史上最強の番外短編集 ~おまけ~ ((´・ω・`)ガンオン修行僧)
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琳お姉さんの日記
Page.01『はじまり』


皆様の声に後押しされ、本編に書けなかったエピソードを書いていきますよ~イクイク
あくまで本編優先のため、好評だったら続きを書きます(書くとは言っていない)


「息子さんをアタ……私にください!」

「は?」「え?」

「あ、違っ―――」

 

 

 昔から、アタシはこういう真面目な話が苦手だった。現に今も、内弟子になりたいという願ってもない提案をしてきた愛弟子の希望を叶えるために、彼の両親に何かおかしなことを言ってしまったようだ。

 

 

「え、えと、その……内弟子と言いまして? あの、アタシとずっと一緒に暮らすことを認めて頂いてその……つつつつまりデスね、アタシと暮らしてアタシが育てて―――」

 

 

 しどろもどろになりながら、間違ってはいないがさらにおかしなことを言ってしまった気がする。

 こんなことをするくらいなら、そこいらの達人と死合いでもする方がよっぽど気が楽だが、愛弟子のご両親に筋と礼儀を欠くわけにはいかない。たしか日本人は義と礼節を重んじると、何かのテレビで言っていた気がする……。

 必死に説明とも弁明とも取れないものを重ねていると、突然基樹のご両親が噴き出して、アタシは呆気にとられた。

 

 

「大丈夫ですよ、基樹からちゃんと聞いていますから」

「すみません、あまりにも必死だったので止めるに止められず……」

 

 

 どうやら、基樹がご両親に説明してくれていたらしい。

 ……そんなことを言っていたような気もするが、内弟子と言われてすっかり舞い上がって頭がいっぱいになってしまっていたようだ。

 

 そうして、アタシと基樹のヘンテコな内弟子生活が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 思えば、あいつと出会ったのは、アタシが日本へ来てようやく一年ほど経った頃だ。アタシが二十二歳で、あの子はまだ十歳にも満たない年齢だった。

 

 初めて見かけたのは、カツアゲの加害者と被害者の双方から金を巻き上げていたあいつの姿だった。

 とんでもないことをするガキもいたもんだと呆れ半分、これまでの努力と強さへの執念を感じて興味を惹かれたのがもう半分だ。

 それからトントン拍子にあいつを弟子として認め、鍛えていくことになったわけだが―――

 

 ―――まさか弟子というのがこんなに可愛いものだとは思ってもいなかった。

 

 

 当初は、アタシが叶えられなかった夢を代わりに叶えてくれるかもしれないという、打算に満ちた目的であいつを弟子として受け入れた。

 しかし半年も経つ頃には―――いや、今でももちろんその目的が第一なのだが―――どんどん腕を上げていくあいつの成長を見守ることが、アタシの中で大きな楽しみとなっていた。

 

 特にほら、新しい技を覚えたりしたときに褒めて頭を撫でてやると満面の笑みを浮かべてはしゃぎ回るところとか、新しい技を見せてやった時の尊敬と高揚に満ちたあの輝くような瞳とか、たまにアタシの家に泊まった時、怖い夢を見たとかで夜中にアタシの元に来るところとか……とにかく可愛く思えて仕方がない。

 

 それからのアタシは目下、師父としての尊厳を守れるよう常に厳格な師父を演じていた。

 

 

 とりあえずはそんな弟子との思い出を、この日記に記していこうと思う。三日坊主のアタシがいつまで続けるかわからないが、これはきっと大切なものになるような気がしている。




※悩みに悩みぬいた結果、琳お姉さんは逆鬼師匠と同い年になりました。皆様のご感想に後押しされ(?)、当初の設定より若返りましたねぇ!


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Page.02『はじめてのお泊まり』

たくさんの高評価とご感想を頂いたので感謝の初投稿です。
一日一話しかないと思った? 残念、追加の欲張りセットも投稿してくれるわ!

