東方続夢郷 (Cross Alcanna)
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0章 御伽創始
御伽.壱 とある1つの幻想世界


どうも、Cross Alcannaです。

今回、新たな挑戦として、東方の小説を執筆する事を決めました。前から書こうと思っていましたが、今になり書こうと決心し、書いた次第です。原作もプレイしておらず、設定も完璧に把握していませんが、私もこれから学んでいこうと思っていますので、どうか温かい目で見守っていただけると幸いです。

では、御伽をお楽しみ下さい。



[???]

 

 

「……はぁ」

 

 

とある神社にて。賽銭箱を見て溜め息をつく者が1人。紅白の巫女服に身を包み、大幣(おおぬさ)を手に持つその女性は博麗(はくれい) 霊夢(れいむ)という。ただ、その表情にはどこか「いつも通りね」とでも言いたそうにも見える。

 

 

「…ま、いいわ。さっさと掃除でもすませましょうか」

 

 

そうして神社内の落ち葉掃除を始めようとする。ここまでの一連の流れが、この博麗神社の1日の始まりであった。

 

…しかし、そんな穏便な一日の始まりは、ここで終わりを告げようとしていた。突如、霊夢の正面の空間が裂け、目玉だらけの空間が垣間見える。これには流石に驚いたのか、霊夢も思わず「わっ!?」と声を上げて後ろにのけぞった。そこから、1人の女性が上半身を出す。

 

 

「霊夢!緊急事態よ!今すぐ来なさい!!」

 

 

金色の髪を持ち、紫色のワンピースに身を包み、焦燥が顔にも声にも出ているこの女性は八雲(やくも) (ゆかり)である。

 

ここまで切羽詰った彼女を見たことがないらしい霊夢は一瞬驚きを見せる。いつもならさっさと追い返す霊夢も、この焦りようを見て、ただ事ではないのだろうかと思い始める。

 

 

「な、何よ?あんたらしくないじゃない。一体何があったのよ?」

 

 

「話は後にするわ!異変とかではないけれど、それ以上に大変なのよ!」

 

 

異変以上に?と謎が深まるばかりの霊夢に、紫はこう告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──()()()が、帰ってきたのよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[八雲家]

 

 

「ここって…あんたの家じゃないの」

 

 

霊夢が紫に連れてこられたのは、八雲一家が住む家であった。といっても、八雲 紫と八雲(やくも) (らん)はここに住んではいるものの、八雲(やくも) (ちぇん)がここに住んでるかは八雲家以外知らないのだとか。

 

そして、相変わらず焦りを抑えられていない紫が、再び霊夢に一言放つ。

 

 

「こっちの部屋にいらっしゃるのよ!貴女も早く入りなさい!」

 

 

「はいはい…」

 

 

気だるそうに返事をする霊夢が紫の指定する部屋に入る。するとそこには……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──1人の男性がいた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ~久々だね、紫」

 

 

「数千年…いえ、それ以上振りですね」

 

 

このやり取りだけで、霊夢が驚いた表情をしている。そう、あの妖怪の賢者が()()()使()()()()()のだ。いつもなら誰が相手でも敬語なんて使いもしないのだが、この男の前では一切敬語を外そうとしない。実際、これ以降も何か話をしているのだが、敬語を外した事はなかった。

 

 

「紫、あんた何で敬語なのよ?はっきり言って気持ち悪いわよ?後、こいつ誰なのよ」

 

 

「霊夢ッ!この方に"こいつ"と言ってはダメよ!!」

 

 

その違和感に耐えられなかった霊夢が、思わず紫に聞くが、この男の呼称について怒声を上げられる事に。しかし、当の男はというと…

 

 

「いや、良いよ。堅苦しいのは嫌いだからね」ハッハッハ

 

 

「しかし…」

 

 

良いと言って譲らない男に折れたのか、紫はその事については何も言わなくなった。それと同時に、男がまた話し出した。

 

 

「自己紹介がまだだったね。私は廻羅(かいら)。この幻想郷の土台の土地の土地神だよ」

 

 

「……はい?」

 

 

思わぬ一言に、素っ頓狂な声を出す霊夢。それを見た紫が、廻羅の言葉に付け足すように言う。

 

 

「廻羅様は、幻想郷になる前のこの土地の土地神様よ。私達幻想郷の住人は、この人の了承を得てここに住んでいるのよ」

 

 

「ちょちょ!?そんなの初耳なんだけど!?…え!?」

 

 

「ははは、少し落ち着くといい。別段急いでるわけでもないからね」

 

 

今になってパニックになる霊夢を、笑いながら落ち着くよう言う廻羅。しかし、しばしの間霊夢が落ち着くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…で?紫、この廻羅って人…いや神か。についてはわかったけど、どうして私を呼んだのよ」

 

 

ようやくと言っていい位時間が経ったが、いい加減本題に入るようだ。それに発破をかけたのは、少々苛立っている霊夢であった。

 

 

「このお方が博麗の巫女について、興味をお持ちになったから呼んだのだけど…ちょうど良いわ。貴女には、私達しか知らない且つ貴女が知っておくべき事を話そうと思うわ」

 

 

「それだけ?だったらこんなに急じゃなくても良くない?」

 

 

一見焦る程でもないような用事にも見える。が、当の紫はそうは行かない様子。やはり、彼らの関係が鍵なのだろうか。

 

 

「本当ならね。でも、異変になりかねない事態の懸念もあると廻羅様が仰ったから、貴女にも聞いてもらおうと思ってね」

 

 

「う~ん…何か腑に落ちないけど…まぁ良いわ」

 

 

どうやら不本意ながらも納得した模様。その反応を見た紫は、早速話を始める。

 

 

「まず、異変についてなんだけど…最近、境界に干渉した痕が残っていたわ。恐らく、ここに侵入しようとしたのか、あるいは何かをここに送り込もうとしたのかのどちらかと考えられるわ」

 

 

「…外来人が来ている、とかはないのかしら?」

 

 

「いえ、そんな報告は今のところ来てないわね。…聞いてないだけで、いるかもしれないけれど」

 

 

ここ幻想郷では、あっちの世界(所謂外の世界)と幻想郷と隔てる境界上に、"博麗大結界"なるものが存在している。その結界を管理するのが博麗の巫女の役割であり、外の世界と幻想郷を隔てる境界を管理するのが紫の役割なのだ。この2人にはまた別に役割があるのだが、それはまた後日。

 

 

「それに、干渉痕が大きかったわ。恐らく、ここに用があったと考える方が妥当よ」

 

 

「境界に干渉…相当な奴ってこと?」

 

 

「かもしれないわ。いかんせん、情報が足りなさ過ぎるのが現状なの。今の段階で結論付けてしまうのは早計だと思うわ」

 

 

彼女らの一連の会話から分かる通り、境界に干渉するという事は、今現在の科学では(恐らく)出来ない芸当であり、奇想天外な存在とも言える妖怪の中でも、境界に干渉できるものというのはほぼいない。それこそ、紫の専売特許と言っても良いだろう。少なくとも、境界に干渉できる者が外の世界にいるのは確定だと言える。

 

 

「これに関しては、追々なのだけれど…次は貴女に知ってもらうことよ。これは廻羅様から話したいとのことだから…廻羅様、お願いします」

 

 

「ん、あいわかった」

 

 

先程の会話に我関せずの姿勢だった廻羅が、自分の話す番になると、纏う雰囲気を変える事もなく、悠々と話し始めた。

 

 

「霊夢、だったかな?君達博麗の巫女には、博麗大結界の維持と幻想郷の治安維持の役割があるのは、知ってるかい?」

 

 

「当たり前でしょ?当人なんだから」

 

 

「だろうね、そうでないと困るけども」ハハハ

 

 

少しわかりづらい冗談を交え、話を進める廻羅。しかし、今度は真剣さを帯び、話を切り出した。

 

 

「…実はね、それに似た役割を担ってる者がもう1人、この幻想郷にいるんだ」

 

 

「…え?……ちょっと待って?可笑しいわよ、私ですら感知できないなんて」

 

 

博麗の巫女というのは、そういった類では群を抜いて特出しており、感知が出来てもおかしくない、というより寧ろ出来てない方が可笑しいのだ。それを1番自覚している霊夢は、当然の焦りを感じていた。

 

 

「それは仕方ないさ。何せ、()()()()()()()()()()ようになってるからね、彼は」

 

 

「…は?どういうことよ?第一、私がいるから要らないじゃない、そいつ」

 

 

当然とも言える戸惑いを見せる霊夢。それもそうだろう、現在は博麗の巫女が治安維持を担っているため、実質警察的役割が2人存在していることになる。それに、霊夢は勝負には滅多に負けず、霊夢に引けを取らないレベルで無いと、もう1人のいる意味がわからないのだ。

 

 

「そうだね…霊夢、仮に君が死んだとしよう」

 

 

「いきなり不謹慎ね」

 

 

「仮にだから…ね?で、君が死んでしまったとなると、後継者を見つける必要があるだろう?」

 

 

「まぁ、そうね」

 

 

少々不謹慎な例え話にツッコミを入れた霊夢も、ここではそうだと言わざるを得なかった。事実、博麗の巫女というものは、幻想郷の中ではかなり重要なシステムであり、それが欠ける事は、避けるのは無理であっても、極力短時間でなくてはならない。その事を、霊夢も自覚しているようだ。

 

 

「そういう緊急時に動く人がいないといけないだろう?だから、そういうシステム…って言っていいのかな?を作ったんだよね」

 

 

「…ん?だったら何で貴方がいないと動かないような設定なのよ?」

 

 

「そのための紫さ。彼女にもそういう役割を担ってもらってる」

 

 

合点がいったのか、そうかと言わんばかりの表情を浮かべている。幻想郷において、紫は"幻想郷の管理者"という立ち位置にいる存在だ。それは彼女自身が豪語しており、管理者という事は、幻想郷を防衛する事も場合によっては厭わない、という事を暗に意味している。所謂、管理責任といったところだろうか。

 

 

「そういう事さ。まだわからなかったら、その都度説明するから、今のところはここまでにしとこうか」

 

 

これ以上話すと次に控えた話が出来ないとの懸念からか、自身(に関連する事)についてはここで切り上げるようだ。と言っても、次に話す事というものに心当たりがない様子の紫。どうも気になって仕方ないのか、ついに紫は彼にそれについて伺った。

 

 

「廻羅様?他に何かありましたか?」

 

 

「うん。彼を紹介しておこうかと思ってね」

 

 

「…彼?誰の事よ?」

 

 

「ほら、今さっき言った君の役割を担ってるもう1人の事さ」

 

 

「あぁ~、成る程ね」

 

 

そんな不安も、彼の一言で消し飛ぶ。合点がいった2人は、お互いに顔を見た。互いの顔を見た2人の心境は、誰にもわからない。

 

 

「じゃあ、行こうか。紫、霊夢はそっちのスキマに入れてくれないかな?」

 

 

「わかりました。さ、霊夢、行くわよ」

 

 

グイグイと霊夢の背中を押す紫。そんな紫に押され戸惑っている霊夢の様子を見るに、行く分には構わないのだろうが、1つの不安要素が拭えていないのだろう、こんな事を聞いた。

 

 

「ちょ、ちょっと!…第一、どこに行くのよ!?」

 

 

「ふふ…無名の丘よ」

 

 

「……はい?」

 

 

どこに行くのかわかったのはいいものの、相も変わらず霊夢は不安そうな顔をしている。そんな霊夢を見てしびれが切れたのか、紫の押す力が強くなり…

 

 

「は~い、無名の丘に行くわよ~」

 

 

「ちょ、ちょぉぉぉ!?!?」

 

 

スキマと呼ばれるなんとも不気味なソコに押し込まれた霊夢の断末魔紛いのソレは消えていく。そしてスキマは、廻羅を残して閉じた。

 

 

「…さて、僕も行くとしようか…な」

 

 

瞬間、傍に置いていた双刃刀を持ち、()()()()()。切られた虚空には()()()()()()()()、彼はそこに入っていった。数瞬も経たないうちに、その空間の歪みは消え失せた。

 

3人がいなくなった八雲家の一室には、静けさだけが残っていた。

 




という事で、御伽.壱が終わりました。

どうでしたでしょうか?お話は、まだまだこれからではありますが、文才も言う程持ち合わせておりませんので、至らぬ点もあったかと思います。そういった際は、是非コメントにて指摘や評価を書いて下さればと思います。

私自身、満足した出来ではないので、皆さんの目にどう映るかが不安ではあります。しかし、こうした最初のプロローグ部分は私の苦手な箇所ですので、これからのお話は問題ないかと思います。

次回『御伽.弐 忘れられた反逆者』


廻羅

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御伽.弐 忘れられた反逆者

どうも、Cross Alcannaです。

今回もオリキャラが登場します。登場した際に後書きに挿絵を出す形にしようか、設定集を作るかで悩んでいます。因みに、登場するオリキャラは、10体以上います。前話からアンケートを貼っておりますので、是非回答していただければと思います。

では、御伽をお楽しみ下さい。



[無名の丘]

 

 

「…っと。…ん?2人はどこに…」

 

 

話の中にあった無名の丘に着いたようで、そこにいるはずの2人がいなかった事を確認したために、辺りをキョロキョロと見渡しだす廻羅。その当人らは、左奥辺りで何か打ち合っているようで、廻羅が既に来ている事に気付いていないように見える。

 

ここ無名の丘は読んで字の如く、幻想郷の民にもほぼ忘れられているレベルで誰も寄り付かない。ここには辺り一面に鈴蘭が咲いており、綺麗でありながらもメディスン・メランコリーという妖怪がいる。この妖怪が人間に対してそこまで友好的でないとの噂と、ここに名無しの赤子を鈴蘭の毒で安楽死させるという過去のせいか、人間はおろか妖怪までもが近寄らなくなっていった。

 

そんな中、廻羅はここにいる話に上がった人物の事を想起している。その顔はどこか懐かしさを帯びており、表情も自然と優しいものになっている。そうしている内に決着がついたのか、2人が廻羅の方にやってきた。

 

 

「お、終わったのかな?」

 

 

「か、廻羅様!?申し訳ありません!お見苦しいところを…」

 

 

「別に構わないさ。さて、行こうか」

 

 

そう音頭を取り、一行は歩を進める。廻羅と紫を見ると、何やら話をしている。これから会いに行く人物についてだろうか。はたまた、全く別の話題だろうか。

 

一方の霊夢はというと、こんな気味が悪い場所に来させられたからか、ブツブツと何か呟いているように見える。恐らく、文句か何かの類いとも感ぜられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[???]

 

 

「霊夢、ここよ」

 

 

「…こんな所に……神社?益々不気味ね」

 

 

相も変わらず警戒を解こうとしない霊夢の前にあるのは、所々傷付いており、老朽化が著しく進んでいる木製の神社らしき建物。その立たずまいは、ホラー映画にでも登場する建物を彷彿とさせんばかりだ。

 

 

「まぁまぁ、気持ちは分からないでもないけど…寧ろそうしたからその反応が普通なんだけど……ま、入ろうか」

 

 

"寧ろそうしたから"と、何気にとんでもない事を何でもないかのように挟みながら、我先にと言わんばかりの勢いで入っていく。

 

 

「ちょ、ちょっと!!」

 

 

置いてかれると思ったのか、焦りながらも霊夢が後に続き入る。勿論の事、紫もついて行っている。さて、鬼が出るか蛇が出るか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[??? 室内]

 

 

 

「おぉ…懐かしいなぁ」

 

 

外装程不気味さもなく、されど生活感はこれっぽっちも感じ取れないその部屋を見て、懐古の念を込めた一言を放ったのは、紛れもなく廻羅だった。

 

 

「…中と外の見た目が合ってない気がするのだけど?」

 

 

「やっぱりそう思う?もちっとしっかり偽装魔術組み込んどけば良かったかなぁ?」

 

 

は!?、とポンポンとんでもない事実が飛んでくるのに、驚きを隠せない様子の霊夢。廻羅様なら当然よ?、等とまるで自分の事の様に霊夢に言う紫。それらをスルーするように、彼は声を張る。

 

 

「おぉーい!宵月(よづき)!」

 

 

「…主様、戻っていたのですか」

 

 

彼の呼び掛けに反応したかの如く、何も無い空間に突如黒い煙が現れ、それはやがて人の形となり、徐々に姿が露になる。その姿はこの地ではあまり見かけない、黒いフードに模様の入った白い仮面を付けている。

 

 

「…もう驚かないわよ」

 

 

先程までの流れで慣れたのか、何が来ても受け入れると言わんばかりの態度を見せる。紫の方はというと、少し嫌そうな顔を浮かべている。

 

 

「…ん?紫か、何用で来た」

 

 

「…霊夢にあなたを紹介しようかと廻羅様が仰ったのよ」

 

 

「…そうか」

 

 

紫も妖怪なので、どちらかと言えばこうした堅物系はあまり友好的に感じない方なのだ。妖怪自体、案外おちゃらけた性格の輩が多い為、自然とそうなってしまうのも無理はないが。

 

 

「そうそう、彼女が現在君の役割を担ってる博麗 霊夢だ」

 

 

「現代の博麗の巫女…ですか。…成る程、実力は中々ですね」

 

 

一見して実力をあっさりと見極めてしまう宵月は、恐らくそれ相応の実力を持ち合わせているのだろう。それに加えこれ程の冷静さ。これこそ、強者の余裕といったところだろうか。

 

 

「…主様、他に何か用はあるのですか?」

 

 

「あ、バレた?」

 

 

どうやら宵月の紹介以外にも、何やら目的があるようで。何も聞かされていない2人は、首を傾げる事しか出来ない。その目的は、彼の口からあっさりと告げられるのだが。

 

 

「実は、霊夢と手合わせをしてもらいたくてね」

 

 

「…手合わせ、ですか」

 

 

「うん、直に戦ってみないと分からない事もあるだろうしね。あるかは分からないけど、後に共闘する事になって、互いの事が分からないのは致命傷だしね」

 

 

考え無しに放たれたと思われたその提案は、以外にもしっかりとした理由があった。それに納得したのか、宵月も頷いており、肯定的にとっているように感ぜられる。

 

そして、宵月は「来い、主様が所望している」と、霊夢に準備をするように催促する。「上等よ、叩き潰してやるわ」と意気込んでいる霊夢。

 

 

「……では…………」

 

 

──始めッ!!

