解させた。再びグラ・バルカス帝国に全艦隊からの砲撃が集中する。

 しかし、空中戦艦パル・キマイラの登場とは言えグラ・バルカス帝国が優勢である事は変わりがない。何しろグラ・バルカス帝国は潜水艦を用いた海中からの攻撃をして来る。潜水艦と魚雷の存在を知ったからこそ回避は出来るが攻撃する事は出来ない神聖ミリシアル帝国とムーに、対潜装備が使用不可能なシーランド帝国と一切攻撃する事が出来なかった。

 それでも水上艦艇に関してはパル・キマイラからの砲撃で少しだが優勢になってきていた。流石のグラ・バルカス帝国でも直上のパル・キマイラを攻撃する手段に乏しかった事もあって一方的な攻撃を受けていた。

 

「敵小型艦、中型艦は倒せますが敵戦艦は有効打になっていないようです」

「そんな事は想定内だ。……シビルを投下する。爆風が間違っても味方に当たらないように気を付けるのだ」

 

 戦艦には効果が薄い魔導砲の砲撃を中断したメテオスはそのまま切り札であるシビルと呼ばれる兵器の投下を決めた。それらはパル・キマイラより各1発ずつ投下され、後方にいたグラ・バルカス帝国の戦艦と重巡洋艦計5隻に落ちていき……

 

 

 

「こ、これは……!」

 

 

 

 シーランド帝国の誰もを驚かせる光景を見せた。彼らの視線の先には爆炎に包み込まれる5隻の艦艇とその上に誕生するキノコ雲の姿があったのだから。

 



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第九十六話「バルチスタ沖海戦7」

バルチスタ沖海戦はこれでお終いですがこの章はまだ続きます。と言うか海戦後の後処理を行ってから次の章にいきます


「何だあれは……!!」

 

 艦隊中央部に位置するラス・アルケディにて指揮を執っていたカイザルは予想外の敵の増援に困惑したものの、すぐに攻撃を指示した。あれが味方ではない以上敵以外に考えられないのだから。

 しかし、突如現れたそれ、空中戦艦パル・キマイラはその名の通り空を飛んでいる為に主砲は当たらず、対空機銃や高角砲では損害を与える事が出来なかった。そのお返しとばかりに敵の魔導砲が飛んできて駆逐艦や軽巡洋艦を沈めていくがさすがの戦艦や重巡洋艦をしずめるには火力が足りなかった。ならばと今度は後方に位置していた戦艦と重巡洋艦計5隻に巨大な爆弾を投下。大きなきのこ雲を起しつつ全ての船を吹き飛ばした。

 その様子はラス・アルケディの艦橋部からもはっきりと確認でき、カイザルは目を見開いて驚愕を露にした。

 

「司令……! あれほどの高威力、このラス・アルケディとて喰らえばただでは済みませんぞ……!」

「分かっている……! だがあれをどうやって撃ち落とす? 主砲を当てようにも敵は戦闘機とほぼ同じ高度を浮遊している。本来は対空火器の戦場だがそれらでは圧倒的に火力が足りない。残念だがあれを沈めるには今の我々では力不足だ」

「……では」

「ああ、撤退する。あれとて深追いをして来る事はないだろう。レイフォル州の制海権は奪われるかもしれないがじり貧となって沈められるよりはマシだ。艦隊戦力を少しでも残した状態で継戦能力を維持する」

「……無念です」

「何を言っている? 本当ならば生きて帰れないと予想していたのに結果は半数が生き残った。しかもシーランド帝国を含む敵艦隊に大きな損害を与えるという結果付きだ。我々が撤退する以上この海戦は敗北だが結果として敵は予想外の損害を受ける結果となったのだ。場合によっては我々の戦術的勝利と言えるかもしれないぞ」

 

 しかし、そうでも考えなければ今回の海戦は敗北だった。絶対に攻撃を受けない潜水艦隊が残っているがその前に敵の攻撃で艦隊が沈む。それにグラ・バルカス帝国の潜水艦は可潜艦と呼ばれる戦闘時のみ潜水する黎明期の技術力である。何時間も潜航する能力はなく、やがて酸素を求めて海上に姿を現す事になる。そこを攻撃されれば呆気なく沈んでしまうだろう。

 

「我々はただ負けたわけではない。今はそれだけ結果を出せた事に満足するべきだろう。副指令」

「……分かりました。私とてここで死なずに最後まで抗いたいとおもっていますので。全艦に通達! 撤退する! 敵が追って来るかもしれないがその時はレイフォル州の航空基地にも応援を頼んで戦闘機や爆撃機の増援を求める!」

 

 覚悟を決めたカオニアは徹底した指示を出していく。迅速な対応が求められるこの状況においてもたもたしている暇など無いのだから。ラス・アルケディを含む戦艦や空母を先頭にグラ・バルカス帝国艦隊は一斉回頭を始めた。パル・キマイラはここで半数に分けると3機が大したダメージを与えられない戦艦などを狙わずに駆逐艦や軽巡洋艦と言った小型艦に標的を定めて魔導砲を撃ちこんでいく。残り2基がシビルを投下するべく戦艦や重巡洋艦の真上に向かっていく。大口径主砲を持つ戦艦も真上に来られてはその威力を発揮できない。結果として二回目の投下を許してしまい、戦艦2隻と重巡洋艦1隻を新たに失った。

 

「敵の空中艦に構うな! こちらではダメージを与える事は出来ないのだ! 今は生きて逃げ延びる事だけを考えるのだ!」

「司令! 一部の艦が回頭をしません! 信号灯で、連絡があり……、殿を務めると……」

「……そうか」

 

 重巡洋艦1隻、軽巡洋艦1隻、駆逐艦5隻がその場に留まり追撃を行っているパル・キマイラに主砲と対空砲火を浴びせていく。主砲は一発も当たらずに対空火器ではダメージを与えられないが注意をそらす事には成功したようで小型艦追撃用の3機が殿部隊に攻撃を開始した。とは言え未だに2機のパル・キマイラが艦隊を追尾してきており、更には速度はそちらの方が早いという事もあってグラ・バルカス帝国艦隊が引き離す事は出来なかった。

 

「くっ! あと少しでレイフォル州だ! 航空隊の援護が期待できるぞ!」

 

「ふむ……。これ以上の追撃は止めて置いた方が良いですね。損害を与える事には成功したのですから」

 

 結局、パル・キマイラの執拗な追撃はレイフォル州沿岸に入るまで行われた。流石にそれ以上の追撃は危険と判断したメテオスは即座に引き上げを決定し、基地のあるエリア48へと帰投していった。異変に気付いたレイフォル州の航空基地より飛びたった航空隊が艦隊を発見した時にはパル・キマイラは既に目視外まで撤退しており、ボロボロの艦隊のみが残されるのみだった。

 

 

 

 

 

 グラ・バルカス帝国艦隊の撤退を受けて列強艦隊も撤退した。元々主力のシーランド帝国の統合軍が機能不全に陥っていた為にこれ以上の進軍は不可能と判断されていたのである意味では当然の動きだった。

 各機能は翌日には完全に回復しており、1日ぶりの長距離通信を本国と行った結果として本国では全くコンピューター系の異常はなく、第二文明圏周辺のみがその様に陥っていた事が判明した。

 この事からシーランド帝国はジャミング装置による妨害と判断し、その解析を始めるととともに対策を練っていく事になる。

 




これを終わったら次にどんな日本国召喚を書こうか迷った結果、案として浮かんだもの達(ほぼ没になってます)
マリンフォード(ワンピース)
頂上戦争開始直前の海軍を転移させる……予定だったけどあの世界航空戦力なんてないし色々と難しいと考えて諦めた。一応、個人戦力だけを見れば魔王を殴り殺せそうな戦力を持ってると思うしパル・キマイラすら落とせそうとは思う。その気になれば古の魔法帝国とも戦える、のかな?

神聖ブリタニア帝国(コードギアス)
日本よりも強大な力を持っているし良い感じの侵略国家だから条件さえそろえば行けると思う。だけど基本燃料のサクラダイトがあの世界にはないし(出るようにすればいいだけの話だけど)、何より登場人物の関係が複雑すぎて書ける気がしない

地球防衛軍5
3人の転生者によるプライマー対策がガンガンなされた地球から日本が転移。総司令、政府関係者、ストーム1になった転生者がプライマーの影がちらつく異世界で奮闘する話。プロットまで書き上げて設定も作った。転生者が武器の更新をしまくったからフーリガン砲の大量生産、レベル80越えの武器を標準装備している状態となっている予定だった。
シーランド帝国召喚完結したら書く可能性は高い。だけどEDF4の日本国召喚が既に存在するから出すかは微妙。

他の架空国家
ヴェスパニア大公国、ビザンツ・ギリシア帝国、神聖ヨーロッパ帝国と言った国を架空国家を作ろうでやっている為にこれらも検討したがヴェスパニア大公国は中立国で日本以上に戦争しない。ビザンツ・ギリシア帝国はその設定上旧ローマ帝国領以外に興味がないから話に向いていない。神聖ヨーロッパ帝国は現在の国際情勢が悪い(スラブ人至上主義の超やばい国家と言う理由もある)

ヨルハ部隊(ニーアオートマタ)
一瞬浮かんだけど多分人間同士の戦争が多い異世界に行ったらなんか暴走しそうだし向いていないとして没

Hoi4国家
mod方面の国家も面白うだけどやはり第二次世界大戦時の物ばかりというところがネック(最低でも冷戦初期のものが欲しい。出ないと書きづらい)。

アクハ帝国
こちらは原作でアクハ帝国を出して絡ませていくという話の予定だった。なんだかんだ言ってアクハ帝国気に入っているので。地球防衛軍5と並んで書く可能性が高い。
因みにアクハ帝国が日本と接触するとレシプロ機開発しないでいきなりジェット機開発してグ帝戦には初期型が完成するくらいには技術のの見込みと研究速度が異様に早い。十年もあれば一部技術が日本と並ぶ、かも。


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第九十七話「海戦の影響1~エモール王国~」

ストック尽きたぁ……


a.t.s56(皇歴56年)/2/17/10:20 エモール王国竜都ドラグスマキラ

 エモール王国は列強に分類される程強大な国力を持っているが列強艦隊には参加していなかった。内陸国と言う事で船を持っていなかった事、竜母を他の列強は運用していなかった事から参加する事が不可能だったのだ。その為、神聖ミリシアル帝国の艦隊に乗り込む形で観戦武官を数名送り込んでいた。しかし、バルチスタ沖海戦において神聖ミリシアル帝国の艦隊は甚大な被害を受け、観戦武官は代表だったリモーラを除き全て戦死していた。そんな彼はバルチスタ沖海戦の結果と途中経過を伝えるために本国へと戻ってきていた。

 

「それでリモーラよ。グラ・バルカス帝国との海戦はどうであったのだ?」

 

 竜王ワグドラーンは待ちきれないと言った様子で結果を急かしてくる。彼は古の魔法帝国との戦いにおいて重要となるシーランド帝国が参加するとだけありどれほどの力を持っているのか興味があったのだ。

 しかし、報告しようとしているリモーラの表情は暗い。それは明らかに勝利したとは言えない表情であり、ワグドラーンも思わず心配になってしまう。やがて、リモーラは重い口を開き、ゆっくりと説明を始めた。

 

「……まず、今回列強艦隊は勝利を掴む事が出来ました。ですが、シーランド帝国は、その……」

「どうした? はっきりと報告せよ」

「……シーランド帝国の被害も多く、そしてまともに戦闘する事が出来なかった様子です」

「? それはどういう事だ? シーランド帝国は弱かったというのか?」

「いいえ、そうではありません。むしろ神聖ミリシアル帝国やムーをはるかに超える戦力を有していたと思われます」

「ではなぜ戦闘が出来なかったのだ?」

 

 要領を得ないリモーラの言葉に次第に苛立ちを感じ始めるワグドラーンだがそれをなるべく表に出さないようにしながらきちんとした報告を待つ。

 

「……シーランド帝国は今回、その強大な力を封じられたのです」

「どういう事だ?」

「古の魔法帝国が用いていた魔法を無効化するジャミング装置が何らかの理由で起動したようで、シーランド帝国はその影響をまともに受けてしまったのです」

「なっ!? ジャミング装置だと!? あれは文献で登場するだけの伝説の兵器だぞ!? 何故このタイミングで……!」

 

 ジャミング装置は古の魔法帝国が相手の魔法を封じるために使っていた兵器で、その特性上コンピューター系にも大きく作用する。しかし、古の魔法帝国でも最高機密として扱われていたのか遺跡で出土する事はなく、パル・キマイラに設置されていたものを除けば一切見つかっていない。パル・キマイラに備え付けられていなければ伝説の武器として実在すら疑われていたかもしれない。

 

「この辺は神聖ミリシアル帝国が現状で分かる事と考察を纏めてくれた物があります。……シーランド帝国はこれに似たものへの対策はしていたようですが意味がなかったようです」

「成程。それで満足に戦う事が出来なかったという訳か。……ではどうやって勝利したというのだ? 列強艦隊はシーランド帝国が中核をなしていただろう? 事前の説明では神聖ミリシアル帝国、ムーの艦隊では勝てないと言われていたはずだが……」

「神聖ミリシアル帝国がパル・キマイラを使ったのです。それも5機全てを」

「何と!? 切り札を用いたのか……!」

 

 神聖ミリシアル帝国の本気度にワグドラーンは驚きを露にするがそれだけ今の状態に胡坐をかきたくないという意志を感じさせた。

 

「そしてジャミング装置についてですが、今のところは僕の星が起動した事による誤作動ではないかと言うのが主要な意見となっているようです」

 

 僕の星は古の魔法帝国がこの地に転移する為に必要なビーコンを搭載した人工衛星である。無論、機能はそれだけではなく、今回の様にジャミング装置を持つ衛星もあり、更には一万年以上が経過した現在も稼働を続けるなど耐久性も高かった。

 

「これも彼の国の復活が近いせいなのか……。グラ・バルカス帝国に勝利したと言ったが相手にどれだけの損害を与えたのだ?」

「それについてですがグラ・バルカス帝国は300以上の艦隊を向かわせていた様ですが海戦の前にシーランド帝国の航空機により50隻程が沈められています。砲撃戦が激しく、詳細を把握出来ている訳ではありませんが更にそこから半数は沈めたと思います」

「単純な計算で6割の損害か……。それだけの損害を与えられたのなら充分と言えるのか? 私にはわからないがシーランド帝国の実力をきちんと見れなかったのは痛いな。彼らがどこかに侵略する時に観戦武官として同行させるか?」

「その件でしたら直ぐに訪れるかもしれません。シーランド帝国はこのままグラ・バルカス帝国を叩き潰すつもりでいる様です。そもそも今回の列強艦隊はシーランド帝国がムーと神聖ミリシアル帝国を誘って国際的にグラ・バルカス帝国を孤立させるために行った事です。今のシーランド帝国の皇帝はそれだけ国際的信用や信頼を重要視しているという事です」

「そうか。ならば現状孤立気味のグラ・バルカス帝国はじきに沈むな。モーリアウルよ」

「何でしょうか?」

「シーランド帝国に今一度出向き観戦武官の派遣をしたいと申し出よ。彼らの力をきちんと把握したいと噓偽りなく申すように」

「了解しました。直ぐに発ちます」

「うむ。……それとリモーラよ。今更となったがよく生き残り、報告してくれた。今はゆっくり休め」

「はっ! では少し休ませていただきます」

 

 リモーラはいつ死ぬか分からない極限状態にいた精神的疲労から、倒れるように眠り、疲労回復を行った。一方、モーリアウルはその日のうちにエモール王国を発つとシーランド帝国に向かい皇帝と謁見した。モーリアウルは観戦武官を次の侵攻の際に送りたいと伝えるとウィリアムもシーランド帝国の力を理解してもらうためにと了承した。

 そして、シーランド帝国は次の行動の為に準備を開始するのだった。

 




リモーラ
エモール王国の軍事方面のトップだと思ってくれればいいです。用は外交代表のモーリアウルの軍事バージョンです。流石にモーリアウルに観戦武官させるのはどうかと思ったので


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第九十八話「海戦の影響2~ムー~」

間に合った……


a.t.s56(皇歴56年)/2/20/13:00 ムー首都オタハイト

 旧レイフォルの属国だったヒノマワリ王国を挟んで領土をグラ・バルカス帝国と接するムーは今回の列強艦隊で最も気合を入れていた国と言える。ヒノマワリ王国はグラ・バルカス帝国の圧力に屈しつつあり、いずれグラ・バルカス帝国の勢力圏と大きく領土を接する事になると予測されていた。グラ・バルカス帝国はムーをはるかに超える技術力と戦力を有しており、その強大な力を向けられれば自分たちでは抵抗する事など出来ないと判断していた。

