起きたら次元将になってたんだが (次元獣だもん☆)
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第1話 起きたら次元将になってたんだが

突然脳が次元力に満たされエタニティ・フラットを脱したので書きました。


突然ですが皆さんは、ふと眠りから覚めると見慣れない路地裏に座り込んでいた、という経験はおありでしょうか。俺はあります。今まさにこの瞬間。

 

「どこだよここ……」

 

と、思わず口をついて出た言葉。だが次の瞬間にそんなことはどうでも良くなった。

 

「……? なんか声が変だ。あー、あー……!?」

 

適当に声をだしてみると、やはり完全に自分のものではない。気がする。何だこの四天王キャラみたいなボイスは。慌てて喉元に手をやると、伝わってくる感触は鍛え上げられた筋骨隆々の太い首のもの。そしてその手も全く見覚えのない、ゴツゴツした巨岩のような手だった。

 

「なぁにこれぇ」

 

情けない声を上げながら近くに見つけた水たまりに這いよると、そこに映し出されたのは刺青たっぷりの浅黒くゴツイ顔。おまけに髪は深い青色と来た。その顔を見た瞬間、自分が何者なのか、なぜこんなところにいるのか。断片的にではあるが、思い出した。

思い出したのだが……その記憶はどこか他人事のように感じられる。

 

何故なら思い出した自身の名前、次元将ドゥリタラー。

 

「スパロボで名前だけ出てた……本編前に死んでるやつらの片方……」

 

この名前と記憶を、娯楽作品内のものとして知っていたからである。

しかしこのドゥリタラーの名前と記憶が自分のものでないとすると、では自分は何者なのか。これが思い出せない。

次元将という名に対して”スパロボ”なんて単語が出て来るあたり、次元の壁どころかもっといろんなものを超えた場所の住人であることは想像がつくが、いろんな知識はあれど”自分が何者なのか”という点についてはこれっぽっちも思い出せない。分かるのはせいぜい一人称が”俺”であるという事くらいだ。

まあ思い出せないものはどうしようもないので今この瞬間は頭の隅にでも追いやっておく。

 

今気にするべきは自分がこの路地裏で無様に転がっていた理由の方だ。

 

「なんで生きてる……?」

 

俺は……いや、次元将ドゥリタラーは、あの忌々しい”御使い”どもとの戦いに挑み、完膚なきまでに叩きのめされ、死んだ……はずだ。少なくとも今思い出したドゥリタラーとしての記憶の断片からするとそうとしか思えない。

 

「……はあ、生きてるもんは仕方ないか」

 

すぐに先ほどと同じく”今考えても仕方がない”という結論に至り、諦めて立ち上がると路地裏の出口を求めて歩き出した。

 

「追っ手は……来てないな。来られたら詰んでたし助かるが」

 

ドゥリタラーとしての感覚で分かるが、今の俺は次元将のくせして次元獣の一体も従えておらず自身の戦闘用外装兼乗機のヴィシュラカーラも一体化した俺と共に消滅(何故か俺は生きてるが)した。つまり今の俺は生身でモビルスーツと戦えるただのオッサン……めちゃくちゃ強いじゃねーか。

 

とはいえ、奴ら相手ではその程度じゃ全くの無力と何も変わらない。初見のプレイヤーを驚愕と絶望に叩きこんだあのアンゲロイ・アルカ(めっちゃ硬い雑魚)エル・ミレニウム(クソ恐竜)を一体でも送り込まれたら今の俺は詰みだ。

 

「見つけたぜボルフちゃんよぉ! 借金3万G、キッチリ返してもらおうか?」

「3万G!? そ、そんなに借りてねえだろ!」

「利子だよ利子! ずいぶん滞納してくれたしな」

「ふ、ふざ……ふざけんな! そんなの聞いてねえぞ!?」

 

気づけば路地を抜け出して大通りらしき場所に出ていた。見渡せば見覚えのあるオレンジ色の格好をした人物がちらほら。ついでに治安が悪い。

 

「ギルガメスAT用の耐圧服……やっぱりZの世界か……まあ次元将だもんな。そりゃそうか」

 

チラリと聞こえた借金取りの台詞によると金の単位がギルダンではなくG。たぶんここはアストラギウス銀河の連中が転移してきた後のシンジュクゲットーだろう。日本人らしき顔が何人かいるし間違いなさそうだ。

場所が分かったことで、さてこれからどうしようかと思案しながら大通りを歩く。

 

「払えねえってんならちょっと痛い目見てもらおうか」

「お、お、俺にはすっげえ強い用心棒が居るんだぞ!? 俺に手を出したら……」

「うそこけ。そんなの雇う金があるなら借金返せるはずだよなァ!?」

「あらまあぐうの音も出ない……いや、でもアテが全然ないって訳じゃなくてだな……」

 

今が第2次Zの時間軸であるなら、おそらくドゥリタラーを含む2人の次元将が死んでから少なくとも1万2000年は経っていることになる。追っ手が来ないのも頷けるというものだ。このまま戦いに関わらずひっそり暮らすという選択肢も一応ある。地球の戸籍なんてある訳がないが、幸いそこら中に別次元人がうろついているのでその辺はかなり緩くなってるはずだ。

 

建設現場で汗を流す次元将というシュールな絵を思い浮かべる。まあ悪くはないがよくもない。どのみち戦う力が無ければ次々地球を襲う厄介ごとのどれかに巻き込まれてもう一度死ぬことになるだろう。破界篇くらいならともかく第3次辺りからは最低でも元の力を取り戻してなければ厳しい。なんせゲームバランスという枷があったとはいえ、同僚のヴァイシュラバ(ガイオウ)は再世篇で倒される。第3次に入ってから、地球はそれを成した連中が何度も窮地に陥るほどの修羅の惑星と化すのだから。

 

何よりドゥリタラーの意思に引っ張られているのか、御使いの奴らは絶対にぶっ飛ばさなければならないという強迫観念のようなものが心中に渦巻いている。これでは平和に暮らすなんてできやしない。

 

「どうやら相当痛い目に遭うのがお望みらしいな」

「ひぃ! だぁれかぁ~!」

「待ちやがれ!」

 

人機一体となることや五つの進化、相互理解、共存共栄が御使いどもに対抗する真化の鍵であることを、次元将という立場やスパロボ知識から知っているのは大きい。具体的にどうするのかは手探りでやっていくしかないが……ひとまずはヴィシュラカーラの代わりとなる、なんらかの乗機を早急に手に入れ、操縦法を覚えて手を尽くして強化して……と、なれば傭兵にでもなるべきか? 何とか手に入りそうなロボットは無い物か。

 

「な、なあアンタ! 雇われてみねえか?」

「ナイスタイミングだ」

 

先ほどから言い争っていた男が俺を盾にするように縋ってきたのに対し、ニッという笑顔で返すと、追ってきた借金取りにデコピンをかましてノックアウトする。

 

「はぇ~、すっげぇ……」

「すまんね。返済はもう少し待ってやってくれ」

「こりゃあ、聞こえちゃいねえよ……っと、助かったぜ」

「気にするな……で、稼ぐアテがあるんだろう? 借金がまた増える前にさっさとやってしまおう」

「お、聞こえてたのか! 話が早いねぇ! 俺はマッチメイカーのボルフってんだ。よろしくな!」

「ボルフか。俺は……」

「ん? どうした?」

 

ド直球にドゥリタラーと名乗りそうになって踏みとどまる。流石にそれは無い。

どこから御使いに漏れるかわかったもんじゃない。まあ、傲慢なあいつらなら気にも留めない可能性は十分あるが、それでも馬鹿正直に「生きてました~☆」なんて宣伝する必要はない。いつかはぶっ飛ばすが。

そもそもドゥリタラーの”自覚”があるだけで、この顔が本当にドゥリタラーのものなのかすら分からん。出番ない奴の顔グラなんて一切記憶にないし。そもそも顔グラ自体なかったかもしれん。

次元将として動けなんて言われて上手くやる自信も力も今のところは無いわけだし、適当な偽名でも使わせてもらおう。どうせ次元将としての名前って本名じゃないらしいし。

 

と、いろいろ理由を上げて見たが、一番の理由は”ドゥリタラーって言い辛くていつか噛みそう”だからである。

 

「いや、なんでもない。俺の名前はガヌマだ。よろしく頼むぞ、ボルフ」

「おうよ任せとけ! 早速試合をセッティングして来るぜ! ガヌマ、アンタは今から教える倉庫に行ってみな! 極上のATを用意してある」

 

稼ぐアテというのはどうやらバトリング……要はロボット(主にAT)同士のプロレス(レギュレーションによってはマジの殺し合い)の事らしい。まあそうだろうと思っていたのでAT目当てで受けたんだが。聞けば結構な額の動く試合があり、自身もそれなりの額を賭けている……つまりそれに勝てばマッチメイクの手数料などもろもろ合わせて借金を何とか返せる額が入ってくる算段だったようだが、不幸にも時空振動による事故で出場選手が行方不明になったらしい。

 

ボルフの指定した倉庫に行ってみると、そこには黒く塗られたATの代名詞、スコープドッグが降着姿勢で鎮座していた。

 

「いや、このタイプはストロングバックスだったか……?」

 

銃弾よりアームパンチの方がよく飛んでくるバトリングに合わせて改造されているようで、特徴的な頭部ターレットレンズを保護するガードが設置されている。よく見れば肩に威圧的な棘なんかも生えており、これが軍用だと言われれば首を傾げざるを得ない。

え? ザク? グフ? 知らんな。

 

「さて、こいつを試合までに”使える”ようにしないとな」

 

俺はさっそく準備に取り掛かった。

 

 

 

次元将ドゥリタラー改め、ガヌマがボルフと出会ってから数日。とうとう試合の日がやってくる。レギュレーションは”ブロウバトル”というもの。ヘビィマシンガン、バズーカなどの火器は持ち込み禁止、ただし格闘武器は使用可となる。選手たちは派手さを重視し、メリケンサックのついた改造アームパンチ、パイルバンカー、槍、大槌、鉄球、大型チェーンソーまでなんでもござれ。銃火器を使って殺し合うリアルバトルとはまた違った激しいぶつかり合いが繰り広げられる事は必至であり観客からの人気も高い。

 

そんなブロウバトルが行われるとあって観客席は大盛況。既に対戦する2人のどちらが勝利するのか、当日分の賭けが始まっていた。ただし観客はもっぱらガヌマの対戦相手の勝利に賭けており、ガヌマに賭けた客は不利な賭けほど燃える物好きか、そうでなければ何も知らない新参者だと嘲笑の目を向けられていた。

それは対戦相手が伝説の傭兵だとか、連戦連勝の猛者だとか、そういう理由からきているのではない。今のボルフがまともなATを用意できるとは誰も思っていないという理由からだった。

惑星メルキアにいたころならともかく、このシンジュクゲットーに転移してきたことで様々なツテを失った者は多い。ボルフもその一人だった。元々苦しかった状態から借金はさらに膨れ上がり、今まさにトドメを刺されそうな状況にある。この試合に負ければいよいよ首が回らなくなるだろう。

 

「ボルフももうダメかねぇ」

「ATも碌に手に入らず、最近じゃぁKMF(ナイトメア)まで参入してくる始末だしなぁ……」

「イレヴンの赤い悪魔だったっけ?」

「噂じゃ女で、しかもすげえ美人だとか」

「ははは、ねーよ。あの戦い方を一度でも見たら、それだけは絶対にないって分かるぜ?」

 

一部の席でそんな会話をしていた観客たちだが、会場に響き渡った歓声でその声は打ち消される。

選手入場の時間になったのだ。

 

リングの片側から軽快なローラーダッシュで現れたのは、右腕を大きめに改造した紫色のスコープドッグ。見るからにアームパンチの威力に特化したその見た目に、観客たちはその拳が相手ATの頭部をへこませるどころか、吹き飛ばしてしまう様を幻視し、早く現実で見せてくれとばかりに喝采を上げる。スコープドッグに乗ったAT乗りもその声に答えるように足のターンピックを地面に突き立て、その場で一回転しながら急停止。大型化した右腕を見せつけるように天高く突き上げる。

 

観客の興奮が最高潮に達したころ、対戦相手であるガヌマの入場曲が流れ始める。勇ましく重々しい曲に合わせるように、相手とは対照的に一歩ずつ地面を踏みしめてゆっくりと入場して来るその姿に……その機体の異様な見た目に観客たちは静まり返る。

 

「あ、あれ……AT、なのか?」

 

誰かが思わずそう漏らす。全体的なシルエットはATに違いない。だがその青みがかった黒と銀色のボディの装甲表面には虹色のラインが血管のように張り巡らされ、肩には虹色の結晶が棘のように数本並び、本来四角い箱のような形をしているハズのつま先は獣のソレのように三つに分かれ鋭く尖っている。何より特徴的なのは頭部に生えた、闘牛を思わせる二本の角、そして背中のマント、右手に携えた巨大なバトルアックス。これらの要素が合わさり、機体から”ATらしさ”とでもいうべきものが削ぎ落されている。

 

確かにバトリング選手というものは己を誇示するため、自機に装飾などを施すが、これはそんなレベルではない。化け物がATに擬態している最中であると言われた方がしっくりくるほどの変貌ぶりだ。

 

「次元獣……?」

 

次元獣。この様々な宇宙の混ざり合った世界を数年前から荒らしまわっている災害級の化け物たち。

誰の言葉か、どこかからぽつりと聞こえてきたその例えに、会場の誰もが同意した。そしてこれから始まるであろう二者の試合……否、襲い掛かる怪物に名もなきAT乗りが見せてくれるであろう決死の抵抗に、期待と恐怖の入り混じった不思議な緊張感を抱き呼吸も忘れて今か今かと試合開始のゴングを待つ。

 

(……ドン引きじゃねえか。やっぱATにこういう改造はナシ? 数秒後にブーイングとか飛んでこないだろうな……)

 

この場で唯一、当事者の片割れ(怪物の側)だけは緊張感ゼロだったが。




好評なら続きます。

今回の機体
機体名:ストロング・カーラ

失ったヴィシュラカーラの代わりを求めて、ストロングバックスをベースにジャンクパーツとリヴァイブ・セルで数日かけて強化した、次元将ドゥリタラーの新たな戦闘外装。ミッションディスクと操縦桿ではなく、リヴァイブ・セルを通じて送り込んだ思念によって操縦する。そのためガヌマは操縦席内で腕組みしながら微動だにせず鎮座している。
見た目通りATに次元獣ブルダモンの角(放電ホーン)が生えた程度の強さ。
ブラスタに襲われたらボコボコにされる。ストロングとは。
ぶっちゃけまだ降りた方が強いレベルだが真化を目指す以上は機体とシンクロする練習をしなければならないので頑張れ。
ちなみに今回歩いて登場したのはローラーダッシュに慣れていないからというダッッサイ理由がある。威圧にはなったので結果オーライ。

”今のところは御使いから隠れて力を蓄える”という一応の方針をわずか数分で忘れるという奇跡的な所業が無ければこんな見た目にはならなかった。

キャラ紹介
・ガヌマ(次元将ドゥリタラー)
憑依系オリ主。
知識と意識だけをもってドゥリタラーの遺体に乗り移ったスパロボプレイヤー。乗り移る前の自分が何者なのかについての記憶はない。
今回のAT魔改造からも分かる通りリヴァイブ・セルをある程度応用して使える。
今後「これもリヴァイブ・セルのちょっとした応用だ」とか言い出すかもしれない。
次元獣を作ると強さがそこで止まるという致命的弱点を彼も元のドゥリタラーも分かっているので自機の強化以外に使う予定は今のところない。

