天翔ける凶星と黒い悪魔 (マイン)
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滅龍大戦史~祖龍誕生、竜興紀の始まり~

今作における裏設定の話になります。色々無理のある設定ですが、魔力がある世界なので出来たこと…って思ってください。

大体3話ぐらいに分かれると思います。ではどうぞ


 太古の昔…今より遥か6500万年前、地球の生態系の頂点にあったある種族が滅びの危機に晒されていた。後に人間に『恐竜』と呼ばれることになるその大型爬虫類群は、数千万年に渡って地上を支配し、現在確認されている限り最も長い繁栄を誇った生物である。…しかし、白亜紀の終わり頃に突如地球に飛来した小惑星の衝突。その衝撃による地殻変動と、衝突の際に舞い上がった粉塵や立て続けの噴火による多量の火山灰により齎された急激な寒冷化。変温動物である恐竜たちは環境の変化に適応できず、元々種族全体の大型化により個体数が減少傾向にあったことも相まって、地球最強の生物であった彼らは絶滅の道を辿っていった。

 

 …それが、現在知られている恐竜絶滅の最も有力な説である。

 

 

 

 

 

 

 しかし、それは違っていた。恐竜たちはただ数を減らしていたのではない。大型化に伴う熾烈な生存競争を生き残るために、更なる進化を遂げている最中であったのだ。そんな折に訪れた未曽有の大災害と寒冷化…それによる極限の環境と飛来した小惑星から放たれる高濃度の放射線が、生き残った恐竜の中で最も進化を進めていたある個体にかつてない変化をもたらしたのだ。

 

 その恐竜は元々ブラキオサウルスのような草食恐竜の一種であった。しかし進化の過程で草食によるエネルギー摂取の限界を感じ、世代交代の中で徐々に肉食へと食性を変えたことで首はやや短く太くなり、肉食化により大きくなった頭部を支えるために脚や尻尾も頑強なものになっていった。それだけでなくより広い範囲を縄張りとするために、歩行のみならず飛行能力を得るために永い世代をかけて少しずつ有翼化を進めていた。更にそれだけに飽き足らず他の恐竜が近づかない寒冷地帯の獲物を独占しようと、雪原に適応した白い体色や体毛を会得していた。その個体は、そんなどん欲なまでの進化の末に結実しようとしていた種族の末裔であった。

 

 恐竜としての限界、生物としての領域の頂点にまで進化を遂げていたその個体は、周囲の生物が次々と死に絶えていく極限状態による刺激と、何よりそんな環境下においても尚進化と生存を求める本能によりついにその限界を突破する。いつしかその姿は、もはや恐竜だった頃のそれとはまるで異なっていた。

 

 新雪よりも純白な、鱗や毛の一本一本が輝きを放つ美しい外皮。未だ飛ぶことすらままならなかった筈の翼は、全身を包み込めるほどに大きく、力強い。そして頭部から生えた4本の角は王冠の様で、まるで『彼女』こそがこの世界の王であると証明しているようであった。

 

 

 それこそが、恐竜を超えた最初の龍…『祖龍 ミラボレアス』の誕生の瞬間であった。

 

 

 究極の進化を遂げたミラボレアスは世界に轟くほどの雄叫びをあげると、大きな翼をマントの如く広げて空へと舞い上がった。そして空を遮る分厚い粉塵の雲を突き抜け、あの暖かな太陽の光を再び浴びるべく上昇し…ふと、真下を睥睨する。

 

 祖龍の眼に映ったのは、今しがた自分が手を伸ばしかけた太陽の温もりを失って久しい極寒の大地…そしてそこで泥水を啜ってでも生き延び、そうした者たち同士が喰らい合うことでしか種を存続できずにいる生き物たち…そんなこの世の終わりの瀬戸際と言ってもいい光景を、ミラボレアスは…『悲しんだ』。

 

 

『何故…彼らは死ななければならないのだろう。ただ生きていただけなのに、ただ当たり前のように明日が来ると信じていただけなのに…どうして彼らは滅び、私は生き延びた。ただ他よりもほんの少しだけ先の明日を求めただけの私と彼らで、何故こうも違ってしまっているというのだ』

 

 ミラボレアスが進化によって得たのは、強靭な肉体だけではなかった。発達した脳が、強大な己の力を制御するために獲得した叡智が、彼女に『心』というものを齎していたのだ。

 

 

 

『…生きろ、明日を求めるものよ!諦めるな、今を生きる全ての生命よ!歩みを止めるな、進み続けろ!そのための翼を…私が与えてやる!!』

 

 ミラボレアスは咆えた。地球総てに響き渡るように、今を生きる全ての生命に届かせるように。大気を震わせる咆哮が赤雷と化し、天を覆う黒雲を貫き吹き飛ばした。

 

 黒雲が霧散したことで久しかった太陽の輝きが降り注いだ時、狂ったように生を貪り合っていた恐竜たちは揃って空を見上げた。その瞬間、滅びへと向かうだけの戦いが止まったのだ。

 

 降り注ぐ日光を背に空に君臨する純白の龍。その姿を見た時、恐竜たちは理解した。彼の者こそが、この星で最も強き存在…この世界の王であると。

 

 そんな彼らの畏怖の視線を受けるミラボレアスは更に上昇し、太陽を背負うように覆い隠す。すると、日光を受けたことでミラボレアスが自ら放つ輝きが高まり、彼女自身が太陽になったかのように白い光が地上へと降り注いだ。その輝きは大気中を漂う霧散した黒雲に含まれていた微小な鉱石の粒によって幾重にも乱反射され、地球総てを遍く照らしたのだ。

 

 光を浴びた恐竜たちは、程なくして徐々に姿を変えていく。恐竜だけでなく、太古の昆虫や魚類、鳥類や哺乳類に至るまであらゆる生物がその生態をより高度なものへと変質させていく。ミラボレアスが放つ輝きに含まれる彼女の遺伝子が、数万年を必要とする進化をとてつもなく加速させているのだ。中には進化のスピードについていけず力尽きるものもいたが、多くの生命がその進化を受け入れ、耐え忍んだ。この地獄のような世界で、生き残るために。

 

 

 ミラボレアスの輝きは6日間、昼夜を問わず世界を照らした。そして7日目の朝、光が収まった時には…既にこの星の生態系は一新していた。

 

 まず、ミラボレアスの遺伝子に最も強い影響を受けた恐竜たちが一際飛びぬけた進化を果たした。奇しくもその姿は揃ってミラボレアスに近い姿をしており、更に地球上の様々な環境に強い影響及ぼす力を持っていた。

 クシャルダオラ、テオ・テスカトル、ルコディオラ、ヴァルハザク、ネロミェール、イヴェルカーナ、オオナズチ…後に『ドス(次なる)古龍』と呼ばれることになるこれらの龍たちが各地に縄張りを形成し、各々が最も住みよい環境へと周囲の土地を変化させた。そして、ある意味で安定した環境が生まれたことで生き残った生物たちはそこを新天地とし、それぞれの環境に適応した進化を遂げる。

 

 強靭な足腰を持ち、地上での活動に最も適応した『獣竜種』。鳥類の特徴を色濃く残し、同じ分類でも幅広い生態を持つ『鳥竜種』。原始的な蛇や蜥蜴の特徴を持つ長い身体の『蛇竜種』。翼を持ちながらも地上を駆ける強靭な脚を有し、最も広い生態系を持った『飛竜種』。首長竜が進化し、水中だけでなく陸上での生活圏を獲得した『海竜種』。竜の骨格を持ちながらも様々な生物の特徴を取り込んだ『牙竜種』等、恐竜たちは既存の生態を超越した進化を遂げた。

 恐竜だけでなく、獣や魚類、昆虫やエビ、カニといった生物たちもそれぞれ大型化や幅広い環境への適応を遂げ、中には竜たちに劣らぬ力を持った種族もいる程となった。

 そしてそれは後に人類の祖先となる類人猿たちも例外ではない。彼らもまた独自の進化を遂げ、元より他の生物より知能が高かったことからやがて文明を築くほどとなった。彼らは大きく2つに分かれ、獣だった頃の性質を持ったまま高い知能を有し、自然の中で生きることを選んだ『獣人種』と、現在の人類に近い姿でありながら竜の遺伝子を持ち、長い寿命と発達した技術で同族による強固なコミュニティを形成する『竜人種』へと変化した。

 

 地上の生命全てがこの世界に適応したのを見届けた後…ミラボレアスは満足したように一鳴きすると空の彼方に飛び去って行った。その後の行方を知る者は居なかったが、やがて世界で最も高い山の山頂が巨大な黒雲で覆われるようになった。黒雲は時折赤い稲妻を放ち、興味本位で近づいた者たちをあしらうように山頂に近づけさせなかった。人間たちはその黒雲こそがミラボレアスの居城であると考え、その山を禁足地として畏れ敬うようになった。

 

 

 これこそが、現在確認されている祖龍伝説の最古の記述…『白き日食』の終わりであり、その後数万年に渡って続く進化した恐竜たち…モンスターを中心とする失われた歴史『竜興紀』の始まりであった。




 恐竜が隕石で滅ぶ前から数が減少していた…という学説を聞いたので、敢えてそれを逆に考えた結果こうなりました。ミラボレアスのくだりに関しては天地創造やエルキドゥとシャムハトの逸話を参考にしました。

次回は進化したモンスターと人類の世界、そして人類の最初の過ちについての話になります。ではまた次回


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設定集(※随時更新)

オリ主その他諸々の設定です。今後の展開で変更していきます



◎オリキャラ

 

・名前 岩城昴

 

・CV:宮野真守

 

・階級 一般人→501統合戦闘航空団仮隊員

 

・ストライカーユニット 無し

 

・使用武器 無し

 

・年齢 16歳(7月20日)

 

・身長 181㎝

 

・固有魔法 夢幻換装(イマジン・アームズ)(魔法力を使用して武装を創造する。原理としては菅野の圧縮超硬シールドを変形させているようなものなので強度は高く、欠けたり折れたりするとその分の魔法力を消耗するが、何度でも再生成可能。但し、ある程度明確なイメージが必要であるため銃火器のような複雑な機械は作れない。…ぶっちゃけFateシリーズの投影魔術である)

 

・使い魔 バルファルク(歴戦個体)

 

 

 現実世界からストライクウィッチーズの世界に転生した少年。この世界に関する知識は乏しく、主要人物の名前と大まかなストーリー程度しか知らない。記憶が戻る前はどうとも思わなかったが、記憶が戻ってからはズボン姿の女の子に若干緊張するようになった…が、色々あって慣れた。

 容姿は当時の扶桑人としては珍しいソース顔で、代々海外にも販路を持っていた実家の家系のどこかに外国人の血が混ざっていた模様。バルファルクの力を使いこなすために身体はかなり鍛えられており、魔法力無しのバルクホルンと腕相撲でギリギリ勝てる。髪型は短髪のツンツン頭(DBZ後期の悟飯の髪型)。長く伸ばすと魔法力を使った際に硬質化した髪が邪魔になる為。

 性格はかなり社交的で誰とでも分け隔てなく接するが、前の世界での父親が自衛官であった為軍属でなくとも軍人に対する礼儀は弁えている。とはいえ、2020年の自衛隊と1940年代の扶桑軍とでは色々と違う為、端から見るとどこかズレているように見える。運動神経もよく手先も器用で料理が趣味と完璧に見えるが、猫舌だったり蜘蛛やムカデが苦手だったりと欠点もある。前世でもネルスキュラだけはダメだった。

 使い魔は音速の古龍バルファルク。生前に相当な戦いを潜り抜けた『歴戦王』と呼ばれる個体であり、昴に自身の力の使い方を徹底的に叩き込んだ鬼教官でもある。一匹狼な気質で群れることを好まないが、認めた相手は例え人間であろうと対等に接する仁義も持ち合わせている。生前に自分と相討った存在のことを気にかけており、自身の眠っていたカールスラントの地を時折警戒している。

 魔法力を発動させればストライカー無しでも翼のジェットだけで飛行が可能。加えてほぼ全身がバルファルクの甲殻で覆われ、流れ弾やネウロイのビーム数発程度なら跳ね返してしまう。しかし、魔法力自体はさほど高くは無いためシールドはもっぱら飛行中の風除けに使用する程度。普段は巡航速度(時速約600km)で飛行しているが、戦場に急行するときは亜音速での飛行も可能。超音速飛行も出来るが、人間サイズでは蓄積エネルギーに限界がある為、精々30分程度しか続かない。

 前世では鹿児島生まれ、鹿児島育ち。そして母方の先祖は島津家の家老で、祖父は古くからある剣術道場の師範という根っからの薩摩隼人。先祖に倣って古くからの伝統を頑なに守る祖父の影響でかなり訛った薩摩弁が染みついており、転生しても感情が昂るとつい漏れ出してしまう。

 

・技 主にバルファルクのモーションを参考にしている。技名はオリ主(作者)のセンス

 

・サイクロン・スクラッチ…翼を広げた状態で敵に急速接近し、すれ違いざまに身体を旋回させて広げた翼で敵を切り裂く。翼の向きや形状次第で攻撃方法は変化し、自転することでドリルの様に敵を貫くことも出来る。また、翼の先端から龍気エネルギーを放出することで射程を伸ばすことも出来る。

 

・龍気砲…バルファルクも行う翼からの龍気エネルギーの砲撃。空中で放つ場合は3対の翼の内各1つずつを滞空と姿勢制御に回す必要がある為4発ずつしか撃てない。連射は可能。但し、当然撃ち過ぎれば飛行のためのエネルギーが無くなってしまう。昴の生まれ持っての動体視力と実戦での訓練の成果で、命中精度は高い。

 

神槍(グングニール)…翼脚を一度折りたたみ、ロケットペンシルの様に縦に連ねた後に龍気のジェットで一気に射出する。最大射程は5メートル。瞬間速度時速300kmで突き出されるその先端は、ネウロイの装甲は元よりティーガーの装甲だろうが戦艦の装甲だろうが軽々と串刺しにする。

 

・フライトブラスト…バルファルクの最大の大技。高高度にまで急上昇し、真下の敵目掛けて突撃する。体当たりするだけでなく、直前で急転回して龍気の爆風を吹き付け攻撃することもできる。急降下中は軌道変更が難しいので高速型のネウロイ相手には向かない。

 

 

・名前 エリザベート・タウンゼント

 

・CV:浅川悠

 

・キャラモデル 西住しほ(ガールズ&パンツァー)

 

・階級 ブリタニア連邦公爵

 

・ストライカーユニット ブリタニア連邦製ハリケーン

 

・使用武器 ボーイズ対戦車ライフル

 

・年齢 18歳(12月23日)

 

・身長 169cm

 

・固有魔法 防壁(イージス)(シールドを切り離して固定できる)

 

・使い魔 イヴェルカーナ

 

 

 ブリタニア連邦女王を伯母に持つ王族の少女。ブリタニア空軍のパイロットだった父が、王族でありながら優れたウィッチであった第2王女と恋に落ち、姉やチャーチルら理解者たちの協力のおかげでウィッチとして上がりを迎えた後に結婚。北部領地の領主として隠居生活を送る中で生まれたのがエリザベートである。…しかし、ネウロイによる欧州進行が活発になると北欧を伝ってブリタニア本土にもネウロイが侵攻。エリザベートの両親は領主としてネウロイとの戦いに身を投じ、辛くも撃退に成功したが父は戦死。母も辛うじて生還したが、ネウロイの瘴気に長時間身を晒していたことで衰弱し、後に亡くなった。

 一人残されたエリザベートは教育係のメイド長らと共に悲しみに暮れる間もなく領地の運営を強いられることとなった。そんな最中に、母の形見であった宝玉…『冰龍の零玉』に触れたことで魔力が覚醒。それに呼応して零玉に封じられていたイヴェルカーナの意識が目覚め、契約を交わしたことでイヴェルカーナのウィッチとなった。当初は全く力を制御できなかったが、昴の協力もあって今では完全にコントロールできる。

 性格は一見して冷徹で、9を生かすために躊躇いなく1を切り捨てられる現実主義者。しかしその一方で領民や子供に対する愛情も深く、自分の領地を守る為ならば身を切って献身するノブリス・オブリージュを体現する。それ故に周囲の領主からは畏れられているが、領民からの信頼は篤い。また、生まれが生まれなのでブリタニア政府の重鎮からは疎まれているが、理解者である伯母やチャーチルとの仲は良好。マロニーとは犬猿の仲で、マロニーの陰謀でブリタニア空軍の哨戒範囲から領地を除外されているが、知ったことかと自力でネウロイを撃退している。

 使い魔は極冷の古龍イヴェルカーナ。性別は雌。潔癖な性質の女傑で、エリザベートの周りに男がいるのを極端に嫌う。今でこそ多少は我慢しているが、昴と邂逅した際には激しく拒絶し、その結果小島を一つ丸ごと氷漬けにしてしまったこともある。

 固有魔法の防壁はシールドをその場に固定することができ、エリザベートは切り離したシールドで領地をぐるりと囲んで防護壁を築いている。シールドにはイヴェルカーナの力が籠められていて常に強力な冷気を発しており、ネウロイが近づくだけで表面が凍り、直接触れればコアごと芯まで瞬間冷凍させられる。低温が苦手なネウロイに対して鉄壁の守りともいえる。但し、切り離したシールドは一度役目を果たすと消えてしまうので、その都度張りなおす必要がある。

 

 

 

 

◎オリ設定

 

 

 

・ドラゴン・ウィッチ…本来犬や猫、鳥などの動物の精霊を宿すウィッチと異なり、ドラゴンの中でも特に強い力を持つ古龍の精霊を宿したウィッチ。固有魔法に加えて古龍それぞれが持つ特殊な力を操れ、更に古龍の寿命が長いおかげかウィッチとしての寿命も長く、個人差はあるが壮年まで魔力を保持することもある。但し、古龍の力を受け入れられるだけの才能と古龍との相性が必要で、どちらかが欠けていれば精霊と出会えても契約を交わすことは出来ない。

 

 

・華国…今作オリジナルの架空の国家。中国と朝鮮半島を含めた巨大国家で、かつては扶桑皇国と時に友好的に、時に戦火を交えた関わりの深い国。しかし、ネウロイのオラーシャ侵攻により北部から攻め込んでくるネウロイと交戦。当初こそ人海戦術で拮抗していたが、やがてネウロイの方が数で勝ってくると徐々に押されていき、最終的にはヒマラヤ周辺を除いた国土の大半をネウロイに奪われてしまった。国民も世界中に散り散りとなり、扶桑、ブリタニア、リベリオンに移住した民が各地で華国街を形成することで文化を守っている。

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

 

芳佳ちゃん’sファミリー!

 

???

???

???



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幕間 501人狼大会 前編

昴の転生者設定を使ったおまけネタです。人狼はルールも実際のプレイも聞きかじりなのでこんな感じでいいのか分かりませんが…

…某笑顔動画で「Among Us」の実況者コラボを見てたら思いついただけですハイ。最初はクソエイムな方々が目当てだったけど今ではあのグループ特有のガバプレイが何より楽しみだったりする。私もやってみたいけどトモダチがね…


ではどうぞ


 それは、とある日の昼下がり…

 

「…暇~、暇すぎ~…ホントに今日ネウロイなんて出るの~?」

「うるさいぞハルトマン。予測が出た以上、それに備えておくのが軍人の勤めだろうに」

「けどさぁ、スバルは何にも感じてないんだろ?だったら単なる勘違いなんじゃないのか?」

「まあそうかもだが…俺の直感とて完璧じゃない。万が一の可能性がある以上、備えておくに越したことは無いさ」

「備えあれば憂い無し、ですよね!」

「なんダそりゃ?」

「扶桑の諺だ。何事も事前に準備しておけば、後であれこれ不安や悩みを憶えることはないという先人達の教えさ」

「流石少佐の故郷、とても深い言葉ですわ!」

 

 その日の早朝、司令部からネウロイ出現の可能性があるという予測が出たことを知らされた501は、それに備えて全員で待機任務を行っていた。

 …が、司令部の予測よりも遙かに高性能な昴というネウロイ探知機に反応がないことからエーリカやシャーリーといった面々は既に誤報であると決めに掛かっており、夜勤明けで睡眠不足なエイラとサーニャも含め、士気はダダ下がりで全く緊張感がない状態であった。

 

「お茶のおかわり淹れましたよ~」

「ん~貰う~…」

「御免なさいねリーネさん。お茶くみばかりさせてしまって」

「いえ、私も好きでやってるので…それに、他にすることないですし」

「それな~…なんかいい暇つぶしとかないの?」

 最早ただのティータイムと化した待機現場に業を煮やしたエーリカがぼやいていると、昴が思いついたように言う。

 

「…そうだ。折角皆揃ってるんだし、ちょっとしたゲームでもしてみるか?」

「ゲーム…ですか?」

「チェスや将棋なら出来るが、1組ずつしか無いぞ」

「アタシルール知らな~い…」

「いや、そういうボードゲームじゃなくてな。えーと…そう、俺の地元で流行ってたゲームで、『人狼』っていう遊びなんだが、やってみないか?」

「人狼?」

「ウェアウルフ…オオカミ男なんて、変わった名前のゲームですのね。どんなゲームなんですの?」

「ざっくり説明すれば、参加者の中に居る人狼役を議論しながら当てるゲームだ。人狼役は自分が人狼だとバレないようにしながら、参加者を一人ずつ失格させて規定の人数以下にすれば人狼側の勝ちになる。逆にバレてしまったら、その時点で人狼の負け…ってゲームだ」

「へー…面白そうじゃん。やってみようよ」

「そうね。このままジッとしていても気が滅入るだけだし、気分転換には良いかもしれないわね」

「よし!なら今から準備するからちょっと待っててくれ」

 

 こうして、501全員による人狼大会が決まったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 数分後、準備を終えた昴によりゲームの詳しいルールが知らされた。

 

 

・参加者は全員、昴が用意したカードを事前に引く。カードにはゲーム内に於ける役職が書かれており、自分が引いたカードに書かれた物が自分の役職となる

 

・カードの内訳は『村人』が8枚、『占い師』が1枚、『狩人』が1枚、そして『人狼』が1枚となっている

 

・村人は変わった力は無いが、唯一議論の後に人狼を指名する『追放権』を持っており、最も多い票が集まった参加者を追放…ゲームから失格させることが出来る。必ず誰かに票を入れる必要は無く、投票を拒否することも可能。拒否した人数が最も多ければ、誰かに票が入っていても追放されない。

 

・占い師は議論中に一度だけ、参加者一人の役職を開示させることが出来る。但し追放権を持っていない

 

・狩人は議論後に一度だけ、他の参加者を無条件で狩猟…追放できる。但し追放権を持っていない

 

・人狼は議論後、参加者の一人を襲撃…追放しなければならない。当然追放権は持っていない

 

・議論中は自分の役職を偽っても構わない。但し、占い師と偽ってその権限を行使する…などは出来ない

 

・ゲームは昼パートと夜パートに分かれ、昼パートで議論し、夜パートは全員目を瞑る。まず狩人役の権限が行使され、その後村人役の追放権による投票、その後人狼役だけが目を開けて誰を襲撃するかを指名する。その後昼パートに戻り、誰が襲撃されたのかが明らかになった後に再び議論となる

 

・参加者は固有魔法の使用禁止(特にエイラ)   ワケワカンナイゾー!

 

 

「…基本的なルールはこんなもんだ。今回は俺の地元のローカルルールを短時間勝負用にちょっとアレンジしたんだがな。とりあえず、今回俺は進行役も兼ねてゲームマスターとして見守らせて貰うよ。何か質問とかある?」

「ふむ…一つ聞きたいんだが、もし追放権を持っていない占い師と狩人が最後まで残った場合はどうなるんだ?」

「その時は、占い師と狩人を除いて規定の人数以下になった時点で人狼の勝利となる。仮にそれぞれの権限を温存した状態であってもだ。使い処を見誤ったら持ち腐れになるから権限は考えて使うことだな」

「はーい!狩人と投票と人狼で追放する人が被ったらどうなるのー?」

「あー…人狼の襲撃前に狩人と投票で追放された奴は公表するから被ることは無いぜ。無論、人狼が追放されて居れば当然襲撃も起きない」

「なるほど…はい、ルールは分かりました」

「よし。んじゃ今回は初めてってことで人狼側へのハンディとして人数が人狼含めて『5人』、過半数以下になったら人狼の勝ちにしよう…では、第一回501人狼大会を開始するッ!」

 

 

※ここからは誰が喋っているのかを分かりやすくするため台詞の前に名前が入ります

 

 

 ゲームの開始と共に、皆は昴が用意した役職カードの山札から1枚ずつカードを引いていく。

 

宮藤「え…」

リーネ「…」

ペリーヌ「ふん…」

坂本「ほぉ…」

ミーナ「あらあら…」

エーリカ「へぇ~」

バルクホルン「む…」

シャーリー「ありゃりゃ」

ルッキーニ「およ?」

エイラ「ンナ?」

サーニャ「ん…」

 各々手にしたカードを見て微かに一喜一憂の表情を見せる。それが何を意味するのかは、当人とゲームマスターである昴にしか分からない。

 

昴「では、初日の議論タイムだ。制限時間は…3分でいいか。その時間内に各々話し合ってくれ」

リーネ「議論、と言われても…」

ペリーヌ「まだこの段階では誰が人狼なのかなんて分かりませんわね」

ミーナ「ひとまず、それぞれの役職について話すのはどうかしら?嘘をつくにしろ本当のことを言うにしろ、何かしら分かるものが有るはずよ」

宮藤「…!そ、それなら…皆さん、私は人狼じゃありません!だって…私は、占い師ですから!」

 そう言って宮藤は自身の役職カード…占い師と書かれたそれを皆に見せる。

 

ルッキーニ「うぇぇッ!?」

エイラ「な、なにやってんだオマエ?」

バルクホルン「宮藤、ルールを分かってるのか?自分の役職は基本的に内緒にしておくものだろう。まして占い師だというのなら尚更…」

宮藤「はい、分かってます。だからです!」

サーニャ「え?」

宮藤「私は、占い師の権限で…私自身の役職を公表しました!ルール上は問題ないはずです!…ですよね、岩城さん?」

昴「あ、ああ…確かに公表できる参加者には自分も含まれているから問題はないぞ」

シャーリー「へぇ~…中々大胆なことするじゃんか」

ペリーヌ「…ですけど、一体なんの意味があるんですの?折角人狼を当てられるチャンスを、自己保身のために使うだなんて勿体ないですわ」

宮藤「あう…」

 一見して権限の無駄打ちに見える宮藤の行為。しかし、そうでないと考える者も居た。

 

エーリカ(…成る程ね。面白い作戦をするじゃんか宮藤)

ミーナ(自身が占い師であることを公表する。一見無意味な行為に見えるけれど…これで宮藤さんが人狼で無いことも確実となった。つまり、今後宮藤さんの発言は誰よりも信憑性のあるものとなる。宮藤さんが人狼に加担する理由は無いのですからね)

坂本(加えて、人狼が追放権の無い宮藤を襲撃するメリットは無い。これで宮藤は最も生き残る確率が高く、その上で人狼を探す上で最も信用がおける存在となった。人狼としては放置するのも面倒だが、態々貴重なチャンスを使う手間もかかる…これは心理的なプレッシャーになるだろう。宮藤め…いつの間にかこんな策を考えるようになっていたとはな)

 

宮藤「?」

 無論、宮藤にそんな思惑など無い。彼女は単純に、自分を信じて貰う為の誠意として公表しただけである。

 

坂本「…さて、宮藤の次は私だな。とはいえ、私はこういう騙し合いのようなまどろっこしいことは苦手なのでな、ハッキリ言うぞ。私は狩人だ!だから人狼は早めに名乗り出ると良い、私が介錯してやるぞ!」

エーリカ「…少佐、それで釣られるのはペリーヌくらいだよ」

ペリーヌ「…ハッ!?は…ハルトマンさん!いくらなんでも私はそこまで単純じゃありませんのよッ!」

リーネ(…ペリーヌさん、半分くらい声と手が出かかってたような)

ミーナ「うふふ、美緒らしいわね。次は私ね…私はただの村人よ。警戒しなくても大丈夫よ」

シャーリー「え~?そんなこといって、中佐ホントは人狼なんじゃないのか~?」

エーリカ「ミーナの使い魔オオカミだしねー。油断したところを…ガブーッ!って、行っちゃう気なんじゃ無いの~?」

ルッキーニ「いや~ん、こ~わ~い~!」

ミーナ「ウフフ、貴女たちったら…本当に噛みつかれたいのかしら?」

 笑顔のままのミーナの表情に影が差し、するりと出てきたオオカミの耳がまるで悪魔の角のようにひん曲がる。

 

ルッキーニ「ぴいいッ!!?」

シャーリー「じょ、冗談です中佐!中佐は裏表の無い村人です!sir!」

エーリカ「いつまでも美しい魔女です!ナマ言ってスミマセン!」

バルクホルン「お前ら少しは学習せんか。…私も嘘をつくのは苦手だから正直に言うが、私は村人だ」

リーネ「あ…わ、私も村人です」

ペリーヌ「私もですわ。…私が庶民だなんてちょっと癪ですけど」

サーニャ「私も村人…一緒に頑張りましょう!」

 バルクホルンに続いて3人が村人であることを名乗り出る。するとそれを見ていたエーリカがニヤリと笑う。

 

エーリカ「おっと、次は私だね。…ふっふっふ、何を隠そう実は私こそが狩人なんだよね~。だから嘘つきオオカミさんは私がハントしちゃうぞ?」

宮藤「え…狩人は坂本さんじゃ」

エーリカ「少佐にしては良い感じにハッタリかましてたんだけどねぇ~。嘘とハッタリに関しては右に出る者の居ないエーリカ様にはお見通しなんだよね~♪」

バルクホルン「自分で言うな自分で…!」

坂本「ほぉ…そう来るか、面白い」

リーネ「これは…どちらかが嘘をついている、ということでしょうか?」

ペリーヌ「岩城さんの準備に手違いが無ければそういうことでしょう。まあ、少佐が嘘をつくとは思えませんからハルトマンさんが嘘をついているのでしょうけど」

ミーナ「…それは分からないわよ?美緒は冗談を言うことはあるけれど、嘘をついたところは私も見たことないもの。アレで案外、お茶目な一面があったりするかもしれないわよ?」

宮藤「ミーナ中佐でも分からないんですか…」

 流し目でウインクをするエーリカと、腕組みをして不敵に笑う坂本。自称狩人同士の視線による小競り合いに戸惑う村人組を見て、501の悪戯っ子たちが同調を始める。

 

シャーリー「…ちょーっと待った!私を差し置いて狩人を名乗るなんて烏滸がましいぜ。最速でオオカミを狩る狩人はこの私こそが相応しいってもんだろ?」

ルッキーニ「じゃあ私も狩人~!オオカミさ~ん、狩人はここですよ~♪」

エイラ「じ、じゃあ私だって狩人なんだナ!サーニャを狙うオオカミは私が撃ち抜いてやるんだナ!」

バルクホルン「…こいつらは明らかに嘘だろう」

坂本「いいや分からんぞ。いつもの調子のフリをして虎視眈々と…という可能性もある。こいつらもエースだ、狙った獲物を逃すような甘い奴らじゃ無いぞ」

サーニャ「…でも逆に、狩人のフリをした人狼っていうこともあるわ。狩人は人狼から一番狙われ易い分、複数居れば誰かを囮にすることが出来るもの」

宮藤「じゃあ、狩人の人たちの中に人狼が…?」

ミーナ「あれだけ狩人を名乗る人物が多いのなら、その可能性はあるわね」

 立て続けに3人が狩人であると名乗り出たことで、狩人候補は5人となる。そうして全員が自身の役職を名乗ったところで…

 

昴「…はい、時間切れだ。それじゃあ夜パートに移るぞ」

宮藤「ええッ、もう3分経ったの?」

リーネ「まだ何も分かってないのに…」

昴「そういうもんだからな。諦めろ」

ルッキーニ「ちぇ~…」

 結局議論らしい議論をする間もなく、いよいよ脱落者の出る夜パートへと移行する。

 

昴「それじゃあまず、自分の役職が書かれたカードを伏せた状態で前に置いてくれ。…ああ、既に公表済みの宮藤も伏せておいてくれ。全員がカードを置いたら目を瞑って、狩人による追放指名からやっていく。人狼による襲撃指名が終わってから目を開けて、その時にカードが表向きになっている奴が脱落者になる」

シャーリー「いよいよか…なんかちょっと緊張するな」

ルッキーニ「ドキドキするぅ~」

エイラ「ぐぬぬ…無意識に占いたくなるゾ」

サーニャ「駄目よエイラ、ルールなんだから」

 ゲームとはいえこれから誰かが蹴落とされるという感覚にハラハラしつつ、皆がカードを伏せて恐る恐る目を瞑っていく。

 

昴「…よし、では夜パートを始める。まずは狩人役だけ目を開けて、追放する人物を指さしてくれ。もし誰も選ばないのならそのままでいい」

『……』

 昴の指示が出た後、数秒間の沈黙が続く。

 

昴「…よし。では今回は狩人による追放は無し…ということになる」

『ホッ…』

 誰のものか分からない溜息があちこちから漏れる。味方である狩人から狙われるというのは、人狼に襲撃されるよりも緊張するものであった。しかし、本番はここからである。

 

昴「ではこれより、投票タイムに移る。今から一人ずつ名前を呼んでいくから、投票する人物のところで手を挙げてくれ。最後まで手を挙げなかった場合、投票を拒否したものとするぞ。そんじゃあ…宮藤。…次、少佐。…中佐、リーネ…」

 昴が一人ずつ名前を読み上げていく。自分の名前が挙がった瞬間、誰かが手を挙げているのでは無いかと気になって思わず目を開けてしまいたくなるのをぐっと堪え、皆は投票タイムが流れていくのを待つ。

 

昴「…よし。では今回の投票だが…拒否多数により、追放者は無しとなった」

宮藤「はぁぁ…良かったぁ」

バルクホルン「…だが、拒否多数ということは全員では無いのか?」

昴「ああ…占い師、狩人、人狼を除いた8人中拒否したのは『5人』だ」

シャーリー「危なッ!?割とギリギリじゃんか」

サーニャ「誰が誰に投票したのかな…?」

 誰かが自分に入れたかも知れない…そんな疑心暗鬼に、皆は目を瞑っているのに顔を右往左往させてしまう。

 

昴「さーて…それじゃあ、いよいよ人狼のターンだ。人狼さん、目を開けてくれ」

『…!』

昴「それでは、誰を襲撃するのか…選んでくれ」

 昴の指示を受けた人狼役が目を開き、意を決した表情で一人を指さす。

 

昴「ほうほう…了解した。では襲撃された人物のカードを捲らせて貰うぞ」

宮藤(い、一体誰が…って、近くに来た!?)

バルクホルン(いや、これは…どうやら一通り全員のカードに触れるようだな。誰が選ばれたのか察せなくする為か)

エーリカ(ぐぬぬ、スバルめぇ…じれったい真似をぉ…!)

 さも自分のカードが捲られているかのように順繰りに回っていく昴。その意地の悪い動きに思わずイラッと来てしまうがなんとか動揺しまいと平静を保つ一同。

 

 

昴「…では、結果発表だ。全員、目を開けてくれ」

 昴の進行を受け、恐る恐る目を開く。

 

宮藤「…あッ!」

ペリーヌ「ああッ!?」

 

 

 

坂本「…むぅ」

 襲撃されたのは、坂本美緒。そのカードに記された役職は『狩人』であった。

 

シャーリー「い、いきなり少佐が…しかも狩人一本釣りかよ」

バルクホルン「おそらく少佐だろうとは思っていたが、いきなり狙ってくるとは…豪胆だな」

ペリーヌ「し、ししし少佐がッ…!?だ、誰ですのッ!少佐を襲った不埒者は!?私が成敗してさしあげますのッ!!」

リーネ「ペリーヌさん、そういうゲームですから…」

坂本「…ハッハッハ!いやまさかこんなに早く襲われることになるとはな、恐れ入った!ハッハッハッハ!」

ペリーヌ「お、襲わ…キィィィィッ!!」

ミーナ「…美緒、火に油を注いでるわよ。そもそも狩人だって名乗り出たりすれば狙われて当然じゃないの。…尤も、いきなり美緒からとは思ってなかったけれど」

 5人の狩人候補の中から本物を見抜き、その上一応この中では2番目に偉い坂本を躊躇無く狙った人狼に坂本本人も含めて舌を巻く他なかった。

 

昴「…と言うわけで、坂本少佐が襲撃されました。少佐は狩人なのでカウント外扱いだから、村人が後4人失格になった時点で人狼の勝利となる。…ではそれも踏まえて、2日目を開始する!」

 

 

 ゲームは続く…ネウロイが現れるまで。




今回のルールは基本のルールに私がちょっと手を加えたものですのでかなり適当です。皆さんも誰が人狼なのかひっそり予想してくれると嬉しいです

ではまた次回


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生まれ変わった空の下で

なんか思いついちゃったので書いてみました。あとエーリカがヒロインの作品があまり無かったので…

今回は導入なので短くて内容もお粗末ですが…

ではどうぞ


 20世紀初頭…地球人類は、前代未聞の危機に陥っていた。遥か遠い空の彼方より飛来した謎の侵略者、『ネウロイ』。輝く宝石のようなコアを心臓部とし、戦闘機や軍艦、果ては悍ましい見た目の生物のような姿まで多種多様な形態と、既存の人類技術ではあり得ない『光線攻撃』という圧倒的な戦闘力、そして何より倒しても倒しても際限なく現れる数の暴力により、地上はすさまじい勢いでネウロイの支配下へと塗り替えられていった。ネウロイによって支配された大地はネウロイの放つ瘴気によりみるみる生気を失っていき、人間はおろか動植物や水源ですら枯れ果て、死の大地へと変貌していった。

 

 しかし、人類も黙ってやられているばかりではない。現行の兵器と戦術ではネウロイに対抗できないと判断した人類は、最後の希望として『魔力』をエネルギーとして動く魔導エンジンを搭載した現代の箒…『ストライカーユニット』を開発した。そしてそれを使うことが出来るのは、太古より人類史に時折現れる『動物の使い魔』をその身に宿し、常人には持ちえない魔力を扱うことが出来る少女たち…『魔女』と呼ばれる存在だけであった。類まれな力を有した彼女たちは、人類を…地球を守るために、ストライカーを駆ってネウロイとの死闘を繰り広げていく…。

 

 

 それがこの世界…『ストライクウィッチーズ』という世界の歴史の筈であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…そんな世界に、なんで俺は生れ落ちてしまったんだ?」

 時は1936年、初めてネウロイの存在が確認された『第一次ネウロイ大戦』から約20年後。欧州におけるネウロイとの戦いの最前線となった地…『帝政カールスラント帝国』の片田舎にある小さな病院の一室で、少年…『岩城昴』は空を見上げながら人知れずそう呟いた。

 

 

 彼は、厳密にはこの世界の住人ではない。彼には『この世界に生まれる以前』の記憶があり、その時彼が生きていた時代は『21世紀』…この時代から100年近く未来の時代であった。そしてその世界では、この世界に於いて常識である魔力やストライカーユニット、そしてネウロイといった存在は全て創作、『フィクション』の筈だった。少なくとも彼の記憶では、現実の話題として魔女の存在も侵略者が現れたなどということも聞いたことが無かった。

 彼は前の世界に於いて、所謂『神童』と呼ばれていた。航空自衛官の父と予備自衛官で看護師の母の間に生まれた彼は、生まれ持った超人的な『動体視力』と『反射神経』により様々な分野にて頭角を現し、地元ではちょっとした有名人になるほどであった。両親ともに忙しく家に帰ってこないこともよくあったが、両親の仕事が立派なものであることを理解していた彼は寂しさを堪え、自ら家事を買って出て苦労を掛けないようにしていた。

 

 …しかし、そんな彼の順風満帆であった日常は突如終わりを告げることとなる。ある日から、彼は全身に妙な梗塞感を感じ始めた。最初はただの疲れかと思っていたが違和感は徐々に強くなり、ついには歩いている最中に足がもつれて転んでしまい、そのまま立ち上がることが出来なくなってしまった。たまたま通りがかった近所の住人に助けられ、慌てて帰宅した両親と共に病院へと向かった彼を待っていたのは、残酷すぎる事実であった。

 医師曰く、自分は『全身が骨のように固くなってしまう奇病』に侵されているという。なんでも数万人に一人という割合で起きる奇病中の奇病で、原因も治療法も未だに不明などだという。それを聞いた両親は発狂したように取り乱し、なぜ自分たちの子がと大泣きで嘆いていた。

 勿論彼もショックであった。彼の夢は父と同じ航空自衛官となり、幼い頃からずっと憧れていたそこまでも続く大空を自由に飛ぶことであった。しかし、こんな病を患ってしまえばその夢ももはや叶うことはない。そう思った時…彼の心を支配したのは怒りでも絶望でもなく、もう自分には何もできないのだという『虚無感』であった。

 

 母の計らいで母の務める病院に入院した彼は周囲の目から避ける為に専用の病室を用意され、心身のケアの為に特別に許可されたことで両親から漫画やゲームなどを大量に買い与えられ、治療法が見つかるまで闘病生活を強いられることとなった。だが、どんなに娯楽を与えられても彼の心の空虚を満たすことなど出来ず、彼は毎日死んだような目で目的もなく漫画やゲームに没頭するだけの日々を送っていた。

 その痛々しい様子に多くの医師や看護師が近寄ることすら躊躇っていたが、ある日その年配属されたばかりの新人ナースの一人がその様子を見て、突如病室に入っていったかと思うと無気力にゲームをする彼の隣に座り、もう一つのコントローラーを手にこう言った。

 

『そんなどこ見てんのかもわかんない目でゲームしたって、楽しい訳がないでしょ!おねーさんが楽しいゲームってもんを教えてあげる!』

 …どうやらそのナースは生粋のゲーマーらしく、ゲームに割り込んでくると物凄いテクで彼を圧倒しだした。最初は何事かと思ってみていた彼も、ボロクソにやられだしたことで燻っていた負けん気に火が付き、何時しか二人そろって白熱しだしていた。…なお、当然そのナースはその後専属看護師である母にこっぴどく叱られたが、その無邪気な無神経さに心を救われた彼の助け舟により、時々ゲームや漫画の相手をすることが許されたのだった。

 

 2人は様々なジャンルに手を伸ばしていたが、とりわけ『モンスターハンター』というハンティングゲームを好んだ。ゲーム人口が多く、オンラインでならば病室であろうともほかのプレイヤーと遊ぶことが出来、何より様々な大自然のフィールドが自由に動けない彼の心の僅かばかりの癒しとなったからだ。その中で、彼にはシリーズを通して最も気に入っているモンスターが居た。

 

『君さー、そのナンバリング好きだよね。最新作出てるのにわざわざダウンロード版買ってまでやってるんだから』

『うん…まあね。勿論最新作も面白いけどさ、こいつ…『バルファルク』の飛んでるところ見れるのはこのタイトルだけだから』

 天彗龍バルファルク。数あるモンスターの中でも一際特異な、ジェット噴射により空を飛行する古龍種モンスター。その姿はかつて夢見た自衛隊の飛行機のようで、その姿に憧れと、ゲームの中とはいえ自由に空を駆けることに若干の嫉妬を感じながら、彼はバルファルクを制限時間ぎりぎりまで観察しながら狩り続けた。…徐々に動けない部分が多くなっていく自分の体という現実から、目を背けるように。

 

 …そして、その時は突然訪れた。いつものようにバルファルクと戦い、狩猟完了が告げられたその瞬間、彼の胸に激痛が走った。進行する病が、とうとう心臓にまで至ったのだ。全身に血液を送る心臓が動きを止めたことで、少年の意識は徐々に薄れていく。周りの大人たちが騒ぎまわる声が聞こえるが、それもどんどん遠くなっていく。そして…意識が途切れる直前、彼は己の不運を嘆きながらこう願った。

 

『…次に、生まれるときは…今度こそ、空を飛びたいなぁ…。父さんみたいに、バルファルクみたいに…さ…』

 

 

 

 

 …それが彼の、岩城昴として生まれるまでの記憶であった。

 

「次に生まれたら…なんて思ってはいたけどさ、まさか過去に生まれ変わるってどうよ…?」

 生まれ変わった昴は、扶桑皇国…前の世界における日本で製薬業を営む岩城家の長男として誕生した。その頃の扶桑はウラル方面から流れてくるネウロイを撃退しつつ、最前線である欧州の支援のために物資や人員を送る後方支援国家として活動していた。当然、支援物資には医療品もあり、岩城家は日夜最前線に送る医薬品を作り続けていた。また、昴の両親は業界でも有名な人格者で、医薬品の供給が滞りがちな辺境の人たちのためにしばしば直接現地に赴いて物資を届けに行くこともあった。軍事物資である医薬品を統括する扶桑国軍に窘められることもあったが、それでも彼らは一人でも多くの人を救うために渡欧を止めなかった。

 そして今回、成長した昴は見聞を深める意味も込めて両親と共に最前線であるカールスラントへとやってきていたのであった。

 

 …最も、昴がそのことを思い出したのはついさっきのことである。それまでは魔女だとかネウロイなどという単語を聞いても、この世界に生きる人間として当たり前のような感覚しか憶えなかった。そもそも昴は前の世界でも『ストライクウィッチーズ』という作品をあまり知らず、サブカル好きだったナースから勧められてちらっと観た程度で主要人物の名前すらうろ覚えであった。…だからこそ、そのうろ覚えであった名前の『本人』が目の前に現れた時、昴は否応なく前の世界の記憶を邂逅し、自分が今に至るまでのことを思い出したのであった。

 

「…ねー、なにしてんのさー?空ばっか見たってつまんないしでしょー?」

「…人間、偶には何もない空を見たくなる時だってあるんだよ。『エーリカ』」

 エーリカ・ハルトマン。それが今回昴の両親が物資を届けに来た病院の院長の娘で、昴が初めて出会った『原作登場人物』であった。彼女の元ネタである『エーリヒ・ハルトマン』は有名なパイロットであった為、昴も彼女のことは一応憶えていた。…最も、今はまだ彼女も自分と同じ8歳の少女でしかないため、未来のウルトラエースの片鱗は未だ見せてはいないが。

 

「何ソレ?スバルってさー、なんかちょっと変じゃない?私に会った途端に変な顔してどっか行っちゃってさ。…なんか悪いことした?」

「いや、そういう訳じゃないんだ。…気を悪くしたならごめん」

「別に謝らなくてもいいけど。それより、暇なら一緒に遊ぼーよ!ウルスラも引っ張ってくるからさ!」

「…うん、わかったよ」

 

(原作じゃズボラなダメ女な感じだったけど、今は別にそんなことないよな…。何が原因でああなったんだか…?)

「…へくちっ」

 エーリカに手を引かれる昴のそんな心の声に反応するように、カールスラントのどこかでとある少女がくしゃみをしたとかなんとか。




岩城昴…今作の主人公。現代日本からストパン原作開始(宮藤501加入)8年前の扶桑に転生した。この転生には理由があるが、それが明らかになるのはかなり後になる。生前は才気煥発、器量よし、料理男子という神様が誂えたかのような神童であったが、突如難病を患い若くしてこの世を去る。闘病中にモンハンにハマり、特にバルファルクに強い憧れと若干の嫉妬を覚えるほどであった。ACなどの飛行機操作系のゲームもやったが、逆にむなしくなって早々に投げた
ストパン世界に関する知識はうろ覚えで『ネウロイが侵略してきてヤバイ』ことと『スカート履いてない女の子が空飛んでる』ことぐらいしか知らない。主要人物の名前と顔もうろ覚えで、顔と名前を聞いたらどんなキャラだったか思い出せるレベル。なので原作知識チートはほぼありません
元ネタになった人物は岩井勉。太平洋戦争を被弾無しで生き残ったという旧日本軍のウルトラエースです


ちなみにオリ主の死因の病気は某闇医者漫画のネタから拝借しました。
次でプロローグが終わりになります。ではまた


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ハルトマン家での日々

スンマセン、前回次でプロローグ終わりって言いましたが、キリが悪かったので分割しました。続きはなるべく早く投稿しますのでご了承下さい

ダンロンの方も続き書いてるのでそっちの方ももうちょっと待ってね。他は…まだ少しかかるかも。何分その日のテンションで書いてるので…

ではどうぞ。


「パスパース!」

「よーし行く…」

「へへーッ!いただきー!」

「え…アッ!エーリカに取られた!」

「誰か早く止めろ!エーリカに回したらボール戻って来ねーぞ!」

 エーリカに連れられた昴とウルスラは、地元の子供達のサッカーに強引に乱入させられることとなった。今し方相手チームのパスをカットしてボールを奪ったエーリカが、同年代の男子を弄ぶかのように華麗なドリブルで躱していく。…ちなみにウルスラは早々に体力の限界を迎え、今はDFを称してゴール前に突っ立っている。

 

「3人がかりだ!絶対にゴール前まで行かせるな!」

 相手チームのキャプテンの指示により、エーリカを取り囲むようにして行く手を阻む。しかし…

 

「…隙ありッ!」

「あッ!?」

 包囲される寸前に、エーリカがボールを高く蹴り上げて相手の頭上を越える。その先には、既に回り込んでいた昴が控える。

 

「行けぇスバル!」

「よっしゃ任せろッ!」

 エーリカの包囲に人員を割いたことでキーパーを除いてガラ空きになったゴール前に躍り込んだスバルは、落下してくるボールにタイミングを合わせ…くるりと身を翻して跳んだ。

 

「コレがオーバーヘッド・キックだッ!!」

 

ドォンッ!

 宙返りする勢いで振り上げた脚がボールを捉え、凄まじい勢いでゴールへと迫る。

 

「へ…?う、うわぁ!?」

 予想だにしない動きとボールの軌道に、キーパーは一瞬虚を突かれて動けず、慌てて飛びついた時には既にボールは後ろへと転がっていた。

 

「よっしゃー!見たか俺の超ファインプレー!」

「えーッ!?何今の!?私もやりたいやりたーい!!」

「いや、止めとけ。初見で出来るもんじゃないから。失敗すると首がイカれるぞ」

「ちぇー…」

「スバルさん、凄いです…!」

「くそっ!あの扶桑人やるじゃねえか…」

「平たい顔してるくせに生意気だぜ…!おい、次はあの扶桑人も抑えるぞ!」

 最初こそ見慣れない扶桑人、しかもガキ大将のエーリカが連れてきたということもあって舐められていた昴であったが、前世から持ち越された反射神経と運動センス、そして1930年代より洗練された21世紀のサッカー技術によりあっと言う間に他の子供達を手玉に取り、やがて全員がムキになって本気で遊んでいる間に打ち解けるようになったのだった。

 

 

 それから1時間後、腹の虫の大合唱を理由にサッカーはお開きとなり、エーリカ達も家路についていた。

 

 

「いやー楽しかったね!最近はアイツら私をずっとマークしてきたから、スバルが居たお陰でいつもより動けたよ」

「そうかい。ま、俺もハットトリック決められたし結構楽しかったよ」

「もう、姉さまもスバルさんも泥だらけ…帰ったらちゃんとシャワーを浴びて下さいね」

「はいはーい…あ~、でもそんなことよりお腹空いたな~」

「でも、父さまも母さまも今日は問診で夕方まで帰ってきませんよ?」

「げっ、そうだったけ?」

「…そういや、ウチの親も一緒に出てるんだったな。薬の需要調査とかで」

「え~!どうすんのさ~?」

「ポテトなら台所にたくさんありましたけど」

「材料あっても料理なんか出来ないよ…」

 

「…ふむ、そういうことなら俺に任せとけ」

「「え?」」

 

 

 

「何コレおいしー!!」

 帰宅後、シャワーと着替えで綺麗になったスバルは台所を借り、ジャガイモを使ったおやつの数々を作り上げた。ジャガバター、ハッシュドポテト、ポテトサラダ、いも餅(醤油が無いのでバターと蜂蜜でキャラメル風ソースで)…1930年代では見慣れないポテト料理の数々に、エーリカは目を輝かせて食いついた。

 

「どうだウルスラ、美味いか?」

「はい、美味しいです…!同じ加熱しているのに、『茹でる』と『蒸す』でこんなに変わるんですね…」

「蒸す方が火の入り方が緩やかで水っぽくもならないからな。それより、バターとか卵とか調味料も少し使っちゃったけど大丈夫なのか?」

「いーよいーよ!美味しいから大丈夫!それよりこの甘いのおかわり!」

「いも餅な。…なんか嫌な予感がするけど、大丈夫だよな…?」

「?」

 

 その後、おやつの食べ過ぎで夕食が食べられなかったエーリカたちが怒られてしまったのは当然の結果であった。

 

 

 それから1週間後…ハルトマン家だけでなく街の人々からも気に入られてしまったため予定以上に長く滞在することになってしまったが、岩城一家が扶桑へと帰国する日がやって来た。

 

「大変お世話になりました。このお礼は、追って何かしらの形でお返しさせてもらいます」

「気にしないでくれ、俺達が好きでやってたんだ。そもそも薬やらなんやら世話になったのはこっちだしな。…スバルも、娘達と仲良くしてくれて嬉しかったよ」

「いえ、俺も楽しかったです。ダンケ(ありがとう)ヘアー・ハルトマン(ハルトマン先生)

「うふふ、もうカールスラント語も立派なものね。家の娘達も見習って欲しいわ。1人はヤンチャ盛りだし、1人は本の虫だし…」

「か、母さま…!」

「…ところで、お姉さんの方は?」

「あ…その、姉さまは…見送りなんかしたくないって…その…」

「…済まんな、スバル。エーリカは君と離れたくないと聞かなくてな…」

 昨夜からいつになく気落ちした様子で、今朝になって見送りを拒否して部屋に閉じこもってしまったエーリカに、ハルトマン夫妻とウルスラが申し訳なさそうに頭を下げる。かくいうウルスラも、目元にうっすらと涙の跡が残っており、目も若干赤いままであった。

 

「…いえ、お気になさらず。昨日からなんとなくそんな気はしていたので。…けど、挨拶もしないで帰るのは俺としても気が引けるので、そこんとこはちゃんとしますよ…」

「?」

 

 

 一方、エーリカはと言うと部屋のベッドでシーツを被ったまま蹲っていた。

 

「…ッ、ぐすっ…なんだよなんだよ、まだ帰らなくたっていいじゃんか…!スバルもスバルだよ、あっさり帰り支度なんかしちゃってさ…もっと遊びたくないのかよ…ウルスラだって、私だって…まだ…ッ!」

 完全に拗ねた様子でブツブツと独り言を呟いていると…

 

「…エーリカァァァッ!!」

「ッ!?」

 窓の外から響く大声に目を見開き、思わず窓を開け放つと、それを確認した昴がニヤリと笑い、尚も叫ぶ。

 

「お前さー!俺らが帰るからって勝手に拗ねてるみたいだけどさー!もう会えない訳が無ーだろうがよーッ!!いつかきっと…父さん達の仕事とか関係無くまた会いに来るからよーッ!それまで待ってろよなーッ!!」

「……ッ!う…うっさーいッ!拗ねてる訳ないだろバカーッ!!ちょっと寝坊しただけだってのーッ!…絶対また来てよー!約束だからねー!約束破ったら、こっちからお仕置きしに行くからねーッ!!」

「…ああ、約束だ!」

「…うんッ!」

 互いに涙を滲ませながら笑い合い、2人は再会を約束して別れることとなった。

 

 

 

 

 

 この約束が果たされるのに、『8年』の月日を要することになるなど、知る由も無く。

 

 

 

 

 

ガタゴト…ガタゴト…

 街を去った翌日、岩城一家は飛行場への道のりを馬車で進んでいた。

 

「…しかし、今回は何事も無くて良かったな。前回カールスラントに来た時は運悪くネウロイの襲撃に鉢合わせてしまったからなぁ」

「え!?それって大丈夫だったの?」

「ええ。幸い訪問先の村の近くに軍の駐屯地があって、そこのウィッチさんたちがやっつけてくれたの。でも、あの時は本当に怖かったわ…」

「この辺りも小さいけれどネウロイがちょくちょく出てたらしいけど、最近軍によって掃討されて以来出てないらしいからな。とりあえず今は大丈夫だろう」

「…小さいって、どんな風なネウロイだったの?」

「ああ、なんでも丸っこいボールみたいなネウロイだったらしい。…けど不思議なことに、人を見かけても攻撃してこないでただふらふらと辺りを飛び回っているだけだったんだと」

「……ねえ、それって…ただの『偵察係』だったんじゃ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…カッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 その数分後、エーリカの街周辺一帯に『ネウロイ出現』の警報が鳴り響いた。

 

 

 




勝ち気な女の子は餌付けが定番。ちなみにこの時期のエーリカはヤンチャではあるものの片付けろと言われればまだ片付けれる。…ルッキーニの年齢から推察して生活無能力者まで後4年程か…

ではまた次回


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蘇る銀翼

今回でプロローグは終わりです。展開が突飛かもしれませんが、全て伏線ありきですので楽しみに見てくれると嬉しいです

ではどうぞ


「…ッ、ハッ…ハッ…!」

 うっそうとした針葉樹の森の奥…崖っぷちにぽっかりと空いた洞穴の中で、昴は荒い呼吸をなんとか落ち着かせようとしながら隠れ潜んでいた。

 

「クソッ…クソォ…!なんで、なんでこんなことに…父さん、母さん…ッ!」

 

 あの直後、街道の周囲の森の中から放たれた赤い閃光が岩城一家の乗った馬車を襲った。外の景色を見るために馬車の後方に座っていた昴は、幸か不幸かその衝撃で吹き飛ばされ近くの茂みの中に転げ落ちた。痛みを堪えながら起き上がった昴はハッとして自分が飛ばされてきた方向を見るが…そこにはかつて馬車であった残骸だけが散開し、馬も、御者も…両親の姿も、影も形も残っては居なかった。

 現実を理解した昴が嘆きの叫びを上げる寸前、森の奥から何かが姿を現わした。けたたましいキャタピラ音を響かせながら現れたのは、重厚な装甲を模したボディと88ミリ高射砲を備えた漆黒の怪物…所謂『ティーガーⅠ』と呼ばれる戦車の姿をしたネウロイであった。その周囲には先ほど父が話していたものであろう球状のネウロイがいくつか浮かんでおり、昴の予想どおりそれがあの戦車型ネウロイの『偵察機』であったことを示していた。

 

 それを視認した昴は喉元まで出かかった叫びを必死に飲み込み、しばし悩んだ後に断腸の思いで両親の死地から背を向け、音を立てないようこそこそと森の中へと逃げ込んだ。既に一度『死』を経験している昴だからこそ、家族の死を目の当たりにし、自分自身の死すら迫ったこの状況に於いても、理性を失う事なく最善の選択を選ぶことが出来たのである。

 …しかし、最善の選択をしたからといって何事も無く済むはずなど無かった。木々の間を這うようにして逃げていた昴であったが、とうとう偵察機の一機に見つかり、それを察した本体が木々をなぎ倒しながら昴へと迫る。見つかったことを感じた昴は隠れるのを止めて全力で逃げ、偵察機の目を振り切ろうと物陰や木々の隙間を走り回っている間に、この洞穴を見つけて飛び込んだのであった。

 

「…まだ、ここに隠れていることには気づいてないみたいだな…。とはいえ、あの監視体制の中じゃ時間の問題か…」

 穴の隙間から外を窺うと、直ぐ近くに戦車型ネウロイが鎮座しており、偵察機が巡回するようにぐるぐると回っていた。

 

「ここから最寄りの基地までは距離がある…ついさっき警報が鳴ったから、ここに到着するまでは…平均的なストライカーの速度でも30分は掛かるか……持ちそうには、ないな」

 扶桑に居た頃に見たウィッチの飛行速度から現着時間を想定し…自分が見つかるまでに間に合いそうにないことを悟り、歯噛みする。

 

「…それでも、諦めるものか…!俺が死んだら、それこそ父さん達の死が無意味になってしまう…!それに、俺を殺せばまた奴はウィッチに見つからないように何処かに隠れてしまうだろう。そうなったら今度はあの街が…エーリカ達が危ないッ…!なんとか、ウィッチが来るまで生き延びるんだ…!」

 覚悟を決め、なんとしてでも生き延びるべく昴は少しでも見つからないよう洞穴の奥へと向かおうとする。

 

…ポロッ

コツン…!