 その為、この列強艦隊によってレイフォル州内のグラ・バルカス帝国軍の動きを停止させられればと願っていた。シーランド帝国が参加するという事もあってレイフォル州の制海権をグラ・バルカス帝国は喪失し、沿岸部の敵基地も破壊できると予測していていた。

 しかし、蓋を開けてみれば結果は辛勝と呼ぶ事しか出来ないものだった。グラ・バルカス帝国は艦隊の三分の一を確実に生き残らせており、対する列強艦隊はムーと神聖ミリシアル帝国の艦隊は半壊。シーランド帝国も無視できない損害を受けていた。突如として発生したジャミング装置によって引き起こされた結果であったがグレートアトラスターとパル・キマイラの活躍がなければ敗北していた可能性すらあった。そう言う意味では辛勝でも充分と言えるかもしれないが当初の想定を大幅に下回っている事に変わりはない。

 

「シーランド帝国ではコンピューターと呼ばれる演算装置による補助が一般的となっています。今回のジャミングはそれらを一時的に使用不可に陥らせたがためにそれらの補助を前提としていたシーランド帝国は満足に戦う事も出来なかったのだと推測します」

 

 ムー国内において最もシーランド帝国に詳しい技術士官のマイラスがムーの今後を左右する大切な会議にて説明を行う。ここに居るのは軍人だけではなく、国王や政治家も多数参加している。全員が大物であったが軍事方面の知識には疎い。故にマイラスが途中で捕捉を行いつつ今回の海戦で辛勝となった原因を報告した。

 

「……つまり、シーランド帝国は我々を超える、それこそ神聖ミリシアル帝国など足元にも及ばない技術力を持っていますが、それゆえにジャミングによる被害を我々以上に受けたのだと思います。人間で例えるのならムーや神聖ミリシアル帝国を子供だと考え、シーランド帝国を歴戦の軍人と思ってください。ですが今回のジャミングによりシーランド帝国は手足を封じられた状態で戦う事になったという事です」

 

 その状況で多少なりとも戦えている事自体がある意味すさまじいがマイラスの言葉に納得した政治家たちがざわめきだす。

 

「シーランド帝国がそれほどの実力を持っていたのなら彼らを守って沈んでいったラ・カサミも報われるな。ムーの最新鋭の戦艦だがグラ・バルカス帝国の戦艦には敵わないからな」

「だが我々も今まで以上に備える必要があろう? シーランド帝国の基地が建設されているとは言え未だに軍は派遣されていない。グラ・バルカス帝国が先に動けば到着を待つ間に我らは敗北するのではないか?」

「それはないだろう。シーランド帝国によって前々からレイフォル州の補給状況はひっ迫している。侵攻する余裕はないはずだ」

「いや、だからこそ遮二無二攻撃を仕掛けてくる可能性もあるぞ。弾薬や燃料があるのならそれらが無くなる前にこちらを落としてしまえばいいと考えてしまえば厄介だ」

 

 政治家や軍人たちは様々な事を想定していく。しかし、全員が自分たちではグラ・バルカス帝国に抵抗するのは難しい事、シーランド帝国の軍隊の早急なる派遣を要請しないといけないという事は誰もが理解していた。それゆえに、列強二位と言う地位についていながら自国すら自分たちの力で守れないという事実にどうしようもない悔しさが押し寄せてくる。

 

「……文明圏外国のような力を持たぬ国家ならともかく、我らが国防を他国を頼みにしないといけない事になろうとはな……」

 

 ムーの国王ラ・ムーは現状に悲しみを表す。国政に参加する事は出来ず、象徴として慕われるムーの王族であるがだからと言って国政を全く知らないのは問題があった為にこうして会議に出席しているがその結果としてムーと言う国家がどれだけ危うい立ち位置にいるのかを突き付けられている。

 

「ムーがシーランド帝国にとってなくてはならない存在となればムーは安泰だがそれは難しいか……」

「陛下、それはまだわかりませんよ。シーランド帝国は公表していませんがイルネティア王国の王子を配下としています。つまりイルネティア王国はシーランド帝国の属国乃至勢力圏となるのです。その隣国である我らを蔑ろにする程彼らが戦略的、戦術的価値観を理解できないとは思えません。イルネティア王国がシーランド帝国の勢力圏となっている間はムーは少なくとも中継地点として栄える事が出来ます」

 

 ラ・ムーの呟きを拾ったのはマイラスだった。マイラスとしてもシーランド帝国がムーをどのように扱うのかは分からない。いずれ勢力圏に組み込まれる可能性もあるがそれは遠い未来で起こるだろうことであり、直ぐに起きる事ではないと予測していた。

 

「とは言え我々も行動しないといけない事に変わりはありません。シーランド帝国が訪れやすい様に港の整備をするべきでしょう。他にも大小さまざまな所で改革をするべきです」

 

 マイラスの言葉に誰もが頷く。その後も会議は続き、ムーはグラ・バルカス帝国に対する備えを行いつつシーランド帝国との関係強化を推し進めていく事になる。そして、そんなムーを更に追い込む事となるヒノマワリ王国のグラ・バルカス帝国に恭順を示したという一報が入り、第二文明圏を取り巻く状況は更に悪化していく事となる。

 



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第九十九話「海戦の影響3~神聖ミリシアル帝国~」

a.t.s56(皇歴56年)/2/21/9:00 神聖ミリシアル帝国帝都ルーンポリス

 バルチスタ沖海戦において実質的な勝利の立役者となった神聖ミリシアル帝国だが上層部は今回の海戦を重くとらえていた。何しろ事前に分かっていたとはいえ魔導艦隊では大型艦を沈めるには至らず、派遣した艦隊も半壊と言う結果となった。そして、切り札として全機投入した空中戦艦パル・キマイラも小型艦はともかく大型艦を沈めるには火力が足りず、シビルを用いる事で倒す事が出来るという結果だったのだから。

 

「シビルを用いる事でしか敵を倒すには至らない、か……」

 

 ミリシアル8世は艦隊の生き残りから聞いた情報とパル・キマイラを率いたメテオスからの報告書を見てそう呟いた。期待していなかった、と言えば嘘になる。少なくとも魔導艦隊の様に一方的に倒されるという事もなく、逆にこちらが一方的に攻撃できると。実際、その高度故に一方的な攻撃を行う事が出来ていた。損傷を与えられなかっただけで。

 

「魔導砲の威力を上げる必要があるか。それとシーランド帝国より教えてもらえた魚雷と言う兵器に関しても深く理解する必要があるな」

 

 バルチスタ沖海戦では魚雷攻撃を躱す艦もいたが大半は理解不足で沈められており、魔導艦隊の被害の半数は魚雷によってであった。グラ・バルカス帝国がこれらの兵器を持っている事からも対策は必須であり、場合によってはこちらも開発する必要があるとミリシアル8世は今後の研究する事を考えていく。

 

「……これらの兵器は遺跡から発掘された事はない。それはつまり彼の国はこういった兵器を持っていないという事になる。……もし彼の国と戦う事になればそこを突く事で海上戦力を駆逐できるか?」

 

 遺跡から発掘されなかったからと言って魚雷を持っていなかったと考えるには早急かもしれないがもしそうであれば大きなアドバンテージになりうると判断する。実際、自分たちが経験しているのだからその力は折り紙つきだ。

 

「さて、今回の海戦は想定外の物が多かったが同時に我々が得られた事も多い」

 

 魚雷の力の再確認に魔導艦隊の性能不足。空中戦艦パル・キマイラがどの程度戦えるのかを理解できたことはとても大きいと言えた。今までのままだったらこれだけの損害を出したとしても世界最強の称号に胡坐をかきまともに取り合わなかった可能性がある。

 しかし、ミリシアル8世が改革を行っていくと宣言したことで上層部だけではなく国民にもその流れが訪れていた。国民は今回のバルチスタ沖海戦の結果を聞き自分たちが信じていた常識は崩れ去ったと理解し、更なる技術向上に積極的になっている。このままでいけば神聖ミリシアル帝国は更なる発展を迎える事が出来るだろう。

 

「そう言えばシーランド帝国に派遣する学生たちの出発を見届けないとな」

 

 現状、古の魔法帝国に対抗できる国家はシーランド帝国しかいない。それが神聖ミリシアル帝国上層部が出した結論だった。自分たちやグラ・バルカス帝国でも古の魔法帝国に且つどころか抗う事さえ難しいと考えていた。何しろ自分たちは彼の国の劣化コピーを用いており、その中でも高性能とは言え元の物よりスペックが落ちる空中戦艦パル・キマイラを全く撃ち落とせないグラ・バルカス帝国では逆立ちしても勝つことは無理だろう。

 その為に神聖ミリシアル帝国は将来有望な若者たちをシーランド帝国に派遣し、そこで様々な事を学ばせようと考えた。これはシーランド帝国も了承しており、一人につき法外な滞在費用、研修費用が掛かる事となったうえに魔導技術の開示を要求されたが自分たちでは劣化コピーしか作れないと開き直ってシーランド帝国に全てを開示した。その思いきりのよさにはふっかけたつもりだった外交官が目を見開き、顎を外さんばかりに口を開けて驚いた。

 そんな神聖ミリシアル帝国が恥も外聞もないと言わんばかりに開示したことでシーランド帝国は若者たちを受け入れる事にした。最初は10代男性5名、女性2名。20代男性3名、女性2名の計12名を派遣する事となった。彼らは各分野における将来を約束された者達であり、神聖ミリシアル帝国の未来を担っていく事になる若者だった。期限は約一年。その間にシーランド帝国が教えても構わない範囲で学んでいく予定であり、その出発日が近づいていた。

 

「彼らがシーランド帝国の技術に触れられるだけでも充分だ。理解力があり、柔軟な知識を持つ彼らならそれだけでもいい刺激となってくれるだろう」

 

 ミリシアル8世は若者たちがシーランド帝国での生活を受けて神聖ミリシアル帝国の発展の手助けになるだろうとほぼ確信しつつ、彼らの今後に期待する事になる。

 そんなミリシアル8世を始め国中の期待を背に12人の若者たちはシーランド帝国へと旅立っていった。彼らの後にも様々な人々が研修に向かい、最終的に200人以上の人々がシーランド帝国に直接触れる事になる。彼らが見て、聞いて、知ったシーランド帝国での生活はその後神聖ミリシアル帝国の技術向上に繋がっていく事になる。

 後にこの決断を下したミリシアル8世は神聖ミリシアル帝国最高の君主としてその名を後世にまで轟かせる事となり、最初に研修に向かった若者たちもそれぞれの分野で活躍し、12人の賢者と呼ばれる事になる。

 





【挿絵表示】

現在の世界地図
青:シーランド帝国直轄領(自治領含む)
灰色と薄灰色:シーランド帝国の副王国
黄:フィルアデス連邦
藍色:シーランド帝国の属国
緑:シーランド帝国の友好国
黄緑:友好国ではないが国交を持つ国(大まかに)
紫:グラ・バルカス帝国の勢力範囲
薄紫:潜在的敵国(グラメウス大陸では魔王のみ)

フィルアデス連邦が拡大している訳については次回説明します(多分)



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第百話「海戦の影響4~シーランド帝国~」

気付けば100話……。なのに全く終わる気配がない。取り敢えず完結目指して頑張ります


a.t.s56(皇歴56年)/2/24/13:00  シーランド帝国帝都ロンドニウム

 シーランド帝国では漸く帰還した統合軍を各ドックに収容しつつ今回の海戦の結果及び途中経過などの詳細を確認しつつ、今後につなげていくための会議が開催されようとしていた。この会議は皇帝ウィリアムが主導して行われる事となっている為に参加者は膨大且つ重要人物ばかりである。参加者としては以下の通りとなっている。

 

○皇帝 ウィリアム・ロバーツ・ペンドラゴン

○宰相 ドナルド・A・オズボーン

○統合軍総司令 ローブス・L・ヒチョン

○統合軍副司令 トム・リー・フォックス

○フィルアデス連邦統括官 フレディ・K・マイソン

○各省庁より代表者1名

○陸海空軍より総司令1名

○各自治領指導者若しくはその代理

 

 そのほかにも幾人かが参加するシーランド帝国始まって以来の大人数による会議が開催された。

 

「諸君、今回は良く集まってくれた。早速バルチスタ沖海戦と命名された先の海戦の結果を報告してもらう」

「はっ! では先ずは手元の資料をご覧ください」

 

 皇帝ウィリアムの言葉で会議が始まり、早速フォーブスが今回の海戦における戦況と被害、敵の想定撃破数などを記した資料と共に説明していく。

 

「……このように我らはコンピューター系の使用不可により多大なる損害を受けましたが神聖ミリシアル帝国の空中戦艦パル・キマイラの登場により辛勝へと持ち込む事に成功しました。ですがこの損害は無視できるものではなく、転移前より数えても最大の損害となっています」

 

 自ら率いた艦隊の損害を淡々と報告するフォーブスがどれほどの悔しさと屈辱を味わっているかは推して知るべしだろう。とは言えコンピューター系の異常という予想外の展開に見舞われつつ敵と戦いぬいたフォーブスは称賛に値するだろう。

 

「……これだけの損害を受けたとは言え原子力空母が全艦無事だったのは不幸中の幸いでしたな」

「確かに。一隻でも沈められれば我らの損害は空母を一隻失う以上のものですからな」

「放射能による汚染の心配もある。友好国とはいいがたいとは言え国交を持つニグラート連合沿岸の土地を放射能で汚す結果にならずに良かった」

 

 陸海空軍の総司令は軍人と言う立ち位置から今回の海戦を判断する。同時に彼らがよく戦っている事は分かっているからこそその言動は責めるものではなく擁護に傾いている。

 

「しかしこれだけの損害を受けたのも事実。この分の補填を早急にしないといけませんよ」

「フレディさんの言う通りですわ。広大な領土を持つ我が国にとって艦は重要です。それらを大きく失うという事はただ事ではありませんわ」

 

 そんな中で否定的な意見を出すのは偶然にも同じ姓を持つ連邦統括官としてフィルアデス連邦を統治するフレディとマレーシア自治領の指導者となっているジェラルディン・ヴォーン・マイソンである。正確にはこの損害分をどうやって補填するつもりなのかを聞いているのだがそんな事は自らの管轄外であるフォーブスにいうのはお門違いだろう。つまり損害を出したことを責めているのも同然だった。

 

「私が統治を行っているフィルアデス連邦はパンドーラ大魔法公国やマール王国を取り込み拡大しています。今以上に海軍の能力が必要なのです。にも拘わらずにこれだけの被害を出されては困るのですよ」

 

 フィルアデス大陸の統一という言葉の下にフレディは連邦が一定の安定を得てから各国に連邦への参加を要請していた。これに反応したのがパンドーラ大魔法公国であり、属国と言う今の立場と何ら変わりがないが魔法の研究に没頭しやすいと参加を表明した。これに技術の更新が上手く出来ていなかったマール王国も追随した。更に国家機能が破綻していたり、参加することがメリットが大きいと判断した他の国々も参加を表明したことでフィルアデス連邦は南部をほぼ支配下に置く事となっていた。その国土はパーパルディア皇国の時を上回っており、技術もその時より洗練されたものが多く存在していた。

 

「フレディ。今はそんな事よりもこれだけの損害を出す原因となったジャミング装置について話すべきだ」

「私も同感だ。あの装置の対策を取らない限り同じ悲劇が何度も繰り返されるぞ」

 

 一方でフォーブスへの追求よりも大事な事があると言ったのはマット・H・ウェバーと呼ばれる自治領指導者であり、様々な自治領を統治してきた優秀な人物である。そんな彼に軍部も追随する。実際、ジャミング装置をどうにかしない限り同じ事が起こるのは目に見えている。それが分かるだけにフレディは不承不承ながらそれ以上の責任追及を行う事はしなかった。

 

「このジャミング装置に関してだが神聖ミリシアル帝国が情報を開示したものの中に存在していた。本来は魔法を対象とするものらしく電子に関してはおまけ程度の性能しかないそうだ。だが、結果としてこちらのミサイルを使用不能にする程強力なものとなっていた。つまりこれを古の魔法帝国が用いるという事は我々はアナログでの戦いを余儀なくされるという事です。ですが、古の魔法帝国相手にそんなものが通じるとは考えられません」

「と言う事はこのジャミング装置を防ぐ事が出来るようにするのが必須と言う事ですか。ECCMはどうですか?」

「無理だ。分野が違い過ぎて意味がない。これは魔導技術を用いないと対抗兵器の開発は難しいぞ」

「神聖ミリシアル帝国の資料を見る限りこの空中戦艦パル・キマイラに搭載されている物を応用できれば問題ないのでは?」

「だがパル・キマイラを借りる事は難しいぞ。彼らの切り札だ。流石にこれすらこちらに譲渡するとは思えない」

「解析中のものが2つあるのだろう? それらを譲渡してもらえばいけるのではないか?」

「どちらにしろ神聖ミリシアル帝国と交渉する必要があるだろう」

 

