モノクロの魔法使い達 (フィロア)
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#1 モノクロの魔女

最近ドナ沼に嵌りました、宜しくお願いします(*´-`)
あらすじにもある通り筆者は(ほぼ)原作未読です。
キャラ崩壊等起こさない様に気をつけますが何かありましたら…

許してください()

2020/10/06 主人公の服装をやや薄手に。ずっと着てると疲れそうだったので…
2020/10/17 誤字修正 報告ありがとうございます!
2020/11/21 一部改変 初期の構想が固まっていなかった頃の不備を修正


「………………マジか」

 

 目の前に広がるのは果てのない青い空と、それをたたゆう大小様々な白い雲。目を横にやれば青々とした草原と丘がこれまた果てしなく続いていた。

 全身を包み込む柔らかな草の感触。不意に吹いたそよ風が草を撫でる音心地よい音が耳に響き、土の匂いが鼻腔を擽る。

 

 五感のその全てが、ここが間違いなく元いた場所ではない事をはっきりと伝えてきた。

 

「えっ……俺、死んだ?」

 

 確か……俺はさっき帰ってきて、家に着くなり制服のまま自室のベットで眠ってしまった様な。そして目覚めると天国と言って差し支えない場所……○indowsのホーム画面みたいな所だった……と。

 

 寝転がったまま左の頬をつねってみると、普通に痛たかったので夢ではない。

 が、それより気になるものが視界に入った。

 

「……マジで?」

 

 頬をつねった左手は真っ白だった。と言うより白い手袋の様なものが装着されている。

 手の甲にはこれまた同等の色をした手甲が備えられており、体に違和感を感じて上体を起こすと

 今度は左目の視界が狭まり、何事かと一瞬慌てた。

 

 視界を狭めた正体は左の前髪。

 真っ白く染まって長く伸びた髪は顔の左部分を鼻下まですっぽりと覆っていた。

 

 混乱しつつも重量感のある前髪を片手で持ち上げ、全身をチェックすると違和感の正体は全身に取り付けられた薄手の甲冑だと言うことが分かったがいずれも見たことのない衣装ばかり。

 俺は見た目もさることながら頭も同様に真っ白になってしまっていた。

 

「おや、漸く目が覚めたかな? 君には少し、と言うより沢山聞きたい事があるんだけど……まずは席についてくれないかな?」

 

 呆然とする俺の背後から女性の声がした。

 振り返ると、黒い喪服の様な服装をしていてそれと対になる落ち着いた白色の髪の儚げな印象の女性が、小高い丘の上にあるパラソル付きテーブルに備え付けてある椅子に座りながらこちらに呼びかけている。

 

(…………マジでどうなってんだ……?)

 

 そうは思ったが、別段悪い人には見えなかったので俺も聞きたい事が沢山あったのでなだらかな坂を登って行く。

 途中バランスを崩して転びそうになったがどうにか登り切り、テーブルに備え付けてあった反対側の白くて美術品の様な椅子におずおずと座る。

 

 一本の足で支えられた、椅子同様白いテーブルの上には白にピンクのラインが入った二人分のティーセットとピンク色の薔薇の入った花瓶が置かれていて、内側にも模様が施されたパラソルはそれらが過度に輝くのを防いでいた。

 まさしく西洋で言う所の「お茶会」

 最低限の家具でその雰囲気を醸し出している。

 

 ……と、そんな事を考えていると対面に座っていたはずの女性がすぐそばに居て。

 目の前に置かれてあったティーカップにこれは……紅茶? を注いでくれ、そしてテキパキとした動作で2人分の紅茶を注ぎまた対面に座り直した。

 慣れているのかその動作はとても早いが、どちらかと言うと何かを待ちきれない人が急いでいるみたいな雰囲気が……ま、気のせいだろう。

 

「いきなり呼びつける様な事をして申し訳ない。君もボクに聞きたい事があるだろうけどまずは君の名前を教えて貰えるかな? おっと……自己紹介も無しに話していた。これは失礼、此処に誰かが来るのは"初めて"なものでね。ボクの名前はエキドナ、〈強欲の魔女〉とも呼ばれている……ふむ。ボクを見ても吐かないんだね、君は。普通なら立ち所に苦しみ出すものなんだけど」

 

 おぉぅ……何を話すのかと思えばマシンガンが飛び出してきたぞ……。にしてもエキドナ……? 強欲の魔女……? 立ちどころに苦しむ……? 確かにこの女性はそう名乗った。

 

「エキドナ……さん。なるほど……俺の名前は【梶賺(かじすか) 真桜(まお)】って言って……その、特に肩書きとかは無いです……えっと、一つ聞いても?」

 

「呼び捨てでも構わないよ。この空間は問答をするための場……一つと言わず、幾つでも質問したまえ、マオ。その欲求を───強欲を、ボクは肯定しよう」

 

 さらさらと話す様は立板に水。まるで事前に台本でも読んでいるかの様にその女性……エキドナは話す。

 

「えっと……まずここは何処なんですか……? 天国……?」

 

 ストレートにそう聞いた。まずこれが知りたい。今の俺は生きているのか死んでいるのかすら自分で分からない。

 俺の問いに対しエキドナは、手元の紅茶を一飲みしてから反対の手を頬の辺りに当てながら答える。

 

「天国、と言う表現はあながち間違いでは無いね。ここはボクの精神世界、言うなれば眠ってる間に見る夢みたいなものだ。もっとも、ボクはもう既に死んだ故人の身だがね」

 

 真似をして紅茶を飲もうとしていた俺は「ブッ!」と左手に持ったティーカップの中に紅茶を吹き出しそうになるのをどうにか堪えた。

 ……故人!? 目の前にいるエキドナが? 夢の中!? エキドナが嘘をついている様には見えない。

 

 ますます俺が今どうなっているのかが分からなくなり、ぐるぐるする頭を落ち着かせる為、紅茶を今度こそ一飲みする。

 匂いは良かったのだが味の方は美味くもなく不味くもない薄い感じだった。

 

「今度はボクからも質問させて貰うよ。と……その前にボクはキミに2つ謝罪しなければならないね。一つ目は倒れている間にキミの記憶を少し覗かせてもらった。重ね重ねの非礼、申し訳ない。何せボクの招待もなしに此処に来るなんて本来ならありえない事だからね。あぁ、誤解しないでくれたまえ。迷惑な訳じゃ無いし寧ろボクはキミの事を歓迎さえしている。こほん……話を戻すと、キミの記憶を見て分かった事なんだが、キミはどうやらボクが生きていた世界とは別の世界……異世界、と言うものの出身らしい。そしてコレは……その"異世界"の物なのかい?」

 

 胸に手を置いたり、指を組んだり、身振り手振りを交えつつ一気に捲し立てたエキドナは、彼女の座っている椅子の後ろから長い剣を取り出しそれを両手で持ってこちらに見せた。

 

 細身の剣身は薄い水色に染まり、鍔の部分にはそれらしいものの代わりに赤い菱形の宝石が2つ並び、握りの周りには螺旋状の菱形が連なっていて何とも幻想的な美しさを放っている。

 こんなものは見たことがない……

 

「キミの物だとしたら、勝手に持ち出して本当にすまない。こんなに変わった剣は中々見た事がなくてよく観察して見たくなってしまったのでね。それで、これはキミの物なのかい?」

 

 

「いや……これは知らないですね……見たことも聞いた事も無いです」

 

「なるほど、見たことがない、か」

 

 そう言うとエキドナは剣をまた椅子の後ろに戻し、彼女の白い髪に指をくるくると絡めて楽しそうな笑みを見せる。

 

 さっきから思ってたけどこの人仕草がいちいち可愛いなぁおい!? あぁ……心掌握されそう……。

 目を押さえたくなったがそれを我慢して、心を落ち着かせる為紅茶をがぶ飲みする。

 

 その様子を見て、エキドナは少し不思議そうな表情になる。

 

「……随分と飲むのが早いね。魔女から出されたものをたいした警戒も無く……か」

 

 やっべしまった。そういえば紅茶にしては味が薄いのは何か……毒薬とかが入っていたのか!? 

 慌ててコップを置くも、既に半分以上飲んでしまった後だった。

 

「あぁ、別に怪しい物は入っていないから心配する必要はないよ。此処で作り出した物だからね、さらに言ってしまえばボクの体液だ」

 

「!!? うぷっ……(オェーー)」

 

「ちょっ! キミ!? ここに来ていきなり吐かないでくれないかい!?」

 

 体液、って何てものを飲ませるんだこの……魔女は!? 当たり前のように言わないでくれぇ! 

 思わず俺は胃の中から込み上げるものを我慢出来なくなりテーブルの上にリバースしてしまった。

 

 エキドナは俺が吐いたのに驚いたが(当たり前だが)慌てながらも指をぱちんと鳴らす。

 すると不思議な事に、リバースしたものはすぐさまサラサラと塵の様になって消え去った。

 あ、そうか……この人魔女って言ってたもんな……そりゃ魔法が使えて当然か……。

 

 今更ながら彼女が本当に魔女なのだと、口の中で不快な酸味を感じながら思った。

 

「全く、驚いたよ。しかし、今吐いたのはボクの発言に反応した結果、そうなった様だね? やはりキミはボクの姿を見ても大丈夫な体質のようだ。理由は定かでは無いけどね」

 

 うんうん、と言った感じで頷くエキドナ。

 そう言えばさっき立ちどころに苦しむとか言ってたな……どう言う事なんだろう? 

 勿論聞きたい事は他にも山ほどあるが……

 

「エキドナ……さん。体質ってのは何の事なんでしょうか……? それと、さっき指を鳴らした時のあれは……魔法?」

 

「呼び捨てで良いって言っただろう? 気張る必要はないよ。それしても、キミはこの世界の事よりそっちが気になるのかい? いや、訂正しよう。キミにとっては、何もかもが未知なのだろうからね」

 

 その後俺とエキドナは暫く問答を繰り返した。

 分かった事は、「ここは既に亡くなった異世界人……異世界魔女? の精神世界」

「その世界には魔法と言うものがある」

「エキドナはその魔法の全てを扱える」

 という事。

 

 逆に俺は、「どうやってここに来たのかは分からないと言う事」

「服装も同じく知らないものであると言う事」「前の世界では魔法は作り話の様なもの」

 と言う事を、お互いの知り得る情報を交換する様に話した。

 

 

「はぇぇぇー……マジかぁ……」

 

 あまりの情報量の多さに頭がパンクしてもおかしくなかったが割とすんなりと頭に入ってきた。

 さて……それはそうと、これからどうしよう? 