 その時、ネウロイの震動音によって頭上から何かが転がり落ち、昴の頭に当たる。

 

「痛ッ…なんだ、石か?」

 声を殺してそれを拾い、微かな隙間の光にそれを翳して確認してみると…

 

「…これ、アンモナイト?」

 昴の頭に落ちてきたのは、黒々とした掌ほどの大きさの『アンモナイトの化石』であった。

 

「なんでこんなものが…もしかしてこの崖、太古の地層なのか?この土壇場でなんだってこんな発見を…」

 

 

ドガァァンッ!!

「うわぁッ!?」

 突然、劈くような音と共に凄まじい衝撃が空気を震わせ、空気だけで無く昴の潜む洞穴も地震でも起きたかのように震え、少しずつ崩れだした。

 

「…まさか、見つかった…いや違う、野郎どこかに隠れてるからって滅茶苦茶に撃ちまくってるのか!クソッ、このままじゃ見つかるより先に生き埋めになっちまうぞ…!」

 悪態を吐きながら頭を抱えて身を屈めるが、洞穴の岩盤は徐々に崩れ落ちていく。そして…

 

ドォォンッ!!

ガコォォンッ!

「うああッ!?」

 昴の居た直上に命中した砲撃により頭上の岩盤が崩れ、巨大な瓦礫となって洞穴の入り口がこじ開けられてしまった。

 

「ぐ、うッ…もう、駄目かッ……?」

 ボロボロの身体を必死に動かしながら尚も逃げようとする昴であったが…顔を上げた先、自分の直ぐ近くに落ちてきた巨大な瓦礫を見た瞬間、その表情が驚きの色に凍る。

 

「これ、は…」

 その瓦礫…否、瓦礫と思っていたものは、透き通るような群青色をした楕円形の物質…色こそ違うが『琥珀』の様な巨大な結晶であった。そしてその青い琥珀の中に閉じこめられていたものに、昴の目は釘付けになっていた。

 やや黒ずんだ銀色の鱗。槍のように尖った頭部。三つ又に分かれた、翼と呼んでいいのかすら不明な形状をした特徴的な翼脚。そして、胸部にぽっかりと空いたロケットの噴射口のような孔。あちこちに戦いのものであろう生傷を残したままの雄々しい姿をしたその生物の名を、昴は誰よりも知っていた。

 

 

「バル…ファルク…!?」

 天彗龍バルファルク。『銀翼の凶星』とも呼ばれ、前世の自分が何よりも憧れた大空の支配者たる古龍の完全な肉体が、そこにあった。

 

「なんで、バルファルクがここに…?どうしてこんなものの中に、というか…なんでバルファルクが『実在』してるんだ?」

 余りの事態に驚きと困惑が入り交じり、混乱する昴。…しかし、そんな彼の心情など知る由も無く破滅の衝撃が襲いかかった。

 

ビィィィッ!

バキィィンッ!

「ぐあッ!?」

 昴の背後から放たれた光線が、バルファルクの琥珀に直撃する。琥珀は木っ端微塵に砕け散り、その破片が昴の身体を打ちのめし、中のバルファルクの身体も地に堕ちた。

 

「…チェッ、人が折角憧れの存在を前に感動してるってのに…情緒のねえ侵略者だ、全く…!」

 もはや死に体となりつつも起き上がろうとする昴に、ネウロイが砲口を向けながら近づいてくる。

 

「…さっきはもう駄目かも、って思ったけど…こんなものを見ちまったら、もうそんなこと言ってられるかよ…!俺が憧れた、俺が目指したあのバルファルクが、今ここにいるんだ…!だったら、もう逃げも隠れもしない…ッ!最後の最後まで、抗ってやるッ!俺は絶対に生きるんだ!父さん達の為に、エーリカとウルスラとの約束を守るためにッ!だから…力を貸してくれ、バルファルクッ!!オオオオオオオッ!!」

 

 

 雄叫びを上げ、ネウロイへと向かって昴が駆け出そうとしたその時…

 

 

 

 地に堕ちたバルファルクの目が、遙か昔に琥珀となった筈のバルファルクの目が

 

 

 

 

カッ!

 力強く、見開かれ

 

 

 

ドウンッッ!!

 その場を、赤黒い輝きが覆い尽くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …数十分後、現場に駆けつけたウィッチが目撃したのは、ネウロイに破壊されたであろう馬車の残骸と…まるで大規模な戦車戦でも行われたかのように灼かれ、削られ、抉られた森の惨状であった。出現したであろうネウロイの姿は無く、後に応援に駆けつけた探知魔法を持つウィッチを以てしても痕跡すら発見できず、やがてネウロイ…そして生存者の捜索も打ち切られることとなった。

 現場に残された馬車の残骸から岩城一家の契約したものであることが分かり、全員が死亡したものと見なされ、その報は扶桑に…そして直前に訪れていたエーリカの街にも知らされた。

 

 扶桑の岩城家の製薬会社は万が一に備えて用意されていた当主の遺言書により、会社の権利は国へと移り、国営の製薬企業として運営されることとなった。岩城家にはこれまでの各国での活動により、欧州各国から勲章と感謝状が贈られ、一家は名誉の戦死として扱われることとなった。

 

 一方、訃報を知らされた街の人々は岩城一家の死を嘆き、街の英雄として慰霊碑を建てるほどであった。特にエーリカとウルスラのショックは大きく、2人とも知らせを聞くや否や狂ったかのように泣き喚き、しばらく憔悴して部屋から出てこなかった。その後、両親のケアもあってどうにか立ち直った2人は軍人になることを両親に告げ、適性検査の結果2人ともウィッチの素養を見いだされ、特にエーリカは類い希な魔法力と戦闘センスがあることが分かり、最終的に両親が折れたことで軍学校へと入学した。

 ウルスラは自分に戦いの才能が無いことを自覚しており、当初から前線では無く研究者として兵器や魔法力に関する勉強を始めた。エーリカは当初こそ親友を奪ったネウロイに対する憎しみでオーバーワーク気味であったが、指導役となった『ヴァルトルート・クルピンスキー』ののらりくらりとした態度に感化されたり、エーリカをライバル視してしつこく絡んでくる『ハンナ・ユスティーナ・マルセイユ』と競い合ったり、以後様々な意味でお世話になる『ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ』に諭されたり、後に愛称で呼び合う程の仲となる『ゲルトルート・バルクホルン』という新たな友との出会いにより適度に力を抜くことを憶え、以前のようなエーリカのまま軍人として成長していった。

 

 そして、軍学校を卒業した2人は正式に軍属となり、ウルスラはスオムス方面の防衛を担う507統合戦闘航空団『サイレントウィッチーズ』…裏で『スオムスいらん子中隊』と呼ばれる部隊に所属し、マニュアル重視の頭でっかちな性格で自他共に四苦八苦しつつも戦果を上げ、後にカールスラント技術省で新兵器の開発の一翼を担うこととなる。

 エーリカは最前線へと配属され、同期の仲間達と共に数々の武勲をあげ『カールスラント4強』の1人として英雄となるが、それでも尚も進行の止まらないネウロイによりとうとうカールスラントの首都ベルリンが陥落、エーリカ達は祖国を追われ、クルピンスキーはウラル方面、マルセイユはアフリカ、エーリカ、ミーナ、バルクホルンはブリタニアへと分かれることとなった。そしてミーナがブリタニアにて立ち上げた第501統合戦闘航空団…『ストライクウィッチーズ』にエーリカとバルクホルンは所属となり、欧州全土の奪還の為に尚も戦い続けることとなる。

 

 

 

 そんなネウロイとの侵略戦争の中で、ウィッチ達の間に奇妙な『噂』が流れていた。曰く、ネウロイの出現により出撃をした際、何時からか昼夜を問わず『赤く輝く彗星』が見えるようになったという。彗星が何度も見えるようなことはそうは無い筈なのだが、目撃者のウィッチの証言は絶えなかった。正体を確かめてやろうとスピード自慢のウィッチが追いかけようとしたこともあったが、ストライカーの限界速度を魔法でブーストしても尚追いすがるのが精一杯という超高速で飛行しており、おまけに通常の飛行高度を超える空域を飛んでいるため魔法力が持たず、ハッキリと捉えることは出来なかった。

 …そしてなにより不気味だったのが、その彗星が目撃された現場では警報が鳴ったにも関わらずネウロイが不在、或いは想定よりも少なかったり満身創痍だったりと、ウィッチの出番が殆ど無いという事例が多々報告されていた。欧州奪還の為に設立された遺欧艦隊は損耗が出ないことを喜んだが、現場の士官にとっては不気味以外の何物でも無く、いつしか彗星は『凶星』と呼ばれ畏れられることとなった。

 

 

 

 

 そして…来る1944年、扶桑の『宮藤芳佳』が父であるストライカー開発者『宮藤一郎』からの手紙を理由に501へと加入した年、ついに運命の歯車が噛み合い始めた。

 




バルファルクが閉じ込められていた結晶は、実はとあるモンスターによるものです。登場はおそらくずっと先になるでしょうが…

次回から一期編のスタートです。ではまた


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1944年 

徐々にお気に入りが増えてきていて嬉しい…!やはり自分と趣味が同じ人の存在を知ると励みになりますね。

そろそろ原作アニメもベルリン編が放送開始。今回ほどdアニメ入っておいてよかったと思ったことは無かったです
そしてモンハンもついに待望のスイッチ版最新ソフトが発表されましたね!和風仕立てっぽいので西洋モチーフのリオレウスとかラギアクルスみたいなモンスターの出番が不安ですが、アオアシラが出てきたところからして渓流周辺に出てくるモンスターはありそうですね。ジンオウガとかタマミツネもいいけれど、そろそろアマツマガツチの再登場も期待したいですね。…新アクション次第ではここでの出番も…
いつもはスラアク使いな僕ですが、和風ということは太刀や弓の方が映えそうなのでそっちも練習しとくべきか…

長々と失礼。ではどうぞ


 1944年…ネウロイの侵攻はある程度鎮静しつつあった。というのも、欧州北端より発生したネウロイは欧州、オラーシャ方面へと南下を始め、オラーシャのウラル、欧州のガリアを占領した辺りで大陸の端に到達し、そこからは樺太、ブリタニアを拠点とするウィッチたちとの海上戦が主となり、戦線が膠着状態に陥ったからだ。

 しかし、占領された各国の首都上空に現れたネウロイの拠点…『巣』と呼ばれる巨大な黒雲の塊から無尽蔵に現れるネウロイにより、人類は常に後手に回らざるを得ず、欧州奪還を目的とする第501統合戦闘航空団『ストライクウィッチーズ』もまた、最優先解放区であるガリアを目前としながら攻めきれない現状となっていた。

 

 そんなある日、最近501に加入した新人隊員の『宮藤芳佳』…ストライカーユニット開発の第一人者である『宮藤一郎』を父に持ち、上官である『坂本美緒』からの誘いと父からの便りを手に欧州までやってきた少女…は、基地司令官であるミーナと坂本からの呼び出しを受けていた。

 

「失礼します!み、宮藤芳佳軍曹、入ります!」

「ええ、いらっしゃい」

「ハッハッハ、なかなか様になってきたじゃないか宮藤!」

「は、はい…」

 まだ慣れない軍隊式の挨拶とともに入室した宮藤を、執務室のミーナと坂本が朗らかに迎えた。

 

「あの、今日はどうしたんですか?」

「ええ…宮藤さん、もうここでの生活には慣れたかしら?」

「は、はい!リーネちゃんやルッキーニちゃんとは仲良くなれましたし、バルクホルンさんやシャーリーさん、ハルトマンさんにも良くしてもらってます!…ただ、その…ペリーヌさんとはまだ打ち解けられてないんですけど。サーニャちゃんやエイラさんともあまり…」

「ああ…ペリーヌか。アイツも自分の故郷が目の前にあるのに、思うようにならなくて気が立っているのだろう。根は良い子だから、悪く思わないでやってくれ」

「サーニャさんやエイラさんも夜勤が多いから、交流の機会が少なくなってしまうものね。その辺りは、こっちでも考えておくわ」

「は、はい…」

「それでなのだけれど、宮藤さんもそろそろガリア沿岸…ネウロイ占領下付近の哨戒任務をやってもらおうと思うの」

「ええッ!?わ、私が…ですか?」

「宮藤、我々の任務はネウロイを迎え撃つだけではない。まずは目前のガリア、そしてやがては欧州全土の奪還こそが501に課せられた使命だ。その為にも、こちらから打って出る機会を見過ごすようなことがあってはならない。定期的に奴らの占領下を偵察し、その動静を記録することは立派な任務なのだ」

「は、はい…!でも、私ひとりじゃ…」

「ん?ハッハッハ!そう怯えるな宮藤、私やミーナもまだまだひよっ子のお前を一人で奴らの本拠地に送り込むほど鬼ではないぞ!」

「今回の任務は、ハルトマン中尉と一緒に行ってもらいます。宮藤さんはあくまで記録観察に専念し、万が一ネウロイと遭遇した場合は中尉が相手をするので、宮藤さんは帰還することを最優先とするように」

「でもそれじゃあ、ハルトマンさんが危ないんじゃ…」

「なに、そう心配するな。ハルトマンもカールスラントきってのエースウィッチだ。引き際はちゃんと弁えている、普段こそアレだが、戦場ではアイツの言うことを聞いていれば大丈夫だ」

「けれど、十分に気を付けてね。それじゃあ、一四〇〇にドッグに集合して頂戴」

「はい!」

 

 そして既定の時間となり、ドッグには出発準備を終えた宮藤とエーリカ、見送りに来た坂本、バルクホルン、シャーリー、リーネが集まっていた。

 

「芳佳ちゃん、気を付けてね。私も一度行ったことがあるけれど、近づきすぎなかったら大丈夫だから」

「うん、ありがとうリーネちゃん!」

「あんまり緊張するなよ、いざとなったらあたしが特急で助けに行くからな!」

「ハルトマン、くれぐれも宮藤を頼むぞ。…今日のお前は珍しく寝坊しなかったからな、いつもと違うから逆に不安なんだが」

「も~、酷いなトゥルーデ。私だってこういう時は気を引き締めたりするって!…もう絶対に、私の大切な人を失ってたまるもんか…!」

「…そうか。済まん…」

「ハルトマンさん…?」

 何時になく張り詰めた雰囲気のエーリカと、その様子に沈鬱な表情を浮かべるバルクホルンに宮藤が首を傾げていると、坂本が空気を切り替えるように宮藤を肩を叩きながら声をかける。

 

「まあ2人とも、今回はただの偵察任務だ。気負わず行ってこい、いざとなったら転進しても構わん。…ただ、最近はこの辺りでも『凶星』が現れることが多いからな。もし凶星が見えたら、ネウロイがいるかもしれんからそれだけは覚悟しておけ」

「凶星…?」

「あ、芳佳ちゃんはまだ見たことが無いんだっけ?凶星っていうのは、ここ数年でネウロイの現れる地域でよく見られるようになった、赤い流れ星のことだよ。私も一度だけ見たことがあるんだけど、本当に真っ赤で凄いスピードで飛んでたんだよ」

「…あ、そういえば昔見たことがあるかも。確か、7年前に扶桑の近くにネウロイが出た時に…」

「なんだ、見たことあったのか。あたしも正体を見てやろうと思って追っかけたことがあったんだけどな、スピードではなんとか追いついたんだがとんでもない高さを飛んでたんでな~。あそこまで上昇するのに魔法力が足りなくて諦めたんだよな~」

 『人類最速』を自負するシャーリーは、全力を以てしても追いつけなかった凶星のことを思い出し悔し気に語る。

 

「ウィッチの間ではあの凶星がネウロイを駆逐しているという噂があるが…正直眉唾物だ。凶星にも用心しておくべきだろうな」

「えー?そんなこと言うけどさ、トゥルーデだって凶星が飛んでた時に空振りしたことあったんでしょ?だからあれは味方だって!…多分」

「またお前は適当なことを…!大体、赤い光といえばネウロイの光線と同じだろう。あれが奴らの仲間でない保証は無い!まだ正体もわからんというのに…」

「まあそう熱くなるな。居るかどうかも分からん凶星より、今は確実に居るネウロイだ。…そろそろいい時間だ、気を引き締めて行ってこい!」

「りょーかい!んじゃ、行くよ宮藤!」

「は、はい!宮藤芳佳、発進しますっ!」

 

 ストライカーを履いた2人が魔法力を発動させると、ハルトマンの横髪がダックスフントの耳の様に黒く染まり、宮藤の頭からは豆柴の耳が生え、2人のお尻から犬の尻尾が生える。ウィッチが自身の使い魔の力を開放した証である。やがて魔法力を受け取ったストライカーからプロペラが出現し、魔法力を動力として回転を始める。その勢いで2人はドッグから海へと続く滑走路を滑空し…ドッグから飛び出すようにして、大空へと飛び立ったのであった。

 

「…凶星、か」

 徐々に遠くなっていく2人の背中を見送りながら、坂本がふと呟く。偶々隣にいたシャーリーは、歯切れの悪いその言葉に怪訝そうな顔になる。

 

「どうしたんだ、少佐?」

「…ああ。さっき宮藤が凶星を見たと言っていた、7年前…『扶桑海事変』の時なんだが、私もその時凶星を見たのだ。…それも、目の前でな」

「え?じゃあ少佐、凶星の正体知ってんの?」

「いや、はっきりと見たわけではない。…あの時は、哨戒部隊がネウロイと接敵したという報を受けて、偶然近くを飛行していた私が先行して駆けつけたんだ。幸いなことにその時の被害は軽微なものであったが、私が駆け付けた時…赤く明滅する光を放つ黒い影が飛び去って行くのが見えたんだ。その勢いはまるで砲弾のようでな、とてもじゃないが追いつこうなどとは思えなかった。その後、救助した部隊から話を聞いたんだが、一様にこう言っていたんだ。…『空から赤い光が落ちてきて、ネウロイを全滅させてしまった』…とな」

「ってことは…凶星がそいつらを助けたのか?」

「結果的にはな。凶星にその意図があったのかは分からん、偶々目についたネウロイを倒しただけかもしれんしな…」

 

(…ただ、見間違えかもしれないんだが…私はあの赤い光の中に、『人影』のようなものが見えた気がしたんだ。それも、当時の私とそう変わらない…下手をすれば私よりも年下の、子供のような人影がな…)

 まだ扱いきれなかった魔眼を必死に使い、ネウロイなのかどうかを確かめようとして見えたものを、坂本は言葉にはせず思い浮かべる。…あの時飛び去った凶星が落としていった、あれ以降お守りとして制服の裏に縫い付けてもらっている『黒い破片』を服の上から握りしめながら。

 

 

 

 

 

 

 …同時刻、ブリタニアの北方…スオムスからバルトランドにかけて広がるスカンディナビア山脈、その最高峰であるガルフピッゲン山の山頂に一人の男が座り込んでいた。北国の、しかも2000mを超える山脈の頂上であるにも関わらず男の服装はごく一般的なもので、しかし男はまるで寒さを感じていないかのようにただ静かに目を閉じていた。…やがて、唐突に男の目がぱちりと開く。

 

「…また活発になり始めた『巣』があるな。この方角は…ガリアの巣か。ここ最近は大人しかったんだけどな」

 『力』に目覚めて以来男が会得した、『この星の脅威となる存在』を感知する超常的な感覚が、はるか南方で活性化し始めたガリア上空のネウロイの巣を感知する。

 

「あの辺りってどこのウィッチが居たっけ…?まあ…なんでもいいか。俺にできるのは、ネウロイが被害を出す前に間引きすることだけだ。大掛かりなことに関しては、現場のウィッチの人たちに任せるとしよう。…運が良ければ、アイツらとも再会出来るかもしれないしな」

 そう言いながら立ち上がった男は、自身の『力』を開放する。すると、先の宮藤たちの様に男の体から『魔法力』が溢れ、その姿を変えていく。

 しかし、その変化は宮藤やエーリカの物とは異なっていた。男の黒髪が逆立つと、まるで『角』のように硬質化する。首回りから手足首にかけてが鱗が寄り固まったような『甲殻』で覆われ、尻から生えた尻尾は黒みを帯びた銀色の鱗で覆われ、宮藤たちのものよりはるかに太く、長く、頑健なものであり、男は邪魔にならないようそれを腰に巻き付けた。そして一際目を引くのが、男の肩甲骨辺りから飛び出した『三又の翼』である。鳥のような羽毛も、蝙蝠のような翼膜もないその翼は槍の様に鋭く尖っており、三又に分かれた一つ一つの裏側には大きな穴が空いていた。

 

「さて、エネルギーの充填も満タン…いっちょ、飛ばすとしますか…!」

 

キィィィィィンッ…!

 男が大きく深呼吸をすると、翼に空いた穴から甲高い音と共に赤い光が凄い勢いで噴出し、徐々に大きくなっていく音と共に噴き出す光も増していく。そして

 

バシュゥゥンッ!!

 炸裂音と共に男の体が飛び上がり、一瞬にして超高度に達すると翼の向きを変え、南方…ガリア方面へ目掛けて『彗星』の如く赤い光の尾を引きながら飛び去って行った。




エーリカ…基本的には原作通りの実力と性格ではあるが、バルクホルン以上に大切な人をネウロイに奪われる悲しみを知っているため、ネウロイとの戦いでは普段からは想像できないほどにストイック。仲間の命の為なら軍機だろうが軍事機密だろうがお構い無しで行動するので叱責が絶えないが、本人は一切後悔しておらず、バルクホルンやミーナもその辺りは理解しているので強くは責めれないでいる。

宮藤…原作通りの主人公。実は実家の診療所に昴の実家が薬を卸していたので、幼い頃に昴と面識がある。扶桑海事変の頃に夜の散歩に出かけた際、夜空を駆ける赤い凶星を目撃している。…ちなみに実家の裏山の奥地は大昔から殆ど人の手が入っていない原生林となっており、基本的には立ち入り禁止となっているが、誤って入ってしまった人や逃げ込んだ犯罪者などから奇妙な噂が絶えない。曰く、『山が動いていた』、『赤いクマに襲われて喰われそうになった』、『大きなフクロウが飛んでいた』など…


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蒼穹の再会

ようやっと再会です。

ではどうぞ


 ブリタニア基地を発してから数時間後、宮藤とエーリカはガリア沿岸部が目視できる空域まで何事もなくやってきていた。

 

「とうちゃーく。ネウロイと遭遇しなくて良かったね」

「は、はい…」

 エーリカの呼びかけに生返事で返す宮藤の視線は既に眼前…ガリアの中心部から沿岸の上空にかけて大きく広がる、漆黒の積乱雲のような存在、『ネウロイの巣』へと釘付けになっていた。

 

「あれが、ネウロイの巣…!」

「…そうだよ。あれが私たちの敵、ペリーヌの故郷を奪ったもの…みんなから、大事なものを無くした奴らの本拠地だよ…!」

 呆然とするしかない宮藤に対し、エーリカの目は何度も見ているからか冷静ではあったが、その内に秘めた激情が薄々と顔を覗かせていた。

 

「ッ…、巣とは言っても、あそこでネウロイが人間みたいに寝泊まりしているかどうかは分からないんだけどね。あそこからネウロイが次々と出てくるから、便宜上、巣って呼んでるだけなんだけどさ」

「そうなんですか」

 その感情を認識したエーリカは、宮藤にそれを悟られないよう敢えて軽い口調で話しかける。そこに、基地のミーナから通信が入ってくる。

 

『…宮藤さん、ハルトマン中尉、聞こえてるかしら?そろそろ目標地点に到着した頃だと思うのだけれど』

「ミーナ中佐!はい、もう到着しています。…ネウロイの巣が、はっきりと見えます…!」

『…そう。なら、観測を始めて頂戴。ひとまずは沿岸部を旋回して、こちらに向かってくるネウロイが居ないかを確認して。近づきすぎると、巣を護衛しているネウロイに見つかる恐れがあるから慎重にね』

「了解です!」

『ハルトマン中尉、くれぐれもよろしく頼むわね」

「わかってるって!そんじゃ宮藤、私に着いて……ッ!」

「…ハルトマンさん?」

 急に押し黙ったハルトマンに首を傾げながらその視線の先を追うと、ネウロイの巣の真下に空いた黒雲の隙間から、飛行機のような形状の大型のネウロイが一体と数体の小型ネウロイが姿を現した。

 

「ネウロイ!?ミーナ中佐、ネウロイです!ネウロイが巣から出てきました!」

『なんですってッ!?数は!』

「大型が一匹、小さいのが5匹!進路はこっち…じゃ、ない!?」

 出現したネウロイは予想に反し、基地のある宮藤たちの方向ではなく別の方向へと進行を始めていた。

 

『目的はここじゃない…?進行方向には何があるの?』

「何がって、あっちには海しか…」

「…ッ!?ハルトマンさん、あそこ!」

 ネウロイの向かう方向からふと視線を落とした宮藤が見つけたのは、海岸近くに浮かんでいた一艘の『漁船』であった。漁船の上では、数人の男が必死の形相で手を振ってこちらに呼び掛けていた。

 

「はぁ!?なんであんなところに船が!?この辺りは航行禁止区域の筈なのに…」

「…もしかしてあの船、動けないんじゃないでしょうか?ネウロイには気づいてるみたいですけど、操縦しようとしてませんし」

「違法操業な上にガス欠…!?んもう、余計な事ばっかして!」

「ハルトマンさん、すぐに助けに行きましょう!」

「分かってるッ!先行するから援護して!」

「はいッ!」

『待ちなさい!応援が着くまで無茶は…』

 ミーナの制止もそこそこに、2人はネウロイの進行方向に割って入る形で交戦を開始する。

 

「宮藤は小さい奴を引き付けて!倒さなくても、デカいのから引き離すだけでいいから!私はデカいのを倒したらすぐに合流する!」

「わ、分かりました!」

 

ガガガガガッ!

 宮藤が機関銃をネウロイ目掛けて放つと、すぐさま小型ネウロイが反応して宮藤たちの方へと向かってくる。

 

「来ました!」

「オッケー!また後でね!」

 それを確認すると宮藤とエーリカは2手に分かれ、エーリカは大型ネウロイに向かい、宮藤は小型ネウロイに銃を乱射して飛び回る。小型ネウロイもエーリカを阻もうとするが、その機先を制するように宮藤が弾幕を張って合流を防ぐ。

 

バシュゥッ!

「…ッ、そう簡単には行かせないんだから!」

 持ち前の頑丈なシールドで反撃を防ぎながら抗戦する宮藤を見やりながら、エーリカは大型ネウロイの真上に躍り出た。

 

「この…こっちを向けデカブツ!!」

 

ドドドドドドッ!!

 エーリカの機関銃が火を噴きネウロイの装甲を撃ち砕くが、弱点であるコアに当たらなければネウロイは受けたダメージを瞬く間に修復してしまう。

 しかし、エーリカとてそれは承知の上。いくら自分がウルトラエースだとはいえ、一人で戦えるなどという驕りは彼女にはない。基地からの応援が来るまで宮藤の安全を配慮したうえでネウロイの注意を下の船から逸らし、合流したのちに総力を以てネウロイを倒せばいいのだから。

 

ヴォンヴォンッ!

 攻撃を受けたことでエーリカを敵と判断した大型ネウロイから無数の光線がエーリカへと迫る。

 

「『疾風(シュトゥルム)』!」

 それに対しエーリカは固有魔法の『疾風』を発動させ、周囲の気流を操作することで変則的な動きで光線を躱し、更にネウロイの後方に回ると竜巻のような気流を前方に吹き付け、その風に乗ってネウロイの周りを旋回軌道を描きながら飛行し、全身を撃ちまくった。

 しかし、それでもネウロイは止まらない。ゆっくりと、しかし確実に海上の船へと近づいていく。

 

「このッ…!いい加減に止まれって…」

「…ハルトマンさんッ!済みません、一体そっちに行きましたぁ!」

「え!?」

 宮藤の叫び声に視線を向けると、その視線の端を掠めるように小型ネウロイが一体すり抜けていった。宮藤を見れば機関銃にリロードを終えた直後のようで、どうやら弾切れの隙をついて抜かれたようであった。

 

「こいつッ!」

 慌てて後ろから撃ち落とそうとするが、それを阻むようにして大型ネウロイから光線が放たれ、今度はエーリカもシールドで塞がざるを得ず反撃を阻まれてしまう。

 

「クッソォ!なんでこいつら、執拗にあの船を狙うんだよ!?」

「駄目!待って…止まって!やめてぇッ!!」

 エーリカの悪態も宮藤の叫びも知る由もなく、小型ネウロイの光線が絶望する船上の男たちへと放たれようとした…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時。

 

 

ドシュゥゥンッ!!

パキィィィンッ…!!

 上空より飛来した『赤い光弾』が小型ネウロイを真上から貫き、コアと共に大きな風穴を開けられたネウロイは光線を放つ間もなく爆散した。

 

「…え?」

「今のは…!?」

 

キィィィィッ…!

 突然の出来事に唖然とする宮藤とエーリカの耳に空気を劈く異様な音が徐々に近づいてくるのが聞こえ、やがて太陽を背にして黒い影が大型ネウロイの真上から飛来する。

 

「何…」

「サイクロン・スクラッチッ!!」

 エーリカがそれを視認するよりも早く、急降下してきた黒い影がネウロイとすれ違いざまに体を旋回させると、ネウロイの右翼部分が大きく削り取られた。

 

「ッ!?」

「龍気砲、発射ぁ!」

 黒い影はそのまま海面近くで赤い光を放出しながら急停止すると、左右それぞれ三条の光の内2つを宮藤の方へと向け、そこから先ほど小型ネウロイを仕留めた光弾を放った。

 

パパキィィンッ!!

 光弾は宮藤を取り囲んでいたネウロイをすべて撃ち抜き、ネウロイたちは呆気にとられる宮藤の眼前で全て砕け散った。

 

「は…え、え?」

「なんだよ、あの黒いの…?」

 未だに状況を理解できない2人を他所に、手下を全てやられた大型ネウロイが反撃の光線を放つ。

 

「おっとおッ!」

 黒い影はそれを見ると光の向きを変えて爆発的に加速し、光線の軌道を置いてきぼりにするスピードで躱すと、海上から急上昇してはるか上空に舞い上がる。

 その姿に、赤い光の尾を引きながら猛スピードで飛行するその姿に、エーリカと宮藤はかつて自分たちが見た『それ』を重ね合わせざるを得なかった。

 

「まさか…」

「あれって…『凶星』!?」

 黒い影…凶星はある程度上昇すると停止し、再び光の向きを変えると今度はネウロイ目掛けて斜め上前方から急降下を始めた。

 

ヴヴォヴォンッ!!

 ネウロイも撃ち落とそうと光線を放つが、凶星が自身を回転させるとビームは直撃した端から回転起動に沿って弾かれてしまう。

 

「おらぁぁぁッ!!」

 雄たけびと共に凶星がネウロイに激突し、前方部から後方部にかけてその装甲の表面をなぞる様にして回転しながら抉り取っていく。

 

キラッ…

 やがて抉れた装甲の下からネウロイのコアがうっすらと見えた瞬間、エーリカと宮藤は我に返った。

 

「宮藤ッ!」

「はい!」

 

ガガガガガッ!!

 即座にコア目掛けて集中砲火が放たれ、修復が間に合わずコアへの直撃を受けたネウロイは断末魔の如く奇怪な音を立てて砕け散った。

 

「よし!これで全部…だよね?」

「はい!…それよりも…」

 宮藤とエーリカが見上げた先には、背中の奇妙な物体から赤い光を放出しながら滞空する、全身がやや黒光りする銀色の見た目をした人型の存在…凶星と思わしき何かがこちらを見ていた。

 

「アレが凶星の正体…なんですよね?どうみても人っぽいんですけど…」

「でも普通の人間じゃないでしょどう見ても…。ストライカーも無しに飛んでるし、…まさかホントに怪物か何かなんじゃ…」

 

 

 

「聞こえてるぞ、そこ。俺は怪物でもエイリアンでも無いぞ」

「「ッ!?」」

 十数メートルは離れているというのに二人の小声を聞き取った凶星から発せられた声に、2人は2つの驚きを示す。1つはこの距離から会話の内容を正確に聞き取ったこと、もう一つはその口調と声が明らかに『男性』のものだったからだ。

 

「お、男の人…ですよね、今の声?」

「そうみたいだけど…んん~、なんかどっかで聞いたような…」

「…あの、私ちょっと声をかけてみます!」

「え、ちょっと宮藤!?」

 その声にどことこなく既視感を憶えたエーリカであったが、こうしていても埒が明かないと判断した宮藤に追いすがる形で凶星に近づいていく。

 

「……」

「…あ、あのぉ!」

「宮藤、いきなり声かけるなんてちょっと危ないって…」

 

 

「…なんだ、随分慎重ってもんを覚えたじゃねえかエーリカ。軍人になって少しは大人になったのか?」

「……へ?」

 凶星の口から出た自分のファーストネーム、それもかなり親しみのあるその口調に、エーリカは真顔で固まってしまう。

 

「エーリカって…ハルトマンさんの名前ですよね?どうしてハルトマンさんのことを…」

「そりゃあ知ってるさ。あんまり長くは一緒に居なかったが、こいつには散々に振り回されたからなぁ。…まあ、ウルスラもウルスラで扶桑語の本を全部カールスラント語に翻訳するからって書庫に缶詰にされたからどっこいだけどな」

「…一緒に?ウルスラ?本の…翻訳…」

 以前に自分と会っていたこと、妹の名前、そして…一日ぐらい自分に独占させてほしいというウルスラの我儘で連れていかれた際、一日中書庫の本の翻訳をさせられていたと苦笑いで愚痴っていた思い出…その全てが、凶星の放つ声と噛み合っていき、やがて一人の男の顔と名前に一致していく。

 

「…まさか、まさか…お前…!?」

「ん?まだ思い出せない…ああ、この姿だとちょっと分かりづらいか。なら、顔周りだけ元に戻してっと…」

 凶星がそう言うと、顔周辺を覆っていた銀色の甲殻が消えていき、その表情がはっきりと露わになる。時が経ち、成長して声も変わったとはいえ…自分にとってかけがえのない存在の一人であったその顔を、エーリカが見間違える筈もなかった。

 

 たとえ、それが死んだ筈だった男だとしても。

 

 

「…スバル、なの?」

「おうさ。岩城昴、本人だよ。…随分時間はかかっちまったが、約束…守ったぜ」

 目の端から涙が零れ落ちたエーリカに、凶星…昴はサムズアップと笑みで応えた。

 

「いわき…すばる?それって、扶桑人の名前?この人、ハルトマンさんの知り合いなんで…」

「……」

「…ハルトマンさん?」

 話についていけない宮藤を他所に、エーリカはゆっくりと昴の方へと近づいていき…

 

「…スバル、スバル…スバルぅぅッ!!」

 感極まった声で昴の名を叫び、ストライカーを吹かして思いっきり飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…バッキャローーーーッッ!!!」

 

ドグォッ!!

「ぐぼぉッ!!?」

「ええーーッ!?」

 昴の腹目掛けて、頭から、それはもう全速力で。




オリ主、モデルとなった岩城勉氏の栄光に泥を塗る初被弾。尚、フレンドリーファイアな模様

感動の再会?んなもんねーよ!〇して寝ろ!!

あ、一緒に設定集も更新したので今回の諸々に関してはそちらをどうぞ

ではまた次回


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ファースト・コンタクト

 ネタが浮かぶときは筆が進みまくるんだよな~。そうじゃない時とは雲泥の差…根っからの日本人気質なので熱しやすく冷めやすいのも理由だろうけど

ではどうぞ


 宮藤たちが交戦を終えてから1時間後…ブリタニア基地を発した坂本、バルクホルン、リーネ、シャーリー、ペリーヌの救援部隊が追いついてきた。

 

「宮藤が指定した海域はこの辺りの筈だが…」

「芳佳ちゃん…無事だといいんだけれど」

「心配要りませんわリーネさん。つい先ほどネウロイとの交戦が終わったと通信があったじゃありませんの。きっとハルトマン中尉共々ピンピンしてますわ」

「二人の安否もだが…宮藤が気になることを言っていたな」

「ああ、『凶星が助けてくれて、その凶星がハルトマンの知り合いだった』…ってやつだろ?しかも『男』の…」

「報告だけではさっぱり分からんが…とにかく、合流すればわかるだろう。もし宮藤の言ったことが確かなら、凶星の正体がとうとう分かるかもしれんからな!」

「…あ!皆さん、あそこ!」

 リーネが指さした先には小さな小島があり、その岸辺には巻き込まれたという漁船が停泊しており、その近くで宮藤がライトを点滅させて合図を出していた。

 

「宮藤…!良かった、怪我は無さそうだな!」

「よし、着陸するぞ!」

 坂本の指示を受け、皆は宮藤の立っている場所へとゆっくりと降下していった。

 

 

 

 

 

 

「芳佳ちゃん!」

「リーネちゃん、来てくれたんだね!」

 着陸後、真っ先にストライカーを脱いだリーネは宮藤と手を取り合って無事を喜び合った。

 

「こらリーネさん!少佐の命令も無しに動くだなんて…」

「まあそう固いことを言うなペリーヌ。…宮藤、無事なようで安心したぞ」

「坂本さん!はい、私もハルトマンさんも無事です!ストライカーや武器も特に損傷はありません」

「それはなによりだ。…ところで、ハルトマンはどうした?」

「あー…ハルトマンさんは、その…凶星、岩城さんと一緒に居ます…」

「イワキ?それが凶星の名前か?名前の感じからして…扶桑人か?」

「は、はい…。とりあえず案内するので、着いてきてください…」

「あ、ああ…」

 

 宮藤の先導で歩く最中、坂本たちは宮藤から今回の一件に関する経緯を聞くことになった。

 

「…それでは、ネウロイは本当にあの漁船を狙って現れたというのか?」

「はい。正確には漁船そのものじゃなくて、漁船に積んであった『ラジオ』に反応したみたいです。なんでもそのラジオはかなり粗悪品で、動いていると変な電波を飛ばしてしまうみたいで、それがネウロイを呼び寄せることになったんじゃないか…って、岩城さんが言ってました。以前にも、似たようなことがあったらしいです」

「へぇー…で、その漁船の連中はどうしたんだ?」

「それが、その…ネウロイを倒したあと救助しに行ったんですけど、興奮していたせいか、かなり乱暴な態度で全然話を聞いてくれなかったんですけど。ハルトマンさんと岩城さんが船室に連れ込んで何か話をしたら、急に大人しくなってくれたんですよね…。今は、船の船倉で待機してもらってます」

「…ああ、なんとなく想像はつきますわ」

「ふん、情けの無い男どもだ。…ところで宮藤、ハルトマンはまだなのか?」

「ええと、確かこの辺りに…あ、居ました!」

 宮藤が示した先の岩陰では、頭に大きなコブを作ったエーリカと昴がなにやら言い争いを繰り広げていた。

 

 

「痛った~…うう、まだ痛むよ。…大体、どうなってんだよお前のお腹!?ぶつかったこっちの方が痛いっておかしいでしょ!」

「全力でヘッドバッドかましてくるお前がバカなだけだろうが!8年越しの再会で挨拶代わりに頭突きかましてくる女なんざお前くらいだぞ!」

「う、うるさいなッ!大体、それを言うならスバルの方こそでしょ!生きてたんなら連絡くらいするでしょ普通!それを8年も音沙汰なしとかあり得ないよ!少佐といいスバルといい、扶桑人は変なとこで意地張って大事なこと言わないんだから!」

「こっちにだって色々あったんだよ!下手なことすると俺の身が危うくなるから慎重にならざるを得なかったんだよ。…というか、もうそのことは十分謝っただろうが。いい加減機嫌直せよな」

「うるさい!ともかく、スバルが全部悪いんだかんね!この平たい顔族!」

「なんだとこの平たい胸族!8年前からプロポーションが欠片も変わってねえじゃねーかお前よぉ?」

「…ッ!!?い、言ったな!たとえ本当のことでも、言っちゃいけないことをお前言ったな!?野郎ぶっ殺してやる!」

「やれるもんならやってみろ!」

 

 

「…なんですの、アレ?」

「ええと…痴話喧嘩?」

 ムキになって暴れるエーリカであったが、体格差もあって昴には軽々とあしらわれてしまい、終いには昴の伸ばした尻尾に服の襟を引っ掛けられて吊り下げられ、当たりもしないぐるぐるパンチで無意味な抵抗をすることしか出来なくなってしまった。

 

「…その、少佐」

「ああ…分かってる。状況はますます分からんが、あのまま放っておくわけにもいかんからな」

 何時にないテンションのエーリカに困惑の色を隠せないバルクホルンに促された坂本は、意を決して昴たちの元へと向かう。

 

「ハルトマンさーん、岩城さーん…!坂本さんたちを連れてきましたよぉー…!」

「ん…おお、意外と早かったな宮藤さん」

「ぐぎぎ…汚い、尻尾長いの汚いぃ~ッ!」

 猫の様に摘ままれたエーリカを下に降ろし、尚も地団太を踏む彼女を無視して昴は坂本たちの方を向く。

 

「…君が、岩城昴だな?宮藤から話は聞いている。私は扶桑皇国海軍所属、現在は501統合戦闘航空団の戦闘隊長をしている坂本美緒だ」

「はッ!ご丁寧にどうも。お噂はかねがねお聞きしています、坂本少佐。岩城昴です、『大空のサムライ』、『リバウの三羽烏』と名高い少佐と相まみえることができて光栄です」

「私のことを知っているのか…!?」

「ええ、ウィッチの皆さんのことは色々と。皆さんのこともある程度は存じております。…まあ、少佐に限って言えば出会うのは今回が初めてではないのですが」

「何?」

「…7年前の扶桑事変の時、確か少佐は舞鶴に居ましたよね?その時にちょっと…」

「…ッ!では、やはりあの時の凶星は君だったのか!?」

「はい。尤も、自分もあの時はネウロイを倒すのに必死でしたので、逃げるような形になってしまって申し訳ありません」

「いや…感謝するのはこちらの方だ。君のおかげで、我々の被害は軽微で済んだ。扶桑海軍を代表して、礼を言わせてもらう」

「いえそんな、とんでも……失礼、なんだエーリカその面は?」

 先ほどとは打って変わって懇切丁寧な口調で坂本と会話をする昴であったが、後ろでエーリカがものすごい顔をしてこちらを見ているのに気が付き、思わず話を打ち切ってしまう。

 

「いや、だって…その喋り方何?気持ち悪いんだけど…」

「バッカお前、坂本さんは少佐殿だぞ?軍人、しかも佐官階級の方と話す以上礼儀作法は当然のマナーだろうが。そもそも、宮藤さんと話すときも最初は敬語で話してたろうが」

「え~…じゃあなんで私にはいつも通りなんだよ?私だって中尉だよ?」

「お前に敬語を使うと鳥肌が立つからお前はノーカンで」

「なんだよソレ!?」

「…プッ、ハッハッハッハ!随分と仲が良いのだなお前たちは。とはいえ、岩城君。私にはそれほど気を使わなくても構わないぞ。私はもとより、ここにいる皆はそういうことに拘らないからな。ハルトマンと話すときのように、自然体で居てくれたほうが私としても話しやすい」

「そうそう!そもそもお前軍人じゃないんだろ?だったら変に気を使わなくたっていいって!」

「お前はもう少し気にしろリベリアン!」

「…なるほど、では自分のことも呼び捨てで結構ですよ。改めて…岩城昴だ。ウィッチの皆さんからは凶星と呼ばれている者だ。…ついでにこのエーリカの幼馴染でもある。一週間ちょいの付き合いだけどな」

「幼馴染…もしや、ハルトマンが以前言っていた子供の頃に死に別れた友達というのが…?」

「ああ、俺のことだろうな。俺は一応、8年前にカールスラントで死んだことになっているからな」

「8年前というと…8歳の頃ですか。よくご無事でしたわね」

「ああ…まあ、一緒にいた両親は助からなかったんだけどな。俺は運よく、ネウロイから逃げているときにこの力を手に入れて生き残ることが出来た。それからは、世界中を転々としながらネウロイを片っ端から倒して回ってたんだよ」

「あ…ご、ごめんなさい」

「ああ、気にしないでくれ。仇は討ったし、何時までも後ろ髪を引かれてちゃ親父とお袋に顔向け出来ないからな」

(…強い、人なんだなぁ。岩城さんって…)

 扶桑に居た頃、父の戦死を知ってから戦争もネウロイも嫌悪し、坂本からの誘いにも中々応えられなかった宮藤は、同じく親をネウロイに殺されても尚戦い続けることを選んだ昴の心の強さに感銘を受けていた。

 

「そのことなんだが…単刀直入に聞こう。君は、ウィッチなのか?」

「…ああ。俺は貴女方と同じように、使い魔を宿したことで魔法力を得た男の魔法使い…ウィザードって奴だ」

「男性の魔法力持ち…!かつて存在していたとは聞いたが、まさかこの目で見ることになるとはな…」

 バルクホルンの言うとおり、人類史の中には数々のウィッチと共に極稀に、男性でありながら魔法力を持った者たちが確認されている。有名な名前であればイスラエルの神王ソロモン、ブリテンの魔術師マーリン、名軍師にして道術士である太公望、扶桑ではかの大陰陽師安倍晴明もウィザードであったという逸話がある。…しかして、このような力のあるウィザードというのはウィッチの中にほんの一握りで現れるウィザードの中でも更にほんの一摘まみという割合で、現在でも何十年かに一度ウィザードの存在は確認されるが、その殆どが並以下の魔法力しか持ち合わせない為、戦力として名を上げることが出来たものはここ数百年では居なかったというのが現実である。

 

「あたしも初めてみたなぁ、ウィザードって奴。あたしが生まれる前にもリベリオンにウィザードが居たって聞いたことがあるけど、ウィッチより全然弱っちかったからマスコットみたいな扱いだったらしいぜ」

「まあ、俺の場合は使い魔がちょっと特殊だからな。俺の力が特別強いのはそいつのおかげだよ」

「使い魔?…そういえば、さっき出していた尻尾は見たこともないものでしたが、どんな使い魔なんですの?」

「それは…まあ、見てもらったほうが早いか」

 そう言って、昴が魔法力を発動させると、再び全身が銀色の甲殻で覆われ、長い尻尾と三又の翼が背中から生えてくる。そのウィッチとしては異様な姿に、初見の坂本たちはギョッとして身構えてしまう。

 

「な…なんだ、その姿は!?」

「翼…?だ、だが鳥の使い魔を持ったウィッチでも翼は耳の代わりに頭から生えてくる筈だ!耳が出てこない上に背中から翼が生えるなど、聞いたことがない…」

「体もなんか銀色になったし…こんな生き物みたことねえぞ?」

「そりゃあ、そうだろうな。俺の使い魔はもう現代には存在しないジャンルの生き物だからな」

「現代に存在しない…?」

 

「俺の使い魔は古龍…所謂『ドラゴン』だからな」

『…ど、ドラゴンッ!!?』

 昴の口から出たとんでもない存在の名前に、ウィッチたちは思わず大声をあげてしまう。

 

「ど、ドラゴンって…あれですよね?昔の絵とかに描いてある、長い身体で髭とか生えてる…」

「あー、そっちじゃない。俺の使い魔はそういう東洋風の龍じゃなくて、西洋の物語とかに出てくるオーソドックスなタイプのドラゴンに近いやつなんだよ」

「い、いや!しかし、そんな…ドラゴンの使い魔だなどと!信じられんぞ!」

「そうは言ってもここに実例が居るわけだし…」

「…ど、どんなドラゴンなんですか?岩城さんの使い魔って…」

「ああ。俺の使い魔のドラゴンは『バルファルク』っていう名前でな。こいつはドラゴンの中でも飛び切り変わった生態を持っていて、羽ばたく代わりにこの翼の先端から『龍気』っていうエネルギーを放出してジェット噴射で飛行するんだ。その能力のおかげで、俺はストライカー無しでも高速飛行が可能なんだよ」

「龍気って、お前が飛んでた時に出すあの光のこと?」

「そうだ。龍気は飛行のためのエネルギーだけでなく、攻撃にも転用できる。圧縮した龍気を砲弾の様に撃ったりな、さっきもやっただろ?」

「あ…はい…」

「…ドラゴンってだけでも驚きなのに、まだ人間でも研究段階のジェットエンジンを使って飛ぶドラゴンだなんてなぁ。それで、どれくらいのスピードが出るんだ?お前?」

「ん~…正確に測ったことは無いけど、普通に飛んで大体時速600kmくらい、最高速度は亜音速に到達するな。超音速飛行も出来るけど、オリジナルのバルファルクと違って俺が貯めておける龍気には限界があるから、そんなに長くは…」

「超音速だってぇ!?」

「うおッ!?」

 音速を超える、その言葉にスピード狂のシャーリーが喰いつくのは当然であった。

 

「お前、マッハを超えたことあんのか!?どんな感じだ?…ああ、やっぱ言わなくていい!私が自分で確かめたいからな!でもストライカー無しで音速超えるとか、お前の固有魔法って凄いな!」

「お、おう…あー、勘違いしてるみたいだから言っとくけど俺の飛行能力は固有魔法じゃないぞ。こいつはバルファルクを使い魔にした時のデフォルト…あくまで標準装備って奴だ」

「では、君の固有魔法は別にあるのか?」

「ああ。でも、訳あって緊急事態以外は使わないって決めてるんでな。済まないが内緒ということにさせて欲しい」

「…それにしても、随分と盛りに盛った性能ですのね貴方。そんなにお強いのなら、扶桑でもカールスラントでも生きていたことを伝えて正式に軍属になればエースにだって成れたんじゃありませんの?」

「…そうだったら良かったんだがな、今のご時勢…そういう訳にもいかないんじゃないか?坂本少佐」

「…だろうな。君には気の毒ではあるが」

「え?」

 軍属として経験の浅い宮藤やリーネは昴の言葉に首を傾げるが、従軍歴の長いバルクホルンやエーリカは坂本と同じように表情が曇る。

 

「どういうことですか、坂本さん?」

「…宮藤、岩城が『どういう存在』なのかを考えてみろ」

「どういうって…死んだ筈だったけど生きていて、男のウィッチで、ドラゴンを使い魔にしていて…」

「そうだ。人類史上稀なウィザード、しかも魔力に目覚めて間もない時点でネウロイを武装も無しに撃破し、その上ドラゴンというとんでもない使い魔を宿した存在…それが岩城だ。そんなものを、唯でさえ戦力不足な今の各国が純粋な戦力としてだけ扱うと思うか?」

「え…」

「まあまず、戦場に出す前にモルモット扱いにされるだろうね。今までもウィザードは発覚してから散々に調べつくされたらしいし、スバルぐらい強ければ猶更でしょ。それに、ドラゴンの力を使ってウィッチをパワーアップしよう!…だなんて下らないこと考える奴も出てくるだろうしね」

「一騎当千とはいえ希少価値の塊を戦場に投入するくらいなら、既存の戦力の強化のための道具に使う…軍の上層部ともなれば、そんな判断を下したとしても不思議ではないだろうな」

「…最悪、優秀なウィッチを生むための種馬にされる可能性も、捨てきれないだろう。そういう下衆な輩も少なからず存在するからな」

「そんな…酷過ぎます!」

「どうして、そんなことに…?」

「無論、人類を守るためだ。宮藤、覚えておけ。軍隊とは、国家と国民を守るためであればいかなる無法も許される時がある。そして我々軍人は、例えそれが間違った行為だとしても受け入れねばならないのだ。…お前も軍人となることを決めた以上、それは覚悟しておくことだ」

「…申し訳ございません、岩城さん。私、貴方の立場も考えず軽率なことを言ってしまいましたわ…」

「いや、別にそれは気にしてないんだが…」

 普段殆ど触れることのない世界情勢の闇の部分を知ってしまったことで陰鬱になりかけた空気を払しょくしようと、昴は咳払いをして明るい声で話を続ける。

 

「ゲッホン!…ともかく、俺はそういう面倒な思惑に関わりたくなかったから今まで素性を隠して飛び回ってたんだ。俺はただ自由にこの空を飛ぶのが好きだしな。ネウロイを倒すのも、俺の空にあんな無粋な輩は邪魔だっていうのが理由の一つでもあるからな」

「ふむ…だが、今こうして君は私たちとコンタクトをとることを選んだ。それは何か心境の変化でもあったのか?」

「そういう訳じゃないんだが…。元々いつまでもフリーで飛び続けられるとも思ってはなかったからな。いずれはどこかのウィッチと接触して、信頼できる人物を通して俺の存在を認めてもらおうとは思っていた。戦場を渡り歩いてネウロイを片っ端から潰して回ったのも、その実績を交渉材料にするつもりだったんだ。…そしたら今回たまたまエーリカと再会できて、しかもその上官があのミーナ中佐だと聞いてな、渡りに船ということでこうして貴女方に正体を明かすことにしたんだ」

「…?何故ミーナなんだ?」

「ある人から聞いてな、ミーナ中佐は色々とコネが多くて上層部とも渡り合える手腕を持っているから、何かあったら頼ってみろ…と言われたんだ」

「ほう…どこの誰かは分からんが、ミーナを随分と評価しているな。確かにミーナであれば、君の処遇について何かしら手があるかもしれんな」

「んじゃ、スバルはこのまま501まで連れて行けばいいのかな?」

「そうだな。どのみち、私の権限では君の処遇を決めることは出来ない。今回の件の報告も兼ねて、一緒に基地まで来てもらったほうがいいだろう。岩城もそれでいいか?」

「勿論です。よろしくお願いします」

 こうして、昴は坂本たちと共に501のブリタニア基地へと向かうこととなった。

 

「…ところで、あの船の人たちはどうしましょう?」

「心配するな。既にブリタニア海軍に連絡済だ。直に巡視船が引き取りに来るだろうから、引き渡しが済んだら私たちも出発しよう」

「…ならば、それまでに違法操業などというバカをやらかした挙句、我々の手を煩わせた連中に規律というものを叩き込んでおこうか…!」

「バルクホルン大尉、その…俺とエーリカで散々フルボッコにした後なのでお手柔らかに…」

「さて、生憎とネウロイとテロリストと規律を破るバカにかける情けは用意していないのだがな…?」

「うわぁ…トゥルーデの説教モードだぁ…」

「アハハハ!端から見る分にはワクワクするな!」

「普段はご自分が向けられる側ですものね」

「他人の不幸は蜜の味といいますけど、味を占め過ぎるとクマみたいに自分が珍味になっちゃいますよ?」

「り、リーネちゃん…?」

 

 その後、やってきたブリタニア海軍の船に漁船と身も心もボコボコにされた乗組員が連れられて行ったのを見送ったのち、昴は宮藤たちと共にブリタニア基地へと飛び去って行ったのだった。




 本文中に出てきた過去のウィザードの名前に関しては本作オリジナルの設定です。ただ歴史上優れた術師…Fateで言うところのグランドクラス並みの男性キャスター陣に関してはウィッチーズ世界でもウィザードだったんじゃないかと思ったので。

ではまた次回


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兎と彗星

 設定にあったオリ主の音痴設定を無くしました。ちょっと思いついたネタがあったので…。その代わりCVを当てました。歌唱力はCVの人準拠で

ではどうぞ


 ブリタニア基地へと帰還する道すがら、坂本たちは昴の自分たちとはまるで異なる飛行能力に驚きつつも、安否不明だった8年間に何をしていたのかを聞きながら徐々に打ち解けていっていた。

 

「…では君は、扶桑事変だけでなくリバウやオラーシャ、カールスラントの撤退戦にも関わっていたのか?」

「ああ。下手にウイッチと接触しないようネウロイを倒したら即撤退してな。多分あの頃は一日10体以上はネウロイを倒して回ってたと思うぜ」

「それを8年間続けていたということは…キルスコアは2万、少なくとも1万以上は確実…か。はは…、文字通りの桁違いだな。ハルトマン、お前の200体撃墜の勲章が霞んで見える数字だぞ?」

「しょーがないじゃん!1日中飛んでられるこいつがおかしいだけだって!…ていうか、ウィッチに見つからずにどうやってそんなに倒せるのさ?ネウロイが何処から現れるのかなんて分からないのにさ」

「ああ、それはな。俺にはネウロイが出現した時に大体の位置と数を察知出来る能力があるんだよ。今回のことだって、ガリアの巣が妙に騒がしくなったのを感じてバルトランドの山からすっ飛んできたんだからな」

「なんだと!?」

「マジか!なんでそんなことが分かるんだよ?」

「…多分だけど、バルファルク自身がネウロイを『敵』だと強く認識しているからだと思う。バルファルクを含めたドラゴン…古龍っていうのは、言うなりゃ生き物っていうよりは『自然の化身』みたいなもんだ。人間以上にこの星と強く繋がっているからこそ、大地を穢すネウロイという存在を許さない気持ちは人間以上に強いんだよ。その強い思いが、俺にネウロイの存在を感知させているんだと思う」

「そうなんですか…」

 何気なく明らかになった昴のとんでもない能力は、今までネウロイの出現を確実性の不安定な予知魔法や危険を伴う哨戒任務頼りだった坂本たちにとって驚くべきものであった。

 

「…もしその力が本物であれば、お前に関する交渉材料としては極めて有効なものになるだろうな。使い方次第では、世界中の戦況を一変させることも出来るかもしれんぞ…!」

「的中率に関しては自信はあるぜ。今のところ外れたことは無いし。ちなみに今は……ム、東欧の巣が少し騒がしくなっているな。近いうちにネウロイが出てくるかもしれないぞ」

「東欧…確か502が担当する地域だな。あそこには確か下原が居たな…よし、私から警告をしておこう。出来れば、当たって欲しくはないがな…」

 坂本が無線を使って502の在籍するペテルスブルグ基地へと連絡を取っていると、水平線の向こうに微かにブリタニア基地が見えてくる。

 

「あ、見えましたよ!あそこが私たちの基地です」

「へぇ…アレだったのか。ここに来る前にもチラッとは見えてはいたんだがな」

 

「…!」

 と、その時シャーリーの頭上にピカリと電球が灯った。

 

「…なあなあ、岩城。ちょっと提案なんだけど、ここから基地まで私と競争しないか?」

「へ?」

「おいリベリアン、お前何を勝手なことを…!」

「いーじゃん別に~、減るもんじゃないだろ?音速越えを目標とするアタシとしては、実際にマッハを超えるスピードって奴を見てみたいんだよ。な、な、いいだろ?」

「俺は別に構わないんだが…少佐殿?」

「シャーリー、お前という奴は…はぁ、止めたところで納得せんだろう。いいだろう、好きにしろ」

「少佐!」

「やった!んじゃやろうぜ岩城!言っとくけど、わざと負けたりしたら承知しないからな?」

「了解」

「スバル、負けたら承知しないかんねー!」

「り、リーネちゃん、ペリーヌさん…どうしましょう?」

「少佐が良いとおっしゃられたのなら、私は構いません事よ」

「止めても無駄だと思うよ、芳佳ちゃん…」

「だよね…」

 半ば諦めモードな芳佳たちと囃し立てるエーリカが巻き込まれないよう距離を取り、シャーリーと昴が横並びになる。

 

「よっしゃあワクワクしてきた!リーネ、スタートの合図に空砲頼む!」

「は、はい!」

「やれやれ…まあ、折角の機会だ。アピールチャンスとさせて貰うか」

 スタート準備を整えた二人が身構える中、リーネが対装甲ライフルに信号用の空砲弾をセットし、空へと向ける。

 

「用意…」

 

 

 

 

ドォンッ!!

