新・ギレンの野望(笑) (議連・座備)
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1話 UC0068年2月 ギレン大地に立つ

人類が増え過ぎた人口を宇宙に移民させるようになって、半世紀。地球の周りに浮かぶ巨大な人工都市は人類の第二の故郷となり、人はそこで子を産み、育て、そして死んでいった。

 

宇宙世紀0079、地球から最も遠い宇宙都市サイド3はジオン公国を名乗り、地球連邦政府に対し独立戦争を挑む。

一年あまり続いたこの戦いで、ジオンは総人口の半分を死に至らしめ、人々は自らの行為に恐怖した。

 

ジオンの開発した新兵器、モビルスーツの威力によりジオン優勢で始まった戦争は、戦場が地上へと広がるにつれ次第に膠着へと変化していく。

 

そして、連邦軍がモビルスーツ開発に成功した事により戦況はジオン劣勢となり、ザビ家の滅亡により終戦の日を迎える事になる……ハズであった。

 

 

一一一一一一一一一一一一

 

 

ジオン共和国中央病院VIPルーム

 

「ここ……何処?」

 

気がついたら見慣れない部屋のベッドで横になっていた俺は、体を起こしながら思わずそんな言葉を口にする。

 

包帯のようなものが巻かれた体や、自分に繋がる見慣れない検査機器からして病院だとは思うのだが、中世の貴族の屋敷を思わせる高級そうな調度品を見る限りとても普通の病室だとは思えない。

 

ただのありふれたガンオタでしかない俺をこんなトレーズ様が似合いそうな病室に入れられても、利用料金とか払えないんだが……。

 

ぼーっとする頭をフル回転させて何があったか思い出してみるものの、徹夜でONE YEAR WARをプレイした後に、対戦相手に誘われて戦場の絆をやるため電車に乗ったところから先の記憶がみつからなかった。

 

思い出す限りこんな大怪我をするような事をした覚えはないんだが……。いや…まてよ。そう言えば電車の中で何かが爆発したような気もする……。

 

「あいててて……。ん?」

 

いまだにぼーっとする頭をすっきりさせるため、体の痛みに耐えながら部屋の中を見回していると、クローゼットの脇にある大きな鏡が目に入る。

 

豪華な装飾が施されている以外は特に特徴のない鏡だったが、鏡に映った人影が気になりよく見てみると、そこには見慣れない人物がベッドの上から此方を見る姿が映っていた。

 

「……え?」

 

そう。ジオン公国の総帥にして、人類史上最大の虐殺者となるギレン・ザビの顔が。

 

「ま、まさか……。まさか俺がギレンになったとでもいうのか?!」

 

ギレンの野望などのガンダム系ストラテジーが大好きな自分にとって、ギレン・ザビはガンダムの世界の中でも一、二を争う程好きなキャラである。

 

行き過ぎた選民思想はどうかと思うものの、IQ240を誇る優れた頭脳、ジオン・ズム・ダイクンに引けをとらない絶大なカリスマ、モビルスーツと言う未知の新兵器を軍の主力として導入する決断力など優れている部分も数多い。

 

ギレン・ザビという存在があったからこそ、ジオンは30倍以上の国力を持つ連邦を相手にあそこまで戦えたと言っても過言ではないだろう。

 

だが、自分がギレンとなって1年戦争を戦えるかと問われれば正直無理だと思う。

 

原作通りに進めて、最後のキシリアの裏切りだけ防げば生き残る事は可能かも知れないが、その為には各サイドと連邦を相手に開戦してコロニーを地球に落とさなければならないのだ。

 

強烈な選民思想のあった原作のギレンだからこそできた事であり、平和な日本で育った豆腐メンタルなガンオタである自分に人類の半数を虐殺しろとか到底無理な話である。

 

どうしてこうなった?

 

呆然としながら鏡に映った自分の姿を眺めていると、突如頭の中に膨大な量の記憶が流れ込んできた。

 

どうやらその記憶は本来の体の持ち主である「ギレン・ザビ」のもののようであり、それが正しければ今はUC0068年で、ジオン・ズム・ダイクンが死亡した直後のようであった。

 

あまりの事態に俺が頭を抱えていると、突然ドアが開き嵐のような勢いで大男が入ってきた。

 

「意識が戻ったのか?!兄貴!!」

 

顔に傷はないが、あのゴリラのような顔はガンダム好きなら間違えようがない。

 

「貴様は……ドズルか?」

 

「そうだ、兄貴!兄貴はダイクンの葬儀に参加している最中に、爆弾テロにあって意識を失っていたんだ!医者は頭部に強い衝撃を受けているため脳に異常があるかもしれないと言っていたが……。大丈夫か?」

 

どうやら、原作でサスロが死亡した爆弾テロに代わりに巻き込まれたようだ。幸い体は痛むものの、それ以外は特に異常を感じないので大丈夫だと思うのだが……。

 

「ウム。体の傷は痛むが思った通りに動くのでおそらく大丈夫だ。それよりも記憶に欠落があり、思い出せない事があるのが問題だな。」

 

念のため記憶に欠落ができたことにして、何かあった時に誤魔化せるようにしておいた。

 

「そうか……。だが、まあ無事で良かった。今はサスロ兄が、爆弾テロの主犯がラル家の連中に見えるように動いてくれている。だからギレン兄は、ここでゆっくり傷を癒していてくれ!何か必要なものはあるか?」

 

「そうだな……。体が自由に動かないので、誰か身の回りの世話をしてくれる使用人が欲しいところだ。」

 

「身の回りの世話をする使用人の手配だな!わかった、任せてくれ!」

 

本当に欲しいのは安心して話せる相談相手なのだが、誰が信頼できるかわからない現状ではそれを求めるのは難しい。なので代案として身の回りの世話をしてくれる人をお願いしてみた。

 

というか、相談相手ならギレンの秘書兼愛人として有名なセシリアさんに来てもらえば良くない?

 

「そういえばセシリアの姿が見えないが、どうかしたのか?」

 

「……。セシリアは、爆発から兄貴を守って死んだ。医者曰く、兄貴の命があるのはセシリアのお陰だそうだ……。」

 

【悲報】ギレンの野望のヒロイン?セシリアさん、原作開始前に死亡

 

アイナ様程ではないものの、ギレンの野望の影響でとても好きなキャラだったので大変残念である。ん?まてよ……。

 

「そうか……。セシリアには感謝せねばならんな……。そうだドズル。以前、セシリアからサハリン家にアイナという才媛がいると聞いた覚えがある。私の世話を頼めないか聞いてみてくれ。」

 

セシリアさんがいないならアイナ様に来てもらえば良いのだよ!

 

「サハリン家の令嬢だな。わかったサスロ兄に相談してみる。ではゆっくり休んでくれ!じゃあな兄貴!」

 

そう答えると、ドズルは来たときと同様、嵐のように去っていった。

 

よし!これで上手くいけばアイナ様に看病して貰える。あわよくばそのまま仲良くなって一緒に夜明けのコーヒーとかも不可能ではないかもしれん。

 

流石IQ240の頭脳は違うぜ。

 

現実逃避にそんな事を考えながら、目が覚めたら元に戻っているよう願ってベッドに横になるギレン?なのであった……。

 

 

一一一一一一一一一一一一

 

 

side ドズル・ザビ

 

 

「おう。俺だ。サスロ兄。今ギレンの兄貴の見舞いに行ってきたんだが兄貴が意識を取り戻したぞ!

 

ああ、記憶に一部障害があるようだが意識ははっきりとしていた!だが傷のせいで上手く動けないので、使用人としてサハリン家のアイナという娘を寄越して欲しいと言っていた!

 

何?名前に間違いないのかだと?サハリン家の娘はまだ14歳?

 

だが、ギレンの兄貴は間違いなくサハリン家のアイナと言っていたぞ?だから何とかサハリン家から寄越して貰えるように頼んでくれ、サスロ兄!

 

ああ、それじゃ俺は任務に戻る。じゃあな。」

 

ふぅ…。 これで兄貴の使用人は大丈夫だな。

 

俺がトイレに行っている間に兄貴が俺が乗る予定の車に乗ってしまい、代わりに爆弾テロにあった時はどうしようかと思ったが、無事に意識が戻って良かった。

 

しかし、兄貴が年下好きだったとはな。いつもセシリアといるからてっきり年上好きだと思っていたんだが。

まあ俺も年下好きだから別に悪い事ではないがな!さてそれでは軍務に戻るとするか。

 

一一一一一一一一一一一一

 

色々追加したい要素が出てきたので新しい作品として出させて頂きます。基本的には前作に沿って進みますがあちこち変更を入れていく予定です

 

hoi4 ONE YEAR WAR

 

 

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2話 UC0068年4月 アストライアと子供達

 

ジオン共和国中央病院VIPルーム

 

やあ……諸君。ギレン・ザビである。

 

前回、見舞いに来てくれたドズルにアイナ様を世話係に欲しいと頼んでみたところ、二つ返事で来てくれる事になった。

だが、アイナ様が来てくれる事に浮かれていた俺は、一つの重大な問題に気がついていなかった。

 

原作でこそ緑がかった銀髪の美しい美少女であるアイナ様だが、今はまだ原作開始の10年以上前である。つまりどういう事かと言うと……。

 

「ア、アイナ・サハリン14歳です。この度、閣下のお側で働かせて頂く事になりました。どうかよろしくお願い致します。」

 

まだ14歳だったという事だよ!

 

史実と違って年齢一桁とかでなかっただけマシかもしれないが、それでも見舞いにきたデギンに

 

「ギレン。お前はいつからロリコンになったのだ?」

 

などと言われてしまった。流石に自分で指名しておきながら年齢を知らなかったとは言えないので、

 

「セシリアが優秀そうと言っていたのを思い出しましてな。素質さえあれば年齢など大きな問題ではありません。なに、子供に手を出したりしませんよ。」

 

などと言って誤魔化すしかなかった。

 

幸いアイナ様……。アイナ様だと何か違和感があるので、これからはサハリン嬢と呼ぼうか。

 

幸いサハリン嬢は親身になって俺の世話をしてくれており、その頑張りが周囲に認められる形で、俺のロリコン疑惑も次第に薄れていった。

 

さて、俺がロリコンではないかと疑われている間にも時計は進み、気がつけばダイクン一家はラル家からローゼルシア邸へと移っていた。

 

リハビリのために病院を散歩している時に偶然出会ったアルテイシアから、「今度お母様とお別れしなくちゃいけないかもしれないの……。」と相談された事からも、このまま放置すればアストライアとキャスバル達が離れ離れになってしまい、ザビ家がダイクン一家に恨まれる事間違いなしである。

 

……そう言えば、良く考えるとダイクン一家が離れ離れになったのって別にザビ家がした訳じゃないよね?

悪いのはローゼルシアの婆かジンバ・ラルじゃね?

 

ともかくこのままだと、この件で後々キャスバルに恨まれて復讐されたり、ダイクン派の人間と衝突したりして面倒な事になるので、ここでダイクン一家の逃亡を阻止してそれをネタにダイクン派を弾圧するか、若しくはダイクン一家の逃亡を支援してダイクン派との融和を図るか決める必要があった。

 

 

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原作通りの展開を目指すのであればダイクン派の弾圧一択なのだが、ダイクン派にも優秀な人材が数多くいる事を知っている俺としては、不要な弾圧で無駄な軋轢を生むのはどうかとも思う。

 

どうするべきか悩んでいる所にたまたま見舞いに来たデギンに相談した結果、今後はダイクン派との融和を目指していく事になった。

デギンからは「腹芸をできるようになるとは成長したな。」などと誉められたが、よく考えれば最初から迷う必要などなかったかもしれない。

 

何故なら、我らジオンに同じスペースノイド同士で争っている余裕など何処にもないのだから。

 

その後はドズルに頼んでランバ・ラルを病室へと呼び出してもらった。

 

「失礼します。」

 

「よく来たな、ランバ・ラル。今日は貴様に頼みがあってな。」

 

「は……。自分に、でありますか?」

 

「そうだ。お前以外には頼めない事だからな。」

 

そう言うと、怪訝な顔で此方を見てくるランバ・ラルにとっておきの爆弾を爆発させる。

 

「何、それほど難しい事ではない。お前がダイクンの遺児を逃がす時、アストライアも一緒に逃がしてやって欲しいというだけだ。」

 

「!!!!!」

 

歴戦の武人であるランバ・ラルが絶句して後ずさった事からも、その時に受けた衝撃の大きさが見てとれた。

 

「な、何の事でしょう?」

 

「ふん、隠す気ならこの程度の事で動揺をみせるな。貴様がダイクンの遺児と、ジンバ・ラルを地球へ逃がそうと動いている件についてだ。

アストライアまで一緒に逃げると、騒ぎが大きくなりすぎて逃げ切れないと考えてダイクンの遺児だけ逃がす事にしたのだろうが、そちらへの対応は此方で引き受けよう。

なので遠慮なくアストライアも一緒に逃がしてやると良い。」

 

「……。」

 

「これを受け取れ、貴様が私の特命で動いている事を証明する命令書だ。それがあれば、厳戒態勢下でも問題なく検問を突破することができるだろう。」

 

半信半疑といった顔で命令書を受け取ったランバ・ラルだったが、命令書を確認し、その中身が私の言った通りのものである事を確認すると重い口を開いた。

 

「お考えをお聞かせ頂けないでしょうか?ザビ家であるあなたが、何故ダイクン一家を逃がす事に力を貸そうというのです?」

 

「今のザビ家の繁栄は、ダイクンの存在があったからこそのものだ。故に我らはダイクンに対して大きな借りがある。その借りを、ダイクンの家族に返す事は特段おかしな事ではあるまい。

ああ、ジンバ・ラルを見逃すのはダイクン一家を見逃すついでだ。ランバ・ラル、貴様に貸し一つだぞ。」

 

三日程かけて考えた理由を説明すると、ランバ・ラルは腑に落ちない様子ながらも一礼して退室していった。

 

あのランバ・ラルの驚き様……。頑張ってポーカーフェイスを練習した甲斐があったというものだ。

これで、キャスバルのザビ家への恨みも多少は軽くなるだろう。

 

ランバ・ラルが退室した後は、サスロにジンバ・ラルとダイクン一家の逃亡を見逃すように指示するとともに、逃げ出したタイミングを逃さず議会を掌握するよう命じた。

 

ふふふ……。何か今日の俺ギレンっぽくね?

 

 

一一一一一一一一一一一一

 

 

side アイナ・サハリン

 

 

ある日学校から私が帰ると、兄が興奮した様子で話しかけてきました。

 

「アイナ、喜べ!ギレン閣下が側仕えとしてお前を使いたいそうだ。サハリン家を復興させるチャンスだぞ!」

 

「ギレン閣下……ですか?」

 

「ああ。閣下は先日の爆弾テロで傷を負われ、日常生活に支障をきたしておられるようでな。そこで身の回りの世話をする人間として、お前に白羽の矢が立ったのだ。アイナには明日からギレン閣下の下へ行き、閣下の身の回りのお世話をしてもらう。」

 

「……。わかりました……。」

 

兄は私の知らない所で決めた事を一方的に伝えると、そのまま去って行きました。

 

学校で聞いた噂では、ギレン閣下はとても気難しい方だというお話でしたが、私などがお仕えして本当に大丈夫なのでしょうか…?

 

しかし、サハリン家復興のために日々骨身を削っていらっしゃるお兄様が望まれているのに、私が不安だからといって行くのを断る事などできません。

 

翌日、私は不安を胸に抱きながら、ノリスと共にギレン閣下の下へ向かいました。

 

病室に入り初めてお会いしたギレン閣下は、鋭い眼光と眉なしの顔のせいか、噂通りとても気難しい人のように感じました。

 

ですが、緊張しながら私がご挨拶すると

 

「体が上手く動かなくてな。迷惑をかける事もあるかもしれないが、どうかよろしく頼む。」

 

と、思っていたイメージとは違う丁寧なお言葉を頂きました。

 

その後ノリスが退室して私がソファーに緊張しながら座っていると、ギレン閣下が苦しそうな顔をされました。思わずお加減を伺うと、 

 

「ああ、ありがとう。若い娘さんと一緒にいるのに慣れていなくてな……。緊張しすぎて腹が痛くなってきた……。」

 

などと眉なしの仏頂面でおっしゃられものですから、私は思わず笑ってしまいました。

 

先入観から勝手に恐ろしい人だと思い込んでいたギレン閣下も、私と同じように人と一緒にいるだけで緊張して、そのせいでお腹を痛めたりする普通の人である事を知り肩の力が抜けた瞬間でした。

 

それからギレン閣下をトイレまでお連れした後は、二人で色々とお話をさせて頂きました。

 

この病室は広すぎて一人では落ち着かなかった事。

 

端末の使い方が上手く思い出せなくて困った事。

 

食事は洋食よりも和食が良いのに出る食事が洋食ばかりで嫌だった等々……。

 

特に、食事の際にニンジンは苦手なので抜いて欲しいなどと真顔で言われた時は、その人間味ある姿を見てまた笑ってしまいました。

 

そしてそれをご覧になったギレン閣下から、

 

「普段の人形のような美しい姿も良いが、やはりそのように笑っている姿が一番だな。」

 

とのお言葉を頂き、私の中にあったギレン閣下のイメージが「気難しそうな人」から「気難しそうだが、実はとても優しい人」に変化していくのでした……。



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3話 UC0068年6月 会社統合計画

ジオン共和国中央病院VIPルーム

 

やあ……諸君。ギレン・ザビである。

 

ダイクン一家とジンバ・ラルの逃亡はサイド3に大きな混乱をもたらしたものの、サスロが迅速に動いた事でザビ家による議会の掌握に成功した。これで今後の政策運営は一段とやり易くなるだろう。

 

また、子供達と一緒に地球へ逃れたアストライアから俺宛に支援に対する礼状が届いたことから、ダイクン一家との関係もかなり改善されたようだ。

 

特に、アストライアの礼状に「ギレンのおじさん、お母さんと一緒に地球へ行かせてくれてありがとう。」とアルテイシア直筆の手紙が同封されていたことから、少なくともアルテイシアには恨まれていないようで良かった。

 

そう言えば歴史の修正力なのか、アストライアの代わりに黒猫のルシファがローゼルシア邸にとり残されていた。どうやらガンタンクの衝突に驚いて逃げ出しまい、そのまま取り残されてしまったらしい。

 

そのままローゼルシア邸に置いておくのは可哀想かと思って今はアイナの所で面倒をみてもらっているのだが、やはりアルテイシアが恋しいのか夜な夜な寂しそうに鳴いているそうだ。

 

アルテイシアもルシファがいなくなり寂しがっているだろうから、今度ランバ・ラルに礼状に対する返信か何かと一緒に地上へ届けさせる事にしよう。

 

ダイクン一家からの手紙を読んで病室でのんびりしていると、サスロが見舞いついでに報告にやって来た。

 

「調子はどうだ?ギレン兄。」

 

「ああ、傷もだいぶ治ってきた。もう少しで公務に復帰することも可能になるだろう。」

 

「それは何よりだ。意識が戻ったと思ったら、突然14歳の少女を使用人に欲しいとか言い出すので驚いたぞ、全く。」

 

原作の10年前だという事を忘れていただけだというのに酷い濡れ衣である。まあ、サハリン嬢に来て貰った事に後悔はないのであまり強くは反論はできないのだが。

 

このままだと風向きが悪いので、サスロの矛先をそらすために昔ギレンの野望をやりながら思いついたアイデアを相談してみる事にした。

 

「それよりも提案したい事があるのだが良いか?サスロ?」

 

「何だ?兄貴のロリコン疑惑のマスコミ対応についてか?」

 

「違う。そんな事ではない。私の提案はジオンの誇る4つの重工業メーカー、ジオニック、ツィマッド、MIP、スウィネンの4社を経営統合させて一つの会社にする事ができないかという事だ。」

 

「ジオンを代表する4社を経営統合させるだと?!」

 

「そうだ。これからのジオンには、高度な技術力と膨大な生産力が求められる事になるだろう。

確かに競合する4社が競いあって技術を磨く事は重要だと思うが、今はそれ以上に各社が持つ技術と生産基盤を共有化して開発力の向上や生産性の効率化を図る事が大事だと考えている。」

 

「しかし……。」

 

「ジオニックは基礎研究で、ツィマッド社は推進機で、MIPはエネルギー運用で、スウィネンは作業用機器の生産でそれぞれ高い技術を持っている。

平和な時代ならともかく、ジオンと連邦が戦う可能性が高い現在の状況で、優れた技術を持つ4社を競い合わせているような余裕など我等にはない。

持てる力の全てを結集しなければ、30倍以上の国力を持つ連邦には挑む事さえ難しいだろう。」

 

「……。ギレン兄は、本当に連邦と戦争になると考えているのか?」

 

「必ずなる。というより連邦から独立するには戦争せざるを得ないのだ。

仮に連邦が戦争無しでサイド3の自治権を認めた場合、残る5つのサイドに対しても同様の自治権を認めざるを得なくなるだろう。そして、そうなった場合、コロニーからの税収を前提としてバランスをとっている連邦の財政は破綻してしまう。

故に、戦争無しでの自治権獲得などありはしないのだよ。」

 

「……わかった。どうなるかはわからないが、4社に経営統合を働きかけてみよう。」

 

よし、上手くいった。これでロリコン疑惑の事は忘れただろう。

 

それにもし経営統合が上手くいけば、統合整備計画と同じ効果が見込め、ついでに技術力も上がるだろうからモビルスーツの性能向上も期待できるかもしれない。

 

ん……?技術と言えば、ミノフスキー博士は今、何をしてるんだ?

 

「頼む。そういえば、サイド3にいるミノフスキー博士という研究者を知っているか?」

 

「ミノフスキー博士?いや、聞いた事がないが……。」

 

「諜報はキシリアの仕事とは言え不勉強だぞ?博士が研究している新粒子は戦争の在り方を一変させる可能性があるほど画期的なものだ。今後の繋がりを作るためにも、ザビ家から研究資金の援助をしておいてくれ。」

 

「わかった。流石だな、ギレン兄。」

 

ふふふ……、ガンオタの知識チートの面目躍如だな。サスロの兄を尊敬する眼差しが気持ち良い。

 

良い気分だったのでサスロが帰った後に、宇宙世紀の紙粘土のようなものをサハリン嬢に持ってきてもらい、ガンプラ?を作る事にした。

 

いや不思議な物質だね。紙粘土のように簡単に形状が変わるのに触っている感覚としてはプラスチックに近い。

 

今回は記憶を頼りに一から作る事になるので、作るのが簡単そうなプチモビを作ってみたのだが、単純な形状にもかかわらず作るのはかなり大変だった。これは何かしらの対策を考えねば。

 

 

一一一一一一一一一一一一

 

 

side サスロ・ザビ

 

 

ドズルからギレンの兄貴が14歳の娘を側仕えに欲しがっていると聞いた時には、爆弾テロで頭がおかしくなってしまったのではないかと心配したが、そんな心配は不要なものだった。

 

ジオン有数の大企業であるジオニック、ツィマッド、MIP、スウィネンの4社の経営統合。会社統合計画とでも呼ぶべきか。

 

以前のザビ家では難しかっただろうが、ラル家の逃亡を利用して議会の大半を掌握した今のザビ家の力なら十分に可能な事だった。

 

爆弾テロにあって意識を失ったと思えば、ラル家の逃亡を利用しての議会の掌握や、今回の会社統合計画などさすがギレン兄という他ない。

 

ミノフスキー博士とやらの件については正直よくわからないが、兄貴が必要だというのなら多少の資金援助など問題ないだろう。

 

それよりも兄貴が実はロリコンだったという噂をもみ消す方がよほど手がかかった位だ。以前はセシリアと関係を持っていたというのに、兄貴の好みがよくわからなくなってしまったぞ。

 

まあ、爆発の衝撃で女性の好みは大きく変わってしまったようだが、為政者としての能力には問題ないようで良かった。為政者としての能力に問題なければ多少の性癖などどうでも良いのだから。



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4話 UC0068年8月 アイナ・サハリン

ジオン共和国中央病院VIPルーム

 

やあ……諸君。ギレン・ザビである。

 

この前思いつきでサスロに言ったジオニック、ツィマッド、MIP、スウィネン4社の経営統合がめでたく決まり、新しい会社名がジオ・マッド社に決まったそうだ。

果たしてMIPやスウィネンは何処にいってしまったのだろうか?

 

さて経営統合に伴う協議の中で、統合を推進したジオン共和国政府としてもジオ・マッド社へ何らかの支援を行うべきだという話になり、最終的に資金援助と軍から技術者を派遣する事が決まった。

 

それを伝えに来たサスロがなかなか良い人材がいないとぼやいていたので、アイナの兄であるギニアス・サハリンを技術者として推薦しておいた。

 

色々と問題もある人物だが、アプサラスを開発した技術力は本物だからな。ゲームだとグロムリンとか言う超兵器も作っているし。

 

今日はそんな経緯でジオ・マッド社への派遣が決まったギニアスが、推薦の礼を言いに病室を訪れていた。

 

特別な便宜を図った訳ではなく、単に能力があるから推薦しただけなので別に礼など不要だったのだが、せっかく来てくれたのでこの前作ったプチモビのガンプラもどきをプレゼントしてあげた。

 

すると、それが何だかわからない様子だったので、昔見たプチモビの設定について説明してあげると何故かとても感動して尊敬の眼差しで見られた。気分が良かったのでまた何か作ったらプレゼントしてあげようと思う。

 

そう言えば、ミノフスキー博士はザビ家からの資金援助により無事にミノフスキー粒子の実証試験に成功したらしい。

 

ミノフスキー粒子の効果が原作同様である事を確認できたのは良かったものの、今の時点で連邦にミノフスキー粒子に注目されると非常に不味い。なので、博士にお願いして電子機器に影響を与える特性等は伏せて発表してもらった。

 

 

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また、博士から資金援助へのお礼のメッセージがきていたので、ジオ・マッド社への勧誘とミノフスキー粒子を使った小型核融合炉の開発依頼を出しておいた。

 

受けてくれるかはわからないが、追加の資金援助と相応のポストを用意すれば何とかなるだろう。

 

まあそんなどうでもいい話は置いておいて、ついにこの日がきてしまった。

 

そう。俺が退院する日である。

 

ここが痛い、あそこも痛いと仮病を使って退院日を引き延ばしていたのだが、見舞いにきたガルマに「兄上はテロで傷を負われて入院しているのに、次々と計画を立案されて凄いです!」と尊敬の眼差しで見られてしまい、病院でゴロゴロしている事が後ろめたくなりついに退院を決意した。

 

幸いサハリン嬢が退院後も身の回りの世話をしてくれる事になったので、前世?で生活力に問題があった俺でも安心である。

 

退院に伴いサハリン嬢に「入院中は世話になった。これからもよろしく頼むぞ。サハリン嬢。」と言ってみたところ、

 

「少しでも閣下のお役にたてたなら嬉しいです。私の方こそ至らない所ばかりですが、どうかこれからもよろしくお願いします。後、よろしければこれからはサハリン嬢ではなくアイナとお呼びください。」

 

と、キラキラした瞳で微笑みながら呼び捨ての許可を貰ってしまった。

 

これは……。知らない間にフラグをたてたか?!

 

まあそんな冗談はさておき、ザビ家親衛隊がキシリアの下から俺の下に配置替えになった。今回爆弾テロの標的にされた事から、俺の警備を強化する意味も兼ねて配置替えが決まったらしい。

 

矢のように鋭い視線を向けながら、嫌みまじりに引き継ぎの説明をするキシリアを見て俺は思った。

 

もう一度入院したいぜ……。

 

 

一一一一一一一一一一一一

 

 

side アイナ・サハリン

 

 

ギレン閣下にお仕えさせて頂くようになり、半年が過ぎました。人のお世話をして過ごす日々は私に向いていたようで、毎日充実した時間を過ごさせて頂いています。

 

なのでギレン閣下にお礼を言いに訪れた兄から、「退院後も閣下のお側で働いてみる気はないか?」と聞かれた時には「是非働かせてください!」とすぐ答える事が出来ました。

 

また、兄もギレン閣下との会話の中で興味深いお話を色々聞かせて頂いたようで、興奮した面持ちで尊敬の眼差しを向けていたのが印象的でした。

 

そう言えば、ギレン閣下にお仕えさせて頂く中でわかった事があります。

 

それはギレン閣下が普段されている気難しそうな顔は為政者としての対外的な顔であり、それとは別にギレン・ザビとしてのお茶目な一面をもった顔があるという事です。

 

例えば、食事の際に腕の傷が痛んで食べにくそうにされていたので「よろしければ私が食べさせて差し上げましょうか?」と冗談のつもりでお聞きしたところ、「頼む」と真顔で返されてしまい、赤面しながら食事の手伝いをさせて頂く事になってしまいました。

 

そんな風に私が恥ずかしがる姿が気に召されたようで、それから閣下の腕の傷が治るまでの間、私の手で食事を食べさせて差し上げる事になりました。

 

きっとこれは私にだけお見せになっている部分であり、それは同時に私への信頼の証であるように感じてとても幸せな気持ちになったのでした。

 

さすがに退院してしまえば食事のお手伝いをさせて頂く機会はないと思いますが、もし閣下がご病気にでもなられた際には、また食事のお手伝いをさせて頂きたいと思います。



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5話 UC0068年11月 木星圏開発計画

サイド3 ギレン邸

 

やあ……諸君。ギレン・ザビである。

 

初めて自宅から挨拶するのだが、この宇宙世紀に何で貴族の邸宅風なんだろうね?

 

高貴なザビ家の人間が庶民と同じ生活ではいけないというキシリアの提言で始めた事らしいが、正直非経済的だと思うのだが……。

 

まあそんな我が家だが、アイナが甲斐甲斐しく働いてくれるお陰で、快適な環境を満喫できるのは良いことだ。メイド服が似合っているぞ、アイナ。

 

さて退院して公務に復帰したものの、以前から担当していた仕事は、病院でゴロゴロしている間にどれも俺がいなくても上手く回るようになっており、手出しする必要がない状況になっていた。

 

また、ジオ・マッド社についても、ミノフスキー博士を技術顧問に迎えて順調な滑り出しを見せており、暇で仕方がなかった俺は新たに新プロジェクトを立ち上げる事にした。

 

その名も木星圏開発計画である!

 

現在のジオンは、ダイクンの行った独立宣言に対する処罰として連邦から経済制裁を受けていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

そのため、産業活動に不可欠な鉱物資源の入手に大きな制限があり、また入手できたとしても高い関税を支払わなければならない。

 

そんな状況では連邦からの独立など出来ないので、木星圏をジオンの勢力下に置いてしまい、アステロイドベルトにある衛星から、今後必要となるであろう鉱物資源を確保するのがこの計画の目的である。

 

ただ、木星圏まで進出できる艦艇の大半が非武装の輸送船だったため、ジオ・マッド社に木星圏まで余裕をもって進出可能な超大型戦艦の開発を命じて、グワダン級のイメージ図を送っておいた。

 

まあないものは仕方ないので、当面はグワジン級の試験艦として建造されたグワシズを旗艦として、火星と木星の間にあるアステロイドベルトの調査をおこなう事になった。

 

最初は前人未到の領域の探索という言葉に心引かれて自分で探索艦隊の指揮を執ろうかと思ったものの、高速艦でも片道で半年はかかるという現実に衝撃を受け、大人しくサイド3に残る事にした。

 

ま、まあ総帥ともあろう者が一年以上本国をあける訳にはいかないから仕方ないね。代わりに親衛隊長のハゲを艦隊司令に抜擢したら喜んでいたので、きっと良い仕事をしてくれるだろう。

 

一応俺の記憶にあるアクシズ、ソロモン、ア・バオア・クー等の形状を教え、そのような形の衛星があれば優先的に調べるように指示したので、成果も上がりやすいだろう。

 

なお、ハゲとの会話はとても暑苦しかったので省略する。

 

あ、アイナ。何か冷たい飲み物をくれるかな。

 

 

一一一一一一一一一一一一

 

 

side エギーユ・デラーズ

 

ギレン閣下の命により地球圏を離れ、早くも1ヶ月が過ぎようとしている。我らスペースノイドの魂の故郷であるサイド3のコロニーの大地は、もはや肉眼ではどこにあるかすらわからなくなっていた。

 

「デラーズ提督」

 

「む……。ハスラー中佐か?」

 

「はい。先程予定していた宙域を通過し、まもなく第三次加速に入ります。そろそろブリッジへお戻りください。」

 

「ウム。ギレン閣下が艦隊を高速艦で揃えて下さったお陰でわずか半年でアステロイドベルトまで到達できるとはな。」

 

「全くです。当初の計画では片道で一年以上かかる予定だったとか。」

 

「今開発されている新型艦を使用する事で、今後は更なる時間の短縮も可能になるそうだ。すでに有力な資源衛星の候補を絞られていた事といい、閣下の先見の明には恐れいる。」

 

「おっしゃる通りです。いったいどんな方法で調査されたのやら。全く底が知れないお方です。」

 

「その通りだな。では行くとするか、我らが祖国に新たなる栄光をもたらす為に!」

 

「お供致しましょう。」



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6話 UC0069年2月 MS-01 モビリティ・スーツ

サイド3 ジオ・マッド社研究所

 

やあ……諸君。新年あけましておめでとう。ギレン・ザビである。

 

デラーズをアステロイドベルトに送り出して、寝正月も一段落したので今日はジオ・マッド社の視察に来ている。

 

ミノフスキー博士は以前に依頼した小型核融合炉の開発で忙しいようなので、今日はアイナの兄であるギニアスが研究所の中を案内してくれていた。

 

ギニアスと歩きながら経営統合についての現場の反応を聞いてみると、今まで各社が秘匿してきた技術が共有される事で次々と新しい技術が生まれており、そのお陰で好評との事だった。

 

元はロリコン疑惑を隠す為に提案したプロジェクトなのだが、上手く行っているようで良かった。

 

今日はその中で生まれたジオ・マッド社の製品第一号を見せてくれるという事だったのだが……。これ、プチモビじゃね??

 

驚きのあまり「ギニアス。これは先日私が貴様に話したプチモビのように見えるが?」と聞いてみると、

 

「はっ。ギレン閣下よりお聞かせ頂いたアイデアがあまりに素晴らしかったため、今回ジオ・マッド社の製品第一号として使わせて頂きました。閣下のアイデアを無断で使用した事、どうかお許しを……。」

 

などと神妙な顔で頭を下げてきた。別に俺のアイデアという訳ではないので問題はなかったのだが、せっかくの機会なので

 

「私のアイデアが今後ジオンの柱石を担っていくジオ・マッド社の役にたったというなら許すも何もない。MS-01 の形式番号とモビリティ・スーツの名称を与えその量産と販売を許可する。」

 

と告げ、その場を立ち去った。やべ……何か今の俺ちょっと格好よくね?

 

その後、他にも何か良いアイデアがないか聞かれたので、今度はメガ粒子砲とモビルワーカー01型のイメージについて簡単に説明した。

 

ミノフスキー粒子の兵器転用と人形の大型汎用作業機械というアイデアは斬新だったようで、どうやら次はこれらを開発する気になったようだ。

 

ククク……これは上手くやればガンプラをこいつらに造らせる事ができるかもしれん。

 

試しに試作モデルを送ってくれれば他にもアイデアを出せるかもしれないと伝えたところ、今後は試作モデルができ次第送ってくれる事になった。

 

せっかくなので、今後は継続的に俺が欲しいガンプラのイメージを送ってあげる事にしよう。

 

俺に利用されているとも知らずに喜ぶ愚かなジオ・マッド社の研究員どもを尻目に、研究所を後にするのであった。

 

 

一一一一一一一一一一一一

 

 

side ギニアス・サハリン

 

私はギレン閣下に初めてお会いした日の事を生涯忘れる事はないだろう。

 

ジオ・マッド社への技術顧問として抜擢して頂き、そのお礼に伺ったあの日の事を。

 

「この度、閣下のお力添えにより技術顧問としてジオ・マッド社に派遣される事になりました。ご推薦ありがとうございます。」

 

「ウム。技術顧問への就任おめでとう。まずは祝いの言葉を述べさせて貰おう。だがしかし、貴様はひとつ思い違いをしているようだ。」

 

「思い違い……でありますか?」

 

「そうだ。私は貴様が技術顧問として相応しい人材であるから推薦しただけであり、力添えなど何ひとつしていない。仮にアイナ嬢が私の許で働いていなかったとしても、私は同じように貴様を推薦しただろう。」

 

その言葉は妹を、アイナを差し出した対価として技術顧問に選ばれたと思っていた私に、とてつもない衝撃をもたらした。

 

「それは……身に余るお言葉、ありがとうございます……。」

 

「ふん、貴様の才能には期待しているのだ。そうだな……。その証としてこれをくれてやろう。」

 

その言葉の後、閣下より何やら手製の人形のようなものを渡され困惑していると、

 

「それはな、宇宙空間での作業やジャンクの回収などに使う作業用自走マニピュレーター・ポッドで、私が考えた『プチモビ』という物だ。

 

コックピットは360度回転式で良好な視界を確保でき、小型スラスターによりコロニー内でもジャンプや飛行が可能。また、作業用にメカニカルアームやレーザー・トーチを装備させる。

 

先日コロニーの外壁作業を宇宙服ひとつで行っている作業員を見て、このような物があれば楽だろうにな、と思い作ってみたのがその模型だ。貴様にくれてやろう。」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「このように、アイデアだけなら私のような素人でも出すことができる。しかし、それを実現するには貴様のような優れた技術者の力が必要不可欠なのだ。故に私は貴様の活躍を期待する。」

 

「はっ!粉骨砕身の覚悟で努めます!」

 

「ふん。貴様の体の事は聞いている。無理をして倒れては今後に支障をきたす。粉骨砕身も良いが体に影響が出ない程度にしておけ。以上だ。」

 

「はっ!ありがとうございます!それでは失礼させて頂きます。」

 

閣下の部屋より退室すると部屋の前で控えていたアイナが微笑みながら話しかけてきた。

 

「お兄様。ギレン閣下へのご挨拶は無事に終わりましたか?」

 

「ああ。過分なお褒めの言葉を頂いてしまったよ。お前も元気そうで何よりだ。」

 

「はい。閣下のお陰で充実した日々を送らせて頂いております。この間などは閣下に……うふふ。やっぱりこれは内緒です。」

 

家では人形のように俯いている事が多かった妹が、ギレン閣下について楽しそうに話しているのが衝撃的だった。なので試しに、

 

「それは良かった。……アイナ。今日のご様子から見るにまもなく閣下は退院される事になるだろう。

お前が希望するなら、退院後もお側で働かせて頂けるようお願いしてみようか?」

 

と聞いてみると、「是非お願いします!お兄様!」と今まで見たことのない勢いでお願いされ、閣下との間に何かあったのかと聞きたくなってしまったのだった……。



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7話 UC0069年8月 マハラジャ・カーン

サイド3 ギレン邸

 

やあ……諸君。ギレン・ザビである。

 

今月は色々あったので、ひとつずつ振り返ってみようと思う。

 

ダイクンが心臓発作で倒れ、対立していたジンバ・ラルがサイド3から逃亡した後は、議会の大多数を掌握したザビ家がジオン共和国の実質的な支配者となっていた。

 

だが、父デギンはそれだけでは強大な連邦に対抗できないと判断し、UC0069年8月15日に共和制を撤廃、公王制(君主制)への移行を宣言する。

 

この宣言によりジオン公国初代公王に就任したデギンであるが、これに反発した一部のダイクン派は爆弾テロによるザビ家暗殺を計画する。

 

幸いこの暗殺計画はキシリア配下の治安部隊が事前に察知して未然に防いだものの、ただでさえ数が少なくなっていたダイクン派はこれにより更なる窮地に追い込まれる事になったのである。

 

このままだとキシリアがダイクン派を弾圧して後々禍根を残しそうだったため、穏健派のマハラジャに相談して今後の対策を決める事にした。(建前)

 

「マハラジャ・カーン入ります。」

 

「うむ、よくきたなマハラジャ。アイナ、少し席を外してくれ。」

 

飲み物を出し、静かに一礼して退室するアイナを見てマハラジャが口を開く。

 

「よく躾られている娘ですな。」

 

「ああ、よくやってくれている。しかしダイクン派の中にも同様に優れた者は数多くいるだろう。今日はそれらダイクン派の者への対応について相談したくてな。」

 

「何と……。」

 

「フフフ。私がダイクン派に配慮した話をすると、何故か皆同じような反応をするな。」

 

「これは失礼致しました。あまりに予想外のお言葉でしたので思わず……。」

 

「構わんよ。それよりもダイクン派の今後についてだ。

同じジオン国民同士の争いは避けたいところだが、このままではダイクン派の者とザビ家の支持者との衝突は避けられまい。

なので私としては貴様にダイクン派の人間をまとめてもらい、木星圏の開発に行って貰いたいと思っている。」

 

まあ本音はアステロイドベルトに派遣した艦隊からアクシズと思われる衛星の発見報告があったものの、開発に行ってくれそうな人材が見つからなかったからだが。 

 

「木星圏開発でありますか……?」

 

「そうだ。これを見ろ。」

 

そう言いながら部屋のスクリーンにデラーズから送られてきたアクシズの映像を映し出す。

 

「これは……。」

 

「先日アステロイドベルトに派遣した艦隊から送られてきた映像だ。派遣艦隊の旗艦から名をとってアクシズと名付けた。膨大な量の鉱物資源の存在が確認されている資源衛星で、今後のアステロイドベルト開発の拠点となるだろう。

ここを開発する人員にダイクン派の人間を使う事で、ザビ家の支持者と不要な衝突を避けられると思ってな。」

 

「確かにジオン本国とアステロイドベルト程の距離があれば衝突する事はないでしょうが……。」

 

理解を示しつつも、何か言いたげな顔をするマハラジャを見て、おそらくマハラジャが懸念しているであろう件について此方から切りだしてみた。

 

「貴様の懸念については予想できる。地球連邦が我等スペースノイドを宇宙に捨てたように、今度は我等ザビ家がダイクン派の者をアステロイドベルトに捨てようとしている。そう考えたのではないか?」

 

「……。はい。少なくともそう受けとる者が現れるのは間違いないかと思われます。」

 

「だろうな。故にアクシズ開発には明確な期限をもうける。早期にアクシズへ大型の核パルスエンジンを設置し、10年以内にアクシズごと地球圏へ帰還させる事を約束しよう。」

 

「成る程……。確かにそれだけの期間があればダイクン派とザビ家派の確執も収まっているでしょうな。」

 

まあ、本音は1年戦争開始までに地球圏にアクシズを移動させた方がジオンに有利になるからだが。 

 

「また、それとは別に私がお前を裏切れない個人的な保証もつけよう。」

 

「個人的な保証……?でありますか?」

 

「そうだ。」

 

そしてそれがマハラジャをアクシズ開発の責任者にしようとしている本当の理由だ。フハハハ……。マハラジャ、恨むなら貴様の次女と仲良くなりたい俺を恨むが良い。

 

「確か貴様には三人の娘がいたな。その中の……そうだな、次女のハマーンを私の側仕えとしておく。もし私が貴様らを裏切ったと思えば、その時はハマーンに私を殺すよう命じれば良い。その事を私が認めたと、公文書を作成して渡しておこう。」

 

「……。それは……。」

 

「貴様らが遥か木星圏までアステロイドベルト開発に行くリスクを抱えるのならば、私も木星圏開発の責任者としてその程度の覚悟は示そう。」

 

まあ本当のところは、ダイクン派を切り捨てる気などないので、どんな無茶な約束でも平気でできるだけなのだが。

 

「……。そこまでの覚悟を示して頂けるのであれば、最早私からは申すことはありません。家族と相談して、改めてお返事させて頂こうと思います。

 

「うむ。よく話し合って決めるが良い。」

 

「はっ。」

 

一礼して退席していくマハラジャを見送りながら、ダイクン派のもうひとつの問題について頭を悩ますのであった…。

 

一一一一一一一一一一一一

 

 

side マハラジャ・カーン

 

 

私はギレン閣下について思い違いをしていたのかも知れぬ。

 

デギン公王の側近として長らくザビ家の方々を見てきたつもりだったが、私はギレン閣下の事を沈着冷静ではあるものの非情かつ高慢な性格で、目的を果たす為なら手段を選ばない理想主義者だと思っていた。

 

それ故に今回のダイクン派への配慮は予想外のものだった。

以前ラル家の縁者から、ダイクン一家やジンバ・ラルがサイド3を脱出する際にギレン閣下の支援があったという話を聞いた時はそんな訳あるまいと一笑に付したものだったが、ひょっとしたら真実だったのやもしれぬ……。

 

しかし長女のマレーネならともかく、次女のハマーンをお召しになるとは……。

 

以前14の少女を側仕えにされた時、デギン公がギレンがロリコンになってしまったと嘆いておられたがどうやら間違いではなかったようだ……。

 

ハマーンには悪いが国の為、犠牲になって貰うしかないのだろうか……。



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8話 UC0069年10月 メイ・カーウィン

サイド3 ギレン邸

 

やあ…諸君。前回の続きである。

 

前回、ジオン公国宣言に反発した一部のダイクン派が爆弾テロを計画して、それをキシリア配下の治安部隊が防いだ事については説明したと思う。

 

だがその爆弾テロを計画したのが数少ないダイクン派の議員であるカーウィン議員であり、治安部隊による拘留中に死亡した事は伝えていなかった。

 

治安部隊の捜査によりカーウィン議員が議会に持ち込もうとしていたカバンから時限爆弾が発見され、その後の調査で議員の自宅から押収されたパソコンから爆弾テロを計画したデータが出てきたことで、カーウィン議員が犯人として逮捕された。

 

だが本人は最初から最後まで関与を否定していたし、ギレンの記憶からも現在の状況でダイクン派が爆弾テロをおこしたら弾圧が酷くなる事は理解している人物なので、正直俺はキシリアによる自作自演の逮捕劇である事を疑っているのだが……。

 

まあ今重要なのは死亡したカーウィン議員が無実かどうかでなく、彼の娘であるメイ・カーウィンについてである。

 

メイ・カーウィンは登場したゲームの中で弱冠14歳でありながらエンジニアとして天才的な才能を持っており、10歳のころからジオニック社の一員としてザクの開発に携わっていたとされている才媛である。

 

元々彼女のファンだった事もあり、何とか彼女を味方にしたいと考えていたのだが、俺がアクションを起こす前に今回の事件がおきてしまった。

そして父子家庭であった彼女は父を今回の事件で失い、残った親戚からもテロリストの子供だからと受け入れを拒絶され全ての身内を失ってしまったのである。

 

ダイクン派の中には彼女を引き取りたいと考えている者がいたかもしれないが、表向きとはいえ爆弾テロを起こした者の身内を引き取るのは二の足を踏むのだろう。結局彼女は国の施設に入る事になり、どうやらその中で激しい苛めを受けているようであった。

 

あきらかにザビ家による政策の被害者なので出来れば引き取って助けてあげたいのだが、彼女から見れば俺は父親の敵のようなものだ。果たしてそれが助けになるかどうか……。

 

「ふぅ…。どうしたものかな……。」

 

書斎でメイ嬢の資料を読みながら悩んでいると、アイナがメイド服姿で入ってきた。

 

「失礼します。閣下、コーヒーをお持ち致しました。」

 

「うむ。ご苦労。」

 

やっぱりメイド服は良いね!

 

「何かお悩みでしたか?」

 

「ああ、一つ難題があってな。先日爆弾テロの主犯とされて亡くなったカーウィン議員の娘が国の施設に入ったのだが、そこで苛めで苦しんでいると聞いてな。

爆弾テロの件の真偽がどうあれ、娘である彼女には何の罪もない。

それで私が養女として引き取ろうかと考えたのだが、はたして彼女がそれを望むだろうかと思ってな。」

 

「……。私は閣下が思ったようにされるのが宜しいかと思います。メイさんがどうしたいのかは彼女にしかわかりません。もし閣下に引き取られてなお、彼女が施設に戻る事を望むのであれば、その時にまたお悩みになったら良いのではないでしょうか?」

 

「フム……。だが、仮に私が引き取った場合、おそらくアイナの仕事が増える事になるぞ?」

 

「こうして閣下のお陰で充実した時間をすごさせて頂いています。多少仕事が増えるくらい何でもありません。」

 

そう言いながら微笑むアイナ嬢は、正に天使のようだった。本当に背中から翼とか生えてないだろうか?

 

「わかった。ではメイ嬢を引き取る事にしよう。少し席を外してくれ。」

 

アイナが退室した後、デギンにメイ嬢を引き取る旨を連絡するギレンなのだが、それによりロリコン疑惑が悪化していく事を彼はまだ知らないのであった。

 

 

一一一一一一一一一一一一

 

 

side メイ・カーウィン

 

「お父さんがそんな事するハズない!」

 

何度私はそう周囲に訴えただろう。だけど周りの返事はどれだけ繰り返しても何もかわらなかった。

 

「でも君のお父さんの荷物から爆弾が発見され、君のお家のパソコンからも爆弾テロを計画したデータが見つかっているんだよ。」

 

前に私が見た時にはそんなデータなんて何処にもなかった!私が何度そう言っても、容疑者の身内で子供の私の証言など誰も信用してくれない。

 

そんなやり取りを幾度も繰り返している内にやって来たのは、父が取り調べ中に急病で死亡したと言う更なる凶報だった。

 

健康だったハズの父が突然急死するハズもないのに急病だと言われ、その亡骸を求めても捜査中を理由に拒否され、結局父が私の下に帰ってきてくれた時にはその姿は骨だけとなっていた。

 

その後、父の遺骨とともに親戚の所へお世話になるハズだったのだが、爆弾テロ犯の娘など面倒をみれないと断られてしまい、行き先の無くなった私は国の運営する施設に入る事になった。

 

そうして向かった施設の中は、私にとって外の世界以上に地獄のような場所だった。世間に流布されている情報が全ての施設の中で、私は凶悪な犯罪者の娘であり、それはつまり私が凶悪な犯罪者として扱われるのと同義だった。

 

施設で一番狭く汚い部屋に押し込まれ、僅かな私物も取り上げられた上に、私がテロをおこさないようにと自由は極端に制限された。

 

そして、そんな私は抑圧された日々を過ごす施設の子供達にとって格好の苛めの的だった。繰り返される苦しみの中で、私が父の後を追いかけようか迷い始めた時、その人は現れた。

 

「カーウィン!すぐにこの服に着替えて応接室まできなさい!」

 

施設の職員が、以前に没収した私の服を持って慌てた様子で部屋に入ってきた。言われた通り服を着替えて応接室に入ると、そこには思いもよらない人が私を待っていた。

 

「はじめましてカーウィン家の娘よ。ギレン・ザビである。」

 

「は…はじめまして……。メイ・カーウィン10歳です……。」

 

「ウム、まずはお父上のご冥福をお祈りさせて頂こう。」

 

父を殺したザビ家の人間が何を……。事務的な表情で追悼の言葉を言う目の前の男にそう思っても、今の私にそれを口に出す勇気はなかった。

 

「信じて貰う事は出来ないだろうが、私は君のお父上がテロを起こそうとしていたとは考えていない。故に君が謂れ無き罪で苦しんでいると聞き、放っておけなくてな。君さえ良ければ私の屋敷にくる気はないかね?」

 

「……。え?」

 

「君のお父上の無実を証明する事は私には出来ない。私にはその権限がないからな。だが君をこの施設から出し、不自由のない生活を送らせてあげる事ならできる。それに私の後ろ盾があれば、不要な嫌がらせを受ける事もなくなるだろう。」

 

「……。それは…、そうかもしれないけど…。」

 

「もし私の屋敷に来て、君が此処に戻りたいと思ったなら直ぐに戻れるように手配しよう。それでどうかね?」

 

「……。本当にお父さんが無実だと思ってくれているんですか?」

 

「確証はない。しかし、現在の状況で君のお父上がテロを起こす必要などどこにもなかった。だからそう思うだけだ。」

 

正直ザビ家の事は憎い。でもこの人は周囲の中でただひとり、自分からお父さんが無実だと言ってくれた。そんな人の所なら、こんな場所にいるよりかはましかもしれない。そう思った私は、意を決して口を開いた。

 

「……。わかりました。ただ、ひとつだけお願いしても良いですか?」

 

「何かね?」

 

「もし、もし父が無実だという証拠を私が見つけたら。父の無実を晴らすお手伝いをしてもらえますか?」

 

「……。確約は出来ない。君のお父上の無実を晴らす事でジオンが混乱し、国の大事となるような状況であれば私は協力する事は出来ない。だが、そうでなければ可能な限り協力する事を約束しよう。」

 

100点満点の回答ではなかったけど、それがかえってこの人なりに考えて出してくれた答えなんだと感じる事が出来る。

 

「……。それで構いません。これからよろしくお願いします。」

 

だから、私は歩き始める事にした。新しい明日に向かって。



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9話 UC0069年12月24日 サンタクロース

サイド3 ギレン邸

 

やあ…諸君。ギレン・ザビである。

 

もう少しでUC0069年は終わろうとしているが、我が家に来てくれたメイとの間に大きな壁の存在を感じる今日この頃である。

 

アイナとは姉妹のように仲良く振る舞ってくれているのだが、そこに俺が近付くと途端に静かになってしまう。やはり彼女からしてみれば俺は父親の敵のようなものだろうから、なかなか距離感が難しい。

 

だが、今日はせっかくのクリスマスなので日頃の感謝も込めてサンタクロースの格好になってみた。え?ギレンのイメージじゃない?まあ身内が相手だし良いじゃないか別に。

 

そう思った俺がサンタクロースの格好でリビングに入ると、楽しそうに談笑していたアイナとメイが俺を見て凍りついた。

 

「メ、メリークリスマス。アイナ、メイ。サンタクロースだぞー。」

 

そう俺が言った途端。

 

「くすッ。くすくすくす…。」

 

「アハハハハハハハハッ。」

 

めでたく二人が大爆笑してくれた。特にメイは、初めて私の前で笑ってくれたので頑張った甲斐があったというものだ。

 

また、プレゼントとして用意したアイナへの懐中時計とメイへの最新型のノートパソコンも大好評のようで良かった。

 

その後二人とリビングで楽しい一時を過ごした後、部屋に戻った俺を待っていたのは、キシリアからの頭が痛くなる報告であった。

 

「連邦宇宙軍の大規模な軍備増強計画だと?」

 

「はい。兄上。どうやら先日のパプア級ミサイル巡洋艦やチベ級航空戦艦の就役を理由に、コロニー税を財源とした大規模な宇宙軍増強計画を立てている様です。」

 

地球連邦軍は、連邦加盟国の軍隊を中核として形成された連邦政府直属の軍事組織である。そのため設立当初は大半が地上軍で構成されており、宇宙軍は月やコロニーに駐留する陸戦隊に過ぎなかった。

現在のような宇宙空間での戦闘や、外部からコロニーを制圧する能力をもった宇宙軍は存在しなかったのである。故にUC0058年のサイド3独立宣言に際して、連邦は武力を背景とした対応ができず、以降急速に宇宙軍の増強が進められていた。

 

その動きに対抗する形で、ジオンでも小規模ながら宇宙艦隊の整備を進めていたのだが……。

 

「まさか連邦が、コロニー税を財源としてここまで大規模な宇宙軍の増強を図るとはな。スペースノイドを脅す武器を作るので自分で金を出せと言っているようなものだぞ?下手をすればジオンだけでなく、全スペースノイドの反発を受ける事になるというのに。」

 

「また、どこから情報が流れたのかわかりませんが、連邦軍でもミノフスキー粒子を軍事利用しようという動きがあります。」

 

「なんだと?」

 

「ただ、連邦軍が注目しているのは、メガ粒子砲の威力と艦艇の動力炉としての可能性についてのようですが。」

 

「そうか……。」

 

まあ従来型の艦艇なら、モビルスーツの敵ではないので当面は心配ないだろう。だが近いうちに何か手をうつ必要がでてきたな……。 

 

「ご苦労。引き続き情報の収集にあたってくれ。」

 

「はい。ところで兄上。カーウィン家の娘を養女として迎え入れたと聞きましたがまことですか?」

 

うわ……。キシリアなら追及してくると思っていたけどやっぱりきたよ。

 

「事実だ。それがどうしたというのだ。」

 

「爆弾テロの主犯の娘をザビ家に迎え入れるなど、兄上は何をお考えなのですか!?」

 

「キシリア。我らザビ家は勝者だ。勝者は敗者に対し寛容でなければならない。何故なら勝者が勝者として存在するには敗者が必要だからだ。ダイクン派という敗者がいるからこそ我らザビ家は勝者たり得るのだ。」

 

「……。しかし、その娘の父親は我らに牙を向けたのです。それをザビ家に迎え入れるのはいかがなものかと。」

 

「父の罪は父の罪であり、娘であるメイとは何の関係もない。それに、私がダイクン派の娘を引き取った事はザビ家が敗者に対し温情を示す証となり、今後の政局に良い影響を及ぼすだろう。故に私は今回の決定を変える気はない。」

 

「わかりました。しかし、私が娘を引き取る事に反対している事だけは覚えておいていただきたい。」

 

「無論だ。そしてお前も私がメイを娘として迎え入れる事を変える気はない事を覚えておけ。」

 

「……。それではこれで。」

 

何とかキシリアを抑えられたか……。敗者に寛容なのはデギンやドズル、ガルマには好印象なのに、何であいつだけあんな感じなんだ?まあ兄を思っての忠告だと好意的に解釈しておこう。

 

今日は嫌な事もあったが、メイ嬢の笑顔がみれて良い日だった。正に聖夜にふさわしい。明日も笑顔が見れる事を願い、今日はそろそろ休むとしよう……。

 

 

一一一一一一一一一一一一

 

 

side メイ・カーウィン

 

 

アハハ。あー可笑しかった。なんか今日は久しぶりに笑った気がする。

 

クリスマスプレゼントにパソコンを貰った記念に、今日から日記をつけようと思う。

 

このお屋敷に来て2ヶ月が過ぎ、最初は慣れなかったお屋敷での生活にも少しずつ慣れる事ができてきた。

 

ギレンさんの眉なし顔はまだ少し恐いけど、アイナさんとは仲良くなれて、お姉ちゃんが出来たみたいでとても嬉しい。

 

私が此処に来る事を承諾したのには実は二つ理由がある。一つは国の施設よりはマシな生活を送れるだろうと思ったからだけど、もう一つはお父さんの無実を証明するにはザビ家の側にいた方が証拠を集めやすいと思ったから。

だから証拠集めのために、ギレンさんの部屋に携帯端末を改造した盗聴器を置いて会話を盗み聞きしていた。

 

でも、今日の似合わないサンタクロースさんを疑うのはなんだか可愛そうになったので、明日からはもう盗聴するのは止めておこう。そう思った時、その通信は入ってきた。

 

キシリア・ザビ

 

父を逮捕し、殺した部門の長だ。

 

私が緊張しながら話を聞いていると、私の話が出てきて思わず心臓が止まりそうになった。

 

……。私を引き取る事に全員が賛成している訳ではないだろうと思っていたけど、ギレンさんがこんな風に言われて、それでもなお私の味方になろうとしてくれていたのだとは知らなかった。

 

ショックのあまり気がついたら会話が終わっていた盗聴機を切ると、似合わないサンタクロースさんに心の中でお詫びをして、そしてサンタさんと出会えた事を神様に感謝してから眠りにつくのだった……。



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10話 UC0070年2月 MS-02モビルワーカー

サイド3 ジオ・マッド社研究所

 

やあ…諸君。新年あけましておめでとう。ギレン・ザビである。

 

年末にキシリアが五月蝿かったので、正月はメイと一緒にデギンの所へ挨拶に行ってきた。初めは難しそうな顔をしていたデギンだったが、

 

「ギレンさん……。いえ。お父さんには施設で苦しんでいる所を助けて貰いました。おじいちゃん、どうかこれからよろしくお願いします!」

 

メイがそう挨拶すると、おじいちゃんと呼ばれたデギンはまんざらでもなさそうな顔をしていた。まあデギンはガルマにもベタ甘だから、ガルマと同じくらいの歳の女の子におじいちゃんと呼ばれれば甘い顔をするだろうと思っていた。

 

またガルマにもデギンと会う前にこっそりと話をして、「ザビ家の男たるもの女性には優しくあらねばならんぞ。」とささやいておいたので、

 

「やぁ、メイ。これからは僕とも仲良くしてくれ。」

 

と、精一杯紳士的に振る舞っていた。ふっ…チョロい。

 

さて、今日はミノフスキー博士に依頼していた小型核融合炉が完成したとの連絡を受けて、メイと一緒にジオ・マッド社の研究所に来ていた。

 

「凄い!凄い!これがモビルワーカー!?」

 

原作と同様にモビルスーツへ興味津々なメイと俺をミノフスキー博士が直々に案内してくれていた。

 

「これはその試作機で、YMS-02モビルワーカー01式と言います。主に月面やアステロイドベルトを開発するための作業用機械として開発しています。」

 

「ねぇねぇおじさん!これ触っても良い?」

 

「こらメイ。ミノフスキー博士をおじさん呼ばわりするものではない。」

 

「ははは。おじさんで構いませんよ。好きに触って貰って構いませんが、動力炉のスイッチだけは入れないよう気をつけてください。」

 

「はーい!」

 

メイが元気にコックピットに潜り込んでいくと、ミノフスキー博士からモビルワーカーの開発状況について報告があった。

 

「現在開発中の後期型では、落盤等の事故からパイロットを保護するためコックピットの周りに装甲を配置して安全性を確保できるように改良しています。また、腕部マニピュレーターを換装する事で様々な用途に使用できるようにしていく予定です。」

 

「ふむ、そろそろ鉱山開発などでは十分に使えるようになってきたか。よかろう。後期型についてはある程度形になったら量産して月面開発に投入し、データ収集に入れ。」

 

「わかりました。しかし本当に開発を秘匿しなくてもよろしいのですか?」

 

「今はまだ、その段階ではない。むしろ大々的に作業用機械を造っている事をアピールするべきだ。」

 

隠せば隠すほど人は知りたがるものだし、連邦の情報部は優秀だ。全ての情報を隠しきれるはずがない。であるならば流して問題ない情報は逆に出来るだけ多く流して混乱させるべきだ。

 

「YMS-03 ヴァッフの開発についてはどうなっている?」

 

「最大の懸念だった動力用融合炉の小型化については既に完了しており、現在は流体パルスシステムを応用した駆動系の開発に入っています。此方も開発の目処はたっておりますので試作機が完成する日もそう遠くはないでしょう。」

 

「そうか。ヴァッフについても同様に、試作機が完成次第デブリ回収やコロニーの整備等に投入しデータ収集に入れ。ただ、此方は動力系をバッテリー方式に変えてからテスト運用に入り、小型核融合炉の情報が漏れる事のないよう細心の注意をせよ。」

 

「はっ。」

 

こちらについても、ミノフスキー・イヨネスコ型熱核反応炉の情報さえ漏れなければ問題はない。

 

「そう言えば、ギニアスはどうしている?」

 

「現在は第3研究室においてメガ粒子砲の研究に専念しております。既にレールガンを遥かに上回る射程と威力の獲得に成功しており、現在は更なる威力の獲得に向けて研究を進めております。よろしければご案内致しましょうか?」

 

さすがはギニアス。このまま続ければ山をも貫く超威力のメガ粒子砲を開発してくれるだろう。だが現時点で急ぐべきは様々なミノフスキー粒子関連技術の開発だ。

 

「いや、それには及ばん。だが、ひとつ言伝を頼む。

メガ粒子砲の威力の向上は確かに重要な課題だが、ミノフスキー粒子にはまだまだ他の可能性がある。メガ粒子砲の拡散化や小型化、ミノフスキー・エフェクトを利用した重力下浮遊システム等のな。他にもメガ粒子砲を防ぐための研究なども必要となるだろう。

様々な視点をもって研究し、ひとつの事にこだわりすぎないように伝えてくれ。」

 

「……。はっ…。必ずやお伝えいたします。」

 

何故か一瞬難しい顔をした後、ミノフスキー博士は了承の返事をした。

 

「うむ。さて、メイ。そろそろ帰るぞ。」

 

なかなかコックピットから出てこないメイに声をかけると思いもよらない言葉がかえってきた。

 

「博士!この機体の制御プログラム、ここの部分がちょっとおかしい気がするんだけど?」

 

「なんですと?」

 

勝手にコックピットの機材へ自分のパソコンを繋げたメイが、ミノフスキー博士を呼びながら自分のパソコンを指さしていた。

 

「ほら。プログラムのここの部分、二重命令になってるから無駄に処理してるんじゃないかな?」

 

「これは…確かに……。」

 

「フム、まあ試作機ならば多少のプログラムミスもやむを得まい。」

 

「いえ、これは下手をすると機体が緊急停止する恐れがあります。至急直させましょう。」

 

「そうか。よくやったぞメイ。」

 

「うん!」

 

流石原作でプログラミングだけでモビルスーツの性能を底上げした才媛である。味方にいて良かった。

 

そう言えば、メイの力を借りれば俺がやりたいアレを作る事が出来るんじゃないか?

 

一一一一一一一一一一一一

 

 

side メイ・カーウィン

 

 

「私にモビルワーカーの操縦シミュレーターを作って欲しい?」

 

「正確にはモビルスーツの操縦シミュレーターだ。」

 

研究所から家に帰るとギレンさんが突然、そんなお願いをしてきた。

 

「今のままだとモビルスーツの操縦訓練は実機で訓練するしかない。だが専用の操縦シミュレーターがあれば、まだ完成していない機体の操縦訓練さえ可能となるだろう。

今日メイがモビルワーカーのプログラムミスを見つけたところを見て、メイならば作る事が出来るのではないかと思ってな。」

 

うーん…。プログラムを作るのは好きだし、さっきこっそり貰ってきたデータもあるから作れそうな気もするけど、何分初めての事だからちょっと自信がない。なので正直に「作ってみるのは良いけど、上手く作れるかわからないよ?」と言ってみた。

 

するとなんとビックリ「なに。それでかまわん。上手く作れるまで私が使ってテストしてやる。」なんていう返事がきた。

 

「エーッ。ギレンさんがテストするの!?」

 

「ウム。これから多数のパイロットが使う事になる訓練シミュレーターなのだ。ザビ家の長男である私がテストしないで誰がテストするというのだ!」

 

……。普通に考えて操縦シミュレーターのテストは政治家の仕事じゃないと思う私は変なのかな?まあどうやら本人がやりたいみたいだし突っ込まないでいてあげよう。

 

「わかったよ。それじゃ今から早速作業にかかるからデータとりはよろしくね。」

 

「任せておけ。必要なものがあればなんでも言うがいい。最優先で揃えさせる。」

 

珍しく楽しげなギレンさんを見て、前に素敵なクリスマスを貰ったお礼に頑張ってみるかなと思いながらパソコンを立ち上げる私なのでした。



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11話 UC0070年4月 はにゃーん・カーン

サイド3 ギレン邸

 

やあ…諸君。ギレン・ザビである。

 

久しぶりにやったけどやっぱり戦場の絆……じゃないモビルスーツ操縦シミュレーターは良いね!

 

まだまだアルファ版位の出来だが、だいぶ形になってきている。さすがはメイ!

 

ただ、モビルワーカーの操縦訓練なのになんで連邦の61式戦車と戦うシミュレーションが必要なの?とか答えにくい事を聞かないで欲しい。立場上「趣味だ!」と正直に答えられないじゃないか!

 

さて木星圏開発計画が本格的に始動し、第一陣がアクシズに向けて出発した。

 

メイを養女にした事で、ダイクン派が俺の事を信用してくれるようになったのが一気に計画が進展した理由である。人生どこで何がどうなるか本当にわからないものだ。

 

また、それに伴いハマーン様が我が家に来てくださる事になったのだが、当初の使用人としてではなく、ボディーガードとしてくる事になった。

 

理由としては、アイナが珍しく家事は自分の仕事なので私一人で大丈夫です!と強硬に主張したので、使用人ではなくボディーガードとして来てもらう事になった。しかし14歳のボディーガードとは一体……。いや、あまり深くは気にしない事にしよう。

 

まあ将来モビルスーツが開発された時にしっかり守って貰えるよう、操縦シミュレーターの開発に参加して貰う事にする。だけど、1年戦争の開始までにキュベレイの開発は流石に無理だよね……。

 

そんな事を考えていたらハマーン様が挨拶に来てくれたのだが、俺はハマーン様がシャアのせいで性格が変わってしまった事をすっかり忘れていた。つまりどういう事かと言えば……。

 

「ハ、ハマーン・カーンです。父マハラジャより閣下のお体をお守りするよう申しつかって参りました。宜しくお願い致します!」

 

うん、 ハマーン様じゃなくてはにゃーん様が来てしまったよ。ツインテールが可愛いね!

 

しかしこの可愛らしい子をあのハマーン様にしてしまうのだから、シャアはなんと恐るべきヤツだろう。

 

当初はハマーン様と仲良くなれれば良し、もし嫌われてもハマーン様に踏んで頂けるという素晴らしい計画だったのだが、はにゃーん様も素敵なのでとりあえず嫌われないように努力する事にしよう。

 

「ウム。よくきたな、ハマーン。マハラジャから『約束』について聞いているか?」

 

「は、はい……。」

 

? 何故其処で頬を赤らめてうつむく必要があるんだ…?

……ってなんでそこで服をはだけ始めるのだ!!?、?

 

「か…閣下が望まれるのであればボディーガードとしてだけでなく愛人としてもお仕えし、アクシズへの支援に支障がでないようお願いして欲しいと…そう聞いております……。」

 

くぁwせdrftgyふじこlp

 

落ち着け、落ち着け俺。素数を数えて落ち着くのだ。

 

マハラジャの糞野郎、原作でドズルにマレーネを差し出したのと同じ感覚でハマーン様を俺の所に寄越しやがった。

 

「ま、まて、何か誤解があるようだ……。まずは落ち着いて服を整えろ。」

 

「え……。私では閣下のお好みに合いませんでした…か?」

 

「そうではない。最初に誤解がないように言っておくが、貴様はとても私好みだ。しかし、貴様自身の意思によらない関係は私の望むところではない。」

 

「私の意思……。」

 

「そもそも私が聞いた約束とは、私がマハラジャを裏切った時にお前が私を粛清するという話を聞いているかという事だ。このように文書としても記録してある。」

 

「そんな……。」

 

ハマーン様は大好きだが、こういう形での関係は俺的に望ましくない。決して童貞なのでビビっているとかではないのだ。

 

「ボディーガードとして来て貰ってはいるが、当面は学業に励みながらメイの友達になってやって欲しい。以上だ。」

 

混乱しているのか、服をはだけたまま動く気配のないハマーン様を置いて退室しつつ、心の中で惜しいことをしたかもしれん……とちょっぴり後悔するのであった。

 

一一一一一一一一一一一一

 

 

side ハマーン・カーン

 

 

「すまぬ。ハマーン。ジオンの未来のためギレン閣下の下へ行ってくれ。」

 

初めて父マハラジャにそう言われた時、私はその意味を正確に理解する事が出来なかった。

 

それがボディーガード兼愛人としてギレン・ザビの所へ行って欲しいと言う内容だと知った時、思わず父を叩き、そして泣いてしまった。

 

だけど私がそうする事が、これから暗黒の宇宙の先にあるアステロイドベルトの開発に向かう父達の助けになると言うなら…頑張ってみよう。そう決意して私はザビ家の長男であるギレン閣下の下へ赴いた。

 

一 一 一 一

 

服をはだけた私を置いたまま閣下が退室されると、慌ててメイドさんがやってきて、私の服を整えてくれた。

 

そして新しい私の部屋まで案内しながら、「閣下が甲斐性なしだからよかったものの、自分の身体はもっと大切にしないといけませんよ!」と怒られてしまった。

 

ただのメイドさんがギレン閣下の事をそんな風に言って大丈夫なのかちょっと心配になってしまったけど、私の事を心配してくれての言葉だとわかりとても嬉しかった。

 

一 一 一 一

 

閣下に仲良くするようお願いされた養女のメイさんとお会いした。

 

メイさんにメイドさんの事を聞いてみると、どうやらアイナさんと言う方でこのお屋敷の家事を1人でこなされているらしい。なので閣下も家の中ではアイナさんに頭が上がらないそうだ。

 

そう言うメイさんもギレン閣下の依頼で操縦シミュレーター作っているそうで、それに関してはあたしも好き放題言っているけど……と、明るく笑う彼女を見て、不安しかなかったこのお屋敷での生活に希望の光が見えた、そんな気がしたのだった。



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12話 UC0070年9月 ラプラスの箱

アナハイム・エレクトロニクス社

 

フォン・ブラウン工場

 

やあ…諸君。ギレン・ザビである。

 

諸君はカリフォルニア州アナハイム市に本社を置くアナハイム・エレクトロニクスを知っているだろうか?

 

アナハイム・エレクトロニクスは、月を主な拠点として活動する巨大軍産複合企業である。「スプーンから宇宙戦艦まで」をキャッチフレーズとしており、一般家庭で使う家電製品から地球連邦軍で使う宇宙艦艇までありとあらゆるものを取り扱っており、その規模は宇宙世紀の世界でアナハイムと関わりの無い企業は無いと言っても良いほどだ。

 

今日はそのアナハイムから、連邦軍の最新鋭艦であるマゼラン級戦艦の進宙式に招待されたので、敵情視察を兼ねて月まで来ている。

 

決して、ハマーン様の事件以降、アイナが事務的な口調でしか口を利いてくれないので家に居づらかったからとかではない。

 

さて連邦が本格的な宇宙艦隊の増強を進めているが、実は我がジオンでも既にムサイ級(後期型仕様)の設計と試作は完了している。

 

 

【挿絵表示】

 

 

だが、現時点で本格的な量産に入ると連邦を刺激してしまうため、今はムサイ級に容易に改造できるように設計した輸送船アルカナ級を量産し、新興企業のGNCで運用を始めている。

 

 

【挿絵表示】

 

 

GNC(ギレン・ネットワーク・カンパニー)は安い、早い、うまい…ではなく簡単な手続きを売りに立ち上げた私設物流企業である。

 

本来軽巡洋艦として開発されたアルカナ級の足の速さと、モビルワーカーの運用による大幅な作業効率の改善、更に職権乱用による手続きの簡素化が売りとなり、他のサイドからも問い合わせがくる程の人気ぶりとなっていた。

 

それはさておき、今日の主役は将来連邦の主力となるマゼラン級戦艦である。まだ連邦ではメガ粒子砲が完成していないため主砲はレールガンとなっており、それによって主砲の形状が俺の知っているマゼラン級戦艦と多少違うものの、それ以外はほぼ同じ設計となっていた。

 

連邦の大艦巨砲主義に大きな変化はないようなので俺が内心ほっとしていると、アナハイム社のビスト会長が話しかけてきた。

 

「自分で招待しておいて何ですが、まさかギレン閣下にお越し頂けるとは思いませんでした。どうですかな?このマゼラン級戦艦は?」

 

「素晴らしい艦だな。宇宙海賊に対抗する為に開発されたと聞いたが、どんな海賊がこの船に対抗できるというのやら。私としてはあの強大な砲口が我が国に向くことがないよう祈るばかりだ。」

 

まだ計画段階のようだが、将来的にはマゼラン級戦艦だけで50隻近く、サラミス級巡洋艦やレパント級ミサイルフリゲートを含めれば400隻を超す艦艇を建造する予定だという。

 

そしてそれらを、各サイドへ増税したコロニー税から造るというのだから、サイド3のみならず、スペースノイド全体から抗議の声があがるのもやむ無しというものだろう。

 

「ハハハ。そのような事にならぬよう、今後はジオンとも仲良くしていきたいものですな。」

 

く、人事だと思って余裕ぶりやがって……。ん?そういえば確かこいつは……。

 

「私もアナハイム社とは仲良くやっていきたいと思っている。そういえば、ビスト会長のフルネームはサイアム・ビストでよろしかったか?」

 

「? はい。そうですが…それが何か?」

 

間違いない。こいつが「箱」を持っているサイアム・ビストだ。

 

「クク……。やはりそうでしたか……。『箱』の力を以ってすればアナハイム社は今後も安泰。そういう事ですかな?」

 

「!!? な……。は、箱とは何の事でしょう?」

 

「ほう、このように人目のある所で『箱』について語っても良いのかね? 『羊飼い』殿。」

 

「!!!! ……。いったい何処まで知って……。いえ、よろしければ場所を改めてお話しさせて頂ければと思います」

 

「そうですな。では場所を移すとしましょう。」

 

フフフ……。混乱しているな。自分以外に知る者のいないハズの秘密を、もっとも知られてはならない人物に知られていたのだからそれも当然というものだが。

 

「ここならば大丈夫です。」

 

応接室らしき部屋へ場所を移すと、早速「箱」について切り出してきた。

 

「単刀直入にお伺い致します。ギレン閣下は何処まで『箱』についてお知りになっているのですか?」

 

「ウム。私が知っているのは『箱』を貴方が握っていること。『箱』の正体。そして貴方が羊飼いとして『箱』を入手した経緯位のものだ。」

 

「いったい何処でそれを……?」

 

フム。「箱」をネタに脅して従える事も可能だろうが、ユニコーンでみた限りサイアムは味方にできる可能性がある。ここは一つ賭けに出るとするか。

 

「サイアム会長。貴方は『夢』を見たことはおありかな?」

 

「? 夢……。ですか?」

 

「そうだ。一つ目の巨人が宇宙を飛び回り、我等の母なる大地であるコロニーが地上に向け落下していく夢だ。」

 

「!! ……。まさか……。」

 

「そう、私は夢の中で見たのだ。軌道上の首相官邸ラプラスが砕けちり、貴方が『箱』を入手する姿を。そして我らがコロニーの大地が地上へ落下して砕け散る瞬間を。

 

初めは可笑しな夢を見たものだと思った位だったが、繰り返し同じ夢を見る事で次第に夢の内容について興味を持つようになり調べ始めた。その中で貴方の存在を知り、私は単なる夢を見ていたのではなく、過去や未来を覗き見ているのではないかと思い至るようになった。

 

だがそれは、これから先コロニーが地上に落ちるような大戦争が起きる可能性があるという事だ。」

 

「何と……。まさか…、あれが未来の姿だとお考えなのですか?!」

 

「ラプラス事件が真実であった以上、それ以外の部分も真実として考えるべきであろう。だが、過去と違い未来はまだ変える事が出来る。

 

少なくとも今の私にはコロニーを地球に落とすような戦いをする気はない。しかし、我がジオンが独力で連邦軍に勝とうとするならコロニーを落とす位の事をせねば勝ち目がないのもまた事実だ。故に私に貴方の力を貸してほしい。サイアム・ビスト。」

 

「私の力……ですか?」

 

「そうだ。我らジオンに巨大複合企業アナハイムと連邦すら恐れる『箱』の力が加われば、コロニー落としなどせずとも連邦と渡り合う事が可能になるかもしれん。」

 

「……。我らアナハイムは連邦と深く関わり過ぎております。閣下の望まれるような全面的な協力をさせて頂くのは困難かと思いますが……。」

 

「無論当面は陰ながらの支援でかまわない。わがジオンの製品をアナハイムでも積極的に導入する等のな。」

 

「その程度の事なら私の裁量でも可能ですが……。」

 

「それから先はまた互いに誠意を示し、信頼関係を築いてから改めて相談できたらと思う。」

 

「……。いいでしょう。ではまずはそのような形で。」

 

なんとかサイアム・ビストとのファーストコンタクトは無事に終了した。

 

これでアナハイムがジオン規格の製品を多く使うようになれば、今後アナハイムと協力するのも容易になるだろう。

 

それでは最後にひとつ取引を提案してからボロが出る前に帰る事にしよう……。

 

一一一一一一一一一一一一

 

 

side サイアム・ビスト

 

 

宇宙世紀元年、貧困のため報酬目当てでテロに加わった私は、仲間とともに作業艇で逃亡する最中、艇内に仕掛けられていた時限爆弾により船を爆破されてしまう。

 

たまたま外で作業中だった私は、その衝撃で吹き飛ばされ宇宙を漂う中であり得るはずがない幻を見た。

 

それは、一つ目の巨人の群れが宇宙を飛び回り、空に浮かぶコロニーが地球に向けて落下していく地獄の光景だった。

 

幻が去って我に帰った私は、爆破されたラプラスの残骸の中に漂う不思議な箱形の物体を発見して民間船に救助され今に至る。

 

その後「箱」の話をした事はあっても、それ以外の事を語った事は一度たりともなく、故にその事を知る者は誰もいないと思っていた。今日までは。

 

「まさか私の過去を知る者が現れ、それがかのギレン・ザビだとは……。だが……。」

 

だが、それ以上に一つ目の巨人とともに地球に向かって落下していくコロニーの姿が幻ではなく未来だというのなら、「箱」はその未来を防ぐ為に私の所に来たのではないだろうか?

 

そして同じ幻を見たギレン・ザビは、その未来を変える為のカギとなる存在だとでもいうのか……?

