エリカのおもてなし(捕食) (〇坊主)
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(1ワ1)

 
 
「しぜんを あいする おじょうさま」その名をエリカ。
男子禁制のタマムシジムに所属するジムリーダー。
対戦を申し込んできた主人公を目の前にして、わずかな間とはいえ居眠りをするほどおっとりしている性格。
これはつまり男性との接点や耐性はあまり無いのではないか?
恋に落ちたら主人公とすごいとっくんをさせれるのではないか?

なのに彼女が出てくる小説が少ない。
ならば書くしかねぇ!

そんな感じで主人公が彼女と出会い、ポケモンが勝手に洗脳誘導してた結果、なんやかんやあって主人公が捕食される小説にしていければなと思ってます。
(ちなみに捕食する描写は)ないです。
 
 


 

 

 豊かな森の幸。

 湖に暮らす水の恵み。

 どこからともなく吹いてくる風が全身を包むようにやさしく肌を撫でた。

 

 日が昇ると同時に目覚め、そして日が沈むと同時に一日を終える。 

 そんな生活を続けていると、時折なんで自分はこの世界に生を受けたのかと考えることがある。

 

 周囲を見渡しても人間は自分一人しかいない。

 時折飛ぶポッポや湖で跳ねるコイキングを視界に入れながら身体を温めるために焚かれた小さな火を水飛沫で消さない様に注意しながら釣りをしていた。

 偶にケースに入れられた2匹のコイキングが弱ってないか確認しつつ釣り針に意識を向けていると、サーナイトとエーフィが近くの散策を終えて近寄ってくる。

 

 釣りをしている自分の頭を撫でるサーナイトと背中に頬を擦り付けるエーフィの行動をくすぐったく思っていると、手元に反応有り。

 手に握られたふつうのつりざおを通して送られてくる振動を頼りに竿を勢いよく引っ張り上げる。釣り針に見事引っかかったコイキングがピチピチと針先で暴れていた。

 

「うっし。今日の食糧調達完了っと」

 

 コイキングを目標数釣り上げたところで作業を終えてつりざおを片付ける。

 忘れ物がないことを確認し、コイキングを入れたケースを見るとエーフィがねんりきを使って器用に持ち上げてこちらを待っていた。

 サーナイトが抱きかかえている箱には木の実が入っており、うろ覚えで作った割には大分長持ちしている。

 

「ありがとう。んじゃ行こうか」

「サナ~」

「フィィー…」

 

 ほうようポケモン サーナイト。ニックネームはセシリア。

 たいようポケモン エーフィ。ニックネームはイゾルデ。

 

 自分の言葉に鳴き声を上げるそんな二匹のポケモンであるが、わざわざ声に出さなくても会話が出来たりする。

 それはエスパータイプであることを活用した会話を出会ったときから始めていたおかげなのか、二匹とも人間がしゃべる言葉の意味を完全に理解しており、念話で話すことが出来るようになっている。

 

 そんなこと可能なのかって?

 アニメでロケット団のニャースが独学で人語を話せるようになってたから可能(暴論)。

 

 ふよふよ浮きながらついてくるサーナイトは兎も角、エーフィの鳴き声から察するにまたそんな魚を食べるのかという目をしていることだろう。

 普段木の実を好んで食べる二匹にとって魚を食べるのはよほどのことがない限りしない。

 更にコイキングは鱗や皮、そして骨が多く食べられる部位は少ない欠点も存在する。

 しかしこの湖でよく釣れてくれる大変貴重なタンパク質なのだ。摂取しないという選択肢は自分には存在しなかった。

 

 ホネまでキレイにして ていねいにみずのなかにおくる

 そうするとポケモンは ふたたびにくたいをつけてもどってくるのだ

 

 詳しくは知らないがこんな文献がシンオウ地方に存在するらしい。

 かつて飢餓の時代を救ったとされるコイキングだけでなく、ポケモンを含めた命の糧に感謝を込めて向き合うことを説いているその文献は後世に残し続けてほしいものだ。

 そしていつかはその文献を実際にこの目で拝んでみたいとも思う。

 自分がいるこの場所がどこなのかは全くわからないけども。

 

「なぁセシリアにイゾルデ。俺たちって一体どこに暮らしてるんだろうな?」 

『フィ~(そんなのわかる訳ないじゃないの)』

『サナ~?(服を着ずに過ごせる程よい気候の場所としかわかりませんよ)』

「だよな~」

 

 呆れたようなエーフィの表情はとても豊かだ。

 名探偵ピカチュウに出演できそうなぐらい豊かな表情をするのでどんなことを考えているのかもわかりやすいので助かるのだが、時折豊かすぎる弊害でイラッとくることも多い。

 しかしエーフィ自身こちらを本気で嫌悪しているわけじゃないことを理解しているので、今では大分流せるようになった。

 

 対するサーナイトは普段から冷静で一歩下がるようについてくるメイド気質がある。

 時折変な行動を取っていることはあるが、基本的に丁寧な対応と口調なので色んな意味で安心できる存在だ。

 頭を撫でるのが好きなのか時間に余裕があるときなどは撫でてくることが多い。

 撫でかえすと嬉しそうに照れるのがカワイイ。

 

「大分身体の方も成長してきたし、そろそろ都市でも集落でもいいから人を探しに遠出するかなぁ。すごく居心地はいいけど一生ここで生きていくのは流石に勿体ない気がする」

『サナサナ~(例え地の果て水の果てでもお供しますよ)』

『フィッフィッフィ~(遠出はいいけど、全裸に慣れてる時点で遠出は厳しいんじゃないの?)』

「流石に服を着て違和感を感じる事は…無いと信じたいな。うん」

 

 ふと呟くと念話で返答してくるがそうなのだ。

 エーフィの指摘通り、今の自分は服を着ていない。全裸なのである。

 

 これには深い訳がある…わけではない。

 ただ何をしようにも汚れてしまうこの大自然の中で、服を着ていても洗う手間と破らない様に気を配る手間を考えた結果、あるがままの姿で生きる事に慣れてしまったのだ。

 服は拠点に使用しているウッドハウスに丁寧に畳んで保管してある。

 ちなみに素足で動き回っている影響で足の皮は前世よりも大分分厚くなり、筋肉の付き具合も我ながら良いものになってきている。

 

 その話は可笑しな点がある?

 何故人が一切おらず、ポケモンしかいない大自然の中で服を持ってるだって?

 それについては知らぬ。

 気づけば近代生活とおさらばし、縮んだ身体がこの土地で目を覚ました時点で現状把握など不可能である。

 ポツンと建っていた現拠点のウッドハウスの中にそれぞれの成長に合わせた服が一式入っていたことで衣服の確保はできた。丁寧に保管しているので、虫食いにあってさえいなければまだ着れるだろう。

 なおなぜ一式入っていたのかは全くの謎。ここに来ている理由も謎。考えるのは止めた。

 

 ハウスの中に衣服はあるのだが、冷蔵庫やコンロと言ったものは存在しなかった。

 なので食料保管用に穴を掘り、れいとうビームを打ち込んで作ったオリジナル冷蔵庫やほのおのパンチ(手加減)で使用可能になる調理台。なんちゃってトイレや風呂などを必死になって運用して幾星霜。

 動物性タンパク質の摂取も怠らなかったおかげなのか己の身体に成長期がやってきて、今ではある程度の丸太を軽々運べるようになり、筋肉もついたのは行幸である。

 細々とそこらに生えていた草を草食動物の如く食べて生活をしていた頃、さも当然のようにハウスへ入って来て生活をし始めたこの二匹のポケモンがいなければこの生活も送っていなかっただろう。

 

 人間とポケモン。

 当然初めは意思疎通など出来るはずもなく色々あったが、今では離れられない相棒達だ。

 二匹に付けたセシリアとイゾルデはゲームをしていた時に付けていたニックネームだったりするのだが、名づけ時にはエーフィ(イゾルデ)がさも当然といったような態度をとってた。

 理由は念話が出来た時にわかった。

 かつてゲーム内で育ててたポケモンそのものだった。なので当然レベルは高レベルのはず。尚この世界にレベルの概念があるのかは知らない。

 

 その時、二匹から改めて自分の名をつけてもらったのだ。

 おれの名はタツミ。

 ポケモンマスターにはならないけど、折角なので原作キャラにあってみたい男だ!