 ここが現実世界とは少し違う場所なのは分かった。だがここから出る方法も分からないし、出た所で一般人の俺がそんな世界で生きていける自信がない……。せめて、

 

「魔法が使えたらなぁ……」

 

 そう無意識のうちに零していた。するとエキドナが「へぇ」と乗り気な感じで呟き、突如としてこちらに身を乗り出して来た。

 そしてティーカップを片手に、軽く頬杖をついてドヤ顔……ドナ顔? で顔を近づけてくる。

 

「もし、キミが魔法の指南をして欲しいと言うのならボクは喜んで指南にあたろう。行くところが無いなら好きなだけ此処に居ても構わない。新しい住人として歓迎しよう。その代わり、対価……として1日1回、今までの様な「お茶会」の席で様々な事をボクに聞かせて欲しい。悪い条件じゃないだろう? 寧ろこれは今キミが求めているものが全て手に入る。ボクもより知識を深められる。お互いにメリットしか無い提案だと思うのだけれど、どうだろう? 別に堅苦しい感じの契約とまでは行かないさ。単なる取引みたいなものだ。魔女との取引は嫌かい? 安心して欲しい、ボクは嘘をついたりはしないよ。さっきもあのお茶がボクの体液だと真実を赤裸々に伝えただろう? それに、この取引が成立すれば得をするのはキミだ、何せボクみたいな乙女と1日1回お茶会に出席するだけでキミが望むものが全て手に入るのだからね。おや、ボクに乙女心が無いと思っていたのかい? これでもまだまだボクは乙女なんだよ? キミはボクみたいな乙女が嫌いかい? その反応を見るに違うだろう? 何なら膝枕でもしてあげようか? え、それは別にしなくて良い? そうか……。おっと話が逸れていたね。こほん、取引の話に戻すと、先程告げた内容に何か不満でもあったかな? 不満があるなら言って欲しい、ただ一つ言わせてもらうとボクの精神世界は特に危険はないけど、元々生きていた世界にキミが出ていくと言うならそれはおすすめしないなぁ。とても今のキミを見るにあの世界で生き残れるとは思わない……これでもキミの事を心の底から心配しているんだよ? そのための取引さ。勿論ボクは魔女だ、人とは僅かに違う所があると言われれば否定は出来ない。ただ全てを信じきれないキミの気持ちも分かるが、どうか信じて欲しい。ボクはこんなにも今キミと対等な取引をしたいと願っている。その気持ちに果たして人と魔女との差があると思うかい? お互いの〈強欲〉の為に、ここで手を取り合うのはお互いにとって紛れもないメリットとなる。そもそもボクもキミもこの世界からキミが出ていく方法が分からないのだからそれを模索する為にもこの取引は有益なはずだ。手を取り合おう。それとも他にも何かして欲しいことがあるのかい? 何でも言ってみたまえ。ボクはこの世全ての知識を欲する魔女、エキドナ。その目的の為なら多少の無理は覚悟の上だ。その気になるならおはようからおやすみまで側に──む、無いのか。無欲は良くないと思うけどキミが取引の内容に不満がないと分かって何よりだ。ならばもう躊躇する必要は無いだろう? この取引は本当に互いには良い事しか無い取引だ。内容が充分キミの強欲を満たすならもう問題はないだろう? ボクはキミの異世界での出来事を知りたい。それも堪らなくだ。この気持ちを抑えきれないのは悪い所だと自負しているつもりだが、それでも耐えきれない程にキミを欲しているんだ。キミもまだまだボクの助言が必要だろう? 理由は同じなんだ。魔女から助言を貰えるなんてそうそう無いんじゃ無いかとボクは思う。生前、各地の王や知識人達がボクの知識を求めて来たんだ。それほどの知識をキミのために使うんだ。キミもそれは嬉しいだろう? きっと魔法もかなり上達するだろうね。ボクが保証しよう。これでも生前は魔法を教えていた事があってね。そう言うことには知識経験ともに自信がある。任せたまえ。キミもきっと大成するはずだ、そもそも魔法のない世界の人がどんな魔法を使えるのかとそれを知る事自体、ボクの知識欲を満たす事に繋がるんだ。

 ──さぁキミの答えを聞かせてくれ、ボクと取引をする気にはなったかい?」

 

 と、長文を述べ終えたエキドナだったが。

 ドタッ、と言う何かが倒れる様な音がして。

 後から聞いた話によれば、俺はどうやら慌てまくった振動で椅子が倒れ、後頭部を打ち仰向けのまま気絶していたらしい。

 

「……………………。(シロメー)」

 

「えぇぇ!? よりにもよって今、このタイミングで気絶するのかい!?」

 

 

 ──この日から、俺はエキドナ指導の元、魔法使いへの道を歩むと共に異世界について知って行くことになったのだった……。




・何故エキドナの瘴気で主人公は錯乱しないの?
→ヒント「アストラルバリア」

感想や、エキドナはこんな所が良いぞコメント待ってます。


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#2 エキドナの魔法指南〜初級魔法編〜

ドナチャキメル(*´-`)

前の話の取引内容
当たり前っちゃ当たり前ですがエキドナが得する様な内容になってます。
(茶会で知識を得られ、魔法指南で異世界人の観察ができる為)

それでは第2話です。
2020/10/5 誤字修正


「では約束通り。これからキミに魔法について教えてあげよう。その後にお茶会だ」

 

 転生から1日後、取引の通り俺はエキドナから魔法を教えてもらう事になった。因みに昨日は気絶したまま今日になるまで起きれなかった……まぁ寝ても覚めてもずーっと昼なのだが……。

 

「そもそも魔法と言うのは術者の体内に生まれた時から存在する──」

 

 何故時間がわかったのかと言うと、エキドナの持っていた黒い水晶に時間とか、今は何年だとかが表示されていたからである。この世界にはテーブルや机はあっても時計はないのか……? と言うかこの世界の1日って太陽暦では無い気がする。

 

「──しかし「オド」は総量が決まっていて回復する手立ては無い上に、使い切ると所謂廃人に──」

 

 因みに今は昨日のお茶会会場は無くなり、代わりにそこは数多の木に囲まれた、暖かな木漏れ日の差し込む森の中の様になっていた。

 エキドナはその中でも一際大きい木の近くに椅子を置いて座りながら話している。

 そして対面に俺が地面に腰を下ろす形で座り、エキドナの話を少し見上げる感じで聞いている。

 

「──そしてそれらを先程述べたゲートを通じてイメージし、変質させ、現実に影響を与える形で干渉する力が魔法だ。そして、前提条件として魔法には"適正"がある。人によってそれはまちまちなんだけど……ここまで、何か分からない事はあったかい?」

 

「なるほど……あ、いえ、ありません」

 

 割と原理は簡単だったので理解は出来た。

 するとエキドナはその綿毛の様にふわふわとしたまつ毛の乗った瞼を少し大きく開いた。

 

「ふむふむ、中々飲み込みが早くて助かるよ。さて、魔法の適正の話だけど魔法には6つの属性と言うものがある。火、水、土、風、数少ない陽と陰。この6つ全てを扱える人間はほとんど居ない、適正がある事さえそもそも珍しい。亞人や精霊の専売特許……つまるところ"人間が魔法を扱うのは難しい"と言う事さ」

 

 ……これ俺もしかして魔法そもそも使えないとかあるのか? それだったら凄ーく悲しいぞ……。

 そんなオーラが出てしまっていたのかエキドナは付け足す様に言った。

 

「まぁ、努力で何とかならない訳じゃない。けれど適正の低い魔法を使えるようになるにはかなり時間がかかるし最終的な到達点も適正の高い人よりもかなり低くなる。……さて、ではまず魔法を教えるにあたって、キミの魔法の適正を測ってみるとしようか」

 

 使えない訳じゃない、か……とは言え意気込んで魔法学んだ結果ライターくらいの火出せるだけで成長止まったら流石になんかきつい……。

 俺の杞憂をよそにエキドナは目を瞑ってパチンと指を鳴らす。すると俺の膝上に透明で大人の手のひら大くらいの水晶が現れた。精巧で整った縦に長めの形をしており、歪みやヒビは一つとして無く、正しくクリスタルと呼ぶに相応しいそれは純度の高い氷かと見紛うほど麗しい輝きを持っていた。

 

「それを使えば魔法への適正を測ることが出来る。使用方法は両手でそれを持って……目を瞑ってボクが今から言う光景をイメージするんだ。あ、握る力はほどほどにね」

 

 俺は言われた通り水晶を両手で持ち、すーっと鼻で深呼吸しながらゆっくり瞼を閉じた。

 暗闇の中では草の感触を除けば手に持った水晶の重みと、硬く艶やかな手触りのみを感じ取れる。

 

「準備は良いかな? ……始めるよ」

 

「……お願いします」

 

 闇の中からエキドナの声が聞こえ、微動だにせず口だけを動かしてそう答える。こうしていると何か……別空間ににいる様な……なんだか……草の感触も感じられ無くなって来た様な……。

 そんな事を思っていると暗闇の中からまたエキドナの声が聞こえて来た。

 

「まずは火だ。……自分の周りを空に届くほど高く火柱の上がった、音を立てて激しく燃える炎が囲っていると強く念じるんだ」

 

 言われた通りその光景を思い浮かべてみる……。

 真っ赤な灼熱の業火が暗闇から突如として吹き出し巨大な一つの生き物の様に荒れ狂い、燃え盛り、辺りを煉獄へと変えて行く光景が浮かんだ。

 

「ふむ……なるほど。次は水だ。……自分は深い海の底に居て、そこに向かって水面の渦が激しさを増しながら徐々に下降し、自らがその渦と一つになる。そう念じて見てくれ」

 

 爆炎滾る空間に突如として大量の水が流れ込み、一瞬で炎を揉み消しそのまま辺りを仄暗い水の底へと変え………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぃ、………………」

 

 ──ん……何だ。これは……「呼び声」? 誰のだ? 

