魔女が運命と出会うまでの話 (ボロス)
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昼ごはんと卒業

初投稿です この小ネタ覚えてる人いるのでしょうか。 


私はエリシオン魔法学院を卒業した。 師匠の元を離れ、勉学に励んだ数年間は、学生らしいイベントも起こらない空虚に満ちた日々だった。

 

かといって後悔も何もない。ただ今までのように師匠意外とは、関わりのない、変わりない日々を送ったに過ぎない、私にとっては普通の日々でした。

 

卒業式も終わりましたし、ご飯でも食べましょうか、卒業式も退屈でしたし、余計におなかが空きましたね。

 

いつもより早い腹時計のアラームに従い、昼食へ歩みを進め始めた私は、足早に向かおうとしたその時だった。

 

待ってくれ!フィオナ・ソレイユ君!。空腹に従い歩き出した私を止めたのは銀髪の魔法教師だった。

 

この人は・・・名前は忘れましたが、たしか教師の人でしたね。

 

卒業した生徒を引き留めるとは、何か忘れものでもしたでしょうか・・・

 

持ち物は全て帽子のディメンジョンに仕舞っているはずですし、忘れ物なんてないはず・・・。

 

そんなことを考えていた私に銀髪の魔法教師は、思いもよらないことを口にした。

 

フィオナ・ソレイユ君! 君を一目見た時から、一目惚れしてしまったんだ。ずっとこの気持ちを伝えたいと思っていた、どうか僕と,結婚してください!

 

突然この人は何を言っているんでしょうか。そう思い、例の銀髪の魔法教師を見る。私と同じ髪の色の蒼い薔薇の花束と両手で差出している、

 

この人は若くして学院教授になるほどの高い能力と社会的地位を持ついわゆる優良物件と話したことのないクラスの女子が話してましたっけ、

そんなことを思い出し、いつも人だかりが出来ていた。この魔法教師を遠めに見ていた微かな記憶を思い出した。

 

そういえば廊下がいつも詰まっていて通るのに邪魔でしたね。

そんなことを考えながら、入学から卒業まで一人で過ごした私とは真逆の人間が私に求婚を申し出ている。

 

そんな状況を回りの女子生徒は期待と羨望の眼差しを向け、男子生徒は驚愕の表情を浮かべていた。

 

結婚というものを考えるとこうゆう人を優良物件と言うのでしょうか?

 

正直、私なんかが異性と仲良く暮らせるなんて思えませんし。魔法のコントロールもできず、言葉でも人を怒らせる私に接してくる人は今日までいないのが現状ですからね。

 

そんな自虐のようなことを考えながら、相手が今か今かと心待ちにしているであろう返答を返す

 

「申し訳ありませんが、お断りさせていただきます。」

 

なっ?! どうして?!

 

銀髪の魔法教師が驚愕の表情で絶叫する

 

まさかの反応に周りの生徒も驚愕のあまり硬直している

 

教師なら、私がどんな学院生活をしていたか、お分かりでしょう? 私が異性と楽しく暮らすなんて、出来るわけがありませんから。

 

断られると思っていなかったのでしょう。こんな優良物件な人の懇意をわざわざ断る人なんて 普通はいませんでしょうし

 

ですが、友人すら作れない私に恋人なんて・・・・ましてや結婚なんてできるはずがありません。

 

そんな私の心情を他所にコカトリスに見つめられた冒険者のように硬直した魔法教師に別れの挨拶をすませる、

 

それでは、私はこれで、私も卒業しましたしもう会うことはないでしょう。今までありがとうございました では。

 

そんなそっけない言葉で止めを刺し、銀髪の魔法教師を他所に昼食に向けて歩き出す

 

さて・・・今日は何を食べましょうかね・・・空腹に突き動かされながら頭をひねる

 

コカトリス・・・今日は鶏肉にしましょう。既に魔法教師を忘れたようで、昼食のメインを考える魔女であった。

 

 

 

 

いつも通り昼食が盛り付けられていたであろう皿を積み上げ いつもより多めに食べてしまったフィオナは今晩の宿を探すために街に出る。

 

寮がないのはやはり不便ですね・・・卒業したのでもう利用できないのは当たり前ですが・・・

 

そんなことをぼやきながら 食堂のある宿にチェックインし、ベッドの上に寝転がる

 

さて、 明日からはただのフリーの冒険者ですね・・・

 

本来、卒業生は何処かの騎士団なり、魔術師団なりに、所属するものだが、全ての誘いを断った

 

その中にはシンクレア共和国の宮廷魔術師団や聖堂騎士団もあったというが、彼女が最後まで所属することはなかった

 

私がそんなところに所属しても、味方ごと燃やすのが精々でしょうし、フリーの冒険者の方が私にはあってますね

 

そんな集団に属せない難儀な能力と性格を受け入れてくれる、聖人のような人はこの広いシンクレア共和国にはいないだろうと、

 

彼女は半ば諦めていた。

 

だから冒険者になった。それが最善だと思ったから。

 

自由気ままに冒険者をしていれば、飢え死にすることはないでしょうけど。

 

そんなことを考えながら、彼女は眠りにつく 衣食住だけなら冒険者として十分に活躍できる能力は持ち合わせているが、

 

孤独はそれでは満たせない。そんな漠然とした不安に押しつぶされそうになりながら、安らかにお昼寝を貪るのだった・・・

 

 

 

 

 

 



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夜ご飯と修羅場

長いお昼寝から目を覚まし、窓の外は既に夜の帳をおろしていた、 古いベットからぎしりとした音が鳴り、体を起こす。

 

『少々・・・寝すぎてしまいましたね』

 

寝ぼけた目を擦りながらつぶやき、綺麗な蒼色の髪が少々荒れているのに気づく。帽

子にかかった空間魔法の中から愛用の櫛を取り出し、備え付けの鏡台で寝ぐせを整える。

 

まだ寝起きだがいつもと変わらないボーっとした顔で髪を整えていると、胃袋のアラームがエマージェンシーを鳴らし始める

 

『これは・・・早く何か食べないとまずいですね』  空腹に危機感を覚えながら、手早くいつものショートヘアに修正する。

 

 

 

ここの食堂では、何が食べられるんでしょうね。 そんなことを思いながらメニューを捲りながら注文頼む 

 