 

 なおロケット団特務工作に所属している幹部(アニメ)と同じ名前らしいのだが、全く関係ありません!

 ……ないよね?

 

 

 

 

 

 ――――

 

 

 

 

 

「フィィフィフィ~」

「サナァ~?サナサナー」

 

 タツミが現拠点から移動することを決定した少し後、サーナイトとエーフィは今後の方針を話し合っていた。

 この場所に来て身体がある程度成長するまでは下手に好奇心を出して遠出することはせずに鍛え続けていたタツミだが、その影響もあって周囲がどのような環境でどこが危険なのかと言った地理的知識は少ない。

 そのため普段二匹は木の実回収を兼ねてテレポートを用いた偵察を行っていた。

 今回の議題はどのルートを用いて町を探すかというもの。

 

 ゲーム内においてはポケモンから逃げたり、手持ちのポケモンと入れ替わる技であったが、この世界においてその法則は当てはまらない。

 サイコパワーを多量使用することになるが、目視した場所や事前にマーキングを施した場所に移動することができる「テレポート」。これを日頃から多用してある程度進行ルートをすでに何個か絞っていたのだ。

 よほど使い続けて熟練度を上げていない限り戦闘中に狙った場所に現れるのは難しいが、これまでの時間を活用していたと言えるだろう。

 

『サナ~(どうします?森を抜けるルートはスピアーの軍勢がいるので正直通り抜けたくはないのですが…)』

『フィ~(かといって山のルートを行くはゴローニャがゴロゴロいるでしょ。山頂からいわなだれされたら流石の私達でも厳しいわよ)』

『サナー…(ですよねー…)』

 

 彼女たちが心配しているのは自身の心配ではない。

 自分達のトレーナーたるタツミの心配であった。

 

 多くの技を扱えるポケモンとは違い、タツミは人間である。

 野生では強襲など当たり前。

 毒を貰えば体調を崩して最悪の場合死に至る可能性もあるし、「いわなだれ」と言った技を喰らえば骨が折れるだけでは済まないだろう。

 故の心配。

 彼女達にとってはトレーナーという存在は一種の枷に近いのかもしれない。

 

「よっしゃぁ!準備できたし、オヤブンと最後に語り合ってくるか!!」

 

 二匹がそんなことを考えているとは思っていないだろうタツミは「うぉぉおおお!」と叫びながら駆けていく。

 そんな己のトレーナーを見送って、状況を把握した二匹は同時に飛びあがった。

 

『『ファッ!?((馬鹿なんですかあの方は!!?))』』

 

 声も出ないほど驚愕しつつ、すぐさま後を追いかけていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 湖の主といえばどんなポケモンを思い浮かべるだろうか?

 

 ポケモンの世界で暮らす住民たちからすれば意見が多々上がってくるだろうが、某R団の影響で狂暴化してしまった赤いギャラドスが印象強いのではないだろうか?

 もっともこの湖にはギャラドスになっているものはおれど、湖の主にまで上り詰めてはいない。

 ギャラドスとは別の、水ポケモンがトップに君臨している。

 

「おぉ…準備万端って感じだな…オヤブン」

「ニョロ…ボン!!」

 

 それがおたまポケモン ニョロボンである。

 勝手に名付けたニックネームはオヤブン。

 

 普段見るニョロゾなどと違って身体が一回り大きく、特徴的な腹部のうずまき模様に刻まれた大きな傷跡がこれまで戦ってきた経歴を示していた。

 にらみつけるだけで格下のポケモンであれば一目散に逃げだしてしまいそうになるだろうその眼光は知り合ってから全く変わっていない。

 出会った当初は見事なまでにフルボッコにされたのは今でも記憶に新しい。

 明らかに手加減されていたので大事にはいたらなかったのだが。

 

「ニュ…ボン!!」

 

 水泳のオリンピック選手ですら悠々と抜いていくと言われる強靭な筋肉から放たれる拳で数多の猛者を打ち負かし、この湖に君臨してきた猛者が構える。

 今日はこれが最初の出会いだというのに、言葉は不要だとその姿から語っていた。

 

「言葉は不要か…そうだな。(おとこ)なら、拳で!」

 

 タツミもそれを感じ取り、多くを語らない。

 もしかしたらニョロボンは、自分が旅立つ日が来るとわかっていたのかもしれない。

 そしてそれが今日であることを自分を見て確信したのだ。

 

 湖の主として暇ではないだろうに、わざわざこのために姿を見せてくれたニョロボンに感謝と自分の想いを拳に込める。

 それがタツミなりのニョロボンへの返礼だった。

 

 

「ニュルボッ!!」

「ルァアア!!」

 

 

 オヤブン の メガトンパンチ!

 

 タツミ の きあいパンチ!

 

 

 互いの拳がぶつかりあう。

 これまで幾度となく振るってきた拳であるが、この瞬間に放った拳は自分が生きてきた中で最高の一振りだと断言できる。

 全身が一つの砲弾になったの如き衝撃を拳一つで受け止めてくれるニョロボンに最大の感謝を。

 

 そして、それでも頂きに届かなかったことへの悔しさをタツミは噛み締めた。

 

 結果は相殺。

 自分の全力をニョロボンが見事受け切り、絶妙な力加減で互いに発生する被害を最小限にした結果だった。

 

「っかぁー!!相変わらず強い!」

 

 それに対して不満など感じない。

 相手との力量差など10年も前から理解している。

 だがそれでも悔しさは確かにあった。

 

「…これで最後とは言わないけど、しばらくお別れ…か」

「ボン」

「ありがとうオヤブン」

 

 地面に大の字で倒れたタツミにニョロボンは左手を差し出した。

 出会ってからというもの、彼に勝つために鍛えてきたが力の面でも気遣いの面でもまだまだ勝てる気がしない。

 手を引かれた勢いで立ち上がるタツミはニョロボン(オヤブン)が右手をすこし気にしたことに気づいて嬉しくなった。

 ニョロボン(オヤブン)は頑なに認めようとしないだろうが、多少なりとも自分が成長出来た証拠だろう。

 

『サナーーー!!(何をやらかしているのですかぁぁ!!)』

「いってぇ!!」

 

 そんな漢同士の友情を深めていたところに不意を打つ形で頭にサーナイトの「はたきおとす」が叩き込まれる。

 こうげきの種族値は低いといえども共に鍛えて近接戦闘も出来るようになっているサーナイト(セシリア)の一撃は痛くて重い。

 仲間からまさかのテレポートからのふいうちに思わず頭を押さえてしゃがみこんだ。

 走って追いついてきたエーフィ(イゾルデ)もねんりきで足を引っかけて倒した後、顔面へののしかかりで鼻が折れるかと思った。

 ここで物理的に重いとか思ったり呟くと半殺しにされるので言わない。

 

「…ニョロ」

 

 ニョロボン(オヤブン)に至ってはやれやれと言った動作をしながら自分達に背を向けて歩き出した。

 もう用はないといった感じであるが、彼なりの激励だったとタツミ自身は思っている。

 再び彼の背に向けて感謝を述べると片腕を上げて応えた後、湖へと飛び込んでいった。

 

『サナ~(二度とあのような無茶をしないでください)』

『フィフィ~(流石に今回の一件は反省しなさいな)』

「すんまそん」

 

 ねんりきで身体を捻られながら持ち上げられて拠点へと連行されながら、まだまだ強くならなければと心に決めた。

 

 今日は記念すべき出発の日。

 あわよくば素敵な出会いがあればと願いながら、一人と二匹はこの地を旅立つのであった。

 

  




 
 
 
 
 
 
 
 
  
・タツミ(19)
年齢は旅立ち時準拠。
YAMA育ちの為、一般人よりもはるかに戦闘能力が高い。
全裸で過ごすことに違和感を感じなくなってきたが、人と出会う際は流石に不味いと考える知性は残っていた模様。
短髪でサッパリとした印象を受けるが身体には生傷が多く刻まれている。
野生で育ったためかポケモンと人間の生き死にに関しては特に思うところはない。
スーパーマサラ人ほどではないが、努力値の関係上身体能力は群を抜いている。
 

