魔法少女のマスコットみたいなのが異世界転移して悪の邪賢者に協力を求めたがダメ人間であった (バード鳥鳥)
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僕の名前は魔法少女見つけて平和を取り戻すくん! 略してマヘク! そんな僕が何の因果か異世界転移したから助けてよ!

 急にサブタイトルで話し始めた謎の兎みたいな狐みたいな犬みたいなキメラに俺はドン引きしてしまったので、掴んで窓の外から投げ捨てた。

 

「ふう、居てはいけないものを見てしまったが続きだ」

 

 そうして俺は晴れやかな空を見ながら、スカイブルーの水着をつけた金髪美女が胸を強調して俺を挑発して来るピンクの魔本を見直し始めた。

 だが、俺は知っているのだ。これはまだ中級魔本。上級ともなればこの水着の下が全て露わになる。それでも中級のものを俺ほどの男が見てしまう理由は1つ、あえてレベルの低い本を見ることにより上級をもしのぐカタルシスを覚えることを知っているからだ。

 

 と思ったがやはり駄目だ。上級に慣れてしまった今、中級程度を見ていると逆にこの先が見れないことに苛立ちを覚える! くそっ、この中級魔本に出ている子が上級魔本に出てくれれば何も解決するというのに……! あーくそっ! やっぱこの世界はクソだ!

 

「クソが! そもそもこの娘が本から具現化して俺の元に現れないのがよりクソだ! ふざけやがってー! 魔物は出来て美女が出来ないってのはどういう事なんだよぬががががぁー!

 何が魔法は邪法、聖法問わずピンク色の効果を使うものは自動的に純愛系以外中級以下のシーンまでしか行われず、使ったものは死ぬかもしれないだよ! ふざけやがってー!

 死ぬレベルの攻撃はアリでなんでピンク級のは禁止だ! おまけに純愛だけ許してるのがクソ確定だクソぁー!」

 

 怒りで俺は中級の魔本を地面に叩き――つけると変なシワ出来るかもしれんのでベッドの上に置いて、歴代魔王カタログ集とかいうオッサンしかいない本を叩きつけた。

 

「クソ、せめて美少女魔王だったらぁー!」

「うわあ、引くよ……初っ端からこの人クソクソ言ってる……」

「あぁぁぁんっ⁉」

 

 俺は怒りを覚えながら声のした方を見ると、そこにはさっき投げ捨てたキメラがいた。声も女性声優じゃない可愛い感じじゃないのでもうふざけてる。

 

「おい、なんだ貴様は。ここが魔王軍第34基地に存在する邪賢者の搭、その最上階と知ってのことか」

「ここ2階なのに最上階なんだ……塔というのはちょっとアレじゃあ……これ見た目だけ塔で入り組んだダンジョンとか無さそうだったし」

「伊里君なら1階にいるぞ」

「いや、知らないよ……伊里君のことは聞いてないよ……」

 

 ちなみに伊里君は今昼飯を食っているはずだ。

 

「で、二度に渡り俺の部屋に来るとは何奴だ。また投げ捨てるぞ魔法少女見つけて平和を取り戻すくん」

「やめてよ、戻ってくるの大変だったんだから……って言うかフルネーム止めよう、マヘクでいいよ」

「何故だ魔法少女見つけて平和を取り戻すくん」

「嫌だからだよ! こんな目的じみた名前! 第一呼びにくいでしょ!」

「いや、俺もっと長い呪文唱えるから苦にもならんぞ魔法少女見つけて平和を取り戻すくん」

「いいんだよ! マヘクって呼んでよ全く! サブタイトルで叫んだのは初対面だから話しただけで一生使わないでくれ! マヘマヘ!」

 

 怒った顔をして顔をそむけるキメラ。なんて注文の多いキメラだ……。無数の闇の刃で切り刻んでやろうかと思ったが、これ使うのは巨乳僧侶へと制約かけているからな……。

 ていうかマヘマヘってなんだ、キャラ付けっぽくて腹立つ。

 

「まあいいや、僕が君のような人類最底辺のゴミの前に来たのは理由があるんだよ」

「わかったぞ、この俺にケンカを売りに来たんだな?」

「ええー? そんな訳ないだろ? 怖いなあ」

 

 やれやれと言った顔をするクソキメラ。あんなこと言っといて違う……? なんだコイツ……。

 

「僕が来た理由は1つ。元の世界に戻してほしいのさ」

「……元の世界? よし、冥界へ屠ってやる」

 

 俺は両手に邪炎エネルギーを溜めていく。黒炎は格好いいのでガンガン使っていきたいのが俺である。

 

「違うよ⁉ どう見ても僕のような愛らしい存在が冥界出身の訳ないだろう!」

「いや、間違いなく幼稚園児が耳を掴んでボコりたくなるような風貌だよ貴様は」

「全然違うよ! 全く、可哀想なおっさんは発想まで可哀想すぎるよ……」

 

 よし、このキメラはこのまま燃やし尽くそう。黒炎での灼熱獄炎魔法をこんなキメラに使う羽目になるとは思わなかったがもう使ってやろう。

 

「僕の元の世界というのはね、現代さ。剣と魔法のファンタジーじゃなくて、ビルと科学と穢れた大人と腐った大人とゾンビみたいな大人と狂った大人と純真な子供たちが存在する現代」

「知らん。なんだそのヤバい世界は」

「違うよ、やばくなるのはこれからなんだ」

「もっとヤバくなるのか……」

 

 そろそろ手に溜めた黒炎が邪魔に感じて来たので俺は黒炎を消す。そんな混沌とした世界が元の世界とはこいつ、やっぱ冥府の存在では。

 

「そう、今元の世界では悪意が世界を包もうとしているんだ……それを倒すことが出来るのは、魔法少女だけなんだ。そして僕はその魔法少女を見つけて、ともに世界を平和にしないといけないんだ」

「つまり幼女に近づいて平和のためとそそのかし、合法的に一緒に風呂入ろうと考えているわけかこのロリキメラ」

「言い方最悪だねこの下種! そんないやらしい考えするわけないだろう!」

「嘘つけ、お前はそういう顔をしている」

「顔で判断しないでよ! 全く……!

 まあ、そういう訳だから早く僕を元の世界に戻してくれ。早く戻らないと現代に危機が陥るし間に合わなくなるんだ!」

 

 なんかキメラが熱量込めて俺にそう言ってくるが、

 

「いや、普通に嫌だが……」

 

 そう、心に全然響かなかった。そして何故か顎らしきものをしゃくれさせるアゴキメラ。

 

「俺は人間の敵側、魔王側の人間だぞ。なんで知らん世界とはいえ人間の味方になりそうなことしなければいけないんだよ」

「大丈夫! 送ってくれれるだけでいいんだ! 何も考えず元に戻して! ほら早く!」

 

 ヘイヘイ! とバスケットボールのパスを待つチームメンバーみたいな感じで煽ってくるキメラ。調子が良すぎるぞコイツ……!

