ロボ娘とヒーローアカデミア (ロボ娘)
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1話
私の世界は四畳半の和室だけ。
身体が弱く、布団から起き上がることもままならない私は、父の語ることとテレビだけが全てだった。
父は科学者で、色々なことを教えてくれた。それは、簡単な理科からとんでも科学まで本当に色々だ。
その影響もありsf作品が好きになった。
映画を見ていると、父が「この描写はおかしい」「ここは凄く良く表現されてる」など、聴いてもいないのに解説をしてくれる。
そんなひとときは、とても幸せだった。
たしかに、ここには私の全てがあったのだ。
その暮らしは幸福以外存在せず。
たとえこの命が短くても……。とても、幸せだった。
この儚い命が尽きるまで、この幸せが続くと思っていた。
のちに"個性"と呼ばれる事になる異能が、私にもあることが分かるまでは……
◆
———システムスキャン開始
———オールグリーン
———バッテリー残量 95%
———起動
午前7時30分。
充電カプセルの扉が開く。
カプセルは私1人が丁度、立って入れるほどの広さだ。そこから歩いて出ると、人間で言う尾骶骨のところに刺さっていた充電コードが自動的に抜ける。
外は12畳の和室で、充電カプセルと元から部屋の壁に組み込まれていたクローゼット以外の家具はない。円柱状の充電カプセルを部屋の中央におき、三相用のプラグを壁のコンセントまで伸ばしている。
クローゼットの下まで移動して開ける。
扉の内側には姿見がつけられており、そこにはいつも通りの私が映し出されている。人間の15歳ほどの少女だ。
身長 157センチ
胸囲 81センチ
ウエスト 61センチ
ヒップ 89センチ
その他の身体的特徴は事細かに言えるが、全て、超常黎明期以前の15歳の平均値である。(私が設計されたのが超常黎明期以前だからである)
普通の人間とは異なる白い人工毛髪は腰まで伸び、瞳は金色である。
どれも異常はない。
傷もなければ、汚れもない。
完璧である。
クローゼットから下着を取り出す。
人工物で作られた身体であるため下着はとくに必要ないが、マスターからの命令で着用する。
次にメイド服を着る。
メイド服は私がマスターの僕である、ということを示す大切なものだ。アイデンティティと言ってもいい。
しかし、創作物で見られれるようなものではない。黒いロングのワンピースの上から白いレースのエプロンを着る。頭部には髪が邪魔にならないよに黒いカチューシャ(装飾無し)をつけただけの、なんちゃってメイド服である。
服を着た後、黒いストッキンと青色のスリッパ(百均)を履けば朝の準備は終わる。
クローゼットの中には今、身につけている物と同じ物(スリッパは似たデザイのもの)が予備として、20セット用意してある。
台所へと向かいながらWi-Fiでネットに接続し、天気予報と今朝のニュースを確認する。今日は晴れらしい。
廊下を抜けると居間にでる。昨日引っ越してきたばかりなのだから仕方がないが、ダンボールが山のように積まれている。本来は戦闘用サポートアイテムである私だが、メイドロボットとしての側面もある。そんな私からすれば片付けられていないダンボールは一刻も早く片付けたい
また、この家は台所は居間との区別がない。 かろうじて調理台で仕切られているが丸見えだ。引っ越してきたばかりだから今は綺麗だが、台所の油汚れなどがお客様に見られてしまう。
ここは、メイドロボットとして腕のなるポイントだ。
ま、お客様は最近では塚内様しか見られないのだけど……。
朝食の準備を進めていると、マスターが起床したようだ。
マスターは長い金髪と痩せ過ぎて窪んだ両眼が特徴的だ。彼は起きると、まず顔を洗い、そのまま台所へと来るのが日課だ。
それは引っ越しても変わらないようで、今日もいつもと同じように台所へと来た。
「おはようございます。マスター。本日のご朝食は卵雑炊です、」
「おはよう。アン。ありがとう、」
頭を下げると、マスターはにこやかに返してくれた。
いつもの光景だ。
私のマスターは身体が弱い。私と出会う前はそんな事はなかったと聴いている。なんでも、
また、内臓機能が大幅に低下しているため雑炊などのお腹に優しい食べ物を中心に献立を組んでいる。近々、雄英高校の教員となるとのことなので、消化にいいお弁当を考えなければならない。
良いデータは無いのだろうか?
「あと5分ほどで、ご朝食が出来ますので、もうしばらくお待ち下さい。」
「分かった。着替えてくるよ。」
水を一杯だけ飲んで、マスターは自室へと戻って行った。
◆
朝食を食べ終わると、洗濯などの日頃の家事を急いで終わらせる。
その後はダンボールの片付けだ。
本来ならマスターの手を煩わせる訳にはいかないが、ここの全てはマスターの所有物だ。私が決めていいことは一つもない。
「御洋服等は、いつも通りに収納して問題ないですか?」
「うん、それでいいよ。私は食器類をしまってくるよ。」
「分かりました。」
既に家具だけは設置されている。マスターはどう言うわけか大型自動車免許を取得しているし、私もマスターも家具ぐらいなら楽々運べる。
そのため、引越しの手際は良く、昨日のうちに家具だけは配置してしまった。
しかし、それでも微妙に位置を調整しなければならないところもある。
特に、マスターが運んだ箇所は微妙にカーペットが歪んでいたり、コンセントを隠していたりしている。
それらを直し(家具ぐらいなら片手で持ち上げられる)、マスターの要望通りにしまっていく。
作業をしていると、ふと、マスターが手を止めていた。
「マスター、どうしたのですか?」
「………アルバムが出てきたから、見ていたんだ。」
覗き込むと、アルバムを見ていた。
まだ若いマスターと、知らない男性、
———画像検索
デヴィット・シールドが写っていた。
彼は有名なサポートアイテム等の開発者だ。マスター、オールマイトと親交があるのは有名な話、らしい。
その他にも、様々な写真が見て取れる。
それを見ながらマスターは本当に楽しそうに笑みを浮かべている。
「ほら、これを見てみなよ。2年前、君が私のところに来た時の写真だ。」
そう言って指を差す写真には、私とマスターが並んで立っていた。確かこの写真は、私が正式にマスターのサポートアイテムとなった時のものだ。マスターはかなり若い。
今よりもシワの数がかなり少ない。
「マスター、午前中に箱の整理を終わらせ、午後より日常雑貨の買い出しに行く予定です。このままでは終わりません。」
「………すまない。つい、懐かしくてね。」
そう言って、マスターはアルバムを閉じ作業へと戻った。
しばらくして、たいして読んでいない数百冊の本(マスターの知人が書いた本をよく貰うが彼には読む時間がない、しかし、貰い物なので捨てられず溢れかえってしまう)を本棚へと運んでいると、またマスターが手を止めていた。
「………………何をしているのですか?」
覗いてみると、オールマイトグッツが箱に詰まっていた。
中にはオークションで数百万円にも登るモノもある。
それらを彼は一つ一つ手に取って見ていた。
「あ………。」
「またサボっていたのですか? このままでは日用品を買いに行けませんが……。」
買い物と片付け、二手に分かれた方が良いのかもしれない。
「……………。」
マスターは黙ってしまった。
仏の顔も3度まで、と言うが、今回は2度目だし、ロボットの顔は未来永劫だ。私は道具、こき使われても文句は無ければ壊れる事はない。
それが私だ。
「…………マスター。片付けますのでそこを退いていただけますか?」
「……。ごめん。」
片付けは昼ごはんを挟み、2時過ぎには終わった。
予定よりも時間が押してしまったが、仕方がない。少し休憩を挟み日用品の買い出しに出かけた。
買うものはトイレットペーパーや、洗剤などの消耗品がメインだ。また、周辺の街並みを観たいとのことでドライブもする事になった。
買ったモノは車に乗せ、マスターの運転(私は法律上、事件等がありヒーローの許可かあれば別だが、今は運転は出来ない。)で街中を走り回る。
ネットの地図やストリートビューでなんとなくの地形は把握しているが、やはり、実際に走るのとは情報量が違う。
「この道をまっすぐ行けば、海浜公園に着きますね。」
6G回線に接続することにより、私はカーナビとしての機能を持つことができる。他にもメールや電話などおおよそスマホで可能なことは出来る。
電話に関しては私が出る分には『話す』必要がない。音声データの送受信さえ出来ればいいので、音声そのものは必要ないのだ。
「折角なら行ってみよう?」
「……構いませんが、ネットのレビューでボロクソ叩かれていますが……。」
「HAHAHA。ネットのレビューなんて当てにならないさ。それに、女の子が、ボロクソなんて言葉を使っちゃダメだぞ。」
「私は女の子ではありませんが、了解です。」
私は少女型だが、性別はない。なんせ、ロボットだからだ。
しかし、海浜公園がどんなところなのか、ネットで検索をかける。スマホをいじっている訳ではなく、ただ座っているだけだ。
両眼のメインカメラによる映像データとは別にweb画面も並列して処理をする。
これは……。
「マスター……。調べたところ、海浜公園は危険な場所では無いようですね。」
「その言い方、なんか、怖いんだが……。午前中のことまだ怒ってる?」
「怒ってません。」
私には怒るなんて機能はない。
そんな会話をしながら車を走らせていると、海浜公園に着いた。
