摂津物語 (pzg)
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摂津物語 前編

注意書きを確認したうえで読んでください。
好みの分かれる内容になっています。

※深海棲艦の棲の時が凄になっていました。申し訳ありません。


「やった、ついに建造に成功したわ!!」

 

女の子の声?

 

 

あれ?

ここはどこだ?

この景色は…私の家じゃない!?

おかしいな、私は家で普通に寝ていたはずなんだが。

とにかく、落ち着いて状況を調べよう。

 

ここは…どこか神社っぽい雰囲気がする工場のような場所。

そして周りには、何これ…可愛いい!?

例えるなら、旧軍のコスプレをした頭でっかちなフィギュアがちょこまかと跳ね回っています。

「セッツ、シュンコウデアリマス!」

何か喋っているが、小さくて聞き取れないけど、とにかく可愛い。

色々と不思議な存在ですけど、可愛いからとりあえずは良しとします。

あと他には…

 

「蒔絵よくやったぞ!!

 成功を祝して、この兄が熱い抱擁をしてやろう!」

 

「妹にセクハラをする提督を持つことになるなんて、不幸だわ」

 

「ち、違う、これは違う!?

 俺は艦むす以外には手を出さない紳士なんだ!!

 

 ぎゃああああああああ!?」

 

今気が付きましたが、少し離れた所に人が三人いました。

一人は、ウェーブがかかった黒髪を腰まで伸ばした、気が強そうな中学生ぐらいの少女。

二人目はまるで改造巫女服のようなものを着て、何故か砲塔と盾の様なものを持っている大人の女性。

三人目は男性で、二人目の女性が持つ盾のようなもので股間を殴られて、絶賛悶絶中の黒髪の大学生ぐらいのイケメン。

 

何この組み合わせ。

色々とツッコミどころが満載な組み合わせです。

少女とイケメンは海上自衛隊のような白い軍服を着ていますし、大人の女性はどう見てもコスプレ、一歩間違えるとイメクラです。

ああそうか、単純に考えればいいんだ。

この人達はコスプレしているんだ。

 

例えば道に迷った場合、わざわざコスプレしている人達に助けを求めるなんてことはありませんが、今は非常時です。

この人達に助けを求めましょう。

さて、助けを求めるとしたら第一印象が大切です。

第一印象が悪ければ「すみません、ちょっと私達忙しいんで」といった感じで相手にされない可能性があります。

ですので、しっかりとした挨拶をしましょう。

何時もの如く緊張して来たけど、落ち付いて喋ればきっと大丈夫!

 

「家に帰る、ここがどこか教えて」

 

なんとか上手く喋れた、よかった。

どこが上手く喋れたのかって?

実は私、物凄く恥ずかしがり屋で、所謂コミュ障なんです。

顔は無表情だし、心の中で色々喋っていても、口が上手くついて来てくれないのです。

だから、今のような簡潔な言葉でも、私にとっては上手く喋れた方なのですよ。

 

「家?帰る?どういうことよ!?」

 

あれ?何か少女が驚いていますが、私はそんなに変なことを言っているのでしょうか?

確かに相変わらず心のこもっていない言葉でしたが、言いたいことはちゃんと言えてますし、多少ぶっきらぼうですが間違った言葉でもないはず。

とにかく、もういっかいチャレンジです。

 

「そのままの意味です、家に帰りたいだけです」

 

 

 

 

 

「か、艦むす側から嫌われるなんて…屈辱だわ…」

 

「ま、蒔絵、落ち着け!?」

 

「不幸だわ…」

 

ちょっ、何この反応!?

少女は手をプルプルと震わせながら、怒りを我慢しているって感じになるし、イケメンはオロオロするし。

大人の女性は、何か良く分からないが目が死んでる気がする。

 

何が起きているか良く分からないが、物凄く失敗してしまった気がしますよ。

 

 

----------

 

 

先程の工場のような場所とは違い、執務室のような立派な部屋に連れてこられました。

でも、先程の変な空気は今も続いています。

イケメンは物凄い困り顔、そして少女は喧嘩中の猫のように「フー!!」っといった感じで、こっちをずっと睨んでいます。

 

私がいったい何をした!?

 

少女に涙目で睨まれるというのは、一部の人にはご褒美ですが、私としてはとても辛いです。

どうにかしたいのですが、少女もイケメンも、とても話しかける雰囲気ではありません。

もう一人の人、大人の女性に助けを求めようと思いましたが「山城、大丈夫?砲戦よ!!」とか、壁に向かって喋っているので諦めました。

 

この状態がこのまま続いていたら、私はプレッシャーに耐えられず確実に吐いていたでしょう。

ですが、私は吐きませんでしたよ。

何故なら、それどころでは無い事実が判明したからです。

 

目が覚めてからずっと、何だか視線が低いなーと思っていたのですが、背が縮んでいました!

というか…

 

紺のクラッシックなセーラー服。

小さな人形がつけられた、学生鞄。

背中に三本の煙突状のものと、二本の柱のようなもの。

ベレー帽と黒髪のツーサイドアップ。

ちょっとつり目。

エメラルドグリーンの瞳。

幼くも、女性を感じさせるしっかりとした綺麗な目鼻立ち。

凹凸の少ないスレンダーな体。

 

という、出で立ちの小学生ぐらいの女の子になっていました!!

 

 

ナニコレ…

認めたくないが、私の周りにいっぱいいるフィギュアのような可愛い生き物が持っているのは手鏡で…

位置から考えて、それに写っているのは間違いなく私です。

 

「この姿はいったい何だ?」

 

しまった、思わず独り言を言っちゃった。

これじゃまるで、不審者じゃないか…

 

 

 

 

と思ったのですが、おかげで状況が少しだけ分かりました。

「その件は僕から説明します。

 まず最初に何の説明も無く、船から少女の姿に変えて申し訳ありません。

 これには深い理由がありまして…」

何故なら、イケメンが私の言葉の何をどう捉えたのか、色々と説明してくれたからです。

 

イケメンによると、世界は突如現れた深海棲艦という奴らに海を荒らされ、大混乱に陥っているとのこと。

これら深海棲艦に対し人類は結束して戦ったものの、通常兵器が効かないため、人類は敗北を重ねることになったそうだ。

そんな時、人類の切り札として現れたのが艦むす。

第二次世界大戦時の艦の魂を妖精さんの持つ神道の技術と人類の霊力で実体化した九十九神。

この艦むすによって、何とか5分5分にまで持ち込み、今もそれが続いているとのこと。

 

 

そして、目の前のイケメンと少女は提督。

提督とは、霊力を注ぎこむことによって艦むすを呼び出し、そして共に戦う存在。

イケメンはかなり優秀な提督らしく、100隻以上の艦むすを部下に持ち、日々深海棲艦と戦っているとのこと。

因みに少女はイケメンの妹であり、イケメン曰く士官学校の成績はとても優秀だったが、霊力が低くこれまで艦むすの呼び出しに失敗し続けていたとのこと。

しかし霊力を補うために、通常の100倍近くという莫大な資源をイケメンがつぎ込んだところ、今回初めて成功したとのことだった。

 

つまり、私は少女が初めて呼び出すことに成功した艦むすであり、少女の部下ということらしい。

なるほどー。

 

 

 

 

 

 

 

船が少女になるわけないだろ!!

それに深海棲艦?

聞いたこと無いぞ!?

異世界とでも言うのかよ!!

信じられるか!!

 

と言う所かもしれませんが、この自分の体を見せ付けられたら信じるしかないです。

健全な日本人の男が、少女になっているなんてねぇ。

それに、最初に謝った理由は分からないが、イケメンはとても真剣で、嘘を言っているような雰囲気じゃなかったからな。

 

しかし、困ったな。

いきなり平和な日本から、戦乱の世界に連れて来られただけでも大変なのに、戦うことまで求められているとは。

 

武器を持って戦うとか。

正直勘弁してもらいたいデス。

いっそのこと逃げようか。

でも、どこに逃げればいいのか。

そうが、武器の使い方が分からないとか言って、雑用係とかにしてもらうのはどうだろうか。

 

私の武器は鉄砲ではなく『掃除機です!』とかいいかもしれない。

 

あれ?

そういえば武器ってどこだ?

 

「武器、無い」

 

「どういうことよ、本当だわ!?

 あなた、主砲も魚雷も無いじゃない!?

 駆逐艦の癖に、主砲も魚雷も無いとかどうなってるのよ!!

 あなたいったい何なのよ!?」

 

ぐわっといった様子で少女が近付いてきたかと思うと、胸元を持ってカックンカックンと私を揺さぶります。

動揺しているのは分かりますが、そんなこと私に言われても。

 

 

だって私は…

 

 

 

私は…

 

 

 

ただの一般人…

 

 

じゃない。

何だ、心の底から名前が湧き上がってくる。

そうだ、この体の持っている名前は…

 

 

「私は……標的艦攝津」

 

 

----------

 

 

我が世の春が来ましたよーーーー

妖精さん可愛いなーーーーよーしよしよしよし!!

 

「キョウシュクデアリマス!!」

 

そうかそうか、恐縮しなくてもいいよ、可愛いのは正義だからーーーー

 

ハイになっていますが、別に危ない薬をやっている訳ではありません。

ヤケになっているだけです。

何故ヤケかって?

それはこれから、演習と言う名のリンチを受ける予定だからです!!!

 

アハハハ…

 

ハハハ…

 

ハア…

 

 

こうなったのは一時間ぐらい前に原因があります。

それでは回想です。

 

「標的艦、そんな艦種聞いた事が無いわ!?」

 

「摂津、いったい何者なんだ!?」

 

私の名前を聞いて混乱するイケメンと蒔絵提督。

そんな二人を助けたのは、壁と会話していた大人の女性、扶桑さんでした。

 

「大先輩が来てくれていたのに、気が付かないなんて…。

 きっと制裁されるわ、不幸だわ…」

 

不穏なことを言いながら説明してくれた内容は、私すら知らないものでした。

簡単に言うと、私は現在確認されているどの艦むすよりも古い船で。

元は河内型戦艦の二番艦というれっきとしたド級戦艦。

そして史実では、戦艦から標的艦へと改造され、演習の標的として活躍し、太平洋戦争の終戦間際に空襲で沈んだのだという。

 

この話を聞いた後の皆の様子は三者三様でした。

私はフーンといった様子で、イケメンは考え込み始めました。

ここまでは良かったのですが、蒔絵提督が落ち込んでしまいました。

蒔絵提督の予想外の行動にどうすればいいか分からず、内心オロオロしていましたが、何かできるわけが無くそのままにしてしまいました。

結局、イケメンが何か言ったらしく蒔絵提督は立ち直ったのですが…

 

「演習、演習よ!とにかく演習よ!!

 演習で私達の力を見せてやるわ!!!!」

 

と蒔絵提督が騒ぎ始め、そのまま今に至るという訳です。

妙にハイテンションだったが、あのイケメン何を言ったんだ?

やっぱりあれだろうか、気に入らないなら演習で痛めつけてやれとでも吹き込んだのでしょうか。

原因がさっぱり分かりませんが、蒔絵提督には嫌われているようですからねw

 

 

…笑い事じゃないだろ。

聞くところによると、演習の標的艦っていうのは、実際に弾を打ち込まれるそうです。

演習弾を使うので大丈夫とか、艦むすだから体の使い方は分かるはずだとか蒔絵提督は言っていますが、艦むすでもない人がそんなことを言っても説得力が無いのです!!

 

演習弾とはいえ弾なんですから、撃たれたら痛いに決まっているじゃないですか!!

おまけにこちらはド素人級標的艦なのですよ!!

艦むすとは中身が違うのです、中身が!!

柔道だって、上手い人が同士が試合すれば怪我しませんが、片方が素人だったら当たり所が悪くて死んじゃうこともあるんですよ!!

 

『摂津、演習相手は来た?』

 

「蒔絵提督、まだそのような姿は見えません」

 

でも、基本的に人と喧嘩したり、言い争うのが苦手でチキンな私には、止めて下さい死んでしまいます、と拒否することはできませんでした。

唯一の救いが、無表情と感情のこもっていない口調のおかげで、凄く嫌がっているのが蒔絵提督にばれないぐらいでしょうか。

 

あ、因みに蒔絵提督とは少女のことです。

演習は提督室から無線で指示を出すことになっているらしく、一旦別れることになったので、別れる前に自己紹介を済ましました。

それと、イケメンは春人という名前で春人提督と呼んでくれとのことでしたが、心の中ではイケメンのままにしようと思います。

意味は無いですけど。

 

おっと、色々と思い出していたら五人ぐらいの人影が港に現れました、あれが演習相手か。

あ、一人は最初に出会った大人の女性、扶桑さんだね。

扶桑さんは「航空戦艦」というカテゴリーの船です。

つまり空を飛ぶことが出来る戦艦という、どっかのアニメに出てくるような凄い艦むすで、秘書艦という提督に次ぐ地位を与えられています。

そして残りは、小学生ぐらいの女の子が四人で、初めて見る顔です。

 

これは何とかなるかもしれない。

扶桑さんは突然演習が決まった経緯を知ってるので、全力全開ではなく手応えを確認しながら戦ってくれるかもしれない。

そして残りの小学生ぐらいの女の子達は、見た目から考えてあまり激しい攻撃はしなさそう…だと思う。

 

「司令官のために頑張っちゃうね!」

 

「みんな頑張るのよ!