 意識が暗闇の中の霧の様に掴み所がなくて、ぼやぼやして、自分という存在をうまくまとめられない……。もしかしてこのまま消えてしまうのではないか、と不安にかられ始めた時。

 

「……マオ? 聞こえているかい?」

 

「うわっぷ!?」

 

 再び聞こえた呼び声にハッとして瞳を開ける。仰向けになっては居たが此処はさっきまで居た木漏れ日差し込む森の中。さっきの変な感じも全く感じず、変わっては居な…………? 

 

「どわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」

 

 目の前にはこちらを微笑みながら見下ろすエキドナ。いや、それだけだったら"まだ"良かったのだがこの、後頭部に当たっている柔らかな感触は……!? 

 

(ひっ、ひひひひ膝枕だとぉぉ!!?)

 

 先程とは違い、どうにか口にするのは耐えた。

 落ち着け落ち着け自分、これはただの枕ただの枕俺が勝手に想像しただけにすぎないものでありそんな事は万が一にもありえないのだと言うか何故ここまで慌てる必要がある? そう慌てる必要など無いはずだこんな時は素数を数えれば良いんだったか………………。

 

 ──意識がまた、暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なるほど、キミはつまるところ【女性が苦手】って事で良いのかな?」

 

 エキドナは膝枕で……では無く先程同様、木陰に置いた椅子に座って、俺の説明を聞いた後少し困った様な表情で問いかけてくる。

 

「なるべく隠していたかったんですがね……」

 

 そう、俺「梶賺 真桜」は生前から明確な弱点として女性が苦手で……大体半径1メートル以内に接近されたりするとどうも緊張したり慌てたりして上がってしまうのだ。

 

「いや、こちらこそ申し訳ない。可能性として考えていなかった訳じゃないけど、まさかこれ程だったとはね。キミがこの前気を失ったのは頭を打ったから、では無くそう言う理由だったと言う事か……」

 

 納得のいった表情のエキドナ。

 あ……そういえば適正を測ってた途中でブラックアウトしてしまったが、あれはどうなったんだ? 

 

「そう言えばエキドナ、適正は……? 途中で意識が飛んでしまったんだけど……」

 

 俺はこの変な空気を断ち切るべく違う話題を振った。

 

「おや、途中から意識が無かったのかい? ボクが見ていた限り最後までやり通したと同時に倒れた様に見えたけれど……それが事実だと言うのなら……」

 

 エキドナはそこで言葉を切り、目を閉じて何か深く考え始めようとしていたが「おっと、適正の話をしなければね」と話を戻した。

 そして、「えへん」と少し得意げな咳払いをして

 

「とても素晴らしい結果だったよ。キミは【火】【水】【風】【土】の4属性に適正がある様だ。陽と陰はからっきしだけれどね」

 

(4属性……!)

 

 とりあえず才能なしセンスなし希望もなしは免れた。そればかりか4属性である。エキドナが言っていた事を思い返せば俺は普通の人より4倍の適正がある、と言う事になる。魔法なんて本来なら使うはずもない俺みたいな人が4属性って、適正は本当に人それぞれなんだなぁ……神の味噌……。

 

「魔法が無い異世界の出身であるにもかかわらずここまでの魔法適正……全く、キミは面白いな。ふむ……そうだ、適正も分かった事だし実際に魔法を使ってみるのはどうだろう? 火のイメージをしながら全身の力を手に集める感じで【ゴーア】と言って貰えるかな?」

 

 しかしそう言うエキドナはどこか……んー……気のせいだろうか。

 結果が分かって言ってそうな気がする。この人。

 多少の疑念を抱きつつも、言われた通りイメージして開いた手に全身の力を集中させた。そして、

 

「……ゴーア」

 

 と唱えたところ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「プスッ」

 

 と、弱々しい燃焼音がして指先から一筋の火花が一瞬だけ見え、消えた。

 

「……?????」

 

 あれぇ今のは何だろう? え、今のが魔法? 

 マジで? 自分の手のひらをまじまじと眺めてそう思う。そんな俺の姿を見てエキドナは「やはりか」と達観した様子で溢した。

 

 その後、水、風、土と試して見たがどれもこれも火の時同様の雑っっっっ魚い現象しか起きなかった。そればかりか段々とクラクラして来た。

 

「ひでぇぇぇぇぇ……」

 

 蟻一匹殺せなそうな程威力の弱い魔法しか出せなかったと言う事実に魔法と言う言葉に期待していた俺は(結構)ショックを受け、四肢を投げ出して地面にパッタリと倒れ伏した。そりゃねぇ……最悪ライターどころか一筋の火花とか……。こう言うのは最初から出来ないのは分かってだけれどさ……。

 

 そうふて腐れていると、不意に右手首にカチッと何かが取り付けられた感触。

「え?」と、驚いてその箇所を見てみると白と黒で装飾された腕輪がついていた。その真ん中には翡翠色をした菱形の宝石が鈍い光を放っている。

 

「あぁ、一先ずそれについては気にしないで欲しい。それをつけたまま、もう一度【ゴーア】と唱えてみてくれないかな?」

 

 と言うエキドナ。

 これはエキドナが取り付けたのか? とか気になる所があるが彼女がそう言うなら何かあるのだろう。

 

「(すぅーっ……)……ゴーア!」

 

 息を整え、再び詠唱する。

 するとどう言う事だろうか、ゴォォォォ……! と音を立てて指先から大人1人くらいなら軽く飲み込んでしまいそうな炎が吹き出した。

 

「やべ!」

 

 しかし先程と同じくらいの気持ちで唱えていた為、特にどこに魔法が行くなど考えておらず、あさっての方向に火炎が飛ぶ。そのまま回りの木々に燃え映……る直前で「パチン」と言う音と共に塵の様になって消滅した。

 

「……魔法を使う時は何処に、どのくらいの距離で飛ばすかもイメージした方が良いと思うな。とは言え初めてにしては上々と言えるね」

 

 そう言うエキドナが指パッチンをした後の手つきのままな所を見るに、彼女があの炎を消したのだろう。なんて言うか……恐ろしい人……いやそうか、この人魔女だった。(2回目)

 ところで……さっきまで使えなかった魔法が使えるようになったのは明らかにこの右手の腕輪だと思われるがコレは何だろう? 

 

「……所でコレは一体? さっきから少し光っている様な気がするんですが……?」

 

「それかい? それは魔法器……この世界ではミーティア、と呼ばれているものだ。その腕輪は大量のマナを貯めておける能力があって、今はボクのマナが入っている。名前は……あぁ、まだ決めていなかったな。……とりあえず、〈強欲の腕輪〉とでも呼ぶとしようか」

 

 〈強欲の腕輪〉……右の手首にはめられたそれは、まるで生きているかの様に明滅している。

 エキドナが続ける。

 

「キミにそれを付けさせてもらったのは、キミが魔法を使いこなせない以前に使えない理由がマナを貯められないからだと思ったからさ。魔法が使えない人の原因は他にもマナをゲートを通して集められなかったり、逆にゲートを通してマナを外に放出出来ないと言う場合もある。その腕輪を付けて魔法が使える様になったと言う事は、キミの場合はマナを貯める事が出来ない体質だったと言う事になる」

 

 何だかエキドナはかなり高度な話をしている気がするが、とりあえず俺はマナの集約が出来ないから残念な事になってたって所だと思われる。

 しかし……ここまで来ると流石に1つ疑念を抱かずにはいられない。どうしてこの人……魔女は見ず知らずの俺にここまで親切なのだろう? 

 ──何か裏があるんじゃないか? 助言をしてくれた恩人に対して無礼なのは分かっているが、どうしても気になってしまう。

 

「な、なるほど。それにしても何故そこまでしてくれるんです? 少し悪い気が……」

 

「悪い気? ……質問の意味が分からないな。これはキミとボクとの取引に基づいた事だよ? キミが悪く思う必要は何処にも無い筈だけれど……」

 

 ふむ、と考えながらエキドナは軽く手を叩く。すると木々が上から徐々に消えてゆき、地面からふわりとあのお茶会のセットが現れ、押し上げられる形で座らされた。ちゃんとテーブルにはあのトンデモ紅茶が用意されている。

 

「……もし、それでもそう思うならこの茶会の席でキミの知っている"異世界"の事を余す事なく話してくれれば、それが知識欲の権化であるボクにとって何よりの……対価となる。こう言えば、キミも納得がいくかい?」

 

 人の良さそうな微笑みを浮かべ、指をテーブルの上で組みそう言うエキドナ。何か裏がある人には全然見えない。まだ"魔女"と言う部分が気になるが……そうだな、一先ず疑うのはよそう。

 

「……分かりました。それじゃあ、俺の居た世界の……何の話をしましょうか?」

 

「うんうん、良い返事だね。先ずは──」

 

 

 2度目の茶会の席。

 紅茶を啜るエキドナの口元は、綺麗すぎるほどの三日月を描いていた。

 




最近リゼロのオリ主ssの更新が早い方が居て尊敬してます。

さぁオリ主は原作の始まる400年後まで生き残れるのか。
エキドナの言う事は本当に全て真実なのか。
果たして作者は書ききれるのか。

感想&評価待ってます。


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#3 エキドナの魔法指南〜中級魔法編〜

前回で実績「魔女の呼び声」を獲得した主人公(*´-`)
答えちゃったからね、仕方ないね。
今回は後半エキドナ視点ありますが全体的に短いです。すみません。


「(すーっ……)滾る大地よ、跳動せよ! 【ドーナ】!」

 

 そう唱えると、グゴゴ……と音を鳴らし小規模でありながらも地面が盛り上がり、腰の高さくらいまでの土の山が連鎖的に発生し緑の丘をボコボコ掘り返しながら走ってゆく。

 

「あ〜……これやりすぎたかなぁ……マジで……」

 

