有城くん奮闘記(リメイク版) (icy tail)
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第1話

リメイクです!
よろしくお願いします!


俺の名前は

 

有城 楓(ありしろ かえで)だ。

 

親の仕事の関係でやけに転校が多いが、それと言って変わったところのない普通の高校生だ。

正直、転校すること自体は別に嫌ではない。

だが俺だって高校生。

普通に仲の良い友達の1人や2人の欲しいところではある。

そんな中、親の言う限りでは、やっと腰を据えることができるらしい。

それならば、頑張ろうではないか。

俺は期待を胸に明日に備え目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝。

転校初日だ。

俺はとある教室の前いる。

 

「やーっぱり何度やっても慣れねぇなぁ…」

 

もう何十回と転校を繰り返してきたが、こればっかりは慣れることができない。

愚痴りながらも中から声がかかるのを待っている。

教室の中では今まさに転校生を紹介する等の説明が担任からされているのだろう。

そして、待つこと数十秒。

 

「おーい。入ってこーい」

 

中から声がかかった。

大きく深呼吸をして扉を開いた。

 

「うし。行くかぁ」

 

教室に入るとざわめきが生まれる。

これも慣れない要因の1つだ。

大体の原因は分かっている。

それは俺の体が大きいことだ。

小さい頃から柔道をやっていることもあり体格には自信があるし、さらに身長も185センチある。

取り敢えず俺は先生の隣まで行き、生徒達に向き直る。

 

「よし。じゃあ…自己紹介だ」

 

「では、趣味はアニメ鑑賞と読書、あとは体を動かすことです。部活は小学校から柔道をしているので柔道部に入ります。あとは、なにか聞きたいことがある人がいたら質問形式でいいですかね?」

 

「有城がそれでいいならいいぞ。誰か、質問あるやつはいるかー?」

 

「はいはーい!」

 

なんか、活発そうな女子がめっちゃ手をあげてアピールしてるな。

こうゆうときに進んで前に出てくるのはすごいと思うわ。

クラスのムードメーカー感がすごい。

 

「じゃぁ、そこの元気な人どうぞ。」

 

「私だよね!?やった!」

 

元気な人で通じちゃうんだなぁ。

 

「まず、私の名前は七海みなみ!みんなからは、 みみみって呼ばれてるんだ!よろしくー!」

 

「うん。よろしくなぁ」

 

「それで、質問はねー。何にしようかなー?」 

 

いや、考えてなかったのかよぉ。

この人面白いな。

 

「なんでもいいからな?」

 

「それじゃぁ、身長は何センチあるの?結構大きいけど!」

 

「意外と普通の質問だね。まぁ身長は185センチだよ」

 

「そんな高いの?すごいね!」

 

「あはは。ありがとね。じゃぁ他に質問ある人はいますか?」

 

「はーい!次はおれっしょー!」

 

次の質問にいくと、これまた男子のムードメーカーっぽい男子が手を上げている。

 

「それじゃ、そこの人」

 

「じゃぁじゃぁ、有城くんガタいいいけどなんかやってんのー?」

 

おっと?何言ってんだこいつ?

全く話を聞いてなかったのか。

決定だな、こいつは残念くんだ。

 

「おいおい竹井。有城の話聞いてなかったのか?さっき、小学校の時から柔道やってたって言ってたろ?あー、悪い。俺は水沢孝弘な。よろしく」

 

続いて口を開いたのは、リア充オーラが溢れでてるイケメン君だ。

ザ陽キャって感じだな。

 

「おー。よろしくな水沢。あー。あと、竹井も」

 

「なんか、扱いが雑だよなぁ」

 

「竹井でぐだったから俺から質問いいか?」

 

「おー。じゃぁ水沢どうぞ」

 

竹井が何か言ってるが気にしないことにしようと思う。 

 

「有城は彼女いるの?」

 

「いんや、いないぞ。てか、できたこともない」

 

「へぇ。意外だな。モテそうなのに」

 

「そうかぁ?まぁでもこれだしなぁ」

 

そう言って俺は苦笑い気味に自分の頭をさわってみせる。

俺は所謂、坊主頭だ。

部活を引退したら伸ばすつもりだが今は邪魔だからな。

 

「そんなもんかねぇ」

 

水沢はちょっと苦笑い気味に言って席に着いた。

 

「そしたら次は、誰かいますか?」

 

そうやって見渡していると、そわそわしながら手を小さくあげて下ろしてを繰り返してるやつが目にはいった。

んー、なんか面白そうだからあいつにするかぁ。

 

「じゃぁ、俺からの逆指名でそこの人」

 

教室中のみんなが俺が指をさしたほうを見ている。

そこにいるのは男子生徒なのだが。

 

「…えっ?お、俺!?」

 

「そうそう。そこの君。なんか聞きたいことがある感じがしたからさぁ」

 

「え、えっと。と、友崎です。よ、よろしく」

 

「おー。よろしく。てか、そんな緊張しなくていいぞ?聞きたいことあるんだろ?」

 

あまり自己主張が強いタイプではないのか、あたふたしている。 

 

「う、うん。じゃぁ、あ、有城くんはゲームとかやる、かな?例えばアタファミとか」

 

「あー、アタファミな。面白いよなあのゲーム。所謂、神ゲーってやつだと思うわ」

 

「だ、だよね!!」

 

俺がアタファミを神ゲー認定したのがよほど嬉しかったのか、強めに返事が帰ってきた。

好きなんだろうなアタファミが。 

 

「あはは、友崎くん食い付きすぎだよー。有城くん私は日南葵ね!よろしくっ!」

 

そんなことを思いながら友崎を眺めていると、近くの席に座っている女子が笑いながら口を開いた。

なんか、完璧って言葉が似合いそうな、なんでもそつなくこなしそうな人だな。見た目もそうだし。 

 

「あぁ。よろしくな日南。なんか質問あるか?時間的に最後の質問だと思うし」

 

「うーん…それじゃぁ、柔道やってるって言ってたけどどれくらい本気でやってるのかな?」

 

「意外な質問がきたな。それは、今までも聞かれたことがないな。まぁそうだな…柔道を始めた頃からだが、全てをかけてやって来てるつもりだよ。後悔だけはしたくないからな」

 

なにか、探るような、試すような雰囲気を感じるが関係ない。

俺は自信をもって答えた。 

 

日南「…そっか。すごいんだね!有城くんは!」

 

なんか、一瞬だけど寂しそうな顔をした気がしたが気のせいか?

まぁ、そんな突っ込んで聞くことでもないか。

 

「それじゃ、これで質問は終わりなー。有城の席はそこな」

 

そう言って先生が指したのは友崎の後ろの席だった。

 

「分かりました。それじゃみんな改めてよろしく」

 

最後にそう言って席についた。

さて、これからどうなるかね。

 

 

 




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第2話

俺の自己紹介のあと、すぐに授業にはいった。

そして休み時間。

俺の回りには先程の自己紹介の時に質問をしてくれたメンバーが集まっている。

 

「柔道かー。すごいねぇ!痛くないの?あっ!こちら私のたまちゃんです!」

 

「唐突だなぁ。まぁ痛いけどさ。えーっと、たまちゃん?よろしくなぁ」

 

「私はみんみのじゃない!あ!有城よろしく!夏林花火ね!」

 

「よろしくね。夏林」

 

みみみと一緒に来ていたのは夏林だ。

通称たまちゃん。

背が小さいが、見た感じだと思ったことをズバズバ言うタイプだと思う。

2人は俺をよそにわいわいやっている。

そんな時水沢が話しかけてきた。

水沢の隣には竹井ともう1人男子が来ている。

 

「てかさ、うちの高校って柔道部なんてあったか?」

 

「あー。それ俺も思った。俺は中村修二な」

 

「中村ね。よろしく。この学校には柔道部は無いみたいだね。多分、高校の名前だけ借りて大会とかは出ることになると思う」

 

「ふーん。大変なんだな」

 

「まぁ、いままでもそうだったから別に大丈夫かな」

 

「大変だよなぁ!」

 

そんな話をしていると、水沢が転校のことについて聞いてきた。

まぁ普通は気になるよなぁ。

 

「そーいえば、転校多かったんだよな?何回くらいしてんの?」

 

「そぉだな…高校生になってからここで4回目だ。父さんの転勤が多くてなぁ。ひどい時は1ヶ月ってのもあったぞ」

 

「それはそれは…」

 

「まぁ、やっと落ち着いたらしいから今回は大丈夫だろぉな。だから仲良くしてくれなぁ」

 

「おう。もちろん!」

 

中村と竹井ももちろんだと言ってくれた。

すげぇ嬉しいな。

もう転校の事を気にする必要はなさそうだし進んで関わっていこう。

そして、話を終えて中村と竹井は席に戻った。

水沢は友崎に用事があるみたいで残っている。

 

「友崎」

 

「…ん?えーっと、また呼び出し…?」

 

「はははは!違う違う!普通に話しかけただけ。どんだけ呼び出されなれてるんだお前!」

 

「普通に話しかけただけ、って?」

 

「だけ、って?もクソもねーだろ。ほら、こないだすごかっただろ?」

 

「こないだ?ってああ、紺野エリカとの…」

 

紺野エリカって誰だ?

まぁ今なら入れそうだな。

せっかくだから話に入ってみるかね。

 

「あー。なんかあったのか?」

 

「有城気になる?いやさー、こいつがエリカの恨み買ってさ、めっちゃ面白かったわ!」

 

「ちょっ!う、うるせ!」

 

だからエリカって誰よ。

とにかく、事の顛末を聞いてみた。

そして、俺が思うのは…。

ほー。友崎かっこいいじゃんかぁ。

そんなこと言える男だったのか。

びくびくしてるように見えるけど芯はしっかりしてんだな。

まぁアタファミ愛にはビックリだけどな。

 

「友崎。お前かっこいいなぁ。なかなかできることじゃあねぇよ」

 

「へ…?」

 

「有城もそう思う?俺も嫌いじゃないんだよな」

 

「ちょっ、え?み、水沢まで?」

 

なんかめっちゃキョドってる。

こうゆうのにも慣れてないんだろうなぁ。

でも、話を聞いた限りだと素直に称賛できる。

 

「多分俺も、柔道のことをなにも知らないやつに馬鹿にされたらむかつくしなぁ。ましてや、なにも努力してないやつに言われんのはさらに腹立つ。だから、友崎がしたことは誇っていいと思うぞ。少なくともキモいとかだせぇなんて俺は思わん」

 

「俺もそう思う。しかも、あんなことを堂々と言えちゃうお前にちょっと感動したっつーか、俺らみたいな味方もいるぞって伝えときたかったっつーかさ」

 

「み、味方」

 

なんか噛み締めてる感じするなぁ。笑

嬉しいんだろうがなんか面白い。

 

「ま、だからなにってわけじゃないけどさ。今度ゆっくり何人かで飯でもいこーやって話!」

 

「お、おっけー」

 

「それさ、俺も行って大丈夫か?」

 

せっかくこんな良い奴らに出会えたんだ、ここで踏み出さない選択肢はないな。

 

「もちろん!友崎もいいよな?」

 

「お、おう」

 

「もちろん修二はなしでな」

 

「え、ああ」

 

あれ、中村呼ばんのか。

まぁ逆に中村が気まずいか。

友崎と水沢もそんな話してるしな。

俺がそんなことを考えているうちに上手くまとまったみたいだな。

 

「じゃあまた声かけるわ~!」

 

「おーぅ」

 

「おっけー」

 

そうして話は終わった。

ちょっと楽しみだな。

 




主人公プロフィール

有城 楓(ありしろ かえで)

小さい頃から柔道をしている。
背が高く体格は良いが普段は覇気がなく、語尾がよく下がる。
勝負事になるとスイッチが入り雰囲気が一変する。
柔道の時は特に顕著にでる。
別段、鈍感と言う訳ではないが恋愛経験がないためか少し疎い部分がある。



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第3話

「はっ、はっ、はっ」

 

いま俺は毎朝の日課をしているところだ。

 

「ふぅー。今日もいい朝だなぁ!」

 

今は朝の6時。

毎朝、5時半に起きて早朝のトレーニングをしている。

はじめは辛かったが慣れてくるとこれをしないと1日が始まらない気すらしてくるから不思議だ。

よし、休憩終わり。もう少し走ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝の日課を終えて家に帰りシャワーを浴びて学校に向かった。

教室に着いたのは8時丁度。

皆がきはじめるのは8時20分頃だ。

 

「ちーっと早かったなぁ…寝ますかねぇ」

 

俺は自分の席に着き、顔を伏せる。

するとすぐに意識が離れていった。

少し時間がたち、周りのざわめきで目が覚めた。

 

「…んぁ?ふぁ~。よく寝たなぁ」 

 

大きく延びをしてると。

友崎が後ろを向いて話しかけてきた。 

 

「有城」

 

「ん?友崎か。どうした?」

 

友崎は思い詰めた顔で言ってくる。

緊張しているのか、はたまた…

 

「い、今大丈夫?」

 

「おーぅ、いいぞ。てかよぉ…俺って怖いか?」

 

なんかすごく気になった事もあり、直球で聞いてみることにした。

 

「な、なんで?」

 

「なんでって言われてもなぁ。めっちゃキョドってるから怖いのかと…」

 

 「ち、違う!こうゆうのあんまり慣れなくて緊張しちゃって…」

 

怖がられてないようで良かったけど…。

んー。まぁ無理してる感じはしてたが…。

友崎も変わろうと頑張ってるのか。

俺も見習わなくちゃなぁ。 

 

「そうか。まぁお互いに頑張ろうな」

 

「う、うん?」

 

俺の言ったことがよくわからなかったのか少し混乱している友崎。

意外と表情豊かで面白いな。 

まぁ今はそんなことよりも…

 

「てか。なんか話あったんじゃねぇの?」

 

「あ!そうだった!ちょっと一緒に来て欲しいんだけど」

 

「はいよ。水沢のとこか?」

 

「うん。そうだよ。じゃあ行こうか。」

 

そう言って水沢の席に向かう友崎の後ろについて行く。

前を歩く友崎を見ていると、結構猫背が目立つ。

ちょっと気になるな。

そう思ってるうちに水沢のもとに着いた。

 

「水沢」

 

「ん?友崎に有城か。どーした?てかなんで友崎はそんな深刻そうな顔してんだよ!」

 

笑いながら言う水沢。

やっぱ気になるよなぁ。

本人は気づいてないんだろうけどよ。

 

「え?し、深刻?」

 

「俺に話しかけてきた時も同じような感じだったぞ?」

 

「あ、あー。さっきの…」

 

「ってゆうかなんだ?緊張してるっていうかそんな感じ?肩の力抜けよ!」 

 

そう言って友崎の肩をたたいている水沢。

俺もさっきちゃんと指摘した方が良かったか?

 

「あ、そうじゃなくって。昨日の飯?の話」

 

「あーはいはいそれね」

 

「俺と有城と水沢と日南と、あと1人って話だったじゃん?」

 

そう言う話になってたのか。

途中聞いてなかったから知らなかったな。

 

「そーだな」

 

「それ、泉誘おうかなとおもってるんだけど、ど、どう?」

 

んー?ちょっと待ってくれ。

泉って誰だ?

知らない名前が出てきたな。 

 

「…まぁ、別にいいけどさ」

 

まずいな。

これは言っておかないとな。

 

「あのよぉ…ちょっといいか?泉ってどちら様?」

 

「えっと…」

 

友崎は困ったように自分の席の方に視線を向け、水沢は口押さえてプルプルしている。

俺は何か面白いことを言ったのか?

そうやって頭を悩ませていると、友崎が言いずらそうに口を開いた。

 

「えーっと…泉は俺の隣の席なんだよね…。だから有城の斜め前」

 

「マジか…。自分で言うのもなんだが…失礼極まりねぇな」

 

おーぅ、これはやっちまったかな。

泉が来るんならこれは話すべきではないぞ。 

 

「くくっ。まぁ転校2日目だからな」

 

「もう覚えたから大丈夫だ!」

 

「ぶふっ!わざわざ言わんでいいだろ!」 

 

あ、水沢が吹き出した。

ちょっとひどいんじゃないか?

泉って友達じゃないの?

まぁ俺が悪いんだけど。

 

「はぁー、笑ったわ!泉誘うのはべつにいいけどさ」

 

「ほんと?そ、そしたら後で俺がさそっとくわ」

 

おー、言いよったな。

やっぱり友崎は変わるために何かをしているみたいだ。

水沢も何かに気づいた様子でニヤリと笑いながら言った。

 

「友崎さぁ。なーんか、やってるよな?」

 

「え?」

 

水沢は友崎の頭を指差して続けた。

一番気になる部分なんだろう。

 

「いや、おかしいと思ってたんだよ!その髪型、明らかに最近切るとこ美容院に変えてるもんな?セットしてねーのがもったいないもん、それ」

 

水沢はお見通しだとでも言うように続ける。

 

「えっと、わ、わかるのか」

 

「当然だろ!…しかも結構うまいな。ほら、俺将来美容師目指してるからさ、そうゆうのにはちょっとうるさいわけよ」

 

「へ、へえ」

 

自分の夢を堂々と言えるってのはすごいな。

しかも美容師か。

もうすでにそれっぽい雰囲気だしな。

ここは俺も乗っかっとこうか。

 

「水沢に美容師はぴったりだな。俺は部活引退したら少し髪伸ばすからその時は頼んでいいか?」

 

「おっ!まじ?有城は元がいいからやりがいあるな!任せてくれ!」

 

ちょっと照れ臭いが、なんか嬉しいな。

言って良かった。

 

「それよりもだ!いままでド陰キャだったお前がなぜかここにきて美容院に行きだす!かと思えば葵やら泉やらみみみやらと仲良くしだす!なんか喋り方も明るくなってきてる!んで極めつけには泉のことを自分で誘うだ?こんなもん偶然ですまされるわきゃねーよな?」

 

本当にこいつは良いやつだな。

ちゃんと人のことを見てる。

 

「う…」

 

友崎は図星のようで反応に困っている。

だが…なんか少し嬉しそうなのはなんでだろうか?

 

「ま、簡単に言って、陰キャ脱出大作戦ってわけだろ?けどなんつーか、行動的すぎるっつーか、お前だけの考えでやってることとはおもえないんだよなあ。実際、なんかあるっしょ?もしかして有城が手伝ったりしてる?」

 

と言って俺を見てきた。

が、俺じゃぁない。

 

「いや、違うぞ。そもそも、俺も陰キャみたいなもんだしな」

 

なんか、何言ってんだって顔で見られてるんだが。

友崎まで変な目を向けてくる。

 

「有城は陰キャじゃないだろ!気の抜けた喋り方するけど姿勢良いしモテそうだし、バリバリのスポーツマンだろ?」

 

「ふっ。俺を舐めすぎだぜ水沢。休みの日の前日はオールでアニメ観賞会を開いてんぞ俺はよぉ。もちろん1人で」

 

俺は誇らしげに、むしろ自慢気に言った。

友崎はなぜか嬉しそうに、仲間を見るような目に変わっている。

 

「陽キャでオタク…新しい」

 

「はぁ?なんだそれ?ってか友崎もなに感心してんだよ」

 

「えっ!?ど、同志だなあと思って…」

 

「なんだそれ!まぁ…恥ずかしげもなく言ってる時点で陰キャではないと思うぞ?最近はオタクに理解ある人増えてるしな。俺もそうだし」

 

「そうなのか?まぁ…この話はこの辺で良いとして友崎が何かしてるって話だよなぁ?」

 

「あっ、そうそう!んで、まとめると…

 

先程の話から一転、俺と友崎は黙って言葉を待つ。

そして、水沢は友崎を指して言った。

 

「脱オタの本でもよんだな!!」

 

ぶふっ、なんちゅう顔してんだ友崎のやつ。

面白すぎるぞ。

 

 

 




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第4話

昼休みになり教科書を片付けていると、前の席の友崎が動いた。

多分、泉を誘いに行くのだろう。

ずっと、そわそわしてたからなぁ。

俺はとりあえず見守ることにした。

 

「泉」

 

「ん?」

 

「あの、昨日中村そろそろ誕生日って話したじゃん」

 

「またその話!?そろそろでもないし!まだまだだよ!」

 

泉は中村の名前が友崎から出ると顔を赤くしている。

ほうほう、泉は中村が好きなのか。

そうかそうか。

まぁ中村はモテそうだし、納得だな。

経緯は知らんけど。

そして、話を聞いてると誕生日プレゼントを買うらしい。

なんか、いいなぁ。

俺も誰かを好きになれるんだろうか。

 

「実はいま水沢と有城と日南とどっか飯でも行くかーみたいな話があって、じゃぁもう1人くらいほしいよねって話になってて…」

 

「うん。あ、それで私?って、有城くんも?」

 

と言って泉はこちらを見る。

こっからは俺も参加しよう。

 

「おーぅ。泉だよな?よろしくなぁ」

 

「うん!よろしく!」

 

笑顔で元気に言ってくる泉。 

うん。この子は良い子だな。

中村も罪な男だ。

 

「まあそんな感じ。それで、ほら、プレゼント買うんでしょ?なら、水沢とか中村と仲良いから、なにか買えば良いかとかわかるから、いいと思って」

 

「たしかに!」

 

やっぱりいい子や。

なんか浄化されそう。

そんなこんなで上手く話がまとまるかと思っていたが…

なんか、断られてるんだが。

 

「私の買い物のためにみんな付き合わすとかわるいし!」

 

ふむ…そうゆうことか。

ここは俺の出番かな。

 

「俺たちも中村にプレゼント買おうと思っててさー。だよなぁ友崎」

 

様は、泉が遠慮しないようにすりゃいいわけだ。

あとは友崎が気づいてくれれば… 

 

「…!そう!そうなんだよ!だから行こう!やっぱり俺と中村はこないだあんなことあったしさ、仲直りって言うかね。アタファミも好きになってくれたみたいだし、悪いやつじゃなさそうだし。これを気に仲良くなれたらなぁなんて」

 

よし、ナイスだ友崎。

俺の意図がしっかり伝わったようでなにより。

それにしても…急にめちゃくちゃ喋りだした。

泉もぽかーんってなってるし。

そう思ってみていると…

 

「……いい!!それいいよ友崎!実は私ちょっとやだなーと思ってたんだよね。私が仲いい同士だから、できれば喧嘩みたいな感じになっててほしくないなーって!」

 

今度は泉が急に動き出してめっちゃ友崎のこと揺さぶりながら熱く語りだした。

てか本当にいい子だな。

俺も友達認定されたいなぁ。

少し頑張ってみようかねぇ。 

 

「だから私、協力する!一緒にプレゼント買いいこ!」

 

「ああ。…あれ?」

 

「ふむ…立場逆転してんなぁコレ」 

 

まぁこれだけは言っとくけど

飯だけ誘えば良かったんじゃないかとか思ってないから。

本当に。

俺のフォローが無駄だったとか思ってないから。

思ってないったらないから。

てか、こんなの俺のキャラじゃないな。

慣れないことはしないもんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

泉を誘うことに成功した次の日。

いつも通りの日課を終えて学校に着くと友崎が話しかけてきた。

 

「有城。買い物の日程今週の土曜日になったから」

 

「おー。了解。てかいつの間に決まったんだな」

 

俺が聞き忘れていただけかと思っていると、友崎が急に携帯を操作し始めた。

 

「ん?ちょっと待って」

 

「うん?どうかしたかぁ?」

 

数秒後、申し訳なさそうに顔を上げた友崎は言った。

 

「あ、あのー。LINE教えてほしいなぁ…なんて」

 

その一言で全てを察してしまった。

俺のことを忘れたままLINEで日程が決まったのか?

…悲しくなんてないから。

 

「…もちろん。いいぞ」

 

そしてすぐにグループに招待されて参加する。

とりあえずこれだけは送っておかなければ。

 

『転校生の有城楓です。みんなよろしくね』

 

送信と。

そして、周りを見渡す。

すると、日南と目があった。

苦笑いしながら手を振っている。

水沢も気づいたようだ。

笑いをこらえてやがる…。

泉も気づいたな。

こっちに向いて手を合わせてきた。

うん。泉は許そうではないか。

あとの2人は知らん。

結局、みんなLINEで謝ってきました。

ちゃんと許したとだけ言っておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

朝の一幕が終わり、ホームルーム。

なんか、生徒会選挙があるらしく用紙が回ってきた。

うーん。これはちょっと。

というか、めっちゃパスだな。

元々ガラじゃないし。

用紙から顔を上げると前の席で友崎がキョロキョロと辺りを見渡している。

視線の先には…日南か。

なんかあったのかね。

そんなことを思っていると…

 

「ういっす友崎!有城も!」

 

「おーっす。今日も元気だねぇ」

 

「うおぁお!?」

 

 

みみみが寄ってきた。

俺は普通に返事をしたが、友崎はアホみたいに驚いている。

こっちまでビックリするわ。 

 

「どーした2人して葵のこと見つめちゃって!見とれてたのか~?」

 

みみみは笑いながら言ってくる。

ここで、どもったらだめだぞ友崎。

冷静にクールに徹しないと。

 

「み、見とれてたわけじゃ…」

 

うん。戦力外でした。

フォローはしないぞ?

 

「俺は友崎が見てた方を向いたら日南がいたってだけだぞ」

 

俺が正直にありのままを話すと、非難の視線を頂戴した。

おいおい。友崎よ、そんな目でみないでくれよ。

本当のことしか言ってないんだからさぁ。

そんな事をふざけ半分に話していると話題は選挙のことになった。

 

「いやあ、やっぱり立候補するみたいだねぇ」

 

視線の先には日南。

まぁそうなんだろうなぁ。

 

「まあ、あの日南だもんな…立候補するよな」

 

「あ、やっぱりそう思う?」

 

「え?いやほら、なんでもトップになるからさ。今回も当然のように当選しそうだなって」

 

「…だよね!まったくほんとに完璧な子だよあの子は!」

 

ふーん。やっぱ日南はこうゆうときに名前が上がるようなタイプか。

知らないからなんとも言えないがな。

それよりも…みみみのやつなんかおかしくないか?

気のせい…ではなさそうだ。

みみみの顔に一瞬影が射したのをみていたからな。

少し気になるな。

その後は普通に会話をしていたが、大丈夫だろうか。

友崎の方もなんか百面相してるし。

まぁ今は気にしても仕方ないな。

 

 




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第5話

土曜日の朝。

今日は買い物に行く日だ。

俺は今、待ち合わせ場所に着いたのだが。

 

「ちょっと早すぎたなぁ…座って待つか」

 

待つこと15分。

最初に現れたのは友崎と日南だった。

2人は俺に気づいていないらしく、俺が座っているベンチの近くで話し始めた。 

 

「うう、ついに始まるわけか…」

 

「なにいまさら泣きごと言ってるの?覚悟を決めなさい」

 

話を聞いていると、日南の話し方に違和感を覚えた。

普段の感じとは全然違う。

もしかして付き合ってたりするのかね。

 

「つってもさ、男女での買い物だろ?しかも俺以外全員かなりのリア充ときてる。そんな状況で緊張するなってほうがおかしな話だって…」

 

「もともとはご飯の予定だったのを、勝手に難易度高めたのは誰?」

 

「う…」

 

それは俺も同罪だわ。すんません。

まぁ、このまま話を盗み聞きしてればこいつらの関係は見えてくるんだろうが、それはちょっとなぁ。

俺は立ち上がり2人のもとに向かった。

 

「よぉ、友崎に日南」

 

そう言って近づくと、こっちを向きながら友崎が返す。

なんか変な視線を感じるのは気のせいか?

 

「あ!有城?」

 

「なんで疑問系なんだよ。俺だ」

 

友崎のやつは俺って気づいていなかったようだ。

結構傷ついたとも。

 

「ちょっと、友崎くん失礼だよー!有城くんおはよー!」

 

そんなこと言いながら日南も少し観察するような眼差しを向けてくる。

ちなみに今日の俺の格好は少しゴツめのグレーのスニーカーにスポーツブランドの黒っぽいジャージパンツ、グレーのぴったりとしたTシャツにキャップをかぶっている。

そんなに変だろうか?