 

「第一、なぜ俺だ。他にもいるだろ、魔導士は」

「いるけど、君ほどの魔力量を持っている人は少ないからね。僕の持つ魔法少女適正センサーはどうやら魔力量が高い人も分かるみたいでね、それで探したところ君が引っかかったんだ」

「成程。この俺を評価したのはキメラ畜生風情が生意気とも思えるが、俺の気分云々をともかく、大分難しいだろうな」

「ええっ、なんでだよ役立たず。じゃあ生きてても君しょうがないじゃないか……」

「邪剣、カオスイビル創現。食らい殺せ」

「ぎ、ぎゃああああ!!! 急にダメなおっさんが出した赤黒い剣からなんか目がついた触手みたいなのがいっぱい出てきて僕の皮膚を噛ん――喰らってるー!」

 

 こうして、キメラ畜生は死んだ。この俺の機嫌を損ねに損ねすぎたからだ。魔王軍の邪賢者の名は伊達ではない、俺は残虐な男なのだ。

 

 そして数分後。

 

「やめてよ! 死ぬかと思ったよ! 気持ちよかったけど死ぬかと思ったよ!」

 

 普通に蘇った……おまけに気持ちいいとか言ってやがる……。やっぱり冥府の怪物だコイツは……。

 

「急に気持ちよくするなんて全く……いいから難しい理由を話してよ」

「いや、それよりも逆に聞く。元の世界と言っていたが、お前はどうやってこの世界に来たんだ。それの逆をすれば戻れるだろ魔法少女見つけて平和を取り戻すくん」

「マヘク! それが僕にも分からなくてね、魔法少女のいる場所に飛ばされたと思ったらここに飛ばされたから多分送り先を創造主様がミスったんだろうね。あっ、創造主様ってだれだか分からないから聞いても無駄だよ」

「そうか。お前の創造主は雑な奴だな……ちなみに性別は美少女か? 美女か?」

「それ性別? まあ、それすらも分からないから聞いても無駄だってば」

「性癖はなんだ? BHWは? 恥ずかしいことはなんだ? セクシーポーズする時内心恥ずかしがってくれるか?」

「だから知らないってば! すごく聞いてくるねおっさん!」

「オッサンじゃあない、俺の名は邪賢者だ」

「それ職業じゃ」

「良いんだよ、こう名乗った方が正体不明の強キャラ感あるだろ」

「いや、妄想に怒りを馳せるオッサンを強キャラなんて嫌だよ……スケベおっさんでいいかな?」

「良い訳あるかこのロリキメラの魔法少女見つけて平和を取り戻すくんめが……!」

「マヘク! 最悪の混ぜ方したね妄想スケベおっさん! やめてよ!」

「じゃあお前も止めろや!」

 

 わかったよとしぶしぶ言うキメラ。流石冥府の怪物、自分の我を通すことに関しては他種族をも凌駕している気がする。

 

「ほら、早く難しい理由教えてよ邪賢者おっさん」

「簡単だ。次元跳躍術式なんて、世界最強クラスの大賢者でもない限り無理だ。出来るなら俺が次元跳躍でR18法の存在しない世界に跳んでピンクワールドを堪能している」

「なにR18法って……まあいいや。なるほどね、じゃあ大賢者に会うのはどうすればいいのかな?」

「知らん。知っているなら大賢者のところに行って土下座や靴を舐めてでも別世界に行ってハーレムを堪能している」

「うわあ、異世界に夢を見すぎている……」

「悪いかコラァァ!」

「ぐええええ! 首を、首を絞めてくる……! 嫌だ! やるならさっきの触手ちゃん、カオスイビルちゃんを出せせー!」

「何が出せせーだ! 誰が出すかぁー! 人のこと言えないなこの触手萌え淫獣キメラぁー!」

 

 俺はそのまま窓から触手萌えロリキメラをぶん投げた。次は筋力強化の魔法もかけて投げたので二度と会うことはないだろう。グッバイ。



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伊里君は栗ご飯が好きでね、毎回栗だけ器用に食べ終わった後に白米を食べていくんだ

「さあ、行くよ! 大賢者を探す大冒険の始まりさ!」

 

 ……また戻ってきた。おまけにケロっとしてるぞコイツ。

 

「ほら早く! おっさんも気持ち悪い不純な動機で探したいって言ってたんだからいいじゃないか! 僕の崇高で正しい理由とおっさんのモテない可哀想なおっさんの末路みたいな理由、どちらを叶えてくれるかは一目瞭然だけどさあ早く行こう!」

「お前は同行してもらいたいと思ってるくせにそういう言葉を吐くのはなぜだ? 冥府の怪物だからか?」

「だから冥界でも冥府でもないよ! 純真無垢な魔法少女のお供さ!」

「2010年代辺りの深夜アニメ系のだろうけどな」

「違うよ! 教育テレビ系の愛らしいお供だよ! 第一2010年代辺りの深夜アニメ系に偏見が過ぎるよ! マヘマヘ!」

「その怒るときにマヘマヘとか言うのやめろ、美少女に変身してから言え」

 

 それなら俺も許せる気がする。中身コイツだけどウザさは緩和されるだろう。

 

「出来ないよ全くおっさんはさぁ……。ていうか、アレアレ? 2010年代アニメを知っているってことは、おっさんは現代を知ってるのかい?」

「ああ、伊里君が教えてくれたからな。でもお前の知ってる現代は知らん」

「いや多分その伊里君が言ってた現代だよ!」

「いや、お前のいる現代はこう地面が紫色のヘドロで出来ていて、大人になるとゾンビになる奇病が蔓延し、血と肉が降りしきる悪夢の世界だろ」

「そんな訳ないよ! 大人に関してはそうなってほしいけど全然違うよもう!」

 

 なんだコイツの執拗な大人嫌いっぷりは……。魔王軍の人間嫌いを超えてるのでは……。

 

「でもそうか、伊里君は文字が漢字だから僕と同じくして異世界転移した人だったんだね! なっるほどー!」

「ああ、そう言っていたな」

「……そうだ! 伊里君に聞けば帰れるのじゃないかな! いいね、僕名案! ふふふ、これは魔法少女のお供になった時、有能扱い間違いなし!」

「いや、だから大賢者じゃないと無理って言っただろう。伊里君も女神には会えないって言ってたし帰らないんだよクソがって言ってたしな」

「ええー、じゃあ駄目そうじゃないか……しょぼんぼん」

「その愛らしさアピールみたいなのやめろ。ぼん1つ多くしただけで可愛くなる訳ないだろ淫獣キメラ」

「なるよ、おっさんには分からないだろうけどなるんだよ!」

 

