A Wish ~星に願いを~ (あらほしねこ)
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夢零夜『幻肢痛』

ツイッターで投稿されたピクチャードラマのSS化を快く了承して下さった『がもり』氏に、心からの感謝を捧げます。


 いつもの時間に起きて

 いつもの制服に着替えて

 いつものバスに乗って

 いつもの道を歩いて

 いつもそこにある校門をくぐって

 いつもの校舎

 いつもの下駄箱

 いつもの廊下を歩いて

 いつもの階段をのぼって

 また廊下を歩いて

 教室のドアを開けて

 自分の席に座る

 今日も、普通の一日のはじまり。

 

 授業はたいくつ

 先生の話もたいくつ

 でも

 たまに、はっとするようなことをいう時があって

 それが、先生自身の言葉なのか

 受け売りなのかはわからないけれど。

 

 いつもの放課後

 友達が話しかけてくる

 帰りにカラオケいこうって

 そうだよね

 楽しそうだもんね。

 わたしもいきたいな

 うん

 わたしも、いくよ。

 

 家に帰って

 お風呂入って

 ご飯食べて

 部屋に戻って

 スマホで音楽聞きながら宿題

 おわったら、ベッドの上でゴロゴロする

 なんていうかさ

 特にやることないしさ。

 

 ふと目を向けて

 カラーボックスの上に置いてある

 小さいころ使ってた粘土箱

 なかの粘土は、さすがにあのころと同じじゃないけど

 新しい粘土が入っているから

 いつでも使おうと思えば、使える

 道具だって、まだ引き出しのなかにはいってる

 でも

 なんかそんな気になれない

 なんでだろう

 お母さんにしかられたから?

 友達がひいちゃうから?

 ううん

 たぶん、そうじゃない

 そうじゃない・・・かもしれない。

 

 わかんない

 どうしてなのか

 ここに帰ってきてから

 全然気持ちがなくなった

 キライになったわけじゃない

 あきちゃったわけじゃない・・・とおもう

 でも、わかんない

 本当に

 たったひとつわかってることは

 痛い

 怖い

 悲しい

 だから、手が動いてくれない

 だから、気持ちが動いてくれない

 わたしの心の中の怪獣は

 どこいっちゃったんだろう

 そんなこと考えてたら

 なんかすこし寂しくなって

 だんだん眠くなってきた

 今日は、もういいかな。

 

 そんなカンジの、だいたい同じ毎日

 別に、不満なんてない

 学校には、友達だってちゃんといる

 成績だって、そんなに悪くない

 体育は、ちょっと苦手だけど

 たいくつなのは、満たされてるからなんだって

 たいくつなのは、恵まれてるからなんだって

 なんかテレビでいってたっけ。

 

 ホントに、そうなのかな

 満たされてるのかな

 恵まれてるのかな

 わたし

 だったら

 この痛みはなんなんだろう

 あの時から

 ずっと消えない見えない痛み。

 

 どこもケガなんてしてないのに

 どこも悪くなんてないはずなのに

 どうして、なんで

 いつまでも

 この痛みは消えてくれないの?

 

 ウソ

 ホントはわかってる

 わかっているんだ。

 

 会いたい、みんなに

 帰りたい、あの町に

 でも

 わたしは

 この世界で生きていくって約束したんだ。



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夢一夜『来訪者』

 わたしは、あんまり夜ふかししない。

 別に、健康のため、とか。美容のため、とか。

 そんな理由じゃなくて

 眠ったら、夢を見れるから

 夢の中で、あの町に帰れる時があるから

 だから

 わたしは、なんにもなければ早く寝る

 だから

 おやすみなさい。

 

 

 座り慣れた椅子、使い慣れたPCデスク、使い慣れた工具、使い慣れた紙粘土。

 嗅ぎなれた部屋の空気、片付けそびれたゴミ袋

 大好きな怪獣たちを並べたキャビネット。

 また、帰ってこれたんだ

 そんなに長くいられないけど、目が覚めたら消えちゃうけど

 でも

 やっぱ、うれしい

 なにしよっかな

 ひさしぶりに新作作ろうかな

 それとも

 町を散歩してみようかな

 どうしてかわからないけど

 みんなには全然会えないけれど

 しかたないよね、夢なんだから

 

 いろんなことを考えてたら、玄関のチャイムが鳴った

 誰だろう

 なんだろう

 もしかして

 ヤダ、なんか急にドキドキしてきた

 また、チャイムが鳴った

 わかりましたー

 今いきまーす。

 

「ウソ・・・なにこれ・・・」

 ドアを開けて、なんでこうなったのかわからなかった。

 っていうか、なにこれ

「なんで・・・マジで?」

「私は、ウルトラマンタロウ。M87星雲、光の国から来た」

 それは知ってる

 なんで

 なんで、わたしんちにウルトラマンがくんの?

 ってか、ホントにいたんだ

 いやいやいや、これは私の夢

 いたって別にあたりまえじゃん

 なにいってんだか、わたし。

「驚かせてしまって申し訳ない」

 あれ、割と常識人?

「新条アカネ君、君に会いに来たんだ」

 いやいやいや、あり得ないし

 やっぱコレ、マジ夢だし。

 

 

 変な夢

 マジあり得ないし

 わたしは、怪獣が好きだから

 ウルトラマンって、怪獣やっつけちゃうし

 でも

 なんでだろう

 ちょっとだけ

 おもしろかった。

 

 

「おっはよー!アッカッネッ!」

「あ、おはよ、クマっち」

「ねぇねぇ、アカネ、今日数学の豆テストあるじゃん」

「そうだね」

「あのさ、ヤマとか教えてくんないかな」

「え?」

 わたしの友達、樋熊エミリ

 だから、クマっち

 だって、クマっちってカンジだったから、自然とそうなった

 なんていうか

 しらないうちに仲良くなってた子

 それはそうとして

「っていうかさ、豆テスト、今日だし。今からヤマって・・・」

「アカネって頭いいじゃん、だから、そこをなんとか」

「マァジでぇ・・・?」

 クマっち

 得意技は逆立ち

 こないだの体育の時間に、片手で逆立ちしてみんなをびっくりさせてた

 それくらい超フィジカルエリートなのに帰宅部。

 でも、勉強は全然ってカンジ

 なんていうか、おバカの子

 あ、それはちょっとヒドイか

 だけど

 なんでか知らないけど、一緒にいると楽しい。

「いいけどさ、ファミレスおごってくれるなら」

「え!?・・・うー、あー、セブンじゃ・・・ダメ?」

「ダメ~」

「そんなぁ~!!」

「うっそー、へへへ。いーよ、いっしょにやろっか?」

「うぁあん!ありがとぉー!アカネぇ!!」

「ちょっ!わかったから、ハズいから!」

 だから、外で抱きつくのやめて

 ってか、すっごい力

 なんか、すっごくグイグイくる

 最初は、ちょっとウザかったけど

 今は、一緒にいて楽しいし

 一緒にいてくれてうれしい

 

 

「よかったぁー、さっすがアカネ先生。ヤマ当てばっちしだったじゃーん」

「そうだねぇ、よかったねー」

「うんうん、これでブースカにイヤミ言われなくてすむよー」

 ブースカ

 クマっちがつけた数学の先生のあだ名

 理由は、先生の見たまんまのカッコ

 マジそっくり

 っていうか、最初聞いたとき、めっちゃウケた。

「ホント、マジありがとねー、アカネー」

「どういたしましてー」

「だーかーらー、お礼にぃセブンとぉ・・・スタボおごっちゃう!」

「え、いいの?」

「いいよーいいよー、じゃんじゃん飲んでよー」

「いや・・・じゃんじゃんとか無理だし」

 

 