 

「なんかおかしいとこあるか?あんまりファッションとかは分からなくてなぁ。サイズも無ぇしよ」

 

「いやいや!まったく!ただ、本当に体が大きいなぁなんて思ってさ!それに、全然おしゃれだと思うよ私はね」

 

「そ、そうだよ!それに、俺が同じ格好したら全然似合わないと思うし」

 

「そうか?なら良かったよ」

 

3人でそんな話をしていると、水沢が来た。

 

「おー3人ともはえーなー」

 

「あれー?タカヒロ遅刻~?」

 

「いやまだ時間じゃねーから!」

 

「えーそーだっけ?」

 

日南はいたずらっぽく水沢に話しかける。

なんかリア充っぽい絡みだな。

 

「いやー。それにしても、有城は目立つから待ち合わせの時便利だよな!」

 

「まぁ、よく言われるな」 

 

3人とも笑ってらぁ。

 

泉「ご、ごめーーーん!!」

 

楽しく話をしていると泉も来たみたいだ。

てか、ヒールで走ってるし。

危ないな。

 

「泉ー。転ぶと危ないからゆっくりこいよぉ。遅刻は気にしなくていいからさ」

 

「はーい!ありがとね!有城!」

 

と言ってゆっくり歩いてくる泉。

 

「ひゅー!スマートだねぇ。俺はがっつり遅刻でいじろうかと思ってたんだけどw」

 

「あはは、タカヒロひどーい!それにしても、有城くんって大きい声出せるんだね!普段はゆったーりしててあんまり大きい声とか出さないと思ってた!」

 

そうゆうイメージなのか。

それも、変えていけたらなぁ。

柔道するときは熱くなれるんだけどねぇ。

 

「まぁ、良くも悪くも省エネ人間だからねぇ。多分、柔道してる時は違うと思うんだけど。いろんな人に普段からは考えられない程いきいきしてるよって言われるしなぁ」

 

「へーぇ。そうなんだな!有城が柔道してるとこ見てみたいな」

 

「私も私も!どんな感じなのか気になる!」

 

「確かに興味あるな」

 

自分の好きなことに興味を持ってくれるのは素直に嬉しいな。

いつか試合でも見に来てくれればいいなぁ。

 

「ほんとか?そしたらいつか見に来てくれると嬉しいな」

 

「みんなー!お待たせ!なに話してたの?」

 

「有城が柔道してるとこ見てみたいって話」

 

「おぉー!私も見たい!なんかこう!強そうだもん!」

 

すごい無邪気に言ってくる泉。

ほんとにいい子だなぁ。

少し浄化されたわ。

そして、会話もそこそこに移動する。

まずは、ルミネに行くみたいだな。

ビームスに入るみたいだ。

 

泉「うーーーん…」

 

泉は色々と物色しながら悩んでいる。

他の面々も思い思いに動いているようだ。

アドバイスの1つでもしたいが得意じゃないしなぁ。

そう思いながら店内を回り服屋に入った時は必ずする俺なりの儀式をはじめるとしよう。

俺はおもむろに目の前にあるTシャツの1番大きいサイズを手にとって自分の体に合わせてみる。

 

「ふむ…ビームスも無理かぁ」

 

「有城くんにはそのTシャツは似合わないと思うなぁ」

 

そんな事をしていると、いつの間にか隣にいた日南話しかけてきた。

 

「あはは、まぁそうだな。まぁこれは俺の儀式みたいなもんでさ。俺って体が大きいだろ?だからジャパニーズサイズの服じゃぁ店に置いてあるのがほとんど着れないんだよねぇ。だから、初めてはいる店はこうやって必ず1番大きいサイズの服を合わせるんだけど…今回も無理っぽいなぁ」 

 

俺は少し苦笑い気味で日南に言う。

 

「へぇ、そうゆうことね!有城くんならではって感じの悩みだね!私はそうゆうこと考えたことないもん」

 

 「そりゃ日南はスタイルもいいしルックスもいいからな。なんでも似合うだろ」

 

そんなこと言われると思ってなかったのか、日南は目とぱちくりさせている。

なんだそれ、可愛いな。

と思ってみていたら一瞬でもとに戻った。

 

「ありがと!有城くん!」

 

そう言って笑いかけてくる日南はすごい綺麗に笑ったように見えた。

 

「おーぅ。いいってことよ」

 

「む!なんか偉そうだぞー!」

 

「ふ、悪い悪い」

 

そう言って泉達のいる方に戻る。

少しは距離が近づいたかね?

まぁ今回はそう思っても良さそうだ。

 

 

 




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第6話

儀式を終えて俺と日南が戻るとある程度話がまとまってビームスを出るみたいだ。

そして次の目的地を探しながら歩きながら話をしている。

友崎が難しい顔をしながら唸るように言った。

 

「…いやーなかなか難しいなあ」

 

「そうだね!友崎は決まった?」

 

「いや俺はまだ…泉と有城は?」

 

「うーん。さっきヒロに聞いてみたんだけど…あ、水沢ね!」

 

「あ、うん」

 

あだ名で呼んでるのか。

まぁあの辺はみんな仲良さげだからなぁ。

俺は…もう少し仲良くなってからかね。

 

「最近ニキビ気にしてるからその薬って言われた。そんなん渡したら絶対怒られる~!」

 

「そりゃ絶対やめたほうがいいなぁ。男から貰うならまだしも女に貰うのはなぁ」

 

これは中村の名誉のためにもダメだろうな。

逆に嫌がらせかと思われるだろ。

 

「だよねー。そういえば有城もあげるんでしょ?決まってるの?」

 

「うん?俺はもう決まってるぞ」

 

「えー?なになに?」

 

「それは…教えない、かな。中村に渡した後に中村に聞いてくれ」

 

「なにそれ!?まぁいいけど!」

 

そうやって話しているうちに泉は決まったようだ。

ワックスにしたらしい。

これも俺には手助けができない案件だな。

坊主だし。

そして次に向かったのは東急ハンズだ。

水沢曰く、ワックスを買うならここが1番いいらしい。

一応俺も後々のために覚えておこう。

 

「どれがいいんだろうね?」

 

「どれだろ?ヒロー?」

 

「んー。このへんのシリーズはあいつ持ってないと思う」

 

そう言って水沢が指したのはチューブタイプのシリーズもののワックスのようだ。

 

「この数字はなに?固さ?」

 

「そーだね。2が柔らかくて、10が固い」

 

「どれがいいの?」

 

「どれがいいっていうか、髪質と長さによるんだよね。たとえば…。ちょっと有城…はできないな」

 

「おい。泣くぞ」

 

今のは完璧にわざとだなぁ。

俺の方見て残念そうな顔をするな。

 

「すまんすまん。そんじゃ友崎」

 

「え?」

 

そして水沢は友崎を呼んで髪をいじくりだす。

 

「おお!タカヒロのセットショー!」

 

ほぉー。さすが美容師志望。

そうして、説明をしながらてきぱきとセットをする。

上手いもんだな。

俺も髪伸ばしたらやってもらおう。

 

「ほれ、完成だ」

 

「おお~!すごい!友崎、意外と似合ってる!」

 

「い、意外とは余計だ!」

 

「髪整えるだけでも結構換わるもんだなぁ」

 

「だろ?有城は髪伸ばしたらな?」

 

「おぅ。よろしく頼む」

 

「へぇ!タカヒロにも特技があったんだね?」

 

「はい葵うるさい~」

 

なんかこいつらといると、やっぱり心地いいな。 

 

「えーっと、俺の頭はいまどうなっているわけで?」

 

「トイレで見てきたらどうだ?」

 

「でもホントにいい感じだよ?学校のときも、自分でセットしたらいいと思う!」

 

「え、お、おう」

 

照れてるな友崎。

そして、中村のプレゼント選びに戻り、泉は決まったようでレジに向かうみたいだ。

 

「じゃぁこれにする!買ってくる!待ってて!」

 

「あー。俺も買ってくるわ。」

 

俺もすでに決まっているので決めていたものを取り、泉を追ってレジに向かう。

 

「あれ?有城もここで買うの?」

 

「おぉ。ちょうどあったからな」

 

「ていうかさ、有城はなんで修二にプレゼント買うんだっけ?」

 

本当はフォローを間違えて俺も買うことになってしまったのだが、さすがにそれは言えないな。

だが、仲良くなりたいのは事実だしなぁ。

 

「まぁ、俺は転校してきたばっかりだし中村とも仲良くなりたいしなぁ。お近づきの印的な…ね?」

 

「そうなんだ!なんかいいね!そうゆうの!男同士の友情みたいな!」

 

本当に純粋だな。

泉にはちゃんと幸せになってもらいたいものだ。

…よし。少し背中を押そうか。

 

「あー。泉はさ中村のこと好きなんだろ?」

 

「は、はい!?な、なんで!?」

 

「隠すことないだろう。人を好きになるってのは悪いことじゃないしな。むしろ素晴らしいことだと思うぞ」

 

「そ、そうだけどさ…。有城くんは好きな人いるの?」

 

「いや、俺はまだいないな。なんにせよ泉は俺から見ても素敵な女の子だと思う。だから、頑張ってくれ」

 

「う、うん!ありがとう!有城!」

 

これで少しでもいい方向に進んでくれれば嬉しいが…。

 

「いいえ。俺も好きな人ができたら相談とかのってもらえるか?」

 

「うん!もちろんだよ!頼ってね!」

 

俺がそう持ちかけると、泉はこの手の話が好きなようで嬉しそうにしている。

そして俺と泉は中村へのプレゼントを購入し皆が待っている場所へと戻った。

 

 

 

 

 

 



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第7話

俺と泉のプレゼントを買い終わったあと、とりあえずスタバに行くことになった。

店内は混んでいて5人で座れるとこはないようで、買ったら飲みながら次の目的地を探しに行くことになった。

 

「俺は最後でいいからみんな先に頼んでいいぞ」

 

「りょうかーい!じゃぁ私はね…」

 

それぞれ注文をして受け取った順に店の外にでる。

みんな頼み終わったのを確認して俺も注文をした。

それにしても…友崎は初めてだったのか?

注文の仕方がなぁ。

めちゃくちゃキョドってたし。

 

「ダークモカチップフラペチーノのトール1つ…あー、ソイに変更してください」

 

「はい、かしこまりました!」

 

俺も品物を受け取り店の外に向かおうとすると、なんか入り口の方が騒がしい。

そう思って近づいていくと…

 

「うわぁ、あいつら絡まれてんじゃねぇか…早く行ってやるか」

 

そう言って俺は足早に歩いていくと一番に友崎と目があった。

友崎はあからさまに安心した顔をしてこっち見ている。

まぁ早く終わらせようか。

 

「おい、俺の連れになんかようか?」

 

俺は皆に絡んでいる不良っぽいやつの後ろから声をかける。

 

「あん?なん…だてめぇ…は」

 

俺の声に反応し、こっちに振り向いた不良が俺に驚いて後ずさった。

もうひと押しか?

 

「俺が質問してんだ。なんかあんのか?」

 

「ひっ…、すいませんしたー」

 

少し睨み付けてやっただけなんだが。

どっか行っちまったよ。

まぁいいか。

 

「おーぅ、お待たせ。大丈夫だったか?」

 

「うん!おかげさまで!」

 

「ほんとに頼りになるねぇ」

 

「だね!ありがとね!有城くん!」

 

「まぁ、日南も泉も可愛いからなぁ。気を付けろよ」

 

「思うんだけどさ、有城くんのそれって素で言ってるの?」

 

「ん?あー。不快だったか?」

 

俺が普通に思ったことを言うと微妙な空気になった。

押さえた方がいいのかね。

昔からみたいだしなぁ。

たまに思ったことが口に出ちゃうんだよねぇ。

 

「いやいや!別に嫌じゃないんだけど…ねぇ?」

 

と言って泉と日南は目をあわせてなんか分かりあっている。

 

「まぁ嫌じゃないならいいんだ。たまに思ったことを言ってしまうときがあってな」

 

2人の様子を見ていると、横で水沢が顎に手をあてて考え込んでいる様子だ。

 

「こいつは、強敵出現か…?」

 

「うん?なんか言ったか水沢?」

 

「いや、同じ男としてすげぇなってさ。な!友崎」

 

「そう…だな。少なくとも俺にはできない」

 

「ははっ、まぁいい。行こうぜ」

 

この一悶着の間に席が空いたようでそちらに移動する。

俺は日南と友崎の間に座った。

すると、日南が話しかけてきた。

何を頼んだのかが気になるようだ。

 

「有城くんは何を頼んだの?」

 

「ん?俺はダークモカをソイに変更したやつだ」

 

「へぇ~!美味しいの?」

 

「普通のを飲んだこと無いから分からん。飲んでみるか?」

 

「んー、貰おうかな!」

 

「んじゃ、ほれ」

 

「ありがとう…んっ、美味しいっ!今度から私もソイにして貰お!」

 

「そんなに違うのか?日南のは…ん?そんなやつあったか?」

 

「ふふん!私のはね~スペシャルなカスタマイズがなされているのです!飲む~?」

 

「貰っていいか?」

 

「どーぞ!」

 

「んっ…ティラミス?旨い…」

 

「でしょー!」

 

そんなどこぞのリア充のようなことをしていると、横の友崎は信じられないものを見るような目で見てくる。

 

「友崎、どうかしたか?」

 

「いやっ、えっと…か、間接キス…」

 

「ん?あーそぉいや…悪いな。無神経だったわ」

 

「私は大丈夫だよ!気にしないから!」

 

全く頭になかったな…

気にしないから良かったが。

こんなことがありながらも店をでて再びプレゼント選びに戻った。

友崎も何を買うか決まったみたいだ。

みんなが口々に何を買うのか聞いてるな。

結局、説明してくれたし。

ふーん。まぁなにが考えがあるんだろうな。

そして友崎のプレゼントを買いに電気屋に行き、購入した。

これで、目的は達成だな。

 

「さあどうしよ。みんな腹減ってる?」

 

「んーあんまりかな」

 

「私はそこそこへってるよー」

 

「俺も結構空いてる」

 

「なるほど~。…チーズがうまいピザ屋あるんだけど行かない?」

 

「いく」

 

おぉ、めっちゃ食いついてる。

あんまり腹減ってなかったんじゃないのか?

まぁとりあえず日南はチーズが好きなんだな。

覚えておこう。

 

「泉と友崎と有城は?」

 

「ピザいーね!」

 

「俺もそれでいいよ」

 

「あー、俺はパスで。このあと練習あるからさ。俺のことは気にせず4人で行ってくれ」

 

「そうなん?分かった!今度飯誘うな?」

 

「おぅ、そうしてくれ」

 

そうして俺は帰路についた。

はぁー。楽しかったなぁ。

 

 

 

 




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第8話

side 日南葵

 

 

私、日南葵はいわゆるすごい人間だ。

今まで、ほとんどのことはやって来た。

そして成功させてきた。

勉強でもクラスのカーストでも見た目でもそうだ。

唯一尊敬できると思っていたnanashiの正体があれだったときは少し自分に自信がなくなったけれど…

それはそうと、買い物に行った土曜日の夜、私は少し気になる事を調べていた。

 

「あ!あった」

 

そこには、

全国高等学校柔道選手権大会

90kg級 第3位 ○○高校 1年 有城 楓

 

と書いてある。

 

「ふーん。やっぱりなぁ」

 

柔道のことは知らないが個人競技でましてや1年生で3位だ。

しかも全国大会で。

なぜ、私がこんなことを調べているかと言うと。

まぁただ気になったからなんだけれどね。

私が興味を持つこと自体珍しいとは私でも思うんだけど。

正直、転校してきた時はこの人は本気でなにかを目指している人なんだと思った。

だが、それだけだ。

そんな人いくらでもいると言っていい。

でも考えを改めなければいけないかも。

少しずつ探ってみよう。

もしかしたら私の感じたことのないなにかを教えてくれるかもしれない。

そんな期待をしてしまっている自分を隠してね。

 

 

sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校での朝のホームルーム。

 

先生「…つーわけでだなあ、以前からお知らせしていたとおり、生徒会選挙の立候補の受付が、今日一斉に開始されるぞ~。出す人は出すようにな~。投票は…えー、今週の金曜だな~。届け出は私か、職員室前の立候補ボックスか、各クラスの選挙委員に提出してくれ…っつーところかな。はーいそれじゃあ起立」

 

そういえばそんなこと言ってたなぁ。

今日か。

まぁあんまし関係は無いんだけどな。

やはり日南立候補するようで紙を出しに行った。

クラスのやつらは次々と声援を送っている。

 

「お願いしまーす」

 

みみみも立候補するようで日南に続いて紙を出しに行った。

そして、みみみにも次々と声援がが飛ぶが…

クラスのやつらは日南が勝つと疑っていないみたいだ。

あんまりいい気はしないな。

 

「えー!みみみも立候補したんだ!めっちゃやだ!」

 

「内申点の奪い合い、負けないよ~!」

 

みみみが本気で日南に勝とうとしていることを分かっている人が何人いるかね。

はぁ…どうなることやら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後、選挙活動が始まった。

いつものように投稿すると、校門の前でみみみとみみみの後輩らしき女子が並んで生徒たちに呼び掛けていた。

 

「おぅ。やってんねぇ」

 

「おー!有城おはよー!」

 

俺からの声をかけると元気良く手を振りながら返事をしてきた。

元気でなによりだ。

 

「この子私の推薦人!陸上部の後輩なんだ!」

 

「山下由美子っす!!よろしくお願いします!!」

 

「おー。うちのみみみをよろしくなぁ」

 

「もちろんっす!」

 

「なになに~?遠回しの告白なのか~?」

 

「みみみは手のかかる妹か…ペット枠だぁ」

 

「な、なんだって~!?」

 

こんなコントじみたことをして、校門をくぐり校舎に向かう。

すると、校舎の前で人だかりができている。

そこには…

 

「あん?水沢か?」

 

日南の応援演説をしている水沢がいた。

皆、水沢の話に聞き入っている様子だ。

 

「日南のかぁ…人選まで完璧だわな」

 

水沢が演説をしている横では、日南が直接的に支持を集めている。

今は一人一人の生徒と握手をして話をしているみたいだ。

その光景は、もはやアイドルの握手会のようだった。

 

「ははっ…逆にここまで完璧だと笑っちまうなぁ」

 

俺は日南が話し終わったのを確認して歩み寄る。

 

「よぉ。順調そうだな」

 

「あっ!有城くんおはよー!」

 

「マジで有名人なのな。憧れの先輩ってやつか?」

 

「あははっ!まーね!有城くんも清き一票をお願いします!」

 

日南はそう言って手を出してきた。

 

「あぁ。まだ分からんがな」

 

俺は出された手を取り握手をする。

 

「うん!わぁ!手大きいね!バスケットボール片手で掴めるんじゃない?」

 

「ん?まぁできるぞ…ってかそろそろ回りの視線が痛くなってきたんだが…」

 

「へ?…っ!///ご、ごめん!」

 

俺が言ってようやく自分が俺の手をペタペタ触っていたのに気づいたらしい。

珍しく顔を赤くしている。

だが、また一瞬でもとに戻った。

 

「大丈夫だ。んじゃ俺は教室向かうわ。頑張れよぉ」

 

「はーい!ありがとー!」

 

そう言って俺は歩き出した。

いまだに演説をしている水沢にはこっちに気が付いていたようなので手を上げて挨拶をし、俺は教室へ向かった。

 

 




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第9話

選挙は終った。

結果はやはり日南が勝った。

友崎がみみみを手伝っていたようだが、あれは仕方がなかったのかもしれないな。

少なくともみみみ以外にあそこまで日南と張り合えるやつはいないだろう。

それ以前に張り合おうともしないだろうな。

まぁなんにせよみみみを支えている人はちゃんといるみたいだな。

それにしても…

俺はますますこいつらの事を気に入ってしまったみたいだ。

日南に本気で勝ちにいっていた友崎とみみみにも、友達でありながらも、一切容赦なく勝ちにいくことのできる日南と水沢にも。

 

「友崎」

 

「ん?有城どうした?」

 

「おつかれさん。やっぱすげぇよお前」

 

「っ!そう…かな?」

 

「周りは結果が全てって言うだろうな。だけどよぉ、本人にしかわからない、一緒にやったやつらにしか共有できない感覚ってのもあるだろうさ。それをみみみから引き出したのはお前だろうよ。まぁ次があれば俺も手伝うから一緒に頑張ろうや…文也」

 

「お、おう!ありがと!…ん?」 

 

俺が急に名前で呼んだことに遅れて気づいた文也はなにが起きたか分からないと言った様子だった。

その後、いつも通りの日常に戻ると思っていたが…まだなんかあるみたいだなぁ。

みみみと日南の間になんかがあるってことか。

俺は最近一番みみみに関わっていた文也に話を聞きに行った。

 

「文也。ちょっといいか?」

 

「ん?どうした?」

 

「みみみは大丈夫なのか?明らかに無理してるみたいだけどよぉ」

 

「あー。それなんだけどさ、選挙で日南に負けてからさらにやる気だしてるみたいでさ…」

 

「そうか…。あのよぉ、また何かやってるんだろ?俺も手伝わせて貰えねぇか?」

 

「えっ!?な、なんで!?」

 

「まぁ…こないだの選挙とか見ててよ…何か胸が熱くなったってかよぉ。俺も力になりたいってな」

 

「…そっか。ならお願いするよ」

 

そうして、俺は文也を手伝うことになった。

まずは、なぜみみみがここまで日南と言う存在にこだわるのか。

2人の間に何があったのかを探ることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休み。

俺たちはみみみと同じ中学だった生徒がクラスにいると知り、話しにきていた。

文也はちらちらとこちらを見ているが、俺はあくまでも手伝いだ。

取り敢えず自分で話しかけろよ?

 

「あ、あのー、松下さん」

 

「……えーと、とも、ざきくん?」

 

話しかけたのは同じクラスの松下だ。

たまにみみみと話しているのを見るから間違いないだろう。

 

「よぉ。急に悪いな、松下」

 

「有城くんも?どうしたの?」

 

俺も松下に声をかけて、本題にはいる。

 

「えっと。松下さんって、みみみと同じ中学だった?」

 

「…?うん、そーだけど」

 

「あのよぉ、みみみと同じ部活だったやつ知らねぇか?後輩とかでもいいからよ」

 

「えーっと………あ!後輩に1人いたかも!確か…」

 

「山下さん?」

 

「あっ!そうそう!その子!みみみの舎弟やってた!」

 

「舎弟…」

 

「くくっ…みみみらしいなぁ」

 

松下からは有益な情報を得られたようだ。

選挙の時に推薦人をやっていたあの元気な子が同じバスケ部だったらしい。

俺たちは松下にお礼をいって1年の教室に向かった。

教室の前に着くと、文也が顔をひきつらせながら立ち止まってしまっている。

ちょっと荷が重そうだな。

 

「ここは俺に任せろ」

 

俺は文也の肩を軽く叩いて、躊躇なく教室の扉を開けた。

視線が一斉にこちらに向くが気にせずに一番近くにいる女子生徒に声をかける。

 

「ちょっと悪いんだけどよ、山下って子を呼んでほしいんだが」

 

「…は、はい!ゆ、由美子ー!」

 

急に声をかけられてビックリしたのか、一瞬止まっていたがちゃんと呼んでくれた。

 

「はーい!あっ!有城さん!どうもっす!」

 

「おぅ。ちょっといいか?」

 

「はいっす!」

 

そして、山下を連れて教室を出る。

教室の中ではなにかわーきゃー言っているようだが…何か変な勘違いされてるかもなぁ。

まぁ…いいか。

取り敢えず教室の前で待っていた文也と合流して話を始める。

 

「ん?友崎さんも?どうしたんすか?」

 

「ああ。選挙の時はおつかれ」

 

「こちらこそおつかれっす!それで、今日はどんな用っすか!」

 

「あのさ…中学の時のみみみと日南ってどんな関係だったのか、知りたくて」

 

「えっと、それはどういう?」

 

「え、えっと…」

 

「あの2人ってライバルっぽいだろ?中学の時はどうだったのか気になっちまってよぉ」

 

文也が準備不足で視線を彷徨わせているのを確認した俺は、それっぽい理由を言って先を促す。

 

「そーいう事っすか!それなら私に任せてください!バスケ部時代の先輩のことは、私が一番詳しいですから!」

 

こうして、山下から色々と話を聞いて教室に向かって歩きなから文也と話をしている。

 

「自分よりもすごいと理解しているからこそ勝ちてぇんだろうな」

 

「そう…だね。みみみには頑張ってほしいけど…」

 

「ああ。多分みみみはこだわりすぎて極端に視界が狭まってるんだろうな。それを気づかせてやるのが俺達の役目ってとこだろうよ」

 

こんな話をして教室に戻り取り敢えず今日の行動は終わった。

俺は学校以外では練習のために時間がとれず、文也に任せっきりになってしまっていたができることをフォローする等をして時間が過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

あれからちょくちょく気にかけて行動はしていたが…遂に決定的な出来事が起きた。

教室に夏林の驚くような、悲しげな声が響く。

 

「え、なんで…?」

 

「いやー、なんだろ、まあいろいろあるんですよ!」

 

「みんみ、ホントに辞めるの?」

 

遂にこうなっちまったか…。

みみみの気持ちが切れちまうな。

そう思っていると…

 

「それ、ホント?」

 

「うん、ホントだよ!ごめん葵!けどいろいろ考えたんだよね!体力の、限界っ!」

 

日南は悔しそうな表情でみみみの話を聞いていた。

話を聞いている限り誰も悪い訳じゃないみたいだ。

でもこれがみみみの本心ではないだろう。

俺にできることは…

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、放課後。

 

「たまーっ!ごめん今日は先帰るね!」

 

「…えっと」

 

夏林があんなになるのは見たことない。

少しまずいな。

…今だなぁ、今しかない。

俺はみみみが帰ってしまう前に行動に移す。

 

「文也ぁ!」

 

そう言って俺は文也を見る。

覚悟決めろよ、文也。

俺は力強く頷いた文也を伴ってみみみの方に向かっていく。

 

「み、みみみ!」

 

「みみみちょっといいか?」

 

「え?」

 

「…一緒に帰らない?」

 

「…え?」

 

急な出来事にぽかーんとしてるみみみ。

その間に俺は夏林に手招きする。

とことこ寄ってきた夏林をみみみの視界に入れて…

 

「帰ろうぜ、もちろん夏林もいれて、4人でだ」

 

「私、今日部活サボる」

 

クラスの一部のやつらは小さい声で悪口などを言っているみたいだ。

本当にそうゆうのは頂けない。

流れを壊すわけにはいかないためとりあえず睨んどく。

そして…

 

「ごめん、ちょっとここは友崎達の勇気に免じて、4人で帰らせて!」

 

よし、まずは成功だ。

文也の方を見てみると、さっきまでのいい顔はどうしたんだぁ?