『これと・・・これをひとつ あとこれも美味しそうなので 飲み物はこれを あ、これも美味しそうなのでこれもください。』

 

そんな追加に追加を重ねたいつも通りの食事がぞろぞろと運ばれた後、ざわざわとした食堂で一際響く少女の声が響いた。

 

『どうして!なんで別れようなんて言うの!』

 

どうやら若いカップルが口喧嘩をしているようだった。運ばれてきた料理をもぐもぐと頬張りながらそんな光景を眺める。

 

エリシオン魔法学院に在籍していた時も、時々見かけていた珍しいとも思わない光景を眺めながら、淡々と食事を進める。

 

少女は涙を浮かべながらよく響く声で、関係を続けようと懇願している。

 

『この料理美味しいですね もう一つ注文しましょうか』 と興味はなさそうにさらに追加のオーダーを頼むフィオナだが、彼女の耳はそちらに向いていた。

 

泣きながら捲し立てる少女と沈黙し、相手の言葉を一心に受ける若い男性は活気ある食堂とは対照的な、重い空気を放っている

 

そんな光景を遠巻きに観察しながら、追加注文した料理を口に運び続け、ゴクゴクと飲み物を嚥下する。

 

長い沈黙を保っていた男性が 重ぐるしく口を開いた。 どうやら既に別の女性と関係を持っていたようだった。

 

『あー、そうゆう展開ですか』、食事の手は止めないが、前にも見たことがある修羅場に意識だけを向けていく。

 

男性の口から、弁解の言葉が出ているが、逆効果なようだ。

 

少ながらず負い目を感じているであろう男性が、なるべく穏便に済ませようとする

 

少女も中々引き下がらない、段々見飽きてきたのか 興味を失ったように、最後の料理を食べ終わる。

 

『これ前に見た気がしますね・・・』  そんな一度読んだ本ををまた読んだような感想を述べながら デザートのフルーツを齧る

 

他人の恋愛劇を遠くからよく見ていたフィオナにとって、こういった光景を眺めるという行為に、今更特別な感情は無かった。

 

デザートも食べ終わったので、会計を済ませるために、席を立つ。

 

まだ口喧嘩は続いているが、既に興味は無くなったようで見向きをせずに、会計を済ませる。

 

、会計を済ませたあと、特にやることもないので、自室のベットに寝転がり、先ほどの光景を思い返す。

 

恋愛・・・私には全く関係のないことでしたね・・・

 

多くの人が幼少期に体験するという初恋、というものも心当たりがありませんし、男性が身近にいる、学院時代も何もありませんでしたし。

 

学院時代に見た様々な恋幕を思い浮かべるが、どれも自分の心を動かすことはなかった。

 

『魔女は恋なんてしないという格言がありますが、やはり事実なのでしょう』。

 

あんな思いをしなければいけないなんて、恋なんてしないほうがいいのでしょう。

 

色々と学院で見てきましたが、卒業しても、理解できませんでしたし。

 

『はぁ・・・シャワーでも浴びますか・・・』

 

もやもやとした、思考に飲まれそうになった所でシャワーを浴びることにする。

 

そのまま着ていたいつものローブを脱ぎ、部屋に備え付けのシャワーを浴びる。

 

『こんなことを考えても、私には関係ないはずなのに・・・』

 

少し冷たいシャワーを浴びながら、先ほどの、暗い考えを洗い流そうとする。

 

『私には関係ありません、明日から冒険者としてやっていくんですから』

 

そんな決意を胸に、明日からの新しい生活のために気合を入れる。

 

『・・・もしかしたら、仲間だって作れるかもしれませんから。』

 

でも仲間は欲しい、そんな藁をもつかむような気持ちで明日に備えるのだった。



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携帯食料と臨時パーティー

セリフって難しいですね


まだ日も登らない早朝に、目を覚ます。

 

別に早く起きてしまったという訳でもなく、冒険者をやるからには色々と準備をしなくてはならないからだ。

 

というわけで、朝早くからやっている冒険者ご用達の店に色々と買いに行くことにした。

 

『ここですね。この店だけで揃えばいいですが』 店主が目の前にいたら怒られかねない発言をした後、

 

そんな店の品ぞろえに不安を覚える小さな店のドアを開け、ドアベルの歓迎を受ける

 

『いらっしゃい』。初老の男性のそっけない接客ほぼスルーし、端的に欲しい商品を告げる

 

携帯食料を3日分、ポーションとマナポーションを10本ずつください、

 

『そんなに持っていけるのかい?』

 

店主のいらないお節介に率直に答える

 

『ディメンジョンがあるので大丈夫です。』

 

『なるほど、学院の卒業生か。優秀なことだ、ポーション1本おまけしとくよ。』

 

やたら察しのいい店主が、優しい気遣いでオマケしてくれる。

 

『携帯食料の方がいいですね』。朝食がまだだったので。店主は唐突な要求に苦笑いする。こんなところで食欲を発揮する魔女

 

『分かった分かった 干し肉も追加しておくよ・・・』

 

そんな図太いのか天然なのか分からないフィオナに負けた店主は苦笑いしながらポーションと干し肉をおまけした。

 

『なんか知りませんが、得しましたね。』

 

そんな店主の微妙な心境を知らないフィオナはさっそくおまけの干し肉を齧りながら、朝食のために宿に戻った

 

泊った宿は、朝食もやっているらしく、焼けるパンの香りに、期待を膨らませる

 

買い物したら、お腹が空きましたね。ここの朝食はなんでしょうか。

 

先ほどの干し肉を既に食べ終え、朝食を頼み、テーブルに運ばれるの待つ。

 

今日のクエストは、どうゆうのにしましょう・・・

 

そんなことを考えていると美味しそうな朝食のにおいに思考を中断する。

 

焼きたての白パンと野菜やベーコンを切って煮たスープが運ばれてきた。

 

パンを千切って齧ることなく、かぶりつく。暖かく、焼きたてのパンの甘さを感じながら、スープを啜る。

 

『ここの朝食美味しいですね。もう少し頼みますか。』

 

店員に、もう1セット注文し、パンとスープを無限ループし、食べ終わったころにまたテーブルに並ぶ。

 

それをもう1回繰り返したあと、満足げに、溜息を突く。

 

2杯目の紅茶を飲み、様になるその姿と、積まれた皿の相反する姿に注目が集まっていた。

 

『さて、ギルドでクエストでも選びますか。』

 