 放課後、約束通りっていうか

 クマっちに引っ張られてスタボに寄った。

「っでっさぁー、コーネリアスったらさー、マジありえなくなーい?」

「うん、それはちょっとヒドいよね」

「だっしょー?“樋熊さん、あなたは将来、建設作業員しかなれないわね”ってー、それって工事のオジサンにめっちゃ失礼じゃーん」

 コーネリアス

 これも、歴史の先生のあだ名

 理由はやっぱり、みたまんまそっくりだから

 でも、女の先生にそれはどうかなって

 ちょっとだけ思う、確かにオバサンだけど

 っていうかクマっち、先生たちにおこられすぎ

 クマっちは映画が好き、だから、特撮とかもわりと知ってる

 だから、先生にいろんなあだ名つけまくってる

「工事のオジサンがいなきゃさー、道路も建物もなんにも出来ないわけじゃん?」

「そうだねー」

 クマっち、変なとこでマジメ

「あ、そーだ。アカネ、こないだゲーセンで取ったやつ、超いっぱいあるんだけどさ、アカネもなんか欲しいのある?」

「え?」

「なんか、大漁だったからさー、おすそ分けってやつー?」

 そういって、クマっち、鞄の中からプライズとかのフィギュアを取りだして、テーブルの上にひろげだした。

「ちょ、クマっち、ここで?」

「なんで?べつにいいじゃん、なんも悪いことしてないし」

「えぇ・・・まあ、そうだけどさぁ・・・」

 テーブルの上に並ぶ、キーホルダーとか、ちっちゃいぬいぐるみとか

 クマっちは、ゲーセンが大好き

 よくプライズゲームとかで遊んでるけど

 景品が欲しいって言うより、取れたことが楽しいってカンジ

 勝った、って気がするんだって

 だからたまに、こうしておすそ分けとかいって、もってきてくれるんだけど

「へぇ・・・」

 っていうかクマっち、がんばったね

 なんかいろいろある

 どれにしようかな

「何個でもいいよー、ってか、全部もってっちゃっていいし」

「いや・・・そんなにいいよ・・・あ」

 いろんなマスコットの中に、一個だけウルトラマンがあった

 タロウだ

 真っ赤な体

 騎士みたいな銀色の顔

 二本の三日月みたいな角

「あのさ、これ、もらっちゃっていい?」

 

 

「フフーン、フフフン、フンフーン、フーン」

 鼻歌うたうなんてひさしぶり

 ベッドの上に寝転びながら

 今日クマっちからもらったキーホルダーを

 プラプラ揺らして遊んでみる

 あのあとほかにもいろいろもらったけど

 なんかこれが、一番に気になってるカンジ

 タロウ

 またこないかな。

 



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夢二夜『星ノ海』

 次元の狭間、電子の空間

 0と1とで構成される情報の宇宙

 彼は云った

 思い残したことがあると

 彼は応えた

 残念だがかなえられないと

 人の情動を求めて

 人の情動を弄んで

 人の情動を扇動して

 世界と人に痕を残し

 世界と人から想いを奪った

 それは決して許されない罪

 しかし

 それでも

 彼は云った

 闇が来る

 それはまっすぐに

 まっすぐに

 癒えない傷口に集る蠅のように

 まっすぐに

 それを目指してやってくると

 そしてそれは

 自分が招いた闇でもあると

 誰にも勝てない

 自分にも

 自分を戒めている彼と彼の仲間にも

 その闇に勝てるのは光

 想いと共にある意志の光

 このままでは滅んでしまう

 あの星も

 あの世界も

 あの町も

 あの子も

 それは

 それはあってはならないこと

 それ故の未練

 だから

 もう一度請うた

 最後の願いを。

 

 

 最悪

 なんかヤな夢

 意味わかんないし

 やだなぁ、起きるの超めんどうくさい

 しばらくごろごろしてたら

 枕元におちてるタロウのキーホルダー

 昨日、そのまま寝ちゃったんだ

 ヤダ

 こっち見てる

 わかったよ

 今、起きるからさ。

 

 

「おっはよーっ、アカネ!」

「あ、おはよう、クマっち」

 いつものバス停で降りて

 いつもの道を学校に向かって歩く

 そして友達の声に振り向くと

 今日も、クマっち

「なになに、なんかだるそうじゃん、アカネ」

「え、そんなこと、ないよ」

「そんなことあるし、髪のセット、なんかテキトーだし」

「え、あ、ちょっ?」

 問答無用で髪をシュシュでまとめられた

 いつもこう

 なんかあったら超グイグイくるけど

 でも

 イヤじゃない・・・かな

「ポニーテールも似合うじゃーん、さすがだねー」

「うん、ありがと。あとで、ちゃんとセットしてから返すよ」

「いいっていいってー、それあげちゃうから、今日はそれでいなよー」

「え、いいの?」

「てっとりばやい気分転換です」

 胸をはってすっごいドヤ顔

 ホント、クマっちってばおもしろい

 

 

「でさぁ、アカネ、なんかあったりするカンジ?」

「え?どうして?」

「だって、朝のアカネ、マジで元気なかったし」

 お昼休み

 お昼ご飯をいっしょに食べてたクマっちが、お弁当食べながら聞いてくる

「そんなに変だったかな」

「うんうん、変。ってか、カレシにふられたカンジ?」

 ちょっ、いないし、まだ

 ちょっとセンシティブ

 でも

「うん・・・実は、ね・・・・・・」

「マジで!?誰それ!何組!?何年生!?」

「え?」

「あたしがガツンと言ってくるから!!」

 ヤバい

 なんか、うっそー、とかいいにくくなった

 でも、ここでちゃんと言わなきゃだしね

 心配してくれてんだもんね

「あ、あのさ・・・クマっち?」

「うん、で、誰!?」

「う・・・うっそー」

 クマっち、ぽかんとしてる

「えへへ、信じちゃった?」

「・・・んも―――っっ!!アーカーネーっっ!!」

「アハハハハ!ゴメン、ゴメンって、クマっち!」

「ホントにだいじょうぶなんだね?それもウソだったらヤだからね?」

「ホントゴメンって、だいじょうぶだからさ」

 ホントにゴメンね、クマっち

 でも・・・本気でおこってくれて、ありがと

「んー・・・まぁ、ならいーんだけどさ」

「クマっちは、悩みとかないの?」

「うん、あるよ」

「え?」

 ためしに聞いてみたら、即答

 そうなんだ

 クマっちにも、悩みってあったんだ

「アカネさぁ、いまひどいこと考えてるっしょ?」

「そ、そんなこと、ないよ?」

 するどい

「あたしだってさー、いろいろ考えてるよー」

「うん、たとえば?」

「就職とかさ、結婚とかさ」

 ヤダ、ちょっと核心つきすぎ

 でも、それをさらっと言えるクマっち

 ホントおもしろいし、やっぱ、楽しい

 昨日見た変な夢のこととか

 もう、どうでよくなったカンジ

 ありがと、クマっち。

 

 

「悩み・・・かぁ・・・」

 今日も、後は寝るだけ

 ベッドの上

 スタンドの光の中で取り出したのは

 タロウのキーホルダー

 なんか、おやすみ前の習慣になったカンジ

 今日は会える?

 夢でまた会える?

 そんなのわかんないよね

 ごめん

 わがままいった

 おやすみなさい

 

 

 あの部屋で

 あの机で

 あたしは久しぶりの新作を造る

 でもそれは

 怪獣じゃなくて。

「これ見たら、驚くだろうなぁ~」

 気合を入れて色も塗った

 真っ赤な体

 銀色の鎧と角が生えたマスク

 こうしてみると

 けっこうカッコいいじゃん

 われながらよくできたカンジ

 チャイムが鳴った

 その時にはもう

 あたしは部屋を飛び出していた

「こんにちは、アカネ君」

 タロウだ

 やった

 でも

 ヒーローのくせに、チャイムを鳴らして玄関から訪ねてくるなんて

 なんか、オジサンくさくない?

 でも

「いらっしゃい!もー、待ってたんだからねー!」

「そうだったのか、遅くなって申し訳ない、アカネ君」

 頭かきながら謝ってる、なんかホントにオジサンみたい

「どういたしましてー、そうだ、あがってってよ。お茶、飲む?」

「ありがとう、いただくよ」

 とっておきの紅茶を入れてあげるからね

 あ、でも

 なんか、誰かにお茶いれてあげるって、なにげに初めてかも

「アカネ君、いただきます」

「どうぞどうぞ」

 タロウがリビングでお茶飲んでる

 ウルトラマンってお茶飲めるんだ

 って、思い出した

 タロウに、見せたいものがあったんだ

「ゴメン、ちょっとまってて」

 そういって、ダッシュで自分の部屋に戻る

 自信作なんだからね

 タロウ

 

 

「どう、これ、すごいっしょ?」

 わたしが作ったタロウを見て

 タロウ、本気でびっくりしてる

「これは・・・アカネ君が作ったのかい」

「そうだよ、すごいっしょ」

「本当だね・・・私だ、私なんだね」

「そうだよ、でさ、これ、お近づきのしるしに、プレゼント!」

「いいのかい!?アカネ君!」

「あたりまえじゃん、そのために作ったんだよー」

「ああ・・・ありがとう、ありがとう、アカネ君!」

 なんか、めっちゃ感動してくれてるみたい

 タロウは、わたしからタロウをうけとって

 タロウはずっとタロウをながめてる

 あれ、なんかちょっとややこしい

「嬉しいよ、アカネ君。ずっと、大切にするからね」

「うん」

 こんなに喜んでもらえて

 わたしもうれしいよ

 タロウ

 