お前も当事者だぞ。

とりあえず文也の背中には喝をいれといた。

 

 

 




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第10話

4人での帰り道。

みみみが場を繋ぐために、なにも聞かれないようになんでもない話を並べている。

そんなとき、たまが真正面から切り込んだ。

 

「みんみ。それよりも、聞きたいことがあるんだけど」

 

「…なに?」

 

「葵のこと、嫌いになったの?」

 

「え…」

 

夏林らしいなぁ。

みみみは本当は聞いてほしくないんだろうけど、それじゃあ意味がない。

そうして話を聞いていると…

 

「葵はキラキラしてるし、特別、だし…」

 

特別か…

だめだな。

俺は黙っていようと思ったが…ただ聞いていることはできない。

 

「ちょっといいか?」

 

「…なにかな?有城」

 

「俺はみみみがなにを思って陸上部を辞める決心をしたのかも分からないし、どれだけ努力してきたのかも分からない。日南に勝てないのなら勝てないんだろう。現実なんてそんなもんだ。でもな、お前を見てるやつはいるぞ。少なくともここに3人」

 

「な、なにを…」

 

「だから分けろ。悔しい?妬ましい?いいじゃねぇか。辛い?苦しい?いいじゃねぇか。人間なんて元々そんなもんだ。そんなちっぽけな荷物くらい俺らが一緒に持ってやる」

 

「…っ!」

 

「諦めるのは簡単だ。手放すのも簡単だ。壊すのだって簡単だ。けど、忘れるな。逆はもっと難しいぞ。それこそ1人じゃどうにもできないほどに。だから俺達を頼ってくれ。1人でかかえるな。お前を心配してる人のことも見てくれ」

 

今のみみみがどうしようもなく、ただただ足掻いていた昔の俺と重なってしまった。

いや、俺よりもずっと辛いだろうな。

俺は誰かと比べられる程に強くなかった。

ただ皆の背中をがむしゃらに追いかけているだけで良かったからな。

俺がみみみのために言葉を放った後、少しの沈黙がありみみみが口を開く。

 

「…嫌いになんてなれるわけない」

 

みみみは涙を流しながら、悲しそうな顔で言葉を吐き出していく。

 

「葵は!…葵はすごくいい子で、友達思いで、いっつもがんばっててさ。でもそれを鼻にかけなくて、いっつも私のことを気にかけてくれてて。私の気持ちも、ちゃんと全部、わかってくれてて。だから私さ、葵のことが、大好きなの」

 

俺達に本心をぶつけてくれている。

自分よりもすごいと思ってしまう相手が友達にいるっていうのは確かに辛いことだ。嫉妬だってするだろう。醜い感情が出てくることだってあるだろう。

だけど、俺はみみみに諦めてほしくないと思った。

それは別に理由があってのことではないが、そういった関係が羨ましく思ってしまったのかも知れない。

みみみ自身は辛く苦しいのだろう。でも、競い会える仲間がいるのは素晴らしいことだ。

だから繋ぎ止めてほしいものだ。

だから…あとは頼んだぞ夏林。

 

「…みんみは」

 

「え?」

 

「みんみは、どうしても、1番になりたいの?」

 

「だ、だって私…なんにもない…」

 

「なんにもない?」

 

「葵みたいにキラキラしてないし、友崎みたいに誰にも負けない特技とかもないし、有城みたいな強い心も持ってないし、たまみたいに自分持ってないし…私、がんばらないと、空っぽ…」

 

みみみが1番大きく感じてしまっているのは、多分だが、日南の光が強すぎて自分の影がどんどん濃くなってしまうような無力感なんだろう。

自分も同じように頑張っているのに、努力をしているのに背中はどんどん遠くなっていく。

そう感じていることだろう。

だが…夏林はそれでもみみみを諦めない。

 

「…みんみはね。みんみは、私のヒーローなんだよ?」

 

「…え?」

 

「いっつも大丈夫って言って、笑って、無理して、がんばって。でもそれを表にださないで…私を助けてくれる。私はね、葵のことも、みんなのことも好きだけど、…私のヒーローなのは、みんみだけなんだよ?」

 

「…でもさ」

 

「もしそれでも!1番になりたいっていうんだったら!」

 

どうしようもなく弱々しく呟くみみみに、夏林はいつものように…いや、いつも以上に力強く言った。

 

 

 

『私の中で、みんみは世界一のバカ!それで我慢する!』

 

 

 

夏林の温かさはみみみにちゃんと届いたようだ。

強いな夏林は。本当に。

本当に…なんて、綺麗な関係だろうか。

俺の冷めた心に沁みていくのが分かる。

まぶしいなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、いつも通り…と言うかいつもより元気になったみみみを伴い4人で帰路に着く。

一件落着だな。

俺は前で文也にだる絡みをしているみみみを夏林と少し後ろから追いかけている状態だ。

 

「夏林おつかれさん」

 

「うん!ありがとう!有城のおかげ!」

 

嬉しそうに言ってくる夏林がなんか愛らしくて乱暴に頭を撫でる。なんか、懐いた猫みたいだな。

 

「おーぅ。感謝しろよぉ」

 

「ちょっ!有城やめる!」

 

顔を赤くしながら距離をとる夏林。

おぉ、今度は威嚇してらぁ。

そして、足早にみみみ達の方へ向かった夏林に声をかける。

 

「たまぁー!」

 

「っ!な、なに?」

 

「こちらこそありがとな」

 

それは何にたいしてなのか、自分でも分からない。

でも、なぜか伝えたかったんだ。

そしてたまはまた眩しいくらいの笑顔で言った、

 

「どういたしまして有城!」

 

その笑顔をみて、また俺の心に熱が灯った気かした。

不思議な感覚だなぁ。

でもきっと、とても大切なモノだ。

 

 

 




友崎の出番なかったな!笑


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第11話

あれからは理想的に時間が流れた。

みみみは陸上部に戻り、たまとは以前より仲良く…と言うかスキンシップが増えた。

毎度止める立場の俺の事を考えてほしいものだ。

そして、なんかいろいろあったが今日は終業式。

今は教室で1学期最後のホームルーム。

ここで中村にプレゼントを渡すみたいだ。

 

「私、行かなきゃ!」

 

「おぅ。お先にどーぞ」

 

泉が唐突に立ち上がり、プレゼントをもって中村の席に向かった。 

おうおう、初々しいですなぁ。

中村と泉のイチャイチャが終わるのを待って俺も立ち上がった。

 

「中村、俺からもいいか?」

 

「ん?おお、有城。どうした?」

 

「はいよ。おめでとさん」

 

そう言って渡すと少しの間不思議そうな顔をしてたが受け取った。

 

「俺からはお近づきの印ってことで。仲良くしようぜ」

 

「おぅ!ありがとな!…ハンドクリームか?」

 

「あぁ。俺が使ってるのと同じやつな。どんな季節でも使える優れものだからよぉ」

 

「ん。大事に使うわ」

 

俺からは愛用しているハンドクリームを渡した。 

やっぱり実用性は大事だよなぁ。

そして最後に…

 

「な、中村」

 

「おお、友崎か」

 

「えーと、これ…誕生日、プレゼント」

 

「…はあ?」

 

文也が中村に歩み寄り、プレゼントを差し出す。

 

「いや、ほら、もういいから受け取ってくれ!」

 

中村は理解に苦しんでいるようで呆けていたが、文也から受け取った包みを開けた。

そこには…

 

「…コントローラー」

 

本当に文也らしいなぁ。

いい意味で真っ直ぐだ。

そんなことを思っていると、なんか説明しだしたな。

めっちゃしゃべってるし。

 

「へぇ…。けどなんだお前、格上からのお情けってか?」

 

「いや、そうじゃなくて…。負けず嫌いで努力するやつって、嫌いじゃないというか、他人のような気がしないから…アタファミを愛するゲーマーとしての、フェアプレイ精神ってやつ…だけど」

 

「あっそ…もらっとくわ」

 

「…おう」

 

プレゼントを渡し終えた文也は、なぜか視線を彷徨わせながらそわそわしだした。

大丈夫かぁ?

すると突然…

 

「そ、そういえば、日南と水沢が付き合ってるって、ホント?」

 

…こいつやりおったな。

みんなもすげぇ顔してらぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして今は下校途中にあるファミレスにいる。

ちなみにメンバーは俺、文也、みみみ、たま、日南だ。

みみみがみんなを誘ったみたいだ。

 

「いやあ傑作だったよ友崎!」

 

「さすがにあれはなぁ?」

 

「あーもうやめてくれ!」

 

「『そ、そういえば、日南と水沢が付き合ってるって、ホント?』」

 

「ぶっ…。みんみ、似すぎ…!」

 

「くくっ。無駄にクオリティー高いなぁおい!」

 

「ご、ごめんね友崎くん…あはははは!」

 

「うう、み、みんなして…。有城まで…」

 

「わりぃわりぃ。まぁでもみんな気になってたんじゃねぇの?」

 

「はいはいそうですか…」

 

「それでは葵さん!実際のところどうなんですか!?ん!?」

 

「ん~。どっちだと思う?」

 

なんかあざといなぁ。

友崎は顔赤くしてるけど。

 

「…あざとい」

 

「えー!有城くんひっどーい!」

 

「狙ってやってるよなぁそれ。あざといままだぞぉ」

 

日南とそんなやり取りをしていると、視線を感じる。

 

「んー?たまぁ。どした?」

 

「え?…なんでもない!」

 

「ならいいけどよぉ」

 

そう言って頭をわしゃわしゃしてやる。

こないだのみみみの件があってから良く話すようになったんだよなぁ。

 

「ふにゃ!?あ、有城やめる!」

 

「あー!!私のたまになにすんだー!」

 

「み、みんみのじゃない!」

 

「もぉー!照れるんじゃありませんことよ!」

 

そう言ってみみみがたまに突撃する。

いつもの流れだが、 百合百合しいなぁ。

 

「まぁそれよりね。実際どうなの?葵?」

 

「はあ…じゃあまあ、白状すると…付き合ってる」

 

「え!?」

 

いや、驚きすぎだろぉ。

だから好きだとか言われてんだろな。

 

「…って言ったら、どうするの?」

 

「おい」

 

まぁ結局、付き合ってないらしい。

だろうとは思ったけどねぇ。

それに見た感じ一方通行だしなぁ。

 

「あ、ていうかそれ!ワックス買ったの?」

 

「あ、ああ。これ、買ったんだよ」

 

「へー!朝つけてなかったよね?」

 

「ま、まあな」

 

「うん!悪くない!」

 

「え、ホントか?」

 

「おぅ。いいんじゃないかぁ?」

 

「うん。いいと思う」

 

「私も結構いい感じだと思うよ友崎!」

 

良かったなぁ文也。

嬉しそうだし。

そりゃ勇気だしてやったんだから良かったわな。

 

「さて、本日みなさんに集まってもらったのはですね」

 

「ん?なに、みんみ?」

 

「その…お騒がせしたお詫びと言うか…すみませんでした!!」

 

そう言ってみみみは、カバンから紙袋を取り出す。

 

「なに?」

 

「なんだぁ?」

 

「これ、みんなにお詫びとしてプレゼントしたいんだよね。友情の証とも言う!」

 

そう言ってみみみのカバンに付いている、ハニワみたいなストラップの色違いをくばった。

 

「あ、ありがと…」

 

「…ありがと」

 

「ありがと…」

 

「ありがとなぁ」

 

うん。とてもいいな。

仲間って感じだ。

それにこのキーホルダー…

 

「このキーホルダー、みみみがつけてたときからずっと思ってたけど…」

 

「うん…」

 

俺もたまと一緒に頷き合う。

 

「「「…かわいい(なぁ)」」」

 

「はぁ?」

 

文也だけ良さを理解できないらしい。

可愛いと思うんだけどな。

それにしても…やっぱりこうゆうのいいなぁ。

青春してるって感じだ。

 

 

 




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第12話

夏休み2日目の夜。

寝る前に少し携帯をいじっていると

 

「ん?日南か」

 

日南からLINEが入った。

内容は… 

 

『こんばんは!8月の4~5日って空いてるかな?』

 

『空いてるぞ。なんかするのか?』

 

『バーベキューに行くんだけど、どうかな?』

 

『バーベキューか。いいな。俺も行くよ』

 

『おっけー!それで、みみみの家に集まって会議することになってるんだけど…明日か明後日は空いてるかな?』

 

『夕方までならどっちでも大丈夫だな』

 

『りょうかい!そしたら、明日の14時に北与野駅集合ね!』

 

『了解した』

 

バーベキューか。

息抜きには丁度いいな。

そんなことを思いながら眠りについた。 

そして翌日の会議の日。

集合場所には15分前に着いた。

まだ誰も来てないな。

ちなみに今日の服装はサンダルにカーキのハーフパンツにネイビーのポロシャツ、そしてキャップだ。

そうして待っていると、水沢が来た。

そういや、誰が来るのかとか全く聞いてなかったなぁ。

 

「おう、有城」

 

「おーぅ。水沢もいるのかぁ」

 

「んー?メンバー聞いてないのか?」

 

「あぁ。聞くの忘れたんだよなぁ」

 

そう言うと水沢は笑いながら俺の隣に来る。

そして話ながら待っていると文也がきた。

 

「おう、文也」

 

「よぉ。文也もか」

 

「お、おお」

 

「それにしても暑いねぇ」

 

「ほんとだな。あっちい」

 

「そ、そーだなー」

 

「うまくいくといいなー、合宿」

 

「くっつけ作戦、なんだもんな」

 

なにやら合宿には目的があるみたいだ。 

本当に何も聞かされていない。

と言うか俺も聞いてないからなぁ。

 

「んー?なにをくっつけるんだぁ?何にも聞いてないんだよねぇ」

 

「はっ?まじか?誰に誘われたんだよ」

 

「日南だなぁ」

 

「ふーん。まぁあれだよ。優鈴と修二」

 

「あの2人かぁ。うまく行くんじゃねぇの?どっちかが踏み出せばくっつくだろうよぉ」

 

「はは!だよな!でもあいつらお互いに純情だからな」

 

「泉だけじゃなくて…中村もそういう感じなのが意外だよな」

 

「あいつはもともと単純っつーか、そうゆうやつなんだよ。ほらアタファミとか。思い当たる節あるだろ?」

 

「あー、たしかに」

 

「不器用そうだもんなぁ」

 

そうして3人で話していると、みみみと日南も着いたみたいだ。

手を振りながら小走りで駆け寄ってきた。

 

「おおーっ!早いね男子~!待った~!?」

 

「おまたせ~」

 

「おーぅ。別に待ってないぞ」

 

「ホントに有城は目立つよね!もはや目印だよ!」

 

「それよく言われるんだよなぁ」

 

そんな話をしていると文也の様子がおかしいことに気づいた。 

なんか決心した顔してるねぇ文也のやつ。

そして、文也は唐突に口を開いた。

 

「な、なんか、有城と水沢がならんでると王子とそれを守る騎士みたいだよな…なんて」

 

「ちょっ!ブレーンなにそれ!?」

 

と言いながら笑っているみみみ。

ほぉ、ならここは…文也の勇気に免じて乗ってやろうではないか。

俺は日南に手招きをして、水沢の隣に立たせる。

そして水沢と日南の前に立ち芝居がかった口調で…

 

「この悪い魔法使い達からは私がお守り致しましょう。孝弘様、葵様」

 

2人とも呆けているが…はたして乗ってくるか?

 

「うむ!くるしゅうないぞ!」

 

「誉めてつかわす!」

 

ナイスだ。

みんな笑ってるようで良かった。

ん?少し日南の顔が赤いように見えるな。

まぁいいかぁ。

そうして、結局文也の家に向かうことになりその道中。

 

「有城ってあんなことするんだね!びっくりしちゃった!」

 

「ホントにねー!一瞬なにが起こったのか分からなくなっちゃったもん!」

 

「まぁ日南と水沢がのってきてくれなかったらただの痛いやつだけどなぁ」

 

「くくっ。それな!てかさっきみたいに名前でいいぞ?俺も楓って呼ぶし」

 

「ん?そうか?なら孝弘って呼ぶなぁ」

 

「あ!わ、私も…いいかな?」

 

日南が下から覗きこんで言ってくる。

俺のが大分背が高いから仕方ないかもしれないが…こいつはわざとやってる…と思う。

 

「うーん…あざといなぁ」

 

「えっ!ひどくない?今の流れは普通に呼んでくれるとこじゃん!」

 

「冗談だ。葵様ぁ」

 

「っ!」

 

「んー?照れてんのかぁ?」

 

おぉ、また一瞬でもとに戻った。

毎度どうやってんだろうなぁ。

 

「べつにぃー!よろしくね楓」

 

そう言って葵はみみみの方に合流していった。

すると、少し後ろを歩いていた文也が何かを呟いた。

内容こそは聞こえなかったが、何か驚いているような感じだった。

 

「日南のあんな顔初めて見たな」

 

「文也?なんか言ったかぁ?」

 

「い、いや!なんでもない!」

 

「そうかぁ。ま、俺らも早く行こうぜぇ」

 

気にしても仕方ないと思い、会議場所になった文也の家に向かっていく。

そして、文也の家に着いたのだが…

友崎の妹らしき子が出てきて俺たちを見て驚いている。

ってか、どっかで見た顔なんだよなぁ。

 

「ひ、日南先輩に…七海先輩に…水沢先輩に…あ、有城先輩まで!?」

 

あの慌てっぷり…思い出したわ。

 

「んー?…あぁ。あの時のプリントぶちまけてた子じゃんかぁ」

 

確か…転校して1週間たったくらいだったか?

階段のことで盛大にぶちまけてたなぁ。 

 

「そんなことあったのか?」

 

「う、うん」

 

「それで、優しくされて好きになったと?」

 

相手が身内と言う事もあってとてもいきいきしながら妹をいじっている。

皆もなんか暖かい目を向けている。

 

「うん。………はっ!ち、違う!」

 

「ははっ!ちょっとショックだなぁ」

 

妹ちゃんは恥ずかしさと文也へのイライラでうつむいてプルプルしている。

遂には顔あげて文也を睨みはじめたが、なにかに気づいたように家の中へ入っていった。

 

「お母さーん!お兄ちゃんが友達…なのかな!?と、とにかく同級生のすごい人たち連れてきたー!!」

 

「え!?文也が…同級生を!?友達!?ど、どういうこと!?」

 

すると、次は母親らしき人が出てきて騒ぎ出した。

2人してあたふたしてるなぁ。

そして、そんな2人をよそにみみみが笑いだし言った。

 

「いやあ、友崎んちおもしろいね!」

 

「なんか褒められてない気がする…」

 

「いいじゃねぇか。賑やかでよぉ」

 

「だな!案外褒めてると思うぞ?」

 

「はあ?そ、そうか…?」

 

家にお邪魔する前にこんなことがあったが、無事に通してもらった。

みみみ、水沢の順で入っていくが…

 

「みみみ、孝弘。靴ぐらい揃えてけよぉ?」

 

「あっ!そうだね!ごめーん!」

 

「たしかにそうだな。悪い悪い」

 

2人とも素直に直して中に入っていく。

俺も続いて入ろうとすると、驚いた顔でこっちを見てるのが1人。

 

「なんだぁ葵?そんなに意外かねぇ?」

 

「ううん!しっかりしてるんだって思って!」

 

「まぁ礼儀は一通り習ったからなぁ」

 

「武道だもんねぇ!………強いだけじゃないんだね」

 

「ん?どうしたぁ?」

 

「なんでもないよ!私たちも行こっか!」

 

こうして、ようやく会議場所である文也の部屋に到着した。

 

 

 




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第13話

文也の部屋に入って会議が始まるかと思われたが、皆がそれぞれ思い思いの行動を始めた。

 

「なにこれ!めっちゃコントローラー入ってる!?」

 

「あ、それはこう、アタファミの練習で使えなくなったコントローラーで…」

 

「へぇ。こんなに使い潰せるもんなのな」

 

「まあ、2~3年あれば、このくらいは」

 

「へ、へぇ…やっぱ友崎ってそのへんガチなんだね…」

 

「おう、まあな」

 

「なんつーか。お前やっぱり、変なやつだなあ」

 

「まあなぁ。でも、なにもないよりずっといいと思うぞ」

 

「そ、そうかな…?」

 

そんな話をしていると、1人だけ話しに加わらずに真剣な顔でコントローラーをさわっている日南が目に入った。

 

「葵。なにしてんのぉ?」

 

一瞬びくっとしたがすぐに持ち直して言った。

 

「これ捨てるのもったいない…主婦の血が騒ぐ…!」

 

「ははは!なんだよそれ!葵そんな節約趣味あったのか?」

 

日南はごまかしているつもりのようだが、隠す必要はないと思うんだけどなぁ。

さっきの表情は本気だったろうに。

ここは1つ。

 

「でもたしかにこれはすごいよなぁ。本気って感じでよぉ…なぁ?葵」

 

そう言って俺は葵の隣に座り顔を覗き込む。

 

「…ん?私そんなこと言った?」

 

「葵もそう思ったんじゃないのかぁ?」

 

そうやって真っ直ぐ見つめる。

もちろん逃がすつもりはない。

 

「んー、たしか「どうなんだ?」…に」

 

誤魔化させないぜぇ。

すると、徐々に目線が泳ぎ始め顔が赤くなってきた。

あと一押しかと思っていると… 

 

「え、えっと…///」

 

「はい!そこまで!そろそろ会議始めようぜ!」

 

そう言いながら孝弘が俺と葵の間に入ってきた。

まぁここまでかぁ。

 

「へーぃ。悪かったなぁ葵ぃ」

 

俺はそう言って葵の頭をポンポンと優しく叩いた。

 

「…っ///」

 

おっ、珍しいなぁ。

何かしら返してくると思ったんだが。

されるがままだぁ。

ちなみにみみみはそんなことそっちのけでAVを探していたので…

 

「みみみ。今どきはパソコンのファイルとかにカモフラージュして隠したりするみたいだぞぉ」

 

「そうなの?友崎!パソコン見せて!」

 

「え、ちょっ、やめっ」

 

なんてこともあったなぁ。

文也の絶望した顔には笑わせてもらった。

分かりやすすぎだろぉ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして今度こそ会議が始まる。

ことはなく…今は俺と文也がアタファミで対戦をしている。

 

「はぁ!?んだそれっ!?…ちょっ、あぁ…」

 

「…ふぅ」

 

普通にボッコボコにされた。

俺が思ってた10倍は強いんだけど…。

 

「結構自信あったんだがなぁ」

 

「まぁ…中村よりは強いよ。一機削られたし」

 

「有城も十分強いでしょ!?友崎を基準にしたらダメじゃない!?」

 

悔しそうにしながら言う俺に、みみみがつっこむ。

そうだとしても悔しいんだよなぁ。

まぁこのまま終わるつもりねぇけどよ。

 

「悔しいぜ…だが、やられっぱなしは趣味じゃねぇんだ。文也、もちろん初代持ってんだろ?」

 

「初代?◯4のやつ?あるけど…」

 

絶対に文也が乗ってくる誘いかたをしねぇとな。

 

「あぁ。それなら勝てっから持ってきてくれ」

 

「………分かった」

 

そう言って文也は押し入れから初代のアタファミを引っ張ってきた。

他の3人はありがたいことに静観してくれるみたいだった。

まぁ、普段とは雰囲気の違う文也が気になるんだろうけどな。

多分少しイライラしてるだろうし。

そして、俺はコントローラーの具合を確かめ準備完了だ。

 

「んじゃ、始めっか」

 

俺の合図で対戦がスタートした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ…!」

 

「甘ぇ!これで…終わりっ!」

 

「くぅっ…!負けました…」

 

俺が文也の操作するキャラの最後の1機を削り、俺がストレートで勝った。

にしても…

 

「こっちも強ぇのな。正直ビックリしたぜ」

 

「…まぁ、アタファミを始めるにあたって初代も結構やりこんだからね」

 

「ふぅ…まっ、流石にこっちはな。一応、中1の時に父さんとペア組んで日本3位になったからよ」

 

「ええっ!?それは強いわけだよ。また挑戦していい?」

 

「もちろんだ。俺もまた挑戦するわ」

 

そう言って俺達は固く握手を交わした。

そんなことをしていると、静観していた水沢が話しかけてきた。

 

「日本3位ってのにはビックリだけど…うんうん。楓もオタクを名乗るだけはあるよな」

 

対戦が終わり、ひと息ついていた時に何の気なしに孝弘が言った言葉に食いついたのが約2名。

葵とみみみだ。

 

「えっ!?有城ってオタクなの!?」

 

「タカヒロ~?嘘はいけないよ~?」

 

「ばっか!本当だかんな!なぁ?楓?」

 

「ん?まぁ、結構筋金入りだと思うぞ?漫画とかラノベなら…この部屋にある分の3倍くらいは持ってるぞ」

 

「「ええっ!?」」

 

「ほらな?」

 

そんなに驚くことだろうか?