 

 

紫のその一言に、穏やかだったソコは、戦場へと変貌した。相対する2人の眼光は、相手を討たんとする眼そのものであった。方や光彩を放つ弾幕が、方や暗黒を孕んだ弾幕が飛び交い、衝突した後に相殺されていく。そしてそれを眺める2人。

 

 

「…あの時に宵月の実力は見ましたけど……あの時より強くなっていますね」

 

 

「人にしろ神にしろ、誰でも同じ強さにはならないしなれない。ただ、宵月は強くなったってだけだよ」

 

 

その一言に納得の意を示す紫。その納得は、強さにおいて過敏である者々が数多蔓延る幻想郷の賢者だからこその納得なのだろうか。そんなやり取りをし終えてから2人は辺りに腰掛け、紫が張った結界の中で観戦の続きをしている。

 

 

「…廻羅様、霊夢は強いですよ」

 

 

「だろうね、一目見ればわかるさ」

 

 

そうして2人の戦闘を見ている彼は、どこか慈しむような雰囲気を漂わせていた。隣の紫は、ただそれを眺めているだけだった。そんな会話の中でも、2人の戦闘は一向に止まりそうにない程激しさを増していた。一見均衡状態にも見えるが、少し目を凝らして見ると少し霊夢がおされている。と、それを見た廻羅は大きく一声。

 

 

「そこまでにしようか!」

 

 

鶴の一声と言うべきだろうか、彼の声を聞いた2人は聞き分けよく手合わせを止め、下に降りてきた。「…あんた……どうしてピンピン…してんのよ…」と、息を切らしながら恨めしそうに言うのは博麗の巫女。それに対してどうとも言う気配もない宵月。

 

 

「さて、僕はこれから宵月とちょっと話す事があるけど……2人はどうする?」

 

 

「私達はここで一旦戻ろうかと思います。…霊夢はどうするの?」

 

 

「境内の掃除するわ。それに今日はやる事あるし」

 

 

そうかいと廻羅が言ったところで、「失礼します」と告げて紫と霊夢がスキマに消えていった。それを見た2人は、無銘の丘を歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴメンね、宵月。急な話で」

 

 

「いえ、主様の命ですので」

 

 

少し時間が経過し、そんな一言同士で始まった会話。しかし廻羅の顔を見ると、どこか儚げな表情をしていた。

 

 

「…僕はね、君が心配なんだ」

 

 

「私が…ですか?何がですか?戦闘能力とか…」

 

 

「いやいや、そういう事じゃなくってね」

 

 

試行錯誤に耽りそうになる宵月を止める。宵月は何がなんだかわかっていないのか、少々戸惑ってるようにも見える。そんな宵月を差し置いて、廻羅は言葉を続ける。

 

 

「君に、もっと色んなものを知ってほしいんだよ」

 

 

「…知る、ですか」

 

 

そうして発せられた答えは、大層普遍的な解答だった。ただ、彼が述べた"知る"とは少々違うようで……

 

 

「宵月はさ、物に興味がないでしょ?」

 

 

「そうですね、主様と幻想郷以外には感心はないですね」

 

 

「…それが心配でね……」

 

 

生きている以上、何事にも興味がないのは致命傷になる。知らない事は戦うことにおいても、人生においても傷になる。そう考えての発言なのか、はたまた単なる心配なのか…。

 

 

「とりあえずね、宵月には色々と知っていって欲しいんだ。作った側の責任としてさ」

 

 

「…そう、仰るのであれば」

 

 

善処してみますと釘を打ちながらも了承する。それが聞けたからか、廻羅も安堵の息を漏らした。

 

 

「そろそろ僕も戻るとするよ、久々に見て回りたいからね」

 

 

「わかりました、私もあそこに戻ります」

 

 

そう告げ、2人は別れた。がしかし、少し歩いたところで廻羅は止まる。そうしてポツリと一言、

 

 

「……本当に、ゴメンね」

 

 

そう呟いて、彼は再び歩き出した。その背中は、悲しさを帯びていた。

 




という事で、御伽.弐が終わりました。

執筆中の小説が一段落したので、こちらの小説の本格的な執筆が始めました。尚、投稿頻度等につきましては活動報告をあげましたので、そちらを御確認ください。ここでもお知らせしますが、弾幕の表現はかなり厳しいものとなりますので、今回はあまり期待しないで下さい。

次回『御伽.参 旅路行く者の記録 ~人の行き交う場~』


宵月

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0,5章 旅路行く者の記録
御伽.参 旅路行く者の記録 ~人の行き交う場~


どうも、Cross Alcannaです。

1週間で1話投稿のペースで今はやらせてもらっていますが、頻度を下げるかもしれません(今はその予定はありませんが)。活動報告でもお知らせした通りですが、弾幕の表現につきましてはあまり期待しないでいただけるよう、お願い申し上げます。

そして、お気に入り登録:希望光さん、お気に入り登録ありがとうございます。

では、御伽をお楽しみ下さい。



[人里]

 

 

「さてさて…どこから回ろうかな……?とりあえず様子を見ていった方が良いかな?」

 

 

宵月と別れてからの廻羅はというと、人里にて何かしようかと思考に暮れている。廻羅の知っている人里の面影は(言い意味で)なくなっていた。だからだろうか、ついつい彼はまず情報を見てから何か掴もうとしているのは。

 

 

「……おっ、団子屋……食べようかな?」

 

 

そうして周りを見ていると、彼は目に入った団子屋に意識が行く。好奇心が勝っているのか、彼の興味はそれに集中しているようにも見える。その証拠に、彼の目は少々キラキラしている。

 

 

「……行こう、うん。とりあえずお腹は満たさないとね」

 

 

そう言い訳にも聞き取れるような弁明を、誰かもわからない人へ向けてしだす。それは、少し焦っている証拠だろうか。何はともあれ、廻羅は団子屋へと歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[団子屋]

 

 

「…ここの団子、美味いなぁ」

 

 

団子屋を見つけた時とは打って変わって、今の彼は冷静さを取り戻していた。どことなく、団子自体は知っているようにも思われる。その中でも一際美味しかったように聞こえる評価の仕方だ。

 

 

「ご馳走様でした、美味しかったですよ」

 

 

そう言って代金と共にお礼の言葉を1つ。そうして団子屋を後にした廻羅……だったのだが、そこで事故は起こることに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[人里]

 

 

「どけどけッ!!」

 

 

「…んぉ?」

 

 

廻羅が団子屋を後にしたその時に、怒声が飛んでいた。予想外のソレに、廻羅からは素っ頓狂な声が出る事に。その声を出している張本人はと言うと、廻羅の方に走ってきている。

 

 

「──そこの人、危ないッ!」

 

 

「……成る程」

 

 

衝突しかねないと思った誰かの呼びかけに応える素振りを見せないどころか、状況を分析し始める始末。そのうちにもその男性は近づいてくる。

 

 

「お前もどけぇ!!」

 

 

誰もがダメだと思った瞬間だった。

 

 

「──危ないねぇ」

 

 

廻羅に衝突することなく、その男は宙を舞っていた。廻羅が投げ技を決めていたようで、間もなくその男は地面に尻もちをつき、痛そうに尻をさすっている。そうしていると、青い髪を持ち、蒼いドレスに身を包んでいる女性が走ってくる。

 

 

「大丈夫だったか、君!?」

 

 

「私は問題ないさ。それより、彼を連れて行かなくていいのかい?」

 

 

それを聞くと同時に、女性は後から来た警察的な人らと何やら話し始める。彼の方はと言うと、それを静かに眺めながら、いつ買ったのかわからないお茶を立ち飲みしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっきは助かったぞ、感謝する」

 

 

「ていっても、そこまでの事はしてないけどねぇ」

 

 

先程の件も片付いたようで、今はというと、廻羅が例の女性に案内されている。今はどこにどういう施設があるのかの案内のようで、時には中に入って説明したりしていたようだ。

 

 

「そうだ、まだお互い名乗ってなかったな、私は上白沢(かみしらさわ) 慧音(けいね)だ。あっちにある寺子屋の教師を勤めている」

 

 

「教師かぁ……通りで聡明なわけだ」

 

 

「……へ?」

 

 

「…あぁ、ゴメン、何でもないよ。こっちの話だ。…じゃあ次は僕の方だね」

 

 

そう言った廻羅は急に立ち止まり、一呼吸置いた後に、自身の名前を告げた。その名前を聞いた彼女は数瞬固まった後に………

 

 

「……えぇぇぇぇ!?」

 

 

彼女の驚愕の声は、人里中に響いたそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、あの廻羅だとは思わなかったぞ……?」

 

 

「まぁ、言わなかったからねぇ」

 

 

等と、慧音の若干の皮肉をスルーすると言わんばかりに、ケラケラと笑う廻羅。そんな廻羅を見て、少しムッとしている慧音は、どこか子供っぽく見える。

 

 

「今更で何だが、敬語とかは良いのか?」

 

 

「寧ろ敬語はむず痒くってねぇ……タメ口の方がこちらも心地が良い」

 

 

ならば変えないでおくか、と、まるで長い間友であったかの如き話の速さである。長年生きた、そして人に寄り添ってきた者同士だからこその接し方があるのだろうか。

 

 

「……そうだ、廻羅は教師とか出来るのか?」

 

 

「教師、ねぇ……出来なくはないだろうけど」

 

 

突然の話題転換に、思わず考え込む廻羅。そして、多少の説明を織り交ぜながら話をしている慧音。

 

要するに、寺子屋で授業をして欲しいとの事。それに対して彼は、二つ返事したそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[寺子屋]

 

 

「……わからない〜!」

 

 

「ふむ、ここはさっき教えた通りにやってだね……」

 

 

「先生!出来ました!」

 

 

「およ?じゃあ見せてみて」

 

 

「…………」

 

 

寺子屋にて、授業中。慧音の生徒である大妖精、チルノ、ルーミア、リグル、ミスティア等々がいる中で、本職であるかの如く授業を進める廻羅。

 

更に、チルノに対して理解できるように進めている事が、慧音を驚愕させるのに拍車をかけている。

 

 

「おぉ!解けた!」

 

 

「やったね、チルノちゃん!」

 

 

「喜ぶのは良いけども、復習を忘れちゃダメだからね?」

 

 

「わかったぞ!」

 

 

そうして授業は進んで行く。相も変わらず、慧音は驚きの表情を浮かべていたのは、言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誘った私だが、今でも驚いているぞ?まさか、チルノに教えきるとはな」

 

 

「何、押してダメなら引いてみろって言うだろう?僕はそれをしたまでだよ」

 

 

寺子屋の仕事も一区切りついたところで、2人は外で軽い談笑を交わしていた。やはり、昔からの仲である雰囲気があるように感ぜられる。そんな事はないというのに。

 

 

「ありがとう、慧音。良い経験をさせてもらったよ」

 

 

「それは私のセリフだ。これからの指導の参考にさせてもらうよ」

 

 

2人は固い握手を交わし、互いに背を向ける。また会えると確信しているのか、その背中に名残惜しさは微塵もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、色々発見があるもんだねぇ……んお?」

 

 

彼が慧音と別れてから少ししたところで、彼は足を止めた。そこには、少々古びた1軒の店だった。

 

 

「…入るかな」

 

 

少し悩んだ挙句、彼はその店の扉を開ける決意をし、それを実行する。すると、「いらっしゃい」と、少々整った青年の声が店内に響く。

 

 

「意外だね、もう少し歳のいった人がやってるとばっかり思ってたよ」

 

 

「たまに言われるね。後、その言い草から察するに、外来人かな?」

 

 

「まぁ、そうなるかな?」

 

 

それを聞くと、店員は「ゆっくり見ていくと良いよ」と言い残し、また奥に去っていく。仕事でもしているのだろうか。

 

それはさておき、店員からの承諾を得たのでと言わんばかりに店を見て回る廻羅。そこで1つ。

 

 

「……あっちのモノがメインかな?この辺は…外国の方のかな」

 

 

そんな事をボソリと呟いてから、数瞬経ったか経ってないかのスピードで件の店員がやって来た。

 

 

「君!それらの事がわかるのかい!?」

 

 

「わかるも何も、この前は日本にいたからねぇ」

 

 

「それなら!これらについて話を聞きたいんだけど、良いかな!?」

 

 

それくらいなら構わないけども、と返してすぐ、店の奥に案内される廻羅。「やれやれ、これが所謂マニアって奴か。…大変な相手だ」とは、店を出た彼が抱いた感想である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ。彼、熱心だったなぁ」

 

 

あれから結構な時間が経ち、ようやく解放されたのか、廻羅は肩を回しながら歩いている。

 

今彼が歩いているのは……()()()()()である。辺りに広がる黄色い花弁を持った数多の花が、大地をこれでもかと覆いながら在り続けるソレに、歩きながら感心する廻羅。

 

但し、この幻想郷において、ココを歩く事は一種の生死案件であるのだ。

 

 

「…あら、私の花畑をそんなに余裕そうに歩くなんて、一体何処の誰かしら?」

 

 

そう淡々と告げるその女性は、そんな言われになってしまう元凶でもあった。

 

 




という事で、御伽.参が終わりました。

無事3話目を期限内に投稿出来ました。暫くはこのペースで落ち着くと思います。そろそろオリキャラの絵も描き進めて行かないといけないと思いますので、そちらも進める予定です。

そして、この話が投稿された日or次の日に2話に宵月のキャラ絵を出します。

次回『御伽.肆 旅路行く者の記録 〜緑黄色に囲まれて〜』


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御伽.肆 旅路行く者の記録 〜緑黄色に囲まれて〜

どうも、Cross Alcannaです。

今回は見ての通り、そして前回の最後の通りとなっております。さて、旅人の放浪は、穏やかなソレとして終わりを迎えるのでしょうか?

では、御伽をお楽しみ下さい。



「…あら、私の花畑をそんなに余裕そうに歩くなんて、一体何処の誰かしら?」

 

 

廻羅が歩を進めるのを、とある女性の声が止める事に。何気なく廻羅が振り向くと、そこには赤と黒のチェックで、白色も混じったドレスを身に纏い、右手には薄いピンクの日傘を持って佇む女性がいた。……どこか、不敵な笑みを浮かべているように見える。

 

 

「花畑を歩くのに、余裕も何もなくないかい?」

 

 

「……ククッ、それは私への皮肉かしら?」

 

 

「どうしてそうなるかなぁ?」

 

 

自身に対する皮肉だと思っているのにも関わらず不気味にも思える笑みを浮かべ続けるその女性は、本当にそれを皮肉ととっているかも怪しいところ。その場で互いを見つめる時間が過ぎていく。…そんな中、その沈黙を破ったのは、彼女の方だった。

 

 

「そうね、自己紹介をしておいた方が良いかしら?私は風見(かざみ) 幽香(ゆうか)よ。ここの花は全て私が管理しているわ」

 

 

「へぇ、全部かぁ…凄いねぇ。っと、僕は廻羅さ、宜しく頼むよ」

 

 

と、廻羅が握手をしようと手を差し出す。しかし、それに対して返ってきたのは、数多の高密度の弾幕だった。

 

 

「っとと、随分ダイナミックな挨拶だね…!」

 

 

焦りながら言っているように感じられるも、その弾幕を容易く()()()()()避けていく。それを見た幽香はと言うと……

 

 

「あら、私の弾幕をそこまで余裕に避けるなんて……楽しくなってきたじゃない!」

 

 

ビビるどころが、寧ろ興奮気味になっている幽香。それを見た廻羅の方は戦慄する。それでも尚、ヒョイヒョイという擬音が付きそうな感じに避けていく。それに対して幽香が興奮し、廻羅が戦慄し……の繰り返しになっている。一種の無限ループだろうか。

 

 

「普通に会話したいんだけども…ねぇ!」

 

 

負けじと数個の弾幕で応戦の意を示す廻羅。しかし、彼女の表情は良いものではないようで……?

 

 

「…貴方、ふざけているのかしら?貴方が実力を持ってるのはわかっているのよ?本気を出さないなんて、随分と舐めてくれるじゃないの?」

 

 

如何にも怒ってますとでも言いたげなオーラを醸し出している幽香に、どうしたものかと顔を歪ませる廻羅。と、どうやら廻羅の方に何やら変化があった模様。

 

 

「…本当に、本気で良いんだね?」

 

 

「えぇ、勿論よ」

 

 

そうかい、と一呼吸置いてから、廻羅は今まで隠していたオーラを全て曝け出した。…その光景を目にした彼女はと言うと……

 

 

「……貴方、いったい何者なのかしら?私ですら足が震えるレベルなんて……まだ幻想郷にこんなのが居たなんてね……ゾクゾクするわね」

 

 

それに怖気づくと思いきや、寧ろ戦意が向上しているようだ。先程出ていたオーラは、今はもうある程度引っ込んでいる。廻羅の方は…集中しているのか、幽香の声には耳を傾けていない様子。

 

そうして、戦闘狂と旅人の戦いに、第2ラウンドが幕を開ける事に……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[幽香の家]

 

 

「貴方、相当な手練れね。…人間ではないんでしょう?」

 

 

「一応はね。…僕からしたら、君の方が余程人に感じなかったけどね。…主に戦闘意欲とかね……」

 

 

「あら、女性に対してそんな事を言うなんて…失礼しちゃうわ」

 

 

等と強めの会話のドッヂボールをしているここはと言うと、幽香の家であった。「幽香が人を家にあげる?そんなの滅多に聞かないわね…。まぁ、幽香に認められてるのは確実なんじゃないの?」とは、紫の発言。

 

幻想郷の猛者がそう言うあたり、トンデモない事に違いないのだろうが、廻羅自身それには気付いてない模様。それに、()()()()()()()事についても、どうやら凄い事だという自覚がない模様。これが本当の強者の余裕というやつだろうか(おそらく違う)。

 

 

「まぁ、私を負かしたやつに出会えて、今の私は上機嫌だし、今のは大目に見てあげるわ」

 

 

「上から目線なんだよねぇそれ。僕としてはそんな砕けた感じの方が接しやすいから良いんだけどねぇ」

 

 

そう静かに言いながらせせら笑う廻羅。それを見た幽香もフフフと自然と笑みが零れる。ここだけ切り取れば、ごく普通の日常なのだろうが…先程あんな戦闘を繰り広げていたという事実が、それを容易く崩壊させる。

 

そんなこんなで、どうやら話題が変わっているようで……?

 

 

「そうだ、貴方、紫は知ってるのかしら?」

 

 

「紫?勿論知ってるさ。少し前に話してきたばっかりだしね」

 

 

そうなのね、とは幽香の反応。どうやらもう少し違う反応を見たかったようで、少し期待はずれな雰囲気を醸している。…想像したものよりもずっと変化球な回答が投じられる事も知らずに。

 

 

「いやぁ~紫の敬語、いつになったら抜けるのかな?幽香にも敬語で話してたりするのかい?」

 

 

「…………は?」

 

 

その一言に、今まで平静としていた彼女が豹変し、驚きを隠せない唯の女性のそれとなった。

 

そも、彼は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。自身には敬語でしか話さない彼女を見て、全員にそういう態度で接していると思っているのだ。

 

幻想郷にいる者の中では、紫は強者の中の強者であり、そんな彼女が誰かを敬うなんて事は、間違っても無いものだというのが通説。それが、いとも容易く崩れ落ちた瞬間だった。

 

 

「あれ?違うの?」

 

 

「……あいつ、貴方以外には敬語なんて一切使わないわよ。…貴方、本当に何者なのかしら?」

 

 

そう言い放つ彼女の顔には、驚愕と共に、興味の表情が浮かんでいたそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[魔法の森]

 

 

「幽香だったっけ、面白い人だったなぁ」

 

 

先程の下りを全て引っ括めてこれである。感性がズレているのか、はたまたこれが普通なのか、我々には判断しかねるものの、そんな事は露知らず、魔法の森を闊歩する廻羅。

 

どうやらまたまた、何かが起こる模様で……?