 様々な意見が飛び交い、会議は白熱していく。この会議は途中何度も休憩を挟み、夜遅くまで続く事となったがその代わりに今後シーランド帝国が進めていく事が決定した。日が昇るとシーランド帝国の政治は今まで以上の忙しさを見せ、本格的な準備に取り掛かっていくこととなる。

 



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第百一話「海戦の影響5~アルタラス王国等~」

久しぶりにアルタラス王国の二人が出てきます


 列強においてこのバルチスタ沖海戦はとても重要な物であったがだからと言ってそれ以外の国家が何の関係もなかったわけではない。ヒノマワリ王国ではグラ・バルカス帝国の圧力に屈する事となり、属国化してムー侵攻の前哨基地へと変貌しつつあった。それ以外の第二文明圏の国家でも少なからずの衝撃が駆け巡っており、特に自らの沿岸で起こったニグラート連合ではグラ・バルカス帝国に降伏するべきなのではないか?と言う意見が一定する出てきている程だ。

 しかし、そんな一方でそれ以外の第一、第三文明圏は真逆の反応となっている。そもそもグラ・バルカス帝国からかなり離れている事もあって彼らの事を知る事は難しく、バルチスタ沖海戦が列強艦隊の勝利と言う事でお祝いムードとなっていた。

 

「シーランド帝国はかなりの損害を受けているがその対策も始まっている。グラ・バルカス帝国がこれ以上の勝利を得るのは不可能だな」

 

 ルミエスと結婚し、婿養子に入ったアーロンは近代国家として発展しつつあるアルタラス王国を眺めながらそう呟いた。親族がいるからだろう。アルタラス王国は最もシーランド帝国の恩恵を受けてその国力を大幅に伸ばしつつあった。フィルアデス連邦で格安で販売されている銃火器を主要武器とする軍隊の編成も行われており、1個師団1万5000人程の戦力を有していた。海軍においては将来更新する事を前提にパーパルディア皇国の魔導戦列艦がそのまま運用されている。アルタラス王国はかつてのパーパルディア皇国並みの軍事力を持つ国家へと成長していたのである。

 無論、軍事以外の面でもアルタラス王国は発展している。王都ル・ブリアスを中心に自動車の走行を前提とする巨大道路が島中を通っており、それらは全てアスファルトで補強されている。町は摩天楼こそないものの近代と言われても可笑しくない建造物が建つ都市となりつつある。

 魔石の採掘も今まで通り行われる一方でクワトイネ公国から様々な食料が入って来ると国民の食生活も豊かになっていき治安は格段に良くなっていった。戦争孤児は全て王家が運営する孤児院が引き受ける事となった為に浮浪者は大幅に激減している。

 

「クワトイネ公国もフィルアデス連邦への食糧輸出で恩恵を受け始めているからな。ロデニウス大陸は好景気を迎えているな」

 

 当初こそ関係が微妙だったクワトイネ公国だがつい最近食事ブームがブリテン島で起きている事、シーランド帝国の企業が料理の質の向上を目指してクワトイネ公国の食料に目を付けている事、フィルアデス連邦への大量輸出などが合わさり好景気を迎えている。シーランド帝国に対する恐怖はあるものの、自分たちに向けられる事はほとんどないと理解してからはその矛先が向かないように愚かな行為をしないようにしていた。

 そして、この好景気はクワトイネ公国でのみ起きている訳ではない。クイラ王国は石油の需要が高まりつつある第三文明圏で最も多くの産油国として大量に輸出する事で現実世界の中東のような好景気を迎えていた。既に作物が育たない貧困国としての姿は無く、僅か数年で世界でも有数の富裕国へと変貌していた。石油を用いたエンジンが開発・普及すればするほどクイラ王国の需要も上がっていくだろう。彼らの国土の石油が尽きない限り、彼らの富は約束されているのだから。

 

「トーパ王国は漸く魔王襲撃の傷が癒え始めたか。最近ではグラメウス大陸への遠征の話も出ているそうだがいったいどうなるのやら……」

 

 レッドオーガとブルーオーガと言う魔王軍の主柱を破壊したことで魔王軍の動きは沈静化している。その間にシーランド帝国の力を借りつつ世界の扉と呼ばれる防壁の修復も完了し、二度とあと悲劇が繰り返されないようにと軍事力の強化を行っている。シーランド帝国でも魔王軍と言う潜在的敵勢力を今のうちに倒すべきではないか?と言う意見が出ているが、それがなされるとしてもグラ・バルカス帝国との戦争に決着を付けないといけないだろう。

 

「アーロン? どうかしましたか?」

「ルミエス……。いや、何でもないよ」

 

 いつまでも窓の外を眺めているので不思議に思ったのだろう。ルミエスがアーロンへと声をかける。そこが寝室で、二人とも裸と言う事が何が行われていたかを様々と見せつけて来るが二人にとっては日常の一コマでしかない。

 

「俺は君と結婚出来た事が嬉しいと改めて思ってね」

「私こそ……。アーロンを始めシーランド帝国の方々には感謝しています。一度は滅びたとはいえこうしてアルタラス王国の女王となれているのですから」

 

 アルタラス王国に攻め入ったパーパルディア皇国軍を殲滅した後、シーランド帝国がそのまま統治する可能性が高かった。アーロンでさえそう予測する程だったのから事実に近かった。しかし、結果的にアルタラス王国に全土を引き渡し、これまでのような関係を続けていくこととなったのだ。これは単純にパーパルディア皇国の愚かな行為に目が行きがちとなったせいでもあるが結果として王国を復興できたことに感謝を感じていた。

 

「時間が出来た時に皇帝陛下に挨拶をしましょう。これほどしてもらっているのに感謝を伝えられていないのですから」

「そうだな。最近は国内の状況も落ち着いているし時間を見つけて会いに行くのもありかもしれないな」

 

 二人はそんな会話をしながら仲良くベッドに戻っていく。

 しかし、ルミエスがシーランド帝国を訪れる話は流れてしまった。数日後に判明した懐妊と言うおめでたい話によって。バルチスタ沖海戦の損害で若干暗くなっていたシーランド帝国の勢力圏において発生したこの明るい話は勢力圏内の人々に再び活力を与えていく事になる。

 



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第百二話「海戦の影響6~リーム王国~」

何時もより短めです
そろそろ閑章に入ってから次の章に行きたいと思います


a.t.s56(皇歴56年)/3/1/9:30  リーム王国王都ヒルキガ

 シパールケ共和国の提案を断り、中立を貫いたリーム王国は結果的にその行動によって救われた形となった。シパールケ共和国はパーパルディア皇国北部に侵攻したがシーランド帝国の攻撃を受けて全土を奪われているのだから。現在も国交は結んだものの、一定の距離を置いた関係を維持していた。

 

「領土拡張を狙いたいが彼の国を刺激するのも不味いか……」

 

 国王バンクスは第三文明圏の盟主であるパーパルディア皇国を超える領土を持つ事を夢見ていたがシーランド帝国の動きを見ていればそれがいかに危険な行為なのかが理解できる。無駄な欲望を抱いて滅ぼされる等愚か者のする行為と領土拡張の夢は完全に諦める事となった。

 

「フィルアデス連邦で生産される兵器はどれも素晴らしい……!」

 

 フィルアデス連邦が大量生産を行っている銃火器はこの国にも流れてきている。銃火器を持たないリーム王国にとってこれらは売られている値の何倍もの価値があるもので、早速銃列歩兵を編成している。他にも魔導砲の運用や戦列艦の強化を行いその軍事力を高めていった。

 そんな中、この国にもバルチスタ沖海戦の結果が伝わってきた。これをきっかけにバンクスは会議を開く事を決意した。

 

「今回の海戦においてシーランド帝国は大幅な被害を受けたらしい。とは言えそれは技術力が高いが故に戦闘で発生したジャミングに大きく作用された結果のようだ。つまり、シーランド帝国はそれだけの技術力を持っているという事で間違いないか?」

 

 バンクスは自分なりの意見を会議の参加者たちに尋ねる。実際、この場にいる誰もが似たような意見であり、代表として大将軍のリバルが答えた。

 

「陛下。我々も同意見でございます。更に私めの意見となりますがシーランド帝国は古の魔法帝国と同等の技術力を持っていると思われます」

「何だと!? それほどまでに強大なのか!?」

 

 リバルは何処か自身ありげな様子で答えるがバンクスとしてはそれほどの国家なのかと疑問が勝ってしまう。シーランド帝国が途方もない大国と言う認識はあるがまさか古の魔法帝国と同等とまでは思っていなかった。それだけこの世界において古の魔法帝国が強力にして強大、強大であったのかを示していた。シーランド帝国の技術を知らなければバンクスの反応は一般的なものと言えた。

 

「我々で彼らを知るには根本的な部分で知らない事が多すぎる為詳細は分かりませんが確実に同等の技術力は持っていると判断するべきです」

「根拠はあるのか?」

「勿論です。古の魔法帝国では誘導魔光弾と呼ばれる兵器を有していたとあります。これはシーランド帝国で運用されているミサイルと言う兵器と類似点が多くあります。他にもシーランド帝国が似た兵器を持っておりますのでこれらを根拠とさせていただきます」

「……」

 

 リバルの言葉にバンクスは改めて思案する。リーム王国としてはこのまま世界の行く末をゆっくりと眺めているだけで終わりたかったがそれほどの技術力を持つ国なのなら関係を深めて置くのも悪くはない。シーランド帝国の技術が少しでも流れてきてくれればリーム王国は更なる発展を遂げる事が出来るだろうし、実際にそうなっている国が存在するのだから美味しい話ではある。

 

「……シーランド帝国に使節団を送ろう。今まで以上に関係を深める必要がある。場合によってはフィルアデス連邦に参加する事も考えるべきだな」

 

 フィルアデス連邦に参加した国では自治が認められ、今までと変わらない面子で統治を行う事が出来る。勿論そうならない場合も多く存在するがリーム王国は大国といかないまでもそれなりの国家であり、疎まれる事はないだろう。

 

「シーランド帝国がここまで近くなければ正確な情報が入って来る事はなかったな」

「私も同感です。もしグラ・バルカス帝国に近ければ判断を誤っていた可能性もあります。我が国の近さに感謝ですな」

 

 翌週、リーム王国はシーランド帝国に使節団を派遣した。彼らはシーランド帝国の発展した都市をその目で確認し、様々な知識を得て帰っていった。交渉は上手くいき、シーランド帝国の企業がリーム王国に進出していく事となり、リーム王国も遅れながらも東方世界の好景気に乗っていく事になる。

 



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第百三話「海戦の影響7~グラ・バルカス帝国~」

a.t.s56(皇歴56年)/3/1/9:30 グラ・バルカス帝国帝都ラグナ

 この日、帝都ラグナは歓声に包まれた。レイフォル州に向かってくる敵艦隊を見事打ち倒したという報告が届いたからである。この報告に国民は湧き、各地でお祭り騒ぎが起こっていた。誰もがこう叫ぶ。「我らこそ世界最強の国家である」と。

 しかし、この報告は政府上層部により意図的にぼかされた状態で発表されたものであり、実際はグラ・バルカス帝国艦隊は生き残りつつ敵に損害を与えたが空中戦艦パル・キマイラの登場で撤退を余儀なくされたのだ。決して勝利には程遠い戦果であった。

 

「馬鹿な……! なんだこのふざけた兵器は!」

 

 空を飛ぶ戦艦と言っても過言ではない空中戦艦パル・キマイラを見た上層部は怒号を上げていた。主砲が当たるには高すぎる位置を飛び、対空砲が届いても表面に傷をつけるだけ。更にはバリアのようなものが展開されると一切攻撃が効かなくなった。

 敵の攻撃は小型艦を沈められる程度の主砲と未知数の対空火器が備わっている他に大型艦の乗組員を全滅させられる高威力爆弾を投下してくるという厄介な代物だった。

 

「対空火器で撃ち落とせないのか?」

「それが出来ていればこの5機相手に撤退などしてないだろう!」

「もしかした戦闘機で落とせるかもしれないぞ? 見た限りでは対空火器は少ない。これなら我らの敵ではない」

「お前ら馬鹿か!? この空中戦艦もそうだが構想段階のジェット戦闘機で前衛艦隊を全滅させたシーランド帝国の方も話し合うべきだろうが! 明らかに切り札といった空中戦艦と通常兵器となっているジェット戦闘機ではどちらが重大かぐらいわかるだろうが!」

 

 グラ・バルカス帝国で行われている会議ではあまりの混乱具合に話し合いは全く進展せず、怒号が飛び交う無法地帯と化していた。このまま続けばいずれ乱闘が始まってしまいそうな勢いである。

 

「帝国の三将と言われたミレケネス殿は戦死され、戦艦、空母共に半数が沈められた。更には我らの象徴とも言えるグレートアトラスターは敵に奪われてしまっている。まさかここまでしてやられようとは……」

「……グラルークス様は正しかったのかもしれない」

「おい、それを陛下の前で言うなよ? 切り殺されるぞ」

 

 バルチスタ沖海戦の結果を聞き、現在の帝国内部でもシーランド帝国の力を知る者が出始めていた。彼らは総じてこのままではグラ・バルカス帝国は滅びてしまう可能性があると思い至り、クーデターを起こした事を後悔し始めているがこうなってはどれだけ被害を抑えてシーランド帝国と講和するかにかかっていると彼らは周囲を説得しつつ生き乗る道を模索し始めるのだった。

 

 

 

 

a.t.s56(皇歴56年)/3/3/12:30 シーランド帝国ブリテン島某所

 元グレートアトラスターの乗員及びシエリアはブリテン島に存在する収容所に入れられていた。捕虜としてこの地に連れて来られた彼らは毎日のように畑仕事を行い、汗を流していた。機械による手助けはなく、土を耕すところから始める必要があった。

 

「はぁ……」

 

 シエリアは土と汗で汚れた囚人服に身を包みつつ、食堂で突っ伏していた。彼女の周囲には同じように収容されているグレートアトラスターの乗組員がつかれた表情で休憩時間を思い思いに過ごしている。中には少しでも体を休める為に寝ている者もいるがシエリアはそう言う気分にはなれずにただただため息を吐いていた。彼女の手元にはシーランド帝国の新聞があり、その一面にはでかでかとこう書かれていた。

 

-驚愕! グラ・バルカス帝国軍相手に統合軍劣勢! 誰もが予想していなかったバルチスタ沖海戦の結末!