ネットで調べた通りの場所で、公園というよりもゴミ捨て場のような場所だ。不法投棄ここに極まり。
「これは、凄いな。」
マスターも言葉を失ってしまっている。
「ネット情報を引用します。もともと、海流の関係でゴミが流れ着きやすい場所だが、それに乗じて不法投棄も多い。今では、流れ着くゴミよりも不法投棄の方が多い。だ、そうです。」
「……なるほど。こう言うのもどうにかするのもヒーローの仕事だ。」
「しかし、掃除するにも、廃品を引き取ってくれる業者を確保してからではないと難しいですよ? 」
「それは、わかってるさ。アン、探しておいてくれないか?」
「了解です。」
今までオールマイト事務所と取引のあった業者から、廃品回収などの業務を行なっている会社をさがす。マスターの仕事は幅広い。困っている人がいたら、誰でも助けてしまう為、必然的に仕事内容が多岐に渡ってしまっているのだ。
とりあえず、三社、見繕いメールを送信しておく。
そろそろいい時間なので、家に戻る事にした。マスターの運転でのんびりと家に戻る。
本来ならマスターも外食とかもしたいのだろうが、彼の消化器官は壊滅的だ。下手なものを食べたら吐血してしまう。
「すまない。少し、コンビニによる。」
その途中、マスターはトイレに行きたくなりコンビニに寄ることになった。マスターはトイレを済ませ、ガムを買って出ると、周辺は騒がしくざわついていた、
ツイッターにアクセスしツイートをスキャンする。
それと同時に周囲の音声を解析する。
「どうやら、強盗みたいです。」
そう言うと、マスターは一瞬にして巨大化した。
骸骨のようだった肉体は筋骨隆々にかわり、その熱量、エネルギー量も膨れ上がる。
「そうか、けど、大丈夫、私が来た!」
マスターはそう言うと、強盗を追って駆け出した。
私は置いてけぼりだ。
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2話
辺りはオールマイトが現れたことでざわついていた。
先ほどまであった強盗という悪意に対する恐怖は既になく、オールマイトが現れた事による希望と、喜びに満ちている。と、思う。
私には人の感情を正しく読み取る機能はない。顔センサーで表情を読み取ることはできるが、それでも十分とは言えない。
そのため、おそらく、希望に満ちているのだろう、程度しか読み取ることはできない。
塚内様はマスターのことを平和の象徴。そこにいるだけで皆に希望を与える。と、おっしゃってはいたが、私には正確にソレを認識することができない。
各種センサーにより、完全とは言えないまでも感情を数値として表すことは出来る。蓄積されたデータにより
しかし、ソレらを持ってしても、マスターが生み出す希望を正確に測ることは出来ないし、理解することなんてできっこないのだ。
———位置情報取得
マスターのスマホの現在地を追う。
———-自宅
どうやら、マスターはスマホを家に忘れてきたらしい。
私がいれば電話もメールも、その他ソシャゲですらプレイ可能だ。もはや、スマホなんて使う機会は基本ない。スマホの必要性が極端に下がってしまっている。そのため、忘れてしまっても仕方がない。
一重に(各種データに基づき)私が優秀すぎるからだ。しかし、今回ばかりはそれが裏目に出た。
各種SNSで検索をかけオールマイトの目撃情報を探す。
見つけた。しかし、結構な距離がある。
飛行ユニットを使えばすぐに着くが、ヒーローの許可が無いと私の殆どの機能は使用不可だ。
目撃情報は点々としている。きっと、"個性"で走り回っているのだろう。私では追いつける訳がない。
仮にもサポートアイテムなのだから、ヒーロー活動で役に立ちたいがこうなってしまっては諦めるしかない。
無駄に動いて充電が切れたらマスターに迷惑がかかるし大人しく待つことにする。
そのうち車のところまで戻ってくるだろう。
そう考えて、しばらく待っていると……。
———着信 公衆電話
今時、公衆電話から?
怪しいが、同期したマスターの番号ではなく、私の番号へとかけてきている。私の電話番号を知っている人は限られているため、かなり怪しい。
着信拒否しても良かったが念のため回線を繋げた。
『はい、マイツプロ 第二秘書室のアンです。』
私はマイツプロ(マスターが作ったヒーロー事務所)の第二秘書室に属している。第二秘書室とはオールマイトのプライベートを補佐する役割を担っており、室長は何を隠そう『八木俊典』、つまりはマスター本人である。
『アン! 私だ!』
音声データを受信した。
———声紋確認。マスターだ。
しかし、詐欺という可能性も捨てかねない。
私はマスターに置いてかれた。
置いてかれたのだ。
私が置いてかれたという、情報を何処からか入手した
奇しくも平和の象徴は多種多様な
警察によると、秘密の合言葉なるものを決めておくといいらしい。
ネットでは「息子ならばプリユラ全員言える」と、詐欺を看破した事例もあるため、お互いにしか知り得ない情報とは偽物を探すのに有用だ。
『私、とは誰のことでしょうか? 申し訳ありませんが……。』
『置いていったのは申し訳ない。だが、ふざけてる場合では無いんだ。今すぐ、私が言うところまで来てくれ、
『了解。』
目的地を聞いて回線を切る。
———飛行ユニット 起動。
服を破りながら背中で、観音開きであるハッチが開く。開いたハッチの裏側にはそれぞれジェットエンジンのようなものがついている。また、構造上仕方がないとはいえ、ミサイルやレイザー兵器の一部が丸見えとなる。
また、衣服は首の後ろや、腰より下の部分は破けていないのでずり落ちないで済んでいる。ただ、ブラジャーは外れてしまったのでポケットにしまっておく。
飛行ユニットに電力を送る。
残り充電は72%。十分に戦闘可能だ。
視界とは別に地図を開き、目的地を設定する。
———飛行開始
地面を蹴る。
空気を切り裂くように加速し、目的地まで一直線に向う。
目的地の方角からは煙りが出ている。ズームしてなにが起きているのか見てみると、ヘドロのような人に少年が捕まっていた。少年はヘドロから逃れようと必死にもがいていてる。そのタフネスは評価に値するが少年の"個性"が原因で当たりが燃えてしまっている。
この状況でもマスターが動いていない。おそらく、活動時間を完全に使い切ってしまったのだろう。
目的地まで、あと、約1キロ。
この距離なら数秒もしないうちに辿り着ける。だが、スピードを落とさずに攻撃も可能だ。
右腕を向ける。
——攻撃ユニット起動
——ビームライフル
——-チャージ開始
すると、肘が本来とは逆方向へと180度曲がり、元の前腕の半分ほどの長さの銃身現れる。
それと同時に視界に照準が表示された。
———相対速度計算
———推定被害領域計算
狙うのはヘドロ男だ。
見ためから、直接攻撃はあまり効かない可能性は高いと推察。
だが、多少は効果はあるはずだ。少しでも少年を捕まえている力が緩めば良い。
——-チャージ完了
———全計算終了
——-ターゲットロック
その時、別の少年が飛び出してきた。
このタイミングで飛び出した理由は不明だ。しかし、この超常社会、なにをしでかすか分からない。
———攻撃中止
右腕を戻し、遠距離攻撃から近距離へと切り替える。
攻撃撃対象は目と鼻の先。到着まで、およそ3秒。
少年を助けるシミュレーションをCPU内で繰り返す。
問題ない。
瞬間、マッスルフォームのマスターが現れた。
拳を握りしめている。
問題発生。
———緊急停止、シールド展開
ジェットエンジンを背中に収納しハッチを閉める。
左右の膝と肘を身体の前で揃え、ピタリとくっつける。そして、エネルギーシールドを展開する。
「
マスターが振るった拳とともに暴風が吹き荒れる。
私をそのまま、風に攫われ上空へと打ち上げられた。
高層ビルすら見下ろせる高さで、ようやく暴風から解放された。
周囲を見渡すと目の前には、さっきまで存在しなかった雨雲が存在していた。
マスターが拳で放つ一撃。
その威力は凄まじく天候すら変えてしまうのだ。
雨が降り始めた。
その雨脚はかなり強く、街並みを見下ろすと炎が弱くなり始めている。
たとえ、完全に鎮火出来なくともここまで弱くなれば、消防がどうにかするだろう。
自由落下に身を任せつつ、マスターを探す。
マスターは報道陣にかこまれている。捕まっていた少年はヒーローに手当てと称賛を、飛び出した少年は叱責を受けている。
ひとまず飛行ユニットを再び起動する。
高速で旋回して身体や衣服を乾かしてからマスターと合流することにした。
◆
「君はヒーローになれる!」
衣服を乾かし、マスターを探し出すと、例の飛び出してきた少年と会っていた。とりあえず、マスターの横に着地し、飛行ユニットを収納する。
「マスター、お話中、申し訳ありません。合流しました。」
マスターと話していた少年は地べたに座り込んでおり、私の方を見ている。
その少年はかなり小柄だ。
全体的に細くて小さい。また、癖っ毛とそばかすが特徴的だ。
涙を流していたのか、顔中がぐちゃぐちゃだ。
「アンか。申し訳ない。君が来るのを待っていたかったのだが……。」
「いえ、問題ありません。それより、こちらの少年は?」
「そうだった! アン! 後継者が見つかったんだ!」
後継者。
この場合はワン・フォー・オールの後継者を指しているのだろう。
この"個性"は"ストックした力を別の人間に継承させ、更にその人間が力をストックしてまた別の人間に譲渡する"というものだ。
これを繰り返すことで"個性"と継承した人間を強化していく。その性質上、"個性"は世代を重ねる毎に強力になっていくのだ。
しかし、後継者?