 

 

「…貴方、どうしてここに?」

 

 

「んえ?」

 

 

少しピリついた女性の声に対し、廻羅の声は随分と素っ頓狂なものである。それでも尚、女性は態度を変えることは無い。

 

 

「貴方は1度も見た事ないわ。百歩譲って人間じゃなかったり外の世界の人であるにしろ、ここの瘴気に耐性のない者は来るべき場所じゃないわ。なのに貴方は何事も無さそうにしている。……怪しい事この上ないわ」

 

 

「あらら、確かに空気が違うとは思ったけど…まさか瘴気が漂ってるとは……昔はそんな事なかったのになぁ」

 

 

昔は、という言葉に身体をピクリとさせるその女性の表情は、鋭さを帯びていながらも、多少の驚きが混ざり始めていた。

 

 

「…昔?貴方、昔のここを知ってるとでも?」

 

 

「知ってるとも、昔はこんなに瘴気なんてなかったし、何なら結構普通の森だった筈だよ。…瘴気の正体はその辺に生えてる茸っぽいね、前はなかったし」

 

 

「……貴方、自分の言ってる”前”がどれくらい前かわかって言ってるの?」

 

 

「アバウトにならね、確か……数百年前じゃなかったかな?あれ?それってあっちの時間感覚かな?あれれ?」

 

 

等と、遂には眼前の女性を置き去りにしながら思考に暮れてしまう始末。これには目の前の女性も呆れの表情。

 

 

「……もう良いわ、何だか馬鹿々々しくなってきたわ…」

 

 

「あり?もう良いのかい?」

 

 

「えぇ、少なくともここでならやっていけそうみたいだしね」

 

 

そう結論づけたのは、アリス・マーガトロイド。この魔法の森に住む()()()()()。幻想郷であるからして、魔女がいるのについては何の疑問もないだろうが、如何せん彼女は完全に人の見てくれである。そりゃそうなのだろうが、改めてこの幻想郷の異質さを実感してもらいたい。

 

どうやら、当人である2人も自己紹介を終えたみたいで…?

 

 

「それで?ここに何しに来たの?」

 

 

「いやぁね?特別ここっていう目的は無くってね。久々の幻想郷だし、色々見て回ろうかなってね」

 

 

再び溜め息を漏らすアリス。幻想郷を旅というのは、余程の強者でない限りは自殺行為に値する。

 

というのも、ここには魔女や妖怪を始め、吸血鬼や神がその辺にいる世界。そんな世界の旅など、実力なしには不可能だろう。

 

 

「…もうすでに疲れてきたわ。で?次はどこに行くのよ」

 

 

「そうだねぇ……妖怪の山って、相変わらず警戒心強い?」

 

 

「そうね、基本的に侵入者は排除の精神っぽいわ」

 

 

やっぱりかぁ~と悠長に述べる廻羅。…が、少しすると何かを閃いたようで……?

 

 

「あ、解決したかも」

 

 

「…はい?」

 

 

そう言った瞬間、そこには既に彼の姿はなかった。この場に残された彼女は、ただ静かに驚きながら、彼が立っていた場所を見つめる事しかできなかった。

 




という事で、御伽.肆が終わりました。

今回は太陽の花畑、魔法の森編でした。幽香とアリスが登場しましたが、先にお伝えすると、全キャラが登場する訳ではありませんので、悪しからず。

次回『御伽.伍 旅路行く者の記録 ~数多の種が蔓延るその山は~』


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御伽.伍 旅路行く者の記録 ~数多の種が蔓延るその山は~

どうも、Cross Alcannaです。

タイトルを見て、感じた方もいると思いますが、毎回"旅路行く者の記録"と付いていますが、これは0,5章扱いです。プロローグと本編の間と思っていただければ良いです。導入部と言えば良いかもしれませんね。

では、御伽をお楽しみ下さい。



[妖怪の山]

 

 

「ここから先は、立ち入らせない!」

 

 

「…あちゃあ、思ってたより面倒だねぇ」

 

 

アリスとのくだりからそこまで経っていないだろうか、妖怪の山の下の方で、何やら揉め事が起こっている様。…とは言っても、廻羅の方は溜め息を漏らしており、一方の白狼は廻羅に対し、警戒心MAXである。そんな状況に、廻羅も若干面倒になってきているのだろうか。

 

 

「あやや?何か騒がしいと思って来てみたら……椛、どうしたんですか?」

 

 

「あっ!文さん!」

 

 

そんな膠着状態の中、興味本位らしい動機で空から飛んできた烏天狗が1人。その人物の姿を見た白狼は、注目をそちらに向ける。廻羅を置いて、何やら2人で話をしているようにも見える。

 

 

「うちの椛が迷惑を掛けました。ですが、最近の妖怪の山は警戒心が強いので、それを知らなかったとの解釈でいいですか?」

 

 

「へぇ、長年見ない間にそんな事が…知らなかったなぁ」

 

 

どうやら白狼から話を聞いていたらしく、烏天狗から話を切り出してきた。その内容に、思わず廻羅は素っ頓狂な声を漏らした。

 

 

「…お伺いしますが、妖怪の山についてご存じで?」

 

 

「最近の制度的なのは知らないけど、長なら知ってるよ?」

 

 

長という言葉に、2人は打って変わって警戒心を露わにする。そんな2人に対し、彼はどうして今と言わんばかりの提案をする。

 

 

「そうだ、長に会いたいんだけど、良いかな?」

 

 

「ダメに決まってるでしょう!」

 

 

その警戒心を言葉に乗せて言うのは、白狼の方だった。一方の烏天狗の方はと言うと、警戒心を抜く事こそないものの、冷静さは保っているようだ。そんな中で何を考えたのか、烏天狗はこう切り出してきた。

 

 

「……良いですが、警戒してる事はお忘れなく」

 

 

「文さん!?良いんですか?」

 

 

「…長に判断してもらいましょう、それでわかるでしょうし」

 

 

相も変わらず2人で話を進めていく。その話も終わり、3人は妖怪の山の長がいる所へと、歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[妖怪の山 頂上]

 

 

「ここです、長を呼んできますので、ここで待っていて下さい。…椛、見張っていてください」

 

 

「わかりました、文さん」

 

 

そう言いながら3人の前に立っている一軒の建造物の中に入る烏天狗。その最中も廻羅に対する警戒を許さない。その証拠に、彼の隣の白狼は今にも警戒の唸り声を出さんとしている。それを見た彼も、思わず苦笑いをしながら溜め息を零している。

 

 

「重罪人くらいに警戒してるねぇ」

 

 

「当たり前でしょう、私達からしたら侵入者ですから。それに貴方、どこから来ました?」

 

 

「んえ?太陽の花畑だけど…?」

 

 

その回答を聞いて、やはりかとでも言わんばかりの表情をしながら、溜め息を零す白狼。それに続けて、気だるげに言った。

 

 

「…良いですか?太陽の花畑は幻想郷の中でも屈指の危険地帯です、そんな所から来た人を通すわけにもいかないでしょう。それに、先程その方向からとんでもないオーラを感じましたし」

 

 

「あぁ、そういう事ね。…因みに、それも僕だね」

 

 

先程の警戒の姿勢も、彼の告白により毒気を抜かれてしまうようにどこかへ行ってしまう。今まで警戒しきっていた彼女も、今となっては先程まで緊張も警戒もしていない模様。

 

そんな状況の中、眼前の建物の扉が開かれ、件の烏天狗が出て……

 

 

「あっ!ホントに廻羅だ!廻羅ぁぁぁ!!」

 

 

「グエッ……伊達ちゃん、これ結構危ないっていつも言ってるでしょ……」

 

 

…来る事はなかった。彼が言う伊達とは、扉から出た大天狗の名前である。廻羅が名付けたらしく、大天狗のだとての字を取って伊達と名付けたらしい。…何とも安直な名付けに思えるのは、置いておくとするが。

 

 

「だって!最近来ないって思って紫に聞いたら『廻羅様なら旅に出たわよ』なんて言うからぁ!!」

 

 

「連絡しなかったのは悪かったってば……」

 

 

そう申し訳なさげに言う廻羅の腹をポカポカ殴る伊達に、最早大天狗等の肩書きなりの威厳はとうになかった。そんな彼女の姿に、2人はポカンと口を開ける事しかできなかった。それでも尚、聞きたいという欲が出るのも無理はなかった。

 

 

「…伊達様、これは……?」

 

 

そう切り出したのは、烏天狗の方だった。この烏天狗はこの幻想郷にて記者としても活動しているからか、知りたいと思ったら危険であろうとも首を突っ込む性分なのだろう。それに対し、廻羅の方が答える。

 

 

「ホントは伊達ちゃんから答えた方が良いんだろうけど、生憎この状態だから…僕が答えるよ。伊達ちゃんは僕の親友なんだよ、僕の方が年上だから、知らないうちに妹みたいになってるけどね」

 

 

「……はい?」

 

 

思わずそんな声を出してしまうのは、白狼の方だった。思いもよらない衝撃のカミングアウトによって、今まで我慢していたのだろうが、それも叶わずとうとう出しゃばり始めた。それに対して、とうとう伊達の方から切り出す。

 

 

「本当だぞ!私よりも前からここにいたし、私と廻羅は親友なんだからな!」

 

 

フンス、と聞こえなくもなさそうに、ふんぞり返りながらそう言う姿は、さながら子供そのものである。不敬にも、烏天狗と白狼の2人もそう思っているようである。そうとも知らず、伊達は続ける。

 

 

「そうだ、2人の名前、廻羅は知ってるの?」

 

 

「ん?この2人か?知らないけど」

 

 

その返答に、先程とは打って変わってしっかりした雰囲気で2人の紹介をする伊達。曰く、烏天狗の方は射命丸(しゃめいまる) (あや)といい、白狼の方は犬走(いぬばしり) (もみじ)というそうな。何でも、椛は白狼でなく、白狼天狗らしい。

 

 

「椛~?私前から廻羅が来たら何事もなく通すようにって言ってたわよね~?ちゃんと外見とかも教えたはずよ?」

 

 

「あ……あの……」

 

 

それからは伊達の椛に対する詰問時間が続いた。文と廻羅はと言うと、それが終わるまでインタビューをしていたそうな。勿論その後に、羨ましがった伊達によってお叱りを受けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「廻羅ってさ、この後どうするとか考えてるの?」

 

 

「一応、幻想郷中を回ろうかと思ってるよ。どこか新しめの所ってない?」

 

 

「だったら守屋神社が近いと思うよ、博麗神社と一回いざこざがあったらしいけどね」

 

 

へぇ、と興味ありげに声を漏らす廻羅。思い立ったら吉日なタチらしく、もう既にそこに彼の姿はなかった。

 

 

「…言わない方が良かったかなぁ、むぅ」

 

 

一緒にいたかった伊達としては、言わない方が少しでも彼と一緒にいれる可能性があったのではと思ったのか、後悔と少しの嫉妬を胸に孕み、頬を膨らませた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[守屋神社]

 

 

「という事で来てみたわけだけど……」

 

 

「どうした?攻撃しないのかい?」

 

 

「どうしてこう、戦闘狂が多いんだか…」

 

 

守屋神社に辿り着いた彼はと言うと、また戦闘状態に。遠巻きに見ている緑髪の巫女である東風谷(こちや) 早苗(さなえ)であり、呆れながら見ている。その一方で隣の幼い容姿の少女は守屋(もりや) 諏訪子(すわこ)はと言うと、戦っているもう片方の八坂(やさか) 神奈子(かなこ)の方に檄を飛ばしながら観戦している。因みに、諏訪子と神奈子は守屋神社の神である。

 

 

「いい加減あんたの攻撃も見たいんだけど…ね!!」

 

 

「いや、疲れてるんだけど…?」

 

 

「嘘だね、アタシの攻撃をここまで最小限の動きで避けれるんだし、攻撃くらい造作もないだろう?」

 

 

その支離滅裂な一言に、呆れとも言える溜め息を漏らす。やはり神と言う種族は、どこか可笑しい持論を1つは持ち合わせているのか。はたまた基準が高すぎるだけなのか……それはともかくとして、その溜め息に続けて、彼は言い放った。

 

 

「…1回だけね、ホントに疲れてるんだから」

 

 

「ケチだねぇ、自分が倒されるかもしれないだろうに…出し惜しみかい?」

 

 

 

 

 

『自惚れるなよ、未熟者』

 

 

『!?』

 

 

彼の雰囲気や口調等の全てが豹変し、一言神奈子に放つと、それは神奈子だけでなく早苗と諏訪子すらも旋律させた。それにたじろいでいるのか、神奈子は一歩下がる。それに目も向けず、廻羅は手にエネルギーを溜める。それは弾幕の光のようにも見えるが、それの放つオーラや衝撃波は並みならぬものであり、その場に立っているのも困難な程である。…放たれていないのにこの状態という時点で、2人の実力には埋まらない程の差があるとわかるだろう。

 

 

『実力差を噛み締めると良い』

 

 

その一言の後に放たれたそれは、的確に神奈子のみを飲み込んだ。神奈子は意地の抵抗を見せるものの、それに飲まれてしまう。…この勝負の結果は、最早言うまでもないだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ~強いねぇ、廻羅!」

 

 

「すまない、イライラするとああなるんだよ」

 

 

件の戦いが終わり、守屋神社内で談笑を交わす2人。…と、扉の奥で怯え切っている2人。その2人には談笑している2人は触れていない様子。

 

 

「あれってスペルかい?」

 

 

「一応そうなるのかな?」

 

 

どんな名前なんだい?と聞く神奈子は、どこか無邪気さを帯びているようにも感じる。それに対して、特段隠すこともないと思ったのか、廻羅は素直に名前を言った。

 

 

「確か…蝕餓「山呑み黒明砲」とかじゃなかったかな?何分名付けてから使わなかったスペカだったからねぇ」

 

 

そんな感じの談話が続いている中、廻羅が目的の話題を切り出す。

 

 

「そういや、今は色々と回っているんだけど、何処かないかな?」

 

 

その一言に、声をあげて悩み始める神奈子。…そうしているうちに、神奈子は何かを思いついた様な表情を浮かべる。

 

…彼女が告げた場所は──

 

 

「地底、なんてどうだい?」

 

 

──読んで字の如く、文字通りの地獄であった。

 




という事で、御伽.伍が終わりました。

今回は妖怪の山編でした。次回は地底編です。もうすぐで本編に入ると思いますので、それまでこの小説で簡単に幻想郷の復習をしましょう。

次回『御伽.陸 旅路行く者の記録 〜幻想の裏側に〜』


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御伽.陸 旅路行く者の記録 〜幻想の裏側に〜

どうも、Cross Alcannaです。

今回は、地底編となっております。次次回辺りで0,5章を終えようかと思っている次第です。本編に入る際、また投稿頻度についてお知らせするかと思いますので、その際に上げる活動報告を見ていただければと思います。

そして、お気に入り登録:雪の進軍さん、お気に入り登録ありがとうございます。

では、御伽をお楽しみ下さい。



[地底]

 

 

「ふぅ…桶に入った女の子が降ってきた時はどうしようかと思ったよ……」

 

 

地底についてまず初めにそう語るのは、いつもの如く廻羅だった。神妙奇天烈な事を言っているように聞こえるだろうが、残念ながら事実なのだ。彼の言う桶に入った女の子というのは、キスメという少女だった。彼女は地底に来る者らを迎撃(?)しているらしく、今回も例外ではなかったようだ。

 

彼は今地底についており、目の前には橋がある所にいる。そこには何者かがいるが、どうやら互いに気付いていない様子。

 

 

「…さて、見た感じ結構栄えてるみたいだし、色々と見て回ろうかな?」

 

 

そのためには橋を渡る他ないので、彼は橋を渡り始める。すると、橋にいた人物を初めて認識する。あちらも同様に気付いたのか、廻羅に向かって言葉を放ち始めた。

 

 

「…待ちなさいよ。私を無視して通り過ぎるなんて…妬ましいわ」

 

 

「…橋姫、ねぇ」

 

 

どうやら発言と容姿、その他諸々で橋姫であると判断した模様。正解しているあたり、並みならぬ推理力をしている。それには橋姫の方も驚いているようで…?

 

 

「…貴方、どんな動体視力と推理力を持ってるのよ、妬ましいわ」

 

 

「まぁ、結構生きてるからね。それなりには良くなるさ。それに、外の世界で橋姫とか聞いてたしね」

 

 

そう、と言いながら、今度は妬ましい発言をせずに川の方に目をやるその人物は、水橋(みずはし) パルシィ。彼が言う通り橋姫であり、現在ではかつて日本に存在していたとされる妖怪の一種である。様々な伝承がある中、彼女がここまで相手を妬むのは、恐らく宇治の橋姫の伝承が強く刻まれているのではないかと思わせる。…ただ単純にそういう性格だとも考えられるが。

 

 

「…ん?邪魔したりしないのかい?てっきり攻撃してくると思ってたんだけど…」

 

 

「しないわよ、勝てるか悪意のある奴でもない限りね」

 

 

「…驚いた、今まで会った人らは基本血気盛んなのが多かったからねぇ」

 

 

「幻想郷は基本そっちのが多いわよ。私の考え方の方が少数派なんじゃない?…妬ましい」

 

 

取ってつけたように言わなくても良いんじゃないかな、と言おうとした彼の口は、言う直前で理性によって止められた。わざわざ言う程のものでもないと判断したのだろうか。そして彼は、彼女の表情を見て、とある事に気付く。

 

 

「…パルスィ、1つ良いかな?」

 

 

「……何よ」

 

 

「…君、寂しいのかい?」

 

 

「…………はぁ!?」

 

 

彼の一言に、顔を紅潮させるパルスィ。図星だったのだろうか、その紅い顔を両手で隠し、顔を背ける。そうして、あまりの恥ずかしさに廻羅に対しこう告げた。

 

 

「さ、さっさと行きなさいよ!妬ましいわ!!」

 

 

今回の妬ましいは、どこか本音のようにも感じられる。図星をつかれたのが悔しくて出た一言なのか、はたまた洞察力に妬ましさを覚えたのか、真相は彼女のみぞ知る、と言ったところだろうか。

 

彼女がそう告げてから流石に申し訳なく思ったのか、彼の姿は橋の向こうにあった。それを視認した彼女は……

 

 

「……バカ」

 

 

──そう、ポツリと一言呟いたそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、賑わってるねぇ。地底って聞いてこんな情景は浮かばないよなぁ……」

 

 

彼は変わらず、観光中。地底と言う言葉とは裏腹な賑わい様に、彼も驚かざるを得ない様子だ。あちこちにある建物を、興味津々な目で見続ける。さながら、あの時団子屋を見ていた時の目だろうか。

 

と、彼が相も変わらず観光を続けていると、鬼が数人近付いてくる。

 

 

「おい、そこの奴」

 

 

「ん?僕の事かい?」

 

 

「そうだ、お前だ。ここで俺と戦え」

 

 

突拍子もないそんな提案に一瞬驚くも、鬼の"強者と戦いたい"という特性を思い出したのか、納得の表情を浮かべる廻羅。

 

 

「おい、あいつまさかあの鬼の大将と戦うのか?」

 

 

「らしいぞ、あんなヒョロっこい奴、すぐに倒されるだろうに」

 

 

等と話をするガヤの声には耳を傾ける様子もない2人は互いに見合い、静寂の時が流れる。

 

──そして……

 

 

「よっと」

 

 

「ぬんっ!」

 

 

両者、動き出した。互いに互いの間合いに入り、怒涛の殴り合いが始まる。廻羅はいつも手に持っている両刃剣を使っていない。鬼相手に素手で戦うつもりのようだ。

 