・セシリア(サーナイト)
主と認めた相手にとにかく尽くす性格で仮に主が死んだら間違いなく後を追うタイプ。
家事でも戦闘でもなんでもござれ。ただ主やその関係者以外にその腕を振るうことは決してない。
偶に忠誠心が鼻から出ることがあったり、人が寝ていた布団を使って何かをしていることがあるらしい。

戦闘能力に特化しており、ある程度近接戦闘もこなす。
最近のムーブメントは“テレポート”からの相手のきゅうしょを狙って物理の一撃で仕留めるヒットマンスタイル。
だが当然ながら特殊タイプなので中~遠距離戦の方が強い。
タツミの脳内を読んだのか“サイコキネシス”と“はかいこうせん”を使って他作品の技再現にハマっているらしい。
 

・イゾルデ(エーフィ)
名探偵ピカチュウばりの表情筋の柔らかさを魅せながらちょくちょく小言を言う。
たまにしわしわエーフィになる。
それは信頼の裏返しであり、ためになる発言も多いためかタツミもよく発言を受け入れて行動を修正している。
面白いことに首をつっこみやすいが体毛で危機を感知できるので程々のところで切り上げてくるから怒るに怒れない。

危険を察知しやすく、リフレクターやひかりのかべを角度をつけて展開することで攻撃を受け流したり、サイコパワーを混ぜ込み威力を上げて反射するなどもできる絡めて型。
両壁で安全圏を維持しつつ“みらいよち”を混ぜ込んだ固定砲台が主な戦闘方法になるが、指示せずとも“くさむすび”で妨害したり隙を見つければ“めいそう”を積んでくる。
 


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(2ワ2)

 
 
 ちゃっちゃっと進めるそれがこの作品
 地域の設定とかは完全に妄想です
 
 


 

「ついに辿り着いたな…人の町に…」

『フィ~(あんたが無駄に駆け回らなければもっと早くついたはずなんだけど)』

『サナサナ~(まぁ好奇心旺盛なのは素晴らしい事ですから)』

「それに関しては本当に申し訳ない」

 

 自分達が育った故郷から離れて旅を始めたタツミ一行。

 あれから数日どころではなく、数か月かけて人が集まる場所に到着した。

 町というよりは都市と言った方がよさそうな活気はあるが、それ故なのか環境はあまり良くはなさそうな感じだ。ベトベターとかいたし。

 

 尚サーナイトとエーフィのナビに従って進んでいれば2週間は早く到着していただろう。

 サイドンと目が合ってバトルしたり、川に飛び込んでアズマオウを怒らせたり、用をウソッキーに足してしまったことで追いかけまわされたりと余計な体力と時間を消費しなければもっと早かったのだとエーフィはジト目を向ける。

 完全にタツミに全責任があったので素直に謝りながら町へと入る。

 看板を見れば【タマムシシティ】と記載されてあり、カントー地方だったのかとタツミは内心で呟いた。

 

『サナ~?(なにか気になる事でも?)』

「あぁ…いや、カントー地方だったのに“ウソッキー”とか近くに生息していたんだなって」

『フィフィー(そりゃあんたの知識で言えばでしょうが。生き物なんだから生息地だって多岐にわたるでしょう)』

「そういやそうか…セシリアがいる時点で偏った知識ってことだよなぁ」

『サナ(ですが流石に人目に付きやすいですよね私)』

 

 気づいていないふりをしているが、周囲の人やトレーナーもエーフィ(イゾルデ)サーナイト(セシリア)を興味深そうな目で見ている。

 エーフィはイーブイから日が昇っている間になつき度によって進化するポケモンであるし、サーナイトに至ってはラルトスの時点で敵意や悪意を感じ取ったらすぐに逃げ出すポケモンだ。

 それを仲間にしているトレーナーの絶対数がまだ少ない可能性はある。

 

「まぁポケモンは絶対にボールに入れていないといけないわけじゃないし、何よりもボール持ってないしな。今気づいたけど…あっ」

『サナ?(マスター?)』

『フィ?(どしたの?)』

 

 ボールを持たずに旅をするトレーナーとは聞いたことないだろうが、仕方ない。

 それよりも今タツミはとても重大な問題に気付いてしまった。

 

「…俺この世界のお金持ってないし、戸籍もないんじゃ…?」

『『……』』

 

 今まで考えもしてなかった問題を直視した一行は冷や汗をかきながらどうするかを考えた―――

 

 

 

 

 

――訳でもなく、自炊(サバイバル)できるからなんとかなるかという結論に辿り着いたのだが。

 

「えっ、自分が何者なのかわからないですって?」

「はいそうなんです。気づいたら山に自分のポケモンたちと一緒にいまして…」

「もしかしたら野生のポケモンに襲われてしまったのかもしれないですね…かしこまりました。少しの間一室を借りる許可申請を行っておきますね。お名前はわかりますか?でしたらここにお名前の記入をお願いします」

「はい、ありがとうございます」

 

 ポケモンセンターの力を借りることにしました。

 トレーナーカードを持っているのであれば出入りや設備の使用権をある程度行使できるのかもしれないが、トレーナーカードすらも持っていないこの現状ではある程度正直に話すしかなく、ジョーイさんに身綺麗なのをすこし怪しまれながらも許可を頂いた。

 

 嘘はついていない。

 故郷に勝手に使っている家はあるが気づいたら居たのは事実であるし、野生のポケモン(オヤブンなど)に襲われた(特訓)のは事実だからね。

 

 ポケモンセンターでもある程度の申請やカードの発行は許可をとれば可能らしいが、今回の一件は流石に事情が事情ということで簡易的なトレーナーカードを作っていただきました。

 ボールすら持っていないことは流石に驚かれたが、ポケモンに襲われたと考えているジョーイさんはその際に破損してしまったことでボールに入れていないのだろうと勝手に納得していた。

 モンスターボールも特例として二つ頂いた。本当にありがたい。

 なおお金に関しては自分で頑張ってくれスタンスらしい。

 そうでないと飽食な奴が出てくるだろうからだろうから特に何とも思わなかったが。

 

 簡易カードなのでちゃちな作りだが、本格的に作るならジムリーダーに話を通して人格や知識的に問題ないことを証明する必要があるらしい。

 ジムのある町の代表として治安の向上に努める役割を負うこともあるらしく、ジムリーダーは町長や市長的な権威があるのだろう。

 ゲーム時代では特になんとも思っていなかったが、現実になると様々な違いを思い知らされる。

 

 ゲームでは容量的な問題もあったであろう一つのシティだが、第二の都市ともいわれるぐらいの規模の広さを誇っているし、ポケモンセンターも何個か点在している。

 タマムシデパートと思われる広大な敷地を有した施設もあるし、地図の中央付近には大規模なゲームセンターがあるらしい。ゲームではロケット団の資金調達拠点であっただろうから素直に喜べはしないのだが。

 

 そして今タツミ達が目指しているタマムシジムはタマムシシティの南西に位置する場所に建てられており、小高いところに建てられた自然と調和したジムだという。

 ポケモンタクシーなるポニータを使った馬車などもあり、移動面でも変化は多くある。なお金銭問題で使用はできないのだが。

 

 現在のタマムシシティのジムリーダーを担っているのはくさポケモンの使い手であるエリカ嬢であるとジョーイさんから聞いた。

 ポケモン全作品においてもトップクラスに好きなキャラクターであったのでとてもウキウキしながら進んでいたのだが、視界にあるものが目に入ったのでその気分も削がれてしまった。

 

(……なんでロケット団が白昼堂々と出歩いてるんだよ…)

 

 目が合わない様にしているためがっつりとは見ていないが、明らかに腹部に「R」の文字を描いた服を着用していることから彼等がロケット団だというのは明らかだ。

 珍しいポケモンを見つけては乱獲し、売りさばく犯罪組織。別名ポケモンマフィア。

 

 ジョーイさんからもロケット団には気をつけてと言われたものの、真昼間から堂々とロケット団の団服を着て、それも複数人で活動をしているなんで思わないだろう。警察仕事してくれ。

 

『フィ(いくらなんでも堂々すぎるわ)』

『サナ(完全に目をつけられてますよねこれ)』

 