 

「わからんな……。まあとりあえずジオンと取引を増やす位なら問題なかろう。問題は……。」

 

最後にギレンが提案してきた技術情報の裏取引についてだ。

 

現在連邦軍が運用している61式戦車とミデア、それに開発中の次世代戦闘機セイバーフィッシュの設計データと引き換えに、チベ級と次世代兵器のメガ粒子砲の設計データをジオンが提供するか…。

 

チベ級はともかく、次世代兵器のメガ粒子砲の設計データは喉から手が出るほど欲しい。

 

それさえあればマゼラン級の次に予定されているサラミス級の建造についても、わが社で独占する事が可能になるかもしれん。

 

ここは一つ提案にのってみるとするか……。



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13話 UC0071年2月 モビルスーツ公開

サイド3 ギレン邸

 

やあ…諸君。新年あけましておめでとう。ギレン・ザビである。

 

前回のサイアム・ビストとの会談の結果、アナハイム社からジオ・マッド社に対して大量の受注が入って大忙しのようなので、今年は自宅からジオンの研究状況についてお知らせしようと思う。

 

あ、そういえばサイアムから手紙が来ていたので後で確認しなければ。

 

さて、去年の始めに試作機の開発が完了していたYMS-02 モビルワーカー01式については、去年の夏頃にはMS-02 モビルワーカーとして正式に量産が開始され、現在はコロニーでの建設作業や、月面やアクシズ、果ては地球などでの資源開発に利用され、様々な環境下での運用データの収集を行っている。

 

 

【挿絵表示】

 

 

また、去年の秋頃に試作1号機が完成したYMS-03 ヴァッフについては、小型化された動力用融合炉と流体パルスシステムを応用した駆動系統の採用により宇宙空間での機動性獲得に成功しており、現在はより実戦的な後継機開発の為、宇宙空間でのAMBACのデータ取りの真っ最中である。

 

次に開発する機体にはYMS-03 ヴァッフで集めたデータをもとに、兵器として必要な運用性や整備性、生産性に加え、パイロット保護の為に脱出装置を搭載して生存性の強化もおこなう予定である。

 

本来ならモビルスーツ用の新型OSも搭載したい所だったが、メイに相談したところ「モビルスーツ操縦シミュレーターを作るのを中止して良いなら作れるかも!」との返事だったので今回は採用を見合わせた。

 

いやぁ急いで作って、何かトラブルがあったら困るから仕方ないね!!

 

また、連邦に対するカモフラージュとしてアナハイムから入手した61式戦車の設計図を基に地上戦用……。じゃなかった治安維持用の主力戦車の開発を命じた。色々と注文を付けたし、まさかマゼラアタックのようなものになることはないだろう。

 

そう言えば昨年サイド3を出発したアクシズ開拓団も来月には小惑星アクシズに到着する予定だ。

 

到着後は居住施設やアクシズで採掘した資源を送るためのマスドライバーの建設、ア・バオア・クーとなる小惑星への核パルスエンジン設置などやってもらう事が山積みである。

 

少しでも作業がやり易くなるように、ヴァッフの量産試作機を送るなどして可能な限り支援をしなければ。

 

さて、それでは報告書も読み終わったし部屋で待たせているハマーン様をちょっと鳴かせてくるかな。

 

一一一一一一一一一一一一

 

 

side ハマーン・カーン

 

 

「なんだ?もう音を上げるのか?ハマーン。」

 

「あ、閣下。ダメです。またそんなところばかり…あ、ああ、そんな!」

 

「ククク。やはり貴様はここが弱いな。」

 

「あ、ダメ。そんな、また…アーーッ」

 

モニターにクローを振り上げたモビルワーカーの姿が映り、その一撃によって私の操縦するヴァッフは機能を停止してしまった。

 

「射撃の精度はなかなかのものだが、まだまだ接近戦が弱いな。ハマーン。」

 

「申し訳ありません。ギレン閣下……。」

 

メイさんとギレン閣下が作られているモビルスーツ操縦シミュレーターのテストにお付き合いさせて頂いているのだけれど、始めてからずっと私はギレン閣下に負けてばかり……。

 

今回もまた、巧みに遮蔽物を使って近づいてきたモビルワーカーの一撃にやられてしまった。

 

「かまわん。ずっとテストしてきた私とこれだけ戦える事を誇るが良い。」

 

「そうだよハマーンさん。このペースならすぐにギレンさんより上手くなっちゃうと思うよー。」

 

「メイの言う通りだな。私もうかうかしていられん。」

 

そう言ってギレン閣下とメイさんが励ましてくださるものの、閣下に信頼されてこそ護衛として良い働きができるというもの。その為に私が努力を怠る訳にはいかない!

 

「いえ…私の方こそもっと上手くなってみせます!」

 

「ウム。その意気やよし。ではもう一戦するか?」

 

「はい!」

 

そう言って私はまたシミュレーターを起動し、操作に集中していくのでした……。



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14話 UC0071年7月 ドン・テアボロ ◼️

サイド3 ギレン邸

 

やあ…諸君。ギレン・ザビである。

今日は、太陽がまぶしく照り付ける褐色の大地に、かつてイスラム勢力が作り上げたエキゾチックな風景が広がるスペイン南部アンダルシアに来ている。

 

かつてはスペインを代表する観光地として世界中の人々を惹きつけたアンダルシア地方であったが、今は各地で繰り返された環境破壊により生じた数多くの難民で溢れかえっていた。

 

何故こんな所にいるのかと言えば、先日サイアム・ビストから届いた手紙が関係していた。

 

手紙によると、地球に逃れたジンバ・ラルは当初アナハイムの支援を受けてのクーデターを計画していたらしい。

だが、サイアムの指示によりアナハイムからの支援は中止となり、それでも諦めきれないジンバ・ラルは、今度は地球連邦政府と接触を試みているようだと記されていた。

 

このままだとキシリア機関にテアボロ邸が襲われて、キャスバル達から怨みを買ってしまうのだが、ジンバ・ラルがクーデターを企てているような状況では、流石にキシリアへ襲撃を止めろと言う事も出来ない。

仮にジンバ・ラルが連邦政府の支援を得て、ダイクンの遺児を旗頭に反旗を翻したら一大事だからな。

 

なのでジンバ・ラルの庇護者であるテアボロと交渉し、無駄な戦いを止めるため、わざわざ地上へ降りて来たのである。

 

「ギレンおじ様!?」

 

ランバ・ラルを護衛に伴って、アルハンブラの街にあるテアボロの屋敷を訪れると、ショートカットの金髪と青い瞳が特徴的な少女が出迎えてくれた。

 

「こうして直接会うのは私が入院していた時以来だな、アルテイシア。いや、今はセイラだったか。元気そうで何よりだ。」

 

「はい、ギレンおじ様。でも地球に来てからずっとお手紙でお話ししていたので、ちっともそんな気がしないの。何だか不思議。」

 

「私もだ。以前に送ってくれた写真よりずっと大きく、美しくなっていたので驚いたぞ。」

 

「ウフフ、お上手ですこと。そう言えば、この前は欲しかった医学書を送ってくれてありがとう。」

 

「構わんよ。難民を救うため医師になりたいという志は素晴らしいものだ。大切にしなさい。」

 

そう。実はルシファを送り届けた事がきっかけとなり、セイラとはずっと手紙で文通していたのだ。

 

本来、ダイクン一家はザビ家の脅威から逃れるため地球へと逃げたハズなのに、何故かそのザビ家の長男とダイクンの娘が手紙で文通するという謎の状況に陥っていたのである。

 

因みにセイラの写真を見つけたアイナの機嫌が何故か悪くなり、色々と大変だった事については黙っておこう。

 

そんな風にセイラと談笑していると、奥から恰幅のよい老紳士が姿を現した。パッと見樽みたいな体型の太ったおっさんだが、眼光は鋭くどことなく切れ者の感じがする。

 

「セイラ、お話しはそのくらいにしておきなさい。ようこそ私の屋敷へ、ギレン・ザビ閣下。」

 

「お邪魔している。ドン・テアボロ。我等ムンゾの民の面倒を見てくれている事、陰ながら感謝している。」

 

「はて、そのような者はここにはおりませんが、話は奥で伺うとしましょう。」

 

そう言うテアボロの案内で向かった部屋の中には、アストライアの姿があった。

 

「ご無沙汰しております。アストライア様。いえ、今はルヴィア・マスと名乗っていらっしゃるのでしたか?」

 

「ええ、サイド3を出る際はお世話になりました。お陰で、子供達と幸せな時間を過ごさせて貰っています。」

 

「それは何よりです。ただ、一人そうでない人物がいるようでしてな。本日はその件で参りました。」

 

「と、言われますと?」

 

アストライアの隣に座ったドン・テアボロが、そんな質問を投げ掛けてくる。

 

「私は、ダイクン家の方々がこの地で静かに過ごされるのであれば、干渉するつもりはありませんでした。

ですが現在、ジンバ・ラルが地球連邦政府とコンタクトをとりクーデターを企てているようです。流石にそのような動きを放置しておく訳にはいかず、こうして参った次第です。」

 

「なんと……。どうしてそんなバカな事を…どうやら私の監督不足だったようだ……。誠に申し訳ない……。」

 

ジンバ・ラルの動きを知らなかったのだろう。テアボロが頭を深々と下げて謝罪し、アストライアもまた顔色を蒼白にしている。

 

まあ、自分が知らない間に一緒に暮らしている人がクーデターを計画していたら普通そうなるよね。

 

「お二人からの謝罪は不要です。アストラ…、ルヴィア様やドン・テアボロがご存じであれば、ジンバ・ラルの無謀な企みは止めて頂けたでしょうからな。」

 

そもそも連邦の支援を受けてクーデターを成功させたとしても、今度は支援してくれた連邦に頭が上がらなくなってしまい、ジオン独立どころではなくなってしまうだろうに。

 

「勿論だ。知っていればそんな無謀な事を許すハズがない。二度とそんな事をせぬようジンバをきつく叱り、今後は監視の者もつけよう。なので今回は穏便に済ませて頂く訳にはいかないだろうか?」

 

「私としてはそれで済ませたい所だが、そうもいかんのだ、ドン・テアボロ。

ジンバ・ラルの軽率な行動のせいで、連邦政府にダイクンの遺児の存在と居場所を知られてしまったのだ。

連中はジンバ・ラルが使えぬと知れば、直接ダイクンの子らを拐って自ら操ろうとするだろう。

ドン・テアボロ、貴公に連邦からダイクンの子らを守り切るだけの力はおありか?」

 

原作でもラプラスの箱を奪うために特殊部隊を投入したり、コロニーレーザーでコロニーごと消そうとした組織である。

「ダイクンの遺児」というジオンに対するジョーカーの存在を知り、それが自分の庭である地上に住んでいるにもかかわらず、それを放置するような事はしないだろう。

 

「それは……。その辺のチンピラが相手ならともかく、強大な連邦からあの2人を守ってやるほどの力はありません……。では私はいったいどうすれば良いというのですか?!」

 

「ドン・テアボロ、ルウムに住んでみる気はないかね?」

 

「ルウム?サイド5?のですか?」

 

「そうだ。あの地のテキサス・コロニーを、私は個人で所有している。建設途中で放置されていたコロニーをある目的のために購入したものだが、工事をさせて現在は十分に使用に耐える状態になっている。」

 

元々はモビルスーツの地上試験用として購入したものだが、カモフラージュのために人が住める用に改修して既に移民者もいる。生活していく分には困らないだろう。

 

「そのテキサス・コロニーへ私達が?なぜ?」

 

「個人の所有物なので、人や物の出入りを完璧にコントロールできる。さすがの連邦も、私が所有しているコロニーの中に潜入して人を拐うのは容易ではなかろう。どうかね?」

 

まあ容易ではないが、不可能な訳でもないので警備は強化しなければならないが。

 

「……。ありがとう。弱い私には他の選択はなさそうだ。ルヴィア、それで構わないかね?」

 

「ええ、貴方。あの子達と一緒に暮らせるのなら私は何処でも構いません。」

 

「結構だ。ではルウムに入るまでは護衛としてランバ・ラルを置いておこう。必要な支援があれば奴に言うが良い。」

 

「……ジンバについてはどうしたら良い?」

 

「好きにするが良い。本人が死ぬまで夢をみたいというならそのまま放り出してやれば良いし、ルウムに来たいというなら連れて来て構わん。ただ、二度とこのような真似は許さないがな。」

 

最早ジンバ・ラルにはなんの価値もない。強いて言えば面倒を見てやる事でランバ・ラルに恩を売れる位だ。

 

「わかった……。」

 

何はともあれ、無事にダイクン一家との無駄な争いを避けれたようで良かった。後は、アイナ達へのお土産を何にするかセイラに相談してみるか。

 

 

一一一一一一一一一一一一

 

 

side セイラ・マス

 

 

ザビ家の長男で、眉なしのお顔が怖いギレンおじ様。

 

私がおじ様を慕うようになったのは、病院でたまたま居合わせた私の話を真剣に聞いてくれて、その願いを叶えてくれたのがはじまり。

 

お髭が痛いお父様を亡くして悲しむ私達一家を待っていたのは、自分たち以外の大人の都合で振り回される日々だった。

 

お父様のお葬式の帰りに変な人達に車を囲まれ困っているところをザビ家の人に助けられたり、ジンバのおじさまのお家で一息ついたと思ったら急に嫌なローゼルシアのおばさんのお家に行けと言われたり。

 

そして、お母様と別々のお部屋にされたと思えば、今度はお母様を置いてお兄様と二人で地球に行けという。

 

そんな日々に耐えきれなかった私は、熱を出して倒れてしまい、急遽ジオン共和国中央病院へと運ばれる事になった。

 

病院では「風邪」と診断されてすぐ家に帰る事になったけど、帰ったらお母様と離れ離れになってしまうと思った私が病院の中庭でしょんぼりしているところに「何かあったのかな?ダイクン家のお嬢さん。」と声をかけてくれたのがギレンのおじさまだった。

 

眉なしのお顔がちょっぴり怖かったけど、お母様から人を見かけで判断しては駄目よ。と言われていた事と、この前ザビ家の人に助けてもらった事を思い出し、思い切って「今度お母様と離れ離れになってしまうかもしれないの……。」と打ち明けてみた。

 

すると、私の頭を撫でながら「大人の都合で嫌な思いをさせてすまない。どうなろうと必ずお母さんと一緒に暮らせるように取り計らおう。私に任せておきなさい。」と言ってくれた。

 

家に帰って暫くすると、ハモンお姉さんがお母さんと一緒に地球へ行けるようになった事を知らせに来てくれた。

喜びのあまり私が一緒に行けるようになった理由を聞くと、答えにくそうにギレンおじさまが支援してくれる事になった事を教えてくれた。

 

それから迎えに来た戦車にびっくりしてルシファが逃げ出したりとか色々あったけれど、それがきっかけでこうしておじ様と文通出来ているのだから、ひょっとしたらルシファはキューピットなのかもしれないわね。



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15話 UC0071年9月 ジオンの絆

サイド3 ギレン邸

 

やあ…諸君。ギレン・ザビ…ではない!

 

今日の俺は、現在ジオンで絶賛大ブーム中のアーケードゲーム「ジオンの絆」のエース、ライトニングカウントである!

 

メイと一緒に作っていたモビルスーツ操縦シミュレーターが完成して、ハマーン様と二人でプレイするのにも飽きてきたので国営アーケードゲームとして一般展開して、チームプレイを楽しむ事にした。

 

決してハマーン様に勝てなくなったので、自分より弱い対戦相手が欲しくなったからとかじゃないんだからね!

 

国営アーケードゲームとして展開するには、サスロが費用云々と小言を言ってきたものの、適当に言いくるめて広める事に無事成功した。

 

流石IQ240の頭脳は違うね。

 

ジオンの絆はランキング制のモビルスーツ操縦シミュレーターである。

 

プレイヤーは幾つかの機体(最初はモビルワーカーのみ)から自分にあった機体と装備を選び、チームによる対人戦又は難関ミッションの攻略を行い、その活躍度合いに応じて支給される戦功ポイントの総合値を毎月競いあうというものである。

 

その総合値が上位のプレイヤーには、専用のカスタマイズが許可されると同時にGNC社から報償金が支払われ、その最高額は何と一般人の平均月収の3倍近い100万クレジットである。

 

稼働初期こそ操作が実機とほぼ同じという操縦の難しさや、有限の弾薬、機体がやられるとその分戦功ポイントから引かれるというリアリティーの高さが問題となったものの、ワンプレイ100クレジットと言う低価格かつゲーム内で貯めた戦功ポイントからの支払いも可能という無茶な価格設定により大人から子どもまで大ブームとなった。

 

その中で俺は、ハマーン様とペアを組んでゲーム内でも有数のエースとして君臨していた。なお、誤解を生む前に言っておくが、ゲーム内では何一つチートはしていない。全て俺の実力の賜物である。

 

まあ、α版どころか前世?からずっと同じようなゲームをやりこんでいて、かつ、自宅から専用の媒体でやっているのは十分チートと言えるかも知れないが。

 

さて、ゲームはこれくらいにしてそろそろ仕事に戻るとするか。

 

一一一一一一一一一一一一

 

 

side サスロ・ザビ

 

 

「個人でモビルスーツ操縦シミュレーターを作ったのでアーケードゲームとして国民に提供するだと?!」

 

「そうだ、サスロ。私が自宅でメイに作らせていたモビルスーツ操縦シミュレーターが完成した。なのでこれを普及させて今後に備えようと思ってな。」

 

ある日、自作のアーケードゲームを国民に普及させたいとの相談を受けた俺は思わずギレン兄の正気を疑ってしまった。

 

「そんな事をしていったいどんな利益が出るというんだ兄貴!」

 

「わからんのか?このモビルスーツ操縦シミュレーターは実機と同じ操作を必要として、その上で実機と同じように動く。

つまりこのシミュレーターで機体を動かせるという事は、基本的に実機でも同じ動作ができるという事だ。」

 

「……。それがどうしたと言うんだ?」

 

「つまり、このシミュレーターが普及すれば、子どもから大人まで誰でもモビルスーツを操縦できるようになるという事だ。」

 

「……!なんだと?!」

 

「むろん機体にかかるG等の要素があるので完璧とはとても言えんがな。それでもモビルスーツ操縦の基礎を習得するのには十分な効果がある。現にジオ・マッド社では訓練用の教具としての導入がすでに決まっている。」

 

「そんな話は初めて聞いたぞ。」

 

「貴様は政治経済に集中して貰っているからな。知らないのも無理はない。

 

それにメリットは他にもまだある。

ざっとあげてもモビルスーツ用OSの開発に必要な操縦データの蓄積、対MS戦、対艦戦及び拠点攻略戦におけるモビルスーツ運用方法の検証、ジオン公国全国民の操縦適性の掌握、娯楽を提供する事による国民の支持といった効果が期待できる。

 

たかがアーケードゲームを普及させるだけでこれだけの効果が得られるのだ。安い買い物だとは思わんか?」

 

「それは…そうだな……。わかった。軍の広報活動の一環として普及させられないか検討してみよう。」

 

「うむ。頼んだぞ。」

 

最近兄貴が自宅でモビルスーツ操縦シミュレーターで遊んでばかりいると聞いて、何をしているんだと思っていたのだが…まさかこんな目的があったとは……。

 

以前ジオ・マッド社を作った時といい兄貴の視野の広さには驚かせられる。

 

俺も為政者としてもっと柔軟な発想をもたねばならんな……。

 

そう思いながらアーケードゲーム「ジオンの絆」を普及させるため、広報部に連絡を入れるのだった。



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16話 UC0072年2月 YMS-04ザク

やあ…諸君。新年あけましておめでとう。ギレン・ザビである。

 

時が経つのは早いもので、いつの間にか冬が終わり新しい年を迎えていた。

 

年末はア・バオア・クーがアステロイドベルトから地球に向けて出発した他は大きなイベントもなく、平穏な時間が流れていた。

 

ジオンの絆については、GNC主宰の全国大会の影響もあってか順調にプレイヤー数を増やしており、もう少ししたらランキング上位の人材を親衛隊にスカウトしようかと考えている。

 

……というかこのランキング1位のハンス・ウルリッヒ・ルーデルとか言うやつガンダムにいたっけ?

 

さて今日はYMS-03 ヴァッフで得られたデータをもとに開発していたYMS-04 ザクが完成したとの報告があり、ジオ・マッド社を訪れていた。

 

「あれがザクか?ミノフスキー博士?」

 

「はい。ギレン閣下。YMS-04 ザクはヴァッフに比べて機動性や運動性の面で多少劣っている部分がありますが、耐久性や整備性、運用性といった戦場で必要とされる要素を高い水準で備えております。

 

また、閣下から要望のあった脱出装置についても、脱出装置を兼ねた球形コックピットを採用する事で実現しており、高い生存性の獲得にも成功しています。」

 

「ふむ。それ以外にも私の出した要望を叶えてくれたようだな。」

 

見上げた機体には、本来機体内に無理やり収められていたはずの動力パイプが姿を覗かせていた。

 

「はい。閣下が言われたとおり動力パイプを無理に機体に納めると、廃熱問題により稼働時間に影響が出る事がわかりました。

そのため、必要に応じて動力パイプを機体の外に出すよう再設計し、あわせて背部のランドセルに火器類の保持や使用も可能なサブアームを装備することで利便性も向上しています。」

 

「これならば基地の警備や補給作業に使うには十分な性能だろう。至急量産に向けたテストに入れ。」

 

「承りました。」

 

俺がザクに組み込みたかったあるシステムを組み込めておらず、ジェネレーターの出力がまだ不足しているといった問題もあるので完璧とは言えないが、数を揃えるには少しでも早く量産に入った方が良いからな。

 

「今後はこのザクをベースに改良し、一般兵向けの一つの機種で様々な局面に対応させる事が出来る汎用機と、エースパイロット向けのピーキーな性能ながら圧倒的な機動力をもつ宇宙専用機の二種類を開発せよ。」

 

「このザクでもまだ閣下のご期待に添えませんか?」

 

「そんな事はない。それならそもそも正式に量産を命じたりなどせん。

だが強大な連邦軍と事を構える可能性を考えればより高い性能を求めるのは当然の事だろう?

それにまだこの機体にはモビルスーツ用のOSを搭載できていないしな。」

 

「それは…そうかも知れませんが……。」

 

「汎用機については旧ジオニック社のメンバーに、高機動機について旧ツィマッドのメンバーにそれぞれ開発させるのが良いかもしれん。

そう言えば新しい戦闘車両の開発についてはどうなっている?」

 

「……はい。ご案内します。」

 

ミノフスキー博士の後ろについて歩くと、目の前に何処かで見たような車両が姿を現した。

 

「こちらがMBT-01 マゼラタンクになります。」

 

アナハイムとの裏取引で入手した61式戦車の設計図をベースに開発されのがMBT-01 マゼラタンクである。

 

「ベースとなった61式戦車との大きな違いとして、155ミリ滑腔砲を1門にする代わりに高射機関砲を砲塔の左右に一門ずつ搭載しています。」

 

「ウム。例の件についてはどうなっている?」

 

「はい。外観は61式戦車と大分違いますが、中の部品は80%以上61式戦車と共通となっております。」

 

よし。これで破壊した連邦の61式戦車から部品取りする事で、現地で部品調達が可能となり補給線に優しい兵器になる。

 

「この車体についてはこれ以上性能向上を図る必要はない。次は、セイバーフィッシュの設計をベースにした汎用戦闘機を開発せよ。」

 

「……はい。そう言えばMS用のOSは我々の方で開発を進めてよろしかったですか?」

 

「いや、それについては私の方で手をうっておく。なので博士は機体の開発に集中してくれ。」

 

「了解しました。ではそのように。」

 

そういうと私はメイ嬢にOS開発を頼むためその場を立ち去るのであった。

 

 

一一一一一一一一一一一一

 

 

side メイ・カーウィン

 

 

「えーっ。今度はモビルスーツ用OSを開発して欲しいーっ!?」

 

「ウム。メイに作って貰ったモビルスーツ操縦シミュレーターは素晴らしい出来ばえだったのでOSについても是非とも頼みたくてな。」

 

プログラマーとして自分の仕事を誉められるのは嬉しかったけど、操縦シミュレーターを作る時の苦労を思い出すと気軽には引き受けられない。

 

「やっと操縦シミュレーターのプログラム作るのが終わったばかりだよ?ちょっとは休ませてよー。」

 

「それは…そうなんだが……。」

 

思わず私が抗議すると、ギレンさんは困った顔で眉をひそめてしまう。

 

あ、眉はなかった。

 

「よし。取引しようメイ。」

 

「取引?」

 

「そうだ。モビルスーツ用OSがある程度形になったら、OSのテストもかねて地球に連れていってやろう。」

 

「!?やる!」

 

思わず引き受けてしまう。それくらい私達スペースコロニーの住人にとって地球に行くことは憧れのひとつなのだ。

 

まあ操縦シミュレーターのデータを使えば一から作るよりは簡単に作る事ができる…かな?

 

まだ見ぬ地球への期待に胸を高鳴らせつつ、OSの開発作業にとりかかるのでした……。



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17話 UC0072年10月 ザク対ザク

サイド3宙域 ムサイ級巡洋艦「ニャメル」

 

やあ…諸君。ギレン・ザビである。

 

今日はモビルスーツ運用のために設立した教導機動大隊の視察に来ている。

 

 

【挿絵表示】

 

 

教導大隊はジオンの絆の上位ランカーとジオン軍から俺がスカウトしてきた人材で構成されており、将来的には俺の手足となって働いて貰う予定だ。

 

今日は視察という事もあり、サイド3近郊の暗礁宙域でザクの運用データを収集に来ていた。

 

「ギレン閣下。準備はよろしいですかい?」

 

「ああ、シーマ大尉か。世話をかけるな。」

 

「いえ、とんでもない。アタシらマハルのごろつきを親衛隊に呼んで頂いたご恩返しが出来るなら、足くらいいくらでもさせて貰います。」

 

「ふん。貴様の事は貴様以上に知っているつもりだが?私が求めているのは腕と度胸のある精兵であり、貴様らはそれに応える力を持っている。それを誇るが良い。」

 

パイロットの他にも指揮官として高い能力をもち、状態によっては外交までこなせるであろうシーマ様を、紫婆の所で遊ばせておく余裕などジオンにはないのだ。

 

「へ?…。そ、それは……。ありがとうございます。」

 

作品によっては裏切り者扱いされるシーマ艦隊だが、基本的に上層部の命令に従っていただけであり、一年戦争終了後も部下のために必死に頑張る姿は正にガンダム0083の正ヒロインと言える。

 

え?ニナ?誰ですかそのビッチは?

 

「ウム。それではテストを開始してくれ。」

 

「はい。それでは模擬戦を始めます。テスト機、出撃しな!」

 

「エリック・マンスフィールド、出撃する。」

 

「エーリヒ・ハルトマン。ザク出るぞ!」

 

ムサイのカタパルトが起動し、艦の前方に2機のザクが射出されていく。

 

やはり後方のハッチからそのまま出撃する形だった設計を変更させて、艦の左右にカタパルトを備えたデッキを増設したのは正解だったな。 

 

発艦した2機のザクはムサイからある程度の距離をとると、互いにスラスターを発光させ模擬戦を開始した。

 

「ほう。ザクはヴァッフに比べて機動性や運動性が低下していると聞いていたが、よく動くな。」

 

「はい。マンスフィールド機には木星エンジンの試作型を、ハルトマン機にはモビルスーツ用OSのβ版を搭載しておりますので。」

 

「木星エンジンだと!?強度は大丈夫なのか?」

 

それって確かヅダを空中分解させたやつだよね??

 

「はい。初期は問題もあったらしいですが、元ジオニックの技術者の協力もあり、今ではとくに問題ないと聞いとりますが……?」

 

「ふむ…、まあそれなら良いが。だが今回はあくまでも模擬戦闘である。両機にあまり無理をしないよう伝えろ。」

 

「畏まりました。」 

 

大丈夫だとは思うが公的飛行試験中に空中分解でもされたらたまらんからな……。

 

 

一一一一一一一一一一一一

 

 

side エリック・マンスフィールド

 

ハルトマンの機体から放たれた試作型ザク・バズーカの280mm砲弾を、自機が構えたザク・マシンガンの弾幕で迎撃する。

 

試作型ザク・マシンガンからばら撒かれた無数の120mm弾の一つがザク・バズーカの砲弾をとらえ、宇宙にCGの火の玉が出現し俺の視界を奪った。

 

爆炎の向こうで何かが光るのを見て咄嗟に試作型の大型シールドを突きだすと、爆炎を突き抜けて現れた105mmザク・マシンガンの弾丸が突き刺さった。

 

「この私が先手を許すとはっ……。!」

 

相手に先手を許した事に軽く舌打ちしすると、此方も負けずに大型シールドの影からザク・マシンガンを相手に向けて連射する。

 

ザク・バズーカとザク・マシンガンを両手に持ち手が塞がっているハルトマン機であったが、機体後方から伸びてきたサブアームがシールドを掲げて此方の射線を遮った。

 

「くそっ……。」

 

相手の射撃武装は105mmザク・マシンガンとザク・バズーカの2つあるのに対して此方の射撃武装は120mmザク・マシンガン1丁のみ。

 

しかし、こちらの大型シールドには多くの予備弾倉を搭載しており、シールドの耐久性も優れているため継戦能力では此方が上。

 

「さて、どうしたものか……。っ!!」

 

長期戦を狙って浮遊する隕石に身を隠そうとする俺に対し、相手はそうさせまいとザク・マシンガンを乱射してくる。

 

しかし、先ほどは爆炎で相手が見えてない状況で射撃されて焦ってしまったが、銃口がよく見えている状況であれば口径が小さく威力の低い105mmザク・マシンガンはそこまでの脅威ではない。

 

相手の射撃を躱しつつ、このまま相手の弾切れを狙うか…そう思った時、ハルトマンは勝負に出てきた。

 

「何だと…!?」

 

弾の切れになったザク・マシンガンを此方に向けて投げ捨てたハルトマン機の右手には、巨大な棍棒のようなものが握られていた。

 

「シュツルム・ファウストか!!」

 

危険を感じてGが掛かるのも構わず、木星エンジンを吹かして機体を後方へ緊急回避させる。すると俺がいた場所に巨大なCGの火の玉が出現していた。

 

危なかった……。そう思う暇もなく、今度は爆炎を突き破って右手にヒートホークを手にしたザクが現れる。

 

「こいつ、あの爆発を突っ切ってきただと!?」

 

だが、咄嗟にかざした左手の大型シールドにヒートホークが食い込んで止まると、此方もその瞬間を狙って至近距離からのザク・マシンガンによる射撃で倒そうと機体を動かす。

 

しかし左手に持っていたはずのザク・バズーカをいつの間にか手放していたハルトマン機の左手に自機の右手を押さえられてしまい、射撃することはかなわなかった。

 

「ちぃっ……。一度距離をとらねば……。!??…なんだと!?」

 

同じ機体であるが故にパワーが拮抗し、それに焦った俺が距離をとろうと動いた瞬間、ハルトマン機のサブアームがいつの間にか構えていたバズーカから砲弾が放たれ俺の機体を直撃し、模擬弾の命中を認識したコンピューターが機体の動きを強制停止させたのであった…。



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18話 UC0073年2月 YMS-06 ザクⅡ

サイド3 ジオ・マッド社研究所

 

やあ…諸君。新年あけましておめでとう。

最近シリアスなシーンが多いのでそろそろアイナ嬢にセクハラのひとつもしてみたいギレン・ザビである。

 

というかずっと同じ家で暮らしているのに、屋敷が大きすぎて着替えシーンに遭遇とかが一度もないので大きいのも考えものだ。

 

昨年アステロイドベルトを出発したア・バオア・クーが、今月の初めにサイド3宙域に到着した。

 

ちょうどキシリアから連邦の情報部がジオ・マッド社周辺をうろついているとの報告が上がっていたため、開発拠点をア・バオア・クーに移す事が決まり、現在引っ越し作業の真っ最中である。

 

「忙しいところにすまんな、ギニアス。」

 

「とんでもありませんギレン閣下。閣下がお呼びとあればどこへでも喜んで参りましょう。」

 

「アイナといい貴様ら兄妹には世話になってばかりだな。今後とも頼りにさせて貰う。」

 

「過分なお褒めの言葉をいただき、身に余る光栄でございます。今後も全力で努めてまいります。」

 

「ウム、まあ体に無理のない程度にな。さてそれでは現在の状況について説明してくれ。」

 

「はっ。まず此方が今回完成した連邦のセイバーフィッシュのデータを基に開発した全領域型多用途戦闘機『F-1 セイバードップ』です。」

 

そう紹介されたのは上から見れば「山」の字に見えそうなドップとは似ても似つかぬ航空機だった。というかあの両翼の端についてる巨大な板状のものは何だ?

 

「装備の換装により宇宙、地上問わず運用が可能なうえ、防空、対艦、偵察等あらゆる任務に対応可能な機体となっております。

また、閣下のアイデアから開発したムーバブル・バインダーにより高い機動力の獲得に成功し、地上における垂直離着陸さえ可能となっております。」

 

「ムーバブル・バインダー?」

 

「はい。セイバードップは機体の両翼端にガトリング砲1基とスラスター2基を内装したバインダーが取り付けられており、このバインダーのフレキシブルな可動により、従来の航空機とは比較にならない様々な挙動をとることが可能となっております。」

 

どうやらセイバーフィッシュの設計図を渡す時にギャプランの話をしたのがこうなった原因のようだ。

まあギャプラン改と似たような設計なのに強化人間専用機とかにならなくて良かった。

 

「性能はどうなのだ?」

 

「運動性こそモビルスーツには及びませんが、機動性ではMS-04を上回るものとなっております。」

 

「それはかなりのものだな。よし、それでは至急量産体制に入れ。モビルスーツの開発についてはどうなっている?」

 

「ご案内します。」

 

案内された先にあったのは、どことなく狼をイメージさせる細身のシルエットのモビルスーツだった。

 

「此方がエースパイロット向けに開発中のYMS-05 ヅダになります。

MS-04をベースに旧ツイマッド社のチームが開発した木星エンジンを搭載する事でMS-04の2倍程度の機動力の獲得を目指しています。

ただ、現時点では機体の耐久力がエンジンの出力においつけておらず、先日のテストで危うく自損しそうになってしまったため現在再設計中です。」

 

「ウム。時間をかけても構わないのでヅダる事のない機体に仕上げてくれ。」

 

「?…。ヅダるでありますか?」

 

「あまりの加速に耐えられず、機体が自壊したりすることがないようにという意味だ。一般兵用の機体についてはどうなっている?」

 

「YMS-06 ザクⅡについては現在試作機を製作中です。ザクIのジェネレーターを改良する事で大幅な出力の向上に成功しており、それによって生じた余力を性能向上に使う事で2割程度の性能向上が見込まれています。」

 

「汎用性についてはどうなっている?」

 

「汎用性についてはほぼ無改造で宇宙、重力下、短時間なら水中戦にも対応可能となる予定です。試作機が完成次第、アクシズと地上で運用テストを行う予定です。」

 

 

【挿絵表示】

 

 

十分な性能だとは思うが、ザクとしてまだ完璧ではない。どうせ「ザク」の名を冠する機体を開発するなら、宇宙世紀以外からも良い部分を取り入れねばな。

 

「フム…、それではまだ不十分だな。」

 

「不十分…でありますか?」

 

突然の言葉に戸惑うギニアスに向かい言葉を続ける。

 

「そうだ。環境への適応力という意味では十分な性能だが、単一の機種で様々な戦局に対応させるという意味ではまだ不十分だ。」

 

「しかし閣下、モビルスーツは既にマニュピレーターの採用により様々な装備に換装可能であり、それによりどのような戦局にも対応が可能です」

 

 

【挿絵表示】

 

 

まあそれはそうなんだけどね。

 

「確かにモビルスーツは人型の兵器だが、それに囚われすぎる必要はない。例えば背中のバックパックに高機動戦や砲撃戦向け等の特化機能を付与し、その任務に適したバックパックに換装する事で、あらゆる戦局に柔軟に対応させることが可能になるのではないか?」

 

「確かに技術的には十分可能だと思いますが…。」

 

正史でも高機動型ゲルググで実用化されている技術なので間違いなく可能である。

だがどうせバックパック換装機能を持たせるならば、やはりジオンの主力になるザクⅡに持たせるべきだ。

 

「そうすればバックパックひとつ換装するだけでモビルスーツに機動歩兵や砲兵、工作兵、偵察兵、降下猟兵といった様々な特性を付与する事ができようになる。

それは今後色々な戦局に対応せねばならない我が軍の助けに必ずなるだろう。」

 

「……。設計を一からやり直す必要があります。

また、開発の為に色々なデータを追加で取得せねばなりません。それ故にかなりお時間を頂く事になると思いますが…よろしいでしょうか?」

 

まだ開戦まで6年近くあるし、量産する時間を考えてもまだ大丈夫…のハズだ。

 

「3年を目処に量産に至れるように開発を進めよ。無論途中経過については逐次報告するように。」

 

「はっ!ジーク・ギレン」

 

さて…それじゃ家に帰ってリアルモビルスーツを操縦して遊ぶ…じゃなかった。テストパイロットとしてモビルスーツ用OSの為のデータ収集をするかな。

 

いやぁ忙しいなぁー。?え、どうしたメイ?テストパイロットについて相談がある??

 

一一一一一一一一一一一一

 

side

ギニアス・サハリン

 

「ザクⅡの設計を一からやり直すだと!?」

 

ミノフスキー博士から出た悲鳴はある意味当然のモノであった。私が彼の立場であっても恐らく同様に悲鳴をあげていただろう。

博士が声を上げる程に、ザクⅡの設計は高いレベルでバランスがとれており、恐らく名機と呼ばれてもおかしくない程の出来映えであったからだ。

 

「そうです。本日ギレン閣下に設計案をお見せしたところ、基本的な性能は十分だが汎用性が不足しているとの判断を下されました。」

 

「宇宙、地上、短時間なら水中でも稼働できる機体で汎用性が足りないとは、次は空でも飛ばせと言うのか!?」

 

「それも悪くないと思いますが、ギレン閣下から頂いたアイデアは、背中のバックパックに様々な任務に対応した特化機能をもたせ、それを換装する事で様々な戦局に対応できる汎用性をザクⅡに持たせるという事でした。

そうする事でザクⅡは、単一の機体でありながら白兵戦から砲撃戦まで様々な任務に対応可能な真の万能機となります。」

 

ギレン閣下から伺ったアイデアを説明すると、ミノフスキー博士と一緒になって抗議の声を上げていたスタッフの中にも理解を示す者が現れはじめた。

 

納得して貰えたか…、私がそう思ったその時、ミノフスキー博士の口から予想だにしない言葉が発せられた。

 

「……。確かに素晴らしいアイデアだ。技術的にも十分に可能であろう。しかしギニアス、我々は研究者だ。

いつもギレン閣下が出される『答え』のようなアイデアに頼るのではなく、未知へと挑み、ひとつひとつ自分たちの力で問題を解決していく事が大切なのではないか?」

 

ミノフスキー博士の問いかけは、確かにひとつの真実を示していた。

 

ジオ・マッド社の誕生以降、モビルスーツをはじめとして完成したもののほとんどは、ギレン閣下から示された具体的なイメージを基に開発が進められてきたものばかりだった。

 

それらは本来、研究者が試行錯誤の上で形にしていくべきものであるにもかかわらず、閣下から具体的な形で「アイデア」が示され、それに基づいて進められた研究は、どれもが最初からそうなる事が決まっていたかのように成功を収めてきた。

 

故にミノフスキー博士の懸念には私も理解できる部分があった。しかし……。

 

「私も研究者として、博士の懸念には理解出来る部分があります。しかし博士、ギレン閣下は博士の言う未知への挑戦を禁止されている訳ではありません。

現に私が提案させて頂いた、メガ粒子砲とミノフスキークラフトを搭載した地上用大型機動兵器の研究も始まっています。」

 

「それは…そうなのだが……。」

 

「ザクⅡのバックパック換装システムについても、より良い案を提示することができればそちらを採用して頂く事も可能になるでしょう。

閣下の案と並行して改良案を検討していくという形で納得して頂く事はできませんか?」

 

「……。そうだな。詮無き事を言ってしまった。忘れてくれ。」

 

多少ひっかかりはあるようだが、なんとか納得してくれたようだ。しかし博士があのように思っていたとは……。大丈夫だとは思うが念のため閣下へ報告を入れておくとしよう。

 

全てはギレン閣下の為に。



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19話 UC0073年6月 師団編成 ◼️

15話~19話を更新しました。

15話~18話はあまり大きな変化はありませんが、挿し絵の追加や細々とした部分を修正しておりますので読んで頂ければ嬉しいです。

また、前作同様誤字脱字や文脈の修正、ネタの提供や感想等を頂けると嬉しいです。

カド=フックベルグさん、CBさん、あんころ(餅)さん、誤字等の修正ありがとうございます


サイド5 テキサスコロニー

 

やあ…諸君。ギレン・ザビである。

 

今日は地上での部隊運用の研究の為、テキサスコロニーへと来ている。

 

宇宙での部隊運用については、教導大隊の頑張りによってだいぶ形になってきたものの、地上での部隊運用については研究が始まったばかりだった。

 

国力に劣るジオンは、モビルスーツの優位性を活かした短期決戦を挑むべきであり、長期戦が予想される地上での戦いは本来避けるべきものである。

 

だが、原作では「コロニー落とし」という暴挙をおこなってまで短期決戦を目指したものの、それでもなお早期講和は実現しなかった。

 

そうである以上、地上での戦いに備えた研究は必要不可欠なのである。

 

占領するべき場所が宇宙港や管制室に限られる宇宙での戦いと違い、広大な地上をモビルスーツだけで制圧する事は不可能である。

 

仮に敵の地上部隊をモビルスーツで撃破したとしても、残党に拠点へ立て籠られてしまえば、モビルスーツでそれを倒すことはできないからである。

 

……まあ建物ごと粉砕する事はできるかもしれないが。

 

それにモビルスーツがいくら強力だといっても数には限りがあり、また、常時稼動させておく訳にもいかない以上、地上の拠点を制圧するには歩兵の力が必要不可欠である。

 

そのためジオン軍では、有視界戦闘下で高い機動力と圧倒的な戦闘力をもつモビルスーツが前衛となって敵の戦線を突破し、続く歩兵を中核とした部隊が残敵を掃討して占領する作戦を検討していた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

そしてこの作戦を遂行する為に、ジオンでは大きく3つの部隊編成が考えられていた。

 

まずひとつ目は、敵の主力を撃破して戦線に穴をあける事を任務とするMS連隊である。

 

 

【挿絵表示】

 

 

MS連隊は6個MS小隊と支援中隊で構成されており、モビルスーツの機動力と戦闘力により電撃戦の主力となる部隊である。

 

ふたつ目はMS連隊の開けた穴から占領地の拡大を行ったり、前線と後方をつなぐ連絡線の維持を任務とする機動歩兵連隊である。

 

 

【挿絵表示】

 

 

機動歩兵連隊は1個MS小隊と4個自動車化歩兵大隊で構成されており、電撃戦ではMS連隊の支援が主な任務となるであろう。

 

みっつ目は前線の維持や、残敵の掃討を主な任務とする歩兵師団である。

 

 

【挿絵表示】

 

 

歩兵師団は1個MS小隊と1個戦車大隊、8個歩兵大隊で構成されており、今回行った模擬演習では、歩兵とMS、戦車の連携により連邦軍を模した機甲師団が相手でも互角の戦いができていた。

 

これら3つの編成を複合的に運用して、敵主力の包囲殲滅又は各個撃破していくのが我がジオン軍の基本戦術であり、連邦のモビルスーツが完成するまでにどれだけ戦果を得られるかがひとつの分かれ目となるだろう。

 

さて、それじゃあせっかくテキサスコロニーまで来た事だし、アルテイシアのところへ顔を出してから帰るとするかな。

 

そう思ってテアボロの屋敷へと向かうと、屋敷の前で後ろから聞こえる蹄の音に気づき、振り返ってみれば馬上から金髪の少女が飛びついてきた。

 

「ギレンおじ様!」

 

飛びついてきた少女を抱き留めると、そこには病院のベンチで俯いていた少女の面影はなく、一人の美しい女性へと姿を変えつつあるアルテイシアの姿があった。

 

「また大きくなったな。見違えたぞ、セイラ。」

 

「ありがとう。でもおじ様のお顔はあんまり変わらないわね。私はそのお顔も渋くて好きだけど、たまには笑顔になっても良いと思うわ。」

 

「以前やってみたのだが、娘のメイから悪人が悪巧みをしているようにしか見えないと言われてな。」

 

「まあ……。でも、以前おじ様が笑ったお顔を思い出すとメイさんの言う通りかもしれないわね。」

 

………酷い言われようである。まあ、笑顔の練習をしたときに自分でもそう思ったので反論できないが。

 

そんな風にアルテイシアと話していると、先程同様軽快な蹄の音が聞こえてきた。

 

「男性に抱きつくなどはしたないぞ、セイラ。離れなさい。」

 

声の方に顔を向けてみれば、アルテイシア同様に大きく成長したキャスバルが、馬に跨がり此方を見下ろしていた。

 

子供の頃は美少年、大きくなっても美形とか、ダイクン一家とザビ家とのビジュアル差を神に抗議したい気分である。

 

そう思いながら、キャスバルと親睦を深めようと軽く挨拶してみたものの、

 

「こんなコロニーで軍の演習などして、いったい何を企んでいるのですか?ギレン・ザビ閣下?」

 

という塩対応である。刺のある言い方からやはりザビ家の事は嫌っているようだった。

 

くそ……。アルテイシアとはそれなりに仲良くなれた気がしていただけに、ここまで嫌われているとはちょっぴりショックだ。

 

まあ原作程に嫌われていない事を祈るとしよう……。

 

一一一一一一一一一一一一

 

side エドワウ・マス

 

一緒に遠乗りに出かけていたアルテイシアが、屋敷の前に立つオールバックの男を見つけて駆け寄ると、自ら馬上からその男の胸へ向け飛び込んで行った。

 

男の名はギレン・ザビ。ジンバ・ラルによれば、父を殺し、ジオンを私物化したザビ家の長男である。

 

その話を鵜呑みにしている訳ではないが、ザビ家のせいで私達一家がサイド3から逃げ出さねばならなくなったのは紛れもない事実であり、その事を考えるといくら色々な支援をしてくれているとはいえ、その男を好きになる事はできなかった。

 

だが母と妹の意見は違うようで、特に母と一緒に暮らすという願いを叶えてもらったアルテイシアは、この男に対して好意さえ抱いているようだった。

 

その事実が気に入らず、ギレンと楽しそうに話すアルテイシアに対して声をかけると、仏頂面の男が此方に声をかけてきた。

 

「久しいな、キャスバル。いや、今はエドワウだったか?」

 

そう話す男の目は鋭く、まるで私の心を見透かそうとしているようだった。

 

その視線を警戒した私が話題を変えようと、先程遠乗りをしている時に見かけた軍の演習について聞いた。

 

「無論連邦との戦いに備えた演習だよ。」

 

すると、なんでもない事のようにそう答えてきた。

 

……この男はまさか30倍以上の国力をもつ連邦を相手に戦争をしようというのか?思わず私がそれについて問いただすと、

 

「我らザビ家がダイクンの跡を継いだ以上、連邦との戦いは避けられないものだからな」

 

そんな返答があった。

 

それを聞いた私が、父の跡を継ぐべきは私だ。何故貴様らが…。私がそんな風に思っていると、

 

「父の跡を継いだのが自分でない事が不満か?」

 

と、まるで私の心を読んだかのような事を言ってくる。

 

返答に窮した私が沈黙していると、

 

「今のムンゾに必要なのは力強い指導者だ。

そしてザビ家がダイクンの跡を継いだのは、ムンゾでダイクンに次ぐ実力を有していたのが我らザビ家だったからなのだ。キャスバル。

それが不服だと言うのなら強くなれ。」

 

オールバックの仏頂面の男が、唯でさえ鋭かった眼光を更に鋭くさせながら更に言葉を繋げる。

 

「仮に今のお前がダイクンの後継を名乗ったところで、ムンゾの民の多くは何の実績もない貴様を支持しようとは思わないだろう。

魔法帝…ではなく、ムンゾの指導者に求められるのはただ一つ…最高の指導者と言わしめる実績なのだ。」

 

そう言うと男は、アルテイシアと共に屋敷の中へと姿を消していった。

 

実績……。確かにダイクンの子供であるという事以外に誇れるものがない今の私に付いてくる者など、そう多くないのかもしれない。だが一体どうすれば実績を積めるのだろうか……。



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20話 UC0073年7月 アイナ・サハリン

ある程度まとまってから更新しようか迷いましたが、修正したものから順にアップしていこうと思います。


サイド3宙域 MS-04コックピット内

 

やあ…諸君。ギレン・ザビである。

今日はモビルスーツ用OSのデータ収集の為にサイド3宙域に来ている。

 

しかし宇宙ではやはり着艦が一番難しいな。発艦はカタパルトで打ち出すだけだし、障害物がない宙域なら危険もない。

 

着艦の際にガイドビーコンを使えれば簡単なのだが、母艦を沈められては困るのでそういう訳にもいかない。

 

「アイナ。着艦はもう少し相対速度を落としてからだ。機体をもう少し減速させろ。」

 

やはりドロスのような大型空母を建造するべきだな。

 

主砲を外して、GNC用の超大型輸送艦という名目にしておけば連邦も文句は言えないだろう。

武装はアルカナ級と同じく後で搭載すれば良いし。

よし、帰ったら早速ジオ・マッド社に発注しよう。

 

「そう、その調子だ。そこでスラスターを少しだけ吹かして……。」

 

そのまま、ニャメルの後部ハッチの中へ……。うん、上手く着艦できたな。

 

「それで良い。初めてにしては上出来だ。

これで発艦から着艦まで一通りの流れを行ったので、少し休憩したらもう一度同じようにいくぞ。」

 

ふぅ……。そろそろ現実逃避はやめるとしよう。

 

先日、メイからテストパイロットを増やして欲しいとのオーダーがあった。

 

話を聞けば、俺やハマーンのデータは操縦技術が高すぎて新兵が操縦する際の参考にできず、操縦経験のないテストパイロットを用意する必要があるという話だった。

 

どうせなら身近な人が良いというメイの意見でアイナがテストパイロットをする事になり、そしてアイナの要望で俺が操縦を教える事になって気がつけば、νガンダムに二人乗りしたアムロとチェーンのようにザクのコックピットの中で密着している。

 

童貞の俺にこの距離は近すぎるのだが、どうしてこうなった。

 

「ありがとうございます。ギレン閣下。お陰で無事に着艦する事ができました。」

 

「なかなかセンスが良い。このまま訓練すれば、一人で操縦出来る日もそう遠くはないだろう。」

 

流石は原作でも高機動型ザクやアプサラスのパイロットをしていただけの事はある。

 

「ありがとうございます……。ふぅ……。空調の調子が今ひとつなのかしら?汗をかいてしまいましたわ。」

 

おい、そう言いながらノーマルスーツの胸元をあけるな。目がそちらにいって訓練にならないではないか。

 

「ドリンクがあるが、飲むか?」

 

「頂きます……。はぁ……。暑いのは嫌ですが、飲み物が美味しくいただけるのは、良いことですわね。」

 

くそ……。ただストローを咥えているだけなのに、この距離でアイナ程の美人がするとエロく感じてしまう。

 

このままだと違う意味で危険な気がするので、さっさと訓練にもどる事にした。

 

「それではもう一度出るぞ。ブリッジ、カタパルトの用意を。メイ、データとりは大丈夫か?」

 

「こちらブリッジ、カタパルトは何時でも大丈夫ですぜ閣下。」

 

「データは順調にとれているよー。次はさっき側を通ったアステロイドに着地させて欲しいな。」

 

「了解。出来るか?アイナ。」

 

「は、はい、やってみます。アイナ・サハリン、出ます!」

 

合図とともにカタパルトが起動し、機体が急激に加速していく。

 

「くうっ……。」

 

俺からすればたいしたことのない加速だが、経験のないアイナにはキツイのだろう。

 

「大丈夫か。アイナ?」

 

「は…い。大丈夫…です。」

 

「無理をするなよ。力が入りすぎている。」

 

未だに緊張しているのか、操縦レバーを激しく動かしてしまい、機体を大きく揺らしてしまうアイナ。

 

俺はその手の上に自分の手を重ね、操縦レバーをゆっくりと動かす。

 

「操縦は繊細に。全力でレバーを動かすのは、敵の攻撃を緊急回避する時ぐらいだ。」

 

そうすると、先程まで激しく左右に揺れていた機体が、嘘のように安定しはじめた。

 

「ありがとうございます。ギレン閣下。」

 

「大したことではない。それよりもう少しで目標のアステロイドだ。アステロイドへの着地は、着艦と同じで相対速度さえ気を付ければ危険なものではない。」

 

「はい。ギレン閣下。」

 

しかし、折角二人きりなのにギレン閣下だと、何処か他人行儀な感じがするな……。

 

それなりに長い付き合いだし、そろそろ二人きりなら呼び捨てでもよくね?

 

「後、そうだな……。二人きりの時はギレンと呼び捨てで良いぞ。アイナ」

 

「え?……。そ…それは?!……!!」

 

「!?ま、待て、そこでそんなにスラスター吹かしては…アステロイドに、つっ……!」

 

【悲報】ザクの脱出装置の使用者第一号はギレン総帥

 

アステロイドにぶつかった衝撃でザクの脱出装置が起動してしまった……。

まあどうせそのうち脱出装置のテストをするつもりだったのでちょうどよい機会だったと思う事にしよう。

 

やはり思いつきで行動すると痛い目をみるな。

 

その後、メイに機体を壊した事を怒られたものの、最後にギレンさん達が無事で良かった…。との言葉を聞いて心の中でガッツポーズをしたのは内緒だ。

 

そんなやり取りをしていると、衝撃で意識を失っていたアイナが目をさました。

 

「大丈夫か?アイナ」

 

「はい……。ギレン…様。機体を壊してしまい、申し訳ありません……。」

 

「よい。私の方こそ突然おかしな事を言ってすまなかったな。呼び捨ては難しかったか?

まあ、アイナの好きなように呼んでくれれば良い。

それくらいはお前の事を信頼していると言う事だ。」

 

そう言うと俺は、無意識にアイナの頭を撫でていた。

 

「……ッ。なっ」

 

ん……?まさかこれって…セクハラ?しまった!

 

「っと、すまない。」

 

「あ、いえ、その……。」

 

「ガルマが失敗した時に撫でてやると、すぐに落ち着いたのでな。癖で思わず撫でてしまった。すまんな。」

 

「あ、その、はい。大丈夫です。」

 

まあ本当はガルマではなくて、実家の妹が落ち込んだ時にこうしてやっていたのだが。

 

そんなことを考えていたせいか、アイナが赤い顔をしながらつぶやいた言葉が上手く聞き取れなかった。

まぁ特に怒っていないようだし、それほど気にする程の事でもないだろう。

 

そうこうしているうちに護衛のハマーンのザクが現れ、その手に抱えられる形で俺達はニャメルへと帰還するのだった。

 

……その夜、何故かアイナが夜着で寝室に現れ、俺は二人で夜明けのコーヒーを飲むことになる。

 

一一一一一一一一一一一一

 

side アイナ・サハリン

 

「モビルスーツ用のOS作成のテストパイロット?」

 

「うん!アイナお姉ちゃん興味があるんじゃないかと思って。

ほら、ギレンさんとジオンの絆を作っている時、アイナお姉ちゃんだけ仲間外れみたいな感じになっちゃってたでしょ?

それで今度は一緒にやれたら良いなと思って。」

 

メイちゃんの言葉に思わず心の奥が温かくなりました。

 

ジオンの絆をしている時のギレン閣下は、まるで別人のように楽しそうにされていて、その姿を一人横目で見ながら家事をするのが寂しかったのは本当の事でしたので。

 

「ありがとう、メイちゃん。とても嬉しいわ。でも私にテストパイロットなんてできるかしら?」

 

「メイ達は、誰でもモビルスーツを操縦出来るようにするためにOSを作ってるんだから大丈夫に決まっているよ。

それにわからない事があれば、ギレンさんに教えて貰ったら良いと思うな。」

 

ギレン閣下に教わりながらモビルスーツの操縦を覚える。

 

閣下の事を知る前の私なら絶対に嫌だったであろう事が、今の私にはとても素敵な事に思えるのが不思議でした。

 

それからトントン拍子に話は進み、閣下やハマーンさんのお陰でシミュレーターでの訓練は無事終了し、いよいよ実機で訓練する日がやってきました。

 

シミュレーターと実機の違いはGの大きさ位と聞いていたのですが、実際に乗ってみると全く違いました。いえ、確かに操縦方法はシミュレーターと同じなのですが……。

 

閣下との距離が近すぎです!真後ろから閣下の息がかかりそうな距離って何ですか!?

 

え?メイ特製の二人羽織コックピットの乗り心地はどう?ですって?

 

近すぎです!メイちゃん!落ち着いて操縦出来ません!

 

二人の関係進展の為に頑張ったんだよー。ご褒美期待してるね!

 

これは……。しばらくの間はご褒美としてメイちゃんが苦手なニンジン尽くしのご飯にしてあげる必要があるようです!

 

私が心の中でメイちゃんへのお仕置きを考えている間にも時間は進み、いよいよ実機での訓練が始まりました。

 

始まる前は閣下とのあまりの距離の近さに戸惑いましたが、始まってみれば緊張はしたものの、何とか母艦であるムサイまで戻ってくる事ができました。

 

ふぅ……。あまりの緊張のせいか、温度調整されているはずのコックピットがとても暑く感じます。思わずノーマルスーツの胸元をあけると、だいぶ涼しくなって緊張もほぐれてきました。

 

私が深呼吸をして息を整えていると、みかねた閣下が飲み物を出してくださいました。受け取った私がストローを口にすると爽やかなオレンジの甘さが心を落ち着かせてくれます。

 

胸元をあけて、飲み物を飲む事で一息ついた私でしたが、その直後に自分が飲んでいたボトルを先程まで閣下がお飲みになっていた事を思い出してしまい、気恥ずかしさのあまり折角冷えた体がまた暑くなってしまいました。

 

その後、またカタパルトが起動して再度宇宙に出たのですが、先程の事が頭にちらついてしまい、なかなか操作に集中出来ません。

 

そんな私をみかねたのか、閣下が後ろから優しく私を導いてくださいます。

 

お陰で私の緊張も幾分かほぐれ、何とか機体を操縦出来るようになりました。

このままなら上手くアステロイドに着地できそう。私がそう思った時でした。

 

「後、そうだな……。二人きりの時はギレンと呼び捨てで良いぞ。アイナ」

 

「え?……。そ…それは?!……。!!!」

 

閣下の突然の言葉に混乱してしまった私は、思わず機体のスロットルを全開にしてしまい、目の前にあったアステロイドに機体をぶつけて意識を失ってしまったのでした……。

 

……、衝撃でどれだけ気を失っていたのかわかりませんでしたが、聞いた話によると意識がなかったのは3分ほどだったそうです。

 

その僅かな間に機体は大破してしまい、作動した脱出装置によりコックピットごとギレン閣下と……。いえ、ギレン様と二人で宇宙を漂っていました。

 

私が意識を失っている間もギレン様は母艦と連絡をとられていたようで、すぐに迎えが来るからそれまでゆっくり休んでいるよう指示されました。

 

私が機体を壊してしまった事の謝罪をすると、

 

「よい。私の方こそ突然おかしな事を言ってすまなかったな。呼び捨ては難しかったか?

まあ、アイナの好きなように呼んでくれれば良い。

それくらいはお前の事を信頼していると言う事だ。」

 

そう言いながら、私の頭を優しく優しく撫でてくださいました。その行為がどれだけ私の心に響いたか知らない穏やかな表情で。

 

ギニアス兄さんが私を庇って不治の病となり、母がわたくし達兄妹を捨ててサハリン家を出てからというもの、私はサハリン家の為に生きている人形のようでした。

 

そんな日々から私を解放し、人形ではなく人として『私』を必要としてくれ、人間味のある言葉をかけて信頼する事で救いだしてくれた人。

 

私はその人に恋をしていました。

 

貴方がいなければ、こうして温かい言葉とともに頭を撫でてくれる幸せを私は知らなかったでしょう。

 

だから愛しています。

 

例え貴方がザビ家の長男という、雲の上のような存在であってもそれは変わりません。

 

だから伝えようと思います。

あなたの力になりたいという私の気持ちを。

 

今、私の胸の中にあるこの溢れる思いを。



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21話 UC0074年2月 YMS-05ヅダ

サイド3宙域 グワダン級超大型戦艦「グワダン」

 

やあ…諸君。新年あけましておめでとう。ギレン・ザビである。

 

今日は先日完成したYMS-05ヅダの評価試験のため、同じく完成したばかりのグワダンに乗ってサイド3宙域へと来ている。

 

グワダンは、単艦で艦隊クラスの戦力と戦える戦闘能力の獲得をコンセプトにした超大型戦艦である。

 

そのサイズは全長700mとガンダムの歴史上でも有数の大型艦であるが、元々惑星間航行船として開発した経緯から航行能力と居住性に多くを割いており、火力については大型連装メガ粒子主砲×2、連装メガ粒子砲×10、単装メガ粒子砲×4と大きさの割には控えめである。

 

一方、モビルスーツ運用能力については、艦体上部にMS2機を同時射出できるカタパルトが2基、下部にMSを任意の方向に射出させることのできるMSランチャーを備えており、100機近い搭載数と相まって極めて高い。

 

まあ火力が控えめと言っても、副砲の連装メガ粒子砲でさえ連邦のマゼラン級を大幅に上回る射程と威力を持っており、地球圏においておくと無駄に連邦を刺激しそうなので、試験航行が終わり次第アステロイドベルトに向け出発する予定である。

 

ククク……。この船に刺激されて連邦の大艦巨砲主義が加速するといいのだが。

 

さて、今日の主役はこのグワダンではなくYMS-05 ヅダである。

 

本来の歴史であれば、来年行われるコンペティションでジオニック社の「ザクⅠ」と正式採用を賭けて争い、その圧倒的な機動性によりザクⅠを圧倒するも、テスト中に機体が空中分解して不採用となった悲運の機体である。

 

だが今回はザクⅠをベースとして開発し、機体のフレームを兼ねるモノコック構造の装甲を大幅に強化するとともに、改良型土星エンジンを両肩部に搭載する事で重装甲と高機動を両立した高性能機として完成していた。

 

兵装面は長距離狙撃能力を持つ大型対艦ライフルと円型のシールド、それにマゼラン級の装甲すら切り裂くヒートソードを装備している。

 

中世ヨーロッパの騎士を彷彿とさせるその姿は、正に量産型のトールギスといった感じだ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

無論トールギスほどの圧倒的な火力と装甲がある訳ではないが、それでもザクⅠの三倍近い機動性を発揮する事ができる。

 

「準備はいいかな?デュバル大尉」

 

「無論です。ギレン閣下。ジオンの栄光をヅダに!」

 

そう言うとヅダは、腰を落としてカタパルトの上で射出姿勢をとる。

 

「ジャン・リュック・デュバル。ヅダ、出るぞ!」

 

次の瞬間、ヅダはジャン・リュック・デュバルの掛声とともに、真空の宇宙へと吸い込まれていった……。

 

一一一一一一一一一一一一

 

side ジャン・リュック・デュバル

 

カタパルトで射出された機体は、漆黒の宇宙を切り裂いて進む。

 

試しにスラスターの出力を上げてみるが、初めて試作機に乗った時に聞こえたあまりの加速によって生じる機体の軋み音は聞こえず、もはや過去のヅダとは別の機体と言っても過言ではない。

 

そんな事を考えていると、目の前に2個小隊、6機のザクⅠが姿を現す。1対6とは少しばかり数に差があるが、このヅダが相手であればまあ妥当な所だろう。

 

「有効レンジ内、捉えた!」

 

右腕に備えた大型対艦ライフルで近づきつつある敵機を狙撃する。

 

ザク・バズーカの射程を遥かに超える距離のせいで、ろくに回避行動をとっていなかった隊長機らしきザクは、艦艇すら沈める威力をもつ対艦ライフルの直撃を受けて一撃で撃破判定となっていた。

 

「食らえ!」

 

立て続けの狙撃で2機目のザクが行動不能になったころ、やっとヅダを射程に捉えたザクからの反撃が始まった。

 

「この速度、ついてこられるかな?」

 

ヅダの両肩部に取り付けられた、改良型土星エンジンが膨大な推力を生み出す。

 

あまりの速さにザクからヅダを狙って放たれた弾丸は、その影すら捉える事ができない。

 

一方ヅダの方は、新たに開発されたモビルスーツ用OSの効果により高速戦闘中でも狙撃を可能としており、高速で機動しながら放たれた一撃により、また一機のザクが行動不能となる。

 

「ヅダの武器はひとつではないのだよ!」

 

大型対艦ライフルによる狙撃を警戒する敵機に対し、ライフルのモードを狙撃から連射に切り替える。

 

すると、狙撃した隙を狙って射撃を繰り出そうとしたザクが直撃をくらいまた1機離脱する。

 

4機のザクがやられてようやく射撃戦の不利を悟った2機のザクは、ヒートホークを引き抜き捨て身の突撃をかけてきた。

 

「ふん。格闘戦か。いいだろう付き合ってやる。」

 

ライフルを左肩のアタッチメントに戻すと、右手の円型シールドからヒートソードを引き抜く。

 

「ヅダの性能をその目に焼き付けたまえ!」

 

ザクを遥かに超える推力で瞬く間に間合いを詰めると、敵機に反応する時間を与えずヒートソードを振り下ろす。これで残るは1機のザクのみ。

 

その隙を狙って襲いかかってきた最後の機体のヒートホークをシールドで受けとめると、そのまま両肩の土星エンジンを吹かして、シールド越しに体当たりを仕掛ける。

 

すると、あまりの衝撃にザクの脱出装置が誤作動し、コックピットが射出されてしまった。

 

1対6の戦いで示された戦果は、最早ヅダがザクを遥かに超える機体である事を示していた。

 

そう!最早ヅダはゴーストファイターではないのだ!

 

そうして評価試験を最高の結果で終えた私は、機体をグワダンに向け発進させるのであった。



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22話 UC0074年4月 シャア・アズナブル

サイド3 ジオン国防軍士官学校 体育館

 

やあ…諸君。ギレン・ザビである。

 

先日評価試験を行ったYMS-05 ヅダは予想以上の性能を発揮したため、すぐにMS-05 ヅダとして正式採用し量産を開始する事になった。

 

しかし完成した機体があまりにも高性能だったため、万が一にも連邦に知られて警戒されたりしないように、遠く離れたアクシズに生産ラインを置くことにした。

 

ここならそう簡単に情報が漏れたりはしないだろう。

 

丁度グワダンが完成して、人や資材の運搬が容易になっていて良かった。

 

一部の軍人からは、ザクの開発を中止してヅダのみを量産すれば良いのでは?といった意見もあったが、ヅダは地上での戦いに対応しておらず、また、あまりの加速力故に高い操縦技術を必要とするため、エース向けの機体として少数生産していく事で決着した。

 

まあ、ヅダの製造コストがザクⅠの3倍近い事が一番大きな理由なのだが。

 

さて、今日は我らザビ家5兄弟の中で、唯一誰からも好かれるガルマのジオン国防軍士官学校の入学式の日である。

 

 

【挿絵表示】

 

 

デギンに誘われて入学式に行ってみれば、ザビ家一同が勢揃いしており、ガルマの愛され具合がよくわかるものになっていた。

 

キシリアは俺が半年近く入院している間、一度親衛隊の引継ぎにきただけで、それ以外は見舞いにも来なかったけどな!

 

そういえば、原作であの爆弾テロを計画したのは確かキシリアだったような……。

 

原作知識からあのテロはサスロを狙ったものだと思っていたが、実は最初から俺を狙っていた可能性もあったな。

 

まあ今回もキシリアがやったとは限らないし、今さら調べなおしてもどうせろくな情報は出てこないだろうから、せめて信頼のできる者を警護において警戒する事にしよう。

 

まあその話は置いておくとして、今の問題は何故かキャスバルが此処にいる事だ!

 

最初は本物のシャアが入学してきたのかと思ったのだが、志願書を確認したところ、金髪に青い瞳の青年の姿があった。

 

アストライア達と平和に暮らしていたのでこちらに来る心配はしてはいなかったのだが……。

 

これは後で調べさせる必要があるな。念のためドズルにはあまりガルマとキャスバルを接触させないように注意しなければ。

 

一一一一一一一一一一一一

 

side シャア・アズナブル

 

「はぁー。やっぱり士官学校受ければ良かったかなぁ?」

 

ジオン工業大学に合格してサイド3に向け旅立つエドワゥを見送りながら思わず呟く。

 

最初に受けようと思っていた士官学校を俺には向いていないという理由で両親とエドワゥに反対されて結局テキサス農業大学に行く事にしたのだが、その反対した友人は知らぬ間にサイド3にあるジオン工業大学を受験して合格していた。

 

その事を知ったアストライアさんやセイラちゃんはエドワゥがサイド3に行く事に対して激しく反対していたのだが、結局最後までエドワゥの意志が変わる事なく、今日サイド3に向け旅立っていった。

 

エドワゥと二人で話した時には僕が実績をつくるにはサイド3に行って結果を出すしかないんだ……。的な事を言ってたけど、あいつそんなに機械が好きだったんだな……。

そういえば農場で買ったモビルワーカーにも興味津々だったし。

 

俺もアイツくらい強い意志があればジオン国防大学校に行って活躍できたりしたのだろうか?

 

俺の赤い瞳と、うちの農場のシンボルマークである雷のマークをあわせて「真紅の稲妻のシャア」なんちゃって。

 

はぁ……。まあ終わった事をひきずっていても仕方ない。俺は俺でこのテキサスの大地で頑張っていく事にしよう。

 

そういえば、士官学校を受けるつもりで書いた書類一式が気がついたらなくなっていたけど、何処に行ったのだろう?

 

……やっぱり反対していたお袋が捨てたのかな?



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23話 UC0075年2月 ×YMS-06 ザクⅡ ◯水着回

ハワイ ワイキキビーチ

 

やあ…諸君。新年あけましておめでとう。ギレン・ザビである。

 

今日はついに完成したYMS-06 ザクⅡの運用試験視察のために地上へと来ている。

 

え?ハワイで試験をしているのかって?

 

運用試験はここから南にあるキリスィマスィ島という無人島でおこなっている。

 

もともとは有人の島だったのだが、連邦の棄民政策により住人は全て宇宙にあげられてしまい、今はアナハイム社の所有する実験場となっている。

 

そこにサイアム・ビストの協力でザクⅡやマゼラタンクといった地上戦用の装備を運び込み、地上での戦いに向けたデータ収集をおこなっていた。

 

アナハイムとは様々な形で交流を続けており、先日サイアムに伝えた「予言」が現実のものとなった暁には「箱」の引き渡しも可能となるだろう。

 

出来れば防ぎたい事故の事なのだが、原因となった艦の名前や、事故が発生した日時もわからない以上、事故を防ぐ手段がない。

 

まさか連邦に農業ブロックに艦が衝突するといけないので、サイド3に近寄らないでくれ。と言う訳にもいかないだろうし。

 

そうである以上、我々にできる事は「事故がおきる」という情報を最大限利用する事くらいのものだ。

 

なので、もし事故が起きても食糧が不足したりしないように農業ブロックを拡大するとともに、人手不足を解消するため他のサイドから農業留学生の受け入れ枠を増やす等の対応をおこなっていた。

 

まあ……人手不足の解消は建前でしかないが。

 

さて、話が大きく逸れた上に脱線してしまったが、今日の主役はYMS-06 ザクⅡである。

 

YMS-06 ザクⅡはジオン公国軍の主力となる量産型汎用モビルスーツである。

 

既に宇宙で使用するA型、B型装備についてはア・バオア・クーで試験が完了しており、今回地上ではC型、F型、M型装備について運用試験をおこなっていた。

 

え?それじゃ意味がわからないって?

 

ザクⅡは、バックパックとオプション装備を換装する事で様々な機能を持たせる事ができる。

 

具体的に言うと、

 

A型装備

ザクⅡの核兵器運用装備。核兵器の使用を前提としているため、コックピットブロックの周囲は放射線遮断液により覆われている。

 

B型装備

ザクⅡの宇宙用高機動装備。推力を大幅に強化したバックパックと脚部の追加スラスターにより高い機動力を持つ。

 

C型装備

ザクⅡの中距離支援用装備。大型のバックパックに180mmキャノン砲と照準用センサーを、両肩上部に多目的ミサイルポッドを装備し、砲撃支援や戦域防空を担当する。

 

D型装備

防御用装備 ※機密

 

E型装備

ザクⅡの偵察用装備。大型のバックパックにレドームと各種センサーを搭載しており、長距離偵察用のカメラガンを内蔵した専用のスナイパーライフルは、高い命中精度を持つ。

 

F型装備

ザクⅡの汎用装備。バックパックにプロペラントタンクと2本のサブアームを備えており、長い稼働時間と汎用性の高さから様々な任務で使用される。なお、通常サブアームは武器や盾の保持に使われ、精度は低いものの保持している武装から弾を発射する事も可能である。

 

G型装備

地球降下用装備 ※機密

 

H型装備

地上用高機動装備 ※試作中

 

I型装備

ザクⅡの近衛師団用装備。B型ベースのバックパックに120mmガトリング砲を2門装備しており、専用の大型シールドとショットランサーを装備する事で高い近接戦闘能力を持つ。

 

M型装備

ザクⅡの水中用装備。水流エンジンを搭載したバックパックと、腕部と脚部に補助推進機を装備する事で水中での姿勢制御を可能としている。「水中用」と銘打っているものの水中性能は低く、主に上陸作戦や諸島部での戦闘で使用する。

 

……といった感じだ。

 

新型のモビルスーツ用OSの性能と相まって、テストを担当している親衛隊のメンバーから絶賛されており、既に量産に向けた準備が先行的に進められていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

ただ、ザクで空を飛びたいと言われても困るぞルーデル。流石にバックパックを換装した位で空は飛べない。やはりドダイの開発を急がせるしかないか。

 

他にもザクウォーリアを見習って、盾を右肩から左肩に移して半自律可動式にする等の改良もしたのだが、そちらについては特に誰からもコメントは貰えなかった。

 

解せぬ。

 

脱出装置を搭載した事といい、ここまでくると最早違う機体の気もするが、元は同じ機体なのであまり気にしない事にする。

 

さて、それでは視察の疲れをゆっくりビーチで癒す事にするか。

 

こらこらメイ、そんなにはしゃぐんじゃない。

 

 

一一一一一一一一一一一一

 

 

side メイ・カーウィン

 

 

変じゃないかな?

 

首を傾げながら、鏡に映るのは、生まれて初めて着る水色のワンピースの水着を着た自分の姿。

 

一緒に買いにいったアイナお姉ちゃんやハマーンさんは似合っていると誉めてくれたけど、こうしていざ着てみるとやっぱりちょっと不安になる。

 

だって水着なんて着たことないから恥ずかしいし、お姉ちゃん達みたいにスタイル良くないし…。

 

「メイちゃん着替え終わった?」

 

やばっ。アイナお姉ちゃんを待たせてた!

 

外から聞こえてくる声に、私は一気に現実に引き戻される。

 

念願の地球に来ているのに、恥ずかしさのあまり思考が変な方向にいってたみたい。

 

せっかくの地球。それも今や世界有数の高級リゾートとして有名なワイキキビーチに来ているのだから、精一杯楽しまなきゃ。

 

メンバーは、私とアイナお姉ちゃんとハマーンさんとおまけのギレンさんの4人。

 

元々私がモビルスーツ用OSを開発したご褒美としてギレンさんに海へ連れていって貰えることになったんだけど、私が「ギレンさんと二人で海に行ってもつまらない!アイナお姉ちゃん達と一緒じゃないなら行かない!」って言ったので、結局このメンバーになった。

 

その時にギレンさんが落ち込んでいる姿は、なんか哀愁が漂っている感じでちょっと可愛かったな。二人で海に行ってもつまらないなんて言ってゴメンね。

 

「メイちゃんどうかした?」

 

「あ。うんっ!!ごめん、今出るね!」

 

また変な方向に思考が飛んでいた私は、大急ぎで着ていた服をスーツケースにしまうとホテルの部屋から外に出た。

 

するとそこに飛び込んできたのは、白いビキニ姿のアイナさん。

 

肩紐の部分には手の平ぐらいの大きさの花のコサージュが施されていて、一見するとシンプルな水着なのに、アイナさんが着るととても華やかだ。

 

……というかあの胸は反則だ。私が同じ水着を着ても絶対あんな風にはならないもん。

 

「あら可愛い。やっぱりメイちゃんにはそういう可愛いらしい水着が似合うわね。」

 

「アイナお姉ちゃんもステキだよ!すっごくスタイル良いし羨ましい!」

 

本当にスタイルが良くて羨ましい。アイナさんの水着を見た後に自分の水着姿を見るとなんかちょっとへこんじゃうもん。

 

神さまちょっとこの差は酷くないですか?!

 

「うふふ…ありがとう。とても嬉しいわ。でも準備が出来たならそろそろ行きましょ?きっとロビーでギレン様やハマーンさんが首を長くして待ってるわ。」

 

あ、そうだった。ギレンさん達をロビーで待たせてるんだっけ。

 

このホテルは貸し切りらしいので他に人はいないだろうけど、この格好でギレンさんの前に行くのは何か緊張するなぁー。

 

「ほら、行きましょ。」

 

「あ、うんっ!!」

 

私がアイナさんの後を追いかけてホテルのロビーへと向かうとギレンさんとハマーンさんの二人が水着姿で待っていた。

 

「ギレン様。メイちゃんをお連れしましたわ。」

 

「あ、アイナさん!?」

 

アイナさんの後ろに隠れていた私の肩にアイナさんの手がのせられ、ギレンさんの前へと押し出される。

 

ギレンさんの水着は黒一色の飾り気のないトランクスタイプ。

 

普段服で隠れているお腹は予想外に鍛えられており、綺麗に6つに割れた腹筋が見えちゃっている。

 

男の人にしては細いなぁ…なんて思ってたけど、脱いでみると筋肉質というか、やっぱ男の人だなぁといった感じで。

 

うぅ…どこに視線を向けたらいいのかちょっとわからなくなってしまった……。

 

ついさっきは自分の水着姿を見て恥ずかしくなってたけど、今はそれ以上にギレンさんの方を見るのが恥ずかしい。

 

だって、水着だよ!?

 

うん。そりゃ海に来たんだから水着になるのは当然だけど、でも――

 

男の人の裸の上半身を見るのなんて、たぶん大昔にお父さんと一緒にお風呂に入った時以来なのだから。

 

そのせいかギレンさんの前にいるだけなのにとても緊張してきた。こんな風に緊張しすぎているのを見られて変に思われちゃったらどうしよう…。

 

「どうですか?ギレン様。メイちゃんの水着姿は?」

 

「フム…良く似合っているぞメイ。なかなかに愛らしくて良い。」

 

こちらの気も知らず、ギレンさんがいつものまゆ無し顔で無表情を装いながらそんな台詞を言ってくる。

 

でもそれなりに長く一緒に暮らしてきた私にはわかる。あの顔は緊張している時の顔だ。

 

だってよく見るとちょっと視線が泳いでいるし。

 

そう思うと一人で変に緊張しているのがなんかバカらしくなってきた。

 

「それでは閣下。そろそろ海に向かわれますか?」

 

そんなやり取りをしているとハマーンさんが私達に声をかけてきてくれる。

 

ハマーンさんは紺色のウェットスーツみたいな感じのスポーティーな水着姿だった。

 

手足長いし、胸は…そこまでないけど、それでもなんかとても大人っぽくて格好いい。

 

きっと早くも浮き輪を手にして、海の方をチラチラ見てなければもっとカッコよかっただろう。

 

「ウム。それではビーチに向かうとしよう。」

 

そんなギレンさんに連れられて向かった先の海は、とても言葉ではいいあらわせないくらい広大だった。

 

何処までも広がっている透き通るような青。

宇宙から地球に降りる時に一度見てたけど、こんなに大きな水の塊を間近で見るのは初めてで、そのあまりの広大さに私は不思議な感動を覚えていた。

 

この海の先には、他の島やいろんな大陸が広がっているらしいけど、海を見るのもはじめてな私にはそこがどんな風になっているのか想像さえも出来ない。

 

サイド3という狭い世界でずっと育っていた私にとって、海という大いなる自然との出会いはとても衝撃的なものだった。

 

いつか、この先にある他の場所にも行ってみたいな。不思議とそんな思いが自然に湧いてくる。

 

「メイ、砂浜に行くぞ。」

 

「うん!」

 

ギレンさんや他の皆と一緒に砂浜に降りてみる。私がおっかなびっくり砂浜を歩いていると

 

「相変わらず海は広いな。」と、遠い目をしながらギレンさんが呟いていた。

 

「ギレンさんは前にも海に来たことあるの?」

 

ギレンさんもコロニーの住人だし、どことなくインドア風のイメージなので、海に行くようなタイプじゃない気がして思わず聞いてみた。

 

「ずいぶん昔にな。特にアジア地方にある日本にはそれなりに思い入れもある。まあ今どうなっているかはよくわからないが。」

 

すると何故かとても懐かしそうにそう言ったギレンさんが、一瞬別の誰かのように見えてしまった。

 

まあよく考えればメイよりずっと歳上だし、前に海へ来たことがあっても別に不思議じゃないけど。

 

「それじゃ海に入ってみようかな。」

 

私が浜辺でサンダルを脱ぐとざらざらした砂が、足の指の間をすりぬけていく感覚が心地よかった。

 

泳げるかどうかわからないので、そのままゆっくりと足を波打ち際へと進めていく。

 

初めて触れる海はひんやりとしていて、これが地球の七割を覆っていると思うと不思議でしょうがない。

 

「世界は広いなー。もっといろんな所に行けたらいいのに。」

 

そんな風にさっき心の中で思っていた事をなんとなく呟くと、

 

「行きたい所があれば言ってみろ。可能な限り叶えてやろう。」

 

なんてギレンさんが言ってきた。思わず「本当に?」と聞き返した私に

 

「娘はわがままを言うものであり、父親はそれを叶えるためにいるのだ。遠慮せず行きたい所があれば私に言うが良い。」

 

などと言ってくれ、嬉しくて仕方なかった私は、照れ隠しで浅瀬を走り回っているうちに岩につまずいてしまい、しこたま塩辛い海水を飲んでしまうのでした。



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24話 UC0075年4月 ジャブローのもぐら

西欧 ルクセンブルク

 

やあ…諸君。ギレン・ザビである。

 

ハワイでバカンス中にメイが、「じゃあヨーロッパにも行ってみたい!」とわがままを言ってくれたので、今日は職権を乱用してヨーロッパ視察に来ている。

 

しかし、このヨーロッパ視察はサスロに色々文句を言われたものの、無理を言って来た甲斐があった。ハワイからインド経由でヨーロッパに来る間に感じたのだが、やはり地球は広すぎる。

 

コロニー落としを無制限にやって無人の荒野にでもしない限り、とてもではないがジオン単独で全てを制圧する事などできないだろう。

 

連邦軍を撃破できるかさえ怪しいのに、地球全土を占領して管理するなど、どう考えても我等の手に余る。

 

やはりここは他のサイドを取り込んで、団結していく事を考えねばならないな。

 

幸いプチモビやモビルワーカーなどの販売やGNCによる物流網の活発化もあり、他のサイドとの交流は以前よりも大幅に増えている。

 

今後はサイド間の経済交流や交換留学などを活発化させてサイド間の連帯を深めるとともに、連邦の軍拡に伴うコロニーの負担増をネタに、他のサイドの反連邦組織を煽って反連邦勢力の拡大に努めるとしよう。

 

 

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うん?どうした?ララァ。何か用事か?