 

ズドォォォンッッ!!

 リーネの砲口が火を噴くと同時に、その音を掻き消さんばかりの轟音を立てて2人が飛び出した。まさしくロケットスタートという言葉が相応しいほどのスピードであった。

 

「きゃああッ!?」

「うおッ!…あ、あの二人…もう少し加減しろ馬鹿ども!」

 その勢いで盛大に海水を被った後方の面々を置き去りにして。

 

 

ブロロロロロロッ…!!

 シャーリーのストライカー、ノースリベリオン社製P-51Dの魔導エンジンが唸りを上げる。501メンバーの中でも抜きんでた性能を誇り、更にシャーリー自身の手による魔改造、そして固有魔法である『超加速』によるバフもかかった状態でのこのストライカーのスピードは、本来の最高速度を超えた時速800km超にまで至る。未だに時速1000km…亜音速の壁こそ超えられてはいないが、シャーリー自身も自分とこの機体こそが最速であるという自負があった。

 

 しかし。

 

キィィィィィッ…!!

(速っえええ…ッ!?なんだよあのスピードは…このあたしが、あたしとこのストライカーの全力でも追いつくことが出来ないだとぉ…!?)

 シャーリーの響くような轟音に対し、空気を切り裂くような甲高い音を立てて飛ぶ昴は、そのシャーリーすら突き放しかねないスピードで飛行していた。三又の翼を束ね、龍気の噴出を一点に集中させることで飛行にのみ集中した昴のスピードは、既に時速1000kmを超えて亜音速に差し掛かかろうとしていた。

 

(クッソ…!あの時はまだ全力じゃなかったってのかよ…!?でもまだだッ…まだ、あたしはやれるッ!)

(…そろそろ潮時だな)

 強がってはいるものの、シャーリーのストライカーとシャーリー自身の限界が目前であることを感じた昴は、大事になる前にケリをつけるべくスピードを緩めてシャーリーと並走する。

 

「…な、なんだよ…余裕のつもりかよ?さっきも、言っただろ…ワザと負けたら、承知しないって…!」

「そんなつもりはない。…が、これ以上無理をさせて貴女を潰す気も毛頭ないので、先に宣告しておこうと思ってな」

「は…何、を?」

「よく見ておくといい。これが…『超音速』というものだッ!!」

 

 そう言って昴は高度を上げると、溜め込んでいた龍気を一気に翼から放出する。

 

ドゥンッ!!

 爆発的な加速と同時に一瞬の無音、そして遅れて響いた爆音と共に生じたソニックブームをまき散らしながら、昴は音速の世界へと突入した。

 

「うおおおッ!?」

 離れていたとはいえその余波を受けてよろめいたシャーリーの眼前で、真紅の彗星が音すら置き去りにして空を駆け抜けていく。

 

「…凄ッげぇ…!あれが、超音速の速さか…クソ、見てろよ…!いつか、あたしも必ず…」

 もはや敗北は確定したが、間近で目標となる速度を目の当たりにしたシャーリーの目には、自分も必ずあの世界に追いついて見せるという希望の光が宿っていた。

 

 

 

 

 

 

「……?」

 その頃、ブリタニア基地では夜間哨戒の為に仮眠をとっていたサーニャ・V・リトヴャグが不思議な気配を感知して目を覚ましていた。

 

「んあ…どしたんだサーニャ?まだ起きる時間には早いゾ…」

 一緒に寝ていたバディであるエイラ・イルマタル・ユーティライネンがそれに気づいて起き上がると、サーニャは魔法力まで発動させて何かを探っているようであった。

 

「サーニャ?」

「…何かが、近づいてくる…。ものすごい速さで、まっすぐ…こっちに来る…!」

 サーニャは急いで服を着ると、そのままの勢いで部屋を飛び出していった。

 

「サーニャ!?どうしたんだ!」

 えらく緊迫した様子のサーニャにエイラが思わず寝巻のまま追い縋ろうとすると、ちょうどそこに寝ぼけ眼のルッキーニと彼女を連れ戻したらしいミーナがやってきた。

 

「んにゃ…エイラ?」

「あら、エイラさんどうしたのそんな恰好で?ここには男性職員もいるのですから、もう少し慎みというものを持って…」

「…あ、ミーナカ!大変なんだ、サーニャが急に飛び起きて、何かが来るからって走っていったンだ!」

「サーニャさんが?…もしかしたら、宮藤さんたちが戻ってきたのかもしれないわね。美緒たちが向かってからもういい時間が経つ頃ですし」

「ああ、なんだそういう事か。おーいサーニャー!それ多分宮藤たちだろうから、そんな焦らなくても大丈夫だゾー!」

「…違うの!芳佳ちゃんたちじゃないの!もっと強い、もっと早い…ネウロイとも違う何かが近づいてきてるの!」

「…エ!?」

「何ですって!?」

 予想外の返答にミーナたちは顔を見合わせ、慌ててサーニャの後を追う。基地を飛び出し、すぐ前にある波止場に出ると、水平線の彼方にそれを見つけた。

 

「なにあれ…?赤い、光?」

「サーニャさん、あれはいったい…?」

「分からない…でも、こっちを目指してきてる…!凄いスピード…もう、来る…ッ!」

 遥か遠方にあったはずの光が高度を上げたかと思うと、あっという間に基地に接近し、そのままサーニャたちの頭上を暴風を振りまきながら通り過ぎて行った。

 

「きゃああ!」

「うじゅぁぁぁ!?」

「な、ナンだナンだァ!?」

 頭上を通り過ぎた光は向きを変えて上昇しながらUターンすると、やがてゆっくりと下降し始めサーニャたちのいる波止場へと降り立ったのだった。

 

「ゴール…っと。あ、お邪魔します」

『……』

降り立った光…昴はサーニャたちに顔を向け、にこやかに挨拶する。理解が及ばない彼女たちは当然ポカンとしていたが、やがて正気に戻るとエイラはサーニャとルッキーニを守るように前に出て、ミーナは更にそれを守るように立ちはだかると腰のホルスターから銃を抜いて昴へと向けた。

 

「…っ、何者!?ここは軍の私有地よ、何の目的で侵入したの!」

「おおっと、落ち着いてください。別に怪しい者…だよな、今の俺。とりあえず、驚かせてしまって申し訳ない、ちょっと興が乗ってしまって先行し過ぎてしまいまして…」

「…どういう意味かしら?返答次第では脅しでは済まなくなるわよ」

「はい、実は…」

「…!待って、ミーナ隊長。シャーリーさんが帰ってきたわ!」

「え?」

 サーニャの声にミーナが海の方を向くと、もはや精魂尽き果てた様子のシャーリーがヘロヘロと飛んできており、やがて滑り込むように波止場へと着陸してそのまま倒れこんでしまった。

 

「ゼェ、ゼェ……ま、まさか…このアタシが一分以上差をつけられるだなんて…」

「シャーリー!?」

「シャーロット大尉、どうしたの!?」

 疲弊しきったシャーリーにルッキーニとミーナが声をかけるが、シャーリーは緩慢な動きで首を向けると、そこでようやくミーナたちの存在に気づいたらしく目を丸くする。

 

「あれ…皆、出迎えしてくれてたんだ…。ていうか、ミーナ…なんで、岩城に、物騒なもん…向けてんの…?」

「え?」

「あ~、それがさぁ。どうやら伝達がまだだったみたいで俺のこと知らなかったみたいなんだわ」

「ああ…そういや、基地を出るときも…警報聞いて飛び出してきたから、宮藤からの連絡は届いてなかったんだっけ…。でも帰投前に、少佐が報告してた筈なんだけどなぁ…?」

「…うじゅ?」

「ナニがどーなってンだ…?」

 

 

 

 

 

…その後、遅れて帰投した坂本たちも含め、改めて基地の全員に昴のことを紹介するために集まった講堂にて、坂本とエーリカからの報告を受けたミーナは頭を抱えつつも今回の一件の全容を把握することとなった。

 

「…そういうことだったのね」

「いや本当、お騒がせしてすみません」

「ハッハッハッ、いやこちらこそ済まなかったな岩城。どうやら私の報告が一言足らなかったようだ」

「…全くよ…!美緒ったらこんな大事なことくらい、いつもみたいなザックリ報告はしないでちょうだい!」

「うん?だが肝心なことは伝えただろう?『客を一人連れて行く』と」

「誰を!連れてくるかくらい!きちんと報告してちょうだい!全く、こっちにも受け入れる準備があるのよ…。おまけに同性ならともかく男性を女所帯に連れてくるなんて…」

「…ふふっ」

「何がおかしいのかしら岩城さん?」

「ああ、失礼。お二人の会話がなんというか…無断で同僚を連れて帰ってきた旦那を咎める奥さん、みたいな雰囲気だったので、つい」

「ふぇ!?」

「んなッ!」

 ミーナとペリーヌが顔を真っ赤にして引き攣るような声を上げ、坂本はというと同じように噴き出すと呵々大笑と笑い出した。

 

「ハッハッハッハ!面白い例えをするな、岩城!そういえば私の父も同じようなことをして母に愚痴られていたのを見たことがあったな」

「か…揶揄わないでちょうだいッ!こ、この話はこれで終わりですッ!」

「…岩城さん?先の発言の意図をお聞かせ願いたいのですがどうなのでして?」

「く、クロステルマン中尉?めっちゃビリビリするのですが…あの、俺電撃属性には耐性ないんで…」

 

 

「…すげーな、岩城の奴。ミーナのご機嫌とって少佐のこと有耶無耶にしちゃったよ」

「多分スバルは冗談のつもりだったんだろうけど、ミーナが思いのほかまともに受け取っちゃったから結果オーライなだけだろうけどね」

「…もう一人まともに受け取っちゃった人が暴走しかかってますけどね」

「ペリーヌさん、魔法力まで使って…」

「不用意に少佐の人間関係に首を突っ込むからだ…。少々憐れだが、私も巻き込まれたくはないしな」

「扶桑で言うところの馬に蹴られて死ぬ趣味はないしナ」

「エイラったら、もう…」

 501でも不用意に触れてはならない暗黙の領域に思いがけず触れてしまった昴の有様を宮藤たちが遠巻きに見守る中、ミーナが大きく咳払いをして話を再開する。

 

「ゴホン!…とりあえず改めて確認しておきたいのだけれど、貴方は私に軍との仲介役になって欲しい…ということでいいのかしら?」

「はい。俺自身が単身乗り込んだところで、後ろ盾がない現状何を言ったところで向こうのいいように解釈されてしまうでしょうし、下手に手を出せばそれこそお尋ね者扱いになってしまいますからね。ですので、現状最も戦力を欲しているであろう欧州に俺自身を戦力として売り込むに当たって、信頼できる人に交渉をお願いしたかったんです」

「…美緒から聞いたのだけれど、貴方私のことを頼るように言われたそうね。一体だれがそんなことを?」

「あ~…それはですね。ミーナ中佐たちならご存じかもしれませんが…ハンナ・ウルリーケ・ルーデル大尉から紹介してもらったんです」

「…えッ!?」

 昴の口からでた意外過ぎる名前に、カールスラント組は元より坂本も驚きに目を丸くする。

 

「ルーデル大尉って…あの『空の魔王』か!?あの人がミーナのことを…!」

「…あの、坂本さん。そのルーデル大尉って、誰なんですか?」

「知らんのか宮藤?ルーデル大尉…今は私と同じ少佐だが、彼女はハルトマンと同じ『カールスラント四強』の一角に数えられ、過去に15回以上に渡って撃墜されても尚それを遥かに超える戦果を齎した爆撃のスペシャリストだ。今でこそ上がりを迎えて最前線に赴くことは殆どなくなったそうだが、今なおカールスラント最強のウィッチは誰かと聞かれればルーデル少佐の名を上げる者も少なくはないそうだぞ」

「ふぇぇ…」

 軍人のことなどほとんど知らない宮藤であったが、坂本の説明とバルクホルンの反応から凄い人物であるということだけは理解できた。

 

「その…どうしてルーデル少佐と知り合いに?」

「えっと…あれは確か、カールスラント撤退戦のちょっと前くらいの時だったんですがね。その日はネウロイがいつもより多くて、夜中まで飛び回ってクタクタだったんですよ。それでちょっと集中力切らしていつもより低空をフラフラ~っと飛んでたら…いつの間にか真上に居たルーデル大尉…じゃない、少佐に撃ち落とされまして」

「はぁ!?」

「撃ち落とされたって…」

「新型のネウロイと思ったらしくて…。俺もいきなりのことだったんで驚いてそのまま墜落してしまいまして…幸い季節が冬だったので下に積もっていた雪のおかげで無事だったんですが、その後追っかけてきたルーデル少佐としばらく鬼ごっこするハメになりまして。結局、その時ルーデル少佐が怪我をしていたので向こうが先に潰れまして、どうにか話し合いをすることが出来たんですよ」

「…そういえば、ルーデル少佐は怪我をしても病院を抜け出して出撃することで有名だったわね。そんなときの少佐と鉢合わせするだなんて、運が悪かったのね」

「まあ、あの人も入院のストレスで気が立っていたようだったんで。…それで、誤解を解いてから手持ちの薬で手当てをしたんですが、そのお礼にと俺のことを黙っていてくれることを約束してくれて、その内昇進して偉くなるだろうからとミーナ中佐のことを俺に教えてくれたんですよ。いざとなったら、自分の名前を使ってもいいとも言ってくれました」

「…その、スバル…災難だったね」

「だ、大丈夫だったんですか?撃ち落とされたってことは、撃たれたんですよね?」

「ん?ああ、それはなんともないさ。バルファルクの甲殻は戦車の装甲より軽くて頑丈だからね。君の対装甲ライフルを至近距離から撃たれでもしない限りどうってことはないよ。シールドは苦手だけど、物理防御力には自信があるんだ」

「…そんなの墜とすとかどんだけだヨ、ルーデル少佐って…」

 ネウロイのビームすらシールド無しで耐えきれるという昴の頑丈さに感心する一方、そんな昴を不意打ちとはいえ撃墜したルーデルの凄まじさに恐れ慄く一同であった。

 

「…っと、話が逸れてしまいましたね。それで、ミーナ中佐。不躾なお願いだとは重々承知していますが、どうかご助力願えないでしょうか?」

「ミーナ、私としては是非とも彼に協力すべきだと思う。彼の実力はこれまでの凶星の目撃情報と宮藤たちの見た戦闘能力から明らかだ。ガリア解放という眼前の大事を前に、彼が手を貸してくれるというのであれば、横やりが入る前に先んじて手をまわしておくべきだ。…それにあまり言いたくはないが、下手に返事を保留にしておくと『東の狼』辺りが嗅ぎ付けて引き抜かれるやもしれんしな」

冗談混じりに言う坂本であったが、実際それで実害を被っているミーナからすれば冗談では済まないので、悩ましいところであった。

 

「…そう、ね。私としても歓迎したいところなのだけれど、今や凶星は各国軍部に於いてネウロイに次ぐ要警戒対象に指定されている存在よ。事は501の内輪で収まるものではないわ。政治的な駆け引きが含まれる以上、慎重を期す必要があるの。…申し訳ないけれど、今夜一晩考えさせてもらえないかしら?その代わり、今日のところはここに滞在しても構わないわ」

「それは構わないしありがたいんですが…俺、そんなヤバイ奴認定されてたんですか…」

「そりゃそうだロ。ネウロイが居るところにばかり現れるだなんて、怪しいとしか思えないゾ」

「ハンナの奴なんか、『凶星がネウロイを連れてきている』とか言ってたぐらいだもんね」

「マジかー…若干ヘコむわ」

「あ、あの…元気出してください!」

「…そ、そうだ!岩城さんしばらく扶桑料理食べれてませんよね?今日は美味しい扶桑料理をご馳走しますから!」

「おお…そりゃ嬉しいな。自分で作ろうにも根草無しの日々じゃ碌な材料が手に入らなかったからな。今日は久しぶりにまともな扶桑料理が食べられそうだ」

「ほう、岩城は料理が出来るのか。扶桑男児たるもの台所には…と言いたいが、お前は国外生活が長かったから意味がないな」

「スバルの料理はおいしいんだよ!宮藤の作る料理とはちょっと違ってて、昔も変わった芋料理を…」

「……」

 

 和気藹々とした雰囲気でウィッチたちと談笑する昴の背中を、ミーナは複雑な思いを込めた目で見つめていた。

 




 いらん子中隊のノベルまだ読んでないから二次創作に出てくるイメージでしかルーデルのこと知らないんですが、ウィッチーズ世界でも現実と同じで牛乳飲んで出撃する人でいいのかな?…ガーデルマン役、オリキャラでいいなら要りますか?

ではまた次回


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ミーナの慟哭

タグにはありませんが、今作では原作キャラの生死がちょいちょい変わります。なのでそれに応じて人間関係も多少変わりますのでご了承を。

ベルリン編始まりましたね!芳佳ちゃん、一応入学出来てよかったね。…直ぐに前線復帰だろうけど、ヒーラーは大事だから仕方ないね。あと治癒魔法って虫歯も直るんだ…発進しますっ、の方では駄目だったのに。
少佐はどういうポジションになるのか…?静夏ちゃん加入による教官役か、それとも501と遺欧艦隊との折衝役をミーナから引き継ぐのか…色々期待ですね

ではどうぞ


「おお、サバ味噌…何年振りだ食うのは?もはや久しぶり過ぎて初めて食べたような気すらするぜ…」

「ハッハッハ、大袈裟な奴だな」

「喜んでもらえて嬉しいです!」

 昴の一件もあって時間がずれ込んだこともあり、夜間哨戒の出発前の腹ごしらえも兼ねて久しぶりに501全員揃っての夕食となったこの日、昴は実に8年ぶりとなる扶桑料理に舌鼓をうっていた。

 

「いやー全く、宮藤が来てから食事の時間が楽しみになったんだよな!ちょっと前まではとりあえず食えればいい、的なものばかりで、酷い時にはレーションだけな日もあったもんな」

「トゥルーデとかサーにゃんも料理できるけど、時間の都合でなかなか作ってくれないことが多かったもんねー」

「…まあ作れるとは言っても、私も簡単なカールスラント料理ぐらいしか作れんのだがな」

「私も、そこまで凝った料理は…」

「さ、サーニャの作るものはなんでも旨いゾ!」

「お前はそうだろうなぁ…」

 最初こそ味噌や醤油といった独特な風味の扶桑料理に戸惑った501のメンバーも、もう完全に慣れ親しんだ味へとなっていた。

 

「ありがとうございます!…でも、私も扶桑の家庭料理くらいしか自信ないんですよね。皆さんは欧州の人が多いですし、皆さんの好みの料理も作れるようになりたいんですけど…」

「…ふむ、なるほど。そういうことなら、少し台所を借りてもいいか?」

「え?」

「なに、ちょっと食後のデザートでもと思ってね」

「お?なんか作ってくれるのスバル?」

「まーな。では、しばしお待ちを~っと」

「…大丈夫なのか?」

 

 

 

 

 30分後、昴は両手に甘い香りのする大皿を持って厨房から出てきた。

 

「お待たせ~。時間が無かったから簡単なのしか出来なかったけど」

 昴が卓に並べたのは、粉糖が塗されたドーナツのような丸い揚げ菓子と、櫛切りにされたオレンジと洋酒の香るソースに浸ったクレープ、そしてシロップに浸された色とりどりの果物や野菜が入ったガラス鉢であった。

 それを見て反応を示したのは、カールスラント、ガリア、ロマーニャ勢であった。

 

「あ、シュネーバルじゃん!私これ好き!ローテンブルグに行ったら絶対食べる!」

「おお、懐かしいな。クリスも冬になるとよくこれをせがんでいたな…」

「これ…もしかしてクレープ・シュゼットですの!?よく作れましたわね…」

「マチェドニアだー!!」

「え、フルーツパンチじゃないんですか?」

「違うよー!…あれ、でもトマトとか入ってる。大丈夫なの~?」

「これが意外といけるんだ。有りもので作ったから完ぺきとは言えないが、味には自信があるぜ」

「す…凄いです!みんなが食べ終わるまでの時間でこんなに作るなんて…」

「凝ってるように見えるけど、手順と材料自体はそこまで複雑な訳じゃないさ。欧州っていうのは昔から文化が回りまわって各地で特色が出るようになったから、料理に限らず基本はほぼ同じなものが多いんだよ」

「確かに…クレープ一つとってもガリア、カールスラント、ブリタニアでまるで雰囲気が違いますものね」

「オラーシャにもブリヌイ…クレープみたいな料理があるけど、これとは少し違うものね」

「ていうかお前、なんでも作れるんだな~!他にどんなの作れるんだ?」

「家庭で作れる範疇のものなら、大体は。和・洋・中なんでもいけるぜ、作りやすいように俺流のアレンジは入ってるがな」

「なんだ、根無し草などと言っておきながら随分グルメじゃないか」

「確かに材料は無いとは言ったが、食べ歩き自体は結構していたんでな。移動手段には困らなかったから、ネウロイ退治の合間に各国の屋台やレストランなんかを食べ歩くのが息抜きだったんだよ」

「なんだよ、結構楽しんでたんじゃん。心配して損した~…もぐもぐ」

「もう食ってんのかお前は…まあいいけど。皆も温くならないうちにどうぞ召し上がれ」

「うきゃー!いただきまーす!」

 

「…馴染んでるわね、彼」

「ああ。人当たりが良いのもあるが、博識でよく人を観ている。初対面ではとっつきにくいペリーヌやエイラとも自然に会話出来ていたしな。そういう意味では、ハルトマンと似ていると言えなくも無いな」

 ウィッチ達にスイーツを配膳して回る昴の様子を、少し離れたところでミーナと坂本が見つめていた。

 

「ねえ美緒、あなた彼のことどう思うの?戦力としてでは無く、人間的な意味でよ」

「ん…そうだな。私としては、信用に値する男だと思っている。私の知る扶桑男児のイメージとはかなり違うが、アレはアレでアイツにもきちんとした芯が通っていると感じている。…まあ強いて言うなら、あれだけのウィッチに囲まれて鼻の下どころか顔色一つ変えないのはあの年頃の男として少し枯れているのではないかとは思うがな。ハハハハ」

「…そう」

「?どうしたんだミーナ、何か気になることでもあるのか?」

「そりゃあ気になることはいくらでもあるわよ。…でも、それ以上に確かめたいことがあるの。岩城君に…凶星と呼ばれた彼に、ね」

「…もしや、あのことを?だが…」

「ええ、分かっているわ。彼を見ていれば、悪意が無いことくらいは分かっているの。…でも、それでも…確かめたいの。彼があの時、一体何をしたのか…それを知らなければ、私は…」

「ミーナ…」

 

 

 

 賑やかな夕食が終わり、夜間哨戒に出発したサーニャとエイラを見送った後…昴はミーナに呼び出されて彼女の執務室へと出向いていた。

 

「失礼します、ミーナ中佐」

「ええ、夜分遅くに呼び出してごめんなさいね」

「別に良いんですが…どうしました?」

「…貴方に、聞きたいことがあるの。始めに言っておくけれど、この質問に貴方がどう答えたとしても、貴方の頼みに対して関わりの無いものとするわ。これはあくまで、私個人としての質問よ」

「はあ…一体なんでしょうか?」

 ミーナの意図が読めず困惑する昴に、ミーナは一呼吸を置いて問いかける。

 

「…4年前、私たちの故郷カールスラントがネウロイに奪われ、ガリア、オスロを含めた欧州各国の人々をこのブリタニアに避難させる大規模作戦が行われたわ。作戦名は…『ダイナモ作戦』。美緒から聞いたのだけど、貴方もこの作戦の裏で活動していたと聞いたわ」

「…はい。ネウロイだけならともかく、俺1人では複数の巣を破壊することは不可能でした。だからせめて、避難民と兵士の皆さんを1人でも生かそうと欧州中を飛び回っていました。どれほど力になれたのかは分かりませんが…」

「……その時に、ガリアの沿岸地帯…パ・ド・カレー基地で起きた迎撃戦でのことを、憶えているかしら?」

「ええ、まあ…」

 そこまで言いかけて、昴はミーナの質問の意図を察した。

 

「…もしかして、ミーナ中佐がお聞きしたいのは『クルト曹長』のことですか?」

「…ッ!?貴方、クルトのことを知ってるの?」

「ええ。…俺がパ・ド・カレー基地に到着したとき、基地は守備隊を含めて壊滅状態でした。俺はせめてもと基地に残ったネウロイを掃討しました。その時に、瀕死の状態だったクルト曹長を見つけたんです」

 クルト・フラッハフェルト曹長。ミーナが軍属となる前、ミーナは歌手を、クルトは音楽家を志して共に研鑽の日々を歩んだ仲間であり、同時に恋人でもあった男である。カールスラントにネウロイが侵攻を開始した時、ミーナが自身のステージ衣装と共に歌手の夢を捨て軍人となることを決めた際には、彼女を支えるべく自分も音楽家を諦めて軍人となった。そんな彼が整備兵として最後に所属していたのがパ・ド・カレー基地であり…ダイナモ作戦の殿となったその基地における、唯一の『生存者』であったのだ。

 

「…あの後、凶星の目撃と基地のネウロイが居なくなったという報告を受けて、救助隊がカレー基地に向かったわ。その時には既に凶星…貴方の姿は無く、崩壊した基地の中で唯一の生存者だったのが…クルトだった。クルトには確かに致命傷を受けた跡があったけれど、彼の身体には『傷らしい傷が無かった』。でも…彼の意識は戻らなかったわ。4年の時が過ぎた今でも、身体は完治しても懇々と眠り続けたまま…まるで時間が止まったかのように、クルトは目を覚ましていないわ。…教えて、貴方がクルトと出会っていたのなら、貴方は彼に何をしたの?どうしてクルトは目を覚まさないの!?もし何か知っているというのなら…教えて頂戴。どうか、この通りよ…ッ!」

 椅子から立ち上がり、昴に頭を下げるミーナ。昴はそれを止めようとして…その刹那に垣間見たミーナの瞳に宿った強い意志を感じ、やがて気まずそうに頬を書きながら答える。

 

「…残念ですが、ミーナ中佐。俺には、クルト曹長を目覚めさせる方法は分かりません。というか、俺自身あの時曹長にしたことをハッキリと理解しているわけじゃ無いんです」

「え…?」

「俺が曹長を見つけたとき、曹長は致命傷を負って死の間際にありました。俺に自分の名と…おそらく貴女のことであろう女性のことを伝えた後に意識を失い、今にも心臓が止まりそうな状態でした。俺は黙ってそれを見ていることが出来ず…自分の持っていた薬の中で、一番強力なものを曹長に飲ませたんです」

「薬を…?」

 昴はポーチの中から薬品の入った小瓶を飛び出しミーナに差し出した。

 

「俺はこの薬のことを『いにしえの秘薬』と呼んでいるんですが、これは服用した人間の生命力を極限まで活性化させることで傷だけで無く体力すら回復させるという代物です。…しかし反面、活性化に伴う副作用で一時的に身体に負担が掛かるので、死にかけだった曹長がそれに耐えきれる保障はありませんでした。それでも…あの時の曹長を救うためには、この薬に賭けるしか無かったんです」

「……」

「あくまで推測でしかないんですが、曹長が目を覚まさないのは副作用による負担とその後の急激な回復に身体がついて行かず、自分が完治していることに脳が気づいていないのではないかと…思うんです。彼の脳は未だに自分が死にかけであると勘違いしたまま、身体だけが正常な状態を維持している。所謂一種の…『植物人間状態』にあるんだと思います」

「植物…人間…?」

 余談ではあるが、植物人間という言葉が出来たのは1972年以後のことで、この時代にはその症状に該当する患者はいてもそう呼ばれる事は無かった。

 

「そのような状態になってしまった以上、門外漢である俺にはこれ以上手の施しようがありません。いくつか治療法があるにはあるのですが…何分人間の脳はデリケートですので、下手な施術は曹長を危険に晒すことにもなります。正直な所…曹長が自力で目を覚ますしかないと思います。…お気持ちは察しますが、俺には何もできません…申し訳ないです」

 自身の無力さに頭を下げようとしたスバルであったが、その肩を押しとどめるようにミーナが支えてそれを制する。

 

「…中佐?」

「……謝らないで、どうして貴方が謝るの?謝らなければならないのは、私の方なのに…恩人の筈の貴方が、どうしてそんな辛い顔をしなければならないのよ…!?」

 自問自答をしているかのようにか細い声で呟くミーナの表情は、自分とクルトの恩人が辛い思いをしているという悲しみと、そうさせてしまった自分への怒りが入り混じった…酷い顔をしていた。

 

「正直なところ…私は、貴方が凶星であると知った時…貴方が何かしたせいでクルトが目を覚まさないんじゃないかと、疑ってしまったわ…。怪我のせいでも、ネウロイの瘴気に当てられたせいでもないのなら、それ以外の…あの場にいたはずの凶星が原因なんじゃないかと、そう思っていた…そう思うしかなかった…!でなければ、理由もわからないままいつまでも目覚めないクルトを待ち続ける自分を…保てなかった…ッ!」

「……」

「…でも、事実は違っていた。貴方があの場に居なければ、クルトはとっくに死んでいて…もうこの手で、触れることすら出来ないはずだったのね…。そうならなかったのは、貴方の慈悲がクルトの命を寸でのところで掬い上げてくれたから…。そんな恩人の貴方に、辛い思いをさせて頭まで下げさせようとして…そんなことをされたら、私は…私を許すことが出来ないじゃないの…ッ!!」

「…俺の言うことを信じるんですか?今更言うのも何ですが、本当は中佐の言う通り俺が曹長に何かをして誤魔化す為に嘘をついているのかもしれないですよ?」

「…バカね、本当に今更だわ。フラウが心から懐く様な男の人が、そんなつまらないことをする訳がないでしょう?あの子は普段は軽い調子だけれど、人を見る目はきちんとあるのよ」

「…さいでっか。なら、エーリカと貴女の名誉の為にも先の謝罪は撤回させて貰いましょうか」

「ええ。そうしてくれると、私も救われるわ…ありがとう」

「お礼は曹長が目を覚ましてからで結構ですよ。…大丈夫です、曹長は死の淵にあっても仲間と貴女を最後まで気にかけていた気高い人です。必ず目を覚ましますよ、絶対に…ね」

「…ええ。信じるわ、その言葉と…クルトを」

 ミーナの潤んだ瞳に強い決意が宿ったのを見て、昴はもうこれ以上の言葉は必要ないとその場を辞そうとする。

 

「…中佐、そろそろお暇させてもらってもいいでしょうか?もういい時間ですし、中佐もお休みになるべきと思いますが」

「あ…そ、そうね。御免なさい、遅くまで付き合わせてしまって。…おかげで、今夜は心置きなく眠れそうよ」

「それはなによりです。では、失礼します」

 一礼し、執務室の扉に手をかけようとして…昴はそこでぴたりと止まる。

 

「岩城君?」

「…ミーナ中佐、これだけは言わせてもらいます。たとえ貴女の力を以てしても俺の受け入れがうまくいかなかったとしても…俺はネウロイと戦い続けます。少なくとも、貴方がたの故郷…カールスラントを奪還するまではね」

「カールスラントを…?何故、そこまで…」

「…あそこには、俺が…『俺達』が倒さなくちゃならない敵がいる…!ネウロイのことじゃありません、俺の中のバルファルクが…言っているんです。自分がこの時代まで存在できたように、奴もまだ…必ず生きていると…ッ!」

「奴…?」

「『オストガロア』。…今はその名だけでも憶えておいてください。では…良い夢を」

 そう言い残して、昴は執務室を後にしたのであった。

 

「…オストガロア、それが彼の敵。万を超えるネウロイを倒してきた彼がそこまで言うほどの存在が、カールスラントに…。どうやら、私たちが故郷の土を踏むのは並大抵のことではなくなったようね」

 警戒を帯びた昴の言葉から、その存在が少なくともネウロイ以上の脅威であることを感じたミーナは、目標としていた故郷の奪還がはるかに遠のいたような感覚に重々しく椅子に座りこんだ。

 

「…とはいえ、まだまだ先のことを気にしていても仕方がないわ。まずは目前のガリア解放、そのことに集中しないとね。その為にも、岩城君をなんとしてでも501に在留させなきゃね。…彼が何を言っても関係ないとは言ったけれど、それはあくまで軍紀の上での話で…私個人として贔屓する分には話は別だものね」

 恩人であることが分かった昴の頼みに全力で応えることを決めたミーナは、遺欧艦隊とブリタニア政府への根回しを確実なものとするために夜が更けるまで政治工作の準備に取り掛かるのであった。

 

 

 

 

 

 その頃、執務室を出た昴は割り当てられた部屋へと向かおうとして、その途中で執務室のすぐ隣にある物置部屋へと入っていった。

 

「…盗み聞きとは趣味が悪いんじゃねーか、エーリカ」

「……ちぇ、バレちゃったか」

 呆れるような昴の声に反応し、積み上げられた木箱の陰から聴診器を持ったエーリカがひょっこりと顔を出した。

 

「聴診器まで持ち出して、自分の夢の為の機材を下らんことに使うなよな。あと、なんでこんなところから盗み聞きしてたんだよ?」

「ミーナは用心深いから、扉の前とかじゃ魔法で居場所がバレちゃうんだよ。ここならミーナも人がいるとは思ってないから油断するんだよね~。…あと下らないこととか言うなよ。せっかくこっちは幼馴染のこと心配してやってんのにさ~」

「ほー、わざわざ俺のこと心配してくれてんのか。お前にしちゃ珍しく殊勝じゃないか」

「そりゃそうでしょ。…やっとまた会えたのに、もうお別れなんて私は嫌だもん」

「…そうか。ありがとうな」

「ん…部屋、戻るんでしょ?途中まで一緒に行こ」

 思った以上に8年間の離別がエーリカの心に深い傷となっていることを感じた昴は、揶揄いすぎるのはよくないと素直に厚意を受け取ることにした。

 

「ところで、ウルスラには連絡したの?生きていたこと」

「あ~…それはまだなんだ。ミーナ中佐の根回しがうまくいったら、自分から会いに行くよ。もしダメだった時には…お前の方から伝えておいてくれ」

「はいはい。ウルスラも喜ぶだろうなぁ~、お前が死んだって聞いて、しばらくずっと寝込んでたんだよアイツ」

「…そうか。なら、早く安心させてやらないとだな」

「だね。……ねえ、さっきミーナと話してたことなんだけど。そのオストガロアってのが、カールスラントに居るんだよね?」

「…ああ。どこに埋まってんのかは分からないが、バルファルクから聞いた限りでは自分が埋まっていたところとそう遠くないところで相撃ちになったらしいから、もしかしたら…ベルリンの真下とかにいるのかもな」

「ちょ、怖いこと言わないでよね。…スバルの使い魔のバルファルクって、めちゃんこ強いんでしょ?そんなのと相撃ちになるなんて、オストガロアって…強いの?」

「強い。戦闘能力もだが…奴の場合はそれ以外も脅威だ。もし奴が何らかの理由で復活することがあったとしたら…仮にネウロイを倒してカールスラントを解放できたとしても、少なくとも向こう100年は…カールスラントは人が住める土地じゃなくなるだろうな」

「ッ!?……絶対に倒さなきゃね。ネウロイも、オストガロアも…!」

「ああ…!」

 各々の決意を新たに、邂逅の日の夜は過ぎていくのであった。




シュネーバル…ドイツのローテンブルグ地方の名物お菓子。雪玉という意味がある。クッキーのような生地を伸ばして切れ込みを入れ、手で軽く握るようにして纏めてから揚げ、雪の様に粉糖を振る。ドーナツのような見た目ではあるが、サクサクとした食感で手でも簡単に砕ける。

クレープ・シュゼット…焼きたてのクレープにオレンジジュースとオレンジの果肉を加えて煮立て、オレンジリキュールを加えてフランベしたものにカラメルをかけて食べる。フランスが誇る最高級デザートの一角。

マチェドニア…イタリアを始めとした地中海地域で食べられるデザートのようなサラダ。アレキサンダー大王が支配したマケドニア王国が由来。フルーツパンチ(フルーツポンチ)とよく似ているが、こちらはハーブを利かせるのがミソ。

興味が出来たら作ってみてね!レシピ?ググって!
オリ主がいにしえの秘薬を持っていた理由は後々…ちょっとだけ言うなら、彼の固有魔法の副産物です。


ではまた次回


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銀翼の神槍

ウィッチーズシリーズってそれぞれの主要人物が多いから全員絡みを入れようと思うと話がなかなか進まないんだよね…。日勤組が多いからどうしても夜勤が多いエイラーニャの出番が少なくなるし。いっそネロミェールが使い魔でナイトウィッチメインの話でも面白いかもしれない

ではどうぞ


 翌朝…まだ日も登り切っていない早朝に、昴は一人目を覚まして外に出ていた。

 

「ふぁあ…つい癖で起きちまった。でもまあ折角だし、いつものついでにリトヴャグ中尉たちの出迎えでもするか…おや?」

 久しぶりのベッドで緩み切った体をほぐしながら波止場まで歩いていると、別の出入り口から出てきたであろう坂本が刀を手にして立っていた。

 

「少佐…!おはようございます、こんなところで何してんですか?そんな物騒なもん持って…」

「む?おお、岩城か。おはよう。なに、日課の素振りをしに来ただけだ。ここは最前線だからな、常在戦場の気持ちを忘れてはならないという戒めのようなものだ。お前こそ、こんな朝早くにどうした?慣れない寝床で眠れなかったのか?」

「いや、それはぐっすり眠らせてもらいましたが。…実は俺、前から早朝に近隣一帯を飛び回ってパトロールするのが日課なんですよ。この時間帯ってのは、日勤のウィッチが起きだす前で、夜勤のナイトウィッチも集中力が限界になるんで、一番危ない時間帯な訳でして。ネウロイに昼も夜もない以上、この時間に見回りしておくとリスクの軽減に繋がると思ってましてね」

「なるほど…確かに、よくサーニャやエイラを出迎えるがいつも疲れ切っているからな。早朝というのは意外と盲点だったかもしれん。今後の哨戒体制の改善案にさせてもらおう」

「そりゃなによりで。…ところで、折角起きてしまったんでパトロールするつもりだったんですが、俺、基地から出て大丈夫なんですかね?」

「ん?ああ…まあ、少しくらいなら問題ないだろう。お前はまだ正式に軍の管轄下に入ったわけではないからな。軍人でもないお前に軍紀を押し付けるようなことはせんさ。無論、脱走ともなれば大事ではあるが…私はお前を信用しているからな!必ず戻ってくると信じているぞ!」

「わーい、信用が重いぜ~…。んじゃあ、ちょっとブリタニアをぐるっと一周してきますわ。大体2時間くらいで戻ってきますんで」

「ああ。そのくらいには宮藤たちも起きだして朝食の時間になるだろうから、ほどほどで帰って来いよ」

「了解!」

 坂本の了承を得て、意気揚々と魔法力を発動させて翼を展開したところで…ふと、坂本が思い出したように昴を呼び止める。

 

「…!岩城、すまん。ちょっと待ってもらっていいか?」

「?はぁ…なんですか?」

「昨日から何時聞こうか迷っていたんだが…これが何かわかるか?7年前に、お前と初めて会った時に拾ったものなんだが」

 そう言って坂本が軍服の裏から取り出したのは、昴が飛び去った後に残されていた黒い破片であった。

 

「あー…!それ、俺の鱗ですわ。ほら、この辺の」

 昴が自身の肘のあたりを示すと、確かに坂本の持っている破片と同じような形状をした鱗がついていた。

 

「鱗なのか!?見たことがない形だったから気づかなかったぞ…」

「まあ、龍の鱗なんて誰も見たことないですもんね。音速に近い速度で飛んでると、空気との摩擦で体表温度が高まって、古い鱗が焼け落ちて剥がれることがよくあるんスよ。すぐ生え変わるんでどうってことはないんですがね」

「そうなのか…。今までお守り代わりにしていたが、本物の龍の鱗となると普通のお守りよりご利益がありそうだな。ハハハハハ!」

「お守りにしてたんですか…なんか、そんなもんで申し訳ないっすね。俺にとっちゃぶっちゃけ抜け落ちた髪の毛みたいなもんなんで。…あ、そうだ。どうせお守りにするならこっちをどうぞ」

 自分にとってはゴミ同然のものを後生大事にされていたことに気恥しくなった昴は、ポーチの中から5㎝ほどの真っ赤に輝く玉石を差し出した。

 

「これは…?」

「『赤色の龍氣玉』っていうもんです。龍気エネルギーが翼の内側で蓄積されて出来た結晶体です。あんまり溜まると翼の龍気孔が詰まってしまうんですが、捨てるのも勿体なくて貯めてたんです。せっかくお守りにするなら綺麗なもののほうがいいでしょうし、そんなのよりこっちにしてくださいや」

「…なんだか凄いもののような気がするが、そこまで気を遣わなくもいいんだぞ?」

「いやぁ…むしろそんなもんを大事にされるほうが俺にはなんか恥ずかしいんで、俺の為と思ってもらってくださいな」

「そ、そうか…。では、ありがたく貰っておくとしよう。それにしても…これもある意味では、『龍の珠』という訳だな。かぐや姫ですら手に入れられなかったお宝を手にしたと思うと、らしくもないが嬉しいものだな」

「少佐ならかぐや姫もお似合いですよ。…宝の代わりに自分を倒せたら嫁になってやる、とか言いそうですが」

「ハッハッハ!言ったな貴様!」

「おお剣呑剣呑(テリブルテリブル)、それじゃ行ってきまーす!」

 笑顔のまま青筋を浮かべる坂本から逃げるように、昴は波止場からジャンプするとそのまま龍気を噴射して飛び去って行った。

 

「全く…人のことを鬼かなにかと勘違いしているんじゃないかアイツめ。土方ほどとは言わんが、扶桑男児らしく実直に生きられんのか……いや、ハルトマンの幼馴染な時点でしょうがないことか!ハッハッハッハ!」

 自分の副官を引き合いに出して愚痴を漏らすが、エーリカと気が合う時点でお察しだったことに思い至った坂本は吹っ切れたように笑いながら素振りを始めるのであった。

 

 …男性から宝石の贈り物をされて何も思わないあたり、坂本のデリカシーの無さも大概であったが。

 

 

 

 

 

 

 

 それから数時間後、宮藤たちも目を覚まし、夜間哨戒組と昴が帰還して朝食を取った後、ミーナの命令により緊急のブリーフィングが行われることとなった。

 

「皆さん、急に集まってもらってごめんなさいね。特にサーニャさんとエイラさん、夜勤明けで眠たいでしょうけど少しだけ我慢して頂戴」

「うん…zzz」

「…そんな顔で言っても説得力ないぞミーナ。お前が一番眠そうじゃないカ」

「あら…そうかしら?」

 愛用の枕やシーツで爆睡しかかっているサーニャやルッキーニに対し、ミーナは声こそいつも通りだが目に下に隈が出来ており眠れていないのが丸わかりな状態であった。

 

「…その割にはお前は妙に目が冴えているじゃないかハルトマン。いつもならお前も居眠りする側だろうに?」

「まあ今回はね~。話ってアレでしょ?スバルの処遇に関することなんでしょ?」

「うふふ、朝から気になってしょうがなかったみたいね。わざわざ夜更かししてまで盗み聞きするほどですものねぇ?」

「うぎ…バレてたのか」

「私を出し抜こうなんて甘いのよ。…さて、今言ったとおり話というのは岩城さんの頼みに関することなのだけれど…単刀直入に言えば、私は彼の要請を受諾して、この501に所属出来るようにすることを決めました」

「おお!新しい仲間が増えるんだな!」

「良かったですね、岩城さん!」

「お、おお…でも水を差すようで悪いが、まだミーナ中佐が決めたってだけで上の許可が取れた訳じゃないんだから、そこまで喜ばなくとも…」

「大丈夫だって!ミーナに任せておけば絶対うまくいくよ!」

「ええ、今回ばかりは任せて頂戴。今まで貯めに貯めておいた上層部の弱み…もとい交渉材料をフルに使ってなんとしてでも許可を取って見せるわ!」

「加えて…今朝は言い忘れていたが、昨晩502から連絡があった。お前の探知から6時間後に、宣言通り東欧の巣からネウロイが出現したそうだ。事前に連絡があったおかげで初期対応を迅速に行え、被害を出すことなく撃墜できたと礼を言われたよ。これでお前の能力が確固たるものであるという証明になる。少なくとも昨日言ったようなことにはならないだろう」

「…あざっす」

 自分の為に手を尽くそうとしてくれるミーナや坂本に、昴は感極まって顔をそむけたまま短くそう答えることしか出来なかった。

 

「それでなのだけれど、私と坂本少佐はこれからロンドンでブリタニア政府と遺欧艦隊の上層部との交渉に向かいます。なのでバルクホルン大尉には本日基地の責任者を代行してもらいます。トゥルーデ、お願いできるかしら?」

「ああ、任せておけ」

「俺は行かなくていいんですかね?」

「ええ。…貴方を基地に残すにあたって、少し考えがあるの。だから今回は貴方が同席しないほうがいいと判断したわ。必ず承諾を得て戻ってくるから、私を信じて待って居て欲しいの」

「…了解しました。ミーナ中佐に全てをお任せします!」

「ありがとう。…では、本日のブリーフィングはこれにて…」

 と、ミーナが解散を言い渡そうとしたその時…

 

 

「…ッ!」

 

ガタッ…!

 ハッとして窓の外へと顔を向けた昴が椅子から立ち上がった。

 

「岩城?どうした?」

「どったのスバル?」

「…来る、ネウロイだッ!!たった今巣から出てきやがった!」

「えッ!!?」

 鬼気迫る様子でそう叫んだ昴に、一同の顔に驚きと警戒の色が浮かぶ。

 

「本当か!?数と方角は!」

「数は…4!進行方向はブリタニア本土…こっちに向かってきている!」

「4か…大きさは分からないのか?」

「そこまで正確にはな…だが、多分そこまで大きくはない。精々中型クラスの奴が4体だ!」

「お、おイ!?警報はまだ鳴ってないんだゾ!ホントにネウロイが出たのかヨ!?」

「…先も言ったが、岩城のネウロイを察知する能力はサーニャ以上だ。おそらく間違いないだろう…!」

「…総員、出撃準備を!正確な情報が入り次第、編成を組んで出撃します!」

『了解!』

 ウィッチーズたちが準備のためにドッグへと向かう中、昴は一人窓から外へと飛び出した。

 

「スバル!?」

「済まんが待ってる時間が惜しい!俺はスクランブルで出る、後から追いついてくれ!」

「ちょ…岩城さん!」

 

キィィィ…ドゥンッ!!

 ミーナたちが呆気にとられる中、昴は魔法力を発動させると朝と同じように波止場から飛び立ち、瞬く間に亜音速に到達すると赤い閃光となってあっという間に遥か彼方に飛んで行ってしまった。

 

「は、速エー…。朝の時も大概だったけど、何なんだよアイツの加速力…」

「…ミーナ!」

「仕方がないわ…総員、準備が出来た者から緊急発進よ!フォーメーションは情報が入り次第飛行しながら伝えるわ!」

「了解です!」

「全く…!命令も無しに発進するなんて、軍紀破りはもうお腹いっぱいでしてよ!」

「ま、まあペリーヌさん…。岩城さんはまだ軍属じゃありませんし…」

「…言っときますけど、貴方もそのお一人でしてよ宮藤さん!」

「あう…」

 

 

 

 …5分後、突然の出撃要請に戸惑う整備兵たちを急かして発進準備が整った頃になって

 

ウゥゥゥゥー…ッ!!