それを見た鬼らは無茶だのなんだのと野次を飛ばす。鬼の大将はこの地底の鬼の中では強い部類に入り、それ故に皆そちらが勝つと確信している。

 

 

「おや、動きが鈍いんじゃないかい?カスリもしそうにないじゃないか」

 

 

「……ちっ」

 

 

少し経過し、廻羅は攻撃の手を止め回避に専念している。だからだろうか、鬼の大将の攻撃が彼に届く事も無さそうなくらい被弾も回避のムラがない。一方の鬼の大将は攻撃が当たらない事に苛つきを覚えているようにも見える。

 

ガヤは逃げてばっかじゃねぇか!等の野次を飛ばしているが、真剣勝負の中にある2人には届きそうにない。そんな中、鬼の大将の攻撃が激しさを増し始める。

 

 

「よっ、ほっ……多少はマシになってるねぇ。ま、当たりはしないけど」

 

 

それでも尚、まだまだと言わんばかりの表情で避け続ける廻羅。すると、途端に攻撃を止める鬼の大将。攻撃を止めたと思えば、廻羅にこんな提言をした。

 

 

「……お前の一撃を、俺に当てろ」

 

 

「…それで実力をみたいって事かい?」

 

 

静かに頷く鬼の大将。それを見た廻羅は快く了承し、少し距離をとる。そして、こう告げた。

 

 

「……一撃だけ、ある程度の力で殴るとする。それで君含めてここにいる全員が実力を把握出来るだろう」

 

 

その一言を放った途端、今までの彼とは全く異なる異質なオーラが放出される。それは鬼の大将のみならず、観客までもが足を踏ん張らねば留まれない程のものであった。

 

 

「……行くよ」

 

 

そう言った彼の姿はとうに無く、気付けばその姿は鬼の大将の前に。その時間は、瞬きよりも遥かに速い。これには観客も鬼の大将も驚いた。それを許さないと言うように、彼から一撃が放たれる。

 

 

──天拳 【穹貫き】

 

 

彼が放った一撃は、拳術の中でも異端なものだった。それは純粋な拳術にあらず、それには神術(主に神が行使する魔術)を併せたものなり。通常ならばこれをマトモに喰らおうものなら、肉体は愚か、灰までも残るかどうかのものだが……

 

 

「─ガバァ!?」

 

 

廻羅がしっかりと微調整していた為に、それは免れた。が、当然遥か先に吹き飛ばされる事にはなるのだが。

 

 

「あり?やり過ぎた?」

 

 

彼が呑気にそう言うと、ガヤから1人出てきた。その人物は一見人に見えるが、額の角を見るに、恐らく鬼なのだろう。

 

 

「あんた、やるねぇ!まさかアイツがあそこまで完封されるなんてね!名前はなんて言うんだ?」

 

 

「んにゃ?廻羅だけど」

 

 

それを聞いた瞬間に、周辺がザワつく。今までの態度から一変、マジかよだのあの実力ならだのの言葉が飛び交い始める。

 

その豹変ぶりに驚く他ない廻羅に対し、その人物星熊(ほしぐま) 勇儀(ゆうぎ)が続ける。

 

 

「良かったら私と一勝負しないかい?」

 

 

「あぁ~…確かにアリかもしれないけど、もう少し観て回りたいからなぁ」

 

 

「おや、そうかい?残念だね」

 

 

そういう勇儀の顔は、どこか惜しそうな表情を浮かべている。それを見て、若干罪悪感を覚える廻羅ではあるが、それでも尚幻想郷に対する好奇心の方が勝っているのだろうか、もうすでにどこかに行ってしまいそうだ。

 

 

「たはは!相当観光したいみたいだね!!良いさ、アンタならここの奴にゃ遅れはとらんだろうしね!」

 

 

それを見て、勇儀は憂さを忘れたように豪快に笑い飛ばす。あの強さがあれば、ここの観光は問題ないと踏んだ故だろうか。しかし、それでも戦いたいという雰囲気は消え切っていない様子。

 

 

「…また時間があったら、一勝負するかい?」

 

 

「良いのかい?そうしてくれるなら是非とも戦いたいねぇ!!」

 

 

そんなやり取りをし終えた2人はそこで別れを告げ、互いに別の方向に歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[地霊殿]

 

 

「…で、貴方は何者ですか」

 

 

「廻羅っていう者だよ。いやぁ、この子が町中に1人でいるもんだからね、迷子かと思って連れて来た次第さ」

 

 

あれからしばしの時が経ち、現在地霊殿にいる廻羅。どうやら町で観光していた廻羅が、町にいた女の子を見つけ、聞いた場所に連れてきた模様。しかし、それはどうやら普通でないようで…?

 

 

「…私は古明地(こめいじ) さとりです。この度はこいしを連れてきて下さり、ありがとうございます」

 

 

廻羅が連れてきた人物は、彼女の口から明かされた通り、古明地(こめいじ) こいしであった。そう、何が普通じゃないかはもうわかったであろうか。

 

 

「…()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

通常、姉がこんな質問を投げるのはおかしな話だが、こいしの件に関しては、この疑問はある種普通の疑問でもあった。何せ、こいしは()()()()()()()()なのであり、これを見破れる者は中々いない。こいしが本気になれば、見つけられる者がいるのかどうかもわからない程に。

 

 

「いや?普通に街中歩いてたし服装も目立ってたし…結構気付きやすくないかな?」

 

 

「…そういう事を聞いてるんじゃないんですよ。こいしの能力がありながら、どうして貴方が初見でこいしを見つけたのかって話です」

 

 

そういう事ね、と呑気に答える廻羅。そうして答えなおした廻羅だが、理由は至って単純、()()()()()()()()()との事。…結構なぶっ壊れな気もするが、そこは流すとして……

 

 

「……色々疑問は増えますが、今は置いておきます。ともかく、妹を連れてもらい、ありがとうございました」

 

 

「いんや、別に感謝される事はしてないさ。…そうだ、1つ聞きたいんだけど、良いかな?」

 

 

「…何でしょうか」

 

 

未だに警戒されているのか、はたまた引かれているのかはわからないものの、少し警戒気味のさとり。気にしないが吉とふんだのか、それを気にも留めずに話す廻羅は、結構肝が据わっている。

 

 

「どっかここ行くべき、みたいなとこないかな?何分少し前に来たばっかりでね、色んなところを見て回りたいのさ。あぁ、どこに行ったかは君の能力で確かめてもらえると手間が省けるかな?」

 

 

「…私の能力まで知っている事についてはもう詮索しませんが……そうですね…………」

 

 

能力を使い終わったらしく、さとりは何かを考え始める。廻羅もそれが終わるのを待っているのか、何か考え事をしているように見える。それが暇なのか、今まで黙っていたこいしが、廻羅に話しかけた。

 

 

「ねぇ廻羅さん!廻羅さんってどんな能力を持ってるの?」

 

 

「ん?僕かい?」

 

 

そう!と健やかに返事をする彼女は、年相応の反応とも言える程明るく、子供らしさがあった。しかし、解答にどもる者が1人。

 

 

「ん~、申し訳ないね。その質問には答えられないかな?何分、答えるのに難しい上に……」

 

 

その後に、彼が述べたソレは……

 

 

──まだ、その時じゃあないからね

 

 

…誰もが予想しえぬ、誠に奇妙な解であったのだった。

 




という事で、御伽.陸が終わりました。

遅くなりましたが、次回は紅魔館編となります。次回も0,5章が続くやもしれませんが、近いうちに本編に入りますので、もう少しお待ち下さい。近々投稿頻度についての活動報告を上げるかもしれませんので、どうかそちらの確認もお願いします。

次回『御伽.漆 旅路行く者の記録 〜紅きを謳う者よ〜』


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御伽.漆 旅路行く者の記録 〜紅きを謳う者よ〜

どうも、Cross Alcannaです。

今回で0,5章は終わりの予定です。今回は、前回の後書きにも示しました通り、紅魔館回です。はてさてどんな出来事が待ち望んでいるのか、皆様の目で、どうぞご確認していって下さい。

では、御伽をお楽しみ下さい。



[紅魔館前]

 

 

「うっひゃあ~…話には聞いてたけども、ホントにデカいねぇ。目にも良くないねぇ」

 

 

廻羅の前にある、真紅に染まりながらも堂々と存在を誇張せんとばかりの存在感を放つその館は、幻想郷の間では"紅魔館"と呼ばれ、人間からは恐れられている。それは無理もなく、この館の中には魔法使いや悪魔りはじめとした存在が蔓延っており、挙げ句の果てには吸血鬼がここの長を務めているときた。

 

廻羅もそんな噂を人里の人間がヒソヒソと話しているのを聞いていた為、知っているはずなのだが……

 

 

「…う〜ん。僕の場合、恐怖だの緊張だのよりも好奇の方が先行しちゃうからねぇ…正直楽しみだ」

 

 

この有り様である。あらゆる魑魅魍魎ですら、彼の好奇を押し殺す事は出来そうにない。それ程好奇に満ちた心の持ち主……と言えば聞こえは良いかもしれない。

 

 

「取り敢えず入りたいんだけど……」

 

 

ここで廻羅は、ここに来てから視界にチラチラと映るソレへと視線を向けながら、バツが悪そうに一言。

 

 

「……()()()()()()って、良いんかね?」

 

 

…そう、ここに来る者の中ではよく話のタネになるそれであった。廻羅の視線の先で寝息を立てながら夢の世界にご執心な様子の彼女は、この館の門番である(ホン) 美鈴(メイリン)

実力は一流であり、幻想郷の中でもそこそこの強さを誇っているのだが、ご覧の通り、彼女は職務の最中だろうがお構い無しに眠っている。

 

 

「…はぁ。このバカ美鈴!」

 

 

そんな怒号と共に、いつから投げられたのか、幾千ものナイフが矛先を美鈴に向けている。それは間もなく、美鈴の至る箇所に刺さり、美鈴は眠りながら気絶するという、何とも不可解な状態になりながらも地面に倒れる。

…それはさておき、廻羅が目線を向けたソコには、1人のメイドが立っていた。

 

 

「廻羅様ですね。さとりから聞いていますので、ご案内します」

 

 

「ご丁寧にどうもね」

 

 

最早気にすまいという意思からか、廻羅も既に美鈴の惨状に目を留めていない。…誠に、自業自得である。

 

2人はと言うと、既に門をくぐり、その紅い館に身を運んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[紅魔館 館内]

 

 

「一応どこに行くにはどう行くかは教えてもらったけど……広過ぎない?まともに見て回させる気ないでしょ」

 

 

館について一通り教えてもらい、先程のメイドもとい十六夜(いざよい) 咲夜(さくや)と別れ、今現在館を見て回っている廻羅は、そんな愚痴を零す。彼の言う通り、この館は想像以上に広く、その上に咲夜の能力によって実質的に空間が広がっているのだ(正確には、廊下に時間操作を施している)。見てくれよりも広い絡繰りはそこにある。ただ、廻羅は咲夜からそれを聞いていないにも関わらず、それを自分で見つけたようだが。

 

 

「…流石に弄ったらダメだろうし、歩く羽目になるんだよねぇ」

 

 

一応弄れなくもないそうだが、ここは彼女らのテリトリーであるため、招いてもらった身としてはある程度弁えないといけないのは自覚している模様。その後も彼は終始、愚痴を漏らしながら歩いて回る事になるのは、言うまでもないだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありゃま、広いねぇ」

 

 

彼が歩いてどのくらい経ったろうか、辿り着いた場所は、数多くの書物が存在する地下空間、所謂、地下図書館だった。その数はと言うと、数えるのも馬鹿になる程であり、数えきるのにどれだけの日を要すかも計り知れないとも言えようか。

 

等と廻羅が関心していると、奥から1人やって来る。

 

 

「あ、咲夜さんが言っていた廻羅さんですね?はじめまして、私はこの図書館の長であるパチュリー様の使い魔の小悪魔(こあくま)です!奥でパチュリー様がお待ちですので、付いて来て下さい」

 

 

「相分かった」

 

 

彼女の長い言葉に対し、微笑みながらそう一言だけ返す廻羅。その返答を聞いた小悪魔は踵を返し、パチュリーとやらがいるとされる方向へと向かっていった。そして、それを追うように彼も歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「パチュリー様、廻羅さんをお連れしました!」

 

 

「そう、ご苦労だったわ、こあ。貴女は仕事の方に戻って頂戴」

 

 

「はい!パチュリー様!」

 

 

小悪魔に連れられやって来たのは、紫色の髪をした1人の女性の座す場所だった。ここまで案内をした小悪魔はどこかに行ったようで、その場には廻羅とその女性のみが残る。少しの静寂が空間を支配する中、それを破ったのは、彼女の方だった。

 

 

「…で、ここに来たのは観光?らしいわね?」

 

 

「そうさな、その解釈で合ってる」

 

 

「…こんな所を観光なんて……実力さえ知らなかったらバカと言っているわよ?」

 

 

さっきの気まずそうな雰囲気とは一転し、友達同士のからかいみたくの様になっている。…まだ出会って数瞬だが。

 

 

「知ってるんだね、僕の実力」

 

 

「幻想郷に来る際に耳にたこができる程聞いたからよ。まぁ、一部は忘れてるみたいだけど」

 

 

彼の実力に関しては、この幻想郷にいる者は必ず一度は耳にするのが、この幻想郷での鉄則。原因は紫の熱弁にあるのだが。彼女が初対面の者に会う際は、必ず廻羅の事を語る。そのおかげ?も相まってか、彼の事を聞いたこともない人はいない。

 

 

「まぁ、もしかしたら何か読みに来るかもしれないから、その時は宜しくね〜」

 

 

「本を盗ったりしないなら、私は歓迎するわ」

 

 

何故いきなり本を盗るなんて話に飛躍したのかは、あえて触れない廻羅。何か訳があるのだろうとだけ悟り、話を進めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっと来たわね、廻羅。歓迎するわ」

 

 

「そうかい、わざわざ頭首が歓迎とは、光栄な事だねぇ」

 

 

廻羅が彼女のいる部屋に着くと、奥の玉座に座る彼女から歓迎の意を表した一言が放たれる。それに対し、廻羅はいつも通りの呑気な感じである。彼女の横にいる咲夜も、何やら苦笑いを浮かべている。

 

 

「…本当にただの観光目的なのね。何か別の目的を持ってるとずっと思ってたわ」

 

 

「その警戒心、頭首としては見事だね。ただ、今回はアテが外れたみたいだね」

 

 

そう言い、悪戯心を醸し出すかのように笑う廻羅の姿は、さながら子供の様である。

 

 

「……まぁ、そうね。…で?観光は終わったのかしら?」

 

 

「ん~、()()()()()()()()()けど、今回はパスしようかな?個人的にはもう満足してるからね」

 

 

そう、と静かに言い放つ彼女は、何やら神経質になっているようにも感じる。…と、ここで彼女がある事に気付く。

 

 

「…そういえば、まだ私の名前を言ってなかったわね」

 

 

「んにゃ、確かに聞いてないねぇ」

 

 

彼女のその一言に、それとなく乗っかる廻羅。コホンと咳き込み、彼女は続ける。

 

 

「私はこの紅魔館の館主、レミリア・スカーレットよ。以降関わりがあるかはわからないけれど、取り敢えずよろしくと言っておくわ」

 

 

「うん、宜しく」

 

 

彼らはそんな雑多な挨拶を交わし、互いに固い握手をする。互いが互いを見つめる目には、何やら強者の闘志が宿っていた。

 

こうして、廻羅の幻想郷観光は、一先ず幕を閉じる事に。

 

 

─────

 

 

 

 

 

 

 

「……咲夜」

 

 

「はい、お嬢様」

 

 

さとりから連絡がきた時は、正直衝撃を受けた。何せ、あの妖怪の賢者が()()()()()()()()()等と称賛していた廻羅が、うちの館に観光に来るのだと言うのだから。私は何か別の目的があるのではと常々疑っていたが、結果は杞憂に終わる事に。本当にただの観光目的だったようだ。

 

正直、彼の実力については私自身疑っていた。あの紫がわざわざ嘘何てつく必要もないとは思っていたが、この目で判断しない限りは信用できない…と思っていた。結論から言えば、紫の言わんとする事は本当だった。隠していたのかわからないけど、あの洗練された力に、つけ入る隙が微塵もなかった。何せ、()()()()()()()()()()()。多少なりとも見えるものなのだが、彼の運命は私は捉えられなかった。こんな事は紫くらいしかなかったのに。

 

だから、私は従者に対し、釘を打つようにこう言った。

 

 

「…あれは、死んでも敵に回してはいけないわ。私はおろか、貴女でもわかるでしょう?彼の強さは」

 

 

「……はい、とても同じ生命体とは思えない程に」

 

 

この幻想郷には、数多の種族が存在する。悪戯好きの妖精や実力主義的な鬼、信仰を募ろうとする神から、東洋で伝承されていた妖怪までもが存在してはいるが……

 

 

「…()()()()()()()()()()()()()()()()()……」

 

 

寧ろ、クトゥルフ神話…だったかしら?そこに出てくる邪神か何かの様な、私達の理解に及ばないソレと言ってくれた方が、私としては安心できるのだが。

 

 

「しばらくは大人しくした方が良さそうね……」

 

 

頭首らしからぬそんな弱気な発言を、私は静かに零していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふいぃ、ちょっとばかし疲れたねぇ」

 

 

幻想郷の何処かにて、観光に多少の疲れがあったのか、静かに家と思われる場所で腰を下ろす。しかし、何やら楽しかったと言わんばかりの表情をしている。

 

 

「……んにゃ?」

 

 

そんな感傷に耽っている中、廻羅は何やら異変を感じた様子。しかも、その表情は何やら神妙である。

 

 

「…嫌な予感がするね」

 

 

そんな予感が、果たしてどう向くのか。それを知る事になるのは、また後日の事である。

 




という事で、御伽.漆が終わりました。

今話を持ちまして、0,5章は終了となります。ここまでは、所謂導入編であるとお考えいただければと思います。ここからが実質的な本編開始です。本格的に物語が動き始めますので、皆様も楽しめるかと。ここから戦闘描写が増えると思いますが、散々言っております通り、弾幕の表現につきましては、原作未プレイですので、描写はないとお考え下さい。そして、投稿頻度についての活動報告をこの後上げますので、そちらもご確認ください。

次回 東方続夢郷 1章『御伽.捌 自然の騒めき』


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1章 東方精戯譚
御伽.捌 自然の騒めき


どうも、Cross Alcannaです。

今回から、(実質的)本編開始となります。今回から文量も多くなりますが、同時に投稿頻度も遅くなる事が想定されます。ですので、投稿頻度や文量について何か要望がありましたら、コメントや私の別小説に掲載しますアンケートにご回答下さい。

では、御伽をお楽しみ下さい。



[博麗神社]

 

 

「…何で暇になったらここに来るのよ?私だって忙しいのよ?」

 

 

「いいじゃないか、相変わらず器の小さい奴だな~」

 

 

黄色の髪をした見てくれ通りの魔法使いである霧雨(きりさめ) 魔理沙(まりさ)がそんな事を言う中で、霊夢はダルそうにうっさいわね、なんて返している。その光景だけを切り取れば、単にのほほんとした日常の1ページにしか見えない。霊夢はと言うと、いつもは神社内でゴロゴロしているのかと思えば、今日は神社内の掃除をしている。どうやら今日は一週間の中でも掃除と鍛錬をする日らしく、そんな日に面倒な友人の来客は、霊夢には結構こたえるようだ。