・ボルフ
登場作品:機甲猟兵メロウリンク
原作でも借金で困っていたところをエセ次元将ではなく、我らがメロウリンクが通りかかり、彼のバトリング、戦友の仇とのリアルバトル(実弾解禁の実戦形式。負け=死と思っていい)をマッチングすることになる。ちなみにメロウが返り討ちに合うと思って対戦相手に賭けていた。
wikiによると実はゴウトの知り合いらしいし、メルキアの連中が転移して来るならこいつも来ているかもしれないという思いで登場させてみた人。
ガヌマがノした借金取りはゼニトリーのおっちゃんとは関係ないモブなのでご安心を。


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第2話 バトリング

楽しみという感想くれた人が居たので続きました。

ストロング・カーラの見た目イメージがこちら。第3次Zみたいな等身にしようと思ったら頭デカくし過ぎた。

【挿絵表示】



気まずい……確かにATと言い張れるかは怪しい見た目になってしまったが、そこまで引くか? 騎士ガンダムとか、戦士ガンキャノンとか、ご存じない? うん、BXならともかく、Z世界の、しかも元アストラギウス在住の皆さんがご存じなわけがないな。

 

気を取り直し、俺が入場すると同時に誰一人としてうんともすんとも言わなくなった観客席を横目で眺めながら、我が愛機”ストロング・カーラ”を所定の位置にゆっくりと歩かせる。

そう。ゆっくりと、だ。決して焦ってはいけない。焦ればたちまち転倒だ。

 

もうお気づきだろうが、俺が妙にゆっくり歩いているのは威圧感を与える演出とかそういう類の物ではない。これが今のストロング・カーラ、正確には今の俺の練度における最高速度なのである。

 

リヴァイブ・セルに機体各部を浸食させて思考コントロールするというアイディアは悪くなかったと思う。思うのだが、リヴァイブ・セルを一気に大量放出しようものなら下手をすると定着中に通りかかった誰か(一番あり得るのはボルフ)が取り込まれて次元獣になってしまう可能性があった。元から治安最悪のゲットーとはいえ、倉庫から次元獣が出てきたら過去一、二を争う大騒ぎになるのは想像に難くないし、出所(でどころ)の倉庫に出入りしていた俺と、あと巻き添えで借り主のボルフは一発でお尋ね者だ。

 

そんなわけでゆっくりと、絶対に人を巻き込まない小規模な放出と定着を繰り返すこととなり、改造は試合前日の夕方までかかった。

要は操縦の練習をする時間がなかったのである。

いざやってみると自分の脳でミッションディスクの代わりをするようなもので、慣れれば鉄血ガンダムばりの変態コンバットもできるはずなのだが、これはコツを掴むまでが大変そうだ。始めから次元将のために作られたヴィシュラカーラのようにはいかないという事か。

 

という訳で動きに関しては改造なんてせず、普通の操縦方法を練習しておいた方がまだマシな結果になっただろう有様だが、幸いスペックはATとしてはすばらしい物に仕上がった。パワーで他のATに押し負けることはそうそうない(全くないとは言ってない)し、精度はブルダモン以下ながらD・フォルトも搭載しており、ヘビィマシンガンやミサイルを何十発も撃ち込まれるならともかく、某異能生存体曰く「所詮は遊び」程度の攻撃しか飛んでこないブロウバトルなら負けは無い。ただしこちらも上手く攻撃を当てられなければ目も当てられないグダグダ試合になりかねない。相手ATのポリマーリンゲル液が劣化して行動不能になるのを待って判定勝ちなんて、ブーイングの嵐が吹き荒れることは間違いない。ひょっとしたらブチ切れた観客がアーマーマグナムでも撃ってくるかもしれない。

 

ようやく指定された位置にたどり着き、ほっと一息ついて今度は集中力を別の方に向ける。

どうせ相手はローラーダッシュで移動するだろうから追いつくのは絶対に無理だ。ブロウバトルの性質上、相手も近づいて来なければならないわけだし、一歩も動かずカウンター狙いと行かせてもらう。

 

 

試合開始のゴングが鳴り響く。

それと同時に紫のスコープドッグは一気に最高速度まで加速してストロング・カーラに突撃する。

 

「ふざけた改造しやがって! いくら掛けたか知らねえが、ここでスクラップにしてやるよ!」

 

ATとは兵器であって、この星に何体か居るような無敵のスーパーロボットなどでは断じてない。紫のATの彼にとって、機能的な意味のない装飾というのは無能な目立ちたがり屋のやることか、金持ちのコレクション用か……バトリングという場では人気取りのため、そういったものもある程度必要だとは理解している。ゆえにマッチメイカーに薦められるがまま、ATをメルキア軍の数倍どぎつい紫色に塗り、入場時には駆動用ポリマーリンゲル液の劣化を無駄に進めるだけのパフォーマンスまで披露する。時空振動で物理的に所属部隊からはじき出された兵士崩れの自分が生きていくには、そうするしかないと言い聞かせて。

兵器としてのATの姿に誇りのようなものを感じていた彼にはそこまでが譲歩できる限界であり、目の前の存在する世界を間違えたようなデザインのAT()()()は目障りでしかなかった。

兵士としての自分は死に、ただの見世物になり下がった事を見せつけられているようではらわたが煮えくり返る思いだった。

その思いが彼を一頭の獣へと変貌させ、床を踏み抜かんばかりの力で蹴り込まれたペダルは機体各部に指令を送り込み、ATをまっすぐに爆走させる。

 

「真っすぐ突っ込んでくるとは……にしても、なかなかの殺気だ……ボルフのやつ、リアルバトルと間違えたんじゃないだろうな?」

 

対するガヌマは”試合”らしからぬ激しい殺気に困惑しつつも迎撃のために精神を集中し始める。相手は自分と違い、ローラーダッシュを使いこなしてAT本来の運動性を十分に発揮してくるため、攻撃を当てるチャンスは限られてくる。それこそ上手くカウンターを決める以外には無いだろう。

まさかハッチを開けて飛び出し、生身でぶん殴るわけにもいかない。その方が何倍も上手くいきそうな気がするとはいえ。

 

両者の距離が縮まるにつれ、静まり返っていた観客席がざわつき始める。このままいけば激突まで数秒とない。完全に勝ち馬だと思って紫のATに賭けた者は少しの後悔と祈りを込めて、ガヌマに賭けた者は少しの期待と、やはり祈りを込めて。観戦を楽しみに来た者はただ興奮を抱いて、皆が固唾を飲んで両者の様子を見守る。

 

激突まで2秒。紫のATは大きく改造された右腕をいつでも叩き込めるように持ち上げ、対するストロング・カーラも右手のバトルアックスを構えて獲物が飛び込んでくるのをを待つ。

激突まで1秒。紫のATが頭部ターレットを回転させ、カメラを通常ズームから広角に切り替える。ガヌマはその意味を測りかね、そのままストロング・カーラは迎撃のためバトルアックスを振りぬかんと力を込める。

 

そしてバトルアックスが紫のATの胴を捉えようとした瞬間、ガヌマの視界からATが消失する。

激突の瞬間、紫のATはターンピックを駆使して軌道を捻じ曲げ、一瞬でストロング・カーラの背後に回っていた。ATの男は激昂しながらも、フェイントをかけるくらいの冷静さを保っていたのである。

 

「ド素人が! 馬鹿正直に正面から行くかよ!」

 

そして男はトリガーを引き、バトルアックスを振りぬいて隙をさらしているストロング・カーラの背に巨大なアームパンチを叩き込んだ。

 

「勝った!」

 

そう叫んだ次の瞬間、激しい衝撃と共に男の意識は途切れることとなった。

 

「この角、つけといてよかったぜ」

 

紫のATのパンチは確かにストロング・カーラの背を捉えていたが、装甲表面で何かに阻まれたかのようにダメージを与えられず、そしてその胴には、ストロング・カーラの角が()()()()()()()()()

ガヌマはアームパンチをD・フォルトで防ぐと同時に、降着姿勢を取りながら機体のハッチを跳ね上げる事で背後に向かって”頭突き”を敢行したのだった。

頭部の角はリヴァイブ・セルで生成された”放電ホーン”であり、スタンロッドのように相手に押し付けることで強力な電撃を浴びせることができる。本来は次元獣が使用する武装であり、当然通常のATが耐えられる威力ではない。マッスルシリンダーは焼け付き、各部でポリマーリンゲル液に引火して小爆発を引き起こし、その衝撃で紫のATの男は気絶したのである。死ぬような爆発にならなかったのは幸運であった。

 

観客はその結果を受けて様々な反応を見せる。賭けに勝って喜ぶ者、負けて消沈する者、目の前の出来事を処理しきれず困惑する者、ただ興奮に身を任せて歓声を上げる者……

 

そして何かに気づき、入場時と同様、妙にゆっくりと退場していくストロング・カーラを険しい目で見つめる者。

 

「次元獣……」

 

そう呟いた一人の観客は何かの端末を取り出しながら足早に会場を立ち去って行ったが、試合は終わっている。気に留める者はいなかった。




今回の機体
スコープドッグ・バトリングカスタム(仮)
どぎつい紫色に塗装されたスコープドッグ。右腕が大型化されている。例えるならHGのガンプラにMGの右腕がついてる感じ。アームパンチの威力が当然上がっている。
しかしパイロットの格闘の数値が低かったのか、D・フォルトを抜けなかった。
まあこれに関しては次元力も使わずにバンバン突破するZEXISの連中がおかしい。


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第3話 次元将、傭兵になる

興味深い設定と言ってくれた人が居たので続きました。


俺のバトリング初試合から1か月ほどが過ぎた。順調に数試合勝ち抜き、操縦にもそれなりの自信がついてきた(なんとローラーダッシュを会得した!)ところに、借金をなんとか返し終えたらしく良い笑顔のボルフがこんな話を持ち掛けてきた。

 

「ガヌマちゃん。実は俺、傭兵の仕事も斡旋してるんだけどよ、ちょいとそっちでも雇われてみない?」

「ほう」

 

その辺で買ってきたホットドッグを頬張りながら話を聞くと、なんでもAEUがアフリカ大陸のとある地域でブリタニア・ユニオンと火花を散らしており、そこの基地の陸上戦力としてアストラギウスのATを雇い入れたがっているとのこと。時空振動の影響で巨大な傭兵集団と化したギルガメス軍から何部隊か向かう予定だが、その辺の傭兵にも一応声がかかっているらしい。

 

ブロウバトルに出て来る程度の連中では大した経験値にならなくなってきたところだし、そろそろリアルバトルでも組んでもらおうかと思っていたところに実戦の依頼。悪くはない。

そう思って俺はこの仕事を受けることにした。そしてPMCトラストに機体ごと運んでもらい、現地入りして盛大に後悔することになった。

 

「隊長があのパトリック・コーラサワー……しかも味方にレッドショルダー。ドンピシャで大ハズレの仕事持ってきたなボルフのやつ……」

 

記憶が確かなら”破界篇”最初あたりのステージに登場する敵キャラポジション。それが今回の仕事だった。初めての実戦の相手がガンダム8機――ソレスタルビーイングと、五飛を除いたコロニーのガンダム――そしてブラスタ。しかもそのうちダンクーガノヴァが乱入してきたはずだ。言外に負けイベントですと宣告された俺は、死んだ目のまま格納庫で苦いコーヒーをすすっていた。

他の傭兵たちが”アレと一緒に出て本当に大丈夫かよ”って目でこっちを見ながらヒソヒソ話しているが、それに構っている心の余裕はない。

 

「せいぜい一般ナイトメアとか、量産型フラッグ辺りの相手ができればいいかな~程度に思ってたんだけどな」

 

ヴァイシュラバといい、ヴィルダークといい、俺といい、次元将は主人公と敵対しなきゃ気が済まない呪いにでもかかっているのだろうか。アポロニアスやゼウスと肩を並べて戦ってた連中のはずだよな?

まあ今回はろくに確かめもせずにこの仕事を受けた俺が悪いってだけの話なんだが。

これでウィルパーシャまで蘇って連獄篇辺りで襲ってきたら笑えるな。などとアホな想像をして心を落ち着けようと努めていると、基地全体にアラートが鳴り響く。

 

「あーあ、始まっちまった」

 

軍用トラックに積まれたストロング・カーラに乗り込み、通信機をオンにするとアラートの詳細が知らされた。

このエリアで競り合っていたブリタニア・ユニオン基地の壊滅が確認され、さらに周囲で不審な反応が見つかったとのこと。間違いなくサンドロックとヘビーアームズのコンビだ。

AEUも、どの機体かはともかくガンダムが絡んでいることは感づいているようで、防衛が手薄になることを承知で基地の全戦力の投入を決意した。当然俺も含まれている。

 

「やるしかない、か……」

 

戦闘のどさくさに紛れて逃げるという発想が出ても、それを選ぶ気が全くしない辺り、今の俺の人格はドゥリタラーとしての部分がかなり強く出ているらしい。勝てないから逃げる、なんてのはありえない事だと心のどこかから訴えかけてくる。そんなだから戦死したんだぞ。逃げたヴァイシュラバは賢かった。

 

さて、逃げられないのであれば、するべきは戦ったうえで、死なない事。いくら次元将の肉体が下手なモビルスーツより頑丈だからと言って、GNバズーカやバスターライフルを最大出力でブチ込まれたら流石に命にかかわる。

せっかく小回りのきくATに乗っているんだ。上手く躱してみせよう。この辺りは砂地で岩や味方AT等の障害物も多いし、相手の半分は障害物のほとんど無い空中からバカスカ撃ってくるけど、きっと躱してみせる……やはり早くも2度目の死か?

 

再び死んだ目になりかけていると、出撃の命令が無情にも下される。

 

「チッ 仕方ねえ! やぁってやるぜ!」

 

俺は少しでも気合を入れるため、戦う相手の台詞をパクりながら出撃した。流石というべきか、この台詞を言うと力が湧いてきて、朔哉が言いたがる理由が分かった気がした。

 

 

 

「犬も歩けばって言うが、当たる棒がスタンロッドより凶悪な代物じゃあシャレにもならねえ」

 

そう呟きながら、クロウ・ブルーストは何度目かのため息をつきながら引き金を引く。発射された弾丸は直線上に居た()()()()()()()に突き刺さり、その姿を消滅させる。

 

謎の特殊動力機関を搭載した4機のガンダムを擁する”ソレスタルビーイング”から逃走している最中にコロニーのものと思われる2機のガンダムと遭遇してしまい、仕方なく交戦していたら案の定ソレスタルビーイングのガンダムに追いつかれ、いよいよ混沌としてきた所にぶちまけられたさらなる混沌。

それが突然の次元震と共に現れた、目の前の次元獣軍団。

 

これには流石のガンダム達も一時休戦の提案を受諾。たった1人で四面楚歌の状況から一気に世界有数の強部隊と相成ったが、それでも楽観はできないほど、とにかく次元獣の数が多い。乗機ブラスタが格闘戦も十分にできる機体でなければ弾切れを起こして詰んでいたかもしれないというほどの大軍団である。

 

「しかも奥に控えてやがるあの()()()()()()……あれはやばい」

 

明らかに軍団の長といった雰囲気で群れの後ろに待ち構える異様な次元獣。ダモン級に巨大な角が生えたようなシルエットをしているが、何より目を引くのはその体色。クロウが呟いたように派手な黄金色に輝いており、その存在感をこれでもかと主張して来る。これがモビルスーツ等であれば趣味が悪いと一笑に付したかもしれないが、未知の怪物たる次元獣においてはその不気味さを増すことに一役買っている。

 

「目標を破壊する」

 

ソレスタルビーイングの重火力型ガンダム(ヴァーチェ)がその黄金の個体が控える方向に向けて手に持ったバズーカと肩のビームキャノンを一斉射し、邪魔な下級次元獣を排除する。

 

「目標を、駆逐する!」

 

そこへ近接戦闘型(エクシア)が一気に接近して右手の実体剣を振りかぶった。

 

「まず大将を狙うことにしたって訳か。それには同意だが、一応共闘中なんだから通達くらいしてほしいぜ……」

 