「あ…警報だ」

「今頃かよ!?」

「ホントに当たった…凄い」

「感心するのは後よ!ストライクウィッチーズ、発進します!」

 ミーナの号令と共に、ウィッチたちは次々と空へ飛び立っていったのであった。

 

 

 

 

 基地を飛び立ってから20分後、目標地点に近づくにつれ監視班からの正確な情報が届いていた。

 

「敵の数は4体、いずれも中型。時速300kmほどのスピードでブリタニア本土へ向けて進行中…驚いたわ。岩城さんの言っていたこととほぼ同じね」

「アイツどんなレーダー持ってんだろうな?これじゃ監視班の仕事無くなっちゃうんじゃないか?」

「気を抜くなリベリアン。早く先行した岩城に追いつかねば…いくら何でも1人で4体のネウロイを相手にするのは無謀だからな」

「サーニャ、大丈夫か?まだ殆ど魔力回復してないんダロ?」

「う、うん…。大丈夫、なんとか頑張るから…」

「大丈夫だよサーにゃん。私たちがサポートするから、無理しないでね」

「ハルトマンさん…ありがとう」

「うぎぎ…ハルトマン汚い!」

「エイラさん…」

「…ム!見えたぞ、あそこだ!…だが、これはッ…!?」

「坂本さん…?」

「……え、これって…」

 ようやくネウロイを視認するに至ったウィッチたちが目の当たりにしたのは、信じられない光景であった。

 

 

 

 

『■■■■ーーッ!!』

「おおっとぉ!ノロいぜッ…シュートッ!」

 ネウロイの放つビームを圧倒的なスピードで潜り抜け、すれ違いざまに翼から放った龍気砲がネウロイの装甲を貫いて6つの大穴を穿ち、それによってコアを抉られたネウロイが砕け散った。

 

「これで3つ!最後は…テメエだッ!」

 『3体目』のネウロイを仕留めた昴は、仲間が全滅し逃走を図ろうとした最後のネウロイへと狙いを定める。

 

「逃すかよッ…!待てコラァ!」

 昴は龍気を吹かして一気に距離を詰めると、ビームを放って牽制するネウロイの真後ろに回り、加速しながら右の翼脚を折りたたんだ。

 

神槍(グングニール)ッ!」

 昴が右腕を突き出すと同時に、折りたたまれた翼脚が一直線に伸び、槍の如く突き出された翼がネウロイの装甲を抉り取った。

 

キラッ…!

 コアの破壊にまでは至らなかったが、砕けた装甲の下からネウロイのコアが露出する。

 

「コア見っけ!これで…」

「もーらいッ!」

「お…はッ!?」

 続けて左の翼でとどめを刺そうとした昴であったが、それよりも早く割り込んできたエーリカのMGが火を噴き、ネウロイのコアを先んじて破壊してしまった。

 

ガガガガガッ!

パキィィンッ…!

「あッ!…テメー、エーリカ!美味しいとこどりとは汚ねーぞ!」

「戦場はシビアなんだよ。やられる前にやるのは当たり前でしょ?」

「んナロー…!けど俺はもう3体仕留めたかんな!俺の方がスコアは上だバーカ!」

「なんだとー!じゃあ私は次の出撃で4体墜としてやるんだから!」

「ハッハッハ、無理すんなよウルトラエース(笑)」

「にゃにおぉーッ!!」

 

「…二人とも?」

「え、あっ…」

「ち、中佐殿…?」

「正座」

「え…?み、ミーナ…ここ空中なんだけど?」

「正座」

「いやあの…中佐、正座しようにも足場が…」

「せ・い・ざ」

「…はい」

「うす…」

 

 結局、ストライカーを履いたままでは正座が出来ないエーリカがホバリング状態で正座する昴の背中で正座する形で、二人はミーナの説教を滾々と聞くことになっていた。

 

「器用なことしますよね、お二人とも…」

「ハルトマンさん、よく落ちずにいられるよね」

「偶には良い薬だ。いつもは人命が懸かっていることが多い手前強くは叱れん分、こういう時に釘を刺しておかねばな」

「ハッハッハ。しかし…宮藤から聞いて相当なものだとは思っていたが、岩城の強さは想像以上だったな」

「ええ…。あんな戦いをするウィッチなんて前代未聞ですわ。ネウロイの装甲を破壊するだなんて、あの翼どんな強度をしてますの…?」

「中型ネウロイ4体をほぼ一人で倒しちまうなんてなぁ…。バルクホルン、全然無謀じゃなかったみたいだぞ?」

「うるさいぞリベリアン。…だが正直私も未だに信じられん。もしアイツがもっと早く表立って戦場に居れば、ネウロイの侵略も今ほど絶望的ではなかっただろうが…」

「バルクホルン」

「…っと、そうだったな。岩城の立場を考えればムシのいい話でしかないな」

「…あ、中尉の足がプルプルしてきたよ」

「顔も引き攣ってきてんナ。そろそろ限界カナ?」

「むにゅ…眠い…」

 遠巻きに説教を見守られる中、エーリカの限界が近づいているのを察したミーナはため息を吐きながら説教を切り上げる。

 

「…はぁ。これ以上言っても頭に入ってきそうにないわね。今日はこれくらいで勘弁してあげますから、次からは独断専行をしないよう気をつけてくださいね」

「ハッ、了解しました!…エーリカ、聞いてるか?」

「ご、ごめん…もう限界…」

「しょうがねえな…」

 足が痺れ切ってストライカーも履けないエーリカを、昴は彼女のストライカーと共に小脇に抱える。

 

「…それじゃあ、帰投しましょうか。今からならまだ約束の時間にも間に合いそうですし」

「よろしく頼みます、中佐。…ところでリトヴャグ中尉、大丈夫ですか?もうフラフラですけど…」

「…zz、平気…」

「全然平気じゃないダロ。…し、しょうがないから私が抱えて…」

「そんじゃあ中尉、俺の背中乗ります?中尉お一人くらいなら余裕ですし、ユーティライネン少尉もお疲れで…」

「ガルルルル…うごーッ!」

「…と思いましたが、元気そうですのでお任せしますね」

「ふん、当たり前ダ!サーニャをそう簡単に任せられる訳ないダロ!」

「…んじゃ代わりに私が乗るー!」

「うおっと!?る、ルッキーニ少尉…」

「お、どんな感じだルッキーニ?」

「ん~…思ったより広くていい感じ!ヒヤッとしてて気持ちいいし!にゃひひ、そんじゃあしゅっぱーつ!しんこー!」

「…やれやれ。んじゃ、行きましょうか」

「…御免なさいね」

 

 …その後、そのままルッキーニが寝入ってしまったことで増々申し訳なさそうな顔になったミーナを宥めながら、一同は基地へと帰還していったのだった。




501とか502にも男性職員がいるのは原作で示唆されてるけど、どこで生活してるんだろうか…?まあアニメで描写されてない区画があるのかもだけど、どういう基準で選ばれた人たちなのか気になりますね

ではまた次回。


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繋がっていた縁

皆大好きマロニーちゃん登場。…但し今回いいとこ無し

ベルリン編2話視聴完了。やっぱりウィッチの機動力って異常だよね。ネウロイが大型化すればするほどウィッチのスピードと小回りが活きてくるし、いざとなったら必殺のシールドアタックで面攻撃も出来るし。…最もあのレベルの攻防が出来るのは全ウィッチの中でも一握りなんでしょうけど。
あと今期はカッコいい男連中の出番がありそうなのも楽しみ。対ネウロイ装甲なんてものが出てきましたし、戦車や戦闘機に乗って戦う男たちが見れるかもですね


あとどうでもいいけれど、岸部露伴は動かないを高橋一生さんで実写化とかマジかよ…。しかも脚本はあの小林靖子さん。これは…期待していいんじゃあないっスかねぇーッ!!今から放送が楽しみですよ

長々と失礼、ではどうぞ


 緊急出動したものの、昴が速攻でネウロイを全滅させてしまった為にトンボ返りすることとなったストライクウィッチーズ。肩透かしを食らった徒労感もあって、帰投後は各々爆睡、家事、趣味の時間と訓練そっちのけな時間を過ごす者が多い中、ミーナと坂本は大急ぎで支度を済ませるとバルクホルンに残務処理を託し、ペリーヌと昴に見送られてブリタニアの首都ロンドンへと向かっていった。

 

 そして現在…ロンドンにある議会場にて、ブリタニア連邦首相チャーチル、501の実質的上官であるブリタニア空軍大将トレヴァー・マロニー、そして人類連合軍の総参謀長である浜口子門少将という面々を前に、ミーナは自身が徹夜で書き上げた昴に関する資料を公開していた。

 

 

「…ミーナ中佐。改めて確認するが…この資料にある男性魔法力保持者…ウィザードの存在は確かなんだね?」

「はい。彼は紛れもなく魔法力を有し、ネウロイと戦う力を持っています。私を始め、部隊の全員が彼の戦闘を目撃しました。つい今朝のことです」

「既に報告書は読ませてもらったが…中型ネウロイ4体を出撃から僅か30分足らずで単身撃墜するなど…俄かには信じがたい内容ではあるがな。しかもなんだね…使い魔がドラゴン?君の冗談は初めて見るが、君にも苦手なものはあったようだな」

「ですが、事実です。彼の実力も、彼の使い魔の存在も我々の目でしかと確認しました。扶桑海軍少佐の名に懸けて、嘘偽りないことをここに誓います」

 半信半疑なチャーチルと元よりウィッチと501の存在を毛嫌いしているマロニーの言葉に、ミーナと坂本は毅然と反論する。そんな中で、資料に目を通したまま沈黙を保っていた浜口が徐に口を開く。

 

「…凶星か。噂は聞いていたが、本当にネウロイを駆逐していただけだったとはな。それにしても…岩城、か。まさかその名を再び聞くことになるとはな…」

「…少将閣下は、岩城のことをご存じなのですか?」

「ああ。…と言っても、彼本人ではなく彼の父親をだがな。彼の父親は製薬業を営んでいたのだが、時折戦地に赴いて辺境の村や町に薬を配って回る困った癖があってな。私も立場上軍事物資である薬を無料で配ることを咎めなければならないのだが、何度捕まえて送り返しても懲りずにまた来るものだから、心底呆れたものだよ」

「まあ…!」

「…なるほど、流石は岩城の御父上だな」

「ふん、親子そろってロクでもないと来たか。…それで、貴官らは我々に一体何を求めているのだね?」

 棘のあるマロニーの態度に坂本はカチンと来たが、ミーナは慣れたもので眉一つ動かすことなく答える。

 

「はい。我々501としましては、彼をこのまま保護観察対象として監視下に置き、その能力と人格を見極める為に『仮隊員』として部隊に編入することを希望します」

「…ふん!随分と色物ばかり集めるではないか?最近は入隊間もない素人同然のウィッチが2人、そして今度はよりによって男のウィッチとは…君の掲げるガリア解放の為の精鋭部隊とはコメディアンの集まりかね?」

「…お言葉ですが、私はこのメンバーこそが現時点における世界最精鋭部隊であるという自負があります。…それに、リネット・ビショップ曹長を501に推薦してくださったのは閣下であったと記憶していますが?」

「ム……まあどうあれ、貴官の希望は却下だ。これ以上軍属経験のない素人ばかりを編入して、その指導に時間をかけていればその分ガリアの解放が遅れることなる。我々の責任下の元であまり悠長にされるのは迷惑なのだよ。…件のウィザードの身柄は我々ブリタニア空軍が預かる。その能力の有用性がどうあれ、我々の元で然るべき活躍をしてもらうことになるだろう」

「…差し出がましいようですが、彼の戦闘能力とネウロイの探知能力は最前線でこそ最も活きると考えます。彼をどのような扱いとするかは存じ上げませんが、その能力を後方に下げるのは扶桑で言うところの宝の持ち腐れというものかと…」

「口が過ぎるぞ、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐!!貴官と501はあくまで我がブリタニアの庇護のもとで活動できているに過ぎないということを忘れるなッ!」

「…出過ぎたことを申しました」

「ふん…!閣下、貴方からもこの思いあがった小娘に言って差し上げてはくれませんか?」

 ミーナの主張を捻じ伏せたマロニーが、隣のチャーチルに同意を求めて発言を促したが…

 

 

「…ふむ。私は、ミーナ中佐の申し出を許可しても良いと思う」

「なッ!?」

 マロニーの期待に反し、穏やかな口調でミーナの擁護に回ったチャーチルにマロニーが愕然とした時…ミーナは隣の坂本にだけ分かるレベルで口元を歪めた。

 

「か、閣下…!?何故そのような…」

「まあ落ち着きたまえ、マロニー大将。…今ミーナ中佐も言ったとおり、彼が従来の索敵網以上の探知能力を持っているというなら、その力は最も会敵数の多い501にこそ必要なものであろう。加えて、ただでさえ前例の少ないウィザードであって、戦闘能力も高いともなれば、ノウハウのない我々よりベテラン揃いの501で管理するほうがより良い活躍を見込めるのではないか?」

「ぐぬ…し、しかし女ばかりの501に男を入れて、万が一のことでもあれば…」

「それこそ無用な心配であろう。いくらウィザードとして優れていようと、正規の軍人である彼女らを力尽くでどうこう出来ると思うのかな?そもそも、501には既に整備兵を含め多くの男性職員が配属されている筈だが」

「ぐぬぬッ…!」

 反論を悉く封殺されるマロニーに、向かいの席から追い打ちが掛かる。

 

「小官も、彼を501に加入することに賛成します」

「浜口!貴官まで…!?」

「小官は彼の戦闘を直に見たわけではありませんので、彼の運用法について口を挟むつもりはありません。…小官はただ、彼の有用性を認めた現場の意見を尊重するだけです」

「浜口少将…!」

「ぐ…ぬぅぅ…!」

 

 

 結局その後、マロニーはそれ以上反論を述べることが出来ず、ミーナの希望通り昴は非正規ながらも仮隊員として501に編入することが決定した。目的を達したミーナと坂本が礼を言って退室する刹那、マロニーが憎々しげにその背中を睨んだが、ミーナはどこ吹く風といった可憐な立ち振る舞いで悠々と退室したのであった。

 

 

「…此度のご協力、心から感謝します。浜口少将閣下」

「なに、私はただ思い出話と率直な意見を言ったに過ぎんよ。感謝されるほどのことはしておらん」

 協議が終わった後、ミーナと坂本は浜口少将の元へとやってきていた。

 

「それにしてもミーナ中佐、随分と裏で大盤振る舞いをしたそうじゃないか。チャーチル閣下が苦笑いをしておったぞ?あそこまで手をまわされては敵わん、とな」

「お褒めの言葉として受け取っておきますわ」

「…とはいえ、これでミーナのブリタニア政府に対する手札は殆ど尽きてしまったのですがね」

 今回の協議、マロニーは知る由もないが議題が提示されるより以前に既に結果は決まり切っていた。ミーナは協議の時間より数時間早くロンドンに到着し、その足でロンドン中のチャーチルの支持者たちに挨拶周りをしに向かい、これまで溜め込んだスキャンダル等をネタにした交渉を持ち掛け、チャーチルに首を縦に振らせる以外の選択肢を無くしたのである。いかに一国の首相とはいえ、選挙によって選ばれた以上支持者を失うことは政治家にとって死活問題であったが故だ。

 そして目の前の浜口はというと…どういう訳か、昴の名を聞いた時点でミーナに賛同することを確約してくれたのである。

 

「ところで少将、なぜこうもあっさり我々に協力してくださったのですか?先のお話を聞く限りでは、岩城のご両親とはあまり親密であったようには思えないのですが…」

「…坂本少佐。男にはな、例え一方的ではあっても通すべき『仁義』というものがある。私はそれを貫いただけだよ」

「仁義…?」

「あれは…そう、岩城の奴を3度目に連れ戻した時だったか。あの頃は私もまだ現場に出ていた頃でな、毎度毎度同じことを繰り返す奴にいい加減腹が立って、尋問室でつい怒鳴ってしまったのだよ」

 

『いいか!貴様のやっていることは、我ら扶桑皇国軍が必要とする物資を不法投棄するに等しい行為、詰まるところ扶桑皇国に対する裏切りなのだぞッ!!貴様が詰まらん感情に流されて物資をバラまくせいで、欧州の辺境の民から我々は吝嗇(ケチ)呼ばわりされているのだぞッ!貴様のせいで我ら皇国軍の面子は丸つぶれだッ!!』

 

「…閣下、それは…」

「ああ、分かっているとも。我ながら配慮に欠けた物言いであったと反省しているよ。それでも、どうしても我慢できなかったのだ。…だが、奴は口角唾を飛ばして怒鳴り散らす私に澄ました顔でこう言ってのけたのだ」

 

『…じゃあ、アンタの言うその面子とやらで一体どれだけの人を救えるってんだ?教えてくれよ。もしそれが俺の薬で救える奴より多いってんなら、俺も金輪際お宅らの邪魔はしないって約束してやんよ』

 

「…まあ」

「なんというか…命知らずな御仁ですね」

 横紙破りで捕まった立場であるにも関わらず、軍人に対して挑発としか思えない態度をとった昴の父に、ミーナも坂本も口元を引くつかせて唖然としていた。

 

「ああ、まったくだ。正直あの場で殴り飛ばしていてもおかしくなかったと思うよ。…だが、そうはならなかった。正確には、出来なかったのだ。奴にそう言われて一瞬カッとなったのだが…同時に、頭の中に浮かび上がってしまったんだ。奴を強制連行する際に我々を引き留めようとする、辺境の村の人々のことをな…」

 昴の父を連れ戻す際、皇国軍の兵は毎回昴の父が逗留していた村や町の人々に連れて行くのを止めるよう懇願されていた。若い兵士の中にはそんな光景に耐えきれず逃げてきてしまう者もおり、当時から自他ともに厳しいことで有名であった浜口が毎回担ぎ出される羽目に遭っていたのだった。

 

「我々とて、人類の為に命を懸けてネウロイと戦っているという自負はある。しかしだ…そうして我々が戦ったとて救えぬこともあるし、救えたとしても我々は守った人々の顔も知らず、守られた民衆も我らのことを知ろうともしないだろう。君たち見目麗しいウィッチと違って、軍艦乗りは地味だからな…。それに比べて奴は、救うべき人々に直接寄り添い、個人でできる範囲とはいえ確実に人々を救っている。…誰を守っているのかも分からない我々と、一人一人の心と体を確実に救っていた奴…。それらを天秤にかけた時、果たしてどちらが人々に求められているのか…そう考えた時、私は奴の言葉に何も言い返せなかったのだ」

「…しかし閣下、それは比べても仕方のないことでは」

「そうだろうな。…だが、そんな風には思えなかったのだ。もし仮に奴がほんの少しでも自分の利益の為に横紙破りをしていたのであれば、力尽くで連れ戻すことに何のためらいもなかっただろう。だが奴は一切の見返りも、何の称賛も求めずただ困っている民を、苦しむ人々を救いたいという一心で動いていた。そんな奴に、所詮軍隊という組織の中でしか動くことが出来ない自分の価値を押し付けることが…恥ずかしいことのように思えたのだよ」

「……」

「それからだ。私が奴の渡欧を知ってもそれを見て見ぬふりするようになったのは」

「え」

 唐突なカミングアウトに坂本の喉奥から変な声が出てしまう。

 

「あの時、私は奴の生き方をほんの少しだが羨ましいと感じてしまった。規律にも面子にも囚われず、己の心の赴くままに誰かのために動く奴の自由さが…眩しかったんだ。そう思ってしまったら…もう奴を止めることなど私には出来なかった。…そんな自分の浅慮を悔いたのは、8年前に奴が一家諸共カールスラントでネウロイに襲われて死んだと聞いた時だったよ」

「…!」

「あの時どうして止めなかったのかと、いやそれ以前にもっと早く止めていればと…奴の命日が来るたびに後悔したものだ。そんな時に、奴の息子が生きていて、しかもウィザードとしてネウロイと戦っているという話を君たちが持ってきた。…運命を感じざるを得なかったよ。天が私に、今こそ奴への筋を通す時だと告げているような気がしたのだ」

「だから、私たちに手を貸して下さったのですね」

「うむ。これは私の個人的な感傷でしかない。だがそれでも…人類連合軍の総参謀長として、ネウロイの侵略に抗う者の一人として、これは必要なことであったと確信しているとも。奴の志を継ぐ者に、無粋な首輪は必要ない。…ミーナ中佐、坂本少佐。勝手な願いだと承知しているが…岩城の息子を、我が盟友の忘れ形見を…守ってやってくれ」

「勿論です、閣下」

「必ず、この坂本美緒の名に懸けて…!」

「うむ」

 

 ミーナたちが部屋を去った後、浜口は窓の外から空を見上げてポツリと呟いた。

 

「…この空を、お前の息子が飛んでいるそうだ。俺にしてやれるのはここまでだ。あとは、お前が精々見守ってやれ…岩城」

 

 

「…浜口少将、良い方だったわね」

「ああ。土方の話では海軍内部では『人殺し子門丸』とまで言われているらしいが、あんな一面もあったのだな」

 扶桑海軍きっての知将にして猛将として国内外から畏れられている浜口の温和な一面を垣間見たことに、帰りの車の中でミーナと坂本は話を弾ませていた。

 

「人殺しって…随分過激な渾名ね」

「ああ…。扶桑海事変の時のことなんだが、閣下は大陸方面からやってきたネウロイの軍勢に対して先制攻撃を仕掛けるべくウィッチ部隊と戦闘機部隊による絨毯爆撃作戦を決行されてな。当時はまだストライカーユニットの性能もそれほど高くなく、ウィッチによる護衛が間に合わなかったことで半ば特攻同然にネウロイ諸共自爆する戦闘機が多かったが為に多大な損害を出してしまったんだ。…結果的にネウロイの進行を一時食い止めたことで閣下が処罰されることは無かったが、多くの犠牲を出した閣下のことを『人殺し』と裏で呼ぶようになった…と、北郷先生から聞いたことがある」

「…なんというか、正直どう言っていいか分からないわね。閣下の判断自体は間違ってなかったでしょうけれど、端から見れば犠牲を前提とした作戦にしか見えないものね…」

「ああ。…実はその時にも、凶星が現れたという噂があってな。もし岩城が加勢したことでネウロイを撤退させることが出来たのなら、閣下個人としても岩城に思うところがあったのやもしれん。最初に岩城が凶星であることを気にしておられたのは、そういうことだったのかもな」

「そうね…あ、ごめんなさい。ここでいいわ、止めて頂戴」

 ミーナは運転手に声をかけ、とある場所の前で車を止めさせる。

 

「じゃあ、美緒…少し行ってくるわね」

「ああ、ゆっくりしてこい。私も寄るところがあるんでな、後で迎えに来る」

「ええ。それじゃあ…一六〇〇にまたここで」

「了解だ、ではな。……済まないが、この辺りで腕のいい装飾品店があったら…」

 ミーナを下ろした後、坂本は運転手になにやら注文をつけるとその場を離れていった。

 

「…今装飾品って聞こえたけど、あの美緒がそんなところになんの用かしら?美緒に限ってお洒落に目覚めたとは思えないんだけれど…ま、後で聞けばいいことね」

 そんなことを呟きながらミーナは一人、事前に決めていたもう一つの目的地…クルトの入院している病院へと向かっていった。




今回出てきた浜口子門少将は本作のオリキャラです。モデルは当然、飛龍の艦長だった山口多門少将。少将が人殺し多門丸と呼ばれる所以のエピソードをウィッチーズ世界風に置き換えてみました

ではまた次回。


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歓迎の裏で…

筆が乗ったので連日投稿

ウィッチーズ世界ではなにやら諸事情で中国、朝鮮半島にあたる国家が存在しないので、今作では『華国』という架空の国家を扱います。設定としては、扶桑と遥か昔から交流と戦争を繰り返してきた大国だったが、オラーシャがネウロイに支配された際に北から攻めてくるネウロイを防ぎきることが出来ず、一部の山脈地帯を除いてほぼ全域を支配されてしまった…という感じで。細かいことは設定の方に書いておきます

ではどうぞ


 病院へと入ったミーナは入り口ですっかり顔なじみとなった看護師や医師と軽い雑談をした後、何度も通ううちに憶えた道を進み、クルトの眠る病室へとやってきた。

 

「…クルト」

 ミーナの呼びかけに、ベッドに横たわったままクルト・フラッハフェルトは何の反応もなく眠り続ける。既にダイナモ作戦で負った負傷は多少の傷跡を残して完治しており、今は点滴だけが繋がれた状態で、パッと見る限りではとても傷病兵には見えないだろう。…だが、クルトは既にこの状態で4年もの間ここで眠り続けている。

 ダイナモ作戦における捨て駒の役割を押し付けてしまった負い目からか、カールスラントは未だクルトを除隊しておらず、負傷兵扱いでこのブリタニアの病院に入院させていた。入院にかかる費用は軍とミーナが折半して支払っており、ミーナ自身も休暇や今回のような話し合いでロンドンを訪れた時の合間を縫ってこうして見舞いや介護の世話をしに来ている。

 …この4年間、ロンドンの名だたる医師がクルトの治療を試みたが、あらゆる処置を施しても目を覚ますことは無かった。1940年代の医学では脳神経外科は未だ研究段階にあり、脳内の異物や腫瘍を取り除くことは出来ても、脳の仕組みを完全に把握できていない現状では手の施しようが無かったのである。

 

「クルト…今回は、ちょっと間が空いちゃってごめんなさい。こっちで大変なことがあったのよ。…あの時、貴方を助けてくれた凶星が…岩城昴君って言うんだけどね、彼が私たちの新しい仲間になったのよ」

 クルトの手を握り、ミーナはクルトに話しかける。ここに来るたびにミーナは、クルトに自身の近況を言い聞かせていた。無論返事があると思ってはいなかったが、こうしてクルトに話しかけることで自分自身を見つめなおすこともあり、ミーナは欠かすことなく語り掛け続けていた。

 

「…でね、彼が貴方に飲ませたっていう『いにしえの秘薬』なんだけれど、何が材料だと思う?…虫とキノコとハチミツと、シカの角ですって。ハチミツとキノコとシカの角は分かるけど、虫ってちょっと…ねぇ?言い辛そうにしてたから嫌な予感はしてたけど、お医者さんが聞いたらなんてもの飲ましたんだ!…って言いそうよね。ウフフ…」

 

「ああでも…扶桑にはバッタを食べる風習があるって美緒が言ってたかしら。美緒も宮藤さんも子供の頃にバッタとかハチの幼虫を食べたことがあるっていうし、東洋では結構普通のことなのかしらね?」

 

 他愛もない会話であったが、ミーナの心はいつもよりいくらか晴れやかであった。以前はクルトの姿をした墓石に語り掛けているような虚しさを感じていたが、昴から事情を聞いたことで必ず目を覚ますという確信が生まれたことが、ミーナの気持ちにゆとりを生み出していた。この何気ない言葉も、クルトに届いているのかもしれないと思えば、ミーナの声は不思議と弾んでいた。

 そんな風に話していれば、時間というものは意外と早く過ぎていくものである。

 

「……あら、もうこんな時間ね。美緒が迎えに来ているかもしれないわ。じゃあクルト…もう行くわね。また休暇の時に来るから、出来ればその時には…ピアノは無理でも、貴方の声が聞けると…期待しているわ」

 名残惜しみつつ、次の機会への期待を投げかけながらミーナは病室を去り…病室には再び静寂が訪れたのであった。

 

 

 

 

 病院を出たミーナは予想通り病院の入り口で既に待っていた坂本の乗る車に乗り込むと、そのまま一直線に空港へと向かい、501へと向かう特別便の飛行機に乗っていた。

 

「…じゃあ、装飾品のお店に行ったのは岩城君からもらった宝石の加工をお願いしに行ったの?」

「ああ。貰ったはいいがあれだけ大きいと、この鱗の様に縫い付けるわけにもいかんのでな。相談しに行ってみたのだが、そこのご主人が私の扶桑刀に一目ぼれしてしまってな。しばらく見せてやったら、お礼にとあの宝石を使って刀装具や鞘飾りを作って貰うことになったんだ。私はあまりチャラチャラと着飾るのは好かんのだが、ご主人の熱意に圧倒されたのとかつての武将たちも刀の装飾に拘っていたというのを思い出してな、ご厚意に甘えることにしたんだ」

「ふぅん…。でも美緒ったら、折角の宝石なのだからネックレスとか髪留めとか、もっと身近なものにして貰っても良かったじゃないの。偶にはお洒落しないと勿体ないわよ?」

「そんな余裕は私にはない。…今はネウロイを倒すことだけが私の意義だ。お洒落だの嫁入りだのは当面関係のない話だ」

「もう…岩城君のこと枯れてるだなんて言えないじゃないの」

 

 飛行機の中で雑談や明日以降の日程について話し合っているうちに、日が暮れるころにブリタニア基地へと帰ってきたのであった。ちょうど夕食の時間であった為2人はそのまま食堂へと直行した。

 

 

「ただいま皆…あら、いい匂いね」

「あ!ミーナ中佐、坂本さんお帰りなさい!」

「お帰りー!」

「おお宮藤、今帰ったぞ。…む、今日はお前が作っているのではないのか?」

 食堂へ入ると夜間哨戒組を除いた全員が揃っていたが、普段厨房に立っている筈の宮藤が今日は食卓の準備を整えており、厨房には別の誰かが調理作業をしていた。

 

「あ、はい。今日は私じゃなくて…」

「はいよー、お待ちどう」

 厨房から現れたのは、配膳用のワゴン車に沢山の料理を乗せた昴であった。

 

「岩城さん!?貴方が作ってたの?」

「あ、お疲れ様です中佐、少佐。ええ、昼間にちょっと料理のことで宮藤さんと話してまして、俺が中華…もとい華国料理を作れるってことで教えて欲しいと頼まれまして。今日は宮藤さんがアシスタントで、俺がメインで飯作ってたんですわ」

 昴が押してきたワゴン車には、麻婆豆腐や回鍋肉、酸辣湯に各種点心、ゴマ団子といったいわゆる大衆中華の数々がてんこ盛りであった。

 

「おおーッ!これが華国料理か。名前は有名だけど初めて見たよ、うまそーじゃんか!」

「ほう、なかなか本格的じゃないか。私も横浜の華国街で何度か華国料理は食べたことがあるが、こっちに来てからは久しぶりに食うな。これは楽しみだ」

「ブリタニアにも華国料理を出している店はあるが、…どうもあの雰囲気が私は苦手で入ったことがないからな。今回はどんなものか試させてもらうとしよう」

「トゥルーデ、ああいう胡散臭い感じ嫌いだもんね~」

「うふふ、そうね。それじゃあ、いただきましょうか」

「はーい!いただきまーす!」

 物珍しい華国料理の数々に、ウィッチたちは舌鼓を打ちながら各々感想を言い合っていた。

 

「…うむ、なかなかうまいじゃないか。だが、華国街で食べた物よりかなり食べやすい気がするな」

「本場の華国料理は独特の調味料の風味が結構キツイですからね。俺のはその辺を手に入りやすいもので代用してるんで口に合うと思いますよ」

「…でも、結構辛い料理が多いですね」

「四川料理はそんなのばっかりだからな。でも、辛い物は体を温めるからほどほどなら体には良いぞ」

「こらルッキーニさん、お口の周りが汚いですわよ!もっとお上品に食べなさいな」

「いーじゃん、おいしーんだからさ!」

「…ん?ああーッ!お前ラ、何お前らだけいいもん食べてるんダ!?」

「あ、エイラさんおはようございます」

「ん…いい匂い、もしかして華国料理?」

「ッ!お、お前らサーニャの分はあるんだろうナ!?」

「大丈夫ですよ、お二人もどうぞどうぞ。…ところで中佐、今日は結局どうなったんですか?」

「あー、私も聞きたい聞きたい!」

「ええ。喜んで頂戴、今日から岩城さんは…」

 

 昴の501加入の報に皆安堵し、笑顔で夕食のときは流れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …同時刻、ブリタニア連邦本土の北部地方。ロンドンから遠く離れている為にブリタニアの名士たちによる分割統治が許されているこの地の中でも、最北端に位置する領地にある大きな屋敷の書斎で、一人の少女が電報を受け取っていた。

 

「…そう、彼が501に…ね。あの烏、どこをほっつき歩いているのかと思えばよりにもよってあのマロニーの足元に居座るだなんて、私への当てつけのつもりかしら?」

 表情こそ変えないものの声色の端に確かな苛立ちを含めた少女。整った…整い過ぎているとも思える程の美貌と女性としての魅力が全部盛り込まれているようなプロポーションを持った彼女は、この北部地方を統治する名士たちの中で最も若い領主である。…しかし、同時に彼女はそんな名士たちの中で最も重要な北部諸島を含めた領地の主であり、周囲からは『冷血の女帝(コールド・エンプレス)』の渾名で畏れられる辣腕の持ち主であった。

 

「あれだけ私の元で厄介になっておいていいご身分ね。お祝いに鮭の頭でも……いえ、そういえば501は確か…」

 嫌味代わりのお祝いを送りつけようとした彼女であったが、書斎の棚からいくつかの資料を引っ張り出してなにかを確認すると、ふと何かを思いついたのか口元を歪める。

 

「…そうね、それよりもこっちの方がいいわ。そのほうが、あの髭にとっていい嫌がらせになるでしょう。…婆や!」

「はいはい、どうしましたお嬢様?」

 呼び出されてから間もなく、婆やと呼ばれた温和そうな老婆が書斎へと入ってくる。

 

「アレが501…ストライクウィッチーズの元に居るのは知っているでしょう?すぐに501に荷物を送るわ、手配をお願い」

「かしこまりました。…で、何を送りましょう?」

「そうね…確か、扶桑では大きなマグロが好まれると言っていたわね。昨日大物が揚がったと聞いたわ。それを贈りましょう。いかにも中に何か詰まっていそうな、丸々と太ったものをね…」

「はい。承りました」

指示を受けた婆やは恭しく頭を下げ…すっかり一人前のブリタニア貴族に成長したことに教育係として満悦の笑みを浮かべながら去っていった。

 

「……さて、それではそろそろ…無粋な侵入者にお帰り願いに行こうかしら」

電報を受け取った時から少女の感覚は、スオムス方面から陸づたいに此方に向かってくるネウロイの存在を捉えていた。…であるにも関わらず彼女が悠長にしていたのは、領地の周りをぐるりと囲むように張られた彼女の固有魔法、シールドを自分から切り離して設置できる『防壁(イージス)』に触れたことで、コアも含めて大半の部分が『凍り付いた』ネウロイが既に満身創痍だったからである。

 

「ネウロイとはいえ、嬲るのは趣味じゃないわ。すぐに…楽にしてあげましょう」

 何時でも飛び立てるよう書斎にある裏口を出てすぐ傍に用意されたストライカーの発進装置からストライカーに足を通す。機体名は『ハリケーン』。現在ブリタニアで主流のスピットファイアの前身に当たる機体で、型落ちされたものを買い上げたのである。ストライカーに魔力を通すと、それに呼応して彼女の肉体にも変化が起こる。

 

 群青色の美しい鱗が肌の表面を覆う。背中からは全身を包み隠せるほどに大きな翼膜を持った翼が生え、臀部から生えた尻尾は強靭でありながら鞭のようにしなやかで、先端はまるで槍の様に鋭く細く尖っていた。そして本来耳が生えてくるはずの頭からは…まるで氷柱が逆立って伸びたような角が生えてくる。

 この姿こそが、彼女のもう一つの顔。領民のことを考えつつも敵対する者には容赦のない冷徹な領主であると同時に、己が領地を侵さんとするネウロイの悉くを凍てつかせるこの地の守護神。それが、限られたものだけが知る『ブリタニア連邦最強のウィッチ』としての彼女の姿であった。

 

 

 彼女の名は、『エリザベート・タウンゼント』。元ブリタニア空軍パイロットの父と、ブリタニア連邦現女王の妹を母に持つ、正真正銘の王族の一人。そんな彼女が身に宿す使い魔は、絶対零度を司る古龍…『冰龍イヴェルカーナ』。彼女もまた、昴と同じドラゴン・ウィッチなのであった。

 

「首を洗って待って居なさいスバル…!ネウロイを片付けたら、次は貴方にお仕置きをしに行ってあげるわ…!」

 普段は誰にも見せることのない冷酷な笑みを浮かべ、エリザベートは周囲の空気が凍りついたことで出来た微細氷を撒き散らしながら、ネウロイに死の宣告を下すべく薄闇の空へと舞い上がったのであった。

 

 

 




二人目のドラゴンウィッチ登場です。
彼女は実在した軍人がモデルになった訳ではなく、かつてエリザベス女王の妹であるマーガレット王女とのスキャンダルがあった『ピーター・タウンゼント』が、本当に王族と結ばれていたら…というifの可能性から生まれたキャラです。細かいことはまた設定の方に。ついでにドラゴンウィッチそのものの設定も載せておきます

一応、イヴェルカーナを知らない人の為にざっくり説明を

イヴェルカーナ…MHW:IBで登場した氷属性の古龍。典型的なドス古龍だが、似たような見た目のクシャルダオラより一回り体がデカい。マグマすら凍らせるシリーズ史上最も強力な冷気を操る。氷属性のモンスターらしく怒り状態になると自身の体を頑丈な氷で覆い、翼や頭部、尻尾のリーチが伸びる。氷結ブレスのみならず自身を中心に氷の壁を波紋状に押し広げるなど範囲攻撃が得意で、必殺のアブソリュートゼロはそれら2つを立て続けに全方面に放つ回避が困難な技である。また、槍のように鋭い尻尾による近接戦闘にも注意が必要
IBではパッケージモンスターとして幾度も調査団と関わりあったが、肝心の問題の元凶ではなくむしろ巻き込まれた側の存在であったので必要以上にボコられたちょっと可哀そうな子。その点に関してはむしろ前作パッケージのネルギガンテの方が良いところ持って行った。

ではまた次回


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暴走ツインズ(妹)と波打ち際の少女たち

基本的に原作エピソードにオリジナル設定を混ぜながら進めていきます。なるたけサクサク進行で行きたいので若干省く内容はあるかもですが…

ベルリン編3話視聴完了…3話切りさせない作画は流石としかいえませんね。しかし宮藤、復活の代償として魔力制御がポンコツになるとは…これは終盤まで足を引っ張ることになりそうですね。そして次回予告では何やら仲良しコンビに亀裂が…?どうやら3期では部隊内での人間関係にも変化が起こりそうですね。ネウロイも増々厄介になっていますが、1期のウォーロック、2期のネウロイ化大和ときて、3期ではどんな最終兵器が出てくるのか…流石にもうネウロイ化は無いと思うが…

ではどうぞ


 ノイエ・カールスラント技術省。カールスラント政府が首都ベルリンを放棄した後に、南リベリアン大陸に興した新生国家における、兵器開発の最前線となる施設である。ここで開発された技術は国内にて厳密な試験が行われた後に、リベリオンやブリタニアを通じて世界中の戦線に普及される。まさに世界の技術の先駆けを担ってると言っても過言ではない。

 そんな技術省の研究員の一人に、エーリカの双子の妹…ウルスラ・ハルトマン中尉が在籍していた。

 

「…中尉、ハルトマン中尉…!」

「…んん?」

 乱雑に積み上げられた資料と本の山、そして組み上げかけのストライカーのパーツが散乱した部屋の中で寝落ちしていたウルスラを、下士官の青年の呼びかけとノックの音が目覚めさせた。流石にこの部屋を見られるのは沽券にかかわると判断したのか、眠そうな目でほんの僅かに扉を開けてウルスラが返事をする。

 

「…なんですか?所長からでしたら、定例報告はもう少し待って欲しいと伝えてください。まだジェットエンジンの魔力変換装置が安定していないので…」

「いえ、そうではなく…中尉に来客が見えています。中尉とそっくりでしたので、おそらく中尉のご家族のエーリカ・ハルトマン中尉かと…」

「姉さまが…?わかりました、すぐに行きます」

「ああ、それと…姉君と一緒に、扶桑人らしい男の方も見えられています」

「男…扶桑人、姉さまが一緒に……まさか、そんな…ッ!?」

「中尉?」

「すぐに行きますッ!その2人は何処に!?」

「は、はぁ…応接室にてお待ちの筈ですが…」

 

バンッ!!

「ちゅ、中尉!?」

 居ても立ってもいられないといった勢いで扉を開け放つと、ウルスラは部屋の中が丸見えになっているにも関わらずそのままの恰好で走り出していた。

 

 

「ハッ…ハッ…!」

 途中同僚と何人かすれ違おうとも、研究漬けで落ちた体力のせいで息が切れようとも走り続けたウルスラは応接室までたどり着くと、そこで一旦立ち止まって呼吸を整え…意を決して、扉を開けた。

 

 

ガチャ…

 

「…お!よーウルスラ、お姉ちゃんですよー!」

「…はは、ホントにウルスラだな。お前と一緒で変わってないや」

「なにおう!?…って、そんなことよりウルスラ、こいつ誰だか分かる…」

「スバルさんッ!!」

 エーリカがニヤニヤしながら問いかけるのも聞かず、ウルスラはその答えを叫んで隣に座っていた昴に抱き着いていた。

 

「うおっとぉ!?」

「スバルさん、スバルさん、スバルさん…ッ!ああ、本当にスバルさんなんですね…」

「…ああ。随分心配かけちまったな、今まで音沙汰無くて済まんかった」

「いいえッ…!私、きっとスバルさんは生きてるって…必ずまた会えるって、信じてました…!だから、今までずっと…頑張って…」

「…そうか、よく頑張ったんだな。偉いぞ、ウルスラ」

「…ッ、はい…はいッ…!」

「…ちょいちょい、ウルスラ~?無視されてお姉ちゃんは悲しいゾ~…」

「…ぐすっ、今忙しいんです、姉さまは少し待っててください」

「なにこのぞんざいな扱い!?お前そんなキャラじゃないだろ!」

「強かになったなあ…ウルスラ」

 

 

 

 

 

 

「…じゃあ、スバルさんはあの日にウィザードになってネウロイから生き延びたんですか…!?」

「まーな。それからちょいとばかし苦労はしたが、良い人にもたくさん出会えたんでな。なんとか今日まで生き残れたんだよ」

「まったく、人騒がせな奴だよねぇ」

 ひとしきり泣いて落ち着いたウルスラを座らせ、3人はかつてのような雰囲気でこれまでにあったことを互いに語り合っていた。

 …と、そこでふとウルスラが思い至る。

 

「…そういえば姉さま。来てくれたのは嬉しいんですが、姉さまが来て良かったんですか?今姉さまが居る501はガリア解放の最前線で、ここまで来れる程の長期の休暇をとれるとは思えないんですが…」

「あー、それは大丈夫だよ。明日のお昼までに帰ればいいってミーナも言ってくれてるしね」

「明日の昼って…もう昼過ぎですよ?民間機で来たのならもう間に合わないですが…それともストライカーで来たんですか?それなら今から出ればギリギリ間に合いますけど…」

「それも大丈夫!スバルなら夜中に出ても間に合うから、ここが終わったら家に帰ってパパとママにもスバルのこと教えに行くよ」

「スバルさんがですか?」

「ああ。俺なら最速でぶっ飛ばせば10時間ちょいで基地まで帰れるからな。…それを聞いたらこいつ一緒に行くって言いだしてよ、しょうがねえから背中に乗せてここまで来たんだよ」

「じゅ、10時間ですか!?ここからブリタニアまで1万キロ以上あるから…時速1000km以上ですよ!世界最速のウィッチのシャーロット大尉でもまだ800km台なのに…一体どうやって?」

「こいつ、お前が研究してるっていうジェットエンジンって奴で空を飛ぶんだよ。しかもストライカーも無しに」

「いやまあ、仕組みが似てるってだけでジェットエンジンとは少し違うんだが…」

「ジェットエンジン!?」

 その言葉を聞いた瞬間、ウルスラは涙で潤んだ瞳を今度は好奇の色に輝かせて昴に詰め寄った。

 

「う、ウルスラ?どうしたよ?」

「す、スバルさん…スバルさんが飛ぶところ、見せてもらっていいですか!?今私の研究ちょっと行き詰ってて…何か掴めるかもしれないんです!」

 

 

 

 

 

 

 …数分後、昴は建物から少し離れた場所で上空をウルスラの指示通りに飛び回り、ウルスラはその様子をストライカーを履いて間近で観察し、手元のメモに凄い勢いで何かを書き込んでいた。

 

「凄い…本当に凄い…!あれだけの出力のジェットを、ここまで完璧に制御できるだなんて…。私の研究よりも、ずっとずっと先の段階をモノにしてるだなんて…。凄い、悔しい、羨ましい…!」

「…お~い、ウルスラや~い。…ダメだ、聞こえちゃいないよ」

 隣の姉の呼びかけにも全く反応せず、ウルスラは瞬きすら惜しまんばかりの集中で昴を見上げ、自身の目指す先に至った昴への興奮を抱きつつも、未だそれに届かない自分への悔しさに唇をかみながらデータ取りに一生懸命であった。そんな妹の様子に呆れるエーリカに、上空の昴から無線が入る。

 

『おいエーリカ、ウルスラはまだ満足してないのか?』

「あ~…あとちょっと頑張って。こうなったウルスラは外からじゃ止まんないし」

『集中した時のお構いなしぶりも相変わらずか…OK、とことん付き合ってやるよ。悪いがエーリカ、親父さんたちへの挨拶は遅くなりそうだ』

「だね…」

 

 

 結局、その後日暮れまでデータ取りに付き合うこととなった昴とエーリカは、我に返って心底申し訳なさそうなウルスラを宥めてから技術省を後にし、せめて挨拶だけでもと疎開先のハルトマン家を訪ねた。ハルトマン夫妻は昴が生きていたことを心底喜び、急遽拵えた食事を振舞って短い時間ではあるが娘と友人の忘れ形見の帰還を祝ってくれた。

 

「昴君、君が生きていてくれて本当に良かった。…色々迷惑をかけるかもしれんが、エーリカのことをよろしく頼む」

「はい。勿論です、ハルトマン先生」

 別れ際に固い握手と言葉を交わし、2人は夫妻に見送られながら月夜の空へと飛び去って行ったのだった。

 

 

 

 翌日の10時頃、2人はようやく501の基地へと到着した。

 

「ふぁあぁ~…、疲れた~。全く、ウルスラのせいで全然ゆっくり出来なかったよ」

「飛んでる間中グースカ寝ておいてよく言うなお前…。ふぁ…俺はもう流石に限界だ。悪いがちょっと寝させて貰うわ」

 ほぼ休み無しで大西洋を2度も南北に縦断した昴は疲労の限界といった様子で、エーリカ共々大あくびをしながら部屋へと戻ろうとしていた。

 

「…あれ、ドッグに誰か居るよ?」

「あれは…シャーロット大尉か?宮藤さんたちもいるな」

 その途中、格納庫の中で自身のストライカーをいじくっているシャーリーと、その様子を見ている宮藤、リーネ、ルッキーニの姿を見つけた。

 

「おーい皆、何してんのさー?」

「あ、ハルトマンさん、岩城さん。おかえりなさい!」

「おー、早かったな2人とも。南リベリオンまで行ってたんじゃなかったのか?」

「おう、一昨日の夜中から飛びっぱなしだったから疲れたぜ。…で、大尉はストライカーに何してるんで?」

「シャーリーでいいよ、畏まったのは嫌いなんだ。ちょっとストライカーの改造をしてたんだけど、試験飛行で飛ばしすぎてなぁ~。今整備中なんだよ」

「凄いんだよシャーリー!今日は時速850㎞超えて新記録だったんだから!」

「おお!そりゃ凄い、レシプロでそんだけ出せるとは流石だなぁ」

「…ちなみに、岩城さんって最高で何キロくらい出せるんですか?」

「俺?正確に計った訳じゃねえけど…大体時速1500㎞、マッハ1.3くらいが限界だな。30分ぐらいしか継続して飛び続けられないけど」

「…そんな言い方されても嫌みにしか聞こえないぞ?けど、マッハ1.3かぁ…まだまだ遠いなぁ」

 自身の最速をあっさり凌駕する昴のスピードにむくれつつ、シャーリーは届きそうで届かない音速という壁に溜息を吐く。

 

「しかし、いくら魔導エンジンとはいえレシプロ機構じゃそれ以上のスピードを出すのは危険だぞ。無理に出力を上げれば機体だけで無く乗り手自身すら壊しかねない。安全が保障されない乗り物は乗り物じゃ無くて只の自爆装置でしかない」

「そうだよねぇ…。ウルスラもその辺りがうまくいかないって言ってたしね」

 未来の記憶を持つ昴は、レシプロ機の最高速度が今回シャーリーが到達した850㎞、ジェットエンジンを併用したものでも950㎞までであったことを知っている。そして、以後それを超える記録が無いと言うことは、それ以上のスピードを出すのが危険だからということも理解していた。

 

「分かってるって!アタシだって元レーサーだ。クラッシュ上等のマシンに乗るほどイカれちゃいないよ」

「なら良いんだが……くぁぁぁ~、つーかもうマジに限界だ。俺、もう部屋戻って寝てるわ~…」

「あ、私も~…」

「…岩城さんはともかくハルトマンさんって今日日勤だったような…」

「まあ、ネウロイの出現予測まではまだしばらくあるし大丈夫じゃないか?…あ、そうだ。ハルトマン、明日水着用意するの忘れんなよ」

「ほいほ~い…」

「水着?」

「あれ?スバル知らないの?明日は海に遊びに行くんだよ!」

「遊びにじゃなくて、水上訓練なんですけどね…」

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝…

 

ドンガラガッシャーンッ!!

「うじゅぁぁぁぁぁッ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやっほ~い!」

「海だ海だー!」

 

 幸運にも天気に恵まれた快晴の下、501隊員たちは各々水着に着替えて基地を出てすぐにあるビーチへとやってきていた。一応表向きは『海難事故を想定しての水泳訓練』となっているが…彼女たちにとってはそんなものはもはや建前でしかない。シャーリーとルッキーニは海岸に来るなり意気揚々と海に飛び込んだ。

 

「元気がいいねぇ。おーい、ストレッチくらいしとかないと足攣っても知らねえぞー」

「なにカタいこと言ってんのさスバル。それとも、この私の悩殺水着が直視できないのかにゃ~?」

「……フッ」

「テメーッ!鼻で嗤いやがったなコンニャローッ!!」

 どこかの写真集で見たのか際どいポーズを昴に見せつけるエーリカだったが、当の昴の冷めた反応にキレて殴りかかる始末であった。

 

「HAHAHAHA!ハルトマンじゃ興奮出来ないってか?…じゃあアタシなんかどうよ?このグラマラス・シャーリーの水着姿見てなん言う事とかないのかよ~?」

 その様子を見ていたシャーリーは海から上がると、エーリカの前に割って入って昴に肢体を見せつける。501でもダントツのスタイルの持ち主であるシャーリーのセクシーポーズ、滴る水が色気を際立たせるその姿は、世のほぼ全ての男性を釘づけにするに十分なものであった…が。

 

「ん…ああ、似合ってるぜその水着。やっぱりシャーリーには赤い色がぴったりだな」

「え……あ、うん…」

 当の昴から返ってきたのは水着の感想だけであった。余りにもそっけない…というか素のリアクションに、シャーリーだけでなくエーリカもルッキーニもポカンとしてしまった。

 

「…あれ?ナニコレ…?」

「反応薄い…薄くない?シャーリーのアレであんな反応したの初めて見たよ…」

 ひそひそと話すエーリカとルッキーニを他所に、シャーリーは呆然とした表情のまま、さっきの勢いは何処へやらまるで入水するかのようにひっそりと海に戻っていった。

 

「おいリベリアン、何を遊んでいるか!いくら水着だとはいえ、一応訓練なのだから真面目に泳ぐくらいは…」

「……なあ、バルクホルン」

「?」

「アタシ…縮んだりしてないよな?それとも老けたのかな…?」

「り、リベリアン?」

 一向に泳ぐ気配のないシャーリーに注意をしに来たバルクホルンに、シャーリーは生気のない目で自慢のバストをまじまじと見つめたり揉んだりしながらそう尋ねるのであった。

 

 

 

 と、この様な一幕がありながらも隊員たちは軍服を脱ぎ捨てたことで多少なりとも開放的な気分で海を満喫していた。

 

 

…ただし、そういう訳にはいかない者もいる。

 

「な…なんでこんなのを履くんですかぁ!?」

 坂本とミーナの命令で、宮藤とリーネはストライカー(訓練用のモックアップ)を履いたまま連れてこられていた。

 

「何度も言わせるな!戦闘中に海に落ちた時を想定しての訓練だ、いざというときに泳げなければどうする?」

「他のみんなもやっていることですし、必要なことなのよ」

「で、でも…これじゃ泳げませんよ…」

「つべこべ言わず…飛びこめぇッ!!」

「「は、はい~ッ!!」」

 坂本の剣幕に押され、2人は半ばヤケクソ気味に海に飛び込んだ。…ちなみにペリーヌも軍属経験が短いこともあって同じ訓練を受けているが、2人と違ってあっさり海に入ると要領がいいのかすぐに慣れて優雅に泳いでいる。

 

「軍人さんって大変だなぁ…」

 そして昴はというと、どこからか調達した釣り竿を垂らしてそんな光景を傍観していた。正式な軍属ではない昴は訓練を受ける義務は無い…が、そもそもそれ以前に必要が無いこともあった。

 

「なんだ岩城、暇そうだな。なんなら、お前も参加していいんだぞ?任意参加する分には問題ないからな」

「いや、俺水着持ってないですし。…というか、俺ストライカー使わないですし」

「…そうよねぇ。貴方、ストライカー使わないほうが速く飛べるんですものね。一応聞くけど、泳ぎは大丈夫なのよね?」

「そりゃまあ、人並みには。それに、短時間だったら水中でもジェット噴射が使えるんで。…というか、あの2人まだ浮いてきませんけど大丈夫なんですかね?」

「む…そろそろマズいか。流石に飛ぶようにはいかんか…」

 と、坂本が2人を回収しに行こうとした時

 

「…ぷはぁッ!?く、苦しい…」

「息が…足、重たくて…浮かないぃ…!」

 必死に腕の力だけで浮き上がってきた宮藤とリーネが顔を出したが、足に着いた重りに引き戻されるのを堪えるのが精いっぱいでジタバタ藻掻き苦しんでいた。

 

「お、上がってきたか。…いつまで犬かきやっとるか、ペリーヌを見習えー!」

「全くですわ。見苦しいこと…」

「で、でもぉ…」

「…無理に動くから余計に沈むんだよ。落ち着いて、足を広げ過ぎないようにゆっくりを水を掻くんだ。動けば動くほど水圧の抵抗が大きくなるだけだからな。最初は沈むが、直に浮いてくるからとにかく落ち着いてやるんだ」

「は、はい…」

 2人は昴に言われた通りゆっくり足を動かしながら丁寧に水を掻く。すると、徐々に浮力が安定してやがてなんとか立ち泳ぎが出来る程度にはなったのだった。

 

「ほ、本当だ…なんとかなりました!」

「だろ?ただの鉄のカタマリならともかく、ストライカーが航空機をモデルにしてるんならそれだってちゃんと浮くはずなんだ。無理に動かすから余計に重く感じるだけなんだよ」

「はい、ありがとうございます!」

「岩城…あまり甘やかしてやるな。こういうのは一度自覚させることが大事なんだぞ」

「少佐は厳しいねぇ…。とはいえ、素人があまり茶々を入れるのも悪いのは確かだしな。ここじゃあんまり釣れないし、ちょっと沖のほうまで行ってきますわ」

「あまり遠くに行きすぎちゃ駄目よ。ネウロイはともかく、領海を出ればブリタニア海軍の哨戒網に引っ掛かるから目を付けられないようにね」

「ほい、アラホラサッサー」

 坂本のジト目から逃げるように、昴は釣竿を担いで沖の方へと飛んで行った。

 

「…アラホラ…何?扶桑の言葉なのかしら?」

「さあ?聞いたことが無いが…宮藤知ってるか?」

「ええ…?わ、私もさっぱり…」

 約30年後に流行るアニメの名台詞である。

 

 

 

 それから30分後…ようやく訓練を終えた宮藤とリーネがへとへとになって海から上がってきた頃であった。

 

…キィィィィッ…!