こんな文量のもの書いてる暇があったら本編を書いて、どうぞ。
とは自身で感じているため、これ以上言ってはいけない(戒め


ちなみに、書き忘れていましたが、琳お姉さんはケンイチ世界基準の巨乳です(ガンギマリ


「……やけに静かだ」

 

 一人で過ごす夜。このボロ家を不思議と広く感じ始めたのは、いつの頃からだったろうか。

 縁側という、日本家屋特有らしいスペースで夜半の月を眺めながら、ぼんやりと修行内容を考えていた時に、ぽつりと口から言葉が漏れた。

 

 視線を落とせば、昼間にあの子が叩いていた木人椿が月明かりに照らされている。

 食べかけの、少しお高めのアイスクリームを縁側に置いておもむろに立ち上がり、普段自分が打つより少し低い位置に軽く手を触れる。

 そして、古傷に障らないギリギリの力で木人椿に突きを入れる。気持ちの良い音を立てた木人椿に、さらに続けて突きを入れていく。

 

 ……思えば、再び本格的な鍛錬を再開したのも、このボロ家を広く感じ始めたのと同じ時期だったか。

 自身の胸中の変化に自嘲気味に笑い、アタシは新たな日課となった鍛錬をさらに続ける。

 

「……あっ」

 

 縁側に戻ったのは、食べかけていたアイスクリームがすっかり液体になってしまった後だった。

 

 

 

 

―――――――

―――――

―――

 

 

「俺、このままずっと琳姉ちゃんと一緒にいる!」

「っ―――!?」

 

 金曜日の修行もほとんど終わり、小休止を取っていた時のことだ。

 基樹がいきなりそんなことを言うもんだから、アタシは飲んでいた水が変なところに入り、むせ返ってしまった。

 基樹が突然変なことを言い出すのが慣れっこだったが、さすがにこれは予想外だった。

 

 

「ず、ずっと一緒にって……えぇ!?」

「週末に父ちゃんと母ちゃんが出かけちゃうから、琳姉ちゃんのとこに泊まりたいんだー!」

「なんだ、そういう……そういうことはちゃんと言いな。あと、アタシのことは琳師父と呼ぶように」

 

 

 はーい、と気の抜けた返事を寄越す愛弟子の頭を軽く小突く。

 すると思ったより力が入っていたようで、基樹は小突かれた額を両手で押さえながら、少しだけ目を潤ませていた。

 ……ちょっとだけ可哀想なことをしちゃったかな。

 

 

「そんで、泊まっていいのかよー」

「そういうことなら構わないよ」

 

 

 そういえばこの子が毎日うちに通うようになってかなり経つが、泊まっていくのは初めてだな。

 よくよく考えれば、小学生男子が友達と遊びもせず、来る日も来る日もいい歳した女の家に通うのは普通ではないんじゃないだろうか。それが今度はお泊まりだって?

 ……もしかして、自分はとんでもない申し出を軽く了承してしまったのかもしれない。

 

 

「……ご両親には友達ん家に泊まるとでも言っておくんだよ」

「え? なんで?」

「それは……えっと……いいから言う通りに! ほら続ける!」

 

 

 理由を問われて返答に窮したアタシは、修行を再開して強引に話を打ち切った。

 いい歳した女が幼気な小学生男子を家に連れ込んで何かしていると思われると色々とまずいから―――などという理由は、死んでも口にできなかった。

 

 

 

 

 

 そうして、土曜日の夕刻を迎えた。

 

 一日の修行も終わり、いつもなら基樹が帰っていく時間だが……今日はそうならず、基樹と一緒にボロ家へと入っていく。

 

 ……子供の世話って、何をすればいいんだ?

 とりあえず居間に通し、向かい合って座ったアタシの頭の中は、すっかり真っ白になってしまっていた。

 

 

「えっと……基樹、何かして欲しいことはあるか?」

「んーと……あ、琳姉ちゃん、オレお腹空いた!」

「よし飯だな! よし!」

 

 

 意気揚々とキッチンへ向かうが……よくよく考えたら冷蔵庫にはアイスクリームやらコンビニスイーツやら、ろくなものが入っていない。

 ……こんなものを見られたら師父としての威厳が無くなってしまう!

 

 そもそも、普段食べているのはそこいらで買ってきたジャンクフードや、デリバリーのピザばっかりだ。こればっかりは昔から変わらない。

 キッチンに来たところで、買い置きの即席麺くらいしか出せるものがない。

 

 

「……なあ基樹、せっかくだしどっか食べにいかないか」

「えー……オレ、琳姉ちゃんのご飯がいいー」

「な、ならまずは買い物に行こうか! そうしよう!」

 

 

 そうだ、これは決して弟子の我が儘に折れたわけではなく、健康的な食事を摂らせるために必要不可欠なことだ。

 弟子の身体作りも師匠の務めのうちだ。きっとそうだ。料理だってほとんどやったことはないが、截拳道の地獄の鍛錬ほど難しいものではないだろう!