今このタイミングで、ということは、まさか。
「こちらの少年がそうなのですか?」
「その通りさ! HAHAHA! 彼になら渡しても良いと思ったのさ!」
私の預かり知らない所で会っていれば別だが、マスターとこの少年は初対面の筈だ。
しかし、
心というものを心理学や認知・行動学に基づいたデータでしか判断できない私では、理解できないことが多いのだろう。
「なるほど、おめでとうございます。しかし、その
「すまない、私とした……コフッ!」
吐血したマスターの血を拭き取ろうとしたが、手で止められた。
マスターは手で血を拭いながら"個性"や後継者を探していた事を説明した。
そして、それを聞いた上で少年、緑谷出久様は即答した。
「お願いします!」
◆
その日の夜、夕ご飯の支度をしているとスマホをいじっているマスターから話しかけられた。
「そうだ。君の雄英入学が正式に決まったよ。」
雄英高校。
ヒーロー科の最難関として知られている、超難関校だ。
高校に私が入学させようとオールマイトを筆頭に一部の公安職員が動いていた。マスターの元に来て2年。私の性能は勿論のこと安全性は十分に確認されている。ならば、次は協調性、対人におけるコミュニケーション能力だ。それを測るために、雄英高校に入学させられる。
いわば試験だ。落ちれば私は破棄されるか、データを一度消されてAIの、調整が行われる。
しかし、全て合格したらどうするのかは分からない。
量産体制に移るのだろうか?
「私としては通常の高校でも良かったのだが、君はサポートアイテムだということで、
「了解です。」
マスターの仕事を手助けするのが私の仕事だ。教鞭をとる彼の手伝いができるのならば、願ってもない。
そう言えば、今日出会った緑谷様も雄英志望らしい。もし受かれば同級生となる。後継者を育てるというマスターの責務も助けられる。
そんな話をしていると夕飯が完成した。
「どうぞ、マスター。今日の晩ご飯です。本日はご無理をされていたようなので消化に良いものにしました。」
「ありがとう。……………これは?」
「白粥です。減塩としてお水とお米だけで作りました。」
「…………本当に今日は申し訳なかった。」
サボって、置いてって、吹き飛ばして、と、マスターは頭を下げた。
「何を謝っているのですか? 私は怒ってなんて居ません。」
怒る機能なんてないもん。
主人公の武装
飛行ユニット
人間でいう肩甲骨の中央あたりから腰にかけてに存在するハッチを開くことで使用可能。
この性質上、使うたびに衣服が破けてしまうため、戦闘時は専用の服を着ている。また、内部が剥き出しになるため、防御力が落ちる。
ビームライフル
右腕に内蔵された銃。高威力のビームを出すことができる。
連写性能に難があるが、威力、射程、命中度はかなり高い。
また、チャージすることで威力を上げられる。ビーム以外にも実弾、ゴム弾、など、も射出可能。
使用時は右肘を逆向きに曲げることにより前腕を退けて取り出す。
エネルギーシールド
両腕と両足から生み出すことができる。
上記のビームライフルで発射するビームと同質のエネルギーで生み出すバリア。身を守る以外にも拳に纏わせてメリケンサックのように使用することもできる。
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3話
すいません
私の異能は(ラジコンなど操作可能なものに限り)機械を遠隔で操作することができた。また、カメラなどの各種センサーの情報を受信することも可能だった。
回線を繋げる為には一度、触れなくてはいけないが、一度回線が繋がれば距離など関係なく操作可能だ。
この異能を使いカメラを取り付けたドローンで様々な場所を回った。カメラだけでなく熱センサー、光センサーなど各種センサーを積めば、まるで、私自身がその場にいるかのように感じられた。
はじめて感じる外の世界は、とても、美しかった。
◆
———システムスキャン開始
———オールグリーン
———バッテリー残量 98%
———起動
午前4時30分。
充電カプセルの扉が開いた。
私には睡眠は必要は無い(そもそも、睡眠という機能はない)が、充電は必要だ。0%からだとフル充電までおよそ8時間かかってしまう。そのため、毎晩の充電が欠せない。
いつものように、メイド服を着て朝食を用意する。
本日はマスターの後継者である緑谷様の初の特訓だ。
マスターの"個性"、
例えば受け継いだとして、
そのため、受け継ぐ前の特訓は大切だという。
「おはようございます、マスター」
「おはよう」
マスターに挨拶をするが、いつもよりも少し元気がない。というよりも眠そうだ。
それもそうだ。いつもなら寝ている時間だ。例えNo. 1ヒーローでも体内時計には逆らえない。
「マスター。緑谷様のトレーニングメニューをまとめておきました。」
昨日、1日かけて制作した緑谷様のトレーニングメニューだ。彼の受験勉強の兼ね合いも含めてかなり精密に作った。
しかし、やはり手書きだと見づらいし、タイムスケジュールも曜日ごとに異なり、日のスケジュールの他に週・月毎での目標も定めてある。
そのため、少しでも見やすいようにまとめ直し、
「ありがとう。………なんだか、朝早いと食欲が湧かないよ。」
「しかし、食べないといざというとき力が出ませんよ?」
「それもそうだけど……。」
「それに、これから毎日この時間ですよ。慣れて貰わないと困ります。」
マスターは師匠となったのだ。
朝に弱いなんて弟子に顔向けが出来ない。
そして、午前6時 海浜公園。
緑谷様はゴミ掃除をしていた。
(先日連絡を取った業者によると、自分たちで会社まで持って行けば、いつでもゴミを引き取ってくれるとのことだ)
これは身体を作るためのもの、つまりは筋トレだ。
また、ただの筋トレではなくて手足に合計で重さ10キロの重りをつけている。これから、少しずつ重くしていく予定だ。
正直、雄英の入試までにヒーローとしての肉体を作るのはほぼ不可能である。そのため、それを可能とするための特訓メニューは、めちゃくちゃキツい。下手したら過労で身体を壊す。それを防ぐためには、寝る時間も食べるものも含めて生活全てを決めている。
正しく休まなくては本当に命に関わる、そのレベルでこの訓練はキツい。
「緑谷様。腰を入れてください。その押し方では腰に負担がかかります。」
「あ、はい。」
歯を食いしばり、必死に冷蔵庫を引っ張る緑谷様はもはや今にも死にそうだ。彼はおそらく平凡だ。筋トレもそんなにしたことがないだろう。そんな肉体にいきなりハードな事をさせたら、悲鳴を上げるに決まっている。
しかし、彼には少しずつ身体をハードな訓練に慣らしていく時間なんてない。無茶でもやり切って貰わないと困る。
いわば、このトレーニングこそが
「緑谷様、次はあのタイヤを運んでください。」
ここの公園に捨ててあるゴミは全て把握している。そこからどれを運べば効率的に鍛えられるかを計算する。
しかし、思った以上に緑谷様は動けている。肉体は平凡で、既に限界を超えているはずだ。おそらく、コレがマスターが彼に見出したものなのだろうか?