「…ん?あれは…岩城が戻ってきたのか」

「随分早いね。…ていうか、なんか凄いスピード出してない?」

 海の彼方から猛スピードで戻ってきた昴が海岸へと降り立った。…その両手には大きなカツオを持っており、なぜか服が濡れていたが。

 

「おお、これはまた大物を釣ったじゃないか!今日はカツオのたたきだな!」

「…悪いが少佐、そいつはまた後でだ!中佐、ネウロイが出たぞ!」

 昴の一声に、バカンス気分だった皆に一気に緊張が走る。

 

「ネウロイ…!また予測よりも早く…数と方角は?」

「数は2体、ガリア方面と北欧方面から一体ずつ来ている。どちらもかなり速いぞ、あと数分で内陸部に入り込まれる。目的地は進路から考えて…おそらく首都」

「ロンドンか…!挟み撃ちとは厄介な…」

「とはいえ、北の方は無視していいだろう。俺たちはガリア方面からくる奴を迎え撃とう」

「え?でも…」

「心配するなリーネ。…中佐、ちょっと電話借ります。先に出撃の準備をしておいてください」

「電話…?え、ええ…わかったわ。総員、緊急出撃よ!」

 ミーナの号令で、皆は大急ぎで海から上がって格納庫へと走る。昴は一足早く空を飛んで窓からミーナに執務室に入ると、どこかへと電話をかけ始める。

 

「よっしゃ一番乗り!イェーガー機、いつでも行ける!」

 やがて足の速いシャーリーが一足早く格納庫へとたどり着き、ストライカーを履いて出撃ゲートが空くのを待っていると、昴が駆け込んできた。

 

「シャーリー!今話がついた、北のネウロイは俺の知り合いが何とかする。俺たちは南から来るネウロイを倒すぞ!」

「何とかって…お前他にもウィッチの知り合いがいたのか?」

「ああ。…舌が何枚生えてんのか知れねえ絵に描いたようなブリ〇スだが、信頼できる奴だ。任せても大丈夫だろう。それより、俺も一緒に行く。さっさと片付けるぞ!」

「応よ!」

 格納庫の扉が開け放たれると、シャーリーと昴は互いのエンジンをフル稼働させる。

 

「イェーガー機、出る!」

「岩城昴、出撃する!」

 レシプロとジェット、2つの轟音を響かせながら2人は格納庫を飛び出して大空へと舞い上がったのだった。




オリ主の冷めた反応ですが、別に女体に興味がない訳ではありません。ただ、基本的にスタンダップ!しにくいだけなのです。理由は次で明らかになりますが、バルファルクの生態が関係している…とだけ言っておきます。…設定知って思うのはマガラ骨格の古龍って動物っていうより植物とか菌類みたいな性質に近い感じがする。具体例を挙げればアニメゴジラのゴジラ・アースみたいな。あれも動物と植物の中間生命体みたいなもんだし

ではまた次回


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マッハ・フライヤーズ

あ、ありのまま…さっき見たことを話すぜ!俺はストパンを観ていたと思ったらガルパンを観ていた…な、なにを言ってるのか(ry

…以上がベルリン編5話の感想です。時代背景的には何も問題は無いんですが、ストパンで戦車が本格的に動いているとガルパンを意識してしまいますよね。これは来年の最終章3話でガルパンにも大戦時の戦闘機が出てくる前振りか……それは流石に無いでしょうけど。
しかし今回のネウロイは色々とモチーフがぶっ飛んできてますよね。1,2話は銀英伝のアルテミスの首飾り破壊作戦を彷彿とさせる氷山一体型、3話は特撮に出てくるような三位一体の戦闘機型、4話はどっかで見たような高速戦闘機型、そして今回のガメラ型…どんどん現実離れしてきてますね。元々が空想上や未来の兵器をモチーフとしているので正当な進化といえばそうですが
そして今作ではどうやらウィッチたちの成長や背景に関する描写が多いっぽい感じがする。それを引き立てるのが濃厚なおっさんキャラたち…なんでしょうか?今回出てきた庭師のおっさんどもも、なんかナウシカの城オジみたいなキャラでよかったですね

長々と失礼しました。ではどうぞ


 先行してネウロイの元へと向かうシャーリーと昴、そこに地上の坂本からの無線が入った。

 

『シャーリー、岩城、聞こえるか?』

「少佐!どうしたんだ?」

『たった今、監視班から情報が入った。岩城の言ったとおり、敵は南北からロンドンを目指して進行中だ。敵のスピードから換算して、既に南のネウロイは内陸付近に到達している。市街地に到達する前に追いついて、直ちに撃破しろ!』

「了解!」

『…しかし岩城、お前一体どこに連絡を取ったんだ?監視班から、北のネウロイは放置して問題ないとブリタニア王室からの勅令があったと言われたぞ。政府や軍からならともかく、王室から我々に勅令が出るなど前代未聞だぞ?』

「あ~…まあ、その…ちょっとばかし伝手がありまして。ともかく、そっちのネウロイはなんとかなると思うんで気にしないで大丈夫っすよ」

『…?まあ、それは後で聞かせてもらうぞ。今は目の前のネウロイだ!他の連中が追いつくには時間がかかる、お前たちのスピードに任せたぞ!』

「「了解!」」

 返事と共に、2人はネウロイに追いつくべく一気にスピードを上げる…と、ここで昴があることに気づく。

 

「…んお?シャーリー、お前なんかいつもより速くね?もう800km超えてる筈なのについてこれてるぞ」

「ああ。なんか今日はストライカーの調子がいいんだ!まだまだ上げられる気がするぞ…!」

「調子がいいって…この加速はそんなレベルじゃないと思うんだが」

「ようし…一気に行くぜ!岩城、着いて来いよ!」

「お、おいシャーリー!?」

 

ギャンッ!!

 シャーリーはストライカーの回転を一気に上げると、いつも追いかけている筈の昴を置いてけぼりにしてかっ飛ばしていった。

 

「うおッ!?…おいおい、加速が今までとはダンチじゃんかよ。どんだけ魔法力籠めてんだ?もしくはストライカーの安全装置ぶっ壊れてんじゃ……」

 そこまで言いかけて、昴は急いで坂本へと無線を繋ぐ。

 

『岩城、どうした?』

「少佐ッ!昨日の夜中から朝までの間に格納庫に出入りした奴は居るか!?」

『…な、なんだ、急にどうした?』

「シャーリーの様子がおかしい…!とっくに900km超えてやがる、昨日まで850超えられなかったって言ってたのによ!本人が気づいてないところからして、多分ストライカーの方がどっかイカれてるんだ!あのままじゃネウロイ倒すより前にシャーリーが潰れるぞ!」

『何!?…だが妙だぞ。昨晩は今日の海上訓練の為にサーニャたちも夜間哨戒を休んでいるし、そもそも出撃予定はないから整備兵も出入りしていない筈だ。あのシャーリーが整備を抜かるとは思えんし、もし何者かの工作によるものなら、無断で立ち入った者がいるとしか考えられない…一体誰が…?』

 

 

 

「…あ~、もう行っちゃったんだシャーリー。あのままで大丈夫かなぁ…?」

「…なんだと?」

 一番沖に居たために最も遅れて格納庫にやってきたルッキーニのそんな呟きを、坂本とミーナは聞き逃さなかった。

 

「…ルッキーニ、今のはどういう意味だ?詳しく話を聞きたいんだが…」

「し、少佐!?え、ええとぉ…な、なんでもないよ~?」

 

ボキンッ!

 白を切るルッキーニの目の前で、魔法力を発動したミーナが手にしていたペンを握力だけでへし折った。

 

「ぴぃッ!?」

「話しなさい、フランチェスカ・ルッキーニ少尉。…さもないと、次に私が何を握ってしまうか分からないわよ?」

「あ、あわ…あわわわわ…ッ!」

 

 

 

 一分後…

『岩城、聞こえるか!?今すぐシャーリーを連れ戻せ!』

「少佐?どうしたんで?」

『ルッキーニのせいだったんだ!今朝まで格納庫で寝ていて、起きた時にシャーリーのストライカーを誤って壊してしまったと白状した!適当に組み上げたらしいが、ストライカーの構造に詳しくないルッキーニが正しく組み上げられるとは思えん!』

「…むしろ、よく適当にやって飛べるように出来たな。シャーリーのチューニングを間近で見ていてなんとなく憶えていたっぽいのは不幸中の幸いだぜ」

『だが、いつ異常をきたすか分からん!万が一ネウロイと会敵した時にストライカーが壊れることがあればひとたまりもない、その前にシャーリーを連れ戻してくれ!』

「了解…!マッハで追いつきますんでお任せあれ!…ただ、その間は無線が多分通じないでしょうから後で連絡します!」

『頼む!追いついたら、直に宮藤とリーネが追いつくだろうから、シャーリーは2人に任せてネウロイを追ってくれ!私もシャーリーの方に呼び掛けてみる!』

「アラホラサッサー!」

 無線を切ると同時に、昴は溜め込んでいた龍気を全開にし、微かに見えるシャーリーを目標に捉える。並のストライカーであれば追いつくのは不可能に近いが、昴にとってはシャーリーの現在のスピードも彼我の距離も、さしたる問題ではない。

 

「さあ…ハンティングタイムだ!暴走兎を捕まえてやらぁ!」

 文字通り、逃げ回る兎目掛けて襲い掛かる隼の如き勢いで昴はシャーリーへと向かっていく。

 

 

 …その一方、ターゲットとなった兎…シャーリーは後方から迫る昴も、ノイズ混じりにかすかに聞こえる坂本からの通信も、遥か前方にいる筈のネウロイのことも気に留めず、ただひたすらにストライカーの出力を上げることに集中していた。ルッキーニによって弄られたストライカーは、本来ウィッチのガス欠…もとい魔力欠を防ぐために標準装備されている『魔法圧計』のリミッターが壊れてしまったことで、ウィッチの魔力を際限なくストライカーに送り込むようになってしまった。元々シャーリーの改造により限界ギリギリまで引き下げられていたため、シャーリーはリミッターの故障に気づくことなく出力は上がり続け、機体は制御しきれないパワーに悲鳴を上げる。

 

(この感じ…似てる、あの時と…!あたしが地上最速記録を出した、あの時の…限界だと思っていた感覚を、乗り越えていく感覚!いける、今なら…もっと行ける!)

 しかし今のシャーリーにとっては、愛機の悲鳴も念願の瞬間を迎えるドラムロールにしか聞こえない。既に飛行速度は時速1000kmを超えている。シャーリー悲願の領域まで、あと一息。その瞬間の為に、シャーリーは残された魔力をフル稼働させる。

 

 

 そんなシャーリーの頭上から、マッハ一歩手前にまで加速した昴が羽交い絞めしようと急速降下しながら腕を伸ばす。

 

「シャーリー、そこまでだ!観念し…」

「いっけぇぇぇぇぇッ!!」

 昴の腕が絡まる寸前、固有魔法の『加速』の発動と同時に限界以上の魔力を送り込まれたストライカーがすさまじい勢いで回転し、以前の昴と同じようにソニックブームをまき散らして急加速した。

 

「どぉぉぉぉッ!!?」

 至近距離からソニックブームをもろに喰らった昴は吹き飛ばされ、(ファルク)の爪は神速の兎を捕らえる事が叶わなかった。

 

「…い、今のはソニックブームか!?ってことは…シャーリーの奴マジで音速超えやがったのかよ!事故みたいなもんとはいえよくもまあレシプロで……って、今更だけどアイツ水着のままで手ぶらじゃねーか!武器も無しに単機先行してどうするつもりだよアイツ!?」

 今更ながらまともに戦えるのが自分だけであることに気づいた昴がシャーリーを目で追うと、音速でかっ飛ぶシャーリーの先にロンドンを目指すネウロイが飛んでいた。ネウロイの方もかなりのスピードだが、今のシャーリーの速度には遥かに劣る。1分と掛からずに接触するであろうことは目に見えていた。

 

「おいおい、こんなタイミングで追いついちまったよ…!あのスピードじゃ激突しちまう……仕方ねえ、やるしかねぇか…!」

 もはやなりふり構ってはいられないと腹をくくった昴は、奥の手を解放する。

 

 

「固有魔法…『夢幻換装(イマジン・アームズ)』、発動!」

 

 

 

 

「…ストライカーの音しか、聞こえない…!あたし、音より速く飛んでる…これが、超音速の世界!やった、やったぞ!あたしはついにスバルに追いついたんだ!!」

 一方シャーリーはというと危機的状況が目前であることにも気づかず、音速を超えた事実に歓喜し打ち震えていた。昴のことを思わず名前で呼んでしまうほどに浮かれていると、そこでやっと無線に通信が入っていることに気が付く。

 

『…シャーリー、シャーリーッ!応答しろ、シャーリー!!』

「少佐!?あたし、やったよ!とうとうマッハを超えたんだ、今あたし…スバルと同じ世界を飛んでるんだよ!」

『そうだ、岩城だ!すぐに合流しろ!!敵にぶつかるぞ!!』

「…へ?」

 敵、というワードに冷静になって正面を見ると、進行方向にネウロイの赤い光が見える。その距離はシャーリーが気づいた時点で約2km。ネウロイの速度は時速約800km、シャーリーは時速1200km超。衝突までの時間は、4秒足らずである。

 

「う、ひ、ぇえええええッ!!?」

 回避など当然間に合うはずもなく、シャーリーは咄嗟にシールドを張って衝突の衝撃に備えようとした…その時。

 

ギュィンッ!!

 超音速のシャーリーの後方から、それを超えるスピードで真っ赤な光がシャーリーとネウロイの間に割って入ってきた。そして

 

 

 

 

 

 

「…チェストォォォォォォッ!!」

 

ズパァァンッ…!

 シャーリーの眼前でその光よりも眩しい何かが閃くと同時に、その軌道に沿ってネウロイが縦真っ二つに両断され、赤い光とシャーリーは両断されたネウロイの間をすり抜けていった。

 

「えええ……え、え…?」

 思わず目を瞑ってしまったシャーリーであったが、予想していた衝撃が来ないことに恐る恐る目を開けた時には既に両断されたネウロイの間を通り抜けた後であった。

 

「なに…が、ぁ…?」

 あまりの出来事に困惑するシャーリーが事態を把握する前に、強い眩暈と意識の混濁が彼女を襲う。限界以上の魔法力を消耗した反動である。魔法力が尽きたことでストライカーも停止し、背後でネウロイが砕け散る音を聞きながら意識と共にシャーリー自身も落ちていきかけた時。

 

…ポスッ

 何者かが落ち行くシャーリーを抱き留め、その体を上着らしきもので包み込んだ。

 

「やれやれ、間に(おう)たか。大事(でし)にならずによかったじゃ…」

(…誰?てか、何語…?)

 全く聞いたことのない言葉に正体を確かめようとするシャーリーだったが、魔力切れによる強烈な疲労感で瞼がどんどん下がっていく。そのまま睡魔に身を任せかけた時、視界の端にちらっと見えた物…自分を抱える何者かの左手に握られたそれの記憶を最後に、シャーリーは意識を手放したのであった。

 

 

(…あれ、扶桑刀…?少、佐……?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっはよー!」

 

 その後、合流した宮藤らと共に帰還したシャーリーはベッドに放り込まれるなり大いびきをかいて眠りこけ、夕食の支度が整った時間を見計らったかのように復活し元気よく食堂へとやってきたのだった。

 

「あ、シャーリーさん!目が覚めたんですね」

「いやー悪い悪い、心配かけちまったみたいでさ」

「全くだ!宮藤とリーネに抱えられて戻ってきたときには何事かと思えば、飛ばし過ぎて魔法力切れとは…自己管理が出来ていない証拠だぞ!いかにネウロイ相手の戦場だろうと、己を律する心構えをだな…」

「…と、ついこの間まで自暴自棄気味だったトゥルーデさんが言ってますが、どう思いますかシャーリーさん?」

「んん~、そうですねぇ…。こういうの、扶桑でなんて言うんだって?確か、『人の襟見て我が襟直せ』だっけ?」

「襟じゃなくて振りだ。『人の振り見て我が振り直せ』…他人に注意する前に、自分自身を見直せという戒めの諺だ。…そういうことだぞ、バルクホルン」

「う…そうだったな」

 いつものように気楽な態度のシャーリーを窘めようとするバルクホルンであったが、つい最近までの自分を引き合いに出されて何も言えなくなってしまった。そこに、いつもならエーリカやシャーリーと一緒に食事を心待ちにしている筈のルッキーニがしおらしげにシャーリーの前に出てくる。

 

「ん、ルッキーニどうした?」

「シャーリー…。あの、あのね…ごめんなさいッ!!私が変なことしたせいで、シャーリーが危ない目に遭ったって…それで、謝らなくちゃって…うじゅ、うぅ…」

 涙目でたどたどしく謝るルッキーニに、シャーリーは苦笑しながら目線を合わせて語り掛ける。

 

「…そうだな。今回はたまたまアタシのストライカーを壊しちまったからあんなことになったけど、そうじゃなかったとしても人の物を…まして戦場で命を預けるストライカーを壊して、黙っていたっていうのは良くないことだよな。それは、ルッキーニもちゃんと分かってるんだよな?」

「うん…。中佐にも怒られたし…すっごく悪いことしたんだって、反省してる…」

「そうか、反省してるんだな。…なら、今回は許す!もう同じことをしないって約束できるのならな」

「…シャーリー、ホントに?」

「ああ。誰も怪我しなくて済んだんだ、本人が反省してるんならそれ以上とやかく言う気はないよ。…それに、実はちょっと感謝してたりするんだぜ?ルッキーニのチューニングのおかげで、目標だった音速を超えた世界を見ることが出来た。偶然だったけど…すっごく気持ちよかったんだ!そこんところはありがとな、相棒!」

「シャーリー!」

 勝気な雰囲気の中に包み込むような母性を含んだシャーリーの笑顔に、ルッキーニは破顔一笑して飛び込み、全身で喜びを表現する。そんな二人に皆が微笑ましくなる中、坂本は緩みかけた顔をすぐに正して咳ばらいをしながらシャーリーに話しかける。

 

「…まったく、あまりルッキーニを甘やかすなよシャーリー。今回のことは、軍人として相当な罰が下って然るべきものなんだからな」

「分かってるって。でも、ミーナに散々叱られたんだろ?だったらアタシがそれ以上怒っても、ルッキーニが可哀そうじゃんか。ワザとって訳じゃないんだしさ」

「そうかもしれんがなぁ…」

「…ああ、そうだ!それより少佐、ネウロイの方は結局どうなったんだ?」

「む、そのことか。それはな…」

「北のネウロイに関しては、もう倒されたって連絡が来たわよ」

 シャーリーの疑問に答えたのは、遅れて食堂に入ってきたミーナであった。

 

「おお、それは良かった。…それで、一体誰が倒したんだ?やはりブリタニア空軍なのか?」

「…それが、よく分からないのよ。警報が出た以上軍もネウロイの存在は認知していた筈なのだけれど、誰がどうやって撃墜したのかを答えなかったの。連合軍の方にも問い合わせてみたけれど、領海内で包囲網を張っていたけれど一向にネウロイが現れなくて、その内ブリタニア本国に方から『もうネウロイは倒された』…って連絡が来て、それっきりだそうよ」

「…何ソレ?ネウロイが出たのに知らない間に倒されてたって、まるでスバルの仕業みたいじゃん」

 

「…ま、しゃーねーんだよ。ブリタニア本国としては、アイツの功績を大っぴらにはしたくないんだからさ」

 怪訝な顔で首を傾げる皆にそう言ったのは、宮藤と共に夕食を運んできた昴であった。ちなみに今日のメニューは天丼とスバルが捕まえたカツオのたたきである。

 

「おー!もしかして扶桑のテンプラって奴?うまそーじゃん!…って、スバルそれどういう意味なんだよ?」

「…スバルぅ?」

 シャーリーの呼び方の変化に気づいたエーリカが眉を顰める中、昴は少し言い辛いのか慎重に言葉を選んで話し出す。

 

「あ~…詳しくはちと言えないんだがよ、その北のネウロイを倒したのは多分俺が連絡したウィッチなんだが、アイツはブリタニア政府…というよりトレヴァー・マロニー大将と仲が悪くてな。基本的にアイツの交戦記録はもみ消されるか、ブリタニア軍のスコアに書き換えられてるんだと。だから今回のネウロイも、アイツが関わったことを隠すために口を噤んだままなんだと思うぜ」

「なんだそれは…!?いくら空軍大将といえど、そんな無法が許されるはずがないだろうッ!!」

「…ええ、流石にそれは酷過ぎるわ。こちらから抗議を入れてもいいくらいよ」

「まあまあ、落ち着いてくださいな。お気持ちは分かりますが、アイツにとっちゃ織り込み済みなんですんで。あのブリ〇スが良いようにあしらわれて終わりにする筈がありませんから。ええ、絶ッ…対に」

「そういうもんかぁ…?まあ、北の奴は分かったけどよ、アタシらが見つけたほうのネウロイはどうなったんだよ?アタシあんまり憶えてなくってさ」

「あれ、シャーリーさん憶えてないんですか?」

「そのネウロイなら、お前が音速を超えた勢いで『ぶつかって倒した』と岩城から聞いているぞ」

「え?そうだっけ、スバル?」

「…ああ。いっぺんお前のソニックブームで吹っ飛ばされて大急ぎで追いつこうとしたら、目の前でお前がネウロイの後ろから追突かましてコアをぶち抜いたんだよ。シールドがギリギリで間に合ったからよかったものを、下手したら大惨事だったんだぞ」

「あれぇ…?そうだっけ…そうだったような…そうだったかなぁ…?」

 シャーリー自身、あの時は興奮と混乱で本能的に動いていた部分が多かったため、明確にその時のことを憶えているわけではなかった。ネウロイが眼前に居てギリギリのところでシールドを出したことまでは憶えているが、それからのことはぼんやりとしか憶えていない。故に、昴の言ったことは実際そうであったかもしれないと思えた。…しかし、シャーリーの記憶の端に微かに残る、自分を抱きかかえた人物が持っていた『扶桑刀らしきもの』の存在が、そうであったと断定しきれずにあった。

 

「…なあ、あん時アタシを拾ってくれたのってお前なんだよなスバル?少佐じゃなくってさ」

「ああ、そうだが」

「…?何故私なんだ?あの時私が基地に居たのはお前も分かっているだろうに」

「いや、そうなんだけどさ。…じゃああの時見たのって…」

 

「…ちょいちょい、シャーリーさんや?いつからスバルのことを下の名前で呼ぶようになったのかにゃ~?」

「…へ?」

 きょとんとするシャーリーに、口調こそ砕けているが心底面白くなさそうな顔のエーリカが詰め寄る。

 

「ど、どうしたよハルトマン?」

「いやさぁ…今朝までシャーリー、昴のことファミリーネームで呼んでたじゃん?それがさっきからファーストネーム呼びになってるからさぁ…どーいう心境の変化なのかな~…って、そう思っただけなんだけど~」

「そ、そうだっけ?いやいや、別に大した意味はないって。ほら、スバルのファミリーネームってなんか堅っ苦しい感じじゃん?だから前々から呼びづらくってさ、テンション上がった拍子につい…な」

「ふ~ん…ま、いいけど~。私は別に気にしないけどねぇ~」

「…なんでお前が俺の呼び方のことを気にするんだよ」

 眉間の険こそ取れたが拗ねたような調子のエーリカに昴が呆れる中、思ってもみなかったことを聞かれたシャーリーは困惑しつつも雰囲気を変えようと昴に話を振る。

 

「あ、そ…そういえばスバルさぁー!アタシを拾った時アタシの水着間近で見たんだろ?さっきは周りに皆が居たから冷静ぶってたけどさ、流石に至近距離でこのグラマラス・シャーリーのナイスバディを見たら心臓バクバクだったんじゃないの~?」

「え…いや、別に」

「またまた~、意地張ったって潔く…」

「いえ、私たちと合流した時も岩城さんとても紳士でしたよ。シャーリーさんが冷えないように上着に包んであげてましたし、あまり嫁入り前の女性に触れるのは良くないって私たちに運んでくれるようお願いまでしてましたから。…むしろ、芳香ちゃんの方がシャーリーさんの胸に興味津々だったっていうか…」

「あ、あれはその…えへへ…」

 リーネがその時のことを説明すると、シャーリーだけでなく皆が目を丸くし…やがて独りでに昴に背を向けて固まる。

 

「…なあ、流石に淡泊ってレベルじゃないだろアレ?自分で言うのも何だけど、アタシの身体に興味がないって普通の性癖じゃないぞ」

「そうですよね…!シャーリーさんみたいなおっぱいに興味が無い男の子なんていませんよね…!」

「宮藤、少し落ち着こうか…。それはともかく、こうなると本当にハルトマンの考えが現実味を帯びてくるな…」

「…もしあっちのほうだったら、私ちょっと怖いんだけど…」

「いや、どっちでもドン引きダロ…」

「…うん、私聞いてみる。幼馴染として、スバルの歪んだ性癖を放ってはおけないし。じゃないと天国のスバルのお父さんとお母さんに合わせる顔が無いもん…!」

「…ミーナ、あのハルトマンがあんな立派なことを…!」

「ええ、感動だわ。…理由はともかくだけれど」

「ご武運祈りますわ…」

 意を決した表情で、エーリカが一人ポカンとする昴に声をかける。

 

「…ねえ、スバル」

「ん?」

 

 

「スバルってさ…ロリコンなの?それともゲイ?…もしかしてED?」

 

 

 

 

 

ギリリリリリリッ…!!

「みぎゃぁぁぁぁぁぁッ!!?」

「ふわッ…!?」

 エーリカの問いかけへの返答は、彼女の頭を万力の如く締め上げる片手アイアンクローであった。100㎏近い握力を持つ昴の掌に掴まれたエーリカはまさに猛禽の爪に捕まった小動物の如き状態であり、その悲鳴が食事前だというのに寝落ちしかけていたサーニャを起こしてしまった。

 

真面目(めんぼ)な顔して(ない)言い出(ゆだ)すのか(とも)えば…人を捕まえて鬼畜外道かホ〇野郎か不能なのかだとぁ、脳味噌(のみそ)捏ねて(こねって)練り直して(ねなおっせて)やろうかエーリカどんよぉ…!」

「あ痛だだだだッ!!分かったから、悪かったって!ていうか何言ってんのか分かんないよ!」

「おっといかん、つい素が出てしもたか」

 青筋立てて共通語にできない方言丸出しで喋りだした昴であったが、エーリカのギブアップで冷静になってアイアンクローから解放した。

 

「はぁぁぁ…潰れるかと思ったよ…。トゥルーデ、私の頭変形して無いよね?」

「大丈夫だ、なんともない。…まったく、少し見直したと思えばあの聞き方は無いだろうに」

「…岩城、今の言葉…鹿児島弁か?お前鹿児島出身だったのか」

「坂本さん、知ってるんですか?」

「ああ、訓練生だったころに九州から指導に来た師範代の方が居てな。その方の喋り方が独特だったんでな」

「あ~…生まれは富山なんすが、知り合いに鹿児島の人が居ましてね。その人との付き合いが長かったんで喋りが移っちゃいまして、興奮するとつい訛りが出てしまうんですよ」

「そうなのか…それにしてはやけに流暢な言葉遣いだったが」

 ちなみにその知り合いとは他でもない前世の自分である。

 

「それよかエーリカ、お前いきなり何を聞きだすんだ。割と真面目にムカついたぞ?」

「だって…シャーリーに興味ないとか、普通の男の反応じゃないじゃん。そんなのロリコンかゲイかEDかにしか思えないって」

「短絡的が過ぎるだろう…。というか、そもそも俺は別にシャーリーを意識してない訳でも、興味がない訳でもない。俺の使い魔…バルファルクの性質上、そういう反応が表に出てこないだけなんだっつの」

「え…?それってどういう…」

「も~!いい加減お腹減ったよ~!早く食べようよ~!」

「…皆さん、お気持ちは分かりますが食事が冷めてしまいますわ。話は食事の後にしたらどうですの?」

「そうね…。せっかく宮藤さんたちが作ってくれたご馳走ですし、先に食べてしまいましょう」

「は~い」

 

 

 

 その後、昴がバルファルクが『無性生物』であり、その影響で性的欲求が減退して生物として最低限の反応しかしなくなっているということを説明したことで、昴の諸々の疑惑は払拭されたのであった。

 

 

 

(…さっきのスバルの喋り方、どこかで聞いたような…?……まいっか、天丼うまいし!)

 そしてシャーリーの疑念は天丼の美味しさに埋もれることとなったのだった。




オリ主は前世では鹿児島生まれ鹿児島育ち、ついでに祖父が剣術道場の師範だったという根っからの薩摩隼人です。なのであのチェストはにわかではなくガチのチェストです。…刀キャラはもっさんと被る?その辺は…なんとかなるやろ
あと、鹿児島弁はにわかですんで間違ってても許してね

ではまた次回。…カニ解禁で仕事量が増えまくって連日死にそうです。なんであんな面倒な生き物が旨いんや…


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女帝からの贈り物

RtB6話視聴…俺達のストパンって美しくないか?(感涙)

RtB7話視聴…俺達のストパンって醜くないか?(お目々ぐるぐる)

RtB8話視聴…やっぱり俺達のストパンって美しいわ(確信)

落差が…落差が酷い(褒め言葉)。前シリーズ通して屈指の出来である6話と8話で全シリーズ通して最狂の7話をサンドイッチするとか半端なかったですね。宮藤の淫獣っぷりはもはや公式が認めざるを得ないことに…発進します!の爪痕は大きかった。…いや、原作がアレだったから発進しますがああなったのか…どっちが元ネタかわかんねえなこれ

ではどうぞ。今回捕捉しまくってたら長くなってしまったのでダレるかも…


 とある日、ブリタニア連邦北部領土の屋敷にてエリザベート・タウンゼント公爵は今日も執務に励んでいた。つい先日に昴から頼まれて撃墜したネウロイの一件は軍の戦果として挿げ替えられてしまったが、それを不憫に思ったチャーチルから解体予定であった軍の巡視船を漁船として譲ってもらったので、それを中心とした大規模な漁船団の設立を計画し今現在その準備に追われているのである。

 

コンコン

「お嬢様、よろしいでしょうか?」

「…どうしたの?」

 そんな時、エリザベートの書斎のドアをかつて自分の教育係であったメイド長がノックする。

 

「お忙しいところ申し訳ありません。お嬢様に来客が見えられているのですが…」

「…?来客のアポイントメントは入っていない筈よ。どこの誰なの?」

「…お嬢様がよくご存じのお方です。わざわざ休暇を取って来られたそうで」

「……そう。追い返しなさい」

「は…ですが」

 

ガチャ!

「…もう入って来ちゃってるんだな~、これが」

 そっけない態度のエリザベートの意に反してずけずけと書斎に入ってきたのは、ブリタニアの同盟国であるファラウェイランド空軍の軍服を羽織り、ハンチングのような帽子を被った亜麻色の髪をした女性である。きっちりと着込んだエリザベートとは対照的に軍服の下はシャツ一枚であるためにスタイル抜群の肢体がはっきりとわかり、軽薄ともとれる軽い口調はまるで正反対と言ってもいい。

 彼女の名は、『ウィルマ・ビショップ』。ブリタニア本島南岸にあるワイト島の分遣隊に所属するウィッチであり、501のリーネの姉でもある人物であった。

 

「ウィルマ…何しに来たの?来るのならあらかじめアポイントメントを入れなさい。私は忙しいんです、501のお零れしか仕事のない貴女と違って」

「水臭いこと言うなよ~エリーゼ。私たち親友でしょ?親友同士が会うのにアポもなにも必要ないでしょ?」

「貴女と友人になった覚えはありません。貴女と私はただの腐れ縁…それだけよ」

「ぶ~…」

「まあまあ。…ウィルマ様、よくいらっしゃいました。今お茶を用意しますのでお掛けになってください」

「ありがとー!やっぱりメイド長だけは分かってるよね~」

 

 彼女たちの関係はエリザベートやウィルマが生まれる前にまで遡る。今から30年ほど前、欧州を中心に勃発した第一次ネウロイ大戦においてトップエースとして活躍したのがエリザベートの母であるマーガレット第二王女と、ウィルマたちの母であるミニー・ビショップであった。当時はウィッチの数も少なかったこともあって2人は意気投合して親友となり、プライベートでも大商家であるビショップ家が経営する店にショッピングに訪れるなど公私ともに深い付き合いを重ねていた。互いに上がりを迎えて退役し、家庭を持ってからも家族ぐるみの付き合いは続き、エリザベートとウィルマも幼少期にちょくちょく会っており、エリザベートのことを愛称の『エリーゼ』と呼ぶくらいには仲が良かった。

 …しかし、エリザベートの両親の没後は第二王女の死という混乱もあって中々会うことが出来なくなり、ウィルマがブリタニア空軍の煩わしさを嫌ってファラウェイランド空軍に入隊するため新大陸に向かってしまったので増々距離は離れ、再会できたのは数年前…ダイナモ作戦の際に欧州各地からの大量の避難民の受け入れ先としてエリザベートが名乗りを上げたことがきっかけであった。

 

「どうぞ、ウィルマ様。…それと、これは近々ここの名物として売り出す予定のビルベリーのタルトです。ご試食なさってください」

「やあどうも。…へぇ、こんなものを作るようになったんだ。手のひらサイズで可愛いし美味しそうじゃん!」

「今のところ我が領地は漁業による収益が基本になっているから、バランスをとる為にとスオムスから苗を仕入れて試験栽培してみたのよ。思った以上に気候が合っていたのか豊作だったから、アレの置いていったレシピを基に家の料理人が開発したの」

「ああ、話に聞いたウィザードの彼?リーネからの手紙に書いてあったけど、今は501に居るらしいね……ん、美味ーい!甘酸っぱくて紅茶によく合うよ。惜しいなぁ~…もうちょっとロンドンと近かったら私の実家でも取り扱いたかったんだけど…」

「心配は無用よ。私の魔法力で冷凍して保冷梱包するから、どこだろうと流通可能よ。近いうちにここの支店を通して貴女の実家にサンプルを送るから、一応伝えておいて頂戴」

「はいはい。…しっかし便利よねエリーゼの使い魔って。肉でも魚でも簡単にカチンコチンにできるから、遠い土地にでも販路を広げられるんだもんね~。…なあ、また鱗ちょっとだけ分けてくれない?」

「嫌よ」

「ちぇ~…」

 

 今でこそ気安い会話をしているが、再会した当初はウィルマの方が物怖じしていた。友人でありながら、エリザベートが一番苦しい時に会いに行くことすらままならず、何の助けにもなれなかったことを申し訳なく思っていたからだ。実際エリザベートも、ノウハウのない領地経営と制御できないイヴェルカーナの力に板挟みになっている頃に、夜中に一人涙を流しながらビショップ夫妻やウィルマに助けを求めたこともあった。

 しかし、昴の協力によってイヴェルカーナの力をコントロールできるようになってからは屋敷の外のことにも目を向けられるようになり、自分の母の死がブリタニアにとってどれほど大事なことであったということを理解し、一般市民でしかないビショップ家にはそう簡単に自分に関わることが出来なかったことも分かったので、ウィルマが思っているほどに気にしてはいなかった。

 ダイナモ作戦の避難民の移住の際、軍の特使として屋敷に赴いたウィルマは再会の挨拶もそこそこに手助けできなかったことを詫びたが、エリザベートは澄ました顔で謝ることではないと諭し、逆に今まで自分たちのことを想っていてくれたことに感謝し、めったに見せない笑顔を送った。普段の態度こそそっけないが、エリザベートはウィルマに対し確かな信頼を抱いていることは確かなことなのである。

 

「…それで、本当に今日は何をしに来たの?」

「ん、ああ…もう501に『例のヤツ』送ったんでしょ?名義を貸してやった立場としては、その後の進捗が気になるってもんでしょ?」

「そのことね…別に、予定通りよ。貴女と貴女の実家が名義と搬送ルートを貸してくれたおかげで、あの髭も私からのものだとは気づかなかったみたいよ。貴女の妹への仕送り…ということで、もうそろそろ501に届いている頃ね」

「そっか、なら良かった!いやぁ私もさぁ、何を送るのかと思えばまさかあんなもんを送り付けるとは思ってなかったから、正直怪しまれるんじゃないかな~…って思ってたのよ」

「むしろ逆よ。下手に当り障りのないものよりは、一目見てなんなのか分かるくらい目を引くものの方がバレにくいものよ。ちょうど501にはあの烏含めて扶桑人が3人いるらしいから、おまけの方もうまく使ってくれるわ」

「アレがおまけねぇ…。流石公爵様、発想がぶっ飛んでるね。あのザイン・ウィトゲンシュタイン大尉が一目置くだけのことはあるねぇ」

「…茶化さないで頂戴。それはそうと、貴女も貴女でもうすぐウィッチとしては上がりなんじゃないの?退役後のことは考えているの?」

「…ふっふっふ、よくぞ聞いてくれました!実は私…ダーリンが出来ましたー!!…な~んちゃって…」

 

 

「……は?」

 

 

 その日、タウンゼント領全土の気温がほんの一瞬氷点下に下がったとかなんとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、501では監視班のレーダーにも昴の感知にもネウロイの反応が無かったこともあって、宮藤とリーネの訓練の総仕上げの一環として模擬戦が行われていた。

 

 

ガガガガガッ!!

ドンッ!ドンッ!

「どうしたどうしたぁ!かすりもしてないぞ、せめてシールドくらい張らせてみろ!」

「そ、そんなこと言ったってぇ…!」

「速過ぎて…全然狙いが定まらないッ…!」

 先日の例もあって高速型ネウロイと遭遇した際の仮想敵として選ばれた昴が縦横無尽に2人の周囲を飛び回る。宮藤もリーネもこれまでの訓練で培ったことを活かしてペイント弾を撃ちまくるが、その総てが虚しく空を切る結果となっていた。

 

「…流石にあの2人に岩城の相手は少し早過ぎたか」

「色んな意味でね。時期的にも、スピード的にもね」

 その振り回されっぷりに、地上で立会人を務めていた坂本とエーリカも肩を竦める。やがて2人が同時に弾切れを迎えた隙を突いて背後から一気に距離を詰めた昴が2人の手から得物を掠め取った。

 

「あっ!?」

「はい、チェック・メイト。残念だったな、2人とも」

「うう…また手も足も出ませんでした…」

 奪われた武器の銃口を向けられたことで、今回の模擬戦も昴の完勝という形で終わりを告げた。がっくりと項垂れたまま降りてきた2人に坂本が声をかける。

 

「残念だったなお前たち。今回の反省は…自分でも分かっているな?」

「はい…。私は、リーネちゃんの射線上に誘導しようとしたんですけど、途中でパニックになってめくら撃ちになってしまいました…」

「私は昴さんの進行ルートの軌道を予測しきれませんでした…」

「うむ。高速型のネウロイは、一般的なストライカーユニットの最高速度と同程度か、それ以上のスピードで飛行する。更に奴らはどういう原理で飛行しているのか分からんが、曲芸紛いの機動力を持つ個体もいる。そいつらを確実に仕留めるためには、確実な誘導と狙撃、そしてなにより動きを観察することで軌道を予測する勘がモノを言う。シャーリーのようにドッグファイトで競り合えたり、エイラのように動きを予知出来るならともかく、お前たちのようなひよっこは連携してネウロイに立ち向かうことを心掛けろ。1人で出来ないことも、2人なら、3人なら出来るようになる!仲間との信頼こそがウィッチの可能性なのだと心に刻むように!」

「「はい!」」

「…そういうこと言われると8年間ぼっち(ソロ)で戦ってきた俺は肩身が狭いんですが」

「む?まあ…それはそれだ!1人で出来ることが多いに越したことはないからな。お前はお前で頑張れ、ハッハッハ!」

「…少佐って誤魔化すときワンパターンだよね」

「それな」

 などと言いながら訓練を終えて基地に戻ろうとすると、基地の方からミーナがこちらに向かってきていた。

 

「ああ、居た居た。坂本少佐とリーネさん、ちょっといいかしら?」

「ミーナ?どうしたんだ?」

「二人に荷物が届いているの。ちょっと格納庫の方まで来てくれるかしら?」

「あ、はい!」

「私に荷物?土方からは何も聞いておらんし……もしやアレか?おお、やっと出来たのか!」

「…坂本さんなんだか嬉しそうですね」

「どったんだろ?」

 

 

 格納庫に来ると、そこには1メートルほどの長方形の木箱と横幅3メートルはある大きな金属製のコンテナが鎮座されており、皆が興味津々の様子でそれを取り囲んでいた。

 

「あ、少佐にリーネ!荷物届いてるよ。リーネの方はやたらでっかいな!」

「うわぁ、本当だ。リーネちゃん、中身ってなんなの?」

「…分からないの。そもそも何も聞いてないし…」

「一応、ここに送られるものは全部軍の検閲が入るから、危険なものではない筈なのだけれど」

「ふーん…ところで、少佐の方は何なの?」

「ああ。送り主は…やはりあの職人か!」

「職人って…もしかして、例の岩城君から貰ったっていう宝石を預けたブリタニアの装飾品のお店?」

「何だ、少佐そんなことしてたんすか?」

「まあな。折角の代物だ、相応しい形に仕上げて貰おうと思って…な!」

 坂本がワクワクしながら木箱を開けると、ぎっしりと詰まった緩衝材の中に布にくるまれた何かが入っており、その布を剥がすと中身が明らかになる。

 

「…おお!これは…」

「へぇ…」

 中にあったのは、坂本の扶桑刀に合わせて作られた鞘飾りと鍔であった。鞘飾りは鞘全体をがっちりと覆うような形状をしており、吹き荒れる烈風をそのまま形にしたような躍動感すら感じられる造形をしていた。鍔の方は扶桑刀の特徴を残しつつも西洋剣のような打撃武器としての役割も備えたやや重厚なものとなっており、その双方には坂本のパーソナルマークである眼帯をしたドーベルマンの絵柄が彫り込まれ、メインである赤色の龍氣玉はそれぞれの大きさに合わせたサイズに調整されて填め込まれていた。

 

「おー!カッコいいじゃん、良い趣味してんなその職人さん!」

「ああ、思った以上に悪くない仕上がりだ。私の注文もしっかりと叶えられている、これは良いものだ」

「カタナのことはよく分かりませんけど…凄く綺麗ですね。赤い宝石もとても似合ってます」

「少佐にとてもお似合いだと思いますわ!」

 質実剛健なその仕上がりに坂本は元より、シャーリーやサーニャなど造形や芸術に理解のある面々は感心していた。

 

「流石は本職さん、あの玉っころを上手い事使いますね」

「ああ、これでネウロイどもををたたっ切るのが楽しみだ。…それで、リーネの方は中身はなんなんだ?」

「あ、はい。えーと送り主は……わぁ!姉さんからです!」

「お姉さん…もしかして、ワイト島分遣隊にいるウィルマ軍曹から?」

「はい!ウィルマ姉さんからです」

「へぇ、リーネちゃんってお姉さんがいるんだ」

「そうだよ。うちは8人兄弟で、ウィルマ姉さんが一番上で、私が4番目なの」

「随分賑やかな家族だな…」

「…でも、一体なんなのかな?この間の手紙には何も書いてなかったんですけど…」

 嬉しそうに家族のことを話しながらリーネがコンテナを開けると、中には一回り小さな木箱が入っていた。

 

「ありゃ、また箱だね。随分しっかりと梱包してあるんだね」

「…うじゅ、なんかこの箱ヒンヤリする。氷でも入ってるのかな?」

 箱の中がまた箱であることに首を傾げつつリーネが開けようとするが、箱の蓋には釘が乱雑に打ち付けられており中々開かないでいた。

 

「んんッ…!はぁ…ダメです、全然開きません…」

「やれやれ検閲官め、仕事が雑過ぎるぞ全く」

「…しゃあない、強引にこじ開けましょ。バルクホルン、手伝ってくれ」

「ああ、任せろ!」

 業を煮やした昴とバルクホルンがリーネに代わって蓋に手をかける。

 

「「せー…のッ!!おりゃあああッ!!」」

 

バキバキ…ガキンッ!

 501きっての力自慢2人の手に掛かれば流石にひとたまりもなく、木箱は半ば半壊しつつもとうとう口を開いたのだった。

 

「ふう、開いた。さて、中身は……って、おお!?」

「こ、これって…」

 

 木箱の中に入っていたもの。氷のような冷気を放つ麻袋に覆われていたのは、真っ白に凍り付いた宮藤程の大きさの丸々と太った巨大な魚であった。

 

「デカッ!何これ、魚!?」

「こいつは…マグロだ!しかもこの大きさとフォルムからして…クロマグロ、所謂本マグロって奴だ」

「これマグロですか!?こんなおっきいの初めて見ました…」

「…ていうかこの魚、カチカチに凍ってるゾ。スオムスで真冬にこんな風になって落ちてた魚見たことあるゾ」

「でも今夏だよ?真夏にこんなカッチンコッチンに出来るの?」

「…あ、手紙がついていたので読んでみますね」

 奇抜過ぎるその中身に皆が首を傾げる中、リーネがコンテナに添えられていた手紙を読み上げ始める。

 

「『リーネへ。部隊に馴染んでこれていると聞いてお姉ちゃんはほっとしたよ。なんでも扶桑人の友達が出来たと聞いたから、扶桑人の大好きなマグロをプレゼントするね。親友からの貰いものだから気にせず部隊のみんなで食べてちょーだい。扶桑名物の『えのころ飯』にするといいってさ。それじゃあ、偶には家に帰ってパパとママを安心させてあげなよ ウィルマより』…とのことです」

「貰いものって…それはまた太っ腹な友人がいるんだな。これほどのマグロを買おうと思うと相当な高値がつくぞ」

「えのころ飯…?聞いたことが無いが、どんな料理なんだ?」

「えっと…それが、私も聞いたことが無くて…」

「宮藤も知らないの?じゃあスバルは知ってる……スバル?」

 エーリカが顔を向けると、昴が呆れたような笑みを浮かべていた。

 

「くっくっく…そういうことか。リーネ、お前には悪いがどうやらその荷物は俺宛みたいだ」

「え?でも、私の姉さんからなんですけど…」

「それはおそらくカムフラージュだ。その手紙に書いてあるマグロをくれたっていうリーネのお姉さんの友人とやらが、自分から俺に送ったものだと悟られないようリーネのお姉さんの名義を借りたんだろう。…この欧州で、えのころ飯の意味を知ってる奴なんざアイツ以外には居ないだろうからな」

「…で、結局なんなんダヨ、そのえのころ飯って?」

「えのころ飯ってのは大昔に鹿児島の一部で食べられていた郷土料理でな。ちょいと奇抜な料理だから前に話のネタにした時のことを憶えていたんだろうよ」

「どんな料理なんですか?」

 

「犬の腹掻っ捌いて内臓(モツ)抜いたところに飯を詰めて丸焼きにした料理」

「………へ?」

「犬の腹掻っ捌いて内臓抜いたところに飯を詰めて丸焼きにした料理」

 

「………」

 一同、ドン引きである。犬系の使い魔持ちに至ってはお腹を隠すようにしてガードしている始末である。

 

「……いやいや、大昔の話だかんな!今はそんなことしてるやつ居ないから!そもそも、子豚の丸焼きとかローストチキンとか似たような料理があるんだから別に異常な訳じゃないだろ!?」

「いや…流石に犬はちょっと、ねぇ…」

「…まさか最近おやつを作ってくれるのは太らせて食べる為だったんじゃ…!?」

「昨日のホットケーキはその為だったの!?美味しかったのに!」

「違ぇよ!むしろ食い過ぎだって注意してんのに3枚も食った奴が言うな!…ええい、話が逸れた。俺が言いたいのは料理法じゃなくて、えのころ飯がどういうものかっていう意味の方だよ」

「意味?」

「こんな立派なマグロでえのころ飯をやるなんざ、贅沢を通り越して勿体なさ過ぎる。それぐらいはアイツにだって分かるだろう。だからその文章は偽装…大事なのは、えのころ飯が『何かを詰めた料理』だっていうことだ」

「…もしかして、このマグロのお腹に?」

「そういうこった…よっと!」

 昴がマグロのエラの部分から中に手を突っ込み探っていると、分厚いナイロンの包みを引っ張り出した。

 

「どうやらこっちのが本命みたいだ。このマグロはただの包装紙だったって訳だな」

「こ、これが包装紙…どんな神経してりゃそんな発想が出来るんだよ…?」

「…それで、何が入ってるんだ?」

「どらどら…お、こっちも手紙だな。それになにかの文章…というより資料か?とりあえず手紙を読むぜ」

 

 

『御機嫌よう、扶桑の旅烏。美女ばかりの501の居心地はどんなものかしら?まあ、貴方のことだからいつも通りでしょうけれど。…貴方が501に、あのトレヴァー・マロニーの管轄下に入ったと聞いてどうしてやろうかと思いましたが、聞くところによれば501はあの髭から随分と冷や飯を食わされているご様子。ですので、貴方を仕置きするより501を手助けするほうがあの髭の嫌がらせになると考えたので、ビショップ家の方々の協力を得てこのような形で贈り物をさせてもらいました。…リネットさんには、ぬか喜びをさせてしまったでしょうから申し訳なかったと伝えておいてください。ウィルマには事情を説明してあるので、手紙自体は本人の物です。…添付しておいた資料は、ヴィルケ中佐に渡しておきなさい。どう使うかは、彼女に一任しますので。カムフラージュのマグロと保冷袋は好きにしなさい。貴方ならいくらでも使い道はあるでしょう。では…お膳立てはしてあげるから精々好きに暴れてきなさい。 ブリタニア連邦公爵 エリザベート・タウンゼント』

 

 

「…タウンゼント公爵!?」

 手紙を読み終えるなり、リーネが差出人の名に驚愕の声を上げる。

 

「リーネちゃん知ってる人?」

「知ってる人も何も…ブリタニアで一番有名な貴族の方だよ!今の女王陛下の妹の娘…つまり陛下の姪に当たる方で、ブリタニア本土の北部地方で一番広い領土を管轄する凄く偉い方なの!私のお母さんやウィルマ姉さんとは昔からの知り合いらしくて、私も小さい頃に会ったことがあるみたいなんだけど…あんまり憶えていなくって。でも、凄く優しい方だったってことは憶えてるの」

「…私も聞いたことがあるわ。ダイナモ作戦の時にブリタニアに移送された大勢の避難民の4分の1をご自身の領地で受け持って、住居から仕事から何から何までを手配したっていう凄腕らしいわね」

「私も知っていますわ!欧州で爵位を持つ者でタウンゼント公爵の名を知らない者なんてモグリ扱いされるくらいですのよ!」

 リーネは当然ながら、家格の高い要人と接する機会の多いミーナや自身がガリアの貴族であるペリーヌにとって、タウンゼントの名は衝撃的であった。ブリタニアという国家における影響力であれば、軍務以外であれば自分たちの上官であると同時に目の上のたん瘤でもあるトレヴァー・マロニー以上の権力を有する存在なのだから。

 

「…でも、その公爵様がなんでスバルにこんなものを送るのさ?お前今までずっと根無し草だったんじゃないの?」

「まあ基本はな。ただ、エリーゼ…エリザベートとは5年くらい前に出会ったんだが、それ以降欧州で色々と動き回る時にはアイツの領地で休ませて貰ってたんだよ。まあ…対価として色々手伝わされたりもしたんだがな」

「しかし…一体どういう接点があったんだ?年が近いとはいえブリタニアの公爵とそう簡単に知り合いになれるものではないと思うが…」

 坂本の尤もな疑問に、昴は少し考えた後に話だす。

 

「……ま、ここまでしてるんだ、もう言ってもいいかな。実を言うとな、アイツと俺には共通点があるんだ。それがアイツと知り合いになった理由なんだよ」

「共通点?」

 

「エリーゼも、俺と同じ『ドラゴン・ウィッチ』…ドラゴンを使い魔にしたウィッチなんだよ」

『………え、ええ~ッ!!?』

 衝撃的な事実に、格納庫にウィッチたちの叫び声が響き渡る。

 

「た、タウンゼント公爵がウィッチ!?しかも岩城さんと同じ…ドラゴンが使い魔なんですか!?」

「ああ。アイツの使い魔はイヴェルカーナ…氷の力を操る古龍だ。マグマすら凍らせるとんでもない冷気が武器で、アイツがその気になればブリタニア本土をスオムス並みの極寒の地に変える事だって出来ちまう。エリーゼはその力を使って、一人で自分の領地を守ってるのさ。ネウロイからも、自分を嫌うブリタニアの他の貴族や政治家連中からもな」

「じゃあ、このマグロがカチコチなのもそのイヴェルカーナっていうドラゴンの力で…?」

「ああ。それだけじゃなくて、そのマグロと一緒に入ってる袋の中にはアイツの鱗が入ってるんだが、そいつにはイヴェルカーナの冷気が封じ込められていて、バケツ一杯の水に落とせばあっという間に氷にしてしまうくらいだ。冷蔵庫に突っ込んどけば、電源入れなくてもバッチリ冷えるぞ」

「…またとんでもないことになったな。お前のような奴が他にもいるとは…しかもブリタニアの大貴族とはな。ということは、先日お前がネウロイの撃退を依頼したウィッチというのはタウンゼント公爵のことだったのか…」

「ええ、まあ。北から来るネウロイに関しては北部領主であるエリーゼにとっても他人事ではないですし、ちょっと手を貸してもらったんですぁ。勅命が出たのも、エリーゼが伯母の女王陛下に伝えたからだ思うぜ」

「…女王陛下はすべてご存じということね。なんというか…胃が痛くなる話だわ」

 只でさえ定期報告の際にチャーチルとマロニーというブリタニア軍部のツートップとの腹の探り合いで鬱屈させられているミーナにとって、協力者とはいえこの上王族でもあるブリタニアきっての大貴族まで関わってくるというのはプレッシャー以外の何物でも無かった。

 

「けどさ、その手紙にも書いてあるけど、その公爵様が私たちの味方になってくれるんだろ?だったら良いことじゃんか。ただでさえこっちはあのウィッチ嫌いの上官様のせいでカツカツなんだし、味方が多いに越したことはないだろ?」

「そうかもしれないけれど……ああ、そうだわ!タウンゼント公爵との連絡は岩城君にお願いしてもいいかしら?私よりも貴方の方がスムーズに交渉出来るでしょう?」

「おおう、キラーパスぶん投げて来たっすね…。まあ確かに、気心知れた仲っちゃあそうですしね…分かりました。エリーゼになんか用があるときは俺が掛け合ってみますよ」

「そう?ならお任せするわね!ああ…誰かに丸投げできるってこんなに気が楽なことなのね」

「…すまん、ミーナ」

 本来ならミーナに次ぐ階級として書類仕事や上層部との駆け引きにも応じる必要がある坂本ではあるが、本人の気質と不器用さ故に大部分をミーナに任せきりにしてしまっているが故にぐうの音も出ない。屈託の無い笑顔を浮かべるミーナに、坂本はポツリと謝罪を漏らす。

 

「…ふ~ん、気心知れた仲なんだ。随分仲よさげじゃんか、モテモテスバルさんよ~?ん~?」

「…何臍曲げてんだよ?」

「べっつに~?ふ~ん、ふ~~~ん?」

「あらあら…枕が恋人だと思っていたハルトマンさんが珍しいことですわね?」

「そ、そんなんじゃないし!大体それはむしろサーにゃんの方でしょ!」

「サーニャを変な目で見るんじゃネー!!サーニャの恋人は…わ、わわ…わたッ…!」

「エイラ?私がどうかしたの?」

「…な、なんでもない…んダナ…」

男子中学生(ちゅーぼう)かお前は。…ああそうだ、これにも書いてありましたけどこの資料は中佐にお任せしますね。アイツが態々ここまでして送ってくるくらいですし、なんかの役には立つものでしょうから」

「ええ、分かったわ」

「…ところで、このマグロはどうしましょう?」

「うーむ…とりあえず海水氷を作って解凍してから…寿司でも握るか。基地の職員全員が食う分は十分にあるだろう」

「スシ!スシが食べられるの?」

「なんだ岩城、お前寿司まで握れるのか?」

「手前味噌ですけどね。…ああ、でも米と酢はあってもワサビが無えか。レフォール(西洋ワサビ)で代用するしかねえか」

「じゃあ私酢飯いっぱい炊きますね!お寿司なんて久しぶりだなぁ~」

 

 

 その後、宮藤も手伝ってヘトヘトになりながらも数百貫にも及ぶ寿司を握り、職員全員にマグロの寿司が振る舞われた。生魚を食べるという文化に欧州人たちは最初は戸惑ったが、昴が前世で聞きかじった未来の魚食技術により既存のものより遙かに高品質な仕上がりとなった寿司は大好評で、巨大なマグロはその大半が皆の胃袋に収まることとなったのだった。




最近ネタの勉強のためにストーム、ノーブル、サイレントの小説を読んでいますが、それぞれ内容に個性があるので面白いですね。ただ…これかなり長くなるわ。どんだけネタ拾えるかな~?