 

 道着姿の基樹を連れ、近くのスーパーマーケットで買い物を済ませる。周りの視線が気になって仕方ない。

 基樹はそんな視線など気にも留めず、ハンバーグが食べたいだのシチューも食べたいだの好き放題リクエストを出している。

 幸い、ハンバーグは昔っから食べているハンバーガーに挟まっているアレのことだろうし、シチューとやらも何度か食べたことがあるし、ご丁寧に作り方も書いてある。

 これなら何とでもなるだろう。

 

 

 なんとかなりそうな敵を前に、いくらか落ち着きを取り戻してキッチンに立つ。

 まずは食材を切るとあるが、そういえばうちにキッチンナイフの類はない……まあ、拳でいいか。

 手刀で叩き切った食材を鍋に放り込み、火にかける。中火?とあるが、火が強い方が早く出来上がるんじゃないか?

 腹を空かしているあの子のためにも、さっさと仕上げてしまおう。始める前は少々身構えていたが、いざやってみると楽勝だな!

 

 

 そうして完成したものは、あたしの思い描いていたものとは少し……いや、ほんとに少しだけずれたものだった。

 外側はいい色に焼けていると思うのだが、ハンバーグってこんなに中が赤かったっけ……?

 それにこのシチューとやら、野菜の歯ごたえがこんなに残っていて良いものなのだろうか……?

 

 基樹が何か言いたそうな顔をしている気がしないでもないが、目を合わせないようにして食べ進める。

 あ、そういえば日本人はどんなおかずの時もライスを食べるんだったか。食べる習慣がないからすっかり忘れていた。

 

「……米は、明日また一緒に買いに行こう」

「う、うん……」

 

 その翌日、アタシは炊飯器とやらが必要なことや米は洗わなければならないこと、そして何の味もしないと思っていた米が案外美味いことを弟子に教えられるのだが……それはまた別のお話。

 

 

 

 

 基樹を風呂に行かせてから少しした頃、アタシの胸中にふと悪戯心が湧いて出てきた。

 あいつがアタシに弟子入りしてからもう二年も経ち、あいつももう二年もすれば中学校へ入るくらいの年齢だ。

 思春期に入りつつある子供が風呂に入っているところに乱入すれば、どういった慌てぶりを見せてくれるだろうか。

 

 もちろん、首元から腹部にかけて残るこの傷跡があるからこのタートルネックを脱いだりはしないが……それでも十分に慌ててくれるだろう。食事の準備やら何やらで散々振り回してくれた礼だ。

 それに、身体の様子を確認するためとか言っておけば師父の威厳も保てるさ。

 

 そう、もっともらしい言い訳を用意しつつ脱衣所へ行き、あいつに声をかけるなり返答も待たずに扉を開いた。

 すると我が弟子は面白いくらいに慌てふためき、身体の前半分を隠して立ち上がろうとした。それがいけなかった。

 

 

 身体を洗っている最中だったのだろう。足や床についた泡で足を滑らせ、基樹がすっ転びそうになる。

 こんなくだらないことで怪我でもされたら、それこそあいつの家族に顔向けができない。素早く浴室へと身を滑り入れ、その身体をしっかりと抱き留めて支えてやる。

 まったく、こんなことで転びそうになるなんて、もっと精神と平衡感覚の修行をさせたほうが良いかもしれない。

 

 そんなことを考えていると、すっかり大人しくなったあいつが身を縮こまらせ、腕の中からアタシの顔を見上げていた。

 

「―――あー……」

 

 他愛もない悪戯を仕掛けようとしていたアタシは急に恥ずかしくなって、功夫を確かめに来ただの怪我がなくて良かっただの明日から鍛え直すから覚悟しとけだのよくわからないことを言い、呆気に取られる基樹を置いて浴室から出て行った。

 全く、いい歳して未来の闇人に何をしているんだアタシは……。

 

 

 

 

 

 それからどこか気まずそうにしているあいつを寝室に放り込み、自分の床に就く。

 普段し慣れないことを色々とやったせいか、今日はやけに疲れた。

 

 すぐに寝付いて、そのまましばらく経った頃だ。部屋の前から物音が聞こえて、アタシは目を覚ました。

 そして扉を開けると、そこには枕を抱えた基樹がいた。

 

「どうした? こんな夜更けに」

「えっと……それが……」

 