 

 それは意外にも祖国が奮戦している内容であったがその原因を知れば無邪気に喜ぶ事も出来ない。今回のような奇跡は何度も起こるものではないのだから。それが分かるからこそシエリアの表情は暗く、自分たちに訪れる最悪の未来を予想せずにはいられなかったのだ。

 

「今にも処刑台に上がりそうな表情だな」

「艦長……」

 

 俯くシエリアに声をかけてきたのはグレートアトラスターの艦長だったラクスタルである。彼は空になった容器を乗せたトレイをもっており、食器を下げる所だったのだろう。一旦それを止めるとシエリアの隣に座った。

 

「その新聞、あなたも見ましたか。祖国がこれで調子に乗らないと良いですが……」

「シーランド帝国ははっきり言って化け物です。対策しようがしまいが、どちらも変わりはありません。シーランド帝国が本気で動けば本国は火の海になって終わりです」

 

 シーランド帝国と言う国家を嫌と言う程見せられたシエリアに、祖国がこの世界で覇を唱える事は不可能だと理解した。そして同時に心も折られ、抵抗する気力もなくなっていた。抗うだけ無駄だと諦めのような気持ちを抱く様になっていた。

 

「確かにそうですね。グラルークス様が皇帝をしていれば講和の道もあったでしょうが……」

「講和の道は我々が潰しました。今思えば陛下は理解していたのでしょう。それを私達が理解できなかったせいで全てを失う事になった。この世は弱肉強食。強くなれない者に生きる道はない」

 

 虎や獅子だと思っていた祖国は狐の様にしたたかにもなれずにやがて滅亡する。シエリアはその事がはっきりと理解でき、ラクスタルもその未来を想像して顔を曇らせるのだった。

 



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第百四話「海戦の影響8~アニュンリール皇国~」

第7章はこれで終わりです。次は閑章に入ります。大分おふざけとなる予定で本編とは一切関係ありません


a.t.s56(皇歴56年)/3/6/12:30 アニュンリール皇国皇都マギカレギア

 アニュンリール皇国と聞いて誰もが思い浮かべるのは南方大陸を支配する文明圏外国だろう。南方世界の代表と言う事で先進11ヶ国会議にも参加しているが本来は参加出来る程の国力は有していない。それが世間一般からの評価だった。

 しかし、蓋を開けてみればそんな事はない。むしろ技術面に至っては神聖ミリシアル帝国をはるかに超える発展をしている。ではなぜそれを隠し、鎖国体制を敷いているのか?答えは単純である。彼らは古の魔法帝国をこの地に復活させる準備を行っているからである。有翼人で構成させる彼らは古の魔法帝国の民族である光翼人の末裔で、長い年月で魔力が低下した彼らだがその中に眠る古の魔法帝国への思いは健在である。

 そんな彼らの下に一体の男がいた。彼は南方世界とは真逆の北方からやって来た者で、かつて四人の勇者によって封印されていた所をアニュンリール皇国が呼び起こした魔王ノスグーラであった。

 

「それで? シーランド帝国は予想以上の戦力を有している事が分かったから我に知恵を求めると?」

「その通りになりますな。魔王殿」

 

 魔王ノスグーラはオラナタ城の一室にて皇帝ザラトストラと向き合っていた。本来、光翼人の作り上げた兵器である魔王ノスグーラは光翼人であるザラトストラの配下に位置づけられるが二人の間に主従関係はなく、どちらかというとザラトストラが配慮しているようにも見受けられた。

 

「シーランド帝国の力は常軌を逸している。我々が負けるとは思えないが、苦戦する事は確実だろう。そうなれば対策を取る必要があるが我らは彼の国の事を全く知らない。調べるとしてもそれなりの時間を有する。出来る事なら直ぐに知りたい。それゆえに」

「我を頼ったという事か。確かに我はシーランド帝国の力を理解している。少なくともきさまらよりもな」

 

 魔王ノスグーラとてトーパ王国で、アクハ帝国でただ敗北したわけではない。彼なりにシーランド帝国の力を見極めていた。そしてその力が古の魔法帝国と対等に戦えるだけの位置に来ている事も理解していた。

 

「はっきり言っておこう。我とてシーランド帝国の力をはっきりと知っているわけではない。だが同時に我がこれから言う事は真実でもある。心して聞くが良い」

「魔王殿のお言葉を疑う気はありません。聞かせてください」

 

 海を漂流していたところを助けてもらった恩を返すつもりで魔王ノスグーラはシーランド帝国について説明を始める。ミサイルのような兵器から歩兵が持つ銃火器に至るまで知っている事、見ている事を全て話す。ザラトストラも一言も聞き逃すまいと真剣に聞いているが段々とその顔は曇っていった。

 

「……以上が我が知っている情報だ」

「……正直に言いましょう。嘘だと思いたいというのが本音です。これらに間違いないのであれば我らより上位の技術力を持っているという事になります。ラヴァーナル帝国も一部の分野では完全に負けていると言っていいでしょう」

「我もそう考えている。となれば物量だが古の魔法帝国も大陸一つを有するだけだ。決して数を揃えているとは言い難いだろう」

「空中戦艦パル・キマイラのような巨大兵器はないようですがそれでも安心できませんな。やはり魔王殿から話を聞けて良かった。これで対策を練る事が出来ます」

「言っておくがきちんと調べた方が良いぞ。中途半端な情報だけではいざという時に判断を誤る事となってしまうからな」

「勿論です。ですが調査をしやすくなったのも事実です」

 

 自分たちをはるかに超える技術力を持っている国を調べると予め理解していればその情報が嘘だと勝手に判断して上に届く前に封殺されるような事態を防ぐ事が出来るし調査員もどこを調べればいいかを予め決めて置く事も出来るだろう。

 

「しかし、こうなると魔石確保のための東征は中止した方が良いですな。かつて我々に戦いを挑んだ国家の様に我々が返り討ちにあうところでした」

 

 魔石不足を解消する為の東征。それが軍部では計画されていたがこの分では中止にせざるを得ない。ザラトストラは東征前でよかったと安堵をするが同時に肝心の魔石不足を解決することが出来ないと理解し、その解決方法の模索に頭を悩ませることになる。

 そして、アニュンリール皇国で静養した魔王ノスグーラはこの国が近いうちにシーランド帝国と争いそうな気がしてさっさとグラメウス大陸に戻る事になる。その後はシーランド帝国が何時やってきてもいい様にグラメウス大陸の要塞化に力を入れていくことになるがそれはまだ先の話である。

 

 どちらにしろ、アニュンリール皇国はシーランド帝国と言う国家の存在を認識し、古の魔法帝国の復活の為に確実に障害となるその国への対策と調査に全力を尽くすようになり、それに気づいたシーランド帝国と戦争へと至る事となる。

 



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閑話【7-1~】
第百五話「暗躍する者達1」


一番長くなってしまった……
因みにストックがない為毎日投稿が途切れる可能性があります


a.t.s56(皇歴56年)/3/10/10:30 シーランド帝国ブリテン島リヴァプール某所

「諸君、遂にこの日が来た」

 

 薄暗い部屋の中、そこには30人を超える人々が集まっていた。全員が真剣な表情で一言呟いた男の方を見ている。

 

「今は亡き代表がこの組織を立ち上げてから間もなく20年を迎える。我々は各地の同志から援助を受け、遂に最強の兵器を完成させる事が出来た……!」

 

 男の言葉に誰もがおおっ! と声を上げる。男が言っていた兵器の完成はこの場の誰もの悲願であった。そんな悲願が遂に適ったのである。誰もが笑みを浮かべていた。

 

「これを見せれば誰もが認めるだろう。我らの力を。我らの正統性を! 今こそ声を高らかに叫ぶときだ!」

 

 男は興奮気味にそう叫ぶと力強く立ち上がった。

 

「世界最強の兵器はパンジャンドラムだと!」

「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」」」」」

 

 男たちの組織の名はパンジャンドラム愛好会。イギリスの珍兵器をこよなく愛し、世界最強の兵器だと疑うことなくその力を認めさせようとしているシーランド帝国一頭の可笑しい集団である。

 パンジャンドラムとはかつてイギリスが開発した兵器で、二つの車輪を付け、間にロケットブースターと弾薬を詰め込んだ胴体と言う簡素な造りをしている。これは沿岸上陸時に敵の要塞線を破壊する為に造られたが結果的に失敗した。まっすぐ進まない、ロケットが外れる、迷走したパンジャンドラムが見学に来ていたお偉方に突っ込み大混乱に陥る等散々な結果となり、開発は中止された。

 シーランド帝国ではイギリスへのネガティブキャンペーンの一環としてパンジャンドラムをイギリスの通常兵器として扱い、「かつてこの地に存在したイギリスはまともな兵器すら作る事が出来なかった」と大々的に発表していた。

 しかし、そんなパンジャンドラムは2006年に退役軍人のユースタス・デュ・グッドールがパンジャンドラムをきちんとした兵器として開発する愛好会を設立した。彼はパンジャンドラムの実験を見て以来その虜になっており、一度は似た物としてタクシー運転手となったがこれじゃないと直ぐに辞め、その後は軍人として退役まで勤めていた。そんな彼は7年前に亡くなったが彼の棺には花の代わりにパンジャンドラムの模型が添えられるなど彼らしい最後を迎えている。

 そして、ユースタスの死より7年。遂にパンジャンドラム愛好会は最新鋭兵器として位置付けたパンジャンドラムMk-4の完成へと至ったのである。

 

「これを兵器として認められればパンジャンドラムは珍兵器などと呼ばれる事はなくなる! この世界で最強の兵器となるだろう!」

「おお! 素晴らしい……!」

「ここまで頑張ってきた甲斐があったな!」

 

 愛好会の会員たちは皆笑顔で喜びを表している。駄目だしばかりだったが自分たちの存在を世に知らしめることは出来たMk-2、車輪がついたロケット弾と化したが見事軍に正式採用されたガヴェイン、運転性能がゴミ過ぎる無線誘導型のMk-3、等様々なパンジャンドラムを開発してきたがその全てがいまいちと言わざるを得ない代物だった。

 そんな中で期待を寄せて造られたのがMk-4である。これまでの物とは違い、現代技術がこれでもかと積み込まれた最新鋭の兵器となっており、それが完成したという事で喜ばずにはいられなかったのだ。

 

「明日、早速だが実験を行う。何時ものと同じ、荒れた砂浜を一定以上の速度で進みながら目標に体当たりして爆発できればクリアだ」

 

 元々が沿岸上陸時の敵要塞を破壊するための兵器である。愛好会はその開発理由を忠実に守り、それをクリアできる物を作ろうとしていた。つまり、男が言った条件クリアでパンジャンドラムの開発目的が達成されるのだ。逆に言えばこんな事すらパンジャンドラムはクリアできない欠点兵器と言えるのだが……。

 

「Mk-4の実験をクリアして軍に認めさせるぞ!」

「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」」」」」

 

 愛好会は今度こその成功を願って雄たけびを上げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 翌日、リヴァプールの沿岸はお祭り騒ぎとなっていた。愛好会の会員数十名に加えてこの実験を見に来た地元の人、ずっと彼らの活動を折って来たテレビ局のクルー数名、そしてどこからか情報を聞きつけた軍人十名程と言う大所帯となっている。

 会員たちは黙々と実験の準備を進めている。荒れた砂浜にコンクリートで出来た10メートル四方の壁、スピードメーター等本格的な様相を呈していた。因みに、砂浜は市長が会員と言う事で貸し切りの措置を取っている。

 

「準備完了!」

「パンジャンドラムとの接続成功!」

「何時でも開始できます!」

 

 数回目を迎える実験と言う事もあって会員たちの動きに無駄はない。設営開始から僅か一時間ほどで全ての準備を終え、何時でも実験を始められるようになった。その言葉を聞き、現会長がマイクのスイッチを入れた。

 

『これより実験を開始する。エンジン始動!』

「エンジン始動!」

 

 パンジャンドラムからエンジンのかかる音が響き渡り、準備万端とばかりに上下に震え始める。遂に始まる実験に観客たちも固唾をのんで見守っている。その場が静まり返った中、会長は覚悟を決めた表情の元、叫ぶ。

 

『実験! 開始ィィィィッ!!!!』

「「「「「わあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」」」」」

 

 瞬間、割れんばかりの歓声が上がる。パンジャンドラムを操作する会員は真剣な表情で操作するためのリモコンに目を向けている。リモコンの中央には画面がついており、パンジャンドラムに取り付けられた正面のカメラから見える風景を映していた。会員が前進するためのレバーを勢いよく前方に倒す。瞬間、パンジャンドラムは車輪を回転させ、全速力で前方に進む。

 

『第一段階成功!』

 

 会長は前方に進んだ事を受けてそう叫ぶ。先ずはそこからかとばかりにこれを見慣れていない人は突っ込むだろう光景が広がっていた。

 パンジャンドラムはその後も荒れた砂浜を安定した状態で通過していく。その姿は今までの欠陥兵器には見えない程成功するのではないかと観客たちに思わせていた。そして、遂に目標のコンクリートの手前まで到達する事に成功した。

 

『ッ! 第二段階成功! 後は最終段階だ!』

 

 この瞬間、会員たちの心は一つになる。ここまで来たんだ。無事に成功してくれ、と。その願いを聞き届けたとばかりにパンジャンドラムはコンクリートに最大速度で以て突っ込んでいき……。

 

 

 

 

コンクリートの手前にあった軽い砂山を通過。それに見事足を取られてパンジャンドラムは宙へと飛び上がった。最大速度で突っ込んだ事でまるでスキージャンプの様に飛び上がり、コンクリートの塊を越えていった。そして、パンジャンドラムが向かう先にあるのは固唾をのんで見守っていた観客たち。誰もがあ、と声を上げそうになり、

 

「「「「「う、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」」」」」

 

 大絶叫を上げて逃げ惑い始めた。見事目標の上空を飛び越えたパンジャンドラムはそのままの速度を保ち地面に着地、観客たちに突っ込んでいく。

 

『っ! 止めろ! もしくは左右に逸らせ!』

「会長! 大変です! 操作が効きません!」

『なにぃぃぃぃっ!!!???』

 

 着地の衝撃で中の配線がイカレてしまったのか? パンジャンドラムは会員の操作を離れて暴走状態に入った。人ごみの中に突っ込んでいくパンジャンドラムはその後も猛威を振るい続け、燃料が無くなるまで周囲の人間を追いかけ続けた。不幸中の幸いと言うべきか死傷者が出ず、内蔵された爆弾が爆発する事はなかったがパンジャンドラムMk-4は初代並みに阿鼻叫喚の地獄絵図を作り上げるという大失敗で終わった。しかし、いいところまでいっていたという事も事実であり、パンジャンドラム愛好会はMk-5の開発に向けて更なる研究を進めていくことになる。

 




やばい。次の章のネタが思いつかない……


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第百六話「暗躍する者達2」

若干タイトル詐欺になってしまった


 シーランド帝国はイギリスを倒した国家であるが臣民・国民の大半はイギリス人で構成されている。その為、イギリスの風習や文化が根強く残っている。例えばイギリス軍でその勇猛さを称えて造られたブリティッシュ・グレナディアーズ(英国擲弾兵行進曲)は最初こそ敵生物禁止法によって禁止されていたがブリテン島で起きた最後の戦争である第三次ブリテン戦争においてシーランド帝国軍が士気高揚の為に歌ったのを皮切りに誰もが口ずさむようになり、政府でも「ブリテン島やその住民と言う意味で解釈すれば問題ないのでは?」とこじつけにも近い形で法令から除外されている。

 それ以外にも様々なイギリスの名残が残っている。そんなものの中で最も名残が残って欲しくなかったものが食文化である。イギリスはメシマズで有名となっていたがこれは味よりも見た目を重視する上流気取りの文化や伝統料理の断絶などがもたらした事であった。しかし、現在は誰だって見た目はある程度きちんとしていれば求めるのは味である。美味しいものを食したいという若者の増加と合わさり食文化の改善が早急に求められる事となっていた。

 シーランド帝国はこれを国家規模で改善するべき問題として国営企業F&Tを創設。シーランド帝国独自の料理やブリテン島の料理の向上や改善を目指していくこととなった。現在ではある程度改善されてきているが求めている水準には程遠かった。

 そこで、彼らが目を付けたのはより優れた食材を用いる事である。野菜が育ちにくい土地であるブリテン島で試行錯誤するよりも他のものの優れた素材を使おうと考えたのである。そして、この異世界に転移した事により隣国にクワトイネ公国と言う農業チート国家が現れた。彼らがこのチャンスを逃す事はなかった。

 

 

 

a.t.s56(皇歴56年)/3/15/19:00 シーランド帝国帝都ロンドニウム 国営企業F&T本社ビル

「では、改めて乾杯!」

「「「「「乾杯!」」」」」

 

 この日、国営企業F&Tの本社ビルにある大会議室では300人近い人たちが参加する大規模なパーティーが開催された。ここに居るのはこの会社の社長を始めとする重役たちに加えて、彼らと連携して来たクワトイネ公国の農家や政府の高官などである。企業とクワトイネ公国が連携して早2年。パーパルディア皇国が滅亡してから関係を持つようになった両者は短期間の間でお互いになくてはならない存在になっていた。企業はその品質のいい素材を安く仕入れる事が出来、クワトイネ公国側もその対価としてインフラなどの物流の強化をしている為に生活はよくなり始めていた。

 

「これからもお互いに良い関係が築けることを願って」

 

 社長が上機嫌で農家たちとグラスを合わせている。場違いとも言えるパーティーに参加したことで緊張する彼らだが多少の無礼は問題ないと予め通達している事とシーランド帝国産の強力なワインに後押しされた事もあって次第に打ち解け始めていた。

 

「団長! これとっても美味しいですね!」

「ミーちゃん、もう少し落ち着いて食べて……」

 

 実家がこの連携に噛んでいた事で公爵令嬢として出席したイーネは付き添いとして一緒に来たミーリの相手をしていた。団長と受付嬢と言う二人の立場だがそんなものは気にしないとばかりに良好な関係を築けていた。軍属で数少ない同性と言う事も影響しているのかもしれない。

 

「それにしてもシーランド帝国は本当に凄いわね。ロウリア王国を滅ぼしてパーパルディア皇国、ベスタル大陸、そしてグラ・バルカス帝国……。この国ならラヴァーナル帝国にも勝てるんじゃない?」

「んー、どうでしょうね。私はそう言った知識を持ってないのでわかりませんが正直に言えばシーランド帝国に勝ってほしいですね。でないと私達じゃ勝てないですし」

「それもそうね」

 

 ラヴァーナル帝国に勝てる国などいない。それがこれまでの世界の共通認識だった。何しろ世界最強の称号を持っていた神聖ミリシアル帝国ですらラヴァーナル帝国の劣化コピーを揃えるので精一杯だったのだから。それすら揃えられない各国では逆立ちしても勝つ事など不可能だ。

 そんな中で突如として現れたシーランド帝国。まさに神がいずれ来るラヴァーナル帝国との戦争の為に呼び出したとも言えるこの国家は瞬く間に世界に多大な影響を与えている。最近ではグラ・バルカス帝国と戦争しているが優勢に進めているという。イーネは気づけば遠い存在となりつつあるシーランド帝国の力を近くから再認識していた。