 いや、絶対ならん。口をへの字にしてぴょんぴょん飛んで怒っているが、断言する。絶対ならん。

 

「……あっ、それともう1つ今ので気になったことがあるんだけど、女神ってなに?」

「ああ、伊里君を異世界に飛ばした女神のことか。それはあれだ、エメラルドグリーンの髪色をしていて巨乳で神秘的なヒラヒラとした服をつけた30代ぐらいの女性だ。結構丁寧な話し方をしているようだが、少し押せば俺に惚れるね間違いなく。いや惚れろ、スケベれ」

「いや外見は聞いてないしおっさんの聞きかじって想像した女神の妄想の姿はどうでもいいよ……なんだよスケベれって……どうでもよすぎるし気持ち悪いけど……」

 

 心底見下したような顔で言ってくるクソキメラ。クソがぁ……! 人間の女と同じ目で俺を見やがって……! 気持ち悪い連呼しすぎなんだよこのクソキメラ!

 

「で、その人もどこにいるか分からないの?」

「クソが! ――ああ、恐らく高次元の存在だろうからな。大賢者より会うのは難しいだろう」

「うわ、急にクソとか言ってきた。会えないって言ってたけど、伊里君はアレないの? ほら、女神さまから力を貰ってチートでワープ」

「ああ、何か転移した時に不思議な力を割り振れるウィンドウが宙に表示されたと言っていたな……」

「ヒュー! 異世界転移ヒュー!」

 

 なんかウザいテンションだなこのキメラ……。

 

「で、割り振ったステータスは」

「何だいなんだい! 次元転移? ワープ? チート移動系?」

「自宅力」

「――自宅力?」

「そうだ、そのステータスへ割り振ると自分の自宅を再現できるんだ。インターネットがかかせない伊里君は全ポイントを躊躇いなくそれに選択した。そして今も1階で自宅と同じ環境でインターネットにしている訳だ。

 ちなみに伊里君の元の世界から通販も来るらしい。俺も最近注文してもらおうと思ったが、一度でも18禁のものを履歴に入れたくないからちょっと……と言われて断られて激昂したが美少女アニメを今度見せてくれると言っていたから許した経緯もある」

「……ううん、なんか使えないなあ……あっ、僕をぬいぐるみとして元の世界へ送るって事は出来ないかな⁉」

「それは俺も以前考えたが、生ものはどうしてもダメらしい」

「ええー、ダメなんだ……伊里君の自宅大好きマンめ……もっとチートしてよ……」

 

 がっくりとした顔をするクソキメラ。こんなクソキメラにがっくしされる伊里君にちょっと同情する。

 

「じゃあやっぱり大賢者を探すしかないようだね……君のような邪賢者おっさんとか言う魔法少女と対極の存在のお供になるのは不本意極まりないけど、さあ行こう! 大冒険の始まりだよ!」

「断る」

「ええー……そんなこと言わず! 君のような邪賢者おっさんとか言う魔法少女と対極の存在のお供になるのは不本意極まりないけど、さあ行こう! 大冒険の始まりだよ!」

「だから断ると言ってるだろ」

「ええー……そんなこと言わず! 君のような邪賢者おっさんとか言う魔法少女と対極の存在のお供になるのは不本意極まりないけど、さあ行こう! 大冒険の始まりだよ!」

「却下だ」

「ええー……そんなこと言わず! 君のような邪賢者おっさんとか言う魔法少女と対極の存在のお供になるのは不本意極まりないけど、さあ行こう! 大冒険の始まりだよ!」

 

 こ、コイツ……RPGのキャラクターみたいにダメな選択肢を選ぶと無限ループするような感じで返答してきやがる!

 

「ダメだと言ってるだろ! 俺には行けない理由があるのだ……!」

「ええー……絶対どうでもいいよ。それより君のような邪賢者おっさんとか言う魔法少女と対極の存在のお供になるのは不本意極まりないけど、さあ行こう! 大冒険の始まりだよ!」

 

 俺の理由ですら聞こうとせずコイツ雑に返答して来る……。

 

「ええい、ダメだダメ! とっとと失せろ! 人間の魔導士とか賢者にでも頼め!」

「いや、おっさんじゃないとダメなんだよ! この世界のゴミ大人も僕をキメラとか魔物とか節穴極まりないこと言ってくるから、君のようなダメなおっさんでもお供としていないと疑われるんだ! 少女に近づこうとしたら燃やされそうになったし!」

「適切な対応だな……」

 

 やはり人間側もコイツをキメラと認識してるんだな……人間側の防衛意識を甘く見ていた。

 

「いいか! 俺は行かん! なぜかわかるか? ここに来る勇者どもを待ってるからだ……!」

「勇者……? ああ、王様の使いパシリね。あんなのいるわけないよ?」

 

 小馬鹿にした顔で言ってくるキメラ。コイツ魔法少女勧誘する立場のくせに勇者の存在をいないものとしてやがる……。だったら魔法少女なんていないだろと言いたいが小娘魔術師とかいるからこっちからは言い返せない……!

 

「いるんだよ! ボーイッシュな女勇者、清楚で巨乳な僧侶! 強気で細身な女格闘家! クールでナイスバディな賢者の4人パーティがいるんだよ!」

「いないよ……仮にいても冒険者風アイドルみたいなのしかいないよ……夢を見すぎだよ……」

「お前魔法少女勧誘する立場のくせに夢のない事しか言わないんだこのクソキメラ……!」

「魔法少女以外は全部妄想というのが僕の持論だから……」

 

 クソ偏向思考すぎるこのロリクソキメラ……。

 

「ええい、確かに勇者パーティについては妄想が入っている可能性も無きにしも非ずだが、勇者パーティは間違いなくいる……そして来る!」

「いつ? いつ届くのその荷物?」

「配達物扱いかお前……⁉ ええい、勇者の予定なんて俺が知るか! だが奴らは間違いなく来るんだよ! 魔王軍基地を潰しまわっているからな……!」

「気のせいだよ」

「いや気のせいじゃねえよ!」

「スケベで現実と妄想の区別がついてないんだね、可哀想なおっさんだなぁ……」

 

 ふうっ、と呆れた声を出すキメラ。この魔法少女捕まえることを目的にしてる名前の奴に言われると腹立たしさはどんな奴に言われるより怒りが溜まる……! タイトルとあらすじに俺がダメ人間とか書かれているがコイツの方がよっぽどダメではなかろうか……!