 相手は演習専用の標的艦よ、きっと鬼軍曹よ!

 成績が悪かったら精神注入棒でお仕置きされるに決まっているわ、不幸だわ!!」

 

「精神注入棒!?

 そんなものでお仕置きだなんて、レディのすることじゃないわ!!」

 

「はわわ!?卑猥なのです!!」

 

「恥ずかしいな…」

 

何ですかそれは。

扶桑さんが変な気合を入れていますよ!?

そして、小学生ぐらいの女の子達も同じく変な気合が入っているような…

これはやっぱり、やばいかもしれない。

 

 

----------

 

 

やれることはやりました。

さっきまでヤケになっていましたが、流石にそのまま演習を始めて死んでしまったり、大怪我をしたら後悔してもしきれませんから。

といっても、海の上に立つ方法すら分からない私に出来ることなど限られています。

まず最初にやったことは、作戦を蒔絵提督に丸投げすることでした。

 

「蒔絵提督」

 

「な、何よ」

 

「作戦、全てお任せします」

 

「っ!?

 

 

 分かったわ、やってやろうじゃないの!!」

 

これまでの雰囲気から「楽をしようとしているんじゃないわよ!!」って感じで怒られるかと思いましたが、意外なことにすんなりと受け入れてくれました。

これで多分死ぬことは無いでしょう。

素人の私が作戦を立てれば、事故が起きて死ぬ可能性があります。

ですが、蒔絵提督はプロです。

例え私を痛めつけようと思って演習を組んでいて、私を痛めつけるような作戦を立てたとしても、多分半殺しで済みます。

痛めつけるのが目的ですからね。

 

半殺しは嫌だけど、死ぬよりマシなのです!!

 

そして次にやったことは、私の『動き』をどうにかすることでした。

例え作戦が上手く立てられてても、私がまともに動けなければ意味がありません。

実はこれが一番心配でした。

何故なら、艦むすというのは海の上を走ったり滑ったりしながら戦闘をするそうです。

つまり、元が船ではなく一般人の私にとって全て初体験であり…

 

いきなりできる訳が無いのです!

 

ということで、できないのなら、できる人達に助けてもらうことにしました。

 

私が助けを求めた相手は。

 

「君を艦長に任命する」

 

「カンドウデアリマス!!セイイッパイガンバルデアリマス!!」

 

艦むすになってから、ずっと私の周りにいるフィギュア…ではなく、妖精さん達でした。

演習海域に扶桑さん達が向かい、港でただ一人(どうやったら海の上に立てるのだ…)という根本的な問題にぶち当たっていた時のことでした。

私が困っていることに気がついた妖精さん達が「コノママ、スイメンニトビオリレバイイノデアリマス!!」と教えてくれたのが切っ掛けでした。

話を聞いてみると、妖精さん達は過去に何度も出撃を経験しているので色々と知っているとのこと。

経験値ゼロの私より、歴戦の妖精さん達の方が絶対にまともな判断ができると考えた私は、妖精さん達に『私』を指揮して欲しいとお願いすることにしました。

 

船を人間が動かすように、艦むすである私を妖精さんが動かす。

このアイデアに対し妖精さん達は「ユルサレナイデ、アリマス!」「カンムスニシジヲダスナンテ、オソレオオイデアリマス!!」と最初は及び腰でした。

妖精さんの常識では、艦むすの方が格が上らしく、戦闘時に負傷した艦むすをサポートすることはあっても、妖精が艦むすを動かすなんてありえないそうです。

でも、そんなことは正直どうでもいいのです。

私の中身は艦むすではなくただの一般人ですし、このままじゃ大ピンチなのですから。

だから「妖精さんの実力を信用している」「君達だけが頼りなんだ」とペコペコと頭を下げてお願いしました。

その甲斐あってか、最後には「ヨウセイミョウリニツキルデアリマス!」「ココマデタノマレテコトワッタラ、オンナガスタルデアリマス!!」と引き受けてくれました。

 

その後、航空戦艦日向と行動したこともある、一番経験の長い妖精さんを艦長に。

そしてそれ以外の妖精さんも経験と得意分野を聞いて、操舵士、航海長、見張り員等など、必要な人員を配置しました。

因みに、見張り員になった妖精さんは一人なのですが、頭の帽子の上で10人に増えましたよ。

分身の術だそうです。

妖精さんって凄い。

 

「リョウゲンゼンシンゲンソク!シュツゲキデアリマス」

 

「リョーゲンゼンシンゲンソーク、ヨーソロー」

 

「ミンナ、セッツサンノキタイニコタエルヨウガンバルデアリマス」

 

「「「「オーーー!!」」」」

 

 

----------

 

 

いやー無事に終わった終わった!

全て無事に終わりましたよ!!

 

まず蒔絵提督主導のリンチ説は間違っていたようでした。

蒔絵提督は、中々優秀でした。

今回の演習は、私の性能を調べるのが目的だったそうで、演習シナリオとしては扶桑さん達が私をいかに早く捕捉し沈めるかというものでした。

この場合、提督は何もやることが無いのが普通らしいのですが、蒔絵提督はこんな指示を出してきました。

 

「演習海域の端ギリギリに移動してそこで戦うように」

 

相手の数は五隻で、しかも艦載機までいるから攻撃方向を限定して少しでも戦い易くするんだそうです。

演習条件の穴をついた卑怯な技と言えばそれまでですが、こういった柔軟な発想はとても大切です。

硬直した考えでは、ルール無用の戦争には勝てませんからね。

 

そして妖精さん達もかなり優秀でした。

 

「遅いのに、どうして当たらないのよ!?」

 

「瑞雲もっと頑張って!」

 

うん、私もそう思う。

ってぐらいに、妖精さん達は私をうまく操艦してくれます。

私は攻撃してくる艦むすの半分ぐらいの速度しか出せないのですが、攻撃を先読みしているか如く艦を動かして避けてくれます。

 

「コウクウキノウゴキヲミレバ、ドコニバクダンガオチルカイチモクリョウゼンデアリマス」

 

「エンガノミサキオキニクラベタラ、ナマヌルイデアリマス!!」

 

意味が良く分からないが、まだまだ生ぬるいらしい。

そして扶桑さんも空を飛ぶことなく、手を抜いてくれました。

 

そんなこんなで演習終了。

それなりに被弾はしましたが、撃沈判定は出ませんでした。

しかも、演習では全然痛くないことが分かりました。

艦むすにはシールドが張られていて、ダメージを食らっても艤装が破損するだけだそうで、シールドが消失しない限り体にダメージは無いんだそうです。

おまけに演習弾の威力はとても低く、ダメージらしいダメージを食らっていませんでした。

蒔絵提督…艦むすでもない人が言っても説得力が無いとか考えてごめんなさい。

 

妖精さん蒔絵提督ありがとう!!

よぉーしよしよしよしよしよしよし!!!!

 

先程とは違った意味でハイですよ。

 

標的艦=演習向けの船=演習の日々=安全=平穏な生活

 

蒔絵提督=思った以上にまともな人っぽい=平穏な生活

 

という方程式が成り立ったからです!!

 

「摂津、私はあなたの提督とし、ギャー何するのよ!?」

 

だから、妖精さんと一緒に蒔絵提督を『よしよし』してしまったのは、不可抗力だと思います。

 

 

----------

 

 

ぐちゃぐちゃになった髪の毛を整えなおす。

髪の毛をぐちゃぐちゃにした犯人の名は摂津。

筆記はトップ、だけど霊力は最低レベルと馬鹿にされた私がやっとの思いで手に入れた艦むす。

 

深海棲艦に復讐を誓ったあの日から、艦むすを手に入れるために人一倍努力してきた。

だから、自分の霊力が艦むすを呼び出せる可能性がゼロではない程度、しかも呼び出せたとしても一人を従えるのが精一杯と判明した時には絶望した。

 

それから一年、絶望の中で私は更に努力した。

そんな努力と、大型建造級の資材を惜しげもなく投入してくれた兄の献身が今日、ついに実った。

 

私にはずっと暖めてきた言葉があった。

初めての、そして最後の艦むすにかけるべき言葉。

 

「呼び出しに答えてくれてありがとう。

 私とあなたの二人だけの鎮守府だけど、二人三脚で栄光を掴みましょう!」

 

そう私は言うつもりだった。

なのに…

 

「家に帰る、ここがどこか教えて」

 

彼女の表情には嘲りも失望も無く、ただ拒絶の言葉だけがあった。

だからこそ、私は屈辱と敗北感でいっぱいになった。

自分は相手にすらされていないのかと。

 

その後兄が、らしからぬ丁寧な言葉で現状を説明する。

兄なりに私を気遣い、彼女を説得しようとしてくれたのだろう。

そんな兄の気遣いに感謝し、少し心が落ち着いた時に、思わぬ事実が明らかになった。

 

「私は……標的艦攝津」

 

彼女は、艦むす史上初めての艦種であり、経験豊かな艦だった。

それだけなら良かった、たった一隻しか従えられないのなら、強い艦であるのは大歓迎だから。

しかし彼女は非武装だった。

 

私は自分の霊力が判明した時と同じぐらい絶望した。

戦えなければ、どうやって深海棲艦に復讐すればいいのかと。

 

そんな時に助けてくれたのは、また兄だった。

 

「標的艦は演習で力を発揮する。

 摂津を使って、他の艦むすを今より強くして、深海棲艦を倒せばいい」

 

兄の言葉にすぐに納得したわけではない。

正直に言って、今も自分の指揮する艦むすで深海棲艦を倒したいと思っている。

でも兄の言う方法しかないのも分かっていた。

だから私は空元気を出し、早速摂津を演習に出すことにした。

そんな私を、摂津は無表情でただ見ているだけだった。

その後の摂津は、必要最低限以外何も喋らなかった。

摂津はきっと、私に興味など無いのだと思った。

私が提督として摂津に命令を出したため、ただ従っている。

きっとそうなのだろうと思い、気分が重くなった。

 

摂津が私に話しかけてきたのは、そんな時だった。

 

「作戦、全てお任せします」

 

私は一瞬言葉に詰まった。

 

私に興味なんて無かったんじゃないの!?

あなたは演習のプロとも言うべき存在なのに何故私に全て任せるの?

陣形選択も武装選択も出来ないあなたに対して、提督のすべき仕事なんて何も無いじゃない!!

 

色々な考えが頭に巡る。

それゆえだろう、私の本来の性格に基づく答えにたどり着いたのは。

 

(摂津は私を試している)

 

私は負けず嫌いな性格だ、だから欠陥提督という烙印を押されても、ここまで努力することができた。

そしてその経験が、摂津の発言を私に対する挑戦だと受け取った。

 

私は単純かつ泥臭い作戦を考えた。

この短時間と非武装艦を使った演習という制約から、これぐらいしか出来なかったのだ。

それでも、演習場端まで安全かつ最短距離で移動できるコースを割り出すなど、出来る限りのことはやったつもりだ。

 

結果、摂津は兄の艦隊が演習弾を使い切るまで撃沈判定を出さずに逃げ切ることができた。

事実上の勝利だと言って良いが、これを素直に喜ぶ気にはなれなかった。

この勝利は私ではなく、摂津の力によってもぎ取れたようなものだからだ。

 

摂津の操鑑は、とても今日呼び出されたばっかりの艦むすとは思えないほど上手かった。

 

まるで全周囲に目があるかのごとく敵を察知し、攻撃に対しても攻撃がどのように行われるか知っているかのように回避し、敵との位置取り、つまり駆け引きも手馴れているようだった。

 

「呼び出されたばっかりの艦むすは、走る、撃つの二つで精一杯だと相場は決まっているんだけどな。

 なのに摂津は、戦争を知っている動きだな。

 もしかしたら艦の時代から九十九神だったりして」

 

兄がそんな冗談を言いながら「摂津は良い艦むすだ」と私を励ましてくれたが、私は摂津の動きを見て「自分なんて必要ない、私の立てた作戦なんて無くても摂津は勝てた」と思った。

摂津は私のような欠陥提督には勿体無いほどの優秀な艦むすだった。

 

だから、摂津を兄に預けよう。

私はそう決めた。

 

でも摂津は…

 

「摂津、私はあなたの提督とし、ギャー何するのよ!?」

 

まるで親が子供を褒めるかのごとく、私の頭をワシワシと撫でられた。

そしてその時の摂津の顔には、ほんの少しだけ笑顔があった。

 

ああ、私は摂津に認められたんだとその時分かった。

 

 

私の夢見た、提督と艦むすが二人三脚で栄光を掴む関係とは違う、生徒と先生のような関係だけど、凄く嬉しかった。

 

 

 

そして、いつか夢見た関係になってみせると心に決めたのだ。

 




ある日の会話。
P「ケッコンカッコカリできそう?」
友「金剛とあとちょっとかな…」
周囲の人たち「!?」
P「おめでとう!!」
周囲の人たち「ひそひそひそひそ…」

後日『友』が近藤さんという名の女性と結婚するという噂が流れていました。
結婚する予定の無い人に結婚の噂が流れるとか、不思議なこともあるものです。


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摂津物語 中編

注意書きを確認したうえで読んでください。
好みの分かれる内容になっています。


無事演習が終わり、日もすっかりと暮れました。

そして私は、割烹鳳翔という名のお店に来ています。

この店は鳳翔さんという艦むすが開いているお店で、艦むすも提督も美味しく食べられるお酒と料理が出るらしいです。

そんな店に私が何しに来ているのか言うと…

なんとこれから、私の歓迎会&蒔絵提督の祝賀会が行われるのです。

 

出席者は私、蒔絵提督、イケメン。

イケメンの秘書艦の扶桑さん、今回演習相手だった第六駆逐隊の面々。

そしてイケメンの部下で参加できる艦むす全てだそうです。

本来ならここまで大規模な歓迎会は行わないそうなんですが、蒔絵提督最初の艦むすだということで、全員に声をかけてくれたようです。

 

これが全て太平洋戦争で戦っていた艦から生まれた艦むすか。

そう考えると壮観だが…何だか既に始まってしまっていて、ただの女子会に見えます。

えっとどうするんでしょうかこれは…

 

「ああ、空はあんなに暗いのに、どうしてもう飲んでいる子がいるのかしら」

 

扶桑さんの言葉の意味が分からん。

と思いましたが、その言葉を聞いて誰も彼も静かになりました。

流石秘書艦。

何だか良く分からない迫力があります。

 

「扶桑ちゃん、いつもありがと。

 さて、みんな集まってるな?