 

 

「なぁ霊夢、最近異変らしい異変なくなったよな」

 

 

「そうね、それが続く事に越したことはないけど…幻想郷でそれはないわよね」

 

 

「だな。寧ろ、平和が続く方がらしくないぜ」

 

 

そうよね~、等と溜め息まじりに言う霊夢達の言い分は最もであり、ここ幻想郷は異変と言う所謂様々な規模の事件がしょっちゅう勃発している。大規模になるものもあればショボいものもある。しかも、この異変は幻想郷にいる妖怪だったりが主に首謀者となる為に、人間に被害が行く事もあったりする。だからこそ迅速な解決が求められる故に、頻発されると勿論の事、大規模なものが起こった暁には、面倒極まりないのである。

 

 

「そうも言ってられないかもしれないわよ?」

 

 

「紫まで……何の用よ?」

 

 

2人が会話をしていると、2人の後ろに突然スキマが出現し、そこから紫が出てくる。相も変わらず、日傘を差しながら微笑んでいる彼女は、どこか不思議な雰囲気を醸し出している。彼女がやって来る時は、大体厄介事が持ち込まれるのが通例らしく、霊夢だけでなく魔理沙も嫌そうな顔を浮かべている。そんな2人の表情を見た紫は、顔をほころばせた。

 

 

「あらあら、酷いわね。私が疫病神みたいじゃないの」

 

 

「実際にそうじゃないの。いつもとは言わないけど厄介事持ってくる事多いじゃないの。大体アンタ、用件も無しにここに来ない事の方が多いじゃない」

 

 

良く分かってるじゃないの、等と言う紫に対し、霊夢は少し引き気味。一方の魔理沙は空気の様である。それでも、2人の話に耳を傾けている。そんな雰囲気は、紫の一言によって打ち砕かれる事になる。

 

 

「まぁ、今回は正解よ。どうやら規模が大きい異変の予感がするわ」

 

 

「…はぁ、一体どこの誰が起こしたのよ」

 

 

紫から告げられた規模が大きい異変というワードに反応する霊夢。それに呼応するように魔理沙も表情を曇らせる。霊夢だけでなく、こうして神社に来ている魔理沙の方もそうなのだろうか、霊夢と似通った表情を浮かべている。それを置き去りに、紫は言葉を紡ぐ。

 

 

「今回は謎な要素が多いのよ。いつも分からない事はあるけど、今回はホントに謎要素が多くて。藍にも調査を頼んでるけど、一向に進捗がないのよ」

 

 

「…藍でも?そんな厄介な異変、結構な規模になるんじゃないの?」

 

 

「いえ、隠すのが上手いだけの可能性が無いわけじゃない以上、そう断定するのも早計よ。それに、そろそろ廻羅様もお気づきになっていると思うわ」

 

 

そう断言する紫の表情は、そう確信していると言っているかの自信があった。相変わらずの紫の廻羅に対する絶対的な自信に、もし本人が居たらと考えてしまう2人であった。…それが杞憂で終わればよかったのだが。

 

 

「いんや、そこまで期待されると困るんだけどねぇ」

 

 

そんな事を言っていると、まさかの本人登場。これには3人も驚きである。3人が話していた内容が聞こえていたのか、どこかやりにくそうな雰囲気を出している。

 

 

「廻羅様!幻想郷はいかがでしたか?」

 

 

「うん、中々楽しそうな場所になってるね。これからの楽しみが増えた気がするよ」

 

 

その一言に、顔を綻ばせて嬉しそうにしている紫を他の面々が見たら、一体何を思うだろうか。そう思わざるを得ない2人。それを置いて、彼は霊夢に向けて話し続ける。

 

 

「今回ここに来たのには理由があってね……紫から話があったかもしれないけどね?変な胸騒ぎがしてね、もしかしたら異変ってやつかなと思ったんだけど…」

 

 

「それについては既に伝え終えています。後、私の式にも調査を依頼しているところです」

 

 

「相変わらず仕事が早いねぇ」

 

 

幻想郷の事を愛している彼女だからであろうか、異変とあらば行動はとても早く、一早く異変解決の手掛かりを掴まんとする。いつも部屋に籠っていたり、何かと式に任せがちな紫の面影は、今はとうにない。

 

 

「手掛かりらしい手掛かりがないのが少し引っかかるけど、大体見当はついてるんだよねぇ。ただ、本当だったら厄介な事この上ないから、この人数じゃ動けないかなぁ」

 

 

「もう首謀者が誰かわかったのですか!?」

 

 

紫らしからぬ大声が上がる。霊夢達も声に出さなかっただけで、紫と同等並みに驚いている。ただ、廻羅は驚いている紫に対して、少し不思議そうにしている。

 

 

「あれ?彼女の事、もしかして頭になかった?」

 

 

「……あっ」

 

 

どうやら紫が思い出したようで、ハッとしてからすぐに、苦虫を噛み潰したような顔をする。今の紫を一言で表すなら、百面相と言ったところだろうか。

 

 

「忘れてたみたいだね。まぁ彼女自身、何かをする動機が基本僕に関係してるから、いつもは大人しいんだけどね」

 

 

まるで自身の事のように話す彼は、些か気だるそうにもみえる。それを見かねた魔理沙が、すぐさま紫に尋ねる。

 

 

「なぁ、一体誰なんだ?分かったならパパっと倒して解決すれば良いんじゃないか?」

 

 

「…魔理沙、私も勘づいたから言うけど、ソイツはそんな簡単な奴じゃないわ。下手したら、幻想郷屈指の厄介者よ」

 

 

「……紫もそうだが、霊夢が言うって相当だな。んで?結局ソイツって誰なんだ?私は分からないままだぜ?」

 

 

皆がいる空間の雰囲気で、相手が只者でない事を察するのは容易いものの、果たしてそれが誰なのかまでを推測するには至らない。そんな中、廻羅が話を切り出した。

 

 

「…ネチューレ・アロマ。それが、今回の異変の首謀者だ」

 

 

「……確かに、改めて考えたらアイツが首謀者だとすると、辻褄が合うわね」

 

 

ネチューレ・アロマ。廻羅が口にしたその名主は、只者ではない。と言うのも、その名主は妖精の類にある者であり、その中でも()()()()()と言う妖精のトップのような能力を持っている。その能力に見合う実力も兼ね備えている上に、妖精に共通する悪戯好きな性格が、それに拍車をかけている。

 

 

「悪戯好きにあの能力はマズいんだよねぇ~、僕でも少し手を焼くしなぁ」

 

 

「廻羅様が旅に出た後も、私達で落ち着かせるのも大変でしたわ」

 

 

そう言う紫はと言うと、どこか遠い目をしている。当時を思い出しているのだろうか。

 

話を戻すと、妖精は自然そのもの…ではないのだが、自然の一部分を切り取ったような存在とも言える。その中でも、ネチューレの能力は妖精の存在源を司るというのは、妖精の存在そのものを統べているとも言えるのだ。この能力は、その能力の簡潔な内容とは裏腹に、とんでもない能力でもあるのだ。

 

 

「その能力故に、彼女は妖精女王とも言われているからねぇ」

 

 

「妖精って言ったら、チルノにルーミア、大妖精に…そいつらの長って事か。…想像以上に面倒くさそうな奴だな」

 

 

改まってそう言う魔理沙と、そうとは言わないもののやはり戦慄している霊夢と紫。厄介な子供の相手をするかの様な顔をするのは、廻羅であった。

 

 

「紫様、調査が一段落しました……廻羅様もいらっしゃったのですか!?」

 

 

「僕の事は空気とでも思ってくれれば良いよ。それはさておき、紫に報告する事があって来たんじゃないのかい?」

 

 

そう言ってすぐ、藍はハッとし、紫に対して報告を始めた。それは、廻羅が言ったような事(首謀者についてだの、ソイツが厄介である事)が殆どだったが、気になる事もあった。

 

 

「……妖精の様子がおかしい?」

 

 

「はい、何やら活動が活発化している印象がありました」

 

 

「あっちゃぁ〜……やっぱりかぁ」

 

 

その報告を聞いた途端、廻羅が頭を抱える。それに疑問を持つ霊夢と魔理沙のうち、霊夢が廻羅に説明を促す。すると、さっきの事を絡めてこう言う。

 

 

「ネチュは自然を司る能力持ちで、そのネチュが積極的に活動したら、自然の一部分である妖精が力を増したり、悪戯心が増長されたり、個体によっては姿が変わる事もあるんだよ。この異変、妖精全員が強化された状態で敵に回る事になるね」

 

 

「うわぁ……話を聞くだけでも面倒極まりないわね。道理で今の戦力じゃあ戦うのに野暮って事なのね」

 

 

その説明を聞き、藍を除く3人が納得の表情を浮かべた。対し、藍はまだ考察の最中なのか、顎に手を当てている。

 

 

「取り敢えず、相性云々はともかくとして、それなりの戦力確保が必要になるね。そうだなぁ……僕と紫、霊夢で声をかけに行くとしよう」

 

 

そう冷静に分担する彼は、さることながら軍師のソレを彷彿とさせる。彼のその言葉に異を唱える者はおらず(魔理沙が不満そうな顔を浮かべている事を除いて)、各々は行動を開始した。

 

廻羅は毎度の事ながら空間を裂き、霊夢は空を飛んだり、紫はスキマを使ったりと、行き方は多種多様であったそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[輝翠の風林 最奥部]

 

 

「うふふ、ようやく彼が戻って来たわ」

 

 

1株も枯れる気配が一向にない木々1つ1つが、翡翠の如き緑色をしており、またそこに吹く風も、生ある者にとっては心地良さを感じる。そんな隠れた森林の奥深くで、ある者が呟いていた。

 

 

「あぁ、廻羅。会いたくて仕方ないの。…貴方の顔を見せて?そして……」

 

 

そんな彼女の呟きを聴いている者がいないが故に、そうであるかは定かでないのだが、恐らくそこに誰かがいたとしたら、その者はまずこう思うだろう。

 

 

 

 

 

──貴方のその力で、私を蹂躙して?

 

 

その想いは、()()()()()()()()()()()と。

 




という事で、御伽.捌が終わりました。

文量についての報告をいたしましたが、今回のように長くなりそうにない回は今まで程の文量で1話、という風にしますので、悪しからず。

次回『御伽.玖 予想外には用心』


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御伽.玖 予想外には用心

どうも、Cross Alcannaです。

今回から、東方ジャンルの醍醐味が見られるかもしれません。私もしっかりと情景描写をしていきますので、宜しくお願いします。今話は準備パートです。

それでは、御伽をお楽しみ下さい。



[太陽の花畑]

 

 

「…と言う訳なんだけど、協力してくれないかい?」

 

 

「そうね、自然が関係するとなると、私の花畑も影響が出るだろうし…目的が同じ以上、協力するのに拒否する道理はないわね」

 

 

廻羅が最初に交渉に出向いたのは、なんと風見 幽香であった。彼女に交渉を持ち込む者もそうそういないのだが、今回に関しては適任であったと言えるだろうか。それを狙ってなのか、はたまた偶然なのかは、彼の口から語られない限りはわからない。そして、紫にここの交渉を持ちかけさせなかった辺り、紫の事を理解している証拠だろう。彼女らは相性が悪いらしく、会って早々勝負を始めてしまう事もあるようで、交渉には適さないと言える。そう考えると、彼の計算の範囲内だったのだろうか。

 

 

「…良いわ、協力してあげる。妖精が強くなっているんでしょう?ふふ、骨のある奴がいるといいけれど」

 

 

「んにゃ、助かるよ」

 

 

承諾した幽香は、既に戦いの事を考えているようで、不敵な笑みを浮かべている。それをスルーしながら動じずにお礼を言う廻羅も、中々に大概であるだろう。廻羅はそんな幽香に対し、最初より詳しく、紫達にした説明をする。表情とは裏腹に、幽香はそれをしっかりと聞いているようで、言っていることを復唱する事もあった。

 

 

「成る程、要するに妖精一体一体が強くなっているのと、長的なのが厄介って事ね?聞くまでは、言う程の異変でもない気がしたけど、聞いてからだと、かなり厄介な異変になるわね。…自然そのものが敵に回るって事でしょう?」

 

 

「その解釈で合ってるよ。彼女は自然そのものみたいな存在だしね」

 

 

「…貴方、厄介なのに目をつけられてるのね」

 

 

「そうなんだよねぇ…好意を向けられるのは悪い気はしないんだけど」

 

 

廻羅の表情を見るに、本気で複雑な感情の様だ。そんな雰囲気をぶった切るかの如く、幽香が話を切り出す。

 

 

「そうね、1つ貴方にお願いしたい事があるのだけれど、良いかしら?」

 

 

「んにゃ?ある程度のものなら良いけど」

 

 

「定期的に私と戦ってくれないかしら?貴方程、戦ってて満足する奴もいないのよ。それに、貴方は私を負かした数少ない人でしょう?」

 

 

「…まぁ、こっちにもやることはあると思うけど、その時以外で都合が良かったらで良いなら構わないよ」

 

 

「あら、貴方の事だから、てっきり断られると思ったのだけど……」

 

 

本当なら断っても良いんだけど、僕も頼み事をした身だし、何と言っても僕自身鍛錬はしておきたいっていう気持ちがあるからねぇ。

 

 

「まぁ、今回こっちは頼みに来た身だしね?」

 

 

「貴方、紫の上司なのに、紫より融通効くわね。紫も貴方を見習って貰いたいわ」

 

 

「紫は幻想郷第一主義だもんねぇ。一応僕には従ってくれるけど、僕か幻想郷かで言ったら、流石に幻想郷をとるだろうね」

 

 

「そうかしら?貴方を選ぶ可能性、結構ありそうにみえるわよ?」

 

 

等と雑談を交わす2人の雰囲気は、これから戦場に赴く者のものとは思えない程緩んでいる。

 

 

「で?私だけと交渉する訳じゃないのでしょう?」

 

 

「んにゃ、後一人交渉しないといけない人がいるからねぇ。良ければ一緒に来てくれないかい?」

 

 

「まぁ、集合場所に行っても暇でしょうし、良いわよ」

 

 

「よぅし、じゃあ行こうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[紅魔館]

 

 

「霊夢直々にここに来るなんてね、明日は槍でも降るのかしらね?」

 

 

「…いつもならぶっ叩いてるけど、私自身そんな余裕がないのよ。相手が相手だから、紫も余裕が無いみたいなの」

 

 

「……そこまでの相手が?」

 

 

いつもの姿勢でない霊夢を見て、メイド長である十六夜 咲夜が、警戒しながらも霊夢に聞く。

 

 

「そうね……()()()()()()()、って思ってくれれば良いわ」

 

 

「…冗談だとしたら、笑えないわよ?」

 

 

自然が敵になる等の霊夢らしからぬ発言に、それを冗談だと判断するレミリア。しかし、霊夢の真剣な表情と首を横に振った事を見て、それが事実である事を突き付けられる。それに、紅魔館一同が唸る。

 

 

「となると、妖精全員が敵になるのね。数が数だし、確かに厄介ね」

 

 

「…正直、それだけなら良かったのよ」

 

 

「……と、言いますと?」

 

 

幻想郷にいるからか、はたまた知恵のある者がいるからか、妖精の原理については知っている模様。妖精の数について言及していると、霊夢がそれに待ったをかける。そうして切り出されるのは、この異変の最大の難所であった。

 

 

「首謀者も妖精なのよ。それに、()()()()()()()()()()。……もうわかるでしょ?」

 

 

「ソイツの気分次第で、いくらでも戦況が変わりうるって事ね?…今までで類を見ない難易度じゃないの」

 

 

自身らも異変解決に携わった事がある紅魔組にも、異変解決についてのアレコレはあるようで、聞く情報を整理したパチュリーが、溜め息を漏らしながらそう言い放つ。

 

そんな中、美鈴がある事に気付く。

 

 

「そうなると、頼れない人も出てきますね。自然関連の能力保持者は当然厳しいでしょうし、妖精全員は敵になります。そうなってくると、魔法も多少苦難を強いられたりしませんか?」

 

 

そう、魔法も多少なりとも自然に干渉している部分が存在する。全てがそうでないにしろ、一部でも弄られるとなると、どうなるかわからない。暴発する、等と言う最悪のパターンになりうる事も考えられるのだ。

 

 

「…魔法は雑魚処理に役立つと思っていたのだけれど、そうなると厳しそうね。仮に相手が自然の力を増幅させて魔法が使えるようになっても、妖精が強くなると。…今までで一番勝算が薄いかもしれないわよ?」

 

 

「だから困ってんのよ。紫ですら余裕無さげだったし、だからあんた達に協力を頼みに来たのよ」

 

 

「……良いわ、事が事のようだし。私自身、そこまで派手に暴れられるのも嫌なのよね」

 

 

少し考えた素振りを見せ、レミリアは快諾した。それを聞いてか、紅魔組から反論や不満は出なかった。どうやら全員、レミリアの言う事に当てはまる節があるのだろう。

 

 

「…で、私達はどこに行けばいいのかしら?」

 

 

「じきに紫がここに来ると思うわ、それまでここで待っていてくれないかしら?」

 

 

「良いわ。こっちはこっちで作戦でも考えるとしようかしら」

 

 

こうして、霊夢の方も交渉を進めていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[冥界]

 

 

「…やっ!はっ!せいっ!!」

 

 

「うふふ、相変わらず妖夢は鍛錬熱心ねぇ」

 

 

「幽々子様、どうかなされましたか?」

 

 

数知れぬ桜が咲き乱れ、死者の魂がそこらを浮遊しているここ、冥界にて。そこでは、剣術の鍛錬に励む庭師こと魂魄(こんぱく) 妖夢(ようむ)と、冥界の主である西行寺(さいぎょうじ) 幽々子(ゆゆこ)がいた。幽々子は、鍛錬中である妖夢におっとりした声で話しかける。それに凛とした声で答える妖夢。

 

 

「そうねぇ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「…紫様ですか。幽々子様ならともかく、私が同席する必要があるんでしょうか?」

 

 

「あくまで勘なのだけど、今回は妖夢にも関係ありそうなのよね。だから一応、ね?」

 

 

「……わかりました」

 

 

この会話を聞いて解る人は解るだろうが、幽々子は()()()()()()()()()()のだ。紫が来る事も、妖夢に関する話を持ち込んでくる事も。長い付き合いがあるからこその勘ともとれるが、後者に関してはエスパーでないかとも言える気がする。

 

そんな話をしていると幽々子の宣言通り、紫の使うスキマが現れ、紫が姿を現した。

 

 

「貴女、エスパーにでもなるつもり?そこまで当てられたら、こっちとしては変な気持ちなんだけど……」

 

 

「でも、話は進みやすいでしょう?紫?」

 

 

紫が変な気持ちを抱くのも無理ない話だが、それで話がスムーズに進むのも、また事実。それで何度、紫が話を円滑に進められたのか、数える事も馬鹿々々しいだろうか。

 

 

「そうね、今回ばかりはありがたいわ。私も今回の件では焦っているのよ」

 

 

「紫様が……?一体どんな異変です?」

 

 

紫の様子から、話してもいないのに異変と察する妖夢。言葉にしていないだけで、恐らく幽々子もそれを察している事だろう。紫が焦る事と言ったら、幻想郷になんらかの影響が及んでいる時である。そこから推測したのだろうか。