 そう問いかけるも、返事はいまいち要領を得ない。

 

「怖い夢でも見たか?」

 

 さらにそう問うと、基樹は無言で首を縦に振った。

 怖い夢を見て独りで眠れなくなってしまったが、十一歳にもなってそれを言い出すのは恥ずかしい……といったところか。

 案外、可愛いところもあるじゃないか。

 

 

 無言であいつの頭に手を置いて撫でてやると、そのまま同じベッドに押し込んで横になる。

 すると基樹も無言のまま、アタシの手をそっと握ってきた。

 

 あまり甘やかして情に厚い人間になると、殺人拳を目指す上でその情が邪魔になりかねないのだが……今日だけは特別に許してやるか。

 そうして一緒に眠りに就いたアタシは、何故だかいつもより深く眠ることができた。




明日投稿分の本編を全く書いていないため、明日の本編投稿は……ナオキです……


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Page.03『はじめてのクリスマス……とか』

番外編がルーキー日間1位!? みんな好きなんすねぇたまげたなぁ

たくさんの高評価&ご感想ありがとうございます!
兄貴達、隠れノンケ多い……多くない?


 あれは基樹を内弟子にした、最初の年の暮れのことだ。

 横浜埠頭の倉庫で大立ち回りを演じたアタシの身体は限界を迎え、基樹の目の前で倒れてしまった。

 

 そんなアタシに、どうやらこの子は一晩中一緒にいてくれたらしい。毛布を敷いた机にアタシを寝かしてくれていた本人は、隣のボロ椅子に座ったまま、アタシの手を握って眠りこけていた。

 アタシの大腿を枕にして気持ち良さそうに眠っている寝顔を見つめていると、知らぬ間にアタシは微笑んで、この子の頭を撫でていた。

 

「ありがとう、助けてくれて」

 

 この子がいなかったらどうなっていたことか……。

 さすがに命までは奪われなかっただろうが、囚われ、警察に突き出されてしまってもおかしくはなかった。警察から逃げ延びることくらいは大したことではないが、そうなったらもうこの子と一緒にいられなくなってしまう。

 アタシは、そうなってしまうのが他の何よりも恐ろしかった。

 

 ……もちろん、自分の夢が叶わなくなってしまうからだ!

 

 

 

 しばらくすると、基樹が目を覚ました。

 

 本当は気持ち良さそうに寝ているところを起こしたくなくて待っていたのだが、師の身体を枕に寝ていたことを謝るこの子が可愛くて、アタシも今目覚めたばかりだという風を装った。

 そうして上体を起こした拍子に、違和感に気がついた。身体に掛けてあっただけの毛布がずり落ちる。

 

 そうだ、あの白眉に服を破られていたはずだ。

 その破れた服の残骸が脱がされており、代わりに古傷のところに湿布が貼ってある。

 

 ……きっと、この子なりに必死に手当てをしてくれたんだろう。

 しかしそれは、同時にこの子が気を失っているアタシを脱がして、それどころか裸のまま手当てをしたということに他ならない。見られてしまった……この胸元に残る、醜い傷跡を。

 

 

 いっぺんにそれを理解して、ずり落ちた毛布を慌てて引き上げる。

 どういう訳か、全身がみるみる熱くなっていき、ついには動悸までし始めた。

 

 

「……着替えるから、出て行きな」

「は、はい……」

 

 

 固まっていた基樹が、やけにぎこちない動きで部屋を出て行く。

 同じ側の手足が同時に出ている弟子を笑う余裕もなく、気が付けばアタシは机の上で小さく丸まっていた。

 

 この動悸も身体の火照りも、きっと数年ぶりに全力で戦ったから身体が調子を崩しているんだ。そうに違いない……きっと。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――

―――――

―――

 

 

 その日はそのまま家に帰って、修行をするわけでもなく、お互いなんだか気まずいまま一日を過ごした。

 そして次の日、居た堪れなくなったアタシは基樹に問いかける。

 

 

「な、なぁ、今日はクリスマスだが、帰らなくていいのか?」

「……べ、別に! 父ちゃんも母ちゃんも、久しぶりに息子がいないクリスマスだから出掛けてるだろうし」

「そ、そうだよな。普通出掛けるよな、うん。あー……友達とかは?」

「えと……彼女と出掛けたりしてるんじゃない? てかオレ、友達ほとんどいねーし……」

 

 

 予想外の返答だった。組手の時もこれくらい予想外の手で仕掛けてくれたらいいのに。

 

 に、日本のクリスマスは恋人同士で出掛けたりするものなのか……?