 まだ問題を起こしていないためなのか監視の状態で収まっているのかもしれないが、明らかにサーナイト(セシリア)エーフィ(イゾルデ)の姿は彼等にとって目立つ。

 町に身体と慣らすのと昼間だから問題ないだろうとボールに入れなかったこちらの非になるのだろうか。

 

 数人自分の後ろをつけてきているのも二匹からのテレパシーで把握しているし、この状態でタマムシジムに入っても迷惑をかけるだけだろう。

 そう考えて人気が無いであろう場所を探しながらビルの裏手へと入った。

 

「おい、そこの兄ちゃん。あんたが連れてるポケモンちょっと貸してくれねぇか?」

(いや接触早すぎだろ)

 

 裏手に入った途端に走ってきて声をかけられた。

 どれだけ逃がしたくないんだろうか。

 

「流石に誰だか知らない人の自分の相棒を貸すようなことはできないです」

「そういうなよ。痛い目に合いたくねぇならな!!」

「…」

 

 真っ当な意見を返すと右頬へパンチが飛んでくる。

 ニョロボン(オヤブン)のパンチと比べればキャタピーが移動する速度程度にしか感じないが、素直に一発受け入れた。

 

「っ!」

「はははっ!すまねぇな兄ちゃん。これ、お願いじゃねぇんだわ」

 

 地に倒れた自分の姿を見て愉快に笑う男はズバットやドガースをボールから出しながら猟奇的な笑みを浮かべる。

 ポケモンマフィアとも呼ばれる組織の面子が素直に話で終わらせようとするはずもなく、拒否するのならドガースが放つ毒ガスで仕留めにくるだろう。

 

「最後に言うぜ。ポケモンを渡しな」

「正当防衛だ。相棒、“サイコキネシス”」

 

 そんな事当然許さない。

 一発殴られたことで反撃する理由を作った。

 共に暮らしてきた家族(ポケモン)を下種な目で見るこいつらに対し、慈悲はない。

 そんなものは野生に置いてきた。

 

 二匹から放たれるサイコキネシスはドガースとズバットを掴み取って高所へ持ち上げた後、盛大に地面へ叩きつけた。

 ポケモンとはいえど出してはならない音が聞こえるが無視。

 立ち上がって現状を理解できていない団員に一発殴り返す。

 

「ぐぁ!?な、なんだてめぇ!!ロケット団に手を出してただですむと思ってねぇだろうな!!?」

「知らねぇよ。イゾルデ“あなをほる”。セシリアは“悪夢”だ」

「な、なにをする気…うわぁぁあああぁぁ………zzZ…」

 

 こんな街中で殺人は宜しくない。

 かといって素直に五体満足でお返しする気もタツミには更々なかった。

 

 あなをほって団員の首から下を地面に埋めて、そこから“さいみんじゅつ”と“ゆめくい”の連鎖攻撃で精神を壊す。

 “悪夢”なんて技があるわけでなく、ただただ一つ一つ宣言するのは面倒なので戦術ワードとして組み込んだ結果だ。

 動揺し、精神的に脆くなっているところに強制睡眠から見せる悪夢は大変だ。

 他の人が見たら彼らに殺されたポケモンたちの怨念が襲っているとでも考えるのだろうか。

 彼はほかの人が見つけてくれるまで、自分が染めてきた悪行をそっくりそのまま返される夢でも見ていることだろう。

 

「迅速な対応ありがとうな」

『フィフィ~(合理的なのはわかるけど、下手するとセシリアが暴走するから程々にしなさいよ)』

「あ…ごめんセシリア」

『サナ。サナ!(今回は我慢しましたが、次はありません。確実に仕留めますから)』

「…なるべくバレないようにしてくれよ?」

 

 エーフィ(イゾルデ)に説かれてサーナイト(セシリア)に謝る。

 彼女は己に対する忠誠心がすごく高く、自分の身に何かがあるとすぐに行動するのだ。

 敵意を向けていれば最後、“テレポート”からのきゅうしょへ全サイコパワーを乗せた“サイコインパクト”(サイコキネシス+ギガインパクト)で頭部と胴体はお別れすることだろう。

 実際襲ってきたストライクが眼前で、瞬きの間もなく首が引きちぎられたのを見たことがあるから間違いない。

 あの時は流石にズボンを漏らしそうになったのは自然なことだと思う。

 

 その後にも複数のロケット団が襲ってきたが、真正面から叩き潰した。

 警察に突き出そうとも考えたが流石にまだ仮免許トレーナーである自分の身分を聞かれると面倒だった。なのでその場で放置したがいつか心優しい人が見つけてくれるだろう。

 

 

「ここがタマムシジムかぁ…」

「サナー…」

「フィー…」

 

 軽い襲撃はあったものの無事に目的地に到着したが、ジムの大きさに感嘆する。

 てっきり学校の体育館程度の大きさなんじゃないかと考えていたのだが、よくよく考えれば複数のジムトレーナーと戦える場所だけでなく、挑戦者を選別するためのギミックが各々存在しているはずのジムが体育館程度の大きさなはずがない。

 比較するならば野球ドームなんじゃないかという大きさだった(当社比)。

 

「にひひ。このジムはええ!おんなのこばっかしじゃ!!」

 

 ジムの窓から内部の女性たちを眺めて気持ち悪く笑うおじさんがいたのだが、おそらく日常茶飯事なのだろう。

 関係者らしき人物は覗き魔に対して何も言わず、それどころか存在を認識しない様にしているようだ。

 

 うわぁ…と思いながらもジムに入る。

 その瞬間外で眺めてた覗き魔の気持ちも少しわかった気がした。

 

(レベルたっけぇ…)

 

 ジム入口前にいた解説役の人が男子禁制のジムで、すごく人気だという話をしていたのだがわかった。

 顔がすばらしいとかそういうのではない…いや嘘をついた。そこもレベルが高い。

 だがそれ以上にジム内部に感動を覚えた。

 

 植えられている木々や花々。そして芝生にもしっかりと手入れが行き届いており、ほんのりと甘い香りが鼻腔をくすぐる。

 ただただ建物内部に土を敷いて育てているわけではなく、床の一部にタイルを埋め込んでいるがそれ以外の地面は元々存在した自然の状態なのだろう。

 水も山から流れてくる川を建物で覆う様にして内部へ通し、木々への恵みになっているのだ。その証拠にトサキントやクラブなどのポケモンもジム内で自然に住み着いている。

 もしかしたら放し飼いされているポケモンの中には誰の手も借りていない野生のポケモンも混じっているのかもしれない。

 日の光も入れれるように天井も一部開放されているようで、息苦しくも全く感じない。

 

 ジムトレーナーではないだろう女性職員のレベルも正直高かった。

 おとなのおねえさんであったが、モデルでもしているのかと二度見した。

 すぐにサーナイト(セシリア)に目つぶしされたが後悔はしていない。

 しゃーないねん。植物を触る仕事のはずなのにタイトスカートから見える脚線美が綺麗だったんだもの。

 後悔はしていない(がんじょうな意思)。

 

 

「到着いたしました。こちらの部屋にジムリーダーがいらっしゃいます」

「あ、あぁ。案内をありがとうございました」

 

 そうしてガイドさんから案内され、目的の場所に到着する。

 バッグの中にしまっていた書類に不備がないかを確認した後、断りを入れて扉を開ける。

 その扉の先には…

 

「本日はご足労頂きありがとうございます。ご存知でしょうが、このタマムシジムのジムリーダーをさせていただいております。エリカと申します」

 

 女神がいらっしゃった。

 もう悔いなく、逝けそうだ。

 

 そんな感情を感じ取ったエーフィ(イゾルデ)が実にあくどい笑みを浮かべていたのだが、それに気づくことはなかった。

 

 




 
 
 
 
 
 
・ロケット団したっぱ達
主人公に絡んでしまった結果、叩き潰されて文字通り埋められてしまった人達。
数日後に衰弱した状態で発見されて入院したのではないかな。
後日近付いてくるポケモンにトラウマを持ったとかなんとか。
「俺の傍に近寄るなァーーーー!!」