「遅い! もっと速く!」
「は、はい!」
緑谷様を後ろから追い、ゲキを飛ばす。よろよろな足は必死に前に進もうとしているが、それでも全然前に進めていない。
そして、ついに何も無いところで躓いて、タイヤに潰されるように倒れてしまった。
「緑谷少年!大丈夫か?!」
「お、オールマイト……。」
緑谷様は潰れたカエルような声でマスターを呼んだ。しかし、見たところ大丈夫そうだ。試しに腕や足、腰などを触診してみるが、問題は無い。いや、疲労が溜り、健康上問題大有りだが想定の範囲内だ。
「ちょ、アンさん?」
「敬称は不要です。脈拍は早いようですが、問題ありません。運べるはずです。では、立ち上がってください。これくらいの特訓を乗り越えられないようでしたらヒーローにはなれませんよ?」
「は、はい。」
緑谷様はゆっくりと立ち上がった。もうフラフラだが、タイヤを担ぎ上げる。その様子にマスターは心配そうに見ていた。
「本当に大丈夫なんだよね?」
「はい、命に別状はありません。」
「大丈夫なんだよね!?」
当初、マスターが考えたプランは身体づくりに重きを置いたものだった。けれど、"個性"の使い方や、身体の使い方の訓練ももっと必要だと判断し、手直しを加えた。
しかし、
当初のものよりも緑谷様は強くなるだろう。しかし、辛さはマスターの草案の比ではない。
「はい、残り10ヶ月で器をつくり、"個性"を最低限扱えるようにするには、ギリギリまで詰め込んでも時間が足りません。」
扱えるようになるまで、どれくらいかかるのか、また、扱えるようにするにはどうしたら良いのか、未知数な事ばかりだ。
今は出来るだけ"個性"訓練の時間を取れるようにするしかない。
「"個性"の扱いか……。私ははじめから何となくで使えたからなぁ。」
「そうですね……。マスターは天才タイプですから……。それに、私の推測ですが、
当然、マスターの代と緑谷様の代では制御は緑谷様の方が難しい。
「緑谷様! 駆け足です!もっと! 走って!」
「緑谷少年! 頑張れ!」
そして、
———時刻 7時30分
「時間です。本日とゴミ掃除は終了です。手を止めてください。」
そう言うと、バタリ、と、緑谷様は仰向けに倒れた。
ゼェゼェと音を立てて呼吸をし、全身から汗が吹き出している。無理もない。
10キロの重さを背負った上で常に駆け足で移動していたのだ。
「お疲れ様です。早朝のトレーニングは終了です。」
「緑谷少年。大丈夫かい?」
「は、はい。な、なんとか……。」
こうして、緑谷様のトレーニングは始まった。
主なトレーニングはゴミ掃除だ。運ぶもの、運び方もそれぞれ指定してより効率的に身体に負荷を与えた。
私たちのいないところでも鍛えるように、学校の休み時間や、家にいる間のトレーニングも決めた。緑谷様はそれらも真面目にこなしているようで、着実に肉体は仕上がっていった。
その甲斐もあり、手足につけた重りは日を追うごとに重くして、夏休みに入る頃には50キロを超えていた。
悲しい事に、身体を鍛える毎に重りは重くしているため、彼自身は身体が鍛えられているという実感は薄いようだが、それはそれ、仕方がない事だ。
マスターは緑谷様を次の象徴にしようとしている。象徴とは、最高のヒーロー、人々に絶対の安心を与える存在だ。人の心のことはよく分からない私だが、戦闘における強さだけで成り立つものではないことは知っている。
だが、それでも強さは必須だ。
マスターを補佐するのが私の務め。
彼が
それが、後継を育てたいと考えているマスターのために出来る唯一のことだ。
「緑谷様、まだパンチを意識しすぎです。攻撃は全身で行うのです。」
そして、8月某日、私と緑谷様は海浜公園で組み手をしていた。(マスターはテレビの仕事に行っている。)
お互いに武器を持たず素手での戦いだ。私の出せる力は平時の時のものだが、それても、まだ、負ける気はしない。
彼の戦いかたはマスターを彷彿させる。決めはパンチにしがちで、蹴りは殆どしてこない。
夏休みに入ってから、蹴りやパンチ、攻撃の避け方防ぎ方などを基礎から教えてきたが、それらをマスターへの憧れが強すぎる故に生かし切れていない。
「ハッ」
掛け声と共に、言ったそばからパンチを仕掛けてくる。それを寸前でかわして、出久の足に私の足を引っ掛けて転ばせる。
緑谷様は前に倒れ込んでしまったが両手をついて受け身をとった。
「夏休み中に、
憧れが足を引っ張る。
私には誰かに憧れる、という想いは分からない。
しかし、原動力にもなれば足枷にもなる。とても不思議だ。
「緑谷様、少し休憩にしましょう。」
「あ、はい。」
夏、ということもあり日差しが強いため、ゴミ掃除で開いたスペースにパラソルを建てている。
緑谷様は疲れた身体を引きずるようにパラソルの下まで移動し、折畳式の椅子に座った。そして、クーラーボックスからペットボトルを取り出して一気に飲んだ。
その後、息を整えてから口を開いた。
「アンさんはロボット、なんですよね?」
「……敬称・敬語は不要です。質問の答えですが、はい、私は人工知能搭載人形汎用サポートアイテム、つまるところ、ロボット、アンドロイド、もしくはヒューマノイドと呼ばれる存在です。それが、どうしたのですか?」
しかし、4ヶ月もの間毎日のように顔を合わせていたのだから、今更、そのようなことを確認する必要はないと思う。
「いえ、ロボットに見えない、と思いまして……。アンさ……。あ、アンは、人間にしか見えない、から。」
「確かに、そうですね。人型、しかも少女型にした理由は不明ですが、救助活動には有益ですよ。コテコテのロボットよりも人型の方が助けられる人は安心するらしいです。私としてはもっと戦闘に特化した形態の方が好ましいのですが……。」
私の設計者は誰だか分かっていない。
マスターによれば私はとある研究室に保管されていたらしい。私の記録は破損が多く、マスターが起動する以前のことはほとんど覚えていなかった。そのため、私の出自も含めて不明な箇所が多く、このデザインになったことも、作られた目的も分からない。
私がマスターのサポートアイテムとして試験されていた理由はここにあるのだろう。
「戦闘に特化?」
「はい、もっと大きくて強ければマスターにもお役に立てたと思うんです。そうですね、大きさはビルくらいが良いです。普段はマイトタワーの地下に格納されてて有事の際は、サイレンと共に道路が割れて出撃、とかが良いです。形は、4本脚の巨大な蜘蛛みたいなフォルムで、膨大な質量にモノを言わせた破壊力、全方位に対応可能な迎撃システムや、遠距離砲撃、さらに近づいてきた敵を薙ぎ払える広範囲の火炎放射器、各種毒ガス、雨のように周囲に降らす爆弾。広範囲殲滅機こそが、戦闘用ロボットの花形だと思うんです。移動する災害、そんな異名が欲しいです。」
「な、なるほど……?」
「よかった。マスターとは違い、緑谷様は理解してくれたようです。マスターに同じ話をして改良を打診した際、かなり強めに止められてしまいまして……。」
今度、緑谷様にマスターの説得をお願いしてみよう。もしかしたら許してもらえるかもしれない。
「はは、そ、それは、まあ……。そうだと思うよ。」
なんだろう。よく分からない反応だ。
言葉の裏はそれなりに読めるが、この反応はよく分からなかった。
それはともかくとして、そんな話をしていると設定した休憩の時間は終わった。
「では、組み手を再開させましょう。」
「はい。」
一定の距離を取る。
私の合図で緑谷様は、攻撃を仕掛けてくるだろう。だんだんと成長してきているため、直線的なものだけでなく、変則的な攻撃も含まれているはずだ。
「では、戦闘準備に入ります。」
姿勢を低くする。
日本の夏は暑いため、身体の中に熱が篭る。そのため、頸や、横腹についた排熱機から熱風を放出する。それに伴いメイド服(季節関係なく同じ服)のスカートが靡く。
「あ、あの。戦闘訓練って今は分かるんですが、その、オールマイトと同じ力が手に入るなら、力だけでどうにかなると思うんだ。いや、その、意味が無いとかじゃなくて、その、力を引き出すための、身体作りの方を重点にやった方が……。」
なるほど、その話には一理ある。
マスターも基本はともかくとして、格闘技術は無いに等しい。というか、使う場面が無いだろう。
しかし、それはマスターにとって一番な弱点である。
「確かに、そうですね。
私の質問に対して、緑谷様は一瞬驚きの表情を浮かべた。
それもそのはずだ、オールマイトは史上最強のヒーローだ。勝てるヒーローがいると言われてもピンとこないだろう。
しかし、緑谷様はぶつぶつと何かを呟いたあと、すぐに思い浮かんだようだ。
彼は頭が良いのだろう。
「そうか、抹消ヒーロー、イレイザーヘッド。
「はい、ただの筋肉です。
マスターの戦闘は"個性"だよりなところが大きい。お互いに肉体ひとつの戦闘となった場合、勝ち目は薄いでしょう。
また、
そこまで言うと、緑谷様も構えた。
「………分かりました。よろしくお願いします!」
こうして、緑谷様との特訓は続いた。
組み手、ゴミ掃除、走り込み。
途中、オーバーワークなど、事件は起きたが、着実に緑谷様は成長していった。
そして、海浜公園のゴミを半分ほど片付けた12月、ついに緑谷様へ"個性"が継承されることになった。
相澤先生の"個性"はある意味最強だと思います、
冷却用のファン
アンは身体の中に熱が篭る。そのため、頸や、横腹についた排熱機から熱風を放出する。それに伴いメイド服のスカートが靡く。
まるで、気的なものが出てる感じになる。
奇しくも
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4話
理由は後書きにて
2月中旬、雄英高校入試1週間前となった。
12月にマスターから緑谷様へ
しかし、それはあくまでも、壊れないだけだ。戦闘に使えるようなものではない。相手によっては"固定砲"として、使えるとは思うが、それでもまだまだだ。
増強系の恐ろしいところは、人間の身体能力を全て上げる事にある。破壊力、移動能力、回避力、それら全てを持続的に強化する事による汎用性の高さだ。
けれども、緑谷様はそれを生かし切れていない。
彼は"個性"というものに慣れていないからなのか、技として使用しているのだ。
回避、攻撃、など、その都度一つの動作を強化している。そのため、発動するという工程で遅れが出るし、咄嗟の動きに対応できない。
そして1番の問題が、発動する溜めや動きで、その後の行動や組み立てが予測できてしまうことだ。
おそらく指摘すれば、彼のことだ、すぐに修正するだろう。
しかし
『緑谷少年にはあまり答えをあげないで欲しい。相談されても、ヒントに留めてくれないか? 自分で考えることに意味があると思うんだ。』
マスターはそう言っていた。
そのため、出来ることはただ、彼が考えられる土俵を作ることだけだ。
いつもの海浜公園で、いつも通りに組み手をする。
マスターは雄英の入試関連の仕事が忙しいため来ていないが、基本的にいつも通りだ。