 今回我が妹の蒔絵がついに艦むすの建造に成功しました!

 本日はその祝賀会と、新たなる仲間の歓迎会です!

 はい、それじゃ摂津挨拶して」

 

イケメンが簡単に挨拶して、いきなり私の出番です。

百人近くの艦むすが私に注目してきます。

うわ、こういうの凄く苦手です。

は、吐きそう…

でもここで吐いたら、小学校の卒業証書授与式に吐いてしまって、ゲロ皇帝という二つ名を手に入れた時の二の舞になってしまううう!!

頑張れ私っ!!

 

「標的艦攝津です、よろしく」

 

頑張ったよ私!!

え、それで終わりって顔しないで下さい!!

これで精一杯なんです!!

 

「あ、いやー。

 人見知りが激しいんだ、うん。

 彼女は聞いての通り、標的艦という演習専用の艦だ。

 戦うことはできないけど、僕も欲しいぐらい役立つ子だよ。

 だから今後は、蒔絵に頼んでみんなの演習を手伝ってもらうことになるから、よろしく頼むよ」

 

おー。

イケメン見直したぞ、人見知りが激しいとか良く分かったな。

でも、私が欲しいとか言っているけど、男なんかにあげないからな!

どうせ扱き使われるなら、女の子の方がいいです。

 

 

----------

 

 

「ねえねえ、あなた何ノット出るの」

 

「17ノットらしいです」

 

「17ノット!?おっそーい!!」

 

「ぽい!?」

 

「標的艦だから僕は十分だと思うな」

 

「いえ、標的艦とはいえ、元駆逐艦としては遅すぎるわ。

 今度私と演習しない、少しは参考になると思うわ。

 ああ、礼なんて考えなくていいのよ」

 

「あのっ、その人は…そのっ」

 

歓迎会が始まって少し経ちました。

現在、小学生から中学生ぐらいの見た目の女の子達に囲まれています。

最初は新参者らしく、勇気を出してお酒でも注いで回ろうかと、戦艦と空母のいるテーブルに向かったんですけどね。

 

「一航戦赤城食べます!!」

 

「ビッグセブンの力を見せてやろう!!」

 

「やめて!!」

 

でも、イケメンが泣き崩れているのを見て、テーブルに行く勇気がなくなり。

仕方が無いので、その隣の巡洋艦が集まっているテーブルに行ったらいきなり「駆逐艦?うざい」とか言われて心が折れました。

だから、そのまま自分の席に戻って動かなかったのですが、何故か駆逐艦の子達が何人も寄ってきます。

因みに、今私と話をしているのは、目のやり場に困る格好の島風ちゃんと、犬っぽい夕立ちゃんと時雨ちゃん、ちょっとお姉さんといった感じの陽炎ちゃん。

そしてその後ろにいる大人しそうなのが潮ちゃんといったメンバーです。

特に姉妹艦という訳じゃないそうですが、古くからイケメンの部下だったらしく、気心が知れているとか。

何かいいね、そういうの。

 

「よおガキ共、仲良くやってるか?」

 

「初めまして、龍田です」

 

次に横から割り込んできたのは…龍田さんとえーと。

 

「オレの名は天龍。フフ…怖いか?」

 

天龍さんと龍田ですか。

 

「何か分からないことがあったら、オレに聞きな!

 何たって世界水準軽く越えているからな~」

 

「ありがとうございます」

 

何が世界水準超えているのか分かりませんが、とりあえずお礼を言っておきます。

一瞬怖い人かと思いましたが、いい人そうです。

目を見れば分かります。

 

「おい、お前全然食っていないじゃないか!

 お前ら、新しい駆逐艦の仲間が出来たからって、そんなに話しかけてばっかりじゃ摂津が何も食えないだろ」

 

「でもこの子、食べるのも遅いんだもん!!」

 

「しょうがねーなー、この天龍様が食べさせてやるよ!

 ほらしっかり食えよ!」

 

天龍さんが、箸で料理を摘まんで、はいアーンってして来ます。

いや、お心遣いは嬉しいのですが、子供じゃないですしそれは恥ずかしいです。

ここはしっかり言わないと。

 

「大丈夫です、自分で食べられます。

 子供じゃありませんから」

 

「はぁー、駆逐艦なんだから遠慮するなよ」

 

ぐいぐいと私にご飯を食べさせようとします。

駆逐艦なんだから遠慮するなと言われても、意味が分からない。

それより、先程から何でみんな私のことを駆逐艦って言うんだ?

私は標的艦になる前が何なのかとは、確かに言っていない。

だから間違えるのは仕方の無いことなのだが、どうして駆逐艦になるんだ?

何か見分けるポイントでもあるのだろうか。

それはとにかく。

正直に言って、戦艦ではなく駆逐艦だと間違われても私としては何の問題もないのだが…

間違えは訂正してあげないと、相手のためにならないからな。

間違って憶えたままだと、後ほど何かで恥をかいてしまうかもしれないからな。

 

 

 

「私、元戦艦攝津。

 ド級戦艦、河内型二番艦」

 

 

 

 

 

あれ?

 

 

何か空気が固まったような。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戦艦!?ええーーーーーーーーーーーー!!」

 

「だから止めたのに…」

 

島風ちゃんが悲鳴のような声を上げ、周囲の視線が一気にこちらに集まってきました。

ありゃ、何だか収拾がつかない事態になりそうな気がします。

 

案の定「ぽい、ぽいぽい!!ぽい!?」と夕立ちゃんは騒ぎ出し、「僕もここまでか、提督…みんな、さようなら」時雨ちゃんは自分に絶望したという顔をし、陽炎ちゃんはあわあわした後「ごめんなさい!!私何てことを」って頭を下げました。

そして天龍さんは真っ赤な顔で固まり、龍田さんは「摂津さんは私達より年上で、生まれ変わる前には世話になったこともあるわよー忘れたのー?」と色っぽい笑顔で天龍さんを見つめながら、何故か天龍さんの写真を撮っています。

 

「ничего себе!」

 

「はわわ、びっくりしたのです」

 

「一人前のレディなんだから、私はとっくに気がついていたわ」

 

「みんな駄目ね、本当に気がついていたのは私だけかしら」

 

「なになに、何の騒ぎですか?」

 

しかもそれに釣られて、周りもどんどん騒ぎ始めてきましたよ。

どうするんですかこれ!?

騒ぎ出すだけならいいのですが、陽炎ちゃんみたいに謝る子とか、気の毒そうな視線を送ってくる人がいるのですが!?

凄く居心地が悪いです。

仕方ない、頑張ってどうにかするのです。

 

 

----------

 

 

ど、どうにかなりましたよ。

怒ってないよとか、一人ひとり説明して、事態を収拾しました。

大変でしたが、おかげで駆逐艦=小学生ぐらいの見た目、戦艦=大人な見た目という法則が分かりました。

なるほど、私は見た目が小学生だから駆逐艦だと思われたのか。

 

元戦艦なのに、ロリで悪かったな!!

 

ま、ロリはロリで可愛いからいいか。

そんなことより問題は、事態は収拾したものの、さっきまで気軽に会話していた駆逐艦の子達と、壁が出来たような感じになってしまったことです。

みんな、私と会話しなくなり、姉妹艦や仲のいい子達と固まるようになってしまって…

恐らく、同年代ではなく、年上として扱われてしまったようです。

コミュ症の私としては、会話が無いというのは、それはそれでいいのですが、ちょっと寂しいです。

私は戦艦と空母のテーブルに行くべきなのかなあ。

でも、コミュ症の私としては、見た目可愛い感じの駆逐艦と、大人って感じの戦艦や空母との会話では難易度が天と地ほど違うので、行くのが怖いのですよ。

しかも、なんか山のように皿が積みあがっていますし…。

 

あれ?

 

何で戦艦と空母のテーブルの中に、一人だけ駆逐艦の子がいるんだ?

それに、どういう理由か分からないが、キラキラとした目でこちらを見ています。

あんな子がいるのなら、戦艦と空母のテーブルに行ってもいいかな?

 

「こんにちは」

 

「ちょうど呼びに行こうと思っていたんやー」

 

おお、関西弁だ。

なんか凄く人懐っこい感じで、話しやすそうな子だな。

 

「さっきは災難やったなー。

 辛い気持ち、よーわかるでー。

 ま、持たざる者、そして同じ関西人として仲良くやっていこうな!」

 

関西人?

あ、分かった。

摂津って今で言うところの大阪だからな。

でも私は関西人じゃあ無いんですよ。

 

「私は関西人ではありません」

 

「なんやて!?

 確かに、関西弁じゃぁ…

 なんや、そうか、あははははは…」

 

あう。

せっかく仲良くなれるかと思ったのに、いきなり凹ましてしまいましたよ。

 

「ま、まあええわ、うちは軽空母龍驤や、よろしゅうな」

 

え?

軽空母?

どう見ても駆逐艦だろ。

そうか分かったぞ!

関西人だからボケているのですね。

これは、さっきの凹ましてしまった失敗を取り返すチャンスです!

 

「うんなアホな!おまえ駆逐艦やろ!!」

 

似非関西弁を喋りながら、その慎ましい胸に渾身のツッコミを入れました。

 

 

決まったあああ!!!

 

 

「ああそうなんや、うち駆逐艦なんや…

 

 

 

 ってなわけあるか!!」

 

 

ぐほっ。

強烈なツッコミをくらいました。

 

 

ていうか、あれ?

え、本当に龍驤ちゃんって本当に軽空母だったの?

うわあああやってしまった。

 

 

----------

 

 

いやー無表情って素晴らしいですね。

内心冷や汗ダラダラだったのですが、驚いた表情をしなかったおかげで、私が間違って突っ込みを入れたのではなく、私がボケたのだと上手く勘違いしてくれいました。

「関西弁はしゃべらへんけど、気持ちは関西人やな!気に入ったで!」とのこと。

助かったー。

 

その後、イケメンがむっちゃんさん?に抱きついて、そのまま長門さんに関節外された以外は、無事(?)に歓迎会&祝賀会は終わりました。

そして私は、龍驤ちゃんとは友達に…なれたと思う。

友達?ああアレね、コンビ二で売っている奴だっけ?って状態だった私にとって、人生初の、しかも女の子の友達です!!やったぜ。

私に女の子の友達が出来たなんて、自分でもちょっと信じられませんでしたが…

 

「胸が小さいと、体温の無駄な発散が防がれるんや。

 つまり、貧乳は病気やない、進化した人類なんや!!」

 

「なるほど」

 

「いやー貧乳同盟の同志がいるってええなあ」

 

「!?」

 

なんか貧乳同盟なるものに入れてもらえたので、事実だと思います。

因みに貧入同盟の参加者は現在2名ですが、龍驤ちゃんの勘ではいずれ空母辺りで期待のホープが現れそうだとかなんとか。

 

まあそれは置いておいて、余った料理をタッパーに詰めなくては。

何をしているのかって?

頑張ってくれた妖精さん達へのお土産なのですよー。

蒔絵提督が「貧乏臭い」とか言っていたような気がしましたが、一円も持っていないから気にしないのです!!