 

 それから

 タロウといっぱい話をした

 友達のこと

 学校のこと

 そして

 住んでた町や友達のこと

 タロウは

 ずっと楽しそうに

 そして真剣な顔で

 わたしの話を聞いてくれた

「アカネ君は、もう一度、その友達に会いたいのかい?」

 ふと、しずかな声でタロウが聞いてくる。

 ちょっと、迷ったけど

 タロウになら、言ってもいい気がした

「・・・うん」

 でも

 約束したから

 神様としてじゃなくて

 友達として

 約束したから

「アカネ君」

「なに?」

「良かったら、一緒に星を見に行かないかい」

「星?」

 なにそれ、ちょっと楽しそう

 でも、夜までまだ時間があるし

 って

 夢の中で、なに言ってんの、わたし。

「君に、見せてあげたいんだ」

 ヤダ、なんかそんな言い方

 ちょっとハズい

 でも

「うん、お願い、タロウ」

 タロウが笑った

 銀色の仮面みたいな顔だけど

 とてもうれしそうに笑った

 どうしてかわかんないけど

 ちゃんとわかったんだ。

 

 

 さっきまでリビングにいたはずなのに

 気が付いたら

 タロウと一緒に、宇宙にいた

 一瞬、超ビビったけど

 普通に息もできるし

 普通に立っていられた

 そして

 タロウが隣にいた

「みてごらん、アカネ君」

 タロウの声で前を見た

 なにこれ

 なにこれ

「うっわ・・・・・・」

 言葉が出ない

 目の前も

 右も

 左も

 頭の上も

 足元も

 すっごい星

 町で、夜空を見上げた時と比べものにならないくらい

 金色

 銀色

 赤

 青

 緑

 いろんな光があふれてて

 すっごいキラキラしてて

 これってまるで、星の海

 星雲の波しぶき

 天の川の海流

 とってもおおきくて

 とってもおだやかで

 すべてを包んでくれるような

 わたしもこの中のひとつになったみたいな

 そんな感覚

「君のいうとおりだよ、アカネ君」

「え?」

「君も、この星の海の光なんだよ」

「わたしが・・・?」

「君も、君の友達も、そして私も。みんな、この星の海なんだ。みんなが集まって、みんなが輝いて、この星の海があるんだ」

「そう・・・なの?」

「ああ、そうとも」

 タロウは、とても力強くうなずいた

 なんか、ウルトラマンみたい

 って、ウルトラマンだったっけ

「どんなに離れていても、見上げる空が違っていても、想う心がある限り、この星の海と共にいるんだ」

 タロウも、星の海を見ながら語りかけてくれる

 そして、自分自身に言い聞かせてるみたいに

「良いことも、悪いことも、嬉しいことも、悲しいことも、みんなが集まって生まれたのが、この星の海なんだよ」

 何かを思い出しているようなタロウの言葉

 タロウにもいろいろあったんだろうね

 だって

 いままでたくさん

 頑張ってきたんだもんね

「だから、どれかひとつ、誰かひとつ欠けても、今見ているこの光は生まれなかったんだ。私も、アカネ君も、友達も、みんな、この星の海そのものなんだよ」

 みんなが、この星の海そのもの

 じゃあ

 それじゃあ

「・・・ツツジ台のみんなも、そうなのかな」

 思い出す顔

 思い出す声

 思い出す景色

 ほんのちょっとだけ、胸がチクリとした

「もちろん、そうだよ」

 暖かいタロウの声

「君がみんなを思い出す時、みんなも君を思い出している。君がみんなを探し見るとき、みんなも君を探し見ている。だからこそ、この星の海があり続けるんだよ」

 みんながわたしを

 わたしがみんなを

 この星の海の中で

 そばにいないけど

 そばにいる

 おとぎ話みたいな話

 でも

 タロウの言葉なら

 信じられるよ

「・・・ありがとう、タロウ」

「どういたしまして、アカネ君」

 タロウがうなずく

 でもそのとき

 わたしのお腹が小さく鳴った

 ウソ

 マジで

 なんでこんなときに

 めっちゃカッコわるいじゃん

「あっ、ちょ、これ、ちがうからっ!」

 でも、タロウは笑わない

 いや、ちょっと笑ってる

 ちょっとムカつく

 ちょっとハズい

 でも、タロウだったら

 いいかな。

「おなかがすいているのかい、アカネ君」

「うん・・・まあ・・・ちょっと」

「それじゃ、帰ったら夕食でも作ろうか」

「え、タロウ、料理できるの?」

「まかせてくれ、よく兄さんたちにも作ってあげたものさ」

 タロウって、マジなんでもできるんだね

 でもウルトラマンのお料理って

 何?

「アカネ君、ちらし寿司は好きかい?」

 え?

 マジで?

 ちらし寿司、って

 なにそれ、超ウケる。

 

 

 

 眼の前に広がる青い星

 その片隅で出会った、小さな光

 暖かく、そして、穏やかな光

 今は傷つき、疲れている

 それでも、そう遠くない内に

 やがてそれを癒し、傷を消し去るだろう

 そして、胸には

 新しい友から贈られた

 もうひとりの自分

 ありがとう

 心からの感謝の言葉と共に、遥か広がる青い星を仰ぎ見た。

 



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夢三夜『消セナイ罪』

「でさぁ、もうすぐゴールデンウィークじゃん」

「そうだねぇ」

「アカネ、予定とかあんのー?」

「ん~・・・いまのところ、特にないかなぁ・・・」

 学校の帰り道、いつものようになんてことない話をしながら帰る

 連休の予定、かぁ

 でも、本当に予定なんかない

 いつもみたいに

 ちょっと夜更かしして

 たくさん寝坊して

 それをくりかえして

 おしまい

「あのさ、今度の連休でさ、あたしんち、旅行に行くんだ」

「旅行かぁ~、いいなぁ~・・・」

「だっしょ、沖縄いきたいってお願いして、OKもらったからさ」

「そうなんだ、よかったねぇ」

「うん、だからさ。アカネも一緒に行こうよ、あたしからお願いしとくからさ」

「え?」

 いやいやいや

 ちょっとそれ、マズくない?

「えぇ~、いいよ~、なんか悪いしさぁ」

「だーいじょうぶだって、あたしは全然気にしないし」

 いや

 大丈夫じゃないのは

 クマっちのお父さんとお母さん

「いこうよ、アカネー。いっしょにさぁ」

 どうしよう

 でも

 楽しそうだし

「それにさぁ、海とかそうだけど、夜になったら星が超キレイで、天の川もみえるんだって!」

 星

 クマっちの言葉で

 あの時、夢で見た星の海をおもいだした

 そうなんだ

 星、きれいなんだ

 そう思うと、迷っていた気持ちが

 すぅっと軽くなった

 見てみたいな

 それじゃ、バイトしなきゃかな

 でも、今から間に合うかな

 そんなこと考えていたら

 歩道の真ん中で、誰かとすれ違った

 半分白で半分黒の

 変わったカッターシャツを着た人

 その人は、わたしとすれ違った時

 一瞬

 わたしを見て、哂ったような気がした

「どうしたの、アカネ?」

「え?ううん、なんでもない」

 クマっちが、わたしの顔をのぞきこんでくる

「バイトとか、しなきゃかなぁ、って考えてた」

「え、じゃあ、OKってこと!?」

「う、うん、やっぱ、旅行とか、いってみたいし」

「やった!ありがと!アカネ」

 こっちこそ

 さそってくれて

 ありがとね、クマっち。

 

 

 クマっちと別れて、家にむかって歩いてて

 ふと気がついたとき

 向こうに見覚えのある人が立っていた

 白と黒のカッターシャツを着た男の人

 さっきすれちがった

 わたしをみて

 哂ったひと

「やあ、初めまして、新条アカネ君」

 なんで

 なんであなたが

 わたしの名前をしってるの

「そんなに怖がらなくてもいいよ、君にね、話があってきたんだ」

 ヤダ

 なんなの、この人

 イヤな予感がして

 全身からイヤな汗がでる

 なんなの

 なんでわたしなの

「なんなの・・・だれなの・・・なんでわたしの名前をしってるの・・・!?」

 一所懸命落ち着こうとしたけれど

 イヤだ

 だれか

「私の名前はトレギア、君の願いをほおっておけなくてね」

 なに

 なんなの

 わたしの願いって

 いったい、なに言ってるの

 今すぐここから逃げ出したいけど

 膝が震えて、力が入らない

 口の中で歯がかちかち鳴ってる

 唇がふるえてうまく声が出ない

「心配しなくても、何もしないよ」

 トレギア

 そう名乗った人は、楽しそうに哂った

「君には、ね」

 トレギアがそういった瞬間

 すごい風がふきつけてきた

 思わず目を閉じて

 急に静かになって、思い切って目を開けたら

 そこは、なんにもない荒野になっていた

「ウソ・・・」

 そして

 目の前にいたのは

 蒼い仮面をつけた

 黒いウルトラマン

「これで安心したかい?」

 なんで

 そんなわけないじゃん

 なんなのこれ

 また夢を見ているの?