 

「……よーし、もういい、俺も大賢者を探して妄想を叶えたいと思ってはいたからな、行ってやってもいいだろう」

「はあ、やっと承諾したね? 全く、さっさとうんと頷けば時間を浪費することもなかったのになあ、あーあ」

「ただし、条件がある」

「条件? はいクリアー、目的達成ー。さあ、大冒険の始まりだよ! 行こうおっさん! ほら早くしなよゴミ!」

 

「凶刹斬風魔法、ブレイドエアトルネードォォォォッ!!!」

 

「ぎ、ギャアアアアアアアアッッッ!!!!」

 

 話も聞かずに進めた挙句、罵倒してきたクソキメラに対し、俺はついに堪忍袋の緒が切れたので魔法を撃ち放ち窓の外へぶっ飛ばしながらその全身をバラバラにしてやった。――どうせ蘇るな、アイツ。



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何がキメラだよ! どう見たって愛らしすぎる怪生物の僕に対して何たる言いざまだよあのゴミ大人たち! もう僕の口癖の1つがゴミなのは間違いなくアイツらのせい! 憎い!

 あのクソキメラを切り刻んで数分後。やはり何事もないかのように戻ってきた。興奮していたのが何か嫌だった。

 

 仕方ないので先ほど言いそびれた理由のため、俺は塔を出た。1階では伊里君がスマホゲーして一喜一憂していた。多分ガチャしていたのだろう。

 そんな伊里君を見ながら外に出て歩き始めると、クソキメラが俺の歩く反対方向へ耳を振った。

 

「おいおい、出口はアッチだよおっさん? 大冒険の始まりはアッチさ!」

「いやお前言っただろ、条件があるって」

「条件はクリアしたよ! さあ行こう!」

 

 こいつまだ言うか……!

 

「おい、いい加減にしろこの触手萌え淫獣。お前がその調子だと何も進まないんだよ……!」

「ええー、もう、人間の大人は面倒くさいなあ。子供はすぐ頷いてくれて扱いやすいのに……」

「コイツクソキメラすぎる……いや、魔獣としては正しく邪悪な思考だが……」

「魔獣じゃないよ! 失礼だな! マヘマヘ!」

 

 邪悪な思考っていうのは拒否しなかったなコイツ……。

 

「それで、じゃあその条件って言うのはなんなんだい?」

「それはだな……この基地の隊長に聞いてOKを貰ったらだ」

「えっ、意外と普通だ……スケベおっさんなのに……スケベスケベな条件にするかと思ってたよ……」

「お前が美少女か美女ならそれもありだったが、キモキメラ畜生じゃそんなの期待できないしな……」

「キモくないよ! 愛されお供枠ナンバー1だよ! 地獄の番犬みたいな名前のお供枠にだって負けないって!」

「いや、大敗するのは目に見えている」

 

 と言うと、怒るようにまたマヘマヘ! とか言う。口癖封じの魔法でも編み出すかそろそろ。

 

 そして基地へ向かう道すがら、ゴブリンやオーク、スライムにスケルトンたちにすれ違い挨拶する。

 今度飲み行こうだの、可愛い子見つかったかとか、そのキメラキモイなとか女騎士が最近俺に付きまとってくるとかキモさあふれるキメラだなとか、最近超可愛い僧侶ちゃん見つけて襲い掛かったけど殺されかかったとかいっていたので詳細に情報を聞くと、俺好みの水色髪ロングヘアー、気が弱そうだけど頑張り屋さんで巨乳というもう可愛いかわいい羨ましいからお前を俺が代わりに殺してやるオラぁとかしようとしたら周りに止められたとか、邪悪にキモイキメラ連れてるなとか言われつつ、俺は隊長の元へたどり着いた。

 

「憎しみ……憎しみで魔物を皆殺しにできればいいのに……大人の人間だけじゃない、魔物もやはり皆死ねばいい……この世界滅べ……子供以外塵も残らず滅べ……」

 

 そして当のキモキメラは呪詛を吐いていた。1話で俺が吐いた台詞なんて目じゃないほど世界に対して邪悪に呪詛を吐いていた。こいつのことを冥府の怪物なんて言っていたが、伝説の冥府の魔獣かもしれない。子供だけでこの世界生き延びろと言うのかコイツ。

 

「よく来たな邪賢者よ。ピンク色の魔本はアレしかないぞ――ん、なんだその極悪非道そうなキメラは」

 

 黒い甲冑とヘルム――えっと、西洋兜を纏う魔物、そしてこの基地の隊長であるアーマーナイトは魔物ながらもどこか気品を持った立ち振る舞いをしながら俺に問うてくる。こういうとこは女にモテているので嫌いである。

 

「見ての通り子供を食い物にする悪逆非道、冥府の怪物、無限に再生する人間に対する恐怖の権化、魔法少女を見つけて平和を取り戻すくんだ」

「マヘク! 全然違うよ! なんだいその凶悪の中の凶悪みたいな名称! いや最後は本名だけど!」

「そ、そうか……流石は邪賢者……いや、なんか趣味悪いぞ……ちょっとスカッとしないっていうか……子供だけ狙うのはちょっと……」

「まあ、俺もそう思う。でも、お前隊長として甘いんじゃあないかその考え、スカしやがって、このモテ野郎」

「も、モテ野郎⁉」

「もっとお前はこのクソロリ触手萌えキメラを見習い、悪逆非道の限りを尽くすべきではないかと言っているんだ。これだから魔王軍34基地は微妙とかいろんな基地で評価されてるんじゃないか……?」

「し、しかしそんな外道の極みみたいなキメラのような真似をするのは品位に欠ける気が……」

「品位? そんなものは魔王軍には不要だ、喜ぶのは人間どもと女どものみ。魔王様が望むのは勝利だけだ、女にええ恰好しいするのはもう止めろ。モテない道を歩むんだ。そこのクソキメラと同様にな」

「う、ううう……でもええ恰好しいしてるつもりないのに……」

 

 考え込むアーマーナイト。いいぞ、苦しめ。モテる奴は苦しめ。

 

「呪詛を吐け、もっとこのクソ変態キメラと同じく人を憎み正義を憎みすべてを憎むんだ……! この邪悪の権化のように……!」

「って、いやいやいやいや! 待ってよ! もうさっきから聞いてたら僕が外道魔道みたいな扱いされるの両者ともに完全に同意見みたいなの本当止めてよ! 僕魔法少女のお供だからね! 正義の権化、正義とともにありな、聖なる存在だから!」

「いや、それは嘘しかねぇな」

「ああ、それは嘘だろうな」

「ご、ゴミどもが……! 滅びろ……!」

 

 アーマーナイトに同意して頷く俺たちに呪詛をまた吐いてきた。その発言が邪悪側の生物だと何故この怪生物は気づかないのか……。

 