そんな視線など、気づいていないような素振りで会計を済ませるために席を立とうとしたところで知らない剣士の青年から声がかかる。

 

『なぁ君ってソロかい?』

 

『は? なんですか突然 』

 

急に話しかけてきたに加え、ぶしつけな質問をしてきた青年に塩対応をする。

 

『あーいや突然すまない、実はパーティーで 魔法使いを探していたんだ、その装備だと君も魔法使いだろう?』

 

愛杖のアインズ・ブルームは装備していませんが、この三角帽子とローブ姿を見て、そう思わない人はいないでしょう。

 

『そうですが、私をパーティーに入れてもいいことありませんよ。魔法の制御が苦手なので。』

 

これは本心であった。卒業試験の時も、誰ともパーティーを組めず、ソロでクリアした苦い思い出と、

 

魔法のコントロールが苦手で敵味方巻き込んでしてしまうというパーティーでは致命的な欠点を持っているからだ

この誘ってきた剣士クラスの青年の装備を見れば、実力はランク3といった所だろう。大怪我で済むとは思えない。

 

そんな複雑な心境な魔女ことなど知らないこの青年は言葉を続ける。

 

『うちのパーティーは前衛二人とプリースト1人でやっているんだ。君みたいな人がいれば心強いんだけど、どうかな?』

 

プリーストの子は君と同じぐらいの女の子だし、仲良くなれるかもしれないよ?

 

そんな青年の熱意に対応に困っている魔女に更なる追撃が加わる。

 

『こんな所で何油を売ってるのよ~ 誰よその人』

 

『ああソロの魔術師の人見つけたからうちでどうかなって思って・・・』  

 

『いいじゃないか ちょうどそうゆう人探してたし』

 

槍を背負った男が現れる この人がもう一人の前衛の人みたいですね この人も同じくらいの実力でしょうか。

 

どうだい あんたにとっても悪い話じゃないだろう

 

そうですね、ではよろしくお願いします。(これはだめなやつですね)

 

そうして向かったクエストは、ゴブリンの討伐だった。 かなり大きめの巣らしく、遠巻きに観察してもかなりの数がいるのが確認できる。

 

『では私が1発撃ちますので、前衛のお二人お願いしますね』

 

プリーストからファルスブーストが前衛に掛けられ、前衛二人が走り出す。

 

フィオナの口から 火属性中級攻撃魔法の詠唱が始まる。

 

ثلاثاء نار متقدة عصا الشعلة سبيرز بيرس

 

愛杖のアインズ・ブルームに魔力が込められていき、巡り、熱を帯び始める。

 

ゆっくりと、詠唱された炎の槍の名を冠する魔法が放たれる。

 

イグニス・クリスサギタ

  『火 炎 槍』

 

放たれた炎は槍ではなく塔だった。その太さは十字教の大聖堂の尖塔にも匹敵する。

 

前衛が開けていた距離を一瞬で熱が埋め尽くす。 熱いなんてものではない

 

半ば本能のように熱源から逃げ、転げまわる。

 

唯一幸運だったのは、この1発のイグニス・クリスサギタでゴブリンが全滅したことだろうか。

   

攻撃されたことを怒って突撃してくるゴブリンは既に巣にはいない。

 

焼き尽くされる巣には100は下らないゴブリンがいただろうが、圧倒的な熱に蹂躙されていた。

 

魔力も燃え尽き、焦土と化した元巣には 炭と灰しか残っていないなかった。

 

別に張り切りすぎたというわけではなく、これが彼女の普通で、通常の威力であり、

どうしようもない私の欠点なのだから。

 

『ちょっと!! 何てことしてくれるの!』 プリーストの少女が激高する。

 

『言いましたよね? 魔法のコントロールが苦手って』

 

『だからって限度があるでしょ! ふざけてるの! 』

 

『早く回復した方がいいのではないでしょうか?』 魔女の天然がプリーストの少女を更にヒートアップさせる。

 

『うるさい!あんたみたいな魔女は解雇よ解雇! さっさと出て行って!』

 

プリーストの少女が治療を始めたころには、フィオナは去っていた。

 

やっぱり、こうなりましたか。とぼとぼと帰路に就き、三角帽子のディメンジョンから干し肉を取り出し、いつもより小さく齧る。

 

師匠の元を出てから、いつもこうだった。魔法を打てば罵倒され、口を開けば罵倒される。

 

時には剣か杖を向けられ、殺意を向けられることも珍しくなかった。 もちろん全て返り討ちにしましたけど。

 

先生は言った。私の魔法は、大切な人を守るために使うのだと、でもそんな人は学院でも、冒険者稼業でも出会えていない。

 

やっぱり私には、そんな人は出来ないのでしょうね。だって私は魔女なんですから。

 



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シチューと雪崩

一面の白い大地に、雪を含んだ風が吹き、冷たい感触が肌を触れる。 今、私は、雪原のダンジョンに来ている。

 

こういった寒冷地に来たのは、特に理由はない、ただいつものきまぐれと、寒いところの美味しいものが食べられそうだと思ったからというだけ。

 

ただきまぐれといっても、寒冷地の対策は必要なので、いつもより厚手のお手製コートを制作しました。これで寒さの対策もばっちりですね。

 

それに厚手の川手袋と、マフラーも用意したので、寒さが私の行く手を阻むことはありません。

 

そして雪道を歩くために、浮遊のエンチャントが施されたブーツも準備しました。 これで深い雪道でも普段通り歩けますからからこういった環境でも何の支障もなく、活動出来ます。

 

ただ・・・結構蒸れるので普段使いは出来ませんね・・・。 あまり履きたくないのでこういった環境だけで使った方がいいですね。

 

そんな完璧な装備で、雪原を探索し、受注したクエストの目的の魔物を発見する。 しかも大きな群れだった。 『これは幸先がいいですね』 受けたクエストが早速達成できそうなので、上機嫌に準備をする。

 

獲物に対して、愛杖のアインズ・ブルームではなく、カスタム・ファイアーボールを取り出す。 

 

学院時代、少しでも魔法のコントロールを改善しようとした、悲しい努力の結晶であり、新入生だらけの列に並んで、恥ずかしい思いをしながら買った記憶を思い出す。

 

魔力を込めれば一定威力の炎魔法が出る初心者用の杖を改造して、最下級炎魔法のイグニス・サギタを連射して放てるようにした改造した短杖

 