 魔法の適正診断からはやひと月、今日も今日とて初級魔法の練習である。

 エキドナ曰く魔法に大切なのはイメージ、威力、精度だそうで、それを磨くために今日も練習している。

 

 本日は土の魔法の練習だが、魔法が使えて火とか水とかを操れるのがあんまりにも楽しくて暫く練習しまくっていた結果。

 まぁ……そもそもそれ以外する事が無いからと言う理由でもあるが、振り返って見てみれば視界に入る丘のあちらこちらがデカいモグラに掘り返されたみたいになっており、まあ酷い有様になっていた。

 ……困ったな、戻し方が分からないぞ。

 

 そう悩んでいると不意にその魔法の痕跡が塵の様に消え、元の美しい光景に戻る。そして丘の上から淡々とした声が聞こえて来る。

 

「……すっかり使いこなせてる様だけど、その最初の掛け声はなんだい? 威力が上がるなら兎も角、まさかふざけてる……なんて事はないよね?」

 

「すみません(即答)」

 

 声の主は勿論エキドナ。

 怒っても良さそうな場面なのにいつもの調子なのが逆に怖い。

 今日もお茶会の席に座ってドナ茶(あのトンデモ紅茶の事を、自分の中ではそう呼ぶ事にした)を啜りながらこちらを眺めていたが、俺のおふざけが過ぎたので流石に我慢ならなかったらしい。

 

 ひと月も同じ空間に一緒に居れば無理矢理にでも多少はラフな会話が出来る様にはなったが、俺の場合それでもエキドナに近づかれるとどうにも女性と意識してしまって上がってしまう。

 魔法でどうにか治らないかなぁ……。

 

 後、これはひと月も経ったからこそだが……最近思う事としてはこの世界が現実だと言う事が身に染みて来た事だろうか。最初の1、2日目こそまだ何処か夢を見ている様な気分だったが、こうも時間が経つともうそんな気分にはなれない。

 体も汚れないし、髪も伸びないし、ドナ茶と偶のお菓子しか食べてないのに死なないけれど、これが単なる長い夢だとは思えない。

 

(……家、大丈夫かなぁ……。まぁ……兄さん達が居るし、俺が居ても居なくても変わらないか……)

 

 そんな懐古的な事を考えてついぼうっとしていると、突如として体が浮き始めた。

 初めのうちこそこの慣れない感覚に慌てたものだが、何度も繰り返すうちに平静を保てる様になった。繰り返し恐るべし。

 そして磁石に鉄が引き寄せられる様に、逆らい難い力で俺の身体がふわふわと丘の上に吸い寄せられる。おや……今日は少し早い様な? 

 

「……エキドナ。別に一声呼んでくれればわざわざこんな手間かけなくても俺がそっちに行きますよ……。もうゲートの使い過ぎて身体が動かなくなったりもしませんし……」

 

 俺は地面から10センチくらいの所で滑る様に浮かせられながら、その浮かせた張本人であるエキドナに苦情を溢す。

 

「この方がキミがここまで来るのに時間がかからないだろう? そもそも、そんな虚勢で魔女を誤魔化せるとは思わない事だね」

 

(バレてたか……)

 

 エキドナの鋭い一言。

 実はひと月経った今でもまだ、連続で魔法を行使するとゲートにマナ溜まりと言うものが出来易く……こう、身体が錆びついたみたいに動かし辛くなってしまうのだ。暫くすれば治るんだけどね。

 

 エキドナ曰く「魔法を使った事も無い身体に、魔女のマナを無理矢理回しているのだから当たり前(概要)」との事。寧ろ、そのくらいで済むのが凄いとか何とか言われた気もするが……

 まぁ、兎に角無理をしていると言う事らしい。

 

 毎日の様にエキドナは俺の話を楽しそうに聞いてくれる。話す内容は彼女が知りたい事だが、そもそもここに来る前はあまり面と向かって、割とラフな感じで人と話す機会は無かったので……この時間は割と俺も好きだったりする。

 

 エキドナと言う名の、正真正銘の"魔女"と一対一で問答し合うと言う非日常。

 だが、不思議と俺はこの非日常にある種の安心感を抱き始めていた。

 

「……マオ、キミならそろそろ〈エル〉の魔法も扱えるんじゃ無いかな?」

 

 俺を対面の席に下ろしたエキドナは俺を試す様に、その双眸でこちらを見据えながらそう問いかける。

 如何やら……まだお茶会の時間では無いらしい。

 

 〈エル〉の魔法は俺がさっきまで使ってた魔法より一段階上の……言わば強化版の魔法の事で、普通の人間では少し扱うのが難しい。

 ……勿論これもエキドナに教えてもらった事だ。

 

「〈エル〉の魔法……分かりました、確か今までの魔法の前に「エル」をつければ良いんでしたよね?」

 

「その通り。けれど〈エル〉と付けただけではあまり意味が無い。本質的なイメージを今までより確固としたものにする必要がある」

 

 今までで割と想像出来る最大限のイメージを浮かべてたつもり何だけど……さらに上か……。幸い、体が少し気怠いが、まだ余力はある。

 やってみるか…………。

 

 俺は椅子から少し身を乗り出し、左手を真っ直ぐ伸ばし、用心の為肘の辺りを右手でしっかり支えて左を向く。

 とりあえず……ベースは【ドーナ】にしてみるか、さっきまで使ってたからイメージしやすい。

 ふ〜っ……と息を整え、脈動する大地のイメージを思い浮かべ、一息に唱えた。

 

「……エル、ドーナ!!!」

 

(…………ドゴオッ!!!)

 

 地面が大きく回縦に揺れ体が一瞬宙に浮き、その重い振動で思わず目を瞑ってしまう。

 再び目を開けると、目の前には俺の背丈の倍くらいありそうな、山の天辺を切り取ってきた様に鋭く聳える土の柱。

 そしてぱらぱらぱら……と小さな土塊が降り、お茶会のパラソルから少し体が出ていた俺の頭に雨の様に降りかかる。うぇ、口に入った。

 ぺっぺっ、と口に入った土を掃き出す。

 

「……まさか一回でマナを暴走させる事無く成功するとは驚きだね。キミは……やはり魔法の才能がある様だ。元いた世界で相当な善行でも積んでいたのかい?」

 

 エキドナは紅茶を飲むのを止め、心底興味深そうにすると同時に感心した様子で微笑んでいる。

 おぉ……と言う事は上手くいったのか! と、俺が嬉々として何か答えようとした時、

 

「……? っ、ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 左手が焼ける様な、内側から押し広げられられている様な痛みに襲われた。血管の一本一本が限界まで膨らんで、腕そのものが捩じ切れて弾け飛んでしまいそうな圧迫感。

 

「あはぁ……がぁぁ……っ……!!」

 

 俺は椅子から転げ落ち、地面に身体を打っても尚、激しい痛みに襲われる左手を抱え込む様にしながら死に損ないの虫の様に悶えた。

 

「ふぅぅぅ……! ぐぅぅぅぅ……!」

 

 地面の草をまだ自由がきく方の右手で掴み、額を地面に擦り付けてどうにかこの苦痛から逃れようと必死に堪える。力み過ぎた為か、ジリジリと視界が血走り薄暗くなって行く。

 だが突然、すぅ……と痛みが急速に引き、暗くなっていった視界が再び元の明るさを取り戻す。……何か……頭を、撫でられている様な……。

 

「……………………………………」

 

 エキドナ……? と、彼女の姿を認識した所で、俺は余力が無くなり力尽きた。

 

 

 

 ***********

 

 

 

 

 

(……エルの魔法を使うにはまだかなり反動がある様だ。才能があるとは言え、これからは多少慎重に事を運ばねばならないな……)

 

 最近、ワタシは退屈する事が無い。

 

 それは勿論彼の為だ。

 マオがこの城に来てからもうひと月程、彼の魔法の腕は日に日に上達している。

 

 未だに口先でふざけたりしている彼だが、4属性に適正があったり、魔法を一切使った事が無いと言うのにワタシのマナを暴走させる事無く自在に使いこなしているのは、彼自身あまり気づいていない様だが明らかな才能だ。

 

 マナを貯められないとか、そういう問題さえ解決すれば、ゆくゆくはかなりの魔法使いになるだろう……今後、ワタシの"目"となって貰う事を考えれば彼には自衛くらいは出来るようになって貰う必要もある。

 

 そして、対価としてワタシと対談し、全く違う世界で生きてきた彼の話す事、知る事……その何もかもが強欲の魔女であるワタシの知識欲を満たしてくれる。

 

 ……だがそれと同時に、彼はこちらの世界に対しては無知だ。

 無知であると言う事はこれから全てを知っていくという事でもあり、魔女に与えられた言葉を鵜呑みにし、ワタシの知識だけで彼は己の世界を創って行く。

 

 その果てに異世界人の彼が、どの様な答えを出すのか……それを、ワタシは堪らなく知りたい。

 

 

(ああ、本当にキミは好ましいニンゲンだな──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──だからこそ、キミを召喚した甲斐があったと言うものだ)

 

 ワタシは気を失っている彼の頭をそれこそ愛おしく撫で、ほくそ笑んだ。

 

 

 

 ──────ー

 

 

 -ひと月前、とある世界のとある場所-

 

「……真桜の奴が居なくなった、だと?」

 

 少し年老いた男は、様々な装飾品が並び、やたら煌びやかな部屋の中、馬鹿でかい椅子に腰を下ろし、空中に表示された目の前のウィンドウを操作しながら音声の聞こえる別のウィンドウに少し苛立った声で答える。

 

「はい、確かに先程までご自身のお部屋で寛いでいた筈なのですが……今、屋敷の者が懸命に付近を捜索していますが……全く足取りがつかめていません……」

 

 若く、少し申し訳無さそうな男の声がスピーカーの形を表示した画面から聞こえてくる。

 その報告を聞き、少し年老いた男は「ちっ」とわざと大きな舌打ちをした。椅子をくるりと回し、窓の外の景色を見やる……遥か下の眼下に広がるのは、夜だと言うのに恐ろしいくらいに輝く都市の街並み。

 

「……十中八九、婚約の話が嫌で何処かをほっつき歩いてんだろうが、万が一と言う場合もある。サツに手ぇ回して今すぐ見つけ出せ。もうそろそろ真桜には自分の置かれた立場、ってのを弁えて貰う必要がある」

 

「承知致しました、旦那様。必ずや連れ戻します」

 

 ブツッ、と通信が切れると同時にウィンドウが閉じて消滅し、再び静寂が戻る室内。

 

「馬鹿息子が……」

 

 少し年老いた男はまた「ちっ」と苛立ちながら舌打ちをするのだった。

 




ちょっとエキドナさん甘かったかも知れませんが、それは召喚した本人だからだと言う事で(*´-`)
最後に色々詰め過ぎた感。

次はいよいよ他の大罪魔女が登場します。
まぁ主人公にとっては………どうなるかはお分かりの事と存じます(*´-`)

それと、気づいたらお気に入り100超えてました。
こんな文章に皆様お付き合い頂きまして…本当にありがとうございます!