そうぼやきつつも援護するためブラスタの銃を狙撃タイプの銃身に素早く切り替え、エクシアを追いかけようとする下級個体を撃ち落としていく。

その甲斐あってエクシアの攻撃に邪魔が入ることは無く、実体剣が黄金の次元獣を捉えた。

 

そしてその表皮をわずかに傷つけた。

 

「何っ!?」

「おいおい、冗談だろ?」

 

思わず声を上げたソレスタルビーイングの面々はもちろん、モビルスーツを両断してしまうほどの切れ味を先日の軌道エレベーターの件で見せつけられているクロウからしても、この結果は想定外だった。一撃で倒すとはいかないまでも、角の一本でも切り落としてしまうかと思っていた。

 

黄金の次元獣がその巨大な角を反撃とばかりに突き出す。エクシアは左手のシールドで何とか受け止めた後、狙撃型(デュナメス)からの援護射撃を受けながらいったん後退した。

 

「こいつは骨が折れそうだ」

「火力を一点に集中させるぞ」

「待って。また何か来る」

 

可変型(キュリオス)に乗った青年(アレルヤ)が言うように各自のレーダーがこの地点へと向かう動体反応を複数捉えた。

 

「まさかもうAEUの部隊が出てきた? くっ 次元獣の相手で手一杯なのに……」

 

重装甲(サンドロック)少年(カトル)の予想通り、視認した部隊はAEUのイナクトを先頭に空戦型モビルスーツが数機、後続には多数のATを引き連れた大部隊。緊張感が高まる中、全身火器(ヘビーアームズ)少年(トロワ)が小さく警告した。

 

「別方向からもう一つ。挟まれるぞ」

 

そしてAEUの部隊とは比べ物にならない速度で接近して来る40m級の巨体。ほとんどの者はその姿に見覚えがあった。

 

「ダンクーガまで出てきやがったか」

 

戦場に突如として現れ、負けている方に味方して戦況を膠着状態に戻し、去っていく厄介者。目的は不明だが、紛争幇助勢力としてソレスタルビーイングでも警戒対象となっている。

 

「こういう場合、誰に着くんだ?」

 

これまでダンクーガが現れたのは人同士の戦場。こういった化け物が相手の場合どのように行動するのか全く予想がつかなかった。AEUの動向以上に各々が緊張を高めていると、ダンクーガはスピードを落とさないままクロウ達の元を素通りし、手近な次元獣を殴りつけた。通常モビルスーツの倍以上の巨体が持つ重量をそのまま乗せたパンチを受けた下級次元獣は同胞たちを数匹巻き込みながら吹き飛び、跡形もなく消滅した。

 

「化け物相手ならそっちを優先してくれるらしいな」

「もしくは、僕たちが負けてると思われてるのかもね」

「真意はどうあれ、敵対してこないならば奴はいったん放っておく。問題はAEUの部隊がどう動くか……」

 

その問題のAEU部隊の中、とある奇抜な姿をしたAT(ストロング・カーラ)に乗った男は心の中でこうつぶやいていた。

 

(なんで真次元獣がこの段階で居るの? 俺の知ってる破界篇と違う)

 

そもそも自分が破界篇に居ない存在であることなどすっかり棚に上げ、ただひたすら困惑しつつも、彼は先頭のイナクトについて混沌の戦場に身を投じるのであった。




今更書く主人公名”ガヌマ”の由来
次元将の中で序列をつけるとしたらまとめ役のヴィルダークが1、御使いと戦って一応生存したヴァイシュラバが2、討ち死にしたドゥリタラーとウィルパーシャが同率で3という事で3番目を意味するγ(ガンマ)をもじってガヌマとなりました。

しかしこの主人公が瞬時にそこまで考えつくのは不自然なのでテキトーに思いついた”ガンプラ沼”という単語を略したという後付け設定が1話投稿後につきました。なおこの設定は今後一切触れられません。


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第4話 次元将、傭兵になる2

気づいたら評価バー赤くなってて嬉しいので続きました。


覚えたローラーダッシュを駆使して、先行するイナクトやヘリオンを味方ATの面々と並走して追いかけながら、遠くの方に見える状況を整理する。

 

まずダンクーガノヴァが既にいる。たしか乱入して来るのはAEUと主人公陣営がぶつかってからだったはずだ。ウイングとデスサイズがまだ居ないのは原作通りだったっけ? 

まあそんな細かい違いは正直気にならない。問題は次元獣が湧いていることだ。しかも指揮官らしきポジションに金色ボディの”真次元獣”が当然のように居座っている。お前が出て来るの再世篇の最後だろ。UXのリべル・レギスじゃあるまいし、少しは自重というものを……自我の消滅した次元獣には無理か。

 

さて、この真・ブルダモンだが、この段階で戦うには少々強すぎる。一応雑魚扱いとはいえ、それは十分に自軍の強化が進んだ最終局面ゆえの事。フル改造したダブルオーライザーで切り刻むから弱く感じるだけで、ほぼ間違いなく無改造であろう現段階のエクシア達からすればこれはもうボスだろう。クロウが二週目以降とかなら希望はあるが見たところそれもなさそうだ。各々の最強武器じゃないとD・フォルトを抜けるかどうかも怪しいんじゃないだろうか? 少なくとも今のストロング・カーラでは絶対に無理。

 

ここは逃げ……駄目だ。ドゥリタラーとしての意思が”逃げるな”と喚いて頭が割れそうになる。ここまで影響が大きいとは……うるせえよ分かったよ戦うから黙れ。

 

あ、黙った。何故自分に黙れとか言わなきゃならんのか。アレルヤかな?

 

「コーラサワー少尉、アクシオンの新型には手を出すなとの通達が……」

「言われなくても、こんな状況で人間に銃を向けるかよ! そんなことする奴は軍人じゃねえ! 次元獣を叩くぞ! ……ガンダムも、今だけは無視だ」

「りょ、了解!」

「傭兵どもも聞こえたな!? 一匹たりとも逃がすなよ!」

「了解ですぜ、隊長殿」

「へっ 噂のガンダムとも戦ってみたかったがな」

「いいだろう。人間相手に吸血部隊をやるよりは気が楽だ」

「……」

 

コーラサワーの呼びかけに、グレゴルー、バイマン、ムーザが答える。キリコは予想通りの三点リーダー。他の隊員たちも十分な気迫が感じられる。通信での返事が無い事に関しては多分GN粒子が悪い。

 

「これだけいれば、まあ何とかなるかね……」

 

バリアというのは本当に厄介だが、発動にはエネルギーを消費する。次元獣のD・フォルトは消費EN5だったか。弱い攻撃だろうが何だろうが、受け止めたからにはエネルギー消費は同じだけ発生するはず。数はそのまま力になる。

 

「よっしゃぁ! 全機突撃!」

 

ガンダム達もこちらの意図は察してくれたようで、俺たちを攻撃範囲から外すように動き始めた。

こうして俺の初の実戦は高難易度で幕を開けた。

 

 

 

 

「どう見てもお前がボスだな! 喰らいやがれ!」

 

イナクトのリニアライフルが真次元獣に向かって実体弾を高速で吐き出す。

流石はエースとでもいうべきか、飛び回りながら適当にばら撒いているように見えて、その弾丸は他の次元獣や周囲の機体を避け、ひとつ残らず真次元獣の元へ着弾する。ただしこれまたひとつ残らず、まるでそこに見えない壁があるかのように黄金の表皮の直前で弾かれてしまう。

 

「なんじゃそりゃあ!?」

 

反撃とばかりに真次元獣の体が帯電し始め、次の瞬間には下から上に向かって雷が落ちる、という奇妙な現象が発生した。落ちた先は当然、イナクトを始めとするAEUの空戦部隊である。

 

「うぉお!? 危ねえな!」

 

コーラサワーのイナクトは間一髪で回避行動を取って難を逃れる。しかしその雷撃は近くを飛んでいたヘリオンの一機に直撃した。AEUの誇る主力MS(モビルスーツ)と言えどこれには堪らず機体各部から火を吹き始め、最後にはパイロットを遠くに吐き出した後であっけなく爆散した。

 

「脱出装置のついた機体だったからいいが……ATでアレは死ぬな」

 

赤い右肩のスコープドッグの中で思わずそう呟いたグレゴルーだったが”敵の攻撃に当たれば死ぬ”などと言うのはいつも通りの事だとすぐに思いなおして鼻で笑い、金色の怪物の注意がいつ自身に向いても良いように回避運動の準備をしつつヘビィマシンガンの弾丸を手近な下級次元獣(ダモン級)に向かって吐き出す。

幸いにもこの雑兵とでもいうべきタイプの怪物はあの妙なバリアを持ち合わせていないようで、大口径の弾丸をその身中に受け入れたのち、光の中に消えるようにして断末魔と共に消滅した。

 

「こっちには普通の弾も効くらしいな。なら金ピカの大将はガンダムどもに任せる。キリコ、バイマン、ムーザ。俺たちは邪魔な雑魚をさっさと片づけるぞ」

「了解」

「一匹も逃がすな、と隊長殿も仰せだしな」

「フン、あの軽薄な隊長の言う事に従うのは正直癪だが、仕方あるまい」

 

そうして4機のスコープドッグが砂煙を噴き上げながら突出し、互いの射線を遮らないようにしつつ固まって爆走し、順番にヘビィマシンガンやミサイルポッドに火を吹かせる。4組の火器が互いの射角をカバーしあった隙間の無い弾幕によって、まるでゴミの散らばった床を箒で掃くように、グレゴルー小隊の通り過ぎたあとには一匹の次元獣も残らない平坦な砂地が形成されていく。

その光景を空中から見下ろすロックオンは、ほうと息を吐く。

 

「大したもんだ。あれが一騎当千のレッドショルダーか。あんな小さい機体でよくやる……おっと、呆けてる場合じゃないな。狙い撃つぜ!」

 

周囲のダモン級をGNミサイルで牽制しつつ、デュナメスの頭部ブレードアンテナを下げて額の狙撃用望遠カメラを露出させる。

そのまま手にしたGNスナイパーライフルを構え、照準を真・ブルダモンの表皮、先ほどエクシアのつけた傷に合わせ、いつでも撃てるように準備する。

 

「クロウ・ブルースト。合わせられるか?」

「任せな。狙撃も俺の数多い特技の一つだ」

 

ロックオンの狙いを察し、同じ場所にクロウのブラスタも照準を合わせる。

 

「そうかい、期待させてもらうぜ……だが、まずはあのバリアだ。ティエリア!」

「言われなくとも!」

 

言葉と共に、GN粒子チャージの済んだヴァーチェがバズーカを太陽炉に直結させ、さらに両肩のキャノンも展開した最大火力を真・ブルダモンに向かって放つ。当然それを阻むように見えない壁――D・フォルトが展開される。

 

「くっ! これを耐え抜くとでも言うのか!?」

 

バリアとビームが拮抗状態となりかかっているのを見て取ったティエリアの目つきがいつにも増して険しくなる。

 

「突破にはとにかく火力が必要か。手を貸そう」

 

そこへ全身に満載された火器のセーフティ・ハッチをフルオープンにしたヘビーアームズが乱入し、ヴァーチェとは別方向からビームガトリング、ミサイル、マシンキャノンによる破壊の豪雨を横殴りにたたきつけた。そちらにもD・フォルトが展開されるが、流石に通常時ほどの出力は無い。

 

―断空砲・スタンバイ―

 

畳みかけるようにそんな声が響き、発生源たるダンクーガの元からヴァーチェに匹敵するか、それ以上にもなろうかという圧倒的な光量のビームが何条も走る。

 

結果三方向から、合計すれば都市の一つや二つを軽く消し飛ばせるのではないか、というほどの圧倒的な火力が真・ブルダモンの元に集中され、ついに抑えきれなくなったのか、その堅牢さに反してパキンと軽い音を立てながらD・フォルトは砕け散った。

 

「今だ!」

「おうさ!」

 

その瞬間を逃さず、ブラスタとデュナメスのライフルの引き金が引かれる。

先に着弾したデュナメスのビームが傷部分の表皮を強く熱し、強度が下がったところにブラスタの対次元獣に特化した実弾が叩き込まれ、小さな傷は一瞬にして大きな亀裂となった。

そこでD・フォルトの存在しないわずかな時間は終了し、堅牢なバリアは再展開されてしまう。

だが最早、そんな物は関係ない。

 

「やれ! 刹那ぁ!」

「目標を……駆逐するッ!!」

 

少年の叫びと共に右腕のGNソードを前方に突き出すように構えたエクシアが中世の騎士さながらの突進を敢行する。

司令塔の危機を感じ取ったのか、進行を阻害するように多数のダモン級が群がろうとするが、それらは一匹たりともエクシアの進行ルートに到達することは無かった。

 

「邪魔はさせない!」

 

ある個体はサンドロックのヒートショーテルで真っ二つにされ、

 

「遅れて参上! ここはあのガンダムを手伝うところだな?」

 

ある個体は突如として現れた黒いガンダム(デスサイズ)の持つ鎌の餌食となり、

 

「いつの間にかデスサイズが居る……今まで何してたんだ? っと、そんなことよりエクシアの援護だ」

 

ある個体はストロング・カーラの帯電した角やバトルアックスを受けて行動不能に陥り、

 

「ターゲット、次元獣」

 

ある一角に集まった集団は上空を飛ぶ鳥のような戦闘機(ウイング)から浴びせられた強力なビームで跡形もなく消し飛んだ。

 

「ウイングも来た……助かるが、ずいぶん遅かったな? まあいいか」

 

そうして妨害されることなく一直線に標的の元へたどり着いたエクシアのGNソードはその特性(バリア貫通機能)によってD・フォルトをあっさりと突破し、表皮に刻まれた亀裂を深々と貫いた。

 

「うおおおおおおおおおおお!! ガンダアアアアアアアアアアアアアアム!!!」

 

刹那の闘志に突き動かされるままに、エクシアは敵を貫いたGNソードをそのまま真横に振りぬく。

体の上半分を切り離された真・ブルダモンは他のダモン級と同じように断末魔を上げながら光の中へと消えていった。




ハブラレルヤ「世界の悪意が見えるようだよ」
多分残ったレッドショルダーやコーラと一緒にちょっと遠めの位置にいるダモン級狩ってた。


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第5話 次元将、襲撃される

前回を書いていて学んだ事:主人公がまだ雑魚なのでワンシーンの登場人物が増えると介入できず空気になる


凄かったな、ガンダム達の即席連携。まさかこの段階で真次元獣をボコボコにしてしまうとは。

直接攻撃に参加しなかった連中も素晴らしかった。最後のエクシアに群がろうとするダモン級を次々消滅させていった手腕は見事というほかない。そんな中、俺の攻撃はというとダモン級を消滅させることすらできずその場で膝(?)をつかせる程度。

真次元獣のインパクトが強すぎてそちらへの警戒ばかりしていたが、ダモン級だって不完全とはいえ次元獣には違いない。たかだかブロウバトルで勝ち越していたからと、心のどこかで調子に乗っていたらしい。所詮は中古ATとスクラップをリヴァイブ・セルで固めただけに過ぎない機体だという事を忘れてはいけなかった。

 

……いや、レッドショルダーの連中はATでやれてた。決してATじゃ勝てない相手という訳ではなかった。ストロング・カーラも機体性能だけならATとしては相当いいはずなのだから、今回は機体を動かす俺が弱かったというだけのことだ。まあ、レッドショルダーを比較対象にするのはおかしい気もするが。

 

「とは言え、ATのままでいいって訳じゃないよな……っと」

 

一人でそんなことをブツブツ言いながら手近な瓦礫をその辺に放り出す。

今俺は、()()()()AEUの基地跡を漁っていた。あの次元獣との戦闘が済んだ後、ものすごい速さで撤退していったガンダム達を無事取り逃がして仕方なく帰還したところ、基地はまるで高出力のビームを叩き込まれたかのように焼けただれており、その被害を免れた箇所も何かで切り裂かれたような跡を残してその機能を失っていたのである。

