妹の性癖を俺だけが知っている。 (雨宮照)
しおりを挟む
プロローグ
こんなことを突然言い出せば、大抵の人に頭がおかしいと言われるのだろう。
しかし、今だけは言わせてくれ。
――俺は、妹の性癖を知っている。
いや待って、いなくならないで!
おかしなことを言っているのはよく分かってるんだ!
……そりゃあ、兄貴が妹の性癖を知ってるなんて、恐怖以外の何物でもないもんな。
俺だってそんなことは重々承知しているさ。
――でも俺は、妹の性癖を知っている。
ああ、だから待ってってば!
もう、我慢が出来ないのかな最近の若者は……。
え? 俺……?
十六歳だけど……って、待て待て、本を破くのは違うって!
若者が偉そうに説教したのはすまなかった。
素直に謝ろう。
でも、もう少し聞いていってほしい。
俺の――妹の性癖と向き合った、一ヶ月の話を。
*
妹、十五歳。
名前は、月宮小夜。
俺の一歳下の彼女は、可愛らしい見た目と朗らかな性格からみんなに好かれる人気者だ。
入学したときには、二年生の俺の耳にまでかわいい子がいるって噂が届いたくらい。
それに文武両道とあって、先生たちからも一目置かれる存在なのだ。
そんな彼女が、今日もまだ明るくならないうちから俺の部屋にやってきた。
「お兄ちゃん……あの、今日もちょっと付き合っていただけませんか……?」
遠回しな言い方で、外出に誘う小夜。
だが正直に言うと、俺は夜の寝つきがあまりいい方ではない。
本当はこんな時間に外出などしたくない。
部屋の時計を見ると、指し示すのは午前三時。
草木も眠っているのに、どうして俺は起き出さなくちゃいけないのか。
寝起きのぼーっとした頭にふと疑問が浮かぶ。
しかし、次の瞬間首を振るとすぐにその答えは導き出された!
もちろん、そんなのは決まっているだろう。
妹の、性癖のためだ!
「行くぞ小夜! 約束の地へ急ぐのだ!」
「は、はいお兄ちゃんっ! ありがとうございますっ!」
こうして俺たちは、連続三日目の夜の散歩へと繰り出していくのだった。
*
身支度をして、玄関をくぐる。
うーん、秋とはいえ随分寒いなぁ。
昼間はまだ暑くてギリ半袖で過ごせるくらいなんだけど、夜になるとそうはいかないみたいで、ドアを開けると既に吹いてきた風が頬に冷たい。
隣の小夜も靴ひもを結び直しながら少し寒そうにしている。
丁寧に靴ひもを結ぶ彼女を見ていると、上を向いた彼女と目が合った。
「ちょっと寒いですね」
「そうだな……上着持ってくか?」
うーん、と迷っている様子の小夜。
肌寒いなら素直に持っていけばいいのに。
そう思って俺は家に戻ろうとするが、小夜がそれを制止した。
「寒いなら、手をつなげばあったかいですよ。ほら、お兄ちゃん」
言って、笑顔で手を差し出してくる。
俺はその手を取ると、少しかがんで彼女の耳元に唇を近づけ、言った。
「小夜の手だから、あったかいな」
すると小夜は顔を真っ赤にして、俯いてしまった。
普段俺以外にはあまり見せないけど、この時の小夜は一番かわいい。
その表情も堪能すると、俺たちは目的地へと向かって歩き出した。
*
目的地に着くまで、俺たちは誰に見つかることもなかった。
さすが草木も眠る深夜ってとこか。
車は何度か通ったけれど、歩行者や自転車は全く見ていない。
「今日も、できそうですね」
小夜が、小さく笑って嬉しそうに微笑む。
彼女の性癖は他人に見られるとまずいから、喜んでいるのだろう。
かくいう俺も昨日は小夜の性癖が見られなくて肩を落としたんだ。
今日こそ喜んでる小夜が見られると思ったら、自然と笑みがこぼれていた。
辺りをもう一度見まわす。
よし……誰もいないな。
確認すると、俺は小夜へと合図を送る。
小夜もそれを見ると所定の位置にダッシュし、準備を始めた。
まず、靴下を脱いでベンチに置く。
次に、Tシャツ、そしてズボン。
どんどんと、身に着けているものが外されていく。
そして、パンツ、ブラジャー。
着ているものを、全部脱ぐ。
この時点で小夜は興奮でダルマみたいにまっかっかだ。
頬を紅潮させて、息を荒くしている。
「じゃあお兄ちゃん……いきますよっ!」
それから、全裸の小夜はダッシュする。
今いる目的地――公園の、砂場へと。
そして、砂の海に向かってそのままダイブ!
「うっひょ――――――っ! うぉんうぉん! ひゃぁぁぁぁぁっ!」
ごろごろごろごろごろごろごろごろ。
ごろごろごろごろごろごろごろごろ。
思う存分、ごろごろごろごろ。
気の向くままに、ごろごろごろごろ。
その控えめな胸も、小さくまとまった尻も、すべてをさらけ出して。
そして、すべてを硬い砂にこすりつけて。
「どりゃっふぅ――――――――! 気もっちいい――――――!」
快感を得るために、ケモノへと還って行く。
人間としての尊厳を、振り払っていく。
「うなぁ――――――――! うっほ、うほ、うっほ――――――!」
俺はそんな妹の姿に――涙を、流す。
優等生の皮を被り、他人の顔色を窺い。
意識はせずともそうして生きてきた彼女は、息苦しかったのだろう。
窮屈だったのだろう。
そんな彼女が、今思いのままに転がっている。
砂の上で、ケモノのように転がっている。
その美しさに――――胸が、張り裂けてしまいそうだった。
目次 感想へのリンク しおりを挟む