 

 

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『これより、演習海域に向かいます』

 

摂津と出会って早三ヶ月。

相変わらず、感情のこもっていない声が無線を通して入ってくる。

摂津には感情が欠落しているのではないかと思ってしまうが、その裏には秘めた思いがあると私は確信していた。

 

朝昼晩と絶え間なく行われる演習、月月火水木金金を地で行く過酷な日々。

他の艦むす達が市街へと遊びに出るのを尻目に、摂津は演習海域と風呂と自室を行き来する日々を繰り返していた。

 

艦むすとはいえ、女の子である。

女の子として人生を楽しむ時があってもいいではないかと私は思っていた。

でも、私は摂津を止めることはできなかった。

摂津は無表情であり、必要以上は語らないことが多い。

しかし、摂津が何か鬼気迫る雰囲気を醸し出しながら演習に望んでいることに気がついたからだ。

 

深海棲艦への怒りなのか、自らが演習怠ればそれだけ艦むす達の生存率が下がるという義務感なのか、それとも―――

 

摂津の鬼気迫る雰囲気の原因は分からないが、私には止めることは出来ない。

いや、止めてはいけないものだと思った。

 

摂津の実力はこの三ヶ月で更に磨きがかかっていた。

そして、脇目も振らず演習に打ち込む姿から、見習うべき艦むすの鑑として、横鎮の艦むす達全てから一目置かれる存在になっていた。

そんな摂津に対して、欠陥提督である私がいったい何の権限があって意見するというのだろうか。

だから私にとって摂津にしてあげれることは、邪魔しないことだけだったのだ。

 

私は無力だった。

三ヶ月前、摂津と共に戦いたいと思った時から、私は何も進歩していない。

 

私と摂津の距離はどんどん広がっていた。

 

 

----------

 

 

朝も演習、昼も演習、夜も演習。

毎日毎日毎日毎日演習です。

 

頑張り過ぎだって?

そんなこと無いのです。

頑張らないといけないのです。

頑張らないと、解体されてしまうのです!!

 

 

解体。

 

体を分解すること。

いやはや、こんなに恐ろしいことが行われているとは思わなかったね。

イケメンがやっているのかどうかは怖くて聞けませんでしたが、近所の提督が五十鈴改とかいう名前の艦むすを解体したと聞いたのですよ。

解体されると普通の女の子になるという噂も聞いたのですが、そんな証拠も無いような噂は信用できないのです!

だから、毎日毎日演習に励んで、私の有用性を内外に示しているのです。

物凄く辛いですけど、死ぬよりマシなのですよ!

 

でもおかげで、凄く上手くなりましよ。

妖精さんがねっ!

え、私?

そうですね、微速前進ぐらいは出来るようになったかなー…

 

体育赤点の実力なめんな!

 

そうそう、それと妖精さん達が増えたのですよ。

志願兵らしいです。

妖精さん曰く「ホマレタカイ、セッツサンノモトデ、タタカイタイデアリマス!」とのこと。

 

妖精さんと遊ぶ。

妖精さんと協力して演習をする。

ご飯のあまりを妖精さんにあげる。

 

といった普通のことしかしていないのに、私の元で戦いたいと言う妖精さんが出てくるなんて不思議です。

 

さて、これから夜の演習、夜戦です。

私の部屋から出かけ、鎮守府を抜けて演習海域へと向かいます。

この鎮守府は結構広くて、夜中に出歩いたら迷ってもおかしくないぐらいなのですが、今では勝手知ったる他人の家です。

最初は、知らない提督の家に迷い込んだり、間違えて男湯に入ってイケメンと鉢合わせしたり、横鎮という言葉が横須賀鎮守府の略ではなく、エッチな言葉だと勘違いしていたりと酷いものでした。

まあ、無表情のおかげで、男湯の件はイケメンが強引に私を連れ込んだということに勝手になってしまい、『私には』何も被害はありませんでしたし、私の恥ずかしい名前の勘違いも、いつの間にかイケメンが間違った情報を吹き込んだということになって、これといった被害はありませんでしたけど。

イケメンすまない、でも君の日々の行いが悪いのだよ。

セクハラを毎日しないと死んじゃう病って何だよ。

霞ちゃんなんて「だから何よ?」って冷たい視線を隠そうともしない有様になっているの気付いてる?

 

さて話が脱線しまくりましたが、今日の演習相手は、私の『友達』である龍驤ちゃんと、夕張さんに第六駆逐隊の皆さんです。

夜戦で、空母を逃がしながら戦うという想定のシナリオです。

 

「摂津、随分久しぶりやな、元気やったか?」

 

因みに龍驤ちゃんとまともに会うのは、一ヶ月ぶりだったりします。

龍驤ちゃんは、赤城さんや加賀さんが風呂に入っているときは、主力艦隊として出撃することが多くて、なかなか会えないのですよ。

おまけに、ここ一ヶ月ほど深海棲艦の動きが活発になってきているとかで、お互い忙しかったのです。

 

「なんや?どうしたんや?まさかうちのこと、嫌いになったんか?」

 

しまった、考え事をしていたら、まずいことになりました。

なんか、龍驤ちゃんに誤解されてしまいそうですよ!

嫌いじゃなくて『大好きな友達に会えて嬉しいです』って言わないと!

 

気持ちは言葉にしないと伝わらないからね。

だから、頑張れ私、頑張れ私の声帯!!

言葉で思いを伝えるのです!

 

だ…

 

 

駄目だ。

 

 

大好きだなんて、恥ずかしい言葉、コミュ症の私にはレベルが高すぎる!!

 

 

やばい。

私がそう言っている姿をイメージするだけで、なんか顔がポポポッと熱くなってきて、龍驤ちゃんをまともに見れなくなってきた!

くそっ、恥ずかしすぎて、私の鉄仮面が崩れるっ。

 

「え、何?何なんやのその反応!?」

 

結局、龍驤ちゃんの顔をまともに見れないまま、演習が始まってしまいましたよ…

龍驤ちゃんが私のことをどう思ったか分かりませんが、私が龍驤ちゃんを嫌いだと勘違いされていたら嫌なので、演習が終わったら、しっかりと龍驤ちゃんと話をしようと思います。

 

 

----------

 

 

演習終了。

戦術的勝利といったところでしょうか。

今日のスケジュールはこれで終わりです。

帰りましょう。

そして龍驤ちゃんとしっかり話をするのです。

 

「あれなんや?」

 

っていきなり龍驤ちゃんに話しかけられた!?

まだ心の準備がっ!

 

って私に話しかけたのではなく、みんなに言ったのですね。

龍驤ちゃん暗い海の向こうを指差しています。

 

確かに何かがいます。

あれは何なのでしょうか?

夜のためよく見えませんが、黒い何かがこちらに向かってきます。

おかしいな、この後に演習を行う艦隊があるなんて聞いていません。

それとも、帰投してきた艦隊でしょうか。

でもそうだとしても、演習海域に入ってくるのは妙です。

 

「蒔絵提督」

 

『…おかしいわ、そんな話聞いてないわ』

 

演習海域には関係の無い艦隊が入ってくると事故に繋がるため、理由があって入ってくる場合は事前に鎮守府に広く伝えることになっています。

 

「…全然無線にも答えないわ、レディとしてあるまじき行為ね。

 探照灯でも当ててみようかしら」

 

暁ちゃんがそう言った瞬間、近付いてくる艦隊がピカピカと光りました。

探照灯かと思いましたが…これは違いますよ!?

 

「全艦散解!自由回避や!」

 

やばいですよこれ!

敵です敵!!

今のは発砲炎です!

何でこんな鎮守府の近くに敵がいるの!?

 

「敵は駆逐艦二隻で構成された、偵察艦隊みたいや!!」

 

発火炎に浮かび上がる異形は間違いなく深海棲艦、駆逐イ級です!!

独特の音を立てて、どんどん砲弾が降り注いできます!!

これは本当にまずいです。

 

「みんな!私らは戦えへんから、しっぱを巻いて逃げるでー!!」

 

『龍驤の言うとおりだ、とにかく撤退しろ、蒔絵!!いいな!』

 

龍驤とイケメンが言うように、私達は演習用の弾しか持っていないため戦えません。

おまけに私なんて、端から非武装ですし。

だからこのまま戦えば嬲り殺しです。

 

し・か・も。

 

私は足が遅いです。

この艦隊の中で私がダントツに足が遅いのです。

その遅さは、私がいなければ敵から逃げ切れるのに、私を庇いながらだと敵に追いつかれるぐらい遅いのです。

つまり、このままでは見捨てられる可能性があるということですね!!!!!!!

 

だから、今のうちに蒔絵提督に釘を刺して起きます。

 

「蒔絵提督」

 

『な、何よ』

 

「彼女達は逃げようと思えば逃げ切れる。

 しかし、私は足が遅い。

 だから、わかっていますよね?」

 

『……』

 

「私を置いて『みなまで言わないで!!』」

 

『私を置いていかないで』って言おうとしたら怒られてしまいましたが、蒔絵提督は分かってくれたようです。

よかった。

 

 

あれ?

 

 

みんなと一緒に、鎮守府に向けて逃げていたのに、いつの間にか自分だけ反転しているのですが…

妖精さん達、どうしてそっちに私を向かわせるわけ!?

 

そっちは敵の艦隊ですよ!?

 

「妖精さん達これは?」

 

「テイコクカイグンノイジ、ミセテヤルデアリマス」

 

「イザトナレバ、ブツケルマデデス!」

 

なにこれ!?

 

何かがおかしい!!

 

「蒔絵提督」

 

『…』

 

何か、無線機の向こうで鳴き声が聞こえる…

 

 

ええ!?

 

 

「春人提督」

 

仕方ないので、イケメンを呼び出す。

 

『摂津、すまない』

 

ええーー…何その沈痛な声!?

 

「自分一人だけ沈むやなんて、格好つけすぎや」

 

ちょっと待て、これ何かおかしいから、変だから!?

何で龍驤までそんなこと言うの!!

 

「沈む気は…無い!」

 

逃げるんだからね!!

違うからね!!

気がついてよ!!

 

「そうやな、摂津はこんなところで沈む子やないって信じてるで!!

 みんな、早くここから離れるんや、摂津はうちと違って、絶対に生きて返ってくるんやぁぁぁあ!!!」

 

あ、えちょっ!?

龍驤ちゃんが涙を流しながら鎮守府に向けて増速していきますよ!?

それに釣られて第六駆逐隊のみんなも!?

 

待ってよ!?

 

「摂津さん、あなたがモブキャラではなく、主人公であることを切に祈るわ」

 

あの、夕張さん、そんなことはどうでもいいんです、置いてかないでよ!?

 

 

なんでやーーーーー!

 

 

 

 

よく分からないが、ここは俺が食い止める!!的な展開になってしまった!!

くそう、やるしか無いのか!

 

「我、夜戦に突入す!」

 

 

----------

 

 

ここでUターン!

 

くそっ、流石に二回目は通用しないか!

 

 

 

流石にもうブラフで時間を稼ぐのは無理だ。

最初は同航戦に持ち込むような動きをして、主砲があるように見せかけました。

でも、撃たないのですぐにバレて距離を詰められてしまいました。

なので、次は魚雷を発射したときのような動きを見せて、一時的に敵を退避させることに成功しましたが、それも一度だけだったようです。

 

敵艦隊は、どんどん距離を詰めてきやがります。

こちらにまともな武器が無いことが完全にバレましたよ。

 

少しは時間が稼げたが、増援が間に合う程には稼げていません。

夜だから艦載機は出せないし、イケメンが慌てて用意してくれた味方水雷戦隊と、蒔絵提督が必死に集めてくれている他の提督の艦隊は、まだ影も形も無い。

妖精さん達も必死に頑張ってくれていて、低速なのに攻撃を避けまくってくれていますが、それが出来たのも敵との距離があったからです。

 

ブラフが全部ばれて、距離を詰められる今となっては……

 

 

 

これから嬲り殺しに出来るのが嬉しいのかな?

そういう感情があるのかどうか知らないが。

敵が獰猛な笑みを浮かべながら、無警戒に近付いてきます。

 

『摂津、敵が、どうして逃げないの!?』

 

ああ、このままこいつに殺されるのか。

 

「セッツサン!?」

 

もう諦めたよ。

 

『摂津、早まるな、味方がもうすぐそこまで!!』

 

そんな私の気持ちが伝わったのだろう。

敵は、目と鼻の先まで近付き、その銃口を私に向けた。

 

『イヤーーーーーー!!!!』

 

殺してくれ。

 

 

 

 

「という展開だと思いましたか?」

 

この時を待っていた!!

全力で、敵を殴りつけてやります!!

 

「白兵戦です!」

 

殴る蹴る、型なんて分からないけど必死に殴りつけます。

こんなもので勝てるとは思っていないけど、悪あがきもせずに死ぬのなんて嫌です!!

 

「オザワカンタイアガリヲ、ナメルナデアリマス!」

 

妖精さん達も同じだったらしく、乗り移って羅針盤や信号旗で敵をボコボコと殴っています。

羅針盤に回す以外の使い道があったとは!

それ、私もやる!

 

「羅針盤アタック!」

 

羅針盤を敵の頭に突き刺します。

こんなのがどこまで効くか分かりませんが、後に来る艦隊が少しでも楽できるように、せめて中破ぐらいは…

 

パキ…

 

 

パキパキパキ…

 

 

あれ!?

 

 

うそだろ!?

敵にひびが入り、崩れ落ちていきます!!

 

『そうか、古いとはいえ元は戦艦。

 格闘戦に持ち込めば、船体強度と排水量の大きさで駆逐艦では対抗できない!』

 

『流石摂津だわ!

 でも…敵を欺くにはまず味方からって言うけど、本気で死ぬ気なのかと思ったじゃない!!』

 

なんか勘違いされてる気がしますが、このまま一気に行きます!

戸惑っている様子の残りの一隻に、崩れ落ち始めている敵の体を投げつけてやります。

そしてそのまま、とび蹴りだ!!