どう見てもあの時遅れてきたウイングとデスサイズの仕業で間違いない。間の悪いことに彼らの襲撃のタイミングでちょうど出撃してしまっていたようだ。思わず空を見上げると「任務完了」とか呟きながらバードモードで飛び去るウイングの姿を幻視したような気がした。

 

怒り心頭のコーラサワー達AEU軍や皮肉げに笑うバイマン達レッドショルダーが各々のお迎えでエリアから退去するのを見届けた後、ナチュラルに置いて行かれた俺は、ヘリオンや輸送機の残骸から飛行ユニットでもでっちあげてやろうかと、こうして廃墟と化した元格納庫を漁りまわっているのだった。

 

「お、ヘリオンの予備パーツ……それと、これまさかアグリッサの残骸か? こんなのあるならなんで使わなかったんだよ。馬鹿なの?」

 

後にあのサーシェスがエクシアをボコボコにするのに使った機体……まあバスターライフルによると思しき破壊跡から見つけ出せたのは機首、つまり特徴的なカニの頭っぽい部分のみで、例の凶悪なプラズマフィールド発生装置を兼ねた脚部は見当たらないのだが。

ひょっとしたら輸送用のホバータイプで、脚なんて最初からなかったのかもしれない。それなら近場への出撃時に置いて行かれるのも分からんではない。

 

ま、輸送用でもなんでもいいんだけどな。今必要なのは武装じゃない……とも言い切れなくなる気分をさっき味わったばかりだが、とにかく今は飛んで移動できることが重要だ。

機首部分の後ろ側……本来ならイナクトの胴体が収まるであろう場所にストロング・カーラを移動させ、膠着姿勢で置いてみる。やや広すぎるが、妙におさまりが良い。これを飛ばすことができれば先端のプラズマキャノンのおかげで一応の攻撃力も備えた、いい感じの飛行ユニットにできそうだ。後はどうやって飛行能力を回復させるかだが、ここは大して悩む必要はない。ゲットーの倉庫の時と違って今回は誰かが来て巻き込んでしまう心配はないので、リヴァイブ・セルを一度に大量放出して半次元獣化させてしまう事が可能だ。たぶんリヴァイダモンが吐き出す名無しの飛行タイプ次元獣みたいな存在として作り直すことができるはず。

 

アグリッサの機首を中心にヘリオンや通常の輸送機の残骸を一箇所にまとめると、降着したストロング・カーラに乗り込んで一気にすべてのパーツを浸食し始めた。

 

「よし、ゲットーの時と違って格段に早い」

 

開きっぱなしのハッチから身を乗り出して下の方を見てみると、虹色の結晶が接着剤のようにアグリッサの機首と多数のジャンクパーツを無理やりつなぎ合わせていくのが見えた。

パーツを全て接合し終えた結晶は次に機体全体を覆い始め、無理やりつなぎとめただけのハリボテ細工に過ぎないそれらを一つの物体として完全に統合していく。

流石は疑似的に真化を行おうと生み出されたリヴァイブ・セル。別々のものを混ぜ合わせるという事に関しては恐ろしい程に有用だ。

 

こうしてわずか数時間で、パイロットを取り込んでいないのでやはり完全な次元獣とはならず、しかしそれに近い存在として、意のままに動かせるサブフライトシステムっぽい物が完成した。

元のアグリッサに比べるとかなり小さい……と思われる。それでもAT一機運ぶには大仰すぎるのだが。

 

「うん、我ながらいい出来だ。いい出来なんだが……さてはこれ、街に近づけないな?」

 

ストロング・カーラ以上に”どう見ても次元獣”な見た目になってしまった。人の生活圏に近寄ればほぼ間違いなく撃ち落とされる。ある程度近くまでこれで移動したらあとはどこかに機体を隠して徒歩で街に入った方がよさそうだ。感覚としては必要とあればかなり離れていても呼び出すことができそうで、到着までの時間を考慮しなければ有事の際も安心である。

 

「とりあえず飛ばしてみるか」

 

呟きながらストロング・カーラのハッチを閉めて離陸するよう念じてみる。すると思いっきり次元獣の鳴き声が鳴り響き、PMCに運んでもらった時のようにふわりと宙に浮く感覚があった。そこから飛行ユニット――安直にフライダモンとでも呼ぶか――と視界がつながり、下方に小さくなっていくAEU基地と、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が見えた。

 

「ワァット!?」

 

超間抜けな俺の叫び声と共に飛来した大口径ライフル弾の衝撃を受けてあっさりとバランスを崩し、フライダモンは誕生から数分で地面に叩きつけられて重傷(?)を負った。乗ってた俺は無傷。次元将頑丈過ぎない?

 

「なんで今()()()()が襲ってくるんだよ!? 真次元獣といい、こいつらといい、まだ破界篇だっつってんだろ!」

 

思わず叫んだ通り、気づけば第3次に入ってから参戦するはずの”M9”が落下したフライダモンを取り囲んでいた。

 

「いや、ミスリルに関しては破界篇のソレスタルビーイングと画面外でバチバチやってたとか何とか言ってたっけ……」

 

たしかクルツがその件でロックオン(弟)に絡んで困惑させてたはず……いやそんなことはどうでもいい。今は警告なしで発砲する状態のM9に囲まれてるんだ。

囲まれてるってことはフライダモン制作を見られていたと思っていい。ジェニオンがD・フォルト使ってただけで捕縛対象なんだから、目の前で次元獣なんか作ったら完全にアウト。つまり一連の次元獣騒動の黒幕だと誤解されている可能性が非常に高い。黒幕の元同僚なので概ね正しいのだが。

 

さてここでどうすればいいか……

にげる……フライダモンはしばらく飛べない。陸路でM9から逃げられるわけがない。何よりライフルの銃口がずっとこっちを向いている。あと脳内のドゥリタラーがうるさい。

 

たたかう……勝てない、とは言わない。機体から降りて素手で戦えば多分撤退させるくらいはできる。やった瞬間世界の敵だが。

 

こうさん……ぶっちゃけミスリルの事よく知らないのでどんな扱いされるか分かったもんじゃない。ヒビキの時と同様に話し合ってくれるとは限らない。

 

なかまをよぶ……そんな奴はいない。仮にボルフがここに居たとしてもさっぱり見捨ててくれそうだ。アストラギウスの奴を信用してはいけない(一部除く)

 

なんて迷ってるとM9達が一斉に単分子カッターを持って駆け寄って来た。

 

「呼びかけすら無し! 仕方ねえ、こうなったら降りて……」

 

たたかう を選ぼうとした俺だったが、すぐに妙な耳鳴りに襲われる。

 

「なんだ?」

 

思わず首をかしげるが、すぐに理解した。ドゥリタラーの肉体はこの感覚を知っている。

 

「次元震か!」

 

見渡せば周囲の風景が耳鳴りに合わせるように歪んでいるのが見て取れた。

すぐに領域から離脱……は間に合いそうにない。M9達はしっかり離れたようだが。おかげで俺だけがどこかに飛ばされる形でひとまずこの場は切り抜けられそうだ。

 

「助かった……と言いたいが。これは誤解がさらに強固なものになるパターンだな?」

 

傍からは俺が次元震を引き起こして逃げたようにしか見えないだろう。

思わず遠い目になりながら俺はストロング・カーラの操縦シートに身を投げ出すようにして目を閉じ、大人しく飛ばされることにした。

 

「もうなるようになれ、チクショウ」

 

もしこの肉体に乗り移ったことに誰かが関与していたなら思いっきり恨んでやろう、と心に決めながら、俺はそう吐き捨てた。

 

 

「ふふふ……こんなところで終わりなんて()()()()()もんね。せっかく蘇らせてあげたんだから」

 

次元震に呑まれてその場から消え去るストロング・カーラとフライダモンの姿を見届けたあと、その存在は満足げに微笑んだ。




ガヌマ君を見守る謎の存在……いったい何プティなんだ……


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第6話 つちのなかにいる

「あ、ガヌマ。調子はどう?」

「おうシモン、この通りもうバッチリだ!」

 

ニッと笑ってガッツポーズを決めて見せると問いかけの主、シモンは「そっか」と小さく笑い返したあと、手近な穴の奥へと歩いて行った。村の拡張工事に戻ったらしい。そろそろラガンを掘り当てる頃だろうか。

 

あの悲しいミスリル襲撃および誤解追加事件から数日がたった。あの日俺は巻き込まれた次元震によってここ、通称”暗黒大陸”の地下に飛ばされていた。

所謂”いし(と土)のなかにいる”状態になってしまったのだ。偶然掘削作業中だったシモンが掘り当ててくれなかったら、某サンドボックスゲームのように頭上にパンチしては下に落とした土を踏んで1m上昇、という作業をやる羽目になっていただろう。

ストロング・カーラは無事だったが、フライダモンは厄介なことになった。近くに埋まっていることが感覚で分かるものの、正確な位置は分からず。とりあえずクルツと思しきM9に撃たれた傷を癒しておくように指示はしておいた。完全に回復すれば頑張って地上に這い出すこともできるはずだ。

 

多分フライダモンが治るよりも獣人の襲撃を受けてラガンが天井ぶち抜く方が早いだろうけど、どのみち修復は必要なのでやっておく。その間のヒマ潰しも兼ねてめでたくシモンの故郷、ジーハ村に転がり込むことになった俺は今日も元気に村の拡張工事を手伝っている。

次元将のパワーをいかんなく発揮して壁をガンガン掘り進める……なんてことをしたらほぼ間違いなく大崩落が起きる(というか実際小規模な崩落を起こしてまた土に埋まった)ので、もっぱら荷物とか掘られた土とかの運搬が俺の仕事だ。まだたった数日の付き合いだが、地上ならクレーンを使うような重量物をホイホイ持ち運んでしまえるパワーは結構重宝されており、村の皆の警戒心も少しは薄れてきているのを感じる。閉鎖的コミュニティ極まってるだろうに、いい奴らだ。

 

そしてさらに数日後。結構エンジョイしていた俺だったが、とうとう別れの日がやってきた。運搬の仕事を終えて村の中をうろついていると、村長と言い争っている青髪の青年が目に入る。カミナだ。確かこの直後に獣人が一体、乗機のガンメンと一緒に降ってきて大騒ぎになるんだったな。

俺はすぐにストロング・カーラを動かせるように思念を送って起動させておく。ちなみにシモンに頼んでこいつの存在は内緒にしてもらっている。万が一”村の掘り当てた資源だから解体だ!”なんて言われたら困るので。村の中限定とはいえリヴァイブ・セルなんぞ流通させる気は流石にない。

 

「……おぉっと。やっぱり来たか」

 

ストロング・カーラの起動が完了したと同時に周囲を地響きが襲い、地震だなんだと村民が騒ぎ始めたころ、天井から巨大な顔が降り立った。遠目ながら、実際に見るとすごい絵面だ。間近で見てしまった村長が恐慌状態になって逃げ出すのも分かる。

 

お、カミナが啖呵きってる。原作シーンを実際にこの目で……みたいな感動は意外とないな。遠くて視点も変わらないと、なんというかこう、迫力というか……カメラワークって偉大なんだな。

そんなカミナに攻撃しようとするガンメンを、乱入してきたヨーコのライフル弾が怯ませる光景を尻目に、物陰まで移動させたストロング・カーラに乗り込んでじっと機会を待つ。俺単体なら後に天井に開く予定の穴からジャンプでついて行けるが、こいつを持って出るとなると乗っていくしかない。

 

やがてシモンたちの乗り込んだラガンが天井をぶち抜こうとしたタイミングを見計らって俺も機体を爆走させる。

手に持ったジャンク品のワイヤーを西部劇の投げ縄のごとく振り回して投擲、哀れなガンメンに括り付ける。後は奴が地上までぶっ飛ばされる勢いを利用して俺も一緒に脱出できるという算段である。

流石の螺旋力というべきか。AT一機分の重量が増加したところで問題なく地上に向けて天井を突き進んでいくラガンの雄姿にはいっそ惚れ惚れする。しかし……

 

「うおおおおおおおお! 思ってたより揺れとか衝撃とかやばいぞコレ! やっぱ無茶だったか!?」

 

素直にフライダモンの回復を待ってから出て行く道を選んだ方がよかっただろうか。でもこのタイミング逃すともう出て行きづらいんだよなぁ、想像以上に馴染み過ぎて。

あ、腕の関節から鳴ってはいけない音が。頑張れ、改造マッスルシリンダー!

 

 

「おうおうおうおうおうおう! なんか妙なのがくっついてきてるじゃねえか! あのデカ面の仲間か?」

「あっ! ガヌマのメカ! いつの間に」

「ガヌマ? あのデカい新入りか!」

「う、うん。最初に見つけたとき、あの中にいたんだよ」

「ねえ、なんだかすごいボロボロだけど、大丈夫なの?」

「俺が見たときはあんなにひどくなかったのに……」

 

穴倉の天井を乗機、ラガンご自慢のドリルでぶち抜き、空の青色をひとしきり堪能したカミナとシモン、それと一緒に押し込まれたヨーコはすぐ近くで謎の金属の塊……スクラップ寸前となったストロング・カーラを発見した。その中でそろそろ恒例となりつつある遠い目をしたガヌマはひとまず上に出てこられたことに安堵し、そして戦ったわけでもないのにこの有様な乗機のさらなる強化を心に誓った。流石にD・フォルト込みでこれではこの先話にならない。

 

ガヌマが歪んで開かなくなったハッチを蹴破って外に這い出すと、ラガンの内部にギチギチに詰まった三人は驚きの声を上げる。

 

「ガヌマ、入ってたの!? 大丈夫? 生きてる!?」

「落ち着けシモン! 自分で出てきてんだから無事だ! へっ、なかなか根性あるじゃねえか」

「え~? ……もしかしてこの村、あんたやあいつみたいなのばっかりなの?」

 

心配のシモン、平常運転のカミナ、そしてドン引きのヨーコの三人組に片手を上げて応えた後、近づいて来る多数の気配を察知し、構えるガヌマ。

そのただならぬ様子に周囲を見渡せば、シモンたちの目にもこちらへ向かってくる多数のガンメン達が映った。村に落ちてきた牛頭の物とは違う馬面やグラサンの似合いそうな凶悪顔など、バリエーションに富んでいる。

 

「たくさん来た!」

「おもしれえ! 天井開けろシモン! やいやいやいやい! 聞きやがれデカ面ども――」

「パ ー ツ が 向 こ う か ら 来 た」

「……来る方向間違えたかしら」

 

うろたえるシモンはともかく、対照的に闘志を燃やし、ガンメン達に何やら口上を述べ始めるカミナ、そして唐突に目を怪しい色に輝かせ、生身でガンメン達の方へ走っていくガヌマ。ジーハ村に来てから連続で襲い来る困惑の嵐にヨーコはため息をついた。

 

「って、ガヌマ! 生身であんなのに近寄ったら!」

 

あまりにも迷いなく走り始めたためシモンも一瞬スルーしそうになったが、普通に考えれば遠回りな自殺としか思えないガヌマの行動に顔を青くし、ラガンで援護するべく慌てて操縦桿に力を込める……が、次の瞬間、違う理由で顔を青くすることになった。

 

「さらばだ! ガドライト・メオンサム!」

「うそおおおおおおお!?」

 

ここには居ない誰かの物と思しき名前を叫びながら――流石にあの獣人の名前ということは無いだろう――ガンメンの顔面にドロップキックをかまし、しかもそのまま機体をバラバラに粉砕してしまう謎の光景を目撃したことで、元々限界ギリギリだったシモンのパニックメーターは完全に振りきれた。振り切れすぎて、逃げ出すなどの行動には至らなかったのは幸か不幸か。

 