 母国では家族で過ごすものだから、きっとこっちでもそうなんだろうと思っていた。

 

 それに、この子に友達が少ないのは、どう考えたってアタシが原因だ。

 だってそうだろう? 幼い頃から何年も、来る日も来る日も年齢の離れた女の元に通い武術漬けの生活を送っていれば友達と遊ぶ時間だってないだろう。

 今思うと、この子から幸福な子供時代を奪ってしまったのかもしれないが……それも立派な闇人とし、一影九拳にするためには仕方がないことだ。

 所詮、闇人が人並みの幸せを手に入れることはないし、だったら望まない方が良いものもある。

 

 ……ただ、それでも。

 幼子ではないが、それでも一人前の大人とも言えない年齢のこの子が、可哀想に思えたことも事実だった。

 

 

「……なあ、あんたは嫌かもしれないけど、良かったらアタシと一緒にどっか出掛けるか?」

「まじで!? いいのか琳姉ちゃん!」

 

 

 アタシの提案に、基樹は目を輝かせて一も二もなく飛びついてきた。アタシと出かけるってだけでこんなに……。

 アタシは今までどれほど弟子に我慢をさせてきたか、全く気付けてなかったようだ。

 せめて今日一日だけは思いっきり楽しませてやろうと、そう決めて、持っている中で一番上等な服(とは言っても服に興味はないし、同じようなものしか持っていないのだが……)に着替えて、やけにご機嫌な弟子と二人で家を出た。

 

 

 

 

 クリスマスに出かけるって……何処に行けばいいんだ?

 

 幼少から武術漬けだった基樹はそんなことわからないし、ただ長く生きているだけでこの子よりさらに武術漬けだったアタシはもっとわからない。

 こんなに困難な課題は初めてだ……いっそ、音に聞く無敵超人の百八個あるという秘技を解明する方が簡単だとさえ思えた。

 

 結局アタシ達はどこへ行っていいかわからず、雪の降る繁華街を意味もなく歩き回っていた。

 それにしても、本当に逢引している恋人同士が多くないか?

 ……アタシと基樹は、周りからどう見られているんだろうか。

 

 親子……にしては年齢が近いし、年齢の離れた姉と弟? それとも従兄弟のお姉さんと弟くんだろうか……。

 

 ふと、それ以外も頭に浮かぶが即座に否定する。

 よりによって、こんな女らしくないアタシとそんな風に見られていたら、アタシはともかくこの子が可哀想だ。

 

 

 もう少し馴れ馴れしくしてみたら、周りから異性同士ではなく従兄弟同士とかに見てもらえるだろうか。

 基樹の手を取り、手を繋いで歩いてみる。すると、この子はそっと手を握り返してきた。

 その手は冷え切っていて、よく見れば、耳や頬も赤くなってしまっていた。アタシがもっと女らしくできる師父だったら、こんなになるまで気づかないなんて有り得ないのだろう……。

 

 

 基樹の手を引き、急いで手近なセレクトショップに入る。

 そして―――アタシのセンスだから心許ないが―――なるべくこの子に似合いそうなマフラーを選び、買ってすぐに巻いてやることにした。

 

 

「ほら、ちょっと大人しくしてな」

「う、うん……」

 

 

 あの子の首元に腕を回し、マフラーを巻いてやる。

 少し前まであんなに小さくて、ちょっと鼻血を拭くのにもしゃがんで目線を合わせていたこともあったなと、ふと昔のことを思い出してしまった。

 

 二周目を巻くとき、また首元に腕を回している最中にふと目が合った。

 慣れないことをしていたせいか、さっきは気がつかなかったが……これ、かなり顔が近いな?

 お互いに一瞬固まるが、すぐにこの子が照れくさそうに笑うもんだから、アタシも思わず釣られて笑顔になっていた。

 

 

 結局その日は、大したことはできなかったけれど。

 夕飯の後、あの子に貰ったメッセージ付きのクリスマスカードが本当に嬉しくて……慣れないこともしてみるものだと、心からそう思った。

 ……気が向いたら、またやってみるのも悪くないかもしれない。というか、来年こそもっと良いクリスマスにしてやろう。

 アタシはそうひっそりと胸に秘め、不思議そうな顔を浮かべる愛弟子の頭にゆっくりと手を置いた。



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