これからも宜しくお願いします。


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#4 魔女の茶会+1

今更ながら主人公の設定を投下(*´-`)
(?)の所は今後解放されます。
そろそろオリ主とエキドナ以外の人を出さないと内容ががが……_:(´ཀ`」 ∠):

主人公名前 「梶賺 真桜(かじすか まお)」

年齢     「19歳」
身長     「177cm」
誕生日    「04月25日」
好きな色   「色んな色」
好きな食べ物 「タルト・タタン」
好きな言葉  「両立、(?)」
イメージカラー「(?)、白、(?)」

弱点 「大人の女性が苦手」

能力 「不明」


「で、エキドナ。その子に何をさせようっての? まさかあたし達にまで本心を隠そうって訳じゃないわよね」

 

「ははもいってたんだけどなー。ドナなー、またなにか、わるいことかんがえてるなー? ドナ、アクニンかー?」

 

「ワタシはこれでも彼に親身に接しているさ。勿論、それは彼との取引の内容に基づいた互いの合意の上でね」

 

「その取引ってのは、はぁ。隠し事だらけの、って事じゃないのさね……ふぅ」

 

「えっ、と……。え、キドナちゃん。また、なの……?」

 

「はぁはぁ、ふもふも……」

 

 

(うぅぅ〜っ……マジでなんでこうなったぁぁ……!?)

 

 俺は、"一般的に言うとするなら"とても華々しい光景を目にして、心の中で悲鳴を上げて頭を抱えていた……。

 

 

 

 ──────

 

 

 ……時は遡り、数刻前。

 

 俺が〈エル〉の魔法を行使した反動でぶっ倒れた翌日の事。

 

「……アイス!!」

 

 と俺は丘の中腹で座りながら唱えていた。

 

 これは何もアイスクリームが食べた過ぎて叫んでる訳では無く、氷魔法……正確には水魔法の温度を0度以下に調整する練習である。本来、その魔法は「アイス」では無く別の名前があるらしいが……この方がしっくりくるのでこう読んでいる。

 

 何故そんな事を? と言われれば……。

 俺がまだ〈エル〉の魔法を使いこなすのが難しいと見たエキドナが、それならば今はマナの扱い方の方を練習するのはどうだろう? とアドバイスをくれた為。

 

「ふむ、割と簡単だな…………?」

 

 とは言え練習して直ぐに、両手で抱えられない程の大きさの透き通り、ひんやりした冷気を放つ氷塊を生成出来る様になってしまった。

 直感で出来てしまった自分が、少し天才なんじゃ無いかと思うのは流石に自惚れだろうか。

 

 ……マナの扱いは簡単に出来るのに、何で威力を上げるのは大変なんだろう……と悩んだりしながら俺は生成した氷塊を通して周りの景色を眺めたりして何となく暇を持て余していた。

 

 その時である。

 

「なーなー、そこのおまえー。おまえが、ドナのいってた"マオ"ってやつかー?」

 

「うあっとぉ!!?」

 

 背後から幼く、あどけない少女の声。

 久しぶりに聞いたエキドナ以外の声に、俺は変な声を出しながら足元に爆弾でも見つけたかの様に飛び退く。

 そのまま体制を崩し、芝生に肩を打った。草が生い茂っている為ダメージは少ないが、それでも痛いものは痛い。

 痛てて……と肩を摩っていると、その声の主がトコトコと歩み寄ってきた。……声の通り幼い赤目の少女の肌は少し焼けた様な感じで、濃い緑色をした短髪をしており、青い花の装飾がなされたワンピースに、頭には青色の花々の髪留め。

 ……え、誰? 

 

「なーなー、おまえが"マオ"なんだよなー? ところでさー。おまえって、アクニンなのかー?」

 

 その少女はこちらの都合など構わず、一方的に話しかけてくる。少し待ってくれ……一体どう言う事だ……? 確か、聞いた話によればここはエキドナと俺以外の人は居ないはずでは……? 

 

 おかしいな……と俺がこの状況についてモノローグしていると、

 

「むー! おまえ、テュフォンのことムシしたなー! ムシするってことは、おまえ、アクニンだなー!」

 

 そう少しぐずりながら言った後、その少女は俺の頭をぺちりと叩いた。どうも無視した事が癪に障ったらしい……いけないいけない、どうも最近自分の世界に入りがちになってしまう……。

「俺がマオだけど、どうしたのかな?」とそう優しく声を掛けようとした、刹那。

 

「──トガハクサビトナッテケッシテノガサズ。──ツミハタダイタミニヨッテノミアガナワレル」

 

「ん? 何を言って……」

 

 その後の言葉を、俺は紡げなかった。

 ピシッ……と何やら砕けた音がして、ぐらりと世界が傾いたと思うと俺の視界はその少女より遥かに下にあった。

 それが俺の上半身が砕け散った音だと、見上げた視界に残された自身の身体が否応なしにハッキリと写った時、漸く気づいた。

 

「……ぁ……ぁ……、うああぁぁぁぁぁぁぁ!!??」

 

 理解は出来ても受け入れ難い現実に、俺はぐちゃぐちゃになった思考を吐き出す様に叫び、発狂かける。

 

「んー、どっちだかよく分からないなー? でも、さわられた時にいたくなかったんだからなー。おまえはアクニンじゃないのに、自分をトガビトだと思ってるんだなー。かわいそーになー」

 

「あ、まだ名前を言ってなかったなー。テュフォンは【傲慢の魔女】だぞー」

 

 今の俺にそんな事どうでも良い。嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だぁぁぁぁぁぁ!!! 死ぬ……これは間違いなく死ぬ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 

 

「今の言葉! 聞き捨てならないわ!!!!」

 

 そんな時、エキドナでもさっきのテュフォンと名乗った少女でも無い別の声が響いたかと思うと空がキラリと輝き。

 弾丸の様な速度で隕石のようなものが俺に向かって落ちてきて見事に着弾し土煙を上げる。

 

 土煙を吸い込みザラザラとした土の食感が伝わり俺は思わず、げほげほと咽せる。

 クレーターが出来るほどの衝撃で地面がドーン! と派手に揺れたと言うのに、着弾点の側にいた俺は何故か死なず、そればかりか土煙が晴れて見てみれば俺の体は元通りになっていた。

 

「あんた! 今あたしの前で死ぬとか言ったわね! 私は! 【憤怒の魔女】ミネルヴァ! 名乗るほどのものじゃないわ!!」

 

 そして、目の前には何故かドカドカと地面を蹴り付け、拳を握りしめながら怒っている金髪碧眼の……

 

(うっ……これはちょっと……危ないラインだ……)

 

 未だ何が起こってるのか訳がわからないが、明らかトンデモない状況だと悟った俺は、自分に喝を入れる為に自分の左の頬を結構強くばちんとビンタした。うん、ちゃんと痛い。

 

 だがその瞬間、目の前で怒っていたミネルヴァ……であってるんだよな? がこちらの行為を視認した瞬間更に血相を変え、空気を切り裂く様な音と共に左ストレートが飛んできた。

 危なっ!!? てかさっきからいきなり何だ!? 

 

 触れられる事になるので、例えそれがパンチでも絶対に食いたくない俺は咄嗟の生存本能で横に転がってギリギリ避けた。

 

「何で避けるのよ! て言うか! あたしの目の前で自分を傷つけるとか許さないわよ!!」

 

「ちょっ……! た、頼むから落ち着いてくれぇぇぇ!」

 

 少し踏み込んだかと思うと、ミネルヴァは強く地面を蹴って弾かれる様にこちらに飛びかかり、再び左ストレートと共に迫ってくる。危ないな本当に!!? 

 

「全ての傷はあたしの敵よ! だから観念してあたしに癒されなさい! 皆癒しにするわよ!!」

 

「兎に角落ち着いてくれぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 再び咄嗟に飛び退き、そう叫びながら迫ってくるミネルヴァの恐ろしいスピードと精度の拳から2度目の回避を行う。

 直後、さっきまで居た地面が派手な音と土煙……とハートのマーク? を放ちながら爆発する。

 

 だがその弾みで体制を崩した俺は着地を失敗し体を打つと共に、グギッと言う嫌な音が骨に響き左足に激痛が走る。

 

「っってぇぇぇ……!!」

 

 苦痛で顔が歪む。場所的にどうやら足首を挫いたらしく、その痛みで足の自由が効かなくなり立ち上がる事が出来なくなる。

 うぐぐぐ……流石に無理しすぎたか。

 

「もう、また傷を増やすとか信じらんない! バカじゃないの! 本っ当に……バカ!!」

 

 更に怒り狂い、飛んでくる拳とミネルヴァ。

 どうにか動こうとしても片方の足の自由が効かないのでは、立ち上がる事も難しく避けることなど到底出来ない。

 

 あぁ……これは終わった……と、最早考えるのが面倒になると同時に無理矢理動かしていた体の力が抜け。

 俺はそのまま、その拳をモロに喰ら――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――わなかった。

 

 拳が命中する瞬間。

 ふわりと一瞬の浮遊感がして、「え???」と自分に起こっていることが理解出来ない内に、今度は腰のあたりに何かがぶつかった様な、鈍い痛みがした。

 俺は腰の痛みに苦しみつつも周りを見れば、先程と全く同じの青々とした美しい丘が続いている。

 ただ、目の前にあのミネルヴァはおらず……少し遠くでは先程見たような土煙が上がっている。

 