「やるなあいつ! こうしちゃいられねえ!」

「ダメだアニキ! あれは絶対ガヌマがおかしいだけだよ!」

「そうよ、普通はキックでガンメン倒すなんて無理だから! 仲間がどれだけあいつらにやられたと思ってんのよ!」

 

自分も生身で飛び出そうとしたカミナを必死の形相になりながらヨーコと二人がかりで抑え込む。そのおかげと言っていいのか、少しだけ冷静さを取り戻せたシモンはカミナが暴れるのをやめたところでラガンの操縦に戻り、周囲の状況を確認する。

村で必死に勇気を振り絞ってようやく一機倒した恐ろしい存在がそこかしこにうじゃうじゃとひしめいている。正直言って恐ろしいし、今すぐ逃げ出したい。だが目の前で知っている者が戦っているこの状況で自分だけ逃げだして、もしもそのせいであの男が死んでしまったらきっと、一生後悔するだろう。

 

「パーツ置いてけ。螺旋力だ! なあお前ガンメンだろ! グレンのついでだ。多めに置いてけ!」

「ヒイィ! なんなんだよこの人間は!?」

 

……あの様子では絶対に死なないだろうが、それはそれとして、である。

 

「アニキ。俺、戦うよ。俺を信じてくれるアニキを信じる!」

「それでこそグレン団だ! いけシモン!」

「う、うん! いくぞおおおおおおおおおおお!」

 

今一度勇気を振り絞ったシモンを乗せて、ラガンは巨大な顔と青髪ガチムチの鬼ごっこ会場という地獄めがけて突進していった。




ここから徐々に乗機の魔改造具合が加速していく予定です


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第7話 蒼い変態

なんか知らぬ間にお気に入り数が2倍くらいになってて困惑 ありがとうございます


「あっさり片付いたな……」

 

ラガンと一緒に暴れまわり、襲ってきた獣人たちがパーツだけ置いて残らず逃げだした頃、辺りを見渡せばこれでもかというほどのガンメンのパーツの山が築かれていた。後はカミナのグレンを作るどさくさでストロング・カーラに搭載してしまえば修理と強化が同時に行える。まず間違いなくATではなくなるがそんなのは今更だ。ゲットーに帰ったらボルフの唖然とした顔を拝むとしよう。帰れるかどうかわからんが。

 

「無事かヨーコ!」

 

と、声のした方を見てみれば数人のグループがこちらへ駆けて来る。リットナー村のメンバーだ。

そういえば途中でプトレマイオスに乗った”自軍”たちが乱入して来ると思っていたが、来なかったな。こっちの人数がもとより多かったせいで早く片付きすぎたか?

もしくは分岐でこっちに来なかったかだ。うろ覚えだが、確か転移してきたフロンティア船団の調査か、ここ暗黒大陸に出向くか、って感じだったはずだ。それでもクラッシャー隊とかトライダーとかのスーパー組は来たはずだが。いや、来なかったっけ? まあそんなレベルの記憶しかない。

 

確認する手段がない以上は仕方がないので思考はさっさと打ち切り、今どうするのかを考えよう。見ればカミナが早速メカニック担当のオカマ、リーロンにグレン制作を依頼している。俺も便乗することにした。

 

「もしパーツが余ったら俺にも回してくれないか?」

「あらあなた、さっき生身でガンメンと戦ってた変態ね。あなたが暴れまわってくれたおかげで沢山あるし、大丈夫よ。持って行っちゃって」

「すまんね、あれを直したくてな」

 

俺が親指でストロング・カーラの残骸を指さすとリーロンは怪訝な顔をして、

 

「直すよりも、一から作った方が早くないかしら。あの有様だと……」

 

と呟くもひとまずグレンの方に集中すべく、ベースとする状態がマシなガンメン(ギャンザ)の方へ歩いて行った。まさかストロング・カーラが目撃者さえいなければ部品を適当に放り込んで融合して修理完了などというトンデモ仕様な機体だとは思わなかったようだ。ラガンを併用するならガンメンも大概なんだけどな。

 

さて、ゲットーで手に入るパーツはいくらつぎ込んでもバトリングATの域を出なかったし、AEU基地のスクラップ達は文字通りのスクラップ。対して今回のは初めて手に入るスーパー系のパーツだ。これには心が躍る。少なくともダモン級すら倒せず、さっきみたいに移動だけで大破する現状からは脱することができるはずだ。

 

一応、ストロング・カーラそのものが壁になって俺の手元が他の奴に見えないよう位置取りを意識しつつ、こっそりとリヴァイブ・セルを使ってガンメンのパーツを埋め込んでいく。発生する謎の光も、向こうからは溶接でもしているように見えるはずだ。パーツが増えて大型化したことで装甲板の面積が足りなくなるのでそれもガンメンから取ってくる。そうしていく内、徐々に手足が延長され、全体のシルエットはより生物的に、機体サイズもATの枠をそろそろ突破しようかというくらい大型化してきた。目測だが、立ち上がれば5mちょっとくらいか。ほぼガンメンのサイズに合わせた感じだ。SDからリアル体型に、というほどではないが、かなり印象が変わった。

 

「うーん、元がATだったと言っても信じてもらえるかは半々ってところか?」

 

一応頭部は角が生えているものの、アストラギウスAT特有の半球ドームにターレットレンズという構成のままなのでまだギリギリ分かるレベルだろうか。

 

改造には結構な時間がかかったが、倉庫のストロングバックスを改造し始めたときに比べれば驚くほど早く済んだ。なんだかんだで慣れというか、経験値というか、そういったものは得ているらしい。一息ついてチラリとリーロンたちの方を見ればギャンザの組み直しはほぼ終わっており、あとは例のグラサンがつけばグレンになると言った状態まで行っていた。元々規格の合うパーツ同士だろうとはいえ、次元将パワーとリヴァイブ・セルを合わせた高速作業(反則技)と大してスピードが変わっていない辺りは流石メカニック担当といったところか。

 

「こっちは終わった。なんかそっちで手伝うことあるか?」

「あら……ずいぶん早かったわね。いいえ、こっちももう終わるし、大丈夫よ。それより完成したら早速テストしたいし、そろそろコレ依頼した張本人、連れ戻してきてくれる?」

「ああ、狩りにいったんだっけ。あっちの方か?」

「そ、よろしくね」

 

カミナたちを探して歩きながら今後について思いを馳せる。より具体的にはこのままグレン団の新入りとしてついて行くべきかどうかというところだ。多分だがこの後グレン団ご一行はスーパー組と出会い、いくつか原作イベントをこなした後で暗黒大陸から離脱、そのままZEXIS加入というルートをたどるはずだ。そうなった場合、俺もついでに加入できる可能性は高い。高いのだが、加入してしまえば、フライダモンはどっかに待機させておけばいいとして、それでも確実にストロング・カーラを調べられてしまう。AEU軍の時はMSとATの違いもあって「整備? 自分でやれ」って感じだったので特に問題はなかったがZEXISではそうもいかないだろう。

 

まだヴァイシュラバ(ガイオウ)すら顔を出していない状況で、内部の半分くらいは次元獣と言っても過言ではない機体を持ち込んだらどうなるかはいろんなパターンが想像でき過ぎて実に恐ろしい。次元獣は基本的に駆除されてサンプルなんて貴重品もいいところだろうからストレートにバレるってことは無いと思うが、それでも怪しまれたらうまく言い訳できない。WILLやらルルーシュやらの頭脳派達を全員騙し切るなんて無理ゲーもいいところだ。

 

先に次元将云々の説明(ネタバレ)をしてしまって少しでも信用を得る、というのも手ではあるだろうが、脳内のドゥリタラーが”同胞を売るのかおまえ”とチベットスナギツネのような目を向けてきているように感じて気が進まない。やっぱりこの肉体、俺の意思に染まり切ってるわけじゃなさそうなのが時々厄介だな。

 

であればスーパー組が来る前に別れてしまって、何とかゲットーに帰って傭兵に戻るしかないだろうか。いやそういえばミスリルに正体バレてるんだった。一人でうろついてたら絶対また襲撃されるわ。それどころかリークされたら国際指名手配待ったなしだな?

 

となると、やはりついて行ってエルガン辺りに僕悪い次元将じゃないよと主張してZEXISに入るかクロノ改革派に雇ってもらうか。

クロノの方は折を見て離脱しないと”アドヴェントこそが正義だ!(意訳)”しか言えない真徒にされる危険がある。エルガンを生存させられれば多少は組織寿命は延びるだろうが、生きててもAGに統合されそうだし、そうして結局リーダー不在となったところをアドヴェントに乗っ取られる可能性は高い。あと、破界篇の最後にエルガンがリボンズに捕まるイベントがあったな。そうなったらあいつの命令きかなきゃいけないんだろうか。

 

ZEXISに入る場合、あそこは序盤の時点でギシン星人のタケルが受け入れられてるので次元将とバレても悪意を見せなければ意外といけそうではある。タケルの場合は事情が特殊なので一概には言えないが。

 

「迷うが……どっちにしろエルガンとコンタクト取らなきゃいけないのは確定か。そして今更正体隠すのは無理だ。話聞いてくれるかな」

 

ならこのままグレン団について行ってクラッシャー隊を待つとしよう。

そこまで決めてひとまず思考を打ち切った俺は視界の向こうに見える、原作再現中のカミナたちの方へ駆け出した。

 

 

 

「新手か!」

 

人間掃討軍極東方面部隊長、ヴィラルは突如として飛来してきた何かを間一髪で回避する。標的を失ったソレは地面に激突して大量の土を天高く巻き上げたあと停止した。この時点でまだ不死じゃないヴィラルに当たったらどうするつもりだったのだろうか。

 

「単なる蹴りで、地面にクレーターが! そうか、貴様が報告にあった蒼い変態!」

「え、俺そんな報告されてんの?」

「ああ、うん……それは仕方ないと思うな」

「シモン!?」

 

仲間からの辛辣な評価に愕然とする蒼い変態(ガヌマ)を油断なく見据えながら、ヴィラルは次の一手に思考をめぐらす。ただでさえ油断ならない相手(カミナ)との立ち合いの最中であったというのにこの本当に人間なのか疑いたくなる増援まで加わるとなっては、業腹だが生身のままでは少々厳しいと言わざるをえない。

つまり取るべき選択は一時撤退からのガンメンによる再襲撃。

 

素早く後ろに跳んで距離を取ったヴィラルにカミナが食らいつこうとするが、少し遅かった。

 

「野郎、逃げる気か!」

「剣や格闘はできるようだな人間ども! だがメカの方はどうかな?」

 

そう言い残して撤退するヴィラルを見送った後、ニヤリと笑ったガヌマはカミナに告げる。

 

「カミナ、リーロンから伝言だ。そろそろお前のガンメンが完成するから戻ってこいってな」

「ちょうどいい、早速グレンの初陣だ! 気合入れろシモン!」

「グレン……? わ、わかった!」

 

今でも戦うとなれば怯んでしまうシモンだが、カミナが信じてくれているという事が、震えて奥深くに隠れようとする心を引きずり出してくれる。やや頼りないながらもしっかりと闘志を固め、愛機ラガンの置いてある場所まで走り出そうとし、()()()()()()()()()()()()()

 

「あれ?」

「飛ばすぞ。しっかりバランスとれよ」

「おう。よくわからんが頼むぜ、ガヌマ!」

 

振り返れば自分を片手で引っ掴んでいるガヌマと、その傍に堂々と仁王立ちするカミナ。そして何やら不可解な会話が聞こえる。

 

「えっ……何?」

「ちょうどこの真下で自己修復が終わったらしくてな」

 

せっかくの闘志の出鼻をくじかれたようで困惑するシモンの問いにガヌマがそう答えると、それに合わせるようにして地面が不規則に揺れ始める。

すわ地震かと身構えようとするも、掴まれて宙ぶらりんな状態であることを思い出してそれは諦め、代わりにすがるような目をガヌマに向ける。返ってきたのは出会って以来たびたび見せてきた無駄に良い笑顔。この厳つい見た目で意外と親しみやすいのだと知らせてくれたこの笑顔は、しかしこの時ばかりは不吉の象徴のように思えてならなかった。

 

「ねえ、この揺れ……ていうか今、真下って! ()()()()()()()()の?」

「「うろたえるなシモン! 男ならどっしり構えてろ!」」

「アニキまで!」

 

元凶っぽいガヌマはともかくカミナまで自信たっぷりにハモってくると、もしかしておかしいのはうろたえている自分の方なのだろうか、という考えが心の片隅に芽生えかけたシモンだったが、少なくとも獣人にすら変態呼ばわりされるガヌマよりは一般的な思考のはずだと、何とか持ちこたえる。

 

やがて揺れがガヌマに掴まれていなければ倒れ込んでいただろうというくらいに大きくなった時、足元の地面が崩れ去った。

 

「スナイパーM9は多分いない! これが真の初飛行だ! 行くぞフライダモン!」

 

ガヌマが叫ぶと同時に崩れた地面の中からガンメンより二回りほど大きい”何か”が上昇して来てガヌマとカミナの足場となる。足場となった”何か”はそのまま上昇を続け、ある程度の高さに到達すると獣の叫び声のようにも聞こえる奇怪な音を上げながら空中を移動し始めた。

 

「うわああ!? 飛んでる!?」

 

脚が無く、翼の生えた虹色の蟹、と地上の人間なら表現するだろうか。そんな見た目の怪物に運ばれながらシモンは未だ自分を掴んでいるガヌマの腕にしがみついて絶叫する。

地下から地上へ出てきたばかりだというのに今度は空ときた。土の中からガヌマを掘り当ててからというもの、あまりにも目まぐるしく変わる状況にそろそろ眩暈がしてきたシモンだったが、空に上がったことで地上の、仲間たちを待たせている場所の状況が見えてきて、すぐにその眩暈は吹き飛んだ。

 

「ガンメンがあんなに……皆が危ない!」

 

人間掃討軍極東方面部隊とやらはいつでも出てこられるように待機していたようで、ヴィラルが一旦退却してからほとんど時間が経っていないはずだというのに、先日の戦いをゆうに超える数のガンメンが仲間たちのキャンプ地を包囲するようにじりじりと進軍しているのが上からは良く見えた。

彼らはこれまでも獣人のガンメンと戦ってきたと言っていたが、あの数に襲われればひとたまりもないだろう。

 

「や、やるんだ。皆を……守るんだ!」

「おもしれえ、派手な初陣になりそうだぜ。かかってきやがれ、あの野郎!」

「今回は俺もメカ使うからな。蒼い変態は今日で廃業だ。絶対にだ」

 

三者三様に渦巻く闘志を背中(?)に乗せて、フライダモンは彼らの乗機がある場所まで急降下していった。




ヨーコは別のところで狩りやってて先に戻ってます

ガヌマが蒼いせいで一瞬カミナが蒼い変態ではないかという謂れなき風評被害がヴィラルの中で起こっていたとかいないとか


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第8話 顔が2つずつたあ奇っ怪な!

「今日から本当にストロングだ、ストロング・カーラ! せええええい!」

 

気合のままに振り抜かれたバトルアックスが手近なガンメンのボディを真っ二つにする。咄嗟に操縦席内で身を屈めて一緒に真っ二つになるのを回避した獣人の反応速度は見事というべきか。慌てて機体から飛び降りて逃げていく様を横目に、次のガンメンにバトルアックスを振り下ろす。

 

正直言って、今の俺はかなりテンションが上がっている。カミナ曰く気合で動くガンメンのパーツと融合した影響か、意思の伝達が驚くほどやりやすくなったうえに単純なパワーまで上がっていると来た。わざわざ攻撃を喰らってやるつもりはないので試せていないが、D・フォルトの防御力も相当上がっているのではないだろうか。

 

「サンダーブレエエエエエク!」

 

全然違うのだが思わず例の技名を叫びながら敵を指さしてしまう。頭部の放電ホーンも電撃を飛ばす事によるまともな威力の中距離攻撃ができるようになった。雷撃を受けたガンメンは黒こげになって崩れ落ち、中から獣人が飛び出し走り去っていく。こいつら異能生存体か何か?