迎撃や、牽制に大いに効果を発揮してくれたので、いいものを作ったと自覚はしています。 ただ、これを使っても味方の人を巻き込んでしまうのは余り、変わらなかったですね。

 

魔力を込めた分だけイグニス・サギタが連射されるので、前より悪化したような気がしないでもない。

 

まぁ、普通に魔法を使った方がいつもは早いので、便利なサブ扱いですが。

 

そんなことを思いながら、今日のご飯代になる獲物に向かって、カスタム・ファイヤーボールを向け、魔力を込め、放つ。

 

炎の球が凄まじい数連射されていき、獲物だったものは悲鳴をあげる前に加熱された肉に変わる。 美味しくなさそうなので食べませんが。

 

周りには誰もいないので何も気にせずに、魔法を放っていた、その時だった、着地点に雪に隠れた岩でもあったのか、1秒分の炎ががあらぬ方向に跳ね返った。

 

跳ね返った炎の球には、本人は気づかなかったが、それが原因の災害に意識を向ける。

 

『やっぱり起きましたか・・・』

 

起こすつもりはなかったが、起きてしまったことはしょうがないぐらいにしか思わなかった

 

別に今更、これくらいのことは気にしない、魔法で巻き込んだ方が色々言われますし。

 

討伐した証を切り取ったあと特に気にせず去ったフィオナは、この後めんどくさいことに巻き込まれると、微塵も思いもしなかった。

 

下には人がいたのだ、しかもめんどくさくなるタイプが。

 

『くそ! 何処のどいつだ! 雪崩を起こしやがったのは!』

 

『滅茶苦茶な爆発音が聞こえたから多分上で魔術師が起こしやがったみたいだぜ』

 

『上に行ってシメてやろうぜ 俺たちに手ェ出したらどうなるか思い知らせてやる』

 

3人のチンピラが下にいた 雪崩から奇跡的に無傷で生還した3人は沈む足で丘を登ったあと、そこにあったのは魔物の焦げた死骸だけだった。

 

『くそ! ここにいた奴はどこへいった!』

 

『どうやら、ここにいた奴は炎魔術師のようだな』

 

残った痕跡から、ここにいた者のクラスが判明したあと、この後のことを話し合う。

 

『ここにいないなら、どうやって見つけるよ』

 

『この討伐した魔物と、やつのクラスが判明していれば、ある程度は見つかるだろうよ』

 

『このことは必ず落とし前を付けさせてやる』

 

男のうちの一人がが復讐を燃やしているが、冷静な男がうっすら浮かぶ太陽を見ながら告げた。

 

『ギルド行って情報収集するか、日が暮れないうちに戻りたいしよ』

 

時刻は既に昼と夕方の半ばに差し掛かっていた、そろそろ戻り始めなければ、日が暮れてしまう。

 

3人はギルドに戻っていった。 人を揺すれば金になる、下卑た顔を浮かべて。

 

一方、フィオナはギルドに戻り、達成したクエストの報告をしているところだった。

 

規定の討伐数をかなり超えた数に、それなりの報酬を受取り上機嫌そうな顔をしていた。

 

『今日はいつもより沢山食べてもよさそうですね 寒かったですし』

 

いつも沢山食べていることは置いておいて、今日はいつもより沢山食べる予定の魔女は、ギルドにある食堂に向かう。

 

鼻歌まじりでメニュー捲っていると、魔女のお腹を刺激するメニューを発見する。

 

『この特盛ビーフシチューセットっていうの美味しそうですね』

 

食い入るようにメニューを注視したあと、すかさず通りがかった店員に注文をする。

 

『これください』

 

いつものペースを崩さずに、それでも勢いよくメニューの文字列を指さし、注文が完了する。

 

『早く来てほしいですね・・・寒かったのでお腹が空きました』

 

寒い環境ではいつもよりエネルギーを使うものだが、魔女の燃費もいつもより悪かったようで、胃袋も音を鳴らしている。

 

永遠のような十数分の待ち時間が経った後、運ばれてきたシチューは、鍋で運ばれてきた。

 

このギルドの食堂の名物メニューだったらしく、普通であれば数人で頼んでも食べきれない量を食べれるため、ランクの低い冒険者にも人気だったようだ。

 

そんなことはどうでもいい魔女は、ぼんやりとした目を輝かせて、置かれる鍋を見る

 

芋などの野菜に加え、大きめに切られた肉がゴロゴロと入った、見た目からして美味しそうなシチューを取り皿についだあと、

 

素早くスプーンを動かし、頬張る。 表情は動かないが、かなり美味しいようで凄まじい速度でシチューが腹に収まっていく。

 

鍋の底が見え始めたころで、デザートを注文する。

 

残ったシチューを食べながらデザートを待っていると、知らない男3人組が、怒鳴りながら入ってきた。

 

『なんですかあの人たち・・・』 楽しい食事をしているのに、うるさく、不快な物が来店してきたことに不満の声をあげる。食事の手を止めはしないが、意識をそちらに向ける。

 

『雪崩を起こしやがったのはどこのどいつだ!』 まるで強盗である。起こした人を揺するつもりなら,目立たない所でやればいいのに。

 

残ったシチューを口に運びながら、呆れ気味に3人の輩見る。ん? 雪崩?

 

思い当たる節が数時間前にあるが、特に気にしていなかったので半ば忘れていたことを思い出す。

 

もしかしてあの時、下にいたのでしょうか・・・、これはめんどうなことになりましたね・・・。

 

見たところそれほど強くはなさそうなので命の危険はないでしょうが、めんどくさいですね。 

 

ここで注文していたデザートが運ばれたので、無視して食べようとしたその時、男たちの一人がこちらを向いた。

 

『おい、その三角帽子、お前魔術師だろ』 『え、はい』 事態が悪化した。

 

椅子に帽子を引っかけていたのが目に入ったのだろうか、ずかずかと男がよってくる。

 

傍から見れば、男に脅される少女だが、フィオナに恐怖はない、はやく目の前のデザート食べたいとしか思っていない。

 

『お前か 雪崩を起こしたのは 残った痕跡から起こしやがったのは炎魔術師みたいでよぉ』男に高圧的に言い寄ってくる、

 