「……やはりキミはおもしろい。さしずめ、それがキミが貰った「加護」と言う訳か」

 

 その聞き覚えのある声に振り返ってみれば、そこに居たのは紛れもない、パラソル付きのテーブルの側で椅子に座りながらカップを傾けている女性……エキドナだった。

 

「全く、ミネルヴァもあんたも落ち着くさね、はぁ。騒がしいのは嫌いさね、ふぅ」

 

「え、キドナちゃん……その人、が、新しい……弟子、なの……?」

 

「そんな事よりもぉ。ドナドナも皆んなも居ることですしぃ。早くお茶会にしませんかぁ?」

 

 そして、謎の女性の方々がいた。うっ()

 

 

 

 その後「この人数は……キャパオーバーだぁ……」となり力が抜けてくらっとしかけた俺だったが、エキドナが(遠隔で)治癒魔法をかけてくれたおかげでどうにか持ち直した。

 

 各々の言いたい事はある様だったが、とりあえず「魔女」と呼ばれる人が席に着いた(物理的につけない人もいたが)事で現在の【魔女達のお茶会+1(俺)】と言う状況である。

 

 あ、俺は当然茶会に参加はせず椅子だけ持って距離を置き、話し声も聞こえないくらい遠くにいる。

 あそこにいたら俺の命が……命が……。

 

 ふぅ……(心労)

 

 だがとりあえずここに居れば大丈夫だろう。

 あの空間に居たら雰囲気だけで死ぬ自信がある、割とマジで。

 

「……………………盛り上がってるな……」

 

 遠くから見てみると……どうもエキドナ含めたあの6人の魔女(らしい)は積もる話があるらしく、大変盛り上がっている様に見え、今現在俺の事は普通に放って置かれている。

 ふぅ、これで暫くは大丈夫そうだな……と、俺がそう一息ついていた時、

 

「ん?」

 

 椅子に座ったまま、再びの浮遊感と、ドシンと何かに着地した衝撃が椅子を通し尻に伝わった。

 

「……おや、呼ぶまでもなく来てくれたのか。その能力について教えて欲しい事が沢山あるんだけど、先ずは改めて、魔女の茶会にようこそ。マオ。【強欲の魔女】の名において、キミの出席を認めよう」

 

「………………ま、ま、ま……」

 

 なんか出席確定されてしまったが、それより此処は……さっきまで居た場所では当然無く……

 

「……マジにかぁぁ!!??」

 

 ──魔女たちの茶会の席に新たに現れた7人目のイレギュラーな乱入者。

 それを、6人の魔女は各々様々な思惑が入った瞳で見据えていた。

 

 

 ────────

 

 そして、現在に至る。

 

 

 紅茶(ドナ茶)の花の様な良い香りが辺りに満ち、そよ風がサラサラと魔女たちの髪を優しく撫でている。

 

 ……こんな時、「美人ばかりのお茶会に参加出来るなんて羨ましい!」と、普通の人は多分そう思うのだろう。

 

 別に俺だって女性を嫌悪しているとか……そう言う訳ではないんだが……ただなんと言うか、理想に近づき過ぎると言うのか。

 

 この世界に来る前までは、全くと言って良い程女性と話したりしなかったし、共に過ごすなんてそれこそ寝てる間に見る夢見たいなものだった。

 

「……………………っ! …………っ!!」

 

「さっきから一人で赤くなったり、ふぅ。目を覆ったり忙しい人さね、はぁ。あぁ……あたしは【怠惰の魔女】セクメトさね。ふぅ」

 

 俺から大体反対の椅子に座ってはいるが、テーブルを枕みたいにし、活力無く気だるそうにしている伸ばし放題の赤紫の髪の女性……セクメトは目を細めながら、言葉に詰まっている俺に言う。

 見れば、紅茶に全く手をつけていないのか、置かれた紅茶の量もなみなみと注がれたまま完全に冷めきってしまっている。

 

 普段からこうなのだろうか……先程まで地面にだらーんと横になっていたが、席に座る為に立ち上がって歩いただけで、他の魔女のほとんどがその様を珍しいものを見る目で見ていた。

 

 まぁ、普段からこうなら個人的には凄くありがたい。見た目こそ一番苦手だがが……美女にいきなり動かれると本当に心臓に悪いからな……。マジで……。

 

「え、えと……【色欲の魔女】、カーミラ、だよ……。あの、あなた、は、女の、子が嫌い、なの……? 

 

「……え? い、いやそのまぁ……き、嫌いと言うか……に、苦手と、言うか……」

 

 今の俺とおんなじ様なつっかえつっかえで話し、このピンク色の髪を短く丸める様にして、緑のマフラーに長めの服を羽織った気弱そうな少女がカーミラ、と言うらしい。

 全体的な印象として何だかもふもふしている。

 

 俺の答えに納得した様な、そうでもない様な……何だか泣きそうな顔をしながら手を自分に密着させており、その衣装も相まってもしかして寒いんじゃ……? とも思ってしまう。  

 え? いや、このくらいの年齢(見た目的に)はそこまで緊張したりはしないよ。

 むしろ此処からがやばくて……。

 

「んー、ところでマオさー。何で自分の事をトガビトだと思ってるんだー? アクニンじゃないのに不思議だなー」

 

「……それは……、少しだけ、気残りな事があるから……かな」

 

 さっき俺の首を文字通り落とした少女……テュフォンはそう尋ねる。

 椅子に座ってはいるが足が地面に届かず、両足をぷらぷらさせている姿はただの幼い女の子にしか見えないが……さっきの事を考えるとそうは思えない。

 

 俺の返答には「ふーん、そうなのかー」と言った後、隣のセクメトの伸び放題の髪をせっせと結い始めた。

 セクメトも嫌がったりせず身を任せている様子は母と子の様にも見えない光景だが……何だろうな……2人とも圧力と言うか、やけに大人しいだけあって絶対に機嫌を損ねたらダメな気がする。

 

 特にテュフォンにはあんな事があったからか、俺が内心怯えていると、ガシャンガシャンガシャンと自らの縛りつけられた棺の様な生き物の足を鳴らしている者が。

 

「マオマオは、何だか変な匂いがしますねぇ? 今まで嗅いだ事の無いようなぁ、匂いがしますぅ。……生的にぃ、食べてみたいですねぇ? あ、ダフネはぁ、【暴食の魔女】なんて呼ばれていますねぇ。もふもふ……はもはも……」

 

「……い、いや、俺はおいしくないぞ!!?」

 

 テーブルに置かれたお菓子を全部一人で皿ごとバリバリ食べている、明らかにやばい灰色がかった肩くらいまでの髪の少女がダフネと言うらしい。

 

 パラソルはかなり高い位置にあると言うのに、この棺みたいな生き物はそれにぶつかるほど巨大で、新たな陰を増やし、体を前に傾けその中からダフネは口だけじゃ無く身体が触れた所からも、お菓子やら紅茶やらを食べている……と言うより捕食している。

 そして、あらかた食べ終わった後こちらをじーっと見て涎を垂らし始めた。おい!? まさか本気で食べ物だと思われてるんじゃないよな!? 

 

「あぁもう! あんた! そこの性悪にはあんまり気を許さない方が良いわ。誰かに親身になる時はぜっったい企んでるから、今はまだ隠してるけどそいつ、この中で一番腹黒い奴なのよ」

 

「ちょ……! ち、近い近い……っ…………!!」

 

 さっき殴りかかってきた少女、ミネルヴァは先程と比べるとだいぶ落ち着いているが、こうやって活発と言うか何かに怒っていると言うか……。

 

 ミネルヴァはテーブルをダーン! と叩いて立ち上がり、身を乗り出して俺の左隣で優雅にカップを傾けるエキドナを勢いよく指差してそう言った。 

 他の魔女もそれに賛同する様に頷く。

 

 なお席順は、エキドナ→俺(マオ)→ミネルヴァ→ダフネ→セクメト→テュフォン→カーミラ……であるので、俺はエキドナとミネルヴァに挟まれている状況である。

 だからミネルヴァがエキドナの方に身を乗り出すと、結構意識がす〜っと遠のきそうで危ない……

 

「やれやれ、ボクの評判も下がったものだね」

 

 皆が頷いた事にエキドナは、本心からショックだったと言う感じでは無く冗談めいた様に嘆いている。

 

「はぁ……なあエキドナ。何だその……企んでるとか何とかって……本当にそうなのか?」

 

 俺は上がってしまった呼吸を整えてから、あくまで事実を再度確かめる様に尋ねた。

 

「何も、企んでいると言う訳じゃない。ただキミに"まだ"打ち明けるべきでは無い事があるだけさ。そもそも……」

 

 表情を一切崩さぬまま、コトンとカップを置くエキドナ。まだ少し残っている中身は……紅茶では無く、他の魔女たちは紅茶だと言うのにエキドナのカップにだけ何か黒い……ブラックコーヒーの様なものが注がれていた。

 

 そして、こちらに向き直ると。

 

「──ワタシが魔女だと言う事を、忘れて貰っては困るなぁ?」

 

 今までに見た事が無い怪しげな笑みを浮かべ、心の底まで見透かしている様な、惑わす様な双眸で俺を見つめていた。




主人公能力追加

・生存の意思(対女性)
近接攻撃のみで、尚且つ相手が女性の場合驚異的な回避能力を得る。
ただし本能的なもので長くは持たない。

・転移(仮称)
発動条件が不安定


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#4.5 魔女の茶会+1 【アフターティー】

前回の繋ぎの為短めです。ごめんなさい。
4〜5の繋ぎが変になりそうだったので4話のおまけ的な意味で…(・ω・`)
次からちゃんと長くします。

あと言い忘れてしまいましたが、お気に入り「700」…超!?ありがとうございます!