「ま、まあ考え方についてはまたいつか考えるとして……何の用があって来たのだ邪賢者」

「ああ、そういえばそっちが目的だったな。このクソキメラが大賢者を探したいというので、しばらく塔を留守にしていいかという相談だ。勇者が来る予定があるのに悪いとは思うが……」

「ああ、そういう相談か……まあいいぞ。勇者いつ来るかわからないしな……」

 

 あっさりと承諾してくれたアーマーナイト。いいのか。

 

「……意外だな、いいのか。俺がいないと勇者に勝てないかもしれないんだぞ」

「伊里君もいるし、まあなんとかなると思ってな」

「ああ、伊里君か……まあ、確かにそうだな」

「えっ、自宅力全振りの自宅転移者になんでこんな信頼感?」

 

 ロリキメラは疑問に思ってるが俺たちはそんな疑問は抱かない。伊里君の実力は十分に知っているしな。

 

「だが、不安なところもあるな」

「ん? 何が不安なんだ。このクソキメラが世界中の子供を魔法少女洗脳することか?」

「えっ、そのキメラそんなこと出来るのか。怖い……」

「出来ないよっ⁉ 捏造止めてよ! ちょっとたぶらかすことしかできないよ!」

「ええっ……魔法使わない分余計こわっ……」

 

 触手大好きキメラに引いてるアーマーナイト。やれやれ。

 

「何が怖いだ。これが真の邪悪な存在。お前が甘ちゃんだということだ」

「ぐっ……!」

「ぐっ、じゃないよ! だからその邪悪な扱いムーブ辞めてよゴミども! 地に埋もれ消えろ!」

「いちいちツッコミが怖っ、このキメラ……」

 

 完全に冥府の怪物に気おされるアーマーナイト。こんなロリキメラ程度に押されるとは甘ちゃんすぎるな……。

 

「余計不安が増えたぞ……いや、本当は旅の途中にお前が人間のカップルに出会った瞬間消し炭にしそうだなという不安があってな……お前元々人間なのに魔王軍側より殺意高いから……」

「いや、するよ。純愛ラストシューティングした、しそうな奴は皆殺すよ」

「駄目だろ⁉ いくら我々魔王軍が人間に悪意を持って戦うとしてもそんな浅い考えの殺し方は魔王様への品位に関わる!」

「そうだよ! 殺していいのは子を産んだゴミ大人だけだよ! 親のいない子供はつけこみやすいから!」

「それも駄目だ! このキメラ極悪すぎるな本当!」

「えっ、全然極悪じゃないよ! 普通だよ!」

 

 畜生キメラのその発言に、ええっ……と本気で引いてるアーマーナイト。でも俺も引いてる。いや外道とは思ってたがここまでとは……。

 

「……ひ、品位など殺戮は不要だ。それを分かれ隊長殿」

「いや、まあそうだが……いや、でもその理由で納得するのはちょっとアレか……いややっぱりそれは後で考える。ていうかお前もちょっと引いてるじゃないか邪賢者」

「いや、そんなことはない。で、そんな不安要素に対するなんらかの対策として俺に何かくれるというのか」

「察しが良いな。その通りだ。まあ、物というより同行者だが……来い、ゴーレム!」

 

 と言うと、ズシンズシンと足音が聞こえてくる。岩の魔物ゴーレムか、無駄無駄。そんなものは邪魔をすればぶっ壊しておくから無意味だというのにバカなアーマーナイト――。

 

「ただいま、到着しました、隊長」

「うむ、ありがとう」

 

 って、な、なにぃぃぃぃっ⁉

 

「お、おまっ、なっ……!」

 

 俺は驚きのあまり指を差す。白い髪に碧眼、可愛らしい顔、人型の見た目、そして似合いすぎるポニーテール。何せアーマーナイトが呼んだゴーレムは見まごうことなく、

 

 女、そのものだからだ。

 

 あまりの驚きに、俺は魔剣・デモンズイーターを創現し、クソキメラを四分割してしまった。



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こんなクソキメラが惨殺されるのがオチになるだけの物語に女の子キャラが出るとは……

「ははは、邪賢者が驚くのは珍しいな。まあ、驚くも無理はないな。彼女はハーフゴーレム――人間とゴーレムの子だからね」

「は、ハーフゴーレムっ⁉ いや、構造的にあり得ないだろう! ゴーレムに子は成せん!」

「うむ、そのはずなんだが、13年前ほどか、人間側の天才魔導士がゴーレムの子を産みたいということで、何かして産んだらしいのだ」

「天才ではなくもう変態だな……絶対スケベだ……間違いない……いやそうであれ」

「それは邪賢者も一緒なので、基本的なものかと思っていたのであまり驚かなかったな」

「ぬうっ……」

 

 自分でも少し自覚あるので少し言葉につまる。

 

「だが、その存在を人間たちは許さなかった。故に……」

 

「ちょっと待ってよ!」

 

 アーマーナイトが話していこうとしたとき、急にクソキメラが声を大にして割り込んできた。

 

「なんだクソキメラ、話の邪魔をするな」

「いやいやいや! 意味も分からずおっさんに殺されたんだけど! それを気にせず話を続けるなんて気が狂ってるとしか思えないよ!」

「お前に言われたくないんだが」

「なんで⁉」

 

 全然自覚ないとかやっぱヤバいなコイツ……。そして、なんか普通に蘇ってる。

 

「いや、てっきり気にしてはいけないと思って」

「普通気にするよ! おっさんはスケベおっさんだからしょうがないけど、君のような鎧マンは何か言ってくれると思ったのにこのザマさ!」

「鎧マン…………いや、ていうかあの魔剣で斬られて蘇ったこのキメラ……」

 

 困惑するアーマーナイト。いいぞ、もっと困惑しろ。なんかあのクソキメラをアイツの隣に一生置いておきたい気持ちになってきた。とか思うと俺の方へ振り向いて長い耳を人差し指っぽい形状に変形させて指を差すように向けてきた。きもっ!