 

 

 

手ごたえあり!!

黒い額に私の足がめり込みます。

 

そして、パキパキと音を立てながら、敵は崩れていきました。

 

「テキカンゲキチンデアリマス!」

 

『摂津!!よかった!!』

 

やった、やったよ!

これで無事に帰れるよ!!

 

「ウゲンニハッポウエン!!!!!!!」

 

え?

 

 

 

 

うわあああ!?

まるで地震にあったような衝撃!?

まさか、一発貰った!?

これはいったい!?

 

「サンジノホウコウニテキカンタイ!!」

 

「ケイジュンキュウ1、クチクキュウ2」

 

新手だと!?

どうする、さっきと同じ手は…いや、無理だ。

奴らは先ほどの戦いを見ていたはず。

いや、見ていたんだ。

だからあいつら、同航戦に持ち込もうとしてやがる。

 

こうなったら、駄目元で逃げるしかない!

 

「キカンシツニ、シンスイハッセイ!!」

 

何だと!

まずい、早速速度が落ち始めてきた。

ただでさえ遅いのに、このままでは!

 

「テキカンノギョライハッシャカンニウゴキアリ!

ライゲキセンヲ、シカケテクルヨウデアリマス!」

 

「テキカン、ジョジョニセッキン!」

 

敵は雷撃戦の準備に入ったか。

この状態で雷撃を受けたら、とてもかわしきれない!!

 

 

 

最初の演習で作戦を考えてくれた蒔絵提督の知力も、妖精さんの素晴らしい技術も、この状況では何も出来ない。

これは本当に駄目かもしれない。

 

「セッツサン!」

 

 

 

もうこれぐらいしか、出来ないか…

 

「総員…退艦」

 

『摂津!!』

 

生きるのを諦めた訳ではないです。

でも、ただ逃げる以外に方法なんて思いつかないですし、多分逃げ切れません。

だからせめて、妖精さん達を巻き込まないことぐらいしか思いつきませんでしたよ。

 

「イヤデアリマス!イヤデアリマス!」

 

そう騒ぐ妖精さん達を捕まえて、私の艤装についている小さなボートに詰めていきます。

妖精さんも敵に見つかれば、ただでは済まないでしょう。

でも、この暗闇ですから、私といるより見つからない可能性は高いはず。

 

それに私が囮になりますからね。

 

 

ああ…

三ヶ月演習ばかりしてきた私には分かります。

徐々に近付いてきた敵艦隊と、再び同航戦になりました。

もう間もなく魚雷を撃ちますね。

敵艦は隊列を安定させ、各艦の魚雷発射管の向きを最終調整しているわけです。

 

私がどの方向に逃げても確実に当たるように…

それを見た私は、まず摂津提督に無線を繋ぎました。

 

「蒔絵提督、ありがとうございました」

 

死ぬ覚悟が出来たわけではないが、死んだら礼を言えなくなるかもしれないので、先に礼を言っておこうと思ったのです。

そして次に唯一の友達である龍驤ちゃんに向けて無線を繋げました。

 

「龍驤、大好き」

 

友達に嫌っていると思われたまま死にたくないので、大好きな友達であると伝えました。

さっきは、恥ずかしくて一言も言えませんでしたが、私も根性出して大事なところはなんとか声にしましたよ!!

 

 

 

 

やることはやった。

追い詰められた標的艦がどれほどのものか、見せてやる!

さあ、どこからでもかかってこい!!!

 

 

 

『諦めるのはまだ早いわ』

 

蒔絵提督!?

何を言って…

 

 

 

ブーン…

 

 

ヒュルルルルル…

 

 

 

 

ドーン!!!

 

 

これは!?

 

突然水柱が上がり、深海棲艦隊の動きが乱れましたよ。

何が起きた!?

 

『艦載機のみんな!お仕事お仕事!!』

 

艦載機!?

天山が先導して、彗星が突撃していく…

馬鹿な夜間攻撃なんて当たりもしないし、発艦はできても、着艦ができないんじゃ!

 

「なぜ龍驤隊が」

 

『私が要請したの、攻撃が当たらなくても時間は稼げるから』

 

「これでは艦載機が墜落する」

 

確かに助かるが、これでは妖精さんが…

可愛い妖精さん達が溺れ死んでしまいますよ!

 

『攻撃が終わった子から、厚木基地に行くんや、間違えるんやないでぇ!』

 

『提督権限で、厚木基地を開放させたわ、あの広さなら夜間着陸なんて簡単でしょ?

 

 さあ、早く逃げて!敵が立ち直る前に!』

 

蒔絵提督…ありがとう。

さあ、逃げるぞ!!

 

 

 

 

 

『その必要は無い』

 

 

今度はイケメン!?

 

 

 

 

「待ちに待った夜戦だー!!」

 

 

 

 

 

「よくも仲間を…ぎったぎたにしてあげましょうかね!」

 

「北上さん!」

 

「クマぁ!」

 

「ニャぁ!」

 

「…キソぅ…」

 

「声が小さいクマ!」「にゃ!(同意)」

 

 

 

「摂津!大丈夫っぽい?」

 

「みんな遅いから間に合わないかと思ったじゃない!」

 

「みんな、いくよ!」

 

「沈め!」

 

「やっと会えた!無事みたいね!」

 

「仲間を傷つけるのはだめです!」

 

猛烈な水しぶきを上げながら、六隻の軽巡洋艦と駆逐艦が突入していきます!

 

「やったクマ!初弾命中クマ!」

 

イケメン自慢の水雷戦隊か!

なんという電光石火!!

状況が一気にひっくり返りましたよ!!

 

「OH!私達の出番が無いネー!」

 

「オレが着く前に、勝負が決まっているじゃねーか!」

 

「天龍ちゃんにオアズケしちゃうような提督はお仕置きね~」

 

しかも、後詰に金剛四姉妹と天龍さんに龍田さんに…凄い戦力です!

ん?それにあれは…まさか!

 

 

「良かった、ほんま良かったでー!!」

 

龍驤ちゃん達だって!?

戻ってきたの!?

うわっ…龍驤ちゃんが抱きついてきた!?

あのっ、小さいけど当たってますよ!

 

「ちょっと!私も混ぜなさい!!」

 

とととっ!?

また誰か抱きついてきた!?

 

って、蒔絵提督!?

どうやって来たの!?

え、夕張さんがおんぶして来たの?

 

「そんなことはどうでもいいのよ!

 摂津、もうこんな無茶は止めてね!」

 

「蒔絵提督のいう通りや、もう止めてや!」

 

え、これは私が望んだ訳ではなく…。

とにかく、もうしませんから、こんな近くで二人とも怒鳴らないで下さい。

 

「もうしない」

 

 

「ほんと?

 本当に本当に、二度としないでね!!」

 

だから、私が望んだのではなく、訳が分からない展開で……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………蒔絵提督、目に涙を浮かべてるじゃないか。

 

 

どうしてこんな事態になったのか、その原因はとにかく、凄く心配させてしまったようですね。

だから、私は自分の声帯に気合を入れて答えました。

 

「大切な提督の命令、絶対に守る」

 

「うんっ!」

 

この後、蒔絵提督は結局ポロポロと泣いてしまい夕立ちゃんから「摂津って女泣かせっぽい?」とか言われたりしましたが気にしませんでした。

何故なら、流石の私も蒔絵提督の涙が、私が助かったことへの安堵からのものだと分かったからです。

こうして、私の初実戦は無事に終わったのでした。

 

 

----------

 

 

『蒔絵提督』

 

「な、何よ」

 

『彼女達は逃げようと思えば逃げ切れる。

 しかし、私は足が遅い。

 だから、わかっていますよね?』

 

「……」

 

『私を置いて「みなまで言わないで!!』

 

 

私を置いていけ、囮になる。

いかにも摂津らしい、艦むすの鑑と言われる彼女らしい言葉だった。

でも摂津は艦むすの鑑という簡単な言葉で表現できるほど、単純な子ではない。

 

『沈む気は…無い!』

 

という仲間を安心させるための言葉が、それだけの意味ではないことは、摂津の提督である私には分かった。

香るようにではあるが、摂津の言葉には、これまでに無い程の真剣さがあったからだ。

 

摂津といえど、不本意なのだろう。

日々演習に励み、深海棲艦との戦いにその身の全てを捧げている摂津だからこそ、こんな大勢に影響しない戦いでは沈みたくないのだろう。

 

私は横鎮中の提督に連絡を入れ救援をお願いし、兄は高速修復材を使い水雷戦隊を繰り出してくれた。

摂津も、恐ろしく熟練した動きで時間を稼いでいる。

私にできることは無いように見えた。

 

「兄さん、龍驤を貸して」

 

でも私は動いた。

私は摂津と共に戦えるようになりたいと心に決めたのだから。

 

私が考え出したのは艦載機による夜間陽動襲撃という前代未聞の作戦だった。

効果ははっきり言って薄いが、実戦では何が起きるか分からない。

ほんのちょっとしたことが生死を分けることがある。

 

そして私の行動は摂津を救い、夢見た関係に一歩も二歩も前進したのだった。

 

「大切な提督の命令、絶対に守る」

 

海上で摂津に抱きつく私にそう語った摂津の姿は、私の一生の思い出になるだろう。

摂津と私が夢見た関係に向けて大きく前進した瞬間だったからだ。

 



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摂津物語 後編

注意書きを確認したうえで読んでください。
好みの分かれる内容になっています。


演習海域に進入した敵は、鎮守府の警戒任務に艦隊を出す当番になっていたとある提督が、間違えてボーキサイト輸送任務に艦隊を出撃させてしまったのが原因だったらしい。

つまり、ヒューマンエラーであり、またいつ起きてもおかしくない事件でした。

 

困りました。

これって、演習を続けている限り、またこんな事態になってしまうかもしれないということですよ。

しかも、正直に言って演習時に夜戦をするのが怖くなりましたよ。

でも、解体されないためには、朝も昼も夜も演習する必要があるわけです。

 

そこで、聡明?な私は思いついたのですよ!

私が武装して、実弾をいつも持ち歩いていればいいんじゃないかと!

ということで、青葉さんの「龍驤さんに愛の告白をされたそうですが、一言お願いします」という意味不明の追跡を華麗にかわし、名取さんの部屋に来ました。

 

「それ、貸してください」

 

「ふえぇ!?」

 

名取さんの手には、機関銃のような武器があります。

他の艦むす武装はとても使えなさそうですが、こいつは簡単な訓練で使えそうな気がします。

名取さんを半ば強引に連れて行って、演習海域へ向かいます。

さて、適当にぶっ放してみましょうか!!

 

 

あれ?

 

弾が出ない?

 

「あ、あの…摂津さんは、非武装だから、武器は絶対に使えないと思います…」

 

私の野望は初日から脆くも崩れ去った。

 

 

 

 

でもこれで諦める私ではありません。

何か良い方法が絶対にあるはずと信じ、鎮守府中探し回った結果…ありましたよ!

 

 

改造です!

 

艦むすは、経験を積むと霊力が増え九十九神としての格が上がり、改造できるようになるそうです。

そして中には、別の艦種になったり、武器の搭載数が増えたりするのもあるそうです!

 

早速、困ったときの妖精さんということで、可能かどうか聞いてみました!

 

「フツウノカンムスノヨウニハ、イカナイデアリマス!」

 

なんだと。

 

色々と聞いてみた結果、改造というのは史実で改造されたようにしかなれないとのこと。

そして、摂津は戦艦から標的艦になったものの、標的艦から更に改造なんてされていないとか。

 

なんてこった。

 

ということで、諦めるところですが、私はここであることに気がついたのでした。

扶桑さんは「航空戦艦扶桑」という空を飛んでしまう戦艦です。

私の乏しい知識でも、太平洋戦争に空飛ぶ戦艦なんて無かった筈です。

 

これはきっと何か方法があります!