 

「そ・れ・よ・り・も! 団長は良い人は見つかりましたぁ?」

「ミーちゃん。ここはそう言う場じゃないのよ?」

「でも私同い年くらいの男の人に結構声かけられましたよ?」

「……」

 

 この猫耳娘は一体何をしているんだ? と言わんばかりに頭を抱えるイーネは付き添いとして連れて来た事を少し後悔しつつ企業側の人間と公爵家の代表として挨拶を周りを行いパーティーを楽しむ事になる。

 後日、ミーリは騎士団本部の受付嬢を止めてシーランド帝国のクワトイネ公国大使館で働く事になる。更にその数日後にはブリテン人の彼氏ができ、ラブラブな様子の写真をイーネに送り、苛立ちを覚えさせることになる。

 




残念ながらこの世界でイーネちゃんに出会いはありませんでした


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第百七話「暗躍する者達3」

ネタがねぇ……


 シーランド帝国は絶対帝政を敷く権威主義的国家体制となっている。これは建国当時から変わる事がない政治体制であるがこれをよく思っていない者も一定数存在する。代表的な者としてかつてのイギリス統治に未練がある者達や民主主義・共産主義による統治を目指す者、自分が上に立ちたい者などがおり、これらはシーランド帝国を蝕む厄介な問題となっていた。何しろいくら粛清をしたところでこれらが潰える事はなく、常に一定数存在するのだから。故にシーランド帝国はこれらが力をつけないように徹底的に監視・管理する事で国家転覆に陥るリスクを最小限に抑えてきた。

 そんなシーランド帝国でも一つだけ、把握出来ていない組織がある。ブリテン・コミューンと名乗る共産勢力は元は第一次ブリテン戦争においてイングランドとウェールズから追い出されてスコットランドに亡命政府を建国した北部イギリス政府内の党の一つであり、第二次ブリテン戦争でブリテン島が統一されると党首だったクリントン・ジュリアス・ミッドフォードは命からがら隣国のフランスに亡命。そこで力を蓄え、ブリテン島全体で戦争となった第三次ブリテン戦争時に密入国し活動を開始した。

 20年以上に渡り存在していながらシーランド帝国でも全体像を把握出来ない程組織内は徹底して統制されており、末端をいくら捕まえても大元にたどり着く事が出来ないようになっていた。そんな彼らがこれまでに行ってきたことは大胆かつ無視できない物ばかりであり、後にブリテン・スキャンダルと呼ばれるようになる日本国内での組織からの金銭の受領を暴露された事による政治的混乱やシーランド帝国から独立を目論んでいるタスマニア共和国との同盟締結などシーランド帝国と言う国家を崩すべく国際的にも大きく動いていた。

 本拠地がブリテン島にあるという事で彼らもこの世界に転移してきており、結果としてブリテン・コミューンがこの世界に伸びる事となった。シーランド帝国はまだ把握していないものの、クワトイネ公国やクイラ王国などの隣国ではブリテン・コミューンの影響を受けた共産主義者たちが共産党を結成しており、共産主義国家の建国を目指し始めている。もし、彼らの準備が全て整う事となればシーランド帝国はもちろん自治領から友好国などの隣国もすべてが赤く染まる事になるだろう。

 

 

 

a.t.s56(皇歴56年)/3/5/14:00 シーランド帝国ブリテン島某所

「動くな!」

 

 シーランド帝国が誇る特殊部隊はこの日、イングランド直轄領のとある都市にあった廃ビルに乗り込んでいた。しかし、そこには多少の埃以外には何もなく、割れた窓から風が入って来るのみだった。

 

「くそっ! またか!」

 

 乗り込んだ隊員たちから報告を受けた隊長は机をたたきながらそう声を漏らす。特殊部隊はいくつかのグループに分かれてブリテン・コミューンの拠点と思われるビルなどの建物に乗り込んでいた。しかし、その全てがもぬけの殻となっており、特殊部隊の作戦が失敗したことを意味していた。

 

「一体奴らの隠密性はどうなっているんだ! 俺達が情報を手に入れたのは()()()()()()! その時にはこれらの赤どもはいたはずなんだ! なのに……!」

 

 異常な隠密性と情報取得の速さ、そして移動の速さがシーランド帝国が未だに全力を持って捜査しても見つけ出す事が出来ない状況を生み出していた。

 

「こうなっては再び情報が入るまで動く事が出来ない……! 千載一遇のチャンスだと思ったのに……!」

 

 とは言えこの様な風景は今に始まった事ではない。ブリテン・コミューンを捜査し始めてから見かけるようになった()()()()()()であった。それだけに、シーランド帝国を蝕もうとしている者達を野放しにしている現状に歯がゆさを感じる事しか出来なかった。

 

「総員に告げる! 撤退せよ」

 

 隊長は結局、隊員たちに撤退命令を下し、次に備える為に準備を始めるのだった。

 

 

 

 

a.t.s56(皇歴56年)/3/5/16:00 シーランド帝国ブリテン島某所

 ブリテン・コミューンでは今回のような事がない限り拠点を一週間で交換する事となっている。更に政府や軍部に存在する同志たちから情報を受ける事でこれまで逃げ延びる事に成功していた。今回も特殊部隊が動き出すと同時に逃走を始めたために乗り込む前には逃げ出す事に成功していたのだ。

 

「我らがこのブリテン島に共産主義国家を建国するまで倒れる訳にはいかないのだ」

 

 ブリテン・コミューン党首クリントンは無人となった廃ビルに乗り込む特殊部隊の様子をカメラで確認しながらそう呟く。既に老人の域に入っている彼はそれでもなお鋭い眼光を放っており、耄碌していないことが一発で理解できた。

 

「この世界に来たことは……、我らが言う事ではないがまさに天のお告げに違いないだろう。この世界には共産主義国家は一つしかない。それも真の共産主義国家とは言い難いものだ。だからこそ我らがきちんと教え、導かねばならない。何十億といる同志たちが約束された日を待っているのだ」

 

 誰もが心の中では共産主義に傾倒していると信じて疑わないクリントンは壮大過ぎる夢を持ちつつ行動は冷静且つ緻密に今後もブリテン島を中心に暗躍していくのだった。

 




ちょっとした用語説明

第一次ブリテン戦争
シーランド帝国が建国後にイギリスに宣戦布告して始まった戦争。当初はまともに取り合われなかったがロンドン付近に傭兵が上陸したことで戦争が起きていると理解するも時すでに遅し。ロンドンは陥落してイギリスは北部に逃れる羽目になった。

第二次ブリテン戦争
シーランド帝国がブリテン島統一を目指して北部イギリス政府に宣戦布告して起きた戦争。その直前には初代皇帝がクーデターで殺されるなどしていたがライオネス・ロバーツ・ペンドラゴンが直ぐに二代目皇帝になる事で国家を安定させている。シーランド帝国の圧勝だったがブリテン・コミューンの結成の原因を作ったり、国際的孤立化を確定させる原因にもなった。

第三次ブリテン戦争
新キリスト教と呼ばれる新たな宗教関係者による蜂起が原因で始まった戦争。実質的に内乱に近く、イギリス復古を目指すものなども合流した結果イングランド、ウェールズ両方の半分近くを奪われる程ひっ迫したが国外に散らばっていた軍隊が戻って来た事で鎮圧に成功した。

タスマニア共和国
オーストラリア南部のタスマニア島を国土とする共和制国家。元は王政だったがシーランド帝国の侵略を受けて自治領になったが第三次ブリテン戦争に便乗して共和国として独立したが再び侵攻を受けて従属した。絶滅政策とも取れる条約などを受けて国民の多くが犠牲となったが現在の与党が政権を握り粘り強く交渉したことで普通の属国まで待遇を改善する事に成功した。しかし、結果として反シーランド帝国の感情が強くなり、独立を虎視眈々と狙っている。
本編に出てくる予定は今のところない。属国だし転移されなかったという形で進めてもいいかもしれない


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第百八話「暗躍する者達4」

地元の祭りに行っていたせいで昨日投稿忘れました。なお、ストックはないので明日以降も止まる可能性があります


a.t.s56(皇歴56年)/3/20/14:00 シーランド帝国帝都ロンドニウム ロンドニウム中央研究所

「この世界は面白いな」

 

 シーランド帝国内で主に遺伝子などの化学を研究しているロンドニウム中央研究所には齢30と言う若さにして副所長にまで上り詰めた天才がいる。彼はヒュー・リー・アランデルと言い、幼少期から昆虫や動物が好きで、飼育員になる事を夢に見ていた。しかし、中学生の時に触れた遺伝子分野に興味を持ち、化学者への道を歩み始める事となった。結果、彼は一年中研究所に引き籠る典型的な化学者となりつつも様々な功績をたたき出している。

 そんな彼が今夢中になっているのがこの世界独自の生態系についてである。それはエルフやドワーフなどの亜人だけではなく、ワイバーンやゴブリンなどの魔物も含まれており、クワトイネ公国から提供されたワイバーンの死体の解剖を行ったり、許可を得られたエルフやドワーフ、獣人達から得た毛や汗、皮膚片や血を基に人間との差異を確認している。

 いずれこれらが解析できれば長寿や老化の予防などに繋がると考えており、ほぼ毎日研究所に引き籠って解析を続けている。

 

「できれば生きた実物が欲しいが人権の問題から難しいだろうなぁ……」

 

 研究に熱心になりがちなアランデルとて人間としての常識を多少は持っている。遺伝子研究の為にこれらのサンプルだけではなく実物があればもっと楽に早く進むがそんな事をすれば人権云々と叫ばれる事は確定的である。臣民や国民と階級的差別が常識となり、下の者を見下すシーランド帝国の人間とは言え非人道的行為には忌避感を示している。その為に最低限人間らしい権利が保障されていないと暴動が起きるだろう。そんな物の処理をして貴重な時間を無駄にしたくないとアランデルは諦める。

 

「それにワイバーンやワイバーンロードのサンプルもある。今はこれで満足するべきだろうな」

 

 シーランド帝国がパーパルディア皇国を滅ぼした後に建国されたフィルアデス連邦ではワイバーンやワイバーンロードの運用は小規模なものとなっている。空軍戦力はジェット戦闘機の方が優秀な上に、生物と言う事で食費などの費用が掛かる。態々運用する必要はなく、近いうちに運用も完全に停止する予定である。そして、シーランド帝国を中心とする東方世界でもワイバーンの運用ではなく飛行機などが開発されていくことになり東方からワイバーンが駆逐されるのも遠くない未来に訪れる事になる。

 

「パーパルディア皇国はワイバーンロードの上位種としてワイバーンオーバーロードを開発していたらしいがデータを確認してもシーランド帝国では真似は難しいな」

 

 技術的に見れば地球世界より劣るこの世界だが遺伝子技術に関しては魔法が存在するためかかなりの高水準をたたき出している。特にパーパルディア皇国が国家をあげて完成させたワイバーンオーバーロードはシーランド帝国でも真似する事は難しい。年単位での理解と解析、応用に開発が必要な案件であり、模造品すら作るのは不可能だろう。

 加えて、トーパ王国からもたらされた情報から古の魔法帝国は生物の生成やクローン技術を確立させている可能性が高いと判断している。実際、今もグラメウス大陸に存在する魔王は古の魔法帝国が作り出した生物兵器であると判明している。その強大な力を扱える生物を作り上げる。それがどれだけシーランド帝国に衝撃を与えたのかは言わずもがなだろう。

 もし、シーランド帝国が科学技術をここまで発展させていなければ遺伝子技術に関する研究の予算増額もあり得たかもしれないが現状のシーランド帝国は科学技術やこの世界独自の魔導技術を取り入れる方向に進んでいる為に遺伝子技術に関する関心はそれほど高くはない。

 

「いっそのこと他国を巻き込んでみるか? 神聖ミリシアル帝国やムーなどの列強も古の魔法帝国と戦う時の為に打てる手札は欲しいだろうし……。いや、そもそも国立のうちがそんな事をするわけにはいかないか」

 

 アランデルは様々な事を考えつつもその手は解析に動いている。彼にとっては何かを考えつつも解析を行う事など簡単な事だった。それだけにパソコンを見ながらブツブツ呟くという端から見ると正気を疑いそうになる光景が広がる事になるが。ここが一般人も訪れる場所であれば即座に病院送りにされていたかもしれない。

 

「取り敢えず今は地道に手元の材料の解析を続けていきますか。先ずは平均寿命の増大を目指してみますか」

 

 目標を立てたアランデルは更に解析するスピードを上げていく。こうなればアランデルは集中して周囲の事が分からなくなる。これ以降アランデルは脱水症状で倒れるまで解析を続けた結果、一週間の療養と言う彼にとっては地獄以外の何物でもない状況となる。そんなアランデル達の活躍のおかげもあり、シーランド帝国では遺伝子技術に関する知識と理解が飛躍的に向上していき、やがて平均寿命を10年以上延ばす事に成功する事になる。

 




次から次章に入ります……多分。


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第8章【揺らぐ大帝国】
第百九話「二つの帝国」


いよいよ第8章に入ります。遂に書籍版6巻に追いつきました。……マジで7巻何時出るんだろう……
それとアンケートを実施します。協力お願いします


a.t.s56(皇歴56年)/4/1/10:00 シーランド帝国ブリテン島

 この日、シーランド帝国ではムー国内に建設された基地へ向けての兵員輸送が開始された。約1年と言う長い時間をかけて作り上げられた基地は収容人数10万を軽く凌駕し、レイフォル州侵攻の前線基地兼侵攻軍司令本部として機能するようになっている。

 既にジェット戦闘機を始めとする各航空機はパーシヴァル基地と名付けられたそこに向かって航行中であり、続けてシーランド帝国第二艦隊護衛の元、シーランド帝国陸軍5万と各補給物資を搭載した揚陸艦・補給艦が向かう事となっている。

 その規模は以下の通りである。

 

○シーランド帝国第二艦隊

シーランド級戦艦3隻

クイーン・グィネヴィア級航空母艦8隻

リヴァプール級巡洋艦4隻

エディンバラ級巡洋艦5隻

D級駆逐艦シリーズ15隻

揚陸艦(5万人収容)・給油艦・補給艦・病院船計約100隻

 

 揚陸艦だけで30隻近くが存在し、非戦闘艦は100隻近くに上る。それを第二艦隊のみが護衛するという少し不安の残る編成となっているがグラ・バルカス帝国もバルチスタ沖海戦でそれなりの被害を受けた事、これ以上の艦隊を出すには受けた被害が大きすぎた事もあってこのような結果となっていた。

 

「漸く、我らの力を見せられる……!」

 

 しかし、そんな不安要素がある中で第二艦隊司令長官であるトム・リー・フォックス中将は感動の涙を流しながら歓喜で震えている。地球ではシーランド帝国と自治領をつなぐ重要な海域である大西洋南部の哨戒と警護をしていた第二艦隊だがこの世界における戦果は第一艦隊に劣っていた。統合軍においても第一艦隊が中核をなしており、第二艦隊はその補助と言う形となっているせいで悔しい思いをしていたが、遂に自分たちが主役となれる任務が舞い込んできたのである。

 

「グラ・バルカス帝国も被害を受けているが嫌がらせ程度は最低でもしてこよう。そもそもこれだけの大規模な艦隊だ。グラ・バルカス帝国が分からないはずがないし揚陸艦を見てレイフォル州への侵攻の可能性を考えるはずだ。となるとこれを防ごうと艦隊を出してくる可能性もあるか……」

 

 戦術家として多大な評価を受けるフォックス中将はその実力を遺憾なく発揮していく。浮かれていると思われようともそれで慢心する事はない。

 

「よし、駆逐艦は対潜・対空警戒を欠かさないように。哨戒機もあげて敵の奇襲に備えつつムーに向かう!」

 

 グラ・バルカス帝国がどのような手を打って来るのか? それを相手側の目線である程度考察した彼はそれに対する動きや対策を考え、その準備を行いつつ出航する。彼が乗艦する旗艦であるシーランド級を先頭に空母を中心に、揚陸艦と補給艦などで囲む。それらを絶対防衛対象として巡洋艦と駆逐艦は周囲を警戒する。対潜・対空警戒を厳重にした輪形陣であった。シーランド帝国の勢力圏であるフィルアデス連邦を抜けるまでは陸上基地より哨戒機とジェット戦闘機が護衛と索敵の為に常に上空を飛ぶ事となっており、東方世界にいる間は艦隊の安全は完全に保証されていた。