 でも

 今日、学校に行ったことも

 クマっちと、途中までいっしょに帰ったことも

 確かにあったこと

 夢なんかじゃない

 たすけて

 クマっち

 たすけて

 タロウ

「君に、渡したいものがあるんだ」

 わたしに?

 いらない

 あなたからもらうものなんて

 なんにもない

「そう、邪険にしなくてもいいじゃないか」

 黒いウルトラマン、トレギアはあたしに言った

「君が望んでいることを、かなえてあげたいと思っているのさ」

「わたしが・・・望んでいること・・・?」

「そうさ、会いたい人がいるんだろう?帰りたい場所があるんだろう?」

「それは・・・」

 なんで

 なんで、あなたがしってるの

 あの家

 あの町

 あの学校

 そして

 あの日の友達

「私が、全てかなえてあげるよ」

 ちがう

 わたしの家も、町も、学校も、友達も

 みんな

 みんな、ここにある

 約束したんだ

 友達と

「本当に、そうなのかな?」

 トレギアは、そういって首を傾げている

「本当は、会いたがっているかもしれないよ?喜んでくれるかもしれないよ?」

 なにをいってるの

 そんなわけ

 そんなわけ――――――

「君を、待っているかも、しれないじゃあないか」

 そう言って、トレギアは、ゆっくりとこっちに歩いてくる

 やめて

 こないで

「だから、君に、プレゼントがあるのさ」

 トレギアが

 わたしにむかってゆっくり差し出した手

 その手の上に

 ずっと前

 わたしが作った怪獣のフィギュアがあった

「これはね、君とあの世界をつなぐチケットだよ」

 楽しそうに

 トレギアが哂ってる

「ほら、遠慮はいらないよ」

 わたしの目の前にさしだされた怪獣

 懐かしい

 でも

 あのときの

 わたしの心と同じ形

 でも

 でも

 でも

「さぁ、どうぞ。新条、アカネ君」

 耳元をなでていくような声

 全身がふるえて

 寒気がして

 ぞくりと体がふるえる

 でも

 じんわりとわきあがってくる

 おさえきれないもの

 やめて

 心の中で、もうひとりのわたしがそう言ってるのに

 それなのに

 トレギアが差し出した怪獣を

 わたしは

 受け取ってしまっていた

 

 

「・・・あれ」

 気がついたら

 わたしは家の前に立っていた

 あれは、なんだったの

 トレギア

 怪獣

 でも、それはどこにもない

 たしかに受けとったはずなのに

 それなのに

 どこにもない

「なんで・・・?」

 あれは夢だったんだ

 ほっとしたような気持ち

 でも

 なんで

 どうして

 わたしはがっかりしているの?

 

 

 届いた

 届いたよ

 ようやく

 届いたよ

 冷たく暗い闇の中でひとり

 歓喜に震え

 歓喜に哂う

 これでまた

 面白いものが見られる

 地べたを這いずり

 時たま思い出したように

 浅い宇宙をうろちょろする虫けらが

 また

 自分の愚かさを恥ずかしげもなく曝け出して

 一生懸命踊ろうとしている

 さあ

 見せておくれ

 魅せておくれ

 愚かしく

 惨たらしく

 滅びゆく

 最高のショウをね

 

 

 

 君の罪は、永遠に消せやしないんだよ?

 

 

 



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夢四夜『甦ル悪夢』

 授業中

 黒板に書かれたことをノートに書いて

 先生の話をノートに書いて

 いつもとおんなじ

 いつもの授業

 あ、クマっち

 また居眠りしてる

 そんなんだから

 コーネリアスにヒドいこといわれちゃうんだよ

 ノートの切れ端で、小さい手紙を書いて

 前に座る友達に

 クマっちまでお願いって言って、パスする

 うん、やっと起きた

 

 

 あれから

 なんにも変わったこともなく

 タロウの夢も

 トレギアの夢も

 見ることは無くなって

 あれは、偶然だったんだ

 そう思うようになって

 そう

 あたしは

 この普通の世界で

 普通に生きて――――――

「なんだあれ、雷か?」

 クラスの男子の声

 授業中によそみとか、コーネリアスがうるさいよ?

 ――――――って

 教室の窓から、一塊の黒い雲が見えた

 紫色の雷が、その黒い雲から何度も光る

「なに―――あれ?」

 思わずつぶやいて

 そして、わたしは

 絶望

 と言う言葉の意味を知った。

 

 

 雷が落ちたようなものすごい声

 街にあらわれた怪獣

 なんで?

 どうして?

 ここは

 あの世界じゃないのに

 わたしは

 もうなんにも作ってないのに

 アイツはもういないのに

 どうして

 どうして怪獣が

 ここにいるの?

 そして

 怪獣は

 雷のように光る光線で

 街を燃やし始めた

 

 

 遠くで爆発が起こるたびに

 教室にまで地震みたいな地響きが届いて

 窓ガラスがガタガタ揺れた

「みんな!落ち着いて!」

 みんなの悲鳴が渦巻く教室で

 机や椅子が倒れる音が響く教室で

 コーネリアスは教室のドアを開けて、みんなに呼びかけながら

 できるだけひとりひとり避難できるように誘導している。

「新条さん!樋熊さん!貴女たちもはやく!」

 コーネリアスが、わたしたちを呼ぶ声。

「クマっち、いこう!」

「なにアレ・・・なにアレ・・・なんなのアレ!」

 いつものクマっちじゃないみたいな、恐怖でひきつった顔

 だめ

 こんなとこでモタモタしてたら危ないよ

「いくよ!」

 わたしは、クマっちの手を握って引きずるように走り出した

「はやく!」

 コーネリアスが、ううん、もう、コーネリアスなんて呼べない。

 最後まで

 最後のわたしたちが教室をでるまで

 ずっと開けたドアをおさえてて

 わたしたちをまっててくれた

 ありがとう、山田先生。

 

 

『生徒達は、指定の避難所に向かってください!ひとりで行動しないで、グループで行動してください!防災訓練を思い出して、落ち着いて行動してください!』

 校庭から、ハンドスピーカーで、先生たちが一生懸命呼びかけている声が聞こえる。

 窓から見える街が、燃えていた

 怪獣、ずっと前に、わたしが作った怪獣

 建物を踏み潰し、殴り壊し、レーザー光線で吹き飛ばしていく

 そんな

 やめて

 もうやめて

 そう叫びたいのを、唇をかんで我慢して

 クマっちの手を引いて走って

 急に、クマっちの足が止まった

「クマっち、がんばって!もう少しで外だから!」

「アカネぇ・・・・・・」

 泣きそうな顔で、ううん、本当に泣いてる

 そんなクマっちを見て何が起こったか理解した

「こっち!」

 誰もいない教室にとびこんで、カーテンをおもいっきりひっぱる

「これかぶって!だいじょうぶだから、いこう、クマっち!」

 おもいっきり濡れたスカートや靴下を隠すように、破ったカーテンを肩からかぶせてあげてから、一階の窓を開けた。

「クマっち、大丈夫だから、ゆっくりこっちきて!」

「アカネ・・・アカネ・・・!」

 ぶるぶる震えてるクマっちを抱き寄せるように外に出すと、その手を引いて急いで校舎から離れる。

 そのとき

 ものすごい光と熱

 学校からすぐ近くを、レーザーの光が走り抜けて

 マンションやビルが爆発した

「あっっ!?」

 爆風と、破片が、わたしたちをふきとばして

 あたり一面が煙に包まれた

「ぁいったぁ・・・クマっち、大丈夫?・・・クマっち?クマっち!?」

 校庭の上に倒れてるクマっちは、完全に気を失っていた

 ケガはしてないみたいだけど

 もしかして、どっか頭うったのかもしれない

「どうしよう・・・どうしよう、どうしよう・・・!」

 あの怪獣のレーザー光線が、今でもあたしの考えた通りのまんまなら

 もうこの街に

 安全な所なんて

 どこにもない。

 

 

 