・タマムシジム
勝手に設定捏造筆頭
建築してビオトープを形成したのではなく、元々あった自然に囲いをつけて作り上げたジムという設定。
川もそのまま引いているので偶にクラブやベロリンガなどのポケモンも入りこんでくるとか。
そういう時はよくジム内のポケモンが集まっていることがあるらしいが、入ってきたポケモンの痕跡は気づけば無くなっているらしい。


・おとなのおねえさん(23)
通りかかる男性を誘惑しているビt…おねえさん。
偶にジムに挑戦する少年トレーナーがジムチャレンジ中に姿を消す理由を知っていそう。
使用ポケモンはパラセクト。


・エリカ(18)
本作ヒロイン
黒髪着物美少女 is GOD
詳しくは次回以降に。


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(3ワ3)

 

「うぉぉおおお!てめぇら絶対にゆ゛る゛さ゛ん゛!“シャドーボールからのサイコキネシス”!“リフレクターとはかいこうせん”!!」

 

「「「「「ぎぃやぁぁぁああ!??」」」」」

 

 

 サーナイト(セシリア)エーフィ(イゾルデ)に指示を飛ばすたびに複数人のロケット団が宙を舞う。

 その映像はまさに無双シリーズの如し。

 

 放たれた複数のシャドーボールを維持しながら、サイコキネシスで強引に方向転換させる。一歩進めば敵は吹っ飛び、攻撃技は悉く周囲を高速回転するシャドーボールに防がれてポケモン達もダウンする。

 圧倒的な力を有したサーナイトの後ろ姿はまさに六道仙人(違います)。

 

 対するエーフィはもっとえげつない。

 この世界において“リフレクター”という技は予想を遥かに超える万能技だ。

 そんな使い方を考えたことが今までなかっただけなのだろうが、敵の後ろと左右にバリアの如く展開をすることで移動場所を限定させてそのまま前方からはかいこうせんで押しつぶす。

 おもちゃ箱の容量を超えて物質を詰め込み、サイコパワーで強引に潰して箱詰めしているようなもの。ミンチよりひでぇや。

 もっとも指示したのはタツミなので今更だった。

 

 前回までエリカに会って色々とお世話になっていたのだが、今彼等がロケット団を千切っては投げているのには理由があった。

 わかりやすく言えば襲撃されたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい。これでタツミさんのトレーナー登録は完了です。お疲れさまでした」

「いえいえ。突然の連絡だったのにも関わらず、対応してくださってありがとうございました」

 

 ジムリーダーが使用する部屋、一般の個室よりも大きいとは言えどもエリカ嬢と二人きり…何も起きないはずもなく…

 なんてことはなかった。当然である。

 いくら大好きなエリカ嬢が眼前に居て二人きり(ポケモン達は見なかったことにする)であったとしても、公共の場で盛るほどタツミは獣ではない。

 というよりも相手からしたら初対面であるのにそんな甘々なムードを出す程、この作品の展開は早くなかった。

 

サナー?(マスター?)

 

 いや出したかったのだが、サーナイトがそのような不埒なことを許すはずもなく、テレパシーで事前に釘を刺していたことが大きいだろう。

 サーナイト特有の大きな瞳から光が消えていれば誰だって従う。仕方ないね。

 

(流石に初対面の相手に告白するほど理性を失うようなことは無いと思うんだけど…無いよね?)

『フィ(知らんな)』

 

 他の女性ならいざ知らず、サーナイト(セシリア)自身タツミがエリカスキーという存在であることは知っているはずなのだが、この対応は過度な気がした。

 

(セシリアはここで突撃するよりも、冷静に相手を観察してポイントを抑えることが大事だと言っているのか…?確かに一理ある。戦闘と恋は同じようなもの…。であれば彼女の一挙手一投足から感情を読み取ってからうまく距離を詰めるべきだと、そう伝えているのか(※違います))

 

 違います。

 サーナイト(セシリア)がこの考えを読んでいたのなら、タツミの横腹をド突いていただろう。

 彼女からしたらタツミが他の女勢に色目を使わないでほしいという気持ちを抑えきれていないだけである。

 

 そんなエリカを睨みつけるサーナイトの視線には気づかずにタツミとエリカの会話は終わる。

 ジムリーダーであるエリカ自身が自分達の見送りをするということで、周囲のジムや移動の際の注意事項などを確認している時だった。

 タマムシジムの扉が破壊され、多数のロケット団が突入してきたのだ。

 

「は?」

「な…突然なんですか貴女達は!?」

 

「やれ、マタドガス!“スモッグ”!!」

 

『フィフィ!(危ないわ)』

 

 反応に遅れた二人を護るように“ひかりのかべ”を張ったことで直撃は防げたが、近くで作業していた女性スタッフやジムトレーナーが被害にあってしまう。

 スモッグは大気汚染された煙を吐き出す技であり、ゲーム内では確率で毒にする効果を持つ。

 外で使用する分には大した脅威にはならないものの、洞窟などの換気がしにくい場所での使用は大変脅威だ。

 幸い太陽光を入れるために天井の一部を開放しているため中毒症状にまで発展することはないだろうが、完全に不意を突かれたトレーナー達はその場で気を失った。

 その隙を使ってしたっぱ団員らがズバットやアーボを使って他のトレーナーへと攻撃を敢行していく。

 

「ラフレシア、お願いします!…突然ジムに襲撃を行うなど、何を考えているのですか!?」

「黙ってろジムリーダー。まさかアンタがアタシ等を裏切るなんて考えたことはなかったぜ」

「裏切る…まさか!そんなこと!」

 

「…は?どういうことですかエリカさん…?」

 

 マタドガスを連れたロケット団の団員、おそらく幹部クラスなのだろうその女はジム襲撃の理由(わけ)を話したのだが、聞き捨てならない言葉を発していた。

 

 タマムシジムのジムリーダーを務めるエリカさんが、ロケット団を裏切った?

 理解が追いつかない。

 

「報告通りのポケモン…はんっ!アンタがウチの部下を()しやがった男かい。報告はすでに上がってんだよ。ロケット団の団員を倒しただけでなく、地面に首まで埋め込んで悪夢を見せ続ける。さらにはそいつはジムへと足を運んだと来た。ジムリーダー自らが雇った外部の人間ってことだろ?今ウチ等のアジトへ襲撃をかましてきやがった赤帽子のガキと一緒でね!」

「タツミさんがそのようなことを…?完全な誤解です!(わたくし)はそのような指示をしてなどいませんわ!」

「アンタが指示を出した出してないは大した問題じゃぁない。アンタを負かすほど実力者をウチラに報告することを怠ったのは紛れもない事実なんだよ!つまりこれは落とし前だ!マタドガス!“やきつくす”!!」

 

「イゾルデ!“ひかりのかべ”」

『フィ!(合点承知!)』

 

 タツミが指示したいことをテレパシーで瞬時に把握したエーフィはひかりのかべを筒状にして開放された天井へとつなげた。

 エリカのラフレシアだけでなくジムを破壊する意思を持って放たれた剛炎は、誘導路に沿って天井から噴出していく。

 ある程度の高さまで伸ばしていたので、周囲の木々に燃え移るようなことにはならないはずだ。

 

「な、ひかりのかべを使って防いだだと!?」

「セシリア!」

『サナ!(委細承知!)』

 

「マダ!??」

「マダドガス!?」

 

 どくタイプはエスパータイプが弱点である。

 ある程度のトレーナーであれば至極当然の法則だが、この法則は圧倒的なレベル差があっても適応される。

 マタドガスになっている以上はレベルや戦闘経験値も多少なり稼いでいるのだろうが、2匹を相手取るには到底及ばない。

 ここでサイコキネシスをきゅうしょにぶち込んでしまえば即死だろうと判断したタツミの意向に乗っ取ってねんりきレベルの出力で地面へと叩きつけた。その上で全方位から攻撃を受けたマタドガスは何をされたのかもわからないままきぜつしていく。

 

「バカな…サカキ様が育て上げたマタドガスが一瞬で…」

「サナ…」

「――っっ!ほんとに何者(なにもん)なんだいアンタ…まともじゃないね」

 

 流石は幹部というべきか。

 サカキが鍛え上げたらしいマタドガスを一瞬で倒したことで呆気にとられたもののすぐに持ち直して腰につけたボールに手を伸ばしていた。

 それよりも早くサーナイトが頸動脈に手刀を押し付けたことでボールを投げる事は叶わなかったのだが、それでもしたっぱとは比べ物にならないほどの戦闘経験があったのだろう。