 その証拠として、早速グラ・バルカス帝国の潜水艦がベスタル大陸北部の沖合で撃沈された。艦隊が目視で確認する前に水柱を上げながら潜水艦は一瞬で沈んでいき、その上を艦隊が悠々と進んでいく。第二艦隊は何の心配もなく東方世界を進んでいったがブリアンカ共和国を抜け、第一文明圏に入るとその安全も一気に消え去った。空母に搭載されている航空機のみが航空戦力となるために索敵能力は一気に減る事になる上にグラ・バルカス帝国の潜水艦が進出するようになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

a.t.s56(皇歴56年)/4/8/2:00 神聖ミリシアル帝国 南西海域 ケイル島沖南部

 ムーまで約半分の距離まで約半分の所にある神聖ミリシアル帝国のマグドラ群島はかつて先進11ヶ国会議にて基地と共に第零魔導艦隊をグラ・バルカス帝国に沈められた場所でもあった。そんなマグドラ群島の基地は約一年の時をかけて完全に修復されていた。更に神聖ミリシアル帝国が先進的な基地とするために様々な新兵器を配備している事もあり、実験基地的な要素が強くなっていた。

 

「っ! ソナーに反応!」

「潜水艦か?」

「おそらく……。深度はおおよそ50m。東に向かって航行中です!」

 

 マグドラ群島新基地はシーランド帝国からもたらされた潜水艦の情報を基に、国内の技術者が総力を上げて完成させたソナーが設置されている。これは空中戦艦パル・キマイラに搭載されていた魔導電磁レーダーを一つ解体したうえでその応用として試験的に開発されている。未だに欠点も多く、深度50を超える対象の捕捉は難しかったが今回は運良く深度50の位置を潜水艦が航行した事で発見に至っていた。

 

「シーランド帝国の潜水艦か?」

「おそらく違うと思われます。シーランド帝国の船が態々こんな浅い所を低速で拘束するとは思えません」

 

 東に向かって航行している潜水艦の速度は僅か3ノット。この程度の速度でシーランド帝国が航行する意味が分からなかった。その為、シーランド帝国の船ではないと判断し、それ以外に潜水艦を運用している国を予測する。

 

「グラ・バルカス帝国の潜水艦と予測します」

「よし! 航空機隊を発進させる! 対潜航空隊! 発進せよ!」

 

 基地司令の対応により基地は騒がしくなる。対応するのはこちらもまたシーランド帝国の情報提供で開発に漕ぎつけた試作爆雷を搭載した対潜型ジグラント(ジグラント4)である。パイロットたちは常に臨戦態勢で待機していた為にすぐさま機体に登場して離陸していく。

 離陸したのは10機。対潜型ジグラントを全て投入した形となった。

 

『敵は南西約10㎞の位置にいる。深度は50』

「了解! 去年の借りを返してやるぞ!」

 

 ジグラント隊は士気を高く維持したまま指定された座標に向かう。そして、最大爆発深度である50用の爆雷を一斉に投下した。数は一機につき4、総数は40と潜水艦一隻を沈めるには十分すぎる数だった。そして、その証拠にジグラントが離れてから直ぐに巨大な水柱を立てながら爆発が起こる。その中に金属片が含まれている事から潜水艦は逃げる事も出来ずに吹き飛んだことがうかがえた。

 

『……目標の撃沈を確認! 全機帰投せよ!』

「よし! 全員聞いたか!? 俺達は借りを一つ返す事に成功したぞぉ!」

 

 ジグラント4の隊長は知らなかったが故に犠牲となった第零魔導艦隊の恨みを一つ返す事が出来た喜びを露にした。

 シーランド帝国から見ればまだまだ改善点が多く、艦艇に搭載するにはまだまだ時間がかかる上に制度も酷いものだったがそれでも古の魔法帝国の遺跡に頼って来た神聖ミリシアル帝国が情報提供を受けたとはいえ自力で完成に至り、そして戦果を挙げたという事は紛れもない事実であった。

 これ以降神聖ミリシアル帝国では今回の戦闘を参照に、対潜兵装の開発と研究が進められていくことになる。

 




ジグラント4
こう名称がついているけどジグラントに爆雷を積んだだけで性能は変わっていないです。

ソナーと爆雷
神聖ミリシアル帝国が情報を基に作り上げた兵器。ただし、試作品であるためにソナーは深度50以上の対象を発見できない、爆雷も同深度までしか届かないと言った欠点がある。


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第百十話「絶望の到着」

どうしよう。ウェブ版だと詳細な年表ないせいで書けないと思ったけど書籍になっていない先の話で絡みそうなのがクルセイリース大聖王国くらいしかなかった。なのでレイフォル州戦が終わればオリジナル展開が進みます。時期は大分適当になりますが。


a.t.s56(皇歴56年)/4/28/17:00 ムー 商業都市マイカル

 第二艦隊に護衛された輸送艦隊は途中でグラ・バルカス帝国の潜水艦と接敵しつつも無事にムーの商業都市マイカルに入港することが出来た。この日を迎えるために大規模な改修が行われた港は大型艦も余裕で入れるくらいには規模を大きくしていた。実際、バルチスタ沖海戦時に参加したムーの機動艦隊はこの都市から出港している。しかし、ムーの機動艦隊を凌駕する第二艦隊はマイカルの人々の視線を集めていた。

 そして、揚陸艦から次々と降りてくるシーランド帝国の歩兵や戦車を見て更なる驚愕に包まれる事になるがそんな彼らの視線に気づきつつもシーランド帝国軍はパーシヴァル基地に向けて移動する準備を整えていく。

 

「司令! パーシヴァル基地の後方に位置するキールセキまで戦車などを含む荷物と兵員を列車で輸送後徒歩及び輸送車で基地に向かう事になります!」

「ご苦労。戦車師団を優先的に運ばせろ。侵攻において戦車の力は必要不可欠だからな」

 

 ムーに上陸した5万人の帝国軍を率いる司令ハリー・K・パワーがムーの地図を確認していると部下の一人が今後の予定を伝えてきた。既に戦車師団が列車の貨物部分に乗り始めており、準備が着々と進んでいる様子を見せていた。

 

「パーパルディア皇国やアクハ帝国とは違い、敵は第二次世界大戦時の力を持つグラ・バルカス帝国だ。こちらが勝つとは思うが慢心しないように気を付けないとな」

 

 いくらシーランド帝国が技術で優れて居ようとも奇襲を受けて接近されるなどすればこちらにも被害が出る可能性がある。それを理解しているハリーは決して油断ない様に事を勧めようと覚悟を決めた。

 

「確かグラ・バルカス帝国も戦車を保有しているのだな?」

「はい。衛星写真で確認済みです。ですがこちらも第二次世界大戦時の物です。……航空機の時から感じていましたがどうやらグラ・バルカス帝国の兵器は旧日本軍に酷似している様です。戦車に関しては詳しい詳細が分かりませんでしたが確か歩兵支援の為の戦車だったと思います」

「と言う事は軽戦車乃至中戦車と見ていいか。重戦車はあるのか?」

「少なくとも確認した限りではありません。本土にはあるのかもしれませんがレイフォル州との通商破壊は現在も続けられています。輸送は不可能でしょう」

 

 現在も原子力空母による潜水艦隊の通商破壊は継続されている。それらはグラ・バルカス帝国に少なくない損害を与えているがそれ以上にレイフォル州との補給が不可能となっている事が大きく、レイフォル州では武器弾薬の備蓄が少しずつ減り始めていた。

 

「いずれレイフォル州にいるグラ・バルカス帝国軍は行動不能に陥るだろう。その前に敵が状況打開の為に動く可能性がある。その前に叩くぞ」

「迎撃の方が容易では?」

「レイフォル州を完全に奪い取る。その領土はイルネティア王国領と合わせてこちらで好きにして構わないと通達が来ている。まぁ、その前にあるヒノマワリ王国で略奪などを行わずに戦後はムーに引き渡す条件で、だがな」

 

 シーランド帝国にとって関係ないうえに興味がない事だがヒノマワリ王国はかつての友好国であるヤムートの生き残りが建国した国である。ムーにとっては転移前からの友好国であるために色々と気を使っていたのだ。

 

「しかし、今更ですがイルネティアの人間たちはこちらに恭順するでしょうか……? せっかく奪還出来ても現地民が反抗的では意味がないと思うのですが……」

「そんな事は心配する必要はない。我らにとってそんな事は()()()()()()()()でしかない。むしろ支配されていた環境から解放してやるのだ。感謝こそされど恨まれるいわれなど無い」

 

 実際にはより強大な国家の支配下に入るだけでイルネティア王国の国民にとっては変わりがない。むしろより強大な国家の支配下になる分彼らの気持ちは更に沈むかもしれない。絶望で命を絶つかもしれない。しかし、今でこそ落ち着いているがシーランド帝国が元の世界で毎年のように侵略を行ってきた国家である。恐らく二つの世界を合わせてもその対応に慣れている国はこの国家以外に殆ど存在しないだろう。

 

「大体、イルネティア王国の人間が全員反乱を起こしたとしても問題はないのだ。イルネティア王国の民は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのだからな」

「民族大移動ですか。かなりの予算と人手がいりますね」

「だからこそこちらとしても従順でいることが好ましい。そうでなかったとしても問題はない。それだけの話だからな」

 

 そんな他愛ない話をしている間に戦車の積み込みは完了し、列車が出発の合図である汽笛を鳴らす。ハリーを含む5万人の兵士はその後に出発する列車に分けて乗り込み、少しずつ輸送する手はずとなっている。彼らが移動を終える時、それはグラ・バルカス帝国がレイフォル州での覇権を消滅するカウントダウンがスタートした事を意味するだろう。帝国の終焉の第一歩であるレイフォル州侵攻はすぐそこまで迫ってきていた。

 



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第百十一話「パーシヴァル基地へ」

a.t.s56(皇歴56年)/5/1/8:00 グラ・バルカス帝国レイフォル州 レイフォリア 統合基地ラルス・フォルマイナ

 シーランド帝国の軍勢がムーに入国したという情報は直ぐにグラ・バルカス帝国も知るところとなった。ムー大陸最後の防衛拠点とレイフォル州統治の為の総合指令基地として建設されたこのラルス・フォルマイナでは現地の軍人達によって防衛戦術が急ピッチで練られていた。

 

「全ての道に地雷を設置するんだ! そして塞げるところは瓦礫などで塞いで物理的に移動できないようにする!」

「いや、そんな事よりも伏兵を置いて奇襲する方が良い! それなら敵に損害を与えつつ防衛を行う事が出来る!」

「馬鹿な!? そんな事が上手くいくわけがないだろう!」

「そちらの案とて時間をとても必要とする! 短時間で出来る訳がないだろう!」

 

 ……軍人たちは理解していた。シーランド帝国軍を防ぎとめる事など不可能だと。海軍では負けているからと言って陸では勝てるなどと言う甘い期待はしていない。そんな事を考えているのなら通商破壊が本格的になった時点でムーに侵攻しているし、ここまで手をこまねている事はなかった。

 

「……海戦の時のような奇跡がもう一度起これば……!」

「確か古の魔法帝国とかいうおとぎ話の国家の復活の前触れらしいな。何故そんなおとぎ話を信じているのかは分からないがな」

 

 グラ・バルカス帝国では未だに古の魔法帝国の復活をおとぎ話として一蹴している。彼らの世界ではそんな存在などなく、遠い昔にあった国以上の認識は持てずにいた。

 

「今は起きるかもわからない奇跡よりも目の前の現実に向き合うべきだ。このままではレイフォル州が陥落してしまうんだぞ!」

「いっそのこと攻め入るのはどうだ? 奇襲で攻撃を仕掛ければあるいは……」

「それは前に話したであろう? 補給物資が本国から届かない以上燃料弾薬が心もとない。燃料はムーも保有している事もあって問題ないが弾薬は別だ。これらは全て防衛時に役立てるべきだ」

「くそっ! 海軍において最強と言っても過言ではない我らが制海権を奪えずに補給を絶たれるような事態に陥るとは……!」

 

 軍人たちは必死に防衛計画を練っていくが具体的なものなど出て来ない。例え出てきたとしても圧倒的に戦力・物資・技術で劣るグラ・バルカス帝国では一瞬で防衛計画は破綻するだろう。それだけの差が両国には存在した。そして、悲しい事に今のレイフォル州に駐留する軍人たちはその事実に気付きつつも本当の意味で気付く事が出来ないでいた。

 そして、その事による破綻が少しずつ近づき始めているのだった。

 

 

 

 

 

 

a.t.s56(皇歴56年)/5/4/20:00 ムー キールセキ ムー陸軍駐屯地

 この日、遂にシーランド帝国軍が到着する。キールセキに到着した後はキールセキより西方に建設されたパーシヴァル基地に向かう事となっている。ムーの国鉄を優先的に利用して運ばれたそれらは比較的早い段階で到着に至っていた。

 

「全く。何故我が国に他国の軍勢が……」

 

 そんなシーランド帝国軍に対して良い感情を持っていない人物が一人。ムー陸軍キールセキ駐屯地の司令であるマクゲイル大佐である。彼は祖国を愛してこそいるがその防衛は自分たちとの手で、と言う思いが強かった。それゆえに、シーランド帝国軍の力を借りてレイフォル州に侵攻するという事が我慢ならなかったのだ。

 

「(我らは道路ではないのだぞ! こんな屈辱、絶対に忘れない! いつか見返してやる!)」

 

 マクゲイルは心の中で怨念とも言える恨みをシーランド帝国にぶつけながらシーランド帝国軍を出迎えた。そして驚愕した。

 

「な、な、な……!」

 

 マクゲイルは驚きのあまり声が出て来ない。先ず彼の目に飛び込んできたのはシーランド帝国の最新鋭戦車群である。この基地にも極秘裏で配備されている試作戦車と比べるのもおこがましい洗練された外観に見るからに強いと分かる砲塔。無駄をなくし、技術をつぎ込んだと一目でわかるその戦車にマクゲイルは最初の衝撃を受けた。

 次に銃火器などの武器弾薬。銃火器は戦車に比べれば地味かもしれないが見ただけで洗練されているのが分かる。これだけでもムーを圧倒できるかもしれない。更に携帯式と思われる魔導砲らしきものに加えてそれを超えるカノン砲を見せつけられて第二の衝撃が走った。

 そして、最後に兵たちの様子である。ほぼ私語をする事なく黙々と荷下ろしなどを行っており、その様子だけでここに居る兵たちの練度と士気の高さをうかがわせていた。少なくとも兵の質においてもムーはシーランド帝国に勝っている訳ではないと理解できてしまった。

 

「……シーランド帝国とは、これほどの国なのか……!」

「ご理解いただけたようで良かったです」

 

 マクゲイルの独り言にも近い呟きを拾ったのはこの侵攻軍の司令長官であるハリーだった。彼はマクゲイルの反応に気をよくしたのだろう、ニコニコと笑みを浮かべながら彼に近づいて行った。

 

「初めまして。シーランド帝国軍司令のハリー・K・パワーと言います」

「……マクゲイル・セネヴィル大佐です。あ、あなた方は凄まじい兵器を持っている様ですね」

「勿論です。前の世界で我が国の最大の敵国が同等の戦力を有していましたので自然と技術を鍛えるようになっていったんですよ」

 

 シーランド帝国と同等の国が存在する。その事実はマクゲイルを恐怖させるには充分だった。ムーでは絶対に勝てないグラ・バルカス帝国を軽く捻り潰せるシーランド帝国と同じ戦力を有する国。マクゲイルはこの世界がどれほど低レベルにいるかを様々と思い知らされる気分となってしまった。

 

「では我々はこのままパーシヴァル基地に向かいますのでこれで失礼させていただきます。……ああ、安心してください。我々がレイフォル州を取ればあなた方はグラ・バルカス帝国と言う脅威から解放されるでしょう。どうぞこれからも平穏な生活を享受してください」

 

 小馬鹿にしたような言い方のハリーに対して、マクゲイルは何も言えず、あっという間に見えない所まで移動していったシーランド帝国軍を茫然と見送るのだった。

 



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第百十二話「侵攻計画」

a.t.s56(皇歴56年)/5/11/12:00 ムー キールセキ西方 パーシヴァル基地

 第一次輸送による5万人の兵の輸送は完了した。シーランド帝国軍の前線基地たるパーシヴァル基地は完全に動き始めており、何時でも戦争を行える用意が出来ていた。

 

「これが敵の前線基地だ」

 

 そんなパーシヴァル基地の中央司令部において最後の作戦会議が行われていた。内容は既に決まっている侵攻計画の再確認と懸念事項の確認、そのほか様々な事の再チェックを行っていた。そんな中で会議に参加する者達が見ている写真にはグラ・バルカス帝国が建設した国境沿いのバルクルス基地が映っていた。衛星から撮られたそれは、未だに詳細を掴まれていないと思っているグラ・バルカス帝国の予測を大きく覆していた。

 そして、この侵攻軍の司令であるハリーが説明を開始した。

 