 

誰かがこっちに向かっているだと?

 

そうか。そういえばそろそろヨーロッパ視察にくる名目に使ったゴップ大将との面会の時間だったな。

 

お前に会えただけでも無理をして地上に来た甲斐があったというものだ。

 

さて、それでは地球連邦をせいぜい褒め称えて、無能を演じる事にしよう。

 

一一一一一一一一一一一一

 

side デン・バザーク

 

「ゴップ閣下、失礼致します。」

 

「うむ、ご苦労バザーク少佐。頼んでおいた件かね?」

 

「はい。ジオン軍の現状について報告に伺いました。」

 

「うむ。先日ギレン・ザビと面会したのだが、連中の状況がよくわからなくてな。報告を聞かせて貰おうか。」

 

「はっ。」

 

ゴップ閣下に短く返事をすると、私は調査結果をスクリーンに表示していく。

 

「まずはジオン軍が公式に主力と位置付けている艦艇からになります。」

 

スクリーンに赤と緑二種類の艦艇が表示される。

 

「赤い方がチベ級航空戦艦、緑の方がパプア級ミサイル巡洋艦で、ともに69年頃に竣工した艦艇になります。」

 

「うむ。だがどちらも我が軍のマゼラン級の敵ではないと聞いているが?」

 

「はい。チベ級については72年頃に近代化改修が施されて主砲がメガ粒子砲に変更されましたが、それでも門数が少ない為さほどの脅威ではありません。むしろ脅威は別にあります。」

 

そしてまたスクリーンに赤い二種類の艦艇が表示される。

 

「これは?同じような色合いだが、ずいぶんと形が違うな。」

 

「はい。左側の赤い方はグワジン級と呼ばれている連中の次期主力戦艦になります。

300m級の船体と大型のメガ粒子砲を搭載しており、その火力はマゼランを上回るものと推測されます。」

 

「マゼラン級を超える火力とは大したものだな……。だが連中の国力では大した数を建造できないのではないか?

我が軍でさえ、マゼラン級50隻を建造する為にコロニー税を増税してあれだけ揉めたのだ。」

 

「はい。情報部の分析でも、ジオンの国力では建造できても数隻程度で、10隻を超えることはないだろうと判断しています。

むしろ脅威と考えられるのは、右側のグワダン級とよばれている惑星間航行船になります。」

 

「惑星間航行船とは大きくでたな。」

 

「無補給でジオン本国とアステロイドベルトの往復を可能にした艦で、全長700mを超える巨艦です。」

 

「全長700mだと?!そんな艦の存在など聞いた事がないぞ!」

 

「竣工してすぐに木星航路に投入されたため、ほとんど情報が出てきませんでした。

この写真もたまたま出港に居合わせた船の乗組員が撮ったものです。」

 

「うむむ…マゼラン級で対抗可能なのか?」

 

「相手のデータが少なすぎるため正確な事は言えませんが、この巨体にふさわしい火力を備えているとすると、マゼラン級でも相手が難しいかも知れません。

この情報を知った宇宙艦隊司令部からは、対抗可能な新型艦の開発又は艦隊の増強が提言されています。」

 

「そう簡単にそれが出来れば苦労はせんよ。ジオン側に問い合わせはしたのか?」

 

「は…それが連邦軍が海賊に備えているのを見て感銘を受け、我々も惑星間航行船に必要な自衛火器を搭載させた…と。」

 

「く…戯言を……。当面はその艦の情報収集に努めろ。新型艦の開発、艦隊の増強については必要に応じて議会と調整していく。他に懸念はあるか?」

 

次にジオン軍が量産しつつある戦闘車輌と宇宙戦闘機をスクリーンに出す。

 

「車輌の方はコロニー内の治安維持用という名目で連中が開発したマゼラタンクという戦車になります。ただ、こちらについては次期主力MBTであるガンタンクの敵ではないため問題ありません。」

 

「ウム。あれは値は張るが、陸上戦艦にすら打撃を与えうる火力を持っているからな。」

 

「問題は此方の宇宙戦闘機セイバードップです。セイバーフィッシュを真似て開発した機体のようですが、宇宙戦闘機としての性能はかなりのものと思われます。」

 

「だが宇宙戦闘機などレーダー誘導ミサイルの餌食となり大して役には立つまい。故に我が軍は宇宙空母の数を減らして、戦艦や巡洋艦を増やす大艦巨砲主義に舵を切ったのだから。」

 

「おっしゃるとおりです。ですが、それでも暗礁宙域などの狭い空間であれば宇宙戦闘機は大きな脅威となりえます。」

 

「ふむ…それもそうか。多少は宇宙空母を増強する事も視野にいれるべきかもしれんな……。」

 

「後…これは未確認情報なのですが…ジオンはモビルスーツを兵器として転用しようとしているとの噂があります。」

 

「モビルスーツ?あの作業機械のか?」

 

「はい。暗礁宙域でモビルスーツに武装を施して戦闘をさせていたという未確認情報があります。」

 

「バカな。先日コロニーの外壁を修理している所を見たが、あんな作業機械が艦隊戦の役に立つハズがないではないか。

宇宙戦闘機以上にレーダー誘導ミサイルの的になるのが目に見えている。」

 

「それはそうなのですが……。」

 

「まあ良い。当面はマゼラン級の脅威となりうる惑星間航行船とやらの情報収集に努めてくれ。」

 

「はっ。」

 

私としてはジオンがあれだけ早いスピードでモビルスーツを普及させているのは怪しい気がするのだが、所詮勘でしかないしな。

 

さて、それでは惑星間航行船について情報を集めるとするか。



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25話 UC0076年2月 ララァ・スン

サイド3 ジオ・マッド社研究所

 

やあ…諸君。新年あけましておめでとう。ギレン・ザビである。

 

遂に1年戦争の開始まで3年を切った。各サイドでスペースノイドの独立を求める声が日々高まっているものの、連邦がそれに応じる気配は全くない。

 

むしろ治安維持を名目にパトロール艦を頻繁に航行させて示威行為に繰り出す有り様である。

 

我がジオンでもそれに対抗するために軍備の拡大を決定。

 

UC0075年5月には量産に向けた最終テストをクリアしたYMS-06が、MS-06 ザクⅡとして制式採用され、MS-05から生産ラインを移行して本格的な量産態勢に入った。

 

 

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当初機体に搭載するモビルスーツ用OSデータをブラックボックス化するのに手間取っていたのだが、メイが頑張ってくれたおかげでなんとか完成に漕ぎ着けて量産を開始していた。

 

また、同年7月には今まで旅客船アルカナ級の建造に使っていた生産ラインを転用してムサイ級の建造が開始され、急速な軍備の拡大が今まさに始まろうとしていた。

 

 

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そんな中で今日は、ザクⅡの次に開発する機体について協議するため、ララァを連れてジオ・マッド社を訪れていた。

 

「調子はどうだ?ミノフスキー博士。体調を崩していたと聞いたが。」

 

「ご心配をおかけして申し訳ありません。おかげさまでずいぶん良くなりました。」

 

おかしな研究者魂を出して色々悩んでいたみたいだけど、落ち着いてきたみたいで良かった。

 

……まあ密かに監視は続けるけどね。

 

「ウム。それは良かった。博士の考案したオプション装備のお陰でザクⅡの運用性能は大きく向上した。今後も頼りにさせて貰うぞ。」

 

「……はっ!お褒めに頂り光栄であります。」

 

お陰でバックパック換装システムに加えて、脚部追加スラスターやミサイルポッド等を装備可能となったザクⅡはジオンの絆でも大人気である。

 

「今日は連邦との開戦に備えて、開発して欲しいものがあってな。」

 

「連邦と開戦とは穏やかでないですな……。一体どのようなものでしょう?」

 

博士が深刻そうな顔をした理由が連邦と戦争の話が出たからなのか、それとも俺から「アイデア」を聞く事が嫌なのか気になるところだが、構わず話を続けていく。

 

「ひとつは地上での運用に特化したモビルスーツの開発だ。ザクⅡは地上のあらゆる戦場で運用可能な優れた機体だが、地上で不要な装備を抱えたまま戦闘するのは非効率だ。

故に空中、高機動、水中の3つの要素にそれぞれ対応した機体を開発して貰いたい。」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「それは…なかなかの難事ですな。特にモビルスーツの形状は飛行には向きません。空中に適応させるのは流石に難しいかと思いますが……。」

 

「なに、無理にモビルスーツへ飛行性能を付与しなくても良い。航空機を改良したサブフライトシステムに乗せることで飛行させ、モビルスーツにはそれと連携して空中戦闘を可能となる程度の滞空能力を付与すれば良い。」

 

「なるほど……。それならばザクをベースに徹底的に軽量化し、試作中のH型装備を装着させれば可能となるかも知れません。」

 

うん。頑張ってサンダーボルトのグフを造ってくれ。

フライトユニットは先行的に開発させていたからまあなんとかなるだろう。

 

「細部については博士に任せる。地上用高機動型機の開発については、同じ高機動型機であるヅダを造り上げたツィマッド社のチームに任せておけば問題ないだろう。」

 

「確かに彼らなら実績もあります。安心して任せられますな。」

 

此方についてはまったく心配していない。出来上がってくるのがドムだろうがドワッジだろうが、どれでも大好きで、かつ高性能な機体だから全く問題ない。

 

「水中戦に特化したモビルスーツについては、M型装備の開発で得られたデータを基に、既存の機体に拘らず開発を進めてくれ。

特に水の抵抗は宇宙や空気の比ではない。それを軽減する為の工夫が色々と必要になってくるだろう。」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「はっ。それでは新しくチームをつくり、広く意見をとりいれたいと思います。」

 

こちらも基礎研究自体は前から始めさせているので2年もあれば量産までこぎ着けられるだろう。

 

モビルフォートレス・ゾックから出撃するハイゴッグとかカッコよくね?

 

一応デザイン画を描いて後で送っておこう。

 

後は俺に対しての勘違いをなんとかしておきたいところだが……。

 

よし、サイアスと同じ手でいこう。

 

「ウム。もうひとつについては…そうだな…博士はジオン・ズム・ダイクンの唱えたニュータイプ論についてはどう考える?」

 

「ニュータイプ論でありますか?私としては人類の革新と無限の可能性を謳った哲学的なものだと思っておりますが…。」

 

「多くの人にとってはそういったものだろうな。

だが私はそういった概念ではなく、ひとつの特殊能力のようなものとして実在するのではないかと考えている。」

 

「特殊能力…でありますか?」

 

俺の答えを予想だにしていなかったのだろう。

ミノフスキー博士が戸惑いながら俺と同じ言葉を繰り返す。

 

「そうだ。博士は不思議に思った事はないか?

技術者でもない私が、何故ミノフスキー粒子やモビルスーツについて次々と的確なアイデアを出す事ができるのかと。」

 

「!! それは…確かにそう思った事は一度ならずございます……。」

 

「だろうな。その答えを今教えてやろう。私は限定的ではあるが未来を予知する事ができる。」

 

「まさか、そんな!?…にわかには信じがたい話であります。」

 

嘘です。そんな便利な能力はありません。

 

「だろうな。私の予知によれば、そう遠くない未来に連邦の艦艇がコロニーに激突し、反連邦の動きはますます活性化していく事になるだろう。

それがひとつの証明になるかもしれん。」

 

「そのような事故が起きると仰るのですか……。」

 

まあ未来の展望を知っているという点からいえば、超能力者といってもあながち嘘ではないかも知れないが。

 

「そうだ。私の出したアイデアの大半は、その未来で実用化されていたものを伝えていたに過ぎない。

まあ私の予知は制約が多く、意図して見れる訳でもないがな。」

 

「それであのように的確なアイデアを出し続ける事ができたというのですか……。」

 

うん。まあ的確かは分からないけど、精一杯趣味に走らせて貰いました。

 

「そしてその未来の世界では、サイコミュというニュータイプが発する強い脳波を利用した技術が存在していた。

ミノフスキー通信とニュータイプの感応波を利用する事で、ミノフスキー粒子散布下でも遠距離での無線誘導攻撃を可能とし、また、思考するだけで機体や武装を稼働させる事すら可能としていた。」

 

「そのような事が可能だと!?」

 

「そうだ。そして今のジオンにおいてそれが可能な研究者は、博士をおいて他にいないと私は確信している。」

 

本当は他にもフラナガン博士がいるのだが、あいつに任せると人体実験ばかりしそうなのであんまり好きになれない。

 

なので博士、キュベレイ実用化の為に頑張ってサイコミュを開発してください!

 

「…私などにそれが可能でしょうか?」

 

「トレノフ・Y・ミノフスキー博士。貴方にこの言葉を送ろう。

学べば学ぶほど、自分がどれだけ無知であるか思い知らされる。そして自分の無知に気づけば気づくほど、より一層学びたくなる。

西暦の時代のとある賢人の残した言葉だが、博士、ミノフスキー粒子に秘められた新たなる可能性を知った貴方は、研究者としてそれを知らないままでいられるのか?」

 

「…閣下も人が悪い。そのような事聞かずともおわかりでしょうに。

未知へと挑戦し、ひとつずつ問題の解決に向けて経験を積み重ねる事こそ我ら研究者の本望。

私に可能かどうかはわかりませんが、精一杯頑張らせて頂きます。」

 

そう言って、俺へと視線を向けるミノフスキー博士の目は理知的でありながら、どこか狂気を感じさせるものだった。

 

なんかメチャ気合い入っているけど…大丈夫だよね?

 

「ウム、期待している。では私からひとつ贈り物をさせてもらおう。ララァ。来なさい。」

 

「はい。総帥。」

 

「この少女は?」

 

「彼女は、私が知る限りジオンで最高の力を持ったニュータイプだ。故にニュータイプ研究を進める上で彼女は最高の協力者となるだろう。

ただ、彼女と彼女の家族は私の保護下にある。苦痛や危険を伴う人体実験を彼女にする事は私が禁止する。」

 

本当だぞ?ララァに何かあったら一発で首だからね?

 

人体実験がしたければ死刑囚を使ってくれ。そっちなら好きに使っていいから。

 

まあララァはうちに住んでるから、何かあればすぐにわかるだろう。

 

「かしこまりました。閣下のご期待に応えられるよう努めてまいります。」

 

「ウム。」

 

その会話を最後にして、2人の会談は終わりを告げた。

 

一一一一一一一一一一一一

 

side

ララァ・スン

 

「総帥。」

 

「何だ?」

 

「総帥は嘘つきですね。」

 

「はは…やはりララァは誤魔化せないか。」

 

「はい。総帥からは不思議な感じがしますが、力のようなものを感じた事はありません。」

 

私がインドでカジノ荒らしの手伝いをしていた時、最後の行先となったホテルのカジノをたまたま訪れていたのがこの人だった。

 

こちらを見るなり初対面の筈の私の名前を呼び、すぐに一緒にいたカジノ荒らしから私達家族を救い出してくれた不思議な人。

 

「そうだ。確かに私にはニュータイプのような特別な力はない。だがそのような力が存在している事は確信している。そしてその力をララァが持っているということもな。」

 

そう言いながら何故か私の頭に手をおくと、昔母がしてくれたようにゆっくりと私の頭を撫でてくれた。髪と手が擦れあっているだけなのに、何故かとても心地よかった。

 

「ミノフスキー博士には釘をさしておいたが、何か嫌な事をされそうになったら拒否して構わないからな。」

 

「はい。総帥。」

 

だからという訳ではないけど、彼が私を必要とするなら精一杯やってみよう。

 

貧困の中から、私と私の家族を救い出してくれたこの人への恩に報いるために。



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26話 UC0076年7月 ルウム戦役(偽)

サイド3 ギレン邸

 

「遂に来たな。」

 

300隻を超える連邦艦隊を前にギレンは1人呟いた。

 

連邦との圧倒的な戦力差は理解しているつもりだったが、こうして相対してみるとその心理的な圧迫感は思っていたより遥かに大きいものだった。

 

「しかし思ったよりも連邦の動きが遅いな。何故だと思う?ハマーン。」

 

「ミノフスキー粒子による通信障害の影響が大きいのでしょう。

あれほどの大艦隊ともなれば、陣形を維持したまま移動するだけでもかなり大変でしょうから。」

 

「確かにそうだな。お陰で連中はまだ我々の存在に気がついていないようだ。」

 

「ガルマ様率いるジオン連合艦隊が正面に展開しているのです。ミノフスキー粒子を散布して、暗礁宙域の奥に潜む我々の存在に気がつかなくても、仕方無い事でしょう。」

 

「そうだな。だが、万が一にも見つからないよう警戒を厳とせよ。」

 

そう命じるとモニターに映る敵影に意識を集中する。

 

すると、連邦軍の動きを見張っていたハマーンから切迫した声で報告の声が上がった。

 

「連邦の艦載機が発艦を開始しました!」

 

「そうか、規模はどのくらいだ?」

 

「確認できるだけで約600機がジオン連合艦隊へ向かっている模様です!」

 

「そうか、どうやら連中は正面から我々とやり合うつもりのようだ。ガルマには焦る事なく当初の作戦どおりに動くように伝えろ。」

 

「かしこまりました。」

 

ルウム沖ではじまった連邦とジオンの戦いは、正面からのぶつかり合いで始まった。

 

300隻を超える戦闘艦艇を有する連邦艦隊と、100隻に満たないジオン連合艦隊とでは数の差が大きすぎるため、何も知らない人が見ればあっという間にジオン艦隊が駆逐されてしまうように見えた事だろう。

 

連邦艦隊と接敵したジオン連合艦隊は、連邦の艦載機をモビルスーツ隊で一掃するとそのまま後退し、連邦艦隊と距離をとりながら艦砲を撃ち合う長距離砲撃戦へと移行した。

 

戦闘が開始されて30分、ドズル率いる連邦艦隊は後退を続けるジオン連合艦隊に誘いこまれ、ギレン率いる別働隊が潜伏する暗礁宙域の前に差し掛かろうとしていた。

 

「何故だ?これだけ叩いているというのにあれほど整然と後退できるとは……。

ん?こんなところに暗礁宙域だと……? いかん!、これは罠だ!全艦後退!誘い込まれるな!」

 

だが、ドズルのその指示が徹底される事は無かった。

後退し続けるジオン艦隊に触発された何人かの艦長が暴走し、そのまま追撃してしまったのだ。

 

ただでさえミノフスキー粒子の影響下でデータリンクに支障をきたしていた連邦艦隊は、前進と後退、相反する二つの動きをする僚艦の存在に混乱し、大きく艦列を乱した。

 

「連中は混乱しているぞ。各艦はこの機を逃がすな。全砲門ひらけ、斉射三連。斉射の完了と同時に全艦モビルスーツ隊発進。一気に蹴散らせ!」

 

僅か10隻程度の艦隊であったが、艦隊側面の暗礁宙域から突如として叩きつけられたミサイルとメガ粒子砲の雨は、連邦艦隊の防空網に穴を開けるには十分な威力を有していた。

 

ギレン率いる別働隊は数こそ10隻と少数であったものの、搭載可能数を大きく超える数のモビルスーツを搭載しており、ギレンの命を受けた機体が次々と連邦艦隊に向けて射出されていった。

 

「先鋒は任せたぞ。ハマーン。」

 

「はいっ!では行ってまいります!」

 

射出されたモビルスーツにより、ジオン連合艦隊との交戦で大損害を受けていた連邦軍の艦載機はあっという間に駆逐されていく。

 

だが、艦載機を壊滅させた彼らを次に待ち受けていたのは、連邦艦艇から放たれる視界を埋め尽くすような対空砲火であった。

 

「なんて対空砲火だ。これじゃとても近づけない!」

 

「懐に飛びこんでしまえば戦艦は何も出来ません!恐れずに私に続いて!」

 

そう怯む仲間を叱咤すると、白を基調にピンクのラインで塗装されたヅダは、手に持った大型対艦ライフルを連射しながら連邦艦隊の隙間を蝶のように舞い踊り、瞬く間に三隻のサラミスを宇宙の藻屑に変えた。

 

するとそれに触発されたのか、ジオンのモビルスーツが次々と連邦艦隊へと襲いかかった。

 

中には対空砲火に捕まり大破する機体もあったが、多くの機体は対空砲火を潜り抜けて連邦艦に取り付き、至近距離からの攻撃により連邦艦隊へ大損害を与えつつあった。

 

「これで…八隻め!」

 

白とピンクに塗装されたヅダは、マゼラン級戦艦の艦橋に取り付くと対艦ライフルでまずブリッジを潰す。

 

次に艦を蹴った反動で距離をとりながら対艦ライフルを艦の砲塔へ叩き込んでマゼランの戦闘力を奪うと、最後に止めの一撃を機関部へと撃ちこんでそのまま離脱した。

 

「!! あれは連邦の旗艦アナンケ!このままあれを沈める事が出来れば……!」

 

連邦の旗艦を見つけたハマーンがそう思った直後、モビルスーツ用OSが警報を鳴らす。

 

「警報?…! しまった!弾薬の残りが三発!?」

 

初めての大規模戦闘に緊張していたのだろう。

敵地のど真ん中で弾切れという失敗に思わず動きを止めてしまったハマーンの機体へ向けて、側にいたサラミスがメガ粒子砲と対空砲を乱射しながら突っ込んでくる。

 

「弾薬の残りは常に意識せねばならんぞ。ハマーン。」

 

そう呟くと、ハマーンに向かって襲いかかる連邦のサラミスへと向かい、擦れ違う一瞬でブリッジと機関部に対艦ライフルを叩き込み無力化する。

 

その動きはハマーンほどではないものの、経験豊かなベテランを思わせる思い切りの良い動きだった。

 

「ほら、予備の弾倉だ。」

 

「ありがとうございます!ギレン閣下!」

 

「敵軍が統率を取り戻しつつある。そうなる前に旗艦を片付けるぞ。」

 

「はい!」

 

ギレン自ら操縦する機体が戦場に現れると、艦隊の士気は一気に上がった。総帥が危険を省みずモビルスーツを駆って最前線に立てば、当然一緒に戦う兵士たちの士気も上がるというものだ。

 

黒をベースに金色の装飾を施されたヅダと、白にピンクのラインが入ったヅダは、揃って木星エンジンを全開にすると旗艦アナンケへ向け宇宙を切り裂いていく。

 

ドズルの乗ったアナンケが沈み、連邦艦隊が撤退を開始するのはそれから僅か数分後の事であった……。

 

 

 

やあ…諸君。前書きがちょっと長くなったな。ギレン・ザビである。

 

今日はジオンの絆を使って、俺とガルマ率いるジオン軍がドズル率いる連邦軍を相手にするという大規模艦隊戦のシミュレーションを行っていた。

 

ジオンの絆は最新型のスーパーコンピューターを使うことで10,000人単位での同時接続が可能となっており、様々な対連邦戦術が検討されていた。

 

「いやぁ流石は兄貴とガルマだ!三倍近い戦力差があるのにこうも簡単にやられるとは思わなかった!」

 

「ドズル兄さんも罠に気がついたのは流石です。ただ、そこからの立て直しに時間をとられ過ぎましたね。」

 

「おうそうだな。だがガルマよ。あれはギレンの兄貴が防空網に開いた穴をえぐり続けていたからだぞ?それにヅダの動きは船で相手をするには速すぎる。」

 

「ふん。実戦では今日のように直率する事などできんだろうがな。それに勝ったと言ってもジオン連合艦隊の損害が大きすぎる。艦隊の三割近い数を失ってしまっては勝利とは言えんよ。」

 

「三倍の艦隊と正面から撃ち合いをすれば仕方ないだろう兄貴。待ち伏せするにしても、囮のひとつもなければ暗礁宙域に無警戒で連邦が近づいていくとも思えん。」

 

「確かにな。まあ私が新たに考えた策がある。次回はそれについて検討していこう。」

 

「わかりました。楽しみにしています。兄さん。」

 

「ウム。ガルマも士官学校で頑張るのはいいが無茶はしないようにな。ドズル、ガルマを頼むぞ。」

 

「おう!それじゃあな兄貴。」

 

そう言うとジオンの絆に表示されていたドズルとガルマのウインドウが消え、部屋の中に静けさが戻ってきた。

 

いやぁ、やっぱり大規模戦闘は燃えるね。

 

だが原作に近い形でルウム戦役をシミュレーションしてみたのだが、結果はジオンの辛勝だった。

 

やはり一度でも正面から撃ち合いをしてしまえば、連邦艦隊の火力は圧倒的であり、我が軍の損害は避けられない。

 

かといって遠方からモビルスーツを出すだけでは、近づく前に多くの機体がやられてしまうだろう。

 

……。やはりあの手でいくしかないか。

 

一一一一一一一一一一一一

 

side

ハマーン・カーン

 

「ふう…疲れた……。」

 

ヘルメットを脱いでノーマルスーツの胸元を緩め、大きく深呼吸する。

 

初めての大規模戦闘に緊張していたのか、はたまた媒体を大型化する事である程度のGの再現が可能になったジオンの絆Gに慣れていなかったせいかは解らないけど、今日は大きなミスをしてしまった。

 

まさか敵地のど真ん中で弾切れなんていう初歩的なミスをしてしまうなんて……。

 

撃破スコアとしてはアナンケを含めたマゼラン級戦艦4隻、サラミス級巡洋艦8隻の合計12隻で今回の戦いのMVPだったけど、閣下からは

 

「貴様が生きて帰ってこれなければ、どれだけ戦果をあげても意味がない。その事をよく覚えておけ。」

 

とお叱りのお言葉を頂いてしまった。はぁ……。

 

でも私が弾切れでピンチの時に颯爽と現れた閣下は、なんだか白馬の王子様みたいでちょっとカッコよかった。

 

初めて会った時の事を思い出すと、今でも顔から火が出そうな位恥ずかしくなってしまうけど、あのとき私の事を好みと言ってくださったのは、今もまだ変わらないのかなぁ……?

 

そんな事を考えながらボーッとしていると、ジオンの絆にララァさんから対戦の申し込みが入った。

先日閣下が、インドで「愛人」という名目で家族ごと保護された少女だ。

 

実際はその特異な才能を見抜かれたようで、殆ど教えていないのにモビルスーツを手足のように操縦できたり、もの凄く勘がよかったりするのをその先見の明で見出だされたのだろう。

 

この前なんて神経衰弱をしたらいきなり半分位を当ててしまい、皆が絶句していた。

 

最近はモビルスーツの操縦が面白いみたいで、ギレン閣下が相手をしていらしたのだが、その閣下に

 

「貴様らニュータイプにはついていけん。ハマーンに相手になって貰え。」

 

と言われたらしく、こうして頻繁に対戦の申込みがくるようになった。

 

というかなんでニュータイプ(次世代の宇宙移民者)??

 

……。まあいいか。ここはモビルスーツ操縦の先輩らしく、ちょっと相手をしてあげるとしよう。



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27話 UC0077年2月 ギニアス・サハリン

サイド3 ジオ・マッド社研究所

 

やあ…諸君。新年あけましておめでとう。ギレン・ザビである。

 

……何故か最近こればかり言っている気がするが、後一度位なので大目に見てくれると嬉しい。

 

昨年から始まったジオンの軍備増強の流れは加速の一途をたどっている。

 

そのため昨年4月にはそれまでア・バオア・クーとアクシズの2ヶ所だったMS-06の生産拠点を、サイド3とソロモンにも拡大していた。

 

ただ、ここまで生産規模を拡大すると情報の秘匿が困難になってくるため、動力系をバッテリー方式に変更して外装をザクⅡに似せたザクⅠを民間向けに販売して情報撹乱をおこなったりしている。

 

まあ後で生産ラインを転用できるし、部品の多くはザクⅡにも使えるからな。

 

ただ、モビルスーツ用のOSを搭載していない上に、性能にリミッターをかけたモンキーモデルだから使いにくくて仕方ないと思うが。

 

6月にはザンジバル級機動巡洋艦の1番艦が就役した。

 

これは史実と違い、ミノフスキークラフトを搭載しているので地上での運用性が大幅に向上している。

 

また、昨年末から開発を始めた機体については、グフは試作機が完成して既に地球で運用テスト中。

 

ドムは生産性を高めるために、ザクⅡと可能な限り部品の共通化を図った影響で開発が遅れていたものの、なんとか設計が完了し現在試作機を製造中。

 

一番開発が難航すると思っていた水中用モビルスーツについては、旧MIP社のメンバーを中心にザク系ではないモビルスーツを造ってみたい変人…じゃなかった、技術者が集まって昼夜を問わず開発に励んだ結果、まもなく試作機がロールアウトする予定である。

 

…正直ドムより先にハイゴッグの試作機が完成するとは思わなかったよ。

 

さて今日は、先日の演習で必要性を感じた兵器の開発を依頼するためギニアスの下を訪れていた。

 

「久しぶりだな、ギニアス。地上用MAを開発していると聞いていたが、開発状況はどうなっている?」

 

「は。アプサラスは試作2号機が現在地上で運用テスト中です。」

 

ああ、陸ガンのバルカンで暴走して最後は自爆させられたやつね。アプサラスシリーズは攻撃力は十分なんだが、耐久力にちょっと難があるよな。

 

「そうか。私が色々と開発を頼んだせいで時間をとらせてしまい、すまなかったな。」

 

「とんでもございません。参考となった研究も数多くあり、先日開発に参加したモビルフォートレス・ゾックの開発では、私が試作していた拡散メガ粒子砲が頭部の対空兵装として採用され、大変興味深い経験となりました。」

 

それは良かった。…と言うか、原作でゾック開発したやつは頭のフォノンメーザー砲をどうやって使う気だったんだろう?

 

「そうか。ではまたひとつ頼み事をしても良いか?」

 

「何なりとお申し付けください。ギレン閣下。」

 

「ウム。いずれ訪れる連邦艦隊との決戦に備え、連邦艦隊の射程外から攻撃可能な核融合プラズマビーム砲を造って欲しくてな。」

 

「核融合プラズマビーム砲…でありますか?」

 

うん。君の好きなメガ粒子砲じゃあないから間違えないでね。

 

「そうだ。我々の仮想敵は言うまでもなく連邦軍である。先日、連邦艦隊との決戦に備えて戦闘シミュレーションを行ったのだが、マゼラン級の長距離砲撃に悩まされてな。

それに対抗する手段として、マゼラン級の射程外から一撃でマゼランを沈めうる威力をもつ核融合プラズマビーム砲を造って欲しくてな。

無論数が揃わなければ話にならないので、生産性や運用コストに重点をおいて開発してくれると助かる。」

 

「は…しかし閣下。それほどの威力を出すためにはどうしても大出力のジェネレーターが必要となります。そのため、どうしてもそれなりのコストがかかるものと思われますが……。」

 

「ああ、その事か。エネルギー供給については他の艦船からおこなうのでジェネレーターは搭載しなくてよい。」

 

「は?」

 

別に他の艦艇にもジェネレーターがついてるんだから、エネルギーが必要な時はそっちから貰えばいいよねw

 

「ついでにアウトレンジ攻撃に使うので装甲は不要だし、砲の運搬も他の艦に牽引させるので移動については照準を合わせる為の微調整ができるくらいでいい。」

 

「……。」

 

いっそのこと強度も削って、決戦の間だけ使う使い捨て式にしても良いかもしれない。

 

「速射性については必要だが、冷却の問題もあるだろうし、複数の砲身を束ねて使うのが良いかもしれんな。後は……。」

 

ガトリングとか多砲身って燃えるよね。

 

「射程や威力よりも生産性や運用コストを重視せよ。でありましょうか?」

 

「ほぅ…その通りだ。流石だなギニアス。相手は物量に勝る連邦軍。此方もまずは数を揃える事を第一に考えよ。」

 

「は!」

 

戦いは数だよ!兄貴!…って兄貴俺じゃねえか。

 

でもビグザムって、絶対リックドム10機よりも戦果をあげたよね?

 

あ、そうだ。せっかくだからビグザムも造っておいて貰おう。

コレクション用に一機くらいは欲しい。

 

「後もうひとつ、これはプラズマビーム砲が完成してからでかまわないのだが、多数のメガ粒子砲と防御用のIフィールド・ジェネレーターを内蔵したMAを開発して欲しくてな。」

 

「??。それは…エース用の機体という事でしょうか?」

 

「それは……。」

 

どうしよう…。ドズルじゃないんだからビグザム量産は流石に悪手だとわかる。あ、そうだ。

 

「ギレン閣下?」

 

「そうだな、お前には真実を話しておこう。戦場で私が乗るための機体だ。」

 

「総帥自らですと!?」

 

「指揮官が自ら戦場に行くなど、本来あるべきでない事は承知している。

だが、それでも私が自ら戦場に立つことで兵達の士気が上がり、我らジオンに勝利が訪れるのならば私は喜んで戦場に赴くだろう。

故にどうせ戦場に行くのであれば、私が最も信頼する技術者の造った機体に乗っていきたいのだ。」

 

俺専用機という事にしておけば何機も造られたりはしないだろう。

 

「…私の事を最も信頼する技術者だと?」

 

「おかしな事を聞く。私の出した難題に、お前は期待以上の成果を出し続けてきたのだ。そんなお前を信頼せず、一体誰を信頼するというのだ。」

 

「全身全霊をかけて、総帥に相応しい機体を造り上げてご覧にいれます。ジーク・ギレン!」

 

「ウム、期待している。ああそうだ。稼働時間に問題を抱えていたり、鈍重すぎる機体は止めてくれよ。

もし、兵装のコントロール等に問題がありそうならミノフスキー博士に相談してみてくれ。」

 

万が一本当に戦場で乗る事になったら困るので、わかっている問題点は避けておかねば。

 

一一一一一一一一一一一一

 

side ギニアス・サハリン

 

技術者にとっての喜びとは何だろう?

 

想定外の苦労を乗り越えた瞬間だろうか?

自分の手掛けたものが多くの人に使われているのを見たときだろうか?

 

それは人それぞれ違うものであり、以前の私にとって喜びとはサハリン家の失った栄光を取り戻す事であった。

 

だが、私が人生の目標としていたその命題は、ある日突然現れた一人の人物によってあっけなく叶ってしまう。

 

ジオン公国総帥ギレン・ザビ。今や我らジオン公国において最も権力をもつ人物である。

 

そんな人物に妹であるアイナ共々見出だされた事により、我がサハリン家は既に過去の繁栄を取り戻す事に成功していた。

 

だが、こうして過去の繁栄を取り戻してみるとわかる。自分が本当に取り戻したかったのは過去の「繁栄」などというものではなく、周囲の人達から自分への信頼だったという事が。

 

そして今の自分は、尊敬する人物から自身の命を預ける機体の製作を依頼するに足る人物という信頼を手に入れているのだ。

 

ならばその信頼に応えよう。閣下の御身を預けるに足りる機体を、私の持てる全てをかけて造り上げる事で。



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28話 UC0077年8月 暁の蜂起

サイド3 ギレン邸

 

やあ…諸君。ギレン・ザビである。

 

大変な事になった…主に連邦軍が。

 

連邦軍と士官学校生の模擬戦が行われて劣勢であるハズの士官学校生が勝利したとの報告を受けたと思ったら、今度は連邦軍のサラミスがコロニーの管制を無視してアルカナ級と衝突してしまい、更にエンジンの暴走によりコロニーの農業区画へと激突して百名以上の死者が出る大惨事となった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

しかもその農業区画には、俺の発案により始めた他のサイドとの交換留学生が数多くいたものだからさあ大変。

 

ジオンのみならず全てのサイドで反連邦運動が頻発し、連邦軍はその鎮圧に奔走する事態に陥っている。

 

いやぁ……。偶然って怖いですね。

 

特にズム・シティではこの身勝手な行動から起きた事故により暴動が発生。

 

暴動を鎮圧しにきた連邦軍部隊が、市民にプチモビやモビルワーカーで襲われる大惨事になっている……。あれ?書いてて何かおかしいぞ?

 

モビルワーカーは作業用なので武装はしてないものの、非常に頑丈に作ってあるから自動小銃などでは全く歯が立たないし、頼みの61式戦車やガンタンクもプチモビの群れに襲われてレーザートーチでハッチを焼き切られ、そのまま車輛を奪われたりしている。

 

しょせん駐屯部隊で数が少なかったのと、連邦軍も市民が相手では全力で攻撃する訳にはいかなかったからだろうが……。

 

作業効率をあげるために、作業機械を普及させすぎたか?

 

……まあそれは良い。問題はガルマお前だ。

 

「聞いてらっしゃるのですか!兄上!」

 

勿論聞いているよ!

 

ドズルに暁の蜂起が起きるかもしれんと注意しようとした矢先に、ガルマの方から連絡してきて、

 

「兄上、現状では動けない正規軍に代わり、士官学校の学生でガーディアンバンチの連邦軍を制圧するので支援をお願いします!」

 

などと正面から俺を説得してくるとは思っていなかったので、混乱しているだけだよ!

 

と言うかドズル、てめえガルマに説得されて後はよろしく頼む!兄貴!とか言ってるんじゃねえ!

戦略や政略について色々と話していた影響かもしれないが、ガルマの成長が嬉しい半面対応に困る。

さて…どうしたものかな……。

 

連邦軍と開戦を避けるのなら何としても暁の蜂起は避けるべきなのだが、開戦が避けられそうもない現在の状況であれば、国民の戦意高揚効果も大きくやる価値はある。

 

それに正規軍ならともかく、少数の士官学校生が相手ならば連邦もそれを理由に開戦まで持っていく事はできないだろう。

 

「勿論聞こえているぞ、ガルマ。貴様の提案について少し考えていただけだ。

確かに士官学校生が蜂起すれば、油断しきっている連邦の駐屯部隊など敵ではないだろう。だが、連邦と戦うとなれば、正規軍が支援したとしても少なくない士官学校生が命を落とす事になる。

貴様はその責任をとる事ができるのか?」

 

「死んだものに対して私がどのように責任をとれるのかはわかりません。ですが、死んだ者とともに掲げた道を曲げる事なく進み続ける事を、私なりの責任の取り方としたいです。」

 

……どうやら原作のようにキャスバルにのせられている訳ではなさそうだな。

 

「良いだろう、ガルマ。好きにやってみろ。

 

ドズル!ランバ・ラルを連邦駐屯地に潜入させ、現地の偵察と重要施設へ時限爆弾を設置させろ。

 

ガルマ!貴様は自走重迫撃砲隊を率いて支援と指揮を担当しろ。自走重迫撃砲は教官連中も動員して可能な限り数を揃えるように。

時限爆弾が爆発すると同時に自走重迫撃砲による支援砲撃を開始、同時に8輪装甲車とランドムーバー隊を突入させて駐屯軍司令部を制圧させろ。

 

突入部隊の指揮はドズル、貴様がとれ。ただし車輛から外に出て正規軍が参加した証拠を残すようなヘマはするなよ。

 

我々の目的は虐殺ではない。捕虜の虐待、不必要な殺戮は絶対におこなわないよう徹底するように。」

 

「おう!任せてくれ、兄貴!」

 

「ウム、ガルマ!立派なザビ家の男になったな。貴様はそのまま正道を進むが良い。

ただ、自ら先頭に立って突撃していくような軽はずみな真似はするなよ。」

 

「……。ありがとうございます。兄さん!」

 

「ではな。」

 

そう言って通信を切ると、今後の対応を協議するため、サスロに連絡をいれるのだった……。

 

一一一一一一一一一一一一

 

side

ガルマ・ザビ

 

「隣の駐屯地の連邦軍部隊が翌朝ズム・シティに向けて出発するですって!?」

 

「ああ、その通りだ。ガルマ。先に出撃した部隊が住民相手に苦戦しているため、その増援として向かう気らしい。」

 

「そんな…。ジオン軍は一体何をしているんですか!ドズル兄さん!」

 

「正規軍が動けばそれは戦争の引き金になってしまう。戦力の整っていない現状でそれは自殺行為であるが故に、軍で阻止する事はできないのだ。ガルマよ。」

 

歯を食い縛りながら、ドズル兄さんがそんな説明をしてくる。

 

その話を聞きながら、何か自分にできる事がないか必死に考えていると、以前ギレン兄さんに質問をした時の事が頭の中をよぎった。

 

ん?今何をしているのかだと?これはな、他のサイドの反体制派に人や物資の支援を指示しているところだ。

 

今の我等が正面から連邦軍と戦っても勝機はない。故に我等以外で連邦と敵対している人を支援して代わりに連邦と戦って貰うのだよ。

 

つまり、正規軍が戦争になる事を恐れて動けないのなら、まだ正規軍ではない我々士官学校生が代わりに戦えばいい!

 

「だからお前も歯痒いだろうが、今は堪え忍び……。」

 

「ドズル兄さん!」

 

「な…なんだ?ガルマよ。」

 

話の途中で大声を出した事で驚くドズル兄さんに、自分の考えを説明する。

 

「確かに士官学校生であればまだ正規の軍人ではないので外交的な影響は小さいだろう。だが数が違うぞ?連邦軍は2000人近いのに、士官学校生は僅か200人程度しかおらん。」

 

「戦場で正面から戦うのならともかく、連中は自軍の駐屯地にいる事で油断しているはずです。先日の演習のように奇襲をかければ勝機は十分あります。」

 

「しかし、な。」

 

「それにドズル兄さん!数で負けているから戦えないというなら、我等ジオンが連邦と戦える日は何時までたってもこないでしょう!」

 

「…!!。わかった。お前が士官学校生を取り纏めて全員の総意をとりつけろ。その上でギレンの兄貴に相談して了解を貰えたら進める。これ以上は退くことはできん。どうだ?」

 

「わかりました!」

 

士官学校生の説得はともかく、ギレン兄さんを上手く説得できる自信はないけど、今自分がジオンの為にできる事があるのなら精一杯やってみよう。

 

僕も一人前のザビ家の男なのだから。



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29話 UC0077年11月 観艦式◼️

ルナツー宙域 観閲艦 ネレイド 

 

やあ……諸君。ギレン・ザビである。

 

今日は去年から実施されている連邦の観艦式に招待されたので、ルナツーまで来ている。

 

……というか、連邦のサラミスがコロニーの管制を無視したのが原因で、サイド3の農業区画が大破して百名以上の死者が出たばかりなのに、よく観艦式を強行する気になったな……。

 

ガルマ率いる士官学校生に駐留軍が敗北して木端微塵になった連邦軍の威信を取り戻す為かもしれないが、こんな事をして得られるのは連邦軍への信頼ではなくスペースノイドからの敵意だけだと言うのに。

 

更に言えば、その観艦式によくジオンの人間を呼ぶ気になったものだ。

 

まあどうせ来るわけがないと思ったんだろうが、せっかく招待してもらったので、「連邦の偉大さをしらしめる。」という名目でガルマとシャアを連れて来てやった。

 

連邦さん、連邦さん、自軍を襲撃した学生が来賓として観艦式にいるとかどんな気持ち?

 

さてルナツーは、月の反対側のL3宙域に存在する連邦軍の宇宙要塞である。レモンを思わせる菱形の外観を有しており、その全幅は180kmにも及び月以外では地球圏最大の天体である。

 

スペースコロニー建設のためにアステロイドベルトから移送された小惑星ユノーが元になっており、それが60年代軍備増強計画により連邦軍の軍事拠点として転用されたものである。

 

その内部には数百隻の艦艇を収容可能な巨大宇宙港と、それを維持する為の大規模な工廠を有しており、一年戦争時には損傷した艦艇の修理の他にもジムやボールといった兵器の生産をしたりもしていた。

 

そして今回の観艦式の主役は、このルナツーに駐留する連邦軍宇宙艦隊である。

 

連邦軍の宇宙艦艇は月や各サイドの治安維持を担当する駐留艦隊と、各サイド間の航路の安全や地球軌道の防衛を担当する宇宙艦隊のどちらかに所属している。

 

主に70年代軍備増強計画で建造されたマゼラン級戦艦やサラミス級巡洋艦、コロンブス級軽空母やレパント級ミサイルフリゲート艦で構成されており、今回の観艦式には宇宙艦隊の大半と、各地の駐留艦隊から派遣された精鋭が参加していた。

 

最新鋭艦であるバーミンガム級に率いられた連邦艦隊が一糸乱れぬ艦列を組んで進む姿は、確かに見ごたえ抜群であり、連邦の力の入れようが良くわかる。

 

……まあ、ジオンの絆で幾度となく観艦式を襲撃しているので、最早単なる標的にしか見えないのが玉に瑕だが。

 

そんな思いで連邦艦隊を見ていると、特別室に入ってきたサイアム・ビストが隣の席へとやって来た。

 

「このような所でお会いできるとは思いませんでした。」

 

そう話しかけて来たサイアムに対して、「なに、せっかく連邦が戦う前に自ら手札を見せてくれると言うのだ。遠慮する必要もあるまい。」などと格好をつけて答えてみる。

 

すると、サイアムは怖いものを見たかのように肩をすくめ、「そのような事を『ここ』で言っても宜しいのですか?」と小声で返してきた。

 

今いる場所が連邦の戦艦に備えられた特別室である事を考えれば、その心配は妥当なものであったが、今回に限れば不要なものでもあった。

 

「警戒する事は重要だが、今は大丈夫だサイアム。詳しくは言えんが、盗聴機等への対策は十分に施してある。」

 

後ろに立つガルマとシャアがもつ箱状のものは、一見すると大型のノートパソコンのように見えるが、実は小型のミノフスキー粒子散布装置となっており、電子機器による盗聴等を不可能にしていた。

 

……元々は連邦のミノフスキー粒子対策を試すために持ってきたのだが、想定外の事で役立つ事もあるものだ。

 

「そうでしたか、流石はギレン総帥。先の『事件』の事といい、どうやら貴方の言葉には信じるだけの価値があるようだ。」

 

そう言うとサイアムは目をつむり、何かを仰ぎ見るように一度顔を上に向けた後、おもむろに口を開いた。

 

「我がビスト財団は、ジオン公国に対して『箱』を提供する用意があります。」

 

「ほう……。財団の繁栄を約束してきたものを我々に渡してしまって良いのかね?」

 

ビスト財団が宇宙世紀の始まりから秘匿し続けてきた存在であり、「箱が解放されれば連邦政府は転覆する」とまで言われたモノを譲るとの言葉に思わずそう問い返す。

 

「無論良いハズがありません。もしこの事を連邦に知られれば、我等一族の未来はないでしょう。ですが……。」

 

「ふむ?」

 

「ですが、あの日私のもとに『箱』が来たのはこの時の為だったように思うのです。自分でもいささかロマンチストにすぎると思うのですが。」

 

そう言うとサイアムは此方に顔を向けると、力なく笑った。

 

「ロマンチストで良いではないか。人はそのロマンがあったからこそ空へ向かい、宇宙移民もまた始まったのだ。」

 

「ありがとうございます。そう言って貰えると救われます。ただ、『箱』を渡すと言っても幾つか条件をつけさせて頂きますよ?」

 

「無論だ。『箱』を譲られるのであれば、最早我等は一蓮托生。互いに納得できるまで話をするとしよう……。」

 

……さて、原作でミネバが使用した際にはタイミングが遅すぎたとも言われる「箱」だが、我等ジオンの独立戦争と併せて使えばどうなるだろうな?

 

一一一一一一一一一一一一

 

side シャア(キャスバル)

※ 以降特に記載がない限り「シャア」の単語はシャア(キャスバル)を指す。

 

士官学校へ入る事を決めた時、何時かはこのような日が訪れる事はわかっていた。

 

「久しいな、キャスバル。アストライアとの平穏な日々を用意してやったのに何故貴様はここにいるのだ?」

 

親友となったガルマの指揮の下に連邦軍駐留部隊を制圧して暫くたったある日、突然やって来た仏頂面の男は、会って早々にそんな質問を投げ掛けてきた。

 

「無論実績を積むためです、ギレン総帥。今の私が実績を積むための最短の道は、軍に入り功績を重ねる事だと考えました。」

 

「ふむ……。その考え自体は間違ってはいないだろう。確かに実力主義の我が軍であれば、貴様のあげた功績はそのままお前の実績となる。だが、そのためには貴様の命をかけねばならんぞ?」

 

「覚悟の上です。もしそうなった時は私の実力が足りなかったというだけの事でしょう。」

 

私がそのように答えると、目の前の男は全てを見透かすように目を細め、次の瞬間私が全く予想していなかった提案をしてきた。

 

「考え直す気はないか?貴様の意思は尊重したいが、お前に何かあればアルテイシア達が悲しむ。今ならば私の方で全てなかった事にしておこう。」

 

予想外の言葉に混乱しながら、私は返答について考える。

 

母や妹の事を考えなかった訳ではない。だが、自分には父ダイクンの後継者として人類を導くべき責任がある。その思いが今の自分をこの場所へと導いていた。

 

「貴方がその気になれば、私がそれを止める事はできないでしょう。ただ、もし許されるのであれば、私に貴方と戦う機会を与えて頂きたいと思います。」

 

私がそう答えると、僅かな沈黙の後に、

 

「好きにするが良い。だが、今の貴様にはお前の帰りを待つ者がいる事を忘れるな。」

 

そう告げるとギレンは自ら席を立ち、そのまま部屋から立ち去って行った。

 

去り行くギレンの背中を見ながら、私は自らが越えるべき壁の大きさを改めて痛感するのだった。



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30話 UC0078年2月 MAX-001ノイエ・ジール

サイド3 ギレン邸

 

やあ…諸君。新年あけましておめでとう。ギレン・ザビである。

 

毎年繰り返しているこの挨拶だが、これが最後と思うと何処か感慨深いものがある。

 

暁の蜂起以降、連邦との関係は悪化の一途をたどっており、このまま進めば来年の今頃には連邦と開戦しておりこんな呑気な挨拶はできないだろうからな。

 

幸いサラミスの農業ブロックへの衝突事故以降、各サイドでは親ジオン、反連邦の動きが加速しており、昨年の末にはジオン公国の呼び掛けによりサイド評議会が結成され、サイド間の抱える問題について議論を開始した。

 

 

【挿絵表示】

 

 

だが、そんな状況下にもかかわらず連邦政府は駐留軍の増強と、産業保護の為の貿易協定の一方的な見直しを発表する。

 

 

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これに対抗する形でサイド評議会でも、サイド間の経済協定の締結に踏み切り、更に連邦政府に対して関税の撤廃と駐留部隊の撤兵を要求する事態にまで陥っている。

 

 

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そのため、今後の連邦政府の対応次第ではサイド間の安全保障条約の締結すら議論されはじめていた。

 

 

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また、サイド評議会の議長国を務めるジオン公国は、現在のスペースノイドを無視した政策の根底には地球連邦法が抱えるいわゆる1/3問題があるとして、地球連邦法の改正による参政権の付与を要求した。

 

 

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これらの要求にどう連邦側が応えるかによって流れは大きく変わってくる所だが…現在までの対応から見る限り武力を背景とした強行策一辺倒だろう。

 

さて、政情はこのくらいにして恒例の兵器開発である。

 

昨年ギニアスに開発を依頼した核融合プラズマビーム砲については、大型でドロス級艦艇の大出力のジェネレーターによるエネルギー供給を必要とするものの、多砲身化により高い速射性をもつ「要塞砲 バハムート」と、小型でムサイ級が曳航して運用する「艦隊決戦砲 ヨルムンガルド」の二種類が完成し、現在連邦との決戦に備えて量産化をはじめていた。

 

また、グフやドムといった地球侵攻作戦用の機体についても、ア・バオア・クーやアクシズの工廠で生産を開始し、完成した水陸両用機についてはアナハイムの協力を得て地上へと運びこみ、そこで最終調整と地球侵行作戦の実施に向けたデータ収集を進めていた。

 

 

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……。と言うかモビルフォートレス ゾックをよく地上に運べたね?

 

そういえば、この前ゾックを作ったチームがモビルフォートレス、ヒルドルブの企画書を持ってきたが仮に完成した後はどうやって地上に運ぶ気なんだろうか?

 

まあ無能とは程遠い人達なのでちゃんと運搬手段は考えているのだろうけど。

 

まあそんなことよりも問題はビグザムである!

 

ギニアスにビグザムの開発を依頼したと思っていたのだが、気がついたらノイエ・ジールになっていた。

 

まだ試作中だし微妙に形が違う部分もあるが、このジオンの国章のような独特の形状は間違いない。

 

ギニアス曰くジオンのシンボルである閣下に相応しい形にしたという事であった。

 

因みに宇宙専用機なのかと思っていたら、アプサラスの技術を流用した地上用ユニットを下半身に装着する事で飛行する事も可能になるらしい。

 

ノイエ・アッザムかよおい。

 

ただ、ジェネレーターの小型化やミノフスキー博士が開発中のサイコミュの小型化に難航しており、後1年で完成するか微妙なところらしい。

 

…と言うかサイコミュ搭載するの?!

 

そう思い思わず確認したところ、兵装関連、特にアプサラスⅢ用に開発していたメガ粒子砲を小型化した腹部メガ・カノン砲の拡散モード照準や多数の兵装の同時使用の為にどうしても必要らしい。

 

とりあえずサイコミュなんて動かせる自信などないので、もしサイコミュを搭載するなら複座にして貰うようにお願いしておいた。

 

万が一乗るときはハマーンかララァに後ろに座って貰い、サイコミュ制御を担当して貰う事にしよう。

 

さて、アステロイドベルトで活動していたアクシズが地球に向けて出発し、開戦に向けた準備も残り少なくなった。

 

詳しい描写をすると一瞬でバレるので控えておくが、Zガンダムからνガンダムまでどれにも出てきて超低コストのわりに効果抜群なアレである。

 

まあ概念さえ理解してしまえば開発に失敗するはずがないのでこの話については省略する事にしよう。

 

それよりもノイエ・ジールの開発でビーム兵器に関する技術がだいぶ進歩したのでゲルググの開発に向けた基礎研究を進めて貰おうと思う。

 

まあゲルググの完成は一年戦争開始後になるとは思うが。

 

さてそれでは連邦軍の現状について報告を聞くとするか。

 

一一一一一一一一一一一一

 

side レビル&エルラン

 

「それでは将軍、ジオンについて報告する前に一度我が軍の現状についてご説明させて頂きます。」

 

「うむ。聞かせて貰おうか。」

 

「将軍もご存じの通り我が軍は、マゼラン級戦艦5隻、サラミス級巡洋艦30隻、コロンブス級空母5隻、レパント級ミサイルフリゲート艦20隻の60隻で1個艦隊を構成しております。」

 

「70年代軍備増強計画に基づいて編成された宇宙軍の主力だな。」

 

「はい将軍。70年代初頭のジオン軍が相手であれば1個艦隊で互角に戦える程の戦力を有しており、我々がいるこのルナツーに6個艦隊が、ジャブローに緊急展開用の2個艦隊が駐留しています。」

 

「その後のジオンの軍備増強を見ると、後2個艦隊は欲しかった所なのだがな。」

 

「無茶を仰らないでください将軍。今でもこれらの艦をコロニー税で建造した事で、コロニーの住民から連邦政府が叩かれているのですから。」

 

「判っている。だが近年のジオンの軍拡を見るとどうしてもな。続けてくれ。」

 

「また、これらの他にサイド3を除いた各サイド及びグラナダ、フォン・ブラウンに駐留艦隊を配置しており、これらはマゼラン級戦艦3隻、サラミス級巡洋艦10隻、コロンブス級空母2隻、レパント級ミサイルフリゲート艦15隻の合計30隻で半個艦隊を構成しています。

 

他にもサラミス級とレパント級で構成された小規模のパトロール艦隊が数多くありますが、10隻を超える規模の艦隊は以上となります。」

 

「レパント級ミサイルフリゲートの割合が随分増えたな?」

 

「はい将軍。小型艦で運用コストが安い点と、ジオン軍がセイバードップやザクⅡ等の宇宙機を増強しているのに対抗してこうなりました。」

 

「セイバードップは以前に報告を受けたが、ザクは先日からルナツーの拡張工事に使用している作業用宇宙機ではなかったか?」

 

「その通りです。どうやらジオンの連中は戦力の不足を数で補おうと考えているようで、ザクを武装させて運用している姿が各地で目撃されています。」

 

「愚かな……。多少数がいる位で、我が軍のLFCSDS(大規模艦隊統制防宙システム)を突破する事など不可能だというのに。」

 

「全くです。これらの他にも急造の大口径砲を量産して砲艦として運用しようとしているとの情報もあります。」

 

「わからんな。そんなものではろくに回避運動もできず艦砲射撃の的にしかならないだろうに。」

 

「はい。参謀本部も当初はジオン軍の欺瞞工作を疑ったのですが、情報部により量産されている事が確認されました。

現在は砲撃戦の際の補助戦力として運用を考えているのではないかとの分析になっています。」

 

「そうか…。連中の宇宙艦隊はどうなっている?確かチベとパプアだったか?」

 

「現在はそれらに加えてグワダン級大型戦艦、グワジン級戦艦、ムサイ級軽巡洋艦等が確認されています。」

 

「グワダン級か……。例のマゼラン級を超える戦艦だな。」

 

「はい。我が軍でもこの船に対抗するためにバーミンガム級が建造されました。

ただ、相手が一隻しか確認されていないため、マゼラン級をそのまま置き換えるのではなく、各艦隊の旗艦がバーミンガム級戦艦となっています。」

 

「まあ予算の問題もある以上やむを得んな。ムサイ級は確か郵便船の改造艦だったか?」

 

「はい。GNCで使用していた宇宙貨客船アルカナクラスを転用して急造しています。現時点で既に60隻近い数の建造が確認されています。」

 

「60隻だと?!」

 

「はい将軍。ですがムサイ級は元が宇宙貨客船で、かつザクの母艦も兼ねているため、耐久性にかなり疑問が残ります。

正直砲撃戦では我が軍の敵ではないと思われますが……。」

 

 

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「とは言え数の力は馬鹿にはできんよ。急造といってもメガ粒子砲は搭載しているのだろう?」

 

「それは…はい。連装メガ粒子砲を3基搭載しております。」

 

「それはなかなかの火力だな。まあ同数であれば我が軍のマゼランやサラミスの優位は揺るがないだろうが、油断はできんな。」

 

「おっしゃる通りです。」

 

「よくわかった。引き続き情報収集に励んでくれ。」

 

「はっ!そういえば将軍、先日ルナツーに宇宙ゴルフ場がオープンしたのですが、よろしければ今度ご一緒しませんか?」

 

「エルラン!今はそのような事に時間を使っている場合ではない!情勢は決して油断できる状況ではないぞ。」

 

「申し訳ありませんでした!レビル将軍!」

 

「頼むぞ。エルラン。」

 

「はっ!それでは失礼致します。」



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31話 UC0078年3月 サイド共栄圏

サイド3 ギレン邸

 

やあ…諸君。ギレン・ザビである。

 

先日連邦の内通者からの情報を基にしたブリーフィングを受けたのだが、相変わらず圧倒的な物量である。

 

ルナツーとジャブローに駐留している主力艦隊だけで500隻近く、各サイドの駐留艦隊やパトロール艦隊を含めれば700隻を越えるとか物量チートも良いところだ。

 

我が軍の戦闘艦艇は新旧あわせても140隻に満たないというのに。

 

現在完成している主な艦はグワダン級大型戦艦1隻、グワジン級戦艦6隻、ドロス級戦略空母2隻、チベ級重巡洋艦8隻、ザンジバル級機動巡洋艦20隻、ムサイ級軽巡洋艦102隻の合計139隻でしかない。

 

地球侵攻作戦の要となるザンジバル級と宇宙艦隊の主力となるムサイ級は現在も建造を進めているのでもう少し増えると思うが、それでも後30隻も増えれば良いところだろう。

 

そして今はこれら宇宙艦隊を誰がどのように管理するかで絶賛内輪揉め中である。

 

というかキシリアよ。なぜ唯でさえ少ない艦艇を宇宙攻撃軍と突撃機動軍に分ける必要があるんだ??

 

少ない戦力をさらに分割すれば各個撃破されておしまいだろうに。

 

どうせ自分の手駒を確保しておきたいとかそんなところなのだろうが、そんな事に戦力を割く余裕などジオンには欠片もないのだ。

 

という事で協議の結果、俺がグワダン一隻、その他のザビ家の面々がそれぞれグワジン級一隻とムサイ級二隻を直属の戦力として指揮権を持ち、残りの宇宙艦艇は全て宇宙攻撃軍の所属となり作戦目標に応じて臨時に部隊を編成するタスクフォースとして運用していく事で決着した。

 

こうすれば作戦に応じて自由に編成できるし所属している軍の確執など気にしなくていいからな。

 

キシリアがニャーニャー言ってきたのでキシリア直属の組織として戦略諜報軍を編成する事、また、月方面に配置された艦隊の指揮権はキシリアが持つことを条件に同意させた。

 

まあ俺も直属の組織として技術開発局を設置し、ついでにア・バオア・クーとアクシズの指揮権を貰う事になったが。

 

宇宙攻撃軍についてはソロモンを総司令部としてその長にドズルを置き、ガルマが参謀長として就任する事が決まった。

 

ガルマの参謀長就任には当初デギンが猛反発したものの、ガルマ本人に説得され仕方なくデギンが折れる形になった。

 

まあ実は、事前にサスロとドズルとガルマに根回ししておいたのでデギンやキシリアがどれだけ反対してもそのまま進んだのだが。

 

これでジオン内部の軍制問題については一段落した。次はスペースノイドがひとつとなって連邦と戦う為のカードを切る事にしよう。

 

一一一一一一一一一一一一

 

遊説先のside6におけるギレン・ザビの演説

 

宇宙にまで膨れ上がった地球連邦を一握りのエリートが支配するようになり50年余り、スペースノイドの心からの希求である自治権確立の要求に対し、連邦がその強大な軍事力をもって自由の芽を摘み取ろうとしている事は、先のコロニー駐留軍の増強と、地球産業の保護を目的とした一方的な貿易協定の見直しからも明らかである。

 

 宇宙に暮らす我らスペースノイドを旧世紀における植民地のように扱い、あまつさえ自分たちが宇宙の支配者であるかのように振る舞う連邦に我らスペースノイドの未来を任せていく事などできるのであろうか?

 

否、断じて否である!

 

現在地球が我ら6つのサイドと月からの食糧やエネルギーの搾取により成り立っているのに対し、我らスペースノイドは地球からの支援がなくとも十分に自活することができる。

 

そう。我々に地球は既に必要ないのだ!

 

にもかかわらずそれを認めず弾圧を繰り返す地球連邦に我らスペースノイドの栄光ある未来を託す事などできるはずもない!

 

故に私はここに6つのサイドと月の連携を強化し、地球を抜いた経済圏を確立する構想、すなわちサイド共栄圏構想を提唱するものである!

 

 

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32話 UC0078年8月 開戦前夜

サイド3 ギレン邸

 

やあ…諸君。先日フルフロンタル氏の演説をパクったゼンラ・ザビである。

 

…って誰が全裸やねん!

 

確かに先日アイナと二人でいる時に服を着ていない姿になったが、私はそれ以外で全裸になった事などない!

 

まあそれはさておき、先のサイド共栄圏構想の演説は各方面に大きな影響を与えた。

 

連邦からはこれはサイド3による連邦への宣戦布告かとの問い合わせがあった程だ。

 

え?勿論俺個人の考えだと返しましたよ?

 

連邦は言論の自由を認めているハズなのに、俺の思想を話す事さえ認められないと?

 

これをきっかけに連邦から開戦してくれればスペースノイドの支持は貰ったも同然だったのだが、流石にそうはならなかった。

 

まあ我々も開戦準備が完全に整っている訳ではなかったので、それはそれで助かったのだが。

 

只、これにより建設中のサイド7以外のサイドでは反連邦の動きが更に活発化し、連邦がそれを武力で鎮圧する事で更に反連邦の運動が盛り上がるという悪循環に陥っていた。

 

こんな情勢下であっても連邦政府はスペースノイドに対して何一つ譲歩する姿勢を見せず、駐留部隊の撤兵と関税の撤廃、それにスペースノイドへの参政権付与の要求はいずれも連邦議会で否決され、それどころか治安維持を理由にサイド2宙域へ宇宙艦隊を派遣して恫喝する有様であった。

 

この連邦の動きを脅威とみなして、ジオン公国は国家総動員令を発令し開戦に向けた最後の段階に入った。

 

 

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フェンリル隊やサイクロプス隊などの特殊部隊を各サイドへ密かに送り込み、開戦と同時に奇襲をかけるための準備を密かに開始したのである。

 

連邦の駐留艦隊は半数が宙域のパトロールをおこない、その間残りの半数は各サイドのベイで整備と補給をとる形で運用されている。

 

なのでパトロールしている艦隊を宇宙攻撃軍の分艦隊で襲撃し、潜伏させている特殊部隊でベイの艦隊を制圧する予定だ。

 

ベイの中にいる艦艇などモビルスーツの敵ではないので、少なくとも駐留艦隊の半数は初動で撃破できる見込みだ。

 

月については、サイアムの協力によりアナハイム社の倉庫へ少しずつモビルスーツを搬入しており、開戦時にはMS一個師団で奇襲をかける予定だ。

 

まあここの艦隊は開戦間近な状況だと宇宙に上がっていそうな気もするが、仮にそうなっても月面の制圧には使えるので問題無いだろう。

 

「箱」の提供や地上での活動の支援などサイアムには本当に頭が上がらない。

 

お礼に曾孫が大きくなった際には、もうすぐ産まれてくるミネバとの結婚が認められるようにドズルに頼んであげよう。

 

まあ、現時点ではどちらも産まれてさえいないがw

 

また、各サイド首脳部とは、駐留艦隊とルナツーの宇宙艦隊の撃破が完了した段階でサイド共栄圏として軍事同盟を締結する事で内諾がとれている。

 

まあ…後者が難題だが。

 

さて、後はルナツーとジャブローにいる連邦の主力がどう動くかだ。

 

戦略諜報軍の活動により現時点での連邦の準備計画は入手しているが、あくまで計画なので指揮官次第でいくらでも変更の余地があるのでどうなる事やら。

 

……コロニー落としをしなかったとしても、恐らく俺は人類史上最大規模の戦争を始めた愚か者として歴史に名を残すのだろう。

 

だが、そうしなければ連邦政府がその植民地たるコロニーの支配権を手放す事などないだろう。

かつて地上における大英帝国がそうであったように。

 

で、あるならば俺は戦おう。この戦いはザビ家と地球との戦争ではない。ジオンが、宇宙に住む人々が地球の支配から独立する為の戦争なのだから。

 

さて、一段落したらアストライア達の所へ行って避難を促さねばならんな。

 

一一一一一一一一一一一一

 

side

アイナ・サハリン

 

家事をしながら部屋の時計に目をやるとその針は22:00時を越えようとしていた。

 

そろそろお戻りになる時間かしら?

 

私がそんな事を考えていると、正門から入ってきた公用車が玄関に停車して、その中からゆっくりとギレン様が降りて来られた。

 

「お帰りなさいませ。ギレン様」

 

「うむ……。」

 

執務を終え総帥府から戻られたギレン様はひどくお疲れのようだった。

 

「お食事はおとりになられましたか?それともお風呂になさいますか?」

 

「そうだな…食事にしようか。

だがその前に少しだけ休ませてくれ。一時間程したら起こして貰えるか?。」

 

「はい。ごゆっくりお休みください。」

 

そう私が答えるとギレン様は少しおぼつかない足取りで寝室へと向かわれた。

 

閣下を部屋までお送りすると、護衛としてギレン閣下と一緒にいたハマーンさんに声をかける。

 

「護衛のお仕事お疲れ様。疲れてない?」

 

「ありがとうございます。疲れてはいますが、ジオンの、いえ、スペースノイドの未来を背負っておられる閣下の事を思えば、たいしたものではありません。

アイナさんには黙っているように言われたのですが、実は今日執務中に一度お倒れになりました……。」

 

「え、そんな……。」

 

「お医者様の見たてでは疲労が原因との事でしたが、閣下は今がジオンにとって重大な時期だからとおっしゃってそのまま執務を……。」

 

「わかりました。私からもあまりご無理をなさらないようにお願いしてみます。なので貴女も早く休んで。ハマーン。」

 

「はい……。閣下をお願いします。アイナさん。」

 

そう言ってハマーンさんが自室へ帰るのを見送ると、お粥を作るためキッチンに向かった。

 

「ギレン様。失礼します。」

 

「ん…アイナか?」

 

「お粥をお持ちしました。ご加減はどうですか?」

 

「ハマーンから聞いたか。まあよい。少し仕事に集中しすぎただけだ。大したことはない。」

 

そう言いうとギレン様は、私から受け取ったお粥を美味しそうに食べ始めた。

 

「久しぶりに食べたが、これも食べやすくて良いな。」

 

「ありがとうございます。……。私にももう少しお手伝いできる事があれば良かったのですが……。」

 

「フム…。そうだな。では少し私の独り言を聞いてくれるか?」

 

「はい。」

 

そうして語られたのはギレン様が総帥として抱えておられる苦悩でした。

 

連邦政府との駆け引き、連邦軍へのスパイ活動、キシリア様との派閥争い、各サイドへの内部工作など、今日まで政治の裏側や派閥争いにあまり関わってこなかった私には初めて聞く話ばかりでした。

 

「……すまないな。どうにも愚痴が溜まっていたようで、つまらない話をした。」

 

そうギレン様が謝罪される。

 

確かに愚痴まじりにお聞かせ頂いたお話はどれも衝撃的で、特に反連邦勢力の支援や連邦側スパイの粛清などを指示されていたことには、大きなショックを受けました。

 

しかしお話し頂いた言葉には、どれもギレン様が抱えておられる葛藤が滲み出ていました。

 

そして私はそんなギレン様にお仕えして、その理想の達成のお手伝いをすることを望んだ者。それならば、ギレン様を信じてお支えする事が今の私にできるせめてものお手伝い。

 

そう思った私は、ギレン様の手を握りしめると、驚いた表情を見せるギレン様に向けて私の思いを伝えました。

 

「……。ギレン様。私で良ければいつでもお話を聞かせて頂きます。ですので、そんなに一人で抱え込まないでください」

 

「…すまない。開戦間近で少し弱気になっていたようだ。また愚痴が溜まってきたら聞いてもらっていいか?」

 

「はい。何時でもお聞かせください。私やメイちゃん達はどんな事があっても貴方の味方です。なのであまり負の意識に囚われすぎないでくださいね。」

 

私がそう伝えるとギレン様は顔を伏せながら「ウム。」と短く頷かれたのでした。



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33話 UC0078年11月 予期せぬ弾丸◼️

サイド5 テキサスコロニー

 

「こちらハンターリーダー、各隊の状況送れ。」

 

「こちらマンハンター1。古の巨星へ送った荷物の回収に成功、現在目的地付近の森にて潜伏中。

アジテーターによる陽動が完了次第、目標への襲撃を開始する。」

 

「こちらアジテーター1。各地から送り込んだ反ザビ家勢力とのコンタクトに成功。

ハンターリーダーの指示があり次第、目標への誘導を開始する。」

 

「ハンターリーダー了解。先ほど古き巨星からの目標G到着の合図があった。

よって現時刻よりG暗殺計画を開始する。第一目標・Gの暗殺、第二目標・Dの娘Aの確保、第三目標・古の巨星抹消による証拠の除去である。

本作戦は今後の連邦の行く末に関わる重要な任務である。各隊はいかなる損害を出そうとも標的Gを殺害せよ。

各員の幸運を祈る。」

 

「「了解。」」

 

 

 

やあ…諸君。ギレン・ザビである。

 

今日は連邦との開戦に備えてアストライア達にサイド3への避難を勧めにきたのだが、テアボロの屋敷に入ってから襲ってきた暴徒達への対応に追われている。

 

少し前ならここの警護のために駐留している特殊部隊を呼んでそれで終わりだったのだが、連邦との開戦に備えて部隊の大半が出払っており、仕方なくテアボロの屋敷の使用人を総動員して防戦に当たっていた。

 

本当なら俺もアストライア達と一緒にパニックルームに入って救援を待つべき所なのだが、防戦の指揮をとれそうな人材を連れてきていなかったのが仇となり、自ら特製の防弾チョッキを着て防戦の指揮をとる羽目になっていた。

 

まあここのパニックルームはそんなに頑丈に造ってないので、外の守りを抜かれるとむしろ逃げ場がなくなって危険だというのもあるんだけどね。

 

幸い連邦の襲撃に備えて対人迎撃システムを設置していた事と、元軍人の使用人が数人いたのでその者達を中心として防衛線を構築し、なんとか暴徒達の侵入を食い止めていた。

 

いたのだが……、暴徒側に増援が到着してからは正直かなり危険な状況になりつつあった。

 

……というか最初に襲ってきた暴徒と、後からきた連中の動きがあきらかに違うのですが!

 

「報告します!西の森から現れた暴徒達の増援に西館の壁を破壊され侵入されました!現在食堂付近で食い止めておりますが劣勢です!至急増援を!」

 

「東側に新たな暴徒が現れました!バイクに乗って火炎ビンを投擲してきており、対応できません!」

 

「正面にも新たな暴徒が現れました!敵の攻撃で負傷者が続出しており、このままでは持ちません!」

 

いかん……。増援と言われても人手がない。もう少しでハマーン達が来ると思うが、それまで持ちそうにないぞ……。

 

もうダメか…。俺がそう思いかけた時だった。

 

「ギレンおじ様!」

 

その声を聞いて振り返ると、パニックルームに退避していたはずの少女が自動小銃を手に立っていた。

 

アルテイシアが何故ここに?

 

「危険だぞ。アルテ…セイラ。ドン・テアボロについていてあげなさい。」

 

「お父さんにはお母様が付いているから大丈夫よ。それよりも私も一緒に戦うわ!」

 

ダイクンの血筋のせいか、こう見えてセイラの戦闘能力は高い。原作でも自ら銃をとって戦っていたしな……。

 

「良いのか?セイラ。危険だぞ?」

 

「私はもう子供じゃないのよ?ギレンおじ様。おじ様の子供だって産んであげる事ができる年なんだから。」

 

「な……。」

 

セイラの言葉を聞いて思わず口ごもった俺に、わざと上目遣いでこちらを見る仕草は、まだ幼さの残る娘には不似合いなものだった。

 

「だから何でも私に命じてください。ギレンおじ様。」

 

くそ…、可愛いすぎるぞ……。じゃあちょっとベッドへ……。

 

はっ……いかん!そんな事をしている場合ではなかった!

 

「……。大人をからかうものではないぞ、セイラ。東側の暴徒への対応を頼む。」

 

「ウフフ。わかったわ。おじ様が珍しく緊張しているからいけないのよ。大丈夫、あなたなら出来るわ。」

 

「ふん。醜態をさらしたな。そこのお前!西側の防衛を指揮している者に伝えろ。西館は放棄、食堂に火をつけて炎を防壁がわりに使えとな。正面への増援には私が向かう!」

 

もう少しで港の船から出撃したモビルスーツが到着する。そうなれば外の連中や、西館に侵入した連中をまとめて吹き飛ばして、形勢は一気に此方に傾く。

 

これ以上セイラに恥ずかしい所を見せずにすむように、それまで何とか持ちこたえなければ。

 

そうして俺は手にした自動小銃に弾を込めると、目の前で繰り広げられる防戦に加わるため正面玄関へと向かうのだった。

 

 

一一一一一一一一一一一一

 

 

side セイラ

 

 

火炎ビンを持って近づいてくるバイクに向け、手に持った自動小銃の引き金を引き絞る。

 

すると鳴り響く銃声とともに銃口から放たれた弾丸にタイヤを貫かれたバイクは転倒し、乗っていた暴徒は手に持った火炎ビンを自分に向け使う事になった。

 

「これで四人目……。」

 

私はそう呟きながら物陰に身を隠すと、燃え盛るバイクの向こうにいる暴徒達の様子を伺う。

 

見える範囲に乗り物に乗った暴徒はもういなかったけど、新たに徒歩で近づいてくる暴徒の集団が見えた。

 

ふう…。ギレンのおじ様が緊張する気持ちもわかるわね。数が多すぎる……。

 

おじ様に促されてお母様達とパニックルームへと避難した私は、設置された無線機から聞こえるおじ様の焦った声に居ても立っても居られなくなり、パニックルームにあった銃を手に飛び出していた。

 

それから危険を承知で助けに来た私に意地悪を言うおじ様をやり込めると、今はこうして東館の入り口を守っている。

 

ふふ……。今思い出しても、私の言葉で慌てたおじ様は普段とは別人のようでちょっと可愛かった。

 

でもあの時おじ様には冗談と言ったけど、もう子供を作れる年なのは本当だし、おじ様の子供なら産んであげても良いと思っているのも本当の事なのだけど。

 

ランバのおじ様曰く、アイナさんという侍女の方と良い雰囲気らしいので私も負けないように頑張らないといけないわね。

 

まあギレンおじ様はあんな悪人顔だけど、なんとなく押しに弱そうなので、もしもの時は押し倒してお母様みたいに愛人になってしまえば良い。

 

そんな事を考えながら、近づいてきた暴徒に狙いを定め、引き金を引こうとした時だった。

 

目の前に次々と砲弾が炸裂し、無数の爆発が暴徒達を吹き飛ばす。

 

思わず空を見あげると、そこには白地にピンクのラインが入ったモビルスーツがライフルのようなものを構えて宙に浮かんでいた。

 

その戦闘力は圧倒的であり、ライフルから放たれた砲弾が西館を粉砕すると、それを見た暴徒達は武器を捨て一目散に逃げ出していった。

 

……ふう、どうにか生き延びたみたいね。

 

そう思った私は辺りに暴徒の姿がなくなった事を確認すると、正面玄関にいるはずのおじ様の元へと向かった。

 

だけど……。

 

だけど、そこで私を待っていたのは、周囲の人間に取り押さえられ狂気に満ちた表情で喚きちらすジンバ・ラルと、胴から血を流して倒れる愛しい男の姿だった。



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34話 UC0079年1月3日 宣戦布告◼️

【速報】ジオン公国総帥 ギレン・ザビ氏、暴徒の放った狂弾に倒れる!

 

そのニュースは瞬く間に地球圏全土へと広がった。

 

正確にはまだ死亡した訳ではなく意識不明の重体という報道であったものの、サイド共栄圏構想を掲げたギレン・ザビの身に起きた事件はジオン・ズム・ダイクンの最後を連想させ、マスコミ各社はその死がさも確定的なもののように報じていた。

 

連邦政府による襲撃を主張するジオン公国に対し、連邦側は単なる反ジオン主義者による仕業であるとしてその関与を否定、両国の主張は平行線を辿ったままであった。

 

この事態に危機を覚えた宇宙攻撃軍総司令ドズル・ザビ中将は、12月に入り旗下の全艦艇を宇宙要塞ソロモンへと集結させ大規模な軍事演習を行った。

 

120隻を超える艦艇を集結させて実施されたこの一大演習は、ジオン国民の士気を高め、連邦市民の心胆を寒からしめるものがあったが、それがジオンのほぼ全戦力である事を知った連邦首脳部からは、彼我の戦力差から戦争になる事はないだろうと安堵の声さえあった。

 

それが悲劇の始まりだとも気づかずに……。

 

 

 

やあ……諸君。ギレン・ザビである。

 

まさか俺の三文芝居に騙された者はいないだろうな?

 

何?騙されていただと?さては貴様連邦のスパイだな?衛兵、捕らえろ!

 

さて、血のり入りの防弾チョッキの部分をジンバ・ラルに撃たれた衝撃で倒れた俺は、せっかくなのでそのまま瀕死の重症を負い意識不明になっている事にした。

 

お陰で俺を殺したと思ったジンバ・ラルは、聞いてもいない事までペラペラと喋ってくれ、それにより連邦の陰謀の証拠をばっちりと確保することができた。

 

なお、ジンバ・ラルが俺を撃った主犯と公表すると連邦に単なるジオンの内紛であると主張される恐れがあるため、ジンバ・ラルはそのままサイド3の特殊病棟で拘束、俺を銃撃した栄誉については襲ってきた連邦の工作員の中で唯一名前が判明した、マーヴィン・ヘリオット軍曹に与えられた。

 

また、ジンバ・ラルの部屋を家宅捜索するなかで、ダイクンの死んだ日以降行方不明になっていたとある文書が発見された。

 

予想外の収穫であり、連邦の陰謀や石碑とあわせてこれを公開することで、戦端を開くに当たっての大義名分は十分に確保できるだろう。

 

俺を襲撃することで連邦政府はルビコン川を渡った。

奴らが賽を投げた以上、最早我々も先に進むより他道はないのだ。

 

愚かなる地球連邦よ。己れが犯した過ちの大きさを知り後悔するがいい。

 

 

 

サイド3 ムンゾ自治共和国議会議事堂

 

宇宙世紀68年、我等はひとりのかけがえのない英雄を失った。

 

そう、誰もが知る我らが指導者、ジオン・ズム・ダイクンである。

 

あの日この場所に立ったダイクンは、ある隠された真実を皆に告げようとし、卑劣なる連邦の手によりその命を失ったのである。

 

そして私もまた、ダイクンの告げようとした真実を知るに至り、その事を隠そうとする連邦により暴徒の襲撃を装って襲われ、生死の狭間を彷徨う事になった!