ではまた次回


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それぞれの思惑

ベルリン編9話視聴…ミーナにもこの時が来てしまった訳ですね。戦闘隊長だったもっさんと違って指揮官であるためそうそう戦線に出向くことはないとはいえ、決戦を前に戦力の低下はキツそうですね。今回のウルスラのビックリドッキリメカは使い切りでしょうし、宮藤に続いてミーナまで魔力に不安があるのをどうカバーするのか…
 そして次回はいよいよ決戦でしょうか。タイトルからして静夏が鍵なのは間違いないでしょうが、ついに彼女の固有魔法が覚醒するのか…楽しみなところですね。…ここの静夏は原作とはちょっと変化をつけるつもりなので、その辺も踏まえて待ち遠しいです。

今回は戦闘無しでちょっと短めです。ではどうぞ


 エリザベートから送られたマグロが骨すら出汁を取られて文字通りの出汁ガラとなった頃。普段通りの日常を過ごす皆とは裏腹に、執務室の坂本とミーナは何時になく神妙な面持ちで机の上の資料…エリザベートがカムフラージュしてまで送ってきたものに視線を落としていた。

 

「…この資料に書かれているのは、本当のことなんだな?」

「ええ…。私の権限で立証することは出来ないけれど、この内容に関しては信憑性は十分にあるわ。それに、あのタウンゼント公爵がここまで手をまわして根拠のない出鱈目を送ってくるとは思えないもの」

「だが…しかし、信じたくは無いものだが…」

 エリザベートから送られた資料。そこには、ミーナですら初耳のマロニーの『ある疑惑』に関する情報が記されていた。その内容は信じられないものであったが、マロニー派に忍ばせているというスパイから得たという情報は関わっている人物の名や施設の位置は正確なものであり、それが事実であることを裏付けるには十分な根拠があった。

 

 その内容は、『マロニーが鹵獲したネウロイのコアを研究して兵器らしきものを建造しようとしている』…というものであった。

 

「…確かに過去にも何度かコアを破壊しきれず完全に消滅したのを確認できないまま撃墜したネウロイはいた。だがそれらの大抵は奴らの苦手とする海に墜ちていった為に問題ではなかったし、地上であっても軍による掃討で確実に消滅されていた筈だった。…まさか、その軍がネウロイのコアを破壊せずに回収し、あまつさえそれを使ってよからぬことを企んでいたとは…ッ!」

「この資料によれば、その研究の存在はマロニー大将以外の上層部は元より、チャーチル閣下や女王陛下にも極秘にされているようね。…まあ、当然よね。いくらコアだけとはいえネウロイを使った兵器の開発なんて危険すぎるわ。露見されれば、いくらマロニー大将といえど軍法会議ものでしょうからね…」

「……理由は、私たちへの当てつけ…か?」

「でしょうね…。もちろん、人類の存亡を案じてというのが大前提ではある…と、信じたいけれどね」

 この報せには、直情的な坂本だけでなくミーナですらもショックを隠し切れない。彼女たちは軍人としての責務だけでなく、ネウロイに大切なものを奪われた土地を取り戻すため、何より故郷を追われ大切な人たちを失った人々の希望となるために集い、命がけの戦場に身を投じている。

 …そんな自分たちの努力の裏で、同じ志を抱いているはずの上官がウィッチへの嫌悪感だけで怨敵であるネウロイを利用した兵器を作り出そうとしているなど、信じたくはなかった。まして資料によればその資金はブリタニア空軍の予算…正確には本来501に割り振られるはずだった金がつぎ込まれているという。この事実を知れば隊員たちやブリタニア政府は当然のこと、自分たちから集めた税金が危険な実験に使われていることを知らされたブリタニア市民からの反発は必至だろう。

 

「…ミーナ!すぐにこの事実を公表すべきだ!私はともかく、最前線で命を懸けて戦う皆をここまでコケにされるのは我慢ならんッ!今すぐマロニー大将を…奴を引きずり降ろさなければ、死んでいった者たちに合わせる顔がない!」

「落ち着いて美緒。…今はまだ駄目よ。この程度の証拠だけじゃ、間違いなくしらを切りとおされるわ。もっと明確な、言い逃れのしようのない証拠がなければ、私たちの立場を更に危うくするだけよ。…現にタウンゼント公爵はこれだけの情報を得ていても行動を起こしていないのよ」

「ぐぅっ…」

「それに…方法はともかく、ネウロイに対抗するための兵器を作っているということは確かなことよ。どんな思惑があろうと、それが人類にとって有益なものであるのならいくらでも詭弁は出来るわ。以前に貴女が宮藤さんに言ったように、人類の為であればどんな無法も許容される場合がある…それが軍隊という組織なのよ」

「だがっ…よりによってネウロイだぞ!そんなものを使った兵器など上手くいくはずがない!仮に制御できたとして完成にどれだけかかるか…その間にどれだけのウィッチが傷つき、飛べなくなっていくか…!私とて、悠長にしている暇など…」

「分かっているわ!私だって、分かっているのよ…!あれだけ私たちに無体を押し付けておいて、それをダシにしてこんなもののために血税を使っているだなんて…許せるはずがないわ…!」

「…すまん、熱くなりすぎた」

「気にしないで、私も同じ気持ちなのだから。…ともかく、今は任務をこなしながらマロニー大将側の動きを探るしかないわ。タウンゼント公爵が私にこの情報を託したのも、最前線にいる私たちにしか知りえない何かがあるのだと思ったからの筈だわ。その期待に応えられるよう、全力を尽くしましょう」

「ああ、当然だ…!」

 マロニーの企みを阻止するためにも、501の存在を確固たるものにすること。そしてその中で必ず尻尾を掴んで見せることを誓い、ミーナと坂本は互いに頷き合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その一方で、頭を抱えているのは501側だけではなかった。目下彼女たちの目の敵にされているマロニーもまた、思い通りにならない現実に眉を顰めていた。

 

「チッ…あの小娘どもめ、予想以上に粘りおって…。本来なら今頃もう少し締め上げてやれる筈が、あれだけ削減した予算でここまでの戦果を挙げられては付け入る隙が無いわ…。これでは素人2人を放り込んでやった意味がないではないか…!」

 501が創設された当初、マロニーは空軍大将としてお目付け役となったが、それは軍務としてだけでなく各国のエースウィッチが所属することでそれぞれの母国より寄贈される物資や軍資金を管理できる立場が目的でもあった。ネウロイ大戦の初期から第一線で戦い続けてきたマロニーからすれば、自分が下士官だった頃と同じぐらいの年齢で最前線に赴き、華々しい活躍を遂げるウィッチの存在は疎ましい以外の何物でもない。これまでの戦線を維持してきたのは自分たちの戦いの成果であるのに、それを年端もいかない少女たちに委ねるというのは、生粋の軍人であるマロニーにとって看過しがたいことであった。

 無論当初は妨害してでも…とまで考えてたわけではない。しかし実力は確かではあるが自分からすればとても軍人とは思えないウィッチたち、自分の半分も生きていない癖に真っ向から反発してくるミーナ…そして何より、自国だけでなく各国から供与される高々十数人程度の部隊には潤沢過ぎる予算が、マロニーのプライドを間違った方向へと向かわせた。今では501の戦果のみならず非戦闘時の活動にまで冷や水をかけ、何かにつけてミーナへの小言や経費の削減を押し付けるにまで歪んでしまった。そうして巻き上げた予算は空軍の戦力増強に用い…今では、秘密裏に行っている実験にもつぎ込まれていた。

 

「くそっ…忌々しいのはあのウィザードの小僧だッ!ドラゴンだかなんだか知らんが、たかがトカゲもどきが余計なことばかりしてくれる…!」

 マロニーの手元にある資料…ここ最近の501の活動報告には、歴戦のウィッチたちに引けを取らない戦果を挙げる昴のことも記されていた。特にマロニーの気に障ったのは、昴の戦闘における損耗率である。如何にエースウィッチといえど、一度出撃すればストライカーの整備から弾薬の消費、時には銃器の損失によりある程度の損耗が出る。しかし…昴は基本的にほぼ身一つで出撃し、飛行から攻撃まで全てを自身の能力で賄う。経費らしい経費といえば食費程度であるが、これも昴自身が宮藤たちと協力して無駄なく食材を使うよう工夫し始めたためにむしろ削減されており、浮いたお金が昴の給料となっている。

 結果的に、501はタダ同然でエース級ウィッチを一人抱え込んだようなものなのだ。それはガリア解放を目的とするブリタニア政府や連合軍にとっては喜ばしいことではあるが…その功績をウィッチではなく自身の手によって成し遂げたいマロニーにとっては邪魔者でしかない。

 

「これ以上の予算の削減は難しいか…。下手に難癖をつければむしろ上げるように閣下から言われかねん上に、あのタウンゼントの小娘に口実を与えることになる。ここは触れずにおくのが得策か…ええい、腹立たしいッ!!」

 先日のネウロイの一件でエリザベートの戦果を挿げ替えたことについて、本人が気にしていないということで罰則こそ無かったが女王から『やり過ぎるな』という忠告を受けたことが、マロニーのプライドを更に逆撫でさせていた。

 

「…例の実験を急がせるしかないな。新入りの2人が使い物になる前に、我々だけでもガリアの奪還が可能であることを世界に知らしめねば…!そうだ、ブリタニアを…人類を救うのは我々人間だ。獣混じりのウィッチなぞに任せてなどおけるものか…必ずや、我々の手で人類を救うのだ…!」

 

 

 

(…トレヴァー・マロニー。501の想定を超える活躍に焦りの色あり。件の研究にこれまで以上に力を入れると思われ、情報の漏洩が期待できる。引き続き監視を続ける。…我らの親愛なるエリザベート様の為に)

 天井裏に潜んでいた掃除夫…エリザベートが送り込んだスパイに筒抜けになっていることに気づかぬまま、マロニーは己の野望の為に新たな策を練り始めるのであった。

 

 

 

 

 

「…ニャ~、どこに行ったんだニャ~?ニンゲンに見つかる前に早く帰るんだニャ~」

 そんな渦中の501に、奇妙な来訪者が訪れようとしていた。




おそらく二次創作界隈で最速のマロニーちゃんの計画バレかも。流石にアレの存在そのものは確認できてませんが、研究員の会話や運び込まれる資材の出どころなどから推測された模様。

次回はちょっとモンハン要素強めになるかも。

ではまた次回


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不審…者?発見!

ベルリン編9話視聴…静夏ちゃん覚醒回かと思いましたが、最終編に向けての前振りでしたね。PVでも出ていましたがベルリンの壁をああいう風に演出してくるとは…外からの侵入を塞ぐだけでなく中の敵を包囲殲滅するための攻防一体の盾とは厄介な。というかウォルフのコアネウロイ…まさか釣り野伏戦術を先んじてやってくるとは…先を越されたッ!
 壁型ネウロイが上空から降ってきたことも含めて、どうもまだネウロイにも隠し玉がありそうな…宮藤のリタイアも含めて、ここからどうやって巻き返すのか大いに楽しみですね。あのラーテと思わしき2砲の新兵器がどう活躍するのか…そして震電に出番はあるのか。



 では本編をどうぞ。ちょっと長くなりそうだったので分けました


「しゅぴ~…しゅぴ~…zzz」

 その日、フランチェスカ・ルッキーニはどうやって登ったのか屋根の上で日課のシエスタ…要はサボって昼寝をしていた。ミーナと坂本はロンドンに定例報告、付き添いという名目で妹の見舞いのためにバルクホルンも同行していた。年長者3人の不在により最も階級が上ということで基地の責任者を任されたシャーリーは書類そっちのけで趣味の機械いじりに没頭し、専門知識のあるペリーヌと計算が出来るという理由で昴がそのツケを支払わされていた。宮藤とリーネは格納庫にて弾薬の装填と銃器の整備、サーニャとエイラは夜間哨戒に備えて就寝中。…夜間でもないエーリカも未だに爆睡。つまるところ、現在基地はいつになく静かな状態であり誰も咎める者が居ない状態であった。

 

「…!…!」

「…むにゅ?」

 

 猫のように器用に屋根の縁で寝転がっていたルッキーニは、真下から聞こえてきたか細い声にふと目を覚ます。そして徐に下を覗き込むと…明らかに基地の関係者では無い、不審者を発見した。

 

 本来なら軍人としてその存在を警戒し、場合によっては力尽くで制圧することが正しい反応である。…しかしてその不審者から全く敵意を感じなかったのか、それとも不審者の出で立ちが余りにも珍妙であったからか…それを視認したルッキーニの感情を支配したのは

 

 

「…うきゃー!なんか居るー!!」

 純然たる『興味』であった。

 

 

 

 

「ニャぁぁ…探している間に変なところに来ちゃったのニャ。どう見てもニンゲンの住むところニャ、こんなところに居るはず無いのにどうしてここに入って来ちゃったんだニャ、ボクは…」

 一方不審者の方はというと、自分が見つかっていることに気づかずとぼとぼと人気の無い物陰を歩いていた。

 

「…いいや、気落ちするんじゃないニャボク!ボクは皆からラッキー・ボーイと呼ばれたオスニャ!そのボクの勘がここに連れてきたのなら、ここに何かきっと手がかりが…」

 

 

 

「…ステンバーイ…ステンバーイ…」

 そんな不審者の頭上に忍び寄る、一匹の黒猫。

 

「…ニャ!?な、なんニャこの悪寒は…?何かに見られているようニャ…?」

 不審者がその気配に気づいたときには、既に遅い。

 

「…Go!」

「ニャ…?」

 

 上を見上げた不審者の視界いっぱいに飛び込んできたのは、大の字で落下してきた黒猫…もといルッキーニであった。

 

ガッシ!

「捕まえたー!!」

「ミ゛ャー!!?なんニャなんニャ!?ギギネブラかニャ!?ケチャワチャかニャ!?トビカガチかニャ!?なんでもいいから助けてニャー!!」

 

 

 

 

「…なんだ、今の声?」

「岩城さんも聞こえましたの?ルッキーニさんの声は分かりましたけど、もう一つの方は聞き覚えの無い声でしたわね…」

 不審者の悲痛な叫び声は基地中に響き渡り、執務室で書類と格闘していた昴達にも届いたのだった。

 

「よく聞こえなかったが…どうもルッキーニが何か捕まえたみたいだな。あのテンションからして虫とかじゃなさそうだが…まさかスパイか?」

「そんな感じではなさそうでしたけれど…とにかく行ってみましょう」

 執務室を出てルッキーニの元へ向かおうとすると、同じ声を聞いたのかシャーリーやサーニャ達も同じ方向へと向かってきていた。

 

「あら、シャーリーさんはともかくサーニャさん達もお目覚めですの?…ついでにハルトマンさんも」

「ついでで悪かったね…。あんな大きな声聞けば流石に起きるよ、なんか変な声だったし…」

「…ルッキーニちゃんは基地の裏に居るみたいです。それと…一緒に知らない気配が一つあります」

「どこの誰かは知らねーけど、サーニャの安眠を妨害したことを後悔させてやるかんナ!」

 

 サーニャのナビに従い基地裏へとやって来た一同。…しかし、そこで目撃したのは思いも寄らない光景であった。

 

「うじゅじゅ~♪モフモフ、フカフカ、可愛いな~♡」

「に、ニャァァ~…そ、そんなとこ撫でちゃ…ニャふぅぅ~ん…」

 ルッキーニに撫で繰り回されて恍惚とした声を上げているのは、毛皮で出来たベストを着た真っ白な毛並みの大きな猫であった。…そう、猫が服を着て喋っていたのである。

 

「…ね、猫が喋ってますわ!?…可愛いですけど」

「しかも服着てるよ…まさか化け猫?…可愛いけど」

「も、もしかして使い魔なんでしょうか?…可愛いですね」

「でも、野良の使い魔がこんなところに居る?…可愛いけども」

「ケット・シーかもしんないゾ。猫の王国から出てきたのかも…ちょっと可愛いナ」

「…可愛い。ルッキーニちゃんいいな…」

 とりあえず可愛いという認識だけは共通しつつも困惑する一同の中で、昴だけが別の驚きを感じていた。

 

「服を着て、喋る猫……もしかして、お前…『アイルー』なのか?」

「アイルー?」

「…ニャ!?ニンゲンのお兄さん、ボクのこと知ってるのかニャ?」

「あ、ああ…まあな。会うのは俺も初めてだが…」

「スバル、アイルーって何?こいつ猫じゃ無いの?」

「ああ…こいつは一見ただの猫にしか見えないが、アイルーという種族の生き物でな。人間並みの知能を有していて、こんな風に人の言葉を喋ることも出来る。バルファルクからかつて存在していたとは聞いていたけど…まさか現代まで生き残っていたとは思わなかったよ」

「…やっぱりケット・シーなんじゃないカ?」

「妖精とは違うんだが…まあそんなもんと思ってくれればいいよ。俺も正直よく分かんねえし…ルッキーニ、そろそろ離してやってくれ。じゃないと話が進まん」

「うじゅ…しょうがないなぁ」

 驚く皆の視線を浴びながら、アイルーはルッキーニから解放されると立ち上がって咳払いをして話し出した。

 

「ニャホン!…ボクのことを知ってる人が居てくれて良かったニャ。その人が言ったとおり、ボクは誇り高きアイルー一族の末裔ですニャ!仲間からは『ラッキー』って呼ばれてるニャ。理由は何かとツイてるからニャ」

「…めっちゃ流暢に共通語喋ってるよ。人間並みの知能ってのはマジみたいだな」

「今の時代で生き残るためにはニンゲンの言葉くらい喋れないとどうにもならないんですニャ。…ところで、そのお兄さんはさっきバルファルクって言ってたけど、伝説の古龍の名前を知ってるなんて…もしかしてお兄さんは『ハンターさん』なんですかニャ?」

「ハンター…狩人?」

「…うん、まあ…遠からずもってトコかな。俺だけじゃ無く、この場の全員がハンターみたいなもんさ。ネウロイ専門のな」

「ネウロイ…ああ、あの黒いバケモノのことですかニャ。ボクたちもアイツらには酷い目に遭わされたニャ。アイツらさえいなければボクたちももっと静かに暮らせていたんですけどニャ…」

「…貴方も、ネウロイに故郷を追われたのですね。大変だったでしょうに…」

 このアイルーもネウロイの被害者であることを知ったことで、皆が僅かに抱いていた警戒心も完全に薄れていった。

 

「…それで、なんでお前こんな所にいるんダヨ?ここは軍の施設だから他の連中に見つかったら只じゃ済まなかったゾ」

「あ…そうでしたニャ!実はボク、一緒に逃げてきたトモダチを探しているんですニャ!昨日ご飯を探しに出かけて、夕方になっても帰ってこなかったからボクが探しに出たんですニャ。それで探している内にここに迷い込んじゃったんですニャ…」

「友達?まだ他にもアイルーがこの辺りにいるのか?」

「あ、違いますニャ。トモダチっていうのはアイルーじゃないんですニャ」

「え?」

「ボクが探しているトモダチは…」

 

 

 

 

 

 

☆以下のクエストを受注しました

 

・クエスト名 ボクのトモダチを探してニャ!

・依頼主 流浪のアイルー ラッキー

・依頼内容 ???の発見

・狩猟環境 安定

・報酬 ???

・欧州から一緒に逃げてきたトモダチが帰ってこないのニャ!ニンゲンに見つかったら大変なことになるのニャ!お願いだから一緒に探して欲しいのニャ~!

 

 

 

 

 

 

 

「…お~い!ラッキーちゃんの友達さーん!探してますよー!…どこに居るんですか~?}

 その後、ラッキーからトモダチのことを聞いた501の面々は放っておけば騒動になると危惧したことでトモダチ探しを手伝うこととなった。ラッキーの『この辺りに絶対に居るはず』という勘と、情報からその正体を察した昴の指示で、皆は手分けして基地周辺を捜索し、昴は上空から手がかりを探すことになった。そんな中で宮藤は基地から最寄りの集落方面へと続く道へと出て、呼び掛けながら注意深く辺りを見渡していた。

 

「う~ん…見つからない。岩城さんは見ればすぐに分るって言ってたけど、ホントにそんなのあるのかな……ん?」

 ふと宮藤の耳に、どこからか子供の声が聞こえてくる。気になって声のする方向へと歩いていくと…

 

 

「…おい、見ろよコレ。こんなの昨日まで無かったはずだぜ」

「ホントだ!しかも触ると暖かいよ。面白いなぁ~、皆にも教えてあげようよ」

 数人に子供たちが取り囲んでいたのは、高さ3メートルほどの『大きな岩』であった。街道の近くである為に整備されている筈の土地に不自然な存在感と子供たちの発言から、宮藤はその岩の『正体』をすぐに察した。

 

「あ…アレだーッ!」

 思わず声を上げながら宮藤は大急ぎで子供たちの方へと走っていく。今はまだ我慢しているようだが、これ以上子供たちが騒ぎ立てれば大変なことになりかねない。

 

「ね、ねえ君たち!ちょっとその岩から離れてくれないかな?」

「え?お姉さん誰……って、ウィッチ!?」

「え…あ!?」

 子供たちに指をさされて、宮藤は知らぬ間に耳と尻尾が出ていたことに気が付いた。どうやら声を聴き取ろうと意識したことで無意識に耳が出てきてしまったらしい。

 

「もしかしてお姉ちゃん、501のウィッチなの?」

「あ、うん…扶桑海軍の宮藤芳佳っていうの。一応軍曹なんだけど…」

「扶桑!…ってことはサムライのことも知ってるの?」

「サムライ…坂本さんのこと?うん、私をここに連れてきてくれたのは坂本さんだから」

「じゃあさ、じゃあさ!サムライのサインって貰えたり出来るかな?僕の家族、皆サムライのファンなんだ!サインもらえたら絶対喜ぶ筈だからさ!」

「あ、ズルいぞ!じゃあ俺はリトヴャク中尉のサインがいい!」

「俺ハルトマン中尉!カールスラント4強で一番強いんだから!」

「ぼ、僕は…クロステルマン少尉のがいいなぁ…」

「え、ええ…聞いてみないと分かんないけど、一応…頼んではみるよ」

「「「「やったー!じゃあ明日取りに来るねー、皆に自慢するぞー!!」」」」

 

 子供特有の嵐のような勢いに気圧される宮藤はロクに考えぬまま頷いてしまい、それを見た子供たちはさっきまで興味津々だった岩のことなど忘れて集落へと走り去っていった。

 

「…行っちゃった。思わず返事しちゃったけど、サインとかって軍機的に大丈夫なのかな…?…でも、今はそれよりも…」

 子供たちが完全に見えなくなり、辺りにもう他に人がいないことを確認した後、宮藤は目の前の岩に声をかける。

 

「…ねえ、私の言葉分かるかな?ラッキーちゃんに頼まれてあなたを探しに来たの。連れて行ってあげるから、一緒に来てくれないかな?」

 

 応える者は、何もない。

 

「えっと…あ、そうだ!確かこれを使えって言われてたんだっけ」

 宮藤が取り出したのは、掌サイズの角笛だった。ラッキーが『近くに居ると思ったら吹いてみてニャ』…と言って皆に貸してくれたものである。

 

♪~♪~…

 アイルー用の為吹きづらいこともあって宮藤が慣れない息遣いで一生懸命に角笛を吹いていると…

 

 

 

ググッ…ゴゴゴゴゴッ…!

 宮藤の眼前にあった岩が揺れ動き、やがて音を立ててして土の中から競りあがってきた。…角笛の音色に反応したそれは岩ではなく、見慣れぬ場所で帰り路が分からなくなって岩に擬態して隠れていただけの生物だったのだ。

 

 

 

 表面のあちこちに貼りついた苔むした岩石と見分けがつかない、ゴツゴツとした重厚感のある甲殻。

 

 短い脚と尻尾は可愛らしいが、直撃しようものなら戦車であろうとひっくり返すパワーを秘めている。

 

 そして体の側面から生えた鳥とも蝙蝠とも違う翼は、その生き物が超常の存在…今はまだ飛べずとも『飛竜(ワイバーン)』の端くれであることを証明していた。

 

 

 思ったよりも大きく、迫力のある図体に腰が引けつつも、宮藤は精いっぱい優しい声音で再度話しかける。

 

「…あ、あなたがラッキーちゃんのトモダチ…なんだよね?ラッキーちゃんが待ってるから…一緒に来てくれる…かな?」

『…グァァァァ』

 最初こそ人間の存在に警戒していたが、目の前の人間から聞こえるいつも聞きなれた角笛の音と、何より一切の敵意を感じない宮藤を信用して了承の唸り声を上げるその存在こそ、ラッキーが探していたトモダチ…『岩竜バサルモス』なのであった。




記念すべき初登場モンスターは飛竜のアイドル、バサルモスでした。ほどほどのモンスターとなるとこの辺が妥当と思ったので。…ちなみに今作ではハンターだけでなくライダー要素もあります。誰がどのオトモンと契約するのかもお楽しみに…パートナーの相性は超絶バッチリですぜ。

 あとその内今作の根幹となる設定話を掲載する予定です。この世界におけるモンスターの成り立ちや何故バルファルクやイヴェルカーナたちが使い魔となったのか、そしてラスボス候補であるモンスターなどネタバレ要素満載なので読む際はご注意を。…読みたい人いるのかな?


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アイルーズ、全員集合!

ストパン…終わっちゃったね。やっぱり宮藤+震電の組み合わせは最強なんやなって。しかしラスボスが都市型ネウロイとは…イゼルローンかな?前皇帝が発案したことになってましたが…ということはかのチョビ髭殿がそのポジションだったのか。…アイツ、こっちの作品にも出そうかな?居ても不思議じゃないし…

しかしまだ続きそうで続かなさそうな終わりでしたが、実際オラーシャ編とかやるのかな?まだ宮藤パッパの詳細とかネウロイの謎も分かってないのでやりそうではありますが…その辺は待つしかないですね。
来週から年末の感動をセルフでぶち壊す発進しませんと、色々未知数なルミナスウィッチーズが控えているので、当面は話題が尽きそうにないですしね。

ではどうぞ。


「おおおおー…でっけー!」

「これが生きた本物のドラゴンか~…まだ子供らしいけど、流石の迫力だな」

「でもでも、なんか丸っこくて可愛いよ!触ると暖かいし!」

 その後、基地まで連れてこられたバサルモスは早速ウィッチたちの興味の対象となっていた。自分よりも遙かに大きなバサルモスに驚きつつも、ルッキーニを筆頭に無邪気に接してくるウィッチたちに、バサルモスもひとまず警戒を収めてされるがままにされていた。

 

「…ぜーっ、ぜーっ…!お、重かった…岩竜持ち上げるとかイビルジョーでもやらねえよコンチクショー…」

「お、お疲れ様です」

「ニャー、ありがとうございますニャお兄さん」

 その横では、基地入り口の検問を誤魔化す為に推定500㎏近くはあろうバサルモスを全力のジェット噴射で持ち上げてここまで空輸してきた昴がダウンしていた。最初は買い出し用の大型トラックで運び込もうとしたが、乗せようとしたら荷台が悲鳴を上げ始めたためこうするしか無かったのである。

 

「皆さんもありがとうございましたニャ!やっぱりボクのラッキーは正しかったですニャ、ボク一人だったらこんなに早く見つけられなかったし、もしかしたら大騒ぎになってたかもしれませんニャ」

「まあ、無事に見つかって良かったよ」

「…それで、あなたこれからどうするおつもりですの?お友達が見つかったのはいいですけど、こんな大きな身体で出歩いたら今度こそ見つかって騒ぎになりますわよ」

「ニャニャ…一応、暗くなるのを待ってから皆の所に戻るつもりですニャ。なんとか朝になるまでにはたどり着ける筈ですニャ」

「皆…やっぱりまだ仲間のアイルーが居るのか?」

「ニャ。ボクたちは元々、大陸の方であちこち旅をしながらひっそりと暮らしてましたニャ。その時にこのバサルモスのお母さんのグラビモスと出会って、しばらく一緒に暮らしてたんですニャ。こいつとはタマゴの時からの付き合いなんですニャ」

「…鎧竜グラビモスか。いくら滅多なことじゃ人里近くに現れないとはいえ、よくもまああの図体で今まで見つからなかったもんだ」

「グラビモス?この子バサルモスっていうドラゴンじゃないんですか?」

「あー…所謂出世魚みたいなもんでな。バサルモスは成長するとグラビモスって呼ばれるようになるんだよ。育った環境によっては真っ黒な姿のグラビモス亜種になることもあるんだが…どっちにしろ20メートルを超える飛竜種の中でもかなりの大きさにまで成長するんだ」

「でっか!?大型ネウロイクラスじゃんか、そんなんならネウロイとも戦えるんじゃないの?ビーム…ていうか炎のブレス吐けるんでしょ?」

「確かにグラビモスの熱線なら大抵のネウロイは消し炭に出来るだろうが…見ての通りバサルモスもグラビモスも身体が重すぎて動きが鈍いからな。空も飛べる上に数の暴力で圧倒してくるネウロイとは相性が悪かったんだろう…そうだろ?」

「…そうですニャ。1匹2匹なら返り討ちに出来たけど、欧州のあちこちにネウロイの巣が出来てだんだん襲ってくるネウロイが増えてきたせいで、ボクたちは住処を追われて大陸の端っこにまで逃げてきたんですニャ。人間達はそこから船でこの土地まで逃げていたけど、ボクたちは船になんて乗れないから途方に暮れていたんだニャ…」

「じゃあどうやってブリタニアまで?」

「それは…グラビモスのお母さんがこいつとボク達を乗せて海を飛び越えてくれたんですニャ」

「グラビモスが…海を!?おいおい…ティガレックスやナルガクルガならまだしも、グラビモスの飛行能力なんてタカが知れてるだろうに。それでバサルモスとアイルー数人を乗せてブリタニアまで飛んできたっていうのかよ…?」

 昴も前世でプレイしたゲームの中では、グラビモスは飛竜種に分類されてはいるがエリア移動はもっぱら歩行か地面に潜っての移動、飛べたとしてもちょっと浮き上がって墜落する程度であった為、欧州本土からブリタニアまでの海峡を飛び越えることなど不可能としか思えなかった。

 

「ニャ…確かにボクたちも最初は無茶だと思いましたニャ。でもグラビモスのお母さんはボクたちを乗せて夜通しで飛び続けてくれたんですニャ。…でも、途中で流石に限界だったのか海に落っこちてしまったんですニャ。それでもグラビモスのお母さんは諦めずに、こいつとボクたちを背負ったまま必死に泳いで…そして、こいつが自力で陸に上がれるくらいの距離まで辿り着いたところで力尽きて、そのまま海に沈んでしまったんですニャ…」

「そんな…」

「…大変、でしたのね。貴方も、この子も…」

『…クァァァ…』

 自らを犠牲に我が子とその友人達をブリタニアまで送り届けた母の愛。そこに自身の両親を重ね合わせたペリーヌが感極まったようにそう呟き、気遣うようにバサルモスを撫でる。バサルモスもペリーヌの慈愛の気持ちを感じたのか、喉の奥から甘えるような鳴き声を発する。

 

 ラッキー達の境遇をひとしきり聞き終えた所で、昴がふと尋ねる。

 

「…なあ、聞きたいんだがお前の仲間たちはちゃんと生活できているのか?今のブリタニアは避難民が大勢いるから人口過密状態になっているし、旅をしていたころのように人目につかずに生きていくのは難しいんじゃないか?」

「う…まあ、ちょっと大変なのはありますニャ。ボクらは最悪猫のフリをすればやり過ごせるけれど、こいつの食料を集めるのだけは苦労しますニャ。今回もそれが原因でこうなった訳ですしニャ…」

「確か、岩を食べるんだっけ?よくそんなもんを栄養にできるな」

「うじゅ…それは食べたくないかも」

「でも石ころくらいならその辺にいっぱいあるんじゃないの?」

「石ならなんでも良いわけじゃないんだよ。…グラビモスの本来の主食は火山地帯で産出される硫黄や炭素を多く含んだ鉱石で、体内のバクテリアがそれを分解して栄養に変えてくれるんだ。バサルモスはそのバクテリアの数が少ないから岩だけじゃ栄養が足りなくなるから、偶に小動物や昆虫なんかを食べてバクテリアを増やす必要があるんだが…火山の少ないブリタニアじゃ、そう簡単にそんな鉱石なんか手に入るもんじゃないわな」

「…はぁぁ、お兄さんグラビモスのこと詳しいんですニャ。ボクらでもそこまでは知らなかったですニャ」

「お前なんでそんなことまで知ってんだヨ?バサルモスもグラビモスも見るの初めてなんダロ?」

「えっ?…あ、あー…ば、バルファルクが教えてくれたんだよ。バルファルクは元々グラビモスと同じ時代に生きていたからな。そういうことも知ってたんだよ」

「そうなんですか」

 嘘である。ソースは生前読んだゲームの資料集である。

 

「ともかく、だ。いくらアイルーが器用な連中でも、バサルモス一頭養うのには限界があるだろう。…けど、俺の知り合い…まあエリーゼのことなんだが、アイツならバルトランドやスオムス方面からその手の鉱石を仕入れることは出来るだろう。なんなら、俺がひとっ飛びしてどこかの火山から集めてきたっていいしな」

「…ニャ?そ、それって…」

「この子たちを岩城さんが面倒を見る…ってことですか?」

「ああ。ここで出会ったのも何かの縁だろう。こいつらの生態を知ってる俺が手を貸すのが一番安全だしな」

「ほ、本当ですかニャ!?」

「…ですけど、どこでこの子たちの面倒を見るおつもりですの?岩城さんも仮隊員である以上、そう軽々に基地の外に出るわけにはいきませんのよ?」

「ああ、それは…」

「…ねえ、ここじゃダメなの?」

 昴が答える前に、ルッキーニがきょとんとした顔でそう言う。

 

「ここって…まさか、この基地のことか?」

「うん。ここなら私たち以外にはちょっとしか他の人いないし、いっぱい空いてる場所あるし、食べ物だってあるじゃん」

「そ、それはそう…かも、ですけどぉ」

「…私も、この子たちと一緒に居られるならいいな…」

「サーニャまで!?」

 先ほどからラッキーを触りたそうにしていたサーニャまでもが乗り気になってしまう。

 

「ちょ、ちょっといいのスバル?なんか変な方向になってきてるけど…」

 流石にどうすべきか判断に迷ったエーリカが昴に問うが、昴はというと何故か笑みを浮かべていた。

 

「…まさかルッキーニに先に言われるとは思ってなかったな。案外ちゃんと考えているもんだ」

「え…まさか岩城さんも、この子たちを基地に連れてくるつもりだったんですか?」

「ああ。ルッキーニの言ったとおり、この基地は安全性、秘匿性、そしてバサルモスの食料を備蓄できるという観点からも最良の場所だ。軍事基地だから民間人の出入りもほぼ無いし、戦略物資の石炭や硫黄が運び込まれても不審に思う奴はそうはいないだろうしな」

「…っつってもなぁ、ミーナや少佐が居ない時にそんなこと決められないだろ」

「まあな。…最低でも中佐たちにはきちんと事情を話しておく必要はあるな。それは俺が責任をもってやるさ。…代わりと言っちゃなんだがシャーリー、お前トラック出してラッキーの仲間を迎えに行ってやってくれないか?その間に中佐たちも帰ってくるだろうから、こっちは俺に任せてくれ」

「おお、それならお安い御用だ。ラッキー、道案内してくれよ」

「分かったニャ!」

「じゃあ私はバサルモスちゃんの隠れられそうな場所を探しておきますね」

「ああ、頼む。…割と乾燥肌な奴だから水場の近くにしてやってくれ」

「じゃあ私バサルモスの上でシエスタするー!」

「…大丈夫なんでしょうか?」

「さあ…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…てなことがありまして、なんとかなりませんかねぇ…?」

「……帰ってきて早々になんて話を持ってくるのよ、貴方は…」

 その後、基地に戻ってきたミーナと坂本に昴は心なしか腰の低い態度で話を切り出した。ロンドンでマロニーに有りもしない腹の内を散々に探られて疲労困憊な所に予想だにしない頼み事をされたミーナは、呆れたような口調で溜息を吐くしかない。

 

「妙に基地が静かだと思ったら、そんな客人が来ていたとはなぁ…。喋る猫の一族に火を噴く岩の竜の子供とは、まったくお前が来てから退屈しないな!ハッハッハッハ!」

「俺が連れてきたわけじゃないんですがねぇ。…それと少佐、アイルーは見た目こそ猫ですけど一応俺達と同じ人間に近い存在ですんで、猫扱いすると失礼になるんで気をつけてください」

「む、そうなのか。なら気を付けるとしよう」

「…それで、そのアイルー族の方々はどこにいるの?」

「ああ、ついさっきシャーリーのトラックが戻ってきたみたいなんでそろそろ…」

 

コンコン

ガチャ

「ただいまー!ラッキーの家族を連れてきたぞー!」

「ニャー、お邪魔しますニャ」

「お邪魔しまーす!」

 そのタイミングを見計らったかのようにシャーリーがラッキーたちを連れて執務室へと入ってきた。ラッキーと同じオーソドックスなアイルーにまぎれて、何人か明らかに雰囲気の違うアイルーの姿が混ざっており、その姿に見覚えのある昴は声にこそ出さないが目を見開いて驚く。そして最後に入ってきた…どう見ても人間にしか見えない『2人の少女』を見た時、今度こそ昴は声を出してしまった。

 

「んなッ!!?」

「ど、どうしたスバル?」

「あ…い、いや…ちょっとな。ひとまず話を聞いてからでいい…」

「…それじゃあ、失礼して私が」

 

 アイルーたちの中から歩み出た…エプロンのような服装に丸眼鏡をかけた温和そうな雰囲気の老アイルーが話し始める。

 

「どうも、初めまして。ミーナ中佐に坂本少佐…でよろしかったかしら?ラッキーちゃんとバサルモスちゃんを助けてくれてありがとうねぇ」

「え、ええ。貴女は…?」

「私はこの子たちの親代わりをしているの。みんなからは『オバーチャン』と呼ばれてるわ。だからあなた達も気軽にそう呼んでもらえると嬉しいわ」

「う、うむ…。なんというか、本当に普通に人間と会話しているようだな」

「あたぼうよ!俺たちをその辺の猫と一緒にしてもらっちゃあ困るぜ」

「ミィたちは人間の社会の中で生きていく知恵を身に着けていきましたのですニャ。姿は違うけれど人間の常識は理解してますニャ」

「私らは気にしないけど、お母ちゃんを馬鹿にするやつは許さんニャルよ?」

 老アイルーに続くようにその後ろに控えていたアイルーたちが声を発する。個性豊かな性格のアイルーたちにミーナたちは動揺しっぱなしで、昴も顔にこそ出さないが改めてその顔触れに驚いていた。

 

(…セリエナの料理長にアステラ料理長、ニャンコック、我らの団のコックアイルー…おいおい、キッチンアイルー勢ぞろいかよ!どんだけメシウマな一団なんだよ。他にもどっかで見たようなアイルーがちらほら居るが…それよりなにより、あの子たちだよ!)

 昴の視線の先には、先ほど思わず声を上げてしまった2人の少女。雰囲気からして姉妹のようで、姉らしき方は不安そうに話の推移を窺い、妹の方は物珍しそうに辺りをキョロキョロとしていた。一見して普通の人間しか見えないが、昴はその子たちの『尖った耳』と『4本指』という特徴をしっかりと確認し、その正体を確信していた。

 

「…ところで、少しいいか?そちらの2人も貴方がたの連れなのか?見たところ人間のように見えるのだが…」

 と、坂本がタイミングよく2人のことをアイルーたちに尋ねる。

 

「ええ、そうよ。この子たちはアイルー族じゃないけど、私たちの大切な家族なの。さあ、挨拶しなさい」

「は…はい!どうも、カティ…といいます」

「ミルシィでーす!よろしくね!」

「カティさんにミルシィさん…ね。失礼ですが、何故この子たちと一緒に?」

「…なにか誤解をされているようですニャので言っておきますが、ミューズとその妹様は我々が旅を始める前からずっと一緒で、この中では一番の古株ですニャぞ」

「元々お母ちゃんはお嬢様たちのご両親のお世話係をしていたニャル。お二人がネウロイに殺されてしまったのをきっかけに、私らは放浪の旅を始めたニャルよ」

「…そうだったのね。辛いことを思い出させてしまったようで、ごめんなさいね」

「…気にしないでください。もう40年も前のことですから」

「そっか…40年もよく…………あんだって?」

 何やら耳を疑うような数字が出てきたことにミーナ、坂本、シャーリーが首を傾げる。

 

「…今、40年前と言ったのか?4年前でも、10年前でもなく…?」

「そうだよ。私がまだずっと小っちゃかった頃に、ネウロイから私たちを逃がすために戦ったの」

「…ちょっといい?2人とも…今いくつ?」

「私ですか?今年で…『81歳』になります」

「私は『65歳』だよ!」

「超絶年上ッ!!?」

 見た目からは想像もできない姉妹の年齢にミーナ達はギョッとするが、昴は特に驚いた様子もない。

 

「へぇ、まだそんな歳なのか。ってことは、ご両親は200歳くらいだったのか?」

「ん~、パパはそれくらいだったかな。ママは人間だけど元ウィッチだったんだよ!」

「成る程ね…」

「…おいスバル、お前驚かないのかよ?こんな小さな子が80歳とかあり得ないだろ」

「普通の人間ならな。…この子達は人間と竜人族のハーフだ、そうだとしても不思議じゃないさ」

「りゅうじん…族?」

「あら、貴方竜人族のことまで知ってるの?」

「ある程度はな。…かつての大戦のことはバルファルクから聞いているしな」

「…その、竜人族というのはなんなのかしら?」

「ああ、竜人族っていうのは大昔に存在した人類の遠縁に当たる種族でして。人間とドラゴンの遺伝子を持っているんで、普通の人間より寿命も長くてその分成長が遅いんですよ」

「人間とドラゴンの遺伝子を…!?そんなことが…」

「まあ信じられないのも分かりますが…尖った耳と指の数が4本っていう特徴が有るので直ぐに分かったんですよ。どうやら竜人族とウィッチの混血だと竜人族の性質が強く出るみたいですね」

「…成る程、人前に出れなかった理由はそういうことだったのか」

「はい…耳はともかく、指の数は直ぐに分かってしまいますので」

 同じ人間同士でも偏見や差別が起きるというのに、耳や指が違うともなればその風当たりはますます強くなって然るべきであろう。アイルー達が居たとはいえ長年そんな目に晒されてきた2人の気持ちは察するに余り有る。

 

「…それで、ミーナ中佐。彼らをここで匿うことを…許可して貰えないっすかね?」

「ミーナ」

「ハァ……駄目なら態々ここに呼んだりしないわ。それに、そんな事情を聞かされたらそれこそ放っておけないもの」

「じゃあ…!」

「ええ、あなた方を当基地で受け入れることを許可します。…最も、あくまで私の権限における許可ですので、外部には内密にする必要があります。外部に情報が漏れた場合、またあなた方が当基地や我々の活動の妨げになると判断された際には、退去してもらうことになりますので」

「勿論です、皆さんにご迷惑をかけるつもりはありませんよ。…ありがとうねぇ、中佐さん」

「ミーナで構いませんよ、ええと…なんとお呼びすればいいのかしら?」

「ほっほ、皆と同じようにオバーチャンと呼んでくれればいいですよ。私にはもう、呼ばれるような名前はありませんから」

「お、オバーチャン…?なんだか呼びにくいわね」

「発音や意味は扶桑の言葉に近いからな。ミーナたちには少し言い辛いだろう」

「…んじゃ、欧州風で『グランマ』でいいんじゃないすかね?」

「ああ、それいいな!…そんじゃあ、よろしくなグランマ!」

「はいはい、よろしくねぇ」

 こうしてアイルー一族とバサルモス、カティ達は501の基地で生活することになったのだった。

 

 

 

 …それから、一週間後。

 

「おーいラッキー、7番のスパナ持ってきてくれ!」

「はいはい、分かりましたニャ!」

「寝室とトイレの掃除終わりましたニャー」

「おう、ご苦労さん。そんじゃあ次はユニットの燃料補給を頼むわ」

「了解ですニャ!」

 ラッキーを始めとしたアイルーの多くは、整備班の手伝いや清掃等基地内の雑務を任されていた。あらゆる国家に属しない統合戦闘航空団の性質上、スパイ防止の為に外部の人間を雇うことが出来なかったが故に今までは隊員たちの持ち回りとなっていた仕事であったが、アイルーたちがタダ飯で済ませるわけにはいかないと申し出たために彼らの仕事として与えられたのだ。

 当初こそ『冗談じゃなく猫の手を借りるなんて』…と皮肉っていた整備班たちであったが、アイルーたちの知能と手先の器用さは並ではなく、仕事を教えるとあっという間に憶えてしまい、愛らしい見た目も相まって完全に心を許してしまっていた。

 

「…凄いな、この蔵書はまさに宝の山だ。よくこれだけの資料を今まで守り続けてきたもんだ、大したもんだよカティ達の一族は」

「はい!お父様からも、この資料だけは絶対に後世に残すよう言いつけられてますので。いつか必ず、必要になる日が来る…と、ずっと前のご先祖様が言われたみたいです」

「重いしかさばるし、ホントは邪魔なんだけどねー」

「そう言うなミルシィ。…必要になる日が来る、か。案外そう遠くないかもしれないな…」

 カティとミルシィは先祖代々受け継がれているという大量の書物を持ち込んできており、それによって部屋の大半が埋まることになってしまった。中身は全く未知の言語で書かれておりカティ達にしか読めなかったが、その内容は遥か以前に遺失した道具や薬の調合法や太古の動植物、更には古龍と思わしき存在が記されたものばかりで、昴が暇を見てカティに解読してもらいながらウルスラ仕込みの翻訳作業に追われていた。

 

「しゅぴー…しゅぴー…」

『zzz…』

「…あ、ルッキーニちゃん。またロッキーの上でお昼寝してる」

「あんなところで寝て落ちないのかな…?」

「梁の上でも器用に寝ているんですから、心配するだけ無駄ですわ。まったく…」

 バサルモスは『ロッキー』という名前を与えられ、基地の一角を縄張りにして安らかな日々を送っている。最初は沢山の人間に脅えていたが、宮藤やペリーヌに世話をされることで徐々に人間に慣れ、今ではルッキーニが背中で寝ていても気にしなくなっていた。

 

 そんな風に501の基地に馴染んでいったアイルーたちであったが、彼らが最もその本領を発揮したのはやはり厨房であった。

 

「…はいよ!竜田揚げ定食お待ち!」

「ミィ特製のタンドリーチキンをご所望の方はいらっしゃいますかニャ?」

「鶏チリソース出来たニャル。熱いうちに食ってくれニャル」

「食後にプリンがあるからね。みんな仲良く食べるんだよ」

『はーい!いただきまーす!』

 世界中を渡り歩いて人間社会の中で料理の腕を磨いてきたというグランマとその実子である3兄弟は当然ながら厨房に配属され、限られた食材の中で各々が得意とする分野の料理を振舞い、皆の胃袋を今までになく満足させていた。…彼女らの作る料理は元貴族であるペリーヌですら唸るほどの美味であることに加え、ウィッチたちにとって想定外の『おまけ』が付随していた。

 

「いやー、前にも増して食事の時間が楽しみになったよな!スバルや宮藤の料理も美味かったけど、やっぱ本職さんは一味違うって感じがするよ」

「全くだ、流石は師匠たちだ。俺もまだまだ精進がいるぜ…なあ、宮藤?」

「はい!私も先生からもっと教えてもらわないと…」

「おいおい、お前たち本業のことを忘れるなよ?…しかし、未だに信じられんな。まさか食事をするだけで一定時間とはいえ魔法力が強化されるなんてな」

「ええ。一体どういう理屈なのか…想像もつかないわ」

 グランマが先祖から受け継いできたというアイルー族秘伝の調理法には、食べた者の運動能力や魔法力を一定時間底上げするというとんでもない効果があったのだ。最前線で戦う彼女たちにとってそれはこの上なくありがたいものであった為、坂本やミーナの根回しにより食材も弾薬や銃火器並みに重要な物資としてより良いものが扱われるようになったのだった。

 

 こうして十全なバックアップと既存戦力の強化を得た501は以前にも増して目まぐるしい戦果を挙げるようになり、連合軍からも年内のガリア奪還を期待される程となった。当然ながらマロニー大将にとってそれは面白くないことであり、彼の計画を増々早める事へと繋がっていく。

 

 

 …それが、眠れる獅子の目覚めをも早めさせることになることに、この時点では誰も気づいていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

ガリッ…ボリッ…

 

 …深夜、北リベリオン大陸で最も大きな河川であるミシシッピ川。その奥地にある大きな沼の淵で、一匹の巨大な怪物が無残な姿を晒していた。その怪物の名は『ジュラトドス』、バサルモスと同じく遥か太古の時代から存在する魚竜種であり、かのコロンブスがリベリオン大陸に辿りつく以前から現地の住民たちに『人喰い怪魚』として恐れられていた。実際ジュラトドスは旺盛な食欲と非常に強い縄張り意識から近づく生き物を食い散らかし、また他にライバルとなる生物も居ないためにミシシッピ川のみならず沿岸を経由してアマゾン川にまで縄張りを広げようとしていた。

 

 しかして、その野望は半ばにして阻まれることとなる。より強大な、捕食者の存在によって。

 

ボリッ、ボリッ…!

 ジュラトドスの岩のように固い骨や鱗がスナック菓子の如く噛み砕かれる。『彼』の本来の獲物はジュラトドスよりはるかに硬い外皮や鱗を持つ生き物であるため、この程度の強度は何の問題にもならない。そもそも『彼』にとってジュラトドスはわざわざ好き好んで食料にする程の存在ではない。

 今そうせざるを得ずにいるのは、悠長に本来の獲物を探している時間がないほどに『彼』が衰弱しきっていたからだ。

 

 ジュラトドスの肉を喰らうたびに、飢えた体に力が漲る。数多の戦いを潜り抜けた強靭な肉体が、徐々に力を取り戻していく。ジュラトドス以上の大食漢である『彼』の食事は明け方まで続き、空が白やむ頃には15m程もあったジュラトドスは牙や鰭の一部を残して食べ尽くされてしまった。

 

 しかし、それでもまだ足りない。かつてあらゆる生物に畏れられ、かの『黒き太陽』を自らの命と引き換えに封じ込めた『彼』の飢えを満たすには、この程度ではまだまだ足りない。

 

『■■■■■ーーーッ!!!』

 沼地を震わす咆哮を上げて、『彼』は翼を広げて朝焼けの空に飛び去って行く。更なる獲物を探し求める為に…己の本能が告げる、戦いの時に備えるために。

 

 

 その『彼』が飛び去った後には、まるでジュラトドスの墓標であるかの如く数本の『棘』が地面に突き刺さっていた。




ちなみに3兄弟は上からアステラ料理長、ニャンコック、我らの団の料理ネコとなっており、それぞれ得意料理のジャンルから『大将』、『シェフ』、『張(チャン)』と呼ばれています。グランマは何でも出来ます。別格だからね、仕方ないね。

ラストのヤツの出番はもうちょい後になります。ヤバいからね、仕方ないね。


同時更新の今作の裏設定の話も見てね。ではまた次回


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サムライの憂い

コロナで仕事減って時間出来たから続きかける…と、思っていたけど仕事が減ると休みのモチベーションも下がるもんですね。やっぱり不本意な暇は良くないわ

ダンロンの方も続きかきたいけど中々筆が…せっかくジョジョリオンが面白い展開になってきたのに。…ディケイド、買うか…?


愚痴ってすんません、ではどうぞ


ウゥゥゥー…!

 とある日、今日も今日とて501部隊はブリタニア本土に迫るネウロイの出現により出動していた。…正確には今回も昴がいち早く察知して警報が鳴る頃には交戦していたのだが。

 今回出現したのは円盤状の翼を有した戦闘機タイプのネウロイで、スピードを維持したまま縦横に広範囲を軽やかに飛行し、ビームだけでなく主翼下に装填されたロケット弾による一撃も備えた強力なネウロイであり、501といえどそう簡単には倒せない相手であった。

 

 

 

 …今までであれば。

 

「…そこッ!」

 

カンッ

ドガァァンッ!

 リーネの対装甲ライフルが火を噴き、今まさに発射されようとしていたネウロイのロケット弾の信管部分に弾丸が着弾し、爆発させる。爆発に巻き込まれた主翼の一部が砕け散り、ネウロイがバランスを崩してスピードを落とす。

 

「やった!凄いよリーネちゃん!」

「よくやったぞリーネ!」

「フゥ……はい!」

 宮藤と坂本の称賛に、極限の集中から解放されたリーネが遅れながら返事する。アイルーたちの食事が齎すバフの恩恵は、リーネに数km離れたネウロイのコアを正確に狙撃出来る集中力と魔法力を与えていた。

 リーネだけでなく、他の隊員たちも固有魔法やシールドの強化、長時間のネウロイとの交戦にも耐え得る体力などのバフにより、これまでであれば苦戦したであろうネウロイ相手であっても対応できる能力を会得していたのだ。

 

「決めろハルトマン、岩城!」

「了解!スバル、アレで決めるよ!」

「アレか…よっしゃ任せろ!」

 エーリカと昴が主翼を再生中のネウロイが放つビームを掻い潜りながら真上に飛び上がる。

 

「『疾風(シュトゥルム)!』」

 エーリカが真下のネウロイめがけてシュトゥルムを放つ。吹き荒れる烈風が竜巻となり、その中心に閉じ込められたネウロイの逃げ道を塞ぐ。退路を求めたネウロイが唯一風のない上へ向かおうとするが…そこに迫るのは、一筋の真紅の流星。

 

「フライトブラストォォォッ!!」

 エーリカよりもはるか上空にまで上昇していた昴が、エーリカの生み出した竜巻の中心目掛けて翼脚の先端を槍のように突き出して吶喊する。溢れる龍気はまるでオーラのように昴を包み込み、ほぼ垂直落下しているその速度は音速を超える。ただでさえ回避が困難な上に周囲を竜巻に囲まれたネウロイに出来るのは、真上に飛んで死期を早めるか苦手な海に突っ込むという選択肢のみ。そこは天からの断罪を執行する為の暴風の檻であったのだ。

 

バキィィンッ!!