完全に私の起こした雪崩の話みたいですね、膝に帽子を置いて隠しながら短杖をいつでも抜けるようにしておく。

 

『いえ、知りません』 魔女は嘘をついた。面倒なことになるのは分かっていたが、こうゆう手合いは正直に言っても、お金でも揺するつもりなのだろうから。

 

『嘘をつけ、丘に残ったモンスターの死骸のクエスト受けたのはお前だったのは既に分かっているんだよ』

 

受付嬢でも脅したのか、はたまたクエストの報告をしていたのを見られていたのかは分からない。

 

既に証拠は握られているらしい、こんなやつらにお金は払うつもりはありませんが。

 

『中々認めねぇなぁ 魔女の嬢ちゃん 俺たちだってこんなことしたくないんだよ ただ払うもの払ってくれればいいだけだ、あまり強情だとこっちも手が出ちまうかもしれねぇぞ』

 

男が舌なめずりしながらそんなことを言っているが表情一つ変えない魔女に、男も堪忍袋の緒が切れる

 

『さっさとやったと言えばいいんだよ! 痛い目に合いたくなかったらなぁ!』 ずっと食べたかったデザートが乗った皿を、盛大に床にぶちまける。

 

『あ』 魔女の表情が揺れたことで、男勝利を確信した、その時だった。

 

帽子の下にずっと握っていた短杖 【カスタム・ファイアーボール】がサムライと呼ばれる剣士クラスの居合の如き速さで抜かれ、無詠唱で大量の炎を噴き出す。

 

爆発音が十は聞こえた後、吹っ飛んだ男とその余波を食らったお仲間が逃げていく。 逃げていく様を眺めて、ふと周りを見る。

 

先ほど座っていた机と椅子は跡形も無く吹き飛び、着弾点の床に使われていた木材に焦げた穴が開いていた。

幸い火事になりそうな気配はないが、メインウェポンの【アインズ・ブルーム】で魔法を、撃っていた場合、ギルドが崩壊していたかもしれない。それなりに手加減できたことにを内心喜んでいた束の間、ギルドの職員が駆け込んできた。

 

『何事ですか?! うわなんですかこの穴は?! 説明をお願いします!!』

 

『えーと・・・これはその・・・・』 事情を説明し、小言を少々と壊した床と机代を弁償し、飲食代も払ったが、あのデザートは食べられなかった。

 

事情は伝わったので追い出されることなく、ギルドの宿に泊れたので寝転んでいるが、頭にあるのはあの食べられなかったデザートだけ。

 

別に何かを壊すのは今に始まったことではないので特に後悔はしていないし、さっきの男たちのことは既に頭になかった。

 

あんな風に何かの拍子に意味のない脅しを受けることはあったが、大体は相手の体にちょっと火を付ければなんとかなったので今更問題にもならない。

 

私に近づいてくるのは、あんな悪い人間か敵意のある人間だけだった。たまに好意を向けてくる変な人もいましたが。 私みたいな人間を受け入れようとする人はよほどのお人よしなのでしょうね。そんな人はいるとは思えませんが。

 

『はぁ・・・魔法を使ったので小腹が空きましたね・・・』 先ほどの大量のシチューもある程度魔力に変換されたようで、微妙な空腹感に頭を悩ませる。

 

帽子のディメンジョンを漁るが食べ物は特に入っていない。 なので今日やることはもう寝るだけ、明日のことでも考えていれば、すぐに夢の世界に行けるでしょう。

 

雪原は寒いのに飽きたので、今度は別の温かい所に行きたいですね。 目的も決まったので、目をつぶる。

 

明日にはもう魔女はいないだろう、きまぐれでまた知らない所に行き、今日も明日も一人できまぐれに生きていく、それが私の、日常なのだから。

 

 



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スープと野営

星空輝く真夜中の平原に、野営をする魔女が一人、 鍋が沸くのを待つ無表情の顔が、火に照らされる。

 

真夜中の平原で、手ごろな丸太に座りながら、焚火を眺める。 一人で鍋を囲んでいるのには理由がある。

 

いつも通り、パーティーを組んだらクビになったからだ。卒業してから、数か月の時間が過ぎても、先生が言っていた大切な人なんて、出来やしない。

 

私だって、普通になろうと努力はしました。でも私の体質はそれを全て否定した、どんなに色んなことを試しても、何も変わることはありませんでした。

 

どうして私は、こんなに苦しまなくてはいけないのでしょうか、人間関係を諦めて、一人で生きれば楽になれるのに。

 

一人で生きれば、嫌われることも、疎まれることもないというのに、なぜ私は、それを拒んでしまうのでしょう。

 

そんな思考に飲まれそうになったとき、吹きこぼれるスープの蒸発する音にハッと意識を向ける。慌てて火加減を調整し量が少し減ってしまったスープを食べることにする。 

 

あまり自分で作ることはないが、普通ぐらいには先生から習っているので、基本的に飲食には困ったことはない、だが、自分で作ることはほとんどない、お店の方が美味しいですし。

 

思えば先生には色んなことを教えてもらいましたね、縄の使い方や人を介助する方法も教えてもらいましたっけ、あれは先生が酔っ払った時に役立ちましたっけ。

 

先生には色んなことを教えてもらいましたが、使う相手がいないので、今のところ意味がないんですけどね・・・。

 

スープを食べながら、星空を眺める、周りには街灯一つないので、綺麗な星々が空に輝いているが、心動かされることはない。

 

『いつか、大切な仲間と眺めたら、違った景色に見えたりもするのでしょうか』 今の私には、空の星を掴むようなものですけどね。

 

そんな微かな憧れを口に出すが、すぐに自嘲気味になってしまうのは、夜の暗さのせいなのか、半分諦めているからなのか。

 

『でもやっぱり、一人は不便ですね』 冒険者はこういった野営をするときは、交代で寝るものだが、一人なので夜が明けるまで寝ることは出来ない。

 

こういった比較的安全そうな環境でも、無警戒で過ごすようなことはしない。伊達にほぼソロで稼いでいる、冒険者だからそんな横着なことはしない。

 

だが寝れないのが辛くない訳ではないので、一応対策も用意している。 三角帽子から一本の瓶を取り出し、瓶を眺める。

 

『一応死なない程度には調整してますが・・・出来るだけこれにはお世話になりたくないですね』 ドロドロとした赤黒い液体が入った瓶を、帽子から少し出して眺める。

 