 

だが、それは良い。私の生死などこれから告げる真実の前には何の意味もなさない事なのだから。

 

まずは諸君にこの石碑を見て貰いたい。

 

これが何か一目で分かるものは恐らくこの場にはいないだろう。

 

これは彼の宇宙世紀憲章が首相官邸ラプラスにて結ばれた際に作られた、そのオリジナルである。

 

西暦から宇宙世紀へと変わるのにあわせて作られた宇宙世紀憲章は6つの章で構成されており、我らスペースノイドを縛る第9条があることから、その存在を忌々しく思う者もいる事だろう。

 

だが、その者達は真の宇宙世紀憲章には「未来」と題された7つめの章があった事を知るべきだ。

 

未来への期待と希望を込めて作られたこの章には、宇宙に適応した新人類の発生が認められた場合、その者たちを優先的に政府運営に参画させることが明記されている。

 

宇宙に適応した新人類とは何か?

 

そう、ジオン・ズム・ダイクンが唱えた、地球から巣立ち、宇宙に適応した新人類「ニュータイプ」に他ならない!

 

ここに、ダイクンが最後の演説をしようとこの場に立った時の原稿がある。

 

 

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あの日ダイクンは、この真実を皆に告げようとこの場に立ち、そして卑劣なる連邦の陰謀によりその命を失ったのである!

 

我等は、この真実を知ってなお、ダイクンを失った悲しみを、連邦に騙されていた怒りを堪え、旧世紀における奴隷のように地球連邦政府へと従い続けなければならないのだろうか?!

 

否、断じて否である!

 

未来への希望が込められた第7章の存在を秘匿し、その強大な軍事力を背景として我々を省みない政治を続ける連邦に従う理由など、最早何処にもない!

 

我々は幾度となく連邦が変わるのを待ったのだ!

 

もはや、我が軍団に躊躇いの吐息を漏らす者は一人としていない。

 

今、真のスペースノイドの熱き血潮を我が血として、ここに私は地球連邦政府に対し、宣戦を布告するものである。

 

繰り返し心に聞こえてくる祖国の名誉の為に、ジーク・ジオン!!

 

 

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あ、ノリで「完」を入れてしまいましたが、お話は続きます


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ギレン独立戦争記 第1話 一週間戦争

1年戦争が始まったのはUC0079年が明けて間もない1月3日である。

 

開戦に向けて準備を万端に整えていたジオン公国軍は、宣戦布告と同時に月と各サイドの駐留艦隊に対して一斉に攻撃を開始した。

 

ソロモン近海に集結していたジオン艦隊へ注意を向けていた連邦軍にとってこれは完全な奇襲となり、ミノフスキー粒子によってその身を隠していたジオン艦隊と、密かにコロニー内へ潜伏していたジオン特殊部隊との間に挟み撃ちにあった連邦軍駐留艦隊は、反撃に転じることもできぬまま壊滅した。

 

ただ、これは連邦の油断というよりジオン側が一枚上手だったというべきであろう。

 

連邦軍とてジオン艦隊の戦力をある程度掴んでおり、その戦力の殆どがソロモン近海に集結している事を確認していたが故に生じた隙をついたものであった。

 

後に公開されたジオン側の資料によると、当時ソロモンに集結していたジオン艦隊の約半数はダミーであり、残りの半数は各地に展開し様々な任務にあたっていた事がわかっている。

 

結局、開戦から僅か四十時間でサイド1、2、4、6、四つのサイドの駐留艦隊が壊滅し、補給と連絡が途絶した状況で最後まで抵抗していたサイド5の駐留艦隊も七十二時間後には降伏した。

 

一方連邦も5日になって、ルナツーから第四、第六艦隊をティアンム中将を総司令としてソロモン近海に向け発進させた。

これは駐留艦隊こそ壊滅したものの、コロニーや月都市への被害がほとんどなかった事から、先にジオンの主力艦隊を叩くべきとの意見が大勢を占めた為である。

 

8日に入ると、ソロモン近海で人類初の大規模宇宙戦が勃発する事になる。

 

この戦いはミノフスキー粒子の登場により連邦のレーダー神話が崩れた戦いであり、同時にモビルスーツが戦いの趨勢を決めた初めての戦いでもあった。

 

ジオン軍は開戦と同時に大量のミノフスキー粒子を散布する事で、連邦艦艇のレーダーや通信機器を麻痺させ、同時にミサイルなどの誘導兵器による攻撃を封じることに成功する。

続いてD型装備(ビーム攪乱幕展開用装備)のザクを展開して連邦のメガ粒子砲による攻撃を無力化したジオン艦隊は、艦隊決戦砲「バハムート」と「ヨルムンガンド」による一方的な遠距離攻撃を開始した。

 

これはメガ粒子砲と違い、核融合プラズマビームがビーム攪乱幕の影響を受けない事を利用したジオン必勝の策であった。

 

ミサイルによる攻撃をミノフスキー粒子で、メガ粒子砲による砲撃をビーム攪乱幕で防がれた連邦艦隊に、遠距離から核融合プラズマビームによる砲撃を繰り返すジオン艦隊を倒す術はなく、連邦軍の指揮官であったティアンム中将はこの状況を打破する為に近距離からの直接砲撃をおこなう事を決意し、セイバーフィッシュ隊を展開すると同時にジオン艦隊へ向け突撃を開始した。

 

ただ、その選択はドロスという大型空母と、モビルスーツという切り札をもつジオン軍に対して最悪の選択であった。

 

ドロスやムサイから出撃したジオン軍のモビルスーツ部隊は、数が少ない上に小回りの利かない連邦軍のセイバーフィッシュ隊を圧倒し、僅か十数分の戦闘でこれを壊滅させる。

次にミノフスキー粒子の影響によりLFCSDS(大規模艦隊統制防宙システム)が機能しない連邦艦艇に接近すると、その圧倒的な機動力を武器に次々と連邦艦艇を血祭りにあげていった。

 

その結果、開戦より五時間後には連邦艦隊は戦力の80%を失い撤退する事になるのである。

 

この戦闘結果を聞いて色めき立つ連邦軍首脳部であったが、諜報部から入った情報により更なる衝撃を受ける事になる。

 

地球圏に向けて移動していたアクシズが、当初の予定であった月軌道で停止せず、そのまま地球へと向かっている事が判明した為である。

 

そして情報部から報告された到達予想地点は、連邦軍本部ジャブロー、今自分達がいるその場所であった……。

 

 

 

35話 UC0079年1月 一週間戦争

 

やあ…諸君。ギレン・ザビである。

 

開戦から今日までの流れを戦記風に纏めるとこんな感じだろうか。

 

まずは、想定していたよりも順調に戦局が推移しているので一安心している。

 

特に8日の大規模戦闘では、ミノフスキー粒子とビーム攪乱幕の効果を警戒されて、そのままゲリラ戦に徹されたらどうしようかと思っていたので、ティアンムが接近戦を挑んでくれて助かった。

 

接近されたらLFCSDSで迎撃すれば良いと考えていたんだろうが、飛んで火に入る夏の虫である。

 

ただ、あれだけ艦艇を沈めたのにティアンムが乗るバーミンガム級戦艦であるタイタンを沈める事ができなかった。

 

流石は0083当時としても有数の戦闘能力を誇っていた新鋭艦である。

 

まあ、第六艦隊の旗艦の方をランバ・ラルが白兵戦で制圧してきたので後で研究させて貰うとしよう。

 

さて、今頃連邦は我々の流したアクシズ落としの情報に色めき立ち、慌ててルナツーから宇宙艦隊を出撃させているころだろう。

 

此方は、アクシズの民間人を乗せたモウサをサイド3宙域で分離させ、各地で作戦目標を完了させた艦隊が続々とアクシズ周辺宙域に集結しつつあり、後は連邦艦隊が来るのを待つばかりだ。

 

一度しか使えない手なので、できるだけ多くの連邦艦が集まってくれると助かるのだが。

 

さて、それではジャブローから出撃した第一陣を潰したら、我々もアクシズに帰るとしよう。

 

ハマーン、ララァ、ダミーを使った奇襲は頼んだぞ。

 

一一一一一一一一一一一一

 

side 名もなき連邦士官

 

ジオンのアクシズ落としに対抗するため、慌ててジャブローから宇宙に上がった第二地球軌道艦隊を待ち構えていたのは、単艦で連邦艦隊と戦えるように建造されたジオンの怪物艦であった。

 

赤く塗装された巨艦の放つメガ粒子砲が漆黒の宇宙を切り裂く。

 

我々の射程の外側から放たれたその砲撃は、重装甲を誇るマゼラン級戦艦の装甲をいとも容易く貫通し、その内部に高温のメガ粒子を撒き散らしてその姿を巨大な火球へと変えてしまった。

 

「くそっ。また一隻喰われた!まだ此方の射程に入らないのか?!」

 

「駄目です!大気圏離脱するために限界までエンジンを酷使しているため、これ以上無理をさせればエンジンが壊れます!」

 

「このまま沈められるよりはマシだ!爆発しても構わんので何としてでも此方の射程に入るまで敵艦に近づけ!」

 

「……了解です。どうなっても知りませんよ?!」

 

士官学校を首席で卒業した私であるが、このような戦況での適切な対処法など、士官学校では全く教えてくれなかった。

 

「ぐっ!」

 

先程沈んだ僚艦がデブリとなって本艦にぶつかる。最新鋭艦である本艦がこの程度の事で沈む事などあり得ないが、敵艦の主砲が直撃すれば自身もデブリの仲間入りする事は間違いなかった。

 

「これでマゼラン二隻、サラミス八隻だと?!まだ我々は一発も敵艦に当てていないのだぞ?!対艦ミサイルは発射できないのか?!」

 

「発射はできますが、例のミノフスキー粒子とやらのせいでほとんど誘導できません!当たりませんよ?」

 

「構わん!牽制になれば良い。撃て!」

 

艦隊の主力を構成するサラミス級巡洋艦とレパント級ミサイルフリゲート艦から、次々と長距離対艦ミサイルが発射される。

40隻近い艦艇から発射されたミサイルの雨は相手がどんな巨艦であってもデブリに変えてしまうだけの破壊力を秘めていた……当たりさえすればの話であるが。

 

「駄目です。ミサイルが明後日の方向に!」

 

「くそっ!」

 

ミノフスキー粒子とかいう悪魔の兵器のお陰で、ミサイルばかりか電子機器類も多大な影響を受けろくに機能しない。

もしその効果を否定していたという科学者に会うことができたなら、きっと俺はそいつを殺して軍法会議行きになる事だろう。

だがそうなるためにもまず生き残らねば。

 

「構わん!弾がある限り撃ち続けろ!」

 

「艦長!間もなく本艦のメガ粒子砲の射程に入ります!」

 

「ようし!我が艦の力を見せてやれ!撃て!」

 

本艦の連装メガ粒子砲が宇宙を切り裂いて敵艦に向かうものの、目視による手動照準に馴れていないせいか敵艦には掠りもしない。

 

「何をやっている!落ち着いてよく狙え!」

 

思わずそう怒鳴ってみたものの、まず自身が落ち着けていない事に気がつき大きく深呼吸をする。

 

「落ち着け、慌てて撃っても当たりはせん。それに間もなく他のマゼランやサラミスも敵艦を射程に収めるのだ。そうなれば此方の優位は揺るがない。」

 

そう言った途端、敵艦が猛烈な勢いでメガ粒子砲を連射したかと思うと、今度はモビルスーツを射出し始めた。

 

「サラミス級巡洋艦、アシヤ、クレ轟沈!敵艦モビルスーツを展開し始めました!」

 

そして射出された緑色の敵兵器は、まるで盾になるかのように敵艦の甲板上に展開していった。

 

「ふん!この距離でモビルスーツなど何の役に立つというのだ。構うな!そのまま撃ち続けろ!」

 

他のマゼランやサラミスが敵艦を射程に捉えはじめた事により急速に増える味方の砲撃と、何故か突然敵の砲撃が途絶えたことにより敵艦への至近弾が増え始めた瞬間にそれはおきた。

 

敵艦に直撃した!そう思ったメガ粒子砲が敵艦に当たる直前で拡散して宇宙の霧となって消えたのだ。

 

「バカな!なんだこれは?!」

 

第四艦隊との交戦記録から、敵が何らかのメガ粒子砲に対する防御手段をもっている事は聞いていたが、正直今まで半信半疑だった。

 

だがモビルスーツを持つジオン相手の接近戦は無謀な事も分かっている。ここは一度距離をとってルナツーを目指すべきか……。

しかしそれではアクシズの落下を阻止できない。そんな風に考えた次の瞬間だった。

 

「艦隊の左翼を隕石群が通過します。」

 

宇宙世紀においで隕石は特に珍しい存在ではなかったが、ブリッジ要員のその報告を受けて何気なく私がそちらを見た次の瞬間、隕石が弾け中からモビルスーツが姿を現した。

 

「左翼!敵機!」

 

私がそう叫ぶのとほぼ時を同じくして、我が艦隊の左翼は、白を基調にピンクのラインで塗装された機体と全身緑色に塗装された機体の2機を先頭に突入してきた高機動モビルスーツにより蹂躙された。

 

本来なら防空識別圏に入ると同時にLFCSDSにより自動的に迎撃されるはずの防空網がミノフスキー粒子のせいで全く機能せず、個々の艦が放つ対空砲で迎撃するには敵の機体は余りにも速すぎた。

 

敵のモビルスーツは左翼外周部のレパント級を無視して艦隊防空圏の内側に入り込むと、手に持った大型ライフルにより次々とサラミスのメインエンジンを撃ち抜きながら艦隊中央部に向け進攻を開始した。

 

これに対して我が艦隊は、味方の艦が障害となり火力を集中することができず、各艦が個別に対空砲火で対応するしかなかったが、敵機はそんなもので落とせるほどなま易しいものではなかった。

 

「左翼艦隊散開!できるだけバラけて逃げろ!中央及び右翼は左翼からできるだけ距離をとる!急げ!」

 

「提督!右翼に敵艦が!」

 

その副官の声に思わず右翼をみれば、先程まで艦隊の正面にいた敵大型戦艦がモビルスーツ隊を射出しながら急速に右翼に向かって接近していた。

 

「バカな。一体何機搭載していると言うんだ!」

 

左翼を食いつくし、今や中央部に襲いかかりつつある高機動型モビルスーツだけでも20機近くあり、そして今、右翼を崩壊させつつある機体は少なく見積もっても50機はいるだろう。

 

「バカな!!なぜあの白い機体はあんな機動ができるのだ?!モビルスーツがこんなに速いなんて聞いてないぞ!!」

 

「あの緑の機体は未来が見えているとでもいうのか?なぜこれだけの砲火をいとも容易くかわせるのだ?!」

 

「こちらマクドナルト、航行不能。艦を放棄する。繰りか…」

 

「来た!青いやつだ!青い奴らの一つ目の群だ!!」

 

「こっちには緑のやつの群もいるぞ!セイバーフィッシュは何をやって…」

 

「いやだ!死にたくない!いやぁぁぁぁぁぁ…」

 

ミノフスキー粒子散布下でかすかに聞き取れる我が軍の通信は完全なパニック状態だった。

 

エンジンを撃ち抜かれて爆散する艦艇に一刀両断にされる艦載機。

逃げ出す巡洋艦に、情報部に「作業用」と言われていた兵器によって沈められていく戦艦。

 

もはや軍隊として機能していない。

 

「提督……。ほぼ全ての戦闘艦が航行不能になりました。我が艦も砲塔の大半が使用不能です……。」

 

「そうか…。」

 

「提督!ジオン艦より通信です!貴君らの勇戦に敬意を表し、残余のコロンブスで現宙域より離脱するのであればこれ以上追撃はしない。以上です……。」

 

「……。艦長、総員退艦だ。」

 

「了解です……。ってっ提督?!」

 

こうして連邦軍、第二地球軌道艦隊は、ジャブロー上空で、1隻の敵艦に捕捉され何もできないまま壊滅した。




あ、タイトルは次回から元の風に戻る予定です


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36話 UC0079年1月 アクシズ戦役

アクシズ戦役

 

一年戦争序盤、宇宙世紀0079年1月15日から16日にかけて連邦・ジオン公国間で行われた宇宙戦である。

 

宇宙世紀0079年1月10日、小惑星アクシズを連邦軍本部ジャブローに向け移動させるジオン軍に対し、地球連邦軍はレビル将軍率いる第一連合艦隊をルナツーから発進させた。

 

第一連合艦隊は、ルナツーに駐留する第一、第二、第三、第五艦隊と、ジャブローから打ち上げられた第一軌道艦隊の合計5個艦隊と、各地のパトロール艦隊などを統合した艦艇総勢334隻で構成されていた。

 

これは当時連邦が保有していた戦闘艦艇の約半分の数であり、その時点で連邦が動かせるほぼ全ての戦闘艦だった。

 

一方ジオン側も、本国の防衛や各地の警備のために必要な艦艇を除いた全ての戦闘艦をアクシズ宙域に集結させており、その数は実に109隻にのぼっていた。

 

334隻対109隻、図らずとも原作と同じ戦力比3対1の戦いが始まろうとしていた……。

 

 

 

やあ…諸君。ギレン・ザビである。

 

前回同様に戦況報告を戦記風にしてみた。

 

敵味方合わせて400隻以上の艦艇がにらみ合う光景は壮観で、特に300隻以上の連邦艦艇が構成する巨大な球形陣はまるでひとつの芸術作品のようですらあった。

 

「しかし連邦軍が球形陣を採るとはな。」

 

伝統的に連邦軍は、LFCSDS(大規模艦隊統制防宙システム)による防空が容易な複縦陣に近い陣形をとっていた。

 

しかし目の前の連邦艦隊は同型艦三隻を一単位として連携し、相互に対空砲の死角を埋めるように運用されていた。

更にその小艦隊を組み合わせる事で、中央部にマゼラン級戦艦とコロンブス級空母、外周部にサラミス級巡洋艦とレパント級フリゲート艦を配置した巨大な球形陣を敷いており、LFCSDSに頼らない巨大な防空圏を完成させていた。

 

この陣形では仮に外周部を突破しても直ぐに次の防空網に行く手を阻まれる形となり、モビルスーツによる攻撃を完全に防ぐには至らないものの、その突破力を確実に削ぎ落とす配置になっていた。

 

「流石はレビル。ティアンム艦隊の敗戦から即座に未知の敵に対して対応してみせるとは。」

 

「ギレン総帥。ドズル様とガルマ様から通信が入っております。」

 

「ウム。」

 

ハマーンからの報告に俺が短く応じると、艦橋のスクリーンにドズルとガルマの姿が映し出される。

 

「兄貴!左翼艦隊は配置を完了したぞ!間もなく連邦艦隊がドロスの主砲、『要塞砲 バハムート』の射程に入る!」

 

「ギレン兄さん。右翼艦隊も間もなくヨルムンガンドの射撃準備とビーム攪乱幕の展開が完了します。」

 

ジオン艦隊はアクシズの正面に三つに分かれて布陣しており、中央部分の艦隊を俺が、左右の艦隊をそれぞれドズルとガルマが率いていた。

 

両翼の艦隊はそれぞれドロス級戦略空母1隻、グワジン級戦艦1隻、ザンジバル級機動巡洋艦10隻、ムサイ級軽巡洋艦10隻、ダミー(ムサイ級)50隻で構成されており、プラズマ砲による砲撃と敵艦隊の牽制を主な任務としていた。

 

え?えらいダミーが多いって?

 

どうせ両翼はミノフスキー粒子とビーム攪乱幕の影響でバハムートとヨルムンガンド以外は攻撃出来ないんだから、ダミーがあれば良いんだよ。ザンジバルは地球侵攻作戦までに損耗されても困るし。

 

「そうか。では作戦通り連邦艦隊が射程に入り次第バハムートとヨルムンガンドによる砲撃を開始しろ。

ドズル、ドロスは足が遅い。間違ってもアクシズの前に出したりするなよ?」

 

「判っている!だが兄貴こそ連邦の正面に位置する事になるが大丈夫か?中央部はビーム攪乱幕を展開せずにメガ粒子砲による砲撃戦を挑むんだろう?」

 

「そうです兄上。今からでも遅くありません。グワダンだけでも後方に下がられては?」

 

確かに俺はグワダン級大型戦艦1隻、グワジン級戦艦2隻、ムサイ級軽巡洋艦62隻、ダミー(ムサイ級)20隻の陣容で連邦艦隊の正面に展開していた。

 

バハムートやヨルムンガンドは、ビーム攪乱幕と併せて運用する事で連邦艦隊を一方的に攻撃できる優れた兵器であったが、弾の単価が高いという大きな問題を抱えていた。

旧式となったザクⅠの核融合炉等を流用することでコストを大幅に削減しているものの、それでも連邦の連合艦隊を相手にするには到底数が足りなかった。

 

そのため中央部の艦隊は、連邦艦隊とメガ粒子砲による砲撃戦を展開し、敵の誘引と漸減を狙う事になっていた。

 

「アステロイドシールド展開。各艦間違っても衝突するなよ。」

 

俺が号令をかけると、アクシズ表面に固定されていた直径100メートルほどの隕石が、パプア級に牽引され艦隊の前へと運ばれていく。

 

「なに、碌な遮蔽物のない連邦艦隊とは違い、此方はわざわざアクシズで牽引してきたアステロイドを盾にしながら戦うのだ。

それにグワダンは、中央部の最後尾に位置してビーム攪乱幕を展開した上で囮となるだけだ。そう危険はないよ。」

 

そんな事を話しているうちに、内蔵されたロケットブースターで細かな位置調整を行った100近い数の隕石の展開が完了する。

これで機動戦ならともかく、密集した球形陣が相手なら十分な遮蔽効果が期待できるだろう。

 

本当ならドズル辺りに指揮を任せてジオン本国かアクシズ内部にいても良い俺がここにいる理由は、士気を上げるためと……自分の判断で兵を死地に送り込む事への罪悪感だろうか。

 

こう考えると自分がギレンになりきれていない事を実感する。

 

だがまあ、俺は俺だ。アイナやメイ、ハマーン、ララァにセイラなど俺を認めてくれる人達がいるうちは大丈夫だろう。

 

「総帥!まもなく敵艦隊が我が方の射程に入ります!」

 

そんなどうでもよい事を考えていると、ハマーンから敵艦隊接近の報告が入った。

 

「ウム。では抜かるなよ。ドズル、ガルマ。」

 

「おう!兄貴こそ気をつけてな!」

 

「兄上!ご武運を!」

 

ドズル、ガルマとの通信が切れると、ドロス、ドロワ両艦から展開された「要塞砲 バハムート」による砲撃が開始され、一年戦争において戦いの趨勢を決めたとされる三つの大きな戦いの最初のひとつ、いわゆるファースト・インパクトが始まる。

 

 

一一一一一一一一一一一一

 

 

side ヨハン・イブラヒム・レビル

 

「アクシズ正面に敵艦隊を確認しました!

艦隊正面にグワダン級1、グワジン級2、ムサイ級70が隕石に隠れながら展開しています。

またその左右に大型空母1、グワジン級1、重巡クラス10、ムサイ級60と例のプラズマ砲がそれぞれ展開しつつあります。」

 

「ムサイだけで200隻だと!?」

 

情報部の報告ではジオン艦隊は100隻程度と見られていたため、そのあまりの数の差に報告してきた首席幕僚のワッケイン准将に思わず聞き返す。

 

「はい、レビル将軍。私も再度確認しましたが、確かにそれだけの数が確認されています。」

 

「信じられん。我々の30分の1の国力しかないジオンが僅かな期間であれだけの艦艇を建造できるとは……。」

 

「私もそう思います。ですが哨戒艦から月や各サイドでもジオン艦の姿が確認されており、報告を信じるのならば前面の艦隊が全てではないようです。」

 

「あれが全てではないだと!?」

 

驚きのあまり思わず声をあげたものの、流石に怪しさを感じて後で諜報部に調査させる事を心に決める。

 

「……まあいい。今は前面の敵に集中するとしよう。例の件はどうなっている?」

 

「はい。レパント級のミサイルは全て近接防空用の拡散弾頭に変更しました。また、本艦や中央部の戦艦には例のA弾頭ミサイルを搭載しております。」

 

「そうか…。ジオンが使っていない現状で、我々から核を使う事は何とか避けたいところだな……。」

 

「ジャブローからは阻止限界点までの到達時間を考慮し、16日00:00を越えた時点でA弾頭を無制限使用してでもアクシズを止めるようにとの命が出ています。」

 

「後5時間あまりで決着をつけろとはな、連中はあいかわらず無茶を言う。」

 

「しかしジャブローも自らの頭上にアクシズが落ちようとしているのです。多少の無茶はやむを得ないと思いますが。」

 

「確かにな。今頃ジャブローは避難する高官でてんてこ舞いだろう。」

 

「でしょうな。では我々はその避難が無駄になるようせいぜい頑張るとしましょう。」

 

「ウム。全艦回避運動をとりつつ前進せよ。目標正面ジオン艦隊!」

 

その号令に従い巨大な球形陣をとった連邦艦隊はアクシズに向け移動を開始した。

 

「ジオンのプラズマ砲の配置は?」

 

「連射が可能な大型砲が両翼の空母の付近に合計6門、単発の小型砲が左右の艦隊の巡洋艦の付近に計30門ほど確認できます……。!!敵大型砲発砲!」

 

艦隊中央部を狙った6発の砲弾のうち4発はそのまま虚空へと消えたものの、残りの2発はそれぞれマゼランとコロンブスに直撃し、当たった船を乗員ごと宇宙の藻屑と変えた。

 

「く……。敵の砲撃は威力と射程こそかなりのものだが、連射がきかず数も少ない。各艦恐れずに落ち着いて前進せよ!」

 

私がそう言うと艦隊は粛々と前進を続ける。

時折両翼からプラズマ砲による砲撃があったものの散発的なものであり、そこまでの脅威ではなかった。

 

「どうやら敵は両翼を温存して中央部の艦隊で砲撃戦を挑んでくるつもりのようですな。」

 

「ウム。わざわざ隕石を盾にする位だ。間違いないだろう。しかし近づきすぎると両翼が急速に前進して包囲される可能性もある。気をつけねばならんな。」

 

「将軍!まもなくメガ粒子砲の有効射程に入ります!」

 

「よし!目標、敵艦隊旗艦グワダン!全砲門一斉射撃用意、撃てー!」

 

虚空の宇宙を無数のメガ粒子が光の帯をひきながら、その先に鎮座する赤い巨艦を目指し進んでいく。

 

馴れない目視による手動照準のため、上手く狙いがつけられず、周囲の隕石やムサイに当たるものも多かったが、それでも三百隻近い艦から一斉に放たれたメガ粒子砲は高い密度で赤い巨艦へと降り注ぐ…かに見えた。

 

しかし、敵の旗艦であるグワダンの周囲まで近づくと、まるでそれ以上近づく事を許されていないかのように眩い光を放ちながら消えていった。

 

そして次の瞬間には隕石の陰から顔を出した敵艦が、お返しとばかりにメガ粒子砲の光芒を放ち、それに当たった味方の艦が火球へと姿を変えた。

 

「駄目です!例の対メガ粒子砲防御幕が展開されています!」

 

「いや、どうやら展開されているのは旗艦であるグワダンの周囲だけで他の艦には展開されていないようだ。

まずは砲撃戦に徹して敵の数を減らす。敵艦が頭を出した瞬間を狙え!」

 

その後、敵艦隊との砲撃戦は四時間近くに渡って続き、50隻を超える味方艦の犠牲と引き換えに20隻近いムサイを大破させた。

 

その間に何度か敵陣への突入を試みたものの、その都度突入艦隊が両翼のプラズマ砲と敵艦隊の集中砲火を浴びて敵陣への突入は果たせないでいた。

 

「将軍!まもなく例の時刻となります。」

 

「く……。ああも徹底的に遮蔽物に隠れながら砲撃されてはな。このまま砲撃戦で決めるのはやはり無理か…。」

 

「無念ではありますが、地球にアクシズを落とす訳には参りません。どうかご決断を。」

 

「……。判っている。直衛艦隊全艦、核ミサイル発射用意!ああ…、無駄だと思うが一応降伏勧告を出しておけ。」

 

「はい……。ジオン側からの応答なし。」

 

「……撃て。」

 

空を切り裂き無数のミサイルが発射される。

 

その中の何十数発かは核弾頭を搭載しており、例え無誘導であったとしても、その広大な効力圏により盾にする隕石ごと敵艦を消し飛ばす事になるだろう。

 

「?…!!ジオン艦隊が盾にしているアステロイドが急速に接近!ミサイル群と衝突します!」

 

「なんだと?く……。」

 

目標の手前で無数の巨大な火球が誕生し、あらゆるセンサーが一時的にブラックアウトする。

 

そしてその火球が収まった末に見えたものは、予想だにしない光景であった。

 

「敵艦が撤退を開始したというのか……?」

 

見ればアクシズの前面に展開していたジオン艦隊は、上下に別れて急速にアクシズの前から離脱しようとしていた。

 

「どういう事だ?連中は一体何を考えている?」

 

「レビル将軍!アクシズが……。」

 

「何!?」

 

そこには、いつの間にか核パルスエンジンに点火して、我々の目前まで迫ったアクシズの姿があった。

 

「全艦散開!急げ!」

 

「将軍!核でアクシズを破壊した方が良いのでは!?」

 

「馬鹿者!多少破壊した程度であれほどの質量が止まるはずなかろう!早く艦隊を散開させろ!」

 

「は、はい!了解しました!」

 

激しく艦が揺れ、艦が上方に向け移動しているのがわかる。

 

そうしている間にもあちこちで味方艦同士の衝突が相次ぎ、先に退避を完了させたジオン艦隊からの砲撃が、只でさえ混乱している味方艦隊を更に混乱させた。

 

「将軍!ジオンの砲撃です!」

 

「構うな!今はアクシズの前から離脱する事にのみ集中しろ!」

 

その後ジオン艦隊の妨害はあったものの、退避に全力を尽くしたため、多くの艦艇がアクシズの進路から離脱する事に成功していた。

 

「……。損害は?」

 

「……。正確な被害は不明ですが、50隻以上がアクシズに衝突した模様です。特に中央部にいて足の遅いマゼランとコロンブスが多く喰われました……。」

 

「そうか…、一時後退して艦隊を再編する。発光信号を……」

 

「……!? 将軍!アクシズの内部から敵モビルスーツが?!」

 

未だに至近距離にあるアクシズのハッチが開き、内部から次々とモビルスーツが出撃してくる。

 

「しまった!これが狙いか!」

 

これに対して味方艦隊はアクシズを回避するため散り散りとなっており、組織的な防戦を行えない状況となっていた。

 

「将軍!ジオンのモビルスーツが核を使っています!」

 

出撃してきたモビルスーツ隊の多くはバズーカに核弾頭を装填しており、これで攻撃されてはいかに堅固な装甲を誇るマゼランといってもひとたまりもなく、次々と沈んでいった。

 

「モビルスーツが核弾頭を使うだと?!くっ……。ここまでだ。全艦に撤退信号を送れ。

残存するコロンブスは全てのセイバーフイッシュを発艦、少しの時間で良い。モビルスーツの進攻を食い止めてくれ。」

 

そんな命令を出している間にも敵は我が軍を蹂躙しつつあり、モニターには黒い三機の高機動型モビルスーツが見事な連携によりマゼランを撃沈する光景が映っていた。

 

「敵機接近!護衛艦隊が迎撃に向かいます!」

 

モニターが切り替わり、一機の赤い高機動型モビルスーツの姿が映し出されていた。

 

「一機で艦隊に仕掛けてくるだと? 正気か?」

 

いくら連邦艦隊が混乱しているといっても、司令部直属の護衛艦隊は精鋭揃いで未だに健在である。

 

ところが赤い機体はそんな事を気にする素振りも見せず、マゼラン級1隻とそれに随伴するサラミス4隻に突っ込んできた。

 

「……っ!なんだと!?」

 

正面から突撃してきた赤い機体は、急旋回や急上昇、急降下を繰り返して艦隊の混乱を誘うと、最も左側にいたサラミスの砲台に対艦ライフルを叩きこみ、艦隊の防空網に穴を開ける。

 

そのまま艦隊の陣形内に侵入すると、隣にいたサラミスの甲板に着地し、足元に向け対艦ライフルを連射する。

 

すると弾薬庫に直撃したサラミスが轟沈し、その爆風を受けた赤い機体は一気に加速して弾幕を張るマゼランへと接近、軌道が交差した瞬間にブリッジとエンジンにシュツルム・ファウストを叩き込んで、あっという間にマゼランを戦闘不能へと追い込んだ。

 

そしてそのままマゼランの上を通りすぎた赤い機体は、今度はマゼランの反対側にいたサラミスの艦橋に着艦し、今度は艦橋を真上から撃ちぬく。

 

たった一発で航行不能になったサラミスの艦橋から、背中に背負った大型エンジンの推力で瞬く間に間合いを詰めると、最後に残ったサラミスへ対艦ライフルをつるべ打ちにして撃沈した。

 

この間わずかに5分。

 

たった一機のモビルスーツにより、一分間に一隻の戦闘艦が撃沈された事になる。

 

「あ、あり得ない……。あれでは…ま、まるで…赤い…彗星……。」

 

同じ光景を見ていた旗艦アナンケの艦長であるパオロ中佐が思わず呟く。

 

この会戦後、赤い彗星と呼ばれる事になるシャア・アズナブル大尉の働きであった。

 

だが、そんな状況下でもバーミンガム級戦艦アナンケの守りは強固であった。

 

防空圏に侵入してきたザク2個小隊6機を撃墜し、射線上に入ったムサイ2隻を中破させ、攻撃を試みた2機のヅダに防空圏への突入を断念させた。

 

ワイアット中将が提唱し、開発された世界最強の宇宙戦艦バーミンガム級の真価を示すものだったが、そんな奮戦もしょせん蟷螂の斧でしかなかった。

 

バーミンガム級の戦闘力を警戒したジオン軍は、戦術を変更して周囲の艦艇を次々と排除していく。

 

「この辺りの残存艦はついに本艦のみか……。」

 

レビルが独語した頃、アナンケに三機のヅダが接近する。

 

カラーリングは黒。開発初期からモビルスーツに乗っており、あらゆる戦いで戦果を上げ続けているエース・オブ・エースで構成される小隊である。

 

「先程マゼランを苦もなく沈めた連中だ!何としても近づけるな!」

 

アナンケからの必死の対空砲火も空しく、見事な連携によりバーミンガム級の弱点である後方下部のエリアに入り込むと、エンジンを撃ち抜かれたのを皮切りに、主砲が、副砲が、ミサイル発射管が、対空砲が次々と破壊され、艦が断末魔の悲鳴を上げはじめていた。

 

「レビル将軍!本艦はもうもちません!退艦を!」

 

ワッケインに促されて連絡挺へと移乗し、アナンケから連絡挺が離脱した直後、連邦軍の誇った最新鋭のバーミンガム級戦艦「アナンケ」は轟沈した。

 

そしてそれは総旗艦の沈没と指揮系統の完全なる消滅を意味していた……。



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37話 UC0079年2月 キシリアの策謀

サイド3 ギレン邸

 

人類史上初の宇宙艦隊による決戦となったアクシズ戦役が終わって、二週間が過ぎようとしていた。

 

連邦軍本部ジャブローを目指して宇宙を進んでいた小惑星アクシズは、連邦の宇宙艦隊を壊滅させた事により地球の衛星軌道でその動きを止め、地球軌道の支配権は連邦軍からジオンへと移った。

 

ジオン政府はアクシズ戦役での華々しい戦果を武器に、連邦軍に対し、休戦条約の締結を申し入れる。

 

敗北を喫し、疲弊した連邦にとって、それを断る気力はもうなかったかに見えた……。

 

 

 

やあ…諸君。ギレン・ザビである。

 

わずか一度の戦闘で宇宙軍の大半と指揮官であるレビル将軍を失うという状況に陥った地球連邦は、混乱の極みにあった。

 

宇宙艦隊の主力と衛星軌道の支配権を失った宇宙軍はジオンとの即時休戦を主張し、未だに無傷の戦力を保有する地上軍はジオンとの徹底抗戦を主張していた。

 

そして肝心の連邦政府首脳部は、月や各サイドの支配権と宇宙艦隊を失った責任をとることを嫌がり、責任者を決める事すらできずにただ右往左往するのみであった。

 

……連邦は大丈夫か?

 

そう言いたいところだったが、我等ジオンも連邦軍を笑えない状況となっていた。

 

そう。レビル将軍が脱走したのである。

 

原作の知識の事もあってデギン公にも場所を知らせずにズム・シティ某所にレビル将軍と捕虜にした高官達を収監していたのだが、そこを連邦の特殊部隊により襲撃され捕虜を奪還されてしまったのである。

 

情報の秘匿を最優先にして少数で警備していた事が裏目に出てしまい、警備にあたっていた人員は全滅。

 

そのために将軍の脱走に気がつくのが遅れてしまい、気付いた時にはすでにサイド3から脱出した後だった。

 

そのままルナツーへと入ったレビル将軍はかの有名な「ジオンに兵なし」の演説を行う。

 

原作とは違い、9割近い戦力を保全しているジオン軍に対して何が兵なしだよと思っていたら、その証拠として示されたのが我が軍で使っているダミーの事だった。

 

どうやら我が軍はこのような偽物を使って数を誤魔化さねばならないほど疲弊しているらしい。

 

いや…確かにダミーは連邦軍を誤魔化す為に用意したものだが、此方はその気になればすぐにでもアクシズを地上へ落とす事が出来るんだぞ?

 

まあ、無差別攻撃は悪影響が大きそうだし、何よりも俺のメンタルがもちそうにないのでする予定はないが。

 

それに地球の衛星軌道に宇宙要塞があった方が地上への侵攻が容易になるからな。

 

結局宇宙軍の有力者であったレビル将軍が徹底抗戦を訴え、更に宇宙植民地を失った責任を取りたくない連邦首脳部の意向もあり条約交渉は決裂。

 

休戦条約は調印されず、隕石等の大質量兵器とNBC兵器の使用禁止、コロニーや大都市への直接攻撃の禁止、捕虜等の取り扱いについて定めた軍事条約の調印のみにとどまった。

 

……極秘であったはずのレビルの収監場所を連邦が知り、厳重なはずの警備をすり抜けて無事にルナツーまで逃げおおせた事から内通者の存在が疑われる状況だが、やはり原作同様にキシリアが暗躍したのであろうか。

 

主に情報収集や地球侵攻作戦に向けた準備を進めてきたキシリアにとって、現時点での休戦は今後ジオンを運営していく中での主導権の喪失を意味する。

 

諜報活動を統括する立場から連邦内部に多数の協力者を有しているので収監場所の情報を連邦に渡すのは容易であり、また、逃走経路となった月軌道の防衛も担当しているのでそこを通るレビルを見逃すのも簡単だろう。

 

だが流石と言うべきか、いくら調べても物的証拠が何一つ出てこない。

故に現段階でレビル脱走幇助の罪をキシリアに問うのは不可能だろう。

 

メイの父親の時といい、秘密工作には高い能力を発揮するな。

 

しかし…まさかここまで露骨に休戦交渉の妨害をしてくるとは思わなかった。

 

休戦交渉の担当にマ・クベ中将を推薦してきたのを無視して、自分で休戦交渉を担当したのがいけなかったのか?

 

しかしキシリアの息のかかった継戦派のマ・クベに休戦交渉を任せても、成功するとは思えないしな……。

 

いくらギレンに対抗心を持っていて、戦争を通じて成り代わるという野心を持っているとしても、ジオンが生き残るかどうかさえ怪しい連邦相手の戦争に、個人的なお家騒動を持ち込むなど正気の沙汰ではない。

 

お陰で新兵器やモビルスーツを活用して、連邦宇宙艦隊相手に圧倒的な勝利をおさめ、連邦の腰が引けたところで、ジオンに有利な講和条約を結んで休戦するはずだった計画が台無しになってしまった。

 

こうなってしまった以上、例えルナツーを落とそうが地球に籠ればよい連邦が休戦に応じる事とは考えられず、

我等が連邦に「負け」を認めさせるためには、地球降下という悪手を打たねばならなくなってしまった。

 

無論それに備えた準備は進めてあるものの、この事態を引き起こしたキシリアに地球侵攻作戦の全権を任せる事などできるはずもない。

 

ドズル達と相談して至急手を打たねば。

 

まあ、休戦が成らなかったのは痛恨の極みだが過ぎたことを嘆いても何も変わらない。

 

我等スペースノイドの未来の為、できる事をひとつずつ進めていく他に道はないのだ。

 

一一一一一一一一一一一一

 

side キシリア・ザビ

 

グラナダの自室でギレンからの通信を受けたキシリアは顔がにやけるのを我慢しなければならなかった。

 

彼女を悩ませ続けた懸案事項である南極での休戦交渉が無事、失敗に終わった事を告げる連絡であったからだ。

 

「レビルが逃げましたか。私の戦略諜報軍にお預け頂ければそのような事にはならなかったでしょうに。」

 

「よくもヌケヌケという。レビルを奪還した連邦部隊は、貴様が守らねばならない月の軌道を通過してルナツーへと逃げおおせたのだぞ?」

 

「それは仕方がありません。宇宙攻撃軍に戦力が集中して最低限の戦力しか配備されていない現在の状況では、月を守るのにも限界があります。完璧を求めるのであれば、もう少し戦力をまわして頂かねば。」

 

我らジオン軍は、月と各サイドに駐留していた連邦軍を駆逐し、アクシズ戦役における勝利により連邦の宇宙戦力の大半を壊滅させた。

 

そんな状況で休戦条約が締結されてしまえば、戦略諜報軍を率いて裏方に回っていた私の立場は大きく低下し、代わりにアクシズ戦役を勝利に導き休戦条約を締結させたギレンがこれからのジオンを導いていく事になるだろう。

 

演説でギレンが述べた通り、ジオン・ダイクンが広めた人の革新である「NTによる社会」は実現しなければならない。

 

だがそれを主導するのは純粋なるザビ家の者でなければならず、ダイクン派の娘をザビ家に入れ、ダイクン家族ともズブズブの関係であるギレンにはその資格がない。

 

まあ、非情になりきれない父や、狭量な次男、軍事一辺倒な三男にも資格がないので、資格があるのは私かガルマ位のものなのだが。

 

そしてそんな資格がない者達が今後のジオンを率いていく事は私にとって許容できるものでなく、戦争を継続させるために私はありとあらゆる手を打った。

 

連邦のスパイに秘密裏にレビルの居場所と警備情報を伝え、ジオン軍が戦力を水増しして見せるのに使っている「ダミー」の情報も流した。

 

お陰で連邦首脳部は戦争の継続を決意し、スパイの連邦内部での発言力も強化されまさに一石二鳥の成果となった。

 

そう思いキシリアが心の中でほくそ笑んだ次の瞬間、ギレンの発した言葉によりキシリアの表情が凍りつく。

 

「ふん。良かろう。貴様には暫くの間月の防備を固めて貰う。」

 

「な…!私はまもなく地球侵攻作戦を指揮せねばなりません!そのような些事に構っている場合では!!」

 

「ア・バオア・クーとともに我等ジオンの最終防衛ラインであるグラナダを易々と抜かれ、そのせいでレビルを取り逃がしておいてよくも言ったものだ。

言っておくがこれはお前以外の全てのザビ家の同意を取り付けた決定事項であり、貴様が何と言おうとこの決定は覆らない。

これに嘆くのならばせいぜい月の防備を固める事だな。もう一度ジオン本国への直撃を許せば貴様の立場はないぞ?」

 

「しかし、それでは誰が地球侵攻作戦の指揮をとると言うのです!?

ドズルはソロモンの守備とルナツーの牽制に、ガルマは各サイドの掌握で手一杯のはず!」

 

「ここにいるではないか。連邦艦隊を壊滅させ、担当していた休戦交渉もレビルの脱走により破局に終わって手が空いている指揮官が。」

 

「な…ま、まさか兄上が地球侵攻作戦を?!」

 

「貴様よりは地球に詳しく、地球侵攻作戦の概要も理解している。何の問題もなかろう。」

 

「そんな…地球侵攻作戦は私が準備を進めてきた作戦であり、私が指揮をとるのが最適なのです!どうか再考を!」

 

「ふん。貴様と話していても時間の無駄のようだ。サスロやドズル、父上を説得できたらまた連絡してくるがいい。ではな。」

 

そう言うと一方的に通信が打ち切られ、部屋に静寂が訪れる。

 

……まさか兄上がこのような強行手段に出るとは。

 

このままでは折角休戦交渉を妨害した事が裏目に出てしまう。何とか父上達を説得し、地球侵攻作戦の指揮をとらなければ。



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38話 UC0079年2月 第一次降下作戦①

オデッサ上空 旗艦グワダン

 

南極条約が締結された翌日のUC0079年2月1日、ジオン公国は、ベルファストやニューヤーク、キャリフォルニアやペキン等の大都市に存在する連邦軍基地が、南極条約に盛り込まれた大都市への直接攻撃禁止条項(大都市への直接攻撃及びそれを誘発しうる軍事行動の禁止)に違反するとして、該当する地域からの退去を要求する。

 

この要求が認められない場合、月面のマスドライバーを用いて連邦軍基地への直接攻撃を実施するとの警告を発したジオン軍は、同時にソロモンやジオン本国から大量のHLV(垂直離着陸型の単段式宇宙輸送機)を地球軌道に向けて発進させた。

 

一方ジオンの要求をのむことなど不可能な連邦軍は、それぞれの基地に地対宙ミサイルや地対宙レールガンを集中配備してジオンのマスドライバーによる攻撃に備えるとともに、地球軌道に集結しつつあるHLVの降下を警戒して軍の集結を急いだ。

 

だが、これらの動きは、全てオデッサ攻略に向けた壮大な陽動作戦であった。

 

コロニー落としによる被害が無い連邦には、膨大な地上戦力が無傷で残っており、そこに宇宙から降下する事はかなりの抵抗が予想された。

 

そのためジオン側はマスドライバー攻撃の宣言と、HLVを軌道上に集結させる事で、連邦軍の戦力を大都市圏に集中させ、逆にそれ以外の地域の戦力を低下させる事に成功していた。

 

特にオデッサをはじめとしたコーカサス地方の鉱工業地帯などは、駐屯していた部隊のかなりの数がモスクワなど大都市の防衛に回されたため、大幅に戦力が低下していたのである。

 

UC0079年2月14日2200

ジオン公国軍は月面のマスドライバーによる連邦軍基地への直接攻撃を開始する。

 

この攻撃はミノフスキー粒子の濃度が高くなかった事や、連邦側が事前に準備を整えていた事もあって、連邦軍は射出された質量弾の迎撃に成功する。

 

だがこの攻撃は陽動作戦の一部であり、月面のマスドライバーと衛星軌道上に集結したHLV群に意識を集中させていた連邦軍は、秘密裏にオデッサへの降下軌道に集結したジオン艦隊に全く気がついていなかったのである。

 

UC0079年2月15日0400

グワダンとザンジバル級16隻で構成された降下部隊の第一陣がオデッサに向け降下を開始する。

 

いわゆる第一次降下作戦の始まりであった……。

 

 

 

やあ…諸君。ギレン・ザビである。

 

南極での条約交渉に失敗した以上、地上での戦いは避けられないものとなった。

 

ルナツーを攻略してから、延々とマスドライバーで隕石を降らせて連邦軍に降伏を促す案もあったが、作戦の過程で民間人と地球の環境に膨大な損害が出る事が予想された。

 

その場合、アースノイド全体にスペースノイドへの憎悪を植えつけてしまい、泥沼の戦争となって妥協点を見つけられなくなる可能性が高い事から、致し方なく原作同様に地球侵攻作戦の準備を進めていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

広大な地上は全てが連邦の支配下に置かれており、最初にどこを攻めるかは誰もが迷うところだが、まずは無難に中央アジアの要衝オデッサを攻略する事にした。

 

まずは資源がないと話にならないからね。いくら資源衛星があるとは言っても、そこで採れる資源には限りがあるし。

 

ウクライナ南部に位置して、黒海の真珠とも謳われるオデッサは、黒海沿岸で最大の工業地帯であると同時に、バクー油田をはじめとしたコーカサス地方で産出される豊かな鉱物資源の集積拠点でもあった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

このオデッサをはじめとしたウクライナの工業地帯の制圧と、コーカサス地方で産出された豊富な鉱物資源を宇宙に上げるバイコヌール宇宙基地を確保する事が第一地上機動師団の最初の目標となる。

 

「ギレン総帥。」

 

「どうした?ハマーン?」

 

「作戦に参加する全艦が予定のポイントに到達致しました。」

 

「よかろう……。全軍に戦闘開始命令を出せ。」

 

「はっ!」

 

グワダンがバリュートを展開し、地球に向けて降下を開始する。

 

予定通りなら、黒海最東端の港町ロストフの近郊に降下し、そこから我がA軍集団はヨーロッパ各地へと進軍していく事になるだろう。

 

 

【挿絵表示】

 

 

さて、そろそろ地上だ。グワダンは原作とは違いミノフスキークラフトを搭載しているので理論上は地上でも問題なく飛行できるハズだが、もし上手く機能しなければこれで終わりだな……。

 

一一一一一一一一一一一一

 

side ハンス=ウルリッヒ・ルーデルⅨ世

 

はじめまして、諸君。

 

私の名はハンス=ウルリッヒ・ルーデルという。

 

正確にはハンス=ウルリッヒ・ルーデルⅨ世なのだが、敵であった欧米式の読み方はあまり好まないので出来れば気軽にルーデルと呼んでくれ。

 

さて、諸君は生まれ代わりというものを信じるだろうか?

 

なに?信じない?それは信じた方が良いかも知れないぞ?

 

かく言う私も以前は信じていなかったのだが、西ドイツのローゼンハイムの病院で意識を失ったかと思えば、はるか未来のスペースコロニーで再び目を覚ます事になった。

 

最初はあまりの事態に動揺したものだが、まあ誰しも一度くらいは生まれ代わったりする事もあるだろうと思い、折角の機会なのでまた飛行機のパイロットになろうと決意した。

 

しかしコロニー国家であるジオンには宇宙戦闘機ならともかく普通の飛行機などあるハズもなく、仕方なく私はモビルスーツのパイロットになる事にした。

 

最初は宇宙でモビルスーツ「ザクⅡ」のテストをしていたが、ギレン総帥が「我々は地球侵攻に備えた機体の開発を進めなければならない。」と演説されていたのを聞き、以前ゲーリング閣下が懐かしきシュトゥーカの隊員を募集していたのを思いだし、それならばと地上で運用される予定の空戦用モビルスーツ「グフ」のテストに志願した。

 

グフはザクⅡから空間戦闘用の装備を排除して大幅な軽量化を図り、脚部に搭載した強力な熱核ジェットエンジンの推力と、バックパックに搭載した2基の飛行用ファンの力でド・ダイとの連携による空中戦闘を可能にした傑作機である。

 

ジャイアント・バズによる上空からの砲撃や、盾と一体化させたガトリング砲を用いた対地掃射などで高い攻撃力を持つ。

 

私としてはヅダ用の大型対艦ライフルを使った上空からの狙撃を推していたのだが、そんな事が出来るのは私だけだと言われてしまった……。なぜだ。

 

まあ、そんな感じにド・ダイを操縦する幼なじみのエルヴィン♀️と伴に、地上で毎朝牛乳を飲みながら運用データの収集を行っていたのだが、グフの量産が正式に決定してサイド3に戻った私は、今度は量産に向けたテストに明け暮れる事になる。

 

そして、来るべきUC0079年1月3日、我々ジオン公国は地球連邦政府に対して独立戦争を挑んだ。

 

私も祖国のためグフでの参加を望んだのだが、「お前のグフは陸戦用だから宇宙での戦いはムリだ。」と至極当然の事を言われてしまい、アクシズでモビルスーツ隊が歴史を作っている時に何も出来なかった私は、口惜しさのあまり男泣きしてしまった程である。

 

私はノーマルスーツさえあれば、宇宙でもグフで戦えると思うのだが。

 

まあ、そうこうしている間に宇宙での戦いはジオンの勝利に終わり、戦いの場所は宇宙から地上へと移ろうとしている。

 

間もなく母艦グワダンのハッチが開き、我等ジオンの鷲は地上へと舞い降りる事になるだろう。

 

そしてこの飛翔はスペースノイドにとって、そして何よりも私にとって大きな飛翔となるであろう。

 

 

 

オデッサ降下作戦におけるルーデル少佐の戦果

 

ビッグトレー級陸上戦艦マラート 撃沈

ビッグトレー級陸上戦艦ガングート 共同撃沈

ミサイル巡洋艦キーロフ 撃沈

61式戦車 2個中隊(32両)撃破

セイバーフィッシュ6機 撃墜

 

エルヴィン・ヘンシェル兵長♀️ (夜戦)撃墜



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39話 UC0079年2月 第一次降下作戦②◼️

最初は偵察の為に運用された飛行機は、その後の航空技術の発達とともに、航空戦力の重要性は高くなり、第二次世界大戦でついに勝敗を決する要素となった。

 

その事はこの宇宙世紀でも変わりなく、地球連邦軍は地上の空を支配するため、各地の空軍基地に多数の作戦機を配備していた。

 

……そう。空軍基地に、である。

 

航空機を用いて作戦行動を行うには、離着陸が可能な滑走路と整備や補給のための施設が必要不可欠であるため、航空戦力は空軍基地なくしてその真価を発揮する事ができない。

 

そして、空軍基地の維持には多大な費用がかかるため、その数は強大な連邦と言えども限られており、この限られた数の空軍基地を守るため、連邦軍は地球全土にレーダーによる早期警戒網を構築し、各基地に基地防空隊を設置する等、万全の防衛態勢を敷いていた。

 

……連邦が制宙権を持っている前提の話であったが。

 

だがこの万全のはずの守りは、ミノフスキー粒子という新たな兵器と、衛星軌道をジオンに押さえられた事により大きく変貌していく事になる。

 

 

 

やあ…諸君。ギレン・ザビである。

 

予定通りロストフ近郊に降下した我がA集団は、当初の予定どおり4つの方面軍に別れて各地へ進軍を開始した。

 

 

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先のマスドライバーを用いた陽動作戦によって戦力が低下していた連邦軍などモビルスーツの威力の前に何の障害にもならず、有力な機甲師団が残留していたスターリングラード方面への進軍こそ苦戦したものの、他の方面では順調に進軍を続けていた。

 

 

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また、そのスターリングラード方面軍についても某少佐率いるグフ(S.F.S搭乗)の機動力を活かした部隊運用により敵の主力の包囲に成功、わずか数日後には殲滅に成功する。

 

 

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やはり地上でもモビルスーツは強力だ。61式の主砲である150ミリキャノンではザクの正面装甲を抜くことができないにもかかわらず、此方の攻撃はザクマシンガンでさえ致命傷になりうる。

 

戦力比としては同数では相手にならず、ザク1機につき戦車5台でなんとか戦えると言った位だろうか?

 

特に遮蔽物のない平野部での戦いでは、3次元機動が可能なモビルスーツと61式戦車では全く勝負にならなかった。

 

その証拠にロストフから平野部の多い東部に向け進軍した部隊は、連邦の抵抗を蹴散らしてまもなくオデッサ市街へ入ろうとしている。

 

 

【挿絵表示】

 

 

だが、連邦軍を侮る事は出来ない。スターリングラード攻略戦で連邦戦車隊の待ち伏せを受けたザクが撃破されているし、ミノフスキー粒子の散布により誘導兵器を使えない連邦空軍は、ギリギリまでモビルスーツに接近して直接照準で爆弾を投下してくる。

 

まあ、後者についてはまもなく始まるB軍集団の攻撃で近隣最大の空軍基地があるバイコヌールが落ちれば暫くは大人しくなるだろう。

 

確かに空を自由に駆ける航空機は脅威だが、その真価を発揮するにはそれを支える空軍基地の支援が必要不可欠なのだ。

 

連邦よ。衛星軌道を失った貴様らに、最早安全な場所などない事を思い知るが良い。

 

 

一一一一一一一一一一一一

 

 

side シャア

 

 

大気圏ギリギリの低軌道を、ザンジバル級三隻からなる小艦隊がミノフスキー粒子を散布しながら進む。

眼下には夜の地球が浮かんでおり、そこで暮らす人々が灯す明かりは、まるで夜空に浮かぶ星座のようで何処か幻想的であった。

 

「準備はどうだい?赤い彗星」

 

地球降下に備えて機体の最終チェックを進めていると、母艦「リリー・マルレーン」の艦長であり、親衛隊の特務大隊長でもあるシーマ中佐から通信が入る。

 

元海兵隊の荒くれどもを纏める女傑で、艦橋の自分の席にトラの毛皮を敷いたりするのはどうかと思うのだが、ギレン総帥直々に下賜されたものらしく、記念に使っているらしい。

 

私に角付きのヘルメットを送ってきた事といい、奴はいったい何をしたいんだ?

……まあ、ヘルメットは気に入ったので今もこうして使っているが。

 

「部下のアンディとリカルドも既に配置についており、準備は万端です。」

 

「そいつは結構。赤い彗星が地に堕ちるところなど見たくはないからね。ところで、少佐は地球に降りた経験はあるのかい?」

 

「……一応は、魂が重力にひかれるようであまり好きではないのですが。」

 

以前ガルマと二人で某総帥の「護衛」という名目で北米大陸に降りた事がある。今思えばあれもガルマへの英才教育の一環だったのだろう。

 

そう言えば、あの時にガルマと街に出かけて絡まれている所を助けた金髪の令嬢は今も元気にしているだろうか?

 

「そうかい、何事も経験があるのは良いことさね。じゃあ知ってると思うが、地上では重力のせいで機体が重くなる。

それは最新鋭の重モビルスーツであるドムだろうと同じ事だ。抜かるんじゃないよ?」

 

「了解しております。」

 

エース機として赤く塗られた愛機を見れば、G型装備と呼ばれる大気圏突入用の装備の最終点検が行われている最中だった。

 

バリュートシステムとも呼ばれるG型装備は、モビルスーツの胸と背中に固定されるランドセル状の装備2つで構成されている。

背中の装備は大気圏突入時に、半球形の耐熱フィルムを展開して空力加熱による高熱を回避し、胸のランドセルには減速用のパラシュートと着陸時に使用する逆噴射用のロケットブースターが備わっている。

 

ギレン総帥の発案で旧世紀における歩兵のパラシュート降下を、宇宙空間から地球へと拡大したものだが、ザクでさえ戦車5両分とも言われる戦力が、衛星軌道上から直接降下してくる強襲効果は絶大であり、この装備の開発により連邦からは「安全な後方」というものが消失したのである。

 

何故なら戦車師団が構成する前線の後方に砲兵師団を配置したとしても、上空から直接モビルスーツが降ってくれば砲兵師団に抵抗するすべなどなく、空軍基地や物質の集積地も同じだからだ。

 

また、衛星軌道上の制宙権を喪失し、ミノフスキー粒子の効果によって対宙レーダーが機能しない現状において、連邦にはこの奇襲を防ぐ手だてがない事が致命的であった。

 

これを防ぐには衛星軌道を奪還するほかないのだが、そこには宇宙要塞アクシズと宇宙攻撃軍の主力が待ち構えている。

 

……少し連邦に同情したくなってきた。

 

「さて、それじゃそろそろ降下ポイントだ。一足先に降りてバイコヌールの掃除をしておいておくれ。」

 

そんな事を考えているうちに降下ポイントに到達したようで、シーマ中佐の言葉にあわせてザンジバルの下部ハッチが展開していく。

 

「降下に失敗すれば地球も見納めか……。」

 

夜の闇に染まる地球を見て思わずそんな言葉を呟く。

 

「……赤い彗星。あんたの事は総帥から聞いて知っている。あんたにも色々事情があるのだろうが、あたしの部下である以上、死なせやしない。

待っている人もいるんだろ?泥水をすすってでも生き延びな。」

 

するとそれを聞いたシーマ中佐から思わぬ激励の言葉をもらうと同時に、ブリッジから出撃の合図が出る。

 

機体をハッチに向けて進めながら、荒くれ者揃いの元海兵達にシーマ中佐が人気な理由がわかった気がした。



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40話 UC0079年3月 第二次降下作戦①

オデッサ基地 上空グワダン

 

突如空から舞い降りたジオンの死神「モビルスーツ」の威力の前に連邦ヨーロッパ方面軍は敗走しつつあった。

 

その理由はジオンの奇襲戦法による部分も大きかったが、何より大きかったのは当時の連邦軍にはモビルスーツに有効な兵器が61式戦車と対MS重誘導弾“リジーナ”くらいしかなかったのが最大の理由であった。

 

そんな状況の中で、ある連邦軍士官は自ら指揮する対MS小隊に近づきつつあるジオンの一つ目を迎え撃とうとしていた。

 

「ザクの予想侵入経路、正面の丘。各分隊状況を知らせ。」

 

「此方A分隊、射撃準備が完了しました。」

 

「同じくB分隊も配置完了です!また、目標の姿を確認!」

 

「C分隊、標的をリジーナの射程に捉えました。何時でも撃てますぜ。」

 

無線が使えないため、慌てて倉庫から引っ張りだした旧式の有線電話から射撃準備完了の報告が次々と入る。

 

「焦るんじゃないぞ、お前ら。相手が大きいから近く見えるだけで、まだかなり距離がある。

攻撃が外れて場所を知られたら終わりなんだからな?」

 

そう部下達に注意を促しながら、標的のザクの様子を窺う。

 

どうやら仲間とはぐれて迷子になった機体のようで、辺りには近づきつつある1機のザク以外に敵の姿は見あたらなかった。

 

「こいつは運が良い、敵は目の前の1機だけのようだ。仲間を探しているようだし、俺達で地獄にいる仲間の所まで送ってやるぞ。各分隊、対MS誘導弾直接照準!」

 

「セーフティよし!」

 

「目標との距離1100!誘導弾ステータスよし!」

 

「緒元よし、ジャイロ安定!まもなく射程に入ります!」

 

「ようし!一挙に仕掛けるぞ!

A分隊は水平射、膝を狙って足を止めろ、

B分隊も同じく膝、外すなよ!

C分隊はトップアタック、ランドセルを吹き飛ばせ!」

 

「「「了解!」」」

 

返事とともに部下達はリジーナの最終調整を行う。

 

「A分隊、B分隊水平射開始!」

 

A、B両隊から同時にリジーナが発射され、A分隊の放ったリジーナがザクの右膝を吹っ飛ばして足を止める事に成功した。

 

「よし、ザクの足を止めたぞ!C分隊とどめにランドセルを吹き飛ば……。」

 

そう言おうとした瞬間だった。

 

動きを止めたザクが手に持ったマシンガンを乱射する。

 

ザク・マシンガンなどと呼ばれてはいるものの、120mmという口径はほとんど戦車の主砲であり、そんなものを乱射されては歩兵などひとたまりもなかった。

 

「小隊長!A分隊が……。」

 

「くっ、構うな!それよりもとどめが先だ!C分隊、撃て!」

 

動きの止まったザクのランドセルを、C分隊の放ったリジーナが直撃する。

 

モビルスーツの数少ない弱点のひとつであるランドセルに直撃を受けた機体は、一度大きく爆発すると、そのまま事切れたかの様に動きを止めた。

 

「よし、やったぞ!B、C両分隊は撤収準備、我々はA分隊の状況を確認しに向か……。」

 

ジオンの一つ目を撃破した事を喜びながら撤退しようとした時、「それ」は現れた。

 

「小隊長!空から何か降ってきます!」

 

「あれは…降下ポッドか!しかし、いったい幾つあるんだ……。」

 

空を見上げると、其処には大量のHLVが流星群のように地上へ向けて落ちてくる光景があった。

 

我々の目の前に着地したその流星群は、HLVの側面に備えられたハッチを開くと、

先ほど苦労して倒した”一つ目の巨人”が姿を現した。

 

「小隊長!」

 

「あんなのに勝てるハズないだろ…。」

 

先ほどたった1機相手でも苦戦した敵が、複数の降下ポッドから次々と姿を現す光景を見た部下達はパニックに襲われる。

 

「落ち着け、すぐに撤退する!リジーナ等の重装備は全て放棄!各員分散して逃げろ!」

 

そう部下達に告げると、自分も建物の側に駐めてあった高機動車両「ラコタ」に飛び乗ってそのまま一目散に逃走を開始する。

 

「くそ!あんなの相手にどうやって戦えと言うんだよ!チクショウ!!」

 

そんな悪態をつきながら逃げる俺の後ろでは、20機近い緑の巨人がマシンガンを片手に我が物顔で地上を歩き、一緒にHLVで降りてきたジオン軍の歩兵達がバイクやワッパに乗り込み進軍を開始しつつあった……。

 

 

 

やあ…諸君。ギレン・ザビである。

 

まずは現在の戦域図を見てもらおう。

 

 

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ご覧の通りこの1ヶ月で黒海沿岸部やコーカサス地方といった東ヨーロッパの制圧に成功し、今はギリシャをはじめとする南ヨーロッパを制圧するための準備を進めている。

 

オデッサ一帯を一挙に制圧したジオン軍であったが、北米から向かっている大規模な増援部隊が到着するまでの間、持久戦に徹する事を決めた連邦ヨーロッパ方面軍は、トランシルバニアの山岳地帯を利用したゲリラ戦を展開していた。

 

 

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このため我が軍でも宇宙、地上両方からの同時攻撃による敵勢力の分断を計画、

 

 

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衛星軌道上のジオン艦隊からの支援とシーマ艦隊の活躍もあり、無事にギリシャ一帯の分断に成功、現在は包囲した敵の掃討戦に入っている。

 

 

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しかし、それでも各地で建物の陰に隠れたMS特技兵による対MS重誘導弾による攻撃と、61式戦車による待ち伏せが繰り返されており、それによる損害が続いていた。

 

一応、モビルスーツの投入前にパーソナル・ホバー・バイク「ワッパ」による機動偵察を実施してから進軍するように命じてはいるのだが、それでも待ち伏せによる被害が多発している以上、やはり地上は連邦の領域なのだろう。

 

対策として高度な熱源探知機能をもつ偵察用のE型装備のザクを小隊に組み込むように命じてみたが、いったいどれだけ効果が見込めるやら。

 

さてそれとは別に、間もなく開始される第二次降下作戦の指揮をとるガルマから作戦開始前の通信が入っていた。

 

「流石は兄上です!こうも容易くオデッサを制圧して見せるとは!」

 

「油断は禁物だぞ、ガルマ。工業地帯であったオデッサ周辺とは違い、北米は連邦軍の庭のようなものだ。オデッサのように容易くはいかないだろう。」

 

「もちろん承知しております。ですが私もザビ家の男。親の七光りではない事を証明して見せねば。」

 

「フン、アクシズ戦役を見事に指揮してみせた貴様を親の七光りなどと思うジオンの兵など私を含めて何処にもおるまいよ。

まあ良い、間もなく第二次降下作戦が始まる。補佐につけたランバ・ラルの助言にはよく耳を傾けるんだぞ。」

 

「はい。兄上。お任せください。」

 

「それではな。」

 

まもなく月面からのマスドライバー攻撃が開始され、それを陽動に水中用モビルスーツによる地上の港湾施設やレーダー設備への奇襲が始まる。

 

連邦は宇宙にばかり目を向けている状況なので、ハイゴッグによる海からの奇襲はほぼ間違いなく成功するだろう。

 

その後、北米大陸の静止衛星軌道へと移動したアクシズからのマスドライバーによる攻撃で地上の連邦軍主力に打撃を与え、混乱している所にMS特殊部隊のバリュート降下によって橋頭堡を築き上げて実施する降下作戦は高い確率で成功が見込まれている。

 

しかし北米大陸の防空網はジャブローに次ぐ規模を誇っており、配備されている連邦軍も兵器の質は高く決して油断出来る相手ではない。

 

如何に成功率が高かろうと賽の目は振ってみるまで何が出るか誰にもわからないのだ。

 

そんな事を俺がグワダンの寝室で考えていると、突然隣で寝ていたララァがむくりと起きあがり話しかけてきた。

 

「大丈夫です。総帥。」

 

「どうした?ララァ?」

 

突然話しかけられた事に驚いた俺がそう問い返すと、ララァから返ってきたのは今悩んでいる事に対する答えであった。

 

「ガルマ様が勝ちますわ。」

 

「……。私の考えている事が解るのか?」

 

「総帥は解りやすいですから。」

 

「そうか…。ララァは賢いな。だがララァにそう言って貰えると助かる。なかなか自分の決定に自信が持てなくてな。」

 

「そういう言い方、嫌いです。でもお役に立てたのなら良かった。」

 

そう言って微笑むララァの頭を軽く撫でると、作戦の推移を確認するためブリッジへ向かう準備をはじめるのであった。

 

一一一一一一一一一一一一

 

 

side 連邦軍キャリフォルニアベース 防空指揮所

 

 

北米大陸の沿岸部に位置するキャリフォルニアベースは、旧アメリカ合衆国カリフォルニア州に存在する連邦の軍関連施設の総称である。

 

連邦軍本部ジャブローが建設される前は連邦軍本部が置かれていたその場所は、陸軍駐屯地、軍港、空軍基地、研究施設、弾薬庫、潜水艦用の地下ドックなど様々な施設を有する一大拠点であり、北米大陸における地球連邦の象徴ともいえる基地であった。

 

「状況は?!」

 

「月面のマスドライバーから質量弾の射出を確認!現在地対宙ミサイルにより迎撃を実施中です!」

 

「きおったな宇宙人どもめ!この北米大陸への降下軌道付近に連中のHLVが数多く確認されている。この攻撃に合わせて降下してくる可能性が極めて高いため、全軍に対空監視を徹底させろ!」

 

「はっ!了解しました。ところで先ほど、近海で水色の潜水艦らしきものを目撃したとの報告がありましたが、巡洋艦を確認に向かわせますか?」

 

「バカ者!今は対空戦闘に全戦力を集中させろ。連中のミノフスキー粒子とかいう悪魔の兵器のせいでレーダーによる対空監視に支障が出ているのだ。」

 

「は!申し訳ありません!地対宙ミサイル一番から十番、目標の質量弾に着弾…いえ!三番と五番それに七番が目標物から外れました!発射された質量弾のうち三発が依然として接近中です!」

 

「くそっ!ミノフスキー粒子の影響か!地対宙レールガン全門発射用意!」

 

「レールガンと射撃統制システムとの連動よし。何時でも発射可能です!」

 

「ようし。撃…!?!今の音は何だ?」

 

「地上のレーダー設備が何者かの攻撃を受けたもようです!」

 

「何だと!?」

 

「バスク大佐!港の艦隊が正体不明の敵からの攻撃を受けています!」

 

「何だ?この水色の機体は?!くそっ!全軍に非常警報を発令!港の艦隊及び周辺の警備部隊は正体不明機の迎撃に当たれ!…!?そう言えば質量弾はどうなった!」

 

「レーダー損傷により目標物ロスト!現在地不明です!」

 

「予測データを地対宙レールガンに送り目測で迎撃を開始させろ!港の艦隊のレーダー情報は送れないのか?!」

 

「艦隊は正体不明機への防戦に手いっぱいでそれどころではありません!既に戦艦トランプとマケインが轟沈!他にも巡洋艦や駆逐艦に多数の損害が発生しています!」

 

「この短時間にそれだけの損害だと?!」

 

「敵機はメガ粒子砲を乱射しており手がつけられません!!また一部の敵機は上陸して、地上の防空施設にも攻撃を開始しました!」

 

「出港可能な艦は全て港の外に出港させろ!港に泊まっている状況では単なる的になってしまう!」

 

「大佐!質量弾三発のうち一発は迎撃に成功しましたが、残りの二発が中央格納庫と滑走路に直撃しました!

出撃準備中だった第201師団司令部との連絡が途絶し、滑走路も使用不能です!」

 

「付近に駐屯している第204、205、208、209師団に応援を要請しろ!今攻められたら一溜まりもないぞ!」

 

「大佐!地下ドックの入口を敵機に破壊されました!このままでは潜水艦隊が出港できません!」

 

「地下ドックなどほうっておけ!基地を守り抜ければ後で修理すれば良い!」

 

「た、大佐!」

 

「ええぃ!今度は何だ?!」

 

「近郊に駐屯している各師団がマスドライバーによる攻撃を受けています!」

 

「何だと!?もう月から次のマスドライバー攻撃がおこなわれたというのか?」

 

「いえ!報告によれば月ではなく上空のアクシズから発射されたものによるようです!」

 

「おのれジオンめ……!!アクシズにマスドライバーを隠していたとは……。

いかん!これだけ攻撃を集中させてくるということは連中は間違いなくここに降下してくる気だぞ!防空部隊はどうなっている!?」

 

「敵の攻撃で滑走路に甚大な被害が発生したため、大半の戦闘機が離陸出来ません!地対空ミサイル部隊については各個に迎撃準備を完…いえ!現在降下してきた敵モビルスーツ隊と交戦している模様!」

 

「HLVの降下を許したのか?!」

 

「違います!どうやらモビルスーツが直接大気圏を突破してきた模様!第201師団の残存している61式戦車とファンファン、それに歩兵大隊がそれぞれ必死の抵抗を続けていますが増援がなければ支えられそうにありません!」

 

「く…近郊の師団は!?」

 

「…。同様に敵のモビルスーツ隊による奇襲を受けている模様で、むしろ向こうからも此方に増援要請を出してきています。」

 

「何としても敵を突破し増援に来るよう伝えろ!!」

 

「敵のHLV群の降下が始まりました!基地の東30キロの地点に向け多数のHLVが軌道上を降下中!」

 

「誰でも何でもいい!迎撃しろ!」

 

「大佐…今のこの基地に敵部隊を迎撃する事が可能な戦力は残されておりません…。」

 

「まだだ!まだここに私がいる!私がいる限りこの基地を落とさせたりはせんぞ!残存する部隊で一番規模が大きいのはどれだ?」

 

「最早この防空司令部警備大隊が最大の部隊であります…。」

 

「フン。それは部隊を探す手間が省けた。各員ワタシに続け!」

 

UC0079年3月11日2300

この日、キャリフォルニアベースは、衛星軌道から降下してきたジオン公国軍第三地球機動師団により制圧された。この後、キャリフォルニアベースはジオン地上軍の重要拠点として運用されていく事になる。

 

 

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41話 UC0079年4月 第二次降下作戦②◼️

当初ジオン側では、ジャブローに次ぐ規模を誇る北米大陸への降下作戦はかなりの抵抗を予想していた。

 

 

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だが、その予想に反して北米大陸へのジオン軍の侵攻は順調に進んでおり、そうなった要因はジオンの作戦によるものもあったが、そうでないものも幾つかあった。

 

まず、「ジオンの作戦によるもの」については、第一次降下作戦を当初の計画より早めに開始し、第二次降下作戦の開始まで1ヶ月程度の期間を空けた事にある。

 

その間にジオンの大規模な侵攻を受けた連邦ヨーロッパ方面軍からは、矢のような増援の催促がジャブローに寄せられ、それに応じる形で北米大陸の駐留軍が増援として派遣される事になったのである。

 

これは純軍事的に国力の劣るジオンは多正面戦争は避けるだろうとの考えから、北米の戦力を派遣しても問題ないだろうと判断された為であった。

 

そのため、3月の初めにはザクに対抗可能な火力と装甲をもつRX-75 ガンタンクを配備した複数の重機甲師団がヨーロッパに向けて出発し、同時に北米大陸の戦力が手薄になったのである。

 

また、それ以外の要因としては、北米に複数の親ジオンの有力者がいた事があげられる。

 

開戦と同時にジオン支持を表明したアナハイム・エレクトロニクスの関係者や、娘をガルマに助けられた経験を持つニューヤーク市長などが有名だが、これらの人物の働きかけにより北米に存在する多くの都市が、無防備都市宣言を出す為に都市に駐留していた連邦軍を追い出したのである。

 

これは、開戦以降モビルスーツが運用しにくい都市部での戦いを避けてきたジオンに対し、連邦側がモビルスーツに対抗するために待ち伏せしやすい市街戦を積極的に行った事で、北米の人々が戦いに巻き込まれる事を嫌ったが故の措置であった。

 

これによりモビルスーツの運用が容易な平野部での戦いを強いられる事になった連邦軍は、北米各地で後退を繰り返す事になる。

 

そして、最後の要因は連邦軍内部にあった。

 

「ゴップ大将、ジャブローから増援を出せないとはどういう事ですか!?」

 

「そう大きな声を出すな、コーウェン少将。言った通りだ。オデッサ侵攻が北米攻略の為の陽動であったように、北米侵攻もジャブロー攻略の為の陽動である可能性がある。そうである以上ここの守りを薄くする訳にはいかんのだ。」

 

「しかし将軍、北米大陸と違いジャブローは難攻不落の地下要塞です。しかも場所を秘匿している為、ジオンは正確な場所さえ知らないでしょう。そうである以上、連中がジャブローを奇襲する可能性は低いと考えられます!」

 

「そんな事は解っている。だが、低いとはいえ可能性がある以上無視する訳にはいかんのだ。とりあえずヨーロッパに向かっている師団の半数とハワイ、カナダに駐留していた部隊を増援に向かわせている。当面はそれで対処したまえ。」

 

「それでは到底足りません!連中の規模はオデッサに降りてきた部隊よりも大きいのです!」

 

「それならアラスカとオーストラリアからも増援を出させよう。とにかくジャブローの守備隊は動かせない。」

 

「……。せめて敵モビルスーツに対抗できる兵器を回していただけませんか?」

 

「ふむ…。ではビッグ・トレーと運用テスト中のザクをいくらか回そう。」

 

「我が軍にもザクがあるのですか?!」

 

「連中が『作業用』として売り出していた時に購入したものなので、中身は完全に別物だがね。それを改造して鹵獲したザク・マシンガンを使えるようにしてある。性能では勝負にならないので、外観が同じ事を上手く利用してくれ。」

 

「……了解しました。増援の件、どうかよろしくお願いします。」

 

「うむ。至急手配しよう。」

 

 

 

やあ…諸君。ギレン・ザビである。

 

まずは北米大陸の戦域図を見てもらおう。

 

 

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ご覧の通り東西両岸の主要な地域の制圧が完了し、現在は北米大陸全土を攻略する作戦の準備を進めている状況である。

 

しかしジャブローの玄関とでもいうべき北米大陸で戦っているにもかかわらず、まさかジャブローから増援が来ないとは思わなかった。

 

おかげで重装備の部隊をヨーロッパに派遣して手薄になった北米軍を相手に、ガルマ率いる第二地上機動師団とノイエン・ビッター率いる第三地上機動師団は順調に勝利を続け、僅か一月余りで開戦当初の目標の制圧に成功していた。

 

……もしジャブローから大規模な増援が出てくるようなら、第三次降下作戦の目標をジャブローにすることも検討していたので本当に残念だ。

 

本部の正確な場所はわかっていないものの、アクシズ戦役の際に連邦艦隊の打ち上げを間近で観測したデータからジャブローの宇宙港の概ねの位置は掴んでいるし、ジャブローを落とす事で戦争に決着が付くのなら、少しでも早く攻略した方が良いに決まってるからね。

 

だが、連邦軍最大の規模を誇るジャブロー防衛隊が守る難攻不落の地下要塞を力攻めするほど無謀ではないので、第三次降下作戦の目標は当初の予定通りオセアニアになりそうだった。

 

「兄上、聞いておられますか?兄上!」

 

「おっと…。すまない、ガルマ。少し考え事をしていてな。」

 

「いえ、私の方こそ急に連絡をして申し訳ありません。ここのところ物資集積所への襲撃が続いており、お知恵をお借りできないかと思いまして。」

 

え…?北米で物資集積所への襲撃だって?

 

「ふむ、まさかとは思うが襲われたのはアリゾナの物質集積所か?」

 

「流石は兄上、もう報告を受けておいででしたか。」

 

うわぁ……。これ、有名なセモベンテ隊による襲撃じゃね?