 

「第一なんだよあの剣! いいじゃないか! 僕にカオスイビルちゃんを紹介してくれたくせに、まだあんないい子を隠し持っていたなんて……! 名前教えてよ! もっと僕をバラバラにしてって伝えて! 早く!」

「お前ほんと酷いな……存在が」

 

 行動以上に内心が気持ち悪いを超えておぞましいレベルになってやがる……。

 

「全然酷くないよ! 魔法少女がみんな僕を可愛いっていうぐらいファンシーだよ! ほら早く! 名前!」

 

「で、さっきお前が続けて言おうとしたことだが……」

「無視! このヤロー!」

 

 アーマーナイトと話しなおそうとした俺をボカボカ殴って来るクソキメラ。ノーダメ。無視。

 

「アレだろ、そのハーフゴーレムを魔王軍側に逃がし、人間の魔導士は逃げるときにスカートをヒラヒラさせつつこけた時にパンチラをし、切られた時に豊満な胸をはだけさせつつ、呼吸を荒く胸を上下に動かして殺され、親ゴーレムはその仇を討とうとして人間に討伐されたわけだろう? ……馬鹿な魔導士だ……」

「いや、その人間の魔導士が人間側を全員ぶん殴り説得したらしく、事なきを得たらしい。って女の魔導士に対して無駄に詳細だな邪賢者!」

 

「野蛮かその女……! 絶対胸が揺れてたな……!」

「ええーっ、大人ども全員皆殺しじゃないのかー」

 

「うわあ、二人ともろくでもないぞ……キメラはより酷い発言だ……」

「酷くないよ! あとずっと言わなかったけど、僕キメラじゃないからね! 全然違うよ愛らしさが! 本当大人どもは目が節穴オブ節穴! マヘマヘ!」

 

 またウザい怒り方をする畜生キメラ。さっきまで四足歩行だったのに2本の足で立って歯茎見せながらプンスカ怒り始めてる。もう魔法少女のマスコット枠無理だろコイツ。

 

「で、その子供がなぜここに」

「うん、まあなんやかんやあってその魔導士も邪賢者同様に魔王軍側に入ってな、いい年になったこのハーフゴーレムについては私に一任されたのだ。色々と経験を積ませてほしいとな。何故か色々とを二回念押しされたが……。

 まあ、そこで今、邪賢者が旅に出ると聞いていい機会と思ったのだ。まさに経験にもなるし、抑止力にもなってくれる、ピンと来たわけだ。破壊できないだろう、女の子は」

「……うぐぐっ……おのれアーマーナイト……!」

 

 ヘルムで隠れていても得意げな顔が見える……! おまけに体つきも俺の好みではないのがまた……! 白い髪に碧眼、褐色ポニーテールというのは好きなのに……!

 

「くそう、さっきの魔剣ちゃんに気を取られて気づかなかったけど、僕好みなのに魔法少女レーダーが反応しない……! したい、魔法少女にしてお供になって魔物と大人どもを抹殺したい……! 異世界だからセーフだし……!」

 

 そして思わぬところでも抑止力になっていたらしい。この短い間に凶暴性を隠さなくなってきたなコイツ……。

 

「という訳で私からの条件らしい条件と言えば、この子を連れて大賢者を探す旅をしてくれと言ったところだ。頼めるか?」

「……ふん、いいだろう。こんな半人半岩の美少女可愛い、岩の皮膚をした美少女もまんざら悪くないっていうかちょっとドキドキしてくる程度の同行、許してやると言うかありがとうございますアーマーナイト隊長」

「……そこまで気持ち悪いとちょっと同行させるのに不安だが、連れて行かせない方が不安だからよろしく頼むぞ」

 

 不安げに手を差し出すアーマーナイトの手を俺は両手でつかむ。どうやらピンク色展開はアウトらしいが、正直嬉しいこと限りないのは間違いない。このクソロリキメラとの二人旅だったらろくでもないこと間違いなかったからな。

 

「うっひょー! 来たぁー! やっぱスケベおっさんはキモイ! 気持ち悪いんだよねー! ヒュー!」

 

 こんなムカつくこと言うしな……!

 

「という訳だ。急で悪いが、邪賢者と危険キメラと旅に行ってくれ。両方とも災厄が具現化したようなものだからしっかりと見張ってくれ、本当に頼むぞ」

「承知しました、隊長」

 

 と言ってアーマーナイトに敬礼するハーフゴーレム。結構堅物そうだな。

 そして俺の方を向くハーフゴーレム。起伏はないスレンダーな身体だ。あと数年だな。

 

「よろしく、頼みます、邪賢者殿」

「おおっ、よ、よろしく」

 

 と言って、俺は右手を差し出す。

 

「あっ、邪賢者! それは――!」

「はい、よろしく」

 

 と言って俺の手を握り返すハーフゴーレ――って!

 

「アダダダダダダァァァァ! 骨がぁぁぁ!」

 

 バキバキバキバキっと、右手が全身骨折した音がぁぁぁ!!

 おまけにこのハーフゴーレム、掴んだまま離してくれねえ! 握力計る奴を握るようにめっちゃ握ってくるぅぅ!!

 

「すまん、言い忘れていた。ハーフゴーレムはゴーレム族同様物凄い怪力の持ち主なんだ、おまけに自我が薄いのでちゃんと言わないと放してくれないことが多い。まあ、その辺の感情も学んでほしく旅に同行させたいと思ったわけだが」

「り、理由語らず放させろ早く! 早くぅぅ!」

「うわあ、おっさんが苦しんでるの結構見苦しい……」

 

 こ、このキメラ野郎なんてこと言いやがる……! 絶対後で殺す……!

 

「あっ! は、ハーフゴーレム、放してやってくれ」

「はい」

 

 とアーマーナイトが言ってようやく手を放すハーフゴーレム。即回復魔法で粉砕骨折を回復させる俺。ゆ、融通が利かないにもほどがある……!

 

「だ、大丈夫か邪賢者……」

「……お前、今度ポイズンスライムをベッドにして眠らないと許さん……」

「いや、それは流石に勘弁してくれ……」

 

 ばつが悪そうにいうアーマーナイト。だが絶対それやらないと許さん……。

 

「やれやれ、ようやく茶番は終わったみたいだね! さあ、無駄な時間はもうおしまいさ! 僕のために大冒険へ出かけようじゃないか! うずくまってる場合じゃないよおっさん! もう! ゴミ!」

 

 それに比べコイツは……! 少し俺と同じ目に合わせないといけないな……!

 

「……おい、ハーフゴーレム」

「はい」

「アイツの頭を掴め」

「死ぬと思います」

「構わん」

「わかりました」

 

 と言って、スタスタとクソキメラの方へ歩いていくハーフゴーレム。

 

「ん? おやおや君は僕の愛らしさが分かるみたいだね! さあ、そんな君には頭をなでなでさせ――ってぎ、ギギャアアアアアアアっ! ず、頭蓋がへこむ! これなでなでじゃない! つ、つぶされ――!」

 

 そして、その場には少量の血の雨が降った。

 皮肉も、うわっ、と引くような声を上げたのは表情をうかがえないアーマーナイトだけだった。



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こう邪賢者的にはなー、もっとセクシーサキュバスとかウィザードエルフとか連れて行きたかったんだよなー。そしたら絶対R18だった。で、勇者倒して取り巻きに好かれハーレム。そんなR18が良かったのにクソが!