いやはや…エキドナさん人気ありますねぇ…(*´-`)
もっとエキドナさんss増えて欲しい_:(´ཀ`」 ∠):


「………………!!?」

 

 普段とは全く違う、仄暗い水の底の様な雰囲気のエキドナに見つめられ、周りは普段通りの風景だと言うのにゾワゾワした感触が身を包む。

 

 だがそれも一瞬の事で「おや、ボクとした事が驚かし過ぎてしまったかな」と付け足して、エキドナは再びカップの中の黒いコーヒーみたいな飲み物を飲み、またさっきまでの談笑ムードに戻る。

 

 俺はその、文字通り掌を返した変わり様に、何故エキドナが「魔女」と言われるのか……その意味が今初めて分かった気がした。

 

「………………そう言う事かぁ……。そうなんだなぁ……エキドナ……」

 

 考えて見れば当然である。

 企みも何も無しに、初対面の俺にただ対話するだけであそこまで魔法の手解きから世界の知識と、何から何まで親切に教えてくれる様な人がこの世に存在する訳がない。

 はぁ……"今度こそは"と思ったんだけどな……。ま、仕方ないか。

 

「これであんたも分かったでしょ。こいつは、こう言う奴なのよ。まぁ、あたしたちもそれを分かった上で付き合ってるんだけど」

 

 怒った事で大分落ち着いたのか、ミネルヴァが腕組みをしながら先程より落ち着いたトーンで横槍を入れる。

 

「ここにいる中で、ある意味一番魔女らしい魔女とも言えるさね、ふぅ」

 

「……まぁいいか、間違っちゃいないし。キミたちからどう思われているのかは一先ず置いといて……」

 

 ミネルヴァに続きセクメトにも痛烈な評価をくらったにも関わらず、何か言いたげではあってもエキドナはそれを否定しようとはしない。

「一体過去に何したらこんなに言われるんだ……?」と突っ込みたくなったが、

 

「……マオ、キミに伝えたい事がある」

 

 エキドナはカップの黒い液体を飲み干した後、談笑していた時とは違う真剣なトーンに変わり、自らの席の向きを変えこちらに自らの体の正面を向けると、その様子を他の魔女たちも注視する。

 俺は場の雰囲気に押され、言葉を飲み閉口した。

 

「契約を、ボクと結んではくれないだろうか。自分から言うのは恥ずかしい事だが隠し事をしているのが分かってしまった以上、もう今までの様な単なる交換条件や取引では形式的にも内容的にも不適だ。そうでは無く、お互いにお互いを"利用"し合う関係として、契約をボクと結んで欲しい。勿論、"概要は"今までと変わらない。キミがボクから魔法の指南をしてもらい、ボクはキミから新しい知識を得る。ただそれが今までより少しだけ、お互いに大きなものを得る事が出来る様になると言うだけさ。キミが望むならそれ以外も……ボクに出来る事なら何でもしてあげよう! これでもキミが喜びそうな事はもう既に選出済みだからね。たださっきも言った通り、ボクもキミから少し、本当に少しだけ多く利益を得させてもらうよ。とは言え悪くない条件だろう? 寧ろ今までより効率的に効果的なメリットを受け取り合う関係になれる、必ずだ。もう一度問おう、ボクと契約を結んでくれ、カジスカ マオ」

 

 

 ふぅ……と途中からヒートアップしていたエキドナは捲し立て終わると、満足した様に一息つき。

 逆に他の魔女の面々は、はぁ……と何だか呆れた様なため息を吐いた。

 その明らかな温度差を尻目に、俺の答えを期待している表情のエキドナに正面から向き直って、キッパリとこう言い切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こちらこそ、宜しくお願い致します」

 

 

 

 

 その答えに、エキドナの瞳は目に見えて輝き、反対に他の魔女は信じられないものを見る目でコチラを見ている。

 

「それは本当だね!!!?」

 

 そう言ってこちらの手を取ろうとしたエキドナの手首をミネルヴァがいきなり身を乗り出し、掴んで押さえつけたままこちらを睨む。

 因みにその一連の流れで心臓がマジで止まりかけました。2人とも突然動くのは心臓に悪いからやめてくれぇぇ……! (懇願)

 

「あんた、今の話聞いてたの……!? て言うか、あんたはこいつに騙されてたのよ!?」

 

「え、キドナちゃんは、凄く、ご、強欲だから……ど、どうな……っても、し……知らない……よ?」

 

「確かに軽率すぎじゃないですかねぇ。でもぉ、何となくマオマオには何か考えがありそうな気がしますよぉ?」

 

「でも、"ケイヤク"ってたしかかなりおもいものじゃなかったかー? ははー、どうだったっけなー?」

 

「魔女との契約は、はぁ。一度決めたら取り消せないものさね。ふぅ。……怖いもの見たさなら今すぐ取り消すさね。はぁ」

 

 エキドナ以外の魔女が各々様々な反応を見せる中、俺はコホン……と一回咳払いをすると、椅子を引いて立ち上がり「落ち着け……落ち着け……」と自己暗示をしながら、まるで法話でもする様にゆっくりと話し始めた。

 

「……そもそも、別に騙されたとか隠し事してたとか、そんな事は誰かに関係を持とうとする時点でそう言う我欲は皆んな持っているものなんじゃないか……と俺は思う。そうじゃないなら何で関わりを持とうとするのか……説明が付かない。例えば、相手が何か自分の欲しいものを持っていたとする、自分はそれが欲しいから相手に近づく、売買との違いはそれが言葉かお金かの違いしかないと思うんですよ。それをあたかも「自分は無欲です」と言う人は本当に多くて……あぁ! それは仕方の無い事だとちゃんと理解はしている。人間、欲望とか願望みたいな他人から見れば醜かったり、恥ずかしかったりする部分は普通隠したがるのは否定のしようがない事ですから。で、それに関連付けて話を戻すと、エキドナはさっきまでは隠してたけど、今はちゃんと自分の意思表示をしてくれた。俺を利用するんだと、そう言う自らの欲望を誤魔化す事無く。俺からすればとてもとてもそれは清々しくて、一点の曇りもなくて、心地よくて、何よりその感情を包み隠さず見せてくれる事がとても……"嬉しい"」

 

 

 ふぅ……久しぶりに長く喋った気がする。安堵の気持ちと共に席に再び腰掛け辺りを見てみれば、

 

 エキドナは笑みを隠しきれない様子で、

 ミネルヴァは口をへの字にしつつ目を手で覆い、

 ダフネは特に表情を変えず、

 セクメトは先程より気怠そうにして溜息を吐き、

 テュフォンは何だか不思議そうな顔をし、

 カーミラは何か言いたげな仕草を

 

 していた。

 

 

「これで、契約成立だ」

 

 

 そうポツリと呟いたエキドナだったが、やがて堪えきれなくなったのか唐突に立ち上がると感激した様子で、放り出してあった俺の両手をその繊細な手で奪い取る様に握りしめた。

 へぁぁっ!!??? 

 

「これからボクとキミは長ーい付き合いになるだろう! ボクとの契約を、ボクの愛を、受け入れてくれた事に今ボクは心の底から感謝している! 契約が結ばれた今、ボクは今後ボクの持てる全ての知識をキミのためだけに使うと【強欲の魔女】の名にかけて誓おう! 今後ともこれまで以上に……ん、マオ?」

 

(〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!?)

 

 握られた手からエキドナの柔らかな肌の感触がダイレクトに伝わる。

 雪の様に白いが、確かに暖かい体温を感じるその未知の感触に俺の頭は当然キャパオーバーになり…………

 

 そのまま、視界がブラックアウトした。

 

 




はい、カサネル√スタート!!

怪文章な契約の要約
「これからも騙したりするけど許してね。あと、何でもするからそっちも何されても文句は無しだよ?」
性悪ぅ…でもオリ主もそれを当たり前みたいに扱うのよねぇ…。

因みに…
他の魔女はサテラに愛されてるスバルくんとは違い、マオの事はエキドナの眷属または弟子みたいなものと捉えています。


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#5 夢の城から異世界へ

いよいよ城引きこもりオリ主が外へ出ます(*´-`)
外出規制解除ですひゃっほーい

3、4話の誤字報告ありがとうございます!


 

「もう一年か……時が流れるのは早いものだ。キミもそうは思わないかい?」

 

 対面に座ってそう感慨深そうに呟くエキドナ。椅子に腰掛けて優雅にカップを傾ける姿は俺の中では最早風景の一部になっている。

 

 あの契約の日から一年が過ぎ、俺はエキドナの夢の城で割と何事もない日を過ごしている。いや"何事もない"と言うのは違うか、あの日以来、エキドナは俺に対してルンルンと鼻歌でも歌い出しそうなほど常に上機嫌で接してくれている。魔法指南の時や、茶会で問答をする時は特に……まぁ理由は契約が成立したからなのだろうと予想はつくが、俺としてはその女性が喜んでる姿と言うのは慣れないもので、嬉しくないわけではないが、一年共に過ごしてもまだ何となく女性としての苦手意識はあり歯痒い気分でもあった。

 

「いや、こっちは毎日記憶に残る程大変だったぞ……【輝門の加護】の門の片方に〈エルゴーア〉って唱えてみたら、もう片方から炎が出てきて全然止まらなくなった事とか」

 

 この一年、エキドナの熱心な魔法指南もあってか俺は〈エル〉の魔法をマスターし、更に使用後の反動と"若干の問題"こそあれど〈ウル〉の魔法さえ一応使おうと思えば使えるようになった。加護については、どうも視界の範囲内なら生成した波紋の様なもの(それがキラキラ輝いていたので【輝門の加護】と名付けた)を潜って場所から場所へ移動出来る事も分かった。用は2点を繋ぐ扉の生成と言えば分かりやすいだろうか。

 ……ただ、加護の方は使おうと思っても出なかったり、消そうと思っても消えなかったりとまだまだ問題だらけで色々試している内に上記の様な事態が発生したりもした。

 

 全く散々な目にあった、と俺は呟き自分の前に置かれたクッキーを手に取り齧る。匂いは炒ったアーモンドの様にとても香ばしく食感もサクサクしていてとても良いのだが、やたらパサパサして砂みたいな上に肝心の味が薄い。てか殆ど無い。

 