 

これでもまだ降りた方が強いという次元将ボディのデタラメっぷりに呆れつつ、この間の真次元獣戦の体たらくが嘘のようなパワーアップを果たしたストロング・カーラで暴れまわりながら、カミナのグレン起動イベントを待つ。

今のところは気合で何とか動かそうとしてうんともすんとも言わない、という状態。ラガンとヨーコのライフルのおかげで何とかグレンに敵ガンメンの攻撃が届く事態にはなっていないが、そろそろ動いてくれないと厳しくなってくる。

 

「今は俺が頑張るしかないな。撃て! フライダモン!」

 

俺の指示と同時に上空を旋回していたフライダモンがカニの口っぽい部分からプラズマキャノンを発射して何体かのガンメンを吹っ飛ばす。飛べる敵とスナイパーさえいなければ普通に強いなコイツ。できるだけ多くを巻き込めるように撃たせたのでもう少し時間を稼げそうだ。

 

……と、思っていたのだが。

フライダモンが”何かに張りつかれた”感覚を受信し、すぐに急降下して振り落とすように指示を出す。振り落としはうまくいったようで、地面に何かが激突する。よく見てみればそれが何なのかはすぐにわかった。

 

「インベーダーかよ。また厄介なのが……」

 

思わずぼやくが、確かこいつらが出て来るのは原作通りだったか。それで螺旋力=進化のエネルギーを持たないように設計された獣人はガン無視して自軍にだけ突っ込んでくるんだったな。実質獣人の増援みたいなもんだ。ガッデム。

……じゃあ何で人の融合してない半次元獣のフライダモンに張りついて来るんだろうか。納得いかないが襲ってくるなら迎撃するしかない。

 

「このようなバケモノが現れるとは、チミルフ様に報告せねば。だがその前に、貴様だけは仕留める!」

 

チラリと横目で様子をうかがうと、獣人軍団の後方で指揮を執っていたヴィラルが専用ガンメンのエンキでグレンの方に突っ込んでいくのが見えた。

 

「アニキ!」

「馬鹿め、わざわざ死にに来たか!」

「うわああ!?」

 

ラガンが応戦しようとするが、エンキの兜から発射されたビームを受けて弾き飛ばされてしまった。

ストロング・カーラで援護に入ろうにもガンメンやインベーダーが邪魔で間に割って入れない。飛べるインベーダーの乱入のせいでフライダモンが一方的に攻撃できていた状態が崩れたのは痛い。いっそ降りて直接カミナを守りに行った方がいいだろうか。

 

「俺を誰だと思ってやがるキイイイイイイイック!」

 

あ、動けるようになった。

 

「よくも可愛い弟分をパアアアアアンチ!」

「新入りに負けてられるかアタアアアアアック!」

 

謎の新技まで入り混じった猛攻撃でヴィラルのエンキを打ちのめすグレン。これにはヴィラルも驚いたようでいったん距離を取る。

 

「人間がガンメンを動かしただと!」

「見たか、獣人野郎ども!」

 

これならこっちはインベーダーに集中していても大丈夫そうだ。

 

 

 

「喰らいやがれ、ケダモノ大将!」

 

カミナの気合に応えるようにして、グレンはその腕を振り上げて眼前のエンキの元へと疾走する。

しかしいったん落ち着きを取り戻したヴィラルは本来そんな直線的な攻撃をさばききれないような半端な戦士ではない。あっさりとグレンの攻撃を凌ぎ、エンキの手に持った二本の刀を振り下ろす。流石に真っ二つになるという事は無かったが、グレンは傷つき、大きく後ろに吹き飛ばされてしまった。

 

「ハハハ! 生身はともかく、メカの扱いはまだまだだな!」

「そんな、アニキがあんなにあっさり……」

 

勝てるわけがない、と頭によぎる。今まではカミナからの信頼がシモンに勇気を与えていたが、カミナが傷つき倒れた動揺はその勇気まで揺さぶってくる。

思わずラガンに逃走させるよう操縦しかけたが、寸でのところでその腕を抑え込む。

 

「いや、ダメだ。俺だって、グレン団なんだ!」

 

逃げるどころか一歩前に出たラガンの姿に、ヴィラルも少し意外そうにほうと息を漏らす。

 

「やれんのか、シモン?」

「怖いよ、怖くてたまらないよ! でもアニキを見殺しにする方がもっと嫌だ!」

「よく言った、兄弟! こうなったら最後の手段だ! アレやるぞ!」

 

弟分の姿を見て嬉しそうに、そして自信たっぷりに告げるカミナの言葉が聞こえた誰もが”アレ”なるものが何なのか、続く言葉を待つ。

 

「アレって?」

 

告げられた本人であるシモンが代表するかのように問えば、カミナは一切の迷いもなく叫んだ。

 

「バカ野郎、アレって言ったら決まってんだろ、合体だ!」

「合体!?」

「合体!?」

「「合体!?」」

「来たか合体イベント!」

 

シモンも、ヴィラルも、後方で援護していたヨーコやダヤッカ達も唐突に飛び出したその単語をオウム返しのように反芻するがやはり意味が分からない。ちなみに言うまでもないが最後のはガヌマである。

ただグレン制作を主導したリーロンだけは冷静に、

 

「無理よ、そんな機能ないもの」

 

とツッコんでくるが、そんな”道理”を気にするグレン団鬼リーダーではない。

 

「やって見なくちゃわかんねえだろ! 来いシモン!」

「わ、わかった!」

 

無茶苦茶としか言いようがない。しかしいい加減慣れてきたのか、シモンは素直にラガンをグレンの元へ走らせる。一体どうするつもりかと誰もが注目する中、寄ってきたラガンをがっしりと掴んだグレンは、そのまま自身の頭頂部に突き刺すようにして固定する。

 

「見たか! これでこっちも顔が二つだ!」

「なにやってんのあいつ……」

 

どこか期待してその様子を見ていた面々の表情は困惑、もしくは呆れに塗り替えられる。

 

「馬鹿め、顔の数がどうした。トドメだ! 死ね!」

「アニキ!」

 

エンキの刀が迫る中、シモンの声に答えるようにラガン内部の螺旋状のディスプレイが緑色の光に満たされていく。それに合わせるようにラガン自体も緑色に発光し始め、ただ不安定に突き刺さっていただけのグレンとの接合部がまるで溶け合うように強固になっていく。

次の瞬間には、まるで初めからそこに頭として生えていたかのように一体化し、ラガンから発生した緑の光を纏ったグレンの右腕がカウンター気味にエンキの頭部へと叩き込まれた。

 

「ぐっ!?」

「ご自慢の兜はいただくぜ、礼代わりに教えてやる!」

 

頭部に衝撃を受けたことで落ちてきたエンキの兜を掴んだグレンとラガンの中、二人の魂の叫びが木霊する。

 

「合体ってのは、気合と気合のぶつかり合いなんだよ! シモン!」

「アニキ!」

 

「男の魂燃え上がる! あ、度胸合体! グレンラガン!」

 

「グレン……」

「ラガン」

「まんまね」

「いいねぇ、グレンラガン! 流石だリーダー!」

 

後方の仲間たちの声に交じって流石にやや興奮気味のガヌマ(オタク)のストロング・カーラがインベーダーをバトルアックスで斬り飛ばす。

 

「何言ってやがる、新入り! お前もやるんだよ!」

「は?」

「空に浮いてるアレは飾りじゃねえだろ! かましてやれ!」

「マ?」

「マジだ!」

 

ここで自分に振られると思っていなかったガヌマは一瞬動きを止めるが、インベーダーが寄ってきているので慌てて困惑を振り払い、フライダモンを自分の元に急降下させる。

 

「ストロング・カーラがデカくなったんでサイズ合うか分からんが……やあってやるぜ!」

 

元々ストロング・カーラを輸送するために作っているので納めることは可能のはずだ。戦闘中にそれは意味があるのかという考えは蹴っ飛ばし、カミナに言われるままフライダモンの頭上、接合部分にストロング・カーラを飛び乗らせる。

 

「またしても乗っただけ……いや、グレンラガンとやらはそこから統合された。まさか!?」

 

ヴィラルが最大限警戒する中、ストロング・カーラを乗せたフライダモンはゆっくりと浮上しながら()()()()()()。結晶めいた虹色の装甲は金で縁取られた黒色に変わり、その形も大型化したストロング・カーラが収まるように変形していく。

 

「おい、この形……」

 

空中に浮いているため他の者は下から見るしかないが、主たるガヌマはその形状が脳内で立体的に理解でき、それが記憶の中のとある機体と似通っていることに気づく。

 

「コレ、ショボいゲールティランだ」

 

またの名をヴィシュラカーラ。ドゥリタラーが失った次元将の乗機を無意識に模しているようで、終いには機体同士の接合部に玉座のようなものがせり出してきた。ガヌマはごく自然にそこにストロング・カーラを座らせる。

次の瞬間、ストロング・カーラがラガン同様緑色に光り出し、玉座を通してそれを受け取ったフライダモンが次元獣特有の鳴き声をとどろかせる。

脳内のドゥリタラーまで歓喜に震えているのを感じながら、それにつられるように高揚した心のまま、ガヌマも叫び声を上げる。

 

「新入りだからって畏まらねえ! とどろかせるぜ男の浪漫! 次元合体! フライング・カーラ!」

 

言い終わると同時にストロング・カーラの角部分から雷が迸る。その勢いは内部から湧き上がる緑色の光を吸い上げるようにして増大していき、収まる頃には周囲のインベーダーとガンメンを黒焦げに焼き尽くしてしまった。それでもかなりの数が残っているが、フライング・カーラの周囲には誰もいない空間が台風の目のごとく形成される。

 

ガヌマとカミナは操縦席内で互いの顔も見えていないが確かにニヤリと笑い合い、シモンも巻き込んで大地のグレンラガン、空中のフライング・カーラで縦に並び立ち、ヴィラルに向かって大見得を切る。

 

「俺を!」

「俺たちを!」

「お、俺たちを!」

「「「誰だと思ってやがる!!!」」」

 

グレンラガンの気迫が幻視させる炎、フライング・カーラの物理的に発する雷に気圧されたようにヴィラルのエンキは一歩後ろに下がる。

 

「この声、蒼い変態! ……変態どころではない。グレン団とやら、奴らは災害だ!」

 

ヴィラルは強敵を前に武者震いのようなものを覚えたが、陽の傾きやエンキ含む部隊のガンメンの破損状況を見て歯ぎしりしつつ撤退を選択する。

 

「勝負は預けるぞ人間ども! せいぜいそのバケモノに殺されないよう足掻くんだな!」

 

どういう訳か獣人を徹底的に無視して来る謎の怪物(インベーダー)たちを横目にヴィラルは踵を返してその場から離脱した。

 

「出たな公務王……」

 

というガヌマのつぶやきは幸いにも聞こえなかった。

 

 

 

それから少しあと。現れたインベーダーの殲滅を終了したグレン団の面々を遠くから眺めるその存在はその中の一体、フライング・カーラを見て口元に笑みを浮かべる。

 

「これは面白い物を見られました。楽しみですね。陽光は花を焼き尽くし、カエルに睨まれた蛇は仲間を癒す。そして聖者は神に裁かれる」

 

発言の意味は彼自身分かっているのかいないのか。それだけ呟くと男はその場から姿を消した。




ハーマル君遊んでないでレポート早よ(無慈悲)

今回の機体
フライング・カーラ
ストロング・カーラがガンメンの部品で強化されてよりガヌマの思念を伝えやすくなったことでドゥリタラーの持つヴィシュラカーラの記憶がインプットされて変質した、例えるなら下級ゲールティラン。アグリッサのプラズマキャノンは健在。ガヌマは気づいてないが本人を核に不完全なヴァイオレイションを引き起こしており、扱いとしては半次元獣からエスターのような人造次元獣くらいまで引き上げられている。ただし時間制限があり天秤と水瓶が頑張るまでもなく勝手に戻るし本人の力でヴァイオレイションを維持しているためそもそも自由に戻れる。
ちなみに強化ストロング・カーラも同様の限定ヴァイオレイションが起こっており、今回から急に強くなったのはこのため。気づけガヌマ。


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第9話 分岐ルート合流の時のアレ

最近時間ないなぁと思いながら過ごしていたらふとXがまだ途中でTと30は買えてもいない悲しみを背負っていることに気づいてしまったので続きました


「じゃあアレか? MS(モビルスーツ)乗ってりゃ、みんなソレスタルビーイングか?」

「無論それは違うが……ふむ、確かにそちらからするとそう言われてるようなものか。いやしかし……」

 

偉そうに腕組みしている俺の前で対照的に姿勢を正して難しい顔をしているのはダイ・ガードのヒロイン、城田さん。

そう、とうとう自軍スーパー組が暗黒大陸の調査に到着したのである。どうやら俺たちがインベーダーをぶっ飛ばす一部始終を遠くから目撃したらしく、どう見ても次元獣(実際そうだが)のフライング・カーラと、それと共闘するグレンラガンを警戒して半分くらい臨戦態勢で声をかけてきたのである。遠くからロケットパンチ飛ばされなくて本当によかった。

 

で、話を聞いてくれる余地があるならばと、どうにかして世界の敵認定されるのを回避するべくこうしてストロング・カーラ&フライダモンの、その辺の次元獣との違いを説いているわけである。獣人が乗っていれば危険なガンメンもカミナが乗っていれば頼もしいのと同じ理屈で俺は無害ダヨーという方向に何とか持って行こうとゴリ押しし続けた甲斐あって、あちらも臨戦態勢は解除して完全に話を聞くモードに入ってくれている。

 

「俺は信じるぜ。力は使い方次第だ!」

 

そう言って立ち上がったのは我らがヒーロー兜甲児。乗り手次第で神にも悪魔にもなれるマジンガーを託された故か、こういう話には真っ先に理解を示してくれるようで助かった。

 

「そうだよ、城田のおっちゃん! あの次元獣っぽい奴がそこの人たちを守ってたの、見ただろ?」

 

さらに我らがPPボーナs……社長、竹尾ワッ太が甲児に続くように立ち上がる。そこの人たちとはダヤッカを始めとするリットナー村の人々の事だ。

 

「む……」

 

この段階の厳格な城田さんと言えど、こうまで言われては流石に揺らぐ。

その後もタケルや赤木など主人公たち(聖人)複数の援護を受けた俺は無事にスーパー組の連中と合流できた。ちなみに決め手となったのは甲児のとある宣言。

 

「もしこいつが悪人だったらその時は、俺が責任をもって光子力ビームを叩き込んでやる!」

 

俺はかばってくれたことに感謝すると同時に絶対裏切らないと誓った。絶対にだ。

 

 

 

翌日、無事に大塚長官からの帰還指令が届いたらしく、今日の調査が終了次第暗黒大陸を離れることになると告げられた。グレン団は希望が無ければ置いて行かれることになる訳だが、俺だけは絶対ついて来るようにと念を押される。そりゃ一応信じるとは言ったものの、半次元獣従えてるやつを昨日の今日ではい放流となる訳がない。

ちなみに俺がゲットーでバトリング始めたところからアフリカで消息を絶ったところまではこの一晩で調べられていた。

そしてAEU基地でフライダモン作ったのを把握されてたので、ミスリルの連中がバッチリ然るべきところにリークしてくれちゃってたらしい。いや、もしかしたらヴェーダかWILL辺りが勝手に情報抜いただけかもしれんが。

 

俺の処遇はともかく、残りのグレン団の面々は、最終的にはついて来ることになるだろうが、一応は考えてから決めるという事に。

そして先ほど最後の共同偵察に出ていたところにガンメンが出てきて、カミナたちが地下の村に落ちてロシウたちを拾って来て、地上では確か次元獣も出てきたはずだと思ったがそれは無かった。記憶は曖昧だがこの時の次元獣はクロウを狙ってアイムが放ったとかそんなんだったっけ? じゃあ出てこないのはうなずける。