 

 

 

 

 

 

 

 

妖精さんに「コノマエノタタカイデコウイショウガ!?」「キットヒロウガタマッテイルンデアリマス!」「ハヤクヤスムベキデアリマス!」って感じで本気で心配されました。

そしてたまたま通りかかった龍驤ちゃんにもギャグだと思われて「そんなわけあるかい!」って華麗に突っ込みを入れられました。

航空戦艦って飛行機を積んだ戦艦のことだったんですね、知らなかったよ…

 

 

とんでもない恥をかくところでしたが、おかげで扶桑さんには史実では実現しなかった、つまり実在しなかった改造がされていることが分かりました。

そしてそこから、実在しなかった改造を行う方法が見えてきました。

 

1.艦むすと改造を実行妖精さんが、改造後の艦むすとしての姿と、艦艇としての改造後のイメージをしっかりと持つこと。

2.艦艇としての改造後の姿は、技術的に無理が無いこと。

3.艦むすが十分な霊力と持つこと。

4.資源もたっぷりあること。

 

私の妖精さん達と、アドバイザーで来てくれた工廠の妖精さん達、そして龍驤ちゃんの情報を統合するとこんなところらしい。

そしてこの中で3番については十分らしい。

演習を繰り返してきた成果が上がっているとか。

でも問題は残りの三つでした。

 

蒔絵提督は霊力が少ないため、私を呼び出す(建造)時も通常の100倍近くの資源が必要なだったので、改造でも同じぐらい必要になる可能性があるらしい。

そして厄介なことに、蒔絵提督は艦むすが私一人しかいないため遠征などが行えず、資源供給を配給のみに頼っており、その配給も私を呼び出す時にもらった資源を返すためにイケメンに提供しているという状況なのです。

この状態で資源を手配する方法を考えるため、まず蒔絵提督に電話をしました。

 

「蒔絵提督」

 

『やっと電話かけてきたわね』

 

 

「改造で相談がある、割烹鳳翔で龍驤と食事をしながら相談しているから、蒔絵提督も来て」

 

『………』

 

「蒔絵提督?」

 

『ごめん今忙しいの!』

 

ピッ!ツーツー…

 

蒔絵提督は忙しいみたいです。

仕方が無い、こうなったら私が考えた案。

イケメンから借りるという案しかないですね。

 

「摂津どうするんや」

 

「私にいい考えがある」

 

「ほんま!?」

 

ということで、1番と2番の問題も大切ですが、まずはイケメンの所にGOです。

 

 

 

 

 

「ここからは私一人でいい」

 

「いい考えがどんなのか知らないけど、分かったで、がんばりや!」

 

龍驤ちゃんを廊下に置いて、イケメンの提督室に入ります。

 

提督室には、扶桑姉妹と、金剛四姉妹がいました。

扶桑さんは言わずも知れた秘書艦。

金剛さんは私の歓迎会は出撃中でいませんでした、扶桑さん達と双璧をなす主力の一人です。

そんな二人が提督室にいること事態はおかしくないが、二人とも何やってんだ?

金剛さんはイケメンにベッタリとくっ付きながら紅茶飲んでるし、扶桑さんもその反対側でイケメンピタッとくっ付いています。

そして、金剛さんの妹達はスコーンとか食べながら、何やらはやし立ててるし、最近仲間になった山城さんは、ハンカチを噛みながらイケメンを睨んでいます。

なるほど、リア充死ねという状況ですね、分かります。

でも今の私はそれどころではありません!

 

なんといっても、命がかかっていますからね!

さあ、超緊張するけど、気合入れて行きます!!!

 

「春人提督、お願いがあります」

 

「藪から棒にどうした?」

 

「私の改造のため資源を融通してほしい」

 

用意した資源の見積もりをイケメンに渡します。

 

「OH!大型建造並ね!」

 

「…助けてやりたいが、流石にこの量は…」

 

ですよね、確かに簡単に貰える量ではないのは分かっています。

 

「もちろんただではない」

 

「何だ?まさかお金でも用意したのか?」

 

 

 

「春人、私を自由にしていい」

 

だから、私を自由に使って演習し放題という特典をつけます!

蒔絵提督を通して私と演習を組むより遥かに沢山演習を組めるという素晴らしい特典です!!

おっと、いつも脳内でイケメンと呼び捨てにしていたので、提督と付け忘れてしまいました。

でもまあいいか。

 

「へぇあ?」

 

パリン!

 

カタカタカタ…

 

 

 

「昔、私が欲しいって言ってた」

 

最初の歓迎会の時に、言ってましたよね、標的艦である私が欲しいって。

金剛さんがティーカップを落としたり、扶桑さんが小刻みに震えていたりしているのが少し気になりますが、今は大事な時なので無視して話を進めます。

 

「夜戦…怖いけど、春人が望むなら何回でもしてあげる」

 

今度は、夜戦…嫌な予感がするわって扶桑さんが叫びましたが、とりあえずそれも無視です。

イケメンが半端無いぐらい迷っていますからね!

さあ、あと一押しです!

 

「なんなら、今から試す?」

 

「た、試すって?」

 

「や・せ・ん」

 

聞き直されたので、はっきりゆっくりと答えてあげました。

さあさあ!

私を実際に指揮してくれたまえ!

そして私の素晴らしさを実感してくれたまえ!

何なら、お試しの演習に龍驤ちゃんをセットでつけてもいいですよ!

 

 

「NOOOOOOO!」

「駄目よ!」

 

 

「あかん!あかんで!!」

「摂津!!自分の体を大切にしなさい!!」

 

金剛さんに扶桑さんに龍驤ちゃんに蒔絵提督!?

 

「提督の一番は私のものネ!」

「金剛には、負けたくないの!」

 

「こんなの絶対にゆるさへんで!」

「摂津、正座!正座しなさい!!」

 

なんで私怒られてるの!?

なんやこれーー!?

 

 

-----------

 

 

どうしてこんなことをしたんだと怒られたので「改造のために、どうしても資源が欲しかった。蒔絵提督が忙しいみたいだから、自分で何とかしようとした」と正直に言いました。

すると、蒔絵提督は一変して今度は「ごめんね、本当にごめんね」と謝られてしまいました。

 

何が何やら分かりませんが、蒔絵提督は凄く心配してくれたみたいなので、私も「勝手なことして、ごめんなさい」と言いました。

もちろん、龍驤ちゃんにも謝りました。

「うちのこと好きやって言うたのに…」と怒っていましたが…

「何でもするから許して」と言ったら「女の子が何でもとか簡単に言うたらあかん!」と言いながらも許してくれました。

因みにイケメンは「NTRは趣味じゃないからな、本当に好きになったらいつでも歓迎する」と訳の分からないことを言っていたので無視しました。

 

それで資源の件ですが、結局蒔絵提督が大本営と掛け合って取り寄せてくれることになりました。

改造による演習での効率アップと、それに伴う戦力アップの予想。

前例の無い大規模改造を行うことの実験的意義。

そして卒業した士官学校の校長を使った伝手を使ったそうで、聞くからに大変そうでした。

 

とにかく、資源の問題がクリアできました。

こうなると後はいかにイメージと技術の問題なのですが、ここでイケメンから参考になる話が聞けました。

扶桑さんの改造時の詳細な話が聞けたのです。

航空戦艦伊勢の設計図を元に航空戦艦扶桑の設計図を引き、それを元に妖精さんが改造案をつくり、後は扶桑さんの「伊勢、日向には負けたくないの!」という気持ち(気合)で改造後の姿をイメージしてどうにかしたそうです。

つまり、設計図とイメージトレーニングが重要だということです。

 

ということで、それから徹夜続きのデスゲームになりました。

私のような船を戦えるように改造した事例はないため、扶桑さんとは違い、一から図面を引くことになったのですよ。

だから…

 

私、蒔絵提督、龍驤ちゃん、妖精さん達で設計のコンセプトをまとめる。

それを元に海軍技術研究本部の設計局の人達に図面を引いてもらう。

その図面を建造に関わる妖精さん達に見せて、色々と艦むす的に難しいところを指摘してもらう。

設計を修正するために最初に戻る。

 

ということを繰り替えしています。

私の霊力と改造内容とかに色々と相関関係があるらしく、中々うまくいきません。

 

まあ、私達がちょっと無茶し過ぎってのもあると思う。

蒔絵提督が私に46cm砲を積めと言い出したら、龍驤ちゃんは100㎜厚の装甲を張った飛行甲板を装備した軽空母にしろと反論し、私は島風ちゃんみたいに速度を上げてくれと言う。

そしてそれを聞いていた妖精さん達が「ムチャデアリマス!」と止めるようなことが何度もありました。

 

 

結局…

私というより、蒔絵提督と龍驤ちゃんの意見が何度も何度もぶつかり会いました。

一時はどうしようかとハラハラするぐらいの感情的な激突でしたが、ある日を境に急に感情的な激突は無くなり、むしろ仲が良くなっていました。

二人とも意見が激突し始めると、私の見えないところに行くので何があったのか分かりませんが、結果よければ全て良しなのです。

結局、蒔絵提督の戦艦案を基本にして設計を固める方向で落ち着きました。

 

「うちとお揃いがよかったわー」

 

龍驤ちゃんが残念がっていましたが、龍驤ちゃんの手を取って「私の龍驤への気持ちは揺るがない」と、こんなことで友達関係は揺るがないとフォローしておきました。

なかなか上手いフォローだと思ったのですが、龍驤ちゃんが「摂津は友達、友達なんやー!?」と狼狽しながら顔を背けたり、蒔絵提督がちょっと不機嫌になってしまいました。

また何か失敗したようです。

 

そんなこんなで、私の設計図は…

 

船体中央部を切断し、60m船体を追加。

同時に石炭式の機関を、ロ号艦本式重油専焼水管缶8基16万馬力へ。

そして機関配置も、集中配置からシフト配置になり、煙突も二本に。

艦首は総とっかえで、クリッパー型からバルバス・バウ型へ変更し更に20m船体を延長。

バルジを追加し、全幅が28mに増大。

前部艦橋は、大和型を小型にしたようなものを設置。

 

武装は35.6cm連装砲を前部2基、後部2基の合計4基。

15.5cm三連装砲を前部1基、後部1基の合計2基。

12.7cm連装高角砲を片舷中央に6基、合計12基。

25mm3連装機銃、40基

61cm四連装魚雷発射管、2基

21号電探、1基

22号電探、2基

13号電探、2基

 

水上機 6機

カタパルト 2基

 

基準排水量32540トン

最大速力32.1ノット

平均航側装甲圧200mm(傾斜)

最大航側装甲圧305mm(傾斜)

最大甲板装甲圧100mm

集中防御方式

 

といった感じになりました。

金剛さん級の高速戦艦といった感じの設計で、カタログスペックだけを見るとなかなかしっかりとした戦艦です。

実態は、残念ながら船体追加等という無茶な改造をした上に標的艦としての機能を残しているので、戦艦としては最低レベルの性能しかありません。

例えば装甲板の質が低い場所があるので、カタログスペックより防御力が低かったり、艦首取り替えて機関も大和型以上の出力なのに、バルジやら水線下の構造が悪くて速度が出なかったり、機銃に爆風避盾ではなく演習に耐えられるよう対爆構造にしたせいで旋回速度が落ちたりしています。

しかも、排水量が1.5倍になるという前代未聞規模の改造なうえに蒔絵提督の霊力不足が重なって、必要資源は4桁を越えて5桁というありえない事態に。

長門さん曰く「ここまで非効率な改造をする提督は始めてみた。愛の力だな」とのこと。

愛の力云々は分かりませんが、非効率なのは認めます。

ですが、先日のような演習時のトラブルに対応するにはこれしかないのですよ!

 

さて、設計が固まった後は、まあまあ順調に進展しました。

蒔絵提督の提督室でペンギンのぬいぐるみを大量に発見したので「ぬいぐるみ可愛いですね」と褒めたら突然キレられた事件や、『摂津が龍驤と熱愛発覚か』『春人提督、全艦むすケッコンカッコカリ計画崩壊!?』というとんでもないデタラメ記事が掲示板に貼られているのに気がついて、青葉さんを追いかけるという多少のトラブルはありましたけどね。

因みに改造後の艦むすの姿をいかにイメージするかについては、夕張さんが絵が上手だと聞いたので、イメージトレーニング用として改造後の艦むすとしての私の姿を描いてもらいました。

最初は渋っていましたが、私と龍驤ちゃんと蒔絵提督をモデルにした漫画を書くことを許可することを交換条件に引き受けてくれました。

私をモデルにした漫画とか意味があるのかと思いましたが、冬のイベントがどうとかで喜んでくれたので良かったです。

夕張さんの書いてくれた絵は、魔法少女姿だったり、どう見ても艤装に『搭乗』している姿だったりと変なものが混ざっていましたが、大半は素晴らしい出来でした。

 

そんなこんなで設計が終わって一ヵ月ほどで全ての準備が整いました。

 

 

 

そしてついに、改造の時です!!

 

蒔絵提督、イケメン、龍驤ちゃん、夕張さん、扶桑さん、金剛さん、妖精さん達と、島風ちゃんや夕立ちゃんや長門さんや天龍さんなど、その他大勢の野次馬が集まってきました。

なんでこんなにいっぱい野次馬がいるのかと思って金剛さんに聞いたところ、他は知らないが金剛さんについては、私は要注意人物らしいのでどれほど戦力が上がるか確認しに来たとのこと。

どういうことなの…

 

どうして私が要注意人物なのか、どうして私の胸をガン見しながらそういうことを言ったのか分からないまま、私の改造が始まりました。

霊力が私の体を嵐のように駆け巡っていきます。

そして私は、私をイメージします。

今より強くなった私を…

 

 

 

いける!

 

 

 

体が光り、そして…

 

 

 

 

 

世界が少し変わって見えます

そう、視線が高くなっていたのですよ!

 

これは、成功っぽいです!

背が高くなっているだけではなく、私のペッタンコだった胸に、小さいですが二つの丘が!!

 

「ななな!!

 なんやてーーーーー!?

 この裏切り者ーーーー!!」

 

龍驤ちゃんごめんね?

私、一足先に大人になっちゃったみたい。

実は改造の規模から考えて、夕張さんの絵がツルペタであっても、強制的に成長してしまうだろうと予想されていたのですよ。

残酷な話なので、龍驤ちゃんには最後まで伝えられませんでしたけど。

 

「こんなの、こんなの認めへんでーー!!」

 

残念ですが、龍驤ちゃんが認めなくても現実は何もかわらないのです。

この胸間違いなくここに、存在するのです!

認めなくちゃ、現実を!