 

 

「首謀者が()()()()()()()()。妖精…いえ、自然が敵よ」

 

 

「あらあら、それは厄介な事になったわねぇ。あの人が帰ってきたのがトリガーになったのかしら?」

 

 

「恐らくね。昔から廻羅様に対して異常な感じだったのは、今でも鮮明に覚えているわ」

 

 

溜め息交じりにそう言う紫も、中々珍しいように思えるが、その状況を作る事が出来るのが、今回の首謀者であるのだ。そして、2人程話には参加していないものの、内容を噛みしめる様にしている妖夢。それを見て幽々子が、こう切り出してきた。

 

 

「私達に戦力になるように交渉しに来たのでしょう?私達は構わないわよ~」

 

 

「あら、話が早くて助かるわ。もう少し骨が折れるかとばかり思っていたのだけど」

 

 

「アレは私も厄介だと思うからね。廻羅さんがいるなら、これを機にしばらくおとなしくして貰いたいのが本音だけど」

 

 

紫も幽々子も、今回に関しては利害が一致しているようで、異変解決に前向きな様子。一方の妖夢も、主がやる気である事を確認してか、やる気に満ちているように見える。

 

 

「紫、私達はどこに行ったら良いのかしら?」

 

 

「そうね、今からスキマで繋げる場所で待機して貰いましょうか。まだ私も交渉しないといけないのよ」

 

 

そう言いながらスキマを繋げ、2人が入っていくのを見送った紫は、また新たなスキマを出し、別の場所へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[とある集会室]

 

 

「よいしょ…っと、あり?僕が最後かぁ」

 

 

「お疲れ様です、廻羅様」

 

 

何やら自分が最後であった事に、何処か納得のいかない表情を浮かべる廻羅。そして、そんな廻羅を労う紫。それを見て驚く者がちらほら。

 

 

「廻羅、そんなに交渉が難航したの?」

 

 

「ん〜、どちらかと言うと僕が誰かを話すのに時間をくった感じかなぁ」

 

 

霊夢の一言に、どこか複雑な表情でそう言う廻羅はコホンと咳き込み、ここにいる全員にまず一言告げる。

 

 

「まず1つ、確認の意味を込めて言うけど、君達が異変解決にあたった事があるかもわからないし、どれだけの難易度の異変を解決したかもわからない。でも、今回の異変はそのどれをも上回る難易度と捉えてもらって構わない」

 

 

その一言で、ここにいる者が一気に表情を険しくする。ここに来るまでに説明はされているものの、その言葉がこの場全員を戦慄させるには事足りる。幻想郷は世界が世界なので、どうしても強さの基準が一般のソレとは程遠く、幻想郷で強いと言われる者は、大方どこへ行っても心配はいらない程に実力を持つ等とも言われていたりするとか。廻羅は自覚がないが、幽香や紫はそのレベルに達している。

 

 

「首謀者は自然そのものだ。彼女は天候や妖精の強さを自在に変えてくるだろうし、常に自身が有利になるような状態にしうるだろうから、外的要因までもが敵に回る事が懸念されるだろうね。ただ、念頭において欲しい事が1つ」

 

 

そこまで言った彼は、息を吐き、一呼吸置いてからこう告げる。

 

 

「彼女の狙いは僕だろう。幻想郷全域で住人に妖精が襲ってくるだろうけど、恐らく急な力の増幅による興奮からのものと捉えてもらって構わない。彼女と戦う際に、彼女が他の妖精と一緒に対峙してくるかおしれないけど、それ以外の妖精は彼女の指示では動いてないだろうね」

 

 

「つまり、今回の異変の唯一の好条件は、相手に計画性がないって事かしら?」

 

 

「そ。まぁ、そこ以外は頭可笑しいレベルで大変だろうけど」

 

 

廻羅の事細かな解説に、そんな確認を取るのは、紅魔館の主であるレミリア。その確認に対し廻羅は、肯定しつつも、今回の事態に苦笑いを浮かべる。そんな中で、集められた者の1人である比那名居(ひなない) 天子(てんし)がこんな事を口にした。

 

 

「にしても、霊夢ならまだしも、紫がそこまで焦るって、私初めて見た気がするんだけど?どうしてそんなに余裕がないのよ?」

 

 

そう、これはここにいる者の一部が気になっていた事でもある。事実、紫が焦る事自体が稀であり、彼女が焦る事は大方幻想郷の存亡に関する事くらいだ。そんな紫が、今まで以上に余裕がないと来たら、幻想郷の者は不思議に思う他ないだろう。

 

 

「…幻想郷が誕生してから少し経って、彼女の異変を一度だけ止めた事があるの。勿論、廻羅様もいたし、他にも協力者はいたわ。その時に痛感したの」

 

 

廻羅と同様に、こちらも一呼吸置いてから、次の言葉を紡ぐ。

 

 

「……正直、()()()()()()()()()のよ。強力な妖精は無限に湧くわ自然依存の能力がまともに運用できないわ彼女の能力自体が狂ってるわで、あれは地獄絵図だったと、今でも鮮明に覚えてるわ」

 

 

今はこれだけの人員がいるからまだいいけれど、と付け足し、発言を終えた紫。それに合わせるかのように心配そうな表情を浮かべ始める面々。その雰囲気をぶち壊すかのタイミングで、廻羅が皆に話を切り出した。

 

 

「まぁ、不安要素が多いのは事実だけど…今回は比較的地獄絵図にはならないんじゃないかな?何せ、メンツがメンツだからね。さ、そろそろ現地に向かうとしようか」

 

 

そんな廻羅の覇気があるとは思えない号令を合図に、様々な不安を募らせた面々は首謀者の下へと向かっていった。

 




という事で、御伽.玖が終わりました。

この小説を執筆する際、一番苦労したのがどんな異変にするかでした。既存の異変に似る事は避けたかったので、それを1人で一から作るのには、大変な労力を要しました。これからが読みどころになってくると思われますので、私も全力を尽くしたいと思います。

次回『御伽.拾 弱小と、侮るなかれ』


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御伽.拾 弱小と、侮るなかれ

どうも、Cross Alcannaです。

今回辺りから本格的に異変解決が始まります。幻想郷の強者達が厄介と唸る今回の異変の首謀者は、果たしてどんな者なのでしょうか?まぁ、今回で明らかになるとは限りませんが。ですが、今回のこの東方小説、今までの世の東方小説とは多少違うものとなっています。今回の異変も例外ではない、とだけ伝えておきましょうか。

では、御伽をお楽しみ下さい。



[森の上空]

 

 

「…で?ここからどうするの?このままの人数で攻め入る訳にもいかないでしょう?」

 

 

「そうだね、この人数で攻めるのも…相手にとって格好の的になるだろうし、妖精の処理が追い付かなくなりかねない。人はなるたけバラけさせるのが定石だろう。…ここで別れてもらおうかな」

 

 

まとまってここまでやって来た面々は、幽香と廻羅のやり取りを聞き、皆は彼の指示を待っている。

 

 

「…僕は単独で遊撃をしようと思ってる。恐らく、ここまで広範囲に動けるのは僕と紫くらいだろうし、紫には妖精の相手をしてもらいたいからね」

 

 

「…失礼ですが、私が妖精を相手取る必要はあるのですか?」

 

 

いつもは是非を問わない彼女であれ、今回の立案は疑問を持ったようだ。まぁ、無理もない。いくら妖精が強くなっているとは言え、紫が出る程になっていたのなら、並みの者では太刀打ち出来るか危うい。そうでないのなら、彼女を妖精の相手に宛がうのは、少々非合理的にも思える。

 

 

「本当は霊夢と宵月と一緒に首謀者の方に行ってもらおうかとも思ったんだけどね?僕がそっちの方に行く事も考えないといけない。そう考えると、妖精遊撃の人材はここにいてもらわないと、妖精班がキツいと思ってね」

 

 

「成る程……わかりました。状況を見て、遊撃と撃退をやり分ける、というのが私の役割ですね?」

 

 

「そうなるね。…いけるかい?」

 

 

やってみせます、と、強く意気込む彼女の顔を見るに、出来ないだろうと思う者は、そこにはいなかっただろう。

 

そんなやり取りの後に、各場所毎に振り分けがなされた。因みに、人里班は幽々子と妖夢、魔理沙。妖怪の山は紫とアリス、幽香で、霧の湖近辺は紅魔組と天子。そして、ネチューレ討伐には、霊夢と宵月、早苗となっている。で、廻羅が妖精討伐の遊撃隊といった具合だ。尚、ネチューレのいる場所への道は宵月が知っているため、案内役は不要である。

 

 

「それじゃあ、各々役割を全うしてくれる事を祈るよ。…結構骨が折れると思うけど、気を付けてね」

 

 

その一言を機に、メンバー全員が行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[人里]

 

 

「幽々子様、どうやら人里の人は避難が終わってるようです」

 

 

「報告ありがとうね〜妖夢。魔理沙?一応言っておくけれど、家まで壊す勢いで暴れるのはナシよ〜?」

 

 

「流石にわかってるぜ。……加減がメンドッチィけどな」

 

 

人里組。人里の人は予め、藍が避難させた為、現在の人里は閑散としている。……が。

 

 

「…げっ、おいおい、あれが雑魚妖精か?……ふざけてんのか?」

 

 

そう言う魔理沙の目線の先には、いつも見かけるよりも一回り背丈が伸びた妖精がわらわらと。ソレを見た妖夢はしかめっ面を浮かべ、幽々子は少し面倒そうな表情を。

 

 

「…幽々子様、あれが……我々が相手する()()()()()ですか?」

 

 

「…そうね~、あれが、いつも見かける妖精ね~」

 

 

その一言を聞いて、2人は嘘であってくれ、とでも言わんばかりの苦い顔をする。そんな三人だったが、どうやら妖精は三人に気付いたようで、攻撃を仕掛けてきた。…いつも以上に強力で、厄介な攻撃を。

 

 

「…おいおい、そんな活発的に攻撃しないみたいな事言ってなかったか?私の視覚が狂ってなかったら、バンバン攻撃してるように見えるんだが?」

 

 

「前回の時はここまで攻撃性はなかったのよねぇ。今日までに色んな性格の妖精が生まれたわけだし、攻撃的な妖精が増えたとしてもおかしくはないかしら~?」

 

 

「…取り敢えず、あれを倒さない事にはどうしようもないです!」

 

 

そんな妖夢の一言を境に、人里で激戦が幕を上げる事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[妖怪の山]

 

 

「紫、こっちの方に天子がいた方が良くない?アイツの攻撃なら範囲も広い気がするし、殲滅には向いていると思うのだけど?」

 

 

「あっちもいくら魔法があるからと言って、それ以外に広範囲をカバーできるメンツはあまりいないわ!それに、こっちは個々の戦力と知力が高いから良いでしょ!?それに……貴女、余裕そうじゃないの!そんな余裕ぶった事出来るなら、私の方も支援して頂戴!」

 

 

妖怪の山では、紫が別行動をとり、幽香とアリスが共闘しているという構図になっている。紫は、自慢の行動力(スキマ)を駆使しながら、2人が担当している場所以外の妖精の殲滅をしている。方や2人の方はと言うと、余裕そうに弾幕で妖精を倒していた。一方のアリスは、妖精の強さにタジタジの様子。人形を駆使しながら、ようやく倒しているといったところだろうか。アリスは人形を操って戦うのが主流であるため、それ以外に気力を割くのが大変で、現状、いつもより強く厄介な妖精相手に、いつも以上に余裕がなくなっている。

 

 

「確かに、私はこれでも少し物足りない位だけど……妖精一体一体がここまで強いと、並みの奴じゃあ大変ね。彼が今までの異変よりも難易度が高いって断言しただけあるわね」

 

 

並みの奴では大変、という一見すると皮肉にも聞こえるソレに少し反応するアリスだが、幽香の表情を見て、それが皮肉を込めている言葉でない事を確信する。そうして自身の脳内で自己解決すると、再び妖精の方に意識を向ける。

 

 

「幽香!余裕なら私の分を少し相手してもらえるかしら!?こっちもホントに手一杯なのよ!」

 

 

「そうねぇ、別にいいわよ。丁度数を増やしたかったところだし。…さぁ、こちらに来なさいな」

 

 

その言葉を聞いた妖精らは、一斉に幽香の方へ攻撃を開始する。気分屋な妖精がここまですんなりと言葉を聞き入れる事態に、アリスはおろか、言葉を放った本人である幽香さえも驚いている。

 

 

「…ここまで来るとは思ってなかったけど。ま、これで丁度良いくらいね…。……にしても、ここまで言う事を聞くなんて、相当な興奮状態ね?」

 

 

「下手なバーサーカーよりバーサーカーしてるわね……じゃあ、この間に体勢を立て直させてもらいましょうか」

 

 

そう、各々が再度体制を整えようかとしていた時、スキマが開き、紫が焦った声で言う。

 

 

「貴女達!そっちに強力な妖精が向かってるわ!私も早めにそっちに向かうから、足止めを頼むわ!」

 

 

強力な妖精。紫は確かにそう言った。これでも十分であるのに、それよりも強い妖精が来る事を想像したアリスは、身震いする。方や幽香の方はと言うと、表情に余裕がなくなっている。紫の一言を聞いてからだろうか。

 

 

「…強いのと戦いたいとは思っていたけど、こんな状態で戦いたいって訳じゃないのよねぇ…!」

 

 

無限に湧く妖精に、流石の戦闘狂の幽香も余裕がなくなり、苛立ちを見せ始める。……ただ、そんな2人を、その妖精は待つ事はなく……。

 

 

──あら?妖精達がやられてると思って来てみたら、貴女達だったのね?

 

 

…そんな一言を放ちながら、2人の前に現れたのは、とある虫の羽を携えた、一匹の大人びた並みならぬ力を持つ長い青髪の妖精であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[霧の湖付近]

 

 

「…ちっ!数が多いったらありゃしないわね!」

 

 

「私の魔法も一応効いてるみたいだけど…焼け石に水程度っぽいわね」

 

 

こちらは霧の湖。先程の妖怪の山班同様に、中々の苦戦を強いられている模様。今回の異変では、どうやら魔法は妖精に効き辛いらしく、パチュリー本人も苦虫を嚙み潰したように、顔をしかめている。他の面々も中々に進展がない様子。

 

 

「あら?あんなに言うもんだからどんなものかと思ってたけど、大した事ないわね!私の攻撃ってば、今回相性が良いみたいね!!」

 

 

方や、今回の相手との相性が上手く噛み合ったのか、自身の思う以上に敵を屠る天子。天子自身が持つ能力である大地を操る程度の能力は、さほど有利対面には関係しないのだが、彼女の持つ緋想の剣の能力である気質を見極める能力が、どうやら妖精にも効くようで、緋想の剣をぶん回しながら戦っている彼女の一撃は、妖精に効いている、という仕組みとなっている(当の本人はそこまで考えていない模様)。

 

 

「…悔しいけれど、私達より通用しているのは目に見えて事実ね。…咲夜も、時を止めてやっとって感じみたいだし……天子がいなかったら危なかったかもしれないわね」

 

 

「んもぉ~!!お姉様!あの妖精達動きが変で破壊出来ない~!!」

 

 

「…これは、想像以上の敵ね」

 

 

頼みの綱兼紅魔館の秘密兵器のフランでさえも、妖精のすばしっこさに苦戦を強いられている(能力自体はかなり有効)。そんな現状に対し、思わず溜め息を零すレミリア。そして、それを更に悪化させる事態が起きる事になる。

 

 

──あたしの縄張りを荒らすなんて、氷漬けにされたいの?

 

 

「……はぁ」

 

 

予想だにしなかったソレの登場に、遂には頭を抱える始末。ただ、四苦八苦しているこの状況下、こうなるのも無理はない。ソレは、現状を悪い意味で崩壊させかねない存在であり、ここ辺りで行動していると時たま突っかかってくる。

 

 

「……()()()じゃないの。妖精も成長するのね?」

 

 

そう、そこにいたのは、水色の髪を携え、いつもよりもずっと荘厳な雰囲気と氷の羽を晒し、威風堂々たる態度で他者に立ちふさがる氷の妖精。その名も、チルノ。身長もいつもに比べて伸びており、我が儘な子供を思わせる面影や雰囲気はなく、冷酷で傲慢な氷の女王を思わせる。

 

 

「…悪いけど、こいつ等どうにかしてくれないかしら?ウザったくて仕方ないのよ」

 

 

「あら?ここの妖精を屠り続けてるその手に、私にもなれと言うの?ジョークが過ぎると思うのだけど?」

 

 

「……IQまで上がってるのかしら?これは厄介ね…」

 

 

いつもなら乗ってくるであろう皮肉を込めてレミリアがそう言い放つも、ジョークをジョークで返すチルノ。チルノの頭がさえているという信じたくない事実に、レミリアは思わず舌打ちしながら距離を取る。それを見ているチルノは、不敵な笑みを浮かべている。

 

 

「アガッ!?」

 

 

その悲鳴(と言って良いものか)を上げたのは、チルノでなくレミリア。不敵な笑みを零していたのは、こうなる事を予見していたのか、はたまた。

 

 

「あら?運命云々とか言っておいて、ソレすら分からなかったのかしら?紅魔の長も落ちぶれたものね」

 

 

「…貴様……ッ!!無事で済むと思うなよッ!!」

 

 

煽りに乗るレミリアと逆に淡々とした口調で煽り散らかすチルノを見て、煽る者煽られる者が逆ではないかと思う構図。普段は見られないであろう光景が、そこにはあった。

 

 

「二度とそんな口を叩けないようにしてやる!!」

 

 

「もう少しクールダウンしたらどう?ま、そうした所で、勝てる見込みがないのは変わらないけど!」

 

 

両者の怒号と共に、そこは激しい攻撃の雨が降り注ぎ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[輝翠の風林 最深部]

 

 

「…道中、妖精に会わなかったわね」

 

 

「私の能力が働いたんでしょうきっと!えぇそうでしょう!!」

 

 

そう大声で、フンス!との鼻息を漏らしながら、体を反る早苗の姿は、さぞ子供っぽさを彷彿とさせる事だろう。ただ、霊夢も宵月もさしてリアクションを取らない方なので、全力の無視をかまされている訳だが。

 

 

「…ついでにこの異変を、そのお得意の能力で解決できれば、及第点なんだがな」

 

 

「そ、それは流石に無理です!!出来たら最初からやってますって!」

 

 

「そう、使えないわねぇ」

 

 

んなぁ!?、等と女性らしからぬ悲鳴(?)を上げ、その場に倒れ込む早苗。それに溜め息を漏らすのは、博麗の巫女であった。

 

そんなギャグ漫画の様な雰囲気が三人を支配していたその時だった。三人の態度が一変する。それと同時に、三人の声色でない声が、突然三人に対して語り始めた。

 

 

「あら?誰か来ているの?廻羅は……いないじゃないの」

 

 

そんな落胆の声が、その場に響く。対して三人は、三者三様な反応を示している。自身の事が眼中にないと取ったのか少しイラつく博麗の巫女然り、一向に警戒の表情を緩めない宵月然り、首謀者の姿を見ている早苗然り。ソレらを無視し、彼女は続ける。

 

 

「…はぁ、まぁ良いわ。さぁ……」

 

 

──どいて頂戴?私を倒すのは、廻羅ただ一人しか許さないわよ?