 

「少しだけな。何でも救難信号を出す暇もなく全滅したと聞いたが。」

 

「はい。いくら警備の人員が少ないと言っても、砂嵐もない見通しの良い砂漠で、救難信号を出す暇もないほど敵の接近を許した理由がわからず……。」

 

だろうね。俺もイグルーを見てなければわからなかったと思う。

 

「なに、簡単な事だ。恐らく連邦の特殊部隊が我が軍であるかのように偽装して近づき、そのまま襲撃したのだろう。」

 

「なるほど…。しかし一体どうやって?」

 

そうなんだよね。ザクはOSにプロテクトがかけてあるから鹵獲しても簡単には運用できないハズなんだが…。

 

「方法はわからないが、鹵獲したザクを使い油断を誘ったのかもしれん。今のところ我々にしかない兵器だからな。」

 

まあわからない以上、原作と同じだと考えて行動した方が良いろう。ならば、此方もアレを出すべきか……。

 

「……あり得る話ですね。至急全軍に注意喚起を行います!」

 

「それが良いだろう。それに付近の物資集積所へ同様の攻撃をしてくるかもしれん。丁度そちらに派遣しようと考えていた機体があるので、至急アクシズから降下させよう。」

 

「それは助かります、兄上。ところでその機体とはいったい……。」

 

「ああ、陸の王者だ。」

 

 

一一一一一一一一一一一一

 

 

side デメジエール・ソンネン

 

「……という事で至急北米に降りてもらう事になりそうだが、大丈夫か?」

 

「此方の準備は万全です、ギレン総帥。」

 

「そうか。貴様はモビルスーツへの転科適性試験で撥ねられたと聞いたが、宇宙空間で運用する機体と地上で運用する機体の適性をひと纏めにして検査する方がおかしいのだ。不快な思いをさせてすまなかったな、ソンネン。貴様とその機体には期待している。」

 

 

 

アリゾナへ向かうために愛機とともに搭乗したコムサイの中で、先ほどジオン公国総帥ギレン・ザビから直々に入った通信を思いだし思わず頬が緩む。

 

モビルスーツ開発を推進し、戦車から主力兵器の座を奪いとった憎い眉なしだが、モビルスーツの汎用性によって必要無しと判断されそうになったヒルドルブに手を加えることで、今こうして局地戦用機として生まれ変わらせた恩人でもある。

 

俺の話を聞いてモビルスーツへの転科適性試験について再検討してくれた事を考えると、差し引き多少の借りがあると言ったところだろうか。

 

そんな事を考えていると、目的地上空に差し掛かりつつあったコムサイが激しく振動する。

 

「ソンネン少佐、地上からの攻撃です!機体後部に被弾しました!」

 

何事かと思いコックピットと連絡をとると、なんとか機体を安定させたパイロットからそう報告が入る。

 

「状況は!?」

 

「左舷第2エンジンが作動不能!現在目的地である第67集積所との交信を試みておりますが、通信が繋がりません!」

 

……どうやら降下前にギレン総帥が懸念されていた事態になっているようだ……。

 

「どうやら目的地である第67物資集積所が連邦に襲われているようだ!俺とヒルドルブを降ろせ!」

 

「この状況で降下など、危険すぎます!」

 

「どのみちコムサイを軽くしなけりゃ飛んでいられん!それにこういった事態に備えて装備は整えてある。早くしろ!」

 

「……わかりました。高度1000フィートで投下します。準備は大丈夫ですか?ソンネン少佐!」

 

「もう済んでいる、いつでもいいぞ!」

 

「投下高度です、ハッチオープン!」

 

その言葉の直後にコムサイ後部のハッチが開くと、ヒルドルブを載せた降下用パレットが空中に投下される。

 

空中でパラシュートを開いて減速し着地時の衝撃を和らげた降下用パレットを切り離すと、ヒルドルブは戦闘機動を開始した。

 

 

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「物資集積所を襲ったのはやはり連邦のコソ泥だったか。鹵獲されたと思われるザクが8機に61式が1個小隊4両、なかなかの数だな。先手を打たねばこっちが袋叩きにあっちまう。」

 

…しかし、えらいザクの動きが悪いな。いったいどうなっているんだ?

 

「まあ良い、止まっている奴からかたづける。背中を向けている奴を第一、05の残骸を調べている奴を第二目標。APFSDSを装填、次弾も同じ!」

 

こいつを喰らえ!

 

ヒルドルブの30サンチ主砲が咆哮し、直撃を食らったザクが二機立て続けに四散する。

 

旧式の戦艦から取り外されたものを流用したものという話だが、まるでこの機体のために設計されたかのような使い心地だ。

 

「初弾命中、撃破!次弾も直撃!」

 

以前に地上で試射した際におきていた砲身過熱による弾道のズレは、新たに導入された射撃プログラムによって修正されており、勘による調整などは必要ないようだった。

 

二機のザクをやられて即座に移動したところから連中の練度の高さが解るが、此方は戦闘に備えて弾薬をたっぷり搭載して予備兵装まである。

 

それは連邦のザクを相手に戦うには、十分すぎる量だった。

 

「コムサイ、聞こえるか?此方ヒルドルブ、現在物資集積所の西で敵部隊と交戦中。何か追加の情報はあるか?」

 

「先程南の方で敵の通信を傍受しました。そのため南から敵の増援の可能性があるのでお気をつけください!」

 

「わかった、指揮車かなにかが南にいるのかもしれん。これ以上敵の数が増えると面倒だし、気を付けておく。そちらも位置を悟られないように気をつけろよ。」

 

丘の向こうに隠れた敵を音響センサーで探っていると、ザクの潜む地形から次々とミサイルが白煙を曳いて機体の周囲に着弾する。

 

恐らく、これはモビルスーツが接近するに当たっての準備射撃といったところか。

 

物陰に隠れた此方にあたりをつけて攻撃してきたところから、連邦の指揮官は地形のなんたるかを知る優秀な奴なんだろう。

 

だが……。

 

「来たな…。戦争を教えてやる、曲射榴弾込め!」

 

ヒルドルブを後進させながら曲射榴弾を次々と発射する。

 

敵がセオリーから此方の位置を予想できたように、此方もまた敵の進路を予想して攻撃する事が可能である。

 

そして通常のモビルスーツならともかく、遥かに動きが遅い連邦のザクが相手なら当てるのも不可能ではなかった。

 

それを証明するかのように、ノロノロと密集して接近しつつあった一機のザクが吹き飛ぶ。

 

すると密集しているところに曲射榴弾を撃ち込まれたのを警戒したのか、残った5機のザクは一気に横一例に展開した。

 

いくら動きが遅いと言っても、散開しながら速度に緩急をつけて近づいてくる敵モビルスーツを撃破するのは至難の技だった。

 

「くそ、流石に直撃は無理か。じゃあ次は焼夷榴弾でびびらせる!」

 

ヒルドルブの主砲が吼え、そこから特製の焼夷榴弾が次々と放たれる。

 

ザクの手前に着弾した焼夷榴弾は、そこに1200度に達する炎のカーテンを形成し、そこに突っ込んだ一機のザクがそのまま動きを止めた。

 

…ザクの装甲はあのくらいの炎なら耐えられるハズなんだが、機体トラブルか?

 

そう思っていると、いつの間にか側面へ回り込んでいた4両の61式が姿を現し、同時に正面から近づいていた4機のザクがバーニアを噴かして一気にジャンプしてきた。

 

「ちぃ、挟撃か!だが、近づいたからといって勝てると思うな!対空用榴散弾、地雷散布!」

 

ヒルドルブの30サンチ主砲から、炸裂点を頂点として円錐状の空間全てを攻撃できる対空用榴散弾が放たれる。

 

まさかヒルドルブに対空用の弾丸が搭載されていると思っていなかったであろうザクの一機を穴だらけにすると、同時に機体各所に備えられた射出器から無数の対戦車地雷を周囲に散布した。

 

すると後退しながら散布された地雷に気がつかなかった61式戦車が2両、地雷を踏んでその動きを止めるのだった。

 

だが連邦も一方的にやられていた訳ではなかった。味方がやられている間に態勢を整えた連邦のザクから仕返しとばかりにザクマシンガンの弾丸が放たれ、そのうちの何発かがヒルドルブに当たる。

 

被弾したか……。だが戦闘に支障は出ていない!

 

高速で移動するヒルドルブへ敵の攻撃はほとんど命中せず、僅かに命中した弾丸も分厚い装甲に遮られて空しく弾かれただけだった。

 

「お返しだ、食らえ!」

 

回避軌道をとりながら上半身を起こしてモビル形態に変形すると、後ろから追撃してきたザクをめがけAPFSDSを解き放ち粉砕する。

 

 

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ヒルドルブが戦車でなかった事に驚いて混乱する連邦のザクと戦車に向け、両手に持ったザクマシンガンと30サンチ砲を乱射すると、その後に残っていたのは、足を損傷した隊長機と思われるたった一機のザクだけだった。

 

「くく…。お仲間はもういなくなったぞ?」

 

そう言った瞬間だった。後方からヒルドルブの周囲に巨大な砲弾が次々と着弾し、その中の一発が車体前部に直撃する。

 

後方を確認してみれば、丘の影から2両の61式戦車を護衛に従えて近づく巨大な陸上戦艦の姿があった。

 

「母艦付きの部隊だったとはな。豪勢な事だ、くそ。」

 

先程からなんとか車体を動かそうとしているものの、駆動系をやられたのか全く動きそうにない。どうやら、「戦車」が活躍できるのはここまでのようだった。

 

「スモーク散布!」

 

ランチャーからスモークディスチャージャーが発射され、辺りが煙幕によって包まれる。

 

そして、その煙に紛れるように、ヒルドルブは真の姿を現した。

 

 

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弾の切れたザクマシンガンを放棄し、「試作品」として渡された新型バズーカとガトリングを兵装ラッチから手にとる。

 

「これがヒルドルブの奥の手だ!」

 

新型モビルスーツ「ドム」の脚部をベースに開発された脚部ホバーユニットを吹かして、敵陸上戦艦へとつき進む。

 

慌てて前に出てきた2両の61式戦車を左手に持ったガトリングで穴だらけにして沈黙させると、そのまま敵陸上戦艦へ攻撃を開始した。

 

敵戦艦からは搭載した大口径の主砲や多数の連装砲による砲撃があったものの、それらを新型バズーカで潰してしまえば、取り回しを考慮した小口径砲や対空機銃を搭載していないビッグトレー級など単なる標的でしかない。

 

「さあ、お前の真価を見せてやれ!」

 

アンカーで機体を地面に固定し、もともと対要塞、対陸上戦艦を想定して搭載された30サンチ砲に最後のAPFSDSを装填すると、ビッグトレーの側面に向けて解き放つ。

 

分厚いビッグトレーの装甲を軽々と貫通したその弾頭は、その奥深くで秘められた力を解き放つと、連邦軍最大の地上戦力を沈黙させるのだった。

 

なお、最後のザクにとどめを刺しに戻った際、そのコックピットが空であった事をここに記しておく。

 

 

 

wiki ヒルドルブ

 

戦車にモビルスーツ (MS) の利点を組み合わせることにより、地球侵攻作戦の要として試作された超弩級戦闘車両である。

兵器の分類としてはモビルアーマーではなく、モビルタンクと呼ばれる独自のカテゴリーに属する。

 

本機はジオン公国が地上侵攻を行う為の兵器選定においてザクⅡと競い、不採用の烙印を押された後、ギレン・ザビ総帥の鶴の一声により機体の一部改修、運用要員の見直しなどを行われた後に、地上で運用された機体である。

 

その長大な砲塔から繰り出す破壊力はすさまじく、モビルスーツを正面から一撃で粉砕できるほどの破壊力と、ザクⅡを遥かに上回る機動力によって想定以上の能力を発揮した。

 

また、対MS戦闘を想定して試作中であった重MSドムの脚部を流用した疑似MS形態と呼べる状態への変形を可能とし、ホバーによる高速移動により、MS適性が無い人間でも高い近接戦闘力を発揮できるほどの性能を見せた。

 

本機に乗って重力戦線にて活躍したパイロットとしては「甦りし王者」と呼ばれたデメジエール・ソンネン少佐が有名である。

 

戦車乗り達の指導教官でもあったソンネン少佐は、ヒルドルブを地上で運用する際の様々な意見具申をギレン総帥におこなっており、当初試作兵器であったヒルドルブが少数ではあるものの量産され、地上各地で運用される大きな要因となった。




おかしい…。第二次降下作戦の推移を説明するための話を書いていたハズなのに気がついたらヒルドルブの話になっていました…。

あ、挿し絵に使っている画像については、Twitterで見かけた sugisawa_yasuto さんの作られた作品の画像を許可を頂いて使わさせて頂いています。

黒狼@紅蓮団さんに書いて頂いたwiki風の説明を追加しました

せっかくなので次はソンネン少佐の通り名を募集したいと思います


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42話 UC0079年4月 第三次降下作戦

誤字修正や感想ありがとうございます。感想返しよりも次の話を書くことを優先しているのでなかなかお返事できませんが、大変励みになっております。




シドニー上空 旗艦グワダン

 

連邦軍による迎撃を避けるため、あえて砂漠地帯に降下したジオンの降下部隊と、何故か砂漠に展開して待ち伏せていた連邦オーストラリア方面軍との戦いは、ホバー推進により砂漠でも高い機動力を持つ重モビルスーツ「ドム」を有するジオンの優位で進みつつあった。

 

 

 

砂丘の稜線に沿って布陣した61式戦車からの砲撃を、白を基調にピンクのラインで塗装されたドムがホバーでジグザグに走行する事で避けながら砂上を駆ける。

 

そしてその少し後ろを全身緑色に塗装されたドムが、自分に当たりそうな砲弾のみを避けながら並走していた。

 

「敵陣に突入します。ララァさん援護を!」

 

「お手伝いします。ハマーンさん、そこ!」

 

後ろを走る緑のドムが砂上を駆けながら、両手で構えた135mm対艦ライフルのトリガーを一発、二発と引き絞る。

すると銃口から放たれた高速の徹甲弾が、砂丘の稜線の影に隠れた61式戦車を砂丘ごと貫通して撃破した。

 

遮蔽物に隠れているにもかかわらず、次々と味方を撃破されて混乱する連邦軍に、更なる悲劇が訪れる。

上空から白を基調にピンクのラインで塗装されたドムが舞い降りたのである。

 

前線を構成する61式戦車の列を一気に飛び越えてその後ろにいたホバートラックの真上に着地すると、61式戦車の薄い背面装甲を右手に持ったMMP-80マシンガンで撃ち抜いてゆく。

 

対モビルスーツ戦を想定して開発されたMMP-80マシンガンにとって61式戦車の背面装甲など紙に等しいもので、三分に満たない時間で2個小隊、8両もの61式戦車が鉄屑へと姿を変えた。

 

そこへホバートラックより後ろに布陣していた3両のRX-75 ガンタンクが現れ、白いドムめがけて砲火を集中する。

 

ドムは次々と立ち昇る爆炎を舞うように躱しながら、MMP-80マシンガンで反撃を試みるものの、艦砲でさえ貫通できないとされたガンタンクの前面装甲は、あちこち損傷しながらもその攻撃になんとか耐えた。

 

すると白いドムは、左手に着けたガトリングシールドからヒートソードを引き抜き、ガンタンクのコックピットめがけて投げつける。

すさまじい重量の金属の塊をドムのパワーで投げつけられた中央のガンタンクは、一度だけ激しく震えると動きを止めた。

 

そこに砂丘の上へと姿を見せた緑のドムが、残った2両のガンタンクのうち左側の機体に向けて対艦ライフルを放つ。

重装甲の戦艦さえ撃ち抜く対艦ライフルの威力にMMP-80マシンガンで損傷した装甲が耐えられるハズもなく、動力系統を破壊された機体はそのまま機能を停止した。

 

最後に残った右側のガンタンクめがけて白いドムが砂上を進む。

先程破壊した中央のガンタンクを利用して右側の機体の射線を遮って近づくと、先程投げつけたヒートサーベルを引き抜いて新たな獲物に向け突き立てる。

そうして出来上がったのは、まるで昆虫の標本ように大地に縫い付けられたガンタンクの残骸だった。

 

 

 

やあ…諸君。ギレン・ザビである。

 

我がジオン公国軍は第二次降下作戦から1ヶ月が経過したUC0079年4月14日、オセアニア大陸の攻略を目的とした第三次降下作戦を開始した。

 

 

【挿絵表示】

 

 

オデッサから宇宙に上がっていたグワダンとザンジバルで構成されたジオン機動艦隊と第四地上機動師団は、降下して早々に連邦オーストラリア方面軍の待ち伏せにあったものの、それを撃退してからは順調に進軍していた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

というかオーストラリア大陸の内陸部は生活に適さない広大な砂漠が広がっており、人口の90%以上が沿岸部にある5大都市に集中しているため、シドニーやメルボルンと言った大都市以外は大半が砂漠か荒野か草原なので進軍を阻むものがなにもなかったからである。

 

当初の計画では平野部を大々的に進軍する事で敵の主力を釣りだして野戦で決着をつける予定だったのだが、砂漠で降下部隊の迎撃に失敗して痛い目にあったせいか、オーストラリア方面軍はシドニーやメルボルンなどの5大都市に立て籠ったまま動く気配を見せなかったのでこの目的は果たせずに終わった。

 

まあ北米防衛のために戦力を引き抜かれたオーストラリア方面軍が野戦を挑んでも勝負にならないので、妥当な対応ではあるのだが。

ただ、5大都市に立て籠るという事は、ただでさえ減少している兵力を更に5分割する事を意味していた。

 

これに対してジオン降下部隊は、連邦軍が各拠点から動かない事を確認すると、シドニー近郊に全軍を集結させて包囲下におくと、陸、海、空全方位からの同時侵攻を開始した。

 

連邦軍の幾重にも及ぶ防衛線をモビルスーツの性能と数によって粉砕したジオン軍は、瞬く間にシドニー全域を支配下におくと、次なる獲物に向け軍の移動を開始した。

 

その後、メルボルン、アデレードと重要拠点が次々と各個撃破されるのを見た連邦軍首脳部は、防衛戦に向かないオーストラリアの地を守る事を断念して、残存部隊をインドやアジア太平洋地域に向けて撤退させていった。

 

いやあ各個撃破って響きが良いね。

 

因みにキシリアの立案した当初の計画では、オセアニアと一緒にアジア全域に降下して同時侵攻をおこなう予定だったのだが、急速な戦線の拡大に伴う補給線への負担増加を嫌った俺の判断で、アジアへの攻撃は海上交通の要衝であるシンガポールやマレー半島を中心とした地域に留める事になった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

勝手に侵攻計画を変更した事についてキシリアから激しく抗議されたものの、森林や山岳ばかりでモビルスーツの運用が困難な地形に自分から攻め込むなど正気の沙汰ではないので気にしない事にした。

 

やはり地図だけで考えられた作戦には限界があるな。

 

…というか東南アジアだけで約6億、中国を含めれば20億人以上の人が住んでいるのだ。

 

それだけの人数を統治するにはとてもではないが人手が足りないし、それに見合うだけの価値があるとも思えない。

鉱物資源はオデッサで必要な量が確保できるし、工業力が必要なら北米だけでも十分だからな。

 

無論資源や工業力が多くあるに越したことはないが、それを維持するために膨大な量の人的資源と物資を必要とするのであれば話は違ってくる。

 

そんな所に投入する兵力があるのなら、北米や欧州の攻略に使った方がよほど効果的というものだ。

 

なのでアジア太平洋地域やインド洋については、マレー半島を拠点にグラナダで量産中のハイゴッグを使って海路を寸断する位で許してあげるとしよう……。

 

 

【挿絵表示】

 

 

一一一一一一一一一一一一

 

side キシリア・ザビ

 

「何の用だキシリア。何度言われようと当面は東南アジア一を攻める気などないぞ。」

 

モニターに我が兄ギレンの姿が浮かびあがる。第三次降下作戦を失敗に追い込むため、当初の作戦案をそのまま連邦に流したにもかかわらず、柔軟な対応であっさりと作戦を完了させた怪物だ。

 

「いえ、本日連絡させて頂いたのは先日指示されたハイゴッグの量産についてです。なぜこのグラナダに地上専用機の量産を命じられたのですか?」

 

「なんだそんな事か。ザクⅡならともかく、最新鋭機であり軍事機密の塊である機体をどこにスパイがいるか分からない地上で量産する事などできるはずがないだろう?」

 

「それはそうですがグラナダは兄上の命により防衛網の強化を開始したばかり。とても戦力として使えない地上専用機を量産している余裕はありません。」

 

「ふん、一応筋は通っているな。よかろう、サイド3とソロモンからある程度艦隊を回す。ハイゴッグの量産を行っている間はその艦隊で防備を固めるが良い。」

 

「ありがとうございます。あとひとつ兄上にお願いがあります。」

 

「貴様が俺に頼み事とは珍しいな。言ってみるがいい。」

 

「現在我が軍で運用している機体は、ジオンの絆で蓄積されたデータを基に開発されたモビルスーツ用OSをブラックボックス化した特殊なパーツに入れて使用しています。」

 

「そうだ。機体の構造は鹵獲した機体を調べればすぐにわかってしまうだろうが、全ての機体の鹵獲を防ぐ事など不可能だ。

だがモビルスーツ用OSのデータ流出を防ぐだけなら、データを吸い出そうとした瞬間に自爆する特殊なパーツに入れてブラックボックス化してしまえば良い。」

 

「ですがそのOSデータは味方であるはずの我々にも公開されておりません。」

 

「仕方なかろう。あのモビルスーツ用OSは我が軍の強さを支える機密のひとつなのだ。レビルの情報が漏れていた事といい、どこから情報が漏れているのかわからない現状で容易に渡す事などできんよ。」

 

「兄上の懸念はごもっともです。しかしOSデータが開示されていないためパイロット特性に応じたカスタマイズや新たな機体の開発が一切できない状況に陥っております。そしてこれは私だけでなくドズルや地上のガルマからも同様の話を聞いております。」

 

「新たな機体の開発を各拠点で独自に行う必要などないのだがな。だがドズルとガルマも同意見であるというなら無視する訳にもいくまい……。よかろう、コピーができないように特殊なプロテクトをしたデータを何本か送ろう。それを機体の開発やカスタマイズに使うが良い。」

 

「しかし、それでは開発した機体を量産する事ができません。」

 

「その場合は開発した機体のデータを送れ。テスト結果が良好であるのならば量産に向けた対応を約束しよう。」

 

「…わかりました。ではそれで結構です。艦隊の派遣の件もよしなに。」

 

そう言うとギレンとの通信を切る。

 

何とかOSデータを入手する事ができそうだが完全なものが手に入らないのは痛いな。

 

モビルスーツの生産数を秘密裏に増やしても、機体をコントロールするのに必須なブラックボックスユニットはア・バオア・クーとアクシズの機密区画でしか製造しておらず、ギレンに黙って戦力を増やす事ができない仕組みとなっている。

 

なので何とかモビルスーツ用OSのマスターデータを手にいれたかったのだが、これ以上粘ると反意を疑われかねん。

 

当面はサイド6に秘密裏に作らせたクルスト博士の研究所に、モビルスーツ以外の兵器の研究もさせる事にしよう。




ソンネン少佐に通り名については

深緑の孤狼64
戦狼の導き手66
甦りし王者110

という数でしたので「甦りし王者」にしたいと思います


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43話 UC0079年4月 はにゃーん様攻略作戦◼️

宇宙軍設立の際のモデルになった地球連邦海軍は、連邦地上軍の中で最も高い兵器の質と練度の高い兵士を擁していた。

 

これは艦艇の運用には専門的な知識と高度な技能を必要とするため、紛争がなくなった後も、部隊を運営するために厳しい訓練が繰り返されていたためである。

 

だがその連邦海軍も、ジオン公国軍が第二次降下作戦にあわせて実施した「水天の涙」作戦によって大きな被害を受けており、今は再建の途上にあった。

 

月面のマスドライバーによる攻撃を宣言する事で連邦の目を月に向けさせ、アクシズ内部で秘密裏に建造していたマスドライバーを用いて実施された質量弾投下作戦「水天の涙」は、北米大陸の連邦軍基地とともに各地の空軍基地や軍港に質量弾の雨を降らせ、甚大な被害をもたらしていた。

 

特に軍港では、ジオンが港の中心部に質量弾を落下させる事により発生させた人工的な津波により駐留していた艦隊の大半が損傷する事態となっており、その後の地上侵攻による混乱とあわせて艦隊の再建は遅れに遅れていた。

 

そんな中で、ヒマラヤ級多目的空母「パプリカ」と「ピーマン」を中心とした連邦海軍第14艦隊は、水天の涙作戦時にたまたま太平洋上を航行していて被害を免れた貴重な存在だった。

 

ヒマラヤ級は、一年戦争時には既に旧式となりつつある艦種だったが、FF-6 TINコッドやドン・エスカルゴ対潜攻撃機といった様々な機種を運用できる搭載力の高さと、搭載した連装主砲や大型ミサイルランチャーにより上陸支援も可能な汎用性を評価され、いまだに同型艦の建造がされているベストセラー艦である。

 

そんなヒマラヤ級二隻を有する第14艦隊は、オセアニアから撤退する味方を支援するためグアム沖に展開していたのだが、ジャブローから入った特命を受けて進路を南へと変えていた。

 

「艦長、そろそろ予定の時刻です。」

 

「む、そうか。それではレイヤー隊の発艦を開始しろ。」

 

艦長の指示に従い、エレベーターで艦内から運び出された作戦機が次々と甲板上へと移動していく。

 

「こちらファング1、命令コード受信、これより1番カタパルトに進入する。」

 

その通信と共に、マスター・P・レイヤー大尉が操る、FF-6 TINコッドが甲板上に設置されたカタパルトに向けて機体を進めた。

 

「ファング1、出撃する。」

 

レイヤー中尉のその呟きとともに空母「パプリカ」のカタパルトが起動し、レイヤー大尉が操るTINコッドは大空へと上昇して行った。

 

「こちらレイヤー発艦を完了した。編隊各機は発艦完了後、速やかに配置につけ。」

 

レイヤー機が発艦を果たすと隷下の機体も続々と発艦を続け、その数はTINコッド四個小隊20機、フライマンタ戦闘爆撃機二個小隊6機にのぼった。

 

「レイヤー隊、全機発艦完了しました。このまま進めば予定の時刻には目的地へと到着できそうです。」

 

「そうか。内通者から得た情報を基にした敵支配地域での要人暗殺作戦…。君は成功すると思うかね?」

 

「不確定要素が多いためわかりません。ですがもし成功すれば戦局は大きくこちらに動きます。やってみるだけの価値はあるかと。」

 

「そうだな。どのみちジャブローからの特命である以上断る事もできんのだ。後は得られた情報が正確である事を願うとしよう…。」

 

そう言いながらパプリカ艦長は、南の空へ向けて飛び去っていく編団を眺め、全機が無事に帰還する事だけを神へ祈った。

 

 

 

 

 

やあ…諸君。ギレン・ザビである。

 

現在、護衛のハマーンと視察のために訪れていたソロモン諸島ニューブリテン島ブイン上空で、連邦の戦闘機隊に襲われている真っ最中である。

 

……て、そんな風に落ち着いて挨拶している場合じゃなかったよ!!

 

ハワイへの侵攻を視野に入れて制圧したソロモン諸島の話を聞いたハマーン様が、「地上にもソロモンがあるんですね!」と驚いているのを見て観光ついでに前線の視察に来たのだが、連邦の航空隊の奇襲により護衛のセイバードップ4機は既に撃墜され、最後に残った護衛であるハマーンの操るグフが獅子奮迅の闘いぶりを見せているものの多勢に無勢であり、既にハマーンの乗っていたドダイⅡを破壊されていた。

 

やはり連邦の航空戦力の力は侮れないな。これからも空軍基地は確実に潰してから侵攻する事を心がけるとしよう。

 

しかし、視察に来るにしてもやはりグワダンでくるべきだったか。だがそれでは周囲の目もあって海に降りてハマーン様と水遊びする事もできん。

 

そんな事を考えながら俺も自ら操縦するグフの3連装ガトリング砲で近づいてきたフライマンタを1機撃墜する。これでフライマンタは全て撃墜したので、最悪地上に降りれば最低限の安全は確保できる。

問題はTINコッドがまだ何機か残っている事だが。

 

白と青で塗装された一際腕の良いTINコッドがハマーンの迎撃をくぐり抜け、俺の乗るドダイめがけて空対空ミサイルを放つ。

 

なんとかミサイルを打ち落とそうと3連装ガトリング砲を放つが、今までの戦いで酷使していた事もあり、数発の弾丸を打ち出すとすぐに弾切れとなりミサイルを打ち落とす事はかなわなかった。

 

空対空ミサイルが直撃したドダイⅡを放棄するのにあわせて敵機へ向けてヒートロッドを放つものの、白と青で塗装された敵機は鮮やかなバレルロールにより回避してみせる。 

 

…くそ、やはりノリス大佐のような芸当は難しいか…。

 

しかし、ドダイがやられた事により自力での帰還は不可能になった。フライトユニットを装備したグフに飛行能力はあるものの、長距離飛行はできないからだ。

 

俺が戻らなければ何れは救援が来るだろうが、ミノフスキー粒子のせいでいまだに連絡がとれていない事からいったいいつになる事やら。

 

まあそんな事を気にするよりもまずはこの場を生き延びる事に集中するとしよう…。

 

 

一一一一一一一一一一一一

 

 

side ハマーン・カーン

 

 

「この!待ちなさい!」

 

ハマーンは声を張り上げながらグフのフライトユニットの出力を全開にすると、自機の横をすり抜けてギレン総帥のドダイを破壊したFF-6 TINコッドをめがけてガトリング・シールドを斉射する。

 

モビルスーツと航空機という圧倒的な戦闘能力の差があるにもかかわらず、高い加速力と巧みな機動によりこちらの攻撃を躱して反撃を試みてくる敵機はかなりの難敵だったが、翼の端に被弾するとフラフラと蛇行しはじめた。

 

部隊の大半を撃墜されながらも依然として数で有利な敵は、ハマーン機が敵機を追撃しようと背中を向けると直ぐに背部のフライトユニットを狙い攻撃を仕掛けてきた。

 

「ちょこまかと!」

 

先程ギレン総帥がやろうとしていた事を思いだし、後ろから攻撃してきた敵機の攻撃を機体を捻って躱すと、グフのヒートロッドをその機体目掛けて放ち、主翼の付け根付近を貫通させる。

 

格闘武器で攻撃される事を想定していなかった敵機は慌てて高度をとろうとするものの、そこにぶら下がるグフの重量により思う機動が出来なくなっていた。

 

僚機が想定外の攻撃をされ慌てて支援にきた、TINコッド目掛けヒートソードを投擲する。

 

戦車でさえ耐えられない威力の攻撃でTINコッドを一撃で屠ると、その隙をついて最後のTINコッドが特攻するかのように機銃を乱射しながら突っ込んできた。

 

その攻撃をヒートロッドのワイヤーを巻き取る事でかわそうとした時、誰にとっても想定外の事が起きた。

先程ヒートロッドを貫通させた機体が負荷に耐えきれず爆散したのである。

 

「え!?きゃぁぁ!!」

 

支えていたものがなくなり地上に向けて落下するグフと、グフの真下をくぐり抜けようとしていた敵パイロットの動きが偶然重なり、敵のTINコッドがグフの胴体に直撃した。

 

その衝撃によって、操縦系統をやられたグフはハマーンの操作を全く受け付けなくなり、脱出ポッドさえ機能しなくなった機体は地面に向けて無慈悲な落下を開始した。

 

「いやぁ!私はまだ死ねない!初めてもまだなのに死にたくない!」

 

みるみる間に近づいてくる地面を見て自らの運命を想像したハマーンが絶望に震えていると、突然機体が激しく揺れ落下が止まった。

 

見れば、ギレン総帥の操縦するグフがフライトユニットとスラスターを全開にしながらハマーンのグフの胴体を掴み、必死に落下を食い止めている姿があった。

 

「ハマーン!機体を捨てて脱出しろ!」

 

ギレン総帥から入った通信に思わずハマーンが息を呑む。

 

「このまま地上まで減速させるほどの推進材がない!早くしろ!」

 

「で、でも脱出ポッドが故障したみたいで動かなくて…。」

 

正確にはTINコッドが激突した衝撃でフレームが歪みその影響で脱出ポッドが動かなかったのだが、それをハマーンが知るよしもなかった。

 

するとギレンの操るグフが体勢をかえ、コックピットが向かい合わせになるよう動いた。

 

事態を未だに飲み込めないハマーンの前で

ギレンのグフのコックピットが開き、ノーマルスーツ姿の男が姿を見せたと思うとハマーンに向けて手を伸ばした。

 

「私の元に来い!ハマーン!!」

 

「えっ?……あっ!は、はい!!」

 

力強いギレンの声に導かれるようにハマーンが立ち上がると、目の前の男の胸をめがけて飛び込んでいくのだった…。

 

 

 

……なお、この少し後に味方の救援部隊が到着してギレンのグフはグワダンへと帰還し、また、この日の夜にハマーンはもう一度ギレンの胸へと飛び込み、翌朝歩きにくそうにしている姿を目撃される事になる。

 




時間がかかると思いましたが思ったよりあっさり書けました。これもツインテールの神のご加護があったからでしょう。

なお、夜の間に何があったかは皆様のご想像にお任せします。

一応 TINコッド4小隊とフライマンタ2小隊ではにゃーん様のグフカスタムを撃墜しているのでギレンの野望的には連邦も活躍した…ハズ


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44話 UC0079年4月 北米大陸攻防戦◼️

「ニューヤーク解放作戦」 コーウェン中将率いる北米方面軍が実施した、一年戦争前半における最大の反攻作戦である。

 

各地から派遣された増援部隊とヨーロッパから帰還した重機甲師団を掌握したコーウェン将軍は、北米大陸の両岸に分断されているジオン公国軍の各個撃破を狙って、北米大陸最大の都市ニューヤークへ軍を進めた。

 

モビルスーツがない状況下での反攻作戦には反対の声も上がったが、先日セモベンテ隊を率いて敵新型戦車と交戦したフェデリコ中佐の「現有戦力でも上手く運用すれば十分モビルスーツに対抗可能である。私と戦った敵戦車が良い例だ。」という発言により実施が決まった。

 

反攻作戦の先鋒となったのは、北米軍最多のRX-75を保有する連邦陸軍 第7機甲軍団である。

 

 

【挿絵表示】

 

 

増援として船でヨーロッパに向かっている間に根拠地であるニューヤーク一帯を奪われた彼らはジオンへの復讐に燃えており、カナダとの国境地帯に展開していたジオン守備隊を圧倒的火力によって粉砕すると、ニューヤークに向けて進軍を開始した。

 

 

【挿絵表示】

 

 

ニューヤーク郊外でガルマ率いる第二地上機動師団のモビルスーツ隊と対峙した第7機甲軍団は、カナダ各地の飛行場から飛び立った連邦空軍との連携によりジオンのモビルスーツ隊を圧倒し、形勢不利とみたジオン軍は市街地での戦闘を避けてニューヤーク一帯からの撤退を開始した。

 

ジオンの想定外の脆さを警戒する北米軍の残存部隊に対し、第7機甲軍団や各地からの増援部隊は戦果拡大の為に追撃を主張する。

 

拳を交えた激しい会議の結果、ジオンの伏兵を警戒して慎重に進軍する事が決まった。

 

連邦がジオンの伏兵を警戒している間にニューヤーク周辺の残存部隊を集結させたガルマ・ザビは、大都市であるワシントン周辺での戦闘を避け、一気に西海岸南部の要衝オーガスタまで後退する。

 

たて続けのジオン軍の後退を訝しがる連邦軍だったが、まもなくその理由を知る事になる。北部から撤退した第二地上機動師団の主力が北米大陸南部で攻勢を開始したのである。

 

 

【挿絵表示】

 

 

どうやらジオンは連邦が大陸北部に軍を集結させた事を逆手にとって、南部一帯の制圧を目論んでいるようだった。

 

事態を重く見たコーウェン将軍は南部のコロラド近郊に部隊を集結させて防衛線を構築したものの、ランバ・ラル率いる精鋭に側面を迂回され突破を許してしまう。

 

 

【挿絵表示】

 

 

そのまま大陸東海岸側まで侵攻して連邦の連絡線を遮断したランバ・ラル隊は、そのまま連邦の補給線に対するゲリラ戦を展開した。

 

ランバ・ラルに南への交通網を遮断され慌てるコーウェン将軍だったが、北方から入った報告を聞くと更に顔色を悪化させる事になる。

東海岸北部の防衛線をジオン軍に突破されたのだ。

 

ノイエン・ビッター少将率いる第三地上機動師団は、連邦の主力が大陸南方に移った事を確認すると、総力を挙げて大陸北部への侵攻を開始する。

 

増援として東海岸に降下していたシーマ率いる第十三独立機動戦隊を先鋒としたジオン軍は、集中配備されたドムの威力により連邦の防衛線を突破すると、そのまま大陸北部を蹂躙した。

 

 

【挿絵表示】

 

 

連邦も複数の防衛線を構築してジオンの侵攻に備えていたものの、ガンタンクや61式戦車といった一線級の部隊で構築した防衛線を抜かれてしまえば後は対ザク用タンク型自走砲やミサイルバギーを装備した歩兵師団程度しか配備されておらず、そんな装備で重装甲のドムを撃退する事は不可能だった。

 

ジオンに包囲されつつある現状を認識したコーウェン将軍は、難しい判断を迫られようとしていた。

 

 

 

やあ、諸君。ガルマ・ザビだ。

 

あ、そこの君、別に誤字ではないので誤字報告は止めてくれると嬉しいな。

 

今日は兄上がハマーン嬢に手を出した事を姉上に知られて弁明に忙しいそうなので、代わりにこうして話させて貰っている。

 

ああ、姉上と言ってもキシリア姉さんの事ではない。アイナ嬢の事だ。

 

私から見ればほとんど夫婦のような生活をしているのに籍も入れずにグダグダしているのはどうかと思うのだが、アイナ嬢がそれをよしとしている以上文句も言えない。

 

ハマーン嬢の他にも愛人としてララァ嬢を囲ったり、ダイクンの遺児であるアルテイシア嬢からも熱い視線を送られたりと兄上にも困ったものだ。

私としては愛する人は一人きりにするべきだと思うのだが。

 

さてそれは置いておいて北米大陸の戦況について説明しよう。

 

連邦の大部隊がカナダ方面から侵攻してきた時、我が第二地上機動師団の主力はメールシュトローム作戦の実施に向けて南方に展開しており、大陸北部の防衛線は手薄となっていた。

 

私は手近な部隊を集めてニューヤーク郊外で迎撃を試みたものの、RX-75ガンタンクの正面装甲はザクを遥かに上回っており、火力についても両肩に装備されている低反動キャノン砲の威力はザクを完全に凌駕していた。

 

無論機動力においてはザクが上回っているものの、連邦は密集して布陣する事でガンタンクの死角を無くしており、逆に我が軍はデプ・ロッグの絨毯爆撃により密集する事を封じられていた。

 

これに対抗する策は…あった。連邦が我が軍のザクに対抗する為に市街戦を展開したように、我が軍もニューヤークに立て籠り市街戦を挑めば良いのだ。

そうすれば小回りのきかないガンタンクなどザクの敵ではなく、市街地で絨毯爆撃をする訳にもいかないデプロップについても動きを封じる事ができるだろう。

 

だがそれは我が愛するイセリナの故郷を戦火に巻き込む事を意味していた。

 

……私もザビ家の男、ジオンのためになすべき事をしなければならない。

 

だが、たとえ父を裏切っても私の側にいてくれると言ってくれた人の故郷さえ守れずに何がザビ家の男か!!

 

そう思った私は、兄上と連絡がとれなかったため独断で南のオーガスタまで後退する事を決定し、ニューヤーク周辺に駐留する全部隊に対して移動を命じた。

 

幕僚の中には後退について反対意見を述べる者もいたものの、私が「頼む」と頭を下げると皆、黙って私の指示に従ってくれた。

 

夜になって戦闘が下火になった隙をついて行われた後退は思いの外スムーズに進み、大きな損害もなくスムーズにオーガスタまで後退する事ができた。

 

オーガスタ基地に着くと、やっと連絡がとれた兄上に独断でニューヤークから撤退した事に対する詫びと処罰を求めたが、兄上から返ってきたのは想定外の言葉だった。

 

「お前は上手く後退して連邦の主力を引きつけただけだ。いったい何を罰する必要があるのだ?」

 

地図を見れば確かに連邦の主力は我が軍を追撃してオーガスタに向けて進軍しつつあり、メールシュトローム作戦で攻撃する予定だった北部大陸の北と南はがら空きになっていた。

 

メールシュトローム作戦、北米大陸の両岸を支配するジオン軍のうち、第二地上機動師団が南部を、第三地上機動師団が北部を制圧する事で北米方面軍を大陸中央に孤立させる事を目的とした作戦プランである。

 

 

【挿絵表示】

 

 

初期の作戦目標を達成してから第二、第三地上機動師団はこの作戦遂行のための準備を進めており、部隊の移動を含めて作戦開始に向けた準備はほぼ完了していた。

 

「それは…そうですが…。」

 

「ガルマ、ようは勝てば良いのだ。そして勝利とは最も多く戦闘に勝った者を指すのではない。最後まで残り、目的を達成した者の事を言うのだ。たかがニューヤークを奪回されたくらいで動揺してどうする?もう一度取り返せば良いだけの話だろう。」

 

「兄上……。」

 

「まあ当初の予定より第三地上機動師団への負担が大きくなるだろうが、ビッターなら上手くやるだろう。私の方からも増援を手配しておく。」

 

「ありがとうございます!」

 

「構わんよ。お前はお前の道を行くが良い。ではな。」

 

そこから先の説明は諸君には不要だろう。

 

ラル少佐…。おっと、そう言えば昇進して中佐だったな。

 

ラル中佐率いる部隊の活躍により北米大陸南方の制圧は無事に成功し、北部についても第十三独立機動艦隊の活躍により制圧が完了しつつある。

 

さてここから先については、もう1人の当事者の話を聞いてもらうとしよう。

 

 

一一一一一一一一一一一一

 

 

side ジョン・コーウェン

 

 

「ジオンの重モビルスーツに東海岸北部の守りを突破されただと?!」

 

「はい!敵の赤く塗られた機体が開けた防衛線の穴から、敵の重モビルスーツが次々と戦線後方に雪崩れこんでおり、手がつけられません!」

 

ジャブローとの連絡線を遮断され、ニューヤークへの撤退を考えはじめた時にやってきたのはそんな凶報だった。

 

ジオンの重モビルスーツに唯一対抗可能なガンタンクを装備した部隊のほとんどが最前線に投入されている状況下で、その重モビルスーツに防衛線の突破を許したのは最悪の事態であった。

 

敵の重モビルスーツは61式戦車5型の主砲が直撃しても大丈夫な程の重装甲にもかかわらず、61式戦車よりも高速で移動するため、一度防衛線の内側に入り込まれてしまえば慌てて追いかけても追い付けない。

 

そのためそれを撃退するには予想進路上に前もってガンタンク部隊を移動させる必要があるのだが、予備として後方に展開している部隊の大半は対ザク用タンク型自走砲やミサイルバギーを装備した軽師団であり、残りはそれすらない単なる歩兵師団で足止め以上の効果は期待出来なかった。

 

「ニューヤーク防衛のために我々が後退する外ないな。しかし、間に合うのか?」

 

いくら北米大陸が広大といっても東海岸から西海岸迄は僅か4000キロ強であり、時速100キロ近い速度で巡行可能な敵重モビルスーツの速度をもってすれば一週間もかからずに横断が可能と目されていた。

 

一方此方は鈍足のガンタンクである。距離的には遥かにニューヤークに近いものの、敵部隊より先にニューヤークまでたどり着けるかは微妙なところだ。

 

いっそのことこのまま進軍してジャブロー方面に向けて撤退するべきかとも思ったが、せっかく解放したニューヤークを敵の手に渡す訳にはいかなかった。

 

「大陸東海岸から敵のモビルスーツ隊がニューヤークに迫っているため、ニューヤーク防衛のために一時後退する。敵部隊の足は速いぞ、急げ!」

 

私の指示を受けた幕僚が動きだし、まもなく部隊が北へ向けて移動を開始する。

 

ニューヤークまでの後退、言葉にすれば簡単な事だが、それがどれだけ困難な事かを直ぐに思い知る事になった。

 

後退する部隊の中で砲弾が炸裂し、一台の装甲輸送車が炎に包まれる。

周囲を見渡しても、敵機の影さえ見当たらなかったが、辺りにはひっきりなしに砲弾が炸裂する爆音が轟いた。

 

「将軍!敵の長距離砲撃です!どうやら20キロ以上離れた地点で敵の超大型自走砲が砲撃を行っている模様!」

 

「く…。敵の目的は時間稼ぎだ。構うな!」

 

「将軍!敵の特殊部隊が潜入したようで我々の退路に地雷原が出来ています!」

 

「く…。ガンタンクを前に出しボップミサイルで吹き飛ばせ!」

 

「将軍!補給物資を運んでいたミデアが敵のセイバードップに喰われました!」

 

「く…。航空隊には近接航空支援よりも制空任務を優先させろ!」

 

次々と繰り出されるジオンの妨害によって後退は遅れに遅れ、ようやくワシントン近郊まで後退した我々を待っていたのは、架かっていた橋を全て落とされた巨大なポトマック川の姿だった。

 

「…。将軍。敵の特殊部隊に橋を落とされないように警戒していたのですが、昨日の夜に大気圏外からの対地ミサイルによって破壊されたそうです。」

 

「…。復旧は可能か?」

 

「工兵大隊を呼び寄せれば浮遊橋の設置は可能ですが、直ぐには無理です。一番近い部隊でも移動に一週間は必要との事でした。」

 

「…。そうか、ニューヤークはどうなっている?」

 

「既に敵の先頭集団が到着し交戦を開始しました。ジオンすら行わなかった市街戦を我々がする訳にもいかず、郊外で防衛戦をおこなっているため戦況は極めて不利との事です…。」

 

 

【挿絵表示】

 

 

このポトマック川さえ渡ってしまえばニューヤークは目と鼻の先であり、第7機甲軍団の力で敵を撃退する事も不可能ではなかっただろう。

 

だが、我等の前には橋を落とされたポトマック川が立ち塞がっており、それを越える方策を我等は持ちあわせていなかった。

 

連中が大気圏の上から放ったミサイルは、正に歴史を変える一撃だったと言う事か。

 

このままでは我等は北米大陸でジオンに包囲され、比喩ではなく本当の意味で全滅してしまう。それだけはなんとしても防がねばならん。

 

「北米大陸の全部隊にこのワシントンへの集結命令を出せ。」

 

「こ、コーウェン将軍?」

 

「三方をジオンに包囲され、補給線を寸断された状況での北米大陸防衛は不可能だ。誠に遺憾ながら北米大陸から撤退する。」

 

「しかし、ニューヤークならともかく、このワシントンの港の規模では北米方面軍全てを離脱させるのは不可能です!」

 

「周辺に存在する全ての連邦艦隊を呼び寄せろ。また港に停泊している民間船を全て人員輸送の為に徴発する。船に積めない装備は全て廃棄だ。」

 

「将軍…。」

 

「装備はともかく、ここでお前たち熟練兵を失う訳にはいかんのだ。幸いまだ制海権は我々が保持しており、各地から集結する部隊が運んでくる物資があれば暫くの間は防戦も可能だろう。」

 

「…。わかりました。北米大陸からの撤退とワシントン防衛の為の準備を並行して行います。」

 

「ウム。頼んだぞ。」

 

……。おそらく私のキャリアはこの北米大陸の失陥で終わる事になるだろう。だが、それは私のキャリアの話であり、ここで戦う兵達を逃がす事ができれば、まだまだ連邦は戦う事ができるのだ。

 

 

 

各地でジオン軍による終わりのない追撃戦が続く中、コーウェン将軍はワシントンという退路を保持し続け、北米大陸に残存していた部隊の約半数をカナダや南米へと離脱させる事に成功した。

 

その後、最後の部隊の離脱までワシントンに残って部隊の指揮を続けたコーウェン中将だったが、ジーン・コリニーら保守派によって北米大陸失陥の全責任を被せられ、少将へと降格され失脚する事になる。




ハーメルンに標準搭載されている読み上げソフト「ゆかり」で読みあげてもらうとなかなか良い感じでした。
作業しながら聴けるのでぜひお試しください。

読み方が違ったりする部分も多いので少しずつ直して行こうと思います。


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45話 UC0079年5月 V作戦

オデッサ基地

 

一週間戦争、アクシズ戦役、地球降下作戦と立て続けに大規模な軍事行動をとったジオン公国軍は、無意味な占領地域の拡大を嫌うギレンの方針もあって北米大陸の制圧を契機として進軍を一時停止すると、各サイドや占領した地域を使って戦力の増強を開始した。

 

ジオンがまず最初に行ったのは戦前から調整を進めていた各サイドとの同盟の締結である。

 

一週間戦争、アクシズ戦役で連邦宇宙艦隊を壊滅させたジオン公国は、各サイドに対して正式にサイド共栄圏の設立を打診する。

 

親連邦議員の抵抗によって条約締結は難航したものの、地上で続くジオンの快進撃が親ジオン派の背中を押し、UC0079年4月1日に各サイドと月で構成された地域同盟「サイド共栄圏」は成立した。

 

サイド共栄圏としての地球連邦への宣戦は見送られたものの、各サイドからサイド3への人や物の流れには制限がなかったため、各サイドから義勇兵や物資が次々とサイド3に向けて流入する事になった。

 

特にジオンが各サイドに対して「自衛用」としてザクのライセンス生産を認めたため、その代価として各サイドで生産されたモビルスーツを始めとした様々な軍需物資がジオンへと流れ込み、地上での戦いを支えていく事になる。

 

連邦からは「明らかな戦時国際法違反だ!」と激しい非難の声が上がったものの、各サイドで正式に宣戦布告を求める声が上がり始めると、徐々にこの声は小さくなっていった。

 

また、オデッサの制圧により地上から豊富な鉱物資源が宇宙へと供給されるようになり、ガルマによって全土を支配される事になった北米大陸では、都市部での戦闘を避けた事が高く評価され、協力的になった各地の工場から地上で必要な物資が供給されはじめたことにより、補給線への負担が軽減されつつあった。

 

更に、連邦のテラフォーミング政策によって地上でも有数の食料生産地帯となっていたオーストラリア大陸の失陥は、平時でさえ不足ぎみだった連邦の食料事情をより悪化させ、特に世界最大の人口を抱えるアジア圏において深刻な食料危機を迎えようとしていた。

 

また、北米での戦いで海を経由して多くの連邦兵の離脱を許したジオン軍は、海上戦力の増強に力を入れる。

 

カリフォルニアの占領時に入手した潜水艦やオデッサで手に入れた大型輸送船を改修して、グラナダやソロモンで生産したハイゴッグの搭載を可能にしたのである。

 

某アナハイムを通じて事前に設計図を入手していた事もあって改修はスムーズに進み、僅か数週間でジオン潜水艦隊が各地で活動を始める事になった。

 

一方ジオンの地球侵攻作戦により喉元にナイフを突きつけられるような形になった連邦軍だったが、北米での戦いで現有戦力による反攻作戦は困難と判断すると、各地で軍備の増強に専念した。

 

特に連邦最大の規模を誇るジャブロー工廠では毎日のようにサラミス級巡洋艦やマゼラン級戦艦が就役し、豊富な人口により高い生産力をもつアジアでは、アフリカ大陸から運ばれた資源を用いて61式戦車5型やガンタンクといった既存の兵器の増産が進められていた。

 

ジオンと連邦が共に戦力増強に力を入れた事によって両者の間に少しだけ静かな時間が訪れたものの、それは新たなる戦いに向けた序曲でしかなかった。

 

 

 

……やあ…諸君。ギレン・ザビである。女性とは恐ろしいものだな。

 

誰から聞いたのかわからないが、本国のアイナにララァとハマーンに手を出した事を知られてしまい、弁明するのが大変だった…。

 

慣れない戦場の空気で参っていた私を心配し慰めてくれたララァ嬢や、真っ赤になりながらも精一杯の勇気を出して告白してくれたはにゃーん様の勢いに負けて手を出してしまった事を後悔している訳ではないが、ずっと私を支えてくれているアイナに申し訳ないと思う気持ちがある事も紛れもない事実だった。

 

幸いと言って良いのか、一通りお説教が終わってからはそれほど怒ってはいないようで、「手を出したならキチンと最後まで幸せにしてあげてくださいね。…私を含めて。」と言ってくれた事には救われた。

 

全く、女性陣への対応を考えるよりも連邦相手の戦略を練る方が遥かに簡単とは、何か間違っている気がする。

 

まあそういった精神的疲労でヘロヘロになり、やっとの事で横になって眠っているところに、

 

「ギレン閣下!ドズル様とガルマ様から緊急の通信が入っています!」

 

こんな通信が入ったら君達はどう思うだろうか?

 

てっきり私は、ソロモンかキャリフォルニアが連邦軍にでも急襲されたのかと思い、慌てて通信に出てみればそこで聞いたのは予想だにしない内容であった。

 

「聞いてくれ兄貴!」

「聞いてください。ギレン兄さん!」

 

「二人して急に連絡してくるとは何事だ?連邦の二点同時襲撃か!?」

 

「いや、そういった事じゃない。兄貴にモビルスーツ用OSのデータを貰ったので自分専用機を作ろうと思いガルマと話していたのだが、俺の作ろうとしている機体について猛反対されてな。」

 

「当たり前です!聞いてくださいよギレン兄さん。ドズル兄さんは自分の専用機を格闘戦専用機にするとか言っているんですよ?!指揮官が危険な格闘戦を積極的にしてどうするんですか!」

 

「ガルマよ。お前の言いたい事はわかるが戦場に危険ではない場所などない。であるならば俺が先陣を切って突入して味方の士気を上げた方が良いではないか!」

 

「戦場が危険なのはわかっています!ですが我々ザビ家の者が同じ戦場にいるだけで十分士気高揚は望めます。であるならば多少なりとも安全な後方から支援に徹するべきです!」

 

「とまあこんな感じで二人で話していては全く話が進まなくてな。それでモビルスーツ開発の第一人者である兄貴に決めて貰おうと思い連絡した訳だ。」

 

「……。緊急の連絡だというから何事かと思えば…。あと別に私はモビルスーツ開発の第一人者という訳ではないのだが…まあ用件はわかった。専用機くらい好きに作れば良いだろう。ではな。」

 

「ま、待ってくれ兄貴。何をそんなに怒っているんだ?」

 

「時差があるので気がつかないかもしれないが此方は深夜だ。そこを緊急連絡という事だったので慌てて出てみればこれだ。私の気持ちがわかるか?」

 

「そ、それは申し訳ありません兄上…。」

 

「サイド3とは違い地球は広い。その事を忘れるなよ。ガルマ。」

 

「はい!肝に銘じます。」

 

「ふん、ならばよい。要は格闘戦専用機と射撃専用機のどちらが優れているかという話だろう。

ジオ・マッド社が次期主力機を開発するためのテスト機として開発したギャンという試作機がある。ちょうど二機あるので一機ずつくれてやるから好きに改良するがいい。そして改良した機体同士で戦わせ勝った方の意見を採用すればよかろう。」

 

「なるほど!勝者が正しいという事だな!」

 

「少し違う気もしますが良いでしょう。私の実力をご覧にいれて見せましょう。」

 

全く、人が疲れて休んでいるところをくだらん用件で起こしおって…。まあ良い、丁度次期主力機の開発のために格闘戦専用機と射撃専用機の開発データが欲しかったところだ。せいぜい利用させて貰うとしよう。

 

一一一一一一一一一一一一

 

side とある政府高官と連邦軍大将

 

「将軍、どうなっているのだ!君が地の利がある地上でならジオンに勝てると言うから、ルウムで惨敗した君を連邦軍の総司令官に抜擢したのだ。

それにもかかわらず、地上でもジオンに押されてばかりではないか!」

 

「以前にもお話しした通り、我が軍の劣勢はジオンのモビルスーツの威力によるものです。

対MS用重誘導弾や61式戦車5型、ガンタンクなどによって一定の戦果は上がっておりますが、ジオンに勝利するには我々も相手と同じ土俵に立つ必要があります。」

 

「なんだね?その資料は?」

 

「ジオンのモビルスーツに対抗する為の唯一の手段、我々がV作戦と呼んでいる新型モビルスーツの開発計画です。」

 

「将軍はモビルスーツのあるなしが大局に影響すると?今の我々の苦戦はジオンの奇襲戦法によるものではないのかね?

現にオーストラリアでの戦い以外は、全て敵の奇襲が最大の敗因となっているではないか。

一からモビルスーツを造るより、現行の兵器の性能を向上させるなどして対抗した方が良いのではないかね?」

 

「戦場を地上に限定するのであれば、それで対応する事も可能でしょう。

しかし宇宙空間でのモビルスーツの優位は圧倒的で、多少既存の兵器を改良した程度で埋まるものではありません。」

 

「……。それほどのものかね?」

 

「ミノフスキー粒子散布下の戦闘で、厚い装甲と高い機動性をもつザクに勝つにはブースターを装備したセイバーフィッシュが5機は必要となります。そして高機動機であるヅダに至っては何機必要になるかすらわかりません。」

 

「それほど性能に差があるのならば、確かにモビルスーツを開発する必要があるかもしれんな……。

だがそう簡単に開発出来るのか?」

 

「アクシズ戦役で鹵獲したザクを使って行っていた機体構造の解析は完了し、現在それを基にした新型モビルスーツの開発を進めております。

またジオンは各サイドやオデッサ、北米大陸でザクの量産を開始しており、情報部の人間を潜入させる事で製造方法についての情報収集も進めています。」

 

「おお、それならば直ぐにザクの量産が開始できるではないか!我が軍でもザクを量産すればジオンに勝てるのではないかね?」

 

「いえ、ただ同じザクを量産するだけではパイロットの技量が違うため我々に勝機はありません。無論ザクの外観を多少変えただけのコピー機の製造を既に始めさせておりますが、並行して我が軍の特性に合わせた機体を開発中です。

 

現在様々な開発プランが進行中ですが、最も開発が進んでいる機体は、ザクをベースに装甲の強化と砲戦能力の付与をおこなった中距離支援機の試作機がまもなくロールアウトする見込みです。ただ……。」

 

「何か問題があるのかね?」

 

「鹵獲したザクを解析してわかったのですが、機体を動かすOSデータがブラックボックス化されており、データを取り出せない構造になっていました。

このままでは機体は量産できても動かすOSがないという事態に陥ります。」

 

「それでは機体を製造しても意味がないではないか!」

 

「はい。ですので現在ジオンの内通者にOSのデータを入手できないか交渉中です。向こうでも大変貴重なものらしく、幾つかの条件を呑めるのならば渡しても良いとの返答が来ました。」

 

「その条件とは?」

 

「技術情報や鉱物資源の提供といったものもありますが、最も大きいものは連邦軍が戦争に勝利した場合における一部のジオン高官の助命です。」

 

「ジオンの高官とはザビ家の人間か?」

 

「はい。ただ、全員という訳ではなくザビ家の中の一名のみです。」

 

「フム。まあ一人ぐらいなら見逃してもよかろう。戦後のジオンを纏めさせる人間も必要だしな。」

 

「では至急内通者と連絡をとってデータの入手に努めます。コピーできないように強力なプロテクトがかかっているそうですが、我が軍の技術部であればプロテクトの解除も可能でしょう。

また、ジオンよりOSが手に入らなかった場合に備えて、教育型コンピュータを用いたOS開発も並行して行っております。ご安心ください。」

 

「うむ。わかった。V作戦の追加予算が通るよう私からも根回しをしておこう。だが将軍、これが最後のチャンスだと思いたまえ。この計画に失敗するようであれば君には責任をとってもらう事になる。」

 

「…承知しております。ではビンソン計画共々根回しをよろしくお願い致します。」



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46話 UC0079年5月 アラビア半島攻略戦

アラビア半島、オデッサの南に位置する世界最大の半島である。

 

東にペルシャ湾、西に紅海、南東部はインド洋に面するこの一帯は古来より東西交通の要路として知られており、1869年のスエズ運河の開通以降は地中海とインド洋とを結ぶ海上交通の要衝ともなっていた。

 

そのアラビア半島の大部分を占めているのが世界最大の砂で覆われた地域の1つ、ルブアルハリ砂漠を有するアラビア砂漠である。

 

2,330,000k㎡もの面積を有するアラビア砂漠は一年を通して乾燥が酷く、昼間は非常に高温にもかかわらず、夜間には凍結する事さえあるほどに温度差が激しい地域である。

 

そんな特殊な環境のため、アラビア砂漠では僅かなオアシスに設けられた市街地やそれらを繋ぐ大きな道路に連邦の戦力が集中して配備され、それ以外の大半を占める砂漠地帯は人も物もない戦力の空白地帯となっていた。

 

だが、ジオン公国が砂漠に対応した新兵器を増援として投入した事により、アラビア半島での戦いは大きな変化を迎える事になる。

 

UC0079年5月14日

 

地球各地に展開するジオン軍に対して、ジオン本国から大規模な増援部隊の降下が実施された。

 

特に四つの連邦方面軍と交戦中のオデッサには、ロイ・グリンウッド大佐率いる第5地上機動師団が増援として派遣され、一気に戦力を増大させたオデッサ方面軍は、連邦の東西交通の遮断を企図して第5地上機動師団をアラビア半島へと送り込んだ。

 

アラビア半島でモビルスーツを運用するにあたって大きな問題となったのが、地球上におけるモビルスーツの主な移動手段である「脚部を用いた歩行」が、砂漠の軟弱な地盤によって困難になることである。

 

人間であっても砂地を歩く、走るといった行為は足腰に大きな負担を掛けることになるが、全備重量が70tを超えるモビルスーツでは接地圧の問題から普通に歩行しようとすると簡単に砂に埋まって動けなくなってしてしまう。

 

ゲーム「ギレンの野望」で砂漠の地形適性がない機体がほとんど移動できないのは正にこのためである。

 

また、この状況を更に悪化させたのが砂漠の砂そのものである。戦車の砲弾すら跳ね返すモビルスーツの装甲も完全無欠ではなく、関節やカメラ・システム、吸気/廃熱ダクトなどの隙間から入った砂が、モビルスーツの稼働不良やオーバーヒートを引き起こす原因となっていた。

 

このような事態を想定していたギレンの指示により、「作業用機械」として販売したザクを砂漠地帯で運用する事で得られたデータを基に開発されたのが「MS-09T ドム・トローペン」である。

 

最新鋭の重モビルスーツであるドムの関節部やエア・インテークなどに徹底した防塵処理を施し、機体の装甲形状を変更してまで冷却機能を強化した本機は、本来砂地での運用に向かないモビルスーツに対して圧倒的な機動力を与え、砂漠地帯における「最強の機動兵器」として君臨したのである。

 

当初はアフリカ方面に展開する予定であった第5地上機動師団は、砂漠等の乾燥した地形が多いアフリカの大地に対応したこの機体を数多く装備しており、アラビア半島へと進軍した同師団は、ロイ・グリンウッド大佐の高い指揮能力もあって、瞬く間にアラビア半島一帯を制圧していった。

 

 

 

やあ…諸君。ギレン・ザビである。

 

今回、ジオン本国から第5地上機動師団が増援として派遣され、我がオデッサ方面軍は2個地上機動師団編成となった。

 

今までは第1地上機動師団を分散して各地に派遣する事で戦線を構築していたのだが、オデッサは連邦軍のヨーロッパ方面軍、ロシア方面軍、アフリカ方面軍、インド方面軍の4つの方面軍と同時に交戦している為、初期の奇襲効果が薄れてくるとモビルスーツの威力をもってしてもなかなか進軍する事が出来なかった。

 

特に連邦ロシア方面軍は、各地からかき集めた戦車を使って遊撃戦を展開しており、度重なる市街地への無差別攻撃によっていい加減頭にきていたのだが、本人の志願によってルーデル中佐率いるシュトゥーカ隊(グフ/S.F.S搭乗)を迎撃の為にロシア方面へ派遣したところ、恐ろしいペースで撃墜数を伸ばし続け、遂にはロシア方面軍を撤退に追い込んでしまった。

 

流石は第一次降下作戦以降、ずっと前線で支えてくれた精鋭である。

……しかし、いくら戦車が相手とはいえ隊長個人の撃墜スコアが4桁近いのは流石に盛りすぎだと思うので、後で注意しておかなければ。

 

それに他所の部隊だとイマイチだった者も、何故かシュトゥーカ隊に配置した途端にスコアを伸ばし始めるし、この前配置したばかりの新兵でさえ一週間で10両の61式を撃破している。

 

きっと何か部隊運用の秘訣のようなものを持っているのだろう。

 

また、増援として降下してきた第5地上機動師団を派遣したアラビア半島での戦いでは、アラビア一帯に展開する連邦アフリカ方面軍をトーマス・クルツ等が操るドム・トローペンの圧倒的な火力と機動力によって蹂躙し、連邦はオデッサからアラビア半島を越えてスエズまでを一気に失う事になったのである。

 

この敗北によりスエズ運河を失陥した連邦軍は、アジアと欧州を結ぶ海の大動脈を失う事になり、これ以降アフリカ大陸の喜望峰を経由したルートでの物資輸送を強いられる事になる。

 

と、まあそれは良かったんだが……。

 

「ちょっと!ちゃんとメイの話を聞いてるんですか?ギレンさん!」

 

「あ、ああ。もちろんだ。メイ」

 

「メイがギレンさんの為に一生懸命新型機を作ってるのに、今年に入ってからちっとも連絡もしてきてくれないし、先月になってやっと連絡してきたと思えば、モビルスーツ用OSを弄ってプロテクトをかけてくれとか仕事の話だし……。全くメイの事を何だと思っているの?!」

 

「す、すまない……。色々と忙しくてな。ところで何故メイが地球に?」

 

「ギレンさんの専用機の開発が一段落したから増援部隊と一緒に降りてきたの。まだサイコミュの小型化が完了していないから完全じゃないけど、普通のモビルアーマーとしてならもう運用可能になったわ。今はアクシズでガトーさんが機体の運用テストをしてるの。」

 

「そうか、だがそれならアクシズにいた方が良いのではないか?」

 

「宇宙での稼働には問題がなさそうだったから、私は地上で運用するためのフライトユニットのテストをするために降りてきたの。それと……。」

 

「それと?」

 

「アイナお姉ちゃんに地球上でギレンさんが困ってないか見てきてってお願いされたの。何か困ったりしてる事はない?」

 

「4つの連邦方面軍に同時に対処するのには苦労していたが、メイと一緒に地上に降りてきた第5地上機動師団の戦力があれば問題なく対処できるだろうし、もうすぐオデッサの工業地帯を使ったドムの量産も軌道に乗るだろうから、そうなれば当面は困るような事はないと思うが。」

 

「そっか。ハマーンさんやララァさんに迷惑かけてないかアイナお姉ちゃんが心配してたから、何事もなかったなら良かった。」

 

「……。も、勿論だとも。」

 

「……?さてそれじゃフライトユニットのテストに行ってくるね!」

 

い、いかん……。前回ジャパンに伝わる秘奥義DOGEZAで謝罪する事で許して貰えたと思っていたが、私の判断が甘かったようだ…。

 

まさかアイナが監視役としてメイを送り込んで来るとは。これは一度サイド3に戻って直接謝罪した方がよいのかもしれん。

 

来月に予定しているハワイ攻略作戦が完了すれば、暫くの間は大きな作戦はないので、それまでに何とかアイナの機嫌をとる方法を考えておくようにしよう。

 

一一一一一一一一一一一一

 

side メイ・カーウィン

 

ふぅ……。去年の10月位からずっと開戦に向けてバタバタしていて、暫くギレンさんと何も話せてなかったから強く言い過ぎちゃったかな?

まあ、義理とはいえ娘の私に寂しい思いをさせたんだからあれくらいは言ってもきっと許してくれるよね?

 

さてとそれじゃもってきた機材をテストするために格納庫へ……!あ!

 

「ハマーンさーん。」

 

「メイちゃん!元気そうで良かった。いつ地球へ?」

 

「ついさっきだよ。ハマーンさんも元気そうで良かった。」

 

「ええ。アクシズ戦役やオデッサ、シドニーの攻略戦の時はモビルスーツに乗って戦場に出たりもしたけれど、それ以外は基本的に閣下のお側で身辺警護をしていただけですもの。元気に決まっているわ。」

 

「それでも戦場に出たりしたんでしょ?すごいなぁー。」

 

「メイちゃんの方がずっとすごいわ。ジオンのモビルスーツは全てメイちゃんが作ったOSで動いているのよ?」

 

「えへへ?そうかな?でもまあ私一人で作った訳じゃないしね。あ、そうだ。新型サイコミュの試作品を持ってきたから後でテストに付き合ってくれる?」

 

「勿論いいわよ。ララァさんにも手伝って貰えるようにお願いしておくわね。」

 

「あれ?そう言えばララァちゃんは?」

 

「ララァさんなら…多分、ギレン総帥のお部屋にいるんじゃないかしら。」

 

「???、何でギレンさんの部屋にララァちゃんが?」

 

「言いにくい事だけれど、ララァさんはギレン総帥の愛人という名目で地上に降りて来ているから同じお部屋に住んでいるの。羨ましいなぁ…。

 

「ララァちゃんがギレンさんの愛人……。」

 

「あら?メイちゃんは知らなかった?以前の地球視察の時にララァさん一家が生活に困っているのをギレン総帥がお知りになって、それを助ける時に愛人として迎える契約をしたの。地上で困っている沢山の人達の中からララァさん一家だけを助けるには何か理由が必要だったから。」

 

「そうだったんだ……。」

 

「あ、もしかしたら何かお考えがあって伝えていなかったのかもしれないから、私から聞いた事は内緒にしておいてね。」

 

「うん。わかった……。」

 

「それじゃまた後でね。」

 

ララァちゃんが愛人かぁ……。

 

最初紹介された時は「メイ、お前の新しい友達だ、仲良くするように。」と言われただけで愛人の事はギレンさんもララァちゃんも何も言わなかったので、私よりも年下のララァちゃんが愛人としてギレンさんのところに来ていた事を私は知らなかった。

 

無論愛人というのはララァちゃんの一家を助ける建前だったんだろうけど、私の身近な人がそういう契約になっていた事を知るとなぜだか心の中がもやもやして仕方ない。

 

私も娘じゃなくて愛人として助けて貰っていたら、今頃ギレンさんとどんな関係になってたんだろう?

 

別に今の関係に不満がある訳じゃないのに、何故かそんな疑問が頭に浮かんできたのが不思議だった。




冒頭の砂漠戦についての記述については「暁」で掲載されている「MS Operative Theory」内の記述を許可を頂いて一部流用させて頂いています



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47話 UC0079年6月 ジャベリン・トライデント作戦

ハワイ上空

 

ハワイ諸島は太平洋の中心に位置している事から長らく連邦軍太平洋艦隊の本拠地として使用されており、現在も太平洋艦隊の主力艦200隻近くが駐留していた。

 

そしてそれらを守る為の防空網は、連邦軍本部ジャブローに匹敵する規模であり、ジオン軍の侵攻を阻み続けていたのである。

 

オセアニア一帯を制圧したジオン公国軍は、アジアとジャブローを繋ぐ海路を遮断するため、新たに設立した戦略海洋軍をハワイ周辺に集結させてオアフ島攻略に向けた準備を進めていた。

 

UC0079年6月1日

ハワイ攻略に向けた作戦の第1段階「ジャベリン」作戦が開始される。

 

これは東南アジア各地の連邦海軍基地へ、月面からのマスドライバーと軌道上に展開したジオン艦隊からの対地ミサイルによる攻撃を同時に行い、飽和攻撃によって基地の防空網を無力化し、これに乗じて降下したザンジバルと搭載モビルスーツによる攻撃で駐留部隊と基地施設を破壊してジオン勢力圏へ離脱するというものであった。

 

ただ、このジャベリン作戦は想定以上に苦戦する事になる。

 

度重なるジオン軍の攻撃により衛星軌道への警戒を強めていた連邦軍は、月からのマスドライバーのほぼ全てと軌道上から放たれた対地ミサイルの50%の迎撃に成功する。

 

また、連邦は滑走路や格納庫を増設して航空機を分散配置したり、基地の敷地外に退避壕を造り、そこに部隊を避難させる事でかなりの戦力の保持に成功しており、各地に降下したジオン軍は想定以上の数の連邦軍に苦しめられる事になる。

 

特に連邦軍フィリピン基地ではアジア各地で量産されたガンタンクが多数配備されていた事から、降下したリリー・マルレーンのエンジンにガンタンクの砲弾が直撃して不時着する事態に陥ってしまう。

 

幸いリリー・マルレーンに搭乗していたのはシーマ大佐率いる親衛隊の精鋭であったため、不時着したリリー・マルレーンの追撃に出てきた連邦軍部隊をシャア少佐率いるモビルスーツ隊が壊滅させ、無事にジオンの勢力圏まで離脱する事に成功した。

 

UC0079年6月8日

この一連の攻撃によりジオン軍の次なる攻撃目標が東南アジアにあると判断した連邦軍首脳部は、ハワイに駐留する連邦海軍第7艦隊を増援として派遣する。

 

第7艦隊はヒマラヤ級大型戦闘空母エベレストを旗艦とし、ヒマラヤ級大型戦闘空母10隻、ジュッドランド級戦艦2隻、アルバータ級ミサイル巡洋艦18隻、モンブラン級ミサイル駆逐艦36隻、U型潜水艦18隻で構成される連邦海軍有数の戦闘集団であり、その戦力は実にハワイに駐留する連邦艦隊の実に四割にも及んだ。

 

UC0079年6月10日

オアフ島の沖合いで連邦軍の動向を窺っていた戦略海洋軍の主力は、潜伏させたスパイ107号からの報告により第7艦隊が出撃した事を知ると、戦力が大幅に低下したハワイ基地の攻略のため部隊の展開を開始した。

 

12隻のユーコンと2機のモビルフォートレスから出撃した56機のハイゴッグは、連邦の哨戒ラインにかからないよう警戒しながら静かに開戦の時を待った。

 

モビルスーツ隊に先んじて特殊潜航挺で出撃したランバ・ラル率いる特殊工作隊は、オアフ島に上陸するとスパイの手引きにより連邦軍基地へと潜入し、レーダーサイトを始めとした指揮通信施設に爆弾を設置すると、そのまま連邦軍に気付かれる事なくオアフ島を後にした。

 

UC0079年6月11日 0000

ランバ・ラル率いる特殊工作員が仕掛けた爆弾が、連邦軍のレーダーサイトや指揮通信施設を吹き飛ばすのと同時にハワイ攻略作戦「トライデント」が開始された。

 

深夜の敵襲により大混乱に陥るハワイ基地に対して、浮上したユーコンから無数の対地ミサイルが発射され、連邦軍の混乱に拍車をかけた。

 

同時に展開を完了していたハイゴッグ隊が一斉に行動を開始する。

 

フラナガン・ブーン大尉率いる戦略海洋軍 第1大隊はオアフ島南の海上で哨戒に出ていた連邦軍警備艦隊に襲いかかった。

 

ヒマラヤ級空母3隻、アルバータ級巡洋艦6隻、モンブラン級駆逐艦12隻、U型潜水艦6隻で構成された警備艦隊は決して油断していた訳ではなかったものの至近距離から突然28機ものハイゴッグに襲われてはどうしようもなかった。

 

最初のハイゴッグからのハンドミサイルによる一斉攻撃によりヒマラヤ級空母2隻とアルバータ級巡洋艦2隻、モンブラン級駆逐艦5隻を失った連邦艦隊は、すぐさまドン・エスカルゴ対潜哨戒機や対潜ヘリを離陸させ残存艦艇による反撃を試みるものの、ハイゴッグの水中性能は圧倒的であり、態勢を立て直せないまま次々と沈んでいった。

 

また、ギュンター・プリーン大尉率いる戦略海洋軍 第2大隊はオアフ島北の海岸に上陸すると、背中に装着したジェットパックを用いてオアフ島の陸地を一気に飛び越え内陸部から港に停泊する連邦艦隊を襲撃した。

 

戦時下という事もあり、どの船も最低限運航するのに必要な乗員は乗船していたものの、突然の襲撃に対応できた船はほとんどなく、全く想定されていなかった陸地側からの攻撃により湾内の連邦艦隊は次々と撃破されていった。

 

それでもオアフ島に駐留している連邦軍海兵隊員の対MS重誘導弾「リジーナ」やガンタンクを用いた反撃で数機のハイゴッグの撃破に成功したものの、対地、対潜攻撃の要となるべき航空隊が拠点としているヒッカム空軍基地が上陸したハイゴッグによって破壊されてしまってはこれ以上の逆転は望めなかった。

 

その後、秘密裏に衛星軌道上に展開していたグワダンが降下してきた事を契機として連邦軍残存部隊はハワイからの撤退を開始。

 

海兵隊の残存部隊が殿を務める中、離脱可能な航空機や残存艦艇を用いて次々とアジアに向けて離脱していった。

 

やあ…諸君。この戦いが終わったら一度本国に帰る予定なのだが、アイナに怒られるのが怖いので帰るのを延期しようか迷っているギレン・ザビである。

 

というかララァに手を出してからというものララァが二人きりになるとメッチャ甘えてきたり、ハマーンが護衛と称してモビルスーツのコックピットで膝の上に座ってきたり、メイが向けてくる視線が何かいいたげなのに、こっちから声をかけると何故かそのまま走って行ってしまったりでハワイ攻略の指揮をとっている間も気になって仕方なかった。

 

お陰でハワイから脱出した連邦艦艇を追撃させるのを忘れていた位である。

 

まあ下手に追撃していたら連邦の第7艦隊と正面からぶつかる事になっただろうから、追撃させなくて良かったと言えなくもないのだが。

 

そのまま即座にハワイの奪還に動くと思われていた連邦軍第7艦隊だったが、我々の予想に反してオアフ島から脱出した残存艦艇を守りながらアジアに向けて撤退していった。

 

正直万全な状態の第7艦隊と正面からぶつかった場合、かなりの損害を覚悟しなければならないところだったので助かった。恐らく離脱した艦艇からの情報でハイゴッグの性能を高く評価して警戒しているのだろう。

 

さてこれでハワイの制圧も概ね完了し、地上の戦況も一段落したのでデギン公王への報告やグワダン乗組員の休養も兼ねて一度本国に帰る予定なのだが……まあ私個人の感情で皆が楽しみにしている帰国の機会を奪う訳にもいかない。

 

どうせ延期したところで何時かは戻らねばならないのだし、大人しく帰って怒られるとしよう。

 

一一一一一一一一一一一一

 

side 連邦宇宙軍 ヘリオン作戦参加艦隊旗艦

 

「艦長!全艦、暗礁宙域内への配置が完了しました。」

 

「ウム。ご苦労。」

 

「しかし艦長、本当に我々だけであの怪物艦に仕掛けるんですか?

味方は本艦を入れてもマゼラン級3隻とサラミス級12隻、それに4隻のコロンブスに載せてきたパブリクが32機ばかりあるだけです。

相手は1隻なので少ないとは言いませんが、あの船には第2地球軌道艦隊がまるごと壊滅させられているんですよ?」

 

「仕方なかろう。情報が入った時点でこの宙域に到達可能だったのが我々だけだったのだ。それにどんな相手だろうと油断している所を襲撃できれば充分に勝機はある。あの怪物艦とギレン・ザビを同時に始末できる可能性があるのならば多少のリスクはやむを得ん。」

 

「それは…そうなのですが……。」

 

「それにこの任務は上層部からの特命でな。残念ながら我々に拒否権はないのだ。すまんな。」

 

「いえ、艦長の下であれば別に私は構いません。良い歳ですし守るべき家族もいませんから。

ただ、コロニー出身の部下の中には例の石碑やダイクン暗殺の件を聞いて連邦に対して不信感を持っている者も少なくありません。

それでも艦長の下なら、とついてきてくれた者達ですので、せめて若い家族もち位は何とかしてやりたいのですが……。」

 

「……。あまり大きな声では言えんが、艦隊主力が壊滅した後は、後方のコロンブスにはその時点で降伏するよう指示してある。開戦に向けた準備は副長に一任するので好きに人を動かすと良い。

但し最低限戦闘に必要な人員は残すようにな。」

 

「了解しました!……やはり貴方の部下で良かった。」

 

「その台詞は是非とも目標を沈めてから改めて聞きたいものだな。」

 

「はは、最もですね。」



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48話 UC0079年6月 舞台裏での激闘

何時も感想等ありがとうございます。

アンケートについてはある程度傾向がわかりましたので一旦終了させて頂きました。

また、CBさんをはじめとして様々な方に誤字の修正をして頂きとても助かっています。


サイド3への帰還の途にあったジオン軍のグワダン級大型戦艦に対し、サイド5付近の暗礁宙域に潜んでいた連邦艦隊が突如として襲いかかった。

 

もとはジオン軍の補給線妨害の為に派遣された連邦艦隊は、マゼラン級戦艦3隻とサラミス級巡洋艦12隻、それにコロンブス級輸送艦に搭載されたパブリク突撃艇32機で構成されており、非常に高い対艦攻撃力を備えていた。

 

特にパブリク突撃艇が搭載する大型対艦ミサイルは直撃すれば一発でムサイ級を撃沈する程の威力をもっており、この戦いの主力となるべく暗礁宙域に布陣して開戦の瞬間を待ちわびていた。

 

戦いはマゼランとサラミスによるメガ粒子砲の一斉砲撃と、それにあわせて暗礁宙域から飛び出したパブリクの突撃によって始まった。

 

突然の連邦艦隊の奇襲により敢え無い最期を迎えるかと思われたグワダンであったが、何故かギレン・ザビの命により戦闘配置についていた事もあり、最初の一斉射撃こそ数発被弾したものの、即座にビーム攪乱幕を展開するとモビルスーツ隊を出して反撃を開始する。

 

反撃を受けた連邦艦隊は勇敢に戦ったものの、もともとジオンの補給艦隊にハラスメント攻撃をかけるために編成された対艦戦闘向けの編成で、ハマーン率いる50機を超えるモビルスーツ群にかなうはずもなく、僅か数分の戦闘でパブリク隊は壊滅し、残る艦隊も次々とモビルスーツによって撃沈され、僅か30分後にはジオンの降伏勧告を受け入れる事になる。

 

 

 

やあ…諸君。ギレン・ザビである。

 

全く想定外の攻撃だったのでララァが教えてくれなければ危ないところだった。

 

一緒に寝ていたらララァが突然「総帥。敵がきます。」と教えてくれたので何とか撃退できたがあのまま奇襲を受けていたらどうなっていたことか。

 

これでアイナ、メイに続きララァにも頭が上がらなくなってしまった。

 

まてよ?そもそもハマーンにもいつも助けて貰って頭が上がらないし、アルテイシアが何か言ってきても勝てる気がしないぞ?