以前と違うのは、私の出せる出力がマスターの権限で上昇していることと、緑谷様が"個性"を使用していることだ。
現状、一瞬だけの使用ならば彼の身体は約15%の出力まで耐えられる。しかし、戦闘中、狙って決まった出力を出すことはいまだに出来ない。
戦いながらでは、だいたい2から5%ほど、ズレてしまう。
そのため、安全に出せるの最高で10%までだ。
「スマッシュ!」
緑谷様は拳を振りかぶる。
10%から13%ほどの出力だろう。
おそらく、10%狙いの現状本気の一撃だ。
本来の出力の10分の1だが、それでも直撃を受ければ、いくら私でも、それなりのダメージを受けてしまう。
けど、そんな心配はない。
"個性"の発動時に緑谷様は一瞬の隙が生まれる。さらに、発動中は正拳突きや、回し蹴り、など、単純な動作しか出来ない。複雑な動きだと制御が出来ないのだ。
いくら威力は必殺でも、トップなくても、経験を積んだヒーローならばかわすのは容易だ。
———ブーストステップ
右足で地面を蹴ると同時に、人でいう
先ほどまで約2メートル離れていた緑谷様との距離をゼロにまで持っていく。その瞬間、私の背中に緑谷様の突きが起こした風圧が伝わってくる。
「緑谷様、格闘においてゼロ距離というのはほぼ何も出来ない状態です。」
「———-っ!」
絞め技を放つ場合や、
それは、
肘打ち、膝蹴り、頭突き、全ての攻撃を形になる前に押し留める。
マスター並みの"個性"の出力が有れば別だが、高くても15%に満たない、今の緑谷様ならば、攻撃の形にさえしなければ押さえ込むのは容易い。
「スマッシュ!」
緑谷様は
しかし、肩を掴み動きを止めて、足を払う。そして、そのまま背後に回り裸絞めをかける。けれども、完全には技を決めずに形だけで留める。
激しく動いたためなのか、緑谷様の心拍は異様に早く、体温も高い。
「これで、終わりですね。少し休憩にしましょう。」
「は、はい。」
完全に落とさず、手を離すといつもどおりバタリと緑谷様は倒れた。
絞め技の影響ではなく、単に疲れからだろう。
既に緑谷様のつけている重りは合計で80キロだ。そんな重りを背負い動き回っていたのだから、倒れても仕方がないだろう。
というよりも、倒れるくらいを目安にしている。
息を整えた後に緑谷様はゆっくりと立ち上がった。
「どうしたのですか?」
「……そうか、間に合わないなら、はじめから……。そもそも、アンの力は常に人間離れしてる。それに対応するには僕自身……。冷静になってみればオールマイトも多分、常に……。制御は難しくなる……。身体はの負担も……。10%いや、5%以下ならもしかしたら?」
何やら、緑谷様はぶつぶつと言いながらいまだに残るゴミ山の方へ、向かい始めた。よく見る光景だ。
しかし、今は休憩時間だ。
「緑谷様、休憩時間です。」
声をかけても反応せず。残り少なくなったごみ山の前に立った。
それだけ集中しているのだろう。何かに深く集中出来るのは彼の長所だが、自分の世界に入るのは短所だ。
将来的に無視をされたと思い不快な思いをする人も出てくるかもしれない。私には不快に思うなんて感情はないから問題ないが、将来が不安だ。
「———ワン・ファー・オール」
そのまま緑谷様は私を無視して"個性"を発動した。
しかし、普段と異なり全身全ての強化だ。目算にして出力は2%以下だ。
全身を均等に強化できている訳ではないので、部位によっては
しかし、これで戦闘での"個性"を発動する、という遅れを減らすことができる。
また、感覚的な強化倍率はおそらく、出力のパーセンテージ以上に跳ね上がっているだろう。
もともと、一言に殴るという動作でも、腕や手だけの力ではなく、肩、腰、足、全身を使っている。
正確な倍率、出力はきちんと計算しないと分からないが、腕だけを高レベルに強化するよりも、全身を低レベルに強化する方が、最終的な威力は高くなる可能性もあるだろう。
それはそれとして
「緑谷様、休憩時間です。オーバーワークは身体を壊します。」
止めるべく緑谷様の肩を叩く。
私が声をかけたことに驚いたのか、緑谷様は"個性"の制御を誤ってしまった。
目算で30%ほどだ。
一瞬で、強化しただけで力を入れて動かした訳ではないが身体の許容を超えた出力。さらに、身体の1箇所だけではない。
激痛が全身を駆け巡っているだろう。
「———-っ!」
それにより、緑谷様は声にならない悲鳴をあげ、四つん這いに倒れた。
見たところ酷い怪我はしていない。
このまま放置しても問題はないだろうが、しばらく特訓は無理だろう。
「緑谷様、休憩時間はもう直ぐ終わりますが、延長しますか?」
私もしゃがみ四つん這いになっている緑谷様と視線を合わせると、彼はコクリと頷いた。
その後、緑谷様の特訓は順調に進み、雄英高校入試前日となった。
「緑谷少年、フルカウルにも慣れてきたみたいだね。」
マスターはフルカウル(全身を強化する状態の名称)でゴミ掃除をする緑谷様をみて言った。
マスターは今年から雄英の教員になる。今日は入試前日で、忙しいはずなのに無理やり時間を作って来たのだ。
「はい! まだ、"
長時間は2%、数十秒単位なら8%、一瞬なら10%、痛みを我慢すれば15%まで安全に上げられるようになっている。
緑谷様の制御能力では15%は少しでも制御を失敗すると、許容オーバーとなってしまう。落ち着いて集中できる状況だったり、サポートアイテムを使えば何の問題もなく使えるが、現状、実戦ではかなり限られた状態でなければ使えないだろう。
「では、緑谷少年。アンから最高で15%を使えると聞いた。どういう風に感じた?」
マスターによれば、15%を超えるとその力で空気を弾き遠距離攻撃が可能になるという。
「えっと、制御に集中しててあまり……。えっと、たしか、風圧が凄くて、土煙がいつも以上に起きてたと思います。」
「その通りだ! 緑谷少年。
その言葉に従い緑谷様は海の前に立った。
そして、右腕のみ力を発動させる。"個性"の出力はみるみるうちに上昇してジャスト15%となる。
戦いながらだとまだ、精密な制御は出来ないが、落ち着いて集中できれば問題ない。
「スマッシュ!!」
その叫びと共に緑谷様は拳で虚空を殴った。
その瞬間、空気が弾けた。
弾けた空気は弾丸のように飛び、水飛沫を起こした。
遠距離攻撃と考えると、威力としてはあまり大きくはない。
それどころか、近年の小学生の"個性"の方が強力な空気弾を飛ばせる場合もある。それくらいの威力しか出ていない。
しかし、それでも、出来ることが多いに決まっている。
「遠距離攻撃。今の緑谷少年だとあまり大きな威力は出ないが、それでも、使い方次第では武器になる。入試でも役に立つかもしれない。」
そう言われると緑谷様はギュッと拳を握った。
その拳は少し震えている。
「………はい、必ず受かってみせます。」
「HAHAHA! 硬いぞ、緑谷少年。緊張も大事だが、しすぎるのも良くない! そうだ、アン、10ヶ月前の写真を出してくれ」
「了解」
——-画像データ検索
——投影
まだ、少し残るゴミ山にある業務用冷蔵庫に左目を向ける。眼球をカメラから投影機能のあるものへと、グルリと切り替える。
そして、私たちと出会った頃の緑谷様の写真を業務用冷蔵庫へと投影する。
「ぷ、プロジェクター?!って、僕?」
緑谷様の叫びは無視してマスターは話を続ける。
「見たまえ、これが10ヶ月前の君だ。器を作るどころか、使いこなしてる。安心しなさい、君は強くなってる。」
「……はい!」
緑谷様は力強く頷いた。
しかし、それは間違いだ。いや、間違いではないかもしれないが、明らかに足りない。
マスターから緑谷様を任された以上、妥協は許されない。たとえ、マスターが満足するレベルであっても、緑谷様を強くしなくてはならない。
それが、オールマイトの後継者だと思う。
「いいえ! 緑谷様。マスター、受かるだけでは足りません。私の持てる力全てを使い教えたマスターの後継者です。入試トップで合格。それ以外、選択肢はありません。」
「と、トップ!?」
「って、アン、そんなプレッシャーをかけなくても……。」
プレッシャー。そうかもしれない。
だが、マスターは甘い。
マスターの後継者として恥のないヒーローにするには、トップで入学し、在学中の成績も全て1位を取るくらいでないといけない。
「No. 1たる、マスターの弟子ですよ。それくらいして貰わなければ困ります。」
それに、緑谷様は強くなっている。
限定的であまり使い物にはならないが遠距離攻撃が可能で、パワーもスピードもある。いうならば近距離よりの万能型だ。
索敵能力には難があるが、緑谷様の頭の回転の速さならばそれくらい補えるだろう。
それらを加味すると、彼ならば高校の入試くらいならばトップで通り抜けるだろう。
こうして、入試前日の特訓は終わった。
マスターは家へと帰らず、そのまま雄英へと出かけてしまった。どうにも書類仕事には慣れず、まだ残っているという。
普段ならば私がやってしまうのだが、雄英高校には仮にも生徒という立場に収まるため、高校の仕事は簡単には手伝えない。
入試当日も同じだ。
すでに入学の決まった生徒が入れるわけが無い。たとえ入れたとしても、見学なんて出来るわけがない。
推薦に受かった生徒が、一般受験に立ち会う。そんなことができるわけがない。
マスターのサポートアイテムとしても同様だ。
実技試験の映像はいわば採点基準。筆記試験でいうところ回答用紙みたいなものだ。教員が個人のスマホで試験の様子を撮影できないのと同じで私が閲覧できるわけがない。
ということは、私は緑谷様の実技試験の様子を見ることは一生叶わないのである。
どうでもいいですが、この物語で1番強化されるのはデクではございません。別のキャラが強化される予定です。お楽しみに
遅れた理由と言い訳。
元々、書いた話では、主人公がオールマイトに連れられてデクの入試を見学する内容でした。
しかし、書き上げた段階で、「あれ? 試験を見学するのおかしくね?」って、思ってしまいました。
(もともと、この主人公はほとんど裏口入学みたいなものなのは気にしない)
それが、気になってしまって慌てて書き直しました。
この回ではデクの現在の能力を示したかったので、こんな内容になってしまい、遅れてしまいまし。
すんません
番外編として三人称なり、デク目線なりなりでやっても良かったけど、これはあくまでも、アンとうロボットの物語なので端折ることにしました。
・ブーストステップ
アンの関節にはピストン運動が出来る機構が付いている部分がある。
そのため、瞬間的に素早く力を出すことが出来る
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5話
それはそうと、この作品では、デクが"個性"を継いだのは12月。
中学の授業がまだあったためなのか、爆豪はデクの"個性"が
世界を飛びまわる。
"異能"と呼ばれるこの力。
機械と繋がる力。
病弱で、部屋から出れなかった私にとって、とても喜ばしいことだった。
山、海、川、草原
ああ、私はなんて狭い世界に生きていたんだ!