「ほら、大冒険だよ! 行くよおっさん! ハムちゃん!」

 

 第34基地から離れた俺たちは、現在近くの34番平原を歩いていた。風になびかれて草原があれだ、草原してる。

 そんな草原を、頭を潰されてもやはり平然と蘇る未確認生命体キメラは、その先陣に立ち意気揚々と駆けていた。猛獣に食われればいいのに。

 

「誰だハムちゃんって。キメラ仲間か、お前の邪悪な意思が呼び出した冥府の生命体の名前か」

 

 食べ物のハムに目や口がついて宙に浮いてるような感じだろうか。いや、コイツの仲間ならそんな浅い存在ではないだろう、もっとグログロしい感じのはず。

 

「違うよ! なんだよ邪悪って! 聖なる存在だよ僕は! ハムちゃんっていうのはハーフゴーレムちゃんのことだよ! 略だよ略称!」

 

 また耳をキモくトランスフォームさせてハーフゴーレムを指さすロリキメラ。当のハーフゴーレムはヒラヒラ飛んでる蝶に吸い寄せられるようにフラーっとボーっと歩いている。愛いやつだ。もう少し年齢高ければMAJIで恋する5ミニットだった。

 

「ハーフゴーレムでいいだろ、なあハーフゴーレム」

「はい。不本意ですが、構いません」

「えっ、不本意⁉」

 

 感情が希薄とか言ってたから気にしないと思ったが、意外だ。

 

「ほらー! おっさんはこれだから女の子のことを知らないダメなスケベおっさんなんだよ! もう、ゴミ!」

 

 そしてここぞとばかりに調子に乗るクソキメラ。昨日考えた無詠唱の爆氷魔法でも内臓に食らわせてやろうか。

 

「ねっ、ハムちゃんがいいよね!」

「誠に遺憾ですが、構いません」」

「あれ⁉」

「ぶふっ!」

 

 思わず噴き出した。偉そうに言っておいて俺より不評ではないかあのクソキメラめ。

 

「そ、そんな……あのスケベおっさんより不評だなんて……あっ、この世界と僕の世界では言語の意味がちがうんだ! うん!」

「くっくっく、残念ながら一緒だぞ不評キメラ。伊里君と話していて大体その辺りの意味は一緒だと聞いたからな」

「また伊里君か! もう、彼のせいで世界観おかしい言語出ても大体彼に聞いたで済むじゃないか! 異世界転移者なんてやっぱりゴミだよゴミ! 生態系のバランスを崩す、百害あって一利なしだよ! マヘマヘ!」

 

 コイツ、前に異世界転移きたー! みたいなこと言ってたくせになんて手のひらの返しようだ……おまけにコイツ自身異世界から転移してるから余計にどの口が言いやがる感が半端じゃない。

 

「ゴミですか」

「そう、大人の人間も異世界転移した人もひとしくゴミ!」

「なるほど、わかりました」

「いや、わかるな!」

 

 何を学ぼうとしてるんだこのハーフゴーレムは!

 

「ではゴミとはなんですか、邪賢者」

「そりゃあ決まってる、カップルだ。十代から二十代のカップルな。あと、カップルじゃなくてもモテる男はクソ。ちなみにピンク色の上級魔本級のことしてる連中は等しく皆殺しにしていい」

「なるほど、わかりました」

「うわあ、いたいけな子にろくでもないこと教えてるこのスケベおっさん……」

 

 呆れるような顔で言ってくるクソキメラ。お前のすり込もうとした内容よりはマシかと思うが。

 

「ろくでもなくない。これは魔王軍側として覚えておかなければいけない基本事項だ。どうせあのアーマーナイト隊長殿は品位だのなんだののせいで正しそうなことしか教えて無さそうだからな」

「それは人間としてマシなことなんじゃあ……ひどいなぁこのおっさん……」

「さっき大人をゴミ扱いした魔法少女見つけて平和を取り戻すくんに言われたくないが」

「マヘク! それは当然のことだからいいんだよ! 普通だよ!」

「いーや、普通じゃないぞ冥府の化け物」

「僕を冥府出身みたいな扱いにするのやめてよ! マヘマヘ!」

「そろそろその変な怒り口癖こそやめろや!」

 

 俺とクソキメラがにらみ合っていると、右手を平手にし、左手でポンっと平手を叩くハーフゴーレム。俗にいう、なるほど、わかったポーズだ。

 

「隊長、邪賢者、亜種キメラ、三者から学んだことを総合し、理解しました」

「亜種キメラってまさか僕⁉」

「亜種なんて生易しいものじゃないがな」

「マッヘー! まだ言うかおっさん!」

 

 ここに来てまた新しいムカつく怒り口調し始めたぞこのクソキメラ……!

 

「まず、人をゴミとかクソとかいうのはよくありません。言った奴がそういう存在なんだ、と隊長が言っていました。あっ、邪賢者にはそれ教えると後が怖いから内緒で、とも」

「ほう、成程」

 

 つまり俺のことをアイツはクソと思った訳か。ふふふ、帰ったらアイツにマヒスライムの枕を用意してやろう。それも19体分を凝縮した奴をな……!

 

「その理論から、邪賢者はクソ、クソキメラはゴミ、という結論に達しました」

「いや、達するな!」

「ははは! スケベおっさんはクソ! ヒュー! クソ!」

「お前自分はゴミと言われてるの気づいてるか?」

「えっ? ――――っていうか今僕ハムちゃんにクソキメラって言われた⁉ おっさんのせいで変な呼び名がハムちゃんに伝わったじゃないか!」

「ゴミって呼び名はいいのか」

「クソキメラがいたらゴミだからそれはいいんだよ! 僕はクソキメラじゃないからセーフ! 認識が誤ってるってすぐに訂正できるし!」

 

 いや、訂正は難しいと見た。

 

「ええい、いいかハーフゴーレム。クソキメラはそれでいいが、俺に関しては違う。ていうかアーマーナイトから教わったことは何もかも忘れろ、俺の言う事だけ聞いていればいいんだ」

「あっ、それいい人側の方に寝返られるパターンだね。魔法少女大好きな僕にはよくわかる」

「バカ、R18なら上手くいくからセーフ」

「じゃあ全年齢のこの作品ではアウトだね」

「メタいこと言うな、作品に没入できなくなるだろ」

「今さら言うそれ⁉」

 

 サブタイトルだとかなんとか言ってたやつがそれ言うか! とかわめくクソキメラ。何のことだかさっぱりわからん……相変わらず変なクソロリキメラだ……。

 

「とりあえず訂正だ訂正。俺は邪賢者、アイツはクソキメラ、それでいい」

「わかりました」

「よくないよ! 僕はマヘク! マヘクだからね!」

「わかりました、魔法少女見つけて平和を取り戻すくん」

「だからマヘ――――うううっ!」

「どうした、キモイ声を出して」

「キモくないよ! かわいい苦悶の声さ! 理由? 聞かなくてもわかるだろ! ハムちゃんにくん付けされるだけで自分の名前が許せるような気がしてきているんだ!」

「なんだそれ、気持ち悪いなお前……クソが!」

「おっさんに言われたくないけど⁉ ていうかなんでクソって言われたのさ僕! もう! 憎い!」

 

 マッヘ―!マッヘ―!とプンスカし始めるクソキメラ。つい創現し、邪剣・ブラッドクラスターでそれを消し炭にしてしまう俺。クソがぁ、美少女にくん付けされるとかキメラ畜生風情がぁぁ……! ハーフゴーレムは別に好みではないが可愛いから、貴様風情がくん付けされるなどと許されねえ……! 後で絶対殺す……!