ちゃんと数えてはないが500は軽く越えてるだろうな。

2人は信じられないといった顔で見てくる。

 

「まぁ、俺から言わせりゃオタクだからなんだって話な訳よ。俺はオタクを馬鹿にする奴は大嫌いだから…もし馬鹿にするやつがいたら、背負い投げで頭からコンクリに落とします」

 

「「「「それはやめたげて!」」」」

 

そんなこんなで会議を始めることになった。

 

 



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第14話

文也の部屋。

会議を始めるまでに色々とあったが、中村・泉くっつけ作戦の案を出し合っている。

 

「やっぱり肝試しは必須ですよみなさん!ベタがなによりも美しいっ!」

 

「たしかにそのくらいしてやらねーとあいつらなんも起きなさそうだもんな。ありだな」

 

「た、たしかに、吊り橋効果ってよく言うもんな」

 

「そうそうそれそれ吊り橋効果!さすが友崎分かってるねえ!」

 

「2人っきりで深まる仲!」

 

「うんうん。青春だねぇ」

 

「おっさんくせぇぞ楓!」

 

「ははっ。まあなんにせよ、あとはきっかけだけだろうなぁ」

 

肝試しには皆賛成のようで、俺がそう言うとみんなが頷く。

 

「優鈴はもう確認したから間違いないしね」

 

「それに、なかむーも絶対ちょー気になってる!私にはわかる!」

 

「いや、それは誰にでもわかるから」

 

「さすがにねぇ」

 

「え!?嘘!?」

 

「いやホントホント。文也だってわかるよな?」

 

「おう、さすがにわかる」

 

「ええー!?」

 

みみみの場合、本当に自分だけだと思ってたっぽいよなぁ。

そんなみみみをよそに、文也が意見を出す。

 

「バーベキューするんだよな?」

 

「ん?そーだな」

 

「そしたら、そこの役割分担でも2人っきりにできるんじゃないか?」

 

「いいんじゃねえのぉ?」

 

「火おこしとかな!」

 

「いや、それよりも…食材カットとかがいいんじゃない?」

 

「そうか?」

 

「まぁたしかに火おこしは難しいからなぁ。そっちでいいんじゃないかぁ?」

 

こんな感じで話し合いが進んでいった。

ある程度の方向性が決まってきた所で孝弘が呟くように言った。

 

「けどまあ、あれだよな」

 

「んーどうした少年?」

 

「ほら、俺らそろそろ3年になったら受験だろ?」

 

「そ、それは言わない約束…!」

 

「いや、じゃなくて、さ」

 

あぁ、そうゆうことか。

やっぱり色々考えてるんだなぁ。

 

「もう好きに遊べる時間少ないから、この合宿でくっつけてやりたい、でしょ?」

 

「まぁそれがあいつらの為にもなるよなぁ。どうせくっつくんだろうしよぉ」

 

「まあ、そんな感じ」

 

仲間思いだねぇ。

本当にいいやつばっかだ。

そう思っていると、珍しく文也が孝弘をいじりにいった。

 

「水沢、さては照れてる?」

 

「だよね!?私も今思った!タカヒロ照れたっしょ!この~!いいやつぅ!」

 

「ははは。だろ?俺はな、いいやつなんだよ」

 

「本当にいいやつだなぁ。孝弘ぉ!俺はそうゆうとこ好きだぜぇ」

 

本当にこいつらといると、今までできなかった経験が色々できて楽しいな。

俺は嬉しくなって孝弘の肩を組にいく。

そうしてわちゃわちゃしてると…

 

「でもさー、ワタクシもその気持ち、わかりますよ!せっかく両思いなんだし、あの2人、絶対相性いいからもったいないよね!それに、青春は…いつか終わるから…うう」

 

「だよな」

 

うん。本当に好きだこいつらのこと。

もっと仲良くならないとな。

そしてその後も色々と話をして、時刻は午後6時頃。

そろそろ解散の時間だな。

俺も練習あるし。

 

「あ、私そろそろ帰らないとだ!おばあちゃんと家族で夜ご飯食べに行くことになってるんだよね!」

 

「あー。俺もそろそろ。練習行くからよぉ」

 

「夏休みも練習あんの?頑張るなあ」

 

「おー。毎日なぁ」

 

「え!?毎日!?合宿は大丈夫なの?」

 

まぁ当然の疑問だろう。

もしかしたら、気を遣わせてるとか思われるかもしんないしな。

 

「あぁ。気分転換に行ってこいってよぉ。まぁ夏休みに試合もあるしなぁ、練習だけだと逆に。むしろちょうどいいくらいだぁ」

 

「なら良かった!」

 

「そしたら解散にしとくか!語り尽くしたしな!」

 

「ははは、そ、そうだな」

 

「あ、楓!LINEグループ誘っとくね!現地での作戦会議にも使えるから!」

 

「おーぅ。よろしく」

 

「あ、あと友崎くんも!」

 

「おお、おっけー」

 

「よーし、いくか。忘れ物ないか~?」

 

「DVDを見つけられなかったことが心残りではあります!」

 

「ありゃ、見つからなかったのかぁ?いい線いってると思ったんだけどなぁ」 

 

「まだ言ってるの?」

 

そうして玄関に向かい、文也の妹に見送られて帰路に着いた。

俺は1人歩きながら物思いに更ける。

こんなにも何かが楽しみになるのなんて初めてだな。

大切にしなきゃな。

あいつらのことも…この時間も。

 

 

 

 



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第15話

作戦会議の後は、特に用事もなく練習漬けの毎日を過ごし、ようやく合宿当日となった。

電車に揺られること40分、待ち合わせ場所の池袋駅に着いた。

珍しく俺が1番じゃなく、3人が先についている。

俺は先に着いていた3人に挨拶をする。

 

「おーぅ。はよー」

 

「おー。楓」

 

「おはよー!」

 

「うーっす」

 

「みんな早いじゃんか。こうゆうときは大体俺が1番だけどなぁ」

 

「まぁたまにはねー!」

 

そんな話をしていると、文也とみみみが来た。

 

「おい~っす!」

 

「おー」

 

「あとは竹井と優鈴か~。両方遅刻常習犯だからな~」

 

「ほんとそれね!朝送ったLINEに既読ついてるし、平気だと思うけど…」

 

まだ来ていない2人を心配していると、泉も到着した。

後は竹井だけだ。

 

「みんな早っ!?私最後!?」

 

「竹井がまだだなぁ」

 

「え!?あ、ほんとだ…」 

 

あんな暑苦しいやつなのに忘れられるもんなんだなぁ。

しばらくすると竹井もきた。

 

「あれ!?俺最後!?まーいーや!とりあえず全員集合記念~!」

 

といって写真を撮っている。

Twitterにあげるようだ。

そして今からバスに乗る。

席順が重要になると言うことである程度決めてあるみたいだし、まぁ流れに身を任せますかね。

バスに乗ると、先に乗っていた葵が俺を呼んでいる。

取り敢えず流れに身を任せ隣に座った。

 

「楓ー!座ろー!」

 

「はいはぃ。今行きますよーっと」

 

続いてみみみが文也を呼ぶ。

文也は少しキョドりながらも席に着いた。

 

「よーしブレーン友崎!私窓側でいいよね?」

 

「お、おう」

 

そして、泉だ。

あと一歩勇気がでないのか、中村の方をチラチラ見ながら口をもごもごさせている。

 

「えっと…」

 

頑張れ泉。

そして…

 

「し、修二。座ろ?」

 

「…おう」

 

顔を赤くしながらも言った泉。

うん。あの時の少しでも背中を押しといて良かったなぁ。

泉と目があったので『よく頑張ったな』と合図をしておく。

こうして作戦はいいスタートダッシュをきった。

無事に全員が乗り込み、バスでの移動中。

 

「楓」

 

小さい声で話しかけてくる葵。

 

「どうしたぁ?」

 

「試合あるって言ってたじゃん?いつなの?」

 

「あー。試合なぁ。試合はーーーー。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてバスは目的地に着いた。

バス停からは5分くらい歩くみたいだ。

 

「やっぱ山って感じだね~」

 

「暑っつ」

 

「山っていってもあんまりかわらないなぁ」

 

「よーし!じゃ歩くか~!」

 

「みみみぃ。そっちじゃないぞぉ」

 

「え!?あ、ほんと?」

 

そうして歩くこと5分程でキャンプ場に到着した。

キャンプ場は2つのエリアに別れてるようで、結構広い。

 

「とりあえず1人1万な~!」

 

孝弘が今回の合宿の費用を集める。

このお金で色々と払うようだ。

その辺は任せよう。

 

「もう結構やってる~!早く借りてこないと!」

 

「とりあえずいくぞ」

 

「力仕事は任せてくれなぁ」

 

「おー!頼りにしてるぞ」

 

俺たちはバーベキューをするための道具を借りて川原の方に向かった。

ここからは作戦通りに、役割分担でも中村と泉を一緒にさせる流れだ。

仕切るのは葵。

まぁここも任せといて大丈夫だな。

 

「ではこれから、作業の分担をします!」

 

「お願いしまーっす!」

 

「それじゃあまず食材の下準備は…優鈴と修二にお願いしようかな」

 

「う、うん!頑張る!」

 

「うーっす」

 

うんうん。いい感じだ。

何事もなく決まったようでなにより。

 

「それからバーベキュー用のテントとかテーブルの設営は…ちょっと大変だから楓とタカヒロと竹井、あとはみみみも手伝ったほうがいいかな?」

 

「まかせろぉ」

 

「はいよ」

 

「うぃーっす!」

 

「おっけーい!」

 

「余った私と友崎くんが火おこしってことになるかな?そんな感じでお願いしまーす!」

 

そうして、それぞれ準備に取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それぞれの作業を終えて、今から飯だ。

中村と泉は終始楽しそうにやっていたので、今のところ順調に進んでいる。

 

「あれ?この玉ねぎ変な形してる。誰が切ったんだこれ?」

 

「うるさい修二!黙って食べる!」

 

中村と泉は楽しそうにふざけあっている。

 

「お、竹井その肉俺のな」

 

「ちょ、修二待て待て待て!それ俺の!」

 

「お前さっきから肉ばっか食ってんだろ。野菜も食え野菜も」

 

「ひ、ひでぇよ修二~。優鈴っち助けて~!」

 

「え、ええ!?えっと、ドンマイ竹井!がんばれっ!」

 

騒がしいなぁ。

まぁ嫌いじゃないけどよぉ。

そうやって俺が橋を置いて眺めていると…

 

「あれ?楓食わないのか?めっちゃ食いそうだけど」

 

「それ思った!?体調わるいの?」

 

これはまずいな。

気を使わせたら悪いしなぁ。

 

「いや、試合があるからなぁ。あんまり食べれないんだよねぇ。この時期はだけど」

 

「そっか!柔道って階級?があるんだよね!?」

 

「へぇ。楓はなんキロあるんだ?」

 

「ん?今橋90キロくらいだぁ。普段は95キロくらいはあるな」

 

俺が何の気なしに普通に言うと、皆が俺を見て固まっている。

変なこと言ったかぁ?

すると、数秒後に驚きの声が響いた。

 

「えー!?そんにあるの!?全然見えない!」

 

「マジで全身筋肉なのかよ」

 

「あって、80位かと思ってた」

 

「そうかぁ?…まぁ着痩せするのかなぁ?まぁだから…俺には野菜をまわせよぉ!」

 

そんな話をしながら、やがてみんな食べ終わった。

次は川で遊ぶみたいだな。

 

 




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第16話

食べ終わり、孝弘達が借りた道具をかたしてきてくれている。

 

「た、食べすぎた…」

 

「お前さ、俺途中で忠告したよな?食いすぎって」

 

「だ、だって…おいしいから…」

 

「なにそのバカみたいな理由?」

 

「う、うるさい!」

 

おーおー。イチャイチャしちゃって。

うまくいってるようでなによりだぁ。

 

「おーっし。返してきたわ!」

 

そう言って声がした方に視線を向けると、戻ってきた孝弘は水着になっていた。

 

「おーっ!タカヒロやる気満々だね!そしたら私も!」

 

そう言ってみみみも水着になる。

おい、文也そんな顔してたら言われるぞぉ?

 

「友崎なにその顔~。やらしー」

 

「い、いや別に…」

 

案の定文也はみみみにからかわれ、あたふたしている。

そんな文也をよそに服の下に水着を来てきた人は水着になった。

 

「じゃあ私も~」

 

そしたら俺も水着になるかぁ。

 

「俺は着替えてから行くから先に行っててくれぇ」

 

「りょーかい!じゃあみんなー!とりあえず荷物ロッカーに預けにいこっか!」

 

葵の号令で荷物をもってコインロッカーに移動を始める。

俺は忘れ物がないか確認してから更衣室に向かおうと振り向くと、視界の端で大学生らしき2人組がこちらの女性陣を見て何かを話しているのをとらえた。

少し気になるなぁ。

俺は一緒に最後まで残っていた孝弘に注意を促しておく。

 

「孝弘。ちょっといいか?」

 

「どうした?楓」

 

「あそこの大学生っぽいグループあるだろぉ?あいつら、こっち見てこそこそなにか話してたから気にしておいてほしいんだよぉ」

 

「ん?あいつらか。分かった」

 

「まぁなるべく早く行くから。もし絡まれても穏便におねがいなぁ」

 

そう言って俺は着替えにいった。

ぱぱっと着替えて戻ってみると…案の定絡まれてるなぁ。

孝弘と中村が相手してるけどあれじゃダメだぁ。

泉なんて怯えちゃってるし。

…ちょっと急ぐか。

俺は足早に駆け寄り後ろから声をかける。

 

「なぁ。おにーさん方ぁ。なにしてんのぉ?」

 

そう俺が言うと、2人はこっちも振り向かずに言う。

 

「あ?俺たちがこの子たちと遊ぼうと思って声かけたら邪魔しやがるんだよ」

 

「そうなんだよ。ガキは帰れっての」

 

「へぇ。そっかぁ…そんなに遊びたいのかぁ」

 

「そりゃそうだろ。こんな上玉なかなかい…な…い」

 

1人が何かおかしいと思ったのか、こっちを振り向く。

急に歯切れが悪くなったのを不思議に思ったもう1人もこちらを向いた1人が不思議そうにこっちを向いた。

 

「あん?どうした?…ひっ!」

 

俺の方が背が高いため覗き込むようにして2人を見下ろしている。

少し怯えてっけど、もう後悔しても遅いなぁ。

 

「そんなに遊びたいならよぉ。俺が遊んでるよぉ」

 

そう言って俺は大学生2人の腰の辺りに腕を回し両脇にかかえるように持ち上げる。

 

「は、はあ?ちょっ、おい離せ!」

 

俺は無視して川に向かって歩き出す。

2人は必死に足掻いているが、全くびくともしない。

鍛え方が違うかんなぁ。

そして…

 

「はい。ドーン!」 

 

川に向かって思い切りぶん投げた。

慌てて水から顔を出した2人に俺は笑顔で言う。

 

「まだ遊び足りないなら、次は…頭からいっとくかぁ?」

 

そう言うと2人は泣きながら帰っていった。

ふぅー。一件落着っと。

皆のところに戻ると、みんなぽかーんとしていた。

なんだぁ?

葵にいたっては顔が真っ赤だなぁ。

 

「ただいまぁ。大丈夫だったかぁ?」

 

「おかげさまでな。それにしてもあいつらはもう水辺には行けないだろうな」

 

「それな。ありゃトラウマもんだろ。それにしても…やるじゃん。楓」

 

「ホントにね!人ってあんなに簡単に持ち上がるんだーって感じ!めっちゃ飛んでたし!いやー、スッキリしたよー!ね!葵?」

 

「…」

 

皆がそれぞれ話すなか、みみみに振られた葵は顔を赤くして俺をボーっと見つめたままだ。 

 

「あれ?葵?おーい!」

 

「…え?あ、うん!か、かっこよかった///」

 

「んー!?これはもしや?」

 

葵の声は小さくて聞こえなかったが、なんかみみみがぶつぶつ言ってるなぁ。

それに、葵の様子が少しおかしいな。

ケアしておいたほうがよさそうだぁ。

 

「大丈夫か?葵ぃ。怖かったのかぁ?」

 

俺はそう言いながら安心させるように優しく頭を撫でた。

すると、葵はさっきより顔を赤くしている。

あれ?悪化してねぇ?

 

「へ…?///ちょっ、私泳いでくる!」

 

走って川に行っちまったよ。

まぁ元気ならいいんだけどなぁ。

 

「あらら。あれは強敵だなあ。孝弘?」

 

「あはは、どうすっかなあ」

 

「孝弘、中村どうしたぁ?」

 

「いや。なんでもねえよ。それより俺らも行くぞ。あー。あと、俺のことは修二でいい」

 

「おぅ。じゃ行こうぜぇ。孝弘、修二」

 

まぁ、色々あったがとにかく遊びに行くことにしよう。

 

 




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第17話

ナンパを撃退して、今は川で遊んでいる。

俺は孝弘、葵、みみみ、竹井と腰の辺りまで水があるところにいる。

葵はいつの間にかいつも通りに戻ってたなぁ。

まぁ楽しもうかね。

少しの時間がたったところでみみみが声をかけてきた。

 

「ね!ね!有城!」

 

「ん?なんだぁ?」

 

「さっきみたいな感じで私のこと投げて!ドーン!って!」

 

「おぉ。いいぞぉ」

 

「やった!じゃお願いしまーす!」

 

「そんじゃ、失礼しますよーっと」

 

俺はみみみをかかえて振り子の要領で遠くに投げてやった。

やっぱ軽いから結構飛んだなぁ。

 

「ぷはぁー!なんだこれ!楽しー!もう1回!」

 

「はは、元気だねぇ」

 

そうして何回か繰り返していると、誰かに肩をたたかれる。

振り向くと…

 

「ん?どうしたぁ?葵」

 

「私も!投げて!」

 

「おぉ。いいぞぉ」

 

みみみと同じ要領でかかえてやると、葵が俺を見上げながら言った。

 

「ねぇ楓!」

 

「なんだぁ?」

 

「優しく…してね?」

 

こいつ…

さっきの仕返しかなんかかぁ?

 

「はぁー。だからぁ!あ・ざ・と・い!」

 

と、思いっきり投げてやった。

少しグッときたのは内緒な?

葵が抗議の声をあげてくるが、俺は悪くない。

 

「けほっけほっ…ちょっとひどくなーい!?」

 

「俺は悪くないだろうよぉ」

 

「…だって悔しいんだもん!」

 

「だもん!じゃねぇ。ってかやっぱり仕返しかよぉ」

 

そんなやり取りをしていると、明らかにそわそわして仲間に入りたそうな竹井が目に入った。

 

「それはそうと男供も投げてやろうかぁ?お前らくらいなら楽勝だぁ」

 

「はは、俺は遠慮するわ」

 

「俺はもちろんいくよなぁ!」

 

竹井は嬉しそうに寄ってきた。

ふむ…結構深いし大丈夫だな。

 

「おーし。じゃぁ竹井は特別に背負い投げしてやろうか」

 

「まじ!?やってやって!!」

 

「おぅ。お前ら少し離れてろよぉ」

 

俺はそう言って少し離れさせると、勢いを着けて7割程度の力で投げてやる。

 

「……ふっ!」

 

「っ!?うおっ!」

 

竹井が浮いて、水に叩きつけられたことで大きく水飛沫が上がり見ていた3人も頭から水をかぶった。

 

「あっはっはっ!迫力すごー!」

 

「竹井死んだ?笑」

 

みみみと孝弘は笑いながら拍手をしている。

葵は…

 

「…っ///」

 

(なに!なんなの!あんなのズルい!うぅ~カッコ良すぎる~!///)

 

髪で表情は隠れていて見えないが、顔をうつむかせて震えている。

何かあったのかと思い葵のもとに向かおうとすると、投げられた竹井が水から勢い良くあがってきた。

 

「ぶはぁっ!背中いって~!」

 

「おー!竹井生きてたな!」

 

「あはは!背中真っ赤~!」

 

竹井に気を取られて一瞬視線が外れて、またすぐに葵に視線を戻すといつも通りに戻っていて孝弘とみみみと一緒に竹井を見て笑っていた。

…大丈夫なら別にいいか。 

そして、しばらく遊んだあと、竹井と一緒に浅瀬で遊んでいる修二たちの方へ向かう。

 

「おーい優鈴っち~!水着着てんなら優鈴っちも深いとこいこーぜー!」

 

おー、またこいつわ。

空気読めないというか、読まないというか。

まぁ作戦伝えてない俺が言えることではないかぁ。

 

「えーだって濡れちゃうし~」

 

「んなこと言わないでさ~!ほらちっちゃいカニ」

 

「うえぇ!?」

 

竹井がいきなり泉の顔の前に捕まえたカニを見せる。

別に悪気はないのだろうが、驚いた泉は足を滑らせて体制をくずす。

 

「…っ!」

 

近くにいた俺は急いで向かおうとしたが…俺が行かなくても大丈夫そうだ。

修二がいたなぁ。

 

「あぶな…っ!!」

 

修二はギリギリのところで泉が転ぶ前に助けることに成功した。

ナイスキャッチだな。

泉は顔を赤くしながらお礼を言っている。

 

「…っ!あ、ありがと…修二」

 

「…大丈夫かよ」

 

「う、うん…どこも、痛くない」

 

「…つーか、なに転んでんだお前。だっさ」

 

「う、うるさい!…けど、ありがと」

 

これは絶対に距離縮まったなぁ。

案外ナイスだぞ竹井。

そして、急いで謝りに行こうとしてる竹井を俺が止めておく。

 

「竹井ぃ!ストップだぁ!ハウス!竹井、ハウス」

 

「でもよぉ!俺悪いことしたっしょ…?」

 

「まぁ、謝るのはあとでいいだろぉ」

 

「う、うん?」

 

俺の言ったことに首をかしげている竹井は置いといて、泉と修二の方に視線を向ける。

ふむ。キスはしなかったかぁ。

そしてこちらに気づいた葵が声をかけてくる。

 

「大丈夫~?」

 

「だ、だいじょうぶ~!なんとかなったー!」

 

そう言って葵達の方に手を振る泉だが…

ん?

ありゃちょっとまずいなぁ。

修二も気づいてない。

多分まだ俺しか気づいていないが、泉が水着の上に着ていたTシャツが体に張り付いてラインがクッキリ見えてしまっている。

 

「修二ぃ!」

 

「ん?」

 

俺の声に気づき、 こっちを向いた修二に合図を送ってやる。

 

「…っ!?おい優鈴。このまま行くぞ。サンキュー楓」

 

「えっ!?う、うん///」

 

そうして修二は泉を抱きかかえたまま、更衣室へ向かっていった。

間に合って良かったなぁ。

 

 

 




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第18話

川で遊び終わり、今は着替え終わって集合している。  

 

「いやー楽しんだ楽しんだ!」 

 

「だなー。少年時代に戻った気分になったわ~」 

 

「竹井は気分だけじゃなくて、マジでガキになってたしな」 

 

「ご、ごめんって~」 

 

「ははは!それはそうと、このあとどーする?とりあえずログハウスいって、ちょっと休憩?」 

 

「そうだな。ちょっと疲れたしなぁ」 

 

「うん、そんな感じでいいと思う!」 

 

そうして一旦男女で別れ、男子のログハウスにやってきた。 

中に入って竹井が一言。

 

「うお~!なんもねえ~!」 

 

うん。本当になんもない。

まぁ、そんなもんかね。 

 

「これトランプとか借りれんだっけ?」 

 

「ああ、無料で借りれるらしいな」

 

「なら、借りに行くかぁ?俺が行ってくるぞ?」

 

「いや!それよりさー、最近どうなのよ、島野先輩とは?」 

 

ん?どうやら、修二の情報収集をするようだ。

孝弘から合図がきた。

 

「…んだよ急に。どうもこうもねーよ」

 

どうやら話を聞いていると、修二は島野先輩とやらにフラれたが最近また連絡を取っているらしい。

 

「またヨリ戻すとか?」

 

「今あいつ彼氏いるし…っつか、なんで急にその話だよ」

 

「いやいや、やっぱり泊まりって言ったら恋バナだろ。なあ?」

 

孝弘がこちらに合図を送りながらふってくる。

まぁここはもちろん乗るよな。

 

「まぁ気にはなるよなぁ」

 

「間違いないね」

 

「友崎は調子のんな」 

 

軽く凄まれて萎縮している文也は置いといて修二の返事をまつ。

すると、ため息をはきながら話し出した。

 

「…ま、微妙な状態」

 

色々と聞き出した情報をまとめると、島野先輩とやらは今他に付き合っている人がいる。

だが、修二に最近上手くいっていないと言った内容の相談をしているらしい。

そのせいで、修二も後ろ髪を引かれ次に行きづらくなっているようだ。

話を聞いた俺が修二の背中を押すために話を始めようとしたところで、文也が爆弾を投下した。

 

「い、いや、なんつーか、その、島野先輩がしてることって…」

 

「ことって?」

 

「…キープ、ってやつなんじゃない?」

 

「「「ぶふっ!」」」

 

まさかのキープ発言に俺と孝弘と竹井はそろって吹き出し、修二は不機嫌さを隠そうともせず文也を睨んでいる。

 

「お前、調子のりすぎ」

 

修二は文也に言ったが、その言葉には力はなく、開き直ったかのように言う。

 

「あーそうだよ俺はキープされてんの!」

 

その発言によりさらに笑いが加速したのは言うまでもない。

そして、しばらくして落ち着いた後に孝弘が続きを話し始めた。 

 

「まあキープの話は置いといてさ、それじゃあ、次の候補ってのはいんの?」

 

前置きが長かったが、こっからが本題だなぁ。

 

「俺も気になるなぁ。どうなんだぁ?」 

 

修二は観念したように話し始める。

 

「それもなかなか難しいんだよ。いるはいるけど、そいつからも恋愛の相談されててさ」 

 

「…へえ?」

 

「なんて相談されたんだぁ?」 

 

「『いま身近に好きな人がいるんだけど、たぶん相手は自分のこと見てくれてなくて、どうしたらいいかな』みたいな感じだな」 

 

その相手が自分だとは思わないだろう。

それよりも…背中を押してやらんとな。

 

「なーんか修二って結構そう言うので悩むタイプなんだな」

 

「いや…あの人とはヨリを戻そうなんてこれっぽっちも思ってないんだけどよ。どうにも…な」

 

「へぇ…なら悩む必要はないわな。自分の思うように動きゃいいじゃねぇか。修二が何を気にしてるのかははっきりとは分からねぇけどよ、もしその事で外野が何か言うんだったら俺が黙らせっから安心しな。それによぉ…本気なんだろ?修二が真剣に考えてるなら俺は応援するぜ?」

 

「…楓」

 

「ははっ!優秀なボディーガードがいるなら心配ねえな!修二!」

 

「…おう。サンキューな。少し考えてみるわ」 

 

取り敢えず背中は押せたかね。

あと、俺らがしてやれることは少ないからな。

そう考えていると、スマホが震える。

作戦会議用のLINEグループが動いてるようだ。 

 

『修二は島野先輩から「いまの彼氏とうまくいってない」みたいな相談されてるらしい笑 それでなかなか次にいけないんだと』 

 

『あー、たしかにあの先輩そうゆうことしてる!私苦手!』 

 

『いやーな女だよなぁ』 

 

『楓が辛辣!ってか修二キープされてるの?笑』 

 

『今こっちでも文也が修二に直接キープって言って、マジ爆笑だった』 

 

『ああ、あれは傑作だった!ほんとに文也節って感じだったな』 

 

『まじ?さすが友崎!笑』 

 

『言ったらめっちゃ睨まれた』 

 

『wwwwwwww』 

 

『友崎くん攻めすぎ!笑』

 

『あと、楓も凄かったよな!修二少し泣きそうになってたぜ?あれ』

 

『ええっ!?なかむーが!?なに言ったの!?』

 

『私も気になる!』

 

『確か…島野先輩振り切って、次に行ったとして外野が何か言うなら俺が黙らせっから気にせず自分の思うように動け。俺は本気なら応援するから的なことを熱く語ってた!』

 

『有城かっけー!私は感動しました!』

 

『やばい!修二が楓に惚れちゃうかも…!』

 

『ワンチャンあるな…』

 

『いや、ねぇだろ』

 

『冗談はこの辺で…まぁ、今日の裏MVPは文也と楓だな』 

 

こんな感じでLINEでも大分盛り上がっていた。

 

『っていうか!こっちでも優鈴から爆弾発言聞いたよ!』 

 

『爆弾発言?』 

 

『うん。なんか優鈴ね、あえて修二に「今気になってる人がいる」って相談してみてるらしい!笑』 

 

『あー。それなら修二も同じようなこと言ってたぞ』 

 

『だよな!修二も、次狙ってる女子から「今気になってる人がいる」って相談受けてるって笑』 

 

『なにそれやばい笑 完全両思い!!』

 

『さっさと付き合え』

 

ほんとになぁ。

どっちかがちょっとでも踏み出せばゴールなのになぁ。

こうしてるうちになにか決まったみたいだ。 

 

「そろそろいくしかないっしょ~!」

 

「そうだな、いくぞタカヒロ、楓、友崎も」

 

「おう」 

 

「ん?いくのかぁ?」 

 

「もち、女子の部屋に乱入よ!」

 

「ええぇ!?」

 

そうして女子部屋に行くことが唐突に決まり、俺たちは女子が休憩しているログハウスに向かった。

 

 

 




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第19話

先ほどの男子会?を切り上げた俺たちは女子の部屋の前にきている。 

 

「おいーっす」

 

「なにー?」

 

「暇じゃね?なんかしよーぜ」

 

そう言って修二を先頭に中にはいる。

 

「なかむー絶対来ると思った!」

 

「なんかってなにするー?」

 

「トランプとUNOは持ってきてるぞ」

 

「まーそうだな。適当にUNOとかトランプでできるゲームで勝負しよーぜ」

 

「いいよー。とりあえずどっちやるー?」

 

「じゃあとりあえず大富豪やるか」

 

「おけ!大富豪ね!」

 

大富豪をやったことがない俺はルールを聞いたのだが、大富豪を初めてやると言ったときは皆が驚いた顔をしていた。

そうして大富豪が始まったのだが…

 

「こんなことってあるかぁ?みんなずるしてねぇ?」

 

「いや逆だろ。負けにいってんの?笑」

 

「俺は勝負事は本気だぁ!」

 

「ほんと、どうやったら全部大貧民になれんだよ」

 

「ぷぷ!弱点はっけーん!」

 

「ホントだねー!なんでもできそうな感じだけど!」

 

そうなのだ。

俺は大貧民スパイラルから抜け出せない。

全戦全敗だぁ。

とにかく悔しい。

めっちゃ悔しい。

 

「ほい!あがり~!」

 

「くっそ!もー泣いていいかぁ?いいよなぁ?」

 

「あははは!ホントに弱いねー!」

 

「はー、笑ったわ。そんじゃあ次で最後にするか」

 

修二の掛け声で最後の戦いが始まった。

なんか葵と文也の一騎打ちになってるしよぉ。

ちなみに俺はまだ1枚も出していない。

 

「うわあ~!まじか!」

 

「よーし、これで私の勝ちね!」

 

「く…くそ」

 

「甘いわね。読まれないとでも思った?」

 

勝った葵はめっちゃドヤ顔してらっしゃる。

 

「ちょっとそこのお2人さーん。なに一騎打ちしてるんですか~。大富豪ってそういうゲームじゃないんですけど~」

 

「そうだぞ。俺のことも考えろぉ。まだ1枚も出してなかったんだけどよぉ」

 

「ふっふっふっ!負けるほうが悪い!」

 

「そう言われたらなんも言い返せん!」

 

俺はなんかむしゃくしゃして隣に座ってる葵の頭を乱暴にいじってやった。

 

「ちょっ!や、やめてー!なにしてんの!?」

 

「むしゃくしゃしてやった。後悔はしてない」

 