「元はムー侵攻用に建設されたようだが現在は我々からの攻撃を最前線で抑える盾として機能しているようだ

見ての通り、基地は堅固と言える。東部には陸上要塞が建設され、その後方たる西部には滑走路やレーダーサイトが多数見て取れる。陸空そろった厄介な基地だ

無論、これを攻略するのはたやすい。敵は守りに入っており、こちらは好きなタイミングで攻撃を行える。ここからは侵攻計画の再確認だ

まず、我らは少数の守備隊のみをここにおいてほぼ全軍で侵攻する。最初に攻略するのがこのバルクルス基地と呼ばれているらしい敵基地だ。ここを攻略後は間髪入れずにヒノマワリ王国首都ハルナガ京を攻撃する。ムーからの要望でヒノマワリ王国人にはなるべく死傷者を出してはならない。グラ・バルカス帝国の協力者でもない限りな。ハルナガ京自体は要塞でもなんでもない。前線基地よりは脆いがそれ以上にやり辛い場所となる。

ハルナガ京制圧後はヒノマワリ王国の全土奪還はせずにレイフォル州に侵攻する。ヒノマワリ王国の国家機能はハルナガ京がある北部に集中しているらしい。である以上穀倉地帯である南部が何かを出来るとは思えないし態々制圧する利点も少ない。よってそれ以上に重要となるレイフォル州に侵攻する。レイフォル州は衛星写真とムーからの情報提供で詳細な地図が完成している。諸君らはこれらを既に脳内で記憶しているだろうが改めて確認する。レイフォル州を我らは3つの部隊に分けて制圧する。1つは主力となる戦車師団。これは数百両の戦車と2万の歩兵を付けて中央部を横断するように侵攻してもらう。最終到達地点はレイフォリアだ。知っての通りレイフォル州の中心地であり、グラ・バルカス帝国の行政・軍事の全てがここに集中していると言っても過言ではない。ここを落とせればグラ・バルカス帝国がレイフォル州で組織的な軍事行動を起こす事は出来なくなるだろう

次に北部。こちらは歩兵師団のみで侵攻してもらう。君たちの主目標はイルネティア島に向かうための進路の確保だ。敵を殲滅する事でも北部を占領していくことでもないと肝に銘じておいてくれ

最後に南部。こちらは残った師団を全て当てる。正直に言えばここの目標はない。強いて言えば主力部隊の支援程度だ。とは言え支援は支援だ。南を回りつつレイフォリアへの攻撃を行う姿勢を見せてくれ」

 

 ハリーはある程度説明すると一旦間を置いた。そして呼吸を整えてから説明を再開する。

 

「レイフォル州からグラ・バルカス帝国を駆逐した後は最終段階としてパガンダ島とイルネティア島の占領に移る。こちらは制海権を潜水艦隊と第二艦隊が取ってから強襲上陸を仕掛ける。グラ・バルカス帝国軍の主力はレイフォル州にいる。両島に展開する敵兵は四桁に届く程度らしい。航空基地も小規模な物以外は建設されていないらしく、制圧自体はレイフォル州よりも簡単に行えるはずだ。

……この一連の侵攻を我らは3か月程度で終わらせる。それ以上の継戦も可能だがグラ・バルカス帝国相手にそこまで時間はかからないのと武器弾薬の補給が難しいことが理由だ。直ぐに行動し、直ぐに完了させる。グラ・バルカス帝国を第二文明圏からたたき出すのだ。

それがなればグラ・バルカス帝国は一気に追い込まれる形となる。グラ・バルカス帝国がその後にどう動くかは分からないが我々は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を既に立案済みである。それが実行されるかは彼ら次第であるがな

さて、今回の侵攻はその計画の最初の一歩だ。難しい可能性はあるが不可能ではない。グラ・バルカス帝国に文明の力と言うものを教えてやるぞ!」

「「「「「了解!!!!!」」」」」

 

 ハリーの激励にも似た言葉に会議の出席者は全員が答える。ハリーの言う通り、これは本土侵攻前の重要な戦争である。今回の戦争の勝敗でシーランド帝国の動きは多く左右される事になる。絶対に失敗は許されない戦争であった。ハリーは勝てるとは思えども決して慢心・油断しないようにあらゆる事態を想定しつつ、会議を終えて侵攻の準備に入っていくことになる。

 





【挿絵表示】

大雑把ですがシーランド帝国軍の今後の侵攻図です
因みにストックがない事とお盆に入るために投稿が遅れる可能性があります。


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第百十三話「覇王の行進1」

今のところグ帝戦が終わるまでは書き上げてアンケートとモチベーションを確認しながら魔帝戦に行くか原作を待つかを選ぶと思います。原作を待つ場合はこの作品は投稿を停止して原作が進むまで待つ形となります。そしたら前に行っていたEDF5のクロスオーバーを書こうと思っています。魔帝戦突入する場合は完全オリジナルとなるので原作と大幅な乖離すると思うので注意してください


a.t.s56(皇歴56年)/5/12/1:00 ムー キールセキ西方 パーシヴァル基地

 侵攻前の最後の会議を終えてから凡そ半日。シーランド帝国軍の最初の一手としてジェット戦闘機が動き出した。既に多目的戦闘支援機ヒュドラによるECM環境下が整えられており、グラ・バルカス帝国相手にこれ以上ないと言える程の最適な状況で攻撃を行うために離陸していく。夜間攻撃と言う事もあって危険度は段違いに高いがそれでもシーランド帝国軍のパイロットたちはこの様な状況も想定して厳しい訓練を重ねてきている。敵とのドッグファイトがないだけ楽勝な方と言えた。

 

「最初に航空機による断続的な攻撃を行い、弱り切ったところを戦車師団で叩き、踏みつぶす。残った敵は歩兵が丁寧に留めを刺していく。場所が異世界で、敵が前の世界の国々以下だとしてもやる事は変わらないな」

 

 ハリーは司令室の窓から見えるジェット戦闘機隊の離陸の様子を見ながらそう呟く。戦争に慣れているシーランド帝国はどのように戦えばいいのかを理解し、ある程度のパターンが完成していた。不利な状況でも有利な状況でもそれらから外れる事はほとんどなく、常にそれの範囲内で戦う事で勝利を掴んできた。今回の戦争もそれと同じようになるだろうとハリー達は考えている。

 

「敵も偵察機を出してこちらの動きを知ろうとしているみたいだがそうはいかない。この基地に戦闘機が配備された時点で……いや、航空戦力が整った時点でそんな事を出来る訳がない」

 

 第二次世界大戦時の性能しかない敵航空機などシーランド帝国からすれば遅すぎる相手だ。通信させる前に、情報を掴む前に撃墜させる事など簡単な事であり、既にグラ・バルカス帝国側は10機以上の偵察機及び戦闘機を失っている。それでもシーランド帝国の動きを知ろうと懲りずに偵察機を出していた。

 無論、偵察は空のみならず陸上からも行われているが周囲に張り巡らされたサーモグラフィ付き監視カメラで24時間常に監視を行っている。事前通達がない者が通れば即射殺されている。キールセキより西方に位置し、国境の都市アルーとはかなり距離があるためにパーシヴァル基地の西側をうろつく者など敵以外に中々考えられない。キールセキでは既にパーシヴァル基地周辺にちかづくことを禁止するように通達が行っている。近づき、射殺されたとしてもそれは自己責任でしかなかった。

 そのために、グラ・バルカス帝国はシーランド帝国の情報を殆ど入手する事は出来ずに、逆にシーランド帝国はグラ・バルカス帝国の動き・情報を手に取るように理解することが出来ていた。情報戦における勝敗はシーランド帝国の完全勝利と言えた。

 

「一回目で敵のレーダーサイトおよび滑走路を、二回目で敵航空機、三回目で敵の武器庫及び戦車に攻撃……。なんだ、今更だが陸軍が敵基地にたどり着くころにはすべてが終わって良そうな勢いだな」

 

 計三回に分けて行われる空軍の攻撃。これによって敵の基地は完全に無力化される事になるだろう。その結果として陸軍は瓦礫と化した敵基地を突破。ヒノマワリ王国首都に雪崩れ込む事になるとハリーは予測するが少しは戦闘らしい戦闘をしてみたいという欲求も存在した。シーランド帝国の力が圧倒的な事は喜ばしいことかもしれないが戦闘経験を積むにはいまいちな相手ばかりで張り合いと言うものがなかった。

 

「南アフリカ侵攻の様に二回も失敗するよりは全然マシだがそれでもここまで圧倒的ではな……」

 

 ハリーがそうぼやいていると、一人の部下が部屋に入って来る。

 

「司令、間もなく陸軍の出発準備が整います。定刻通りAM2時には出発出来ると思います」

「よし、ではこれからこの世界に転移して最も強大な敵と戦う者達に激励の言葉でも送るとするか」

 

 ハリーはそう言うと立ち上がり、5万人の兵が準備をしている場所に向かうのだった。

 

 

 

 

 

a.t.s56(皇歴56年)/5/12/1:30 ヒノマワリ王国 バルクルス基地

 ヒノマワリ王国の属国化後に建設されたこの基地は元はムーへの侵攻の為の前線基地とされていた。それゆえに、航空機はアンタレス戦闘機を中心に、爆撃機などが、陸上戦力では2号戦車ハウンドⅠ及びⅡが200両以上配備されている。アンタレスはワイバーンロードすら歯牙にかけず、それどころかムーのマリンや神聖ミリシアル帝国のエルペシオすら圧倒する性能を誇り、ハウンド戦車は前世界において最強の戦車として名をはせていた。第二文明圏程度の軍勢なら圧倒的過ぎる戦力だっただろう。

 しかし、ここにシーランド帝国が加わると話は変わって来る。シーランド帝国ではレシプロ機のアンタレスを瞬殺出来るジェット戦闘機を有し、戦車では長距離からでもハウンド戦車の装甲を貫通する砲撃と零距離からでも耐えうる装甲を持った戦車を持っている。しかもパーシヴァル基地にはグラ・バルカス帝国の二倍近い数が配備されており、はっきり言えばバルクルス基地の半分以下の戦力でも余裕で勝てるだけの戦力差があった。

 それ故に、グラ・バルカス帝国は侵攻を諦め、守りに徹する事になった。少なくとも守っていれば敵を退けるかもしれない。そんな淡いを抱きながら。そして、そんな期待は無意味だと思い知らせるようにシーランド帝国軍のジェット戦闘機隊が夜間攻撃を開始するのだった。

 



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第百十四話「覇王の行進2」

a.t.s56(皇歴56年)/5/12/1:35 ヒノマワリ王国 バルクルス基地

 バルクルス基地にシーランド帝国軍のジェット戦闘機隊が襲来して僅か5分。グラ・バルカス帝国は壊滅状態に陥っていた。先ず、襲来する前に全てのレーダーがつかいものにならなくなった。最初は故障かと思ったが全てのレーダーがいきなり壊れるとは思えない。

 基地総司令のガオグゲルは直ぐに原因究明を命じたがそのすぐ後にシーランド帝国の攻撃が始まった。最初に行われた精密爆撃及び、空対地ミサイルの一斉攻撃により、レーダーサイトおよび周辺施設・滑走路で巨大な爆発が起こった。この時点でグラ・バルカス帝国は目視以外の周辺警戒能力及び航空戦力を完全に消失する結果となったがシーランド帝国はそれだけでは終わらないとばかりに次々と爆弾とミサイルを投下していく。僅か10分程でバルクルス基地はシーランド帝国が計画していた以上の損害を受ける結果となった。

 

「想定より脆いな……。まぁ、構わないだろう。全機に告ぐ。先制ジャブは敵にクリーンヒットした。帰投し、爆装をする。次の獲物は計画通り敵の航空戦力を完全に奪い去る! その時には陸軍も出発しているころだろう。陸に後れを取るなよ!」

『『『『『了解!』』』』』

 

 ジェット戦闘機隊は決められた通りの攻撃を行うとそれ以上はここに用はないとばかりに引き返していく。僅か10分弱の間に行われた攻撃だがグラ・バルカス帝国のバルクルス基地は半壊状態に陥っていた。戦車や武器・弾薬庫は無事だが基地の頭脳と言えるレーダーサイトや司令部は完全に破壊されていた。

 この攻撃で総司令のガオグゲルは戦死。その他将校も爆死しており、バルクルス基地は一時的に司令代理を決めるまで混乱状態に陥る事となる。

 

「畜生! こんな所に留まっていたら全滅するぞ!」

 

 敵の攻撃で破壊された司令部の残骸を片付けながらハウンド戦車の戦車長を務めているモント・セラト軍曹は吐き捨てるように怒鳴った。彼の周りでは部下である戦車の乗員が手伝っているが不吉な事を言うモントに顔を青ざめながら周囲を確認している。

 

「車長! 滅多なことを言わないでください! 誰かに聞かれでもしたら……!」

「はぁ!? 司令部とレーダーサイトをやられたんたぞ!? つまり頭と目と耳を潰されたんだ! それも敵は損害すら出さずに僅か十分程度で、だ! 俺達は何も出来ずに攻撃された。恐らく最初からレーダーサイトを狙ったんだろうよ。次は戦闘機か、それとも戦車か……。どちらしろもう一度攻撃が来るだろうな。そうなれば今度こそ俺達は壊滅だ」

「そんな馬鹿な……」

「今のを見てなかったのか? とにかくこのままここに居ては死ぬぞ。逃げるか……、いや。降伏するか」

 

 モントは即座にそう決断すると瓦礫の撤去作業を中断して基地の端に向かっていく。乗員たちも慌てて彼の後を追いかけていく。

 

「車長! どこに行くんですか!? もしかして勝手に基地を出るんじゃ……」

「それしか生き残る道はない。別にお前らも俺の後を追う必要はないぞ。俺は死にたくないからこうして行動しているんだ。本当はもっと上を目指したかったが今の状態じゃ亡国にならないのが精一杯だろうよ」

「グラ・バルカス帝国が、滅びる……」

 

 乗員たちも想像していなかったわけではない。元々レイフォル州には本国からの補給が一切来ていない。それはシーランド帝国による通商破壊が行われているからであり、彼らも潜水艦を持っていたと知る事となったが同時にグラ・バルカス帝国の潜水艦よりも性能が良いために今までに見つけられたことはなかった。にも拘わらずにこちらの補給船は次々と沈められており、更には軍艦にも多大な被害を出していた。

 

「多分だがクーデターをしてでも領土拡大を狙ったのが間違いだったんだろうよ。グラ・バルカス帝国は終わりだ」

 

 そう言うと混乱状態の内に抜け出そうと警戒が薄くなっている箇所を的確に見極めて外へと脱出した。その後を乗員たちが覚悟を決めた表情でついて行った。

 その約1時間後、シーランド帝国のジェット戦闘機隊が再び襲来。無事だった航空機を全て破壊していき、グラ・バルカス帝国の航空戦力を完全に奪い去ると物足りないとばかりに逃げ惑う兵士たちに銃撃を行い再び離脱していった。

 二回目の攻撃においてアンタレス戦闘機、シリウス型爆撃機、ベガ型双発爆撃機が全て破壊され、更に兵も数百名が死亡する結果となった。そして、この攻撃が行われた事により、モント達が脱走したと気づく者は誰もおらず、それどころか彼と同じように脱走する兵が多数現れ、最終的に三回目のジェット戦闘機隊による攻撃が行われるまでに脱走者は200人近くまで膨れ上がり、その内半数がシーランド帝国軍に投降する事となる。彼らは国境沿いの町アルーのムー軍に引き渡され、戦後処理までそこで捕虜として生活する事となる。

 



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第百十五話「覇王の行進3」

昨日と一昨日と家を空けていたせいで投稿が遅れました


a.t.s56(皇歴56年)/5/12/7:25 ヒノマワリ王国 バルクルス基地

 3度のジェット戦闘機隊による爆撃を受けたバルクルス基地はもはや基地としての能力を完全に喪失していた。陸上部隊基地のある星形の要塞は一見すると無事に見えるが内部は武器・弾薬庫を中心に破壊されており、グラ・バルカス帝国が誇る戦車隊は稼働する事もなく全滅している。航空基地に関しても滑走路がクレーターだらけとなっており、戦闘機も戦車と同様に破壊しつくされている。そして、最初の攻撃で喪失した司令部とレーダーサイトを合わせればバルクルス基地は完全に機能不全に陥っている状態となっていた。

 

「全く、やはり俺達の分はないか」

 

 戦車師団を前面に押し出しながらここまで進軍して来たシーランド帝国軍は大した抵抗も受ける事無くバルクルス基地を制圧した。数万人が配備されていたであろうこの基地にはその半数以下しか残っていない。しかも抵抗する意識はなく、茫然と膝をついている者ばかりであった。抵抗する気力のある者は事前に掃討され、逃げようと行動したり投降を選んだ者は既にこの場にはいない。現実を受け止めきれず、行動することが出来なかった兵士だけがこの場に残っていたのだ。

 

「抵抗する者は殺して構わん! どうせ無駄飯を食うだけの連中だ。半数以下まで減ったとしても何の支障もない!」

 