 ためらいもなく命を狙いにいったサーナイトとそのトレーナーであるタツミに信じられないといった視線を送る。

 

「タマムシシティに来るまでは自然と共に暮らしていたんでね。命のやり取りなんてしょっちゅうだよ」

「…へっ。まさかウチがこんなヘマをするとは…」

「殺しはしない。ただ殺してほしいと思うぐらいの事をしてでも情報を吐かせるけど、念の為に聞いておく。素直に話す気は?」

「……」

 

 エーフィ(イゾルデ)が気を利かせてひかりのかべを張りなおした事で最初に放たれていたスモッグが天井や窓から抜けていく。

 それに気づいたトレーナー達は煙を吸い込んだ負傷者を救助しつつ、動揺するしたっぱ達に反撃を開始していた。

 

 突然の襲撃に対して被害は少ない。

 実は外で火を放った者達もいたようだが、覗き見していたおじさんの手持ちであったゴルダックの“みずでっぽう”によって既に消火されていた。

 ただの覗き魔ではなく、実力のある覗き魔だったようだ。質が悪い。

 

 そのおかげもあってかロケット団が想定していた影響は与えられず、10名ほどの怪我人が出ただけだ。

 作戦は失敗したと言ってもいいだろうが、幹部の女の目は折れていなかった。

 

「タツミさん…」

「話す気は?」

「…ないね」

 

 

カチッ

 

 

「!?フィィィイ!!」

「サナァ!!」

 

 周囲は喧噪で慌ただしい。

 そのなかで確かにタツミ達は聞いた。

 女幹部の口から、スイッチの音を。

 

 そしてその結果はタマムシシティ全員が聞いた。

 ジムから爆発音が響き、天井と壁が吹き飛んだのだ。

 唖然とするタマムシシティの住民たちは、只々その光景を眺めているしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『フィフィ!?(無事でしょうね!?)』

『サナァ!(マスター!!)』

 

「問題ない。多少のかすり傷程度だ」

「うっ…」

「大丈夫ですかエリカさん」

 

 来たばかりに視界に収めた華やかな庭園の光景は3割ほど消滅した。

 一体何が起こったのかとは問わない。

 女幹部の自爆テロ。

 それがタマムシジムを襲った衝撃の正体だった。

 エーフィ(イゾルデ)サーナイト(セシリア)が瞬時に張ってくれた“リフレクター”がなければ流石のタツミといえども病院送りは免れなかっただろう。

 

 ここで捕まる想定はしていなかったのだろうが、捕まった場合は初めから自爆するつもりだったのだろう。

 ロケット団の情報を警察やポケモンリーグの本部に渡さないために。

 己の全ては総帥であるサカキのためにあるという狂気を孕んだ忠誠心が自分の体内に爆弾を仕込むという発想に至ったのだ。

 

 そこまでさせるほどのカリスマ性を有した男 サカキ。

 表の顔はトキワジムのジムリーダー。

 裏の顔は暗躍するロケット団のボス。

 

 アニメにおいては全世界で暗躍して表の幅広い分野で手を引いていた組織だが、この世界ではどうなのかはわからない。

 タツミ自身そこまで関わるつもりもなく、ぶらりと旅をするだけで終わらせるはずだったからだ。

 

 だがそれはここまで。

 両腕の中には爆風によって気を失ったエリカが抱かれている。

 それも防ぎきれなかった飛来物によってエリカの頬や腹部に傷が見受けられた。

 

「セシリア、イゾルデ」

 

 一先ず無事だったことに安堵し、爆風から逃れて無事だったジムトレーナーにエリカを預けてタツミは相棒の名を呼ぶ。

 

「ロケット団を、潰しにいくぞ」

『『((御意!))』』

 

 そうして冒頭に戻るのだった。

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

「オラオラオラオラァ!どこに居やがるロケット団!」

「ひっ」

「ロケット団だ!!ロケット団だろう!?なあロケット団だろおまえ」

「うわあぁああ!アーボ!“どくづき”!」

「しゃらくせぇ!!」

 

 尻尾の先端に毒を纏わせて腹部を突いてくる攻撃を躱し、腹部を逆に掴み取って振り回す。

 頭を振り回されてアーボの反応が鈍ったところで増援にきたロケット団目掛けて投擲した。

 

「うわ!?」

「邪魔だ」

 

 そのまましたっぱの腹を蹴り飛ばして意識を飛ばす。

 自分の背後には通路に破壊工作を行なったり、瞬時に背後へ移動してぶん殴って吹き飛ばす自分のポケモンの姿がある。

 今彼等がいるのはロケット団の資金調達のアジトになっていたゲームセンター…ではなく、緊急用に作られているのであろう通路から侵入していた。

 素直にゲームセンターから入ろうとおもったのだが、向かう最中に人気(ひとけ)のない場所からロケット団が出てきていたのを確認したのでそこからお邪魔しているというわけだ。

 

 もし仮にアジトごと爆破されようものなら瞬時に“テレポート”を使用して離脱出来るタツミ達はなんの心配もせずに突撃を敢行していた。

 

 緊急事態で撤退中なのか非常口へと向かってくるロケット団員は多く、そのすべてを撃ち漏らしなく意識を飛ばしていた。

 あとで警察へ突き出すのと情報を吐かせるために、数は多いほど良いとの判断で意識を飛ばしたものは一室にまとめて放り込みながら進んでいく。

 

「ここにも侵入者か!ヘルガー“かえんほうしゃ”!」

「時間がねぇってのに!ゴルバット“エアスラッシュ”!!」

 

「セシリア、“10まんボルト”」

 

 位が高めの者達は抵抗するべくポケモンを出してくるがその全てを瞬く間に沈黙させながら走り続ける。

 そして眼前の扉を蹴破った先には広い空間と、ロケット団幹部と赤い帽子の少年が戦っていた。

 

「ぐぁ!?」

 

 のだが蹴破ったことで吹き飛んだ扉が幹部に被弾。

 トレーナーの指示を待っていた幹部の手持ちであるサイドンは、突然の妨害に反応できずに少年のリザードの“きりさく”でダウンするのであった。

 

 

……少年、なんかごめん。 

 

 




 
 
 
 
 
・ロケット団幹部
 心臓に爆弾を仕込んでジムへと突撃をかました女幹部。
 爆心地に居たので即死である。
 幼い頃にロケット団とは別の非行集団に拘束され、襲われそうになった直前に通りかかったサカキに救われたことでロケット団に入った経歴を持つ。
 使用ポケモンはサカキが育てた“マタドガス”
 そして幼いころから共に育ってきた“サンドパン”がいた。
 姉御肌でしたっぱからの信頼も厚かった模様。


・ミラーコート
 1話のあとがきに記載していたミラーコートを修正。
 ひかりのかべと勘違いして書いていたので、ミラーコートが撃てるエーフィが出来てた。本当に申し訳ない(博士並感)
 

・エリカ様
 かわいい。
 贅沢は言わないからエリカみたいに着物が似合う黒髪美少女と結婚したい。
 
 
 


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(4ワ4)

 

 

「タツミさん。この度は誠に申し訳ありませんでした」

 

 タマムシジムのジムリーダー エリカがタツミに土下座で謝罪する。

 それは今回の一件で巻き込んで迷惑をかけただけでなく、タマムシシティの運営に対することへの謝罪も含まれていた。

 

 タマムシジムはあの一件で一時的に運用不可能になったことで、タマムシシティで公的に運営される会場を仮のジムとして運営されることになった。

 その会場の一室。

 他のジムやリーグ関係者を全員退室させた状態で、雅な着物が汚れることなど厭わずにエリカは頭を下げた。

 

「エリカさん…頭を上げてください。ただの一トレーナーに対して土下座なんてする必要はありません」

「いいえ。これは(わたくし)に全責任があります。タツミさんもお聞きになられたはず…。私がロケット団と繋がりを持っていた事を」

「……それは」

「この町に来られてタツミさんも疑問に思っていたはずです。なぜ全国的にも反社会勢力であるロケット団が、タマムシシティで堂々と活動を行っていたのかを…。それは私がジムリーダーの権限を用いて警察の方々へ働きかけていたことに他なりません。

 本来であればこのような事にならないように本部へ、さらには四天王へ連絡を入れることも可能だったのを故意的に見逃したのです」

 

 誠に申し訳ありませんでした。

 

 最後にその言葉を発した後もエリカは頑なにその姿勢を変えようとしなかった。

 その姿を見てタツミの心境は複雑だった。

 彼女が何故ロケット団との繋がりを持っていたのか?