 

「迷いなく殺害する極悪さ。流石は邪賢者ですね」

「何のことだ? 俺は何も殺してないぞ……? まあ後でクソキメラは殺すが」

「成程、理解していない。これは災厄」

「急に何を失礼なこと言うんだお前は」

 

 俺は血の如き赤き光る刀身をした、振るだけで赤光が敵に向かっていき、対象を抹消する邪剣を消去しつつ、そう言う。全く何を――――あっ、そうか、今なんとなくクソキメラを抹消してしまったんだった。いやー、忘れてた忘れてた、ハハハ。

 

「流石は歩く災厄です、魔王様が畏怖するだけあります」

「おいおい、言いすぎだ。俺はただカップル抹殺装置になれるだけの邪賢者だよ。第一あの魔王様が畏怖するものか。」

「いえ、アイツ本能が思考よりあっさり動くから怖いと言ってました」

「ははは、お前中々冗談うまいなー」

 

 魔王様は俺よりおっさんでクソが! と思ったりもするがその実力は強大。俺もかなり強いが、恐怖を抱くなんてことはあるまい。

 

「さて、長話が過ぎたな。まずは町を目指すか」

「はい」

「ああ! 大冒険の始まりだよハムちゃん!」

 

 そして案の定蘇るクソキメラ。だが姿は見えない。まあいい、ほっとこう。

 

「えーっと、創現だっけ? 誰にしようかなー、やはりカオスイビルちゃんかなー、それとも僕を四分割したあの子――あっ、魔剣デモンズイーターちゃんかー、名前いただき! それとも今僕を抹消した――えーっと、邪剣・ブラッドクラスターちゃんか! ひゅー! 迷っちゃうよー!」

 

 何をごちゃごちゃ言って――て、待て。コイツどこから喋っている? ていうかなぜ口に出していない創現武具の名前をコイツが知って――って!

 

「ど、どわああああああああっ⁉」

「うるさいよおっさん! どうしたんだよ!」

「どうしたもクソもあるか! お、お前――なんで俺の右手になってやがるんだ!」

 

 俺の右手が白くなって変な耳っぽいのと顔っぽいのが出てる! 本格的に気持ち悪いってか、こ、これ、き、寄生されてるじゃねぇか! げっ、目が俺の方向いた!

 

「ふふん、驚いたかい? これが僕の特技、マジカル・ぱらさいと(ひらがな)さ! これは本来、気絶した魔法少女にぱらさいと(ひらがな)することで無理やりにでも戦わせるために使える技なんだ!」

「お前ひらがなにしたからってえげつなさが緩和されると思うなよ!」

「そしてぱらさいと(ひらがな)している間はその人の能力も使えるし、記憶も吸い出せるんだ! これで魔法少女となった子の甘さとかを知り、戦いを嫌がるなんて甘い考えを緩和、ないし叩き壊して戦いから絶対逃がさない話術をすることが出来るんだ!」

「こ、コイツ本格的に危険すぎる……!」

「あっ、勘違いしないでよ! 子供は生命力溢れてるからちょっと一定期間動けなくなるだけだし子の技はセーフ! 大人はまあ、生命力微妙だし僕が離れた瞬間死ぬか廃人になるだけだしセーフ!」

「どこがセーフだテメェ!」

「ふふふ、僕を3回も殺したんだからセーフさ……ふふふ……」

 

 怪しく笑うパラサイトキメラ。く、クソがぁぁ……! ヤバい、邪賢者として存在してから、初めて生命に危機を感じているぞ俺……! おまけに今も知識や記憶が吸い出されている感覚が……!

 

「くそっ! 浄化魔法・フェアレーション!」

 

 浄化魔法・フェアレーション。自己についた良くないものを蒸発させる魔法だが……!

 

「ぷっ、何やってんのおっさん。あっ、オリジナル魔法ってやつ? いきなり厨二じみたことするなんておっさんは全く、今さら僕に幼い心持ちアピールしたっておっさんだし、女の子じゃないから無駄だよ?」

「こ、コイツ……フェアレーション! フェアレーション! フェアレーション!」

「うわあ、なんかおっさんが必至だ……怖っ」

 

 魔法少女がされたら泣き叫びそうな風貌な奴が怖いとか抜かしやがる……! ていうか効かない……! もう自身の一部扱いになってるせいかこの冥府の寄生生物が浄化されない……!

 

「成程、クソキメラくんも災厄の名を持つだけありますね」

「クソキメラくん⁉ やめてよハムちゃん! 嫌と嬉しいが混同してるよ! ヒャックゥゥゥ!」

 

 おまけに何よりウザい……! ていうかハーフゴーレムのやつ、この状況で顔色も声色も一つ変えない辺り神経の図太さは物凄い。

 ええい、右手どころか右腕の感覚は完全に奪われていて、皮膚に同化しているから引きはがすのは無理だ! だったら……!

 

「オラオラオラぁ! 何してんだテメェらぁ!」

「よっしゃ生命体いたぁ! 部分転移魔法・コンゼルスセイム!」

 

 瞬間、俺の右腕はパラサイトキメラごと消失した。

 

「再生魔法・リジェレイド!」

 

 そして自分の右腕を瞬時に再生。パラサイトキメラの痕跡は残っていない。ふう、焦った……。

 

「器用ですね」

「まあな、ったくあのクソキメラなんておぞましいことしやがるんだ……くそ、本当に生命力が奪われている感じがする……」

 

 くらっとする頭を押さえる。おそらく、魔力すら無い普通の人間がアレに乗っ取られたら、十秒以内に切り離さないと本当に死ぬな……。これは今後あのクソキメラを殺害する時には気を付けないといけないな……。なるほど、自分以外の命を大事にしなければいけない理由の一端が少し見えた気がする。

 

「オラオラオラァ! 無視するなオラぁ!」

 

 ……おっと、そうだった。なんか生命体が話しかけていたな。

 声のする方を向くと、そこにいたのは。

 

 眼帯をつけた筋肉質のオーク――の頭に、白いキモイ腕がついた奇怪な存在であった。



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