これが本当の世界! 広い! 知らないことばかりだ!
太陽の暖かさも、水の冷たさも、地面の匂いも、今まで感じたことの無いものばかりだ!
父に頼んで作ってもらった、長距離ドローンを使い世界を飛び回った。
とても刺激的で、麻薬のように私を夢中にした。
◆
———システムスキャン開始
———オールグリーン
———バッテリー残量 100%
———起動
午前6時30分、
100%でも充電を続けるのはバッテリーに良く無いと思われがちだが、私は過充電にならないように作られているため問題ない
そもそも、私に使われているバッテリーは過充電による劣化は少ない。
過充電やメモリー効果、熱による摩耗、発火、発熱、など従来のバッテリーに存在していた問題はおおよそ無くなっている。
それでいて、世間一般的に使われているリチウムイオン以上の性能を持つという、画期的なものだ。
コストの問題でスマホには使われていないため、(エンジニア等を除き)世間での知名度は低いが、開発者はノーベル賞を取ったらしい。
それはともかくとして、本日は雄英高校の入学式だ。
問題なく緑谷様は合格した。入試の順位は公表されていないため、知るよしは無いが、聞いた話だと、おそらく一位だろうと推察できる。
ビルより大きなロボットを倒してしまうとは、流石は緑谷様だ。
また、学校が始まらと言うことで、緑谷様の早朝トレーニングは無くなった。しかし、まだまだマスターの後継者というには弱すぎる。
彼の訓練は終わらない。
学校の様子を見ながら放課後や休日、慣れてきてから早朝などの特訓をしていく予定だ。
マスターは教員としても、ヒーローとしても忙しいため、引き続き私がメインに指導することになる。
さて、朝食を食べ終え、マスターの車で雄英へと向かう。
マスターの足なら一瞬だが、それだと私がついていけないため、車通勤となった。私なんて置いていっても良いのだが、健康面を考えるとマッスルフォームでいる時間は減らした方がいいのは確かだ。
「……………。」
「……………。」
車内は特に会話がなく、FMラジオがbgmとして私から流れている。
どういうタイミングなのか、屋久杉の特集が始まった。
おや、電波の調子が悪い。
マスターは屋久杉が好きなのだが、電波が悪いのだから仕方がない。
そんなおりにマスターは口を開いた。
「……アン、いや、制服なのは仕方がないこと、それに、その服もなかなかに似合っているぞ! 青春ってやつだ!」
マスターはトゥルーフォームで車を運転しながら言った。
現在、私は雄英高校の制服を着ている。
別にこれがどうということではないが、マスターが渡し忘れていたため、この制服は今朝いただいた。てっきり、制服が手元に来ないので。メイド服で通えるものと考えていた。
まさか、マスターの
「いえ、青春というものは人の青年時代を指す言葉です。私には相応しくありません。」
「……渡し忘れていたのは悪かった。だから、その、機嫌直して?」
「? 機嫌を直すというのはよくわかりません。私にはそのような機能はございません。」
「…………そうだ、雄英に入学にあたってコスチュームを新調しておいた。多少はデザインが変わっているが、アンが普段着ているメイド服を基にしているよ。」
マスターがそういうと、電波の調子が戻った。
屋久杉特集は幸いにもまだ続いていた。
しかし、コスチューム用のコスチュームという不思議なものだ。
スマホにも保護フィルムやカバーをつける。そう考えれば、あまり変なものではないのかもしれない。
「以前のものは、ヒーローコスチュームちっくなデザインでしたので普段着としては向きませんでしたが、メイド服風ならば普段着として活用できそうですね。」
以前のものは、背中が大きく開いた、競泳水着のようなものだった。ヒーローでいうならば、ミルコのものに近かった。
私の身体には様々なギミックが多い。それを阻害しないようにするには露出を増やすのが手っ取り早いため、そのようなデザインとなった。
しかし、余りにも日用の服とかけ離れ過ぎて、普段は着ることが出来ていなかった。そのせいで突発的な活動に支障をきたしていたが、メイド服ベースならば、改善できるだろう。
とはいっても、私は
「いや、メイド服も……。ゴホン、今の君は雄英の生徒だ。普段は制服での活動になると思うよ」
「……確かにそうですね。」
そのような話をしていると、雄英高校にたどり着いた。
門を潜るタイミングで、マスターはマッスルフォームとなった。
駐車場に車を止めて職員室に行くと、すでに数名の職員がいた。
———検索、
雄英高校のパンフレットにも載っていたが、そのほとんどが名高いヒーロー達だ。
しかし、雄英高校で教鞭を振るっていると聞いていたがイレイザーヘッド様がいないようだ。どうしたのだろうか?
それはともかくとして、マスターと共に雄英教師陣に挨拶をしたのち、A組へと通された。
教員であるマスターと共に来たため、生徒が登校してくる時間には早過ぎる。サポートアイテムとしてはマスターの仕事を手伝いたいが、立場上無理だ。
仕方がないので時間が来るまで待つことにする。
黒板には座席表が貼ってある。この時間にすでに貼ってあるということは、昨日のうちに準備していたのかもしれない。
かなり、準備の良い先生なのだろう。
座席だが廊下側から出席番号順のようだが、私は窓側の1番後ろ。八百万百という生徒の後ろだ。
私は雄英高校の正式な生徒ではないため、通常の生徒達の次、という判断なのだろう。
とりあえず、席に座り、一部のセンサーを残してスリープモードに入ることにした。
——-熱源探知、
———スリープモード解除、
前の席に女子生徒が座っていた。
座席表から、八百万百という女子生徒だろう。
周囲を見渡すとまだ、他の生徒は来ていない。
時刻は午前7時45分。
登校時間まで、後30分以上ある。
「あ、おはようございます。私は八百万百、と、申します。」
私が起きたことに気がついた、八百万様は身体をこちらに向けて自己紹介をした。
かなり礼儀正しい方のようだ。
八百万家といえば、かなりのお金持ちだ。
やはり、その手の作法などは一通り叩き込まれているのだろう。
「おはようございます。私は人工知能搭載人形汎用サポートアイテム。アン、と、お呼び下さい。八百万様」
そう言うと、八百万様は一瞬、驚いた顔をした後、小さく頷いた。
「貴女がそうなのですね。雄英からお話は伺っております。」
どうやら、私の存在はすでに生徒には伝わっているようだ。
私がそう納得していると、八百万様は言葉を続けた。
「本当にロボットなのですか? とてもそうは見えませんわ」
「はい、製作者の拘りを感じられます。肌の質感なども、人に近いものとなっています。触ってみます?」
どうしてここまで人型に近づけたのかは、謎だ。
浪漫や夢の話は私には理解できないので否定はしないが、機能性だけを突き詰めた場合。人型である必要性は低い。
人の形は意外にも、使い勝手が悪い。関節の稼働は全て回転運動で、敵と正面からぶつかった場合、向き合う面積が多い。
これらは、生物として仕方がないことだが、機械ならばそれらの多くのことを無視することができる。
「し、失礼します。」
右手を差し出すと、八百万様は包むように両手で触れた。
はじめは豆腐を触るようだったが、しばらくすると、ぷにぷにと手を揉み始めた。
「ほ、本当ですわ。人の肌と殆ど遜色ない……。本当は別の方がロボットだとおっしゃられても、違和感ありませんわ。」
「すいません。ここで機能の一部を見せたいところですが、教師の許可なしに使用することは禁止されていまして……。」
数分経つとポツポツと登校してきた。
8時15分を過ぎるとほとんどの生徒が登校してきた。
座席表に緑谷様の名前があったが、未だに来ていない。
彼は時間ギリギリに来る癖がある。直した方がいいと言っているのだが、なかなか直らない彼の数少ない短所だ。
「机に足を掛けるな!雄英の先輩方や机の製作者方に申し訳ないと思わないのか?!」
前の方の席で唐突に怒号が響いた。
見ると、眼鏡をかけた少年と、ヘドロ事件の被害者である爆豪様が言い争いをしていた。
爆豪様とは面と向かって会話した事は無いが、あの時の活動を警察へ報告する書類で彼の名前を知った。
こういう喧嘩も、青春というものの一幕かもしれない。
しかし、ヒーローの仕事の一環として街の治安維持も上げられる。つまり、喧嘩の仲裁なども仕事の一環だ。
「止めてきます。」
八百万様に一言添えてから立ち上がると、教室の扉が開いた。
見ると、緑谷様が登校してきた。一瞬だけ目が合うが彼はあからさまに、視線を逸らされた。
私はマスター、オールマイトのサポートアイテムである。
マスターと緑谷様の関係を
「あっ、君は………!」
眼鏡の少年は、爆豪様から離れて緑谷様の方へと向かってしまった。
勝手に喧嘩は収まった。
取り敢えず席に戻る。
八百万様もホッとしたの様子だ。
「よかった。けど、まるで
八百万様の言葉も最もだ。
彼がどのような人なのか私も知らないが、今のはまるでヒーローらしく無い。
しかし、
「以前、お会いしましたが、エンデヴァー様も……。」
そこまで言いかけて、斜め前に座る男子生徒がピクリと反応した。
確か名前は轟焦凍……。そうか、『轟』か、
「轟様、失礼しました。今の言葉は取り消します。」
席を立ち、斜め前に座る轟様に頭を下げた。
すると、彼はこちらに目線を向けた。
「—————-いや、いい。気にするな。」
轟様はそう言った。しかし、八百万様は何をやっているの分かっていない様子だ。それを察したのか、轟様は補足した。
「エンデヴァーは俺の父親だ。」
轟様がそう言った瞬間、教室に淡々とした声が響いた。
「担任の相澤消太だ。よろしくね」
イレイザーヘッド様だ。
彼は合理的な人だとは聞いていたが、寝袋で出勤とは合理的なのだろうか?