 聞いたことが無いような音を立ててネウロイのボディに大きな風穴が空く。戦艦すら轟沈させると自負する昴の必殺技はネウロイのボディの大部分をコアごと粉砕し、残った残骸も虚しく砕け散った後に竜巻に巻き上げられて霧散していったのだった。

 

「…やれやれ、我々の出番は無かったみたいだな少佐」

 張り切って出撃したが、良いところを全部持ってかれて手持ち無沙汰だったバルクホルンが同じく指示以外の出番が無かった坂本に苦笑しながら話しかける。

 

「ああ。…グランマたちの食事による恩恵があるとはいえ、宮藤やリーネも確実に強くなっている。ハルトマンと岩城は言わずもながだがな。いずれ私が同伴せずとも一人前のウィッチとして戦えるようになるだろう」

 物足りないと思いつつも安心したような坂本の視線の先では、今回ネウロイの攻撃のほぼ全てをシールドで受け切った宮藤がリーネと手を取り合って喜び、コンビネーションが上手く行ったエーリカと昴がハイタッチで笑い合っている。

 

「…まだ内輪の話ではあるが、ここ最近の我々の戦果を受けて司令部も本格的なガリア奪還作戦の準備を進めているという。ネウロイ側の出方次第ではあるが…今年度中には具体的な作戦内容が公表されるだろうな」

「本当か少佐!?…ならばこうしてはいられんな、作戦が滞りなく進むよう我々も訓練とネウロイの撃退により一層奮励努力せねば!おいお前たち、そろそろ帰投するぞ!」

 待ちに待った逆侵攻作戦の予感に昂揚を隠せないバルクホルンが宮藤たちに帰投指示を下しに行くのを見やりながら、坂本は手にした刀に目を落とす。…今回の戦闘において、坂本は殆ど戦闘に加わっていない。指示に徹していたことや手を貸す必要が無かったのもあるが…何より坂本自身が『感づかれてしまう』のを用心したからであった。食事による恩恵があっても…否、あったからこそ自覚せざるを得なくなってしまったが故に。

 

「…そうだ、もう時間がない。ガリア奪還…いや、その先の戦いまでなんとしてでも力を維持しなければ。まだ私は…戦場を去るわけにはいかないんだ…ッ!」

 

 

 

 

 

 基地へと帰投する道中、水平線の向こうに基地が見えてきた辺りで昴が何かを見つける。

 

「…ん?」

「どうしたんですか岩城さん?」

「いや…波止場に見知らぬ男が立ってるんだ。服装からして扶桑海軍みたいなんだが、少佐何か聞いてます?」

「む…ああ、もう着いていたのか。心配するな、そいつはおそらく私の従兵だ。今日あたり基地に来るだろうと聞いていたんでな」

「あ、もしかして土方さんですか?」

「ああ。前に宮藤が質のいい醤油や味噌がなかなか手に入らないと言っていただろう?だから土方に色々と持ってきて貰うよう手配していたんだ」

「わあ!嬉しいです、先生たちもきっと喜びますよ!」

 やがて宮藤たちも視認可能な距離まで近づくと、坂本の言った通り波止場に直立不動で立っていたのは扶桑皇国海軍の『土方圭助』二等水兵…坂本の従兵であり宮藤を坂本と共にスカウトしたその人であった。土方は坂本達を視認すると格納庫に入るまで敬礼をしたまま見送り、着陸が済んだところに駆け足で向かってきた。

 

「坂本少佐、お帰りなさい!皆さんもお疲れ様です!」

「ああ。土方もよく来た、無理な頼みを聞いて貰って済まないな」

「いえ、少佐のご命令とあれば!頼まれていた物資は既にミーナ中佐に受け渡しが済んでいます」

 姿勢正しく改めて敬礼をした土方はよく通る声を張り上げて坂本たちを迎える。その態度には一切の迷いがなく、心から坂本に、ウィッチ達に対して敬意を抱いていることを感じさせる。

 

「土方さん、お久しぶりです!」

「宮藤さん、お元気そうでなによりです。少しはこちらの環境にも慣れたでしょうか?」

「はい、まだ戦うことは苦手ですけど…皆さんに良くして貰ってますので、なんとか頑張ってます!」

「そうですか。それは何よりです」

「…よ、ちょっといいかい?」

「む…ッ、貴方は…」

「初めまして…かな。話は聞いてるぜ、少佐の従兵の土方さんだよな。俺は岩城昴、色々あって今501の世話になってるもんだ」

「…!では、貴方が凶星と呼ばれていた…」

「ああ、軍じゃそっちの方が有名か。…良い噂か悪い噂かは知らないがな」

「いえ…こうしてお会いできて光栄です」

「そんな大したもんじゃないんだが…まあ、同じネウロイと戦う男同士だ。軍紀云々は抜きに仲良くしてくれると嬉しいぜ」

「は…」

 同性同士ということで気楽に話しかけた昴に対し、土方は先ほどまで朗らかに接していた宮藤と打って変わって何処か苦々しい雰囲気で応対していた。

 

「…?土方、どうした…」

 

ぐぅぅう~…

 腹心の様子に違和感を覚えた坂本であったが、エーリカの腹の虫がその問いかけを掻き消してしまった。

 

「…ねぇ~、お腹減ったー!もうすぐお昼だしご飯食べに行こうよぉ~!」

「こらハルトマン!気を抜き過ぎだぞ、食事の前に今日の反省をだな…」

「…まあ、そう言うなバルクホルン。確かにいい時間ではあるし、他の皆を待たせるのも悪いから食堂に行くとしよう。土方、折角だからお前も食べていくといい」

「は…ですが自分は…」

「別に気にしなくたっていいって~。それより早く行こ~」

「まったく…土方二等兵、そう遠慮するな。扶桑に戻るまでどんなに急いでも1ヵ月はかかるだろう、偶には旨いものを食べて精をつけておけ。食事も大切な訓練の内だぞ」

「そうですよ!先生たちのご飯はすっごく美味しいんですよ」

「…では、ご相伴に預からせてもらいます」

「うむ!扶桑男児たるもの素直なことも美徳だぞ。では行くとしよう」

「はい!」

「今日はエリーゼん所から鮭がいっぱい届いてたからな。焼き鮭かちゃんちゃん焼きか迷うところだぜ…」

「…ところで、先ほど宮藤さんが言った『先生』というのは?この基地の食事は皆さんの持ち回りだった筈では…?」

「ああ、それはですね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、戦闘後の報告も兼ねて夜勤組(サーニャとエイラ)を除いた全員が食堂に会し、土方も含めてランチタイムとなった。

 

「…ご馳走様でした。大変美味しかったです、ミス・グランマ」

「あらあら、礼儀正しい子ね。ありがとうねぇ」

 坂本に勧められるまま久しぶりの白米と鮭料理をたらふく味わった土方は、食後のお茶を配って回っているグランマに手を合わせて感謝を述べる。

 

「うむ!いい食いっぷりだったぞ土方、男児足るものそうこなくてはな!」

「は…しかし、驚きました。アイルー族…といいましたか、このような方々が居られるとは思ってもいませんでした」

「ハッハッハ!まあ驚くのも無理もない、失礼だが私とて初見の時は目を疑ったものだからな」

 坂本たちと共に食堂へと入った土方であったが、厨房にて人間の宮藤や昴が手伝いに回ってしまう程の熟練の業で料理を作るグランマ一家や整備班の男衆の弁当を受け取りに来たアイルーたちが忙しなく駆け回る光景を目の当たりにし、思わず固まってしまったのであった。

 

「…ですが、皆さんが彼らのことを内密にする理由は分かります。魔法力を持たない自分ですら、明らかに体の調子が良くなっているのを感じます…!もしミス・グランマたちの料理のことが明るみに出れば、各部隊で…いや、国家レベルでの争奪戦が起きても不思議ではないでしょう」

「そうだな…。料理だけではなく、アイルー族そのものがウィッチのみならず軍隊にとって至宝のようなものだ。人間と同レベルの意思疎通が出来、手先も器用で知能も高く、その上でそれこそ魔法のような技術を今に至るまで受け継いできている…こうしてその恩恵を受けている我々は、他の部隊に比べれば遥かに恵まれているだろうさ」

「だからこそ、アイルーたちを人間の都合で利用させるわけにはいかないんだよ。今はネウロイっつー共通の敵を倒すためにギブアンドテイクで協力してもらってるが、事が落ち着いたら安住の地を探してやんなきゃなんねえからな」

「…土方二等水兵。少佐から信頼を置かれている貴方を疑うことはしたくないのだけど、もしアイルー族の方々のことを外部に漏らすようなことがあれば…」

「承知しています、ミーナ中佐。この命に懸けて、決して誰にも話さないと誓います」

「…相変わらずカタいなぁ、お前。ミーナもそんな念を押さなくても口の軽い奴じゃないことくらい知ってるだろ?」

「それはそうだけれど…立場上、念には念を押す必要があるのよ。建前上、ここは他の部隊より優遇されているのだから、その上でグランマさん達のことが知られれば余計な口実を与えることになってしまうもの」

「…建前上は、ですけれどね」

「……」

 アイルー達に対する過保護とも取れるほどの秘匿振りに、土方は未だ501を取り仕切るマロニー大将との溝が深いことを察するが、隣の坂本からの目配せを受けて余計なことを口にせず沈黙を保つ。

 

 

 

 

「…ッ!!」

 その沈黙を破ったのは、手にしていたカップを叩きつける勢いで乱雑に立ち上がった昴であった。

 

「ど、どしたのスバル?」

「…皆、食後の腹ごなしの時間みたいだぜ。ちょっとばかしハードかもだけどよ…!」

「…まさか、ネウロイか!?」

「馬鹿な、ついさっき倒したばかりだぞ!」

「ガリア方面からじゃねえ…こいつは、カールスラントの巣からだッ!スピードは大したことねえが、まっすぐこっちに…ロンドン目指して向かって来ている!」

カールスラントの巣(ウォルフ)からロンドンにですって!?今までそんなこと無かったのに…」

「…あの、少佐。彼は一体何を言っているのですか?」

「済まんが土方、説明は後だ。…動ける者はすぐに出撃準備だ!ネウロイが本土に近づく前に、海上で墜とすぞ!」

『了解!!』

 食後のまったりとした雰囲気から一転し、ウィッチたちは急いで出撃準備に取り掛かる。

 

「…少佐、悪いけど俺は先に出撃する。皆は万全の準備を整えてから追いかけてきてくれ」

「何?…何故わざわざ先行する必要がある?高速型のネウロイならともかく、今しがた足が遅いとお前が言ったのではないか」

「そうなんだが…どうにも嫌な予感がする。今までのネウロイとは少し毛色が違う気がするんだ。…それに、奴がカールスラントの巣から出てきたのなら…確かめたいこともあるしな」

 何時にない緊張感を帯びた昴の様子に皆は困惑の色を浮かべる。昴がネウロイ相手にここまで鬼気迫る様子を見せたのは初めてだったからだ。

 

「……分かった。だが、絶対に無茶をするなよ。無理に倒そうなどとせず、私たちとの合流を待て…いいな?」

「…了解です」

「スバル」

「分かってるよエーリカ。…また後でな」

「ん」

 昴は食堂を窓から飛び出すとそのまま波止場へと走り、魔法力を発動させ龍気を吹かして一直線に飛び去って行った。

 

「どうしたんだろ岩城さん?」

「うん…いつもと様子が違ったよね」

「気にしていても仕方ありませんわ。ほら、私たちも急ぎますのよ!」

「あ、はい!…ごめんなさいグランマさん、後片付けお願いします!」

「はいはい、皆も気を付けるんだよ」

 後始末をアイルーたちに任せ、皆は格納庫の方へと駆け出していく。

 

「…少佐!」

 未だ状況を把握しきれていない土方であったがネウロイが現れたのが事実という事だけは理解し、いつものように扶桑刀を背負って格納庫に向かおうとする坂本の背中を呼び止める。

 

「…なんだ、土方?」

「…出撃、なさるのですね」

「ああ」

「……まだ、大丈夫なのですね」

「………ああ」

「そうですか…お気をつけて」

「…ああ」

 土方の問いに口ごもるようにそう答え、坂本は土方の視線から振り切るように格納庫へと向かう。

 

 途中、偶々トイレに起きたサーニャとエイラが事態を聞いて合流し、奇しくも501全員が揃って昴の後を追って出撃していった。

 

 

…ウゥゥゥゥー…ッ!

「……」

 出撃から遅れて響き渡るネウロイ出現の警報を背に、土方は空を走る11の飛行機雲の軌跡を敬礼を以て見送るのであった。




冒頭で出てきたネウロイは米軍のフライングパンケーキという戦闘機がモチーフです。…架空兵器や失敗兵器でネウロイ作っても結局ビーム撃てればなんでも強いんじゃないかと思ってしまう。パンジャンドラムでもワンチャン…ある、か…なぁ?

ではまた次回


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奈落からの斥候

モンハンライズでバルファルクとかオストガロア復刻しないかな…


…ムリダナ(・×・)アイツら揃って引き篭もりだもんなぁ…

ではどうぞ


 一人先行して基地を飛び出した昴は、自身の感覚に導かれるままマッハで大陸方面へと飛ばしていた。徐々にネウロイの気配が強まるにつれ、その速度や大きさも正確に感じ取れるようになっていく。

 

「…スピードは大体時速150km程度、となると飛行機タイプのネウロイじゃねえな。だが、この大きさは…まさか…」

 昴がネウロイの正体を推測する間もなく、バルファルクの魔法力が齎すズバ抜けた視力がようやっと陸地を離れ悠々と空を突き進むネウロイの姿を捉えた。

 

「…ッ!やはり…」

 その居様を目視した昴は後方から追いかけてきているであろう501の皆に連絡を取る。今回のネウロイが、一筋縄ではいかない相手だということを伝えるために。

 

 

 

 しかし、敵の姿を捉えたのは昴の方だけでなかった。

 

 

 

『…聞こえるか、皆!』

「スバル!」

「岩城、どうした?」

『ああ、ネウロイの姿を確認した!敵は……んなッ!?アレは…』

「どうした、岩城!?」

『うおおおおッ!!?』

 

 

ガガガガッ!!ギィィィッ……ブッ

「きゃあッ!?」

 耳を劈くような激しい音を最後に、昴からの通信は途絶えた。

 

「ちょ…スバル?スバル!?」

「岩城さん!?応答して!」

「な、なんかものすごい音がしたけど…大丈夫だよね?」

「アイツがそう簡単にやられるとは思わんが…とにかく急ぐぞ!」

「はいッ!」

 昴の安否を案じ、皆は全速力でストライカーを飛ばす。そうしてしばらく飛んでいると、やがてサーニャの索敵に反応が現れる。

 

「…!ネウロイの反応が出ました!…近くに岩城さんの反応もあります!距離は…」

「……サーニャ、もう見えてるゾ」

「え?」

 索敵に集中していたために周囲を疎かにしていたサーニャがどこか引き攣ったようなエイラの声に顔を上げると、皆が一様に遠方に浮かぶ黒い物体…サーニャの感知したネウロイを見つめていた。

 

「あれが…ネウロイ、なんですか…!?」

「あれは…」

 

 近づくにつれネウロイの姿がハッキリとしてくる。ずんぐりむっくりとした楕円形のその巨体は優に400mを超え、これまで確認されたネウロイの中でも最大級の大きさであった。下側には本来であれば人が乗るであろうゴンドラらしき部分があり、後方には尾翼と思われる羽がついており、巨体も相まってまるで鯨が空を飛んでいるような印象を感じる。

 そのネウロイの風貌を皆は…特にカールスラント出身の3人はよく知っていた。

 

「…飛行船型のネウロイ、だと…!?」

 かつて祖国が先進していた乗り物を模したネウロイに、バルクホルンが思わずといった声を上げる。

 

「飛行船って…確か、気球みたいに膨らませて空を飛ぶ乗り物ですよね?」

「あ、ああ…少し違うがそのようなものだ。かつてカールスラントではかのグラーフ・ヅェッペリンを始め多くの飛行船が作られてたのだが…」

「ネウロイの活動が頻発するようになって、足が遅くサイズも大きな飛行船は格好の的になるようになってしまって、今では殆ど見られなくなってしまった筈よ。…おそらくあのネウロイは、カールスラント国内で保存されていた飛行船を模倣したのでしょうね」

「…でもあんなでっかい飛行船なんてあったっけ?一番デカいのでも200mくらいだった筈だけど…」

 宮藤の問いにバルクホルンらが答えていると、先頭を飛んでいたシャーリーがネウロイの周囲で紅い軌跡を描きながら撹乱するように飛ぶ昴を見つける。

 

「おっ!スバル見つけたぞ。やっぱり無事だったみたいだ」

「あっはは、手振ってるよ!全然余裕じゃんか」

 飛び回りながら大きく腕を振る昴にルッキーニが笑っていたが、ふとその様子がどこかおかしいことに気づく。

 

「…あれ?なんか言ってない?」

「本当だ。無線が繋がれば聞こえるんだけど…」

「んん?…は…な…れ…ろ…離れろ?」

「離れろって…この距離ならネウロイのビームもまだ届かない筈では…」

 エーリカが昴の口の動きから読み取った言葉に怪訝そうな顔をした…その時。

 

 

 

ボシュボシュボシュボシュッ!!

 ネウロイの下部にあるゴンドラ部分から音を立てて何かが飛び出してきた。

 

「な、なんだ!?」

「あれは…ロケット弾です!」

 ネウロイの放った数十発ものロケット弾は、一旦上空に舞い上がるとウィッチたち目掛けて一直線に降り注がれる。

 

「チッ…行かせるかぁッ!!」

 昴が即座に龍気砲を乱射して次々と爆破させるが、それでも半数近くを撃ち漏らしてしまう。

 

「…ッ、撃ち落とせぇ!」

「だああああッ!!」

 しかし、そこは歴戦の501のウィッチたち。グランマたちの食事によるバフの効果も相まって、一瞬動揺したものの即座に立ち直るとロケット弾群へと銃撃の嵐を浴びせ、瞬く間に残りの弾を全て撃ち落としてしまった。

 

ドガァァンッ!

「…皆、無事か!?」

「は、はい!」

「…なぁ、飛行船ってあんな物騒なモン積んでるもんなのかヨ?」

「い、いや…それどころか飛行船には基本武装の類は無い筈だ。ネウロイの光線ならともかく、飛行船をコピーしておいてロケット弾を撃ってくるなど…」

 自分たちの知る飛行船ではあり得ない攻撃方法に戸惑いを隠せずにいるところに、ネウロイから一旦距離を取った昴が合流する。

 

「…よ、待ってたぜ」

「スバル!お前大丈夫だったのかよ?いきなり通信切れたからちょっと焦ったぞ」

「いや、済まん。連絡取ろうとした矢先にさっきのミサイル…じゃねえ、ロケット弾をぶっ放されてな。なんとか躱したのはいいんだがテンパって無線を落としちまってな…」

「…まったく、人騒がせな奴」

「悪かったって。…それよりも、さっき奴が撃ったロケット弾なんだが、多分アレは『V1』って奴だな」

「V1?」

「あ~…なんか前にウルスラから聞いたことがあるよ。ジェットエンジンを使った飛行爆弾だとかなんとか…欠点だらけだったからカールスラントが陥落してからはストライカーの方に全振りしたせいで立ち消えになったらしいけど」

「…そこまでは知らんかったけど、元々のV1は射程も弾速もストライカーで十分対処可能だ。ネウロイ化したことで狙いが雑(クソエイム)なのがマシにはなっているだろうが、それでも落ち着いて対処すればなんとかなるだろうよ」

「…何故お前がカールスラントの兵器にそこまで詳しいんだ?…しかし、何故飛行船を模したネウロイがそんなものを積んでいるのだ?」

「…さーね」

 口ではそう言いつつも、昴にはあのネウロイの元になったであろう兵器の心当たりがあった。…岩城昴として生まれる前の、かつて生きていた未来の世界で。

 

(…前の世界で読んだマンガにあんなのあったような気がするんだよなぁ…。ネウロイの野郎、一体どこから電波拾ってきやがったんだか…)

 

 

『-----ッ!!』

 そんなことを考えていると、先の攻撃で仕留められなかったことにしびれを切らしたのかネウロイが進行方向をこちらと向け、全身をネオンサインのように赤く明滅させながら迫ってくる。

 

「ネウロイがこっちに来ます!」

「我々を敵とみなしたか…好都合だな。よし、私がコアの位置を特定するまで散開して敵の注意を逸らせ!だが下手にやり過ぎると先のロケット弾の集中砲火を喰らう恐れもある。孤立しないよう、チームを組んで常に仲間の位置を把握して動け!」

『了解!』

 坂本の指示を受け、それぞれ宮藤とリーネ、エーリカとバルクホルン、サーニャとエイラ、シャーリーとルッキーニというバディを組んでネウロイの周囲を飛び回り始める。ミーナとペリーヌ、そして無線を失くした昴はコアを視認するまで坂本の護衛についている。

 

ボボボシュッ!

 接近してきたウィッチたちにネウロイが再びV1を放って攻撃してくる。

 

「へっ、そう何度も同じ手が効くかヨッ!サーニャ!」

「うん、エイラお願い!」

 エイラの固有魔法…『未来予知』。ほんの数秒先の未来を読み取ることが出来るというただでさえ強力な能力は、ネコ飯のバフによりもっと先の未来をより鮮明な形で予知することが出来るようになった。

 そしてサーニャの広域電波探査の固有魔法もバフの恩恵により、周囲の人や生き物の脳波を感じ取ることで思考や動きを感知し、逆にテレパシーのようにこちらの意思を直接脳に伝えることが出来るようになった。

 この2人の魔法が合わさることで、サーニャはエイラが視た未来を周囲の仲間にほぼタイムラグ無しで伝達できるようになったのである。

 

「…芳香ちゃん、リーネさん!」

「うん!」

「任せて!」

 サーニャから声がかかるのとほぼ同時に、宮藤とリーネが自身に向かって飛んでくるロケット弾を撃ち落としにかかる。他のチームもエイラが視た予知をサーニャから受け取っている為、各々が向かってくるロケット弾の迎撃に移れていた。

 ロケット弾による攻撃が通じないとみるや、ネウロイは今度は全身から光線を撒き散らすように放って攻撃してくるが、それもまたエイラの予知からは逃れられず無数の光線は全て躱されるか最小限のシールドによって防がれることとなった。

 

「…エイラさんの予知は流石ですわね。これまで被弾したことがないというのも、これなら納得するしかありませんわね」

「その予知の力を借りられるのも、サーニャさんのおかげね。…美緒、ここからコアの場所は確認できる?」

「ああ、任せろ…!」

 光線の嵐の射程から少し離れたところで、坂本は眼帯を外してその下に隠されていた魔眼を見開く。世界でも数少ない魔眼持ちのウィッチの中でも最優と称される坂本の魔眼は、巨大なネウロイの内部に隠されているコアの位置を瞬く間に見透かしてしまう。

 

「…あったぞ!コアの場所はネウロイの下部…ロケット弾の出てくるゴンドラ部分の中心だ!」

「…皆、聞こえたわね?ネウロイの下部に攻撃を集中させて、一気にコアを破壊するわよ!」

『了解だ!アタシとルッキーニに任せて…』

「……!?ま、待て!何か妙だ!」

「少佐?」

 攻勢に転じようとした時、再度ネウロイを魔眼で観察していた坂本が驚いたような声を上げる。

 

『どうしたんだ少佐!?』

「…バカな、こんなことがあるのか…?」

「美緒、一体何があったの?」

「…コアだ」

『え?』

「ゴンドラ部分だけじゃない…!奴の後方、尾翼部分にもコアの反応がある!コイツには、コアが『2つ』あるぞ!」

「なんですって!?」

 見開かれた坂本の魔眼には、最初に確認した下部分のコアだけでなく、尾翼部分にもコアの反応がハッキリと映し出されていた。

 

『そんな馬鹿な…コアが2つあるネウロイなど前代未聞だぞ!?』

『…もしかして、2体のネウロイがくっついてたりするんじゃないの?』

『そんな風には見えないけど…』

「…相手はネウロイよ。可能性は捨てきれないわね」

「考えてたってしょうがねえ…中佐、後ろ(ケツ)のコアは俺が潰す!皆はゴンドラ部分のコアを狙うよう伝えてくれ!」

「…わかったわ。くれぐれも気を付けてね」

「アラホラサッサー!」

 昴は飛び上がると一気に加速してネウロイの正面に躍り出、ロケット弾と光線の雨を潜り抜けながら尾翼部分に回り込んだ。その隙にネウロイの真下でも宮藤たちがシールドで攻撃を防いでいる間にシャーリーとルッキーニがコア破壊の為の準備を整える。

 

「リベリアン、ルッキーニ!用意は良いか?」

「ああ、何時でもオッケーだ!」

「もっちろーん!」

「よし…リーネ、合図を出せ!」

「はい!」

 バルクホルンの指示を受けたリーネが合図代わりの一発を撃とうと構える。その砲声を合図に、昴の『サイクロン・スクラッチ』とシャーリーの『加速』で勢いのついたルッキーニの『光熱化多重シールド』の吶喊により同時にコアを破壊する。十字攻撃(クロスファイア)により分散したネウロイの反撃は残りのメンバーがコア周囲の装甲を破壊しつつシールドで防ぐ…501が大型ネウロイを撃破する時に使うフォーメーションの一つで、魔法力が強化されているが故に出来る力技であった。

 

「よし、これでトドメ…!」

 リーネが銃を構えるのを見た昴が翼脚の先端を突き出してネウロイの全身を貫く準備をする。そして…

 

 

ドォンッ!!

「行っけぇぇぇぇぇぇ!!」

「うきゃーー!」

「サイクロン・スクラッチ!!」

 リーネの銃声と共に、亜音速に加速したシャーリーと昴がネウロイ目掛けて突撃した

 

 

 

 

 

 次の瞬間。

 

 

 

グバッ!

 ネウロイの尾翼が強引に引き裂かれたように上下に分かれ

 

 

カッ!

「!?」

 昴がそのことに目を剝くと同時に閃光と共に視界が真っ赤に染まり

 

 

 

 

ズバァァァァァァッ!!

 刹那、遅れて放たれた直径5メートルはあろう超極太の赤黒い光線が昴を飲み込んだ。

 

 

 

「……え?」

 突然の光景に宮藤たちは元より攻撃を仕掛けていたシャーリーたちですら動きを止め唖然としてしまう。そんなウィッチたちの眼前で光線は徐々に終息していき…

 

 

…チャポォォン…!

 光線が消えたのとほぼ同時に、何かが海に墜ちた音が響き渡った。

 

「…あ、え…な、なにが…」

「…す、スバルぅぅぅぅッ!!?」

「なんだ…今の攻撃は!?あんな桁違いな、バカげた規模の光線など…」

「…な、なんで…私の予知には、あんなの見えなかったのに…!?」

「エイラ、どうしたの!?」

 全く想像もしていなかった事態に皆が混乱する中、エーリカは今しがた海に墜ちたであろう昴を救出すべく降下しようとする。

 

「…ま、待てハルトマン!一人で行くな!」

「離してよトゥルーデッ!スバルが、スバルがぁッ…!」

「落ち着け!取り乱すなどお前らしくも…」

「…ッ!?ば、バルクホルンさん!あれ…!」

「ん…!?」

 半狂乱状態のエーリカを宥めようとするバルクホルンが宮藤の声に振り替えると、眼前のネウロイに異変が起きていた。

 

バキッ…ピキキッ…!

 パックリと開いていた尾翼が音を立てて半ば強引に変形していき、牙のような鋭利な突起が生え、まるで『龍の頭部』のような形状へと変化する。

 更にその頭部に繋がる形で『首』のような部分が伸び、最終的には飛行船の後ろから竜の頭が生えた…そんな異様な姿へと変貌を遂げる。

 

「…大蛇(オロチ)?」

 その姿を見た坂本が、扶桑に古くから伝わる大怪異の名を呟く。しかし、もし昴がここに居ればこのネウロイを見てこう言っていたであろう。

 

 

「オストガロアの…触腕…!」

 

 

『■■■■■ーーーーーッ!!』

 愕然とするウィッチたちに、第2ラウンドの始まりを告げるように竜の首から引き攣るような咆哮が放たれたのであった。




・超弩級装甲飛行船型ネウロイ…既存の飛行船を遥かに凌駕した大きさと頑丈な装甲を有したネウロイ。モデルになったのは漫画『HELLSING』にてミレニアム軍が有するデウス・エクス・マキナ号。ゴンドラ部分に計48門の疑似V1ミサイル発射孔を備え、船体全体から光線を放ち高い制圧力を誇る。とはいえ飛行船ベースなのでスピードはストライカーや戦闘機に比べれば緩慢で、最悪逃げようと思えば逃げるのは容易い。


…なんて解説してみましたが、もはやほぼ当てにはなりません。既にこのネウロイは…


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紅のサムライ

転勤が決まってしばらくドタバタして続きが遅くなって済みません。


そして…マガイマガドが倒せねぇぇぇぇ!スイッチの操作に慣れてないのもあるけど、火力が半端ないね…2発で確定墜ちなのに起き攻めしてくるし。
牙竜種にありがちなモーションの隙が大きい弱点があるから攻めることは出来るけど、爆発するガスのせいで攻めきれないのがジンオウガより厄介だね。オマケに時間が15分しかないからソロでは討伐出来なかったヨ…
もうちょっと操竜アクションを使いこなせればなんとかなるかも…届いたら練習ですね

ではどうぞ


 カールスラント上空の巣『ウォルフ』より出現した超大型の飛行船型ネウロイ。鈍足ではあるが強力なロケット弾と無尽蔵の光線を放つこの強敵を501はパワーアップした魔法力と巧みな連携によって追い詰めていた…追い詰めた、筈であった。

 止めを刺そうとした昴を撃墜した特大の光線と共にネウロイを内側から食い破るようにして現れたのは、全長200mを超える巨大な龍の首のような怪物…同化しているネウロイと同じ黒い身体を持ったオストガロアの触腕であった。

 

「な…なんだぁ、ありゃあ…!?」

「ネウロイから…あれは、ドラゴン…?ドラゴンの首が生えてきた…!」

「さっき岩城さんを攻撃したのはアイツの仕業ですの…!?」

 何が起こっているのか理解が追いつかないウィッチ達を前に、オストガロアの触腕…『オストガロア・(パラサイト)』は彼女たちを値踏みするように一瞥した後、再び金属音のような雄叫びを上げてネウロイごと躙り寄り始める。

 

『■■■■ーーーッ!!』

「…ッ!総員、構えろッ!奴はこれまでのネウロイとは桁が違う、気を抜けば死ぬぞ!!」

「は、はいッ!」

「待ってよ少佐、昴がまだ…」

「…今は目の前の敵に集中するんだ!勝手な行動は許さんぞ!」

「でもッ…!」

「落ちつけハルトマン!…岩城がそう簡単にくたばる奴じゃないのは、お前が一番分かってるんじゃないのか?アイツを信じているのなら、今は自分が生き残ることに集中しろ!」

「トゥルーデ……ッ、分かったよ。気を使わせてごめん」

「分かってるならいい…来るぞッ!」

 

 身構えるウィッチたちに、オストガロア・Pはありったけのロケット弾と光線を撒き散らすように撃ちまくり始めた。まるで狙いを定めていない攻撃は自身すら巻き込み、自爆により装甲が砕けてボロボロになっていくが意にも介さず攻撃を続ける。

 

「うおおッ!?…くっ、アイツ滅茶苦茶過ぎるぞ!」

「エイラの予知のおかげでなんとか躱せるが、まるで狙いを定めていないようだ…」

 直接の攻撃だけでなく誘爆による爆風も相まって先ほどより苛烈さを増した攻撃であったが、エイラの予知のおかげでどうにかシールドを駆使しながらも防ぐことは出来ていた。そこに…

 

「…!上よトゥルーデッ!!」

「ん…?」

 ミーナの声に反応したのも束の間、突如視界が薄暗くなったバルクホルンが上を見上げると、鎌首をもたげたオストガロア・Pが大きな口を開けて自分に迫って来ていた。

 

「な…ぐ、おおおおッ!?」

 慌ててストライカーを突き動かして間一髪のところで躱したが、今しがた自分が居た場所で空振ったオストガロア・Pの口が、明らかに自分を『食べようとしていた』ことにバルクホルンは背筋が凍るような感覚を覚える。

 

「トゥルーデ、大丈夫?」

「あ、ああ…助かったぞミーナ。全く気が付かなかった…」

「攻撃の勢いが強まったのは、あのドラゴンの首の方から注意を逸らす為のようね。…けれど今の動き、まさかネウロイが人間を食べようとするだなんて…」

 ネウロイは『金属』を好む性質を持ち、それ故に人の多い市街地を狙ってくるというのは軍人にとって基礎知識である。…だが目の前のネウロイは、明らかにバルクホルンを捕食しようとしていた。数多くのネウロイと対峙してきたミーナとバルクホルンであるからこそ、その事実が信じられなかった。

 

「…良かった、バルクホルンさんは無事だったみたい」

「そっか、ならいいけど…」

「…エイラ、やっぱり見えないの?」

「うん…またあのドラゴンの動きが予知できなかった。今までこんなこと無かったのに…他の攻撃は全部予知できるのに、アイツの動きだけは靄がかかったみたいに何も見えないんダ…!」

 一方でエイラは、またしてもオストガロア・Pの動きを予知できなかったことに動揺していた。当然ながらエイラの予知を共有している他の皆も同じで、先ほどまでのように予知に任せた動きは出来なくなっていた。

 エイラだけではない、サーニャも含めこの場の全員が皆個人差はあれど、あのオストガロア・Pの出現後固有魔法や魔法出力に不調をきたしていた。

 

(…何なの、この感覚?力が思ったように出せない…。私自身…というより、私たちの使い魔との同調が乱れている…?まるで、あの怪物に脅えているような…)

 …ウィッチたちにとって使い魔は身近な存在であるためにあまり感じないが、使い魔…精霊は見た目こそ動物そのものだが実態は神として祀られることもある高位の霊的存在である。…故に、自身より遥かに強い存在であるオストガロアを前にした時の反応は人間よりも顕著であり、戦おうとする契約者との意識のズレがシンクロを乱し、魔法力を低下させているのであった。

 

「う…ぐ、あああッ!?」

「芳佳ちゃん!…きゃあ!」

「宮藤、リーネ!…くっ、私が奴を引き付ける!ミーナとペリーヌは宮藤たちのフォローに回れ!」

「少佐!?」

「美緒、無茶よ!」

 この場で一番未熟な宮藤とリーネに狙いをつけたように攻撃が集中しだしたのを見て、坂本はミーナたちに援護を託して抜刀するとオストガロア・Pへと向かっていく。

 

「うおおおおッ!」

 

ガキィィィンッ…!

 光線の雨を掻い潜って接近し、気合一閃。特別製の扶桑刀に魔法力を流し込んでオストガロア・Pの首の付け根…第2のコアへと振り下ろした。これまで数多のネウロイを切り捨ててきたそのひと振りは装甲に深く切り裂いたが、コアにまでは届かなかった。

 

「チッ、想像以上に装甲が固い…!しかもコアはもっと内部…一太刀では届かないか」

 決められず舌打ちをする坂本に、ほぼノーダメージとはいえコアを狙われたオストガロア・Pは顔を向けると大きく口を開く。

 

「ッ!さっきの光線か!?」

 先の一撃の規模からシールドでは到底防ぎきれないと判断した坂本はオストガロア・Pに貼りつくように接近し、撃てば自身を巻き込む状態にして回避しようとする、が…

 

 

ドバァァァァッ!

 オストガロア・Pはお構いなしに自身ごと坂本へと吐きつけた。…光線ではなく、青く発光する不気味な液体を。

 

「ぬおッ!?…な、なんだ?光線ではないのか?」

 咄嗟にシールドを展開して直撃は免れたが、シールドやオストガロア・Pの身体によって反射された飛沫が坂本の肌や服に付着する。液体は思っていたより粘度が強く、全身に油をぶちまけられたような不快感に坂本は混乱しつつ眉を顰める。

 オストガロア・Pはそのまま首を大きく振るい、粘液を噴水のように辺り一帯へと撒き散らし始めた。

 

「…奴は一体なにがしたいんだ?水流で攻撃するならともかく、ただこの青い液体を撒き散らすことに何の意味が…」

 

ズンッ…!

 そこまで言いかけた坂本を、突然の脱力感が襲う。

 

「な、何…!?」

 ウィッチになって以来久しく罹ったことのない風邪にでもなったような倦怠感に戸惑う坂本を更なる異変が遅う。ウィッチたちの攻撃やオストガロア・Pの自爆によって辺りに飛散していたネウロイの装甲の欠片が、坂本に付着した粘液に纏わりついていたのだ。思わず全身を振るわせて剝がそうとするがなかなか取れず、それどころが動けば動くほどに欠片が纏わりついて塊が肥大化していき、その分だけ重みが増していく。

 

「…これが奴の狙いだったのか!皆、奴の吐き出す青い液体に触れるな!この液体を浴びると力が出なくなる上に、奴の破片が体にくっつく!下手に動き回ると逆にこちらが動けなくなるぞ!」

 液体の危険性を察した坂本が慌てて無線で警告を発するが…

 

『…ご、ごめんなさい…坂本さん…。もうみんな、あの液を浴びちゃいました…』

「…なんだと!?」

 無線越しに聞こえる宮藤の弱弱しい声に振り返ると、皆が体を染める粘液と同じくらいに顔を青くして苦痛の表情を浮かべていた。力自慢のバルクホルンやサーニャに至っては、持っている機関砲やフリーガーハマーの重みに手放しかけているほどである。

 

「し…まった…ッ!まさか、ネウロイがこんな手を使ってくるなど……せめて、このことを軍に伝えなくては…ッ!」

 まんまと敵の術中に嵌ってしまったことを悔いながらも坂本は行動しようとするが、全身を覆い始めたネウロイの欠片と粘液の脱力感のせいで体も思考もどんどん鈍くなる。それに加えて、坂本自身の魔法力も他の皆に比べて限界が近くなっていく。

 

「くそッ…こんな時に、魔法力が底をッ…まだ、私は…こんなところでッ…!」

 徐々に高度が落ちていく坂本。…オストガロア・Pはそんな彼女を見下ろし、もう反撃の余力も残っていないと判断すると再び口を開けて坂本へと迫る。こんどは吐き出すのではなく、その口の中に取り込むために。

 

「…ッ!少佐…逃げてくださいましッ!」

「美緒ぉ!!」

 皆が坂本を助けようとするがもはや動くことすらままならず、悲鳴を上げることしか出来ない。坂本は迫る虚空のような暗闇に、せめて心だけは負けるものかと目を瞑ることも背けることもせず睨みつけ…

 

 

 

バシャァァァンッ!!

「…せらぁぁぁぁぁぁッッ!!」

 突如海面に弾ける様な水柱が立ち、それを突き破って飛び出した真紅の光がオストガロア・Pのした顎を突き上げて坂本へと向かっていた軌道を逸らした。

 

「ッ!?」

「い、今のって…!」

 その光のスピードと聞こえてきた声に皆が顔を上げると

 

「…ギリギリ、セーフだったか。よくもやってくれやがったな…このイカ野郎ッ!」

 先ほど撃墜された昴が、坂本が無事だったことへの安堵を、次いでオストガロア・Pへの憤怒の表情を浮かべてそこに飛んでいた。

 

「スバル!!」

「岩城、生きていたか…!」

「当然!…まあ、シールドはギリギリ間に合ったけどちょっと喰らっちまって墜ちた衝撃で気絶しちまったけど、あの程度でくたばりはしねえよ。それよりも…皆、これを!」

 昴は数本の竹筒を取り出すとそれを皆に向かって投げる。

 

「これは…?」

「その粘液を弾き飛ばす薬品だ!それを体にかけてくれ、そうすれば破片もとれるし力も戻る!」

「ま、マジか!?」

 半信半疑で竹筒の中身を体に振りかけると、全身を覆っていた粘液がくっついた破片ごとするりと滑るようにして剥がれていき、それと共に全身に力が漲ってくる。

 

「ホントにとれた…!サンキュースバル!」

「礼は後だ!少佐、今のうちにこっちに!」

「あ、ああ…!」

 昴に引っ張られるようにオストガロア・Pから距離を取る坂本がちらりと振り返ると、昴の不意打ちから立ち直り、取り逃がした獲物を忌々しげに見つめるオストガロア・Pの下あごに2メートルほどの長さの『槍』が突き刺さっているのを見つけた。

 

「岩城、あの槍は…まさかお前が?」

「ええ、そうです。…あれは俺の固有魔法『夢幻換装』で作った槍です。魔法力を使って武器を作ることが出来るって能力でして…ぶっちゃけ、シールドを変形させて武器の形にしてるようなもんです」

「シールドを武器に…菅野が拳にシールドを圧縮させて攻撃に使っていたが、それを槍の形にしたのか。…相当な魔法力コントロールが無ければ出来ん芸当だな、器用な奴だ…」

「そりゃどーも。…ま、あの野郎にとっちゃ爪楊枝みたいなもんでしょうけどね」

 口を縫い合わせるつもりで突き立てた筈が下あごを貫いてすらいないことに苦笑しつつ後退した昴と坂本に、粘液から解放された皆が集まってくる。

 

「坂本さん!大丈夫ですか?怪我があるなら治癒をしますけど…」

「ちょっと宮藤さんどきなさいな!…少佐、お怪我はありませんの?」

「ああ、心配をかけて済まない。特に怪我はしていないから治癒は必要ないぞ、宮藤」

「…無事でよかったわ。岩城君も…美緒を助けてくれてありがとう」

「…ま、お前があれくらいでやられるとは思ってなかったけどね」

「ハッ、よく言うよナ。岩城が墜ちたときあんだけ…」

「エイラぁッ!余計な事言うな!」

「まあまあ…それにしても、どうして岩城さんあの液を落とす薬を持ってたんですか?」

「そうそう、私も気になってた。ちょっと準備良すぎじゃないか?」

 リーネとシャーリーが当然の疑問を問うと、昴は回復の為に動きを止めているオストガロア・Pへと視線を向けて呟く。

 

「…奴のあの粘液のことは知っていたからな。奴を倒すと決めていた以上、その対策はしておくのは当然だ。材料集めが大変だったけどな」

「知っていた…って、お前あの化け物のこと知ってんのか?」

「ああ。…奴はオストガロア、かつて俺の使い魔のバルファルクと相撃ちになった筈の超古代の古龍だ」

「オストガロア!?それって、お前が前に言ってたカールスラントに居るっていう…」

「ああ、どういう訳かネウロイと一体化しちまってるみたいだけどな。…ネウロイに取り込まれたのか、それとも取り込んだのか…どっちにしろ、オストガロアがなんらかの形でカールスラントを支配しているネウロイと手を組んだのは確かみたいだな」

「…聞きたくは無かった、最悪の情報だということはよく分かったぞ」

 バルクホルンやミーナが苦虫を嚙んだような表情を浮かべる。図らずも人類の敵と昴の敵が一致してしまったが、それはつまりいずれ戦うべき相手がとてつもない存在へと化してしまったことを意味するのだから。

 

「…そういえばスバル、さっきものすごい光線喰らってたけど大丈夫なの?」

「ん…ああ、それなら大したことはない。さっきも言ったがギリギリでシールドが間に合ったし…そもそもあの光線は『龍属性』だからな。同じ龍属性使いの俺には効果が薄いんだよ」

「龍…属性?」

「オストガロアやバルファルクが使う、竜種が苦手とする特殊なエネルギーだ。分かりやすい火や冷気と違って純粋で不安定なエネルギーで、使い手次第で様々な形に変わる。奴のように光線として放ったり、俺のように飛行の為のエネルギーにしたり、果ては雷や大爆発だったりな…共通してんのは、赤黒い色をしてるってことぐらいか」

「龍属性なのにドラゴンに効くのか…ややこしいナ」

「…それで岩城君、対策はあるの?」

「…生憎、さっきの薬…『消散剤』は今ので品切れになっちまった。だからもう粘液も光線も喰らわずに倒す…それしかない。ネウロイと一体化している以上、奴もコアさえ破壊すればくたばる存在になったのは間違いないはずだ。だが…」

「だが?」

「奴の光線を喰らってから龍気の出力が下がっている。短い距離なら問題なく飛べるけど、フライトブラストや龍気砲みたいな高出力の技は当面使えそうにない…囮ぐらいにしかなれそうにないな」

 

(…俺の力というより、バルファルクの能力そのものが制限されてるみたいだ。この力…まさか『龍封力』か?予想外…でもないな。イビルジョーやネルギガンテがドラゴン喰いまくって龍属性持ってんなら、オストガロアにも同じ理屈は通るわな…)

 

「げ…マジで?」

「こちらの最大火力が封じられたか…」

 昴の弱体化に皆の表情が歪む。どうにか敵の攻撃を躱したところで、今の彼女たちにはオストガロア・Pのコアを破壊し得る決定打が欠けていた。魔法力の低下によりゴリ押し戦術は使えず、火器もサーニャのフリーガーハマーですらあの巨体の前では火力不足となってしまう。光線や粘液の対策もない現状、じり貧となるのは目に見えていた。

 

「…だが、それでもここで退くわけにはいかない。このまま奴を放って撤退したところで、確実に奴はブリタニアまで追ってくるだろう。もし本土上陸を許してしまえば、取り返しのつかないことになる…!なんとしてでも奴をここで足止め…いや、絶対に倒さなくてはならない!」

 絶体絶命の窮地に、坂本は皆と己を奮い立たせるように吼えると残された魔法力の全てを扶桑刀に籠め、決死の突撃をかけようとする。

 

 

 

ドクンッ…!

「…ッ!?うぁっ…」

 その時、魔法力を流した筈の刀から逆流するように自身に流れ込んできた『何か』に、坂本は吐き気を覚えて口元を抑える。

 

「ど、どうしたんですか坂本さん!?今治癒をかけますから…」

「…す、済まん…」

 傍にいた宮藤が慌てて治癒を試みるが、坂本の感じた違和感は無くならない。それどころか、体力も魔法力も尽きかけた筈の身体にほんの僅かだか治癒の影響以外の力を感じていた。

 

(これは…治癒が効かないということは、悪影響ではないのか?それにこの力…もしかしたら…!)

「…宮藤、治癒はもういい。それより少し離れていろ」

「え…あ、はい」

 宮藤を下がらせると坂本は刀を正眼に握りなおし、再び魔法力を流し込んだ。

 

「…ぐ、うう…ッ!」

 送り込む僅かな魔法力と裏腹にとめどなく流れ込んでくる『何か』の反動に耐えながら、坂本は魔法力を送り込み続ける。やがて刀から赤黒い稲妻のようなものが発生し、それが坂本の身体からも出始めると皆も異変に気付き始めた。

 

「うぇぇ!?な、なんか少佐がペリーヌみたいにバチバチいってるよ!」

「赤黒い光…岩城さん、あれって…!」

「ああ、龍属性エネルギーだ!なんだって急に…あの刀からか!」

「美緒、何しているの!?すぐにその刀から手を放して!」

「悪いが…それは出来ん!あと少し、あと少しでッ…おおおおおおおッ!!」

 ミーナの制止を振り切って残った魔法力を一気に注ぎ込むと、刀の鍔に填め込まれていた『赤色の竜氣玉』が一際赤く輝いた直後に音を立てて砕け散り、その輝きが刀を伝って坂本の全身を包み込んだ。

 

「しょ…少佐…?」

「坂本さんが…赤く、光ってる…!」

 燃え盛る火の玉の如き真紅の輝きを纏った坂本。何が起きたのか分からない一同は呆然とするが、昴は坂本から感じる自身がよく知るエネルギーの感覚に何が起きたのかを察した。

 

「その光…俺と同じ龍気を…!まさか、『龍気活性状態』になったのか!?」

「龍気活性状態?」

「多量の龍気を蓄積した状態でダメージを受けると、そいつの生存本能に呼応して溜め込んだ龍気が全身を循環し始めるんだ。…そうか、少佐の刀についていた龍氣玉の龍気が、少佐の魔法力に反応して解放されたんだ」

「そんなことが…」

「だが龍気が循環するということは、大量の龍属性エネルギーを浴びたのと同じことだ。俺はともかく、ドラゴンウィッチじゃない少佐がそんな状態になったら何かしらの影響が出る筈…」

「それを早く言ってくださいまし!少佐、お体の方は大丈夫なんですの?」

「…成程。だからさっきから私の魔眼が機能しなくなっているのか。コアどころか、何も見えなくなっている…本当の隻眼になった気分だ」

「…!ウィッチが龍属性やられになると、固有魔法が使えなくなるのか…」

「だったら猶更無茶だ!ただでさえ消耗しているのに片目が見えないなんて…」

「…だが」

 坂本は薄く笑むと体に力を籠める。すると坂本を包む輝きがより一層強いものとなっていき、それに応じるように弱まりかけていたストライカーの回転が爆発的に加速する。

 

「だが…よく解らんが、とてつもない力が湧いてくる!魔法力はほぼ空だった筈なのに、ストライカーもすこぶる調子がいいぞ!今ならどこまでも飛んでいけそうな気分だ!」

「み、美緒…?一体どうしたの?」

「…もしかして、俺と同じで変換された龍気が魔法力の代わりになってんのか?」

「そんなこと出来るんですか?」

「分からん…ストライカーが龍気で動くのか俺は知らんし。…だがそうだとすれば絶好調の理由も頷けるぜ。俺は呼吸によって魔法力を龍気に変換してるんだが、龍気の魔法力からの変換効率は『約5倍』…数字に換算すれば10の魔法力で50の龍気を生成できる。増して龍気活性状態になると龍属性やられになる代わりに身体能力と攻撃への耐性がパワーアップする。下手すりゃ平常時よか調子いいだろうよ」

「マジで?随分都合のいいエネルギーだけど、なんかデメリットとか…」

 

『■■■■■■ーーーッ!!』

 エーリカの疑問を掻き消したのは、坂本の変化に脅威を憶えたオストガロア・Pの咆哮である。装甲の修復もそこそこに再び動き出すと無数の光線を坂本へと放った。

 

「坂本さん危ないッ!」

「心配…無用ッ!はぁッ!!」

 前に出てシールドで防ごうとした宮藤を制し、坂本は自身と同じく真紅の輝きを纏った刀を振るう。刀から溢れた光…龍気が軌跡を描き、迫る光線を薙ぎ払うように掻き消してしまった。

 

「…嘘ぉ」

「そんなものか古の龍よ!今度はこちらから行くぞ!」

 坂本のストライカーが聞いたことのないほどの爆音を上げてオストガロア・Pへと向かっていく。次々に放たれるロケット弾や光線を時に紙一重で躱し、時に纏った龍気で弾き返して先ほど傷をつけたコアの元へと一気に詰め寄る。

 これ以上近づけさせまいとオストガロア・Pも自爆覚悟で再び龍属性光線を放とうとするが、その判断は今の坂本の前では遅すぎるものであった。

 

「はぁぁぁぁぁッ!!」

 再度の気合一閃。纏う龍気がまるで刀身の延長のようになった刀を振りぬくと、迸った光の軌跡をなぞるように飛行船の尾翼部分がずれ落ち…両断されたコアと共にオストガロア・Pの首が根元から切り落とされたのだった。

 

「……うっそぉ…」

「ぶ、ぶった切っちまったぞ…少佐」

 唖然とする皆の眼前で切り落とされたオストガロア・Pが怨念の籠った叫びをあげて霧散する。しかし破壊されたのは2つ有る内のコアの一つ、未だ健在なゴンドラ部分のコアを有するネウロイは目の前の脅威を滅ぼさんとありったけの火力を坂本にぶつけてくる。

 

「チッ、そうは…」

「させません!!」

 再び龍気による切払いで対応しようとした坂本であったが、その前に間に割り込んだ宮藤、ペリーヌ、リーネのシールドが坂本への攻撃をシャットダウンする。

 

「お前達…!無茶をするな!危うく巻き込む所だったぞ!」

「…それはこっちの台詞ですよ!いきなり一人で切り込むなんて坂本さんらしくないですよ!」

「もっとご自愛なさって下さいまし!」

「それは…」

「…美緒、今回は宮藤さんたちが正しいわ。無事だったから良かったものを、あんな特攻みたいなことをするなんて貴女らしくないわよ」

「ミーナ……済まん」

 守られたとは言え行動を制されたことに声を荒げる坂本だったが、宮藤とペリーヌ、そして追いかけてきたミーナの静かな怒りを前に、急速に頭が冷えて力なく謝罪を返す。

 

「いいとこ持ってき過ぎだって少佐。ちょっとはアタシらにも見せ場残しておいてくれよな!」

「なんか調子悪かったのも急に良くなったし…後は私たちでやるよ!」

「ああ、ここで仕留めるぞ!!」

 オストガロア・Pの消滅により魔法力が復調し、エイラの予知も機能した以上最早眼前のネウロイはただの大きな的でしかない。先ほどまでのうっ憤を晴らすかの如きエース軍団の総攻撃によりネウロイの装甲はみるみる削られていき、やがてゴンドラ部分の最奥に隠されていたコアが露出する。

 

「トドメは任せろ!汚名返上の…神槍(グングニール)ッ!!」

 コアが露わになった瞬間に一気に懐に入り込んだ昴の伸びた翼脚がコアを貫き、ネウロイの巨体諸共はじけ飛ぶようにして砕け散ったのだった。

 

「…終わった、わね」

「つっかれたぁ~…」

「だらしないぞ…と言いたいが、今回はかなり冷や冷やしたな…」

 ネウロイの反応が完全に消滅したのを確認すると、全員が思わず大きなため息を吐く。初めての古龍との戦い、そして危うく全滅しかかったことの緊張感が解け、心身の疲労が一気に押し寄せたのだ。しかし、一息ついて間もなく…

 

ガガッ…ガ…ガ…

「…む?」

 

ボンッ!