結局、大貧民だった。

大富豪はもうやらん。

 

「そろそろ終わって温泉行くか~」

 

孝弘がそう言ったことにより片付けが始まった。

その途中、泉が唐突に孝弘に話を振った。

 

「っていうかさ~そういうヒロはどうなわけ~?」

 

「ん~、俺はぼちぼち…」

 

「おいおいタカヒロ、そりゃねーんじゃねーの?西高の美咲ちゃんとこと隠すのか?」

 

「おい修二っ!?」

 

「えーーーっ!なにそれなにそれ!!」

 

「いや実はこいつな…」

 

どうやら、孝弘が他校の女子を口説いていて、付き合いそうらしい。

まぁ孝弘はモテるだろうしなぁ。

そうして話は進んでいき…

 

「あーもうお前ら!ほっとけって!…てか、俺のことよりも…楓のこと気にならねえ?」

 

「あっ!気になる!!」

 

次は俺にきた。

俺にくるのはいいんだが…特にないんだよなぁ。

 

「そんなこと言われてもなぁ。彼女なんていないしよぉ」

 

「今までにもいたことないのか?」

 

「そうだなぁ。本当に柔道しかしてなかったからなぁ」

 

「へー!告白もされたことないの!?」

 

「あー。ないなぁ。ていうか何を勘違いしてるのかわからないが、俺はモテないぞ?」

 

「うっそだー?モテるでしょー?」

 

んー?なんか葵のやつ嬉しそうだなぁ。

そして話が一段落してトイレから孝弘と文也が戻ってきてから温泉に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャンプ場から少し歩いたところにある温泉に到着した。

 

「それじゃ、あがったらこのへん集合で!」

 

「長湯して待たせんなよ~」

 

「覗くなよ~!」

 

「いや覗けないし!」

 

そうして暖簾をくぐり中にはいる。

皆が普通に服を脱いでいくなか、文也だけ回りをちらちら見ながら戸惑っている。 

 

「なにノロノロしてんのお前?」

 

「お、おお。今脱ぐわ」

 

「文也ぁ。こうゆうのは恥ずかしがったら負けだぞ」

 

といって俺も脱ぐ。

すると、孝弘と修二が興味深そうに見てくる。

 

「にしても、改めてすごい体してんなあ」

 

「だな。どうやったらそんなになんのかね」

 

「はは、まぁ鍛えてるからなぁ」

 

「それに比べて、友崎これおっさんじーん!」

 

「ほ、ほっとけ…」

 

「いや、これはおっさんていうよりも…ムーミ…いや、フーミンだな。フーミン谷の」

 

「あはははは!確かにこれはフーミンだわ!こっちむいて~!」

 

「う、うるせえ!」

 

文也がいじられているのを横目に俺は体重計の方に向かう。

 

「あんまりはしゃぎすぎるなよぉ。それじゃ俺は体重計ってから行くから先に行っててくれぇ」

 

「りょーかい。じゃあ行くか」

 

「よし。フーミンも行くぞ」

 

俺が先に行っているように言うと、4人は入っていった。

よし。俺は…

ふむ。90,5かぁ。

まぁ順調だなぁ。

 

「じゃぁ、俺も行きますかぁ」

 

俺が中に入ると、他の客はいなく、竹井と修二が2人で水風呂の方で騒いでいる。

文也と孝弘はシャワーの所で隣り合って何かを話しているようだ。

取り敢えず俺は文也の隣に腰かけて話に参加することにした。

 

「よぉ。どこまで話したんだぁ?」

 

「楓か。島野先輩に向いてる意識をどうやって泉に完璧に向けさせるかをな」

 

「ふむ…まぁ、背中は押したかんなぁ。後は気持ち次第だが…今回の合宿でってなるとなぁ」

 

「そうだよな…」

 

そうやって頭を悩ませていると、孝弘は立ち上がり湯船に向かっていった。

そこでは竹井がはしゃいでおり、修二と一緒に孝弘も竹井いじりに加わっている。

それを見ていた俺と文也も湯船の方に向かった。

 

「ふぃ~。気持ちいなぁ」

 

俺は孝弘達がわいわいやっている所の近くに座り、湯に浸かった。

文也はひきつった顔で騒いでいる3人を眺めながらも、なぜか混ざりに行った。

俺が頭にタオルをのせて温泉を満喫していると、竹井の声が風呂内に響いた。

 

「友崎ちんこでか~!」

 

そこからは公開処刑のような感じで、文也がただただかわいそうだったが、まさかの先ほどのキープ発言と同等の修二いじりを披露し笑いを誘っていた。

いやー、逞しくなったもんだ。

他にも、文也のあだ名がまた増えていたが…その詳細は別にいいか。

 

 

 

 




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第20話

風呂で散々騒いだ俺達は風呂からあがり、待合室で牛乳を飲んでいる。

数分後、葵達が出てきて合流した。 

 

「おーっ!やっぱ牛乳飲むよねーっ!」

 

「私も飲もっかな~」

 

そんな話をしながら今はゲームコーナーに移動してきている。

そして、竹井が卓球台に食い付き、

中村・泉ペアVS竹井・日南ペアで対戦が始まった。

その間に、俺たちは待合室で作戦会議をすることにした。

こちらでは孝弘が中心となり今後の作戦を詰めていく。

 

「さっき男湯で話してたんだけどさ、やっぱり問題は…」

 

「あ、島野先輩?」

 

「まぁそうだよなぁ」

 

「そ。話が早くて助かる」

 

「まあね!あの先輩結構問題児だからさ~」

 

「でも、あの人の悪いところを俺らが伝えても修二は意固地になるだけだし、じゃあこの合宿でどうにかする方法ってあんのかなーってことを話してたんだけどさ」

 

「どうだろねーそれ!」

 

「なんか証拠みたいのがあればいいんじゃねぇ?この人はいろんなやつに手を出してるみたいなさぁ」

 

「あっ!それなら!」

 

と言ってみみみは携帯を操作し画面を見せてくる。

これはこれは、ひどいもんだなぁ。

こんなやつのためにあの2人が立ち止まってると思うとやっぱりムカつくなぁ。

 

「これ教えたら、さすがになかむーも冷めるんじゃない?」

 

「それじゃあだめだな。冷めはするだろうがよぉ」

 

「そうだな。俺らが教えるんじゃ駄目だと思う」

 

「え?なんで?」

 

「だってさ、俺らが教えてすぐに告白とかしたらさ、『島野先輩のあのアカウント知って冷めたからすぐ、優鈴にいった』って俺らに思われるだろ?」

 

「プライド高いから、私たちにそう思われるようなことはしないと思う、ってことか!」

 

「まぁ…楓が修二と話すのが1番早そうだけどな」

 

「それじゃだめだろぉ。ちゃんと背中は押したからよ。後はきっかけだよ、きっかけ」

 

どうするかってところだなぁ

そうして3人で頭を悩ませていると、今まで話に入ってこなかった文也が何か意見あるようで入ってきた。

「あのさ」

 

「ん?文也。なんか思いついたのかぁ?」

 

「ま、まあ。えっと…そのアカウントを俺らが教えても、中村は行動できない、って話なわけじゃん」

 

「そうだな」

 

「え、えーと。結局さ、これって『いかに中村のプライドを刺激せずに、真実を伝えるか』ってゲームだと思うっていうか…」

 

「たしかに、そういう『ゲーム』とも言えるな」

 

「ほぉ…そうゆうことかぁ。『俺ら』じゃなきゃいいわけなぁ」

 

「そ、そう。だから…」

 

「竹井?」

 

「いいんじゃねえかぁ?ナイスだ文也ぁ」

 

そして作戦をたて、葵にもLINEで伝えた。

作戦開始だぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

待合室で話をしていた俺達4人がゲームコーナーに戻り、作戦開始。

まぁ俺は卓球やるだけなんだけどなぁ。

 

「ここは大富豪最強タッグ結成でしょ!」

 

「お、おう…やってやろうぜ!」

 

そう言って、葵が文也とペアを組んだ。

俺は… 

 

「そうかぁ。ならこっちは…泉いけるかぁ?」

 

「え!?私!?」

 

「おーぅ。勝とうぜぇ」

 

俺は自然な感じで泉を誘う。

とりあえずこれで俺の役目はほぼ終わりだぁ。

後は、楽しんでりゃ作戦が終わると言うなかなかにおいしい役だ。

 

「大富豪のときは敵同士だったけど。…昨日の敵は今日の友!」

 

そう言って葵はこっちのコートにサーブを打ってくる。

作戦の一貫だがよぉ…勝負は勝負だ。

俺はそれを…

 

「おらっ!」

 

「へっ…?」

 

「お、おお!?」 

 

思いっきり相手コートに打ち返してやった。

いい顔だなぁ。

俺は不適な笑みを浮かべながら言ってやる。

 

「大富豪の時の借りは返すぜ!葵ぃ!本気でいくからなぁ!」

 

俺たちがこんなことをしている間に別の場所でも動きだしたようだ。

 

「ねーねー!温泉記念写メ撮ろ~!」

 

「いいねえ!んじゃ撮るよ~?うぃーっす」

 

そして4人みみみの発案で4人で写真を撮る。

この写真を竹井なら必ずTwitterにあげるだろう。

それこそが、この作戦の肝だ。

 

「あ、ちょっと私トイレ~!」

 

「俺も行ってくるわ」

 

写真を撮った後、すぐにみみみと孝弘は離脱。

この流れを怪しいと思うはずもなく、修二と竹井は2人になる。

こちらは順調だ。

 

「おーう」

 

「はいよー」

 

その頃、卓球サイドでは…

 

「どうしたどうしたぁ!そんなんじゃ相手にならんぞ!」

 

「そうだぞー!とりゃ!」

 

俺と泉は息ぴったりで、というか俺が泉に合わせているのだが。

泉も中々に上手い。

言っちゃ悪いが、負ける気がしねぇ。 

 

「ちょっと!強すぎない!?もうっ!友崎くん役に立ってないよ!」

 

「いや、これは無理ゲーでしょ。向こうにはチート持ちがいるもん…」

 

文也はすでに諦めムードだ。

圧倒的に俺達チームが有利。

俺は卓球に集中しながらも、横目で向こうの様子を伺う。

向こうは最終段階だな。

 

「…おお?」

 

「っていうかさあ…」

 

「うぇ!?」

 

「なんだよ急に?」

 

「修二、これ!これ!」

 

「…なんだ、これ。あいつ…こんな」

 

「しゅ、修二、やっぱりあの先輩やめたほうが…」

 

「…だな、きめーわ。けど竹井、これどこで見つけたんだ?」

 

「え?えーと、なんかタイムラインで…たぶん、リツイート?」

 

「誰の?」

 

「あれー?ないな?」

 

「なんだそれ?」

 

修二は少し難しい顔をしながらも、やがて呆れたように深くため息をはいた。 

どうやら、成功したみたいだ。

少しスッキリした表情になっている。

こりゃ文也の手柄だなぁ。

そしてみみみと孝弘が戻ってくる。

 

「おーっす!」

 

「おーいみみみ!あのさいま…」

 

「竹井」

 

「え、おお…えーっと。いや、なんでもない~!」

 

今の、修二が竹井を制するところで作戦は終わり。

大成功と言っていいだろう。

んじゃぁこっちも終わらせるかぁ。

 

「はっはぁ!圧勝…だぁ!」

 

そう言って俺は葵がギリギリのところでコートにいれたボールを思い切り打ち返しスマッシュが決まる。

 

「うおぉ!?」

 

当然文也はさわることができずに、こっちのポイントになり俺達が勝った。 

 

「もーっ!勝てなかったー!くやしー!」

 

「よっしゃ!勝ったなぁ!」

 

「ナイススマッシュ!」

 

そうして俺は泉とハイタッチする。

俺は深呼吸をしてスイッチを切り、体から力を抜いた。

 

「ふぅー。熱い勝負だったなぁ」

 

「次は負けないからね!」

 

「おーぅ。いつでも相手になるぜぇ」

 

こうして作戦と卓球は無事終わった。

 

 

 




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第21話

ゲームコーナーを後にした俺達は、今回の合宿の最後のプログラムを行うために近くの小さな林へと向かっていた。

これから始まるのは肝試しだ。

 

「うう~。まじでやるの?」

 

「もちろんっしょ!むしろこれが本番だから!」

 

「ま、まじかぁ…」

 

「まあまあ、昼は普通に人がとおってる道だしさ、ちょっと薄暗くて不気味でお化けがでそうってだけだから」

 

「それが怖いんじゃん!!」

 

泉は明らかに怯えた様子で歩いている。

話ながら進んでいくとスターと地点に到着した。

 

「お、こっから出発だな」

 

「ね、ねえ…まじで暗いんだけど」

 

そう言いながら泉は修二の服を軽くつまんでいる。

早速、合図がきた。

孝弘が動くなぁ。

 

「これはお熱いこって!もうさっさと2人で行ってこーい!」

 

「まあ、そんなことされたらね…」

 

「え、え、え、ちょっとそうゆうつもりじゃ…!」

 

「いや、もう無駄だこれ…。いくぞ」

 

そう言って修二は1人で歩き出す。

慌てて、後を追おうとする泉に俺は声をかける。

 

「泉ぃ。がんばれよ」

 

「…う、うん!行ってくるね!待ってよ修二ー!」

 

「おせーんだけど」

 

「え、も、もうー!」

 

修二と泉はそんなやり取りをしながらも、楽しげに歩いていった。

2人が見えなくなったのを確認してみみみが言う。

 

「タカヒロ、ナイス!!」

 

「ははは、まあな。けどこれで…全部、作戦終了だな」

 

「そうだなぁ」

 

「ここまで舞台を整えてなんもなかったら、なかむー男じゃないよね~!」

 

「むしろ優鈴から行くかもね!」

 

「それだけは避けてくれ修二!お前の名誉のために!」

 

「まぁなんにせよ、うまくいくといいなぁ」

 

「なんか楓、お兄ちゃんみたいだね!」

 

「それわかる!優鈴のお兄ちゃんみたいだよね!」

 

「そうかぁ?自分では分からないなぁ」

 

そうして作戦は終わり、次に誰がいくかの話し合いが始まった。

俺は葵と行くことになり、2人で林のなかを歩いている。

 

「きゃあ!?」

 

「どしたぁ?なんかいたかぁ?」

 

「ちょ、ちょっと変な音が…」

 

少し心配しながら葵の方を見ると…

 

「大丈夫か?…ん?」

 

…こいつ。

俺は不信に思い葵の顔を少し覗き込んでやる。

…やっぱりなぁ。

 

「なぁ?」

 

「な、なに?」

 

「お前さぁ、あんまり怖くないだろぉ?」

 

「…あーもう!楓にはなにも通じないなー」

 

葵はそう言って諦めたように手を頭の後ろで組んだ。

残念そうにしているな。

俺はそんな葵を見て、少し窮屈そうに思ってしまった。

 

「やっぱりなぁ。まぁ俺の前では素でもいいんじゃねぇの?」

 

「え…?」

 

「いや、だからよぉ。お前のそれにはなんか理由があるんだろうけどなぁ。ずっとそれじゃあ疲れっちまうだろ?だから、もうばれてるわけだし俺と2人の時くらいは素でいればいいんじゃねえかぁ?」

 

「…ずるいよ、そんなの」

 

俺は葵が気を遣わないように、かるーい感じて言ってやる。

葵はうつむきながら小さい声で何かを言ったが、俺は聞き取れなかった。

 

「ん?なんだぁ?」

 

「いや!なんでもない!ありがとね楓!」

 

「おぅ。気にすんなぁ。そんじゃ行くかぁ」

 

気にはなったが、聞くことはせずに歩き出す。

心なしか葵の顔もスッキリしていたし、良い笑顔が見れたから良しとしよう。 

そうして歩いていると、葵の足元からセミが飛び上がった。

 

「きゃ、な、なに!?」

 

「おっと。大丈夫かぁ?」

 

俺はとっさにバランスを崩した葵を抱きとめる。

顔、近いな。

改めてみるとやっぱり綺麗な顔をしてるよなぁ。

そうしてしばらく無言で見つめあっていると、葵の顔がどんどん赤くなってくる。

少しからかってやるかぁ。

 

「か、楓///」

 

「葵」

 

俺は真剣な顔で葵の名前を呼びながら顔を近づけていく。

すると、葵は少しの間あたふたした様子だったが、なにか決心したように目を閉じた。

顔を真っ赤にして小さく震えているのがなんとも…

俺はもう5センチくらいに近づいたところで顔を少しそらし葵の耳元で…

 

「なーにを期待してたんだぁ?葵ぃ」

 

と言って耳に息を吹き掛けてやった。

 

「ひゃぁっ!!?」

 

すると葵は小さい悲鳴をあげて耳を押さえながらへたりこんだ。

ちょっとやりすぎたかぁ?

 

「くくっ、大丈夫かぁ?」

 

「た、立てない…。腰が抜けちゃったよぉ」

 

そう言って葵は涙目で見上げてくる。

自分でやっといてなんだが…

ちょっとグッと来たわ。

こんなことがありながらも俺は立てなくなった葵をおぶってキャンプ場に戻った。

はぁ…楽しかったなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャンプ場に戻るとすでに俺たち以外が集まっていた。

ちなみに葵は途中で大丈夫になったようで今は歩いている。

 

「遅いよ2人とも~」

 

「悪ぃな。少し迷っちまった」

 

「いや~、あんまり怖くなかったね~」

 

「もー!超怖かったんだけど!?」

 

「お前馬鹿みたいにびびってたよな?」

 

「はあ!?バカは余計!」

 

「はいはい」

 

「なにそれー!?」

 

「おーっし、そんじゃあ戻るか~」

 

「ちょっと、まって!」

 

そう言って修二の隣に並びに行く泉。

見た感じは大分距離は縮まったみたいだが…

 

「…ねぇ。修二と優鈴、どうなったの?聞いた?」

 

「告白は、しなかったみたいだな」

 

「え~?」

 

「そうなのかぁ」

 

今回の合宿で付き合うまではいかなかったようだ。

まぁ…あとは自分達でなんとかできるだろうな。

 

「けど…今度2人で遊ぶ約束は、したってさ」

 

「…遊ぶ約束、だけ?」

 

「うん、それだけ」

 

「はあ…もう、ほんっとに、あの2人は…」

 

「ほんとに…ちょっとずつしか、進まないよな。あのバカ2人は」

 

「まぁなんにせよ、少しでも進んだならいいんじゃんか。いずれたどり着くだろうよ。進んでる限りなぁ」

 

「まあ、そーだな」

 

そして、女子と別れてログハウスに入る。

今は、布団に入り寝るまでの間なんでもない話をしてもりあがっている。

 

「朝9時でいいよな?」

 

「ああ」

 

「いやー、にしても泉の濡れTシャツ、エロかったなぁ!?」

 

「まーあいつスタイルだけはいいからなあ」

 

「そー?俺はみみみくらいのスタイルが好きだけどね~」

 

「いやいや、やっぱ泉の巨乳が1番っしょ!?」

 

「おーい、ワンちゃん寝たふりか~?」

 

「寝てないけど…」

 

「お前はどうなんだよ?」

 

「お、俺は…。日南の、姿勢のよさが…ツ、ツボかな?」

 

「お前姿勢フェチなんて聞いたことねーぞ!」

 

「やっぱ文也変わってんなぁ。楓はどうなんだ?」

 

「んー?そうだなぁ。まぁ、葵かなぁ。バランスがいいからなぁ」

 

「ふーん。そうなんだな」

 

そんな話をしていると、文也が出ていった。

その少しあとに孝弘も出ていった。

どうやらトイレに向かったみたいだ。

俺もトイレ行っとくかね。

そうして、俺は2人を追いかけるようにしてログハウスをでる。

トイレに向かって歩いていると…

文也が自販機に隠れて何かを覗いている。

 

「おぃ。なにしてんのぉ?」

 

「っ!」

 

驚いて振り向いた文也は静かにしろと合図を送ってくきて、指を指す。

そこでは、葵と孝弘が何かを話しているようだ。

夜中と言うこともあり、内容が少し聞こえてきた。

 

「俺さ、葵のこと、たぶん好きだわ。いつか葵の本音を、俺が聞きたいーって、思った」

 

…まぁ、気づいてはいたが。

みんな必死にもがいてんだなぁ。

これ以上は聞けないな。

 

「俺は戻るわぁ」

 

「お、おう」

 

そう言って俺はこの場を離れ、少し遠くのトイレに向かった。

俺もちゃんと答えを出さないとなぁ。

こうして、合宿は終わりを向かえた。

 

 




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第22話

合宿が終わり夏休みも終盤、今俺は試合のために某体育館にきている。

ちなみに、今日の試合で全国に行けるかが決まる。

こっちに引っ越してきてからはなんだか調子がいい。

まぁ、最近は楽しいからなぁ。

あいつらとの時間が精神的にも良い具合に作用しているみたいだ。

 

「…うし!行くか!」

 

顔を両手で張り気合いを入れて歩き出す。

普段の気の抜けた表情はなく、獰猛で好戦的な笑みを浮かべている。

 

「調子は上々!負ける気がしねぇ!」

 

その言葉通り危ない場面もなく決勝まで駒を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 日南葵

 

 

 

私は今1人で某体育館にきている。

あらかじめ聞いておいた楓の試合を見るためだ。

心臓が大きく音を上げているのを隠して歩を進める。

 

「よしっ!行こう!」

 

とりあえず、席を確保してルールの確認を行う。

 

「へぇ~。思ってたよりルールとか多いんだ」

 

うん!もう大丈夫!あとは待つだけだ!

私は負けず嫌いだし、勝負事は好きだからやっぱりこの雰囲気は好きだ。

特に、柔道なんて本当に個人種目。

信じれるのは自分だけだ。

つくづく興味が湧く。

そうこうしていると、試合が始まった。

 

「えーっと、楓の試合は…。あっ!あそこで始まる!」

 

そうして会場に出てきた楓を見て大きく心臓が跳ねた。

いつもの楓と何もかもが違う。

雰囲気、表情、声の質も大きさだってそうだ。

遠くにいるはずなのに熱が伝わってくる。

心臓の音が回りの人に聞こえているのではないかと思うほど鳴っているように感じる。

 

「本当にずるいな…。こんなにチョロいつもりはなかったんだけどなぁ…。はぁー。もう…認めるしかないよね」

 

そして、次は決勝戦。

楓は負けないだろう。

素人の私が見ても頭ひとつ抜けていると思う。

多分、私は興奮していたんだと思う。

気がついたら叫んでいた。

 

「がんばれー!!!楓ー!!!」

 

うん。もう認めた。

私は、日南葵は有城楓が好きだ。

 

 

 

sideout

 

 

 

 

 

次は決勝、全国を決めに行くか。

相手は強い。当たり前だ。

でも…俺は負けねぇ!

顔を張って気合いを入れる。

 

「両者前へ」

 

そして始まる直前…

 

「がんばれー!!!楓ー!!!」

 

ははっ!こりゃあかっこ悪いところは見せられねぇな!

たしかに受け取ったぞ葵!

そして…

 

「はじめっ!」

 

その合図とともにいつも以上に気合いをいれた。

 

「っしゃぁー!!!」

 

あぁ!本当にっ!負ける気がしねぇなぁ!

 

 

 

 

 

 

 

 

試合は思っていたよりもあっさり終わった。

いつも以上に気合いが入っていたのは言うまでもないが、体が軽かった。

結果を言うと全国は決まった。

そして今は、着替えて帰るところだ。

更衣室を出て、入り口の方へと歩いていると…

 

「ん?待っててくれたのか」

 

葵が入り口の所で壁に寄りかかっている。

多分、俺を待っていてくれたのだろう。

それにしても…目立つなぁ、やっぱり。

 

「葵」

 

「あっ!楓!」

 

「来てくれたんだなぁ。声、届いたぜ」

 

「えっ!?///う、うん!///」

 

「まぁその…なんだぁ…。ありがとうなぁ」

 

「ふふっ。楓が照れてるのなんて珍しいね!」

 

「まぁいままで1人でやって来たからなぁ。応援してくれる人がいるってのはいいもんだなぁ。…いや、葵だからなのかもなぁ」

 

「か、楓!?///な、なに言って…///」

 

「んー?聞こえてたかぁ?まぁなんにせよ…嬉しかった」

 

「う、うん!」

 

「そんじゃあ帰るかぁ。待っててくれたんだろぉ?送ってくぞ」

 

「うん!行こっか!」

 

本当に、ありがとなぁ。葵。

 

 




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第23話

試合が終わった翌日の昼頃。

今日は、試合の後と言うことで久々にオフだ。

 

「どうすっかねぇ。せっかくだしなぁ…」

 

考えながらとりあえずテレビをつける。

適当にチャンネルを回していると、バラエティ情報番組でスイーツが取り上げられていた。

 

「おぉ!決まりだな!」

 

甘いものは元々好きだったからな。

忙しくて店を探してる暇もなかったし、行くかね。

取り敢えず携帯で近くに店があるかを調べる。

 

「あるじゃんか。しかも評価高いなぁ…ここにすっか」

 

行く店を決めると、俺は着替えてすぐに家を出た。

こりゃ久々に楽しみだなぁ。

 

 

 

 

 

side 夏林花火

 

 

 

私の家は洋菓子屋だ。

夏休みに入って、何も用事がないときは基本的に店を手伝っている。

今日も用事はないから手伝うつもりだ。

 

「あら、花火!今日も手伝ってくれるの?」

 

「うん。用事ないし」

 

「ありがとう!でも遊びに行ってもいいのよ?」

 

「ううん。大丈夫」

 

「そうなの?でもそろそろ花火も彼氏の1人でも作ればいいのに!」

 

「な、なんで?か、彼氏なんて…!」

 

「あらあら?もしかして…」

 

「き、着替えてくる!」

 

お母さんのからかうような視線に耐えられなくなった私は着替えると言って部屋に駆け込んだ。

な、なんで?

あいつの事が浮かんだの?

まあたしかにいいやつだけど!

たしかに優しくて、ちゃんと回りをみてて、かっこよくて…

ってそうじゃなくて!

でも、あの時からの私は変だ。

みんみを助けたかった、だけど私1人じゃなにもできなくって。

正直、私も辛かった。

大好きな親友が辛いときに何もできなかったことが。

だけど、あいつは一緒に助けようとしてくれて。

それでみんみを助けることができた。

多分、あいつは私が抱えていたことも見抜いていたんだと思う。

それで、頭を撫でられて…///

も、もう考えるのはやめよう!

私は頭を振って深呼吸をする。

とりあえずあいつのことは置いておこう、有城のことは。

 

 

 

 

 

sideout

 

 

 

 

 

俺は今、隣の駅に向かって歩いている。

店は家から最寄りと、1つ隣の駅との丁度真ん中らへんにあるようだ。

しばらく歩いていると、それらしき店が見えてきた。

 

「えーっと…あった!ここが『ル・プティ・ボワ』かぁ」

 

店の外見は、一目で洋菓子屋と分かるような見た目だった。

俺はガラス戸を開けて中に入る

すると、バターと小麦の香ばしい香りが漂ってくる。

 

「いらっしゃいませー!」

 

入店に気づいた、愛想のいい女性の店員さんが良く通る声で迎えてくれた。

うん。ポイント高いなぁ。

俺がショーケースに目を移しケーキを見ていると奥の方で声が聞こえた。

 

「花火ー!お客様きたわよー!」

 

「今行くー」

 

ん?花火?