それはともかくとして、以前、共に仕事をしたことがあるが、彼はかなり優秀なヒーローだ。
マスターが、
「すでに通達は言っていると思うが、窓がの1番後ろに座っている女子生徒は、試験運転として雄英に通うことになったアンドロイドだ。
普段は他の生徒と同等に扱う。
そして、全員、今からこれを着てグラウンドへ出ろ。”個性把握テスト”を行う」
イレイザーヘッド様、相澤先生はそれだけ言うと教室から去っていった。
そして、数分後、グラウンドに集まった。
そこで相澤先生は、入学式もガイダンスもせずに"個性"把握テストを行うと言った。なんでもそんな行事はヒーローになる上で必要ないとのことだ。
そういえば、私の紹介もすごい適当だっだと思う。
それはそれとして、相澤先生は話を進めて行く。
「実技入試成績のトップは爆豪だったな。中学のときソフトボール投げ何メートルだった?」
「67m」
?
入試トップは、爆豪様?
緑谷様と目が合う。彼はカクカクと首を振っている。
学校に慣れるまでは特訓を減らそうと考えていたが、そんなことをしている余裕は無くなった。
早速今日から特訓を開始しよう。
メニューも変更だ、
とりあえず草案を彼にメールしておく。
「死ねぇぇえええ!」
756m。
緑谷様の出力ならこれ以上出せるだろう。
だが、能力とはそれだけでは無い。
きっと、彼には緑谷様以上の
「トータル最下位は除籍処分とする。無論、アン、お前も含めてだ。」
爆豪様の結果に盛り上がる生徒に対して、相澤先生は冷たくそう言い放った。
本当だろうか?
この学校のシステムは分からないが、こんな簡単に除籍なんてやって良いものなのだろうか?
———検索開始
法律関係のサイトで調べていると、淡々と"個性"把握テストが始まった。
緑谷様の"個性"は増強系だ。
体力テストには有利だ。前屈以外全てに対応できる。
最下位になる事は無いだろう。
冷たいようだが、私が優先できる存在には限度がある。
相澤先生の発言が本当だとしても、除籍は緑谷様でなければそれで良い。
・50m走
緑谷様の記録は3秒5
私は1秒25だった。
相澤先生の許可で飛行ユニットを使用しため、体操服が破けてしまった。
壊れたブラジャーをポケットにしまったところ、八百万様に怒られた。
今は仕方がないが、後で作ってくれるそうだ。
なんでも、彼女の"個性"は生物以外ならば作れるそうだ。
・握力測定
緑谷様の記録は1t。
私の記録も1tだった。
なんでも測定器のカンストらしい。
・立ち幅跳び
緑谷様は16メートル
私は(飛べるため)測定不能だ。
今回の緑谷様はかなりギリギリのコントロールをしていたようで、すでに足にガタが来ているようだ。50メートル走を張り切りすぎたのかもしれない。
・ハンドボール投げ
1人無限という記録を出した。
緑谷様は1012メートル
私は手の甲に収納されたドローンを使用したため、測定不能だった。
問題もなく、"個性"把握テストは終わった。
そして結果発表。
1位は私、
2位は八百万様だ。
3位は轟様
4位は緑谷様だった。
ダメだ。
マスターの後継者として、この結果はよろしくない。
もっと厳しくしなくては……。
そして、最下位は峰田実という男子生徒だった。
峰田様には悪いが、ここでは相澤先生がルールだ。
私には助けることができない。
「ちなみに除籍はウソな。君らの個性を最大限引き出す合理的虚偽」
その言葉に、生徒の数名から悲鳴のような声が上がった。
それに対して、一部からは「考えれば分かる」と、言っていた。
しかし、私の見通しが甘かった事が分かった。
緑谷様はまだまだ鍛え足りない。
これから、さらに力を入れて特訓しなくてはならない。
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6話
雄英高校ヒーロー科もあくまでも学校である。当然、学習指導要領に沿った通常授業も行われる。
この学校の教師はヒーローであるため、生徒たちは初めのうちは楽しそうであった。
しかし、どの授業も普通であった。
世の中にはアクティブラーニングなどを取り入れて、先進的な授業をする学校もある。学力をつける上では、(人により合う合わないがあるが)教科書通りな授業よりも効果はあるらしい。
しかし、悲しいことにヒーロー科にはそんな時間はない。
そんな、(学校の授業なんて受けたことがないが)普通すぎる授業を終えると、昼休みとなった。
緑谷様は飯田様、麗日様の3人で学食で昼食を取るようだ。
既に学食のメニューは全て頭の中に入っており、栄養素、カロリーの計算も完了されている。驚くことにここの学食の栄養のバランスは良く、よく生徒のことを考えられている。
流石はランチラッシュ様だ。
しかし、毎日同じものを食べるのも良くないので、何を食べるのかを日毎に予定表として決めておいた。
一方、私は食事は必要無い。
というよりも充電さえあれば休息も必要無いため昼休み自体が必要無ため、自分の席でスリープモードで待機だ。
「アンさん、午後からの授業の内容は聞いていますか?」
八百万様はふと、私に聞いた。
既に私が"オールマイトのサポートアイテム"であることは公表されているため、何か知っていると思ったのだろう。
「敬称は不要です。 マスターは授業内容は話してくれないため、分かりません。雄英高校に関しては生徒以上には知り得ないのです。しかし、先日から教育関係のハウツー本を買い漁っているようです。」
「は、ハウツー本ですか……? なんだか、イメージと違いますね……。」
イメージ。
確かにマスターは一般的には何でもできる超人、みたいに思われている。
しかし、彼はただの人だ。強力な"個性"は持っているが、それだけだ。
はじめてのことは緊張するし、出来ないことは多い。
「そうですか? マスターはあくまでもヒーロー。教師としては素人です。」
「た、確かに、そうですわね。私たちも、オールマイトがやりやすいようにしなければいけませんね………。」
八百万様は少し間を開けた後に、言いづらそうに口を開けた。
「も、もしよろしければ、オールマイトの私生活? のようなものを聞かせてもらえませんか?」
なるほど、
マスターはトップヒーロー。
全日本人の憧れの的、と、いっても過言では無い。
もはや、アイドルだ。
例え、緑谷様のような熱狂的なファンでなくても、公私の私の部分が気になるのは当然だとは思う。
「あ、それ、私も気になる。」
八百万様の発言に耳郎様が反応した。
それにつられて教室に残っていた複数名の生徒たちも集まってきた。
マスターの威光ならば当然だ。
その威光に惹かれた彼らの想いに応えるのも、サポートアイテムの仕事だ。
しかし、言っていいことと言ってはいけないこと、は当然存在する。
例えば女性関係だ。
"個性"云々の前にトップヒーローが熱愛なんて起きたら大変だ。
ただでさえ捲くのが難しい
また、住居や行動が特定されてしまうこともNGだ。
流石のマスターも息抜きもできない生活では精神的に参ってしまう。
さて、どうしたものか……。
……。
「マスターは、片付けがあまり上手ではありませんね。掃除中にアルバムとか見つけると見入ってしまいます。」
と、当たり障りのない回答しか出来なかった。
しかし、一つ答えると次々と質問は飛んでくる。
マスターの好きなもの、苦手なもの、恋人、戦い方、
それら全てに応えられる訳ではないが、出来るだけ答えていく。
そんな中、
「はいはい! スリーサイズ!」
峰田様は手を挙げて質問を投げてきた。
マスターのスリーサイズか、これならば公式で発表されているし、緑谷様なら年代別で即答してくるだろう。
「マスターのスリーサイズなら公式サイトでも……」
私が応えようとした瞬間、峰田様は鬼の形相となった。
「ちげーよ! アンのスリーサイズだよ!」
わ、私のスリーサイズ?