 今まで絶好調だった筈の坂本のストライカーが軋む様な音を立て始め、やがて機体のあちこちから破裂音と共に煙を上げると完全に停止してしまった。それと共に坂本が纏っていた真紅の輝きも消失する。

 

「うおおおッ!!?」

「へ…さ、坂本さんッ!?」

「少佐!」

 真っ逆さまに落下していく坂本に皆は一瞬面食らうが、直ぐに助けに向かおうとする。だが、坂本が落ちるのとほぼ同時に飛び出していた昴が下で待機しており、落ちてきた坂本を抱き留めた。

 

「っと…大丈夫ですか少佐?」

「あ…あ、ああ。済まん岩城、助かった」

「少佐~!無事か~?」

「岩城さんよくやりましたわ!…でもちょっと近いですのよ!」

「ペリーヌさん、今回くらいは…」

 坂本の無事に皆はひとまず胸をなで下ろした。…しかし、未だ煙を上げる坂本のストライカーはまるで数年近く動かし続けたかのように酷使されており、とてもではないが再起動など望めそうにはなかった。

 

「わっちゃー…やっちゃったなぁ。こりゃ直すより買い換えた方がマシだぞ」

「ニパの奴が雷に打たれた時より酷いナ…」

「…美緒、危ないからそのストライカーから降りて頂戴。あまり良くないけれど、途中で何かあるといけないからここで捨てていくわ」

「むう…仕方がないか」

 機械に精通したシャーリーととある理由で壊れたストライカーを見慣れたエイラから見てもスクラップ同然と判断されたことで、坂本は渋々ストライカーを外して真下の海に投棄した。

 

「…美緒、本当に大丈夫なの?顔色が悪いわよ?」

「宮藤に治癒をして貰った方がいいのではないか?」

「いや…おそらく、無意味だろう。これは怪我や病気とは別物だ、魔法力もだが…全身に全く力が入らん…」

「…やっぱそうなったか。流石に無茶が過ぎたみたいだな」

「やっぱって…スバル、少佐がこうなるの分かってたの?」

 昴の腕の中の坂本は先ほどとは真逆に青ざめるほどの疲労感と魔法力が底を突いたことで、息をすることがやっとなほどにぐったりとしていた。

 

「分かっていたというか…そもそも龍気エネルギーはバルファルク以外にはコントロール出来ないものなんだよ。普通の生物が龍気を浴びると、闘争本能が刺激されて好戦的になり、身体のあちこちが龍気によって一時的に発達する『獰猛化』って呼ばれる状態になるんだ。さっきの少佐は意図的に龍気活性したというより、おそらく使い魔が龍気の影響で獰猛化状態になったのが原因だと思うんだよ」

「私の使い魔が…それで妙に精神が昂ぶっていたのか」

「それでなんだが、さっきエーリカが言いそびれてたけど龍気エネルギーにもデメリットはある。龍気エネルギーによる身体能力の向上は、言っちまえば薬物の服用…ドーピングに近い。使い続ければその分ウィッチと使い魔自身を磨り減らしていくことになる。…ウィッチとしての寿命、最悪人としての寿命を縮めることになるだろうよ」

「そんなッ…!!」

「おいおい…洒落になってねーゾ」

「しょ、少佐死んじゃうの?私ヤダよぉ…」

「落ち着いてルッキーニちゃん。…岩城さん、まだ少佐は大丈夫なんですよね?」

「ああ、今回は短時間だったから魔法力を使い果たした程度で済んでる。…精々10分、それがウィッチの龍気活性状態のリミットラインだ。それ以上の使用は一秒ごとに寿命を縮めていくと思ったほうがいいな」

「…坂本少佐、隊長として今後一切の龍気活性の使用を禁じます。もし命令に背くようなら、戦闘隊長の貴女であっても厳罰…場合によっては軍法会議にかけることもあり得ますので、肝に銘じておきなさい」

「…了解した。私も早死にはしたくないからな、気をつけるさ」

「分かっているなら結構よ。…それじゃ、帰還しましょうか。今日はもうゆっくり休みましょう」

「そうですね。土方さんも心配しているでしょうし」

 

 

 その後、ペリーヌの精神的安定のためにミーナとバルクホルンに坂本を預け、皆は土方とアイルー達の待つ基地へと帰投していった。

 

 

 

 

(…しかし、オストガロアがあんなことになっていたとはな。あれだけ苦戦したのがオストガロアの『脚一本』でしかないなんて…皆には言えねえよなぁ、今はとても…)

 オストガロアという生物の全容を知るが故に、アレがオストガロアの力のほんの一部でしかないことに気づいた昴は今後の過酷な戦いを予感しつつ、それに立ち向かうための覚悟を秘めるのであった。




今回出てきたオリジナル設定について

オストガロア・P…オストガロアが自身の脚を自切し、それをネウロイに寄生させた存在。オストガロア自身の能力である龍属性光線や粘液を使うだけで無く、ネウロイと同化することでその特性を得て、切り離した脚自体にもコアがあるので複数のコアを有したネウロイという異質な個体へと変貌する。寄生したネウロイとは別の意識を持って動き、どちらかのコアを破壊した場合もう片方のコアが残った部分の全てを支配する。…仮に今回、坂本がネウロイ側のコアを先に破壊していたら、オストガロア・Pがネウロイの能力を引き継ぐことになっていただろう。
何故このような能力をオストガロアが得たのかは不明だが、ネウロイに寄生したオストガロア・Pはウィッチだけでなく周囲のあらゆる生物を補食することを最優先とし、ある程度捕食するとネウロイを操って本体の元へと帰還する。それが何を意味するのか…


ウィッチの龍気活性…生命の危機を感じるほどに消耗したウィッチが、高濃度の龍気を取り込むことで起きる現象。本来龍気エネルギーは一部のモンスターしか精製出来ず、よほど近づかない限り直ぐに空気に霧散してしまうのでほぼあり得ないことだったが、坂本が龍気の塊である赤色の龍氣玉を所持していたことが原因となった。この状態になると取り込んだ龍気を魔法力の代わりに使うことになるが、龍気が魔法力より遙かに燃費が良い為に必然的にウィッチとしての能力が向上することになる。坂本に至っては刀に龍気を流し込むことで烈風斬のようなエネルギーによる斬撃を放つことも出来る。
…ただし当然デメリットはあり、龍気活性中は龍属性やられ状態になるので固有魔法が封じられ、また身体への負担が大きいため長時間の使用は命の危険を伴う。更にストライカーも一時的に龍気で動かせるが、ガソリン車を軽油で強引に動かしているようなものなので魔導エンジンに大きな負荷がかかり、ウィッチが潰れるより早くストライカーが壊れてしまうこともある。


もっさん、一時的にパワーアップ。尚使えば使うほど上がりが早まるので二律背反な模様。

ではまた次回


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バルファルク、ライズ実装記念 異聞伝~コンタクト・アナザーワールド~(×ハリウッド版モンスターハンター)

タイトルにもありましたが…バルファルクがついに帰ってきました!今日からライズに実装されると知って、ワクワクが止まりませんね!
それを記念…と言うわけでなく、実写版のモンハン映画を見てから思いついたネタを予告みたいにしてみました。無印編が終わったらやるかも

ところで…PVのバルファルクのアクション、ボクがオリ主にさせようとした必殺技が先越されたァァァァァッ!!何のことかは見れば直ぐに分かると思います。明らかにXXではやってこなかった技なので

だから早く話を進めておけばと…筆が遅いのが憎い。

前置き失礼しました。ではどうぞ。


 第501統合航空戦闘団、ストライクウィッチーズの活躍によりガリアが解放されて数ヶ月後…それは、突然起きた。

 

 

「…な、何…あれは…!?」

「嵐の中に…あれは、塔…?」

 

 アフリカのど真ん中に発生した超巨大な黒雲を伴った嵐。新たなネウロイの巣の出現かと思われたが、肝心のネウロイはまるでその嵐から逃げるようにしてアフリカを離れていく。

 その事実を不審に思った連合軍の指示により、一時的な再結成という形でアフリカに派遣されたストライクウィッチーズは現地のストームウィッチーズと合同で調査に乗り出す。そして雷鳴轟く嵐の中に、不気味な塔の存在を確認したのだった。

 

 

「…貴方方は、一体…?」

「私はアルテミス。彼らハンターと共に、あのスカイタワーの暴走を止めるために戦っているわ」

「アレが有る限り、この世界に止めどなくモンスターが流れ込むことになる。…君たちがこの世界を守る軍人だというのなら、力を貸してくれ」

「…あの、モンスターなら私たちの世界にもたくさん居ますけれど」

「……マジで?あの一際ヤバそうなディアブロスだけじゃないの?」

 

 嵐の中から飛び出してきたゴア・マガラと、それと戦う砂上を駆ける撃龍船に乗ったハンター達。ゴア・マガラの脅威を知るストライクウィッチーズの判断により共にゴア・マガラを討伐したウィッチ達は、ハンター達から塔…スカイタワーが次元を歪めて別の世界を繋げてしまう存在であることを知る。

 これ以上人類の脅威となる存在を増やさないため、ウィッチ達はハンターと協力してスカイタワーの暴走を止めることとなる。

 

 

「…それにしても驚いたわ。この世界に、同郷の人間が居たなんてね」

「まあ、貴女のように転移した訳じゃなく向こうで死んでこの世界に生まれ変わったんですがね。…にしてもアメリカ軍の大尉殿が異世界転生なんて概念を知ってたとは驚きましたよ」

「…私の知り合いにジャパンのネット小説が好きな奴がいるのよ。仕事は出来るんだけど、一度話を振ると暴走機関車みたいに喋りまくるから困ったものだったわ。…けれど、こんなことならもう少し仲良くしても良かったかもね。貴方がやっていたっていうゲームも好きだったみたいだし」

「いやまあ、初っ端からディアブロスとカチ会えば誰だってビビりますって。オマケにネルスキュラまで…奴らがこっちに来なくて良かったですよ」

 

 ひょんなことからアルテミスがかつて自分が生きていた世界の住人であることを知った昴。形は違えど別の世界に生きる同郷の人間として話は弾む。

 

 

「…スバルが、別の世界から来た人間…!?」

 

 そんな2人の様子に言い知れぬ危機感を憶えたエーリカは、盗み聞きの中でその事実を知り、激しく動揺する。

 

 

『キュィィィィッ!!』

「なッ…!?あ、アレは…『アトラル・カ』だとッ!!」

「アトラル・カ?…ヤバい奴なの?」

「ヤバいなんてもんじゃない…総員、一刻も早く奴を倒すんだッ!!この世界でアレを放っておけば、とんでもないことになるッ!!」

 

 航空戦力、その上ハンター達にとって伝説の存在である古龍を味方につけたことで次々と現れる番人モンスターを蹴散らしながらスカイタワーへと迫るウィッチ・ハンター連合。

 そんな彼らの前に最後に立ち塞がったのは、最強の甲虫種モンスターにして、古龍すら超える人類の脅威と呼ばれた怪物…アトラル・カであった。当初こそ昴の剣幕に押されて全力モードのハンター達に逃げ惑っていたアトラル・カであったが、その最中にアフリカ中に自身の吐き出す絲を撒き散らしていたことに気づいたときには…既に遅かった。

 

 

「な、なななな…なんじゃコリャ~ッ!!?」

「で、デケぇ…戦車や軍艦、ストライカーユニットまで全部巻き込んで…!?」

「糞ッ、止められなかったか…!これが奴の切り札…墟城形態、アトラル・ネセトだ!」

 アフリカ中に点在するネウロイによって破壊された兵器を悉く取り込み、巨大な動く要塞を作り上げたアトラル・カ。近代兵器を取り込んだアトラル・ネセトは昴が知るそれを遙かに超える戦闘能力を有しており、精鋭揃いのウィッチ・ハンター連合を瞬く間に追い詰めていく。

 

 彼らは生き残ることが出来るのか。アルテミス達は元の世界に戻ることが出来るのか。

 

 

 …そして、昴が選ぶのは『どの世界』なのか。

 

 

「…あっちに行く、なんて言わないよね。スバル…?」

「エーリカ…」

「ヤだよ…行っちゃヤだよ!!一緒にこの世界で生きようよ!私は、スバルが…」

 

 

 

 

天翔ける凶星と黒い悪魔 異聞伝~コンタクト・アナザーワールド~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よ、やっと来おったな!こんなに早く再会することになるとは思わなかったで」

「…アンタ誰?」

「神やで」

「は?」

「ウ チ が 神 や で!」

 

 

 

 

 

 




最後に出てきた奴については今は深い意味はありません。無印編の終わりにちょこっとだけ意味が分かるかもです。…因みに自称神はCV琴葉茜です。想像しやすいやろ?


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扶桑男児、秘めたる思い

…お久しぶりです。言い訳になってしまいますが、リアルの方でちょっと色々心が病みかけになってしまいまして小説を書くモチベーションがダダ下がってしまってました。
なんとか多少は持ち直せたのでどうにか書き上げましたが、正直自信ない…後で後半部分書き直したりするかもです

お詫び代わりにおまけネタも載っけてみたので良ければ見てって下さい。ではどうぞ

…発進しますの続きもルミナスも延期でストパン界隈が静かなのが残念。早くライズでアマツマガツチとグラン・ミラオス実装されないかな~…


 オストガロア・Pと飛行船型ネウロイを撃破してから数時間後、各々の疲労と支えられたままの坂本への負担を考慮した故にかなりゆっくりと飛行したため、日が暮れる間際になって皆はようやく基地に帰還した。

 

「お帰りなさい皆さん!お疲れ様でした!」

 出撃してから律儀に滑走路で待機し続けていた土方が敬礼を以て皆を出迎える。…しかし、何時になく疲弊しきった様相のウィッチたちとその中でより一層元気のない上にストライカーに乗っていない坂本を見て目を見開く。

 

「…み、皆さんどうなさったのですか?それに坂本少佐のストライカーは…」

「…土方、か。出迎えご苦労だった…な、基地の中で待っていれば良かっただろうに…」

「いえ…皆さんがネウロイと戦っているのにのうのうとしていることは出来ませんので。それよりも、一体何が…?」

「…土方さんには悪いが、その話は後にさせてくれ。今は休息が必要だ…中佐、俺はまだ体力的に余裕なんで報告書の準備と今日の夜間哨戒は任せてください。皆はひとまず休んでくれ…じゃないと明日が持ちそうになさそうだぞ」

「そうね…申し訳ないけれど、お願いするわ。報告書は今回のネウロイの要点だけ纏めてくれたら、起きてから私が仕上げるわ。…それと、分かっていると思うけれど」

「心得てます。…奴のことはまだ内密にしておきますね」

「ふぁぁ…んじゃスバルー、後はヨロシク~…」

「御免なさい岩城さん…哨戒任務、頑張って下さい」

「…そういうわけだ。済まんが土方…今日はお前も休んで良いぞ。私は…今日はもう、何も考えられそうにない…」

「は、はい…」

 状況を飲み込めない土方を余所に、ウィッチ達は格納庫でストライカーから降りると揃っておぼつかない足取りで自室へと戻っていった。

 

「…あんな皆さん、初めて見ました。今までどんなネウロイとの戦いの後であっても整然としていらっしゃったのに…」

「今回はちょっと色々あってな…。いくら軍人とはいえ、あの年頃の女の子にはキツかっただろうよ」

「一体何があったというのですか?」

「ん…まあ、土方さんには知っておいて貰った方がいいわな。実は…」

 

 

 武器の整備や報告書の用意を整備班に混ざって行いながら、昴は土方に先ほどの戦いの一部始終を説明した。

 

「…そんなことが。超大型のネウロイに加えて、古代の怪物がネウロイと融合して襲って来ていたとは…」

「少佐のおかげでなんとか倒せたんだがな。…でもその後、カールスラント組がオストガロアを倒せたからカールスラント解放に近づいたって喜んでてなぁ…。正直気は進まなかったんだが、ぬか喜びさせたままの方が後でキツいと思って教えちゃったんだよ。『さっき倒したオストガロアは、10本ある脚の内の一本分でしかない』…って」

「それは…なんと言って良いか。皆さんの心中、お察しします…」

 昴からオストガロアの全容を知らされたウィッチ達のショックは想像以上に大きかった。全滅寸前にまで追い込まれ、坂本が文字通り死力を尽くして倒した相手が、人間に例えれば指一本程度の力でしかなったという事実。それは欧州解放という最終目的を遙か遠くへと追いやってしまうことであり、かろうじて残っていた気力を吹き飛ばすに足るものであった。

 そんな訳で現在、ストライクウィッチーズは精根尽き果てた状態で揃って泥のように眠りこけていた。普段は好き勝手遊んだ挙句その場で寝ているため自室で寝ることの方が珍しいルッキーニが、シャーリーと一緒になってベッドに潜り込んで寝ている程である。ここ最近寝床にされているロッキーはルッキーニが来ないことを不思議に思いながら代わりにやって来たミルシィと寝ている。

 

「…ですが、納得しました。坂本少佐があれほどまでに憔悴しているのも、それほどの強敵を打ち倒されたからなのですね」

「ああ。…少佐の無茶がなかったら俺らも無事じゃ済まなかったかもしれないな。だからって何度もやって貰っちゃ困るものではあるんだけどな」

「龍気活性…と言いましたか。そんなものになって、少佐は本当に大丈夫なのですか?少佐への負担がかなり大きいと聞きましたが」

「どっちかって言うと獰猛化に近いんだけどな。…どちらにしろ、代償ありきの自己強化だ。短時間の使用なら負担も最小限で済むが、だからってなんともない訳じゃない。消えかけの蝋燭みたいなもんだ。ほんの一時激しく燃えて…いつ消えてしまうかも分からない、そんな博打みたいな力なんだよ」

「そう、なのですか…」

 手を動かしつつも見る間に曇っていった土方の様子に、昴は居たたまれなくなって声色を上げて切り替えようと続ける。

 

「ま、まぁよ!ミーナ中佐から使用禁止令が出たし、もう二度と少佐が龍気活性を使うことはないと思うぜ。そもそも今回みたいなのはイレギュラー中のイレギュラーだから、もう使う必要なんて…」

「…自分は、そうは思いません」

「ん?」

「断言してもいい。…少佐は何かしらの理由があれば、必ず再び龍気活性を使うでしょう。例えミーナ中佐に裁かれることになったとしても…」

「…なんでそう言い切れる?」

「…少佐は、強い方です。扶桑から遠く離れたこの欧州でずっと戦い続け、数多くの戦果を挙げてきました。ですが少佐は、それをひけらかすようなことはしません。それは少佐がその手のものに拘らないのもありますが…それ以上に、共に戦う仲間を守れたという事実の方が少佐にとっては大切なのです。故に、もし宮藤さんたちが危険に晒されるようなことがあれば、少佐は迷わず龍気活性を使うでしょう。…その果てに何があったとしても」

 神妙な面持ちでそう話す土方に、昴は坂本の想いの一端を垣間見たように感じた。坂本は一緒に戦う仲間に…とりわけ自身が連れてきた宮藤に対して強い責任を感じており、それを守ることを誇りとしている。それが坂本が師である北郷章香から受け継ぎ、今の彼女のウィッチとしての根幹を成しているのである。

 

 

 静かに話を聞いていた昴に、土方は僅かに逡巡した後に意を決してずっと心の奥底に仕舞っていた事を話し出した。

 

「…岩城さん、この際ですので言わせて下さい。正直な所、私は…貴方のことを受け入れられていませんでした。もし自分の態度に不快な思いをされていたのなら、それは気のせいではありません。申し訳ありません」

「ん…やっぱそうだったか。なんとなく余所余所しいからそんな気はしてたんだ。別にそのことは気にしちゃいないが…態々話したって事は、理由を教えてくれるのか?」

「…はい。今更言うまでもありませんが、我々軍人の多くは志願兵…己の意思で戦うことを選んだ者です。私もいざとなれば刺し違えてでもネウロイと戦う覚悟は出来ています。…ですが、実際に最前線でネウロイと戦うのはウィッチの皆さんばかりです。それは激戦区であればあるほど顕著なものとなり、魔法力のない男性兵の多くはウィッチのサポートに回ることが殆どとなります。…ウィッチとそうでないものにどれほどの力の差があるのか等ということは重々理解しては居ますが、ウィッチと共に戦うことが出来ないもどかしさは…私には痛いほど分かります。もし少佐の受ける代償をほんの少しでも肩代わりできるのなら、私はいくらでもこの命を懸けましょう」

「…!」

 ふと見渡せば、こっそり聞いていたのであろう整備兵達の多くが同じ思いだと言わんばかりの目を向けていた。彼らもその優秀さを買われてこ501の基地へと編成されたエリート揃いなのだが、それ故に…下手をすれば自分の娘と同じくらいの少女達に人類と自分たちの命運を託さなくてはならない現実に密かに苦悩していた。

 

「そんな折に…貴方のことを少佐から聞きました。男性でありながら魔法力を持ち、民間人であるにも関わらず戦場で多くのネウロイを屠ってきたという扶桑人のウィザード。…それを知ったとき、私はこの胸の奥に嫉妬の感情を抑えることが出来ませんでした。戦いたいと願った私たちではなく、何故民間人の貴方に戦う力が与えられたのかと。戦う必要のない貴方が少佐と共に戦場に赴き、軍人である私は何故安全な場所で待つしか出来ないのか…と。その思いが、本来歓迎すべき貴方という存在を…認めきれずにいた。なんということはありません…私の矮小な心の弱さが原因だっただけなのです」

「土方さん…」

 昴は、土方の吐露した内心に複雑な感情を抱いた。今まで昴は、ここが『ネウロイという侵略者と戦う世界』なのだということを知っており、バルファルクという絶大な力を得たことで自分と同じ思いをする人々がいなくなる為に戦ってきた。極論ではあるが、『それが出来るからやった』だけであった。

 だが土方と周りの皆が抱いていた思いを知り、魔法力がないために…男であるが故に『そうしたくても出来ない』人間がどれほど多く、どれほど苦悩しているのかということに想いを馳せ、自分の戦う理由が酷くちっぽけなように感じてしまったのだ。

 

 

「…なんか、軽い気持ちで接しちまって済まん。皆がそんな想いをしていたなんて思わず、俺は同性だからって気楽に仲良くなろうなんて思ってまってよ…」

「謝らないで下さい、岩城さん。貴方は何も悪くない、貴方が本気でネウロイと戦っていることは理解しています。…ですが、その上で…勝手な物言いかもしれませんが言わせて下さい。貴方は私…俺達の、いいや世界中の男性兵にとっての希望なんだ!ウィッチと共に戦場に立ち、彼女たちを守ることが出来るのは貴方だけなんだ!俺達の代わりになんて言わない、だけど…貴方の背中には、貴方が思っている以上に多くの人々の想いが託されていることを、憶えていて欲しい。それが…それだけが、俺が少佐にして差し上げられる、唯一のことなんだ…ッ!」

 

 その言葉は、土方の紛れもない本心の叫びであった。坂本美緒という扶桑が誇る英雄に誰よりも近く居ながら、彼女の戦いになんの助力も出来ない自分の無力さを昴に押しつけてしまう悔しさ。それを秘めることなく恥を忍んで誠実にぶつけることが、土方の誠意の証明であった。

 そんな魂の叫びに、昴はしばしの沈黙の後に口を開く。

 

 

「…俺はバルファルクを…古龍を宿したドラゴン・ウィザードだ。俺自身は人間である以上、人間を守るために戦うという意思と覚悟はある。不本意な命令をされたとしても、人命が懸かっているのなら従うさ」

「…?」

「だが…俺たちの使い魔は、古龍は違う。古龍はただの生物ではなく、この星に於ける生態系の頂点…自然現象や災害そのものを司る自然の意思のような存在だ。普通の使い魔はウィッチとの絆によって契約しているからウィッチの意思に従順だが、古龍がネウロイとの戦いに協力してくれるのは奴らが『地球を脅かす侵略者』であるからに過ぎない。勿論俺の意思はある程度尊重してくれるが、古龍が守るのはあくまで『地球』であって『人間』ではない。…故に、俺達は人間の都合のためには戦わない。俺が正式に軍に所属しないのはそういう理由もあってのことなんだよ」

「…それはつまり、状況次第では戦わない…ということですか?」

「そうだ。仮に…有って欲しくはないことだが、何らかの理由で人間同士で争うことを強いられた時、軍人である皆はどんなに嫌でもその命令に従わざるを得ないだろう。だが、俺はどちらにも肩入れするつもりはない。俺が戦うのはネウロイだけだ、人間同士の争いにドラゴン・ウィッチの力を持ち込むつもりはない」

「…何故、そんなことを話すのです?」

「これが俺なりの…アンタ達の『覚悟』に対する答えだ。俺は俺に与えられた力の責任として、そのルールだけはどんな時であっても遵守させてもらう。だから『軍人』としての彼女たちの戦いの全てに関わることは出来ない。…だが、『人類』としての、この星を守るための戦いに於いてならば、この命が尽きるまで皆と共に戦い、力になることを誓おう。彼女たちの勝利を信じる、アンタ達の願いと期待に応えるためにな」

 力強い眼差しを向け、昴は土方に…そして周りの整備兵達に宣言する。それが昴にとっての、彼らの誠意に対する最大限の答えであると。土方は一瞬面食らったような顔になり、やがてその意図を理解すると薄く笑みを浮かべる。

 

「…その言葉が聞けて、何よりです。それだけで、私はここに来て良かったと心底から思います。こうして言葉を交わさなければ、私は貴方によからぬ誤解を抱いたままだったかもしれません」

「それは俺も同じさ。…アンタが本音を話してくれたおかげで、俺は俺の戦いに意味を得ることが出来た。こいつが有る限り、俺は何度だって翔べる。ネウロイどもがこの星を諦めるまで、俺が奴らにとっての『凶星』で有り続けてやるよ」

「ええ。…私にも何か力になることがあればいいのですが」

「んー…なら、ひとつ頼みがあるんだが」

「はい?」

「土方さん、士官学校を出てるんだろ?俺は剣には少し憶えがあるんだが近接格闘に関しては俄仕込みも良いところなんでな…その辺り、正規の軍人であるアンタにご指導願いたいんだが…どうかな?」

「…分かりました。私も剣では少佐には遠く及びませんが、柔道と空手には多少自信があります。それで貴方の助けになるのなら、喜んで協力しましょう」

「それは助かる…」

 

「ヘイ、ちょっと待ちなドラゴンボーイ」

 土方が頼みを快諾したのを見計らったかのように、整備兵の中から数人が前に出てくる。人種はバラバラだが、揃って体格が良く隙の無い動きをしていた。普段ストライカーも銃火器も使わない為に殆ど接点の無い整備兵達が絡んできたことに昴は思わずたじろぐ。

 

「へ?お、俺に何か?」

「そういうことなら、俺達にも一枚噛ませてくれ。…俺達もネウロイ共と戦う為に鍛えたはいいが、ウィッチの嬢ちゃん達のサポートしか出来なくて持て余してた所なんだ。俺達の技がお前の助けになるってんなら、その努力も報われるってモンだぜ」

「我がブリタニア発祥のサイレント・キリング…憶えておいて損は無いですよ」

「祖国での戦いでは役に立てなかったが、オラーシャ秘伝の格闘術であるシステマを伝授してやるぞ」

「俺はサンボの元師範代だ。柔道よりも遙かに実践的だからきっと役に立つぜ」

 彼らもまた、ネウロイに故郷や大切なものを奪われ、その無念を晴らすために前線へと志願した兵士達だ。しかし、ウィッチ以外まともにネウロイと戦う術の無い現状に歯噛みしつつもそれを抑えてサポートに徹する他なかった。その想いを自身の鍛え上げた技と共に昴に託せるのなら…人種は違えど、土方と同じ真っ直ぐなその気持ちは昴に確かに伝わっていた。

 

「…ああ、願ってもねえ!こっちからお願いしたいぐらいの申し出だぜ」

「ハッハー!ずいぶん張り切ってるが、途中で音を上げたって容赦しないぞ?」

「はっ…上等ッ!こっちは爺さんと相棒のおかげでスパルタには慣れっこなんだよ。そっちこそ途中でネタ切れして拍子抜けさせないでくれよ?」

 やる気満々で軽口を叩き合う整備兵達と昴に、ノリ遅れた土方は一瞬キョトンとするが…やがて噴き出すように笑い、次の瞬間には坂本を彷彿とさせる鋭い表情となって檄を飛ばす。

 

「ふっ…ならば岩城隊員!これより我々が貴様の師範となる!自分で望んだ以上、投げ出すことは許されない!最後まで着いてこいッ!!」

「…ハッ!望むところであります、土方二等兵殿!」

 土方の檄に敬礼を以て応える昴。

 

 そうして男達はそそくさと残った仕事を片付けると、ウィッチ達を起こさぬよう静かに…しかし迸る気合いを抑えきれない様子で基地近くの森の中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 …翌朝、疲労のために朝食の支度に遅れてしまった宮藤が大急ぎで食堂へと駆けつけると、グランマたちに混ざって準備をしていた顔面の腫れ上がった昴に思わず大声を上げてしまった。その声に驚いて次々に目を覚ましたウィッチ達も昴の現状に驚き問いただすが…

 

「あ~…これはその、何というか…可愛がり、ごっちゃんです!…的な?」

 と、答える昴に首を傾げるばかりであった。

 

 

 その後、任務を終えて扶桑に帰還する土方を見送りに出たのだが、昴だけで無く土方や集まった整備兵達も揃って顔や身体に瘤や痣をこしらえており、殴り合いの喧嘩でもしたのかと思えばそんな雰囲気も無くそれどころか互いの傷を誇りあうような様子に、ウィッチ達はますます訝しむしか無かった。

 

「…では、後のことは頼んだぞ。昴」

「おう。そっちも頑張れよ、圭助」

 坂本に別れの挨拶を済ませた後、いつの間にか名前で呼び合うようになって固い握手を交わす2人。自分たちの寝ている間に何があったのか…それはその様子から何かを察した坂本を除いて、ウィッチ達には知る由の無いことである。

 

 こうして土方圭助は、来た時よりもずっと晴れやかな気持ちで扶桑へと帰っていった。友へと託した、ウィッチ達への希望を信じて。




公式も二次創作も土方があんまり掘り下げられてないので今作では男の友情枠としてちょっと出張ってくるかもです。…ぶっちゃけクソ真面目以外のキャラが分からんから殆ど創作ですけど

ではまた次回。そろそろ本筋を大幅に進めて行く予定です。ガリア編が終わってからが本番なので


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負けたくないから

…ご無沙汰してました。私のこと憶えてますでしょうか…?
プライベートで色々悩みやトラブルがあってしばらく筆を執る気にならなかったのですが、ちまちま描き続けてどうにか仕上がったので投稿します

今後も他の作品含め更新速度は酷いことになるかもですが、全部少しずつ続きを書いているのでどうか思い出したときに見てくれると嬉しいです

ではどうぞ


 昴が501の元で世話になり始めて数ヶ月が経った。最初こそ女所帯で唯一の男性ということで色々と問題や苦労もあったが、慣れてくると朝は宮藤やバルクホルンらと共にグランマたちの朝食作りの手伝い、昼は今までミーナが担当していた基地の会計業務を手伝ったりルッキーニと一緒にロッキーの散歩に出たり、時折エーリカやシャーリーとトランプなどに興じ。夜は夕食を摂ったら早めに就寝し、エイラとサーニャの出迎えも兼ねた日課の早朝パトロールに備える…と、ネウロイと戦うこと以外は穏やかな日々を過ごしていた。

 それまでの根無し草な日々が性に合っていると思っていた昴であったが、こうした安定した日々をどこか懐かしいように思えてしまったことで自分はつくづく性根の部分は現代人…この時代からすれば未来人だな、と感じてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「…!緊急発進(スクランブル)だ!ちょっと行ってきます!」

「え、ちょ…岩城君!?」

 …とはいえ、そんな呑気な気持ちの昴に知ったことでは無いとばかりに彼の内に居るバルファルクは新たなネウロイの存在を知らせてくる。バルファルクは契約したことで昴の事情を知っており、昴がずっと自分に憧れていたことは理解しているし、バルファルクも昴のことを只の契約者以上には認めている。だから基本的に昴が自身の力を自由に使うことも認めている。

 だが、それ以上にバルファルクにとってネウロイは決して赦してはならない殲滅対象なのだ。古龍…かつてのこの星の支配者の一角として、星を穢すネウロイをのさばらせておくことなど有ってはならないのである。

 

 

 

 

 

 

「こいつで…ラストぉッ!」

 

ズガンッ!

パキィィンッ…!

 

 501基地のあるブリタニアから直線距離にして約2000㎞離れたオラーシャ帝国辺境の空。仲間が全滅し逃げ惑うネウロイの横っ面に振り子の如く叩きつけた翼脚の先端がコアを捉え、最後の一体が砕け散ったことで再び空に静寂が戻った。…昴がやってくるまでネウロイと交戦していたウィッチの乗るボロボロのストライカーの駆動音を除いて。

 

「…いやぁ、一応女として生まれたからには白馬に乗った王子様が迎えに来る…なんてロマンを夢見たことが無い訳じゃないんだけどね。まさか白馬どころか流れ星に乗って来た王子様なんてのはちょっと予想外だったかなぁ」

「そんだけやられてよくそんな軽口が言えますね…噂に聞いた通りですね、クルピンスキー大尉殿」

 

 シールドすらロクに張れない程に疲弊していながらも軽薄な笑みを浮かべながら冗談を言う彼女の名は『ヴァルトルート・クルピンスキー』。この一帯を管轄とする502部隊、通称『ブレイブウィッチーズ』に所属するカールスラントの古参ウィッチだ。

 彼女は先ほど倒されたネウロイ群…502の管轄区域内に存在するネウロイの巣から欧州方面へと向かっていたものを追いかけて来たが、編隊行動をとって攪乱してくるネウロイに苦戦し撃墜寸前であった。そこに到着した昴が超音速でネウロイの編隊を掻き乱し、瓦解したところを2人がかりで各個撃破により掃討したのである。

 

「およ?ボクのことを知っているのかい?いやあ、名高い凶星クンに知って貰えてるだなんて光栄…」

「ああ…俺、今ミーナ中佐の501部隊んトコで厄介になってまして。そこに居る貴女のお知り合いの方々から色々聞いてますよ。…主に碌でもない方面についてですが」

「…あちゃ~、そりゃ残念」

「全く、貴女には俺も色々と言いたいことがあるんですよ。よくも8年前までは『まだマシ』だったエーリカを『あんなん』にしてくれましたね…」

「いやいや、ボクはな~んにもしてないよ?文句を言うならボクなんかをお目付役にしたロスマン先生に言ってよね」

 その台詞、バルクホルンやミーナにも言ったんだろうな…と、へらへらと悪びれないクルピンスキーに呆れる昴であったが、ふと先ほどまでの状況が気になって尋ねることにした。

 

「…そういえば、何故貴女一人でこんな所で戦っていたんです?ペテルブルグの基地からは相当離れてますし、哨戒中にしては相方(バディ)の姿が見えないんですが…」

「ああ…実はさっきのネウロイはボクたちが取り逃がしちゃった奴なんだ。少し前にボクと菅野ちゃん、それにニパ君と先生でスオムス方面に向かうネウロイの群れと戦ってたんだけど、群れの一部が急に進路を変えて欧州に向かい始めてね。追いかけようにも菅野ちゃんとニパ君のストライカーも武器も限界だったから、2人を先生に任せて動けるボクだけで追撃をかけたんだ。…けれど、追いかけたはいいけど相手が想像以上に手強くてね。もうダメか…と思ったところに君が来てくれたってワケなのさ」

「…よく行かせてくれましたね。お話に聞いた限りですけど、ロスマン曹長ってその辺りとても厳しい方なんじゃないですか?」

「うん…まあね。最後まで反対されっぱなしで、結局押し切って来ちゃったんだよ。終いには泣きつかれちゃってさぁ…本当、帰ったら謝らないとね」

「そうですね。ちゃんと謝ってきっちり叱られてきて下さいね…死に別れなんてのは、させるモンじゃあないですから」

「…そっか。そういえば君もそうだったね、フラウからそんな話を聞いたよ」

「はい。…そういうことですから、早く帰投して無事を知らせてあげて下さいよ」

「そうだね、それじゃあお言葉に甘えさせて貰うよ。…今回は本当にありがとう、君には感謝しているよ」

「お気になさらず。ネウロイ退治は俺の責務なんで。それじゃ、またいつか」

「ああ、またいつかね」

 

 

 こんな風に、昴は501の傘下に入ったことで正体を隠す必要が無くなりこれまで以上に大手を振って世界中の空を飛び回り、時には他の部隊のウィッチと共にネウロイを駆除して回っていた。そうすることで昴と面識を持ったウィッチから所属する部隊へと情報が渡り、徐々にではあるが凶星の名は畏怖から希望の象徴へと移りゆこうとしていた。

 …尚、立派な脱柵行為なので昴には帰還後に反省文と始末書が待っているが、ネウロイを倒してきたことは後に証明されるので怒るに怒れないミーナのやるせなさは考えないものとする。

 

 その流れはウィッチ…ひいてはマロニー一派を除いた多くの人々にとって良いものではあったが、501に一名、マロニーとは別の方向でそれを面白くないと感じている者が居た。

 

 

 昴とクルピンスキーが邂逅してから数日後…

 

ドバンッ!

「おいハルトマン!いい加減に起きんと準備が…」

 バルクホルンが最早自分のルーティンの一部になりかけているエーリカの起床コールの為に部屋に怒鳴り込むが、扉を開けて間もなく目にしたものに目を丸くする。

 …話は変わるが、501の所属ウィッチはミーナと坂本を除いて原則2名で1部屋を共有しており、エーリカとバルクホルンもルームメイトである。彼女たちはお互いにプライバシーを尊重し、部屋の半分で区切ってお互いのスペースを確保している。

 …が、エーリカはズボラすぎる性格により着替えやおやつから面白半分で拾ってきたもの、果ては勲章に至るまであらゆるものが片付けられること無く山積みとなり、今ではバルクホルンのスペースにまで侵食するほどのゴミ山が形成されてしまっていた。しかも当のエーリカは一切気にせずゴミ山に埋もれて寝ているほどである。なのでバルクホルンの起床コールは、まずエーリカをゴミ山から叩き出す所から始まる…筈だったのだが。

 

「…ん?なに、トゥルーデ?」

 いつもならセミの幼虫の如くゴミ山から這い出てくるエーリカが、今日はとうに目覚めてゴミ山の頂上で枕に顔を突っ伏したままジロリと視線を向ける。

 

「な、なんだ…起きていたのか。珍しいこともあるものだ、お前が他人に起こされる前に起きているだなんて入隊以来じゃないか?」

「あー…そだね」

「…?どうしたんだお前、妙に淡泊…というか不機嫌そうだが。具合でも悪いのか?」

 揶揄うつもりで言った筈が反応を示さないエーリカの様子にバルクホルンは眉を顰める。

 

「そんなんじゃないけどさ…私にも色々考えることがあるんだよ」

「悩みでもあるのか?相談くらい乗るぞ」

「別に、トゥルーデに話すようなことじゃないし…」

「まあ、そう言うな。お前がそんな調子ではこっちまで気が滅入ってしまうからな。…それに、今日はお前のネウロイ250機撃墜を記念した柏葉剣付騎士鉄十字勲章の受勲式があるんだ。そんな腑抜けた顔で式典に出るわけにはいかんだろう?」

「…250、ねぇ」

「…どうしたハルトマン?」

 無反応のままだったエーリカであったが、バルクホルンの『250』という数字に僅かに反応すると、しばし黙り込んだ後に溜息を吐きながら話し始める。

 

「…昨日さ、502の伯爵から電話があったんだよね」

「伯爵…ああ、クルピンスキーの奴か。アイツの方から連絡してくるなど珍しいな。一体なんだったんだ?」

「この間さ、昴が執務室からかっ飛んでったことがあったでしょ。その時にペテルブルグの近くまで行ったみたいで、ネウロイにやられそうになったのを助けて貰ったから改めてお礼言っておいて欲しいってさ」

「そんなことがあったのか…。だが、それで何故お前が不機嫌になる?クルピンスキーは無事だったんだから良かったじゃないか」

「それはそうなんだけどさぁ…もういいよ。トゥルーデじゃ分かんないだろうし」

「な…なんなんだ一体。…まあいい、それより早く着替えて来い。朝食を食べ終えたら11:00(ヒトヒトマルマル)に簡易式典を始めるとのことだ。それまでにその顔を少しはまともにしてこい」

「ほいほーい…」

 怪訝そうな顔をしながら部屋を後にするバルクホルン。実際、彼女には今のエーリカの気持ちは分からないであろう。バルクホルンはウィッチとして遙かに長いキャリアを持ち、既にエーリカに先駆けてネウロイ250機撃墜を記録し、その実力は精鋭揃いのカールスラント軍でも三指の内に入るほどだ。だが、彼女はそんな自身の戦績を気にしたことは無く、記録よりも確実な作戦の成功を優先するタイプである。

 …故に彼女には分からない。エーリカがこの度自身が記録した『250機』という数と、自己申告ではあるが昴がこれまでに撃破したであろう『ネウロイ2万機』という数を比べ、自分が遙かにおいて行かれているのではないか…という焦燥感に駆られていることなど。

 

「…そりゃあさ、分かってるんだよ。今の私よりスバルの方が強いってのはさ。でも…でもさ、折角また会えたのにいつの間にかずっと遠くに居るなんて、なんか…ズルいじゃんか」

 昴の持つドラゴン・ウィッチの力に嫉妬しているというわけでは無いが、自分の知らないところで昴が自分を追い越してしまったという事実がエーリカには気に入らなかった。昴の中で自分たちと過ごした時間よりも、昴が強くなっていった時間の方が大きくなっているのではないか…かといって確かめようにもそんな子供染みたことを聞けるはずも無い。エーリカにとって昴は追いかけるものではなく、隣り合って笑い合う『悪友』なのだから。

 

「…あーもーッ!ムシャクシャする!こんなの私らしくないって、はいはいもう止め!朝ご飯食べに行こ!えーっとズボンズボン……あれ、ズボン何処だっけ?ズボン~…」

 

 

 

 

『……?』

 基地の外れで惰眠を貪っていたロッキーがふと背中に何かが乗ったような感覚を憶え、またルッキーニが来たかと半眼で背中に視線を向けるが、重みを感じるその背には誰も乗っていなかった。そうしている間に、背中の重みはふわりと消えるように消失する。

 

『……zzz』

 疑問に首を傾げるが思考よりも眠気の方が勝り、ロッキーは本能のまま再び眠りに就いた。

 

 

 

 その日、日の出と共に消えるブリタニア名物の朝靄が、日が完全に昇っても残り続けた。…501の基地の周辺を包み込むようにして、不自然に。

 

 

 

 厨房では早朝巡回から戻ってきた昴がアイルー達と一緒に朝食の準備をしていた。

 

「…前から聞きたかったニャルけど、なんでこの基地にはジャガイモとキャベツだけこんなにたくさんあるニャルか?」

「そりゃこの基地の代表がカールスラントきってのエリートのミーナ中佐で、同国のトップエースが2人も在籍してるからじゃないのか?異国で戦うエースにせめてもの心づけってやつだろ」

「にしたって年頃の嬢ちゃんたちに芋とキャベツだけじゃあなぁ…。宮藤の嬢ちゃんが来るまでよくこれで満足出来てたもんだぜ…ニャ」

「カールスラントはワインもチーズも実にボーノですのに勿体ないですニャ」

「こら、貴方たち。折角送って下さったものに文句を言うんじゃ有りませんニャ。どんな食材であろうと丹精込めて美味しくするのが料理人の勤め…そう教えた筈よ?」

『ご、ごめんニャさいお母ちゃん!』

 グランマの檄が飛ぶ中、良い匂いに釣られたシャーリーとその様子に眉を顰めるバルクホルンが食堂に入ってくる。少し遅れて朝練組の坂本、宮藤、ペリーヌ、最後にやっと身支度の済んだらしいエーリカが入ってきたのだが…

 

「おはよう少佐、みやふ……どうしたんだ宮藤、ペリーヌ?」

 首を傾げるバルクホルンの視線の先には、何故か服の裾をがっしりと押さえ込んだままよたよたと歩く宮藤とペリーヌ。そして何故か宮藤のズボンを手に持った坂本がいた。…ちなみにエーリカはというと呑気に鼻歌を歌いながら朝食のポテトパイに手を伸ばしている。

 

「あ…お、おはようございますバルクホルンさん…。これはその…」

「ち、違うんですのよ!これは誤解であって、決して私にそんな趣味があるわけでは…ちょ、こっちを見ないで下さいまし岩城さんッ!」

「…どうしたんですか少佐?何か訳ありみたいですが…」

「ああ…皆、少し聞いてくれ。どうやら事件のようだ」

「?」

 

 

 

「…ペリーヌのズボンが無くなった!?」

「ああ。朝練を終えて風呂に入っていたんだが、着替えようとした所忽然と無くなっていたらしくてな…それで代わりにと宮藤のズボンを拝借しようとした所を御用になったということだ」

「ううう…申し訳ございません少佐、ほんの出来心だったんですの…」

「ペリーヌさん、ズボン取られたの私なんだけど…それより、返して貰ってもいいですかぁ…?」

「いや、済まんがこれは証拠物件として確保させて貰う。…とはいえ、岩城もいる以上何も着ていないというのはマズイだろう。何か代わりに着るものがあればいいのだが…」

「あらあら、それは大変ねぇ。宮藤ちゃん、これで良ければ着て頂戴」

 セーラー服の下に何も着ていないが為もじもじと身じろぎもままならない宮藤に、グランマがボロの継ぎ接ぎで出来たセーターを差し出した。

 

「あ、ありがとうございます!…でもこれどうしたんですか?」

「ウチの子たちの冬用の重ね着なのよ。普通のアイルーサイズじゃ小さいけれど、シェフちゃんが着れるくらいのなら大丈夫だと思うのだけど」

「よいしょっと…あ、大丈夫です!丈はともかく、裾とかはブカブカですけど…」

「ミィ、芳佳さんはちょっと痩せすぎですからニャ。もっとチーズを食べて精をつけないと強くなれませんニャ」

「お前はちょっと太りすぎだ。…宮藤はそれでいいとして、ペリーヌはどうするか…」

「どうするもこうするもありませんわ!こうなったら私のズボンを盗んだ犯人を見つけるまでベルト一丁で我慢してやりますわよッ!」

「どうどうペリーヌ、落ち着け。盗んだ犯人とは言うが、まだ盗まれたとは限らんだろう?」

 血気盛んなペリーヌを皆が宥め、エーリカは一人我関せずといった態度で食後のコーヒーへと移ろうとしている。

 

 

『…!』

 そんな喧噪が広がる食堂に、誰にも気づかれること無く何者かが忍び込む。それと共に、湯気に混じって食堂に漂う靄がより一層濃いものとなっていく。

 

「そんな物騒なこと言うなよなペリーヌ。見落としてどっかに紛れ込んでるだけかもしれないだろ?今日は朝からやけに視界が……って、なんかマジで変な感じになってないか?」

 ペリーヌの気を逸らそうと周りに目を向けたシャーリーが最初に周囲の異変に気がついた。

 

「確かに…妙に煙たい?…のか?おい、なにか焦がしたりしていないか?」

「いや、もう火は殆ど消してあるから煙も湯気もたいしたことない筈…ニャ」

「湯気でも煙でも無い…?ならばこの靄のようなものはなんなんだ?朝靄にしてはおかしいような…」

 

 と、そこに

 

「…あれ~?何処行ったんだろ?ちょっと目を離したら無くなっちゃった…」

 どこかぎこちない歩き方をしながらルッキーニがキョロキョロと食堂に入ってくる。

 

「ん?ようルッキーニ、遅かったじゃんか。今まで寝てたのか?」

「え?ルッキーニちゃん、さっきまで私たちと一緒にお風呂入ってたよね?先に上がったからご飯食べに行ったのかと思ってたけど…二度寝してたの?」

「んーん。私今までずっと追いかけっこしてたんだよ」

「追いかけっこ?何と?」

 

「ペリーヌのズボン」

 

「…何?」

「ルッキーニ、今なんと言った…?」

「だから~、ペリーヌのズボンを追いかけてたって…」

 

パリィッ…!

 そこまで言いかけたところで、ルッキーニの直ぐ傍を小さな稲妻が迸った。

 

「ひぃッ!?」

「…ルッキーニさん、貴女が犯人でしたのね。悪びれもせず堂々と名乗り出るとは良い度胸でしてよ…!」

 思わず蹈鞴を踏むルッキーニの視線の先には、彼女の怒りによるものか、それとも固有魔法による帯電なのか、まさに怒髪天を衝くといった様子のペリーヌがゆっくりと歩み寄ってくる。

 

「うぇぇぇ!?な、何?どったのペリーヌ!?私まだ何も悪いことしてないよ?」

「今更しらばっくれたって遅くてよ…!たった今貴女が仰ったじゃありませんの。私のズボンを持って行ったと…」

「え?あ…ち、違うって!私が持ってったんじゃ無くて、ズボンがどっか行っちゃうのを追いかけてたの!」

「どっか行っちゃうって…他にペリーヌのズボンを盗んだ奴がいるってのか?」

「それは…なんていうか、そうかもしれないけどそうじゃなくて…」

「…話が読めんな。ルッキーニ、何があったのかをきちんと説明しろ」

 いきり立つペリーヌを抑える坂本に促され、ルッキーニは辿々しく経緯を語り出す。

 

「えっとね…少佐と芳佳とペリーヌと一緒にお風呂入った後、私だけ先に上がって着替えようとしたら、何故か私のズボンが無くなってて…」

「え、ルッキーニちゃんのズボンも無くなったの?」

「うん。それでね、ズボンが無いとスースーして変な感じだったから…その、たまたま目についたペリーヌのズボンを借りようとしたんだけど…」

「やっぱり貴女なんじゃないですのッ!」

「だから違うんだって!あのね、ちょっと悪いと思いながらズボンを取ろうとしたら…いきなりズボンが何も無いのにふわ~…って浮き上がったんだよ!」

「…ズボンが?独りでに浮き上がったとでもいうのか?」

「いや~…流石にそれはないでしょ」

「ホントなんだって!それでね、私もびっくりして手が止まっちゃってたら、ズボンが天井くらいにまで浮き上がって、そのまま外に飛んでっちゃったんだよ!それで今までずっとズボンを追いかけてて…ついこの辺りまで来て見失っちゃったの…」

「何を言い出すのかと思えば…言い訳ならもっと現実的なことを考えなさい。ズボンが勝手に飛んでいくわけがありませんでしょうに」

 ルッキーニの言い分を当然ながら皆は半信半疑…というより九分九厘信じれなかったが、昴はその内容に何かが引っかかり思案していた。

 

「…ズボンが、というより…物が独りでに浮かぶ…?何者かの固有魔法…にしては態々ペリーヌのズボンを狙う意味が分からない。そもそも侵入者がいるならロッキーやアイルー達が気づくはず…それに、今朝からのこの深い霧…靄…?何か、何か思い出しそうな…」

「スバル?何ぶつぶつ言ってんの?」

「おいルッキーニ、白状するなら早い内が賢明だぞ。あんまりしつこいと誰も庇ってくれなくなるぞ」

「本当なんだってばぁ!私の目の前で、ペリーヌのズボンがあんな風にふわ~って…ふわ~…って…」

 と、必死に弁明しようとしたルッキーニが突如停止し、あんぐりと口を開けて坂本達の方を指さす。

 

「?ルッキーニ、一体どうした?」

「み…みみ、皆!う、う、う、後ろ!」

「え?」

「その手は食いませんことよ。そう言って逃げようとしたって…」

 ルッキーニから視線を外さないままのペリーヌを含めた皆が示された方向を振り向くと…

 

 

 

 そこには、机の上に置かれていたはずの宮藤のズボンがまるで風船のように宙に浮かび上がっていた。

 

「え…えええええええ~ッ!!?」

「み、宮藤のズボンが…浮いている!?」

「ホラ見てホラッ!私が言ったとおりでしょ!」

「だ、だがッ…一体何がどうなっている!?何故ズボンが何も無い所で勝手に浮かぶのだ!?」

 

「…ッ!まさか、これは…ということは、この靄の原因は…ッ」

 浮かび上がった宮藤のズボンの挙動に、昴は引っかかっていたものに思い至り、即座に行動に移る。脇目も振らずに窓の方へと走ると、次々と窓を開けていく。

 

「岩城!?お前何を…」

「説明は後で!エーリカ、お前の『シュトゥルム』でこの靄を全部外に吹き飛ばしてくれッ!」

「へ?い、良いけど…ちゃんと説明してよね!シュトゥルムーッ!」

 昴の指示に従い、エーリカの発動した固有魔法が生み出す強風が室内の靄を瞬く間に吹き飛ばし、朧気だった視界がクリアになっていく。

 

 

 それと共に、その靄によって隠されていた存在…宮藤のズボンを浮かび上がらせていたものの正体が露わとなる。

 

「…うぇッ!?」

「な、なんだありゃ!?」

 

 皆が見上げた先…浮かび上がる宮藤のズボンの真上の天井に張り付いていたのは、2mを超える巨体を有した蜥蜴のような怪物であった。

 

 その背中には皮膜のある翼があり、尻尾は全身の半分を占めるほどに大きく、それでいて団扇のように平べったくなっており、先端だけが細くなってとぐろを巻いている。

 

 顔つきはまるで天狗の鼻のように長く尖った角を持ち、その目は忙しなくギョロギョロと蠢いている。そして何より、大きく開いた口から伸びた長い長い舌…その先に宮藤のズボンが張り付いていた。

 

「やはりコイツの仕業だったのか…!幻影の古龍、霞龍『オオナズチ』ッ!!」

 昴の言い放ったその名に皆は目を見開く。

 

「こ、古龍だと!?ということは、コイツもお前のバルファルクやあのオストガロアと同じ…」

「ああ…こんな間抜けな面こそしているが、コイツもれっきとした古龍の一体…この世界の中で指折りの力を持った生態系の頂点に立つモンスターだ!」

 宮藤たちは驚きと畏れのの入り交じった表情でオオナズチを見上げる。つい先日、オストガロアの力のほんの一端を相手に死にかけたというのに、それと同類である古龍そのものが目の前にいるのだ。大きさや見た目こそオストガロアほどの威圧感は無いが、その時の恐怖が思わず身を竦ませてしまう。

 

 そんなウィッチ達を眼下に、オオナズチは舌を巻き取って宮藤のズボンを口の中へとしまい込んだ。

 

「あ…わ、私のズボンが食べられちゃった!?」

「な、なんでズボン食べたの!?そういう趣味なの!?」

「おのれ…!よくも宮藤のズボンをッ!」

「このッ…私のズボンも返しなさいッ!雷撃(トネール)!!」

 ペリーヌの怒りの電撃がオオナズチへと放たれるが

 

バサァッ!

バチィィンッ!!

 寸での所でオオナズチは翼を広げてそこを飛び離れ、空振った雷撃が天井の一部を焼き焦がす。オオナズチはそのまま皆の頭上を滑空し、食堂の入り口近くに着地する。

 

「くっ…躱されましたわ…」

「皆、気をつけろ!相手は古龍だ、何をしてくるか分からんぞ!」

「…俺の知る限りでは、オオナズチは強力な毒を使ってくる筈だ。奴の吐き出す毒液に注意してくれ!」

「毒か…そりゃヤバそうだな。シールドで防げるもんならいいけど…」

「先生達は下がって下さい!ここは私たちが…」

「そうね…申し訳ないけど、お願いするわ」

「お母ちゃんたちは私らが守るニャルよ!」

 アイルー達をキッチンの奥に避難させ、皆は魔法力を発動して身構える。それに対しオオナズチはゆっくりと振り返ると口を開け、宮藤とペリーヌのズボンを巻き取った状態の舌を掲げる。

 

「!私のズボン…やはりコイツが犯人でしたのね。…ルッキーニさん、疑って申し訳ありませんでしたわ」

「今はいいって…それより、気をつけて!なにかしてくるよ!」

「宮藤とペリーヌのズボンで何をする気だ…?」

 得体の知れないオオナズチの挙動に、その場の緊張感が益々張り詰める。毒液を警戒し即座にシールドを展開する構えのウィッチ達に、オオナズチが動いた。

 

 

 

 

『…wwwwwww~!』

 …目玉を明後日の方向に動かし、舌先の2人のズボンを見せびらかすように振り回す…人間で言えば、所謂『あっかんべー』のような動きを。

 

 

「………は?」

 張り詰めた緊張が一瞬で解け、呆然とする人間達を尻目にオオナズチは再びズボンを口の中に仕舞うとバタバタと一目散に走り去っていった。

 

 

「………」

 未だに困惑から立ち直れない一同。…その沈黙を破ったのは、ペリーヌの震えるような…しかし底冷えするほどにドスの利いた声であった。

 

「…岩城さん、ちょっとよろしくて…?」

「お、おう…」

「私、生憎古龍という生物のことには全くの無知ですの。ですのでこれはあくまで人間としての私の感性から思ったことなので…もしあのオオナズチとやらにそういう習性があるのでしたら、訂正して頂きたいのですけれど…」

「お、おう…何だよ?」

 

「…今の行動は、私たちのことを馬鹿にしている…と受け取ってよろしいんですの…!」

 

「…うん。まあ…舐めてるんだろうなぁ、文字通りに」

 

 

 

「■■■■■ーーッッ!!」

 

 声にならない怒りの咆哮と共に、特大の雷が落ちた。先ほどルッキーニへと向けていたものが可愛く思える程の怒りに身を震わせたペリーヌは逃げたオオナズチにその矛先を向ける。

 

「上等ですわあの変態トカゲッ!!このペリーヌを、ピエレッテ・アンリエット・クロステルマンを愚弄すると言うのであれば、望み通り黒焼きにして差し上げますわッ!!」

 オオナズチを呪い殺さんばかりの悪態を吐くと、ペリーヌはズボンを履いていないことなど気にも留めず全力でオオナズチを追いかけていった。

 

「…はッ!?お、おい待てペリーヌ!冷静になれ、相手は古龍なんだぞ!」

「ペリーヌさぁん!?」

「あー…もう!まだ食べてる途中だったのに~!」

 無謀な追跡に走ったペリーヌを追って、坂本達も食堂を飛び出していったのだった。

 

 

 

 

 

 

☆以下のクエストを受注しました

 

 

・クエスト名 悪戯古龍に天誅を

・依頼主 怒れる青の一番(ブルー・プルミエ) ペリーヌ

・依頼内容 オオナズチ一頭の狩猟

・狩猟環境 不安定

・報酬 ウィッチのズボン

・とにかく!あいつを!!捕まえてくださいまし!!!




…タイトルからシリアスな内容だと思いましたか?残念、この話は7話ベースだ!

初の古龍との直接対決がこれで大丈夫なのだろうか…?

オオナズチのサイズや行動云々に関してはまた次回で。ではまた


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