「おっと、すまない。別にあっという間ではあったけど、中身の無い日々だったと言う意味じゃないさ。その後消そうと思って陰魔法をかけたら……君の世界の言葉ではブラックホール、と言うんだったかな? それを生み出したりしてしまって、危うくボク達がこの世界ごと消えそうな事態になった事も、しっかり記憶しているとも」

 

 話す内容とは裏腹に、ゆったりと落ち着いた仕草で黒いコーヒーの様なものが入ったカップを置き回想に浸るエキドナ。

 危うく、と言う割には俺が死にもの狂いで地面にしがみついてる時に全く動じないで興味深そうに観察してたのはどこの誰なんだか、と俺は内心思いながらクッキーでパサパサになった口を潤す為に、手元に置かれたドナ茶の入ったカップを左手で持って啜る。

 匂いは良いのに味がしないのは変わらないが、最近はそれもいつもの味と化してきた。

 

「平穏だな……」

 

【Peace of mind】……あぁ……これが安らぎと言うものか……。転生前に一度も味わえなかった心地よさに少し目頭が暑くなる。

 

「その平穏を今からボクが壊すと言ったら……キミはどうするのかな?」

 

 目の前に広がる光景を見て鑑賞に浸る俺に、エキドナは悪戯っぽく笑い、そう問いかける。真意のほどはさて置きその仕草は蠱惑的で、耐性の無い俺の目にはよくもあり悪くもあるのだがぐふっ……もし俺が病弱であったなら今のでカップの中に血を吐いていただろう。

 

「ゴフッ……! や、やたら意味深長だな……。何か言いたいことがあるのか? エキドナ?」

 

 そうゆっくり言って表面上は落ち着いている様に取り繕う俺だったが、気恥ずかしさから左手に持ったカップをまた傾ける。最近のエキドナはこう言うちょっとした魔女っぽい? 蠱惑的な仕草が増えてきたから、俺の最近の悩みの種第一位が「エキドナを直視出来ない」だったりするのだ。

 

「言いたい事か……確かにそうだね。これから言うのはボクからキミへの進言だ。マオ、そろそろ"外の世界"に出てみたいとは思わないかい?」

 

「……外の世界……。一応聞いて置くけど、理由は俺を追い出したいとかじゃ……?」

 

「まさか。キミがここに居たいと言うなら好きなだけ居るといい……それもキミと交わした契約の内だからね。ただ、ずっと此処で過ごすのもキミは退屈だろう?」

 

 ドナ茶の入ったカップを置き、俺はパラソルの外に広がる青空に目をやる。この空の向こうにある世界……この一年、エキドナから色々聞いたが、やはり俺が生きていた世界とは文明的にかなり違うらしく、天に摩す機械や光学銃など存在しない剣と魔法の世界が外の世界らしい……まぁ、エキドナが言うには何やら俺が此処に来る少し前に【嫉妬の魔女】と言う"半魔"(因みにエキドナ含む他の魔女がそいつに取り込まれたらしく、その話をする際、エキドナは苦虫を噛み潰したような表情をしていた)の所為で世界の半分くらいがボロボロになったらしい……そう言う点では元居た世界と割と似ているかも知れない。

 とは言え、最近まで違和感なく言葉が通じたから文字も同じ日本語なのかと思ってたらまるっきり違った所を見るに、そんなに似てるとは言えな……ん? 

 

「最近……やたら外の世界の常識とか文字の読み書きを教えていたのはこの日の為か、エキドナ?」

 

「……さぁ? どうだろうね? (ドナァ……)」

 

 エキドナは口では誤魔化しつつも、分かりやすいくらいのドヤ顔をしながらカップだけじゃなく椅子も若干傾け、「どうだ凄いだろう、凄いだろう」と言わんばかりに誇らしげだ。追求するつもりは無いが裏で何を企んでいるのやら。

 

「……まあいいか。で、もし仮に俺が外の世界に行くとして……そもそもどうやってここから出るんだ?」

 

「何、簡単さ。此処はボクの"城"だからね」

 

 そう言うとエキドナは勿体ぶる様にゆっくりと、艶かしく芸術的な完璧なモーションで指をパチンと鳴らす。生前も普段からこんなんだったとしたら「指を鳴らす」と言う、たったこれだけの動作で一体何人の人を誑かしてきたのだろうか。

 

「……これを潜れば、直ぐに外の世界さ。あぁ……キミの身体はここに来た段階で時間の流れを止めてある。一年振りに目覚めても何の問題も無い、ただ起きて暫くはこっちの世界との違いに慣れないかも知れない、と言う可能性はあるね」

 

 そう、エキドナが言い終わる前に彼女の背後に黒いモヤみたいな物が集まり楕円の形を作る。周りの風景と全く似合わない、底無しの暗闇にヒュオオオ……と音を立てて吸い込まれているのは周りの空気かそれともマナか。

 

「お前は偶にマジで凄い事言うよな……」

 

 他の魔女の魂もそうしているらしいから分かってはいたが、時間を止めれるのを「腐らない様に冷凍保存しときました」見たいな超軽いノリで言っているあたり、次元の違いをこれでもかと感じさせられる。だが、こんなに桁外れの魔女で尚且つ全属性全ての魔法を使いこなせると言うのに、意外にも7人の大罪魔女の中では真ん中若しくはそれ以下くらいの強さだと言うのだから恐ろしい。

 

「【マジ】……本気で、または本当にを表す言葉だったね。ふふ、ボクをいくら褒めても良いけれど、紅茶のおかわりくらいしか出ないよ? ……それで……キミはこれからどうしたいんだい? 魔法も、外の世界についての常識もある程度は身につけれた。もう十分、外に出る準備は出来たと思うよ?」

 

「まぁ……確かに……」

 

 俺はそう言いつつ2杯目のドナ茶を貰い、頭の中では「本当に話の誘導が上手いなぁ」と思っていた。エキドナはどちらでも良いと口では言っているが、この外堀から埋める様な話の流れでは断る方が難しい。が、俺もここ一年外の世界の事を色々聞かされていた事もあり外の世界とやらが気になってはいた。

 

「外に出てみるのも良いk「ではさっそく出立に向けた用意をしよう!」……あ、うん……」

 

 俺がそう呟いた途端、エキドナは立ち上がりながらテーブルをバンッ! と叩いた。衝撃で花瓶やカップの受け皿が音を立てて揺れる。

 条件反射か何かなのか!? と、俺は普通に驚きで心臓をバクバクさせながら思った。

 

 

 

 

 ──────

 

 

 

 

 

「……じゃあ、行ってくる。これを付けていれば寝ている時はまた此処に戻ってこれるんだよな?」

 

 そう言って俺は黒いモヤの前に立つ。

 準備……といってもエキドナからは外の世界で気をつける事等、簡単な説明を受けただけで大体は俺の気持ちの整理に時間を割いた。

 

「ああ、それと、その腕輪は外さない様に……。キミとボクとを繋ぐ回路の代わりになる。特に、眠る時はそれをつけてないとこの場所には来れなくなるから、気をつけてほしい。……おっと、それとこれも持っていきたまえ」

 

 エキドナが椅子から立ち上がり、こちらに歩み寄ってくる。そして何か唱えた後空中から細長い、持ち手の部分に英語の「Z」を45度傾けた様な金色の装飾が付いている直剣を取り出した。

 ん? これは確か……。

 

「あの日、恐らくキミがこの世界に持ち込んだものだ。キミはこの剣について何も知らないらしいけど……何かの役に立つと思ってね」

 

 エキドナから貰った剣を左手に持ち、構える。持った感じは……見た目より軽い……そう言う事態に陥らないのが最善だが、剣なんて扱った事もない俺でも取り回しやすそうだ。

 それと、何となく手に馴染む……懐かしい感じがする……。装飾もさる事ながら不思議な剣だ。

 

「えっと……それじゃ、今度こそ……今までありがとう、エキドナ。まぁ、夜になったらまた直ぐ戻って来るけど……」

 

「キミが外の世界で何を見て、何を思うのか……それを、ボクは期待して待っているよ。少しの間だけど……お別れになるね。マオ」

 

 いつまでも変わる事の無い、晴天が続く丘の上でお互い簡単な言葉を交わし……エキドナが俺の胸板を指でトン、と軽く押す。

 俺は顔には出さなかったが一瞬身体がゾワッとしたと同時に身体が黒いモヤに引き込まれていき……。

 

 エキドナの顔と、あの夢の世界が段々と遠ざかる中……俺は黒いモヤの中で、委ねる様に意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ……。ここが……エキドナの墓……」

 

 身を刺す様に冷たく、硬い石張りの床。俺は何かに寄りかかる様に座っていた。

 重い腰を上げ立ち上がろうとすると一年振りの本物の身体に違和感があり多少ふらついたが、何とか持ち堪える。

 

 立ち上がって見える視界の先には一筋の光、どうもあそこが出口の様だ。そして何となく後ろを振り向きそうになり、俺ははっとした。

 

「振り向いちゃ、不味いんだったよな……」

 

 エキドナに「目覚めたら絶対に振り向くな、そのまま歩いて出口を目指せ」と再三注意されていたのに、つい振り向きそうになってしまった。こう言いつけを守らず、つい振り向くと大抵ロクなことにならないのはよくある話だ。

 

 俺は溢れる好奇心を押し殺し、黙りながらゆっくり歩いて墓所から出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………凄い……」

 

 

 自然とその言葉が出てきた。

 墓所から出て、一番最初に目の前に飛び込んで来たのは少しひらけた原っぱと、それを取り囲む大小様々な……生命の鼓動を感じる豊かな木々。

 ふと吹いた暖かな風が頬を撫で、まるで生きているかの様に森や植物がソヨソヨと騒めく。

 

 そう、此処はかつてエキドナが様々な人々と共に過ごしていたと言う……

 

「──クレマルディの森、これが……」

 

 その荘厳さと果てしなさ……植物の織り成す生命の力に、俺は圧倒されていた。

 




今更ですけど
マオ→魔法使いっぽい白服に、4属性って言う割と多めの属性が使えて、剣を持ってて、強欲の魔女が近くにいる。

これほぼユリウスじゃないですかやだー(๑╹ω╹๑ )


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