いや…さすがになぁ。

 

「いらっしゃいませー!」

 

…うーん。

聞き覚えがあるんだよなぁ。

そう思って顔をあげると…

 

「あ、有城!?な、なんで!?」

 

「よぉ、たま。バイトか?」

 

「いや、家の手伝い…じゃなくてっ!なんでここにいるの!?」

 

「なんでって言われてもなぁ…テレビでスイーツ特集見てたらケーキが食いたくなってよぉ。調べたら家の近くに評価高い店があったから来てみたんだよ。そしたら…たまがいた」

 

「なに、その偶然…」

 

たまと2人でそんな話をしていると、先程の店員さんがやってくる。

 

「あら?花火のお友達かしら?同い年位だとは思ってたけど」

 

うん?家の手伝いってことは…たまの母親かぁ。

ちゃんと挨拶しないとな。

 

「はじめまして。花火さんのクラスメイトの有城楓です。花火さんとは仲良くさせてもらっています」

 

一通り礼儀はならったからな。

俺はそういって頭を下げる。

 

「あらあら!ご丁寧にどうも!今時珍しいほどしっかりした子じゃない!あっ!もしかして花火の彼氏だったり?」

 

「…///」

 

「あら?花火どうしたの?」

 

「…えっ?///ち、違う!彼氏じゃない!」

 

「あらあら?これはこれは」

 

くく、パワフルな人だなぁ。

とりあえず一段落して、ケーキを選んでいる。

 

「楓くーん!ケーキ決まったら声かけてね!」

 

「はい。分かりました」

 

うーん。悩むなぁ。

こうゆうときはやっぱり…

 

「たまぁ!ちょっといいか?」

 

「なに?」

 

「おすすめ教えてほしいんだけどよぉ」

 

「あ、うん!えっとね!」

 

俺がおすすめを聞くと、たまは楽しそうな顔で話し始めた。

やっぱり好きなんだろうなぁ。

そう考えながらたまの横顔を眺めている。

 

「…しろ!有城!」

 

「ん?どれだぁ?」

 

「これとー、これ!」

 

「おーぅ。ありがとなぁ」

 

そう言って反射的にたまの頭に手を伸ばし、優しく撫でた。

なんか、丁度良いところに頭があるし、猫みたいだから手が勝手に動くんだよなぁ。

 

「ちょっ!///有城やめる!///」

 

「はは、わりぃ。無意識だったぁ」

 

そんなやり取りをしていると、裏に行っていたたまのお母さんが出てきた。

 

「あら!仲良いじゃない!それで楓くん決まったの?」

 

「あ、はい。これと、これを1つずつ」

 

「はい!わかったわ!それじゃ花火、楓くんをお部屋に案内してあげて!楓くんは時間大丈夫?」

 

「へ?」

 

「はい。大丈夫です」

 

「なら良かったわ!ほら花火!早く案内して!」

 

「いや、ちょっと!お母さん!なに言って…」

 

「もう!遅いわね!楓くんこっちよー!」

 

「はい。お邪魔します。おい、たまぁ!先行ってるぞぉ」

 

せっかくお呼ばれしたから遠慮すんのは悪いだろう。

たまは少しの間放心していたが、慌てて俺達を追ってきた。

 

「ちょっ、もう!ってかなんで有城はそんなに従順なの!?」

 

こんなことがありながらも、たまの部屋でケーキを食べた。

初めは緊張?していたたまだけどだんだんいつも通りに戻っていて、なんだかんだ色々話をした。

たまの母親が茶々を入れてくるたびに顔を赤くして怒っていたのはご愛嬌だ。

そうして…

 

「それじゃ、そろそろ帰るわぁ」

 

「え…?うん…」

 

そんな寂しそうな顔すんなよなぁ。

そうして俺はたまの頭を優しく撫でる。

 

「ちょっ、ちょっと!///」

 

「たま」

 

少し抵抗していたたまだが、俺が真剣な声で呼ぶとおとなしくなる。

 

「な、なに?」

 

「お前はいつも笑っててくれなぁ。元気でるからよぉ」

 

「っ!///」

 

たまは俯いてしまった。

ありゃ、大きなお世話だったかぁ?

そう思っていると、たまが顔をあげた。

あぁ…そんなことなかったなぁ。

そして、たまは笑顔で言った。

 

「うん!ありがとう!!」

 

本当に、眩しいなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は移って店の前。

 

「それでは、お母さんごちそうさまでした。すごくおいしかったです。また、来ます」

 

「ありがとね!それに、『お義母さん』なんて気が早いわねえ楓くん!」

 

「ちょっ!お母さん!」

 

「冗談よ!」

 

「ははっ。それじゃ帰るなぁ、たま」

 

「うん!また来て!」

 

そうして2人に見送られ帰路に着き、少し歩いたところでたまに声をかけられた。

 

「か、楓!」

 

「ん?」

 

「バイバイ!楽しかった!」

 

「おー!こちらこそだぁ!じゃーな、花火ぃ!」

 

やっぱり、たまの笑顔は綺麗で好きだぁ。

 

 

 

 

 

 

 

side 夏林花火

 

 

 

「行っちゃった…」

 

楓が帰っていった方を見つめているとお母さんが後ろから話しかけてきた。

 

「楓くん、いいこじゃない!礼儀正しいし、顔もかっこいいし!なにより、守ってくれそうよね!」

 

「だから!そんなんじゃ…」

 

「好きなんでしょ?」

 

「っ!///へ、部屋戻る!」

 

もう、お母さんは!

でも…この気持ちが大事なものだっていうのは分かる。

だから確かめよう。

私らしく。

 

 




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第24話

夏休みが終わり今日から学校だ。

教室に着くと、孝弘と修二と竹井が後ろで集まっている。

とりあえず声をかけに向かった。

 

「はよー」

 

「おっす、楓」

 

「おー」

 

「おいーっす!」

 

その後なんでもない話をして席に着いた。

文也はまだ来ていないみたいだ。

 

「有城、おはよー!」

 

「おー、はよー」

 

すでに席に着いていた泉と挨拶を交わしていると、文也もきた。

 

「おお、2人とも久しぶり」

 

「久しぶり!合宿以来だね~」

 

「おー、久しぶりだなぁ」

 

そして挨拶もそこそこに話題は泉と修二のことになる。

 

「てかさ、結局あれから中村とはどうなの?」

 

「俺も気になるなぁ」

 

「え!?えーっとね!ま、まあ、夏休みは修二が家のことでいろいろ忙しかったらしくて、まだ出掛けたりとかはできてないんだよね…」

 

「ふーん。そうかぁ」

 

「そーなんだよね。…けど、さ」

 

「うん、けど?」

 

「来週末…2人で買い物いくことになった」

 

「おお!そうなのか!やったな!」

 

「おー。そりゃ良かったぁ。頑張れよぉ」

 

「うん。ここまできたら、がんばる」

 

うんうん。青春だねぇ。

この2人はもう時間の問題だろうな。

 

「ていうかさ!2人こそどうなの?」

 

そんなことを考えていると、泉がこんなことを聞いてきた。

文也はなにかあたふたしているが、俺は夏休みにあったことを思い浮かべてみる。

 

「え、な、なにが?」

 

「俺もかぁ?」

 

「なんか最近はそうゆう恋バナ的なの、ありそうじゃん!?」

 

「い、いや…と、特には…」

 

「そうだなぁ…」

 

恋と聞いても、まだちゃんとした実感はない。

頭にはある2人が思い浮かんでいるが…

 

「怪しいな~」

 

そうして頭を悩ませていると、みみみが会話に入ってきた。

 

「なになにお三方!?ひょっとして、えろい話!?」

 

「聞いてよみみみ!実はいま2人のね…」

 

「いや泉いいから!説明しなくていい!」

 

「おーっと!?やっぱりこれはえろい話フラグ!」

 

「いや、違うけどなぁ」

 

みみみを加えて4人で話していると、もう1人こちらに寄ってきた。

 

「女の子がそういうこと大きい声で言わない!」

 

「おおう…。たまのお叱り、疲れた体に染み渡るぅ…!」

 

「おい、みみみ。そろそろやめろよぉ?」

 

そう言って、花火に突撃しようとしているみみみの頭に軽くチョップをかます。

 

「たははー!怒られちった!」

 

「花火ぃ。朝から大変だなぁ」

 

「あっ!楓!いつものことだから気にしてない!」

 

「ん?んん?楓?花火?んんん??」

 

そう話していると、みみみが俺と花火の顔を交互に見てくる。

そして、驚いた様子で質問をしてきた。

 

「も、もしかして!夏休みに何かあったのかー!?」

 

「あー。夏休みに花火のいむぐっ…」

 

俺が花火の家に行ったことを言おうとすると、いつの間にか横にきていた花火が俺の口を抑えてきた。

 

「な、なんもない!」

 

言わないでほしいってことかぁ。

 

「ぷはぁー。まぁ想像にお任せするわぁ」

 

「絶対になんかあったじゃん!」

 

「なんかあったのは確実だね!」

 

「むむむ!またしても私のたまにー!」

 

そう言って花火に抱きつきにいく。

 

「ちょ、ばか、みんみ!」

 

「ね、ねえ。たま…」

 

急に真剣な声になるみみみ。

急なことに、花火も聞く体制をとっている。

 

「…え?」

 

「ひょっとして…」

 

あぁ、これはアホなこと言うなぁ。

 

「な…なに?」

 

「…ボディソープ、変えた?」

 

ほらなぁ。

花火は顔を真っ赤にしながらみみみを叱る。

だが、それだけじゃ罰が軽いなぁ。

 

「人の体の匂いを勝手に覚えない!」

 

「てへ!」

 

そんなアホなみみみに俺はさっきより強めにチョップをお見舞いする。

 

「おい、アホ。少しは抑えろよぉ。…花火、大丈夫かぁ?」

 

「う、うん!///ありがと!」

 

「い、痛い…」

 

自業自得だなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みみみに制裁を加えたあと、先生が来てホームルームが始まる。

 

「よし席につけ。チャイム鳴ってるぞー」

 

皆が静かになったのを確認して、先生が話し始めた。

 

「…さて、みんなはまだ2年生だが…」

 

そうして説明を聞き進路調査のプリントを書いて提出する。

どうやら時間が余ったみたいなので、他のことも済ますようだ。

 

「…うん。それじゃあ時間も余ったことだし、こっちも決めておこうか。3週間後にある、球技大会の話だなー」

 

球技大会があるのかぁ。

楽しみだな。

 

「待ってました!」

 

「ああそうだな、待ちわびたな竹井。と言っても、この時間から決められるのはそうだな…男女のそれぞれのキャプテンくらいか」

 

今の時間はキャプテンを決めるのに使うらしい、それにともないキャプテンの仕事を先生が説明する。

 

「ーーー誰か立候補者はいるかー?」

 

「俺やるっすー!」

 

1人やる気を出していた竹井は案の定立候補をした。

こう言う時に竹井みたいな人がいると助かるんだよなぁ。

 

「よーし、他にいないなら男子は竹井で決定だな!」

 

「っし!絶対サッカー取ってくるわ!」

 

「お前そう言って去年じゃんけん負けて、バレーボールになってただろ」

 

「いいっしょそのことは!てなわけで葵!相棒はお前に決めた!」

 

「ん~?けどたぶん、私はダメですよね、先生?」

 

「あーそうだな。日南は今学期から生徒会長としての仕事が入るから、球技大会キャプテンとの掛け持ちは、残念ながら却下だ」

 

「まじかよーっ!?ぜったい葵立候補すると思ったから手挙げたのに!?」

 

「ははは。まあそこはあきらめるんだな。それとも、やっぱりやめとくか?」

 

「いや、わかりました!でも俺やるっす!」

 

どうやら、葵は生徒会長だから掛け持ちができないようで女子の方は男子のようにあっさりとは決まらなそうだ。

 

「はっはっは。そうかそうか。じゃあまかせたぞ竹井。ということで男子は決定として…女子はどうだー。いないかー?」

 

葵ができりゃすぐ決まったろうけどなぁ。

どうやらやりたがる奴はいないみたいだ。

 

「ドンマイ。みんな、お前と一緒じゃいやだってさ」

 

「人気ないなぁ。竹井」

 

「え!?そーいうことなの!?」

 

俺は暇だから孝弘に乗っかって竹井をいじりに参加していた。

喋りづらい空気を察知した先生が口を開いたが、また数秒の沈黙が流れた。

 

「んー、女子は誰もいないのか~?」

 

「てかさー、優鈴やれば?」

 

その時、面倒くさそうな声が教室に響いた。

紺野だ。

 

「え。えと、私?」

 

「なんかさー、優鈴たしか1年のとき、2組のキャプテンやってなかった?」

 

「あーうん。…やってた、けど」

 

「やっぱそーだよね!じゃあ慣れてるし、丁度よくない?」

 

「あー、えっと…いや、でも…」

 

「なに?」

 

「私、今年はキャプテンやりたくないっていうか…」

 

「あっそ。じゃあいいけど」

 

どうやら1年の時は泉がキャプテンをやっていたらしい。

まぁ押し付けではないから別にいいけどよぉ。

こいつが口開くとろくなことにならねぇんだよな。 

そしてまた、沈黙が流れる。

次に口を開いたのは、またしても紺野だった。

 

「じゃあさー、平林がやればー?」

 

「…ぇっ?」

 

そして、次に紺野が名指ししたのは明らかに面倒くさいからこいつに押し付けようと言った雰囲気だった。

あぁ、やっぱり気に食わねぇ。

泉の時はまぁ、仲良いんだろうし実績があるからまだ分かる。

だが、これは違ぇ。

俺は我慢できずに口を開いた。

 

「あのさぁ、紺野がやればぁ?」

 

「…は?」

 

「だからぁ。そんなに言うんだったらお前がやれよ」

 

さっきまでなにも関心なさそうにしていた紺野がこっちを睨んでくる。

全然怖くねえなぁ。

 

「は?なに言ってんのあんた?」

 

「なんだぁ?理解できなかったのかよぉ?キャプテンはお前がやればって言ってんだよ」

 

そう言って軽く睨んでやる。

 

「…っ!」

 

俺が追い討ちをかけようと思ったところで、この雰囲気に耐えられなくなったのか、紺野に名指しされた平林が自らかってでた。

…悪いことしたなぁ。

 

「わ、私、やります」

 

「あ、ああ、そうか。平林が大丈夫ならいいんだが」

 

「えっと…大丈夫です。はい」

 

そう言った平林の顔には不安はありそうなものの、諦めたような雰囲気は感じられなかった。

はぁー、だめだ。熱くなっちまったなぁ。

 

「えー、ではこのクラスの球技大会キャプテンは、竹井と平林、ということでいいな?」

 

「おっけーっす!ミユキちゃんよろしくぅ!」

 

「あ、え、えーっと、うん…よろしく」

 

そうしてキャプテン決めが終わった後の休み時間。

 

「平林。悪かったなぁ。俺が紺野に噛みつかなけりゃ断ることだってできたろうによぉ」

 

「あ、有城くん。わ、私は大丈夫だよ。むしろ、少し勇気もらえた…かな」

 

勇気…なぁ。

 

「ははっ、そうかぁ。まあなんかあったら頼ってくれぇ」

 

考えすぎだったなぁ。

こうして、朝のホームルームは終わった。

 

 




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第25話

次の日の朝。

教室に着くと、孝弘達が集まって話していた。

 

「絶対サボりだよなぁ!?」

 

「え、そうなの?」

 

「よぉ。誰がサボりなんだぁ?」

 

「おー。楓。修二がな」

 

「なんかあったのかぁ?」

 

「いや、それがさーーー。」

 

そして話を聞くと、家で何かあったらしい。

 

「そうなのかぁ。どうしたもんかねぇ」

 

そうして、修二が来ないまま数日が過ぎる。

今はロングホームルームだ。

 

「それじゃあ、先週のロングホームルームでキャプテンも決まったことだし、今日は球技大会についての決めごとをしていこうか。とりあえずキャプテンを中心にみんなで話し合ったほうがいいだろうな。…竹井、平林」

 

「おーっし!やっぱサッカーだよなぁ!?」

 

竹井の声を合図に話は進む。

竹井が元気よくサッカーを推すが、バスケ部と野球部の連中が手を上げている。

 

「いや、バスケっしょ!」

 

「あ、そしたら俺はソフトがいいけどなあ」

 

ほぉ。やっぱり、修二がいないからなのかぁ。

そして多数決の結果…

男子はバスケ、ソフト、サッカーの順になった。

 

「え、えーと、そうしたら、女子の希望順も、決めたいと思います」

 

男子の方が一通りまとまると、女子の話が始まった。

 

「はーい!私はバスケがいいです!葵と私がいれば優勝間違いなし!」

 

葵はバスケが好きなのかぁ。

覚えとくか。

 

「まあ、私はたぶん、半分くらいしか出られないけどね」

 

「え!?…って、あそっか!生徒会長!」

 

「そーいうこと。まあでも私もバスケがいいかな~」

 

「バスケ…ですね。ほかに希望ある人?」

 

「私はバレーやりたい」

 

花火はバレーなのかぁ。

ちっちゃいのになぁ。

 

「バレーですね。どうしましょう、どっちを第一希望にしましょうか。それとも、ほかになにかありますか?」

 

「…私はソフトがいいかなーとか」

 

続いて、泉が手を上げた。

女子も結構意見が別れるなぁ。

 

「えっと、ソフトですね。えっと、それぞれ、やりたい理由とかありますか?あ、バスケの七海さんは言ってましたよね。…それじゃあ夏林さん、なにかありますか?」

 

「えーっと。…やりたいから、です」

 

「いやそれはシンプルすぎだよ!?」

 

「えーと、それじゃあ次は泉さん…」

 

「てかさ。意見割れたんだから多数決とればいーじゃん」

 

普通に言えないのかねぇ。

そうすると、助けを求めるように平林が俺を見た。

さっそくかぁ。

 

「お前さぁ。先生の話聞いてなかったのかぁ?」

 

「は、なに?またあんた?」

 

紺野は面倒くさそうな、嫌そうな顔で俺を見てくる。

んな顔すんなら喋んなっての。

 

「俺からしてもよぉ、またお前かって感じだけどなぁ。てか、話し合いでって言ってたろうがよ」

 

「だからなに?多数決のが早いじゃん」

 

「はぁー。お前よぉ。じゃ「ストップだ」」

 

「2人とも落ち着け。ここからは私が話す」

 

俺と紺野の言い合いがエスカレートする前に先生が止めにはいった。

はぁ…本当に気に入らねえなぁ。

でも、少し頭冷やすかぁ。

結局、女子の結果は…

バスケ、ソフト、バレーの順になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロングホームルームが終わって放課後。

修二についての会議が行われている。

正直、余計なお世話になってしまう以上動きづらいのは確実だ。

実際に話し合いは難航している。

 

「…つっても、俺らにできることってなかなかなあ」

 

「まあ、修二がなにも教えてくれないんじゃ、きびしいよね」

 

「だよねぇ」

 

「だとしたら…俺たちって基本、なにもするべきではないよな」

 

「え?なんで?できることがあれば、やってあげたほうがよくない?」

 

「優鈴っちの言うとおりっしょ~!修二が困ってるなら、助けないと!」

 

「家の問題だからなぁ。俺らは動きにくいってことだろぉ?」

 

「そうだね。あんまり立ち入ってほしくないと思ってそうだし…」

 

「そこなんだよな」

 

やはり家の事情と言うことで行き詰まってしまう。

そこで、文也が口を開いた。

 

「俺も、いまは不用意に中村の問題に踏み入るべきではないと思う。…けど」

 

「…けど?」

 

「たしかに、求められてないのに勝手に、解決するための行動を起こしてしまうのはよくないと思う。けど、いつか助けを求めてきてくれたときのために、解決するための下準備を進めておくことは、できるんじゃないか、と思う」

 

「俺は賛成だぁ。いざってときになにもできませんでしたじゃあ意味がねぇ」

 

「そうだね!とりあえずやってみよ!」

 

「そーだね!たしかにやってみる価値ある!」

 

「じゃ、やれるだけやってみっか」

 

やっぱり文也はここぞと言うときの判断力は信頼できるものがあるな。

こうして、本格的な話し合いが始まった。

 

「とりあえず修二がどういう状況なのかわからないとしかたないよね。確認しようと思ったら、うまいこと言って修二から聞き出すか、状況悪化させない範囲で修二のお母さんから聞き出すかってところかな?」

 

「お母さんからって、そりゃさすがにきつくないか?わざわざ家までいくって時点でおおごとだろ?」

 

「いやぁ、そうでもねぇぞ」

 

「楓、なにか思い付いたの?」

 

「あぁ。既に何日か休んでるし、この感じだとまだ来ないだろぉ?そしたら、溜まってるプリント届けに行けばいいんじゃねぇ?」

 

「それいいね!修二はお母さんと喧嘩してて家にいないわけだし、お母さんにうまいこと聞ければなんで喧嘩してるかくらいは分かるかも!まーなかなか聞き出すのは大変そうだけど…私ならいける!」

 

「それが1番自然か。…じゃあ葵、まかせていいか?」

 

泉が話に入ってこないな。

不思議に思い泉の方を見ると…

あぁ、そうゆうことかぁ。

なら…

 

「ちょっと待ったぁ…泉。行けるよなぁ?」

 

そんだけ決意のこもった顔してるなら大丈夫だろぉ。

 

「うん!私行く!」

 

「楓の推薦なら仕方ないね!優鈴まかせた!」

 

「まかせて!私空気読んで話すのは得意だから!」

 

こうして無事に話し合いは終わった。 

場所は移り修二の家の前。

話し合いの結果、泉以外はコンビニで待機することになりコンビニに移動した。

しばらく待っていると、泉が戻ってきた。

 

「喧嘩の理由はなんだったんだぁ?」

 

「アタファミやりすぎてたから、家でやるの禁止したら大喧嘩になったらしい…」

 

「…はぁー。俺、竹井より馬鹿なやつ初めて見たかも…」

 

「ちょ、ちょっと待ってそれひどいっしょ~!」

 

「まぁ理解はされないよなぁ。俺たちの親の時代にはゲームなんて数えるほどだったろうしなぁ。まぁ禁止はやりすぎだと思うけどよぉ」

 

ん?なんで葵と文也はそんなキラキラした目で俺を見てんだぁ?

まぁなんにせよ、ゴールは近いな。

 

 

 




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第26話

喧嘩の理由を聞き出したあと、ファミレスで作戦会議をして方針が決まった。

内容は、

・今度の数学のテストで葵、文也、泉が90点以上取る。

 

・小テストのプリントを修二の家に届けに行ったときに修二の母親に点数のことをそれとなく伝える。

 

この作戦のポイントになるのは、修二の母親にアタファミをやっていても勉強に支障が出ないとゆうことを伝えるということだ。

そして、翌日の放課後。

葵による文也と泉のための数学勉強会が行われていた。

 

「なぁ、葵」

 

「なーに?楓」

 

「なんで俺まで呼ばれたんだぁ?」

 

「えっとねー!き・ぶ・ん♪」

 

「はぁー。あざとい」

 

「いたぁ!?」

 

問題なのは俺まで呼ばれていることだ。

別に構わないのだが少しイラッとしたのでとりあえずデコピンしといた。

まぁ、俺も勉強するかぁ。

そうして勉強が始まった。

 

「あー、そうそう。そこに代入すれば…ね?」

 

「なるほどな」

 

「ほぉー。教えるのうまいなぁ葵」

 

さすがに学年一位。

教えるのが上手い。

 

「でしょ?どこか教えよっか?」

 

「んじゃ、頼むわぁ。ここなんだが…」

 

せっかくだから俺も分からないところを聞こうと思い教科書を見せようとすると、葵が立ち上がって俺の隣の席にくる。

 

「あっ!ちょっと待ってね!そっち行く!」

 

「ん?あぁ」

 

「よいしょっと!どれどれー?」

 

「…なぁ。近くねぇかぁ?」

 

どうやら葵は何かを企んでいるらしく、俺にギリギリまで近寄ってくる。 

 

「そんなことないと思うけど?あれれ?もしかして照れてるのー?」

 

こいつも懲りないねぇ。

ちょっとお灸を据えないとな。

きつめによぉ。

 

「いや、照れてないぞぉ。ここを教えてほしいんだよなぁ」

 

「なーんだ、つまんなーい!…まぁいっか!どこー?」

 

そう言ってノートに視線を移した葵の腰に手を回して軽く抱き寄せる。

突然のことに、対応が遅れた葵は驚いたような声を上げる。

 

「えっ…?」

 

そして俺は葵の耳もとで…

 

「誘ってんのかぁ?食っちまうぞ?」

 

「ひゃっ!///」

 

葵は俺から距離を取り、耳をおさえて顔を真っ赤にしている。

お仕置き完了だぁ。

 

「あ、あのー。イチャイチャするなら帰ってもらえる?」

 

「私も修二と…/// 」

 

文也が呆れた顔をしていて、泉は顔を赤くしてトリップしてしまっている。

大分、カオスな状況だった。

葵ぃ。お前のせいだぞ。

なんやかんやで、仕切り直して勉強会。

 

「え、えーっと。…このXに?」

 

「う、うん。それじゃあ、さっきの公式2を使ってみるとよくて…」

 

「こ、公式2ね!えーっと。…こ、これ、どうゆう意味だっけ?」

 

「あ、あのね、これは…」

 

「うん…ご、ごめん」

 

初めはスラスラと教えていた葵だったが、時間がたつにつれてぼろがでてくる泉に少し教えあぐねているみたいだ。

俺はしばらく何も言わずに眺めていたが、2人がひと息ついたところで思ったことを告げた。

 

「泉ぃ。よくこの高校受かったなぁ」

 

「う、うるさい~!…けど、だんだんわかってきた!さすが葵先生!」

 

「んー、けど私そろそろ部活いかないとかな。優鈴はいいの?」

 

「あ!そうだった!そろそろいかないとか!」

 

「そしたらあとは各自で自主勉かな?」

 

「そ、そうだね…」

 

泉はまだ不安そうだなぁ。

そんなことを考えていると、黙々と勉強をしていた文也が口を開いた。

 

「あのさ、日南」

 

「…ん?なに?」

 

「あのさ、俺まだ不安なところあるから、部活終わったあとにまたちょっとだけ教えてくれないか?ファミレスとかでさ」

 

さすが文也だ。

回りを見てるなぁ。

 

「いいんじゃねえかぁ?泉も不安みたいだしよぉ」

 

「う、うん。葵が大丈夫なら、そうしてくれるとすごい助かる!」

 

「…うん。じゃあみんなでやろっか!」

 

「おー。頑張れよぉ。俺は練習行くわ」

 

「楓は学校でやってないんだもんね?練習頑張ってね!」

 

「もちろんだぁ」

 

そう言って俺は勉強を切り上げ帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勉強会を開いた数日後。

数学のテストが終わり、結果がでた。

 

「おめでとー優鈴!さすが私の教え子!」

 

「ありがと!葵のおかげだよほんとに~!」

 

結果は

葵が100点。泉が90点。文也が85点だった。

文也だけ達成できてないしなぁ。

 

「ワンちゃんどんまい!」

 

「文也…。まあ、悪い点数ではないけどお前…」

 

「う、うるせえ!数学苦手っていっただろ!ち、ちなみに有城は何点だったんだ…?」

 

こいつ勉強会出たメンバーで自分より点数低いやつ探しやがるなぁ。

 

「ん?ほれ」

 

そう言って俺はテストを見せる。

点数を見た文也は驚いたような顔で声を上げる。

 

「ひゃ、100点!?」

 

「なに驚いてんだぁ?葵も100点だろぉよ」

 

「いやっ…そうなんだけどさ」

 

「まぁ今回はたまたまだけどなぁ。前の学校でも定期テストは20位らへんをさまよってたわぁ」

 

「…ってことは!私のおかげ!」

 

「へいへい。感謝してますよぉ」

 

いかにも誉めろといった感じで胸を張る葵に苦笑しながら少し強めに頭を撫でた。

 

「な、ならいいけどっ!」

 

「そろそろ話進めようぜぇ」

 

「…こほん。まあ90点以上が2人いるわけだし、友崎くんも…目標よりは下だけどいい点数なわけだし、これならいい感じに説得できると思う!」

 

「じゃあ…あとは、中村にこの作戦のことを伝えるだけだな」

 

「うん。そーだね!」

 

「それじゃ週末、修二の説得まかせたよ!優鈴!」

 

「うん!私にまかせて!」

 

後は泉が上手くやってくれれば今回の家出騒動は終わるだろう。

そして週明けの月曜日。

 

「ワンちゃん遅いっしょ~!」

 

「お、おお、ごめん」

 

「修二にちゃんと伝えたよ!苦手だけどめっちゃ勉強して90点取ったって言ったら、『バカかよ』ってすごい呆れられた!90点ってバカじゃないよね?」

 

「いや、そうゆうことじゃないと思うけど」

 

「けど、ちゃんと許可もらえたよ。勝手にしろって言われた!だから、今日修二の家行って作戦実行しようってみんなで話してたとこ!」

 

「おお、そうなのか!」

 

こうして話をしていると、扉の方から久しぶりに聞く声。

 

「うぃっす」

 

「…修二~!!」

 

「サボりが長いねぇ」

 

「よっ。1週間ぶりくらい?」

 

「つーかお前ら、サボったくらいで騒ぎすぎ。よし子説得するためにめっちゃ勉強って意味不明だから」

 

「えーなにそれ~?みんなで修二のためを思ってあんなに頑張ったのに~?」

 

「はいはいありがとーございました。つーかお前はもともと出来んだろ」

 

「えー違う違う、教えるのを頑張ったんだよ?」

 

「わかったわかった。ったく、頼んでねーっつの」

 

「…おはよ」

 

「…おう」

 

まぁこれで、とりあえずは大丈夫だろぉ。

 

 

 

 




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第27話

修二のお家騒動が終わってから数日がたったある日の教室。

 

「てか優鈴ー?種目ってさぁ、もう決まった?」

 

「あ、決まったよ!次のロングホームルームで発表だけど、ソフトになった!」

 

「あーそぉ?」

 

「うん。バスケ他の学年でも人気でじゃんけん負けて、次のソフトはじゃんけんなしですぐ決定になった!」

 

「へー。りょーかい」

 

教室の雰囲気は悪くない。

紺野の気持ちに少し変化があったようだ。

女子のキャプテンが泉に変わったみたいだなぁ。

文也がうまくやったのか。

ちなみに男子の競技は結局バスケになった。

そして、球技大会本番。

 

「楓!頼んだ!」

 

「任せろぉ!…ほっ!」

 

俺達のクラスは試合の真っ最中だ。

俺は孝弘から受け取ったボールを放ち、シュートが決まる。

 

「楓ないっしゅー!」

 

「おーぅ!」

 

そしてしばらくして笛がなり試合終了。

これであと2回勝てば優勝かぁ。

体育館の端に移動し汗を拭いていると孝弘が来た。

 

「それにしても、上手すぎるだろ!」

 

「まぁなぁ。運動神経には自信あるからよぉ」

 

「そうゆう次元じゃないと思うけど」

 

「まぁ気にすんなぁ。味方なんだからよぉ」

 

「それもそうか」

 

そして、次の試合。

俺は出ていない。

文也が出るみたいだなぁ。

あいつ、バスケできんのかぁ?