こうゆう時のために制作しておいたのは、眠気覚まし用のポーションである。味は最悪だが、効果は最高だと自負している。

 

眠気覚ましポーションを制作し、味見したときは、余りの味に作った私も飲みたくないぐらいですが、効果にだけは自信があります。

 

『まぁどうせ一夜ぐらいなので、これに頼るつもりは全くありませんけどね。』 やっぱり飲む気にはならなかったようで 帽子に仕舞う。

 

『これを飲むのは、私以外にしておきましょう』 よっぽど飲みたくないのか、これを飲んでくれるような人が現れるのを待つことにする。

 

まだまだ夜は長いので一応使い魔も飛ばしておいて、監視の範囲を広げておき、焚火の明かりで読書でもすることにする。

 

いつだったか、興味本位で買った恋物語の短編が収録されている本を最初のページから開く。 恋愛なんてあまり興味はない。

 

若い男女が、学校で恋に落ち、紆余曲折ありながら、ついに恋人になるよくある内容だった、現実で遠くから見たことある展開なので、今更真新しさはない。

 

『そういえば、好きな人の子供を妊娠したとかで、退学していった子がいましたね・・・』

 

本の内容に該当しそうな記憶をふと思い出す、幸せそうな顔だったことを覚えている。

 

あれは好きな人と結婚できるから幸せそうだったのか・・・それとも子供が出来たことが幸せだったのか 分からない。

 

私に人間関係と呼べる人は、先生ただ一人なのでそうゆうのはよく分からない 友人だっていたことはない。

 

本に出てくる相談に乗ってくれる親友なんて私にはいるはずがないので、内容にも共感出来ない。

 

『やっぱりこうゆうの読んでも、よく分かりませんね』

 

こういった本を片手に、感想を言い合っていた女子達と同じ本を一人読んでみた時も同じ感想をを述べたものだ。

 

最後まで読み終え、あの時と同じ感想を抱いたあと、まだ燃える焚き火を見る

 

パタリと本を閉じ、まだ火が燃える焚き火にポイと投げる、紙で出来た本に火が付き、もはやよく燃える燃料以上の価値は、今のフィオナにはない。

 

『こんなものは私には必要ない』 ただじっと燃える本を眺めているだけの時間が過ぎていく、燃える火を眺めるとこんなに落ち着くのに、なぜ私の炎は、こうならないのでしょうね。

 

焚き火にまで嫉妬してしまいそうなほどの孤独を抱えていても、それを癒す方法は今の私にはない。

 

『そろそろ明るくなってきましたし、帰って寝ますかね』 大きなあくびをしながら火の後始末をしたあと帰路につくことにする。

 

『この近くの街までそう遠くないのですぐにつくでしょう。』 いつもより眩しい日光に目を細め、歩く。 すぐ目の前に町が見えてきたので、すぐに休めそうで、眠気が押し寄せようとしてくる

 

街にはいったすぐの宿にチェックインし、部屋に向かおうとした時、でかでかと貼られたポスターが目に付く。

 

『なんですかこれ、パンドラ大陸遠征、傭兵募集?』 大きなポスターに書かれた説明を眺める。

 

『最近始まったとかいう、いつもの侵攻ですか、この大陸もまだ半分しか取れてないのに、海の向こうまで攻める余裕はなさそうな気がしますけどね。

国の内情を自然に批判していることには気づいていないが、そのまま説明を読み続ける・

 

報酬は・・・あんまり良さそうではなさそうですね、ご飯は3食付いてるみたいですが、それぐらいですね。

 

あんまり良い所はないが、正直シンクレア共和国にいても、あんまりいいことはなさそうですし、知らない所なら食べたことないものも食べれそうですからね。

 

寝るのはあとにして、すぐにギルドに申請に行くことにする、まだ見ぬ知らない大陸の美味しい食べ物に心躍るフィオナだった。



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配給と侵攻

ほんの気まぐれで、パンドラ大陸のヴァージニアに傭兵としてやってきた私は、遠路はるばる来たことに後悔し始めた。

 

理由はとても簡単です、ご飯が美味しくないんです。

 

ご飯が、おいしく、ないんです、そう、ご飯が美味しくないんです。 今まで食にだけは絶対に妥協してこなかった私にとって、あまりに大きな問題でした。

 

まだ、パンドラ大陸に来てから数日ですが、もう帰りたいですね、帰る家はありませんが。

 

今日も食べられるのは、傭兵に配給された、明らかに兵士より質の低い料理、量も味も足りない、こんなものを食べ続けていたら、気が狂ってしまう。

 

1週間おきに物資が届いているはずなのに、なんでこんなのを食べなきゃいけないのでしょうか。

 

これを食べる以外の選択肢は今のヴァージニアには存在しません、ここに駐留する十字軍はまだここ以外の領地を取れておらず、近くにある国は竜の王様が統治する、城塞都市のダイダロスという屈強な国、落とすには生半可には行かないでしょう。

 

オークやサイクロプスといった巨体を武器に戦う屈強な兵士達相手に2千の兵でどれだけ戦えるか、戦争になるのでしょうかね。

 

十字軍なんて、大層な名前ですが、使徒でも出張ってこない限りこの状況は、どうにもならないでしょうね。

 

そんなことを考えながら、配膳される今日の朝食に注目する。

 

保存だけを考えた棒状の携帯食料ではないだけまだましな、パサパサとした黒パンと本当に野菜の切れ端と気持ちだけ浮かぶ肉の切れ端の入った味のしないお湯のようなスープを、配給の列から受け取ったあと、共同の机で、黒パンを齧る。硬く、モソモソとした食感に眉をひそめる。

 

あまり味のしないスープにパンを漬けるが、ふやけるだけで美味しくない事実は変わらない。

 

『こんなのが店で出てきたらその店燃やしてますね』

 

不満もそこそこに、食べ終えた食器を返したあと、やることもないので、自分のテントに引きこもる。

 

『はぁ・・・知らない土地なら、知らない美味しいものが食べられると思ったのですが・・・』

 

正直、ここにいてもいいことはない、どうにもならない ご飯も美味しくない、そんなちょっとした絶望感に、普段の摂取カロリーに全く満たない胃袋も不満を述べ始める。

 

『お腹も空きましたし、もう辞めてしまいましょうか・・・』そう思った時、軍から招集が懸かる。

 