 

……。あまり気にしないようにしよう。

 

まあそれはさておき、こんな場所で連邦艦隊から奇襲をうけるとは、やはり情報が漏れているな。

 

通信だとどこで情報が漏れるかわからないので、直接デギンやサスロと相談しようと思い補給のついでにわざわざサイド3まで帰ってきたのにこれである。

 

なのでサイド3に戻ると、すぐにデギン達の待つ屋敷に向かう事にした。

 

「只今戻りました。父上。」

 

「地上での活躍は聞いている。ご苦労だったな、ギレン。戦局はどうだ?」

 

「初期の作戦目標であったオデッサ、北米、オセアニア一帯の制圧はほぼ完了しました。また、現地の工場を使ったモビルスーツの量産も開始しており、宇宙からの補給を必要としない戦争体制が整いつつあります。」

 

「フム。だが当初の計画と比べると随分と進軍のペースが遅いが本当に大丈夫なのか?」

 

「父上、月や各サイドの大半を勢力下においた我々は大幅に国力を増しており、地上の物資を供給する事で各サイドのジオン支持率も日々高まっています。

それに伴い各サイドから続々と義勇兵が集まっており、無理な短期決戦に拘る必要はもうありません。

時間は既に我等ジオンの敵ではないのです。

それに地上の過酷な環境は兵達にかなりの負担となっております。急激な戦線の拡大は得策ではないかと。」

 

「しかし、それではいつまで経っても戦争が終わらんぞ?ギレン」

 

「いえ。我が軍による北米、オーストラリア、オデッサといった地上の穀倉地帯の制圧により連邦の食糧自給率は60%近くまで低下しています。

今計画中のインフラへの攻撃と、ハイゴッグを使った連邦側船舶への襲撃が始まれば連中の食糧事情は更に悪化するでしょう。

無論備蓄があるので暫くは大丈夫でしょうが、今は戦時です。不足しはじめるのは時間の問題で、一度不足してしまえば連邦も講和を考えざるをえないでしょう。」

 

「無制限潜水艦作戦をおこなうというのか?兄貴。」

 

「違うぞ、サスロ。無制限ではない。

我らジオンに航路と積み荷を申請し、許可を受けた船舶以外は全て攻撃対象とするだけだ。

まあ連邦側の船が我等の許可なく航行するというなら無制限潜水艦作戦と同じような結末を迎えると思うがな。」

 

「……兄貴は連邦がそんなことを許すと思っているのか?」

 

「思わんさ。だが重要なのは我々に従わない全ての船舶は我が軍の攻撃対象となり、連邦海軍は我々からそれらを守るため各地に分散して活動しなければならなくなるという事だ。」

 

「各地の軍港に引き籠もっている連邦艦隊を引きずり出せる上に、戦力を分散させられるという事か!」

 

「そうだ。海上艦艇の数でこそ連邦に大きく負けているが、個々の質では水陸両用モビルスーツという連中にはない武器のお陰で圧倒的に我が軍が勝る。

後は輸送船を守るためにノコノコ出てきた連邦艦隊を各個撃破してやれば良い。」

 

「……。兵糧攻めに通商破壊、そしてそれらを利用しての連邦海軍への攻撃か。ギレン、貴様はいつから悪魔に魂を売った?」

 

「それはこの戦争を始めると決めた瞬間に。そんな事でジオンに勝利をもたらせるのならいくらでも売ります。

ただ、そんな悪魔に魂を売り渡した私が今懸念している事があります。父上。」

 

「なんだ?」

 

「我が軍の情報がかなりの規模で連邦側に漏れています。」

 

「なんだと?!」

 

「これをご覧ください。」

 

「これは…第三次降下作戦の初期の作戦計画か?」

 

「そうです。ただ、問題はこれが発見されたのが制圧したシドニーの連邦軍基地のコンピュータの中だという事です。」

 

「連邦に作戦が漏れていたというのか?!」

 

「はい。幸い敵の反応を見て即座に作戦を変更したので、大した障害にはなりませんでしたが。」

 

「……。わかった。至急キシリアに調査させよう。」

 

「それは認められませんな。」

 

「何故だ?」

 

「これだけ詳細な作戦計画を入手できる者はかなり限られます。ガルマやドズルでさえこれほど詳細な計画は持っていないでしょう。

もっているとすれば、実際に降下作戦を指揮した親衛隊の首脳陣か、この計画を作った者達……。」

 

「……キシリアが漏らしたと言いたいのか?」

 

「わかりません。キシリアの部下という可能性もありますので。

しかし親衛隊の者が情報を流していたというならば変更後の作戦に関する情報が全くないのはおかしい。」

 

「それは…そうだが……。」

 

「また、今回サイド3へと戻る際に連邦艦隊の奇襲を受けました。同じ船に乗っていた親衛隊の首脳陣が情報を漏らしているとはいささか考えにくいかと。」

 

「……。わかった。サスロ、内務省の者を使って秘密裏に戦略諜報軍の内偵を行え。ギレンもそれでよいな?」

 

「いえ、既にキシリアにはレビルの逃走を幇助した疑いもあります。出来ればこれ以上の情報の流出を防ぐため、戦略諜報軍の指揮官からキシリアを外したいと思うのですが?」

 

「……それはならん。キシリアは我等ザビ家の身内なのだぞ?何の物的証拠もないのに推測だけで罪に問う事などできん。あれを裁きたいのであれば確たる証拠を持ってくるが良い。」

 

そう言うと、証拠無しでキシリアを処断しようとした事がよほど腹に据えかねたのか、突如デギンが立ちあがり、杖をつきながら部屋を退室していった。

 

「父上も老いたな。そう簡単にキシリアが証拠を残すようなら、このような相談などする筈あるまいに。」

 

デギンはもともとガルマの次にキシリアと仲が良かったから、信じたい気持ちが強いのだろう。

 

まあ、俺も状況証拠だけでハマーンが裏切っているとか言われても信じないだろうから、デギンの気持ちが全く分からない訳ではないのだが……。

 

「どうする?兄貴。俺達だけで強引にキシリアを拘束する事も不可能ではないが?」

 

「いや、それは止めておこう。父上が反対している状況で強引に進めて、物的証拠が出てこなかった場合、父上がキシリア側につきかねん。これ以上のザビ家の分裂は何としても防がねばならん。」

 

証拠を捏造すれば良いかとも思ったが、そういった工作のプロである戦略諜報軍を誤魔化せるか怪しいものだし、俺を敵視しているダイクン派の強硬派が真犯人の可能性もゼロではない。

 

「……確かにそうだな。だが証拠が出てくるまで放置する訳にもいかんだろう?」

 

「無論だ。まずは親衛隊からも戦略諜報軍の内偵のため人員を出す。

そしてこれを使って情報の流出の防止と犯人探しを並行して行う。」

 

そう言うと俺はメイに頼んで作ってもらったプログラムの入ったデータディスクと小さな冊子をサスロへと渡す。

 

「これは?」

 

「新型の暗号化ソフトだ。秘密裏に送りたいデータを他のデータと合成して偽装する事ができる。」

 

「偽装したデータはこの冊子に書いてあるキーワードを入力する事で解除できるが、キーワードは使い捨てなので気を付けるようにな。」

 

「なるほど。これを使って秘密を守りながら、偽の作戦を流したりして犯人の尻尾を掴もうという魂胆だな?」

 

「よくわかったな、サスロ。もしこれを使っても俺への襲撃が続くようなら犯人は親衛隊の中にいるという事になるだろう。

重要なデータは全てお前宛に直接送るので必ず自分で確認するようにしてくれ。」

 

「わかった。しかし、妹を疑わねばならんとは我等兄弟も業が深いな…。」

 

全くだ。このような戦時に身内の裏切りを疑わねばならんとは。

 

しかし私もアイナを裏切ってララァやハマーンと関係を持ってしまった。

 

人の事は笑えんな……。

 

一一一一一一一一一一一一

 

side アイナ・サハリン

 

ギレン様が地球降下作戦の指揮をとるために地球に降下されると聞いた時、私が最初に思ったのは、地上でもちゃんとギレン様のお世話をできるかという心配でした。

 

ですが、続いてギレン様の口から出た言葉は、私にサイド3の屋敷で待っていて欲しいというお言葉でした。

 

もちろん私は地球へ一緒に行かせて欲しいとお願いしましたが、

 

「メイと一緒に私の帰る場所を守っていて欲しいのだ。危険な地球侵攻作戦にメイを連れていく訳にはいかんのでな。

それにサイド6から避難してきたテアボロ一家の面倒を誰かが見なければならん。

セキュリティの事などを考えると私の屋敷に住んでもらうのが一番なのだが、安心して世話を任せられるのはお前しかいないのだ。頼む。」

 

そう言われてしまっては、私には無理を押し通す事は出来ませんでした。

 

その後はルヴィアさんやセイラさんと仲良くなりながらメイちゃんと一緒にサイド3のお屋敷を守っていたのですが、ある日、護衛としてギレン様に付いていったララァちゃんとハマーンさんから手紙が届きました。

 

その手紙には「戦場」という慣れない環境に苦しむギレン様を見ていられず関係を持ってしまったというララァちゃんのお詫びの言葉と、戦場で助けられ、胸に秘めてきた想いをギレン様に伝えてしまったというハマーンさんの告白が綴られていました。

 

その手紙を読んだ時、私がショックを受けなかったと言えば嘘になります。

 

ですがそれ以上にララァちゃんがギレン様の事を思い、私の大事な人が苦しんでいる時に一緒になって支えてくれた事が嬉しかったのです。

 

ずっと一緒にギレン様を支えてくれたハマーンさんが秘めてきた想いが叶った事が嬉しかったのです。

 

だから私は許しましょう。

そこの扉の影でどんな顔をして入ったら良いか迷っている私の愛しい人を。

 

手書きの手紙で何度も何度も詫びの言葉を伝えてきた可愛いらしい娘達の事を。



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49話 UC0079年6月 獣と姫様◼️

後半に性的な行為を思わせる描写があります
そういった描写が不快な方はパスして頂いても物語的には全く影響しません。

セイラとのイチャコラを書こうとしただけなのに何故こうなった…。


月から地球を挟んでちょうど反対側の軌道に位置し、ジオンの本拠地であるサイド3から見て最も遠い場所に位置するサイドがサイド7である。

 

といってもサイド7の建設が始まったのは一年戦争が始まる僅か2年前の事であり、少数の住民はいるものの、たった1基の建造中のコロニーをサイドと呼ぶべきかどうかは人によって見解が分かれるところであった。

 

付近に連邦軍唯一の宇宙拠点であるルナツーが存在するサイド7であったが、表向きはサイド共栄圏、地球連邦双方に対して中立の姿勢を表明しており、ジオンを嫌って他のサイドから疎開してきた人達がひとつのコロニーでは生産出来ない様々な物資をサイド共栄圏から輸入する事で生活していた。

 

といっても双方に対する中立は表向きの話であり、実際にはコロニー建設を隠れ蓑としてV作戦で開発された機体の試作が可能な工房や、モビルスーツの性能試験を行う為の施設が建造されており、そこで宇宙空間でのモビルスーツ運用に関する様々なテストがおこなわれていた。

 

「レイ主任、先程実施したガンキャノンの実験データです。」

 

「おお、カムラ君ありがとう。どうだね?ガンキャノンの性能は?」

 

「主力戦車であるRX-75ガンタンクの弱点だった機動性の低さがザクから得られたデータを反映する事で解決されており、中距離支援用の機体として十分な活躍が期待できると思います。」

 

「君から見てもそう思うか。ザクの汎用性を捨てて中距離戦闘に特化させた甲斐があったな。

ガンキャノンの両肩に装備された240mm低反動キャノンは一撃でザクを破壊できる威力を持ち、逆に耐弾性を考慮したルナ・チタニウム合金製の厚い装甲はシールドがなくともザク・マシンガンをものともしない。」

 

「まあ、その厚い装甲のお陰で機動性はザクを多少上回るといった程度ですが。」

 

「本機の耐弾性能はザクの6倍近くあるんだぞ?試してはいないが恐らくジオンの重モビルスーツのバズーカにすら耐えるだろう。問題にならんよ。」

 

「まあ接近戦は今CAD/CAMシステムが設計中のRX-78の担当ですしね。設計班から今月中には試作1号機の設計が完了するとの連絡があり、現在製造に必要な資材を秘密裏に準備中です。」

 

「おお、ついに完成するのか、ガンダムが。結局OSはどうなったんだ?ジオン製のOSのコピーを使うか、教育型コンピューターを搭載するかで揉めていたようだが。」

 

「多少高価になりますが教育型コンピューターを使う事で決着がついたようです。ジオン製OSのプロテクトの一部を解除できそうにないため、次期主力モビルスーツに搭載するOSを開発する為にそうなったとか。

現在、教育型コンピューターに学習させるデータを集めるために、地上で実験部隊がガンキャノンやザニーを使って任務に就いているそうです。」

 

「そうか、我々も宇宙での運用データの収集を急がねばならんな。よし、では次は作業用ポッドを改修して造った戦闘ポッドとの模擬戦闘を行う。」

 

「了解しました。」

 

 

 

サイド3 ギレン邸

 

やあ…諸君。ギレン・ザビである。

 

私の故郷であるJAPANの諺に一難去ってまた一難というものがあるのだが、まさかサイド3にある自分の屋敷でこの諺について考える日が来るとは思わなかった。

 

「どうしたの?ギレンおじ様。天井を見つめる位なら私の方を見て?」

 

戦場に出るよりも緊張したアイナへの謝罪が無事に終わって二人で熱い夜を過ごした日の翌日、テアボロ、ルヴィアと一緒にアイナが買い物に出かけ、まだ疲労を感じていた私は気分が優れないセイラと二人で屋敷に残っていたのだが、自室のベッドで休んでいた私が寝苦しさを感じて目を覚ますと、目の前には私の上に跨がり熱い視線を向けるセイラの姿があった。

 

「Why?」

 

…あまりの事態に思わず英語になってしまった。

 

残念ながら私はニュータイプではないので、見ただけで物事の本質を洞察したりは出来ないのだ!

 

誰か、誰か現状を説明してくれ!

 

「何の冗談だ?セイラ。」

 

現状を理解するためセイラにそんな質問を投げ掛けると、妖しく微笑む彼女から返ってきたのは全く予想しない言葉だった。

 

「うふふ…。昨日の夜にお手洗いに行こうとした時にちょうどこのお部屋の前を通りかかったの。そうしたらアイナさんとおじ様の睦み合いを見て興奮してしまって……。」

 

そう言いながらセイラは、色っぽい笑みを浮かべると、指先で私の唇をゆっくりとなぞる。

 

「ベッドで眠っているおじ様を見たら我慢出来なくなってしまったの。」

 

私の唇の上で細い人差し指を往復させながら、息のかかりそうな距離でそう告げるセイラの言葉を聞いて、思わず背筋が疼いた。

 

……いかん。やっとアイナに地上での事を許して貰ったというのに、このままではまた新しい火種を抱える事になりかねん。

 

ここはひとつ男らしく強引なところを見せて驚かせてやらねば。

 

「ふん、では今からお前が相手をしてくれるとでもいうのか?」

 

そう言いながら体を無理やり起こすと、私が動いた事でバランスを崩したセイラをベッドに強引に押し倒して、両手を掴み拘束する。

 

「あ……。」

 

そのまま先程自分がされたように、指先でセイラの唇をゆっくりとなぞる。

 

ふはは……。男はみんな野獣なのだぞ?セイラ。これに懲りたら悪ふざけはほどほどに……。

 

そうセイラに伝えようとすると、唇に当てていた指をセイラが口に含む。

 

……え?

 

そのまま咥えた指を自分から舐め始めるセイラを見て自分の内なる衝動を抑えきれなかった私は、自分の判断が誤っていた事を知るのだった……。

 

 

一一一一一一一一一一一一

 

 

side セイラ・マス

 

ギレンおじ様とアイナさんの営みを覗くつもりがなかったのは本当の事だけど、そういった行為に興味がなかったといえば嘘だった。

 

まるで別人のように気迫のこもった顔をして戦場から戻られたギレンおじ様を思い出して、なかなか寝付けなかった私がお手洗いに行くためにベッドから抜け出すと、おじ様の部屋の前でドアの隙間から漏れる声に気がつき思わず足を止めた。

 

おじ様の部屋のドアを少しだけ開けてみると、扉の隙間からベッドの上で蠢く二つの人影が妖しく動く。

 

照明がついていないので姿はよく見えないものの、中から聞こえてくる息づかいはそこに誰がいて、どんな事をしているのかを教えてくれた。

 

まだ未経験だけれど、おじ様の子供を産んであげられると冗談をいう位にはそういった行為に興味があった私は、普段のおしとやかで素敵なアイナさんからは想像も出来ないような艶っぽい声と、何時も演じている紳士の仮面をどこかへ放り投げたかのようなギレンおじ様の獣のような息づかいに思わず釘付けになった。

 

そのまま部屋の前で私が聞き耳をたてていると、中からひときわ大きなアイナさんの声が聞こえ、それを境に辺りを静寂が支配したのを切っ掛けに部屋へと帰り、悶々として眠れない時間を過ごす事になる。

 

翌日はお母様達がアイナさんと以前から約束していた買い物に一緒にいく予定だったのだけれど、昨日の事もあってアイナさんにどんな顔をしたら良いのかわからなかった私は、気分が優れないと嘘をついて屋敷に残る事にした。

 

お母様達が迎えにきた車で出かけ、屋敷の中が静かになると否が応でも昨夜の事を思い出してしまう。

自分の部屋で自分を慰めていた私は、今屋敷の中にいるのが自分とおじ様だけだという事を思い出すと、どうしてもおじ様の顔を見たい衝動に襲われて我慢できずにおじ様の部屋へと向かった。

 

一瞬の躊躇の後に二回ほど部屋のドアをノックしたけれど、中からはなんの返事もない。

 

昨夜の事を思い出して少しだけドアを開けてみると、ベッドの上で静かに眠っているおじ様の姿が見え、思わず私は部屋の中へと入っていった。

 

目の前で眠るギレンおじ様は、もともとの悪人顔をオールバックの眉なしで更に悪化させているのに、今の私にはそれがとても野性的で魅力的に見える。

 

最初おじ様の顔を側で眺めてそれで満足するつもりだった私は、体の奥から響く衝動を抑えきれなくなりどんどん大胆になっていく。

 

眠っているおじ様の顔に手を当て、唇を重ね、そしてついにはおじ様の上に跨がる。

 

それがどんな事に繋がるかはちゃんと気がついていたけれど、むしろそうなりたいという思う気持ちを抑えきれなかった私は、目が覚めたおじ様にベッドへと組伏せられ、昨夜のアイナさんと同じように獣のようなおじ様を目撃する事になるのだった。



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50話 UC0079年6月 ギレン昇天

赤いチベ級と6隻のムサイで構成されたジオンの小艦隊は、補給物資を満載したパプア級10隻を中心とした輪形陣を組みながら漆黒の宇宙を地球に向けて進んでいた。

 

このジオン艦隊は、地上への補給物資を輸送するのと併せて最近補給線上に出没するようになった連邦艦隊を相手に新型モビルスーツのテストをする事を目的としており、その新型機の主であるジオン軍中将は獲物が自分の前に現れる瞬間を今か今かと待ちわびていた。

 

「閣下、そろそろ前回連邦の襲撃があった宙域です。」

 

「うむ、報告通り一週間戦争で破壊された連邦軍の残骸が多いな。E型装備のザクと直掩の機体を出して警戒に当たらせろ。」

 

「はっ!」

 

その命令に従いムサイからE型装備とF型装備のザクがそれぞれ3機ずつ発進し、E型装備のザクは周囲の偵察に、F型装備のザクは艦隊に並走して直掩に当たる。

 

「連邦の奴等は現れると思うか?コンスコン。」

 

「さて、私としてはドズル閣下が乗艦されている時に無用な危険は避けたい所ではありますが……。」

 

「ふん。それでは無理を言ってこの船に乗ってきた意味がなくなってしまうではないか。」

 

「指揮官が無用な危険を冒されるのはどうかと思いますがな。ただ、先週もこの辺りの警戒に出ていたムサイが消息を絶っております。連邦の連中が現れる確率は高いかと。」

 

「うむ。そうだな。では私は機体のコックピットに行っている。連邦の襲撃があったらすぐに教えてくれ。艦隊の指揮は貴様に任せる。」

 

「はっ!…くれぐれもお気をつけて!。

ふぅ……。連邦軍を相手に試作機のテストをしたいなどとドズル閣下も無茶をおっしゃる。」

 

「コンスコン提督、ドズル閣下のお相手お疲れ様でした。コーヒーでもどうですか?」

 

「ああ、オペレーターのケルゲレン子君。ありがとう。ありがたくいただこう。」

 

「もー。ケルゲレン子は止めてくださいって言ってるじゃないですか。」

 

「仕方なかろう。ギレン閣下の特命なのだから。そのために君には特別手当も出ているじゃないか。」

 

「それはそうなんですが……。何で私がケルゲレン子なんですかね?」

 

「それは君の本名が蹴毛 蓮子だからではないかね?

私も本名が魂 酢昆だからコンスコンと呼ばれているだろう?

それよりも周囲の状況はどうだ?」

 

「今のところ異常なしです。このまま何事もなく進んでくれたら嬉しいんですけどね……。」

 

「そうだな。ドズル閣下との約束で、前線でのテストは敵が出ても出なくても今回限りという事になっている。私としても是非そう願いたいよ。」

 

「お疲れ様です。そういえば先日ガルマ様が前線で試作機のテストをされたとかで、ドズル閣下の悪い癖がガルマ様に移ったとお付きのランバ・ラル隊の人がぼやいてましたよ。」

 

「そうか。まあランバ・ラル中佐程の人ならばガルマ様の護衛など難なくこなしてしまうだろうが。」

 

「……!!申し訳ありませんが、提督の願いはかないそうにありません。偵察に出ていたザクから連邦艦隊を発見したとの報告です!」

 

「数は!?」

 

「暗礁宙域の中にマゼラン級戦艦1隻、サラミス級巡洋艦10隻を確認、さらに後方に位置するコロンブス級輸送艦8隻から艦載機が多数発艦中との事です!更に球形の新型機動兵器を複数確認!」

 

「全艦にコンディションレッド発令、モビルスーツ隊全機発進準備!

くっ…、此方より数が多い上に新兵器だと!?

いや、此方は地上向けの物資を満載したパプアを守りながら戦わねばならない分、戦力差は更に大きいと考えるべきか…?」

 

「ふん、何を狼狽える必要があるコンスコン。」

 

「ドズル閣下!」

 

「あの程度の数、俺が造り上げた新型機の力をもってすれば敵ではないわ!」

 

「しかし!?」

 

「良いから出せ!俺は元々そのためにここへ来たのだ!」

 

「…わかりました。ただし、マツナガ少佐を護衛に付けさせて頂きます。そしてマツナガ少佐が危険と判断した場合は直ぐに撤退して頂きますよ?」

 

「ふん、いいだろう。ギャンクリウス、ドズル・ザビ出る!」

 

艦のカタパルトが起動し、右手に円型のシールド、左手にMMPマシンガン、背後に雷神の太鼓のようなものを装備した赤いボディの機体が艦の前方に向け射出されていく。

 

「連邦軍など恐れるに足らん!直掩の機体以外は全機俺に続け!」

 

猛将ドズル・ザビの率いるモビルスーツ隊と正面から激突した連邦艦隊は、新兵器「ボール」を多数投入してジオン軍を迎え撃ったものの、その圧倒的な格闘戦能力により完敗を喫する事となる。

 

 

 

や、やあ…諸君。精力的な意味でセイラに搾られ、買い物から帰ってきたアイナに精神的な意味で絞られて危うく昇天しそうになったギレン・ザビである……。

 

帰ってきたアイナ達にセイラとの情事を知られた時はどうしようかと思ったが、事前にセイラから俺への想いを相談されていたルヴィアが仲裁に入ってくれたお陰でなんとか死なずにすんだ。

 

アイナからは、「二人が三人に増えてもあまり変わらないので私は構いませんが、セイラさんはこんな女性にだらしのない人が相手で本当に良かったのですか?」と大変厳しいお言葉を頂き、返す言葉のない私は小さくなる他なかったのだが、セイラが「そんな駄目なところも可愛くて好きなの。」と言ってくれたのは嬉しかった。

 

その後、今後について協議しているところにドズルから連邦艦隊との交戦についての報告が入り、渡したギャンが魔改造されてメリクリウスもどきになっている事を知ったのだった。

 

装甲材をアクシズで開発された新合金(ガンダリウムβと私が命名)に換装して、背中にプラネイトディフェンサーの代わりの小型ビーム攪乱幕発生機10機を雷神の太鼓のように搭載した機体はオリジナル同様に「最強の盾」とも呼べる機体に仕上がっていた。

 

そのお陰で連邦艦隊に正面から突っ込んだにもかかわらず、艦艇からのメガ粒子砲をビーム攪乱幕で、新兵器であるボールの攻撃をガンダリウムβの装甲で防ぎきり、クラッシュシールド風の盾から伸ばしたビームサーベルでボール三機を串刺しにするなど一方的な戦いだったようだ。

いや、初回くらいボールに活躍させてあげようよ……。

 

ガルマはガルマでこっそりとギニアスから技術供与を受けたようで、ギャンの背部に大型の円形ジェネレーターを搭載し、そこからバイパスチューブを通してエネルギー供給する事でモビルスーツに大型のビーム砲を携行させる事に成功していた。

 

ガンダムさんモビルスーツに携行型メガ粒子砲を初めて装備した機体という栄誉を奪われ涙目である。

 

なお、ガルマの方はドズルよりやり方が悪辣で、ランバ・ラル中佐が新兵器テスト中の連邦軍基地に潜入してテスト中の新型機を強奪して逃走。

 

慌てて追撃してきた連邦軍のザニーを、待ち伏せしていたギャンエイトのビーム砲で遠距離から一方的に攻撃するというエグイものだった。

 

戦うこともなく盗まれてきたガンキャノンさん、活躍するまもなく散ったザニーさんは泣いて良いと思う。

 

因みにガルマが強奪してきたガンキャノンをサンプルとしてくれたので、現在メイが分解して解析中である。

 

これから色々わかってくるだろうが、連邦がモビルスーツの生産を始めたとなるとこれからの戦いが厳しくなるな……。

 

一一一一一一一一一一一一 

 

side テム・レイ

 

「地上でテスト中のガンキャノンが盗まれただと!?」

 

「はい、テム主任。申し訳ありません…。」

 

「申し訳ないですむか!あれは我が軍の最高機密なのだぞ!警備には量産したザニーを当てていたのに、いったい何をしていたのだ!」

 

「盗まれたガンキャノンをすぐザニー隊に追撃させたのですが、敵の新型機の待ち伏せにあって逆に壊滅してしまいました……。此方が破壊された機体から回収した戦闘データになります。」

 

「くっ…。とにかく周辺の部隊にも増援を要請してなんとしてでも試作機を取り戻すのだ!いいな!」

 

実験部隊との通信を一方的に切ると、側にあったザクの模型を破壊して気持ちを落ち着かせた。

 

気分転換のつもりで実験部隊から送られてきた戦闘データを見ると、そこに映っていたのは我々の遥か先を進むジオン脅威のメカニズムであった。

 

我が軍で極秘裏に開発中の機動歩兵「ガンダム」。その主兵装として現在開発中なのが巡洋艦の主砲並みの威力を持つ次世代兵器「ビームライフル」である。

 

現在ガンダム本体と並行して開発中の新兵器であるが、この映像に映っているジオンの新型のビームはあきらかにそれを上回る威力を持っていた。

 

盾を構えたザニーが盾ごと一撃でやられていることから推測して、戦艦の主砲クラスかそれ以上か。

 

どちらにしろ確実に言えるのは短期間でこれを上回る兵器を開発する事は不可能という事。

 

連邦の技術でモビルスーツ「ザク」をあらゆる意味で上回る兵器を開発する事を目標にしていたが、そんな事にこだわっている場合ではなくなった。

 

ジオンの技術も導入して1日でも早く、1機でも多くのモビルスーツを量産して数で戦えるようにしなければならん。



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51話 UC0079年7月 MS-14 ゲルググ◼️

何度か書き直しているのですがなかなか満足のいく話が書けません…。
一応形になったので投稿させて頂きますが後で変更を入れるかも知れません。


地球の衛星軌道に展開したパプア級輸送艦から多数のミサイルを納めたコンテナが引き出され、ザクの手によって軌道上へと運ばれていく。

 

パプアの護衛を務める三隻のムサイ級軽巡洋艦の下には、ザクの手によって運び出されたコンテナが音速の20倍程の速度で漂っており、その内に秘めた力を解き放つ瞬間を待ちわびていた。

 

UC0079年6月末日

軌道上に並んだミサイルの最終調整が終わったジオン艦隊によって、地表の建造物に対するミサイル攻撃が開始された。

 

ロケットモーターと重力によって音速の数十倍の速度にまで加速した宙対地ミサイルは、その莫大な運動エネルギーによって目標としていた地上施設を瞬時に吹き飛ばし、後に残っていたのは月面を思わせるようなクレーターのみであった。

 

この軌道上からのミサイル攻撃は地上の連邦軍部隊や軍事拠点ではなく、橋やトンネル、高速道路といったものを狙って実施されたため、当初ジオン側の意図が理解できずに首をかしげた連邦軍であったが、交通インフラの損壊によってあらゆる物流網が停止した事によってジオンの目的を知り戦慄する事になる。

 

農業、鉱業、工場といったあらゆる産業は物流網が正常に稼働する事で初めて意味を為すものである。

 

何故ならば、例え農場に大量の食料があったとしても、物流が止まってしまえば都市に届かず、市民は飢えるしかない。

 

鉱山で掘り出した資源が採掘場にどれだけあったとしても、資源が工場に届かなければ何も造る事はできない。

 

例え工場設備が無傷だったとしても、完成した製品を必要とする場所へ運ぶことができなければ、それはゴミを造る事と同義でしかない。

 

ジオンの攻撃は、都市や工場を直接攻撃して連邦市民から怨みを買うような事を避け、国家の大動脈である物流網を締め上げる事で連邦経済へ打撃を与え、併せて連邦軍の補給線に過大な負荷を与える事を目的として行われたのである。

 

ジオンの目的に気がついた連邦軍は、ボール搭載型のサラミスを中心としたパトロール艦隊をジャブローから打ち上げ、ジオンの地上攻撃に対する阻止戦闘を展開する。

 

宇宙作業用のスペースポッドを拡大設計して開発されたRB-79 ボールは、ガンタンクの主砲をベースに開発された低反動キャノン砲によって高い砲戦能力を持ち、燃料電池で駆動する事から運用に特殊な設備を必要としないため、実践テストに投入した部隊がジオンの新型機によって壊滅させられたにもかかわらず量産が進んでいた。

 

だが、10隻のサラミス級巡洋艦とそれに搭載された60機のボールで構成された連邦のパトロール艦隊は、たまたまテストに来ていたたった三機のモビルスーツによって壊滅する事になる。

 

 

 

やあ…諸君。ギレン・ザビである。

 

サイド3に来る途中で受けたグワダンの損傷を修復するためにオデッサに戻る途中にアクシズへと立ち寄ったのだが、修理が完了するまでの間にアクシズで開発していた「ゲルググ」の性能テストを行う事になり、手隙のムサイで地球軌道まで来たところで連邦のパトロール艦隊と鉢合わせして現在交戦中である。

 

ゲルググは頭部の鶏のようなトサカと、ドム同様にボリュームある体型が特徴的なジオンの次期主力モビルスーツである。

 

現在の主力機であるザクは、極めて高い汎用性と操縦性、生産性、整備性を兼ね備えた名機であるものの、それだけに機体の改良による性能の向上には限界が見え始めていた。

 

特にジェネレーターの出力不足は如何ともし難く、今後現れるであろう連邦のモビルスーツと戦うのに必要となるビーム兵器の運用が不可能なため、ザクを上回る機動力・運動性の獲得とビーム兵器の標準装備を目標として開発されたのがゲルググであった。

 

新型の大出力ジェネレーターの搭載とドム同様にスカート及び脚部へ推進器を設置した結果、ゲルググはビーム兵器の運用に十分なエネルギー出力とバックパック無しでも高機動用装備のザクを上回る程の機動性の獲得に成功していた。

 

まあゲルググが完成したといってもまだ肝心のビーム・ライフルの小型化ができていないので完全とは言えない状況なのだが、それでも本体の性能は俺の想定を超える完成度を見せていた。

 

「ハマーン・カーン……ゲルググ・インペリアル、発進します!」

 

その通信と共に、白い陶磁器を思わせる体色と流麗なボディラインを併せ持つモビルスーツが、星の海へと躍り出る。

 

 

【挿絵表示】

 

 

次期主力モビルスーツである「ゲルググ」をベースに開発されたその機体は、接近戦用に開発された高機動バックパックを装備する事で非常に高い機動力を持っていた。

 

その白く優雅な姿が目をひいたのか、ボールの展開を完了させた連邦のパトロール艦隊から、ハマーンの機体に向けてメガ粒子砲と低反動キャノン砲による弾幕が雨のように降り注ぐ。

 

しかし、ハマーンの操る白い機体は連邦艦隊が繰り出す砲火をものともせず、その圧倒的な速度によってまるで何もない平原かのように宇宙を翔んだ。

 

その姿はまるで戦場を自由に舞う一匹の蝶のようであった。

 

連邦艦隊がハマーンの機体に意識をとられている間に、ララァの操る緑の機体が戦場へと姿を顕す。

 

 

【挿絵表示】

 

 

ハマーンと同じゲルググ・インペリアルを緑をベースに塗装した機体は、ミノフスキー博士が開発したサイコミュユニットを背中に搭載する事で、遠距離からの精密射撃を可能としていた。

 

「お行きなさい、ビット達!」

 

その指示に従い、ムサイから射出されたビット・キャリアーに搭載されていた8基のビットが次々とパトロール艦隊に向け飛び立っていく。

 

サイコミュによってミノフスキー粒子散布下でも無線誘導を可能にしたこの兵器は、ララァの意思に従って連邦艦隊へと近づくと、至近距離から光弾を放ち、二隻のサラミスと6機のボールを火球へと変えた。

 

突然味方が爆発して大混乱に陥った連邦艦隊を、今度は赤く塗られた機体が装備した中距離支援用のビーム・キャノンが襲う。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「慣れていくのね、自分でもわかるわ。」

 

そんな台詞と共に放たれたビーム・キャノンでサラミスを次々と大破させた赤い機体は、連邦艦隊の前衛を務めるボールを射程に収めると、装備したガトリングシールドで嵐のような砲弾の雨を降らせて次から次へと穴だらけにした。

 

個人的には「おい、モビルスーツの操縦に慣れるのがいくらなんでも早すぎだろう。」とか色々言いたい事はあるのだが、本来兄の為に用意されていた機体を見て、「可愛いからこの機体は私が使う!」と言ってシャアの機体を奪っていくようなジオンの姫君に逆らえるはずもないので大人しく黙っておく事にした。

 

僅か二機のモビルスーツによる攻撃で大損害を被った連邦艦隊は、射撃の密度を上げる為に陣形の変更を試みる。

 

だが、その選択は接近戦用に開発された高機動バックパックを装備した白い機体が間近にいる状況では最悪の選択であった。

 

その白い機体は連邦艦隊が陣形を変更している間に密集した艦隊の内側に入りこむと、手にしたビームナギナタでボールやサラミスを次々と一刀両断にしていく。

 

 

【挿絵表示】

 

 

数ではまだ大きく勝る連邦艦隊だったが、機動力に特化した機体に至近距離まで入り込まれてしまってはサラミスにできる事などほとんどなく、機銃による対空砲火と展開させたボールで必死の抵抗を行ったものの機動力が違いすぎて勝負にならなず、僅か20分余りの戦闘で連邦のパトロール艦隊は宇宙の藻屑へと姿を変える事になった。

 

 

 

……いや、我が軍のモビルスーツの性能が良いに越した事はないのだが、ゲルググ・インペリアルって何よ?

 

どうやら俺がメイの誕生日プレゼントとして送ったキュベレイのガンプラをモデルにエースパイロット用のゲルググを開発したそうなのだが、装甲部材をアクシズで開発されたガンダリウムβ(俺が命名)に変更して、大型化したショルダーアーマーに多数ブースターを搭載した姿は最早ゲルググよりもキュベレイに近い印象となっていた。

 

まあ機体にサイコミュを搭載していないので、実際はリゲルグが一番近いんだろうが。

 

また、今回出番はなかったものの、一般兵向けに開発された通常型のゲルググも機動力や運動性が高いレベルで纏まっており十分に実戦で活躍できる性能だったので、本国のザクの生産ラインをゲルググに切り替える指示を出しておいた。

 

量産があと1か月早ければ一年戦争の行く末が変わっていたかも知れないとも称されたゲルググだが、果たしてこのタイミングで量産が始まる事で戦局はどう変わってゆくのだろうか?

 

最後にドズルとガルマから送られてきたギャン?の改良データをミノフスキー博士へ渡して親衛隊用の機体の開発を依頼すると、修理が完了したグワダンに乗り地上へと向かうのだった。

 

 

 

一一一一一一一一一一一一 

 

 

side ジャブロー

 

「さてV作戦について重大な報告があるとの事だが何かね?テム主任?」

 

「はい将軍。お忙しい所に時間を頂き申し訳ありません。V作戦で開発しておりましたRX-78-1「プロトタイプガンダム」が完成しました。」

 

「ほう!もう完成したのかね?!」

 

「はい。通常の2倍の予算を投入して頂いたおかげで月や各サイドのモビルスーツ工場と裏取引を行いザクの設計データを入手する事に成功しました。

それをベースに開発を進め、当初予定していたコアブロックシステムの採用を見送ることで大幅な開発期間の短縮に成功しました。」

 

「ほう、思いきった決断をしたな。テム主任。」

 

「はい。ジオンの新型との戦闘記録を見て一刻も早くモビルスーツを実戦に投入する必要を感じましたので。

今後はガンキャノンシリーズの新規開発は中止し、その分のスタッフをガンダムのデータを基にした量産型モビルスーツの開発に振り分けたいと考えております。」

 

「フム…。それではガンキャノンが担う予定だった中距離支援はどうするのかね?」

 

「宇宙においては中距離支援の重要性が低いため、装甲材をルナ・チタニウムから超硬スチールに変更する事でコストダウンを図ったボールを増産する事で間に合わせます。

また、地上においてはガンタンクに中距離支援用のロケットランチャー等を搭載するとともに、モビルスーツの携行武装にバズーカや180mmキャノンなど中距離戦闘用の火器を開発する事で対応します。」

 

「なるほど。全ての兵器をモビルスーツに置き換えるのではなく、既存の兵器と組み合わせて使うというのだな?」

 

「はい。前衛をモビルスーツが担当し、既存の兵器がそれを支援する、といった編成を考えております。」

 

「なるほど。それならば既存の戦力も活用出来るという事か。悪くない案だ。だがそれならはガンダムの開発チームも量産型の開発に振り分けた方が良くないかね?」

 

「いえ将軍。ガンダムの開発は継続したいと思います。」

 

「それは何故かね?」

 

「現在我が軍のモビルスーツを動かしているOSは秘密裏にジオンより入手したものです。コピーにこそ成功しましたがプロテクトの完璧な解除はできておらず、プログラムの更新が困難な状況にあります。」

 

「敵の新たな兵器などが現れた時にOSが対応できないという事か。」

 

「はい。ですので我が軍専用のOSを学習型コンピューターを搭載したガンダムで開発していきたいと考えております。」

 

「君の考えは理解した。その方向で進めて行くとしよう。何か必要な支援はあるかね?」

 

「は…。ではプロトタイプガンダムの設計データを送信しますのでジャブローでも生産し、地上での運用データ収集をお願いします。

また、私はこのままサイド7で量産型機の開発とガンダムのデータ収集に努めたいと思います。一月もあれば必要なデータが集まると思われますので迎えの船を出して頂ければと思います。」

 

「ウム。わかった。モビルスーツの回収も視野に入れ新鋭のペガサス級を迎えに出そう。そのまま開発に励んでくれ。」

 

「はっ!」




ゲルググ・インペリアルについて

私がギレンの野望と同じくらい好きなゲームにGジェネェDSというものがあるのですが、そこで出てくる機体にインペラトールというのがあります。
チートも良いところなので本作には出せませんが、名前だけでも出したかったものでギレンの野望随一のチート機(偏見)であるキュベレイの外見で出させて頂きました。

シーマ様が普通に仲間入りしたり、原作で悲恋に終わったりするパイロットが仲間入りしたりする素晴らしい作品なので是非一度プレイする事をオススメします(布教活動)


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52話 UC0079年7月 ジム誕生秘話、土竜の雑談◼️

筆がのって早く書けたので投稿させて頂きます。
なお、今回の内容にあわせて前話の最後の方を少しだけ修正させて頂きました。

ざっくり変更点
ガンダムのデータ収集→量産型機の開発とガンダムのデータ収集

後書き(ゲルググ・インペリアルについて)


「カムラ君、量産型モビルスーツの開発状況はどうだね?」

 

「レイ主任、我々が量産機の開発をはじめてまだ1週間ですよ?いくらザクという量産機の見本があるといってもそう簡単にはいきません。

不眠不休で作業を進めさせていますが、やっとガンダムの設計を参考に生産コストを抑えた簡略型ジェネレーターの開発に目処がついたところです。」

 

「ほう、ならば完成したようなものではないか。」

 

「は?何をおっしゃっているのですか?」

 

「今の連邦が求めている量産機は、ザクを倒せる程度の戦闘力を持っており、なおかつ短期間に大量に生産して戦線へ投入することが可能な機体だ。

ならば量産機として既に完成しているザクに、それを撃破できるビーム兵器を搭載するのが一番効率的だと思わないかね?」

 

「しかし、それではザクと同程度の機体性能しか持たせられません。」

 

「ザクより多少高性能な機体を作ったとしてもどうせそれを操縦するのは満足な訓練も受けていないひよっこなのだ。開戦の数年前から経験を積んでいるジオンの猛者相手にその程度の性能差など意味をなさんよ。

それならばいっそ割りきって数を揃えた方が効率的というものだ。」

 

「それは、そうかもしれませんが……。」

 

「量産機で多くの戦果を上げた者や、優れた操縦適性を持った者にはガンダムの量産タイプを支給する事で対応しようと思う。最も生産コストがかかるので本当に極少数のエースのみになると思うがね。」

 

「ガンダムタイプを量産するのですか?!」

 

「ジオンのヅダの活躍を見ればわかるように、高性能な機体とエースパイロットの組み合わせによる圧倒的な「質」は馬鹿にできんのでな。

少数の精鋭で戦線を突破して敵の指揮系統を叩いたりできれば戦局に大きな影響を与える事も不可能ではない。

生産コストを下げる為に装甲の形状や部品の要求水準を大幅に下げ、代わりにモスク・ハン博士が研究中のマグネット・コーティングを施す事で性能の維持を考えている。

後は従来の教育型コンピュータの代わりにジオン内部から流れてきた対NT用システムを搭載するとかだな。」

 

「対NT用システムですか?」

 

「ああ、ジオンのクルストという博士が開発したシステムで搭載された機体に驚異的な性能を発揮させるらしい。どこまで本当にかわからないが、「ニュータイプ」を戦場で見つけると機体が勝手に動き出して殲滅するとか。」

 

「いや、本当にそんな事が可能なのですか?」

 

「わからんよ。だが、現在ジオンが使っているOSよりも性能が良いのは事実らしい。最も量産には向いていないそうなので一般機には使えないそうだが。」

 

「それは残念ですね……。テム主任、今の話の間にザクの設計データを確認していたのですが、簡略型のジェネレータといってもザクのジェネレータと比べると大型になるのでそのままでは機体に収まりません。」

 

「それはいかん、データを見せてくれ!……なんだ、これくらいか。これなら脱出ポッドとバックパック換装システムを取り外せば十分に収まるだろう。」

 

「……バックパック換装システムはともかく、脱出ポッドまで取り外すのですか?」

 

「練度の低いパイロットでザクに対抗するにはビーム兵器を搭載する他にないからな。それに当面の主戦場は地上だ。脱出ポッドがなくてもさほど困らんよ。」

 

「……わかりました。では生産性をあげるため、できるだけ直線的な形状の装甲にしようと思います。」

 

「それは良いアイデアだな。そうすればパッと見ではザクとはわからなくなるし、正に一石二鳥だ。そちらの方向で設計を進めてくれ。」

 

「はい。了解しました。」

 

 

 

やあ…諸君。地上に帰ってきてそうそうに書類の大軍に包囲されたギレン・ザビである。

 

サイド3へ戻っている間も緊急を要する案件や重要な報告は受けていたのだが、部隊の配置や現在の補給状況といった頭に入れておかねばならない報告が山積みとなっているのでずっと書類を読んでいるのだが……。

 

アルテイシア、仕事中に後ろから胸を押し付けて耳に息を吹ふきかけるのは止めなさい。書類に集中できないでしょう!

 

無理を言って秘書という名目で付いてきたんだから、ちゃんと秘書としての仕事をしなさい。

 

ララァもそこで「では私も愛人としての仕事をした方が良いのでしょうか?」とか真顔で聞いてこない。

 

うむ、頼む。とか私が言った日には、ここで戦争が始まってしまうので正直に答えられないではないか。

 

護衛なのに書類整理を手伝ってくれているハマーンを見習ってくれ。全く。

 

……ってハマーン。なんだその私ものっかるべきなのかしら?といった感じの顔は。

 

ふぅ……。やれやれだな。

 

まぁこんな下らない事をずっと話せる時間を手に入れる為と思えば、この書類の山を読む気も出てくるというものだが。

 

 

 

一一一一一一一一一一一一

 

 

 

side ジャブロー本部 地下ゴルフ場

 

「で、エルラン君。例の彼女の調子はどうかね?」

 

「はい、ゴップ将軍。彼女自身は壮健ですが、最近身の回りで小蠅が飛び始めたとの事で、暫く新しい話題は提供できそうにないとの事でした。」

 

「ほう…。それは大変だ。何か我々で手伝えそうな事はあるかね?」

 

「彼女の本業の成績が芳しくないため、蠅の視線をそらす為に大口の仕事を頂けたらありがたいとの事でした。」

 

「ふむ……。我々としては好ましくないが、色々便宜を図ってくれている彼女のためなら致し方あるまい。

旧式の輸送船と壊れかけのミデアを幾つか出してその情報を彼女に送ってやれ。

ああ、残骸から足がつかないようにミデアは水上を飛ばすようにな。」

 

「は、了解しました。」

 

「上手くやればアジアへ派遣する補給艦隊の陽動にもなるだろう。せいぜい目立つルートで移動させてや…れ!」

 

「おお、ナイスパットですね!」

 

「そうだろう。部屋でパットの練習ばかりしていたのでパットばかり上手くなってしまってな。

本当は外のコースを回ってショットの練習をしたいのだが、レビルがいらん事をしてくれたお陰でそれもままならん。」

 

「は?レビル将軍が…でありますか?」

 

「そうだ。宇宙艦隊の主力が壊滅してサイド共栄圏なるものが誕生した時点で勝負は既についているのだ。

ジオンとの戦いがどうなろうと、もはやスペースノイド独立の流れは変わらんだろう。

なのに敗軍の将がいらん演説をして、それに責任をとりたくない政治家がのっかっているのが現状というものだよ。エルラン君。」

 

「……なかなか辛辣なご意見ですな。」

 

「事実だからね。仮にジオンとの戦いに我々が勝利したとしても残りのサイドが簡単に独立の夢を放棄すると思うかね?

例え首脳部がそうしたくとも民衆がそれを許すと思えんし、それを武力で阻止すれば今度こそ宇宙と地上とで全面戦争となるだろう。

そんな無駄な戦いに熱を上げるくらいならこうしてゴルフの練習をする方がよほど建設的というもの…だ!」

 

「おお、ショットもお上手ではないですか。」

 

「それなりにはね。という事で君には将来を見据えて彼女以外ともツテを作ってくれると助かるのだが。」

 

「……は。努力してみます。」

 

「うむ、頼むよ。ではボールの所まで行こうか。」



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53話 UC0079年7月 インド洋沖海戦◼️

グラナダで量産されたハイゴッグを受領して戦力を増強したジオン戦略海洋軍は、シンガポールを根拠地としてマレー半島の南に浮かぶスマトラ島に向けて侵攻を開始した。

 

 

【挿絵表示】

 

 

スマトラ島は長さ1790km、幅最大435kmの大きさを誇る世界第6位の大きさの島である。

 

ちょうどインド洋と南シナ海を隔てる場所に位置しており、その地理的特性から北のマラッカ海峡、南のスンダ海峡は共にアジアにおける海上輸送の要衝となっていた。

 

このジオンの動きを察知した連邦軍はマドラスから増援部隊を空輸してスマトラ島の防備を固めたものの、重要な拠点の大半が海に隣接しているスマトラ島で、水中からの奇襲を得意とするハイゴッグの攻撃を防ぐ手立てはなく、最大の都市であるメダンの陥落を契機として連邦の残存部隊はマドラスに向け撤退していった。

 

スマトラ島を制圧下においたジオン戦略海洋軍の次なる目標は、インド洋であった。

 

マドラスを中心とした広大なインド大陸ではなく、その南に広がる広大な海域である。

 

生存のために生活に必要なものは全て自分たちで用意しなければならなかったスペースノイドに対し、広大な大地をそのまま利用出来る地球においては、得意な分野を各地で分担して作り上げる地域分業が産業の基本となったいた。

 

例えば61式戦車の製造一つをとってみても、基礎となる先端技術の研究は北米やジャブローで、製造に必要な鉱物資源についてはオデッサやアフリカで、搭載する精密機器類の製造については欧州や日本で、そして製造された部品の組み立てについては膨大な人口をもつアジアで行われていた。

 

このため、ジオン軍の侵攻に伴い物流網が寸断されると、各地で様々な影響が出る事になる。

 

特に、連邦有数の人口密集地帯である北京、マドラスを中心としたアジア一帯は、オデッサからのアラビア半島侵攻によって欧州やアフリカからの鉄道輸送を遮断され、ハワイ、オセアニアの制圧により太平洋を使った海上輸送ルートも失っていた。

 

そのため、アジアの連邦軍にとってはインド洋を使った海上輸送が他の連邦支配地域との物流を担う最後の生命線となっていたのである。

 

 

【挿絵表示】

 

 

ジオン軍はその最後の生命線を遮断し、インド、アジア一帯の物資を枯渇させる事で、民衆の連邦に対する支持を失わさせ、戦わずしてインド、アジア一帯を無力化させる事を意図していたのである。

 

そのインド洋を守護する連邦海軍は各地の軍港に艦艇を集結させ部隊の再編と戦力の保全に努めていた。

 

これは、ハワイやオセアニアから撤退してきた大量の艦艇を受け入れた事に伴う混乱と、今後の反攻作戦に向けて戦力を温存する必要があったためである。

 

だが、スマトラ島がジオンの勢力下に置かれるとインド洋と南シナ海で連邦側の輸送船が消息を絶つ事件が頻発し、連邦海軍はその事態への対応を迫られる事となる。

 

打開策として、輸送船や商船に船団を組ませ、それを連邦海軍が護衛する護送船団方式による輸送を開始した連邦だったが、海軍が護衛を開始してもなお輸送船団への襲撃は続き、海軍首脳部を悩ませ続ける事になるのである。

 

アフリカ東海岸近海

 

連邦海軍

特務輸送艦隊 旗艦アカンコグア

 

「こちら第184特務輸送艦隊 旗艦アカンコグア、第37564輸送船団応答せよ。繰り返す、こちら第184特務輸送艦隊 旗艦アカンコグア、第37564輸送船団応答せよ……。」

 

「どうだ?合流予定の輸送船団から応答はあったか?」

 

「ダメです、艦長。予定通りならすでに合流が完了している時刻なのですが、全く応答がありません。もしかすると輸送船団は既にジオンの連中にやられてしまったのかもしれません……。」

 

「当艦隊と比べれば小規模だが、合流予定の船団にもモンブラン級駆逐艦3隻が護衛についているのだ。仮にジオンの連中の襲撃があったとしても救難信号位は出せるはずだぞ。だが、それもない以上、ミノフスキー粒子による通信障害ではないのか?」

 

「いえ、艦長。これくらいの散布濃度ではそこまで大きな影響は出ません。先程も商船からの通信を問題なく傍受しており、無線は間違いなく機能しております。」

 

「そうか……。ならば合流予定だった輸送船団はジオンの奇襲を受けたのかもしれんな……。商船の無線が通じるという事はレーダーも機能するだろうし、航空機による奇襲という線は考えにくい。ということは噂の水中用モビルスーツによる奇襲を受けたのかもしれん。」

 

「ハワイやスマトラ島を陥落させ、今世界中の海で暴れ回っているという例の水色のやつですか?

ジオンの連中は海のないコロニーが本拠地なのに、一体どうやってあんな兵器を開発したのでしょうか?」

 

「わからん。だが、ハワイやスマトラ島を陥落させた恐るべき兵器が側にいる可能性は高い。

艦隊の警戒レベルを上げるぞ。ドン・エスカルゴと例の新兵器を出して警戒に当たらせろ。それと用心棒にも即応待機を命じておけ。」

 

「ゲーブル大尉に即応待機をですか?」

 

「何だ、奴の事が苦手か?確かに野獣のような奴だが、奴はプロだ。文句は言っても仕事はこなす。気にせずに伝えろ。」

 

「はっ!失礼しました。直ちに伝えます。」

 

「うむ。これが杞憂ですむと良いのだがな……。」

 

 

戦略海洋軍

偽装貨物船 ガランシェール

 

「ジンネマン艦長、連邦の団体さんのご到着ですぜ!」

 

「ああ。だが、今回はちと数が多いな。あれではさっきの船団のように商船のふりをして近づいて、モビルスーツによる不意打ちで仕留めるのは無理だな。」

 

「まあ本艦にはモビルスーツは3機しかいませんからね。いくらハイゴッグでも、空母を中心とした40隻近い戦闘艦を3機で相手をするのは無理です。今回は諦めますか?」

 

「いや…。あれだけの規模の艦隊なのに輸送船の数が30隻程度しかいないのが気になる。よほど重要な物資を運んでいるのだと思わないか?」

 

「通常は30隻位の輸送船団なら10隻位の護衛が相場ですから、確かに怪しすぎますね。」

 

「よし、仕掛けるぞ!周辺にいる部隊を呼び集めろ。それとモビルフォートレスにも連絡を入れておけ。」

 

「了解です!」

 

 

戦略海洋軍

モビルフォートレス ゾック01

 

やあ…諸君。ギレン・ザビである。

 

オデッサ周辺の戦況の掌握が完了したので、今後重要となるインド洋の視察に来ていたのだが、まさかこのタイミングで連邦の大規模輸送船団を発見するとは……。

 

戦略諜報軍から多数の輸送船団がジャブローを出発して北欧やインドに向かっているという情報が入ったため、インド洋に展開していた戦略海洋軍からかなりの数が大西洋へと派遣されており、今回発見した連邦艦隊に即応出来る戦力が俺の視察の護衛の為に用意した部隊位しかなかった。

 

集まった戦力はこのモビルフォートレス ゾックにユーコン級4隻、偽装貨物船5隻と各艦に搭載されたハイゴッグが32機。

 

それなりの戦力ではあるが、ヒマラヤ級大型空母を中心とした戦闘艦40隻を相手に正面から戦うには少々心細い数である。

 

その為、敵艦隊の後方からゾックを中心とした部隊で攻撃して敵の護衛を引きつけ、その隙に前方に回り込んだユーコンのモビルスーツ隊で輸送船を仕留める事になった。

 

やや戦力が不足気味だが、輸送船団を片付ける位なら何とかなるだろう。そう思って始めた戦いだったが、連邦軍の新兵器によって想定以上の苦戦を強いられる事になる。

 

偽装貨物船から出撃したハイゴッグ10機が囮となって連邦艦隊のフライマンタやドン・エスカルゴと言った航空戦力を引き付け、待ち伏せしていたゾックと6機のハイゴッグの攻撃で撃破するところまでは上手く行ったものの、続いて現れた水中型ボール「フィッシュアイ」の集団による攻撃でハイゴッグ3機が撃破されゾックもまた損傷する。

 

そして肝心の輸送船を攻撃した別働隊も、連邦の空母に搭載されていた新型モビルスーツによって大損害を被ってしてしまう。

 

……っというかあの機体は何だよ!?

 

頭部こそジム系統の形だけど、機体性能はガンダム級だぞ?!

 

幸い残存のハイゴッグとユーコンからの攻撃で半数近くの輸送船を沈められたので、これ以上損害が広がる前に撤退する事にした。

 

確かにガンキャノンが既に地上に現れていた以上、いつ連邦の新型が現れてもおかしくはなかったのだが……。

 

これは連邦のモビルスーツ開発についての調査を急がせる必要があるな……。

 

一一一一一一一一一一一一

 

side ヤザン・ゲーブル

 

「ゲーブル大尉!艦隊の前方からジオンの新手が現れた。護衛は後方のジオン軍への対応に手一杯で前方の連中までとても手が回らん。すまんが対応を頼む!」

 

ヤザンが空母アカンコグアに搭載された機体のコックピットで各部のチェックをしていると、そんな通信が艦長から入る。

 

「この機体は本来宇宙か陸戦にしか対応してないと言うのに無茶を言いやがる。」

 

「輸送船にはジムを量産するのに必要な機材が積み込まれているのだ。我々はどのような無茶をしようとこれを守らねばならんのだよ。」

 

「ふん。そんな大事な物なら、ジャブローの穴蔵にでもしまっておけば良いのだ。」

 

「そうできれば確かに安全だろうが、そういう訳にもいかんのだろうよ。すまんが何とか頼む。」

 

ブリッジとそんな軽口を叩きあいながら、ヤザンがコックピットのスイッチを入れると、モビルスーツに搭載されたゴーグル型のデュアルセンサーに光が灯った。

 

「ヤザン機出るぞ!上げろ!」

 

壁に設置してあった試作バズーカを手にとって機体を壁際まで移動させると、ヒマラヤ級空母アカンコグアのエレベーターが起動して甲板上にRX-81-P プロトタイプ・ジーラインが姿を現した。

 

サイド7から送られてきたプロトタイプ・ガンダムのデータを基にガンダムの量産タイプとして開発されたこの機体は、頭部の形状こそガンダムタイプではないものの、機体に施されたマグネット・コーティングと装備換装によって多目的運用が可能な機体として開発された事によって、ガンダムにも負けない程の高いポテンシャルを秘めた機体となっていた。

 

「ブリッジ、 こちら甲板上のヤザンだ。ありったけの対潜兵器を使って連中を水の中から叩き出してくれ!」

 

「ゲーブル大尉、連中の動きが速すぎて我々の対潜兵器では恐らく当たらんぞ?」

 

「当たらなくて良いんだよ!対潜兵器の炸裂音でソナーが使えなくなれば連中はこちらの位置を掌握するために海の上に顔を出すだろう。そこをこちらで叩く!」

 

先ずは敵の顔を拝まなければ戦争にならんからなぁ!

 

「なるほどな…。了解した。全艦、全対潜兵器発射!敵の位置は目測で構わん。ジオンの連中に炸薬が奏でるオーケストラを聴かせてやれ!」

 

護衛の連邦艦隊から放たれた無数の対潜ミサイルや魚雷、対潜ロケットがジオンのモビルスーツ部隊がいるであろう海域へと降り注ぐ。

 

すると、その対潜兵器の雨に耐えかねたのか、一機のモビルスーツが海上へ頭を出した。

 

「馬鹿が、かかったな!」

 

トリガーを引き絞ると、ジーラインの右手に持った試作型バズーカから大型のロケット弾が飛び出して水色の機体めがけて宙を駆ける。

 

放たれたバズーカの直撃を受けたジオンの水中用モビルスーツは残骸となって海の底へと沈んでいった。

 

「はっ、随分とあっけねぇな!」

 

俺がそう呟くと、仲間を撃破されて焦ったジオンのモビルスーツが次々と海面から顔を出し、腕に内蔵されたメガ粒子砲を俺に向けて放ってきた。

 

「ふん、バレバレなんだよぉ!」

 

そう言いながらも、左手に備えた大型の盾を構えて敵機の攻撃を確実にかわすと、お返しとばかりに両肩部に備えた2門のガトリングスマッシャーから無数の弾丸を水中の敵機めがけて放つ。

 

「逃すもんかっ。こいつを喰らえ!」

 

そう叫びながら掃射した無数の弾丸のどれかが水中の敵機へと直撃し、水中から二本の巨大な水柱が立ち上ぼり、同時に2機の水中用モビルスーツが海の藻屑となった。

 

水の中を自由自在に動くジオンの水中用モビルスーツは大きな脅威ではあるものの、やはり無敵という訳ではないらしい。

 

その後も連邦艦隊とジオン水中用モビルスーツとの攻防は続き、駆逐艦が捨て身の覚悟でアカンコグアを雷撃から守った隙に、攻撃してきたジオンの機体をジーラインのバズーカで始末する。

 

立て続けの損失で形勢が不利と判断したのか、ジオンの水中用モビルスーツはアカンコグアへの攻撃を断念して直接輸送船への攻撃を開始した。

 

「やらせるかよぉ!」

 

そう言いながら目前で輸送船を攻撃する機体めがけてバズーカを放ち、また1機のモビルスーツを海へと沈める。

 

しかしジオンの奴等もさるもので、それ以降は味方の艦艇や輸送船を巧みに利用して此方の射線の死角となる場所から攻撃を続け、10隻程の輸送船を沈めた段階で連中は撤退を開始した。

 

終わったか……。慣らし運転も終わっていない機体と空母の甲板上という慣れない環境での戦いに想像以上に疲労していた俺が僅かに気を緩めた瞬間、それは訪れた。

 

『おじさん。またくるよ?』

 

?! 突如として心に響いた声を警戒した俺が周囲を見回すと、突然水中からジャンプしてきた水色の機体が甲板へと降り立ち、その両手に着けた巨大な爪を此方に向けて振り下ろす。

 

油断したのか? この俺が!?

 

咄嗟にスラスターを吹かして後退しながら、手に持っていたバズーカを相手に投げつけて時間を稼ぐと、機体に備えられたビームサーベルを引き抜く。

 

しかし、敵も手慣れたもので奇襲に失敗した事を悟ると、すぐに海へと飛び込み姿を消した。

 

「思いきりの良い敵だぜ。嫌いじゃないな。」

 

そう呟いて周囲を警戒しながら、先ほど突然響いた声について考える。

 

思えばこの機体に初めて乗った時も何処か得体の知れない力を感じたものだが、そこにいないはずの誰かに見られているような感じは…あまり好きじゃない。

 

特に先ほど頭に響いた声は女の声をしており、俺と同じ戦場に女がいるのが気にいらなかった。




キャラのかき分けが難しい…。ヤザンっぽさがあまり出ていませんがお許しください。

良さそうな表現が出来る方があれば、誤字報告等を使って教えて頂ければそちらに修正させて頂きます


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54話 UC0079年8月 新たなる戦いの序曲◼️

更新遅くなりました…。やはり一から書くのは時間がかかりますね。

当面は週1更新を目処に書いていこうと思います


U.C.0079年8月

連邦軍はジオンのオセアニア方面軍と対峙する極東方面軍の中に、モビルスーツを主力とした初めての部隊である第1機械化混成連隊を創設した。

 

第1機械化混成連隊は、本部大隊と2個MS大隊、混成歩兵大隊の4つの大隊で編成されており、MS大隊にはジャブローから運ばれた機材を使ってアジアで量産されたジムが大量に配備されていた。

 

連邦のMS大隊は、2個のMS中隊とそれらの火力支援を担当するガンタンク小隊2個で編成されており、1個MS中隊は4個のMS小隊で構成されている。

 

 

【挿絵表示】

 

 

また、連邦のMS小隊は戦闘経験が豊富なジオンのモビルスーツに対抗するため、4機のRGM-79を支援戦闘車両のブラッドハウンドが支援する形をとっていた。

 

その移動手段からホバートラックとも呼ばれるブラッドハウンドは、トラックというよりも装甲車に近い形状をしており、ホバーで移動するためどんな地形も走行する事ができた。

 

武装は車体上部のタレットに据えたガトリングガン一門のみと貧弱だったものの、その真価は全く別のところにあった。

 

非常に高度な通信・電子戦設備を搭載しており、前線部隊と司令部との通信を中継したり、車体に備えたアンダーグラウンド・ソナーによって周囲の振動をキャッチしてミノフスキー粒子散布下における広域索敵を担当するなど、前線での通信や管制、索敵などモビルスーツ戦闘に必要な情報支援をたった1両で可能としていたのである。

 

また、簡易的な移動司令部や補給車両としての機能も有しており、地味ながら地上でのモビルスーツ運用の要となる存在となっていた。

 

そんな多数の新兵器を装備した部隊を前に、二人の連邦軍将校が出撃に向けた最後のミーティングを進めていた。

 

「ほぉ、新型のRGM-79が64機にRX-76が16両とはずいぶんと豪勢ですな。ライヤー准将。」

 

「コジマ君に担当してもらうマレー半島は、極東方面軍のアキレス腱だからな。

ジャブローからの海上輸送による補給線に対し、ジオンの連中はマレー半島やスマトラ島を根拠地とした水中用モビルスーツによる洋上襲撃を繰り返しており、我々はそれを防ぐために海軍の主力を輸送船の護衛に動員する事態に陥っている。

現状打破の為の支援は惜しまんよ。」

 

「ジオンの水中用モビルスーツはそれほどの性能なのですか?」

 

「1機だけならドン・エスカルゴが5機もあれば撃破は可能だろう。だが連中は最低でも3機編成で運用しているので此方もそれなりの数が必要になるし、ドン・エスカルゴの運用に必要な大型空母を全ての輸送船団につける訳にもいかんのでな。」

 

「それでこれだけの規模の部隊を編成して、陸上からジオンの活動拠点を叩こうという訳ですか。」

 

「無論それもあるが、それだけではないぞ?」

 

「と、言われますと?」

 

「今後各地で同様の機械化混成連隊を多数編成する事が決まっている。私が知っているだけで、北米、南米、北欧、南欧、ロシア、アフリカ、インド、アジアの各方面軍にそれぞれ最低2つは機械化混成連隊が作られるそうだ。」

 

「それは…かなりの規模ですな。」

 

「おかげで民間の工場まで総動員してモビルスーツを製造していると聞く。噂ではジオンの支配地域から秘密裏に部品を密輸をしているものまであるらしい。」

 

「少し前に機甲師団の増強を図っていたと記憶しておるのですが、兵員は足りるのですか?」

 

「先日法案が可決された、従軍者の家族への特別配給制度について告知したところ、食料が不足している地域に住む難民や貧困層の住人などの応募が殺到しているよ。」

 

「……そのような事が許されるのですか?」

 

「ちゃんと連邦議会を通過した法案なのだ。何も問題あるまい。どのような手段を使おうと我々は勝たねばならんのだよ。」

 

「……はっ。」

 

「マレーを落とせば君もジャブローだ。連隊の活躍を期待する。」

 

 

 

オデッサ方面軍

 

やあ……諸君。ギレン・ザビである。

 

地球降下作戦でオデッサ一帯を制圧して以降、第1地上機動師団の戦力を使ってヨーロッパ各地への侵攻とオデッサの防衛を同時に行っていたのだが、各サイドの防衛のために派遣していた兵とサイド共栄圏からの義勇兵を中心とした大規模な増援を得た事で、今回新たにオデッサ防衛隊を編成した。

 

オデッサ防衛隊の装備はザクとマゼラタンク、歩兵にセイバードップという我が軍の基本編成だったが、連邦から鹵獲したRX-76やその部品を流用して造られた現地改造機(通称ザクタンク)で編成された長距離砲撃部隊も配備されており、我が軍に不足気味だった長距離砲撃能力を補完する形となっていた。

 

また、オデッサ防衛軍の設立に伴い、第1地上機動師団も従来の編成から大きく姿を変えており、

 

重モビルスーツであるドムと圧倒的な火力を持つヒルドルブ、そしてそれらを運用するギャロップ陸戦艇で編成された機動打撃連隊、

 

 

【挿絵表示】

 

 

グフとS.F.Sで編成され、ガウ(ミデアのコピー品)によって高速展開を可能とする航空機動大隊、

 

 

【挿絵表示】

 

 

多数のザクで構成され、配備されたHLVに搭載する事で地球上の何処にでも展開を可能とする戦略機動連隊、

 

 

【挿絵表示】

 

 

といったモビルスーツを重視した編成に変化していた。

 

開戦から半年もの間戦い続けてきた精鋭で編成され、多数のドムやグフといった新型機を装備した第1地上機動師団は、その全力を投じれば即座に連邦ヨーロッパ方面軍を壊滅させられるほどの戦力を有していたものの、今はその力をオデッサの地を守る事に使用していた。

 

「まあ、ヨーロッパ全土を制圧する予定などないのだがな。」

 

「そうなのですか?」

 

頭の中で考えていた事を何気なく呟くと、昨日の夜に愛人としての役割を果たしてくれたララァがベッドの上で体を起こしていた。

 

「ああ、起こしてしまったか。すまんな、ララァ。」

 

「いえ…、私の方こそなんとなく気になってしまって……。」

 

「構わんよ。ヨーロッパの市街地を制圧したところで、レジスタンスへの対処や生活物資の供給など我が軍への負担が増えるだけだからな。そんなところをわざわざ制圧する必要などなかろう?」

 

「でも、それでは連邦との戦いが終わらないのではありませんか?」

 

「以前父上達にも言ったが、このまま進めば来年の後半には連邦は深刻な食料不足を迎えるだろう。そうなれば連中も講和を考えざるをえまい。

既に現時点でも食料自給率が著しく低い極東の島国などでは食料危機の兆候が現れているのだ。」

 

俺が何でもない事のようにそう話すと、突然ララァがベッドからおりて側まで来ると、唐突に俺の頭を撫ではじめた。

 

「……どうしたのだ?」

 

「わかりません。でも、何処か貴方がつらそうにしているように見えたの。」

 

……。誰にも伝えていないものの、計画通りアジアで食料危機が起きつつあるとの報告を受けた時、ギレンとなる前に生まれた国が飢えに苦しんでいると知り、俺の中に強い罪悪感が生まれたのは事実だった。

 

「……確かに今進めている作戦で私の知っている土地が飢えに苦しんでいる事を知って思うところはある。だが、だからと言って助ける訳にはいくまい?」

 

「???、どうして助けてはいけないんですか?」

 

まるで理由がわからないといった感じで、ララァが首を傾げる。

 

「それは、連邦の統治下にある場所を助けても仕方ないだろう?」

 

「どうして?私は連邦の支配するインドで助けられて貴方の事を好きになった。だから連邦の人だろうと困っている所を助けて貰えばきっと仲良くなれると思うの。

それに貴方はジオンを影から支配する独裁者なのでしょう?助けたい人達を助けないで苦しむ位なら、好き放題に助けて開き直ってしまえば良いと思うわ。」

 

そう言って頬笑むララァに対し、俺は明確に反論できる言葉を持ち合わせていなかった。

 

「ああ、そうだな。たまには独裁者らしく振る舞うのも良いかもしれん。ありがとう。ララァ」

 

確かに合理的な思考でいえば、連邦の勢力下の人達を助ける事には何のメリットもないだろう。

 

だが、イソップ童話にあるように、旅人の心を開いたのは冷たい北風ではなく暖かな太陽だった。

 

ならば自分に縁のある場所の人達を助け、それが戦局にどのような影響を与えるか試してみるのもいいだろう。

 

何せ俺はジオンを影から支配する悪の総帥なのだから。

 

……それに一部の地域がジオンの支援を受ける事は連邦内部で軋轢を生むだろうし、上手くやればアジア方面軍に亀裂を入れることも不可能ではない。

 

そう思った俺は、具体策について協議するためサスロに連絡を入れるのだった。

 

 

 

一一一一一一一一一一一一

 

 

 

side グラナダ

 

「キシリア様、少しよろしいでしょうか?」

 

「ん……マ・クベか?入れ。」

 

「は、失礼します。」

 

「ああ…わかった。V作戦の進捗に関する情報はできるだけ伏せておこう。ではな。」

 

「どなたかとお話し中でしたか?」

 

「連邦内部の協力者と連絡をとっていたのだ。後で総帥府に送るV作戦関連のデータを精査するので持ってきてくれ。」

 

「……かしこまりました。キシリア様、少しよろしいでしょうか?」

 

「どうした?」

 

「総帥府や内務省でジオン内部の連邦スパイの存在が囁かれており、先日このグラナダでも内務省の調査官と思われる者の出入りが確認されております。不要な疑いを招くような行為は極力慎まれた方が良いのではないかと思いますが……。」

 

「そうだな……、まあ貴様なら大丈夫か。マ・クベ、ジオンにとっての勝利とは何だと思う?」

 

「勝利…でありますか?やはり連邦との戦いに勝利し、スペースノイドの独立を勝ち取る事ではないでしょうか?」

 

「だいたいの者にとってはそうだろう。だが、私にとっての勝利の定義は少し異なるのだ。

無論連邦に勝利する事は大事だが、それ以上に重要なのが戦後のジオンが正しい道を進んで行けるかという事なのだ。」

 

「正しい道、でありますか…。」

 

「サイド共栄圏の誕生によりジオンの勢力は大幅に増したものの、それは同時にザビ家単独による政治的な舵取りが難しくなった事を意味している。

ムンゾ単独であればザビ家の支配は万全だったが、サイド共栄圏全体への影響力はさほど大きなものではないからな。」

 

「……。確かにサイド共栄圏から人や物の支援こそあれど、連邦への宣戦布告などはいまだに見送られております。ですが、それとどのような関係が?」

 

「そんなサイド共栄圏を率いてダイクンの唱えたコントリズムを実現するには、高いリーダーシップと強固な信念が必要となるだろう。

特に地球に暮らす人類を空にあげ、地球を人類全体の聖地とする事など並大抵の覚悟ではできまい?」

 

「ギレン総帥ではキシリア様の望みを実現するのは難しいと?」

 

「そもそも南極での条約交渉を見る限りあの男にコントリズムを実現する意志があるとは思えん。

連邦の宇宙艦隊を片付けたぐらいで地球の聖地化など不可能だというのに、奴は本気で停戦に向けて動いていた。

キャスバルとアルテイシアをふたりとも手の内に収め、開戦の際もダイクンの遺志を引き継ぐような演説をしておきながらだぞ?」

 

「それはそうかもしれませんが……。」

 

「なので私は地球侵攻作戦の指揮を執ることで戦後の主導権を握ろうとしたのだが、奴の妨害によりそれも叶わなかった。

故に私が正しくジオンを導く為には、あの男に地球侵攻作戦を失敗してもらうか、連邦に直接奴を除いてもらう必要があるのだよ。わかるか?」

 

「……はっ。キシリア様がそのようにお考えなのであれば、その願いを叶える事こそ私の使命であります。」 

 

「そうか。貴様の忠誠嬉しく思うぞ、マ・クベ。それでお前から見て真に信頼のおける者はどのくらいいると思う?」

 

「マレット率いるグラナダ特戦隊やグール隊、マッチモニード隊などはキシリア様個人に忠誠を誓っておりますので何があっても大丈夫でしょう。あとはフラナガン博士の所で調整を受けている者達位でしょうか。」

 

「使えるのか?」

 

「低レベルNTを薬物と催眠で強化する過程でキシリア様への忠誠心を植え付ける事に成功しています。専用の新型機の開発も進んでおり、必ずお役にたてるかと。」

 

「ほう、秘密裏に確保した資源衛星ペズンで開発中のザクを連邦の技術で強化した機体か?それとも私が直々にデザインしたモビルアーマーか?」

 

「ザクを強化した機体については八割方完成しており、試作機によるテストが終わり次第、先程あげた部隊のザクと順次入れ換えていく予定であります。」

 

「ほう、もう試作機が完成するのか?」

 

「裏取引によって連邦から入手した技術を用いる事で、連邦の新型機並みの機動力の獲得に成功しました。火力についても脱出装置を外してジェネレーターを大型化させる事でビームライフルの運用を可能としております。」

 

「OSについてはどうするのだ?例のエグザムとやらを使うのか?」

 

「OSについてはザクに搭載されているものをそのままのせかえて使用します。エグザムシステムについては同士討ちに関する問題がどうしても解決出来なかった為、少数の特殊部隊に配備して後方撹乱や特攻に使用する見込みであります。」

 

「という事はOSによる数の縛りはそのままという事か。」

 

「はい。ですのでそれを補う為にキシリア様にデザインして頂いたモビルアーマーの量産を考えております。

此方については既に試作機が完成しており、警備用宇宙艇という名目で量産を開始しようかと。」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「フム…。思ったより可愛くないが、まあ良いだろう。で、これをNT部隊に使わせるのか?」

 

「いえ、NT部隊にはアクシズから流れてきた情報を基に開発を進めている『ビショップ』を配備する予定であります。

ただ、肝心のサイコミュシステム等に関する設計図等をアクシズから入手出来なかった為、現在フラナガン博士に開発を急がせております。」

 

「そうか、NT部隊は我々の切り札とでもいうべき存在だ。情報が漏れたりしないようにフラナガンの研究所もペズンに移動させておけ。」

 

「かしこまりました。他にも何かございますか?」

 

「低レベルNTに行った処置を一般兵にも行って忠誠心を植え付けられないかテストしておけ。それが可能であれば色々な用途に使えるからな。」

 

「…なるほど。直ぐに手配致します。」




なんとなく感想がキシリア様逮捕で荒れそうな気がするもので一応説明を…。

side でしている会話等はギレン達には伝わっていません
なのでギレン側が現時点で持っている情報としては

レビルの逃亡を支援した(疑い)
グラナダの防衛圏をレビルに突破された(事実)
降下作戦の情報を流出させた(疑い)
連邦に情報を流出させている(疑い)

といったところです

まあ更迭されてもおかしくない気もしますが、ザビ家の身内なので踏み切れてない状況です。

出来るだけ説得力のある展開を考えていますが、もともと考えていたプロットに沿って書いているもので多目に見て頂けると助かります


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55話 UC0079年8月 紫の足跡◼️

あけましておめでとうございます。

次の話から原作に入り一気に話のテンポが早くなる予定ですが、最後まで楽しんで頂けたらと思います。


やあ、勇猛なるジオンの戦友諸君。

第1地上機動師団、第3航空機動大隊長を務めているハンス・ウルリッヒ・ルーデル中佐だ。

 

我が軍がオデッサ北部の要衝キエフを制圧して以降、連邦ロシア方面軍による攻撃が続いていたのだが、今月に入ってその攻撃が突然停止したため、今日は連邦の勢力圏まで偵察に来ていた。

 

今日はオデッサの北西一帯の偵察をおこなったのだが、残念ながらこれといった収穫がないまま基地への帰路を辿っていた。

 

「隊長、もう少しで基地ですね。帰ったら山積みになっている報告書の確認をお願いします。報告書を読まずに『現地に行けば最新の情報がわかる!』とか言って出撃したら、また総帥に報告しますからね。」

 

氷のように冷たい視線を向けながら、淡々と伝えてくるのは、ギレン総帥から監視として派遣されたエリン・ガーデルマン少尉である。

 

私が報告した戦果があまりにも多かったとの理由で上層部による査察がおこなわれ、その結果として私が戦果を戦友に譲ったり、休みをとった部下の代わりに出撃していた事が総帥に発覚してしまったのである。

 

戦場で苦楽を共にした戦友にスコアを譲ったり、部下に休みを与える為に代わりを務める事は上司として当然の事だと思うのだが、流石に部隊の半数に休みを取らせて代わりに自分が24時間戦場にいたり、機甲師団に待ち伏せされて撃墜された直後に病院を抜け出して出撃したのはやりすぎとの事で酷く怒られてしまった。

 

しかし、ロースマンのやつめ。ヘンシェルが妊娠して出産の為に本国へ帰還してしまったので代わりに副官に任命してやったのに、査問官へ簡単に口を割りおって。

 

そういった理由で総帥からお前を一人にしておくと二十四時間出撃していそうで危険だと言われてしまい、その為に監視として派遣されたのが先ほど紹介したガーデルマン少尉である。

 

18歳という若さにもかかわらず、医師としての知識とモビルスーツパイロットとしての技量を併せ持つガーデルマン少尉は、白い肌としなやかな銀髪、無表情で少ない口数からミステリアスな雰囲気を漂わせており、やや小柄で年齢よりも若くみられる事を除けば文句のつけようがない逸材なのだが……。

 

「何ですか中佐?通信といっても、あまりジロジロ見るようならセクハラで訴えますよ?」

 

口を開けばこのツンツンぶりだ。これさえなければ、ヘンシェルが本国に帰って寂しい夜の相手を頼みたい位なのだが、世の中上手くいかないものだ。

 

そんな事を考えながら基地へと向かっていると、前を進んでいたガーデルマン少尉のグフが突然動きを止めた。

 

「どうした?」

 

「中佐……、東から大規模なミノスフキー粒子反応があります。」

 

ここから東といえば次に偵察に行こうとしていたワルシャワの辺りだが……。

 

「連邦がミノスフキー粒子を広域散布する可能性は低いため、以前に散布したミノスフキー粒子が残留しているのかと思われますが…どうしますか?」

 

フム、大部隊の運用を基本とする連邦が、通信障害を引き起こすミノスフキー粒子を散布しても良いことなどないからな。だが……。

 

「いや、大至急ミノスフキー粒子反応があった地域の偵察に向かうぞ。」

 

これは「当たり」の臭いがする。

 

「このままですか?それほど推進剤に余裕はありませんが。」

 

「基地も近い。もし連邦軍だった場合、これ以上基地に近づけると面倒な事になる。」

 

決して書類を見るのを後にしたいとかそういった理由ではないからな。

 

「……わかりました。先導します。ただ、帰るのが遅くなってもちゃんと書類は見て頂きますからね。」

 

そう言うとガーデルマン少尉のグフが進路を東へと変えた。

 

……何故私の企みがわかったのだ?。これが最近流行りのニュータイプという奴なのか?