 

 

その言葉を最後に、この煌めいた緑の森はかつてない程の戦場となるのだった。

 




という事で、御伽.拾が終わりました。

今回は第一の異変の導入にあたるパートとなっております。次回以降に本格的な異変の描写がありますので、お楽しみに。そして、オリジナルキャラのイラスト(今回だと成長した妖精達)についてですが、イラストに注力する時間がない為、描き終わり次第初登場回に投稿、あるいは新しく設定集を設けてそこにあげる形をとります。

次回『御伽.拾壱 脅威の悪戯三妖精』


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御伽.拾壱 脅威の悪戯三妖精

どうも、Cross Alcannaです。

今回から異変解決編となっております。今回は人里班の視点(相も変わらず第三者視点ではありますが)となっています。さて、この異変はどのような結末を迎えるのでしょうか?どんな敵が登場するのか、どんな絡みをするのか、是非お楽しみ下さい。

では、御伽をお楽しみ下さい。



[人里]

 

 

「くっそ!一体一体が強力なせいで、いつも通りにいかないぜ!!」

 

 

「幽々子様!これじゃキリがないです!ジリ貧になりそうです!!」

 

 

「私もちゃんとやってるわよ~?ただ、妖精って言ってしまえば概念みたいなものだから、個体を倒したところで次が出てくるだけなのよ~」

 

 

人里で妖精と応戦している魔理沙らは、どうやら苦戦を強いられている様子。三人の能力が妖精の特徴と相性が悪い以上、こうならざるを得ないとも言えるのだが。その現状に、全員が表情を歪ませている。この三人は幻想郷の中でも弱い部類ではなく、幻想郷の猛者にも多少渡り合える程の実力は持ち合わせている。そんな彼女らでさえここまでの状況に陥っているのである。

 

 

「今まで色んな異変を解決してきたが、ここまで道中が厄介なのは初めてだぜっ!!」

 

 

「えぇ!こんなに攻撃が通用している感覚がない相手も…初めてですっ!!」

 

 

魔理沙と妖夢は、現在に至るまでに多くの異変を解決した、(変な言い方ではあるが)異変解決常連であり、弱い者から強い者まで数多くの者と対峙してきた。だからこそ、今回の異変がいかに狂った程の厄介具合なのかも解るのだ。

 

幽々子も異変解決に沢山赴く身ではないものの、幻想郷の中では重鎮的立ち位置に座している為、戦う機会も少なくない。

 

更に、幽々子はかつて異変を起こした張本人でもあるため、他人と戦う事は避けられない身でもある。それ故、幽々子も戦いについてはある程度熟知している。その幽々子でさえも、自身らが不利的状況であると判断している。つまりはそういう事である。

 

 

「どうしましょう〜。はっきり言うと、この状況を打開する手段が無さそうなのよね〜」

 

 

「ホントにはっきり言うじゃねぇ……かっ!!」

 

 

そんな状態からの幽々子のこの発言。魔理沙が焦燥と少しの憤怒を込めてそう言ってしまうのも、無理はない。そんな中、それを更に悪化させる事態が舞い降りる事に。

 

 

──あら?人がいないと思って来てみたら、面白そうな事してるじゃないの!

 

 

──ホントね。……あれって、魔理沙と妖夢と幽々子……じゃない?

 

 

──いつもコテンパンにされるから、今日は逆に出来そうじゃない?

 

 

「……幽々子様、魔理沙、今度はホントに不味そうですよ?」

 

 

「げぇっ!?三妖精まで来やがったか!!流石にキツいぜ!!」

 

 

「恐らく、能力も通常より強化されてると考えた方が良さそうね……廻羅に来てもらった方が良いかもしれないわ」

 

 

思いもよらない伏兵の登場に、全員の表情は絶望に染まっている。それに対し三妖精は、いつも実力が実力なのでコテンパンにされている事を気にしているのか、この力の差では自身らが返り討ちにする側に回れるのではと考えている模様。そう思うのも無理はない。何故なら……

 

 

──そうね!何せ、私達の能力が強力なものになってるみたいだし!

 

 

三妖精が一人、サニーミルクがこう発言したように、妖精は今回の異変中能力をはじめ様々なものが強化されている。それは全妖精に該当するのではないのか、という懸念が現実となった事を意味する。名無しのみの強かであれば、まだよかったものの、名有りの妖精が強化されるとなると、普通に強い妖怪なりを相手取るようなものであって、それがこの現状下にある彼女らを絶望させるのには、事足りすぎる程だろう。

 

 

──理由は解らないけどね。まぁ、これで今まで以上に行動の幅が広がるなら、それに越したことはないわね。

 

 

ただ、今のスターサファイアの発言も聞き捨てならないものであり、注目すべきところは、()()()()()()()、だ。仮にこの発言が真であるならば、少なくとも名有りの妖精は黒幕と繋がっていない妖精がいる、もしくは誰も繋がっていない可能性が出てくる。それだけでも、十分な成果と言える。……が、

 

 

──なら、早速やってみる?

 

 

最も、生きて皆に伝えられれば、の話なのだが。

 

 

───

 

 

 

 

 

 

 

「…ありゃ、人里班が想像以上にキツそうだねぇ。人選ミスったかな?反省反省」

 

 

一方、遊撃部隊(単体ではあるが)だが、余裕そうに妖精をあしらいながら、全体の状況把握をリアルタイムで行っていた。流石の廻羅、強くなっているであろう妖精も何のその。ただ、その表情は少々曇っているようで……?

 

 

「…マズそうだ、あっちを援護しないと瓦解しかねないね。正直、三妖精の登場を想定できなかった僕に落ち度があるのは否定できないし…」

 

 

そう、妖精は悪戯が好きな性格の者も多く、その中でも三妖精は特に悪戯が好きなのだ。それは人に限った話ではないのだが、人に悪戯する姿も見られる事があったり。その上自身の能力の上昇に気付いてしまったら……と、こうなるのは意外にも容易に想定できるのだ。

 

 

「…よぅし、じゃあパパっとやっちゃおうか!僕の汚点は僕が拭うしかないしね!」

 

 

その一言を機に、そこにいた廻羅の姿はなくなっていた。……そして、そこいらにかなりの数いた妖精の姿も、微塵もなかった。

 

 

───

 

 

 

 

 

 

「くっそ!デタラメ過ぎる…んだよッ!!」

 

 

「あらそう?でも…こんな事だって出来るのよっ!」

 

 

「ぬおっ!?…チッ!つえぇな……」

 

 

普段なら空元気を見せてでも弱気な発言は殆どしない魔理沙も、今のサニーミルク相手には、思わず本音が漏れてしまう。それもそのはず、サニーミルクの〖光を屈折させる程度の能力〗が強化されているのか、屈折できる光の量が歴然で、太陽光でのレーザー攻撃が可能になっている。普段のサニーとは全くと言って良い程違う火力に、魔理沙もタジタジである。

 

 

「しかも太陽光って事は…()()()()()()()()()()()()()()()()じゃねーか!?くっそ!」

 

 

そう、今のサニーにおける最大の留意点はそこである。火力に関しても注意がいるが、何せ太陽光をまんま使ったレーザー。当たれば焦げる以上の事態にもなりかねない。虫眼鏡で太陽光を集めて紙を焦がす実験と、メカニズムは似ているだろうか。まぁ、規模は天と地程の差がある訳だが。

 

 

「……一か八かだ」

 

 

「ふふん!手も足も出ないでしょう?降参する?」

 

 

サニーが疲弊した魔理沙を見て、調子に乗り出す。が、形勢だけを見ると、魔理沙が圧倒的に不利なわけで、こうも驕るのは仕方ないとも感ぜられる。…が、魔理沙はそこを突いた。

 

 

──彗星「ブレイジングスター」!!

 

 

そう、彼女は長期戦になる事を恐れ、超短期決戦を仕掛けようとしているのだ。あんまりにも強引で大体の者にはその意図が勘づかれかねない大博打であるのだが、今回はサニーがかなり油断している為、その意図には気付いていないようで、寧ろ……

 

 

「……へ?」

 

 

──魔砲「ファイナルスパーク」!!

 

 

そこに、彼女の最大火力を放つ。本来ならこんな無茶苦茶な戦法は、成り立つ事はないのだが、サニーの油断が、そんな大逆転劇を起こしたのだった。その当人であるサニーは、地面へと急速に落下していったのだった。

 

 

───

 

 

 

 

 

 

 

「あらあら、私の能力ってばここまで出来るのね」

 

 

「……っ!音が…」

 

 

ルナチャイルドと対峙するのは、妖夢である。こちらもどうやら妖精の強化能力に苦戦しているようで、ルナの能力は〖(周りの)音を消す程度の能力〗なのだが、今回はそれが強化されており、微細な音すらも消えており、その範囲も広くなっている。更に、ルナと妖夢はお互いの言葉が聞こえていない。どっちにもメリットでありデメリットでもある状況。そこで動いたのはルナであった。

 

 

「それじゃあ…攻撃しちゃおうかしら?」

 

 

そうして攻撃を始めるルナに対し、何かを察したのか、刀を構え、防御の構えを取る妖夢。どうやら、ルナの方を見て、攻撃を開始する旨を悟ったらしい。こうも簡単には言うが、その業は達人並みのものであり、素人には到底できない御業である事を忘れてはいけない。

 

 

「加減が難しいわ…ホントに手あたり次第って言葉が似合いそうなくらいざっぱな攻撃ね。いっかり使えるようにしないと、相手が相手だし、すぐにやられそうね……見た感じ、能力で多少動きも鈍そうにはなってるけど……」

 

 

攻撃を開始するも、自身の欠点と冷静な状況把握を試みる辺り、サニーとは根底が違うのだろう。サニーの様な負け方はしなさそうだ。

 

一方の妖夢はと言うと、音が消えた中で目をいつも以上に駆使しながら、どうにか攻撃をいなし、現状の打破についての思考を巡らせ続けている。音がない分、妖夢もいつも通りの実力が発揮できておらず、本人は非常は焦っている。

 

 

「…っ!防戦で手一杯な上に、いつも通りじゃないからうまく動けない……っ!」

 

 

この状況を俯瞰して見てみると、圧倒的にルナの方が有利に見えるだろう。実際、このままいけばルナが勝つ未来が見えるのは、火を見るよりも明らかかもしれない。…しかし、それは()()()()()()()()()()()()、の話である。

 

 

「…よく見たら、攻撃がまばら……もしかして、本人も力の把握と制御が出来ていない……?」

 

 

戦闘の優劣が、この瞬間に少し揺らぐ。妖夢は、自身の勝利に近づく為のカギを一つ、手に入れる。そして、そこからの妖夢は、いつもの妖夢らしからぬものとなる。

 

 

「……ここっ!」

 

 

「っ!」

 

 

その状況を鑑みた妖夢は、魔理沙同様超短期決戦に持ち込む事を決めた。自身の疲弊感と状態の善し悪しから見た判断だろうが、かなり合理的でもある。

 

しかし、その判断を下した以上、ここで倒しきれなければ自身は敗北する事をも意味している。それでも、そうするしかないというのが、今回の判断だろう。

 

 

「くっ!あっちの順応が速い!能力を使ってるのは私の方なのに!」

 

 

最もである。

 

 

「これで……終わらせる……っ!!」

 

 

その一言と共に放たれた一撃は──

 

 

──人鬼「未来永劫斬」!!

 

 

──見事と言わざるを得ない程、綺麗に相対する妖精を斬っていた。

 

 

───

 

 

 

 

 

 

 

「あらあら~?貴女の生物感知能力って、私は含まれてないと思うのだけど~?」

 

 

「本来ならそうね。ただ、今回は能力の届く範囲が上がってるのよ!」

 

 

どうやらこちらも大幅に増強された能力に驚いている模様。本来のスターサファイアの能力は〖動く物(生き物)の気配を探る程度の能力〗であって、死者には本来働くことはないのだが、スターも例外なく能力が強化されている模様。

 

 

「…困ったわね~。どうしたら良いのかしら~」

 

 

普段なら探知されるはずのない自身ですら探知されるのだ、不意打ち等の策は通じないとみていいだろう。そうなると、勝ち筋が段々と狭まっていく。それに、幽々子の攻撃は、死に関してのものばかりで、妖精に死の概念はあってないようなもの。つまり、能力でなく、弾幕のみでどうにかせねばならないのだ。他の二人と比べ、その点が妖精とは不利とも言える。……ただ、

 

 

「…あっ、これならいけそうだわ~」

 

 

ここで、幽々子も何かを思いついた様子。それに早くもスターが気付いた。

 

 

「何をするのかは知らないけど、今回ばかりは勝たせてもらうわよ?」

 

 

「…この状況でも、同じ事が言えるかしら~?」

 

 

「何を言って……ん?」

 

 

ここで、スターの様子が変化する。先程まで自信に満ちていた顔が、段々と焦りの意思を表面化し始めた。

 

 

「どうして!?どうして()()()()()()()()()()()()の!?」

 

 

そう、幽々子の位置情報が途端に分からなくなったのだ。あまりにも突然の出来事であったソレは、スターを驚愕させるのには十分すぎた。何せ、相手の能力をほぼ完全に把握していないと出来ない所業である。

 

種明かしをすると、彼女の能力が強化されており、今回の彼女は幽霊、所謂死者までも探知が可能になっている。それが強力なのはそうなのだが、この能力には、元からデメリットが存在しており、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。探知できる物が多くなれば、それだけデメリットが目立つとも言える。幽々子はそれを逆手に取り、()()()()()()()()()()()()()()()のだ。能力の強化である程度探知可能上限も増えてはいるが、冥界の主が呼び寄せる死霊の数がキャパを超えてきた、という事である。

 

 

「くっ!?これじゃあ何が何だか……」

 

 

こうなってしまったスターが成す術もなかった事は、最早語らずとも察しが付くだろう。こうして三者は、何とか三妖精を撃退したのだった(廻羅は彼女らが有利になってるのを見て参戦するのを止めたそうな)。

 




という事で、御伽.拾壱が終わりました。

今回は人里にて、三妖精との戦闘回でした。相性が良かったり悪かったりと、色々波乱がありましたね。今回の異変では、いつも倒しがいの無い妖精が、ここまでの強敵となって一同の前に現れてきますので、どんな戦闘が繰り広げられるのか、お楽しみに。

次回『御伽.拾弐 舞いたるは極彩の蝶』


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御伽.拾弐 舞いたるは極彩の蝶

どうも、Cross Alcannaです。

今回は妖怪の山での戦闘となります。さて、今回の妖精は意外や意外、最近登場したあの妖精となりますので、最近知った人も楽しめるかと思います。今回は多対一なので、解決組の方が有利になりそうですが、果たしてどうなるのでしょうか……?

では、御伽をお楽しみ下さい。



[妖怪の山]

 

 

「あら?紫がヤバめのが来るって言っていたから気を張っていたのだけど、貴女新顔じゃないの」

 

 

「…虚勢でも張っているのかしら?表情に余裕なさそうだけど?」

 

 

「………チッ」

 

 

いつも通り、強者の余裕故の発言をしていたのかと思えば、その妖精には今回のソレが虚勢だった事を看破される。それが癪に障ったのか、小さく舌打ちをする幽香。

 

アリスに関しては、先程幽香が相手取っていた妖精まで再度相手取る事となり、再び顔が険しくなっている。

 

 

「私はエタニティラルバ。蝶の妖精ね。貴女達に特段の恨みはないけど……力が増えてから少し変なのよね。だから……」

 

 

幽香とエタニティラルバ。対峙する二人の顔は全く別の性質を写す鏡で合わせたように真逆であった。そんな状況に、極彩の蝶は……

 

 

──取り敢えず、倒させてもらうわ

 

 

 

 

 

──幻想郷最凶に、宣戦布告をしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!やっぱり幽香のアシストがないと、ここまでキツいのね……!人形だけじゃ追いつかなくなるのも時間の問題ね……」

 

 

方や、強化された雑魚妖精を一人で捌ききっているアリスにも、地獄絵図の中にいるのではないかと言わんばかりの険しい表情をしていた。

 

一体一体が強化前のチルノらより少し下の実力で、ゆうに三桁超えているであるだろうそれらを一人で相手取っているのだ。愚痴や弱音が出るのも、無理はない。と言うか、これが普通の反応であるだろう。

 

 

「…ッ!上海!」

 

 

「シャンハーイ!!」

 

 

彼女は魔法使いの中でも少し変わったカテゴライズに位置している、人形使いである。自身が作った人形に魔力を通して、ソレで戦うと言う戦法をメインにしている。

 

一見、人数が増えて多人数戦に有利ではないか?と思うだろう。しかし、よく考えて欲しい。()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

とどのつまり、アリスは全ての人形の指揮を同時にせねばならない。長年人形使いであるアリスであっても、この数の妖精を相手取る数の人形を指揮するのは、かなりの無理難題である事が解る。

 

アリスは、自律する人形を作る事を目標としているが、それは未だ成就には至っていない。ソレさえあれば話は少し変わるのだが、今はそんな空想に縋っている暇はない。だからアリスは脳を、指を、魔力を動かす。死に物狂いで。…が、そんなアリスに……

 

 

「ふぅ…ようやくこっちに来れたわ!アリス!私も加戦するわ!」

 

 

幻想郷最強と謳われる、妖怪の賢者の増援が来たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴女の攻撃、タイマンには少し不向きに見えるけど?」

 

 

「そうかしら?まぁ、殲滅戦の方が楽なのは認めるわ」

 

 

アリス側に増援が来た一方で、幽香はエタニティと弾幕勝負をしていた。どうやらタイマンで戦っているお陰か、先程より幾分か余裕が出てきたようで、今では敵に軽口を叩く程にまでに。

 

エタニティも余裕が出ているのか、幽香同様に軽口を叩きながら、数多くの弾幕を放っている。そして、エタニティも例外なく強化されているのが……

 

 

「ちっ!何気にその鱗粉がウザったいわね……!」

 

 

そう、能力の強化である。どうやら威力だったりパワーが上がったりというのは微小らしく、その代わりに能力が過大強化されている模様。

 

元のエタニティの能力は〖鱗粉をまき散らす程度の能力〗という、何とも微妙極まりない能力であるのだが、この鱗粉が強化兼魔改造されている。

 

 

「爆破に状態異常、オマケに自身を強化ですって?…何でもありね?腹が立って来るわ」

 

 

そう、鱗粉に様々な効果を付属させてまき散らすという、面倒極まりない能力と化しているのだ。

 

その効果というのがこれまた多岐にわたっており、鱗粉下の者を強化/弱体化、状態異常付与、爆破鱗粉、筋力弱体化等、挙げればキリがない程の効果の種類がある。一度の鱗粉放出で何種類もの効果を付与させる事が出来ないのが、幽香にとって不幸中の幸いだろうか。

 

 

「まとめて吹き飛ばせるレベルではあるけど…その中でも面倒くさい方ね。勝った後にお仕置きでもしてやろうかしら」

 

 

いよいよストレスが頂点に達していってるのか、エタニティをお仕置きする事を考え始める始末。眼やオーラを見るからに、ガチで思っている事だろう。ただ、負ける気がないのか、エタニティはそこそこ余裕そうにしている。その証拠に、幽香相手に戦々恐々するどころか、寧ろ勝つ気でいるようで……

