プロトマーリンと異世界いくってよ (空の華香さん)
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プロローグ



ブリテン異聞帯でプロトマーリン参戦記念に(千里眼持ち)



 男が気がつくと、そこは白い空間だった。その男はどこにでもいる二十代前半の普通の男のようだった。不細工と言えるほど酷い顔はしていないが、イケメンとはとうてい言えないとても微妙な顔の持ち主だった。服装もユ○クロで適当に買ったと思われる灰色の服を着ていたので、ぱっと見してみるとまるで不審者のようであった。そんな男が目を覚ました。

 辺りを見回してみると横も上も下も、どこを見ても白かった。遠くをのぞいてみても果ては見えず、下を見ても地上にいるのか、はたまた遙か空の彼方にでもいるのか分からなかった。そんな状況にいるのにもかかわらず、不思議にも男には不安や恐怖を感じなかった。そのような状態がしばらく立った後、男の目の前に人が現れた。

 

「こんにちは、そしておめでとう。あなたは異世界に転移する権利を得られました」

 

 突然目の前に現われた人は親しそうな声で男に声をかけた。その声は非常に若いきれいな声に聞こえたが、同時にしゃがれた老人の声のようにも聞こえる。男は目の前の人を見ようとしたがその輪郭がぼやけてはっきり見ることができない。子どもなのか大人なのか、男性なのか女性なのか分からなかった。ただ、そばで話しかけてきているのだろうなということは分かった。

 

「私は異世界に飛ばされるのですか?」

 

 男は尋ねる。

 

「ええ、神の権能を用いてあなたを異世界に送ります」

 

 神と名乗った存在は答える。

 

「私はまだ会社の仕事を終わらせていませんでした。それに私が急に居なくなっては会社に非常に迷惑がかかるでしょう。ですので、できるなら元の世界に送り返していただくとうれしいのですが、可能でしょうか?」

 

「それは不可能です。諦めなさい」

 

「・・・そうですか」

 

 思いのほかバッサリ言われて、思わず面食らってしまう。

 

「それではチートを与えましょう」

 

「チートをもらえるのですか?」

 

「ああ、あなたの望むチートを言ってみなさい」

 

「それなら万能になるチートをください。あらゆる知識を持ち、全ての武術を身につけ、技術力においては他者に並ぶものはいない、人類の最終形態。自らが極地を体現する、そんな万能チートをください!」

 

 神は少し考え込んだ。

 

「確かに万能は素晴らしい。あらゆる問題を息をするように解決してしまう。このチートさえあればたとえどんな劣悪の異世界だろうとイージーモードで楽勝になるだろう」

 

「そうでしょう、そうでしょう」

 

 男はコクコクと頷く。

 

「しかし、そのチートを与えることはできない」

 

「な、なぜですか!? どうかお願いします、このチートをください。代償がいるならば寿命でも肉体でも私の出せる範囲で全て出します。今この場において自らの罪を公開し、懺悔する覚悟すらできています! ですのでどうか、どうか、私にこのチートをお授けください!」

 

 男は必死に土下座する。

 

「ダメです、諦めなさい」

 

 しかし、神は非情だった。

 

「・・・・・・」

 

「いつまでもそうしていないで、次に欲しいチートを言いなさい」

 

「・・・はい」

 

 男は顔を上げた。

 

「ですが私にはこれ以上に望むチートはありませんし、思いつきません。ですので神様が私に合ったチートを選んでくれませんか?」

 

「別にかまわないけれど、後悔はしない?」

 

「ええ、神様が決めてください」

 

 神は大きく頷いた。

 

「それならこちらで見繕っておきます。それではあなたに幸福が訪れるよう願っていますよ」

 

 バチンと言う大きな音と同時に男の意識は暗闇に落ちた。

 

 

 

 

 意識が戻ってはじめて感じたことは花のいい匂いだった。起き上がると自分の周りを囲うようにピンク色の鮮やかな花が咲き誇っていた。周りで咲いている花は一つの場所から続いているようで、その場所には白髪の女性が座っていた。自分が目が覚めたことに気付いた女性は柔らかな微笑みを浮かべながら声をかけてきた。

 

「やぁ、ようやく目が覚めたかい? なかなか起きてくれないものだからね、とても退屈してたよ」

 

 その女性は長い髪を持つ落ち着いた物腰の女性だった。語られた言葉には敵意を感じず、心が安らぐような口調で話しかけてくる。彼女が立ち上がるとその服装がよく見えた。全身を黒いタイツで覆い、その上にワンピースとマントとパーカーを足して十で割ったような服を着ていた。胸部分には紫色のリボンが結われている。

 片方の手には、先っぽに大きな青い宝石が取り付けられた白い杖を持っており、その姿からファンタジーでよくいる魔法使いのようだった。こちらに向かって歩いてくると、彼女の曲がりくねったくせ毛がぴょこぴょこと揺れていた。そのゆっくりとした佇まいから幻想的で儚げな印象を与える女性だった。

 

「初めまして、私はサイトウと申します」

 

「おお! まさか何事もないように挨拶されるとは思わなかったよ。もう少し驚いてくれるものかと思ったんだけどね」

 

 彼女は一呼吸おき、こちらをじっと見つめてくる。

 

「では、僕からも自己紹介させていただこう。こういうのは初めが肝心だからね」

 

 彼女は変わらない微笑みで語る。その瞳は紫色に怪しく輝いている。

 

「初めまして、私はこの世界で君を導くための存在。君の旅路を見守り、手助けする魔術師。私はマーリン、花の魔術師マーリンという。見ての通りのきれいなお姉さんさ! これからよろしく頼むよ!」

 

 神様にチートを選ばせたことを心の底から後悔した。

 

 





大事な場面で決断を他人に委ねるのはやめておきましょう。他人は責任を負ってくれませんから。




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