『ついに撤退でもするのでしょうか?』 

 

まだ数日しか経っていないのに、周りに聞こえたら小言を言われかねないことを呟いたあと、わらわらと集まったほかの傭兵や兵士達に加わり、話を聞く。

 

『明日、ダイダロスに侵攻する』

 

本当に攻める気なのか・・・と呆れた顔をしたのは自分だけのようで、周りの傭兵や兵は声を上げている

 

明らかに楽勝ムードな空気に、どこぞの爵位を持った偉い騎士の指揮官が声を上げる。

 

『聖戦の時は来た! 今こそ!このパンドラの地に神の御旗を立てるのだ! 魔族を殺せ!』

 

『魔族を殺せ!』 『魔族を殺せ!』 『魔族を殺せ!』

 

士気は最高潮、誰もが、二千の兵が勝利を確信していた、 一部のお腹の空いた魔女を除いて。

 

『お腹が空きましたね・・・こうゆう日は豪華になったりしないでしょうか』

 

次の日十字軍は、ダイダロスに侵攻した。 士気も最高潮、 魔女のお腹は7分目

 

前日の昼は変わらないメニューでがっかりしましたが、夜は食べ放題だったのでお腹いっぱい食べました。 

 

朝もそこそこ食べられたので、なんとかなるでしょう。

 

『さて・・・どれだけ生き残れますかね・・・』

 

二千の人間を迎え撃つは、魔族と呼ばれる1万の異種族達、明らかな戦力差だが、金に目のくらんだ十字軍も引く気はない様子。 特に策なども聞いてはいない。

 

流石にナメすぎた状況だが、十字教の差別意識はこんなところで悪さをしたようで、 適当に突撃すれば勝てると思っているのだろう。

 

私自身は十字教は信仰していないので、横にいる傭兵の人も、目の前の大きなサイクロプスも、

 

扱いの差はありません、前に私に剣を向けてきた人を自衛のために殺した事もありますし、サイクロプスが持つ鉄板のような大剣を向けられれば、

 

彼も燃やすでしょう。私は私が生きるために、誰だって殺します。 『こうゆうのを平等っていうのでしょうか?』。

 

『勝てるわけがないので、自衛に徹しますかね』 そんなことを考えていたが、どうやら本当にこの戦力差で戦争をするらしい。

 

開戦の笛が鳴る、この場唯一平等な価値観を持つ魔女は杖と短杖を両手に持ち、詠唱を開始した。

 

この戦争で最初に殺したのが、十字軍の兵士だったか、ダイダロスの兵士だったかは分からない。

 

ただいつものように、燃え盛る炎で平等に、燃やした。 こんな状況だから、いつもより他人の命は気にしない。

 

勇敢な十字軍の兵士たちは、大きな得物に潰される物もいれば、胴や首と泣き別れしたものも数えきれないほどいた。

                                

突撃してくるダイダロスの兵士の強力な武技も唯一使える移動系武技で回避し、カスタム・ファイアーボールで迎撃する。

 

敵が近くに居なければアインズ。ブルームで味方ごと焼き払う。 

 

気が付けば、十字軍の兵士の半数が殉職したころでも、魔女には傷ひとつついていなかった。

 

敗走し、ヴァージニアに戻った後も、ダイダロス軍にヴァージニアを包囲されていても、フィオナは恐怖を感じていなかった。

 

十字軍を巻き込んだことを咎める隊の偉い兵士が詰め寄ってきたが、何やらごちゃごちゃ怒っているが、今更この状況で言われても流石に困る

 

『今更私を咎めた所で、この状況は変わらないと思いますけど?』

 

そこそこの地位の人でしたが、ちょっと火を付ければどこかに行ってしまいました、更に居心地が悪くなった気がしますね。

 

指揮官だった偉い騎士は殉職し、偉い聖職者は国へ帰ってしまいました。

 

外に出ることが出来なかった期間はどうしようもないほど退屈でした。ご飯も前よりひどくなりましたし。

 

特にあの携帯食料はひどいですね、もう一生食べたくありません。

 

十字軍が再結成されて、1万五千の兵がまたヴァージニアに来るらしいですが、もうここに残る理由はありません。

 

今度はパンドラ大陸でも旅してみましょうか。 そろそろ甘いものが食べたい気分ですし、 お腹いっぱい食べたいですね。

 

そうして魔女はまた気ままに旅に出る、美味しいものを求めて。 美味しいものより大事な人と出会うともしれずに。

 



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アイスキャンデーとアイスキャンデーの人

1カ月ぶりの更新です


十字軍の傭兵をやめた私は、あてもなく、どこまでも広がる平野を歩いていた。

 

周りには今のところ何も建造物は見当たらず、見えるのは遠くに壁のように広がる大きな山脈だけ。

 

たしか、ガラハド山脈でしたっけ その先にスパーダという国があると、聞きました。

 

どこかに村があれば、そこで準備をして山を越える準備をしたいですが、まだ集落一つ見つかりません。

 

しかし・・・お腹が空きましたね、十字軍では碌な物を買えませんでしたから、帽子の中に既に食べ物はありません。

 

さてどうしますか・・・飢え死だけは絶対に嫌なので、街道が見えるまでがんばりますか。

 

空腹に耐えながら、ひたすら歩く、平和なもので、モンスターひとつ出てこない。 

 

魔族蔓延る魔大陸なんて言われていたが、実にのどかで、牧歌的なこの光景に、シンクレアの農村とあまり変わらない光景を楽しんではいるが、空腹なのは変わらない。

 

ようやく街道が見えてきたので、近くの木陰に座ると、急激な眠気が襲ってくる、この数か月、彼女にとっての十分な食事を取れていない体は、軽い飢餓状態になっていた。

 

食べた食事のほとんどが魔力に置き換わる体質に、あの環境は酷だったようで、すやすやと眠りに落ちてしまう。 幸か不幸か、この深い眠りが無ければ、彼女の価値観をも、見える世界をも変える恋とは出会え無かっただろう。

 

どれくらい寝ていただろうか。何か話声が聞こえる、そして甘い果物の香り? 『そこのお人』 久しぶりの甘い物のにおいに目を覚まし、声をかける。

 

相手の黒髪の人は驚いていましたが、小さな金髪の女の子がそれを分けてくれました、ガリっと齧ると、冷たくて甘い味は飢えた体に染み渡る。

 