 予想以上の出し物だ

 トレギアは、特等席に据えたタワーマンションの上に腰掛けながら

 目の前に繰り広げられる破壊劇を、満足そうに眺める。

 あんな取るに足らない

 いじけた小娘の魂から

 こんなにとびきりの玩具が出てくるなんて

「いいよ、おもいっきり、遊ぶといいよ」

 炸裂する爆音

 渦巻く虫けら共の悲鳴

 砕け散る虫けら共の巣

 それは、素敵な

 とても素敵なハーモニー

 虫けら共が奏でだす

 極上のオーケストラ

「さあ、早くおいで。でないと、この街が無くなってしまうよ、タロウ!」

 

 

 彼女の心の奥底に隠された、未だ癒えきらぬ痕

 自ら彼女の前に赴き、そして、その心の光を見極めた

 しかし

 光があれば影があるように

 闇は誰にも気づかれぬまま

 その傍らに潜み続けていた悪意

 そして、彼女の心の底にある

 ほんの微かな、いつかは時間と共に完全に消滅したであろう

 ほんの微かな痕を見逃さなかった。

 鋭利な悪意と誘惑で切り開き

 彼女自身が自覚しないまま、その傷を広げ、心の中の闇を解き放った

 街が

 命が

 かけがえのないたくさんのものが

 燃えている

 すまない

 どうか

 どうかもう少し

 待っていてくれ

 

 

 現実って

 やっぱり残酷だよね

 どんなにひどいことが起っても

 どんなに悲しいことが起っても

 誰も助けに来てくれたりしない

 この街には

 この世界には

 ヒーローなんて

 どこにもいない

「しっかりして、クマっち、クマっち・・・」

 どっかで、聞いたことがある

 頭を強く打った人は、動かしちゃいけないんだって

 だから、気を失ってるクマっちを動かすわけにはいかない

 でも、わたしはクマっちとここにいる

 わたしを友達と言ってくれるから

 だから、クマっち

 わたしも、ずっと一緒にいるよ

 目を覚まさないクマっちの横で、わたしは街を壊し続ける怪獣を見つめ続けた

 やめて

 お願いだから、もうやめて

 そのとき、ずっと遠くのタワマンの上に、人が座っているのに気がついた

 ううん

 アレは人なんかじゃない

 アレは

 ――――――トレギア

 

 

 どうして?

 どうしてアイツがここにいるの

 じゃあやっぱり、あれは夢なんかじゃなかったんだ

 アイツから、怪獣を受け取ったりなんかしたから

 だから

 こんなことになっちゃったんだ

 ごめんなさい

 ごめんなさい

 みんな、ごめんなさい

 ぼろぼろと涙がでてとまらない

 泣いて許してもらえるなんて思ってないけど

 でも

 でも

 わたしが

 わたしのせいで

 わたしの、せいで――――――

『もう、大丈夫だよ』

 ―――え?

 空から聞こえた声

 風に乗って聞こえた声

 思わず見上げると、もうひとつの太陽

 その光の中から

 飛び出すように現れた真っ赤な巨人

 タロウ?

 タロウなの?

『セアッッ!!』

 鋭い気合の声を響かせて

 燃える街に舞い降りたタロウを

 わたしは、信じられない気持ちでみていた。

 

 

 

『遅かったじゃないか、タロウ』

『トレギア、何のためにこんなことを!』

『理由なんてないさ、退屈だったからねぇ、ちょっとコンサートを聴きたくなっただけだよ』

『トレギア!』

 街を

 人を

 命を

 未来を

 破壊し、焼き尽くす

 それを余興などと、絶対に認めるわけにはいかない

『おっと、君の相手はコレにしてもらうよ。まあ、お手並み拝見と行こうじゃないか』

 トレギアの言葉が終わるや否や、デバダダンは咆哮を上げてタロウに突進する。

『ムッ!!』

 すかさず、牽制の光弾を放つ。しかし、それらは全て、デバダダンの体をすり抜け、背後のビルに着弾し、直撃を受けたビルはガラス細工のように粉砕された。

『おやおやおや、ダメじゃあないか、タロウ。まだ、逃げ遅れた人がいたかもしれないのに』

 心底愉快そうなトレギアの言葉に、タロウは瞬時にこの怪獣が、今までとは違うことを悟る。見た目は、今まで戦ってきたものと変わりはない。しかし、どこか、何かが違う。

『シェアッッ!!』

 大地を蹴って跳躍し、瞬時に間合いを詰めたタロウは、鞭のような上段蹴りを繰り出す。しかし、延髄を粉砕するはずの蹴りは、そのままデバダダンをすり抜ける。

『セアッッ』

 すかさず足運びを整え、間髪入れず撃ち出した正拳突き。しかし、それも先ほどの攻撃同様、何の手ごたえもなくデバダダンの胸板をすり抜けた。その時、タロウの拳を弾き返すように、デバダダンの胸板から角状の突起が隆起する。

 そして、その先端に高エネルギーの励起反応の光球が現れた瞬間、大気を振動させるノイズ音と共に、タロウに向けて高出力レーザーが放たれた。

『ジェアッッ!?』

 高出力レーザーのゼロ距離砲撃を受けたタロウは、防御障壁も間に合わず、直撃を受けて吹き飛ばされ、背後にあったビルが巻き添えを受けて倒壊する。

『アッハッハハハハハハ!!』

 期待通りの光景に、トレギアは心底楽しそうに手を叩いて哂う。さあ、これをどう戦う?みせておくれ、我が友よ、ウルトラの戦士よ。

『彼はね、ここにあってここにはいない。違う概念の存在なのさ、さあ、タロウ?君はどうする?どう戦う?魅せておくれ、君の戦いをね!』

 

 

 救急車で運ばれていくクマっちを見送って

 わたしの足は、力が抜けたようになって校庭にへたり込む

 誰かが、救急車をよんでくれたんだ。

 本当は、一緒に付き添っていきたかったけど

 救急隊員さんの邪魔になりそうだったから、あきらめた。

 でも

 それでも

 タロウが助けに来てくれた

 夢なんかじゃなくて

 本当にいてくれたんだ

 本当に来てくれたんだ

 だけど

 どうみたって、余裕なんかじゃない

 タロウの攻撃は全然きかないのに

 怪獣の攻撃は周りの建物も巻き込んで

 タロウを苦しめている

『ゼアァッッ!!』

 ビルをかばって

 自分を盾にして光線を受け止めたタロウの肩の鎧が爆発して

 ひどい炎が燃え上がって

 タロウの胸から、光の粒が弾け飛んだ

 タロウ

 お願い

 まけないで

 タロウ――――――

 

 

「お前が、新条アカネか」

「え・・・?」

 わたしを呼ぶ声にふりかえると

 そこに、ひとりのお坊さんがいた。

 タロウの姿だけみていたから

 全然まわりに気がつかなかった

「話がある」

 大混乱になっている周りの様子も気にならない感じで

 お坊さんは私に向かって言った。

「話・・・って、なんですか・・・?」

「お前は、この街を、この街の人々を・・・いや、友達を救いたいと思うか?」

 なんなの

 急になにいってるの

 そんなこと

 そんなこと、あたりまえじゃん

 でも

 でも

「そう思う心が少しでもあるのなら、お前がその力になれ」

 なにいってるの

 そんなこと無理に決まってるじゃん

 わたしは

 わたしはもう何の力ももってない

 この世界で何の役にもたてっこない

 なのに

 なんで?

 なんでわたしなの?

「無理だよ・・・わたしは・・・わたしは、そんな力なんて、もってない!」

「そうか」

 わたしの言葉を聞いたお坊さんは、すうっと目を細くして呟くように言った。

「あの時――――――」

 お坊さんは、まっすぐわたしの目を見て呟いた。

「グリッドマンに勝てなかったように、自分自身にも勝てないからか」

「う・・・」

 なんで?

 なんで貴方が、それを知ってるの

 だからなんなの?

 貴方に何がわかるって言うの――――――

「その顔は何だ、その目は、その涙は、それで、この街を、友達を救えるのか」

「だって・・・だって・・・!」

「お前の心の中に残る闇、それが見えない傷の痛みとなってお前を苦しめている。それを、奴が嗅ぎ付け、つけこんだことでな」

 お坊さんは、そういってあたしを見る。

 わたしの、心の中の闇?

 ううん、なんとなく、そうじゃないかってわかってた

 だったとしたら

 トレギアは、わたしが呼び寄せたってことなの?

「あいつは、常に誰かの心の闇を探している」

 お坊さんは、タワマンの上に座っているトレギアをみあげる

「そして、あいつはそうやって、いくつもの星を自滅に追いやってきた」

 そんな

 それじゃ

 今度は地球を?