 

「これは夢なんやーーー!!」

 

あの!

龍驤ちゃん?両手をワキワキとしながらどうするのですか!?

まさか、それで私の胸を抓ろうと考えないですよね!?

おかしいですよねそれ!

普通、自分の頬を抓りますよね!

 

あ、ちょっと、やめてーーーーー!?

 

 

 

カンッ!

 

「あいたたーーー!?」

 

 

かん?

 

「指が指がーーー!?」

 

 

何だ、龍驤ちゃんが指を捻挫しただと!?

いったい私の胸に何が?

 

この滑らかで、冷たくて、硬い感覚は…

 

 

ぶ、ブラジャーだ!!

私、鋼鉄製のブラジャーしてますよ!!

 

なにこれ…どうなってるの!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、私自身は何も成長していませんでした!

え、ブラジャーの中?

空気が詰まってましたよ!!

じゃあ、身長が伸びたのはどうしたのかって?

靴が上げ底になっていたのですよ!

 

つまり艤装が立派になって、成長したかのように見えているだけでした。。

妖精さん曰く、無理に改造したのが見事に表現されているとか…

 

現実はままなりません。

でも、何はともあれ、これで私の平穏な日々が戻ってきましたよ。

 

 

----------

 

 

私の目の前には、極秘と書かれた書類が置かれていた。

これでやっと摂津の願いを叶えてあげられると私は思った。

 

あの始めての実戦は、ここ三ヶ月続いた日々を大きく変えた。

私と摂津の関係は大きく前進し、そして摂津は…

 

自らを再武装しようと動き始めたのである。

きっと摂津は、不甲斐ない戦いをしてしまった自分に対し、怒っているのだろう。

摂津はいつも通り何も語らないが、摂津の提督である私にはすぐに分かった。

 

でもここで事件が起きた。

私の所に相談に来るだろうと高をくくっていたのに、いつまで経っても摂津は姿を現さない。

おかしいと思ったとき、電話が鳴った。

電話は摂津からで、摂津は龍驤と割烹鳳翔で昼食を取りながら相談しているので、来てくれないかという内容だった。

私は適当な嘘をついて電話を切ってしまった。

 

摂津と龍驤が二人で仲良く昼食を取っている姿をイメージするだけで嫌な気分になり、摂津の元へ行く気力を失ってしまったからだ。

 

北上と大井に代表されるように、人ならざる存在である艦むすは艦むす同士でそういう関係になることが多い。

そして、うやむやになってしまったとはいえ、摂津は龍驤に好きだと言い、青葉の発行するコミュニティ紙でも話題になっていた。

 

だから摂津が心を寄せている龍驤に相談することはおかしいことではない。

そう自分に言い聞かせるが、自分自身納得しなかった。

 

どうして自分ではなく龍驤なのかと。

 

私はまるで檻の中の動物のように、提督室の中を何分もウロウロと歩き続けた。

そして鳳翔さんから「二人はもう店を出たけど、いいの?」という電話が入った後、やっとのことで私は摂津に会いに行く決心がついた。

私は走って摂津を探した。

そして兄の提督室の前でドアの隙間から中を覗いている龍驤の姿をついに見つけることができた。

 

「龍驤、摂津はどこ?」

 

「摂津は今から大事な交渉やから、邪魔せんといてな、ええな?」

 

こっちが誰なのか確認しようともせず、答える龍驤に一瞬憮然とするが、好奇心に負けて私も部屋の中を覗いた。

摂津が兄と交渉する理由は大体予想の通りだった。

 

でもこんな展開は予想すらしていなかった。

兄が摂津を女として欲しいと言っていたことを逆手に取った取引。

取引材料は摂津の体。

いつもの無表情な顔と声でありながら、隠語を使い兄を巧みに誘惑する摂津。

あまりの状況に、兄を愛して止まない金剛と扶桑も固まり動けない。

 

 

こんなの、これ以上見たくない!

 

私が飛び出したのは、龍驤と同じタイミングだった。

 

怒れる私と龍驤に摂津は「改造のために、どうしても資源が欲しかった。蒔絵提督が忙しいみたいだから、自分で何とかしようとした」と語った。

それを聴いた瞬間、私は自分で自分を叱りたくなった。

二人三脚で栄光を掴みたいと思っていたのに私は…龍驤のことで摂津の求めを退けて、摂津に自分を売るという暴挙をさせてしまった。

提督失格である。

 

だから私は、その後資源を集めに奔走し、摂津の改造案を夜遅くまで考え続けた。

摂津の改造案で、龍驤とは何度も何度も激突した。

 

「摂津を装甲軽空母に改造ですって!!

 何考えてるのよ!」

 

「そっちこそ、46cm三連装砲を四つも積むなんて無茶苦茶や!」

 

「何よ、提督と艦むすの関係に口出しする気?

 まさか恋人気取りになっているんじゃないでしょうね?」

 

「そ、そんなんちゃうわ!摂津は友達や!

 そっちこそ、提督というよりまるで姑みたいやわ!」

 

最初は彼女と意見が合わない度に感情的になったけど…

 

「水偵6機、これだけは譲れへん」

 

「また航空機なの!?いい加減にしなさい!」

 

「ちゃう!単独行動が多くなる摂津は、偵察能力を上げへんと生き残れないんや!!」

 

「確かに…」

 

「えっ……」

 

「何よ?どうしたのよ?」

 

「素直に意見聞いてくれるなんて、意外というか、少しあんたのこと誤解していたかも…」

 

「…私もあなたのこと誤解していたかも。

 ちゃんと摂津のこと考えた提案してくれていたのね。

 てっきり私への対抗心ばっかりだと…」

 

「あたりまえや!

 関西人はいい加減に見えるけど、友達のためなら必死になるんや!」

 

「そうなんだ…友達のためね…ふふふふ…」

 

「あの~ここ笑うとこ違うんやけど…」

 

激突していくうちに私も彼女も摂津のことが本当に好きだから激突するのだと、お互いに分かり会う事ができた。

今は友達というより、いいライバルなのだと思う。

 

そして、鎮守府のみんなに暖かく見守られながら執り行われた、前代未聞の改造は成功に終わった。

艤装は立派になったが、摂津本人がまったく成長しなかったのは意外だったが、とにもかくにも改造は大成功だった。

 

標的戦艦

耐久 56

火力 62

装甲 48

雷装 16

回避 40

対空 52

搭載  6

対潜 0

速力 高速

索敵 44

射程 長

運 20

 

改造後の摂津のカタログスペックとして妖精達から示された数値は、一部に高いものがあるものの、お世辞にも高性能な戦艦とは言えないものだった。

しかしこれは、あくまで初期値。

これに武装と、摂津の霊力(レベル)と経験が補正され、更に錬りに錬った作戦があれば十分にいけると私は確信した。

 

摂津と私が二人三脚で栄光を掴み、摂津の夢も叶えることができる。

これから私が始めようとしていることは、そんな完璧で、欲張りで、全ての始まりとなる計画なのだ。

 

私はコンコンというノックに「摂津入っていいわよ」と答えると、『極秘 蒔絵艦隊作戦要項』と書かれた書類を手に取り、最高の笑顔を作った。

 

 

----------

 

 

蒔絵提督に呼ばれましたが、凄く笑顔です。

まさか、間宮さんのアイスでも手に入ったのでしょうか?

最近、演習も板についた上に、武装も手に入ったのでアイスを楽しめる程の心の余裕ができたのですよー。

 

「南方で大きな作戦が行われているのを知っているわよね?」

 

ああ知ってますよ。

なんか姫とか言う敵が出たとか、撃沈された艦むすが出ているとか大変なことになっている奴ですねー。

怖い話ですから、臆病者の私としては身の安全のためにしっかりと調べていますよ!

まあ、万年演習しかしない私には関係ないのですけどね!

 

「ふふ、やっぱり知っているのね。

 それなら話が早いわ!

 

 

 

 我が蒔絵第一艦隊は、通称E海域に向けて出撃します!」

 

へー…

うちって一人なのに艦隊なんだ…

 

 

って、何ですとおおおおおおおおおおおおおおおお!?

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、後に伝説となる蒔絵提督と摂津の戦いが始まったのだった。

摂津は、姫級と戦ったり、更に改造されたり、ケッコンカッコカリしたりするが、それはまた別のお話…

 

~終~




おまけ以外は、これにてひとまず終了となります。
ジャンプ的な終わり方ですみません。


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摂津物語 おまけ

おまけ編です。
青葉ファンの人は、青葉のキャラが若干おかしくなっているので、読まないほうが良いかもしれません。

注意書きを確認したうえで読んでください。
特におまけ編は、本編より好みの分かれる内容になっていますので注意してください。


・初めての入渠

 

 

お風呂といえば、日本人の心のふるさと。

ということで、この体になってちょうど今日で一週間目、初めて蒔絵提督の浴場に来ました。

蒔絵提督の浴場といっても、蒔絵提督個人の浴場ではありません。

蒔絵提督の艦隊の浴場のことで、何でも艦むすが戦いで傷ついた時に、治すために入るところだそうです。

 

あ、因みに今までお風呂に入っていない、ということではないですよ。

艦むすの部屋はアパートみたいになっていて何でも揃っているのです!

 

さてさて、蒔絵提督の浴場とはどんなものでしょうか。

今日もそうなのですが、怪我することなんて無いので、これまでまったく縁がなかったんですよね。

 

あれ?

この浴場『女』って書かれたのれんが架かった場所しか無いんだけど。

というか、一つしかないよねこれ。

なんてこったい、男湯が無いではないか。

 

せっかく楽しみしていたのに…

男湯が無いと入れないではないか。

 

男…

 

 

男?

 

 

そうだ、男と言えばイケメン。

イケメンの艦隊の浴場だったら、男湯あるんじゃね?

あのイケメンなら自分用に作ってそうだからな!

 

 

----------

 

 

やっぱりあったよ男湯!

しかも凄く立派な奴!

さて、早速入るとするか!

 

スポポンっと服を脱いで、体を洗い始めます。

 

そして洗い終わったら、ザブーンとお湯に浸かりました。

いやーこれだけ広くて立派な浴場を独り占めできるとは、大満足です!

 

ガラララ…

 

 

おっと、残念!

誰か入ってきたようです。

あの顔は…イケメンですね!

私に気がつかないのか、そのまま体を洗いに行きます。

 

 

 

 

 

 

これは不味い。

 

 

何が不味いって、イケメンに何の許可を取らずに浴場を使っていることです。

既に入っているので許可もへったくれも無いですが、挨拶ぐらいはした方がいいよな。

 

 

 

 

「こんにちは」

石鹸で体を洗っているイケメンの後ろに立って挨拶しました。

 

 

 

 

およ?

 

イケメンの動きが止まったぞ?

どうしたイケメン、そんなムンクのような表情になって?

 

「せせせせせ、摂津…なのか!?」

 

「そう」

 

うん?

そんなに私がいることがおかしいか?

 

 

 

 

 

あ、そうか、そうだよな、勝手に浴場を使っているんだからな。

 

「うひゃぁあああっ!」

 

うひゃあ!?

何ですかその変な声は。

 

ってそれどころじゃない。

イケメンが逃走した!?

 

おいイケメン、そんなに体中泡だらけのまま外に出ちゃ駄目だろ!

どうしちゃったんだよ!?

とにかく、イケメンを追いかけて、浴場から私も飛び出します。

 

「追いかけてきた!?」

 

おい、何だそりゃ、心配して追いかけてきたのにそんな言い方は無いだろ!

とにかく、イケメンの手を掴んで、浴場に連れ戻して、体中の泡を落とさないと。

 

むんずっとイケメンの手を掴み、浴場に向けて引っ張ります。

イケメンと私の体格差を見ると、とてもイケメンを引っ張ることなど出来ないように見えますが、私は艦むすです。

陸上では海上のようなパワーは出ませんが、それでも人間の非じゃないのですよ。

 

「摂津、離してくれ!」

 

「駄目です」

 

「頼む、頼むよ、提督、これは提督命令だ!」

 

「止めて下さい」

 

「そんなこと言わずに!提督命令なんだから聞いてよ!?」

 

大人しくするのです。

まったく、浴場でこんな大声で騒ぐなんて子供ですか!

恥ずかしいから止めて下さい!

 

「いったい何事ですか!」

 

ほらっ、大声を出すから、何事かと見に来ちゃったじゃないですか!

しかも、よりにもよって加賀さんが来ちゃいましたよ!

これはちょっと不味いですね!

加賀さんは凄く真面目で、ふざけた行動には厳しい人なので、しっかり事情を説明して釈明しないといけません。

 

「かかか、加賀!?これは摂津が」

 

ちょっと!?私のせいにしないでよ!

すぐに釈明しないと、私が加賀さんに怒られてしまいますよ!?

頑張れ私の口!!!

 

「提督命令だって騒いで…私は止めてって言ってるのに…」

 

騒いだのは私じゃなくて、イケメンなんです!

私は騒ぐのを止めようとしたんです!!

 

…?

なんか加賀さんの目から光が消えたような…

 

 

 

 

 

 

 

 

「提督命令で艦むすを無理やり男湯に連れ込むなんて…頭にきました」

 

 

あれ、何か間違ったかな?