思わず全部食べてしまい、小さな金髪の女の子を泣かせてしまいましたが、お腹がすいていたので、しょうがないでしょう。 

 

この冷たくて甘いものはアイスキャンデーと言うらしいですね。

 

泣いてる女の子に新しい物が渡される、私もまだ食べたいので、帽子から金貨を出し、おかわりを所望するが、どうやら品切れらしく、残念です。

 

あそういえばお二人の名前を聞いていませんでしたね。先に名乗るのが礼儀でしょう。  そう思い、帽子からギルドカードを差し出す。

 

どうやらこちらのギルドカードはドックタグ型のようで、物珍しそうにしている、アイスキャンデーをくれた人。

 

しかし、あの冷たいお菓子は美味しかったですね、もっと食べたいです。 短い会話を終えた後、このまま街道を進めばイルズ村という所があるのを教えてもらい、少し振り返り、呟く。

 

『さようなら、アイスキャンデーの人 親切な御恩はきっとお返ししますよ』

 

ちょっと外に出ればあんなに美味しい甘いものを食べれるなんて、十字軍をやめて正解でしたね。思えば、人から何かを施してもらうなんて、久しぶりですね。 

 

甘くて冷たい、先ほど食べた味を思い出しながら街道を歩いていくと、小さい村が見えてくる。 大きなリザードマンの門番が快く通してくれた。

 

私みたいな異国の人間を快く通すとは、どうやらこのあたりの治安はとてもいいみたいですね。 

 

様々な異種族が暮らすのどかな村に、物珍しさを感じながら、村人に教えてもらった周りの家と比較すると大きなギルドに入り、登録の前に食事をすることにする。

 

一応貨幣が違うので金貨が使えるか受付嬢の猫獣人に聞いたが、物珍しそうに目を輝かせていたぐらいで特に問題はなかった。

 

色々にゃんにゃん聞いてきたがが、そんなことしてる場合ではない空腹だったので注文をする。

 

とりあえずお腹が空いたのと、金貨がどれだけの価値で使えるか分からなかったので、それで頼めるだけ頼むことにした。

 

輝いていた猫獣人の目が驚愕とひきつった顔をした後、慌ただしく調理場に向かっていった。

 

美味しい象型のモンスターのステーキなど、この村で獲れた新鮮な食材を調理した料理に舌鼓をうち、無事久しぶりの満腹になれたので、満足げな魔女とやつれた猫獣人。

 

そのままギルド登録を行おうと思ったが、起き上がらない、困っていると、奥からハーピィの上司らしき人が代わりに対応してくれたので、無事ブロンズのプレートを入手できました。

 

猫獣人の方は引きずられていってますが、代金はちゃんと払ったので特に何も思わない、ご飯は美味しかったですね、ごちそうさまでした。

 

シンクレアでは最高ランクまでいけましたが、また一からスタートですね。普通にやってればランク5になれましたし、すぐにランク5に戻れるでしょう。

 

村の売店の店主から色々買ったり、情報を仕入れた私は、一番大きなアルザス村に向かうことにした。 ただ、一日で着く距離ではないので、途中にあるクゥアル村に1泊する予定です。

 

平和な街道を歩き、辿り着いた時には日は暮れていたが、知らない美味しいものでも舌鼓を打とうとした、その時でした。

 

朝までいた方角から、煙が上がっていたのだ。 どよめき、なんだなんだと眺める人たちの中で、一人だけ原因を知る魔女がいた。

 

(あぁ・・・思ったより早かったですね) 十字軍が、先ほどまで居たイルズ村で、略奪でもしているのでしょう。

 

どうやら新しく編成された十字軍は無事、ダイダロスを落とせたらしいですね、あの大きなドラゴンの王様を倒せるのは使徒ぐらいでしょうから、使徒も本国から出張ってきたのでしょう。

 

確かに先ほどまで滞在していましたが、今すぐ駆け出すほど思い入れもない、あれだけ亜人が住んでいた村です、無事では済まないでしょう。

 

無表情で何処かで食堂でも探そうと、歩き出そうとしたその時、親切に美味しいものをくれた、あの黒目黒髪の人顔が思い浮かぶ。

 

そういえばあの人、イルズ村の方から来ましたね・・・ こんな行き倒れた、知らない魔女に食べ物をくれるお人好しな方です、救援に向かうかも。

 

【これは、すぐにお礼が出来そうですね】 そう思ったフィオナの行動は早かった。 すぐさまギルドで謎の集団によるイルズ村襲撃を伝え、緊急クエストを発行させた。

 

一人でも1小隊ぐらいなら、全滅させることは可能でしたが、村に滞在するほかの冒険者達もすぐさま集結してくれたので、かなり楽に戦えそうです。

 

ギルドが馬を用意してくれたので早く着くことが出来そうです。

 

急いで向かった時、親切な黒髪のあの人は、無謀にも、一人で立ち向かっていましたが、呪いの武器に飲まれかけていて危ない状況でした。

 

とりあえず防御魔法でも、撃っておきましょうか。 詠唱してイグニス・シルドを撃っておく。

 

彼の前方に炎の壁が立ち上った時、私の存在に気付いたようで、どうしてここにいるのか分かっていないようだった。

 

そんなことはお構いなしに、ディスペルの魔法をかけ、彼の手から呪いの鉈が離れる。 これで万事解決ですね。

 

『随分物騒なモノを使うんですね』、手から鉈が離れた時、呪いの意思がここまで聞こえてきましたよ。

 

さて、残りの十字軍兵士達は、他の冒険者の皆さんにお任せして、アイスキャンデーの人を救護しておきましょうか。なんて思っていたその時だった。

 

空から怖い、羽の生えた知らない綺麗な人に、凄い顔で睨まれたからだ、 身の危険を感じたので、アイスキャンデーの人をリリースする。 

 

どうやらあの時アイスを貰った可愛い妖精さんだったみたいですね。 随分大きくなりましたね。

 

なんと、味方として居ればあの時のアイスキャンデーをいくらでもくれるみたいです。 人助けするものですね。

 

既にフィオナの頭には、あの爽やかな冷たい甘味しかなかったが、周りには十字軍兵士の断末魔が響いていた。

 

そして、出会った大きな妖精と黒髪の狂戦士と運命的な出会いをしていたことも、知る由もなかった。



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