「今だけじゃない、あいつは、何度もこの星を自滅させようとしてきた」

 ウソ

 何度も来てるって

 なんでそんなに地球にこだわるの

「この星は、俺達ウルトラマンにとって、第二の故郷(ふるさと)だ―――いや、俺にとっては、本当の故郷だ」

 ふるさと

 地球が

 ウルトラマンにとって――――――?

「今まで任務で遠く離れていたが、今度こそ、見過ごすわけにはいかなくなった。俺も、そして、タロウ兄さんもな」

 そんな

 そこまでして守りたい星だったの?

「だから、タロウ兄さんは、直接お前に会うことにした。そして、お前の心が何であるかを、自分の目で確かめることにした」

 ウソ・・・

 それじゃ、あの夢は

 夢じゃなかったってこと?

 お坊さんの言葉に混乱する

 それじゃ

 一緒に星の海をみたことも

 一緒にご飯食べたことも

 タロウのフィギュア作ってあげたことも

 みんな、みんな――――――

 あの時のことが、頭の中でぐるぐる、ぐるぐると回る

「タロウ兄さんは許したらしいが――――――」

 けど、今まで静かな雰囲気だったお坊さんが

 急に怒ったような顔になった

「俺は許さん!」

「――――――っ!?」

「お前の心は、絶対に折れてはいけない心だ。お前の心をお前が信じろ、お前の心を信じた友の心を信じろ」

「自分を・・・友達を・・・信じる・・・?」

「思い出せ、お前の光を。そして、一歩前に進め。ただ、それだけでいい」

 お坊さんが

 肩に下げていた布袋からとりだして、そっとわたしに手渡したもの

 それは

 わたしが作ったタロウ

「これ・・・タロウに・・・!」

 あの日見た夢の中で

 わたしが、タロウのために作って

 そしてプレゼントした手作りのフィギュア

「それはお前に預ける、お前が、もう一度タロウ兄さんに渡してやれ」

 そう言って

 お坊さんは、思い出したように後ろを振り返った

「今、お前に会いたいといっているやつがいる」

「わたしに・・・?」

「どうするかは、お前次第だ」

 そう言い残して

 お坊さんは笠を目深にかぶり直すと、踵を返して歩き出した

 お坊さんがもっていた錫杖の音が

 とても、きれいな音で鳴った。

 



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夢五夜『正義ヲ越ヱテ』

 タロウは、まだ戦っている

 必死に、懸命に

 タロウの拳も、蹴りも、怪獣をすりぬける

 でも、怪獣が撃った光線は

 タロウに当たると炎をあげ

 ビルや道路を爆発させた

 それでも

 タロウは必死になって街を守ってる

 自分の体を盾にして

 あの黒いウルトラマン

 トレギアは手を出していない

 でも

 苦しむタロウを

 馬鹿にするように眺めている

 楽しそうに

 本当に

 楽しそうに

 無理だよ

 駄目だよ

 いくらタロウが強くたって

 攻撃がきかないのに

 自分が身代わりになって攻撃を受け続けてるのに

 こんなのいつまでももつわけない

 どうして

 どうしてこんなことになっちゃったの

 わたしの作った怪獣が

 本当に町を壊している

 本当に人を—―――――

 助けて

 誰か助けて

 お願い

 どうか

 みんなを

 この街を

 タロウを

 助けて

 お願いします、お願いします―――――――――

「ぃやあ、ひさしぶりだねぇ、アカネ君?」

 聞き覚えのある声

 懐かしいけど

 思い出したくない声

「アレクシス・・・?」

「随分困っているようじゃないか、なんなら、力を貸すよ?」

「・・・ほっといて、もう、わたしはアンタになんか頼らない」

 なんで

 なんでアンタがここにいるの?

「いやはや、嫌われてしまったねぇ」

 あの時のように、余裕たっぷりな言いかた

 ムカつく

 あたりまえじゃない

 これって

 アンタのせいじゃないの

 ―――――――――違う

 これは、わたし自身が作り出した現実

 わたしの弱さが、生み出してしまった現実

「・・・用がないなら、帰ってくれない?」

「そういうわけにはいかないよ、君に、最後のプレゼントを渡さないと、あの親切なお坊さんに怒られてしまう」

「お坊・・・さん?」

「君は、本当にたくさんの人に愛されているねぇ。本当に、羨ましい限りだよ」

 なにいってんの

 全然、意味わかんない

「君の中に眠る光、君だけが気付いていない光、それが人を惹きつけ、君を愛してくれる。君は気づいていないかもしれないけどね、君はね、光の子なんだよ」

 光の子?

 わたしが?

 そんなわけない

 わたしは

 弱くて

 ずるくて

 卑怯者だから。

 もうだまされない

 だまされたくない

 もう二度と

 大切なものを壊したくない

 大切なものを失いたくない

 だから

 この世界で頑張るって決めたのに。

「なにそれ・・・キモいんだけど」

「ハハハハハ、これはまいったねぇ」

 アレクシスはそう言って、ふっと空を見上げた

 なんだか、ちょっと寂しそうに見えた

 って、なにいってんの、わたし

 こんなやつに―――

「アカネ君」

「なによ」

「アカネ君は、タロウを、この街を、友達を助けたいんだよねぇ?」

「あたりまえじゃん・・・でも、そんなのアンタに言われたくない」

「そうだねぇ、私が、君にそんなことを言える資格はないことは、よぉくわかっているよ」

 アレクシス、ホントにしつこい

 でも、こんなだったっけ、アレクシス

 なんか変

 いつも変だったけど

「もう時間がないんだ、タロウも、この街も、そして私も」

 どうしたの

 なに言ってるの

 ホントにどうしちゃったの。

「おっと、これはいけない」

 痛いくらいの熱さと一緒にふりかかる光

 耳がおかしくなりそうなくらいすごい音

 埃くさくて目を開けられないくらいの風

 そうだった、タロウは、まだ戦ってたんだ

 あたしの作った怪獣と、トレギアと

「大丈夫かい?アカネ君」

 タロウが倒れている

 肩で息をして

 胸のカラータイマーが赤く点滅して

 もう、タロウは限界なんだ

「そんな、ウソでしょ・・・って」

 アレクシスの顔が、半分無くなってる

 ウソでしょ?

「アレクシス、顔が・・・」

「大丈夫だよ、アカネ君。これくらい、平気さ」

 ダメじゃん

 大丈夫なわけないじゃん

 頭、半分無くなってんじゃん

 もしかして

 さっきの爆発から、わたしを?

「アカネ君、これが本当に、私の最後のお願いだ、君とタロウの絆、私につながせてくれないかい」

 どうして?

 なんでそんなに必死なの。

「お願いだよ、アカネ君」

 アレクシスの目が

 見たことない色で光ってる

 こんなアレクシス

 見たことない

「私が、私でなくなってしまう前に。まだ、私にできることが残っている内に」

 アレクシス

 わたしは、貴方を信じられない

 貴方がしたことは、本当にひどい事

 でも

 それは

 わたしがしたことでもあるんだよね。

「アレクシス」

「なんだい、アカネ君」

「―――いつものアレ、お願い」

「アカネ君―――!」

 なんなの

 アレクシス、目から超光がもれてんじゃん

 もしかして

 泣いてんの?

「ありがとう、アカネ君」

 ああ、いつものアレクシスだ

 なんか、ひさしぶりだね

「それじゃあいくよ、アカネ君!」

 イヤなこと思い出すけど

 ちょっとムカつくけど

 なんか懐かしい声

「インスタンス・アブリアクション!――――――オーヴァー・ジャスティス!!」

 え?