私のスリーサイズなんて聞いて何か特になるのだろうか?
しかし、聞かれてしまっては答えるしかない。
答えない理由がない。
「トップバストが……。」
「答える必要はありませんわ!」
八百万様に口を塞がれてしまった。
これでは、答える事はできない。
「そうだよ、アン。峰田、最低だね。」
「ケロ、最低よ峰田くん」
「最低だよ。」
「ええ、最低ですわ。」
上から耳郎様、蛙吹様、葉隠様、八百万様だ。
峰田様を見下ろす4人。
それに対して彼は地団駄を踏みながら叫ぶ。
「ああ、最低なのは分かってるさ!だが、それを超えてこそPlus Ultraだろ! お前ら男どもなら分かるだろ! スリーサイズもふめ、穴があるか………ぶへッ」
蛙吹様の舌が峰田様を吹き飛ばした。彼は掃除用具箱にぶつかり崩れ落ちた。
「…………反省は、しない………。」
…………………。
ちなみに私には穴は無い。
性行為は不可能だ。
私はセクサロイドでは無い。
「色欲の……獣」
「くっ、男として最低だぞ」
「馬鹿だ。」
「……うるせぇ」
常闇様、切島様、上鳴様、爆豪様(スマホを弄っている。)がそれぞれ声を上げた。
と、そんな感じに昼休みは終わり、ついにヒーロー基礎学の授業となった。
マスターの指示でA組の全員はコスチュームを着てグラウンドβに移動した。
私のコスチュームは、マスターの言う通りメイド服だった。
一見、半袖でミニスカートの普通のメイド服だが、通常のものとは異なる。
まず、スカートではなくパンツスカートだ。一見は股下10センチほどのミニスカートだが、下着が見えないように身体にフィットしたパンツが組み込まれている。
腰の部分は目立たないがメッシュとなっており、排熱の邪魔にならない。背中は大きく穴が開いており飛行ユニットを問題無く稼働できるようになっている。
あたりを見渡すとインゲニウムのようなコスチューム(飯田様だろうか?)や、露出の激しいコスチューム(八百万様だ)など、各々、
しかし、緑谷様のコスチュームは、他の生徒と比べて作りが粗い。おそらく、誰かの手作りだろう。
「ぬぉおお! おっぱい! パッツンスーツ!こっちはメイドロボだ! 最高かよ、ヒーロー科!」
叫び声が響いた。
その方向を見ると峰田様がぐっと拳を握りしめていた。
そんな茶番はさておき、マスターから今回の授業の説明が始まった。
今回は屋内対人戦闘訓練だ。
ヒーローチーム、
設定は
ヒーローチームの勝利条件は捕獲テープで
明らかにヒーローチームが不利だ。
それどころか、
また、チームはくじ引きで決める。
しかし、私がチームに入てしまったらバランスが壊れてしまうため、最後にマスターと一対一で行うとのことだ。
初戦は
ヒーローチーム、緑谷様、麗日様
初戦の4人を残して私たちはモニタールームで、観戦となった。
そして、戦闘訓練が始まる。
はじめに動いたのはヒーローチームだ。
2人は躊躇いなく正面から屋内に入っていった。
これは悪くないが、よろしくもない。
この訓練には制限時間がある。
仕方がない状況は除き、戦闘は出来るだけ不意打ち一撃必殺が良い。少なくとも戦闘に入るまでに核爆弾の位置を把握しておきたい。
索敵能力に欠けるこの2人の場合、どれも難しいことだが、工夫次第で会敵の確率は下げることは出来る。
この辺りの能力は雄英がこれから仕込んでくれるだろう。
対して
1人が遊撃、1人が守備。
悪くはない作戦だが、爆豪様にヒーローチームを見つけることができれば、の話だ。
しかし、緑谷様は隠れもせずに堂々と進んでいるため、容易に発見し、奇襲をかけた。
『死ねぇぇええ!』
とてもヒーローとは思えない声。
しかし、タイミングも角度も(年齢の割には)上出来だ。
アレをかわせる生徒は少ないだろう。
しかし、緑谷様は寸前の所でかわした。
違う、完全に見切った。ギリギリでかわして爆豪様の頬を殴り飛ばした。
目算にして2%に行くか行かないかだが、もろに受ければ大ダメージは間違いない。
しかし、緑谷様に今の奇襲を見てからカウンターを決める技量があるとは思えない。あの2人は幼馴染だ。爆豪様の考え方から奇襲をかけてくることを読んでいたのだろう。
『麗日さん! 先に行って!』
緑谷様はそう言いながら、"個性"を発動させた。
目算、3%でのフルカウルだ。
そのまま、爆豪様に向けて回し蹴りを放ち、爆豪様をさらに吹き飛ばした。
「容赦ねぇ……」
モニターを見ながら切島様は言った。
正義感溢れる子どもならば、そう見えるだろう。
だが、今のはヒーローとして正しい行為だ。
「いいえ、切島様。 一撃を与えた程度で攻撃を辞めてはいけません。相手が完全に再起不能になるまで手を止めない。ヒーローとして誰かを守るためには必要な行為です。それに、相手が体勢を崩してる隙に攻撃をするのは、戦いにおいては普通です。 見てください。」
モニターに映る爆豪様はかろうじて、緑谷様の蹴りを腕につけた籠手で受けていた。さらに、攻撃の威力よりも明らかに吹き飛んでいることから、彼の"個性"である爆破の反動で、自信を吹き飛ばす事でダメージを減らしたのだろう。
さきほどの、カウンターのダメージも少ないのも、同じように後ろに飛び、威力を殺したからだ。
『クソナードがぁああ!』
爆豪様は空中で身を翻し、爆破の"個性"で緑谷様に突撃した。
「なんだ、アレ、才能マンか!?」
上鳴様の声も頷ける。
凄いセンスだ。
咄嗟の判断。
反応速度。
その全てが、緑谷様を上回っている。
緑谷様は爆豪様に殴り掛かる。しかし、攻撃が当たる寸前に、爆豪様は緑谷様の眼前に爆破を発動させる。
目眩しも兼ねた一撃だ。
その反動で緑谷様の後ろに回り、爆破を放つ。
しかし、それくらいの攻撃、緑谷様も対応できる。
寸前の所で、緑谷様は一気に前方に飛び距離を開けた。
しかし、完全にかわせたわけではなく背中は少し焦げている。
『はっ、目覚めたばかりの割には動けてんじゃねぇか!! 』
爆豪様は
一方その頃、麗日様は5階の真ん中のフロアで核爆弾を見つけていた。
しかし、突撃はせずに隠れている。
いい判断だ。麗日様では、おそらく飯田様には勝てない。
彼はプロヒーローインゲニウムの弟。ヒーロー一家の末弟だ。
小さい頃から色々と仕込まれているはずだ。
この状況はヒーローチームには不利だ。
緑谷様と爆豪様の実力はほぼ互角で、おそらく、麗日様では飯田様には勝てない。
このままでは時間切れでヒーローチームは負けてしまう。
こればかりは
この状況をひっくり返すには、何か奇策のような小細工が必要だ。
だが、この土壇場で集中力を欠いた麗日様は見つかってしまった。
咄嗟に核爆弾の捕獲に入るが、飯田様の高速移動で爆弾を移動されてしまう。
飯田様は爆弾を抱えたままでも、麗日様を上回る移動ができる。
これで、麗日様は完全に戦力外となった。
緑谷様が爆豪様に勝てるかどうかが、勝負だ。
『くそ! かわすんじゃ、ねぇ!』
爆豪様の攻撃を緑谷様は全ていなす。
比べる相手が悪いが、緑谷様は私と特訓してきた。アレくらいの攻撃速度なら対応できる。
「凄い、あいつ入試一位と互角だ!」
誰かがそう言った。
だが、それだけだ。
このままでは時間制限で負ける。
しかし、おそらくだが緑谷様に策があるだろう。
だが、私の考えが正しければ、その策は愚作だ。
緑谷様は着実に、麗日様のいるフロアの真下まで移動してきている。
戦いながらの誘導は、本来かなり難しいのだが、どういうわけか頭に血が上っている爆豪様は簡単に引っかかっている。
おそらく、全神経を緑谷様を倒すことに向けており、チーム戦であることが抜け落ちているのだろう。
そして、ちょうど真下まで移動した直後、
『スマッシュ!』
緑谷様は頭上に向けて蹴りを放った。
目算で30%。
自傷覚悟の脚での一撃。
その風圧で爆豪様も緑谷様も吹き飛ばされた。さらに、天井を抜けて屋上まで、全ての天井・床を破壊した。
そして、その瓦礫を麗日様は、軽くした柱で打ち抜いた。
『流星ホームラン!!』
こうしてヒーローチームは勝った。
しかし、この雑な攻撃で核爆弾は爆発したかもしれない。
緑谷様の足は、歩けるだろうが、戦いは暫くは無理だろう。
試合だから許された反則だ。
緑谷様は強くなった。
だが、これからの成長に期待だ。
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