 

だがこの時の私の判断は結果として大当たりであり、東へ向かった我々はキエフに向けて進軍する連邦軍を見つけるのだが、問題はその規模が予想を遥かに上回る大部隊だった事である。

 

「これは…連隊どころか師団級の戦力ですね……。」

 

森の中に潜む我々の前に現れたのは、数えるのも面倒になる程の61式戦車と、3基の三連装主砲を備えた巨大なY字構造の陸上戦艦だった。

 

連邦の奴等め……。片っ端からビッグトレーを沈めてやったというのに、また新型を造りおったか。

 

「中佐、あの地上や甲板の上にいる白い人型は何でしょう?」

 

ガーデルマン少尉の言葉に従って敵軍を見ると、そこにあったのはゴーグル状の頭部カメラが特徴の白い巨人……モビルスーツであった。

 

「連邦がモビルスーツを開発したと言うのか!?しかもなんて数だ!」

 

ざっと見ただけで20機以上の機体が、陸上戦艦の甲板や周囲に展開していた。

私の大隊でさえグフが全部で15機しかないのに、連邦の奴等は相変わらず数だけは一人前だな。

 

「連邦の大部隊が基地へ迫っている事をなんとしても味方に知らせなくてはいけません。……私が攻撃を仕掛けて連中を引きつけますので、中佐はその隙に離脱してください。」

 

私が獲物を前に舌なめずりしていると、僚機であるガーデルマン少尉がそんな悲壮感たっぷりの台詞を言ってくる。

 

むう……。あの程度の連邦軍などたいしたことないと思うのだが、まあ彼女の機体は偵察用装備だから脅威に感じるのも仕方ないかもしれない。

 

そう思った私は、彼女にこう返した。

 

「連邦軍など我が軍の敵ではないが、君が一人で相手をするにはいささか数が多いのも事実のようだ。

ここは私が引き受けるので、部隊への連絡は君に頼む。」

 

もし連邦の別働隊が基地にたどり着いて奇襲を仕掛けでもしたら大事だからな。

 

「ですが中佐、あの数が相手です。死にますよ?」

 

これは……、基地に戻ったらジオン軍人としての精神を教育してやらねばならんな。

 

「全く、基地に戻ったら再教育だぞ?少尉?

夜になったら私の部屋に来なさい。私が手取り足取り色々と教えてあげよう。」

 

そんな冗談を言いながら、愛機に対艦ライフルを構えさせる。

 

「さあ早く行け、ガーデルマン少尉。お前が知らせに帰る場所は私が守ろう。」

 

「つっ!……わかりました。なんとしても基地まで戻り増援を連れてきます。それまでどうか、どうかご無事で。」

 

「ありがとう。だが別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?」

 

そう言うと、私は構えた対艦ライフルで敵モビルスーツへと攻撃を開始し、ガーデルマン少尉は味方に連邦の襲撃を伝えるため全速で基地へと向かうのであった。

 

なお、ガーデルマン少尉が増援を連れて戻った頃には陸上戦艦とモビルスーツの大半を私が撃破しており、それを見た部隊の連中が「中佐だから仕方がない。」と、ガーデルマン少尉を慰めていたのが不思議であった。

 

因みにこの日の夜、約束どおりにガーデルマン少尉が私の部屋を訪れ、色々とあった後にそのまま夜戦に突入する事になる。

 

 

 

やあ…諸君。ギレン・ザビである。

 

部隊の再編が完了して一息ついたと思えば、連邦軍による攻勢が突然はじまり、先程までそれの対応に追われていた。

 

キエフの他にも、複数の箇所で連邦による攻撃を受けており、連邦の突破を許した場所にはドムで構成された機動打撃連隊を派遣して戦線の立て直しを図っている。

 

まあ陸上戦艦を中心としたモビルスーツ師団に奇襲を受けたのだから多少の損害はやむを得ない。

それと遭遇して、グフ一騎で撃破したとかいう何処かのチートの方がおかしいのだ。

 

連邦軍による攻勢はかなりの規模だったものの、地形を活用して陣地を構築していたおかげで被害はそれほど大きくなかった。

 

だが、ついに連邦軍が本格的にモビルスーツの運用を開始したか……。

 

原作では9月頃からジムの生産を開始した気がするのだが、既に前線で運用が始まっている事からずいぶんとモビルスーツ開発のペースが早まっているようだ。

 

いったい何が原因だ?

 

コロニー落としどころか各サイドは味方になっているし、アクシズは既に地球圏に移動しているし、モビルスーツに至っては既にドムどころかゲルググの量産が始まっているし……。

 

……。駄目だ…、心当たりが多すぎる……。

 

この分だとV作戦も大幅に前倒しになっているかもしれん。大至急調査させねば。

 

まあ、とりあえずメイが鹵獲した連邦の機体を調査した結果を教えてくれるそうなので話を聞いてみるとしよう。

 

一一一一一一一一一一一一

 

side

メイ・カーウィン

 

「では調査結果について教えてくれるか?メイ?」

 

久しぶりに会ったのに、いきなり本題に入ろうとするギレンさんにちょっぴりムッとしたけど、大事な報告が沢山あるので我慢して説明をはじめてあげる。

 

「いい?ギレンさん。連邦のこの白い量産型モビルスーツはジムっていう名前みたい。

頭部の形状や装甲の形が違うから外見はあんまり似てないけど、ザクをそのままコピーしてジェネレーター回りだけを改造した機体なの。」

 

「これがザクのコピー機だと?」

 

「うん、これを見て。」

 

部屋のスクリーンにザクの構造図と鹵獲したジムの構造図を映すと、構造が一致した部分の色を赤くする。

 

「見てのとおり手足の構造はほとんど一緒で、違うのはコックピットとバックパック回りくらいなの。それで、脱出装置とバックパック交換システム関連の部品を削って、空いたスペースを使ってジェネレーターを大型化する事でビーム兵器の運用を可能にしたみたい。」

 

「これは酷いな。連邦軍に特許使用料を請求してやりたいぐらいだ。だが、多少ジェネレーターを大きくした位でビーム兵器を使えるようになるのか?」

 

「うん。ビーム兵器と言っても、ゲルググ用に開発しているビームライフルより威力や射程がかなり低めのものだから。ビームライフルじゃなくてビームスプレーガンといった感じかな?」

 

「ではそこまで脅威ではないという事か?」

 

「ううん。残念だけどザクの装甲では防げないと思う。ドムや新型のゲルググならある程度は耐えられるけどそれでも近距離では防げないと思う。」

 

予備のパーツでテストしたから間違いない。幸い連邦のビームライフル?の技術を転用する事でゲルググ用のビームライフル開発が進みそうだけど。

 

「腐ってもビーム兵器か……。ジムの装甲はどうだ?」

 

「チタン系の合金みたい。超硬スチールより軽いけど、強度的にはそこまで大きく違わないからザクマシンガンでも壊す事はできると思う。まあ一発や二発では無理だし、大型の盾を持っているみたいだから簡単にはいかないかもしれないけど……。」

 

「そうか、新型のMMP-80マシンガン等の配備を急がねばならんな……。

そういえばOSもコピー品なのか?せめてOSは盗られないように対策はしたんだが?」

 

「そうなの!OSはメイ達が一生懸命研究して作り上げたのがそのまま使われてたの!

プログラムを見た感じでは完全にはコピー出来てないみたいだけど、許せない!もう!」

 

まったく!このOSを作るのにメイが何日徹夜したと思っているのよ!

 

「そ、そうか……。流出元は解りそうか?」

 

「誤魔化そうと色々細工してあったけど、多分「紫」のところじゃないかな?一部テスト機用に作ったプログラムが混ざっていたし。」

 

「……。間違いないのか?」

 

「うん。テスト機用のプログラムは後で識別出来るように少しずつ変えておいたの。」

 

特に「紫」のところに配るのは念入りにね。

 

「わかった…。報告ありがとう。メイ。そしてすまない……。」

 

「?何でギレンさんが謝るの?」

 

最近あんまりかまってくれない事以外は、ギレンさん別に悪いことしてないと思うけど?

 

「以前に約束しただろう。メイの父上の無罪を証明出来そうな証拠があれば協力すると。

今回の情報流出はメイの父上の件とは直接の関係はないが、それでも「紫」が様々な違法行為をおこなっている十分な証拠だ。

だが連邦と戦力が拮抗している現在の状況では、直ぐに「紫」を逮捕する事はできない。

キシリアを逮捕すれば少なくない混乱がジオンに生じるだろうからな。」

 

……。それは10年も前、初めて会った時にした約束。私自身、忘れはしなかったけど、それでも諦めかけていた約束。

 

「約束しよう。連邦に決定的な打撃を与え戦争の行方が決まった時、メイの父上の無実を証明するために動く事を。だからもう少しだけ待っていてくれ。メイ。」

 

……。ずるい。ずるいずるいズルイ!ギレンさんはいつもずるい。いつも私が予想もしていない方法で私を困らせ、驚かせ、喜ばせる。

 

だから今度は私が不意打ちをしてしまおう。

 

父の無実が証明されたら私はメイ・ザビからメイ・カーウィンに戻ろう。

そうすればギレンさんと私が恋人になろうがなんだろうが問題ない。

恋人が駄目ならララァちゃんみたいに愛人でもいい。

 

アイナお姉ちゃんがちょっぴり怖いけど、きっと真剣に相談したら許してくれるだろう。

だから私がやるべき事はその日が1日でも早く訪れるように努力すること!

 

まずはギニアスさんから頼まれた量産型アプサラスの射撃管制用プログラムを作らなきゃ!

 

「うん。待ってるね。ギレンさん。」

 

次は私がギレンさんを驚かす番なのでギレンさんも待っててね。

 

「あ、それとジムのOSなんだけど、私がもしもの時のために入れておいた…」



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56話 UC0079年9月 ガンダム大地に立つ(複数)◼️

筆のノリが良かったのですぐに書けました。書けない時はなかなか書けないので不思議ですね。

そしてイト・レイに投票して頂いた方ありがとうございます。
元ペンネームがたまたまito01なだけで何の関係もありませんが、イト中尉に代わってお礼を申し上げます


サイド7

 

宇宙で唯一の親連邦勢力となった最も新しいスペースコロニーである。

 

ルナツーにほど近いこのコロニーで行っていたモビルスーツ開発の成果を回収するため、連邦軍は最新鋭の強襲揚陸艦であるホワイトベースを派遣していた。

 

「ずいぶんと遅い到着ですね。パオロ中佐」

 

「そう責めてくれるなレイ大尉。仮にもこのサイド7は中立を謳っているのだ。そこに我が軍の艦艇を入れるのはそう簡単ではないのだよ。」

 

「我々の研究所の建設を黙認しておきながら、今さら軍艦一隻の受け入れが問題だと?」

 

「地上でもジオンに対して敗退を続けているのだ。彼らが我々への協力を渋るようになったとしてもそれを責める事はできんよ。」

 

「まあ、そうかもしれませんが……。ですが我が軍の劣勢はもう終わります。ガンダムの開発が完了し、ジムの量産も進みつつある今、我が軍の勝利は約束されたようなものです!」

 

「是非そうなって欲しいものだな。試作機の積み込み状況はどうかね?」

 

「直前に私が開発した新しいパーツの組み込みをおこなっていた2号機以外はまもなく搬入が完了します。その2号機もそろそろ研究所を出る頃かと。」

 

「そうか。ならば我々も出港の準備を急がねばなら…。」

 

「パオロ中佐!!」

 

「どうしたのかね?ブライト少尉。」

 

「今、サイド7政府にジオンから中立違反についての抗議と宣戦布告があったと!」

 

「!!!なんだと?!い、いかん!ジオンがくる。早く逃げ…。」

 

ピカッ……。

 

 

 

数時間前

 

「シーマ大佐、ただいまサイド7の偵察から戻りました。」

 

「お帰りよ、赤い彗星。で、サイド7の様子はどうだい?」

 

「は、連邦軍のモビルスーツ研究施設を発見し、それをRX-75 ガンタンクやジムタイプが警備に当たっているのを確認しました。」

 

「おやおや、真っ黒だねぇ…。何が中立だい、笑わせるよ。」

 

「今回の任務はギレン総帥からの特命と聞きましたが、総帥からはなんと?」

 

「総帥からは威力偵察といった中途半端な事はせず、特殊部隊を潜入させて偵察し、連邦の存在が確認できたならば全戦力を投入して奇襲をかけて一気に仕留め、手に負えないような規模ならば敵に気づかれないように撤退せよとおおせだ。どう思う?シャア少佐」

 

「緊急の任務という事で今ここにいる戦力はこのリリー・マルレーンとドムが2機、ザクが7機と多くありません。ですが、敵もそれほど多くはないようなので、奇襲をかければ撃破は十分に可能かと。」

 

「今なら獲物がよりどりみどりって事かい。良いだろう、サイド7の中立違反の証拠も十分につかんでいる。仕掛けるよ!

コロニーに残っている連中を使って爆弾を仕掛けさせ、爆破にあわせてモビルスーツ隊で襲撃する!

私のドムとザク2機でベイを、シャアのドムとザク2機でコロニーの防衛隊を、デニムのザク小隊で研究施設を制圧する。ヘマするんじゃないよ!」

 

 

 

やあ……諸君。ギレン・ザビである。

 

先日連邦のモビルスーツ開発状況が気になってサイド7にシーマ隊を派遣したのだが、案の定連邦軍の研究施設が発見された。

 

サイド7でガンダムのテストをする事はわかっていたのに、地上での戦いにかかりきりになって忘れていた俺のミスだ……。

 

サイド7の中立違反の証拠を掴んだシーマ隊は、その事実をサイド7政府に突き付けて宣戦布告をするのと同時に攻撃を開始し、連邦の防衛隊による抵抗を粉砕したものの、サイド7で開発されていた試作機の大半は既にホワイトベースに積み込まれた後だった。

 

唯一研究所から移送中だった2号機に対して、コロニー内に侵入したザクが攻撃をしかけたものの、モビルスーツキャリアを破壊して撃破したと思った隙にパイロットに機体に乗り込まれて逆にザク2機が返り討ちにされてしまい、残った部隊もホワイトベースから出撃してきた4機のガンダムタイプと数機のガンキャノンに圧されて撤退を余儀なくされたそうだ。

 

……。おい、ガンダムタイプが合計で5機もいるとかどういう事だよ!?

まさかプロトタイプと3号機の他にも、4号機や5号機がサイド7にあったと言うのか?!

 

原作よりも多くの戦力を投入すれば初動で撃破する事ができるかと思ったが、どうやら考えが甘かったようだ……。

 

こうなった以上、周辺を航行していた艦艇をかき集めて向かわせた増援と一緒に大気圏突入のタイミングで仕掛けさせる他ないのか……。

 

だがまあ、ガンダムのパイロットが天パじゃなくてイト中尉とかいうテストパイロットならたいした事ないだろうから良かった。

 

 

 

一一一一一一一一一一一一

 

side アムロ・レイ

 

フラウに促されてシェルターに向かっていた僕の前に連邦の大型トレーラーが現れ、操縦席にザクマシンガンの砲弾を受けて動きを止める。

 

すると、破壊されたトレーラーの操縦席から這い出てきたのは、僕の叔父であり、同時にコロニー落としを予言して「当たらない預言者」とも言われたイト叔父さんの姿だった。

 

倒れた叔父に駆け寄ると、

 

「ガ、ガンダムを…。ガンダムを頼む、アムロ君……。く、くそ、コロニー落としはおきなかったの、に…。」

 

その言葉を最後に、「アムロ君、君にはモビルスーツパイロットとしての才能を感じる。僕が操縦の仕方を教えてあげよう。」と言ってモビルスーツの操縦方法を教えてくれ、あまり上手くいっていなかった父との関係をとりもってくれた優しい叔父は息を引き取った。

 

何でこんな事に……。やり場のない怒りと悲しみにうち震える僕の目に、叔父に託されたガンダムの姿が映る。

 

僕が叔父さんの敵をとってやる!

 

そう思ってガンダムのコックピットに乗り込むと、家に叔父さんが持ってきたシミュレーターと同じ計器類が目に入ってきた。

 

「シミュレーターどおりだ……。これなら動かせるぞ!」

 

そう思い操縦パネルのスイッチを入れると、ガンダムのメインカメラに光が灯る。

 

そのままガンダムを起き上がらせると、目の前のモニターにマシンガンを構えたザクの姿が現れた。

 

「う、うわ!」

 

思わず操縦桿のスイッチを押すと、頭部のバルカン砲が砲弾を打ち出し、それに驚いたザクがガンダムから距離をとる。

 

こいつが叔父さんをやったのか!

 

「よくも、よくも叔父さんを!!」

 

叔父さんと一緒にやったシミュレーターでの操作を必死に思いだし、ガンダムにビームサーベルを引き抜かせる。

 

そして距離をとりながら此方の様子を窺っているザクに向けてガンダムを跳躍させると、その胴体めがけてビームサーベルを振るった。

 

すると、61式戦車の砲弾にさえ耐えるザクの胴体は、まるでバターを切るかのように、何の抵抗もなく真っ二つになった。

 

だが、それは同時にザクの核融合炉を暴走させ、コロニー内部で巨大な爆発を引き起こしてしまった。

 

「だ、だめだ。動力炉を破壊するとコロニーを破壊してしまう!コクピットを狙わなくちゃ...!!」

 

そんな事を考えているうちに、仲間を倒されたもう一機のザクがヒートホークを引き抜くと、スラスターを全開にして此方に向けて突進を開始する。

 

「っ…!そこ!」

 

 

 

少しシミュレーターでの操縦経験があるだけの素人とこのような特殊任務にも投入されるほどのベテラン兵との戦いは、誰が考えてもベテラン兵の勝利によって終わるものと思われた。

 

だが、素人であるはずのアムロは、飛び掛ってくるザクのヒートホークによる一撃を機体を僅かに捻ってかわすと、ガンダムのビームサーベルをザクのコクピットめがけて正確に突き立てた。

 

何故素人でしかないアムロにそんな動きができたのか説明できる者は何処にもおらず、そこには、操縦者を失ったザクが動きを止めた事実のみがあった。



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57話 UC0079年9月 大気圏突入◼️

誤字修正や感想等いつもありがとうございます。
作品を書く上でとても楽しみにさせて頂いています。

さて、前話を読み返しいて気がついたのですが、ルーデル閣下のアンケートの際に以降は転生者等は出しませんと言っておきながら、思いつきでイト中尉を出してしまい申し訳ありません。

書き直すのも大変なので修正はしませんが、イト中尉の出番は前話が最初かつ最後で、他に転生者等は出てこないと思います。


宇宙要塞ルナツー 基地司令室

 

「避難民を受け入れて貰えないとはどういう事なのですか?ワッケイン少将?!」

 

「落ち着きたまえ、ブライト少尉。今のルナツーでは避難民全員を受け入れる余裕がないと言ったのだ。負傷者や子どもづれの女性位は受け入れよう。だが、全員は無理だ。」

 

「何故ですか?!彼らは我が軍が守るべき民間人なのですよ!」

 

「そんな事はわかっている!だが少尉、ここは最前線の宇宙要塞だぞ?ジオンの妨害によって補給すらままならないこの基地に、多くの民間人を抱え込む余裕があるはずないだろう!!」

 

「それは……。」

 

「本来ならば我が軍の最重要機密に触れたガンダムのパイロットなども軍規によって牢へと繋がねばならんのだが、最早我が軍にはそのような事に割く余力すらないのだ。

よって、彼にはホワイトベースとモビルスーツをジャブローまで運ぶ手伝いをしてもらう事で罪を償って貰う事とする。」

 

「彼のおかげで2号機は無事だったのですよ?!」

 

「聞いている。たいした訓練も受けていないにもかかわらず、ザク2機を撃破するとはたいした才能じゃないか。

……本来ならばジャブロー上空まで護衛の艦隊を付けてやりたいところだが、今の私には何もしてやれん。

使えるものは何でも使い、なんとしてでもジャブローまで無事にたどり着いてくれ。私からは以上だ。」

 

「わかりました…。失礼します……。」

 

「ふぅ…。保護するべき民間人を新任の少尉に任せてジャブローへと送り出すしかないとは、連邦の軍人がするべき事ではないな……。

ジオンとの戦いが困難を極める中、我々は素人まで動員して戦わなければならないとは、寒い時代になったものだな……。」

 

 

 

シーマ艦隊旗艦 リリー・マルレーン

 

「周辺に展開していたムサイ級が4隻にザクが20機かい。数としてはそれなりだけど、あの連邦の新型の性能を考えるとこれでも不安だねぇ。」

 

「連邦の新型はそれほどのものでありますか?」

 

「そうだよ、ドレン大尉。マシンガンを何発撃ち込んでもびくともしない装甲と、ヅダ並みの機動力を持った怪物だよありゃ。

おまけにビーム兵器を標準搭載しているときた。

予想外の事は起こるものとはいえ、こうも立て続けに起きるのは勘弁してもらいたいものだねぇ。」

 

「連邦がそこまで高性能な機体の開発に成功するとは……。にわかには信じられないところであります。」

 

「アタシもだよ。だが、目の前にそれがある以上、なんとか対応するしかない。

ルナツーへ逃げ込まれた時はどうしようかと思ったが、幸い連中の方からのこのこ出てきてくれた。

この機会を逃さずに仕掛けるよ。」

 

「しかし、大気圏突入のタイミングでの戦闘とは危険ではありませんか?」

 

「それは連中も同じさね。いくら連邦の新型といっても大気圏は突破できないだろう?

逆に此方は、ザクに大気圏突入用のG型装備を付けさせれば最悪そのまま地上に降りちまえば良い。

要は戦い方次第だって事さね。

連邦の素人どもに、モビルスーツの性能の違いが戦力の決定的差ではない事を教えてやりな!」

 

 

 

ジャブロー降下軌道

 

「くそ!ジオンの奴等め、部隊を散開させてホワイトベースを襲ってきやがる!こっちにチームで戦わせない気だ!」

 

ザクを迎撃するためにガンダム5号機で出撃したフォルド少尉が、ザクに向けてジャイアント・ガトリングガンの弾丸をばらまきながら叫ぶ。

 

その言葉通り、大気圏突入直前という非常識なタイミングで仕掛けてきたジオン軍は、ガンダムタイプが近づくと一個小隊3機が距離をとりながら応戦し、残りはガンダムを迂回してホワイトベースに向かう作戦をとっていた。

 

「ジオン野郎どもめ、踊る黒い死神に勝てないと踏んで母艦を狙う気か!左からもザクが抜けた!ユウ、カバーしろ!」

 

黒を基調としたプロトタイプガンダムを操りながら、5号機の右側をすり抜けてきたザクを相手どりながら、モビルスーツ隊の指揮官となったリド・ウォルフ少佐が指示を出す。

 

「これもまた、モルモットの役目か……。了解。対処する。」

 

グレーに塗装された地味な機体色であるものの、試験的にマグネットコーティングを施された事により最も高い運動性をもつG3が、先頭のザクめがけてビームライフルを放ち、その姿を火球へと変えた。

 

すると、敵の指揮官機らしき黄土色と紫に塗られたドムがマシンガンを撃ちながら接近すると、ビームサーベルの間合いギリギリをすり抜けてG3の背後へと回り込む。

 

「く、この動き…エースか!」

 

こうして先行した3機のガンダムが10機以上のモビルスーツを抑えていたものの、それでも10機近いザクが戦線を突破してホワイトベースへと近づいていた。

 

「後衛だとか言ってられんな、これは。ガンキャノンはホワイトベースの直援につけ。ジオンは対空砲の死角を狙って来るぞ!」

 

そう指示すると、ガンキャノン3機を率いて後衛についていたルース中尉も4号機を駆ってモビルスーツの迎撃にあたる。

 

だが所詮は1機であり、それを迂回したザクによってホワイトベースへの攻撃が始まった。

 

「弾幕薄いぞ!モビルスーツ隊はどうしているんだ!」

 

「奮戦していますが、ジオンのモビルスーツの数が多すぎます!何より応戦しているジオン機が時間稼ぎに徹しているようでなかなか撃破できないとの事です!」

 

「く…、このままではジャブローに降下するどころではないぞ?!」

 

「ブライト君、2号機とメガ・ビーム・ランチャーを出そう。」

 

「レイ大尉?!」

 

「2号機に4号機の代わりをさせ、4号機のメガ・ビーム・ランチャーで敵の母艦を直接叩く。そうすれば連中も下がらざるを得ないハズだ。」

 

「しかし、それではご子息を戦場に……。」

 

「……ここは戦場だ。やれる者がやれる事をやるしかない。それに…私は、息子と自分の作ったガンダムを信じている!」

 

 

 

やあ……諸君。ギレン・ザビである。

 

大気圏上空でルナツーを出発したホワイトベース隊とシーマ艦隊が交戦した。

 

最初はオデッサから大軍を打ち上げるか、親衛隊を率いて自分で迎撃に向かおうと思ったのだが、連邦の一部隊でしかないホワイトベース隊に大部隊を投入するのは無駄が多いし、逆に自分で行こうものならジャイアントキリングが得意な奴等に俺が殺られかねないのでやめておいた。

 

結果として、シーマ率いるモビルスーツ隊がガンダムを引きつけ、シャア率いる部隊がホワイトベースへの攻撃を行ったものの、シャアが増援で出てきたガンダムの相手をしている間に4号機のメガ・ビーム・ランチャーでムサイ2隻とモビルスーツ隊を凪ぎ払われて大損害を被り後退するはめになった。

 

ただ、我が軍も一方的に被害を受けた訳ではなく、シャアがメガ・ビーム・ランチャーを発射した直後の4号機を攻撃して撃墜。

 

また、ザクの攻撃によってガンキャノン1機が大気圏に突入して燃え尽き、ホワイトベースもまたジャブローへの突入に失敗して北米へと降下していった。

 

損害でいえば此方の方が大きいが、まあガンダムタイプを一機撃墜できただけでも良かっただろう。

 

北米のガルマに、間違ってもドップで出撃したりしないように連絡をとったのだが、「はは、ドップで前線に出るような指揮官がいるはずないではありませんか。からかわれては困ります。兄上。」などと言われてしまい、「お前だよ。」と思わず突っ込みたくなってしまった。

 

ガルマにホワイトベース隊への対応について確認したところ、突然持って来させた紙の束にコーヒーをこぼしはじめ、「見てください兄上。薄い紙でも枚数を重ねれば、コーヒーを総て吸い取ってしまいます。私はホワイトベースに対してこの戦法をもって対応するつもりです。」と、どこかで聞いた事があるような作戦だった。

 

物量による波状攻撃はホワイトベース隊に一番効果がありそうなので実施についての許可を出し、戦況の推移について適時報告するように告げると連絡を終えた。

 

この分ならガルマが最前線に出て行ったりはしないだろうし、シャアもまだ軌道上のリリー・マルレーンにいるので何の心配もいらないだろう。

 

さて、ゲルググがあれば2号機も撃破できたのですが…などとシャアが愚痴っていたので、急いで手元に届くように手配してやらねばならんな。

 

 

一一一一一一一一一一一一

 

 

side 連邦軍本部ジャブロー

 

「ゴップ将軍、ルナツーを出発したホワイトベースが軌道上でジオン艦隊に襲撃されたようです。」

 

「そうか……。サイド7を急襲した事といい、ジオンの連中はずいぶんとホワイトベースに御執心のようだな。レビルは何と言っている?」

 

「は……。レビル将軍からは、今の我が軍にホワイトベース隊を回収するための部隊を派遣する余力はない。申し訳ないが彼らには自力でジャブローに向かって貰う他ない。と、」

 

「まあ、今の我が軍はオデッサ作戦の実施に向けて全力を投じているからね。

ジムタイプの量産がなった今、数機の試作機を無理してまで回収する必要は確かにないのだが……。」

 

「では、このまま放置しますか?」

 

「そういう訳にもいくまいよ。サイド7での実験データは貴重なものだし、何よりジオンがホワイトベースに御執心ならば彼らには囮としての価値がある。

確かオーストラリアから撤退してきた部隊がモビルスーツへの転換訓練を受けていただろう。奴等を増援として送ってやれ。」

 

「かしこまりました。……オデッサ作戦、果たして上手くいくのでしょうか?」

 

「さてどうだろうね。我が軍の3割近くを投入し、ジオン最大の地上拠点を制圧する作戦だ。初期の混乱から立ち直り、モビルスーツの配備も進みつつある現在の我が軍ならば勝機は充分にあると思うが……。」

 

「が?」

 

「もし、万が一作戦に失敗した場合は我が軍の敗北も決定的になるなぁと思ってね。」

 

「それは、…。」

 

「エルラン君、君は麻雀を知っているかね?」

 

「ま、麻雀ですか?無論知っておりますが……。」

 

「そうか。私もよく勤務中に麻雀をするのだが、私なりの必勝法があってな。」

 

「必勝法…で、ありますか?」

 

「そうだ。それはな、どんなに手持ちがよくとも無理に大きな手を狙わないで小さな役でコツコツと上がってしまう事だ。」

 

「はぁ。」

 

「私は戦いも同じものだと思うのだが、我が軍はオデッサ作戦という乾坤一擲の大勝負を選んでしまった。

まあ、戦争をだらだら長引かせるくらいなら大勝負も悪くないんだが、万が一負けた時に備えて我々はどう動くべきなんだろうね?」



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58話 UC0079年10月 強襲、ランバ・ラル◼️

年末の休みで早く書けましたが、次の話は少し先になるかもしれません。

因みに麻雀については、緊張をほぐす為の雑談です。


キャルフォルニアベース

 

「これが噂の木馬か。まさかあの赤い彗星がたった一隻の連邦艦にてこずるとは思わなかったな。」

 

「そう言うなよガルマ。いや、北米方面軍司令官ガルマ・ザビ少将閣下とお呼びすべきかな?」

 

「やめてくれ、士官学校時代と同じガルマでいい。にしても君が送ってくれたデータを確認しているんだが、連邦の新型は凄いものだな。ジムタイプと似た外見なのに性能は段違いだ。」

 

「ああ、ジオン十字勲章ものであることは保証するよ。」

 

「ありがとう。だが、北米大陸の真ん中に降下した以上、連中は敵地で孤立した孤軍でしかない。

既に周辺の部隊に出撃を命じているので、そろそろ第一陣が接触する頃だろう。」

 

「流石に動きが早いな。だが、木馬に搭載されているモビルスーツは本当に手強い。

特にジムに似た機体は、戦艦並みの威力を持つビームライフルを装備していて非常に危険だ。注意してくれよ。」

 

「ああ、慎重にやるさ。」

 

「閣下、ハルトマン少佐率いるセイバードップ隊が木馬と接触しました!」

 

「わかった。すぐに指揮所に降りる。ではまたな、シャア。」

 

「ああ、宇宙から君の幸運を祈っているよ。ガルマ。」

 

「ガルマ閣下、木馬を目視により確認しました。山沿いを東に向けて進んでいます!」

 

「よし、そのまま背後から敵艦を攻撃せよ。分かっていると思うが、諸君の目標は敵艦の対空砲や砲台を潰して戦闘能力を削ぐことだ。なので無理はしなくて良い。」

 

「獲物を調理する前の下ごしらえという事ですな。了解しました。では、これより攻撃を開始します!」

 

 

 

北米 グレート・キャニオン近郊

 

「ちぃっ!また新手か!?ジオンのやつらめ!!」

 

ホワイトベースのモビルスーツ隊を指揮するリド・ウォルフは、西の空に現れたジオンの編隊を見て忌々しそうに睨む。

 

北米に降下して以降、ホワイトベースはジオン北米方面軍の脅威にさらされており、昼夜を問わないセイバードップの攻撃によってかなりの損害を被っていた。

 

「これでも喰らえ!」

 

遠方から対艦ミサイルを発射したジオン機に向けて、一緒に出撃したガンキャノンがビームライフルを放つ。

 

「カーク、無駄弾はやめとけ。この距離ではどうせ当たりはしない。」

 

その言葉通り、ジオンの航空隊は対艦ミサイルなどを用いたロングレンジ攻撃に徹しており、ガンキャノンが放った射撃はあえなく空へと消えていった。

 

「ですが少佐、これで何度目の襲撃だと思います?!」

 

「知らん。10までは数えていたが、面倒くさくなって数えるのを止めた。あまり神経質になるとハゲるぞ?

既に連日の戦闘でホワイトベースに乗っている避難民や、戦闘経験の少ないものがだいぶまいってきている。

まあ、それが連中の狙いなんだろうがな……。」

 

「ウォルフ少佐、避難民の代表が相談したい事があるとブリッジに押し掛けてきています!至急艦内に戻ってください!」

 

「いわんこっちゃない……。さていったいどうなる事やら。」

 

 

 

ホワイトベース ブリッジ

 

「ワシらをこの先にあるセント・アンジェで降ろしてもらえんかの?そこの出身の者が何名かおるのでその者達の縁者を頼ろうと思うのじゃ。」

 

「この辺りは今ジオンの勢力圏なんですよ!ここで降りるなんて危険です!」

 

「少尉殿のような連邦の軍人さんからすればそうかも知れんが、ワシらのような民間人からすればジオンも連邦も大してかわらん。

北米大陸を治めておるジオン軍の悪い噂は聞かんし、むしろこの船に乗っとる方がよほど危険じゃ。」

 

「それは……。」

 

「いつジオン軍の攻撃を受けるかビクビクしながら生活するのはもう限界なんじゃよ。

ワシらが降りれば船の物資にも余裕ができるじゃろうし、あんた達にとっても悪い事ばかりではあるまい?」

 

「いいじゃねぇか、ブライト。降ろしてやろうぜ。」

 

「少佐殿?!しかし……。」

 

「それを口実にして、追っ手のジオンと一時休戦すれば良い。そうすれば乗組員の連中を少しだが休ませてやれる。それに……」

 

「それに?」

 

「……避難民と一緒に俺がプロトで地上に降りてジオン追撃隊を待ち伏せする。なぁに、休戦終了と同時にドンパチをはじめれば何の問題もない。」

 

「……わかりました。国際救難チャンネルでジオン軍につなげ、一時休戦を申し込む。」

 

「ここで追撃部隊を叩ければずいぶん楽になるハズだ。上手くやろうや。あと、届くかわからんがカナダの友軍に暗号通信を送っておきな。」

 

 

 

やあ、諸君。久しぶりだね。北米方面軍司令を務めているガルマ・ザビだ。

 

今日は北米大陸の戦いという事で、兄上に代わって私が話をさせて貰っている。

 

ホワイトベースが北米大陸に降下して以降、航空隊による波状攻撃によって木馬を消耗させていたのだが、グレート・キャニオンを越えた辺りで木馬から避難民を降ろすため一時休戦の提案があった。

 

せっかく消耗させた敵に時間を与えるのはどうかと思ったが、避難民が乗っているのであれば人道的にそれを無視する事はできないし、此方としても戦場に向かわせているランバ・ラル隊や「王者」を配置するのに時間が必要だったため、木馬の提案に応じる事にした。

 

僅かな休戦時間は木馬の進路上に部隊を配置して、避難民の受け入れについて手配をしている間に終了し、またすぐにホワイトベースとの戦いが始まった。

 

2個大隊、24機ものセイバードップによる先制攻撃から始まった戦いは激戦を極めた。

 

セイバードップ隊の攻撃によってエンジンを損傷して高度をとれなくなったホワイトベースへ、待ち伏せていたザクとマゼラタンクを中心とした地上部隊が襲いかかる。

 

しかし、ホワイトベースに搭載されている連邦の新型はどれもが驚異的な戦闘力を備えており、待ち伏せしていた18機のザクと、30両ものマゼラタンクはすぐに苦戦を強いられる事になった。

特に木馬と別行動をとっていた連邦の黒い機体によって背後から奇襲を受けると、何とか持ちこたえていた我が軍は一気に崩れ、戦況は大きく劣勢になった。

 

踊るように戦場を舞う黒い機体の活躍は凄まじく、一撃必殺の威力を持つビームライフルによって3機のザクを仕留めると、バズーカやビームサーベルによってマゼラタンクを蹂躙した。

 

連邦の新型がまさかこれほどの戦闘能力を持っているとは、シャアから情報を貰っていなければ危なかったところだ。

 

黒い機体の襲撃を受けた我が軍は、連邦同様に伏せていた新たな部隊を投入する。その初手となったのは「甦りし王者」と呼ばれたデメジエール・ソンネン少佐が操るモビルタンク「ヒルドルブ」である。

 

密かに連邦軍の背後に回り込んだソンネン少佐は、目の前で味方が蹂躙される中で息を潜めると、黒い機体がマゼラタンクにビームサーベルを突き立てた瞬間を狙ってAPFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)を解き放った。

 

ザクマシンガンをものともしない強度を誇る連邦の新型だったが、ビッグトレーの装甲すら易々と貫通するAPFSDSを至近距離から受けては耐えられるハズがなかった。

 

また、ヒルドルブの砲撃と同時にランバ・ラル率いるモビルスーツ隊が連邦に向けて襲いかかった。

 

ランバ・ラル隊はモビルスーツこそグフとザクで構成されておりそれほど強力という訳ではなかったが、開戦以降各地で転戦を繰り返してきた精鋭揃いであり、その巧みな連携により後方支援に当たっていたガンキャノン1機が瞬く間に撃破された。

 

黒い機体を撃破された上にランバ・ラル隊による奇襲を受けて大混乱に陥った連邦軍は、グレーに塗られた機体が殿を務めながら後退を開始する。

 

グレーの機体は、ヒルドルブによる砲撃と優れた連携を誇るランバ・ラル隊に囲まれながらも孤軍奮闘して2機のグフと3機のザクを撃破したものの、やはり多勢に無勢であり、ラル中佐が操るグフカスタムのヒート・ロッドを受けて動きが停止した瞬間にヒルドルブによる砲撃を受けて機体を中破させた。

 

これによって、戦いの勝敗が決した。私がそう思った瞬間だった。

 

我が軍の航空隊がホワイトベースを攻撃するために薄くなっていた防空網を突破し、カナダから4機のミデアが飛来したのである。

 

そこから降下してきた12機ものジムタイプが参戦すると戦況はまた一気に連邦軍の優勢となり、これ以上の交戦が困難となった我が軍は後退を余儀なくされたのであった。

 

……く、あと一息という所だったのに…。

 

だが、木馬とて無傷ではない。新型機とガンキャノン1機を失い、船もまたかなりの損傷を受けている。

ランバ・ラルに高い機動力を持つドムを中心とした増援を送れば撃破する事は十分に可能だろう。

 

残念ながら木馬の付近にドムの部隊はいないので、兄上達に相談して軌道上のアクシズから送ってもらうようにしなければ。

 

 

一一一一一一一一一一一一

 

 

side ザビ家定例会議

 

「申し訳ありません兄上。木馬の戦力は予想以上であり、ランバ・ラル隊は手痛いダメージを受けてしまいました。今の北米大陸での戦況で木馬を討ち取るのは困難であり、戦力を補給をお願いしたいと思います。」

 

「ほう。ランバ・ラルをもってしても苦戦するとはな……。木馬の力はやはり侮れんな、ガルマよ。で、どれくらい戦力が欲しいのだ?」

 

「ランバ・ラルが得意なゲリラ戦に持ち込むため、アクシズから高い機動力を持つドムを6機ばかり送って頂ければ十分撃破できるかと。」

 

「フム、ドムを6機か。まあそれくらいであれば構わんだろう……。」

 

「お待ちください。総帥!重モビルスーツであるドムはいまだに貴重です。それだけの戦力があるのならばより効果的な使い道があるはず!

ランバ・ラル隊へのドムの支給はお取り止めください!」

 

「キシリアか……、わかった。貴様の意見をくみドムを送るのは見送ろう。」

 

「な、本気ですか兄上?!」

 

「キシリアの言うとおりドムは貴重だからな。以上で定例会議を終了する。

言いたい事がある者は個別に連絡してこい。以上だ。」




ドムは送らない。(なにも送らないとはいってない。)


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59話 UC0079年10月 荒野を駆ける死神の列◼️

北米・北米方面軍陣地

 

「ゲルググ1機とドム・トローペンを6機、確かに引き渡したよ?ラル中佐。」

 

「ああ、確かに受領したぞ、シーマ大佐。

しかし私の要望したドムは送れなくなったとガルマ様から聞いていたが、まさか最新鋭機であるゲルググやドムの改良型であるドム・トローペンを送ってもらえるとは驚きだ。」

 

「ギレン総帥は木馬の事をずいぶんと気にかけておいでのようでね。

アクシズでゲルググの完熟訓練をしていた者は、地上での運用データ収集のために木馬との戦いに参加せよとの仰せなのさ。

なので次の木馬退治には、私の隊と黒い三連星がお供させて貰う事になったよ。」

 

「ガイア中佐達も来ているのか?」

 

「ああ。今リリー・マルレーンの格納庫で機体の最終調整を行っているよ。

私の隊のゲルググMが3機にガイア中佐達の高機動型ゲルググが3機、それに赤い彗星用にチューニングしたゲルググ・インペリアルも1機ある。

パイロットの腕前も考えれば、ちょっとした基地くらい簡単に落とせるほどの戦力だよ?」

 

「そいつは豪勢だな。私の隊も今回新型機を補給された事で、戦力が大幅に強化されている。これならば次の戦いで木馬を討つ事も可能だろう。」

 

「ところで、次の作戦はもう決まっているのかい?」

 

「ああ、この先のシアトルに待ち伏せに適した場所がある。

私とソンネン少佐の隊でそこに向けて木馬を追いたて、近づいたところを隠れていた部隊で奇襲するといった作戦だ。」

 

「なるほどね。なら待ち伏せするのはアタシの隊が受け持とうか。」

 

「そうか、シーマ大佐になら安心してガルマ様を任せられるな。宜しく頼むぞ。」

 

「……ガルマ様を任せるってなんの話だい?」

 

 

 

北米・シアトル近郊

 

「よし、木馬を目視で確認したぞ。全車両砲撃準備!」

 

木馬の姿を確認したソンネンの指示により、北米大陸各地からかき集められた量産型ヒルドルブが一斉に砲撃態勢に入る。

 

30cm砲を装備した巨大な車体は何処か前時代的な印象だったが、その巨体が並んで作り上げる砲列は、一度見れば二度と忘れられないほどの威容を誇っていた。

 

「ソンネン少佐、前回は少佐とヒルドルブの力に助けられた。今回も宜しく頼む。」

 

「へへ、青い巨星にこいつの力を認めてもらえるとはうれしい限りだねぇ。ま、大船に乗ったつもりでいてくれや。」

 

「うむ、期待させてもらおう。帰ったら美味い水でも奢らせてもらうよ。」

 

「よし、全車両聞こえたな?帰ったら飲み代は全てラル中佐が持ってくださるそうだ。その分だけ、今からきっちり働くぞ。

まずは曲射榴弾で木馬をびびらせる。全車、撃ち方始め!」

 

その言葉と同時に、横一列に並んだヒルドルブの巨大な30cm砲が火を吹き、そこから木馬に向けて巨大な榴弾が一斉に放たれる。

 

遠距離から放たれた榴弾の大半はホワイトベースに当たらなかったものの、ソンネン少佐の放った1発は見事に木馬の第二艦橋付近へと命中し、その巨体を大きく揺るがせた。

 

「ふん、流石はソンネン少佐だ。この勝機、逃すわけにはいくまいて!ランバ・ラル隊、いくぞ!」

 

脚部の推力を強化されたランバ・ラル専用の青いゲルググは、時間的な制約はあるもののドムと同様にホバーによる地上滑走を可能としていた。

 

クランプ達が操るドム・トローペン2個小隊を引き連れて戦場に現れた青い機体は、ホワイトベースの放つ必死の対空砲火をローラースケートでも履いているかのように滑らかな動きで避けると、手に持ったラケーテン・バズを木馬めがけて解き放つ。

 

360mmの砲口から放たれた巨大な無反動ロケットは、ホワイトベース左舷のメガ粒子砲に直撃すると巨大な爆炎をあげ、その場に破壊と衝撃を撒き散らした。

 

「よし、各機続け!まずは木馬の武装を潰すのだ!」

 

 

 

ホワイトベース・第一艦橋

 

「先日ウォルフ少佐がやられたジオンの大型戦車による攻撃です!他にもモビルスーツを6、いや7機確認!ドムタイプが6機に、…1機は未確認の新型です!」

 

「新型の青い機体…まさか青い巨星か?!く、ジオンがこれほどの戦力を送り込んでくるとは……。

やむを得ない。私がホワイトディンゴ隊を率いて迎撃に出る。

ホワイトベースはこの先にあるシアトルの街に避難していてくれ。」

 

「レイヤー大尉!?我々も一緒に戦います!」

 

「ブライト少尉、気持ちはありがたいがホワイトベースは既に満身創痍だ。

先日の補給の際に応急処置をおこなったが、所詮は一時しのぎでしかない。これ以上大きな損傷を受ければ動けなくなってしまう。」

 

「ですが!」

 

「何、私のジーラインであれば青い巨星の相手も務まるだろう。一応フォルド少尉の5号機と2号機、それにジム一個小隊を予備として残しておく。」

 

「俺は出なくても良いのか?レイヤー大尉」

 

「フォルド中尉の5号機は本来宇宙用と聞いている。無理に出撃しても高機動のドムタイプの相手は厳しいだろう。ホワイトベースの護衛を頼む。」

 

「わかった。負傷したユウ大尉が損傷した3号機と一緒にミデアで行っちまった以上、あんたがモビルスーツ隊の先任だ。指示には従うさ。」

 

「すまないね。アムロ君の2号機も、もしもの時はホワイトベースを頼む。」

 

「……。僕は出なくても良いんですか?」

 

「ああ。サイド7や大気圏突入の時は緊急事態という事で戦ってもらったようだが、いくらレイ大尉のご子息とはいっても君は一般人だ。できれば危険な事はさせたくない。」

 

「レイヤーさん……。」

 

「ぐ…。ブライト艦長!敵のドムタイプによって右舷のメガ粒子砲もやられました!敵戦車からもまた砲撃がきます!」

 

「くっ…、ホワイトディンゴ隊、緊急発進!私もすぐに出る!」

 

 

 

やあ、諸君。こうして続けて君たちと話せる事を嬉しく思う。北米方面軍司令を務めているガルマ・ザビだ。

 

君たちとしてはそろそろ兄上の話を聞きたいところだろうが、もう少しだけ私の話につきあって欲しい。

え?別に仏頂面の眉無しの話なんて聞きたくない?

 

……兄上はああ見えて繊細なんだ。

 

以前メイ嬢と喧嘩して同じような事を言われた時などは、ショックのあまり1週間ほど部屋に引き籠もっていた位だ。

 

今の戦局でそうなられると困るので、そういった本当の事は諸君の心の中にしまっておいてあげて欲しい。私からのお願いだ。

 

さて、前回の会議の後にドムの支給について兄上に直談判したところ、会議で決めた通りドムは支給されないものの、代わりに最新鋭機であるゲルググとドムの改良型であるドム・トローペンを支給してくれ、更に援軍まで派遣して頂ける事になった。

 

あまりに簡単に兄上が意見を変えられたので私が戸惑っていると、どうやら私が直談判してくる事を見越しての決定のようだった。

 

兄上もお人が悪い…。

 

そこで何故そんな回りくどい事をしたのか兄上に尋ねてみたところ、姉上に関するある疑惑について聞かされる事になった。

 

……。この疑惑についてはこの場では詳しくは語れないものの、兄上から示された証拠は姉上の潔白を信じる事を不可能にするものであったとだけ言っておこう。

 

さて、気を取り直して木馬との戦いについて話そう。

 

ラル中佐とソンネン少佐の部隊による襲撃を受けたホワイトベースは、ジムタイプを迎撃のために出撃させると、予想どおり私とシーマ大佐が待ち伏せているシアトルの町へと逃げ込んできた。

 

え?北米方面軍の司令官が自ら戦場に来ていいのかだって?

 

……。本来であれば指揮官が前線に出るべきではない事ぐらいはわかっている。

 

だが、イセリナとの結婚を父上に認めて貰うには、私が木馬を自らの手で倒す位の事をしなければならないのだ!

 

まあ、ギレン兄さんが複数の女性と関係をもった上にロリコン疑惑があったりして女性関係が酷すぎるので、普通に父上に相談すれば案外あっさりと認めてくれるかもしれないが、イセリナの伴侶たるに相応しい手柄を自分の手であげたいと思う気持ちは、やはり私もザビ家の男であるという事なのだろう。

 

それに、シャアから送られてきた情報を基にシミュレーションした結果、木馬を仕留めるのに最適な兵器が、私の専用機であるギャンエイトである事がわかっていた。

 

戦艦の主砲に匹敵する威力をもったギャンエイトのビームキャノンは、強襲揚陸艦でしかない木馬の主砲を明らかに上回っており、ドーム内に隠れたリリー・マルレーンから有線ケーブルでエネルギー供給を受ける事で、ビームキャノンの速射を可能にしていた。

 

更に増援として兄上が送ってくれた黒い三連星やシーマ隊の操るゲルググは連邦の新型にも負けない性能をもっており、後は木馬が網にかかるのを待つだけの状況になっていた。

 

「大丈夫…。木馬に勝てる戦力は十分に揃えたハズだ……。私は必ず木馬を仕留めてみせる…!」

 

「ガルマ、焦りは良くないな。失敗を恐れる必要はない。もし失敗した時はただ認めて、次の糧にすればいいのだ。戦いはこの一戦で終わりではないのだから。」

 

……。直衛についていたシャアの一言で、私は自らが冷静さを失っていた事に気がつく。

 

そう、戦いはこの一戦で終わりではないのだ。

仮にこの場で木馬を逃がしたとしても、ニューヤークを一度失陥した時と同じようにまた挽回すれば良い。

 

「……ありがとう、シャア。私は良き友をもった。」

 

士官学校で得たものは多いが、やはり一番はこの得難い友人を得られた事だろう。

 

私は本当に良い友をもった。

 

「勝利の栄光を君に!」

 

シャアが言ったその言葉に導かれるように、木馬が此方に向けて近づいてくる。

 

開戦の時はすぐそこまで近づいていた…。

 

 

 

「フフフフ、ガルマ、良い友をもったのは私の方だ。坊っちゃんではあるが、君という良いライバルがいたからこそ、今の私がいるのだよ。」

 

 

一一一一一一一一一一一一

 

 

side アムロ・レイ

 

 

「うわっ、またビームが来ます!」

 

そんなブリッジからの通信が入った直後、ホワイトベースがまた大きく揺れる。

 

敵のモビルスーツ隊から逃げる為に入ったシアトルでホワイトベースを待ち受けていたのは、ジオンの青色のモビルスーツによるビームでの攻撃だった。

 

「あれは…いかん!ビームでザニーを盾ごと破壊した機体だ!ブライト少尉、早くここから逃げるんだ!」

 

「といってもレイ大尉、後ろからは青い巨星が追ってきているんですよ?!何処へ逃げろと言うんですか!」

 

「くっ…。逃げれないなら何とかしてあの機体を倒すしかない!本艦の武装は?!」

 

「先ほどの襲撃で左右のメガ粒子砲と主砲を損傷しました。

右舷のミサイル発射管もそれ以前に破壊されており、生き残っているのは左舷のミサイル発射管と対空砲位のものです。」

 

「そんなものであの機体を倒せるハズないだろう!……モビルスーツを出す他ないな。」

 

混乱してスイッチが入ったままの無線が、今ホワイトベースが置かれた状況の悪さを教えてくれる。

 

このままだと不味いぞ…!

 

「ブライト艦長!新手のモビルスーツです!黒く塗られたジオンの新型が3機、間もなく接触します!」

 

「フォルド少尉を出して応戦させろ!青い機体についてはジム隊を向かわせる。」

 

「アムロのガンダムもジムと一緒に青い機体の撃破に行ってくれ。」

 

「レイ大尉?!」

 

「おそらく確認できていない護衛のモビルスーツがいるはずだ。ジムだけで撃破するのは難しいだろう。あの機体を倒さなければ我々に未来はない。アムロ頼めるか?!」

 

サイド7、大気圏突入に続いて3回目の実戦だ。怖くないハズがない。だけど…。

 

何とかしてジオンを倒す他に僕たちが生き延びる道はない。

 

「……わかった。やってみるよ父さん。」

 

父さんにそう答えると、ガンダムをカタパルトへと移動させる。

 

「アムロ、行きます!」

 

カタパルトが起動して強烈なGと伴に機体をホワイトベースの外へ射出させる。

 

何とか機体を無事に着地させると、続いて射出された4機のジムと一緒にビームで攻撃してくる機体へと向かう。

 

カタパルトで空を飛んでいる最中に一瞬だけフォルド少尉が戦っているところが見えたけど、明らかに劣勢だった。

急いで青い機体を倒して援護に向かわないと…。

 

「サッサと終わらせてジャクリーンちゃんの番組を聴かなくちゃいけないからな。アムロ君よろしく頼むよ。」

 

そう言って明るく声をかけてくれるのは、ジム隊を指揮するマクシミリアン少尉だ。

 

軽いお調子者といった感じだけど、着実に任務をこなすベテランだ。

 

「はい。よろしくお願いします少尉。」

 

そんな受け答えをしていると、後ろから突然ビームと弾丸が降り注ぎ、後方を警戒していたジムが破壊されてしまう。

 

後ろから敵?!

 

見れば黄土色に塗られた新型機と灰色に塗られた2機の新型が、此方へ向けて攻撃を開始していた。

 

「こいつはやばいぜ!冗談ばかりも言ってられなくなった!アムロ君、ここは俺たちに任せて青い機体を頼む!」

 

「でも!」

 

「こうしている間にもホワイトベースはビームでの攻撃を受けているんだ!頼む!」

 

「…わかりました。青い機体を倒してすぐに戻ります!どうかご無事で!」

 

そう答えると僕はガンダムを青い機体に向けて走らせる!

 

後少しで目標がビームライフルの射程に入る。そうなれば一撃で倒して…。

 

そんな事を考えた瞬間だった。

 

殺意のようなものを感じた僕がガンダムを左に跳躍させると、先ほどまでいた場所をビームの光が通過していった。

 

く、また新手か?!

 

ビームが発射された地点を見れば赤く塗られたモビルスーツがライフルのようなものを此方にむけて立っていた。

 

赤いモビルスーツ…まさか大気圏突入の時に戦った赤い彗星?!

 

そんな事を考えながらガンダムのビームライフルを赤い機体へ向けて放つと、それをかわした赤い機体はお返しとばかりにビームライフルを放ってくる。

 

ジオンもビームライフルの開発に成功していたなんて…!

 

「動きが速い…!こいつ、ザクやこの前戦ったドムとは全然違うぞ?!」

 

頭部のバルカンで牽制しながら、ビームライフルを放って何とか倒そうとするものの、此方の攻撃を軽やかなステップで回避している赤い機体の性能はガンダムに匹敵するほどのものだった。

 

そのあまりの動きの速さに僕は姿を見失わない為に必死にガンダムを動かす。

 

…!また射撃がくる!

 

何故かそんな気配を感じてシールドをそちらに向けると、いつの間にか此方に向けられていたビームライフルがシールドへと直撃する。

 

幾度となく助けられてきた、この直感のようなものがなければ危ないところだった…。

 

だけどこのままじゃ不味いぞ?!

 

僕の焦る気持ちとは裏腹に、赤い機体は物陰や遮蔽物を旨く利用して此方の攻撃を回避し、逆に赤い機体からは正確に此方を捉えた射撃が飛んでくる。

 

どうする?!

 

そう僕が迷った瞬間、ひときわ大きな光が空を走り、その先にあったホワイトベースのエンジンへと突き刺さった。

 

エンジン付近で大きな爆発をおこしたホワイトベースはそのまま高度を保てなくなったのか、一気に地上へと落下していく。

 

「そんな…、ホワイトベースが…っ!!」

 

ホワイトベースへの攻撃に気をとられていた隙にガンダムへと接近していた赤い機体は、いつの間にか抜いていた薙刀のようなビームサーベルで此方へと斬りかかってくる。

 

咄嗟にビームライフルを投げつけて初撃を回避したものの、すぐに放たれた二撃目で左腕をシールドごと破壊されてしまう。

 

その間にバルカンを連射しながら何とか右手で背中のビームサーベルを抜くと、赤い機体は一気に距離をとってまたビームライフルによる攻撃を開始した。

 

「くっ…。接近戦をしないつもりか!何とかしないとこのままじゃもう…。」

 

赤い機体から立て続けに放たれる光芒を、機体を激しく動かして何とか回避しようとしたものの、左腕を失った事でバランスを崩してしまいガンダムの頭部を破壊されてしまう。

 

「く、くそ。

まだたかがメインカメラをやられただけだ!」

 

そう口にして心を鼓舞してみるものの、武装と頭部と左腕を失った機体で、これ以上戦えるとは自分でも思っていなかった。

 

「ガンダム!聞こえるか!ガンダム」

 

その時、突然ホワイトベースの父さんから通信が入った。

 

「此方、ガンダムです。」

 

「ああ…、まだ無事だったか…。本当に良かった……。

ホワイトベースはジオンに降伏した。アムロもガンダムを降りてジオンへと降伏しろ。」

 

「ジオンに降伏だって?!」

 

「ホワイトベースのエンジンは完全に大破して地面へ不時着し、既に敵の黒いモビルスーツが艦にとりついている。

モビルスーツ隊も大半が撃破されたか戦闘不能になってしまい、もはや戦う手段がないのだ…。」

 

「でもそれじゃ父さんたちが……。」

 

「……私達は南極条約に従ってジオンに捕虜として扱われるだけだ。命まではとられはしない。

いままでご苦労様だったな、アムロ。無事で良かった…。」

 

「父さん…。」

 

その後ガンダムから降りた僕は、目の前の赤い機体へと降伏し、ジオンの捕虜として父と一緒に捕らえられる事になるのだった…。

 

一一一一一一一一一一一一

 

どうでも良いQ&A

 

Q ドワッジやイフリート、ケンプファーが選択にないよ!

 

A 作者もドワッジやイフリート、ケンプファーは大好きなのですが、特に開発した描写も無しにポンポン新型を出すのは好きではないもので選択に入れませんでした。

 

特にドワッジはドム・トローペンを既に出していて、新たに開発する必要性をあまり感じなかったもので…

 

似たコンセプトのドワッジを開発している余裕があるなら大量にドム・トローペンを量産した方がよくね?的な考えによるものです。

 

戦いは数なのですよ!でも、ルーデル専用イフリートとか出したいなぁ。でも、あの人射撃の方が得意そうだし…

ルーデル専用ケンプファー?

 

因みに謎改装された重装アッグは多分出てきません。私がもとネタをわからないので…

 

 

Qセントアンジュは無事?

 

Aコロニーも落ちていないのでもちろん無事です。特に街の治安維持にはサイド共栄圏からの義勇兵がついているので士気も高くて治安も悪くなく、ガルマの政策によってホワイトベースよりはよほど安全です。

 

 

Qキシリアは何故ドム補給に反対した?

 

Aメタな話をするとギレンの野望、ジオン編である意味必須のイベントだからですが、作中的には連邦からホワイトベース隊を無事に脱出させたいとの意向を聞いていたためです。

 

キシリア様嫌いの方はお怒りになるかも知れませんが、既にGCB的には破滅へのカウントダウンを食らった状態なので、もう少しだけお付き合いください。

 

 

Q ガンダム、弱くね?

 

A 作者の力量不足でガンダムの強さをあまり描写できないのが最大の理由ではありますが、ガンダムクソ解説などにあるように、ジムとガンダムにそこまで大きな性能差はないとの前提で書いています。

 

まあ装甲や反応速度はガンダムの方がずっと良いのでしょうが、ビーム兵器でドンパチやるとなると装甲はあまり意味をなさないでしょうし。

 

ガンダムが凄いのではなく、中の天パがヤバいのです。

 

 

Q じゃあ天パ弱くね?

 

A 今回はまともな軍人が多くホワイトベースに乗っていたので民間人であるアムロをあまり戦闘に出したがりません。

 

なのでアムロの戦闘経験としては、サイド7内部、大気圏に続いて今回が3回目です。

原作的にはガデムと戦っている辺りの戦闘経験です。

 

その状況でシャアのゲルググと戦っていればこんな感じになるのではないでしょうか?

 

 

Q 他の人達の戦闘描写がないよ!

 

A 作者の力量不足で書けないのでご勘弁ください。もし旨く書けたら外伝として追加していきます。

 

他の人達の戦闘を書いてくださる方募集中

 

なおざっくりとした戦闘結果

 

ランバ・ラル隊 vs ホワイトディンゴ隊

 

投入戦力(戦闘結果)

 

ランバ・ラル隊

ゲルググ×1(小破)

ドム・トローペン×6(大破1、中破2)

ヒルドルブ×1

量産型ヒルドルブ×4(小破2)

 

ホワイトディンゴ隊

ジーライン×1(大破)

ジム×7(撃破2、大破3、中破2)

ガンキャノン×1(大破)

 

レイヤーのジーラインがランバ・ラルのゲルググを何とか押さえていたものの、ヒルドルブ型5両の集中砲火を食らったガンキャノンが大破して最初に沈黙。

 

そのままドムと戦いながらヒルドルブの砲撃を受けるはめになったジム隊が劣勢になり、無理にカバーしようとしたレイヤー機がランバ・ラルの攻撃をうけて大破、なお今回もレイヤーは無事に生き延びた模様。

 

戦闘中の一言

「ドムとは違うのだよ!ドムとは!」

 

 

ガンダム5号機 vs 黒い三連星

 

ガンダム5号機×1(大破)

 

高機動型ゲルググ×3(損傷なし)

 

本来宇宙用であるガンダム5号機で、遮蔽物やホワイトベースの対空砲火を活用して時間を稼ぐものの高い技能と連携をあわせ持つ黒い三連星の操る高機動ゲルググに終始圧倒され、ジェットストームアタックによって撃破される。

なお、機体が大破ですんでいるのは後で機体を調べる為に意図的に胴体を残されたため。

 

戦闘中の一言

「ガイア、オルテガ、ジェットストリームアタックをかけるぞ!」

 

「マッシュ、それは俺のセリフだ!」

 

 

シーマ隊 vs ジム小隊

 

シーマ隊

ゲルググM(指揮官用)×1(無傷)

ゲルググM×2(無傷)

 

ジム小隊

ジム×4(撃破3、大破1)

 

シーマとアンディ、リカルドの手によってマイク率いる4機のジムが虐殺される。以上

 

他の可能性があるとでも?

 

戦闘中の一言

「こちらマイク!こりゃだめだ。脱出する!」



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60話 UC0079年11月 オデッサ作戦①◼️

ちょっと短めですが形になったので投稿させて頂きます。感想で頂いた使えそうなネタを幾つか使わせて頂きました。


南米・連邦軍本部ジャブロー

 

「ゴップ将軍、北米を進んでいたホワイトベース隊がジオンに倒されました。」

 

「ほう…それは残念だね、エルラン君。増援として送り込んだホワイトディンゴは間に合わなかったという事かね?」

 

「いえ、増援は間に合ったのですが、ジオンのホワイトベースへの執着が我々の予想以上だったようで、多数のエースと新型機を投入され防ぎきれなかったようです。」

 

「ほう、ではジオンの目を北米に向けさせる囮としては成功したと言うことかな。」

 

「はい。また、北米方面軍が増援を送り込んだ際に、V作戦のデータと損傷した3号機の回収に成功しました。現在、ジャブローに向けて輸送中であります。」

 

「一体とはいえ、例の教育型コンピューターを搭載した機体を回収できたか。それは急いでデータを解析させねばならんな。」

 

「はい、オデッサ作戦が終わる頃には解析したデータで作った新OSが完成していると思われます。

それとゴップ将軍、ひとつお耳に入れておきたい事が。」

 

「?何だね?」

 

「ジオンの情報提供者についてなのですが、どうやらジオン内部で内通を疑われているようです。」

 

「ほう……、確かな情報なのかね?」

 

「はい。……極秘裏に長男から私にコンタクトがありました。『貴様がキシリアのところと情報をやりとりしている事は知っている。』と。」

 

「それは…致命的ではないか。」

 

「は、ただ、あちらからの要望は、終戦に向けた交渉の窓口となって欲しいとの事でありました。」

 

「……ふむ。彼女には色々と世話になったが、この辺りが潮どきという事かな。

それに交渉の窓口については此方もちょうど欲しかったところだ。

オデッサ作戦の結果を見てから長男との交渉に入る事にしよう。」

 

「オデッサ作戦の情報についてはいかがいたしましょう?予定では彼女に北米方面への陽動に関する情報を流す予定でしたが。」

 

「それはそのままで構わんよ。彼女からの情報通りに我が軍による攻撃があれば、あちらも何が正しいのかわからなくなって混乱するだろうからな。その隙を突けば良い。」

 

「は、ではそのように処置させて頂きます。」

 

 

 

やあ…諸君。ギレン・ザビである。

 

キシリアから北米方面軍への大規模攻勢の情報が入ったのでてっきり連邦によるオデッサ作戦へ向けたフェイク情報かと思って無視していたのだが、その情報通りにジャブローとカナダの連邦軍による北米大陸への侵攻が始まり、現在ガルマがそれへの対応に追われている。

 

いや、だってガルマにゲルググを増援として送った事に対する嫌みと一緒に伝えられたキシリアの情報ほど信用できないものもないでしょうよ?

 

お陰でフロリダとカリフォルニアへの連邦軍の上陸を許してしまい、それにあわせて始まった連邦軍による攻勢によって北米大陸の状勢は一気に慌ただしくなっていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

まったく、捕らえたホワイトベース隊の人員や機材が無事にオデッサに到着して一息ついたと思ったらこれだよ……。

お陰で予定していたガルマへのジオン十字勲章授与式が延期になってしまった。

 

まあガルマとしては父上にイセリナ嬢との関係を正式に認めて貰えただけで十分だったようだが、私としては父上がギレンもガルマのように女性関係をしっかりしてくれていれば私の髪ももう少し残っていただろうにと言っていたのが気になった。

 

父上、どのみち貴方の髪はお亡くなりになる運命なのです。

 

後は、オデッサに到着したホワイトベース隊のクルーと面会した俺がガンダムのパイロットが天パだった事を知って驚愕していると、たまたま居合わせたララァが天パに「…きれいな目をしているのね。」なんて言いながら近付いていった時はどうしようかと思った。

 

まあ、その直後に「フフフ、でも貴方は来るのが遅すぎたの。私はもうこの人の為に生きると決めているからごめんなさいね。」と言って私の隣に戻ってきたので不安はすぐに消える事になるのだが。

 

諸君…そんなに石を投げないで貰えるかな。

 

アムロの処遇については、最初はテストパイロットとして我が軍のモビルスーツ開発に貢献して貰おうと思ったのだが、せっかく父と一緒に捕らえたので、ホワイトベース隊のクルーの待遇改善を条件に親子ともども我が軍の新型機開発に協力して貰う事にした。

 

テム・レイは最初は我々への協力について難色を示したものの、ノイエ・ジールやアプサラスといった我が軍の新兵器を見せたところ、溢れる研究者魂を抑えきれなかったようで、アムロ以上に乗り気になってモビルスーツ開発に励んでくれるようになった。

原作でも最後までガンダムのパーツを作っていた辺り、その本質は軍人というよりは技術屋なんだろう。

 

残りのホワイトベース隊については、アムロとの取引もあるので戦闘に関与しなかったカイやハヤトといった純粋な民間人については調書をとった上で解放し、フォルド中尉やブライトといったクルーについては、高級ホテルを改修した上級士官用の捕虜収容所へ入れて連邦への忠誠心が下がるのを待つ事にした。

レビルの件もあって警備はこれでもかというくらい強化してあるので、そう簡単には逃げられないだろう。

 

 

話が横道に逸れてしまったな……。今はホワイトベースの事より北米大陸への対応についてだ。

 

キシリアの情報が正確だとすると、次はベルファストに集結している連邦の大軍が、北米大陸東海岸を埋め尽くす事になる。

 

 

【挿絵表示】

 

 

もしそうなった場合、現有戦力だけで北米大陸を防衛するのは難しくなるので、そうなる前に北米大陸へ増援を送る必要があるのだが、原作を知る身としてはオデッサ作戦の事がどうしても頭をよぎる。

 

そんな状況でキシリアからは「どうされたのですかギレン総帥?前回は私の反対を押し切って増援を送られたのに、今回は北米へ増援を送られないので?」とか通信で煽られるし……。

 

ホワイトベース隊をガルマが仕留めたという連絡を受けて露骨に狼狽していた癖に後で覚えていろ(怒)

 

……まあ良い。予定とは異なるが、オデッサに駐留している戦略機動連隊と戦略海洋軍の主力を北米方面へ移動させて万が一の事態に備えさせよう。

 

連邦の奴らがどう動こうと、既に我が軍の勝利への道程は整っているのだから。

 

 

 

一一一一一一一一一一一一

 

 

 

side ヨハン・イブラヒム・レビル

 

 

「レビル将軍!オデッサに駐留しているジオン軍からかなりの規模の部隊が北米大陸に向け移動を開始したとの報告がありました!」

 

「報告ご苦労、ブレックス君。そうか、開戦からずっとジオンに翻弄されてきたのでどうなるか心配していたのだが、どうやら上手く陽動に乗ってくれたようだな。」

 

「陽動といっても全軍の1割近い部隊が北米攻略のために動いておりますからな。更に北米で戦っている者達にはその戦いが陽動であると知らせていないと聞きます。」

 

「それくらいせねばジオンの目をごまかす事はできんよ。そもそもオデッサのジオンが動かなければ北米攻略作戦に切り替える計画も存在するのだから、完全に嘘という訳でもあるまい。」

 

「それもそうですね。オデッサに潜り込ませたスパイからは、駐留していた潜水艦隊の大半が姿を消し、ザンジバル級と大量のHLVが打ち上げられた事を確認したとの事です。」

 

「そうか。新たに編成されたという広域展開部隊をオデッサから引きずり出せたという事だな。……グワダンは?」

 

「グワダンの打ち上げは現在のところ確認できていません。もっともあの艦は神出鬼没ですので我々の知らない所で打ち上げられている可能性は十分にありますが。」

 

「ギレン・ザビのジョーカーであるあの艦を北米に誘き出せれば我が軍の勝利は確実だったのだがな…。

我が軍のジョーカーだったホワイトベース隊が健在であれば、上手く引き付けてくれたかも知れないが、まあ無い物ねだりをしても仕方あるまい。

全軍に号令を出せ。これより我が軍はオデッサ作戦を開始する!」




アンケートでザクの改良(アクト・ザク) とありますが、アクト・ザクがペズン計画で開発された機体だった事を忘れていたもので、ザクの改良(ハイザック)に修正させて頂きます。

※アンケートの表記は修正できないのでそのままです


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61話 UC0079年11月 オデッサ作戦②◼️

前回がちょっと短めだったので連続投稿させて頂きます。


オデッサ方面軍・情報部

 

「え゛?なに?音が酷くて聞こえない!え!?

イギリス海峡の、3-26付近に、連邦軍の大集団!?」

 

「そうだ!敵の数が多すぎて、海が青く見えない!敵が七分で、海が三分。

いいか!?敵が七分に、海が三分だ!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

オデッサ方面軍・会議室

 

「長距離レーダーによる索敵は、目標がミノフスキー粒子を散布している為に正確な数を把握できず、諜報部からの情報によれば上陸した連邦軍の規模は2個戦略軍、人数で言えば400万人近い数だと思われます。

上陸した連邦軍の戦闘正面幅は、約80キロ。現在はルクセンブルク近郊を進軍しており、オデッサへの到達時刻については、現在のところ不明であります。」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「そうか、ひとつの戦闘集団の戦闘正面が80キロとは想像できん規模だな……。」

 

「また、この動きに呼応してロシア、アフリカ、インドの各方面軍がオデッサへ向けた大規模な攻勢を開始しており、我が軍はその圧倒敵な物量によって押されつつあります。」

 

「く…、北米への攻勢はオデッサ攻略に向けた陽動だったのか。さて一体どう対処したものか……。」

 

「とにかく連中が向かって来る以上、総力を上げて迎撃するしかあるまい。

頼みの量産型アプサラスの様子はどうなのかね?」

 

「ハッ。現在、ジオン本国で量産が始まっており、明日より1500人を新たに生産ラインへ投入…」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「ダメだ、ダメだ!それではとても今回の戦いに間に合わん!

量産したアプサラスが届く頃には、オデッサはとっくに連邦の手に落ちているだろう!」

 

「しかし、現存する戦力だけでは勝利する事は困難です。

我が軍の戦力はアフリカやインド方面に展開している部隊を合わせても150万人程度、連邦はそれらを合算すれば700万人を軽く超えるでしょう。」

 

「それでは、どうするのだ!敵は明日にも我が軍の防衛線を突破するかもしれんのだぞ!」

 

「それは……。」

 

「フム…ずいぶんと荒れているようだな?デラーズよ。」

 

「ギレン総帥!」

 

 

 

やあ…諸君。ギレン・ザビである。

 

前回の北米方面軍への攻勢はやはり連邦による大規模な陽動作戦だったようで、ベルファストを中心に膨大な数の連邦軍がこのオデッサに向け侵攻を開始していた。

 

原作のように61式戦車が主力であればモビルスーツの力で互角の戦いが出来たかも知れないが、先行させた部隊からの報告によれば、連邦の主力は量産開始が早まったジムとなっており、我が軍の質的な面での優位は大幅に低下していた。

 

北米に送った増援が帰ってくるのにも少し時間がかかるようだし、いったいどう対応したものか。

 

全方向から迫る700万人の連邦軍とか、どうやれば倒せると言うんだ?

 

いやぁ…参った参った。無理ゲー感が凄すぎて思わず笑いが止まらないぜ。HaHaHaHa

 

仕方ないので、前線の部隊には無理な防戦はしないでオデッサに向けて後退しながら戦うように指示しておいた。

 

まあ勝算もないのに死守命令とか出しても良いことは何もないからね!

 

え?ピンチな割にはえらい余裕そうだって?

 

それは…どうだろうね?まあ最悪、マ・クベを見習って水爆ミサイルでも使ってから宇宙へ逃げればいいからだよ。たぶん。

 

アムロもいないからビームサーベルで切り飛ばされたりしないだろうし。

 

さて、それではちょっとメイのところに行って最後の準備をしてくるかな。

 

 

一一一一一一一一一一一一

 

 

side ヨハン・イブラヒム・レビル

 

 

「レビル将軍!左翼を担当する第4軍団がジオンとの戦闘を開始しました!」

 

「ブレックス君、状況は?」

 

「は、第4軍団はジオンが構築していた強固な防御陣地をガンタンクとデプロップによる集中攻撃で粉砕し、陣地から後退する敵のモビルスーツをジム隊が追撃しているとのことです。」

 

「ほう、緒戦は順調ようだな。」

 

「我が軍の地上戦力の約3割を投入した一大作戦でありますから。情報通りならジオンとの戦力比は5倍近くに達しており、モビルスーツの数でもジオン軍の約2000機に対して我が軍のジムが約3000機と圧倒的な優位に立っております。」

 

「ウム、苦労して数を揃えた甲斐があったな。」

 

「はい。モビルスーツ同士の一対一の戦いでは経験の差もあってジオン側が優勢となるようですが、我が軍は航空戦力や機甲師団といった従来の戦力と連携する事でジオンと互角以上の戦いを可能にしております。」

 

「そうだな、不安な要素は何処にもない。ないはずなのだ……。」

 

「どうかされましたか?レビル将軍?」

 

「いや、漠然とした直感のようなものですまないが、何故か敵の抵抗が弱いような気がしてな。

何かこう、我が軍がジオンの懐に誘いこまれているような気がしてならんのだ。」

 

「はあ…ですが将軍、仮にジオンに誘いこまれたとしてどうなると言うのですか?緒戦で大損害を被ったマスドライバーへの警戒は欠かしておりませんし、後方の支援部隊にも護衛を配置しておりますので奴らの得意な奇襲戦法を受けたとしても対応できるハズです。」

 

「君の言うとおりだな。おそらく単なる私の思いすごしだろう。気にしないで続けてくれ。」

 

「は、では引き続き作戦を継続します。」




そう言えばリックディアスも元はγガンダムだった…。

Gジェネで普通にドムから設計できるので、ここはひとつドムの改良先にさせてくだされ…orz


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62話 UC0079年11月 オデッサ作戦③◼️

まさかの三連投…次は一週間くらいはかかると思います。


やあ、ジオンの戦友諸君。 

 

第1地上機動師団、第3航空機動大隊を率いているハンス・ウルリッヒ・ルーデル大佐だ。 

 

ん?前回と、階級が違うって?

 

前回単独で連邦の陸上戦艦とモビルスーツ隊を撃破した功績を評価され、大佐に昇任したのだ。

 

本当はあまり階級が上がると前線に出にくくなるので昇任を断ろうと思ったのだが、ジオン軍は伝統的に指揮官がモビルスーツで戦場に出る事を許しているようなので昇任しておく事にした。

 

最近もガルマ閣下が自ら操縦するモビルスーツで連邦の木馬を仕留めたそうなので、大佐くらいならまだしょっちゅう前線に出ていても別に問題ないだろう。

 

ところで諸君は「雲霞の如し」という単語を知っているだろうか?

 

JAPANの言葉で、非常に多数の人が群がっている事を指す単語なのだが、オデッサの玄関口であるキエフの防衛を命ぜられた我が第3航空機動大隊の前に現れたのは、まさしく雲霞の如き連邦の大軍であった。

 

次々に現れる連邦軍を前に奮戦していた私の部隊だったが、次々と現れる連邦のモビルスーツにより、1機、また1機と撃破され、ついには副官であるガーデルマン中尉の機体まで損傷するに至っていた。

 

「ガーデルマン中尉、その機体ではこれ以上の戦闘は無理だ。後退しろ!」

 

「しかし、いくら大佐でも今回ばかりは数が多すぎます!」

 

「そうだ!だから早く後方に下がって違う機体に乗り換えて戻ってこい!休んでいる暇などないぞ?エリン!」

 

「っつ!公務中にファーストネームで呼ばないでください!わかりました。直ぐに戻ってきます。

……無事でいてくれないと許しませんからね!」

 

そういうと、ガーデルマン中尉のグフはまだ無事なスラスターを吹かして一気に後方へと下がっていった。

 

ふふ、ちょっとからかったら顔を赤くして可愛らしい奴だ。

 

普段はツンツンしているのに、ベッドの中では途端にしおらしくなるギャップも彼女の魅力だな。

 

さて、それではそんな彼女の分も連邦の相手をするとしようか。

 

そんな事を考えている間にも次々と現れるジムや61式戦車を、愛機であるグフカスタムで翻弄しながら連邦軍を駆逐していく。

 

「指揮車1、人型3、61式戦車6……ひとつはすぐそこか!」

 

周囲をスキャンした情報をもとに、すぐ側まで近づいてきていた61式戦車の上までジャンプして、機体の重量で61式戦車の車体を踏み潰す。

 

「まずは目を潰す!」

 

私の急襲に対応できていない連邦軍に向け135mm対艦ライフルを速射し、戦闘指揮車ブラッドハウンドとその隣に立っていたマヌケな人型を粉砕する。

 

指揮車とその護衛を最初に仕留められて動揺する連邦軍にジャンプで一気に近づくと、空中から左手のガトリングシールドで61式戦車の薄い上面装甲を次々と撃ち抜いていった。

 

1、2、3、4……。4両の味方をやられてやっと混乱から立ち直った連邦の人型から、私の機体めがけビームの光芒が立ち上る。

 

だが、そもそも狙いが正しく定まっていないようで、2機のモビルスーツから放たれたビームは見当ハズレの場所を貫いてむなしく消えるだけだった。

 

「怯えろ、竦め!モビルスーツの性能を活かせぬまま、死んで行けぇッ!」

 

何故か心に浮かんだそんなセリフを口にしながら、右手に搭載されたヒートロッドを右側に立つ敵機に向けて解き放つ。

 

敵モビルスーツへと接触したワイヤー状のヒートロッドは、そこから流れる高圧電流で敵機の精密機器を瞬時に破壊し活動を停止させる。

 

その隙に反撃を試みた最後の人型の射撃を機体を捻る事で難なく回避すると、引き抜いたヒートソードを敵機に向け投擲し、コックピットを貫かれた機体は一度痙攣のようにびくりと機体を震わせたあと、そのまま動きを止めた。

 

さて、後は61式が1両いたと思うが……。

 

最後の1両を探すために周囲を再度スキャンした私は、その結果に思わず動きを止める。

 

「ビッグトレー級1、人型24、タンクもどき8、61式戦車が40だと……!」

 

く、先程までの連中は単なる露払いでしかなかったのか…。

 

だが、まあ良い。あの程度なら別に問題ないだろう。

 

連邦のひよこなど何匹いようが我らジオンの精鋭の敵ではないのだから。

 

「エリン、戻ってくるのが遅くなるとまた全ての獲物を私がもらってしまう事になるぞ?」

 

 

 

 

 

 

やあ…諸君。ギレン・ザビである。

 

本当は我が軍の窮状を諸君に知って貰おうと思ってキエフの戦況をお見せしたのだが、どうやら見せた場所がよくなかったようでキエフはこのまま普通に防衛できそうな勢いだった。

 

なんだよあのチートは、なんか一人だけ違う世界線からやって来てない?

 

まあキエフの他にも何ヵ所か善戦している場所はあるものの、全体としては甚だ劣勢であり、我が軍は各地で後退を繰り返していた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

もうそろそろ切り札を切りたいところなのだが、準備が完了しないで使うと効果が薄くなるからな……。

 

「ギレン総帥、ご報告します!」

 

オデッサの司令室で目を閉じて瞑想していた俺のもとにデラーズから通信が入る。

 

「戦略海洋軍及び戦略機動連隊の再配置が完了しました。また、例の極秘コードを広域通信で展開するためのルッグン隊や連邦の戦線を突破するための機動打撃連隊、アプサラスⅢの配置も整っております。」

 

「ウム、良かろう…。ではこれよりパンドラ作戦を開始する。目標は連邦、オデッサ攻略軍だ。」

 

 

一一一一一一一一一一一一

 

 

side ヨハン・イブラヒム・レビル

 

 

「レビル将軍!ジオンから謎の通信文が広域通信で流されております!」

 

「『ロシアンティーを一杯。ジャムではなく、マーマレードでもなく、蜂蜜で。』か、何だこの通信は?潜伏しているゲリラへ向けた符牒かね?」

 

「私には解りかねます。ゲリラへの合図であれば、これほど大規模に流しては意味がなくなると思うのですが……。」

 

「フム、それもそうだな。だが、そうなると余計にわからんな。いったい何が目的で……。」

 

「何だと…それは本当か!将軍!!」

 

「今度はいったいどうしたというのかね?」

 

「ジオンの通信を聞いた我が軍のモビルスーツが、全て動きを停止しました!」

 

「な…何だと?!!」

 

「戦闘中や整備中のものも含め、通信を傍受した全ての機体が突然動きを停止して此方の入力を全く受け付けません!