 

 

「怖いわね。じゃあ負けないように新しいコレを試してみましょうか」

 

 

そうして取り出したのは、一枚のスペルカード。エタニティの発言に体をこわばらせていた幽香も、何だただのスペカか、と油断しているその時だった。幽香は何かを察し、すぐさま警戒態勢に移る。

 

 

──極彩「夏彩る極彩の生」

 

 

幽香が見たソレは、視界を彩る無数の蝶型の弾幕だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「紫!幽香の様子は!?」

 

 

「大丈夫だとは思うけど、今は苦戦してるみたいね。しかもあの妖精、新しいスペカも会得してるみたいよ。…ホントに難易度が狂ってるわね……ッ!」

 

 

方や、雑魚妖精の多さと一体一体の強さにタジタジなアリスと紫。紫が加戦したものの、それでも幽香の方を援護するまでの余裕は生まれない。アリスはおろか、先程まで妖怪の山の別方向の妖精を相手取っていた紫でさえも、息が上がっている。

 

 

「ねぇ紫!廻羅に助力は頼めないの!?」

 

 

「あの方は()()()()()()()()()とおっしゃっていたわ!それが答えよ!」

 

 

「まだ助けるまでの窮地じゃないっての!?アイツの感覚バグってんじゃないの!?」

 

 

そう、作戦の打ち合わせの際、紫は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という彼の意図を汲んでいたのだ。鬼よりも鬼な気もするが。そんなネタバラシに、思わず霊夢のように口を悪くしながらその場にいない廻羅に悪態をつく。

 

 

「アリス!いくらあの人の感覚がズレているのが事実だからと言って、悪態をつくのは許さないわよ!?後でボコボコにしましょうか!?」

 

 

「今そんな事言ってる場合じゃないでしょうが!!てか、あんたも遠回しに悪態ついてるじゃないの!」

 

 

アリスの、廻羅に対する悪態に反応したのか、遂には戦いながら口論をする始末。正直、こんな事をしてるから廻羅にこんな相手は余裕だ、と伝えているようなものだという事に、二人は気付く事はない。かなりの極限状態に、最早いつもは冷静である二人も段々不安等の感情に支配されつつある。そんな二人に、もっぱら賢者としての威厳や魔法使いの面影など、とうに世界の果てにでも失せてしまったこの如く、微塵も感じない。

 

 

「…ッ!いえ、今はそんな口論なんてやってる余裕ないわね!紫!そっちにも援護飛ばしてみるから、そっちもお願い!」

 

 

「そうね…今回は不問にしてあげるわ!それと!援護なら任せなさい!」

 

 

何だかんだ、仲は良いのだろう。状況が危ういと再認識したのか、今回は口論を見送り、再び共闘する事を選んだ。…これは余談なのだが、彼女らが和解し、状況が良くなりつつあった事がキッカケで、廻羅は助力しなくても倒せると判断したそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらあら?最初とは打って変わって余裕がなさそうに見えるけど?」

 

 

「チッ……妖精風情が…ちょこざいのよ!!」

 

 

「そんな怒りに任せた攻撃、当たる訳ないじゃないの。そんな事、貴女なら良く解ってる事だと思うのだけど?」

 

 

そんな紫らと比較してこちらは、状況がよりよろしくない。何せ、幽香が過度のストレスなのか、少々感情に任せた攻撃をしている為に、いつもの様な相手を翻弄したり、冷静に状況を判断した攻撃を欠かしている。そんな状態では、流石の妖精でも避ける事は幾分か楽にはなる。その証拠に……

 

 

「…今なら本当に倒せるかも……?…フフッ、ならコレでおしまいね!」

 

 

──飛天「舞うは神の近き天なりて」

 

 

新たなスペルカードが放つ数多の蝶型の弾幕に、ただ飲まれる幽香が、そこにはあった……

 

 

 

 

 

「まさか、君に助力する事になるとはね」

 

 

「……貴方」

 

 

「取り敢えず落ち着きんしゃい?いつものペースでいかないと、勝てる試合も勝てないよ?」

 

 

…はずだった。が、意外や意外、幽香の前に現れたのは、廻羅であった。廻羅本人も、かなりの実力者である幽香にこうして助力をするとは思わなかったのか、発言の中に本音らしきものが垣間見える。

 

 

「…そうね、私とした事が、随分とらしくない無様を晒してしまったわ。あのウジムシ、勝った後のお仕置きを三倍にしてやろうかしら」

 

 

「…大丈夫そうだね」

 

 

「えぇ、もうこんな醜態は晒さないわ。いえ、誰かが望んでも晒してやらないわ」

 

 

幽香にいつもの余裕が戻る。それは表情にも、纏う雰囲気にもハッキリと示されている。それを見て勝てると確信したのか、そこに廻羅の姿はとうになくなっていた。廻羅がいない事を確認した幽香は、未だ勝てると確信しているエタニティに、こう告げた。

 

 

「待たせたわね、ウジムシ。さぁ、ここからは私が貴女を蹂躙する番よ」

 

 

その瞳は、かつてない程の殺意と、決意が込められていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「紫、そっちの妖精の数はどう!?」

 

 

「大分減ってはいるわね。そっちも減ってるみたいだし、そろそろスペカで倒し切りましょうか…!」

 

 

「紫、妖精って倒し切るのって不可能って言ってなかったかしら!?」

 

 

「良いのよもう!面倒なんだから!」

 

 

幽香が体勢を持ち直したその頃、紫とアリスもいよいよ余裕がないのか、妖精をスペカで殲滅しようと試みる。それ自体は悪い案ではないのだが、いかんせん、妖精は自然の概念そのものであるために、倒すことはできない(厳密に言うと、倒してもまた湧く)。何にせよ、紫達もかなり焦っているのは確実だろう。そんな中でアリスと紫が見境なく殲滅を始めようとしたその時だった。

 

 

「っ!このマスパみたいな砲撃……まさか!?」

 

 

「そのまさかよ。あっちは片したから、私も殲滅を手伝ってあげるわ」

 

 

まさかの増援、先程までエタニティを相手していた幽香だった。顔にはいつもの余裕が戻っており、王者の風格さえも取り戻していた。味方であるにも関わらず、その雰囲気にアリス達も一瞬顔を強張らせる。

 

 

「私がアレを叩き落したんだから、貴女達ももう少し根性見せなさいな」

 

 

「さっきの貴女にそれを言ってやりたかったところだけど…今はそうしましょう」

 

 

どうやら幽香の参戦に、二人も幾分か焦りや苛立ちが収まってきた模様。

 

 

「油断してやられるのは止めなさいよ?」

 

 

「あら、私を誰と思っての発言かしら?これくらいの妖精にこのメンツなら、寧ろお釣りが返ってくるわよ」

 

 

「えぇ、妖怪の賢者として、これ以上の恥を晒すわけにもいかないわ。…妖怪の山の妖怪にまで被弾するかもしれないと少しセーブしていたけど……」

 

 

彼女ら三人と対峙した妖精らは、後にこう言っていたそうな。

 

 

──さぁ、成す術無く野垂れ死になさい?

 

 

「あれは、修羅そのものだった」と。

 




という事で、御伽.拾弐が終わりました。

今回は東方の中でも比較的新参なエタニティラルバとの戦いでした。エタニティついて色々調べていると、妖精の割にわりかしカッコいい二つ名を付けられているようで、少し愛されているキャラなのかなと、ふと考えた事もありました。気になる二つ名は、自身で是非調べてみて下さい。

次回『御伽.拾参 かつては幼き絶対零度』


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御伽.拾参 かつては幼き絶対零度

どうも、Cross Alcannaです。

さて、今回はタイトルで分かる通りの妖精が登場します。意外とあっけなく終わる予感がしますが、果たしてどうなるのでしょうか?お楽しみに。

では、御伽をお楽しみ下さい。



[霧の湖]

 

 

「あぁもう!キリがないじゃないの!?咲夜!そっちは!?」

 

 

「すみませんお嬢様!少々苦戦しております…ッ!」

 

 

他方で、霧の湖では。屈強な精鋭が集う紅魔館の面々が妖精と対峙してるこの場面で、様々な者が苦の表情を浮かべている。そんな中、そこまで苦戦している様子でもない者が一人。

 

 

「アハハ!この剣でなら楽々狩れるじゃないの!ほらほら妖精!来なさいな!!」

 

 

「…あのお転婆、こっちに被弾しかねないの考えてないのかしら……?…まぁ、私達なら避けるのは苦労しないけれど」

 

 

今ボソッと愚痴紛いのソレを零したパチュリーをはじめとした紅魔組一同は、無差別に放たれる彼女の弾幕を避けながらの戦いを強いられている。一応、口には出してないものの、避ける事にはさほど神経を使う事はないそうで、流石は紅魔組とも言えるだろう。…ただ、いざという時にソレがどういった影響をもたらすのかについては、全く持って未知数である以上、意識して攻撃してもらいたい事には変わりない。

 

 

「天子!!もう少しこっちにも配慮して攻撃してくれないかしら!?いざという時に困るのよ!!」

 

 

「そう、分かったわ!けど、少しはそっちに行く事もあるから、ソレはそっちでどうにかしなさいよ!」

 

 

「意識してくれるだけで良いわ!程々に蹂躙なさい!」

 

 

ソレに見かねたレミリアが、我慢できず天子にどうにかできないか懇願をする。そう易々とソレを飲むとは誰も思っていなかったのだが、意外や意外、あっさりと飲み込んだ。一同が一瞬驚いたような表情を浮かべるも、そんな余裕がないのか、皆すぐに戦闘に戻る。

 

 

「それにしても……」

 

 

そんな中で、美鈴が戦う中で辺りを見渡す。辺りと言っても、戦っている一同の事を、なのだが。そして何か気付いたのか、一言。

 

 

「…湧き方が、少し不自然な気がしますね。意図的に湧かせてる感が、てんでないというか……」

 

 

美鈴曰く、どうやら妖精の湧き方に違和感がある模様。確かに、もしコレが誰かによる意図的な妖精の無限湧き(もとい、召喚)であるとしたら、相手が疲れているところを狙って妖精を湧かせれば良い。けれど、実際はそんな事はなく、湧く速度は少々速いように感じるものの、誰かがこちら側を確実に仕留めるような湧き速度ではない。そうなると、一体何がどうなっているのかが疑問として出てくるのだが……

 

 

「…まぁ、霊夢さん達が首謀者を何とかしてくれると思うので、こっちはやる事やるしかないんですが…ね!」

 

 

今はその時でない、あるいは考えても仕方ないと結論付けたのか、そんな思考を脳の奥に追いやり、再び意識を妖精の方へとやる美鈴だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふっ、いつもはアタシが押されてるのに、貴女が押されてるこの状況……屈辱じゃないかしら?」

 

 

「……えぇそうね!悔しいけど、今の貴女が強いのは認めるし、現実問題厳しいわね!」

 

 

どうにもなりそうにないその実力差に、いつもはプライド高いレミリアも、今回ばかりはその差を認める。それは、自身の実力に誇りを持つ彼女を屈辱に叩き落とすのに、あまりに十分過ぎるだろう。…それでもソレを認めるその心意気、幻想郷に来てから変わったのか、はたまた。

 

 

「それでも!()()()()()()()()()()()()!私はッ!!」

 

 

この発言には、彼女の思いが詰められていた。運命を変えてでも勝つ、という事は、運命的には敗北する事が概ね決定している事を意味する。

 

彼女の〖運命を操る程度の能力 〗というものは、運命の規模に関わらずに変えることが出来るものでもなく、割と小さめの運命のみを変えることが出来る。

 

故に、自身の敗北という大それた運命は、自身の能力では変えられない。だから彼女は、()()()()()()()()()()()()()()()()()、という意味合いの、2度目の宣戦布告をしたのだ。彼女一番の覚悟とも捉えられようか。

 

 

「プライドを捨てて得る運命は……アタシへの敗北かしらねッ!?」

 

 

「ふん!ほざいていろ!!その表情を屈辱的なまでにひん曲げてやる!!」

 

 

そう言って、レミリアが手元に握ったのは、彼女の武器であるスピア・ザ・グングニル。その容姿に見合わぬ丈の槍であり、ソレに貫かれた者は、誰であれ軽傷で済むようなものではない。ソレを妖精相手に使う事も、レミリアにとっては想定外の事であり、普段ならプライドをズタズタにされるような事態であろう。それでも……

 

 

「…!ちっ!!存外冷静なのが…気に食わないわね!!」

 

 

「怒りに任せたところで、勝機を潰すだけだ!」

 

 

そこにいる吸血鬼は、ただ強者を屠ろうとする、高貴とは程遠い姿をしていた。が、怒りに任せて攻撃をする事もなく、しっかりと勝つ為の線を潰さずに戦う辺り、流石歴史ある吸血鬼の一族の長といったところか。

 

一方で、レミリアをこうさせた張本人であるチルノはというと、意外や意外、あれだけの言葉を投げてはいたものの、相手が相手であるが為に、かなり苦戦を強いられているようにも見える。

 

この戦いは元々、妖精対吸血鬼という対面であるのを忘れていないだろうか。力の増幅があるとはいえ、妖精が吸血鬼を相手取るのは、かなりキツイのに変わりはない。ソレが太陽と言う条件がないのであれば、尚の事である。

 

この戦いの前に、実は廻羅が天候を変化させ、吸血鬼が活動できるようにした為、レミリアもつつがなく戦えている。…首謀者は、どうやら天候はさほど気にしていないのか、天候を晴れに戻すような事はしてこない。ソレが、この対面をレミリア有利に傾けている要点の一つとも言える。首謀者が妖精一体一体に有利に働くよう、盤面を整えるような者であったならと考えると、それこそ勝機は針に糸を通す程の難易度となったに違いない。

 

 

「それなら……こんな攻撃はどうかしら!!」

 

 

「…貴女らしくない、随分と策士な攻撃なこと…!」

 

 

冷静に分析するレミリアだからこそ、今のチルノの攻撃が、いつものチルノらしからぬ頭を使った攻撃である事がわかる。チルノが相手の状態でそこそこの頭脳が求められるという状況は、幻想郷の者からしたら少々特殊な状況になる為、慣れていない環境下に置かれている事になる。

 

 

「でも!そろそろ慣れてきたわね!ここいらから反撃するわよ!」

 

 

冷静になったレミリアは、幻想郷の中でもかなりの実力を誇る。元々、彼女は頭が回る方ではあるので、焦りさえしなければ相手にとって恐怖なのだ(幻想郷の強者は殆どがその部類)。(いつものチルノならともかく)今のチルノは、それを理解するに申し分ない知能は持っていた。

 

 

「さぁ…()()()()()()()()()()()?」

 

 

「初見?…まさか!?」

 

 

レミリアの、若干意味深にも聞こえるその一言を聞き、少し考えを巡らせた彼女は、すぐさま警戒態勢をとる。そして、何故チルノがこうしたのかの答え合わせを、レミリアが行った。

 

 

──紅狗「レッドヴァンパイア包囲網」

 

 

瞬間、チルノの眼前には、彼女を覆いつくさんとする程の紅い蝙蝠型の弾幕。…そう、彼女はこの異変で戦うにあたり、()()()()()()()()()()()()()のだ。攻撃手段は多いに越した事はないと考えたのかどうか、いずれにしろ、彼女の蝙蝠の包囲網は、チルノの行き場を潰しながら、同時に隙を作りだす。

 

 

「ちっ!鬱陶しいわね!だったらこっちもきらせてもらうわ!!」

 

 

──氷帝「フロストカタストロフィ」

 

 

その一言の後に放たれたそのスペルカードも、新しいモノだった。チルノ(氷の女帝)を中心に、辺り一面が銀世界に染まり、先程まで数多存在していた蝙蝠の弾幕は凍結したのか、ソコに姿はなかった。

 

 

「ふっ、アタシのコレをきらせたのは褒めたいところだけど、随分あっけなく消えたわね?」

 

 

「…あら?流石の貴女も解らなかったのかしら?」

 

 

──それ、時間稼ぎの為のヤツよ?

 

 

チルノが、その弾幕の真意を知りえなかった事を逆手に取り、彼女は笑いながらそう言い、()()()()()()()()を繰り出した。

 

 

──紅獄「カレイド・ブラッドファントム」

 

 

それを遠巻きで見た廻羅曰く、彼女の新技は、万華鏡のように様々な紅い弾幕が入り乱れ、綺麗と思ったとの事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…そろそろ私含めて、大分力を消耗してきたみたいね……」

 

 

一方で、パチュリーをはじめとした雑魚妖精討伐班は、その数も相まって流石に息を切らし始めている(天子は例外的にまだ張り切っている)。だが、流石紅魔組と言ったところか、疲弊しても尚、弱音を吐こうとしない。プライド高いところは、やはり主人に似るのだろうか。

 

 

「咲夜、もう本格的にやっても良いんじゃないかしら?いい加減その辺の事考えて攻撃するのも大変だと思うんだけど」

 

 

「私もそう思います。ですが、お嬢様からの許可がないとなんとも……」

 

 

そう、緊急時とはいえ、ここら一帯は(自称?)レミリアのテリトリーである為、主の許可なく暴れるのは、従者としては気が引けるのだ(フランと天子は何食わぬ顔で暴れているが)。少し遠くで戦っている美鈴も、恐らくそういう気持ちがあって遠くの方でのみ、激しめの攻撃をしているとみれる。そんなこんなで、いよいよ本格的に攻めあぐねるかというタイミングで…

 

 

〔あ~、あ~!聞こえるかしら?咲夜〕

 

 

〔!お嬢様!〕

 

 

予め廻羅が懸念していた連絡手段として、河童こと河城(かわしろ) にとりに作らせた特性のトランシーバーから聞こえてきたのは、お嬢様ことレミリアの声だった。コレの存在を忘れていたのか、咲夜とパチュリーは少々ビックリしているように見える。

 

 

〔チルノはどうにか抑えられそうだから、そっちもそろそろあたり気にせずやっちゃいなさい!〕

 

 

〔分かりました!〕

 

 

そのやり取りだけが行われると、レミリアの方が早々と通話を切った。その後、二人は互いを見る。

 

 

「…許可が下りたのね?」

 

 

「はい。あたりを気にしないでやれ、との事でした」

 

 

「そう。…美鈴の方が少し煩くなったから、皆にも伝わってるのね。…咲夜、こっちもやっちゃいましょうか」

 

 

「はい!」

 

 

そう言って二人は、スペルカードを構える。その二人の表情は、どこかこれから楽しみだと言わんばかりの顔である。そうして瞬く間に、二人の大声が辺りに響いた。

 

 

──七曜「セブンス・カオス」

 

 

──時幻「朽ちぬ幻想、過ぎるは我」

 

 

高らかに宣言されたスペルカードの名は、新たな技の名であった。そこから紅魔組(+天子)の反撃が始まったのは、言うまでもないだろう。

 




という事で、御伽.拾参が終わりました。

今回は霧の湖での戦闘でした。フランの出番がない事には、反省しています。ただ、フランが妖精相手に苦戦するビジョンが見えなかったので、描写しづらかったのもあります。いつかしっかりと出番を設けようと思います。

そして、活動報告にて、かなり重要なお知らせを上げましたので、一読お願いします。

次回『御伽.拾肆 古の闇出づる時』


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