 戦車師団を率いるロブソン少将はそう指示を出しながら崩壊した要塞内部に戦車を用いて突き進んでいく。幾人かを踏みつぶしているが全く気にせずに前進を続けていく。その後を彼の部下たちが同じように進み、戦車が通った後に歩兵師団が追いかけてきて生き残っている敵兵を捕虜としていく。

 

「っ!」

 

 そんな中、一発の砲弾がロブソンが乗る戦車の脇を掠めた。砲弾が飛んできた方を見れば一両の戦車があり、砲門をロブソンの方向へと向けていた。ジェット戦闘機隊による攻撃をかいくぐり、生き残ったうえにこちらへと攻撃をする意思がある者がいた事に獰猛な笑みを浮かべた。

 

「お前ら! 手を出すなよ! これは俺の獲物だ!」

 

 そう言うと戦車の内部に戻り、ハッチを閉めた。そして上部に設けられた小さな覗き口から確認をしながら攻撃の指示を出していく。

 

「どうせなら敵に抵抗させたうえで叩き潰したい。こちらからの砲撃は控えつつ接近するぞ!」

 

 事前の情報からグラ・バルカス帝国の戦車は脆弱であると言われていた。ロブソンの目から見ても戦車同士の戦いを想定していない、若しくは黎明期の試作戦車の如き姿をしている。陸上侵攻用に設計されているシーランド帝国の戦車とまともに相手を出来る様には見えなかった。

 

「お!」

 

 そして、装填を終えたのか瞬時に発砲が行われる。砲弾は砲塔右に着弾するも鈍い音とともに弾かれた。着弾時の音から零距離でも問題ないと確信したロブソンは更なる手加減を始める。

 

「よし! 敵に軽く体当たりをしてやれ! 中の乗員を驚かせてやるぞ!」

 

 その言葉と共に戦車は加速し、左回りでグラ・バルカス帝国のハウンド戦車に接近するとすれ違う様に敵の右側面にこするようにぶつかり合った。鉄がぶつかる事で火花が走り、嫌な音が響き渡る。約50トン近いシーランド帝国の戦車はその重量故に無事であったが15トンほどのハウンド戦車は車体が大きく揺れていた。もう少し衝突の勢いが強ければ横転してしまうのではないかと感じる程に。そして、それが狙いだったロブソンは悔し気に舌打ちする。

 

「ちぃっ! もう少し強くぶつからないと無理か……。だがこれ以上の強さで衝突するのはこちらも凹みそうだし……。仕方ない。体当たりがやめだ!」

 

 3発目の砲撃を難なく回避しつつロブソンは体当たりと言う愚行とも思える攻撃を中止した。その後はグルグルとハウンド戦車の回り始めるが戦闘開始から約10分ほどが経過するとロブソンもこの()()にいい加減飽きてきた。ハウンド戦車は以外にも6発近い命中弾を出しているがその全てが装甲に弾かれ、塗装に傷がつくか小さな凹みが出来た程度の損害だった。

 

「いい加減楽にしてやろう。砲撃手、一撃で吹き飛ばせ」

「了解!」

 

 砲撃手は射撃統制システムのサポートを受けながら一発の砲弾を発射する。走行中にも関わらず放たれたそれはハウンド戦車の真正面を捕らえ、まるで装甲などないと思わせる程簡単に貫き、中にいた乗員を引きちぎっていき、後方から飛び出していった。この間1秒にも満たない一瞬の出来事であり、ハウンド戦車の乗員は何が起こったのかさえ理解する事もなく即死し、ハウンド戦車は数秒遅れで火災・爆発が起こった。

 グラ・バルカス帝国が前世界において最強と自負していたハウンド戦車はバルクルス基地に大量に配備されていた。しかし、ジェット戦闘機隊による攻撃で破壊され、生き残った最後の一両はグラ・バルカス帝国の意地を見せつけたがその結果として帰って来たのが両国における絶対的な戦車の性能による壁であった。まるで狩りをするように手加減され、もてあそばれた末にハウンド戦車はその絶対的な破壊を以て破壊された。

 海上戦力はともかく、陸上戦力では自分たちが勝っているかもしれない。この一戦をもし見せることが出来たのなら淡い期待を抱く愚か者たちの心を砕ききることが出来ただろう。しかし、今回の一戦をグラ・バルカス帝国が知る事は出来ず、亡国への坂道を一気に転がり始めるのだった。

 



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第百十六話「覇王の行進4」

今気づいたけどこの作品でヘリ出てきてない……
何なら気付くまで存在そのものを忘れていた……


a.t.s56(皇歴56年)/5/16/10:00 ヒノマワリ王国首都ハルナガ京

 ハルナガ京にある基地はバルクルス基地陥落後の前線基地として使用できるに大規模なものとなっている。元々あった貴族街を含む城下町の半数近くが基地の材料確保の為に取り壊され、多くのホームレスを生み出す結果となっていた。

 中にはバルクルス基地のようなグラ・バルカス帝国の基地がない南部からムーへと脱走する者もおり、ヒノマワリ王国が抱えていた深刻な食糧不足は皮肉にも脱走する国民の増加で解消されつつあった。

 しかし、ヒノマワリ王国がグラ・バルカス帝国に降伏した際に提示した国民を飢えさせないという条件はグラ・バルカス帝国の補給断絶に伴い有耶無耶にされてしまっていた。そして、グラ・バルカス帝国は残った食料を軍の備蓄に回しており、国民には提供しておらず、餓死者が出始めていた。第三王女フレイアを中心に、ヒノマワリ王国側はこの状況に抗議を行うが全く相手にされず、両者の関係は急速に冷え始めていた。

 

「バルクルス基地が落ちただと!?」

「はい。逃げ延びた兵が言うにはまともに戦闘する事も出来ずに一方的に攻撃され続けたと……」

 

 そんなヒノマワリ王国の首都ハルナガ京に建設された征統府ではバルクルス基地の陥落を受けて混乱のただなかにあった。彼らとてシーランド帝国の侵攻を防ぎきるとは思っていなかったがまさかここまで早く陥落するとは予想だにしていなかった。これはグラ・バルカス帝国が自分たちより上の存在がどんなものなのかを理解できていなかったが為に起きてしまった差だが、混乱している間にも敵は刻一刻と近づきつつあった。

 

「敵はどれだけの規模なのだ?」

「それも分かりません。偵察を出しても航空機は全て撃ち落とされ、歩兵は帰還する者が皆無です。レーダーに関してもバルクルス基地への攻撃時から全く使えない状況にあります。逃げ延びた兵の中にレーダーに関する情報を持っていた兵がおり、話によるとバルクルス基地でも同じようにレーダーが映らなくなったとの事でして……」

「まさか……。シーランド帝国はレーダー阻害の技術を持っているというのか!?」

「可能性は高いでしょう」

 

 グラ・バルカス帝国では考えられもしなかった電子戦。シーランド帝国による未知の攻撃に全く対処も出来ず、翻弄される事しか出来なかった。

 

「……ここ(征統府)は敵の攻撃に耐えきれるのか?」

「バルクルス基地より脆いのですよ? ヒノマワリ王国の民を人質にすれば敵の攻撃を鈍らせる事も出来るかもしれませんが……」

 

 シーランド帝国が遠い国家の民、それも敵に従属した国民が人質になったところで攻撃を鈍らせるわけがない。グラ・バルカス帝国なら確実に人質諸共ひき殺している。自国民なら別だが、植民地や保護国ですらない、他国の属国の民である。態々助けるという理由がないだろう。

 

「むしろ国民を逃がすべきだろう」

「逃がすのですか?」

「ああ、そうだ。()()()。いくら無関係とは言えそれが10や100ではなく、1000や1万ならどうだ?」

「……街道が埋まりそうですね」

「その通りだ」

 

 あくまで人質にするのではなく、敵の侵攻を鈍らせる肉壁として利用する。これが現状グラ・バルカス帝国が効果的にシーランド帝国の侵攻を遅らせる事の出来る策と言えた。一時的とは言え敵の動きを鈍らせるのだ。自分たちの軍事力では出来ない以上すぐにでも実行するべきと言える。

 

「幸か不幸か、バルクルス基地と言う我らにとっては機密の塊が消えたのだ。ヒノマワリ王国の民がいくら近づこうと問題はない」

「分かりました。直ぐに実行に移します」

「急げよ。俺はうるさい王女を黙らせる。最悪の場合は()()()()()()()()()()。無論、無事にたどり着ければだがな」

 

 意味深な言葉を吐きつつも征統府の人間たちは直ぐに行動に移し始めた。一瞬の遅れが自分たちの死に繋がる現状において間違った行動・対応の遅れは許されない。彼らは自分たちの持つ全ての力を使って行動した結果、翌々日には10万人近いヒノマワリ王国の国民を東へ追いやる事に成功する。シーランド帝国軍がハルナガ京に到着するまで後1日と言うギリギリの所での事であった。

 

 

 

 

 

 

 

a.t.s56(皇歴56年)/5/18/14:00 ヒノマワリ王国首都ハルナガ京東部

 ロブソンは兵たちに僅かな休息を与えた後すぐにハルナガ京に向けて出発した。戦闘らしい戦闘をしていない彼らは移動の疲れこそあれ数を減らす事もなく、士気を高く保ったまま行軍していたが突如としてその行く手をハルナガ京から逃げて来た、いや追い出されてきた民が阻んできた。

 

「な、なんだ!?」

「お願いです。食料を分けてください」

「俺今日で3日間何も食べてないんです」

「俺なんて4日だよ」

「昨日には水もなくなってしまったんです……」

 

 民たちはまさに着の身着のままと言う状況で追い出されてきたようだが全員が異常な程やせ細り、よろよろと歩いていた。そして、シーランド帝国軍を見つけるとまるでゾンビが人間を見つけたかのように群がって来たのだ。

 ムーからの要望でヒノマワリ王国の人間にはなるべく死傷者を出さないと確約している為にシーランド帝国軍は彼らを受け入れていく。もうすぐでハルナガ京に到着するのにこれ以上の行軍は不可能として宿営の準備を始める事となった。

 

「食料と水を受け取ったらこのまま道に沿ってムーに入れ! アルーの町には事前に伝えておくから安心して移動しろ!」

 

 シーランド帝国軍は数日分の食料と水を与えて東に追い払っていく。食料が不足する可能性もあるが提供しなければ暴動が起き、両方に多大な死傷者を出す事になるだろう。それだけは避けたいとしてドンドン食料を開放していく。

 

「司令、大丈夫なのですか? 我々も余裕があるとは言いづらいのですが……」

「パーシヴァル基地にはまだまだ食料がある。制空権を確保している以上空路からの補給も可能だ。問題はないだろう」

 

 既に基地には通信済みであり、追加の食料が明日にでも届く事になっている。今ここで食料を出したところで問題はないとロブソンは判断していた。

 

「それよりもグラ・バルカス帝国の攻撃に注意しろ。これを仕組んだのはあいつららしい。となればこの肉壁を有効的に使って攻撃を仕掛けてくる可能性がある。流石にこの状況で攻撃を受ければひとたまりもないからな」

 

 ロブソンはこの大規模な動きから敵の襲撃を予測し備えさせる。そして、それが正しかったと証明されるのは日が完全に落ちてからとなる。

 



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第百十七話「覇王の行進5」

最新話が投稿されていたようなのでこっちも投稿しました。


a.t.s56(皇歴56年)/5/18/23:40 ヒノマワリ王国首都ハルナガ京東部

「敵襲!」

 

 その言葉を放ったのは難民となったヒノマワリ王国の民が完全に寝静まった深夜、暗視ゴーグルを装着したシーランド帝国軍の見張りだった。道沿いにこちらに向かってくる複数の戦車を確認した事で宿舎は慌ただしく動き出す。とは言っても事前に予測され、通達されていた事で混乱はない。全員が決められた通りに動き、迎撃の準備を始める。事前通りではないのは民たちだ。

 

「ぐ、グラ・バルカス帝国だぁっ!」

「逃げろ! 殺されるぞ!」

「おい! 押すなよ!」

 

 我先にと逃げ出そうとする民たちはシーランド帝国軍の宿舎にまで雪崩れ込みそうな勢いだがそんな彼ら等知らないとばかりにシーランド帝国軍の戦車が砲撃を始める。砲弾は民の頭上を飛び越えていき、一番先頭を走っていたハウンド戦車に衝突、貫通した。機関銃すら口径次第では防げない戦車たちに現代戦車すら破壊することを想定した砲弾を防ぎきる事など不可能であった。

 その一撃を皮切りに次々と戦車が砲撃を始める。遥かグラ・バルカス帝国軍のハウンド戦車の射程圏外からの百発百中の砲撃は僅かな期間で全滅にまで追いやる戦果をたたき出した。

 

「す、すごい……!」

「でも私達がいるのに撃つなんて……」

 

 戦車の砲撃の爆風で頭が吹き飛んだり骨が折れるなどして死亡した人間が多数出るなどしているがそれに対してロブソンは拡声器を以てこう答えた。

 

『ヒノマワリ王国の国民諸君。我らはムーより君たちの命の保証をしてほしいと言われ、それを受け入れている。だが、今の諸君らは我らの行動を邪魔している。それはつまりグラ・バルカス帝国に協力する敵と同じである。敵に与した者にまで容赦はしない。それが嫌なら大人しく道を開けよ。俺達はお前らに構っている時間はないのだからな』

 

 あまりにも高圧的過ぎる言葉だが実際にロブソンの言う通りであった。グラ・バルカス帝国が仕掛けた事とは言えシーランド帝国軍の動きを阻害し、余計な出費を出している。戦闘が始まれば混乱で手が付けられなくなり防衛すら難しくさせている。詭弁と言われようとも実際にシーランド帝国軍の侵攻を妨害しているのだがら微妙に反論もし辛かった。とは言えそんな事はヒノマワリ王国の国民にとっては関係ない話である。突如として国を追われ、助けを求めて東に向かえば邪魔だと罵られる。今日ほど理不尽と感じる事は一生ないだろう。

 

『ああ、別に邪魔さえしなければ攻撃はしない。生きて居たいのなら邪魔をするな。以上だ』

 

 それだけ言うと破壊された戦車を盾にするように向かってくる歩兵たちに戦車砲や車載機銃による弾丸の雨を降らせ始める。ヒノマワリ王国の国民たちは少しでも助かろうと体を低くして宿舎の脇をゆっくりと歩み始めるのだった。

 

 

 

 

 

「報告! 戦車隊全滅! 歩兵は戦車を盾に前進を試みましたが敵の反撃で壊滅状態にあります!」

「馬鹿な……! 夜襲も通じないというのか!?」

 

 征統府ではシーランド帝国軍への奇襲作戦の失敗を聞いて阿鼻叫喚の地獄絵図となっていた。夜襲ならば少しは損害を与えられるのではないか? そう考えてハルナガ京に駐留する軍勢の半数と全戦車隊を向かわせたが結果はその尽くを失うという最悪の物となった。これによりハルナガ京の防衛は絶望的となりつつあり、今すぐにでも逃げなければ命はないだろう。

 

「逃げ延びた兵士によると今は動き出す気配はないそうですがそれは就寝の為と思われます。つまり、明日にでも侵攻が再開される可能性が高いです」

「肉壁は、たった一日動きを止めただけか……」

 

 こうなってしまえば彼らの出来る事はない。征統府は直ぐにヒノマワリ王国からの撤退を決定した。重要書類は全て持ち出すか焼却処分し、征統府関係者を優先的にレイフォル州の中心地であるレイフォリアまで送り出す。僅かに残っている歩兵たちは半数が護衛、半数が足止めの為にハルナガ京に残りゲリラ戦を展開する事になった。

 とは言えその半数は戦況が戦況ゆえに強制的に選ばれていた。そんな彼らが本気で殿を務める訳がなく、夜明け時点で数は半減していた。

 

「何としてもレイフォリアまで逃げ切るのだ!」

 

 しかし、そんな征統府の人間に不幸が訪れる。脱出の様子を偶然確認できたシーランド帝国のジェット戦闘機隊が緊急離陸して襲い掛かったのである。既にグラ・バルカス帝国の戦闘機隊は逃げるか壊滅している。対空装備もほぼないうえにそんなもので撃ち落とされる程ジェット戦闘機隊は柔ではない。

 結果、ジェット戦闘機隊から放たれるミサイルや機銃掃射により、大半が戦死する事となる。更に、その中でレイフォリアまでたどり着けたものは数名程度しかおらず残りはレイフォリアに逃げる事を諦めたか現地住民によって討ち取られる結果となっていた。

 

 

 そして、翌日の5月19日。ハルナガ京を制圧したシーランド帝国によってヒノマワリ王国は降伏を決断。王族はムーに送られて統治政策はシーランド帝国軍によって行われる事になる。

 5月22日、ハルナガ京で補給と統治体制を整えたシーランド帝国軍は本命であるレイフォル州に向けて進軍を開始した。

 



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