 しらない、なにそれ

 そう思った時

 あたしが抱いていたタロウのフィギュアは

 光になって飛んでいった。

 

 

『もうこれでおしまいなのかい、タロウ?もっと楽しませてくれると思ったのに』

 瓦礫の上に倒れタロウを踏みつけ、トレギアは嗤う。

『・・・もうやめるんだ、トレギア。これ以上、あの子の心を踏みにじるな』

『その姿で言われても、なぁんにも面白くないねぇ、タロウ』

 トレギアはじんわり力を込めて、タロウのみぞおちを踏みにじりながら思い出す。宇宙の片隅で見つけた、微かな、ほんの微かな、心の闇。

 やもすれば見過ごしそうにもなった、小さな、ほんの小さな、消えてしまいそうなくらいに小さな闇の欠片。

 それを、運よく目に止め見つけたことは、本当に僥倖だった。狂喜したといってもいい。

 なにしろ

 また、新しい玩具と、心から愛すべき親友と遊ぶ理由が手に入ったのだから。

 でも、そろそろお開きの時間

 いかに愛すべき親友でも、幻影は倒せない

 0と1だけで作り上げられた

 概念しか存在しないものは

 誰にも触れることは出来ない

『そこでゆっくり見ているといいよ、タロウ』

 赤く点滅する命の灯

 それも、薄く、弱々しくなっていく

 くだらない

 光の力がなくなるだけでこの有様

 光の力がなければ何もできない歪さ

 正義とか悪とか

 そんなものにこだわるから

 それが鎖となって自分自身を縛り付けていることに気付かない愚かさ

 そして、そんな簡単な事にも気づかない

 愚かで、そして心から愛すべき友。

『この世界が、滅んでいく様をねぇ!』

 

 

 

 新しいもう一つの光が、絆の力でつながり結ばれた時

 再び命の光が、空に輝いて

 タロウが飛び立つ

 タロウが戦う

『シェアッッ!』

 気合一閃

 蒼空に舞う、深紅の巨人

 青空を飛ぶ飛燕のように大空を舞い、引き絞られた強弓のように力を溜めた蹴りが一直線に飛来して、デバダダンのドーム窓のような頭に直撃した。

 たまらず大地に転げるデバダダン、そして、驚愕と戸惑いの入り混じる咆哮。そして、閃光と共に現れた、もうひとりのタロウ。

『セアッッ!』

 軽やかな着地と同時に、その巨体から想像もできない全身のバネを爆発させ跳躍し、回転しながら繰り出す空中蹴りがトレギアに炸裂した。

 本物に引けを取らない、否、タロウの放つ威力そのものの衝撃に、トレギアは踏みつけていたタロウの上から突き飛ばされるようによろめき、後じさる。

『なんなんだい、君は。双子だったなんて聞いていないよ』

 わざとらしく埃を払うような仕草、そんな余裕を崩さない態度の裏側に、微かな狼狽が滲む。今、目の前に現れたのは、紛れもなく、もうひとりのウルトラマンタロウ。

『こんなバカな話があるのかい』

 苛立ちと、新鮮な驚き、それらがないまぜとなった様子で、トレギアは突如現れたその親友と瓜二つの姿を睨む。

 しかし、もうひとりのタロウは、トレギアに見向きもせず、瓦礫の上に横たわるタロウの傍らに立つと、胸の前で腕を組み、そして、両手をかざすように差し出した。

 その指先からあふれ出る光は、やがてタロウを包み、太陽の光を切り取ってきたかのようなまばゆい金色に輝き始める。

『これは・・・この光・・・この暖かさは・・・』

 激痛に疼く体が軽くなる、凍り付いたような全身に、じんわりと優しい暖かさをともなって、蘇り始めた感覚が、潮流のように駆け巡る。

 そして、タロウは知る

 その、光の贈り主を

 その、純粋な願いを

『ありがとう・・・アカネ君!』

 埃と煤にまみれた体が深紅の輝きを取り戻し、青く輝く命の灯と共に立ち上がったタロウは、その金色の目に再び闘志の炎を灯らせる。

『シェアッッ!!』

 重なり合う気合一閃、並び立つ深紅の巨人は、蹂躙される街と人とを守ろうとするように、トレギアとデバダダンの前に立ちはだかる。

『ショワッッ!』

 光の願いと共に現れたもうひとりのタロウ、タロウ・スピリットは、大地を蹴り、深紅の旋風となってデバダダンに飛びかかり、その岩盤のような胸板に飛び蹴りを炸裂させる。

『セアッッ!』

 よろめくデバダダンに立ち直る暇も与えず、タロウ・スピリットは牽制の光弾を放つ。しかし、連射された赤い光弾は、デバダダンの表面を覆う外殻の上を滑るように吸収された後、胸板から延びる角の先端に収束され、数倍の威力となって撃ち返された。

『ジェアッッ!?』

 カウンターとなって撃ち返されたレーザーを浴び、タロウ・スピリットは爆炎と共に押し返される。しかし、次の瞬間には、大地を蹴り、怒れる猛虎のように迫り間合いを詰めたタロウ・スピリットは、暴風さながらの正拳突きの連打を浴びせ、デバダダンの強固な外殻を次々に粉砕していく。

 痛烈な反撃を受け、たまらず鉤爪を振り下ろしたデバダダンの攻撃を受け流し、その腹に前蹴りを浴びせると、その勢いのまま首根っこを掴み、その勢いを巴投げの型へつなげ後方へ叩きつける。

 デバダダンは、大地に叩きつけられた衝撃で、自分の体重がそのまま凶器となって全身に炸裂し、たまらず悲鳴を上げた。

『どうしてこっちの偽物は、コレに攻撃できるんだい、おかしいじゃないか』

『トレギア、お前の相手はこの私だろう!』

 タロウ・スピリットの背後から、紫電の雷撃を放とうとしたトレギアの前に、タロウが立ちはだかる。

『君は、勿論本物のタロウだろうねぇ?』

『偽物も本物もない!』

 タロウは、デバダダンと戦うもうひとりの自分の姿を一瞬振り返り、再びかつての親友と対峙する。

『あの姿も、光の願いから生まれた、もうひとりの私だ!!』

 デバダダンが苦し紛れに放った収束レーザーも、タロウ・スピリットが咄嗟に展開させた青い光の壁に弾かれ、消滅する。そして、連続で放たれた深紅の光弾の連撃を受け、反射鱗のほとんどを砕かれた体に炸裂する強烈な爆破に悲鳴を上げた。

『お前は、あの子をみくびっていた。あの子は、お前が思っているよりももっと、たくさんの人々に愛され、そして、暖かい光を持っている』

『光だ、闇だ、そんなもの何の意味もないさ。あるのは取るに足らない、情動の意思だけだよ、タロウ!』

『確かにお前の言う通りだ、トレギア。誰にでも、何にでも、光と闇はある』

『認めるのかい、タロウ。光やら正義やらの無意味さを!』

『認めるとも!だからこそ、我々は生きるのだ!正義と悪、それらを乗り越え、その全てを理解し、認め共に歩んでこそ、その先がある!

 だから、命あるものは進むのだ。時を重ね、世代を重ね、それを乗り越えたその先を知るために!』

『結局綺麗ごとかい、もう沢山だよ!』

 苛立ちと共に放たれた紫電の雷撃を、タロウは光の風と共に振りかざした掌で消滅させる。

『驚いたね、初めて見る力じゃないか』

『私だけの力ではない』

 タロウは、光る風をまとう拳を静かに握り締める。そして、更に輝きを増した光の風。

『これが、心の力。お前が取るに足らないものと言い捨てた、人の心だ!』

 タロウを取り巻く光は、やがて黄金の風となってその全身を包む。体に走る銀色のラインをなぞるように、金色のラインが縁取り優雅に浮かび上がる。黄金の光は、レッド族の象徴である白銀のプロテクターにも、黄金の装飾を浮かび上がらせた。

 そして、新たな黄金の装甲を彩るように、遠慮がちに、しかし確かな輝きを放つ、薄紫色の小さな宝玉。

『人の心は、時として邪悪となる。そして、それは目にするもの全てを恐怖させる深い痕を残す。しかし、いくら邪悪であっても一握りの過ちの為に、この星に満ち溢れる多くの温かい心を見捨てるわけにはいかない!』

 タロウの心の底からの偽りない言葉、そして、その言霊の力に呼び起こされるように、タロウ・スピリットもまた、みなぎる力を解き放とうするかのように、大きく両腕を振りかぶり、全身の力を引き絞るように両の拳を脇に構えた。

 そして、大地をなぞるようにかざした右手を支えるように、握りしめた左の拳を組み上げた瞬間、全身を虹色に輝かせたタロウ・スピリットが放つ、七色に閃くエネルギーの奔流がデバダダンに浴びせかけられた。

 限界、元々この次元の存在でなかったその体を維持できなくなったかのように、デバダダンは空中に0と1のホログラムをまき散らせた刹那、爆散、消滅した。

 



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夢六夜『光ノ子』

 なぜ

 どうして

 こんな虫けら以下の連中が

 神にも等しいウルトラの戦士に

 新たな力を与えるなどと

 ありえない

 あってはならない

 しかし

 目の前の眩いばかりに輝くその姿は

 紛れもない現実

『トレギア、この星から立ち去れ。そして、二度と触れようとするな』

『なんだって?』

『この星は、この星を生きる人は、お前が思っているほど、小さくも弱くもない』

『・・・フン』

 親友の、相変わらずな言葉

 もう、毒気を抜かれてしまい、興が冷めた

 言われなくてももうこれ以上

 こんなつまらない辺境の田舎惑星にとどまる気はない

 ああ

 もうたくさんだよ

 でも

 楽しかったよ

『わかったよ、タロウ』

『・・・トレギア』

『それじゃあ、また会おう』

 上空に呼び出した、次元の狭間の門となる暗雲。ゆっくりと浮き上がりながら、紫電に出迎えられるようにくぐり抜け、暗雲や紫電と共に次元の狭間に吸い込まれるよう消えた。

 そして、タロウと共に、それを見守っていたタロウ・スピリットも、自分の役割を終えたかのように、全身が光の粒子に変わる。

 やがて、小さな光の球となったそれは、春風に舞うタンポポの綿毛のようにふわりと風に乗って、穏やかに漂いながらアカネの腕の中に帰ると、手作りの人形の姿に戻っていた。

 

 

 

 おわったんだ

 トレギアも

 怪獣も

 みんないなくなったんだ

 でも

 壊れた町

 いなくなった人は

 もう元には戻らない

 わたしはまた

 取り返しのつかないことをした

 この町に

 沢山の人に

 タロウに

 たくさん

 たくさん

 迷惑をかけて

 どうしよう

 わたしは、どうしたらいいの?