 

 

----------

 

 

やっちゃいました。

今の私って女の子だったんだよね。

そんな私が男湯にいればそりゃ逃げるの当たり前だよね。

はっはっはっはっ…

 

 

イケメンすまない。

今度何でも言うこと聞いてあげるから。

 

私は、頭に加賀さんの矢が刺さって気絶しているイケメンに謝ったのでした、マル。

 

 

 

・妖精さんの日常

 

皆さんこんにちは。

鎮守府の生活を紹介するこのシリーズ。

早いもので、今回で10回目となります!

 

さて記念すべき10回目のタイトルは「妖精さんの日常」です。

深海棲艦が現れると同時に世界に現れた不思議な存在、妖精さん。

今日はそんな彼女達の日常を、ちょっとだけ覗いて見ましょう!

 

ここは横須賀鎮守府にある蒔絵提督寮の一室、摂津さんという艦むすの私室です。

摂津さんは勤勉で、妖精さんとも仲良しとの評判で名高い艦むすです。

そんな摂津さんの私室の一角で、妖精さん達が集まりガヤガヤと騒いでいます。

まるで遊んでいるようでしたが、そうでは無いようですよぉ。

妖精さん達の頭上には小さな横断幕が張られており、『祝 新人歓迎会』と書かれています。

どうやら集まっている妖精さん達は、摂津さんに乗り込む妖精さん達であり、今日は新人の歓迎会のようです。

 

「まずは、新人の自己紹介からであります!

 配属の参考にするので、名前だけではなく自分の得意分野も言うであります!

 一番右の君からお願いするであります!」

 

黒っぽい服装を着た妖精さんが、集まった妖精さん達に指示を出します。

この妖精さんは、胸に『かんちょー』と書かれた名札をつけています。

特に威厳などなく可愛いだけが特徴ですが、この妖精さんは艦長のようです。

決して別の意味ではありません!

 

「松野であります!

 得意分野は砲術であります!!

 夢はアイオワ級の撃沈であります!!」

 

シュタッと音がするような勢いで松野と名乗った妖精さんが敬礼をします。

おかっぱ頭の妖精さんが敬礼をする姿は、まるで大人の真似をしている子供のようで、とても微笑ましいですねぇ。

 

「おおー!まさにこれから必要な人材であります!」

 

「「バンザーイ!!」」

 

でも、妖精さんから見れば、その姿はとても頼もしかったようです。

艦長は喜んで松野という妖精さんと握手を交わし、周りの妖精さん達は万歳をしています。

 

私たち人間や艦むすから見れば、妖精さんは子供っぽく見えたり頼りなく見えたりします。

実はそういった評価は、半分正解半分間違いであることが最近になって分かってきました。

きっとこの妖精さんも、今の姿だけでは分からない何かがあるのでしょう!

 

「次はその隣の君であります!」

 

万歳が治まると、艦長は松野の隣にいる妖精さんを指差しました。

指差された妖精さんは立ち上がります。

自信のありそうな笑顔から、何か凄い得意分野を持っているようですねぇ!

 

「伊藤であります!

 得意なことは、調音機を使って敵の潜水艦を発見することであります!!」

 

「駄目であります!!」

「駄目であります!!」

 

「どうしてでありますか!?」

 

意気揚々と自己紹介をした妖精さんですが、オロオロとしてしまいます。

自分の得意分野を周りの妖精全員に否定されたのだから、仕方ないですね。

 

「摂津さんは、調音機も爆雷も装備していないであります!!」

 

「ガーンであります!」

 

少し下調べをすれば簡単に分かることでしたが、調べるのをうっかり忘れてしまったようです。

どうやらこの妖精さんは、うっかりさんのようです。

可愛いですねぇ。

 

「最後は、あなたであります!」

 

最後に茶色い服を着た妖精さんの出番になりました。

この妖精さんは、他の妖精さんと明らかに服装が違います。

これはまさか…あ、視聴者の皆さんも分かっちゃいましたか?

 

「吉田であります!

 戦車を扱わせたら、さいきょーであります!

 ルソン島で暴れられなかった分、深海棲艦相手に暴れてヤルであります!!」

 

 

「………戦車?

 

 

 どうして陸軍がいるでありますか!?」

 

やっぱり、この妖精さんは陸軍の妖精さんでした。

服装を見れば一目で分かるはずですが、誰も気がつかなかったようです。

不思議なことですが、妖精さんだから仕方がありません!

 

「陸軍でも戦車があれば、深海棲艦と戦えるであります!

 摂津さんの格納庫にある瑞雲を降ろして、戦車を積めばいいであります!!」

 

「海軍としては、陸軍の提案に反対であります!!」

 

「陸軍も海軍に反対であります!!」

 

「落ち着くであります!!落ち着くであります!!」

 

ゴロゴロと妖精さんと妖精さんが取っ組み合いの喧嘩を始めてしまいます。

妖精さんであっても、海軍と陸軍は仲が悪いものなのです。

艦長が止めても二人は言うことを聞きません、困ったものですねぇ。

 

でも運の良いことに、ちょうど艦長より偉い人が到着したようです。

さあ、誰だろ?誰だろ?

 

「めっ!!!!」

 

「「「摂津さん!!」」」

 

妖精さんを叱りながら現れたのは、妖精さん達の乗艦である摂津さんでした。

喧嘩をしていた妖精さんも、それを止めようとしていた妖精さんも、慌てて摂津に敬礼をします。

とてもよく訓練されているように見えますが、妖精さんへの取材によると、訓練されたというより妖精さんにとって戦う場所を与えてくれた大恩人だから、しっかり敬意を示しているのだそうです。

いまいち意味がよく分かりませんが、喧嘩をしていた二人の妖精さんは喧嘩を止めてガクブルとなっていますね。

どうやらこれから摂津さんのお仕置きが始まるようです。

どんなお仕置きが始まるのしょうか?

気になって仕方がありませんねぇ!

 

「喧嘩するなら、あげないよ?」

 

「「えええー!?」」

 

摂津さんのお仕置き内容に、喧嘩をしていた妖精さんは世界が終わったような悲鳴を上げています!

実は新人歓迎会のめいんでぃっしゅは間宮の羊羹であり、妖精さんは甘いものが大好きな女の子。

そして摂津さんは、その羊羹をあげないと言っているのです!!

これは効果的なお仕置きです!

 

「はい、仲直り」

 

そう言うと摂津さんは羊羹を切り分け、両手に一つずつ持ちます。

そして、喧嘩をした妖精さんに一つずつ渡しました。

どうやら、仲直りするなら食べていいよと言っているようです。

さあ、いったいどうなってしまうのでしょうか!?

 

「海軍としては、摂津さんの提案に賛成であります!」

 

「陸軍も、摂津さんの提案に賛成であります!!」

 

 

 

「「「ばんざーい♪ばんざーい♪ばんざーい♪」」」

 

摂津さんの鮮やかな仲裁によって、妖精さん達はあっという間に仲直りしてしまいました。

陸軍も海軍も、摂津さんと甘いものには勝てないようです。

一時はどうなるかと思いましたが、めでたしめでたしですねぇ。

 

 

おっと、ちょうどここでお時間となってしまったようです。

どうでしたか?

ほんの少しですが妖精さんの日常が分かったでしょうか?

私達は深海棲艦との戦いと聞けば、提督と艦むすのことばかりに頭が行ってしまいます。

しかし、妖精さんも深海棲艦との戦いでの重要なパートナーなのです。

あなたも、摂津さんのように妖精さんと語らってみたらどうでしょうか?

 

 

 

 

以上「横鎮レポート」でした。

 

 

 

 

『作成 春人提督艦隊 青葉』

 

 

 

『この動画は妖精さんの生の生態を広く知り、ひいては深海棲艦との戦いに勝利するという正義のため、あえて被写体に撮影の事実を伏せて作成しております。

 視聴者の皆様には「人類の未来と正義のために」、妖精さん並びに摂津さんに動画の存在を知らせないようお願いいたします』

 

 

 

・妖精さんの日常2

 

皆さんこんにちは。

鎮守府の生活を紹介するこのシリーズ。

今回は前回大反響を頂いた『妖精さんの日常』の第二段です。

「妖精さんが可愛かった」「陸軍の妖精さんがいるなんて驚いた」「艦むすの私室が覗き見れて興奮した」など、数々の書き込みありがとうございます。

このシリーズを続けられるのも、ひとえに皆様の熱い応援のおかげです。

青葉がんばっちゃいます!

 

それでは早速、今回も摂津さんの私室にお邪魔してみましょう。

 

「みんな集まったでありますか?

 これより、新人向け講習会を始めるであります!

 まず最初に、摂津さん以外の重要人物を紹介するであります!」

 

どうやら本日は、第一弾に登場した新人妖精さん達の講習会のようです。

きちっと並べられた机に妖精さんが座る姿は、まるで小学校みたいですねぇ。

 

「まずこちらが、蒔絵提督であります!」

 

教師役の妖精さんの後ろに、蒔絵提督をローアングルで撮影した映像が流れ始めました。

色々と見えてはいけないものが写っていますが、妖精さんの身長を考えれば不可抗力です。

 

「蒔絵提督は摂津さんの上司であります!

 霊力は少ないでありますが、優秀な提督であります!

 霊力を除いた成績だけでハンモックナンバーを決めるなら、一桁台との噂であります!

 何か困ったことがあれば、摂津さんか蒔絵提督に相談するであります!」

 

「「「了解であります!」」」

 

「いい返事であります!」

 

映像が切り替わりました。

次は春人提督のようです。

 

「春人提督は変態であります!」

 

「「「了解であります!」」」

 

酷い言い様ですが、事実なので仕方ありません。

映像でも春人提督が夕立さんと時雨さんに「お手」とか言っています。

あ、夕立さんに噛み付かれましたね。

自業自得です。

 

「次は、この人であります!」

 

次は、春人艦隊の龍驤さんのようですね。

海上で摂津さんに龍驤さんと蒔絵提督が抱きついている映像が流れていますが、どうやって撮影したのだろうなどと考えてはいけません。

妖精さんとは、そういうものだからです!

 

「龍驤さんであります!

 軽空母であります!駆逐艦では無いであります!

 龍驤さんは摂津さんの友達以上恋人未満であります!

 摂津さん、蒔絵提督、龍驤さんで三角関係になりそうであります!

 巻き込まれないように、注意するであります!」

 

「「「了解であります!」」」

 

ほわわっと顔を赤くしている妖精さんが何人もいますが、これでも妖精さんは大真面目なのが面白いですねぇ。

 

「何してるの?」

 

「「「摂津さん!!」」」

 

ここで摂津さんが登場です。

よーし、これでいい絵が撮れますよ!

今回も総合ランキング1位はいただきです!

 

「皆さんの紹介であります!!」

 

「そう」

 

「どうしたでありますか?」

 

「あれは、妖精さんが取り付けたの?」

 

「何のことでありますか?」

 

「そうなんだ」

 

摂津さんがこちらをカメラ目線で見ています。

敵はまだこちらには気づいてないよと言いたいところですが、どうやらカメラがばれてしまったようです。

ここで視聴者の皆様に重大なお知らせがあります。

 

実は今回の放送は生放送だったのです。

皆様の反響によっては、この後『摂津さんの日常』という新コーナーに突入しようかと思っていたのに残念無念です。

皆さんさようなら、さようなら、さような「青葉何してるの?」

 

 

----------

 

 

クローゼットの中に青葉さんがいた。

どういうことなの?

青葉さんって私と龍驤ちゃんが付き合っているとか、とんでもない誤報を出して、私と龍驤ちゃんで追いかけ回した人だよね!?

こんな所でいったい何やってんの!?

 

「きょーしゅくです!妖精さんが可愛くて、青葉じっとしていられなくなりました!

 悪いとは思ったのですが、どうしても妖精さんを近くで見たくて勝手に部屋に入ってしまいました!!!」

 

!?

 

なんと、青葉さんも私と同じ妖精さんの可愛さに気がついた人だったのですか!!

そうかそうか!

青葉さんも妖精さんの可愛さが分かりますですか、そうですか!!!!

 

「ん、近くで見る?」

 

「ええ!?今のを信じ!?あ、いやそうですね取材させていただきます!!」

 

 

 

その後青葉さんと一緒に妖精さんと遊びました。

妖精さんも喜んでくれたし、青葉さんもうれしそうにしていたし、とても楽しい一日でした!!

新しい友達が出来たよ!やったね妖精さん!

 

でも、その話を蒔絵提督と龍驤ちゃんに話したら血相を変えて飛び出していったけど、どういうことだろう?

 

 

 

 

 

その日、青葉の人気コーナーがひっそりと終了したそうな。

めでたしめでたし?

 

 

~どうでもいいおまけ編 終~




今後については未定です。
もしかしたら、他の連載に影響が無い範囲で、続けるかもしれません。
ですが、プロットがしっかり固まり、他の連載に影響が出ないぐらいの短期間で書ける状態で、一気に書くという状況になると思いますので「いつぐらいに投稿」と明言するのではなく、ある日突然今回のように数話まとめて投稿するという形になると思います。

なお、独自設定や裏設定などを沢山作ってから書いていますので、文中で意味や理由が分からない内容などあるかと思います。気になるようでしたら、質問してください。お答えいたします。


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