 まず真実として、エリカは完全にロケット団に所属しているわけではなかった。

 

 エリカがこの世に生を受け、両親に寵愛されて育ってきた。

 だが野生のポケモンによって発生した不慮の事故で両親を失い、彼女は孤児院へ預けられていた。

 二度と親と会うことが出来ない彼女は幼いながらもその現実を受け入れて笑顔を浮かべる強い子だったらしい。

 くさポケモンをこよなく愛するようになったのも孤児院の近くで生息していたナゾノクサに元気を貰っていたからと関係者の談だ。

 

 その後引き受け先が見つかって引き取られたのだが、そこがロケット団関係者の学者だったというわけだ。

 学者はエリカをロケット団のために命を捨てれる駒として育てていくつもりだったらしい。

 事実エリカがジムリーダーとして活躍できているのも幼いころに叩き込まれた歪んだ英才教育によるものだということを告げた。

 ポケモンは戦う道具であるという洗脳に近い戦闘訓練。スポンジの如く技術を吸収していったエリカは最後までポケモンを道具として見ることが出来ずに家族として接し続けていく。

 そんなエリカの姿を見て、学者は初めは憤慨していたらしい。何故都合の良い駒に成り切れないのかと。

 

 エリカが知る由もない裏工作によってポケモンを人工的に暴走させて周囲を破壊させたり、エリカに襲撃を行わせたりと様々なことを続けたのだが、それでもポケモンと共に歩むエリカを見続けた学者の方が逆に影響を受け始めて傀儡にすることを諦めたのだとか。

 研究を続けながら子育てを続けてきた学者にも親心がその当時芽生えていたのかもしれない。

 男の団員が多いロケット団が立ち入りが難しい学園へ入学させ、主席で卒業したあたりから教育と称した洗脳も無くなりポケモンリーグの道を進ませるようにしたとか。

 リーグ関係者になれば下手に手を出されないと考えていたのだろう。

 

 しかし結果的に学者が育てたリーグ関係者であることがロケット団に気づかれてしまい、そこを利用されて脅され続けて今日(こんにち)まで過ごしていたのだ。

 タツミがジムへ足を踏み入れた時に見つけたおとなのおねえさんがエリカの監視役としてジムへ潜入していたことを後々知って戦々恐々としたものである。

 尚すでに逮捕されているのでこの件に関しては安心。

 

 育て親である噂の学者は攻め入ったアジトの奥深くに監禁じみた個室で働かされ続けていた。

 最終的にはエリカをロケット団に入れようとする団員に反対したことで〆られてそれ以降エリカと会うことも出来なかった様子。数年ぶりの邂逅に涙を流して謝罪をしていたことから、彼自身思うところがあったのだろう。

 過去が過去なので処罰は受けるだろうが、他団員と比べたら少ないもの。

 数年経てば出所できるだろうと警察の方から聞いた。

 

 話が少し長くなったが彼女が率先して裏で手を引いていたわけでもなく、脅迫されていただけなのだ。

 非を責めるようなことは場違いだろう。

 

「何度でも申します。本当に、申し訳ありませんでした…!」

 

 エリカもタツミだけにここまでしているのではない。

 赤帽子をかぶった少年――レッド――に対しても同様の謝罪を行ったが当の本人は「……気にしない」と一言呟いただけで退室してしまったことで自分にしかこの謝罪が出来ないのだ。

 本来ロケット団と無縁のトレーナーを巻き込んでしまったことによる謝罪を。

 

「謝罪は受けましょうエリカさん。ただし、」

 

 ここで彼女の謝罪を受け取らないことはしない。

 告げた本人が何より自分を許せないのだ。

 ここで受け取らなかったらどんなことをしでかすかわからない。

 彼女がこれまで目を背けてきた罪の重さに潰れてしまうかもしれない。

 

「謝罪を受け取る代わりに、俺と戦ってください」

 

 なので条件としてバトルを提示する。

 そんなことを言われるとは思ってもいなかったエリカは顔を上げて、きょとんとした表情を見せた。

 

「勿論わざと負けろなんて事は言いません。寧ろそんなことをしたら俺は貴女の謝罪を絶対に受け入れない。ジムリーダーだとかロケット団を見逃してきたとか、そんな事はこの時は一切忘れてください。今後を考えず、全身全霊の全力で俺と戦う。それが条件です」

 

 土下座をやめないエリカを抱きしめて立ち上がり、エリカを強引にその場で立たせる。

 あと数センチ近付けば肌と肌が触れ合うほどの距離感。

 決してほかのところに意識は裂かず、タツミは彼女の眼を見つめて答えを待った。

 

「…わかりました。それでタツミさんが納得されるのでしたら、全力で挑ませていただきます」

「ありがとうございます。あっ…それにもう一つ、条件を追加します」

「なんでしょうか。(わたくし)に出来ることでしたらお受けいたしますわ」

「でしたら一つ…

 

 我慢せず、自分に正直になってください」

 

 

「……あっ」

 

 言葉を伝えるために少し声音を大きく、そしてはっきりと告げた。

 目尻に水が溜まりそうになったところで、彼女の表情が分からなくなるように優しく胸元に抱き寄せた。

 

「…ずるいのですね、貴方は」

 

 優しく、心から安心できるようにと頭を撫でる。

 ここには自分とその手持ち以外だれもいない。

 邪魔するものはこの場には存在しなかった。

 

「安心して気持ちをはきだしてください。俺は、貴女の傍にいますから」

 

 それから彼女が感情を吐露しながら涙を流すのに時間はかからなかった。

 無くした両親やポケモン、街の住民やリーグの方々への謝罪だけでなく、これまでの不平不満もまとめて清算するように吐き出し続けた彼女は泣き疲れたのかそのまま気を失うように眠りについた。

 18歳が経験するべきものじゃないことも多く経験しているであろう彼女が見せた寝顔はとても綺麗だった。

 そのあと仮眠室へ運んだ後、寝ている彼女に下心が出て身体に触った瞬間サーナイト(セシリア)によって脳天にメガトンパンチを喰らったのだが完全な自業自得である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待たせてしまったかな?」

 

 そんなことがあった会場から足を一歩踏み出したセクハラ野郎は外で待っていた人物に声をかける。

 

「…………待っていない」

 

 彼が外へ出て行って1時間は経っているのだが、その間この場所で待機していたのだろうか?

 流石にそれを聞いたたとしても頑なにしゃべることはないだろう。

 

 赤帽子のつばに手をかける少年レッドがこちらをじっと見つめてくる。

 肩に乗っているピカチュウも意気揚々といった表情だ。

 幹部とのバトルに横やりを入れてしまったことでバトルの約束することになったのだが、ここまで早くなくてもいいと思ったりもする。

 だがそれ以上に楽しみにもしている。

 

 わかる人はわかるだろうが、目の前に居るのはあの(・・)レッドだ。

 まだ手持ちのポケモン達も成長途中といえど、それでロケット団幹部を平然と追い詰めているところから隠しきれない実力を有しているのも確か。

 今の彼がサーナイト(セシリア)相手にどこまで戦えるのか。それがとても興味を引いた。

 

「………どこにいった?」

「え?なにが…?」

「…エーフィ」

「あぁ、ロケット団の残党がいないとは限らないから、エリカさんの護衛を任せたよ」

 

 レッドの指摘に応えると不満げな表情をするレッド。

 だがこればかりは仕方がない。警察の介入もあって多くのロケット団を確保できたとは言っても、勢力から考えれば氷山の一角だろう。まだタマムシシティに潜んでいる可能性だって当然ある。

 今この時にも寝首を掻いてやろうと必死に動き回っているかもしれない中で、裏切者扱いをされているエリカが狙われない理由はない。

 そのため壁張りが得意なエーフィ(イゾルデ)に白羽の矢が立ったのである。

 