ともあれ、今更一般ガンメンなんぞ相手にはならず、待機組だった俺たちが増援に行くまでもなく驚くほどあっさりとイベント消化して帰ってきた。

 

今後グレン団はどうするのか、返事を聞きに行った城田さんに我らがリーダーはあふれる冒険心を語って見せ、俺と一緒について行くことを表明した。

 

「それにだ! 大事な新入りがどっかに連れて行かれようってのに、黙って見送るリーダーがどこにいやがる!」

 

という締めの台詞には結構グッと来た。

 

 

で、そのままアクシオン製の輸送機で一緒に運ばれてドラゴンズハイヴで宇宙組と顔合わせをすることになった。

竜馬がカミナの事気に入ったり、甲児が熱血正義発言でティエリアを黙らせたり、ジョニーが意味の分からん読書量(何故か全部月刊誌)からくるやけにディープな知識を披露したり、クラッシャー隊とタケルの絆を見た宇宙組がギシン星人であるタケルをあっさり受け入れたり……と、順調に暗黒大陸調査組の紹介が進んでいく中、グレン団の紹介時に新入りだと軽く流した俺についての補足説明が甲児から入り、場が騒然となった。まあ、そりゃそうだよな。

 

さて、ここでどこまで話すべきか。あんまりネタバレしすぎると原作ルートが砕け散って破界篇が速攻で終了、経験値が足りず続編で全滅なんてことになりかねない。原作に居ない俺がここに居る時点でそこは手遅れかもしれんが。

 

 

「ちょっと待て! 今、なんつった!?」

 

サロン内に思わず、といった様子の叫び声が木霊する。声の主、デュオ・マックスウェルのみならずその場の約半数――暗黒大陸の調査に向かった人間以外――の視線を一身に受けながら、仏頂面の大男、ガヌマは堂々とした様子で口を開いた。ちなみに内心では緊張しまくっている。

 

「甲児が言った通りだ。俺は次元獣を、戦力として連れている」

 

その言葉によって”聞き間違いではない”ことを再確認した一同は詰め寄るようにして質問を浴びせかけた。

 

「アレを手なずける方法があると言うのか!?」

「ていうかあいつら、命令を聞く知能があったの!?」

「おいおい……今、格納庫にいるって事かよ!? 暴れたりしないのか!?」

「従えられるってことはだ。あいつらの正体について何か知ってるのか?」

「テメェ、何モンだ!」

 

タケルの件の直後であったため”敵対の意思がない故にここにいる”という事は皆分かっていたが、話が通じないという点では侵略者以上の存在であるはずの次元獣が、誰かに従っているという事実の持つ意味の大きさもよく分かっていた。

つまり世界各地で問題となっている次元獣の出現は災害などではなく、何者かの手による”攻撃”である可能性が、ぐんと上昇するという事だ。

 

「城田さんを通して上には伝えてあるが、次元獣は別世界の戦力だ。手綱を握ってなきゃ勝手に暴れる可能性もあるが、そういう”はぐれ”にしちゃ、狙ったような位置に出てき過ぎだ。十中八九、誰かが()()()()()()な。一応言っとくが、俺じゃないぞ」

 

嘘は言わず、しかしこの段階で伝えるとどんな影響があるか分からない情報――例えば、本来の次元獣は機体とパイロットを強制的に融合して生み出すこと――は伏せるようにして語っていく。隠していたことは後で確実に追及されるだろうが、ストロング・カーラとフライダモンは人を取り込んでいないので、苦しいがとぼける言い訳は一応立つ。

 

「なるほど、MDが俺を狙ってるように感じたのはそういう訳か」

「そのMDとかいう奴を見たわけじゃないが、飼い主が居るなら誰かを狙えってのはもちろん命令できる」

 

クロウの言うMD、白い体色のライノダモン級次元獣は出現時、他の機体も数多くいる中でそれらを無視して一直線にクロウが乗るブラスタに突進してきた。何らかの意思を感じさせるには十分な行動だ。

 

「誰かがけしかけていると言ったな……お前の故郷はギシン星人のように他の惑星、ないし世界を侵略する気質という事か?」

 

これまで黙っていたゲッターチームの隼人が鋭い眼光をガヌマに向けて問いかける。つまり次元獣との戦闘が災害への対処ではなく新たな勢力との戦争となるのかどうか。

 

「ハッキリ言えば、そうだったよ。そうやって戦力を増強して、宇宙の脅威に立ち向かおうとしていた。例えば、インベーダーみたいなやつとかな。結局負けちまって、もう滅んだが」

 

再び場がざわついた。最後の部分で部隊内の何割かが同情的な目になるが、隼人の表情は変わらず、問いを続ける。

 

「つまり今この世界に来ているのは残党のような物という事か。再起を図っていると?」

「それは分からん。なんせ連絡が取れんからな。俺自身も戦死したと思ったが、気づけばこの世界で路地裏に転がってたんだ」

「……では一番重要な質問だ。同郷の者と再会したとき、お前はどうする? より具体的には、次元獣の出現が侵略目的だった場合、どちらにつく?」

 

隼人の目は答えの保留は許さないとハッキリ語っており、周囲の視線が再びガヌマに集中する。

 

「失敗した方法を、しかも減った力で繰り返すなんざ馬鹿みてえだ。合流はしない。一応そう伝えてみるが……誇りを失って見苦しく暴走してるようなら、俺がこの手で始末する」

 

答えながら、ガヌマ自身も驚いていた。時折、言おうとしていないことまで口をついて出てくるためだ。例えば最後の一文。ガヌマ自身としては他の次元将との一騎討ちなど、この時点では正直御免なのだが……やはり、これまでも何度か感じていたように、こと戦いに関してはドゥリタラーの残存意識の影響が無視できなくなる。

 

「……そうか。なら俺から言うことは無い」

 

ガヌマの答えに数秒目を閉じて沈黙した後、そう言い残して隼人は踵を返し歩き出した。顔合わせも済んだという事で他の者も何人かそれに倣う。

ガヌマはそれにほっとすればいいのか、えらい口約束をしてしまったと嘆けばいいのかわからず、神妙な顔で彼らを見送った。

 

「さて、甲児。さっきのは暗黒大陸では言わなかったな。俺は多分、お前から見て悪人だろうが……やっぱ光子力ビームか?」

 

ほとんどの者が去った後、残っていた甲児に向けてガヌマが向き直り問いかける。

 

「それはまだ分からない。だから、今は信じるぜ? あの時、次元獣で人を守って戦ってたお前をな」

「……すまんね」

「安心しな甲児! 真の男は吐いた言葉は飲み込まねえ! コイツだってそうだ。俺たちグレン団の一員なんだからな!」

「俺たちって……もしかしてガヌマだけじゃなくて俺も入ってるのか?」

「あたぼうよ!」

「えぇ……」

「ハハハ! 一気に緊張が抜けた。やっぱり頼りになるな、リーダーは!」

「ん? ……おうよ! 俺を誰だと思ってやがる!」

 

強引なカミナに何とも言えない表情を浮かべる甲児の様子を見てガヌマは思わず吹き出す。

 

「いい顔で笑うんだな。やっぱり、根っからの悪人とは思えない……おっと、いけねえ。大事なことを忘れてたぜ」

 

甲児の方もそれで緊張が解けた様子で、こちらもフッと笑って、右手をガヌマに差し出した。

 

「これからよろしくな、ガヌマ!」

「おう!」

 

握手を求められたのだと気づいたガヌマはすぐにがっしりとその手を掴み返す。

カミナといい、甲児といい、他のメンバーといい……こうして直に接すると真っすぐで、眩しくていたたまれない気分になる。だが彼らの陣営に加われたことは、勝ち馬になる可能性が高いという打算抜きで、喜ばしいことだとガヌマには思えた。




登場メカ
アクシオン製輸送機
プトレマイオス居ないしそもそも居たところでガンダム4機以外運べないはずだしで多分移動にこういうの使ってたよねって感じで名前だけ出したやつ。見落としてるだけでなんか輸送手段に言及してたかもしれませんが今作ではコイツが活躍したという事で。


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第10話 猫と箱

俺の次元獣使役カミングアウトから少し経ち、無事にZEXISが結成された。結成通知の場に何故かゼロやスメラギさんたちと一緒に呼び出され、ボートマンとして現れたエルガンに意味ありげな目でガン見された挙句ため息をつかれたが、それ以外は特に変わったところもなく部隊名も原作通り。

 

その直後にカミナが紅蓮(カレンが乗ってる方)やゼロに噛みつき若干険悪になったところで例の猫によるゼロマスク強奪事件が勃発。現在俺はグレン団の面々(甲児やワッ太も当然のように巻き込まれている)と共に首から上がゼロになった猫の足取りを追っている。しかし俺は捜索という仕事においてほとんど役に立てない。そんなわけで原作通りタケルも巻き込み、超能力で居場所を探ってもらっている。

 

今頃カレン率いる黒の騎士団組にばったり出くわしたルルーシュが奇声を上げて正体をごまかしているところだろうか。ぜひともこの目で見たかったが一応グレン団団員としてZEXISに加入している以上あっちにつくわけにはいかず断念。こちらはタケルが猫を見つけるまでやることがない。一応目視であちこち見て回ってはいるが望み薄だろう。

 

「ちょっといいか?」

 

手近なコンテナとコンテナの間をのぞき込んでいると背後から声を掛けられる。この妙に良い声は……振り返らずとも誰なのかは分かった。

 

「クロウか。真面目に探さないと報酬が別の奴に行っちまうぞ?」

「そいつは困るが、どうしてもあんたに聞いときたいことがあってな」

 

割と真剣なトーンでそう言われたので立ち上がって振り返る。

 

「……ゲットーでタダ飯が食えるスポットが聞きたいって雰囲気じゃないな。どうした?」

「え、その話も割とマジで気になるんだが……ああいや、聞きたいのはこの間少し話したMDって次元獣についてだ」

「混戦の中だってのにわき目も振らず突っ込んできたって話だったな」

「ああ。それで、実はあれを倒すって約束しちまっててな。次元獣について情報収集がしたいって訳だ」

 

エスターの故郷の件だな。俺がそんなこと知ってるのはおかしいので適当にへえ、そうなんだって感じを出しつつ、クロウが差し出してきた端末に映る白いライノダモン級次元獣の映像をのぞき込む。

 

「ああ、このタイプか。とりあえずこいつが角を変形させたら気をつけろ。先端から”当たると凍る炎”を発射して来る」

「なにそれこわい」

 

俺も初見の時は「……?」ってなった記憶がある。次元獣は攻撃方法が独特すぎるんだよな。

ところでこのタイミングではもう普通のライノダモン級出て来てなかったっけ? 暗黒大陸で出てこなかったからてっきりクロウの方に行ってるかと思ったんだが、このクロウの反応は初めて聞いたって感じだ。アイム何やってんだろ。それとも単に灼熱ホーンしか使ってこなかったとか?

 

「それと、どのタイプの次元獣にも言えるが金ピカには気をつけろ。あれはMSで例えたらガンダムだ」

「ああ、この間アフリカで見た奴は厄介だったな」

 

こっちは俺にとっても結構大きい問題だ。破界篇で金ピカの真次元獣が出て来るという明らかに原作とは違う現象が起こっている。それを言ったら俺がここに居るのがそもそも原作とは違うんだが。

真次元獣出現の理由が、ガイオウが原作における再世篇ラストと同等の力を既に取り戻している、というパターンだった場合は結構ヤバイ。月面の決戦で負けるどころかリモネシア崩壊事件の時点で誰かがやられる可能性すらある。第3次の事を考えて第2次の難易度が下がりかねないネタバレはできるだけ避けているが、そのせいで全滅なんて事になったら本末転倒だ。という訳でちょっとだけ先の情報を出してみることにする。

 

「あとは……意思を強く持て。そうと決めたら何を言われてもブレない位にな」

「ん? 急に精神論が出てきたな」

「ああ、精神に干渉して来る奴もいるんだよ」

 

システム的には気力を下げてくる奴。

 

「……そりゃ勘弁してほしいな。まあ、覚えとくぜ。ありがとうよ」

 

次元獣に絡めてもっともらしく言ったが、実際には揺れる天秤のリアクターとして早めに覚醒してほしいという目論見での発言である。SPIGOTの開発がなきゃ無意味かもしれんが、最終決戦での最大火力くらいは上がってくれるかもしれない。

 

「こっちだ!」

 

と、ここでタケルが猫の居場所を突き止めたらしい。超能力すげえな。報酬をちらつかされているクロウは話を中断し、そちらの方へと向かって行ったので俺もそれに続くことにする。この後はブリタニア軍の襲撃があるんだったか。ルルーシュが地面崩落させようとするが、トラブルが発生してカミナがフォローする奴。

 

「やっほおおおおおおおおおおおおお!」

 

現場に到着すると奇声を上げながら一人で突入していくルルーシュの後ろ姿を拝むことができた。こんなん草生えるわ。

 

「そう笑ってやるなガヌマ。学生なんてやってるといろいろあるんだよ」

 

必死で笑いをこらえていると赤木に注意された。そういえば防衛大出てるんだったっけ。ストレスやプレッシャーは半端ではなかっただろうし、気持ちは分かるってやつだろうか。さっきのルルーシュの場合はそういう訳じゃないんだが、まさかあれがテンパったゼロ本人だとは思うまい。

 

ではみんなで突入しようか、というところでゼロの格好をしたC.C.(シーツー)が現れ全力ですっとぼけたことで猫追跡イベントは強制終了し、原作通りブリタニア軍接近の報せが届いたことでみんな出撃準備のため各々の持ち場に帰っていった。後ろでは無事に仮面を回収したルルーシュがC.C.と会話していることだろう。ここで落とし物したフリして引き返したらルルーシュの”ほわぁ!?”を聞けるかもしれんが多分ギアス掛けられるのでやめておく。御使いにも通用するチート能力に抗える気はしない。

”今のは忘れろ”程度のことで一回しかない命令権使ってくれるならそれもアリだが”服従しろ”とか、流石にないと思うが”死ね”だったら詰みだ。

 

 

 

「エルガンからの贈り物ぉ?」

 

ストロング・カーラの操縦席で待機中のガヌマは思わず、と言った様子で素っ頓狂な声を上げつつ、先ほど渡された謎の箱をいろんな角度から見てみる。アタッシュケース型の機械らしきそれの側面には小さい穴。そこがスピーカーになっておりなんらかの音声をここから発するのだと分かるが、それが録音された物なのか通信によるものなのかは実際に聞いてみないことには見当もつかない。ただ言えることはそのどちらであったにしても手のひらサイズの機械で事足りるものであり、対するこの装置は大仰すぎるという事だ。

 

最初こそガヌマの方から接触しようとしていたとはいえ結局関わりはほとんどないはずのエルガンがわざわざ名指しでこんなものを送ってきたというのはガヌマを困惑の海に叩き込むには十分な事態であった。

思い当たる節があるとすればZEXIS結成の瞬間に何故か呼び出された件だろうか。結局あの場ではほとんど何も言ってこなかったのだが、その時の意味ありげな視線とため息の行きつく先がこの謎の贈り物という事なのだろう。

 

「爆弾ってことは無いよな……?」

 

仮にあの視線が殺意によるものだったとしても流石にそういう直接的なことをする男ではないはずだ……ガイオウに躊躇なく発砲していた気がしたが、あれは緊急事態ゆえだろう。

 

『誰が爆弾ですか、失敬な』

「キェェェアァァァ!! シャァベッタァァァ!!!」

 

薄々そんな予感はしていたので反応が最大限わざとらしくなったが、一応本気で驚いたガヌマは突如として女の声で喋り出したそれを両手で持ってのぞき込むように向かい合う。

 