『アカネ君、まだ、終わってはいないよ』

 空から聞こえてくるような、優しい声

『泣かなくていいんだよ、今の私には、君からもらった力がある』

 タロウ

 どうして?

 どうしてそんなに優しいの

 でも、痛いよ

 胸が、心が、痛いよ

『アカネ君、大丈夫だよ』

 タロウが大きくうなずいている

『大丈夫だから』

 そして

 タロウは

 ゆっくりと両手を空にむかってのばした

 光り始めたタロウの両手から

 たくさんの

 たくさんの星があふれだした

 あとからあとから

 いつまでも

 いつまでも

 それは

 空を包み

 街を包み

 わたしを包んでいく

 きれい

 あの時見た

 星の海みたい

「うそ・・・信じられない」

 光の星は、光の海になって全てを包み、光に包んでく

 そして、パレードみたいな星の粒と光が、少しずつ止んでいって

 やがてみんななくなった時

 あたしが立っていたのは、元どおりになった街

 何が起こったのかわからないように、戸惑うような顔の人たち

 全部

 全部もとどおりになっていた

『ありがとう、アカネ君』

 呼びかけるタロウの声に空をみあげると

 金色の鎧も

 紫色の宝石も

 みんななくなっていて

 元の姿に戻ったタロウがいた

『君が力をくれたから、できたんだ』

 タロウが、嬉しそうにうなずいている

 あたしも、嬉しいよ

 でも

「ごめんね・・・タロウ」

『どうして?』

「せっかく強くなれたのに・・・また元に戻っちゃったから」

『いいんだ、アカネ君』

「え?」

『私が欲しいのは、力ではないんだ』

「タロウ・・・」

『その笑顔が、私にとって最高の贈り物なんだよ』

「うん・・・」

『だから、どうか、笑ってほしい、アカネ君』

 ありがとう

 ウルトラマンタロウ

 わたしの

 夢のヒーロー

 

 

 

『ありがとう、レオ君。君のおかげで、もう心残りは無くなったよ』

「そうか」

 ビルやマンションが立ち並ぶ街の片隅

 ビル風にあおられて僧衣をはためかせる、初老の托鉢僧がひとり

 その手には、ひび割れた黒曜石のような結晶がひとつ

『君が、彼を説得してくれなかったらと思うとねぇ』

 半分に欠けた黒い結晶を手に、托鉢僧は、ほんの偶然でしかなった邂逅を思い出す。

 だがあれは、本当に偶然だったのだろうか。それは、今でもわからない。

 わからないことなど、この星の海にはいくらでもある。

 自分とて、この星の海の全てを知ったなどと、とてもではないが言うことはできない。

『まったく、これで無限の命を持て余していたつもりになっていたなんてねぇ』

「そうか」

『君達を見ていたら、私なんかまだまだちっぽけなものだったよ』

 そう、たかが数千年程度、彼らにとっては取るに足らない時間。

 それに比べれば自分などどれほどのものか。

 しかし、それを知った時は、もう何もかも遅すぎた。

「・・・未練か?」

『そうだねぇ、でも、もういいんだ。もう、いいんだよ』

 ほんのわずか、潤むような光を湛える黒い結晶。托鉢僧は、ふっと淡い笑みを漏らす。

「―――お前は、あの子を愛していたんだな」

 托鉢僧の言葉に応えず、黒曜の結晶は小さく光を反射する。

『それにしてもだよ』

 咎めるようにも、からかうようにも聞こえる声

『いくらなんでも、あの言い方は厳し過ぎだったんじゃないのかい?見ていて冷や冷やしてしまったよ』

 話を逸らそうとする声に、托鉢僧はあの時と同じ確信をもって応える。

「あの子は、最後の最後まで友達を見捨てなかった。あの子の心は強い、タロウ兄さんの目に、狂いはなかったということだ」

 托鉢僧の力強い言葉に、黒曜の結晶は一瞬沈黙し、遠慮がちな光沢を放つ。

『―――さあ、いい加減彼も待ちくたびれているだろうしねぇ。手間をかけさせてすまないけれど、そろそろ連れて行ってくれないかい?』

「ああ」

 托鉢僧は、小さくうなずきながら手の平の結晶をたもとにしまい、蘇った街を歩き出す。

 そして、思い出したように足を止め、ふと振り返る。

 遥かに見える兄の姿、そして、兄と共に戦った小さな友。

 その姿に、托鉢僧は少年のように微笑み、再び歩き出した。

 錫杖の音をひとつ残して。

 

 

 

 夕焼けがきれいな河川敷で

 わたしは

 タロウと一緒に、沈む夕陽をみていた

 街のために戦ってくれた、巨人の姿じゃなくて

 あの時、一緒に星を見に行った時みたいに

 一緒に、隣にいてくれた

「もう・・・みんな、終わったんだよね」

「うん」

「でも・・・もう、帰っちゃうんだよね」

「そうだね」

 なんでだろう

 わかってたのに

 しょうがないのに

 涙が止まらない

「アカネ君」

 タロウがふりかえる

 夕陽に照らされて、真っ赤に光る姿は

 今まで見たなによりも

 とても、綺麗だった。

「どんなに離れていても、私はいつでも君と共にある。約束しよう」

 暖かくて、優しい声

「うん・・・ありがと、タロウ。それと・・・これ」

 わたしが作ったタロウのフィギュア

 戦いの痕が残って

 ちょっと傷だらけになっちゃったけど

「もう一度・・・もらってくれる?」

「もちろんだよ、無くしてしまって、本当に済まないと思っていたんだ」

 タロウは

 ほっとしたように受け取って

 嬉しそうにうなずいてくれた

「アカネ君、君に会えて、本当に良かった」

「うん・・・わたしもだよ・・・」

 忘れない、忘れられるわけなんてない

 この星の海のどこかで

 タロウに会えたキセキ

 わたしの、一生の宝物

「君の心は、本当に温かいな。光の子に出会えて、私は幸せだ」

「えっ・・・」

「また会おう、アカネ君。そして、また一緒に星の海を見に行こう」

「うん・・・絶対だからね・・・約束だからね・・・」

「ああ、必ずだとも」

「わかった・・・それじゃ、いってらっしゃい、タロウ」

「ありがとう、アカネ君」

 タロウはゆっくりと夕焼け空を見上げた

 そして、もう一度わたしを見て

 ふわりとジャンプした

 ありがとう

 本当にありがとう

 夕焼け空に飛んでいく

 綺麗な

 綺麗な一番星

 わたしは、ずっと手をふりつづけた

 また会おうね、約束だから

 タロウ

 

 

 

「アーカーネぇ――――っっ!!」

 わたしを呼ぶ声

 クマっちだ

 すごい勢いで走ってくる

 よかった、大丈夫だったんだ

「あっ、クマっち・・・うわあっっ!?」

「アカネぇー!良かったぁ!無事だったぁーっ!」

 クマっちが泣いてる

 すごい涙

 大きな声で、わんわん泣きながら

 力いっぱい、あたしを抱きしめてくれる

「気を失ってさぁ!目を覚ましたらさぁ!アカネがどこにもいなくてぇ!」

 痛い

 でもうれしい

 心配してくれたんだ

 ごめんね

 でも、ありがとう

「探したんだよぉ!ホントに、ホントに探したんだよぉ!?」

 わたしを抱きしめるクマっち

 あったかい

 ほんとに

 あったかい

「ありがとね、クマっち」

 本当に、ありがとう。

 みんな

 本当に

 ありがとう。

 



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