 もっともイゾルデ自身もいつもと違って乗り気であり、すごく意味ありげな表情をしていたのが少し気になるのだが、エーフィ自身もタツミに悪意を持った行動があれば許さない性格なので大した問題にはならないだろう。

 

「………」

「ははっ。イゾルデがいないことがそんなに不満なのかい?」

「…………だったら何?」

「安心しな」

 

 (レッド)自身、己の腕に自信があるのだろう。

 ここまでのジムチャレンジは大した苦戦を強いられたことがないらしい。それに加えてポケモンマフィア相手にも互角以上に戦えていた彼のポケモンも強い。

 だけどまだまだレベルが足りていない。

 

「その程度のハンデ、セシリアにとって何の苦でもない」

 

 挑発だ。そして事実だ。

 自分の相棒(サーナイト)は、お前の相棒達に負けないという事を暗に伝える。

 エーフィまで相手にするには、まだまだ実力不足だというかのように。

 

「……!」

 

 そして彼はそれに乗ってきた。

 赤帽子から覗かせる瞳には先ほどよりも昂った闘志を秘めている。

 ピカチュウもその闘志に同調するように頬で火花が散った。

 

「フィールドの使用許可は取ってる。審判も頼んでおいた。そこで()ろうか」

「……」

 

 元々バトルの約束をしていたため、リーグの方に使用許可を取っていた。流石にここまで早く使うことになるとは思っても見なかったが、ロケット団のアジトを潰した功績者ということもあるのか快く快諾してくれた。

 

 歩いて5分といったところ。

 互いに無言ではあったが、居心地は悪くなかった。

 

 会場に到着し、中へと入る。

 観客は誰もいない。当然だ。昨日の今日でシティ内も混乱がまだ収まり切れていない。こんな中でこの会場を使用するトレーナーはいないだろう。

 

「お待ちしておりました。タツミ様とレッド様ですね。この度のバトル、私が審判を任されました」

「急な願いを承諾してくれてありがとうございます。よろしくお願いします」

 

 審判に礼を告げて互いにバトルフィールドに立つ。

 こうした施設で一対一で戦うのは初めてであり、画面の前でしか見れなかった光景を想えば心にくるものがある。

 だが浮かれてはいられない。

 あれだけの啖呵を切った以上、無様な試合にする訳にはいかない。

 

「セシリア、準備はいいか?」

『サナ!(いつでも!)』

 

「………」

「ピッカ!!」

 

「タツミ選手の使用ポケモンは一匹、レッド選手の使用は六匹。ルールはレギュレーション通りとします!双方準備はいいですね?それでは…バトル開始!」

 

 

「「“10まんボルト”!」」

 

 

 試合開始と同時に同じ技名が両者の口から出てくる。

 鳴り散る雷と火花が会場を一層明るく照らす。

 

 互いに拮抗した電撃合戦。

 一発と言わず、互いに攻撃を放ち、躱し、ぶつけ合う。

 

「“メガトンパンチ”!」

「“アイアンテール”」

 

 指示も互いに最小限。

 小手調べの電撃合戦が終わったと見計らったサーナイトが一瞬でピカチュウの横へとテレポートする。

 それに目を見開きながらも指示の遅れを発生させないレッドの指示でピカチュウも被害を受けずに済んだ。

 

 サーナイトとピカチュウの物理技がぶつかり、相殺された反動で互いの距離が再び開く。

 だがそれをよしとしないレッドはすぐさま距離を詰める指示を行う。

 明らかに先ほどのテレポートからの奇襲を警戒している。

 

「“はたきおとす”」

「“ほっぺすりすり”」

 

 そこまで技を見せたわけではなかったのだが、レッドは特殊技をそれ以上に警戒しているのだ。

 物理技と違い、特殊技は発動までにコンマであるがラグが存在する。

 故にでんこうせっかを移動に使用しながら間合いを詰め、テレポートで離脱しようにも出現場所をいち早く把握するレッドの指示によって埋められる。

 ここまで無茶な指示を正確にこなす彼等には相当な絆と信頼関係が築きあがっている何よりの証拠だった。

 

 ピカチュウを掴み、地面にはたき落とそうとするサーナイトに強引に頬袋をぶつけたピカチュウはそのまま地面に叩きつけられてダメージを負った。

 だがその対価は十分だ。

 一発の威力は蚊に刺された程度ではあるものの、その技の特徴は確定で麻痺にする効果。

 サーナイトの右手がしびれるのか、少し痙攣している様子を見てタツミはすぐさまピカチュウを落とす指示を出した。

 

「“かげぶんしん”」

「“マジカルシャイン”」

 

 

「ピカチュウ!戦闘不能!」

 

 地面に叩きつけられた後の追撃を躱したピカチュウは己の分身を作り、隙を生みだそうとするものの瞬時に本体を見破ったサーナイトの追撃でダウン。

 審判判断の元この勝負はサーナイト(セシリア)に軍配が上がった。

 だが麻痺状態である以上、安心はできない。

 最低限の仕事をされただけにしてやられた気分だった。

 

「…いけ、リザード」

 

 そして次に出てきたのはリザード。

 すぐさま煙幕を使用したことで会場の視認性が極端に悪くなった。

 

「“ほのおのうず”」

「“サイコキネシス”!」

 

 単発では厳しいと判断し、継続ダメージを与える技にすぐさま切り替えた。

 鞭のように飛んでくるほのおのうずをサイコキネシスで霧散させ、そのままサーナイトは攻撃を敢行していく。

 

「はは、楽しいかセシリア」

『サナサナ!(正直なところ、楽しいです!)』

 

 戦闘中だというのに、勝つことよりも勝負を楽しむことに意識が向いてしまう。

 今の状態でもここまで戦える彼等を分析しながら、成熟したら一体どれほどの強さになるのかを考えると世界でもトップランカーになるのは約束されたものだろう。

 彼女がカウンターの要領で被弾するなど野生のポケモン相手にもなかったことだ。

 

 麻痺したとはいっても被弾は少ない。体力も大して減ってはいないだろう。

 サーナイトのやる気も最初より増加した様子。

 

「やるぞセシリア!ここからはこっちも全開だ!」 

「サナ!!」

 

 ねんりきで煙に潜んでいたリザードは後ろに大きく吹き飛ばされ、ついでと言わんばかりに煙幕も霧散さした。

 目を一層細めるレッドに聞こえるように宣言する。

 これからが本番だと。

 

 それはこれから生まれる未来のチャンピオンに、いずれ越えるべき壁が生まれた瞬間であった。

 

 




 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
・ロケット団の学者(43)
 エリカを引き取った元悪。
 育てていくにつれて尊さで悪性物質が浄化され、我が子のように育てることを決意した男。独身の研究一筋。
 ロケット団での位はそこそこ高かったらしいが、エリカをロケット団に強制所属させることに反対したことで権威を剥奪された。
 合理的な戦闘を好み、天候を利用した戦術を用いる。
 手持ちはキュウコン。

・エリカ(18)
 花言葉は「孤独」「博愛」
 この作品ではロケット団関係者という設定に。
 タマムシシティでロケット団が良いように活動してたのに、対策してないなんておかしいよねって話。
 ほんとは身売りなどの黒々しい設定持ってたけどそんなの描写してたらキリがないってことでボツ。
 両親を失った「孤独」に、ただでさえシティに敵が多いのにジム内にもスパイが居て助けも呼べない「孤独」。
 それを背負いながらこの日までポケモンと人間を愛しながら生きてきた女神。


・レッド(15)
 後の金銀では最強ピカチュウ(ピカニキ)[81]を有するリビングレジェンド(進化中)
 赤い帽子がトレードマークで、寡黙。とにかく言葉数が少ない。
 描写はしてないが
 ピカチュウ[45](でんきだま常時所持)
 イーブイ[30]
 リザード[35]
 フシギバナ[45]
 カメール[32]
 カビゴン[40]
 を所持している。
 ジム戦でのエリカの手持ちが30レベル前後と過程すれば破格の強さである。
 というよりも初見で瞬間移動攻撃を把握して攻撃を往なした時点で意味不明な強さ。これで成長途中なのは恐ろしや。

 


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