『頭ハッピーセットな反応をありがとうございます。早速本題に入ってよろしいでしょうか』

「思いっきり地面に叩きつけていいか?」

『失言でした。謝罪しますのでお許しを……まずこうして何の脈絡もなく登場した私の正体ですが』

「自分で脈絡とか言っちゃったよ」

『端的に言えばAIです。愛嬌の無いハロのようなものと思っていただければ。自分で飛んだり跳ねたりできないのでついて行くには運んでいただく必要がありますが』

 

ガヌマの突っ込みは軽くスルーして自身の解説を続ける謎のアタッシュケース。発言に合わせて表面に走ったラインが緑色に発光しており、何となく第3次から登場するユニコーンガンダムを連想したガヌマは軽く顔をしかめる。ラプラスの箱関連の事件が今後来ると分かっている身としては今から気が重い。この先、もっと気が重い案件も目白押しなのだが。

 

「大体わかったが、なんでエルガンはお前を俺に?」

『それは簡単です。私が希望しましたから』

「……じゃあその理由を聞いていいか?」

 

嫌な予感を憶えつつガヌマが問えば、ケースは何でもないことのように軽く答える。

 

『あなた、()()()()()()()()()()()じゃないですか』

「……マジかよ」

 

外がブリタニア軍と機械獣軍団の鉢合わせで混沌とし始め、艦内に出撃要請の通信が鳴り響く中、遠い目になったガヌマは数秒間天を仰いだ。




出来れば戦うところまで行きたかったけど前回から時間開いてるのでとりあえず投稿しました

キャラ紹介
・謎の箱
本人(?)の言う通り原作には登場しない謎のアタッシュケース。緑の光を発しながら喋る。ガヌマ搭乗機の強化パーツスロットを許可なく一枠占拠して来る。ハロ並の恩恵があるのかどうかは定かではない。
クール系敬語毒舌キャラで行こうと目論んでいたが、わずか数秒で暴力に屈した。やはり暴力は全てを解決する。


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第11話 相棒

自作の様子を見てみたら感想やお気に入りが増えていたときが一番生を実感するって感じでテンション上がってなんか早めに書けました


『システム・キドウ』

「お前、元レイヴンかよ」

 

ゼロの策略とカミナのドリルによって地面が崩壊し、瓦礫の山と化した街の上空をフライング・カーラで飛行しながら雷撃で眼下の次元獣を貫いていく。さっきエルガンから贈られた、AIを自称する謎のアタッシュケースと雑談しながらという緊張感に欠ける状態だが、敵が瓦礫に埋まって移動できないので射程外の空中から一方的に攻撃できる今だからそんなこともできる。

 

『分かってくれましたか。傭兵と聞いていたのでやってみたくなりました』

「高い前金で騙されたりはしてないがな……そんな記憶があるってことはやっぱり、機械に取り憑いた人間なのかお前」

『さあ?』

「さあって……」

『こうなる前の自分が()()()()()か、記憶がありません。原作の展開などの知識やそれに対する感想程度なら覚えていますが。おそらくあなたも同じ状態では?』

「……なるほど」

 

割と最近は気にしなくなってきていたが、俺もガヌマと名乗り出す前の記憶はない。ドゥリタラーの記憶ならのぞき込めるが。

 

『いくら考えても分からない上に、分かったところで大して役に立たないであろうことを気にしても得はしません。ここは目の前、もしくは先の事を考えましょう』

「それには同意だ。という訳で、お前って喋る以外の機能あるのか?」

『パイロットのバイタルチェック、機体制御、火器管制、索敵、ジャミング等の各種サポート機能があります。無論、機体との規格が合わなければ使えない機能がほとんどですが。MS(モビルスーツ)やアクシオならともかく、この頭のおかしいゲールティランもどき(人造次元獣)の制御は無理です。何ですかガンメンとATとMA(モビルアーマー)の合成体って。よく合体事故起きませんでしたね』

「リヴァイブ・セルってすごい。お前も混ざってみるか? そうすればさっき言ってた機能も使えると思うが」

『尊厳という言葉をご存知でしょうか。私の受け入れに前向きなのはありがたいですが、やるなら私を普通に接続できるよう機体の方を弄っていただきたい』

「おう、帰ったらやるか」

 

軽い調子で口約束をしてしまったが、俺のやる改造方法だとパーツの形状が勝手に歪むので元の規格を維持したまま接続パーツを組み込むのってかなり難しいのでは? 

まあやってみれば意外といけるかもしれんし、今はZEXISのメカニックたちの意見なんかも聞けるから多分大丈夫だろう。

 

「おおおっ! ストロンガーT4が!」

「へへっ、見たかあしゅら!」

 

視界の端では哀れな機械獣がマジンガーZのブレストファイヤーで蒸発しているところだった。後は残党のタロス像に、何体かのブルダモンと通常ライノダモン一体を仕留めれば終わりだ。

 

「さて、じゃあさっさと終わらせるぞ……っと、おぉ?」

『ぐぇっ』

 

適当なブルダモンに対して再び雷撃を浴びせてやろうとしたところで衝撃と共に操縦席内が大きく揺れる。背後から攻撃を受けたらしい。D・フォルトが抜かれるとは、なかなか強力な攻撃だ。少し慌てて背後の敵を確認する。そしてちょっとだけ嫌な顔になってしまった。

 

「もう出てきやがったかアイム。原作よりちょっと早いか?」

『いえ、確かこのステージにも登場だけはしていたかと。襲ってくるのはもう少し先のはずですが』

 

視線の先には白黒ボディに赤いクリアパーツをふんだんにあしらった凶悪そうな見た目のロボ――実際スフィア込みならかなり凶悪な性能をしている――アリエティスが今まさに攻撃しましたよと言った風情で浮かんでいた。全身からいくらでも生えて来る赤い結晶を飛ばしてきたのだろう。

 

「お初にお目にかかります。傭兵ガヌマ」

「……はじめまして、羊野郎」

「ほう、もう()()()のですか……と、言いたいところですが不正解です」

「ん?」

「私は天秤ですよ」

「嘘つけ」

「フフフ……」

 

出会ってからわずか数十秒でもう話すのが面倒になった。しかも周囲を見れば次元獣の増援まで引き連れてきやがったらしい。通常のブルダモンばっかりだがこの段階では面倒な敵であることは間違いない。

正に踏んだり蹴ったりだが幸いなのは原作知識のおかげでコイツから情報抜こうと四苦八苦する必要がないところだ。

クロウではなく何故か俺を標的にしているようなので仕方がない。相手をしてやろう。まずは通信機で仲間に通達。

 

「この白黒は俺を狙ってるらしい。すまんが次元獣は頼んだ!」

「大丈夫なのか?」

「おう、任せろ! それにせっかくMDの同型が居るんだ。キッチリ予行演習していけ、クロウ!」

「フ、ならそうさせてもらうぜ」

「聞こえたな? 各機は次元獣撃破に当たりつつ、可能ならガヌマを援護しろ。だが近づきすぎて雷撃に巻き込まれるなよ!」

 

クロウを筆頭に心配の声が上がったが、最後にオズマが言った通り、雷撃をばら撒くというフライング・カーラの武装特性上、全力でやるなら周囲に味方は居ない方が安心だ。

通信を終えてアリエティスの方へ意識を戻す。

 

『操縦に腕使わないんですよね……? 破損が心配なので持ってていただけますか?』

「……おう」

 

ではいざ戦おうか、としたところで固定とか一切されておらずさっきの衝撃で壁にたたきつけられた自称AIが、これからもっと揺れそうな雰囲気を察したのか焦ったような声で訴えてきたので取っ手の部分を掴んで持ち上げる。ところでコイツさっき、機械のくせに”ぐえっ”って言ってたな。痛覚あるのか? 箱の中は生身とかじゃないだろうな……

気を取り直してもう一度アリエティスの方へ向き直ると既に全身から赤い結晶を伸ばして再度攻撃の体勢に入っていた。こいつの攻撃がD・フォルトを抜ける威力を持っているのはさっきので身をもって確認済みなのでまずは回避行動から始めることになる。

だれか”ひらめき”の使い方を教えてくれ。ダメなら”不屈”でもいい。

 

 

「ブラッディ・ヴァイン」

 

静かに宣言するが如くその名を唱えられた武装……アリエティスの全身に生えた赤い結晶からさらに無数に伸びる、細く引き伸ばされた蔦のような結晶がレーザーのごとき光を放ちながら、宙に浮くフライング・カーラへ迫る。大きく旋回して回避しようとするがあっさりと回り込まれ、左右から挟み込むように着弾、先ほどの不意打ちの時のようにD・フォルトをあっさりと突き抜けてその表皮に突き刺さり、その後一気に肥大化して浅くない傷を作り上げる。

 

「チぃ!」

「たった6%の威力でこの有様とは、期待外れですね」

「嘘つけ」

『そこは43%ではないのですね。完全に舐められているようで』

 

お返しとばかりにフライング・カーラの機体各部から雷撃がアリエティスの方へ伸びるが、こちらは最小限の動きであっさりと躱される。運動性の差は明白であり、さらには相手の攻撃が通る以上、D・フォルトや装甲も大した意味を持たない。無論、即座に撃墜されないという意味ではしっかりとその役目を果たしてはいるが。

 

「レポートの件で揺さぶるか?」

『多少は動揺させられるでしょうが、あれは知りたがる山羊による鮮明なフラッシュバック込みでようやく意味があるものかと。それにユーサーが偽りの黒羊を手に入れてくれなければ、再世篇終盤の演技がバレてシナリオが大きく崩れ、その後の展開がすべてアドリブになる危険があります。画面越しならともかく当事者となった今、おすすめは出来ません』

「だよなぁ……」

 

完全覚醒前の今なら物理攻撃のみで倒し切ることも不可能ではないだろうが、それをやるには命中率に不安がある上に、そもそも自称AIの言う通りここで倒すのは全体で見ればむしろマイナスになりかねない。

つまりここはある程度のダメージをアリエティスに与えて撤退してもらうしかないという事になる。

ガヌマが苦虫を噛み潰したような顔をしていると、手に持った自称AIの箱からホログラムのようなものが投影される。

 

「なんだこりゃ」

『攻撃パターンの提案です。これが決まれば程よい損傷を与えられるかと』

「マジかよ、いつの間に……」

『一応、有用性をアピールしておきたく』

 

ホログラムにはアリエティスのどの位置を狙ってどんな行動をどのタイミングで取ればよいか、また予想されるアリエティス側の対応などのパターンが分かりやすく図示されており、機体と直結しているわけでもないのにこれだけのデータを短時間で収集――おそらく戦術指揮用の通信回線などに無線接続して――し、まとめ切ったこの箱の性能にガヌマは舌を巻く。ただしある一点に目をつぶればだが。

 

「いや、結構無茶じゃねえかコレ」

『真正面からではそれこそ辺り一帯を吹き飛ばすくらいでないと攻撃を当てられないと判断しました。周囲に味方が居る以上その手は使えませんし。ここはこういった小細工が必要です』

 

その一点を突いてみれば冷静にそう返してくるAIに軽く苦笑いを返した後、ガヌマは頷いた。無茶なだけで不可能ではない。どうせ代案もないのだからあとは自分が頑張ればいいだけの話だ。元々ノリや勢い任せだった性格がドゥリタラーとグレン団に染められてさらに悪化してきているのを感じたが今この瞬間においては良い傾向と言えた。

 

「まあ確かにな。仕方ねえ、これで行くぞ……っと、お前名前とかあるのか?」

『ありませんので今考えました。機体名から取って、カーラと名乗らせていただいても?』

「OKだカーラ。じゃあここは一緒に」

『ええ。一度言ってみたかったところです』

「『やってやるぜ!』」

 

ガヌマは気合を入れ直すとフライング・カーラにこれまでよりも強い雷撃を纏うように発生させ、アリエティスの方向へ突撃する。その雷撃の密度はすさまじく、光でその姿がかすんで見えるほどであった。傍からは光の砲弾がアリエティスに向かって発射されたようにも見える。

 

「ちょっとあいつ、あのまま突っ込むつもり!?」

「安心しなカレン! 俺にはわかる、あれは何かを思いついたって顔だ!」

「顔は見えないでしょ……」

 

地上で次元獣の相手をしていた紅蓮弐式の内部から驚きが半分、残りが呆れと心配の入り混じった声をカレンが上げるが、返答する暇のないガヌマに代わり、並び立っていたグレンラガンから力強い声でカミナが宣言する。最後の突っ込みは誰の耳にも届かなかった。

 

「破れかぶれの突撃……呆れたものですね、裁かれる聖者」

『……裁かれる聖者?』

「アイムの言う事だ。ほっとけ!」

 

アイムの口からガヌマやカーラからしても聞きなれない単語が飛び出したが、既に彼との会話を諦めているガヌマはそれを無視してさらに加速する。アイムは嘲笑をもってそれを迎え、アリエティスはあっさりとその突撃を躱す。

 

「曲がれェ!」

 

しかし光の砲弾と化したフライング・カーラは無理やり急反転し、アリエティスの回避先へ再突撃を敢行する。

 

「当たるまでやるつもりか!?」

「無茶苦茶だ……」

 

味方からの驚愕、もしくは呆れの声を背景に何度も反転と突撃を繰り返すフライング・カーラ。そのたびに回避していたアリエティスだったが流石に業を煮やしたのか、何度目かの突撃に対して迎撃を試みる。

 

「いい加減に止まっていただきましょうか。マリス・クラッド!」

 

アイムの宣言と共にアリエティスの全身から大量の赤い結晶が広範囲に伸ばされ、突撃を阻む壁となる。しかしそんなものは見えてもいないとばかりにフライング・カーラは一切速度を落とさず真紅の針山に正面から突っ込んだ。すさまじい轟音と共にその動きが止まるが、次の瞬間から結晶に罅が入り始め、徐々に押し込むように再び進み始める。そのデタラメなパワーに驚愕する周囲の面々だったが、そのパワーを向けられている張本人であるアイムの目は冷めたもので、冷静かつ無慈悲に次の一手を打つ。

 

「終わりです。ブラッディ・ヴァイン」

 

宣言と同時に大量の結晶から蔦のような結晶が伸びてフライング・カーラに突き刺さる。纏っていた雷撃によっていくらかは破壊されたがそれでも次々と損傷を与えていくのが傍から見ても分かる。

やがてあれだけ激しかった雷撃と突撃の勢いが嘘のように消え去り、光に包まれていたフライング・カーラがその姿をさらした。

 

「……? 操縦席のハッチが開いている?」

 

思わず呟いた通り、光が収まったところでアイムが見た物はフライング・カーラ上部の玉座に座っているストロング・カーラの頭部ハッチが跳ね上げられ、内部が無人になっている光景。

そして次の瞬間にアリエティスの視覚に飛び込んできた、今から素手で殴りかかるつもりであることが一目で分かる形相の、拳を引き絞った青髪の大男の姿であった。

 

「なっ!?」

「せえええええええええええええい!」

 

先ほどに倍するような轟音が響き渡り、アリエティスの30mを超す巨体が信じられない速度で後方に吹き飛んだ。攻撃のために伸ばしていた赤い結晶が砕け散り、アリエティスの飛ばされた軌跡を幻想的な、煌めく赤色に彩っていく。

飛ばされたアイムはもちろん、その場に居た全員が愕然とした表情で――カミナだけはニヤリと笑っていたが――数秒間、その赤色の弧を見つめていた。




キャラ紹介
・カーラ
謎の箱改めガヌマの相棒AI。強化パーツとしてのハロに匹敵する恩恵があるかは未だ検証中だが、最大のメリットは原作知識を前提とした行動について相談ができる点。

呼びかけると戦場で女の名前を呼ぶことになるが恋人でも女房でもないので神の世界へのインド王を渡されたりはしない。
あと両手両足を義肢にして機体と一体化(絶望)できるシステムを開発したりはしてこない。多分。


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