そして試合が始まったが…

 

「ファウル…と、ダブルドリブルと。トラベリング…っ!」

 

"ひゅぅ~~~!!"

 

文也のある意味神業とも取れるプレーに会場が沸いた。

珍しいもん見たなぁ。

試合終了後。コート脇。

 

「くくく…ど、どんまい」

 

「う、うるせー…」

 

「ワンちゃん…俺、同時に3つ反則したやつとか初めて見たわ!!」

 

「う、うっせー!」

 

「なんかやると思ってたけどなぁ。逆にすげぇぞぉ?」

 

「もう勘弁してくれ…」

 

初めは言い返していた文也だったが、どんどん勢いがなくなり最後には背中を丸めて落ち込んでいた。 

休憩を挟んで、次は優勝をかけた試合。

試合開始を待っていると、グラウンドの方向からうちのクラスの女子のメンバーがきた。

その集団を抜けて花火と葵が近づいてくる。

 

「おぉ。2人ともどうしたぁ?」

 

「楓!試合出るんでしょ?」

 

「おぅ。出るぞ」

 

「なら良かった!応援してるから!」

 

「私も!だから勝って!」 

 

なんだかなぁ。

嬉しいねぇ。

 

「もちろんだ。やるからには勝つさぁ」

 

2人からの激励を受けていると、どうやら始まるらしくコートに選手が集まっている。

 

「そんじゃ行ってくる」

 

「「いってらっしゃい!」」

 

気分がいいしなぁ…

本気でいくかぁ!

そして試合が始まる。

 

「楓!」

 

「ナイスパース!…っしゅ!」

 

孝弘から受け取ったボールをリングに向かって放つ。

ボールは見事にリングに吸い込まれる。

 

「っしゃぁ!3本目ぇ!」

 

相手ボールからスタート。

俺は橘にディフェンスを任せて走り出した。

 

「橘ぁ!ディーフェン!」

 

「りょーかい!任せろー!」

 

さすがはバスケ部だ。

橘が相手からボールを奪った。

そんじゃ…やってみるかぁ!

 

「こっちだぁ!」

 

「有城!決めろっ!」

 

「任せろぉ!…っとぉ!」

 

全身を使って思いっきり飛び上がる。

そして…

 

「っらぁ!」

 

リングに思いっきり叩き込んだ。

 

"ひゅぅ~~~!!"

 

どっと会場が沸く。

楽しいなぁ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃コートの外。

日南とたまと泉は3人で男子の試合を見ている。

 

「は?え?有城やばくない!?」

 

「次元が違うね…あれは運動ができるとかそう言うレベルじゃないよ…」

 

「でも、楓だし!」

 

泉は素直に驚きを露にし、日南は驚きながらも感心している。

たまは当然だと嬉しそうにしていた。

日南とたまがふと視線を一瞬外したタイミングで、泉が声を上げた。 

 

「あっ!飛んだ!」

 

「「え?」」

 

「っらぁ!」

 

慌てて視線をコートに戻した2人の目に飛び込んできたのは、ボールをリングに叩きつける楓の姿だった。

 

「あ、あれダンクだよね?」

 

「…」

 

「…」

 

「あれ?おーい!どうしたのー?」

 

「「…かっこいい///」」

 

「そ、そうだね」

 

ぼーっとコートを見つめる2人を見る泉の顔はひきつっていたとかいなかったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所はコートに戻る。

もう時間がない、これがラストプレーだろう。 

ボールを持っている修二がうまく切り込む。

相手は2人がかりでディフェンスに入っているため、シュートまでは行けない可能性が高い。

 

「そしたら…修二ぃ!打て!」

 

「いや、多分はいらんぞ!」

 

「大丈夫だぁ!信じろ!」

 

「…分かったぜ!おらよっ!」

 

バランスを崩しながらもリングにボールを放った。

そのボールは惜しくもリングに当たる。

だが、無理矢理打たせた手前外させるわけにはいかない。

俺はスリーポイントのラインから勢いをつけて思いっきり飛び上がった。

 

「外させねぇ…よっ!」

 

飛びあがった俺は、空中で外れたボールを掴みそのままゴールに叩きつけた。

思惑通り、アリウープが決まり得点が入る。

それと同時に笛がなった。

 

"ひゅぅ~~~!!"

 

本日1番の盛り上がり。

会場が大いに沸き上がる中、俺達はハイタッチを交わす。

俺たちの勝ちだ!

 

 

 




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第28話

球技大会が終わり、教室で軽く打ち上げのようなことをして今は下校中だ。

ただ普通に歩いているわけではなく、前を歩いている修二と泉を尾行している。

今いるのは、俺と葵と孝弘と文也とみみみと竹井。

 

「さてさて、どうなりますかねぇ~?」

 

「そうだなあ」

 

そんなことをこそこそ話ながら後をつけていく。

あまりこう言うのは趣味じゃないんだが…まぁ、見守っておこうと思う。

しばらく歩いていると前を歩く2人は公園に入っていった。

 

「どうする?雰囲気で大体は分かるだろうけど…」

 

「うーん…せっかくなら修二の男気を見届けたいよな」

 

「そうだよな。…でもこっち向いちゃってるな。ここまでか」

 

2人は公園のベンチに座ったのだが、これ以上は近づけないしこの人数で隠れられるところが見当たらない。

頭を悩ませていると…

 

「…いや、あっち側に別の入り口あるから、そっからいけばもっとギリギリまで近づけるはず」

 

「お!まじか!」

 

文也がこの公園のことを知っていたらしく、反対側の入り口にまわることになった。

ばれないように入り口に回り込み公園の中にはいる。

結局、ベンチの近くにある用具小屋の陰まで近づくことができた。

集中すれば声も聞こえる距離だ。

俺達はそこでことの成り行きを見守った。

 

「……そーそー!そこで葵がピッチャーに交代して、最後まで耐え切ったの!」

 

「ははは。相変わらずでしゃばってんなあいつ。こっちは楓がバスケ部差し置いて大暴れしてたな」

 

俺は大暴れなんて…してたな。

楽しくなっちまったかんなぁ。

 

「それね!ビックリしちゃった!まぁ…でも、修二も…その…カッコよかったよ?」

 

「なんで疑問系なんだよ。…ま、俺は見てなかったけどよ…お前もがんばったんだろ?」

 

「え…う、うん。まあ」

 

おっと?

流れが変わったなぁ。

葵たちもそれを感じたのか、ニヤニヤしながら聞いている。

そして、2人は少しの間照れ隠しのためか、じゃれあっていた。

しかし次の瞬間、何の前触れもなく唐突に修二が切り込んだ。

 

「……ま、付き合うか?」

 

「うえぇっ!?」

 

俺は備えていたが、他の連中は全くの予想外だったようで、声を上げそうになっていた。

ギリギリのところで口をおさえるなどして耐えている。

ちなみに、俺は瞬時に竹井の口をおさえにいった。

その後、しどろもどろになっていた泉も決心を固め、芯のある声で言った。

 

「……うん。よろしくお願いします。私も修二のこと、好きだから」

 

よく言った。

なんか感慨深いなぁ。

そして、最後に修二も一言。

 

「……俺も、好きだけど」

 

これぞまさに青春。

俺達はなんだか嬉しくなり、意味もなく顔を見合わせて頷きあったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

球技大会が終わった翌日の教室。 

俺達は泉と修二から報告を受けていた。

まぁ知ってるんだけどな。

 

「ってことで実は…付き合うことになって」

 

「えー!?そうなんだ!?おめでとー!」

 

「どっちから告ったの!?なかむー!?」

 

「修二にそんな甲斐性があるとは思えないけどなぁ?」

 

「っせー。それはどーでもいいだろ」

 

「まぁなんにせよ。めでたいなぁ」

 

「い、いやぁ、まさかそんなことになるとは思わなかったなぁ!?」

 

「そ、そだな!泉、中村、おめでとう!」

 

俺達はしらをきって祝福をする。

下手くそな文也と竹井はほっとこう。 

 

「う、うん、ありがと」

 

皆が祝福するなか、俺は泉のもとに歩み寄った。

 

「本当におめでとさん。俺が背中を押すまでもなかったなぁ」

 

「そんなことないよ!有城には本当にお世話になった!ありがとう!」

 

「そう言ってくれると嬉しいな。まぁ、修二は付き合いの短い俺から見ても良い奴だかんな、ちゃんと捕まえとけよ?」

 

「う、うん!」

 

他の皆は俺と泉のやり取りを微笑ましそうに眺めていた。

そして、皆が同じことを考えていた。

 

『お兄ちゃんか!』

 

そして、俺は修二にも向き直って話し始める。

 

「修二もな。俺は泉ほど綺麗な心の持ち主を見たことねぇ。けど、純粋だからこそってことがあると俺は思ってる。まぁ…修二もんなことは分かってると思うけどよぉ。ちゃんと守ってやれよ?」

 

「…おう。ありがとな」

 

珍しく素直に礼を言う修二には目もくれずに、またしても皆の考えが一致した。

 

『だから!お兄ちゃんか!』

 

俺は最後に、昔に母さんに教わったことを2人に教えることにした。

とても大切なことだ。

 

「最後に1つ…いいか?」

 

「もちろん!」

 

「ああ」

 

「これは昔、俺の大切な人に教わったことなんだが…特別な人には自分のことを分かってほしい、理解してほしいって言う欲がでてきちまうもんなんだよ。そして、それがいつしか何も言わないでも自分のことは分かってほしい、理解してほしいってのに変化していくものなんだ」

 

俺が真剣に話を始めると、修二と泉以外のメンバーもちゃんと聞いてくれている。

俺は話を続けた。

 

「だが、それは大きな間違いだ。何も言わないで分かってもらえるなんてただの幻想だ。その気持ちが、思いが、いつしか幻想の押し付けあいになっちまう。だからよ、俺が2人に伝えたいのは…特別な関係になったからこそ!さらけ出していこうじゃねぇか!伝えていこうじゃねぇか!自分を分かってほしいなら!理解してほしいなら!自分自身が、相手に、自分って人間を、伝えなきゃいけねぇ!…ってことだ」

 

俺が最後まで話し終わると、少しの間沈黙が流れた。

そして…

 

「有城…いや!楓!私、感動したよ!私がんばるね!修二が嫌になるくらい好きだって伝えるから!」

 

「お前はうるさい。…でも、確かに…なんつーか、響いたわ。楓がダチで良かった」

 

2人の返事が嬉しくて、本当に言って良かったと思えた。

他のメンバーも俺の後ろで、感心したように、自分にも言い聞かせるように頷いていた。

そうして、学校が終わり帰り道。

俺は葵と孝弘と文也とみみみの5人で駅までの道を歩いていた。

修二と優鈴のことで他愛もない話をしながら駅に向かっていると、文也が唐突に質問をしてきた。

 

「あの…さ、さっき有城が話してた時に言ってた大切な人って…誰なの?」

 

どうやら他の面々も気になっていたようで、即座に聞く体制をとった。

 

「ん?あー。…母さんだよ」

 

「…お母さん?」

 

「ああ。昔な、俺が柔道を始めたばっかりの頃に迷惑をかけちまってな。まぁ…しょーもない、ただの俺がバカだったって話だ」

 

「…それって聞いても大丈夫な話…かな?」

 

「別に大丈夫だぞ。まぁ…俺には他の人より少しだけ柔道の才能があったみたいでなぁ。俺が毎日、今日はあの人に勝ったとか、そう言うのを母さんは嬉しそうに聞いてくれてな。それが嬉しくて、ある日の練習で怪我をしたんだが、母さんが悲しむのを見たくなくて怪我をしたのを隠してその後も毎日、練習に行っては母さんに話してたんだよ。それがただの押し付けだとも気づかずにな。そしたら、限界がきちまって俺は立てなくなって即入院。そんで病室でな…普通は怒鳴ったりしてもいいくらいのことを俺がしたんだ。でも母さんは、『ごめんね。あなたが苦しんでるのに、お母さん気づけなかった』って泣きながら謝ってきたんだよ。だから俺は正直に全部話したんだ。失望されるのが怖くて、笑ってくれなくなるのが怖くて、無理をしてましたってな。そしたら、あの話をしてくれたんだ」

 

「そんなことが…」

 

「今の楓からは想像できないな」

 

「その出来事が今の楓のもとになってるんだ…」

 

「意外だよ!有城は昔から有城だと思ってた!」

 

話をしたのは俺だが、この辛気臭い雰囲気に耐えられなくなり足を速める。

 

「なーに辛気臭い面してんだ、お前らはよぉ。ほれ行くぞ」

 

こうして、再び帰路に着いた。

今回の話に心を動かしたのは何人いるのか。

最後は暗くなってしまったが、一件落着だ。

 

 

 




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第29話

修二と優鈴が無事にくっつき、土日をはさんだ月曜日。

クラスの雰囲気は最悪だった。

 

「あ、ごめーん」

 

そう言って声をかけたのは紺野。

かけられたのは平林だ。

この空気はやべぇな。

そんなことを考えながら過ごし、紺野の嫌がらせが始まって数日がたった。

 

「ってことは朝、机の位置がめちゃくちゃに…」

 

「うん…。たぶん放課後に、されてるのかな。まあ自分で直せばいいんだけどね…」

 

「え、でも…」

 

助けを求めてくれればなんとかすんだがなぁ。

標的にされている平林自身に助かる意思がないってのはなぁ。

そう考えていると、平林の席を占拠している紺野に近づいていく人影があった。

 

「ーーー紺野!」

 

「っ!」

 

花火かぁ!?

慌てて振り返りとめようとしたが少し遅く、花火の声が静まり返った教室に響いた。

 

「いつまでやってんの!いい加減そうゆうくだらないことはやめる!」

 

「はあ?なんの話?」

 

「そうゆうのいらない!中村取られたから八つ当たりとか、ありえない!」

 

「ふうん…あっそ。わかった」

 

そう言って紺野は花火の方に歩いていき、勝ち誇ったように笑い肩に手を置いた。

 

「花火、震えてるじゃん」

 

「うるさい!」

 

花火は内心の怯えをふりきるかのように紺野の手を払った。

だが、それは悪手だ。

案の定、紺野はわざと大袈裟に痛がる素振りを見せて、花火の同情を誘いマウントを取った。 

 

「いったぁ…」

 

「い、いや、そんなに強くは…」

 

「先に手ぇ出したのは、そっちだから」

 

そして最後にそれだけ言うと、紺野は取り巻きを連れて戻っていった。

標的が花火に変わるな。

その後、俺はできるだけ花火の近くにいるようにしているが、隙を縫って紺野の嫌がらせは続いた。

 

「あ、ごめーん」

 

ちっ!またかぁ。

花火は紺野に噛みつくが、それじゃ意味がない。

 

「紺野!いま、わざと落としたでしょ!」

 

「はあ?証拠は?勝手な決めつけやめてくれる?」

 

「決めつけじゃない!」

 

「花火。相手にすんなぁ。こんなくそ陰険ヤローはよぉ」

 

「で、でも!」

 

「花火!…落ち着け」

 

「う、うん」

 

「よしよし。それでいい。…あん?おめぇまだいたのかぁ?さっさと戻れよ悪役令嬢様よぉ」

 

「…ちっ!」

 

俺が凄みながら言うと舌打ちをして戻っていく。

紺野が去ったあと、みみみと葵と文也が散らばった筆記用具を拾うために近づいてきた。

 

「たまは、悪くないよ」

 

「…うん」

 

「えっと…たまちゃん、平気?」

 

「…うん、平気だよ」

 

「花火、大丈夫だから」

 

「葵…。うん、ありがと」

 

「私が…私が、なんとかする」

 

「…葵?」

 

葵は忌々しげに紺野の背中を睨みながら小さく呟く。

これは良くねぇ。

葵に背負わせるわけにはいかねえよなぁ。

俺はなにか決心するような葵の頭に手を置く。

 

「心配すんなぁ」

 

「…楓」

 

「てか葵ぃ。無理すんなよぉ」

 

「だけど!私が!私が何とかしなきゃ!」

 

本当に良くできたやつだ。

友達のためになにかをしようとするのはなかなかできないしなぁ。

 

「いや、それは俺の役目だぁ」

 

「でも…」

 

「俺は…お前に背負わせたくねぇ」

 

「…っ!ずるいよ。でも、それなら仕方ない…よね」

 

「あぁ。任せろ」

 

次は花火だなぁ。

花火の頭にも手を置く。

 

「花火もあんま無理すんなよぉ?」

 

「うん。でもあんなのに負けたくない!」

 

「おぅ。頑張ろうぜぇ。一緒に。な?」

 

本当に強いなぁ。この子は。

でも、まだ未熟だ。

だからたとえお節介だとしても俺が助けてやりたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺がどんなときでも花火といられるわけはなく、1日に1度か2度ほどのペースで嫌がらせは続いていた。

 

「紺野!また机蹴ったでしょ!」

 

「なにそれ?偶然じゃん。変な言いがかりやめてくんない?」

 

「言いがかりって…だって昨日も!」

 

「ていうか花火さぁ、こないだも私に暴力振るったこと、忘れたの?」

 

花火はこの陰険女と違って優しいからその事を言われるとうつむいちまうんだよな。

俺は、花火を庇うように2人の間に割って入る。 

 

「はいストップー。マジでお前しつこすぎだろぉ。バカなのかぁ?」

 

「あんたも相当だねぇ。そんなに花火のことが好きなの?」

 

「は?何言ってんだよぉ…」

 

こいつ本当にやり方が陰湿だな。

にやにやしやがってよぉ。

俺が好きじゃないとでも言うと思ってやがるなぁ。

 

「そんなもん好きに決まってんだろぉ」

 

「…は?」

 

「だからぁ!好きだったらなんなんだよぉ」

 

「…きも。なんなのこいつ。まじうざいんだけど。シラけたわ」

 

俺が言い切ったことが気に食わなかったのか、紺野はそう言って戻っていった。

花火の方に振り返り無事かを確認すると、花火は顔を真っ赤にしながらうつむいている。

 

「花火ぃ。大丈夫かぁ?」

 

「…///だ、大丈夫だから!友達としてってことだもんね!勘違いしないから!」

 

「いや、おい。ちょっと…」

 

席戻っちまったぁ。

別に冗談じゃあないんだけどなぁ…。

結局それからも何かある度に花火は紺野に正面からぶつかっていった。

俺がいないときは葵とみみみが花火を守ってくれているみたいだ。

だが、やはりこのピリピリした状態を好む人間などおらず、段々と風向きが変わっていく。

ある日の教室で…

 

「花火ちゃん、なんか大変そうだよね…」

 

「ホントだよね…平林さんの次は花火ちゃんとか、嫌がらせできれば誰でもいいのって感じ」

 

「ほんとさ、紺野さんいたら絶対ああなるよね」

 

「あーもう早くクラス替えなんないかなぁー!」

 

そして、数日後。

 

「また始まったね」

 

「だね。なんかもうやめてほしいっていうか、花火ちゃんが1人で騒いでるだけっていうか」

 

「てか紺野に言って聞くわけないじゃんね」

 

「ね。むしろ逆効果」

 

明らかにクラスの連中はうんざりし始めていて、愚痴がこぼれている。

いつものメンバーはひとかたまりになって今の状況について話をしていた。 

 

「今は有城がいないから大丈夫だけど、これを有城が聞いたらヤバイよな」

 

「そう…だね。多分、てか確実にキレると思う」

 

そんな話をしているうちにもクラスの連中の不満の声が続く。

葵が聞いていられなくなり、止めようとしたところで教室の扉が勢いよく開いた。

入ってきたのは当然、楓だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は今、教室のドアの前にいる。

扉に手を掛けると、中から話し声が聞こえてきた。

あまりの内容に、ドアを開こうとした手が止まる。

 

「今日で何回目?まじで」

 

「さあ?もうさ、なんであそこまで怒るの夏林って?」

 

「てかまあ、紺野がひどいのはわかるけど、教室で揉めたらそのたび空気やばくなるってわかってないのかなあの人?」

 

「ある意味自業自得だよね」

 

「まあもともと空気読めないもんね夏林って」

 

 

 

『てかさ、過剰反応しすぎじゃない?』

 

 

 

俺はそれを聞いた瞬間に我慢できなくなり思いっきり扉を開いた。

 

「おい!おい!おい!おい!お前らぁ!それはマジで言ってんのかよぉ!」

 

マジで久しぶりにキレちまいそうだぁ!

そして、俺に向かって誰かが言った…

 

「いや、だって…なぁ?」

 

「あそこまでされるとさすがに迷惑ってか…なぁ?」

 

あー。もう…我慢できねぇ。

 

「何もしてねぇでただ見てることしかできねぇやつが上から物言ってんじゃあねぇぞ!立ち向かうこともできねぇのに花火のことを悪くいいやがってよぉ!迷惑?ならてめぇらで止めてみやがれってんだ!このくそがぁ!」

 

普段の俺からは想像もできないようなの怒号に、呆気に取られていた文也たちは、慌てて止めにくる。

だが、止まる気配はない。

 

「っ!やっぱりこうなったか!」

 

「ちょっと!楓!ストップ!言い過ぎだよ!」

 

「あぁ!?言いたりねぇよ!何も知らねぇくせに、何も知ろうともしてねぇくせによぉ!影でこそこそ悪口かよぉ!紺野よりたち悪りぃぜお前らよぉ!」

 

自分達だけでは止められないと悟った葵は、瞬時に少し離れた席から驚いた顔で見ていた孝弘達に声をかける。

 

「ちょっと!孝弘!修二!竹井!手伝って!」

 

「あ、ああ!」

 

「今行く!」

 

「わ、分かった!」

 

孝弘達が動きだす間にも怒りを吐き出し続ける。

 

「花火が何をしたか見てなかったのかよお前ら!悪いことしてたかよぉ!誰もが無視してたあの状況で平林を助けたのは誰だってんだよぉ!」

 

「早く!とりあえず廊下に!」

 

そして、ようやく4人がかりで取り押さえられ引きずられていった。

教室は静寂に包まれていた。

そこで口を開く者が1人。

 

「みんな聞いて。私も花火が間違ってるなんて思えない。だから楓が言ってたこと少し考えてみてくれないかな」

 

そう言って後を追って教室を出ていった。

教室はこれまでとは違った意味で最悪の空気だった。

 

 




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第30話

俺は今教室を連れ出されて近くの空き教室に連れてこられていた。

 

「わりぃ。もう大丈夫だから離してくれ」

 

「あ、ああ。それにしてもどうしたんだ?楓らしくもない」

 

「まぁ色々あるけどよぉ。自分のことを棚にあげて相手を見下すような言い方が嫌いなだけだぁ。ましてやその矛先が大切なやつだとなおさらなぁ」

 

「まぁ…そうだな」

 

「楓は間違ってねえよ」

 

「だな」

 

「そうっしょ!」

 

「ありがとな」

 

俺は自分の行動を間違ってるとも思わないし、理解してほしい訳でもない。

だけど、やっぱり親しい奴らに理解きてもらえるのは理屈じゃなく嬉しいもんだなぁ。

しばらく話していると葵もやって来た。

 

「葵ぃ。悪かったな。抑えられなかった」

 

「ううん。気持ちは分かるし!」

 

「そうかぁ。後始末もしてくれたんだろぉ?ありがとな」

 

「大丈夫だよ!…楓は…さ、私でもああやって本気で怒って、助けてくれる…?」

 

「あぁ?何言ってんだぁ?そんなん当たり前だろ。ぜってぇ助けるさぁ」

 

「そっ…かあ。期待しちゃうからね?」

 

「おーよ。まぁお前がそうゆう状況になるのは想像できないできないけどなぁ。ま、そろそろ教室戻ろうぜぇ」

 

そんな話をして教室に戻った。

教室の雰囲気は最悪で、俺が戻るとさらに空気が重たくなる。

だが、俺は気にせずに普通に入っていく。

そうすると花火が駆け寄ってきた。

 

「楓!」

 

「よぉ。花火」

 

「私のために怒ってくれたんだよね」

 

「礼はいらねぇぞ」

 

「いや、それでも…ありがと!」

 

「ははっ。律儀だなぁ」

 

「うん!私、頑張るから!見ててね!」

 

「あぁ。見てる」

 

無理だけはするなよなぁ。

そうして花火はみみみのところに戻っていった。

 

「たまおかえりー!ねえ見て!これこないだ買ったの、かわいくない?たまもいる?」

 

「えー?これはあんまりかわいくない。これじゃあまた友崎にかわいくないって言われるよ?」

 

「ひど!じーっと見てるとじわじわくるんだって!」

 

「えーほんとに?」

 

「ほんとほんと!」

 

よし。いつも通りちゃんと話せてるなぁ。

これ以上悪い方向に行くことはないだろぉ。

それから何日かがたったが相変わらず紺野の嫌がらせは続いていた。

しかし、空気はもうすでに紺野の味方ではない。

紺野が操っていた空気は俺が無いことにした。

もうそろそろ終わるだろうなぁ。

俺はあとは支えてやるだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして放課後。

忘れ物をしたのを思いだし教室に戻ると…

花火と文也が話をしていた。

 

 

 

 

 

side 夏林花火

 