技術部の話ではどうやら先程の通信文がOSの非常停止コードになっていたのではないかとの推察です!!」

 

「馬鹿な…!!何とか解除できないのか?!」

 

「今まで気付かれなかった事からプログラム内部にかなり巧妙に隠されているようで、短時間での解除は困難との事です…。」

 

「困難だろうがなんだろうがやらせろ!OS無しで機体を動かす事はできんのか?!」

 

「反応炉の制御等もOSが担当しているため、OS無しでの起動は不可能です…。」

 

「なんという事だ…。!!いかん!全軍を一時後退させろ!ジオンの連中が一気に仕掛けて来るぞ!」

 

「は、はい!」



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63話 UC0079年11月 オデッサ作戦④◼️

次は一週間くらいはかかると思います。…と思いましたが何故か翌日には書けました。

ククク…連邦と同様に騙されましたね!

もともとこのオデッサ戦を書きたくて始めた小説なので筆が進む進む…。

という事で次こそ本当に一週間位かかると思います。



キエフ上空 アプサラスⅢ

 

「私の夢、受け取れー!!」

 

そんな台詞とともにアプサラスⅢから放たれた巨大な閃光が、オデッサの地に展開した連邦の大軍をまるでケーキを切りわけるかのように容易く切り裂いてゆく。

 

その光景は、まるで神がソドムとゴモラを焼き払ったというメギドの火が、ジオンの手によって再び地上に甦えったかのようであった。

 

大型メガ粒子砲による一撃でビッグトレー級と周囲の護衛部隊を纏めて消し飛ばしたアプサラスⅢは、メガ粒子砲を収束モードから拡散モードへと切り替えると、巨大な砲門から無数の閃光を解き放った。

 

250以上の兵器への同時攻撃を可能にするこの驚異の兵器は、僅かに統制を保っていた61式戦車を主力とした機甲師団に向けて光の雨を降らせ、三度に渡った照射の後には動くものなど何もなかった。

 

アプサラスによる光の洗礼を受けて巨大な穴が空いた連邦軍の隊列に、第一地上機動師団の精鋭が操る重モビルスーツ「ドム」の群れが押し寄せる。

 

ただでさえ、主力であったモビルスーツ「ジム」の突然の停止によって大混乱に陥っていた連邦軍にその侵攻を止める術などあるはずもなく、オデッサ攻略のためジオンの領域に進軍していた連邦軍の多くは、ジオンの重モビルスーツによって退路を断たれようとしていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

ビッグトレー級陸上戦艦 バターン号

 

「動け、動け、動け!動け、動いてよ!今動かなきゃ、何にもならないんだ!今動かなきゃ、今やらなきゃ、みんな死んじゃうんだ!もうそんなの嫌なんだよ!」

 

ノーマルスーツに搭載された無線を通じて、機体に閉じ込められたパイロットが機体を動かそうとあらゆる操作をしているのが伝わってくる。

 

しかし、連邦の勝利のために作られたこの巨大な人型は、再起動を含めたあらゆる操作に対して何の反応も示さず、まるで己を作り出した真なる主人を待っているかのようにただ静かにその場に佇むだけであった。

 

「……やむを得まい。ブレックス君、オデッサ作戦は失敗した。全軍に撤退命令を出してくれ。」

 

「本気ですかレビル将軍?!この戦いには我が軍の戦力の3割を投じているのですよ!!」

 

「そんな事は言われなくてもわかっている!!

だが、ジオンの重モビルスーツが我が軍の後方を遮断しつつあり、完全に包囲されてしまえば今の我々にそれを突破するだけの力はない。そうなるより前に少しでも多く戦力をここから離脱させる必要があるのだ!」

 

「しかし、撤退しようにもモビルスーツの大半は戦場で動きを止めており、動かせません。まさかパイロットごと機体を処分しろとでも?!」

 

「く、緊急脱出システムを排除したツケがこんな形で回ってくるとはな……。

工兵隊を出して可能な限り機体とパイロットを救出しろ。

それが出来ない機体については、遺憾ながらそのまま放棄する。パイロットには適時ジオンに投降するように伝えてくれ。」

 

「……おそらく大半の機体は回収できませんよ?」

 

「他に手がないのだ…。流石にパイロットごと機体を破壊する事はできん。

もしそれをやらせれば兵達の士気がもたんだろう。

せめて回収する機体については、ジーラインタイプを優先して回収するように指示してくれ。」

 

「は…、了解しました……。」

 

「すべてモビルスーツ、モビルスーツか、時代は変わったな。」

 

「し、将軍、ベルファストから緊急連絡が入りました!!オデッサから北米に向かったハズの部隊がベルファストを襲撃してきているとの事です!!」

 

「な、…なんだと?!」

 

 

 

やあ…諸君。ギレン・ザビである。

 

メイがキシリアのところに渡すOSに細工してくれたおかげで、パンドラ作戦はジオンの大勝利によって幕をおろした。

 

オデッサに侵入してきた連邦軍のうち、約二割が我が軍によって撃破され、四割が我が軍に降伏し、三割がいまだに我が軍の包囲下にあり、無事に撤退できたのは全体の僅か一割程度でしかなかった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

更に連邦はモビルスーツの大半をパイロットごと戦場に放棄せざるをえず、我が軍は2000機を超える数のジムを鹵獲する事になった。

 

……いや、自軍の総数より多い連邦兵を捕虜にしたり、ほぼ同数のモビルスーツを鹵獲するとかどんな戦いだよ?

 

そのため大量の捕虜への食事や生活用品の供給などのために補給関係の部署が悲鳴を上げており、一時は連邦軍への追撃を続ける機動打撃連隊への補給にさえ影響が出たほどだった。

まあ、機動打撃連隊には母艦としてギャロップが多数配備されていたため、そこまで大きな問題にはならなかったのだが。

 

それにしても今回の大勝利はメイの力がなければ成立しなかった。

 

当初の計画では機動打撃連隊と戦略機動連隊によって強引に連邦を分断したところに、アクシズ戦役で使用したアステロイドに耐熱コーティングを施したものを大量に降らせて、飽和攻撃で連邦の防空網を突破して連邦の主力を壊滅させる計画であった。

 

え?隕石落としは南極条約違反?

 

大丈夫、南極条約で禁じているサイズのものは掘削してギリギリオッケーになるように調整したから。

 

それにどうせ証拠は連邦軍と一緒に木端微塵になるので多少大きくても確認のしようがないw

 

まあせっかく作ったのでこれはジャブロー攻略の時にでも使うとしよう。

 

この作戦でも連邦軍を撃破する事はできたと思うのだが、この場合、連邦との戦いでかなりの損害が出る事が予想されていた。

 

今回、大きな損害もなく連邦を圧倒できたのは間違いなくメイの功績であり、そのおかげでますますメイに頭が上がらなくなってしまった…。

まあ、もとからメイには勝てないので、たいした問題ではないのだが。

 

というか今後の事を考えて今回の勝利の立役者がメイである事を周知したところ、勝利の女神として大人気となってしまい、戦時中なのにもかかわらずファンクラブができてしまったほどだ。

 

メイに悪い虫がつかないように気をつけねば。

 

また、本来機動打撃連隊と共に連邦を分断する予定だった戦略機動連隊には、戦略海洋軍と一緒に欧州最大の連邦軍基地であるベルファストの攻略に行ってもらった。

 

連邦はまさかオデッサ作戦をしている最中にベルファストへ空き巣に入られるとは想像していなかったようで、強固なハズの対空防衛網をユーコンから出撃したハイゴッグによって破壊されると、続いて宇宙より降下してきた無数のザクによって瞬く間にジオンの勢力下におかれていった。

 

また、パンドラ作戦の実施にあわせて実施された各方面軍への全面反攻作戦でも我が軍は連邦軍を圧倒し、特に北米大陸ではガルマがモビルスーツが使用不能になって連邦軍が混乱した隙をついてガウを用いた大規模空挺作戦を実施し、パナマ運河一帯の占領に成功していた。

 

さて、これで地上の戦いの大勢は決した。後は連邦の残党を掃討してからヨーロッパ方面の戦力を北米に回してジャブローを落とせば戦いは終わるだろう。

 

だが、最後の戦いを始める前に我らジオンの身内を掃除しておかねばならんな。

 

覚悟しておけ、キシリアよ。

 

 

 

一一一一一一一一一一一一

 

side キシリア・ザビ

 

「な、…連邦のオデッサ攻略軍が壊滅しただと?!」

 

「は…どうやら連邦軍は我が軍のOSのコピー品を使用していたようで、そのコピー品には非常停止用のコードが組み込まれたままになっていたそうです。

それがメイ・ザビ嬢の手によって発見され、それを利用する事によって戦闘中に全てのモビルスーツが使えなくなった連邦軍は壊滅、各地で後退を続けているとの事です。」

 

「く、…カーウィン家の小娘が、よくも我が大望の邪魔を…。」

 

「また、今回の大勝利を記念してジオン本国で祝勝会をおこなう事となり、キシリア様にも参加するようにとの連絡が内務省より来ております。」

 

「……。私は気分が優れぬ。そうサスロに伝えておけ。」

 

「…。キシリア様。内務省からの連絡には追伸があり、必ず参加せよ。さもなくば反逆者としてみなす。そう連絡が来ております…。」

 

「な!…。まさかOSの件が露見したとでもいうのか?く…。」

 

「いかが致しましょうキシリア様…。我ら側近はキシリア様の為であれば誰とでも戦う用意はできておりますが…。」

 

「いや、現在の情勢下で戦いを挑んだ所でドズルの宇宙攻撃軍に鎮圧されて終わりだ。そんな博打は打てぬ。

やむを得ん。私はジオン本国に向かう。

貴様はペズンとともに潜伏し、もし私に何かあった場合は機を見て私の救出に動け。頼りにしているぞ。マ・クベ。」

 

「は、このマ・クベ、我が力の全てをもって貴女様の期待に応えて見せましょう。

幸いグラナダの兵の大半は低レベルNT向けの処置を応用した催眠によってキシリア様の忠実な僕となっております。我らの動きをごまかす事は十分に可能でありましょう。」

 

「ウム。さて、後はなんとかして父上だけでも味方につけねば。」



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64話 UC0079年11月 メイ・ザビ◼️

この作品のメインヒロインは一応アイナ様なのですが、作品中の存在感としてはメイちゃんの方が大きかったりします。


サイド3 ズム・シティ

 

「キシリア様、内務省からの連絡にはサイド3に到着次第、内務省の庁舎へ出頭するようにありましたが、本当にデギン公のお屋敷に向かってよろしかったのですか?」

 

「無論だ。公王である父上さえ押さえてしまえば他の兄弟達も強く出る事はできまい。地上からギレン達が戻る前に公王を味方につけるのだ。急げ。」

 

「は、かしこまりました。」

 

 

 

公邸に着いたキシリアは、屋敷の使用人達を押し退けて強引にデギンの私室へと押し入ると、椅子に座ったまま難しい表情を顔に浮かべるデギンへと詰め寄っていた。

 

「父上!体調の優れぬ私を無理やり本国に召喚するとは、いったい私が何をしたと言うのですか?!」

 

「キシリア…。それは、お前が一番よくわかっておるのではないか?」

 

「何の事でしょう?レビルに月の防衛網を突破されたのは確かに私の不手際でしたが、それについては反省し月の戦力増強に努めております。

戦略諜報軍についても先日も連邦による北米侵攻に関する情報をお伝えしたばかり。オデッサへの攻勢に関しては確かに情報をつかみ損ねていましたが、全ての情報を掌握するなど不可能な以上、多少の漏れは仕方ないでしょう。」

 

「だ、そうだ。貴様はどう思う、ギレン?」

 

「まあ、全ての情報を掌握する事が不可能な点については同意しましょう父上。我々もまさかテスト用に配った我が軍のOSが連邦へ流れている事は掴めませんでしたからな。」

 

デギンがギレンの名を呼ぶと、そんな言葉と伴にギレンとサスロが奥の書斎から姿を現した。

 

「な…。何故ここに兄上達が……。」

 

「それは此方のセリフだぞ?キシリア。サイド3に着いたらすぐに内務省へ向かうように伝えたはずだが?

地上から戻った報告を父上にしているところにお前が無理やり押し入って来ているとの連絡を受けたので、少し隣の部屋にいただけの話だ。」

 

「ぐ……。私とてまずは父上に現状をお伝えしようとここに来ただけの事です。此度の召喚、いったい私に何の罪があると言うのですか?!」

 

「予想通りの反応だな、キシリアよ。貴様には我が軍の情報を連邦へ流出させた疑いがかかっている。」

 

「バカな、何故私がそのような事をしなければいけないのです!」

 

「理由は此方が聞きたい位だ。キシリア、何故我が軍のOSデータを連邦へと流したのだ?」

 

「何の証拠があって私からの流出を疑われるのですか!OSに関する情報はギレン兄上のところで集中管理されているのです!連邦へ流出したのであれば、まずは自分のところを疑われるのが筋では?!」

 

「そうだな、私も流出したのが通常のOSであればそうしただろう。だが、鹵獲した連邦のモビルスーツに入っていたのは貴様からの提案で配ったテスト機用のOSだった。これはいったいどういう事だ?」

 

「…っ!私が知るはずないでしょう!そもそもテスト用のOSであればドズルやガルマのところにも配布されたはず!そちらからの流出という可能性もあるのでは?!」

 

「フン、貴様はそう言うだろうと思っていたぞ?キシリア。

我が家の娘は優秀でな。万が一の情報流出に備えてドズル、ガルマ、キシリアのところに配ったテスト用のOSは全て違う構成になっていたのだよ?後は言わなくともわかるな?」

 

「く、配られたテスト用OSにそんな仕掛けがされていたと言うのですか?!

身内である我々にそんな小細工を弄するなど、やはりあのような小娘はザビ家に相応しくなかった!」

 

「だまれ!!それ以上汚ならしい口を開くのならばくびり殺すぞ!」

 

普段の仏頂面を何処かに投げ捨てたギレンが、キシリアに向け殺気交じりの怒声を放つ。

 

「万が一に備えデータに情報流出対策を施す事と、自らの提案で受け取った機密データを連邦に流出させる、どちらがザビ家に相応しくないのかは誰の目にもあきらかだろうが!」

 

「わ、私は連邦に渡してなど…。」

 

「それは最早お前が決める事ではない!

貴様のところに配ったデータが連邦に流出した以上、お前自身が関与していようがいまいが責任をとるのはキシリアお前だ。」

 

「まっ、」

 

「現時刻をもって戦略諜報軍及びグラナダ基地に関する指揮権を剥奪、内務省で拘束する。両組織の長についてはサスロが就き、並行して内部調査を行うものとする!」

 

「待ってください!父上、私は本当に連邦に情報を流出させてなどおりません!」

 

「キシリア、お前が流出させていないとすれば、お前の部下の誰かが連邦へと流したのだろう。

組織の長である以上、部下がしでかした事に対する責任はとらねばならんのだ。」

 

「く……。」

 

「お前が本当に何の関与もしていないのならばギレンやサスロも命まではとったりはせんだろう。大人しくしておけ。」

 

「……。わかりました……。」

 

「ギレン、サスロもキシリアに直接手荒な真似は禁ずる。これでも貴様達の兄妹なのだからな。」

 

「…良いでしょう。キシリアが無実である限り、手荒な真似はしないと約束しましょう。無実である限りはね…。」

 

 

 

やあ…諸君。ギレン・ザビである。

 

先程は不快な話を聞かせてしまってすまない。

 

全くメイがザビ家に相応しくないだと?!

 

あの紫ババア、言うに事欠いてそんなふざけた事を言いやがって、思わず殴りかかるところだった。

 

あいつを殴っても俺の心は痛まないだろうが、目の前で暴力沙汰をおこすとデギンがキシリアを庇いそうな気がしたのでなんとか自分を抑えたものの、腹立ち紛れに壁を殴って穴を開けてしまったくらいだ。

 

やはり物に当たるのはいかんな。

 

だが、ザビ家がメイに相応しくないのは事実かも知れない。

 

キシリアの失脚と同時に総帥府と内務省の合同調査隊が戦略諜報軍等のオフィスを一斉捜査した際、キシリアの関与に関する物的証拠は出なかったものの、違う件に関する証拠が出てきたのだ。

 

そう、メイの父であるケイン・カーウィン議員が起こしたとされる爆弾事件についての資料である。

 

戦略諜報軍に残されていた資料によると、あの事件はキシリア配下の治安部隊による完全な捏造であり、カーウィン議員は無実にもかかわらず自白を強要する過程で亡くなったようだった。

 

……そんな実の父を殺した一族の養子に入っている事など、いくらメイが優しくともできまい。

 

サスロの反対を押しきって、カーウィン議員に関する全ての資料を公開し、テレビでザビ家の者による行為への謝罪会見を終えた私がメイにザビ家に残りたいかと聞いたところ、「できれば養子縁組は解消して欲しいな…」との事だった。

 

その足で役所に寄って養子縁組の関係を解消の手続きをおこなってきたので、明日にはメイは私の娘ではなくなる。

 

……仕方あるまい。メイの気持ちは尊重せねばならん。

 

例え義理の娘ではなくなるといっても、私がメイを大切に思う気持ちに変わりはないのだ。

血の繋がりだけが家族を作る訳ではないように、戸籍だけが家族の全てという訳でもないだろう。

 

まあ頭の中ではそう思っても、10年一緒に暮らしてきた関係なので、寂しく思う気持ちはなかなか消せないなぁ……。

 

はぁー。

 

そんな事を考えているうちに、時計が零時を回った。これでメイも他人か…。

 

いかん、そんな事を考える位なら早く休まねば。明日には各サイドの代表と会談をした後に、地球へ向けて出発せねばならんのだ。

 

ん?こんな時間にノックだと?アイナには今晩は独りになりたいと言ってあるのでこないだろうし、いったい誰だ?

 

 

一一一一一一一一一一一一

 

 

side メイ・カーウィン

 

 

プログラムに関する証拠の提示のためにギレンさんと一緒に宇宙へと戻ってきた私は、内務省の担当者へ必要な資料の提示を終えると、ズム・シティにあるギレンさんのお屋敷へと戻った。

 

アイナさんと二人で一緒にテレビを見ながら寛いでいると、突然番組が切り替わりテレビに見慣れたギレンさんの仏頂面が映し出される。

 

ギレンさんがテレビに出るなんてなんだろ?オデッサの勝利に関する宣伝放送とかかな?

 

そんな風に思いながら番組を見ていると、そこで放送されたのは何と私の父の死に関する真相だった。

 

一部の治安部隊の暴走によってムンゾの民に偽りの疑惑を植え付け、死に至らしめた事をジオンの総帥として謝罪したギレンさんは、本件と連邦との開戦を防げなかった事に対する責任をとる形で連邦との終戦後に総帥を辞任する事を発表する。

 

何で、何でギレンさんが辞任しなきゃいけないの?!

 

そんな風に狼狽する私へ向けて、隣からアイナさんが「落ち着いて、メイちゃん。」と声をかけてくれる。

 

「これはきっとあの人の望みなの。戦争が終わったらジオンの総帥なんていう責任の重い地位から引退して、何処かで楽隠居でもしてのんびり暮らしたいんだと思うわ。」

 

その後に「まあそう簡単にはそれが叶うとは思えないけど。」なんて言いながら微笑む姿を見て、やはりアイナさんには勝てないなぁ…。なんて少しだけ思ってしまった。

 

でも、私が一番辛かった時に救いの手を差し伸べてくれ、その後もずっと私を助けついには父の冤罪まではらしてくれたあの人への気持ちを抑えたくない。

 

なので少しずるいと思ったけれど、私の気持ちを直接アイナさんに相談してみた。

 

アイナさんは少しだけ困った顔をした後に、

 

「メイちゃんの人生はメイちゃんだけのものだもの。どんな結果になっても私は応援するわ。でももしメイちゃんがギレンさんの奥さんになった時は、お家の隅っこに私が住む事を許してくれると嬉しいわね。」

 

そんな言葉と笑顔で私の背中を押してくれた。

 

……ギレンさんを言いくるめるのは簡単そうだけど、アイナさんにはやっぱり勝てそうな気がしない……。これはハマーンさんやララァちゃんとの共同戦線も考えないといけないかなぁ…。

 

 

 

その日の夜の某総帥の部屋でのやり取り

 

「ま、まて、メイ。仮にも私達は親子だぞ?!」

 

「違うよ?ギレンさん。30分前まではそうだったけど、今の私はもう違うの。

私の名前はメイ・カーウィン。ギレンさんが無実を証明してくれたケイン・カーウィンの娘で、貴方に恋する一人の女の子なの。」




この後に何があったかについては各自のご想像におまかせ致します。

因みに翌日の朝ご飯はお赤飯でした。


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65話 UC0079年11月 終わりの始まり◼️

ちょっと早く書きあがったので投稿します。
多分最後のモビルスーツ開発回になるのかな?
リック・ディアスがあれほど支持されたのがちょっと予想外でした。

週末はちょっと予定があるので次の投稿は来週になるかもしれません。


連邦軍本部 ジャブロー

 

「オデッサでの大敗の責任をどうするつもりかね?レビル将軍!こうなってはもう、ジオンの独立を許して講和するほかないではないか!!」

 

「私の辞任ですむのであれば、いくらでも致しましょう。ですが戦局がこれほどまでにジオン側に傾いてしまった今、はたしてジオンの独立だけで連中が折れてくれるのでしょうか?」

 

「……だが他にどうしろと言うのだ?各地で食料危機がおきつつある今、我ら連邦にオデッサのような戦力を再び用意するだけの余裕はない。多少不利な条約であろうと呑む他に手はないだろう?」

 

「ひとつだけ私に策があります。」

 

「なんだと?!」

 

「我々は、地上での反攻作戦の準備と並行して宇宙での反攻作戦の準備を進めて来ました。

地上の戦力はオデッサで大きな被害を被りましたが、我々にはまだ宇宙の戦力が残っています。これを使ってジオン本国を一挙に制圧するのです。」

 

「何をバカな事を。ジオンには開戦以降、たいした損害もない宇宙艦隊があるではないか。

いくら宇宙艦隊再建計画『ビンソン』で多数の宇宙艦を建造し、モビルスーツのOSをV作戦で得たデータで作ったものに差し替えたと言っても、せいぜいジオン艦隊と互角に戦えるかどうかというところだろう。

まだ連中にはソロモンやグラナダといったジオン本国を守る軍事拠点があるのだぞ?」

 

「これはまだ極秘の情報でありますが、ジオン内部で粛清があり、グラナダの防衛を担当していたキシリア少将が失脚しました。後任となったサスロ・ザビは事務畑の人材であり、グラナダの防備は大幅に弱体化するものと思われます。」

 

「……だが、いくら防衛線が弱体化していると言っても連中の宇宙艦隊は強力だ。兵の練度などを考えれば、それに勝つのは難しいのではないか?」

 

「宇宙艦隊と正面から戦わなければ良いのです。」

 

「……何だと?!」

 

「オデッサの戦いにジオンが勝利した今、恐らくジオンはそう遠くないタイミングでこのジャブローの攻略作戦を発動するはずです。

そしてその作戦にはおそらくジオン宇宙艦隊の大半が動員される事になるでしょう。その隙をついて我々はジオン本国を制圧すれば良いのです。」

 

「だがジャブローが落ちれば我々は…。」

 

「宇宙艦隊と伴にルナツーへお上がりください。あそこであればそう簡単には落ちません。」

 

「一か八かという訳だな。」

 

「どうせこのままではじり貧となるのが目に見えているのです。そうであるなら最後の大勝負に出るほかありますまい。」

 

「良かろう。このままではどうせ私も戦後の連邦政府に席はないのだ。将軍の賭けにのろうではないか。作戦の決行はいつにする?」

 

「少しでも戦力を増強するため、12月の初旬辺りがよろしいかと。」

 

「良いだろう。作戦の準備を進めてくれたまえ。」

 

 

 

やあ……諸君。ギレン・ザビである。

 

欧州で展開している掃討作戦によって連邦ヨーロッパ方面軍は壊滅しつつあり、オデッサ近郊で包囲されていた連邦軍も先週になってついに降伏、戦況は一気にジオン側へと傾きつつあった。

 

それと並行してオデッサの戦いで獲得した兵器や人材の活用も始まっており、鹵獲した大量のジムについては、半数を地上軍に増強戦力として配備し、残りの半数は購入を希望した各サイドに売却して国債の償還に当てた。

 

え?何で全部を地上軍に配備しないのかだって?

 

戦場で機能停止した姿を見てるからみんな乗りたがらないんだよ!

 

性能としては「ビーム兵器を使えるザク」といったくらいでそこまで悪いものでもないのだが、大きな性能の向上もないのに脱出装置も付いていない機体に乗りたがる者はおらず、自機の配備が遅れてブーブー言っていたシャルロッテ・ヘープナー少尉でさえ、ジムなら乗りたくないです!と言ったらしい。

 

潰して予備部品にする案もあったが、そもそもジム用の予備部品も大量に手に入ったのでわざわざ解体する手間をかけるくらいならと、購入を希望した各サイドに売却して恩を売る形で落ち着いた。

 

なお、鹵獲した数少ないジーラインタイプについては逆に各部隊で奪い合いになっていたりする。

 

人材面では技術部に配置したレイ親子はさっそく頭角を表しはじめ、現地改修で生産可能な新型量産機として開発されたのがMS-09RD、リック・ディアスである。

 

高い機動力を誇るドムにビーム兵器を対応させる事をコンセプトに開発されたこの機体は、ドムのジェネレーターをコックピットごとおろし、代わりにジムに搭載されていた大型ジェネレーターを搭載する事でビーム兵器の使用を可能にしていた。

 

胴体からなくなったコックピットについては新しく開発した頭部へと移動し、ジェネレーターからの豊富なエネルギーを活用するためにセイバードップ用のムーバブル・バインダーを2基背中に装備する事で機動力の大幅な向上にも成功していた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

ただ、肝心のビーム兵器の威力が想定よりも大幅に低かったため、ハイパーバズーカを参考に作られたクレイ・バズーカをメイン武装としている。

 

え?ムーバブルフレーム?そんなのを一から開発していたら戦場に届く頃には戦争が終わってしまうのでそのままだよ!

 

ただ、赤く塗装したエース向けの機体については装甲材をガンダリウムβにしたので機体の軽量化によって機体の性能が更に向上している。

 

まあ、エース向けの機体は生産数が少ないので当面はシーマ艦隊ぐらいにしか回せないと思うが。

 

また、並行して鹵獲されたガンダムタイプも我が軍の技術を各部に取り入れる事で更なる性能向上が図られており、ジェネレータ等の強化によってガンダム4号機に搭載されていたメガ・ビーム・ランチャーの通常使用を可能にしていた。

 

誰が乗るかについては色々もめたものの、最終的に単独でガンダムを撃破した報奨として、シャア・アズナブル中佐が乗る事となり、シャア中佐のパーソナルカラーである赤色に塗装される事になった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

また、ミノフスキー博士に開発を依頼していた親衛隊用のモビルスーツについても試作機のテストが終了してジオン本国で生産が始まったものの、量産型アプサラスの生産を優先していたために量産が遅れており、この分だと日の目を見ることなく終戦を迎えそうな状況となっていた。

 

まあジャブロー攻略に量産型アプサラスが間に合った事だけでも喜ぶ事にしよう…。

 

 

一一一一一一一一一一一一

 

 

side 南米 ジャブロー近郊

 

「シーマ様、ジャブローの入口をみつけやした!」

 

「よくやったよデトローフ!しかし上手く偽装してあるねぇ。この金属反応がなければ危ないところだったよ。」

 

「まったくでさぁ。ハイゴッグにわざわざ金属探知機を追加する必要があるのかと思いましたが、流石はギレン総帥といったところで。」

 

「よし、次は地下の大鍾乳洞の調査に入るよ!ホバートラックの設置はどうだい?!」

 

「アンダーグラウンド・ソナーの打ち込み完了しました!いつでも探査ピンガーを打てます!」

 

「よし、作業員の退避が完了次第、探査ピンガーを発信してデータをとれるだけとってずらかるよ!

探査ピンガーを打てばすぐに連邦にも気づかれる!各員ぬかるんじゃないよ!」

 

「へい、了解でさぁ、シーマ様!」

 

「これでジャブローの正確な位置がわかればいよいよ戦争も終わりということかねぇ…。戦争が終わったらどうするんだいデトローフ?」

 

「へ?あっしですか?このまま軍に残るか、故郷のマハルにでも帰って運送業でもはじめようかと思ってますが…。」

 

「そうかい。もし運送業をやる気ならギレン総帥のGNCに入れてもらえるように口を利いてやるから、いつでも言いな。」

 

「…へい!ありがとうございやす、シーマ様!

作業員の退避、完了しやした!」

 

「よし、探査ピンガー発信!ずらかるよ!」




レビル将軍がオデッサで大敗した責任もとらずに星1号作戦の指揮をとるのはどうなの?というご指摘を頂いたので今話の冒頭に関するアンケートを追加しました。

レビル将軍が失脚しても、お話の大きな流れは変わらず、今後の連邦側の指揮官がジャミトフになるくらいです。

また、今後に活躍させたい部隊についてのアンケートを前話の最後でおこなっております。
興味があればそちらもご覧ください。




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66話 UC0079年12月 ジャブロー攻略作戦①◼️

更新が遅れてすみません。
色々展開を考えてみたのですが、説得力がありそうでかつ物語として面白そうな展開を思いつかなかったので当初から考えていた案で進めさせて頂きます。



連邦軍本部 ジャブロー

 

「やれやれ、まさかこのジャブローが囮に使われる日が来るとはな。」

 

「ゴップ将軍、宇宙艦隊主力の打ち上げが完了しました。また、北米に潜入しているスパイから、ジオンが大規模な空挺作戦の準備をはじめているとの報告が入っております。」

 

「そうか、レビルを逃がす為にヨーロッパに残ったブレックス君が頑張っていたようだが、いよいよここにジオンが来るのか……。」

 

「ゴップ将軍は何故此方に残られたのですか?将軍程のお立場であれば、ルナツーへ避難する事など容易だったでしょうに。」

 

「ははは、ジャブローのモグラと言われた私がここを離れる訳にはいくまいよ。それに……。」

 

「それに?」

 

「降伏を決断できる指揮官がおらねば、ジャブローに残った兵達が困るだろう?エルラン君?」

 

「な、それは……。」

 

「ジャブローを死守しようが、レビル達がジオン本国を攻めようが最早大勢は変わらんのだ。であるならば人死には少ない方が良かろうて。」

 

「……ジオン本国の制圧に成功すれば、まだ逆転の可能性はあるのではありませんか?」

 

「そうだね。ジオンがゲームのように無抵抗で降伏してくれるのなら可能性はあるだろう。

だが、少し持ちこたえれば奴らの宇宙艦隊が応援に来る状況なのだぞ?君ならそう簡単に降伏するかね?

もしジオンが降伏を拒否した場合はどうするのだ?コロニーにメガ粒子砲でも撃ち込んでみるかね?

そんな事をすれば残りのサイドも我が軍の敵にまわりかねんぞ?」

 

「それは……。」

 

「僅かな時を稼ぐだけで勝利が確定する連中に対して、此方は定期的な補給さえ難しくなるだろう。

そんな作戦が本気で成功すると思うかね?」

 

「……難しいとは思います。ですがそう思われるなら、何故お止めにならなかったのですか?」

 

「止めたさ。それどころかオデッサの敗北を知った時点で即座にジオンに降伏するべきだと伝えているよ。

だが、政治家の方々にとって地上の半分を支配している状況でジオンに降伏するなどとても考えられない事らしい。この地図を見たまえ。」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「これは……。」

 

「我が軍の現在の勢力図だ。この地図だけ見ればジャブローの他にもアジア、インド、アフリカ、ロシアといった広大な地域が連邦の支配下にあるのだから、まだまだ我々にも勝機があるように見えるかもしれない。

だが、これらの地域に配備されていた戦力の多くはオデッサの敗北で失われてしまった。

各地域がいまだに無事なのは、占領地の拡大によって治安維持や食料の供給といった負担が増える事をジオンが嫌がっているからにすぎない。」

 

「最早大勢は決しているという事でありますか…。」

 

「そうだ。だがあまりにも口煩く言い過ぎてしまったようでね。政治家の方々に煙たがられるようになってしまったのだよ。私とした事がつまらない失敗をしたものだ。」

 

「そうでしたか……。」

 

「だが、そんな政治屋連中がルナツーに行ってくれたおかげで私がジャブローの総責任者になれたのだ。

私の首ひとつで二百万人にのぼるジャブロー防衛隊の兵達を助けられるようになったと思えばそう悪い事ばかりでもない。

という事でエルラン君、ジオン側との協議の段取りはつきそうかな?」

 

 

 

やあ…諸君。ギレン・ザビである。

 

オデッサでの敗戦以降、撤退に成功した僅かな戦力で必死の遅滞戦闘を続けていた連邦ヨーロッパ方面軍だったが、我が軍がオデッサ作戦で降伏した捕虜(一年戦争開始後に徴兵された新兵&我が軍の工作員)を一斉に返還した事でただでさえ不足していた補給が更に悪化して戦線が崩壊。

 

その隙をついて機動打撃連隊のドムが連邦の防衛線を突破してヨーロッパ方面軍の包囲に成功、致命的な物資不足に陥ったヨーロッパ方面軍は僅かな抵抗の後に降伏を余儀なくされた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

いやぁ、大量の捕虜を食べさせるのも大変だったので連邦に返してあげたのだが、まさかこんなことになるとは思わなかった。(棒)

 

ナポレオンも言っていたが、真に恐れるべきは有能な敵ではなく無能な味方であるという事だな。

 

これによってヨーロッパ方面はほぼ我が軍の勢力圏となったため、手透きになった第1地上機動師団の主力を現在南米に向けて輸送中である。

 

いよいよジャブローを攻める日が近づいてきた。

 

現在ガルマ率いる第2地上機動師団がパナマを拠点に兵力と物資の集積を行っており、宇宙でもドズル率いる宇宙攻撃軍がソロモンやアクシズに集結して戦いの準備を進めていた。

 

此方の動きを察知したのか連邦もジャブローから宇宙艦隊を次々と打ち上げており、ゼーゴックを使って多少は沈めたものの、相手の数が多すぎて多くの連邦艦に突破を許してしまった。

 

まあ連中も必死という事だな。

 

シーマ艦隊による偵察によってジャブローの正確な位置も判明しつつあり、現在ランバ・ラル隊がジャブロー内部への潜入作戦を進めている。

 

最後の戦いはすぐそこまで迫っていた……。

 

 

一一一一一一一一一一一一

 

side ランバ・ラル

 

 

「ラル大佐!アッグが掘り進めていたトンネルが新しい洞窟に繋がりました。

シーマ艦隊からの情報が正確なら、そろそろジャブロー内部に繋がっているかもしれません!」

 

「よし、アカハナのアッガイを先行させて周囲を偵察させろ。私もすぐに行く。」

 

「ハ!しかし100キロ以上離れた場所にある洞窟から地下を掘り進めて直接ジャブロー内部に潜入させようとは、上もなかなか無茶な作戦を考えたものですな。」

 

「もともとジャブローは地下の巨大な鍾乳洞を連結して作られたものだからな。

我々もそれに倣って地下の鍾乳洞を連結して地下通路を造っているだけなのだから、そこまで無茶という訳でもあるまい。

地下の掘削用に開発された作業用モビルスーツのアッグもあるのだ。」

 

「言われてみればそうですね。わざわざ潜入作戦用に造られたアッガイもありますし。

ザクのパーツを流用して造られた機体という事で機体性能はそれほど高くありませんが、頭部と腕部の換装で様々な兵器が装備可能になっている上に稼働時間も長く、なかなかにゲリラ屋向けの機体です。」

 

「メイ嬢が趣味で作っていた機体を見つけたギレン総帥が急遽量産させたという噂もあったが、これだけの性能の機体だ。

恐らくジャブロー攻略に向けて極秘裏に開発を進めていたんだろうよ。

惜しむらくは隠密性確保のために青く塗る訳にはいかない事だな。」

 

「ジャブローに潜入するのに戦場で目立つ赤や青といったパーソナルカラーに塗装する訳にはいかないですからね…。

!!!ラル大佐!先行したアカハナが洞窟内部で人工物を確認しました!恐らくジャブロー区画です!」

 

「よし!ではこれより作戦行動に入る!

第1目標は内部構造に関する情報の収集、第2目標が指揮通信及び発電施設への爆弾の設置だ。

ジャブロー内部への潜入に成功した事をまだ連邦の奴等に知られる訳にはいかん。各員慎重に行動せよ! 」



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67話 UC0079年12月 ジャブロー攻略作戦②◼️

後で書き足すかもしれませんが、ある程度形になったので投稿させて頂きます。


地球連邦軍本部、ジャブロー

 

南米、アマゾン川流域に点在する巨大な鍾乳洞を連結して造られた連邦軍最大の軍事拠点である。

 

その全長は280kmにも及び、連邦軍全体の作戦指導を行う参謀本部、モビルスーツはもちろん艦艇さえ建造可能な巨大軍事工廠、数個艦隊規模の艦艇が停泊できる地下ドック、百万人規模の防衛隊が駐留する為の基地施設と、それらを支える膨大な量の軍需物資を保管できる巨大倉庫群など、連邦軍本部に必要なありとあらゆる機能を備えていた。

 

また、広大なジャングルの下に広がる強固な地盤の下に存在するため、その基地施設はミサイルや爆弾といった通常兵器はもちろん、核兵器の直撃にさえ耐え得ると言われていた。

 

更に地上には無数のトーチカや対空砲がハリネズミの針のように配備されており、それらが植物等によって巧妙にカモフラージュされる事により、正に難攻不落の巨大要塞となっていた。

 

 

 

そんなジャブローを攻略するため、ジオンは地上と宇宙からの同時侵攻を開始した。

 

まず最初に動いたのは、ソロモンに集結していたドズル率いる宇宙攻撃軍である。

 

宇宙空母「ドロス」を旗艦とする100隻近い数のジオン艦隊は、ジャブロー上空に展開していた連邦のパトロール艦隊を一蹴すると、ミサイルに搭載して打ち上げられていた多数の宇宙機雷の排除を開始した。

 

宇宙攻撃軍のモビルスーツ隊によってジャブロー上空の掃除が終わると、次にオデッサ上空に展開してたアクシズが姿を見せた。

 

オデッサから打ち上げられたグワダンとザンジバル、多数のHLVをその内側に納めた宇宙要塞の出現に警戒する連邦軍であったが、次の攻撃は全く予想だにしなかったジャブローの内部から始まった。

 

密かにジャブロー内部への潜入に成功していたランバ・ラル隊によって、ジャブロー各所に時限爆弾が仕掛けられ、それがこのタイミングで一斉に起爆したのである。

 

爆発の規模はそれほど大きなものではなかったものの、主に発電施設や指揮通信施設を目標として行われたため、臨戦態勢にあった連邦軍に大きな混乱を与える事に成功していた。

 

その隙をつくようにジオン側はアクシズに繋留されていた無数のアステロイドをジャブロー上空へと展開させる。

 

「我招く無音の衝裂に慈悲は無く、汝に普く厄を逃れる術も無し。連邦よ、滅べ。メテオスウォーム!」

 

突如として中二病に目覚めたかのようなギレンの台詞とともに備え付けられたロケットモーターに点火したアステロイド達は、事前に設定された地点に向け落下を開始した。

 

「この一撃は、愚劣なる地球市民に対する、裁きの鉄槌である!神の放ったメギドの火に、必ずや彼らは屈するであろう!!」

 

グワダンのブリッジでそんな中二感に満ちた台詞を連発して周囲に怪訝な顔をされるギレンを他所に、地上では対宙ミサイルやレールガンを用いた必死の迎撃が始まっていた。

 

虎の子である格納式大型メガ粒子砲まで投入して多くのアステロイドを迎撃した連邦軍であったが、ジオンによって放たれたアステロイドの数はそれを遥かに上回るものであった。

 

落着するアステロイドの威力によって、地上に設置されていたトーチカをはじめとする連邦軍施設が次々と破壊されていく。

 

上がってくる損害報告に顔色を悪くするジャブロー防衛隊司令部であったが、これはまだジャブローを襲う悲劇の始まりでしかなかった。

 

次にジャブローを襲ったのは、アステロイドに紛れて宇宙から降下してきた量産型アプサラスと空の魔王率いるジオンの青い死神達であった。

 

量産型アプサラスは、ジオンの鬼才であるギニアス・サハリンがアプサラス計画の集大成として開発した地上攻撃型モビルアーマーである。

 

生産性を高めるためアプサラスIIをベースに開発されたこの機体は、ドムのジェネレーターやザクのパーツを多数流用する事で極短時間での量産を可能にしていた。

 

ジャブロー上空に降下した24機もの量産型アプサラスは、搭載された高出力メガ粒子砲によって生き残ったトーチカや対空砲を次々と吹き飛ばして、ジャブローの対空防衛網を崩壊させつつあった。

 

無論、連邦側もただ傍観していた訳ではなかった。

 

生き残った発進口から数多くのセイバーフィッシュやガンタンクを出撃させ、空を飛ぶジオンの新兵器の迎撃を試みたのである。

 

だが、それを阻んだのは、開戦以降地上の空を支配したジオンの青い死神達であった。

 

「いやぁ…この新型機を貰った事も嬉しかったが、それ以上にこうやって宇宙から急降下できる事はもっと嬉しいな。なぁ、ガーデルマン?」

 

「た、大佐!もう地表です!そろそろ減速してください!」

 

「なあに、慌てるな。ダイブブレーキをかければまだまだ大丈夫だ!」

 

「この機体にそんなのはついてませんよ!」

 

YMS-18「ケンプファー」一年戦争末期に投入されたジオン公国軍の試作機である。

 

連邦軍のMS大量投入に対抗するために開発されたこの機体は、当初は高い機動性による一撃離脱をコンセプトとした強襲機として開発される予定であったが、異常な戦果をあげる某軍人の助言により頑丈かつ大量の弾薬を搭載可能な機体というほぼ逆のコンセプトで開発される事になった。

 

機体強度をあげる為にザクではなく試作機のひとつであったイフリートをベースに開発され、フレームやジェネレーター、スラスター等を強化されたこの機体は、基礎フレームや装甲材にガンダリウムβを採用し、更に三重の耐ビーム・コーティングを施す事で極めて高い耐久性能の獲得に成功していた。

 

また、背中と足にスラスター搭載型のウエポンバインダーを装備する事で大量の武器の搭載にも成功しており、更にこの試作機ではコックピットを複座にする事で、ウエポンバインダーに搭載されたサブアームを用いた複数目標への同時攻撃や、モビルスーツの足となるドダイの遠隔操作も可能としていた。

 

そんなアメイジングな機体とともに現れた空の魔王率いる72機のグフは、迎撃のために展開したセイバーフィッシュをガトリング砲による掃射で蝿でも落とすかのように簡単に撃ち落とすと、地上に展開したガンタンクによる攻撃を空を飛び回る事で回避し、ジャイアント・バズや対艦ライフルを用いた反撃によって次々と撃破していった。

 

因みに、ジャブロー攻略作戦でアプサラスとグフとケンプファーの各機種が上げた総戦果は、概ね1:1:2の比率だったと言われている。あれ?

 

一連の襲撃によって地上の防衛施設がほぼ壊滅したジャブローに、北米からガウが、軌道上からザンジバルとHLVが次々と飛来してモビルスーツ隊の降下を開始する。

 

僅かに生き残っていた防空施設が必死の対空砲火を浴びせかけるも、空を埋め尽くすかのようなジオンの降下部隊の前には焼け石に水の状態であった。

 

モビルスーツ隊の降下にあわせ、上空の量産型アプサラス達がジャブローの発進口に向け大型メガ粒子砲を発射する。

 

核兵器の直撃にさえ耐えると言われたジャブローであったが、山さえ貫く威力を持った大型メガ粒子砲を一点に集中されて耐えられるハズもなく、まもなく地下へと通じる巨大な通路が姿を現した。

 

これにより戦場は地上から地下へと場所を移す事になる。

 

 

 

やあ…諸君。ギレン・ザビである。

 

アステロイドによる地上爆撃から始まった一連の戦いは、ルナツーから出撃した連邦艦隊による迎撃がなかったため、想定以上に順調に進んでいた。

 

ルナツーから発進した100隻を超える数の連邦艦隊は、一度散開して行方をくらませた後に地球軌道上に集結している姿が確認されたのだが、我が軍によるジャブローへの降下作戦が始まってもなお大きな動きを見せなかったため、その対応に苦慮していた。

 

連中は何故動かない?まさかティターンズがやったようにジャブローに引き付けてから核兵器でジャブローごと吹き飛ばすつもりなのか?

 

だが、ランバ・ラルからの報告によってかなりの規模の防衛隊の存在が確認されているのでそんな手段はとれないと思うのだが…。

 

追い詰められた連邦がどんな手段をとろうとしているのか予想できず、内通者を介しておこなった降伏の事前交渉でもあまりジャブローに降りてこない事を勧められたため、不測の事態に備えて地上に降りる予定だったグワダンや一部の親衛隊の降下を中止して、現在宇宙で作戦の総指揮をとっていた。

 

「ギレン総帥、地上に降りた部隊からジャブロー内部への侵入経路の確保に成功したとの報告が入りました。」

 

「わかった。連邦軍の動きにおかしな部分がある。侵入部隊には慎重に進むように伝えろ。」

 

「は!了解しました。」

 

さて、これだけ派手に地上を攻撃すれば我が軍に降伏する理由には十分だろう。

 

少し早いが、極秘回線で降伏に向けた協議をはじめるとしよう。

 

 

一一一一一一一一一一一一

 

 

side マ・クベ

 

「ジオンによるジャブローへの降下作戦が始まったと言うのか?」

 

「はい。ソロモンに集結していた宇宙攻撃軍の主力がジャブローに向けて出撃した事が確認されています。地上でも南米に向けて移動する大規模な軍事行動が確認されており、ほぼ間違いないかと。」

 

「…よし。グラナダの同胞達に蜂起の合図を送れ。我が軍はこれよりジオン本国の奪取に挑む!」

 

「このタイミングでありますか?!」

 

「連邦との戦いに決着がついてからでは手遅れだからな。

我々にジオン本国を制圧するチャンスがあるとすれば、宇宙攻撃軍が連邦艦隊とジャブロー上空で潰しあって消耗する今しかないのだ。」

 

「…確かに閣下のおっしゃるとおりです。」

 

「マレットのグラナダ特戦隊を呼べ。サイド3に潜入させてキシリア様を救出させるのだ。残りの者は私と伴にグラナダ奪還に向かう。

時間との勝負になるぞ!急げ!」



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68話 UC0079年12月 星1号作戦◼️

3月に更新がなかったなど嘘だw


バーミンガム級戦艦「アナンケⅡ」

 

「レビル将軍!ジオンによるジャブローへの降下作戦が始まりました!」

 

「ジオン艦隊の動きは?」

 

「ソロモンとアクシズに駐留していた宇宙攻撃軍の主力は予想どおりジャブロー上空に展開しており、宇宙要塞アクシズもまたジャブローに向け移動を開始しました!」

 

「そうか、どうやらダミーを用いた陽動作戦は上手くいっているようだな。」

 

「主力部隊はルナツーを出てすぐに隕石を模したダミーを展開して姿を隠し、大量の艦艇のダミーを展開した陽動部隊が衛星軌道に展開しジオンの主力を引き付ける。まさかこれ程うまくいくとは思いませんでした。」

 

「一週間戦争で我々が苦しめられたダミーに、今度はジオンが苦しめられる。これが戦争というものだ。」

 

「全くです。しかし、隕石に擬態している関係上、我が軍の進軍速度は非常に遅いものとなっております。果たしてこの速度で間に合うのでしょうか?」

 

「なに、ジャブローは我が軍の誇る難攻不落の要塞だ。如何にジオン軍が強力といっても、そう簡単に落とす事はできん。ジャブローが落ち、連中が此方の作戦に気がついたとしても手遅れだよ。」

 

「確かに…。ではこのまま星一号作戦を進めます!」

 

「ウム。あと少しで他の部隊との合流地点だ。全艦隊の合流が完了次第、ジオン本国に向けて進軍を開始する!」

 

 

 

グワダン級大型戦艦「グワダン」

 

「ジャブロー防衛隊はジオン軍との即時停戦に合意します。ただ、連邦軍全体としての停戦は連邦政府のお偉方がルナツーに向かわれて不在のため、何とも申し上げられませんな。」

 

「ほう…。地球連邦政府の首脳部がジャブローを捨てて逃げ出したと?」

 

「彼らからすれば、戦略的撤退による時間稼ぎとの事でしたがね。我々が貴方をジャブローに引き付けている間にジオン本国を直撃する気のようですよ?」

 

「……連邦艦隊の主力は地球軌道に展開しているのではないのか?」

 

「はは、初めて我が軍が貴方の上手をとったようですな。あれはダミーですよ。開戦時に我々がされた事を真似たのです。」

 

「なんだと?!く……。まさかジャブローを囮にしてジオン本国を狙うとは。いくら本国が手薄といっても守備隊位は置いているのだぞ?」

 

「私もそう思いますよ。正気の沙汰ではありませんな。」

 

「しかし、なぜそのような情報を我々に?連邦の軍機だろうに。」

 

「おっしゃる通り我が軍の最高機密です。しかし、私にはこの作戦が上手くいくとは思えない。故に今貴方にこの情報を伝えるのです。」

 

「……なんだと?」

 

「貴方は情報の価値がちゃんとわかるお方だ。そして今この情報を伝えた事で、貴方は私に対して借りができた。違いますかな?」

 

「……確かにその通りだ。」

 

「故に、私はその借りを戦争を早く終わらせる事で貴方に返してもらうのですよ。ギレン総帥。で、終戦条約についてなのですが…」

 

 

やあ…諸君。ギレン・ザビである。

 

 

ジャブローの土竜と終戦条約について交渉していたのだが、あれはモグラじゃなくて怪物だな。

 

まさか自軍の機密情報を流す事で私に貸しを作り、それをネタに此方の譲歩を引き出すとは。

 

このタイミングであれば連邦艦隊の情報がジオンに入ってもおかしくないし、我等としても早期に条約交渉を終わらせるために色々と譲歩せざるを得なかった。

 

まあ良い。多少譲歩する位で連邦地上軍との全面的な停戦にこぎ着けられたのだから良しとしよう。

 

さて、後はグラナダの防備を固めさせ、それと戦っている連邦艦隊を後ろから襲撃すれば戦いは終わりだ。

 

さっさと戦争を終わらせるとするか……ん?

 

「ギ、ギレン総帥!」

 

「ハマーンか。そんなに慌ててどうした?」

 

「グラナダの守備隊がキシリアによるジオンの統治を求めて軍事クーデターを起こしました!また、ジオン本国がキシリア麾下の特殊部隊による襲撃を受け、キシリアの身柄を奪われたとの連絡が!」

 

「なんだと?!」

 

 

一一一一一一一一一一一一

 

 

side ドズル・ザビ

 

「ジオン本国が危ないだと?!」

 

「そのとおりだ、ドズル。我々にとっては開戦以降、最大の危機と言っても過言ではない。連邦艦隊だけならなんとでもなったが、そこにグラナダでのクーデターが重なるとなると話が違う。」

 

「わかった!すぐに全艦隊を集結させて…」

 

「そんな悠長な事をしている時間はない!私は今すぐに親衛隊を率いて本国の救援に向かう。ドズル、貴様には連邦艦隊への対応を頼む。」

 

「いくら親衛隊が精鋭揃いと言っても、ジャブロー攻略作戦のため半数近くが地上に降りているのだ!残っている親衛隊だけで本国を救援するなど無茶だ!」

 

「無茶であろうとなさねばならんのだ!

全艦隊を集結させてから本国に向かえば、確かにキシリアと連邦を倒す事など容易だろう。だが、それでは艦隊の補給や移動に時間がかかりすぎるのだ!

それだけの時間を首都防衛師団だけで持ちこたえるのはできん。それに……。」

 

「それに?」

 

「本国には今、アイナや親父達がいる。万が一にもキシリアや連邦にアイナの身柄を捕らえられる訳にはいかんのだ!

ドズル、連邦艦隊の方は頼んだぞ。ハマーン、次はサイド評議会に…」




筆の進みが遅い…。プロットは完成しているのでぼちぼち書いていきます。

決してウマな娘のトレーナーをしていて忙しいせいではありません。


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69話 UC0079年12月 アイナ・ザビ◼️

お待たせしました…。遅くなった言い訳はあとがきで。


「こちら哨戒任務中のホークアイ。ムサイ級とおぼしき艦影を確認したが、今日友軍の入港予定はあったか?」

 

サイド3の警備にあたっているムサイ級巡洋艦「バルフィッシュ」に、哨戒に出たザクから所属不明艦の発見報告が入ったのは、宇宙世紀79年も終わろうとしている12月の末の話であった。

 

「こちらバルフィッシュ。航路管制局に照会したが、該当する入港予定はない。沈んだ船の見間違いではないか?」

 

「いや、間違いなくムサイだ。それも一隻じゃない。目視で五隻を確認。このマークは…グラナダ艦隊の船か?」

 

「…グラナダの船だと?未確認艦に向け全周波数帯で通信を開け。

接近中のムサイ、こちらサイド3警備隊のバルフィッシュ。そちらの所属と作戦コードを通知されたい。繰り返す。接近中のムサイ、こちらサイド3警備隊…」

 

「艦長!ミノフスキー粒子の散布濃度が急速に上昇しています!」

 

「バカな!ここはサイド3だぞ?!ありえん!」

 

「ブリッジ!未確認艦艇からモビルスーツの発進を確認!此方に接近して…うわっ!」

 

「艦長!ホークアイが未確認モビルスーツによって撃墜されました!!」

 

「て、敵襲だ!サイド3全域に非常警報を出せ!総員、第一種戦闘配置!!モビルスーツ隊、全機発進!所属不明機を近づけるな!」

 

緊急事態を告げるアラートが鳴り響き、搭載されているモビルスーツが次々と緊急発進する。しかし、戦況は既に手遅れとなりつつあった。

 

慌てて迎撃に出たバルフィッシュのモビルスーツ隊を、マレット率いるグラナダ特戦隊のアクト・ザクが襲う。

 

アクト・ザクはペズン基地で秘密裏に開発された高機動型モビルスーツである。

 

連邦との裏取引で入手した技術をザクに導入することで開発されたこの機体は、機体の駆動システムをフィールド・モーターに変更し、関節部にマグネット・コーティングを導入することで大幅な運動性の向上に成功していた。

 

また、連邦から入手したエネルギーCAP技術を用いる事でビームライフルの携行も可能としており、推力を強化した専用バックパックを装備する事で、外見こそザクに似ているものの、もはや別の機体といっても良いほどの性能となっていた。

 

そんな機体を相手に、奇襲を受けた警備隊が勝てるはずもなく、モビルスーツ隊を蹂躙されたバルフィッシュが沈んだのは、所属不明のムサイ発見の報告から僅か数分後の事であった。

 

所属不明の部隊による襲撃に浮き足立つサイド3警備艦隊を、今度はキシリア麾下のニュータイプ部隊が襲った。

 

未完成なのか足のない特殊な形状をしたその機体は、辛うじて迎撃に出たモビルスーツ隊を腕の五連装メガ粒子砲によるオールレンジ攻撃で蹴散らすと、軍港から慌てて出撃する警備艦隊に向けてメガ粒子砲の雨を降らした。

 

五連装メガ粒子砲の直撃により出港もままならず軍港内で擱座するチベ。

 

何とか出港したものの、メガ粒子砲の充電が間に合わず何もできずに沈むムサイ。

 

緊急出撃したが、足のない機体のスラスターに搭載されたプラズマリーダーにより纏めて撃破されるザク小隊。

 

「フン、あれが例のニュータイプ部隊か。たった五機で艦隊を足止めするとはなかなか使えるじゃないか。よし、周辺宙域の確保が完了した事をキシリア様にお知らせしろ!」

 

アクト・ザクから発光信号が射出され、それを合図に一隻の小型挺がサイド3から飛び出し、グラナダ方面に向けて全速で進んでゆく。

 

すると、それを追うようにヅダとザクによるモビルスーツ小隊が出撃してきた。

 

「キシリア様への追撃など俺が許さん!」

 

隊長機らしきヅダをビームライフルによる狙撃で撃墜すると、それに動揺するザクに向け大型ヒートホークを振り下ろす。

 

「フン、たわいない。本国の警備部隊など、所詮はこの程度か。よし、我々もグラナダに引き上げるぞ。信号弾を撃て!」

 

 

 

「無事の帰還何よりです。キシリア様。」

 

「ウム。ジオン本国で拘束された時はどうなる事かと思ったが、お前達のおかげで無事にグラナダへ戻る事ができた。私が不在の間の対応ご苦労だったな、マ・クベ。して、現在の状況は?」

 

「は!グラナダ基地の機能は我々新生ジオン軍が完全に掌握しました。また、各地に配置替えとなっていたグラナダの兵達を使い、ア・バオア・クーやソロモンの通信施設や軍港の破壊に成功しました。これによってジオン本国は一時的に孤立した形になっております。」

 

「ドズル率いる宇宙攻撃軍は地球軌道に展開しており、ギレン率いる親衛隊もジャブロー攻略作戦の指揮をとる為に地上に降りている。正にジオン本国を制圧する千載一遇のチャンスという訳だな。だが、本国の占領に失敗すれば後がないぞ?少し性急すぎたのではないか?」

 

「はい、キシリア様。我々もペズンに潜伏しながらテロ等で社会情勢の不安定化を図り、それによってギレン達の支持を失わさせる案も考えましたが、グラナダの兵に対しておこなった洗脳が簡易的なものであるため、長期間放置すると解除される恐れがあります。

また、連邦との戦いが終戦を迎えた場合、過去の取引に関する情報が連邦側から漏れる可能性を考慮してこのタイミングでの決起となりました。」

 

「……確かに貴様の言うとおりか。今が私に残された最後のチャンスという訳だな。

ジオン本国を攻略し、父上やサスロの身柄を押さえてしまえばギレンやドズルも無茶はできまい。兵の準備はできているのか?」

 

「キシリア様の乗艦、グワジン級戦艦「アサルム」を中心にムサイ級十二隻、パゾク級六隻、パプア級十四隻が出撃態勢を整えております。」

 

「まさか補給艦が主力になるとはな……。まあ、宇宙艦の大半は宇宙攻撃軍の管理下にあるのだから仕方ないが。」

 

「はい。ですがパゾクとパプアには宇宙戦闘艇『ザクレロ』を、ムサイにはザクを改良した『アクト・ザク』を限界まで搭載しております。

 

ペズンで開発した私のギャン・エーオースと、NT部隊の力があれば、首都防衛師団など敵ではないでしょう。」

 

「ウム。では直ちに全艦隊を出撃させろ。私はアサルムで指揮をとる。」

 

「はっ!」

 

 

 

「…では、そのように。急な要請への迅速な対応感謝する。ではまた。」

 

ん?……やあ、諸君。ギレン・ザビである。

 

全速でジオン本国に向かいながら、各地と連絡をとっているのだが、肝心のジオン本国との通信がキシリアによる破壊工作で音信不通となっており、親父やサスロ、アイナ達だけでも本国から退避させたいのだが、いまだに連絡がとれていない。

 

サスロ辺りの指示でア・バオア・クーに退避してくれていると良いのだが……。

 

しかしキシリアめ。やっと連邦との戦いが終わろうとしているタイミングでクーデターなど起こしおって。和平交渉の妨害や情報漏洩、モビルスーツ用OSの横流しなど本当にいらないことばかりしてくれる。

物事は俯瞰で見る事が大事だというのに、理想に囚われ判断を誤ったな。

 

まあいいだろう。俺としても貴様との因縁に決着をつけておきたかったところだ。戦後に暗躍され、頭パーンされてはたまらんからな。

 

貴様がそのつもりなら、俺の手で引導を渡してやろう。

 

ハマーン、全周波数帯で通信を開け。艦隊に檄を飛ばすぞ!

 

 

 

忠勇なる我がジオン公国軍の将兵達よ。

 

連邦からのスペースノイド弾圧によって始まったこの戦いもいよいよ終わりの時を迎えつつある。

 

連邦の戦力は強大であったが、長い年月をかけて積み上げてきた準備と、諸君の素晴らしい働きによって戦いは我が軍の優位に進み、オデッサ、北米、オセアニアにつづき、ついには連邦軍本部ジャブローさえ我等の手に落ちた。

 

既に決定的打撃を受けた連邦軍に如何ほどの戦力が残っていようと、それは既に形骸である。

 

敢えて言おう、カスであると!!

 

まして醜い裏切り者であるキシリア率いる軟弱の集団が、我等栄光あるジオンを導く事など出来ないと私は断言する。

 

これ以上戦い続けては、人類そのものの存亡に関わるのだ。

 

無能なるキシリアと地球連邦の残党に我ら真なるジオンの力を思い知らせ、人類の未来の為、ジオン公国国民は立たねばならんのである!

 

ジーク・ジオン!!

 

 

 

アイナ、メイ、無事でいてくれよ……。

 

一一一一一一一一一一一一

 

 

side アイナ・サハリン

 

 

メイちゃんの所に遊びに来られていたデギン様の所に、サスロ様が顔色を変えてやって来られたのはギレン様によるジャブロー攻略作戦が始まってすぐの事でした。

 

「所属不明の部隊にガーディアン・バンチが襲撃され、キシリアの身柄を奪われただと?!」 

 

「親父、それだけじゃないぞ。行方不明だったキシリア麾下の部隊がグラナダを襲撃した。守備隊から多数の造反者が出た事もあってグラナダ基地は既に陥落したらしい。

それに、ガーディアン・バンチを襲撃した部隊がグラナダ方面に逃走した事といい、どうやらキシリアは軍事クーデターを起こす気のようだ。」

 

「なんという事だ……。まさかキシリアが本当に儂らを裏切っていたとは……。」

 

……。どうもキシリア様、いえ、キシリアがグラナダで反乱を起こし、またギレン様に迷惑をかけようとしているようです。

 

メイちゃんのお父さんに濡れ衣を着せて殺しただけでなく、情報漏洩や妨害工作でギレン様の足を引っ張った事だけでも許せないのに今度は軍事クーデター……。

 

紫ババアに対する怒りで手が震え、思わず手に持っていた金属トレーを凹ませてしまいます。

 

「ギレンは、ギレンは何と言っている!?」

 

「ガーディアン・バンチへの襲撃にあわせてサイド3各地で爆発事件が発生した。特に通信施設に大きな損害がでており、地球軌道にあるアクシズはおろか、近場のア・バオア・クーとさえ連絡がとれない状況なんだよ。親父。」

 

「ぐ…グラナダとならレーザー通信で繋がるだろう。ワシがキシリアを説得して止めさせる!」

 

「何をバカな事を…。言葉で説得できるようならそもそもクーデターなど起こしはせんよ。そんな事より早くサイド3から脱出する準備をしてくれ。」

 

「ザビ家の者がサイド3から逃げ出すというのか?!」

 

「グラナダからの報告で想定される反乱軍の戦力は、本土防衛隊の戦力をあきらかに上回っている。

ここに我々が残ってキシリアに捕まりでもすれば、救援に来るであろうドズル達の障害になってしまうんだよ!」

 

「しかし、ザビ家の者がムンゾの民を置いて逃げ出したとなれば、市民の支持を失う事になるぞ!」

 

「それは…そうかも知れないが……。」

 

どうやらザビ家の方が全員逃げる事が問題になっているようです。

 

確かに国民を残してザビ家の方々だけ安全な場所に避難する事には問題があるかも知れませんが他に方法が……。

 

…いえ、一つだけザビ家の方々に避難して頂き、かつサイド3にザビ家の者が残る方法があります。

 

勝手な事をするなとギレン様にお叱りを受けるかも知れませんが、ギレン様もララァちゃんやハマーンさん、アルテイシアさんに、果てはメイちゃんにまで勝手に手を出したのです。

 

多少の我が儘は許して頂けるでしょう。

 

「デギン公、サスロ様!」

 

突然私が大きな声で話しかけた事に驚いたお二人が私の方を向かれます。

 

「どうされたのかな?サハリン嬢」

 

戸惑いながら話しかけてきたサスロ様に私は自分の考えを伝えました。

「お二人ですぐに避難してください。私がザビ家の代表としてサイド3に残ります。」

 

「……。確かに貴女はザビ家の一員と言っても過言ではない存在だが、公式的には単なる使用人だ。ザビ家の代表というのは無理が……。」

 

「いえ、大丈夫です。此処に私とギレン総帥の名前を書いた婚姻届があります。これを内務相であるサスロ様に受理して頂く事でこの瞬間から私はザビ家の人間になります。」

 

「……よくそんなものがありましたな。以前からギレン兄と準備されていたのですか?」

 

「いえ、今私が独断で偽造しました。ギレン様は後でお怒りになるかも知れませんが、その時は私の偽造であったと処断して頂けば良いのです。」

 

「それは…」

 

「幸いジオン本土にいる最高位の士官は私の兄であるギニアス技術中将です。私がザビ家の代表として残留しても大丈夫でしょう。」

 

「しかし、それでは貴女に危険が…。」

 

「今、一番大事なのはザビ家やダイクン家に連なる方々に安全な場所まで避難して頂く事、違いますか?」

 

「……解った。ジオン本土は貴女に任せよう。」

 

「親父…!」

 

「ジオン公国の公王としてギレン・ザビとアイナ・サハリンの結婚を認める。

末長くバカ息子を頼む、アイナ嬢、必ず生きてギレンと再会し添い遂げるように。」

 

そう私に向けて告げると、公王陛下は私に深々と頭を下げられたのでした。

 

 

 

一一一一一一一一一一一一

 

あ・と・が・き

 

エタッたと思われた方、申し訳ありません。なかなか筆が乗らなかったというのも事実ですが、道端で生後一月ほどの天使…じゃなかったルシファーを拾ってしまいその世話やらなんやらで落ち着いて小説を書けませんでした。

 

ミルクを飲ませたり、餌をあげたり、遊びの相手をしたり、パソコンの上に乗ってゴロゴロされたりで幸せでした。

 

 

【挿絵表示】

 



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70話 UC0079年12月31日 逆襲のキシリア◼️

「鷲は舞い降りた!これはスペースノイドにとって大きな飛翔なのである。

 

ジオン独立戦争開戦以降…我々は3度に渡り正義の剣を地球へと打ち込んだ。にもかかわらず、地球連邦の愚か者どもは未だに地上の半分を支配し惰眠を貪っている!

 

何故だ?!

 

それはこの戦いを指揮するジオン首脳部が無能であるからに他ならない!

 

故にこの私、キシリア・ザビは決断したのだ!

 

デギン公王の権威を傘に、愚かな戦いを続けるザビ家の男どもに、我が腕による正義の鉄槌を下すと!

 

真のスペースノイドの自由のため、我々は故郷であるムンゾの地へと舞い降りジオン国民の自由を約するものであると!

 

我が正統ジオン軍は、既にグラナダを制圧し、ジオン本国を解放するべく進軍しつつあり!」

 

 

 

 

「ギレン閣下に弓引く裏切り者めが。貴様の扇動に乗るムンゾの民など居るはずがないというのに、愚かな事をするものだ。ノリス、予想される敵軍の規模はどのくらいだ?」

 

「は、ギニアス様。グラナダ基地司令のルーゲンス大佐が送ってきた情報によれば、確認された艦はグワジン級が一隻、ムサイ級が十隻、それに補給艦が大小取り交ぜて十数隻との事です。」

 

「キシリア麾下の艦隊が勢揃いといったところだな。グラナダとの距離を考えれば、あと十数時間でこのサイド3が戦場になりうるという事か。

ノリス、地球軌道に展開している主力艦隊とはまだ連絡がとれないのか?」

 

「中継ステーションの大半が破壊された影響で未だ通信は途絶しております。

ですが、英明なギレン様の事です。既に此方の状況を推測され、手を打たれている事かと。」

 

「ウム。それについては私も同意見だ。だが、地球軌道からこのサイド3まではかなりの距離がある。味方が到着するまでの間、我々が持ちこたえられるかが問題だ。予想される敵モビルスーツの数は?」

 

「ムサイ級の搭載数は最大で6、補給艦は艦種によって異なりますが、一隻に8機程度と思われます。グワジンの搭載機も含めれば200前後かと。」

 

「200機か、かなりの数だな。地球軌道に展開している宇宙攻撃軍の主力がいればなんとでもなるのだが……。」

 

「はい。それに対して此方の戦力は、本国艦隊の生き残りのムサイが5隻に、首都防衛大隊を中心としたモビルスーツが50機ほど。

本国艦隊を襲撃した未知の機体の存在も考えますと、この戦力差は厳しいと言わざるをえません。」

 

「確かに戦力差は大きいな。だが、我が軍の戦力はもう少し増やせるぞ、ノリス。技術本部傘下の実験部隊と、本国で生産していた新型機の実戦配備を急がせている。少なくとも30機は増やせるだろう。

それに、総帥専用機の技術実証機として開発したノイエ・アプサラスを出す。」

 

「あの機体を…。しかし、あの機体は試作機であるが故にパイロットを選びます。今の本国にあれを操縦できるような者はいないと思われますが……まさか?!」

 

「お前の想像のとおりだ。実証実験でテストパイロットを務めたアイナが操縦する。

あの機体で様々なテストをおこなったアイナならば機体の性能を十分に引き出せるだろう。」

 

「アイナ様自ら前線に立たれるなど、危険すぎます!」

 

「そんな事はわかっている!だが、これはアイナ自ら言い出した事なのだ。

名目とはいえ、ザビ家の名を頂いた自分が前線に立てば、残された兵達の士気もあがるだろう、と。」

 

「それは…確かにそうですが……。」

 

「私も反対したのだが、いくら言っても聞かない以上、私にしてやれる事は少しでも多く戦力を整えてやる事くらいしかない。

ノリス、すまないがなんとかアイナを守ってやってくれ。こんな事は、親代わりのお前にしか頼めん。」

 

「自分が!?ギニアス様達の親?!……光栄であります。

人の生は何を成したかで決まります。ギニアス様はサハリン家の復興という夢を見事に成し遂げられました。ご立派です。

アイナ様の望みがサイド3を守る事なら、それを助けるのが軍人としての私の役目。

見事、守り抜いてご覧にいれる。」

 

 

 

みなさん、はじめまして。アイナ・ザビと申します。

 

今日は出撃に向けた最終調整が進むアプサラスのコックピットからご挨拶させて頂いています。

 

アイナ・ザビ……ウフフ。

 

この非常時に不謹慎なのはわかっているのですが、長年お慕いしてきた方の「妻」となれた事を考えると、思わず頬が緩んでしまいます。

 

「ジオン公国総帥」という立場と眉なしのお顔のせいで冷徹な印象を持たれがちなギレン様ですが、公務においてはともかく、私事においては優柔不断で優しい一人の男性にすぎません。

なので今回の件がなければメイちゃんやララァちゃん達の事を気遣ってなかなか結婚には至らなかったでしょう。

 

一般的に見ればとても褒められたものではありませんが、お慕いする方の負担になりたくないと思い、結婚という言葉を口にしなかった私にはギレン様を批難する事はできませんでした。

 

……まあ、一番の理由は一緒に暮らすうちに私もメイちゃん達の事を大好きになってしまったからなのですが…。

 

「ちょっと!アイナお姉ちゃん!ギレンさんと結婚して浮かれるのはわかるけど、今は最終調整に集中して!」

 

考えごとをしていた事に気づかれ、メイちゃんに怒られてしまいました。

 

本当はメイちゃんもデギン公と一緒に避難して欲しかったのですが、

 

「私はもうザビ家の人間じゃないから大丈夫!」と主張して譲らないメイちゃんを説得することができず、今はこうしてアプサラスの最終調整をしてくれています。

 

全く、頑固なところは誰に似たのでしよう?

 

「いい?アイナお姉ちゃん。このノイエ・アプサラスは二重のIフィールドとガンダニュウム製の装甲でほとんどの攻撃を受け付けないけど、格闘戦に向いてないから気をつけて!

 

それにエネルギー消費も激しいから予定の時間になったら必ず後退してね。

補給の間はあそこにある新型機の子達が時間を稼ぐから、見慣れない機体だけど間違って攻撃したりしないでね。」

 

メイちゃんに言われ、初めて見るデザインの黒い機体の姿をしっかりと覚えます。

 

ガンダニュウムの装甲と低出力ながらIフィールドを備えた機体らしく、装備したビー厶キャノンの威力もあって射撃戦では無類の強さを持つそうです。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「アイナ様!キシリアの艦隊がサイド3宙域に入りました!」

 

その直後、ノリスから敵艦隊接近の報告が入り、ただでさえ慌ただしかった格納庫が更に慌ただしくなります。

 

「これで…よし!調整終わり!

あと、これは未確認情報なんだけど、月の辺りで多数の爆発が観測されたの!ひょっとしたらギレンさんがもう月まで来ているかもしれないからアイナお姉ちゃんも頑張ってね!」

 

最後にそんな言葉を残して、調整を完了させたメイちゃんが機体から離れていきました。

 

ギレン様が月まで来ているかもしれない!

 

あまり期待しすぎてはいけないのはわかっているのですが、希望に胸が高鳴るのを抑えられません!

 

あの人が帰るところは私が守ってみせる…!

 

「アイナ・ザビ、ノイエ・アプサラスでます!」

 

 

 

一一一一一一一一一一一一

 

side3 周辺宙域

 

戦いは、月を背に展開したキシリア・ザビ麾下の艦隊によるメガ粒子砲の一斉射撃から始まった。

 

何十という数のビーム光が宇宙の闇を切り裂き、コロニーの前面に展開する本国艦隊へと降り注ぐ。

 

防衛側が事前に展開していたビーム攪乱幕によって艦隊やコロニーへの損害はなかったものの、コロニーへの被害を辞さないその攻撃は、追い詰められたキシリアの狂気を感じさせるものであった。

 

そんなキシリアの狂気にあてられたのかのように、牙の生えた巨大な顔をもつモビルアーマーが戦場へと姿を現す。

 

小型宇宙艇にカマキリのような1対の腕を付けたような機体は、ムサイから射出された紫に塗装されたアクト・ザクを背中に乗せると、サイド3めがけ突撃を開始した。

 

「キシリア様の為に!キシリア様の為に!キシリア様の為に!」

 

狂ったようにキシリアの名前を称えながら進む部隊の前に立ち塞がったのは、インド神話における水の精の名前を冠する巨大モビルアーマーだった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

ギニアス・サハリンによって開発された、Iフィールドや偏向メガ粒子砲等の新兵器をテストをするために開発された本機は、試作機でありながら、機体に装備した無数のビーム砲とIフィールドによる鉄壁の防御、ガンダニュウムβの装甲によって移動要塞的な運用を可能とする怪物機であった。

 

「下がりなさい!死にたいのですか!」

 

そんな台詞とともに、ノイエ・アプサラスが機体中央に備えた巨大な砲口から、戦艦の主砲さえ凌駕する膨大なメガ粒子の塊が虚空へと放たれる。

 

放たれた巨大な閃光は、射線上に展開していたモビルスーツ隊の第一波を薙ぎ払うと、そのまま後方に展開していたムサイをも薙ぎ払った。

 

運悪く船体の真ん中を薙ぎ払われたムサイは中央から真っ二つに割れると、船体の後部が隣を航行していたムサイへと突っ込み、その艦を巻き添えにして爆発四散した。

 

開戦直後に出鼻をくじかれる形になったキシリア艦隊だったが、その程度の損害で引き下がるような狂信者達ではなかった。

 

即座に後続の艦からモビルスーツ隊の第ニ波が射出され、光の洗礼を浴びせかけたモビルアーマーへと襲いかかる。

 

横隊を組んだザクレロがアプサラスへと狙いを定め、口のような部位に仕込まれた拡散ビーム砲を一斉に発射する。

 

十機のザクレロから放たれた亜光速の散弾は、回避する事など不可能な密度であったが、アプサラスの2基の大型ジェネレーターが生み出すIフィールドの結界の前には何の意味も持たなかった。

 

「これが私の戦争です! 」

 

逆に次の瞬間、お返しとばかりにアプサラスの各部から無数の偏向メガ粒子砲が放たれる。

 

虚空を引き裂いて飛来した高温のメガ粒子の雨は、人の顔を持つモビルアーマーの群れへと降り注ぎ、その姿を次々と火球にかえていった。

 

あっけない終わりを迎えたザクレロ達であったが、彼等はアクト・ザクを戦場に送り届けるという最後の役割を果たしていた。

 

ザクレロを囮にする事でメガ粒子砲による洗礼を潜り抜けたザクの改良型達は、遠距離での撃ち合いが不利と判断するや、腰に備えたヒートホークを抜き放ちアプサラスへと襲いかかった。だが、

 

「愚か者どもめ、アイナ様をやらせはせんぞ!」

 

即座にアプサラスの陰に控えていた青き騎士によって撃ち滅ぼされる事になった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「宇宙用高機動型グフ」

 

一週間戦争の際にグフのパイロットをしていた某エースの要望により、グフが宇宙でも戦える機体である事を証明するため開発された機体である。

 

「グフで100機以上の連邦モビルスーツを撃破した場合、その功績を称えて宇宙対応型のグフを開発しよう。励み給え。」

 

初めて連邦モビルスーツを撃破した功績によるジオン十字勲章の授与式の際、総帥が冗談のつもりで言った条件を某エースが達成する事によって開発が始まった本機は、推進系をロケットエンジンに変更し、コックピットを宇宙仕様に改修する事で見事に空間戦闘に対応していた。

 

それどころか、最新型の試作ジェネレーターを搭載する事で、グフがベースであるにもかかわらず、ビーム兵器の運用さえ可能となっていたのである。

 

「指揮官機1、高機動ザク4、モビルアーマーもどきが3……指揮官機はバズーカ装備か!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

鋼鉄の騎士が、左手に持った巨大なビームバズーカを指揮官機を中心に解き放つ。

 

アプサラスの技術を応用して造られたその巨大なビーム兵器は、基礎となった兵器と同様に複数目標への同時射撃を可能としており、砲口から放たれた複数のビーム光はたった一度の射撃で2機のアクト・ザクと3機のザクレロを火球へと変えた。

 

不意打ちによる一撃で指揮官と半数の仲間を落とされたアクト・ザク達は、混乱しながらも目標をノリス機に変え突撃を再開した。

 

「愚かな…そんな動きでは訓練用の的にしかならんぞ!」

 

そんな侮蔑の言葉とともにフィンガーバルカンによる弾幕が、ヒートホークを手に襲いかかるアクト・ザクを迎え撃つ。

 

グフの左手から放たれた無数の弾丸は、先頭にいたアクト・ザクを穴だらけにすると同時に、それに続くモビルスーツの足を一瞬止める。

 

「これが避けられるか!」

 

その隙をエースであるノリスが見逃すはずもなく、グフの右の手首から飛び出したヒートロッドがアクト・ザクに絡みつき、そこを流れる高圧電流が機体の精密機器を破壊し、動きを止めた。

 

最後に残ったアクト・ザクは、全ての僚機を失った事に怯えながらも、手に握ったヒート・ホークをグフへと必死に振り下ろす。

 

しかし、敵に怯え、竦んだ状態でモビルスーツの性能を活かせるはずもなく、たった一度のバーニア噴射で攻撃を回避したグフは、すれ違いざまにヒートソードを抜き放ち、背後からの一撃によって機体を両断したのだった。

 

 

【挿絵表示】

 

 




大変に遅くなり申し訳ありません…。
ネコアレルギー(レベル5)が発覚したり、野良のルシファーを可愛がってくれる里親さんを探したり、ルシファーを里子に出したショックで鬱になりかけたり、猫との相性によってはアレルギーでも飼えるケースがある事を知って色々やっているうちに遅くなってしまいました…。

まあ、戦闘シーンを書くのが苦手なのが一番大きいのですが…
実は気分転換に書いていた最終戦後のエピローグはほぼ完成していたりします。というか、どんどん量が増えてます。

次の話は40%位の完成度で、また少しお時間をいただくと思いますが、必ず最後まで書きますのでお待ち頂けると嬉しいです。

感想を頂けるとモチベになるので多少はやくなるかも?

挿絵について
ビルゴっぽい機体
私のオリジナルです。個人的に一番好きな量産機なので無理に出しました。宇宙世紀外から出した点は申し訳ありません。多分ちょい役でしかないので、多めに見て頂けると嬉しいです。

ノイエ・アプサラス
Twitter「まこりん 異世界模型亭」様の作品を許可を頂いて使わせて頂きました。正に移動要塞といった迫力あるデザインも凄いのですが、なんとこれメガ粒子砲の砲門が稼働したり発光したりします。

宇宙用高機動型グフ
Twitter「ル・クルーゼ@ソレスタルビーイング祭り」様の作品を許可を頂いて使わせて頂きました。本来はランバ・ラル用に開発された宇宙戦用のグフになります。
作者がネタを入れないと落ち着かないのでちょっと設定が変わりました。

ル・クルーゼ様は素晴らしいクオリティの作品を大量に作られているので是非一度ご覧になる事をオススメしますが、今後のネタバレになる部分がありますので、ネタに気が付かれた方は口チャックでお願いします。
ただ、それを押してもハサウェイ・ノア専用「νガンダム type クスィーアーマー」、ギギ・アンダルシア専用「ナイチンゲール type α・アジール」は一見の価値があると思います。

ではまた次の話で。


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