 

 

私は今、友崎と話をしている。 

 

「紺野から攻撃されたりして、つらくないのかな、って」

 

「えっとね、つらいよ。けどね」

 

「…けど?」 

 

「私はね、大丈夫なの」

 

「それは…自分の中で確信があるから?」

 

私が伝えるべきことを。

 

うん。自分は間違ってないって、楓が教えてくれたから…私は平気」

 

「…そっか」

 

私の、本心で。

 

「間違ってるのはあっちだし、正しいのはこっち。だからなにされたって、絶対に負けない。自分が信じてる自分のやり方を折るほうが、私はいやだ」

 

「…うん」

 

ちゃんと伝える。

 

「自分が自分のままいられるなら、私はなんでも、我慢できる…だから、私は平気」

 

「うん。…じゃあ、なんでもない。…それじゃあ、応援してる」

 

「けどね、友崎」

 

でも、私だけじゃだめなんだ。

 

「ん?」

 

「楓が、私のために怒ってくれてるんだ」

 

楓が、私のためにあんなに感情をあらわにして怒ってくれた。

 

「みんみが、悲しんでるんだ」

 

いつも元気なみんみがたまに見せる悲しい顔を見てしまった。

 

「だから私ね。自分を、変えたいの」

 

そんなの到底耐えられるようなことじゃない。 

 

「いま話しても思ったけど、やっぱり私って、友崎と似てると思うんだ。思ったことばっかり言って、演じるのが得意じゃなくて。けど…友崎って、最近、すごく変わったと思う。うまく空気読んだり、笑ったり、みんなと馴染んだり。私と似てるのに、本当は得意じゃないことに挑戦して、ちゃんと変わってる。そうゆうことってできるんだ、って思った」

 

だから私は、私のために。

私の大切な人達のために…

 

「だからね。そのやり方を…戦い方を、私にも教えて」

 

自分を変えるのだ。

 

 

 

 

 

sideout

 

 

 

 

花火の静かだが、決意のこもった言葉が俺の心に沁みていく。

その時、曖昧に俺の中で漂っていた感情の答えを知った。 

 

「戦い方を、私にも教えて」

 

あぁ、本当に花火は真っ直ぐで、眩しくて、強くて。

どうしようもないくらいに好きだと思わされてしまう。

やっぱりそうだよなぁ。

この心が温かくなる感覚。

これが『恋』かぁ。

 

 




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第31話

教室で話しているのを聞いたあと、俺は廊下を歩きながら考えていた。

文也なら何とかしてくれるだろぉ。

俺が認めた男だからなぁ。

それにしても、決着をつけることが結構あるが…俺の気持ちのことは後回しだ。

はぁー。考えることが多くて困っちまうなぁ。

とりあえず今日は帰るか。

そして翌日の2時間目の休み時間。

紺野がわざとらしく花火の机の脚を蹴る。

しかし…

 

「…っ」

 

花火は我慢した。

とりあえずはこうゆう方針かぁ。

花火が頑張ってんだ、俺も我慢しないとなぁ。

そして、放課後。

どうやら、今日は孝弘も一緒みたいだ。

せっかくだから俺も合流する。

 

「ほら、みんみ!帰るよ!」

 

「え?あ、うん…?」

 

「おーぃ!」

 

「あ!楓!」

 

「よぉ。俺も一緒していいか?」

 

「もちろんいいぞ」

 

「さんきゅ。じゃ行こうぜぇ」

 

そうして駅までの道を5人で歩いている。

すると、唐突にみみみが口を開く。

 

「ていうかみなさん!これはどうゆう集まりなんですか!」

 

「えーっと…。まぁ、紺野エリカ対策会議って感じかな」

 

「さすがにほっとけなくなってきたからな。あれでクラスに居場所がなくなるのは、さすがになしだろ。まぁ楓がいるから1人ぼっちにはなることはないだろうけど」

 

「俺の場合はほっとくって選択肢がないからなぁ」

 

「なるほどぉ!けど友崎はともかく、有城とタカヒロに守られてるなんて贅沢だねぇ!両手に花!」

 

「俺のあつかいひどっ!」

 

みみみの言いように文也が思わず声を上げる。

 

「ははは。てか男2人のときも花って言うのか?」

 

「えー言わない!?じゃあなに?」

 

「じゃあ、両手に騎士様とかそんなんでお願いしとくわ」

 

そしてちらりと俺を見る。

あぁ。そういえばなんかやったなぁあのとき。

やれってことかぁ?

 

「おー!でるか!?有城の騎士モード!」

 

「…仕方ねぇなぁ」

 

仕方ないと言いながらも結構ノリノリだったりする。

俺はそう言って芝居がかった声と表情を作り花火の方を向き、片膝をつく。

花火は不思議そうな顔で首をかしげている。

 

「?」

 

「花火様。私が一生お守りいたします。あなたの騎士として」

 

そう言って花火の手を取り、あろうことか手の甲にキスをしてしまった。

 

「にゃっ!///か、楓なにしてるの!」

 

「っ!悪い!やり過ぎた…」

 

花火は顔を真っ赤にしてあたふたしている。 

 

「いや、その!べ、別に嫌ってゆう訳じゃ…///」

 

「そ、そうかぁ!ならいいんだぁ」

 

気持ちを後回しにするとか言っときながらこれだ。

制御が効かなくなってるなぁ。

気を付けねぇと。

 

「おーおー!見せつけてくれちゃって!」

 

「もうたまは私のたまじゃないんだぁ!よよよ」

 

俺の様子に気づいた孝弘とみみみが上手い具合にいじってくれた。

さすがに今のを無かったことにされるのが空気的に1番辛いからなぁ。

 

「う、うるさい!///」

 

花火は照れているようでみみみの口を塞ぎに突撃していった。

そんな時、1人仲間外れにされていた文也が口を開いた。

 

「みんな俺のこと無視してるし。へこむなあ」

 

「あっ!友崎のこと忘れてた!」

 

みみみのドストレートな言葉が文也に突き刺さる。

 

「そんなはっきり言うか普通!?」

 

信じられないと言った顔をしている文也だが、追い討ちを掛けるように全員が同意をした。

 

「うん。忘れてたな」

 

「私も!」

 

「右に同じくだぁ」

 

「泣いていいよな?泣いていいんだよな!?」

 

「くくっ。まぁ俺が言うのもなんだけどよぉ。文也はもうちょい自分に自信もてよぉ」

 

「え?お、おう。さんきゅ」

 

人のために動けるなんて、なかなかできないことだしなぁ。

少なくとも文也を認めてるやつはここに1人だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の放課後。

花火と竹井が向かい合うように座っている。

 

「よぉ。てかお前ら何やってんだぁ?昨日対策会議とかいってたからそれ関係なんだろうけどよぉ」

 

「おー、楓か。いや実はなーーー」

 

そして話を聞くと…

 

「んで今は竹井と仲良くさせるって感じかぁ」

 

「うん。そうゆうこと」

 

まぁ、話し方だったりトーンだったり言い回しを盗むって感じか?

取り敢えず、見守るかね。

 

「そうかぁ。花火、頑張れよぉ」

 

「うんっ!がんばる!」

 

「クラスでも楓と話す時みたいにしてくれたら1発で解決なんだけどなあ」

 

「あはは。まあたまちゃん自身に自覚が無さそうだからね」

 

そして、花火と竹井の話が始まった。

 

「っていうかたま、大丈夫なん!?ごめんよ~なにもしてあげられなくて!」

 

「ううん、いいよ。ありがとね」

 

「止めたくてもなかなか勇気が出なくてさぁ!」

 

「あはは。紺野、怖いもんね」

 

「そうなんだよ~!エリカって1回怒ったら長いからさぁ!俺はたまは悪くないと思ってるよ!?」

 

「そっか。ありがと、竹井」

 

「ありがとじゃないよこっちこそごめんだよ~!」

 

「あはは。わかったって」

 

俺と文也と孝弘は教室の端っこで2人の会話を聞きながら話している。

 

「文也、どう思う?」

 

「んー、こうやって見てても、やっぱり竹井の隙って言うと、本音が丸出しってところなように見えるんだよなあ」

 

「ま、たしかにそこが目立つよな。楓はどうだ?」

 

「そうだなぁ。…なんかよぉ。俺と話してるときのギャップでそう感じるのかも知れないけどよぉ。なんつーか他人に関心がないっつーのかなぁ」

 

俺がそんなことを言うと、丁度竹井から他の生徒の名前がでた。

 

「ん?ほら聞いててみ?」

 

俺達は花火と竹井の会話に耳を傾ける。

 

「美佳とかも最近ちょっとエリカやりすぎって言ってたから!」

 

「えーっと、美佳って?」

 

他にも…

 

「それから優子も心配してたからさぁ~!」

 

「優子って?」

 

同じクラスの女子で名前と顔が一致しない。

 

「ほらなぁ?」

 

「たしかに…」

 

「あれは関心とゆうか興味がない…だね。俺も経験してるから分かるかも。俺からたまちゃんに伝えるよ」

 

「おぅ。分かったぁ。そんじゃ…花火!」

 

そう言って花火を呼ぶ。

 

「楓?どうしたの?」

 

「文也が気づいたことがあるってよぉ」

 

「ん?なにかわかったの?」

 

「うん。あのさ。…これは、俺もずっと同じだったから、わかるんだけど」

 

「うん。…なに?」

 

「たまちゃんって、クラスのみんなに、興味ないよね?」

 

「うん。正直、あんまりない」

 

「やっぱりなぁ」

 

「…やっぱり、そこか」

 

「やっぱりそこ、って?」

 

「まあなんてゆうか…経験談なんだけどさーーー」

 

そうして文也は話始めた。

 

「だからたしかに、たまちゃんがみんなに自分を受け入れてもらうために、仲良くするために、表面的な明るいしゃべり方とかを鍛えるのもいいと思う。けど、それよりもさ、まず自分から興味を持って、みんなを受け入れることが大事なのかなって思ったんだよ」

 

「…うん。たしかに、そうかも。私がみんなに興味ないって思ってたんじゃ、仲良くなんてなれないよね」

 

「深いこと言うねぇ」

 

「だな。ちょくちょく驚かされるよな」

 

「な、なんだよそれ」

 

「大丈夫だぁ。褒めてるからよぉ」

 

「いや、ならいいけど…」

 

「まぁなんにせよ。気づけることがあったから良かったなぁ。な、花火ぃ?」

 

「うん!あ、みんみたち帰る準備してる」

 

「ほんとだな。よし、いくか」

 

「そうだなぁ」

 

どうやら、これで少し前に進めそうだ。

そうして俺達は教室を出た。

 

 

 




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第32話

俺達は教室を出てみみみ達のところへ向かう。

合流すると、ハイテンションな2人が挨拶を交わしている。

元気で何よりだ。

 

「さらに人が増えてるーっ!?」

 

「ちぃーっすみみみ~!」

 

「ういっす竹井ぃ!」

 

「葵もちーっす!」

 

「え?チーズ!?」

 

「いやいや違うっしょ!葵チーズ好きすぎだよなぁ!?」

 

「あはは、間違えた。ちーっすだね、竹井」

 

「お前ら元気だなぁ」

 

「あっ!楓!」

 

「よぉ。部活お疲れさん」

 

「うん!ありがと!…ってゆうかなにこの集まり?先週も来てたよね?」

 

「まあ、たまの状況をどうにかしないとって感じの会議してたって感じ」

 

「あー、そっか…」

 

孝弘が俺達の集まりの説明をすると、葵の顔に少し影が射した。

あんだけ気にすんなっつったのにまーだ気にしてやがんなぁ。

まぁ、友達思いなのは良いことだけどよぉ。

 

「いやだとしてもさ!なんで日に日に増えてってんの!?」

 

「まあ、チーム友崎がまた増えましたってことで」

 

「ちょっと待て、これ俺のチームだったのかよ」

 

「なぁに言ってんだぁ。当たり前だろぉ」

 

「発起人は文也だろ?」

 

「い、いや…まあそうかもしれないけど」

 

「頼むぜぇ。リーダーよぉ」

 

「い、いやリーダーって…」

 

困惑しながらも、割りと満更でも無さそうな文也。

そんな話をしながら学校を出て駅までの道を歩いている。

話題は当然、紺野のことになる。

 

「にしても、エリカも飽きないよなぁ」

 

「うーん、あの無駄な体力はなんだろうね?」

 

「あそこまでいくとよぉ、頭イカれてんじゃねえかって逆に心配になるわぁ」

 

「辛辣だな…。まあなんにせよ、負けず嫌いっつーか、意地張りすぎっつーか」

 

「そうだよね。…なんとかしないと」

 

本当に葵はよぉ…

そうして帰り道を歩いていると、唐突に花火が葵に質問をした。

 

「葵はどう思う?」

 

「…そうだね。…花火は、自分を変えたいって思ってるの?」

 

「…葵?」

 

「あ、ううん。ごめん、ちょっと気になって!」

 

やっぱり自分が何とかしないといけないと言う気持ちが抑えきれないのだろう。

まぁ、ここはちゃんと言っとかないとなぁ。

 

「なぁ葵ぃ」

 

「楓…。なに?」

 

「葵が勘違いしてる様だから言うけどよぉ。葵は花火が変わるなんて思ってるんだろ?だが、人の本質なんてそう簡単に変わるもんじゃねぇぞ?」

 

俺は、葵のそもそもの間違いを正すために話し始める。

案の定だが、葵は紺野のせいで花火が変わることが許せないらしい。

感情が溢れてしまっている。

 

「でもっ!花火は!花火は悪くないのに!エリカのせいで花火が変わる必要なんて!」

 

「だからよぉ。そこから間違ってるってんだ。花火はなぁ…『成長』しようとしてんだよぉ」

 

「っ!」

 

「俺だってよぉ、あのくそ陰険ヤローに屈して自分を曲げようってんなら怒鳴り散らしてでもとめるだろうなぁ。けどよぉ…花火は違うぜ?なぁ、花火ぃ?」

 

「うん。葵、心配してくれて、私のために悩んでくれてありがとう。でもね…私は、紺野なんかに負けたくない。いつまでも守られてるなんて嫌だ。だからね、強くなりたいの」

 

花火は力強く言って見せた。

葵は少し心配そうに、けれど嬉しそうに花火を見ている。

 

「…花火」

 

「だからよぉ…」

 

葵の気持ちも分からなくはないが、花火が自分で変わりたいって本気で思ってんだ。

だから、俺達はそのサポートをする。

俺は、葵の頭に手をのせて優しく撫でながら言った。

 

「俺達で手助けをしてやろうぜぇ。花火がまっすぐ成長できるように。なぁ?友達想いの葵さんよぉ」

 

「…あー!!!もう!!!1人で悩んでたのがバカみたいじゃん!」

 

「本当にお前はよぉ。この前ちゃんと無理すんなって言ったのになぁ。人の話はちゃんと聞けよぉ?」

 

「それはっ!う、うるさい!」

 

「おいおーぃ。みんないるのに素が出てるぞぉ」

 

「…はっ!?」

 

こうしてチーム友崎がまた1人増えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

練習を終えて家に帰り、寝る支度をして布団に入った。

俺は携帯を操作して、LINEの花火の対策会議トークグループを開く。

 

「んー。おっ、動いてんなぁ…取り敢えず、『悪いな、待たせた』っと」

 

孝弘の提案で夜にグループ通話で会議をすると提案があったため、皆が俺に時間を合わせてくれたのだ。

俺が送信すると、すぐに既読が着き返事がくる。

 

『楓!お疲れ様!』

 

『おつー。それにしても…楓がきた時のたまの食い付きが半端ない!笑』

 

『水沢うるさい!』

 

『へいへい。そんじゃ早速…あれ?文也は?』

 

『既読はついてんな』

 

『すまん。流れに乗り損ねた』

 

『なんだそれ!笑』

 

『まぁ、揃ったみたいだし始めっかぁ』

 

『だな』

 

数秒後、着信が鳴った。

グループ通話のため、参加ボタンを押す。

 

『ういーす』

 

「うす。ちゃんと繋がったなぁ。花火と文也はどーだ?」

 

『き、聞こえる!』

 

『うん。聞こえるよ』

 

どうやら、皆繋がったようだ。

花火の声が上擦っていたのが気になったが大丈夫そうだ。

 

『とりあえずなにから話そーか』

 

『あ、そしたらさ…たまちゃん、録音された音声聞いてみた?』

 

『うん、聞いたよ』

 

まずは、文也の提案で録音していた音声のこと。

俺も1通りの説明を受けているから知っているが、自分の声ってちゃんと聞いたこと無いから分かんないよなぁ。

話を進めると、竹井と自分との違いは分かったが、あのまんまの竹井の真似をするとなると変になってしまうのではないかと言うことらしい。

 

「まぁ…終始テンションの高い花火ってのも見てみたいけどなぁ」

 

『ええっ!?楓!?』

 

『ははは。確かに。なんか想像つかないし見てみたいな』

 

『俺もかな』

 

俺の言ったことに孝弘と文也も同意したことによって花火が焦っているのが分かる。

電話の向こうで恥ずかしいのか、唸っているような声も聞こえる。

 

「それか…猫キャラなんてどうだ?語尾ににゃあとか付けて喋ったりよぉ。たまだけになぁ」

 

『くくっ…楓容赦ねえな!大丈夫か?たま?』

 

『…』

 

『あれ?たまちゃん?』

 

続け様に俺が言うと、孝弘が笑いながらツッコミをいれてくる。

だが、花火からの返答が来ず、不思議に思った文也が確認のために呼び掛けた。

皆が黙り、耳をすます。

すると…

 

『…にゃ、にゃあ…?』

 

「がはぁっ!?」

 

『…おお。ビックリした』

 

『ぐふっ…た、たまちゃん!?』

 

まさかの花火からの奇襲。

楓には効果抜群だった。

 

『えーっと、どう…だった?』

 

「ぐっ…!か、かわいかっ…じゃねぇ!ま、まぁ良かったけど禁止だな!」

 

『ん?禁止?どうして…』

 

「禁止!だよな?孝弘?」

 

『あ、ああ…禁止だな』

 

必死な俺にたまらず引き下がった孝弘。

電話の向こうでは苦笑いをしていそうだ。

こんなことがありながらも、話は一応纏まった。

要は、この人と言えばコレみたいな感じでイメージを浸透させて誰からも愛されるようなキャラを定着させられれば定石だろうと言うことになった。

そうして、話は終わる。

 

『じゃ、今日のところはこんな感じか』

 

『そうだな。とりあえず明日の休み時間は集合って感じで』

 

「りょーかいだ」

 

『俺も行ける時は毎回行くようにするわ』

 

そうして話していると、花火が申し訳なさそうに言った。

 

『……ありがとね』

 

「おうよ…まぁ、花火が前を向いてる限りいくらでも協力するからよ、ゆっくりやりゃあいいさ。歩きづらいなら風避けにでもなるし、立ち止まっちまうなら背中だって押してやる」

 

『楓…』

 

俺がそう言うと、続くように文也が言った。

 

『そうだよ!気にするな!』

 

『そーだよたま~!!元気出さなきゃっしょ~!!』

 

追い討ちを掛けるように孝弘が竹井の真似のような喋り方で花火を励ます。

そーいや真似なぁ。

ここは俺の特技が役に立つかも知れんな。

 

『あはは。2人もありがとね。もう元気出す!』

 

もう立ち直った後だが、俺はさらに追い討ちをかける。

竹井の声で。

 

「たまが元気になって良かったなぁ!」

 

『竹井ももう分かったって!…って竹井!?』

 

『あ、あれ?竹井も参加してたっけ?』

 

『いや…誘ってない筈だけど…』

 

「俺だけ仲間外れとか酷いよなぁ!俺にも手伝わせてほしいっしょ~!…なーんてな」

 

明らかに混乱している3人に対して俺は最後だけ普通の声に戻してネタバラシをした。

 

『ええっ!?今の楓!?』

 

『怖っ!似すぎだろ!』

 

『ク、クオリティーが…』

 

「まぁ、隠し芸ってとこだぁ」

 

そんなこんなで本日の電話での会議は終わった。

電話を切り、ひと息つく。

 

「…いやー。まじであれはヤバかった」

 

思い出すのは花火の奇襲攻撃。

攻撃ではないのだが…

 

「耳元であれは…。はぁ、寝れなくなりそうだから思い出すのはやめだ」

 

俺は頭を降って無理やり気持ちを落ち着かせて目を閉じた。

寝れっかなぁ…。

花火も電話を終えた後、同じ様な状態になっていたのは言うまでもないだろう。

 

 

 

 




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第33話

電話で会議をした翌日。

俺と文也は登校して席についてから会議をしている。

 

「やるべきことは見えてっからなぁ」

 

「そうだね。あとは…情報収集ってところかな…あ、ちょっと行ってくる」

 

文也はそう言って、教室に入ってきたみみみのところに向かった。

何か思いついたのだろう。

 

「俺は花火のとこにでも行きますかねぇ」

 

俺は席を立ち、花火の席に向かった。

まぁ、花火のモチベーションを維持するために紺野の好きにはさせらんねぇわな。

そうして、花火と話ながら朝のホームルームの時間になり席に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

休み時間。

俺と花火と文也は会議場所として校舎外れの階段の踊り場に来ている。

 

「そーいや、文也よぉ。みみみと話してたが何か進展はあったのかぁ?」

 

「その事なんだけど…」

 

「うん。どうだったの?」

 

俺が唐突に聞くと、文也は携帯を操作しながら話し始める。

 

「具体的な隙って言うか…イメージの浸透にうってつけかと思ってさ。コレ」

 

そう言って見せてきたのはお笑いの動画だった。

 

「ほぉ。そう言う…」

 

「えっと…これ?」

 

「ちょいと見ててくれ」

 

「うん…?」

 

俺はある程度理解したが、花火ははてなマークを浮かべている。

まぁ、実践あるのみだよなぁ。

俺は文也に耳打ちをして再現をして見せる。

緊張した様子の文也が深呼吸をしてから、どこか白々しい感じで言った。

 

「あれ?なんか、ここちょっと狭くない?」

 

「いやそれ俺の体が大きいから!俺の体が大きいから狭く感じるだけだっての!」

 

そして、俺がツッコミをいれる。

まぁ、少し前に流行ったお決まりのパターンだよな。

限定的だけど。

 

「…とまぁ、こんな感じだなぁ」

 

「ぷっ…う、うん…!」

 

「たまちゃん?そんなに面白かった?」

 

「い、いや…楓のスイッチのオンとオフの切り替えが…ぷっ、お、面白くて…!」

 

「いや、そっち!?」

 

そんなこんなで、残りの時間でこの流れを練習することになった。

初めは恥ずかしがっていた花火も、何回かやっているうちに少し慣れたみたいだ。

その後、休み時間の度に集まり練習をして昼休みになった。

 

「いやあ、わるいわるい。結局ぜんぜん来れなくて」

 

やっとこっちに顔を出せた孝弘が謝りながら踊り場にやってきた。

 

「まあ、水沢は中村グループの固定みたいになってるもんな」

 

「わるいな。…それで、今日の特訓のほうはどんな感じ?」

 

時間は有限と言うことで早速本題に入る。

特訓の成果を孝弘は花火に問いかけた。

 

「えーっとね…どうかな?楓」

 

「ん?…先生、出番だぞ」

 

俺が説明してもいいんだが、せっかくだからリーダーにふった。

 

「せ、先生?俺…だよな?」

 

「他に誰がいるんだぁ?」

 

「あ、ああ。取り敢えずーーー」

 

急に話をふられた文也は顔をひきつらせながらも、これまでの休み時間のことを話した。

 

「ほーん。大分…ってかほぼできてんじゃん。喋り方も表情も」

 

「へっへーん!すごいでしょ!」

 

話をした後に、孝弘がたまの竹井モードを見せてくれと言うことで軽い会話のようなことをしている。

そして、特訓の最終段階とも言える問題の話になった。

 

「まああとは、もっとお決まりのパターンみたいのがあればベストなんだろうけど…俺はまだなかなか思いつかなくてな」

 

「ああ、それなんだけど…」

 

「おっ、なんか思いついたな?」

 

「いや、思いついたって言うよりも、丸パクリなんだけど…」

 

そう言って文也は俺と花火に視線をやってきた。

んじゃ、やりますかぁ。

 

「オーケー。花火、やるぞ」

 

「う、うん!やってみる!」

 

花火は深呼吸をして俺に合図を送ってきた。

それを確認して俺は口を開く。

 

「あれ?おい、花火!そんな離れてちゃできるもんもできねぇぞ?」

 

「いやそれは私の背が低いから!遠くにいるように見えるだけ!遠近法!」

 

俺がとぼけたような口調で言うと、花火がツッコミをいれる。

 

「あー、わるいわるい!…ってか花火の制服のリボンなんかでかくね?」

 

「それも私の背が低いから!大きく見えるだけ!錯覚!」

 

本当はここで終わりなんだが…アドリブいきまーす。

 

「ん?ありゃ?花火?おーい!どこ行ったー?」

 

俺はわざと少し目線を上にして、遠くを眺めるようにする。

花火の表情は見えないが、さぞ混乱していることだろう。

 

「…こんなのあったっけ…?」

 

花火の不安そうな声だけが耳に入った。

笑いそうになるのを堪えて、続ける。

 

「おっかしーなぁ。さっきまでいたんだが…」

 

「え、えっと…こ、ここにいる!おーい!」

 

花火はぴょんぴょん跳ねながら自己主張をしている。

うん。かわいい。

ちらっと文也のほうに視線を向けると少し顔をひきつらせながらこっちを見ていた。

まぁ、急なアドリブで花火が大丈夫かを心配してんだろーな。

 

「あれ?声は聞こえるんだが…」

 

「むぅ~。楓!下!下にいる!」

 

そして、ようやく俺は目線を下げ花火を視界にいれた。

 

「おー!いたいたぁ!どこ行ってたんだよ!」

 

「ずっといた!ってかそんなにちっちゃくないもん!」

 

もん!ってなんだよ…かわいい。

…やべぇな。

もう少し自重しないと、つい口に出しちまいそうだなぁ。

取り敢えず、1通りの流れが終わった。

 

「…とまぁこんな感じだ。花火、おつかれさん」

 

「うぅ~。アドリブなんて聞いてない!」

 

急にアドリブをいれた俺に非難の目を向けてくる花火の頭を撫でながらなだめていると…

 

「おー、よしよし。そんな怒んなって」

 

「そ、そんにゃ…そんなんじゃ騙されない!」

 

花火が噛んだことによって、俺は昨日の電話のことを思い出し思わず口に出してしまった。

慌てて口を塞ぐも、既に花火の耳に届いてしまったようだ。

 

「ぶふっ!…かわいい…はっ!?」

 

「か、かわっ!?///」

 

顔を赤くしている花火を見て、俺は気まずくなり顔をそらした。

全くもって初々しい場面ではあるが…他にも人がいるんだよなぁ。

 

「なぁ、文也。俺たちは何を見せられてんだ?」

 

「…俺も分からん。あんなの台本にないし。取り敢えず、ブラックコーヒー欲しいかも」

 

「奇遇だな。俺もだ」

 

「「…はぁ」」

 

外野から見ていた2人は顔を見合わせてため息をついたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よしっ!そんじゃ…」

 

「よしっ!じゃねえだろ。なんだったんだよさっきのは」

 

先程の一件が終わり、見ていた2人が俺たちの方に寄ってきた。

何事もなく、話をしようとする俺に孝弘が自然とツッコミをいれる。

 

「いや~調子のったら事故った的な?」

 

「なんだそのアホみたいな理由は…はぁ、なんか最近になって楓に親近感がわいてきたわ」

 

「俺も。とんでもないすごい人って思ってたけど意外と弱点多いし」

 

「今さら気づいたのかぁ?まぁ、取り敢えず話を始めんぞ」

 

こうして話が始まった。

楓も人より飛び抜けた才能を持っているが、普通の一学生なのだと気づいた2人であった。

 

 

 

 

 

 




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